2 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 20:58:50.05 ID:zfe5y2on0
同じ国の兵士達が、同じ目的を共有して戦う。
その目的とは、
“国の為に”という、単純なもの。
力を合わせて国の為に戦い、負けてしまった。
国の為に戦ったというのに彼等の国は失われてしまった。
終戦後、彼等はバラバラの道を歩むことになり、
……今は、それぞれの目的の為に戦っている。
同じ国の兵士であるというのにも、関わらずに。
同じ国の兵士は、戦う。戦っている。
戦い合っている。牙を剥き爪を立て、
喉元を食い破らんといがみ合っている。
ニューソクの兵士達は、亡国の兵士達は亡国の鬼を殺さんとしている。
……彼等は、もう敵だから。
それぞれに譲れない物があるのだと思う。
私もそうだから、彼等の気持ちが、少し理解できる。
仲間同士の、味方同士の共食いをしているのは、彼らだけでは無いのだから。
5 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 20:59:42.17 ID:zfe5y2on0
('A`) ドクオは亡国の兵士のようです
第10話 共食い
6 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:00:31.64 ID:zfe5y2on0
******
デウス・エクス・マキーナ師団が搭乗する戦艦が停泊する、
海岸へと集まって行く者達がある。
それは、オオカミ軍の物である戦車と、装甲車の一隊だ。
ニーソク軍北方基地を制圧せんとするデウス・エクス・マキーナは、
都市部へと目掛けて進軍していくが、
その一隊は、北方基地へと目指そうとはしない。
オオカミ軍の所属である部隊だが、彼等は、
デウス・エクス・マキーナの味方などでは無い。
彼等は、戦艦へと向かっている。
戦車の砲や、装甲車の機銃が戦艦や周囲を警戒する兵士達を覗く。
弾丸が、砲弾が発射されて艦の装甲や塹壕を抉っていく。
8 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:01:36.30 ID:zfe5y2on0
攻撃された兵士達は、塹壕から銃や砲を向けて、応戦。
しかし、続々と現れて包囲網を作って行く部隊に、
デウス・エクス・マキーナの兵士達は押されてしまう。
後方に控えた装甲車の、外部スピーカーから声が響いた。
声は、この部隊の指揮官の物であり、
デウス・エクス・マキーナの師団長、ロマネスクへと告げられる。
(´・ω・`) 「杉浦中将。抵抗は無意味です。
貴方達は敵を作り過ぎました。投降を」
対し、戦艦からもスピーカー越しの声が発され、
( ФωФ) 「ほう。やってきたか、≪大神≫よ。
五大国連合になびくハルトシュラーの狗共よ」
(´・ω・`) 「ええ。やってきましたとも。暴走する走狗を静める為に。
暴虐に走る貴方達を止める為に。
これ以上の戦闘行為は、五大国連合内でのオオカミの地位を危うくします。
死者をこれ以上出せば、戦闘が長引けば、それだけ私達の尻拭いが大変になります」
10 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:02:27.41 ID:zfe5y2on0
(´・ω・`) 「どうか、投降を。戦闘の停止を」
懇願するように、指揮官は言った。
しかし、それでもロマネスクは、否、と返し、
( ФωФ) 「貴様等に我輩達を従わせるだけの力があるというのかね?
貴様等に、ハルトシュラーに、五大国連合に、
我輩達を凌駕するほどの大義があるのかね?」
挑発とも取れる疑問を返した。
(´・ω・`) 「ありますとも。あなた方を納得させる理念はありませんがね。
狂人共をのさばらせる、道理など、ありませんがね」
( ФωФ) 「ふははははっ! ならば、ならば我輩達が降伏する道理などは無いなあ!!
