2 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:43:42.08 ID:znSZ6LJD0
―――――あなたは、自分の住む国が失われたらどうしますか?
自分の守りたい物を守れず、失ってしまったニューソクの兵士達。
ただ生き延びる為に。
戦友たちと共に略奪まで行って戦い続けたシラネーヨ。
己の職務であるが為に。
敵国に囚われ、敵であった者に人形の如く忠実に従ったビコーズ。
許せぬが為に。
敵国に寝返って戦う、かつての仲間が許せずに、己も他国に寝返って戦い続けたツー。
闘争の愉悦を味わうが為に。
今も昔も変わらずただ戦いによる歓喜に身を委ねて滅んだミルナ。
3 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:44:59.39 ID:znSZ6LJD0
平穏な生活の為に。
英雄として兵士達の先頭に立って、未だ戦い続けるギコ。
そして、“国”を守る為に。
感情を殺し、機械の身を敵国の兵士である素直クールに委ねて、
誰からも恨まれながら戦うドクオ。
戦時下には同じ志を持っていた彼等は、
戦後、各々の信念を掲げて、バラバラとなって戦い続けた。
手を組む者もあればぶつかり合う者もあり、殺し合った。
ニューソク国解体戦争では、同じく国を守る為に戦ったと言うのに。
しかし、彼等は国を守れずに、
家を失い、領土を失い、生活を失い、文化を失い、国を失った。
5 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:45:45.44 ID:znSZ6LJD0
全てを失い尽くし、彼等には何も残らずに、
守りたかった物は失ってしまい、残った物は己の命と意思だけ。
彼等はそこから、各々の、それぞれの答えを導き出した。
一つ一つ答えは違ったが、彼ら一人一人の正しさがそこにはある。
では、その答えの先にある物は?
目指した物は何なのであるのだろうか。
国を失い、既に滅び去った物を思って、何を望んだのであるのだろうか?
守るべきものを失い、守りたかった物を失い、国が滅んでしまったその時。
あなたは、あなたならばどうしますか?
あなたは、あなたならば何を望みますか?
――――――彼等ニューソクの兵士達は絶望を抱いたが、それでも答えを出して先へと進んでいく。
7 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:47:12.84 ID:znSZ6LJD0
('A`) ドクオは亡国の兵士のようです
第15話 夜の世界―――亡国の鬼VS亡国の猫―――
8 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:47:55.84 ID:znSZ6LJD0
******
(,,#゚Д゚) 「ああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ギコが咆哮を上げて迫ってくる。
機械剣No.10“ライジングサン”を上段に構えて、
地面を前へと蹴り飛ばし、俊敏な動きで一気に間合いを詰め、
俺に袈裟掛けに剣を振るおうとする。
重機関銃であるGE M134を奴に照準して、引き金へと指を掛ける。
発砲。
六つに束ねられた銃身が高速回転していき、7.62mm弾を吐き出していく。
回転する銃身は装填と発砲を自動的に行い、それは連射となる。
間断なく撃ち出されていく銃弾はギコへと迫るが、
(,,#゚Д゚) 「フンッ!」
気合いを込めた息を吐いて、
ギコはライジングサンの刀身でそれらを往なしていく。
10 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:49:00.78 ID:znSZ6LJD0
(メ゚A`) 「マジか―――ッ!」
秒間100発もの高速連射に対し、ギコは剣で往なしてみせた。
……ありえねえ。
銃弾の雨を、瞬間を以って続々と迫ってくる弾丸を、
見切り、斬るでもなくその軌道を逸らす。
ギコは、そんな神業じみたことをやってのけた。
驚いている暇などなく、連射を続ける俺に、
袈裟斬りを見舞ってきた。
右肩に迫る刃を、大きく後方へと跳んで避ける。
空中でM134をもう一度ギコへと照準し、
引き金を倒して銃身を高速回転させていく。
銃身が回り始めた頃には、ギコが俺の懐へと既に飛び込んできていた。
(メ;゚A`) 「はやッ――――」
驚きに声を上げてしまうが、途中でそれを喉の奥へとしまい込んだ。
ギコはライジングサンをM134に叩き込み、
赤熱化した刀身に、銃身は呆気なく斬り捨てられてしまった。
切断面が、熱によって赤く輝く。
12 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:50:07.20 ID:znSZ6LJD0
(,,゚Д゚) 「無駄だ。貴様の朽ちかけの人工筋肉では、俺から逃げ切れん」
言葉よりも僅かに早く、奴の左足が飛んできた。
爪先が鳩尾を狙っており、切られたM134を持ったままの右腕でそれを防ぐ。
強化骨格スーツの黒の防護繊維と白の防護繊維が激突し、
鈍い打撃音が響いていく。
防護繊維によって衝撃がある程度吸収されるが、
腕で足を受けたのでどうしてもダメージは大きな物になる。
重く身にしみる打撃に、俺は眉を歪めた。
が、反撃として空いてる左の肘をギコの脇へと叩き込む。
……入った。
肘が打撃の感触を得て、そう思ったが、
……防がれた!?
