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( ^ω^)ブーンと鋼鉄の城と樹木の民のようです:『第五章 争いの鼓動は更に昂ぶりを見せる』
- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/06/21(木) 00:11:22.97 ID:iorhEreD0
- 『第五章 争いの鼓動は更に昂ぶりを見せる』
1
( ,,゚Д゚)「……ほう、新任早々蛮勇を奮うか。随分血気が盛んなことじゃないか」
兵士の波を掻き分けて、ギコはその中心に足を踏み入れる。
先程と同様に軽装だった。
装飾のない肩当と胸甲、そして手甲を右手に纏うのみだ。
そして、体躯もそれほど大きくは無い。
ドクオよりも一回り逞しい程である。
('A`♯)「……前にも言ったが、おたくらの兵士の教育はどうなってるんだ?
なあ? 中将さんよ」
( ,,゚Д゚)「フン……万を超える数だ。目に行き届かないのが現状だ。
だが不満も無理はない。こんな餓鬼が上官になったのだからな」
('A`♯)「さっきから餓鬼餓鬼うるさいぜ、おっさん。
悪いが俺の民族では15はもう大人の齢だ。
それに、確かにアンタより若いかもしれんが、こいつらの100倍は死線を潜り抜けてきたんだ」
ギコの言葉に対して、ドクオは悪びれる事も無く悪態をついた。
悉くドクオが噛み付くのには訳があった。
皮肉の篭ったギコの言葉に、苛立ちを覚えていたこともあったのだが、
('A`♯)(くぅううう……このイケメンめ……俺達毒男にとってイケメンは人類の敵だ。
決めたぞ……この軍から抹殺してやる)
このような極自分勝手な私怨もあったからである。
- 4 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:14:01.43 ID:iorhEreD0
- ('A`)(……だが、奴は)
紛れも無く、強い。
会議室で一目見ただけでドクオは解っていた。
証拠に、ギコ自身から溢れ出す闘気は本来以上に彼の身体を大きく見せている。
一万の兵を束ねる立場だけのことはあった。
( ,,゚Д゚)「では、今度は俺が稽古を付けてやるってのはどうだ?
軍の中将たる者が、部下の実力を知らんというわけにもいかんのではな。
特に、前触れもなく大佐級の立場に立った者の、な」
('A`♯)「俺をご指名かい中将さんよお。
よし……乗ったぜ。だが、稽古を付けられるってのは納得いかんな。
これは同等の立場での、決闘だ」
( ,,゚Д゚)「小童のくせに一端に言うぜ。……面白い、その上官に対する礼儀と、
その捻じ曲がった根性を叩きなおしてやろう」
('A`♯)「決まりだ。……丁度いい、次の修行の相手も見つからず退屈していた頃だ」
だが、ドクオは怯むことは無かった。
なぜならば、ドクオは更に強い人間を目の当たりにしていたからである。
そうだ、あの忌々しい、己の父親だ。
奴に勝つためには、この目前の人間を倒せる腕でなければいけない。
この国に辿り着いてようやく見つけた、この二人目の修行相手を。
川;゚ -゚)「ちょっと待て、ドクオ!!
いくらお前が強いからとは言っても中将は……」
- 5 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:15:55.13 ID:iorhEreD0
- これに焦ったのはスオナだ。
将官と佐官同士の真剣勝負。
軽い形式の訓練で互いの武器を交えることはあれど、決闘などは類を見ない。
それを堂々とドクオは提案してのけたのである。
('A`♯)「心配いらん。俺はもっと強い奴と戦った事がある。」
川;゚ -゚)「いいや、そういう問題ではない!!
先程は止めなかったが、今回は冗談ではすまされんぞ!!
直ぐに中将に頭を下げて、非礼を詫びr」
( ,,゚Д゚)「構わんさ、スオナ大佐。それに部下とのコミュニケーションってのも大事だからな」
川;゚ -゚)「しかし、中s」
( ,,゚Д゚)「スオナよ、俺が構わん、と言っているんだ。
これは命令だ。そして、あくまで『訓練』中の『模擬試合』だ。
そこまで小難しく考えることはないだろう」
川;゚ -゚)「……はい」
最初はドクオを制しようと必死であったが、
最終的にギコに押し切られる形で、スオナは進言を諦めた。
上官の命令は絶対だ。
それは軍に身を置くスオナ自身がはっきりと理解している。
( ,,゚Д゚)「じゃあ、決定だな。
……おい、誰か俺の武器を持ってこい」
- 6 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:18:04.62 ID:iorhEreD0
- こうして二つに裂かれた人山は閉じられ、再び即席の試合場は出来上がった。
しかし、出来上がった試合場の円は先程よりもさらに拡がっていた。
先程の直径は十五メートルほどであったのに対して、今はその三倍以上の、五十メートルもある。
皆が皆、これから起こる戦いの激しさを予想できたのか、自然とその中心から離れたのだ。
立会人をスオナとし、ギコとドクオは対峙する。
だが、余程心配なのかスオナはドクオの傍に寄ると、思わず助言を漏らした。
川;゚ -゚)「……気をつけろよ。」
('A`)「ん? 何が?」
川;゚ -゚)「何が、じゃない。仕方ない、はっきりと言っておこう。
ギコ中将は強いぞ……私よりも、だ。
しかも、この広さではお前の風も存分に振るえない」
確かにスオナの言うとおりだった。
まず、ギコの強さは彼女が身を以って知っている。
過去に訓練で何度か手合わせをした事があるが、一度も勝てた事がなかったほどだ。
そして、何より試合場の広さだ。
先日スオナと戦った荒野と違い、今回は数十メートル先で兵士達が行く手を遮っている。
これでは前の戦いのように存分に能力を使えないのではないかと、スオナは心配したのだ。
('A`)「大丈夫だ。前みたいに竜巻は起こさないさ。
こんな所で使ったら、兵士と訓練場の屋根が吹っ飛ぶだろ?
