139 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:29:14.25 ID:iERQbODi0
控え室。

兄者との試合まであと少し。
姉と色々と対策を立ててみたが、中々難しい。
踏み込んだり飛びのいたり、そういう得意な部分では兄者に勝てる。
ただ、相性が悪い。

兄者は冷静・沈着・聡明とか言っていたか?
槍の長いリーチと手数でけん制し、相手を近づけさせずに戦うタイプ。
下手に飛び込んでも、兄者には届かないだろう。
まあ、それでも出来る事はある。


川 ゚ -゚)「ここまで来たら、自分に出来る事をするしかないな。危なくなったら・・・」

( ^ω^)「大丈夫だお!」

川 ゚ -゚)「・・・わかった。まずは、ハインリッヒさんと弟者さんの中継だ。見ておこう」


ようつべでは、僕より先に申し込んだ2人の試合が始まろうとしていた。
ハインリッヒと同じ事が出来るなら苦労はないが、参考にはなる。


从'ー'从【それではー、不動の1位ハインリッヒさんと、現在2位の弟者さんの試合ですー】

(,,゚Д゚)【この組み合わせもそろそろしつこいが、何だかんだで注目カードだゴルァ】



140 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:29:45.97 ID:iERQbODi0
从'ー'从【ギコさんー、どのあたりに注目したらいいですかー?】

(,,゚Д゚)【ハインリッヒの馬鹿げた強さは今更だから、流石兄弟の弟者だな】

从'ー'从【流石兄弟さんはー、コアなファンが多いらしいですねー】

(,,゚Д゚)【おう、連中は突きだけで通じなかったら、更に突きだけ鍛えて再挑戦。地味だが悪くねぇ】


なぎ払いひとつ使わないのは、少々やりすぎな気はするが・・・それを馬鹿だとは思わない。
駄目なら他の方法を取るのは、当然で正しいが簡単だ。
駄目でも同じ方法を貫くのは、よほどの信念や自信がなければ無理だろう。
どっちも自暴自棄っていうパターンはあるが、流石兄弟のは信念や自信だと思う。

駄目なら、無かった事にするか、後回しにするか、諦める。
そんな理屈で生きている、どこかの誰かに見習わせたい。


( ^ω^)「・・・真面目で地道な人だお」

川 ゚ -゚)「うむ。敵ながら見事だ」

(´・ω・`)「珍しく2人からの視線を感じる件。何だか心が寒いよ?」


ショボンを見てると視力が低下しそうなので、視線は中継に戻した。



142 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:30:27.09 ID:iERQbODi0
从'ー'从【えー、それではー、試合開始ですー】

(,,゚Д゚)【おーっし。ちゃっちゃとやれゴルァ!】


開始と同時にハインリッヒが突っ込むが、弟者の突きの前に足を止めた。
やはり弟者はすごい。

ハインリッヒという異常な生物の生態・・・まとめ。
圧倒的に力強くて速く、手足の届くところに一瞬で踏み込んで、後はぶちのめすだけ・・・以上。
それだけで、他の連中は終わってしまう。

続けざまに弟者の突きが5つ、連続突き自体は珍しくもないが、この速さは異常。
僕が正面から食らう側になったら?少なくとも、今ハインリッヒのいる位置からじゃ見えないだろう。


川 ゚ -゚)「一拍で5つか。数も速度も、前回の記録より増えているな」

(;^ω^)「だお。でも、相手がハインリッヒじゃ、あまりこっちの参考にならないお」


ハインリッヒは全部掌打で捌きっていた。
一歩も後退していない。
何だろう・・・理解に苦しむ。

弟者は自分の間合いだから後退しない。
ハインリッヒは不利な間合いにいるのに後退しない。



144 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:31:08.60 ID:iERQbODi0
弟者が狙う箇所を変えつつ、連続突きを繰り返す。
全て捌かれるが、それでも繰り返す。

3回・・・
5回・・・・・・
7回・・・・・・・・・

10回目、弟者の連続突き5つ目を捌いた直後、ハインリッヒが動いた。
なるほど、確かに弟者の連続突きは異常な速さだが、5つ目の後には一瞬の空白がある。
他の人間には無理でも、ハインリッヒならその一瞬で踏み込める。