左の肘が打ったのは、奴の右腕だった。
防御に使った右腕を、ギコはそのまま伸ばして、
俺の胴を狙った拳を放ってくる。
しかし、俺も同時に拳を放っていた。
16 名前:>>14コピペミス 忘れてくれ ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:53:21.21 ID:znSZ6LJD0
(,;-Д゚) 「「がぁ………ッ!!」」(゚A`;メ)
共に嗚咽を吐き出し、身をくの字に折る。
それでも、俺達は攻撃の手を緩めず、
俺はくの字に折った上半身からそのまま頭突きを繰り出した。
(,;-Д゚) 「ぐっ……」
脳に響く衝撃にギコは苦悶の声を上げて、
(メ;゚A`) 「うぁ……ッ!」
俺は左の肘を脇に受けて苦い声を漏らす。
痛みに苦しみながら俺達は落下していき、次に繰り出される一撃は同時だった。
右の足を放ち、爪先を腹に食らいつかせる。
互いに互いの右足からの蹴りを放って、
(,;゚Д゚) 「「――――ッ!?」」(゚A`;メ)
衝撃を受けて、お互い吹っ飛んでいった。
腹に受けた痛みが脳天へと突き抜けて行って、俺は唾液を吐きだす。
17 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:54:07.09 ID:znSZ6LJD0
……血じゃないだけまだマシだ!
空中で身を翻し、衝撃を緩和して着地する。
片膝を突いて、胸のホルスターからハンドガンを抜き、
腰のホルスターから大口径を超えた超大口径を誇るリボルバー、
スティレットを抜いて双銃を構える。
ギコは、既に疾走を開始していた。
ライジングサンを構えて、勢いよくこちらへと飛び込んでくる。
双の銃口を奴へと向けて俺は引き金を引く。
ハンドガンを連射し、スティレットの銃撃をそれに挟む。
(,,#゚Д゚) 「ごるぅああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
9mm弾を軽く往なし、スティレットの35mm弾をもギコは往なしてみせる。
……なんだこいつ。銃が効かないのか!?
今までと、段違いな反応速度だ。
いや、
18 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:55:07.64 ID:znSZ6LJD0
……俺が遅くなってるのか!
内心に舌打ちをして、俺は迎撃の姿勢を取る。
剣の間合いへと入ってきたギコが、刃を振るう。
カコログ粒子によって活性化された人工筋肉が、
パワーアシストによってギコの力を強化し、刃は亜光速の域に達する。
しかし、
………もう慣れたわッ!!
何度と受けてきた、何度も見てきた剣の軌道を、俺は見切った。
ハンドガンの銃身でそれを弾いて、
弾かれたことで刃はあらぬ方向を向く。
ガラ空きとなった胴へとスティレットの銃口を突き付け、弾丸を放つ。
咄嗟に身を捻ることでギコはそれを避けてみせたが、
しかし、銃弾は奴の脇腹を抉って行った。
(,;゚Д゚) 「ぐ……ッ!」
黒い血が脇腹から噴出し、ギコは眉を顰めた。
19 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:56:15.39 ID:znSZ6LJD0
一歩後ろへと下がっていき、隙を見せたギコに、
……追撃のチャンスだ。
と思い、一気に奴を追い詰めていこうとする。
3発目の銃弾を放とうと、スティレットの引き金を倒していく。
が、
奴は、一歩下げた足で跳躍を行った。
上空へと昇って行き、視界から消えたギコを視線で追おうとするが、
振りかえる間もなく俺の肩に何かが食らいついた。
(;゚A`) 「クソッ!」
肩に食らいついたナイフを確認して悪態を吐く。
……跳躍と同時にナイフを投げたのか!
