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( ^ω^)ブーンと鋼鉄の城と樹木の民のようです:『第一章 放浪の旅人は虹の砂漠を渡る』

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:09:31.23 ID:xKyO+pog0
『第一章 放浪の旅人は虹の砂漠を渡る』


――虹の砂漠。

全ての方角を見渡せどただ見えるのは、噎せ返るほどに熱せられた大気に浮かぶ歪んだ太陽。
そして、地を埋め尽くす砂のみだった。
砂漠は日の光を弾き、目が眩むほどに輝いていた。
滑らかに積み上げられた砂の丘はどれ一つとして同じ色をしていない。

ルビーの赤にトルコ玉の青、琥珀の黄色にジェーダイトの緑。
さらにはアメジストの紫に、パパライアの橙桃……と地平線の端から端まで彩られている。
そして、丘の谷間を金と銀の砂が流れており、互いの色を仕切っている。

もはやこの世に存在する全ての色を持ち出しても、形容しきれないであろう。
まさに雨上がりの空に浮かぶ虹を映したかのような幻想的な世界。
眼下に広がるこの景色を前にすれば、例外なく溜息を吐き出さずにはいられないはずだ。

だが、そんな砂丘の上で息を切らせた少年が二人、存在した。
二人は大きな砂除け用のぼろ布を纏っていた。
共に齢は十五歳ほどで、布の隙間から覗えるその表情はまだ幼い。

(;^ω^)「ドクオさん、 これは夢じゃないおね?」

('A`;)「残念ながら……ブーンさん、マジです」

埃だらけになったその表情に、水滴が走る。
止め処なく流れる汗は暑さのせいだけではない。
彼らの目の前に絶望的な光景が広がっていたからだ。
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:11:47.18 ID:xKyO+pog0
彼らの周りを囲んでいたのは、数十匹にも及ぶ巨大な爬虫類の群れでだった。
全長は三十メートル、高さは二〜三メートルにも及ぶ。
体長に比べてやや小ぶりの四肢と、額に浮かぶ大疣そして、
虹の砂漠に溶け込むように擬態されたけばけばしい色の鱗が特徴的なトカゲ、
通称『虹色トカゲ』である。

『グアアアアアアアアアッ!!!!』

地響きを伴った仰々しいトカゲの雄叫びが、その場の空気を震わせた。
そして同時に、虹の砂漠に浮かんだのは無数の黒円。
トカゲたちは舌なめずりをしながら、一斉にその大口を開いたのだ。
この虹色トカゲの行動は言わずもがな、捕食行動に出る前のものである。

(;^ω^)「やっぱり、こんな所に来なきゃ良かったお」

('A`;)「おいおい、『この先には僕達の理想郷があるお!!』とか言って、
    意気揚揚とこの砂漠に突っ込んでいった馬鹿はどいつだよ?」

(;^ω^)「……誰だったかお?」

('A`;)「ったく、無責任なやつだ」

二人は背中合わせにして、互いに愚痴を溢す。
その最中にも、トカゲの群れは彼らを飲み込まんと、鈍く足を進めてくる。
上下を除くどの方角を向いてもトカゲと視線が合う。
逃げられる隙などはもはや存在しなかった。

トカゲの数を目で追いながら、ドクオという少年はブーンという少年に話し掛ける。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:13:55.74 ID:xKyO+pog0
('A`)「……31、32匹か。うん、逃げるの無理。おい、どうする?」

( ^ω^)「……やるしかないお」

('A`)「ああ。マンドクセだが、これも弱肉強食ってやつだ」

( ^ω^)「なら、どっちが多く倒せるか、水筒の残りの水を賭けて競争だお」

('A`)「おk。今のところ俺が98勝99敗か。これで追いついてやるよ」

( ^ω^)「いやいや、僕が先に100勝目を飾るお」

('A`)「まあ、俺が勝つけどな。とりあえず準備はいいか?」

( ^ω^)「おk」

なおも、トカゲたちは地響きを立てて迫ってくる。
それを横目に二人は短く言葉を交わし、足元の砂を強く踏みながら静かに互いの構えを取る。

『グアアアアアアアアアッ!!!!』

そして、トカゲ達が半径二十メートル程までに迫ってきた瞬間、
二人は纏っていた大きな布を脱ぎ、おもむろに宙に放り投げた。

⊂二二二( ^ω^)二⊃「おおおおおおおおおッ!!」

先に動いたのはブーンだ。
ブーンは前に駆け出すと同時に背中に両手を掛けた。
その先に掴んだのは、裏腰に括り付けられた一対の短刀だった。
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:15:58.45 ID:xKyO+pog0
いや、刀ではない。
炎の鬣を持った獅子の二牙を鍛えて短刀のように模った逸品だ。
それらを逆手に持ち、姿勢を低くして獣の如く駆け出す。

(♯゚ω゚)「擬獣『炎獅子』ッ!!」

言葉と共に、彼の眼の色が変わった。
燃え盛る溶岩のように紅い眼だ。
さらにはその変化に伴って全身の筋肉が膨れ上がる。

(♯゚ω゚)「ガウウウウウウウッ!!!!」

そして、彼は後脚で地を思い切り蹴り上げ、跳んだ。
虹色の砂は波紋状に爆ぜた。
標的はトカゲの背部。
虹色に輝く鱗目がけて、双刀を振り落とす。

『ギアアアアアアアアアアッ!!』

トカゲに燃え滾るような激痛が襲い掛かる。
双刀は獅子の牙の如く、深々と根元から背中に突き刺さっていた。
同時に焔が牙元から噴き出す。

炎獅子の吐息が牙から溢れたのである。
砂漠の灼熱に負けないほどの高熱はトカゲの細胞を焼き尽くす。
一帯には赤炎と黒煙が吹き上がる。

(♯`A')「擬獣『嵐鷲』ッ!!」
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:17:07.61 ID:xKyO+pog0
ドクオも同時に動いていた。
砂の丘を駆け下りると、トカゲよりも遥か高く跳躍する。

