俺には分からない。
俺にはどうしようもない。
酷く悲しい。酷く腹立たしい。
酷く心細くて、酷くやるせない。
任務は確かに終わった。
だから俺は次の任務に控えていればいい。
それだけだ。それだけなんだ。
でも、でも、でも……。
俺には分からない。
俺にはどうしようもない。
誰か教えてくれ。誰か命令してくれ。
"これ"を、"これ"は、この“気持ち”は、
どうすればいいんだ?
「否、お前はどうしたい? 鬱田ドクオ」
('A`) ドクオと見えない敵のようです
Final Phase ドクオ
******
('A`) 「……ふぅ」
軍病院の玄関から暗闇に染まった空の下へと出て、
輝かしいニジの街並みを見て俺は溜息を吐いた。
吐息は夜の冷ややかな空気に混じれて熱を失い溶け込んでいく。
目には見えないが、肌にはそれが伝わってくるようだ。
意識しなければ、そんなことは分かりはしない。
冬のように寒い時期ならば、吐息は熱によって白い蒸気となるが、
春の暖かさではそんなものは見えず、見えない熱気を感じ取らねば気付くことなど出来ない。
意識しなければ"見えない"。神経を張り巡らせていなければ"見えやしない"のだ。
俺には、俺の敵が見えなかった。
すぐ傍にいたのに、ずっと傍にいたというのに、
その正体を見破ることはついに出来ず、深刻な痛手を三課にもたらしてしまった。
深い、深い傷をニューソク国防情報局第三課は負ってしまい、
それは今日目に見てきた光景全てに生々しく現われていた。
もっと早く気づいていれば、このような事態にはならずに済んだろう。
しかし、
……俺は負けた。俺の"敵"に
負けた、負けてしまったのだ。
奴の言うとおり、敵に告げられたように、俺は弱かったのだ。
全てを見透かされてしまっていた。頼もしかっただけに彼女は手強い敵となった。
今まで情報の漏洩を気付かせずに済んできたのは、偏に奴の優秀さによるものだろう。
でも、
……私はお前を信じているよ、か。
その言葉が、敵に言われたその言葉が未だに俺の頭から離れない。
その言葉を放たれた時から彼女の声をもって延々と脳を揺らすように、
それでいて静かに"信じている"と響き続けている。
忘れられたのは、任務の最中だけだった。
彼女の言葉はそれほどまでに俺を束縛した。
今もなお、内側から全てを支配するかのように言葉が響き続けている。
その響きに耳を背けずに傾けてみせると、舌にはあの時のスパゲティーの味が、
鼻にはアルコールの匂いと彼女の香りが、目には彼女の穏やかな表情が蘇ってくる。
俺はその言葉には耳を貸さないように無視をする。
神経を研ぎ澄まして、目の前のことに集中して。
でも、駄目だ。駄目なんだ。
……お前は弱い、と言われた。
そして、
……俺は負けた。
『私は、お前を信じているよ』
この言葉はきっと罠だったのだろう。
人の感情を理解しようとしない、自分の心に目を背けてきた俺に対する、罠だ。
俺が内へと隠し続けてきた精神は未熟で、脆く、それ故に奴に利用されたのだ。
思い出してみろ、今日見てきたものを。
ほんの少し前に会った、その身にも心にも傷を負った仲間のことを。
ボロボロになるまで戦い続けた仲間のことを。
奴に殺された、奴によって殺されてしまった仲間達のことを。
******
任務を達成し、カナソクのニントンから飛び立った俺達は、
ニューソクのニジの外れにある基地へ降り立ち、
負傷したシャキンとトソンはそこの近隣にある軍病院で治療を受けることになった。
輸送機が着陸し、ハッチを開くとすぐに救急車がやってきて、
トソンとシャキンを乗せていく。俺はそれに付いて輸送機から降りる。
時差により、午後のニューソクの太陽が暗順応した目には厳しく、
眉を顰めることになった俺の前を、担架を持った医療スタッフが通り過ぎていく。
(-、-;トソン 「………」
担架に乗せられたトソンが輸送機から運ばれてきた。
痛みで脂汗を浮かべて、苦しげな表情をする彼女が俺を横切っていく。
その姿が救急車へと送りこまれるまで、つい釘付けになってしまった。
同じく、シャキンも運ばれていくが、応急処置を受けて回復に向かってきたのか、
トソンと比べると少し余裕のある表情に見える。
同じ得物でやられたのだが、トソンの場合は切られ方が悪かった。
シャキンの場合は刃を避ける形で、しかし避けられずに切られたが、
彼女は俺を庇うために、自ら飛び込んでまともに刃を受けてしまったのだ。
本当に、内臓にまで刃が達していなかったのは、運が良いとしか言いようがない。
しかし、切られた際に骨を傷つけてしまったようで、
その破片が少々内臓を痛めたらしく、油断はならない状態だ。
救急車のドアが閉められていき、トソンの顔が見えなくなる。
……長年の仲間が死なないように。
そんな祈りにも似た気持ちを抱きながら、
言いようのない複雑な心持となってしまう。
コツ、コツとブーツが金属を蹴る音を響かせるのは、
ペニサスとブーン、そして二人に両脇を抱えられたクールだった。
手錠で両腕を繋がれた彼女は、抵抗する素振りすら無く二人に従っていく。
一歩ずつ俺のほうへと近づいてきて、正面を横切る間際に、
川 ゚ -゚) 「………」
クールは足を止めてこちらに振り返ってきた。
ブーンとペニサスは、突如として立ち止まった彼女に釣られて足を止めてしまう。
二人は、クールが俺に視線を浴びせているのを確認し、俺を見る。
三人が俺と向き合う形となり、クールは口を開いた。
川 ゚ -゚) 「私のナイフがあるだろう? アレは私の私物だ。
調べても、何も出てきやしない。
だから、アレはお前が持っていてくれないか?」
('A`) 「……どうしてだ?」
川 ゚ -゚) 「廃棄処分されるには惜しいのでな。壊されるくらいなら、
お前が持っていてくれた方が嬉しい」
('A`) 「アンタの頼みを聞いてやる義理は、俺達には無い」
川 ゚ -゚) 「そうか……残念だ」
視線を落とし、冷静な声音に落胆の色を霞ませてクールは言う。
影の差した顔を見て、何故か胸が痛んだような気がした。
沈黙していることに耐えられず、言葉を発さずにはいられなかった。
('A`) 「……どうして裏切った?」
川 ゚ -゚) 「またそれか。そんなことは、これから嫌でも話す事になるんだ。
ここで話す気にはなれんな」
('A`) 「黙秘するっていうなら、今すぐに舌を噛み切ればいいだろう」
川 ゚ -゚) 「それほど"奴ら"に義理立てしてやるつもりは無いのでね」
('A`) 「……その"奴ら"が危機に晒されても、か?」
川 ゚ -゚) 「あぁ、私にとってどうでもいいことだ」
( A) 「……じゃあ、何でなんだ?」
自分の声が、震えているのが分かった。
喉の奥に何かが詰まり、上手く言葉が発音出来ない。
川 ゚ -゚) 「………」
( A) 「何で……何で、裏切った?」
( A) 「よりによって、どうしてアンタだっていうんだ」
俺の言葉を聞いたクールは、ほんの少しだけ口の端を釣りあげて、
笑みのようなものを作った。しかし、それはすぐに崩れて元の無表情となる。
川 ゚ -゚) 「やはりそれか……どうやら、任務や国の為に、というわけではないようだな」
川 ゚ -゚) 「えらく人間らしい顔になったじゃないか。
だが、中途半端で、酷く不安定で、やはり弱いな」
( A) 「……」
言葉を、何か言葉を返そうとしたが、
肺が引き締まったように苦しく、もう声を絞り出すことも出来なくなってしまっていた。
しかし、視線だけは逸らさず、クールと相対することだけはやめない。
どうしてそうしようとしたのかは、俺にも分からない。
でも、この機会を逃すと、何かを失ってしまうような気がして、
もう二度と手に入らない物を取りこぼしてしまうような気がしていた。
川 ゚ -゚) 「―――出来ることなら、感情を得た、一つ成長したお前を見てみたかったよ」
そう言った彼女は俺に向けていた視線をペニサスに移し、
「もう良い、礼を言う」と伝えると、格納庫の方に用意された軍用車へと連れられて行った。
その背中を、最後まで見ることは、何故か出来なかった。
何故か、それだけのことが今の俺には辛かった。
まるで、トソンが俺を庇って斬られた時のような心持ちになっていた。
目の奥が熱く、息が苦しい。
俺は輸送機の中へと戻っていき、
ハインリッヒ博士と何かを話していたジョルジュを見つけ、一つ頼みごとをした。
******
作戦を共にした特殊部隊の為に手配された、
車幅が大型トラック程もあるずんぐりとした軍用車に乗り込む
特殊部隊の隊員達を傍目に、ハインリッヒは輸送機から降り、ニジ基地へと向かう。
目線をまっすぐに司令部へとやった彼女は、
軍服の上に白衣を羽織った身をそこへと進ませていく。
職業からか足取りは速く、忙しなさを感じさせる歩き方だ。
彼女が降りた機体は滑走路から格納庫へど移動していき、先を進む。
既に兵士達は兵舎へと向かっており、滑走路周辺には姿が見えなかった。
ただ、一人の白い強化骨格を除いては。
(,,゚Д゚) 「……ハイン」
背後から声をかけられたハインリッヒは、ゆっくりと振り返る。
白髪が揺れ、赤い瞳がギコの姿を据えた。
短く刈られた髪に、男の力強さを感じさせる瞳。
冷たく、胸の内に熱き魂を宿らせる彼の表情は、
どこか張り詰めているようだ。
从 ゚∀从 「なんだ?」
粗雑ささえ感じさせる、攻撃的な赤の瞳で視線を交えた彼女はそっけなく尋ねた。
(,,゚Д゚) 「無事にミッションは終了したな、お疲れ様だ」
言葉を聞いた彼女は片眉を吊り上げ、耳を疑ったように顔を歪める。
「はっ」と笑みともつかない吐息を漏らし、
从 ゚∀从 「あぁ、お疲れ」
息吐く間も無しにギコがすかさず言葉を重ねる。
(,,゚Д゚) 「今回の作戦、どうにも腑に落ちない点が多すぎる。
まず一つに何故カナソク側に強化骨格が存在した。何か分かることは?」
从 ゚∀从 「あー、はいはい。やっぱりそうなるわな。これは個人的な質問か?」
(,,゚Д゚) 「そうだ。指揮官にタメ口をきくはずがないだろう?」
从 ‐∀从-3 「今現在きいてるじゃねーか」
(,,゚Д゚) 「公と私の違いだ。今なら問題はないだろう?」
从 ゚∀从 「まあな、構わねーさ。だがよ、いくら"最強"でも知ってることと知らないことが
あるってことは理解しといてくれよ? アタシだって今回のことは少々驚いてるんだぜ?」
(,,゚Д゚) 「俺は腰を抜かすほど驚いたがな」
嘘くせーな、そう思って鼻で笑ったハインリッヒは、苦笑顔で口を開く。
从 ゚∀从 「正直、わかんねーよ。全くね。強化骨格の行方不明者は国内で出てねーし、
奴らラドンやカナソク軍に拉致された線は薄い。カナソクの技術力じゃ人工筋肉は
もちろん、強化骨格スーツも作れやしない。よって、自力で作ったというのもありえない」
从 ゚∀从 「研究員が亡命したか、それとも拉致られて作らされたか、設計図を盗まれたか。
基地のコンピューターをいじられた確率は低く、強化兵士計画に携わっている
研究者が行方不明となっているとの報告は無い」
从 ゚∀从 「他国と結託し、強化骨格の共同開発に当たるという手もあるが、これは余計に無いな。
ニーソクだろうがオオカミだろうが、強化骨格は作れんよ」
(,,゚Д゚) 「少ない、ありえない、無い、さっきから否定的な物ばかりだな」
从 ゚∀从 「それほど起こり得ねーことなんだよ、他国が強化骨格を所有してるなんてな。
ただ、ニューソクの企業がカナソクに技術提供してるってんなら、
もしくは軍の内部に裏切り者がいるってんなら、別だろうけどよ」
何気なく言ったような声音で放たれた言葉に、ギコの顔に緊張が走った。
張り詰め、眉を微かに歪めて口を開き、
(,,゚Д゚) 「……可能性は?」
从 ゚∀从 「ありえねーな。ただ、絶対にあり得ないと言いきれないのが、悲しいとこだ」
そうか、と小さく頷いたギコは視線を逸らす。
ばつの悪そうな表情になった彼を見て、ハインリッヒは微かな気まずさを覚えた。
瞼を瞑り、場の空気を切り替える為の言葉を捻りだしていく。
从 ゚∀从 「そういや、あの強化骨格を撃破したのは、特殊部隊の403という奴らしいぞ」
(,,゚Д゚) 「403?」
从 ゚∀从 「お前が初めに倒した生物兵器と戦っていた奴だよ。
忘れちまったか?」
(,,゚Д゚) 「……アイツか。いつも死の際に立たされていて、それほど力は感じられなかったがな」
从 ゚∀从 「通常小火器のみで生物兵器と渡り合ったんだ。
お前ら強化骨格には劣るだろうが、装備次第ではお前でも敵わないかもしれねーぞ」
(,,-Д゚) 「フン……」
ホワイトグリント
从 ゚∀从 「402、という工作員には劣るがな。奴には"白い閃光"を三人も殺られた」
(,,-Д゚) 「……だからこそ腑に落ちん」
(,,゚Д゚) 「402、403。奴らほどのイレギュラーがいるとは、
一体どこの部隊だというんだ? そして敵の生物兵器に、正体不明のAA」
从 ゚∀从 「……」
(,,゚Д゚) 「それだけではない、俺は……」
一瞬躊躇い、ハインリッヒの目を見つめ直して、
ギコは微かな戸惑いを振り払って言う。
(,,゚Д゚) 「―――俺はお前を作ったという者と接触したぞ」
从 -∀从 「……」
(,,゚Д゚) 「信じがたい話だが、しかし、"奴"は全てを知っているようだった。
AAのことだけじゃない、今回のこと全てだ。全て仕組んでいたかのような口振りだった」
(,,゚Д゚) 「ハイン、お前は知っているんだろう?」
問いに、ハインリッヒは目を閉じて黙り込む。
考え込んでいるようにも見えるが、感情を覗かれぬように
表情を消しているようにも見える。
(,,゚Д゚) 「惚けるのだけは、やめてくれ。俺は、
俺はもしかしたら、お前を斬らなければならないかもしれん。
答えてくれ、真実を知りたい」
从 -∀从 「……"ハルトシュラー"、か」
(,,゚Д゚) 「―――ハルトシュラー?」
疑問符と共に名を呟いたギコには構わず、
言葉は一方的に続けられていく。
从 -∀从 「お前が撃破した生物兵器の残骸と、403が撃破した強化骨格の遺体を回収させた。
詳しい検査は研究所に戻らないと出来ねーが、一見しただけでアタシには分かったよ。
奴らには何が使われたのか、奴らが何をされたのか、想像に難くない
(,,゚Д゚) 「……」
黙して、ギコは耳を傾け続ける。食い入るかのように。
从 -∀从 「奴らはアタシと同じさ。生物兵器のほうは失敗作だったんだろうが、
強化骨格のほうを撃破出来たのは驚くべきことだ。
403、ただの兵士にしておくには惜しい存在だ」
从 -∀从 「アレはただの強化骨格なんかじゃない。お前でも敵うかどうかは怪しかったぜ。
奴らはアタシらがいて助かったんだろうが、アタシらも奴らに助けられたことになるな。
生憎、奴らのことはさっぱり分からないが……」
パッと目を見開かせて、ギコの瞳を捉えてハインは言い放つ。
从 ゚∀从 「ハルトシュラーのことなら知っている。アタシは知り尽くしている。
その背後にある物を、奴が作り出した物を、アタシは全て知っている」
从 ゚∀从 「奴の、奴らの動向を知ることは出来ないがな」
(,,゚Д゚) 「それほどにデカいのか、敵は」
从 ゚∀从 「あぁ、あぁそうだ。ギコ、お前は知りたいか?
見えない敵のことを知りたいか?」
(,,゚Д゚) 「敵だというのならば、ニューソクを脅かす存在だというのならば、
俺は知らなくてはならない。敵は―――倒す」
从 ゚∀从 「倒せない敵だとしたのならば?
