22 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:00:37.99 ID:HPt0dpR20
彼があの男に出会ったのはほんの数年前であった。
その時の彼は戦場に立つのは初めてであり
銃を握るのも、敵と対峙するのも初めてのことであった。
もちろん、人を殺したことも
人が殺されるところを見るのも初めてのことだ。
また、あの男のような異常者を見るのも初めてのことだった。
23 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:03:04.61 ID:HPt0dpR20
その時の光景を彼の瞼の裏はすぐに映し出せる。
鮮明に、色濃く、まるで過去に戻ったかのように……
だが、彼はその時に、あの男と出会った場面に戻るのは
いくら金を積まれようが、3つの願い事を叶えてもらえようが
断固拒否するであろう。
むしろ3つの願いで
あの時の事を忘れようとするはずだ。
それほどまでに彼にあの時の記憶は
トラウマを植え付けていた。
あの男の狂った言動、行動、性格、彼との圧倒的な力の差。
その全てを忘れ去りたかった。
だが彼は、今日も銃を手に取る――――――――――――
24 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:04:03.54 ID:HPt0dpR20
男が1人寝そべっていた。
いや、寝ているように見えるがこれは違う。
彼はその身を伏せ、銃を構えて獲物を待っていた。
砂塗れになりながらも
灼熱の太陽に身を焼かれてもじっと獲物待ち続ける。
銃、彼の獲物はスナイパーライフルだ。
長く茶色い銃身の上には、茶色い小さなスコープが付いていた。
通常は黒い銃身なのだが
彼の仕事場である砂漠では黒い銃身は目立ってしまう。
なので彼はカモフラージュとして茶色く塗りつぶしていた。
彼の体の上には砂が盛られてあり
彼自身も茶色に塗りつぶされている。
これならば敵に気付かれる可能性もぐっと下がるだろう。
25 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:04:58.17 ID:HPt0dpR20
そして待ち続けること数十分。
彼の獲物はやってきた。
茶色い軍服を身に纏った男達が7人
彼の500メートル程離れた前方に現れたのだ。
男達は両腕にアサルトライフルを持っていたが
彼等の表情は緩みきり、楽に仕留められるであろうと彼は悟った。
別に彼等が悪いわけではない、彼等のベースキャンプのすぐ傍である。
だが、彼の考えは違った。
しかし、500メートルという距離は
彼の持つ小銃では弾丸が届きはするが命中は期待できなかった。
小銃弾では500メートルという距離は風、湿度、重力、等様々なものに阻まれてしまうのだ。
27 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:05:49.62 ID:HPt0dpR20
だが、銃弾が空を切るヒュンという音がしたと思うと。
茶色い軍服を着た兵士の一人が頭から血を流し、倒れた。
残念ながら500メートルという距離では倒れる音は聞こえないが
スコープを除く彼の目にはその姿を確認できた。
なんと、彼は様々な要因に阻まれながらも500メートルもの狙撃に成功したのだ。
茶色い軍服を着た兵士たちがザワザワと慌ただしく身を屈め、見えない敵に対応し始める。
口々に「敵襲だ!」「攻撃を受けた! 増援を頼む!」等とと騒ぎ立てるが
彼等の行為は無意味であった。
突然彼等のうちの一人が、眉間に赤い点を作り
膝を附いて倒れ、その後方でまた一人倒れた
28 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:07:14.47 ID:HPt0dpR20
「どうなってやがんだ!」そう彼等の一人は叫ぶ。
そしてその叫んだものも500メートルから飛来する凶弾の前に倒れる。
一人、また一人と倒れていき。
アッと言う間に最後の一人となっていた。
その最後の一人はやけになったのか
あたりに携えているライフルを振り回し
地面へ空へとあちこちに銃弾をばら撒く。
ダダダダダダダダダダ
そう銃声が響き渡るが彼に当たるようなことは無い。
間断なく響きわたる銃声は
その男が地に伏しても止むことはく
男は両足を撃ち抜かれていた。
('A`) 「戦場で落ち着ける場所なんてねぇんだよ、常に警戒しやがれ」
その男の500メートル離れた場所にいた彼、ドクオが吐き捨てるように言った。
30 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:08:05.34 ID:HPt0dpR20
彼、ドクオの技術であれば足を撃ち抜くのではなく
眉間を打ち抜くことも出来たであろう。
しかし、ドクオは知っていた。
彼の敵、ニューソク軍が何を信条にして戦うのかを。
ニューソク軍人は名誉を汚さない。
よって彼等は決して仲間を見捨てたりはしない。
つまり、1人だけ動けない状態で残しておけば
彼等ニューソク軍人達は絶対に負傷者を助けに来るはずであった。
友釣り法という戦術である。
ニューソク軍はこの戦術に弱かった。
そして、ドクオの狙い通りに事が進む。
31 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:08:49.64 ID:HPt0dpR20
ベースキャンプからの増援がやっと到着したのだ。
生き残った者を発見すると
すぐさま彼等は救助に取りかかった。
ドクオは微笑する、彼はいつもどおりに事が運ぶのが楽しくて仕方がなかった。
('∀`) 「ふん、ニューソクの奴らはこれだから駄目だ
強力な最新兵器、鍛え抜かれた技術、世界最大の規模を誇る部隊!
