ブーン系男子の雑記◆K8iifs2jk6

ブーン系を書いている◆K8iifs2jk6の雑記。 自作品まとめたり読んだブーン系の感想書いたり雑記書いたり、色々やりたいと思ってます。

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('A`) ドクオは亡国の兵士のようです 第3話

4 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:14:44.08 ID:h1LJb/Jm0
国の為に戦った。

国を守る為に、そこに住んでいる人を守る為に。
俺には友達や仲間と言うべき人はいなかった。恋人もいなかった。
でも、それでも。守るべきで物、守りたいと思う気持ちがあったことに変わりはない。

母親と行った街中の映画館。

俺は、そこが大好きだった。そこを他国の爆撃機が爆破し、粉砕し、
母と歩いた街に死体が転がることを思うと、ぞっとする。

守りたい、今までを。守りたい、これからを。

正直に言ってしまえば、俺の人生なんて物は、
さして恵まれた物でも無いし、俺自身大した人間でも無い。

けど、だけれど。守りたいと言う気持ちはあった。

戦い続けていく中で、俺は一つの物を得た。

戦友。

しかし、守りたかったものは失われてしまった。亡びてしまった。
戦いの果てに、戦友達は死んでしまった。亡くなってしまった。

―――――戦友は亡び、国は亡んでしまったが。
      されど亡国の兵士は下された命令を復唱し、
        軋む心で、機械で出来た身体で戦い続ける――――――




5 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:15:55.02 ID:h1LJb/Jm0


     ('A`) ドクオは亡国の兵士のようです



         第3話 象徴の出現





7 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:17:38.41 ID:h1LJb/Jm0
******

          【強化骨格】
――――自動変動モードより、任意固定モードへ変更。
     人工筋肉稼働率、70%での稼働開始―――――


街中に置かれた巨大銀行の、
シャッターの降りた玄関へ突貫する者が一人いる。

長大な、身の丈を裕に超える、
湾曲した巨大な方刃、バトルアックスを構え、
濃緑色の軍用コートを羽織った、奇妙なスーツ姿の男。

   「強化骨格!!」

奇妙なスーツの名を、野次馬の誰かが叫び上げた。


10 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:20:23.50 ID:h1LJb/Jm0

人々がどよめき、口々に、

   「強化骨格……?」「ニューソクの兵士!?」「ニューソク人?」
  「どうしてニューソクの兵士がここに居るんだ!」

疑問の声を上げる。

が、直後にけたたましい金属音が鳴り響き、
身の毛がよだつ金切り音に彼等は耳を塞いだ。

大型車の体当たりですら防ぐ、
強固なシャッターに突き立った分厚く巨大な刃。
破片が飛沫きを上げて、シャッターが破砕される。

振り下ろされたバトルアックスは、強化骨格の人工筋肉と、
電動アクチュエーターから生み出される力に耐えきれず、穂先から砕け散ってしまう。

強化骨格の男は鉄クズとなったバトルアックスを放り捨て、
銀行の内部へ突入していった。


11 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:21:07.79 ID:h1LJb/Jm0
******
  _
( ゚ ゚) 「突入したか」

6階建てビルの4階オフィスの窓から、
銀行の窓を狙撃銃のスコープ越しに覗く、
ヘルメットとマスクで顔を隠した男が呟いた。

オフィス内にいる会社員達は、
突然現れた、内紛鎮圧を掲げる部隊の隊員達に面食らっている。

狙撃銃を構える男の隣に立つ兵士が、油断なく社員達を見渡す。
 _、_
( , ` ) 「あまり気にしなくて良いぞ。仕事を続けてろ」

男と同じく、顔を隠したその兵士が言う。

だが、こんな非常事態に通常業務をこなせるような、
訓練された会社員はそうそういないだろう。


14 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:22:09.50 ID:h1LJb/Jm0
我関せず。

その一念を頭に浮かべ、
社員達は自分の机に向かうが、皆どこか上の空である。

額に脂汗を浮かべて緊張している者もいる。

同じく、狙撃銃を構えた男と同じ銃を構えた、
顔を隠した大柄の兵士が、マスクの下で汗を垂れ流す。
彼は狙撃銃のスコープを覗き、銀行の窓に照準しているが、
どこか落着きが無く、息が荒いように思える。

ξ゚ ゚)ξ 「落ち着きなさい。大丈夫。落ち着けば当てられるわ」

傍に控えた兵士にそう言われるが、狙撃銃を構えた大男は、

(;^ ^) 「人質がいるのに、突入していいのかお?」

震える声音で尋ねた。


15 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:23:32.00 ID:h1LJb/Jm0
ξ゚ ゚)ξ 「アンタは自分の役割を果たしていればいいの。
      与えられた役割を全力でこなす、それだけが私達に出来ることだから」

僅かな沈黙の後、彼は諦めの入った声で言う。

( ^ ^) 「………わかったお」

顔は隠されてはいるが、目だけは覗くことが出来る。
彼の傍に控えた兵士はその目を見て、
心の中に暗雲が立ち込めているのだと、そう察した。

人質無視の突入作戦。

そう言われ、気持の良い物では無い。

しかし、容赦なく敵を叩き潰し、無残な死体の山を築きあげることが、
暴動の抑止力になるというのも事実である。


17 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:24:17.99 ID:h1LJb/Jm0
徹底的に、完膚なきまでに、圧倒的な力を見せつける。

逆らい、歯向かい、武器を手にして力を手にしても、
たかが民ごときに軍の前では敵わないのだと。

皆殺し。

今戦っている馬鹿共を殺し尽くすことで、
今大量殺人を行うことで、次に暴動を行う者が居なくなり、
殺す必要が無くなるのならば。

結果的には、長期的に見れば、
人死には少なく済むのだと彼等はそう教え込まれている。

力による恐怖。

これこそが最上の抑止力である、と。
だが、この新人の大柄の兵士は未だに理解できていないようだ。


18 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:25:14.97 ID:h1LJb/Jm0
******