この国が抱えた闇を知ることになったとしたら?」
(,,゚Д゚) 「……」
从 ゚∀从 「これ以上は語れねーな。後はお前の判断だ。
お前はこの秘密を知った時、無事では済まなくなる。
このことは、ただの国民が知るべきことではないんだ」
从 ゚∀从 「さぁ、お前はどうするギコ=ハニャン。
何も知らずに剣を振るい続けるか、空虚を感じながらも剣を振るい続けるか」
从 ゚∀从 「―――お前は一体何を望む?」
問いに、己の生涯と国の行く末を左右しかねない秘密を知る為の、
大切な問いに、ギコは正面から立ち向かい、口を開いてゆき……。
******
重傷を負ったシャキンとトソンを乗せた救急車が
軍病院へ向かっていくのを見送った俺達は、
クールを連れて用意されていた軍用車へと乗り込んでいく。
ジョルジュも負傷していたが、軽傷であった為に軽い処置を受けるだけで済んだ。
ペニサスが運転を行い、ジョルジュは助手席に座り、
俺とブーンはクールの両脇を固めるように後部座席に座り込む。
クールはあっけからんとした顔をしており、
以前と変わらず、IEUのメンバーかのように落ち着いており、
これから共に帰還でもするかのようだった。
彼女の双眸は前方の一点のみを写しているのみで、
俺には何を考えているのかなどと推し量ることは出来ない。
俺には、分からない。
分からない。
もし自分が三課を裏切るとしたら、一体どんな気持ちで裏切るのだろうか。
一体どんな理由があって裏切ると言うのだろうか。
今まで感情を押し隠し、任務遂行の為の道具として生きてきた自分には、
全くもって想像の出来ないことだ。任務があるからこそ俺は生きてきたというのに、
その任務を破綻させるようなことをしようだなんて、一体どんな理由があって出来ると言う?
エンジンが掛かり始め、シートから些細な震えが来る。
車が動き始め、ニジ基地の敷地内から出ていこうと走りだした。
低く唸るような駆動音が聞こえ、ニジ基地を離れて車道へと乗り出していく。
_
( ゚∀゚) 「丁度1300か。到着は、1420ぐらいかね」
スーツの下に包帯を巻きつけたジョルジュがそう呟く。
('、`*川 「まぁ、色々と面倒なことがあるから、そんくらいかしらねー」
ハンドルを握りつつもペニサスは呑気な声で応える。
彼女の声音からは、疲労と言う物がさほど感じられなかった。
今まで疲れを気にすることは無かったが、
作戦が終了したことで集中力が切れてしまった為に、
どっと疲れが全身に回り始めた俺には、それが不思議に思えた。
しかし、疲労しているからと言って気を緩めるわけにはいかない。
拘束されているとはいえ、敵がすぐとなりに座っているのだから。
油断はならない。一瞬たりとも気を抜いてはいけない。
相手はあの402、素直クールなのだから。
気を引き締め、彼女のほうをちらりと窺うが、
先程と変わらずに前方を弓なりの瞳で見続けているのみだ。
川 ゚ -゚)
何故、彼女は裏切ったんだろう。
尋ねてみたい。
しかし、彼女はそれに答えようとはしない。
これから尋問で嫌でも話す事になってしまうのだから、
黙秘をするというのは当然のことなのかもしれない。
秘密を漏らすまでは、命の保証がされるというのだから。
そう、秘密を漏らすまでは、だ。
恐らく、十中八九クールは死ぬことになるだろう。
機密の多い、国防情報局の第三課を裏切ったのだ。
ばらされては困ることが第三課には多すぎる。
裏切り者をのうのうと生かしておくわけにはいかない。
秘密を暴露してしまえば、彼女の命はそこで終わりだ。
いや、正確にはその情報の裏がとれるまで、なのだろうが。
命を引きのばす為に黙秘し続けるという手段もある。
クールなら、どのような拷問が待ち構えていても長期間耐えられるのだろう。
だが、どんな人間でも強力な自白剤にどっぷりと漬かされてしまえば、
秘密を守る意思も心も粉々に打ち砕かれてしまう。
心を制御する術を失い、蕩け切った脳みそは俺達に秘密を明かすだろう。
川 ゚ -゚)
クールが、意味不明な叫びを上げて所構わずに糞尿を撒き散らし、
涎を垂れ流し続けるような、廃人となることと引き換えに。
俺には、そんな姿がすぐに想像できた。
今までにそんな人間を俺は何人も見てきたからだ。
自分自身の手で情報を吐かせる為に、何人もの廃人を生み出してきたからだ。
落ち着き払い、冷ややかな顔をしている彼女も、すぐにそんな顔は出来なくなってしまう。
今前を見据え続ける鋭い瞳も、焦点の定まらない歪んだ瞳となり、
きつく結ばれた唇もだらしなく開き続けることになる。
俺に「信じている」と言ってくれた声で、不気味な呻きを上げ続けることになる。
俺に、俺にそう言ってくれた、あのクールがだ。
……何の感慨も沸きやしない。何も思う事は無いんだ。
押し隠せ押し殺せ、漏れ出してきた感情を胸の奥底に押し込み、
再び、前のように心を消そうとするが、どうしても、
川 - ) 『私は、お前を信じているよ』
どうしても、どうしてもたったそれだけの言葉が忘れられない。
頭の中から消し去ることが出来ない。
鼓膜の奥にこびり付いたかのようにそれはあの時に聞いた声を響かせ続ける。
何度でも、何度でも消そうとするが、何度も何度も消えかけていくが、
その度その度に頭の中に蘇ってくる。
胸が苦しくなり、頭痛を感じ始め、俺は目頭を押さえた。
嘆息を吐き、頭を軽く振るう。
……任務中だろ。
そう言い聞かせて、俺は何も考えないように努める。
以前は意識せずに出来たことだったというのに、今では酷く難しい。
呼吸を静かに整え、拳を握りしめる。
眉をひそめてクールの動きに気を配り、警戒し直すが、
彼女がその気ならば俺はとっくに首の骨を圧し折られていたことだろう。
しかし、と考え、構うな、と打ち消す。
目の前にある任務にのみ集中しろ。
後は、拘束者を移送するだけだろう。
そう念じ続けて、心を無としていく。
自分自身に暗示を掛けるかのように。
何も考えることの無くなった頭は、ただの周囲を警戒するレーダーと化し、
ある動きを感じ、そちらへ振り向く。
川 ゚ ー゚)
クールが、微かに笑みを作ったようで、次いで、音を感じる。
傍にいなければ、意識していなければ聞き取れないような小さな音だ。
まさか、と気持ちが逸るが、
川 ゚ ー゚)~♪
耳をすませればそれが何かのリズムを刻んでいることに気づき、
それは鼻歌を奏でているようであった。
どういう神経をしているのか、全く俺には理解が出来ない。
川 ゚ ー゚) 「I'm a Thinker トゥトゥトゥトゥー」
これから死ぬよりも酷な目に合うかもしれないというのに、
笑みを見せて口ずさむ彼女に、俺は恐怖にも似た感情を覚えた。
しかし、同時に、憐みのような感情も覚えた。
憎い、こいつは敵だ。
それでも、仲間であった人間だ。
分からない。
敵でしかすぎないというのに、何故これほどまでに悩まされるというのか。
どうしてこんな感情を抱くというのか、分からない。
再び悩み始めた俺の耳には、彼女の鼻歌が聴こえてくることは無い。
結局、俺は国防情報局がダミー会社を通じて建設した駐車場に辿りつき、
そこで偽装バンに乗り替えるまで、思考を切り替えることは出来なかった。
******
さほど大きくは無く、一見して通常のビルディングである
"VIPセキュリティー"の看板を持つそれの裏には、地下駐車場が設けられている。
ゲートで閉ざされた入口には一切の光が差し込んでおらず、
奥行きが深いようで、外からは中を見通すことは一切できなかった。
そこに広がるものは闇である。昼の二時であろうとも、決して内部の様子を窺う事は出来ない。
隣接する道路を排気音と共に走ってくる物があり、左折し、
地下駐車場のゲートの前で停車するそれは、黒のライトバンだ。
車体には"VIPセキュリティー"と記されており、
ここの会社の物であるという事が分かる。
停車したバンをゲートに備えられた光学センサーは捉え、
自社の物であることを認識してゲートを開けていく。
遮る物がなくなったのを確認し、バンは中へと進んでいく。
漆黒の車体から光を放たせて闇を晴らし、下へ下へと降る。
一本道となったそこからはエンジンの音が木霊し、
奥からは車の物ではないライトの光が漏れ出てきている。
光の先へと向かっていくと、その先には駐車場があった。
10台ほどの"VIPセキュリティー"の物を装ったバンが
綺麗に並べられており、空いたスペースへと停車させていく。
エンジンが切られると、前部の左右のドアが開いていき、
左肩に包帯をしたジョルジュとペニサスが降車する。
ペニサスがジョルジュの傍へと回りこんでいって、
二人は後部の左座席へ向かい合うように立った。
すると、応じるように後部の左のドアが開き、
手錠をしたクールの片腕を引いてドクオが車を降りてきた。
クールの背後にはブーンが付いており、油断のない視線を彼女へと送っている。
_
( ゚∀゚) 「そんじゃ、向かいますかね」
気楽な声を出したジョルジュの目も同じであった。
左右の腕をドクオとブーンに掴まれ、クールは連れられて行く。
電灯に薄く照らされた地下駐車場には、エレベーターが一つだけ設置されている。
ビル内に入っていくためには、そこか非常用の階段を昇っていく他ない。
ドクオ達はその一つだけのエレベーターへと乗り込んでいき、二階を目指した。
エレベーター内の空間は広く、10人は乗れるほどであり、
たったの5人程度の乗員では窮屈に感じられることは無い。
クールの両脇を、ブーンとドクオが固めている。
その前に立つジョルジュとペニサスは張り詰めた顔をしており、
ブーンもドクオも同じ顔をしていた。
ほぼ安全は確保されたような物ではあるが、彼らは決して警戒を解こうとはしない。
皆が冷ややかな殺気を漂わせる中、ドクオは、
傍にいるクールの表情を、横目でちらりと窺った。
川 ゚ -゚) 「……」
敵地に拘束された状態で連行され、まな板の上の鯉というに相応しい彼女は、
けろりとしたような、変わらぬ無表情を保っている。
川 ゚ -゚) 「……?」
視線に気付いたのか、クールの無機質な瞳に、
何かの感情が浮かんだように見える。
だが、ドクオにそれを窺い知ることは出来ず、
眉をひそめて彼は視線を逸らした。
チン、といったベル音が響き、扉が開かれる。
二階へと到着したのだ。
( ・∀・) 「やぁ、御苦労だったね。時間通りだ」
エレベーターを降りると、モララーとスーツを着た男三人が
控えており、帰還してきた四名を迎えた。
ブーンとドクオはクールから手を離し、スーツ姿の男達に明け渡していく。
( ・∀・) 「報告は三階の課長室で受けよう。401と403の二名は付いて来たまえ。
393と406はしばらく待機していてくれたまえ。おって連絡する」
「了解」と各々が応えて、モララーがエレベーターに乗り込んでいき、
ドクオとジョルジュはそれに付いて行く。
扉が閉じられていくのを見届けたスーツ姿達は、クールを尋問室へと連行していった。
******
_
( ゚∀゚) 「戦闘中に自分と392、394、405が負傷。392と495の二名が重傷。
394は処置が間に合わずに死亡しました。自分は見ての通り軽傷です。
重傷者二名は現在、ニューソク陸軍病院にて治療中です」
三階。オフィスに面した課長室で、
ジョルジュはモララーを前にして報告を行っていた。
彼の傍にはドクオが立っており、二人は姿勢を整えてモララーに向かっている。
頷きを小さく作り、一拍の間をおいてから口が開かれる。
( ・∀・) 「そうかね。では、403。君は素直クールの背後組織について、
何か思い当たることは無いかね? 断片的な情報でも構わない」
('A`) 「……いえ、何も。ですが『こちらへスカウトしてやっても良かった』と語っていることから、
背後に組織的な力が動いていることは間違いないと推測できます」
( ・∀・) 「背後組織があるのは確実。しかし、情報は無し、か。
"情報源"は手元にあるのだ、ゆっくりと行こうかね」
情報源。
その単語を聞きつけたドクオの眉根が、ピクリと小さく動いた。
表情は無のまま、能面を保った顔に起きた些細な変化を、
モララーが見逃すことはなかった。
浴びせられる視線を知ってか知らずか、無表情が崩れることはない。
( ・∀・) 「……よろしい、ほぼ無線で聞いた通りだね。
では、報告書の作成を頼むよ。行って良い」
ただし、と付け加えられ、
( ・∀・) 「403、君は少し残りたまえ。話しておくことがある」
そう語ったモララーにドクオは「はっ」と応じて、
ジョルジュは背を向けて退出していく。
二人だけとなった課長室で、不思議な空気が流れていった。
張り詰めていて、それでいて緩やかな雰囲気。
互いをよく知る長年の知人同士が放ちあうものだ。
公と私が混じり合うことによって生まれる空気。
( ・∀・) 「ドクオ君、よく生き残れたものだね。
クールと交戦したとは……強くなったものだ」
モララーは険しい表情の裏に、親のような優しさを潜ませて言う。
('A`) 「自分は負けました。味方の援護が遅れていれば、死亡するところでした」
( ・∀・) 「結果は結果だ。彼女は君を追い詰めたが、君は今生きていて、
彼女は我々の下で拘束されている。任務失敗だ。―――君は成功したがね」
( ・∀・) 「状況を見誤ったからそうなった。充分に君の勝利と言える。
アレは、私が育て上げた中でも飛びぬけて優れた諜報員だったのだがね。
最も任務達成率が高く、戦闘技術はトップを誇っていた、私の全てを叩きこんでやった最高の諜報員だ」
"彼女"について語るにつれて、
モララーの眉が力無く垂れ下がっていくように、ドクオには見えた。
弱さが表へと漏れ出てきていることを彼は自覚していたのか、
苦笑にも似た笑みを見せて感情を窺わせない鉄面皮をつくりあげていく
( ・∀・) 「だがそれも、君と対峙して敗れた。私の下を去った裏切り者に相応しい末路だ。
私は裏切り者などに容赦はしない。情報を引き出す為ならば、
そのデータボックスを破壊することも厭わない」
( ・∀・) 「廃人になろうとも、私は心を痛ませない。ドクオ君、覚えておくと良い。
我々はそういう存在なのだ。我々は国益の番人、
国の不可視の守人、国を護る為ならば血も涙もない人で無しにもなる」
( -∀-) 「我々の血と涙の裏に、この国の安寧があるのだから恥ずるべきことではない」
( ・∀・) 「理解したのなら、そんな弱り果てた顔をしないでくれたまえ」
心臓が鼓動を打つのを、ドクオは感じた。
一抹の動揺を瞳に浮かばせ、しかしすぐに感情の色を消して応答をする。
('A`) 「……了解」
( ・∀・) 「君のそんな顔を見るのは初めてだ。
何時の間に感情を表に出す術を思い出したのかは知るよしもないが、
どうやら、隠す事が下手になってしまったようだね」
('A`) 「……」
( ・∀・) 「君は、弱くなってしまったようだ」
包み隠さずに、モララーは鋭い言葉をドクオに浴びせた。
無表情を保った彼の顔から、徐々に哀しみともつかない色が浮かび始め、
ドクオは口を真一文字に結んでから、
('A`) 「……申し訳ありません」
( ・∀・) 「良いんだ。これまでは隠す事のみを覚えてきていたが、
これからは感情をコントロール術を覚えていくと良い」
('A`) 「了解」
( ・∀・) 「ひとまず、君は今日はもう休みたまえ。何かあったら体内通信によって連絡をする」
再び「了解」と短く答えたドクオは、敬礼をし、
踵を返して課長室から出ていった。
( ・∀・) 「さて、彼は402を超える諜報員となりえるか―――」
******
課長室を出ていき、オフィスを通じて廊下へと進もうとするが、
ドクオはジョルジュの声に引きとめられた。
_
( ゚∀゚) 「……ちっとばかし付き合ってくれないかね」
断る理由は特に無かった。
共に廊下へと出ていき、先を行くジョルジュは喫煙室へと足を向ける。
中の様子が分かるようにガラスの張られた喫煙室には紫煙が漂っており、
男が一人タバコを吸っていた。
陽気な少年のような顔を沈痛なものにしているその男は、ブーンだ。
_
( ゚∀゚) 「よう」
( ^ω^) 「おいすー」
咥えていたタバコを備え付けられた灰皿に押しつけ、
煙を吐き出してからブーンは気楽な声を出して見せる。
( ^ω^) 「報告お疲れ様ですお」
_
( ゚∀゚) 「疲れるようなことはしちゃいねーよ、ペニサスはどうした?」
( ^ω^) 「ペニサスさんは一階で待機してますお。
状況は分かってるから充分だ、って」
_
( ゚∀゚) 「そうかい……付き合いの悪い奴だね、アイツも」
( ^ω^) 「付き合いが悪いってわけじゃないんじゃないですかお?
