-VIP産小説保管庫-

( ´ω`)枯れて('A`)苦悩し虹を探して生き抜くようです:10

23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:39:47.42 ID:kM9+DbKX0
 -10- George


次々に扉を出現させ、同時に複数の扉を開く。
しかし何度開けてもまた同じ部屋へと繋がっているだけだった。


川 ゚ -゚)「よくもまぁ、特権などと言ったものだな……」


右手を翳すだけ、意識すれば何もせずとも現れるその扉。

最初の内は特権と呼ばれたその力を不気味にさえ思っていたが、
慣れてしまえばただの移動手段に過ぎないことが分かる。


川 ゚ -゚)「それも、飛び切り使えない手段だ」

川 ゚ -゚)「…………」


開けては閉め。扉を消す。
扉を作ってはまた開け。そして閉めて扉を消す。

延々と続くその繰り返しに、苛立ちを覚えて始めていた。
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:42:01.60 ID:kM9+DbKX0
もう何キロ歩いただろう、と愚痴が漏れる。
最初のうちは数えていたはずの跨いだ扉の数も、とうに忘れてしまっている。


川 ゚ -゚)「また最初から数え直すか……」


立ち止まって息を吐いた。
こんなところで何をやっているのだろう、と自棄になる。


川 ゚ -゚)「ふぅ」


それでも、それこそ無駄なことだと分かっているから、また数え直すのだ。


川 ゚ -゚)「一つ……?」


扉を開いた先に、既にもう一つ、扉が存在していた。

そしてその扉を使って、何処かへと向かおうとしている人物がいる。いや、いた。
クーが扉を開くのと、向こうが扉を閉めるのはほぼ同時。

しかし、微かに見えた。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:44:42.23 ID:kM9+DbKX0
川;゚ -゚)「ショボン!」


駆け寄るが、辿り着く前に扉は消えてしまう。だが歩みは止めない。


川;゚ -゚)「ショボンだろう!? おい、貴様ッ!」


何度も頭の中で描いた彼の姿を、見間違えるはずが無い。
そんな根拠の無い確信を頼りに叫んだ。


川;゚ -゚)「この私を置いていくつもりか!」


私の叫び声は大広間に響くだけで、誰にも伝わることは無かった。
そして訪れる静寂と、虚無感。

ショボンは私に気付いていただろうか。そして、気付いた上で。

いや、そんなことがあるはずがない。


川 ゚ -゚)「……クソッ」
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:46:58.24 ID:kM9+DbKX0
また歩き出そうとしていたというのに、気が乗らない。
せっかくの気概もふいにされてしまった。


川 ゚ -゚)「休憩していこうか」


幸い、横になっても充分の広さのあるソファが複数と、
身体を休めるにはもってこいの設備がこの部屋全てに整っている。

だから、何だという話だが。


川 ゚ -゚)「……内藤、私は何をしているんだろうな」


ここで、その名前を出して、この私が、弱音を吐くとは思わなかった。
我ながら自分は強い部類に入るものだと思っていたからだ。

だから、何だという話だが。


川 ゚ -゚)「私は少し、疲れた」
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:48:39.74 ID:kM9+DbKX0
ショボンとの出会いは、大学で入ったサークルだった。

入学してすぐの頃。『虹色研究会』という得体の知れない団体が目に付いた。
ほんの僅かな好奇心で覗いた先に、彼がいたのだ。


(´・ω・`)「あ、どうも」

川 ゚ -゚)「どうも」


室内には彼一人しかいない。

座りますか、と椅子を用意しようとする彼を見て慌てて
ただ覗きに来ただけで、入るかどうかは分からないと伝えた。筈なのに。


川;゚ -゚)「…………」


筈なのに。

何故か、座らされている私がいた。
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:50:41.03 ID:kM9+DbKX0
(´・ω・`)「僕はショボン」

