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( ^ω^)ブーンと鋼鉄の城と樹木の民のようです:『第三章 鋼鉄と樹木の狭間に不穏は蠢く』

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:04:17.70 ID:Ybf/LCOw0
『第三章 鋼鉄と樹木の狭間に不穏は蠢く』


( ^ω^)「すげー……お」

『樹木の民』の住まう村を目の当たりにして、ブーンは感嘆の声を上げた。

まず目に入ったのは木で創られた家である。
とは言え、木材を組み合わせて造った家ではない。
樹木そのものが家になっているのだ。

数本の木の幹が隙間無く重なって壁となり、枝葉が上を塞ぐようにして屋根を造っていた。
さらに驚くべきは、しっかりと窓も扉もあることだ。
窓となる部分は、幹同士の隙間が円形にぽっかりと開くように象られている。
扉の部分は、枝が大きく渦を巻いて一枚の板を形作っている。

まさに樹木が意思を持って、住民の家となるが如く生長しているようにしか見えなかった。
これだけで、彼らが『樹木の民』と呼ばれる所以が解ったような気がする。

ξ゚听)ξ「ブーン? 行くわよ」

Σ(;^ω^)「おっ!?」

ブーンがぼんやりと、奇跡が折り重なって出来たような家々に見とれている間に、
ツンはかなり前のほうに足を進めてしまっていた。
ツンの声に、はっ、と我に還ると、ブーン急いで彼女の元へと駆け寄る。
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:06:03.44 ID:Ybf/LCOw0
ξ゚听)ξ「この辺りは一直線に住宅街がずっと続いているの。
      まだ、ちょっと歩くけど我慢して頂戴」

なるほど、よく見れば道に沿うようにして無数の家々が立ち並んでいる。
だが、かなりの数だ。
数百件はあるだろうか。
辺境と呼べるようなこんな森の奥深くに、このような広大な村があったとは信じられない。

( ^ω^)「おおー……」

しかも、美しかった。

立ち並ぶ家々は周りの植生同様、葉脈や果実から光を放っており、
緑と白と桃の輝きが折り重なる、幻想的な光景を創り出していた。
もしかしたら、この中には妖精達が住んでいるのではないか。
そう錯覚せざるを得ない程に、ブーンの目を奪っていた。

だが、ブーンの心の中に、何か引っかかるものが存在した。

   |e’)「……」

   |彡サッ

Σ(;^ω^)「おっ!?」

時折、窓の中から民の生活の風景が伺えるのだが、
ブーンが住民達と視線を合わせると、彼らは一様に強張った表情と冷たい目線を投げかけ、
隠れるようにして蔦のカーテンを閉ざすのだ。
自分が招かれざる客だと解っていても、正直、あまりいい気分ではなかった。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:08:06.51 ID:Ybf/LCOw0
ξ゚听)ξ「もうすぐね……」

一キロ程歩いただろうか。
樹木の住宅路を抜けた所には、大きく開けた広場があった。
半径五十メートル程の円状の広場だ。
見た限り、特別何かがあるというわけではなく、村の集まりなどに使われる集会場のようである。

その証拠に、中心に目をやると、腰ほどの高さの土盛りの円壇があり、
上では、十人ほどの男達が薪を囲いながら、神妙な面持で何かを語り合っていた。
太った男、痩せた男、猫背の男、目を見開いた男、初老の男など様々な顔ぶれの者が意見を交わしている。
彼等の議論は真剣そのもので、広場に入ってきたブーンとツンの姿にも全く気づく気配がない。

(♯^Д^)「この月に入って、4人殺された。もう我慢できん!!
      見せしめに奴らの首を切り落として、森の入口にでも曝すべきだ」

不意に、物騒な言葉が飛んだ。
驚いてそちらに視線を投げかけると、
狼のように広がった大口が特徴的な中年の男が、怒りを露にして叫んでいる。

(;・∀・)「いやいや、それでは彼らの怒りに火を注ぐだけにすぎません。
      これ以上犠牲者を増やさない為にも、さらに守りを固めるべきです」

(♯^Д^)「黙れ若造!! そんな生温い考えが通用するわけがない」

(;・∀・)「いえいえ、ですから、彼らを挑発する事で犠牲者がさらに増える結果になってしまっては、
      元も子もありませんよ」

(♯^Д^)「大体、守りを固めるだと? そんなもの只の現状維持だ。何の根本的解決にもならない」
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:10:39.98 ID:Ybf/LCOw0
情け容赦のない非難だった。
大口の男の非難の矢面に立たされたのは、周りの者よりも一回り若い青年だ。
若草のような清々しい雰囲気を持った、爽やかな男だった。
だが、穏やかな口調に反して、決して己の意見を曲げようとはしない意思の強さが感じ取れた。

( ´_ゝ`)「うーむ。年々敵は力を付け始めて来ているからな。
      守りを固めるだけでは、限度があるな」

(´<_` )「ああ。この前一戦を交えた時には、奴等は破裂する『鋼鉄』の球を使ってきた。
      西の国の兵器が脅威を増しているのは間違いない。
      果たして、これ以上守りきれるだろうか?」

