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( ´ω`)枯れて('A`)苦悩し虹を探して生き抜くようです:5

97 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:11:55.31 ID:t/LjLsSR0
 -5- Boon


簡単な話が、俺は人殺しであるべきらしい。

数年前の話になるが、とある閑静な住宅街で続けて事件が起こった。
幾つもの家が何者かによって放火。住んでいた家族は焼死というものだ。


('A`)「えっ……」


目の前には、業火によってその本来の姿を失っていく我が家。


('A`)「……何だこれ」


俺の家族も同じようにして消えた。

あまりに唐突な出来事。
そして涙を流す時間すら与えられぬまま、俺は連れて行かれた。


「私見ました。あの家の息子さんが自分で家に火をつけたんです」
100 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:13:08.72 ID:t/LjLsSR0
俺は発言すら許されず、ただ流されるだけ。
しかし、それでもよかった。とにかく一人になりたかったから。

適当に頷いて入れば直にみんないなくなって一人にしてくれたから。だから俺は従った。


「君は、自分のしたことの罪の深さを分かっているのか?」

('A`)「……俺が何かしましたか」

「君は……!」


その寸前まで、俺は意識がなかったんだと思う。
警官が立ち上がったことにすら、気がついていなかったのだ。

頬を思い切り殴られる。


「君は親御さんと仲が悪かったらしいが……」


警官が俺に向かって怒鳴っている。何故だろうか。
俺が何をしたって言うのか。
104 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:16:01.40 ID:t/LjLsSR0
「とにかく、学校の方にも連絡は済ませておいた。書類の手続きもな」

('A`)「はぁ。どういうことですか」

「……好きにするといい」


目の前に幾つかの書類を乱雑に投げ渡され、自然と目に文字が映っていく。
要約すれば、我が家の出来事は全て俺がやったことで。それを全て俺が背負わなくてはならない、と。

途端に、背筋の凍るような思いがした。


(;'A`)「何だ……何だよ、これ。何がどうなってんだって……」


その時、ようやく実感した。俺が犯人になっている。
慌てて目の前の男に掴みかかる。


(#'A`)「俺はやってない!」

「今更刑務所が怖くなったのか。しかしお前は……」

(#'A`)「そんなこと言ってるんじゃない! 俺はアイツらを殺したりしない!」
108 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:17:46.41 ID:t/LjLsSR0
俺がずっと犯人として扱われていて。そして何だこの頬の痛みは何だ。
あまりに理不尽で。不条理で。少しだけ腫れた頬の上を、涙が伝い流れる。

皮肉にもそれが、家族の死を知ってから初めて流した涙だった。


それから一年。
横暴に過ぎていく月日に、諦め始めていた頃だ。


「D90番、出ろ」


いつもと違う見回りに呼び出され、急いで支度を始める。
そういえばこの規則正しい生活のおかげで、母親に叩き起こされることなく起きることも出来るようになった。

無論、皮肉だ。


「ついてこい」


その高圧的な態度は気に入らなかったが、これも慣れてくるもので
最初はいちいち突っかかっていたのだが流すことも出来るようになっていた。
109 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:18:17.49 ID:t/LjLsSR0
何を我慢してるんだろう、俺。悪くないのに。


('A`)「ここは……」

「入れ」


必要以上に関わりたく無いと言わんばかりの用件だけを話す警官。
まぁ、別にいいけど。


('A`)「失礼します」


中はドラマで見たような作りになっていて、
大きな椅子に、痩せ型の老人が座っていた。偉いんだと思う。


/ ,' 3「楽にしてくれ。私は荒巻スカルチノフ。君の味方だ」


生憎、俺に味方などいないので華麗にスルー。ソラは可愛い。レイラさんは綺麗。
114 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:30:05.11 ID:t/LjLsSR0
/ ,' 3「そこに座ってくれ。少し話がしたい」


