('A`)がブーン系に挑戦するようです
PS2のゲーム「マックスペイン」の影響大。
1.
やたらと風の強い、寒い日だった。
まあ逃亡犯を捕まえるには悪くない日だ。
小春日和に悲鳴やら罵倒やらを聞きたかないからな。
('A`)「畜生、寒いな……」
どっちを見ても明るい色はなく、町全体がコンクリートの色をしていた。
背中を丸めた人々がこの世のすべてに絶望したみたいな顔で歩いている。
未来人が現代の記録を掘り出して分析したら、恐らく「暗黒の世紀」と名付けるだろう。
まさに冬の時代というわけだ。
ド ク オ が ブ ー ン 系 に 挑 戦 す る よ う で す
2.
相変わらず通りでは政府の街宣車がスピーカーで同じことをがなり立てている。
まあ、見なれた光景だ。
ノパ⊿゚)「市民の皆様、ブーン系小説を読みましょう! ブーン系は心を豊かにし人生に光をもたらします!
あらゆる悪書を追放し、ブーン系のみに邁進しましょう! ブーン系万歳、ブーン系万歳!」
_
( ゚∀゚)「嘘だ! みんな騙されるな!」
果敢にも一人、街宣車に投石する男がいた。
_
( ゚∀゚)「政府の言ってることは嘘だ、みんな騙されるな! ブーン系を読むと頭がおかしくなるぞ!」
たちまちのうちに現れた制服警官の連中が投石男を取り囲み、スタン警棒で袋叩きにする。
パトカーに押し込まれ連行される男を見送った通行人からは、絶望の溶けた溜め息が漏れていた。
「かわいそうに。あの男、収容所送りだな……」「下手すれば思想犯矯正病院かも……」
「刑務所よりも悲惨な場所って噂の……」「あの、一ヶ月で例外なく発狂するっていう……」
3.
喫茶店にたどり付いた俺はコーヒーを注文し、しばらく時間を潰した。
寒風を避けて集まった男たちは飽きもせずブーン系のことについて語り合っている
('A`)(ブーン系が人間をおかしくするってのは、まあ確かだな)
コーヒーを口にしながら俺は一人、笑った。
ここにいる連中の議論を聞いていればそう思わざるを得ない。
実証のしようがない自演の疑い。
無意味なランク付け。
作者へのレッテル貼り。
繰り返される「ブーン系終わったな」の言葉。
頭がまともな人間がここまで無意味で堂々巡りな議論を延々続けられるわけはない。
∧∧
(,,゚Д゚)「よう。待ったか?」
ドアベルが鳴り、相棒が入ってきた。
4.
('A`)「なあ、やっぱりもっと応援を呼んだ方が良かったんじゃないか?」
∧∧
(,,゚Д゚)「ダメだ。大人数を動かしたら勘付かれるかも知れん」
俺の不安を見透かしたのか、ギコは笑みを浮かべた。
∧∧
(,,゚Д゚)「大丈夫だって。必ず上手くいくさ」
だといいんだが。
俺とギコは車に乗り、湾岸地区を目指した。
鉛色の海に浮かぶ一隻の大型貨物船、これが俺たちの掴んだ情報が導いた場所だ。
現在この船は航行には使われておらず、ビザ切れの不法滞在者や逃亡犯、最底辺の娼婦、
廃人寸前のジャンキーなどがうろつく現代の阿片窟のようになっている。
∧∧
(,,゚Д゚)「ここだな。よし、行こう」
拳銃、防弾ベスト、無線機などを一通り確認し、俺たちは船に踏み込んだ。
5.
<ヽ`∀´>「待つニダ。ここは立入禁止ニダ」
船の入り口で早速門番がやってきた。
さりげなくベルトに差した拳銃を俺たちに見せ付ける。
('A`)「安心しろ、俺たちは別に税関とかじゃねえ」
<ヽ`∀´>「警察ニカ?」
∧∧
(,,゚Д゚)「探偵だ」
('A`)(ウソばっかり)
ま、ブーン系監察局とバカ正直に名乗ってもロクなことにならないだろうがな。
∧∧
(,,゚Д゚)「ただちょっと住人の顔を覗きたいだけだ、俺らの探す失踪人がいないかどうか」
('A`)「こいつはほんの真心だ」
俺は手の中の札を相手に見せた。
6.
