- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 20:13:40.48 ID:hp8VWGLNO
-
('A`)ドクオは流される天才のようです
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 20:19:37.40 ID:hp8VWGLNO
- ξ゚听)ξ「ドクオ君、今日はありがとね」
やってしまったなぁ、ついにやってしまった。
ベッドの下に散らばる衣類を拾い、俺はぼんやりと窓の向こうに広がる夜景を見た。
- 普通の値段のホテルだが、夜景にこだわっているらしく、そのロマンチックな部屋にカップル客が後を断たない。
くるくるとカールした栗毛色の髪を掻き分けて、ツンさんが言う。
ξ゚听)ξ「ほんと、久しぶりだなぁ、こんな場所。あの人とはめったに行かないの」
('A`)「そう、なんだ」
人妻というのはどうして、たった今寝たばかりの相手に自分の旦那の話をできるのだろう。女って、こわい。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 20:26:11.32 ID:hp8VWGLNO
- ついに人妻かよ。何でもありだなぁ。
まるで他人事のようだ。これで旦那にばれたらやばいのは俺だ。どうしようか、会社にはなんて説明しよう。
ξ゚听)ξ「旦那はエッチできればどこでも、って奴だし。それにもう子供産んだ私には見向きもしない。ただの家政婦としか思ってないんじゃあないかしら」
いや、そもそも誘ってきたのはあっちのほうだ。そりゃ、流された俺も悪い。でも、根本的な原因はあっちだろ、俺はそこまで悪くない、はずだ。
ξ゚听)ξ「ねぇ、ドクオ君」
一糸まとわぬ姿の彼女は、俺の背中にもたれかかる。柔らかい膨らみと突起したものの感触が心地よい。
ξ゚听)ξ「今日、ほんと嬉しかったよ。こんな私も女として見てくれる人もいるんだなぁ、って」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 20:32:18.61 ID:hp8VWGLNO
- ツンさんは、話し出すと止まらない性格のようだ。聞いてもいない姑の愚痴。旦那の話。三歳になる子供の話。お金の話。
そんなことより、聞いておかないといけないことがある。返答によっては非常にまずい事態になるわけだし、ああ、イった後っていやに頭が回るよね。
('A`)「旦那さんとはどうするんですか?」
ツンの話が、止んだ。代わりに、くすくすと笑い出す。
ξ゚听)ξ「どうもしないわよ、今のまま。ああ、それとも」
頬にちゅ、と口づけをされた。いたずらっ子のような仕草だ。
ξ゚听)ξ「離婚して欲しかったりなんかする?」
と、とんでもない。
('A`)「あ、いや、それは、その」
ξ゚听)ξ「冗談よ、もう」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 20:39:00.19 ID:hp8VWGLNO
- 冗談か、冗談なのか。情事後ずっと胸につかえてたものがなくなり、かわりに安堵が広がる。
離婚してと要求するほど俺には甲斐性なんかないし、そもそも情熱もない。ツンさんが会社にいたころはいいな、と思ってた時期もあったけれど……好きとは直接結び付かない感情だった。
ξ゚听)ξ「そろそろ行かないとまずいかも」
ツンさんが清楚な柄のブラウスを羽織る。それが終わりの合図と受け取った俺も、靴下を履き出す。
('A`)「残念だなぁ」
ξ゚听)ξ「また会いましょう。子供も最近は旦那と一緒でもおとなしく出来るようになったし」
('A`)「そう、ですね」
ξ゚听)ξ「ドクオ君は、良いわ。がつがつしてないし、こっちがオーケーを出せば応えてくれる。旦那なんて――」
時折笑いながら、愚痴を聞く。また長くなるのかなぁ、と頭の片隅で考えながら。最低なのかな、俺。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 20:44:56.07 ID:hp8VWGLNO
- チェックアウトを済まし、ホテルを出た。周りに知り合いがいないかどうか確認する。ついでにガラスに映る俺たちの姿も。
ありふれた男女の姿がそこにあった。
ξ゚听)ξ「タクシーで帰るから、ここでいいわ」
('A`)「そうですか。気をつけて」
ξ゚听)ξ「ありがとう。また連絡するわ」
('A`)「はい、待ってます」
丁度よくタクシーが来た。ツンさんが手を振って、俺は頭を少し下げた。上げた頃にはタクシーは遠くにいて、ようやくため息を吐くことができた。
('A`)「なんだかなぁ」
二十六にもなって、こんなんでいいのかなぁ。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 20:53:13.58 ID:hp8VWGLNO
- 「結婚とかしないんですかぁ?」
職場の俺より二個下の子に言われた言葉だ。その時は笑って誤魔化したけれど、なかなか痛い言葉だった。
いわゆる広告代理店で働いている俺は、今現在係長と微妙な立場にいる。忙しいけど、それほどでもない。少人数の課だから全員と仲もいいし、ある程度の人脈も出来た。
けれど、仕事は順調であるほど結婚なんて程遠いものになるし、第一彼女もいない。出来てもすぐに愛想を尽かされる。原因は俺の浮気が主だった。それの、繰り返し。
