ブーン系男子の雑記◆K8iifs2jk6

ブーン系を書いている◆K8iifs2jk6の雑記。 自作品まとめたり読んだブーン系の感想書いたり雑記書いたり、色々やりたいと思ってます。

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('A`) ドクオは亡国の兵士のようです 第14話

4 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:26:12.56 ID:LfO9N7N60
平和な世界を脅かす物がある。

戦争に疲弊した世界に響く声がある。

絶叫だ。

国を失った敗北者達の絶叫の声だ。
彼等は戦闘を望み、彼等は祖国の復活を望み、彼等は死を望む。

彼等は叫び上げる。

己のエゴを。

世界にそれは虚しく響くが、やがて昼となった世界へ轟いていくこととなった。

絶叫が響く。

亡国の兵士達の雄たけびをニーソクの者達は聞く。

一人、ただ一人ニーソクの側に居る亡国の兵士も、それを聞いた。

彼の耳朶を亡国の兵士達の絶叫は震わせる。
彼は、彼等の裏切り者は静かに、堂々とその叫びを受ける。

だが、裏切り者は己の内なる絶叫には耳を傾けはしなかった。



5 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:26:55.26 ID:LfO9N7N60



        ('A`) ドクオは亡国の兵士のようです



    第14話 夜の世界―――強化骨格VS二足歩行戦車―――



5 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:26:55.26 ID:LfO9N7N60



        ('A`) ドクオは亡国の兵士のようです



    第14話 夜の世界―――強化骨格VS二足歩行戦車―――



6 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:27:37.04 ID:LfO9N7N60
******

医務室に、いや、基地中に響きわたる警報の音に、
俺は思わず身を強張らせた。

「西方面と東方面から所属不明の部隊が接近中!
 二足歩行戦車AAも確認できる。市民の避難を誘導し、
 出撃可能な部隊から順次出撃せよ! 迎撃用意!!」

スピーカー越しの声が耳朶を打ち、敵が接近しつつあることを知らせる。

……AAもいるのか!?
驚き、反射的に身を置き上がらせようとする、

(;゚A`) 「ぐっ……!」

が、背筋の痛みに苦い声を漏らしてしまう。

右手を背へと回して押さえようとするが、
右腕から手の先まで痛みが走った。

眉を歪め、伸ばそうとした手を押し留める。

……酷いなこりゃ。
何とか上半身を起こした俺は、
自分の身体が擦り減っていることを再認識した。


7 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:28:21.90 ID:LfO9N7N60
从'ー'从 「ドクオさんは休んでて下さい。大丈夫です」

ベッドの脇に置かれたパイプイスに座る渡辺さんが、
無理やり起き上がろうとする俺を見て言った。

……あぁ、そうだったな。
と内心に頷いて、

('A`) 「そうでしたね」

短い言葉で返す。

('A`) 「俺はここで待機。命令はそれだけだ」

渡辺さんは俺の言葉に無言で頷く。

どこかほっとしたような彼女は、パイプイスに座ったまま、
この部屋から出ていこうとはしない。

……ここにいていいのか?
そう思い、俺は尋ねてみる。

('A`) 「行かなくていいんですか?」

从'ー'从 「私はドクオさんの見張り。やることありませんしね」

返ってきた答えに、俺は呆れにも似た感情を得る。
そしてこうも思う。


8 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:29:04.43 ID:LfO9N7N60
……俺、信頼されてないな。
しかし、こうも思われているのかもしれない。

……戦いたがりのウォージャンキー。
戦うことに喜びを感じ、戦場の緊迫した状況下にスリルを感じ、
人を殺すことで快楽を得る。そんな奴に思われているのかもしれない。

('A`) 「心配しなくても動けませんよ。俺はここで待機してます」

動きたくても、人工筋肉が筋肉痛を起こしている為に、
俺は上手く動くことが出来ない。

だから、ここでじっとしている他無いのだ。

回復の余地も無い上に、人工筋肉を換装できる予定も無い。
生体式人工筋肉は今のニーソクには作れない。
機器式人工筋肉ならば取り換えることが出来るかもしれないが、
強化骨格に、人間に取り付けられるようなサイズは、ニーソクには無いだろう。

よって、俺は現在のこの国の技術ではただ待つことしかできない。
ニーソクのサイバネティックス技術がニューソクのレベルに到達する、その日まで。

……何時になることやら。



10 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:30:04.63 ID:LfO9N7N60
俺はここで待機するしか無い。次なる命令が下るまで。
AAが含まれた部隊となると、恐らくはニューソク軍の残党だろう。

敗れたとは言っても、最新の装備を持ち、
極めて高い錬度を誇るニューソク兵の残党だ。
そんじょそこらのゲリラやテロリストとは訳が違う。

中でも、もし、強化骨格手術を受けた兵士の生き残りがいれば、
こちら側の兵士達は苦戦を免れないだろう。

最悪、敗れることになる。

いや、勝ったとしても、
……損害はデカいだろうな。
強化骨格がいなかったとしても、残党が本気で攻めてくるとなれば、
多大な損害は免れない。避けられない。

……大勢死ぬな。ニーソクの兵士達は。
奴らは強い。こちらの兵士達を凌駕する。
その力は個々人の力、兵士一人一人の力だ。

数ならばこちらが圧倒的に上だ。
が、それを補う為のAA。

AIによる自律戦闘を行う二足歩行戦車。
あれは、従来の戦車とは比較にならない程に歩兵との連携が上手い。



11 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:31:06.31 ID:LfO9N7N60
キャタピラで動く戦車は小回りが利かず、
歩兵との連携を取りにくかったが、キャタピラを排し、
両足を取り付けることで機関銃などの搭載兵器の射角が高くなり、
小回りも利くようになった。

