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ξ゚⊿゚)ξは画面の世界の住人のようです その1
1 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:18:07 ID:8EOsmnGwO
(´・ω・`)「やあ、ようこそ」
(´・ω・`)「唐突で悪いが、君たちアニメは好きかな?」
(´・ω・`)「一枚のガラスを隔てた先に広がる、幻想」
(´・ω・`)「それが、どれだけ己に至福の時を与えるか、僕は知っている。
. ……おそらく、『彼』も同じだろう」
(´・ω・`)「これは、そんな画面の向こうの世界に魅せられた、ある男のお話だ」
※※※
初のスレ立て短編投下
長さ的には短編と中編の中間だけどキニシナイ
もともと紅白に出そうと思ってた作品故、ノリで書いた感が
にじみ出ているので、気楽に読んでいただけたら幸いです
※※※
2 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:20:41 ID:8EOsmnGwO
早いもので、もうあれから二年の歳月が経ったようだ。
自身ではまだ三ヶ月しか経ってないように感じられるが、
カレンダーを見ると暦の下一桁が三から五になっている。
事象についての記憶が薄れることはないが、衝撃は確実に薄れつつある。
口惜しいことだが、自害までをも考えていたのに、今では平然としていられる。
時とは残酷なもののようで、人の心から確実になにかを奪っていくようだ。
記憶、衝撃、悲哀、歓喜、失敗。
どれも、決して欠かしてはならないものばかりだ。
そしてどうしてか、そういったものに関してだけ、
出来事があったという事だけははっきりと記憶しているものなのだ。
それがどれだけ苦痛で、そしてどれだけ悲観なことか。
.
3 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:22:25 ID:8EOsmnGwO
丁度、二年前の今日が、あるひとつの運命の枝の途切れ目だった日だ。
だからという訳ではないが、私は今日を機に、ペンを置こうと思う。
決してあの悲劇を忘れないように、常にこうして当時の情景を思い浮かべ
同時にそのままの心境を保とうと思って書き始めた手記だが、
いまとなっては必要のないものになってしまったようだからだ。
次に新たな幸福が生まれたら
その時は、その感動を遺せるように、再び手記を書くだろう。
それまでは、この手記は封印しておきたいと思う。
何年後になるか、将又そのような機会が果たしてあるのか。
まだまだ、わからないことは多いが、私は漸く幸福の切れ端を掴むことができた。
それを、長い時間をかけて手繰っていかなければならないため、ペンなど持っている余裕がないのだ。
.
4 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:24:14 ID:8EOsmnGwO
◆
今日はどれにしよう。
この、取捨選択に時間を弄するだけで、日頃の鬱憤が晴らせる。
どれも、タイトルを見るだけで内容の隅から隅まで、完全に思い出せるものばかりだ。
だが、飽きが訪れることはないし、決してこれを行わない日はない。
否、行えるのは週末しかないのだが、その週末の大半はこれに費やしている。
( ^ω^)「これにするか」
ビデオライブラリーから一本のテープを取り出した。
迷いなくデッキに挿入し、読み込むまでの時間、僕は常に興奮と一緒に待っていた。
今か、今かと、実に待ち遠しい。
律儀に正座し、画面を凝視する。
やがて、青かった画面に、漸くそれらしい映像が映り出された。
.
5 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:27:26 ID:8EOsmnGwO
ξ>⊿<)ξ『ふわぁぁー……』
画面には、金髪の美少女が映った。
この世に実在するとは思えない、可憐さ。
人形のようにちいさく、それでいて存在感を存分にひけらかしている、美少女。
画面が映った時の僕のボルテージは、いきなり最大限にまで高まった。
彼女が、初っ端から無防備にも欠伸しているのだ。
( *^ω^)「おおおおおおおおおおおおッ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ『っ! いま見てたでしょ!』
( *^ω^)「のどちんこまできれいに見えましたぁぁぁぁぁぁ!!」
ξ;゚⊿゚)ξ『変態! やらしい目でみないで頂戴!』
( *^ω^)「生欠伸ゲェェェェェッツ!! おおおおおお!!」
ξ;゚⊿゚)ξ『オシオキするよ!? 次は釘バットだかんね!!』
( *^ω^)「オシオキしてくださいおぉぉぉぉぉッぉお!!」
.
6 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:29:30 ID:8EOsmnGwO
川 ゚ -゚)
( *^ω^)
川 ゚ -゚)
( ^ω^)
川 ゚ -゚)
(^ω^ )
川 ゚ -゚)
( ^ω^)
( ^ω^)「掃除でもしてくっかぁ……」
川 ゚ -゚)「待て」
「真っ昼間からまた観やがってぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
「お許しをおおおおおおおおおおおおッ!!」
.
7 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:30:11 ID:8EOsmnGwO
ξ゚⊿゚)ξは画面の世界の住人のようです
.
8 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:31:38 ID:8EOsmnGwO
彼女は、僕がこの手のビデオを観ることを快く思わない。
今日も、自室でヘッドホンを使って静かに観たのだが、やはり彼女はやってきた。
ビデオは没収され、襟首を捕らえられてはリビングに連れてこらされた。
土下座を強いられる僕と、立って僕を見下ろす彼女の間に、少し静寂が生まれた。
静寂ではない。一方的に僕が謝っている。
というのも、怒った時の彼女ほど、恐ろしい人は存在しないのだ。
結婚する前までは淑やかな女性だったのに、気がつくと尻に敷かれていた。
彼女に抗うと、なにかよくないことが起こる。
( ;ω;)「悪かったお。ビデオ返してお」
川 ゚ -゚)「だめです」
( ;ω;)「それがないと僕は会社にもいけないお」
何度も頭を上下させた。
その後退の兆しが見え始めた頭を見ても、彼女は決して顔を綻ばせない。
川 ゚ -゚)「たまの休日だから、ごろごろするのは許せます」
川 ゚ -゚)「でも」
.
9 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:34:19 ID:8EOsmnGwO
僕が頭を上げ彼女を見ると、
彼女は、テーブルの上に高々と積み上げられたビデオテープを見ていた。
天井に達しそうな高さで、テープの上を隈無く占領している。
本数にして、二、三百はありそうだ。
そんな事はどうでもよかった。
それらを見た瞬間、僕は固まった。
――待て、それは、そのビデオテープは
川 ゚ -゚)「よくまあこんなに集めたな」
(;^ω^)「マイコレクション!! いつの間に!!」
川 ゚ -゚)「しかもタイトルが卑猥だ」
僕が、もう十五年以上も昔から集めに集めているテープが積み上げられていた。
どれも宝物で、ひとつでも欠けると生きてゆく自信がない。
どのテープでも、マイ・エンジェルが僕を癒してくれるのだ。
これらは、辛いサラリーマン生活で、唯一と言っていい僕の娯楽だ。
呑みや外食、ゴルフなんか比較にもならない。
彼女、クールが一つを手に取り、タイトルを読み上げた。
川 ゚ -゚)「『ツンちゃん反抗期3 ~私の水着を返せ~』」
( ^ω^)「七月二十七日友人と海にゆくツンちゃんが荷造りをしていると
水着がないのに気がつき捜すと水着をクンカクンカされているのを見つけ
追いかけ回す罵倒と恥辱の織りなすシリーズ作品三作目のビデオ。傑作だお」
川 ゚ -゚)
.
10 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:36:41 ID:8EOsmnGwO
(;^ω^)「あ! ちが、そういう意味じゃな」
川 ゚ -゚)「とりあえず、これらは全部」
踵を返したクールは、隣にある棚から大きなゴミ袋を何十枚も取り出した。
中身が透けてみえないもので、一体いつからあるものかはわからない。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
僕はとてつもなく嫌な予感がしたのだ。
川 ゚ -゚)「没収します」
( ゚ω゚)
待て、いまなんと言った。
脳が理解し終える前に、クールは動いていた。
テープを同時に三本持ち、ゴミ袋に放り投げていくのだ。
気がつくと、僕は飛び出していた。
テープに身体全体をつかって覆い被さり、首をぶるんぶるん振っていた。
( ;ω;)「それだけはらめぇぇぇ!!」
川 ゚ -゚)「だめなものはだめです」
身体全体で覆い被さっても全然覆いきれていない。
クールは、なんの躊躇いなく、手早い動作でテープをゴミ袋へ投げていった。
悲痛の叫びをあげても、相変わらずの無表情で淡々と捨てている。
.
11 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:38:08 ID:8EOsmnGwO
( ;ω;)「もう観ないお! 観ないから!」
川 ゚ -゚)「ほんとうか?」
瞬間、ぴたりとクールの動きは止まった。
舐め回すように、僕の顔をじろじろ見ている。
しめた、今のうちに説得しないと。
マイ・エンジェルをみすみす逃がすわけにはいかない。
(;^ω^)「ほんとうほんとう! だから捨てないでくれお!」
川 ゚ -゚)「来年まで一度も観ないでいられますか?」
( ^ω^)「あ、たまに観たい」
川 ゚ -゚)
( ;ω;)「ああああああだめだめ! 嘘だからぁぁぁ!」
途端に、クールは廃棄作業を再開した。
ほんとうに無表情で、リアクションも見せずに。
.
12 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:39:57 ID:8EOsmnGwO
結局、全てのテープが黒いゴミ袋の中に詰め込まれた。
僕の制止空しく、クールは十分で作業を終わらせた。
速い、速すぎる。
僕は、七つのゴミ袋に詰め込まれたビデオテープに飛びついた。
勝手に開けたら殺すと言われたので開けないが、抱きついて頬ずりはした。
テープは、言わば娘だ。
手放してはならない。絶対にだ。
( ;ω;)「ツンちゃん、おとーさんは離さないお!」
川 ゚ -゚)「ほう、ビデオが娘になったのか」
( ^ω^)「寧ろ愛人」
( #)ω;)「ひどいお!!」
目にも留まらぬ速さで、彼女の右ストレートを喰らった。
右目に食い込み、眼球が悲鳴をあげる。
これが意外と痛い。いや、普通に痛い。
川 ゚ -゚)「まあ、私も鬼ではない」
( ^ω^)「嘘つけ」
( #)ω(#)「前が見えない!!」
川 ゚ -゚)「黙って聞け」
.
13 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:43:26 ID:8EOsmnGwO
川 ゚ -゚)「私とて、せっかくの楽しみを根刮ぎ奪うのは気がひける」
川 ゚ -゚)「月に一度、一本のテープを一時間に限り鑑賞するのは許そう」
( ;ω;)「そんな殺生な!」
川 ゚ -゚)「嫌か?」
( ^ω^)「まったく」
川 ゚ -゚)「そうか」
むろん、今のは本心ではない。
そんなに時間を制限されては、生きた心地すらしないのだ。
しかし、なぜすんなり受け入れてしまったのか、言うまでもなかった。
拳を構えてから否応を問われては、応としか言えないに決まっているだろう。
元ラグビー部の僕でも、空手、柔道、合気道の有段者の彼女に勝てるなんて到底思えない。
三十台後半になってもグラマラスでスリムな美人なのに、どうしてこんなに屈強なのか。
クールは、ゴミ袋を持って、クローゼットの中に全部放り込んだ。
がら空きだったクローゼットの床に、大量のビデオテープが積み上げられた。
リビングには常にクールがいる。
目を盗んで観る、というのは難しそうだった。
川 ゚ -゚)「あれ、掃除をするんじゃなかったのか?」
( ;ω;)「くちゃーに!くちゃーに!」
川 ゚ -゚)「よし、元気だな。掃除しろ掃除」
.
14 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:48:27 ID:8EOsmnGwO
◆
クールに愛しのビデオテープを奪われ、一週間が経とうとしていた。
最初は辛うじて我慢できたし、元々週末にしか観てなかったから
抵抗もなかったのだが、観ることができないと思うと、気疲れが生じてきた。
水曜日あたりから、そのストレスは頭角を見せ始めつつあった。
( ´ω`)「部長、企画書できましたお」
(`∠´)「お、そうか」
ベル部長が、僕が昨夜徹夜で仕上げた企画書に目を通した。
「ふむ」と読みながら、企画書と会話しているかのように何度か頷いている。
その間も彼は普段のお堅い表情だったが、徐々に眉間に皺ができていった。
(`∠´)「……? おい内藤、なんだこの企画書は。
こんなので通ると思っているのか?」
(;´ω`)「え、そんな…。ブーンはいつも通り会心の出来を自負して――」
(`∠´)「弛んどるぞ。やり直せ」
(;´ω`)「は、はいですお。すみませんお」
普段は、部長にこれほど言われる事はなかった。
すんなりと通り、そのまま会議に出されていたのだ。
それが、なぜか部長を怒らせる程粗末な仕上がりになっていたらしい。
だが、僕にその自覚など、全くなかった。
叱責を喰らい、気落ちして、僕は自分のデスクに戻った。
パソコンと向かい合い、タイプを始めるが、いまいち身につかなかった。
画面の文字が目に入らない。
それどころか、霞んで見える。
猫背のままでぎこちなく指を動かす。
無意識の溜め息が、何度もこぼれた。
.
15 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:52:53 ID:8EOsmnGwO
从'ー'从「内藤係長、お茶です」
( ´ω`)「ありがとうだお」
若いOLの一人が、お茶を運んできてくれた。
何だと思うと、後ろからもう一人、ひょっこりと顔を出した。
どうやら、お茶はカムフラージュで、僕とコンタクトを取りたかったらしい。
いつもと違う態度で接してくるため、僕は疑問符を浮かべていた。
二人は身を屈めて姿勢を低くし、ベル部長には聞こえない程度の小声で話しだした。
从'ー'从「で、で、なにがあったのですか!」
('、`*川「部長が大声を出すなんて珍しい」
(;´ω`)「な、なんでもないお」
童顔の方のOLの渡辺は身を乗り出し、顔を近づけてきた。
僕がなにをしでかしたのか、かなり気になっているようだった。
好奇心に満ち溢れた眼で、僕の顔面を捕らえる。
しかし、背が高い方のOLの伊藤は、
どちらかというと僕の様態を気にしているようだった。
やはり、顔にでてしまっているか、と反省した。
他人に、僕の異常を感づかせるつもりはなかったのだ。
('、`*川「お疲れじゃないんですか? 顔に覇気が感じられないですよ」
( ´ω`)「そんなことないお。ただの寝不足だお」
言うまでもないが、実際は寝不足ではない。
寝不足には慣れているし、三時間しか寝られなくたって平常のままでいられる。
原因は他のところに潜んでいるものだ。
だが、一応、ここでは嘘を吐いておいた。
.
16 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 17:57:31 ID:8EOsmnGwO
僕は、自分で言うのもなんだが、明るいほうの人間だ。
常にジョークをとばしたりして、決して驕らないように努めている。
だから、少しでも疲労の片鱗を見せると、今のようにすぐに気付かれるのだ。
しかし、今日における疲労とは、肉体的なものではなくて心理的なものだ。
ただ、マイ・エンジェルと会えなくなって、辛いだけだ。
ここまで心理的に疲労が露わになってくるとは予想外だったが。
一応上っ面だけでも平生を装う、と努めていた。
从'ー'从「あー、まさか奥さんと喧嘩したとか!」
('、`;川「あ、ちょ」
( ´ω`)「はぁ~…。ツンちゃん……」
从'ー'从「(……係長の奥さんの名前ってツンだっけ?)」
('、`*川「(クールだったんじゃ)」
未練がある、程度の話ではない。
後ろ指をさされるような娯楽ではあれど、どれだけ僕が
ビデオに依存しているのか、他人にはわからないだろう。
別に、わかってもらおうとも思わない。
まさに「趣味は人それぞれ」というだけあって、僕の趣味が
それに当てはまり、他人に解せ難いものである、と自覚しているからだ。
結局その日は、まるで懐手をしているかのようで、なにもしていなかった。
.
17 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:02:41 ID:8EOsmnGwO
◆
(=゚ω゚)ノ「センパイ!」
( ´ω`)「お?」
終鈴が鳴り、皆がそそくさと帰路に着いていた。
僕も例に漏れず、帰ろうとしていた。
鞄に書類を詰め、重い腰をあげる。
そんなときに、後ろから呼ばれた。
力なく応え、振り向くと部下がいた。
( ´ω`)ノ「いよう」
(;=゚ω゚)ノ「いよう、じゃないッス。どうしたんスか最近」
そういって、部下である伊予は頻りに尋ねてきた。
日頃なら僕も同じテンションで答えるだろう。
おどけるのが、会社での僕の持つ性格の一面だった。
だが、僕は疲れに疲れていた。もちろん、精神的に、だ。
そのせいか、応対も、やや雑だった。
伊予の問いに、力なく吐き捨てるように答える。
( ´ω`)「なんでもないお」
(=゚ω゚)ノ「なんでもないことないッス。どうしたんスか、相談乗りますよ。
あ、そういや近くにイイ呑み屋があるんスよ。行きましょう!」
(;´ω`)「あ、ちょ――」
伊予は矢継ぎ早に用件を言っていった。
早口すぎてあまりついていけなかったが、とにかく呑もうと言いたいらしい。
生憎だが、もとよりそのような金は持ち合わせてないし、行く気力もなかった。
それとなく伊予の誘いを断ろうと、浮ついた言葉を紡いだ。
.
18 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:06:33 ID:8EOsmnGwO
だが、伊予は諦めなかった。
(=゚ω゚)ノ「宝くじで一万当たったんスよ、御馳走させてほしいッス!」
(;´ω`)「あ――」
(=゚ω゚)ノ「早く行かないと混んじゃうッスよ!」
(;´ω`)「そ、そうかお」
(=゚ω゚)ノ「じゃ、決まりッス! ささ、行きましょ行きましょ」
( ´ω`)「わかったお」
ここまで詰め寄られ、更に上司である自分に奢るとまで
言うのだから、ここで断ると好意を踏みにじることになるだろうと思った。
また、加えて伊予は自分とは対照的に明るかったので、
無駄話をするだけで鬱憤は晴らせそうだと思ったのだ。
たまには、無駄話に花を咲かせるのもいい。
遅れる時は必ずクールに連絡を入れるよう言われているのだが、一日くらいは問題ないだろう。
というより、今はクールの声はあまり聞きたくなかった。
.
19 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:09:11 ID:8EOsmnGwO
( ^ω^)「しっかし、いつもの呑み屋じゃないのかお?」
歓楽街を、伊予を連れて歩いている。
花の金曜日でもないのに、泥酔してる中年や厚化粧のギャルが多く見えた。
九時をまわった頃合いから急に賑やかになるのも、この土地のひとつの特徴だった。
それぞれの看板の照明が混ざり合い、黒の画用紙に垂らしたカラフルな絵の具となって現れていた。
そのおかげか、この土地に足を踏み入れるだけで、自然と暗い気分は和らいでいった。
いつもは行きつけのちいさな居酒屋で呑むのだが、今日は違うようだった。
伊予が、最近いい居酒屋を見つけたので、そこで呑もうと言うのだ。
(=゚ω゚)ノ「それがッスね、可愛いコが看板娘を務めているって評判のトコがあるんス」
( ^ω^)「可愛い?」
(*=゚ω゚)ノ「自分も会ったッスが、天真爛漫で本当に美少女したッスよ!」
.
20 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:13:22 ID:8EOsmnGwO
未だ独身で、縁談という縁談もない伊予に女を見分ける能力は全くないはずだ。
「いい人と、デートに行く」と意気込んでいた伊予が、
次の日に失恋のショックで涙を見せるのはよくある話だった。
だが、この浮かれようをみると、それを差し引いた上でよほど可愛いのだろう。
給仕であり、聞くと暇なときは一緒に馬鹿騒ぎに参加してくれるそうだ。
( ^ω^)「……伊予」
(=゚ω゚)ノ「はいッス」
( *^ω^)「今夜は呑むおおおおッ!」
(*=゚ω゚)ノ「お供しますセンパイ!」
来る前は乗り気ではなかったが、知らぬうちに騒ぐ気満々で繰り出していた。
この数日間積もりに積もった鬱憤を、漸く晴らせそうだった。
暗い雲はどこかへ飛んでいった。
ふんと鼻を鳴らして、射してくる陽に向かって僕は洋々と歩き出した。
.