('A`)「家帰ったら早く寝よう」
駅までとぼとぼと歩いて、終電間近のすし詰め電車へ乗り込む。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 21:03:22.86 ID:hp8VWGLNO
- 全力で体を僅かな隙間に押し込んで、ドアが閉まるまで突っぱねる。
東京に来たばかりの頃はただただ圧倒されて、何本も電車を逃した挙げ句、終電も乗れなかったっけ。今思えば笑い話だが、金欠の大学生にとってタクシーを利用せざるを得ない状況は絶望に近かった。
アナウンスが次の駅を告げる。最寄り駅までまだまだだ。あと二十分はこの中で揺られなければいけない。みんな揃って顔が赤らんでいる。酒飲み過ぎだ。
車内を見回していると、一人の少女が目についた。黒髪の気が強そうな子で、真面目そうでもある。なぜこんな時間の電車に乗っているのだろう。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 21:15:05.36 ID:hp8VWGLNO
- ふと、その子と目が合う。まずい、不審者と思われたかな、と慌てて目をそらす。だが、視界の隅でその子はまだ俺を見ているようだった。
あれ――。
口をぱくぱくと動かした少女は、どうやらこちらに何かを伝えたいらしい。
なんだろう。俺は口の動きを凝視する。
イ・カ・ン。違うな、なんだ。シカン、視姦か。馬鹿か、そんなわけないだろ。
少女は俺の鈍感さに苛立ったらしい。すうっと息を吸い込むと、一車両内全員がぎょっとするほどの大きな声でこう言った。
川 ゚ -゚)「痴漢だ、こいつ!」
皆の視線は、少女、そしてあわてふためいている親父へと集まる。
チカン、痴漢か。役に立たなくてすいません。両手を合わせて彼女に謝る。
川 ゚ -゚)「……次の駅、一緒に来てくれ」
今度は俺に視線が注がれた。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 21:23:51.96 ID:hp8VWGLNO
- どうやら俺に言ったらしい。黙ってうなずくと、少女は周りに取り押さえられた親父を一瞥して、深い溜め息を吐いた。
川 ゚ -゚)「すみません、一人で取り調べは怖かったもので」
ほぼ誰もいない駅のホーム。
痴漢の手をがっしりと掴みながら、俺はいいんだよと微笑んだ。
川 ゚ -゚)「ほぼ終電ですし、みんな降りてくれないと思いました。それに、私一人じゃこの人逃げちゃうだろうと」
すでに痴漢親父は逃走する気力がないようだ。べろんべろんに酔っ払っていて、力が入らないらしい。俺程度の腕力にもおとなしく付いてきてくれている。だけど、念には念を、というやつだろう。事実、たまに発揮される酔っ払いの底力というのは恐ろしい。
('A`)「ごめんね、俺が早く気付くことができたら良かったのに」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 21:41:09.70 ID:hp8VWGLNO
- 川 ゚ -゚)「そうですね」
否定はなしか。少々面食らったが、そこがこの子の魅力の一つなのだろう。
('A`)「それにしても、こんな夜遅くまで」
川 ゚ -゚)「あそこに連れていけばいいんですよね?」
指差す先は改札横の窓口だ。まあ、人がいればいいだろうと俺が頷く。
川 ゚ -゚)「すみません、私痴漢されました」
「ええ、痴漢!?」
居眠りしかけている職員がすっとんきょうな声を上げて、わらわらと他の職員が出てくる。そうこうしているうちに痴漢は奥に連れていかれ、警察もやってきた。
駅員室で一時間あまりの取り調べを受け、やっとこさ解放された。俺は目撃者の一人として話を聞かれ、少女は毅然とした態度で答えていた。
('A`)「被害届けは出さなくて平気なの?」
川 ゚ -゚)「面倒ですから」
('A`)「そっか」
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 21:48:36.21 ID:hp8VWGLNO
- 強い子だなぁ、と思った。普通は示談だのなんだのとなるはずだが、反省してくれればそれでいいらしい。
また、魅力を一つ発見した。この子には後どれくらいあるのだろう。
('A`)「終電行っちゃったけど……大丈夫?」
予想通り、というか当たり前だが終電はすでに行っていた。タクシーにでも乗るかと、少女に声をかける。
('A`)「最寄りはどこ? なんならタクシーに乗っていきなよ、お金は俺からの慰謝料ってことで」
川 ゚ -゚)「VIP駅ですので、こっから二時間歩けば着きます。それに、わざわざ引き留めてしまったんです。こちらからタクシー代はお出ししますよ」
('A`)「俺も、VIP駅」
川 ゚ -゚)「え?」
結局一緒にタクシーで帰ることになった。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 21:56:26.72 ID:hp8VWGLNO
- 川 ゚ -゚)「巻き込んでしまい、本当にすいませんでした」
タクシーの中、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。
('A`)「いいんだよ、俺こそごめんね。付いてくだけで何もしなかったし」
川 ゚ -゚)「いえ、証言してくださっただけでもありがたかったです」
