3 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:24:41.90 ID:hko1M6/H0
街並みが違った。
発展した都市は、俺にしてみれば古く、
ガキの頃に母親に連れられていった街並みによく似ていた。
デパートの屋上でゴーカートを乗り回していたのを今も覚えている。
気候が違った。
祖国の気候は暑く、春でも32度を超えると言うのに、
この国の気候は26度を平均とし、俺には涼しいくらいだ。
人が違った。
俺のいた国には、様々な人々が住んでおり、
白い肌の者、黒い肌の者、黄色い肌の者も大勢いたが、
この国では白の者が多く、他の色の者は少ない。
教育が違った。
世界史の教科書は、俺の国とほぼ同じ内容だったが、
俺が学んだ“ニューソク史”はここの学校では義務教育とされてはいない。
何より、戦争について、武器の扱い方について学んでいないというのが驚きだ。
でも、一つだけ変わらない物があった。
いや、よく探せばもっと有るのかもしれないが、とりあえず。
広大な空の美しさだけは、故郷から見ても、
この国から見ても、戦場からふと見上げても、変わらない。
('A`) ドクオは亡国の兵士のようです
第2話 内紛鎮圧部隊
******
澄み切った青をした空の下、
人型の木製の板が幾つも置かれており、
頭部の真ん中と胴体に小さい円を基点として、幾つもの円が描かれている。
広いグラウンドに、それらが装甲車や土嚢の後ろに隠すように置かれていて、
直後、その内の一つが木片を撒き散らし、頭の円を撃ち抜かれた。
一瞬遅れて銃声が響き、火薬の臭いが立ち込める。
( ^ω^) 「おっおっおっ、頭のど真ん中だお。ツン上手いお!」
人を模した標的から200mほど離れた場所から、
体格の良い、目が大きく陽気そうな青年、ブーンが笑みで言った。
対し、その隣で白煙を立ち昇らせたアサルトライフルを持った、
目の釣り上がった、カールされた金髪の美しい女性が、
ξ゚⊿゚)ξ 「アンタの上手いの基準が低すぎるだけよ。ほら、次やってみなさい」
どこか刺々しい口調で返す。
標的の群を指差して、厳しい視線でブーンを刺す。
7 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:28:16.35 ID:hko1M6/H0
(;^ω^) 「わっ、わかったおっ!」
身体に緊張を走らせ、焦ったように銃を構えるブーン。
人間工学を元にして作られた流線型を描く銃、
強化プラスチック製のXM8の銃口を標的へと向けて、引き金に指を掛ける。
備え付けられたドットサイトを覗き、
レンズ中央に浮かんでいる赤点に標的を合わせる。
少々遠いが、頭の円のど真ん中を狙って、発砲。
着弾。
ツンと同じように破砕音が響くが、着弾点は真ん中では無く、
手の震えにより僅かにずれてしまい、少し右側に穴が穿たれた。
(;^ω^) 「お……」
期待が外れ、脱帽感に息を吐くブーン。
_、_
( ,_ノ` ) 「………」
渋澤にポンと肩を叩かれ、
8 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:29:14.03 ID:hko1M6/H0
_、_
( ,_ノ` ) 「………」
叩かれたが、何も言わずにその場を去ってしまった。
(;^ω^) 「なっ、何か言ってくださいおっ!
