敵は誰だ? 敵はどこだ? 敵はいるのか?
敵はすぐ傍、すぐそこ、すぐ目の前にいる。
鏡を見てみろ。
映ったそいつを打ち倒せ。
打ち勝て、打ち克て。
敵は己の中にこそ存在する。
('A`) ドクオと見えない敵のようです
Phase.5 見敵必殺
******
从 ゚∀从 「特殊部隊の諸君、作戦説明と行こう」
輸送機の中、配られたA4の用紙を手に、
IEUの隊員達はイスに座って白衣を着た白髪の女性、
ハインリッヒと向き合う。
このハインリッヒは、強化兵士計画に携わる博士でありながら、
強化兵士部隊の部隊長を務める希有な能力を持つ人物であった。
彼女は、どこか攻撃的な赤い瞳をIEUの隊員達へと向けて、口を開く。
从 ゚∀从 「フォックスを衛星カメラにて追跡中だ。
奴の乗り込んだヘリの進路から予測するに、高確率でS07基地へと向かうはずだ」
从 ゚∀从 「本機は現在、光学迷彩を使用してのステルス航行を行っている。
敵からは見えはしないし、追跡されてることに気づいていないだろうよ」
从 ゚∀从 「S07基地へ到着後、アタシら強化兵士部隊、強化骨格チームは正面から強襲。
基地を襲い、格納庫を襲い、全ての足を奪って敵を逃れられなくする。
その後、基地内の敵を一人残らず排除し尽くしていく」
从 ゚∀从 「それがアタシらの任務で、アタシらがアンタらにしてやれる手助けだ。
強化骨格チームはアンタら特殊部隊の陽動を行うよ」
もっとも、と付け加え、
从 -∀从-3 「出来ることなら、部隊名ぐらい教えて貰いたいもんなんだがねー」
彼女は溜息を吐いた。
_
( ゚∀゚) 「いくらハインリッヒ博士といえども、それは致しかねます。
我々の上官から、モララー少佐の口からその名が出なかったのであれば、
残念ですがお教えすることは出来ません」
冷静な口調でジョルジュが言うと、ハイリッヒは「冗談だよ」と返す。
从 ゚∀从 「でも、特殊部隊じゃ味気ねーんだよなー」
从 ゚∀从 「まぁ、構わないがな。で、お前らはその後どうすんだ?
アタシらは正面から突っ込んで陽動するが、お前らはどう動く?」
_
( ゚∀゚) 「我々は裏手へと回り込んで司令部を二手に分かれてフォックスを捜索します。
Aチームは東側、Bチームが西側です」
从 ゚∀从 「ほう、負傷者と行方不明者が出ているようだが、やれるのか?」
_
( ゚∀゚) 「えぇ、まだ撤退命令は下されておりませんので。
ただ敵の中に強化骨格手術を受けた者がいるようで、それと遭遇した場合は危険です」
_
( ゚∀゚) 「何か、強化骨格に有効な武器は、そちらにありませんでしょうか?」
从 ゚∀从 「むぅ、強化骨格が相手、か。こちらの部隊が排除すれば問題は無いのだが、
そちらがもし鉢合わせてしまった場合は危険だな。
こちらのそうびの一つをそちらの人数分渡す、それを使え」
_
( ゚∀゚) 「了解、感謝いたします」
从 ゚∀从 「あぁ、ただしな。こいつは強化骨格を移植した兵士が
使用することを前提に考えられている。
だからな、装甲服でも反動を殺しきれるかは分からない。慎重に扱えよ」
_
( ゚∀゚) 「それはどのような装備で?」
从 ゚∀从 「強化骨格の対戦車戦闘を想定した、複合装甲に風穴ぶち開けて
操縦兵を殺す為のバカでかいリボルバーさ。35mmの弾丸を使用する。
機関銃にも使われてるデカいやつだ」
从 ゚∀从 「いいか? こいつを使う時は、絶対に両手で銃を保持しろよ?
片手じゃ装甲服でも痛みを伴うはずだ」
_
( ゚∀゚) 「了解」
ジョルジュがハインリッヒにそう応じると、
彼女は傍にいた兵士に何か指示を与える。
そして、一分も経たない内にその兵士は戻ってきて、
6つの無骨なフォルムをした巨大なリボルバーを持っていた。
ハインリッヒは兵士にそれを渡すように命じ、
IEUの隊員達へと一つずつ配られていった。
('A`) 「………」
ドクオはそれを、“スティレット”を手に取ると、その重みを確かめていく。
重さ、グリップを握った時の感触、照星。
全てを確かめていくと、彼は、
バカげたものを作るもんだ、と頭の内で呟いた。
从 ゚∀从 「そんじゃ、アタシはこれから強化骨格チームへとこの作戦を伝えに行く」
ハインリッヒは彼らに背を向けて、
(从从从 「幸運を」
そう呟いた。
******
カナソクの南部、ニントンの街にはカナソク軍の基地がある。
S07基地と呼ばれるその軍基地の滑走路には、
ヘリコプターが着陸しており、
搭乗員達は中央にある司令部へと向かう。
すると、
「ぐぉ……ッ!?」
その内の一名が袈裟掛けに断たれていき、呻きを上げて倒れる。
夜闇の中に突如として現れたのは、
白の強化骨格スーツに身を包んだ男だ。
それは“白い閃光”と呼ばれる部隊の物であり、その男はギコだった。
振り返った他の搭乗員達は、彼の姿を見ることなくこの世を去った。
ほんの一瞬で間合いを詰めたギコは即座に彼らを斬り捨てたのだ。
死体の山が出来上がり、遅れてそれらは発火し、燃え尽きて行く。
(,,゚Д゚) 「―――状況開始」
ギコが言葉を発するが早いか、
夜空から突如として白い強化骨格達が降下してきた。
幽霊の如く唐突に現れた彼らは着地し、各々の剣を構える。
ホワイトグリント
機械剣No.10X“ライジングサン”を構えた彼ら“白い閃光”は、
迎撃に出てきた兵士達と対峙し、切りかかって行く。
素早い動きで襲いかかってきた彼らに、照準を合わせることは出来ず、
兵士達はあっという間に斬り伏せられてしまった。
遅れて、光学迷彩を切ったニューソク製の輸送機が2機滑走路に滑り込み、
ハッチが開かれると内部からは黒の強化骨格達が飛び出していく。
彼らは各々、M4A1にグレネードランチャーやドットサイトを装着した物を装備しており、
腰のハードポイントには巨大なリボルバーが収められたホルスターが装着されていた。
兵舎、司令部、格納庫。
様々な場所からカナソクの兵士達が出動し、戦車が発車されていく。
カナソク、ニューソク双方が戦闘準備を整えて行き、
(,,゚Д゚) 「フン――――ッ!!」
“白い閃光”達が戦車を斬り裂き、
敵兵士の前列を突き崩して行くことで、
ニューソク側の優勢から戦闘が開始された。
从 ゚∀从 『敵を正面から蹴散らしていけ! 堂々と奴らを蹂躙してみせろ!!
