(U'A`)ヒート・オブ・ザ・ソウルのようです 第三話
このへんも『はてしない物語』の元帝王の町っぽいね。
1.
モララーとクー、ドクオのふたりと一匹は果てしない道のりを歩き続けた。
長年を苦節と共に過ごしてきた者の辛抱強さで、クーは文句ひとつこぼさずモララーについてきた。
コンテナの町を出て二日が過ぎると、郊外を出て再び都会に入った。
( ・∀・)「うわ、でっけえ! やっと近づいて来たなー」
電柱によじ登ったモララーは、遠くに見える城を眺め、感慨深げにつぶやいた。
(U'A`)ヒート・オブ・ザ・ソウルのようです
第三話 君の手
2.
電柱を滑り降りると、下でクーとドクオが待っていた。
クーは壊れた自動販売機の奥を手で探っている。
川 ゚ -゚)「どうだった?」
( ・∀・)「あと三日くらいかかると思う。そっちは?」
川 ゚ -゚)「ダメ、空っぽ」
自販機から手を抜いたクーは不満げに首を振った。
川 ゚ -゚)「水がなくなりそう。もう一日も持たないよ」
(U'A`)「あそこにありそうだが」
ドクオは鼻先を集合住宅の方に向けた。
一部屋何千万円という類の高級マンションで、比較的きれいなままだ。
( ・∀・)「行ってみよっか」
3.
川 ゚ -゚)「わたしは反対だな。ああいう狭いとこは逃げ場がないから避けろって父さんが言ってたし」
( ・∀・)「大丈夫、僕がついてるさ」
モララーがそちらに向かうと、クーも仕方なく同意した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
途中、大通りに面したビル群に、巨大なペイントアートが描かれているのを見かけた。
通りの端から端までを使い、絵巻のように何かの物語を成している。
( ・∀・)「これは……?」
川 ゚ -゚)「王のお話だよ。誰が描いたのかな」
( ・∀・)「お話?」
(U'A`)「ちょうどいい機会だ、話してやる」
ドクオはふたりを先導し、ビルの前をゆっくりと歩きながら順を追って語り始めた。
4.
最初の絵は見慣れない衣服を身につけた男たちが、光の中から小箱を取り出しているシーンだった。
(U'A`)「遠い昔、まだ神と人との境目が曖昧だった時代、時の神官たちは自らの繁栄を盤石なものにするべく、願望機……
つまり、例の何でも願いが叶う箱を作り出した。
それは空前絶後の超文明をもたらしはしたが、やがて彼らは自らの欲望のために願望機を使うようになり、結局は自滅した」
次のシーンではゴミ捨て場のような場所に、みすぼらしい格好の男が屈み込み、箱を拾い上げている。
(U'A`)「箱は果てしない年月の中で次々に持ち主を変え、紆余曲折を経てとある男の手に渡った。
彼は貧しく、みにくい姿をしていた。
両親を含めた誰もが彼の姿と愚鈍さを軽蔑し、嫌っていた」
男が手にした箱から、光とともに様々なものが飛び出す。
宝石、金、美女、車、武器とブージャム・ドールの兵隊たち。
5.
(U'A`)「当然ながら、男は自らの願いを片っ端から叶え始めた。
最初はせいぜい金や、美貌を手にするという程度だった。
巨万の富を得、家来を従え、毎週のように自分の顔を変えるっていうようにな。
だが彼は徐々にそのねじくれた本性を現し始めた。
この箱を持つ自分が世界の頂点に立つのが当然だと考えたのだ」
次のシーンでは、王様の格好をして王冠をかぶった男が、女性を前に箱を掲げている。
(U'A`)「世界の王となった彼はかつて恋した女性を振り向かせようと、ありとあらゆる贈り物をした。
だが彼女が心を開くことはなかった。男の腐った本性に気付いていたからだ。
王は激怒した」
世界各国の都市に侵攻するブージャム・ドールとヴォイドたち。
6.
(U'A`)「王は女が思い通りにならない鬱屈を紛らわすかのように、残虐な行為に取り憑かれるようになった。
慰みに戦争を始めて遠くの国を滅ぼし、人々を思うがままに拷問し、処刑した。
女は耐えきれず、とうとう一身を捧げると誓ったが、王の心が満たされることはなかった」
荒れ果てた町と、がれきの城の上に立つ王の姿で、この一連の物語は終幕となっている。
(U'A`)「文明はたった一人の男によって滅ぼされ、この世界に残されたのはヴォイドとブージャム・ドールだけとなった。
今となっては王とその女がどうなったのか知る者はいない」
( ・∀・)「お前、何でそんなに詳しいんだ?」
川 ゚ -゚)「わたしは戦後生まれだけど、みんな知ってることだよ。語り継がれてきた有名な話だし。
これがみんなここ数十年間のこと」
クーが付け足した。
7.
川 ゚ -゚)「王は世界地図にダーツを投げて、刺さった場所に十日間の猶予を与えて、それからブージャム・ドールを引き連れて
攻め込んでたんだって。
暇つぶしという以外に、何の意味もなしに」
モララーは絵の中の王を凝視した。
背が低く、くせっ毛で、潰れた鼻をしている。
いかにもコンプレックスの塊で偏屈といったふうだ。
( ・∀・)「何でも願いが叶うようになったら、みんなこうなっちゃうのかな」
(U'A`)「人間なんてそんなもんだ。天井知らずで底なし沼ってやつさ」
( ・∀・)「僕はそんなことしないよ。今でもけっこう満足だしさ」
歩きながら、ふとクーが言った。
川 ゚ -゚)「モララーはその何とかって言う女の子のこと、どのくらい憶えてるの?」
8.