( ´_ゝ`)「最低限、相手が攻撃を行ってきたら、反撃しなければこちらが危ういが……
      こちらから仕掛けるのには同意しかねるな」

(´<_` )「じゃあ、どうするんだ? このままでは死人が増える一方だ」

( ´_ゝ`)「知らん。しかし、元より戦える人間が限られているんだ。
      この状況でどうすればいいかなど、こっちが知りたいくらいだ」

その横では、二人の男が腕を組み、唸っていた。
二人の顔は良く似ており、兄弟のように見えた。
違いといえば、背の高さだけである。

兄弟は何か案が無いかと考えあぐねていた。
だが、中々いい考えが浮かばずに、次第に苛立ちの色を見せる。
口から出るのは中庸と呼べる、無難な意見だけだ。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:12:52.16 ID:Ybf/LCOw0
( ゚д゚ )「……カバディ……カバディ」

その横では、大きな瞳が特徴的な男が、口をぽっかりと開けながら周辺の地図を眺めていた。
時折、木の枝で地図をなぞるようにして、意味不明な言葉を呟く様子はまさに、珍妙である。

/ ,' 3 「皆の者、落ち着け。仲間の命が失われて辛いのは解るが、
    互いにそれをぶつけ合うのは良くない」

騒然とする議論の中、皆をなだめるように口を開いたのは、白髪白髭の初老の男だった。
見た目よりは若いのだろうが、その年寄りめいた口調と外見のせいで、より歳老いたように感じる。
しかし、その独特の雰囲気が、発せられる言葉に重みを持たせていた。

彼の言葉を受けて、一瞬、議論の場は静まり返る。

(♯^Д^)「ならば、一層復讐の為に立ち上がるべきだ!! もはやこれ以上は待てない。
      奴等が動き出す前に攻めるべきだ!!」

(;・∀・)「いえ、だからそれが危険なんですよ……」

(♯^Д^)「なんだと? お前は同胞がこのまま殺されても良いと言うのか!?
      決着を付けるならば早いほうがいいに決まっている!!」

だが、大口の男が再び口を開くと、議論の場に再び混乱が訪れた。
容赦なく皆が皆、自分勝手に侃侃諤諤と意見を戦わせる。
初老の男は困り果てたように、ぼさぼさに伸びた白髪を掻き回し、溜息をついた。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:15:49.87 ID:Ybf/LCOw0
ξ゚听)ξ「只今、戻りました」

と、ツンは議論を遮るようにして、男達に向かって声を掛けた。
そこで、初めて彼等はこちらの方に視線を向ける。

/ ,' 3 「お帰り、ツン。森の方は大丈夫だったかの? ……ん? そちらの少年は?」

初老の男は穏やかな声でツンに挨拶を返す。
が、隣に居たブーンの存在に気づくや否や、眉間に皺を寄せ、怪訝そうな表情を浮かべた。
他の者も同様に不審げにブーンを見つめている。

(;^ω^)「……」

ツンは皆の様子から思惑を感じ取り、すかさず、説明するように皆に言い聞かせた。

ξ゚听)ξ「……大丈夫、彼は只の旅人さんよ。西の国の者ではないわ。
      虹の砂漠からこの森に迷い込んできたところに出会ったの」

/ ,' 3 「ふむ……この周辺では見ない格好じゃな。お前さん、名と部族は?」

初老の男は、立派に生えた顎鬚を指で弄び、見定めるようにしてブーンを凝視しながら、問うた。

(;^ω^)「あ、はい。僕の名はブーン=ナイト。
      此処から遥か南の方に生きる民族、『ヤマンジュ族』の出身ですお」

/ ,' 3 「ふむ……昔、聞いたことがあるの。確か南方で、獣の骨を用いた不思議な力を使い、
    狩猟と放牧を行いながら自由に彷徨う民族がいると、な。
    確か『獣の民』とか呼ばれておったかの? ……成程、逞しい体付きをしている」

(;^ω^)「よく知ってますお。全くその通りですお。」
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:18:28.08 ID:Ybf/LCOw0
/ ,' 3 「……フォッフォッ、伊達に長く生きとらんからの。
    良く来た、若いの。共に自然と生きる民同士だ、歓迎しよう」

と、初老の男はここで初めて笑った。
その様子を見て、漸くブーンも肩の力を抜くことが出来た。
家々から注がれる突き刺さるような視線が気掛かりであったからだ。

だが、

(♯^Д^)「ちょっと待ってくれ長老!! こんな馬の骨とも解らん奴を受け入れるのか!?
      西の国に通じているかもしれないのに!!」

間を割って入るようにして、大口の男が急に立ち上がり、口を挟んできた。
そして、狼の如き鋭い眼差しでブーンを睨む。

/ ,' 3 「落ち着け、プギャよ。今はこういう状況じゃ。
    彼奴らの国も、そうおいそれとは他国の者を受け入れまい。
    こやつは見たところ、『鋼鉄』の欠片も持っていないしな。
    それに、儂の目がこやつが侵略者ではない、と言っておる」

