1 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:01:21 ID:/0eH7.8sO [1/25]
・今作は曲を元にした独自解釈です。
・the pillowsへの愛とリスペクトが詰まっています。
・以前投下した物のリメイクです。
2 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:03:08 ID:/0eH7.8sO [2/25]
( ・∀・)の王国のようです
第一話
僕だけの王国
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3 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:04:46 ID:/0eH7.8sO [3/25]
森に男が一人、立っていた。
木漏れ日がうねったアスファルトをまだらに照らす。
硬い人工の道を突き破って生えた木々と共に、赤錆びて虫食いのようになった標識が並んでいた。
( ・∀・)「あれ……この道は……。」
男がキョロキョロと周囲を見回し、記憶と照らし合わせる。
4 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:05:54 ID:/0eH7.8sO [4/25]
うんうんと頷き、男は一方向を目指して歩き出した。
突き出した手が輝き、その光を木が避けるようにして男の前に道を作る。
ずんずん進んでいく男の歩調は段々と速くなっていく。
心待ちにしていた目的地が近いことを感じ取ったから。
今までに感じた既視感とは全く違う。
鮮明な既視感。
『誰か』の記憶では無く、『彼自身』の記憶と確信していた。
5 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:07:01 ID:/0eH7.8sO [5/25]
( ・∀・)「うおぉ……懐かしい……。」
山道を抜けた高台からは、人の作った家々と、街並みを浸食した木々が混ざった光景が広がっていた。
背後には森の一部となった図書館。
目線の先には二本のビル。
彼の脳が声を上げる。
『ここは、約束の場所だ。』
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6 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:07:42 ID:/0eH7.8sO [6/25]
それと同時に、女性の声が聞こえた気がした。
『あのビルとビルの向こう側に、私の家があるんだ。』
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7 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:09:53 ID:/0eH7.8sO [7/25]
記憶の奥底から引っ張り出された声が、彼を突き動かす。
すっ。と片手をビルへと向け、標準を合わせた。
彼の腕を包んでいたぼんやりとした光が強く、ハッキリとし始める。
( ・∀・)「えっと、あのビルならだいたい1ヶ月分…二発だから2ヶ月分かな。」
必要な力を腕に集める。
そして、放った。
掌から吐き出された二つの光弾は、真っ直ぐにビルへと飛んでいく。
それらによって根元で爆発が起き、音を立ててビルは崩れ落ちた。
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8 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:11:48 ID:/0eH7.8sO [8/25]
( ・∀・)「おお!あれか!」
朦々と立ち込める土煙が晴れるにつれて、胸は高鳴りを強める。
崩れ去ったビルの向こうに根っこの間から赤い屋根の覗く家が見えた時、彼の目は爛々と輝いていた。
( ・∀・)「…よし。
ここを僕のお城にしよう。」
約束の待ち合わせの場所で、約束の相手の家の見える、この図書館を。
9 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:12:45 ID:/0eH7.8sO [9/25]
この傲慢な決定に文句を言う人はいない。
例え居たとしても、誰が覆せるだろうか。
500年も探し続けた事実を知れば。
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10 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:14:41 ID:/0eH7.8sO [10/25]
男は図書館を見上げていた。
立派だった赤レンガの壁は所々崩れ落ち、数本の木が覗いている。
大きなガラスは割れ、鳥が勝手口として利用していた。
それでも彼は、律儀に入り口から図書館の中へ入っていく。
図書館の中は思っていたより浸食されていなかった。
所々青空が顔を出しているが、屋根はしっかりと館内を守り続ける。
11 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:15:54 ID:/0eH7.8sO [11/25]
ふと、棚に並んだ本を手に取ってみた。
マスクを付けた狐と、二匹の猪が活躍する懐かしい児童文学。
開こうとすると、ハードカバーの表紙を残してページが床に散らばってしまった。
残念ながら読み放題という訳にはいかないようだ。
バサバサと紙が床を鳴らし、静かな図書館に響き渡る。
( ・∀・)「……?」
気配が、奥から一直線にこちらに向かってくるのに気が付いた。
12 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:16:53 ID:/0eH7.8sO [12/25]
本棚を伝いながら、それはどんどん近づいてくる。
何かは彼の目の前の本棚を蹴り、頬を引っ掻いた。
(♯^ω^)キキッ!!フーッ!!!
トン。と床に降りたったのは、コロコロに太った小猿だった。
(メ・∀・)(あれ?怒ってる?)
頬から流れる一筋の血を気にすることなく、小猿を観察した。
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13 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:17:41 ID:/0eH7.8sO [13/25]
(♯^ω^)モキキッ!?キッ!?キャオゥッ!!
(メ・∀・)「あー待って待って。」
鼓膜と声帯に魔法をかける。
お猿くんのキーキー声が、段々と聞き慣れていた言語に変換されていく。
(♯^ω^)「何者だお!?お前!?ここはブーンのおうちだお!!」
数百年振りに聞いた言語は、怒りに染まっていた。
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14 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:18:50 ID:/0eH7.8sO [14/25]
どうやらここは小猿の大事な縄張りのようだ。
男はただの侵入者に過ぎない。
だが、彼にとっても大事な場所。
彼の力があれば奪い取る事は容易いだろう。
しかし、男は穏やかな声で話しかけた。
(メ・∀・)「ブーンくんって言うんだ。
驚かせてごめんね。」
魔法により変換された声は、ブーンの耳に届いた。
(;^ω^)「おっ!?ブーンの言葉が解るのかお!?
