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( ゚∀゚)はプログラマーのようです:第一話 「闘争劇」
- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:17:44.46 ID:TOzdLLeq0
- 第一話 「闘争劇」
生体硬化プログラム『硬骨』でコランダム並の硬度にまで強化されたウィルスの牙が、
俺の右の肩口をかすめ、皮膚が赤く滲んだ。
武器である牙の錬磨。まさしく現代の魔法たるプログラムの正統な活用術である。
( ゚∀゚)「ちぃッ!」
すぐさま剣状演算機『グラマラス』を上段に構え、
突進後勢い余って体勢を崩していたウィルスの頭頂めがけ振り下ろす。
が、相手も簡単に頭蓋骨をかち割られるほど馬鹿ではない。
狼にも似た身軽な獣型ウィルスは俺の力のこもった剣撃を身をひるがえして回避すると、
身体強化プログラム『羽根』を急速展開。
大腿および脹脛の筋肉を分解、筋繊維を肥大化させ再構成し、
脚部の筋力を大幅に増加させて俺の右腕に飛びかかる。
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:19:48.65 ID:TOzdLLeq0
- ――――ぐるぅぅぅおおおおお!!
闘気を宿した銀眼でこちらを睨みながら、ウィルスが猛獣の叫び声を上げた。
全身を滑らかな漆黒の体毛で覆い、
犬をそのまま二回りほど巨大化させたような姿をした眼前に迫りくるウィルスは、
吠えるだけで此度の戦場となった広大な古倉庫の外壁を揺らし、俺の興奮を呼び覚ます。
( ゚∀゚)「させるかよ、ボケッ!」
硬質の牙を剥き出しにして襲いかかってきたウィルスの大きく開いた口へ、
『グラマラス』の剣先を突き刺す!
だがウィルスは俺がそうした瞬間口を閉じ、奥の歯で剣を噛み攻撃が喉にまで達するのを防いだ。
(;゚∀゚)「があああ! うっぜえええええ!!」
ウィルスの強靭な顎で噛み締められ、剣が抜けない、どころか動かすことさえできない。
救助を求めようと辺りを見渡したが、ショボンは別のウィルスを探索中、
阿呆ミルナにいたっては見当たらないときた。
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:21:30.21 ID:TOzdLLeq0
- 俺はこの状態から、
自律走行する火炎車を発生させる放出系プログラム『灼車輪』のソースコードを構築し、
内部から強引にウィルスを破壊しようと考えたが、生憎そんな暇はない。
ウィルスは生体硬化プログラム『皮羅』によって硬度が高まった爪で反撃してきた。
『皮羅』は自らの皮膚を硬質化させ、天然の鎧を形成するプログラムであり、
俺も戦闘開始直後から発動している。
『硬骨』と共に代表的な防御的プログラムと一般には言われているが、
肉体を武器とする獣型ウィルスにとっては刀剣の切れ味を増加させるのと同義である。
(;゚∀゚)「クソッ!」
やむを得ず、必死で体をくねらせ攻撃を避けようとしたが、
刃物のように鋭利な爪の先端部が俺の腹を服ごと切り裂いた。
幸運なことに、軽傷。内臓を抉られるまでには至っていない。
(#゚∀゚)「調子乗ってんじゃねぇぞコラァ!!」
無防備になっていた喉元を蹴り上げ、ウィルスがむせ返っている間に剣を引き抜く。
- 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:23:21.75 ID:TOzdLLeq0
- おお、愛しの『グラマラス』よ、怪我はなかったかい。
俺はしちゃったよ。大した事のない傷だけど、でもそれなりに痛いのよ。
( ゚∀゚)「じゃあこの借りを倍の倍の倍々にして返さねぇとなぁ!!」
我が愛刀を封じられていた時から密かにコードを構築していた放出プログラム『灼車輪』を、
組み上げたプログラムを発動する媒介となる演算機『グラマラス』の切っ先から発射。超近距離!
( ゚∀゚)「死にくされ! 死んで腐れ! いや逆に腐って死ね!」
轟音が鳴り響いた。
解き放たれた摂氏二〇〇〇度を超える円環状の焔がウィルスの黒く美しい体毛に引火。
ウィルスは直に伝わる熱に苦しみながらも、燃える毛を消火しようと床を転がり回る。
寸前で躱されたため全焼には至らなかったが、
焔は奴の黒毛の下にある薄い柔皮膚を焦がし、深い火傷を負わせた。
( ゚∀゚)「爪に『皮羅』の効果を回しているから、防御には使えなかったようだな」
苦悶にのたうつウィルスの、焦熱で禿げて地肌が露出している部分を見て、
俺は満足し口角を吊り上げる。
- 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:25:22.93 ID:TOzdLLeq0
- しかし余裕をぶっこいているわけにもいかない。
相手は決して致命傷には至っていないのだ。
読み通りウィルスは治療プログラムを複数展開し、傷口を修復、そして立ち上がった。
精度をとことん度外視して、
放出系出力端子を三つ搭載し限界ギリギリまで威力を重視した俺流『灼車輪』が仮に直撃していれば、
即死、よくて瀕死の重傷を負わせることができただろう。
しかし今対峙している相手はウィルス。
俺たち人間より遥かに優れた身体能力と高度な知能を持つ生命体なのだ。
( ゚∀゚)「俺よりは馬鹿でノロマで醜いけどなぁ!」
再び突撃準備。『グラマラス』を腰の辺りで構え、ウィルスの眉間へと突き刺すべく突きの体勢をとる。
が、傷が完全に癒えていないウィルスは一旦退却。
俺に背を向け、床に堆積した白い粉塵を巻き上げて倉庫の奥に走っていく。
その時。ウィルスの進路上に一人の男が立ち塞がった。
絶世のクソ野郎ことミルナである。
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:27:31.65 ID:TOzdLLeq0
- ウィルスの体毛よりも室内を満たす暗闇よりも、なお黒いスーツに身を包み、
右手には長尺かつ細身の刀が握られている。
堂々の長躯を誇るミルナが仁王立ちを決めたその光景は、地獄の番人を想起させる。
( ゚д゚ )「どこへ行く?」
日本刀の形状をした奴の演算機『哀悼』が、
その濡れたように瑞々しい輝きを留めた刃から黒い薄煙を発している。
ミルナが得意とする、黒煙に触れたモノの抵抗を一切排除する減衰プログラム『玄霧』であろう。
( ゚д゚ )「お前が行く道はこちらではない。
とっとと冥府に逝け、俺が連れていってやる」
刃先を対角線上のウィルスに突きつけながら、
身体強化プログラム『羽根』を二重三重に発動し、腕の筋力を究極寸前まで強化する。
剛健さを増した腕で『哀悼』を握り直し、振りかざすミルナ。
剣身の長さ九七二ミリメートルという、規格外のサイズの刀剣をいとも容易く扱うこの男は、
対戦する者からすれば脅威でしかない。
- 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:29:55.39 ID:TOzdLLeq0
- (#゚∀゚)「……ってか、おい、てめぇ! いいとこを持っていくんじゃねぇよッ!」
( ゚д゚ )「知らん。別に俺がやっても構わんだろ」
それがどうしたとでも言わんばかりに、ミルナは昏い瞳で凍るような視線を返してきた。
(#゚∀゚)「いやいや、俺が発見して俺が倒そうとしてたんだよ! つまりそいつは俺のエ・モ・ノ!