次の一撃を予測し、俺は前へと身を投げて行く。
ハンドガンを放り投げ、空いた片手で地面を手で突き、
俺は背後へと振り返った。そして右手を伸ばし、
スティレットの銃口を向ける。
ギコは剣を振りかぶっており、俺は奴に銃を向けた。
21 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:56:59.67 ID:znSZ6LJD0
発砲。
ギコの防護繊維に覆われた肩から火花が弾けて、
肩の肉を抉った銃弾によって黒い血が飛沫きを上げた。
しかし、奴は身じろぎすらせずにそのまま突っ込んでくる。
もう一発放とうとするがそれよりも早く、
長い足で蹴りを放ってきた。
剣よりも早くリーチの長い、一撃。
突いた手に力を込めて跳躍をしようとするが、遅い。
力が籠もって行くのが、遅い。
跳躍をするよりも速く、ギコの足が俺を蹴り飛ばした。
衝撃が腹から背へと抜けていき、
背には新たな衝撃を受けた。
何かに激突し、俺の周りが煙に包まれていく。
すぐにこの場を離れないといけないと思うが、
……力が入らない。
22 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:57:58.25 ID:znSZ6LJD0
******
俺の蹴りを食らって、ドクオがビルに背中から激突した。
力を失ったようにビルにもたれ掛かる奴に、
俺は一気に間合いを詰めていった。
ライジングサンの切っ先を、ドクオへと突き付け、刺突を放つ。
奴の胴に刃が食らいつき、
赤熱化した刃が防護繊維ごと奴を燃やし尽くしていく。
炎を身体が覆っていき、燃える。
が、奴は胴にライジングサンを突き刺されまま、俺に拳を放った。
俺は軽く後ろの下がるだけでそれをかわし、
バックパックからナイフを抜き、
逆手に構えてドクオを切り裂いていく。
炎を纏う身体から血飛沫があがり、
肩を、腕を、胴を、足を、次々に刻みつけていく。
23 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 22:59:44.13 ID:znSZ6LJD0
止めに、左胸に刺突を放つ。
ドクオはバックステップを行って避けようとするが、遅い。
俺はナイフの軌道を下へと逸らして、
地面を離れようとする奴の右足に突き刺した。
防護繊維ごと奴の足を貫いた刃は、地面にまで達する。
釘に打ち付けられた板のように、奴の動きが止まる。
次いで、俺は再びバックパックからナイフを取り出し、
一挙動のみで左足へと切っ先を叩きつけた。
両の足を封じられ、動けなくなったドクオは、
前に倒れて行くように両の膝を突いた。
(メ A ) 「………」
うな垂れ、力の無い表情を浮かべるドクオ。
胴に突き刺さった刃から火の手が上がって行き、
ドクオの体は炎に侵食されていく。
強化骨格スーツの防弾繊維は炎を纏う。
全身が炎に覆われ、ドクオは燃えていく。
燃える。
かつての戦友がライジングサンによって、燃やされていく。
そのまま放っておけば、奴は勝手に死ぬだろう。
25 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:01:06.64 ID:znSZ6LJD0
しかし、奴がその気になれば、
もし抵抗するだけの力が残っていれば、
ライジングサンもナイフも引き抜き、こちらへ襲いかかってくることだろう。
剣もナイフもドクオに突き刺さっている為、俺は今丸腰だ。
背後へと回り、俺は奴に突き刺さったライジングサンを引き抜く。
そして、力を失った奴の頭上に剣を構える。
(メ A ) 「お前の戦いはここで終わるのか?」
力の無い声で、苦しげにドクオが尋ねてくる。
振り返ってこない為、振り返られない為、
その表情は分からない。
(メ A ) 「俺を殺したらしぃの元に行くのか?」
(,,゚Д゚) 「あぁ、そのつもりだ」
(,,゚Д゚) 「やっと、やっと俺は彼女の元へ戻れる。
戦争がやっと終わる。俺が戦う必要がなくなる」
(,,゚Д゚) 「お前を殺して、俺のニューソク国解体戦争は、