終わりかと思った瞬間・・・ありえないはずの連続突き6つ目が、ハインリッヒに直撃した。


川 ゚ -゚)「弟者さん、6つ目を隠していたのか。しかし・・・」

( |||゚ω゚)「ハインリッヒ・・・恐ろしい子」


弟者が仕掛けたのは「5×10=51」、こんなナゾナゾですらないものを解けるわけがない。
完全に虚を突いた急所への一撃は、ハインリッヒでも捌く事が出来なかった。

・・・捌く事は。
ハインリッヒは左腕を盾にして防ぎ、立ち止まる事も無くそのまま踏み込んだ。
次の瞬間には、最短距離で溜めもなく右腕を振り抜く。
拳か掌か指先か・・・弟者の頭部に当たった事くらいしかわからない。

ただ、試合会場に立っているのは1人だけ。



145 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:31:37.68 ID:iERQbODi0
左腕は洒落にならない事になっているはずなのに、ハインリッヒはすごく楽しそうに笑っていた。
弟者は完全に落ちている。


从;'ー'从【あれれー、えぇーとぉ・・・】

(,,゚Д゚)【今回は惜しかったが・・・もう、弟者は立てねぇな。勝負アリだゴルァ!】


弟者は本当にすごかった。
ハインリッヒがまともにダメージを受けたのは、始めて見たし。
・・・おかげで、僕とハインリッヒの距離は更に遠くなった感じだが。


(´・ω・`)「えっと、今のを見て重大な発表があるんだけど」

川 ゚ -゚)「大体わかりますけど、今はいいでしょう」

(;^ω^)「ちょwwwどうせろくでもない話だと思うけど、このタイミングは気になるお!」

(´・ω・`)「もう忘れてるかもしれないけど、僕の宴会芸ね。ハインリッヒさんには通じないと思う」

( ´ω`)「え・・・ちょっと、それ・・・いよいよおっさんの存在意義がなくなったお?」

(´・ω・`)「今まであったことにちょっと感動する僕」



147 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:32:18.69 ID:iERQbODi0
川 ゚ -゚)「ブーン、とりあえずいつもの奴だ」

(;^ω^)「把握だお!スルー発動!この効果で場に出ているおっさんの発言はシャットアウトだお!」

川 ゚ -゚)「良し。今は兄者との戦いだけを考えろ」

(;^ω^)「は、把握したお」


確かに今は、ハインリッヒよりも僕の試合だ。
重要なのは、前回まで一拍で4つだった弟者の連続突きが、いきなり6つまで増えている事。
同じスタイルの兄弟だし、兄者の方も同じ事が出来そうな気がする。

・・・通販じゃないんだから、更に2つとか勘弁して欲しい。


まあ、今更あたふたしても無駄だ。
どちらにしても、僕の作戦にはあまり関係ない。


( ^ω^)「そろそろ時間だお。お姉ちゃん、行って来るお」

川 ゚ -゚)「ブーン、くれぐれも危なくなったら・・・」

( ^ω^)「大丈夫だお!」

川゚ ー゚)「・・・そうだな。がんばれ」



149 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:32:52.71 ID:iERQbODi0
格付け出場目的でやって来たニュー速地区だが、良く考えたら肝心の試合は1度しかしていない。
試合会場のちょっとした違和感も2ヶ月ぶりか。

今度の相手に関しては、ちょっとしたどころじゃない違いがある。
中央にいる兄者には、隙のようなものが無い。
僕は一足で踏み込める位置まで近づき足を止めた。
同時にお互い構えをとる。
やはり隙が無い・・・一気に踏み込んでも迎撃されるのがオチだろう。


( ´_ゝ`)「遠いな。飛んだり跳ねたりは得意というわけか」

( ^ω^)「そっちは、動き回りながら連続突きとか出来ないんじゃないかお?」

( ´_ゝ`)「まあ、正解だが」


あっさり認めたのはちょっと意外だ。

作戦 1
もっとも厄介な連続突きは、土台になる足腰が不安定では撃てないはず。
そもそも僕では、4つの時点で対処しきれそうにない。
6つとか言われてもどうしようもないので、連続突きに関しては無かった事にさせてもらう。


从'ー'从【えー、それではー、試合開始ですー】

(,,゚Д゚)【おーっし。ちゃっちゃとやれゴルァ!】



151 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:33:41.94 ID:iERQbODi0
まずは相手の出方を見る。
注意すべきは壁際に追い込まれる事だが、試合会場はかなり広い。