あと一歩のところまで追いつめていたんだぞ!」
( ゚д゚ )「トドメは誰が刺しても一緒だろうが、アホ」
あくまで落ち着いた、鋼のように強固なミルナの声。
一緒でたまるか、と俺が反論しようとした刹那、
隙を突いてウィルスが放出プログラム『瞳光』を構築、発動。
ウィルスの獰猛な顔の前に二つの小さな光輪が出現。開かれた目のような形態を成している。
その不気味な双眼より放射された二本の白光線が空中で合流、一本のレーザーとなってミルナを襲う。
だがミルナは必要最小限の動作で回避。
あの高速の閃光に体捌きのみで瞬時対応したのだ。
おそらく、光線が放たれる前に軌道を読んでいたのだろう。
そのまま死ねばよかったのに。
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:31:31.54 ID:TOzdLLeq0
- そんな淡い望みが俺に対しては優しさ皆無の天の神様に届くはずもなく、
ミルナは平然として正面に向きなおり、刀の切っ先を下げてウィルスを睨みつけ、
そして急接近、鈍色の刃を疾走させた。
猛禽類のごとき急襲。
( ゚д゚ )「放出プログラムなど、その軌道上に入らなければ無意味――――死ね」
すべての斬撃を必殺の一撃と変える減衰プログラム『玄霧』を纏った刃が、
防御力を無視しウィルスの首を一刀両断!
欠片ほどの慈悲もないミルナの太刀筋は、絶対死を与えることにのみ特化していた。
大理石でできた柱のように太く頑強な獣型ウィルスの首が、これほどまでにあっけなく切り落とされるとは。
敵の切断面からは今も鮮やかな血が噴き上がっている。
瞬殺だった。
流麗なる剣捌き、まさに居合の極地である。認めたくはないが。
ウィルスは治療プログラムを展開することもできず、完全分離した首と体は徐々に崩れ出し、
ぐずぐずの赤黒い肉塊となった。
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:33:27.64 ID:TOzdLLeq0
- 血煙の向こう側には、刀に付着したウィルスの血液を振り払うミルナの姿があった。
実に憎たらしい。俺の希望は相討ちだったのだが、どうも相手が圧倒的に力不足だったようである。
( ゚д゚ )「まずは一体、駆除完了」
ウィルスの中でも機動力に優れた獣型ウィルスをただの一太刀だけで斬り伏せたミルナは、
腐りゆく肉の崩れ去った造形を眺めながら、手にした日本刀と同じ、玉鋼めいた冷たい笑みを零した。
( ゚∀゚)「うえっ、お前こんな気味悪いものを見て笑えるのかよ」
俺にはまるで理解できない。
あれだ、こいつには心がないに違いないな。
この数年で分かったのだが、ミルナは喜怒哀楽のうちおよそ半分が抜け落ちている。
ちなみに内訳を話すと、まず悲哀の感情は絶滅、さらに歓喜と悦楽も八割方壊滅状態に陥っているので、
正確には半分強が欠けているのである。
しかも残った二割の喜楽は偏執的で歪みまくりの欠陥品だ。
これらの要素を加味すると、ミルナ=心がない=欠陥品の公式が成り立つ。
テストに出るぞ。割と長期に渡って。
( ゚д゚ )「何か言ったか?」
( ゚∀゚)「言ったかも知れないけど、言ってないことにしてくれ。
つーか心を読むなよ! 心の中で何を想ったって俺の勝手だろ!」
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:35:16.98 ID:TOzdLLeq0
- ミルナとは凄く非常にとんでもなく有り難くないことに、もう長い付き合いになる。
かつて俺とこいつはウィルス討伐会社『バスター』内のウィルス駆除を担当する営業部に勤めていたが、
『バスター』社の後ろ暗さを知ってからというものの揃って会社に対して不信感を抱くようになり、
ついには辞職。独立を決めた。
その際、研究部に属していた俊才ショボンを誘い、個人事務所『アヴァスト』を設立する次第になったのだ。
( ゚∀゚)「大体よ、お前今の今までどこに隠れていたんだよ!