それに、接近戦なら接近戦用の戦い方をちゃんと考えてある」
だが、ドクオはスオナの杞憂を他所に、堂々と前に足を進めてゆく。
- 7 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:20:12.76 ID:iorhEreD0
- ( ,,゚Д゚)「……どうした? 作戦会議は終わったのか?」
('A`)(……これは?)
既に準備を終えたのか、ギコは試合場の中心に立ち、素振りを行っていた。
だが、直ぐにドクオは彼の顔から視線を反らす。
代わりに、その向かう先は……
('A`)(……成程、厄介な武器を使う)
ギコの手元、もとい、彼が握っているものであった。
恐らく二メートルの長さはあるだろうか。
ギコが兵士に運ばせた武器は両端の先だけ削り尖らせた双頭棍であった。
さらに驚くべきは、柄の部分から穂先に掛けて全てが鋼鉄で出来ていたのである。
一度城内で、鋼鉄の剣を持たせてもらったがかなり重いものであった。
剣であれだけの重さだ。
あれほどの棍であれば、相当扱い辛いだろう。
だが、ギコを見る限り、辛そうな表情も見せずに軽々と扱っている。
('A`)「……いや、別に。ただアイツが心配しているだけのことだ」
( ,,゚Д゚)「……そうか」
その様子を眈々と眺めながら、ドクオは言った。
対して、相手の準備が出来たことを悟ったギコは、棍の底を地に立ててドクオを見据えた。
- 8 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:22:04.44 ID:iorhEreD0
- だが、ドクオには気に掛かることがあった。
('A`)「アンタ、『銃』とやらは使わないのか?
それに棍とは変わっているな。
殺傷力を考えるならば、槍の方が効率がいいはずだ。
……余程俺を嘗めているのか?」
ドクオの言うように、戦いにおいては穂先に刃のある槍の方が有用である。
槍であれば急所を上手く一突きすれば、一撃で敵を仕留められるのに対して、
刃の無い棍の威力は精々重い打撃を与える程で、敵を殺傷する意味では幾分劣る。
そこで、ドクオはギコの油断を疑ったのだ。
( ,,゚Д゚)「銃は元々使わん。あんなものに頼るのは邪道だ。
それに、決して手を抜いているわけでもない。これが俺にとってのベストだ」
しかし、ギコはきっぱりとそれを否定した。
成程、よほど棒術に長けていると見えた。
戦況を判断し、銃と剣、炸裂弾など様々な武器を駆使しながら戦うスオナとはまさに正反対である。
('A`)「……ならいい。アンタが本気を出さないまま倒しちまったら、
悔やみに悔やみきれないだろうからな」
( ,,゚Д゚)「……そっちこそ本気で来い。噂に聞く奇妙な能力とやらも使え。
でなければ、最悪、命を落とすことになる」
('A`♯)「上等だ」
- 9 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:24:08.82 ID:iorhEreD0
- 川;゚ -゚)「……では尋常に……始めッ!!」
('A`)「……」
( ,,゚Д゚)「……」
ドクオは爪を前に出し、両足を肩幅ほどに広げ、構えを取った。
本気の構えであった。
彼の本能がギコに能力を振るえ、と言っているのである。
挑発を重ねることは止めなかったが、ドクオは相手の実力を充分認めていた。
そして、反対側にギコも構えを見せていた。
両手で前後に棍を握り、左肩と左足を前に出す基本的な構えだ。
だが、寸分の隙もない。
どの位置から踏み込もうが、棍で追撃されるイメージしか沸かないのだ。
('A`)(普通に突っ込んだら追撃されるよな……マンドクセ)
戦いの開始を告げられたにも関わらず、両者は動かない。
いや、ことドクオに関しては動けないのだ。
それはリーチの差のせいである。
ドクオの爪は三十センチほどの長さで、超接近戦においてその効果を発揮する。
だが、一方でギコの棍は、腕の長さを合わせれば三メートル近くにもなる。
致命的な距離であった。
攻撃を当てる為にはあの棍を掻い潜り、懐まで飛び込まなければいけない。
( ,,゚Д゚)「……どうした? 怖気づいたのか?」
- 11 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:28:11.70 ID:iorhEreD0
- 恐らくギコは簡単に間合いには入れてくれないであろう。
棍はその見た目の大きさと反比例して、最も攻撃が疾い武器だ。
一度勢いを付けて振り回してしまえば、その閃速は軽量な小剣をも遥か凌駕する。
しかも、両端を使って攻撃が可能な為、振りから振りの型に転じるような、
剣斧等の他の武器と比べて動作のモーションが少なくて済むのだ。
ドクオは無言の攻防の中で、瞬時に相手の実力を読み取っていた。
どうやら最高に相性が悪い武器のようである。
('A`)「……普通の武器なら、な」
と、ドクオは口元に笑みを浮かべた。
