私はここだ、敵よ。
私の敵よ。私だけの敵よ。
愛しき敵よ。
もうすぐだ、もうすぐ貴様の敵は露わとなる。
そしてその時は、楽しもうじゃないか。
―――共に。
('A`) ドクオと見えない敵のようです
Phase.6 仇敵必滅
******
そのAAはとてつもなく巨大であり、
従来型の5倍はあるのではないかという大きさをしていた。
図太い足に、ずんぐりとした四角い頭部。
頭部には多重の装甲に覆われたカメラアイが設けられており、
数多くの武器が搭載されていた。
頭は足と直結しており、頭から足が生えているかのようなシルエットをしている。
側頭部には長大なグレネードランチャーの砲が四つ伸びており、
足の関節部分には歩兵の接近を防ぐショットカノンとマシンガンが4つずつ搭載されている。
そして何より、頭部に格納されたミサイルがこのAAの目玉であった。
歩兵との連携を取り、歩兵の障害となる物を排除するのが
通常のAAの役割であるが、このAAは、明らかにそれとは違う。
単機で莫大な火力を持ち、正面から敵を捻り潰し制圧していく。
拠点制圧用に作られたこのAAは、他のAAとは一線を画していた
カメラアイの青い光が、眼下を覗いていく。
AAの足元には数多くの強化骨格の兵士達があり、
四足歩行のAAが多数戦闘を繰り広げていた。
制圧用AAは彼ら強化骨格を殲滅していく為に、動きを作ろうとする。
だが、AAはある存在を認めて、それを先に排除しようとグレネードランチャーを稼働させた。
砲口が回転し、目前に立ちはだかる白の強化骨格を捉えていく。
機械剣No.10“ライジングサン”を構えた強化骨格の男は、呼応するように動きを作る。
一歩を前に踏み出し、足を後方へと大きく蹴りだす。
その一歩だけで強化骨格はトップスピードに乗り出し―――
从 ゚∀从 『全強化骨格チーム各位へ告げる、
“完全稼働解放命令”を下す! 総員、全力を以って目前敵を排除せよ!!』
【強化骨格】
―――人工筋肉稼働率100%―――
―――カコログ粒子による活性化により、強化骨格の規格外稼働を開始―――
≪≪コード“ホワイトグリント”起動≫≫
鉛色の刀身が灼熱と化していき、炎を纏う。
ライジングサンの周囲を白い粒子が漂い、強化骨格の身体に電流が駆け巡る。、
強化骨格は、ギコは腕を一度振るって剣を払うと、片手で構え直して巨大AAへと疾走していく。
グレネードランチャーの砲口が接近してくるギコを覗き、
薬莢が排出されると榴弾が空を轟かせて発射される。
正確に狙いを定めていたAAの放った榴弾は、
しかし遅く、ギコの遥か後方で爆発を巻き起こした。
地面を破砕し、衝撃波が周囲に破片を吹き飛ばしていくが、
ギコの疾走の妨げにはなりえず、更にAAへと接近。
足元へと彼は飛び込んでいき、ショットカノンとマシンガンが向けられる。
ギコは砲口の動きを窺い、
(,,゚Д゚) 「ッ!」
巨木が如き太さを持つ足の傍まで地面を転げていき、
その動きと共にライジングサンの刃を叩き込んでいった。
彼の移動した後には銃弾の群が爆ぜていき、爆音に紛れて足の装甲を断つ音が響く。
赤熱化した刃はバターのように装甲を切り裂いていが、
(,,゚Д゚) 「――――ちっ」
足が巨大すぎる為に、ライジングサンで切りつけても大した損傷には成らなかった。
いくら巨大だといってもそれは二足歩行をしている限り、
足をやられればただの鉄塊にしかすぎない。
切断し、移動能力を失わせた後に止めを刺す。
……そのつもりであったのだが。
どうやら“規格外”であったらしい。
ギコは、そう内心に吐き捨てると次の攻撃手段へと瞬時に思考を切り替え、
(,,゚Д゚) 「――――ッ」
自分を追撃してくる、散弾と銃弾を連射する連射砲口から逃れていく。
背後で火花の嵐が巻き起こり、ギコはAAの側面へと跳ぶ。
関節まで昇りつめていくと、そのまま装甲と装甲の間に足を着け、
ショットカノンとマシンガンはそれを追っていく。
だが、ギコは息つく暇も無しに再び跳躍を行い、頭部の下部へと、
ショットカノンの取りつけられている場所へと上昇し、
(,,゚Д゚) 「フンッ!」
気合いと共に一閃を放つ。
重い金属音が空を震わして耳朶を打った。
切り裂かれた砲口がAAの足元へと落下していき、
溶断されたことによって熱を持った切断面をギコは左手で掴んだ。
少々熱を彼は感じるが、構わずに隣接するショットカノンを向き、
左手の力だけで砲口へと向けて飛んでいく。
遅れて、砲口が彼を覗き、散弾が発射されていくが、
それよりも砲が真っ二つにされるほうが早かった。
縦に振られた刃は砲身を切り裂き、ギコはそのまま落下していく。
マシンガンの銃口が彼を向いていくが、足と距離が近い為に銃弾が発射されると、
ギコには当たらずに足の装甲へと火花を作っていった。
装甲に剣を突きたてて減速しつつ、ギコは装甲と装甲の狭間に着地。
空から散ってくる火花を視界に収め、それが止むのを確認すると
彼は勢いよくマシンガンへと跳躍していく。