(♯^Д^)「だからって……」

/ ,' 3 「プギャ、もう少し、村長としての見聞を広げることじゃな。
    そうでなければ、見えてくるものも見えなくなってしまうぞ」

(♯^Д^)「……フン」

まだ何かを意見しようとするも、初老の男に言いくるめられ、何も返せなくなると、
プギャと呼ばれた大口の男は荒々しく鼻息を吐き出し、不機嫌そうに座り込んだ。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:20:32.24 ID:Ybf/LCOw0
/ ,' 3 「すまなかったの、ブーンとやら。こやつは気が荒いのが性分でな。
    それに今の時分ならば、そう考えても仕方ないのじゃ。許してやってくれ」

(;^ω^)「は、はあ」

こうして、初老の男が横のプギャに代わって謝罪すると、
ツンの方に向き直し、これまでの経緯を問いただした。

ツンは、事細かに説明する。
『精霊の森』でブーンと一戦を交えたこと、それが誤解によって生じたこと、
そして、彼がこの森に迷い込んだ経緯などをその場に居た者たちに言い聞かせた。

/ ,' 3 「ツンが乱暴な歓迎をしてしまったことも詫びよう。
    だが、この森の中でツンと互角に渡り合ったとは驚くべきことじゃ。
    お前さん、相当の強者のようじゃな」

( ^ω^)「いやいや、この世にはもっと強い奴も居ますお。
      ウチのしょぼくれ親父とか、ウチの馬鹿親父とか、ウチのイカレ親父とか」

;/ ,' 3 「……お前さん、相当苦労してるみたいじゃの。
     む、それより、まだ挨拶がまだじゃった。
     儂は、この『アポトキシン村』、長老のスカルチノフ=アラマキじゃ」

こうして、スカルチノフを発端に、その場に座していた者達が反時計回りの順で各々に挨拶を始める。

( ・∀・)「やあ、僕はモララー=マターリ。『樹木の民』の村へようこそ。
      心から歓迎するよ」

( ^ω^)「よろしくですお」
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:22:38.72 ID:Ybf/LCOw0
( ´_ゝ`)「俺が、アニジャ=サスガだ。そして、横に居るのが弟の……」

(´<_` )「オトジャ=サスガだ。二人揃って……」

( ´_ゝ`)bd(´<_` )「サスガ兄弟だ。よろしくな!!」

(;^ω^)「は、はあ……宜しくお願いしますお」

( ゚д゚ )「……ミルナ=コッチ。……宜しく」

( ^ω^)「こっちみんな」

集まりの輪をぐるりと廻るようにして、ブーンはその場に居た者達と挨拶を交わした。
最初の疑念を含んだ反応とは打って変わり、皆は快くブーンを受け入れてくれた。
そして、順調に挨拶を済ませると、とうとう輪の最後の者を残すのみになった。
だが、そこでブーンは戸惑いの表情を浮かべることとなる。

(♯^Д^)「フン……余所者が」

/ ,' 3 「これ、プギャ、失礼じゃぞ」

(;^ω^)「……」

最後に残ったのは、終始、不快さを隠そうともしなかったプギャだったからだ。
ブーン自身も、彼にいい印象を持たなかった。
とは言え、流石に挨拶をしないわけにはいかないだろう。
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:25:04.97 ID:Ybf/LCOw0
(;^ω^)「よ……宜しくお願いしますお」

ブーンは恐る恐る右手を差し出し、握手を求めた。
だが、プギャは一向に握手を返そうとはしない。
そして、

(♯^Д^)「……プギャ=タカラだ。この村で少しでも変な行動を起こしてみろ。
      他の者が許しても、この俺が只じゃ済まさないからな」

それだけ言い切ると、プギャはそっぽを向き、そのまま広場から立ち去ってしまった。
その様子を呆気に取られながら眺めるブーンに、スカルチノフは声を掛ける。

/ ,' 3 「……彼奴も悪い人間ではないんじゃ。
    あの時までは、朗らかな表情を常に見せていた優しい男だったんじゃがの……」

(;^ω^)「は、はあ」

ブーンにはスカルチノフの言葉が信じられなかった。
あの気難しそうな男からは想像もできない一面だ。
だが、プギャの後姿を見送るスカルチノフの瞳は、何処か物悲しさを映しているような気がした。

ξ゚听)ξ「さあ、さあ、皆!! 折角ブーンが遠路遥々この森に訪れてくれたんだから、
      宴の準備を始めましょう!! 今日は久しぶりに、私が腕によりをかけて料理を振舞うんだから!!」

突然、気まずい雰囲気を吹き飛ばすかのようにして、
ツンの声と、何か硬いものを叩くような音が辺りに響き渡った。
見てみれば、彼女の手には大きな土鍋と、木の柄杓が握られていた。

( ^ω^)「おっ、久々のご馳走だお!! それもツンの手料理、これは楽しみだお!!」
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:27:12.40 ID:Ybf/LCOw0
ツンの持つ調理道具を見て、沢山の料理が食べられることをブーンは喜んだ。
三日以上、水しか口にしてなかったのだ。
先程から、腹の虫が暴れ回って仕方の無かったブーンは、
彼女が作るであろう異国の料理に胸を躍らせずにはいられなかった。

