-VIP産小説保管庫-
( ^ω^)ブーン達が廻るようです:2:「兎、走る」
- 60 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 02:24:53.08 ID:IOCbsmrpO
- 2:「兎、走る」
(´・ω・`)
もうすぐ春が訪れると言うのに、気温は一向に上がらない。
僕がそんな事を考えている間にも時間は淡々と流れて、僕らは靴箱の前にいた。
('A`)「……ふぅ、やっと帰れる」
(;^ω^)「ドクオ先生。登校してきたの何時だお?」
(´・ω・`)「五限目。一時間前くらいだね」
(;^ω^)「これは酷い……」
適当な、いつも通りの会話を交わし、僕らは校門を抜けた。
- 63 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 02:32:57.61 ID:IOCbsmrpO
- 僕らの付き合いは幼稚園以前、つまり十五年程前から続いていて、それなりに長い。
それも、もう直、終わる。
(´・ω・`)「二人は卒業したらどうする?」
複雑な気持ちで話題を振った。
僕らは三年のクラス替えの時、見事に引き裂かれて、進路についてはお互いにほぼ全く知らない。
('A`)「……ニートかな」
話す機会は幾らでもあったのだが、ドクオが非生産的な男である事は
周知なので、この手の話題はほぼ皆無だった。
(;^ω^)「……僕は就職だお」
(´・ω・`)「見事にバラバラだね。僕は大学に行くよ」
- 64 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 02:41:12.53 ID:IOCbsmrpO
- 「お互いに全く知らない」とは言え、お互いの性格は熟知している。
ブーンは前々から「独立したい」と言っていたし、ドクオは言わずもがな。
恐らく、ブーンは遠くへ行ってしまうんだな、と何となく思った。
それでも、十五年間続いた関係は簡単には崩れない。
僕はそう、信じる事にした。
(;^ω^)「……あ」
('A`)「どうした?」
(;^ω^)「忘れ物したお……」
(´・ω・`)「取って来なよ。待っててあげるから」
( ^ω^)「大丈夫だお。先に帰っててくれお」
ブーンはそう言って、学校への道を引き返した。
- 65 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 02:53:43.24 ID:IOCbsmrpO
- ('A`)「はぁ……」
(´・ω・`)「ブーン、相変わらずだよね。そそっかしい、って言うか……」
('A`)「あぁ……皆、離れ離れか……」
ドクオが寝ぼけた声で呟いた。
僕らが無意識に避けて来た言葉。
(´・ω・`)「……二度と会えない訳じゃないよ」
('A`)「解っちゃいるけどさ……実感、湧かないよな」
(´・ω・`)「はは、確かにね」
('A`)「時々、思うんだ。『一人で生きてけないのは俺だけか』って」
(´・ω・`)「……」
少し驚いた。
ドクオは普段、恥ずかしがって余り本音を明かさない。
('A`)「多分、んなこたねぇんだろうけどな。解っちゃいるんだが」
- 66 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 02:54:34.75 ID:IOCbsmrpO
- (´・ω・`)「まぁね……僕もたまにあるよ」
('A`)「だろうな。なのに、俺と来たら未練がましく『ここ』に留まる気満々だ」
(´・ω・`)「……ニートおつ」
(;'A`)「ちょっ!!」
(´・ω・`)「ドクオは大丈夫だよ。きっと大丈夫」
('A`)「……」
(´・ω・`)「ドクオは意外と考えてるからね……大丈夫だよ」
口から出任せなんかじゃなく、これは僕の本音だ。
ドクオは照れて俯いていた。
(´・ω・`)「大丈夫だよ。僕らは――」
―――あれ?