その全てを味方を救うために棒に振っちまっている。名誉なんてモンは捨てちまえ」
ドクオがそう呟き、引き金に指を乗せる。
だが、500メートル離れたこの場からでも
響きわたる叫び声に驚き。
ドクオは引き金を引くことを中断した。
32 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:09:46.17 ID:HPt0dpR20
「俺はいい! これは罠だ!! 来るんじゃねぇ!! 俺の名誉の為に放っておいてくれ!!!」
叫び声はこの台詞を延々と繰り返していた、その台詞を聞いたニューソク軍の兵士たちは
顔を歪める、罠であるのは彼等も気づいているのだろう、しかしそれでも助けに行こうと
彼等は暗黙の内に了解していた。全ては己の名誉の為に。
しかし、彼等は仲間の名誉の為に引いたようだ。
ニューソク軍人は、名誉を汚さない。
彼等の名誉ち命は、負傷した彼の名誉を守ることによって守られたのだ。
(;'A`) 「え……?」
ドクオは驚きの声を上げる。
彼は明らかに唖然としていた。
引き金に乗せられた指がそこに張り付いて凍ってしまったかのように動くことはなかった。
全ては名誉を汚さないために。
数々のニューソク軍兵士たちを相手取ってきたドクオであるが。
このような光景に出合うのは初めて出会った。
ドクオはとりあえず、この場に長居するのは自分の身が危ないと
そう判断し、気付かれないように匍匐で後退し
900メートル離れた辺りで全速力で走り抜き彼の隠れ家へと逃げ込んだ。
34 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:10:33.31 ID:HPt0dpR20
彼の隠れ家、そこはごく普通の家であった。
テレビもあれば電子レンジもありI・ポッドもある。
「おう、お帰り」
そう答える声が、キッチンのほうから聞こえてきた。
(;'A`) 「ただいま!」
息を切らしてドクオが応える。
キッチンから一人の女性が現れ
川 ゚ -゚) 「どうした? そんなに息を切らして」
腹でも減ったか?
女性がそう付け加え
(;'A`) 「違う! 逃げて来たんだ、腹は減ってるけど…って俺は子供か!?」
ドクオはそうノリツッコみしながら答える。
川 ゚ -゚) 「なんだ、そんなに切羽詰った状況なのか」
(;'A`) 「いや、そうでも無いけど」
川 ゚ -゚) 「なら何故そんなに焦る必要がある?」
女性が心底“わけがわからない”という風に尋ねる。
しかし、先ほどからこの女性はえらく無表情だ。
36 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:11:42.52 ID:HPt0dpR20
(;'A`) 「それが!」
ドクオが焦りながら答えようとするが言葉が途切れる。
('A`) 「いや、やっぱりどうでもいいよ…」
彼はバツが悪そうに言葉を繋げた。
川 ゚ -゚) 「そうか、どうでもいいならいいんだ」
女性が即答した。こちらもかなりどうでもよさそうである。
川 ゚ -゚) 「しかし、食事を取るか取らないかはどうでもよくないぞ」
(;'A`) 「あぁ、引きずるのね。いただきますよ」
ドクオは何故か敬語で答える。
それは食べさせてもらう側としての
ドクオなりの礼儀のつもりなのかもしれない。
あっ忘れていた。そう女性が紡ぎだして言う。
川 ゚ -゚) 「ご飯にするか? 風呂にするか? それとも私か?」
37 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:12:30.56 ID:HPt0dpR20
(;*'A`) 「何言ってんの?」
ドクオの率直な感想であった。
しかし彼はどこか嬉しそうである。
川 ゚ -゚) 「む? お約束のネタだろう? 間違えたか…」
女性はしくじったという顔をして言う。
しかし、わずかな変化であり。
彼女と長い付き合いの者でもなければ気づけないような物であった。
川 ゚ -゚) 「和食になさいますか? 洋食になさいますか?」
('A`) 「レストランかっ!?」
思わずドクオがツッコむ。
