2 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:06:37.91 ID:CS16k3UF0
人を殺す、と、敵を倒す、の、違いとは何なのだろうか。
人を殺すというのは、その者が何であっても、
ただ、殺すということにしか過ぎない。
首、胸、頭、腹といった急所をナイフで突けば、
出血多量、脳の機能停止、心臓の機能停止により、
人は死に、殺すという行為はなされる。
敵を倒す、とは、己の敵となる者を、
行動不能とさせることだ。
この場合、殺さなくとも良い。だが、行動不能、とは、
敵を動けなくさせるという意味である。
つまり、その究極形態が“殺人”である。
人を殺す、ということだ。
敵と戦い、勝利し、その者の命を奪うということである。
俺は、これが面白くて仕方がない。これを望んでやまない。
命を奪う、それ自体が楽しいのではない。人を殺すに至る道程が面白いのだ。
敵が、強く、強者であればあるほど、それは面白い。
4 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:08:07.73 ID:CS16k3UF0
('A`) ドクオは亡国の兵士のようです
第8話 一匹狼
6 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:08:55.45 ID:CS16k3UF0
******
アラスカの海岸に停留した、オオカミ軍の戦艦には、
デウス・エクス・マキーナ師団の団員が搭乗している。
戦艦の上にそびえるように設立された艦橋の中には現在、
師団長、杉浦ロマネスクと兵士達が集合していた。
様々な機材と数多くの強化ガラスで作られた窓のある、
狭苦しくどこか息の詰まりそうな空間。
その中央にロマネスクは立ち、兵士達は彼を囲むようにして立つ。
兵士の群れの中には、黒いゴム質の防護繊維の、
強化骨格に身を包んだ男、ミルナも混じっている。
( ゚д゚ ) 「………」
彼は静かな笑みを作り、じっとロマネスクへと視線を寄せていた。
すう、とロマネスクは息を吸い込み、
あ、と口を形作って、
( ФωФ) 「諸君、聞こえるかね? 我輩の声が。諸君らの師団長の声が」
機材に取り付けられたマイクが、声を受け、
艦内にロマネスクの言葉が走って行くのを確認した通信兵は、
ロマネスクを見て頷きを返す。
7 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:10:49.91 ID:CS16k3UF0
( ФωФ) 「では、言おうか。諸君」
呼びかけ、彼はある者を視界に捉える。
強化骨格に身を包んだ男、ミルナを。
( ФωФ) 「我々はこれから、巨大なる一戦を行う」
視線を外し、次に、女を見る。
同じく、黒の強化骨格を纏う彼女を。
(*゚∀゚) 「………」
腰に無骨な肉厚のナイフを納めたホルスターを下げる女性は、ツーと言う。
赤毛の短髪に活発な笑みを浮かべる彼女は、やはりロマネスクを見ている。
( ФωФ) 「諸君らは今まで実に見事な戦いをしてくれた。
歴戦の兵らしき、精強なる兵に相応しき技術と気迫を見せ、
諸君らは戦ってくれた。しかし、また敵も見事であった」
9 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:12:02.05 ID:CS16k3UF0
( ФωФ) 「その結果、戦いは長引き、短期決戦に臨めず、敵は援軍を得た。
実に見事。見事なり、北方基地が司令茂名モナー」
拳を握り、眼前にかざして震わせ、
( ФωФ) 「見事である。我等のような精鋭を相手取り時を稼ぐとは。
それが、彼等の実力なのであろう。戦力の差であるのであろう。
我々に相対するに、我々が滅ぼすに、相応しき敵だ」
握った拳を手刀のように振るい、虚空を切って、
( ФωФ) 「我々が戦争をするに相応しき相手だ」
濃緑色の軍用コートに身を包む男を視界の端に収める。
( ∵) 「………」
無表情でロマネスクを瞳の奥に移すのは、ビコーズという兵士だ。
軍用コートの前を閉じ、ベルトをきつく締めていた。
ベルトと同じく、口もきつく結ばれている。
( ФωФ) 「敵には、内紛鎮圧の為に設立された特殊部隊の増援がやってきた。
軍の名家、素直家が長女が隊長を務め、
ミルナ、ツー、ビコーズ、君達の国の裏切り者である、鬱田ドクオもそこに所属している」
10 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:13:24.31 ID:CS16k3UF0
口の端を歪め、邪悪な笑みをロマネスクは浮かべ、
( ФωФ) 「あの亡国の鬼が、だ」
( ФωФ) 「我々が滅ぼすに、打ち倒すに、排除するに、
これほど相応しい相手が他に居るかね?」
( ФωФ) 「彼等は最も争いに近き最前線で、最も悪をなし、最も人の血を浴びている。
諸君、我輩は我輩自身を正義とは言わぬ。清廉潔白などと誰が言えようか。
この赤に染まった我輩が、血の赤に染まり黒ずんで行く我輩が、白などとは言えぬ」
しかし、と言葉を付け加えて、
( ФωФ) 「五大国連合の行ったことが、我輩は正しきとは思えぬ。
正しきと信じニューソクの残党を、自国の民までも殺害する彼等を、認められぬ」
( ФωФ) 「彼等こそニーソクの間違いの担い手である。
五大国連合の過ちに気付けぬ者達の象徴である。
亡国の鬼こそが誤まった争いの権化である!」
( ФωФ) 「祖国オオカミの愛国者である、諸君らの敵だ!!」
叫び、両の手を力強く横に振るう。
12 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:16:07.86 ID:CS16k3UF0
( ФωФ) 「真に国を思うのであれば。想うのであれば、
五大国連合の罪を叫ぼうではないか!