(´・ω・`)「君は?」


いやに馴れ馴れしく話しかけてくる男に、私は嫌悪感すら覚えていたのだが
その顔には悪気や悪意が微塵も感じられなかった。

一つ溜息を漏らし、答える。


川 ゚ -゚)「素直クール。一年だ」

(´・ω・`)「よろしく」


終いには手を差し出してくる始末。


川;゚ -゚)「…………」


会ったばかりだから、の行動なのか。
会ったばかりなのに、の行動なのか。

あっけらかんとした彼に、あっけらかんとする私。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:52:46.02 ID:kM9+DbKX0
とりあえず、手は握り返しておいた。
薄い掌に繋がった、女の私よりも細いんじゃないかという細い指。


(´・ω・`)「僕はここに入ろうと思ってるんだけど、先輩たちが来なくてね」

川 ゚ -゚)「部員じゃなかったのか」


だとすれば、その居慣れた感じが妙だ。


(´・ω・`)「数日前からここに出入りしてるからね。その間、ずっと先輩には会えなかったんだよ」

川 ゚ -゚)「そんなにこのサークルに入りたかったのか」

(´・ω・`)「まぁね」


それは熱意のようで、しかし執着にさえ感じられる。
そもそも、ここが何を目的とした集まりなのかさえ私は知らない。

知る必要もない。


川 ゚ -゚)「それでは、私はこれで」
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:55:14.94 ID:kM9+DbKX0
(´・ω・`)「あ、うん。またね」

川 ゚ -゚)「あぁ」


そう言って逃げるように部屋を出る。
またね、という辺りに少々以上の違和感を覚えつつその場を後にした。

何やらおかしな宗教的なものに捕まってしまったような気がしてならなかった。


从'ー'从「あれれー、クーだ。暇ならどこか遊びに行こうよー」


ふいに後から呼び止められる。
その間延びした口調で正体はすぐに分かった。


川 ゚ -゚)「……渡辺か。構わないよ」


誘われるがままに、学校を後にする。

何も変わりない、いつもと同じように昼食を摂って年相応の話題で盛り上がる。
どこか物足りなさを感じていた。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:56:29.13 ID:kM9+DbKX0
帰宅するが部屋には誰もいない。
もとより父方はいないため、母が働きに出ているのだ。

特に感謝はしていない。


川 ゚ -゚)「…………」


面白い番組の一つでもやっていないか、とチャンネルを切り替えるが
好みのものは何一つやっていない。代わりにクイズ形式のバラエティ番組ばかりが飽和していた。

風呂場に向かい、洗浄済みの浴槽に湯をためる。


川 ゚ -゚)「それぐらい、私がやるというのに」


おそらく朝の内に湯を抜いて、私のために備えていてくれたのだろう。
無い時間を切り詰めてまでするようなことじゃない。


川 ゚ -゚)「……そういうところが嫌いだよ」
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 21:58:51.00 ID:kM9+DbKX0
十数分後。

決められた水位で、決められた温度で浴槽に張られた湯船。
私は早々に身体を洗い流してその身を湯の中に沈めた。


川 ゚ -゚)「電話……か?」


風呂場の奥から薄らと聞こえる携帯の着信音。
それは個別に設定された流行の曲で、渡辺に当てた曲だった。


川 ゚ -゚)「渡辺か」

「あれれー? 何だか声が響いてるよー?」

川 ゚ -゚)「風呂場だからな」

「だから声がブツ切りなんだね。電波が悪いのかー」

川 ゚ -゚)「何か用ならこちらから掛けなおすが、どうする?」

「あ、別に大した用は無いんだー。今日学校でさー……」
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 22:01:38.87 ID:kM9+DbKX0
翌日。

