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( ^ω^)ブーンと森の木々のようです:第六話「もりのざわめき」
- 2 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:12:28.13 ID:a3jZeMDs0
- 第六話「もりのざわめき」
(;´・ω・`)「あ、あわわわ……」
ノパ听)「はぁ、はぁ……ブーン!?」
村の広場で、僕は『狼の主』ウルフェルと対峙する。
他の狼の民より一回り大きい体も持ち、赤く鋭い目は見る物を圧倒する。
川 ゚ -゚)「ブーン、離れろ! 食われてしまうぞ!」
クーが木刀を構え、僕の方へ走る。
( ゚ω゚)「待てっ!!」
川 ゚ -゚)「!?」
クーは足を踏ん張り、急ブレーキをかける。
突然の大声に、誰もが沈黙した。
- 3 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:14:14.08 ID:a3jZeMDs0
- ミ,,゚¬メ彡『姿だけならず、心すら人間に寝返ったのか? 森の民よ』
唸りを上げたのは狼の主だった。
赤い目でこちらを睨みながら、言う。
( ゚ω゚)『寝返ってなどはおらん』
無論、返す言葉は人間では理解できない。
( ゚ω゚)『それより、お主。森を出て人間の居場所に降りてくるとはどういう了見か』
狼の主は牙をむき出し、唸る。
ミ,,゚¬メ彡『森の民よ、聞こえなかったのか? 森や木々のざわめきが。
この身に響く虫の知らせが!』
その唸りに、村人達は小さく悲鳴を上げる。
主の周りに居る狼達も、牙を向き唸り始めた。
- 4 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:17:23.86 ID:a3jZeMDs0
- ノハ;゚听)「な、何……今の……言葉」
(;゚д゚ )「まさか、狼と意思を伝え合っているというのか……?」
周りの人間達からは、奇妙に見えていることだろう。
人間は、森の者達とは意思を通じあることは出来ないのだから。
( ゚ω゚)『うっ……!』
急に、頭痛が僕を襲った。
何だこの痛みは。
僕は、あまりの痛さに膝をつく。
(*゚ー゚)「ブーン!!」
村人達の中から、しぃが飛び出してくる。
僕の元へ駈け寄り、心配そうな顔を覗かせている。
- 5 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:19:54.96 ID:a3jZeMDs0
- ( ゚ω゚)「……う」
(*゚ー゚)「ブーン、ねぇ、だいじょうぶ?」
しぃは、心配そうに僕の名前を呼ぶ。
ブーン……?
そうだ、僕は……何をして……
( ^ω^)「……しぃ」
(*゚ー゚)「ブーン!!」
僕はしぃの頭に手をやり「大丈夫」と呟いた。
ミ,,゚¬メ彡『ふん……なるほど。記憶の伝承が不完全か。
それでは森のざわめきも、虫の知らせも感じまい』
- 6 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:24:16.21 ID:a3jZeMDs0
- 頭の中に響いてくる、低い声。
その声に、森の民としての意識が再び呼び戻ってくる。
ミ,,゚¬メ彡『今のお前には、人間の悪しき心が伝わってこないのか?
森を破滅へと導こうとする人間の波動が』
( ゚ω゚)『……なるほど、それを感じたが故に、お前達は行動したということか』
ミ,,゚¬メ彡『いかにも。危険を感じ、人間と戦うことを決めたのだ』
僕は、ウルフェルの赤い目を見る、
そして、首を横に振りながら
( ゚ω゚)『だが、ウルフェルよ。この村に悪しき心を持つ者など居ない。
無駄な殺戮を行うつもりか』
- 7 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:27:24.33 ID:a3jZeMDs0
- ミ,,゚¬メ彡『断言出来るのかっ!? 人間など、己の事しか考えられぬ愚かな生き物。
今、抗わなければ森が死ぬかもしれぬのだぞ!』
空気を伝って微弱な振動が起こるほどの声。
だが、引くわけにはいかない。
( ゚ω゚)『それを防ぐために、我はここに在るのだ。
争いは争いしか生まない。お前達が抗い、先にあるのは滅亡だけだ……!』
- 8 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:31:18.99 ID:a3jZeMDs0
- ミ,,゚¬メ彡『何もせずに滅するならば、抗い滅するのが我が種の望み!
