('A`)戦い続けるようです
総合短編。
BLAME!とかが元ネタ。
BLAME!とかが元ネタ。
1.
人間を見なくなってもうどれくらい経つだろう。
世界が放射能で満たされて100年は過ぎた。
最初の20年くらいは人間たちも何かやっていたようだが、そのうち諦めたのか死滅したのか
姿を見なくなった。
地上に最早かつての面影はなく、巨大なビル群が文明の墓標のように立ち並ぶのみだ。
一部の獣は環境に適応し、ミュータント化しながらも生き延びているが。
……まあ、いずれも俺たちバーサーカーには大して興味のないことだ。
戦 い 続 け る よ う で す
2.
その女は手練れだった。
まったくもって手練れだった。
('A`)(驚いたな。まだここまで動けるバーサーカーがいたとは)
施設も技術者もいない否、メンテナンスは自分自身でやるしかないのだが、それには限界がある。
あの女は最小限の手間で自分のバックアップができるタイプなのだろうか?
俺はそんな事を考えながら弾丸並みの速度で中空を飛んでいた。
自分の意思でそうしてるならいいが、俺のような旧式に飛行能力はない。
(;'A`)「うおっ!!」
やがて背中から廃ビルの屋上近い階層に突っ込んだ。
コンクリの壁をぶち抜き、鉄筋をへし折って。
どごん!
3.
突っ込んで10mも進んだだろうか。
デスクやら自動販売機やら色んなものにぶつかってようやく勢いが死んだ。
埋もれた自らの体を掘り起こし、立ち上がる。
('A`)(強いな。どう迎え撃ったもんか……)
大戦以前は立派な商社ビルだったのだろうが、今や朽ち果てて見る影もない。
俺がお邪魔する前から開いていた天井の大穴から空が見えた。
('A`)「……」
人類が滅びてひとつだけ良かったと感じることがある。
空が綺麗になったことだ。
その空に点が一つ生まれて、みるみる大きくなっていった。
紙に落とした一粒のインクが、にじんで広がってゆくように。
4.
体にぴったりした黒いドレスみたいなスーツに身を包んだその女は、それまでと同じように
まったく無遠慮に俺に攻撃を加えて来た。
落下の運動エネルギーを利用し、手にした物干し竿みたいな武器を叩きつけて来る。
('A`)「うおっと!」
竿を食らったフロアが陶器の皿みたいに割れた。
土埃を吹き上げながら、俺たち二人は一階層下へと落ちてゆく。
着地は俺の方が少しだけ早い。
('A`)(仕掛けるか)
奴が着地するまであと0.00数秒。
間合いを詰めるには十分すぎる時間だ。
体内のブースター・コアが唸りを上げ、電磁加速が始まる。
5.
埃を切り裂き、奴との間合いが手が届くくらいまで狭まった。
まずは脇腹への左のボディブロー。
女は竿の中ほどを使って弾きつつ、着地と同時に床を蹴って下がる。
竿はこの間合いでは振り回せないからだ。
もちろん俺は追いすがる。
左腕を引くと同時、振り子の要領で右のストレートを突き出した。
川 ゚ -゚)「!」
竿を軽く半回転させつつこれをいなす。
俺の腕を絡めつつ奴は右足を持ち上げた。
右足にノイズが走って消えたようにしか見えなかったが、それは次の瞬間俺の横顔に噛み付いていた。
顔を蹴り抜かれた俺は、勢い余ってぐるりと相手に背を向ける形になった。
('A`)(強烈だな。痛覚が残っていたらどんな風に感じていただろう?)
6.
敵に背を向けるというのは無様な格好だが、俺は背中に目がついている。
比喩ではなくうなじのあたりにカメラアイが増設されているのだ。
奴がそのレンズに映っている。
床でバレリーナみたいにもう一回転し、俺にローリングソバットを放ってきた。
('A`)(棒切れの間合いを潰せば大したことないな)
相手にケツを向けたまま左に体を泳がせてかわすと、俺は背中越しに肘打ちを放った。
文明崩壊前に見た映画で、ブルース・リーとかいう俳優がやってた技だ。
川 ゚ -゚)「ごふっ」
('A`)「!!」
肘は確かに奴の折れそうなくらい細い胴に突き刺さったが、背骨を中心とする線、真芯は外された。
女が食らう瞬間に身をよじったのだ。
7.
