-VIP産小説保管庫-
( ´ω`)枯れて('A`)苦悩し虹を探して生き抜くようです:1
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:01:27.19 ID:t/LjLsSR0
- -1- Syakin
ここから出られないのは何故だろう。
扉は目の前にあるというのに。
( ´ω`)「……鍵がかかってるからだお」
分かりきったことを口にすれば虚しくなるに決まってる。
('A`)「……どうしたらいいんですかね」
( ´ω`)「そんなの知らないお。どうせ、もう助からないお」
(;'A`)「ちょっと待ってください、もう諦めちゃうんですか! 俺は嫌ですよこんなところで終わりなんて!」
小柄な男が僕に向かって叫ぶ。
そんなに助かりたければ出来ることをすればいいのに。例えば。
目の前の鉄製の分厚い扉。大きな扉の割りに小さな南京錠。それを血を流し骨が砕けるまで殴り続けるとか。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:03:19.11 ID:t/LjLsSR0
- ( ´ω`)「いいから黙っとけお。殺すお」
僕はポケットから小さなナイフを取り出すと、それを彼に突きつける。
たったそれだけで、彼はおとなしくなった。
(;'A`)「……横暴だ」
部屋は広く、配置から配色まで整った家具。王室のような風景に全く似合わない大きな扉。
彼、ドクオは気がつけばここに居たのだという。
既に、彼と合流して一時間が経過していた。
( ´ω`)「ツンに会いたいお」
('A`)「こんなときに女ですか。お気楽ですね」
( ´ω`)「……ツンに会いたいお」
分かりきったことを口にすれば虚しくなるに決まってる。それでも、今なら手が届きそうな気がした。
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:04:06.05 ID:t/LjLsSR0
- (#'A`)「アンタはさっきから……!」
彼がその続きを口にしようとしたところで、そんな声も吹き飛ぶほどの轟音が部屋に響く。
思わず反射的に声を上げ、その源に振り向こうと立ち上がる。
(`・ω・´)「どうもこんにちは。シャキンと申します。よろしく」
豪快に、そして唐突に。
そいつは姿を現すと淡々と自己の紹介を始める。さも当たり前のように、もう一度鍵を閉めて。
そう、奴はこの扉から。
決して開くことのなかったこの扉から現れたのだ。
( ^ω^)「……何者だお」
(`・ω・´)「ですから、シャキンです。今後ともどうぞ宜しく」
そうか、なるほど。
話が噛み合わないのは仕様だろう。一方ドクオはと言えばソファに座ったまま動けないでいる。
脱力、というのが正解か。
こうも簡単に開けられてしまっては今までの努力は水の泡以下、既に気体となって消えてしまっている。
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:04:58.57 ID:t/LjLsSR0
- そしてまた、コイツは扉を閉めてしまったのだ。
起き上がれないのも無理は無いのかもしれない。
( ^ω^)「そんなことを聞いてるんじゃないお。どうやってここの扉を開けたんだお?」
(`・ω・´)「難しい質問だ。確かに僕はこの扉を開け、この部屋に入ることが出来たいやしかし」
シャキンという男は間髪入れずに話を続ける。
(`・ω・´)「開けたのは私ではないのです」
その言葉にドクオが勢いよく立ち上がる。
そしてシャキンに向かい声を張り上げながら問い詰め始めた。
(;'A`)「ここは何処で、お前は誰なんだ! ついでにコイツも!」
そう言って僕を指差す。
(;'A`)「何故入れた! 何故閉めた! 扉の向こうにいるのは誰だ!」
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:06:00.59 ID:t/LjLsSR0
- 彼の意見は御もっとも。
しかし分かってない。何にも分かってない。ダメダメだ。
(`・ω・´)「一つひとつお答えします」
(`・ω・´)「私の名前はシャキン。宜しくお願いします。次にこの方ですが、ご存じの通り、内藤ホライゾン様でございます」