彼の表情からは不利を読み取る事が出来ない。
その程度の差など問題ではないのだ。
ドクオは思考を終えると、瞬時に眼光を鋭く豹変させ、
(♯`A')「擬獣『嵐鷲』ッ!!」
高らかに叫ぶ。
ドクオの太腿が、膨張を見せた。
同時に、地を思い切り蹴る。
跳ねるようにさらに背後へと飛び、思い切り両腕を振り落とす。
大気を切るような音が漏れ、ドクオの周囲で風が弾けた。
(♯`A')「喰らいやがれッ!!」
ドクオが飛ばしたのは、あの疾風の刃であった。
- 15 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:30:26.80 ID:iorhEreD0
- そうだ、爪という武器の短所を補う特性こそ、この大気の流れを操る能力。
相手がどのような武器を用いようと、全く影響はない。
二筋の風刃は、地を抉りながら疾った。
狙うは、ギコの首と胴体だ。
防御は不可能に近い。
強固な鋼鉄ですら引き裂くのだ。
だが、ギコは避けようとはしない。
むしろ、棍をさらに強く握り前方へと据え、衝突の時を待ち受ける。
ギコの肌は、大気の流れを感じ取った。
刃との距離は徐々に縮まる。
そして――
(♯,,゚Д゚)「――破ッ!!」
迸る、怒涛。
ギコは己の身体を守るかの如く、棍を激しく回転させた。
渦巻と鋼鉄の壁を作り出し、攻撃を相殺したのである。
風の刃は弾けるようにして形を失い、周りの空気と混ざり合い、
ギコを避けるようにして背後へと走り抜けてゆく。
( ,,゚Д゚)「ふむ、これが噂に訊いた風の刃か……いい微風だな」
風が落ち着きを取り戻すと、ギコは再び棍を地に据え、堂々と言い放つ。
初見の攻撃にも関わらず動揺の色は全く伺えなかった。
それどころか興味津々と言った様子で、攻撃の余韻を確かめる始末だ。
- 17 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:32:21.46 ID:iorhEreD0
- (;`A')「……嘘……だろ?」
その一方でドクオは驚きを隠せなかった。
当然のことだ。
何故なら、今までに真っ向から風の刃を撥ね退けた人間などいなかったのだから。
それも軽々と、である。
(;`A')(なんて奴だ。こうなったら、次のk)
( ,,゚Д゚)「では、次はこちらからゆく」
――と、
ドクオの思考を待たないまま、ギコは言葉と同時に動いた。
(;`A')「ッ!?」
地を縮める如き速さだ。
気が付けばギコの顔が直ぐ傍まであったのだ。
ドクオは殺気を察知し、急いで後方へと跳ぶ。
( ,,゚Д゚)「噴ッ!!」
(;`A')「うおッ!?」
首筋を棍閃が疾る。
ギコの猛烈の突きだ。
首を捻り、何とか直撃は免れた。
だが、後コンマ一秒反応が遅れていたら、喉を潰されていた。
- 19 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:34:48.74 ID:iorhEreD0
- 次は左だ。
標的の身体に吸い寄せられるかの如く棍は撓る。
ドクオの眼は辛うじて軌道を捉えた。
落ちるようにして屈み、これも回避する。
( ,,゚Д゚)「オオオオオオオオッ!!!」
だが、ギコは止まらなかった。
右から左へ。
上から下へ。
前から上へ。
まさに、変幻自在の攻撃であった。
継ぎ目のない、薙ぎ、突き、打ちの連続である。
しかも、無駄がない。
洗練された型に基づいた、綺麗な動きだ。
(♯`A')「くッ!! うおッ!!」
ドクオはそれを回避するだけで精一杯だった。
攻撃の筋は何とか捉えられるものの、爪で弾くには重すぎる。
真っ向から衝突すれば、弾き返されて隙が生じてしまう。
ギコの攻撃は、触れさえすれば間違いなく骨が砕かれる程の威力を有していた。
反撃の余地はない。
ギコに攻撃を当てるには少し、距離がある。
風の刃も発動させる余裕はない。
一瞬でも動きを緩めれば、命取りになるのだ。
- 20 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:36:46.53 ID:iorhEreD0
- ( ,,゚Д゚)「ちょこまかと小賢しいッ!!」
(♯`A')「くッ……当たってたまるかよ!!」
攻撃と回避の膠着状態は続いた。
互いの額には汗が滲み、その過酷さを物語っている。
(♯`A')(く……ようやく慣れてきたぜ)
間違いなくギコの攻撃は重く、早い。
スオナの剣筋の比ではない程だ。
だが、ドクオは確実に一撃一撃を避けていた。
あまりに動きが綺麗過ぎるのだ。
どの武器を用いるにしても、それぞれにはある程度決まった型がある。
ギコの攻撃もまた、それに当てはまっていた。
型というものは、種々の動作の無駄を極限まで削ぎ落としたもので、
どの流派においても応用として実際の攻めに盛り込まれる。
(♯`A')(……成程、こう来たか。では次は……やはり、な)