21 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:17:29 ID:8EOsmnGwO
◆
川 ゚ -゚)「遅い」
夕食をつくり、あとは椀に白米を盛って、味噌汁を出すだけでいい。
久方ぶりに得意料理の小籠包をつくったし、私としても早く夕食にありつきたかった。
ブーンなら、仕事が終われば真っ先に帰ってくるし、残業や呑みに行くならその都度連絡を入れてくる。
定刻を大きく過ぎてなお連絡がない場合は、まっすぐ帰ってくるに同義なのだ。
そのブーンが、まだ帰ってこないし、連絡も寄越さない。
彼が交通事故に遭うことなど、まずないとみていいだろう――とまで考えて、思考を一旦止めた。
家族が交通事故に遭うなど、想定すらしてはならないハプニングである事を失念していたのだ。
愚かだ、と自分で自分を叱った。
とにかく、余程のイレギュラーがなければブーンが遅れて帰宅するなど、まずないのだ。
川 ゚ -゚)「食べたいな」
川 ゚ -゚)「しかし夫を待たなくては」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「……食べたいな」
.
22 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:20:49 ID:8EOsmnGwO
私は、目の前に甘い飴があれば、後先考えずに食らいつく性分なのだ。
愚直と言うか、本能に忠実というか。
小籠包の脂ぎった匂いが鼻に入ってくるだけで、つい食べてしまいたくなる。
しかし、仕事で疲れた夫を待ってから食べるのが、妻としての責務だ。
親しき仲にも礼儀ありと言って、そこいらはきちんと守っている。
どうやら私とブーンは子宝に恵まれていないようで、子供はいない。
いれば、子供を口実に先に食べるという手もあるのだが、そうはいかなかった。
子供は欲しいと思うし、まだまだ出産はできるが、どうも子供ができないのだ。
やはり、歳か。ふと、私はそう思った。
昔は美貌にものを言わせてぶいぶい言わせてきたが、歳には抗えない。
といえど、私はまだまだ三十ウン歳である。
歳を気にし始めるようでは、到底だめだ。
.
23 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:23:11 ID:8EOsmnGwO
そのうち、遅れている理由について模索していた。
金曜日ではないため上司に誘われた訳でもないだろうし、残業はないと言っていた。
レンタルビデオショップで目移りさせているのだろうか。
それなら納得ができる。あの人は、昔からアニメや映画が好きだ。
先週、例のビデオを封印したせいで、ビデオ欲が抑えきれなくなったのかもしれない。
川 ゚ -゚)「……あ」
そこまで考えて、ふと、脳裏にある可能性が生まれた。
もしかしたら、そのことに腹を立て、私に呆れてしまったのだろうか。
不吉ながらも、そんな思考が脳裏に浮かんできた。
川 ゚ -゚)
川 - -)
川 ゚ -゚)「くだらない事は考えないでおこう」
自分に言い聞かせるようにそう言って、先に風呂に入る事に決めた。
この調子なら、あと三十分は帰ってこなさそうだったからだ。
.
24 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:26:00 ID:8EOsmnGwO
◆
居酒屋は、こじんまりとした外装と違い、中は大盛況だった。
一見すると衛生面にまで手が回ってないのではないか、
とすら思わせる外装だっただけに、これは意外だった。
のんびり呑んでいる人もいれば、馬鹿騒ぎしている集団もいる。
この店の居心地が相当いいようで、空席の方が目立っていた程だ。
僕はそんな気分ではなかったが、つい騒ぎを聞くと混ざりたくなる。
当然、抑えたが。
(*゚∀゚)「こちら生ふたつと焼き鳥でーっす!」
(;*=゚ω゚)ノ「ど、ども!」
.
25 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:27:54 ID:8EOsmnGwO
給仕が、ビールと焼き鳥を運んできてくれた。
並々と注がれたジョッキを、一滴もこぼさず大胆に置いた。
焼き鳥のほうは、ここからでもその旨そうなタレの匂いが漂ってくる。
どうやら、この給仕が言っていた看板娘のようだ。
確かに明るく溌剌としていて、童顔で可愛らしかった。
背も低く声もアニメのようであるため、ついにやにやして目で追ってしまった。
そして、伊予が緊張していた。
どうやら伊予のタイプらしい。
全然歳が違うじゃないか、とは言えなかったも、眼で「諦めろ」と言った。
( ^ω^)「おっおっ。今のが?」
(=゚ω゚)ノ「はいッス! つーちゃんという大学生ッスよ!」
( *^ω^)「確かに可愛いお。眼の保養になるお」
(*=゚ω゚)ノ「自分もそう思ってました!」
ちいさな身体をいっぱいに使い、あれやこれやと職務をこなしている。
商事会社が多いこの地域では、平日の晩は忙しいだろう。
そのせいか、休む間もなく彼女は動いていた。
茶髪の髪から垂れる汗が、それを物語っていた。
.
26 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:33:51 ID:8EOsmnGwO
( *^ω^)「伊予、ああいうコがタイプなのかお?」
(;*=゚ω゚)ノ「ななななにを言ってるんスか!」
( *^ω^)「ごまかすでないぞ!」
(;*=゚ω゚)ノ「センパイ酔うのはやすぎッス!」
景気づけに、ビールをがぶっと呑んだ。
やはり、ビデオを失った今、仕事疲れを癒せるのはアルコールだけだ。
そのアルコールが全身に染み渡り、早速いい気分になってきた。
上唇に付いた泡を拭うことなく、続けて焼き鳥を頬張った。
弾力が強く、一度噛む度に肉汁が溢れだし、先ほどのアルコールに混じらんとしていた。
続けて一度、もう一度、と噛み続ける。
やはり肉の質感がしっかりとしていて、喉の奥に運ぶのが惜しいと思われた。
続けて噛んだ葱も、またこの肉とよく合っていた。
独特な甘味が焼き鳥の旨みと絡まり合って、まさに「至福」を生み出す。
そこから、二つを胃送り出すべく更に呷ったビールが、最高だった。
( *^ω^)「くぉぉーッ!」
(*=゚ω゚)ノ「いい呑みっぷりッスねセンパイ!」
.
27 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:35:43 ID:8EOsmnGwO
僕がぷはぁと息を吐くと、今までの暗い気分までもを吐き出せたように思えた。
そのタイミングを計りでもしていたのか、同時に給仕が後ろから顔を出した。
どきっとした伊予を見て、笑いながら振り向くと
(*゚∀゚)「こちらつーちゃん特製おむすびっす!」
( ^ω^)「おむすび?」
(*=゚ω゚)ノ「ど、どもッス!」
給仕が差し出したおむすびを見ても、普通のおむすびだった。
つーちゃん特製おむすびと言っていたが、一見普通のおむすびだ。
それを照れながら伊予が受け取った。
再び裏方に回った彼女を見送ってから、僕は伊予の顔を見た。
彼女に見惚れている。
( ^ω^)「なんだおこのおむすび」
(=゚ω゚)ノ「つーちゃんがせっせと握ってくれたおむすびッス!」
( ^ω^)
嘘だ、さっきからずっと彼女はホールにいたぞ。
伊予、君は騙されている。
だが、口には出さずに胸中にしまっておいた。
.
28 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:41:40 ID:8EOsmnGwO
そうとは知らず、伊予はレビューを続ける。
目が、会社では絶対お目にかかれない程に輝いていた。
(*=゚ω゚)ノ「彼女の愛情が詰まってるんスよ!」
( ^ω^)「あ、ああそうなの」
(*=゚ω゚)ノ「この米粒ひとつひとつの輝き、全部がつーちゃんのココロなんス……」
( ^ω^)
しれっと気持ち悪い言葉も言う伊予だが、未だホールで
動き回っている彼女を見ていても全く不審に思っていないのだ。
顔が笑いで歪むのを、顔面の筋肉を強張らせ必死で堪えた。
そのおむすび、裏で額に脂汗浮かべる中年が握っているのだぞ
――と明かしたい衝動に駆られるも、伊予の落ち込みようが計り知れないだろうから、やはり言えない。
いっそ、そのままそっとしておく事に決めた。
知らぬが仏、という便利な言葉が世の中にはあるのだ。
少しして僕も一つ貰ったが、どう考えても普通のおむすびだ。
塩分が多めでビールが進むし、ややかためで噛む事の幸せを与えてくれるのは確かだった。
ただ、こんなちいさなおむすび二つで三百円もすると言う。
とても、頼もうとする気にはなれなかった。
( ^ω^)「おむすびもいいけど焼き鳥が旨いお」
(;=゚ω゚)ノ「そうスか。おむすびもいいのになぁ……」
( ^ω^)「せめて、なにか具が欲しいお」
(=゚ω゚)ノ「それは言えてるッスがね」
.
29 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:43:19 ID:8EOsmnGwO
(=゚ω゚)ノ「……それはそうと、係長も元気だしてくれて、自分は嬉しいッス」
( ^ω^)「え?」
(=゚ω゚)ノ「だって、昼間はずっと、生きた屍って感じッしたよ」
( ^ω^)
(=゚ω゚)ノ「……?」
( ^ω^)
( ^ω^)
( ;ω;)「……そうだお! おいブーン、こんなとこでなにやってんだお!」
(=゚ω゚)ノ「あ」
伊予に言われて、忘れかけていた悲哀が漸く蘇った。
いま、こうして楽しく過ごしても、家に帰れば再びそれはやってくるというのに。
寧ろ、今の享楽的なひとときの反動が襲いかかり、途端に落ち込むだろう。
僕は、それを忘れ、馬鹿みたいにはしゃいでいたのだ。
おそらく、伊予に言われなければ、ずっとこの調子だったに違いない。
.
30 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:46:14 ID:8EOsmnGwO
もう、この悲痛な別離から逃れたい。
現実を放棄して、酔いしれたい。
そう思うと、途端に酒を呑むスピードがあがった。
一気飲みに近い要領で、ただひたすらジョッキを傾けた。
こうなったらやけくそだ。
( `ω´)「おおおおおッ! 明日の事なんか知るか!
ええい伊予、今夜は一晩中呑むお、付き合えい!」
(=゚ω゚)ノ「とは言ってもなぁ……」
三十分後。
( *‐ω‐)「ぐーすかぴー……」
(=゚ω゚)ノ「この人、お酒はいるとすぐ寝ちゃうからなぁ……」
( *‐ω‐)「つんちゃーん……」
(=゚ω゚)ノ「にしても、まさかセンパイにそんな悩みがあったとは……」
(=゚ω゚)ノ「これは渡辺ちゃんに知らせないと」
( *‐ω‐)「つーん……」
.
31 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:49:51 ID:8EOsmnGwO
◆
霞がかっていた景色の向こうにいる人に、声をかけた。
僕は、伊予と呑み続け、三軒目に向かおうとしていた最中だ。
伊予に「次いくぞ」と連呼しているが、霞の向こうの人物は返事を寄越さない。
――やい伊予、僕を無視するなんていい度胸じゃないか!
( `ω´)「伊予、もう一軒いくお!」
川 ゚ -゚)「もういいよう、なんちって」
( `ω´)「そうつれないことを言うでないぞ!」
川 ゚ -゚)「つれないだけにそんな言葉じゃ釣れないぞってやかましいわ」
( `ω´)
( ^ω^)
( ^ω^) !
僕は夢を見ていたようだった。
頭が痛い。二日酔いだろうか。
目を覚ますと、真上にはクールがいた。
黒髪が垂れている。毛先が僕の頬を擽っている。
( ^ω^)
川 ゚ -゚)
( ^ω^)「おはよう」
川 ゚ -゚)「おはよう」
( ^ω^)
川 ゚ -゚)
.
33 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:51:18 ID:8EOsmnGwO
クールはいつも以上に真顔になっている。
これはもうだめかもしれない。
( ^ω^)「会社にいかないと……」
川 ゚ -゚)「まだ六時だから大丈夫ですよ」
( ^ω^)「じゃあ掃除でもしてくっかぁ……」
川 ゚ -゚)「待て」
「遅れる時は連絡いれろやァァァァァァァァァァァッァア!!」
「許しておォォォォォォォォォォォォォッッ!!」
.
34 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:52:55 ID:8EOsmnGwO
( ^ω^)「あれ。どうして僕はここにいるんだお」
川 ゚ -゚)「伊予さんが運んできてくださったのですよ」
わかっていた。なんとなくで予想はついていた。
逆に、それ以外で説明がつく筈もなかった。
たまにそうして、伊予が僕を運ぶことはあるのだ。
タクシーを拾い、僕を担いで。
一応僕の家で呑むこともあり、なんの迷いなしに辿り着いたことだろう。
その時のクールの困りようが、手に取るように瞼の裏に浮かんだ。
これはまずい。なんとかしてごまかさないとまずい。
( ^ω^)「くそ、伊予のやつ……上司である僕を引っ張りまわして……」
川 ゚ -゚)「変に言い訳したら許さん」
( ;ω;)「僕が引っ張りまわしましたお!」
川 ゚ -゚)「正直に言ってくれて、クール嬉しい」
( ^ω^)「そう? 嬉しい? やったお、クーが喜んでくれて」
川 ゚ -゚)「ははは」
( ^ω^)「ははは」
.
35 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 18:55:47 ID:8EOsmnGwO
川 ゚ -゚)「もう。悪い子にはお尻ぺんぺんだぞ?」
( ;゚ω゚)「あああああッああああああああああっっ!!
布団叩きはらめぇぇぇぇぇッ!!
尻が割れるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッぅう!!」
クールが布団叩きで尻を叩く時の痛みは、
断崖絶壁から尻餅をつくよう落下して岩に尻を叩きつけたのかと誤解する程に痛い。
布団叩きを地面に水平に傾け、骨にぶつけてくるせいでもある。
また、メジャーリーガーも絶賛する完璧なフォームで振り抜くのだから、尚更なのだ。
川 ゚ -゚)「じゃあ素手で」
そう言って、平手でビンタがはじまった。
手加減してるのか、布団叩きのせいで神経が
麻痺しているのか、さほど痛みは感じられなかった。
だから、だろう。またおふざけしてしまった訳は。
( *゚ω゚)「あ、そこ。もーちょい上。強くしてくれお。おおお……」
川 ゚ -゚)
そして、クールの正拳が肛門に突き刺さった。
結果的に言うと、そのせいで、今日一日椅子に座れなかったのだ。
川 ゚ -゚)「フンッ」
( ;゚ω゚)「ぎゃあああああああああああああああああああッッ!」
.
36 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:00:15 ID:8EOsmnGwO
◆
( *^ω^)「いってくるお」
川* _ )「……いってらっしゃい」
前もって触れておくと、僕とクールの顔が紅潮しているのは気のせいだ。目の錯覚だ。幻覚だ。
朝から騒ぎすぎたせいで、すっかり顔が紅くなってしまっただけに過ぎない。
だが、そのせいで出勤前から随分と疲労を溜めてしまった。
結局は出勤するのに程良い時間帯になったから、どうだっていいのだが。
( *^ω^)「帰ってからもするかお?」
川 ゚ -゚)「今日はだめ」
( ^ω^)「今日はって。さっきも今日だおね」
川 ゚ -゚)「とにかくいってらっしゃい」
見送られ、手を振り家を後にした。
足取りは軽やかだ。
のんびり出勤できるいい時間であり、日頃からこう出勤できたらどれだけ心地よいことか。
だが普段だと、ビデオを観る観ないの壮絶な争いが起こるため、だいたい遅刻ぎりぎりなのだ。
冒頭にて、ビデオを休日しか観ることができないと言った理由のひとつはこれだった。
だが、今となってはその諍いすら生じ得ない。
ジレンマとも言えよう。まさに善悪どちらとも言えない、複雑な心境だった。
.
37 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:03:03 ID:8EOsmnGwO
家をでてすぐそこの小さな交差点は、赤信号が構えていた。
のんびり待っていると、右の方から誰かが駆けてくるのがわかった。
出勤か登校か、とにかくその類であることには違いなかった。
だが、人物が意外だった。
(*゚∀゚)「えっほっえっほ」
( ^ω^)「お?」
いつしか、というより昨日だ。
昨日の居酒屋で見かけた給仕が、走っていたのだ。
見た目から察するに、大学に登校するのだろう。
気がつくと、僕は彼女を呼んでいた。
(*゚∀゚)「あっ昨日の! 昨日は店に来てもらってあざーっす!」
( ^ω^)「おっおっ」
彼女は、店のマニュアルにもないであろう程深々と御辞儀をした。
昨日随分と働いたばかりだってのに、朝から元気溌剌としている。
その元気の量は僕と正反対で、正直言って羨ましかった。
こんな発想を抱くとは、僕も歳なのだろう。
しかし、なんと珍しいことだろう。
昨日出会った人と、境遇を変えて出会えるのはそうそうない話だ。
彼女も、別段急いでいる訳ではなさそうなので、少し雑談へと洒落込んでいた。
.
38 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:04:35 ID:8EOsmnGwO
◆
私は朝からなにをやってるんだか。
独りでにそう思うも、言うほど気にはしていない。
昨日つくったままだった小籠包は、ブーンが残さず食べてくれた。
朝からビールと小籠包という組み合わせであるせいか、ブーンは泣いて喜んでいた。
良妻とは、こう夫を気遣える妻の事を言うものだ。
――もちろん、朝からのビールと小籠包はただの嫌がらせだ。
.
39 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:06:02 ID:8EOsmnGwO
下らない事に思考を巡らせるのをやめ、踵を返して玄関に向かった。
ブーンから取り上げたビデオ、返してもいいかな、と思い始めていた。
懲りずに観たがる癖を直せば、管理を一任してもさほど問題はなさそうだからだ。
今の彼の場合は、依存が過ぎる。
それをなんとかすべく、制止を振り切り取り上げただけで。
私としても、できることなら禁止令などは敷きたくない。
最愛のブーンにとっての、至高の娯楽を奪うことになるからだ。
良妻である私は、彼の心の隙間を理解している。
早いうちに、ブーンのビデオ依存を改善させてあげたい。
――尤も、更にいじめてブーンが泣く姿を見たい気はするが。
サディズムである訳ではない。
ただ、ブーンが好きなのだ。
.
40 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:07:18 ID:8EOsmnGwO
(*゚∀゚)「あっ昨日の! 昨日は店に来てもらってあざーっす!」
( ^ω^)「おっおっ」
ノブに手をかけた瞬間、よく通る女の声とブーンの笑い声が聞こえた。
若い女の声が気になって、そっと顔を覗かせた。
高校生くらいに見える女が、ブーンと向き合っていた。
そして、笑いを含みながら女から話しかけてきた。
(*゚∀゚)「内藤さん途中でいきなり寝ちゃうから驚いたっす!」
( ^ω^)「ちょっと僕、あの雰囲気苦手で……」
(*゚∀゚)「いやいやいやいや、かーなり通い慣れてるっしょ!」
( ^ω^)「まあ、そうだけど……」
はきはきと話す女に対して、ブーンは言葉を濁している。
しかし、それ以上に気にかかったことがあった。
川 ゜-゚)「(店? 寝る? 雰囲気?)」
.