年の割にはやけにしっかりしている。それにしてももう日付は変わってしまっている。親御さんは大丈夫なのだろうか。
('A`)「お父さんお母さんに連絡いれなくて大丈夫なの? こんな時間だし、心配していると思うけど」
川 ゚ -゚)「独り暮らしなんで、平気です」
こんな少女が独り暮らしだと。世の中は変わってしまったのか。
('A`)「独り暮らしって、それこそ不安じゃないかな? やっぱり一応電話して、来て頂いたほうが」
川 ゚ -゚)「あの、何か勘違いされているようなのですが」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 22:03:46.28 ID:hp8VWGLNO
- 彼女は鞄から財布を取りだし、免許証を俺に見せた。
川 ゚ -゚)「私、二十四です」
('A`)「ええっ、うそっ!」
生年月日を見ると、確かに二十四。俺と二つしか変わらないじゃないか。
川 ゚ -゚)「なんだ、その反応は」
今のは彼女の素の口調なのだろうか。慌てて取り繕う。
('A`)「いやその、ごめんね。まさか、二十歳越えてるなんて」
川 ゚ -゚)「別に良いです。さっきも警察の方に怒られそうになりましたし」
('A`)「そうなの」
少女、いや黒髪の女性は頬を軽く膨らました。
川 ゚ -゚)「スーツを着ないといつもこうなんだ、特に今日みたいなワンピースを着た日は必ず警察の人に年齢確認される」
('A`)「苦労してるのね…」
川 ゚ -゚)「……まあ、いいですけど」
彼女は窓の外に視線をそらした。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 22:24:14.85 ID:hp8VWGLNO
- しばらく走ると、VIP駅が見えてきた。自宅は駅から徒歩五分と好立地だ。降りよう。
('A`)「運転手さん、その辺で一旦停めてください」
川 ゚ -゚)「いや、私も――」
('A`)「いいから、自宅まで行ってもらって」
ちらりとメーターを確認する。うん、一万円あれば充分足りる。
彼女だと受け取ってくれないような気がするので、運転手さんに渡した。
('A`)「あとで精算はこれで」
川 ゚ -゚)「いえ、私が」
('A`)「今日は災難だったね。気をつけて帰ってください」
川 ゚ -゚)「そんな、悪いです。私が払いますから」
急ぎ足でタクシーを降り、扉を閉める。女性は何か言いたげだったが、笑顔でやり過ごした。
タクシーが行くのを見送る。そういえばこんな光景は今日二回目だ。なのにこんなにも心境は違うものだろうか。
('A`)「名前くらい、聞いとけば良かったかな?」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 22:32:22.51 ID:hp8VWGLNO
- なんてな、とひとりごちた。
こんなことを思うのは、実に久しぶりのことだった。それほど彼女は魅力的だった。だけど、もう会うこともないだろう。
ポケットの中で携帯が震えた。取りだして、確認する。
それは会社の後輩、ジョルジュからのものだった。
('A`)「本文なし、ってどういうことだよあいつ」
代わりにファイルが添付されていた。何気なくクリックした瞬間、凍り付く。
('A`)「あいつ、これ……」
それは、ホテルの部屋から出る俺とツンの後ろ姿の画像。
('A`)「まずい事態になったぞ、これは」
急いでジョルジュに電話をかける。
まさか、ツンの旦那になんか送ってないよな。確か旦那はジョルジュが受け持つ取引先の男だ。こんなのが旦那にばれたら、俺だけじゃなく会社全体でまずい。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 22:41:45.07 ID:hp8VWGLNO
- 着信音がやけに耳障りだ。心臓が強く脈打つ。ああ、どうする。もし、最悪の事態にでもなれば、俺は。
( ゚∀゚)o彡゜「もしもし――」
ジョルジュの声がした瞬間、俺は大声を上げた。
('A`)「どういうことだよ、これはっ!」
( ゚∀゚)o彡゜「どうって、先輩の不倫現場ですよ」
('A`)「そんなことは分かっている! どうしてお前が、これ――どうするつもりなんだ!?」
相手の溜め息が聞こえてきた。
( ゚∀゚)o彡゜「明日、仕事終わったあとメシ食いにいきましょう」
('A`)「そんなの…」
拒否しようとすると、声のトーンがぐっと下がる。
( ゚∀゚)o彡゜「詳しいことはそこで話そう、って言ってるんですよ」
('A`)「……わかった」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 22:46:24.91 ID:hp8VWGLNO
- ( ゚∀゚)o彡゜「じゃあ、また明日。忘れないでくださいよ」
そこで電話が切れた。俺はしばらくディスプレイを見つめる。
嫌な汗をかいてきた。背中にじっとりとシャツが張り付く。
('A`)「ともかく、帰ろう」
とりあえず家に帰ってシャワーを浴びて、そうしたら少しは落ち着くだろう。
明日ジョルジュには金かなんか渡して――ああ、なんでよりにもよってあいつに。
('A`)「くそう」
不倫して人助けをして、そして今は崖っぷちの状態だ。一日にこんなにイベントはいらない。一週間に分配してくれ――