今動ける390番台の工作員はあの人だけですお」
( ^ω^) 「391は死亡、394も死亡、392は重傷を負って治療中。
395以上のナンバーの人達は別の任務についているようですし、
ペニサスさんは多分仕事に専念したいだけなんだと思いますお」
_
( -∀-) 「適当に気抜いてやるべきなんだがね。ただでさえ気を詰める仕事だ、
抜ける時に抜いとかないと壊れちまうよ」
( ^ω^) 「きっと大丈夫ですお。ペニサスさんは、僕たちよりもベテランですから」
_
( ゚∀゚) 「アイツにはアイツなりの処世術ってもんがあるわな。
まっ、それは良いとしてよ。今回の任務で、相当な数の仲間が死んだ」
_
( ゚∀゚) 「今後、第三課はどうなっていくのかね。
"VIP"から引き抜いて育てていくんじゃ時間がかかる。
ましてや、これからの情勢を考えるに余計時間が惜しくなってくるぞ」
( ^ω^) 「やっぱり、今回の件はまずいですかお?」
_
( ゚∀゚) 「あぁ、まずいね。元から他国から恨まれてんだ。
ニューソクに痛い目にあわされた国は少なくねぇ。
カナソク自体は恐れる必要はないが、もし一戦交えることにでもなったら、
そん時の敵はカナソクだけじゃないだろうな」
( ^ω^) 「僕達にはテロ撲滅という名分がありますお。軍事施設に攻撃したという事実は、
たしかにマズイかもしれません。でも、それだけで他国はカナソクの味方をしますかお?
あの国はテロ国家だったんですお?」
_
( ゚∀゚) 「理屈なんぞ、どうとでも解釈できる。
テロ組織のラドンの構成員は、実はカナソクの工作員でした、とかな。
制裁を受けることはあるだろうが、それもこれも俺達ニューソクが存続出来ていたらの話だ」
_
( ゚∀゚) 「俺達の味方をしてくれる国なんて、どこにもありやしない」
( ^ω^) 「今回の作戦は、充分に火種になりえますかお」
_
( ゚∀゚) 「恐らくな……これから、忙しくなるぜ」
('A`) 「……もし戦争が起きた場合、俺達の任務はどうなるんだ?」
_
( ゚∀゚) 「要人の誘拐とか、前線にいる指揮官の暗殺とかが主になるんじゃねーの?
もしかしたら一旦解体されて、特殊部隊に組み込まれることもあるかもしれねーな」
( ^ω^) 「人員も減ってしまったことですしね。それに、身内にスパイがいたっていうのは、
ちょっと問題が大きすぎますお。まだ他にもスパイがいないとは限りませんお」
('A`) 「………」
スパイ。その一語を聞いたドクオはクールのことを連想してしまい、
表情に影がさしてしまっていく。無表情が陰鬱なものへと変貌していくのを、
ジョルジュは見逃さなかった。
_
( ゚∀゚) 「アイツが内通していたとは、思いもよらなかったよ。
お前らよか俺の方が付き合いは長い。
騙されていたって知った時は度肝を抜かれちまった」
_
( ゚∀゚) 「初めからスパイとして三課に潜り込んでいたとしたら……。
そう考えるとゾッとするね」
( ^ω^) 「……完璧、でしたお。でも、どうやってここまで潜り込んできたんですかお。
三課は完全機密主義。他機関へ情報を公開することはありませんお。
接触しようにも、まず存在すら嗅ぎつけられないはずなのに……」
('A`) 「そこら辺、キナ臭いよな……ブーンがさっき言った通り、
他にも内通者がいるのかもしれない」
_
( ゚∀゚) 「それも、ただの工作員なんぞではなく、管理職に就いている奴が……か?」
浮かない顔をするドクオを見据えてジョルジュは言い、
鋭く鮮やかな眼光を瞳の奥に宿して、応じる。
('A`) 「可能性は高い。独力で三課を探し当て、潜入するよりも遥かに」
_
( ゚∀゚) 「……じゃあ、ドクオ。お前、クーと戦ったんだよな?
その時なにか手掛かりになりそうなことを漏らしてなかったか?」
('A`) 「少佐にも言ったけど、大した手掛かりはないよ。
ただ、背後にラドンとは別の、何らかの組織があるのは間違いない」
_
( -∀-) 「そうか……何か情報が得られれば良いがな」
('A`) 「………」
眼光が鈍り、眉を微かに顰めたドクオは、
視線を逸らして口を開く。
('A`) 「……すまん、疲れた。俺はもう帰宅することにする」
_
( ゚∀゚) 「あぁ、悪いな。愚痴吐くのに付き合わせちまってよ。お疲れ」
( ^ω^) 「お疲れだお!」
('A`) 「あぁ、お疲れ」
どこか照れくさそうに呟いて、喫煙室をドクオは出ていく。
廊下を進み、エレベーターの目の前に辿りつくと、
_
( ゚∀゚) 「おい、ちょっと待ってくれよ」
そう呼びとめられた。
下を向くボタンを押してから振り返り、
再びジョルジュと顔を見合わせることになった。
すると、彼は言葉を継いで、
_
( ゚∀゚) 「一個だけ、一個だけ忠告しといてやる」
('A`) 「……なんだ?」
_
( ゚∀゚) 「同情してやる価値はねーぞ」
顔を張りつめさせ、目に強い力を宿してジョルジュが言い放った。
_
( ゚∀゚) 「アイツがリークした情報のせいで渋澤さんやイヨウが死んだんだ。
フサだってアイツに殺された。アイツがいなけりゃトソンが傷つくことはなかったし、
お前が傷つけられることもなかったんだ。アイツは俺達の敵だ。うだうだアイツの為に思い悩む必要なんぞ無ぇ」
('A`) 「……」
でも、そう言葉を継ごうとした。
それでも、胸の奥に何かが突っかかったような気がして、
ドクオは口を開いても、
('A`) 「あぁ、分かった。分かっている」
思った言葉を吐き出す事が出来なかった。
_
( ゚∀゚) 「……なら、良いんだ。ドクオ、お前は強い奴だよ」
_
( ゚∀゚) 「―――頼りにしてるからな」
エレベーターが、チン、と音を立てて扉を開いていく。
踵を返し、その前に向かったドクオは一歩を踏み出していき、
('A`) 「あぁ……」
そうジョルジュに応じた。
いつもと変わらない、感情の籠らない声音であった。
******
一階に到達し、休憩所を目に収めたドクオは、
視界の端の方へと追いやって横切っていき、玄関を目指す。
輸送機の中で休憩を取った物の、作戦前日はカナソクから帰国して間もなく、
ゆっくりと身体を休める暇はあまり無かった為に疲労が溜まっており、
戦闘まで行ったことでそれはピークに達していた。
おまけにクールが裏切ったという心労もある。
彼の足取りは重く、表情もどこか重々しい。
「一声ぐらい掛けていきなさいよ」
立ち止まり、声のする方へと振り返る。
視線の向く先にはソファーがあり、声の主、
ペニサスはそこに横たわっていた。
ぶらぶらと力無く手を振って、顔を持ち上げるだけで
こちらを見る彼女は、寝ぼけたような目をしている。
('A`) 「寝ているように見えた」
('、`*川 「あぁ、そうだったの……とりあえず、そこ座んなさい。
仕事は無いんでしょう?」
ペニサスが自分の向かい側にあるソファーを指さして言う。
('A`) 「何で分かる?」
('、`*川 「さっきの作戦に参加した私等は、全員休暇貰ってんのよ。
まっ、命令があればすぐに戻らなきゃいけないんだけどねぇ。
おかげで恋を楽しむ間もないわ」
('A`) 「……アンタ、恋人いんの?」
('、`*川 「……まぁ、落ち着いて話し合おうじゃないの」
向かい側のソファーに座ったドクオは、
座り心地を確かめ、背を完全に預けて身を休めていく。
ふぅ、と息を吐き、左手を右肩に当てて腕をぐるりと一回転させると、
ググっと関節の鳴る鈍い音が立った。
('、`*川 「で、一体どういう心境の変化ってわけ?」
('A`) 「……なにがだ?」
('、`*川 「何時の間にアンタは感情を表に出せるようになったの?
それとも、今までのは演技?」
眉を立てて問うペニサスにはどこか威圧感が感じ取られる。
対して、いつもと変わらぬ無表情でドクオは言う。
('A`) 「演技じゃない、何時の間にか出来るように……いや、なんかこう……、
いきなり出てきてさ。何て言うんだろうな……上手く言い表せない……」
('、`*川 「……抑えきれなくなった?」
('A`) 「そんな感じ……かな?」
('、`*川 「ふーん……」
('、`*川 「クーに裏切られたことが、そんなに辛かった?」
('A`) 「……」
ドクオの目が、ギラリと鋭い光を帯びていった。
('、`*川 「図星?」
だが、すぐに目が伏せられていき……。
( A) 「いや……それだけじゃない」
('、`*川 「……まぁ、色々あったもんね」
('A`) 「アイツの正体を見抜けられなかったのは、仕方ないのかもしれない。
誰も見破れなかった。でも、それでも避けられるミスはあった……」
('、`*川 「自分のミスが悔しいってんなら、次は気をつける、それぐらいの気持ちでいなさい。
あんまり思い悩むんじゃないわよ? 感情に人間はどうしても左右されるんだから。
逆を言えば、感情を制御する強い意志さえ持てれば、人間なんてどうとでもなるの」
('、`*川 「誰かに言われて動くより、その意思で、自分の意思で自分の目的の為に動いた時、
人は強くなれるの。諜報員なんてやってる私達の言うようなことじゃないかもしれないけどね。
与えられたからやるんじゃなくて、自分が選んだ道だからやり通す。そうじゃないと、強くはなれない」
('、`*川 「まっ、アンタのこれまでの人生からして、そんなこととは無縁だったんだろうけど。
これからは、そんなちゃんとした人を目指していきなさい。そうなれたら、きっと素敵だから」
('A`) 「……話はそれだけか?」
('、`*川 「いや、ちょっと、聞いておかないといけないことがあるわ」
('A`) 「何だ?」
徐にソファーから立ち上がって、
ペニサスは間髪いれずに尋ねたドクオの傍へと近寄っていき、
耳元まで顔を近づけていくと、
('、`*川 「作戦の前日にクーと一緒にいたでしょ?」
小声でそう尋ね返した。
('A`) 「あぁ……」
('、`*川 「あー、やっぱり」
瞳が細められていき、ペニサスの頬が片端だけ釣り上がる。
疑いを持たれている。腹の中を探られるような
落ち着かない心持になり、ドクオはバツの悪そうな表情をした。
(;'A`) 「……俺は関係ないぞ?」
('∀`*川 「いやいや、疑ってるわけじゃないのよ。
ただ、それなら合点がいくな、って思ってさ」
(;'A`) 「何が……?」
('∀`*川 「色々と、ね」
どこか厭らしさを覗かせる笑みを浮かべるペニサス。
その笑みのまま言葉を続けて、
('∀`*川 「二人で何してたの? 詳しく教えてもらえないかしら?」
(;'A`) 「俺が帰宅しようとしたらクールが付いてきた。
それで買い物に行って食材を買って、昼飯を作って貰って食べた」
('∀`*川 「その後は?」
(;'A`) 「その後は、寝た」
('∀`*川 「ワーオッ! "寝た"んだ!! やるじゃない若者!!」
興奮気味に語るペニサスを制すようにドクオは慌てて言い返す。
(;'A`) 「いや、アンタの言う"寝る"と俺の言う"寝る"じゃ意味が違う!」
('∀`*川 「まぁまぁ、そうムキにならないの。若いんだからね。
で? その後は? 二人で出勤してきたの?」
(;'A`) 「いや、起きたらクールはいなかった。
先に三課に向かったと思って、俺も家を出た」
聞いたペニサスは笑みを消し、
('、`*川 「ふーん、なるほどね」
('、`*川 「色仕掛けされて、カナソクでのことをベラベラ喋ったってわけじゃなかったの」
(;'A`) 「俺は規則は守る。結局疑ってたんじゃないか」
('、`*川 「まぁ、ちょっとね。アンタモテないだろうし……。
それは置いといて、これでクーがアンタを刺したってのが分かったわ」
('A`) 「あの時の、か」
('、`*川 「クーはアンタの家を出た後、近くで待ち伏せしてた。
そして同じ電車に乗り合わせて、階段でズブリ、と。
混雑に紛れて地下を出て、そのまま三課へ」
('A`) 「仲間がいた、とは考えられないのか?」
('、`*川 「その可能性もあるけど、私はこの線で疑ってるわ。
クーが裏切ったって聞いた時からね。
多分、カナソクでアンタは敵に捕捉されてたんじゃない?」
('、`*川 「でも、渋澤やイヨウにブーンを消す為に人数を割いていて、アンタにまで回す人員は無かった。
アンタは三人から一番距離が離れた場所にいたしね。
そこでしくじり、ニューソクにいるクーにアンタの始末を任せた」
('A`) 「おかしくないか? だったら、もっと確実な方法があっただろ」
('、`*川 「自分が殺ったと特定させない為にこの方法を選んだ、
っていうんなら納得いくんだけどね。確かに他の方法もあったでしょう」
でも、と付け加えてペニサスが続ける。
('、`*川 「クーがやったっていうのは、間違いないと思うわ」
その言葉に、ドクオは表情を重たくした。
刺された場所に左手を当てた彼は、心の内で納得をし、
('A`) 「……そうか」
('A`) 「俺はもう、帰ることにするよ。流石に疲れた」
ソファーから立ち上がってペニサスの元を離れていく。
('、`*川 「ドクオ」
('A`) 「……?」
('、`*川 「アンタ、悩んでるでしょ?」
問いに眉を顰め、彼が応えるのを待たずにペニサスは問いを重ねていく。
('、`*川 「苦しいでしょ? 身が焦がれそうでしょ?」
('、`*川 「アンタが悩んでる理由は、私には何となくわかる。
辛かったら、付き合ってあげるから相談しなさい」
('A`) 「……」
('、`*川 「間違っても、変な気だけは起こすんじゃないわよ……」
('A`) 「……あぁ」
気の無い返事。
踵を返して玄関へ向かうドクオは、それだけを残して去っていった。
******
( ・∀・) 「君は、心の無い人間なんだね」
昔、教官にそう言われたことがあった。
まだ若く、力に溢れていて、
私はまだ幼く、小さな身体で武器を扱っていた頃のことだ。
( ・∀・) 「これほどスパイに適した人間もいないだろう。
人格が元から無いというのであれば、自分を偽ることは難しくないだろう」
産まれた頃からニューソクの工作員となるべく私は育てられてきた。
児童養護施設の前に捨てられ、死にかけていたところを拾われ、
そして"奴ら"に回されて来たらしい。
感情を廃し、任務を達成する為だけに生き長らえさせられてこられたのだ。
食事や飲み物は勉強と訓練を終えるまで与えられるようなことはなかった。
娯楽らしい娯楽にめぐり合えるようなことはなく、
私は勉強と訓練が娯楽なのだと思っていた。
そうして育てられ、育ちあがった物が私だ。
工作員となるべく生きてきたといえるだろう。
感情を偽ることも、人の感情を揺さぶることも出来る。
だが、私はそれだけでは満足できなかった。
数多くの訓練をこなしていき、
数多くの任務を達成してきた私には、何か娯楽が必要だったのだ。
胸を躍らせ、脳髄をとろかすように楽しめる、何かが。
勉強に楽しさを感じることもあった。
だが、成長するにつれて生きていく為に必要なことは
こんなものではないと思った途端に、一気に楽しめなくなってしまった。
男と寝ることに楽しさを感じることもあった。
だが、下手な人間と寝るのは退屈で、
これも私の欲求を満たすには足りないと思った。
任務の内に楽しみを見出そうとしている間に、
私は何時の間にか興奮していることに気付いた。
ある瞬間に何もかも忘れ、その瞬間に全てを委ねていることに気付かされた。
( ・∀・) 「君は、訓練の時はとても活き活きとした表情をするね」
生きるか死ぬか、そんな逼迫した状況にどこか胸を躍らせていた。
敵と対峙し、殺し合い、弾丸と刃を交わす事に快感を見出していた。
私は、戦う事を楽しんでいたのだ。
任務の上で敵と戦っていることに無上の喜びを感じている私が確かにいた。
その瞬間から私は任務をこなすだけの、心の無い人形では無くなった。
いや、もしかしたら娯楽を探していた頃から私は感情と言う物を持っていたのかもしれない。
何時しか、私は任務よりも戦う事の方が大切だと思うようになっていた。
殴り合う快楽。斬り合う快楽。撃ち合う快楽。
互角の勝負を演じている時には絶頂感すら覚える。
私はそれを生き甲斐とした。
そして"まだ見ぬ敵"を探し続けていた。
私を満足させ私を果てさせることのできる"敵"を。
生憎、20数年かけて手塩に育てられ、実戦を数多く積んできた