女は両腕を俺の体に巻きつけた。
すぐに足の裏から床の感触が消えて上下感覚が消失する。
俺の頭の中に入ってるバランサーが天地を見つけるよりも早く、俺は床に叩き付けられていた。
これは確かジャーマン・スープレックスとか言う技じゃないか?
('A`)「……どこで習った?」
川 ゚ -゚)「人間だった頃、プロレスが好きだった」
女は跳ね起き、地面に大の字になった俺の胸板に竿の先端を軽く押し当てた。
ブーンという虫の羽音みたいなのが竿からする。
('A`)「!!」
これはブースター・コアのチャージ音だ。
竿から放たれた衝撃波が俺の体に降ってきた。
8.
でっかい掌に叩き付けられた気分だった。
まるでハエの死に際だ。
('A`)(強い……!! 並みのバーサーカーじゃないな)
衝撃に俺の体はフロアの床を突き抜けた。
その下の階層も、その下の下も。
鉄筋コンクリートがまるでダンボールだ。
絶え間なくどごんどごんという重たい衝撃音が続き、どれくらいかしてからようやく止まった。
('A`)「くそっ」
俺だってやられてばっかりじゃあない。
ここは高層ビルの真ん中あたりか。
奴は今屋上近くにいる。
9.
腰のホルスターから虎の子の熱線銃を抜いて引き金を引き、銃口から放たれた青白いラインで
自分の周囲360度をぐるっと切断する。
小型なので威力は大したことないが、それでもビルを真っ二つに折るくらいはできる。
奴のボディは俺ほど頑丈じゃない。
これで多少ダメージを与えられるといいんだが。
('A`)(ん……?)
ビルの上半分がうまく崩れ落ちるよう、断面が斜めになるように切っておいた。
地震のような激しい震動があって、俺のいる階層の天井が浮き上がる。
('A`)(奴の反応がこっちに来る)
二つに折れて地面へと落ちゆくビルの上半分に、人影が現れた。
奴だ。
10.
女はとんでもない行動に出た。
落ちゆく上半分のビルから飛び出すと、その外壁を滑るように駆け降りて来たのだ。
細かい破片はものともせず、大きなものは竿でぶっ飛ばしながら。
川 ゚ー゚)
笑ってやがる。
奴は切断された部分をジャンプで飛び越し、野球のバットの要領でぼんやり突っ立っていた俺の
胴体をぶん殴った。
やれやれ。
また空中遊泳か。
アスファルトに激突するまでにはかなりあったので、俺はその間に改めて作戦を立てた。
('A`)(ボディの強度には俺の方にアドバンテージがあるが、さすがにこれじゃ持たないな。
捨て身で間合いを潰せるのはあと二回……いや、一回ってとこだろう)
11.
長いフライトが終わり、俺は道路に激突した。
何度かバウンドし、地球に落ちた隕石のように長いクレーターを作りながら。
自分の体で作った穴から這い出し、体中の泥やアスファルトを振るい落とす。
川 ゚ -゚)「よっと」
女がビルから飛び降りてきた。
着地の衝撃でアスファルトがへこむ音があって、それから奴が不満げな声を出す。
川 ゚ -゚)「頑丈な奴だな。うんざりする」
('A`)「俺の唯一の自慢でね」
川 ゚ -゚)「いいさ。充実した時間が過ごせるから」
('A`)「違いない」
バーサーカーにとって戦いは癒しであり、救済だ。
12.
俺が身構えると、奴はそれに答えた。
竿が唸りを上げて襲いかかってくる。
俺の頭部に納まっている、文明崩壊間際ですら最新とは呼べなかった頭脳が、処理を開始する。
運動エネルギー攻撃。
入射角91.755度。
速度毎秒144.432km。
着撃まであと0.003秒。
竿の素材は単分子並びにナノポリマーの複合体。
電磁加速機構搭載。
('A`)「うおっ」
唐竹割りの一撃を後ろに下がってかわす。
13.
続いて怒涛のように押し寄せる攻撃に、俺はなす術もなく守りに徹した。
完全に奴の間合いだ。
反撃しようにも手の出しようがない。
川 ゚ー゚)
奴は余裕を見せている。
('A`)「……なるほどな」
俺は理解した。
プロレス技を使ったりした時からちょっと疑問に感じていたのだが、こいつには“前世の記憶”が
たっぷり残っているらしい。
俺は電子頭脳に乗り換える時に大半を切り捨てちまったからな。
ホルスターに手を伸ばす。
14.