アタシらの役目はこいつらの目を引き付けることなんだからなぁッ!!』
体内通信でハインリッヒから、その場の強化骨格の兵士達へ鼓舞が届く。
言われずとも、彼らは配置に着きつつある敵兵士を蹴散らしていた。
ホワイトグリント
強化骨格チーム100名、“白い閃光”10名。
インビジブルエネミーユニット
そしてニューソク国防情報局第三課所属“IEU”6名。
ニューソク側、総戦力116名。
彼らは、カナソク軍の一基地とテロリスト達を相手に、
圧倒的な力の差を見せつけていた。
強化兵士部隊、強化骨格チームが正面から襲撃し、
敵をそちらへと集中させている間、
ドクオ達IEUは裏手から司令部へと侵入していった。
東に兵舎、西に格納庫、そして中央に司令部を置いたS07基地を、
ペニサス、フサギコ、ブーンをAチームとし、
ジョルジュ、ドクオ、トソンをBチームとしたIEUは、
Aチームは格納庫側を、Bチームは兵舎側を捜索する。
Bチームのジョルジュ達は現在、強化骨格チームを迎撃する為に、
慌てて出撃していく兵士達が生んだ喧騒に包まれた通路を進む。
ドクオが前へ、ジョルジュが左後方、
トソンを右後方にした三角形の隊形を組んで彼らは慎重に周辺を捜索。
するとT字路に差しかかり、曲がり角から慌てた敵が飛び出してくる。
こちらを見ると敵兵士は更に驚き、
('A`) 「……」
しかし慌てず、ドクオは目を見開いた兵士へと銃を構えた両腕を振り上げ、
アサルトライフルのストックを顎へと叩き込んだ。
鈍い、骨の砕ける音が通路に響く。
綺麗に入った打撃は敵を宙へと打ち上げて行き、
体勢を立て直すことが出来ずに背中から床へと激突していった。
仰向けに倒れた兵士が立ち上がろうとするよりも早く、
ドクオは敵へと銃を突きつけて引き金を一度引くと、
頭が一発で撃ち抜ぬかれ、血と脳漿の混じりあった液体が床を濡らしていった。
壁に背を預けたトソンが曲がり角を窺う。
(゚、゚トソン 「異常なし」
呟き、ジョルジュが指示を送る。
_
( ゚∀゚) 「中へと進んでいくぞ。室内をしらみ潰しに探していく」
「了解」と応え、ドクオは前へ、トソンは後ろへと行き、
ジョルジュを真ん中に置いた隊列に切り替え、
曲がり角を進んで突きあたりにある部屋へ向かう。
三人はドアの前でバラバラになり、ドクオはドアノブのあるほうへ、
ジョルジュとトソンはその反対に身体を預けて銃を構える。
トソンが周囲を警戒し、残る二人が室内へと突入しようとする形だ。
_
( ゚∀゚) 「………」
ジョルジュがドクオに握った手を見せて、指を一本立てる。
それは数字を表しており、1、2と数えて、
ドクオはノブを回してドアを押し開ける。
開いたドアから室内が見え、二人は身を乗り出して銃口を覗かせる。
すると、銃を持った兵士が二人視界に入りこみ、
彼らはドアの開いたこちら側へと振り向いていた。
しかし遅い。
ドクオとジョルジュは二名をそれぞれ一発で仕留めて、室内に突入。
左右に銃身を振って敵を確かめていくが、他には誰もおらず、
ただイスとテーブルが置かれているのが目に映るばかりであった。
どうやら、ここは休憩所のようだ。
射殺した二名の内一人が、弾薬を手に持ったまま死亡しているのを見るに、
弾薬が切れてここに逃げ込んだのだろうと推測出来る。
周辺に気配は無く、警報と怒号、そして銃声がこちらまで響いてくるのみだ。
_
( ゚∀゚) 「移動するぞ」
三人は元の隊列を組み直し、休憩所を出る。
中へと、司令部中央へと向かっていくと、大きな区画を見つけた。
再びドアの傍で3カウントをしてから開ける。
すると、多くの負傷した兵士がそこに預けられていた。
重傷を負い、動けなくなった者達だ。
彼らの面倒を見る衛生兵と、警護についていた兵士達が振り返り、
それぞれハンドガンとアサルトライフルを突きつけてくる。
だが、虚を突かれたその隙は大きい。
彼らが照準する頃には既に、ドクオ達は引き金を引き絞っていた。
フルオートで放たれる弾丸が兵士たちを撃ち抜いていき、
負傷者も容赦なく射殺していった。
血塗れになった体が更に穿たれ、痙攣を起こしながら彼らは絶命する。
動ける者が居なくなったのを確認したジョルジュ達は
室内に突入し、銃身を左右に振っていく。
すると、ジョルジュのヘルメットに火花が散った。
ドクオは銃声に即座に反応し、
横たわり、死にかけの身である負傷者が拳銃を構えているのを目に映した。