( ・∀・)「それが全然。こないだ話したことでほとんど全部なんだ。
日暮れの見晴台で柵に座ってたことと、あと、手がきれいだったってことだけ。
不思議だよね、顔はまったく思い出せないのにさ」
川 ゚ -゚)「……ふーん」
( ・∀・)「何でだろうな。彼女が僕の顔に触れたとき、すごく嬉しかった」
川 ゚ -゚)「恋人だったとか?」
( ・∀・)「わかんない。けど大事な人だったとは思う」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マンションについた。
エントランスの案内板によると一階層につき四世帯、十二階建てとのことだった。
オートロックは開かれたままで、奥に警備員の詰め所がある。
( ・∀・)「お邪魔しますよっと」
9.
ヴォイドは見あたらず、床にそのしるしもなかった。
一階はエントランスと駐車場で、住居は二階からになっている。
ふたりは非常階段を上がり、最初に目に付いたドアをこじ開けて中に入った。
川 ゚ -゚)「……?」
モララーに続いて中に入ろうとしたクーがふと振り返った。
( ・∀・)「どうかした?」
川 ゚ -゚)「ううん、何でもない」
クーは台所に行き、モララーはクローゼットに衣料を探しに行った。
歩き詰めで靴がぼろぼろに擦り切れていたので、そろそろ新しいのが必要だった。
( ・∀・)「おお、これアルマーニじゃない?!」
(U'A`)「何しに来たんだ、お前?」
10.
( ・∀・)「まあまあ、たまにはいいじゃんか。すごいな、この靴。鮫皮だよ!」
さっそく今の服を脱ぎ捨て、着込んでみた。
サイズはぴったりだった。ロレックスもあったのでそれを付け、姿見の前で気取ってみる。
(*・∀・)「おお、イケメン! どうよ、ジョニー・デップみたいじゃね?」
(U'A`)「……」
( ・∀・)「いや、マフィア映画のロバート・デ・ニーロのようなシブさも持ち合わせているな、これは」
(U'A`)「ああ、今のお前ならヴォイドも一発でホレちまうだろうよ」
呆れたドクオは投げやりに言ったが、モララーは気にした様子もなく、ニヤニヤしている。
色んなポーズを取ったり、ネクタイの色を変えてみたり。
川 ゚ -゚)「水はないな、ブランデーがあったけど……何やってんの?」
( ・∀・)「かっこいいだろ?」
11.
きっとドキッとするに違いないと思っていたが、クーは呆れた顔をしただけだった。
川 ゚ -゚)「ああ……うん」
( ・∀・)「ドレスもあったよ、ほら」
モララーはベッドに投げ出した青いイブニングドレスを彼女に差し出した。
彼女はいぶかしげにドレスとモララー、両方を交互に見た。
川 ゚ -゚)「どうしろっての?」
( ・∀・)「きっと君に似合うと思って」
川;゚ -゚)「よしてよ」
( ・∀・)「そんなこと言わずにさ、ほら、出てるから」
川 ゚ -゚)「あ……ちょっと!」
モララーは彼女にドレスを押しつけ、部屋を出た。
ドアに背をもたれかけさせながら、モララーはドクオにニヤついた。
12.
(*・∀・)「彼女、イイよな。あの影があるとこがさー」
(U'A`)「ああ、ヴォイドの巣でパーティごっこしたくなるくらいステキだよ」
( ・∀・)「お前が言ったことだろ、人はパンだけ食って生きてるわけじゃないって。
これも魂の熱量を維持するのに必要なことさ」
(U'A`)「何でも自分に都合よく取りやがって。羨ましくなるくらい脳天気だな、お前」
部屋の中から「いいよ」という声がした。
ワクワクしながら入ると、ドレスを身につけたクーが所在なげに突っ立っていた。
モララーが凝視すると、恥ずかしげに視線をそらす。
川 ゚ -゚)「……」
(*・∀・)「似合うよ! すっごくきれいだ」
川;゚ -゚)「よしてよ、からかわないで」
(*・∀・)「嘘じゃないよ」
13.
モララーは真剣に言った。
真っ白な肌にシルクのドレスが映えている。
川;゚ -゚)「ハイヒールなんか初めて履いた」
( ・∀・)「手袋も付けてみたら?」
川 ゚ -゚)「え?」
( ・∀・)「確かこのへんにさ……あった、これ」
モララーはクローゼットをあさり、肘の上まである手袋を見つけた。
彼女の手を取る。
川 ゚ -゚)「あ……」
火傷と切り傷の跡、それに長年の風雪にさらされて荒れ果てた手だった。
彼女は真っ赤になって手をふりほどき、モララーを部屋の外に押し出した。
14.
川;゚ -゚)「はい、着せかえごっこはおしまい! 出てって!」
( ・∀・)「え、あ、うん」
ばたんとドアが閉じた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お互いに着替え、探索に戻った。
部屋をひとつずつ調べてゆき、四階にまで上がった。
収穫は今のところ高そうなトレーニングシューズに、ブランデー、牡蛎の薫製の缶詰、食塩。
油断なく銃を構えたクーは妙に無口で、どことなく怒っているように見える。
モララーはそっとドクオにささやいた。
( ・∀・)「あの子、なに怒ってんだろ」
(U'A`)「お前はバカなのか?」
(;・∀・)「な……何が?」
15.