ニューソクの逆転劇によってやっと終結する」
26 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:01:52.55 ID:znSZ6LJD0
(メ A ) 「終わらないよ」
(メ A ) 「俺を殺しても、ニーソクを倒しても。お前は絶対にシィのとこに戻らない。
一生何だかんだと言い訳を続けて、シィの元を離れて戦い続ける。
頼む、ギコ。早くシィの元へ戻ってやってくれ。お前には待っていてくれる人がいる」
(メ A ) 「俺にはいない。だから、俺は戦い続ける。
戦場で、ニューソクの為に戦い続ける」
(メ A ) 「シィは、寂しがっているはずだ。
国なんてもんよりも、一緒に居てくれる人間のほうがよっぽど大事なんだよ」
ドクオの言葉に、シィの顔が脳裏を過ぎる。
……速く帰らないとな。
そう思って、俺は口を開く。
(,,゚Д゚) 「あぁ、そうするとも」
ライジングサンを構える手に力を込めて、俺は振るう。
(メ A ) 「………」
何も言わぬドクオの首に、刃が振り下ろされる。
斬った。
柄を握る両の手に感触が残る。
人を斬った時に生じる、肉の感触。
28 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:02:39.97 ID:znSZ6LJD0
(,,゚Д゚) 「なっ……」
が、
斬ったのは奴の首ではなく、左腕だった。
瞬時に振り返った奴に首へ迫っていた刃は腕を斬り、
残った右腕に構えたナイフで刺突を放ち、
瞬きの間に俺の左胸へ刃を突き立てた。
衝撃が胸から背へと抜けていく。
遅れて痛みが来た。
膝から力が抜けていき、俺はライジングサンを杖のようにして片膝を突く。
片腕を失ったドクオは、そんな俺を見下ろしている。
その瞳は、どこか悲しげに垂れ下がっていた。
……情けない顔をするな。
と思うが、
……あぁ、昔からそういう奴だったな、お前は。
懐かしい記憶と共にそうも思う。
今までが可笑しかったのか。今までが偽りだったのか。
と、一人で納得して、俺は口の端が緩んでいくのを感じる。
29 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:03:35.85 ID:znSZ6LJD0
(,,゚Д゚) 「ここで終わりか。俺の戦争は」
呟き、
(,,゚Д゚) 「同じ国を思い、同じ物を目指すというのに、同じ境遇であったというのに、
どうして導き出した答えは違う物になったんだろうな。戦友」
必死に声を絞り出して、ドクオへと言葉を放つ。
(メ'A`) 「ギコ、俺……お前を裏切ったんだよ。それだけのことさ」
(,,゚Д゚) 「ふっ、同じ物を守る為に戦うというのなら、俺達は戦友だ。
ニューソクを守る為に敵同士になったとしても、変わりはないだろう」
懐かしいセリフを思い出しながら、俺は尋ねる。
(,,゚Д゚) 「お前に……恋人は出来たか?」
(メ'A`) 「いや、出来てない。でも、大切な人はいるよ。
俺を拾ってくれた、俺を導いてくれた人が」
その言葉に、俺は喜びにも似た安堵を感じる。
ほっ、と一息を吐いて目を瞑り、
(,,-Д-) 「そうか。それは良かった……お前を、導いた、か。
……これで、良かったのかもしれないな」
(;メ'A`) 「良いわけ……」
言葉を言い掛けようとしたドクオの声を打ち消し、
30 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:04:23.08 ID:znSZ6LJD0
(,,-Д-) 「ドクオ。最後に俺の我が儘を聞いてくれ」
ドクオは無言で頷く。
……あぁ、何だか眠くなってきたな。
早く言い切らないとな。言葉を、残さなければ。
(,,-Д-) 「シィを、見守ってやってくれないか?」
彼女のことだけが気がかりだ。
一人だけ残していってしまう、シィのことだけが心配だ。
結局、彼女の笑みは見られなかったが、
俺はこれから見られそうにないが、それでも、彼女には笑っていて貰いたい。
……だから、頼む。戦友。