41 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:08:54 ID:8EOsmnGwO
(*゚∀゚)「うちはまだまだレパートリーも選り取り見取りなんで、またきてくださいっすね!」
( ^ω^)「次もつーちゃんのを食べるお!」
川 ゜-゚)
待て。
不吉な言葉が立て続けに聞こえた気がした。
川 ゜-゚)「(レパートリーが選り取り見取り? つーちゃんの? 食べる?)」
(*゚∀゚)「じゃっ大学があるので! 失礼します!」
( ^ω^)「頑張るんだおー」
女は大学生だった。
歳に反して、見た目は高校生くらいだった。
しかし、今はそんなことはどうでもよかった。
川 ゚ -゚) ( ^ω^)「ブーンも行くかお」
川 ゚ -゚) ( ^ω^)
川 ゚ -゚) (^ω^ )
川 ゚ -゚) ( ^ω^ ) ?
.
42 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:10:44 ID:8EOsmnGwO
川 ゚ -゚)「ブーン、ちょっと来い」
( ^ω^)
(;^ω^)「え!? なんで!?」
高校時代、ブーンと付き合い始める一年前だ。
あるうるさい友人からは、私は一度相手を好きになったら
盲信的に愛してしまう性格だ、と言われたことがあった。
大人になって、ある程度は改善されたと自分でも思っていたのだが。
.
43 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:12:10 ID:8EOsmnGwO
◆
理不尽なまでにいたぶられた。
さすがに怒ろうと思ったが、誤解と知ってから
抱きついてきて必死に許しを請われた以上は許さざるを得ない。
クールは、色仕掛けや誤魔化しを図った訳ではないのだ。
彼女の場合、すぐに泣きそうな顔をして謝ってくる。
何が何だかわからなくなった、という下りだろう。
その時は許したのだが、いざ電車に乗ると、なぜか
僕の周りだけが妙に空いていて、改めて情けなく感じた。
鮨詰めとなる通勤ラッシュの電車内で、空間が生まれるのはおかしい。
しかも、通り過ぎてゆく人々が皆、僕の顔を見てくるのだ。
当時は理由がわからなかった。
しかし、会社にやってきて、漸く真意が掴めた。
.
44 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:13:42 ID:8EOsmnGwO
从'ー'从「おはよーございまーす」
(`∠´)「うム、おはよう」
('、`*川「おはようございます」
(`∠´)「おはよう」
(;##)ω<)「おはようございますお」
(`∠´)「おはよう」
(`∠´)「ちょっと、誰だお前」
真顔で、全く動作を見せないまま部長が言ってきた。
あまりに不意打ちだったから、思わず身構えた。
が、放たれた言葉はジョークととれるものだった。
笑いながら、僕も返した。
だが部長の顔は笑っていない。
(;##)ω<)「やだなぁ、内藤ですお」
(`∠´)「おりいって話がある」
(;##)ω<)「はい? 企画書まただめでしたかお?」
(`∠´)「企画書は完璧だった。いやそれよりもだなぁ――」
珍しく、部長が口ごもった。
なにか嫌なことがあるのか、と不安に駆られた。
.
45 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:14:53 ID:8EOsmnGwO
すると、渡辺が部長の代わりに口を開いた。
从'ー'从「係長がまさしく顔面崩壊!」
从'ー'从「でしょ?」
(`∠´)「あくまで上司である内藤にぬけぬけと言えちゃう君は凄い。減給処分な」
从;'ー'从「えっ!?」
('、`*川「あーらら」
ああ、なるほど。
皆が僕の顔に注目していた理由が、漸くわかった時だった。
(;##)ω<)「部長、そんなに顔やばいですかお?」
(`∠´)「その顔で昇給せがんだらすんなりあげてくれそうなくらいまずい。化粧室行ってこい」
(;##)ω<)「わかりました」
そして、絹を裂くようなおのこの悲鳴が響き渡ったのは、すぐ後だった。
.
46 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:17:13 ID:8EOsmnGwO
腫れを治し、ついでに顔を洗った。
傷に結構染みたが、耐えられない訳ではなかった。
だが、それよりもクールに鬼のような〝無〟表情で
引っかかれたあの場面を思い出して、背筋が冷たくなった。
そして戻ると、課内はなにやら騒がしくなっていた。
仕事中だと言うのに何をしているのか、そして部長はどうして注意をしないのか。
不審に思い、足取りを速めて入ったところ。
どうやら、そのベル部長当人も、その騒がしさに荷担していた節があったようなのだ。
なぜか、僕が入室したと同時に急に余所余所しい雰囲気になり、皆そそくさと持ち場に戻った。
変な気分になり、自分もデスクに就こうとした時、ベル部長に呼び出された。
さっきの今だから、何を言われるのか予想がつかなかった。
ベル部長は、深刻な雰囲気を醸し出して、訊いた。
(`∠´)「内藤、ちょっと」
( ^ω^)「なんですかお?」
.
47 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:18:42 ID:8EOsmnGwO
(`∠´)「お前、最近ツンって子に夢中なんだな?」
( ^ω^)「あ、それは」
(`∠´)「アニメに夢中になるのはいいが、程々にしないと仕事に支障を来すぞ」
( ^ω^)
(`∠´)「アニメが原因で嫁と喧嘩する気持ちもわからなくはないが、な」
( ^ω^)
( ^ω^)
( ;゚ω゚)「え?」
唐突に、そう言われた。
同時に、課内にいる者の多くの吹き出し笑いが聞こえた。
そんなことはどうでもよかった。
それより、どうしてそれを知っているのか、それが気になったのだ。
僕の中のトップ・シークレットであり、妻のクール以外には知られてない筈である。
また、部長は勘違いをしている。
それを正さなければならない。
(;^ω^)「どうしてそれを!」
(`∠´)「気にするな。誰も内プッ藤を馬鹿にしたりしない」
(;^ω^)「違いますお! 話を聞いてくださいお! あと笑ったお!?」
.
48 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:20:30 ID:8EOsmnGwO
(`∠´)「みなまで言わなくてもいいぞ。これは営業課だけの秘密だ」
部長は、ハハハと高笑いを放ちながら言った。
これでは弁解の余地も与えてもらえない。
从'ー'从「係長ってオタクだったんだぁ……」
('、`*川「しーっ」
(;^ω^)「おいそこ! うるさいお!」
(`∠´)「お前たちもそろそろ持ち場に就け」
从'ー'从「はーい」
(;^ω^)「待って! みんな話を聞いてお!」
僕の懇願空しく、部長の鶴の一声に皆があっさり従った。
ふざけるな、と言いたい。
普段はもう少し不真面目な連中ばかりなのに、今日に限って一致団結していたのだ。
OLの渡辺も、僕を見てニヤニヤしながらそそくさと出て行った。
あいつなんか、普段は寧ろ手を抜きすぎて怒られている程だというのに。
.
49 :名も無きAAのようです:2012/03/22(木) 19:21:47 ID:8EOsmnGwO
しかし、なぜこの情報が漏れたのか。
そのことが気がかりになっていた。
気が付くと、誰にも話してない筈の話を、誰もが知っていた。
少し思考を巡らせると、一つの可能性が浮かんだ。
( ^ω^)「(まさか、伊予に喋っちゃった?)」
その可能性はあり得る。
居酒屋で、酒の勢いに乗ってあれこれ話してしまったかもしれない。
そう思って、伊予をじっと睨んだ。
(;=゚ω゚)ノ「ひッ!」
( ^ω^)
( ^ω^)「伊予……わかりやすすぎるお……」
思った通りであって、伊予はすぐに身体をびくつかせた。
今度、伊予には何か酷い目に遭わせてやらないとだめなようだ。
.
その2へ→
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- [2012/03/26 10:31]
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( ^ω^)性欲豚がオトナのお店に入り浸るようです 第2話
39 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 22:22:10 ID:RkuD/2ewO
~ブーン自宅~
( ^ω^)
_(_つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/カタカタカタ……
( ^ω^)
_(_つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/ポチ
( ^ω^)
_(_つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
( ^ω^)「……」
_(_つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
( ^ω^)「……うん」
_(_つ/ ̄ ̄ ̄/_
\/___/
( ^ω^)「皮オナをフツーのオナニーだと思ってた……」
40 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 22:23:47 ID:RkuD/2ewO
( ^ω^)性欲豚がオトナのお店に入り浸るようです
その二「性欲豚、夜這い専門店に行く」
41 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 22:31:34 ID:RkuD/2ewO
~大学食堂~
( ・∀・)「そう言えばビップラに良い店を見つけたんだけど」
(´・ω・`)「へぇ。どんな風俗?」
( ・∀・)「バカ、風俗ちゃうわい。ただの飲み屋だよ」
( ^ω^)「お前が店って言うと如何わしい匂いしかしねーお」
( ・∀・)「ぐぬぬ……」
(´・ω・`)「ビップラか。確かに近いけど、そう言えばあんまり行かないよね」
( ^ω^)「僕らが遊ぶと言えばシベリアかニューソクに行くもんね。」
( ・∀・)「ふふ、お前らビップラをナメるなよ」
42 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 22:37:50 ID:RkuD/2ewO
( ・∀・)「なんと飲み放題1300円だ」
(´・ω・`)「へ、それだけ?ならシベリアにも1000円飲み放題があるじゃん」
( ・∀・)「違う違う。当然それだけじゃないのさ」
( ・∀・)「なんと、無料でTKG食べ放題だ」
( ^ω^)「!!!」ピクッ
(´・ω・`)「ほぉ、すごいね……飲み屋の卵かけご飯がどんなもんかは知らないけd」
( ^ω^)「行こうお!!」
( ・∀・)「お前なら言うと思ったぜブーン!!さすがだ!!」
(´・ω・`)「……さすがブーンだね、ホント」
( ・∀・)「ショボンも行くだろ?」
(´・ω・`)「そりゃあ、こんなに君たちが乗り気なら行くしかないでしょ」
( ・∀・)「決まりィ!!」
43 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 22:44:15 ID:RkuD/2ewO
【移動中】
~今更な登場人物紹介~
( ^ω^) ブーン
・豚。顔面偏差値は髭のないカールおじさんレベル
・もちろん童貞でもちろん彼女いない
( ・∀・) モララー
・リア充。テンプレートな大学生
・彼女持ちだけど奔放に遊んでそのうちフラレるタイプ
(´・ω・`) ショボン
・ガチムチ体育会系。
・よく勘違いされるがホモではないらしい
・でも好物はホルモン
皆ビップ大学の2年生。
今日は隣街のビップラの繁華街に攻め込むぞ。
45 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 00:08:43 ID:8eiz5JTUO
~ビップラの居酒屋にて~
(;^ω^)「ハムッ!!ハフッ!!ハフハフ!!」
(´・ω・`)「うわぁ……」
(;・∀・)「何杯いった?こいつ……」
(´・ω・`)「いま6杯」
(;・∀・)「バカ飲みしながらこれとは……正気の沙汰じゃねえ……」
(;^ω^)「うまい!!うまいお!!やべぇお!!ご飯に卵かけただけなのに!!どうして!!ハフハフ!!」
( ・∀・)「すげぇなあ。とりあえずこっちはちびちび行きますか」
(´・ω・`)「だね」
( ^ω^)「……で」
( ^ω^)「この後どうするお?」
( ・∀・)「話すのはどんぶり置いてからにしろ、な?」
46 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 00:24:14 ID:8eiz5JTUO
( ・∀・)「とりあえずそこらは歩きながら決めようと思う」
( ^ω^)「ほう。でも例によって、あんま金ないお」
(´・ω・`)「僕も」
( ・∀・)「そんな金はたくような場所にはいかねーよ。とりあえずオールする勇気だけもっとけ」
( ^ω^)「お!」
~ビップラ、繁華街~
( *・∀・)「ふぃー」
( *^ω^)「食ったお……」
(´・ω・`)「12杯いったね。これにはさすがの僕もドン引きだよ」
( ^ω^)「TKGの魔力恐るべしだお……な、モララー?」
( ・∀・)「……」
( ^ω^)「? モララー!」
( ・∀・)「……あれとか、どうだろう」
(´・ω・`)「あれ?」
47 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 00:33:50 ID:8eiz5JTUO
『5F 夜這い専門:ヨバイルドットコム』←雑居ビルの看板
( ^ω^)「ヨバイル……」
( ・∀・)「ドットコム……」
( ・∀・)「……夜這い……」
( ^ω^)「夜這い……!」
(´・ω・`)「……金はたく場所には行かないんじゃなかったの……?」
( ・∀・)「……と、とりあえず話だけ……?」
( ^ω^)「30分5000円か……」
(´・ω・`)「ノリノリじゃねえか」
48 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 09:15:14 ID:8eiz5JTUO
~5F~
( ∵)「おっいらっしゃいませ」←店のおじさん。見たことある気がするのは気のせいだよ
( ・∀・)「……」
(´・ω・`)「……」
( ^ω^)「……」
( ∵)「おや、兄さんがた『この店は何する店なんだ』と聞き出そうな顔ですね」
( ・∀・)「まったくもってその通りです。何が出来るの?」
( ∵)「説明しますか」
( ・∀・)「頼む」
( ∵)「当店は責め有りのピンサロと言いますか、女の子を好きにできます」
( ∵)「だからまぁ、おっぱい好きにしたり、手めこだとかもやりたい放題してくれていいです」
(´・ω・`)「ほぅ」
( ∵)「さらにこの店の醍醐味としては手錠や首輪や目隠し、ローターやバイブなんかもあるからお好みでガツガツ女の子を攻めちゃってください」
( ・∀・)「なんだと!そいつぁいい!」
( ∵)「お兄さんアブノーマルお好きそうな顔してますもんね」
( ・∀・)「大好きだよ!」
49 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 09:22:18 ID:8eiz5JTUO
( ∵)「その攻めの時間が10分、そこから抜きの時間が20分ですね」
( ・∀・)「なるほど、これはいくしかないな」
( ^ω^)「お……」
(´・ω・`)「アブノーマルなのやってみたいよね」
( ^ω^)(ノリノリだこいつら……言えない……DTだからそんなプレイまだまだ恐れ多いとか言えない……)
( ・∀・)「よし、30分5000円だよな?それでいく!」
( ∵)「ありがとうございます!即諾してくれたからには、こちらも何かとサービスしますよw」
( ・∀・)「よっしゃそうこなくちゃ!」
( ∵)「では一人5000円、お願いしますね」
( ・∀・)つ「じゃあまぁ、一括で」
( ∵)「はい、確かに」
(´・ω・`)「ごちです」
( ・∀・)「ざけんな後で返せよ」
( ∵)「あ、あとみなさん爪の確認だけさせてもらっていいですか?」
( ・∀・)つつ「はいよ」
( ´・ω・)つつ「はい」
( ^ω^)つつ「お」
( ∵)「……はい、オッケーです。じゃあそのまま椅子に座ってお待ちくださいね!」
51 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 10:05:18 ID:8eiz5JTUO
( ∵)「はい、まず誰からいきますか?」
( ・∀・)「じゃあブーン。お前いけよ」
( ^ω^)「え、あ、僕!?」
( ・∀・)「もちろん。切り込め童貞」
( ^ω^)「おいこの野郎」
(´・ω・`)「wwwwww」
( ∵)「じゃあ兄さんから!ついてきてくださいねー」
(((( ^ω^)((((( ∵)
( ^ω^)「うお……」
中に入れば、また自分一人寝転べばそれでいっぱいになるようなスペースに案内された。
前回と違うのは、そこに手錠や目隠し、その他各種器具が用意されている事。
こんなものをDTたる僕が使いこなせるのか、との不安が大きいところだ。
( ∵)「ビールかお茶が無料でつきますけど、どちらにします?」
(;^ω^)「あ、じゃあお茶で」
( ∵)「はい。じゃあこのままお待ちくださいね~」
(;^ω^)「お……」
52 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 10:17:59 ID:8eiz5JTUO
というか、これのどこらへんが夜這いなんだろうか。
夜這いって確かこう、押しかけソフトレイプ的な。
そんなイメージがあるんだけど。
エロゲで見た事がある。
( ^ω^)「……」ごくごく
運ばれたお茶を飲みながら待つ事数分……
女の子はきた。
「こんばんわ~」
(;^ω^)「おっ」
川*` ゥ´)「どうも☆えへっ」
( ^ω^)
ふくよか……否。
ぽっちゃり……否々。
少し大きめの女の子だった。
( ^ω^)(oh……)
53 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 10:29:19 ID:8eiz5JTUO
( ^ω^)(やべぇ……この子、僕と体型かわらんやん……)
その子の服装はネグリジェ?キャミソール?
種別に疎いのでよくわからないが、とにかくエロい。
しかしその下から見える腹回りが、悲しい。
川*` ゥ´)「今日は飲み会か何かの帰り~?」
(;^ω^)「え、あ、うん。そうだお」
川*` ゥ´)「じゃあけっこう酔っちゃてる感じ?」
(;^ω^)「い、いや、そんな事は……ないけど」
川*` ゥ´)「うふふ、どうしたの?なんでそんな緊張してるのかな~?」
(;^ω^)「う」
そう言いながら、扇情的な目で服の上から股間をこすってきた。
ここらあたり、やはり股間は正直だ。
川*` ゥ´)「ふー……」
(;*^ω^)「うおっ!」
川*` ゥ´)「きゃはっ!可愛い♪」
(;^ω^)「あうあう……」
さらに耳に息をかけられ、思わず腰が浮く。
意外だ。この子、予想と違いかなり積極的なタイプだ。
正直、デブをなめていた。
まずい。うまく反応出来ない。
川*` ゥ´)「んふふ……」
その僕のコミュ障ぶりのせいか、その子は少し勘違いしたサービスに入ってきた。
54 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 10:33:54 ID:8eiz5JTUO
川*` ゥ´)「……あんた」
川*` ゥ´)「ドMでしょ?」
(;゚ω゚)「えっ?」
川*` ゥ´)「ふふ、わかるよ。アタシみたいなのにいいようにやられて、ちんこがこんなに反応してんじゃん……」
(;*^ω^)「うあ……それは……違……」
川*` ゥ´)「違わないでしょ!」
(;゚ω゚)「ふおっ!」
あろうことか女の子は膝で股間をぐりぐりしてきた。
しかしシチュエーションがシチュエーションだからか、不思議と痛くはなかった。
同時にそれがまた悲しい。DTの身にして、そんなアブノーマルな扉、開きたくはないというのに。
55 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 10:55:26 ID:8eiz5JTUO
川*` ゥ´)「ほら、服脱いで」
(;^ω^)「うあ……」
こうなってしまえば為すがまま。男子の尊厳なんのそのだ。
言われるままに服を脱ぐ。
それをニヤニヤと眺めるデブ。
こうして素直にしたがったのがいけなかったのか、デブはなんと
(;^ω^)「えっ」ガチャリ
川*` ゥ´)「んふふふふ」
川*` ゥ´)「手錠、かけちゃった☆」
(;^ω^)「えええ?あ、あのぉ……!?」
手錠をかけられた。
川*` ゥ´)「好きでしょ?こういうの」
(;^ω^)「あ、あの……でも」
川*` ゥ´)「口答えしないの」
(;^ω^)「あ、ああああ……」ガチャガチャ
(;^ω^)(はっ……話と違ううううううう!!!!)
57 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 12:32:34 ID:8eiz5JTUO
川*` ゥ´)「ふふふ、硬くしちゃってもう……♪」
(;*^ω^)「や、やめっ……」
川*` ゥ´)「なぁに?やめて欲しいのぉ~?」
そわそわとこちらをおちょくるかのように股間をソフトタッチしてくる。
それがとてももどかしく、同時に心の奥底の何かが刺激されていった。
……のだが、目の前にいるのがデブだと再確認したら怒りも込み上げてきた。
(;^ω^)(こいつの「これがいいんでしょ」的な表情が腹立つ……)
(;^ω^)(けど、なぜ反応するんだ我が愚息よ!)