(U'A`)「キュートの話をしただろ、彼女に。手がきれいだったって」
モララーは不思議そうに首をひねった。
( ・∀・)「それが?」
(U'A`)(ほんとにバカだなこいつ)
川 ゚ -゚)「モララー」
( ・∀・)「ん!? なに」
ぎょっとして振り返ると、彼女は背後に顎をしゃくった。
川 ゚ -゚)「尾けられてる」
( ・∀・)「え? マジ?」
川 ゚ -゚)「うん、この建物に入ってからずっと。そろそろ切り上げて出たほうがいい」
( ・∀・)「まだ水が見つかってないよ」
川 ゚ -゚)「別のところで探そう」
16.
( ・∀・)「わかった。じゃ、次の部屋で最後にしよう」
彼女は同意し、ふたりと一匹は中に入った。
キッチンに入ってすぐ、ウォータークーラーが目に付いた。
タンクは空っぽだが、戸棚をあさると未開封の予備が見つかった。
十リットルはあるだろう。
(*・∀・)「おお、グレート! これで当分困らないね」
川 ゚ -゚)「よし、出よう」
部屋から出ようと玄関まで行ったとき、突然、ドアを突き破って何かが飛び出してきた。
先端に鋭利な穂先を持つサソリの尻尾のようなものが、モララーの胴に巻き付いた。
( ・∀・)「!?」
すぐにドアごと蝶番を引き千切って引っ込み、廊下を抜けて非常階段へ飛び込んでゆく。
17.
モララーは何が何だかわからないまま引きずられてゆき、最上階に入ると同時に投げ出された。
(;・∀・)「ぐえっ?!」
床を転がり、目が回るのをこらえながら立ち上がって相手と対峙する。
サソリのような姿をしたブージャム・ドールで、先端に穂先のある長い尻尾を持っていた。
( <●><●>)
そのとき、モララーは手の中が空っぽなことに気付いた。
剣をどこかで落としたらしい。
(;・∀・)「くそっ、やべえ!!」
( <●><●>)ゼェー、ゼェー
振り下ろされた尻尾を間一髪でかわす。
穂先がタイルの床をえぐった。
18.
( <●><●>)ゴボッ
( ・∀・)「食らえ!!」
ベルトに差したサバイバルナイフを抜き、隙を突いて相手の顔面に向かって投げつけた。
銀光が閃き、左目に直撃する。
( <●><×>)
しかし相手はまったく怯まず、モララーの体を腕ごと両方のハサミで押さえつけた。
(;・∀・)「ぐぐぐ……」
( <●><×>)
万力のような力で締め上げられ、骨が軋む。
巻き上げられた尻尾の穂先が、モララーの眉間に狙いを定めた。
( ・∀・)(死ぬ……)
19.
体感時間が圧縮され、スローモーションのように見える。
あの子に二度と会えなくなる……
(;・∀・)「ああああ!!」
その瞬間、彼の肉体は限界を超えて稼動した。
両腕でハサミを開くと、逆にそれを掴んで相手の体を振り回し、背後の壁に叩き付けた。
ブージャム・ドールはコンクリートの壁を突き破り、隣の部屋に転がり込んだ。
( <●><×>)「!?」
( ・∀・)「ハァッ、ハァッ」
唖然として自分の両手を見下ろす。
( ・∀・)(何だ、今のパワー……?)
川 ゚ -゚)「モララー!」
20.
やっと追いついたクーとドクオが姿を現した。
クーが槍投げの要領で剣を投げ渡す。
川 ゚ -゚)「受け取れ!」
( ・∀・)「おっしゃあ」
ブージャム・ドールが立ち上がるのと、モララーがキャッチした剣を振るうのがほぼ同時だった。
( <●><×>)「!!」
( ・∀・)「うおおお!」
胴体を一閃する。
しかし相手はとっさにハサミで胴体を守り、それと引き替えに致命傷を避けた。
モララーに体当たりをかける。
( ・∀・)「うわっ」
21.
そのまま彼を吹っ飛ばし、ブージャム・ドールはクーに突進をかけた。
( <●><×>)ゼエゼエ
(;・∀・)「クー!」
川;゚ -゚)「くそっ」
彼女はショットガンで散弾を浴びせた。
一発は相手の肩を吹き飛ばし、もう一発が胴体に手を突っ込めるくらいの大穴を開けた。
しかしそれでも勢いを止められなかった。
川;゚ -゚)「うわああああ!!」
( <●><×>)
(#・∀・)「野郎! その子に近付くんじゃねえ!!」
ブージャム・ドールはクーの首筋に噛みついた。
その口からこぼれる黒い血と、彼女の赤い血が混ざってほとばしる。
22.
川 > -<)「う……」
横に回り込み、モララーはブージャム・ドールの頭を一刀の元に切断した。
すさまじい断末魔を挙げて身をくねらせながら振るった相手の尻尾が、モララーの胴体を貫く。
そのまま壁に叩きつけられ、昆虫標本のように縫い止められた。
( ・∀・)「あ……」
自分の胴体を貫通しているものをぼんやり見下ろした。
全身が痺れ、それから糸が切れたように力が抜けてゆく。
( ∀ )「ごぼっ」
吐き出した血が上着を汚した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
23.