私のそんな思いに、応えられる者は中々いなかった。
だが、とある任務でそれに匹敵しうる者を私は見つけ出す事が出来た。
その男は身近にいて、
('A`)『対象クリアー。401、指示を』
過去の私と同じく、心と言う物を持ち合わせていなかった。
しかし私は気付いていた。同じく任務達成の為の道具として生きてきた、
人の皮を被った兵器でしかない物として、彼の本質というものを見抜いていたのだ。
彼は、自分を偽っているにしかすぎないのだと。
私がそうであったように。
人間は絶対に心を消し去ることは出来ない。
人間には人間を人間たらしめている、
どうしようもない人間としての欲求と言う物がある。
人はいくら無情に生きていたとしても、人間である以上は感情を捨てることなど決して出来ない。
自分では意識していなくとも心の奥底では絶対に何かを感じているのだ。
私が何時の間にか"楽しみ"を求め続けたように。
似ていた。彼は、私にあまりにも似すぎていた。
だからこそ私を満足させえる程の技量を持っているのかもしれない。
だが、彼はまだ弱い。
人の本質を理解出来ていない彼は私にまだ一歩及ばない。
(立派に成長してくれないものか……)
教えてあげたい。お前は誤っているんだ。
そんなに自分をひた隠す必要なないんだと、
そう教えてあげたいと思っている自分に気付いた時、
母性的な物がくすぐられているのだと私は理解出来た。
裏腹に、私の"欲求"はぶくぶくと膨れ上がってきていた。
戦いたい。手も足も出ないほどに相手を痛めつける時に流れる
止めどないアドレナリンと、拮抗状態に陥った時のあの緊迫感を感じたい。
私と似ていただけに、そんな欲求はこれまでにないほど高まった。
(まだ早い。もう良いだろう。しかし、手を出せばそれまでだぞ? 我慢しろ)
自問自答を繰り返している最中に、私にある任務が"奴ら"から与えられた。
それが――――
( ・∀・) 「では、少々質問をさせてもらおうかね」
瞑想に陥っていた意識が、馴染み深い教官の声によって現実へと引き戻された。
目の前には見慣れた顔があり、周囲にもやはり見慣れた顔が並んでいた。
だが、もはや彼らは私の仲間などでは無い。
利用され続ける人生に一片の自由を見出し、
最後の最後にまた利用される。
これが私の運命か。
……分かり切っていたことだ、構いやしない。
******
疲労がピークに達しているのが分かる。
肩が重ければ足も重く、瞼すら重たく感じられる。
目頭を抑えて刺激するも、脳を蝕む倦怠感は拭いとれない。
休息が必要だ。
だというのに、
(;'A`) 「はぁ……俺はどうしてこんなところに来たんだ?」
トソンとシャキンが入院している軍病院の待合室で、
俺は溜息交じりに呟いた。
何故こんなところにきてしまったのかは分かる。
あの時の光景が忘れられないんだ。
|/゚U゚| 『排除』
その言葉と共に縦横無尽に駆けまわり、俺に斬りかかって来た忍者。
敵を排除することに焦るあまりに、相打ち覚悟で引き金を引いたあの時、
トソンが身代わりとなって斬られてしまったあの光景が。
('A`) 「ちっ……」
ようは、後ろめたいんだ。
自分の油断で仲間を傷つけてしまったことが。
だからこんなところまでやってきてしまったんだ。
なんて声を掛けたら良いのか、分からないというのに……。
「鬱田ドクオさん、都村トソンさんの病室は505号室となります」
頭の中で悪態を吐いていると、傍に寄って来た看護婦の声が俺をハッとさせた。
振り返ってお辞儀をし、礼を述べて立ち上がると、
俺は彼女の脇を横切ってエレベーターへと向かう。
分からずとも、会っておく必要がある。
理由の分からない義務感を抱きながら、505号室へと足を運んでいくことにした。
******
505号室の中へと入っていく。
真っ白な部屋の中にはベッドが二台置かれており、
二つともクリーム色のカーテンが備え付けられていた。
片方はシャキンのもので、片方がトソンのものだ。
だが、シャキンのベッドは空となっていて、外出しているようだった。
トソンのベッドへと近づいていくと、眠っているのか、
微かに寝息が立っているのが聞こえてくる。
ベッドの傍に置かれているパイプイスへと腰をかけていく。
(-、-トソン 「………」
汗を微かに浮かびあがらせ、やはりトソンは眠っていた。
病人服を着た彼女の胴には真新しい汚れの見られない包帯が
巻かれており、服の襟から微かにそれが覗けた。
命に別状はなさそうだけど、復帰には少し時間が掛かるか……。
何かを話したかったのだけれども、眠っているのなら仕方がない。
いや、その何かが自分で分かっていないのならどちらにしろ意味はないだろう。
ここまで来て体調を窺いに来ただけ、というのも間抜けな話だ。
('A`) 「……」
しかし、言葉は出てこない。
出てきたとしても、それが耳に入ることはないのだから、
どちらにしろ無意味なことだ。
( -A-)=3 「フン……」
溜息を吐き、イスから立ち上がる。
背を向けて病室から出て行こうとも思うが、
理由のわからない何かが足を踏み止まらせる。
('A`) 「……」
後ろめたさ。
眠っている彼女を見るまでは、そう思っていた。
でも、新しい包帯を巻かれ、無事だった彼女を見た時、
それとは違う感じがした。
ちらりと背後を窺ってみるも、ここを去ろうという気持ちにもなれない。
ここにいると、あの時の感情が蘇ってくるようだ。
後ろめたさ、そんな単純な物などでは決してないと思う。
眉をしかめて、口を歪めて、苦しみ抜いて、言葉を探した。
振り返り、眠っているトソンを見据えて、俺は言った。
('A`) 「……ありがとう」
死の恐怖。仲間を失ったという喪失感。
自分のミスが招いたという失態。
それら全てへの恐れを払ってくれた、
死なないでいてくれた彼女に、そう告げた。
これでいい……。
微かな充足感を得て、トソンのベッドを離れていく。
が、不意に声を掛けられて立ち止まることになった。
(゚、-トソン 「……何が、ですか?」
眠たげな目でこちらを覗いて、トソンが尋ねてきたのだ。
('A`) 「……色々と」
(゚、゚トソン 「そうですか。お見舞いに来てくれたのなら、
起こしてくれればいいのに」
('A`) 「体に障ったら困るだろ?」
(゚、゚トソン 「えぇ、たしかに触られたら嫌ですね」
('A`) 「触る気は無い」
(゚、゚トソン 「冗談の通じない人ですね、ホントに」
('A`) 「悪いな」
(゚、゚トソン 「でも……変わりましたね、ドクオ君は」
('A`) 「………」
(゚、゚トソン 「私は……君の涙を見たのは二度目になります。
何時の事か分からないでしょうが、私はハッキリ覚えてますよ」
('A`) 「そうか、二度目だったのか」
(゚、゚トソン 「ドクオ君は、あの頃からきっと、
あの時からきっと、無理をしていたのではないのですか?」
('A`) 「何時の事?」
(゚、゚トソン 「VIPの実習で、訓練兵を撃った時のことですよ」
('A`) 「あぁ……」
(゚、゚トソン 「……どうなんですか?」
('A`) 「……さぁ?」
(゚、゚トソン 「………」
('A`) 「あの時は、必死だったからなぁ……」
('A`) 「うん、無理はしてた……のかな?」
(゚、゚トソン 「そうですか」
(゚、゚トソン 「だったら、私もお礼を言っておきます。
あの時はありがとうございました」
('A`) 「いや……」
礼を言われると、どこかがこそばゆくなる気がした。
視線をそらした俺は、言葉を選んで応えようとするが、
それよりも早くトソンは続けていく。
(゚、゚トソン 「私は君に死んで欲しくなかった。
だからあの時の行動が最善だったと思っています。
ドクオ君も、きっとあの時、最善の行動を取ったつもりなのでしょう?」
(゚、゚トソン 「たとえ非道な行いだったとしても……。
そのおかげで今の私があるのだから、それで良いんです」
(-、-トソン 「だから、これまで亡くなって来た人達の分も、きちんと生きていきましょう」
('A`) 「……イヨウの分も?」
(゚、゚トソン 「………」
目を一瞬だけパチリと開いた彼女の表情が、強張った気がした。
ほんの少しの間、目が伏せられるが、すぐにこちらを強く見つめ直し、
(゚、゚トソン 「えぇ、その通りです」
迷いの無い声音で、そう答えをよこした。
('A`) 「そうか……そう、出来たら良いな……」
"これまで亡くなって来た人達"彼らの表情を思い出そうとしていると、
そんな者達の中にフサギコと渋澤、そしてイヨウの顔が浮かび上がってくる。
('A`) 「……」
川 - ) 『私は、お前を信じているよ』
すると、次に言葉と共にあの女の表情が浮かんできた。
こいつは、違う……。
こいつは仲間なんかじゃない。
彼女の死を惜しむ心の声が鮮明に聞こえてきて、
俺は胸の内を抉られるような痛みを覚えた。
('A`) 「………」
この感情の意味だけは分からない。
作戦を終えてからずっと引きずり込んでいるこの感情は、何なのか?
(゚、゚トソン 「君と、会話らしい会話が出来るようになれて、良かったです。
これからも……よろしくお願いします」
('A`) 「あぁ、よろしく頼む」
ただ一つ、分かることがある。
('A`) 「悪い、すぐに呼ばれることもあるかもしれないから、
もう戻らないといけない」
(゚、゚トソン 「そうですか……頑張ってください」
ジョルジュよりも、ブーンよりも、ペニサスよりも、
シャキンよりも、モララーよりも、トソンよりも、
俺はクールに死んでもらいたくは無いと思っているんだ。
('A`) 「あぁ……それじゃあな」
イヨウを死なせ、渋澤を死なせ、フサギコを殺した敵であるというのに。
俺は彼女に死なれることが悲しいと思っている。
腰に装着したホルスターに収めた、
黒いボウイナイフの感触を確かめて、
俺は病室から出ていった。
******
( -A-) 「……ふぅ」
病院を背にして、溜息を吐く。
バックサイドホルスターとショルダーホルスターに、
それぞれ納めた得物の感触を再び確かめる。
両脇にはMk23とサバイバルナイフが。
腰には左右に黒のボウイナイフとグロック26が。
どれもスーツに覆われていて外からは見えない。
どうするべきかは分からない。
だが、どうあって欲しくて、どうしたいのかは
自分の中で恐ろしいほどはっきりとしている。
今までは見えなかったものが、今では鮮明に見えている。
恐ろしい、本当に恐ろしい企みだ。
こんなことをして一体何になるというんだ?
そう馬鹿な自分を止めようとする工作員としての自分がいるが、
思いは堰を切ったように溢れ出てくる。
感情の濁流が俺を突き動かし、意思を確固たるものとさせていく。
('A`) 「―――行くか」
******
"VIPセキュリティー"
そう掲げられた看板のあるビルの下へとスーツ姿の男が進んでいく。
時刻は22時。空は真っ暗闇に染まっており、
しかし街明かりが輝かしく灯っている為に夜にしては随分明るい。
風を肩で切ってビルに入っていった男は、
受付に腕を差し出すと、入場の許可を得て奥へと向かう。
廊下を進み、エレベーターの前まで歩いていくと、
('、`*川 「ドクオ? アンタ帰ったんじゃなかったの?」
傍にあるソファーの上で眠っていたペニサスが、
疲労を感じさせない声で彼に聞いた。
既にボタンを押していたドクオは首だけで振り返って
ペニサスに言葉を返す。
('A`) 「ちょっと忘れ物をしてな」
('、`*川 「ふーん、そう。忘れ物ね」
興味が無さそうに呟き、ペニサスはドクオが
エレベーターに乗り込むのを見送った。
扉が閉じられていき、2と書かれたボタンを押された
エレベーターが二階へと上昇していく。
内心に溜息を吐いたドクオは、自分がこれから成そうとしていることを
ペニサスが知ったら、一体どのような顔をするのだろうかと
微かに後ろめたさを覚えた。ペニサスだけではない。
共に戦ってきたジョルジュやブーンがこのことを知れば、
自分に失望することだろう。
後ろめたさが罪悪感へとなっていき、ドクオはやめようかと躊躇う。
だが、絶対に止められない、止まらない自分がいることを感じている彼は、
全ての悩みを捨て去って二階へと臨んでいった。
二階の廊下を踏み締め、尋問室へと向かっていく。
エレベーターを降りて真っ直ぐ進み、
途中にある曲がり角を右に曲がれば、二名の警備員がいるのが見えてくる。
ドクオは何事も無いかのように彼らへゆっくりと近づいていき、
('A`) 「403だ。拘束者と面会を行う」
「そんな話は聞いていないぞ403。誰の指示だ?」
('A`) 「モララー少佐に話は通してある。問い合わせてみろ」
男が片耳を塞ぎ、体内通信を開こうとすると、
ドクオの顔を窺って手で制し、
「少しま……」
待て、とその先を言う事は出来なかった。
脇のホルスターから抜きだしたナイフの一閃を首に浴び、
身体が頭を失って倒れていったからだ。
「――――ッ!」
膝を突いて力を失っていき、もう一人の警備員が応戦の為に
腰のホルスターからナイフを抜こうとするも、
その時には既にサバイバルナイフの切っ先が喉仏を貫いていた。
肉を貫く生々しい音が廊下に響き、血が首をつたって滴り落ちる。
「ごぉ……っ!」
声にならない声が口から漏れ出るが、
口を片手で押さえられることでそれは虚しく消えていく。
ナイフを捻り込み、更に深く刃を抉り込ませると、
声帯が破壊され、男の瞳は真っ白になっていく。
やがて警備員が完全に絶命したのを確認したドクオは、ハンドガンを抜いた。
警備員の死体を弄り、鍵を取り出して扉に挿しこむ。
錠の外れる音が響くと、ドクオは何事も
無かったかのように尋問室へと入っていった。
中に入ると、イスに拘束されたクールと、
テーブルを挟んだ先に二名の尋問官が座っており、
警備員らしき男が二人クールの背後に控えている。
「403、どうした?」
川 ゚ -゚) 「……?」
('A`) 「……」
鋭い瞳をしたドクオは、後ろ手に隠していたハンドガンを構えて、
目の前にいる尋問官を照準して引き金を引く。
川 ゚ -゚) 「……ッ!」
銃身がスライドし、薬莢が吐き出されると、
乾いた銃声が木霊して尋問官の額に血の花が咲いた。
続けざまにもう一発を放って隣にいた尋問官も撃ち抜かれる。
遅れて、ハンドガンを構えた二人の警備員が、
クールの背後からドクオを照準する。
ドクオの左手側に位置する彼らは、
尋問官が撃たれるのを見て躊躇わずに引き金を引いた。
同時、二人を仕留めたドクオは警備員達の方向へと身を投げ出していた。
姿勢は低く、左手に構えたナイフの切っ先を敵へと向けて。
二つの銃口がドクオを覗くも、彼は迷わずに間合いを詰めていく。
その動きは素早く、瞬きの間に彼は一人の警備員の懐まで潜り込んでいった。
しかし、接近よりも早くハンドガンは弾丸を射出する。
距離はほぼ0。
着弾までに一瞬程の時間すら必要としない。
が、懐に潜り込まれた警備員が構えたハンドガンは
あらぬ方向へと弾丸を放ち、壁を穿った。
銃を構えた腕を捻りあげ、ドクオが弾道を狂わせたのだ、
次いで、腕を押さえつけた手に持つナイフを滑らせ、
警備員の喉を切り裂く。繊維質を断ちきる音が響き、ドクオの背後で火花が散った。
構わず、死体となった警備員を掴み、もう一人の警備員へと突き飛ばす。
迫る体を軽くかわしてみせた警備員は、ドクオを再び捉える。
無駄のない、軽やかな動きだ。
すると、ドクオはハンドガンを放り投げて疾走を開始する。
代わりに黒のボウイナイフを引き抜いて、
肉食獣の如き獰猛さを以って襲いかかっていく。
左手のサバイバルナイフは逆手に、右手のボウイナイフは順手に。
黒の刃と鉛色の刃を構えた彼に対し、警備員はハンドガンを構えていた。
凄まじい剣幕でドクオを照準する彼は、引き金を引くことを躊躇する。
すると、彼は自分の身を一歩引いて見せた。
微かに遅れて、先程まで腕のあった位置をサバイバルナイフの刃が薙ぎ払っていった。
「……ッ!」
攻撃後には必ず隙が生まれる。
カウンターの一撃を叩き込もうと、即座に男は引き金を引き絞った。
狙いは急所。一発でドクオを戦闘不能に陥らせようと、銃弾が眉間を狙って放たれた。
そのはずであった。
しかし、何時まで経っても弾丸が発射されることは無い。
何故か?
