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( ^ω^)ブーンと鋼鉄の城と樹木の民のようです:『第七章 会食、その陰に覗く各々の背徳』

4 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:26:41.36 ID:zuZk+Fud0
『第七章 会食、その陰に覗く各々の背徳』


( ^ω^)「お、良い匂いだお」

樹木の住宅街の道には殆ど人影が見られなかった。
家々の軒先からは昼食の香ばしい匂いと、笑い声が漂ってくる。
団欒の時を過ごしているのだろう。

それにしても思ったよりも早く、村に辿り付いた。

プギャの足跡を上手く辿れたおかげだ。
但し、気づかれないように距離は置いた。
偶然彼の、見てはいけないものを見てしまった。
そんな後で二人でこの森を歩くことは、流石に気まずい。

スカルチノフの家は、モララーから聞いていた。
広場を中心にして南北に伸びる住宅街の、最北端にある最も大きな家だ。
森を抜けると丁度広場の直ぐ傍に出たので、さほど遠くはない。

(;^ω^)「しかし、プギャさんは何をしていたんだお?」

歩いている最中も、ずっと彼の不可解な行動について考えていた。

驚いたのは、あのプギャに娘がいたことだ。
あの樹木像の腕輪に掘られた文字の内容から間違いないと確信した。
だが、それらしき娘はまだ見ていない。
あの像から想像するに、プギャに似ず随分と美しいようだ。

一度くらいはお目に掛りたいものだと、ブーンは思った。
5 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:27:46.86 ID:zuZk+Fud0
(;^ω^)「おお〜」

直ぐに、スカルチノフの家は解った。
これ見よがしに、住宅街の終点を陣取っていたからだ。

それにしても、周りのどの樹木の家よりも豪勢である。

他の家々は一本の樹木のみで構成されているにも関わらず、
この長老の家は、十の木々が絡み合って造られていた。
一本おきに幹の色が微妙に違い、薄い黄土色でできた諧調の縦縞が美しい。
しかも、葉の形も造形豊かで、円形、扇形、掌形、星形の緑が屋根から壁に向かって伝っている。

(;^ω^)「……おじゃましますお」

/ ,' 3 「待っていたぞ。ささ、遠慮なく上がるがいい」

少々畏れ多い気分になりながらも、ブーンは扉を叩いた。
中から出迎えてきたのは、招待した当の本人スカルチノフだ。
挨拶も短めに、遠慮ぎみに佇むブーンを我が家族のように迎え入れる。

/ ,' 3 「突然呼び出してすまんかったの。その後身体のほうはどうじゃ?」

( ^ω^)「何とか大丈夫だお。でも……確実に生死をさまよったお」

/;,' 3 「ツンの料理を食べてなお、一晩で回復するとは……逞しいの。
    まあ、実は大した用事もあるわけではないが、
    詫びに、本当の名産物をご馳走しようと思って呼んだんじゃ。
    それに、まだそれほど話もしておらんからのう。まあ、そういうわけなんじゃ」
6 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:29:32.63 ID:zuZk+Fud0
(;^ω^)「ありがとうございますお」

家の中も、上手い具合に枝と幹で部屋同士が仕切られていた。
仮に別の民族がこの家に移り住む事になっても、不便はないだろう。
まさに、この森の植生が生活の一部として溶け込んでいるのだ。
改めて『樹木の民』のその器用さに感嘆する。

/ ,' 3 「むさくるしい部屋じゃが、我慢してくれ」

スカルチノフは柔和に喋りかけ、ブーンを中に案内した。
ブーンが通されたのは、奥にある広めの応接室だった。

/ ,' 3 「さ、座りなされ。直に料理も出来上がるはずじゃ。
    腹が減って待ちどうしいかもしれんが、もう暫く辛抱してくれ」

部屋の中心には切り株でできた机と椅子が置かれていた。
机の上には、陶器でできた装飾のないポットが一つと、カップが数個ずつ。
スカルチノフはブーンを座らせ、カップに茶を注ぎ、それを差し出した。

透き通る淡い琥珀色をした、綺麗な色の茶だった。
仄かに立ち上る白い湯気が、ブーンの鼻を刺激する。
甘い中に、どこか引き締まるような爽快さを感じる香りだった。

( ^ω^)「おお、良い匂いだお。このお茶はなんですかお?」

/ ,' 3 「儂のションベンじゃ。
    我が民の健康の秘訣は、飲尿療法にこそある」
7 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:31:18.58 ID:zuZk+Fud0
( ゚ω゚)「ブーッ!!」

/ ,' 3 「ふぉっふぉっ、冗談じゃ冗談。これは、この森で取れるハーブティーじゃ」

(;^ω^)「ゲホッ!! ゴホッ!! うう……シャレにならない冗談だお」

/ ,' 3 「ふぉっふぉっ、お前さん凄く顔がぐしゃぐしゃになっておるぞ」

(;^ω^)(……スカルチノフさんって、こんな人だったかお?)

壮厳な雰囲気を漂わせた目の前の初老の男は、歯を剥いてけらけらと笑った。
憚る事も無く、大声でだ。
ブーンはスカルチノフの大袈裟な仕草に戸惑いの色を見せる。

/ ,' 3 「まあ、たまにはこういう事も言いたくなるものじゃ。
    緊迫ばかりしているこんな毎日じゃ……な」

(;^ω^)「……」

だが、直ぐにスカルチノフは落ち着きを取り戻した。
そして小さくふう、と息を吐き、カップの水面に向かって視線を落とす。
スカルチノフの小さな瞳の中では、波紋が揺れていた。
何処か、辛そうにも見えた。

いや、実際に辛いのだろう。
実際村人達の意見は纏まらず、犠牲者は増え、状況は悪くなる一方だ。
しかし長老の立場にある以上、この集落を上手く束ねなければいけない。
そして、この家の中だけが唯一重圧から開放される場所なのだろう。
9 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:33:11.04 ID:zuZk+Fud0
/ ,' 3 「さあ、遠慮せずに食べてくれ。
    儂はすっかり食が細ってしまったのでな。こっちのことは気にせんでもいい」

暫くも経たない内に、机一杯の食事が運ばれてきた。
黒豆の果肉スープに川魚の香味蒸し、露草のサラダに果実の寒天固め……
机には、乗り切らないほどの量のご馳走に溢れていた。
どの皿も眩しいほどの鮮色に彩られ、ブーンの食欲を刺激する。

( ^ω^)「ハムッ!! ハフッ!! うめえwwwww」

ブーンは、惜しげもなく一杯にそれらを頬張った。
口の奥からは唾液が溢れ、止まらない。

/ ,' 3 「そんなに慌てんでも、料理は逃げんぞ」

( ^ω^)「ふぉんふぁふぉふぉいっはっへ、ほひひいんへふほ」
      (そんなこと言ったって、美味しいんですお)