- 69 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 03:09:41.73 ID:IOCbsmrpO
- ('A`)「……」
あ、
(´・ω・`)「……!! 危な――」
轟音が響く。
僕は知らず知らずのうちに、空を仰いでいた。
(;'A`)「ちょっ!! あ……おいッ!!」
ドクオが僕を覗き込んで、何か喚いている。
(´・ω・`)「(あー……あぁ、轢かれたのか)」
僕の目が捉えたのは車。
それは猛スピードで僕達に向かっていた。
(´・ω・`)「ドク……大丈夫……」
(;A;)「あぁ、俺は大丈夫だッ!! 誰か救急車呼べよッ!!」
記憶も意識も酷く曖昧だ。
- 70 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 03:11:10.61 ID:IOCbsmrpO
- そうだ、僕らは幼馴染みだった。
(;A;)「おいッ!! 死ぬなッ!! ……おい!!」
あぁ、へぇ、僕は死ぬのかな……。
(´;ω;`)「僕ら、は……大丈夫、だ、よね……?」
視界が赤くぼやけた。
目を開いているのかもわからなくて、寒い。
(;A;)「大丈夫だ!!俺もお前も、ブーンも大丈夫だッ!! だから、死ぬな……っ」
泣かないでよ、ドクオ。
そう言えば、昔、ドクオは泣き虫だったなぁ。
そんな事を考えながら、僕は意外と快適な眠りに就いた。
- 95 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 14:18:18.93 ID:IOCbsmrpO
- 気がついた時、僕はただ突っ立っついた。
やけに落ち着いた気分で状況の整理に掛かる。
(´・ω・`)「まぁ……死んだよね」
どうやら足はある様だ。
とはいえ、ここは病院には見えないし、死んだ事に変わりはない。
(´・ω・`)「……天国?」
「貴様、何者だ?」
あれこれ考えを巡らせていた僕に声が掛かる。
顔を上げると、女がいた。
整った顔立ちをしていて、僕は「天女」を連想した。
俗に言う「お迎え」が来たのだろうか。
取り敢えず、詳しい話が聞けるかも知れない。
- 96 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 14:19:41.03 ID:IOCbsmrpO
- (´・ω・`)「あ、初めまして。僕は―――と申……ん?」
あれ?
名乗ろうとした瞬間、脳にノイズが走る。
川;゚ -゚)「あぁ……」
再び名乗ろうとした僕を、彼女が手を上げて制した。
川;゚ -゚)「すまない。新参だったか……」
(´・ω・`)「いえ……シンサン?」
川 ゚ -゚)「悪い。順を追って話そう」
何か、背筋に冷たいものが這う様な感覚。
僕は意識しない様、彼女の話しに耳を傾けた。
(;´・ω・`)「その話が本当なら……マズいな」
川 ゚ -゚)「……すまない。私の失態だ」
- 98 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 14:31:23.16 ID:IOCbsmrpO
- 彼女が説明してくれたのは、この世界についてだった。
ここは死後の世界「2ch」。
詳しくは解明されていない、不可思議な世界。
川 ゚ -゚)「向こうの世界と大差はない。違うのは――」
そう切り出して、彼女が挙げたのは三つ。
一つ、この世界にいる者は「クオリティ」と呼ばれる「力」を使える。
疑いの眼差しを向ける僕に、彼女はそれを示した。
(;´・ω・`)「……」
何もない空間から棒状のものを取り出して見せる。
(;´・ω・`)「信じるしかないね……」
二つ、この世界では「名前」を明かしてはならない。
彼女は「個人情報が漏れる」と言ったが、詳しくはわからない。
ただ、ひとつだけはわかった。
(´・ω・`)「僕の『個人情報』が漏れた……」
川 ゚ -゚)「すまない……君の事は私が責任を持って守ろう。向こう側の知人に被害が出るかも知れないが」
彼女の話によると、ここ「2ch」では二つの派閥が争っている最中だそうだ。
「『2ch』への滞在は自由だ」と主張する彼女達と、
「『2ch』は神に反する場所であり、存在してはいけない」と主張する通称「アンチ」。
- 99 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 14:36:19.87 ID:IOCbsmrpO