銀行の中は横に広く、利用者が多い為に椅子が大量に設置されている。
今、仲間達が占拠し、そこには人質達が身を寄せていた。

いきなり警備員が射殺されたかと思えば、
すぐ隣にいた人々が急に銃を抜き、
それを自分達に突き付けてきたのだから、当然の反応と言えるだろう。

私は、そういった広場の光景を眺めていた。

    「ペニサス」

名前を呼ばれて振り返る。
銀行内は薄暗く、顔を帽子とスカーフで隠した男が誰かは分かり難いが、
とりあえず、仲間であることは察することが出来る。

('、`*川 「どうしたのよ?」

短く、問いを投げかける。

     「軍隊が来たみたいだ。奴ら、交渉には応じないようだ」

苦々しく、伏せ目がちに言う仲間。
彼の声でやっと誰か分かった。


20 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:26:44.82 ID:h1LJb/Jm0

えーと、確か……えー……。
名前はよく分からないが、たしか、
ニューソクとの戦争で家族を失った仲間だ。

('、`*川 「へー、やっぱり? そんじゃ、気を引き締めましょーかねー」

沈痛な面持ちをした仲間に、気楽にそう応えてみる。

     「あぁ、やりたくはなかったが。奴らがその気なら人質に手を掛けることになるな」

さっきよりも苦しげに、忌々しげにそう言い捨てる仲間。
どんよりとした空気が私達の間に流れたかと思えば、いきなり、

銀行内に轟く異音が私の鼓膜を揺さぶった。

崩壊の音が下から聞こえてきて、
奥の壁際から玄関へと振り返ると、シャッターがぶっ壊されていた。

薄暗闇が晴れて行き、玄関から光が差し込む。
それを背景として、男が一人立っていた。
濃緑色の軍用コートを羽織り、黒い強化骨格スーツに身を包み、
左右にホルスターが二つずつ付いた、タクティカルベストを装着している兵士。

強化骨格。

ニューソクについて少し詳しい者ならば、
その名を知らない者はいない、サイバネティックスの結晶。



22 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:27:56.50 ID:h1LJb/Jm0

この男の事は知らない。

なぜこの兵士がここに居るのかは分からない。

でも、この男は、この兵士は何と呼ばれていたのかは分かる。

世界最強の軍事大国で戦い続けてきていた、
世界最新の装備を扱う部隊で守り続けていた、
世界最高の技術を持つ兵士として抗い続けていた、兵士。

戦闘狂達の最精鋭。

強化兵士。

私は、6年前には戦場に出ていた身だ。
戦場での、彼等の働きを良く知っている。

思わず、息を飲み込み、すぐにそれを吐き出した。

私の喉の奥から、叫びが生み出される。

('、`;川 「早く! 早くそいつを撃ちなさいッ!!」

が、既に遅く、奴の銃弾が私の仲間を撃ち抜いてしまっていた。


23 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:28:45.14 ID:h1LJb/Jm0
******

    「こっちには人質がいるんだぞ!」

帽子を被り、スカーフで顔を覆った男が、
片手で扱える短いショットガンを突きつけて、
藍色のベストとスーツを着た銀行員の女性を盾にする。

右手を腰に伸ばし、ホルスターから巨大なリボルバーを引き抜く。

と、僅かに遅れて。

    「――――――ッ!」

人質や犯人達、全員が息を飲み込む。
銀行内に響いた銃声と、銀行員と男の頭が吹き飛んだからだ。

それもそうだろう。

大口径を超えた超大口径のこのスティレットに、たった一人分の肉壁など無いに等しい。



25 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:30:07.99 ID:h1LJb/Jm0

('A`) 「人質なら無駄だぞ」

女性の悲鳴が銀行内に上がる。
それを皮切りにして、犯人達は一斉に俺へと銃を突き付け、

('、`;川 「早く! 早くそいつを撃ちなさい!」

奥のほうから女の声が聞こえ、犯人達は引き金を引こうとした。

が、ガラスの割れる音がして、
窓際に居た犯人の数人が、頭から血を立ち昇らせて倒れる。

一瞬、咄嗟の動作であった。

ほんの一瞬、窓のほうへと犯人達は振り返る。
だが、その僅かな隙は、俺と相対するには致命的なミスとなる。

未だ玄関に居た俺は、その瞬間に地面を後ろへと大きく蹴って、
姿勢を低くして、疾走の動きを作る。速度重視で一直線に駆け抜けて行き、
手甲が装着された拳を構えて、俺の直線状に立つ男に接敵していく。

間合いは無くなり、零距離。


27 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:31:51.83 ID:h1LJb/Jm0
疾走の勢いをそのまま拳の威力と変え、鉄拳を男の横っ面に見舞う。

肉を削る音がし、衝撃に首をあらぬ方向にねじ曲げて、
鉄の拳を食らった男は骨ごと顔の肉が抉れてしまった。

血が飛散して、身体を捻じ曲げて男は倒れて行く。

ここまでの動きで、一瞬が過ぎ去った。

窓に浴びせていた視線を、
犯人達はこちらへと引き戻して、
はっとしたように銃口を突き付けてくる。

が、もう遅い。

拳を放った姿勢から身を翻し、
宙空を縦に180度回転して、背後の男へと足の爪先を食らいつかせる。
具足が装着された、鉄の足だ。それが頭頂部に突き立ったか感触を得ると、
男の頭が破裂し、中に詰まっていた物がぶちまけられてしまった。

次いで、着地と同時に俺は膝をついて前転。
一回転を終え、手を地面について足を上に突き上げる。


28 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:34:03.68 ID:h1LJb/Jm0

破砕音。

骨が、歯が、肉が、顎が砕け散って行く音。

目前に居た銃を構えた男の顎に、
具足から放たれる蹴り炸裂した。

返り血に濡れて行く鋼色の具足。

蹴りの衝撃に宙へと浮かび上がって行く男。
そいつに一瞥もくれずに次の行動へと移っていく。
振り上げられた右足。残った左足で、一足飛びで目前へと跳躍。
右肩を大きく回し、腕を真っ直ぐに伸ばしていく。

空を割っていく俺の右手。

振り下ろされることによって、それは手刀となる。
手刀は、手甲と強化骨格の力によって生み出される手刀の威力は、
文字通り、手の刀だ。


30 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:35:49.14 ID:h1LJb/Jm0
脳天に振り下ろされる右手。

ただ、普通に右手を叩きつけた。
が、男は剣で切りつけられたように、真っ二つとなってしまう。

立ち割られていく、男の体。

血が飛沫を上げて、人間という袋に詰まりに詰まった血液が、
男であった物の足もとに水溜りを作っていく。
鋼色の手甲が赤く染まっていき、俺の体も返り血を浴びてしまった。

しかし、負傷はしていない。
犯人達は、どうやら味方への誤射を恐れて、俺を撃てないようだ。

……立派な考えだな。
まぁ、その考えを利用するのが俺なんだけども。
内心に苦笑を浮かべて、敵へと接近していく。


32 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:39:18.40 ID:h1LJb/Jm0
敵が少ないってのも、やり難いもんだろ――――っ!