ちゃんと真面目にウィルス探せよ!」
( ゚д゚ )「……見つけるのが面倒だった」
( ゚∀゚)「はぁ?」
( ゚д゚ )「だから、見つけるのが面倒だったんだよ。
ウィルスが出現する場所は漠然としか分からんからな、闇雲に探しても徒労なだけだ」
俺はミルナの正論ぶった屁理屈に昇天しかけた。
この剣術バカが言うとおり、ウィルスの発現区域はある程度まで絞り込むことはできても、
一定の範囲を超えては把握しづらい。
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:37:07.79 ID:TOzdLLeq0
- ウィルスとは俺たちが存在する世界とは違う次元から襲来してくる生命体だと考えられている。
このウィルスという存在は『空間の歪み』と呼称される次元の狭間からの訪問者であるため、
我々人類とはまったく異なる生態系を持っている。
これまでにも多くの学者がウィルスの調査研究を行ったが、未だにすべての解明はしていない。
またウィルスの生息次元については諸説あり、どこからでも突然現れるという点から、
四次元空間からの微分説が有力とされている。
もう一つの説は、平面世界から自らを積分してこちらの世界に干渉しているという理論である。
その際に生じる積分定数がウィルスに備えつけられている高度な知識である、というのが根拠らしい。
以上、俺が在籍していたダウソ演算学院でお勉強して得た知識終了。
ちなみに俺はマイノリティである後者の説を支持している。
理由は、前者の説を肯定し文化人ぶっている輩たちとの論説バトルにおいて、
劣勢から形勢逆転し論破する快感を味わいたいからである。
主に飲み屋で気分よく酔っ払いながら。
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:38:34.01 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚∀゚)「んなもん、レーダーとなる操作プログラムを展開すればいい話じゃねぇか」
( ゚д゚ )「その類の出力端子は装備していない」
俺の反論に応える代わりに、
ミルナは『哀悼』のアウトプットスロットに装着された出力端子を見せてくる。
点検したところ、十個のスロットに挿入された出力端子群うち、身体強化系が三つ、
生体硬化系も同じく三つ。増幅系、減衰系、炸裂系、治療系が各一つずつ。
おおよそ近接戦闘しか頭になさそうな構成。
うん、見事に偏りまくってますね。
( ゚∀゚)「お前、剣だけじゃなく愚まで極めてんな。
プログラムを使役しようにも、
そのタイプに応じた出力端子を取り付けなきゃ意味ないのは分かってるだろ?
学院で習わなかったのかよ。
お前は俺と同じ学院なんだから絶対に習っている筈なんだが。むしろ常識なんだが」
( ゚д゚ )「承知しているに決まっているだろうが、この若年性痴呆症。
俺はそんな小細工のために貴重なスロットを消費したくないんだよ。
それに、お前をレーダー代わりにすればいいだけだしな。
実に天才的なアイディアだと思わないか?」
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:41:03.80 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚∀゚)「ただのワガママじゃねぇか! つか俺はお前の便利な千里眼じゃねぇぞッ!」
( ゚д゚ )「命令には素直に従え、
俺は学院でも『バスター』時代の職歴でもお前の先輩に当たるんだからな」
( ゚∀゚)「その事実を未来永劫まで抹消したいね、俺は」
もうちょっとだけミルナに罵詈雑言を浴びせ、
あわよくば失言を引き出しVIP全土を騒がす舌禍事件にまで発展させたいのだが、
奴の右手が未だに刀を握り締めたままな上『羽根』が解かれていないのでやめておく。
――――と、そこに探索を終えたショボンが現れた。
(´・ω・`)「どうしたんだい、ウィルスもいないのに二人とも殺気を漂わせて」
( ゚∀゚)「おおショボン! 愛しのショボン! おっぱいの次くらいに素晴らしいショボン!
聞いてくれよ、こいつの荒唐無稽なウルトラデンジャラス理論を。
そしてぜひとも俺に味方してくれ」
(´・ω・`)「何のことかはよく分からないけど……たった今、残るウィルスの索敵が終わったよ」
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:42:45.11 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚д゚ )「……なに?」
ショボンの報告に、先程までふざけあっていた俺とミルナの表情が一変する。
( ゚∀゚)「早かったな、流石はかつて麒麟児と呼ばれた天才プログラマーだ」
俺の前に立つ、この一見人畜無害そうな柔和な風貌をした男は、
その実、機械都市VIP屈指の早熟の天才である。
十三歳で『バスター』社の研究部にスカウトされ、
齢十九の頃には史上最年少で部長の座についた、正真正銘の大俊傑。
といっても昇進直後に俺たちと一緒に独立したのだが。
こいつの華麗なる出世街道と特殊極まる経歴には、
ダウソ演算学院学術士コースを首席で卒業した俺でも歯が立たない。
この俺でさえそうなのだから、
隣にいる刀をぶん回すこと以外に才能がなさそうな霊長類もどきとは比べるのもアホらしい。
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:44:30.34 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚∀゚)「んで、あと何匹ここには潜んでやがんだ?」
(´・ω・`)「残りは三体で間違いないと思うよ」
ぴっ、と左手の指を三本立て、口頭だけではなく視覚的にも情報を伝えるショボン。
律儀な。
( ゚д゚ )「三体か……一人一体の計算になるな。
まあ俺はすでに一体獣型の奴を駆除しているから、
その分余力のあるジョルジュが努力してくれると思うが」
(#゚∀゚)「あれは九五パーセントがた俺が倒したようなもんだろ!」
( ゚д゚ )「口を挟むな、性格破綻者」
( ゚∀゚)「いえいえ、偉大なる性悪人間ミルナ様にはかないませんよ」
(´・ω・`)「話を聞いてよ、二人とも……」
ショボンが可哀想なぐらい置いてきぼりをくらっているので、
とりあえず俺の口の悪さだけは認めて会話に復帰する。
- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:47:06.32 ID:TOzdLLeq0
- (´・ω・`)「とにかく、三体のウィルスがこの辺りの空間を移動しているのは確かだよ。
でもまだ姿を現していないから、しばらくは警戒態勢をとっておこう」
( ゚д゚ )「成程な。だが一ヶ所に留まっておくのは俺の性分じゃない。
俺はこの倉庫一帯をうろつきながら待機することにする」
( ゚∀゚)「おう、早く行け。しっしっ!」
どうでもいい講釈をたれながら倉庫右奥へとに向かうミルナを追い払って、
ショボンと共に周囲を注意深く観察する。
( ゚∀゚)「暗いな……かと言って明かりとなるプログラムを使うわけにもいかねぇよな。
こちらの現在地を知られてしまう。
クソッ、余計な時間がかかっちまうじゃねぇかよ」
(´・ω・`)「うん。それにただでさえこの大きさだしね、地道に行こうよ」
( ゚∀゚)「畜生、さっさと駆除を終わらせて温かいスープを飲みたいぜ。あと酒類も」
俺たちが今回ウィルス駆除に訪れたこの廃墟じみた倉庫は、内部面積がやたらと広い。
好き勝手に暴れられるのはいいが、これだけ広漠としているとウィルスを探すだけで一苦労である。
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:48:44.37 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚∀゚)「ショボン、空間の歪みは見つかったか?」
(´・ω・`)「今のところはまだだね」
ショボンが小さく首を横に振る。
( ゚∀゚)「あーあ、とっとと出てこいよ。面倒くせぇ……ん?」
膠着状態が何分続いただろうか?
