【第1話】
ジリリリリ。目覚まし時計が鳴る。
僕はもぞもぞと布団から手を伸ばして目覚めし時計のタイマーをオフにした。
( ^ω^)「・・もう朝かお・・・バイト行かなくちゃだお。」
僕は布団からのっそりと出ると朝食をとり、歯を磨く。
そして、鞄を片手にボロアパートを出た。
いつものように駅までダッシュしてギリギリ電車に乗る。
(;^ω^)「フヒー、間に合ったお。」
満員電車で揺られる中、立ちながらもう一度仮眠する。
( -ω-)「ムニャムニュ。」
出勤で電車に乗っている人達はみんな同じ駅で降りるのでその時には目が覚める。
( ^ω^)「さて、今日もがんばるお。」
僕は駅から出るとオフィス街の中に立ち並ぶビルの1つに入る。
そこの3階こそが何を隠そう悪の秘密組織【ブラックシャドー】なのだ。
( ^ω^)「おはようございますですお。」
ブラックシャドーに入った僕はみんなに挨拶をした。
他に既に来ているアルバイトのみんなが僕に挨拶をしてくる。
( ゚∀゚)「よう、おはよう。今日もギリギリだな。」
ジョルジュが僕に挨拶してきた。彼は僕と同期のアルバイトだ。
今は一番の親友と呼べるだろう。いつも陽気だが今日はやけに嬉しそうだった。
( ^ω^)「ジョルジュ、何か今日機嫌がいいお。何かあったのかお。」
( ゚∀゚)「もうすぐバイト代入るだろ。おっぱいパブにいけると思うともうね・・・。」
バイト代をほとんどおっぱいにつぎ込むくらいジョルジュはおっぱい大好きなのだ。
( ゚∀゚)「ワカパイちゃんにまた会えるのかと思うとグッとくるな。」
ジョルジュは武者震いしている。
( ^ω^)「ジョルジュはほんとワカパイちゃん好きだお。」
( ゚∀゚)「今度連れて行ってやるからブーンも一緒に行こうぜ。
ワカパイちゃん見たいだろ?な?」
(;^ω^)「あ、うん、考えておくお。」
僕はおっぱいは嫌いじゃないけどおっぱいパブにまで行きたいとは思わないので適当に流しておいた。
僕とジョルジュが他愛のない話をしていると事務室のドアが開きニダーさんがやってきた。
彼はこの悪の秘密組織【ブラックシャドー】における作戦実行隊長なのだ。
<ヽ`∀´>「よし、バイトはみんなあつまったみたいニダ。
じゃあ、全員着替えて作戦会議室に来いニダ。」
( ^ω^)「はいですお。」
アルバイトのみんなはゾロゾロとロッカールームへと入っていった。
僕は自分のロッカーを開き、鞄を入れると黒い全身タイツを着る。
最後に黒いマスクを被って戦闘員の完成だ。こうなると誰が誰やらわからなくなる。
だが、ジョルジュと僕はお互いの体格や動きのクセでなんとなくわかるのだ。
そんなジョルジュが僕を見つけて話しかけてくる。
( ゚∀゚)「今日は何やるんだろうな。この前はダムの水に下剤を流すとかやってたけど、
あーいうのはあんまりやりたくないよなあ。」
( ^ω^)「あれはちょっと酷すぎたお。僕達も水飲めなくなるお。」
僕達は雑談しながら作戦会議室へ移動した。戦闘員のアルバイト達はパイプ椅子に座る。
椅子の前にある長いスチール製の折りたたみ机の上には紙切れが置いてあった。
一番上にブラックシャドーのマークが描いてある作戦指令書だ。
僕はそれを手に取る読み始めた。
( ^ω^)「えーと、【老人会の慰安旅行バスジャック作戦】って書いてあるお。」
( ゚∀゚)「これまた何とも微妙な作戦だな。」
ジョルジュがため息をついた。ニダーがドアを開けて入ってくる。
ニダーの後ろには顔がハエの怪人がいた。