その両拳には巨爪が装着されていた。
嵐を呼び起こす大鷲の爪を研ぎ込んで造った手甲だ。
跳躍と同時に爪から巻き起こった豪風は、さらに上空へとドクオを押し上げる。
群れの全体が見渡せる高度まで飛び上がると、ドクオは腕を組みながら足元を見下ろした。

(♯`A')(……一気に片付けたほうが効率がいいな)

ドクオは大体の敵の位置を把握すると、おもむろに右腕を高く上げる。
同時に、爪先には大気の渦が集まり始めた。
渦は一点を中心にして、肉眼で確認できる程に集中する。

(♯`A')「オオオオオオオオオッ!!」

勢いに任せ、叫哮と共に掲げられた右腕を思い切り振り落とす。
凝縮された大気の塊は爪で思い切り引き裂かれた。
そして――

『ガッ――』

次に地上に降り注いだのは、大気の断頭台だった。
大気の塊は無数の巨大な刃と化した後、直角に降り注ぎ、トカゲたちの頭と胴体の間を走る。

(♯`A')「……終わりだ」

ドクオの一言と共に、トカゲの切口に大量のどす黒い液体が弛むと、
一瞬の溜めを経て一気に飛沫をあげた。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:19:35.39 ID:xKyO+pog0
(;^ω^)「うはwww水うめーwww」

('A`♯)「おい、ちょ、おま!! それ俺が飲むはずだった最後の水だぞ!!」

(;^ω^)「あ、すまんこ。全部飲んじゃったお。サーセンwwwwww」

('A`♯)「ぶっ飛ばすぞ!! このまま干からびて死んだらどうするんだ!?
     ブーン、お前責任取れるのか!? ああ!?」

( ^ω^)「そういうケースもある」

('A`♯)「……決めたぞ。このまま水が得られないようだったら、
     頚動脈掻っ捌いてお前の血を飲み干してやる!!」

( ^ω^)「やってみるがいいお。その前にドクオが、骨と皮だけのミイラになってるお。
      心配しなくても、集落の見世物小屋に末代まで晒しといておくお」

('A`♯)「てんめええええええええ!!」

辺りが静まり返った後、二人は最後の水を巡って言い争っていた。
彼らの立つ砂丘の麓にはそれぞれ、黒焦げになったトカゲの死体が十二体、
首を斬られたトカゲの死体が二十体転がっている。

('A`;)「ああ、畜生。俺が勝ったってのになんでテメエが水飲んでるんだよ……」

( ^ω^)「大丈夫だお。いざとなれば、トカゲの血を飲めばいいんだお」

('A`;)「いや、無理。どう見たって食用じゃないだろありゃ」
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:21:45.26 ID:xKyO+pog0
('A`)「ま、ともかくこれで99勝99敗だ。次は何で勝負する?
   ただ、砂漠の化け物狩りは流石に飽きてきた」

( ^ω^)「うーん、だったら別の場所に行くかお? ドクオ、地図見せてくれお」

('A`;)「あれ、お前の地図は?」

( ^ω^)「無くしたお」

('A`;)「マジかよ……」

やれやれ、といった表情で頭を掻くと、
ドクオは腰にぶら下げられた麻の小袋から、擦り切れた一枚の紙を取り出した。
虹の砂漠に入る直前の小村で購入した地図である。

('A`)「今、俺たちは虹の砂漠を北に歩いてる。……えっと大体今は、」

ドクオは地図を指で上になぞるようにして、ブーンに説明する。
そして、その向かった先が、

('A`)「ここだ。そして、ちょうどここの真東には『精霊の森』。
   反対に真西の岩石砂漠を抜けた所には『鋼鉄の国』がある」

( ^ω^)「『精霊の森』に『鋼鉄の国』? なんだお、それ?」

('A`)「知らん。ただそう書いてあっただけだ」
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:29:16.26 ID:xKyO+pog0
( ^ω^)「……うーん」

ブーンは指を顎に当て、唸りながら地図を眺めた。
東には、この砂漠と同じほどの面積を持つ広大な森が、
西には、延々と連なる山脈の麓に聳え立つ城が描かれている。

('A`)「ま、元々何も知らされずに放り出されて始まった旅だ。
   何処に行っても同じじゃね?」

( ^ω^)「まったく散々な目にあったお。そもそも、あのしょぼくれ親父が……」

ブーンは地図に視線を残したまま、
自分の麻袋の中に手を入れて一枚の紙を取り出し、広げる。
色褪せた紙には、滲んだインクでこう書かれていた。

『ようこそ、バーボンハウスへ。
 この手紙はサービスだから、まず読んで落ち着いて欲しい。
 うん、「また」なんだ。済まない。
 仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

 でも、この手紙を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
 「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う 
 殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで大人になって欲しい、
 そう思って君達を猛獣の住まう荒野へと放り投げたんだ。