モララーはあの団地にいた。
夕暮れ時で、まだ遊び足りない子供たちの笑い声が公園から聞こえる。
家路につく人々が早足に見晴らし台を通り過ぎてゆく。
( ・∀・)「……ん?!」
モララーはそこに立っていた。
頬がなぜか妙に痛む。
( ・∀・)
見晴らし台の柵のところに少女がひとり、腰かけていた。
夕日を浴びて、短く切りそろえた髪も、鉄柵を掴む真っ白な指も、学校の制服も、みんな赤みを帯びて見える。
( ・∀・)(あの娘は……)
彼女が振り返ったが、夕闇が迫りつつある上、逆光になって顔がよく見えない。
24.
o川* )o「どうしたの?」
( ・∀・)
o川* )o「怪我してるの? 大丈夫……?」
彼女は柵を降り、こちらにやってきた。
ハンカチを取り出し、モララーの頬に押し当てる。
この世の何よりもきれいな手をしていた。
( ・∀・)「君は……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すさまじい苦痛がモララーに覚醒をもたらした。
激しくせき込みながら、あえぎあえぎあたりを見回す。
マンションの廊下だった。
25.
( ・∀・)「夢……?」
(U'A`)「そうでもないと思うがな」
ドクオの声に、自分の胸を見下ろす。
もはやぴくりとも動かないブージャム・ドールの尻尾の穂先が、そこに突き刺さったままだった。
(;・∀・)「くそ……こっちは現実か」
意識を失っても握ったままだった剣を落とし、両手で穂先を掴んだ。
( ∀ )「うぐ、あああ……!!」
あまりの苦痛に再び意識が飛びかけた。
それでもこらえ、一息に引き抜く。
ズブッ!
(;・∀・)「ぐっ……」
26.
そのまま床に倒れた。
苦しいのはほんの一瞬だけで、たちまち苦痛が引いてゆく。
モララーは仰向けになり、呆然と自分の腹に開いた穴を見た。
(;・∀・)「なんだ……?」
みるみるうちに肉が盛り上がり、傷が塞がってゆく。
(;・∀・)「どうなってんだよ、これ!?」
(U'A`)「お前は外傷で死ぬことはない。くたばるのは魂の熱量が失われた時だけだ」
( ・∀・)「何てこった……じゃ、マンティスの時も……?」
何がなんだかわからないという顔をしていたが、そこでやっとクーのことを思い出した。
( ・∀・)「はっ! クーは!?」
立ち上がると、床に伏したクーは苦しげなうなり声を上げていた。
27.
あわてて駆け寄り、抱き起こす。
川 - )「うう……」
(;・∀・)「良かった、生きてる」
(U'A`)「お前が気絶してたのはほんの数秒だ。だがその女が助かるかどうかは微妙なところだな」
( ・∀・)「と、とにかくどっかに寝かせなきゃ」
適当な部屋に入り、ベッドに寝かせて傷の手当てをした。
きれいな水で傷口を洗い流し、消毒液を噴いて包帯を巻く。
川 - )「ゲホッ、ゲエッ!!」
クーが吐き出した胃液には、わずかに黒い血が混じっていた。
( ・∀・)「!!」
(U'A`)「ヴォイドになりかけてる」
28.
( ・∀・)「どうすればいい?!」
(U'A`)「その女は魂の熱量を失いかけてる。手当をして、呼びかけてやるんだな」
彼女はうわ言のように誰かの名を口にしていいた。
川 - )「ショボン……ショボン」
( ・∀・)「弟のことか。大丈夫、きっと生きてるよ」
川 - )「うう……」
( ・∀・)「きっと、きっと生きてるよ……」
モララーは彼女の手を取り、夜を徹して励まし続けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
二日目の朝。
煮沸消毒した包帯を抱えてモララーが部屋に戻ると、クーがベッドで上体を起こしていた。
29.
川 ゚ -゚)「おはよ」
( ・∀・)「クー!!」
(U'A`)「ツイてたな。流れ込んだ黒い血が少なかったのと、弟の存在に助けられたか」
( ・∀・)「まだ寝てたほうがいい」
無理矢理彼女をベッドに押しつけ、毛布をかけてやる。
川 ゚ -゚)「モララー」
( ・∀・)「ん? なに」
川 ゚ -゚)「聞こえてたよ」
彼女はむき出しの手でモララーの手を握り、ほほえんだ。
川 ゚ー゚)「君がずっと励ましてくれてたこと」
(*・∀・)「ああ、いや……」
川 ゚ -゚)「ありがとう」
30.
( ・∀・)「うん……その、僕はさ……その」
川 ゚ -゚)「ん?」
もじもじしながら、ずっと口にしようと思っていたことを言おうとした。
だが彼女の眼を見ていると、喉の奥に引っ込んでしまった。
(;・∀・)「あ、いや。何でもない。さあ、今日は一日休んだほうがいい」
クーは再び眠りに落ちていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
傷そのものは大したことはなく、クーは翌日になるとすぐに元気を取り戻した。
大事を取って更にもう一日休んだ方がいいとモララーは言ったが、彼女は頑として譲らない。
川 ゚ -゚)「弟を助けに行かなきゃ」
( ・∀・)「ん……わかった。でも無理はしないでよ」
31.