<ヽ`∀´>「今日の作戦は【老人会の慰安旅行バスジャック作戦】ニダ。
その名のとおり、今日とある場所で老人会の慰安旅行をしているニダ。
そのバスをバスジャックするニダ。老人だから抵抗もされずにスムーズに進行できるニダ。
今日の怪人はアスワンツェツェバエ男ニダ。」
怪人までいる悪の秘密組織が老人を狙う時点でどうなのかと思ったが、
僕は黙っておくことにした。所詮、僕はバイトなのだ。
バイト代さえもらえれば組織の都合などどうでもいい。
<ヽ`∀´>「作戦は各自の机の上にある指令書に書いてあろうとおり、
採石場まで老人会のバスを誘導し、そこで老人から金品を奪うニダ。
今回はブラックシャドーの資金回収の作戦ニダ。」
( ^ω^)「ニダーさんは採石場ほんと好きだお。」
( ゚∀゚)「何か悪の組織っぽいから好きだって言ってたよな。」
数台の真っ黒なワゴン車に詰め込まれた僕達は老人会のバスがあるという場所まで移動を開始した。
当然、窓も真っ黒だ。全身黒ずくめの集団だけに窓の外から見られると非常に怪しいのでしょうがない。
最初は軽快に走っていたワゴン車だったがやがてガタゴトと揺れ始める。
( ^ω^)「下がジャリ道になってきたっぽいお。そろそろ着くのかお。」
( ゚∀゚)「まあ、老人会の慰安旅行なんて田舎だろうしなあ。
ジャリ道になったってことはそろそろだろうな。」
ワゴン車が急停止するとニダーがワゴン車のドアを開けてまわった。
そして、各ワゴン車に乗っている戦闘員に声をかける。
<ヽ`∀´>「作戦開始ニダ!」
ワゴン車から降りた僕は周りの風景を眺める。やっぱり田舎だった。
まわりは木々で囲まれていて遠くには山も見える。空気もおいしかった。
ここは田舎の旅館のガレージのようだった。
今、老人会の老人達がバスから降りて旅館に入ろうとしているところらしい。
アスワンツェツェバエ男「バエバエバエエエエエエ!!!!」
アスワンツェツェバエ男が老人を追い掛け回す。
そして、驚いて腰を抜かした老人を戦闘員がバスに連れ戻すのだ。
僕は尻餅をついているおじいちゃんやおばあちゃんに声をかける。
( ^ω^)「大丈夫ですお。痛いことはしませんお。」
そんな言葉をかけながら僕は老人達をバスに連れ戻していった。
老人達を全員バスに戻すと、アスワンツェツェバエ男がバスに乗り、運転を始めた。
一緒にニダーがバスに乗る。
<ヽ`∀´>「よしっ!次は採石場まで運ぶんだニダ!」
僕達はまたワゴン車に乗って採石場に移動を開始した。
( ^ω^)「今回は楽そうだお。」
( ゚∀゚)「ドクオファイアーが出てこなけりゃいいんだけどなあ。」
( ^ω^)「そうだお・・・。」
【ドクオファイアー】それは正義のヒーローである。
どこからともなくドクオサイクロン号というバイクに乗って現れ、怪人を倒していく。
僕達ブラックシャドーの敵であるドクオファイアーはヒーローというだけあってめちゃくちゃ強い。
( ゚∀゚)「まあ、いつものように適当に闘ってるフリしてやられてりゃいいよな。」
( ^ω^)「そうだお。」
いかにして無傷でやられたフリをするかが僕達アルバイトの腕の見せ所でもあった。
こんなところで怪我していたらやってられない。
時給がいいからやっているようなものの本来ならこんな危険がアルバイトはしたくはない。
採石場に到着したようだ。僕達がワゴン車から降りると
既にバスから降りたニダーとアスワンツェツェバエ男は老人を1列に並ばせていた。
<ヽ`∀´>「おい、おまえ達!!金目のものをこの袋に入れていけニダ!!