<ヽ`∀´>「いいニダ。そのかわりウリが案内するニダ、勝手な行動はやめて欲しいニダ」
紙幣の枚数を数え終えた男は頷き、俺たちを中に案内した。
甲板にはコンテナが山積みになっている。
その一つ一つが個室になっており、簡単なベッドと机が置かれていた。
糞尿とゲロ、廃油と焦げたアルミ箔、安酒とマリファナのニオイが立ち込めている。
('A`)「ひでえホテルだ」
<ヽ`∀´>「お探しの人物はどんな奴ニカ?」
∧∧
(,,゚Д゚)「こんな顔だ。ショボンって言うんだが、知らないか?」
ギコが写真を見せる。
見張りは首を縦に振った。
<ヽ`∀´>「見たことある顔ニダ。下層にいる筈ニダ」
('A`)「よし、案内を頼む」
7.
階段から船の内部に下りると臭気は更にひどいものになった。
積み木のように並ぶコンテナの中では死にかけのジャンキーや壁に話しかけている奴、明らかに
被害妄想に取り付かれておかしくなっている奴などがうようよしている。
俺はそのうちの一人の前で足を止めた。
( ><)「うう……ううう……」
('A`)「ん? あいつ、ビロードじゃないか?」
∧∧
(,,゚Д゚)「何?」
確かに見覚えがある。
かつて絶大な人気を誇った作品『( ^ω^)がオナホの中で暮らすようです』の作者だ。
奴はキーボードのキーを叩きながらぶつぶつと気味悪い独り言を呟いていた。
( ><)「支援……支援……を寄越すんですこのカスども……乙と言え、僕の作品の感想を言え……
ブログで取り上げろ、感想スレで名を出せ、う、うう、うううううう……」
8.
奴が叩いているキーボードはどこにも繋がっていない。
ケーブルは机から垂れてゆらゆら揺れているにも関わらず、奴はそこにモニタと本体があるかのように
キーを叩き続けているのだった。
( ><)「いぎぎぃいい!!! ググるんです、僕の作品をググるんです!!
またどこかでまとめられてるかも知れないんです! 知れないんです!
見逃してはダメなんです! ブログもスレも全部検索するんです! あががが!」
<ヽ`∀´>「もう完璧におかしくなってるニダ。ふん、かつての大御所が哀れな末路ニダ」
('A`)「まったくだ」
ビロードは血走った目をこっちに向けた。
( ><)「何見てるんですか! 僕はブーン系作者の大御所なんです! 名の知れた男なんです!
お前らなんかカスなんです!」
俺たちは無言で一度とめた歩みを進め、そこを後にした。
9.
見回してみればビロード以外にも同じような奴はいくらでもいた。
「感想くれ、感想くれ、頼む、誰か俺の作品の評価を……」
「なんであんな作品が人気なんだ! 俺がって書ける、あのくらい俺だって……」
ブーン系に取り付かれた哀れな男たち。
「簡単にやめられる」「すぐに飽きるさ」
みんなそう言っていつしか抜け出すことのできない深みにはまり、ふと気付くのだ。
ブーン系という底無し沼に肩までつかっていることを。
両手を振り回し足をばたつかせ、必死に助けを呼んでも、もう誰にも声は届かない。
あとは深淵に向かって沈むしかない。
<ヽ`∀´>「あそこニダ。今月の家賃はもう貰ってるから、そのまま連れてってくれニダ」
('A`)「ありがとよ」
∧∧
(,,゚Д゚)「気を付けろよ、ドクオ。窮鼠猫を噛む、だぜ」
('A`)「ああ」
10.