震える体でもう一発放とうとするそいつの眉間を撃ち抜く。
頭蓋の砕ける音が響き、負傷兵は手にしていた拳銃を零れ落とす。
死亡確認するまでもなく、眉間に出来た風穴が死んだことを物語っていた。
周囲を見渡せば、いくつもの大きなテーブルとイスが置かれており、
奥には厨房が見え、ここが食堂だということが分かる。
部屋の広さから、一時的に負傷者をここに運んだのだろう。
('A`) 「401、怪我は?」
_
( ゚∀゚) 「無事だ。9mmなんかじゃこいつは撃ち抜けねーよ」
_
( ゚∀゚) 「よし、移動するぞ」
ジョルジュが言葉を発し、それに従って部屋を出て行く。
ドクオが前衛となり、出口に差し掛かると、
('A`) 「……!」
彼の目前を銃弾が通過していった。
左からやってきた弾丸から敵の位置を割り出し、
ドクオは銃だけをそこへ覗かせて引き金を絞る。
弾丸が連射され、薬莢が5つ吐き出された頃、
兵士の痛みに苦しむ声が通路に響いた。
続いて身を乗り出し、銃を構えると、
こちらに照準する兵士と撃たれた者を引きずって行く兵士が目に映る。
引き金を一度引くと、弾丸が銃を構えた兵士の頭を穿ち、敵の弾丸は天井を穿った。
続いて、離れて行く兵士と負傷者をドットサイトで覗きこんで照準。
よく狙い、曲がり角を曲がるか否かという寸前で、
ドクオはセミオートで一発ずつ弾を放って二名を射殺した。
('A`) 「クリア」
呟き、リロードを行ってドクオは部屋を出ていく。
すると、
ミ,,゚Д゚彡 『Aチームリーダー、二階通路にて目標を発見!
司令室へと向かっている模様!! 至急―――』
フサギコの声が体内通信によってドクオ達に届き、
そして途中で回線が切れた。
ドクオとトソンは、ジョルジュへと振り返り、
_
( ゚∀゚) 「司令室へと通じる通路へ向かう。各位、二階へ上がるぞ」
指示を受けた彼らは「了解」と短く応じて階段へと進んで行った。
******
滑走路から砲声が轟く。
それを放った戦車の砲口は、黒の強化骨格の一団へと向けられている。
黒の強化骨格スーツを纏った兵士へと、砲弾が放たれたのだ。
距離は20m程で、それほど離れてはおらず着弾に時間はかからない。
だから砲弾は、蜘蛛の子を散らすようにその場を離れた黒の集団には当たらず、
彼らが足元としていた地面に爆発を生んだ。
衝撃が地に走り、空へは熱風と破片が散っていった。
黒の兵士達はその光景を背にして戦車へと接近。
人工筋肉によるパワーアシストを得た彼らは、
あっという間に距離を詰めていき、
戦車の機銃手は慌てて引き金を絞って弾丸をばら撒いていく。
しかし、黒の強化骨格達にはその動きが見えているようで、
銃口に身を晒さないようにしつつ移動し、
「敵、機銃手排除」
35mmの大口径を誇る弾丸を放つ超巨大なリボルバー、
スティレットを機銃手に照準して引き金を引いた。
近距離から放たれた35mm弾は、機銃を構えた兵士のヘルメットごと頭を粉砕した。
金属片と肉片が宙を舞い、兵士の体は首を失った。
黒の強化骨格達は、戦車へと取りついていく。
そして、各々のスティレットを取り出して戦車へと突きつける。
引き金を引くと、戦車の複合装甲の上からでも発射された弾丸は車内の兵士を撃ち抜いた。
ほぼ同時に放たれた強化骨格達の弾丸は、一瞬で車内の人間達を殲滅する。
「敵戦車、排除」
分隊長である兵士が呟く。
次いで、兵士が見た物は味方が戦車を同じく無力化している所であった。
「他愛の無いことだ」
他愛のないことなのだ、これは。
彼ら強化骨格の兵士で編成された部隊に、
カナソクなどという国の兵士達が敵うはずもないのだ。
ニューソク軍の武器や装備は他の先進国よりも10年は先をいく技術で作られている。
最先端の技術で作られた装備、その一つが強化骨格だ。
強化兵士計画というプランで作られた、ハイテクノロジーの結晶。
その“強化骨格”を集められて作られたのが強化骨格チーム。
そして強化兵士計画で作られた武器を実験的に運用する部隊を強化兵士部隊という。
カナソクのような発展途上の国の軍が、ニューソクのような最新の技術を持っている国の軍に、
その精鋭と最新鋭の装備が集まる部隊に、“サイボーグ”達が集う部隊に敵うわけがない。
これはもはや、一方的な殺戮にしかすぎず戦争と呼ぶにはおこがましいことなのだ。
