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( ´ω`)枯れて('A`)苦悩し虹を探して生き抜くようです:6
- 1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:22:41.24 ID:ei2LhoLG0
- -6- Dokuo
内藤と出会って一時間が経過した頃。
部屋にたった一つ、開くことのない巨大な扉を軽々と通って一人の男が入ってきた。
(`・ω・´)「僕の名前はシャキン。宜しくお願いします」
男の名前はシャキン。
シャキンは言うこと成すこと全てがおかしかった。
しかしその登場のおかげで、停滞した現状は打破された。
('A`)(あんなところに扉があったか……?)
シャキンの指差す先には、目先の門に比べれば至って普通のサイズの扉があった。
しかし違和感が残る。
一時間閉じ込められたこの部屋にいた俺達が気付かないわけがない。
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:27:19.17 ID:ei2LhoLG0
- 扉の向こうは、今までいた部屋と同じ風景が広がっていた。
隣り通しの部屋ならば作りが同じでも別段おかしいことなどないのだが。
('A`)「それで、この部屋に移動した意味は?」
(`・ω・´)「安心してください。正規のルートで、ゴールに向かってますよ」
( ^ω^)「つまり、虹には近づいてるのかお?」
虹が何のことか聞くと、シャキンと内藤が視線を交わして俺の名前を口にした。
そしてどうやら、何も知らなかったのは俺だけらしい。
(`・ω・´)「ですが、私が貴方をご案内出来るのはここまでです」
( ^ω^)「お?」
そういうとシャキンはくるりと振り返り、今通ったばかりの扉に向かって歩き出した。
前野部屋に戻るのだろうか、と俺もすぐにそれについていく。
(;^ω^)「待ってくれお! 何処に行くんだお!」
- 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:28:41.75 ID:ei2LhoLG0
- しかし内藤は声を張り上げるだけで動こうとしない。
何をやっているんだろうか。
('A`)
手を差し伸べようとして、止めた。
理由は特に無かったが、何となく、目の前の男が。内藤が気に入らなかったから。
内藤を置いて自分だけ脱出ってのも悪くない。
(`・ω・´)「……行きましょう」
シャキンは俺にだけ聞こえる程度の声で扉の向こうから話しかけてきた。
虹って何だ。此処はどこだ。それよりも、お前は誰だ。
('A`)「ああ」
結局、扉が閉まる前に内藤が追ってくることはなかった。
なにをやっているんだか。
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:31:29.72 ID:ei2LhoLG0
- ('A`)「それで、どこに行くんだ?」
(`・ω・´)「少しここから離れます」
そっけない返事だ。
('A`)「あ。それって近道って奴?」
(`・ω・´)「そうとも言えます。ですが、それは人それぞれ。捉え方の違いから呼称は変わってくるかもしれません」
('A`)「ふぅん。まぁいいや」
(`・ω・´)「…………」
会話も一通り終え、ただシャキンについていく。
それにしても有り得ない。次々に、シャキンの目の前に扉が現れるのだ。
一つ扉を越えると、また同じような部屋。また先に行くと同様に。
(`・ω・´)「飽きましたか?」
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:33:24.01 ID:ei2LhoLG0
- ('A`)「正直ね。っつーよりも、もとから楽しんでないから」
(`・ω・´)「そうですか」
いい加減、こいつとのやり取りもしんどくなってきたな。
それは向こうも同じか。
一体いくつの扉を開き、いくつの扉を閉めたのか。
最初は数えていたのだが、既に分からなくなっていた。
(`・ω・´)「次で、終わりです」
('A`)「うい」
返事も出来るだけ簡潔に。
そして最後と思われる扉が目の前で現れた。
それはどうやら俺に開けさせたいらしい。扉の横で、入ろうとはせずただ俺を見つめるだけだった。
('A`)「……俺が、開ければいいんだな」
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:35:23.09 ID:ei2LhoLG0
- (`・ω・´)「どうぞ」
('A`)「まぁいいや」
返事がよく分からないままに、俺は扉の取っ手に力を込める。
そして一気に、勢いよく引いた。
('A`)「……へ?」
そこは大きな、大きな厨房だった。
人はいないがどうやら器材は動いているらしい。
全自動とか、無人とか。
それ以前にここで作った飯は誰が食うんだろう。そもそも人は住んでるのか?