だが、そんな中、ブーンは不意に肩を叩かれる感覚に気づく。

(;´_ゝ`)「おい、少年よ……」

(;^ω^)「は、はい?」

振り向くと、背後にはアニジャとオトジャが立っていた。
もうすぐ宴が始まると言うのに、二人はどこか浮かない顔をしている。

(´<_`;)「そういえば、お前はまだ知らないんだったな?」

(;^ω^)「え……? 何をですかお?」

(;´_ゝ`)「ツンの料理は……いや、止めておこう。世の中には知らないほうが良いこともあるからな」

(;^ω^)「えっ!? 気になりますお!! 教えてくださいお!!」

(´<_`;)「食べる前にこれを飲んでおけ。薬草を煎じた薬だ。……但し、相殺できるかどうかは保障できんがな」

オトジャは、爪先ほどの大きさの、緑色の粒錠をブーンにそっと手渡した。
そして、彼等は宴の準備があるからと言って足早に立ち去っていった。

――ブーンはまだ知らなかった。
これから開かれる宴が、地獄の宴であることを……
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:29:22.12 ID:Ybf/LCOw0
(;^ω^)「……」

ξ*゚ー゚)ξ「さあ、たーんと召し上がれ☆」

ブーンは、豪勢に立ち並ぶ料理に目を奪われていた。
無論、別の意味で。

(;^ω^)「……」

ξ*゚ー゚)ξ「……? どうしたの? お腹減ってるんでしょう?」

(;^ω^)「ツンさん……? この溶岩のように赤々と煮えたぎるスープは一体なんですかお?」

ξ*゚ー゚)ξ「これは、菜の花のスープよ☆ この森にも滅多に咲かない貴重な花なの」

(;^ω^)「……ちなみに、その花を見せて貰っていいですかお?」

(;´_ゝ`)「サンプルはこれだ。見ての通り、小振りの黄色い花を咲かせる、美しい植物だ。
      ……元々は、だが」

(;^ω^)(どうやったらこんな風になるんだお?)

ここで、ブーンの目の前に並ぶ料理を説明しよう。

前菜は若芽のサラダこと、黒泥のサラダ。
スープは菜の花のスープこと、蝙蝠の血のスープ。
メインディッシュは川魚と薬草のパイ包みこと、猿の脳の内臓包み。
そして、デザートは取れたての七色の果実こと、蛆虫の踊り食い。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:31:27.08 ID:Ybf/LCOw0
(;^ω^)「……」

ブーンは、目配せをして、周りに居たものに助けを求めた。

(;´_ゝ`)「アイタタタタ、急にお腹の調子が!! 少年よ、気にせず食べてくれ」

(´<_`;)「あっ、俺出し物の準備しないと……」

(;・∀・)「ぼ、僕は、宗教の戒律で今、断食しているんだ……すまない」

;/ ,' 3「わ……儂は『陰毛ぴょこぴょこ病』という病にかかっておっての。
     食事は医者に止められておるんじゃ」

( ゚д゚ )「……エロイムエッサイムエロイムエッサイム」

だが、誰一人として、助け舟を出そうとはしなかった。

ξ♯゚ー゚)ξ「……どうしたの? 早く食べないと冷めちゃうわよ☆」

まずい。

ツンの目が笑っていない。
しかも、米噛みには青い血管が脈々と浮かんでいる。
このままでは、食べる前に命が失われてしまうであろう。

これは、ブーンにとって、不可避の戦いだった。
本能が絶え間なく、危機を叫んでいる。
血肉の滾りが抑えきれない。
生涯、これほどの強敵に出会ったことはなかった。
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:33:31.31 ID:Ybf/LCOw0
(;^ω^)「いただきます……だお」

ブーンは腹を決めた。
力強く、炎獅子の牙を握るよりも強く、木製のスプーンを握り締めた。
標的は、毒々しい赤色を放つスープ。

信じられなかった。
いや、信じたくはなかった。
これが、あの美しい花から作られたスープだなんて。

――そして、巨木を揺らすほどの風が、戦いの始まりを告げた。

(;^ω^)「……よっ、と……うわッ!!」

ブーンは、赤い液体にスプーンを突き刺した。
その瞬間、予想外の変化が彼を襲う。

音を立てて、スプーンが煙の如く溶けてしまったのだ。
食器の中の液体は、ブーンを嘲笑うかのようにして気泡を次々と立てる。
ブーンは戦慄した。
額からは止め処なく汗が流れてくる。

……だが、待てよ。

逆に考えれば、これは好機であった。
スプーンが溶けた、即ち、この液体を食さなくてよいのではないか!
天啓とも呼べる、名案であった。

だが、悪魔の囁きが、彼の耳に響いてきた。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:35:36.08 ID:Ybf/LCOw0
ξ*゚ー゚)ξ「スプーンが溶けちゃったのなら、器に口を付けて飲めばいいじゃない☆」

NOオオオオオオオオッ!!!!
そうきたかッ!!
……いや、ちょっと待て。

普通、スプーンがドロドロに溶けた地点でおかしいと気づくだろ!!
むしろ、なぜ食器は溶けないッ!?
同じ木製のはずだッ!!
一体何なんだ、このどうでもいい奇跡は。

そうか、これは策略か。
あの森の中での戦いはまだ終わってなかったのか。
油断させておいて、ここで止めを刺そうという魂胆かッ!!
敵ながらあっぱれ、中々の策士だ。

だが、もう逃げられない。
否、逃げるわけにはいかない。
ならば、せめて名だけは残そう。
ブーン=ナイトという男が、華麗に散ったその様を――

(;゚ω゚)「ドクオ……すまないおッ!!
     再会の契りを果たすことは出来ないおッ!!
     オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