この場で現在行われているのは、虐殺にしかすぎない。
他愛のない、手応えのない敵。
分隊長はそう思っていた。
視線を移して兵舎の方を見る。
そこには、休息を取っていたカナソクの兵士達が武器を取って出撃してきており、
戦車に取りついた強化骨格の部隊はライトマシンガンとアサルトライフルの火線に晒されていた。
しかし、彼らは慌てることなく散開していき、距離を取っていく。
アサルトライフル、M4A1を構えた彼らは兵士の群を照準する。
だが、その群れを掻き分けて兵士が現われ、巨大な筒を黒の一部隊へと向ける。
その筒は、筒の先に生えたキノコ状の弾頭を見るに、
ロケットランチャー“RPG-7”であると推測出来た。
危険と判断した強化骨格達は散開と判断を下して散り散りとなっていくが、
それよりも微かに速く、弾頭が白煙を棚引かせて空を切って行く。
すると、突如として地と空に二つの爆発が起こり、黒煙が周辺を覆っていった。
強化骨格の兵士に命中するにしても、外れて地面に激突するにしても、
まだ着弾には時間がかかるはず。
目に疑問の色を浮かべたカナソクの兵士達は、
黒煙の中から眩い白が飛び出してきたのを視界に収めた。
銃を構えていた兵士達はそれに気付いた頃には既に遅く、
彼らは切られたことを意識する間もなくこの世を去っていった。
繊維質を断つ音が鳴り、肉の焼ける異臭が漂い、
カナソクの兵士達は横一線に真っ二つに切り裂かれ、
転がって行く死体は炎に包まれていく。
その正面に立つ者は、右手に機械剣No.10“ライジングサン”を構える男、ギコであった。
彼は銃火の飛び交い続ける戦場に立ち、堂々と敵へ切りかかって行く。
若くして“白い閃光”の一員となり、軍学校でVIPPERの称号を得たエリートの、
ずば抜けた戦闘技術、そして強化骨格を扱いこなす能力があるからこそ出来ることだ。
―――“白猫”。
その俊敏な動きと敵に襲いかかる姿はまさにそれだ。
しなやかな身のこなしに、白毛代わりの強化骨格スーツ。
そして鋭い爪にも牙にもなるライジングサン。
恐ろしい半面頼もしくもある、そんな青年の姿を一瞥し、
分隊長は格納庫内へ侵入しようとする。
が、
「――――ッ!?」
素早い何かが格納庫から飛び出してきて、
余りの速さに人工筋肉を以ってしても対応出来なかった強化骨格達は、
衝撃を受けて宙へと舞っていくことになってしまった。
******
銃を構えた敵を斬り捨て、背後へと振り返ると、
(,,゚Д゚) 「……何!?」
視界には宙へと浮き上がった黒の集団が映った。
俺は思わず目を見開いてしまい、
呆気に取られるも強化骨格の小隊を吹き飛ばした元凶を見る。
それは高速で移動する何かであった。
鋼鉄製の何かは今も目にも止まらぬ速さで疾走しており、
こちらへと接近してきている。
すると、次第にそのシルエットがハッキリしてくるが、
その瞬間には既に俺の目前へと飛び込んできていた。
(,,゚Д゚) 「……フンッ!!」
咄嗟の判断で俺は身を独楽のように回してその場を離れ、
回転と共にライジングサンを振るって刃をそれに叩きつける。
灼熱と化した刀身が装甲を溶断していき、熱の飛沫が散っていく。
両手で構えた柄から感触が伝わり、たしかに切ったことを認識出来た。
切り裂かれた後に疾走の勢いのまま地面を転げて行き、数メートルほど後方で停止した。
俺は真っ二つとなったそれを見る為に背後へと振り返る。
(,,゚Д゚) 「あれは……“AA”か!?」
“AA”
それは二足歩行戦車という、
ニューソクの作りだした兵器に似ている、そう漠然と思った。
脚部に扱われている生体式人工筋肉。更には小型アクチュエーター。
頭部に付けられた二つの高性能カメラアイ。
コックピットは無く、AIによる自律稼働。
AAに使われているパーツが、これにも使われている。
だが、それには足は二つでは無く、四つも付いていた。
そしてその足の先端には爪の如く鋭いヘッジローカッターが設けられている。
通常のAAよりも遥かに小さく、全長は4メートルあるか無いか。
二足歩行ではなく四足歩行の戦車。
(,,;゚Д゚) 「何故カナソクにこんなものがッ!?」
AAは、ニューソク以外の国が作れるような代物ではない。
高度なロボット技術と人工筋肉を製造出来なければ、まず作れず、
それにニューソクですらもあのような小型の物はまだ製造出来ないのだ。
『こちらD1! 正体不明の兵器と交戦中!!