弾丸が射出されるが如き速度で迫り、銃口は真っ直ぐに向かってくる彼を即座に捉えた。
二つのマシンガンがギコを照準すると、銃弾が発射されていく。
避ける術はないが、しかし、彼は逃れようともしない。
弾丸を待ち構えるかのようにじっと見据え、そして、
一瞬の後に硬質な金属音が響いた。
マシンガンの銃撃を、彼は弾いてみせたのだ。
長くは保たないが、長く保たせる必要もまたない。
銃身に接近するまでの時間が稼げればそれでいい。
ギコは十発目ほどの銃弾を防ぎ終えた頃には、既にマシンガンを間合いへと捉えていた。
二つの銃身の間に飛んだ彼は、
(,,゚Д゚) 「――――ッ!!」
身を独楽の如く空中で一回転させ、両の銃身を剣で切り裂いてみせた。
二つのマシンガンは溶けた鉄の飛沫を散らしながら地面へと落下していく
視界に破片を収めながら、ギコは頭部の下部に足を着けて蹴り出す。
一直線にAAの足元へと飛んでいく彼は、
機体から離れたのを確認したことで稼働を始めた
グレネードランチャーの砲がこちらを覗くのを見た。
が、グレネードランチャーが動けたのは、そこまでであった。
突如として飛来してきた多数のロケット弾が砲塔を集中して爆破し、
グレネードランチャーが粉々に破壊されていったのだ。
(,,゚Д゚) 「良いタイミングだ」
呟き、地面に着地したギコはAAの側部から頭頂部までを見上げていく。
そして、
(,,゚Д゚) 「デカブツが。我らニューソクの兵士は我らが秩序を乱す我らが敵を許しはしない。
俺は命令の下に貴様を切断し、国が為に貴様らを排除する」
赤々と輝く、灼熱と化したライジングサンの刃を振りあげ、
(,,゚Д゚) 「――――消えろデカブツ!」
地を力の限り蹴り上げて疾走し、AAの足を登っていく。
振りあげた刃を足へと突き刺して、そのまま稲妻の如く頭頂部へと駆け抜けていく。
赤い飛沫がAAの身体から散っていき、装甲が呆気なく溶断され、
頭頂部へと上り詰めたギコはAAの正面へと下っていき、
カメラアイの覗く装甲の隙間をピンポイントで刃の切っ先で貫き、
(,,#゚Д゚) 「アアァァァァ―――――ッ!!」
力任せにカメラアイに突き刺さった剣を振り下ろし、
重力に従って落下していくことで、
巨大AAを真っ二つに切断していった。
刃を振り切り、一際大きな飛沫を散らせた彼は、
熱を持つ刃で空を切って温度を下げさせる。
シン、と真空を断つ鋭い音が響くと、
次いでAAが二つになって倒れていく轟音が轟いた。
切断面を晒し、倒れたAAは炎上し、大爆発を巻き起こす。
爆風がギコを襲うが、彼は気にするまでもないといった風に
涼やかな顔でその光景を見つめて、体内通信を行う。
が、パン、パンといった場違いな拍手の音が背後から聞こえ、
咄嗟に身構えてギコは振り返る。
(,,゚Д゚) 「ッ!?」
すると、背後には白の長髪に月のように綺麗な黄色い瞳をした、
白衣の下に黒のドレスを着た女性が、拍手を送っていた。
しかし、その顔に笑みは無く、氷の如く冷たい顔をしていた。
jl| ゚ -゚ノ| 「いやいや、見事だ。見事。流石のお手並みだな、強化骨格よ」
(,,゚Д゚) 「何者だ? 何故ここにいる?」
剣を構え、注意深く女性を観察してギコは問う。
jl| ゚ -゚ノ| 「私の作品達の性能を確かめに、だ」
(,,゚Д゚) 「……何?」
jl| ゚ -゚ノ| 「試作型AA、四足歩行型type“Cheetah”二足歩行型発展形、
拠点制圧用AAtype“T-REX”その性能試験」
jl| ゚ -゚ノ| 「そして、強化骨格のな」
(,,;゚Д゚) 「――――ッ!?」
ギコは思わず息を詰めた。
そして頭の中で「馬鹿な」と彼女の言葉を否定する。
jl| ゚ -゚ノ| 「良い物を見れた。私は私の作品が私の想定していた通りに
稼働しているのを確認出来て、とても満足だ」
jl| ゚ -゚ノ| 「だが、やはりAAでは限界があるようだな。四足歩行型も素早いことは素早いが、
強化骨格に比べれば劣ってしまう。無駄な物だ。これを作るぐらいならば
強化骨格を集中的に量産したほうが効率的且つ戦力の増強に繋がる。
よほど性能を上げない限り四足歩行型が強化骨格を超える日は来ないだろう。
しかし、T-REXは良かった。あれならば、大規模戦闘の際に、
強化骨格が突破出来ない場所でも火力によって戦線をこじ開け、更に強化骨格との連携に――――」
(,,゚Д゚) 「嘘は吐くな、AAも強化骨格も、全てハインリッヒ博士の……」
jl| ゚ -゚ノ| 「奴を作ったのは誰だと思う? 若造」
(,,;゚Д゚) 「……何!?」
言葉を遮った彼女の言葉に、ギコは目を見開くこととなってしまう。
そんな彼を見て、白髪の女性は口の端を緩めて、笑みを浮かべた。
クツクツと笑った彼女は、そのまま続けていく。
jl| ゚ ー゚ノ| 「やはり、若者と話すのは楽しいな。
私が私の作品に教えたことで生まれた作品だというのだから、尚更心が躍る」
jl| ゚ ー゚ノ| 「お前の性能は実に素晴らしかった。ハインの作品の中でも上作の部類に入るんじゃないか?