川 ゚ -゚)「わかってるよ、もう。すっかり保護者気取りだな」
荷物をまとめ、マンションを出る。
ドクオがイヤな笑みを浮かべた。
(U'∀`)「そいつ、お前の下着を変える時、ずっと目をつぶったままやってたんだぞ」
( //∀//)「やっ……やめろバカ! そ、それを言うな、バカ! バカァア!!」
川////)
つづく……
モララーとクー、ドクオのふたりと一匹は果てしない道のりを歩き続けた。
長年を苦節と共に過ごしてきた者の辛抱強さで、クーは文句ひとつこぼさずモララーについてきた。
コンテナの町を出て二日が過ぎると、郊外を出て再び都会に入った。
( ・∀・)「うわ、でっけえ! やっと近づいて来たなー」
電柱によじ登ったモララーは、遠くに見える城を眺め、感慨深げにつぶやいた。
(U'A`)ヒート・オブ・ザ・ソウルのようです
第三話 君の手
2.
電柱を滑り降りると、下でクーとドクオが待っていた。
クーは壊れた自動販売機の奥を手で探っている。
川 ゚ -゚)「どうだった?」
( ・∀・)「あと三日くらいかかると思う。そっちは?」
川 ゚ -゚)「ダメ、空っぽ」
自販機から手を抜いたクーは不満げに首を振った。
川 ゚ -゚)「水がなくなりそう。もう一日も持たないよ」
(U'A`)「あそこにありそうだが」
ドクオは鼻先を集合住宅の方に向けた。
一部屋何千万円という類の高級マンションで、比較的きれいなままだ。
( ・∀・)「行ってみよっか」
3.
川 ゚ -゚)「わたしは反対だな。ああいう狭いとこは逃げ場がないから避けろって父さんが言ってたし」
( ・∀・)「大丈夫、僕がついてるさ」
モララーがそちらに向かうと、クーも仕方なく同意した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
途中、大通りに面したビル群に、巨大なペイントアートが描かれているのを見かけた。
通りの端から端までを使い、絵巻のように何かの物語を成している。
( ・∀・)「これは……?」
川 ゚ -゚)「王のお話だよ。誰が描いたのかな」
( ・∀・)「お話?」
(U'A`)「ちょうどいい機会だ、話してやる」
ドクオはふたりを先導し、ビルの前をゆっくりと歩きながら順を追って語り始めた。
4.
最初の絵は見慣れない衣服を身につけた男たちが、光の中から小箱を取り出しているシーンだった。
(U'A`)「遠い昔、まだ神と人との境目が曖昧だった時代、時の神官たちは自らの繁栄を盤石なものにするべく、願望機……
つまり、例の何でも願いが叶う箱を作り出した。
それは空前絶後の超文明をもたらしはしたが、やがて彼らは自らの欲望のために願望機を使うようになり、結局は自滅した」
次のシーンではゴミ捨て場のような場所に、みすぼらしい格好の男が屈み込み、箱を拾い上げている。
(U'A`)「箱は果てしない年月の中で次々に持ち主を変え、紆余曲折を経てとある男の手に渡った。
彼は貧しく、みにくい姿をしていた。
両親を含めた誰もが彼の姿と愚鈍さを軽蔑し、嫌っていた」
男が手にした箱から、光とともに様々なものが飛び出す。
宝石、金、美女、車、武器とブージャム・ドールの兵隊たち。
5.
(U'A`)「当然ながら、男は自らの願いを片っ端から叶え始めた。
最初はせいぜい金や、美貌を手にするという程度だった。
巨万の富を得、家来を従え、毎週のように自分の顔を変えるっていうようにな。
だが彼は徐々にそのねじくれた本性を現し始めた。
この箱を持つ自分が世界の頂点に立つのが当然だと考えたのだ」
次のシーンでは、王様の格好をして王冠をかぶった男が、女性を前に箱を掲げている。
(U'A`)「世界の王となった彼はかつて恋した女性を振り向かせようと、ありとあらゆる贈り物をした。
だが彼女が心を開くことはなかった。男の腐った本性に気付いていたからだ。
王は激怒した」
世界各国の都市に侵攻するブージャム・ドールとヴォイドたち。
6.
(U'A`)「王は女が思い通りにならない鬱屈を紛らわすかのように、残虐な行為に取り憑かれるようになった。
慰みに戦争を始めて遠くの国を滅ぼし、人々を思うがままに拷問し、処刑した。
女は耐えきれず、とうとう一身を捧げると誓ったが、王の心が満たされることはなかった」
荒れ果てた町と、がれきの城の上に立つ王の姿で、この一連の物語は終幕となっている。
(U'A`)「文明はたった一人の男によって滅ぼされ、この世界に残されたのはヴォイドとブージャム・ドールだけとなった。
今となっては王とその女がどうなったのか知る者はいない」
( ・∀・)「お前、何でそんなに詳しいんだ?」
川 ゚ -゚)「わたしは戦後生まれだけど、みんな知ってることだよ。語り継がれてきた有名な話だし。
これがみんなここ数十年間のこと」
クーが付け足した。
7.
川 ゚ -゚)「王は世界地図にダーツを投げて、刺さった場所に十日間の猶予を与えて、それからブージャム・ドールを引き連れて
攻め込んでたんだって。
暇つぶしという以外に、何の意味もなしに」
モララーは絵の中の王を凝視した。
背が低く、くせっ毛で、潰れた鼻をしている。
いかにもコンプレックスの塊で偏屈といったふうだ。
( ・∀・)「何でも願いが叶うようになったら、みんなこうなっちゃうのかな」
(U'A`)「人間なんてそんなもんだ。天井知らずで底なし沼ってやつさ」
( ・∀・)「僕はそんなことしないよ。今でもけっこう満足だしさ」
歩きながら、ふとクーが言った。
川 ゚ -゚)「モララーはその何とかって言う女の子のこと、どのくらい憶えてるの?」
8.