シャワーを浴びてベッドに入っても、ちっとも落ち着くことはできなかった。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 22:52:25.83 ID:hp8VWGLNO
-
***
('A`)「お前、いま何て言った」
( ゚∀゚)o彡゜「言った通りの意味ですよ、先輩」
翌日。
約束通りにジョルジュと近くの居酒屋へと出向いた。ジョルジュはわざわざ個室を予約していたらしく、俺の嫌な予感を増大させた。
だが――
('A`)「言った通りじゃ分からないから聞いてるんだよ。『ばらされたくなければ、俺の言うことを聞いてください』、さっぱり分からないね。一体何が目的なんだよ」
( ゚∀゚)o彡゜「シンプルなことだと思うんですけど」
ジョルジュが吐くピースの煙はどこか甘ったるい。それが苛々を募らせる。
('A`)「やっぱり、金か」
覚悟はしていた。けれど、こんな言い方じゃ一体いくら取られるんだろう。
( ゚∀゚)o彡゜「金なんかじゃありませんよ」
('A`)「……え?」
予想外の言葉だ。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 22:57:28.68 ID:hp8VWGLNO
- ('A`)「じゃあ、その、なにを……」
ジョルジュは視線をタバコに落とした。俺は、この勿体ぶったこいつの態度が大嫌いだった。
( ゚∀゚)o彡゜「俺、いま彼女がいないんです」
('A`)「は……?」
それがなんだっていうんだ。真意を確かめようとジョルジュを見るも、未だ視線はタバコに注がれたままだ。
( ゚∀゚)o彡゜「俺、最近アンタが嫌いなんですよ」
('A`)「お前、酔っているのか? 言ってること、支離滅裂だ」
まだビールを一口飲んだだけだっていうのに。こいつは酒に弱いやつだったっけか。
( ゚∀゚)o彡゜「俺は正常。安心してくださいよ」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:04:46.78 ID:hp8VWGLNO
- ('A`)「……」
黙ってきくことにしよう。ここで逆上されて余計なことになったらそれこそまずいじゃあないか。穏便に、穏便に。
それに、ジョルジュとは課が違う。ここを乗り切れば顔を合わすことだってあまりないのだから、なんとかなる。
( ゚∀゚)o彡゜「でね、ふと思ったんです」
ジョルジュが話を続けた。
( ゚∀゚)o彡゜「ムカつくアンタを、もし屈服させることができたら、どんなに楽しいんだろうって」
( ゚∀゚)o彡゜「いつも取り澄ましているアンタの顔をぐちゃぐちゃに歪ませることができたら――きっと最高に気持ちいいと思うんですよ」
( ゚∀゚)o彡゜「ちょうどたまってたし、ちょうどこういう弱みも握れたし、もうやるしかないなって」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:10:40.07 ID:hp8VWGLNO
- ( ゚∀゚)o彡゜「あんたの体をください」
( ゚∀゚)o彡゜「それが、俺からの要求です」
('A`)「……」
声を出せることさえ忘れていた。俺は黙ってジョルジュの顔を見続けた。
言っている意味がさっぱり理解出来なかったのだ。まるで違う言語かのようだった。
つまり、こいつが要求しているものはなんだ。俺の体、っていったって、どこかに売るつもりなのか。そんなのは困る。金で解決すればいいじゃないか。幸い貯金もあるし、そうだよ、金なら出す。それでいいじゃないか。
('A`)「…で、いくら欲しいんだ」
ビールに口をつけていたジョルジュが吹き出した。
( ゚∀゚)o彡゜「アンタ、俺の言った意味わかってます!?」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:15:04.56 ID:hp8VWGLNO
- ('A`)「つまりは金が欲しいんだろ?」
ジョルジュは笑いを堪え切れないようだった。
( ゚∀゚)o彡゜「違いますよ、あ、携帯光ってますよ」
携帯のサブディスプレイには「ツンさん」と表示されていた。電話だ。
( ゚∀゚)o彡゜「不倫してるっていうのに、名前はカモフラージュしないんですか」
('A`)「うるさいな。切るよ」
( ゚∀゚)o彡゜「いえ、どうぞ出てください。俺は黙ってますから」
('A`)「……」
出るべきか、出ないべきか。しかしジョルジュにはもうばれているのだ。今さら隠したってしょうがない。
( ゚∀゚)o彡゜「どうぞ」
('A`)「……じゃあ」
通話ボタンを押した。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:20:38.37 ID:hp8VWGLNO
- ξ゚听)ξ「もしもし、ドクオ君?」
('A`)「はい、なんでしょうか」
ξ゚听)ξ「良かった。もうあれで終わりなのかと思って……電話しながら泣きそうになっちゃった」
('A`)「……」
ジョルジュが、にっこりと見ている。何て返事をしたらいいんだ。
ξ゚听)ξ「なんてね、冗談。ドクオ君は必ず出てくれるって信じてたもの」
('A`)「はは、……ありがとうございます」
ξ゚听)ξ「それでね、ドクオ君来週の月曜日はお時間あるかしら? その日旦那が出張なの。子供も実家に預けられるし。ねえ、どうかしら?」
('A`)「その日は、大丈夫、だと思います、けど」
