番外編 ドクオ
635 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/24(月) 22:12:14 ID:J3PmZQ7Y0 ('A`)俺は親父や兄貴の反対を振り切って軍に入った
('A`)あの鈍色の機体を駆って大空を舞うのが夢だった
('A`)あの時の俺は夢が叶ってうわついていたんだ
('A`)ヒュー、やっぱ空はいいな!
キィィィィィーーン
('A`)今の内に技術を磨いて、いずれはブルースだ!
ク゛ィィィィィィーン
キ゛ューーーーン
新兵:おーい、ト゛ッキー!教官が程ほどにしろってさー
('A`)あいよー。もう一回ループやったら戻るわー
新兵:りょーかい。俺は先に降りるぞー
('A`)滑走路磨いて待っててくれー
新兵:べったり油塗っといてやるよー!じゃ、お先ー!
フィィィィィィーン……
('A`)よし!今日の仕上げだ!!
ク゛ィィィィィィィィーーーン……カ゛クン
('A`)な、なんだ…くそっ…落ちるっ…
キ゛ャリリリサ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛
('A`)なんとか不時着には成功したものの、俺は衝撃で気を失った
('A`)機体も漏れ出す燃料にいつ火花が引火するか時間の問題だった
639 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/24(月) 22:33:00 ID:J3PmZQ7Y0 ('A`)俺はコクピットから一転、暗い闇の中にいた
('A`)くそっ!ドジった!これからって時になんてこった!!
('A`)そして、この闇が晴れた時には俺はヘブンにいるんだろうと思ってた
男:海軍の戦闘機だ!横倒しになってる!爆発しそうだぞ!!
ハ゛チハ゛チッ
男:あっ!よせっ!!近づくんじゃない!!!
女:良かった、風防が壊れて開いてるわ
男:早く離れるんだーーー!!
女:あなた!ねぇ、あなた!!大丈夫!!
('A`)……
女:早くここから出さないと…うんしょ!
ス゛ルッ
女:ちょっと引きずるけど我慢してね
サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛
ト゛ォォォォォォォン!!
('A`)う……俺は……?
女:気が付いて?兵隊さん
('A`)真っ赤な炎に照らされた頬が妙に印象的だった
('A`)それが海軍に入って間もない俺と、トレイシーとの出会いだった
643 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/24(月) 22:45:54 ID:J3PmZQ7Y0 ('A`)俺は爆発寸前の機体から寸でのところで助けられた
('A`)抱かれて見た姿は暁に舞い降りた天使のように見えた
('A`)その後しばらく入院して、退院したら鬼のようなシゴキが待っていた
('A`)この間は助けてくれてありがとう。もっと早くに来たかったんだが
トレイシー:いいのよ、気にしなくて。体の方は大丈夫?
('A`)おかげ様でこの通りさ
トレイシー:なら良かったわ。もう訓練に戻っているの?
('A`)あぁ。散々シゴかれたよ、機体をオシャカにしちまったからな
トレイシー:偉い人達は兵隊さんより飛行機の方が大事なのかしら?
('A`)機体は新しいのが良くっても、俺らは新しいのは喜ばれないのさ
トレイシー:まぁ!ふふっ。兵隊さん、今日はお時間はあって?
('A`)今日は非番だよ
トレイシー:なら、お礼がてらに空のお話を聞かせて欲しいわ
('A`)あぁ、お安い御用さ。えぇと
トレイシー:トレイシーよ
('A`)ト゛ッキーだ。よろしく
('A`)いい風だ。草の音が気持ちいい
トレイシー:いいでしょう?ほら、あそこが私のお気に入りの場所よ
タッタッタッタッタ……くるっ
トレイシー:ねぇー!兵隊さーーん!
('A`)なんだーー!!
トレイシー:空は気持ちいーいー?
('A`)あぁー!最高に気持ちいいぜー!!
('A`)春風のような心地が、むず痒くも暖かかった
648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/24(月) 23:08:56 ID:J3PmZQ7Y0 ('A`)俺は外出の許可が下りる度にトレイシーを尋ねた
('A`)いつだってトレイシーは俺を兵隊さんと呼んだ
('A`)やぁ、トレイシー
トレイシー:いらっしゃい。今日はクッキー焼いて待ってたのよ
('A`)へぇ。そいつぁ楽しみだ
トレイシー:お茶淹れてくるわね、兵隊さん
('A`)実は不器用でクッキーは食べられる代物じゃなかった
('A`)ど、どうしたんだ、トレイシー!その怪我は!
トレイシー:この子がね
('A`)子猫…?
トレイシー:野良犬に苛められてたから
('A`)そのくせ、妙に肝は据わってて
('A`)親父から手紙が沢山来てさ
トレイシー:たまには帰ってあげないからよ
('A`)やだね。顔を見たくも無い
トレイシー:そんな事言わずに会いに行ってあげなさい!
('A`)絶対に譲らないガンコな所もあって
('A`)そして、トレイシーはいつだって優しさに溢れていた
('A`)俺はいつしか、空以上にトレイシーに夢中になっていた
654 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/24(月) 23:24:02 ID:J3PmZQ7Y0 ('A`)あの頃は俺にとって最高の時期だった
('A`)操縦の腕も新兵の中じゃ一番で、先輩にも引けは取らなくなった
('A`)そして基地の外に出ればいつだってトレイシーに会えた
('A`)だが、それは長くは続かなかった
('A`)俺にとって最初の戦争
('A`)来週、出征する事になったよ
トレイシー:やっぱり兵隊さんも行くのね
('A`)当然さ、兵隊さんなんだから
トレイシー:戦闘機で行くの?
('A`)いや、空母さ。俺は海軍だからね
トレイシー:船って酔わない?