- 川 ゚ -゚)「『アンチ』はこの世界の新参増加を嫌う」
(´・ω・`)「つまり?」
川 ゚ -゚)「奴らは現世で狩りを行うんだ。『アンチ』に殺された場合、そいつはここに来ない」
(´・ω・`)「なるほど……」
「向こう側の知人に被害が――」。
彼女の言葉が今更響いた。
(´・ω・`)「……」
- 100 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 14:55:33.62 ID:IOCbsmrpO
- 「アンチ」。
これが彼女が話した三つ目の違い。
川 ゚ -゚)「『アンチ』に嗅ぎ付けられると厄介だ。場所を移そう」
(´・ω・`)「……向こうの被害を食い止める方法は?」
川 ゚ -゚)「……危険だが説明しよう。着いて来てくれ」
彼女は背を向けて、歩き出す。
ここは未知の世界「2ch」。
生きていた頃と何も変わらない景色の中、僕は歩き出した。
(´・ω・`)「(ドクオ、ブーン……)」
複雑に入り組んで、今にも叫び出しそうな心中を抑えて空を見上げる。
そこには見慣れた「空」があった。
(´・ω・`)「ははっ」
乾いた声が少し響いて消える。
違う世界の友人達に届く様、僕はこっそりと祈った。
- 104 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 15:50:56.49 ID:IOCbsmrpO
- (;´・ω・`)「ハァ、ハァ……どうかな?」
川;゚ -゚)「オーケーだ……十分過ぎる程に、な」
僕がこの世界に来てから5ヶ月と少しの月日が流れた。
彼女の名前はクー。勿論、本名ではない。
この世界には「クオリティ」と呼ばれる、物理法則を全力で無視した力が存在する。
それは一人にひとつ与えられるもので、僕もようやくそれが扱える様になった。
(´・ω・`)「……僕は行くよ」
川 ゚ -゚)「勿論。私も付き合う積もりだ」
- 105 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 15:51:43.46 ID:IOCbsmrpO
- 僕には力が必要だった。
「アンチ」から友を守るだけの力が。
あの日、この世界に来たばかりの僕に彼女は言った。
川 ゚ -゚)「まずは君、否、ショボンには『クオリティ』を身に付けて貰う」
(´・ω・`)「それがあれば友達は守れるんですね……」
川 ゚ -゚)「あぁ、少しばかり努力は必要だがな」
「良いか」、と口を開き、彼女は続ける。
川 ゚ -゚)「基本的に『狩り』は末端の『アンチ』が行う。
ある程度のクオリティがあれば、敵わない相手じゃない」
「半年で身に付けろ」。
(;´・ω・`)「半年? そんなに掛かるんですか?」
川 ゚ -゚)「問題無い。この世界は向こうとは時間の流れが違う」
(´・ω・`)「時間の流れ?」
- 107 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 16:01:45.21 ID:IOCbsmrpO
- 川 ゚ -゚)「『四十九日』と言う言葉は知っているか? こちらでの一日は、向こうでの四十九日……」
(´・ω・`)「……なるほど」
川 ゚ -゚)「向こうで待機しているアンチに情報が行くまでに二日、特定までに一日は掛かる」
(´・ω・`)「それまでに力を付けて、アンチに先回り。そして叩く、と」
川 ゚ -゚)「あぁ。わざわざ向こうまで助けに行くのは例外中の例外だ。
君と私の二人でやるしかない」
(´・ω・`)「ありがとうございます……巻き込んですみません」
川 ゚ -゚)「否、私の責任でもある」
それから僕は、クーに言われるまま稽古を続け、順調に力を身につけた。
- 108 :こんぶ漁師(樺太) 2007/04/11(水) 16:14:54.77 ID:IOCbsmrpO
- 彼女の話しによると、現世に帰れる期間は向こうでの二十四時間の一度きり。
それを過ぎるとこちらには帰って来れないし、
向こうでの滞在期間が四十九日を過ぎると存在自体が消滅してしまう。
(´・ω・`)「用意は出来た」
川 ゚ -゚)「あぁ、出発だ」
僕は目を閉じて、現世の様子を浮かべる。
これから向かう場所のイメージ。
守るべき友人の顔。
そして、
「――凸」
あの日の、赤い空。
2:「兎、走る」
―fin―