コーヒーとミルクのようです
お題は「コーヒー」「ミルク」だったかな。
自分が書いた中では一番短い。
自分が書いた中では一番短い。
1.
コーヒーにミルクを入れると苦味・酸味が薄れて味がマイルドになる。
じゃあコーヒーにどんどんミルクを入れていったらどうなる?
カップが一杯になったならビールジョッキに移して、それでもっともっとミルクを注ぎまくる。
そうすりゃコーヒーの味は薄れ続け、やがてはミルクの味しかしなくなる。
だがそれはコーヒーが消えてなくなったわけじゃない。
たとえ太平洋一杯分のミルクを注いだって無限に薄くなり続けるだけで、
絶対になくなりゃあしないんだ。
コ ー ヒ ー と ミ ル ク の よ う で す
2.
ちょっとした問題を起こした俺は一週間も自宅謹慎を食らっていた。
この一週間ってのは警察が長年の経験から導き出した、人の興味の対象が薄れるのに丁度いい時間だ。
七日も経てばどっかで誰かが俺の事件など些細と思えるようなことをしでかすさ。
アパートの窓辺に腰掛けて俺は街を眺めていた。
雨に陰る大通りでは、まるで誰もが明日がないかのような顔で帰り道を急いでいる。
インターホンのチャイムが鳴った。
∧∧
(,,゚Д゚)「ドクオ、俺だ」
('A`)「ああ」
同僚のギコがスーパーの袋を抱えてドアの前に立っていた。
∧∧
(,,゚Д゚)「フーッ! 金玉が縮み上がるような寒さだ」
('A`)「悪いな。こんな日に」
∧∧
(,,゚Д゚)「気にするな。相棒だろ?」
3.
どこにマスコミが潜んでいるかわからないからと、ギコは買い物に行くと言い出した。
コンビを組んでもうずいぶん経つがやっぱりこいつはいい奴だ。
('A`)「缶詰ばっかりじゃねえか。俺チリビーンズ嫌いなんだよ」
∧∧
(,,゚Д゚)「文句言わず食え。タコスにするとうまいんだぜ」
タコスの皮まで買って来てやがる。
やれやれ。今日だけはメキシコ人に感謝するか。
俺たちは向かい合ってテーブルについた。
付けっぱなしのテレビは頭のイカレたオウムみたいに同じニュースを繰り返しわめいている。
('A`)「…」
∧∧
(,,゚Д゚)「消せよ」
('A`)「ああ」
4.
∧∧
(,,゚Д゚)「まだ気にしてるか?」
('A`)「まあな」
∧∧
(,,゚Д゚)「あの状況じゃ俺だって撃ってた」
('A`)「ああ」
∧∧
(,,゚Д゚)「何かあったら俺かセラピストに電話しろよ。じゃあな」
('A`)「色々悪いな。助かった」
∧∧
(,,゚Д゚)「ただし、これでポーカーの貸しはチャラだぜ」
('A`)「やられた、畜生!」
俺は笑った。
まるで10年ぶりくらいに笑ったような気分だった。
ギコが部屋を出ると部屋の温度がとたんに下がった気がした。
相変わらず雨は降り続けている。
5.
ことの起こりは一週間ほど前のこと。
ある事件を追っていた俺たちは辛抱強く周辺住民からの聞き込みを繰り返していた。
そうだ…あの日は今日みたいに冷たい雨が降り注いでいた。
骨にしみこんでくるような冷たい雨だ。
その日に限って俺とギコはバラバラに動いていた。
('A`)「ん?」
大通りから少し反れた狭い道に、男が一人立っている。
いや、男じゃない。少年とかガキとか呼ばれる類のもんだ。
フードを被り壁に寄りかかるような姿勢だが、誰かを待ってるって様子じゃない。
ピンと来た。
刑事のカンってやつだ。
俺は何気ないふうを装ってそいつに近づいてゆく。
6.
('A`)「おい」
从 ゚∀从「何だよ?」
奴がこっちを向く。
フードを目深にかぶっているので詳しい年齢とかは良くわからない。
('A`)「ここで何してる?」
从 ゚∀从「別に…」
('A`)「ポケットの中の物を出せ」
从 ゚∀从「は? 何だテメエ、何の権利があってそんなこと…」
警察手帳をかざすと相手の顔色が急変した。
こんな状況でなかったら噴き出すくらいの変わりようだ。
('A`)「手間をかけるな、いい子にしろ」
7.