こんなおっきい仲間見たこと無いお!」
男の思惑通り、衝撃によってブーンを落ち着かせる事に成功。
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15 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:19:34 ID:/0eH7.8sO [15/25]
テンションの下がったブーンを見て男は少し考える。
図書館を彼の城にする計画に狂いが生じた。
彼が王となれば、ブーンを排さなくてはいけないのではないか?
(メ・∀・)(…イヤ。違うな。)
王がいれば、他に必要な者がいる。
ブーンにはそれになってもらえば丸く収まる。
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16 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:20:21 ID:/0eH7.8sO [16/25]
(メ・∀・)「僕は『人間』って種類なんだ。
ところでブーンくん。僕の家来にならないかい?」
(;^ω^)「お…なんだお?『けらい』って。」
当然の事ながら、猿の世界には家来という概念はないようだ。やはり異文化交流は、今も昔も変わらず難しい。
文化が違えば摺り合わせに時間が掛かり、その段階で衝突する事もある。
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17 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:21:28 ID:/0eH7.8sO [17/25]
(メ・∀・)「家来っていうのはね、一緒に住む仲間の事なんだよ。」
呆けていたブーンの顔が一転、怒りに変わる。
(♯^ω^)「ここはブーンのおうちだって言ったお!?
勝手に決めるな!」
想定していた当然の怒りに対して、男は本棚に手を当てて力を注ぐ。
メキメキと音を立てて本棚から木が生え、艶やかな甘い果実を作り出した。
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18 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:22:45 ID:/0eH7.8sO [18/25]
(メ・∀・)「ほら。僕がいればこんなにあまぁい果物が、いつでも食べられるよ。」
(*^ω^)「こっちにフッカフカの寝床が有りますお!」
態度をコロリと変え、飛び跳ねて移動するブーンに向かって彼は言った。
(∩・∀・)「僕の事は『王様』って呼んでねー。」
(*^ω^)「わっかりましたおー!おうさまぁー!」
王様はブーンをのんびり追いかけながら一言、「馬鹿だなぁ」と呟いた。
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19 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:24:00 ID:/0eH7.8sO [19/25]
…………………………
( ^ω^)「おうさまぁ。
おうさまはなんでここに来たんですかお?」
館内をブーンが案内するうちに、空は赤く色付き始めていた。
もちろん館内なんて知り尽くしていたが、ブーンに案内されるのは楽しかった。
どさ。と音を立ててソファーに座ると、埃が立つ。
屋根に出来た穴から差し込んだ光の形に合わせて埃の道が出来た。
二人で使っていた赤いソファーには、今は一人と一匹が座っていた。
20 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:24:55 ID:/0eH7.8sO [20/25]
( ・∀・)「王様はね、ここで待ち合わせの約束があるんだ。」
( ^ω^)「まちあわせ…ですかお?」
膝に座るブーンを撫でながら男は頷く。
ブーンは心地良さそうに目をしぱしぱさせた。
案内し疲れたのだろう。
( ・∀・)「うん。
僕が望む物を手に入れたら、ここで会おうって約束したんだ。」
( つω‐)「会えるといい…ですお…。」
ブーンが少しずつ丸くなり始めた。
眠る姿勢に入ったようだ。
( ‐ω‐)「おうさま…おうさま…。」
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21 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:25:19 ID:/0eH7.8sO [21/25]
「その人と、他の『にんげん』はどこに居るんですかお……?」
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23 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:29:41 ID:/0eH7.8sO [22/25]
( ‐ω‐)スー……スー……
寝息を立てるブーンの頭を撫でていた手は、ピタリと止まる。
彼の残した言葉は、鋭く、深く、残酷に王様の心を抉った。
( ∀ )「他の人間たちは、ね。
みんな、みんなここにいるんだ。」
( ∀ )「僕の、中に。ね。」
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24 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:31:06 ID:/0eH7.8sO [23/25]
聞く相手が居なくなろうとも
彼の独白は
ただ
ただ
止め処なく溢れた。
( ∀ )「僕は、世界が滅ぶとか、知らなかったんだ。
ただ、ただ。
熱にうなされそうな、現実を、払いのけたかっただけ、なんだ。」
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25 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:31:45 ID:/0eH7.8sO [24/25]
綺麗な赤に藍色が混ざり始めた空を見上げた王様の頬を、風が撫でた。
「こんなはずじゃないんだ。」
呟いた嘆きは、風にのって消え去った。
陽が落ちたせいで気温が下がり、少し冷えた風が紙屑や雑草をさわさわ鳴らす。
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26 名前: ◆Zb08y4eL/Y[] 投稿日:2011/03/12(土) 23:32:20 ID:/0eH7.8sO [25/25]
彼の呟きを、無視するように。
愚かな彼を嘲笑うかのように。
つづく。
( ・∀・)の王国のようです 夢一話同作者さんの他作品
( ・∀・)と六つの銃弾のようです
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