川*` ゥ´)「じゃあどうしたいのか自分の口で言ってみなよ……♪」
(;^ω^)「うあ」
(;^ω^)「しゃぶって、ください……」
川*` ゥ´)「ど、こ、を~~~?」
(;^ω^)「うう……ち、ちんこ……」
川*` ゥ´)「聞こえなぁ~い」
(;^ω^)(UZEEEEEE!!)
(;^ω^)「ちんこ!早くちんこしゃぶってくれお!」
<プッwww
(^ω^;)「!!?」
隣の部屋から笑い声が聞こえた。
忘れていたのだが、このスペースは隣としきりにはなっているが、薄い壁一枚だ。
音楽はガンガンに鳴ってはいるが、当然ちょっとした声くらいは聞こえるわけだ。
つまり、この男の尊厳が無いちんこ発言が完全に漏れたのらしい。
死にたい。
( ;ω;)(……もうやだ……)
川*` ゥ´)「ふふふ。よく言えました」
58 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 12:41:58 ID:8eiz5JTUO
川*` ゥ´)「ホント必死だねぇ……もはや豚じゃんw性欲豚w」
( ;ω;)「あうあう……」
川*` ゥ´)「もう可哀想だから、外してあげるね」ガチャリ
( ^ω^)「お……」
やっとの事で手錠を外された。
そして、
川*` ゥ´)「寝転んで」
(;^ω^)「おっ……」
軽く放心中の僕を素直に寝転ばせた彼女は
川*` ゥ´)「よいしょ」
裸になって、逆向きに、上にのってきた。
(;゚ω゚)「!!!?」
僕が生の女性器を初めてみた体勢は、69だった。
川*` ゥ´)「ほら、好きにしていいんだよ」
(;゚ω゚)(うっ……)
(;゚ω゚)(うおおおおおおおおおお!!!)
59 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 12:58:48 ID:8eiz5JTUO
ぼくがはじめてたんのうしたおまんこは
しょうどくえきのあじがしました。
ブーン
60 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 13:05:02 ID:8eiz5JTUO
~終了後、待合室~
( ^ω^)「……ふぅ」
( ^ω^)(なんとか今回はイケた……)
('A`)「……」
('A`)「あの」
( ^ω^)「はい?」
('A`)「どうでした?」
( ^ω^)「あ、はい」
( ^ω^)「なかなかよかったですよ」
('A`)「はぁ。なるほど。縛ったりしたんですか?」
( ^ω^)「縛られました」
('A`)
('A`)「素晴らしい」
( ^ω^)「ふふ……」
(´・ω・`)「ふぃー、ただいま」
( ^ω^)「お、ショボン」
(´・ω・`)「いやぁ、可愛い子が出てきてよかったよ。ぽっちゃりだったけど」
( ^ω^)「え? お前も?」
(´・ω・`)「うん。きつく縛ってあげたらかなり濡れちゃって、ほんと楽しかったよ」
( ^ω^)「うおお……」
(´・ω・`)「もうそれで満足したから抜かないで帰って来ちゃった」
( ^ω^)「うおおおおお……」
61 :名も無きAAのようです:2012/03/25(日) 13:09:50 ID:8eiz5JTUO
(´・ω・`)「で、ブーンは『ちんこしゃぶってくれお!』だもんなwww」
(;^ω^)「!? ま、まさか……笑ってたのショボンかお!?」
(´・ω・`)「wwwwww」
(;^ω^)「貴様ァ……!!」
(´・ω・`)「でもよかったじゃない。あんまりアブノーマルな女の子じゃなくてさ」
(;^ω^)「はぁ?どこがだお。充分アブノーマルすぎるお……」
( ・∀・)「ただいまー!いやぁ、楽しかったね!俺の女の子がかなりのド変態でさぁ!攻めながら『首絞めて』っていうから絞めながら攻めたら大洪水!落ちる寸前までやってみたら惚けてきたから軽く挿入してやったらよがり狂ってやんの!めちゃめちゃ楽しかったよ!」
(´・ω・`)「……ね?」
( ^ω^)「……うん……」
((((*'A`)(……ドSこい……ドSこい……)
おしまい。
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- [2012/03/25 20:40]
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( ^ω^)性欲豚がオトナのお店に入り浸るようです 第1話
1 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 01:28:47 ID:RkuD/2ewO
※この物語は性欲豚たるブーンが性欲豚らしく色んな風俗店やその他いろんなエロいお店に入り浸るだけのお話です。要するにエロ。
※18歳未満の良い子は見ちゃダメだぞ。
※作中に出てくるようなサービスをしてくれる店は探せば実際にありますが、だからといってこの話をアテにして言っちゃダメだぞ。
※別に作者の体験談とかでは断じてないです。ホントに。
2 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 01:30:31 ID:RkuD/2ewO
( ^ω^)性欲豚がオトナのお店に入り浸るようです
その一「性欲豚、ピンサロに行く」
3 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 01:39:31 ID:RkuD/2ewO
常々思うのだが、どれほどエロい男でも真の快楽を手に入れるのはオナニーの中ではないだろうか。
「セックスの方が心も満足するからいい」だなんて言うが、例えば彼女の妊娠を気遣ったり心の距離が合わなかったり
彼女の喘ぎ声が演技くさかったりなんかして、それこそ気苦労が多いんじゃないか。
いや、わかっている。これは肉欲視点の悲しい独り身の言葉で、人生の中で互いに満足し合える伴侶は必ず見つかるはずだ。
しかしまぁ、若い身ともなれば仕方ない部分もあるだろう。青臭いガキの垂れた合弁、真に受けるやつもいない。
何が言いたいかといえば、だからこそ僕は、そういうエロい店を否定なんかしない、という事。
そこに帰結するのだ。
5 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 01:48:46 ID:RkuD/2ewO
~VIP県、シベリア市~
( ^ω^)「………遅いお」
(´・ω・`)「遅いね、モララー」
(;^ω^)「あのバカ何やってんだお!!もう1時間も遅刻じゃねーかお!」
(´・ω・`)「まぁまぁ、別にあの居酒屋を予約してるわけじゃないんだし」
( ^ω^)「それでもあそこの居酒屋が満杯になったらどうするんだお」
(´・ω・`)「そん時ゃまた別の飲み屋探したらいいじゃん」
(;^ω^)「僕はあそこの鳥串が食べたいんだお!」
(´・ω・`)「また食べる事ばっかだね君は。どこでも変わらなくない?」
( ^ω^)「そんな事な………!」ピリリリリ
( ^ω^)「ん、電話。モララーからだ」
(´・ω・`)「さぁ、なんて言い訳が出るかな」
6 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 01:49:49 ID:RkuD/2ewO
~VIP県、シベリア市~
( ^ω^)「………遅いお」
(´・ω・`)「遅いね、モララー」
(;^ω^)「あのバカ何やってんだお!!もう1時間も遅刻じゃねーかお!」
(´・ω・`)「まぁまぁ、別にあの居酒屋を予約してるわけじゃないんだし」
( ^ω^)「それでもあそこの居酒屋が満杯になったらどうするんだお」
(´・ω・`)「そん時ゃまた別の飲み屋探したらいいじゃん」
(;^ω^)「僕はあそこの鳥串が食べたいんだお!」
(´・ω・`)「また食べる事ばっかだね君は。どこでも変わらなくない?」
( ^ω^)「そんな事な………!」ピリリリリ
( ^ω^)「ん、電話。モララーからだ」
(´・ω・`)「さぁ、なんて言い訳が出るかな」
7 :ミスった連投しちった:2012/03/24(土) 01:57:18 ID:RkuD/2ewO
( ^ω^)】「もしもし?」
『ふははははははははは!!!』
(;^ω^)】ビクッ!!
『おおブーン!!ブーンや!!』
(;^ω^)】「なに笑ってんだお。お前いまどこだお。猛遅刻かましやがってからに」
『いや、もうシベリアにいるんだよ。ってかさ、実は昼くらいにはシベリアにいてさ』
( ^ω^)】「はぁ?だったらなんで………」
『実は暇だったからさ、スロット打ちに行ったんだよね』
(;^ω^)】「………お前まさかそれで遅刻したとか言わないおね?」
『まさにその通りだが、怒るなブーン!!久々に大勝したんだよ!!』
( ^ω^)】「はぁ。何千円?」
『12万6千円!!』
( ゚ω゚)】
( ゚ω゚)】「………大至急きてください」
『がってん!ふひひひひひ』プツッ
( ゚ω゚)】プー、プー、プー
(´・ω・`)「モララー、なんて?」
( ゚ω゚)「………きた」
(´・ω・`)「えっ」
( ゚ω゚)「今日はただ飲みじゃああああ!!!」
(´・ω・`)「えっ」
8 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 02:05:10 ID:RkuD/2ewO
~ところかわって、居酒屋~
( *・∀・)「いやぁ!!最ッッッ高ですな!」
( *^ω^)「うらやましいお。スロットやパチンコ、打ちにいった事ないけど」
( *・∀・)「なんだブーン、一回はやりにいこうぜ。勝ち方ってもんを教えてやるよ!」
(´・ω・`)「知らなくていいよブーン。たまたま勝っても、トータルじゃ必ず負けるんだから」
( *・∀・)「いいんだよそれで。アミューズメントなんだからさ!」
(´・ω・`)「なら生活ギリギリになるまでやらないの」
(;*・∀・)「うっ」
( *^ω^)「僕も手を出すのは金が溜まってからにするお。………ってかショボン酒強くね?」
(´・ω・`)「そう?フツーだけど」
( *・∀・)「まぁもっと飲め飲め!今日は全額俺のおごりじゃーい!」
( *^ω^)「うおおお、モララー様ぁ!!」
(´・ω・`)「おお、マジかよありがとう!」
( *・∀・)「ひゃはははははははは」
10 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 02:10:38 ID:RkuD/2ewO
~深夜0時ほど、シベリア~
( *-∀-)「………ふぃー、飲んだ飲んだ」
(´・ω・`)「そうだね。今日は楽しく飲めたかな」
( *^ω^)「おっ。マジサンキューだおモララー」
( *・∀・)「なに、いいさいいさ」
( ・∀・)「で、こっからどこ行くかだが………」
( ^ω^)「カラオケでよくね?」
( ・∀・)「いやいや、何を言うか。今日は金があるんだぜ?」
( ^ω^)「?」
( ・∀・)「そしてここシベリアは夜の街。そうだろ?」
(´・ω・`)「まぁ、そうだけど」
( ・∀・)「じゃあ抜きにいくしかないっしょ!!」
( ^ω^)「えっ」
12 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 02:22:44 ID:RkuD/2ewO
(´・ω・`)「いいけど金がないんだよな。貸してくれる?」
( ・∀・)「はっ、なにしけた事言ってんだショボン。当然、これもおごってやるよ!」
(´・ω・`)「え、マジ?ありがとう!」
( ^ω^)「えっ、あの」
( ・∀・)「なに?ブーン」
( ^ω^)「いや、あのさ」
( ^ω^)「抜くって………風俗ってこと?」
( ・∀・)「? そうだけど」
( ^ω^)「あぁ、そうなんだ………あの、うん」
( ^ω^)「別にカラオケでよくね?」
( ・∀・)「え、なにブーン、今日はそういう気分じゃないの?」
(;^ω^)「え、いや、まぁ興味ないわけじゃないけど………」
( ・∀・)「あ、お前、もしかして行った事ないのか?そういう店」
( ^ω^)「うん、まぁ………」
( ・∀・)「だったらなおさら行こうぜ!何事も経験だろうが」
(;^ω^)「いや、でもなぁ………?」
14 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 02:29:43 ID:RkuD/2ewO
(´・ω・`)「わかってやりなよモララー」
( ・∀・)「?」
(´・ω・`)「こいつ、童貞なんだよ」
( ・∀・)「えっ、マジ?」
(;^ω^)「ちょっ!」
(´・ω・`)「だから初体験が風俗ってのは嫌だって言う、童貞なりのプライドだよ」
(;^ω^)「いや別に、そんなんじゃないって………」
(´・ω・`)「嘘つけ。行かないの?」
( ・∀・)「はははブーン、別に何も本番行為までやる店に行くわけじゃないから」
( ・∀・)「ちょっとしゃぶってもらったりこすってもらうだけ。それならいいだろ?」
( ^ω^)「おっ、そうなのかお?」
(´・ω・`)「モララーお前……さては予算を一人5000円程度にするつもりだな」
( ・∀・)「そんな最後までやるような店をおごってたまるか。こちとら少なからず貯金もしたいわ」
(´・ω・`)「………まぁおごってもらえるわけだし、文句は言わないけど」
( ^ω^)「………うん、それなら」
( ^ω^)「行ってみたい………かもだお」
( ・∀・)「決まりだな!」
16 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 02:44:19 ID:RkuD/2ewO
( ・∀・)「それなら………ちょっと歩くぜ」
(´・ω・`)「どんな店に行くの?」
( ・∀・)「うん、まだ決めてないんだよなぁ。シベリアはあんまりそういう目的で行かないしな……」
( ^ω^)「………」
( ・∀・)「とりあえず、そこらのキャッチの兄ちゃんにでも聞くとすっか」
(´・ω・`)「いいやつに当たればいいけどね」
( ・∀・)「なに、12万を引いた俺ならキャッチの兄ちゃんも良いのを引けるはず………」
( ・∀・)「噂をすれば、一人立ってるなぁ」
(=゚ω゚)ノ「おっ!お兄さん方、今から飲み屋なんか探してないかよぅ?ガールズバーとかどうですかよぅ?」
( ・∀・)「お、そうだ、兄ちゃん」
( ・∀・)「ここらへん、スッキリはある?」
(=゚ω゚)ノ「スッキリっすか。うん、予算はいくらくらいで?」
( ・∀・)「まぁだいたい一人4、5ってとこかな。やっすい店でいいからさ」
(=゚ω゚)ノ「あら、そう………か………。ううん、4、5となるとただのピンサロがしかないかなぁ。しかし兄さん、中途半端に金出してカビゴンにしゃぶられちゃたまったもんじゃないっしょ?」
( ・∀・)「まぁ確かに………しかし金欠に代わりはないからねぇ」
( ^ω^)「スッキリって?」ボソッ
(´・ω・`)「抜いてくれるお店の事」ボソッ
(;^ω^)「なるほど………なんか凄い勢いで話が進んでるお」ボソッ
(´・ω・`)「モララー、あしらい方がうまいからね。ここは任せよう」ボソボソ
17 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 02:55:06 ID:RkuD/2ewO
(=゚ω゚)ノ「ぶっちゃけ、シベリアは女の子のレベルが高いとは言えないんだよぅ。だからこそ変に金出すならむしろホテヘルとかの方が………」
( ・∀・)「いやいや、金無いんだって。なんならもう、カビゴンでもいいぜ。俺ら今酔ってっから、たぶんカビゴンでもAKBに見えるわ」
(=゚ω゚)ノ「ははww」
( ・∀・)「まぁ最悪、な。どうにかなんない?兄ちゃん」
(=゚ω゚)ノ「んー、じゃあこうしないかよぅ?」
( ・∀・)「?」
(=゚ω゚)ノ「兄さん方、もう少し奮発して6000円は出せないかよぅ?実は僕の知る、なかなか可愛い子揃いのピンサロがあるんだよぅ」
(=゚ω゚)ノ「時間は35分。ホントは7000円だけど、そこは僕が声かけて1000円引きにしてやるよぅ」
( ・∀・)「ほー、いいかも。可愛いってどんくらい?」
(=゚ω゚)ノ「ポケモンならマリルかな」
( ・∀・)「おっ、カビゴンに比べりゃ破格だなww」
(=゚ω゚)ノ「でしょ?たぶんこれが最善かと思うけど」
( ・∀・)「なかなかいいじゃん。そうするわ」
(=゚ω゚)ノ「決まりで?」
( ・∀・)「おお!」
18 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 03:02:49 ID:RkuD/2ewO
(=゚ω゚)ノ「ありがとだよぅ。なら、ちょっと待ってね!」
( ・∀・)「おう」
(=゚ω゚)ノ】「………」プルルル
(=゚ω゚)ノ】「あ、もしもし。僕です。今から3名さん、6kでどうすか?………あ、はい。………はい。………了解です。失礼します」ピッ
(=゚ω゚)ノ「オッケーだよぅ!じゃあ、ついてきて!」
( ・∀・)「はいはーい」
( ^ω^)「おっ」
(´・ω・`)「楽しみだねー」
(=゚ω゚)ノ「シベリアにはよく来られるのかよぅ?」
(´・ω・`)「まぁね。基本飲みにくるだけだけど」
(=゚ω゚)ノ「そうなのかよぅ。今日はどちらへ?」
( ・∀・)「あっちにTSUTAYAあんじゃん?あの向こうの通りの………………」
~5分ほどして~
(=゚ω゚)ノ「ついたよぅ。このビルの地下だよぅ」
( ・∀・)「へぇ、こんなとこにねぇ」
(´・ω・`)「知らなかったな。シベリアもまだまだ、奥が深い」
( ^ω^)「………」ドキドキ
19 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 03:09:03 ID:RkuD/2ewO
(=゚ω゚)ノ「受付で『いよぅの紹介』って言えばいいよぅ。じゃあ、楽しんできてねー」
( ・∀・)「おお、ありがとう!」
(´・ω・`)「ばいばーい」
( ^ω^)「………」
( ・∀・)「さて。まぁなかなか当たりだったな」
(´・ω・`)「自分から差し引いてくれるやつはシベリアでは珍しいよね。まぁ、よかったよかった」
( ・∀・)「可愛いといいなー」
( ^ω^)「………なぁ」
( ・∀・)「?」
( ^ω^)「ここまできて言うのもなんだけどさ………」
( ^ω^)「ピンサロってなに?」
( ・∀・)
( ・∀・)「……ぶはっwww」
(;^ω^)「わ、笑うなお………仕方ないだろうがお、無経験なんだから」
(´・ω・`)「まぁ仕方ないよね、童貞なら。ピンサロはピンクサロンの略さ。基本的に手や口を使って奉仕してくれる店の事だよ」
( ^ω^)「ありがとうショボン。そしてお前さっきから軽くバカにしてるお?」
(´・ω・`)「当たり前だろ童貞」
( ^ω^)「ぐぬぬ………」
( ・∀・)「まぁまぁ、とりあえず入ろうぜ」
20 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 03:17:49 ID:RkuD/2ewO
カランカラン。
( ・∀・)「ここだな」
( ∵)「いらっしゃい」
( ・∀・)「キャッチのいよぅさんの紹介なんだけど」
( ∵)「はいはい。じゃあ1人6000円ですね」
( ・∀・)つ「一括で」
( ∵)「はいよ、確かに」
( ∵)「じゃあルールだけ確認させて頂きますね。当店は本番ナシ、女の子への乱暴、勧誘行為もナシ。お願いしますね?」
( ・∀・)「オッケー」
(´・ω・`)「はい」
( ^ω^)「お」
( ∵)「ありがとうございます。じゃあ、そのまま椅子に座ってもう少し待ってくださいね」
21 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 03:25:17 ID:RkuD/2ewO
( ・∀・)「いいねぇ、この薄暗い部屋にやらしいピンクの明かり。ピンサロはこれでないと」
(´・ω・`)「あ、見て見てこの壁の女の子の写真。なかなか可愛いじゃん。僕の子はこの子がいいなぁ」
( ^ω^)「………緊張してきた……」
( ・∀・)「まぁ堅くなんなよブーン。堅くすんのは股間だけにしとけww」
(´・ω・`)「wwwwwまぁ、相手の子に初めてだって言えばいいよ」
(;^ω^)「わ、わかったお………」
( ∵)「お待たせしました。じゃあ、誰からいきますか?」
( ・∀・)ノ「はーい、俺俺ー!いいだろお前ら?」
(´・ω・`)「もちろん。君のおごりだしね」
(((( ・∀・)「じゃあ、おっさきー」
そういうとモララーは、カーテンの先に消えていった。
( ∵)「じゃあ続いて、次の方」
(´・ω・`)「ブーン、いきなよ」
(;^ω^)「え、ぼく?まだ心の準備が………」
(´・ω・`)「どうせいつまでたっても出来ないだろそれは。いいからほら、行きなよ」
(;^ω^)「わ、わかったお………」
22 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 03:35:08 ID:RkuD/2ewO
ドキドキしながらカーテンをめくると、そこには女の子がいた。
|゚ノ ^∀^)「こんばんわ☆」
(;^ω^)「おっ」
女の子の下着姿。黒のブラジャーと下着。
なるほど、最初っからこうなのか、と僕は頭の中で落ち着いて考えていた。
|゚ノ ^∀^)「このお店は初めてですか?」
(;^ω^)「え、あ、うん」
|゚ノ ^∀^)「ふふ…w緊張して可愛いね。じゃあ、ついてきて」ガシッ
(;^ω^)「あっ……」
そうして腕を捕まれ、エスコートされた。
女性経験の乏しい僕にとってはこのような触れ合いはもちろん初めてで、それだけで僕は興奮させられる。
そうしてつれられたのは、これまたカーテンで仕切られた一角だった。
とても小さく、僕一人寝転べばそれで窮屈なスペース。
|゚ノ ^∀^)「じゃあ、靴脱いでこっちきて☆」
女の子はとても楽しそうに言い、先にそのスペースに座って手招きした。
心臓が早い。僕は今日、人生初の体験をするのだ。
23 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 03:43:14 ID:RkuD/2ewO
|゚ノ ^∀^)「先ずはきてくれてありがとう、だね」チュッ
(;^ω^)「おっ?」ビクッ
座れば女の子は顔3cmほどに距離を狭めてきて、軽くほっぺたにキスをしてきた。
思わぬ不意打ちで、体が跳ね上がってしまい、ますます恥ずかしい。
|゚ノ ^∀^)「んふふ、こういう店は初めてー?」
(;^ω^)「えぇ、まぁ……」
|゚ノ*^∀^)「じゃあ初風俗は私が頂きだね!やったぁ」
(;^ω^)「おっ……」
|゚ノ ^∀^)「じゃあさっそくやっちゃおっか」
(;^ω^)「え、あの……ドウスレバ」
|゚ノ*^∀^)「あはは、ホントに初めてなんだね。可愛い♪」
|゚ノ ^∀^)「とりあえず脱いでー。下だけでも全裸でもいいから」
( ^ω^)「あ、うん」
|゚ノ ^∀^)「私も脱いだ方がいいかな?」
(;^ω^)「あ、お願いします」
ここだけ流暢に言えたのが情けないところである。
全裸か下半身かを悩んだ挙句、結局全部脱ぐ事にした。
24 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 03:51:56 ID:RkuD/2ewO
|゚ノ ^∀^)「じゃあ、失礼しますよっと」
( *^ω^)「あっ……」
全裸になった僕が壁にもたれかかると同時に、彼女は部屋の角に置かれたウェットティッシュで僕の股間回りを拭き始めた。
当然彼女も半裸。近くに生おっぱいがある。
そんな状況でソフトにとはいえ、股間を組まなく拭かれる。
当然反応してしまう。
股間が、徐々に重たい首を持ち上げて行く。
|゚ノ ^∀^)「ところで君、若いねぇ。いくつくらい?」
(;^ω^)「おっ……一応、20になりました……」
|゚ノ*^∀^)「わぁ、若いんだね!学生さん?」
( ^ω^)「そうですお。お、お姉さんはおいくつくらいで……?」
|゚ノ*^∀^)「24だよー♪」
(;^ω^)「あ……はい」
思ったより若くてびっくりした。しかしまぁ、信じていいのかは甚だ疑問だが。
|゚ノ ^∀^)「じゃあそろそろいいかな……」
|゚ノ ^∀^)「……しよっか♪」
(;^ω^)「おっ」
26 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 04:06:41 ID:RkuD/2ewO
股間に顔を近づけ、自分のそれを柔らかく包む女の子。
|゚ノ*^∀^)「んふふー」
指先で軽くいじったり、触ったり。
( *^ω^)(おお……)
やはり、違う。人にさわられる感覚は、決定的に違う。
それは気持ち良さより、満足感として現れた。
そして……
|゚ノ*// )「ぱっくんちょ♪」
人生初フェラ。
( *^ω^)(おっ……)
( *^ω^)(おおおおおおお!!!)