拳を放ち、犯人の女の顔を殴り飛ばした。
そして、また次の敵へと向かう。

なるべく、敵の多い場所へと、最もこちらから近い位置にいる敵へと。

でも、哀れなもんだな、こいつら。
不平不満を言う為に、こんなことまでして、
今、こんなことになってしまい、殲滅されてしまうのだから。

怖いんだろうなぁ……。

だけど、こいつらはやり方を間違えた。
やり方を間違えられ、それを今、軍という強大な力に叩かれている。

言わば……


33 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:40:25.32 ID:h1LJb/Jm0
―――――見せしめだよなぁ……

もっとも、見せしめの処刑人である自分が言うのも変な話だ。
しかし、嫌悪感や、不満は感じない。

この、人質無視の突入作戦に対して、そんなものを感じない。

これは、自分の任務なのだから。自分に下された命令なのだから。
国を失った自分が、国の為にやるべき戦いの一つなのだから。

迷いはしない。迷う理由は無い。

自分に下された任務を、自分の役割を、
この機械の体で、全力で果たすだけだ。

それが、“国”の為になると信じて。

ふと、疑念が自分の中で生まれる。

もしかしたら―――俺は成長していないのかもしれないな……


35 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:41:42.08 ID:h1LJb/Jm0
******

ドクオが銀行へ突入してから、3分が経過した。

中からは悲鳴と銃声が外まで響いて来ていて、
敵味方の掻き鳴らす音が入り乱れており、
戦闘が行われていることを私に実感させる。

盾を構える兵士達の後ろ、そこに私は身を隠している。
しかし姿勢は堂々と、腕を組んだ、所謂仁王立ち。

私は銀行を見据える。

巨大な玄関に、堅牢なシャッターに覆われていたはずの玄関に、
爆撃でもされたかのような大穴が穿たれたそこに、視線を寄せる。

だが、物陰に隠れた犯人達は見えず、銃火が銀行内に灯るのが見えるだけだ。

悲鳴が上がる。

これは、犯人の物だろうか?それとも、人質の物だろうか?
もしくはドクオの物だろうか?

更に、悲鳴。

悲鳴が連続して銀行から響き渡り、阿鼻叫喚となる。
私がこうして、戦場となった、惨劇の舞台となった銀行を覗く間も、
戦闘は続き、惨状は拡大していく。


37 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:42:59.53 ID:h1LJb/Jm0
銀行が武装した市民達に乗っ取られた。
そこはニューソク人達に対する扱いの、政府への抗議の場とされ、
8人の警備員は全員殺されてしまい、銀行員と客を人質に取られてしまった。

これだけでも、充分に悲惨な事件だ。

だが、我々がここへ突入しなければ、
私がドクオにそう命じ、兵士達に狙撃をさせ、
包囲させなければ、ここまで惨たらしい物にはならなかったであろう。
最悪、奴らの要求を呑めば、これ以上の死人は出なかった。

そう、死人は出ない。

しかし、奴らの要求を受け入れれば、
ニーソクは五大国連合の一員としてニューソクに挑み、滅ぼしたにも関わらず、
ニューソク難民への援助の一切を行わずに、ただの侵略者として生きて行くこととなる。

他の4大国は援助を行っているのにも関わらず、
ニーソクは滅ぼした者としての義務を果たさずに、だ。


38 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:43:47.69 ID:h1LJb/Jm0
それではいけない。そうであってはいけない。

これからは、これまでとは違い、
ニーソク、オオカミ、パーソク、テンゴク、シベリアといった、
五大国が中心となって、世界を循環させていくのだから。

一国の、一大国家の、巨大な力によって均衡が保たれる。
ニューソクの、世界の警察の時代は終わったのだ。

世界最強の軍事国家。

その、亡びを以ってして。

足並みを揃える。五大国が、五つが、一個となって。

その為にも、その為には、
……国の内紛を収めねばなるまい!

ましてや、奴らの要求を飲み込むことなど、
ドクオにとって好ましくない事態だ。
あいつは、“国”の為に戦っているのだから。


40 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:45:09.01 ID:h1LJb/Jm0
だから私は命ずる。

人質が居ようとも、

川 ゚ -゚) 「撃て、眼前に立つ者を」

武器を持つのが民間人であろうとも、

川 ゚ -゚) 「討て、一切の躊躇無く敵を」

たとえ誰かに恨まれるようなことがあろうとも、

川 ゚ -゚) 「打て、自らのエゴを叫ぶ奴らの横っ面を」

一息を吸って、

川 ゚ -゚) 「命令だ、命令だ鬱田ドクオ! 私は命ずるぞ、お前に!
      聞け、国を失いし兵士よ! 聞け、ニューソクの精強なる戦士よ!」

川 ゚ -゚) 「立ち塞がる者は全て倒せ。障害となる者は何者であろうとも排除せよ!
      眼前の敵を、目前に立つ敵達を、エゴを掲げる目障りな馬鹿共を、
      雁首揃えて殲滅せよ! 掃滅せよ! 徹底的に、徹底的に! 我等のエゴと力を以って滅ぼし尽くせ!」

マスクを脱いだ素顔のままで、私は銀行内にいるドクオへ再び命令を下した。


42 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:46:25.23 ID:h1LJb/Jm0
******