「な……っ!?」
男は、自分の両手首から先が無くなっているのを視界に収めた。
自分の足元にはハンドガンが手首ごと落下している。
次いで男が見たものは鋭く黒い、ボウイナイフの刃であった。
頭蓋骨ごと真っ二つに切り裂かれ、痛みを感じる間もなく彼は絶命した。
そして、けたたましい警報がビル内に響きわたっていく。
騒音に眉を顰め、倒れた警備員を横目で眺めながら、
クールは彼を仕留めた人間を見る。
川 ゚ -゚) 「………」
(;'A`) 「はぁ……はぁ、はぁ……」
ドクオは額に汗を流し、荒い呼吸をしている。
ただでさえ疲労が溜まっていたところに、今の戦闘だ。
当然の生理現象だろう。
スーツの裾で汗を拭うが、返り血が付いていない
ところは流石としか言いようが無い。
彼はサバイバルナイフを脇のホルスターに収め、
足元に落ちているハンドガンを拾う。
見れば、ベレッタM92FSというハンドガンのようであった。
銃口をクールへと向け、引き金を引く。
川 ゚ -゚) 「……!」
次いで、キン、と甲高い金属音が耳朶を震わせ、
手錠が弾丸によって破壊された。
続けざまに足枷も撃ち抜き、手足が自由となったクールはイスから立ち上がる。
そして、ベレッタを放り捨てたドクオを見据えて、
川 ゚ -゚) 「何故?」
冷静を保つ表情に、戸惑いの籠る瞳でそう尋ねた。
対し、苦笑気味な顔でドクオは応える。
('A`) 「分からん」
_,
川 ゚ -゚) 「は?」
ちらりと横目で部屋を見渡し、監視カメラを収めた彼は、
クールにナイフとグロックを差し出していく。
('A`) 「少しでも時間が惜しい。脱出するぞ」
不審げな顔をクールはするが、しかし、余計な詮索をしている暇は無く、
自分にとって都合の良い自体であることだけは理解し、
渡された武器とホルスターを装備して、部屋を飛び出していくドクオに従っていく。
ドクオが目指す先は非常口だ。
直進した先に扉があり、距離は10メートルと言ったところ。
二人は力の限り駆け抜けていく。
一気に距離は縮められていき、非常口の扉が目の前まで近づいてくるが、
途中に差し掛かる曲がり角から、盾とサブマシンガンを構えた
三課の諜報員が三人躍り出てきて道を塞いだ。
「止まれ!」
制止の声を張り上げるが二人は素振りすら見せず、
ましてや更に速度を上げて走りぬけようとする。
元から覚悟は決めていたドクオは、一切の躊躇を見せずに
諜報員達へとハンドガンを照準していき、引き金を数回引いた。
鈍い銃声が響き、続けて耳障りな金属音が立ち、
放たれたはずの弾丸が盾に火花となって弾けていった。
対して、諜報員達は手にしたサブマシンガンを
片手でドクオに向け、狙いを定め、
それでもなおドクオは弾丸を放ち続ける。
執念深い銃撃。
三つの盾はそれに怯むことなく構えられ、
サブマシンガンの引き金が引き絞られていく。
フルオートで放たれる弾雨を受ければ無事ではすまず、
肉は抉られ骨は穿たれ、文字通りハチの巣となってしまう事だろう。
連射が開始され、それよりも早くハンドガンの銃声が響いた。
ほぼ同時に何かが砕ける音が鳴り、サブマシンガンが一つ宙を舞い、
諜報員の一人が右腕を上に持ち上げていた。
弾丸を放ったドクオは疾走の動きを止めず、
武器を失った諜報員へと向かっていく。
だが、残る二人の放った弾丸が彼を襲っていった。
右肩と左脇に弾丸が突き刺さり、肉が抉られてゆく。
血液が飛沫を上げ、痛みに顔を歪めるが、
彼に構う事無く弾丸は続々と発射されていき……
(;'A`) 「……ッ!?」
ドクオは自分の傍を人影が横切っていくのを目に収めた。
その姿はクールのものだ。彼女が現れたことで諜報員達は照準を惑わし、
一瞬の思考の末に接近してくる彼女のほうへ銃口を突きつけていく。
クールの速度は、速い。
獣の如き俊敏さで接近してくるそれはあっという間に距離を詰め、
迫る弾丸を気にも留めず、彼女は壁を蹴って高く跳躍をする。
床と壁に火花を残し、武器を失った諜報員の背後に着地。
すると、それよりも早く諜報員は倒れていった。
足元には、既に切断されていたらしき頭部が転がっている。
それを見た諜報員達は、盾を構えてクールへと突き出していく。
即座にステップを踏み、後方へと逃れることで
盾の一撃は空を掻くのみで終わってしまう。
だが、クールは結果的に追い詰められることになってしまう。
非常口を背後に追いた彼女の立ち位置は、
囲まれる形となってしまったのだ。
しかし、それでいい。
「ぐぅ………ッ!?」
諜報員の一人が、頭に血を立ち昇らせて倒れていく。
ドクオに後ろを見せることになり、身を守る物の無い背部から、
Mk23によって撃ち抜かれたのだ。
銃声に振り返った最後の諜報員は、ドクオへと弾丸を放つが、
クールに腕を捻りあげられ、それは目標には届かなかった。
体勢を整える間も無しに首を掻き切られ、血潮がほとばしっていく。
遺体を突き離し、非常口の扉をクールは蹴り開いた。
中へと入っていき、非常階段を下りて行こうとするが、
(;'A`) 「ぐっ……はぁ……あぁ」
苦しげに、呻きながらも近づいてくるドクオを横目に収めると、
彼の傍に駆けよっていき、肩を抱えて非常口へと引っ張っていく。
中へと入っていき、ドクオを降ろすと、彼女は扉を閉めながら、
川 ゚ -゚) 「走れ!!」
そう叫びを上げる。
力強い、緊迫した声。
(;'A`) 「あ、あぁ……」
力無く、もはや限界だとでも言うような、
情けない声を上げるドクオとは対照的な物であった。
しかし、疲労し、負傷してしまった彼に走れというのは、酷なことであった。
それでもそうしなければ状況は許してはくれない。
追っ手は迫りつつあり、待ち伏せをされているかもしれない。
ドクオは最後の力を振り絞るかのように、
手すりに手を掛けながら非常階段を駆け下りていく。
足を踏み締める度に撃たれた所から血が流れ、
痛みが頭を満たしていくが、追っ手から逃れる為に必死に足を動かす。
一階付近まで辿りつくと、扉が開く音が非常口に響いた。
すると、待ち構えていたかのようにクールがハンドガンの銃口を上階へと向け、
弾丸を放っていく。銃声が木霊し、銃火によって薄暗い非常口の中が一瞬明るくなった。
威嚇射撃に追っ手は怯み、一拍の間を得た二人は一気に一階へと走っていく。
外へと通ずる扉を発見すると、クールが先行していき、
扉を蹴破って脱出していく。
非常扉から裏通りへと飛び出すと、敵を警戒して銃を左右に振るうが、
待ち伏せをしている者はおらず、クールは銃を降ろし、
遅れて出てきたドクオに視線を寄せる。
川 ゚ -゚) 「足は?」
(;'A`) 「近くの駐車場に用意してある。灰色のミニバンだ」
川 ゚ -゚) 「急ぐぞ」
短いやり取り。
時間が1秒でも惜しいので、最低限の情報のみを交換する。
弱音を吐く暇も安堵の息を吐く暇も今は無い。
追跡をかわす為、彼女達は人通りの多いところを選んで移動していく。
途中でタクシーを捉まえ、何度か乗り換えて捜索を撹乱させもした。
数十分が経ち、完全に追っ手を撒いたと確認出来た所で、
ドクオの手配した車の置いてある駐車場へと向かい、
ミニバンに乗って二人はニジから脱出した。
******
警備室に詰めていた第三課の課員達は、
尋問室に設置された監視カメラから映し出される光景を眺めている。
黒いスーツを着た男が一人入室してきた。
顔を見るに、どうやら403であることが見て取れた。
そして、次の瞬間彼らは衝撃的な光景を目にすることになる。
403は後ろ手に銃を隠していたのだ。
「………ッ!」
彼らが息を詰めるより早く、403は尋問官二名を射殺していく。
慌てて監視員達は警報のスイッチを押そうとするが、
その時には既に警備員の一人がやられており、
指を押しこんだところでもう一人が腕を切断されたのが目に入った。
ジリリと何千羽もの鳥が鳴き叫ぶような騒音が響きわたっていき、
同時に警備員が倒れていった。
返り血も浴びずに4名を殺害した403の目が、
ギロリと鈍く光ってこちらを覗く。
いや、こちらを覗いたわけではなかったのだろう。
監視カメラの存在を確認しただけのことだ。
それだけのことにしかすぎない。
だが、それだけでも監視員は背筋に冷ややかな感触を得た。
血が凍りついていくのを感じ、全課員へと体内通信を送る。
『403が拘束者を連れて逃走中! 二階の非常階段へ向かうつもりだ!!』
すると、二階の現場近くにいた課員達が応答をよこし、
彼らの前に立ちはだかっていったようであった。
――――しかし数分後。
物の見事に403は課員達を退け、追っ手を振り切って逃げおおせてみせた。
403が402を連れて逃走した。
そう報告を受けたモララーは、課長室から夜の街並みを見下ろし、
まだこのニジの街にいるはずであろうドクオとクールの顔を
脳裏に浮かべて、眉を歪めて口を開いていく
( ・∀・) 「魔性め……どこまで引っ掻きまわしてくれるつもりだ」
困ったものだ。
そう呟きを残した彼の表情からは、
微かに怒りが滲んでいるようであった。
******
2時間ほど走り続けたドクオとクールを乗せたミニバンは、
街から外れ、オカという農園の多い州へとやってきていた。
夜空は更に黒く染まっており、夜闇が深まってきている。
運転席に座るクールは敷地内に林のある大きな公園を見かけ、
その傍に車を止めてエンジンを切った。
川 ゚ -゚) 「……ここまで来れば、休む時間は取れるだろう」
呟き、隣に座るドクオを見る。
(;-A-) 「………」
白のYシャツに血を滲ませ、右肩と左脇にスーツの切れ端を結んで
止血した彼は、脂汗を浮かばせて眠っている。
弾は抜けており、摘出する手間は無かったが、
脇に食らった弾丸が肋骨を傷つけたらしい。
止血はしたものの、一刻も早くニジから離れる為に走り続けてきたので、
包帯や消毒液を買う暇は無く、治療用の道具を手に入れることは出来ずにいたので、
ナノマシンの止血剤と鎮痛剤だけが頼みの綱だった。
命に別条は無さそうなドクオを見て、クールはほっと一息を吐いた。
川 ゚ -゚) 「出血も止まりかけてる……良かった」
それにしても、と続けた彼女は、
_,
川 - -)=3 「……どうしてこうなった」
どこか呆れたような顔をして溜息を吐く。
成り行き上こうなったものの、ドクオがクールを助ける理由など無く、
第三課の者達を裏切ってまでそうするメリットも無い。
訝しげに眉を顰めた彼女には、隣で眠るこの男が不可思議でならなかった。
そんなことも知らずに、ドクオは苦しげな寝息を立てている。
命に別条はなくとも、やはり痛むのだろう。
(;-A-) 「……」
川 ゚ -゚) 「………」
納得はいかないが、とにかく、無事でよかった。
クールはそんな彼の寝顔を見て、そう思う事が出来た。
疑問はあるが、今は彼の無事だけが喜ばしかったのだ。
胸の内を清涼なものが満たしていく感覚を得たクールは、
自分のYシャツの袖をドクオの額へと伸ばしていき、
浮かび上がっている汗をそっと拭っていく。
汗を払われた顔を見て、クールはもう一度手を伸ばしていった。
川 ゚ -゚)つ(-A- )
髪に手指を通していき、優しく頭を撫でていく。
その姿はまるで、子を慈しむ母親のようであった。
柔らかな指が頭を撫でていくのを心地良いと感じたのか、
ドクオの苦しげな表情が柔らかな物へと徐々に変わっていく。
川 ゚ ー゚) 「……ふっ」
口元を緩めたクールは、微かな充足感を感じていた。
川 ゚ ー゚) 「やっと鎮痛剤が効いてきたのか」
ドクオを起こさぬよう、小さくクールは呟く。
心が暖かな物に包まれて、安堵感で一杯になっていくのを感じた彼女は、
しかし、その裏にある自分の願望に気付く。
赤く、狂気じみた望みだ。
川 ゚ -゚) 「………」
笑みは自然と掻き消え、それでもこの暖かな感情に身を委ねて、
クールはドクオに顔を近づけていき……。
(つA-) 「ん……どれほど眠っていた?」
薄く目を開け、片手で擦りながら目覚めたドクオから、
手を離してそっと遠ざかっていった。
川 ゚ -゚) 「二時間ほどだ」
任務中と同じく、冷静な声で彼女は応えた。
(つA-) 「追跡は?」
川 ゚ -゚) 「振り切った物だと思われる」
目を擦るのを止め、目を開き切ったドクオは欠伸を一つしてから、
周囲を確認しつつ尋ねる。
('A`) 「ここは何処だ?」
川 ゚ -゚) 「オカだ。場所は、公園ということしか分からんな」
('A`) 「……了解、運転を変わろう。アンタも休め」
川 ゚ -゚) 「あぁ……だが、その前に聞いておきたいことがある」
('A`) 「何だ?」
川 ゚ -゚) 「何故私を助けた?」
再会してからずっと抱えてきた疑問を、彼女はぶつけた。
向きあい、目の奥を覗き込んできたクールに対し、
ドクオは少々間を空けてから口を開く。
('A`) 「理由らしい理由は無い」
川 ゚ -゚) 「………」
更なる答えを求める視線を浴びせるクール。
ドクオの言葉は続いていき、
('A`) 「ただ、アンタに死んで欲しくなかっただけだ。
それ以上の理由はない」
言い切った彼は、臆せずクールの視線に対峙してみせた。
偽りのない、ドクオの感情を表した端的な言葉であった。
それを受けたクールは、呆けたようにドクオを見つめ続ける。
無表情とも、固まりついたとも言える表情で。
一拍の間を開けて、その顔が歪んでいき、苦笑ともつかないものになった。
川 ゚ ー゚) 「そうか……お前は、そう思ったのか」
感情も心も無い人間。
そうやって十数年生きてきた彼が、そう思った。
思いを得ることが出来た。
その事実にクールはドクオの成長を感じ、再び喜びを感じることが出来た。
だが、同時に彼の弱さを知ることにもなる。
ドクオは未熟なのだ。
今まで感情を隠し続け、感情を表す術を知らずに育ってきた為に、
死なせたくないという感情だけでここまでやってきてしまった。
理屈や自分の環境を顧みずに。
勇気のある行動だと見ることもできるだろう。
だが、それは感情を制御する術を知らずに暴走した結果にしか過ぎない。
そうやって生き続けていく先に待っている物は破滅だけだ。
彼は未熟だ。
十数年間封殺され、やっと解放された感情を抑える術を知らない。
誰かが導かなければならないと、クールは思う。
自分がそんな存在になってやれるのではないか、とも。
ドクオの成長を見守っていく。
自分の中に芽生えた、暖かな感情をクールは心地良いと感じる
工作員としての生を捨てたドクオには、別の新たな生が待っているだろう。
上手く逃げ延び、生き続けることが出来るのならば。
二人で協力し、三課の追跡から逃れられればそれを手にすることも出来るはずだ。
だが、そんな物は幻にしか過ぎない。
冷たく、自分を見定める心がクールにそう訴える。
彼女にはそのような幸福を受け入れることが出来ないのだ。
血みどろの戦いを望むクールは、己を満足させ得る可能性を持つ、
己が敵と定めた男の目を見据えた。
('A`) 「………?」
何だ?とでも言いたげに視線を返してくるドクオ。
ほんの少し前までは無機質で何も写さなかった彼の瞳は、
鮮明にクールを映し出していく。
そこから浮かび上がってくるのは、疑問だ。
感情を窺う事が出来る、人の温かみを持った瞳。
川 ゚ ー゚) 「……何でもないさ」
笑みをこぼして言った彼女は、ドクオのこの先を案じる。
そして、彼の為に出来ることを探していく。
切磋琢磨し続け、戦う事にしか生きる意味を見出せなくなってしまった彼女が、
己を倒しうるに相応しい敵と見定めた彼の、幸福の為に。
('A`) 「なぁ、アンタは、どうして三課を裏切ったんだ?」
クールの思いを知らず、今となっては
自分も裏切り者になってしまったというのに、
ドクオはずっと気にかけていた疑問を口にする。
川 ゚ -゚) 「今となってはどうでもいいことだろう。お前も三課を裏切ったんだ」
('A`) 「アンタが裏切らなかったら、俺はこんなことをしなかったよ」
川 ゚ -゚) 「私のせいだ、とでも?」
('A`) 「いや……」
川 ゚ -゚) 「……まぁ、言っておこうか」
川 ゚ -゚) 「私はな、ニューソク国防情報局第三課のスパイだ。
だが、"国家総合案内所"と呼ばれる機関のスパイでもある。
つまりは、二重スパイだな」
(;'A`) 「国家……総合案内……? 」
川 ゚ -゚) 「テロ組織ではないぞ?
