24 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 19:04:11 ID: PpAsL/5i0 Be:
?? 「内藤!」
( ^ω^) 「村上様、何か?」
村上 「何かじゃない何かじゃ! 何をやっているお前は!」
( ^ω^) 「お茶汲みだお」
村上 「お茶……、佐渡で一斉に島抜けがあったのを忘れてたのか!」
( ^ω^) 「はあ、でも、この江戸にのこのこと舞い戻ってますかお?」
村上 「だからお前は……、そんな事は関係無い、つまりだな……」
( ^ω^) 「我等北町が南町に負けると村上様の懐に入ってくるモノが少なくなるって事ですお」
村上 「……ったく、お前はそんな事だけには頭が回る」

( ^ω^) 「ところで村上様、十日ほど前、川原にあがった夜鷹の件ですがお……」
村上 「ああ、お前の持ち場だったな。……あれは、南町の管轄になった」
( ^ω^) 「南町? 確かにあそこは南町との境目ですが……どうしてですお?」
村上 「俺が知るか! こっちが聞きたいぐらいだ。さあ、さっさと見回りにいかんか!」
( ^ω^) 「はいだお」
26 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 19:15:50 ID: PpAsL/5i0 Be:
( ^ω^) 「よお、上総屋(かずさや)、景気はどうだお?」
上総屋 「これはこれは、お役人様。お陰様で」
( ^ω^) 「うん、それはよかったお。じゃ、何かあったら呼んでくれお。北町の内藤ホライゾンだお」
上総屋 「は、はい。ありがとうございます」
( ^ω^) 「……ん」

内藤はわざとらしく袖を揺らす。

上総屋 「……あっ、番頭さん、お茶お願いしますよ」

空の湯飲みに入っていた包み紙を袖に入れると内藤は微かな笑みを浮かべた。

上総屋 「どうぞ、ご贔屓に」
( ^ω^) 「じゃあ、また来るお」

袖の下を貰う役人は多いが、彼ほど頻繁に貰う者は珍しいだろう。
何故なら――

( ^ω^) 「これで蕎麦食えるお」

単純にお小遣いが少なかった。
28 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 19:29:15 ID: PpAsL/5i0 Be:
?? 「兄ぃ〜」
('A`) 「小梅、何か分かったのか?」
小梅 「うん、やっぱ八丁堀の言った通りみたい」
( ^ω^) 「よお、薬屋wwwww」
('A`) 「噂をすれば八丁堀か……」
( ^ω^) 「うちの婆さんとカミさんが腰痛めてるんだお。良い薬ないかお?」
小梅 「あ〜、それならこれが良いよ、南蛮渡来の薬、……はい、一分ね」
(;^ω^) 「ちょ、一分って俺の小遣いより多いお」
小梅 「嫌ならいいんだよ〜」
( ^ω^) 「足元見やがって、……で、小梅、分かったのかお?」
小梅 「うん、でもここじゃあね」
('A`) 「先にいつもの場所行ってるぜ」

周囲の人間からすれば、行商の薬屋兄妹にたかる同心に見えなくも無かっただろう。

(;^ω^) 「……小梅の奴、……この薬が一分かお」

('A`) 「小梅、あの薬五十文ぐらいだろ?」
小梅 「兄ぃ、ああいうのからは、ふんだくっていいんだよ」
('A`) 「そういうもんか?」
小梅 「もんよ」

現実は逆だった。
35 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 19:45:55 ID: PpAsL/5i0 Be:
毒男と小梅の住んでる長屋に地面をくり貫いて作った簡素な地下室が彼等の『いつもの場所』だった。

小梅 「八丁堀の言ったとおり、若い人、まあ町のゴロツキを中心に阿片が広がっていたよ」
( ^ω^) 「出何所はわかるかお?」
小梅 「相模屋の番頭、正八がどうのこうのって噂もあるよ」
('A`) 「正八っていや、真面目実直で評判じゃねぇか」
( ^ω^) 「悪人なんてもんは皆、猫の皮を被ってるもんだお」
小梅 「でさ、今度の仕置料っていくらなのさ?」
( ^ω^) 「元締めからはかなり大口の仕事だとは聞かされてるお」
('A`) 「小梅、これで露店なんかやってないで店持てるかも」
小梅 「あたしは帯でも買おうかなぁ」

突然、内藤は刀に手を掛け緊張を強めた。
呼応するように毒男、小梅も身構える。

( `ω´) 「誰だお!」

??? 「……よお、俺のは分はあるんだろうな?」
( ^ω^) 「…………」
('A`) 「島抜けしたって聞いたときは驚いたぜぇ」
小梅 「ショボ松さん!」

(´・ω・`) 「相変わらず辛気臭いとこだ」
42 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 19:59:43 ID: PpAsL/5i0 Be:
半年前に内藤はショボ松を盗賊の弥七として召し上げた。
もちろん、別人である事がすぐさま露見してしまったものの、ショボ松は無宿人であったため
お咎めを受け、向こう一年の島流しとなったのだった。