内藤、とは僕のことだ。
(`・ω・´)「何故入れた、に関しては先ほど存じたように開けていただいたからです。何故閉めたか。そこに扉があるからです」
彼は満面の笑みでそう答えた。
しかしそれは機械的で、その言葉に表情のような温かみはなかった。
ほうら見ろ、使用人が機嫌を悪くした。
(#'A`)「テメェ、いい加減に……」
( ^ω^)「ドクオ、悪いけどちょっといいかお?」
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:07:33.79 ID:t/LjLsSR0
- 僕はそう言って彼との間に入り、ドクオの肩を掴む。
ポケットに突っ込んでいたものを再び取り出す。
(#'A`)「なんだよ!」
( ^ω^)「お前、本当に黙れお」
一瞬にしてドクオの顔が青ざめていく。
(`・ω・´)「あはは、冗談にしては笑えないですね」
( ^ω^)「そうかお。どうやら僕と貴方では笑いの沸点が違うらしいお」
小さなナイフをケースにしまい、ポケットの中にもう一度押し込む。
問題は無い。ドクオを静かにさせることが出来たのだから。
( ^ω^)「一つ聞いてもいいかお?」
(`・ω・´)「お好きにどうぞ。答えるかどうかは内容次第ですが」
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:08:58.23 ID:t/LjLsSR0
- いちいち癇に障る言い方に、一瞬、間が空いてしまう。
しかし何とか堪えることが出来た。
( ^ω^)「……感謝するお」
僕は一息入れ再度シャキンを見据える。
そんな僕に対しシャキンは表情一つ変えずに突っ立っているだけだった。
( ^ω^)「虹が何処にあるか、教えてもらいたいお」
たった一言。僕の一言でその場が沈黙する。
冷たい空気に嫌な視線。密室であるはずのこの部屋のあちこちから、見つめられているような気さえする。
いや、部屋の中じゃない。
外だ。
その瞬間、僕目掛けて何かが飛んでくる。何かが。何かが。
そう意識した時には遅かった。
僕の左腕には小さなナイフが刺さっており、痛みを感じない、なんてことは無く。
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:09:44.54 ID:t/LjLsSR0
- (; ω )「ア゛アァァァァァ!!!」
血が、血が流れている。
(;'A`)「ヒィッ!?」
(`・ω・´)「…………」
悲鳴を上げるだけのドクオとは違い、即座に警戒の姿勢を見せ付けるシャキン。
僕は急いで左腕からナイフを引き抜き投げ捨てる。
(`・ω・´)「止血を。それと、早くここから離れた方がいいみたいですね」
(; ω )「助かるお……」
淡々と事を進めようとするシャキンにドクオが噛み付く。
(#'A`)「何言ってんだ! 何処に離れるってんだよ! ここからは出られねぇ!」
ドクオが喚き散らす。
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:10:17.25 ID:t/LjLsSR0
- (#'A`)「アンタも何を下手に出てるんだ! おかしいだろ、理不尽だろ!」
(`・ω・´)「……肩を貸します。ついて来てください」
ドクオの言葉など耳に入らないのか、気にする素振りすら見せずに肩を組むと
鍵の掛かった大きな扉の前に向かっていった。
何事もなかったかのように部屋に入っては鍵を閉めた彼のことだから
また同じように、いとも簡単に開けてしまうのだろう。
そう思っていた。
(`・ω・´)「内藤様をお願いします」
('A`)「……え?」
衝撃が走る。
凄まじい轟音が耳の奥に嫌と言うほど突き刺さる。耳を塞ぎたいがそれ以上に腕が痛んだ。
シャキンが、扉を押している。
両手を伸ばし、歯を食いしばり、その表情は先ほどまでとは比べ物にならないほど歪んでいた。
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:11:25.58 ID:t/LjLsSR0
- (;'A`)「へ? ええ?」
しかし扉はピクリとも動かない。
開く気配の無い扉を見ると、シャキンは諦めたかのように力を抜き
こちらに振り向く。