列記とした、国を護る為のニューソク政府が作り出した機関だ」
(;'A`) 「……そんなものが存在するという証拠は?
いや、その前に、国を護る為の機関だというのなら、
アンタはどうして三課を裏切っていたんだ」
川 ゚ -゚) 「証拠、か。ならば"総合案内所"の概要から伝えていこう」
川 ゚ -゚) 「総合案内所の目的は、正確に言えば国を護ることなどでは無い。
恐れ多くも国を、いや、世界を導いていこうとしているんだ」
(;'A`) 「導くだと? 出来るはずがないだろう」
川 ゚ -゚) 「総合案内所には各国の重鎮達が所属し、彼らは"案内人"と呼ばれている。
戦争による経済の再生。領土の分配。力を持ちすぎた企業の壊滅。
"案内人"達は、世界にバランスをもたらす為に国の動きを決めていく」
川 ゚ -゚) 「強大な力を持つ軍事大国ニューソク。あちらこちらに戦争を仕掛け、
暴君の如く暴れ回っているように思えるかも知れんが、
それは"案内人"達の手によって仕組まれたことにしかすぎないのだ」
川 ゚ -゚) 「敗戦した国は手痛い目にあったように見えるが、
戦争によって技術力が発達し、増えすぎた人民達が淘汰されることで
食糧難は解決され、戦前よりも豊かな暮らしが出来るようになっている」
('A`) 「無茶苦茶な。結果論にしかすぎん」
川 ゚ -゚) 「結果、バランスがもたされているのだ。一部の為政者たちの手によって、
この世界はバランスを保てている。決して平等などではないがな。
平等の下に平和など生まれやしない。だからこそ、
力のある国とない国が結託して平和を作りだしているのだ」
('A`) 「今の俺達の状況を、そしてこの国を見て、平和と呼べるか?」
川 ゚ -゚) 「……核戦争が起きていないだけマシだ」
('A`) 「……」
川 ゚ -゚) 「まぁ、そんなことは私にとってどうでもよかったんだ。
私は今まで、そいつらの下で育てられてきたのだからな」
('A`) 「……そうだったのか」
川 ゚ -゚) 「お前と、同じようなものだったよ。
感情の無い、任務を達成する為だけの道具だった」
川 ゚ -゚) 「だが、お前と同じく、私は感情を手にすることが出来た」
川 ゚ -゚) 「私は、お前と戦う為に三課を裏切った」
(;'A`) 「な……ッ!?」
川 ゚ -゚) 「感情の無かったはずの私は意識の奥深くで生き甲斐を求めた。
任務の達成に意義を見出し、自分なりの楽しみを探し続けていた」
川 ゚ -゚) 「その果てに、私は戦うことを楽しむようになった。
そしてより多くを求めた。より強い者を求めた。私を倒しうる、強き者を」
川 ゚ -゚) 「三課で任務をこなしている内にお前と出会った。
お前は、最高だったよ。私によく似ていた。
私と同じく感情の無い、心を持たない人間。
お前ほど私の"敵"に相応しい人間はいなかった」
(;'A`) 「アンタ……おかしいよ。まともじゃない。
自分を倒せるかもしれない人間を探して一体……」
(;'A`) 「……ッ!」
ドクオは途中まで言いかけて、あるセリフを思い出した。
それは、
川 ゚ -゚) 「お前が私を助ける為に三課を裏切ったのと同じだよ。
感情のままに、心を満たす為ならば、手段は選ばない」
川 ゚ -゚) 「まぁ、それだけではないがな。
"総合案内所"に任務を与えられたというのもある。
またとない機会だと思い、飛びつくように私は引き受けたよ」
(;'A`) 「俺も……まともじゃないのか……」
川 ゚ -゚) 「あぁ、私達はどうやら、似ているらしい」
(;-A-) 「はぁ……」
川 ゚ -゚) 「お前は、自分でも自分の感情が何なのか、
気付いていないようなところがあるがな」
('A`) 「どういうことだ?」
川 ゚ -゚) 「……いずれ分かる」
クールはドクオの感情について、ある推測を立てていた。
もし、そうであったのならば彼女にとって嬉しいことであろう。
ただ、今のドクオにその感情を理解しろというのは、少々難しいことだ。
川 ゚ -゚) 「さて、質問にはだいたい答えれたろう。
それでは、今後のことについて話そうと思う」
ちらりと空調の上に備えられた時計に目をやり、
2時になったのを確認してクールが言う。
川 ゚ -゚) 「私はこれから"案内人"とコンタクトを取る。
お前はこのまま国外へ逃げろ」
('A`) 「……え?」
突然の言葉に、ドクオは思わず気の抜けた声を上げてしまった。
川 ゚ -゚) 「私は"総合案内所"に戻る。お前は自由に生きてくれ」
('A`) 「俺も一緒に……」
川 ゚ -゚) 「駄目だ。お前は連れていけん」
彼の強さ、彼の弱さ、彼の心、彼の可能性。
それら全てを目の当たりにして、クールはドクオに多くの夢を見た。
だが、夢は夢にしかすぎない。
彼女が彼を導いていくことなどは出来ない。
なぜなら彼女は、戦う事に溺れ感情を制することが出来ていないからだ。
つくづく似ているな、と内心に溜息を吐いたクールの顔が、翳っていき、
川 - ) 「すまん……お前は、私のようにはならないでくれ」
ドクオに背を向けて車から降りて行った。
走りだし、公園の中へと入っていったクールを、
ドクオは手負いの身に鞭を打ち、走って追っていった。
******
公園にある林の中へと足を踏み入れていく。
土の柔らかな感触を靴越しに感じながら、私は走り続けた。
こうすることが一番彼の為になる。
悩んだ末に私は彼の下を去ることにした。
助けられておいてその下を去るというのは馬鹿げていると思うが、
私と共に居れば、彼はまた感情を蔑ろにせざろうなくなってしまう。
精神を育む機会など永久的に失われてしまう。
だというのに、ドクオは私を必死に追ってくる。
私と共にいても、総合案内所に利用される道しかないというのに。
私の覚悟も知らず。
(;'A`) 「ま、待ってくれ! お、俺も一緒に行く!」
後ろから、ドクオの息遣いの混じる声が聞こえてきた。
鎮痛剤は効いているものの、疲労はあまり抜けていないのだろう。
首だけで声の方に振り返ると、顔に汗を浮かべた彼が目に映った。
私は更に足に力を込めて、彼を振り切ろうとする。
へろへろになりながらも追いすがってくるが、
私が全力で走ると距離は8m近く開き、
そこで私は腰に隠したホルスターからグロックを引き抜く。
片手で構えて背後に振り返り、引き金を倒した。
(;゚A`) 「……ッ!」
咄嗟に身を後ろに引いたドクオの足元から、土が飛び散った。
マズルフラッシュが周囲を微かに照らし、銃声が林の中に木霊していく。
ドクオは即座に応射してきて、木の後ろに隠れていった。
私は距離を空けつつ遮蔽物を探し、傍にそびえていた木に隠れていく。
マズルフラッシュがドクオの位置を晒させ、
私は迷わずに引き金に指をかけて……。
川;゚ -゚) 「……駄目だッ!」
本能的に引き金を引こうとした自分を、後一歩のところで踏み止まらせる。
自分の中にある戦いへの渇きが満たされる瞬間。
私は知らず知らずの内に笑みを浮かべていた。
……だから、駄目なんだ。
私のような者の傍に居れば彼は確実に歪むだろう。
ましてや総合案内所の"案内人"達の道具として生きることになればなおさらだ。
ドクオにはまだ多くの可能性が残っている。
それを食いつぶしてまで工作員として生き続けるなど、勿体ない。
もっと、もっと多くの幸いが彼を待っているはずなのだ。
……絶対にここで彼を撒かなければならない。
私は銃撃の止んだのを見計らい、姿勢を低くして
物音を立てぬように慎重に進んでいく。
だが、夜目が効いてきたのか私の位置を把握したドクオは、
真っ直ぐに私の下へと向かってくる。
来るな!
その一念で私は彼に銃を向けた。
引き金を引いたのは無意識下で行ったことだった。
銃声が響くと、ドクオの脇腹を赤い線が走った
(;'A`) 「チッ!」
鎮痛剤によって痛みを感じないのか、ドクオは怯まずに反撃してくる。
しかし銃口は私を覗いておらず、木に狙いを定めていた。
乾いた音が響いて木が弾丸に抉られていく。
威嚇射撃だ。
当てる気など無いのだろう。自分は撃たれたというのに……。
口元が緩んでいき、胸の内から何か熱い物が沸々とこみ上げてくる。
赤くて黒い、何かが……。
私の渇きを潤してくれる何かが。
そして私の頭の中には喜びが溢れてきた。
漂ってくる硝煙の臭いと血の臭い。
戦いの空気に触れた身が自然と震えてくる。
はっ、と笑みを作った私は、己の"敵"へとグロックを向けた。
******
グロックの銃口が俺を覗く。
だが、木から身を乗り出したクールへと、俺は一気に接近していった。
ハンドガンの弾薬は既に切れた。予備の弾も残っていない。
だから、右手に持ったMk23をクール目がけて思いきり放り投げていく。
縦に回転しながら風を切る銃は、構えられたグロック26に炸裂した。
堅い音が響きわたり、弾丸はあらぬ方向へと発射される。
その間にも距離を詰めていき、空いた右手でショルダーホルスターに手を伸ばしていく。
サバイバルナイフのグリップに手を掛け、
再び照準されたグロックへと刃を抜き放っていく。
それと同時に引き金は倒された。
高い音が林の中に響きわたり、火花が散った。
川 ゚ -゚) 「………ッ!」
('A`) 「ふん……」
刃を叩きつけられたことで銃身が変形し、
スライドされていくと排出口から飛びだすはずであった薬莢が詰まったのだ。
ジャムを起こしたグロックを確認して一歩を退き、
クールの目を見て俺は言う。
('A`) 「役には立つ。足手まといにはならない。だから……」
川 ゚∀゚) 「――――面白い」
が、笑みを作ったクールにその言葉は届かなかったようだ。
バックサイドホルスターから黒のボウイナイフを抜き、
右手で順手に構え、鋭く攻撃的な切っ先を突きつけてくる。
口を開き、
川 ゚∀゚) 「勝負だドクオ。感情のままに動くというのならば、私を満たしてみせろ」
対峙する俺は右手でサバイバルナイフを逆手に構えなおす。
肩を撃たれているはずなのだが、鎮痛剤のせいか全く痛みを感じられない。
頭もぼやけてくるが、敵を前にしたことで集中が
高まってきたのかやけにクリアになってきた。
しかし、戦ってはならないと思う。
こいつには死んで貰いたくはない。
('A`) 「……やめろ、こんなことをしても勝者なんか出ない。
戦う意味がないだろ? どっちが生き残っても空しくなるだけだ」
川 ゚∀゚) 「意味ならばある」
川 ゚∀゚) 「―――面白い」
その言葉と共にクールは切りかかって来た。右腕の脈を切りつける軌道だ。
右手を下げ、一歩距離を引いて身を回す。
そしてその動きにナイフを振るう動きを加えてクールを切りつける。
黒の刀身がそれを阻み、二つの刃が空気を震わせた。
(;'A`) 「やめてくれ……ッ!!」
クールを傷つけたくはない。戦いたくはないと思う。
だが、
……迷いを持ったまま勝てる相手じゃない!
