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(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです 第7話 

183 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:21:22 ID:RpSgo5Fo0







7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです

185 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:22:22 ID:RpSgo5Fo0



僕は彼女にすべてを話した。

優しかった家族のこと。
残虐で、許し難い事件のこと。

話し終わった後、彼女も教えてくれた。その凄惨な過去を。


⌒*リ´・-・リ 「私の生まれは、もう気づいていると思います。それなりの良家でした。
         父は教会の牧師、母はそれなりに土地を持った家の一人娘でした」

⌒*リ´・-・リ 「父も母もとても優しくしてくださったのを覚えています」

彼女の住んでいた地域は聞いたことがあった。
宗教戦争でその地に住んでいた人は残らず殺されたと、そう風の噂で耳にしていた。

⌒*リ´・-・リ 「それは突然でした。朝方に村を異国の軍隊が襲ってきたのです」

⌒*リ´・-・リ 「ですが、私の家は傷一つつくことはありませんでした。
         なぜなら父は異国の軍隊の進撃を知っていたので、家族の命と引き替えに、村を売っていましたから」

⌒*リ´・-・リ 「それから1ヶ月は毎日が豪勢な生活でした。
         父が何をしたのかは私にも分かっていましたが、命が助かったことに素直に喜んでいました。
         それほど村人達は酷い目にあわされていたのです」


186 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:23:17 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´・-・リ 「男達はほとんどが家族の前で見せしめに殺され、残りは家畜同様の奴隷として扱われました。
         若い女は何十人もの兵士に乱暴され、拷問され、玩具のように捨てられました」


⌒*リ´・-・リ 「私の家族だけが平和に暮らしていたのです。しかしその生活もすぐに終わりました。
         元々私たちの信仰していた宗教が、討伐軍を送ってきたのです。
         異国の兵はあっと言う間に打ち負かされ、逃げていきました」


⌒*リ´・-・リ 「その日からは地獄でした。父と母は私の目の前で拷問されました。
         私自身は二人が死んだ後にいたぶる予定だと聞きました」


⌒*リ´・-・リ 「どのくらいたったのか分かりませんが、一週間よりはずっと長かったと思います。
         父が先に死にました。今から思うと村人の怒りは直接敵を導いた父に強く向かっていたからなのでしょうね。
         母はその後も苦しめられました」

⌒*リ´・-・リ 「父が殺された3日後の夜、母も息絶えました。
         いよいよ私も、あの少女達のようにボロボロにされるのだと思い、牢の隅でおびえていました」


⌒*リ´・-・リ 「しばらくして鍵の開く音がし、私は鼻息を荒くした一人の男に力ずくで地面に押さえつけられました。
         そこで必死の抵抗をし、なんとか逃げ出すことが出来ました。
         鍵番が独断で来たおかげで助かりました」


187 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:24:00 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´・-・リ 「そこからは覚えていません。ただひたすらに走り、逃げ続けました。
         気づいたときにはこの村のベッドで寝かされていました」


⌒*リ´・-・リ 「持って来れたのは、普段から肌身話さず大事にしていた、父の手作りの笛だけです」


⌒*リ´・-・リ 「……これが私の話です。……嫌いになりましたか?」


心配そうに尋ねてくる彼女に頭を振った。

(´・ω・`) 「そんなことはない」


話が終わった時、太陽は沈み空には星が輝いていた。
僕らは狭いベッドに手を繋いで並んで眠った。

(僕たちはきっと、お互いの傷をなめあいながら生きていくのだろう)

意識がとぎれるほんの少し前にそんなことを考えた。


188 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:25:04 ID:RpSgo5Fo0


僕はまず、村長に事実を話した。僕がホムンクルスで錬金術師だということを。
ちゃんと理解してくれたかどうかは怪しかったけれど。

僕たちは僕の正体を隠さないことに決めた。
これだけ小さな村であれば外部との接触もほとんどないだろうし、隠したままでバレたときの方が困ると考えたからだ。

仲のよい村人から順々に。
皆は一様に驚いていたけれど、受け入れてくれた。
ひと月もしない内に、村人の中で僕の真実を知らない者はいなくなった。

危ない仕事を積極的に引き受け、村のために働いた。
唯一困ることと言えば、衣服が破けてしまうと戻らないといったことぐらいだ。

順風満帆な生活だった。


それが崩れたのは、僕は彼女に出会ってから三年近く経ったある秋の日。


・  ・  ・  ・  ・  ・


一人の兵士が僕たちの村を訪れた。
戦争で用いる長槍を携え、馬に跨って。

男は自らを素性を明かさず、村中の人間を集めるように指示した。


189 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:26:22 ID:RpSgo5Fo0

「今すぐだ! 早くしろ!」

程なくして僕たちは一カ所に集められた。

(´・ω・`) 「!」

他の村人が不審がる中、僕はすぐに男の目的を知る。
その黒い鎧に輝く銀色の蛇の文様。
この世で僕が最も憎む対象を身に纏っていた。

「集まってもらったのは他でもない、みなに協力してほしいことがあるのだ」

(´・ω・`) 「……」

「とある男を捜している。危険な化け物だ。
 そいつは人の形をしているが、怪我はすぐに治り、殺しても死なない。心当たりのある者はいるか?」

空気が一瞬で張りつめた。誰もが僕のことを想像したのだろう。
しかし、誰一人として口を割らなかった。

「隠して特をすることはない。知っているのなら速やかに告げよ。もし正しい情報を提供すれば、金一袋をやる」

じゃらじゃらと見せつけるように巾着を振る。
それでも、声を上げる者はいなかった。


190 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:27:53 ID:RpSgo5Fo0

「ふむ……二、三日この村の入り口にいる。話をする気になったのなら来い」

それだけ言って、歩いていった。僕はその背に襲いかからないように、全神経を集中させなければならなかった。

⌒*リ;´・-・リ (ショボンっ……)

(;´・ω・`) (分かってる)

村人たちは各自の仕事に戻り、僕らはいったん家に帰ることにした。

⌒*リ´・-・リ 「あれって……」

(´・ω・`) 「間違いない。嗅ぎつけてきたんだ」

部屋の中には液体の入ったフラスコと、数種類の粉末が置いたままにしてある。
行商から怪しまれない程度に購入していた物だ。
村に対する恩返しにと、時間を見つけては研究をしていた。

ここから足がついたのかもしれないと歯噛みする。

⌒*リ´・-・リ 「どうすれば……」

リリと僕は全く逆のことを考えているだろう。

(´・ω・`) (どうすれば、村人に危害が加わらない?)


191 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:29:58 ID:RpSgo5Fo0

粉末は一部を残して、全て暖炉に放り込む。
フラスコも同様にし、錬金術の証拠隠滅をはかる。

(´・ω・`) 「……」

入り口で待つと言っていた辺り、確信に近い何かを持っているのだろう。変な誤魔化しはきかない。
疑いたくはないが、密告者の可能性も考えられる。

(´・ω・`) 「リリ、僕はここから離れる。君たちは脅されていただけだと言うんだ。いいね?」

⌒*リ´・-・リ 「そんなっ! みんなで考えれば解決案だって……!」

(´・ω・`) 「そんな時間はないし、あいつらはそんなに優しくない。軍隊を送って皆殺しにしていないのが不思議なくらいだ」

あいつならその程度の行為に何の躊躇いもないだろう。
それだけはなんとしても避けなければならない。

⌒*リ´・-・リ 「それなら私も行きます!」

(´・ω・`) 「無理だ! どこまで逃げればいいのか分からない、厳しい道のりになる。君の安全を保障できない」

⌒*リ´・-・リ 「ここにいても同じことですよね。そういう人に狙われているということは理解しているつもりです」


確かに村に残っても安全とは言い難いのは事実だ。


192 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:30:57 ID:RpSgo5Fo0

説得を試みるが、リリは強情だった。
彼女は一度決めたら譲ってくれない。
強い光を秘めた、覚悟の眼差しと目が合う。

(´・ω・`) 「ああもうっ! 後で泣き言を言うなよっ!」

⌒*リ´・-・リ 「逃避なら私の方が先輩なんですから」

(´・ω・`) 「実行は夜だ。南西側に向かうよ。港を目指す」

無事に逃げ切るために、頭を回転させる。

(´・ω・`) 「冬にかかるとまずい。服はたくさん着て」

⌒*リ´・-・リ 「食べ物は?」

(´・ω・`) 「少な目でいい。この辺の土地は豊かだし、食べる物はあるはずだ」

ホムンクルスの知識があれば、食用可能かどうかを悩む必要はない。

護身用の剣を身につけ、後に使うための金貨を十分に用意する。
最後に、錬金術で作った粉末をこぼれないようにしっかりと包み、腰紐に結びつけた。

さぁ、荷造りはすませた。
後は出発するだけだ。


193 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:31:55 ID:RpSgo5Fo0

日が落ちるまではまだ少し時間がある。

(´・ω・`) 「……別れの手紙を書こうか」

村人に直接合うのは危険すぎる。
それなら別れの手紙を書けばいい。
何も言わずに去るのは、庇ってくれたみんなに対して、余りに薄情だ。

ではまずは私が、とリリは筆を手に取りすらすらと綴っていく。


⌒*リ´;-;リ 「村長、私が初めてこの村に来たときのことを覚えていますか? 
         ぼろぼろになっていた私に温かいスープをくださいましたね。
         その時の味はつい昨日のことのように覚えています。


         力仕事の出来ない私に仕事をくださいましたね。
         最初に作った編み物はうまくできず、とても見苦しい物でした。それでも、それを買ってくださいましたね。
         何度も何度も丁寧に教えてくださいましたね。おかげさまで、随分とましな物も作れるようになってきました。


         一人で生活するための空き家を作ってくださったのも村長ですよね?
         年頃であった私に気をつかってくださったのは嬉しかったのですが、私は村長と暮らしていたかったです。
         実の孫のように可愛がってくれてありがとうございました。


         私には大事な人が出来ました。


         その人の行く道がどれほど過酷であろうと、隣に寄り添って支えてあげたいと思う人が。
         今の私があるのはひとえに、村長と村の皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。
         旅立つ勝手を許して下さい。いつかまた、この地に帰ってきたいと思います。それでは、さようなら」


リリは瞳を潤ませながら、しかし一滴も手紙に零すことなく書き終えた。


194 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:32:53 ID:RpSgo5Fo0

僕も筆を手に取った。
少し考えてから書き始める。


(´;ω;`) 「この村の人々にはとても感謝しています。人ではない僕が、人間のように過ごすことが出来ました。
       厭うことなく、嫌うことなく、恐れることなく、接してくれた皆さんの優しさが、僕は大好きです。
       僕のせいで皆さんに迷惑がかかることを許して下さい。リリと出会えて、皆さんと暮らせて、幸せでした。