一気に足元へと接近し、敵の主力兵器を使用不可とさせ、己の機動力を生かして敵兵器の無力化。
強化骨格の性能だけではないだろう。弾丸が見えているからと言って、防げるかと言われればそれはまた別の話だ。
充分に鍛えられていなければ、強化骨格を扱えこなせていなければ、出来ないことだ」
jl| ゚ ー゚ノ| 「素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい。お前はよく出来ている。
実に面白かった。機会があれば、縁が合えばまた会いたいものだ」
そう言った女性は、ギコへと背を向けて歩き出す。
(,,゚Д゚) 「動くな」
警告するが、彼女は気にも留めずに歩き続けていき、
(,,゚Д゚) 「お前は何だ!? 一体何だというんだ!! 答えろ!!」
すると、彼女は歩みを止めてギコへと振り返る。
再び、ニィッと笑みを浮かべて、
jl| ゚ ー゚ノ| 「歴史には残らない、歴史には残れない者。お前には、それしか知る権利はない」
言葉を発し、もう一度背を向けて去っていく。
何故かはわからない。意味はわからない。
名も知らないこの女に未知なる危うさを感じ、
本能が警鐘を叩きだしていき、思わずギコは彼女へと切りかかっていった。
背中に刃を叩き込んでいき、刀身が白衣を裂いていくかと思われたが、
剣は何もない、何も存在しない空間を切り裂いただけであった。
(,,;゚Д゚) 「ッ!?」
刃を振り切り、視線を左右に振るが白衣の姿は既にどこにも無くなっていた。
ギコは、言いようのない不安感と、何かを取りこぼしてしまった感覚を味わい、
(,,゚Д゚) 「……何だったんだ、アレは」
そう独りごちた。
言葉は空しく熱の籠った風と共に消えていき、
彼は先程のこと全てを一旦胸へとしまって体内通信を開いていった。
(,,゚Д゚) 『こちらW2、巨大AAを破壊した。指示を』
从 ゚∀从 『了解、こちらからも確認出来ている。現在W8、W9、W10がゲストBチームと合流。
目標が逃げ込んだ司令室に進軍中だ。お前もCチーム~Dチームを率いて目標の確保へ向かえ』
(,,゚Д゚) 『了解、目標の確保へと向かう』
通信を閉じ、ギコはもう一度剣を構えて司令部へと向かっていく。
******
通路から銃声が響き、司令室までそれは聞こえてきた。
ニューソク軍の兵士達が、すぐそこまで迫ってきているようだ。
灰色の装甲服を着た、浅黒い肌をした初老の男、
フォックスは入口の前にバリケードを作ったカナソクの兵士達を見て呟く。
爪'ー`) 「ここまで計画通りだったというのに、奴らもしつこいものだ。
終いには強化兵士部隊まで連れてきて、一体どういうつもりだ」
爪'ー`) 「奴らは、カナソクと一戦交えても良いと言うのかね。
通常の戦闘なら何も問題ないだろうが、
私達は宣戦布告を聞いていないぞ。戦争は何時始まったと言うんだ」
爪'ー`) 「これじゃあ、我々とやってることは変わらんね。
テロルと何も変わりやしない、単なる暴力にしかすぎない」
爪'ー`) 「世界中から、批難されてしまっても良いと言うのかね?