うおお、なんだこれ。初感触。
それは一肌に温めたオナホールより優しく、心地良い。
舌の巧みな動きで全体くまなく刺激され、なんとも言えない高揚感が生まれる。
これが、セックスというものか。
( *^ω^)(すげぇ!!すげぇよフェラ!!)
|゚ノ*// )「出そうならいつでも言ってね……」
27 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 04:13:58 ID:RkuD/2ewO
|゚ノ*// )「んふっ、んっ、んっ……」
( *^ω^)(いい!!すっげぇいい!!)
やがてリズミカルに顔を縦に。
その度に温かい何かが股間全体を刺激し、とてもよい。
( *^ω^)(これは凄いお……)
正直な話、僕はこの手の店に行くやつを馬鹿にしていた節があった。
そこまで性欲に溺れてどうする、とか相手がいないからって高い金払う必要があるか、とか
しかし、知らなかった。
こんな幸せがあるのか。
そう、今までの僕はおろかだった。
一度も体験した事のない物を、したり顔で評価して何になる。
そう、一度知るべきだったのだ。そうしてこそ、見詰め直す事が出来る。
( *^ω^)(今度から風俗、馬鹿に出来ないお……)
……しかし。
28 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 04:18:24 ID:RkuD/2ewO
|゚ノ*// )「……」ジュッ、ジュッポ、ジュッポ……
( *^ω^)
( ^ω^)(……あれ?)
なんでだろう。
気持ちいいのに、こんなに心地よいのに。
( ^ω^)(なんかぜんぜん、イケる気がしない……お……?)
(;^ω^)(それどころか、亀頭が軽く痛くなってきたような……)
|゚ノ*// )「んっ、んふっ、ふっ、んっ……」
(;^ω^)(……あれ?痛い。気持ちいいけど痛い)
(;^ω^)(あれ……)
31 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 04:27:31 ID:RkuD/2ewO
~終了間際~
|゚ノ;^∀^)「……あれ、今日はダメな日かな?」
(;^ω^)「いや、え、わかんないけど……」
|゚ノ;^∀^)「出そうにないかな?」
(;^ω^)「……はい……」
|゚ノ ^∀^)「仕方ないねぇ……もしかして、えっち初めてかな?」
(;^ω^)「う」
|゚ノ ^∀^)「そうなら、たまにいるよそんなお客さんも……オナニーと、フェラや手コキの快感って別種類だからさ。慣れてないから。あと緊張してイケないって人もいるし」
( ^ω^)「あ……そう……かも……?」
|゚ノ;^∀^)「まぁ、それでもちゃんとイカせてあげるのが技術なんだけどね。ヘタだったかな」
(;^ω^)「い、いや、そんなこと……」
|゚ノ ^∀^)「じゃあまた来てよ。今度はちゃんと、35分でイカせてあげるから♪」
( ^ω^)
( *^ω^)「……お!」
|゚ノ ^∀^)「じゃあごめんだけど、今日はこれでおしまい。また今度、遊びにきてね!」
( ^ω^)「わかったお!」
|゚ノ ^∀^)「はい、これ、私の名刺」
( ^ω^)「おっ……」
渡された名刺には、可愛い文字でこうかかれていた。
『レモナ
今日はありがとう。今度は氏名してね♪』
32 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 04:38:09 ID:RkuD/2ewO
|゚ノ ^∀^)「ばいばーい!」
( ^ω^)「お!ありがとだおー」
( ^ω^)
( ^ω^)「……ふぅ」
( ^ω^)(正直最後の方、手コキとか痛いだけだった……)
( ^ω^)(なんでだ……)
(´・ω・`)「お、ブーンお帰り」
( ^ω^)「あ、ショボン」
(´・ω・`)「どうだった?」
( ^ω^)「……あの、その」
(´・ω・`)「ん?」
( ^ω^)「いけなかった」
(´・ω・`)「……www」
( ^ω^)「笑うなお……なんでだろ。オナヌなら5分もあればイケる気がするのに……」
(´・ω・`)「たぶんブーンの場合は緊張、あと皮オナのしすぎじゃないかな」
(;^ω^)「ぅえ?皮オナ?」
(´・ω・`)「……とりあえずまぁ、お前が脳内で妄想してたほど、セックスはいいもんじゃないって事さ」
(;^ω^)「ちょっ……どういう事だお?」
(´・ω・`)「帰ってからググれ自分で。な?」
(;^ω^)「おっ……ショボンはどうだったんだお?」
(´・ω・`)「いや、バリヤードみたいな女の子出てきたから」
( ^ω^)「oh……」
33 :名も無きAAのようです:2012/03/24(土) 04:42:17 ID:RkuD/2ewO
( ・∀・)「いやぁ、よかったな!確かに可愛かったわ!」
(´・ω・`)「あ、なんだよお前当たり引いたのかよ」
( ・∀・)「まぁな!可愛かったわ!ピチューみたいな女の子出てきたしな!お前は?」
(´・ω・`)「バリヤード」
( ・∀・)「oh……」
( ・∀・)「そういやブーンは?どうだった初風俗?」
(;^ω^)「……あ、それが……」
(´・ω・`)「いけなかったんだとさ……」
( ・∀・)「oh……」
おしまい。
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- [2012/03/25 20:39]
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(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです 第7話
183 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:21:22 ID:RpSgo5Fo0
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
185 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:22:22 ID:RpSgo5Fo0
僕は彼女にすべてを話した。
優しかった家族のこと。
残虐で、許し難い事件のこと。
話し終わった後、彼女も教えてくれた。その凄惨な過去を。
⌒*リ´・-・リ 「私の生まれは、もう気づいていると思います。それなりの良家でした。
父は教会の牧師、母はそれなりに土地を持った家の一人娘でした」
⌒*リ´・-・リ 「父も母もとても優しくしてくださったのを覚えています」
彼女の住んでいた地域は聞いたことがあった。
宗教戦争でその地に住んでいた人は残らず殺されたと、そう風の噂で耳にしていた。
⌒*リ´・-・リ 「それは突然でした。朝方に村を異国の軍隊が襲ってきたのです」
⌒*リ´・-・リ 「ですが、私の家は傷一つつくことはありませんでした。
なぜなら父は異国の軍隊の進撃を知っていたので、家族の命と引き替えに、村を売っていましたから」
⌒*リ´・-・リ 「それから1ヶ月は毎日が豪勢な生活でした。
父が何をしたのかは私にも分かっていましたが、命が助かったことに素直に喜んでいました。
それほど村人達は酷い目にあわされていたのです」
186 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:23:17 ID:RpSgo5Fo0
⌒*リ´・-・リ 「男達はほとんどが家族の前で見せしめに殺され、残りは家畜同様の奴隷として扱われました。
若い女は何十人もの兵士に乱暴され、拷問され、玩具のように捨てられました」
⌒*リ´・-・リ 「私の家族だけが平和に暮らしていたのです。しかしその生活もすぐに終わりました。
元々私たちの信仰していた宗教が、討伐軍を送ってきたのです。
異国の兵はあっと言う間に打ち負かされ、逃げていきました」
⌒*リ´・-・リ 「その日からは地獄でした。父と母は私の目の前で拷問されました。
私自身は二人が死んだ後にいたぶる予定だと聞きました」
⌒*リ´・-・リ 「どのくらいたったのか分かりませんが、一週間よりはずっと長かったと思います。
父が先に死にました。今から思うと村人の怒りは直接敵を導いた父に強く向かっていたからなのでしょうね。
母はその後も苦しめられました」
⌒*リ´・-・リ 「父が殺された3日後の夜、母も息絶えました。
いよいよ私も、あの少女達のようにボロボロにされるのだと思い、牢の隅でおびえていました」
⌒*リ´・-・リ 「しばらくして鍵の開く音がし、私は鼻息を荒くした一人の男に力ずくで地面に押さえつけられました。
そこで必死の抵抗をし、なんとか逃げ出すことが出来ました。
鍵番が独断で来たおかげで助かりました」
187 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:24:00 ID:RpSgo5Fo0
⌒*リ´・-・リ 「そこからは覚えていません。ただひたすらに走り、逃げ続けました。
気づいたときにはこの村のベッドで寝かされていました」
⌒*リ´・-・リ 「持って来れたのは、普段から肌身話さず大事にしていた、父の手作りの笛だけです」
⌒*リ´・-・リ 「……これが私の話です。……嫌いになりましたか?」
心配そうに尋ねてくる彼女に頭を振った。
(´・ω・`) 「そんなことはない」
話が終わった時、太陽は沈み空には星が輝いていた。
僕らは狭いベッドに手を繋いで並んで眠った。
(僕たちはきっと、お互いの傷をなめあいながら生きていくのだろう)
意識がとぎれるほんの少し前にそんなことを考えた。
188 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:25:04 ID:RpSgo5Fo0
僕はまず、村長に事実を話した。僕がホムンクルスで錬金術師だということを。
ちゃんと理解してくれたかどうかは怪しかったけれど。
僕たちは僕の正体を隠さないことに決めた。
これだけ小さな村であれば外部との接触もほとんどないだろうし、隠したままでバレたときの方が困ると考えたからだ。
仲のよい村人から順々に。
皆は一様に驚いていたけれど、受け入れてくれた。
ひと月もしない内に、村人の中で僕の真実を知らない者はいなくなった。
危ない仕事を積極的に引き受け、村のために働いた。
唯一困ることと言えば、衣服が破けてしまうと戻らないといったことぐらいだ。
順風満帆な生活だった。
それが崩れたのは、僕は彼女に出会ってから三年近く経ったある秋の日。
・ ・ ・ ・ ・ ・
一人の兵士が僕たちの村を訪れた。
戦争で用いる長槍を携え、馬に跨って。
男は自らを素性を明かさず、村中の人間を集めるように指示した。
189 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:26:22 ID:RpSgo5Fo0
「今すぐだ! 早くしろ!」
程なくして僕たちは一カ所に集められた。
(´・ω・`) 「!」
他の村人が不審がる中、僕はすぐに男の目的を知る。
その黒い鎧に輝く銀色の蛇の文様。
この世で僕が最も憎む対象を身に纏っていた。
「集まってもらったのは他でもない、みなに協力してほしいことがあるのだ」
(´・ω・`) 「……」
「とある男を捜している。危険な化け物だ。
そいつは人の形をしているが、怪我はすぐに治り、殺しても死なない。心当たりのある者はいるか?」
空気が一瞬で張りつめた。誰もが僕のことを想像したのだろう。
しかし、誰一人として口を割らなかった。
「隠して特をすることはない。知っているのなら速やかに告げよ。もし正しい情報を提供すれば、金一袋をやる」
じゃらじゃらと見せつけるように巾着を振る。
それでも、声を上げる者はいなかった。
190 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:27:53 ID:RpSgo5Fo0
「ふむ……二、三日この村の入り口にいる。話をする気になったのなら来い」
それだけ言って、歩いていった。僕はその背に襲いかからないように、全神経を集中させなければならなかった。
⌒*リ;´・-・リ (ショボンっ……)
(;´・ω・`) (分かってる)
村人たちは各自の仕事に戻り、僕らはいったん家に帰ることにした。
⌒*リ´・-・リ 「あれって……」
(´・ω・`) 「間違いない。嗅ぎつけてきたんだ」
部屋の中には液体の入ったフラスコと、数種類の粉末が置いたままにしてある。
行商から怪しまれない程度に購入していた物だ。
村に対する恩返しにと、時間を見つけては研究をしていた。
ここから足がついたのかもしれないと歯噛みする。
⌒*リ´・-・リ 「どうすれば……」
リリと僕は全く逆のことを考えているだろう。
(´・ω・`) (どうすれば、村人に危害が加わらない?)
191 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:29:58 ID:RpSgo5Fo0
粉末は一部を残して、全て暖炉に放り込む。
フラスコも同様にし、錬金術の証拠隠滅をはかる。
(´・ω・`) 「……」
入り口で待つと言っていた辺り、確信に近い何かを持っているのだろう。変な誤魔化しはきかない。
疑いたくはないが、密告者の可能性も考えられる。
(´・ω・`) 「リリ、僕はここから離れる。君たちは脅されていただけだと言うんだ。いいね?」
⌒*リ´・-・リ 「そんなっ! みんなで考えれば解決案だって……!」
(´・ω・`) 「そんな時間はないし、あいつらはそんなに優しくない。軍隊を送って皆殺しにしていないのが不思議なくらいだ」
あいつならその程度の行為に何の躊躇いもないだろう。
それだけはなんとしても避けなければならない。
⌒*リ´・-・リ 「それなら私も行きます!」
(´・ω・`) 「無理だ! どこまで逃げればいいのか分からない、厳しい道のりになる。君の安全を保障できない」
⌒*リ´・-・リ 「ここにいても同じことですよね。そういう人に狙われているということは理解しているつもりです」
確かに村に残っても安全とは言い難いのは事実だ。
192 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:30:57 ID:RpSgo5Fo0
説得を試みるが、リリは強情だった。
彼女は一度決めたら譲ってくれない。
強い光を秘めた、覚悟の眼差しと目が合う。
(´・ω・`) 「ああもうっ! 後で泣き言を言うなよっ!」
⌒*リ´・-・リ 「逃避なら私の方が先輩なんですから」
(´・ω・`) 「実行は夜だ。南西側に向かうよ。港を目指す」
無事に逃げ切るために、頭を回転させる。
(´・ω・`) 「冬にかかるとまずい。服はたくさん着て」
⌒*リ´・-・リ 「食べ物は?」
(´・ω・`) 「少な目でいい。この辺の土地は豊かだし、食べる物はあるはずだ」
ホムンクルスの知識があれば、食用可能かどうかを悩む必要はない。
護身用の剣を身につけ、後に使うための金貨を十分に用意する。
最後に、錬金術で作った粉末をこぼれないようにしっかりと包み、腰紐に結びつけた。
さぁ、荷造りはすませた。
後は出発するだけだ。
193 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:31:55 ID:RpSgo5Fo0
日が落ちるまではまだ少し時間がある。
(´・ω・`) 「……別れの手紙を書こうか」
村人に直接合うのは危険すぎる。
それなら別れの手紙を書けばいい。
何も言わずに去るのは、庇ってくれたみんなに対して、余りに薄情だ。
ではまずは私が、とリリは筆を手に取りすらすらと綴っていく。
⌒*リ´;-;リ 「村長、私が初めてこの村に来たときのことを覚えていますか?
ぼろぼろになっていた私に温かいスープをくださいましたね。
その時の味はつい昨日のことのように覚えています。
力仕事の出来ない私に仕事をくださいましたね。
最初に作った編み物はうまくできず、とても見苦しい物でした。それでも、それを買ってくださいましたね。
何度も何度も丁寧に教えてくださいましたね。おかげさまで、随分とましな物も作れるようになってきました。
一人で生活するための空き家を作ってくださったのも村長ですよね?