更に、歩兵達にナノマシンを埋め込むことにより、
AAのAIはそれとリンクし、戦場の状況をリアルタイムでホストコンピューターへと送り、
コンピュータから導きされた歩兵達の援護に最適な行動を取る。

例を挙げるとするならば、戦場に敵戦車が現れた場合、
歩兵を守る為にAAは優先的に戦車を潰す。

歩兵の障害になる物を真っ先に排除し、歩兵の行動に合わせて進撃する。

人間では、人の操縦ではこんなことを行えないだろう。
仮に出来たとしても、そのレベルまで達するには並々ならぬ経験と時間が必要になる。

自律稼働が可能な、敵兵士を蹂躙し、戦車を薙ぎ払い、
どのような地形でも運用でき、味方兵士と連携を行う、
高速移動を行える鋼鉄の巨体。

間違いなく、現代戦最強の陸戦兵器だ。



12 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:31:52.67 ID:LfO9N7N60
ニューソクが生んだモンスター。

……大丈夫だろうか。
そんな物を相手にして、ニーソクの兵士達は大丈夫だろうか?
心配になるが、俺には命令が下っていない。

命令が無い限り、
……俺は戦う必要がない。
戦わなくて良いんだ。俺は。

だから、戦わない。

それでも、身体が何故か疼いて仕方がない。
何処からか怒りにも似た思いが込み上げてくるのを感じる。

そして、思う。

ニーソクの兵士達の事を。

……奴らは勝つだろう。

勝って、辛くも勝利を収めるだろう。
大勢の死人を出して。

俺の戦友たちと同じように、死ぬのだろう。


14 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:32:42.65 ID:LfO9N7N60
ふと、エクストの顔が脳裏に浮かんできた。

     <_フメー゚)フ

腹に風穴が空き、ボロボロになったエクスト。
口から血を吐きだして、どんどんと冷たくなっていく戦友。

……あいつのように死ぬんだろうな。
だが、それが戦争だ。戦い合うということだ。
仕方のないことだ。

瞼を閉じて、戦友の顔を思い出していく。
あちこちに跳ねた髪に、蒼白となった顔。
口元には黒い血が垂れている。

俺は溜息を吐く。


15 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:33:35.28 ID:LfO9N7N60

すると、瞼に戦友の顔が過ぎった。

    川 ゚ -゚)

俺をここに連れて来てくれた、ニーソク人。
敵であった、憎いはずのニーソクの兵士。
しかし、俺を導いてくれた、俺に新しい戦場を与えてくれた戦友。

素直クール。

彼女の仲間達が、死ぬかも知れない。
俺の国の残党達が攻めてくることによって。

……お前との約束の、敵になるよな。奴らは。
終わった戦場に残る俺を、お前は連れ出してくれた。

俺に、新しい“理由”を与えてくれて。
目標を掲げてくれて。

そのお前の仲間が、今、大勢死ぬかも知れない。

いや、もう既に、俺の仲間でもある、
ニーソクの兵士達が死ぬかも知れない。

死なせたくない、と思う。


17 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:34:31.54 ID:LfO9N7N60
でも、

……俺は機械だ。
命令が無ければ戦うことはできない。
命令が無ければ俺は動けない。

しかし、

……仲間は死なせたくない。

仲間達の顔が、瞼の裏をよぎって行く。
  _    _、_
( ゚∀゚) ( ,_ノ` ) ξ゚⊿゚)ξ ( ^ω^)

新しい、俺の仲間。

そして、まだ名前も顔も知らない、国を守る仲間達。

ニーソクの仲間達。

彼等が死ぬ。

……すまん。
ニーソクの兵士達に、心の内で謝る。

……俺は機械だ。命令が無ければ、戦えない。
朽ちかけた人工筋肉でどこまでやれるか分からないが、
命令さえあれば俺は戦い抜くだろう。

しかし、俺に命令は下って無い。


18 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:35:38.23 ID:LfO9N7N60

……ごめん。
もう一度謝り、心の奥底から聞こえてくる絶叫から耳を逸らし、
俺はそのまま眠ろうとする。

が、

「素直中隊隊員、鬱田ドクオさん。出撃し、遊撃を行ってください」

基地内に響きわたるスピーカー越しの声に、俺は目を覚まさせられた。
その声が語る言葉は、命令だ。

……命令が下りたか。
戦わなければならない、と嫌気の差した感情を思うが、
どこかで喜んでいる自分がいるのも、確かなことだった。

瞼を開けて、床に足を着ける。

パイプイスに腰を落ち着けた渡辺さんに向かって、

('A`) 「強化骨格スーツの用意、お願いします」

そう言った。が、渡辺さんは目を見開いて驚いていた。
彼女が返してくる言葉は、否定だ。



19 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:36:21.93 ID:LfO9N7N60
从;゚ー'从 「やめて! こんなの馬鹿げてるよ!!
       人工筋肉が死にかけてるんだよ!?
       戦闘稼働なんてやったら、動けなくなっちゃうかもしれないんだよ!?」