青いコンテナの中には他と同じように裸電球が一つだけ下がっている。
その下にいる男はノートに何か書きつけていた。
('A`)「おい、ショボン」
(´・ω・`)「ん?」
奴は俺ら二人を見ただけで正体を見破ったようだ。
逃亡犯ってのはこれだから侮れない。異常にカンが鋭くなるんだ。
奴は慌てた様子で机から缶のようなものを取り出し、ピンを引っこ抜いた。
手榴弾かとぎょっとしたが、それは発煙筒だった。
∧∧
(,,゚Д゚)「ぶわっ!?」
('A`)「うっ?」
目と口を覆った俺らの間を何かがすり抜けていった。
11.
∧∧
(,,゚Д゚)「先回りしてくれ、挟み撃ちにしよう」
('A`)「銃は使うな、ギコ! 跳弾してどこに行くかわからん」
∧∧
(,,゚Д゚)「わかった」
俺たちは二手に分かれ、ショボンを追い込みにかかった。
案内役が大騒ぎする住人たちをなだめている。
<ヽ`∀´>「みんな落ち着くニダ! 火事じゃないニダ、慌てるなニダ」
ショボンが上の通路に続く階段へと走っていくのが、煙越しだがかすかに見えた。
俺は煙の中を脱してビロードのコンテナまで戻ってくると、それをよじ登る。
( ><)「僕はお前らのクソ作品なんか読む気はないんです! でもお前らは僕の作品を読むんです!」
奴だけはこの騒動にまったく興味がないようで、相変わらずぶつぶつ何か喋っていた。
一方俺はと言えば、たった今この瞬間まで自分が高いところが苦手ということを忘れていた有り様だ。
12.
人はコンテナ一つか二つ分の高さでは死なないなどと知ったふうな口をきくだろう。
だが俺の足は針金一本で出来ているようにおぼつかなくなっていた。
通路へ行ってショボンの行く手を遮るには最低二回のジャンプがいる。
('A`)「よ、よーし、落ち着こう! 下は……そう、下はポップコーンの海だ。
焼きたてのあったかいポップコーン、柔らかいポップコーン、落ちても平気だ。
むしろ落ちたらビールで一杯やりたくなるってくらいだ、だから平気だ……」
目を閉じて最大限まで想像力を働かせたあと、俺は意を決してコンテナを蹴った。
スパイダーマンのよう、と言うにはかなりみっともないジャンプだが、とにかく隣のコンテナへと
飛び移ることができた。
次は通路へ飛び降りなければ。
('A`)「畜生、ギコの野郎……! 俺ばっかりいつもこんな役だ!」
鏡がなくて幸いだ。今の俺のみっともなさと言ったら!
13.
着地にやや失敗し、俺は通路に転がり込むような形で飛び移った。
('A`)「いてて、畜生!」
∧∧
(,,゚Д゚)「ドンピシャだぜ、相棒」
なるほど、ちょうどショボンの行く手を阻む形だ。
奴は『ダイハード』のウィリスがガラスを突き破って現れるシーンみたいに、突然現れた俺に
ぎょっとして足を止めた。
振り向き、そしてそちらからも追っ手がかかっていることを思い出す。
八方塞だ。
俺たちは撃つ気のまったくない拳銃を抜き、構えて威嚇した。
('A`)「止まれ、そこまでだ!」
∧∧
(,,゚Д゚)「ブーン系監察局だ、現行逃亡罪で逮捕する!」
(´・ω・`)「う、うう……」
14.
(´・ω・`)「た、頼む、見逃してくれ! あれはもう続けられないんだ、だって、その」
∧∧
(,,゚Д゚)「逃亡するくらいなら最初から現行なんざ持つなドアホ!! 言い訳は地獄でしろ!」
('A`)「両手を頭の上で組んでひざまずけ」
手錠をかけて懐を探る。
ポケットにさっき何かを書き込んでいたらしいノートが入っていた。
('A`)「こりゃ何だ?」
(´・ω・`)「あっ! やめろ、それを見るな!」
ぱらぱらとめくったあと、俺は顔をしかめてそれをギコに渡した。
奴もおおむね俺と同じような反応だ。
驚いたね。次回作の構想じゃないか。
∧∧
(,,゚Д゚)「てめえみたいな奴が子供を作るだけ作って面倒なんにも見ねえような親になるんだよ!!」
('A`)「落ち着け。とにかくここを出ようぜ、いい加減この悪臭には頭痛がしてきた」
15.