いい加減飽き飽きとし始めた時、突如として俺の数メートルばかり後方で何かが蠢く気配があった。
(´・ω・`)「ッ! ジョルジュ、後ろッ!」
脊髄反射。
俺はすぐさま振り返り、
同時に背後の空間へと『グラマラス』で半円軌道を描きながらバックステップを踏む。
( ゚∀゚)「このクソ野郎がッ!」
横に薙いだ剣の演算機は、俺たちの舞台に上がってきたウィルスの、さらにその前方を通過した。
すなわち空振り!
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:50:27.98 ID:TOzdLLeq0
- ――――きぃぃぃぃぃおぉぅぅぅぅぅぅ!!
刀剣の間合いから外れた所で、けたたましい、かつ気色悪い雄叫びを上げるウィルス。
てらてらと黒光りする甲殻。
長い二本の触角。
ぞろぞろと蠢く、地面を這い回るのに適した多足。
生理的嫌悪を抱かせるフォルム。
俺の大嫌いな蟲型である。
( ゚∀゚)「ちょうどいい、敵は憎い奴であるほどぶっ殺しがいがあるってもんだ」
その筆頭はミルナなのだが。
( ゚∀゚)「おいショボン! こいつは俺が駆除するからお前は違うウィルスを探してなッ!
この程度、一人で十分だぜ!」
(´・ω・`)「分かった!」
俺の孤軍奮闘宣言にショボンは力強く了解し、
こちらの戦局を注視しながら倉庫左ブロックへと移動していった。
なんて美しい信頼関係。どこぞの誰かさんとは大違いだ。
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:52:31.71 ID:TOzdLLeq0
- 離れていくショボンの背を見送って、この不快な外見をしたウィルスに眼を付ける。
( ゚∀゚)「さぁて……ッ!」
『グラマラス』の華美な装飾が施された柄を両手で握り、
身体強化プログラム『羽根』と生体硬化プログラム『皮羅』を同時展開。
全身の筋繊維の強靭化により身体能力が飛躍的に向上。
さらに皮膚はしなやかな伸縮性を維持したまま、
傷つきにくさを表すモース硬度換算で宝石類に継ぐ硬さ六程度にまで硬化。
肉体を戦闘用へと切り替え、ウィルスへと疾駆する。
(#゚∀゚)「くあああああ!!」
俺の『グラマラス』と、ウィルスが発動した高等侵食プログラム『餓紗毒絽』の網が交錯した。
この網は一本一本の繊維に強酸が染み込んだ厄介な代物であり、
迂闊に触れれば皮膚の頑丈さに関係なく肉まで焼かれてしまう。
演算機の原材料となっている金属には特殊な腐食防止コーティングが施されているため、
溶かされる心配はないが、網が人体と数秒間ほども接しようものなら大惨事は免れまい。
学んでよかったプログラムの知識。
- 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:54:40.76 ID:TOzdLLeq0
- ここは一旦距離を取るべし。
( ゚∀゚)「おらよッ!」
頭の良い俺は接近戦を早々に諦め、剣で網を弾いた反動を利用して後方へ跳ぶと、
中距離から次なるプログラムのソースコードを構築していく。
だが相手が黙って俺の避難を見過ごす筈がない。
無数に生えた足で、薄気味悪く地を這いながら前進してくるウィルス。
俺はそいつに時折牽制用の簡単な放出プログラムを撃ちつつ、
距離を保ちながら目的のプログラムを紡いでいく。
( ゚∀゚)「まさかお前みたいな低俗な輩がそんな達者なプログラムを組めるとは予測していなかったぜ」
相手が飛ばしてきた『餓紗毒絽』の毒網を刃先で払い、
俺は勝者の表情をして『グラマラス』を揚々と掲げる。
( ゚∀゚)「コードは入力し終わった。ついでにお前も終わらせてやるよ」
演算完了。
放出プログラム『戦閃鬼嬉』を展開、
『グラマラス』の先端部から直進軌道を描く亜光速の極太レーザーをウィルスへ照射!に
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:56:40.33 ID:TOzdLLeq0
- 元来、レーザーとは超高密度の光エネルギーを一点に収束させて放たれるものであるが、
『戦閃鬼嬉』は可視光線が成り立つ太さの限界を大幅に上回る。
それでいて進行速度は通常のレーザーに引けを取らない。
俺が扱える放出プログラムの中でもかなり上位に位置する技である。
瞬きする間もなく、逞しき光線がウィルスに到達した。
――――けぇおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!
