32 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/10(金) 23:44:06.39 ID:QwFCLlI20
ブーンが大学を卒業してから、一月ほど経った
今は3月である
病院内にある木々の花のつぼみが春の訪れを今か今かと待ち構えている
どことなく、体に当たる日差しに暖かさを感じる季節である
ξ゚⊿゚)ξ(もうすぐ春ね・・・)
ツン看護部長は庭に出て、桜の木を見つめていた
('A`)「一足先に花見かい?」
ξ゚⊿゚)ξ「・・・院長」
34 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/10(金) 23:46:26.35 ID:QwFCLlI20
声をかけてきたのは院長であった
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ院長も休憩ですか?」
('A`)「ああ
このところ忙しかったからな
少しは息抜きしないと体が参ってしまうよ」
そういいながら、ドクオ院長は首と腕を回した
ξ゚⊿゚)ξ「そうですね
このところ色々ありましたから・・・」
35 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/10(金) 23:51:01.91 ID:QwFCLlI20
('A`)「この病院は救急精神科も受け持ってるからなあ
どうしても、年末年始は大変だ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうですね
年末年始は一年で最も自殺者の多い時期・・・
この病院に駆け込まれる患者の数も増えます」
('A`)「うむ
こちらとしては患者の命を助けようと全力で頑張るんだが、力及ばず
手遅れになってしまう人も多い」
ξ゚⊿゚)ξ「はい
その時の付き添いで来られた家族の方の悲痛な面持ちと泣き声は
忘れたくても忘れる事ができません・・・」
36 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/10(金) 23:55:15.05 ID:QwFCLlI20
ツン看護部長は、そこで言葉を詰まらせた
('A`)「最近は、若い女性の患者さんが増えた
特に中高生が増えたように思う」
ξ゚⊿゚)ξ「もともと多感な第ニ次成長期にあたる年齢ですし
最近は家庭内に問題を抱える子供も多いですから・・・」
('A`)「そういえば離婚率が上がってるそうだ
最近の若い親は子供を育てる能力が衰えている感があるね
幼児虐待もずいぶん多い」
38 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/10(金) 23:59:39.04 ID:QwFCLlI20
ξ゚⊿゚)ξ「やはり帰るべき場所である家庭が不安定だと
子供は安心して、自分をゆだねる事ができないのでしょう
そして、やがて自閉し、自分の世界に篭ってしまう」
('A`)「近隣の人間関係も希薄になり、学校などでも子供達同士のコミュニケーションは
減少傾向にある
現代の子供達は皆、何かの問題を抱えて生きていると言っても過言ではない」
ξ゚⊿゚)ξ「・・・そうですね」
ツン看護部長は、ドクオ院長のいつにも増して気迫のこもった口調に圧倒された
40 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:03:55.03 ID:miYbjGbB0
ξ゚⊿゚)ξ(院長は子供の話になると表情が険しくなる
何かあったのだろうか)
ツン看護部長は、院長に聞いてみようと思ったが、プライベートな部分なので
控える事にした
('A`)「今後、ますます自殺者は増えていくだろう
現在は高齢な自殺者が多いが、若年層の自殺者も増える
ネットを介した集団自殺などが、その傾向を示唆している」
ξ゚⊿゚)ξ「今までは若者はまだ自殺の一歩手前で踏みとどまる場合が多かったですから」
('A`)「そうなんだ
最後の一線を踏みとどまれた
しかし、社会状況が変化し、その一線を越えることが容易くなりつつある」
41 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:08:11.70 ID:miYbjGbB0
ドクオが院長を務めるバロス精神科病院には確かにこのところ若い女性の患者が多く見られた
いや、この病院だけではない
他の精神科病院でも同じ傾向が見られるのだ
ドクオ院長は、何やら言い知れぬ胸騒ぎが抑えられなかった
('A`)「生きたくても生きれない者が沢山いるというのに、自ら命を絶つとは