从;゚ー'从 「分かってるの!? 本当に分かってるの!? 自分の体のことを!!」

('A`) 「分かってますよ。お願いです。
    強化骨格スーツを持って来て下さい」

从;゚ー'从 「嫌だよ! そんなの、こんなのッ!
       死にに行かせるようなものじゃない!!」

('A`) 「これは俺に下った命令です。邪魔をしないでください」

从;゚ー'从 「死にに行く人を戦わせられるわけないじゃない!
       こんなの! こんな命令! あなたに死ねって言ってるようなものでしょ!!
       引き受けるなんて馬鹿げてるよ! 馬鹿のすることだよッ!!」

声を荒げて、必死になって否定する渡辺さんに、
俺は落ち着いて言葉を放つ。真実を。
どうしようもない、戦場の実態を語る。

('A`) 「渡辺さん。戦場では人が死にます。戦場は墓場なんです。
    俺達兵士はそこへと向かって歩いていく。
    どんな死に様が待ち構えていようとも、命令に従って只々死に向かって進んでいく」


21 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:37:54.08 ID:LfO9N7N60
('A`) 「守りたいモノを護る為に、死んでいくんです。
    護れるのなら死んだって構わない」

从;'ー'从 「生き残りたくないの? 死にたくないでしょ?」

('A`) 「生きるか死ぬよりも、護れるか護れないか。そっちのほうが大事なんですよ」

从;'ー'从 「でも……」

淡々と語る俺に、弱々しい抗議の声を彼女は上げるが、
それは別の声によって掻き消されてしまう。

医務室の扉が開き、

(`・ω・´) 「ドクオ。武器の手配は済んでいる。出撃しろ」

煤だらけのツナギを着たシャキンが、
強化骨格スーツを持って中に入ってきた。

渡辺さんはシャキンの方に振り返って、キッと睨みつけて、

从#'ー'从 「馬鹿!」

大声を張り上げた。

医務室の中に彼女の声が甲高く響き、


22 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:39:05.09 ID:LfO9N7N60
从#'ー'从 「ドクオさんが死んじゃってもいいのッ!?」

怒りの混じった声で聞く。

(`・ω・´) 「良くは無い」

短く、冷静にシャキンは答えた。

だが、と続けて、

(`・ω・´) 「こいつの任務を奪う気も無い。こいつの役割を奪う気もまた、無い。
       ドクオの任務は、役割は、私達を、ニーソクの人々を護ることだ」

(`・ω・´) 「私はこいつを死なせたくはない。だが、こいつの信念を、
       身体が弱ってるのを良いことに奪い取ってやりたくもない。
       ドクオは、こいつは兵士なのだから。弱り果てていても、
       命令がある限りこいつは行かねばならない」


23 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:39:48.14 ID:LfO9N7N60

(`・ω・´) 「ドクオの仕事は死地へと赴き、敵を倒して人々を守ることだ。
       そして私達の仕事は、性能の良い武器を作り、
       こいつら兵士達が生還する為の手助けをすることだ」

(`・ω・´) 「行ってくれるな? 行けるな? ドクオ」

シャキンは俺に強化骨格スーツを差し出して、尋ねてくる。

俺は強化骨格スーツを手にとって、着替える。
大きく二つに裂けた上半身部分を手に取り、足を入れていく。

入って行った足にゴムのような繊維が纏わりついていき、
身体全てを強化骨格スーツに入れて、首元にあるロックを懸ける。
空気が圧縮されていき、裂け目は無くなり、身体に完全に馴染んでいく。

肌に張り付いたように強化骨格スーツが密着した。
もはや、身体の一部と言っても過言ではない。

遅れて、俺はシャキンへと返答する。

('A`) 「それが俺の仕事だ」


25 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:40:32.57 ID:LfO9N7N60
******

ニーソク軍中央基地のある、首都ビー。

その街並みには兵士達が潜み、土嚢を置いたバリケードに隠れ、
銃を構えて、砲を構えて敵を待ち構えていた。

彼等の銃の先、砲の先、敵がやってくる。

数多くのニューソク製の堅牢な装甲車がエンジンを低く唸らせ、接近する。
ニーソクの兵士達は砲の照準を定めて、狙う。
停車する隙などは与えはしない。

が、装甲車の群を追い抜いて、迫る物があった。

      「―――ッ!」

逆くの字に折れ曲がった、生体式人工筋肉の浮き上がる強靭な、
巨大な両の足に、戦車の砲塔をそのまま取り付けたような六角状の胴。
上部に巨大な赤の一つ目が輝いているそれは、