       いつか必ず、このご恩は返します。どうか、彼らには脅されていたと言ってください。
       そして、この手紙は燃やして捨てて下さい。それでは、さようなら」


僕の書いた部分は、所々滲んでしまった。
手紙はまとめて筒状にして結んだ。

空はいつの間にか暗くなってきていた。

(´-ω-`) 「急ごう。今夜は月も星もない今の内に離れて、距離を置いてからランタンを使うよ」

⌒*リ´・-・リ 「わかりました」

僕たちは身を屈めて曇り空の下を走った。
途中、村長の家の中に手紙を投げ入れ、振り返ることなく走り続けた。

村から丘二つ離れたところで、太陽の残光は完全に消え失せた。

ランタンに火を灯して掲げる。
小さな明かりに照らされ、街道がうっすらと浮かび上がった。


195 :ごめんなさいーご飯行ってきますー:2012/03/08(木) 21:34:29 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「ひとまずはこれを辿る。明日の朝までに距離を稼いでおきたい」

⌒*リ´・-・リ 「大丈夫。心配しないで」

二人で並んで行く。
道は舗装されていて、体力を温存できる。

一言も言葉を交わさず、数時間は歩いていた。
本人の言うとおり、リリにへばった様子はなく、黙々とついてきていた。

(´・ω・`) 「ここだ」

西側に向かって延びる道から細い通りが西南西にある分かれ道に着いた。
今日の目標である林の小道はこの通りの先にある。

この移動がばれ、追っ手が来ていたらのなら、戦闘も覚悟していた。
まだ気づかれていないのだろうか、追われている気配はなかった。

しかし万事うまくいっているわけではなかった。
リリが僕の後ろを歩くようになり始めたのだ。

(´・ω・`) 「大丈夫?」

⌒*リ;´・-・リ 「はい、まだ、大丈夫、です」


196 :もどりましたー:2012/03/08(木) 21:52:59 ID:RpSgo5Fo0

そう答える彼女はやはり、しんどそうだった。
休む間もなく歩き続けているし、もう夜も遅い。
疲労は当たり前だろう。

(´・ω・`) 「後少しだから、頑張って」

少なくとも林道までは行かなければ、いざというときに姿を隠せない。

⌒*リ;´・-・リ 「頑張り、ます」

ペースを少し落とし、彼女の歩幅に合わせた。

それからしばらく歩いて、ようやく林道の頭にたどり着いた。わき道にそれ、木の陰に座り込む。
リリはすぐに眠りに落ちた。
僕は彼女が体を休ませられるように、自らの衣服をクッションとして体の下に置いた。

(´・ω・`) (ひとまずはうまくいったか……?)

僕は寝るわけにはいかず、今後の計画を頭の中で練り直す。
この逃避行がより完全な物になるように。

考え事をしている間に、太陽が姿を現した。
睡眠時間は充分ではないだろうが、もう移動しなければならない。

(´・ω・`) 「リリ、起きて」

⌒*リ´ -・リ 「……ショボン?」


197 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:53:57 ID:RpSgo5Fo0

怠そうに起きあがるリリを見て心が痛んだが、仕方のないことだと言い聞かせた。

(´・ω・`) 「あの山を越えれば、村が一つある。うまくすれば馬が手に入るかもしれない」

⌒*リ´・-・リ 「行きましょう……」

昨日よりもゆっくりのペースで、山を目指す。
夕方までに何度も休憩し、やっと半分を踏破した。

当初の予定より大分遅れていたが、リリを責めることは出来ない。
食事はまともではないし、睡眠時間も短い。
人間の女性としてはむしろよく耐えている方だろう。

⌒*リ´・-・リ 「ごめんなさい、ショボン」

僕が難しい顔をしているのが見えたのか、リリは弱々しい言葉を口にした。

(´・ω・`) 「問題ないよ。僕たちがいないことに気づいたとしても、奴は街道を進むと見て間違いない。
       それならば時間はまだ十分にある」

安心させるつもりだった言葉なのに、その言葉は冷たく響いた。

⌒*リ´・-・リ 「もう、歩けるよ」

199 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:54:57 ID:RpSgo5Fo0

リリは立ち上がった瞬間、前のめり倒れた。
慌てて体を受け止める。

(;´・ω・`) 「リリっ!」

⌒*リ´ - リ 「ごめんなさい……ごめんなさい……」

その日の夜も、木の陰で一晩を明かした。
翌日になるとリリは元気を取り戻し、予想以上に距離をかせげた。

細い林道は深い森へと続いていく。この山を越えれば、村が一つあるが、
山越えはそう簡単ではない。人通りも少ないため、草木は茂り放題だ。

姿を隠すのにはちょうどいいけれど、体力を必要以上に消費するだろう。

⌒*リ´・-・リ 「行きましょうか」

覚悟を決めたように、リリは呟いた。

(´・ω・`) 「うん」

草をかき分け、日の光が届かない山に足を踏みいれた。
僕が前を歩き、後ろからリリが着いてくる。

道は次第に上り坂になっていく。
どのくらい登っただろうか。

ちょうどいい高さの岩を見つけ、そこに座り込む。


200 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:55:49 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「リリ、少し待ってて。食べ物を探してくるから」

⌒*リ´・-・リ 「わかりました。気をつけて下さいね」

彼女の手を優しく握り、付近の探索へ出発する。

奥に進んですぐに見つけた背の高い木の果実は、甘くて腹も膨れる。
対して栄養がないのが難点だが、疲れているリリには丁度いいだろう。
木に登ってよく熟れた実をとる。

そして予想通り、この一帯には喉の渇きを潤すのにはもってこいの植物が生えていた。
人差し指ほどの長さの茎から細い毛が無数に生えているそれは、茎に多量の水分を含ませる性質がある。
根を千切れば、そこから水を吸うことができる。

数十の実と一握りの束を手に、リリのもとに戻った。

(;´・ω・`) 「遅くなってごめん」

⌒*リ´・-・リ 「たいして経っていませんから、謝らないでください」

二人で食事をし、長めの休憩をとった。
自然の音が心地いい。耳を澄まして聞き込んでいると、リリは微笑みながら服の内側から何かを取り出した。

⌒*リ´・-・リ 「持ってきてしまいました」


201 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:56:44 ID:RpSgo5Fo0

その手に持つのは、大事な手作り笛。
そっと唇にあて、息を吹き込む。

虫のさざめき、風に揺れる葉の音と一緒に彼女は奏でる。
音楽の終わりと同時に彼女は立ち上がった。

⌒*リ´・-・リ 「さて、歩きますよ」

(´・ω・`) 「また、聴かせてくれ」

⌒*リ´・-・リ 「無事に逃げ切れたなら、いくらでも」

日が沈んだとき、僕らは山の中腹にたどり着いた。
何年も放置されたような木製の台が並んでいる。


(´・ω・`) 「今日はここで休もうか」

強度を調べてから台に座る。
気が抜けたのか、リリはすぐにうとうとし始めた。

(´・ω・`) 「横になって」

⌒*リ´ - リ 「ショボン……はぜんぜん……寝てない……のに」

(´・ω・`) 「大丈夫。僕のことは気にしないでいいから」

リリは元気に振る舞っているが、日に日に疲れを増していた。早急にくつろげる場所が必要だった。

(´・ω・`) (だけど山越えには早くて後二日。この調子だと恐らく三日はかかるだろう)


202 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:58:00 ID:RpSgo5Fo0

それに、いつまでもここが安心とは限らない。
向こうの町で罠を張られている可能性もあった。

リリの寝顔を見ながら、彼女に最も負担が少ない形を考える。
しかし、山を出るまでは歩かざるを得ない。

(´・ω・`) (村に来た男から馬を奪っておけばよかった。そうすれば追っ手までの時間も稼げるし、リリも楽だったはずだ)

自分の手筈の悪さに腹が立つ。彼女を辛い目にあわせているのは他でもない、この僕だった。

(´・ω・`) (後三日は……耐えてもらうしかないのか)

見張りをして睡眠時間を殆どとっていないせいか、頭が重い。
寝るまいと思っていたが、結局、朝日と同時に目が覚めた。
焦ってリリの安全を確認する。

⌒*リ;´・-・リ 「はぁっ……はぁっ……」

体調を崩しているのは一目瞭然だった。
呼吸は荒く、額には多量の汗をかいている。

(;´・ω・`) 「リリ、大丈夫かい?」

⌒*リ;´・-・リ 「はぁっ……はい……なんとか……」

返事をするのもやっとな状態。とても歩けるとは思えない。

(´・ω・`) 「少し待ってて」

寝たままの彼女を放っておくのは気が引けたが、少しでも楽にしてやりたかった。
昨日採った植物を再び集め、破いた袖を十分に湿らす。
それをリリの額にのせた。


203 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 21:59:12 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´・-・リ 「あり……がとう」

(´・ω・`) 「ごめん……僕が無理をさせたから……」

⌒*リ´・-・リ 「気に……しないで」

リリには薬が必要だ。
症状を緩和するための薬を作る錬金術は、今は使えない。

(´・ω・`) (器具も材料もなければ、僕は何も出来ない……)

唯一ホムンクルスでよかったと思える点が、この錬金術の知識なのに、使いたいときに使えない。
そんな知識に一体何の意味があるのか。

⌒*リ;´ - リ 「うぅ……」

(´・ω・`) (っ……! 今は悔しがってる時じゃない)

自分でどうにか出来ないならば、山を越えて町に薬を買いに行くしか方法がない。
彼女をおいて離れることは出来ない。

ならば解決策は一つ。

(´・ω・`) 「リリ、ごめん。揺れるよ」


204 :あうあうあー^q^:2012/03/08(木) 22:02:30 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ;´・-・リ 「うん……」

彼女を背に負う。
その体は驚くほど軽い。

出来るだけ衝撃が無いように気を配りながら進む。

(´・ω・`) (町まで我慢してくれ……)

いかに軽いとは言え、同じ距離を歩くのにかかる時間は倍になった。
苦しむ彼女を背に、夜通し歩き続ける。


・  ・  ・  ・  ・  ・


三日間軽い休憩を何度か挟むだけで歩き続け、三日目の夜、ついに倒れた。
精神よりも先に肉体に限界がきてしまったようだ。

顔の向きだけ変えて、隣に倒れているリリの方を向く。

リリの病状は悪くなるばかりで、回復の兆候は見えない。

(;´・ω・`) 「くそっ……」

山の終わりはまだ暫く先ある。

(;´・ω・`) (考えろ……考えろ……)

今から少し休み、一人で村に向かったとして、果たして間に合うかどうか……。

(;´・ω・`) (少しでも病状を抑える方法を……この近辺には何がある……? 今の僕には何が出来る……?)