我々は間違ったと! 間違っていたのだと!
絶叫し許しを請い頭を下げ、銃を掲げようではないか!
弾薬を弾倉に込めて、間違いを認めぬ奴らに、
銃口を突き付けてやろうじゃないか!」
早口に、勢いのある口調で、
( ФωФ) 「パーソクは間違った、テンゴクは間違った、シベリアは間違った、
ニーソクは間違った、オオカミは間違えてしまった。
正しきはニューソクにこそあった。
カナソクへの宣戦布告無しの戦闘行為などをきっかけに、
かの国へと攻め入ることなど間違っていたのだ。
あの国こそは世界の覇者であり、世界を治めるべき国であり、
世界を循環させていくべき国であり、そして!」
( ФωФ) 「我等がオオカミが乗っ取るべき国であったのだ」
獣の如き獰猛な笑みを浮かべて、
ロマネスクが言い、彼を見る兵士達は同じく笑う。
彼と同じ、獣じみた笑みを。
14 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:18:12.65 ID:CS16k3UF0
( ФωФ) 「無いのならば作れば良い。奪われたのならば奪い返せば良い。
負けたのならば勝ちに覆せば良い。亡びたのならば興せば良い」
( ФωФ) 「北方基地を、素直中隊を、亡国の鬼を、モララー・マタリを滅ぼし、
ニーソクを滅ぼし、新たな軍事国家を作ろうではないか。
争いが世界を回して行き、革新を生み続け、技術を高め続け、
最新を行き、最大を誇り、最強と呼ばれる兵士達の国を作ろうではないか」
( ФωФ) 「ニーソクをオオカミの領土とし、
五大国連合を解体し、そんな国を作っていこうではないか」
ロマネスクの言葉に、兵士達の熱気を帯びた声が返る。
肯定の、強い返答がくる。
(*゚∀゚) 「Sir Yes Sir!!」( ゚д゚ )
皆が、笑みで言葉を放つ。
15 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:19:20.91 ID:CS16k3UF0
( ФωФ) 「良かろう。良かろう! 誇るがいい! 胸を張れ!
一体どれほどの者が我等を悪と呼ぶかは分からぬが、
諸君らは孤独ではあるが真にオオカミを思う愛国者であり、生粋の戦士だ!」
ロマネスクは声を張り上げ、窓の向こうを右手で指す。
その先には、
( ФωФ) 「奴らを、ニーソク軍を、裏切り者を滅ぼしてやろうじゃないか!」
ニーソク軍の北方基地が映っていた。
17 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:20:23.23 ID:CS16k3UF0
******
北方基地の兵舎の一室に、ここへと援軍にやってきた、
ニーソク軍の内紛鎮圧部隊、素直中隊の渋澤、
ジョルジュ、ブーン、ツンの四人が集まっていた。
テーブルとベンチの置かれた部屋だ。
彼等はそれぞれベンチに座り、円形のテーブルに向かい合うようにして座っている。
その中で、ジョルジュは寝転ぶようにだらしなくテーブルに伏していた。
眠たそうな目をして口を開き、
_
( -∀-) 「何なのかね、あいつらは」
吐き出されたのは疑問の言葉だ。
_
( -∀-) 「あいつらは、デウス・エクス・マキーナは、
どうして、何で今更になってまた戦争をしようっていうんかね」
彼等は、雑談をしていた。
しかしその最中で、ジョルジュは真剣な問いを出す。
ξ゚⊿゚)ξ 「何で、って。私達のやってることが許せないから、でしょ?」
ツンは何とはなしにそう応える。
19 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:21:44.58 ID:CS16k3UF0
_
( ゚∀゚) 「それが分からねーのよ」
_
( ゚∀゚) 「相手はテロリスト。俺達の敵はテロリストだ。
国の統治を乱して損害を出す、害でしか無い」
_
( ゚∀゚) 「テロリストには徹底抗戦。徹底殲滅。
譲歩なんぞ、情けなんぞかけてやる義理はねーのよ。
これがテロに対する、全国共通の教えだってーんだからよ」
( ^ω^) 「僕達のそれは、いきすぎてるんですお」
沈黙から、重い口を開いたのはブーンだ。
きっと。と締めくくり、次の言葉を声にして、
( ^ω^) 「僕達は、以前、人質を無視した、突入作戦を行いましたお。
そんな作戦の数々を、僕達ニーソクの兵士達は、何回も行って来たんですお」
( ^ω^) 「あの人達は、僕達のその行いが許せないって、
間違っているって言ってましたお。杉浦ロマネスクは」
21 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:23:01.35 ID:CS16k3UF0
( ^ω^) 「民間人を無視した作戦。人質ごと排除する鎮圧作戦。
僕も、許せるものじゃありませんお」
_,
( ゚∀゚) 「じゃあ、何だ? テメーもニーソクは滅びるべきだと、そう言いてーのか?」
眉を顰めて、ドスの利いた声でジョルジュは問う。
ブーンは少し怯えたように、
(;^ω^) 「違いますお」
と、否定する。
(;^ω^) 「ただ、僕は人質を無視したあの作戦が、間違ってると、そう思うだけですお。
あの人達はそれが許せないんじゃないかって、言いたいだけですお」
ξ゚⊿゚)ξ 「はぁ……アンタ、まだ引き摺ってたの?」
溜息交じりに、厳しい声音でツンは言う。
ξ゚⊿゚)ξ 「あれは、見せしめよ。
酷い物を見せて、怖い物を見せて、逆らえない物を見せて、圧倒的な物を見せて、
力に物を言わそうとする暴徒を出さない為の見せしめ」
23 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:24:20.46 ID:CS16k3UF0
ξ゚⊿゚)ξ 「被害を、これからの被害を最小限に減らしていく為の処置。
勿論、絶対に私達が正しいなんて言わないわ。私達は間違っている」
それでも、と言葉を次いで、
ξ゚⊿゚)ξ 「納得しなさい。少なくとも、今は。
許せないのなら、もっと上に行ってから、自分で変えてみせなさい」
声音を僅かに柔らかな物へと変えて、彼女は言った。
( ^ω^) 「……分かったお」
_、_
( ,_ノ` ) 「しかしな、可笑しな動きをするもんだな、奴らは」
閑話休題。
話題を切り替える一言を、渋澤が呟く。
_
( ゚∀゚) 「何がおかしいってんだい? 渋澤さんよ」
_、_
( ,_ノ` ) 「奴らは、ニーソク全土を包囲するように部隊を展開させている。
デウス・エクス・マキーナは、まず、北方基地を制圧し、
ここから味方の援軍を迎えて攻め上がって行く腹積もりだろう」
24 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:25:24.18 ID:CS16k3UF0
_、_
( ,_ノ` ) 「警戒を行っていたこちらの駆逐艦と戦闘を行い、艦の攻撃能力は下がっているはずだ。
しかし、援軍が奴らにくる気配はない。これではむざむざ死にに行くようなものだ」
_
( ゚∀゚) 「考えすぎじゃあないかね。単に、敵の戦力不足じゃねーの?