このように攻めて来たら、このように避ける。
このように避けてきたら、このように攻める。
達人や熟練者は、一連のこの動作を、瞬時に本能レベルで行っている。
ギコもまた然りだ。
- 23 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:38:49.56 ID:iorhEreD0
- 逆に言えば、その型の流れを把握さえすれば対策を立てることができる。
常人には、ギコほどの速度の攻撃に対してどういう形で来たかを意識的に判別出来ないが、
ドクオの人並み外れた動体視力は、この瞬間レベルの動作を一つ一つ捉えている為、
相手の攻撃パターンの分析を細部まで可能にしているのだ。
(♯`A')(動きは読めてきた。しかし、入り込む余地がないな。
遠くから攻撃しようにも、奴さんの間合いからは逃がしてくれないときた)
しかし、回避は幾分楽になったが、攻撃は難しい。
ギコに付け入る隙がないのだ。
逆に間合いから逃れようとしても、あの驚異的な速度に加え、
この試合場の狭さでは直ぐに追いつかれてしまう。
(♯,,゚Д゚)「オオオオオオオオッ!!!」
(♯`A')「ならば……」
ギコの次の攻撃が迫る中、判断すると同時にドクオは足を止めた。
そして、右腕の爪を頭上に向かって突き出す。
その先には、棍が唸りを上げて振り落とされていた。
ドクオは次の攻撃の軌道を読み、構えたのだ。
――そして、
(;,,゚Д゚)「ッ!?」
(;`A')「ぐうっ!?」
次の瞬間、棍は爪の隙間に挟まれていた。
強引にギコの攻撃を受け止めたのだ。
- 25 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:41:01.91 ID:iorhEreD0
- (;`A')(く……流石に重いな)
爪で一撃を受け止めたため骨を砕かれることは無かったが、鈍重な衝撃が右腕全体を疾った。
だが、これしきの事で止まる訳にはいかない。
肉を切らせて、骨を断つ。
右腕を犠牲にして、ギコの隙を生み出したのだ。
(♯`A')「ウ……ウオオオオオオオッ!!」
勢いに任せ、ドクオは飛び込んだ。
その距離、一メートル。
ようやく懐に飛び込むことが出来た。
これからが、爪の間合いだ。
( ,,゚Д゚)「くっ……」
ギコは慌てて棍を振るい直そうとした。
だが、棍は右爪に押さえられている。
それに、この至近距離。
もはや攻撃しようがない。
(♯`A')「喰らいやがれッ!!」
ドクオは残った左腕を振り上げた。
左爪が鈍く、光る。
狙いはギコの首元だ。
嵐鷲の鋭利な巨爪が、ギコに襲い掛かる――
- 27 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:43:24.17 ID:iorhEreD0
- (♯`A')「……ううっ」
( ,,゚Д゚)「フン」
だが、地に伏したのはドクオであった。
次の瞬間には兵士の壁を突き破り、仰向けに倒れていたのである。
( ,,゚Д゚)「……俺の棍をまともに受け止められたのは、これが二人目だ。
その勇気は褒めておこう。だが、少々詰めが甘かったようだな」
先程の位置にはギコが立っていた。
右足を高らかに伸ばした姿勢だ。
まさに、単純な攻撃であった。
間合いに入ってきたドクオを、回し蹴りで吹き飛ばしたのである。
(♯`A')「蹴り……だと?」
ドクオは何が衝突の瞬間、何が起こったのか理解できずにいた。
目と鼻の距離に迫るまで、予備動作すら見せなかったのだ。
零位置から放たれた蹴技。
見事なまでに脳天に直撃した。
( ,,゚Д゚)「ああ、痛いはずだ。幾年も鋼鉄を蹴り続け、鍛え上げた脚だからな。
……それに、お前は勘違いしている」
(♯`A')「何……だと?」
- 29 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:46:33.44 ID:iorhEreD0
- ( ,,゚Д゚)「俺の武器はこの棍ではない。こいつは唯の補助に過ぎん。
本当の武器は限界まで鍛え上げた俺の、この肉体だからな」
(♯`A')「……畜生」
完全に誤解していた。
この国の兵士の強みは、その強靭な鋼鉄製の武具にあると考えていたからだ。
だが、ここに例外が存在した。
鍛え上げられた己の肉体を武器にする、目の前の男。
周りの兵とは違う軽装も、頷ける。
ドクオは悟った。
決してこのギコという男は、棍一つで中将の地位にまで登りつめたわけではない。
その、人並み外れた体術そのものが畏怖すべき対象なのだ。
証拠に、先程の蹴りは今まで喰らった中で一、二を争う程に重いものであった。
(♯`A')「ぐ……糞ッ……」
だが、ドクオはなおも立ち上がろうとする。
視界が歪み、足元は覚束ない。
それでも、今の一撃を喰らって、意識があるのが不思議な位だ。
( ,,゚Д゚)「……俺の蹴りを喰らって、なお、立ち上がるか。
普通の人間ならばとうに気を失っているはずなんだがな」