ショボンはパトカーで連行され、とりあえず俺たちの前からは消えた。
後から来た連中がショボンのコンテナを捜索したところ、書籍化したケータイ小説(笑)が
数冊見つかった。
禁制書籍の所有、現行逃亡、監察局員への攻撃(あの煙幕のことだ)。
三つ合わせてショボンはめでたく矯正病院の最高警備レベルへ送られることになった。
生きては帰れないだろうな。
ま、生きてたとしても脳味噌がまともに機能しないだろうけど。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
数日後。
ショボンのニュースを流すラジオを聞きながら、俺はあの喫茶店にいた。
格好のネタを得た常連の連中が、ハイエナとなって涎を垂らさんばかりに噂話に花を咲かせている。
('A`)(……ま、これが俺の仕事だからな)
16.
ノパ⊿゚)「市民の皆様、ブーン系小説を読みましょう! ブーン系は心を豊かにし人生に光をもたらします!
あらゆる悪書を追放し、ブーン系のみに邁進しましょう! ブーン系万歳、ブーン系万歳!」
外では相変わらず外宣車がおなじみのセリフを吠えている。
俺はコーヒーを口にしながら、ギコを待つ。
次の現行逃亡犯の情報を集めなければならない。
時々自分の仕事がイヤになる。
ブーン系は確かに人におかしくする。
なんだってあいつらはそんなヤバイものに嬉々として未を投じるのだろう?
あるいはイカレているからこそブーン系を始め、その狂気が本物になるからブーン系を続けるのか?
∧∧
(,,゚Д゚)「よう、相変わらず辛気臭いツラだな! 行こうぜ」
ギコが来た。次の仕事が始まる。
おしまい
やたらと風の強い、寒い日だった。
まあ逃亡犯を捕まえるには悪くない日だ。
小春日和に悲鳴やら罵倒やらを聞きたかないからな。
('A`)「畜生、寒いな……」
どっちを見ても明るい色はなく、町全体がコンクリートの色をしていた。
背中を丸めた人々がこの世のすべてに絶望したみたいな顔で歩いている。
未来人が現代の記録を掘り出して分析したら、恐らく「暗黒の世紀」と名付けるだろう。
まさに冬の時代というわけだ。
ド ク オ が ブ ー ン 系 に 挑 戦 す る よ う で す
2.
相変わらず通りでは政府の街宣車がスピーカーで同じことをがなり立てている。
まあ、見なれた光景だ。
ノパ⊿゚)「市民の皆様、ブーン系小説を読みましょう! ブーン系は心を豊かにし人生に光をもたらします!
あらゆる悪書を追放し、ブーン系のみに邁進しましょう! ブーン系万歳、ブーン系万歳!」
_
( ゚∀゚)「嘘だ! みんな騙されるな!」
果敢にも一人、街宣車に投石する男がいた。
_
( ゚∀゚)「政府の言ってることは嘘だ、みんな騙されるな! ブーン系を読むと頭がおかしくなるぞ!」
たちまちのうちに現れた制服警官の連中が投石男を取り囲み、スタン警棒で袋叩きにする。
パトカーに押し込まれ連行される男を見送った通行人からは、絶望の溶けた溜め息が漏れていた。
「かわいそうに。あの男、収容所送りだな……」「下手すれば思想犯矯正病院かも……」
「刑務所よりも悲惨な場所って噂の……」「あの、一ヶ月で例外なく発狂するっていう……」
3.