( ^ω^) 「後、半年だお、島抜けまでする必要なかったんじゃないのかお?」
(´・ω・`) 「……江戸が恋しくなったのよ」
('A`) 「わざわざ危ねぇ江戸に戻ってくる事もねぇのに」
小梅 「まあ、帰ってきたんだからいいでしょう」
(´・ω・`) 「それで、仕事ってのは?」

内藤が依頼内容をショボ松に簡単に説明する。
市内に出回っている阿片の出所と、流している人物の始末、

(´・ω・`) 「それだけか?」
( ^ω^) 「ああ」
(´・ω・`) 「もう、大体の目星付けてんだろ?」
( ^ω^) 「相模屋権蔵、番頭の正八、それに後ろに何か居るお」
(´・ω・`) 「……仕置する時には呼んでくれ、俺は暫く身を隠す」
( ^ω^) 「それがいいだろうお、お前は仕置だけだから、仕置料の上前は撥ねておくお」
(´・ω・`) 「半年前の仕置料の上前から撥ねといてくれ。じゃあな」

(;^ω^) 「覚えてやがったかお……」
47 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 20:13:40 ID: PpAsL/5i0 Be:
小梅 「で、どうするのさ」
( ^ω^) 「お前は番頭の正八の動きを見張っててくれお」
小梅 「か弱き乙女が男の尻を追いかけるなんて不本意だけど、やってやるよ」
( ^ω^) 「毒男、相模屋に忍び込めるかお?」
('A`) 「なんとかなるだろ」


('A`) 「さてと、相模屋か……、その前に」

毒男は相模屋に向かっていた道中、暫く前から自分の後をつけている人物に声を掛けた。

('A`) 「譲ちゃん、何か欲しいのか?」

振り向きざまに声を掛けられた少女は思わず体を硬直させる。

少女 「……くすり」
('A`) 「薬か、おめえさんじゃ無いようだな。おっかさんか? おとっつぁんか?」
少女 「……お、……おとっつあん」
('A`) 「そうか、どこが悪いのか分かるか?」
少女 「……うんとね、おむねがいたいっていってた」
('A`) 「心の臓か、ちょっと待ってな。…………ほら、これだ、……おめえ銭持ってるのか?」
少女 「もってるよ、はいこれ」
('A`) 「さっ、……ま、まいどあり、また来てくれよな」
少女 「ありがとう」

(;'A`) 「三文か……、あの薬たけえのになぁ。また小梅にどやされるぜ」
51 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 20:30:22 ID: PpAsL/5i0 Be:
小梅 「あれが、番頭の正八か。うし、つけるか」

小梅 「……見失った。あ〜ん、あたしのクソッタレ!」
?? 「くそったれなんて若ぇ譲ちゃんが使う言葉じゃねーぜ」
小梅 「誰!? あ、弥助親分」
弥助 「よお、小梅ちゃん」

小梅 「……なんか気持ち悪いなぁ、昼間っから薄ら笑い浮かべてさ」
弥助 「そうか?」
小梅 「だって、弥助親分は、ちょっと前まで鬼の弥助って、岡っ引きの中じゃ一番怖い存在だったのにさ」
弥助 「……俺ってそんなに怖かったか?」
小梅 「そりゃあ、口には出せない事は一通りやって来たって噂だったし。ん? あれ、その子親分の?」
弥助 「ん? おりん、いつの間に」

おりん 「……おくすり」
弥助 「これは、お前銭持ってたのか?」
おりん 「うん、しんのどうのおくすりだよ」
弥助 「心の……? そうか、ありがとよ」
小梅 「親分にこんな娘いたっけ?」
弥助 「あ、ああ、居たんだよこれが。おりん、家に帰ぇってな」
おりん 「うん」
弥助 「……心配なんで俺も行くわ。じゃあな小梅ちゃん」

小梅 「あの薬どこかで見たような……」
53 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 20:40:49 ID: PpAsL/5i0 Be:
('A`)  「さて、うまく忍び込めたはいいが、この床下で夜まで待つのか……」

('A`)  「……」

('A`)  「……」

(;'A`) 「……はっ、思わず寝ちまった。……ん、この声は相模屋」

相模屋 「大丈夫でしょうね番頭さん。町方も密かに動いてるらしいですよ」
番頭 「旦那様、私はもう限界ですよ」
相模屋 「しかし、この事が露見すれば我が相模屋は御取潰しは免れませんね……」
番頭 「しばらく、阿片を流すのを止めてみては?」
相模屋 「いや、それは駄目だ、あの方がお許しになるとは思えませんよ」
番頭 「選択の余地は無いのですね……」

('A`)  「なんだこりゃ? 悪者の会話とは思えねぇ、むしろ……」

?? 「やいやいやい聞いたぜ! 阿片を流してたのはおめえらか!」
相模屋 「弥助親分!?」
弥助 「俺はこの耳ではっきり聞いたぜ、阿片ってな!」
相模屋 「いえ、これは……」
弥助 「言い逃れは良くないぜ。ゆっくり話を聞かせて貰おうじゃ無いか、儲け話をな」
相模屋 「わ、私達は―――」
弥助 「誰があんたらの、って言った? 俺は、俺の儲け話をさせて貰うつもりだぜ」
相模屋 「……なるほど、そういう事ですか。番頭さんお茶を持ってきてください」