 じゃあ、終わりの無い旅、もとい『放浪の儀』を楽しんで欲しい。 

                       君達の愛すべき父(´・ω・`)ショボン(はぁと  より』
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:31:57.04 ID:xKyO+pog0
('A`)「なあ、旅を始めた時の事を覚えているか?」

( ^ω^)「おっおっ。15歳の誕生日のことだったお。確かあの馬鹿親父が珍しく、
      『お祝いに、君達に美味いご馳走をたんまり食べさせてあげよう』とか言ってたから、
      僕たちは、ホイホイと集落の外へと付いて行ったんだお。そしたら、」

('A`)「ああ、あの親父が唐突に前の方を指差したんだ。
   それで俺達は一斉にそちらの方向に向いた。完全に油断していたぜ。
   次に感じたのは、後頭部を鈍器のようなもので殴られたような衝撃だった」

(♯^ω^)「で、気が付いた時には、僕達は名も知らぬ荒野に横たわっていたんだお。
       傍には、この手紙と3日分の食料と水。そして、僕達の武器だけ落ちてたんだお……ビキビキ」

('A`♯)「ああ、あの馬鹿親父を信用したのが間違いだった。
     こうして俺達は決意した……集落に戻ってきたら絶対ぶっ殺す、と」

二人の表情はいつの間にか苦虫を噛み潰したように歪んでいた。
忌々しい父親の表情がありありと思い出されたからだ。
人を小馬鹿にしたような、あのニヒルな表情はいつ思い出しても腹立たしい。

だが、二人は顔を揃えて溜息をつく。

( ^ω^)「でも、このまま帰ってきても絶対返り討ちに合うお」

('A`)「だな。あの親父、人格は破綻しているクセに、力だけはめっぽう強いからな」

二人の父親ショボンは、彼らの部族『ヤマンジュ族』の長であった。
その常軌を逸した行動こそ定評があるが、部族を束ねる者であるだけにやはり、強い。
彼らが束になっても、簡単にあしらわれてしまう。
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:34:18.92 ID:xKyO+pog0
ショボンの実力を裏付ける逸話にこんなものがある。

ある日、ショボンは一族の食料の確保のために荒野で狩りを行っていた。
食料となるはずだった標的は、通称『タカトモアベ』という獣だ。
ショボンは普段のように『タカトモアベ』の群れを追い詰めていた。
ついには、一斉に捕らえられるというところまで迫る。

だが、その時、事は起こった。

戦争を終えた数千にも及ぶ某国軍の騎馬隊が、
母国への帰還の為に、ショボンが狩りをしていた荒野を駆け抜けて来たのだ。
唐突の軍隊の出現に『タカトモアベ』の群れは恐れ慄いた。
最終的には、蜘蛛の子を散らすようにして一目散に逃げてしまった。

これに怒り狂ったのはショボンだ。
『タカトモアベ』と戯れることを何よりも楽しみにしていた彼は怒り狂った。
そして、

(´;ω;`)「よくも……僕の大切な『タカトモアベ』を……許さない……」

『ちょ……おま……アッー!!!!』

こうして、数千にも及んだ軍隊は一瞬にして藻屑と化してしまった。
ちなみにこの逸話は、大陸を隔てた異国にまで広がり、畏怖の対象にまでなったという。

そんなわけで、彼らの父親ショボンの実力は、軍隊の一個隊にも相当するとまで言われるようになった。
当然、ブーンとドクオがそんな彼に敵う訳がなかった。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:37:28.19 ID:xKyO+pog0
( ^ω^)「だったら、修行も兼ねて暫く二手に分かれたほうがいいんじゃないかお?」

('A`)「ああ。丁度、西と東に国が分かれているからな。
   上手く行けば新しい『クヴェル』が手に入るかもしれん」

( ^ω^)「待ってろおクソ親父……必ず復讐してやるお」

ブーンの手紙を持つ腕は小刻みに震えた。
手紙はぐしゃり、と音を立てて簡単に握り潰される。

('A`)「じゃあ、どっちに行くか決めるか。……丁度、俺が西側に立っている。
   お前が東側だ。このままお互いの方向へ二手に分かれるってのはどうだ?」

( ^ω^)「別にそれでいいお。一ヶ月後、またこの場所で落ち合うお」

('A`)「よし、決まりだな。この砂漠に用は無いし、早速分かれるとするか」

( ^ω^)「ドクオ、死ぬんじゃないお。一緒に親父に復讐するんだお」

('A`)「ああ分かってる。ってかあの親父を一発ぶん殴らないと死んでも死にきれん」

( ^ω^)「じゃあ、ぼちぼち行ってくるお!!」

('A`)「おう!! 死ぬんじゃねえぞ!!」

一時の別れの言葉は短めに、ブーンとドクオはそれぞれ砂丘を駆け下りる。
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:39:16.31 ID:xKyO+pog0
ブーンは東へ。
太陽を背にして、鬱蒼と生い茂る樹木の迷宮へと駆け出した。
ドクオは西へ。
太陽に向かって、人間が創り上げた英知の坩堝へと駆け出した。

二人はまだ見ぬ土地に思いを馳せる。
今までに見たこともないような凶悪な化物が待ち受けているのだろうか。
巨万の富をもたらすほどの宝が眠っているのだろうか。
それとも……

