3 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:06:24.31 ID:iERQbODi0
(#^ω^)「お姉ちゃん、一体どこで道草くってるんだお!」
師匠の父さんが病死して半年。
最近では門下生もいなくなり、僕と姉さんだけでやってる田舎道場で1人グチってみる。
我が家の主要機関である姉さんは、今日は昼食の支度をしてた後、難しそうな顔をして出かけていった。
で、もう日が暮れてる。
修行のノルマはとっくに・・・少々鯖を読んだが終わらせてある。
父さんがいた頃は、暇なら剣の素振りでもしろといつも言われたものだが。
何ていうか、もう、そういう時代じゃない。
例えばモンスター。
どこかの馬鹿が100年以上前に大量召喚したらしいが、その後乱獲されて今では中々見かけない。
人間の戦争みたいなのは起きる気配すらない。
20年ぐらい前か?僕が生まれる数年前には今の王様・・・名前は忘れた。
とりあえず、偉い人が世界統一達成して天下太平。
平和ってステキ。
だから正直、剣の修行って何ですか?よくわかりません><
そんな感じだが、それは以前姉に1回言ったら、何だかすごく申し訳なさそうに謝られた。
さすがに気まずいので、あれ以来その主張は控えている。
( ´ω`)「そろそろ空腹で死にそうだお。飽食の時代に餓死とか痛すぎるお」
7 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:08:55.83 ID:iERQbODi0
姉は変なこだわりがあって、食事の作り置きをほとんどしない。
台所をあされば食材はあるだろうが、食事は食べるものであって作るものじゃないだろう。
これは、父さんから反面教師にしろと言われていた男の言葉。
奴と意見が被るのは気に入らないが・・・それよりも今は姉だ。
・・・そろそろ活動限界と言ったところで道場に人の気配。
川 ゚ -゚)「ただいまブーン。遅くなった」
( ^ω^)「おっおっお!お姉ちゃんお帰りだお!じらしプレイは勘弁だお!」
川 ゚ -゚)「済まなかったな。・・・ああ、帰って早々だが、少し大切な話がある」
(;^ω^)「あぅあぅ、まずは飯だお。餓死寸前だお。このままだと取り返しのつかない事になるお!」
川 ゚ -゚)「そうか。では、すぐに作ろう」
( ^ω^)「夕・御・飯!!夕・御・飯!!」
川゚ ー゚)「よしよし、いい子だから少し待て」
手際よく支度を始める姉を見ながら何となく思う。
僕と2歳しか違わないのに、物心ついたころから我が家の家事は、ほとんど姉が1人でこなしている。
それでいて剣の修行もしっかりやっていて、まさに我が家の主要機関だ。
剣のほうじゃ、僕は新参のノービス資格しか持ってないが、姉は専門のエキスパートまで取得している。
8 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:09:42.00 ID:iERQbODi0
結論、持つべきものは良い姉だ。
今もこうして、気がつけば食卓に料理が並んでいる。
我が家の事は姉に任せれば安泰でオッケー。
(*^ω^)「イヤッッホォォォオオォオウ!」
川 ゚ -゚)「地味なものばかりで済まないな」
(*^ω^)「そうでもないお?ハムッ!ハフッハフッ!ハムッ!うめぇ!」
川゚ ー゚)「それはよかった。・・・ああ、それで話というのはだな」
( ^ω^)「お?なんだお?ばっちこいだお!」
あれ?何だかめずらしく言い辛そうだ。
基本的に言いたい事は、すっぱりと言い切る人のはずだが。
川 ゚ -゚)「ふむ。言いにくいのだが、我が家の財政が破綻した」
(;^ω^)「ちょwww」
川 ゚ -゚)「後は・・・道場もマスター資格所有者不在でこのままだと閉鎖だ」
(;^ω^)「マジかお」
9 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:10:31.02 ID:iERQbODi0
そういえば、最近の姉はやけに忙しそうにしていた。
何とかしようと色々がんばっていたのだろうか?
今日に至るまで、まるで気がつかなかった僕はかなりアレだが・・・。
それよりも、突然の事態に僕の肛門も閉鎖されそうです。
川 ゚ -゚)「済まない。そういうわけで私が“格付け”に出場する事にした」
(;^ω^)「えっと、それ、ニュー速地区でやってるランキング戦だったかお?」
川 ゚ -゚)「うむ。マスター資格さえ取ってくれば、何とか道場も立て直せる」
(;^ω^)「で、でも、あれってニュー速まで行かないとだし、結構危ないって話だお?」
川 ゚ -゚)「普通にマスター資格を取ろうとしたら、何年かかるかわからないからな。それでは間に合わない」
これはまずい。
格付けランキング戦は、死なない程度に制限のかかる、何でもアリの闘技場だったか?