舌が回らないほど、口に咀嚼しきれていない料理を詰め込みながら、ブーンは返事をする。
昨夜のツンの料理とはまさに、雲泥の差だ。
スカルチノフが出した料理が高級料理であるならば、
ツンの作ったものは、紙を煮込んだものを挽肉と混ぜ合わせた饅頭である。

/ ,' 3「しかし、まあ美味そうに食べるの」

( ^ω^)「ハムッ!! ハフッ!! ……ウグッ!?」

口と両手の動きを止める事のないブーンを眺めながら、スカルチノフは微笑み掛ける。
まるで、自分の息子の成長を見守るような暖かい視線だった。
11 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:35:01.53 ID:zuZk+Fud0
( ^ω^)「ご馳走様だお」

/;,' 3 「全部平らげおったか。なんとまあ……」

卓上に残っていたのは、残り粕もなく綺麗に掃除された皿の山だった。
決してブーンは大柄な体格ではないが、
どう考えても彼の身体の容積よりも多い料理が、魔法のように消え失せてしまっていた。
スカルチノフは、それに驚愕するばかりだ。

( ^ω^)「ゲフッ……で、話って一体なんですかお?」

/ ,' 3 「うむ。まだ、お前さんも少ししか滞在していないだろうが、
    この村についての印象を訊こうと思っての」

( ^ω^)「おっ。皆穏やかで良い人ばかりですお。
      しかも、敬虔で信心深いところは特に関心しましたお。
      ……僕の馬鹿親父に爪の垢を煎じて飲ませたいほどですお」

/ ,' 3 「そうか。そいつは良かったわい。
     ……ところで、今のこの国の現状については訊いているかの?」

(;^ω^)「……おっ。確か西の『鋼鉄の国』が、
      突拍子もない提案を突きつけてこの森を手に入れようとしているんですお。
      で、元々戦う術を知らないここの人たちは困り果てている、と」

/ ,' 3 「まあ、そんなところじゃな」

スカルチノフは、ブーンがおおよその事情を知っていると知ると、
その長い顎鬚を弄び、眉間に皺を寄せ、何やら考え込むような仕草を見せる。
12 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:36:42.44 ID:zuZk+Fud0
(;^ω^)「……」

/ ,' 3 「……まあ、単刀直入に訊こうかの」

そして、暫し無言を続けた後にスカルチノフは切り出すように言った。

/ ,' 3 「お前さん達『獣の民』は、強く勇敢な者が多いと訊く。
    そこで、だ。お主にこの森の用心棒を頼もうかと思うのじゃが……
    どうじゃろうか?」

( ^ω^)「勿論ですお……というか僕自身も西の国が許せないんですお。
      そのことは、既にツンにも伝えてありますお」

/ ,' 3 「ほう……そうだったのか。それならば、話は早い。
    儂等が無理矢理巻き込んでしまったようで、申しわけないのじゃが……
    今は藁にも縋りたい状況なんじゃ」

( ^ω^)「いいんですお。僕がそうしたいと言ってるんですお。
      是非協力しますお」

/ ,' 3 「そうかそうか。……これで希望が見えてきたわい」

スカルチノフは安堵の溜息をついた。

そもそも、他民族のブーンにこの争いに参加して欲しい、
などという頼みは突拍子もないものだとスカルチノフは解っていた。
仮にブーンがそれを突っ撥ねたところで、彼を止める理由などありはしない。
無論、賭けとも呼べる提案だったが、上手い具合に進んだことで肩の荷がほんの少し下りたようだ。
13 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:39:08.38 ID:zuZk+Fud0
( ^ω^)「――ところで、教えて欲しいんだお」

/ ,' 3 「お? 何じゃ? 言ってみい」

そして、ブーンは改めてスカルチノフに問う。
これまで訊いていた状況は、あくまで会話の中での断片的なものだ。
明らかな不利が解っているこの状況で、いい案を考えるには、
敵の戦力、能力、そしてこれまでの経緯を知っておく必要があった。

( ^ω^)「まず一つは、こっちと敵の戦力はどれ位の数なんですかお?」

/ ,' 3 「現在の敵の戦力は良く解らん。が、或る程度は訊いておる。
    二代前の長老が、西の国を訪れたことがあった。
    まだ、争いが顕在化いなかった頃の話じゃ。
    それはそれは夥しい数の人間と建物で溢れ返っていたそうじゃ。
    その頃でも、我が村の十倍以上の人口だったらしい。
    ……今では、さらに増えておるのじゃろうな」

(;^ω^)「……おっ。ちなみにこの村にはどれ位の人が住んでいるんですかお?」

/ ,' 3 「まあ千は超えているかもしれんが……その中でも戦える者は極僅かじゃ。
    男達と、一部のツンのような強力な力を持った女達だけじゃ」

( ^ω^)「もう一つは西の国がどのような戦い方をするんですかお?
      進んだ文明を持った国で、不思議な武器を使うってことはわかってるけど……
      その辺りを詳しく知りたいお」

/ ,' 3 「ふむ、なるほどな。……ちょっと待っておれ」
14 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:40:56.95 ID:zuZk+Fud0
スカルチノフはブーンの問いに答える代わりに、席を立ち、
部屋の奥に備えられた木箱から何やら鈍い光沢を放つ破片を取り出し、ブーンの前に差し出した。

/ ,' 3 「彼奴等の最も厄介な武器は、これじゃ。
    『鉄の侵略者』が独自に開発した、『鋼鉄』と呼ばれる物質。
    これで、剣や矢、鎧、盾、それ以外にも儂等が計り知れない武具を造っているようじゃ」

( ^ω^)「これは……」

目の前に置かれたものは、茶褐色の錆で覆われた鋼鉄片であった。

ブーンはそれを手に取ってみる。
掌程の大きさの破片であったが、想像以上にずしりとした重みがあった。
それに、堅い。
拳で軽く叩いてみたが、少なくとも素手で引き裂けるような代物ではない。

/ ,' 3 「しかも、厄介なことに全ての敵兵がそれを身に付けておるのじゃ。
    剣は簡単に草枝を切り払い、鎧はあらゆる攻撃から身を護る。
    さらに困った事に最近では、見えない小さな球を飛ばす奇妙な筒や、
    破裂する塊まで持ち込んでくる始末じゃ」

(;^ω^)「……」
15 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:42:42.56 ID:zuZk+Fud0
ブーンは想像した。

もし、この物質を使って武具を造るとすれば、相当協力なものを拵えることができるのだろう。
岩よりも堅い、炎獅子の牙ですらこれを貫けるかどうか解らない。
しかも、ただ剣や矢などの原始的な武器だけで戦うわけではなく、
西の国独特の兵器を用いるという点では、その攻撃手段は多岐に渡るようだ。