ドクオにしてみれば、これは何気ない提案だった。
近くの広場に遊びに行くような、そんな軽い気持ちでブーンに話を持ち掛けたのである。

だが、この時、彼等は知らなかった。
二人の向かう先に何が待ち受けているかを。
そして、次に再会した時に直面する過酷な現実を。

――この逸話は二人の勇者の『放浪の儀』を綴った物語の一遍である。

ひょんなことから始まった、『鋼鉄の国』と『樹木の民』を巡る数奇な運命。
天高く、燦燦と照りつける太陽だけが、その行方を知っている。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:41:38.36 ID:xKyO+pog0

距離にして数キロにも及んで、錆びた鋼鉄の柵が広大な敷地を囲んでいた。

襲撃を警戒してなのか、出入口の双脇には鉄骨で組まれた櫓がそびえ立ち、
上では銃を構えた男達が四方に目を光らせている。
物々しい雰囲気の歓迎をくぐり抜けると、
その先では網目状に張り巡らされてた線路が奥へと延びていた。

周囲を見渡すと、くすんだ赤と黒の山が見える。
鉄鉱石と石炭がうず高く積まれてできた山だ。
良く見れば、顔を黒くした屈強そうな男達がスコップでそれらを穿り返し、
線路上に停められたトロッコの中に運び入れる作業をしていた。

上を見上げれば、トロッコと並行するように縦横無尽に大小の管が走っている。
巨大なもので直径十メートルほど、微小なもので直径数センチほどの鋼管だ。
太い管を中心にして細い管が絡み合うように並んでいた。
その中では高温のガスや分離された不純物が充満している。

線路と鋼管の行き着く先には、円筒状の巨大な建物が二つ存在していた。
どうやら建物はそのものが炉となっているらしい。
地中深くから汲み上げられた溶岩の熱を利用して、
滑車で運ばれた鉄鉱石やその他の材料を溶かし銑鉄を精製しているのだ。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:43:51.41 ID:xKyO+pog0
そして、銑鉄が地下のトンネルを経由して運ばれた先には巨大な三角屋根の建物があった。
その面積は敷地の十分の一を占めるほどに大きい。
内部に入るとまず目に付くのは、直径二十メートルの耐火煉瓦でできた大釜である。
大釜は燈色の光を放つ液体で満たされていた。

摂氏一千度以上にも及ぶ、溶鉄だ。

色のついたガラス越しに見なければ目が潰れるほどに眩しく、
建物の端に立っていても刺すような熱気が肌で感じられた。
まるで小規模の太陽がその中心に浮かんでいるかのような錯覚をしてしまう。

そんな中で、厚手の耐熱服を纏った数百もの男達が作業を行っていた。
まさに死と隣り合わせ。
彼らの表情はみな固く、読み取れる空気はまさに真剣そのものだ。

だが、その最中に周りの状況は一変する。

「大佐が見えられたぞ!! 皆のもの敬礼ッ!!」

四十代ほどの、仮面のようにのっぺりとした顔立ちをした工場長らしき男の一声と共に、
作業員達は一定の方角に顔を向け、右掌を額にあげて敬礼を行ったのだ。

次の瞬間、凛とした声がその場に響き渡る。
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:45:59.76 ID:xKyO+pog0
片lll■ll)「私のことは気にしなくてもよい。命に関わる作業だ、充分に気を張ってくれ」

声の主は、噎せ返る熱さの中で、頭までの全身に鎧を纏っていた。
左腰には鋼鉄の長剣、右腰にはリボルバー式の拳銃を引っ掛け、
背には緋色のマントを羽織っていた。
マントには金色に輝く不死鳥の刺繍が施され、まさに威風堂々といった雰囲気である。

そして、工場長と全身鎧の騎士の二者を残して作業員たちは各々の持ち場へと戻っていく。
それを横目にして彼らは何やら会話を始めた。

片lll■ll)「精製のほうはどうだ? 純度は上がっているか?」

( ∵)「ええ。炉内の空気調節量を変更した結果、いくらか改善することができました。
    あとは、実際にサンプルを摘出して実際の純度を計測するのみです」

片lll■ll)「うむ、それは良かった。それもこれも皆の頑張りのお陰だ。
      結果が出た後にでも、皆の待遇を全体的に見直そう。
      基盤無くして国の発展はありえないからな。楽しみに待っていてくれ」

( ∵)「ありがたき幸せ。しかし大佐、わざわざこんな危険な場所にいらっしゃらなくても……。
    お待ち頂ければ私どもが報告に参りますゆえ――」

片lll■ll)「いや、構わん。皆が苦労している中私だけふんぞり返っているわけにもいかない。
      それに、実際に動き回らないと落ち着かない性質なのでな。気に病む必要は無いさ」
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:48:00.98 ID:xKyO+pog0
『大佐』と呼ばれる、騎士は彼の言葉を遮って言った。
そして、上下左右に視線をゆっくりと渡しながら続ける。

片lll■ll)「で、『アレ』の完成の目処はつきそうか?
      完成さえすれば、我が軍の戦力は格段に上昇するからな」

( ∵)「確答は出来ませんが、恐らくは近いうちに。
    まあ、それに関しては大佐の新しい装具と共に試作品をお持ちしましょう」

片lll■ll)「把握した。では楽しみに待っていよう」

騎士はそう言い切った後に、中心の大釜を見上げた。
やはり超高温の鋼鉄は眩く、熱い。
だが、眼前のそれにこの国の将来が掛けられているのだ。
それが形作られる様を想像するだけで心が湧き上がる。