( ´_ゝ`)「自分からは来ない・・・か」

( ^ω^)「僕はマゾじゃないし、突かれたら痛いだけだお?」

( ´_ゝ`)「俺がサドなら、じりじり追い詰めるところだが・・・」


いきなり兄者が仕掛けてきた。
槍のリーチに加えて踏み込みも速い。
おまけに突きの軌道は、正面からじゃ点にしか見えない。
こんなものを連続で捌いていたハインリッヒは異常だ。
僕はこんなもの相手にしていられない。

幸い動きの速さに関しては僕が上だ。
斜め後ろに飛び退き、兄者の槍に向かって剣を振り落とす。
真横に飛べば兄者に届くかもしれないが、その前に連続突きの間合いに入る事になる。

作戦 2
兄者への攻撃は後回し。
連続突きの間合いには入りたくないから、先に武器を何とかする。


・・・甘かった。
横から槍の穂先を捕らえたが、はじかれたのは僕の剣。



152 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:34:22.07 ID:iERQbODi0
( ´_ゝ`)「惜しいな。知っているかもしれんが、俺ら兄弟には突きしかない」


会話に付き合っている暇はない。
最初の間合いに飛び退いて剣を構えなおす。


( ´_ゝ`)「それしかないからな。不完全な体制から打ち払われるほど、甘い鍛え方はしていない」

(;^ω^)「そんな事いわれても、正面から打ち合うのはゴメンだお!」

( ´_ゝ`)「だったら何度でも繰り返すだけだ」


再び遠距離からの突き。
僕が斜め後ろに飛び退くところまでは同じだが、剣は合わせなかった。
さっきのを繰り返したら剣を落しかねない。
おとなしく間合いを取り直す。

そんなことを3回繰り返した。

見事なほど押されている。
ひたすら防御に徹しているせいで、精神的にもかなり消耗してきた。
このままだと、すぐにかわしきれなくなるだろう。


なるべく使いたくなかったが・・・作戦3しかないようだ。



155 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:34:58.75 ID:iERQbODi0
( ´_ゝ`)「良くかわす。まあ、構わんが」

(;^ω^)「ちょっとは油断とか・・・わかりやすいフラグを出して欲しいお」

( ´_ゝ`)「俺はこの試合が終わったら結婚する」

( ^ω^)「ktkr!」

( ´_ゝ`)「まあ、嘘だが」


僕が文句を言う前に、さっきまでと同じく兄者が踏み込んで来た。
だが、覚悟は出来ている。
今度は・・・前に突っ込んだ。

作戦 3
僕の踏み込みは、武器のリーチ差を入れても兄者より速い。
兄者が構えていて連続突きのある状況なら、いくら踏み込んでも迎撃されるだけだが。
兄者から踏み込んで来るのなら、最悪玉砕と諦めて突っ込めば・・・勝機はある。

結果。
次にやり合ったら、今の僕じゃ間違いなく負けそうだ。
それでも、先に急所に届いたのは僕の剣。

槍は僕に届かず、兄者も崩れ落ちて動かない。



156 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:35:32.99 ID:iERQbODi0
从;'ー'从【あれれー、えぇーとぉ・・・】

(,,゚Д゚)【次は通用しねぇだろうけど、兄者の油断でもブーンの運でもねぇ。勝負アリだゴルァ!】


終わってみれば一撃もくらってないし、倒すのに使ったのも一撃だけ。
・・・楽勝だった?
それはない。
勝利の喜びより、ギリギリまで追い詰められた状況から解放された安心の方が大きい。

倒れている兄者に一礼し、まっすぐ控え室に戻る。
歓声もどこか遠く聞こえた。


控え室。


川゚ ー゚)「最高の一撃だったぞ」

(;^ω^)「あぅあぅ、かなりギリギリで微妙なラインだったお」

川゚ ー゚)「謙遜するな。ブーンは私の誇りだ」

(´・ω・`)「本当にお見事。必死に修行してたんだね」

( ^ω^)「貞子のとこで駄目さに磨きをかけてただけの誰かとは違うお」



158 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:36:03.13 ID:iERQbODi0
喜ぶ姉を見てようやく実感が沸いてきた。
強敵の兄者には勝ったわけだし、難しく考える必要なんて無い。
ああ、ショボンが想像以上に使えないからハインリッヒ対策は振り出しか。
それは、時間をかけて今の修行を続ければいずれ何とかなるだろう・・・たぶん。
モンスター狩りはかなり収入効率が悪いが、生活する分には問題ないし。


