417 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 14:05:36.75 ID:ypwkSDED0
母は名残惜しそうに、もうしばらくブーンの側に座っていたが、やがて席を立った
J( 'ー`)し「・・・じゃあね、ブーン
また来るわね」
付き添いで来ていた看護婦は二人を見てもらい泣きしていた
母が席を立ったでの、あわててハンカチで涙を拭い、母に頭をさげて言う
看護婦「お母さん、今は辛いでしょうが、ブーン君は必ずよくなりますから!
必ず!」
看護婦は真っ赤に腫れた目で母に強く訴えた
J( 'ー`)し「・・・ありがとうございます
ブーンを宜しくお願いします」
母は看護婦にお礼をのべ、病院を後にした
寂しげな母の後姿を、看護婦は見えなくなるまでいつまでも見送った
425 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 14:18:01.40 ID:ypwkSDED0
(・∀・)(薬物の投与だけでは、効果が見られない・・・
どうするべきか・・・
やはり通電療法を行うべきか・・・)
診療部長はブーンの容態が一向に改善しないことに頭を悩めていた
( =゚ω゚)ノ「診療部長、どうされたんですか?」
声をかけてきたのは、モニュ研修医だった
(・∀・)「ん?
ああ、モニュ君か・・・
いやね、ちょっと考え事をしてたんだよ」
診療部長は力の抜けた笑顔で、モニュ研修医に答えた
426 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 14:22:37.96 ID:ypwkSDED0
(・∀・)「モニュ君は、この病院に来てからどれくらいになる?」
( =゚ω゚)ノ「もうすぐ1年になります」
(・∀・)「そうかい
どうだい、精神科の現場で実際に働いてみて」
( =゚ω゚)ノ「精神病の患者さんは本当にかわいそうだと感じております
アメリカでは湾岸戦争で出兵した兵士達の多くがPTSDにかかり
今も社会復帰できず、深刻な社会問題になっていることも頷けます」
427 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 14:25:22.63 ID:ypwkSDED0
(・∀・)「そうだね
国のために命をかけて戦ったのに、PTSDにかかった兵士は
就職先がない
どこの会社も受け入れられないんだ
また、症状がひどすぎて日常生活を満足に送れない人も沢山いる」
( =゚ω゚)ノ「政府は早急に、何らかの支援措置をとるべきだと私は思います」
(・∀・)「世間の理解が得られないだよ、なかなかね・・・」
そう話す診療部長は少し寂しげに見えた
428 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 14:29:43.94 ID:ypwkSDED0
しばらく沈黙が続いた後、診療部長は話し出した
(・∀・)「・・・君はなんで精神科医になろうと思ったんだい?」
( =゚ω゚)ノ「私には年の離れた兄がいるのですが、兄は仕事が大変で
鬱病になってしまいました
兄を通して、精神病の人達の苦しみを体験しました
それが精神科医を志すきっかけでした」
(・∀・)「そうかい
それは大変だったね
僕と動機が似ているかもしれないね
僕は母が分裂病だったんだ」
435 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 14:38:24.56 ID:ypwkSDED0
診療部長は自分の生い立ちを話し始めた
(・∀・)「僕の家は貧しくてね
父が酒乱だったんだ
今考えると、もはやアル中だったんだろうな」
( =゚ω゚)ノ「・・・」
(・∀・)「ご多分にもれず、父の暴力が酷かった
母と僕はことあるごとに父に殴られたよ
特に母に対しては酷かった」
モニュ研修医は黙って診療部長の話に耳を傾けていた
443 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 14:55:19.15 ID:ypwkSDED0
(・∀・)「そんなある日、母の言動がおかしいことに気付いた
母はだんだん酷くなり、遂にはまともなコミュニケーションがとれなくなった
僕は母を精神科に連れいったんだ
そうしたら分裂病と言われた」
( =゚ω゚)ノ「それで・・・」
(・∀・)「母は入院したよ
10年以上ね
いわゆる沈殿患者っというやつさ
当時の精神病院は内情が酷かった」
444 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 15:03:37.23 ID:ypwkSDED0
( =゚ω゚)ノ「昔の精神病院が酷かった事は本の知識では知っていますが・・・」
まだ若いモニュ研修医は当時の精神病院のことは本で勉強しただけで、実際の体験を聞くのは
これが初めてだった