それだけで、『鋼鉄の民』は知能が高く、かつ戦闘に長けた民族であることが解る。
ここまで来ると、二国の違いは歴然だ。
覆しようのない差を目の当たりにして、ブーンは愕然とする。
仮に西の国が強行的な手段に出れば、冗談ではなく『樹木の国』は滅ぶ事になる。

もはや、この村は風前の灯、である。

(;^ω^)「……スカルチノフさん、はっきり言いますお。
      この状況ではもう……」

そして、ブーンは重々しく口を開いた。
少なくとも、変に希望を持つべきではない。
辛辣な言葉になるだろうが、事実を隠したところで仕方がないのだ。
戦力として加担する立場として新たに戦術を示唆するにも、この状況を現実的に見直す必要がある。
17 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:44:53.41 ID:zuZk+Fud0
/ ,' 3 「皆まで言うな。勝ち目が薄いことなど、とうに知っておる。
    それを承知で、お前さんを引き入れるなど愚の骨頂であることもな。
    ……だが、我々『樹木の民』はもう後には退かん。
    戦況がどうなろうが、儂等はこの森と運命を共にする。
    この森の誕生から我が民族は始まった。ならば、滅ぶときも一緒じゃ」

(;^ω^)「……」

だが、スカルチノフははっきりと言ってのけた。
ツンの言葉と一緒だ。
揺ぎ無いこの森に対する信仰は、彼も同じであった。
いや、もしかしたらそれは一番深いものなのかもしれない。

それを物語るは彼の目だ。
鬱蒼と顔の下まで伸びた白髪の隙間から覗く、青眼。
果てしなく拡がる青空に吸い込まれるような迫力だった。
最早、ブーンは返す言葉も出ない。

/ ,' 3 「……随分と重たい話をしてしまったの。すまんかった。
    他に質問は無いか? まだ来たばかりじゃから知らんことも多いだろう」

戸惑うブーンの様子を察して、スカルチノフは次の質問を促した。
相当気を使っているのだろう、声が先程よりもさらに和やかになっている。

(;^ω^)「えっ!? あっ、はいだお。
      ええと……質問かお……あっ、そうだお!!」

大体知りたかったことは聞いてしまっていたため、ブーンは強引に別の質問を捻り出す。
だが、問いは直ぐに思い浮かんだ。
ここに来る直前に、そのことについての出来事があったのだ。
19 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:46:41.99 ID:zuZk+Fud0
( ^ω^)「プギャさんって娘さんが居るんですかお?」

/;,゚ 3「――ッ!?」

問いの瞬間、スカルチノフは細い目を見開き、茶を啜ろうと手に持っていたカップを床に落とした。
そして、衣服に掛かった液体を払おうともぜずに、硬直する。
只事ではない反応だった。
身体は震え、額からは汗が滴り落ちている。

(;^ω^)(えっ……えっ!?
      どうしたんだお? 何か悪い事でも言ったのかお?)

それに驚いたのはブーンだ。
口にしたのはこの妙な雰囲気を変えるつもりで投げかけた、雑談じみた質問だったのである。
だが、スカルチノフは予想以上に狼狽している。
ブーンは何が起こったのか理解できずにいた。

/;,' 3 「……お前さん、そいつはどこで訊いたのじゃ?」

(;^ω^)「……え? あの……その」

スカルチノフは、動揺が解けないままブーンに問い掛ける。
その目には、明らかに先程とは違うものが宿っていた。
空に暗雲が立ち込めたかのように、濁りを見せ始めていたのだ。

(;^ω^)「どこかは忘れたんですけど、確か誰かが話しているのを訊いたんですお。
      でも、詳しくは解らなくて……その」
20 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:48:30.66 ID:zuZk+Fud0
ブーンは咄嗟に嘘をついた。

先程、森の中でプギャの不可解な行動を受けて尋ねたことだったが、
スカルチノフの表情から不穏を感じ取ると、正直に言ってはいけない気がしたのだ。
そこで、適当に答えた。
情報の所在をうやむやにすることで、厄介ごとを避けることにした。

/;,' 3 「むう……そうか。
     あれほど、『奴』のことについては話題にするなと言っておいたのだが……まあいい。
     ――で、お前さんその件に関してだが、その話はプギャにとっても辛い過去にもなるんじゃ。
     できれば触れないようにして欲しい。
     あと、成るべく他の者にも聞いて回らないでくれんかの? 色々と厄介での……」

(;^ω^)「……はいだお」

ブーンはその事について、詳しく追求することはしなかった。
只ならぬ様子から訊いてはいけないと、肌で感じ取ったのだ。
それに、彼の口調こそ穏やかであるが、何処か棘があるように聞こえた。
恐らくはこの村の禁忌に触れてしまったのだろうか。

(;^ω^)(……しかし、気になるお。
      でも、この様子じゃあ誰にも聞かないほうがいいお……)

だが、気になっていたのは事実であった。
人知れず、隠れるように森の奥深くに造られた、少女の像。
その神秘的な姿に何処か、この村の陰の部分を垣間見たような気がした。
21 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:50:25.08 ID:zuZk+Fud0

(兵`Д´)「お疲れさまです、ドクオ様!!」

('A`;)「……」

(;兵`Д´)「……?」

ドクオは独り、城内の廊下を彷徨っていた。

何時の間にか軍部区域に戻ってきていたようで、
衛兵やすれ違う一般兵などはドクオに挨拶を投げかけてくる。
だが、ドクオはそのなかの一つにも返事をする事はなかった。

('A`;)(えらい事を訊いちまったな……)

足は自ずと、スオナがいる執務室の方へと進む。
だが、途中で思い直したように引き返す。
半刻程、それの繰り返しだった。

('A`;)(いっその事、訊いちまうか? ……いや、それはないな。
    何か思い知れない事情があるんだろうし……だが)

スオナは、元々『樹木の民』である事実。
それを胸に秘めたまま、彼女に普段どおりに接するなど出来るはずもなかった。
ドクオ自身、どちらかといえば器用に振舞える性格ではないし、
何より、彼女を直視することができないはずだ。

そんな表面的な変化は、直ぐに彼女に悟られるだろう。
そして、最終的に問いただされる羽目になる。
ならば暫くは戻らないほうが賢明だろう、とドクオは結論づけることにした。
23 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:52:11.41 ID:zuZk+Fud0
( ´∀`)「おお、確か……ドクオと言ったか? どうモナ、この城は?
      広すぎて迷ってしまう程だろう?
      この城は朕が言って作らせたんじゃが……凄いモナ?」

(-_-)「……」

('A`;)「あ……はい、どうも」

そんな中だった。

十人程の武装兵を引き連れた一人の男がドクオの前に現れ、声を掛けてきた。
必要以上に華美な装いの、『バロウ帝国』の皇帝モナー六世だ。
追うようにして、その背後には少将のヒッキーもいる。
ドクオは、はっと我に還り、戸惑いつつも頭を垂れて挨拶をする。

