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(´<_` )弟者が昔話を語るようです
総合短編。
あれはまだ俺と兄者が小学生の頃だ。
毎年夏になると俺と兄者は姉者に連れられて近所の海へ遊びに行っていた。
あの頃は兄者の引きこもりも酷いものではなく
ちょっと外に出るのが億劫なインドア野郎だった。
その日は姉者が家に忘れものをしてしまい
大人しく待っていろと言われた俺たちは
ゆるい日差しを東から浴びながら人気のない海の家のベンチで並んで待っていた。
(´<_` )弟者が昔話を語るようです
( ´_ゝ`)「しかし姉者もうっかり者だな」
(´<_` )「ああ。一体誰に似たんだろうな」
今思えばマセガキのような発言をしていた俺たちは、午前中いうこともあって疎らな人を眺めながら
言いつけ通り姉者を待っていた。
頭に麦わら帽子、傍らに浮き輪を持った俺たちはどこからどう見ても立派な真夏の少年だった。
普段外に出る事を面倒くさがる兄者だが、今も昔もこういうシチュエーションは大好きだそうで
真夏の少年というスタイルに嬉しそうな表情をしていた。
( ´_ゝ`)「うむ。真夏の少年スタイルの兄弟と海……これほどまでにマッチする絵があっただろうか」
(´<_` )「やはり流石だな俺ら」
怪しげなガッツポーズをして決めた俺たちを周りの大人は変な目で見ていた。
すでにこの頃から軽い厨二病の兆しがあった俺たちはこんなことをしている自分たちがカッコいいと思っていた。
もちろん後にこの事は俺にとって恥ずかしい黒歴史として永遠に残るのであった。
それからは大人しく二人して足をぶらぶらさせながら姉者を待っていたが、肝心の姉者は一向に戻ってこない。
戻ってこない姉者の心配をするより暇に耐え切れなかった兄者は
自分の浮き輪を転がしたり首にかけたりして遊んでいた。
時々兄者は俺の頭に浮き輪を乗せたりして俺にちょっかいを出していたけど
その度に俺が仕返しと称して自分の浮き輪を兄者に叩いて反発していた。
おそらく七回目になる兄者からのイタズラに、俺は思わず兄者を押し返した。
(;´_ゝ`)「うわぁ!」
兄者は豪快にベンチから落ちると文字通りひっくり返り
その反動で兄者の頭の上に座っていた麦藁帽子がころころと砂浜を駆け出していった。
兄者は口を半開きしたまま麦藁帽子の行方をただただ見ているだけだった。
麦藁帽子の行き先を察した俺は座り込んでいる兄者に構わず麦藁帽子を追いかけた。
元はといえば必要もないちょっかいを出してきた兄者が悪いのだが
兄者の麦藁帽子が飛び出した原因は間違いなく俺のせいだった。
(´<_` )「ちょ、待てえいっ!」
この頃から足には自信があった。特別早い訳ではなかったけれど、クラスじゃ結構早い方に入っていた。
砂に足を取られて上手く走れず何度かよろけながらもようやく後少しで麦藁帽子に届こうとした時だった。
麦藁帽子は風に乗ってふわりと飛び上がり眼前の青い世界へ着地してしまった。
ぷかぷかと揺れる麦藁帽子はそれ程遠くへは行っていないように見える。
俺は服が濡れる事も構わずに海に入り、ざぶざぶと派手な音を立てながら
当てもなく泳いでいる麦藁帽子に手を伸ばそうと必死になった。
既に波は胸の所まで浸かっていた。これ以上奥へ行ってしまうともう自分の力では帽子を取ることが出来ない。
千切れると思う位に体を伸ばすと指先に帽子の鍔が掠った。
やった、やっと取れたと喜びながら更に足を進めたが
一歩踏み出した先には、足場がなかった。
(´<_`;)「わっぶぁ!!」
体全体が海に引きずられる。
右手に感じたザラザラする物体の感触に安心する反面これから先に起こるであろう結果に恐怖も感じた。
滅茶苦茶に四肢をばらばらに動かすけれど、水面に浮き上がるどころか体はどんどん引力に引きずられていく。
まるで波が俺足を引きずっているみたいだ。
そうしている内に喉に水が入ってきた。とてもしょっぱいそれは俺の喉を刺激してたまらなく咳をしたい衝動を起こした。
水中でも咳なんてしたくなるものなのだな、何てやけに冷静に考えていたけれど咳をするたび海水は体内に入ってくる。
思考力が停止し、意識が薄れるその一瞬俺の名前を呼ぶ聞きなれた声がぼんやり聞こえた。
青色のぼやけた視界の端に小さな手が見えたかと思うと
それからとてつもなく苦しくなって、俺は瞼を閉じてしまった。
( ´_ゝ`)「おい、弟者」
(´<_` )「……ん? どうした兄者」
( ´_ゝ`)「どうしたもこうしたもあるか。ハス画ゲトしたぞ」
(´<_` )「"ハス画フォルダ"に画面いっぱいのハス画像を突っ込むとは流石だな兄者」
いつもの定位置で兄者を見る俺。
右側には廃人手前のキモヲタビミョメン事兄者がハス画にハァハァしている。正直キモい。
軽い白昼夢でも見たらしく、忌まわしい過去のことを思い出してしまった。
海の中で瞼を閉じてしまってからの記憶は朧気で
この後目覚めたらもの帰ってきた姉者にこっ酷く叱られた上に
あの一件以来俺は完全なカナズチになってしまった。
(´_<` )「兄者」
( ´_ゝ`)「何だ愚弟よ」
(´<_` )「昔俺が海で溺れてしまった事を覚えているか?」
( ´_ゝ`)「ああ……あれか」
(´<_` )「あの時俺を助けてくれたのは本当に独身貴族だったのか」
( ´_ゝ`)「ああ。あの時も言ったが、腰を抜かしている俺の横を颯爽と現れた独身貴族が
全裸で海に入り、溺れているお前をスーパーマンの如く引き上げるとそっとお前を
地面に寝かすや否や、追ってきた目暮警部に気づき高速ダッシュで逃げて行ったんだ」
(´<_` )「以前聞いたときは銭形警部だった気がするのだが」
( ´_ゝ`)「……とにかく独身貴族がお前を救い出したんだ」
兄者はそう言うとトイレにでも行くのか逃げるように部屋から出て行ってしまった。
兄者の丸まった背中を眺めながら俺は背伸びをして窓の外に広がる青を見た。
瞼を閉じるとあの頃のような感覚に襲われる。けれど、嫌な気は全くしない。
青の怪物に襲われていた俺を救ってくれた奴はすぐ近くにいて、なんだかんだで俺を助けてくれる。
どんなに引きこもりでも、どんなにダメな奴でも俺が兄者から離れないのはそのせいなのかもしれない。
(;´_ゝ`)「弟者! 水づまりゲトだ!」
青の暗闇の中、俺を呼ぶ聞きなれた声に不思議と頬が緩んだ。
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