腐敗を受け入れ、堕落していくことを選ぶ貴様等に、
切磋琢磨していき進化していくことを選ぶ我々が! 我輩が! 投降など出来んなあ!!」
口の端を歪め、ロマネスクは狂ったように笑う。
笑い声が、スピーカーから響いていく。
12 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:04:02.63 ID:zfe5y2on0
( ФωФ) 「心しておくがよい。上昇を望まぬ飛翔など、ただ落ちていくのみだ」
(´・ω・`) 「貴方達は飛び過ぎます。皆で飛ぼうとすれば、
ニューソクという大翼すら越えられるというのに。
五大国連合は、ニューソクとは別の方法で上昇を望んでいきます」
( ФωФ) 「貴様等のその考えこそが、人類を落としていくのだ。
我々は飛翔していき、技術は飛躍していき、強大な者が台頭する。
ただただ飛んでいくことを望む者こそが、人類を躍進させていくのだ」
( ФωФ) 「真に国を想うのであれば、オオカミを想うのであれば、
犯した過ちに気付けるはずだろう。
諸君。我がオオカミを穢していく堕落者共を迎え撃ってやれ」
ロマネスクの言葉と共に、ハッチが開き、
装甲服に身を包んだデウス・エクス・マキーナの兵士達が出撃した。
(´・ω・`) 「各位、過って行く戦争狂共を迎え撃って行け」
応じて、同じく装甲服を纏った大神の兵士達が、
彼等を迎えて撃つ。
銃と銃を向けあい、殺気と殺気をぶつけ合い、
同じ国の兵士達は思想の相違の為に戦っていく。
共食いが、始まっていく。
15 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:04:52.15 ID:zfe5y2on0
*******
(;'A`) 「はぁ……はぁ……はぁ……」
荒い息をドクオは吐く。
大量に突き刺さったナイフを全て引き抜き、
痛みに、肉を穿たれた痛みに、
全身に存在する倦怠感と鈍い痛みに苛まれる。
しかし、前へと進む。
一歩を力強く踏むと足が痛む。
張りつめる筋肉が軋みを上げて、痛む。
それでも、
……前へ。
川 - ) 「この戦争を終わらせて来い。ニューソク国解体戦争を、真の意味で終わらせて来い。
正誤の判断に囚われ今亡き物を見る馬鹿共のその横っ面を、ぶん殴って来い」
上官の、クールの命令を頭の内で復唱し、
16 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:05:55.13 ID:zfe5y2on0
歯を噛み締めて力を溜め、
(#゚A`) 「………ッ!」
お、と声を振り絞る。
身体の奥から声が駆けていき、咆哮が発される。
(#゚A`) 「おぉ――――ッ!」
……前へ!
その思いを両の足は叶え、軋む身体はそれでも力を振るう。
地面を前へと蹴ると、視界に広がる光景が後ろへと流れていき、
疾走の動きが成されていく。
……進め。前へと、前へと進め。―――ただ、ひたすらに。
走る。
戦艦へと向かっていく。
兵士達が立ちはだかり、銃を向ける。
18 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:07:28.25 ID:zfe5y2on0
弾丸が放たれるよりも早く、一歩を踏み込もうとするが動作は鈍い。
それでも、ドクオは迷わずに前進していく。
自分の望みに付いていけなくなった体を、無理やりに動かす。
【強化骨格】
――――――人工筋肉稼働率、80%での稼働開始―――――――
そして、進んでいく。
僅かに軽くなった体を跳ねるように動かし、
……GO AHEDだ!!
前傾姿勢で駆け抜けていき、左手を前にかざす。
照準を定めるかのようにかざした手の先、敵がいる。
跳躍し、一気に彼我の距離を詰めて、右の肘を引く。
21 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:08:48.25 ID:zfe5y2on0
籠手を装備した右手を、引かれた右腕を、敵の胴へと突き出す。
戦闘服ごと拳が肉を食い破り、血飛沫が上がる。
続いて、隣にいる兵士へと、左手を返して手刀を叩きこむ。
首に極まった手刀は、兵士を切断した。
首を無くした兵士は膝を突いて倒れていった。
まだ、敵は大勢いるが構う必要はない。
障害となる者以外は、放っておいて構わない。
……前へ! ロマネスクの許へ!!