熱線銃の熱線を横一文字に薙ぐ。
奴は難無く跳ねてかわし、力任せに俺の脳天に竿を振り下ろした。
俺は両腕を頭上でクロスさせて受け止める。
この程度で衝撃を相殺できるわけがないと知りつつも。
ズドン。
('A`)「!!」
一瞬だけ重力が100倍になったかのような衝撃が体の芯を駆け抜ける。
地面に膝をついた俺の顔面に、竿の先端が突き付けられた。
川 ゚ -゚)「あんたの負け」
電磁加速機構のチャージ音がする。
顔面を吹っ飛ばそうってのか。
悪趣味な女だ
15.
だが奴は気づいていなかった。
俺が熱線銃で焼き切ろうとしたのは奴そのものじゃない。
川 ゚ -゚)「!!」
女の背後にあったペンシルビルが真っ二つに折れて、こっちに降ってくる。
川;゚ -゚)「くっ……」
かわそうと横へ跳ねた奴に俺は追いすがった。
着地してすぐに俺へカウンターの一撃を放つ。
だが苦し紛れだ。
着地の衝撃を吸収している最中に全力の一撃は使えない。
脇腹を叩く竿を左腕で抱え込むと、俺はジェネレーターからありったけの電力を絞り出した。
('A`)「おおあああああ!!!」
16.
ごきんという重くて硬い音がした。
女が驚愕に表情を凍らせる。
俺は右拳をその胴体へ叩き込む。
この一撃は今度こそ真芯を直撃し、鉄板と生肉を同時に打ち抜いたような音がした。
川 ゚ -゚)「……」
拳は相手の胴体を貫通して背中から突き出していた。
手応えからしても確実に背骨を砕いている。
川 ゚ -゚)「がほっ」
バーサーカーの血は人間の血ほど赤くない。
ピンクに近い薄い色だ。
それが奴の口と腹の傷から噴水のように噴き出した。
17.
脇に抱えた折れた竿を捨て、自由にした左手で拳を作る。
奴の頭を叩き潰すために。
川 ゚ -゚)「なあ」
もはや自分の足で立つことすらできない女は、腹に突き刺さった俺の腕にもたれかかるような
形になっていた。
('A`)「?」
川 ゚ -゚)「バーサーカーにもあの世はあると思うか?
人間であることを止めていたとしても、そこへ行けると思うか?」
('A`)「……」
俺の答えは明快だった。
自分でも嫌になるくらい。
18.
('A`)「あの世なんかない。
人間もバーサーカーも、メモリが破壊されてデータが吹っ飛べば再生が不可能になるだけだ」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「消えるんだ。消えてなくなるだけなんだよ」
川 ゚ー゚)
女は笑い、眼を閉じた。
眼のふちにたまった血が涙のように頬を伝っている。
川 ー)「それが私たちの宿業か……でも、嘘でもいいから『ある』って言って欲しかったな」
俺はもう何も答えなかった。
拳を相手の頭に叩き込む。
ポリマー製の頭蓋骨を砕くのは骨が折れたが(下らないジョークだ)、20発もぶち込む頃には
女の頭は壁に叩き付けたトマトみたいに潰れた。
19.
大戦勃発時、移民だった俺たちは市民権を得る為
志願兵となった。
その末路が全身を機械化された人間、バーサーカーというわけだ。
俺たちの存在目的は戦うことだけだった。
だから核の使用後に戦う相手がいなくなった時、当然のように仲間割れが始まった。
技術者たちは俺たちのコントロールが利かないことにあわてふためいた。
その時はまだ人間の精神をデジタル化すると予想外のバグが発生することがわかっていなかったんだ。
('A`)(次の相手を探さないとな)
戦いが俺たちの癒しだ。
戦いが俺たちの存在する理由だ。
戦う相手がいなければ俺たちは存在する意味がなくなる。
それが恐ろしいから俺たちは戦うんだ。
20.
まるでパラドックスだな。
戦えば相手は死ぬ。
相手が死ねば戦う相手はいなくなる。
存在する理由を果たそうとすればするほど、その理由がなくなるんだ。
('A`)「よし」
俺は旅立つ前に女を葬った。
適当な空き地に穴を掘って骸を埋め、墓標替わりにあいつの得物だった竿を刺してやった。
こんなマネするのも人間の時のなごりだな。
('A`)(バーサーカーはあと何人残っているのだろう)
俺は俺が死ぬか、この世で唯一のバーサーカーになるまで戦い続けるのだろうか。
戦う相手を求め、再び果てしない放浪の旅が始まる。
おしまい
人間を見なくなってもうどれくらい経つだろう。
世界が放射能で満たされて100年は過ぎた。
最初の20年くらいは人間たちも何かやっていたようだが、そのうち諦めたのか死滅したのか
姿を見なくなった。
地上に最早かつての面影はなく、巨大なビル群が文明の墓標のように立ち並ぶのみだ。
一部の獣は環境に適応し、ミュータント化しながらも生き延びているが。
……まあ、いずれも俺たちバーサーカーには大して興味のないことだ。
戦 い 続 け る よ う で す
2.