彼女の幸せを、見守ってやってくれ。
(メ'A`) 「分かった……」
俺を見て、力無く頷くドクオに不安を覚えるが、
(,,-Д-) 「礼を、言う……」
こいつならやってくれるだろう、と思う。
その信頼から、俺は礼を言った。
安心だ。
これで、安心。
32 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:05:12.22 ID:znSZ6LJD0
……しぃ。
すまん。
生きて帰ることは、叶わなかった。
再会は出来なかった。
でも、こいつならきっと、
俺よりも君が幸せになれる環境を作ってくれるだろう。
……不器用な奴だが。
でも、ドクオを導いてくれる者が居る。
なら俺は、もはや何も憂いは無い。
全力で戦い、全力で譲れない物を譲らなかったのだから。
出来うる限りの抵抗を、俺の絶叫を奴らに聞かせてやれたのだから。
シィの幸せを見守ってくれる者が出来たのだから。
33 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:05:57.14 ID:znSZ6LJD0
……憂いは無い。後悔はあるが、不安は無い。
意識が、眠りへと落ちて行く。
力が抜けていく。
身が軽くなったような感覚を得ていき、
俺の視界が更に真っ黒に染まって行く。
その黒の奥に、ロウソクが灯るように追い求め続けた物が浮かんだ。
(*゚ー゚)
シィの、優しい、柔らかな笑み。
ニューソク国解体戦争が始まる前に何度も見て、
絶望的な戦況に置かれた戦場で、何度も勇気づけられた、笑顔。
……銃なんて取らなくても、君を幸せにしてやれたかも……しれないな。
(* ー )
浮かんできた笑顔は、炎が消えていくように……
35 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:06:42.16 ID:znSZ6LJD0
******
(,, Д )
ギコが死んだ。
俺が、殺した。
両足に突き刺されたナイフを抜き取って、
俺はギコの左胸に突き刺した。
ギコは、裏切り者である憎いはずの俺を『戦友』と再び呼んだ。
(メ'A`) 「………クソ」
どうしてだ。
どうしてこうも迷う!?
(メ;A;) 「クソが……」
命令を果たした。任務を果たした。
36 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:07:44.26 ID:znSZ6LJD0
ただ、それだけなのに、どうしてこんなに後悔しているんだ!
俺は機械だろ?お前は機械何だろ!?
だったら迷うなよ。
ギコを殺しても、例え仲の良かった友達を殺しても、
機械の如く平然としていろよ。
今までそうしてきただろ?
自問して、俺は口を真一文字に結び、
零れそうになった嗚咽を噛み殺すが、
涙は止めどなく零れ落ちていく。
……俺は機械だ。
思い、思う事を止める。感情を止める。
だが、腹の奥底がキリキリと痛み、
胸の奥が肺を締め付けられるように痛む。
内臓までズタボロにされた身体が痛みを俺に与えて、訴えてくる。
抑えきれない心の絶叫を訴えてくる。
今まで耳を背けていた分まで、一気に押し寄せてくる。
ギコの顔を見る。
(,, Д )
ギコの顔は苦笑を浮かべているが、どこか満足しているように思えた。
38 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:08:39.31 ID:znSZ6LJD0
……あぁ、そうか。
納得をする。自分の誤まりに気付く。
ギコと同じく苦笑いを浮かべて、何が機械だ、と。
……言い訳をしていたのは、俺も一緒じゃないか。
機械と言えば命令で仕方なしにやっている、と逃げられる。
機械であるのだからどのような非道なことをしても、
痛む良心は持ち合わせていない、逃げられる。
言い訳だ、と思い、やめよう、と思う。
心の奥底の絶叫を聞き取り、俺は心に向かって呟く。
……俺は人間だ。
そう力無く呟いて、次いで、
……ニューソクの兵士、鬱田ドクオだ!