騎士は熱さと昂ぶりによって浮かんだ額の汗を拭おうともせず、小さく呟いた。

片lll■ll)「これで樹木の民との争いに決着が付けられるのだからな」

( ∵)「――ええ。これで、先代から続いた長年の悲願が叶いますな」

騎士は誰に言うでもなく、己でその言葉を飲み込むように口走ったのだ。
しかし、その後を追いかけるように男はそれに答える。
自分の立場ゆえに自然と出た相槌だった。

だが騎士はそれを気に留めることもなく、すっと踵を返して足早にその場を後にした。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:49:57.85 ID:xKyO+pog0

(;^ω^)「ハッ……ハッ……」

――日は沈み、夜。
ブーンは虹の砂漠を越えて、樹木が折り重なるように生い茂る森を走り抜けていた。

ここで生息する植物はみな微光を放っていた。
月の光を反射しているのではない。
植物そのものから白光が放たれているのだ。

その発光は根元からはじまり、茎を経て、葉脈にまで届いていた。
まるで光線が植物の内部を駆け巡っているかの如き輝きだ。
先程の砂漠ほど目まぐるしい光景ではないが、充分に訪れた者の眼を奪うことであろう。

草木や蔦は隙間無く森を満たし、光のドームを造っていた。
周りの樹木は低いものでも十メートルほどの全長だ。
夜になれば空を埋め尽くすほどに巨大な月が浮かぶのだが、
密林の天井も葉と枝と蔦に覆われてその様子は伺えない。

(;^ω^)「ハァ……ハァ……、さすがに疲れてきたお」

そして、四方も木の幹と幹が絡み合う自然の壁だった。
木が生えていない場所でも、腕で押し退け、足で踏み付けないと前に進めないほどに草が密集している。
ブーンは草樹の海をもがき泳ぐように内部まで入り込み、ようやく、比較的茂みが無い地点へと辿り着いた。
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:52:04.56 ID:xKyO+pog0
(;^ω^)「よっこらセックス」

ブーンはゆっくりと辺りを見回し、手頃な大きさの木の根へと腰を落ち着けた。
そして、幹に背中を預けゆっくりと頭上を見上げる。
頭上には桃色に輝く木の実が垂れ下がっていた。
弾けた実から、時折、種子が火花のように散り、幻想的な風景を一層引き出していた。

(;^ω^)「はあ……腹減ったお」

しかし、その風景も聊か見飽きた。

どれだけの距離を駆けただろうか。
ドクオと別れてから、半日以上ずっとこの森を進んでいた。
しかし、この森の終わりへ一向に辿り着く気配がない。

何より、目印らしきものは見当たらない。
何処を抜けても、同じような形をした草木が生い茂っている。
まさに迷うにはうってつけの場所であった。

(;^ω^)「『クヴェル』どころか、人っ子ひとり居ないお。
      こっちを選んだのが失敗だったかお?」

ここまで来て、ブーンは東の道を選んだことを後悔した。
人が居ないだけならば、まだ良い。
だが、この森には凶悪な化物や獣すらも存在しなかったのだ。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:53:55.08 ID:xKyO+pog0
(;^ω^)「拍子抜けしたお……これじゃあ修行にならないお」

これまで一月程当ても無い旅を続けていたが、それなりに目的はあった。
無論、力を手に入れることだ。
幼少の頃から、ショボンの常軌を逸した思いつきに振り回されていたブーンは、
彼に一泡吹かせてやりたいと思っていた。

それを成し遂げるには生半可な修行では足りない。
己の力を存分に奮える敵が必要であったのだ。
さらに言えばブーンは旅の中で戦いを愉しんでいた。
もしかしたら、彼に流れる狩猟民族の血が戦いを求めているのかもしれない。

Σ(;^ω^)「うおっ!!」

と、不意に目の前の茂みが揺れた。
すっかり気が抜けていたブーンは、身体を強張らせる。

(;^ω^)「敵……かお? 来るなら来いお」

ブーンは静かに立ち上がると、固唾を飲み込みながらゆっくりと背中に手を回し、炎獅子の牙を握る。
彼の鼻に吹き抜けるのは獣の匂い。
鬼が出るか、蛇が出るか。
だが、いつ襲い掛かられるか分からない緊張とは逆に、昂ぶりが押し寄せてくる。

そして、彼の前に現れたのは、
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:57:00.04 ID:xKyO+pog0
「……」

一匹の小鹿であった。
生え揃ったばかりのふさふさの栗毛に、円らな黒い瞳。
その姿を見たもの皆は、愛くるしさに襲われるに違いない。

(; ω )「……く」

が、対する彼の反応は違っていた。

(♯゚ω゚)「肉〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

「キッ!?」

ブーンは小鹿の姿を確認するや否や、涎を溢し、吼えた。
小鹿はそんな彼の姿を見ると、身の危険を感じ取ってすぐに逃げ出そうとした。
ブーンはすかさずその後を追いかけた。

動物愛護精神の欠片も無かったが、それも仕方のないことだった。
なぜなら3日ぶりの(食用の)肉が目の前に現れたからである。
もはや彼の脳は、目に映った動物を骨付き肉としか捉えていない。

(♯゚ω゚)「擬獣『炎獅子』ッ!!」

すぐさま彼は戦闘態勢に入り、狩りを開始した。
人間という生物は不思議なもので、追い詰められれば形振り構わない行動を取る。
そして、現在のブーンにも、か弱い小鹿相手に己の『クヴェル』を発動させるほどに恥も外聞もない。
とりあえず新鮮な肉が喰いたかったのである。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 22:59:17.84 ID:xKyO+pog0
こうして、鹿と獣と化したブーンの死闘が始まった。