(♯`A')「阿呆、簡単に……くたばって……たまるかよ。
俺には倒さなければ……いけない奴が……いるんでな。
お前如きに足踏み……していられるか」
- 31 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:48:40.38 ID:iorhEreD0
- ( ,,゚Д゚)「ほう……口だけは威勢が良いな。
だが、現に足元が危ういじゃあないか。
あと、一撃。
一撃だけ打ち込めば、お前は地に伏す」
(♯`A')「へっ、一撃叩き込めば……だがな。
ところで……そうだな、良い事を教えてやろうか。俺の能力に……ついてだ」
( ,,゚Д゚)「時間稼ぎか? 狡い奴だ。それとも、頭を強く打って気でも触れたのか?」
(♯`A')「いや、こいつは……ハンデだよ」
(♯,,゚Д゚)「……何だと?」
ドクオは満身創痍にも関わらず、小さく口元を歪めた。
今の一撃で致命的なダメージを負ったにも関わらず、その表情は余裕だった。
明らかに追い詰められているのは、ドクオだ。
だが、確かにドクオは敵に有利を与える、そう言い切った。
(♯`A')「俺の能力は、この嵐を呼び起こす大鷲の爪の力だ。
この爪を使って、大気を操り、風を巻き起こすと言うわけだ」
( ,,゚Д゚)「……ほう」
(♯`A')「だが、技を形にするには段階が必要でな。
一旦空気を圧縮して、その塊を爪で引き裂かなければならん。
要するに、思ったよりも隙が出来やすい能力で、遠距離戦に向いている」
- 34 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:50:41.51 ID:iorhEreD0
- 嘘は言ってなかった。
ドクオは風を操る際に一度爪先で大気を凝縮し、
それを切り裂くことで技を発動させているのだ。
証拠に、ギコが怒涛の連続攻撃でドクオを襲った時、技を放つ事はなかった。
( ,,゚Д゚)「ふむ、そういう原理なのか。やはり異国の民は面白い戦い方をする」
ギコはその場から動じないまま、ドクオの声に耳を傾けていた。
ドクオの意図は完全に掴み切れなかったが、まず、時間稼ぎであることは間違い無かった。
勿論揺らされた脳を回復させる為である。
しかし、ギコは直ぐに打ち据えることはしなかった。
一つは、今までに見た事の無いようなドクオの不思議な能力を知りたかったからだ。
屈強な兵達を混乱に陥れた、その力。
興味が無いといえば、嘘であった。
もう一つは、絶対の自信だ。
正直、まだギコは本気ではなかった。
今までは、ただ単純に棍を振り回していただけだ。
だが、彼の本当の持ち味はその強靭な肉体から繰り広げられる技の数々。
そして、棒術と体術を駆使した全局面対応の実践的な格闘術。
それを見せた時が、全力だ。
いくらドクオが小細工を弄しても、跳ね除ける自信があった。
だが――
(♯`A')「アンタは強い。俺に攻撃の隙を与えなかった程だ。でもな」
- 36 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:52:35.06 ID:iorhEreD0
- (♯`A')「……次に見せる技の、準備くらいは出来たぜ」
(;,,゚Д゚)「――ッ!?」
そこで漸くギコは気づいた。
周囲を取り巻く大気の、異変を。
彼の身体を覆い尽くす、重圧を。
(;,,゚Д゚)「これは……」
一面に浮かんでいたのは、圧縮された空気の塊だ。
それも、一個や二個ではない。
試合場を覆い尽くす程に無数に漂っていたのだ。
ギコの肉眼でもはっきりと、周りの空間が歪んでいることが解る。
(♯`A')「ただ、飛び跳ねて逃げていた訳じゃない。
念のため次の手を打っておいて正解だった。まあ、蹴りは予想外だったがな。
……今度は俺の番だ」
そして、息を吸い込み身体を落ち着けると、ドクオは動いた。
「行くぜ――」
ドクオの背後で空気が弾ける音が響く。
徐に、自身の周囲に浮かぶ塊を蹴ったのだ。
その瞬間、ドクオの身体は破裂の勢いに乗って、陽炎の如く消えていた。
- 38 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:54:48.60 ID:iorhEreD0
- Σ(;,,゚Д゚)「!?」
上であった。
(♯`A')「――これが、俺の対接近戦用の技だ」
残像を残すことも無く、ドクオはギコの真上に浮かんでいたのだ。
声を掛けられるまで気が付かなかった。
明らかに、人間の疾さではない。
(;,,゚Д゚)「……邪ッ!!」
降り注ぐ気配を察知したギコは、棍を握り締め、瞬時に天を突いた。
だが、貫いたのは乾いた音と、破裂が作り上げた強風だけである。
「これが、俺のもうひとつの陣。
洞窟や、室内などの狭所の戦いで用いる技だ」
(;,,゚Д゚)「……」
ギコは全身の毛を逆立て、一心に気配を追う。
もはや、ドクオの姿はない。
