293 名前: ◆girrWWEMk6 []
投稿日:2006/03/05(日) 00:55:56.12 ID:GmbarTPb0
――ジョルジュ――
同日 PM 1:40
( ´_ゝ`)「というわけで百貨店に着いた訳だが」
( ゚∀゚)「もうパンパースなんていらねえだろ」
( ´_ゝ`)「悪いがパンツが濡れたままだと気持ちが悪いのだ」
結局ジョルジュたちはサスガビルに向かう前に、大型百貨店にやってきた。
都市部の中央付近に位置するこの百貨店は、ニュー速一の品揃えを誇っていた。
定休日なのかシャッターは閉じられ、中に入るに入れなかった。
( ゚∀゚)「中に入れそうにねえぞ」
( ´_ゝ`)「だな」
297 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 01:03:07.85
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「もうパンツなんか諦めろよ」
( ´_ゝ`)「いや、パンツも重要なのだが、正直今日一日でこの島から出られると思うか?」
兄者は百貨店の入り口に近づき、シャッターを眺めながら言った。
( ゚∀゚)「……どういうことだよ」
( ´_ゝ`)「俺は早くて明日、下手すりゃ一週間はこの島に残ることを覚悟している。
いつ救助が来るかも分からんしな。
携帯電話も通じず、電子メールも送れない。
これはなかなか危機的状況だと思わんか?」
兄者の言うことももっともだ、とジョルジュは思った。
今日中に救助が来るとは限らない。
いくら災害や事故から生き延びようとも、水や食料がなければ人は生きていけない。
( ゚∀゚)「なるほど、食料も必要ってことだな」
( ´_ゝ`)「そういうことだ。
運搬は、百貨店の販売物におそらくリュックくらいあるだろう。
それを使えばいい。
今のうちに取り出せるものは全部持っていったほうがいいだろうしな」
( ゚∀゚)「でもそれって火事場泥棒っていうんじゃねえか?」
( ´_ゝ`)「こんな状況だ。仕方ない」
301 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 01:13:45.42
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「しっかし、どうやって入るつもりなんだ?
入り口はシャッター閉じちまってるし……」
( ´_ゝ`)「……搬入口なら」
搬入口なら、近くに警備員が駐在している守衛室、もしくは防災センターがあるはずだ。
店が休日だろうと、警備員はいるはずである。
その警備員がシャッターを降ろし忘れ、逃げてしまったということも考えられる。
二人は百貨店の裏口へ回り、搬入口へと向かった。
案の定搬入口の傍には、従業員用の入り口と、防災センターという札が貼り付けられた扉があった。
従業員用の入り口にはシャッターが降ろされており、開くことは不可能そうだった。
隣にある防災センターの扉は鍵がかかっておらず、ノブをまわすとすんなり開いた。
( ゚∀゚)「……なんかここまで順調だと嫌な予感もするよな」
( ´_ゝ`)「まあな」
302 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 01:27:31.51
ID:GmbarTPb0
ドアを開き、頭だけ突っ込み、防災センターの中を覗いた。
部屋には入店者監視用の分厚い窓ガラスから日の光が差し込み、案外明るかった。
床には瓦礫が散らばっており、天井は穴があいていた。
おそらく地震の影響で天井が落ちたのだろう。
おずおずとジョルジュを先頭に部屋に入る。
部屋に入ったすぐ隣の机には、警備員の記録用ノートが開かれたままで置いてあり、
そのすぐそばのロッカーには警備員の帽子が引っ掛けてある。
今まで人がいたかのようなその様子に、ジョルジュは少しばかり安心感と、
得体の知れない不気味な感覚を味わった。
( ゚∀゚)「……おじゃましますよっと」
ジョルジュが三歩ほど歩くと、何かが足に当たった。
304 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 01:40:44.02
ID:GmbarTPb0
警備員の死体だった。
机の陰になって見えなかったようだ。
頭から血を流し、白目を向いて死んでいた。
傍には血のついた大きな瓦礫があった。
どうやら天井から落ちてきた瓦礫の犠牲になってしまったようだった。
( ゚∀゚)「……」
なるほど、鍵がかかっていなかった理由はこれらしい。
逃げる以前に死んでしまえば、鍵もかけられるわけが無い。
( ´_ゝ`)「……運が悪かったとしか言えんな……」
( ゚∀゚)「ああ……」
二人はその死体を整えた。
せめてこれくらいはしてやりたかった。
306 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 01:43:18.49
ID:GmbarTPb0
防災センターから百貨店内部に通じる扉を開けた。
どうやらバックヤードに通じているらしい。
扉の先は、ただ闇ばかりだった。
地震のせいで電気が供給されていないせいで、太陽の光が届かないバックヤードは