(`・ω・´)「ちょうど今、人手が足りなかったもので」
('A`)「……それって」
(`・ω・´)「とにかく、奥へ」
言われるがままについていく。
嫌な予感がした。人手が足りないってお前。まさかとは思うが。
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:37:43.63 ID:ei2LhoLG0
- ('A`)「手伝う……とか?」
恐る恐るに聞いてみる。こんなわけの分からないところで働けと言われて誰が働くか。
それより、虹はどうなってるんだ? 近道なんじゃないのか?
(`・ω・´)「何をですか?」
('A`)「何をってその、料理を」
(`・ω・´)「あぁ。それですか。安心してください。料理を手伝ってもらう気はありません……あー」
言い終えると間もなく、シャキンは少し唸りだした。
(`・ω・´)「手伝ってもらう、というのはあながち間違いではないのかもしれません」
シャキンの言葉の意味が分からない。
要するに、俺にここで料理を作れということではないのか。
(`・ω・´)「材料不足だったんですよ」
- 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:39:52.16 ID:ei2LhoLG0
- 沈黙が流れる。
俺はともかく、シャキンも何一つ喋らない。
意味が分からないぞ。材料が足りない?
(`・ω・´)「私はこの城の使用人でございます。同時に、料理長も勤めているのです」
使用人? 料理長?
言っている意味が分からない。しかし直感が、今の状況がとてつもなく不味いものだと思わせる。
駄目だ。逃げないと。
(`・ω・´)「ここは厨房ですので、料理を作るところです。同時に私は料理長ですので、料理を作らなければなりません」
('A`)「何を言って……」
(`・ω・´)「いやはや、全く申し訳ない。ですがどうか、ご理解を――」
そう言ってシャキンはキッチンの収納スペースから大きな鍋を取り出す。
そしていくつかの器具を取り出しては置き、準備を始める。
何の準備だ。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:41:17.15 ID:ei2LhoLG0
- (;'A`)「早く……逃げねぇと……」
シャキンはさぞ嬉しそうに、包丁を起用に指先で回してはまな板に突き刺す。
鼻歌が聞こえた。
(;'A`)「逃げなきゃ、逃げなきゃ……!」
もと来た道を急いで戻ろうとするが、そこには何もなく。
やはりというべきか。扉は無かった。
駄目だ。
(`・ω・´)「……どこに行くのです?」
駄目だ。
(`・ω・´)「あまり動き回られては困ります」
殺される。
- 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:42:53.32 ID:ei2LhoLG0
- (;'A`)「止めろ! 俺が一体何したってんだよ!」
(`・ω・´)「大丈夫です。ドクオ様は何も悪くはありません」
(;'A`)「そんなの分かってんだ! だから聞いてんだよ、俺が何かしたかってよ!」
俺の問いかけに少し困ったような顔をして、シャキンが口を噤む。
その場が沈黙に包まれる。
この間にも、どうにか脱出する術を考えないと――
そしてシャキンは何か閃いたのか。清清しいほどの笑顔でこう答えた。
(`・ω・´)「私が、料理長であるためです」
(`・ω・´)「あと私はあまり貴方が好きではないので」
返す言葉も無い。
俺の意思とか権限とか。そんなものは全てお構いなくで。
こいつは自分が自分であるための行動をとっている。
(;'A`)「……やってられるか……!」
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:44:41.76 ID:ei2LhoLG0
- 俺は決めた。
今決めた。
絶対に“ここ”から抜け出してやる。
そしてあの爺さんに一度だけ、感謝の言葉を。
シャキンが包丁を手に、飛び掛ってくる。
しかしその様はあまりに滑稽で。戦闘にはどうやら特化していないらしい。
俺はすぐさまそこから離れ、広い部屋に無駄に多く設置されたキッチン郡に逃げ込む。
(`・ω・´)「…………」
どうすんだ、俺。
このあとどうするんだ。何かしないと。ほら、近づいてきてるって。
何かしないと。さっき決めただろ。ここから出るって。