指示通り、やわらかいクッションの入った椅子にズボッと座り込む。
いつもの硬い椅子ではない、というだけで幸福感に満たされてしまう。


('A`)「うわ。すげぇ」


久し振りのその感触を堪能していると、向かいの席に荒巻とやらも深々と座る。


/ ,' 3「これでも、この土地を任されている身でね」


肩書きだけだがね、と付け加え苦笑した。

その顔はとても寂しそうで。どうしてか、この男に親近感が沸いてくる。
多分だけど、似てるんだ。爺ちゃんに。


('A`)「……凄いですね」
115 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:31:06.66 ID:t/LjLsSR0
/ ,' 3「気を悪くしたならすまない。自慢でも悦に浸ろうというわけでも無いんだ」

('A`)「あぁ。そういう意味で言ってたんですか」

/ ,' 3「いや、だからそういう意味ではなく」


俺の飲み込みの悪さに慌てて訂正を入れる老人。

会って間もないが、悪い人間ではなさそうだ。
もっとも、放火魔である俺に悪人呼ばわりされる謂れもないのだが。


ちなみに、俺の罪状は酷いものだった。

我が家に火を付けたと誤認逮捕された上、一連の騒ぎは全て俺の反抗によるものだと決め付けられていた。
まぁ一軒も二軒も。五、六軒など大した違いは無い。


('A`)「俺も、凄くないっすか」


最後の悪あがきに、皮肉を言ってみた。
116 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:32:47.17 ID:t/LjLsSR0
もしここから出られることが出来たとしても、その先の人生は真っ暗だ。
神様とか、どう考えてもいないだろ。


/ ,' 3「君は、放火魔じゃないね?」


その言葉に、思わず俯けていた頭を揺さぶられた気がした。
まず頭を。そして耳を疑った。


(;'A`)「今、何て……」

/ ,' 3「本当に申し訳ない。いくら謝罪しても仕切れないだろう」


そして老人は俺に心もとないほどに弱く握った拳を突き出した。
ゆっくりと握りこぶしを解くと、中には二つの物が姿を現す。

一つは鍵。もう一つは――


(;'A`)「……ナイフ?」
118 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:33:52.74 ID:t/LjLsSR0
/ ,' 3「冤罪と贖罪だよ」

/ ,' 3「私を殺しなさい。そして、ここから抜け出すんだ」


俺は手渡されたナイフに力を込める。


即座に理解した。これは俺にとっておそらく、最後のチャンスだ。
これで、目の前のこの老人を殺して急いで飛び出せばあるいはこっから抜け出せるかもしれない


('A`)「俺が……」


鼓動が少しずつ早くなる。
途端に手に持っていた小さなナイフがおぞましいものに見えてくる。

思わず手から離し落としてしまった。


/ ,' 3「君は既に、数々の隣人を焼死させた残忍な犯罪者なんだよ」

(;'A`)「俺は……やってない……!」

/ ,' 3「しかし君の背負った罪を跳ね返す事が、私には出来ない」
119 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:35:05.09 ID:t/LjLsSR0
少しずつ、仕舞い込んでいた感情が扉をぶち破って飛び出してくる。
そうだ、俺はやってない。やってないんだ。


/ ,' 3「私は君のような少年を一人として助けることも出来ずに、職を全うした、などとは言われたくないんだ」

(;'A`)「俺……」

/ ,' 3「老いぼれの命なんて、大した価値も無い。それなら君の未来に手を貸したい」


俺が、殺すのか?


/ ,' 3「造りは実に簡単でな。今から道を教えよう」


そう言って老人は取り出した白紙に手早く絵図を描いていく。

実に手馴れている。それもそうだろう。見た目からも言葉からも、もうすぐ此処を離れる程の年齢だ。
長い事、此処に座り続けたのだろう。


/ ,' 3「話す限りでは、簡単に出られると思うだろう? しかし口で言うほど生易しいものでも無いんだ。でも君なら」


一拍空けて、まっすぐに俺を見据えてくる老人。
120 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:35:43.60 ID:t/LjLsSR0
('A`)「俺なら……」

/ ,' 3「君なら出来るね?」


老人は先ほど落としたナイフを広い、手渡され、俺はそれを握り返す。

果物を切るときに使うようなもので、これで人を殺すというのは難しいのではないか。
そんな知識は俺には無いけど。頑張れば何とかなるもんなのか。


('A`)「……アンタはそれでいいのか」

/ ,' 3「構わないさ。正直に言うとね、私事の懺悔なんだ」


軽く笑って、そんなことを口にした。


/ ,' 3「私は今まで、色々と目を瞑ってきたから。最後くらいね」

('A`)「そうか」

/ ,' 3「……そしてやっと、本当の悪に成りきることが出来るんだ」
122 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:36:59.64 ID:t/LjLsSR0
相手が死にたいと言っている。これは老人のためだ。
決して俺のためじゃない。荒巻のためだ。