しどろもどろに返事をする。おいおい、またジョルジュに写真撮られてしまうじゃないか。いや、日にちは聞こえてないか。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:25:42.51 ID:hp8VWGLNO
- ξ゚听)ξ「そう、良かったわ。じゃあ昨日と同じ時間に、あそこで」
('A`)「…はい」
そう言って、電話が切れた。
能天気な人だ。自分はこうして崖っぷちに追い込まれているというのに。
しかし、こうやってツンさんが俺に電話をかけてきているというのは、旦那にばれていないという証拠だ。少し安心する。
( ゚∀゚)o彡゜「また会うんですか? ツンさんと」
('A`)「あっちが会いたいって言ってるんだ、しょうがないだろ」
( ゚∀゚)o彡゜「そういうものですか。普通、もっと格闘するでしょう。モラルとか、気にならないんですか?」
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:31:41.15 ID:hp8VWGLNO
- ('A`)「モラルって、そりゃあ気にはなるよ。でも、据え膳食わぬは…って言うだろう」
( ゚∀゚)o彡゜「求めてくれる人なら誰でもいいんですか?」
('A`)「誰でも、ってわけじゃないよ」
( ゚∀゚)o彡゜「でも、現にツンさんには旦那さんがいて子供がいる。普通は断るでしょう」
それを言われると、確かに心苦しい。けれど、ジョルジュにいま説教されたって何が変わるわけでもないじゃないか。
('A`)「そういうのはいらないんだよ。お前には関係ない。そんなことより、さっきのこと、俺にわかるように言ってくれ」
( ゚∀゚)o彡゜「俺はアンタを求める」
('A`)「…はあ?」
( ゚∀゚)o彡゜「それに応えろ、ドクオ先輩」
( ゚∀゚)o彡゜「それが俺の要求だ」
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:40:41.18 ID:hp8VWGLNO
-
***
('A`)「……」
帰り道。
いつものように自宅へと向かう五分の道のりが、今日はやけに遠く感じる。
流されたというのだろうか、これは。いや、違う。これは脅しみたいなものだ。弱みを握られてしまった俺は、ジョルジュの言うことを聞くしかなかったのだ。
会社の沽券と自分の立場。これを守るためなら、キスの一つくらい安いものだ。それに、もうこれきりだと約束させた。
('A`)oO(男とキスしちゃったよ……)
ジョルジュは、上手かった。離れようにも離れられない、そんな感じのキスだ。
('A`)「帰ったら口をすすいで……」
あの居酒屋が個室だったのも、最初からそのつもりだったに違いない。つくづく嫌な奴だ、くそ。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:46:52.18 ID:hp8VWGLNO
- ふと、昨日のあの子を思い出す。彼女は、今日は何事もなく電車に乗れただろうか。
無意識に車内を見回してしまったが、彼女の姿はどこにもなかった。当たり前だ。何人もの人が利用するんだ。同じように巡り会えるはずがない。
('A`)「なんだかなぁ」
不倫、厄介な後輩、流される俺。
はたしてこれから先大丈夫なんだろうか。ちゃんと、まっとうに死ねるのかな、俺は。
家に着いたら、やらなくてはいけないことが山程ある。乾燥機から洗濯物を取り出して、畳んで、アイロンをかけて。今まで後回しにしていたこと、全部やろう。
今日のことは忘れる。今までのらりくらりやってきたが、何とかなってるじゃないか。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/21(土) 23:53:51.96 ID:hp8VWGLNO
- 大丈夫、多分。きっと大丈夫だ。
***
ξ゚听)ξ「会いたかったわ、ドクオ君」
何事もなく日にちは流れ、約束の日になった。ホテルのロビーで俺を待っていたツンさんは、ふんわりとしたワンピースにパステルカラーのコートを着ていて、とても子持ち主婦には見えない。
('A`)「今日、なんか可愛いですね」
ξ゚听)ξ「ふぇっ、ちょっ」
ツンさんの顔がみるみる赤くなる。
ξ゚听)ξ「と、年上に、可愛いって、言うもんじゃないわっ。……恥ずかしいじゃないの」
('A`)「すいません、お気に触ったのなら謝ります」
ξ゚听)ξ「そっ、そういうわけじゃないんだから! とにかく、行きましょっ!」
すでにチェックインは済ませてあったらしい。手を引っ張られながらエレベーターに乗り込んだ。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:01:26.30 ID:K8SYd+1/O
- ξ゚听)ξ「子供がね、最近お母さん綺麗っていうの」
('A`)「ええ、なんでですか?」
ξ゚听)ξ「わかんない。でもドクオ君のおかげかな?」
そう言われるとまんざらでもない。少々苦手だったこの人のことが、可愛く思えてくる。
部屋に入ると、ツンさんはシャワーを浴びに行った。
俺は鞄を置いて、夜景を眺めることにする。今日の部屋は三階にあるから、夜景といっても美しいものではない。だが、人の流れが動いていくのが面白くて、飽きることなく見れる。
ξ゚听)ξ「出たわよ」
気がつけばツンさんはもうあがっていた。
('A`)「うわ、俺ずっと外見てたみたいです」