205 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:03:38 ID:RpSgo5Fo0

ふと、腰に結んだ袋を思い出した。
そこにあるのは、錬金術で生み出した唯一の物質。
村人への恩返しに使う予定だったそれは、優秀な肥料だ。

一振りで瞬時に植物を成長させることが出来るほど強力な。

肥料は、栄養価の素になる。
リリの病状は疲労と栄養不足が原因だろうから、片方を取り除いてやれば少しはマシになるはずだ。

(´・ω・`) (当然、直接人間には使えない。だけど……)

解決方法は簡単だ。
今までなぜ気づかなかったのか分からないほどに。

手に力を込めて起きあがり、リリを寝かせたまま、来た道を戻る。
充分に離れ安全を確認したところで、袋から粉を一摘み取り出し振りまく。

すぐに植物は成長し始めた。
夏にしか実を成らせない木も、普段は大きくならない木も、肥料を得て、それを栄養価に昇華させる。

(´・ω・`) (よしっ)

この山がこれほどの多様性を有していなければ、難しかったかもしれない。
熟れた果実を収穫し、リリが食べられるように、細かくする。


206 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:04:41 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「リリ、口を開けて」

⌒*リ;´・-・リ 「ぁ…………」

取れたての野菜を口へ運ぶ。
リリに噛む力はほとんどなかったが、必死に飲み込む。

⌒*リ;´・-・リ 「ぉぃし……」

苦痛に歪み、泥に汚れた笑顔は痛々しい。
僕は無理に笑い返し、彼女の食事を手伝った。

⌒*リ;´・-・リ 「ぉ腹………ぃっぱ……」

食べれたのは普段の三分の一にも満たなかったが、ここ数日では一番食べてくれた。


・  ・  ・  ・  ・  ・


その後は僕らは地べたに寝て休んでいた。
危険だとか考えている余裕はなく、丸一日ゆったりと横になっていた。

食べ物のおかげが、リリの様子は見違える程良くなった。
少なくとも、楽に喋れるほどには。

⌒*リ´・-・リ 「ショボン、ごめんね。迷惑かけて」

(´・ω・`) 「僕の方こそごめん。無理していたのに気づいてあげられなくて」

僕らはお互いに謝り、笑い合った。


207 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:05:33 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「さ、そろそろ行こうか」

僕の体力は回復していたから、栄養たっぷりの野菜と果実を少しずつ持ち、リリを背負った。
幾分重くなった気がする。
それを彼女に言うと怒られた。

⌒*リ´・-・リ 「女の子にはもっと優しい言い方をしてくれないと困ります」

(´・ω・`) 「良い意味で言ったんだけど」

⌒*リ´・-・リ 「良い意味でもです」

納得はいかなかったけども、話を切り上げることにした。
無駄に体力を使って、また倒れる展開だけは避けたい。

(´・ω・`) 「やっとか……」

さらに二日経ってから、山を抜けることが出来た。
町はもう目に見えるところにあった。

(´・ω・`) 「リリ、後少しだよ」

⌒*リ;´・-・リ 「うん……」

二日間の強行軍が彼女の病状を悪化させていた。
早く町で薬を手に入れなければならない。

森から出て姿が隠せないことは、もう恐れてはいなかった。


208 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:06:26 ID:RpSgo5Fo0

町に入り、薬屋を探す。
僕の住んでいた町よりはずっと大きく、探すのに多少苦労した。

「へぇ、どうも」

(´・ω・`) 「熱の薬はあるか」

「こちらです」

店主から薬を受け取り、金貨を払った。
次に探したのは宿屋だ。

リリも僕もあまりにも汚く、これでは目立ちすぎる。
宿屋はすぐに見つかった。
もともと交通の要所にある町として広がったために、そういう施設は多いようだ。

(´・ω・`) 「二人部屋を頼む」

「先払いでよろしいでしょうか?」

(´・ω・`) 「構わない。服を二人分、あとお湯を沸かして持ってきてくれ。タオルと一緒に」

「畏まりました」

金貨を握らせ、部屋にあがった。
リリをベッドに寝かせる。


209 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:07:49 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´・-・リ 「無事についてよかったです」

(´・ω・`) 「そうだね。さぁ、まずは薬を飲んで」

グラスの水と粉薬を渡す。
それを飲み終えるのと同時に部屋の戸が叩かれた。

「湯と服を持ってきました」

(´・ω・`) 「ありがとう、入ってくれ」

子供が入るくらいの大きさの入れ物にたっぷりと湯が入っており、宿の従業員が複数人で運んできた。

「それではごゆっくり」

扉がしまったのを確認して、湯に用意されていたタオルを浸した。

(´・ω・`) 「さて、リリいいかな?」

⌒*リ´・-・リ 「えっ? えっ?」

子どものように混乱している。
何をされるのか理解していないようだ。

(´・ω・`) 「お互いどろどろだし、リリ動けないでしょ?」

⌒*リ´//-/リ 「~~~~~っ!!」


210 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:08:36 ID:RpSgo5Fo0

やっとわかってくれたようだ。

⌒*リ´//-/リ 「ちょっ、ちょっと待って下さい。まだ心の準備が」

(´・ω・`) 「はーい、時間切れー」

彼女の服を脱がせ、全身を暖かいタオルで丁寧に拭いていく。
汗と泥を取り除くと、綺麗な白い肌が現れた。

(´・ω・`) 「はい、終わり」

服を着せ終え、今度は自分の汚れを落としにかかった。

(´・ω・`) 「ふーすっきりした」

使い終わった湯を廊下に運び、ベッドに横になった。
作業が終わっても、リリはリンゴの様に顔を真っ赤にしたまま、口を利いてくれなかった。


「食事をお持ちしました」

僕らの沈黙は宿屋の主によって破られた。
もうそんな時間になっていたのかと驚きつつ、許可を出す。

(´・ω・`) 「ああ、入ってくれ」


211 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:09:40 ID:RpSgo5Fo0

「どうぞ。食べ終わりましたら、扉の外に出しておいてください」

出された食事は豪勢だった。
久しぶりの肉に思わず涎が出てくる。

当然ホムンクルスでもうまいものはうまい。

(´・ω・`) 「食べようか」

⌒*リ´・-・リ 「はい……」

リリの祈りが終わるのを待ってから食事を食べる。
僕らはやっと日常に帰ってこれた。

(´・ω・`) 「おいしいね」

⌒*リ´・-・リ 「はい……」

ちゃんと話してくれないのは寂しくもあったし、
照れたままはい、としか答えないリリに少し悪戯心が湧いてきた。

(´・ω・`) 「綺麗な体だったから大丈夫だよ。気にしないで」

⌒*リ´//-/リ 「~~~~~~~っ!?」

ますます喋らなくなってしまった。

(´・ω・`) 「ごめんごめん。ちょっとからかっただけだから」

⌒*リ´//-/リ 「ややや、やめてください……」


212 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:10:34 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「ああそうだ、明日からの予定なんだけど、この町もすぐに離れた方がいいと思う。
       馬を調達して、さらに西に向かうよ。馬は乗れる?」

唐突にまじめな話題に戻す。
若干動揺しているものの、しっかりと話についてきてくれた。

⌒*リ´・-・リ 「はい、大丈夫です」

(´・ω・`) 「わかった。朝になったら、二頭貰ってくるから、ここで待ってて」


・  ・  ・  ・  ・  ・


朝の町は交易地といえども、まだ静まり返っている。
厩舎に行き、馬二頭を買うのには苦労はしなかった。
十分な量の金貨があったからだ。

宿に引き返す途中、数人の騎士の姿を見かけ、家の陰に隠れる。
そいつらは間違いなく、あの男とその仲間だ。


213 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:11:28 ID:RpSgo5Fo0

「なかなか現れんな。林の小道は調べたのか?」

「今調べている途中ですが、人が通った後はあるようです」

「ふむ、宿は全部当たったのか」

「いえ、まだです。なにぶん数も多いので。ですが、薬屋の主人からそれらしい男を見たと言う話を聞きました」

「だったら、さっさと探し出せっ!」

会話は其処で終わり、馬の駆ける音が遠ざかっていく。
宿を総当たりされたら見つかるのは時間の問題だ。

(´・ω・`) (急ぐか……)

真っ直ぐ宿に向かい、リリが無事でいるのを見て一安心する。

(´・ω・`) 「リリ、町を出るよ。準備は?」

リリの熱は下がり、すっかり元気を取り戻していた。

⌒*リ´・-・リ 「もうできてます」

(´・ω・`) 「よし、行こう」


214 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:13:28 ID:RpSgo5Fo0

西へ頭を向け馬を疾駆させる。
この先にあるのは港町。
そこから船に乗って逃げれば、そうそう追ってはこれないはずだ。

(;´・ω・`) 「っ!?」

安心して気が抜けた瞬間、左腕に激痛が走った。

⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!」

(#´・ω・`) 「くそっ!」

リリの叫びを聞きながら、自分の馬から飛び降り体をリリの後ろに投げ出す。

「がっ!」

計五本の弓矢が全身を貫く。
地面に激しく叩きつけられた痛みを無視し、すぐに起きあがった。
リリに逃げるよう急かす。

(#´・ω・`) 「走れっ! 後で追いつく!」

⌒*リ;´・-・リ 「でもっ!」

(#´・ω・`) 「いいから行け!」


215 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:14:26 ID:RpSgo5Fo0

体に刺さった矢を一本ずつ乱雑に抜いていく。
すぐに五人の騎士に囲まれた。

「女を捕まえてこい」

二人が円陣を崩しリリの後を追う。
それを横目に、男達の隙を窺っていた。

「久しぶりだなぁ、ショボンよ」

(#´・ω・`) 「……」

黒い鎧に銀の蛇。
多くを知っているわけではないが、この男はよく覚えていた。
一番最初に僕の主人を襲った男だ。

「まぁいい。我らと共に来てもらおう」

(´・ω・`) 「断る」

「ならば力づくで連れて行くまでよ」

三人が同時に槍を突き出す。


216 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:16:48 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「ホムンクルス相手に接近戦とは脳無しか?」

