494 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:17:35.96 ID:HCkFMZxY0
第2部
ブーンは高校生だった
今は夏休みの為、学校へ行く必要はない
( ^ω^)「カーチャン、今日もお仕事お疲れだお」
J( 'ー`)し「ただいま、ブーン」
498 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:21:03.16 ID:HCkFMZxY0
J( 'ー`)し「ブーン、勉強頑張ってるかい
大学の学費のことは心配しなくていいから自分の好きな道を歩くんだよ」
( ^ω^)「うん!
大学に進学して公認会計士になってカーチャンを楽させるお!」
J( 'ー`)し「ふふ、
カーチャンはブーンがいるだけで幸せだよ」
( ^ω^)「僕もカーチャンがいるだけで幸せだお!」
その日も夏の日差しが眩しかった
外からはセミが命を燃やし尽くすような勢いで激しく鳴き続けていた
503 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:24:47.16 ID:HCkFMZxY0
父が交通事故で突然亡くなってから、5年
ブーンと母は今まで住んでいた家を出て、小さく古びたアパートに引っ越してきた
J( 'ー`)し「ブーン、トーチャンがいなくても何も心配いらないよ
カーチャンがトーチャンの分まで頑張るから・・・」
( ^ω^)「カーチャン・・・」
ブーンがこのアパートに引っ越してきたのは父が亡くなった同年の中学2年生の時であった
506 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:31:56.05 ID:HCkFMZxY0
ブーンは以前住んでいた家のことはあまり覚えていなかった
まだ幼かったこともあるが、アパートに来てからの生活が大変だった為、昔を思い出すゆとりがなかったのだ
J( 'ー`)し「ブーン、トーチャンがいなくて苦労かけるね・・・
トーチャンが生きてたら、もっと楽させてやれるのに・・・」
( ^ω^)「平気だお
大学受験も先生から問題集や参考書もらってできるし、図書館いけば冷房効いてて涼しいお」
J( 'ー`)し「そうかい
すまないねえ・・・」
母はブーンに対して、申し訳なさそうに謝ることがよくあった
そのような時の母の目頭が赤くなっている事にブーンは気付いていた
ブーンは母を悲しませたくなかった
509 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:38:03.88 ID:HCkFMZxY0
ブーンは高校3年生の夏休みが一番記憶に深く残っていた
母は働きながらも、ブーンの受験を懸命に応援してくれた
ブーンは母と一緒に勉強できることがうれしかった
また、母と二人で幸せな生活を送っている未来に期待を膨らました時がこの時期でもあった
今は辛くとも、いつか必ず幸せになれる時が来ると思える時期であった
だから、ブーンは22年間生きてきた中で、高校3年生の夏休みが最も鮮やかに彩られた記憶であった
510 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:41:47.17 ID:HCkFMZxY0
( ^ω^)(このままずっと同じ時間が続いたらいいお)
ブーンはそう思った
そして、ブーンの高校3年の夏休みは明けることなく、鮮やかに彩られながら今も続いていた
いつまでも、いつまでも変わることなく夏休みが強い日差しに包まれたまま続いていた
511 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:45:26.56 ID:HCkFMZxY0
医者「・・・」
医者は深刻な面持ちでブーンの様子を見ながら、母に質問をしていた
医者「すると、ブーン君はお母さんが退院されて帰宅した時には、すでに反応がなかったと?」
J( 'ー`)し「はい
私が家に着いた時から、声をかけても反応しませんでした」
医者「ブーン君がこのようになってからどれくらい経ってるかお分かりになりますか?」
医者は深刻な表情を崩さぬまま、母に質問を続けた
515 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:48:32.33 ID:HCkFMZxY0
J( 'ー`)し「私が退院してからだいたい2ヶ月ほど経つのですが、今日までブーンは反応することはありませんでした」
医者「・・・ということは、少なくとも2ヶ月間はこのような状態であったと」
J( 'ー`)し「はい
それ以前のことは分かりません
私なりに色々と手をつくしてみたのですが、一向に良くならないので、
意を決して、本日こちらの病院に伺いました」
医者「・・・そうですか」
518 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:54:21.66 ID:HCkFMZxY0
ここは県内でも特に大きな精神病院である