( ´∀`)「よいよい、気にするでない。
      ところで、今は空いているモナ? 忙しくないようなら茶でも一緒に――」

('A`;)「……は、はあ」

廊下で顔を合わせて早々、急な提案だ。
はっきり言えば、面倒くさい。

('A`;)「……かしこまりました。是非」

だが、雇われの身として断るわけにはいかないだろう。
それに、やるべき公務もまだ無く、暇を持て余している最中だ。
気を紛らわせるには丁度いい。

ドクオは、モナーの誘いを受けることにした。
24 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:53:59.11 ID:zuZk+Fud0
('A`;)(……おいおい)

会食の間に通されて、ドクオは感嘆の息を漏らした。

まず目に留まったのは部屋の中心を埋め尽くしている、白い布が掛けられた長卓だ。
床に拡がる赤の絨毯との対比で、目が痛いほどである。
ドクオは促されるまま長卓の端に置かれた、豪勢な造りの椅子に座った。
反対の端にはモナー、そしてその脇にヒッキーが座るような席次である。

('A`;)(成程、王ともなるとこれほどいいものを喰ってるのか……)

そして、卓を埋め尽くすほどの皿が運ばれてきた。
溢れんほどの肉が挟まったサンドウィッチに、
山盛りのチーズとキャビアが添えられたクラッカー……
茶会のはずであったが、どう見ても食事と言っても過言ではない量の軽食だった。

( ´∀`)「では、遠慮なく食べるモナ」

('A`;)(うへえ……)

と、モナーはドクオに茶を勧めると同時に、皿に手を伸ばした。
豪勢な指輪が付けられた脂ぎった指は、次々と料理を掴み口に運んでいく。
少なくとも上品ではない。
半ば野性の中で育ったドクオですら、そう感じるほどだった。

(-_-)「……ゴニョゴニョ」

( ´∀`)「……うむ。
      おい、ドクオ。早々にギコと戦ったようじゃな。
      事の顛末を朕に聞かせて欲しいモナ」
25 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:55:44.60 ID:zuZk+Fud0
横でヒッキーが耳打ちをし、モナーはドクオに問い掛けた。
口からは食べ粕が次々と零れ落ちる。
横で待機していた給仕が前に出て、モナーの口を布で拭う。

('A`;)「……はい。実はカクカクシカジカ……」

ドクオはそれを他所に、語り始める。
概要としては、スオナに連れられて一般兵士の訓練を監督したところからだ。
三人の一般兵に灸を据えてやったこと、その後成り行きでギコと戦ったことなど、
動作の一つ一つを交えて詳細に説明した。

( ´∀`)「ほう……それはそれは勇敢なことじゃ。
      朕は強い者が好きだモナ。是非一度朕の前で、試合をやって欲しい」

(-_-)「御膳試合ですか……戦争が終結しましたら、是非開催する方向で考えたいと思います」

( ´∀`)「うむ、ならば戦も早めようではないか。
      どちらにせよ、そのうち我が軍の者の勇姿を見たいモナ。
      ヒッキーよ、そういうわけじゃ。下々の者たちに伝えておいてくれ」

(-_-)「処善いたします。ただ、『アレ』の開発がまだ終わっておりませんので……」

( ´∀`)「おお、そうだったモナ。
      『アレ』が完成し、使われる様も是非見なくてはいかん。
      あれだけ多くの税金を掛けたのだ。使わなくては勿体無いモナ」

('A`;)(……おいおい)
27 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:57:29.37 ID:zuZk+Fud0
開いた口が塞がらなかった。

モナーの無神経な発言に、だ。
その振る舞いや言葉の一つ一つは、どうしてもこの大国を治めている一国の主には思えない。
皇帝として、軽率すぎるのだ。
己の要望を第一に、戦の日取りを決めようとすらしている。

はっきり言って、モナーの言動には聊か知性というものが足りない。
よくぞジョルジュやスオナのような優秀な人間が黙って、従っているものだ。
ドクオは、改めて兵士という立場に理解ができなかった。

いや、その辺はヒッキーが上手く操縦しているのだろう。
よく観察してみれば、事あるごとにモナーはヒッキーに尋ねている。
それを受けて、ヒッキーは進言する。
しかも、最終的には言葉巧みにモナーを納得させているのだ。

('A`;)(政治に一枚噛んでいる、ってのはこういうことか)

ドクオは、スオナの言葉を反芻する。

成程、見る限りヒッキーは少将というよりは、モナーの側近としての色が強い。
その立場を利用して、モナーの我侭で軍に悪い影響が及ばないようにしているようだ。
国や軍というものは力や人望ばかりで束ねられるものではない。
ヒッキーのような知略の長けた人間も必要なのだろう。

( ´∀`)「そういえば、お前は旅人だったらしいな?
      異国での出来事を是非聞かせて欲しいモナ。さぞや珍しい出来事だったのであろう?」

('A`;)「あ、はい」
28 :◆foDumesmYQ 2007/07/16(月) 23:59:16.04 ID:zuZk+Fud0
ドクオは、さらにモナーの問いに律儀に答えた。

('A`;)「……と、まあこんな感じでラキスタ地方で、
    亀甲縛りで蝋を垂らされたという出来事があったわけで……」

( ´∀`)「ん? 亀甲縛りとは一体何モナ? おい、ヒッキーよ」

(-_-)「亀甲縛りとは、主に男女の夜の営みで――」

('A`;)「……」

終始モナーはヒッキーにべったりであった。

奇妙な程だ。
しかし、よくぞここまで信頼を取り付けたものだと、ドクオは関心する。
左程腕力の無さそうなヒッキーが少将に登りつめたのは、
その明晰さに加え、モナーに気に入られたからなのかもしれない。

( ´∀`)「そうかそうか。で、他に面白い話はないモナ?
      それに、その嵐鷲の爪とやらの能力を見てみたくなったモナ」

('A`;)「あ、いや流石にここでは……」

(-_-)「ここで力を使っては城が壊れてしまいます。
     後日改めて機会を設けたいと思いますが……」

( ´∀`)「うむ。朕はwktkしてきたぞ。これは楽しみモナ」

結局話は夕方まで続き、彼等は茶会としては長すぎる時間を過ごした。
29 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:01:15.54 ID:cBh6hiz50

(;^ω^)「しかし、何か変だお……」

ブーンは村を彷徨いながらも、ずっと奇妙な思いに駆られていた。

無論、会食の場でスカルチノフが見せたあの反応だった。
何かあるに違いないことは、安易に理解できる。
村人に『そのこと』を厳しく口止めさせる程だ。
だが、この様子では誰かに訊くということは出来ないだろう。