今目の前に立っているのはただの敵でしかない。
それも飛びぬけて強い、強敵だ。
繰り出される刃を受け流し、反撃の一撃を繰り出していく。
そんなことを繰り返していると、戦いに身を飲みこまれていくかのように、
目の前の敵を倒す事しか考えられなくなってきた。
本能のままに、今まで生きてきて身に染みつけてきた技、力、
それら全てを解放して生き残る為に戦っていく。
倒す。
その一念に取りつかれたように雑念の全てが振り払われ、
俺は逆手に構えたナイフを順手に構えなおして切りかかっていった。
******
夜の闇の中、林では火花と金属音が絶えず生まれていた。
林にて激しくぶつかりあう刃と刃。
一人の男と、一人の女が繰り広げるナイフ格闘によって、
それは生み出されていた。
夜風は冷たく木々を揺らして吹きすさんでいくが、
二人の周囲には熱気が籠っており、刃と体から熱が放たれていく。
目には己の敵のみを映しだし、額からは汗が伝う。
女が黒のボウイナイフを振るうと、男は胸を一文字に切り裂かれた。
繊維質を断ちきる音が立ち、女はそれに笑みを浮かべた。
川 ゚∀゚) 「フフ……」
しかし、切られたはずの男も同じく笑みを浮かべていき、
('∀`) 「何がそんなに可笑しい」
川;゚ -゚) 「……ッ!?」
女は身に起きた異変に気付いた。
自分の左肩が大きく切り裂かれ、血がだくだくと流れていくのを視界に収め、
川 ゚∀゚) 「フフ……あっはっはっは!!」
笑みを強くし、恍惚にも似た表情をして女は切りかかっていった。
ドクオとクールの戦闘は、苛烈なものとなっていた。
ナイフとナイフの戦闘は一撃で敵を仕留めるのではなく、
少しずつ敵にダメージを蓄積させていき、弱り果てたところを
止めを刺すというのが熟練者同士の戦い方だ。
相手に深手を負わせることが出来るが、突きが使われることはまずない。
一撃で仕留められれば話は別なのだが、
急所を外して筋肉に突き刺さりでもすれば、
筋肉が委縮して刃を引き抜けなくなり大きな隙が出来てしまう。
また、かわされてしまった時の隙も大きい。
よって、ドクオとクールは先程から隙の少ない攻撃を繰り出し続け、
互いに少しずつ傷を負わせていた。
クールの着ているスーツは既にボロボロとなっており、
ドクオのYシャツはズタボロに切り裂かれて赤く染まっている。
戦う前から負傷していたドクオにとって、とても分の悪い戦いだ。
ましてや相手は、以前に自分を打ち倒したクール。
動揺していたというのもあるが、その事実は、
ドクオの心に必要以上の圧迫を強いるのに充分だ。
袈裟掛けにされたボウイナイフの刃をいなし、
間合いを置く為に身を引いていく。
リーチも重みも向こうの刃の方が上なので、
その刃を受け止める時には過剰な衝撃を受ける。
体力の消耗が激しくなるが、ドクオは防ぐのではなく避けることに専念していく。
攻め寄ってくるクールのナイフが、ドクオの胴を切り裂く為に振るわれていき、
一歩を引いて避け、クールの頭上へとカウンターの一撃を見舞う。
防がれ、火花と金属音が散ると、クールは空いた片腕でドクオに掌底を叩き込んだ。
それも、第三課を脱出する際に撃たれた、左脇をだ。
肉を穿たれた脇に強烈な衝撃を浴びせられ、
鎮痛剤の効果が薄れてきたドクオの脳を痛みが支配し、
人間の物とは思えない雄叫びが上がった。
(;゚A゚) 「ぐうおぉ……ッ!!」
痛みに身をよじらせたドクオに、ボウイナイフが振るわれる。
悶えながらも辛うじていなし、身を振るわせながら後退するドクオを、
クールは怒涛の勢いを以って追撃していく。
足を前へと踏み出していき、大きくナイフを振って胴を狙い、
苦し紛れに身が捩られたことで刃は胴ではなく太ももを裂く。
次いで刀身が返され、今度こそ胴を切り裂く。
大きく切り裂かれた肉から血が大量に飛び散っていき、
肌を泡立てる鈍い音が響きわたると、
鮮烈な痛みに襲われたドクオは痛みを感じる自分を殺し、
がむしゃらに腕を振ってサバイバルナイフをクールに叩きつけた。
胸の肉を大きく切り裂かれた彼女は、
痛みを感じて苦しむどころか益々笑みとなる。
血がだくだくと流れる左腕で素早くドクオの右手を掴み、
捻り上げてナイフを奪おうとする。
反射的にドクオの左手は拳を握り、身を捩らせてクールの鳩尾へと叩き込む。
ドクオは重い感触を拳に得るも、耐えたクールは構わず手首を捻り上げ、
拳が解かれてサバイバルナイフは地面へと落ちていく。
すると、捻られる動きと共に左の膝を突き出すことで
クールの鳩尾に再びドクオはダメージを与えた。
肉を打ち、肋骨の砕ける異音が響き渡り、目をガッと開ききったクールは、
身をくの字に折って嗚咽を漏らす。
川; ∀) 「がぁ……ッ!」
反撃だ。
('A`) 「……ッ!」
ドクオの反撃が開始されていく。
身を地面すれすれまでに落としていき、クールの脇を通り過ぎて行こうとする彼は、
落としたナイフを左手で拾い上げ、順手に構えなおす。
そして未だ右手に掴みかかっている左手へと刃を向け、
宙を踊っていくような動きで斬撃が放たれていった。
脈を斬り、手首の筋を切られ、切り刻まれてゆく。
舞う血潮。走る痛み。腕を這う刃。
ドクオは止めを刺さんと首へと一閃を放ち、
右腕から繰り出されたボウイナイフの刺突を避ける為にバックステップを行う。
黒く鋭い刃が虚空を貫き、鉛色の小振りの刃がクールへ突きつけられる。
('A`) 「………」
川 ゚ -゚) 「………」
血にまみれた顔と顔。鋭い眼光と眼光。
冷徹な表情と表情。荒い息と息。
対峙した二人はぞれぞれの得物を構えなおし、呼吸を整え、
川 ゚∀゚) 「――――――ッ!!」('A` )
獣の如き素早い身のこなしで切りかかってゆく。
前進し、敵との距離を0へと近づけていき、
リーチの長いボウイナイフを持つクールが先に仕掛ける。
構えは逆手。守るに適し、隙の少ない攻撃を繰り出せる構えだ。
逆手から繰り出される刃の動きは、逆袈裟切り。
左から首を狙う一撃は真空を断ち、澄んだ音を生み出す。
次いで生まれた物は火花と金属音だ。
鉛色の刀身が黒の刃を往なし、空気を震わせた。
防御の動きから攻撃の動きに移ったサバイバルナイフは、
袈裟掛けに刃を繰り出してゆく。
構えは順手。攻めるに適し、速度を重視した攻撃を行える構え。
目にも止まらぬ斬撃が放たれると、ボウイナイフの刀身はそれを阻み、
カウンターに一閃を放ち、刹那に鉛の光が発たれ、
黒の刀身は引き戻されて反撃よりも早くきた連撃を防ぐ。
キン、と甲高い音が二人の鼓膜を刺激し、
('A`) 「………ッ!!」
音速にも劣らぬ速度でドクオは攻撃を繋げてゆく。
左に送った刃を下へ、下へ送った刃を右へ、右へ送った刃を左へ。
最小の動きを最速の力で繰り出し、凄まじき勢いで攻め続けることで
ドクオはクールを圧倒していった。
火花と金属音の嵐。
クールの身には小さな傷が増えていき、出血の量が増していく。
防ぐのに手一杯で反撃を繰り出す間もないが、
彼女はこの攻勢が長くは続かないことを理解していた。
('A`;) 「――――――――ッ!!」
ドクオの頬に汗が流れ、呼吸が少しずつ乱れてゆくのをクールは感じる。
呼吸を読まれるということは、行動を読まれることに繋がる。
息が微かに吸い込まれ、次なる攻撃の前動作に入ったのを見計らい、
クールは逆手に構えた刃をくるりと回しつつ順手にし、胴へ薙ぎ払った。
全身の力を込めて放たれた黒の刃は、ドクオの胴を大きく切り裂いた。
血が飛沫き、衝撃へ後ろに仰け反っていくドクオ。
しかし、
川 ゚ -゚) 「……ッ!?」
瞬きの間に逆手に構えなおされた刃が、同時にクールの胴を叩き斬った。
同じく多量の血が飛沫いていき、バックステップを行ってクールは対峙し直す。
血の滴る刃を順手に構えなおし、切っ先をドクオに突きつけて告げる。
彼の姿を見据えて、
川 ゚ -゚) 「素晴らしい。これこそが私の求めていたものだ。
これこそが私の理想だ、お前こそが私の敵だ」
川 ゚ -゚) 「敵よ! 愛しき私の宿敵よ!!
私の首を切って見せろ! 私の左胸を貫いて見せろ!!
お前の敵はここにいるぞ!!」
川 ゚ -゚) 「私は私の全てを用いてお前を葬り去る!」
狂った笑みが浮かび上がっていき、
川 ゚∀゚) 「――――消えろ敵よ!」
己の敵へと向かって疾走してゆく。
対する敵、ドクオは腰を深く落としてサバイバルナイフのグリップを握り直す。
切っ先をクールへと向け、次に繰り出す一撃へと全ての力を込めるつもりだ。
瞬間、己の間合いへと入ったクールがボウイナイフを振りかざし、
目にも止まらぬ速さで刺突を繰り出す。
最も早く最も殺傷力の高い一撃だ。
見えない一撃。身を投げ捨てるように突き出された刃には、
疾走の慣性力と全身の力が籠っている。
切っ先はドクオの左胸を捉えており、ボウイナイフが深々と突き刺さっていく。
肉を穿つ生々しい音が響いていき、クールは充分な手ごたえを得た。
川 ゚∀゚) 「………?」
が、彼女の左胸にはサバイバルナイフが突き立っていた。
攻撃に気を取られ、目前の敵を倒すという一念に取りつかれていた彼女は、
今となってやっと気付くことが出来たのだ。
……相打ちか、と呟こうとするも、
手に得た暖かな感触によってそれは飲みこまれてしまう。
川 ゚ -゚)「……私の負けか」
クールがナイフを構える右手は、ドクオの左手によって掴まれていた。
掌に突き立ったナイフはそれごと左胸を貫いてはいるが、心臓に届いてはいない。
ゆっくりと後ずさっていき、クールは近くにあった木の幹に背を預けていく。
座りこみ、寄って来たドクオを見上げる。
鎮痛剤が完全に切れたのか、彼は両腕をだらりと垂れ下げ、
左手に突き刺さっているボウイナイフを引き抜くと、
出血の酷い胴を右手で押さえつけていく。
ドクオは苦しげな顔でクールを見下ろすと、
(;'A`) 「クー……」
彼女のあだ名を呼んだ。
傍に寄っていき、ドクオは両の膝を突いていく。
その顔は酷く狼狽していて、瞳は震えていた。
(;'A`) 「どうして、こんな……」
かすれる声で呟き、クールはドクオの目を見つめて言う。
川 ゚ -゚) 「気にするな、お前は悪くはない……」
血の気の失せていく顔で、弱々しくクールが語っていく。
川 ゚ -゚) 「私を……助けることなんて無理だったんだ。
私とお前は、こうなるしか、無かった……私が私の性分を捨てられない限り」
揺れるドクオの瞳は、涙を落とし始めた。
人の命を奪うことの重みを、初めて理解したかのような涙だ。
(;A;) 「た、助けようと、思ったのに……こ、こ、こんな……」
ドクオの涙を見たクールは瞼を閉じ、口を開いていく。
川 - -) 「こうならない為に、私はお前の傍を離れようとしたんだ……。
だというのに、付いてきて……馬鹿者め。私なんか、助ける価値など無かったんだ」
でも、と付け加えてクールが続ける。
荒い息で、絶え絶えの言葉で。
川 - -) 「嬉し、かった……よ。最高の、戦い、だった。私の望みが、やっと叶った……」
そう言ったクールは瞼をゆっくりと開いていく。
開かれた瞼からは瞳が覗き、そこからは涙が零れ落ちてきた。
川 ; -;) 「だというのに、何故、こんなに虚しいんだろうなぁ……」
( ;A;) 「………」
思わず、ドクオはクールから目を逸らし、
泣き声を上げそうになるのを堪えて、嗚咽を漏らしていく。
クールは冷たくなってきた手で、そんな彼の頬に触れた。
ドクオは冷やりとした感覚を得て、クールと真っ直ぐに向き合う。
すると、彼女は笑みのようなものを作り、弱々しい声で言葉を紡ぐ。
川 ; -;) 「私の、ようには、なるな………」
瞼が閉じられて、声が消えいっていき……。
川 - ) 「おまえは、つよ、く……じゆう……に……」
やがて、クールは息絶えた。
それを見たドクオは、声を上げて泣き叫び、
クールの亡骸にしがみついた。
林の中に、彼の悲痛な声が木霊する。
少年のもののような泣き声。
感情を制御する術を知らない子供のような幼い心。
これからドクオは数多くの傷を負っていくのだろう。
だが、その傷がやがて瘡蓋となって剥がれ落ちた時、
彼の心は以前よりも強いものとなる。
もっと、二人が幸福となれる方法もあったはずだったのだ。
しかしまだ未熟な彼にはその方法を考えるだけの余裕を持ち合わせてはいなかった。
クールが戦いを望んでいたというのもあるが、しかし……。
ドクオは、心に大きな傷を負った。
それでも彼は、立ち直って見せた。
数分、いや、もしかしたら数十分も泣いていたのかもしれない。
クールの左胸に突き刺さっていたサバイバルナイフを抜き、
遺品となったボウイナイフを拾う。
('A`) 「……行ってくるよ」
赤く腫らした目でクールを見つめ、頬に触れて呟く。
しかし、それを聞く者はもはやいない。
片足を踏み締め、ドクオは立ち上がっていく。
車を止めていた方角に見当をつけ、そちらへと振り返る。
が、
(;゚A`) 「ぐ……ッ!?」
突如としてドクオの両腕と両足の関節を衝撃が貫いていき、
血の花が咲いていった。関節の骨が砕かれ、
身を支えることの出来なくなったドクオはその場に倒れていく。
遅れて、焼きつくような痛みと硝煙の臭いがやって来た。
何処だ!?と銃撃のあった場所を予測し、
その場を離れる為に背筋と両手を使って何とか起き上がっていくが、
音も無く駆け寄って来た装甲服姿の男に叩き伏せられた。
アサルトライフル、M4A1のストックが背中に炸裂したようであった。
それでもまだ立ち上がろうとするドクオを、
装甲服の男は銃を槍のように構えてストックで突き伏せる。
(; A ) 「……ッ」
肉を打つ音に骨の砕ける音が紛れて、ドクオの背に激痛が走った。
動けなくなったドクオを確認した装甲服の男は、
片耳に右手を当てて口を開いていく。
_
( ゚∀゚) 「目標沈黙。これより、目標の移送に移る」
そう体内通信で報告を行ったのは、ジョルジュだった。
ちらりとその顔を見やったドクオは悪態を吐く気にもなれず、
そのまま意識を闇の中へと落としていった。
*****
目が覚めると、全身に鋭い痛みが走っていき、熱を感じていく。
傷の痛みらしい。どうやら、俺はまだ生きているようだ。
目の前には机が置かれており、俺はイスに座っている。
手足に不自然な重さを感じる。
覚醒しきらない意識のまま、ぼやけた視界を下へ移すと、
手錠と足枷で両手足の自由を奪われ、手錠の鎖はイスに巻きつけられていて、
俺は完全にイスに固定される形となっているのが分かった。
……これは。
疑問と共に今度は上へと視線を移していく。
すると、天井には見覚えのある監視カメラが置かれており、
まわりはやはり見覚えのある壁の色をしていた。
灰色に近い白の壁に、ブラインドの付けられた窓。
ただのオフィスビルの一室に思えるそれは、三課の尋問室であった。
数時間前、拘束されていたクールを助け出したところだ。
数時間?いや、時間は分からない。
俺は……一体どれほど眠っていたんだ?
疑問に思う事はたくさんある。
しかし、部屋に入って来た一人の男の姿が、
俺に考える間を与えてはくれなかった。
ここにいる時点で、考えても意味のないことだったが……。
( ・∀・) 「お目覚めのようだねぇ……ドクオ君」
藍色のスーツを着て、オールバッグに髪を整えた男、
ケースオフィサーであるモララーが俺の前に現れた。
モララーは今までと変わらない視線を俺に浴びせると、
机の前に置かれていたイスに腰を掛けていった。
( ・∀・) 「傷の具合はどうかね?」
('A`) 「……これから痛めつける相手に、そんなことを聞く必要が?」
( ・∀・) 「元気はあるようだね」
( ・∀・) 「どうやら、君は本当に変わってしまったようだ」
どこか遠い目をして、モララーはそう漏らした。
しかし、瞬きをした頃にはすぐにこちらを見返して、
( ・∀・) 「ドクオ、君は、我々を裏切っていたのだな?」
('A`) 「いや、ほんの少し前までは三課の一員だったよ」
( ・∀・) 「二重スパイではない、という意味かね?」
('A`) 「そうだ」
( ・∀・) 「では、何故素直クールを救出した?
それは君が共謀者だからなのではないのかね?」
('A`) 「違う、俺はアイツのいた組織とは関係ない」
( ・∀・) 「では、何故クールを助け出そうとした?」
('A`) 「……アイツに死んで貰いたくなかった、それだけだ」
( ・∀・) 「自分で殺しておいて、かね? 冗談はよしたまえ」
('A`) 「………」
( ・∀・) 「君はクールを助けておきながら彼女を殺した。
これは情報漏洩を防ぐために、彼女の口を封じる為に行ったことでは?」
('A`) 「だとしたら、どうして協力して組織の下に戻ろうとしなかったんだ?
逃げ切れたかもしれないっていうのに、わざわざ殺す必要があったって言うのか?」
( ・∀・) 「その組織の命令、だったのではないのかね?」
('A`) 「違うね、俺はそんなもん知らん。俺は俺の意思で行動した」
( ・∀・) 「君はクールをその手で殺したかった、と?」
その一言に、身体中の細胞が騒ぎ出すような感覚を感じた。
全身が、「違う」と否定しようとしているようだ。
(#'A`) 「違うッ!!」
恐ろしい程力の籠った声が、部屋中に張り上げられた。
( ・∀・) 「……怒っているのか」
笑いの色が覗ける声で、モララーが言う。
( ・∀・) 「君は、我々に拘束されたクールを助け出そうとした。
夜になるまでじっと待って。そして足を用意し、彼女を助け出して逃亡した。
我々の捜査を撹乱し、我々の拠点のあるニジから離れる為にオカへと向かった」
ニヤリ、と、嫌悪感を与える笑みを浮かべて、言い放つ。
( ・∀・) 「素直クールを殺す為に!」
(#゚A゚) 「違う! 俺はクーに死んで貰いたくはなかった!!」
( ・∀・) 「なら何故殺したというのだ! 命令だったのかね!?」
(#'A`) 「クーは別々に逃げようとして出ていった!
俺は協力した方が良いと判断して後を追った!!
(#'A`) 「アイツは一人で逃げようとしていた。俺を振り払う為に威嚇射撃を行い、
俺はそれを止める為に撃ち返した。その結果戦闘になって……!」
('A`) 「戦闘に、なって……」
( ・∀・) 「殺したか」
( A ) 「あぁ……」
( ・∀・) 「では、次の質問といこう」
( ・∀・) 「君は、素直クールが所属していた組織について、知っているかね?」
( A ) 「あぁ……」
( ・∀・) 「組織の名は?」
( A ) 「………」
答えようと、そう思うが、何故か口は開かなかった。
"国家総合案内所"。そう言えば全て終わる話だ。
俺は、重くなった口を開いた。
('A`) 「……教えてやる気にはなれないね」
だが、声に出したのはその名ではなかった。
自分でも答えなかったことが不思議であった。
クーが、総合案内所が世界にバランスをもたらしていると、
そう語っていたのに感化されたかもしれない。
もしかしたら、もっと単純で、彼女が話してくれた秘密を
他人にばらしたくはないと、そう思っただけのことかもしれない。
モララーは、思いがけない言葉が出た、とでも言いたげな顔をし、言う。
( ・∀・) 「フフ……そのうち話してもらう事にするさ。時間はたくさんあるのでね」
もっとも、とそう付け加えたモララーは、俺の傍に近づいてくる。
頭を右手で鷲掴みにされ、口元に耳を近づけさせられると、小さな声が聞こえてきた。
( ・∀・) 「私は総合案内所のことを知っているのだがね」
(;゚A`) 「なっ……!」
驚き、声を上げ掛けた途端、俺の首筋に何かが突き立った。
液体の流れる音が発ち、身体の中に冷たい何かが流れ込んでくる。
視線を音の下へと寄せると、モララーが俺に圧縮注射器を刺したようだった。
身体の力が抜けていき、瞼が重く……
******
「―――――まくいかないものだな、なかなか」
「あぁ、感情とは御しがたいものだね。難しい」
声がする。
男と女の声だ。
まだ眠たく、もう一度眠りにつこうとするが、
声がそれを邪魔するように続いていく。
「402には特異な性癖があった。一部の兵士にもよく見られる、
戦争中毒にも似たようなものだ。彼女はそれでしばしば任務に支障をきたす事があったよ」
402?