川 ゚ -゚) 「とりあえず汗臭いから風呂に入れ」
(;'A`) 「酷いなお前!」
そう言いつつも風呂場へ向かうドクオだったが
残念ながら風呂の湯は入ってなかった。
(;A;) 「風呂にするか? って聞かれたのに!!」
彼の悲痛な叫びが風呂場に木霊した。
38 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:14:07.48 ID:HPt0dpR20
ガックリと肩を落としたドクオが風呂場から出ていく。
水が勢いよく流れる音がすることから
彼が風呂の湯を張ったことが窺える。
風呂場から出たその足でリビングへと直行した。
そこには彼のお気に入りのソファが置かれている。
彼の疲れた表情を見ればそこで休むことは必然であろう。
ソファの前に立ち、そのまま滑り込むように寝転ぼうとするが
彼の理性が「砂だらけになった戦闘服と武器を片付けてからにしろ」と伝え
ドクオはそれに従う。
戦闘服を脱ぐと、砂が零れ出てくるものかと思っていたが
そんなことはなかった。砂は全て彼の汗によってシャツや体にこびり付いていた。
だが幾つかの砂がカーペットへと零れ
その光景をキッチンから見た彼女は顔をしかめた。
川 ゚ -゚) 「ドクオ、砂が落ちるから風呂場でやれと注意しただろ」
(;'A`) 「あぁ、ごめん。疲れてて忘れてたわ」
クーは細かいな…
そう愚痴を零しつつも砂を掃除し始めた。
その彼の行動と先ほどからのやり取りをみれば
どうみても尻に敷かれている男のそれであった。
クーというのはキッチンでせっせと調理をしている女性のことである。
39 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:15:34.96 ID:HPt0dpR20
手料理を振舞ってくれる分、尻に敷かれているとは言い難いかもしれないが
立場から言えばクーが上であることには変わりなかった。
何故なら彼女はドクオの命の恩人であり、師匠であるのだから……
数年前のあの日。
ドクオが初めて戦場に出て初めて銃を握り
初めて敗北と死の恐怖を味わったあの日のことだ。
あの日彼は帰宅の途中であった。
日はすでに沈み、空には星が浮かび、暗闇に包まれていた。
月明かりに照らされた道を彼は歩いていると
急に眩い光に視界を奪われた。
この光を彼は浴びたことが無かった。
いや、彼だけじゃない。
ニューソク軍、この光はその軍隊の中でもごく一部の者しか浴びたことはないのだ。
その光の正体をドクオは後に知ることになるのだが。
この時の彼は知る由もなかった。
ましてや、この時の彼はごく普通の高校生であり
戦場に立ったことも銃を握ったこともなかったのだ。
ついでに言うと女の子と手を握ったこともなかった。
40 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:16:57.60 ID:HPt0dpR20
それはさておきそんな彼が何故この光を浴びているのかが問題だ。
彼は光に目が慣れていった。
いや、違う。慣れたのではなく光が弱まったのだった。
その光は放射されていたのでは無く発光していたのだ。
彼は光の元凶へと目をやり、それが何なのかを確認する。
男が立っていた、カーキ色の鎧に身を包み。
その手には大きな槍を携えていた。
( ゚д゚ ) 「よう、いい夜だな」
男はドクオにそう話しかけた。
まるで彼の友人かのように親しげな口調であった。
(;'A`) 「あ、そうですね」
彼は突然の出来事に頭の中が真っ白になった。
42 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:18:08.79 ID:HPt0dpR20
それもそうだろう、いきなり目の前が光ったかと思えば
その光の元凶は鎧を着込んだ男で、ばかデカい槍を持っているのだから。
新手の変質者か映画の撮影かもしれない。
( ゚д゚ ) 「ふふふ、お前もそう思うか」
( ゚д゚ ) 「良い夜だよなぁ、いい夜だ。楽しい夜だ。こんなにも楽しいのは久しぶりだ」
鎧を着た男は心底楽しそうに語り出し