そして、ブーンは一気に赤い液体を飲み干した。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:38:17.35 ID:Ybf/LCOw0

Σ('A`;)「――ッ!?」

ドクオはベッドから跳ね起きた。
悪夢でも見たのであろうか、体中は汗で湿っている。

('A`;)「ハアッ……ハアッ……今、確かにブーンの声が聞こえたような……」

ドクオは己の兄弟の危機を、第六感というべき感覚で受け取っていた。
そして、彼の身を案じずにはいられなかった。

('A`)「……ま、いっか。気のせいだろ」

だが、それも十秒ほどで終わった。
そして、無理矢理、多分大丈夫だろうと結論づけた。

('A`)「にしても……豪勢な部屋だな」

ドクオは『バロウ城』客室に居た。
室内の煉瓦造りの暖炉には、太い薪が燃え、壁に掛かった風景画に炎が影を投げていた。

家具は、『鋼鉄』製のものばかりだ。
ベッドの横の、金の淵が付けられた大櫃には、乱雑にドクオの汚れた衣服が放り込まれている。
向かって奥には、鳥の羽が付いたペンと周辺の地図が無造作に置かれた、
ロココ調の彫刻が施されたテーブルがあった。

そして、壁には十の豪華な燭台が部屋を囲うようにして備え付けてある。
その上には、それぞれに動物性の油で作られた蝋燭が仄かに火を灯していた。
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:40:21.60 ID:Ybf/LCOw0
('A`)「しっかし、落ち着かん」

城に入ってからはスオナと別れ、給仕に連れられてこの部屋に通された。
部屋の概要を目の当たりにすると、ドクオは感嘆の声を思わず漏らした。
このような豪華な扱いは受けたことが無い。
というより、他の国でもここまで豪華な部屋はお目に掛かれないだろう。

旅の途中では常に野宿だったドクオは、逆に気が休まらなかった。
もしかして、汚してはいけないのだろうか。
そんな考えが頭をよぎり、中々部屋に入ろうとはしなかった。
給仕に、好きなように使って頂いて構いません、と言われて初めて、ようやく肩の力を抜くことができたのだ。

('A`)「しかし、自由に歩き回れないのは残念だな」

そして、部屋に入る時に、こうも言われていた。

なるべくこの部屋からの出入りは控えること、用が在れば呼び鈴で給仕を呼び出すこと、の二つだ。
考えてみれば当然だ。
先程まで、好き勝手に門の前で暴れ回っていたのだから。
要らぬいざこざを防ぐ為のスオナなりの配慮だろう。

ドクオは素直に従うことにした。
だが、退屈であった。
何度も眠ろうと試みたが、ベッドの柔らかさが逆に睡眠を妨げる始末だ。

仕方ない、筋トレでもするか、とドクオが立ち上がったその時、
『鋼鉄』でできたドアを叩く音が響いた。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:42:28.58 ID:Ybf/LCOw0
「失礼します」

Σ('A`;)「はっ、はい!! どうぞ!!」

扉が開かれると、一人の給仕が顔を出した。
髪を首筋まで伸ばした、ぱっちりとした目が可愛らしい丸顔の女性だ。
歳は二十と聞いているが、その外見よりも童顔で、最初は同じ程の歳だと思っていたほどだ。

(*゚ー゚)「スオナ大佐がお呼びです。どうぞ、私の後ろに着いて来て下さい」

('A`*)「は……はい!! しぃさんの為なら何処までも……地獄の果てまで着いていきます!!」

(;*゚ー゚)「そこまで、頑張らなくても……」

('A`*)(スオナのような素直クールもいいが、こんなメイド服のロリ系美少女もたまらんな。
    この国は美女だらけか……? 本当に来て良かった……)

ドクオはすっかり、給仕こと、しぃの可愛らしさの虜となっていた。
いや、可愛らしさだけではない。
彼の目はある一点に釘付けになっていた。

('A`*)(特筆すべきは、この胸ッ!! 俺の『アナライズ・アイズ(解説:よく見ること)』によれば、
    E……いやっ、Fカップはあるッ!! 童顔に巨乳!! 言わば、鬼に金棒!!
    酢豚にパイナップルッ!! まさに、最強の化学反応ッ!!
    っぐわ! ……くそ! ……また暴れだしやがった。
    っは……し、静まれ……俺の『クヴェル』よ……怒りを静めろ!!)