賠償金だけで済む話ではないぞ、これは」
「テロを教唆していた国の言い分では無いな。
お前たちを匿い、お前たちに人を売らせ、薬を運ばせ、各地で暴れさせたのだ。
正しい手順とは言い難いが、十二分に筋は通っているだろう」
背後で声が聞こえ、彼はその声に振り返らずに応える。
爪'ー`) 「筋など通っていなくとも、己の正義の為なら形振り構わず制裁を下すだろうに」
「それが分かっていても、お前達はカナソクを盾として隠れこんだ。
しかし“見えない敵”に嗅ぎまわられ、お前達の存在は嗅ぎつけられてしまった」
爪'ー`) 「あぁ。だが、まさか強化兵士部隊がやってくるとは思いもよらなかった。
あの国は、ニューソクは、世界の暴君は、私の思う以上に暴君であったらしい。
世界の警察などと、そんな生ぬるい物ではなかった」
「戦争を元に、戦争と共に成長していった民族達だ。
ニューソクの歴史は戦争による進化の歴史だ。あの国を物理的に止められる国などいないだろう」
爪'ー`) 「世界中を相手に戦争をすることになったとしても、か?」
「さあな、それが起こる可能性は低い」
「その可能性にお前達は藁にもすがる思いで賭けてみたのだろう。
ニューソクはそんな可能性に微塵も恐れはせずに乗り込んできたがな」
爪'ー`) 「では、私達はお終いか?」
フォックスの問いに、静かではあるが力の籠った声が返ってくる。
「NOだ。何の為に私がこちらへと派遣されたと思っている?
こんなことは全て“案内所”のシナリオ通りだ」
「強化兵士部隊は現在、正面から我々を攻撃し、進撃してきている。
しかし、カナソクの兵士達を残らず殲滅しつつ進軍している為、
その速度は鈍く、また、新型のAAが出ているので苦戦しているはずだ」
爪'ー`) 「……ここに奴らの部隊が迫っているようだが?」
「そんな物は微少なものに過ぎない。奴らを相手にするよりは遥かに容易いことだ。
迫る部隊を殲滅しだい、ハルトシュラー博士と合流してここから脱出する」
爪'ー`) 「足はどうする?」
「博士が用意しているはずだ。では、状況は飲み込めたか?」
爪'ー`) 「あぁ、あぁ。何とかなりそうだ」
フォックスがそう言った途端に破砕音が司令室に轟いていき、
バリケードが木端微塵となって散らばって煙を作っていく。
すると、兵士達の何名かが吹き飛び、煙の中から白い人影が現れてきた。
(\::)(\::)(\::)
ホワイトグリント
その姿は、強化兵士部隊、強化骨格チームの“白い閃光”と呼ばれる、
白い強化骨格スーツを身に纏う精鋭達であった。
三人の“白い閃光”は機械剣を構えて―――
爪'ー`) 「前言撤回だ。チェックメイトも良いところだ」
フォックスは嘆息と共に悪態を吐くが、
その背後から嬉々として人影は飛び出していく。
人影は黒い装甲服を身に纏っており、“白い閃光”達の背後へと何かを投げつけると、
牽制の射撃を浴びせながら彼らへとナイフで勇ましく切りかかる。
その姿を見たフォックスは、
爪'ー`) 「更に前言撤回だ。あの狂犬が居る限り、詰みなんてものは無いだろう」
笑みを浮かべて銃を構えた。
******
たった一人で司令室へと繋がる通路へと向かう者がいる。
黒の装甲服を身に纏い、片手で超大口径のリボルバー“スティレット”を
構えたその男はIEUの403、鬱田ドクオだ。
彼はカナソクの兵士達やテロリスト達が倒れる通路をひた走り、
フォックスがおり、フサギコ達が向かっているはずである司令室を目指す。
敵の密集しているはずの通路を一人で進む彼は、フサギコ達と合流しようと急いでいた。
フサギコ達は既にこの道を通った後のようで、
敵の死体が転がっているが味方らしきものは見当たらない。
だが、先へと進んでいくと、ドクオは装甲服を着た者が二人倒れているのを見かけた。
見れば、それは女性と男性のようで、傍へと寄っていくとブーンとペニサスであった。
二人の身体には外傷は見当たらず、ドクオはブーンの首筋に手を当てて脈を確かめる。
どうやら、気絶しているだけらしい。
肩を叩いてドクオはブーンに呼び掛ける。
('A`) 「406、目を覚ませ。何があった」
( -ω-) Zzz
強く肩を叩いて何度も呼びかけるが、彼が目を覚ます気配はない。
しかし、その近くで倒れていたペニサスが動きを作った。
('、-;*川 「アンタ……一人で…」
頭を押さえつつペニサスは苦しげに言葉を発した。
('A`) 「393、無事か?」
('、-;*川 「え? なんて言ったの?」
('A`) 「無事か?」
('、-;*川 「頭痛が激しいし、鼓膜もちょっとやられてるみたい。
でも、もう少ししたら治ると思う」
('A`) 「スタングレネードでも受けたか。392はどうした?」
('、`;*川 「分からない……強化骨格チームと合流した後、
司令室に乗り込もうとしたんだけど……」
言葉をペニサスは作ろうとするが、
途中で頭痛に苛まれ、言葉は途切れてしまった。
その姿を見たドクオはブーンを見てから口を開き、
('A`) 「393、406を頼む。俺はこれから司令室へと向かい、392と合流する」
('、`;*川 「了解、後から私達もそっちに向かうわ。無茶はするんじゃないわよ」
('A`) 「了解だ」
先へと進んで迂回路へと向かっていく。
******
('A`) 「ッ!」
迂回路を進み、司令室の目の前までやってくると、
ミ,メメ Д ナ彡
ドクオは腹部と胸部に大量の出血をしているフサギコを見つけた。
装甲服はズタズタに切り裂かれており、装甲は破壊されている。