(;^ω^)「まあ……でも今はそれどころじゃないお」

ブーンは疑惑を胸に仕舞い込むことにした。
どちらにせよ、戦には直接関係なさそうだ。
むしろ、この不利をいかに覆すか。
こっちの方が遥かに重要である。

( ^ω^)「……お?」

と広場に差し掛かったところで、ふとブーンは立ち止まった。
見てみれば、行く手を遮るように村の子供達が輪になって屈み、何かの遊びをしている。

⌒*(・ω・)*⌒「テルミちゃん、すご〜い」

⌒*(・∀・)*⌒「へへへ、すごいでしょ。
         いっぱいがんばって練習したんだよ」

o川*゚ー゚)o「いいな、いいなぁ〜わたしにもできるかなあ?」
31 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:03:04.22 ID:cBh6hiz50
(*^ω^)(ょぅι゛ょ達が遊んでるお……皆天使のように可愛いお……フヒヒヒヒ)

歳の頃は皆十ほどだろうか、どうやら数人の少女が遊戯をしているようだ。
背中に隠れて何をしているのかは解らないが、微笑ましい光景であった。
彼女達にとっては、この緊迫した情勢の中での唯一の楽しみなのだろう。
思わず、ブーンの口は歪み、涎は零れ、表情は綻んでしまう。

⌒*(・∀・)*⌒「キューちゃんもやってみなよ」

o川*゚ー゚)o「うん、やってみる〜」

(;^ω^)「……お?」

さらに近づき、その様を上から覗き込む。
だが、彼女達の足元に玩具らしき物は何も見当たらなかった。
地面には滑らかに舗装された土と、一つの若草があるだけだ。
ブーンは、彼女達の戯れを疑問に思いながらもその様子を見守ることにした。

o川*゚ー゚)o「……ん〜〜えいッ!!」

(;^ω^)「ッ!?」

少女の一人が地面に手を付き声を上げた瞬間、ブ−ンは驚愕した。

小さな手の下から膨れ上がったのは、淡い輝きだ。
黄土色の大地が青白く染まる。
次に、地面に小さな突起が現れた。
土を押し退けるように、中から何かが伸び出てきたのだ。
32 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:04:50.62 ID:cBh6hiz50
o川*゚ー゚)o「やったよ!! できたよ!?」

⌒*(・∀・)*⌒「すご〜い!! すご〜い!!」

⌒*(・ω・)*⌒「うわぁ〜いいなあ」

(;^ω^)「すごいお。こんな小さい子まで……」

透き通る緑が鮮やかな一片の若芽であった。
少女達はその小さな芽吹きを前に、キャアキャアと囃子立てる。

ブーンは改めて『樹木の民』の能力に驚愕した。
元々存在する植生に触れて生長を促進させるだけではなく、
種子から発芽させて、新たに緑を創り出すことも可能だったのだ。
しかも、こんな幼い子供が行えるとは思いもしなかった。

「凄いでしょ? この村の小さい子たちはこうやって遊ぶの」

煤i;^ω^)「!?」

と、言葉と共に肩を誰かが叩いた。
唐突のことに驚き、身体を小さく震わせる。
ブーンは急いで背後に振り返った。

('、`*川「おやまあ、驚かせちゃったかしら?ごめんなさい。
     貴方が噂の旅人さんね。主人から話は訊いているわ」

(;^ω^)「……? どちら様ですかお?」
33 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:06:36.29 ID:cBh6hiz50
声を掛けてきたのは女性だった。
婦人とも呼べる年頃で、恐らくはブーンの母親と同じ程であろうか。
だが、幾分若々しく、何処か不思議な雰囲気を有している。

o川*゚ー゚)o「あっ、お母さ〜ん。みてみて!! わたしすごいんだよ!!」

('、`*川「あらあら、凄いわねえ。立派に芽が出てるわ」

o川*゚ー゚)o「でしょでしょ? 今日初めてできたの!!」

(;^ω^)「……」

ブーンの疑問をよそに、少女のうちの一人が女性に抱きつき、嬉々とはしゃぎだす。
それを受けて、女性は少女の髪を優しく撫でた。
言葉の通り、恐らく親子なのだろう。
背中まで真直ぐに伸ばされた髪形と、顔の作りがひどく似通っていた。

('、`*川「ああ、そうそう。自己紹介を忘れていたわね。
     私はペニサス=タカラ。
     で、こちらが……さあ、旅人さんにご挨拶しなさい」

o川*゚ー゚)o「わたしは、キュート=タカラです。
       旅人さん、こんにちわ!!」

(;^ω^)「……へ?」

聞き覚えのあるその名前に、直ぐにブーンはピンと来た。
35 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:10:29.24 ID:cBh6hiz50
(;^ω^)「まさか、貴方がプギャさんの……」

('、`*川「ええ。私がこの『アポトキシン村』村長タカラの妻よ。で、こちらが私達の娘キュートよ」

(;^ω^)「ええ〜〜〜ッ!?」

驚愕の事実だった。
まさかあの無愛想で取っ付き難い男に、これほど美しい妻と可愛らしい娘が居たとは信じられない。
騙されて結婚してしまったのではないか、と疑ったほどだ。

('、`*川「先日は、主人が失礼な振る舞いをしてしまったようで……
     本当にごめんなさい。でも、彼は根は優しい人なんです」

(;^ω^)「いいんですお……っていうか、僕も色々驚いてしまいましたお」

ペニサスはプギャに代わって、詫びた。
見る限り、あのプギャには似つかわしくない良く出来た女性だ。
思わずブーンの方が恐縮しそうになってしまうほどに慎ましい。

o川*゚ー゚)o「ねえねえ、お母さん。今度、木の育て方教えてほしいな。
       わたし、もっともっと木を大きくしたいの」

('、`*川「ええ、いいわよ。早くツンおねえちゃんみたいに、いっぱい木を育てるようになれるといいね」

o川*゚ー゚)o「うん!! やったあ!! わたし、今度はお花を育てたいな!!」

(;^ω^)「……」

だが、ブーンは娘である彼女の名前に引っかかっていた。
少なくとも、あの文字に刻まれた『クー』とは名乗っていないのだ。
36 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:12:11.11 ID:cBh6hiz50
('、`*川「――で、まだ来たばっかりだけど、この村には慣れたかしら?」

( ^ω^)「おっ。食べ物は美味しいし、村の人も穏やかでいい人だお」

('、`*川「そう。それなら良かったわ」

ブーンとペニサスは、広場の脇にあるベンチに腰を掛けた。
どうやら此処は、昼の間は遊び場になっているようで、
先程の少女達以外にも、様々な年頃の子供達の姿で溢れ返っている。
彼等の姿を見守るようにして、二人は語り始めた。