あくまで“死なない程度”であって、普通に再起不能者は出たりすると聞いた事がある。
基本的に最高位の達人称号、マスター資格。
何かと便利な資格だけあって、普通に取ろうとしたら、何年どころか何十年もかかるはず。
確かに、手っ取り早く取るにはこれしかないし、姉なら可能かもしれないが。
10 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:11:34.85 ID:iERQbODi0
( ´ω`)「お姉ちゃんに怪我とかされると困るお」
川゚ ー゚)「ふふ。大丈夫だから」
根拠の無い自信でものを言う人じゃないのはわかっている。
道場にこだわる気持ちも、僕にだってそれなりにあるから何となくわかる。
だが、何だろう?こう、モヤモヤした・・・何とも言えない気分、とにかく駄目だから反対しよう。
とりあえず、普通に説得したところでやめる気はないだろう。
僕と違ってやると言った事はやる人だし。
そんなわけで、卑屈に弱点を突いてみる。
( ´ω`)「炊事・洗濯・掃除とお姉ちゃんがいないと壊滅的な件。僕の生命の危機だお」
川 ゚ -゚)「そうだな。では、父さんの遺品を質に出そう。しばらくは余裕が出来るはずだ」
父さんには申し訳ないが・・・はい、オッケー。
姉は僕に対して徹底的に甘い。
結局、問題の先送りにすぎないが、そのうちもっと良い打開策を思いつくかも知れないし。
川 ゚ -゚)「これで私のいない間、炊事は外食、洗濯はクリーニング屋、掃除は散らかしっぱなしで・・・」
(;^ω^)「ちょwww出場は決定事項なのかお!」
11 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:12:47.90 ID:iERQbODi0
作戦失敗。
僕の反面教師が好きそうな方法まで使ったのに・・・これはむなしすぎる。
落ち込んでたら、何か奴の幻覚まで見えてきた気が・・・。
(´・ω・`)「やぁ。すごいゆとり教育を見たよ。僕もこんな姉が欲しかったな」
川 ゚ -゚)「・・・ショボンさん?」
(#^ω^)「おっさん、どこから沸いてきたんだお!」
(´・ω・`)「いや、久しぶりにこっちに来たら、弟は死んでるし君達も深刻そうな話してるし・・・」
(#^ω^)「要するに声をかけにくかったんだお?チキンニート野郎!」
(´;ω;`)「うん」
川 ゚ -゚)「道場の事は申し訳ありません」
(´・ω・`)「あ、いや、クーちゃん。僕が・・・その、フラフラしてるのが、そもそもの原因みたいなものだし」
このおっさん・・・ショボンは、何ていうかすごく駄目人間だ。
父さんの兄で、顔は結構似てると思う。
マスター資格まで持ってたりするが・・・。
とにかく、性格が徹底的に駄目だ。
12 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:13:16.72 ID:iERQbODi0
僕が生まれる前に、「剣術道場なんて面倒で無理」とか、ふざけた発言を残して失踪したらしい。
道場は父さんに全部押し付け、自分探しの旅だったか?