('A`)もう慣れた。それにそんな事言ってられないさ
トレイシー:私、船って嫌いだわ。凄く揺れるんだもの
('A`)空母はそんなに揺れないぞ
トレイシー:あら、そうなの?なら一度乗ってみたいわ
('A`)ハハ、いつかな
トレイシー:楽しみにしてるわ、兵隊さん
('A`)なんだよ、俺の心配は無しかよ
トレイシー:ふふ、心配なんて必要?
('A`)冗談。大船に乗ったつもりで待っててくれよ
トレイシー:でも、ドッキー。忘れないでね
トレイシー:あんまり帰りが遅いと、私、待ってなんかいないから
('A`)その時トレイシーは、初めて俺の名前を呼んだ
('A`)次の週の月曜日、俺は戦地へと向かった
658 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/24(月) 23:46:19 ID:J3PmZQ7Y0 ('A`)戦争と言っても紛争レベルの戦場だった
('A`)それ程危険な任務も無く、案外気楽なもんだった
('A`)だが、いつ終わるのかだけは知れなかった
海兵A:おーい、ト゛ッキー、哨戒行けってさー
('A`)へいへーい
コ゛ォォォォォーーー
('A`)哨戒ばっかで飽きてくるな
キィィィィィィン
('A`)今日も異常無しかー
('A`)幾度かの戦闘で俺は4機の敵機を撃墜した
('A`)あと1機でエースだが、目立った航空戦闘が起きないまま半年が経っていた
('A`)チッ、あと1機くらいその辺うろついてねぇかな
('A`)んなわけねぇか
コ゛ォーー
('A`)って!敵機発見!!!
キィィィィィン
('A`)いよぉーし!これで5機目だ!!!!
ハ゛シュハ゛シュ
ク゛ィィィィィーーン
('A`)チッ、そう簡単にはエースにならせてくれねぇか!!
('A`)久々のドッグファイトになりそうで心が躍った
663 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/25(火) 00:04:25 ID:pp46t7nF0 ('A`)ミサイルを避けられ、すぐにドッグファイトになった
('A`)のどかに広がる田園風景の上で、一瞬の駆け引き
('A`)ビリビリと全身を貫く緊張感に俺は痺れた
('A`)そうこなくっちゃな!!
ク゛ィィィイィィィーン
ハ゛ハ゛ハ゛
('A`)当たるかよ!!
キィィィィン
カ゛カ゛カ゛
('A`)ヘッ!やるじゃねぇか!けどコイツはどうだ!!
タ゛タ゛タ゛タ゛タ゛
キィィィィン……
('A`)やったぜ!どうだ!見たか!!
('A`)ヒャッホー!撃墜だ!!
海兵B:おーいト゛ッキー!!
('A`)おう!聞いてくれ!1機撃墜だ
海兵B:凄いな、これでエースじゃないか!
('A`)おう!これから凱旋だぜ!
海兵B:ト゛ッキーのおかげで久し振りにビールが飲めそうだ!
('A`)たらふく呑もうぜ!!
('A`)計5機撃墜!これで俺もエースの仲間入りだぜ!
665 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/25(火) 00:18:12 ID:pp46t7nF0 ('A`)俺もついにエースの仲間入りだ!
('A`)もしかしたら勲章だって貰えるかもしれない
('A`)最高の気分だぜ!!
海兵B:ハハ、あんま浮かれんなよ
('A`)これが浮かれずにいられるかって…うわっ!!
ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛
海兵B:どうした!ト゛ッキー!!
('A`)野郎!生きてやがった!!くそっ、落ちた振りしてやがった!!
カ゛カ゛カ゛カ゛
カ゛クン…キィィィィィィン
海兵B:おい!ト゛ッキー!返事しろっ!ト゛ッキー!!
('A`)くぅ……跳ねた弾が腹に……油断した…
('A`)とにかく…脱出しねぇと
ハ゛シュッ
('A`)ぐぅ…Gが………
―――――――――――
トレイシー:…ッキー!起きて!ト゛ッキー!!
('A`)う……お…俺は……
トレイシー:大丈夫!?ト゛ッキー!
('A`)ト、トレイシー……
('A`)俺は最初、死ぬ間際の幻覚だと思った
('A`)けど違った。そこには紛れも無くトレイシーがいたんだ
668 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/10/25(火) 00:30:02 ID:pp46t7nF0 ('A`)トレイシーの顔を見て、俺は再び気を失った
('A`)次に目が覚めたのは戦災ボランティアの救護室だった
('A`)こ、ここは…
トレイシー:気が付いて?兵隊さん
('A`)トレイシー!どうしてここに…アタタタ…
トレイシー:無理をしてはダメよ。弾は取れたけど、まだ傷が塞がっていないから
('A`)どうして…
トレイシー:言ったでしょう?ずっと待ってはいないって
('A`)……
トレイシー:それで追いかけてきたのよ。ボランティアとしてね
('A`)そんな危険な…
トレイシー:あなたの方が危険でしょう?
('A`)とにかく、早く国へ帰るんだ
トレイシー:なら、あなたも一緒よ
('A`)それは出来ない。俺はまだ戦える
トレイシー:じゃあ私もまだここにいるわ
('A`)結局トレイシーは譲らなかった
('A`)案外傷は浅かったらしく、数日の内に動けるようになり軍からも迎えが来た
('A`)トレイシー、頼むから国へ帰って待っててくれ
トレイシー:嫌よ。だったら早く戦争を終わらせて
('A`)それから俺は必死になった
('A`)動き始めた最前線に常に立ち、死に物狂いで戦った
('A`)終わってみれば俺は10機以上を撃墜し、海軍名物の火の玉と呼ばれるようになっていた
('A`)勲章も貰った。だがそんな事より、トレイシーが戦地から戻ってくれた事に一番安心した