直撃こそ叶わなかったが、眩い閃光は掠めただけでウィルスの身体の約三分の二を消し炭と化させ、
生体機能を激しく破壊した。
( ゚∀゚)「この大技、貴様に使うのはもったいなかったかな!」
不完全な形態になったウィルスは惨め極まりない。
人間より遥かにシンプルな構造をした臓腑各部を断面から覗かせている。
大巨人にちぎられて出来たような無残な断面の縁からは、
光で燃やされたせいで炭化した細胞が煙となって立ち昇っている。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:58:25.56 ID:TOzdLLeq0
- しかし、体を編成する組織の大部分を失ってなお、ウィルスは執念の生命力で生きていた。
――――おおおおぉうううぅぅぅぅぅぅぅッ!!
苦悶の絶叫を響かせるウィルス。
超音波めいた高音に俺の耳小骨が不規則に揺れる。
( ゚∀゚)「そうか、苦しいか。死にたいぐらいに苦しいか。
だったら……俺が手厚く葬ってやるぜ」
聖母のように心優しい俺は絶命を迎えさせる攻撃を仕掛けることに決定。
ウィルスの生命活動が完全に停止していないことを再度確認し、
『グラマラス』を両手持ちに掲げたまま接近、近距離戦闘にスイッチする。
そもそも、この程度のウィルスと俺とでは力の差は歴然としている。
これでも俺は特別高等な学院でプログラムを専門に学んだエリートですよ?
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 21:59:43.21 ID:TOzdLLeq0
- (#゚∀゚)「失せろッッ!!」
治療プログラムを展開される前に剣形の演算機をウィルスの残る部分に刺し込み、
敵の状態を監視している間に構築していた、
小爆発を引き起こす炸裂プログラム『鋳炉破歌』を切っ先から一気に解放。
破滅へと導く火焔のプログラムを叩き込み、爆破!
衝撃と爆風でウィルスの肉片が盛大に飛び散り、そしてすぐに爆発の副産物である高熱によって蒸発。
どす黒い血液は瞬時に気化し、悪臭を伴いながら焦げ色の煙を燻らせる。
ウィルスは内部から完膚なきまでに崩壊、塵一つ残さず消失した。
『グラマラス』にこびり付いたウィルスの残骸を振り落としていると、不意にショボンの状況が気にかかった。
( ゚∀゚)「おいショボ……んなッ!?」
ショボンが進んでいった辺りを遠目に見ると、俺はそこでの光景に驚愕した。
蟲型ウィルスとの交戦に集中しすぎていて気付かなかった。
――――ショボンの野郎、翼竜型ウィルスと戦ってやがる!
- 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:01:33.44 ID:TOzdLLeq0
- ウィルスにもランクというものがある。
例えば蟲や不定形の姿をした奴らは低級であり、知能やプログラムの構築技術も大したことはない。
だが竜や悪鬼、ギガンテスはたまた大蛸クラーケンなど、伝説上の生き物の姿をした連中は、
俺たち人間などでは遠く及ばないような化け物じみた能力を持っている。
いや、実際に化け物なんだけども。
それはさておき。
現在、ショボンと火花を散らしているウィルスは翼竜プテラノドンのフォルム。
同じ翼竜型であるケツァルコアトルスのフォルムの奴には劣るが、
ウィルスたちの中でも比較的上位種だ。
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:03:12.75 ID:TOzdLLeq0
- 空中を自在に飛びまわるウィルスを見上げながらショボンは防御姿勢を取りつつ、
牽制の簡易プログラムを互いに飛ばしあう。
停滞。
と、痺れを切らしたウィルスが増幅プログラム『神速促進』で飛行を加速し、
地上のショボンへと獲物を狙う隼のごとき速さで急降下!
ショボンは右後方に転がりつつ緊急回避。
目測翼間長八メートル弱ほどあるウィルスの巨大な体躯がコンクリートの固い床に叩きつけられる。
その刹那の隙を捉えるべく、ショボンがプログラムを構築する。
(´・ω・`)「くらえ!」
夜の倉庫が湛えている暗闇を、ショボンが展開した放出プログラム『灼視線』が切り裂いた。
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:05:26.69 ID:TOzdLLeq0
- 『灼視線』は赤々と燃え盛る火を線状に収縮させて、
あたかもレーザー光線のように射出するプログラムだが、
火は光と違い分散しやすいので、制御にはかなりの困難を要する。
にも拘らず、ショボンの紡いだ『灼視線』は少しの乱れもなく、惚れ惚れするほど美しい直線を描いていた。
暗い昏い冥い閉鎖空間に一筋の橙色の水平線が引かれ、
その残像が網膜に焼きつくほど強烈な光を放つ火熱のレーザーがウィルスの片翼を貫通。
しかしショボンは依然警戒を緩めない。
ウィルスは即座に応急措置の治療プログラムで傷穴を埋めていたのだ。
即席の肉体治癒を済ませたウィルスは再び翼を大きく広げ高く飛び上がり、
ショボンを仰々しく俯瞰、中々攻勢に出てこない。
あの野郎、手痛い一撃を喰らったもんだから過剰なまでに慎重になっていやがる。
とはいえ相手には空域の制圧権という圧倒的に有利なアドバンテージがあるのだから、
この牛歩戦術が正解なのだろう。
見ていてつまらないけど。
- 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:07:15.21 ID:TOzdLLeq0
- (´・ω・`)「もう一度ッ」
若き天才プログラマーは油断禁物とばかりに勇ましくショートソードを構え、
さらに放出プログラムをウィルスへと発射する。
幅広の剣の頂から二つの朱光が放たれた。
『灼車輪』と『灼視線』の同時展開、着弾時間の異なる二種類の近似プログラムが、
宙を舞うウィルスの本体である痩身を襲う。
だがそれだけでは終わらない。
なんとショボンは、その同時展開されたプログラムを、さらにもう一組構築していた。
つまり、四連の火炎放射である。
( ゚∀゚)「この短時間でもう一度同じプログラムを組み上げたのかよ!?」