      「AAッ!!」

ニーソクの兵士達の、誰かが叫んだ。

装甲車へと向けていた砲口を高速で駆け抜けてくるAAへと向けて弾頭を放つが、
弾頭は煙の尾を引きながら虚空を貫く。



27 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:42:05.74 ID:LfO9N7N60

      「なっ!?」

疾走の動きのままAAは跳躍を行い、兵士達の隠れるバリケードへと着地する。

重力に従って落下する巨体に彼等は踏みつぶされ、
バリケードは、戦車としては軽量ではあるが、
充分重い7tの重みが生み出す衝撃によって吹き飛ばされてしまう。

AAは装甲を軋ませて次の標的を探す。

その動きは、その軋みは、

     「―――――――――ッ!!」

猛獣の雄たけびのようにニーソクの兵士達には聞こえた。
AAの背後で装甲車が何台か破壊される。

AAを見ても迷い無く放たれた砲弾や擲弾が、それらを撃ち抜いたのだ。
しかし、残った装甲車は停車し、ニューソクの兵士達は降車する。

開かれたハッチから兵士達は降りて来て、隊形を組み、
片膝をついて銃を左右に振るい、物陰へと進んでいく。

戦場を見渡し、敵を発見したAAが疾走する。



28 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:42:52.03 ID:LfO9N7N60
ニューソクの兵士達はそれを見届けて、

    【こちらDチーム。現在西方面を進軍中。
     S-7をクリアした。引き続きS-6の制圧へと向かう】

ナノマシンによる、体内通信を行って報告をした。
が、次の瞬間、息を呑むこととなる。

彼の視線の先。ニーソク軍の中央基地があるその先から、
一つの異形の影が飛び出してきているのだ。

右腕が異様に大きく、体よりも巨大であり、
右肩には六つの筒を持った何かと、左肩には三つの砲らしき物を持っている。
AAはそれを発見したらしく、影へと向かっていく。

巨体が影を覆ってしまい、彼には見えなくなってしまう。


29 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:43:41.87 ID:LfO9N7N60
……一体、何だったんだ?
疑問符を彼は浮かべる。

何かは分からない。何であったのかは分からない。
ほんの一瞬だ。ほんの一瞬だけ視界に映った。
それが何であるのか判別できない程の、短い時間だ。

だが、あれは、

……人の形をしていたようだが。

ニューソクの兵士は、突如、衝撃波に身を振るわされる。
遅れて轟音が街の中を突き抜けていき、
彼はAAのほうを見る。

音が来た方面へと。

見れば、AAが地面に押し潰されてしまっていた。
カメラアイごと胴を叩き伏せられ、
上から来た衝撃と力に足が圧し折られて、只の鉄クズとなっていた。

AAが潰れたことで、彼の視界には先程見た影が映る。


31 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:44:38.95 ID:LfO9N7N60
   「あれはッ!?」

右腕だと思っていた大きな物は鉄の塊だ。
形状こそ斧ではあるが、それはあまりにも巨大すぎた。

そして右肩に背負う六つの筒は、重機関銃だ。
戦闘ヘリなどに積むような、これもまた巨大すぎる武器。
左肩には、ロケットランチャーが三つ背負われており、
APILASと呼ばれ高威力を誇る、使い捨ての物だ。

たった一人が運搬するにはどれも重すぎる。
たった一人で扱えるはずもない。

しかし、今彼の視線の先にいる者はそれを可能とする。

ニューソク国解体戦争中には数多くの戦果を上げた、
強化兵士部隊の一員であり、今では数少ない生き残り。
常人など比べ物にはならない身体能力と強大な戦闘能力を持ったその者は、

    「―――――裏切り者ッ!!」

ボロボロの濃緑色のコートを羽織り、
黒の強化骨格スーツを纏う強化骨格。

強化兵士部隊の生き残りであり、その生き残り達を狩り、
ニューソクの残党を狩り、ニーソクに牙剥く者を狩るその男は、

        『亡国の鬼』

鬱田ドクオだ。


33 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:46:04.67 ID:LfO9N7N60
ドクオへと彼は銃を向け、引き金を引く。が、

    「―――――ッ!?」

既にドクオはこちらへと踏み込んできており、
両腕で構えた巨大すぎる斧を身の捻りを加えて振るった。

横一線に振るわれる大斧。

ニューソクの兵士へと振るわれた刃は、
“斬る”などという勢いをすでに超えていた。

薙ぎ払う。

兵士を、装甲服に身を包んだ兵士を、兵士達を、
一気に、一撃の下に装甲車ごと薙ぎ払っていく。

超重量と怪力による圧力と衝撃に身を砕かれ、肉が骨ごと弾けていく。
装甲車は金切り音を上げて破片をばら撒きながら宙へと浮き上がる。
炎を抱いて、火に包まれていき、燃料に引火し、上空で爆発した。

破片が炎の尾を引いて落下してゆく。
たったの一振りで一個分隊が、ニューソクのDチームは壊滅してしまった。

火と血の雨を浴びて、ドクオは、

     ( ∀ )

笑みを浮かべた。


35 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:47:44.94 ID:LfO9N7N60
******