喫茶店にたどり付いた俺はコーヒーを注文し、しばらく時間を潰した。
寒風を避けて集まった男たちは飽きもせずブーン系のことについて語り合っている
('A`)(ブーン系が人間をおかしくするってのは、まあ確かだな)
コーヒーを口にしながら俺は一人、笑った。
ここにいる連中の議論を聞いていればそう思わざるを得ない。
実証のしようがない自演の疑い。
無意味なランク付け。
作者へのレッテル貼り。
繰り返される「ブーン系終わったな」の言葉。
頭がまともな人間がここまで無意味で堂々巡りな議論を延々続けられるわけはない。
∧∧
(,,゚Д゚)「よう。待ったか?」
ドアベルが鳴り、相棒が入ってきた。
4.
('A`)「なあ、やっぱりもっと応援を呼んだ方が良かったんじゃないか?」
∧∧
(,,゚Д゚)「ダメだ。大人数を動かしたら勘付かれるかも知れん」
俺の不安を見透かしたのか、ギコは笑みを浮かべた。
∧∧
(,,゚Д゚)「大丈夫だって。必ず上手くいくさ」
だといいんだが。
俺とギコは車に乗り、湾岸地区を目指した。
鉛色の海に浮かぶ一隻の大型貨物船、これが俺たちの掴んだ情報が導いた場所だ。
現在この船は航行には使われておらず、ビザ切れの不法滞在者や逃亡犯、最底辺の娼婦、
廃人寸前のジャンキーなどがうろつく現代の阿片窟のようになっている。
∧∧
(,,゚Д゚)「ここだな。よし、行こう」
拳銃、防弾ベスト、無線機などを一通り確認し、俺たちは船に踏み込んだ。
5.
<ヽ`∀´>「待つニダ。ここは立入禁止ニダ」
船の入り口で早速門番がやってきた。
さりげなくベルトに差した拳銃を俺たちに見せ付ける。
('A`)「安心しろ、俺たちは別に税関とかじゃねえ」
<ヽ`∀´>「警察ニカ?」
∧∧
(,,゚Д゚)「探偵だ」
('A`)(ウソばっかり)
ま、ブーン系監察局とバカ正直に名乗ってもロクなことにならないだろうがな。
∧∧
(,,゚Д゚)「ただちょっと住人の顔を覗きたいだけだ、俺らの探す失踪人がいないかどうか」
('A`)「こいつはほんの真心だ」
俺は手の中の札を相手に見せた。
6.
<ヽ`∀´>「いいニダ。そのかわりウリが案内するニダ、勝手な行動はやめて欲しいニダ」
紙幣の枚数を数え終えた男は頷き、俺たちを中に案内した。
甲板にはコンテナが山積みになっている。
その一つ一つが個室になっており、簡単なベッドと机が置かれていた。
糞尿とゲロ、廃油と焦げたアルミ箔、安酒とマリファナのニオイが立ち込めている。
('A`)「ひでえホテルだ」
<ヽ`∀´>「お探しの人物はどんな奴ニカ?」
∧∧
(,,゚Д゚)「こんな顔だ。ショボンって言うんだが、知らないか?」
ギコが写真を見せる。
見張りは首を縦に振った。
<ヽ`∀´>「見たことある顔ニダ。下層にいる筈ニダ」
('A`)「よし、案内を頼む」
7.
階段から船の内部に下りると臭気は更にひどいものになった。
積み木のように並ぶコンテナの中では死にかけのジャンキーや壁に話しかけている奴、明らかに
被害妄想に取り付かれておかしくなっている奴などがうようよしている。
俺はそのうちの一人の前で足を止めた。
( ><)「うう……ううう……」
('A`)「ん? あいつ、ビロードじゃないか?」
∧∧
(,,゚Д゚)「何?」
確かに見覚えがある。
かつて絶大な人気を誇った作品『( ^ω^)がオナホの中で暮らすようです』の作者だ。
奴はキーボードのキーを叩きながらぶつぶつと気味悪い独り言を呟いていた。
( ><)「支援……支援……を寄越すんですこのカスども……乙と言え、僕の作品の感想を言え……
ブログで取り上げろ、感想スレで名を出せ、う、うう、うううううう……」
8.