     「立ち塞がる者は全て倒せ。障害となる者は何者であろうとも排除せよ!
      眼前の敵を、目前に立つ敵達を、エゴを掲げる目障りな馬鹿共を、
      雁首揃えて殲滅せよ! 掃滅せよ! 徹底的に、徹底的に! 我等のエゴと力を以って滅ぼし尽くせ!」

外から空気を伝って振動が響き、銃声と悲鳴が喧噪を作り出す、
銀行の中でも聞き取り易い、凛とした女性の声が聞こえてきた。

('、`*;川 「おっかないこと言ってくれるじゃないの!」

彼女のセリフに、命令に、恐怖を感じる。

言葉自体は、部下を激励しているように聞こえるが、
私の心に恐れを生み落とした。

滅ぼし尽くせ。

この言葉が、今は恐ろしくてたまらない。
殲滅。そんなこと、こちらが本気で逃げる気になれば、
充分避けられるはずだ。


44 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:47:49.85 ID:h1LJb/Jm0
だが、逃げる意欲さえも奪わせる、
圧倒的な恐怖と力が、目前にあるのだ。

銃を構え、引き金を引き、銃火を生み出す仲間達。

私も、必死に銃撃を行う。

目前に居る、敵へと。
6年前に戦った時、初めて見た敵。
その者達は初めは少なかったのだが、次第にその数を増やしていき、
やがて、群をなして私達に襲いかかってきた、敵。

  「があぁぁっ!」

断末魔を上げて倒れる仲間。
彼の傍に立つ、敵。

……強化兵士……強化骨格………ッ!

弾丸の雨を避けて、撥ね退けて、
手甲を赤く塗らして血の雨を降らす敵。

銃口を向け、弾丸を放つが、俊敏な動きで駆け抜けていく敵は、
獰猛な獣の如き勢いを以って仲間に食らいついていく。
肉を抉る生々しい音と、骨の砕音が響いて、仲間が倒れてしまう。


45 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:49:02.85 ID:h1LJb/Jm0
('A`) 「………」

生気の無い表情で、
しかし、鬼のような恐ろしい目付きで私を見た。

敵は地面を大きく蹴って、疾走の動きを作り出そうとする。

悪寒。

背筋に冷たい物を感じて、襲いかかる恐怖を振り払おうと、
私は銃を握りしめ、敵へと向けて銃口を定めて、

   「ペニサス! 危ないっ!!」

直後、後ろから仲間が私にタックルをかましてきた。

衝撃に身を地面に打ち付けられた、
それよりも早いか、窓ガラスが砕ける甲高い音が耳朶を打つ。
次いで、肉が穿たれる音。


47 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:50:42.24 ID:h1LJb/Jm0

('、゚*;川 「ッ!」

ハッとして後ろへ振り返ると、
男が顔に巻いた白いスカーフを赤く染め上げ、
目を見開いたまま、頭に赤点を穿たれて倒れてしまっていた。

恐怖。

隣人が死んだことによって、更なる恐怖が心を、体をも支配してしまう。
震えが体に生まれ、足は竦む。

だが、銃を握ることだけは止めない。

しがみ付くような、縋りつくような、
元兵士には見えない情けない恰好かもしれない。


49 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:51:33.62 ID:h1LJb/Jm0
戦場で最も信頼できるのは、力の象徴たる武器である。

警備員の排除を担当した班に組み込まれていた私は、
昔から愛用していた、AK74という突撃銃を持ってきていた。

今は、ひしと恋人に抱きつくかのようにそれに抱きついている。

不安は、多少なりともそれだけで晴れる。
だが、根底からこの負の感情を拭い去る為には、
こんな扱い方をしてはいけない。

私は震える体を立ちあがらせ、敵へと銃を突き付ける。

その先、敵は、

('A`) 「はっ」

勢いよく吐き出した息と共に、私の銃を拳で砕いてみせた。

力の象徴は、信頼できる相棒は、失われてしまった。


51 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:53:35.92 ID:h1LJb/Jm0
******

先程まで銃声と悲鳴が上がっていた銀行内は、すっかりと静まっていた。

しかし、これは比喩的言い方で、
先程までと比べては、という話であり、
それほど静かだと言うわけでも無い。

生き残った人質のすすり泣く声や、
死を目前に控えた者の嗚咽が、銀行内に響く。

……大方片付いたようだな。
見回すと、既に立っている者は一人しかおらず、
今、その一人もドクオの間合いに入っている。

だからドクオは、遠慮なく拳を叩き込んだ。

が、最後の1人の女は腰を引かして尻餅を着く。

(;、;*川 「うっ…うぅっ……」

咽び泣き、嗚咽が彼女の赤い唇から漏れ出る。
空を掻きそうになった拳を、伸び切る直前に納めて、
ドクオは溜息と共に拳を収めた。

(;、;*川 「お、お願い、助けて……」


52 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:54:23.27 ID:h1LJb/Jm0
******

こんなことなら、こんなことなら止めておけばよかった。

確かに、ニューソクは憎い。
何故奴らに自分が命がけで働いて得た金を、
それで収めた税金を使われなければならないんだ。

皆、同じ不満を持った者達だった。

戦争狂のあいつらが、戦争で滅んだのだから、
あいつらを保護し、援助する必要は無いと、自業自得だと。

私達は、そう考えていた。

そんな奴らよりも、世界にはもっと貧しい思いをしている者がいる、とも。

革命だ。ニューソクの奴らを追い出そう。
奴らの住むべき国は無く、この世界に奴らが住まうべきではない、
ニューソク人を追い出す為ならば、命をかけようと、そう息巻いていた。私達は。

だが、所詮は金の惜しさと憎しみの為に行った行為に過ぎない。

今、私はそう気付かされた。
敵を前にして、憎むべき敵を前にして、私は泣いて命を請う。


54 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 21:55:16.16 ID:h1LJb/Jm0
こんなことなら、止めておくべきだった。

命よりも大切な物など無い。
私は、久しく出ていなかった戦場に立ち戻り、
その気持ちを忘れていた。

身体を擦り減らして生きることで、実感できる生。

私は今、それを取り戻していた。

(;、;*川 「お願い……やめて……」

もしかしたら、やり直せるだろうか?