そのガキはゼンマイじかけのオモチャみたいに駆け出した。
やっぱりヘロインの売人か!
('A`)「止まれ!」
くそ! こっちはもう体育の授業はないんだぞ。
息を切らせて相手を追い、裏路地に入る。
ヨタヨタのジャンキーかと思いきやとんでもない速さだ。
まともに学校に行ってるならフットボール部のエースになれるぞ。
いくらか追いかけっこをした後、俺を先導するガキは十字路に差し掛かった。
('A`)(右に曲がれ…右だ、右だ…)
俺の念が通じたのか、奴はその道を右に折れた。
あっちは行き止まりになっている筈だ。マヌケめ。
8.
フェンスで塞がれた行き止まりで奴は立ち往生していた。
ここいらのフェンスは防犯上、網目が小さくて足をかけられないようになっている。
('A`)「よし、そこまでだ」
銃を抜いて相手の脳天に照準を合わす。
経験上、売人は大人よりガキの方がはるかに危険だ。
ギャングスター系の腐れラッパーの影響だろうが、刑事を撃てばヒーローになれると
勘違いしてる奴ってのは想像以上に多い。
('A`)「両手を頭の上に置いてひざまずけ!」
从 ゚∀从「畜生…」
俺はこの時、自分の失敗に気付いていなかった。
気付いていればこの後に起こることが後に悪夢になって俺を苦しめ続けることもなかっただろう。
9.
俺は銃を置いて説得すべきだったんだ。
今お前は人生をメチャクチャにしようとしている。
他でもないお前自身の手によって。
やり直せる。
俺に任せろ。
そんな単語が口から出るほど俺は人間が出来ちゃいなかった。
从 ゚∀从「くっ…」
('A`)「やめろ!!」
ガキの手が懐に入る。
その日ばかりは俺は射撃チャンピオンだった。
立て続けに放った二発の銃弾は、奴の脳みそと心臓の風通しをすっかり良くしてしまった。
10.
撃つしかなかった。
誰だって撃っていた。
俺はあれからずっと自分にそう言い聞かせている。
ケータイを取り出し、倒れたガキに銃口を合わせたままゆっくり近づいてゆく。
奴が自分の身を守るため懐から出そうとした銃は、結局奴自身の命を奪った。
足でその銃を蹴飛ばして手から離す。
('A`)「ドクオだ。クスリの売人を追ったんだが、撃っちまった。すぐ救急車を。場所は…」
救急車を読んでどうする?
真っ赤な布をかけてワン、ツー、スリーでこのガキがよみがえるのか?
('A`)「くそ…何で言う通りにしかなった…」
ガキのフードがめくれ上がっていた。
11.
驚いたね。まだ13歳かそこらってことより、こいつが女だったって事に。
死に顔は綺麗なもんだった。まともに育ってりゃ女優になれただろうに。
銃を出そうとした時に一緒にこぼれたヘロインの包みが周囲に散乱していた。
('A`)「畜生」
ぎゅっと眼を閉じる。
「安心しろよ、これは現実じゃない。さあ、そろそろ眼を覚まさないと遅刻するぞ」
誰かがそう言ってくれると信じて。
救急車が来て、乗務員が手遅れだと言い、制服警官が駆けつけ、ギコに励まされ、マスコミに
糾弾され、署長に謹慎を告げられて、それからたった今も俺は目が覚めるのを待っている。
夢だろ?
そうに違いない。
誰かそう言ってくれ。
12.
言い訳は自分にも他人にもうんざりするくらいした。
だが罪の意識ってのはコーヒーとミルクの関係だ。
俺が何年後に死ぬのかはわからないが、今日の晩飯だとか謹慎が解けた後の仕事だとか
そういう日常の記憶がどんどん俺の中に積み重なる。
それはあの日ガキを撃ち殺した記憶を薄めてはくれるだろう。
だが決して消えない。
絶対になくなりゃあしないんだ。
例え太平洋一杯分の記憶が、俺の中に流れ込んだとしても。
おしまい
コーヒーにミルクを入れると苦味・酸味が薄れて味がマイルドになる。
じゃあコーヒーにどんどんミルクを入れていったらどうなる?