右腕に残る重い感触に、若干の手の痺れを感じる。

6mにも及び重量200kを超えた巨大なバトルアックス。
もはやこれは、人間に向けて振るう物ではなく、物へと向けて振るう物だ。

だからこれは、こう名付けられた。

 アンチマテリアルバトルアックス
  AMBアックス、と。

AMBアックスは、たったの一振りでニューソクの一個分隊を壊滅させた。

それも、装甲車ごとだ。200kと6mもの身の丈を持つ、巨体から繰り出される一撃は人を雑草の如く、
装甲車は枯れ木の如く、軽く切り捨てる高威力を生み出す。

……もっとも、振るえればの話だけどな。
俺は頭の中で呟いて、地面にしゃがみこむ。

すると、背中の上をAAの長く大きな足が通過していった。
身を回し、その動きから生まれる慣性力を用いて、
AMBアックスの一撃をAAの足へと叩き込む。

軸足に食らいついた刃が、強烈な衝撃を与えてAAの足を砕いた。
手に振動が響き、砕音が耳を打つ。

人工筋肉から黒い血が吹き出し、その下にあるフレームから火花が散り、
軸足を折られたAAは支えを失って地面へと倒れる。
衝撃が地面に走り、俺の足元を揺らす。


36 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:48:26.74 ID:LfO9N7N60
一歩を踏み込み、倒れたAAの胴にAMBアックスの一撃を見舞う。

振るい落とされた馬鹿デカい刃は胴を両断する。
装甲は拉げて火花が上がり、金切り音が耳朶を打ち、
火を吐いて炎上していった。

バックステップで距離を取った、その一瞬後に、爆発した。

衝撃波が熱風と共に空に広がって行く。

すると、一瞬という時間を以って、次々とAAが集まって来て、
全てのAAが俺へと視線を集めた。

砲口が、各機毎に設置された機関砲や榴弾砲の砲口が、俺を覗く。

AA達が、動きを作る。

装甲板を軋ませて生まれる音は、

「――――――ッ!!」

金属の獣達が発する雄たけびだ。

肉食獣が上げるような獰猛な声を上げて、
AA達はそれぞれの動きを作る。

……来る。と、思った。

……撃って来る、と、読めた。


37 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:49:12.47 ID:LfO9N7N60
撃たれるという緊迫感が俺の周囲を包み、
時間が停滞していく錯覚を感じる。

一瞬という時間が過ぎていくと共に、AA達の弾雨が俺へと浴びせられた。

だが、AA達が照準した先に俺はいない。
俺の背後で、爆発や銃弾が地面に爆ぜる音が響いていた。
そして目の前には、機関銃を放っているAAの銃声が響いている。

AA達の一斉掃射をBGMとして、俺はビルの傍に立つAAへ上空から接近。
AMBアックスを大上段に構え、思いきり全身の力を込めて、
AAの脳天、胴の上部装甲へと叩きつけた。

火花が散って行き、装甲の拉げる音が鳴る。
強烈な一撃を叩きつけられたAAは倒れ、俺はそのすぐ傍に着地。

すると、背後の風の流れに違和感を感じた。

何かが迫って来るような、そんな風の流れと風切り音。
どうやら、俺の攻撃後の隙を狙ってAAが近づいてきているようだ。

だから俺は着地の為に突いた両の足に力を込め、思いきり地面を蹴り上げた。
人工筋肉が痛みを訴えるが、意識の端へと追いやって忘れようとする。

跳躍し、空へと上昇の力を得て、上空へと昇って行く。



39 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:49:58.69 ID:LfO9N7N60
振りかえると、正面にはAAがいた。
奴の落下予定地点は先程まで俺のいた位置だ。

踏みつぶそうとしていたらしい。
だが、俺はそれよりも早く跳躍を行ったことで、
上空のAAへと接近していく。

そして、すれ違い様にAMBアックスを叩き込む。
跳躍によって生まれる慣性力を生かした、一撃。

AAは胴の装甲を抉られ、地面へと激突していった。

この高度から、そしてAMBアックスの衝撃を受けての落下速度では、
激突の衝撃を受けて無事で済むはずはない。
案の定、落下から数秒後にAAは炎を上げた。

俺は視線を正面へと戻す。

視線の先、AAが10m程離れた距離から榴弾砲を構えていた。
空中では身動きがとれず、回避行動がとれない。
無防備な俺を狙った砲撃だ。

空中はたしかに無防備だ。

だが、少し頭を捻れば攻撃を避けられないことも無い。

俺は両の腕で構えたAMBアックスを、背中の方へと持ちあげていく。
思い切り上半身を伸ばして、身を仰け反らせて。
すると、AMBアックスの重さに釣られて、俺の身体が引き寄せられていく。


40 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:50:49.94 ID:LfO9N7N60
足が上となり、頭が下になり、俺は車輪のように一回転した。

……もっとも、回り方は逆時計回りだが。
次の瞬間、俺の頭上を風が通過していき、背後で爆発が起きる。
振りかえりもせずに衝撃波を背に受け、俺はAMBアックスを右手のみで持ち替える。

自由になった左手には左肩に背負ったAPILASを構えた。
強力な弾頭を持つロケットランチャー。

巨大な砲で先程榴弾を放ってきたAAを照準し、発射。

煙を巻いて弾頭が発射され、鈍く大きな砲声が響く。
弾頭は狙い通りにAAへと突っ込んでいき、
AAの上部にある赤目のカメラアイを撃ち抜いた。

火柱を上げて爆発が起こり、AAは破片をばら撒く。

カメラアイを失ったことにより安全装置が起動したAAは動かなくなった。

……Nice Shot!
自画自賛ではあるが、内心に思う。
使い捨てである為にAPILASを放り捨て、着地する。

直後に、前方と後方から、

「――――――ッ!!」

仲間を殺された金属の獣達が、雄たけびを発して突っ込んできた。
二機のAAは俺を挟み込むように迫り、機関砲を乱射している。


41 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:51:43.16 ID:LfO9N7N60
危険だ。