ドクオは「案外普通の人なのかも」と安心する。
( ゚д゚ ) 「ふっふっふ、そうだ。こんなにも人を殺せたんだ、いい夜に決まっている」
だがこの男はたった今「人を殺した」と自白した。
よく見ればその槍には血が滴っている。
( ゚д゚ ) 「そうだ、こんなにもいい夜なんだお前にプレゼントをやろう」
「こんな危険人物に何も貰いたくない」
ドクオの素直な感想が彼の頭に浮かぶ。
( ゚д゚ ) 「死だ。受け取れ、お前を殺せばもっと楽しい夜になる」
(;'A`) 「へっ?」
ドクオは驚きのあまり素っ頓狂な声をあげる。
その声はかき消されそうな程か細い声であった。
そして実際掻き消された。
耳を劈くような銃声に、砲声に掻き消された。
43 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:19:23.64 ID:HPt0dpR20
男のすぐ側の建物の窓ガラスにクモの巣のようなヒビが入り
その建物の正反対に聳えるビルから爆発が起き
長身を誇っていたビルが見る影もなく小さな物へと変貌してしまう。
(;'A`) 「何なの!?」
( ゚д゚ ) 「おぉ、生き残りが居たか。くひひ! こりゃ楽しい夜だ」
男の後方に9人の男達が立っていた。
服装もバラバラで肌の色もバラバラであったが
全員武器を構え、目が殺気でギラギラに輝いていた。
鎧の男は後方を見やり
( ゚д゚ ) 「ふふふ、こんばんわ。死に損ない諸君」
そう言うが早いか真っ直ぐに駆けだす。
狙うは彼の指す死に損ないの者達だ。
ドクオはこれを機にと逃げ出す。
自分の家に向かって死に物狂いで駆ける。
その勢いは体育祭で短距走を行った時よりも早かった。
44 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:20:27.38 ID:HPt0dpR20
しかし、その道の途中で彼は己の眼を疑う。
あちらこちらに死体の山が積まれていることに。
建物に弾痕が残り、破壊されていることに。
(;A;) 「何なんだよこれぇぇぇ!!!」
訳もわからず分からず涙が零れ出てくる。
どうしようもない恐怖がドクオを襲い
彼の背を撫で回し、胸が張り裂けそうになった。
呼吸が乱れるのは全力で逃げてきたせいだけではないだろう。
恐怖に、見たことも会ったこともないような恐怖に
彼は押しつぶされていった。
だが、泣きじゃくっている暇も彼にはなかった。
足音が聞こえたのだ。
重く、鈍い足音が。
鈍い音がするのは体重が重いからであろう。
体重が重いのは鎧を着込み、巨大な槍を携えているからであろう。
( ゚д゚ ) 「追いついた、そんなに生きていたいのかお前は」
( ゚д゚ ) 「だったら殺してやろう、生きたがっている奴は
生にしがみついてる奴は面白い、もっと楽しめる」
この夜をな、そう鎧の男が付け加え、ドクオへと駈ける。
45 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:23:44.02 ID:HPt0dpR20
このままではドクオはなすすべもなく殺されてしまう。
それをドクオはわかっていた。
頭で考えたことではない、生存本能が彼に訴えかけたのだ。
本能が訴えるが早いか。ドクオは銃が転がり落ちているのを見つける。
( ゚д゚ ) 「おっ やっぱり生きたがってる奴は面白いな」
ドクオは一心不乱に鎧の男へ向けて引き金を引く。
ドッという音が弾丸の後へと続き
男の傍に聳えていたビルに弾痕を残した。
外れだ。いや外れた。
ドクオは初めて銃を握り初めて撃ったが
正面に敵が居て正面に向けて放てば誰でも当てられるはずだ。
( ゚д゚ ) 「悪いな、俺に撃っても逸れてくだけだぞ。くひっ!ひひひ!」
ドクオの放った弾丸は
鎧の男から逸れていったのだ。
そういえば先ほども銃弾と弾丸がビル等の建物に当たっていた気がする。
何で逸れるんだ?
その理由を考えている余裕などドクオにはなかった。
鎧の男が槍でドクオを貫かんとする。
しかし、ドクオは回れ右をして逃げ出していた。
(;'A`) (とりあえず家に! 家に帰ればいいんだ! 俺は学校から帰る途中だろ!!)