相手の攻撃と同時に一人の懐に飛び込む。
右腕を槍の一撃で斬りおとされながら、左で抜いた剣で首を叩き斬った。

「がっ……?」

男は目を見開き崩れ落ちる。

(#´・ω・`) 「ぐっ……」

背中から異物か体の中に侵入してくるのを感じる。
胸から二本の槍が飛び出していた。

「やっ……」

(´・ω・`) 「てないよ」

左腕を大きく振りかぶり、刀を投擲する。
真っ直ぐに喉を貫き、絶命に至らせる。

「ぎっ……!」

(#´・ω・`) 「があああああああああああああ」

まだ生きている騎士の槍を掴み、全力で体を捻る。
体中の細胞がぶちぶちと千切れる音をさせながら。


217 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:18:12 ID:RpSgo5Fo0

「なっ?」

男はバランスを崩して落馬した。

(´・ω・`) 「悪いが時間がない」

リリを追いかけなくてはならない。
体から引き抜いた槍を男に向ける。

「待て。女の命がどうなってもいいのか?」

(;´・ω・`) 「っ!?」

振り向けば、首元に剣を突き付けられたリリがいた。
その後ろには追いかけた二人だけではなく、五人に増えていた。

⌒*リ´・-・リ 「ショボン、ごめんなさい……」

「喋るな。武器を捨て隊長から離れてもらおう」

(´・ω・`) 「くそっ……」

「ふ……ふ……よくやった……。こいつを縛れ!」

身動きが取れないほどに上半身が固定される。
リリを見ると、怪我はないようで一安心する。

「女は縛って捨て置け」

⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!」

(;´・ω・`) 「リリっ」


218 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:18:54 ID:RpSgo5Fo0


馬にのるように促される。
逆らって彼女に害が及ぶのは避けたかった。

僕を乗せ、男達は道を引き返す。
少し離れたところで、急に動きを止めた。

「ああそうだ」

隊長格の男は不気味な笑い顔を僕に向けてくる。

「我らに逆らうとどうなるか、教えてやるのを忘れていたな」

リーダー格の男が顎で指示し、それに合わせて一人の男が弓に矢を番える。
その先には両手を縛られたままのリリ。

「やめろっ! 頼む! やめてくれっ!」

「やれ」


219 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:22:25 ID:RpSgo5Fo0

ギリギリと引き締められた弦の音が消えた。

「リリ──────っ!!」

スローモーションのように弓矢は進んでいく。
時が止まったかと思えるほど、ゆっくりと。
けれども着実に。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


⌒*リ´・-・リ 「この辺の人じゃないですよね……生きてますか……?」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


⌒*リ´・-・リ 「リルケット・リファリアと言います。この辺りの人はリリーやリリって呼びます。
         あなたの名前は?」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


⌒*リ´;-;リ 「別に……あなたが死なないだとか、作られただとか、そんなことはどうでもいい。
         私は、あなたと一緒にいたい。それでは駄目ですか……?」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

⌒*リ´ - リ 「ショボン……」


矢は、リリを射抜き、彼女はゆっくりと倒れた。
倒れたまま、起きあがることは無かった。

(#´ ω `) 「あ……あ……」


220 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:24:54 ID:RpSgo5Fo0

(#´ ω `) 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「黙れっ!」

叫ぶことしかできなかった。
殴られても、蹴られても、喉が張り裂けてしまうほどに。

「行くぞ」

激痛とともに、意識を失った。


・  ・  ・  ・  ・  ・


「ふん、大した化け物でもなかったな」

意識を取り戻したときは既に夜になっていた。
男たちは山沿いにある街道で野宿をしていた。

「気づいたか化け物?」

僕は身動ぎをしようとして、痛みで動くのをやめた。
両手は重ねられて、墓標のごとく一本の剣が突き刺さっている。
両の足はふくらはぎと太股に一本ずつ、計四本が突き刺さっていた。


221 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:29:46 ID:RpSgo5Fo0

「死なないってのは面白ぇなぁ!」

地面に転がっている酒瓶の数からして相当呑んでいるようだ。
溢れんばかりの憎悪は逆に冷静に考えさせてくれるのだろうか。

僕がすることはただ一つだけだった。

「何か言えよ! あぁん?」

二、三発顔を殴られた。
それでも反応を見せなかった僕に腹を立てたのだろう。
腰から長剣を抜きはなつ。

「反応しねぇと斬っちまうぞ? 必要以上に傷つけるなとは言われてるけどな、
みんな寝てんだ。関係ねぇや」

そうか。
こいつは見張り役か。

それなら都合がいい。

(´・ω・`) 「ホムンクルスを」

「ん?」


222 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:34:42 ID:RpSgo5Fo0

僕の言葉に興味を持ち、耳を近づけてくる。

(´・ω・`) 「ホムンクルスを生け捕りにしたければ、方法をよく考えるべきだったな」

両手を思いっきり引き抜く。
手のひらが半分になるが瞬時に再生する。

「なっ!?」

地面に突き刺さった剣を抜き、不用意に近づいていた男の首を深く切り裂いた。
喉から赤い泡が膨れ上がっては弾け、しばらくして男は動かなくなった。

(´・ω・`) 「ぐっ……」

今度は両足を切り落として自由になる。
火の消えかかった焚き火の近くには男が四人。
順番に喉を切り裂いていく。

(´・ω・`) 「おい、起きろ」

リーダー格の男は殺す前に話しておきたかった。

「なんだ……ん……!?」

屈み込む僕の姿を見て剣に手を伸ばすが、その腕をはね飛ばす。

「ぎゃああああ腕! 腕が!」


223 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:35:47 ID:RpSgo5Fo0

(´・ω・`) 「黙れ」

喉元に切っ先を突きつける。
それだけで静かになった。

「なんで……なんでリリを殺した……」

「は、はん。ただの気まぐれだ。
なに、乱暴するよりはずっとマシだろうが。むしろ感謝あ」

(#´・ω・`) 「もう喋るな」

口の中に剣を突き刺した。
脳幹を破壊して地面に届く。

男達の馬に乗り、全力疾走で西に向かう。
移動距離から考えて、気を失ってから一日と経っていないはずだ。
彼女の亡骸を放置したままに出来るわけがなかった。

日の出の前、空が白み始めた頃にリリが倒れていた場所に戻ってきた。
そこには血痕だけが残されていて、彼女の体はなかった。

(どこだ……どこにいる……?)

ここにいないのなら、町の中に運び込まれたに違いない。

(最も可能性が高いのは教会だ)

大きい町だが、中には一つしか教会はなく、そこに向かった。
入り口に馬を結び、中に入る。そこには白いベッドが置いてあった。


224 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:37:22 ID:RpSgo5Fo0

⌒*リ´ - リ 「ショ……ボン……?」

(´;ω;`) 「リリ……?……リリ!」

リリはまだ生きていた。
矢は抜かれ、適切な治療が施されていた。

⌒*リ´ - リ 「よか……った……最期……会え……」

(´;ω;`) 「馬鹿なこと言うな! 僕が必ず助ける!」

僕らの話し声が聞こえたのか、奥から牧師が出てきた。

「彼女のお知り合いの方ですか?」

(´;ω;`) 「はい」

「昨日彼女を見つけ、医師に診てもらったのですが、傷が深すぎて……一日生きているだけで奇跡です」

(´;ω;`) 「見つけて下さってありがとうございました」

彼が見つけてくれなければ、もう話すことは出来なかった。
でも、リリはまだ生きている。
医師が匙を投げても、錬金術師はフラスコを投げない。

僕には彼女を救う力があるはずだ。


225 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:40:32 ID:RpSgo5Fo0

(´;ω;`) 「もう少し、リリを見ていてあげて下さい」

「ですが……」

(´;ω;`) 「お願いします。すぐに戻ってきますから。
        リリ、もう少しだけ待っていて」

⌒*リ´ - リ 「うん……」 

僕は教会を飛び出し、薬屋に向かった。
途中フラスコを数個購入する。

(´-ω-`) (リリの傷は深い……人間の治癒力で治る範囲を超えている。
       それならば……僕は罪を犯そう。彼女に恨まれるかもしれない。それでも、僕は彼女に生きていてほしい。)

宿の一室を借り、作業場を作る。

強力な肥料は生命の源に。
千年生きる蝉の粉末と、渦を巻く海牛のエキス。その他はこのくらい大きい交易都市なら手に入る。
必要な素材は多くない。
難しいのはコンマ以下の誤差も許されない調合。

本来は数年かかる物を、たった数時間で完成させなければならない。
それも、最難関の錬金術を。

(…………)


226 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:42:57 ID:RpSgo5Fo0

慎重に薬品を加えていく。
最後に僕の血液を混ぜることで、僕と同等の知識を得る。


・  ・  ・  ・  ・  ・

・  ・  ・  ・

・  ・


(´・ω・`) 「できた……!」


血のように赤い液体金属。

多くの錬金術師が夢見、破れていった伝説の存在。

たった一滴で無限の富と永遠の命を与えると謂われる。

たった一滴で神を貶める罪の結晶。

(´・ω・`) 「賢者の金属……」

ひとたび体内に摂取すれば、それは血液に溶け、後戻りすることはできない。



教会に駆け戻り、瀕死の彼女の横に立つ。

(´ ω `) 「僕の弱さを許してほしい……」

僕は祈るように、罪の塊を彼女の傷口に垂らした。


227 :名も無きAAのようです:2012/03/08(木) 22:51:12 ID:RpSgo5Fo0








7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです  End

             ↓

8 ホムンクルスと少女のようです


《時系列》

ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   ↑
   ↓
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   ↑
   ↓
3 ホムンクルスは抗うようです
   ↑
   ↓
4 ホムンクルスは救うようです
   ↑
   ↓
5 ホムンクルスは治すようです


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(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです 第6話 

181 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:30:07 ID:sHdSpc460

今回は過去の話になります。
書きたい話を書きたい順に書いていたらこんなわけのわからない順番に……。
簡単な順番を書いていくことにします。


ホムンクルス生誕
   ↑
   ↓
6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです
   ↑
   |
   |
   ↓
1 ホムンクルスは戦うようです
   ↑
   ↓
2 ホムンクルスは稼ぐようです
   ↑
   ↓
3 ホムンクルスは抗うようです
   ↑
   ↓
4 ホムンクルスは救うようです
   ↑
   ↓
5 ホムンクルスは治すようです



148 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:20:51 ID:sHdSpc460






6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです


149 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:23:47 ID:sHdSpc460


遠くへ……。


真冬の地。
降り積もる雪。

僕は歩く。
ざくざくと、深く足跡を残して。

それらは白く塗りつぶされていく。
おぞましい出来事を覆い隠すかのように。


僕は歩く。
雪が過去を埋め尽くしてくれることを願いながら。


(´ ω `) 「はぁ……はぁ……」

吐く息は白銀の世界に溶けていく。

何も考えずに足を動かし続けてもう一週間になる。
普通の人間ならとっくに息絶えて、狼の餌食になっているはずだ。

ホムンクルスゆえに、生きていれるというのはなんという皮肉か。


150 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:24:55 ID:sHdSpc460

眼を閉じて倒れ込もうとするたびに凄惨な光景がまぶたの裏に流れる。
その度に前を見て進む。

(´ ω `) 「やめろ……やめてくれ……」

僅かに吹雪が緩やかになり、林の切れ目に尖塔が見える。
そこから洩れる暖かな光に心ひかれ、門を目指す。

四つの尖塔のある比較的新しい教会。
門は押すとゆっくりと開き、中には人の姿は無かった。

教会内は物音一つしない。
それなのに僕の頭の中は甲高い悲鳴が鳴り響いている。

(´ ω `) 「ああ……」

怨嗟の声が頭の中で響き続ける。

ホムンクルスは死んで逃げることが出来ない。
一時的に意識が失われるだけにすぎない。
そんなわずかな希望にすがって、教壇の前で首を切り裂いた。
微かに見えた、飛び散った血液は人間と同じ色だった。