さあ、そこを退け! 森の民よ――!』
言い終わると同時に、ウルフェルは咆哮をあげる。
毛を逆立て、地を蹴りながらどんどん近づいてくる。
( ゚ω゚)『クッ!』
僕は、しぃを庇うように抱きしめる――。
ミ,,゚¬メ彡『ッ!!』
不意に、ウルフェルの足音が止まった。
僕は、そっと目を開き、状況を確認する。
地面に現れる、五つの人影。
- 9 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:36:01.70 ID:a3jZeMDs0
- ノパ听)「ブーン、今の内に逃げて!!」
たいまつを狼の方へ突き出し、叫ぶヒート。
( ゚д゚ )「まったく、無茶ばかりしやがって」
クワを持ち、ため息をつくミルナ。
川 ゚ -゚)「ようやく、用心棒としての働きが出来る機会が訪れたようだな」
木刀を構え、堂々と前に出るクー。
( ,,゚Д゚)「しぃとブーンにゃ手は出させんぞゴラァ!」
斧を肩に担ぎ、狼を睨み付けるギコ。
(´・ω・`)「まぁ、僕の村で暴れられちゃ困るよね。ぶち殺すぞ」
男らしく、素手で構える村長。
( ゚ω゚)「皆……」
五人は僕を守る様に、ウルフェルの前に立ち塞がる。
それぞれが、逃げ出すことも無く、守るために抗おうとしている。
- 10 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:38:56.08 ID:a3jZeMDs0
- (*゚ー゚)「ブーン、だいじょうぶ。みんなで、まもるから」
しぃが僕の手を握る。
小さな手から、温かみが伝わってくる。
村人達も、雄叫びを上げた。
それは恐怖を打ち消す、覚悟の声。
震えながら隠れていた者も、何かに駆られる様に雄叫びを上げる。
ミ,,゚¬メ彡『馬鹿な……この状況で何故逃げぬのだ』
ウルフェルの後ろにいる狼の民でさえも、その雄叫びに怯む。
だが、負けじと毛を逆立て唸り返す。
それは、戦いの咆哮。
正面からぶつかり合う、二つの意思。
それは、気迫となって場に流れ始める。
- 12 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:41:01.92 ID:a3jZeMDs0
- ( ^ω^)「待ってくれお!!」
一触即発の雰囲気の中、僕は声を張り上げた。
雄叫びにかき消されながらも、何度も何度も叫んだ。
ミ,,゚¬メ彡『静まれい、我が同胞達よ!」
ウルフェルも、狼の民に向かい、そう叫ぶ。
その声に気付き、徐々に、人間達も狼達もその口を閉じた。
静寂が場を支配する中、僕はウルフェルの方へ進む。
ノパ听)「ブーン……」
心配そうに見つめるヒートに「大丈夫だお」と呟く。
ウルフェルもまた、僕の方へ歩み出す。
- 13 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:43:30.22 ID:a3jZeMDs0
- ( ^ω^)『えっと……ウルフェルさん』
僕は、そっと狼の主に話しかける。
ミ,,゚¬メ彡『森の民……いや、今はブーンという名の人間か?』
狼の主からは、もはや殺気は感じない。
穏やかな口調で、僕に語りかけてくる。
( ^ω^)『僕は、ブーンですお。そして、少しだけど、昔のことを思い出しましたお』
一息つき、僕は話を続ける。
( ^ω^)『昔のこと……なんとなくだけど、思い出してきたお。
そして、あの約束の事も……』
僕は、思い浮かべる。
ブーンという名をつけられる前の記憶を。
……
…
- 14 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:46:14.46 ID:a3jZeMDs0
- ――……
大地に根を張り、空を突き抜けんばかりに高く伸びる木。
その昔、疫神を封印させたという場所には、神木と呼ばれる樹木があった。
それは、何千年経った今でも、この地に存在している。
『皆の衆、集まってくれたか』
僕を中心に、辺りには森に住む動物達が集まっている。
無論、臆病な草食動物などの姿は見えない。
ミ,,`Δ´彡『神木の声……あれは、本当なのかい?』
口を開いたのは、若い狼の民。
その問いに、僕は答える。
- 16 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:48:57.51 ID:a3jZeMDs0