終戦からまだ一年も経ってねーんだぜ?」
_、_
( ,_ノ` ) 「だからこそ、だからこそ可笑しい。
何故、劣勢であるというのに、奴らは俺達に挑んでくる?」
_
( ゚∀゚) 「そりゃ、あいつらオオカミ人は、結構プライドの高けー奴ら多いから、じゃねーのか?」
_、_
( ,_ノ` ) 「単純すぎるぞ。いくらオオカミと言えども、
勝算の低い戦いを挑んでくるほど馬鹿でもねーだろう」
_
( ゚∀゚) 「隠し玉、とか。あるんじゃねーの? それか、奴らはそれほど強えーのか」
( ^ω^) 「………援軍を送れない理由がある、とか」
何気なく呟いたブーンに、彼等は振り向いて、
(;^ω^) 「お?」
視線を浴びせられたブーンは疑問符を浮かべる。
25 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:26:21.10 ID:CS16k3UF0
_、_
( ,_ノ` ) 「だとすれば、あの余裕は何なんだろうな。
形振り構わず攻めてくる連中だ。
死に物狂いで特攻を仕掛けて来ても可笑しくは無い」
_
( ゚∀゚) 「ましてや、援軍が望めねーのなら、
なおさら短期決戦を挑まなきゃならねー事態だ。
だっつーのに、何で奴らはこんな悠長に攻め立てて来やがるんだ」
川 ゚ -゚) 「ふむ、キナ臭いな」
_、_ _
(;^ω^)ξ;゚⊿゚)ξ (;_ノ` ) (;゚∀゚) 「大尉!?」
何時の間にか現れ、口を挟んだクールに一同は驚きの声を上げる。
……何時の間に。
胸の中に同じ思いを彼らは得て、クールの次の言葉を聞く。
川 ゚ -゚) 「敵はあのオオカミだ。
五大国の中で、最もニューソクに近づいていた先進国である、オオカミだ。
彼等は手強いことであろう。彼等は我々の武器よりも新しい物を持っているだろう。
警備に当たっていた駆逐艦が、あっという間にやられてしまったのがその証拠だ」
しかし、と彼女は付け加えて、
27 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:27:39.97 ID:CS16k3UF0
川 ゚ -゚) 「奴らに航空戦力は無い。既に、弾薬は尽きたも同然だ。
戦艦からの援護射撃は無い。残る道は兵と兵との力が勝敗を分ける白兵戦のみだ」
川 ゚ -゚) 「ならば、私達は普段通りの働きをすれば良いだけだ。
敵は強くとも小勢は小勢。こちらには援軍がある。次々にやってくる、援軍が」
川 ゚ -゚) 「奴らが何を隠していようとも、どのようなジョーカーを持っていようとも、
それを切り出す前に舞台から退場させてやれば良い」
川 ゚ -゚) 「お前達にならば出来る。
だから、深いことは考えず、今日はゆっくり休め。
考えることは私の仕事だ。お前達が悩まずとも良い」
そう言って、踵を返して去っていこうとする。
が、彼女を引きとめる声があった。
ξ゚⊿゚)ξ 「待って下さい」
川 ゚ -゚) 「………?」
ξ゚⊿゚)ξ 「以前から窺いたかったのですが、どこでドクオと出会ったのですか?」
ツンが、クールへと疑問を投げる。
29 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:28:36.66 ID:CS16k3UF0
******
どこで出会ったのか、と、そう聞かれた。
……参ったな。
ここで、彼女に真実を語ったとしても、
ドクオへの疑いが晴れる物でもないだろう。
だからこそ、
……困ったな。
真実を話しても、解決はしない。
しかし、ここで答えないという行為は、
より一層怪しませることになってしまうだろう。
迷う。
どうすべきか、と。
嘘を吐く。
これが一番かもしれないが、
もし、バレてしまった時は、
彼女は私をも不審に思うことだろう。
30 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:29:16.20 ID:CS16k3UF0
……難しいな。
そう思っているうちに、更なる問いが着た。
ξ゚⊿゚)ξ 「強化骨格を埋められた兵士達は、精鋭揃いで、
忠誠心の高い兵士をより集めて、
機械化手術を行った者達だと聞きました」
……誰に聞いたのかね?