ξ゚听)ξ「ドクオ君らしいわ。てっきりお風呂に入ってくるかと思ったけど。ドクオ君って本当、がっつかないわよね」
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:10:04.91 ID:K8SYd+1/O
- なんだか嫌味のようにも聞こえる。俺は何て言ったらいいか分からず、曖昧に笑った。
ξ゚听)ξ「シャワー浴びるの?」
('A`)「どうしようかな」
ξ゚听)ξ「じゃあ、そのまましましょう」
腕を引っ張られ、ベッドに押し倒される。言葉を出す前に唇が塞る。
ξ゚听)ξ「ん……」
舌が入ってきて、それに応えるように絡めた。離れ、また口付ける。今日のツンさんはなんというか、女王様みたいだ。
ξ゚听)ξ「ドクオ君、ここ、もう熱いよ」
ベルトを外してするりと手を局部に入れられた。細い指が弄ぶように竿をいじり、こねくりまわす。
('A`)「ちょ…っ、今日変ですよ…」
ξ゚听)ξ「ふふ…早くドクオ君が欲しいの」
スラックスを引き剥がされ、ペニスが外に晒される。半立ちのそれをツンさんは愛しげに口にくわえた。
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:16:29.15 ID:K8SYd+1/O
- ('A`)「あ、う」
情けない声しかでない。口内の温かさとぬめぬめした舌が、ペニスを刺激する。
ξ゚听)ξ「元気だね、もうおっきくなった」
自分の股を広げてゆっくりとペニスに降ろす。柔らかいそこと先が触れ合い、出しそうになるのを必死で堪えた。
('A`)「ゴムつけますから…」
ξ゚听)ξ「…そう…ね。明日一応ピル飲むから、大丈夫だとは思うけど……」
('A`)「中だしはしない主義なんです」
ξ゚听)ξ「へえ……意外としっかり者なのね」
自分のためなのだ。万が一子供ができたら、困るのは自分だ。
ξ゚听)ξ「あぁ、…はい、って、く…る」
ツンさんが腰をゆっくりと降ろした。今日は騎乗位らしい。旦那さんに強要されて、目覚めたとか言ってたっけか。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:23:21.49 ID:K8SYd+1/O
- ξ゚听)ξ「あぁ、あ、ドクオ君…あっ、やめて…ああっ」
('A`)「やめてって、……腰を振ってるのはツンさんじゃないですか」
ξ゚听)ξ「や、いわない、でぇ…っ」
しばらく乱れるこの人を見るのも面白い。俺はなにもせず、ずっとツンさんを見つめた。
ξ゚听)ξ「はず、かしい、よぅ…」
いつもはキビキビした話し方なのに、情事の時はやけにあまったるい声になる。旦那さんとの時もそうなのだろうか。ずっと、こんな声をはしたなくあげていたのだろうか。
ξ゚听)ξ「や、ん、やだぁ、……ぶーん、ぶーん…っ」
旦那さんの、あだ名か。こんな時に呼んでしまうくらい好きなのに、どうして俺と不倫してしまうんだろう。
急にこの人が汚らわしく思えてきて、俺はそうそうに射精した。
コンドームを引き抜いて、ティッシュにくるんでゴミ箱に捨てる。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:30:36.06 ID:K8SYd+1/O
- ツンさんは、まだ身悶えしていた。
ξ゚听)ξ「ドクオ君、早い…わよ」
('A`)「すいません、あまりにも綺麗で」
口から出任せをよく言えたものだ。
ξ゚听)ξ「……」
ツンさんは、自嘲気味に笑いだした。
ξ゚听)ξ「ふっ、本当に……ドクオ君はいい人。ちゃんとあたしを誉めてくれる。あたしを抱いてくれる」
('A`)「ツンさん…」
ξ゚听)ξ「でもあの人は違う。ブーンは、ブーンはあたしをただのモノとしか見ていない。最近は抱いてもくれないし、昔みたいに熱い想いをぶつけられもしない」
ああ、この人は。
ξ゚听)ξ「あたしは、あたしは……愛されているって実感が欲しいの。愛されたいの、子供が出来たとかお構い無しに…抱かれたいっ…!」
この人は俺を求めているんじゃない。この人は、旦那さんを求めている。
俺は、いわば代わりなのだ。
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:40:13.79 ID:K8SYd+1/O
- それは当たり前のことでもあった。最初から、明白なことだ。
('A`)「ツンさん……」
不倫なんてものは、足りないものを補充したいからする。愛が足りないからこうしてセックスをする。
結局のところ、真に求めているのは最初から――
でも、気付いてしまった。
そしたら、俺がここにいる理由はなくなってしまった。この場に繋ぎ止めるものはない。
('A`)「俺たち、もう会うのやめましょう」
ξ゚听)ξ「―――」
何も、ない。
****
('A`)「……で、なんで俺はまた呼び出されているんだ?」
( ゚∀゚)o彡゜「また写真撮れちゃいました」
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:45:05.58 ID:K8SYd+1/O
- ジョルジュの携帯画面には、確かに俺とツンさんが写っている。しかも今回はご丁寧に正面の写真だ。
くそ、やっぱりあの電話聞かれていたんじゃないか。
('A`)「お前もよくやるな」
( ゚∀゚)o彡゜「弱味はあるだけあったほうがいいでしょう?」
ジョルジュは何となく楽しげだ。