- 『恐らく、間違いないだろう。森の皆に聞こえたのだ』
神木の声。
それは、数時間前に聞こえたのだ。
「「我は、時多く無くして死ぬ。悪しき欲望を持つ人間の手によって、この身を切られるだろう」」
その声を聞き、すぐに森に住む者達に収集をかけた。
ミ,,゚¬メ彡『だとしたら、再び奴が復活し、辺り一面を焼き尽くすというのか……』
狼の主、ウルフェルがぽつりと呟く。
その場にいた動物や、木々までもが震え上がり悲鳴を上げる。
『止めなければならぬ』
僕がそう言うと、若き狼が一歩前へ出て
ミ,,`Δ´彡『人間達を殺ってしまえばいい。ひ弱な奴らの首根っこなど、
自慢の牙で噛み砕いてやるっ!』
唸りながら、若い狼は言った。
- 18 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:52:58.94 ID:a3jZeMDs0
- 『人間と戦うというのか? ……彼らには、怪力や鋭い牙こそ無いものの知恵がある。
数の少ない狼の民が戦っても、無駄に命を落とすだけだ』
僕は、首を横に振りながら言う。
ミ,,`ー´彡『何、奴が復活するならば、もう一度倒してしまえばいい』
今度は、体の大きな狼が言う。
僕は、再び首を横に振りながら
『たとえ、我と皆の力を合わせたとしても、かなわぬ事はわかっているだろう?』
自分の言葉に、恐怖を覚えながら答える。
それほど、あの化け物は恐ろしい存在なのだ。
- 19 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:54:48.27 ID:a3jZeMDs0
- 何千年も前に、神木に封印された者。
疫神という名で、人間達に語り継いがれた化け物。
あの時は、森に生きる生命の全てを、サカズキノカミに捧げ
やっとのことで封印したのだ。
今の森の力では、頭を一本落とせるかすら怪しいだろう。
ミ,,`Δ´彡『しかし……このまま神木が人間によって切られるのを、
ただ黙って、見続つけてるのかい!?』
若い狼がほえる。
僕は、少しの間を空け
『……我に、考えがある』
そう言った。
- 21 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 15:59:19.35 ID:a3jZeMDs0
- ――……
……
ミ,,`ー´彡『そ、そんな……人間に転生するなんて無茶だ!』
体の大きな狼の民は、そう叫んだ。
『無茶も承知。だが、人間を止める事が出来るのは、人間だけなのだ』
僕の言葉に、ざわめきが起こる。
何せ、森の民が人間に転生するなど、前代未聞だ。
僕だって、転生なんて初めてだし、不安が無い訳じゃない。
ミ,,`Δ´彡『しかし、もし失敗して貴方が消えたら、この森はどうなるんだ!?』
『今の我は、力を失っている。何も出来ぬ自分が、この森で生きる理由など無い』
僕は大きく深呼吸し、ウルフェルの方へ目をやった。
ミ,,゚¬メ彡『貴方がどう行動しようと構わぬ。だが、利口な手とは思えんな。』
人間に転生するくらいなら、自分は人間と戦うことを選ぶ』
鋭く、赤い目が僕を捕らえる。
- 22 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 16:01:51.50 ID:a3jZeMDs0
- 『人間達との争いが起きれば、悪しき者が現れる前に森は滅するだろう。
ここを、血塗られた森にしたくは無いのだ』
ミ,,゚¬メ彡『……わかった。貴方を信じよう。
だが、我が種は自分達の判断で動く。戦うべきだと思えば、戦う』
僕は、静かに首を縦に振る。
『わかった。……だが、約束して欲しい。
無駄な争いはしない、命を粗末にしないと』
ミ,,゚¬メ彡『我ら狼の民にとって、約束など守り切れる保障は無いぞ』
『それでもいい。……約束だ』
――――
――
- 25 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 16:04:13.75 ID:a3jZeMDs0
- ( ^ω^)『そして、僕はこの村へやってきたんですお』
森の中で倒れている自分を、救ってくれた。
そして、名前を与えてくれた。
( ^ω^)『この村の皆は、家族だお! 森と共に生きる、家族なんだお!』