声と、物体が高速で擦り抜ける気配があるのみだ。
何時訪れるか解らない次の攻撃を、ギコは警戒することしかできなかった。
(;,,゚Д゚)(今、下手に動くのは得策ではないか。
落ち着け……奴は手負いの獣に過ぎない)
- 41 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 00:57:58.18 ID:iorhEreD0
- 「じゃあ、始めるぜ」
背後から声が上がった。
(;,,゚Д゚)「ッ!?」
ギコは地面を棍で突き、その勢いで頭上に身体を飛ばす。
刹那の間の見事な反応だ。
同時に、棍の横を風が通り抜ける。
巻き込まれていたら、間違いなく切り刻まれていた。
「いい反応、流石だ……しかし」
今度は右だ。
身の毛も弥立つ程の圧力が、ギコの右方に迫っていた。
(;,,゚Д゚)「――ぐあっ」
棍で身体を支えながら、ギコは本能的に身体を捩った。
だが、刃の如き斬撃は容赦なく、彼の胴体を掠める。
直撃は免れたが、彼の脇腹には三本の赤い筋が滲んでいた。
(;,,゚Д゚)「畜s……うッ!!」
「何時まで耐えられるかな」
もはや、言葉を吐き出すことも許されない。
次は背中に熱い感覚が疾る。
瞬時に回転し背後に蹴りを飛ばすも、空を切ることしか出来ない。
ギコの表情には焦りの色がはっきりと浮かぶ。
- 43 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:00:35.64 ID:iorhEreD0
- 何時の間にか、立場が逆転していた。
ギコが再び地上に降りてからも、容赦なく猛襲は続く。
瞬速の全方位攻撃に、成す術はない。
棍を振り回しながら、気配に向かって蹴りと突きを放つも、全く手応えは感じられないのだ。
直撃こそは防いでるものの、徐々にギコの傷は増えつつある。
(♯,,゚Д゚)「オオオオオオ応ッ!!!!」
だが、ギコは猛る。
今までの冷静から豹変し、熱く雄叫びを上げながら縦横無尽に舞う。
もはや、本能と感覚のみが頼りだ。
思考をするのでは遅すぎる。
ドクオの殺気と、大気の流れから大体の位置を把握して、
渾身の一撃を放つ他はない。
川;゚ -゚)「ドクオ……」
周囲には、無数の火花が散り、遅れて、金属音が響き渡る。
目前で繰り広げられる激闘に、兵士達は息を飲むばかりだ。
スオナも二者の動きを完全に目で追うことが出来ずにいた。
もはや、次元が違う。
ギコと何度か手合わせしたことがある。
銃を用いない剣での訓練であったが、傷はおろか一撃すら加えたことがない。
そんなギコを、無数の傷を負わせているばかりか、追い詰めている。
スオナは昂ぶりを覚えると同時に、自分の非力さに歯噛みしていた。
- 45 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:02:42.90 ID:iorhEreD0
- (♯,,゚Д゚)「破アアアアアアアアッ!!!!」
溢れ出る血液が、地面を赤く滲ましていた。
だが、ギコは止まらない。
むしろ、その勢いは増しているようにも感じられた。
恐らくドクオの攻撃の半分を弾き、半分を受けている。
だが、幾分かはましになった。
ようやく、標的の動きが解り始めたのだ。
ドクオの陣は、凝縮された空気を蹴っての高速移動。
当然、その軌道は直線上にある。
永い間使ってきた棍だ。
一旦攻撃を弾き返してしまえば、その方向は手に取るように解る。
ならば、自ずとドクオが次に跳んでくる方向も予想できる、と言うわけだ。
(♯,,゚Д゚)「……噴ッ!!」
ギコは棍を大きく薙いだ。
直撃とはいかないだろうが、少なくともドクオの身体は逸らしたはずだ。
そして、
( ,,゚Д゚)(……やはり、左後方か)
背後で破裂音が響いた。
- 47 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:05:00.68 ID:iorhEreD0
- 「ッ!?」
( ,,゚Д゚)「……そう何度も喰らうか」
ギコは側転で、背後からの急襲をかわす。
今度の読みは、かなり実際に近い。
闘いが始まって半刻で、ようやくドクオの位置を掴んだようだ。
そのまま、体勢を立て直す。
次だ。
次で決めなければ、またドクオを見失ってしまう。
そう考えるとギコは棍を右手で逆手に握り、空に向かって構えた。
(♯`A')「ハアアアアアアッ!!!!」
その向かう先にはドクオだ。
肉眼には捉えられないが、はっきりと存在を感じる。
瞬きをする隙も無い。
だが、まだだ。
寸前まで引き付けてから放つ。
確実に当てるのだ。
己の最高の技を。
残り十メートル。
五メートル……三メートル……
今だ。
唸れ――
- 48 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:07:11.07 ID:iorhEreD0
- 2
(;^ω^)「……まだ、頭が痛いお」