年頃であった私に気をつかってくださったのは嬉しかったのですが、私は村長と暮らしていたかったです。
実の孫のように可愛がってくれてありがとうございました。
私には大事な人が出来ました。
その人の行く道がどれほど過酷であろうと、隣に寄り添って支えてあげたいと思う人が。
今の私があるのはひとえに、村長と村の皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。
旅立つ勝手を許して下さい。いつかまた、この地に帰ってきたいと思います。それでは、さようなら」
リリは瞳を潤ませながら、しかし一滴も手紙に零すことなく書き終えた。
194 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:32:53 ID:RpSgo5Fo0
僕も筆を手に取った。
少し考えてから書き始める。
(´;ω;`) 「この村の人々にはとても感謝しています。人ではない僕が、人間のように過ごすことが出来ました。
厭うことなく、嫌うことなく、恐れることなく、接してくれた皆さんの優しさが、僕は大好きです。
僕のせいで皆さんに迷惑がかかることを許して下さい。リリと出会えて、皆さんと暮らせて、幸せでした。
いつか必ず、このご恩は返します。どうか、彼らには脅されていたと言ってください。
そして、この手紙は燃やして捨てて下さい。それでは、さようなら」
僕の書いた部分は、所々滲んでしまった。
手紙はまとめて筒状にして結んだ。
空はいつの間にか暗くなってきていた。
(´-ω-`) 「急ごう。今夜は月も星もない今の内に離れて、距離を置いてからランタンを使うよ」
⌒*リ´・-・リ 「わかりました」
僕たちは身を屈めて曇り空の下を走った。
途中、村長の家の中に手紙を投げ入れ、振り返ることなく走り続けた。
村から丘二つ離れたところで、太陽の残光は完全に消え失せた。
ランタンに火を灯して掲げる。
小さな明かりに照らされ、街道がうっすらと浮かび上がった。
195 :ごめんなさいーご飯行ってきますー:2012/03/08(木) 21:34:29 ID:RpSgo5Fo0
(´・ω・`) 「ひとまずはこれを辿る。明日の朝までに距離を稼いでおきたい」
⌒*リ´・-・リ 「大丈夫。心配しないで」
二人で並んで行く。
道は舗装されていて、体力を温存できる。
一言も言葉を交わさず、数時間は歩いていた。
本人の言うとおり、リリにへばった様子はなく、黙々とついてきていた。
(´・ω・`) 「ここだ」
西側に向かって延びる道から細い通りが西南西にある分かれ道に着いた。
今日の目標である林の小道はこの通りの先にある。
この移動がばれ、追っ手が来ていたらのなら、戦闘も覚悟していた。
まだ気づかれていないのだろうか、追われている気配はなかった。
しかし万事うまくいっているわけではなかった。
リリが僕の後ろを歩くようになり始めたのだ。
(´・ω・`) 「大丈夫?」
⌒*リ;´・-・リ 「はい、まだ、大丈夫、です」
196 :もどりましたー:2012/03/08(木) 21:52:59 ID:RpSgo5Fo0
そう答える彼女はやはり、しんどそうだった。
休む間もなく歩き続けているし、もう夜も遅い。
疲労は当たり前だろう。
(´・ω・`) 「後少しだから、頑張って」
少なくとも林道までは行かなければ、いざというときに姿を隠せない。
⌒*リ;´・-・リ 「頑張り、ます」
ペースを少し落とし、彼女の歩幅に合わせた。
それからしばらく歩いて、ようやく林道の頭にたどり着いた。わき道にそれ、木の陰に座り込む。
リリはすぐに眠りに落ちた。
僕は彼女が体を休ませられるように、自らの衣服をクッションとして体の下に置いた。
(´・ω・`) (ひとまずはうまくいったか……?)
僕は寝るわけにはいかず、今後の計画を頭の中で練り直す。
この逃避行がより完全な物になるように。
考え事をしている間に、太陽が姿を現した。
睡眠時間は充分ではないだろうが、もう移動しなければならない。
(´・ω・`) 「リリ、起きて」
⌒*リ´ -・リ 「……ショボン?」
197 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:53:57 ID:RpSgo5Fo0
怠そうに起きあがるリリを見て心が痛んだが、仕方のないことだと言い聞かせた。
(´・ω・`) 「あの山を越えれば、村が一つある。うまくすれば馬が手に入るかもしれない」
⌒*リ´・-・リ 「行きましょう……」
昨日よりもゆっくりのペースで、山を目指す。
夕方までに何度も休憩し、やっと半分を踏破した。
当初の予定より大分遅れていたが、リリを責めることは出来ない。
食事はまともではないし、睡眠時間も短い。
人間の女性としてはむしろよく耐えている方だろう。
⌒*リ´・-・リ 「ごめんなさい、ショボン」
僕が難しい顔をしているのが見えたのか、リリは弱々しい言葉を口にした。
(´・ω・`) 「問題ないよ。僕たちがいないことに気づいたとしても、奴は街道を進むと見て間違いない。
それならば時間はまだ十分にある」
安心させるつもりだった言葉なのに、その言葉は冷たく響いた。
⌒*リ´・-・リ 「もう、歩けるよ」
199 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:54:57 ID:RpSgo5Fo0
リリは立ち上がった瞬間、前のめり倒れた。
慌てて体を受け止める。
(;´・ω・`) 「リリっ!」
⌒*リ´ - リ 「ごめんなさい……ごめんなさい……」
その日の夜も、木の陰で一晩を明かした。
翌日になるとリリは元気を取り戻し、予想以上に距離をかせげた。
細い林道は深い森へと続いていく。この山を越えれば、村が一つあるが、
山越えはそう簡単ではない。人通りも少ないため、草木は茂り放題だ。
姿を隠すのにはちょうどいいけれど、体力を必要以上に消費するだろう。
⌒*リ´・-・リ 「行きましょうか」
覚悟を決めたように、リリは呟いた。
(´・ω・`) 「うん」
草をかき分け、日の光が届かない山に足を踏みいれた。
僕が前を歩き、後ろからリリが着いてくる。
道は次第に上り坂になっていく。
どのくらい登っただろうか。
ちょうどいい高さの岩を見つけ、そこに座り込む。
200 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:55:49 ID:RpSgo5Fo0
(´・ω・`) 「リリ、少し待ってて。食べ物を探してくるから」
⌒*リ´・-・リ 「わかりました。気をつけて下さいね」
彼女の手を優しく握り、付近の探索へ出発する。
奥に進んですぐに見つけた背の高い木の果実は、甘くて腹も膨れる。
対して栄養がないのが難点だが、疲れているリリには丁度いいだろう。
木に登ってよく熟れた実をとる。
そして予想通り、この一帯には喉の渇きを潤すのにはもってこいの植物が生えていた。
人差し指ほどの長さの茎から細い毛が無数に生えているそれは、茎に多量の水分を含ませる性質がある。
根を千切れば、そこから水を吸うことができる。
数十の実と一握りの束を手に、リリのもとに戻った。
(;´・ω・`) 「遅くなってごめん」
⌒*リ´・-・リ 「たいして経っていませんから、謝らないでください」
二人で食事をし、長めの休憩をとった。
自然の音が心地いい。耳を澄まして聞き込んでいると、リリは微笑みながら服の内側から何かを取り出した。
⌒*リ´・-・リ 「持ってきてしまいました」
201 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:56:44 ID:RpSgo5Fo0
その手に持つのは、大事な手作り笛。
そっと唇にあて、息を吹き込む。
虫のさざめき、風に揺れる葉の音と一緒に彼女は奏でる。
音楽の終わりと同時に彼女は立ち上がった。
⌒*リ´・-・リ 「さて、歩きますよ」
(´・ω・`) 「また、聴かせてくれ」
⌒*リ´・-・リ 「無事に逃げ切れたなら、いくらでも」
日が沈んだとき、僕らは山の中腹にたどり着いた。
何年も放置されたような木製の台が並んでいる。
(´・ω・`) 「今日はここで休もうか」
強度を調べてから台に座る。
気が抜けたのか、リリはすぐにうとうとし始めた。
(´・ω・`) 「横になって」
⌒*リ´ - リ 「ショボン……はぜんぜん……寝てない……のに」
(´・ω・`) 「大丈夫。僕のことは気にしないでいいから」
リリは元気に振る舞っているが、日に日に疲れを増していた。早急にくつろげる場所が必要だった。
(´・ω・`) (だけど山越えには早くて後二日。この調子だと恐らく三日はかかるだろう)
202 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:58:00 ID:RpSgo5Fo0
それに、いつまでもここが安心とは限らない。
向こうの町で罠を張られている可能性もあった。
リリの寝顔を見ながら、彼女に最も負担が少ない形を考える。
しかし、山を出るまでは歩かざるを得ない。
(´・ω・`) (村に来た男から馬を奪っておけばよかった。そうすれば追っ手までの時間も稼げるし、リリも楽だったはずだ)
自分の手筈の悪さに腹が立つ。彼女を辛い目にあわせているのは他でもない、この僕だった。
(´・ω・`) (後三日は……耐えてもらうしかないのか)
見張りをして睡眠時間を殆どとっていないせいか、頭が重い。
寝るまいと思っていたが、結局、朝日と同時に目が覚めた。
焦ってリリの安全を確認する。
⌒*リ;´・-・リ 「はぁっ……はぁっ……」
体調を崩しているのは一目瞭然だった。
呼吸は荒く、額には多量の汗をかいている。
(;´・ω・`) 「リリ、大丈夫かい?」
⌒*リ;´・-・リ 「はぁっ……はい……なんとか……」
返事をするのもやっとな状態。とても歩けるとは思えない。
(´・ω・`) 「少し待ってて」
寝たままの彼女を放っておくのは気が引けたが、少しでも楽にしてやりたかった。
昨日採った植物を再び集め、破いた袖を十分に湿らす。
それをリリの額にのせた。
203 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:59:12 ID:RpSgo5Fo0
⌒*リ´・-・リ 「あり……がとう」
(´・ω・`) 「ごめん……僕が無理をさせたから……」
⌒*リ´・-・リ 「気に……しないで」
リリには薬が必要だ。
症状を緩和するための薬を作る錬金術は、今は使えない。
(´・ω・`) (器具も材料もなければ、僕は何も出来ない……)
唯一ホムンクルスでよかったと思える点が、この錬金術の知識なのに、使いたいときに使えない。
そんな知識に一体何の意味があるのか。
⌒*リ;´ - リ 「うぅ……」
(´・ω・`) (っ……! 今は悔しがってる時じゃない)
自分でどうにか出来ないならば、山を越えて町に薬を買いに行くしか方法がない。
彼女をおいて離れることは出来ない。
ならば解決策は一つ。
(´・ω・`) 「リリ、ごめん。揺れるよ」
204 :あうあうあー^q^:2012/03/08(木) 22:02:30 ID:RpSgo5Fo0
⌒*リ;´・-・リ 「うん……」
彼女を背に負う。
その体は驚くほど軽い。
出来るだけ衝撃が無いように気を配りながら進む。
(´・ω・`) (町まで我慢してくれ……)
いかに軽いとは言え、同じ距離を歩くのにかかる時間は倍になった。
苦しむ彼女を背に、夜通し歩き続ける。
・ ・ ・ ・ ・ ・
三日間軽い休憩を何度か挟むだけで歩き続け、三日目の夜、ついに倒れた。
精神よりも先に肉体に限界がきてしまったようだ。
顔の向きだけ変えて、隣に倒れているリリの方を向く。
リリの病状は悪くなるばかりで、回復の兆候は見えない。
(;´・ω・`) 「くそっ……」
山の終わりはまだ暫く先ある。
(;´・ω・`) (考えろ……考えろ……)
今から少し休み、一人で村に向かったとして、果たして間に合うかどうか……。
(;´・ω・`) (少しでも病状を抑える方法を……この近辺には何がある……? 今の僕には何が出来る……?)
205 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:03:38 ID:RpSgo5Fo0
ふと、腰に結んだ袋を思い出した。
そこにあるのは、錬金術で生み出した唯一の物質。
村人への恩返しに使う予定だったそれは、優秀な肥料だ。
一振りで瞬時に植物を成長させることが出来るほど強力な。
肥料は、栄養価の素になる。
リリの病状は疲労と栄養不足が原因だろうから、片方を取り除いてやれば少しはマシになるはずだ。
(´・ω・`) (当然、直接人間には使えない。だけど……)
解決方法は簡単だ。
今までなぜ気づかなかったのか分からないほどに。
手に力を込めて起きあがり、リリを寝かせたまま、来た道を戻る。
充分に離れ安全を確認したところで、袋から粉を一摘み取り出し振りまく。
すぐに植物は成長し始めた。
夏にしか実を成らせない木も、普段は大きくならない木も、肥料を得て、それを栄養価に昇華させる。
(´・ω・`) (よしっ)
この山がこれほどの多様性を有していなければ、難しかったかもしれない。
熟れた果実を収穫し、リリが食べられるように、細かくする。
206 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:04:41 ID:RpSgo5Fo0
(´・ω・`) 「リリ、口を開けて」
⌒*リ;´・-・リ 「ぁ…………」
取れたての野菜を口へ運ぶ。
リリに噛む力はほとんどなかったが、必死に飲み込む。
⌒*リ;´・-・リ 「ぉぃし……」
苦痛に歪み、泥に汚れた笑顔は痛々しい。
僕は無理に笑い返し、彼女の食事を手伝った。
⌒*リ;´・-・リ 「ぉ腹………ぃっぱ……」
食べれたのは普段の三分の一にも満たなかったが、ここ数日では一番食べてくれた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
その後は僕らは地べたに寝て休んでいた。
危険だとか考えている余裕はなく、丸一日ゆったりと横になっていた。
食べ物のおかげが、リリの様子は見違える程良くなった。
少なくとも、楽に喋れるほどには。
⌒*リ´・-・リ 「ショボン、ごめんね。迷惑かけて」
(´・ω・`) 「僕の方こそごめん。無理していたのに気づいてあげられなくて」
僕らはお互いに謝り、笑い合った。
207 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:05:33 ID:RpSgo5Fo0
(´・ω・`) 「さ、そろそろ行こうか」
僕の体力は回復していたから、栄養たっぷりの野菜と果実を少しずつ持ち、リリを背負った。
幾分重くなった気がする。
それを彼女に言うと怒られた。
⌒*リ´・-・リ 「女の子にはもっと優しい言い方をしてくれないと困ります」
(´・ω・`) 「良い意味で言ったんだけど」
⌒*リ´・-・リ 「良い意味でもです」
納得はいかなかったけども、話を切り上げることにした。
無駄に体力を使って、また倒れる展開だけは避けたい。
(´・ω・`) 「やっとか……」
さらに二日経ってから、山を抜けることが出来た。
町はもう目に見えるところにあった。
(´・ω・`) 「リリ、後少しだよ」
⌒*リ;´・-・リ 「うん……」
二日間の強行軍が彼女の病状を悪化させていた。
早く町で薬を手に入れなければならない。
森から出て姿が隠せないことは、もう恐れてはいなかった。
208 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:06:26 ID:RpSgo5Fo0
町に入り、薬屋を探す。
僕の住んでいた町よりはずっと大きく、探すのに多少苦労した。
「へぇ、どうも」
(´・ω・`) 「熱の薬はあるか」
「こちらです」
店主から薬を受け取り、金貨を払った。
次に探したのは宿屋だ。
リリも僕もあまりにも汚く、これでは目立ちすぎる。
宿屋はすぐに見つかった。
もともと交通の要所にある町として広がったために、そういう施設は多いようだ。
(´・ω・`) 「二人部屋を頼む」
「先払いでよろしいでしょうか?」
(´・ω・`) 「構わない。服を二人分、あとお湯を沸かして持ってきてくれ。タオルと一緒に」
「畏まりました」
金貨を握らせ、部屋にあがった。
リリをベッドに寝かせる。
209 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:07:49 ID:RpSgo5Fo0
⌒*リ´・-・リ 「無事についてよかったです」
(´・ω・`) 「そうだね。さぁ、まずは薬を飲んで」
グラスの水と粉薬を渡す。
それを飲み終えるのと同時に部屋の戸が叩かれた。
「湯と服を持ってきました」
(´・ω・`) 「ありがとう、入ってくれ」
子供が入るくらいの大きさの入れ物にたっぷりと湯が入っており、宿の従業員が複数人で運んできた。
「それではごゆっくり」
扉がしまったのを確認して、湯に用意されていたタオルを浸した。
(´・ω・`) 「さて、リリいいかな?」
⌒*リ´・-・リ 「えっ? えっ?」
子どものように混乱している。
何をされるのか理解していないようだ。
(´・ω・`) 「お互いどろどろだし、リリ動けないでしょ?」
⌒*リ´//-/リ 「~~~~~っ!!」
210 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:08:36 ID:RpSgo5Fo0
やっとわかってくれたようだ。
⌒*リ´//-/リ 「ちょっ、ちょっと待って下さい。まだ心の準備が」
(´・ω・`) 「はーい、時間切れー」
彼女の服を脱がせ、全身を暖かいタオルで丁寧に拭いていく。
汗と泥を取り除くと、綺麗な白い肌が現れた。
(´・ω・`) 「はい、終わり」
服を着せ終え、今度は自分の汚れを落としにかかった。
(´・ω・`) 「ふーすっきりした」
使い終わった湯を廊下に運び、ベッドに横になった。
作業が終わっても、リリはリンゴの様に顔を真っ赤にしたまま、口を利いてくれなかった。
「食事をお持ちしました」
僕らの沈黙は宿屋の主によって破られた。
もうそんな時間になっていたのかと驚きつつ、許可を出す。
(´・ω・`) 「ああ、入ってくれ」
211 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:09:40 ID:RpSgo5Fo0
「どうぞ。食べ終わりましたら、扉の外に出しておいてください」
出された食事は豪勢だった。
久しぶりの肉に思わず涎が出てくる。
当然ホムンクルスでもうまいものはうまい。
(´・ω・`) 「食べようか」
⌒*リ´・-・リ 「はい……」
リリの祈りが終わるのを待ってから食事を食べる。
僕らはやっと日常に帰ってこれた。
(´・ω・`) 「おいしいね」
⌒*リ´・-・リ 「はい……」
ちゃんと話してくれないのは寂しくもあったし、
照れたままはい、としか答えないリリに少し悪戯心が湧いてきた。
(´・ω・`) 「綺麗な体だったから大丈夫だよ。気にしないで」
⌒*リ´//-/リ 「~~~~~~~っ!?」
ますます喋らなくなってしまった。
(´・ω・`) 「ごめんごめん。ちょっとからかっただけだから」
⌒*リ´//-/リ 「ややや、やめてください……」
212 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:10:34 ID:RpSgo5Fo0
(´・ω・`) 「ああそうだ、明日からの予定なんだけど、この町もすぐに離れた方がいいと思う。
馬を調達して、さらに西に向かうよ。馬は乗れる?」
唐突にまじめな話題に戻す。
若干動揺しているものの、しっかりと話についてきてくれた。
⌒*リ´・-・リ 「はい、大丈夫です」
(´・ω・`) 「わかった。朝になったら、二頭貰ってくるから、ここで待ってて」
・ ・ ・ ・ ・ ・
朝の町は交易地といえども、まだ静まり返っている。
厩舎に行き、馬二頭を買うのには苦労はしなかった。
十分な量の金貨があったからだ。
宿に引き返す途中、数人の騎士の姿を見かけ、家の陰に隠れる。
そいつらは間違いなく、あの男とその仲間だ。
213 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:11:28 ID:RpSgo5Fo0
「なかなか現れんな。林の小道は調べたのか?」
「今調べている途中ですが、人が通った後はあるようです」
「ふむ、宿は全部当たったのか」
「いえ、まだです。なにぶん数も多いので。ですが、薬屋の主人からそれらしい男を見たと言う話を聞きました」
「だったら、さっさと探し出せっ!」
会話は其処で終わり、馬の駆ける音が遠ざかっていく。
宿を総当たりされたら見つかるのは時間の問題だ。
(´・ω・`) (急ぐか……)
真っ直ぐ宿に向かい、リリが無事でいるのを見て一安心する。
(´・ω・`) 「リリ、町を出るよ。準備は?」
リリの熱は下がり、すっかり元気を取り戻していた。
⌒*リ´・-・リ 「もうできてます」
(´・ω・`) 「よし、行こう」
214 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:13:28 ID:RpSgo5Fo0
西へ頭を向け馬を疾駆させる。
この先にあるのは港町。
そこから船に乗って逃げれば、そうそう追ってはこれないはずだ。
(;´・ω・`) 「っ!?」
安心して気が抜けた瞬間、左腕に激痛が走った。
⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!」
(#´・ω・`) 「くそっ!」
リリの叫びを聞きながら、自分の馬から飛び降り体をリリの後ろに投げ出す。
「がっ!」
計五本の弓矢が全身を貫く。
地面に激しく叩きつけられた痛みを無視し、すぐに起きあがった。
リリに逃げるよう急かす。
(#´・ω・`) 「走れっ! 後で追いつく!」
⌒*リ;´・-・リ 「でもっ!」
(#´・ω・`) 「いいから行け!」