(;、;*川 「何でもするから………」

だとするなら、私は本当に何でもしよう。
もっと、もっと別の方法があるはず。自分達の意志を伝える他の方法が……。

嗚咽を噛み殺して、言葉を作った。

直後、銃声が響いたかと思うと――――


58 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:02:56.08 ID:h1LJb/Jm0
******

('A`) 「だったら死ね」

ドクオはスティレットの銃口をペニサスの頭へと押し付けて、撃ち抜いた。

35mmという巨大な銃弾の衝撃に、
彼女の頭は耐えきれず、拉げてしまう。

ひっ、と人質達は悲鳴を上げる。

一瞬後に、外から銃声が聞こえてきた。
どうやら銀行を包囲していた兵士達が発砲したようだ。
大方、逃げ出した敵を撃ったのだろう。

ドクオは周辺を見渡すと、体内通信を開く。

('A`) 【内部の敵は全て排除した。人質は……3人死亡したようだ。こちらの損害は無い】



60 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:04:16.44 ID:h1LJb/Jm0
******

銀行から、ドクオが出てきた。

濃緑色の軍用コートには赤い染みが出来ているが、
彼の体には一切の傷が認められなかった。

返り血こそ浴びてはいるが、突入前とほぼ変わらない格好だ。

その姿に、隊員達も、警察も、野次馬も、
皆、全員息を飲み込んでしまう。
だが、一人だけ平然とした顔で出迎える者がいた。

川 ゚ -゚) 「ご苦労だ。帰還するぞ」

短くそう労ったのはクールだ。
対するドクオは、

('A`) 「了解」

短くそう応えるのみ。

突如、風が吹き、運ばれてきた、
周囲に立ちこめる硝煙と血の臭いが鼻を突く。

野次馬達の中には吐き気を催した者もいるようで、
手で口を押さえて苦しそうにしている。

そんな光景を尻目に、彼は一足先に装甲車に乗車していく。


62 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:05:54.74 ID:h1LJb/Jm0
******

装甲車の中で、横に長い座席に座って揺られる兵士達。

顔をマスクで覆った兵士達は、
暑苦しそうにそれを自分の顔から剥いでいき、
汗まみれの体を皆に晒す。

彼等の中で、ジョルジュが口を開き、
  _
(;゚∀゚) 「やれやれ、市街戦ってのは顔を隠さないといけなくて嫌だね。暑いったらねー」
  _、_
(; ,_ノ` ) 「まぁ、こればかりは我慢するしかないな。
       人殺しの顔を引っさげて、街中を歩く度胸は俺達にはないからな」

汗を垂らした顔で渋澤が言う。
  _
(;゚∀゚) 「変に恨まれても嫌だしね~……」
 _、_
( ,_ノ` ) 「恨まれるのがこの仕事だ。平時には、必要とされず、
      経費を落とされ、無用とされていく職業だ。
      軍備などより、民間人への施しにしろと、な」
 _、_
( ,_ノ` ) 「あー……クソ。本当に面倒な職業だ。
      戦時には守ってやってるにも拘らず、人殺しと蔑まれちまうんだからな」

吐き捨てるように言い、渋澤は眉を顰める。


64 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:07:02.89 ID:h1LJb/Jm0
  _
( ゚∀゚) 「ふ~ん。じゃあ、あいつらは恨まれたいのかね」

「あ?」と疑問符を浮かべて、
ジョルジュへと視線をやる渋澤。
  _
( ゚∀゚) 「ドクオと大尉はマスクしてなかったよな、ただでさえ目立つってのに、
      あいつ、正体バレバレだったぜ? 皆強化骨格だのニューソクの兵士だの言ってやがった」

なぁ、と問いかけるように言葉を続けて、
  _
( ゚∀゚) 「やっぱこれって、見せしめ? パフォーマンス?」

疑問を投げかけられた渋澤は、
顰めていた眉を緩めて、言葉を作る。
 _、_
( ,_ノ` ) 「あぁ……だろうな。それも、露骨なまでに」
  _
( ゚∀゚) 「…………」
 _、_
( ,_ノ` ) 「…………」

黙りこくる二人。

静まり返る車内には、一切の言葉が生まれない。
どこか重苦しい空気が流れ、
二人は、「ふぅ……」と溜息を吐いた。

呆れ、ともとれる表情を浮かべる。



66 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:08:10.06 ID:h1LJb/Jm0
すると、突然として会話に乱入してくる者が来た。
体格の良い青年は、顔に怒りの一字を浮かべて、

(#^ω^) 「じゃあ、じゃあっ! 人質はそんな物の為に死んだって言うのかおっ!!」

いきり立ったブーンが、怒鳴り声を上げる。
端の席に座り、今まで俯いていた彼は、
二人の間に割って入って、

(#^ω^) 「僕達が殺したようなもんじゃないかお!
        僕達はっ! 僕達は何の為に戦ったんだおっ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ 「ぶ、ブーン……落ち着きなさいよ」

鼻息を荒くしたブーンを、宥めるようにツンが声を掛ける。
怒り心頭といった彼にうろたえる彼女と、対照的に、
 _、_
( ,_ノ` ) 「テロリスト共を排除する為だろ」

飽き飽きとした、しかし芯の通った声で渋澤は応える。


68 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:09:27.78 ID:h1LJb/Jm0
(#^ω^) 「僕達兵士は―――」
 _、_
( ,_ノ` ) 「任務は」

ブーンが反論の為に叫びを上げようとしたが、渋澤の声に遮られ、
 _、_
( ,_ノ` ) 「任務の内容は、俺達の仕事は、
      銀行を占拠した民間人の武装グループの排除、だった」

車内の兵士達は、黙して彼とブーンへと視線を送る。次いで、
 _、_
( ,_ノ` ) 「そうだったと俺は思うんだが、何か違うとこがあったか? ジョルジュよぉ?」
  _
( ゚∀゚) 「うんにゃ、変わりないぜ。そうだったと、それだけだったと、憶えてるぜ。
      任務の内容だ。大事な大事なお仕事の、な。忘れるわけもねーよ」