強い想いを抱きながら、ドクオは進んでいく。
敵の司令官を排除し、この戦いを早期に終結させる為に。
23 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:09:30.48 ID:zfe5y2on0
******
装甲服を纏った兵士達が、戦艦のハッチの前で戦闘を開始する。
包囲されたデウス・エクス・マキーナの兵士達は、
必死に、砲撃される前に戦車を排除しようとするが、
その数に翻弄されていく。
戦車の数は少しずつ減っていくが、
同時に、デウス・エクス・マキーナの兵士達は、
激減していってしまう。
戦車砲の爆風に吹き飛ばされ、機銃に一掃されていく。
兵士達が数を減らしたのをいい事に、大神部隊は押し入って行こうとする。
が、しかし、流れを変えていく者が現れた。
戦艦の脇のハッチから、ゆっくりとその者は出てくる。
( ∵) 「………」
濃緑色の軍用コートに身を覆い隠した、
強化骨格の男はビコーズだ。
26 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:10:47.73 ID:zfe5y2on0
彼は両手にスティレットを携え、歩く。
静かな視線を戦場全体に送り、
海岸の砂へと足を着けると、地を蹴って跳躍をした。
戦車へと飛びかかり、戦車の上に足を着けた彼は、足元に銃を突き付け、
( ∵) 「………」
撃ち抜く。
砲声にも似た銃声が響き、金属音が発った。
火花が装甲と共に飛沫き、内部の操縦兵が倒れる。
手応えを感じたビコーズは、二丁のスティレットで装甲を穿って行く。
砲手、機銃手、車長と、次々に撃ち抜き、
別の戦車へと飛び移って弾丸を放つ。
そうして、大神部隊の戦車はどんどんとその数を減らしていった。
28 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:12:24.72 ID:zfe5y2on0
(´・ω・`) 「ちっ。ディ、敵強化骨格を何とかしてくれ。
このままでは突撃を行えない」
装甲車の裏に隠れた、大神部隊の指揮官、
ショボンはそう命令を下し、
(#゚;;-゚) 「了解」
顔中に傷を負った女性、ディが短く答えた。
装甲服を纏った彼女は、頭に着けたヘッドセットに声を吹き込み、
(#゚;;-゚) 「チームブラボー。敵の強化骨格を排除するよ。
私が前に出るから援護を」
言って、彼女は装甲車の蔭から出ていこうとすると、
ビコーズは取りついていた戦車を足場にして、跳躍を行った。
(#゚;;-゚) 「逃げた?」
疑問符を浮かべたディは、違う、と即座に打ち消す。
30 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:13:09.92 ID:zfe5y2on0
海岸へと、近付いて来る者があったのだ。
ビコーズはその者に気付き、優先順位を点け、
戦車よりもその者の方が危険であると判断したのだ。
ディは、ビコーズの行く方向を見て、渾名を呼ぶ。
(#゚;;-゚) 「―――亡国の鬼、か」
険しい表情をした、濃緑色の軍用コートを身に纏う、
強化骨格の男、鬱田ドクオが侵入してきた。
オオカミの兵士とオオカミの兵士が争う、共食いの場へと。
( ∵) 「………」
ビコーズは、左手に構えたスティレットを向けて発砲する。
が、ナイフにスティレットの銃身が弾かれ、
天へと向けて弾丸が飛んでいく。
ドクオは、右手にナイフを、左手にスティレットを構えて、敵へと向かう。
強化骨格と強化骨格。
ニューソクとニューソク。
いや、亡国の兵士と亡国の兵士の共食いが始まる。
32 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:14:15.97 ID:zfe5y2on0
******
艦橋で、機械の操作をする兵士達を見るロマネスク。
腕を組み、じっと視線を寄せる彼の表情は、柔らかい。
(-@∀@) 「ロマネスク中将。亡国の鬼が現れました。
現在、ビコーズが応戦中です。
戦力を集中させ、ドクオの排除に回しましょうか?」
眼鏡を掛けた軍服の男、アサピーがロマネスクに尋ねる。
( ФωФ) 「いや、現状維持だ。大神部隊に対する戦力を裂くわけにはいかぬ。
それに、ビコーズもあれはあれで、ツーやミルナに劣らぬ好戦派であるからな」
(-@∀@) 「ビコーズがですか」
( ФωФ) 「うむ。邪魔をしてやる訳にもいかぬだろう。
それに、充分に勝てる戦であるからな」
(-@∀@) 「……ミルナのナノマシンの反応が消えました。
あの男に敗れた物と思われますが、それでも、不安は無いのですか?」
( ФωФ) 「アサピーよ。我輩が不安に思う要素は何処にあると思うのだ?」
35 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:17:40.85 ID:zfe5y2on0
(-@∀@) 「………」
問われ、アサピーは言葉に詰まる。
次の言葉が来る事を、理解していたからだ。
ロマネスクは、次いで言葉を放ち、
( ФωФ) 「我輩の想定の内を、この戦は一度でも出ていったことがあったかね?