俺は軽く驚駭の声を漏らした。
プログラムの超高速発動。
有り得ないスピードだ。
神童ショボンのソースコード構築速度は常識を超えた領域をも凌駕しているというのか。
ショボンの演算機『ヴォイド』が処理速度とプログラムの伝導効率に優れているのもあるが、
それを差し引いても凄まじい。
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:09:23.64 ID:TOzdLLeq0
- まさに天才、鬼才。
肉弾戦を得意としないショボンは、遠距離からの高火力の連発に活路を見出していた。
口で言うは容易いが、実行には相当の胆力と、
多数のプログラムを自在に操るだけの力量がなければならない。
証拠として、ショボンは反動で四股が引き千切れないよう、
数種類の生体硬化プログラムも同時に発動している。
沈着とした浮遊状態を保っていたウィルスもこの奇天烈な発想のオンパレードには驚いたのか、
急遽機敏な動作に変わり、器用に両翼を操って回避を試みる。
着弾が早い二本の『灼視線』は軌道が素直なために躱せたが、
その巨体故に効果範囲の広い『灼車輪』を完璧に避けるのはほぼ不可能。
それを悟ったか、
ウィルスは翼で仰いで生じさせた風に増幅プログラム『神速促進』をかけ、風速を増加させた。
滞っていた大気の流れが急変する。
空気砲めいた豪風の強い風圧により、双円はウィルスに届く目前で掻き消され、
しかもショボンの身体をも五メートルほど後方に吹き飛ばした。
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:11:20.96 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚∀゚)「あのウィルス、狂ったみたいに一つのプログラムにこだわってんな」
しかしプログラムの応用は独創的かつ実践的だ。
高位ウィルスの面目躍如といったところか。
( ゚д゚ )「おいジョルジュ、手助けに行かなくていいのか?」
(;゚∀゚)「うぉお!? だからてめぇ、どこに隠れていたんだよッ!」
こいつ、実は演算機も出力端子も用いずに天然で転移プログラムを行使できるんじゃないだろうか。
だとしたらミルナ=ウィルスの新たな公式が成り立つが。
やだ、有り得る話じゃん。
( ゚д゚ )「そんな些細をいちいち気にするんじゃない。
それよりショボンの助太刀を買って出たりはしないのか、お前は」
( ゚∀゚)「うーん、俺疲れてるしなー。
さっき気持ち悪い奴から冥土の土産を受け取ったばかりだし」
戯言でも虚言でも矛先逸らしでもない、まったくの本音だったのだが、
ミルナは呆れたような顔をして俺から目を切った。
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:13:36.60 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚д゚ )「くだらん、俺はあの鬱陶しい鳥を狩りにいくぞ」
去り際の一言。
( ゚∀゚)「へいへい、行ってこいよ。
あと翼竜を鳥って呼ぶのは低脳丸出しだから注意したほうがいいぞ」
慈愛に溢れた忠告。
( ゚д゚ )「……御免ッ!」
(;゚∀゚)「ちょwwwwwおまwwwwwww 味方に斬りかかるなwwwwwwwww」
ちょっと前まで俺の頭があった空間に、ミルナの優雅な手捌きで振るわれた刀の軌跡が残留した。
おいおい、親切で言ってやったんだぜ?
( ゚д゚ )「いい言葉を教えてやる。『馬鹿は死ななきゃ治らない』」
( ゚∀゚)「それ続きがあるんだぞ。『ただしもっと馬鹿な奴に殺された場合を除く』って」
俺の減らず口を心底つまらなそうな顔をして聞いていたミルナは、
とうとう呆れ果てたか、無言でショボンとウィルスが意地をぶつけあっている戦場へと走っていった。
- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:15:31.93 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚∀゚)「無茶だな。あの天涯まで突き抜けた大馬鹿野郎じゃ、
両者のびっくりどっきりな工夫盛り沢山の戦いには場違いだ」
ミルナは剣の腕は抜群だが、どうにも直球勝負を好み過ぎる。
頭脳戦になれば奴に勝機はない。
そして今ショボンとウィルスが繰り広げている空と陸を叉に掛けた戦闘は、
まさしくその卓越した知能の披露宴だ。
( ゚∀゚)「まっ、俺はしばらくここから観戦させてもらうぜ」
願わくば、ミルナに死なない程度の大怪我を。出来れば死を。
( ゚д゚ )「ふッッ!!」
ミルナが身体強化プログラム『羽根』を二重展開、
脚部筋の強化により爆発的に向上した跳躍力でウィルスへと飛びかかる。
- 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:17:52.05 ID:TOzdLLeq0
- その勢いのままに『玄霧』の黒煙を纏った刀を下から斬り上げる。
狙うは首!
(;゚д゚ )「……むっ!」
だがミルナの力任せな刃の猪突猛進は、
ウィルスの赤茶けた分厚い皮膚に掠ることさえなく妨げられた。
ミルナの演算機『哀悼』は、ウィルスの喉元付近、正体不明の障害物で止められている。
俺はそれが何であるか理解した。
その正体は、操作プログラム『波数軽』で倉庫天井付近に漂っている空気を凝固させて造った、
言わば大気の障壁である。
( ゚д゚ )「何故斬れぬ!」
物質であるならば何でも切断できるミルナの一刀。
タネを明かせば刀身に宿した『玄霧』のおかげなのだが、
どういうわけか今は、その肝心のプログラムが本人の意思とは無関係に解除されていた。
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:19:58.26 ID:TOzdLLeq0
- ――――しゃろおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!