奴が叩いているキーボードはどこにも繋がっていない。
ケーブルは机から垂れてゆらゆら揺れているにも関わらず、奴はそこにモニタと本体があるかのように
キーを叩き続けているのだった。
( ><)「いぎぎぃいい!!! ググるんです、僕の作品をググるんです!!
またどこかでまとめられてるかも知れないんです! 知れないんです!
見逃してはダメなんです! ブログもスレも全部検索するんです! あががが!」
<ヽ`∀´>「もう完璧におかしくなってるニダ。ふん、かつての大御所が哀れな末路ニダ」
('A`)「まったくだ」
ビロードは血走った目をこっちに向けた。
( ><)「何見てるんですか! 僕はブーン系作者の大御所なんです! 名の知れた男なんです!
お前らなんかカスなんです!」
俺たちは無言で一度とめた歩みを進め、そこを後にした。
9.
見回してみればビロード以外にも同じような奴はいくらでもいた。
「感想くれ、感想くれ、頼む、誰か俺の作品の評価を……」
「なんであんな作品が人気なんだ! 俺がって書ける、あのくらい俺だって……」
ブーン系に取り付かれた哀れな男たち。
「簡単にやめられる」「すぐに飽きるさ」
みんなそう言っていつしか抜け出すことのできない深みにはまり、ふと気付くのだ。
ブーン系という底無し沼に肩までつかっていることを。
両手を振り回し足をばたつかせ、必死に助けを呼んでも、もう誰にも声は届かない。
あとは深淵に向かって沈むしかない。
<ヽ`∀´>「あそこニダ。今月の家賃はもう貰ってるから、そのまま連れてってくれニダ」
('A`)「ありがとよ」
∧∧
(,,゚Д゚)「気を付けろよ、ドクオ。窮鼠猫を噛む、だぜ」
('A`)「ああ」
10.
青いコンテナの中には他と同じように裸電球が一つだけ下がっている。
その下にいる男はノートに何か書きつけていた。
('A`)「おい、ショボン」
(´・ω・`)「ん?」
奴は俺ら二人を見ただけで正体を見破ったようだ。
逃亡犯ってのはこれだから侮れない。異常にカンが鋭くなるんだ。
奴は慌てた様子で机から缶のようなものを取り出し、ピンを引っこ抜いた。
手榴弾かとぎょっとしたが、それは発煙筒だった。
∧∧
(,,゚Д゚)「ぶわっ!?」
('A`)「うっ?」
目と口を覆った俺らの間を何かがすり抜けていった。
11.
∧∧
(,,゚Д゚)「先回りしてくれ、挟み撃ちにしよう」
('A`)「銃は使うな、ギコ! 跳弾してどこに行くかわからん」
∧∧
(,,゚Д゚)「わかった」
俺たちは二手に分かれ、ショボンを追い込みにかかった。
案内役が大騒ぎする住人たちをなだめている。
<ヽ`∀´>「みんな落ち着くニダ! 火事じゃないニダ、慌てるなニダ」
ショボンが上の通路に続く階段へと走っていくのが、煙越しだがかすかに見えた。
俺は煙の中を脱してビロードのコンテナまで戻ってくると、それをよじ登る。
( ><)「僕はお前らのクソ作品なんか読む気はないんです! でもお前らは僕の作品を読むんです!」
奴だけはこの騒動にまったく興味がないようで、相変わらずぶつぶつ何か喋っていた。
一方俺はと言えば、たった今この瞬間まで自分が高いところが苦手ということを忘れていた有り様だ。
12.