そんな天の邪鬼な質問が頭に浮かぶが、言葉にすることははばかられる。
時間稼ぎ、と思われるのも不審に繋がる。
ξ゚⊿゚)ξ 「そんな人と、どこで出会い、
どうやって味方に引き入れたのですか?」
答えられる。
この問いに答えられる、が、
それで問題が解決するわけでも無い。
では、私はどうすべきなのか?
32 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:30:12.88 ID:CS16k3UF0
……ただ、何の気も無しに受け答えをするべきなのか。
それとも、
……黙りこくり、答えは返さぬべきなのか。
考え込んでいるうちに、別の声が返った。
_
( ゚∀゚) 「どーだっていいじゃねーか、いまさら」
気楽に言う、ジョルジュの声だ。
ξ゚⊿゚)ξ 「だけど、ドクオがデウス・エクス・マキーナと……」
_、_
( ,_ノ` ) 「それはないな」
抗議の言葉を言おうとするが、否定の言葉に遮られてしまう。
しかし、ツンは力の籠もった声を上げて、
ξ゚⊿゚)ξ 「だって! 向こうには強化骨格がいるのよ!?
ドクオもオオカミの……」
( ^ω^) 「それは無いお」
が、今度はブーンに遮られてしまう。
34 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:31:44.02 ID:CS16k3UF0
ξ#゚⊿゚)ξ 「どうしてよ!?」
言葉を二度も阻まれてしまったツンは、怒り混じりに尋ねる。
_、_ _
( ,_ノ` ) ( ゚∀゚) 「………」(^ω^ )
一度、顔を見合わせたジョルジュ達は、
_、_ _
( ,_ノ` ) ( ゚∀゚) 「男の勘」(^ω^ )
そう言い切った。
……いい加減だな。
と、私は思うが、
……頼もしいな。
とも、感心にも似た気持ちを思う。
ツンには悪いが、ここは彼等に乗っかることとしよう。
川 ゚ -゚) 「私の魅力を、ドクオは放ってはおけなかったのだよ」
内心に苦笑を浮かべて、私は何時も通りの声音で冗談を言う。
しかし、ここからは頭をクリアにして、
川 ゚ -゚) 「以前に、基地に単独で侵入した強化骨格の男との戦闘を、
私は間近で見ていた。殺されそうになった私を、あいつは庇った」
自分に言い聞かせるようにツンへと語りかけて、
35 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:32:37.59 ID:CS16k3UF0
川 ゚ -゚) 「あいつは、過去を共に過ごし、共に戦ったことのある、
あの『白猫』と命を賭けて戦っているんだ」
ツン、と名を呼んで、
川 ゚ -゚) 「お前には、この事実だけでは納得できないかな?」
返答には期待しない問いを、私はした。
川 ゚ ー゚) 「私の女の勘だ。信じろ」
次いだ言葉と共に、口の端が釣り上がるのを感じた。
……悪役じみた笑みになっていないと良いが。
ξ゚⊿゚)ξ 「……了解」
不承不承といった様子の彼女の返事を聞いて、私はこの部屋を後にすることにした。
37 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:33:36.17 ID:CS16k3UF0
******
岩と泥だらけの道に、木々の生い茂る谷を、
爆音が突きぬけていく。
その音に逃げるようにして、三人の男が駆ける。
<_フ;゚ー゚)フ「ちっ、射程が長げーッ!!」
舌打ちと一緒にエクストは叫ぶ。
強化骨格スーツの防護繊維に包まれた身体で、
同じく強化骨格を身に纏った男の肩を背負って。
背負われた男の顔は、青く、胴には大きな穴が出来ており、
そこからは黒い血液が流れ出していた
最後の一人、ドクオはスモークグレネードを片手に持って、
ピンを外して、
39 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:35:15.17 ID:CS16k3UF0
(#'A`) 「もう少しで坑道だ! 気張れ!!」
激励と共に放り投げた。
綺麗な放物線を描いて宙を舞う拳大の球体が、
敵である、ニーソク軍の駐留地があるはずの方向へと落下していく。
白煙が展開して、ドクオ達の背を覆い隠していき、
それをチャンスとして彼等は一気に駆け抜けていった。
十分が過ぎた頃には、目的地へと辿り着いていた。
木々で覆い隠され、地面に掘りこまれた大穴の中へと入り込むと、
そこはニューソク軍によって作られた坑道になっている。
怪我人を背負ったエクストは先へと進んでいき、
ドクオは彼の後ろに回って、背後を警戒しながらも進んでいく。
すると、広い空間に彼等は入り込んだ。
天井に付けられた裸電球が、ここを照らす。
端に並べられた、彼等の仲間達の死体もその光を浴びていた。
41 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:36:28.85 ID:CS16k3UF0
エクストは怪我をした男を座らせ、壁に寄り掛からせて、
<_プー゚)フ「良いか? 両手で傷口を押さえてろよ。
おい、ドクオ! 医療キット持って来い!!」
冷静な対応ではあるが、彼の声音には力がこもっていた。
焦燥の証拠である、無駄な力が。
(;'A`) 「ダメだ。もう何も残ってない……」
壁際に置かれた合金で出来た大きな箱を見て、
力の無い声でドクオが言う。
<_フ;゚ー゚)フ「ちくしょーッ! もう無くなっちまったのか!!
