-VIP産小説保管庫-

( ´ω`)枯れて('A`)苦悩し虹を探して生き抜くようです:4

78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:46:34.49 ID:t/LjLsSR0
 -4- Anija


僕が城内の一室に閉じ込められてから丸一日が経ち、二日目に差し掛かろうとしていた。
依然として脱出の手立てはなく、また目的に辿り着けそうにもない。


(; ω )「次の部屋には……どうやって行けばいいんだお」


クーと別れて既に数時間が経過している。
その間、ずっと同じ部屋で手を拱いてることしか出来ずにいた。


(; ω )「ハインは言ったお、確かに言ったお。もうすぐそこだって」

(; ω )「なのに……なのに」


もう壊せるものは何も無い。
部屋にあった花瓶は全て割ってしまった上、テーブルすらもひっくり返って足が折れてしまっている。


(# ω )「どうすりゃいいんだお!」


唯一、残っているソファに倒れこむとジタバタと暴れる。
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:47:57.16 ID:t/LjLsSR0
暴れているうちに、ソファから転げ落ちてしまう。
そこで一枚の紙に気づいた。


(# ω )「またこれかお!」


前に見たものと同じような、子供の落書き。
画用紙に移っているのはおそらく女の子だった。しかし、描かれた誰かを推測することは出来ない。


( ^ω^)「……こんなもの、さっきまであったかお?」


乱雑に描かれたその人物の頭部であろう部分は力強く黄色で塗られており
首から下はまるで適当、と言った具合だ。

そもそも、塗られてすらいない。


その絵に触ると、クレヨン塗りの独特な肌触りがした。
しかし手に付着はしていない。描かれてから時間が経過しているのだろう、と思った。


( ^ω^)「……城には子供まで住んでんのかお」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:49:11.67 ID:t/LjLsSR0
その画用紙を破り捨て、また立ち上がる。
立ち上がったところで何が出来るわけでもない。それも分かった上で。


( ´_ゝ`)「なぁ、お前。夢って好きか?」


突然の問いかけに、勢いよく振り返るとすぐそこに一人の男がいた。
長身でスーツ姿のその男を見た瞬間、直感で使用人であることが分かる。


( ^ω^)「誰だお……?」

( ´_ゝ`)「どいつもこいつも冷めてんのな。急に現れたんだぜ? キャーキャー言うだろ普通。女の子なら特に。常識的に考えて」


質問には答えようともせず、悪態をつく男。


( ´_ゝ`)「何ていうのかな。簡単な話が、俺がお前の担当になった」

( ^ω^)「……担当?」

( ´_ゝ`)「兄者だ。よろしく」


相変わらず質問には何一つとして答えない。
それどころか、頭を掻きながら首を回し腕を回し。準備運動を始めた。
81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:50:23.52 ID:t/LjLsSR0
( ´_ゝ`)「そんじゃ、早いトコ済ませるか」

( ^ω^)「……何を?」


兄者が地を蹴り、飛び上がる。
空中で右足を突き出し僕の腹部に狙いを定める。突然のことに反応が遅れる。


( ´_ゝ`)「虹が見たいんだろ?」


咄嗟に防ごうと利き腕である右腕を伸ばしてしまった。

中途半端に晒された右腕は、指を数本掠めるだけ。
兄者の蹴りは、ロクに鍛えられていない弛んだ腹直筋に食い込んだ。


(; ω )「――ッ!!」


あまりの苦しさに、声が出ない。


( ´_ゝ`)「やる気あんのか?」
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:51:49.70 ID:t/LjLsSR0
やる気も何も、訳が分からない。