ミ,,゚¬メ彡『……』
ウルフェルは、何も言わずに、じっと僕の目を見つめる。
そして、ゆっくりとその体を森へ向ける。
ミ,,゚¬メ彡『この村の人間が、森と共に生きる家族だと言うならば……戦う理由は無い』
ウルフェルに続き、何十という狼の民も、森へと足を向けた。
ミ,,゚¬メ彡『だが、悪しき心を持つ人間が姿を現した時、我々は戦う。
たとえ、それがこの村の人間だろうとな』
( ^ω^)『ウルフェル……』
ミ,,゚¬メ彡『信じるとしよう、お前を。この村の家族とやらを』
そう呟き、狼達は夜の森へと姿を消した。
- 28 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 16:07:26.44 ID:a3jZeMDs0
- ( ^ω^)「……」
狼の民がいなくなった後も、僕は森を見続けた。
そして、不意に体が重く感じる。
ノパ听)「ブーン!!」
ゆっくと、僕の体が地面に吸い込まれていく。
視界が半回転し、仰向けに倒れる。
……月が、とても綺麗だ。
僕は薄れ行く意識の中、そう思った。
- 29 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 16:09:05.86 ID:a3jZeMDs0
- ※
同じ時。
ハングル城の地下牢に、足音が響き渡る。
( −∀・)「誰だ?」
牢に閉じ込められているのは、モララーだ。
足音で目を覚まし、その人影に声をかける。
(=゚ω゚)ノ「モララーさん」
( ・∀・)「……イヨウか?」
窓から入ってくる、僅かな月明りが足音の主を照らした。
その見慣れた顔は、かつてモララーの部下だったイヨウ。
- 30 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 16:10:22.83 ID:a3jZeMDs0
- ( ・∀・)「……ふ、私の無様な姿を笑いにきたのか?」
捻くれた口調で、モララーは言う。
だが、イヨウは何も言わずに牢の鍵へ手をかける。
ガチャリ、という鍵の開く音。
( ・∀・)「イヨウ……?」
(=゚ω゚)ノ「モララーさん。逃げてください」
イヨウは牢の扉を開け、手招く。
( ・∀・)「こんな事をすれば、お前も牢に入れられるぞ」
(=゚ω゚)ノ「……僕は、今の王のやり方にはもうついていけないんだよう」
イヨウは、周りを気にしながら小声で呟く。
- 32 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 16:17:19.08 ID:a3jZeMDs0
- (=゚ω゚)ノ「ヴィップ村の件だって、僕は納得いかないよう。
ニダ王は、前王と違ってハングル国の名誉を汚すようなことばかり……」
言い終える前に、モララーの口が開く。
( ・∀・)「イヨウ、俺はもうニダ王には見切りをつけた。
これからは、自分の考えで動く」
(=゚ω゚)ノ「モララーさん……」
( ・∀・)「そして、俺がやるべきことは、守ることだ。
かつて育った村を、この国の暴挙から守る」
そう言いながら、モララーは通風孔の扉をこじ開けた。
中から、冷たい風が吹いている。
- 34 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 16:24:39.98 ID:a3jZeMDs0
- (= ω )ノ「……僕は」
イヨウは、胸に光るバッチを握り締めた。
それは、ハングル国の兵士であることを表す印。
(=゚ω゚)ノ「僕は、モララーさんについていきますよう!」
そう言い、バッチを剥ぎ取った。
( ・∀・)「……イヨウ」
モララーは、布切れを頭から被り背を向ける。
( ・∀・)「さて、急ごうか。俺達には時間が無い」
(=゚ω゚)ノ「は、はい!」
- 37 :2ch中毒(神奈川県) 2007/04/05(木) 16:32:03.07 ID:a3jZeMDs0
- 通風孔を進み、ハングル城を脱出する。
真夜中の城下街は、酔っ払いや怪しげな者達で溢れている。
モララーとイヨウは、顔を隠しながら街を抜け、村を目指す。
迫る危機を知らせる為に。
大切な者を守る為に。
――――あらゆる想いが風に乗り、森のざわめきがより大きくなった。
第六話「もりのざわめき」 終わり