と、心に向けて絶叫をぶつける。
朽ち果て掛けた身体を奮い立たせ、
勢いが弱まったにも関わらず、
まだ残る炎を、俺は身を振るうことで払う。
濃緑色の軍用コート翻すと共に脱ぎ捨てる。
39 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:09:40.70 ID:znSZ6LJD0
そして、進んでいく。
ギコの目前に突き刺さり、カコログ光を纏う刃を、
戦友の愛刀、機械剣No.10“ライジングサン”を、掴む。
残った右手で地面から引き抜いて、振るう。
空を断ち、シィンという鋭い音が鼓膜を震わせた。
カコログ粒子が人工筋肉を活性化させ、身が軽くなって行くのを感じていく。
電流の糸が、俺の身体を隅々まで這っていく。
……良い気分だ。
心の迷いのなくなった、悩むことのなくなった、
晴れた、澄み渡ったような感覚。
体内通信で中央基地の通信室へと回線を繋ぎ、
(メ'A`) 【戦況は?】
と短く尋ねた。
40 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:10:26.53 ID:znSZ6LJD0
【東方面が壊滅的打撃を受けています。早く迎撃に向かってください】
落ち着いた声で、女性オペレーターの言葉が返ってきた。
綺麗な声だ、と思い、
(メ'A`) 【了解】
短く応えてから、
(メ'A`) 【君、この戦いが終わったら食事にでも行かない?】
呑気な声でそう誘った。
【お言葉ですが、私は外国人に興味はありませんので】
きっぱりと断られ、通信が切れた。
……テンションに身を任せるもんじゃないな。傷つく。
断られたことに、少しがっかりするが、
……まあいい。今は良い気分だ。
へこみはしない。今は、とても良い気分だ。
ふっ、と微笑を浮かべて、俺は軽くなった体で駆けて行く。
目指すは、東方面だ。
向かいながら、俺は腹の奥から力を込めて、声を一気に吐き出す。
そうして発される言葉は、味方への鼓舞だ。
43 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:11:34.27 ID:znSZ6LJD0
******
ドクオは叫ぶ。
その形相は凄まじく、声には闘志が籠もっていた。
首都ビーを、戦場を、彼の声が木霊していく。
(メ#'A`) 「今ここに宣言しよう!
俺は、今は亡きニューソクの兵士鬱田ドクオは!
ニューソクを護ると! ニーソクに住まう人々を護り通すと!
亡国の鬼は、亡国の兵士はこの場で戦おう! この地を守る鬼神に成ろう!!」
(メ#'A`) 「今より、只今よりこの場は、この先はかつての戦友であろうが!
かつての上官であろうが! 一切! 一歩ですら通しはしない!!
何人であろうが! 何者であろうが! この先を望むのならば相手をしよう!」
(メ#'A`) 「亡国の兵士鬱田ドクオが相手となるッ!」
44 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/08/08(土) 23:12:21.64 ID:znSZ6LJD0
(メ#'A`) 「時間が経てば援軍がやってくる!
みんな! みんな!! この声が聞こえるニーソクの兵士達よ!
守るぞ! 守ってみせるぞ!! ニーソクを!!
俺はここで己の戦意と信念を以って宣言する!!」
(メ#'A`) 「鬱田ドクオの戦争を! 始めるぞッ!!」
朽ち果て掛けた機械の身に、燃えたぎる人の魂を宿して彼は言う。
魂の灯が浮かんだドクオの顔は、
オオカミの繁栄を願って戦争を始めた、
ロマネスクの顔に似ていた。
ドクオの言葉の後に、戦場と化した街からは、
「了解!!」
と張り上がった声で答えが返る。
眼光を更に鋭くした彼は、己の敵であるかつての仲間達へと向かう。
長年の戦友の愛刀を隻腕で構えて、油断なく。
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- 2011/10/06(木) 14:36:22|
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