困惑の色を浮かべているミルナに勝ち誇ったような眼差しを浴びせながら、
狂喜の特大奇声を上げる威風堂々たる翼竜。
俺はこのトリックも看破した。
( ゚∀゚)「ウィルスの奴、ミルナの刀に纏わりついていた黒煙を風で吹き飛ばしやがったな!」
やはり頭脳戦では向こうに一日どころか千日ぐらいの長がある。
ウィルスはさらに風を製造し、自慢の『神速促進』でその速度を超加速、
嵐をミルナの長身に浴びせ、彼方へと吹き飛ばした。
(;´・ω・`)「まずい!」
猛烈なる風は陸上のショボンにも襲いかかる。
コンクリート製の床に亀裂が入るほど、地を両足でがっちりと踏み締めてふんばり、
何とか堪えようとするショボン。
風はショボンの右手にある『ヴォイド』まで吹き飛ばさんばかりの勢いである。
- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:22:07.73 ID:TOzdLLeq0
- (;´・ω・`)「体重を増加させる身体強化プログラムを構築する余裕は……困ったな、ないぞ」
ショボンが焦りを覚えているのは明白だった。
その様子を見てウィルスはもう一度耳障りな奇声を発した。
ウィルスの表情ってのは普通よりちょい上程度の人間である俺にはよく分からないが、
まあおそらく、憎たらしげに嗤っているんだろうな。
( ゚∀゚)「オーケイ前座はお終いだ。お前ら御苦労だったぞ、只今より真打の登場だぜ!」
武者震いしながら俺は天空で口上を切った。
頭の中で俺への拍手喝采が起きているのを想像しつつ、ウィルスの右の翼に照準を合わせる。
ウィルスがショボンとミルナに意識を取られているうちに、
俺は『羽根』を複数展開して飛翔し、敵の背後に忍び寄っていたのだ。
油断大敵。
いい教訓が出来たじゃないか、ウィルスさんよ。
- 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:24:06.99 ID:TOzdLLeq0
- 空中にて増幅プログラム『震刃駆』を展開。
『グラマラス』の剣身全体を一秒間に数万回の超高速で震動させ、
武器自体が最初から備えている切断威力をさらに引き上げる。
原理としては、チェーンソーとまったく同様である。
(#゚∀゚)「だぁらああああああッッッ!!」
頭上に構えた剣を、落下に従って自然生じる位置エネルギーも利用して振り下ろし、
一方の翼を断割、力ずくで解体!
――――しゅおおおおおおおおおお!!
ウィルスは灼熱に酷似した激痛に悶え、怪音波のような悲鳴を上げた。
治療プログラムを展開しようにも、
切除された部位を再びくっつけるなんて芸当は相当高度なプログラムが必要となる。
残念ながら、このウィルスにそこまでの技能はない。
もしあるのであれば、俺なんか近づいた時に破壊力抜群の攻撃用プログラムで撃墜されていただろう。
超高等治療プログラムの構築が可能であるというのは、つまりそういうことなのだ。
- 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:25:59.21 ID:TOzdLLeq0
- ああ今、脳内の空想世界では俺を称える大拍手が鳴り止まず、
スタンディングオベーションまで湧き起こっているぞ。
げに幸福。いと至福。
( ゚∀゚)「ショボン! トドメは譲ってやるぜ!」
右翼を失い、バランスを著しく崩して地上へと落下したウィルスを指差し、
ショボンに最後の一撃を加えるよう指示した。
ショボンは返事をくれなかったが、代わりにこちらに顔を向けて一度だけ頷いた。
十分過ぎる決意である。
(´・ω・`)「――――ッ!」
ショボンは静けさと共に疾走した。
転がった砂利を踏み締める音も、崩落した瓦礫を蹴り飛ばす音もなく、
ただひたすらに静謐とした雰囲気を漂わせていた。
- 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:28:12.72 ID:TOzdLLeq0
- (´・ω・`)「分解してやる、地獄の閻魔にも気付かれないぐらいに!!」
ショボンは愛用の演算機『ヴォイド』を衰弱したウィルスの眼窩へ深々と突き刺し、
操作プログラム『解体真章』を展開。
発動させたプログラムがウィルスの身体の隅々にまで広がっていき、文字通り『分解』していく。
序盤は小さなゴミや塵程度、
だが徐々に視認できないほどの細かさへと肉体を構成する物質が砕かれていき、
ついには分子レベルにまでウィルスの巨躯は分解された。
プログラムが完了した跡には何も残されておらず、
ただショボンが虚空を見つめて漫然と立っているのみ。
実に凶悪な、血も涙もない冷酷なプログラムである。
(´・ω・`)「……終わったよ」
( ゚∀゚)「相変わらず怖気が走るようなフィニッシュだったぜ。
お前アレを近くで目の当たりにしてよく発狂しないな」
(´・ω・`)「それより、ミルナは? それにもう一体ウィルスは残っている筈だ」
ショボンに言われてから思い出した。
一世一代の体を張ったギャグをかましたミルナは、果たしてどこへ飛ばされたのか。
- 53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:30:19.77 ID:TOzdLLeq0
- その答えは少しばかし遠くに目をやればすぐに見つかった。
( ゚д゚ )「お前らも終幕したか。奇遇だな、俺もだ」
顔色一つ変えずにミルナは両断された獣型ウィルスの首を掴んで歩み寄ってくる。
断面からはまだ血が零れ落ちていて、不快感を煽る臭気が鼻を突く。
どうやらつい先刻死んだばかりのようである。
( ゚д゚ )「ここに存するのは四体だったな、つまりこれで倉庫内にいたウィルスの駆除は完了か」
( ゚∀゚)「ちょっと待てよ、なんでウィルスがいつの間にかお前に殺されてんだよ」
つかくせーよ。
( ゚д゚ )「奴に吹き飛ばされた所にちょうど最後のウィルスがいたんだよ。
これは好都合だと思って始末しておいたんだが、何か問題でもあるのか?」
( ゚∀゚)「あるわいッ! 俺たちがどれほど知恵を絞ってあのトリ野郎を退治したか……」
( ゚д゚ )「おいおい、翼竜を鳥と呼ぶ奴は低脳なんじゃなかったのか。矛盾してるぞ」