ドクオは中腰になりながら、己の股間の『クヴェル』と必死に格闘していた。
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:45:19.28 ID:Ybf/LCOw0
('A`*)「ハア……ハア……」

(;*゚ー゚)「あの……着きましたよ」

Σ('A`;)「えっ、あっ、はい……」

己の母親の顔を思い出すことで、何とか己の『クヴェル』と決着をつけたドクオは、
しぃの声にぴくりと身体を震わせ、正気に戻った。

('A`)「ん? ここはどこだ?」

(*゚ー゚)「こちらは、スオナ大佐の私室です。話があるから入って欲しいとのことです」

そして、気が付けば、他の部屋よりも重厚な造りの扉が、彼の目の前に存在していた。
扉の両脇には、鎧を纏い、槍を持った兵士が、一人づつ立っている。
やはり、上官の部屋だからなのだろう、警備も厳重だ。

(*゚ー゚)「スオナ様、ドクオ様をお連れしました」

「うむ、入れ」

関心しているドクオをよそに、しぃは扉を三回、軽く叩き、スオナに入室の確認を取った。
返事が部屋から聞こえて来ると、そのまま、ノブを握り扉を開け、ドクオを中に入れようと促す。

(*゚ー゚)「では、ドクオ様お入り下さい。スオナ様はお二人きりで話したいということなので、
    私は失礼させて頂きます」
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:47:44.08 ID:Ybf/LCOw0
('A`;)「おじゃま……します」

ドクオは促されるまま、部屋の中へと恐る恐る足を踏み入れた。
女の部屋に入るのは初めてのことで、少々緊張した面持だった。
完全に中に入ると、背後でドアが閉まる音がした。

間際に、扉の横の兵士に、何アイツ? チョ〜キモいんだけど、
と言っているしぃの声が聞こえたような気がしたが気にしない。

気のせいだ。
きっと幻聴だ……疲れているんだ、うん。

川 ゚ -゚)「待たせて済まなかった。色々と野暮用があってな。
     これくらいの立場になると、報告が面倒なんだ」

('A`;)「いや、それは大丈夫なんだが……」

部屋に入って早々、スオナはドクオに声を掛ける。
スオナは、鎧姿ではなく、ヒヨコの模様が施してある綿製の部屋着のようなものを纏っていた。
ドクオの萌えポイント(どうやら、鎧の姿と普段着とのギャップが良いらしい)としては、
最高の格好であったのだが、彼は返事もそこそこに、愕然としていた。

それは、部屋の光景のせいだった。

一言で表現すれば殺風景そのものだ。
置いてある家具といえば、スオナが腰を掛けている鉄管製の質素なベッドに、
隙間もない程にうず高く書類が積まれたテーブルに椅子。
そして、中で洗濯物が山を作っている、長櫃だけだ。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:50:54.76 ID:Ybf/LCOw0
他に見当たるものと言えば、壁に掛けられた『鋼鉄』製の剣に、鎧立てくらいのものである。
これは男の兵士の部屋だ、と知らぬ者に言い聞かせたら間違いなく信じるほどに、
何も女性らしい物が存在しない部屋であった。

('A`;)(大根ですら萌えの対象にする俺でも、これは無いな……。
    これだけ男勝りなのに、部屋は女の子チックというのが萌えるというのに……残念だ)

川 ゚ -゚)「? どうした?」

('A`;)「あ、いや。もう少し女性らしい物が置いてあるのだと思っていたのだが」

川 ゚ -゚)「ふむ、女性らしい物だと?」

('A`;)「例えば、ぬいぐるみとかだな……」

川 ゚ -゚)「人形のことか? それなら、確か奥に……」

と、スオナは立ち上がると、部屋の奥に備えられた横引きの扉を開け、その中へと入っていた。
積み上げられた物を押し退けるような激しい物音が響き渡る。
察するに、あの部屋は押入れの為に使われているのだろうか。

川 ゚ -゚)「あったぞ」

数秒後、埃だらけなったスオナの顔が、中から現れた。
だが、彼女が抱えてきた物を目の当たりにして、ドクオは再び愕然とする。

('A`;)「え……?」
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:52:58.27 ID:Ybf/LCOw0
彼女が物置から引っ張り出してきたのは、確かに人形だった。
だが、その形状が問題であった。

例えるならば、デッサン等で使うような人間の形の模型をそのまま大きくしたように見える。
『鋼鉄』で作られている、無骨な人形だった。
その、無機質な外見は、とても可愛らしさという概念からかけ離れたものである。

('A`;)「なあ、それ何に使うんだ? まさかそれを抱いて寝るのか?」

川 ゚ -゚)「まさか。これは――」

と、スオナは人形を自分の前に立たせると、おもむろに、壁に掛かった一本の剣を握り締めた。
そして、

川♯゚ -゚)「おおおおおおおおおッ!!!」

思い切り人形に向かって剣を振りかぶる。
剣と衝突した人形は、火花を上げ、吹き飛ぶようにして部屋の中を転がり回った。

川 ゚ -゚)「――こうやって使うんだ」

('A`;)「イヤイヤイヤイヤ、さすがにそれはねーよ」

どうやら、部屋の中での訓練用に使われている人形らしい。
成程、所々にでこぼことした窪みと切れ目があり、
いかに長い間、彼女の相手を勤め続けてきたかがわかる。

ドクオは完全に引いた。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:55:33.90 ID:Ybf/LCOw0
('A`)「で、それはどうでもいいとして、話って一体何なんだ?」

川 ゚ -゚)「実は、お前に頼みがあってな」

スオナはベッドに、ドクオは椅子に座り、いよいよ本題に入った。
飾り気のない七枝の燭台の上で、蝋燭の火が二つの影を揺らす。

川 ゚ -゚)「単刀直入に言う。我が軍に加わってくれないか?」

スオナは静かに言った。
真直ぐな黒の瞳がドクオを見据える。

('A`)「……意味が分からん。俺は先程まで敵として暴れ回っていたんだぜ?」

川 ゚ -゚)「実力を知っているからこそ、だ。
     お前が参加すれば、格段に我が軍の戦力が上がる。
     それに、その能力があれば、さらに幅広い戦略で攻めることが可能となる」