兄者は溜め息をつきながら、腹部を押さえながら倒れこむ僕を蹴飛ばしてくる。
腹部を隠しているため、背中から頭部まで好きなだけやられ放題だ。


(; ω )「ウ……ァ」


ゆっくりとだが、立ち上がろうと手足に力を込める。
しかしそれを許すまいとして兄者は髪を掴み上げ、顔を近づけ囁いた。


( ´_ゝ`)「覚悟して、ここに着たんだろ?」

(; ω )「ォ……前は……」

( ´_ゝ`)「何?」


兄者の足を掴む。

持てる限りの力で兄者のアキレス腱に指で力を込めるが、
ただ力なくしがみついているだけに過ぎなかった。


( ´_ゝ`)「何それ」
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:53:52.84 ID:t/LjLsSR0
兄者は自らの足と、それに絡んだ僕の腕を指差して訪ねてくる。
僕も返事をするが、立っているの兄者と足元に座り込むの距離ですら聞き取らないほど小さな声だ。


( ´_ゝ`)「ん? どうした。聞こえないな」


しゃがみ込んで、こちらの顔を覗き込もうとに兄者が頭を下げた。

もう一度口を開いて、言葉を伝えようとする。
しかしどうやら伝わっていない。


(; ω )「…………」


それもそうだろう。
何も言っていないのだから。


(* ω )「ウ・ソ☆」


それを聞いた兄者が目を見開いてすぐさま後退しようと飛び跳ねた瞬間、
掴んでいたその右足を一気に引っ張り、態勢を崩す。

仰向けに、背中から思い切り床に叩きつけられる形になり、兄者が悪態をつく。
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:54:55.91 ID:t/LjLsSR0
そして馬乗りの状態で兄者を捉えた。


( ^ω^)「兄者って言ったかお。さっきのは効いたお」

( ´_ゝ`)「……猫騙しだな」

( ^ω^)「それならお前は猫以下だお」


拳を振り上げる。
兄者は抵抗することなく、その振り上げ、振り下ろした拳を顔面で受けた。
繰り返し、何度も殴りつける。


( ´_ゝ`)「…………」


兄者は言葉一つ漏らすことなく、殴られ続けている。


( ´_ゝ`)「……もう、いいか?」


ついに兄者が立ち上がる。
上体に座っていた僕を突き飛ばし、何事もなかったかのように。
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 21:56:39.76 ID:t/LjLsSR0
先ほどと同じように、首を回して。
全ては準備運動と言わんばかりの表情でこちらを見据えてくる。
その証拠に、彼の顔には傷一つ付いておらず、殴られたであろう痕もなかったのだ。


(;^ω^)「……もう訳分かんねぇお。使用人ってのはどうなってんだお。絶対無敵の不老不死みたいなのは勘弁して欲しいお」


こちらの問いに、初めて兄者が答えた。


( ´_ゝ`)「まぁ、確かに間違ってはいないな。でも俺は確実に死んでるよ」

( ^ω^)「それはどういう……」


言い終える前に兄者は再度、蹴りを入れてくる。
しかし今度は、両腕でしっかりと足を掴み、防いだ。


(;^ω^)「まぁ、どうってことないお」

( ´_ゝ`)「だろうな」


痩せ我慢で言ってはみたものの、たった一発の蹴りが、とても大きい。
掴んだ両手は痺れが取れない上、ここから攻撃に展開させる術が見つからない。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 22:01:11.88 ID:t/LjLsSR0
( ´_ゝ`)「急ぐ必要も無いんだが……。何分、久し振りなもので昂ぶりが抑えられん」


気付いたときには右ストレートが頬に入っているだとか、
左フックで腹を抉られているとか、痛みに思考が追いつかない。完璧に兄者のペースだった。


(; ω )「……ゥ……」


打つ手が無い。元より対抗する術などなかったが。


( ´_ゝ`)「なんだっけ? ……あぁ、アレだ」

(; ω )「何だお」

( ´_ゝ`)「ウ・ソ☆とかないのか? もう本当に終わりか?」


その言葉に、少しだけほくそ笑んでやる。
すると兄者の冷め切った表情がパッと明るくなる。何を期待しているのだろうか。


(; ω )「ウソだお。何もねーお。バーカ」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 22:01:43.06 ID:t/LjLsSR0
吐き捨てるように発したその言葉と、兄者の表情が暗くなるのは同時だった。
そして、そんな言葉を飲み込むほどの轟音と足場の揺れに、意識は全て集められていた。