すると、司令室から銃声が響き、
ドクオはそちらを警戒しつつフサギコの元へ移動する。
('A`) 「392、無事か?」
ミ,メメ Д ナ彡
呼びかけるも、フサギコがそれに応えることはなく、
ドクオは手で肩を叩いてもう一度呼びかける。
('A`) 「392!」
ミ,;メ゚Д ナ彡 「ぐ……」
小さく呻き、片目を開けたフサギコはドクオに気づく。
口を開き、絶え絶えの息を吐きながら言葉を作っていき、
ミ,メメ゚Д ナ彡 「よん……ま…る、さん……気をつけ……ろ」
ミ,メメ゚Д ナ彡 「ない、つぅ……しゃが……いる」
ミ,メメ Д ナ彡 「よん……まる―――」
('A`) 「ッ!?」
しかし、フサギコが言いきる前に、
何者かが司令室から飛び出してくるのをドクオは見た。
そしてそれは彼へと飛びかかってきており、ククリナイフをドクオへと振るう。
バックステップを瞬時に行ってその男を正面に捉え。
ドクオはサバイバルナイフを抜いて構える。
すると、彼の目の前には灰色の装甲服を着た男が立ちはだかっていた。
('A`) 「目標確認、確保へ移る」
爪'ー`) 「小僧、そこを退け。道を開けろ」
('A`) 「断る」
右手に握るスティレットをハードポイントのホルスターに収め、
もう片方のホルスターからハンドガンを抜く。
左手にナイフ、右手にハンドガンを構えたドクオは、
フォックスに銃口を向けて弾丸を放つ。
その時には既にフォックスは足に動きを作っており、
銃口から逃れて斜め左へと前傾姿勢を取って駆けだしていた。
パワーアシストを受けたフォックスの突進力は凄まじく、
ドクオの脇へと突っ込んでいった彼はそのまま右足を軸として独楽の如く回転。
そこから首を薙ぐ一閃が放たれ、銃を降ろして身を伏せたドクオはそれを避け、
フォックスの軸足を自分の右足で払っていく。
踵に衝撃を感じたフォックスは後ろから倒れていくが、
しかしそのままでは終わらせずに上半身を起こし、
手首を返してもう一度ククリナイフを振るう。
くの字に折れた分厚い刃がドクオの眼前に迫り、
それはサバイバルナイフの刀身に往なされて空を掻く。
振るった刃を防がれたフォックスは地面へと背から倒れる。
そこからドクオは瞬時に接近していき、銃を向けようとするが、
フォックスは左足でドクオの脇を蹴り上げ、彼の動きを一瞬止めてみせる。
(;'A`) 「ぐっ……」
脇に食らいついた爪先は装甲越しにも衝撃を深く突き刺ささらせ、
鋭い痛みにドクオは思わず嗚咽を漏らす。
苦しげに眉を曲げて距離を離していき、フォックスはそれを追撃する。
爪'ー`) 「――――果てろ!」
跳躍し、全体重を掛けて振るうことによって、
大上段に振りかぶられたククリナイフの刃はドクオの頭を最速を以って叩き割ろうとする。
唾液を吐きつつも顔を上げ、視界にそれを収めた彼は、
ただ冷静に、今まで積み重ねられてきた鍛錬による対象法をとっていく。
まず、左に順手で構えたナイフを逆手に持ち直し、
フォックスの身体の動きと迫りくる刃の軌道を観察する。
一瞬。一瞬で彼の動体視力はその単純な動きを見極め、
振り下ろされる肉厚の刃へと自分のナイフの腹を右下から掬うように当てていく。
すると、ククリの刃は火花を散らしながら左へと逸れていき、
装甲服の肩を掠めていった。次いで、ドクオはそのナイフを掴んだ腕で
フォックスの装甲服の裾を掴み、右腕もそこへ即座に追加する。
そして一気に腕を外側へと捻りあげていくと、
爪;'ー`) 「―――――ッ!?」
空中でフォックスはぐるりと一回転し、
右腕を掴まれたまま脇腹から地面へ激突していった。
そして、右手から離れていったククリナイフが僅かに遅れて落下する。
痛みを感じてる間はなく、急いでフォックスは身を転がしてその場を離れようとするが、
それよりも圧倒的に早くドクオは腹部へと足を叩き込んだ。
堅い金属音が響き、フォックスの装甲服が抉れていく。
衝撃と激痛に彼は身をくの字に折るが、
ドクオはそのまま掴んだ右腕を捻りあげて、
右足でフォックスを抑えつけながら背へと回る。
そして背中へと圧し掛かったドクオは、
左手を離してフォックスの左腕を掴む。
次いで、ドクオはフォックスの両腕を背の後ろに組ませていき、
何とかして逃れようと暴れるフォックスの後頭部にハンドガンの銃床を叩き込む。
痛みに苦しんでいる隙に、ドクオはバックパックから
取り出した手錠をフォックスの両腕に嵌めた。
体内通信を開いていき、
('A`) 『こちら403、目標を確保した。司令室の手前にいる。401、指示を』
_
(メ゚∀゚) 『本当か!? 現在、そちらに強化兵士部隊のチームが30名向かっている。
そいつらと合流して目標を輸送機へと移送しろ』
('A`) 『了解、そちらの状況は?』
_
(メ゚∀゚) 『俺は大丈夫だ。405も鎮痛剤と止血剤が効いているのか落ち着いている。
衛生兵達と合流したから、後はそいつらに任せるのみだ』
('ー`) 『そうか……』
ドクオは、軟らかな表情を浮かべてそう呟くが、
瞬きする間には既に何時も通りの無表情へと戻っており、
('A`) 『援軍と合流しだい目標を移送する。以上』
そう言って体内通信を切った。
爪'ー`) 「フン、体内通信か。何を話していたのかは知らんが、これで勝ったつもりか?」
('A`) 「……」
爪'ー`) 「お前は一人だ。私の仲間がやってくれば、貴様などすぐに排除するだろう」
('A`) 「……」
爪'ー`) 「それに、私を捕らえてどうなるというのだ?