接近出来ず、スティレットを使用出来ない!! 至急援護を頼む!!』
体内通信が入り、俺はDチームが居るはずである、格納庫方面へと振り返る。
司令部が目に入った後にシャッターを開いた格納庫が映り、
そこでは強化骨格の小隊が謎のAAの群に囲まれ、翻弄されていた。
一人の黒の強化骨格がAAに襲われ、
辛うじてかわしてすれ違いざまにスティレットを零距離から叩き込む。
35mmを横腹に叩き込まれたAAは衝撃で身をくの字に折り、
破片をばら撒いて宙へと浮かび上がっていった。
だが、次いで背後からもう一機のAAが飛びかかり――――
(,,゚Д゚) 「―――ッ!!」
その動きを捉えた時には、俺は既に疾走を開始していた。
強化骨格のパワーアシスト、人工筋肉の力、
そしてライジングサンに滞留するカコログ粒子の活性化の
恩恵を受けた俺の身体は超人的な身体能力を誇り、
足からは超高速が生み出されていく。
目に映る物全てが後ろへと一瞬で送られていき、
他の物の動きが全てスローモーションに見える。
瞬きの間に仲間の背へと襲いかかろうとするAAの至近距離へと入り込み、
俺は疾風と等しい速さから生まれる慣性力を乗せて剣を叩きつける。
堅い金属音とあらゆる物が燃え上がっていく音が響き、
AAは二つに切断されていった。
力を失ったAAは地面へと落下していき、遅れて気付いた兵士がこちらへ振り返る。
驚がくした表情のそいつは、こちらの顔をみると頷きを送り、
後方へと振り返って銃を左右に振るう。
俺はそいつに背を預け、Dチームは円を作るように固まっていく。
すると、AAの一機が飛び出し、装甲を展開して格納された機関銃の銃口を覗かせた。
AA達は囲みを崩していき、お互いを誤射しないように位置を取りながら照準。
こちらに飛び出してきたAAの前に出て行き、俺は発射された弾丸を往なしていく。
弾道を見切り、刃を傷つけぬように弾丸の外側を叩き、弾道をずらす。
それを瞬時に連続で行い、更にAAへと切りかかっていく。
上昇の動きと共に行われる攻撃は、右袈裟気味の切り上げだ。
切り裂かれ、切断面をさらしたAAを傍目に、俺は次のAAへと向かっていく。
視界の端にはDチームの黒の強化骨格が映り、
散開してAAと戦闘を繰り広げていた。
スティレットの砲声を思わせる銃声が次々に上がり、耳朶を打つ。
俺を向くAAがカメラアイに鋭い青の光を宿し、
前足の鋭い爪を振りあげて襲いかかってくる。
俊敏な動きで近づいてきたAAは俺に爪を突きだす。
迫りくる爪へと、俺は剣を叩きつける。
そのまま前足ごと後ろ足まで切断していき、
「―――――!!」
振り返ろうとして倒れたAAの背に剣を突き刺し、
そのまま頭部までを斬りつけていく。
眩いほどの火花の飛沫が舞いあがっていき、高温によって装甲は溶解された。
次いで機関銃を放つAAへと接近。
仲間へと照準をしていたAAの背を刃で斬りつけ、
もう一度上半身を刃で斬りつけて溶断していく。
完全に停止したのは、一見すれば分かる。
もう一度別のAAに斬りかかっていき、そのAAは足を一歩引いて避けてみせ、
反撃に前足を繰り出そうとするが、
俺は姿勢を低く取って振りあがった前足の下へ潜り込み、
(,,#゚Д゚) 「おぉ――――ッ!!」
身を捻って刃を繰り出して首を切断した。
AAの体の下を足の間を縫って転がっていき、俺は周囲を見渡す。
……まだまだ、か。
数は先程よりも減ってきてはいるが、まだ半分ほども倒してはいない。
格納庫を飛び出し、あちこちに広まったAAは。強化骨格チームを翻弄していた、
ホワイトグリントが各チームの援護へと回ってはいるが、
どうやら未知の敵相手にだいぶ苦戦を強いられているようだ。
カナソクの兵士達はほぼ殲滅されたといっていいが、AAは充分に脅威である。
(,,゚Д゚) 「チッ……」
舌打ちを一つ、つく。
……キリがない。
悪態を心の中で付いていると、再び体内通信が繋がる。
そこから聞こえてくるのは聞き慣れないで、
……たしか、特殊部隊の。
ミ,,゚Д゚彡 『Aチームリーダー、二階通路にて目標を発見!
司令室へと向かっている模様!! 至急―――』
……目標発見!?
(,,゚Д゚) 『A1、“ゲスト”のAチームリーダーが目標発見。指示を!』
即座にハインリッヒへと回線を繋ぎ、指示を仰ぐ。
从 ゚∀从 『よし、W2。ホワイトグリントを三名そちらへと向かわせろ。
“ゲスト”と合流して目標を確保だ!』
(,,゚Д゚) 『了――――』
「了解」と、そう応えて回線を切ろうとした、その寸前、
(,,;゚Д゚) 「なっ……」
重く響き渡っていく駆動音と金属音を聞き、
格納庫の屋根が二つに開いていくのを見た。
そして、巨大な何かがそこから立ち上がっていくのを見る。
その大きさに驚愕するが、すぐに平静を取り戻して―――
(,,゚Д゚) 『A1、正体不明の巨大兵器を確認。見えるか?』
从 ゚∀从 『あぁ、こちらでも確認した』
(,,゚Д゚) 『敵の性能は未知数。指示を』
从 ゚∀从 『フン、指示ねぇ……』
鼻で笑って吐き捨てるようにハインリッヒは呟き、
俺は無線機の向こうでこの女が笑みを作っている光景が目に浮かんだ。
……そうだろう。そうなのだろう。
こいつの好奇心は、そして対抗心は、
今、目の前の謎の兵器を前にして激しく燃え上がっているのだ。
自分の技術力で作り上げた兵器―――俺達と、
敵の技術力で作り上げられた未知の兵器。
そのどちらが優れ、強いのか。
从 ゚∀从 『アタシが命ずることはただ一つだ』
从 ゚∀从 『シンプルで分かりやすい、ただ一つの命令だ、“白猫”よ』
从 ゚∀从 『アタシ等に立ちはだかるあの馬鹿デカい木偶の坊を叩いて潰せ!!