151 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:28:55 ID:sHdSpc460

どれだけの時間がたったのか分からない。
極僅かかもしれないし、数百年と経過しているかもしれない。
世界が滅びていてくれたら、どれほど救われていただろうか。


そんな馬鹿なことを考える。

焦点があった視点の先には、なぜかまだ湯気をあげるスープが置いてあった。

脳が空腹を訴える。
小さな木製のスプーンを恐る恐る手に取り、料理を口に運ぶ。

さらさらとした舌触り。
食べやすい大きさの芋は中まで味がよくしみている。


視界がぼやける。
僕は泣いていた。

まるで、人のように。
殺しても死なない化け物のくせに。

嗚咽をあげながら。


152 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:30:12 ID:sHdSpc460

僕は家族を救うことが出来なかった。
大切な物をすべて失った。

なのにのうのうと生きている。

これからの途方もない命の行方を恐れている。
そんな自分が嫌で、涙が止まらない。

(´;ω;`) 「うっ……っ……ううっ……」

蹲ってひたすら泣いていた。
そんな事では何の解決にならないことは知っていたけれど。

「あの……大丈夫ですか?」

背中から掛けられた小さな声。
振り向けばそこに小柄な少女が立っていた。

ぶかぶかの服は所々に繕った跡がある。
この近辺に住んでいるのだろうか。

⌒*リ´・-・リ 「この辺の人じゃないですよね……生きてますか……?」


153 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:31:02 ID:sHdSpc460

見知らぬ人間が怖くは無いのだろうか。
いや、ここらは平和な土地柄なのかもしれない。

それにしては言語が乱雑な気もするけれど。

(´ ω `) 「スープは君が?」

⌒*リ´・-・リ 「はい。余り物ですけど」

(´・ω・`) 「……ありがとう。美味しかったよ」

ゆっくりと立ち上がる。
体の芯が凍っているのか、うまく動けない。

⌒*リ´・-・リ 「……よかったら、家に来ますか? 暖炉に薪をくべる仕事がありますよ?」

(´・ω・`) 「……いや、いいよ」

優しくされたら動けなくなりそうだった。
だから誘いを断り、出口に向かって歩く。

⌒*リ´・-・リ 「そう……ですか。でも、とてもじゃないけど動けないと思いますよ」


154 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:32:22 ID:sHdSpc460

扉を開けた瞬間、吹雪が舞いこんできた。
目の前が真っ白に染まり、前がほとんど見えない。

⌒*リ´・-・リ 「ね? 私の家はすぐそこですから」

(´・ω・`) 「いや、いい。これくらいで、いい」

これだけ吹雪けば、夏になるくらいまでは眠れるだろう。

⌒*リ´・-・リ 「え?」

驚く少女を余所に、豪雪の中に踏み出した。
慌てた様子で腕を掴まれる。

⌒*リ;´・-・リ 「ちょっ、ちょっと待ってください! 実はですね、家に帰れなくて困ってるんです」

(´・ω・`) 「どうやって来たんだよ……」

少女の小柄な体でこれだけの雪を掻き分けられるとも思えない。

⌒*リ´・-・リ 「家は、この教会のすぐ裏にあるんですけど、さっきは今ほどひどくなかったんです」

(´・ω・`)  「…………」

⌒*リ´・-・リ  「帰らないと凍え死んじゃいます」

(´・ω・`)  「……送っていくだけだから」


155 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:34:50 ID:sHdSpc460

貰ったスープの分くらいは恩返ししてもいいだろう。
少女の指示に従い、雪をかき分けていく。
教会の裏側に回るまでに随分な時間がかかった。

⌒*リ´・-・リ 「どうもありがとうございました」

(´・ω・`) 「ああ、それじゃ」

⌒*リ´・-・リ 「ちょっと待ってください。スープ代貰ってませんよ?」

(´・ω・`)  「……え?……有料なの?」

当然無一文。
金目のものなんて何一つ持ってなかった。

⌒*リ´・-・リ 「伊達に一人で生きてるわけじゃないです。
         いいじゃないですか。今夜くらい泊まって下さいよ」

(´・ω・`) 「……僕が乱暴するとは考えないのか?」

⌒*リ´・-・リ 「身を守る術くらい心得てますし、
         教会でうじうじ泣いてるような人がそんなことするとは思えません」

手を引かれるがままに家の中に入る。
広い部屋には所狭しと薪が重ねられていた。

(´・ω・`) 「広いな」


156 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:35:59 ID:sHdSpc460

⌒*リ´・-・リ 「一人暮らしですけど、このくらいは必要です。
         ああ、寝るのは地面で寝てください」

確かにベッドは一つしかなく、どう考えても二人が寝れるサイズではない。
それならば、少女が床をさすのは自然なことだと思うのだけれど。

(´・ω・`) (何故親指……)


結局、勢いに流されて一晩泊まることになった。

勢い流されてとは、我ながら体のいい言い訳だ。
ただ独りでいるのが寂しかった。

誰かに優しくしてもらいたかった。

⌒*リ´・-・リ 「夜中は暖炉の火が消えないよにしてくださいね。よろしく」

それだけ言うと彼女は布団にもぐってしまった。

火花を見つめて時間を過ごす。
たまに薪を放り投げ、またうとうととする。


・  ・  ・  ・  ・  ・


157 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:38:23 ID:sHdSpc460



(´ ω `) 「やめろっ……!」

真っ直ぐに伸ばした手は空を切った。

(;´・ω・`) 「はぁっ……はぁっ……」

嫌な汗で全身が不快感に苛まれる。
少女は起きてこない。

息するのが苦しい。
生きるのが苦しい。

悪夢のような光景が何度もフラッシュバックする。

一睡もすることが出来ずに朝を迎えた。
日が昇る頃に少女は目を覚まし、調理場に向かっていった。

窓から外を確認するが、相変わらず吹雪いているし、半分ほどが雪に埋もれている。
この調子では扉は開かないだろう。

⌒*リ´・-・リ 「どうぞ」

差し出されたのはパンとジャムを少し。

(´・ω・`) 「これも有料……?」


158 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:39:46 ID:sHdSpc460

⌒*リ´*・-・リ 「勿論です」

少女は笑顔で答える。
迷ったものの、それを受け取りかじる。

その後は無言で過ごした。
少女にとっては苦痛だったかもしれないが、
僕は話す気になれなかった。

少女は黙々と手作業で何かを編んでいる。

二日が経ち、


三日が過ぎ、


四日目についに僕は口を開いた。


(´・ω・`) 「……聞かないのか?」

少しだけ、少女に興味を持ったからだ。
暖かい寝床に、暖かいご飯を食べ、だいぶ落ち着いてきていたというのもあった。

⌒*リ´・-・リ 「何をです?」


159 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:43:26 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「教会にいた理由」

少女から先に理由を聞かれていたら、にべもなく断ったかもしれない。

⌒*リ´・-・リ 「言いたくないのならそれでかまいません。
         雪が積もって家からでれませんから、話すことしかすることがありませんけどね」

(´・ω・`) 「……」

自分から話を持ち出したものの、話したくはなかった。
だから少女の優しさに甘えることにした。

(´・ω・`) 「この辺りはいつも吹雪いているのか?」

⌒*リ´・-・リ 「この時期はたいてい。例年だと、後一週間ほどは身動きとれませんよ」

話始めれば、聞きたいことは次から次へと出てきた。

(´・ω・`) 「……食料は?」

⌒*リ´・-・リ 「当然、足りませんよ。少しでも雪がおさまったら、手伝ってもらうことがあります」

もともと一人分しか用意されてなかったのだろう。
僕が予定外を引き起こしてしまったなら、その責任はとらなければならない。

(´・ω・`) 「それじゃあ、必要になったら声をかけて」


160 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:45:06 ID:sHdSpc460

久しぶりに話したことで少し疲れたので、再び壁にもたれた。
眠ることは出来ないけど、休むことくらいなら。

⌒*リ´・-・リ 「せっかくの話し相手だと思ったのに」

(´・ω・`) 「僕なんかと話してもつまらないよ」

⌒*リ´・-・リ 「つまらないかどうかは私が決めます。それに、家主の要望には答えるべきじゃない?」

会話を楽しむ余裕は残っていなかった。
それゆえ、少女の話を聞き相づちを打っていた。

それは夏の祭りの話だったり、教会を造るときの話だったり、僕にとって新鮮で、心惹かれる物だった。

以前は家から出ることすら許されていなかったのだから。
主の仕事を手伝い、その娘の話し相手をしていた。外の世界のことはそのときに聞いた物が大半だった。

⌒*リ´・-・リ 「どうして泣いてるの?」

指摘されて初めて気づいた。
ぼろぼろと大きな粒がこぼれていた。

(´;ω `) 「いや、なんでもない」

手の甲で拭い、平静を装った。

⌒*リ´・-・リ 「なんでもいいなら、それでいいけですけど。それでですね、その時叔父さんが―――――」


161 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:48:11 ID:sHdSpc460

よくもまぁ、話題が尽きないものだ。
この雪の中ただ一人で暮らしていたせいで、人恋しいかったのかもしれない。

それにしても、なぜこんなところに一人で暮らしているのだろうか。
独り立ちする年齢には見えない。
なら、何か事情があるのだろう。

⌒*リ´・-・リ 「……気になりますか?」

(´・ω・`) 「え?」

⌒*リ´・-・リ 「私のことです」

どうやら顔に出ていたらしい。
顔を上げると少女の真っ直ぐな視線とぶつかり、目を逸らして謝る。

(´・ω・`) 「……ごめん」

⌒*リ´・-・リ 「謝らないでください。気になるのは当然ですよね。
         それに、まだ自己紹介もしてませんでした」

胸に両手を重ね、ペコリと一礼をする。
ドレスを着て教会で会っていたなら、どこかの令嬢かと思わせるような、そんなお辞儀だった。
その動作が過去の少女と重なって、胸を締め付ける。