アドバイスとか説教とか、何かあるはずですおっ!!」
拍子抜けしたブーンがツッコミをするが、
哀愁漂う背中は何も語らない。
次いで、背後から聞こえてくるのは、
_
(* ^∀^) 「だっせー、だっせーよブーン。あんなん振り向きざまにでも当てられるだろーよ」
憎らしい笑顔で笑い声を上げるジョルジュだ。
(;^ω^) 「お……じゃっ、じゃあお手本を見せてくださいお!」
しどろもどろにそう言うブーンは、
ジョルジュが肩に提げたM4A1を構え、狙いも着けずに引き金を引くのを見た。
振り向きざまのように、咄嗟に放った一撃。
直後、標的の頭が穿たれた。
9 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:30:11.78 ID:hko1M6/H0
双眼鏡で確認したブーンは肩をガックリと落とし、
ξ゚⊿゚)ξ 「まぁ、ジョルジュみたいになれとは言わないけど、
もっと落ち着いて銃を構えなさい。
実戦はもっと緊張するのに、今緊張してどうするってのよ」
ツンがそんな彼に声を掛けた。
ξ゚⊿゚)ξ 「アンタ、この間のドクオが来た時の任務でも緊張してたじゃない。
軍学校でアンタ何してたの? あ、もしかしてあがり症?」
( ^ω^) 「多分そうだお……どうしたらジョルジュさんやドクオさんみたいに冷静になれるんだお」
ξ゚⊿゚)ξ 「ジョルジュもドクオも、最初はすっごく緊張したと思うわ。
アンタはその最初のほうなの。それに、ドクオはニューソク人だから、私達とは違うわよ」
( ^ω^) 「お? 何が違うって言うんだお?」
ブーンの疑問詞に、少々表情が堅くなるツン。
眉をひそめ、きつく結んだ口を開いて、
ξ゚⊿゚)ξ 「何を勉強してきたってのよ、アンタは……
いい? ブーン。ニューソク人っていうのはね、昔から戦争を絶え間なくやってきた国なの」
ξ゚⊿゚)ξ 「建国以来ずっと戦い続きで、他国を取り込んで、他国の領民を取り込んで、
他国の技術を取り込んで、他国の文化を取り込んで、他国の全てを取り込んで発展してきたの」
10 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:31:29.11 ID:hko1M6/H0
ξ゚⊿゚)ξ 「他人と争って、他国と戦って、そうやって栄えてきた。
でも、内紛は不思議なことに少なかったわ。ニューソクの国民達はみんな、強い団結力を持ってる」
( ^ω^) 「すごい事だお。そんな背景があるのに」
ξ゚⊿゚)ξ 「でもね、その団結力は、みんな外側の争いに向いていたの」
?と不審気に頭を捻るブーン。
ξ゚⊿゚)ξ 「ニューソクの人たちはみんな、みんな戦うことしか考えていなかった。
軍事に傾いた政策に工業。他国の領土を取り込んだことにより豊富になった資源。
それら全てがね。そして、ニューソクは建国から一世紀あまりで世界一の軍事大国、先進国となった」
そして、と続けて、しかし、続きを言ったのはツンの声では無く、
野太い、男の声音であった。そしてと渋澤が続けて、
_、_
( ,_ノ` ) 「その先に滅んだ。世界中を敵に回してな。世界一も、“世界”には敵わなかったわけだ。
滅びて敗れて解体されて、今、世界中をアイツのようなニューソク人が彷徨っている」
ふんと鼻を鳴らして、
_、_
( ,_ノ` ) 「やりすぎたのさ、奴らは。人より秀でていた余りに、
人より強過ぎた余りに、人との足並みを揃える方法を知らなかった。
人に怯えて人の中で生きることを奴らは忘れちまってたのさ。獰猛な獣は狩人達に追い立てられるもんだ」
忌々しげに吐き捨てた。
13 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:32:45.81 ID:hko1M6/H0
******
都市部に置かれた、軍基地がある。
兵舎、研究所、武器庫、倉庫が広い敷地内にあり、
その中でも比較的小さい、白い建築物。
それが研究所だ。
細長く、小奇麗な通路に軍靴の音を響かせている者が二人。
ダイビングスーツのような奇妙な黒いスーツの上に、
オリーブドラブの軍用コートを羽織った男は、鬱田ドクオだ。
その隣を歩き、軍服に身を包み、
幾つかの勲章を胸に飾り、腰に装飾の施された軍刀を差し、
美しい黒の長髪を揺らしている女性は素直クール。
しばらく歩き続け、通路を抜けて行き、
研究所と連結している倉庫へと進み、ドアを開く。
すると、逆ハの字を描いた眉の、利発そうな男が会釈を寄こしてきた。
(`・ω・´) 「クール大尉。あちらが私の提案する、強化骨格用の装備です」
装甲車や戦車が並ぶ、様々な機械が設置された広い空間。
その一角に、ポツンと置かれた、
塗装の施されていない鋼色の手甲と具足を、男は手で差す。
分厚いというだけで、後は何の変哲も無い物だ。
14 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:34:16.73 ID:hko1M6/H0