その女は手練れだった。
まったくもって手練れだった。
('A`)(驚いたな。まだここまで動けるバーサーカーがいたとは)
施設も技術者もいない否、メンテナンスは自分自身でやるしかないのだが、それには限界がある。
あの女は最小限の手間で自分のバックアップができるタイプなのだろうか?
俺はそんな事を考えながら弾丸並みの速度で中空を飛んでいた。
自分の意思でそうしてるならいいが、俺のような旧式に飛行能力はない。
(;'A`)「うおっ!!」
やがて背中から廃ビルの屋上近い階層に突っ込んだ。
コンクリの壁をぶち抜き、鉄筋をへし折って。
どごん!
3.
突っ込んで10mも進んだだろうか。
デスクやら自動販売機やら色んなものにぶつかってようやく勢いが死んだ。
埋もれた自らの体を掘り起こし、立ち上がる。
('A`)(強いな。どう迎え撃ったもんか……)
大戦以前は立派な商社ビルだったのだろうが、今や朽ち果てて見る影もない。
俺がお邪魔する前から開いていた天井の大穴から空が見えた。
('A`)「……」
人類が滅びてひとつだけ良かったと感じることがある。
空が綺麗になったことだ。
その空に点が一つ生まれて、みるみる大きくなっていった。
紙に落とした一粒のインクが、にじんで広がってゆくように。
4.
体にぴったりした黒いドレスみたいなスーツに身を包んだその女は、それまでと同じように
まったく無遠慮に俺に攻撃を加えて来た。
落下の運動エネルギーを利用し、手にした物干し竿みたいな武器を叩きつけて来る。
('A`)「うおっと!」
竿を食らったフロアが陶器の皿みたいに割れた。
土埃を吹き上げながら、俺たち二人は一階層下へと落ちてゆく。
着地は俺の方が少しだけ早い。
('A`)(仕掛けるか)
奴が着地するまであと0.00数秒。
間合いを詰めるには十分すぎる時間だ。
体内のブースター・コアが唸りを上げ、電磁加速が始まる。
5.
埃を切り裂き、奴との間合いが手が届くくらいまで狭まった。
まずは脇腹への左のボディブロー。
女は竿の中ほどを使って弾きつつ、着地と同時に床を蹴って下がる。
竿はこの間合いでは振り回せないからだ。
もちろん俺は追いすがる。
左腕を引くと同時、振り子の要領で右のストレートを突き出した。
川 ゚ -゚)「!」
竿を軽く半回転させつつこれをいなす。
俺の腕を絡めつつ奴は右足を持ち上げた。
右足にノイズが走って消えたようにしか見えなかったが、それは次の瞬間俺の横顔に噛み付いていた。
顔を蹴り抜かれた俺は、勢い余ってぐるりと相手に背を向ける形になった。
('A`)(強烈だな。痛覚が残っていたらどんな風に感じていただろう?)
6.
敵に背を向けるというのは無様な格好だが、俺は背中に目がついている。
比喩ではなくうなじのあたりにカメラアイが増設されているのだ。
奴がそのレンズに映っている。
床でバレリーナみたいにもう一回転し、俺にローリングソバットを放ってきた。
('A`)(棒切れの間合いを潰せば大したことないな)
相手にケツを向けたまま左に体を泳がせてかわすと、俺は背中越しに肘打ちを放った。
文明崩壊前に見た映画で、ブルース・リーとかいう俳優がやってた技だ。
川 ゚ -゚)「ごふっ」
('A`)「!!」
肘は確かに奴の折れそうなくらい細い胴に突き刺さったが、背骨を中心とする線、真芯は外された。
女が食らう瞬間に身をよじったのだ。
7.
女は両腕を俺の体に巻きつけた。
すぐに足の裏から床の感触が消えて上下感覚が消失する。
俺の頭の中に入ってるバランサーが天地を見つけるよりも早く、俺は床に叩き付けられていた。
これは確かジャーマン・スープレックスとか言う技じゃないか?