全ては順風満帆。順調に事は進んでいるではないか」
(-@∀@) 「ええ、その通りですね。その通りでしたね。中将」
( ФωФ) 「そう、全ては想定通り。我輩の置いた碁盤の上に彼等は碁石を置いている。
我輩は勝利の為に事を進めていくのみである。
このまま、このまま状況は進んでいき、終わる」
( ФωФ) 「昼の世界に終止符が打たれる。
そして夜が訪れ、戦に満ちた夜の世界が訪れ、
人類は夜空へと向けて飛翔していくのだ」
( ФωФ) 「その為、この一戦に、終止符を我々が打ってみせようじゃあないかね」
37 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:19:04.87 ID:zfe5y2on0
(-@∀@) 「はっ……」
ロマネスクの言葉に、アサピーは敬礼をして応える。
( ФωФ) 「話が逸れたが、亡国の鬼に最終的な勝利はあり得ぬよ。
その身に訪れる終わりが彼には近付いている。
ビコーズにもし勝てたとしても、我輩に勝つような事はあり得ぬ」
( ФωФ) 「最初に言った通り、全ては我輩の想定通りなのだ。
勝とうが負けようが最終的な勝利は我等にあるのであるから」
( ФωФ) 「皆、全力で奮戦せよ。心おきなく全力を果たすがよい。
どのような戦をしようとも諸君らは勝利する」
では、とアサピーが続き、
(-@∀@) 「私は小隊を率いて、艦内に侵入しようとする部隊を堰き止めてきましょう」
( ФωФ) 「ああ、そうするがよい。
皆、悔いの残らぬ、最善の一戦をしようではないか」
その声に、艦橋にいた兵士達の視線は全てロマネスクに向けられ、
機械の操作を行っていた兵士達は席を離れ、
皆一斉に立ち上がり、
39 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:20:09.95 ID:zfe5y2on0
「Sir Yes Sir!!」
応答の言葉が艦橋の中に木霊していった。
すると、彼等は皆武器を携え、艦橋から出てゆく。
ポツンと、一人その場に残ったロマネスクは、
機械の前に置かれた一席に腰を落ち着けた。
ふう、と一息を吐き、
( ФωФ) 「亡国の鬼よ。君は、その身で何時まで戦い続けるつもりであったのかね?」
誰も聞かぬ問いが彼一人の空間に響いて、
応える者はおらず、虚しく消えていった。
42 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:20:57.90 ID:zfe5y2on0
******
濃緑色のコートを纏った、黒の強化骨格の二人は対峙し、
互いに相手の死角を突かんと回りこもうとする。
ドクオがスティレットとナイフを構えて接近していくが、
ビコーズは二丁のスティレットを彼へと向け、
巨大な弾丸を連射する。
前屈姿勢で地を這うようにドクオは肉薄し、
銃口が向けられた先を見ることで弾丸の軌道を予測し、避ける。
しかし、回避行動により踏み込みの速度は鈍くなってしまう。
双銃を携えて、ビコーズは円を描くように移動し、
ドクオの隙を着いて死角を取らんとする。
視界の端へと消えていったビコーズに向けて、一撃を放った。
左手に構えたスティレットで、彼の行動を予測して放たれた弾丸は、
足を強く踏みしめる停止の動きで避けられる。
牽制の為の一発。
43 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:21:55.78 ID:zfe5y2on0
ドクオは、動きを止めたビコーズへと接近。
一瞬という時間を以って距離を0へと縮めていく彼は、
順手に構えたナイフを振りかぶり、
疾走の動きに合わせて振るう。
空を裂く刃は、何も無い空間を掻いた。
('A`) 「………ッ!」
……避けられた。
上!という推測をドクオは本能で立てる。
頭を上げ、視線を空へと向ければ、ビコーズがそこにいた。
地面を踏みしめブレーキを掛けたビコーズは、
そのまま足裏へと力を込め、
地面を蹴り跳躍を行ったのだ。
上空へと上がって行く彼は、
長大なスティレットの銃口をドクオへ向け、引き金を引く。
45 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:23:07.00 ID:zfe5y2on0