暗いだけでしかなかった。
警備員用のロッカーから、懐中電灯とシャッターキーを取り出した。
( ゚∀゚)「これで何とか見えるな」
二人はバックヤード内を進んだ。
狭く、懐中電灯の光があっても薄暗い通路は、
どうもお化け屋敷を歩いているような感覚を呼び起こす。
いつ物陰から何かが出てきてもおかしくないような……。
307 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 01:45:20.74
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「お、おい、兄者、そんなイタズラするなよな!」
( ´_ゝ`)「いや、俺は何もしてないぞ……」
揺れは大きくなり、バックヤード内の乱雑に積まれたダンボールの山が崩れ落ちる。
中身はぶちまけられ、次々と足の踏み場を無くしていった。
( ´_ゝ`)「余震か!」
背後からミシミシとコンクリートが軋む音がした。
( ゚∀゚)「……まさか!」
309 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 01:52:52.54
ID:GmbarTPb0
気付いたときにはもう遅かった。
防災センターへの扉上部の天井が音を立てて崩れ、砂煙にも似た埃が舞った。
二人が手で目を覆い、そしてまた開いた頃には、
防災センターへの扉はすっかり瓦礫に覆われてしまった。
( ゚∀゚)「おい、まずいぞ、閉じ込められた!」
( ´_ゝ`)「……」
元は天井だったものは、今やただのコンクリートの塊となり、
ジョルジュたちの退路を断った。
( ゚∀゚)「……くそっ! どうやって出ればいいんだよ!」
逃げ場を失ったジョルジュに、焦燥感が募った。
310 名前: ◆girrWWEMk6 []
投稿日:2006/03/05(日) 01:56:57.64 ID:GmbarTPb0
( ´_ゝ`)「落ち着け。確かシャッターキーを持ってたよな?」
( ゚∀゚)「ああ……」
( ´_ゝ`)「ならそれで商品売り場から入り口のシャッターを開ければ問題ない」
兄者が至極冷静に答えた。
その冷静さを見て、ジョルジュも内心穏やかになりつつあった。
( ゚∀゚)「……なるほど。お前ってホント冷静だよな」
( ´_ゝ`)「そうでもないさ。とりあえずまたパンツが湿った」
( ゚∀゚)「……」
314 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 02:12:46.39
ID:GmbarTPb0
二人はぶちまけられた商品を踏みながら、バックヤードから売り場に出た。
売り場は広く、やはり真っ暗だった。
この広大な部屋では懐中電灯一つというのは、やはり心もとない。
( ゚∀゚)「お、野菜だぜ野菜」
ジョルジュが商品売り場の一画に駆け寄る。
キャベツが山積みになっていた。
細かな瓦礫が所々降りかかっていたものの、どれも原形をとどめ、
洗い流しさえすれば普通に食しても問題ないものばかりだった。
315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2006/03/05(日)
02:14:51.45 ID:GmbarTPb0
あ、このキャベツの置いてある一画には、
高めの柵があると脳内補完しといてください。
書き忘れました。
柵がないと最初の地震でぼろぼろ落ちちゃいますしね。
316 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 02:17:28.85
ID:GmbarTPb0
( ´_ゝ`)「いや、まずは鞄類の確保が先だ。
手で持ち抱えて歩くのは、さっきみたいな状況になったとき危険だ」
( ゚∀゚)「……確かにそうだな」
そう言って、ジョルジュは手に取ったキャベツを元に戻した。
( ´_ゝ`)「それにもっと言えば、脱出経路の確保が最優先だな。
先に入り口のシャッターを開けておいたほうが、後々安心できる」
( ゚∀゚)「なるほど」
二人はまた暗闇の中を歩き始めた。
兄者の冷静さに感心してばかりのジョルジュだったが、
ジョルジュの豊かな感情も兄者にとって大いに助かった。
一人でいる虚しさのようなものを取り払うジョルジュの明るさは、何より強い味方だった。
321 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 02:31:55.45
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「鞄って何階に売ってたっけ?」
( ´_ゝ`)「いや、俺はこのデパートのことはよく知らないんだ。
あまり外に出ないしな。居住区のスーパーくらいだな、分かるのは」
( ゚∀゚)「俺もあんまりこういうとこ来ねえしなぁ。
いつもコンビニで済ますからな」
( ´_ゝ`)「まあそこは店内案内板でも見れば分かる」
( ゚∀゚)「だな」
前方を照らしていた懐中電灯の光の輪のなかに、突如壁が現れた。
金属製の波間模様の素材から、どうもシャッターのようだ。
ジョルジュがシャッターキーを取り出し、差し込み口を探す。