215 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:14:26 ID:RpSgo5Fo0
体に刺さった矢を一本ずつ乱雑に抜いていく。
すぐに五人の騎士に囲まれた。
「女を捕まえてこい」
二人が円陣を崩しリリの後を追う。
それを横目に、男達の隙を窺っていた。
「久しぶりだなぁ、ショボンよ」
(#´・ω・`) 「……」
黒い鎧に銀の蛇。
多くを知っているわけではないが、この男はよく覚えていた。
一番最初に僕の主人を襲った男だ。
「まぁいい。我らと共に来てもらおう」
(´・ω・`) 「断る」
「ならば力づくで連れて行くまでよ」
三人が同時に槍を突き出す。
216 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:16:48 ID:RpSgo5Fo0
(´・ω・`) 「ホムンクルス相手に接近戦とは脳無しか?」
相手の攻撃と同時に一人の懐に飛び込む。
右腕を槍の一撃で斬りおとされながら、左で抜いた剣で首を叩き斬った。
「がっ……?」
男は目を見開き崩れ落ちる。
(#´・ω・`) 「ぐっ……」
背中から異物か体の中に侵入してくるのを感じる。
胸から二本の槍が飛び出していた。
「やっ……」
(´・ω・`) 「てないよ」
左腕を大きく振りかぶり、刀を投擲する。
真っ直ぐに喉を貫き、絶命に至らせる。
「ぎっ……!」
(#´・ω・`) 「があああああああああああああ」
まだ生きている騎士の槍を掴み、全力で体を捻る。
体中の細胞がぶちぶちと千切れる音をさせながら。
217 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:18:12 ID:RpSgo5Fo0
「なっ?」
男はバランスを崩して落馬した。
(´・ω・`) 「悪いが時間がない」
リリを追いかけなくてはならない。
体から引き抜いた槍を男に向ける。
「待て。女の命がどうなってもいいのか?」
(;´・ω・`) 「っ!?」
振り向けば、首元に剣を突き付けられたリリがいた。
その後ろには追いかけた二人だけではなく、五人に増えていた。
⌒*リ´・-・リ 「ショボン、ごめんなさい……」
「喋るな。武器を捨て隊長から離れてもらおう」
(´・ω・`) 「くそっ……」
「ふ……ふ……よくやった……。こいつを縛れ!」
身動きが取れないほどに上半身が固定される。
リリを見ると、怪我はないようで一安心する。
「女は縛って捨て置け」
⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!」
(;´・ω・`) 「リリっ」
218 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:18:54 ID:RpSgo5Fo0
馬にのるように促される。
逆らって彼女に害が及ぶのは避けたかった。
僕を乗せ、男達は道を引き返す。
少し離れたところで、急に動きを止めた。
「ああそうだ」
隊長格の男は不気味な笑い顔を僕に向けてくる。
「我らに逆らうとどうなるか、教えてやるのを忘れていたな」
リーダー格の男が顎で指示し、それに合わせて一人の男が弓に矢を番える。
その先には両手を縛られたままのリリ。
「やめろっ! 頼む! やめてくれっ!」
「やれ」
219 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:22:25 ID:RpSgo5Fo0
ギリギリと引き締められた弦の音が消えた。
「リリ──────っ!!」
スローモーションのように弓矢は進んでいく。
時が止まったかと思えるほど、ゆっくりと。
けれども着実に。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
⌒*リ´・-・リ 「この辺の人じゃないですよね……生きてますか……?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
⌒*リ´・-・リ 「リルケット・リファリアと言います。この辺りの人はリリーやリリって呼びます。
あなたの名前は?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
⌒*リ´;-;リ 「別に……あなたが死なないだとか、作られただとか、そんなことはどうでもいい。
私は、あなたと一緒にいたい。それでは駄目ですか……?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
⌒*リ´ - リ 「ショボン……」
矢は、リリを射抜き、彼女はゆっくりと倒れた。
倒れたまま、起きあがることは無かった。
(#´ ω `) 「あ……あ……」
220 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:24:54 ID:RpSgo5Fo0
(#´ ω `) 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「黙れっ!」
叫ぶことしかできなかった。
殴られても、蹴られても、喉が張り裂けてしまうほどに。
「行くぞ」
激痛とともに、意識を失った。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「ふん、大した化け物でもなかったな」
意識を取り戻したときは既に夜になっていた。
男たちは山沿いにある街道で野宿をしていた。
「気づいたか化け物?」
僕は身動ぎをしようとして、痛みで動くのをやめた。
両手は重ねられて、墓標のごとく一本の剣が突き刺さっている。
両の足はふくらはぎと太股に一本ずつ、計四本が突き刺さっていた。
221 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:29:46 ID:RpSgo5Fo0
「死なないってのは面白ぇなぁ!」
地面に転がっている酒瓶の数からして相当呑んでいるようだ。
溢れんばかりの憎悪は逆に冷静に考えさせてくれるのだろうか。
僕がすることはただ一つだけだった。
「何か言えよ! あぁん?」
二、三発顔を殴られた。
それでも反応を見せなかった僕に腹を立てたのだろう。
腰から長剣を抜きはなつ。
「反応しねぇと斬っちまうぞ? 必要以上に傷つけるなとは言われてるけどな、
みんな寝てんだ。関係ねぇや」
そうか。
こいつは見張り役か。
それなら都合がいい。
(´・ω・`) 「ホムンクルスを」
「ん?」
222 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:34:42 ID:RpSgo5Fo0
僕の言葉に興味を持ち、耳を近づけてくる。
(´・ω・`) 「ホムンクルスを生け捕りにしたければ、方法をよく考えるべきだったな」
両手を思いっきり引き抜く。
手のひらが半分になるが瞬時に再生する。
「なっ!?」
地面に突き刺さった剣を抜き、不用意に近づいていた男の首を深く切り裂いた。
喉から赤い泡が膨れ上がっては弾け、しばらくして男は動かなくなった。
(´・ω・`) 「ぐっ……」
今度は両足を切り落として自由になる。
火の消えかかった焚き火の近くには男が四人。
順番に喉を切り裂いていく。
(´・ω・`) 「おい、起きろ」
リーダー格の男は殺す前に話しておきたかった。
「なんだ……ん……!?」
屈み込む僕の姿を見て剣に手を伸ばすが、その腕をはね飛ばす。
「ぎゃああああ腕! 腕が!」
223 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:35:47 ID:RpSgo5Fo0
(´・ω・`) 「黙れ」
喉元に切っ先を突きつける。
それだけで静かになった。
「なんで……なんでリリを殺した……」
「は、はん。ただの気まぐれだ。
なに、乱暴するよりはずっとマシだろうが。むしろ感謝あ」
(#´・ω・`) 「もう喋るな」
口の中に剣を突き刺した。
脳幹を破壊して地面に届く。
男達の馬に乗り、全力疾走で西に向かう。
移動距離から考えて、気を失ってから一日と経っていないはずだ。
彼女の亡骸を放置したままに出来るわけがなかった。
日の出の前、空が白み始めた頃にリリが倒れていた場所に戻ってきた。
そこには血痕だけが残されていて、彼女の体はなかった。
(どこだ……どこにいる……?)
ここにいないのなら、町の中に運び込まれたに違いない。
(最も可能性が高いのは教会だ)
大きい町だが、中には一つしか教会はなく、そこに向かった。
入り口に馬を結び、中に入る。そこには白いベッドが置いてあった。
224 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:37:22 ID:RpSgo5Fo0
⌒*リ´ - リ 「ショ……ボン……?」
(´;ω;`) 「リリ……?……リリ!」
リリはまだ生きていた。
矢は抜かれ、適切な治療が施されていた。
⌒*リ´ - リ 「よか……った……最期……会え……」
(´;ω;`) 「馬鹿なこと言うな! 僕が必ず助ける!」
僕らの話し声が聞こえたのか、奥から牧師が出てきた。
「彼女のお知り合いの方ですか?」
(´;ω;`) 「はい」
「昨日彼女を見つけ、医師に診てもらったのですが、傷が深すぎて……一日生きているだけで奇跡です」
(´;ω;`) 「見つけて下さってありがとうございました」
彼が見つけてくれなければ、もう話すことは出来なかった。
でも、リリはまだ生きている。
医師が匙を投げても、錬金術師はフラスコを投げない。
僕には彼女を救う力があるはずだ。
225 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:40:32 ID:RpSgo5Fo0
(´;ω;`) 「もう少し、リリを見ていてあげて下さい」
「ですが……」
(´;ω;`) 「お願いします。すぐに戻ってきますから。
リリ、もう少しだけ待っていて」
⌒*リ´ - リ 「うん……」
僕は教会を飛び出し、薬屋に向かった。
途中フラスコを数個購入する。
(´-ω-`) (リリの傷は深い……人間の治癒力で治る範囲を超えている。
それならば……僕は罪を犯そう。彼女に恨まれるかもしれない。それでも、僕は彼女に生きていてほしい。)
宿の一室を借り、作業場を作る。
強力な肥料は生命の源に。
千年生きる蝉の粉末と、渦を巻く海牛のエキス。その他はこのくらい大きい交易都市なら手に入る。
必要な素材は多くない。
難しいのはコンマ以下の誤差も許されない調合。
本来は数年かかる物を、たった数時間で完成させなければならない。
それも、最難関の錬金術を。
(…………)
226 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:42:57 ID:RpSgo5Fo0
慎重に薬品を加えていく。
最後に僕の血液を混ぜることで、僕と同等の知識を得る。
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・
・ ・
(´・ω・`) 「できた……!」
血のように赤い液体金属。
多くの錬金術師が夢見、破れていった伝説の存在。
たった一滴で無限の富と永遠の命を与えると謂われる。
たった一滴で神を貶める罪の結晶。
(´・ω・`) 「賢者の金属……」
ひとたび体内に摂取すれば、それは血液に溶け、後戻りすることはできない。
教会に駆け戻り、瀕死の彼女の横に立つ。
(´ ω `) 「僕の弱さを許してほしい……」
僕は祈るように、罪の塊を彼女の傷口に垂らした。
227 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:51:12 ID:RpSgo5Fo0
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです End
↓
8 ホムンクルスと少女のようです
《時系列》
ホムンクルス生誕
↑
↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
↑
|
|
↓
1 ホムンクルスは戦うようです
↑
↓
2 ホムンクルスは稼ぐようです
↑
↓
3 ホムンクルスは抗うようです
↑
↓
4 ホムンクルスは救うようです
↑
↓
5 ホムンクルスは治すようです
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- [2012/03/25 20:05]
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(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです 第6話
181 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:30:07 ID:sHdSpc460
今回は過去の話になります。
書きたい話を書きたい順に書いていたらこんなわけのわからない順番に……。
簡単な順番を書いていくことにします。
ホムンクルス生誕
↑
↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
↑
|
|
↓
1 ホムンクルスは戦うようです
↑
↓
2 ホムンクルスは稼ぐようです
↑
↓
3 ホムンクルスは抗うようです
↑
↓
4 ホムンクルスは救うようです
↑
↓
5 ホムンクルスは治すようです
148 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:20:51 ID:sHdSpc460
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
149 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:23:47 ID:sHdSpc460
遠くへ……。
真冬の地。
降り積もる雪。
僕は歩く。
ざくざくと、深く足跡を残して。
それらは白く塗りつぶされていく。
おぞましい出来事を覆い隠すかのように。
僕は歩く。
雪が過去を埋め尽くしてくれることを願いながら。
(´ ω `) 「はぁ……はぁ……」
吐く息は白銀の世界に溶けていく。
何も考えずに足を動かし続けてもう一週間になる。
普通の人間ならとっくに息絶えて、狼の餌食になっているはずだ。
ホムンクルスゆえに、生きていれるというのはなんという皮肉か。
150 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:24:55 ID:sHdSpc460
眼を閉じて倒れ込もうとするたびに凄惨な光景がまぶたの裏に流れる。
その度に前を見て進む。
(´ ω `) 「やめろ……やめてくれ……」
僅かに吹雪が緩やかになり、林の切れ目に尖塔が見える。
そこから洩れる暖かな光に心ひかれ、門を目指す。
四つの尖塔のある比較的新しい教会。
門は押すとゆっくりと開き、中には人の姿は無かった。
教会内は物音一つしない。
それなのに僕の頭の中は甲高い悲鳴が鳴り響いている。
(´ ω `) 「ああ……」
怨嗟の声が頭の中で響き続ける。
ホムンクルスは死んで逃げることが出来ない。
一時的に意識が失われるだけにすぎない。
そんなわずかな希望にすがって、教壇の前で首を切り裂いた。
微かに見えた、飛び散った血液は人間と同じ色だった。
151 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:28:55 ID:sHdSpc460
どれだけの時間がたったのか分からない。
極僅かかもしれないし、数百年と経過しているかもしれない。
世界が滅びていてくれたら、どれほど救われていただろうか。
そんな馬鹿なことを考える。
焦点があった視点の先には、なぜかまだ湯気をあげるスープが置いてあった。
脳が空腹を訴える。
小さな木製のスプーンを恐る恐る手に取り、料理を口に運ぶ。
さらさらとした舌触り。
食べやすい大きさの芋は中まで味がよくしみている。
視界がぼやける。
僕は泣いていた。
まるで、人のように。
殺しても死なない化け物のくせに。
嗚咽をあげながら。
152 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:30:12 ID:sHdSpc460
僕は家族を救うことが出来なかった。
大切な物をすべて失った。
なのにのうのうと生きている。
これからの途方もない命の行方を恐れている。
そんな自分が嫌で、涙が止まらない。
(´;ω;`) 「うっ……っ……ううっ……」
蹲ってひたすら泣いていた。
そんな事では何の解決にならないことは知っていたけれど。
「あの……大丈夫ですか?」
背中から掛けられた小さな声。
振り向けばそこに小柄な少女が立っていた。
ぶかぶかの服は所々に繕った跡がある。
この近辺に住んでいるのだろうか。
⌒*リ´・-・リ 「この辺の人じゃないですよね……生きてますか……?」
153 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:31:02 ID:sHdSpc460
見知らぬ人間が怖くは無いのだろうか。
いや、ここらは平和な土地柄なのかもしれない。
それにしては言語が乱雑な気もするけれど。
(´ ω `) 「スープは君が?」
⌒*リ´・-・リ 「はい。余り物ですけど」
(´・ω・`) 「……ありがとう。美味しかったよ」
ゆっくりと立ち上がる。
体の芯が凍っているのか、うまく動けない。
⌒*リ´・-・リ 「……よかったら、家に来ますか? 暖炉に薪をくべる仕事がありますよ?」
(´・ω・`) 「……いや、いいよ」
優しくされたら動けなくなりそうだった。
だから誘いを断り、出口に向かって歩く。
⌒*リ´・-・リ 「そう……ですか。でも、とてもじゃないけど動けないと思いますよ」
154 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:32:22 ID:sHdSpc460
扉を開けた瞬間、吹雪が舞いこんできた。
目の前が真っ白に染まり、前がほとんど見えない。
⌒*リ´・-・リ 「ね? 私の家はすぐそこですから」
(´・ω・`) 「いや、いい。これくらいで、いい」
これだけ吹雪けば、夏になるくらいまでは眠れるだろう。
⌒*リ´・-・リ 「え?」
驚く少女を余所に、豪雪の中に踏み出した。
慌てた様子で腕を掴まれる。
⌒*リ;´・-・リ 「ちょっ、ちょっと待ってください! 実はですね、家に帰れなくて困ってるんです」
(´・ω・`) 「どうやって来たんだよ……」
少女の小柄な体でこれだけの雪を掻き分けられるとも思えない。
⌒*リ´・-・リ 「家は、この教会のすぐ裏にあるんですけど、さっきは今ほどひどくなかったんです」
(´・ω・`) 「…………」
⌒*リ´・-・リ 「帰らないと凍え死んじゃいます」
(´・ω・`) 「……送っていくだけだから」
155 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:34:50 ID:sHdSpc460
貰ったスープの分くらいは恩返ししてもいいだろう。
少女の指示に従い、雪をかき分けていく。
教会の裏側に回るまでに随分な時間がかかった。
⌒*リ´・-・リ 「どうもありがとうございました」
(´・ω・`) 「ああ、それじゃ」
⌒*リ´・-・リ 「ちょっと待ってください。スープ代貰ってませんよ?」
(´・ω・`) 「……え?……有料なの?」
当然無一文。
金目のものなんて何一つ持ってなかった。
⌒*リ´・-・リ 「伊達に一人で生きてるわけじゃないです。
いいじゃないですか。今夜くらい泊まって下さいよ」
(´・ω・`) 「……僕が乱暴するとは考えないのか?」
⌒*リ´・-・リ 「身を守る術くらい心得てますし、
教会でうじうじ泣いてるような人がそんなことするとは思えません」
手を引かれるがままに家の中に入る。
広い部屋には所狭しと薪が重ねられていた。
(´・ω・`) 「広いな」
156 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:35:59 ID:sHdSpc460
⌒*リ´・-・リ 「一人暮らしですけど、このくらいは必要です。
ああ、寝るのは地面で寝てください」
確かにベッドは一つしかなく、どう考えても二人が寝れるサイズではない。
それならば、少女が床をさすのは自然なことだと思うのだけれど。
(´・ω・`) (何故親指……)
結局、勢いに流されて一晩泊まることになった。
勢い流されてとは、我ながら体のいい言い訳だ。
ただ独りでいるのが寂しかった。
誰かに優しくしてもらいたかった。
⌒*リ´・-・リ 「夜中は暖炉の火が消えないよにしてくださいね。よろしく」
それだけ言うと彼女は布団にもぐってしまった。
火花を見つめて時間を過ごす。
たまに薪を放り投げ、またうとうととする。
・ ・ ・ ・ ・ ・
157 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:38:23 ID:sHdSpc460
(´ ω `) 「やめろっ……!」
真っ直ぐに伸ばした手は空を切った。
(;´・ω・`) 「はぁっ……はぁっ……」
嫌な汗で全身が不快感に苛まれる。
少女は起きてこない。
息するのが苦しい。
生きるのが苦しい。
悪夢のような光景が何度もフラッシュバックする。
一睡もすることが出来ずに朝を迎えた。
日が昇る頃に少女は目を覚まし、調理場に向かっていった。
窓から外を確認するが、相変わらず吹雪いているし、半分ほどが雪に埋もれている。
この調子では扉は開かないだろう。
⌒*リ´・-・リ 「どうぞ」
差し出されたのはパンとジャムを少し。
(´・ω・`) 「これも有料……?」
158 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:39:46 ID:sHdSpc460