( ・∀・)「それが全然。こないだ話したことでほとんど全部なんだ。
日暮れの見晴台で柵に座ってたことと、あと、手がきれいだったってことだけ。
不思議だよね、顔はまったく思い出せないのにさ」
川 ゚ -゚)「……ふーん」
( ・∀・)「何でだろうな。彼女が僕の顔に触れたとき、すごく嬉しかった」
川 ゚ -゚)「恋人だったとか?」
( ・∀・)「わかんない。けど大事な人だったとは思う」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マンションについた。
エントランスの案内板によると一階層につき四世帯、十二階建てとのことだった。
オートロックは開かれたままで、奥に警備員の詰め所がある。
( ・∀・)「お邪魔しますよっと」
9.
ヴォイドは見あたらず、床にそのしるしもなかった。
一階はエントランスと駐車場で、住居は二階からになっている。
ふたりは非常階段を上がり、最初に目に付いたドアをこじ開けて中に入った。
川 ゚ -゚)「……?」
モララーに続いて中に入ろうとしたクーがふと振り返った。
( ・∀・)「どうかした?」
川 ゚ -゚)「ううん、何でもない」
クーは台所に行き、モララーはクローゼットに衣料を探しに行った。
歩き詰めで靴がぼろぼろに擦り切れていたので、そろそろ新しいのが必要だった。
( ・∀・)「おお、これアルマーニじゃない?!」
(U'A`)「何しに来たんだ、お前?」
10.
( ・∀・)「まあまあ、たまにはいいじゃんか。すごいな、この靴。鮫皮だよ!」
さっそく今の服を脱ぎ捨て、着込んでみた。
サイズはぴったりだった。ロレックスもあったのでそれを付け、姿見の前で気取ってみる。
(*・∀・)「おお、イケメン! どうよ、ジョニー・デップみたいじゃね?」
(U'A`)「……」
( ・∀・)「いや、マフィア映画のロバート・デ・ニーロのようなシブさも持ち合わせているな、これは」
(U'A`)「ああ、今のお前ならヴォイドも一発でホレちまうだろうよ」
呆れたドクオは投げやりに言ったが、モララーは気にした様子もなく、ニヤニヤしている。
色んなポーズを取ったり、ネクタイの色を変えてみたり。
川 ゚ -゚)「水はないな、ブランデーがあったけど……何やってんの?」
( ・∀・)「かっこいいだろ?」
11.
きっとドキッとするに違いないと思っていたが、クーは呆れた顔をしただけだった。
川 ゚ -゚)「ああ……うん」
( ・∀・)「ドレスもあったよ、ほら」
モララーはベッドに投げ出した青いイブニングドレスを彼女に差し出した。
彼女はいぶかしげにドレスとモララー、両方を交互に見た。
川 ゚ -゚)「どうしろっての?」
( ・∀・)「きっと君に似合うと思って」
川;゚ -゚)「よしてよ」
( ・∀・)「そんなこと言わずにさ、ほら、出てるから」
川 ゚ -゚)「あ……ちょっと!」
モララーは彼女にドレスを押しつけ、部屋を出た。
ドアに背をもたれかけさせながら、モララーはドクオにニヤついた。
12.
(*・∀・)「彼女、イイよな。あの影があるとこがさー」
(U'A`)「ああ、ヴォイドの巣でパーティごっこしたくなるくらいステキだよ」
( ・∀・)「お前が言ったことだろ、人はパンだけ食って生きてるわけじゃないって。
これも魂の熱量を維持するのに必要なことさ」
(U'A`)「何でも自分に都合よく取りやがって。羨ましくなるくらい脳天気だな、お前」
部屋の中から「いいよ」という声がした。
ワクワクしながら入ると、ドレスを身につけたクーが所在なげに突っ立っていた。
モララーが凝視すると、恥ずかしげに視線をそらす。
川 ゚ -゚)「……」
(*・∀・)「似合うよ! すっごくきれいだ」
川;゚ -゚)「よしてよ、からかわないで」
(*・∀・)「嘘じゃないよ」
13.
モララーは真剣に言った。
真っ白な肌にシルクのドレスが映えている。
川;゚ -゚)「ハイヒールなんか初めて履いた」
( ・∀・)「手袋も付けてみたら?」
川 ゚ -゚)「え?」
( ・∀・)「確かこのへんにさ……あった、これ」
モララーはクローゼットをあさり、肘の上まである手袋を見つけた。
彼女の手を取る。
川 ゚ -゚)「あ……」
火傷と切り傷の跡、それに長年の風雪にさらされて荒れ果てた手だった。
彼女は真っ赤になって手をふりほどき、モララーを部屋の外に押し出した。
14.
川;゚ -゚)「はい、着せかえごっこはおしまい! 出てって!」
( ・∀・)「え、あ、うん」
ばたんとドアが閉じた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お互いに着替え、探索に戻った。
部屋をひとつずつ調べてゆき、四階にまで上がった。
収穫は今のところ高そうなトレーニングシューズに、ブランデー、牡蛎の薫製の缶詰、食塩。
油断なく銃を構えたクーは妙に無口で、どことなく怒っているように見える。
モララーはそっとドクオにささやいた。
( ・∀・)「あの子、なに怒ってんだろ」
(U'A`)「お前はバカなのか?」
(;・∀・)「な……何が?」
15.