カップが一杯になったならビールジョッキに移して、それでもっともっとミルクを注ぎまくる。
そうすりゃコーヒーの味は薄れ続け、やがてはミルクの味しかしなくなる。
だがそれはコーヒーが消えてなくなったわけじゃない。
たとえ太平洋一杯分のミルクを注いだって無限に薄くなり続けるだけで、
絶対になくなりゃあしないんだ。
コ ー ヒ ー と ミ ル ク の よ う で す
2.
ちょっとした問題を起こした俺は一週間も自宅謹慎を食らっていた。
この一週間ってのは警察が長年の経験から導き出した、人の興味の対象が薄れるのに丁度いい時間だ。
七日も経てばどっかで誰かが俺の事件など些細と思えるようなことをしでかすさ。
アパートの窓辺に腰掛けて俺は街を眺めていた。
雨に陰る大通りでは、まるで誰もが明日がないかのような顔で帰り道を急いでいる。
インターホンのチャイムが鳴った。
∧∧
(,,゚Д゚)「ドクオ、俺だ」
('A`)「ああ」
同僚のギコがスーパーの袋を抱えてドアの前に立っていた。
∧∧
(,,゚Д゚)「フーッ! 金玉が縮み上がるような寒さだ」
('A`)「悪いな。こんな日に」
∧∧
(,,゚Д゚)「気にするな。相棒だろ?」
3.
どこにマスコミが潜んでいるかわからないからと、ギコは買い物に行くと言い出した。
コンビを組んでもうずいぶん経つがやっぱりこいつはいい奴だ。
('A`)「缶詰ばっかりじゃねえか。俺チリビーンズ嫌いなんだよ」
∧∧
(,,゚Д゚)「文句言わず食え。タコスにするとうまいんだぜ」
タコスの皮まで買って来てやがる。
やれやれ。今日だけはメキシコ人に感謝するか。
俺たちは向かい合ってテーブルについた。
付けっぱなしのテレビは頭のイカレたオウムみたいに同じニュースを繰り返しわめいている。
('A`)「…」
∧∧
(,,゚Д゚)「消せよ」
('A`)「ああ」
4.
∧∧
(,,゚Д゚)「まだ気にしてるか?」
('A`)「まあな」
∧∧
(,,゚Д゚)「あの状況じゃ俺だって撃ってた」
('A`)「ああ」
∧∧
(,,゚Д゚)「何かあったら俺かセラピストに電話しろよ。じゃあな」
('A`)「色々悪いな。助かった」
∧∧
(,,゚Д゚)「ただし、これでポーカーの貸しはチャラだぜ」
('A`)「やられた、畜生!」
俺は笑った。
まるで10年ぶりくらいに笑ったような気分だった。
ギコが部屋を出ると部屋の温度がとたんに下がった気がした。
相変わらず雨は降り続けている。
5.
ことの起こりは一週間ほど前のこと。
ある事件を追っていた俺たちは辛抱強く周辺住民からの聞き込みを繰り返していた。
そうだ…あの日は今日みたいに冷たい雨が降り注いでいた。
骨にしみこんでくるような冷たい雨だ。
その日に限って俺とギコはバラバラに動いていた。
('A`)「ん?」
大通りから少し反れた狭い道に、男が一人立っている。
いや、男じゃない。少年とかガキとか呼ばれる類のもんだ。
フードを被り壁に寄りかかるような姿勢だが、誰かを待ってるって様子じゃない。
ピンと来た。
刑事のカンってやつだ。
俺は何気ないふうを装ってそいつに近づいてゆく。
6.
('A`)「おい」
从 ゚∀从「何だよ?」
奴がこっちを向く。
フードを目深にかぶっているので詳しい年齢とかは良くわからない。
('A`)「ここで何してる?」
从 ゚∀从「別に…」
('A`)「ポケットの中の物を出せ」
从 ゚∀从「は? 何だテメエ、何の権利があってそんなこと…」
警察手帳をかざすと相手の顔色が急変した。
こんな状況でなかったら噴き出すくらいの変わりようだ。
('A`)「手間をかけるな、いい子にしろ」
7.