ブーンは『アポトキシン村』を歩いていた。
その頭には、大きな瘤が赤々と光っている。
再び目を覚ましたのは、先程の樹木の家の中であった。
そして、最初に視界に映ったのはツンの顔だ。
だが、二度目の彼女の反応は何処か奇妙に感じられた。
ξ;゚ー゚)ξ「あ、おはようブーン。大変だったわね。
……だって、いきなり森の中で転んで頭を打って気絶しちゃったんだもの。
まったく、そそっかしいわね」
明らかに何かを隠しているようだった。
そういえば確か、気絶の寸前に殺気を感じたような気がしたが……
ともかく、その後ツンは、これから色々とやらなければいけない事がある、
と言って足早に何処かに立ち去っていった。
しかし、昨晩この村を訪れてからというもの、ずっと寝ていたため、
まだ解らないことばかりだった。
そこで散歩を兼ねて散策してみようと思い立ち、今に至るわけだ。
木漏れ陽が眩しかった。
太陽は南中しており、どうやら昼の刻に近づいているようだ。
それに、昨晩静まり返っていた村が嘘であるかのように賑やかだった。
薪を切ったり、洗濯物を干したり、畑を耕したりと、皆が皆それぞれの仕事を行っている。
- 49 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:09:22.92 ID:iorhEreD0
- *(‘‘)*「こんにちわ〜〜」
( ^ω^)「こんにちわだお」
さらに、ブーンはもう一つの変化を肌で感じた。
住宅街沿いの道を歩いていると、村人達は一変してブーンに声を掛けてくる。
恐らく、スカルチノフ辺りが説明してくれたのだろう。
昨夜までの痛い視線はもう、感じられなかった。
と、ここで見知った顔が前方から歩いてくる。
確かモララーとか言う名前の青年であった。
モララーはブーンの姿に気が付くと、にこやかに声を掛けてきた。
( ・∀・)「やあ、ブーン君。目覚めはどうだい?
……しかし、あの料理を食べてよく生還したね」
( ^ω^)「おっおっ、お陰さまで大丈夫だお」
(;・∀・)「……それは良かった。彼女の料理を食べたら最後、
一週間は立ち上がれないはずなんだが……結構タフなんだね」
(;^ω^)「多分普通の人間より免疫があるんですお……幸いなことに」
ブーンは幼い頃から、自然と獣と共に育ってきた。
当然、毒を持つ動物とも(父親のせいで無理矢理)触れ合っていた為に、
常人よりも遥かに優れた免疫を持っている、というわけだ。
- 51 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:11:47.20 ID:iorhEreD0
- ( ・∀・)「じゃあ、身体の調子は大丈夫かい?
丁度いい……目覚めたばかりで申し訳ないが、ちょっと付き合って欲しいんだ」
(;^ω^)「……おっ?」
唐突な誘いだった。
この村の案内でもしてくれるのだろうか。
とりあえず、断る理由も無い。
それに、この村の住人とも仲良くなっておく良い機会だ。
( ・∀・)「……では、付いて来て欲しい」
モララーは直ぐに踵を返すと、ブーンに付いてくるように促した。
道から外れ、民家の間を擦り抜けると直ぐに鬱蒼とした森の中だった。
モララーは道なき道を軽々と擦り抜けて行く。
やはり、慣れたものであった。
一方ブーンは懸命に躓くような感覚に耐えながらも、彼の後を追いかける。
( ・∀・)「まだ訊いてなかったが、君はどうしてこの森に迷い込んだんだい?」
( ^ω^)「実は僕は今、『放浪の儀』とかいう変なしきたりの途中なんだお」
( ・∀・)「『放浪の儀』? 何だいそれは?」
( ^ω^)「僕達、『ヤマンジュ族』は15歳になると、自分の集落から出て旅をしないといけないんだお。
つまり、大人になる為の儀式って所だお」
( ・∀・)「へえ、そんなものがあるんだ。ちなみに、それには目的があるのかい?」
- 55 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:14:22.76 ID:iorhEreD0
- ( ^ω^)「これをしろ、って目的は無いお。ただ『大儀』を成し遂げる、それだけだお」
(;・∀・)「それは随分、適当だね……『大儀』って言っても具体的に何をするんだい?」
( ^ω^)「『大儀』の基準は、村の長と長老、つまり僕のクソ親父とじいちゃんが決めるんだお。
明確にこれをしろって言うのはないけど、今までの例を挙げるとすれば、
ウチのクソ親父は、世界一高い『カマホリ山』に登って伝説の雷龍の角をもぎ取って来たし、
じいちゃんは、『偉大なる航路』で『一繋ぎの財宝』を見つけたんだお」
(;・∀・)「それは凄い……遠く離れたこの地でも御伽話として聞いたことがあるよ。
っていうか、君のお爺さんは海賊かい? まあ、いいや。
しかし、それだけ凄い事を成し遂げなければいけないとは……大変だね」
(♯^ω^)「っていうか、旅をするのにも色々と準備が居るんだお!!