川 ゚ -゚) 「……シャキン、何の役に立つと言うんだ?」
無表情ではあるが、どこか拍子抜けしてしまったようで、
クールは疑問詞を浮かべる。
が、対照的にドクオは手甲と具足を、
すぐに自分の手足に嵌めていく。
(`・ω・´) 「この手甲と具足は、戦車の複合装甲を用いて作成しました。
通常の物よりも遥かに防弾性能に優れており、重量も重いものです」
川 ゚ -゚) 「だが、弾を防ぐのならば、そんな時代錯誤の装備ではなくとも良いだろう」
弾を防ぐだけならば、
とシャキンと呼ばれた男は前置きをして、
(`・ω・´) 「しかし、これは身を守る為だけに付けるわけではありません。
その重量と装甲を活かし、強化骨格の人工筋肉や電動アクチュエーターを用いて格闘戦を行えば、
それだけで生身の人間など紙切れ同然でしょう。推定握力400k」
(`・ω・´) 「そこから繰り出される、鉄の拳に耐えきれる人間などいませんよ。
肉を裂き、骨を砕き、内臓は潰される。そのはずです」
説明をしてるうちに、ドクオは既に手甲と具足を装着し終えたようだ。
感触を確かめるように手を握ったり、開いたりをして、
具足の爪先をトントンと叩く。
15 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:35:24.70 ID:hko1M6/H0
バキ、という軽い破砕音が響いた。
(;'A`) 「あ……」
声を漏らし、ドクオは足を上げてみると、
アスファルトの地面がクモの巣状にひび割れていた。
沈黙する一同。
(`・ω・´) 「……今ので威力を理解していただけたかと思います」
それを破ったのはシャキンの声だった。
次いで聞こえるのは、
从'ー'从 「あっ、クーさん来てたんですか~」
女性の声だ。
クールの仇名を呼ぶその声の主が、
川 ゚ -゚) 「む、渡辺か。お前もここにいたのか」
シャキン達の近くにある、装甲車の蔭から出て来た。
白衣を着た、ウェーブの掛かった栗色の髪。
くりんとした丸い瞳の愛らしい、渡辺という女性。
19 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:36:40.15 ID:hko1M6/H0
从'ー'从 「はい、ちょっと今作ってる≪駆動機甲服≫の調整で。
……さっき地面破壊してた、この人が強化骨格の人ですか?」
ひび割れを気にするドクオを尻目に、クーに尋ねる渡辺。
川 ゚ -゚) 「あぁ、鬱田ドクオというんだ。ドクオ、こいつは渡辺という。
ここの科学者だ。お前がもし下手を打った場合、彼女がお前の治療を担当する」
(;'A`) 「え? あぁ、はい。どうも」
はっとクールを見上げて、
締まらない声でドクオは言う。
从'ー'从 「イメージしてた人とすっごく違う……」
川 ゚ -゚) 「まぁ、よろしく頼む。仕事はこなすよ、こいつは」
ひびの入った地面を見て、気にするドクオに、
シャキンは「後で治しとくから……」とポンと肩を叩く。
从'ー'从 「あの、ドクオさん? 初めて戦ったのって何時なんですか?」
渡辺が疑問詞を口にし、
ドクオは彼女の方へと振り返って、答えようとする。
20 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:38:20.55 ID:hko1M6/H0
('A`) 「俺が最初に戦ったのは……」
が、突如として警報が響く。
次いで、基地内にスピーカーから音声が生じて、
【中央大銀行を民間人の武装グループが占拠した模様。
素直中隊の実動小隊は直ちに出撃せよ】
ドクオの声は掻き消されてしまった。
川 ゚ -゚) 「行くぞ」
短く、しかし警報の騒音に負けない、
凛とした声がドクオの耳朶を確かに打った。
21 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:39:40.48 ID:hko1M6/H0
******
基地内の一室。
立方体を描いた部屋の中央には、机が置かれており、
それを取り囲むように本棚が置かれている。
机に向かっている、髪をオールバックに整えた、
初老の男が机に置かれた小型の画面を見る。
そこには、目尻の垂れ下った初老の男が映っていた。
オールバックの男は、画面に映る彼に向けて口を開き、
( ・∀・) 「銀行が占拠されたようだよモナー君。
犯人達は人質をとって、立て籠もっているようだ」
モナー、と呼ばれた画面の向こうの彼は、
頷きを見せて口を開き、
22 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:40:21.87 ID:hko1M6/H0
( ´∀`) 「モナ。これは強盗目的ではないモナ。
モララー、犯人達は何か要求を?」
( ・∀・) 「あぁ。彼等はどうやら、ニューソク人の難民の受け入れを認めないらしい。
自分達の血税が、何故、あの戦犯者共の為に使われなければならないのか?
