-VIP産小説保管庫-
( ´ω`)枯れて('A`)苦悩し虹を探して生き抜くようです:8
- 115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:14:55.29 ID:ei2LhoLG0
- -8- Aramaki
('A`)「……んん。ん。……あれ」
目の前には散らばった調理器具。
主に鍋。しかし目に留まるのは包丁だとか、身の危険を感じさせるものばかり。
(;'A`)「何これ……何これ!」
目を覚ます以前のことが思い出せずに、
かといって左足の痛みが消えているわけでもない。
少しずつ、その傷の痛みが思い出させてくれる。
(;'A`)「……あぁ、そうだ。俺は使用人に」
なってはいない。ならなければいけないのだ。
そう言おうとして、止めた。あまりの絶望感に目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。
- 117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:15:39.11 ID:ei2LhoLG0
- (;'A`)「何でだ、何でだよ。もう訳分かんねえって」
もう何もかもが嘘の様に思える。
大体、ここが何処なのか。それすらも俺には分からない。
(;'A`)「もう何か笑いそうだ。さっぱりだよ畜生」
ゆっくりと起き上がり、左足を引き摺りながら壁を伝い移動する。
直感と、得たばかりの知識がそうさせるのだ。
(;'A`)「まず一つ、城内を自由に移動できるのは使用人と……なんだっけね」
(`・ω・´)「まず一つに、城内を自由に移動できるのは使用人と来賓の二種類です。例外はありません」
(;'A`)「うおお!?」
独り言に反応して頭の中でシャキンの言葉が繰り返された。怖いわ。
- 123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:17:41.71 ID:ei2LhoLG0
- まるでその場にシャキンがいるような、そんな気さえするほど再現されている。
思い出している、とはまるで違う感覚だった。
(;'A`)「何だ、これ。どうなってんだ?」
訳の分からないまま、しかしどうにも考えは浮かばず。
何かの勘違いか、それ以外の何かだろうと思い込む他なかった。
(;'A`)「……どうすっかね」
目の前にあるものはどこにでもあるような調理器具ばかり。
これでは一向に先に進めない。
引き出しという引き出し全てを探してみるが、やはり何も無い。
(;'A`)「これは……」
歩くのを止めて、もう一言だけ呟く。
(;'A`)「さて、どうしたものか」
- 124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:18:30.76 ID:ei2LhoLG0
- 依然として厨房に閉じ込められたまま、既に手を尽くしていた。
あちらこちらに引っ張り出しては投げ捨てた調理器具が目に余る。
(;'A`)「フラグも何も、立ちやしない……」
そう言い終える前に、あることに気付く。
(;'A`)「……あれ?」
視線の先にあるのは、紛れもなく扉。
使用人の特権である筈の扉が、そこにはあった。
('A`)「何で?」
何時間もの間、この部屋に閉じ込められていたはずの俺が、それに気付かないはずがない。
しかしそこにあったのは、やはり扉なのだ。
急いで駆け寄り、そして立ち止まる。
- 129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:19:38.15 ID:ei2LhoLG0
- (;'A`)「罠か?」
そう口にして、自ら吹き出してしまう。
誰が自分に罠を仕掛けるものか。使用人を希望する自分なのだから。
ゆっくりと扉のドアノブに手を掛ける。
そういえば、この違和感はこれが初めてではない。
最初の部屋で、シャキンが現れたときにも同じようなことがあった。
('A`)「ってことは、また他の使用人の仕業ってことかね……」
そう呟きながら、扉の向こうに足を踏み入れた。
開けるんじゃなかった。まず最初にそう思った。
見るんじゃなかった。次にそう考えた。
期待するんじゃなかった。最終的には、そこに行き着く。
そんな極めて単純で簡単な思考回路が、延々と頭の中でめぐっていた。
- 134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:21:11.64 ID:ei2LhoLG0
- (;'A`)「ぁぁ、ぁ、ぁ」
薄暗い部屋に、緑色の蛍光灯。
不確かではあるものの、そこは今まで通ってきた部屋のどれよりも広かった。
ただし、左右に限られた広さだ。奥行きは数メートルほどしかなく、幅のある通路、というのが適切だ。
その通路に奥側に、人が一人余裕をもって入れるほど大きな直方体のクリアケースが、
いくつも整列して敷き詰められていた。それは棺のようにも見える。
(;'A`)「ハイン……リッヒ?」
やや壁にもたれ掛かった状態のそのケースにはやはりと言うべきか。
横たわる形で人が入っていた。
(;'A`)「おい、お前だろ? ハインリッヒ! こっち向けよ!」