そのガキはゼンマイじかけのオモチャみたいに駆け出した。
やっぱりヘロインの売人か!
('A`)「止まれ!」
くそ! こっちはもう体育の授業はないんだぞ。
息を切らせて相手を追い、裏路地に入る。
ヨタヨタのジャンキーかと思いきやとんでもない速さだ。
まともに学校に行ってるならフットボール部のエースになれるぞ。
いくらか追いかけっこをした後、俺を先導するガキは十字路に差し掛かった。
('A`)(右に曲がれ…右だ、右だ…)
俺の念が通じたのか、奴はその道を右に折れた。
あっちは行き止まりになっている筈だ。マヌケめ。
8.
フェンスで塞がれた行き止まりで奴は立ち往生していた。
ここいらのフェンスは防犯上、網目が小さくて足をかけられないようになっている。
('A`)「よし、そこまでだ」
銃を抜いて相手の脳天に照準を合わす。
経験上、売人は大人よりガキの方がはるかに危険だ。
ギャングスター系の腐れラッパーの影響だろうが、刑事を撃てばヒーローになれると
勘違いしてる奴ってのは想像以上に多い。
('A`)「両手を頭の上に置いてひざまずけ!」
从 ゚∀从「畜生…」
俺はこの時、自分の失敗に気付いていなかった。
気付いていればこの後に起こることが後に悪夢になって俺を苦しめ続けることもなかっただろう。
9.
俺は銃を置いて説得すべきだったんだ。
今お前は人生をメチャクチャにしようとしている。
他でもないお前自身の手によって。
やり直せる。
俺に任せろ。
そんな単語が口から出るほど俺は人間が出来ちゃいなかった。
从 ゚∀从「くっ…」
('A`)「やめろ!!」
ガキの手が懐に入る。
その日ばかりは俺は射撃チャンピオンだった。
立て続けに放った二発の銃弾は、奴の脳みそと心臓の風通しをすっかり良くしてしまった。
10.
撃つしかなかった。
誰だって撃っていた。
俺はあれからずっと自分にそう言い聞かせている。
ケータイを取り出し、倒れたガキに銃口を合わせたままゆっくり近づいてゆく。
奴が自分の身を守るため懐から出そうとした銃は、結局奴自身の命を奪った。
足でその銃を蹴飛ばして手から離す。
('A`)「ドクオだ。クスリの売人を追ったんだが、撃っちまった。すぐ救急車を。場所は…」
救急車を読んでどうする?
真っ赤な布をかけてワン、ツー、スリーでこのガキがよみがえるのか?
('A`)「くそ…何で言う通りにしかなった…」
ガキのフードがめくれ上がっていた。
11.
驚いたね。まだ13歳かそこらってことより、こいつが女だったって事に。
死に顔は綺麗なもんだった。まともに育ってりゃ女優になれただろうに。
銃を出そうとした時に一緒にこぼれたヘロインの包みが周囲に散乱していた。
('A`)「畜生」
ぎゅっと眼を閉じる。
「安心しろよ、これは現実じゃない。さあ、そろそろ眼を覚まさないと遅刻するぞ」
誰かがそう言ってくれると信じて。
救急車が来て、乗務員が手遅れだと言い、制服警官が駆けつけ、ギコに励まされ、マスコミに
糾弾され、署長に謹慎を告げられて、それからたった今も俺は目が覚めるのを待っている。
夢だろ?
そうに違いない。
誰かそう言ってくれ。
12.
言い訳は自分にも他人にもうんざりするくらいした。
だが罪の意識ってのはコーヒーとミルクの関係だ。
俺が何年後に死ぬのかはわからないが、今日の晩飯だとか謹慎が解けた後の仕事だとか
そういう日常の記憶がどんどん俺の中に積み重なる。
それはあの日ガキを撃ち殺した記憶を薄めてはくれるだろう。
だが決して消えない。
絶対になくなりゃあしないんだ。
例え太平洋一杯分の記憶が、俺の中に流れ込んだとしても。
おしまい
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