貴様等はカナソクに攻撃した。他国から何らかの制裁を受けることは免れん」
('A`) 「……」
爪'ー`) 「結局、痛い目を見るのは貴様等の方だ。カナソクが手を貸していたのは事実だが、
実行していたのは私達だ。カナソクはさして痛手を負う事は無い。
私を滅ぼし、ラドンが解体されようとも、また別のテロリスト達が貴様等を狙うだけ」
爪'ー`) 「貴様のやったことは無意味だ。無意味で詮無いことの為に、
貴様の仲間達は死んでいき、傷ついていったのだ」
爪'ー`) 「無意味な命で、無駄な―――――」
言葉がその先を継ぐことは無かった。
再び銃底で後頭部を殴りつけられたことで、フォックスは口を閉ざしたのだ。
('A`) 「黙っていろ。負け犬が吠えるな、耳障りだ」
爪;'ー`) 「ちっ……」
フォックスを抑えつけつつドクオは周囲を警戒する。
ハンドガンでは心許ないが、すぐに味方がやってくるはずだったので、
彼はそれだけでも充分だと思っていた。
黙りこくったフォックスに意識をやりつつも、
正面に見える司令室の入口と背後の曲がり角を留意。
足音が聞こえ、味方がやってきたか、とドクオが思うと、
(;'A`) 「ッ!?」
目の前から白い強化骨格スーツを纏った兵士が吹き飛んできた。
白のスーツからは黒い人工血液が滴っており、
兵士は血達磨になって息絶えていた。
(メ\::)
亡骸へとやっていた視線を司令室へと移すと、
そこには、
川メ゚ -゚:)
黒い血を浴びた402――――素直クールの姿がそこにあった。
彼女は黒の装甲服に身を包み、右手には光の反射を防ぐために漆黒に塗られた刃を持つ、
ボウイナイフが握られている。鋭い切っ先からは黒い血液が滴っており、
それは先程の白い強化骨格を倒した証のようだ。
よく目を凝らせば、彼女の背後には他にも二名の白い強化骨格の兵士の
亡骸が転がっているようであった。
クールは顔に付いた人工血液を左手で拭っていき、
(;゚A゚) 「な……! 402ッ!?」
爪'∀`) 「来たか、狂犬ビッチ。こいつを―――」
笑みを浮かべて言うフォックスの額に、
目にも止まらぬ速度で抜いたハンドガンで弾丸を叩きこんだ。
赤い点を頭に作ったフォックスは、一瞬で絶命していく。
焦ってその場からドクオは離れていき、
(;'A`) 「よ、402、目標をどうして殺した?」
川メ゚ -゚) 「助けるつもりなど元よりない。
所詮、貴様は踊らされていただけにすぎん」
(;'A`) 「説明しろ!」
川メ゚ -゚) 「良いだろう……」
川メ゚∀゚) 「――――全てを教えてやるッ!」
笑みを浮かべたクールは力強い言葉と共に弾丸を放ち、
ドクオの装甲服の肩に火花が弾ける。衝撃を受けるが、
それでも彼は通路の端へと逃げていき、クールから距離を取る。
ハンドガンの銃口が移動するドクオを再び捉え、
彼は曲がり角に差し掛かるとステップを踏んで回り、
蔭に隠れると同時に牽制の射撃をクールへ送る。
司令室入口の壁に火花が弾け、彼女は室内へと隠れていく。
扉の端から顔を覗かせ、銃を突き出してドクオへ銃弾を放つ。
丁度壁際から顔を出して相手の様子を窺おうとしていた彼の、
すぐ目の前で火花が爆ぜて、慌てて彼は一歩を引く。
そしてリロードを行いながら、
(;゚A゚) 「402! 攻撃を止めろ!! 相手が違う!!」
川メ゚∀゚) 「これこそが私の望みだ! これこそが正しいのだ!!」
川メ゚∀゚) 「 お 前 こ そ が 私 の“敵”だ !!」
高笑いを上げながら叫ぶクールの声を、ドクオは聞く。
しかし、その言葉だけではドクオの“心”は納得しようとはしなかった。
それでも彼の“心”はまた警鐘を鳴らし、
本能的に壁際から壁際へと飛び込みつつクールへ弾丸を放つ。
直後、金切り音が響き、身を乗り出していたクールのハンドガンに
弾丸が撃ち込まれ、破片を散らしながらそれは宙へと舞っていった。
ドクオは続け様に弾丸を連射していき、クールを牽制する。
司令室へと逃れていった彼女を追跡し、室内に入り込むと、
凄まじい速さでクールは切りかかって来た。
左斜めから迫る刃に対し、ドクオは右へと飛び退ることでそれをかわす。
次いで、彼女の姿を収めた彼は身構えていく。
右足を前に置き、腰を低く落とすと、
(;'A`) 「どうしてなんだ!? 裏切ったのか!?