川゚ ー゚)「今日は祝勝会だ。豪華に行くぞ」

(*^ω^)「イヤッッホォォォオオォオウ!祝・勝・会!!祝・勝・会!!」

(´・ω・`)「いや、その・・・我ながら微妙だと思うのだけど、僕もいいのかな?」

( ^ω^)「おっさんが使えないのは今に始まった事じゃねぇお。邪魔しないなら許可だお」


ショボンが殊勝な発言をしたところでうざいだけだが、今日ぐらいは参加させてやっても良い気分。
そんなわけで、そろって外に向かう。


从゚∀从「よっ!見てたよ!イイ試合だったね!」


闘技場の入り口で、後回しにしたばかりの現実とエンカウントしてしまった。


(;^ω^)「ハインリッヒさんに言われると微妙な気分だお」



159 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:36:29.85 ID:iERQbODi0
从゚∀从「んなこたぁないさ!地力で上を行く相手に勝つってのは実にイイ!」


別に嫌味でもなんでもない、純粋に感心しているのだと思う。
圧倒的な強者の理屈はわからないが、ハインリッヒはすごくうれしそうだ。


( ^ω^)「thxだお。しかし、左腕ざっくりやられたのに何でピンピンしてるんだお?」

从゚∀从「んー?兄者のアレもイイ感じだったけど。ま、腕くらい赤チン付けときゃ治るさ!」


ハインリッヒが戦ったのが弟者なのはあえてスルー。
レギュレーション区域でも、死に直結しないダメージは普通に喰らう。
僕は剣越しに一撃合わせただけ。
それでも、あの突きは洒落にならない威力って事ぐらい解る。
ハインリッヒの何でもなさは異常。


(´・ω・`)「今時赤チンとは、マニアックな回復アイテム使うね」

从*゚∀从「じゃあ、じゃあ、旦那が看病してくれよ!」

(;^ω^)「ハインリッヒさん、その生物がお気に入りなのかお?よかったらあげるお?」

川 ゚ -゚)「よろしければ是非。クーリングオフは効きませんが」



161 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:37:15.24 ID:iERQbODi0
从゚∀从「え?ホントにイイのかい!後で返せとか言われても嫌だよ?」

(´・ω・`)「え?ちょっと何?その人身売買」

川 ゚ -゚)「いえ、無料ですし。良い話ではありませんか」

( ^ω^)「ノーマネーでフィニッシュだお」

从*゚∀从「オッケー!貰った!」

(´;ω;`)「いや、その、あれ?えええぇええええぇええ?」


何となく言ってみたら、本当にショボンは引きずられて行った。
スパイをさせようとか、そういう考えはまったくない。
ハインリッヒに弱点みたいなのは無さそうだし、ショボンに何かを期待したところで無駄なのも実証済み。
まあ、どうせすぐに愛想をつかされると思うが。


( ^ω^)「どう見ても不要物だったお」

川 ゚ -゚)「本当にありがとうございました」


放っておいても、たぶんすぐに戻って来るのが難点。
・・・まあ、オッケー。
今日は強敵撃破記念、宿に戻って豪華な祝勝会。



162 : ◆Brsj/lcRyc :2006/06/24(土) 20:37:53.39 ID:iERQbODi0
一段落ついたところで、姉とこれからの指針をたてる。


川 ゚ -゚)「結局、地道に修行するしかないだろうな」

( ^ω^)「把握したお。・・・そういえば、おっさんの言ってた宴会芸って何だったんだお?」

川 ゚ -゚)「アレか?弟者さんの6つ目を普通に防ぐハインリッヒさんには通じない」

( ^ω^)「フェイントか何かかお?」

川 ゚ -゚)「うむ。弟者さんは技術だが、ショボンさんは小道具を使っただけだ」

( ^ω^)「通じないならおっさんの真似なんかしてられないお。地道にやるお」

川゚ ー゚)「良く言った。基本こそ最大の奥義だからな」


翌日から、再び姉と迷宮修行の日々が始まった。
世間では、魔法使いのグランドマスターが失踪したとか話題になっていたが、僕らには関係無し。
闘技場のサロンにもよりつかず、週6日はひたすら迷宮生活。

おかげで隅々まで網羅して、今ではちょっとした迷宮マニア状態。
腕を上げるにつれて、都合良くモンスターの質まで上がったのは不思議だが・・・。
おかげで修行の効率は上がってるから、まあオッケー。

そんな感じで1ヶ月、ハインリッヒはまだまだ遠いが、この調子ならいずれ何とかなる・・・と良いな。


第6話 完