この窮地を乗り切る為の判断を、俺は即座に下す。
AMBアックスを前面に押し出して、楯のように構えて、接近。

猪の如く迫ってくるAAに対し、俺も猪の如く突進していく。

肉厚の200kを誇る斧は、機関砲であろうが穿たれやしない。
俺の身体を覆うAMBアックスは火花を巻き散らしていく。

間合いが詰まって行き、AAは突進の勢いをそのままに回し蹴りを放ってきた。
地面を滑るような動きで放たれる一撃は、俺を薙ぎ払おうとする。
迫る足を跳躍でかわし、AMBアックスを大上段に構え、

(;゚A`) 「ぐ……っ!」

左肩と腰に、背後のAAの銃弾が食らいついた。
強化骨格スーツの防護繊維を貫いたそれは、俺の肉を裂く。が、

(;゚A`) 「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

咆哮を上げて自分を奮い立たせて、俺は構えた斧を叩き下ろす。

強力な一撃を受けたAAは、装甲を拉げさせて押し潰されていく。
確認するよりも僅かに早く、俺は背後へ振り返る。

そこには、機関砲を乱射しながら接近してくる残ったAAがいる。
銃弾が、またしても命中し、右肩と胸を撃ち抜いた。
火花と白い血液が宙に跳ねていく。


44 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:52:46.26 ID:LfO9N7N60
(; A ) 「がぁ……ッ!」

痛みに、苦い声が漏れだす。

だが、構わずにAAは俺へと近づき、機関砲の命中率を上げていく。
俺はAAを止める為に、銃弾を受けつつもAMBアックスを両手で構えなおし、
刃を引き摺るように後ろへと構えて、身に捻りを加える。

全身をバネとして、腕を発射台にして、俺は身に加えた力を、
最適な形でAMBアックスへと与えていく。
そして、力を放つ。

捻った身を戻す反動を腕に加えて、AMBアックスへと余すことなく伝える。

全力。

俺の持てる全ての力を以って、AMBアックスを放った。

巨大な斧は円盤のように回り、AAへと高速で向かっていく。
風を薙いで暴風を生み、轟音を掻き鳴らすそれは、
AAの胴に激突し、AAは後ろへと倒れていった。

AMBアックスが無くなったことで身が軽くなった俺は、高速でAAに接近。
胴へと足を掛けて、衝撃から立ち直れていないAAへと銃口を向ける。

六つに束ねた銃身を持つ、無骨な重機関銃。

戦闘ヘリなどに搭載されるGE M134。
秒間100発という驚異の連射性能を誇り、その高速連射を以って7.62mmx51弾が放たれる。
威力は非常に高い。7.62mmx51弾は口径で言えばスティレットには劣るが、


45 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:53:31.16 ID:LfO9N7N60
……カメラアイを潰すだけなら、充分だ。
それに今、距離は0。 

……充分だ。

引き金を引く。

取り付けられたバッテリーにより、M134が高速回転していく。
6つの束ねられた銃身は回転により装填・発射・排夾を繰り返し、
弾雨がAAの装甲を抉って行く。

「――――――ッ!!」

装甲が軋み、悲鳴のような音をAAが発てていく。
カメラアイがM134の弾丸によって破壊され、AAは機能を停止した。
引き金にかけていた指を外し、俺は一息を着く。

AAへと離れていき、次の敵へ向かおうとすると、

('A゚;) 「な……ッ」

背後で爆発が起こり、俺の脇腹に破片が突き刺さった。 
痛みに力が抜けていき、思わず片膝を突いてしまうが、そんな場合ではない。


46 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:54:24.00 ID:LfO9N7N60
「―――――――ッ!!」

金属の咆哮を上げて、続々とAA達が迫って来ているからだ。

数は―――――数えるのも面倒だ。
力を身体に再び込めて行くと、人工筋肉が痛む。
緊張感が解けたことにより、痛みが蘇ってきたようだ。

しかし、俺は笑みを浮かべる。

別に、Mってわけでもない。
……いや、ホントにMじゃないからね。
俺はアレだから。普通だから。そういう笑いじゃないから、これは。

(゚∀`) 「それじゃ、やるか。果たすか。成し遂げるか。俺の任務を」

右手にM134を、左手にAPILASを構えて、AAへと照準していく。


48 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:55:15.12 ID:LfO9N7N60
******