('A`)  「あ〜、もうややこしいなぁ。寝るか?」
60 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 21:44:39 ID: PpAsL/5i0 Be:
( ^ω^) 「ただいまだお」
みつ 「あら、あなた、おかえりなさい」
( ^ω^) 「みつ、これは腰痛の薬だお。南蛮渡来の上物だお、母上と分けなさいお」
みつ 「まあ、こんな物買ってくるなら着物の一枚でも買って下さいな」
あん 「みつ、折角婿殿が買ってきてくださったのです。ありがたくお受けなさい」

(;^ω^) 「この秋刀魚、私のだけ小さくありませんかお?」
みつ 「そんな事ありませんわ、あなたにはいつも良い物を選んでますわ」
あん 「婿殿、あなたより遅く入った村上様がもう筆頭同心、ゆくゆくは与力ですよ」
( ^ω^) 「何が言いたいんですお?」
あん 「そんな小さい事に拘っている人は出世なんか出来ません!」
(;^ω^) 「それとこれとは……」
あん 「黙ってお食べなさい!」
(;^ω^) 「……」

みつ 「ねぇあなたぁ、今夜いいでしょ」
(;^ω^) 「えっ? あ、うん、そのなんだお……」
みつ 「ねぇ、ったらぁ」
(;^ω^) 「犬の鳴き声がうるさいお」
みつ 「犬なんかどうでもいいじゃありませんか。ねぇあなたぁ」
(;^ω^) 「あ、そうだ、今夜は夜勤だったんだお、すっかり忘れてたお」
みつ 「もう!」

小梅 「ワオーン」
( ^ω^) 「もう犬の鳴き真似はいい。それより何か分かったのかお?」

小梅 「兄ぃが帰ってきたよ」
64 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 21:59:14 ID: PpAsL/5i0 Be:
小梅 「弥助親分が?」
('A`) 「ああ、相模屋から口止め料として二十両貰ってたぜ。ありゃ、まだまだ脅し取るつもりだぜ」
小梅 「信じられない、娘にも優しそうになったと思ったら」
( ^ω^) 「娘? 弥助に娘は居ないお?」
小梅 「え? でもさ、三つか四つぐらいの女の子が居たよ」
( ^ω^) 「そりゃあ、弥助の姪だお。双子の弟が失踪したんで引き取ったって言ってたお」
小梅 「なんだ、でもかなり慕われてたみたいだけど、親分に心の臓の薬まで買ってきてたし」

('A`) (心の臓の? ……まさかな)

(´・ω・`) 「殺るべき相手は、相模屋権蔵、番頭の正八、岡っ引きの弥助でいいんだな」
小梅 「ちょっとなんで弥助親分が入ってるのよ!」
(´・ω・`) 「どうせ、悪事に手を染めるんだ。先に殺っておいても損じゃないぜ」
小梅 「まだそうとは決まった訳じゃないでしょう! 無実だったらどうすんのよ、うちら、びいっぱぁの名が廃るわよ!」

(´・ω・`) 「びいっぱぁ?」

('A`) 「おめえは島行ってたんで知らなかったな。よお八丁堀、説明してやれよ」
( ^ω^) 「びいっぱぁってのは、おめえが島に行った後に俺の上役、村上って野郎がつけやがって、それが一気に江戸に広まったんだお」
小梅 「たしか、南蛮より遥か遠い異国の言葉で、『世間のはみ出し者』って意味だったかな」

(´・ω・`) 「俺達にぴったりじゃねーか」
65 Name: ◆eUdBwL0zGs [] Date: 2005/11/13(日) 22:12:23 ID: PpAsL/5i0 Be:
結局、話し合いで誰を殺るかの結論は出なかった。
内藤は相談と仕置料の件も含めて元締めの家へと赴いていた。

元締め 「岡っ引きの弥助が? ……そうか、……相模屋だが、抜け荷にも手を染めてるようだ。そっちの線も探ってみるといい」
( ^ω^) 「それで仕置料の件ですがお……」
元締め 「心配するな」
( ^ω^) 「へへ、金さえありゃいいんですお」



(;'A`) 「……また床下か、こんな時間にゃ誰もやってこねーだろ」

('A`) 「……こんな時間に誰か来たよ。俺ってついてるかも」

相模屋 「よくいらっしゃいました」
?? 「弥助の件か?」
相模屋 「……さすがお耳が早い、我々はどうすれば?」
?? 「阿片の出所を喋ったのか?」
相模屋 「い、いえ、滅相もございません、我々は金を握らせたぐらいで」
?? 「それとなく出所を匂わせておいてくれ」
相模屋 「どうしてですか!? この事が露見すれば勘定奉行であるあなた様も―――」
?? 「相模屋! 良いのだ、これで良いのだ。時に相模屋、お主、抜け荷でも儲けてるそうだな」
相模屋 「どうしてそれを!? あなた様には隠し事はできないのですね。……甘い汁をおすそ分けしましょう。西村様」
西村 「うむ」

('A`) 「へっ、虫が群がる黄金の蜜ってか。糞野郎」