( ^ω^)「でも……余所者の僕が言うのも何なんですけど、
      この森は大変な状況なんですお」

('、`*川「ええ。今はまだこうやって子供達が笑っていられるけど……
     もうしばらくしたら、どうなるかも解らない状況なの」

( ^ω^)「……おっ。でも、僕がこの森にやってきた以上は、
      もう西の国の好きなようにさせないんですお!!」

('、`*川「あらあら、随分と頼もしいわね。
     でも、本当に有難うね。ツンちゃんから訊いたけど、
     見ず知らずの貴方が、この森を守るために立ち上がってくれるなんて心強いわ」

( ^ω^)「僕だってこの森が無くなって欲しくないですお。
      初めてここにやってきたとき、その美しさにはビックリしましたお」

('、`*川「ええ。だってこの森は私達『樹木の民』の誇りだから……」
37 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:13:57.05 ID:cBh6hiz50
幸いペニサスとは直ぐに打ち解けることができた。

その物腰の柔らかさのお陰で、話し掛け易いこともあったが、
それ以上に、妙な親近感を彼女に感じたのだ。
恐らくは、母性的なものなのだろうか。
彼女の姿に、自身の母親の姿を重ね合わせているのだろう。

(*^ω^)「カーチャン……」

何時も、家に帰れば猛毒入りの熱々の料理を出してくれたカーチャン。
ドクオと喧嘩をすれば、全身の骨をバキバキに砕いて必死に止めてくれたカーチャン。
十歳の誕生日には、手製の頭蓋骨の蝋立てをプレゼントしてくれたカーチャン。
目を閉じれば、あの優しい笑顔、そしてあの言葉が浮かんでくる。





J( 'ー`)し「うぬは力を欲するか……?
      よかろう……ならば、掛かってくるが良い。
      ククク、久方振りの血の滾りだ……我を失望させてくれるなよ」





(;^ω^)(……前言撤回だお)

そして、ブーンは思った。
改めてあの悪鬼の如き両親が住まう家を出て良かった、と。
40 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:16:49.32 ID:cBh6hiz50
('、`*川「? どうかしたの?」

(;^ω^)「あ、何でもないですお。
      ちょっとしたトラウマが蘇ってきただけですお」

ブーンはペニサスの問いをさらりと受け流し、話を続けた。

( ^ω^)「それにしても、あの子たちは皆元気ですお。
      あの笑顔を見てると、何故か僕まで和んできますお」

('、`*川「そうね。彼等は私達の未来。
     この森を、ずっと遠い先の時代へと伝えてくれる。
     それに彼等を見てるとね私達大人は、もっと頑張ろう、って気持ちになれるわ」

目の前では、男児の一隊は各々に羊歯を握り、それを剣に見立てて戯れている。
ブーン自身も幼い頃は、よくそのような遊びをしたものだ。
もっとも、命賭けの『遊び』ではあったが。
ともかく、彼等の姿に何処か懐かしさを覚えずにはいられなかった。

だが、ブーンは次に男児達が口走った台詞を聞き、凍りつくことになる。

( ・□・)「や〜い!! 『樹木の民』め!! この森はわれら『鋼鉄の国』がしはいした!!
      命がおしければ、ていこうをやめてでてこい!!」

('(゚∀゚∩「うるさい!! この『鋼鉄の悪魔』め!! しんせいなるこの森からすぐに出て行け!!」

( ・□・)「なんだと!! ならば、この森もろともたたききってやるぞ!!」
41 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:18:47.70 ID:cBh6hiz50
(;^ω^)「まさか、こんな小さい子供まで……」

戦争は、子供達にまでその影を落としていた。

幼稚そのものではあったが、彼等の遊戯はまさに『鋼鉄の国』との戦いを見立てているものである。
思わず、ブーンの背筋に冷たいものが疾った。
彼等は果たして、現実での戦いの過酷を知っているのだろうか。

少なくともブーンは、知っていた。
旅の途中で偶然、某国同士の争いの跡をその目に、その身体に焼き付けていた。
鼻を劈く強烈な腐敗臭で染められた、生暖かい風を。
夥しい量の赤に染まった肉塊と骨で埋め尽くされる、大地を。

('(゚∀゚∩「森の神のいかりをくらえ!! うおおおお!!」

( ・□・)「うわあああ、兵たちよ下がれ!! 下がれ!!」

小さな『樹木の民』は、枝の剣で一本の花の首を敵に見立てて刎ねる。
花弁は無残に、散ってゆく。
その表情は、無邪気そのものだった。
純粋で好奇心に満ちた、無垢だけを見て取れる。

('、`*川「……もう、争いは彼等の傍にある。
     彼等は何も知らないまま『樹木の民』としての運命を背負わなければいけない。
     ……私、時々考えるの。もし彼等が遠く争いの無い別の民として生まれていれば、
     幸せだったんじゃないか、ってね」

(;^ω^)「……それは一体?」
43 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:20:54.23 ID:cBh6hiz50
('、`*川「『樹木の民』ゆえに従わなければいけない規律がある。
      『樹木の民』ゆえに命を投げ打ってでも守らなければいけないものがある。
      少なくとも、ここに生まれてきた以上はそれに縛られなくちゃいけない」

(;^ω^)「おっ……」

('、`*川「私達はそれに抗うことすらできない。
     ……いえ、抗う方法を知らないの。ずっとそう教え込まれてきたから。
     貴方の目にはそう映ってはいないかもしれないけれど……実は決して、
     『樹木の民』は穏やかで、敬虔な――そんなに美しい民族ではないわ」

(;^ω^)「……」

ブーンは視線を横に遣ってみた。

彼の目に映ったのは、俯いたペニサスの横顔、そして陰の落ちた眼差しであった。
ペニサスの変化は少なくとも、子供達のせいだけではなかった。
彼女が見つめる方角は、遥か遠くにあったからだ。
ブーンは彼女のそんな姿に、プギャと同じ想いを見た気がした。

('、`*川「……ごめんなさい。こればかりは貴方に言っても仕方がないわね。
     でも、中々打ち明けられる人が居なくて……随分湿っぽくなっちゃったわね」

(;^ω^)「あ、いや、大丈夫ですお……」

('、`*川「気にしないでね。私たまにこういう風になるの。
     ……じゃあ、私家事があるからこれで失礼するわ。
     あ、そうだ。今度私の家にいらっしゃい。腕に拠りを掛けてご馳走を振舞ってあげるわ」
44 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:22:36.02 ID:cBh6hiz50
(;^ω^)「ありがとうございますお。あ、でも……」

('、`*川「ああ、主人のことなら大丈夫よ。私がきちんと大人しくさせておくから」

(;^ω^)「は、はあ……」

ペニサスの顔にはすっかり光が戻っていた。
それどころか、袖を捲り上げて力瘤を見せる仕草を見せている。
だが、何処か不審なところがあった。
無理に明るく振舞っているような、そんな不自然さを感じ取れたのだ。