病院は第1棟と第2棟に別れ、今も多くの患者が入院していた
建物は新しく綺麗で、一見すると病院には見えない
明治の頃の西洋風の造りを思わせる病院は暖かな雰囲気で、街の郊外の高台に静かにたたずんでいた
年が明け、暦の上ではもう春であるが、まだまだ春の訪れが先に感じる冷たさであった
522 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 12:58:07.86 ID:HCkFMZxY0
医者「おや、ブーン君は何やらしゃべってますね
ちょっと聞かせてもらえますか?」
そういうと医者は前に座っているブーンの口元に耳を近づけた
(ヽ゚ω゚)「きょうも・・・べんきょう・・・できたお・・・かーちゃん・・・」
医者「・・・」
医者はブーンが途切れ途切れに話す言葉を一言一句聞き漏らすまいとじっと耳をすませた
527 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 13:00:41.05 ID:HCkFMZxY0
医者はしばらくブーンの言葉に耳を傾けていたが、やがて元座っていた椅子に戻り
カルテを見つめながら、考え込んだ
J( 'ー`)し「先生、ブーンはどうなのでしょうか?」
母は心配そうに医者に尋ねた
医者「そうですね・・・」
医者はカルテから目を離さず、ペンを握ったまま、呟くように答えた
530 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 13:04:28.27 ID:HCkFMZxY0
長い沈黙のあと、医者は話し始めた
医者「・・・まだはっきりとは断定できませんが、ブーン君は統合失調症の可能性があるように思えます
それもかなり症状が進行しているものと思われます
ブーン君の言葉を聴いていると、支離滅裂な内容で、どうも妄想の世界にはまり込んでいるように
感じます
外界からの信号に反応しないのも、その為だと思われます」
J( 'ー`)し「統合失調症?」
母は初めて聞く病名に戸惑いの色を見せた
533 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 13:07:55.59 ID:HCkFMZxY0
医者「今ではこのような病名ですが、以前は精神分裂病と呼ばれていました
分裂という響きに差別感があるといった声が多くなりまして、今の病名に変わったのですが」
J( 'ー`)し「精神分裂病!?」
母は精神分裂病の病名は聞いたことがある
なにやら頭がおかしくなってキチガイになってしまう
母の精神分裂病に対するイメージはそのようなものであった
539 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 13:22:58.71 ID:HCkFMZxY0
医者は母が戸惑っているのを察して説明を続けた
医者「統合失調症ははっきりとした原因がまだ解明されておりません
恐らくは遺伝子が関わっているのではないかとの説もありますが、現在有力なのは
脳内神経伝達物質の異常が関わっているのではといったところです」
J( 'ー`)し「・・・」
母は静かに医者の説明を聞いていた
医者「以前は完全に治ることはないと見なされていましたが、薬学や脳科学の発達と共に
治る可能性がでてきました
今では一度発症しながらも、かなりの割合で回復し、社会復帰されてる方もいらっしゃいます」
542 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 13:30:24.90 ID:HCkFMZxY0
医者「統合失調症の治療で最も大事なのは早期発見早期治療です
病状が進行する前に見つけ、速やかに治療する事が大切なのです」
医者はそういうとブーンのほうに目をむけた
医者「・・・ですので、ブーン君のようにかなり病状が進行してしまっている場合は
はっきりと申しますと完治は非常に困難だと思います。
出来る限りの治療を試みますが、どれぐらい回復するかも今の時点でははっきりを
申し上げる事が出来ません」
医者は再び深刻な面持ちになった
J( 'ー`)し「そうなんですか・・・」
母は治る見込みがないと聞いて、かなりの衝撃を受けた
574 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 15:08:33.51 ID:HCkFMZxY0
J( 'ー`)し「もう・・・ブーンは元には戻らないんですか?」
医者「・・・確立が非常に低いと申してるんです
可能性が全くゼロではありません」
医者は話しずらそうだった
J( 'ー`)し「ブーンは治るんでしょうか?」
母は念を押すように医者に問いかけた
医者「・・・今はわからないとしか」
医者は申し訳なさそうに答えた
575 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 15:12:01.21 ID:HCkFMZxY0
母は目の前が真っ暗になるのを感じた
J( 'ー`)し(ブーンが精神分裂病だなんて・・・
あんまりだわ!)