内通者は、渋澤やイヨウの情報をリークしたのは! お前なのか!?」
川メ゚ -゚) 「それを知ったところで何になる?」
川メ゚ -゚) 「感情から目を背けるお前は弱い。あまりにも脆く、
とても脆弱で、何もかもを理解出来ていない」
川メ゚∀゚) 「感情のままに、心を満たす為ならば、
どのような手段をも用いる者がいることをお前は知らない!」
逆手に構えたボウイナイフを踊るような動きと共に振るっていき、
ドクオは後ずさることでそれを避けていく。
鋭い、凶悪な刃が空を鮮やかに掻いていき、
その素早さにドクオが対応することは難しく、
彼は反撃することを躊躇した。
それはあまりにも速すぎた。
刀身が巻き起こす刃風から、熱を感じるほどだ。
長年の訓練を積んできたドクオでさえも、見切ることは難しい。
ナイフ格闘では、どうやら彼女の方が優れているようだ。
視線を逸らさずに逃げ続けるドクオは、やがて背後に置かれた机にぶつかり、
そのまま後ろへと転げていって、地に足を着けると思いきり蹴りつけて疾走を開始する。
司令室の奥へと逃れようとする動きだ。逃さんと言うようにクールは追い、走りだす。
背後へと迫ると、急にドクオは振り返り、
そのままクールへとナイフを叩きつけていく。
が、甲高い金属音が鳴り、呆気なく防がれてしまう。
しかし、ドクオは次いで至近距離からの銃撃を放ち、
それはクールの装甲服を抉り、穿ちはしないが危険だと
判断した彼女は身を回してドクオから後退。
追撃。
ハンドガンの銃口を回転の動きに追従させ、弾丸を吐き出していく。
パン、パンと乾いた音が司令室に響き、
次いでクールの目前で火花が散る。
('A`) 「……ッ!?」
金属音と共に発生するそれは、クールが弾丸を弾くことによって生まれた。
ドクオが放つ弾丸を防ぎつつ彼女は懐へと接近し、
足を振りあげることでハンドガンを蹴り飛ばす。
ハンドガンが浮き上がっていくのに目もくれず、
カウンターの一撃をドクオが繰り出し、
サバイバルナイフの刃がクールの脇へと襲いかかる。
防がれ、更に胸へと一閃を放つがそれすらも防がれる。
だが、一歩を前へと踏み出してドクオはもう一度斬撃を繰り出す。
目を狙う、左斜め下からの切り上げ。
高速を以って刃は迫っていくが、首を逸らすことでそれは虚空を切る。
クールはそのまま腰を深く落とし、
体重を前に傾けて左の平手を張り出していき、
(;゚A`) 「がぁ……ッ!?」
ドクオの胴へと掌底が叩き込まれた。
衝撃が肺を突きぬけて呼吸を止め、呼吸困難の苦しみを味わうことになるが、
ドクオそれでも何とかして右足から足払いを繰り出すも、
それを逆手にとってクールは彼の足に自分の足を絡ませて掬い上げる。
一歩を引かれ、足を払おうとした足を逆に払われてしまうと、
ドクオは背中から地面へと激突していく。
が、クールはそれを許さず、ドクオのナイフを持つ手を左手で掴み、
手首を捻り上げることでナイフを落とさせる。
そして彼を引き寄せていき、辛うじてドクオは無事な右手から打撃を繰り出すが、
クールは見透かしたようにその拳を自分の右手で受け止める。
両手が交差し合い、鼻と鼻がぶつかりあいそうなくらい顔が近付くと、
彼女は狂気の孕んだ笑みを見せて、
川メ゚∀゚) 「ほら、やっぱり弱い」
(;'A`) 「………ッ!?」
交差を解き、右の手を離して背後へと回っていき、
ドクオの左手を背中に押さえつける。
そして瞬きの間に首へと右腕を絡ませると、
ナイフの切っ先を首筋へ突きつけていく。
川メ゚ -゚) 「お前の戦闘技術は見込んでいた。よければ“こちら”へスカウトしてやっても良かった。
だが、お前は未熟すぎる。人の心を知らないお前はスパイとしては未熟だ」
川メ゚ -゚) 「そんな未熟なお前を私が育て上げてやると言うのも、
想像するだけでゾクゾクするが」
川メ゚∀゚) 「――――ここでその芽を潰してやるのも面白い」
向けられた刃が、ドクオの喉を突き刺さんとしていき、
しかし、轟音が響いて彼女はその動きを止めた。
言葉が続く。
(,,゚Д゚) 「そこまでだ、武器を捨てて投降しろ。命の保証ぐらいはしてやる」
天井にスティレットをかざしたギコがいつの間にかクールの正面に立っており、
周囲を黒の強化骨格達が取り囲んでいた。黒の強化骨格達は銃を構えており、
無数の銃口がクールを覗いている。