('A`) 「ちっ……」
舌打ちよりも僅かに早く、地を転がって行くドクオ。
先程まで彼の居た空間を銃弾が通過していき、
地面を穿って砂を散らした。
応じてドクオは頭上へと向けて発砲。
放たれた弾丸は、ビコーズとドクオの間で火花となって散った。
遅れて、甲高い音が空に響く。
ドクオの放った弾丸が、ビコーズの放った弾丸と衝突したのだ。
跳躍の勢いはまだ止まらず、ビコーズは軍艦へと進んでいく。
その動きをドクオは追う。前屈姿勢で、折った身を伸ばして、
地を蹴って跳んでいく。
47 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:23:51.35 ID:zfe5y2on0
( ∵) 「………」
上昇する彼を見たビコーズは、迎え撃つ。
先程放ったスティレットとは別のスティレットで弾丸を放ち、
敵を捉えていた銃口は、ドクオ目掛けて弾を吐き出した。
跳躍を行った彼に回避の行動は行えるはずもなく、
右手に構えたナイフの刀身で弾丸を往そうと、
防御の姿勢を取った。
刃の下で火花が散り、銃撃を防ぐことに成功するが、
(;゚A`) 「く………ッ!」
右手に強烈な衝撃が走り、手首が後ろへと吹き飛ばされそうになる。
規格外の威力に、ドクオは苦い声を漏らした。
ガラスの割れるような音が感触よりも遅れて来て、
鉄の粉塵が宙に舞った。
ナイフの、ボウイナイフの長く先鋭的な刃が砕けたのだ。
49 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:24:38.80 ID:zfe5y2on0
構えていたそれは、ドクオの手の元を離れていく。
右手が後ろへと仰け反るが、力づくに押し戻して、
その動きと共にハンドガンをホルスターから抜く。
抜くと同時に、引き金を引く。
発砲。
合わせて、左のスティレットも放つ。
銃弾が乱射されていき、ビコーズへと殺到する。
すると、ビコーズは身を縦に一回転させた。
連続して迫る弾丸は、虚空を貫き、
ビコーズは軍艦の柵を飛び越して甲板へと着地した。
銃を放つドクオは、続いて柵を飛び越していくが、
ビコーズは身を低くして、頭上へと腕を伸ばしていた。
銃口が突き付けられ、引き金が引かれる。
51 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:25:42.68 ID:zfe5y2on0
!と反射的に身を逸らしたドクオは直撃を避ける。
が、左に構える銃、スティレットが弾丸に当たってしまう。
激突した弾は銃身を砕き、衝撃でスティレットを弾き飛ばした。
構わず着地をして、甲板に置かれたコンテナへと隠れる。
一気に駆け抜けていく彼は、その陰に隠れると、
掴む物の無くなった左手にハンドガンを持たせた。
そして、
(;'A`) 「はぁ……はぁ……はぁ……」
荒い息を吐いて、コンテナに背を預けた。
ミルナとの戦闘で受けた傷は、重傷には至ってはいないが痛みは伴う。
だが、彼の身体は更に酷い苦しみに蝕ばまれていた。
……仕方のないことだ。
頭の中に、彼は納得の言葉を浮かべる。
……こうなることは分かっていたじゃねーか。
内心に呟き、自らを奮い立たせる。
ハンドガンのリロードを行い、コンテナから背を放すと、行く。
56 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:28:29.87 ID:zfe5y2on0
行く。
跳躍をしてコンテナの上に乗り、双銃を構えてビコーズへと向ける。
が、既に二丁のスティレットを構えていた彼は、
ドクオが飛び出してきた途端に発砲し、構えていた双銃を破壊した。
それでも、構わない。
構わず、彼は駆け抜けていく。
手に残る痺れを気にも留めずに、進む。
一心不乱にビコーズを目掛けて突き進み、
右手でバックパックから小さな斧を取り出す。
小さな丸い膨らみを押すと、それは展開していった。
長く伸びていく身の先は鋭く、湾曲した巨大な刃に、
反対側には突起物が取り付けられている。
58 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:29:30.82 ID:zfe5y2on0