私はまた、あの扉の前に立っていた。『虹色研究会』。


川 ゚ -゚)「……名前の意味を聞くぐらい、いいだろう」


誰かに許しを請うようなことでも、容認を求める必要もなかった。
その言葉は自分に向けたものだった。

つまりそんなものではなく、自分が先日会ったばかりの相手に興味を持ってしまったという事実が気に食わなかったのだ。


川 ゚ -゚)「ふぅ」


ドアの向こうには、やはり彼がいた。


(´・ω・`)「やぁ。ようこそバーボンハウスへ」

川 ゚ -゚)「……何だそれは」

(´・ω・`)「すまない。職業病でね」
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 22:02:49.22 ID:kM9+DbKX0
やはり、訳の分からない奴だと思った。

室内を見渡すが、ショボン以外に誰もいない。
確か彼は先輩を待っていたはずだ。そう訪ねた。


(´・ω・`)「それがね。ここは幽霊サークルだそうだ」


形だけを残した、幽霊部員が半数を占める幽霊サークル。
そんな意味のない、場所をとるだけのサークルが何故残っているのか疑問に思った。

それがショボンにも伝わったらしい。


(´・ω・`)「本当なら今年の更新で消えるはずだったのが、チェック漏れで生き残ったそうだよ」

川 ゚ -゚)「それはまた適当だな」

(´・ω・`)「だから来年を迎えればこのサークルは消えてしまうらしいよ」

川 ゚ -゚)「それはまた残念だな」

(´・ω・`)「興味なさそうだね」
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 22:04:18.60 ID:kM9+DbKX0
あからさまな態度に、ショボンが苦笑いをする。
垂れた眉が余計に垂れる。


(´・ω・`)「どうしてここに来たの?」

川 ゚ -゚)「暇だったからさ」


それは嘘や見栄ではなく、真実だった。そして私は「あと」と付け足す。


川 ゚ -゚)「サークル名も気になったから」

(´・ω・`)「なるほど」


その言葉を聞くと納得したようで、顔をほころばせては楽しげに笑った。
おそらくだが、彼はその話題をしたかったのだろう。

昨日から。


(´・ω・`)「先に言っておけど、信じてもらえるとは思ってないんだ……」
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 22:06:43.36 ID:kM9+DbKX0
渡辺がわざわざ電話してまで伝えたかったのは、
自分が軽音系のサークルに入ったということだった。

彼女はギターが弾けたから、『なるほど。楽しそうだな』と返しておいた。


(´・ω・`)「まず最初に、虹について」

川 ゚ -゚)「虹?」

(´・ω・`)「光の屈折で見えるアレとは違うよ」


『クーはサークルには入らないの?』と渡辺はこうも言った。
少し考えて、答えた。

『私はほら、そういうの興味ないから』


(´・ω・`)「抽象的だけど、これが一番具体的に説明できてると思う」

(´・ω・`)「虹とはつまり、空想なんだ」
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 22:08:39.64 ID:kM9+DbKX0
心音さえはっきりと聞こえる閑静な空間に、木製の軋んだ音が響く。
それは自分以外の誰かの登場を予期するものだった。

ゆっくりと開いていく扉を前に、私はある男を期待した。


川;゚ -゚)「ショボンか!?」


現れたのは、男だった。

  _
( ゚∀゚) 「おいおい、そりゃ誰だよ」


しかし期待していた男とはまるで違う。
城内ではまだ一度も会ったことのない、見知らぬ顔だった。

豊かなその表情とがっしりとした体つき。彼とはまるで正反対。

少しずつ、ゆっくりと、こちらへ向かってくる。


川;゚ -゚)「誰だ……貴様は……」
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2008/03/01(土) 22:10:06.12 ID:kM9+DbKX0
  _
( ゚∀゚) 「俺の名前はジョルジュ長岡」
  _
( ゚∀゚) 「好きなものは、みかんとこたつ」
  _
( ゚∀゚) 「何が何だかよく分からないんだが」


「虹を見た」



長岡が右腕を振り上げる。

そして、何かしらの意図の上で頭上に翳した右腕は私に向かって突き出される。
握りこぶしが解かれて、手のひらが顔を出した。

お手をどうぞ、と言わんばかりに彼が笑う。

それと同時に私は振り返り、逃げるように駆け出した。