そうしたらちゃんとまた旅館に戻してやるニダ!!」
そう言うとニダーは手に持った黒い布袋に老人に金目のものを入れさせた。
老人達はブツブツと文句を言いながらも金目のものをいれていった。
<ヽ`∀´>「よーし、これで終わりニダ!!作戦大成功ニダ!!」
ニダーが嬉しそうに高笑いしている。その時、採石場の砂利が高くなっているところに人影が現れた。
僕は心の中であー来ちゃったと少しウンザリした気分になる。
('A`)「この世に悪がいる限り、正義の炎が焼き尽くす!!灼熱の戦士!!ドクオファイアー!!」
ドクオファイアーがいつもの決め台詞を言うとドクオファイアーの後ろで爆発が起こる。
( ゚∀゚)「いつも思うんだけどあの爆発の演出って誰がやってるんだろうな?」
( ^ω^)「確かにそうだお。」
<ヽ`∀´>「ここであったが百年目!今日こそおまえをやっつけるニダ!行け戦闘員!」
ニダーの掛け声と共に僕は猛ダッシュでドクオファイアーに突っ込んでいった。
ドクオファイアーはめちゃくちゃ強いので怪人とタイマンだとまず負けない。
そこで戦闘員がドクオのスタミナを削るために戦いを挑むのだ。
なんとも消極的な作戦だけどしょうがない。それほどドクオファイアーが強いのだ。
( ^ω^)「ブーン!!」
僕は両手を水平にしてドクオに1番に戦いを挑む。
なぜ1番に挑むのか。答えは簡単である。ドクオファイアー達ヒーローはたいていスロースターターなのだ。
序盤はジャブなどで体をほぐしていく、そして体が温まるとキックなどの大技になるのだ。
できるだけダメージを受けないでやられたフリをするには、ドクオファイアーの体の調子が全開になる前にやられるのがいいのだ。
( ^ω^)「ドクオファイアー覚悟!!」
僕はやる気のある台詞を吐くと広げた両手でドクオファイアーにラリアットをする。
( ^ω^)(いつもどおりならこのラリアットを華麗にかわしたドクオファイアーのジャブがくるお。
それをうまいことヒットした風に見せて派手に倒れたら終わりだお。)
ドクオファイアーはいつものように僕のラリアットをかわす。
( ^ω^)(フヒヒ、あとはドクオファイアーのジャブを当たったフリしておしまいだお。)
と思っていると回し蹴りが飛んできた。
(;^ω^)「えっ!?」
ドクオファイアーの回し蹴りは僕の頭に綺麗にヒットした。
(;@ω@)「グハァ・・・いつもと違う・・・お。」
頭が激しくシェイクされた僕は意識が遠くなっていった。その際にドクオファイアーの独り言が耳に入った。
('A`)「しょっぱなから回し蹴りもカッコよくていいな。」
僕が目を覚ますとドクオファイアーが屈んで僕の顔を覗き込んでいた。
('A`)「おう、目が覚めたか。大丈夫か?」
(;^ω^)「あう!!ドクオファイアー!?・・・さん・・。」
('A`)「わりぃな。ちょっとやりすぎたみたいだ。」
(;^ω^)「あ、えーと。」
僕は何がどうなっているのかわけがわからなくなった。
起き上がってまわりを見回すともう誰もいなかった。
僕の乗ってきた黒いワゴン車もいなかった。
('A`)「もうみんな帰っちまったぜ。」
(;^ω^)「と、いうことは・・・アスワンツェツェバエ男は・・・もうやっつけちゃいましたよね?」
('A`)「ああ、ドクオバーニングキックで倒したぜ。」
(;^ω^)「じゃ、じゃあ僕はおいとましますお。」
僕はそそくさと逃げようした。ここにいるのはヒーローと戦闘員Aの2人だけ。この状況は非常に危険だ。
('A`)「おい、ちょっと待てよ。」
ドクオファイアーが僕を呼び止めた。
(;^ω^)「ハヒィッ!!」
僕はびくりと体を硬直させ恐る恐るドクオの方を振り向く。
('A`)「こんな田舎で歩いて帰るのか?送ってやるから後ろに乗りな。」
ドクオファイアーはドクオサイクロン号に跨っていた。
(;^ω^)「あ、でも・・・あなたと僕はヒーローと悪の組織の戦闘員で・・・。」
('A`)「おまえバイトだろ?まあ、いいから乗れよ。」
ドクオファイアーは半ば強引に僕を乗せるとドクオサイクロン号のアクセルを拭かした。
ブロロロロォ!という独特のエンジンを響かせると僕を乗せたドクオサイクロンは採石場を後にした。
(;^ω^)(僕どうなるんだお?)