人はコンテナ一つか二つ分の高さでは死なないなどと知ったふうな口をきくだろう。
だが俺の足は針金一本で出来ているようにおぼつかなくなっていた。
通路へ行ってショボンの行く手を遮るには最低二回のジャンプがいる。
('A`)「よ、よーし、落ち着こう! 下は……そう、下はポップコーンの海だ。
焼きたてのあったかいポップコーン、柔らかいポップコーン、落ちても平気だ。
むしろ落ちたらビールで一杯やりたくなるってくらいだ、だから平気だ……」
目を閉じて最大限まで想像力を働かせたあと、俺は意を決してコンテナを蹴った。
スパイダーマンのよう、と言うにはかなりみっともないジャンプだが、とにかく隣のコンテナへと
飛び移ることができた。
次は通路へ飛び降りなければ。
('A`)「畜生、ギコの野郎……! 俺ばっかりいつもこんな役だ!」
鏡がなくて幸いだ。今の俺のみっともなさと言ったら!
13.
着地にやや失敗し、俺は通路に転がり込むような形で飛び移った。
('A`)「いてて、畜生!」
∧∧
(,,゚Д゚)「ドンピシャだぜ、相棒」
なるほど、ちょうどショボンの行く手を阻む形だ。
奴は『ダイハード』のウィリスがガラスを突き破って現れるシーンみたいに、突然現れた俺に
ぎょっとして足を止めた。
振り向き、そしてそちらからも追っ手がかかっていることを思い出す。
八方塞だ。
俺たちは撃つ気のまったくない拳銃を抜き、構えて威嚇した。
('A`)「止まれ、そこまでだ!」
∧∧
(,,゚Д゚)「ブーン系監察局だ、現行逃亡罪で逮捕する!」
(´・ω・`)「う、うう……」
14.
(´・ω・`)「た、頼む、見逃してくれ! あれはもう続けられないんだ、だって、その」
∧∧
(,,゚Д゚)「逃亡するくらいなら最初から現行なんざ持つなドアホ!! 言い訳は地獄でしろ!」
('A`)「両手を頭の上で組んでひざまずけ」
手錠をかけて懐を探る。
ポケットにさっき何かを書き込んでいたらしいノートが入っていた。
('A`)「こりゃ何だ?」
(´・ω・`)「あっ! やめろ、それを見るな!」
ぱらぱらとめくったあと、俺は顔をしかめてそれをギコに渡した。
奴もおおむね俺と同じような反応だ。
驚いたね。次回作の構想じゃないか。
∧∧
(,,゚Д゚)「てめえみたいな奴が子供を作るだけ作って面倒なんにも見ねえような親になるんだよ!!」
('A`)「落ち着け。とにかくここを出ようぜ、いい加減この悪臭には頭痛がしてきた」
15.
ショボンはパトカーで連行され、とりあえず俺たちの前からは消えた。
後から来た連中がショボンのコンテナを捜索したところ、書籍化したケータイ小説(笑)が
数冊見つかった。
禁制書籍の所有、現行逃亡、監察局員への攻撃(あの煙幕のことだ)。
三つ合わせてショボンはめでたく矯正病院の最高警備レベルへ送られることになった。
生きては帰れないだろうな。
ま、生きてたとしても脳味噌がまともに機能しないだろうけど。
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数日後。
ショボンのニュースを流すラジオを聞きながら、俺はあの喫茶店にいた。
格好のネタを得た常連の連中が、ハイエナとなって涎を垂らさんばかりに噂話に花を咲かせている。
('A`)(……ま、これが俺の仕事だからな)
16.
ノパ⊿゚)「市民の皆様、ブーン系小説を読みましょう! ブーン系は心を豊かにし人生に光をもたらします!
あらゆる悪書を追放し、ブーン系のみに邁進しましょう! ブーン系万歳、ブーン系万歳!」
外では相変わらず外宣車がおなじみのセリフを吠えている。
俺はコーヒーを口にしながら、ギコを待つ。
次の現行逃亡犯の情報を集めなければならない。
時々自分の仕事がイヤになる。
ブーン系は確かに人におかしくする。
なんだってあいつらはそんなヤバイものに嬉々として未を投じるのだろう?
あるいはイカレているからこそブーン系を始め、その狂気が本物になるからブーン系を続けるのか?
∧∧
(,,゚Д゚)「よう、相変わらず辛気臭いツラだな! 行こうぜ」
ギコが来た。次の仕事が始まる。
おしまい
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