しかしどこにもキーを差し込むようなところはなかった。
326 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 02:37:28.97
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「どうなってんだ?」
( ´_ゝ`)「壁じゃないのか?」
兄者の言う通り、近くの柱を注意深く眺めると、確かに鍵穴のついた鉄の板があった。
シャッターキーを挿入口に宛がう。
……一致した。
キーを回すと鉄の板が開き、中には3つのボタンがあった。
上向きの三角ボタン、赤い丸ボタン、下向きの三角ボタンの3つだった。
ジョルジュが上向きの三角ボタンを押した。
……何も起こらない。
( ゚∀゚)「どうしたんだ?」
全てのボタンを押せども、何の反応もなかった。
327 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 02:42:03.75
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「ぶっ壊れてるだけか?」
( ´_ゝ`)「あ」
兄者が小さく声を漏らした。
( ゚∀゚)「ん?」
( ´_ゝ`)「……電気が通ってないのにシャッター開くわけが無かった」
( ゚∀゚)「……」
やはり兄者はただの間抜けだ。
ジョルジュはそう思った。
334 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 03:04:35.14
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「……とりあえず、どうするよ? 間抜けの兄者」
( ´_ゝ`)「……俺に汚名返上のチャンスがあるなら」
( ゚∀゚)「OK、聞こう」
( ´_ゝ`)「バックヤードから二階に行けるはずだ。
二階の窓はシャッターで塞がれていないはず。
だからそこから脱出が出来ると思う」
( ゚∀゚)「確かにな。でもシャッターがあったらどうするんだ?」
( ´_ゝ`)「あったら、じゃなくて百パーセントあるはずだ。
……で、ここで一つ賭けをすることになるんだが……」
兄者は自らの言葉に不安そうな顔をした。
335 名前: ◆girrWWEMk6 []
投稿日:2006/03/05(日) 03:11:34.64 ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「……賭け?」
( ´_ゝ`)「下手すれば建物全体が倒壊するかもしれん。
もしくはシャッターは壊れないかもしれん。
俺たちが焼け死ぬかもしれん」
( ゚∀゚)「建物が倒壊ってお前……爆弾でも使う気か?」
こくりと一度だけ頷いた。
( ゚∀゚)「アホか! 百貨店に爆弾なんてあるわけ……」
( ´_ゝ`)「いや、小麦粉で作る。
俗に言う粉塵爆発を起こす」
344 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 03:27:25.04
ID:GmbarTPb0
ジョルジュには粉塵爆発というものが分からなかった。
しかも小麦粉で作るという意味も、よく分からない。
ジョルジュのその顔を見た兄者は、静かに説明をはじめた。
( ´_ゝ`)「粉塵爆発というのは、名の通り粉や塵状のものが媒体となって爆発を起こすことだ。
粉状のものが空気中に舞い上がり、酸素と混ぜ合わさったときに着火すると、
瞬間的に爆発を起こす」
( ゚∀゚)「……それが小麦粉で出来るってのか?」
( ´_ゝ`)「ああ。だが正直俺も試したことがあるわけではないし、
成功する可能性も悪いが保証できん。
だが他に手が無い以上、こればっかりは仕方が無い」
( ゚∀゚)「……」
350 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 03:36:05.69
ID:GmbarTPb0
ジョルジュは考えた。
ここには食料がある。
つまりこれはある程度の篭城もできるということを指す。
通風孔もあり、酸素がなくなることもないはずだ。
だが問題点もある。
ここに閉じ篭っていても、誰もジョルジュらがこの百貨店にいることを知らないため、
救助されない可能性が高い。
それにまた大きな地震が来た場合、もしかするとこの建物全体が崩落するかもしれない。
この二つが指し示す結末は、どちらも「確実な死」だった。
( ´_ゝ`)「どうする?」
351 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 03:38:12.25
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「……。
結局生き残るには、相当のリスクを背負うことになるんだよな」
( ´_ゝ`)「つまり……」
( ゚∀゚)「おう、乗ってやるよお前の賭けに!」
迷いが無いといえば嘘になる。
もしかしたら死ぬかもしれないという恐怖もある。
だがここまで来た以上、何もせずに死を待つより、何かをやって死ぬほうがマシだ!