何の数字だ……?
「適応者だったのだがな。勿体ないことだ。
貴重なサンプルを失ってしまうとは」
「そう言わないでくれたまえ。目を掛けていた403が適応したのだ。
不幸中の幸いだとは思わないかね?」
「……ふん、そういうことにしておくか。上手くいかないことには慣れている。
研究とは、幾つもの失敗を重ねた果てに成される物だからな」
「すまないねぇ……それで、"変位臨界遺伝子"の移植はすんだのかね?」
「403が移送されてきた後にすぐに移植手術を行った。
遺伝子の組み換えは既に完了されている。30分もあれば終わることだ」
「20年あまりを掛けて蓄積したデータが、たったのそれだけで移植されるのかね?」
「……あぁ。これはウィルスみたいなものだ。
体内に入った途端全ての遺伝情報を塗り替えてしまう。
何世代もの時をかけて積み重ねられてきた人間のDNAに比べれば、ほんの一瞬のようなものだ」
「不思議な話だねぇ……」
「しかし、我々が現在必要としている物は、そんな物ではない。
強いだけでは駄目なのだ。即席で扱える兵器でなければならない」
「これから、忙しくなるからねぇ……」
「精神操作のほうは既に完了している。実戦テストを行いたい。手配は?」
「すんでいるよ。丁度、やっておかねばならない仕事があるところだ」
「だろうな。私にも、やらねばならぬことがある」
「出来れば、戦闘要員の増員を行いたいのだが、
IEUで引き抜き可能な要員はいないのか?」
「残念ながら、ね。彼らの能力を考えれば惜しいのだが、
しかし、嗅ぎまわれても困るしね」
「……なるほど、仕事とはそういうことか」
「そういうこと、だね。まぁ、403に任せてくれたまえ。
彼なら、きっと上手くやるよ」
「テストの出来しだいだな……。望めるのなら、"白猫"レベルだといいのだが」
「"白猫"ねぇ……変位臨界遺伝子の力を得た彼なら、その上をいけるよ」
「ならば、結果で出してくれ。それで判断する」
「フ……了解」
「では、403を起こしても良いかね? 彼には、任務が待っている。
生まれ変わった彼の、最初の任務がね」
男の声がそう言うと、俺は誰かに身体を揺さぶられた。
柔らかい指の感触が肌に伝わり、403と声を掛けられる。
403……?
俺の、ことなのか?
仕方なく目を開くと、大きなライトが目に入った。
俺はどうやらベッドの上で寝ていたらしい。
( ・∀・) 「お目覚めかな? 403」
('A`) 「……403って、何のことだ?」
jl| ゚ -゚ノ| 「お前の名だ。覚えておけ。これから、お前にはある任務に就いてもらう。
内容はこのモラルから聞け。装備はこちらで用意してある」
モラルというのは、この男のことなのだろう。
「付いてきたまえ」と言って部屋を出た彼に、俺は従っていった。
403……それが、俺の名前か。
******
ニューソクの北にある、ヨウツベ州。
ヨウツベとは海に面する沿岸地帯だ。
そこのとある大型倉庫にラドンの残党が隠れているとの情報を得て、
ニューソク国防情報局第三課、IEUは出動した。
黒の軽装甲服を身に纏い、闇に溶け込んだ彼らは倉庫の壁に張り付く。
391、394、402、404、そして"403"を欠いた今、
彼らの戦力はガクンと低下してしまっている。
しかし、残る390番台の工作員を全て
投入することで補った為に、今回の任務に差し支えは無い
(`・ω・´) 『こちら392。突入準備が完了した。401、そちらは?』
一か月ほど前に負傷して以来、戦闘からは遠ざかっていた392、
シャキンが体内通信で連絡を取る。
_
( ゚∀゚) 『402、何時でもオーケーだ。タイミングはそちらに任せる』
そう言ったジョルジュの傍には、同じく復帰したトソンが控えていた。
(゚、゚トソン 「………」
彼女は、どこか浮かない顔をして突入に備えている。
戦闘直前にしては緊張さに欠ける表情だ。
_
( ゚∀゚) 「……トソンちゃん、しっかり」
小さな声で気遣うジョルジュに、頷きを送り、
(゚、゚トソン 「えぇ……」
彼女はそう気のない返事をした。
_
( -∀-) 「………」
(`・ω・´) 『3、2、1――――』
仕方ないな。
ジョルジュにはそんな思いがあり、
今度も何とかなるさ、と、内心に気楽な言葉を呟いた。
(`・ω・´) 『GO AHED!!』
シャキンの言葉に二手に分かれた班が動く。
同時に倉庫の表と裏から勢いよく突入していった彼らは、
コンテナを蔦って移動していった。
フラッシュライトを装備したM4A1が暗闇を照らす。
移動していくが誰もおらず、それでも注意しつつ進んでいくと、
中央に辿りついた頃にライトが人のような物を照らした。
( )
数は一つ。
しかし、油断せず、二班が取り囲んでいくと、
周囲から光を浴びたそれの姿が露わとなっていく。
その刹那。
二人の隊員が切り裂かれた。
一人は胴を真っ二つに、一人は首を刎ねられ、
切られた二人は力を失って倒れていく。
何時の間にか移動していた何かに、IEUのメンバーは慌てて照準した。
(=◎)
ライトに照らされたそれは、赤い単眼を持つバイザーを装着し、
強化骨格スーツに似た、青のゴム質の防護繊維で身体を覆っていた。
右手には、ハルトシュラーが特別に拵えた機械剣、"インビジブルエネミー"が構えられている。
柄のない、二つの刃を持つ機械剣。
それが青と赤の輝きを放ち、揺らめいた。
('、`*川 「―――――ッ!」
咄嗟にその場を離れたペニサスは、傍にいた396が切られたのを視界に収める。
一つの刃はヒートブレードだ。高熱を持つそれに袈裟掛けにされた396は、
身体を覆っていく炎に焼かれていってしまう。
ペニサスのM4A1の銃口が謎の強化骨格を覗き、弾丸を放つ。
銃声は断たず、風を銃弾が切る音のみが響いていく。
だが、それは虚しくも剣によっていなされて金属音を残すに留まる。
近くにいた398と399が同じく弾丸を放つが、
無駄だとでも言わんばかりに呆気なく弾いていく。
ペニサスを追い、飛びあがって大上段に構えた刃が振り払われる。
身を低くした彼女の背を横に放たれた刃が通過していき、
ヒートブレードの熱で熱くなった空気を身に感じ、ペニサスは反撃にもう一度引き金を引く。
防護繊維に火花が弾けて、着弾が確認されるも、
謎の強化骨格は気にも留めずに刃を返し、もう一つの刃でペニサスを切り捨てた。
高電圧を持ち、稲妻を帯びたスタンブレードが装甲服ごと彼女を感電死させる。
( 、 *川 「がぁ……」
銃を構えた腕をビクビクと振るわせたペニサスは、絶命していく。
次いで、息つく間も無しに強化骨格の背後から弾雨が迫り、
振り返りざまにそれは全てを防いで見せる。
連続する金属音と火花。
しかし、防ぎきれなかった銃弾がスーツを削っていき、
微かな衝撃と痛みを謎の強化骨格にもたらしていた。
防ぎきれんと、そう判断したそれは、剣を二分にする。
ヒートブレードとスタンブレード。
それぞれを両手で構えた謎の強化骨格は、
俊敏な動きで弾雨の中を突っ切っていく。
固まっていた398と399は電撃の刃と高熱の刃に断たれていき、
そして、次なる獲物を求めたそれはブーンを発見した。
右足を一歩踏み出すと、その時には既に彼は照準していたが、
(;^ω^) 「……早いッ!」
しかし、あまりにも早かった。
ブーンは身を投げ出すようにその場を離れていき、
シャキンと合流していく。シャキンはブーンの居た場所に移動したそれに、
銃撃を加えつつブーンと共に後退していく。
(`・ω・´) 「留意しろ! 敵は強化骨格だ!!」
(;^ω^) 「一人だけ!? 罠かお!!」
思いを叫び上げたブーンは、シャキンと共に弾丸を連射していく。
正面から迫る強化骨格に、左右からトソンとジョルジュの射撃が加わり、
強化骨格のダメージは少しずつ蓄積されていく。
だが、それをものともせずに、猪の如く突っ込んでくる強化骨格には、効いているようには見えない。
(`・ω・´) 「ちっ、化物め」
悪態を吐き、ブーンと別れ、コンテナの裏に回ったシャキンは、
空となったマガジンを取りかえていく。
ガキン、とマガジンのハマった音が響くと、
_
( ゚∀゚) 「392! 後ろだ!!」
(`・ω・´;) 「――――っ!?」
(=◎)
振り向くと、コンテナの上には強化骨格が立っており、
既に地面を蹴っていたそれは真っ直ぐにシャキンへと飛んでいく。
速く、銃を向けていては間に合わないと判断した彼は、
銃を捨てて胸のホルスターからナイフを抜き放つ。
抜くと同時に放たれる斬撃。
遅れて、異音が響く。
(;`・ω・´) 「ぐぉ……ッ!!」
構えたナイフごと右腕が溶断されていき、
肉の裂かれる音と燃える音が混じり合う。
スタンブレードがシャキンの身体を切り裂いたのだ。
攻撃を攻撃によって潰し、懐に潜り込んだ強化骨格はシャキンをスタンブレードで貫いた。
身を小刻みに痙攣させてシャキンは倒れていく。心臓付近に突き刺さり、
そこから引き起こされた電撃によって、心臓は動きを止めたようであった。
強化骨格は刃を引き抜き、双剣を会わせて一つの剣とする。
そして、コンテナの蔭へと飛び出していき、
( ^ω^) 「―――――っ!」
攻撃の機会を窺っていたブーンを見つけ、高熱の刃によって薙ぎ払う。
切り上げられた彼は倒れていき、炎に包まれて燃えていく。
(=◎) 「排除。残敵、残り2」
そう呟くと、どこかに隠れたらしいトソンとジョルジュを探しに、
謎の強化骨格はゆっくりと移動していく。
辺りには血の臭いと肉の焦げる臭いが充満しており、
人の臭いや息の臭いを嗅ぎとれるような状況ではない。
死体を焼く炎以外灯りのない倉庫の中で、それはサーモグラフィーを作動させた。
それの顔を覆う、バイザーの機能の一つだ。
コンテナの裏にでも隠れていれば、温度の差ですぐに分かる。
謎の強化骨格は周囲360度を見回すと、二つの人型をコンテナに見つけた。
コンテナの左右にそれは置かれていて、強化骨格には自分が近付くのを待ち構えているように思えた。
しかし、臆さずにゆっくりと近づいていき、そして……。
(=◎)「……ッ!」
強化骨格は、思わず呆気に取られた。
裏をかかれてしまったのだ。
コンテナの裏には、炎に覆われた死体が二つ置かれていただけだ。
しかし、それにはそこから取る敵の行動が読めていた。
倉庫外へと飛び出していき、屋根へと上り詰めると、
二人の装甲服の姿が軍用車の元へと向かっている。
それを見た強化骨格は大きく跳躍し、着地すると思いきり足を踏み出して
一陣の風となってジョルジュとトソンへと接近していく。
_
( ゚∀゚) 「ッ!」
気配に気付いたジョルジュが振り返り、
_
( ゚∀゚) 「先に行け!!」
そう叫んでトソンの背中を押し、強化骨格に銃を向けた。
引き金に指を掛け、発砲。弾丸は連射されていくが、
難なく往なされて宙に散ってしまう。
間合いを詰めた強化骨格は、ジョルジュに切りかかり、
バックステップによってかわされることで刃は空を切る。
しかし、切りかかる際に踏み込んだ足を捻り、身を返すことで刃を返し、
下からジョルジュの胴を切り裂いていく。装甲服は紙切れに等しく、
スタンブレードの電圧を受けたジョルジュは苦しげに顔を歪めていく。
が、彼は眉根を歪め、口元に小さな笑みを作った。
_,
( ゚∀゚) 「ケッ……消し飛びやがれ」
バックステップによって、まだ宙を微かに浮かぶジョルジュの指は、
何時の間にか銃の引き金ではなく、
アンダーバレルグレネードランチャーの引き金に添えられていた。
距離はほぼ0。
そんなところからグレネードを放てば、
確実に命中するであろうが彼も無事では済まない。
それでも、彼は躊躇なく引き金を引いて見せた。
(=◎)「――――ッ!」
榴弾が強化骨格のバイザーを目がけて発射され、
激突すると炎が巻き起こっていき、衝撃波生まれていった。
破片がばら撒かれ、強化骨格とジョルジュの身をズタズタに引き裂いていく。
吹き飛ばされたジョルジュは、地面に倒れ、
同じく吹き飛ばされた強化骨格を見て言い放った。
_
(メ ∀ ) 「敵、勢……力、排除。任務……完、了」
絶え絶えの息で最後にそう言った彼は、
慌てて駆け寄って来たトソンを視界に収めた。
(゚、゚;トソン 「じょ、ジョルジュさん! しっかり!!」
先に行き、エンジンを掛けて待っていた彼女は、
爆発に巻き込まれるジョルジュを見て、居ても経ってもいられなかったのだ。
イヨウ、ドクオ。
幼き頃から一緒だった二人の顔が、
トソンの脳裏に浮かび上がり、ジョルジュの顔がそれと重なった。
すると、胸を締めつける痛みが来て、瞳の奥が熱くなるのを感じた。
ジョルジュの右手首を両手で握り、脈を測るが、何も感じられない。
( 、 トソン 「はぁ……」
深い息を吐くと、アスファルトの地面に滴が落ちた。
黒く染みを作ったそれは、彼女の顔から落ちて来たようで、
彼女は胸の奥から溢れだしてきた感情を抑えこもうとした。
だが、どうしても涙が止まらなかった。
後の処理は消毒班に任せて、自分は帰還するべき。
生き残った者としての判断を下した彼女は、踵を返して車へと向かっていき……。
「ぐ……」
鈍い声が漏れるのを背中で聞き取った。
(;、;トソン 「………!」
ジョルジュさん、生きていた!?
頭の中が喜びで一杯となり、勢いよく振り返った彼女は、
(=メA`)「目標……確認」
死んだものと思っていた友人の姿を見つけた。
彼は、砕けたバイザーから素顔を覗かせ、赤い瞳でトソンを冷たく射抜く。
インビジビルエネミーを振りあげたドクオを見て、
トソンはへたり込み、
(;、;トソン 「どうして……」
大粒の涙をこぼしてそう呟いた。
聞き取るのも難しい、弱々しくか細い声であった。
ドクオは、構わずにトソンを斬った。
肉を断つ生々しい音が一つ響く。
何のことも無しに斬り捨てられた彼女は、地面を力無く転がってゆく。
その姿を収めたドクオは……。
いや、"403"は体内通信を開いていく。
(=メA`) 『こちら403、目標の殲滅を確認。任務完了』
機械的な、感情の籠らぬ声で403は淡々と告げていく。
( ・∀・) 『了解。これで、第三課は解体されることとなるだろう……。
それでは、帰還したまえ。以後は、ハルトシュラーの指示に従うように』
(=メA`) 『了解』
そう言って403は体内通信を切り、どこかへと消えていった――――。
******
それから数ヵ月後、カナソクへの宣戦布告無しの攻撃行為を
各国に批難されたニューソクは、
テロ国家の実態を暴露してカナソクへと攻め入った。
しかし、でっち上げだと主張するカナソクに、
後にニーソク、パーソク、オオカミ、シベリア、テンゴクの五国が味方し、
"五大国連合"を結成して参戦することになる。
ニューソクとカナソクの争いは、世界を巻き込む大きな戦争へと発展していった。
ニューソク国解体戦争と呼ばれるこの戦争の開戦の裏には、
彼ら"見えない敵"の存在があったということは、ごく一部の者にしか知られてはいない。
国家総合案内所の手先となり、403は“見えない敵”となって戦い続けていく。
彼をよく知り、歪な形でも彼を愛した工作員がいることを忘れて……。
403の向かう先には、誰も知ることのない、幸福に包まれた明日があるはずであった。
了
≪前へ 目次 登場人物一覧≫
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- 2011/10/04(火) 23:14:45|
- 自作品まとめ
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