何か良い方法ねーのかドクオ!?」
(;'A`) 「ノトリ谷基地は制圧されたし、治療は受けられそうにない。
こっから別の拠点に移動したとしても、間に合うかどうか……。
ノトリ谷を抜けることも難しいしな……。どうすれば……」
<_フ;゚ー゚)フ「包囲されてるっぽいしな……。
こっから北に進んで、ツーテン基地に行くのはどうだ?」
43 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:38:11.34 ID:CS16k3UF0
(;'A`) 「話し聞いてたか? ビロードの体力が持つかもわ……」
<_プー゚)フ「俺が囮になる」
(;'A`) 「!」
言葉に驚き、ドクオは息を飲み込む。
<_プー゚)フ「俺が西に回って、そこで大暴れして陽動する。
その隙にお前はビロードを背負ってツーテンに行け」
(;'A`) 「馬鹿だろ。それやったら本当の馬鹿だぞ」
エクストに背を向け、彼は包帯を巻いたままの仲間の死体から、
包帯を解いていく。血にまみれ黒くなってしまっているが、
止血剤の無い今の状況では、止血に使える貴重な布だ。
ドクオは怪我をした男、ビロードに近づいていき、
手を退かして、腹に黒ずんだ包帯を締め付ける。
44 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:39:01.21 ID:CS16k3UF0
(;><) 「ぐっ……」
苦しげな声を漏らすが、ドクオは気にも留めずに、
('A`) 「んなことするぐらいなら、
衛生兵を殺して医療用具奪った方がまだマシだ」
<_プー゚)フ「……そうするか?」
('A`) 「でもな、問題が一つある」
<_プー゚)フ「何だよ?」
('A`) 「敵には人工血液が無い。だから、医療キットを奪ったとしても、
どっちみち撤退しない限りビロードは助からない」
<_プー゚)フ「だよな………」
('A`) 「俺達の人工血液を分け合う」
<_プー゚)フ「それじゃあ、終戦まで俺達が生き延びてる保障が無くなっちまう」
('A`) 「第一、戦えなくなるからな。これは無しか」
45 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:40:26.22 ID:CS16k3UF0
<_プー゚)フ「いや……人工血液ならまだ残ってるじゃねーか」
ちら、とエクストは仲間達の死体を見る。
(;'A`) 「仕方、ねーよな……」
<_フ;゚ー゚)フ「………やるか?」
二人は、自分達がやろうとしていることに、
人道にもとることから来る罪悪感に苛まれてしまい、
煮え切らぬ言葉を交わす。
ドクオが死体へと近づいていき、エクストは人工血液の入っていたパックを用意する、
が、突如、坑道の中に衝撃が走り、揺れが起きる。
遅れて、轟音が二人の耳朶を打った。
<_フ;゚ー゚)フ「嗅ぎつけやがったか? それとも、まぐれか?」
('A`) 「どっちにしても、近いな」
エクストの疑問にドクオが応えるが、
再び走った衝撃に悪態を吐き、
47 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:41:23.46 ID:CS16k3UF0
(#'A`) 「クソ、俺が何とか敵の戦車隊を黙らせてくる。ビロードを見てろ」
突撃銃、M4A1カービンを構えて、
エクストとビロードに背を向ける。
<_フ;゚ー゚)フ「やめろ、死ぬだけだぞ」
(#'A`) 「何もしなくても死ぬ! 俺が医療キットを取ってくる。
お前は輸血の準備しとけ!!」
力の籠もった声で言うドクオに対し、弱々しい声が返された。
(;><) 「僕のことは構わないで下サイ」
荒い息を吐き、人工声帯による、
機械的な声が混じる言葉を放つのは、ビロードだ。
<_プー゚)フ「バカが。何とかなるっつーの。お前はお前の体だけ心配してやがれ」
( ><) 「人工筋ニクが、破損してるンデス。
僕はこのままじゃ、マネキンと変わリマセンヨ」
( ><) 「ブラックブラッドだってその内ツキテ、僕は死ニマス」
腹を押さえていた腕が、だらりと垂れ下がり、
ホルスターの付いた腰へと下ろされる。
49 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:42:09.40 ID:CS16k3UF0
( ><) 「足手まといはゴメンナンデス」
ホルスターから延びた、
巨大なリボルバー、スティレットを引き抜き、
自分のこめかみへと銃口を押し当てて、引き金を引いた。
頭が吹き飛び、人間の物であった脳が飛び散り、
坑道の地面を黒と黄の混じった液体が汚した。
ビロードの頭が、破裂した。
二人は、その光景に、
<_プー゚)フ「………」('A`)
言葉を失う。
新兵であった頃に見れば、トラウマとなり、
飯もロクに食えなくなるようなグロテスクな惨状だ。
それが、今目の前に広がっている。
そこにある。
50 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:42:54.89 ID:CS16k3UF0
だが、それは、
('A`) 「エクスト、行こうか」
彼等にとっては、既に馴染み深い、
普通の、何の変哲もない光景にしか過ぎなかった。
戦場の一つの風景でしか、なかった。
<_フ;ー;)フ「あぁ、そうするか……」
涙を浮かべて戦友の最後を目に焼き付け、エクストは視線を逸らす。
ビロードの亡骸に近づき、手にしたままのスティレットをドクオは取り上げて、
予備の銃として自分のバックパックにしまった。
すると、彼はビロードの死体を持ち上げて、
仲間達の死体置き場に新しく彼を加えた。
踵を返し、自分のスティレットを構えたドクオは、
敵の居る戦場へと戻って行き、己もまた、
戦場の風景の一つとなって行った。
銃声を鳴り響かせ、弾丸を撒き散らしながら。