――ジョルジュはそう思った。
( ´_ゝ`)「OK。死ぬときは一緒だ。
でもなるべく死なないようにしよう」
( ゚∀゚)「当たり前だろ!」
355 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 03:59:50.75
ID:GmbarTPb0
食品売り場隣りの棚から小麦粉二袋ほど持ち、バックヤードの階段から二階に上がった。
二階のバックヤードもダンボールが散らかり、散々な有様だった。
二階の従業員用扉から二階商品売り場に出ようとしたとき、
兄者があるものに気付いた。
( ´_ゝ`)「……これは……」
兄者の視線の先にあったのは、清掃員の使用する準備室だった。
兄者が小走りで近寄り、中を覗いた。
( ´_ゝ`)「……これは使えるかもしれん」
ジョルジュも兄者の後に続き、中を覗いた。
そこにあるのは、色々な掃除用具に囲まれ、奥まった場所にある大型の洗浄機だった。
四角く、重量もある。充電式のようで、まだ鍵を回せば電源が入る。
取っ手に当たるグリップを奥に回せばバイクのように前に進むものだった。
357 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 04:01:20.23
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「……これで何をしようとしてるんだ?」
( ´_ゝ`)「前にネットで読んだことがある。
清掃員のバイトが店のシャッターに洗浄機をぶつけて、
シャッターを大きく凹ましたという話だ」
( ゚∀゚)「でも凹ますだけだろ?」
( ´_ゝ`)「シャッターの耐久度を減らすことができれば、
粉塵爆発でシャッターに穴が開く可能性も高くなる」
( ゚∀゚)「……なるほど」
( ´_ゝ`)「とにかく、二階の構造を把握しよう」
362 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 04:19:03.31
ID:GmbarTPb0
従業員扉から二階商品売り場に出た。
二階は寝具、雑貨品、リフォーム相談所、宝石店など様々な店があった。
シャッターの数自体は少なく、しかもあまり厚いものではない。
それにうってつけの構造になっている場所を見つけた。
店の奥まったところ、凹の字のへこんだ部分に設置されているシャッター。
ジョルジュの記憶が正しければ、その向こうにはレストランがあった。
レストランの一番奥は、全面ガラス張りだったはずだ。
兄者とジョルジュは互いに見合い、頷いた。
とりあえず爆破場所は決まった。
( ´_ゝ`)「……ところで、どうやって密室を作り上げるか、だが」
( ゚∀゚)「密室?」
( ´_ゝ`)「粉塵爆発は、ある程度の密室状態がいる。
粉末、酸素の逃げ場を失くすためにな」
( ゚∀゚)「……アレ使えばいいんじゃねえか?」
369 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 04:45:08.36
ID:GmbarTPb0
ジョルジュが指差したものは、リフォーム相談所のサンプルの壁だった。
見本品のため比較的軽めに作ってあり、運ぶのも楽だ。
( ´_ゝ`)「それだ」
二人は幾つかの壁を持ち出し、凹のへこんだ所を塞ぎ、□になるように設置した。
上部の開いた部分は壁を二枚ビニールテープでがちがちに繋ぎ合わせることによって解消し、
中央は豪華なドアを設置してみたりもした。
( ゚∀゚)「……軽いとはいえ……疲れたな……」
( ´_ゝ`)「まあな、なかなか数もあったし……」
あとは床洗浄機をシャッターにぶつけ、へこませるだけだ。
バックヤードの清掃準備室から床洗浄機を持ち出した。
案外新しいもので、スピードも中々出た。
威力はかなり期待できそうだ。
( ´_ゝ`)「あとはこれをぶつけるだけだが……」
兄者の顔が曇った。
374 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 05:07:47.98