('、`*川「キューちゃん、暗くなる前にきちんと帰ってくるのよ」

o川*゚ー゚)o「うん!! あ、そうだ。おかあさん今日の晩ごはんは?」

('、`*川「今日は貴方の大好きな、シチューよ。だから、早く帰ってらっしゃい」

o川*゚ー゚)o「うん!! やったあ!!」

('、`*川「じゃあ、私はこれで。またお話しましょう」

(;^ω^)「はい……」

こうしてペニサスは広場から立ち去っていった。
結局、ブーンは森の中で孤独に佇む、あの少女の像のことを最後まで訊けなかった。
今思い返してみれば、彼女とその娘のキュートに似た面影があったような気がする。
しかし、少なくとも訊けるような空気ではなかった。

子供達が絶え間なく生み出す喧騒の中、
ブーンの悶々とした思いは気づかないうちに色濃く渦を巻き始めていた……
46 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:24:31.54 ID:cBh6hiz50

「おいおい、訊いたかよ?
 あの『馬鹿王』がまた妙な思いつきで、戦を早めようとしたらしいぜ」

「マジかよ!? ホント勘弁して欲しいよな。
 結局とばっちり喰らうのは末端の俺等なんだからよ」

「まあ、なんとかヒッキー少将の進言で事なきを得たようだけどな」

「危ねえな……実質、この国は軍の将官で持っているようなもんd……
 おい、ドクオ補佐官が来たぞ!!」

(兵・Д・)「敬礼ッ!! お疲れさまです!!」(`Д´兵)

('A`)「……ああ。ご苦労」

(;兵・Д・)「……ホッ」(`Д´兵;)

(;兵・Д・)「ヤバイヤバイ。訊かれていたら首が飛んでいた」

(`Д´兵;)「まったくだ。しかしあの人も変わっているな」

言少な目に、ドクオは挨拶を返した。

時間が経ったせいもあり、先程よりは落ち着いた。
兵士の噂話通りの、『馬鹿王』との会食は実にもならなかったが、それでも幾分ましにはなったようだ。
だが、まだスオナの許に行く気にはなれずにいた。

('A`)(そういや、まだ城内を完全に見ていなかったな。
    訓練場も他にあるようだし。暇つぶしに寄ってみるか)
48 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:26:14.71 ID:cBh6hiz50
気が付けば、日はすっかり傾き空は茜色に染まっていた。
背後では、夕の刻を告げる鐘が響き渡り、国家の旗が誇らしげに翻る。

('A`)「流石に訓練は終わってるか……」

ドクオは先程激闘を繰り広げていた訓練場の外にいた。
城壁を隔ててなお、城下街の喧騒の残り香が身体に溶け込んでくる程に静かだった。
この時間にもなると、兵達は既に城内の宿舎に戻っており、
先程までの賑わいは露も残っては居ない。

('A`)「ま、いいか」

しかし、ドクオはそんなことはどうでもよかった。

ただ暇を持て余していただけだ。
別に訓練を見に来たわけではない。
寧ろ、一人でいることの方が都合が良かった。
傍に誰かが居れば、気になって仕方がない。

訓練場の入り口に差し掛かると、兵士達の血潮の匂いが鼻を劈いた。
だが、城内に居るよりはましだ。
そのまま、中に入ることにした。

('A`)「……ん?」

と、入って早々ドクオは立ち止まる。
人の気配がしたからだ。
多分、誰かが居残って訓練しているのだろうか。
人の形をしたわだかまりは見えるが、薄暗いせいではっきりとは伺えない。
49 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:28:09.58 ID:cBh6hiz50
(;=゚ω゚)「1……2……3ッ!!」

更に歩を進めて、漸くその姿が明らかになった。

随分と若い兵士だった。
歳はドクオと同じ程であろうか。
最近入ったばかりの新卒兵なのであろう。
灯りも付けず、暗闇の中で模擬刀で無心に素振りをしている。

(;=゚ω゚)「1……2……3ッ!!」

('A`)「……」

朝の訓練からずっと繰り返しているのか。
頬に汗が伝い、足元には水溜りが出来上がっていた。

それに、全くドクオに気づく気配はない。
余程集中していると見える。
この国の兵士達の姿に類稀無い勤勉さを見たが、彼はその上を行く。

('A`)(随分と頑張っているようだが……まだまだだな。
    剣の軌道が定まってないし、腰も入っていない)

だが、ドクオに言わせてみれば未熟そのものであった。
所作の一つ一つが、ぎこちない。
単に、がむしゃらに剣を振っているだけである。

('A`)(しかしまあ、こういう奴こそ伸びるんだがな。
   いい師匠に巡り合えば、だけど)
50 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:29:55.74 ID:cBh6hiz50
ドクオはそのまま彼に背を向けた。
邪魔をしてはいけないと思ったからだ。
出来るだけ足音を立てないように、静かに外に向かう。

だが――

(;=゚ω゚)「ドクオ……補佐官?」

('A`;)(あ゛……)

気づかれてしまったようだ。
そのまま若い兵士は剣を投げ捨てると、ドクオの許に詰め寄ってきた。

(;=゚ω゚)「いらっしゃったのにも関わらず……申しわけございませんッ!!
     挨拶もせず……無礼をお許しくださいッ!!」

('A`;)「あ、いや、別に謝らんでも……勝手に来たのは俺の方だし」

(;=゚ω゚)「そういうわけにはいきませんょぅ!!
     この無礼は是非僕の腹を掻っ捌いて、償いますッ!!」

('A`;)「って、ちょwwwww」

若い兵士は、言い終わらないうちに腰に下げた短刀を引き抜くと、
そのまま刃を腹にあてがい、その腕に力を込める。
只ならぬ様子に、ドクオは兵士を羽交い絞めにして止めようとした。
だが、兵士は引き下がる気配がない。

(;=゚ω゚)「この大罪は、僕の命を以って償いますょぅ!!
     止めないで下さいッ!!」
52 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:31:50.14 ID:cBh6hiz50
('A`;)「ハアッ……ハアッ……おま……いくらなんでもそれはやり過ぎだろ……」

(=;ω;)「何というご温情だょぅ!!
      ありがとうございますょぅ!!」

ドクオの必死の説得に、兵士は折れることとなった。
しかも、何を勘違いしているのか、涙を流しながら頭を地面に擦り付ける始末である。
真面目と言うには、度を越している。
変な奴に捕まってしまった、とドクオは思った。

('A`;)「しかし、こんな時間まで訓練か。随分と熱心だな」

(=゚ω゚)「僕は身体も小さいし、力も無いんですょぅ。
     しかも、周りの先輩達は強い人ばかりですし……
     だから、人一倍訓練しないとダメなんですょぅ……」

('A`;)「へえ……成る程な」

兵士はイヨウと名乗った。
まだ、入隊して数ヶ月程の新卒兵だと言う。

ドクオは彼の言葉に納得した。
体格は決して大きい方ではないドクオよりもさらに一回りも小さく、腕は女子のように白く、細い。
一度強い風が吹き込めば簡単に飛ばされてしまいそうな程、肉が付いてなかった。
下手すれば、兵士に向いていないのではないかと思ったほどだ。