母は現実を受け入れたくなかった
J( 'ー`)し(ああ
これが夢ならいいのに・・・)
血の気が引いて青白い表情の母に向かって医者は話した
医者「お母さん、諦めないで下さい
繰り返しますが可能性がゼロではありませんので・・・」
そう話す医者の声は弱弱しかった
582 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 15:18:31.48 ID:HCkFMZxY0
医者「ブーン君の容態を見る限り、うちとしてましてはすぐにでも入院することを勧めますが・・・」
J( 'ー`)し「入院・・・」
母は精神病棟の入院というと鉄格子のはめられた窓や鍵のかけられた分厚い金属製の扉
院内を徘徊するゾンビのように生気のない患者達、電気ショックによる治療など、
何やら不気味で恐ろしいイメージを持っていた
J( 'ー`)し「どうしても入院しないといけないんでしょうか?」
母はそのような怖い所にブーンを一人閉じ込めるのは気が進まなかった
587 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 15:21:39.27 ID:HCkFMZxY0
医者「入院には親族の方の同意書が必要になります
こちらにサインして頂かないと、病院側としては原則として強制的に
患者さんを入院させることはできません」
そう言うと、医者は机から同意書を取り出し、母に手渡した
母は同意書に目をやった
594 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 15:42:50.45 ID:HCkFMZxY0
J( 'ー`)し「・・・しばらく考えさせてください」
母はブーンを入院させるべきどうか決断できなかった
医者「分かりました
とりあえず2週間分のお薬を出しておきますので、また来院して下さい」
J( 'ー`)し「・・・ありがとうございました」
そう言い、母は席を立ち、無反応なブーンを担ぎ立たせて、手を引いて診察室からでた
597 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 15:47:57.33 ID:HCkFMZxY0
受付から貰った薬は「ルーラン8mg」といった名前だった
受付嬢「この薬を1日3回食後に1錠づつ飲ませて下さい」
J( 'ー`)し「はい」
受付嬢「それと通院医療費公費負担制度の申請はどうなさいますか?」
J( 'ー`)し「お願いします」
受付嬢「わかりました
それでは診断書を申込書をこちらで記載して提出しておきますので、次回から提要されると思います」
J( 'ー`)し「ありがとうございました」
受付嬢「お大事に」
母はブーンの手を握り、ブーンの肩にもう一方の手を添えてゆっくりと歩いた
598 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 15:50:48.21 ID:HCkFMZxY0
J( 'ー`)し「ブーン、入院だって
どうしたらいいかしら?
ブーンはどっちがいいと思う?」
(ヽ゚ω゚)「・・・」
ブーンは返事をせず、焦点の定まらない視線を前に向けていた
J( 'ー`)し「カーチャンにはどっちがいいのか分からないよ」
母はブーンに語りかけ続けた
602 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 15:57:27.63 ID:HCkFMZxY0
ゆっくりブーンをひっぱりながら歩いた為、母子が家に着く頃には日が暮れかかっていた
母は家に帰り、ブーンを部屋に座らせて一息ついた
J( 'ー`)し(つかれたわ・・・)
母はまだ肺結核が完治していない
軽く食事を済ませ、自分の薬を飲んだ後、ブーンに流動食を食べさせ、
今日精神病院から貰った薬を口に含ませた
J( 'ー`)し(なかなかうまくいかないわ)
最初は手こずったが、何とかブーンに薬を飲ませる事ができた
609 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 16:00:55.24 ID:HCkFMZxY0
J( 'ー`)し(どうしたものかしら)
母はブーンを布団に寝かせた後、今日医者から言われたことを思い出していた
J( 'ー`)し(家で治療してもよくなるとはかぎらない
かといって入院しても治る可能性は限りなくゼロに近い・・・)
母は生活費を稼ぐ為に、近くのスーパーでパートで働きはじめていた
615 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 16:04:55.83 ID:HCkFMZxY0
J( 'ー`)し(私が働いている間、ブーンに何かあっても困るわ
それに今のままだと昼間のご飯を食べさせる事ができないし)
母は自分が不在の時のことを考えると、やはり入院させるしか方法がないように感じた
J( 'ー`)し(でも、本当に精神病棟に入院させても大丈夫なのかしら)
母は精神病棟は、厄介者や中毒の人達を手に負えない家族が隔離させる、そんなイメージがあった
618 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/05(日) 16:07:52.86 ID:HCkFMZxY0
母はブーンを見た
(ヽ゚ω゚)「・・・」
ブーンは布団に横になったまま、目を見開けて、天井を見つめているように見えた
母はそんなブーンを見るのがとても辛かった
J( 'ー`)し(ブーンが少しでも治る可能性があるなら、それにかけてみようかしら)
母はブーンを入院させたほうがいいと考え始めた
(ヽ゚ω゚)ブーンが精神病になったようです 第二部 第十話
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