ドクオがそう内心呟く。
それはこの非日常では場違いな考えであった。
彼は戦場に遭遇してしまったのだ。
47 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:25:09.11 ID:HPt0dpR20
ドクオが全速力で逃げるも空しくも鎧の男に回り込まれてしまった。
( ゚д゚ ) 「おい、追いかけっこは飽きたんだ。そろそろ死のうぜ?」
それは死刑宣告も同じであった。
何故ならドクオの腹は彼の槍によって貫かれたのだから。
肉を裂く鈍い音がし、血が流れ落ちる音がした。
( A ) 「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
今までに経験したこともない激痛がドクオの腹部に走り
痛みのあまり彼はその場で崩れ落ちる。
( A ) 「うぁ……」
ドクオが苦しそうに呻く。
徐々に傷に熱が帯び、鉄板を押し付けられたかのような錯覚を感じた。
しかしそれは所詮錯覚であった。
彼は自らの腹から血が洪水のように溢れ出すのを見て
現実へと引き戻される。
( A ) (クソ! 何で家に帰り道で俺殺されるんだよ……)
ドクオは空を仰いでいたが、視線を自らの帰宅路へと移す。
あちこちから血の匂いと硝煙の臭いが漂い。
そこには廃ビルが立ち並び、死体が転がっていた。
48 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:26:39.37 ID:HPt0dpR20
しかし
(;゚д゚ ) 「てめぇ…何しやがる……」
男はまだ生きている、流石にその眼から闘争心は消えていた。
川 ゚ -゚) 「貴様は一般人すらも大勢殺した。
貴様の行動はニューソク軍人として恥じるべき行為だ」
クールが無感動な言葉で応える。
対して男は
( ゚д゚ ) 「名誉だと……面白れぇ…だったらてめぇの名誉も何もかも汚してやるよ」
そう答えた男の目には、闘争心が籠もっていた。
鎧の男はすぐさま立ち上がると鎧を発光させ、クールの視界から消えた。
川 ゚ -゚) 「“オール電化鎧”か、研究者の連中も下らないものを作り出したものだ」
62 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 02:01:29.70 ID:HPt0dpR20
ドクオが倒れると、鎧の男の隣に立つ者の姿が有った。
その姿は女性の者で、黒く艶やかで美しく長い髪を持っていた。
川 ゚ -゚) 「その鎧の性能は大したものだな、報告のしがいがある」
その女性が言った。
( ゚д゚ ) 「あぁ すげぇなこれ、槍も十分凄かったろ? クールさんよ?」
川 ゚ -゚) 「あぁ、そうだな。だが貴様にもうニューソク軍人を名乗る資格はない」
そう言い切る前にクールと呼ばれた女性は鎧の男に巨大な銃
対物ライフルを男の胴体に向けて放つ。
ドォォンという重く響き渡る銃声とともに
小銃とは比較にならないほどの大口径の弾丸が発射される。
その優れた弾道直進性と貫通能力は
鎧の干渉により弾道を逸らされることもなく、鎧を障子紙かのように撃ち抜いた。
49 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:28:13.81 ID:HPt0dpR20
その光景を見たドクオは、助かったと思うのと同時にクールを恐れた。
あのような大口径の銃を立ったまま扱い、片腕で引き金を引いたのだ。
その反動をたったまま、ましてや片腕で受け止めるなど不可能である。
クールがドクオの前へとやってくる。
ドクオは逃げ出したい衝動に駆られたが、傷の痛みで立ち上がることすらできなかった。
川 ゚ -゚) 「すまんな、助けてやれなかった。私の名誉に誓い、君を救おう」
だが、と言い
川 ゚ -゚) 「この街はニューソク軍の爆撃によって消されてしまう
この街から離れてまで生き延びたいか? 家族を捨ててまで生き延びたいか?」
川 ゚ -゚) 「最近ニューソク軍はサイドワインダーというミサイルを開発してな
その実験場としてこの街は選ばれた。こうしている間にもその時は迫ってきている」
早く決断してくれ、そうクールは付け足す。
ドクオは彼女の足を掴み、力一杯うなずいた――――――――――――
50 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:29:29.60 ID:HPt0dpR20
ソファの上で目を瞑っていたドクオは
鼻腔をくすぐる良い香りに目を開けた。
香ばしい匂いがキッチンから漂ってきているのだ。
('A`) 「今夜はカレーか……」
ドクオがそう呟き、もう一度目を閉じる。