(♯゚ω゚)「ガウウウウッ!! 待てッ!!」

「キッ!! キ〜ッ!!」

鬱蒼と生い茂る森の中を、小鹿と一人の少年が駆け抜ける。
道なき道であるにも関わらず、小鹿は徐々に加速を増してゆく。
この森に生息しているだけあって、地形を知り尽くしているのだ。

対して、必死にブーンは追いかける。
枝や葉が皮膚を擦り付けて、痛い。
だが、それでも障害物を跳ね除けて、ブーンはひた走る。

それでも、一向に追いつく気配がない。
ブーンの脚は決して遅くは無かったのだが、体格の差が邪魔をしていた。
小鹿の体格は小さく、いとも簡単に狭い木々の隙間をすり抜けてゆくのだ。

(;゚ω゚)「グハッ!!!!」

一方、ブーンは馬鹿正直に鹿を追いかけていた為に、
自分の身体では通れない幅の隙間を抜けようとして顔から木に激突した。
鼻血が止め処なく溢れてくる。
それでも、と体勢を立て直し、懸命に後を追う。

(♯゚ω゚)「肉〜〜〜〜ッ!! 喰わせろッ!!」

「キーッ!!」
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:02:18.99 ID:xKyO+pog0
それから約半刻もの間、二者は森の中を駆けずり回っていた。

が――、

(♯゚ω゚)「ッ!?」

不意に、ブーンは足を止めた。

突き刺さるような視線を感じたからだ。
無論、小鹿のものではない。
殺気を孕んだ、敵意を持った何者かが投げかけた視線である。

(♯゚ω゚)「……お遊びはここまでだお。さっきから僕を見てるのは誰だお?」

ブーンは腰を低くして、四本脚の獣のように構えを取り、先刻からの視線の主に語りかけた。
返事は無い。
風で葉が擦れる音が返ってくるのみだ。

(♯゚ω゚)「……来ないならコッチから行くお」

地面に擦り合わせるように、足を前にじり、と進める。
落ちていた枯葉が割れる。
それでも、標的は動こうとしない。

(♯゚ω゚)「ガウウウ――」

と、ブーンが低く唸り、気配に向かって飛び出そうとしたその時だった。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:04:35.04 ID:xKyO+pog0
不意を突かれた。
敵の攻撃が飛んできたからだ。
だが、それは予想外のものであった。

(♯゚ω゚)「――ッ!?」

気配とは逆、ブーンから向かって反対側だ。
降り注いで来たのは、背後の木々に絡まる蔦であった。
一瞬にして伸びたかと思えば、大蛇のように彼の首に巻きついて来たのだ。

(♯゚ω゚)「ガアアアッ!!」

尋常ではない力で急激に木に吊り上げられる。
頸部を圧迫され、ブーンは苦悶の悲鳴を上げた。
意識が一瞬、混濁する。

まずい。

彼は薄れゆく意識の中で、本能的に首の後ろに牙を突き立てる。
蔦の繊維が焼き切れる音がした。
すぐさま木の幹を蹴り、跳ねる。

(;゚ω゚)「ガハッ!! グエッ!!」

頭上でうねる蔦から距離をとり、着地する。
器官に空気が入らず、思わず咳き込んでしまう。

だが、次の攻撃は既に始まっていた。
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:07:03.14 ID:xKyO+pog0
次は足元だ。

足元に生えていた草が一瞬揺れたかと思えば、葉が槍のように高速で伸びてくる。
さながら、突射の壁だ。
呼吸が落ち着かないままに、ブーンは身体を捩りそれをかわす。

(♯゚ω゚)「クッ!!」

最後に伸びた葉の刃が皮膚を掠めた。
立ち止まったら危険だと判断すると、ブーンは瞬時に足に力を入れる。
脚の筋肉が瞬時に膨張。
バネの勢いに任せて、小枝の網を突き破りながら縦横無尽に駆け巡る。

目まぐるしく森を飛び跳ねながら、ブーンは思考する。

(♯゚ω゚)(……回避!? 何処に!?)

これまで幾多の化物と戦ってきたブーンだが、混乱を隠すことはできなかった。
今、現実に彼を取り囲むのは実体の見えない敵だ。
いや、正確に言えば、何処までが敵か判別がつかないのだ。

特定の種類の植物が襲い掛かってくるのだろうか、いや、最悪の場合森全体が敵かもしれない。
言い知れぬ不安が彼に押し寄せてくる。
これまでの経験にはなかったことだ。

一々、見極めている暇も無い。
下手をすればこの森全体が敵の間合いなのだ。
一瞬でも気を抜けば、捕まる可能性が高い。
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:08:48.95 ID:xKyO+pog0
(♯゚ω゚)「ッ!?」

不意に、目の前の景色が揺れた。
視界が歪んだのではない。
次に飛び移ろうとした木の枝が屈折し始めたのだ。

距離が近づく毎に、その変化は鮮明になる。
枝と枝が網目状に絡み合い、一つの形状を成す。
枝と葉が複雑に組み込まれた籠だ。
籠が大口を開き、飲み込むようにしてブーンを捕らえようとしたのだ。