( ゚∀゚)「鳥だからって鸚鵡返しはやめれ! 厳密には違うけどッ!」
ミルナとのくだらない舌戦という、まさかのスペシャルイベントが最後に待ち受けていました。
トリだけに。
- 55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:32:21.10 ID:TOzdLLeq0
- (´・ω・`)「まあまあ、終わったんだからいいじゃないか。帰ろうよ、夕食もまだなんだし」
ショボン先生の有り難いお言葉に従い、ひとまず休戦。
黒血を払って演算機を鞘に納める。
ミルナよ、覚えておけ。この決着はいつか必ずつけてやるからな。
もっとも心中で呟いた徹底抗戦宣言がミルナに届くはずもなく。
俺たちは何事もなかったかのようにこの場所からの撤退の準備を開始する。
( ゚д゚ )「ジョルジュ、治療プログラムをかけてくれないか。
俺はその手のプログラムは苦手だから自分でやるのは億劫だ」
( ゚∀゚)「ワガママ言うんじゃありません! いい加減乳離れしなさい!」
( ゚д゚ )「俺の親か貴様は」
( ゚∀゚)「お前の親とかこっちから願い下げだぜ。考えただけで反吐が五リットルは出る」
(´・ω・`)「あー、何か分かる気がする……」
負傷箇所をいくつかの治療プログラムで癒した後、この呪われた倉庫を出て薄ら寒い夜道を歩いた。
- 56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:33:52.88 ID:TOzdLLeq0
- 錆だらけの鉄筋で形成された建造物が、俺が歩を進める度に現れては消えていく。
足元には乾燥してひび割れた土の大地。
見飽きた街並。
先がないことを暗示しているかのような、過渡期を迎えた機械文明の成れの果て。
巨大機械都市VIP。
都市の中心部は現在も高程度の設備と文明を誇っているんだろうが、
俺の住む地域などは完全に衰退の一途を辿りつつある。
優れた機械技術だけが未だ残存しているというだけで、
町自体はハイテクノロジーにちっとも似つかわしくない数世紀前の様相だ。
本日の仕事場となった倉庫は、そんな廃れた地帯にあった。
(´・ω・`)「そう言えばさ、今回の報酬ってどのぐらいになるのかな」
俺が路上に落ちていた小型の鉄製歯車を蹴り飛ばすと、ショボンが囁くような声で訊いてきた。
歯車の形から硬貨を連想したのだろうか。
- 57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:36:22.11 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚∀゚)「俺の皺たっぷりな灰白色がかった脳の計算によると、
まっ、所詮下請けの仕事だから小銭程度にしかならんだろうな。
必要経費を除けばもっと悲惨なことになるんじゃないか。
弱小個人事務所の辛いとこだぜ、ったく」
(´・ω・`)「ううん、それは深刻だね。
思うんだけどもう少し企業に掛け合えば何とかなるんじゃないかな。
現状の改善のためにすべきなのは結局は努力なんだよ。
資料を作成して、任務がどれだけ危険であるか、
いかに難儀であるかを上の人間に分からせれば……」
( ゚∀゚)「へぇ」
(´・ω・`)「突き詰めれば、経費だって節減できるんだよ。
移動には自動転移プログラムシステムを使わなければいいんだし、
演算機の整備費用だって……」
( ゚д゚ )「はぁ」
(´・ω・`)「それにさ、事務所上階にある居住区の食費水道費光熱費だってまだまだ無駄が多いし……」
俺は危うくショボンの本性をどこかへ忘却してしまうところだった。
こいつはとんでもなくケチなのである。
- 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:38:15.02 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚∀゚)「お前さぁ、経理部の方が向いてたんじゃないか」
ずば抜けたプログラムの才能と、金銭への飽くなき執着を見せるドケチ根性を兼ね備えた、
ファンタスティックかつエキセントリックな経理部署員。
演算機をぶんぶん振り回しながら、
鬼気迫る表情で少々の計算ミスを責め立ててくる守銭奴!
何このタチの悪い人間。
( ゚∀゚)「前言撤回するわ」
(´・ω・`)「?」
俺の妄想が暴走していたとは推理の及ぶ範囲ではなかったのか、
ショボンは不思議そうな顔をした。
正しい反応だと思った。
- 61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:40:25.73 ID:TOzdLLeq0
- ( ゚д゚ )「しかしまあ、お前の口が安まる時というのはこの世に存在しないのか」
( ゚∀゚)「うっせ。俺はどちらかと言えば先にお前の魂が安らかになってほしいぞ」
( ゚д゚ )「ジョルジュ、ここに眠る。享年二十四歳」
(;゚∀゚)「刀の鯉口を切るな! それ笑えない冗談だから!」
眼がマジすぎて怖い。
ショボンが途中で仲裁に入らなければ、
俺は今頃天使さんから極楽行きを告げるファンファーレを吹かれていたことだろう。
あな怖ろしや。
ふと空を仰ぐと、夜だというのに星はほとんど出ていなかった。
蒼ざめた月がかろうじて見える程度。
発展に限界が訪れ始めて、
今じゃ荒廃しきってしまった機械都市VIPの薄汚れた空は、いつ見上げてもこの通りだ。
- 62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/01/22(火) 22:43:19.15 ID:TOzdLLeq0
- いつものように無駄口を叩きながら、三人並んで歩いていく。
この時、俺は柄にもなく二人のことを考えていた。
ミルナは嫌な奴だ。果てしなく嫌な奴だ。
ショボンは欠点はあるがいい奴だ。強調するが『欠点はあるが』いい奴だ。
じゃあ俺は? 俺はこいつらからどう思われてるんだ?
自分の中での俺は、いつだって素敵なナイスガイで在り続けているんだけども。
呟きは闇夜に溶けていった。
第一話 <了>