何故、何故、飢えているニーソク人もいると言うのに、あの人殺し達を養わなければならないのか?」
( ・∀・) 「と、抗議を行っているようだよ。また、交渉人にまたんき国税庁長官を指名してきている。
全く、ニューソクの難民保護は≪五大連合国≫会議で決定された、五国の義務であるというのに」
( ´∀`) 「モララー。僕は彼等の気持ちが分からないでも無いモナ」
モララーは「ん?」と疑問符を浮かべて、
( ・∀・) 「それは結局無いのかね? 有るのかね?
分からない、でも、無い。とは。ん? 分からないでも、無い。のかね?」
( ´∀`) 「……ちょっとは分かる、と言いたいんだモナ」
彼の偏屈ぶりに飽き飽きとしながら、モナーは言った。
23 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:41:14.04 ID:hko1M6/H0
( ・∀・) 「はっはっは、では、君はニューソク人達を徹底的に滅ぼすべきであったと?
あの≪ニューソク国解体戦争≫で? 冗談は止したまえよ」
( ・∀・) 「我々は、我々五大国を筆頭とした連合国で、ニューソクを除く世界中が味方となった連合国が、
やっと勝利をおさめられたのだよ。もし、物量に任せての包囲作戦が成功していなければ、
我々が負けていたのかも知れんのだよ? 総力戦となれば、滅ぼし尽くそうとすれば、滅んでいたのは五大国かも知れんよ」
早口で捲し立てるモララーに、少し嫌気がさして来たのか、
(;´∀`) 「ああ、もう。分かったモナ。悪かったモナ!」
飽き飽きとしたようにモナーが言った。
ふっ、と息を漏らしてモララーは、
( ・∀・) 「敗者の処遇に不満を述べられるのは、勝者の余裕とも、慢心とも言える。
我々は偶々勝てたと言うだけなのに、敗者は、世界最強と恐れられ、
全世界を敵に回して6年もの間戦い抜いてみせた、化物であるというのに」
25 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:41:58.60 ID:hko1M6/H0
( ・∀・) 「我々は腐ってしまった。あの国を相手にして、勝利を手にした途端にね。
その結果の一つが、今回の事件だ。
我々は、緩み切ったこの国に住まう者達の気を引き締めねばならない」
( ´∀`) 「大丈夫モナ。それなら、その役割なら、あの娘が果たすモナ」
( ・∀・) 「ふふ、その為の内紛鎮圧部隊だ。あの娘は、素直クールは、
恐怖によって国民達を律するだろう。圧倒的な力で、ね」
( ´∀`) 「素直中隊は既に出撃を?」
( ・∀・) 「実動小隊が先に出た。残る部隊は全て包囲と狙撃に回るようだ」
ははは、とモララーは笑みを浮かべて、
( ・∀・) 「面白い駒を手にしたようだね、クール君」
27 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:43:13.15 ID:hko1M6/H0
******
街中にある、巨大銀行を装甲車が取り囲む。
ぞろぞろとヘルメットを被り、
マスクで顔を覆った、黒の戦闘服を着た兵士達が、
銃を携えて銀行を包囲し始めた。
警官隊が野次馬を背後に、盾を構えて銀行と相対しており、
隊長と思わしき警官に、藍色の戦闘服を着た兵士が近づく。
その者にだけ、階級章が付けられており、
顔はマスクとヘルメットで隠されているが、
この者が指揮官であると察することが出来る。
28 :VIPがお送りします:2009/06/19(金) 22:43:53.15 ID:hko1M6/H0
川 ゚ ゚) 「この場は内紛鎮圧部隊“素直中隊”が引き継ぐ。
民間人に流れ玉が当たらぬよう、下がらせろ」
女性の声で、しかし、
それにしては低めの声で、藍色の指揮官は命じる。
彼女の隣に、身の丈を裕に超える方刃のバトルアックスを携えた、
軍用コートを羽織った、奇妙なスーツを着た男が立つ。
彼の顔はマスクで覆われておらず、
警官達はこの奇妙なスーツが何であるか知っていた。
川 ゚ ゚) 「突撃せよ! 己が身一つで戦場を切り開いていけ!
我々はお前が討ち損じた者を討ち果たす。殲滅せよ、一人残らず排除しろ!」
('A`) 「了解」
指揮官が命令を下し、
男、強化骨格の兵士は銀行へと突撃していった。
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- 2011/10/06(木) 13:01:56|
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