バトルアックスを、ドクオは両腕で背負う様に構え、接近していく。
だが、銃を構えるビコーズには、
無防備なただの的にしか過ぎない。
照準を定め、引き金を引く。
銃弾は直撃こそしないが、ドクオの身体を確実に抉っていく。
しかし、彼の疾走は止まらず、減速するどころか益々速度を増していった。
( ∵) 「………」
驚異的なまでの闘争本能。
敵を倒す為に死に物狂いで向かってくるドクオに、
凄まじさをビコーズは感じるが、無表情のまま、
冷静に銃弾を放って行く。
ドクオは更に身を抉られるが、
ビコーズの懐へと飛ぶ込む、一歩を踏み込んだ。
が、やっとそこまで近づいたというのに、
ビコーズは後方へと跳び、ドクオから距離を取る。
59 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:30:22.83 ID:zfe5y2on0
負傷を追ってまで閉じた間合いは、呆気なく開かれていく。
('A`) 「おぉっ……!」
だが、その踏み込んだ一歩は、甲板の床を蹴って跳躍をした。
追撃を行う為の、跳躍。
進む。
その速度は、先程までの物とは違う。
【強化骨格】
―――――人工筋肉稼働率、100%での稼働開始―――――
全力。
全力の速度だ。
強化骨格が、人工筋肉が出し得る、最高の速度。
61 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:31:22.98 ID:zfe5y2on0
( ∵) 「………ッ!」
急激な速度の変化に、ビコーズは対応出来ず、
接近と共に振り下ろされる刃に、
構えていた右のスティレットごと腕を切られた。
肉と防護繊維を断ち切る生々しい音が、響く。
骨ごと断ち切り、腕は落下をしていき、黒い血液が舞う。
強化骨格の全力のパワーアシストを受けた、
バトルアックスによる衝撃に、ビコーズは仰け反ってしまう。
が、
カウンターの一撃を、蹴撃をドクオの腹に打ち込んだ。
(;゚A`) 「がぁ……ッ!」
嗚咽を唾液と共に吐き出し、甲板に背から激突するドクオ。
肺へと衝撃が突きぬけていき、痛みが身を硬直させる。
63 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:32:34.45 ID:zfe5y2on0
それは、ビコーズも同じことであった。
すぐ傍に着地した彼は、切断された右腕の激痛によって、
片膝を突き、身を硬直させている。
だが、それでもドクオより早く立ち直ってみせ、
立ち上がり、残った左腕のスティレットを彼へと向け、引き金を引く。
一瞬が過ぎ去る。
引き金が引かれることは、無かった。
彼の左手は、スティレットごと竹のように裂けてしまっていたのだ。
ブーメランの如く飛来したバトルアックスが、
背後にあったコンテナへと突き刺さる。
( ∵) 「………」
無表情のままビコーズは後退の動きを見せる。
背後へと大きく跳躍をして、宙へと舞い上がって行き、
64 名前: ◆K8iifs2jk6 []:2009/07/27(月) 21:33:18.92 ID:zfe5y2on0
('A`) 「あばよ」
片腕でスティレットを構えたドクオは、ビコーズの頭を撃ち抜いた。
頭蓋が破裂し、黒の血液を脳と共に撒き散らす。
ドクオに構えられていたスティレットは、
銃口から白煙をくゆらせている。
火薬の燃焼によって熱を持った長い銃身には、文字が刻まれていた。
エクスト・プラズマン
Ecst・Plazman
雑な字で、しかしはっきりと、その銃には彼の戦友の名が刻まれていた。
ほとんどの武器が失われてしまった。
身体には数多くの傷があり、軋みを上げている。
それでも、ドクオは己の任務を果たす為に、進んでいく。
敵の司令である、ロマネスクへと向かって。
時を同じくして、彼を敵とするオオカミの兵士達、
大神部隊が、艦内へと侵入していった。
決戦へと向けて、戦争は飛躍していく。
この場に居る兵士達の数を、大きく減らして行きながら。
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- 2011/10/06(木) 14:20:09|
- 自作品まとめ
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