51 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:44:39.67 ID:CS16k3UF0
******
寝苦しさに、思わず目を覚ました。
固いベッドの上に、もとい、
人工血液の透析機の上で眠っていた俺は、
医務室の天井を視界に納めていた。
一定の間隔を以って透析機からは電子音が鳴っている。
開いた瞼を、もう一度閉じ、
……またか。
そんな呆れにも似た思いを浮かべる。
上半身が裸となった体には、汗が噴き出しており、
こめかみから頬へと、汗が垂れて筋を作って行く。
……痛い。
汗を拭いとる為に右手を顔へと伸ばすと、
痛みが腕を伝って肩まで伸びる。
53 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:45:26.35 ID:CS16k3UF0
身体中が軋みを上げているようだ。
固くなった筋肉は伸びることを否定するように重くなり、
無理に伸ばそうとすれば痛みが走る。
重石を背負ったような倦怠感が、全身を覆っていた。
痛みに顔をしかめて、再び瞼を閉じようとすると、
自分に浴びせられる視線と、近くにある気配に気が付く。
頭を起こし、俺は透析機の隣を見る。
パイプイスに腰を掛け、背筋を真っ直ぐに伸ばした、
ストレートの黒の長髪が美しい、軍服姿の上官がそこにはいた。
相変わらずの無表情に、厳しい目付きで俺を見て、
川 ゚ -゚) 「お早う」
挨拶をしてくる。
('A`) 「おはよう」
敬語は使わずに、軽く返す。
54 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:47:13.35 ID:CS16k3UF0
川 ゚ -゚) 「機械も夢を見るんだな」
('A`) 「脳は人間のままだ」
川 ゚ -゚) 「そうか、そうだったな。お前は」
川 ゚ -゚) 「ならば、脳は人間のままだと言うのならば、心を静めておけ。機械よ。
人間でしかない。機械で制御された、機械で強化された身体であろうとも、
お前には、機械ではどうしようも出来ない人間が残っているのだから」
('A`) 「俺は機械と変わらないよ」
川 ゚ -゚) 「夢にうなされるというのにか?」
('A`) 「………」
クーの問いに、俺は答えられなかった。
否、答えようとした。
しかし、答えの言葉が詰まってしまった。
彼女の問いが、彼女の言葉が、あまりにも正しかった為に。
56 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:48:53.76 ID:CS16k3UF0
だから俺は、
('A`) 「………」
沈黙しか、出来ることは無かった。
クーの言葉を肯定することは出来ず、
また、認めることも出来ないが為にした、悪足掻きだ。
川 ゚ -゚) 「明日は激戦になる」
無言の俺に、会話の切り口としてクーは続けた。
川 ゚ -゚) 「やはり、開戦当初から囁かれていた危機が訪れた」
('A`) 「でも、この程度の危機は乗り越えられるだろ。
こっちが圧倒的に有利じゃないか」
川 ゚ -゚) 「この程度で終わるのなら」
閑話休題。
すう、とクーは息を吸い、切り替えの言葉を吐く。
川 ゚ -゚) 「ニューソクの力は強大すぎた」
川 ゚ -゚) 「僅か一世紀ばかりで最強の軍事国家となったあの国が、
世界のパワーバランスを保ち、各国を牛耳り、大きな戦いを防いでいた」
57 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:50:14.04 ID:CS16k3UF0
しかし、と続けて、
川 ゚ -゚) 「もはや彼等を止める者は無い。もはや我々を止める物は無い。
我々の、彼等の頭上に存在する者はもはや滅びた。亡びた。
そしてあの国の技術を吸収し、領土を接収したことにより、
我等五大国連合のパワーバランスはほぼ等しい」
川 ゚ -゚) 「オオカミを止める者は、留める物は、無くなった。
もし、彼等が起こそうとすれば、
五大国全てを巻き込む戦争が起きることだろう」
川 ゚ -゚) 「ニューソク国解体戦争よりも凄まじく、
ニューソク国解体戦争よりも泥沼と化し、
ニューソク国解体戦争よりも多くの死者が出る、凄惨な戦争が」
川 ゚ -゚) 「今、それは起ころうとしているのかもしれん」
60 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:52:39.23 ID:CS16k3UF0
だったら、と、彼女の声に対して呟き、
('A`) 「ニューソクは滅びるべきでは無かった?」
どこか、同意を求めるような問いを、俺はクーにした。
眉尻の下がった、情け無い表情をして。
川 ゚ -゚) 「答えは、あの戦いの先にある世界に住まう者達が決めることだ。
私達は戦った世代だ。戦争を起こしてしまった者達の世代だ。
私達の行ったことの答えは、これから先の世代が出すことだ」
だから、とクーは付け加えて、
川 ゚ ー゚) 「それまで頼むぞ、ドクオ」
穏やかな微笑を俺に返してきた。
61 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:53:45.82 ID:CS16k3UF0
******
コツ、コツ、と廊下に軍靴の音を響かせて、
私室へと私は向かっていく。
士官用の個室へと辿り着いた私は、濃緑色のバスタオルを用意し、
軍服をベッドの上へと畳んで置いて、軍靴を脱ぐ。
次に、ズボンのベルトを外し、
ファスナーを下ろして脱いで行き、
靴下と一緒にベッドの上に置く。
私の下半身が下着の身となり、筋肉が付いてはいるが、
女性らしい丸みの残った太ももと、ほっそりとしたすねが露わとなった。
長く、しなやかな白い足。
62 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:54:32.12 ID:CS16k3UF0