('A`)「おい……」
ジョルジュは俺の言わんとしていることが分かったらしい、いかにもな顔で取り繕う。
( ゚∀゚)o彡゜「もちろん、前回のは消しましたよ。約束ですからね」
('A`)「本当かよ……」
半信半疑で梅酒ロックをすする。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:50:37.93 ID:K8SYd+1/O
- ( ゚∀゚)o彡゜「本当ですよ。約束は守りますから。でも、新たなこの写真にはその約束が通用しないってのは分かるな?」
('A`)「重々承知してますよ。それよりなんて敬語とタメ口が混ざってるんだ」
( ゚∀゚)o彡゜「素が出ちゃうんですよ。それより、この写真内藤さんにばれたらやばいですよねえ?」
やっぱりそう来たか。
焼き鳥をほほばりつつ、応える。
('A`)「……別れたよ」
( ゚∀゚)o彡゜「へっ?」
ずいぶん間の抜けた声を出すやつだ。
('A`)「別れたんだ、昨日」
( ゚∀゚)o彡゜「そりゃ…また、どうして急に……」
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 00:54:49.48 ID:K8SYd+1/O
- ('A`)「お前からしたら残念かもな。もうネタなくなるし」
( ゚∀゚)o彡゜「そんなことはもういいんです。どうしてですか? 教えてください」
ジョルジュの目が、いやに真剣だった。
自然と話す気になってしまう。
('A`)「俺が、ツンさんと会ってたのは好きでもなんでもなかったんだよ。ただ、呼ばれたから」
( ゚∀゚)o彡゜「呼ばれたから、ですか?」
('A`)「そう、必要だって、言われたんだ」
****
ξ゚听)ξ「ドクオ君、お願い。わたしあなたがいないと壊れちゃいそう……!」
*****
( ゚∀゚)o彡゜「だから、寝たんですか」
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:00:49.47 ID:K8SYd+1/O
- ('A`)「俺は……もし、俺を必要だって言ってくれる人がいたら、気持ちに応えたいと思う。もし好きだって言ってくれるなら、自分もその分相手に優しくできる」
息継ぎにと飲んだ梅酒がやけに甘く感じた。
('A`)「でも、自分は最初から必要とされてなかったんだ。いわば代わりだ。ツンさんは、俺じゃない。俺の向こうにいる旦那さんを見ていたんだよ」
( ゚∀゚)o彡゜「……」
('A`)「それに気づいたら、急に冷めちゃってさ。この人に関わる時間がすべて無駄なんだって、思った」
( ゚∀゚)o彡゜「だから、別れたんですか」
('A`)「そうだよ。でも、そんなもんだろう。求められているから人は存在できる。還すことができる」
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:07:50.76 ID:K8SYd+1/O
- ( ゚∀゚)o彡゜「以前、あんたが前に付き合っていた女に、話を聞かされたことがある」
('A`)「しぃ…か?」
( ゚∀゚)o彡゜「……ドクオ先輩は、ずっとなにかに気を使っているようだったって。私が動くのを待っていて、それでようやく何かをしてくれる。ずっと様子を伺っているようだった、って」
('A`)「……しぃだな」
焼き鳥はすっかり冷めきっていた。
( ゚∀゚)o彡゜「どうしてだ? あんたは、自分の気持ちをなぜぶつけない。今回だって、言えば良かったじゃないか。『俺を見てくれ』って」
('A`)「今回は不倫だし……いいんだよ、これで」
( ゚∀゚)o彡゜「しぃさんと付き合いながらもいろんな人と浮気したのは、さっき言ってた応えたいっていう気持ちからか?」
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:14:43.65 ID:K8SYd+1/O
- ('A`)「そうかもしれないな」
( ゚∀゚)o彡゜「じゃああんたは、あんたが他の人に目移りできないくらいに自分を必要としてくれて、求めてくれる。そんな人を理想として生きてきたのかよ」
('A`)「それって、悪いことじゃないだろう。当たり前だよ。みんな誰しもそうだ」
( ゚∀゚)o彡゜「違う」
はっきりと断定されたら、何も言い返すことができない。
ジョルジュは煙草に火をつけ、煙を吐き出す。
( ゚∀゚)o彡゜「ドクオ先輩、そんな人は、いない」
('A`)「そ…れは…そんなことは……」
( ゚∀゚)o彡゜「あんたを際限なく求めて、愛し続けてくれる人なんていない」
( ゚∀゚)o彡゜「俺以外……いないよ……」
- 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:20:51.00 ID:K8SYd+1/O
- ('A`)「……」
('A`)「……どう反応したらいいんだ」
( ゚∀゚)o彡゜「……知るか」
('A`)「お前、俺のこと好きなのか」
( ゚∀゚)o彡゜「……」
ジョルジュは視線を合わせようとしない。煙草を吸おうとしているみたいだが、ふかしにしかなっていない。動揺しているようだ。
('A`)「お前……それでこんな周りくどい……」
( ゚∀゚)o彡゜「不器用なんだよ…ほっとけ」
('A`)「……」
こういうときはどうしたらいいんだ。
ジョルジュが俺を好き。もしそれが事実だとして、何か変わるか?