2、3年周期で突然現れるが、役に立った事はない。
忘れた頃にやって来ては、聞いてるとヘタレになりそうな駄目人間トークをして去って行く。
ショボンの発言をまとめると、自分探しの旅=仕事もしないでフラフラしているだけ。
(#^ω^)「家は今とてつもなく忙しいお?カエレ!」
(´・ω・`)「うーん、帰れと言われても相変わらず根無し草だしなぁ」
( ^ω^)「なら、土に還ればいいと思うお?」
(´;ω;`)「あ、やっぱり?」
川 ゚ -゚)「あの、自殺するなら他所でやってもらえますか?」
(´・ω・`)「でもね?ほら、何かの間違いで、一攫千金とかあるかもしれないよね?」
(*^ω^)「絶対ないから安心して逝っていいお」
何でこんな奴が、超難関のマスター資格を持っているのだろう。
マスター資格・・・あ。
13 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:13:45.15 ID:iERQbODi0
( ^ω^)「おっさん資格持っててどうせ暇だお?とりあえず道場継げお」
この男に、道場主として期待なんてほとんど出来ない。
だが、資格は資格だ。
いずれ僕ら姉弟のどちらかが資格を取るまで、名前だけ借りればいい。
ごくまれに儀式とかにかり出されるが、それくらいはやらせてもバチはあたらないだろう。
川 ゚ -゚)「いや、ブーン。それは・・・」
(´・ω・`)「うん。無理。僕は夢を追い、道場は弟に任せっぱなしだったし、今更そんな資格は・・・」
あ、駄目トークが始まった。
長時間聞いてると脳が駄目になるって、前に父さんが言っていたし姉も同意していた。
もちろん僕も全面的に同意だ。
(´・ω・`)「・・・空とかをボーっと見てると、ミジンコみたいなの見えてくるよね。でもアレってエロかわいい・・・」
(#^ω^)「把握したお。要するに面倒だからやりたくないんだお?」
(´・ω・`)「うん」
川 ゚ -゚)「道場の事は私が何とかしますが・・・結局、今日はどういった御用なんでしょうか?」
14 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:14:08.81 ID:iERQbODi0
(´・ω・`)「ああ、クーちゃんは大丈夫だろうけどね。ブーンはこのままだと僕より酷い事になるよ?」
(#^ω^)「ちょwwwおっさんにだけは言われたくねえええええ・・・」
・
・・
・・・あれ?
いつ寝たんだろう。
姉に膝枕されるのも久しぶりだが、やけに心配そうな顔をしている。
基本的に変化の少ない人だ。
このあたりの差がわかるのは僕の特技だろう。
川 ゚ -゚)「ブーン!大丈夫か?」
( ^ω^)「おっおっお?ちょっとクラクラするけど問題ないお?どうしたんだお?」
(´;ω;`)「う・・・ぅ・・・だ、だからちゃんと加減したって言ったじゃないか」
何か反面教師筆頭が出血しながら泣いてる。
・・・なんでコイツがいるんだ?
( ^ω^)「おっさんが世の中に絶望して自殺するのは当然の流れだけど。うぜぇから他所でやれお」
15 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:14:35.13 ID:iERQbODi0
姉がショボンを冷たくにらみつけた。
これは結構レアだが、かなり怒っている時のパターンだ。
(´;ω;`)「い、いや、一時的にちょっとだけ記憶が飛んでるだけだから」
流石チキンニート。
怒りの感情には、必要以上に敏感なのだろう。
とりあえず、それとクラクラしている事は置いておく。
( ^ω^)「お?話がさっぱり把握できないお?」
川 ゚ -゚)「ブーン、我が家が現在危機な事は覚えているか?」
( ^ω^)「把握してるお。ああ、でも、お姉ちゃんが“格付け”に参加するのは駄目だお!」
川 ゚ -゚)「その件で・・・私から一生の頼みがある」
姉に頼みごとをされた記憶は・・・ちょっと出てこない。
一生の頼みと頭を下げられると、何だか申し訳ない気分になって来る。
それでも、理由は何となくだが、絶対駄目だ。
川 ゚ -゚)「ブーン、お前が参加してマスター資格を取って欲しい」
16 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:15:02.36 ID:iERQbODi0
(;^ω^)「その発想はなかったお」
川 ゚ -゚)「もちろん、私も現地に同行して出来る限りのサポートはする」
さて、難しい。
ショボンに名義を借りるのは無理と、何か理由が曖昧だが本能で把握している。
結構危険と聞いてるし、好き好んで参加はしたくない。
でも、どの道このままでは我が家は破綻?