アタシ等の国の最精鋭であるお前らの力を見せつけて、
徹底的に徹底的に、完膚なきまでに破壊しつくしてやれ!!』
从 ゚∀从 『“白猫”よ、排除しろ!! 目前の敵は全てデストロイ! デストロイ! デストロイだ!!』
从 ゚∀从 『見敵必殺ッ!! お前らの脳に命令が刻まれたってんなら、とっとと応えやがれ!!』
フン、やはりそうだろうな、そうなるのだろう。
ならば―――――“白猫”は応えよう。
(,,゚Д゚) 『了解。これより、敵巨大兵器を破壊する』
******
カナソク軍のS07基地の司令部は二階建ての構成となっており、
二階の中央部に司令室は位置している。
その司令室へと向かおうと、東側の階段を駆けあがり、
通路を進んでいく黒の装甲服姿が三つある。
銃声と爆音が断続的に響き続ける広い廊下を、
403、ドクオを前衛とした“IEU”Bチームは進む。
発砲音は聞こえる物の、彼らが居る場所には敵がおらず、
Aチームが進行中の西側の通路から音が響いてきており、
そちらへと敵は集中しているようであった。
だからといって警戒心を緩めることなく、
ドクオ達は最大限の注意を払いながらフォックスを捜索する。
通路の端に見えてきたドアへとドクオが向かっていくと、
('A`) 「……ッ!?」
右の通路から、突如として飛び込んできた人影を認める。
人影は目にも止まらぬ速度で接近してきており、
反射的にドクオは身を屈めて前方へと身を転げさせた。
背後にいたジョルジュとトソンは後方へと距離を取り、人影へと照準する。
身を転げさせたドクオは銃を構えて身を振り、
同じく人影へと照準する。
三人に前後から囲まれる形となった人影は、
青い強化骨格スーツに身を纏い、
忍者のようなバイザーを装着した強化骨格、忍者だ。
|/゚U゚| 「………」
右手で日本刀を、機械剣No.9“無音”を構え、
左手をその刀身にかざしていくと、
赤く鋭い光を宿した眼がジョルジュ達を射抜く。
|/゚U゚| 「目標、確認……排除開始」
言葉と共に忍者は床を蹴る。
強化骨格の、人工筋肉のパワーアシストを受けた両の足は
人間離れした脚力は爆発的な加速を生み、
瞬間を以ってしてジョルジュの懐へと接近。
対して、辛うじてその姿を捉えたジョルジュは一歩を引いて身を後ろへ捻る。
忍者の構える無音は既に振られており、避けるには動作が少々遅く、
致命傷は避けられるものの負傷は免れない。
脇から首へと掛けて振られる、右からの一閃。
ジョルジュの左脇に食らいつかんとする刃は、
|/゚U゚| 「――――!」
装甲服に食らいつく寸での所で何かに弾かれ、空を切った。
刀身のあった空間には火花が残り、火薬の焼ける臭いが漂う。
手に後ろから来た衝撃を感じた忍者は背後を向く。
そこにはドクオの姿があり、サプレッサーの装着された銃口が忍者を覗いていた
続けて彼は引き金を絞っていき、フルオートで弾丸が吐き出されていく。
銃声はサプレッサーが付いている為に生じない。
殺到する弾雨へと忍者は恐れもせずに突っ込み、
音速を超えて迫る弾丸を瞬時に弾いていく。
人間離れした行動ではあるが、ドクオは冷静に忍者へと銃弾を送り続ける。
火花と金切り音が散り、ドクオへと忍者が接近していく。
距離が短くなるにつれ弾丸を見切ることは難しくなっていくのだが、
忍者は寸分の狂いなく銃撃を防ぎ続ける。
懐へと踏み込んだ彼は頭上に無音を振りあげ、
ドクオの頭をかち割らんと唐竹に振り下ろす。
しかし、振りあげられる前にドクオは身を後方へと投げ出し、
何とかしてその刀身から逃れてみせた。
追撃せんと一歩を踏み出し、忍者は地面を後方へと蹴っていく。
だが、次いで忍者の背に弾丸が突き刺さった。
|/゚U゚| 「……!?」
反応し、背後へと振り返る。
すると、トソンとジョルジュがアサルトライフルを連射していた。
二つの銃火が忍者の身に降り注いでいくが、
強化骨格スーツを穿つようなダメージは与えられない。
身体中に火花を弾かせる忍者がそちらへと踏み込もうとすると、
|/゚U゚| 「―――――ッ!!」
再び背中に弾丸が叩き込まれた。
振り返るまでもなく、忍者は敵の存在を認識した。
そのまま、忍者はジョルジュ達のほうへと一歩を踏み出し―――
_
( ゚∀゚) 「405、散れ!」
ジョルジュの言葉と共に、トソンは彼の元から離れて行く。
忍者が動きだすよりも早く走りだした彼女を、
援護するようにジョルジュとドクオは連射する。
前と後ろから弾雨を浴びる忍者。
そして、トソンが配置に着いたことによって、
三角形を描くような形になったことで横からの射撃が追加された。
前方から迫る弾丸は何とか防げるも、横と背後からの弾丸には対応できない。
辛うじて防ぎ、かわすも、対処しきれない銃弾がスーツを抉っていき、
やがて火花に紛れて防護繊維の破片が舞っていった。
黒い人口血液を撒き散らし、肉を抉られていく忍者は
身を屈ませていき、頭を伏せて膝を突く。
止めを刺さんが勢いで三人は残る弾薬全てを叩き込んでいく。
すると、
|/#゚U゚| 「アアァァァ――――ッ!!」
獣の如き咆哮を放ち、忍者は突如として立ち上がって
一気にジョルジュへと駆け抜けて行く。
弾丸を防ぐ気など毛頭ない、速度重視の疾走だ。
_
(;゚∀゚) 「――――ちぃッ!