⌒*リ´・-・リ 「リルケット・リファリアと言います。この辺りの人はリリーやリリって呼びます。
         あなたの名前は?」


162 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:50:05 ID:sHdSpc460

僕の名前。
主人からいただいた大事な名前。

(´・ω・`) 「僕は……ショボン」

⌒*リ´・-・リ 「変わった名前ですね」

(´・ω・`) 「僕もそう思う」

何故こんな名前にしたのか主人に聞いたことがあった。
その時に笑いながら答えられたのを覚えている。

がっかりしたようなしょぼくれ顔だからだ、と。

⌒*リ´・-・リ 「私がここで暮らしている理由は聞かないでくださると助かります」

ぎこちない笑顔で言う。
問いただすつもりなんか無かった。
隠し事をしているのはお互い様だ。

⌒*リ´・-・リ 「それにしても、ひどい雪ですね」

窓はすでに覆い尽くされており、部屋の明かりは暖炉の火だけだった。

それからも、少女の話を聞きながら時間を過ごした。
たまに僕も話した。

過去を思い出すのはつらかったけれど、少女と話しているだけで少し楽になれたから。


163 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:51:44 ID:sHdSpc460

話疲れたのか少女は寝息を立て始めた。
毛布をしっかりとかけ、火の番をする。
一人の時間になると忽ち自問自答が始まる。

楽になることは主人に対する裏切りではないのか。

幸せに生きる権利なんてないのではないか。

今すぐにでも死ぬべきではないか

堂々巡りで答えなんて出ない。
ただの徒労だと分かっていても、考えることをやめることができなかった。

(´ ω `) 「…………僕はどうすれば」


・  ・  ・  ・  ・  ・


⌒*リ´・-・リ 「起きてください、雪がやんでますよ」

揺すられて目を覚ました。

(´・ω・`) 「……?」


164 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:54:39 ID:sHdSpc460

窓から差し込む太陽の光が目にささる。
うずたかく積もった雪は、溶けはじめていた。

⌒*リ´・-・リ 「随分と長いこと寝てましたね。寒くて目が覚めたじゃないですか」

彼女の指は暖炉を指している。

⌒*リ´・-・リ 「まぁ、いいですけど。二日も暖炉の番を任せたのは私ですし。
         無理をさせてしまいましたか?」

(´・ω・`) 「いや……ごめん」

⌒*リ´・-・リ 「いい天気なので、食料を補充しておきたいのですが」

(´・ω・`) 「ああ、わかった。どうすればいい?」

ゆっくりと立ち上がる。
全身の気だるさはなくなっていた。

⌒*リ´・-・リ 「それでは、行きましょうか。それを持ってきてください」


シャベルに見えるけれど、金属部分は先端だけだ。
幅がこうも広くては地面は掘れない……いや、雪を掘るのか。
それならば、全体的に軽く作られているのも納得できる。


165 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:55:36 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「わかった」

少女が扉を押してもびくともしない。
積もった雪がまだ重しになっているのだろう。

⌒*リ´・-・リ 「仕方ありません。窓から出ますよ」

少女は窓を開け、雪の上に飛び出した。

⌒*リ´・-・リ 「早く来てください。ここからはあなたの仕事です」

同様に窓から外に出て、雪を踏み固める。
そこからはシャベルを使って雪を崩し、体を使って道を作る重労働だった。
僕が道を作っている間、少女は後ろで方向を指示している。

(´・ω・`) 「ふぅ……少しくらい手伝ってくれないかな」

ホムンクルスの命は無限でも、体力は有限だ。
回復力は人間よりも僅かに優れている程度。
当然、作業効率はどんどん落ちていく。


166 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:57:03 ID:sHdSpc460

⌒*リ´・-・リ 「あなたのせいで、この雪の中食料を取りに行くことになっているんですけどね。
         それに私はあなたよりずっと力作業では劣ります。まぁ、いいですよ。それをかしてくだ」

(´・ω・`) 「後どれくらい?」

確かに食料が足りなくなったのは僕のせいだ。
それに諦めるのは癪だったので、話を遮った。

⌒*リ´・-・リ 「まだまだですよ?」

数時間かけて雪を掘り続け、大きな木にぶつかった。
幹は大人数人でやっと囲めるほど太く、枝は高くまで伸びている。
この雪で倒れないのだから、余程丈夫なのだろう。

⌒*リ´・-・リ 「やっとここまで来ましたか。随分かかりましたね」

(;´・ω・`) 「はぁっ……はぁっ……よく、言うよ…」

ここまでずっとぶっ通しで作業していたのだ。少しくらい休ませて欲しい。

⌒*リ´・-・リ 「もう少しです。頑張ってください。この右奥にあるはずです」

言われるがままに道を作る。
疲労は限界に達していた。

⌒*リ´・-・リ 「この辺ですね。少し待ってください」

少女は屈んで、その小さな手で雪の下側を掘っていく。


167 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 22:58:29 ID:sHdSpc460

⌒*リ´・-・リ 「あった。ありました」

掘り出したのは袋。

⌒*リ´・-・リ 「中に野菜が入ってるんです。冬はこうやって保存するんですよ。
         全部持って行こうかなぁ……んー、うん。じゃあこれもってください。家に帰りましょう」

渡された袋を抱え、来た道を引き返す。
何の問題も起こらず、あっさり帰ってくることが出来た。
汗で冷え始めた体を、暖炉で暖める。

⌒*リ´・-・リ 「さて、これで完全に雪が溶けるまではもちそうです。お疲れさまでした。何か食べますか?」

(´・ω・`) 「いや……今はいいよ」

体を動かしてるうちは嫌なことを考えなくてすむのだから、悪くないかもしれない。
そんなことを考えていた。

⌒*リ´・-・リ 「もし、もしこれからどうされるのか決まっていないのでしたら……ここに住んでくださってもいいですよ」

(´・ω・`) 「考えさせてもらうよ」


168 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:02:46 ID:sHdSpc460


もし許されるのなら、少女と生きてみたいとすら思っていた。
あいつら以外の人間をも恨み続けることなんて、もとより僕には出来ないのだ。

僕は人間が好きだから。
それに、この娘はあいつらとは関係がない。

⌒*リ´・-・リ 「音楽は嫌いですか?」


音楽についての僕の知識は乏しい。

完璧な存在として説明されている文献が多いホムンクルスだけれど、僕はそうではない。
そもそも生まれながらにして森羅万象を知ると、精神に異常をきたしてしまうそうだ。
それに、人間社会にも適合できない。

実際にホムンクルスを作った僕の主人が言うのだから間違いないのだろう。
音楽や美術、人の心理、人間関係について自ら学ぶことで情緒が育まれ、心を得る。

⌒*リ´・-・リ 「あのー?」

(´・ω・`) 「ん……ああ……いや、そんなことはないけど」

考え事をしていたせいで反応が遅れ、間抜けな返事をしてしまった。


169 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:04:06 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「昔のことを思い出してて。楽器の演奏が出来るの?」

⌒*リ´・-・リ 「少しだけですけど」

階段を上り、二階から持って降りてきたのは木で造られた横笛。
大事そうに抱えられたそれは随分古い物のように見える。
少女は二、三回音を調べるようにならす。

⌒*リ´・-・リ 「それでは」

鳥の囀りのような高い音から演奏は始まった。
短く区切った調子のリズムからゆったりとした長いリズムへ。
音域を全体的に下げ落ち着いた雰囲気を醸し出す。

(´-ω-`) 「……」

技術で言えば決して上手ではないのだろう。
たまに意図せぬ音を出してしまったであろうことが表情から読みとれた。
しかし、音楽として聞くのであれば、それは非常に心惹かれるものだった。

⌒*リ´・-・リ 「どうでしょうか……?」

恐る恐る尋ねてくる少女。


170 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:05:06 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「とてもよかった」

それ以上に今の気持ちを表現する言葉を知らない。
それでも、少女には十二分に伝わったようだ。

⌒*リ´*・-・リ 「それはよかったです。では調子にのってもう一曲」

目を閉じて聴覚に身を任せる。
音楽が心に沁み込む。

少女は気の向くままに笛を吹き続ける。


・  ・  ・  ・  ・  ・


⌒*リ´・-・リ 「晩御飯ができましたよ」

揺さぶられて起こされた時、辺りはすっかり暗くなっていた。
窓からは月明かりが射しこんでいる。

(´・ω+`) 「ん……寝てたのか……」

⌒*リ´・-・リ 「それはもう、ぐっすり」


171 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:08:04 ID:sHdSpc460

机の上には二人分の食事が用意されていた。
切り分けられたチーズ。
一口サイズのパン。

瓶の中に入っているのは葡萄酒だろうか。
小さなグラスが二つ並べてある。

スープには今日取りに行った根野菜が豊富に使われていた。

⌒*リ´・-・リ 「神の恵みに感謝します」

少女が祈りが終わるのを待ってから、食事に手をつける。
神なんて信じちゃいないから、祈りはしない。

(´・ω・`) 「……おいしい」

⌒*リ´*・-・リ 「当然です」

僕と少女の生活はきっとこの日から本当の意味で始まった。


172 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:09:42 ID:sHdSpc460


季節が変わり雪が融け始めてからは、畑の手伝いをすることになった。

村長にも会い、挨拶もそこそこに僕が暫くこの村にとどまることにしたと話した。
陽気な老人で、少女のことをよろしく頼むと任されたが、
現状よろしく頼まれているのは僕の方だった。

(´・ω・`) 「何をすればいい?」

共同生活の一員として生きることに関して、僕は質問してばかりだった。
それなのに彼女は嫌な顔一つせずに教えてくれた。
僕の得意な錬金術は、道具がなければ毛ほどの役にも立たない。
こんな田舎の土地に道具があるはずもなかった。

⌒*リ´・-・リ 「……こうやって左手で押さえながら、そうそう」

朝は今まで少女が任されてきた仕事を習う。
それが終わった後は、割り当てられた畑を耕す。

「おーい! ショボン君、こっちも手伝ってくれないか?」

懸命に働いていたからか、村人達はすぐに僕を受け入れてくれた。

畑仕事を夜までやって、家に帰って葡萄酒を飲む。
そんな人間らしい生活も楽しかった。


173 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:11:13 ID:sHdSpc460

(´・ω・`) 「お疲れさま」

⌒*リ´・-・リ 「お疲れさまでした」

そうやって過ごしていた僕らの関係は、ただの同居人だった。
村人達ははやし立てていたけれど、当人達にそんな気はなかった。

それが大きく変わったのは季節が一回りしてから夏に入って少しした頃。

彼女との生活は一年と半年ほど経っていた。

いつも通りに僕は村から一番離れた山の麓で野菜の手入れをしていた時、
山から下りてきた巨大な熊とはち合わせになった。

持っていたのは小さな鎌一つ。
腹を空かせた熊をそのままに逃げることは出来なかった。
畑に居着いてしまえば、村人達に危害が加わるかもしれない。

それに、どうせ死にはしないのだ。
肝を据えて鎌を構えて対峙する。


熊が勢いよく飛び込んでくる。
一瞬の内に振り下ろされた一撃で、どうやら頭を吹き飛ばされたらしいことを回復してから理解した。
一方右手の鎌は熊の腕を軽くひっかいた程度の傷しか与えてないようだ。

:・;、・ω・`) (毛が邪魔して刃が通らない……)


174 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:12:42 ID:sHdSpc460

死んだフリをしたまま作戦を練る。
熊はゆっくりと僕に覆い被り、呑気に鼻を動かしていた。

(´・ω・`) (死肉だとでも思ってるんだろうな)