川 ゚ -゚) 「む……」
自分の足を見て、苦い声を漏らす。
……いかん、少しすね毛が生えてきているじゃないか。
処理しないとな、と思いつつ、
膨らみの出来ているYシャツへと、
ボタンへと手を掛けて外していく。
上から少しずつ露わとなっていく私の上半身。
大きくはないが、小さくもなく、
程良い大きさをした女性らしい膨らみが露出する。
ボタンを外し終え、畳んで軍服の上に置き、
踵を返して浴室へと向かった。
63 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:55:26.69 ID:CS16k3UF0
******
上から降る幾つもの湯の線条を、クールは浴びる。
湯は彼女の鎖骨に当たって飛沫となって行き、床に撥ねる。
彼女の綺麗な黒の長髪は湿っており、背や首に張り付いていた。
背筋には滴が伝い、形の良い、安産型の大きな尻へと垂れていく。
手で濡れた髪をすくと、付着した泡を湯と手で作る動きによって払い、
泡はクールの身体から落ちていった。
お湯を放射し続けるシャワーは、彼女の体をなおも濡らして行き、
珠のような肌に弾けては湯の玉が散っていく。
白い肌は熱によって僅かに紅潮し、体温の上昇を身体は表す。
その熱を浴びる彼女の気持ちは、
……心地良い
と言った物であった。
66 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:56:43.65 ID:CS16k3UF0
戦場にあれば、風呂に入ることは叶わない。
たとえそれが士官であろうとも、
ただの一兵士であろうとも、その事実は揺らがない。
しかし、今現在、こうして彼女がシャワーにありつけているのは、
まだ、この基地がそれほどまでに切迫した状況に陥っていないおかげである。
川 - -) (恵まれているな)
ニューソク国解体戦争では、
クールがあの国へ攻めいった時には、そうはいかなかった。
毎日が激戦の連続であり、水の一滴ですら惜しい、
追い詰められた状況に立たされていた。
何ヶ月も風呂に入れず、汗の悪臭が鼻を突いたのを彼女は覚えている。
68 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:58:07.39 ID:CS16k3UF0
しかし、悪臭ですら気にならないほど、
自分が必死になっていたこともクールは記憶していた。
川 - -) (生きることに、生き残ることに必死だったからな)
思いを抱きつつ、クールは自分の胸に立った泡を湯で払う。
女性らしい膨らみが、湯の圧力で僅かに震える。
胸元から谷間へと滴が伝っていき、腹へと落ちていく。
シャワーを手にとって、360度の範囲に湯を放射して、
クールは、身体についた泡を全て洗い落とした。
もう一度湯を自分の体に放射して、
浴室内を満たす湿気と、シャワーの温かさに、
彼女は肌を桃色に染めていった。
垢を洗い落とす、心地の良い温もりを得ながら。
70 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 21:58:58.73 ID:CS16k3UF0
******
浴室から出た私は、下着を着て、
バスタオルを肩にかけたままベッドに横になった。
シャワーを浴びた事によって火照った身体からは、
汗が吹き出してくるので、額から垂れてきた汗を、
私はバスタオルで拭い、そのままベッドの端に放る。
ほ、と一息を吐いて瞼を閉じると、頭の中がクリアになっていく。
停止した思考から浮かび上がってくる一語は、
……疲れたな。
と、言う物であった。
72 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:00:16.46 ID:CS16k3UF0
次に浮かんで来る物は、記憶だ。
医務室に行き、ドクオの様子を見に行ったこと。
その途中で兵舎に寄り、ツン達の雑談に混じってきたこと。
杉浦ロマネスクがモナー中将に、私達に宣戦布告をしたこと。
『白猫』とドクオの戦闘のこと。
今日一日の出来事の記憶、だ。
ドクオと『白猫』の戦いを思い出し、
敵へと向かっていく彼の背が瞼の裏に蘇る。
……やはり、無理をさせているのだろうか。
ドクオは、感情の起伏があまり表情に出ない。
人と人が関わっていく中で、感情の機微が顔に現れないというのは、
一種のコミュニケーション能力の欠如である。
欠けたその能力によって、変化の無い表情のせいで、
ドクオが辛いのか、苦しんでいるのか、悲しんでいるのかは、
理解しにくいところがある。
……私も人のことは言えないが。
73 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:01:09.53 ID:CS16k3UF0
かつての戦友と戦う。
同じ国の人間に裏切り者と罵られ憎まれる。
どれほどの苦しみであるのか、私には分からない。
ただ、一つだけ理解できていることがある。
否、これは、理解というよりは推測にしか過ぎないが、
ドクオの言葉の裏を読むことで、彼の人間性について少し分かることがある。
「俺は機械だ」
それは―――弱さだ。
「俺は機械でしか無い」
それは―――逃げだ。
ドクオは、自分に自信を持てていない。
だからこそ彼は、
「俺は機械だ」
そう言って逃げるのだ。
74 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:02:09.49 ID:CS16k3UF0
人であることを認めずに、機械として、
人間よりも下に位置することを彼は選ぶ。
逃げることを選ぶ。
自分を他人と比べることが、怖いのだ。
……比べる必要など、無いだろうに。
未熟な自分。彼は、それが怖い。
戦うことだけが自分の存在意義であると、
そう自分を納得させている。
それ故、
「俺は機械だ」
自分にそう言い聞かせている。