('A`)「解せんな。別に俺を招き入れなくとも、充分強いと思うが。
    お前のような実力者に、強力な兵器もある」

川 ゚ -゚)「普通の国相手なら、我々だけで充分だろう。
     だが、それだけでは『樹木の民』に勝てんのだ」

('A`)「『樹木の民』? ……さっきから良く聞く言葉だ。何者だ?」

表情を変えることも無く、淡々とスオナの問いに答えていたドクオだったが、
『樹木の民』という単語に、ぴくり、と眉を震わせ、反応を見せた。
思えば、その『樹木の民』とやらに間違えられて、この国の兵士と戦うはめになったのだ。
ドクオが気になるのも無理はなかった。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/05(火) 23:57:40.92 ID:Ybf/LCOw0
川 ゚ -゚)「『樹木の民』即ち、『精霊の森』に住んでいる民族だ。
     奴等は変わった能力を使ってきて、それが厄介でな。」

('A`)「で、何だ? その能力ってのは? 俺の風みたいなもんか?」

川 ゚ -゚)「そうだな……いや、微妙に違うか。ともかく、奴等は植生を操る能力を持っているんだ。
     草も木も、蔦も、植物と呼べるものは全て自在にその生長をコントロールできるんだ」

('A`)「成程な……そいつは面白い民族だな。是非一度手合わせ願いt――」

川♯゚ -゚)「――何が面白いものかッ!!」

Σ('A`;)「ッ!?」

前触れも無い、激昂だった。
それまで冷静だったスオナの豹変振りに、ドクオは訳も解らず、ただ驚いた。
彼女の黒瞳に、身の毛も弥立つ程に蠢く、紅蓮の炎が映っているように感じられたのだ。

('A`;)「……何か失言でもしたか? よく解らんが、そうだったらすまん」

川 ゚ -゚)「いや……こちらこそ、取り乱してすまない。お前は何も悪くはない」

('A`)「……そうか」

だが、引きつったドクオの表情を見るなり、彼女はすぐに己を戒めた。

ドクオに罪はない。
彼には元々関わりの無い話だ。
そうだ、なぜなら本当に憎むべきは……
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/06(水) 00:00:31.87 ID:cOprQ0uc0
スオナは一呼吸を置いた。
そして、普段の冷静さを取り戻すと、再び説明を続けた。

川 ゚ -゚)「ともかく、我々は奴等のことを、『森の悪魔』や『森の魔女』等と呼び、忌み嫌っているんだ」

('A`)「聞いていいか? 何で、お前達の国は『樹木の民』とやらを倒そうとしてるんだ?
   俺はこの辺りの歴史には通じていないのでな。いまいち理解できん」

川 ゚ -゚)「……ふむ」

スオナは顎に指を当てて、暫くの間、考え込むような仕草をした。
視線は真下に落とされ、深く沈んだ。

('A`)「……」

ドクオは、彼女の瞳で揺らめく蝋燭の光を見て、やはり奇妙に思った。
その黒い瞳の奥には何が隠されているのであろう。
表情や仕草は落ち着きを取り戻しているが、何処か陰りが落ちているようにも感じられる。

――と、

川 ゚ -゚)「一つの目的は資源の確保だ」

考えが纏まったのか、スオナは彼の問いに答え始めた。
無理にでも思いを押し込めたのだろうか、その瞳に淀みはもう見られなかった。

川 ゚ -゚)「『鋼鉄』を造るには、途方も無い量の資源が必要なんだ。
     原材料となる鉄鉱石に石炭、工程に必要な水、
     そして、予備工程やその他の段階では木材等も必要となってくる」
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/06(水) 00:02:40.90 ID:cOprQ0uc0
('A`)「まあ、『精霊の森』は砂漠と負けない程の面積があるんだ。
   資源の面で言えば、魅力的っちゃあ魅力的だろうな。
   だが、それなら戦わなくとも、交渉する余地が幾らでもあるはずだ」

川 ゚ -゚)「交渉は行ってきたさ。資源と引き換えに、進んだ技術と文明を与えるという条件でな。
     だが、奴等は我が国の提案を断固拒否した」

('A`)「どうしてだ? 決して悪くは無い話だ」

川 ゚ -゚)「奴等は、文明の進化も、技術の発展も望んではいなかった。
     それに、自然と共に生きることに固執し続けていたんだ。
     資源を奪われるという事は、少なからず自然を壊されるという事だと解釈したんだろう。
     つまり、意見の不一致ってやつだ」

('A`)「成程……な」

共に、自然と生きる民として、ドクオは『樹木の民』の気持ちはよく解った。
だが、彼はその共感を敢えて口には出さなかった。
再びスオナの逆鱗に触れる恐れがあったからである。