牙をむき出しにし、頭を食いちぎろうとした瞬間、鎌を目に向かって突き出した。
熊は悲鳴とともに後退する。

その隙につけ込んで、もう一太刀浴びせようと飛び込んだが、鋭い爪で横なぎにされ数秒間宙を舞った。

(#´-ω・`) 「がっ……ってえああああああああ」

腸が露わになっていた。
痛みで意識が飛びそうになるのを必死にこらえる。
治癒に時を要している間に、熊の方も落ち着きを取り戻したように見えた。

(#´・ω・`) 「もう一つの目玉も潰してやる」

完全回復を確認し、不自由な左目の側から懐に飛び込む。
コンマ数秒反応が遅れ、右腕の振り下ろしが襲ってくる。
それを紙一重で避け、残された目玉を潰して終わるはずだった。

⌒*リ;´・-・リ 「ショボンっ!!」


175 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:13:32 ID:sHdSpc460

その声に動きが僅かに鈍る。
必殺の攻撃と目潰しは同時に入った。

僕は彼女の前で……初めて死んだ。

⌒*リ´;-;リ 「ショボンっ……ショボンっ……」

怒り狂った熊を恐れず、彼女は僕の元へ一直線に走り来る。

⌒*リ´;-;リ 「そんな……嫌だよ……ショボンっ!」

(#´-ω・`) 「だい、じょうぶ、だから」

⌒*リ´;-;リ 「大丈夫なわけが、こんなに血も出て……」

そこまで言って気づいたようだ。
傷が余りにも浅いことに。

それも、驚異的な速度で治癒していることに。

「ショボンっ!大丈夫か?」

村の男達が熊に気づき武装して近づいてくる。
視力を失った熊に驚きつつも、複数人で槍を突き刺してとどめを刺す。


176 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:14:44 ID:sHdSpc460

「お前がやったんか?」

(´・ω・`) 「はい」

「怪我は?」

体中についていた血痕はすでに消えてなくなっていた。
服はボロボロになっているけれど、傷さえなければ大丈夫だろう。

(´・ω・`) 「ありません」

「そうか。今度からは無理をするなよ」

(´・ω・`) 「すいませんでした」

⌒*リ´・-・リ 「……ショボン、家に帰るよ」

彼女の一歩後ろを歩き、帰路についた。
家に着くまでの間、彼女は一言も口を利かなかった。

⌒*リ´・-・リ 「……どういうこと?」

てっきり化け物扱いされると思っていたから、家に帰ってきて最初の一言にひどく安心した。
もはや隠すことはかなわないと知り、正直に打ち明ける。

(´・ω・`) 「僕は……人間じゃない。ホムンクルスだ……」


177 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:16:30 ID:sHdSpc460

⌒*リ´・-・リ 「ホムン……クルス……?」

(´・ω・`) 「動いて喋って考えて……死なない、作り出された命」

簡潔に言えばそういうことだ。
細かい点だと体内構造も若干違うし、痛みという刺激に対する反応も鈍い。
だがそんなことは説明しても無駄だろう。

(´・ω・`) 「今まで騙しててごめん……」

知られてしまえば、もうここにはいれない。


去ろう。
彼女の元から。

いずれ村の人にも知られるかもしれない。
そうなれば、彼女たちの平穏な暮らしを乱してしまう。

⌒*リ´・-・リ 「私は……私は……」

(´・ω・`) 「さようなら。今までありがとう」


精いっぱいの感謝を籠めて、別れの言葉を告げる


178 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:17:40 ID:sHdSpc460

彼女のおかげで、過去を忘れることができた。

彼女のおかげで、生きていることができた。

だから、彼女のために去ろう。

⌒*リ´ - リ 「待ってっ……!」

反応する暇もなく、後ろから抱きとめられた。

⌒*リ´;-;リ 「別に……あなたが死なないだとか、作られただとか、そんなことはどうでもいい。
         私は、あなたと一緒にいたい。それでは駄目ですか……?」

(´-ω-`) 「リリ……」

⌒*リ´;-;リ 「初めて……」

(´・ω・`) 「え?」

⌒*リ´;-;リ 「初めてちゃんと名前呼んでくれたね……。
         村の人にも分かってもらえるように努力するから……。
         だから……これからも、一緒にいてください」

枯れてしまったと思っていた涙が、とめどなく溢れて来ていた。

(´;ω;`) 「うん……っ。うん……っ」

何も答えることができず、ただひたすらと頷いていた。


179 :名も無きAAのようです:2012/03/02(金) 23:21:30 ID:sHdSpc460







6 ホムンクルスの忘却と少女の幸福のようです  End

             ↓

7 ホムンクルスの罪と少女の難のようです


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(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです 第5話 

118 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:46:30 ID:lsHJEv/k0





5 ホムンクルスは治すようです


119 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:48:22 ID:lsHJEv/k0


僕は船に乗り海を跨いだ先にある大陸に足を踏み入れた。
その大陸には広大な砂漠と密林が広がっているそうだ。



技術が発展している北側の大陸と違い、南側は砂漠と密林が多くを占める未開の地だ。
とりあえず南端まで歩いてみるつもりで砂漠を縦断していた。



何日も砂漠を歩いていたら、正面からやってきた老婆に藪から棒に話しかけられた。
藪なんてものは一切見なかったけれど。



「お助け下さい、お助け下さい」


120 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:51:24 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「これは……」

腕に抱えているのは生まれて間もないであろう子ども。

その肌には浅黒い斑点に覆われている。
息は浅く、額には汗の粒が張り付いていた。

よくよく見れば、襤褸切れから伸びた老婆の両腕にも同じような症状が出ていた。

(´・ω・`) 「どこから来られたのですか……?」

「ここから南にある小さな集落からです」

(´・ω・`) 「そんなところに村が?」

「ついぞさっきまではラクダがいたのですが、倒れてしまいました。
 どうか旅のお方、錬金術師と窺いますが、どうかこの子を助けて下さい」


こふっと小さな咳が一つ。
赤ん坊は腕の中で息を引き取ったようだ。


「そんな……っ……」

老女もまた血を吐いて倒れてしまった。


121 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:53:11 ID:lsHJEv/k0

(;´・ω・`) 「大丈夫ですか?」

話しかけても反応がないところを見るに、もう生きてはいまい。
一陣の風が老婆の身体を崩していく。
黒く変化した部分はひどく衝撃に弱いようだ。


(´・ω・`) 「こんな病気は見たことない……」

もし感染力の高い菌であるのなら、既に感染してしまったかもしれない。
果たしてこのホムンクルスの身体はいったいどうなるのか。
少なくとも風邪や他の病気にかかったことは無いけれども、どうなるかはわからない。


僕は好奇心と心配を半々に村へ向かうことにした。

(´・ω・`) 「とは言っても、南ってどの位行けばいいんだ……」

少なくとも、目の前は砂しか存在しない。
村があるとは到底思えないけれども、とりあえずは南に向かうとしよう。

(;´・ω・`) 「水は十分あるけれど……あっついなぁ……」

冷たい水が喉を潤してくれる。
今回、この砂漠行に当たって用意した特殊な水筒のおかげで、随分楽な旅路になってる。
気温が高いところでも、影響されることなく冷たさを保ってくれる代物。


122 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:54:22 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「ふふふ……」


内藤と違って僕は実用的な物しか作らない主義なんだ。
これだって売りに出せば相当の金が稼げるに違いない。

一つ作るのにも相当な手間がいるから、売ろうとは思わないけどね。

(´・ω・`) 「これで三つめか」

大きな砂丘を跨ぐこと三つ。

(´・ω・`) 「あれか……」

小さなオアシスを中心にして集落があった。
簡易テントから察するに移動型部族なんだろう。

(´・ω・`) 「一体どうなっていることやら……」


生きた人間の空気がしない。
およそ生活痕は残ってないし、出歩いている人も見えない。


全滅も覚悟で村の一番で前にある家を覗いた。


123 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:55:09 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「失礼します……」

悪臭漂うテントの中には真っ黒になった数人の死骸。
本来、死体が腐ればそこに蠅が湧くものだけれど、その様子はない。

(´・ω・`) 「これは酷いな」

乱雑に積まれた数十人分の死体と、元は人間であったであろう黒い山。
細かい炭の欠片にしか見えない。
おそらく二十人ほどの死体になるだろうな。

「誰だ?」

(´・ω・`) 「!!」

死体の山から声が聞こえた。
がさがさと動き、中からその声の主は姿を現した。

ともかく、生き残りがいるのはありがたい。
死体の山に埋もれていた相手を視認した時、驚き顎が外れるかと思った。



川 ゚ -゚) 「ショボン……」

(´・ω・`) 「クール……?」


124 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:55:55 ID:lsHJEv/k0


川 ゚ -゚) 「君とこんなところで会うとは思わなかった」

(´・ω・`) 「僕もだよ……」



無限を生きる僕は、同じく無限の人間と接することになる。
今日会った人間の、そのずっと先祖も知っているかもしれないし、
その子孫にも会うかもしれない。

世界が滅ぶまで、僕は新たに出会い続けるだろう。


その中で、ほんの少しだけ例外がいる。

僕の生み出した罪の生き物。

四人のホムンクルス達。


125 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:56:35 ID:lsHJEv/k0



怖くて

寂しくて。

僕は罪を形にしてしまった。
与えられた知識を用い、生み出してしまった。

最初の一人には、全ての知識を。
そして僕は自らの過ちを知った。

自らの命を断とうと、意識を寸断してしまった彼女を見て。

次に生み出した三人は完全な知識を与えることはしなかった。

それでも共に時を過ごすうちに内藤以外の彼らは僕を嫌い、姿を消してしまった。。
今はどこで何をしているのか知らない。

たたひとつ、死んではいないだろうということ以外は。


そして後一人。

あの忌々しい悪魔。
命以外の僕の全てを奪い取った男。


126 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:57:21 ID:lsHJEv/k0


川 ゚ -゚) 「変わらないな」

(´・ω・`) 「お互い様だろう」

川 ゚ -゚) 「そうでもないんだがな」

クールが持ちあげた腕は黒く、掲げられたそばから崩れていく。
血は一滴すら流れない。

(´・ω・`) 「それは……」

川 ゚ -゚) 「ああ……ホムンクルスが、病気になるとは、思わなかったか?」

(´・ω・`) 「何をしたんだ?」

彼女の会話を聞きとるのは苦労した。
喉も病に侵されているのか、一言喋るごとに間が空くからだ。

川 ゚ -゚) 「なぁに、ホムンクルスを殺す、研究だよ……」

(´・ω・`) 「……」

返す言葉がない。
彼女は僕と別れてからおよそ百数年の間、自らを殺し続けたと言うのか。


127 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:58:22 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「……」

川 ゚ -゚) 「痛みは最初の、十年で慣れた。こうして、遊牧民族と一緒に、行動しているとな、
      色々珍しい場所にも行くからな。錬金術を対価に、養ってもらっていた。
      そこで開発したのが、この薬……いや病と言った方がいいだろうな」