(♯゚ω゚)「っく!!」

さすがに、空中ではかわす術はなく、ブーンの身体は籠の中に引き込まれる。
ブーンは獅子の牙で内側から籠を引き裂こうとした。

だが、既に枝が次の生長を見せていた。

(;゚ω゚)「ぐああああああッ!!!!」

枝は籠の内部まで入り込むと、大蛇のようにとぐろを巻きブーンの身体を締め付けたのだ。
牙で枝を払おうとするも、既に彼の上半身を覆い尽くしていた。

筋肉が、骨が軋む音がする。
口からは泡が吹き零れる。
呼吸をすることすらままならない。
実際の大蛇に巻きつかれた時の比ではなかった。

もはや抗いようもなく、意識が遠のいていく――
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:11:30.93 ID:xKyO+pog0

(♯`A')(どうやら……歓迎はされてないようだな)

ドクオは巨大な月を背にして上空に浮かび、足元を見下ろしていた。

眼下には、鉄製の門が聳え立っていた。
鉄骨で出来た櫓が両脇を固めている巨大な門だ。
奥を見れば、門を起点にして金網が周囲に弧を描くようにして大きく一周していた。
さらに、その内部には角張った形をした建物が延々と、規則正しく続いている。

よく見れば、建物の横をすり抜けるようにして、
大小様々の鋼管が中央に向かって無数に伸びている。
中央部には周囲と比較しても頭一つ大きい建物が見えた。
四本の槍形の塔に囲まれた、重厚な城である。

改めて全体を眺めると、全ての構成物が薄く錆に覆われ、仄かに赤みが掛かっていた。
まるで、心臓に向かう血管を眺めているようであった。

しかし、今は呑気に街を見下ろしている状況ではない。
ドクオの言葉の通り、歓迎されているわけではなかったからだ。

「『森の悪魔』め!! 一刻も早くこの場から立ち去るニダ!!
 聞き入れないのならば、即刻制裁を加えるニダ!!
 これは脅しではないニダ!!」

(♯`A')「……ったく、俺は観光に来ただけだってのに」
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:13:45.05 ID:xKyO+pog0
門の手前には百を超えるほどの数の兵士が居た。
兵士達は皆一様に鈍く輝く鎧を纏い、松明を掲げ、
銀色の壁を作るようにして隊列を造っていた。
そして、全ての者が例外なく上空を睨んでいる。

「くそ、聞き分けのない奴ニダ……
 こうなったら、あの悪魔を打ち落とすニダ!! 皆の者、砲撃用意ッ!!」

ドクオはその様子を冷静に見守っていると、
不意に空気を切り裂くような、甲高い怒号が飛んだ。
良く見れば、隊列の後方でエラの張った男が何やら指示を出している。

<♯ヽ`∀´>「皆の者、砲撃開始ニダ!!」

エラの男は大きく右腕を掲げた。
兵士達は一斉に全長十メートルほどの黒く細長い筒を上に向ける。
共に、無数の破裂音が響く。

(♯`A')「なんだ、あr――」

と、ぼんやりと下を眺めながら口走る途中で、ドクオは言葉を止めた。
熱が頬を疾ったからだ。
いや、何か素早いものが、彼の顔面の横を通り抜けていった感覚だ。

(;`A')「――ッ!?」

不意に頬を撫でて、ようやくドクオは青ざめた。
頬には一筋の血が走っていたのだ。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:15:14.61 ID:xKyO+pog0
(;`A')「くそっ!!」

ドクオは本能的に危険を察知し、さらに高く上空へ移動する。
彼の頬を掠めていった物体が何かも分からなかったからだ。

動体視力には自信がある。
冗談でも何でもなく、鳥にすら負ける気がしない。
だが、彼の眼を以ってしても、飛来物を捉えることができなかった。

(;`A')「なんだよありゃ!? 新手の『クヴェル』か!?」

掠っただけで済んだものの、
もし、実際に身体に命中していたらどうなっていたかは分からない。
あの速度だ。
下手をすれば貫通していたに違いない。

(♯`A')「ちっ」

ドクオは舌打ちをすると、おもむろに左腕を天に掲げる。
すると、上空の風がドクオに集中するように流れ、
一瞬にして渦が作られ、小規模の竜巻が彼の身体を護りはじめた。

『うわっ!? なんだ!?』

巻き込まれるようにして、地上の風もざわめきを起こす。
上空に浮かぶドクオの様子を覗っていた兵士達は、驚きを隠せないのか、思わず声を上げる。

<♯ヽ`∀´>「皆の者落ち着くニダ!! あんなもの唯のまやかしニダ!!
        撃て!! 撃って撃って撃ちまくるニダ!!」
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:17:12.57 ID:xKyO+pog0
兵士達は混乱しながらも、上官の言葉に従い再び砲撃を始めた。
だが、標的との距離が離れている上に、竜巻に阻まれ砲撃の軌道が逸れてしまう。