確認の声に、ジョルジュは気楽な声で応えた。
  _
( ゚∀゚) 「俺達の仕事に、人質の保護は、人質の確保は含まれてない」


71 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:10:28.48 ID:h1LJb/Jm0

(#゚ω゚) 「――――ッ!」

陽気な声で、冷たい言葉を作るジョルジュに、
ブーンは犬歯を噛み絞めて、息を呑みこむ。渋澤はそれを見て、
 _、_
( ,_ノ` ) 「そういうわけだ。気にしても仕方のないことだ。
      俺達は、俺達の役割を立派に果たした。今回の俺達の仕事ぶりに恐れを無し、
      次にあんな馬鹿をしでかす奴が出ないよう、祈ることしか俺達には出来ねーよ」

(#゚ω゚) 「見せしめ……かおっ!?」
 _、_
( ,_ノ` ) 「言ってしまえば、な。こちらの損害は0。
      あの強化骨格は負傷すらも無い。全くムカつくことにな……」

言い淀み、不機嫌な表情で彼は、
 _、_
( ,_ノ` ) 「あの野郎は、見世物の処刑人の役割を果たしやがった。
      あれだけ馬鹿げた力を目の前にすれば、恐れもするだろうよ」


74 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:11:33.18 ID:h1LJb/Jm0
******

渋澤達とは別の装甲車に乗ったドクオは、
ニーソク軍中央基地に辿り着いていた。研究所の区画の一室に入り、
様々な機具の置かれた、広い部屋だ。

パイプで出来たベッドに腰を掛け、
ドクオは手足に装着されている防具を外していく。

シャキンは、床に並べられていくそれを両手で持ち上げて、

(`・ω-´) 「ふーん……流石に頑強だ。強化骨格の力でも、使用に耐えうるとは」

片目を閉じて、舐めまわすように脚甲を調べていく。

塗装の施されていない、鋼色のそれには、
ドクオと相対した者達の血糊がこびり付いているのだが、
彼は全く気にも留めていないようだ。

(`・ω・´) 「あぁっ!」

だが、いきなり彼は声を上げて、


75 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:12:20.66 ID:h1LJb/Jm0

(;`・ω・´) 「つま先の装甲が0.7cmほどへこんでいる! 直さねばっ!!」

('A`) 「あ、いや。使っていればへこんだり擦れたりするのは仕方ないんじゃ……」

(;`・ω・´) 「否! 断じて否だ! あの程度の戦闘でへこむようではいかん!!」

('A`) 「充分な性能だと思うんですがね。
    あまり装甲を厚くしても使いにくくなるだけだし」

(`-ω-´) 「ふーん……では、せめて塗装はしておくよ……
        ついでにロケットパンチの機能も増設しておこう」

(;'A`) 「ついでどころかメインじゃないか」

呆けたようにドクオが言い、渡辺が部屋に入って来て、

从'ー'从 「それじゃ、ドクオさん。お疲れのところ悪いけど、検査させて貰うよ」

('A`) 「あ、はい。わかりました」

从'ー'从 「今回は怪我しなかったから良いけど、
      調べておかないとどうやって処置すればいいか分からないからね~」

少女のようにあどけない笑みを浮かべる彼女。次いで、

从'ー'从 「あ、それって脱げるんですか?」


76 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:13:04.55 ID:h1LJb/Jm0
('A`) 「はい?」

問われ、その意味が分からないドクオに、

从'ー'从 「そのスーツですよ。ファスナーとか無いように見えるけど……」

付け加えた渡辺は首を捻る。

('A`) 「あぁ、≪強化骨格スーツ≫ですか……」

ドクオは合点がいったようで、言葉の後に音を作る。

空気が漏れ出る音が室内に生じ、
ゴムのような材質をしたダイビングスーツのようなそれから、
圧縮空気が噴出し、首元に埋め込まれた器具が外れる。

すると、≪強化骨格スーツ≫の上半身が浅く二つに裂け、
下半身を残してドクオは上半身を露わにさせた。

彼の体には無数の傷が刻みこまれており、
新しい皮膚と古い皮膚が、継ぎ接ぎのような不自然を醸し出している。

しかし、新しい皮膚も、古い皮膚も、
普通の人のそれと比べて、色素が薄いように見えた。
白い肌ではあるが、白人の物でも無く、黄色人種の物でも無い。



78 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:16:46.50 ID:h1LJb/Jm0
从'ー'从 「≪人工皮膚≫………すごい!」

その肌の正体を知る渡辺は、名を口にして、喜びを声にした。

世界で最も進んだ技術を持った国。
ニューソク国のサイバネティックスが一つ、人工皮膚。

从'ー'从 「柔らかく、人間の皮膚のように、自然治癒が行われる合成樹脂。
      すごい。ホントにすごいよ。ニーソクの義肢技術じゃ、こんなの絶対作れっこないよ!」

しかし、ニューソクの技術者達は作り上げた。
戦場で重度の火傷を負った兵士の手術の為に。それが、当初の目的であった。
時代が進むにつれ、その皮膚用途は多様化し、こうして強化骨格を作る為にも使われている。

从'ー'从 「強化骨格……全身義肢化手術。他に、どんな物があるんだろ……」

目の前の、ニーソクにとってはオーバーテクノロジーにも近いそれを、
見つめる渡辺は科学者としての喜びに、身を震わせた。

純真な少女のような笑みは、どこか妖艶な物を孕んで、

从 ー 从 「じっとしててねドクオさん……」

Σ(;'A`) 「………ッ!」

その異変に、ドクオは言い知れぬ危険を感じる。
直後、廊下から慌ただしい足音が幾つも響き、
震動が床を通じて伝わってくる。


80 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:19:19.95 ID:h1LJb/Jm0

    「検診の時間だ!」「解体だぁー!!」「おちんちん見せい!」

部屋の扉が開くと、白衣姿の波が押し寄せた。

皆、手にハンマーやスパナ、ドライバー等を持っており、
更にはチェーンソーを持った者までもいる。

(;'A`) 「じょ、冗談じゃ……」

从'ー'从 「ドクオさん」

渡部に呼ばれ、彼女へと向き直るドクオ。

すると、背後でシャキンがメスを握ったのが目に入った。
身を強張らせ、苦笑いがドクオの顔に浮かぶが、渡辺は満面の笑みで、

从^ー^从 「へっへっへ。なぁに、天上の染みでも数えてればすぐに終わるよ」

直後、チェーンソーの稼働音が室内に響き、白衣姿がドクオへと殺到する。

Σ(;A;) 「いやぁぁぁぁぁっ!!」


81 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:20:09.38 ID:h1LJb/Jm0
******