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「……なんか問題あるのか?」
( ´_ゝ`)「いや、ぶつけた衝撃で天井が落ちないかと……」
確かにそうだ。
防災センターの扉の天井は、余震一つで崩れ落ちた。
それを考えると、ぶつけた衝撃で天井が落ちてくるかもしれないという
兄者の心配も理解できる。
( ゚∀゚)「そうかもしれんが」
だが、その程度を怖れていて、今からやる粉塵爆発なんてやれるのか。
( ´_ゝ`)「……そうだな。やってやるか」
兄者はジョルジュの言わんとする言葉を汲み取り、頷いた。
375 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 05:08:38.18
ID:GmbarTPb0
破壊する予定のシャッターの前に、床洗浄機を持ってきた。
助走をつけるために、設置した壁が倒れぬよう、慎重に距離を取る。
( ´_ゝ`)「……いくぞ」
( ゚∀゚)「おう!」
兄者がグリップを奥に向けてフルに回した。
段々とスピードを上げる床洗浄機。
それが、シャッターに大きくぶち当たった。
その衝撃は予想以上の大きさで、シャッターは床洗浄機の3分の一ほどめり込んだ。
二人は崩れるかもしれない天井に備えた。
……………………しばらく待ってみたが、何も起きなかった。
( ´_ゝ`)「……まずは第一関門突破か」
兄者がほっと胸を撫で下ろした。
ジョルジュも内心冷や汗ものだったが、次に待つ粉塵爆発のことを考えると
まだ安心してはいけない、と自制した。
376 名前: ◆girrWWEMk6 []
投稿日:2006/03/05(日) 05:09:53.23 ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「……じゃあ第二関門にして最大の難所、粉塵爆発と行くか」
( ´_ゝ`)「……そうなんだが、どうも洗浄機が壊れてしまったらしい。
うんともすんとも言わん」
( ゚∀゚)「つまり……」
( ´_ゝ`)「洗浄機ごと爆破せねばならん、ということだ。
これは重すぎて二人でも到底運べそうにない」
( ゚∀゚)「……それって、結構やべえんじゃねえか?」
( ´_ゝ`)「ああ、洗浄機も爆発して、予想以上の爆発になるかもしれん」
( ゚∀゚)「……」
さすがのジョルジュもこれには躊躇した。
今まで助かる算段があっただけ、まだその可能性を信じてやってこれた。
だが今になってその可能性の低下を知らされると、多分誰でも躊躇う心が生まれてくる。
377 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 05:12:32.83
ID:GmbarTPb0
( ´_ゝ`)「どうする? いっちょ自爆覚悟でやってみるか?」
兄者は冷静にそう言った。
もう覚悟は出来ているようだ。
その兄者を見て、ジョルジュも決心を固めた。
( ゚∀゚)「お、おう! やってやろうじゃねえか!」
( ´_ゝ`)「だな」
サンプルのドアのガラス部分を割り、雑貨品コーナーにあった布を代用した。
こうすることにより、起爆装置(炎)の投下口を作ることにした。
持ってきた小麦粉二袋のうち、一袋だけをシャッターの前で盛大に撒いた。
小麦粉は天井を覆うまで舞い上がった。
二人はすぐさま即席のその部屋から飛び出し、ドアを閉めた。
あとは遠くから火をつけたボールを投げ込むだけだ。
378 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 05:13:24.30
ID:GmbarTPb0
( ゚∀゚)「……行くぞ……」
( ´_ゝ`)「ああ……」
二人は内心恐怖していた。
当然だ。自分たちがこれから死ぬかもしれないというのに、恐ろしくないわけがない。
だが、やらねばいずれ死ぬ。
半ば自暴自棄のような考えだが、しかし生き残るにはその考えも必要なのだ。
( ゚∀゚)「うおおおおーーっ!」
ジョルジュはピッチングフォームから全力投球した。
それはジョルジュなりの、悔いを残さないための力投だった。
ボールは布にあたり、布は破け、
部屋は、爆発した。