街に戻ってきた僕達はなぜか高架線下にあるおでん屋台で飲むことになった。
僕とドクオファイアーは屋台の小さな椅子に座る。
('A`)「おまえ酒飲める?」
(;^ω^)「あ、はいですお。」
('A`)「じゃあ、生中2つ頼むわ。」
ドクオファイアーが屋台のおやっさんに声をかけた。
(;^ω^)「あの・・・ドクオファイアーさんは飲酒運転になるのでは?」
('A`)「ん?ああ、俺の家この近所だからバイクは押して帰るんだよ。
まあ、この屋台のおやっさんとは仲いいし、ここに停めておいてもいいんだけどな。」
(;^ω^)「あーそうですかお・・・。」
('A`)「あと、もう変身は解除してるからドクオでいいぜ。」
(;^ω^)「あ、はい、ドクオ・・・さん。」
屋台のおやっさんから生中のジョッキを受け取ったドクオは僕に手渡す。
2人で乾杯するとドクオはゴクゴクと一気にビールを飲み干す。
('A`)「カーッ!うめぇ!!この一瞬のために俺は生きてるんだよなぁ。」
僕はチビチビとビールを飲みながら思い切ってずっと思っていた疑問をドクオにぶつけた。
(;^ω^)「あのーそれで何で僕を飲み屋に連れてきたんですかお?」
('A`)「ああ、まだ言ってなかったな。まず最初に謝っておくわ。回し蹴り当てて悪かったな。」
(;^ω^)「ああっ!いえいえ、それは敵同士なんだからしょうがないですお。」
いきなり謝ってきたドクオに僕は動揺した。戦闘員に謝るヒーローなんているとは思わなかったからだ。
('A`)「戦闘員ってのは基本的にはただのバイトだしな。あんまりやりすぎないように注意してるんだわ。」
( ^ω^)「はぁ。」
('A`)「俺の狙いはあくまでも怪人とそのバックボーンである幹部達だ。
だから、戦闘員にはあまり怪我をさせたくないんだ。でも、今日はおまえを気絶させちまった。
それでお詫びもこめて飲みに連れて来たってわけだ。」
( ^ω^)(何だか変なヒーローだお・・・。)
('A`)「おまえいくつ?」
( ^ω^)「あ、25ですお。」
('A`)「あー、じゃあ大学出たけど就職できなくてフリーターってやつか。」
( ^ω^)「そ、その通りですお・・・。な、なんでわかるんですかお?」
ドクオはなぜ僕のことをわかるのか驚いた。
('A`)「まあ、なんとなくな。そーいう奴多いし。」
ドクオは2杯目のビールをうまそうに飲んでいる。
この奇妙な組み合わせの会話にも慣れてきた僕はこの際だからいろいろ聞いてみることにした。
( ^ω^)「ド、ドクオさんは何でヒーローになろうと思ったんですかお?」
('A`)「ああ、俺は2世ヒーローだから半強制的な感じだ。」
( ^ω^)「えっ!?そうなんですかお?」
('A`)「俺はビッグバンガイの息子なんだ。」
(;^ω^)「えっ!あの最強のヒーローといわれたビッグバンガイですかお!」
僕は驚いた。数々の悪の組織を壊滅させたヒーローの伝説とまで言われているヒーロー。
それが最強のヒーロービッグバンガイ。
('A`)「まあ、俺があんまり広げないでくれって口止めしてるから知ってるのは、
ヒーロー協会の関係者くらいだけだな。」
(;^ω^)「どおりでドクオさんは強いわけですお。」
('A`)「まあ、俺なんてまだまだだよ。」
( ^ω^)(あれでまだまだだったらどれだけ強くなるんだお。)
('A`)「そう言えばなんでおまえはブラックシャドーでバイトしてるんだ?」
( ^ω^)「時給がいいんですお。あと、遠くへ行くときはお弁当とか出るんですお。」
('A`)「まあ、重労働だからその分待遇がいいってわけか。」
( ^ω^)「そうですお。しばらくは続けるつもりですお。」
('A`)「・・・そうか。まあ、人それぞれしな。あんまり無理はするなよ。」
( ^ω^)「はいですお。」
('A`)「じゃあ、そろそろおひらきにするか。おやっさん。勘定頼むわ。」
ドクオが財布を出した。僕も財布を出す。
('A`)「ああ、今日は俺が奢るから。」
(;^ω^)「い、いえ!そんなめっそうもないですお。ワリカンで!」
('A`)「まあ、今日はおまえに痛い目にあわせちまったしな。俺に奢らせてくれ。
次からはワリカンだけどな。」
そう言うとドクオはニッと笑った。結局、僕はドクオに奢ってもらってしまった。
それから、バイクを押すドクオと他愛のない世間話をしながら歩く。
('A`)「じゃあ、俺こっちだから行くわ。」
ドクオが交差点で僕と反対側へとバイクを押していく。
( ^ω^)「あ、あのもう1つ聞きたいことがあったんですお。」
バイクを押す手を止めたドクオは振り向いて僕の顔を見る。
('A`)「ん?何だ?」
( ^ω^)「ぼ、僕にブラックシャドーの本拠地とか聞かないんですかお?」
ドクオは不敵な笑みを浮かべた。
('A`)「ヒーローってのはな、悪の本拠地を自分の力で見つけてぶっ潰すもんだぜ。」
そう言うとドクオは再びバイクを押して僕の視界から消えていった。
だが、視界から消えるまでドクオの大きくて力強い背中から僕は目を離せなかった。
( ^ω^)(あれがヒーローの持つ、力強いが孤独で哀愁のある背中なのかお・・・。)
ドクオが視界から消えると僕も自分のボロアパートへと向けて歩き始める。
そして、ボロアパートの自分の部屋に入ったときにはじめてあることに気がついた。
(;^ω^)「僕、街中をずっと全身黒タイツで歩いてたのかお・・・。」
【第1話おわり】