数時間前に目にしたハインリッヒという名の女性と瓜二つだ。
本人だと思った。しかし格好が違う。
全身が黒に染まっていた先程とは打って変わって、明らかにカジュアルな私服姿だった。
- 139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:22:39.86 ID:ei2LhoLG0
- 返事をする素振りは見せない。
生きていないのではないか、死んでいるのではないかと思った。
しかし、そんなはずは無いと考え直す。手合わせをしたばかりの直感がそうさせるのだ。
(;'A`)「こんな所で寝るのかよ、使用人って」
結局のところ、眠っている、という形で目先のことに決着をつけた。
(;'A`)「気味が悪い。早く離れたい……」
長く先の見えない通路を、部屋をひたすらに歩く。
しかし一向に行き止まらない。
延々と同じ風景の続く右側には、古こけたレンガ仕様の壁。
左側にはハインと思われる女性の入っていたのと同じ、クリアのケース。
('A`)「あれ?」
- 142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:23:21.29 ID:ei2LhoLG0
- そこで目に映ったのは他と変わらない壁にもたれた二つのケース。
しかし、中には人がいた。
ハインと同様、もたれ掛かる様にしてケースの中で横たわり目を瞑っている。そして同様に面識があった。
(;'A`)「兄者と……弟者か?」
駆け寄ると、呟いたとおりそこに居たのは兄者と弟者だった。
咄嗟にケースに拳を叩き付ける。
(;'A`)「おいお前ら!」
声を張り上げ叫び続けた。
それが伝わっているかは分からなかったが、我慢できなかった。
(;'A`)「出してくれ! こんなとこにいるくらいなら厨房に居た方がまだマシだ!」
(;'A`)「何なんだよここは!」
(;'A`)「返事をくれ!」
- 147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:24:37.53 ID:ei2LhoLG0
- (; A )「頼むから……返事をしてくれ」
叩き続けていた拳をゆっくりと降ろし、その場に座り込んでしまった。
暗闇に、唯一の明りは妖しく光る、緑色の蛍光灯。
目の前には、安らぐように眠る兄者と弟者。
(; A )「ここは、嫌だ」
どこか似ていた。
それは長いこと収容されていた牢獄。
作りも、明りも、決して同じではないその場所がどうしても嫌だった。
(; A )「ふぅっ……」
息をつく。
共通しているのは、周りに誰もいないということ。
誰かいるのに、決して喋ることのできないということ。
- 151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:25:55.56 ID:ei2LhoLG0
- (; A )「……?」
それから数時間ほどが経過した。
いくら探そうと出口は見つからず、ただ闇雲に歩き続け、それを止めたのも随分と前になる。
ほんの僅かな空気の振動。
異物の動き。
それを確かめたくて、走った。
(; A )「ハッ……ハッ……」
きっと何かある。そう信じて数十メートル走った先。ハインの眠るクリアケースの前。
それを見て鼓動が高鳴った。
(;'A`)「扉、だ」
突然現れた扉に身長になりながら、右腕を伸ばす。
ドアノブを掴み、回して開くと、そこはもといた最初の大広間だった。
- 153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:28:03.66 ID:ei2LhoLG0
- (;'A`)「何がどうなってんだよ……」
突然現れた扉を開けば、そこは見知らぬ通路。
薄暗い通路には中身の入っていない、直方体のクリアケースが敷き詰められていた。
その中に、使用人と呼ばれた者たちが紛れていたのはどういうことか。
('A`)「サッパリ分からん」
そうはボヤキながらも俺は安堵していた。
結果的にはこうして長い旅を終えて、しかし振り出しに戻ることになった。
いや、振り出しよりも著しく状況は悪くなっているかもしれない。
('A`)「……ただいま」
室内中央部に設置されたソファに体を預けて、楽にしながら天井を眺めた。
随分と、高い天井だ。
目を瞑っていると、荒巻の言葉が頭に浮かんだ。
- 154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/23(土) 20:29:57.80 ID:ei2LhoLG0
- / ,' 3「冤罪と贖罪だよ」
/ ,' 3「君は既に、数々の隣人を焼死させた残忍な犯罪者なんだよ」
/ ,' 3「君は優しいな」
「……そしてやっと、本当の悪に成りきることが出来るんだ」
あれは、俺のことだったのか。
気付いたときには全身に刷り込まれていた罪。その重さと理不尽さを嘆いていた。
しかし、今の俺にそれは許されない。
荒巻の贖罪という触媒を経て、俺は本当の悪になってしまったのだから。
俺は何処までも荒巻の言葉を背負い続けて。
延々と、苦悩しては生きていかなければならないらしい。