(♯`A')「とりあえず、大丈夫みたいだな。
     ……じゃあ、こっちからも挨拶しないとな」

ドクオは下の様子を注意深く観察し、敵の攻撃が届かないことを悟ると、攻撃の態勢に移った。

両腕を大きく天に向かって掲げ、爪先に意識を集中させる。
大気は凝縮され、二つの塊が精製される。
そして、思い切り一双の爪でそれを、切り裂く。

(♯`A')「ウオオオオオオオオオッ!!!!」

空気と空気が擦れ合い、耳を劈くような高音が響き渡る。
疾風の刃が無数にうねりを見せたのだ。
鋼鉄の隊列をかき乱すようにして、次々と地面に巨大な爪跡を残す。

「うっ……うわあああああああああっ!!!!」

「くそっ!! 退避……退避だ!!」

<♯ヽ`∀´>「こら!! 何やってるニダ!? 撃つのを止めるn――アイゴ〜〜〜〜!!!!」

あれだけ統率が取れていた小隊は、水を掛けられた蟻の如く混乱を見せ始めていた。
最後まで必死に指示を出していたエラの男が衝撃波に飲みこまれると、
もはや、隊としての機能が完全に失われてしまった。
その証拠に、兵士達は皆一様に退却を始め、次々と門の方へと駆け出していく。
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:20:27.46 ID:xKyO+pog0
(♯`A')(しかし、呆気ないな……全然修行にならん)

だが、ドクオは追い討ちをかけようともせずに腕を組み、ただその様子を観察していた。

もはや、興を削がれてしまっていた。
威嚇のための攻撃でこの有様である。
未見であった異国の武器には少々焦りはしたものの、
やはり只の人間相手ではこちらの方に分があったようだ。

(♯`A')(結局こっちは外れか。東に行っとけば良かったな)

と、ドクオが溜息を着き砂漠の方向に引き返そうとした、

その時だった。

突如、戦鐘の音が三度、響いた。
鈍く、甲高い音だった。
あれだけ騒々しかった戦場に、一瞬の静寂が訪れる。

(♯`A')「ッ!?」

空気が変わった。
肌を刺す、張り詰めたような感覚だった。
門の前を見てみれば、あれだけ崩れていた兵士の隊列が再び統制を取り戻し始めた。
彼らは門を中心に、左右に二つに分かれて並び始める。

そして軋むような音と共に、重厚に閉ざされた門が開かれた。
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:22:29.14 ID:xKyO+pog0
片lll■ll)「……」

兵士達の敬礼を受けて門の中から現れたのは、一人の騎士であった。
騎士は頭まで全身に鎧を纏い、左腰には鋼鉄の長剣、
右腰にはリボルバー式の拳銃を引っ掛けている。
背には金刺繍の入った緋色のマントを羽織っており、位が高い身分であることが覗える。

騎士は、埃だらけになった兵士達を軽く見渡すと、低く、厳しい口調で言葉を放つ。

片lll■ll) 「不甲斐無いな。たかが1人に何を手こずっている?」

<♯ヽ`∀´>「はっ……申し訳ございません。
       しかし、あの『森の悪魔』めが、我々が見たことも無い奇怪な術を使って来まして……
       驚いたことに、銃弾もそれに阻まれている状況です」

すると、エラの男がすごすごと前に出、騎士に報告する。
先程の横柄な態度から一変して、緊張を露にした様子で恐る恐る答えた。

片lll■ll)「言い訳はいい。――で、来襲者というのはあの男か?」

エラの男の言葉を一蹴すると、騎士は上空に視線を投げかけた。
鎧と同じく鈍重な兜に阻まれ、その表情は覗えない。

片lll■ll)「ふむ、見たところ『樹木の民』とは様子が違うようだが……ニダー、一体奴は何者だ?」

<♯ヽ`∀´>「はっ、部下の報告によると、東門に突如出現したとの模様です。
       取調べを行おうとした際、あの男が抵抗を見せたために兵は攻撃を行ったのですが、
       何しろ奴めの戦力が大きすぎるゆえ、今の状況に陥りました」
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:25:23.23 ID:xKyO+pog0
片lll■ll)「……そうか」

騎士は首を上に傾けたまま短く返し、それ以上は何も言わなかった。
やはり、表情は窺い知れない。
息が詰まるような無言。
横では、どうすればいいのか解らずに、ニダーが間誤付いていた。

<♯ヽ`∀´>「あの……もう一度、兵に撃たせましょうか?」

ニダーは苦し紛れに声を掛けるが、騎士は上空から目を逸らさないまま答えない。
時折腕を組んだり、ふむ、と小さく唸ったりするだけだ。

<♯ヽ`∀´>「あの……早くしないと、また奴が襲っt――」

片lll■ll)「ならば私が奴の相手をしよう。お前達は手出し無用だ」

唐突に、騎士が言葉を発した。
ニダーは喋りの途中で遮られたため、一瞬口を噤んだが、
頭の中で騎士の言った事を反芻し、それを理解した瞬間驚いたように声を上げる。

<♯ヽ`∀´>「大佐、正気ですか!? 今、何と!?」

片lll■ll)「私がやる、と言ったんだ。いいか、邪魔をするなよ」

<♯ヽ`∀´>「ちょっ!! 我々が束になっても、あっ、待つ二ダ……いや、待って下さい!!」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/05/30(水) 23:27:26.62 ID:xKyO+pog0
うろたえるニダーを横目にして、全身鎧の騎士は孤独に前へ出る。
一歩、一歩思い足取りであったが、何処か堂々とした覇気のようなものが感じられた。
そして、丁度ドクオの足元までに近づき、

片lll■ll)「私の名は、『バロウ帝国』大佐、スオナ=ジョルジュ!!
      貴様を男と見込んで、一対一の決闘を申し込みたい!!」

高らかに叫んだ。

凛とした声が、大気を引き裂くように走り抜ける。
背後からは、驚嘆とざわめきの声が鳴り止まない。
夜の荒野には、重なるように強風が砂を巻き上げる音が反芻し続けていた。





『第一章 放浪の旅人は虹の砂漠を渡る』 終