('A`)「……どこで習った?」
川 ゚ -゚)「人間だった頃、プロレスが好きだった」
女は跳ね起き、地面に大の字になった俺の胸板に竿の先端を軽く押し当てた。
ブーンという虫の羽音みたいなのが竿からする。
('A`)「!!」
これはブースター・コアのチャージ音だ。
竿から放たれた衝撃波が俺の体に降ってきた。
8.
でっかい掌に叩き付けられた気分だった。
まるでハエの死に際だ。
('A`)(強い……!! 並みのバーサーカーじゃないな)
衝撃に俺の体はフロアの床を突き抜けた。
その下の階層も、その下の下も。
鉄筋コンクリートがまるでダンボールだ。
絶え間なくどごんどごんという重たい衝撃音が続き、どれくらいかしてからようやく止まった。
('A`)「くそっ」
俺だってやられてばっかりじゃあない。
ここは高層ビルの真ん中あたりか。
奴は今屋上近くにいる。
9.
腰のホルスターから虎の子の熱線銃を抜いて引き金を引き、銃口から放たれた青白いラインで
自分の周囲360度をぐるっと切断する。
小型なので威力は大したことないが、それでもビルを真っ二つに折るくらいはできる。
奴のボディは俺ほど頑丈じゃない。
これで多少ダメージを与えられるといいんだが。
('A`)(ん……?)
ビルの上半分がうまく崩れ落ちるよう、断面が斜めになるように切っておいた。
地震のような激しい震動があって、俺のいる階層の天井が浮き上がる。
('A`)(奴の反応がこっちに来る)
二つに折れて地面へと落ちゆくビルの上半分に、人影が現れた。
奴だ。
10.
女はとんでもない行動に出た。
落ちゆく上半分のビルから飛び出すと、その外壁を滑るように駆け降りて来たのだ。
細かい破片はものともせず、大きなものは竿でぶっ飛ばしながら。
川 ゚ー゚)
笑ってやがる。
奴は切断された部分をジャンプで飛び越し、野球のバットの要領でぼんやり突っ立っていた俺の
胴体をぶん殴った。
やれやれ。
また空中遊泳か。
アスファルトに激突するまでにはかなりあったので、俺はその間に改めて作戦を立てた。
('A`)(ボディの強度には俺の方にアドバンテージがあるが、さすがにこれじゃ持たないな。
捨て身で間合いを潰せるのはあと二回……いや、一回ってとこだろう)
11.
長いフライトが終わり、俺は道路に激突した。
何度かバウンドし、地球に落ちた隕石のように長いクレーターを作りながら。
自分の体で作った穴から這い出し、体中の泥やアスファルトを振るい落とす。
川 ゚ -゚)「よっと」
女がビルから飛び降りてきた。
着地の衝撃でアスファルトがへこむ音があって、それから奴が不満げな声を出す。
川 ゚ -゚)「頑丈な奴だな。うんざりする」
('A`)「俺の唯一の自慢でね」
川 ゚ -゚)「いいさ。充実した時間が過ごせるから」
('A`)「違いない」
バーサーカーにとって戦いは癒しであり、救済だ。
12.
俺が身構えると、奴はそれに答えた。
竿が唸りを上げて襲いかかってくる。
俺の頭部に納まっている、文明崩壊間際ですら最新とは呼べなかった頭脳が、処理を開始する。
運動エネルギー攻撃。
入射角91.755度。
速度毎秒144.432km。
着撃まであと0.003秒。
竿の素材は単分子並びにナノポリマーの複合体。
電磁加速機構搭載。
('A`)「うおっ」
唐竹割りの一撃を後ろに下がってかわす。
13.
続いて怒涛のように押し寄せる攻撃に、俺はなす術もなく守りに徹した。
完全に奴の間合いだ。
反撃しようにも手の出しようがない。
川 ゚ー゚)
奴は余裕を見せている。
('A`)「……なるほどな」
俺は理解した。
プロレス技を使ったりした時からちょっと疑問に感じていたのだが、こいつには“前世の記憶”が
たっぷり残っているらしい。
俺は電子頭脳に乗り換える時に大半を切り捨てちまったからな。
ホルスターに手を伸ばす。
14.