(・∀・)「今もけっして高くはないが、当時は精神科の診察料は安くてね・・・
他の科の3/1程度しかなかった
だから、どこの精神科も経営が厳しくてね」
( =゚ω゚)ノ「そう聞いています」
モニュ研修医は本で読んだ内容を思い出していた
449 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 15:18:21.57 ID:ypwkSDED0
(・∀・)「だから、患者を入院させて薬漬けにして、生ける屍ように扱ったんだ
当時の精神病院とって入院患者は『固定資産』だった
薬を与えて、入院させておけば、診察料が入ってくるからね
だから、10年や20年入院している患者も当たり前のように大勢いたんだ」
( =゚ω゚)ノ「そうなんですね・・・」
(・∀・)「いわゆる精神病院が恐ろしいところといったイメージが着いたのもこの時期だった
加えて70年代に起きたロボトミー裁判がその動きを加速させたんだ」
( =゚ω゚)ノ「ロボトミー・・・」
モニュ研修医はロボトミーの言葉の意味を思い出していた
455 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 15:26:24.91 ID:ypwkSDED0
( =゚ω゚)ノ(ロボトミーといえば、確か頭蓋骨に小さな穴をあける手術だったはず
そして大脳皮質の前頭葉にメスを入れて治そうとする方法だ)
ロボトミー裁判は70年代に札幌の「北全病院」という新設の精神病院で、当時二十九歳の工員の男性が
「ロボトミー」と呼ばれる手術を無断で行われ、「無気力人間」にされたと訴えた裁判である
( =゚ω゚)ノ(昔の精神病院では暴れて手に負えない患者に対してロボトミー手術を施したと聞いた
手術をされた患者はまるで人が変わったように大人しく従順になったという・・・)
モニュ研修医はロボトミーに関わる内容を思い出して、ふいに寒気がした
461 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 15:34:03.52 ID:ypwkSDED0
(・∀・)「結局母は良くなることなく、最後は病院内で自殺したよ
僕は当時の精神病院の劣悪な環境と分裂病を憎んだ
そして、精神科の医療制度そのものを改革し、分裂病をこの世からなくしたかった
それが、僕が精神科医になった理由だよ」
(=゚ω゚)ノ「そうだったんですか・・・」
モニュ研修医は診療部長の生い立ちを聞き、やるせない気持ちになった
診療部長が自分のことを話すのは珍しかった
それだけに、この話はモニュ研修医に大きな衝撃を与えたのだった
そして、なぜ診療部長が分裂病にこだわるかの理由が分かった気がした
467 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 15:44:10.54 ID:ypwkSDED0
時はゆっくりと流れて2月・・・
ブーンの在籍するVIP大学も他の大学と同じように卒業式を迎えていた
しかし、卒業式にブーンの姿はなかった
J( 'ー`)し(ブーンにも参加させてやりたかった・・・)
母は一人、ブーンのいない卒業式に来ていた
474 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 15:48:28.93 ID:ypwkSDED0
学園長の話が終わり、代表者に卒業証書が手渡され、最後に校歌を全員で合唱し、式は閉会となった
ブーンの母はブーンの代わりに卒業証書を受け取り、会場を後にした
外では華やかな着物に着飾った女学生とその母がカメラで撮影をしていた
その親子は嬉しそうに笑っていた
J( 'ー`)し(いいわねぇ)
ブーンの母は幸せそうな親子が羨ましく見えた
479 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 15:57:29.48 ID:ypwkSDED0
賑やかな会場を後にして、母は駅へと向かった
冷たい風が吹きつける
2月といえどまだまだ風は冷たかった
J( 'ー`)し(・・・寒い)
母は少し色あせたコートの襟をつかみ体を縮こまらせた
J( 'ー`)し「ごほっごほっ!」
不意に咳が出始めた
なかなか咳は止まらない
母は駅のベンチで咳が収まるまで休んだ
485 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/07(火) 16:03:21.32 ID:ypwkSDED0
J( 'ー`)し(最近、咳がひどいわね・・・)
ようやく咳が止まったので、プラットホームに降り、家のある方角に向かう電車に乗り込んだ
J( 'ー`)し(ブーンはいつになればよくなるのかしら)
母はブーンに卒業証書を見せてやりたかった
しかし、ブーンは相変わらず無反応のままだったのだ
(ヽ゚ω゚)ブーンが精神病になったようです 第二部 第十四話
スポンサーサイト