見切れず、即座に身を引こうとするがそれすら間に合わず、
咄嗟に目前に構えたアサルトライフルの銃身が真っ二つとなり、
ジョルジュの左肩が切り裂かれていく。
銃身で刃を防いだことで辛うじて軽傷に留めるが、
忍者は次いでジョルジュに足払いを行った。
反応速度についていけず綺麗に足をすくわれた彼は倒れていく。
そこから忍者は振るった剣を構えなおし、
切っ先を下にしてジョルジュに止めの一撃を放とうとするが、
|/メ゚U゚| 「ッ!?」
バイザーに横からの衝撃を受け、忍者は身を仰け反らせてしまう。
足を踏み締め、弾丸の放たれた距離を瞬時に割り出した忍者は、
トソンの方へと駆け抜けて行く。
彼女は扉を背後として銃撃を続けるが、致命傷にはなりえない。
それでも連射し、忍者には数多くの弾丸が突き刺さるが構わず接近してくる。
弾雨を浴びつつも突進してくるその姿は、対峙する者に恐怖を与える。
|/メ゚U゚| 「排除!」
狂ったように突き進み続ける忍者は、右足と共に左からの一閃を放ち、
(゚、゚;トソン 「ッ!?」
刀身はトソンがいたはずの空間へと振るわれた。
装甲服の襟首を掴み、ドクオが背後にある部屋へとトソンを引きづり込んだのだ。
バックステップで室内に飛び込むと、そこは士官用の個室のようであった。
机に背から激突し、襟首から手を離すとドクオは両手で銃を構えなおし、
|/メ゚U゚| 「排除、排除、排除、排除、排除! 排除ッ!!」
追撃の為に室内に侵入しようとする忍者へと、
アンダーバレルグレネードランチャーの砲口を向けた。
扉の開かれた空間から迫る忍者は、
部屋の狭さのせいで刀が上手く振るえない為に防ぐことは出来ず、
また、避けることもできない。
グレネードランチャーの引き金がドクオの指によって引かれ、
擲弾の発射される音が軽く響き、次いで身を震わす轟音が轟いていった。
******
ドアの枠を潜り抜けようとする青の強化骨格に擲弾が命中し、
目前で爆炎が起こり、熱と破片が散って空気が震えていった。
衝撃波によって吹き飛ばされて背から机に激突し、装甲服越しに痛みを覚える。
次いで顔に熱さを感じて、思わず目を瞑ってしまう。
しかし銃口だけは目前に捉えさせたまま、
引き金に人差し指を掛けたていつでも発砲できるようにしておく。
しかし、
……これでやったはずだ。
いかに強化骨格スーツであろうとも、度重なる銃撃により削られ、
そこにグレネードを正面から受けたのだ。
新素材を用いて作られた防護繊維であろうとも、
これだけの攻撃を重ねられれば無事ではすむまい。
体内に防護骨格と呼ばれ装甲が覆われていようとも、
身体のどこかに異常をきたし、戦闘不能ぐらいには陥るはずだ。
……通常であれば四肢が吹き飛ぶはずだが。
硝煙が晴れていき、視界が開けていくと―――
|/ナU゚メ| 「損……傷、中…破……任務、続行……」
左腕を失い、スーツが爆発によって弾けたことで上半身は露わとなり、
あちこちに焼け跡と銃傷が出来ていた。
身体中には黒い血液が滴っており、重傷を負っていることは見て取れる。
しかし、
|/ナU゚メ| 「―――排除」
その眼光は赤々とした輝きを失っておらず、俺を鋭く射抜いてきた。
この目を、この赤い目を、俺はどこかで見たことがある。
ほんの少し前、ほんの数時間前、こいつと同じ目をした何かを見たはずだ。
この目はまるで、
……廃工場で見た、生物兵器の目。
('A`) 「――――ッ!」
引き金を引こうとすると、それよりも早く、
失われた忍者の左腕が骨から筋繊維まで腕を構成する全てが
一瞬にして再生されていき、傷の無い綺麗な腕が生えていく。
そして、全身の傷が塞がっていき、刀を両手で構える。
(゚、゚;トソン 「………ッ!?」
俺の傍を離れて銃を構えていた405が息を飲む気配が伝わってきて、
それから僅かに遅れて弾丸が発射される。
追従するように俺は引き金を引き、その場から後退して距離を取る。
二つの火線が飛び交っていくが、忍者は身を屈めると
バネの如く伸びていき、跳躍していく。
忍者のいない空間を二つの銃弾が空しく通過し、
宙へと素早く飛び上がった奴は身を捻って逆さまになる。
すると、奴は天井を足場として更に跳躍し、目前へと接近してきた。
辛うじて反応していた俺は引き金を引き絞るが、
カチっと音が小さく響くのみで弾丸が発射されることはない。
武器を捨てるが、忍者は刀を既に振りかぶっている。
一瞬しか時間は残されておらず、即座に俺は後ろへと飛んでいき、
机に背中から乗り上げるとそのまま一回転をしていく。
微かに遅れて、忍者の刀が虚空を裂く。
机から転がり落ちた俺はそのまま机を忍者へ蹴り飛ばす。
だが、忍者は机を呆気なく斬り捨ててみせて、俺に飛びかかってきた。
……こうなることはわかっている!