じゃあ僕が実際参加したとして・・・16年間、物心ついてからはずっと修行もして来たし何とかなるか。
ちょっとやばそうだったら・・・逃げれば良いし。
返事をしようと顔を上げると、姉がかつてないほど申し訳なさそうな表情をしていた。
・・・逃げるのは、かなりやばくなってからにしよう。
( ^ω^)「把握したお」
川 ゚ -゚)「本当にいいのか?少しでも危ないと思ったらいつでも・・・」
(´・ω・`)「ストップ、クーちゃん。ゆとりはほどほどに。ね?」
(#^ω^)「うっせぇお!嫉妬してんなカス!」
(´・ω・`)「うん。それは自覚してるけど何か?」
17 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:15:33.58 ID:iERQbODi0
(#^ω^)「うぜええええ!ってか、おっさん、いつまでいるつもりだお!」
(´・ω・`)「ああ、そうそう。僕も同行してあげるから」
( ^ω^)「え・・・ちょっと、それ・・・すごく・・・うざいなりぃ・・・」
川 ゚ -゚)「ブーン。気持ちはわかるが、ショボンさんは腕前だけは確かだ」
(´・ω・`)「・・・他にもかわいさとか色々持ち合わせてるよ?」
( ^ω^)「あるあるwwwねーおwwwwww」
川 ゚ -゚)「正直、私もこの人と一緒に行動して、噂とかされると恥ずかしい」
(´・ω・`)「2人して僕に酷い事言うよね。謝らないといけないよね」
川 ゚ -゚)「だけど、少しでもブーンの安全に役立つなら、耐えがたきを耐え・・・」
(´;ω;`)「もう、勘弁して。お願いだから同行させて下さい。ね?」
このおっさんはたまらなくうざいが、どういう理屈か腕前だけは本当に確かだ。
何より申し訳なさそうな顔の姉は・・・精神的に結構こたえる。
ここは折れる事にした。
18 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:15:59.39 ID:iERQbODi0
( ´ω`)「・・・把握したお」
川 ゚ -゚)「本当に済まない」
(´・ω・`)「え?何?この僕が悪者みたいな雰囲気」
川 ゚ -゚)「さあ、ブーン。今日はもう遅い。出発は明日にするからゆっくり休め」
( ^ω^)「おいさー!やると決めたらみなぎってきたお!しっかり寝て明日に備えるお!」
川゚ ー゚)「うむ。実に頼もしい。弁当は奮発するから楽しみにしておけ」
(*^ω^)「イヤッッホォォォオオォオウ!」
(´・ω・`)「・・・スルー?・・・これがスルー?」
幻聴・幻覚の類は完全に無視。
その晩は眠りについた。
翌朝、最初にしたのは資金作り。
姉と一緒に、父さんの遺品からいくつか選んで質屋に運んだ。
姉が甘いのは僕に対してだけ。
僕には価値のわからない物ばかりだったが、質屋の定番、ぼったくられたりはしなかったと思う。
そうして、一時的だが道場も完全に閉めた。
19 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:16:27.71 ID:iERQbODi0
川 ゚ -゚)「いざ閉めると・・・昨日のうちにわかっていた事なのにな」
( ^ω^)「すぐに僕がマスター、いや、いっそグランドマスターになって戻ればいいお!」
どうせ目指すならどこかの社会不適応者と同格より上だ。
世界に3人しかいないグランドマスター。
それなら完璧だろう。
川゚ ー゚)「ふむ。立派な志を持つ弟を誇りに思う」
(´・ω・`)「またひどいゆとり教育を見たよ」
(#^ω^)「おい、おっさん!そういう少年の夢を奪う発言はPTAから抗議殺到だお!」
(´・ω・`)「うん?あれは世界に2人しかいないし、ランキングでどうにかなるものじゃないし」
( ^ω^)「お?ついにボケたのかお?3人だお」
(´・ω・`)「新聞、読んでないのかい?耐震偽装問題で建築士のグランドマスターは剥奪されたよ」
(;^ω^)「お、お姉ちゃんそれマジかお?」
川 ゚ -゚)「済まないブーン。ここのところ忙しくて社会情勢を教えてなかったな・・・」
(´・ω・`)「本当にひどいゆとりっぷりだね」
20 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 19:17:08.31 ID:iERQbODi0
(#^ω^)「うっせぇお!嫉妬してんじゃねぇお!社会不適応者は壁と会話してろ!」
川 ゚ -゚)「いや、ショボンさん。別にブーンを甘やかしているつもりはないのですが」
(´;ω;`)「もう、勘弁して。僕は空気でいいよ。そっとしておいて下さい。ね?」
(#^ω^)「オキシダントうぜぇええええええ!」
川゚ ー゚)「偉いぞ。良くオキシダントの事を覚えていたな」
( ^ω^)「おっさんの近くに留まっていると、光化学スモッグ警報に巻き込まれるお!とっとと行くお!」
川゚ ー゚)「ふふ。今から張り切りすぎても先は長いぞ」
(´・ω・`)「えっと、その・・・やっぱり人間に戻して欲しいのだけど」
本当に剣士のマスターなんだろうか?・・・そういえば、以前は持っていた家宝の刀も持っていない。
かわりに何かバールのようなものをぶら下げているが・・・。
( ^ω^)「おっさん・・・村正はどうしたんだお?」
(´・ω・`)「うん?あれ持ってるとね。財産とみなされて、国から保護を受けれないものだから・・・」
やはりショボンには空気でいてもらう事にする。
第1話 完