('A`;)「しかし、何でまたこの軍に?
    他にも働き口はあるだろうに……」
53 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:33:41.44 ID:cBh6hiz50
(=゚ω゚)「実は……僕には幼い兄弟が沢山いるんですょぅ。
     だから、出稼ぎで働いて故郷に仕送りしないとダメなんですょぅ。
     でも……色々仕事はしたんですけど、いつもドジばかりで……
     最終的に、もうココしか働き口が無くなって……ウッ……エグッ」

('A`;)「ちょwwwww一々泣くな!!
    わ〜った、解ったから、お前は何も悪くない。
    この世知辛い世の中が悪いんだ」

ドクオは、イヨウを必死に宥めた。
明らかに自分が悪いわけではないが、何故か必死に慰めてしまう。
それ程に危ういのだ。
よくぞ、帝国軍も彼の入隊を認めたものである。

('A`;)「って、お前、この国の出身じゃないの?」

(=゚ω゚)「……はい。僕は西の海を隔てた孤島、『エロマンガ島』の出身なんですょぅ」

('A`)「へえ……そいつは初耳だな。
   てっきり、主にこの国の出身者だけが軍に居るのかと思ってた」

(=゚ω゚)「結構、僕みたいに他国出身の兵もいますょぅ。
     というか、一般兵の半分はお金で雇われた傭兵らしいですょぅ。
     それに上官の方々の中にも……ヒッキー少将は、
     十数年以上前に別国の軍から引き抜かれて入隊してきましたし、
     ヒート中佐なんかも他の国の出身者だと訊いてますょぅ」

('A`)「ほう、そいつは意外だな」
54 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:36:05.71 ID:cBh6hiz50
この軍の強みは、強力な武具や兵器以外にも存在していたのだ。
有能な人間ならば敵対する国を除いて、出身に関わらず金で軍に引き入れる。
ならば、人的資源の面でも豊富な訳だ。
ドクオの入隊にもさほど反対意見が無く、周りが思ったよりも寛容だったのも頷ける。

まあ、ことドクオに関してはその若さと、最初に暴れ回った行動が少々問題だったのである、が。

('A`)(それにしても……スオナの事は知らないらしいな。
   ま、知ってたらコイツの場合ロクなことになりそうにないから、その方がいいかもしれんが)

ドクオは、イヨウの言葉の中から色々と納得した。

(=゚ω゚)「しかし、ドクオさん凄いですょぅ!!
    今日のギコ中将との試合は、カッコ良かったですょぅ!!
    ……ちなみに、今おいくつなんですか?」

('A`)「ん? ああ、数月前に15になったばかりだが?」

(=゚ω゚)「――ッ!?
    僕と同い年じゃないですか!!
    なのに、あんなに強いなんて……本当に凄いですょぅ!!」

('A`;)「いや、別に凄いって程じゃ……」

(=;ω;)「なおさら感激ですょぅ!!
      ……そうだ、僕を是非弟子にしてくださいょぅ!!
      強くなりたいんですょぅ!!
      雑用なら何でもやりますょぅ!! お願いしますょぅ!!」
56 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:38:05.81 ID:cBh6hiz50
(=;ω;)「お願いしますょぅ……」

('A`;)「う……」

イヨウは潤んだ上目遣いで、ドクオを尊敬の眼差しを投げかける。
宛ら餌をねだる小動物のようだ。
確かに、此処まで褒めちぎられては悪い気分はしない。
が、問題はイヨウ自身である。

('A`;)(野郎に懐かれてもなあ……もし、これがロリ系の眼鏡っ子だったら萌える、
    というか燃えるんだが。しかもかなりコイツの相手は骨が折れそうだ)

しかし、無下に断るわけにもいかない。
このような直情的で真面目な人間は、何を仕出かすか解らない。
もし先程のように腹でも掻っ捌こうとするのならば、冷や汗ものだ。

('A`;)「……ええと、個人的にはその申し出は嬉しいぜ
    俺を認めてくれているということだからな」

ドクオは、迷った挙句にこう切り出した。
言葉を一つ一つ選ぶ程慎重に、だ。

(=゚ω゚)「ワクワクテカテカ」

('A`;)「ゴホン……で、だ。
    しかしながら、この軍には万を超えるほどの兵士がいるのは知っているだろう?
    そんな中、お前だけ依怙贔屓するわけにもいかないんだ。
    そうなっては、反発も多いだろうしな」
59 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:39:51.11 ID:cBh6hiz50
(=;ω;)「ブワッ……」

('A`;)「う……その辺は察してくれ。
    だが、そこまで嘆願されては簡単に却下するのも冷淡すぎる。
    ならば、どうだろう?
    俺の時間が空いたときにのみ、極秘に稽古をつけてやろう。
    但し、俺の稽古は生易しくはないが……」

苦し紛れの提案だった。

大佐補佐官としては立場上、イヨウ一人だけに指導するわけにもいかない。
かと言って、彼の要望を無視するのも、後味が悪い結果に終わる可能性が高い。
そこで、ドクオはこう言ったのだ。

幸い、暫くの間は公務をスオナが一人で行うことになるだろう。
そもそも、ドクオがこの軍に加わった条件も、戦力として戦争に加わるためであるからそれほど問題はないはずだ。
イヨウの訓練に付き合う程の時間は取れるだろう。
それにスオナと顔を合わせない口実としては、充分である。

(=;ω;)「ありがとうございますよおおおおおおおおおぅ!!!!!
     この上ない幸せですょぅ!! こうなったら一生付いて行きますょぅ!!」

('A`;)「寄るな寄るな……鼻水くらい拭け」

だが、イヨウにとっては至上の喜びであったようだ。
顔が正視に耐え切れない程歪んでいるにも関わらず、一向に隠そうとはしない。
その酷い有様に、若干ドクオは引いていた。
61 :◆foDumesmYQ 2007/07/17(火) 00:42:03.87 ID:cBh6hiz50
(=;ω;)「是非師匠と呼ばせて下さいょぅ!!
      不束者ですが宜しくお願いしますょぅ!!」

('A`;)「わ〜った、解ったよ。だから泣くなって」

何時まで経っても、イヨウの喜びの悲鳴は止むことは無かった。
余程嬉しいのだろう。
それにしても、有能な上官が多い中で何故自分なのかは解らない、が。
ドクオは呆れながらも、イヨウを落ち着かせる。

('A`;)(ああ、とんでもない奴を拾っちまったな……)

こうしてこの瞬間から、ドクオにとって同い年である気弱な少年との、
奇妙な師弟関係が始まることとなった。





『第七章 会食、その陰に覗く各々の背徳』 終