もし、これらの銃全てから弾丸が放たれれば、いくら装甲服といえども、
蜂の巣となってしまうことは避けられないだろう。
白煙を立ち昇らせるスティレットの銃口を、ギコはドクオごしにクールへと定めていく。
(,,゚Д゚) 「そいつを解放しろ!」
川メ゚ -゚) 「……フン」
(;'A`) 「……」
完全に包囲された形となり、クールはそれらを興味なさそうに眺めて、
ドクオの耳元へと口を近づけていくと、
川メ゚ -゚) 「どうやら、時間を掛け過ぎたようだな。邪魔が入ってしまった」
(;'A`) 「……」
川メ゚ -゚) 「興醒めだよ、これじゃあ。良いところまで行ったのだがな……」
川メ゚ -゚) 「なぁ、どうせなら―――」
川メ ∀) 「……一緒に死んでくれるか?」
冷たく、怖気を感じるような声がドクオの耳朶を打った。
その声を聞いたドクオの肩が、ぶるりと震えていく。
それでも顔は平静を、無表情を保っていた。
しかし、死の恐怖を抑えることは出来ず、
ドクオの額から首筋へと、冷たい汗が一筋伝っていった。
それを目に収めたクールは、ふっ、と笑って、ナイフから手を離していく。
ドクオの身体を押さえつける力が緩まっていき、拘束が解かれ、
彼はクールの下から離れていき、投降の意思を確認したギコは口に動きを作る。
(,,゚Д゚) 「地面に膝を突いて両手を頭の後ろで組め」
言葉通りの行動をクールはしていき、ギコは体内通信を開いていく。
(,,゚Д゚) 『敵兵が一名投降、目標は死亡した』
从 ゚∀从 『了解、こちらは敵勢力を全て鎮圧した。
目標の死体を運べ。投降者は、ゲストに判断を委ねる』
(,,゚Д゚) 『了解した、そちらへ死体を運ぶ。以上』
体内通信を切ったギコを傍目に、ドクオはクーを見下ろす。
地面に膝を突いた彼女は何も窺えない無表情をしており、
その眼はただ虚空を覗きこんでいた。
ドクオは彼女の背後へと立ち、バックパックから
フォックスに使用するはずであった予備の手錠を両手に嵌めていく。
('A`) 『403より、401へ。内通者を拘束した、輸送機へと運んでいく。以上』
精気の抜けたような顔をし、力の籠らない声で伝えた彼は、
クールの腕を掴みあげて司令室から出ていった。
******
カナソク時刻0407
その時刻を以ってしてカナソク軍側の戦力は全て鎮圧され、
ラドンのリーダーフォックスの排除によって状況は終了した。
帰還する為に輸送機へと乗り込んだIEUの隊員達は、
重傷を負ったトソンと、シャキン、そして死亡したフサギコを除いて一カ所に集まっていた。
ラドン側の内通者であった、素直クールを囲んで、
彼らは機内に備え付けられたイスに座っている。
しかし、彼女に声を掛ける者は誰一人おらず、
ただクールの動きを注意深く監視しているのみだ。
裏切り、敵となったからには、もはや彼らにとって彼女は元仲間でも同僚でもなく、
ただの敵でしかなく、それ以上の感情を持つことは無い。
だが、ドクオだけは何故か複雑な表情をして、彼女のことを見つめていた。
(;'A`) 「………」
彼の頭の中に浮かぶ物は、何故、という疑問符ばかりだ。
感情をコントロール術を知らない、感情を押し殺す事しかしてこなかった彼には、
他の隊員達のように冷静ではいられず、ただ動揺しているばかりであった。
(;'A`) 「……どうして」
すると、口をついてそんな言葉が漏れてきた。
他の隊員達が顔を上げ、彼の言葉に反応するが、
それに応えようとする者はいなかった。
クールも彼のほうを見るが、しかし、何も語ろうとはしない。
……どうして?
そう疑問に思い、
……何でお前が裏切った。
と悲しみを覚え、
……お前のせいでみんな死んだぞ。
次いで怒りを感じ、
……信じてくれていたんじゃなかったのか?
大切な物を失ってしまったような感覚を味わう。
目の奥に熱を、喉の奥に苦しみを、
制御不能の感情を噛みしめながら、ドクオはクールを監視し続ける。
心を押し隠す事はもはや出来ず、彼の胸の内からは感情が漏れ出つつあった。
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- 2011/10/04(火) 22:27:30|
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