(U'A`)「キュートの話をしただろ、彼女に。手がきれいだったって」
モララーは不思議そうに首をひねった。
( ・∀・)「それが?」
(U'A`)(ほんとにバカだなこいつ)
川 ゚ -゚)「モララー」
( ・∀・)「ん!? なに」
ぎょっとして振り返ると、彼女は背後に顎をしゃくった。
川 ゚ -゚)「尾けられてる」
( ・∀・)「え? マジ?」
川 ゚ -゚)「うん、この建物に入ってからずっと。そろそろ切り上げて出たほうがいい」
( ・∀・)「まだ水が見つかってないよ」
川 ゚ -゚)「別のところで探そう」
16.
( ・∀・)「わかった。じゃ、次の部屋で最後にしよう」
彼女は同意し、ふたりと一匹は中に入った。
キッチンに入ってすぐ、ウォータークーラーが目に付いた。
タンクは空っぽだが、戸棚をあさると未開封の予備が見つかった。
十リットルはあるだろう。
(*・∀・)「おお、グレート! これで当分困らないね」
川 ゚ -゚)「よし、出よう」
部屋から出ようと玄関まで行ったとき、突然、ドアを突き破って何かが飛び出してきた。
先端に鋭利な穂先を持つサソリの尻尾のようなものが、モララーの胴に巻き付いた。
( ・∀・)「!?」
すぐにドアごと蝶番を引き千切って引っ込み、廊下を抜けて非常階段へ飛び込んでゆく。
17.
モララーは何が何だかわからないまま引きずられてゆき、最上階に入ると同時に投げ出された。
(;・∀・)「ぐえっ?!」
床を転がり、目が回るのをこらえながら立ち上がって相手と対峙する。
サソリのような姿をしたブージャム・ドールで、先端に穂先のある長い尻尾を持っていた。
( <●><●>)
そのとき、モララーは手の中が空っぽなことに気付いた。
剣をどこかで落としたらしい。
(;・∀・)「くそっ、やべえ!!」
( <●><●>)ゼェー、ゼェー
振り下ろされた尻尾を間一髪でかわす。
穂先がタイルの床をえぐった。
18.
( <●><●>)ゴボッ
( ・∀・)「食らえ!!」
ベルトに差したサバイバルナイフを抜き、隙を突いて相手の顔面に向かって投げつけた。
銀光が閃き、左目に直撃する。
( <●><×>)
しかし相手はまったく怯まず、モララーの体を腕ごと両方のハサミで押さえつけた。
(;・∀・)「ぐぐぐ……」
( <●><×>)
万力のような力で締め上げられ、骨が軋む。
巻き上げられた尻尾の穂先が、モララーの眉間に狙いを定めた。
( ・∀・)(死ぬ……)
19.
体感時間が圧縮され、スローモーションのように見える。
あの子に二度と会えなくなる……
(;・∀・)「ああああ!!」
その瞬間、彼の肉体は限界を超えて稼動した。
両腕でハサミを開くと、逆にそれを掴んで相手の体を振り回し、背後の壁に叩き付けた。
ブージャム・ドールはコンクリートの壁を突き破り、隣の部屋に転がり込んだ。
( <●><×>)「!?」
( ・∀・)「ハァッ、ハァッ」
唖然として自分の両手を見下ろす。
( ・∀・)(何だ、今のパワー……?)
川 ゚ -゚)「モララー!」
20.
やっと追いついたクーとドクオが姿を現した。
クーが槍投げの要領で剣を投げ渡す。
川 ゚ -゚)「受け取れ!」
( ・∀・)「おっしゃあ」
ブージャム・ドールが立ち上がるのと、モララーがキャッチした剣を振るうのがほぼ同時だった。
( <●><×>)「!!」
( ・∀・)「うおおお!」
胴体を一閃する。
しかし相手はとっさにハサミで胴体を守り、それと引き替えに致命傷を避けた。
モララーに体当たりをかける。
( ・∀・)「うわっ」
21.
そのまま彼を吹っ飛ばし、ブージャム・ドールはクーに突進をかけた。
( <●><×>)ゼエゼエ
(;・∀・)「クー!」
川;゚ -゚)「くそっ」
彼女はショットガンで散弾を浴びせた。
一発は相手の肩を吹き飛ばし、もう一発が胴体に手を突っ込めるくらいの大穴を開けた。
しかしそれでも勢いを止められなかった。
川;゚ -゚)「うわああああ!!」
( <●><×>)
(#・∀・)「野郎! その子に近付くんじゃねえ!!」
ブージャム・ドールはクーの首筋に噛みついた。
その口からこぼれる黒い血と、彼女の赤い血が混ざってほとばしる。
22.
川 > -<)「う……」
横に回り込み、モララーはブージャム・ドールの頭を一刀の元に切断した。
すさまじい断末魔を挙げて身をくねらせながら振るった相手の尻尾が、モララーの胴体を貫く。
そのまま壁に叩きつけられ、昆虫標本のように縫い止められた。
( ・∀・)「あ……」
自分の胴体を貫通しているものをぼんやり見下ろした。
全身が痺れ、それから糸が切れたように力が抜けてゆく。
( ∀ )「ごぼっ」
吐き出した血が上着を汚した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
23.