(*゚ー゚) 「ギコ君VIPPERに選ばれたの!? スゴイね!!
     頑張ってきた甲斐があったね~」

俺が軍学校を卒業し、卒業生の中でも優秀な者に送られる、
≪VIPPER≫の称号を貰った時、シィは自分の事のように喜び、笑ってくれた。 

(*゚ー゚) 「強化兵士部隊に配属になるんだ。……危なくないの?
     人体実験とかやってるって噂聞くけど、大丈夫? 帰って来れる?」

卒業した後の配属先を話した時、
心配そうな顔をしていたが、大丈夫だと言い、説得すると、
彼女は安心したように笑みを浮かべてくれた。

(*゚ー゚) 「ギコ君。最近少しやつれてきたんじゃない?
     今晩は焼き肉にしよう! 暑いからって朝ごはん抜いたりしないでね」

訓練の厳しさに驚かされ、意気消沈していた時に、
彼女は笑みで俺に接してきてくれた。言われてみて、
洗面所でこっそりと自分の顔を鏡で見た時、酷い顔をしていた。

青白く、生気のない死人のような表情をしていた。
それとなく彼女は俺を気遣ってくれたのだろう。

(*゚ー゚) 「その傷、どうしたの?」

彼女の笑みは引き攣っていた。
俺がテロリストの鎮圧作戦に参加した時のことだ。
未熟だった俺は、そこで2、3発ほど弾丸を食らってしまったのだ。


49 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:56:06.97 ID:LfO9N7N60
もっとも、装甲服を着ていたのでそれほど大きな怪我ではなかったが、
それでも、負った傷は銃弾で撃たれたことを物語っていた。

包み隠さずに俺は全てを話した。

(*゚ー゚) 「じゃあ、名誉の負傷だね。これからは気を付けてよ?
     未亡人になんて、なりたくないからね」

笑みを浮かべておどけるように彼女はそう言うが、
この時のシィの表情に力は無かった。

心配させないようにしよう。絶対に死ぬものか。
俺は誰ともなく、この時そう誓った。

シィは何時も俺に笑顔を向けてくれた。
その時々によって笑みは変わる。

しかし、ニューソク国解体戦争が開戦し、
しばらく家には帰れなくなると彼女に言い、家を出ていこうとすると、

(*゚‐゚) 「いってらっしゃい」 

力の籠もらない、弱々しい声でそう言った。
シィの顔に何時もの笑みは無かった。


50 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:56:54.44 ID:LfO9N7N60
敗北し、彼女の元へと帰ると、

(*゚ー゚) 「お帰り!!」  

満面の笑みで俺に抱きついてきた。
ニーソクの領土にある、ニューソク人達の居留地の集合住宅での再会に、俺は涙した。
あの時家を出た時に見れなかった、彼女の笑みが再び見られたからだ。

その笑みにどれだけ癒されたことか。

その笑みにどれほど安心させられたことか。

その笑みにどれほど戦場で勇気づけられたことか。

だから俺は、胸に飛び込んできた彼女を、強く抱きしめた。
強化骨格を埋め込んだ、変わり果てた機械の身で。



53 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:57:35.59 ID:LfO9N7N60
涙がとめどなく溢れてくるが、俺は彼女にそれだけは見せないようにした。
不安であった筈の彼女を、これ以上不安にさせたくはなかった。

その日、生きている価値をシィのおかげで再確認できた俺は、ある決意をする。

ニューソクを、祖国を取り戻し、彼女と共に元の生活を送る、と。
この決意は、シィにちゃんと話した。

再び戦うことにした、と。

(*゚‐゚) 「そう……死なないでね」

彼女の顔からは、以前のように笑みが消え去ってしまった。

――――――シィの笑顔が見たい。

彼女の笑みを見るには、ニューソクを取り戻すしかないのだろう。
元の生活を奪い返しさえすれば、彼女は俺に笑みを見せてくれるだろう。

祖国を取り戻し、再び彼女の下へと帰ったその時、彼女はきっと笑ってくれるはずだ。



54 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:58:55.47 ID:LfO9N7N60
******

ドクオが首都ビーで巨大な機関銃を構えて、
AAや装甲服を着た兵士達へと向けて弾をばら撒いている。

AAはカメラアイを潰され、兵士達は撃ち抜かれて倒れていく。

が、

(メ;゚A`) 「くっ……!」

時折奴は苦しげに身を硬直させる。

……人工筋肉の寿命が来ているのか。
同じく、強化骨格を埋め込んだ俺には分かる。

しかし、同情はしない。

……裏切り者の哀れな末路だな。
ニューソクを裏切るからこうなる。
強化骨格を修理できるのは、ニューソクだけだ。

祖国は他の国よりも遥かに高い技術レベルを誇っていた。

他国の遥か先を行く技術で作られた強化骨格。
それを他国が治す術は無い。

……裏切らなければ、こうはならなかった物を。
呆れにも似た感情を抱きながら、俺はバイザー越しに奴を見る。
電子画面に映る奴は、苦しげだ。


56 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 21:59:56.71 ID:LfO9N7N60
俺はライジングサンを構えて斬りかかって行く。

(メ;゚A`) 「………ッ!」

すると、殺気でも感じ取ったのか、奴は機敏に反応してみせた。

(,,\::::/) 「よく避けたな。その死にかけの身体で」

バックステップで避けたドクオに、俺は言う。
バイザーを格納し、肉眼で奴を見て、

(,,゚Д゚) 「流石だ。流石は亡国の鬼。流石は鬱田ドクオ。
     よくここまで戦ってきた。その終わろうとしている身体で」

(,,゚Д゚) 「よくここまで生き延び、よくここまで俺と渡り合ってきた。
     お前こそ俺の眼前に立つに相応しい、俺の敵に相応しい敵だ。
     だが、俺の宿敵に相応しい敵がかつての戦友とは、皮肉な話だな」