体の疲労が彼の体を眠りへと誘って行き、彼は意識を失っていく。
川 ゚ -゚) 「おい、起きろ。晩飯が出来たぞ」
クール改め、クーがそう言ってドクオの眠りを妨げた。
気づくとソファの目前のテーブルの上にはカレーライスが置かれていた。
川 ゚ -゚) 「風呂も沸いているぞ」
川 ゚ -゚) 「ご飯にするか? 風呂にするか? それとも私か? 冷める前に早く食え」
(;'A`) 「だったら聞くなよ!!」
ドクオが目覚め一番のツッコミをした。
そのまま姿勢を直し、テーブルに向かい並べられたスプーンを持つ。
う〜カレーカレー
川 ゚ -゚) 「いただきますは?」
('A`) 「……いただきます」
51 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:31:01.92 ID:HPt0dpR20
ドクオはこの時、3歳のころに初めて箸で食事をしようとした時
母親にびしばしと作法についてしごかれたのを思い出した。
だが、そんなことは忘れてカレーを口に運ぶ。
白米の甘い香りが鼻をくすぐり。
カレールーのスパイスの効いた香りが食欲を沸き立てる。
(*'A`) 「うめぇっ!うめぇっ!」
ドクオが絶賛する。
その顔を見ればお世辞でないことはたしかであろう。
川 ゚ー゚) 「ふふふ、そうだろう。たんとお食べなさい」
ふふふ、鎧の男もよくこう笑っていたが
彼の気味の悪い笑みとは違い、クーの笑みは
見てるこちらも釣られて微笑みそうになってしまう。
ドクオはあの時からクーと共に暮らしていた。
あの時、故郷であるアスキアートはニューソクによって爆撃され
全てが焼き尽くされ、焼け野原となってしまった。
だが彼は生き延びた、あの時クーとその仲間である。
ロマネスクが助け出し、ここオカに住むことになったのだ。
オカはニューソクの隣国であり。
ニューソクとオカの間にある砂漠に国境がある国だ。
クーの仲間、ロマネスクは元ニューソク軍人で
名誉とは何かを見失い、それが原因で退役したらしい。
52 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:32:06.48 ID:HPt0dpR20
そしてクーは……
川 ゚ -゚) 「む? どうした? 箸が止まっているぞ」
スプーンを持っていても食事を中断したら
箸が止まるというのか疑問であったが。
箸が止まっていると言われるまでドクオは食事が止まっていることに気付かなかった。
('A`) 「あぁ…悪い」
川 ゚ -゚) 「……」
静かに答えたドクオに対してクーは沈黙で応える。
お互いに無言で沈黙が訪れたかと思うと
川 ゚ -゚) 「今日は様子がおかしいぞ? 悩みでもあるのか?」
クーが気遣いのつもりか尋ねた。
その双眸にはドクオが写り、心なしか心配しているように見えた。
('A`) 「いや……昔のことを思い出してさ」
川 ゚ -゚) 「そうか……私は先に風呂に入ってくる
食べ終わったら洗っておいてくれよ」
クーは先に食事を終えたらしく、スプーンを載せた皿をもって
キッチンへ行き、そのまま風呂場へ向かった。
53 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:32:47.15 ID:HPt0dpR20
そして、ドクオは現在傭兵を営んでいた。
仕事でニューソク軍と戦っている。
だが、ドクオはプライベートでもニューソク軍と戦っていた。
アスキアートの生き残りとして。
今日も6人ものニューソク軍兵士を殺し、1人負傷させた。
彼はニューソクを恨んでいた。
鎧の男(後からクーに聞いたがミルナというらしい)が
ニューソクの名誉を汚したという理由で
新型ミサイルの爆撃によって街ごと消してしまったことを。
だが、今もどこかでミルナは生きている。
クーの命を狙って生きている、そのはずだ。
あの時、クーはドクオを救い。
すでに退役していたロマネスクに住む場所を与えて貰い。
軍を脱走してドクオと暮らしているのだ。
あの時からもう3年たっていた。
その3年の間にクーに武器の扱いに戦い方を叩き込まれた。
そして彼は、3年の間に歴戦の戦士のような強さを手に入れた。
そして、クーのことも色々と知った。
彼女にどんどん惹かれていった。
彼女の切れ長の瞳、彼女の黒い艶やかで長く美しい髪。
彼女の素直でクールな性格、彼女の微笑んだ顔。
54 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:33:32.47 ID:HPt0dpR20
彼女のことをどんどん知っていった。
遺伝子操作、薬物投与などによって
作り上げられたニューソク軍兵士であるとも。
脱走してよかったのか? ニューソクに追われるんじゃないか?もう戻れないぞ?