腰のホルスターから巨大なリボルバー“スティレット”を引き抜いて構える。
重いグリップを両手で保持し、引き金に右人差し指を重ね、
迫りくる忍者へと照星を合わせていく。
振りあげられた刃が頭上に迫るのに微かに遅れて引き金を引く。
忍者の赤い瞳が限りなく近づいてきて、刀が俺の視界を覆っていき、
引き金が倒れていくのを感じ――――
('A゚;) 「――――っ!?」
何かに身体が横から押されていった。
照準がずれるが、何とか忍者の左胸に狙いを定めたまま発砲。
(゚、゚;トソン 「くっ……!」
すると、俺の視界に405の背中が飛び出してきて、
彼女の体から血飛沫が上がっていった。
同時、銃声が室内に轟き、忍者の左胸には巨大な風穴が開く。
強烈な反動を感じるが、忍者はそれ以上に強力な衝撃を受けたようで、
左半身を大きく仰け反らせて後ろへと下がっていく。
('A`) 「………ッ!」
チャンスだ。
シリンダーに込められた残る弾丸を撃ち果たすべく、俺は引き金を引いた。
轟音、忍者の右肩が吹き飛び、轟音、忍者の胴が穿たれ、
轟音、忍者の左肩が抉れ、轟音、忍者の下半身が弾け飛び、
刀を落とし、ダルマのようになった忍者の額に照準する。
忍者は赤い瞳で虚空を覗き、口に動きを作った。
|/ナU゚メメ| 「排……除…ハ…イ……ジョ…ォ……ハイ…ジョ」
|/ナU゚メメ| 「オレヲ……コロ……シ…テ…ク……」
忍者の瞳が、こちらを覗いてきた気がした。
('A`) 「……排除」
引き金を引き絞り、最後の弾丸を頭へと撃ち込む。
額が拉げていき、脳漿と肉片が飛び散って室内を汚していった。
脳と心臓を完全に破壊した。
念入りに、念入りに殺した。
……流石に蘇ってはこないだろう。
そう思うが、クイックローダーでスティレットに弾丸を込め、
肉片を照準し続ける。
……異常なし。
焼却剤があれば良いのだが、それよりも―――
(;'A`) 「405! 無事か!?」
背後へと振り返り、俺を庇って切りつけられた405へと近づく。
******
( 、;トソン 「は……はい……」
そう応えた405の声は弱く、小さなものだった。
装甲服ごと大きく切り裂かれた胴からは、血が大量に滲んでいる。
高周波ブレードで切られたのだから、当然のことだ。
むしろ、即死していないだけ運が良いぐらいだ。
屈みこんで装甲服を脱がせていくが、肉がバックリと裂かれており、
内臓には達していないものの、大量出血でこのままでは死んでいくことだろう。
……酷い傷だ。
体内のナノマシンによって止血剤と鎮痛剤は投与されるだろうが、
それが効いてくるまで405が生きていられるとは限らない。
_
(;メ゚∀゚) 「405がやられたか……」
遅れて、左肩を抑えた401がやって来た。
その間にも俺はバックパックから包帯を取り出し、
405の身体に縛り付けて止血をしていく。
痛むのか、女の細い身体が小さく震えた。
……405。
405は、VIPからの知り合いだった。
覚えておらず、後から訓練キャンプで再会して知ることになったのだが、
かなり古い付き合いとなることになる。
……404と、同じだ。
しかし、彼はもうこの世にいない。
昔からの知り合いがまた一人、死のうとしている。
405もまた、404と同じく死んでしまおうとしている。
そんな思考が脳裏を過ぎっていくと、何故か目の奥が熱くなってくる気がした。
包帯をきつく結び、俺は全ての思いを捨てて405から視線を逸らそうとした。
何時も通り、感情などはいらない。次の行動に移らなければならない。
どうしようかと、401に声を掛けようとするが、
装甲服の袖を強く引かれ、俺はそちらへ振り返る。
(゚、;トソン 「ありがとうございます……」
礼を言われるが、礼を言うべきなのはこっちの方だと思う。
(゚、;トソン 「404……イヨウ君のように、死んで貰いたくなくて……。
どうしても、どうしても、ドクオ君が死ぬところを見たくなくて……」
_
(メ-∀-) 「405、喋るな。体力が消耗するだけだ」
(-、-;トソン 「あの頃の、VIPからの友達がいなくなるなんて、辛くて。
イヨウ君みたいにドクオ君が死んでしまうなんて嫌で……」
……友達?
_
(メ-∀-) 「……」
(-、-;トソン 「すいません……結局、君に嫌な思いをさせてしまうことになりましたね」
……嫌な思い?
(-、゚;トソン 「感情……あるんじゃないですか、ドクオ君」
……え?
(;A;) 「……え?」
******
ドクオの頬には涙が伝っていた。
しかし、彼は相変わらずの無表情をトソンへと向けている。
(-、-;トソン 「……ドク…オ君。……死なないで……下さい。
“それ”を生かす事も死なせることも……“それ”に克つも溺れるも、
君次第なのですから……君には、そうするだけの……」
(;A`) 「もう、喋るな」
涙に気づいたドクオは瞼を拭って言う。
(;A`) 「トソン、俺は俺の役割を果たす。もちろん、死にはしない」
もう一度、彼は瞼を擦ってから、
('A`) 「――――全部、それからだ。だから、お前も生きろ。イヨウの分も生きてくれ」
トソンの脇に転がるアサルトライフルを拾い、彼女の胸の上に乗せる。
息を吐く度にそこは上下するも、トソンは片手を伸ばしてグリップを掴んだ。
(-ー゚;トソン
頷きをドクオに送ると、彼は背を向けていく。
_
(メ゚∀゚) 「救援は呼んだ。遅からず、衛生兵がここに到着するはずだ。
それまで、ここで待機するぞ」
('A`) 「悪い、401。ここで405と待機していてくれ。―――俺は行く」
_
(メ゚∀゚) 「……やれるのか?」
_
(メ゚∀゚) 「司令室に敵は集中しているようだ。
ここを訪れる敵なんてたかがしれているだろう」
_
(メ゚∀゚) 「それでも、負傷者をここで一人残しておくわけにはいかない。
お前は、俺と405を残して、たった一人でAチームに合流し、目標を拘束できるのか?」
('A`) 「出来るとも、その為に、任務遂行の為だけに俺は生きてきたんだから」
_
(メ゚∀゚) 「……そうか。なら、大詰めだ。負傷した俺達の代わりに、
Bチームの援軍に向かってくれ。向こうも、無傷ではすんでいないはずだ」
('A`) 「―――了解」
ドクオはそう応え、地面に転がるM4A1をジョルジュに渡す。
_
(;メ゚∀゚) 「冗談だろ? こいつ無しでどうするつもりだ?」
('A`) 「お前こそ、こいつなしでどうするつもりだったんだ?」
言い残し、ドクオはそのまま部屋を出ていき、
あっという間にジョルジュの視界から消えていった。
_
(;メ゚∀゚) 「おいッ!?」
スティレットを構えて指令室へと向かったドクオに、
慌ててジョルジュは声をかけるが、
彼は一切の躊躇いを見せずに走り去っていった。
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- 2011/10/04(火) 22:17:38|
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