(;^ω^)「何だお!?」

(;´_ゝ`)「おいおい、いくらなんでも早すぎるだろう。もう最上階に辿り着いたってのか……?」


直に揺れは収まっていったが、ただ突っ立っていることしか出来ずにいた。

一方の兄者は先ほどまでの余裕は消え、余程焦っているのであろう、
独り言をブツブツとひたすらに唱えていた。


(;^ω^)「どうしたお」

(;´_ゝ`)「あぁ? ……あぁ、そうだ。早く行かないと」


何を納得したのか、問いかけると我に返ったように慌てて部屋の壁に向かい、そして扉を出現させる。
それまでの流れがとても自然だった。


(;´_ゝ`)「今は急ぐのでな。また来る」
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 22:05:14.43 ID:t/LjLsSR0
そう言い残して兄者は扉の向こうへと走り去ってしまう。
閉まる扉の僅かな透き間から、扉の向こうを覗いて僕は絶句した。

部屋中が炎上しており、おそらく使用人でなければ入って行こうとは思えないほどの惨事だった。


(;^ω^)「助かったのかお?

(;^ω^)「……でもまた置いていかれたお」


とは言え、ついていったところで何が出来ただろう。
ボヤキながら、倒れたソファを起こしその上に弱弱しく倒れこみ、不貞寝をする。

そうしてまた、一日が過ぎるのを待った。


( ーωー)「……何処に行ってしまったんだお、ツン」


目を閉じ、他に誰もいないこの大広間で。
誰にも聞こえない程の小さな声で、そう呟いた。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 22:05:45.62 ID:t/LjLsSR0
(;´_ゝ`)「厄介なことになったな……」


ゆっくりと歩みを進めながら、そう呟いた。

少しして兄者の動きがピタリと止まる。
いくつか予想していたうちの、最悪を見つけてしまったのだ。


( ´_ゝ`)「……そうか、お前が」


部屋中に火花が飛び、燃え盛った炎が行く手を阻む。とても歩けるような状態ではない筈だった。
しかし兄者は微塵も臆すことなく目標へと向かっていく。

立ち止まるその足下には、小汚い格好をしたシャキンが。

しかし、動かない。


( ´_ゝ`)「とうとう、死んじまったな。気分はどうだ。どんな感じだ?」


しゃがみこんだ兄者の表情が歪む。
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 22:06:17.54 ID:t/LjLsSR0
兄者と同じ、使用人で統一されたタキシードを身に着けていた筈のシャキンが、
複数個所の破けた、小汚い一般的な男性用スーツを身にまとっていた。


( ´_ゝ`)「……いいさ」


スーツには至るところに本人の血が付着して出来た染みがある。
染みには最近ついてであろう湿ったものから
いくら洗濯したところで到底落ちそうにない程に固まった、相当の時間が経過したものまでと色々だった。

勢いよく炎上した室内には、煙が存在しない。


( ´_ゝ`)「あとは俺と弟者に任せてもらおう」


兄者は立ち上がると、足早に近くの壁に向かい右手を翳す。
何かから逃げるように手早く扉を作り上げると、一度も振り向くことなく立ち去ってしまう。


シャキンの体が少しずつ虹色の粒子となって浮き上がり、それぞれが寄り、そして離れていく。
その一つひとつがさらに細かく散り、また離れる。

そして、消えてしまった。
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/02/19(火) 22:06:48.81 ID:t/LjLsSR0
( ´_ゝ`)「両手に抱えた夢と虹」

( ´_ゝ`)「溢して落として離れたそれは、二度と手元に戻ることはなく」

( ´_ゝ`)「その末路は……」


「…………」



軋みながらゆっくりと閉まっていく扉。
その陰で、一瞬だけ振り向いた兄者の頬には涙が伝っていた。

閉まると同時に、扉はその姿を消す。
先ほどまで轟々と燃え盛っていた炎は、微小にも灯っていない。


「――――」


部屋には何も残らない。