変わらないだろう。俺は同姓愛者じゃない。
けれど――
( ゚∀゚)o彡゜「……あんたが、好きだよ」
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:27:31.66 ID:K8SYd+1/O
- ('A`)「…認めた」
( ゚∀゚)o彡゜「認めるしかないだろうがよ、こうなったら」
('A`)「今まで俺に当たっていたのも」
( ゚∀゚)o彡゜「全部裏返しみたいなもんだ、ハハハ」
虚しい笑い方だ、と思った。ジョルジュもそう思ったらしい。すぐに笑いをやめて、ビールをかっこんだ。
( ゚∀゚)o彡゜「本当は言うつもりなんてなかったんだよ。でも、この前あんたが内藤さんの奥さんと一緒にいるのを見たとき、すごく…嫉妬して。だったらこんなやり方でも、少しは近づけたら…って」
('A`)「……なんだよ、それは。もっと正面きってさぁ…」
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:33:31.01 ID:K8SYd+1/O
- ( ゚∀゚)o彡゜「不倫してたあんたに言われたくないっつの」
ごもっともだ。
( ゚∀゚)o彡゜「それに俺がいきなりあんたに好きだなんて言ってみろ!? 病院に無理やり連れていかれるのがオチだろ」
('A`)「ハハハ…あ」
笑ってしまった。何でだろう。ジョルジュが俺を好きだと知って、変に高揚している。これは、いつも女性に好きだと言われた時と一緒だ。
結局だれでもいいのか、俺。
( ゚∀゚)o彡゜「俺は元々ゲイだから、あんたみたいな奴に恋をしたって無駄だってのは分かってるんだよ……」
('A`)「うん……」
そうして、しばらく互いに何も話さなかった。話せなかった。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:38:37.43 ID:K8SYd+1/O
-
****
('A`)「終電、やばいかも」
( ゚∀゚)o彡゜「もうそんな時間か」
結局あれ以降、肝心なことはなにも話さないまま、お開きになる。ジョルジュはずっと課長の愚痴を言っていたし、俺はそれに相槌を打つだけだ。
もしかしたらこれは悪い夢だったのかもしれない。だって、馬鹿げている。あんなに態度の悪かった後輩が、俺のことが好き、だなんてさ。
('A`)「じゃ、出るか」
( ゚∀゚)o彡゜「はい、あ……先輩」
('A`)「ん?」
( ゚∀゚)o彡゜「今回の写真、ちゃんと消してあげますから、その代わり」
('A`)「…っ、うわ」
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:43:39.62 ID:K8SYd+1/O
- 壁に抑えられ、手で顎を固定される。
( ゚∀゚)o彡゜「この前みたいなの、ください」
('A`)「んん…っ」
口づけ、だ。二回目だ。俺は必死に歯をくいしばる。
( ゚∀゚)o彡゜「口あけてください」
('A`)「…む、り」
( ゚∀゚)o彡゜「今回の写真は正面からですよ。前回より揉み消し量は高い」
('A`)「そんっ、あ」
舌が入る。煙草の味が広がって、なんだか匂いに犯されているみたいだ。
舌が絡まって、離れて、また絡まる。ようやく解放された時、すっかり息があがってしまった。
('A`)「なんだよ、これは……」
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:47:25.31 ID:K8SYd+1/O
- ( ゚∀゚)o彡゜「上手いだろ、俺」
('A`)「くそ」
俺より年下のくせに、なんか腹が立つ。どこで学んできたんだろう。
( ゚∀゚)o彡゜「ドクオ先輩」
('A`)「……なんだよ」
( ゚∀゚)o彡゜「家行ってもいいですか?」
('A`)「……だ、だめに決まってるだろ。なにされるか…」
( ゚∀゚)o彡゜「キスより先のことは絶対しないぞ、約束する」
('A`)「キスはするのか……」
断りきれない、俺。やっぱり流されるのか。
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 01:51:53.69 ID:K8SYd+1/O
-
****
あれから一月が経った。
「係長、書類まとめておきましたよ」
('A`)「おう、ありがとう」
俺の日常は変わらない……わけでもない。すっかりジョルジュが家に居着いてしまった。家が一駅分しか離れていないことが発覚し、ジョルジュは頻繁に訪れるようになった。
未だにバックバージンは守っている。キスは……しちゃっているが。
('A`)「結局流され先があれば、なんでもいいのか」
「どうしたんですか係長」
('A`)「いや、独り言」
「やだー、もうオジサンですかぁ?」
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 02:00:21.27 ID:K8SYd+1/O
- ('A`)「そういや来月で二十七だ」
誕生日なんてすっかり忘れていた。
「じゃあもう本当にオジサンですね」
('A`)「なんだと、お前書類追加。あとコピーもよろしく」
「ええっ、ひどいですよぉ」
このやり取りにみんな笑い出す。俺も笑った。
まあ、二十七になったからといって急に老けるわけでもない。
男とキスする仲になったからって、何かが変わるわけでもない。
いつどこでまた流れるかもしれない。まあ、ジョルジュには頑張って欲しいところだ。
('A`)「課長、そういえば今度異動あるんでしたっけ」
- 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 02:05:28.50 ID:K8SYd+1/O
- 予定がまとめてある紙に目を通す。来月に人がくるらしい。
「ああ、支社からくるそうだ。すごく優秀な人みたいだぞ、なんせ本社引き抜きだからな」
('A`)「へえ、助かりますね」
課長は手帳を開く。
「確か名前は、須直クーさんだそうだ」
('A`)「女性ですか?」
「そうみたいだな」
須直クーさん、か。早く打ち解けられるといい。
きっと好い人だろう、大丈夫だ。
「係長、メールみたいですよ。鳴ってます」
('A`)「あ、ありがとう」
予想通りジョルジュからだ。
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/02/22(日) 02:09:36.13 ID:K8SYd+1/O
- ('A`)「今夜飲みにいきましょう、ねえ」
ジョルジュからのメールも、今じゃすっかり日常になってしまった。毒されているような、俺がただ流されているだけのような。
了解、とだけ書いて返事を送る。男同士は気楽でいい。
('A`)「来月は須直さんも来るし、がっかりされないよう気を引き締めないとな」
みんなが大きく頷いてくれる。俺は安心して仕事にとりかかった。
('A`)ドクオは流される天才のようです
前編 おしまい
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