(`・ω・´)「えっと、ダメでした」
(;'A`)「…………」
ダメだったそうだ。残念。
(`・ω・´)「何か方法を考えないと……」
そんなシャキンの態度に痺れを切らしたのか、ドクオがまたも吼えた。
(#'A`)「……何で入ってきて、出られねぇんだよ!」
- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:12:07.63 ID:t/LjLsSR0
- (`・ω・´)「……そうは言われましても」
シャキンの胸倉を掴み詰め寄るドクオ。
一方、僕はと言えばドクオにその場に座らされた後、自分の持っていたタオルで止血していた。
てっきり、止血してくれるものだと思っていたのだが、そうでもないらしい。
(`・ω・´)「とにかく、今はここから出ることが出来ません。それは紛れもない事実」
(`・ω・´)「ですので脱出は諦め、その上で手段を考えましょう」
尚も淡々とことを進めようとするシャキンに、ドクオが噛み付く。
無知が如何に罪か。
ドクオを見て、僕はそんなことを考えていた。
(`・ω・´)「どうしますか?」
(#'A`)「……アンタなぁ」
気付けドクオ。
お前、殺される。
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:12:50.79 ID:t/LjLsSR0
- (;^ω^)「どっちでもいいお、ちょっと手伝ってくれお」
僕は破り引き裂いたシャツの肩から下を、差し出す。
部分的に血が付着してはいるものの、出血しているほうと比べれば、比較的乾いている。
止血には充分だろう。
(;^ω^)「傷口に巻いて貰えるかお。片手じゃ出来ないんだお」
ドクオには感謝してもらいたい。
しかし、それをシャキンの前で言うことは出来なかった。
(`・ω・´)「でしたら私が……」
そう言うとシャキンは慣れた手つきで僕の腕に布の切れ端を巻きつけていく。
('A`)「……何にしたって、このままここから出られないんじゃどうしようもない」
ドクオはそう言ってまた、部屋の真ん中にあるソファに深く座り込んでしまった。
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:13:45.88 ID:t/LjLsSR0
- 彼の言い分もよく分かる。
しかし、どうしようもない。今彼が駄々をこねたところで何一つ変わりはしない。
( ^ω^)「ありがとお」
シャキンの一つ礼を言うと、僕は立ち上がりドクオのほうへと向かっていく。
( ^ω^)「ドクオ」
僕は出来る限りの小声でドクオに話しかける。
それに気付いたドクオも、僕が確認出来る程度の反応で頷く。
( ^ω^)「これが最後だお。お前は“黙っておけ”お」
そう言って僕はドクオから離れ、またシャキンの元へと向かっていく。
ドクオは訳の分からないような顔をしていたが、今はそれでもいい。
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:14:32.34 ID:t/LjLsSR0
- (`・ω・´)「どうしますか?」
( ^ω^)「どうするも何も、まずはここから出るしかないお」
(`・ω・´)「そうですか」
シャキンは立ち上がり、一度ドクオを見据えると壁に向かって歩き始めた。
そこには何も無い。
そのはずだったのに。
(`・ω・´)「では行きましょう」
そこには一つの扉があった。
おかしい。絶対におかしい。今まで気付かなかったとでも言わせるつもりなのか。
(`・ω・´)「さぁ」
両手を広げ、微笑。
そしてシャキンは僕たちに向かってこう言った。
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:15:06.77 ID:t/LjLsSR0
- (`・ω・´)「己の渇きを潤すために、己の過去を断ち切るために」
(`・ω・´)「欲のままに動き、考え、陥れよ」
(`・ω・´)「それは夢であり、虹である」
「当方、虹の城」
「思う存分、虹を堪能して頂きたい」
僕は、僕の意志のままに、扉の向こうへと足を踏み入れた。
それが全て決められていたことであったとしても。
僕は。僕の意志で。
少なくとも、今だけは。