モララーはあの団地にいた。
夕暮れ時で、まだ遊び足りない子供たちの笑い声が公園から聞こえる。
家路につく人々が早足に見晴らし台を通り過ぎてゆく。
( ・∀・)「……ん?!」
モララーはそこに立っていた。
頬がなぜか妙に痛む。
( ・∀・)
見晴らし台の柵のところに少女がひとり、腰かけていた。
夕日を浴びて、短く切りそろえた髪も、鉄柵を掴む真っ白な指も、学校の制服も、みんな赤みを帯びて見える。
( ・∀・)(あの娘は……)
彼女が振り返ったが、夕闇が迫りつつある上、逆光になって顔がよく見えない。
24.
o川* )o「どうしたの?」
( ・∀・)
o川* )o「怪我してるの? 大丈夫……?」
彼女は柵を降り、こちらにやってきた。
ハンカチを取り出し、モララーの頬に押し当てる。
この世の何よりもきれいな手をしていた。
( ・∀・)「君は……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すさまじい苦痛がモララーに覚醒をもたらした。
激しくせき込みながら、あえぎあえぎあたりを見回す。
マンションの廊下だった。
25.
( ・∀・)「夢……?」
(U'A`)「そうでもないと思うがな」
ドクオの声に、自分の胸を見下ろす。
もはやぴくりとも動かないブージャム・ドールの尻尾の穂先が、そこに突き刺さったままだった。
(;・∀・)「くそ……こっちは現実か」
意識を失っても握ったままだった剣を落とし、両手で穂先を掴んだ。
( ∀ )「うぐ、あああ……!!」
あまりの苦痛に再び意識が飛びかけた。
それでもこらえ、一息に引き抜く。
ズブッ!
(;・∀・)「ぐっ……」
26.
そのまま床に倒れた。
苦しいのはほんの一瞬だけで、たちまち苦痛が引いてゆく。
モララーは仰向けになり、呆然と自分の腹に開いた穴を見た。
(;・∀・)「なんだ……?」
みるみるうちに肉が盛り上がり、傷が塞がってゆく。
(;・∀・)「どうなってんだよ、これ!?」
(U'A`)「お前は外傷で死ぬことはない。くたばるのは魂の熱量が失われた時だけだ」
( ・∀・)「何てこった……じゃ、マンティスの時も……?」
何がなんだかわからないという顔をしていたが、そこでやっとクーのことを思い出した。
( ・∀・)「はっ! クーは!?」
立ち上がると、床に伏したクーは苦しげなうなり声を上げていた。
27.
あわてて駆け寄り、抱き起こす。
川 - )「うう……」
(;・∀・)「良かった、生きてる」
(U'A`)「お前が気絶してたのはほんの数秒だ。だがその女が助かるかどうかは微妙なところだな」
( ・∀・)「と、とにかくどっかに寝かせなきゃ」
適当な部屋に入り、ベッドに寝かせて傷の手当てをした。
きれいな水で傷口を洗い流し、消毒液を噴いて包帯を巻く。
川 - )「ゲホッ、ゲエッ!!」
クーが吐き出した胃液には、わずかに黒い血が混じっていた。
( ・∀・)「!!」
(U'A`)「ヴォイドになりかけてる」
28.
( ・∀・)「どうすればいい?!」
(U'A`)「その女は魂の熱量を失いかけてる。手当をして、呼びかけてやるんだな」
彼女はうわ言のように誰かの名を口にしていいた。
川 - )「ショボン……ショボン」
( ・∀・)「弟のことか。大丈夫、きっと生きてるよ」
川 - )「うう……」
( ・∀・)「きっと、きっと生きてるよ……」
モララーは彼女の手を取り、夜を徹して励まし続けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
二日目の朝。
煮沸消毒した包帯を抱えてモララーが部屋に戻ると、クーがベッドで上体を起こしていた。
29.
川 ゚ -゚)「おはよ」
( ・∀・)「クー!!」
(U'A`)「ツイてたな。流れ込んだ黒い血が少なかったのと、弟の存在に助けられたか」
( ・∀・)「まだ寝てたほうがいい」
無理矢理彼女をベッドに押しつけ、毛布をかけてやる。
川 ゚ -゚)「モララー」
( ・∀・)「ん? なに」
川 ゚ -゚)「聞こえてたよ」
彼女はむき出しの手でモララーの手を握り、ほほえんだ。
川 ゚ー゚)「君がずっと励ましてくれてたこと」
(*・∀・)「ああ、いや……」
川 ゚ -゚)「ありがとう」
30.
( ・∀・)「うん……その、僕はさ……その」
川 ゚ -゚)「ん?」
もじもじしながら、ずっと口にしようと思っていたことを言おうとした。
だが彼女の眼を見ていると、喉の奥に引っ込んでしまった。
(;・∀・)「あ、いや。何でもない。さあ、今日は一日休んだほうがいい」
クーは再び眠りに落ちていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
傷そのものは大したことはなく、クーは翌日になるとすぐに元気を取り戻した。
大事を取って更にもう一日休んだ方がいいとモララーは言ったが、彼女は頑として譲らない。
川 ゚ -゚)「弟を助けに行かなきゃ」
( ・∀・)「ん……わかった。でも無理はしないでよ」
31.
川 ゚ -゚)「わかってるよ、もう。すっかり保護者気取りだな」
荷物をまとめ、マンションを出る。
ドクオがイヤな笑みを浮かべた。
(U'∀`)「そいつ、お前の下着を変える時、ずっと目をつぶったままやってたんだぞ」
( //∀//)「やっ……やめろバカ! そ、それを言うな、バカ! バカァア!!」
川////)
つづく……
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