404 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 07:55:39.85
ID:GmbarTPb0
サンプルの壁は木っ端微塵に砕け、轟音はフロア中に響き渡った。
十数メートル離れたところにいる二人のところにも熱風は届き、
二人は思わず床に伏せた。
( ゚∀゚)「……威力強すぎじゃねえか……?」
( ´_ゝ`)「……粉塵爆発を少々甘く見ていたかもしれん……」
爆発の衝撃で、シャッター上部の天井が抜けた。
上から瓦礫が落ちてきて、床に積もった。
砂埃が舞い、シャッターの様子は分からない。
ただ百貨店自体に大きな変化はなく、今にも崩れそうという雰囲気はなかった。
406 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:01:10.03
ID:GmbarTPb0
漂う砂埃が薄れ、シャッターの様子が窺えてくる。
( ゚∀゚)「……お……お」
( ´_ゝ`)「……」
砂埃がはれ、二人の視界に景色が映る。
それは、吹き飛んだシャッターの先にある、小さなレストランだった。
( ゚∀゚)「おっしゃあああああーーっ!」
408 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:08:14.27
ID:GmbarTPb0
ジョルジュはすぐさま立ち上がり、レストランのほうへと駆けて行った。
落ちてきた天井の作り出した瓦礫の山を飛び越え、
吹き飛んだシャッターを踏みながら、レストランの奥へと進んでいく。
レストランの内部はテーブルや椅子などが幾つか倒れていたものの、
目立った損傷はなかった。
床に転がっている障害物を避けながら、奥のガラス窓を見た。
椅子の一つでも叩きつければ、すぐに割れそうなほどだった。
後ろから兄者が歩いてきた。
( ´_ゝ`)「生きてるな、俺ら」
( ゚∀゚)「ああ! 俺らは賭けに勝ったんだぜ!」
喜びの感情を露わにするジョルジュの姿は、
兄者自身にも、達成感と安堵感、そして生きている喜びを与えた。
412 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:13:45.12
ID:GmbarTPb0
だが、それは二階のどこかで天井の崩れる音が聞こえたとき、
一瞬で消え去った。
( ゚∀゚)「ま……まさか……」
連続的に聞こえる崩落の音。
粉塵爆発の影響は、一寸遅れてやってきたのだ。
( ´_ゝ`)「い、いかん……こりゃ建物全体が……」
( ゚∀゚)「じょ、冗談じゃねえぞ!」
ジョルジュはすぐさま足元にある椅子を拾い上げ、ガラス窓にたたきつけた。
ガラス窓は耳をつんざく様な高い音を立てながらバラバラに砕けた。
413 名前: ◆girrWWEMk6 []
投稿日:2006/03/05(日) 08:18:52.63 ID:GmbarTPb0
飛び降りようとするジョルジュを、兄者が制止する。
( ´_ゝ`)「やめろ!」
( ゚∀゚)「やめろって何だよ! 逃げられるなら今すぐ……」
( ´_ゝ`)「バカ! 下はアスファルトだぞ!
この高さからだって、落ちたら足を痛める。
足を痛めて走れなくなったら、結局は建物の崩落に巻き込まれて死ぬ!」
兄者の言うことはもっともだが、しかしどうする手立てもない。
( ゚∀゚)「でもこのままでも結局死ぬぞ! それなら一か八か……!」
414 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:23:08.93
ID:GmbarTPb0
ジョルジュはそう言いながら、あることを思い出した。
( ゚∀゚)「……そうか!」
思い立ったが、すぐにジョルジュはレストランを飛び出て、
シャッターを踏みつけ、闇へと消えていった。
( ´_ゝ`)「な、何を……」
兄者がそう思ったとき、ジョルジュが何かを抱えて戻ってきた。
寝具売り場にあったベッドのマットだった。
ジョルジュはマットを割れたガラス窓から放り投げた。
マットはボフッという小気味良い音を立てて着地した。
( ゚∀゚)「おい、これなら何とかなるかもしれん!
