-VIP産小説保管庫-

( ´ω`)枯れて('A`)苦悩し虹を探して生き抜くようです:9

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:15:19.19 ID:kM9+DbKX0
 -9- Syobon


ソファの上の男は呟いた。決めた、と。


( ^ω^)「クーを追いかけるお」


先輩と呼び慕っていた存在との決別の証に、その名で呼び捨てた。

誰も聞いていないその空間で、彼は決意をしたのだ。
あの人よりも先に、虹を捕まえると。

その瞬間、目の前に扉が現れた。


(;^ω^)「誰か……来るのかお」


僕に、自らの意思で扉を生み出すことは出来ない。
つまりは他の誰かによってそれは用意され、いままさにこちらへと向かっているということだ。

息を呑み、何らかのアクションを待つ。
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:17:26.32 ID:kM9+DbKX0
体の節々が痛み、ソファは僕が立ち上がることを許さない。


(;^ω^)「……こんなんで兄者が来たら終わりだお」


静寂が訪れる。

扉を食い入るように見つめ待つが、誰も扉から出てこない。
不審に思い、立ち上がって扉のドアノブに手を伸ばす。


(;^ω^)「どうなってるんだお?」


開くがそこには誰もいなかった。
扉の奥には、似てはいるもののこれまでとは違った空間が広がっていた。


( ^ω^)「……第三、第四の部屋は無いんじゃなかったのかお」


シャキンの言葉を思い出し、不意に口から愚痴が漏れる。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:20:32.51 ID:kM9+DbKX0
( ^ω^)「さっきまでの部屋とは何が違うんだお……?」


パーティでも開けるような大部屋から個室に代わっただけだったが、
しかしそこには生活感のようなものを感じる。


(;^ω^)「でもリッチだお」


中身が半分ほど残ったティーカップに、ふっくらとした掛け布団。
キッチン台にはトーストでも食べたのであろう、パンのカスがついた皿が置いてある。

住人は至って規則的な、かつ清潔に日々を過ごしていたのだろうと思った。


( ^ω^)「僕にここで暮らせとでも言うのかお?」


否定的な言葉を口にしてみても、今では先程までの緊張感が嘘のように心は穏やかで、
極めて自然な流れで椅子に座ろうと椅子を引き、背もたれに体を預けた。

まるで自宅で寛いでいるかのような安心感に、少し焦る。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:22:49.55 ID:kM9+DbKX0
(;^ω^)「何なんだお。これはこれで逆に困るお」


決意をしたばかりの心が揺らいでしまう。
こんなところに住めたら、どれだけ有意義な一生を過ごせるのだろう、と。


(;^ω^)「……お?」


悪くないかもしれない。

素直にそう思った自分を否定する自分がどこにも居ないことに僕は気付く。
そして否定する必要も無いだろうと結論づいた。


( ^ω^)「お腹が空いたお」


設置された冷蔵庫を開けると、ちょうど今食べたかった品が置かれていた。


( ^ω^)「うはwwwピザwwwwwww」
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:25:12.17 ID:kM9+DbKX0
そしてどうやら温かい。

今、どこからそれを取り出したのか、そんな違和感にさえ僕は気付かない。
その一瞬、僕はその異質な一室に魅せられていた。


( ^ω^)「決めたお。ここで暮らすお」

( ^ω^)「僕に足りないものは情熱でも思想でも速さでもなく、潤いだお」


グッと拳を作っては、一人で力説する。


( ^ω^)「こんなところで可愛いおにゃのこと一緒に……。そうだお。ツンと一緒に」

( ^ω^)「あれ」


ゆっくりと目を見開き、自らの鼓動に耳を傾けた。


( ^ω^)「ツ……ン?」
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:28:18.86 ID:kM9+DbKX0
(;゚ω゚)「……ッ!」


勢いよく立ち上がり、自分の口に押込められた、収まりきらない大皿を壁に投げつけた。

続いて自らの足を痛めない程度に椅子を蹴飛ばし、
何かから逃げるようにして壁に背中をピタリと引っ付け動きを止める。


(;゚ω゚)「ツンは!? ツンはどうしたお!?」


頭を振り回し、顔に手を当て頬を力強く撫でる。


(;゚ω゚)「僕は今、何をしていたんだお……?」


辺りを見渡すが、出口はどこにも無い。

そんなこと僕にだって分かっていたはずだったが、それでも探さずにはいられなかった。
走り回るには決して広くないその一室を僕は走り回る。


(;゚ω゚)「ダメだお、目を覚ませお。この部屋はダメだお。居ちゃいけないお」
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:30:19.33 ID:kM9+DbKX0
目を覚ましたときに、ようやく理解した。
今更、まさかとも思わない。やはりと言うべきか。この部屋は。


(; ω )「使用人の部屋、かお……」


気を抜けば心を奪われる。
その部屋の、その虹の魅力に取り付かれてしまう。

それが使用人の部屋。


(;^ω^)「あれ、でもここにいれば虹が手に入ったことになるんじゃないかお?」


おもむろに、そんなことを思いつく。
言葉の通りこの部屋にいれば僕の目的は達成されたことになるのではないか。


( ^ω^)「取り付かれるのと手に入れる、その程度の違いだお」


しかし、もとより求めていた虹に取り付かれるのなら問題ないだろう。
むしろ欲しいものに、虹に近づいてはいけないというのも可笑しな話だ。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:32:50.96 ID:kM9+DbKX0
少しでも気を許せば、そんな心地良いうたい文句が頭に流れ込む。
それは魅力的ですぐにでも手を伸ばしたくなるような。


(; ω )「だからッ……そうじゃない……それじゃダメだお」


ただひたすらに想うは、愛しの女性。
今の僕を保たせているのは唯一つ、ツンデレという存在だけだった。


(; ω )「……聞いてるか、内藤」


夢と現実の狭間を幾度と無く行き来し、また心をすり減らしていく。

そんな中で僕は、少しずつツンデレではなくクーのことを思い出していた。
彼女の言葉はどれも、心に残って離れない。

しかし、知ってしまった。
それらがどれもこれも、クーの言葉ではないことを。


(; ω )「聞いてるか、内藤。虹とはつまり、空想だ」
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:35:22.97 ID:kM9+DbKX0
「これで侵入者の方は問題ないとして、次は来賓か。これはまた厄介な」


モニター越しに手を翳しそしてまた違うモニターに目をやると
元々垂れ気味の眉毛が、余計に強調される。


「実に困った。こうなると一番危険なのは僕だな」


綺麗な姿勢を『保つのではなく、保たせる』ような固い椅子。
それから立ち上がると、屈伸などの柔軟運動を始め、その部屋を後にする。


無意識のうちに作っていた笑顔。それを他の誰かに見られていないか、
なんてことを他に誰も居ないその部屋で確認してはまた急いで歩き始めた。


「虹とはつまり、空想だ」


彼はそう呟くともう一度、笑みを浮かべる。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:37:06.92 ID:kM9+DbKX0
(´・ω・`)「己の渇きを潤すために、己の過去を断ち切るために」

(´・ω・`)「両手に抱えた夢と虹」

(´・ω・`)「虹の城は、確かに存在する」


「……つまり。結局、最後に頼れるのは自分しかいないってことだね」

「実に一年ぶりだ」



そう言って彼は、手を突き出して靡かせる。
ゆっくりと現れた扉の向こうに姿を消してしまった。