⌒*リ´*・-・リ 「勿論です」
少女は笑顔で答える。
迷ったものの、それを受け取りかじる。
その後は無言で過ごした。
少女にとっては苦痛だったかもしれないが、
僕は話す気になれなかった。
少女は黙々と手作業で何かを編んでいる。
二日が経ち、
三日が過ぎ、
四日目についに僕は口を開いた。
(´・ω・`) 「……聞かないのか?」
少しだけ、少女に興味を持ったからだ。
暖かい寝床に、暖かいご飯を食べ、だいぶ落ち着いてきていたというのもあった。
⌒*リ´・-・リ 「何をです?」
159 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:43:26 ID:sHdSpc460
(´・ω・`) 「教会にいた理由」
少女から先に理由を聞かれていたら、にべもなく断ったかもしれない。
⌒*リ´・-・リ 「言いたくないのならそれでかまいません。
雪が積もって家からでれませんから、話すことしかすることがありませんけどね」
(´・ω・`) 「……」
自分から話を持ち出したものの、話したくはなかった。
だから少女の優しさに甘えることにした。
(´・ω・`) 「この辺りはいつも吹雪いているのか?」
⌒*リ´・-・リ 「この時期はたいてい。例年だと、後一週間ほどは身動きとれませんよ」
話始めれば、聞きたいことは次から次へと出てきた。
(´・ω・`) 「……食料は?」
⌒*リ´・-・リ 「当然、足りませんよ。少しでも雪がおさまったら、手伝ってもらうことがあります」
もともと一人分しか用意されてなかったのだろう。
僕が予定外を引き起こしてしまったなら、その責任はとらなければならない。
(´・ω・`) 「それじゃあ、必要になったら声をかけて」
160 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:45:06 ID:sHdSpc460
久しぶりに話したことで少し疲れたので、再び壁にもたれた。
眠ることは出来ないけど、休むことくらいなら。
⌒*リ´・-・リ 「せっかくの話し相手だと思ったのに」
(´・ω・`) 「僕なんかと話してもつまらないよ」
⌒*リ´・-・リ 「つまらないかどうかは私が決めます。それに、家主の要望には答えるべきじゃない?」
会話を楽しむ余裕は残っていなかった。
それゆえ、少女の話を聞き相づちを打っていた。
それは夏の祭りの話だったり、教会を造るときの話だったり、僕にとって新鮮で、心惹かれる物だった。
以前は家から出ることすら許されていなかったのだから。
主の仕事を手伝い、その娘の話し相手をしていた。外の世界のことはそのときに聞いた物が大半だった。
⌒*リ´・-・リ 「どうして泣いてるの?」
指摘されて初めて気づいた。
ぼろぼろと大きな粒がこぼれていた。
(´;ω `) 「いや、なんでもない」
手の甲で拭い、平静を装った。
⌒*リ´・-・リ 「なんでもいいなら、それでいいけですけど。それでですね、その時叔父さんが―――――」
161 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:48:11 ID:sHdSpc460
よくもまぁ、話題が尽きないものだ。
この雪の中ただ一人で暮らしていたせいで、人恋しいかったのかもしれない。
それにしても、なぜこんなところに一人で暮らしているのだろうか。
独り立ちする年齢には見えない。
なら、何か事情があるのだろう。
⌒*リ´・-・リ 「……気になりますか?」
(´・ω・`) 「え?」
⌒*リ´・-・リ 「私のことです」
どうやら顔に出ていたらしい。
顔を上げると少女の真っ直ぐな視線とぶつかり、目を逸らして謝る。
(´・ω・`) 「……ごめん」
⌒*リ´・-・リ 「謝らないでください。気になるのは当然ですよね。
それに、まだ自己紹介もしてませんでした」
胸に両手を重ね、ペコリと一礼をする。
ドレスを着て教会で会っていたなら、どこかの令嬢かと思わせるような、そんなお辞儀だった。
その動作が過去の少女と重なって、胸を締め付ける。
⌒*リ´・-・リ 「リルケット・リファリアと言います。この辺りの人はリリーやリリって呼びます。
あなたの名前は?」
162 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:50:05 ID:sHdSpc460
僕の名前。
主人からいただいた大事な名前。
(´・ω・`) 「僕は……ショボン」
⌒*リ´・-・リ 「変わった名前ですね」
(´・ω・`) 「僕もそう思う」
何故こんな名前にしたのか主人に聞いたことがあった。
その時に笑いながら答えられたのを覚えている。
がっかりしたようなしょぼくれ顔だからだ、と。
⌒*リ´・-・リ 「私がここで暮らしている理由は聞かないでくださると助かります」
ぎこちない笑顔で言う。
問いただすつもりなんか無かった。
隠し事をしているのはお互い様だ。
⌒*リ´・-・リ 「それにしても、ひどい雪ですね」
窓はすでに覆い尽くされており、部屋の明かりは暖炉の火だけだった。
それからも、少女の話を聞きながら時間を過ごした。
たまに僕も話した。
過去を思い出すのはつらかったけれど、少女と話しているだけで少し楽になれたから。
163 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:51:44 ID:sHdSpc460
話疲れたのか少女は寝息を立て始めた。
毛布をしっかりとかけ、火の番をする。
一人の時間になると忽ち自問自答が始まる。
楽になることは主人に対する裏切りではないのか。
幸せに生きる権利なんてないのではないか。
今すぐにでも死ぬべきではないか
堂々巡りで答えなんて出ない。
ただの徒労だと分かっていても、考えることをやめることができなかった。
(´ ω `) 「…………僕はどうすれば」
・ ・ ・ ・ ・ ・
⌒*リ´・-・リ 「起きてください、雪がやんでますよ」
揺すられて目を覚ました。
(´・ω・`) 「……?」
164 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:54:39 ID:sHdSpc460
窓から差し込む太陽の光が目にささる。
うずたかく積もった雪は、溶けはじめていた。
⌒*リ´・-・リ 「随分と長いこと寝てましたね。寒くて目が覚めたじゃないですか」
彼女の指は暖炉を指している。
⌒*リ´・-・リ 「まぁ、いいですけど。二日も暖炉の番を任せたのは私ですし。
無理をさせてしまいましたか?」
(´・ω・`) 「いや……ごめん」
⌒*リ´・-・リ 「いい天気なので、食料を補充しておきたいのですが」
(´・ω・`) 「ああ、わかった。どうすればいい?」
ゆっくりと立ち上がる。
全身の気だるさはなくなっていた。
⌒*リ´・-・リ 「それでは、行きましょうか。それを持ってきてください」
シャベルに見えるけれど、金属部分は先端だけだ。
幅がこうも広くては地面は掘れない……いや、雪を掘るのか。
それならば、全体的に軽く作られているのも納得できる。
165 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:55:36 ID:sHdSpc460
(´・ω・`) 「わかった」
少女が扉を押してもびくともしない。
積もった雪がまだ重しになっているのだろう。
⌒*リ´・-・リ 「仕方ありません。窓から出ますよ」
少女は窓を開け、雪の上に飛び出した。
⌒*リ´・-・リ 「早く来てください。ここからはあなたの仕事です」
同様に窓から外に出て、雪を踏み固める。
そこからはシャベルを使って雪を崩し、体を使って道を作る重労働だった。
僕が道を作っている間、少女は後ろで方向を指示している。
(´・ω・`) 「ふぅ……少しくらい手伝ってくれないかな」
ホムンクルスの命は無限でも、体力は有限だ。
回復力は人間よりも僅かに優れている程度。
当然、作業効率はどんどん落ちていく。
166 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:57:03 ID:sHdSpc460
⌒*リ´・-・リ 「あなたのせいで、この雪の中食料を取りに行くことになっているんですけどね。
それに私はあなたよりずっと力作業では劣ります。まぁ、いいですよ。それをかしてくだ」
(´・ω・`) 「後どれくらい?」
確かに食料が足りなくなったのは僕のせいだ。
それに諦めるのは癪だったので、話を遮った。
⌒*リ´・-・リ 「まだまだですよ?」
数時間かけて雪を掘り続け、大きな木にぶつかった。
幹は大人数人でやっと囲めるほど太く、枝は高くまで伸びている。
この雪で倒れないのだから、余程丈夫なのだろう。
⌒*リ´・-・リ 「やっとここまで来ましたか。随分かかりましたね」
(;´・ω・`) 「はぁっ……はぁっ……よく、言うよ…」
ここまでずっとぶっ通しで作業していたのだ。少しくらい休ませて欲しい。
⌒*リ´・-・リ 「もう少しです。頑張ってください。この右奥にあるはずです」
言われるがままに道を作る。
疲労は限界に達していた。
⌒*リ´・-・リ 「この辺ですね。少し待ってください」
少女は屈んで、その小さな手で雪の下側を掘っていく。
167 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:58:29 ID:sHdSpc460
⌒*リ´・-・リ 「あった。ありました」
掘り出したのは袋。
⌒*リ´・-・リ 「中に野菜が入ってるんです。冬はこうやって保存するんですよ。
全部持って行こうかなぁ……んー、うん。じゃあこれもってください。家に帰りましょう」
渡された袋を抱え、来た道を引き返す。
何の問題も起こらず、あっさり帰ってくることが出来た。
汗で冷え始めた体を、暖炉で暖める。
⌒*リ´・-・リ 「さて、これで完全に雪が溶けるまではもちそうです。お疲れさまでした。何か食べますか?」
(´・ω・`) 「いや……今はいいよ」
体を動かしてるうちは嫌なことを考えなくてすむのだから、悪くないかもしれない。
そんなことを考えていた。
⌒*リ´・-・リ 「もし、もしこれからどうされるのか決まっていないのでしたら……ここに住んでくださってもいいですよ」
(´・ω・`) 「考えさせてもらうよ」
168 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:02:46 ID:sHdSpc460
もし許されるのなら、少女と生きてみたいとすら思っていた。
あいつら以外の人間をも恨み続けることなんて、もとより僕には出来ないのだ。
僕は人間が好きだから。
それに、この娘はあいつらとは関係がない。
⌒*リ´・-・リ 「音楽は嫌いですか?」
音楽についての僕の知識は乏しい。
完璧な存在として説明されている文献が多いホムンクルスだけれど、僕はそうではない。
そもそも生まれながらにして森羅万象を知ると、精神に異常をきたしてしまうそうだ。
それに、人間社会にも適合できない。
実際にホムンクルスを作った僕の主人が言うのだから間違いないのだろう。
音楽や美術、人の心理、人間関係について自ら学ぶことで情緒が育まれ、心を得る。
⌒*リ´・-・リ 「あのー?」
(´・ω・`) 「ん……ああ……いや、そんなことはないけど」
考え事をしていたせいで反応が遅れ、間抜けな返事をしてしまった。
169 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:04:06 ID:sHdSpc460
(´・ω・`) 「昔のことを思い出してて。楽器の演奏が出来るの?」
⌒*リ´・-・リ 「少しだけですけど」
階段を上り、二階から持って降りてきたのは木で造られた横笛。
大事そうに抱えられたそれは随分古い物のように見える。
少女は二、三回音を調べるようにならす。
⌒*リ´・-・リ 「それでは」
鳥の囀りのような高い音から演奏は始まった。
短く区切った調子のリズムからゆったりとした長いリズムへ。
音域を全体的に下げ落ち着いた雰囲気を醸し出す。
(´-ω-`) 「……」
技術で言えば決して上手ではないのだろう。
たまに意図せぬ音を出してしまったであろうことが表情から読みとれた。
しかし、音楽として聞くのであれば、それは非常に心惹かれるものだった。
⌒*リ´・-・リ 「どうでしょうか……?」
恐る恐る尋ねてくる少女。
170 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:05:06 ID:sHdSpc460
(´・ω・`) 「とてもよかった」
それ以上に今の気持ちを表現する言葉を知らない。
それでも、少女には十二分に伝わったようだ。
⌒*リ´*・-・リ 「それはよかったです。では調子にのってもう一曲」
目を閉じて聴覚に身を任せる。
音楽が心に沁み込む。
少女は気の向くままに笛を吹き続ける。
・ ・ ・ ・ ・ ・
⌒*リ´・-・リ 「晩御飯ができましたよ」
揺さぶられて起こされた時、辺りはすっかり暗くなっていた。
窓からは月明かりが射しこんでいる。
(´・ω+`) 「ん……寝てたのか……」
⌒*リ´・-・リ 「それはもう、ぐっすり」
171 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:08:04 ID:sHdSpc460
机の上には二人分の食事が用意されていた。
切り分けられたチーズ。
一口サイズのパン。
瓶の中に入っているのは葡萄酒だろうか。
小さなグラスが二つ並べてある。
スープには今日取りに行った根野菜が豊富に使われていた。
⌒*リ´・-・リ 「神の恵みに感謝します」
少女が祈りが終わるのを待ってから、食事に手をつける。
神なんて信じちゃいないから、祈りはしない。
(´・ω・`) 「……おいしい」
⌒*リ´*・-・リ 「当然です」
僕と少女の生活はきっとこの日から本当の意味で始まった。
172 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:09:42 ID:sHdSpc460
季節が変わり雪が融け始めてからは、畑の手伝いをすることになった。
村長にも会い、挨拶もそこそこに僕が暫くこの村にとどまることにしたと話した。
陽気な老人で、少女のことをよろしく頼むと任されたが、
現状よろしく頼まれているのは僕の方だった。
(´・ω・`) 「何をすればいい?」
共同生活の一員として生きることに関して、僕は質問してばかりだった。
それなのに彼女は嫌な顔一つせずに教えてくれた。
僕の得意な錬金術は、道具がなければ毛ほどの役にも立たない。
こんな田舎の土地に道具があるはずもなかった。
⌒*リ´・-・リ 「……こうやって左手で押さえながら、そうそう」
朝は今まで少女が任されてきた仕事を習う。
それが終わった後は、割り当てられた畑を耕す。
「おーい! ショボン君、こっちも手伝ってくれないか?」
懸命に働いていたからか、村人達はすぐに僕を受け入れてくれた。
畑仕事を夜までやって、家に帰って葡萄酒を飲む。
そんな人間らしい生活も楽しかった。
173 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:11:13 ID:sHdSpc460
(´・ω・`) 「お疲れさま」
⌒*リ´・-・リ 「お疲れさまでした」
そうやって過ごしていた僕らの関係は、ただの同居人だった。
村人達ははやし立てていたけれど、当人達にそんな気はなかった。
それが大きく変わったのは季節が一回りしてから夏に入って少しした頃。
彼女との生活は一年と半年ほど経っていた。
いつも通りに僕は村から一番離れた山の麓で野菜の手入れをしていた時、
山から下りてきた巨大な熊とはち合わせになった。
持っていたのは小さな鎌一つ。
腹を空かせた熊をそのままに逃げることは出来なかった。
畑に居着いてしまえば、村人達に危害が加わるかもしれない。
それに、どうせ死にはしないのだ。
肝を据えて鎌を構えて対峙する。
熊が勢いよく飛び込んでくる。
一瞬の内に振り下ろされた一撃で、どうやら頭を吹き飛ばされたらしいことを回復してから理解した。
一方右手の鎌は熊の腕を軽くひっかいた程度の傷しか与えてないようだ。
:・;、・ω・`) (毛が邪魔して刃が通らない……)
174 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:12:42 ID:sHdSpc460
死んだフリをしたまま作戦を練る。
熊はゆっくりと僕に覆い被り、呑気に鼻を動かしていた。
(´・ω・`) (死肉だとでも思ってるんだろうな)
牙をむき出しにし、頭を食いちぎろうとした瞬間、鎌を目に向かって突き出した。
熊は悲鳴とともに後退する。
その隙につけ込んで、もう一太刀浴びせようと飛び込んだが、鋭い爪で横なぎにされ数秒間宙を舞った。
(#´-ω・`) 「がっ……ってえああああああああ」
腸が露わになっていた。
痛みで意識が飛びそうになるのを必死にこらえる。
治癒に時を要している間に、熊の方も落ち着きを取り戻したように見えた。
(#´・ω・`) 「もう一つの目玉も潰してやる」
完全回復を確認し、不自由な左目の側から懐に飛び込む。
コンマ数秒反応が遅れ、右腕の振り下ろしが襲ってくる。
それを紙一重で避け、残された目玉を潰して終わるはずだった。
⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!!」
175 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:13:32 ID:sHdSpc460
その声に動きが僅かに鈍る。
必殺の攻撃と目潰しは同時に入った。
僕は彼女の前で……初めて死んだ。
⌒*リ´;-;リ 「ショボンっ……ショボンっ……」
怒り狂った熊を恐れず、彼女は僕の元へ一直線に走り来る。
⌒*リ´;-;リ 「そんな……嫌だよ……ショボンっ!」
(#´-ω・`) 「だい、じょうぶ、だから」
⌒*リ´;-;リ 「大丈夫なわけが、こんなに血も出て……」
そこまで言って気づいたようだ。
傷が余りにも浅いことに。
それも、驚異的な速度で治癒していることに。
「ショボンっ!大丈夫か?」
村の男達が熊に気づき武装して近づいてくる。
視力を失った熊に驚きつつも、複数人で槍を突き刺してとどめを刺す。
176 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:14:44 ID:sHdSpc460
「お前がやったんか?」
(´・ω・`) 「はい」
「怪我は?」
体中についていた血痕はすでに消えてなくなっていた。
服はボロボロになっているけれど、傷さえなければ大丈夫だろう。
(´・ω・`) 「ありません」
「そうか。今度からは無理をするなよ」
(´・ω・`) 「すいませんでした」
⌒*リ´・-・リ 「……ショボン、家に帰るよ」
彼女の一歩後ろを歩き、帰路についた。
家に着くまでの間、彼女は一言も口を利かなかった。
⌒*リ´・-・リ 「……どういうこと?」
てっきり化け物扱いされると思っていたから、家に帰ってきて最初の一言にひどく安心した。
もはや隠すことはかなわないと知り、正直に打ち明ける。
(´・ω・`) 「僕は……人間じゃない。ホムンクルスだ……」
177 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:16:30 ID:sHdSpc460
⌒*リ´・-・リ 「ホムン……クルス……?」
(´・ω・`) 「動いて喋って考えて……死なない、作り出された命」
簡潔に言えばそういうことだ。
細かい点だと体内構造も若干違うし、痛みという刺激に対する反応も鈍い。
だがそんなことは説明しても無駄だろう。
(´・ω・`) 「今まで騙しててごめん……」
知られてしまえば、もうここにはいれない。
去ろう。
彼女の元から。
いずれ村の人にも知られるかもしれない。
そうなれば、彼女たちの平穏な暮らしを乱してしまう。
⌒*リ´・-・リ 「私は……私は……」
(´・ω・`) 「さようなら。今までありがとう」
精いっぱいの感謝を籠めて、別れの言葉を告げる
178 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:17:40 ID:sHdSpc460
彼女のおかげで、過去を忘れることができた。
彼女のおかげで、生きていることができた。
だから、彼女のために去ろう。
⌒*リ´ - リ 「待ってっ……!」
反応する暇もなく、後ろから抱きとめられた。
⌒*リ´;-;リ 「別に……あなたが死なないだとか、作られただとか、そんなことはどうでもいい。
私は、あなたと一緒にいたい。それでは駄目ですか……?」
(´-ω-`) 「リリ……」
⌒*リ´;-;リ 「初めて……」
(´・ω・`) 「え?」
⌒*リ´;-;リ 「初めてちゃんと名前呼んでくれたね……。
村の人にも分かってもらえるように努力するから……。
だから……これからも、一緒にいてください」
枯れてしまったと思っていた涙が、とめどなく溢れて来ていた。
(´;ω;`) 「うん……っ。うん……っ」
何も答えることができず、ただひたすらと頷いていた。
179 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:21:30 ID:sHdSpc460
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです End
↓
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
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第7話へ→
- [2012/03/25 19:55]
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