    「いやぁぁぁぁぁっ!!」

川 ゚ -゚) 「む……」

軍服に身を包んだ、切れ長の瞳を持つ女性、
素直クールが自室で机に向かい、コーヒーを呑んでいると、
男の叫び声を聞いた。

川 ゚ -゚) 「嫌なのに感じちゃう……ビクビクッ!ってか」

部屋の中で一人呟き、カップを傾ける。

コーヒーの苦みが口内を刺激し、香ばしい匂いが鼻腔を満たす。
カップを机に、トン、という小気味の良い音とともに置くと、彼女は口を押さえる。

川つ ゚) 「フフフ……」

先程の自分の言葉に、自分でウケてしまったようだ。

だが、内心に「今時流行らないだろうなぁ……」と苦笑して立ち直り、

川 ゚ -゚) 「あいつら、好奇心旺盛だからな……」

呟いた直後に、けたたましい機械の駆動音が聞こえてきた。
肉食獣が唸るようなその音に、身の毛を僅かに弥立たせてしまう。
あの音は……と呟いたクールは、


82 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:20:50.88 ID:h1LJb/Jm0

Σ川 ゚ -゚) 「機具プレイとは豪華な……っ!!」

その後に彼女は肩を震わせて、口に手を当てると再び笑いを堪える。

川 ゚ -゚) 「あぁ、私のボケは素晴らしい」

川 ゚ -゚) 「そう、シュールギャグ……と言うのかな?」

妹と芸風が被ってしまうな……と苦笑を浮かべるクールは、
さて、と気を取り直して、机の上に置かれた書類に向かう。

川 ゚ -゚) 「今回の一件は、想像以上にデカイ物となったようだな」

川 ゚ -゚) 「ふむ、私の処遇はどういった物になるものかね」

人質を無視した突入作戦。いままでも行ったことはあるのだが。
ドクオが確認した限りでも、人質の損害は3名だけなのだが、
その報告を行った、彼が問題であった。

世界最強の軍事大国、ニューソクの元兵士。
武装グループのように、ニューソク人を快く思わないものは大勢いる。

まぁ、と彼女は口を開き、

川 ゚ -゚) 「全て予測した上での、作戦だったのだがな」

カップを手にとってコーヒーを呷った。


84 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:22:12.53 ID:h1LJb/Jm0
******

青く透き通っていた空は、既に黒く染まり上がっており、
太陽に移り変わって半分に欠けた月が明かりを照らしている。

だが、光を灯しているのは、それだけではなかった。

仕切りの作られた通路に立ち、火薬の燃焼する音と共に、
銃火で周囲を照らしている者がいる。

銃声が響き、木で出来た人の標的は腹を穿たれる。
夜間用に、ナイトビジョンゴーグルを男は掛けているが、
闇の中を見渡せようが、見渡せまいが、男には関係が無いようだ。

( ⊆ω⊇) 「おっ……!」

気合いを込めて銃弾を放つ。
が、頭を狙ったはずの銃弾は、腹へと撃ち込まれていった。

( ⊆ω⊇) 「ち……」

舌打ちを一つして、再び照準する。

頭の中心にある小さな丸を狙って、引き金を引く。
引き倒された引き金は、銃弾を吐き出す動きを銃に促すが、
カツン、といった金属音が虚しく響くだけだ。


86 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:23:15.75 ID:h1LJb/Jm0
( ⊆ω⊇) 「弾切れかお」

呟き、バックパックから弾倉を取り出そうとすると、
いきなり後ろから声をかけられ、身体をビクリと震わせてしまう。

ξ゚⊿゚)ξ 「休憩時間にまで訓練なんて、何時からそんなに努力家になったのかしら。ブーン?」

彼が振り返ると、カールされた金髪が美しい女性、
ツンが背後に立っていた。

( ⊆ω⊇) 「僕は……」

ξ゚⊿゚)ξ 「気負うのも良いけど」

ブーンは言葉を作ろうとしたが、ツンにそれを遮られてしまう。

ξ゚⊿゚)ξ 「それだけじゃあ、強くなれないわ。
       どれだけ強くなったとしても、アンタは人質を守れやしなかったの」

ゴーグルを取り、ブーンが口を開き、

( ^ω^) 「もしかしたら、僕がもっと早く敵を撃ってれば……」

ξ゚⊿゚)ξ 「無理。無理よ」

ξ゚⊿゚)ξ 「たった一人、アンタが強くなったって駄目なの。
       人質を救うには、救う為の状況と手段、装備、人員を揃えないといけなかった」


88 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:24:06.20 ID:h1LJb/Jm0
( ^ω^) 「………」

ξ゚⊿゚)ξ 「私達は、交渉人じゃないでしょ? 内紛を鎮圧する為に組まれた部隊。
      即時対応、即殲滅。それをなす為に作られた部隊。私達は私達の役割を果たしていればいい。
      アンタはアンタの、ね。今回の役割は、私達の今回の仕事は、人質の救出なんかじゃなかった」

ξ゚⊿゚)ξ 「いい加減、受け入れなさい。何の為にここにいるのアンタは?」

尋ねられ、ブーンが答えを返そうとするが、
ツンにそれを手で遮られ、

ξ゚⊿゚)ξ 「なんにせよ、こんなことやめなさい。あまり、根を詰めても意味はないわ」

それだけ。そう二の句を継いだ彼女は、背を向けて去っていく。

先輩であるツンの背を見届け、ブーンは再び銃を握る。
自分の役割を果たす。たしかに、今回の自分達の仕事には、
人質の救出は含まれていなかっただろう。

だが、もし自分の所為で、自分の弱さの所為で、
役割すらも果たせなくなってしまったら?
自分の引き金に、民間人や、仲間の命が掛かっていたら?
その時、敵を撃ち抜き、救えるのだろうか?