なのに、あのしょぼくれ親父と来たら……
強引に気絶させて、荒野に放り込むなんてありえないお!!」
(;・∀・)「……心中察するよ。余程厳しいお父様を持ったみたいだね」
(♯^ω^)「だから、僕はこの旅で自分の力を鍛えることにしたんだお!!
それには僕自身のレベルアップと、新しい『クヴェル』が必要なんだお!!」
( ・∀・)「そういう事か。事情はなんとなく掴めた……だが、今はこの土地が混乱状態だ。
ここに辿り着いたのは時期が悪すぎたようだ。
君には君の都合があるんだろう? 僕達の都合につき合わせておいてあれだが、
混乱を避けて早めに立つ方がいいのかもしれない」
(♯^ω^)「心配いらないお!! 僕も是非手助けするお!!
丁度、鋼鉄の民とか言うヤツらに腹が立っていた所だお!!」
- 57 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:17:48.39 ID:iorhEreD0
- ( ・∀・)「……そうか。そう言ってくれると嬉しいよ。
僕個人としては、できれば戦いたくないんだが……もう、そうも言ってられないんだ。
こちらが何もしなくても、彼等は攻めてくるからね。
だが、僕達『樹木の民』はもともと戦闘に長けた民族ではない。
ここで、君みたいな強者が力になってくれると嬉しいよ」
( ^ω^)「え? でも皆、ツンみたいに凄い力を持っているんじゃないかお?」
( ・∀・)「いや、彼女は特別さ。
ツンはこの村きっての一番の力の持ち主、所謂、『巫女』なんだ。
僕達も多少は木々の生長を操作出来るけど、彼女程の速さでは無理だよ」
( ^ω^)「そうなのかお……」
そもそも、『樹木の民』は『獣の民』のような狩猟民族でもなければ、
『鋼鉄の国』のような軍事国家の民でもない。
人口も少ない。
単純計算で一割にも満たないほどだ。
有利な点といえば、迷路とも呼べる複雑な樹木の要塞だけ。
つまり、戦況は明らかにこちらが逼迫しているのだ。
( ・∀・)「……ん? そろそろ着いたようだ」
(;^ω^)「……?」
と、二人の歩みが半刻程続いた所で、モララーは足を止めた。
- 58 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:20:04.53 ID:iorhEreD0
- 奇妙な音がした。
葉と草が揺れて擦れあう音だ。
だが、森の中では不思議ではないだろう。
問題は、その大きさだ。
明らかにおかしい。
森が暴れているかの如く、騒いでいた。
風のせいではない。
共に、地響きがこちらに向かって来るのだから。
Σ(;^ω^)「――ッ!?」
次に聴こえて来たのは、爆発の如き轟音だった。
ブーンは慌てて前方に視線を遣る。
枝葉と蔦に遮られて直視できなかったが、何かが動いたのは解った。
わだかまりが、三つ……いや、四つだ。
只ならぬ気配を察知すると、ブーンは居ても立ってもいられずに駆け出した。
(;^ω^)「……」
まさに壮観だった。
眼前の空間には、四の、巨木が聳え立っていた。
周りの木々と比べても、頭一つ分大きい。
『精霊の木』には劣るだろうが、やはりブーンにとっては壮大に感じられた。
しかし、それが問題ではない。
- 61 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:23:05.81 ID:iorhEreD0
- 穏やかではなかった。
眼前では樹木同士が争っている。
無論、文字通りに、である。
根を軸にして、その巨体を大きく揺らせているのだ。
一つ、幹が交錯する度に、地鳴りは反響する。
通常の戦いとは、規模が違う。
純粋に巨大なのだ。
ブーンの目には、樹木の形をした巨獣が今、まさに戦いを繰り広げているように映っていた。
(;^ω^)「……何が起こっているんだお?」
ブーンは周囲を注意深く見渡した。
まずは向かって手前の真右と真左に一本ずつ巨木が立っている。
右の木は枝を槍の如く伸ばし、左の木を射突する。
一方、左の木は刃の如き鋭い葉を散らせて、右の木を削っていた。
そして、さらに奥方の左右でも同様に木々は争っていた。
手前側とは違い、こちらは純粋な衝突であった。
幹と幹との交錯。
剣同士の戦いを思わせる動きだ。
二者の力は均衡しているようであった。
片方が横から薙げば、もう片方は払い、
片方が頭から突けば、もう片方は往なす。
と――
- 63 :◆KUIMWbIYTk 2007/06/21(木) 01:24:52.18 ID:iorhEreD0
- (;^ω^)「!!」
瞬時に、突いた方の木の幹が曲がり、そのまま蛇の如く相手に絡み付いた。
巻かれた方の木は、足掻き苦しむようにして激しく枝葉を揺らした。
両樹の根元が軋むほどだ。
そう、相手の幹を振りほどこうとしているのである。
だが、揺れの激しさに耐えられなかったのか、
(’e’)「うわぁ〜〜〜」
その時、激しく揺れている方の樹上から一つの影が落下した。
『第五章 争いの鼓動は更に昂ぶりを見せる』 終