熱線銃の熱線を横一文字に薙ぐ。
奴は難無く跳ねてかわし、力任せに俺の脳天に竿を振り下ろした。
俺は両腕を頭上でクロスさせて受け止める。
この程度で衝撃を相殺できるわけがないと知りつつも。
ズドン。
('A`)「!!」
一瞬だけ重力が100倍になったかのような衝撃が体の芯を駆け抜ける。
地面に膝をついた俺の顔面に、竿の先端が突き付けられた。
川 ゚ -゚)「あんたの負け」
電磁加速機構のチャージ音がする。
顔面を吹っ飛ばそうってのか。
悪趣味な女だ
15.
だが奴は気づいていなかった。
俺が熱線銃で焼き切ろうとしたのは奴そのものじゃない。
川 ゚ -゚)「!!」
女の背後にあったペンシルビルが真っ二つに折れて、こっちに降ってくる。
川;゚ -゚)「くっ……」
かわそうと横へ跳ねた奴に俺は追いすがった。
着地してすぐに俺へカウンターの一撃を放つ。
だが苦し紛れだ。
着地の衝撃を吸収している最中に全力の一撃は使えない。
脇腹を叩く竿を左腕で抱え込むと、俺はジェネレーターからありったけの電力を絞り出した。
('A`)「おおあああああ!!!」
16.
ごきんという重くて硬い音がした。
女が驚愕に表情を凍らせる。
俺は右拳をその胴体へ叩き込む。
この一撃は今度こそ真芯を直撃し、鉄板と生肉を同時に打ち抜いたような音がした。
川 ゚ -゚)「……」
拳は相手の胴体を貫通して背中から突き出していた。
手応えからしても確実に背骨を砕いている。
川 ゚ -゚)「がほっ」
バーサーカーの血は人間の血ほど赤くない。
ピンクに近い薄い色だ。
それが奴の口と腹の傷から噴水のように噴き出した。
17.
脇に抱えた折れた竿を捨て、自由にした左手で拳を作る。
奴の頭を叩き潰すために。
川 ゚ -゚)「なあ」
もはや自分の足で立つことすらできない女は、腹に突き刺さった俺の腕にもたれかかるような
形になっていた。
('A`)「?」
川 ゚ -゚)「バーサーカーにもあの世はあると思うか?
人間であることを止めていたとしても、そこへ行けると思うか?」
('A`)「……」
俺の答えは明快だった。
自分でも嫌になるくらい。
18.
('A`)「あの世なんかない。
人間もバーサーカーも、メモリが破壊されてデータが吹っ飛べば再生が不可能になるだけだ」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「消えるんだ。消えてなくなるだけなんだよ」
川 ゚ー゚)
女は笑い、眼を閉じた。
眼のふちにたまった血が涙のように頬を伝っている。
川 ー)「それが私たちの宿業か……でも、嘘でもいいから『ある』って言って欲しかったな」
俺はもう何も答えなかった。
拳を相手の頭に叩き込む。
ポリマー製の頭蓋骨を砕くのは骨が折れたが(下らないジョークだ)、20発もぶち込む頃には
女の頭は壁に叩き付けたトマトみたいに潰れた。
19.
大戦勃発時、移民だった俺たちは市民権を得る為
志願兵となった。
その末路が全身を機械化された人間、バーサーカーというわけだ。
俺たちの存在目的は戦うことだけだった。
だから核の使用後に戦う相手がいなくなった時、当然のように仲間割れが始まった。
技術者たちは俺たちのコントロールが利かないことにあわてふためいた。
その時はまだ人間の精神をデジタル化すると予想外のバグが発生することがわかっていなかったんだ。
('A`)(次の相手を探さないとな)
戦いが俺たちの癒しだ。
戦いが俺たちの存在する理由だ。
戦う相手がいなければ俺たちは存在する意味がなくなる。
それが恐ろしいから俺たちは戦うんだ。
20.
まるでパラドックスだな。
戦えば相手は死ぬ。
相手が死ねば戦う相手はいなくなる。
存在する理由を果たそうとすればするほど、その理由がなくなるんだ。
('A`)「よし」
俺は旅立つ前に女を葬った。
適当な空き地に穴を掘って骸を埋め、墓標替わりにあいつの得物だった竿を刺してやった。
こんなマネするのも人間の時のなごりだな。
('A`)(バーサーカーはあと何人残っているのだろう)
俺は俺が死ぬか、この世で唯一のバーサーカーになるまで戦い続けるのだろうか。
戦う相手を求め、再び果てしない放浪の旅が始まる。
おしまい
スポンサーサイト