75 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:02:58.36 ID:CS16k3UF0
……弱いな。あまりにも、弱すぎる。
屈強な機械の身に、脆弱な人の意思。
力にすがり人から逃げる、機械に逃げ人から背く、
惰弱な、決して強くは無い普通の人間だ。彼は、人間だ。
恐らくは人を殺すことにも躊躇するようなただの人間。
だからこそ、そう思うからこそ私は、奴に命令を下してやる必要がある。
……上手く利用してると、そう言うのかもしれんがな。
思考は続いていくが、どんどんと瞼は重くなり、
身体から意思が抜けていくような浮遊感を感じる。
あぁ、眠くなっているのかもしれないな……。
ベッドへと、身体が沈み込んでいくような脱力感が………
77 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:04:51.33 ID:CS16k3UF0
******
終戦から四か月ほど経った頃であった。
ニューソク軍、ノトリ谷基地を制圧した味方から、
応援要請をされ、その時、別の任務で戦場に赴いていた私は、
実動小隊をそこに残して、私は二個小隊を率いてノトリ谷へと向かった。
私は、そこに行く前にある一つの噂を聞いた。
風の噂。兵士達に広まる、何の信憑性もないただの噂だ。
ノトリ谷を抜けて首都≪ニジ≫へと向かおうとする部隊は、
黒い亡霊に身体を食い破られる。
怪談話のような、噂。
私はその噂を鼻で笑ったが、しかし、
現地に辿り着いたらそうも言えなくなった。
ノトリ谷基地の司令官が、こう言ったからだ。
79 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:07:19.68 ID:CS16k3UF0
「解体戦争の後期に、ここに強化兵士部隊がやってきて激戦を繰り広げた。
殲滅したはずなのだが、終戦直後に何人かがゲリラとなって部隊を襲った」
「もちろん、私達はそいつらを仕留めた。敵はいなくなり、
交通路も確保できるようになり、私達は万々歳といったわけだ。
だが、約一か月前に、ここへとやって来るはずであった輸送部隊が壊滅してしまった」
「私はもう一度物資の輸送を中央基地に要請した。もちろん、警戒は強化した。
すると、今度は警備を行っていた部隊ごと壊滅させられた。
敵がいると、それも、強化骨格が生き残っていると確信したよ」
「私は捜索部隊を組ませ、敵の駆りだしを行った。
基地内の資料を探し回り、敵の残党が隠れそうな場所を捜し出した」
「地下坑道があったのだよ。資料は全て破棄されていたが、
捜索部隊が発見した。報告が通信で行われたのだ」
「その直後、部隊は壊滅してしまったがね」
「人手が、兵が不足している。何度も敗れてしまったことで、
兵達の士気は下がり切ってしまっている。
君達が代わりに指揮を取って、捜索を共に行ってもらえるかね?」
無能な奴だと、私は思った。
80 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:08:03.34 ID:CS16k3UF0
しかし、相手が強化骨格では、
仕方が無いのかもしれん、と同情もした。
……私も、気は抜けん。
岩が沢山あり、気の茂る道を、私達はしばらく進んでいった。
谷を下り、斜面が急になった場所を通り、
倒木の増えた道を下って行くと、
報告にあった、木々で覆い隠された大穴を見付けた。
静かに、ゆっくりと、
トラップが無いのを確かめて、私は先を進む。
どんどんと、暗い坑道の中をを歩いていく。
何処にもトラップは仕掛けられていないようだが、
細心の注意を払って周囲を見渡し、
足音は発てないように気を付ける。
……無人?
誰もいない、とそう思った。
一切の気配を感じ取れないのだ。
人どころか、動物の物でさえも。
81 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:08:57.73 ID:CS16k3UF0
数分程、疑問を浮かべたまま進み続けると、
広い空間へと出る道を見付けた。
私の体に、そこで電流のような物が走った。
危険と、脳や直感が告げたわけではない。
ただ、誰かがいると、そう、本能で理解出来た。
思わず、私は後ろにいる部下達に手をかざし、制止の合図を送る。
私一人で行く、と、そう手で告げて、
一歩を踏み出していく。
広い空間に近づくにつれて、その気配は強くなって行った。
が、それ自体は酷く弱々しい物に思える。
……まるで、病人のようだ。
私は、坑道の中の広い空間に足を踏み入れた。
83 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/25(土) 22:09:45.40 ID:CS16k3UF0
壁際には、強化骨格を身に纏った兵士の躯が並べられており、
血の臭いと腐臭の混じった異臭が空間を満たしていた。
川 ゚ -゚) 「………ッ!」
死体置き場に目を奪われたが、瞬時に思考を切り替えて、
私は気配を放つ主へと視線を移す。
気配の主は、生き残りは、私の背後にいた。
(メ A ) 「……」
煤の付いた顔に、身体中に滴る黒い血液。
ゴムにも似た繊維で出来た防護スーツを纏い。
壁を背もたれにして片膝を着いた彼の顔には、
生気、と言う物が失われているようであった。
力の無い、否、力の抜けた顔の口元には黒い血が滴っている。
右手には、大口径、という種類からも外れそうな程大きな口径の、
超大口径のリボルバーが握られてはいるが、
構えもせず、こちらへと向けようともしてはいない。
ただ、その男は天井を見上げ、
見えぬ筈の空でも見据えるように、顔を上げているだけだ。
私は身に入っていた力を抜いて、その男へと近づいていき………。
スポンサーサイト
- 2011/10/06(木) 13:32:29|
- 自作品まとめ
-
| トラックバック:1
-
| コメント:0