そんな状況下で頭に浮かぶ、母親の姿。ちょっと意味が分からない。
(;'A`)「……かーちゃん」
- 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:46:24.95 ID:ei2LhoLG0
- (`・ω・´)「……?」
(;'A`)「俺が!」
俺の突撃に一瞬怯んだシャキンが急いで手に持っていた長めの料理包丁を振り上げる。
しかし遅い。
振り上げられた腕をすぐさま掴み、シャキンに右の太股に蹴りを一発入れる。
(`・ω・´)「……!」
突然右股に走る衝撃にシャキンがその場に膝を落とす。力、入らないだろ。
続けて顔面に向けてもう一度。渾身の力で、蹴り上げた。
シャキンが呻き声を上げる。
恐らく鼻から垂れているであろう真っ赤な血が、床に付着していた。
(;'A`)「答えてもらって無いぞ……。俺が何をしたって?」
優勢に回ったことで自身に余裕があると勘違いした。
- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:49:14.56 ID:ei2LhoLG0
- 顔を抑えていたシャキンの腕の動きを、捉え切れなかったのは俺の失態だ。
手放していた包丁を手探りで手に取ると、シャキンはそれを俺に向けて投げ飛ばす。
(;'A`)「くそっ……」
俺の左足からは血が勢いよく流れ始めていた。
掠った程度ではあるが、流石に料理用であるだけに切れ味はよかった。
おかしいな、たったこれだけで。
全く力が入らない。
(`・ω・´)「……こういったことに慣れているようですね」
シャキンは鼻をさすりながら立ち上がり、そう呟く。
確かに、その通りだった。
学生の頃は喧嘩ばかりの毎日を過ごしていた。
親にもよく面倒をかけた。そんなことが数年続けば、自然に親とは疎遠になっていく。
(;'A`)「……スマン、かーちゃん」
- 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:52:14.98 ID:ei2LhoLG0
- 仲が悪いとは少し違う、と俺は思っていたが、
実際向こうがどう思っていたかなんて確認する術はもうない。
(;'A`)「クソッ……痛ェ」
何でだ。何で思い切り顔を蹴っ飛ばされたアンタが無事で、足掠っただけの俺がこんなに辛そうにしてんだ。
割に合わないだろ、蹴るだけでも痛いのに。
(;'A`)「アンタもやけにタフだなおい」
(`・ω・´)「まぁ、一応は使用人ですから」
(;'A`)「いいね、その使用人っての。俺も今度なろうかな」
なんちゃって、とそう付け足そうとした時だった。
(`・ω・´)「……別に構いませんよ」
突然、シャキンから殺気が消える。
いつのまにか両手に構えていた包丁も、その場に放り投げてしまう。どういうことだ?
- 56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:53:54.38 ID:ei2LhoLG0
- (`・ω・´)「貴方が使用人を希望するのであれば、私は料理長ではなく使用人としての仕事を全うしなくてはなりません」
思わず耳を疑った。
(;'A`)「……どういうことだ?」
(`・ω・´)「この城には複数の使用人が存在します。同時に、その数だけ虹が存在するのです」
話が全く見えない。
とりあえずは、危機を脱出したようだ。助かった――
(;'A`)「使用人はともかく、まず虹ってのが分からないんだが」
(`・ω・´)「分かりました。一から説明しましょう」
シャキンの説明は無駄がなく、とても分かりやすいものだった。
しかしその分、全てがそのまま。直接的にその意図と意味が伝わってくる。
知らなかったことが大半で、頭の中で整理し切れない。
- 58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 19:54:48.27 ID:ei2LhoLG0
- ('A`)「使用人にはいくつかの制約があり、同士の戦闘は認められていない」
('A`)「行動に制限はあるものの、相応の特権も与えられる」
('A`)「つまり、俺は虹を探せばいいわけだ」
「内藤よりも、先に」
思わず笑みが零れる。
悟られてはいけない。
今の俺は、使用人になるという条件によって生き延びている。
内藤、助けてくれ。
俺はこんなところで死にたくない。アンタに謝らなくちゃいけない。
だからまた会わなきゃいけないんだ。