飛び降りるぞ!」
( ´_ゝ`)「マット一枚でか!?」
( ゚∀゚)「仕方ねえだろうが! もうじきここまで……」
416 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:24:55.12
ID:GmbarTPb0
崩壊の足音はどんどん近づいてくる。
迷っている暇はない。
( ゚∀゚)「うおおおおー!」
ジョルジュは窓から威勢良く飛び出した。
マットに両足を着地させ、そのままの勢いで百貨店から離れて行く。
( ´_ゝ`)「……くそっ!」
兄者もジョルジュに続き、外に飛び出した。
うまくマットに着地したものの、足に響くような傷みが起きる。
痛みに蹲りそうになる。
百貨店のコンクリートはどんどんアスファルトに叩きつけられ、割れて行く。
足を踏み出そうとすると、電気が走るような痛みに、うまく足が回らない。
兄者を覆う影が大きくなる。
兄者を飲み込もうと、百貨店が倒れこんでくる。
417 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:26:22.06
ID:GmbarTPb0
突然腕を引かれた。
あまりの勢いに腕が抜けるんじゃないかと思うくらいの痛みを伴った。
気付けば先に飛び出していたジョルジュが、兄者の腕を掴み走り出していた。
兄者は足に痛みが起こる中、無理やり走らされた。
マットの上に、兄者の二倍ほどの大きなコンクリートが落ちてきた。
コンクリートがアスファルトの地面に叩きつけられるたび、
アスファルトは裂け、コンクリートは砕け散る。
二人は必死に走った。
倒れこんでくる建物は、二人を道連れにしようと勇んで追ってきた。
影は大きくなり、二人を飲み込む。
間に合――わない!
( ゚∀゚)「くそおおおっ!」
418 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:29:54.23
ID:GmbarTPb0
ジョルジュが兄者の腕を思いっきり放り投げ、自らも勢い良くアスファルトの地面に飛び込んだ。
地鳴りのような音を立てながら着地していく瓦礫の群れ。
その群れは、
ジョルジュのつま先に触れ、
停止した。
( ゚∀゚)「……」
( ´_ゝ`)「……」
( ゚∀゚)「……………………助かった……のか……?」
( ´_ゝ`)「……………………そう……みたい……」
二人は無様に地面に転がったまま、立ち上がることが出来なかった。
腰が抜け、全身に妙な虚脱感があり、立とうにも力が入らない。
兄者はアスファルトを水浸しにしていた。
419 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:30:55.59
ID:GmbarTPb0
結局、立ち上がれるようになったのは、それからしばらくしてからのことだった。
二人は沈む夕日を見ながら、最後のラッキーストライクを吹かしていた。
( ゚∀゚)「……うまいな」
( ´_ゝ`)「……どうも俺には癖があるようでいかん」
兄者は一旦口から離し、こう繋げた。
( ´_ゝ`)「……でもこのまずさが、生きてるって事なんだよな」
( ゚∀゚)「ああ」
422 名前: ◆girrWWEMk6 [] 投稿日:2006/03/05(日) 08:32:38.88
ID:GmbarTPb0
ジョルジュがポケットから、一つの缶詰を取り出した。
( ゚∀゚)「小麦粉探してるときに、拾ってきたんだ」
そう言いながら、『鳥の煮付け』を開けた。
一つつまみ、口の中に放り込んだ。
( ゚∀゚)「まずっ」
兄者もそれに倣い、一口分つまみ上げた。
( ´_ゝ`)「……ああ」
( ゚∀゚)「……生きてるって、素晴らしいよな」
( ´_ゝ`)「ほろ苦いよな」
( ゚∀゚)「ああ」
沈み行く夕日は、ただ美しかった。