('A`)「それで、力ずくで手に入れようってわけか。だが、まだ解らん。
   どうして、『樹木の民』を忌み嫌うんだ? ソイツ等が何かをしたのか?」

ドクオの問いに、再びスオナの表情は陰りを見せ始めた。
押し殺していた、どろどろと蠢く感情がスオナを支配する。

川 ゚ -゚)「……ああ、充分、な。
     奴等は虫も殺さない程に温厚そうに見えるが、蓋を開けてみれば酷く陰湿な民族なんだ。
     証拠に、奴等が初めに攻撃を仕掛け、我が国の国民を殺した、と聞いている。
     しかも、我々が持たない不気味な力を持っている。『悪魔』と呼ぶには充分すぎる理由だ」
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/06(水) 00:05:14.67 ID:cOprQ0uc0
('A`)「……大体は解った」

ドクオはこれ以上スオナに問い掛けることは無かった。

なるべく言葉を選んではいたものの、『樹木の民』との争いについては、
何を聞いた所で、彼女は良い顔をしないからだった。
これまでの様子から察するに、スオナと『樹木の民』には並々ならぬ因縁があるようだ。
ドクオはその肌でそれをひしひしと感じ取っていた。

川 ゚ -゚)「まあ、現状としてはそんなところだ。では、結論を聞かせて欲しい」

スオナは一頻り話を終えると、真直ぐにこちらを向き、返答を待った。
だが、返事にはそこまで時間は要しなかった。
一通り頭の中を整理したところで、ドクオは提案に対して結論を出す。

('A`)「……残念だが、この話は断らせて貰う。
   俺が関わる理由も全く無いし、旅の目的にも関係がない。
   それに、正直なところ、俺は集団に属するってことが嫌いなんだ。
   要するにマンドクセってところだな」

ドクオの答えは辞退、であった。
理由は彼の言葉通り、嘘偽りは全く無い。
元来、面倒なことに首を突っ込むのが嫌いな性分だ。
それ故、この返答は仕方の無い事だと言える。

川 ゚ -゚)「そうか……」

スオナは再び考え込むような仕草をした。
両腕を組むような仕草だ。
しかし、その表情からは落胆の色は伺えない。
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/06(水) 00:07:26.20 ID:cOprQ0uc0
川 ゚ -゚)「……ならば、交換条件だ。
     もし、お前が我が軍に協力し、勝利した暁には――」

スオナは食い下がらなかった。
それどころか、ドクオが仰天するような提案を持ちかけてきたのである。

それは……




川 ゚ -゚)「――お前の妻となろう」

('A`)「だから、何を言っても断r……」

('A`)「……」

('A`;)「……る?」

('A`;)「……ちょっと待て、今何て言った?」

川 ゚ -゚)「だから、お前と結婚する、と言ったんだ」

('A`;)「……ははは、またご冗談を」

川 ゚ -゚)「いや、本当だ。何なら今すぐ誓約書も書こうか?」

('A`;)「……え?」

ドクオとの結婚の約束だった。
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/06(水) 00:10:02.09 ID:cOprQ0uc0
('A`;)「なあ、冗談だろ!? 俺とだぜ!?
    出身の集落の女達にすらキモイと言われ、
    そして、童貞15周年を迎えた俺と結婚すると言ったのか!?」

川;゚ -゚)「お前の境遇はよく知らんが、ともかく本当だ。……少し待ってろ」

狼狽するドクオを尻目に、スオナは自分の机へと向かうと、
一枚の白紙を取り出し、何やら色々と書き始めた。
そして直ぐに全てを書き終わると、ドクオの目の前に出来上がった書類を突きつける。

('A`;)「……ウソだろ?」

スオナが差し出した書類には、こう書かれていた。

『(甲)ドクオ=ナイトが、『バロウ帝国』国軍に参加する要因として、
 『樹木の民』との戦争が終わり無事勝利を収めた際に、
 (乙)スオナ=ジョルジュが(甲)ドクオ=ナイトと婚礼の儀を行うことに同意する』

川 ゚ -゚)「これは私の印も入っている。軍の正式な書類に使用される印だ。
     そして、お前がここに拇印を押せばこの契約書は成立する」

('A`;)「……」

ドクオは誓約書を手に取り、何度も繰り返し音読する。

これは、策だろうか?
いや、そうに違いない。
そうだ、万年童貞の俺にそうそう上手い話などあるはずがない。
こんな上手い話が……
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/06(水) 00:12:58.22 ID:cOprQ0uc0
川 ゚ -゚)「あ、しまった。保証人の印も必要だったな。
     ……よし、父上に保証人になってもらうとしよう。
     ドクオ、今すぐ挨拶に行くぞ!!」

('A`;)「え? ちょっ!? スオナ、待……」

思い付くや否やスオナは強引にドクオの手を取ると、
ヒヨコ柄のパジャマのまま部屋から飛び出し、ずかずかと廊下を歩いていく。
その様子を目の当たりにした護衛兵達は、目を白黒させ、ただ眺めることしか出来ずにいた。

('A`;)「いやいやいや、まだ心の準備が……」

川 ゚ -゚)「時間が勿体無い。思い立ったら行動することが大事なんだ」

ドクオは抵抗も出来ずに引きずられていく。
だが、スオナはそれを気にも掛けず、前だけを真っ直ぐに見据えていた。

――こうして、ドクオの童貞卒業を目指す壮大な旅は、また一歩、終わりに近づくこととなる。





『第三章 鋼鉄と樹木の狭間に不穏は蠢く』 終