人の命の重荷。

それに対し、ブーンの中では恐れにも似た不安が生まれ始めていた。

彼は、そんな感情を忘れる為にひたすら銃を握る。
日に日にスコアが落ちて行くとも、予想だにせずに。


90 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:25:33.94 ID:h1LJb/Jm0
******

翌日、基地内の通信室でオールバックに髪を整えた、
軍服姿の初老の男が机の上に設置された画面へと向かっていた。

男の向かう画面は、いくつにも渡って分割されており、
分割されたそれには、勲章が飾られた軍服を着た者達が映っている。

( ・∀・) 「皆、今朝の朝刊は見たかね? 私の知りうる限り、
       大抵の新聞社ではあの事件が一面に出されているのだが」

初老の男、モララーは画面の下にあるマイクへと声を掛ける。

すると、スピーカーから返ってくる声があった。

( ´∀`) 「いや、テレトー新聞では来期アニメの宣伝が書かれていたモナ」

分割された画面の内の一つで、
口に動きを作った目尻の垂れ下った初老男、モナーの発言に、

( ・∀・) 「そう、昨日の銀行占拠の件だ」

モララーは無視をして話を進める。

(;´∀`) 「モナっ!? 無視モナっ!?」


92 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:27:08.42 ID:h1LJb/Jm0

( ・∀・) 「この事件は、知っての通り。素直クール大尉が率いる、内紛鎮圧部隊に解決に当たらせた」

(;´∀`) 「モララー、僕のこと無視かモナ!? テレトーはアニメの宣伝していたんだモナ!
        テレトーではあの事件について、一切触れていなかったモナよ! 事件について詳しく説明して欲しいモナ!!」

必死に捲し立てるかのように言うモナーに対し、彼は、

( ・∀・) 「皆、画面の端に発言がチャットとなって表示されているだろう?
       そこにMONAと書かれている者をNG登録してくれたまえ。音声も聞こえなくなるから便利だよ」

(;´∀`) 「えぇー、何の説明も無しモナか!?」

( ・∀・) 「では、雑音も聞こえなくなった所で話を戻そうかね。
       彼女の率いる素直中隊。その中でも実動小隊と呼ばれる即時対応可能な部隊が、まず銀行を包囲した」

( ´∀`) 「スルーするモナか? スルーかモナ?」

( ・∀・) 「そして、7分後には中隊が到着し、狙撃班と包囲班に分かれた。ただ、一人を除いてね」

まさか、とモナーが呟き、

(;´∀`) 「本当にNG登録したのかモナーッ!?」

問うが、返ってくる声は一切無く、
画面に映る者達は皆、真剣な顔をしている。


94 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:28:17.72 ID:h1LJb/Jm0

(;´∀`) 「クッソー、どうせみんな画面から見えないとこで、
        ケータイいじったりゲームしたりしてるくせにっ!!」

負け犬の遠吠えよろしく彼が叫ぶが、声が彼等に届くことはない。

( ・∀・) 「この一人が問題なのだよ。今は亡き、ニューソクの兵士。
       それも、強化骨格を埋めた、強化兵士、だ。名は、鬱田ドクオ」

( ・∀・) 「彼は他の隊員達の援護射撃と共に、たった一人で銀行へと突入した。
       内部には、人質がいた。勿論、犯人達も。クール大尉は、迷わず命じていたそうだ」

( ・∀・) 「人質ごと殲滅しろ、と。この命令自体は、私は彼女らの部隊の性格を考えて、問題はないと思っている」

      「だが、ニューソクの兵士が我が軍で戦っているのは問題では?」

彼等に比べ、比較的若い男が、モララーに疑問をぶつけてくる。

      「ニューソクは大罪人だ。彼等に、銃を持たせることは許されない、と自分は思う。
       彼は、裏切るのでは? 聞けば、元はゲリラ戦を繰り広げていたそうじゃないか」

       「スパイ……ということもありうるわけか」 

次に、頷きを見せるのは、モララーよりも少し歳を取った男だ。

       「近頃、ニューソク軍の残党の活動が活発になってきているそうじゃあないか。
        もしかしたら、奴の仕業やもしれぬぞ? 芽を潰すのならば、今のうちだぞ」 


96 : ◆K8iifs2jk6 :2009/06/20(土) 22:29:07.17 ID:h1LJb/Jm0

( ・∀・) 「潰すような真似など、私はする気はないね。
       私は、とても面白い兆候であり、彼は、それに対する脅威となりうる、と考えている」 

笑みを浮かべてモララーが言う。
「面白い」その一語に画面に映る彼等は息を呑み、

       「モララー、貴様。自分の役割を忘れてはおるまいな? 一度、聞こうか。貴様はどちらだ?」

( ・∀・) 「私は私の側だよ。しかし、この国を思い戦うというとこは、君達とは変わらぬがね。
       その戦いの駒に、彼は非常によく使えると、私はそう言いたいだけだ」

      「では、数々の不満をぶつけられたとしても、それを黙認してでも、奴を使う、と?」

( ・∀・) 「そうとも。彼の、その背景すらも使いこなして見せようじゃあないか。
       かつての、最強の軍事大国が作りだした強化骨格。それを纏いし、亡国の兵士。
       新聞を見て、一目で気に入った言葉があったのだよ。彼に相応しい、二つ名がね」

捲し立てるような口調のモララーは、一息を吸い、次いで、

( ・∀・) 「“亡国の鬼”良いと思わないかね? 戦後のニーソクを、
       奇跡の勝利によって緩み切ったニーソクの緊張感を、引き締め直す良い刺激になると思わないかね?」

( ・∀・) 「あの事件は良い、あの行動は良かった。素直クール。よく分かっているじゃあないかね。
       彼は、あの亡国の兵士は、あの亡国の鬼には、これから恐怖の、暴力の象徴となって貰おうじゃないか」

言葉を吐き出したモララーは、手元にある新聞を一瞥し、
『恐怖の象徴、亡国の鬼現る!?』と言った見出しを確認した。
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  1. 2011/10/06(木) 13:06:29|
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