/ ,' 3「君には少しでも良い未来を見てほしい。自己満足の偽善かも知れないがね」


そして沈黙が流れ、全ては俺に託された。

出来るのか。
この老人の余生を背負って、俺は生きていけるのか。
それ以前に、俺に人が殺せるか?


(;'A`)「……う、ウワァァァァァ!!!」


やっぱり無理だ。出来ないって。手足が震えて力なんて入らないんだ。
人はそんな簡単に殺せるもんじゃない。


/ ,' 3「君は優しいな」

(;'A`)「俺……俺には……」

/ ,' 3「やはり、君に罪は犯せない。放火魔などではないと再確認させてもらったよ」
128 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:55:00.96 ID:t/LjLsSR0
にっこりと笑う老人の笑顔に、暖かいものを感じた。

同時に、その笑顔が歪む瞬間も。この目でしっかりと捉えた。


/ ,' 3「こう、すれば……意地でも逃げなくては……ならないだろう?」

(;'A`)「え……?」


何が起こったのか分からなかった。というよりも分かろうとしなかった。
ただ、俺のナイフを握る手の上から老人が力を込め、それは老人自らの左胸に刺さっていて。

つまり。


「―――ッッッ!!!!!」


/ ,' 3「……ほら、逃げなさい。このままじゃ、更に、罪を被るだけだよ」

(;'A`)「馬鹿かよ! こんなことして!」


俺はこんな事望んでなかった。
129 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:56:47.47 ID:t/LjLsSR0
結果として、俺はその部屋を勢いよく飛び出し一直線に教えられた道を走っているのだが、
望んで走っているわけじゃない。成り行き上、仕方なくだ。そして。


('A`)「……ははっ。本当に、俺。人殺しになったんだな」


実感は無かった。

どうしたって俺は罪人になるしかないのだろう。

何をどうしろと言うのか。
老人の命を背負って、肩身を狭くして。いつも何かから逃げながら生きていろと言うのか。
それが今より幸せだと老人は言い張るのだろうか。


('A`)「やってらんねぇ……」


ただゴールを目指して走るだけ。
予定では、もうすぐここを出られるんだ。


(;'A`)「ハァッ……ハァッ……」
130 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 22:58:22.76 ID:t/LjLsSR0
そういえばおかしいな。ゴールってのは泣けるモノのはずだ。
観鈴がゴールするシーンは万人が涙するだろう、ロスタイムに逆転シュートを決めたらやっぱり嬉し泣きだ。

けど俺に泣くことは許されてない。


('A`)「俺、どうすりゃいいんだろ」


もう逃げられない。どこにも。
だから進むしかない。

最後の扉を開けると、そこには何もなく。眩しい。そう思ったときには既に意識がなかった。
目が覚めると、俺は見知らぬ部屋の大きなソファに横になっていた。


('A`)「……へ?」


辺りを見渡すと、男が一人。部屋の片隅で行ったり来たりを繰り返している。
あぁ。何か困ってるんだろうな。

そして少しして俺に気がついたのか、男は俺に近寄ってくる。


( ´ω`)「……君も、かお?」

('A`)「あの」
132 :◆FpeAjrDI6. 2008/02/19(火) 23:02:09.96 ID:t/LjLsSR0
( ´ω`)「僕は内藤ホライゾン」

( ´ω`)「もし君が何かを欲するなら。今は僕の指示に従ってほしいお」

( ´ω`)「生きてここを出たいなら。それもまた、同様に、だお」


「僕は君を助けてあげたいと思うお」



これが俺と内藤の最初の顔合わせだった。


ある一定の条件を満たすと出現すると言う虹の城。
俺は今、その城の厨房にいる。


内藤、助けてくれ。

俺はこんなところで死にたくない。アンタに謝らなくちゃいけない。
だからまた会わなきゃいけないんだ。