そう彼女に尋ねたことがある。
すると
川 ゚ -゚) 「私の名誉の為にやったことだ、それに故郷に帰れないのはお前もだろ」
そう答えた。ニューソク軍人は皆“名誉”に固執する。
彼によって名誉とは他の人に褒められる行いという認識しかないので
到底理解できそうもなかった。
そうドクオが思考していると。
インターホンが鳴り、ドクオは玄関へと向かっていく。
ドアの除き窓を見ると、見知った顔が居た。
( ゚д゚ )
ミルナ、あの鎧の男がドアの前に立っていた。
ドクオは慌ててリビングに戻り、戦闘服に着替え
出かけたときとは違う銃を持ち、大振りのナイフを携えて向かう。
殺されかけ、己の故郷を焼け野原にした原因を作った男に向かって行く。
ドアを開け、顔を見合わせると。お互いに無言で人気のない場所へと歩き出した。
55 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:34:15.43 ID:HPt0dpR20
('A`) 「よくここがわかったな」
( ゚д゚ ) 「ロマネスクっておっさんに聞いたんでね
もうお喋りする機会もないだろうから話し込んでしまったよ」
('A`) 「あいにく俺がお前とお喋りする機会ももう無くなるだろうな、お前はここで死ぬ」
( ゚д゚ ) 「ふふふ、あの時泣き叫んでたガキに何が出来るのかね。楽しめることを期待する」
その台詞をいったミルナは3年前と同じくドクオの腹へ向けて槍を突き刺す。
だが、今のドクオにとっては十分に往なせる速度であった。
ナイフを抜き、その勢いで往なし。
そのままミルナの懐へと飛び込み
飛び込んだ勢いを利用してそのまま横に薙ぐ。
だが、叶わなかった。
彼の鎧、オール電化鎧は彼のナイフを電撃で往なす。
それは目に見えなかったがドクオの手に残るかすかな痺れと
鎧に向けて振ったときに感じた腕が後ろに引っ張られるような感覚でわかった。
そのままバックステップで距離を取りつつ
アサルトライフルでミルナに向けて発砲するがやはり逸れる。
( ゚д゚ ) 「くひひ、無駄だぜ? 距離を取っても、銃を撃ってもな」
そう言いつつミルナは槍を構えて横に振る。
すると、鎧から発せられる電撃が槍を伝って180度の範囲に放射されたのだ。
距離を選ばぬオールレンジ攻撃であった。
56 名前: ドクオは名誉の意味を知るようです(北海道) 投稿日: 2008/09/11(木) 01:35:00.16 ID:HPt0dpR20
意表を突かれ、その攻撃を避けられなかった。糸の切れた人形のように彼は倒れる。
死んでしまったようだ。クーのような作られた兵士ならまだしも彼は普通の人間なのだ。
死んでも可笑しくはない。
( ゚д゚ ) 「ふふふ、死んじまったか。案外つまんねーな、もっともメインはクールなんだが…」
ミルナがそう呟くとクーの家へと向かう。彼女の名誉とその体を汚す為に。
そして何より、楽しい夜にする為に。
あいつを殺したらもっと殺そうまだまだ殺そう、そうミルナは妄想する。
二(;;゚д二フ ) 「あがっ!ごぉぉぉ」
彼の口から大ぶりの刃が生えた。
頭から大量の出血をし人間の様々な体液が口から大量の血と共に吐き出される。
その後ろには電撃を食らって死んだはずのドクオが立っていた。
(メ'A`) 「戦場で落ち着ける場所なんてねぇんだよ、常に警戒しやがれ」
より多くを殺すことに敏感になり、一人を殺すことに鈍感になってきたのであろう。
卑怯と言うべき、名誉ある勝利とは程遠いが。ドクオは勝って生き延びることができた。
そのまま彼はクーの居る家へと帰った。
何事も無かったかのように風呂に入り、ソファで眠ろうとしたが
「ご飯も食べたし風呂にも入ったが、私がまだだぞ」という声に阻まれた。
そこで彼は尋ねた「名誉って何だ?」話題を変えるために尋ねると、彼女は答えた。
川 ゚ -゚) 「私は君の面倒を名誉の為にみてきた。君と長く過ごしているうちに
私は幸せになった。だから名誉は人を幸せにするものなのだと私は思う」
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