クールは自重気味に呟いた。
彼女は自らを殺すために、一つの部族を全滅させてしまったことを知っている。

川 ゚ -゚) 「彼らを、殺すつもりはなかった。私は病が完成した時、静かにこの場所を離れた。
      小高い丘の上でそれを飲み、滅んでいくつもりだったのだ。
      私の身体は砂に埋もれ、この世の終わりまで見つからなかっただろう。それを……っ!」

苦しそうに息をする。

(´・ω・`) 「……」

川 ゚ -゚) 「……」

彼女が噛んだ下唇はぽろぽろと崩れていく。
涙が頬を伝って流れおちる。

川#゚ -゚) 「伝染しないように努力したつもりだった!」

あらん限りの叫び声は、彼女を壊した。


128 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:59:07 ID:lsHJEv/k0


川 ゚ -゚) 「君も終わりだな……ここで共に朽ちるのを待とうじゃないか」

(´・ω・`) 「……お断りするよ。僕はまだ、死ねない。それに……その病を後世に残すことは人間にとってどれ程の脅威か。
      それは分かっているだろう?」

川 ゚ -゚) 「……っ」

彼女とて人間を巻き込むのは本意ではないのだろう。
その時の自殺願望が勝っただけで、永遠に後悔し続けるに違いない。

川 ゚ -゚) 「勝手にやってくれ……私はこのまま朽ちていく。邪魔をしないでくれ」

目を瞑り眠ったように見えるクールを残し、僕は外の空気を吸った。
これが空気感染するのか、それ以外で感染するのか全く分からないせいでどうにも変な気がする。

(´・ω・`) 「さて、まずは探索かな……」

テントの数は意外と少ない。
一つずつ調べても大した手間にはならないだろう。


129 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 09:59:52 ID:lsHJEv/k0


(´・ω・`) 「ここは違う……ここも……ここも……」

それぞれに、ぼろぼろに崩れた死体が山と積んである。
まるで墓標のように、テントの下には死体が眠っていた。

中心にあるオアシスに密接した少し大きめのテント。
そこで僕は目当ての物を見つけた。

特殊な器具が所狭しと並べられている。
錬金術師の居所だ。

(´・ω・`) 「何を作ったのかを調べないといけないわけだけれど……きったないなぁ……」

よくよく考えてみれば、僕らの誰一人としてラボを綺麗にしている奴なんていなかったな。
ブーンはアレだし、クールもこの通り。
あいつに至っては……。

僕はそもそも研究所を持たないからなぁ……。

ざっと机の上を眺めるとすぐに見つけることができた。
こんなにもわかりやすく置いてあるとは思わなかったけど。


130 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:01:35 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「ふむふむ……使ったのは鈍色サボテン、岩蠍。黒死病をベースにして……。
       粗方分かったな……。後はどうやって解毒するか、か」

細かいところはクールに直接聞かないと分からないだろう。

クールの眠るテントへの道すがら、ふと気配を感じて振り向いた。

「……」

一人の少年が立っていた。
腕は他の人と同じく患っていたが、随分とその範囲は狭かった。

(´・ω・`) 「君!」

「?」

首を横にかしげる。
どうやら言葉は通じるらしい。

(´・ω・`) 「……話せないのか……?」

コクリ、と頷いた。

(´・ω・`) 「ちょっと来てくれ……」


131 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:02:26 ID:lsHJEv/k0

腕を取り、病巣をよく調べる。
痛がるそぶりを見せないということは、もうすでに組織が死んでしまっているのだろうか。

(´・ω・`) 「後は、クールから聞き出すだけか」

錬金術は素材を的確な順番に調合することで、目的の効果を得る。
そこには術師の実力と意思が大きく関わってくる。

病巣のサンプルは嫌になるほどある。
だけど研究室で見つけた図には、肝心のことが書いてなかった。
クールが何を思い、どう考えて病原菌を作成したのか。

(´・ω・`) 「それさえ聞き出せれば、対為す調合はできるはずだ……」

「……」



(´・ω・`) 「クール! 生存者がいた!」

川 ゚ -゚) 「!?」

予想通り飛び起きてくれた。
その際に身体がばらばらに砕けて少年を酷く驚かせてしまったが。


132 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:03:09 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「この少年を助けるためにも、手助けがいる」

川 ゚ -゚) 「だけど……」

(´・ω・`) 「いつまでもつかわからないんだ!
       調合にも時間がかかる」

何を迷う必要がある。
巻き込みたくなかった部族の生き残りだ。
助けないでどうする。

(´・ω・`) 「……」

川 ゚ -゚) 「…………メモをとる準備をしてくれ」

(´・ω・`) 「!」

クールの話は簡単だった。

調合で最も重視したのは持続性だということ。
どんな怪我でも完治してしまうホムンクルスの再生力は並大抵の毒では覆せない。

転移し増え続ける病巣の速度が再生を上回ることで死に続けることができる。

(´・ω・`) 「つまり……病原体の繁殖を抑えればいいわけか」


133 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:04:21 ID:lsHJEv/k0

川 ゚ -゚) 「感染源はおそらく、患部との接触によるものだ」

(´・ω・`) 「彼は一人で暮らしていたからな。感染が一番遅かったんじゃないか」

「…………」

(´・ω・`) 「君の研究所を借りるよ」

クール置いて飛び出した。
なにしろ時間がない。
既に少年を触ってしまった僕にも移っているに違いない。

クールのように動けなくなってしまえば、薬を作り出すことはできない。
何より早さが重要視される。

研究所にある素材を一つずつチェックする。
強い解毒効果は必要ない。
細菌の動きを緩めるだけでいい。

ただそれの酷く強力な奴を作らなければいけない。

少年の死んだ肌の細胞を純水に溶かし、少しだけかき混ぜる。
解毒作用を持つ月光草を潰して加え、煮沸する。

冷たい試験管の中に集まった水滴を人数分にとりわける。

─────三つの試験管に


134 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:05:06 ID:lsHJEv/k0

最後に、生き物の動きを鈍らせる成分を含んだ千年岩を粉末状にし加える。

(´・ω・`) 「よし……」

数日間月の光を浴びせ、調合を落ち着けさせることで完成する。

擬似的な月光を発生する月光石とともに暗室に放置した。
これで僕も、少年も……クールも助かるだろう。

ただ少年の場合は病巣を完全に取り除かなきゃいけない。
これは僕の仕事じゃない。


彼女がするべきことだ。


135 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:06:13 ID:lsHJEv/k0



(´・ω・`) 「できた」

三日という短い期間で薬は完成した。

少年の症状の進行は早く、半身に広がっていた。
すぐに薬を投与し、布を敷いた簡易ベッドで横になっていてもらう。

(´・ω・`) (それにしても恐ろしいものを作ったな……)

自由に扱える左手で薬を飲む。
実感はない。
確認する方法はただ一つ。

既に言うことをきかなくなっていた右腕を机に上に乗せ……

左手で刀を抜き、自分の右腕を斬りおとした。

……つもりだった。

(´・ω・`) 「いったっ!痛っ! これ無理! くそっ……」


136 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:07:19 ID:lsHJEv/k0

自分の力で斬り落とせないのなら仕方ない。
口と左手を使って、椅子に刀を縛り付けた。

(´・ω・`) 「ふー」

覚悟を決め机から飛び降りた。
右脇に刀が入り込むように。

(´・ω・`) 「うぎぎ……っ。はぁっ……はぁっ……」

勢いよく跳ねあがった右腕は地面に落ちると同時に分解していく。
もし、薬がうまく働いているのなら……ん?

……待てよ。

(´・ω・`) (薬の作用は病巣の進行を緩めること……。
       もし血液に乗って全身に回っていたらどうすればいいんだ……?)

復活した右腕は正常だけれど、既に病魔が巣くっている可能性があるわけか……。

(´・ω・`) (嫌だなぁ……つまり身体を一回綺麗にしなきゃいけないわけだよな……)

あーあ。
完全に不安を拭うにはそれしか方法がないか。

病原菌を持ったまま旅を続けるわけにもいかないし。


137 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:09:16 ID:lsHJEv/k0

……テントの中ではできないな。
ラボから火種の元になる強力な爆発物を持ち出す。




(´・ω・`) 「……クール。行くよ」

無視するクール。
肩を掴んで引き起こそうとした結果、腕だけがとれてしまった。



川 ゚ -゚) 「…………」



(´・ω・`) 「…………」

今度は身体全体を抱えるように持ち上げる。

川#゚ -゚) 「何をする気だ!」

抵抗する力は赤ん坊よりも弱い。
そんな彼女の軽い体を集落から少し離れた場所まで運んだ。


138 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:10:14 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「今から、君を助ける」

川;゚ -゚) 「頼む……やめてくれ……後生だ……」

(´・ω・`) 「生き残った少年には治療が必要だ。それはわかってるはずだよね?」

彼の両腕はもう使い物にはならないかもしれない。
それでも彼はまだ生きている。

川 ゚ -゚) 「それは……君がやってくれ。君ならできるはずだ」

眼をそらすクール。

(´・ω・`) 「逃げるなよ。自分の罪から逃げるな」

川 ゚ -゚) 「……君がそれを言うか……私達を生み出した君が!!
      君さえいなければ!! こうはならなかった!!!」

クールの言葉は僕の心に深く刺ささった棘を押し込む。
ぐりぐりと捩じり込む。



(´・ω・`) 「……僕のことは関係ない。今は君のことを話している。
       君は償わなければならない。僕がそうしようとするように」


139 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:11:35 ID:lsHJEv/k0



川 ゚ -゚) 「…………」


(´・ω・`) 「僕の旅は自分探しだ。否定はしない。でも、それだけじゃない。
       ホムンクルスを殺す方法もまた、僕は探し求め続けている。
       探し続けなければならない」


川 ゚ -゚) 「…………」

(´・ω・`) 「やるぞ……」

小さなかけらを思いっきり地面にたたきつけた。





次に僕が意識を取り戻した時、足元は深く抉れていた。

川 ゚ー゚) 「……無茶苦茶をする」

再生を終えたクールが話しかけてくる。
両腕は元の白さを取り戻しており、顔色も健康そのものだ。


140 :名も無きAAのようです:2011/12/24(土) 10:14:11 ID:lsHJEv/k0

(´・ω・`) 「さって、暫くはここを離れられないか」



深くため息をつくクール。
その顔に笑みはない。

川 ゚ -゚) 「恨むからな……。私は絶対お前を許さない」

(´・ω・`) 「……ああ」

川 ゚ -゚) 「ただ、それはそれだ。あの少年を救うために力を貸してほしい」

クールが頭を下げるのを見たのは初めてかもしれない。
どの道、完治が確認できるまではここを離れるわけにはいかないのだ。

(´・ω・`) 「……わかった」

僕と彼女は集落で待つ少年の元に駆け戻った。

彼を助けるために。





5 ホムンクルスは治すようです  終了


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