(メ゚A`) 「ギコ……ッ!」

(,,゚Д゚) 「敵よ。俺の宿敵よ。今まで幾数もの戦場を共にしてきた戦友よ。
     今まで幾度も戦いあってきた宿敵よ。ここで―――決着を着けるぞッ!!」

(メ'A`) 「嫌だね。お前、帰れよ」

(,,゚Д゚) 「出来ん……まだ、出来ん!」

(メ#'A`) 「何時までだ!?」


57 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 22:01:27.19 ID:LfO9N7N60
(,,゚Д゚) 「国を取り戻すまで」

(,,゚Д゚) 「シィとの約束を果たし、シィが安心して暮らしていけるように出来るまでだッ!
     それまで、何であろうとも、どんな物であろうとも、
     何が起ころうとも、俺を退かせることは出来んッ!!」

(メ'A`) 「じゃあ、やっぱり帰れよ。お前が帰ればシィは安心して暮らせる」

(,,゚Д゚) 「お前に彼女の何が分かる。戯言だ。戯言にしか過ぎん。戯言は無用だ」

(,,゚Д゚) 「俺は彼女の為に国を取り戻す。彼女の笑顔の為に」

(メ'A`) 「取り戻す国なんてもう無いんだよ。国なんてもう無いんだ。
     だから、そこに住んでいた人達を守ることが、今は国を守るってことになるんだろうが」

(メ'A`) 「お前は、彼女の為にも国の為にも戦っちゃいない」

(メ#'A`) 「お前は……自分に酔い過ぎてるんだよッ!」

(,,゚Д゚) 「酔っぱらいは貴様だ。裏切り者」

(メ'A`) 「俺は裏切っちゃいないよ。ちゃんと、ニューソクを守る為に、
     ニューソクに住んでいた人達を守る為に、俺達ニューソク人が世界に認められていく為に、戦っている」

(メ'A`) 「もう、守る領土も何も無い。でも、まだ守れるものはある」

(メ'A`) 「国は失われても、住んでいた人達を守ることは出来る」

(メ'A`) 「敗戦国と言う迫害からな」


59 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 22:02:54.41 ID:LfO9N7N60
(,,゚Д゚) 「どうやら、行き違いがあるらしいな」

俺はライジングサンを振るって、空を切る。
風を切る、ではなく、空気を断つ音がした。

シンと響く、無音にも近い小さな、しかし、綺麗な音。

ライジングサンの刀身がカコログ粒子によって赤く燃えがっていき、
カコログ光を帯びて雷が剣先へと這っていく。

構えて、切っ先をドクオへと向ける。

(,,゚Д゚) 「なら、尚更こいつで決着を付けるしかあるまい」

(メ'A`) 「命で決着をつけるなんて、俺は嫌だ」

(メ'A`) 「頼む、ギコ。俺の前に立たないでくれ。
     俺の任務の障害にならないでくれ。俺にお前との決着を着けさせないでくれ」

(メ'A`) 「責めは何時でも聞く。だから、退いて、シィと一緒に……」

ドクオの言葉に、ふっ、と笑みが零れた。
奴が言い掛けた言葉を俺は打ち消して、

(,,゚Д゚) 「何を迷っているんだ?」

と、問いを投げかける。


60 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 22:05:08.72 ID:LfO9N7N60
(メ;゚A`) 「………ッ!?」

ドクオは、自分でも気付いていなかったというように驚き、
息を呑みこんで、目を丸くした。

(,,゚Д゚) 「今まで戦ってきた中で、今のお前は最悪だよ。
     自分の意思と言う物が見られない、前回までのお前なら、迷い無く俺を倒そうとした筈だ」

(,,゚Д゚) 「まるで、昔のお前だ」

言って、俺は握った剣の柄に更に力を込める。
何時でも斬りかかっていけるように前傾姿勢をとり、敵を見据える。

ドクオは、剣を構える俺に対し、重機関銃を向けてきた。

……そんなボロボロの身体で、何故敵であった者達の下で戦える?

こいつがニューソクの為に戦っているのは、本当なのだろう。
昔、二人で話した時の答えが、出たのだろう。

しかし、こいつは今迷っている。

何故今更迷うのか、俺には分からない。
何に迷っているのか、分からない。

恐らく、目指す物は同じだ。同じ、幸いだ。
ニューソクに住んでいた者達の幸いだ。



62 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/07(金) 22:06:28.24 ID:LfO9N7N60
……決して、自分の為だけに裏切ったわけではない。

それは分かる。

だが、

……俺とお前では進む道が違う。
俺とお前は違う。

だからこそ、戦うことになる。戦争とはそういうものだ。
己の譲れぬものを守る為に、戦うのだ。


(,,-Д-) 「俺は行く。進む。己を信じて進んでいく。彼女の為だと迷わずに進んでいく」


(,,゚Д゚) 「そこに幸いがあるというのなら」


だから、と付け加えて、


(,,゚Д゚) 「立ち塞がると言うのなら、邪魔をするというのなら、誰であっても切り捨てる」




(,,゚Д゚) 「ニューソクの為に……シィの幸いの為にッ! 死ね、ドクオッ!!」

咆哮し、俺は地面を蹴ってドクオへと斬りかかって行く。


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  1. 2011/10/06(木) 14:31:50|
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最近ブーン系に出戻って、現在は少女は戦争犬という作品をVIPで書いてます。MGSとACが大好物。ブーン系の自作品まとめや感想、自作品語りと近況報告をしていこうと思っていますので、よろしく!

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