なんと悲しいことなのだ」
ξ゚⊿゚)ξ「・・・」
42 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:10:51.17 ID:miYbjGbB0
院長はしばらく黙ったまま桜の木を見上げていた
その顔はどことなく寂しげであった
('A`)「ブーン君はどうだね?」
院長は話題を変えた
ξ゚⊿゚)ξ「はい
やはり芳しくありません
点滴やチューブで栄養を送っているのですが、徐々に体重が落ちてきています
このままでは・・・」
('A`)「衰弱死・・・かね?」
43 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:14:07.97 ID:miYbjGbB0
ξ゚⊿゚)ξ「その可能性もあるかと思います・・・」
('A`)「・・・残された時間はあまりないのかもしれないな
私も日夜必死に治療方法を考えているのだが、いかんせん状況が厳しすぎる」
ξ゚⊿゚)ξ「せめて昏迷から抜け出てくれると助かる見込みもあるのですが・・・」
('A`)「そうだな
・・・私は分裂病の根底には昏迷があると見ているんだよ」
44 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:16:27.14 ID:miYbjGbB0
ξ゚⊿゚)ξ「根底にですか?」
ツン看護部長はそのようなことは考えた事もなかった
('A`)「ああ
分裂病の治療には昏迷という問題はさけて通れない
これは我々精神科医療に携わる者にとって宿命のようなものかもしれん」
ξ゚⊿゚)ξ「宿命・・・ですか?」
('A`)「そうだ」
46 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:20:25.87 ID:miYbjGbB0
ξ゚⊿゚)ξ「・・・」
('A`)「ブーン君ほど昏迷がひどい患者はなかなかいないだろう
ブーン君を救えるかどうかは、今後の精神科世界に大きな影響を及ぼすと思う
彼を救えるかどうかは、この病院のスタッフだけでなく、精神科に関わる全ての人にとって
重大な戦いなんだよ」
院長は、何か固い決意を秘めたようなピリピリした顔つきだった
ξ゚⊿゚)ξ「彼の治療はそれほど重要なんだ・・・」
ツン看護部長は自分が関わっているブーンの治療の重たさを改めて実感した
47 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:25:25.25 ID:miYbjGbB0
(ヽ-ω-)「・・・」
ブーンは夢を見ていた
不思議な夢だった
そこは窓も扉もない冷たいコンクリートがむき出しになった部屋だった
天井には裸電球が一つぶらさがっているだけで、その光は弱弱しかった
部屋は薄暗く、奥がどうなっているか見えない
この部屋がどこまで続いているのかブーンは分からなかった
( ^ω^)(ここはどこだお?)
48 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:28:07.60 ID:miYbjGbB0
壁の両端は間隔がそれほど広くなく、両手を伸ばせば手が届いた
( ^ω^)(前と後ろが見えないお)
まるで古い地下の通路みたいだとブーンは思った
( ^ω^)(それにしても薄暗いお
懐中電灯が欲しいお)
立ち止まっていても仕方がないので、ブーンは今自分が向いている方向へ歩き出した
50 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:31:01.73 ID:miYbjGbB0
(;^ω^)(なんだか怖いお)
ブーンは延々と続く通路のような部屋に、何やら恐怖を感じた
(;^ω^)(なんで僕は一人なんだお?
カーチャンはどこにいったんだお?)
ブーンは薄暗い通路を歩き続けた
後から聞こえてくる自分の足音以外、何も聞こえてこない
ブーンは時々振り返ってみるが
後ろには真っ暗な闇がぽっかり口を開いているだけだった
52 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:38:22.41 ID:miYbjGbB0
裸電球は一定の間隔で燈されていた
しかし、その間隔が広いため、時にほとんどが闇になる
(;^ω^)(カーチャン、怖いお
どこにいるんだお?)
ブーンは恐怖のあまり、走り出した
(;^ω^)(早くでたいお)
ブーンはとにかく走り続けた
54 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 00:40:44.09 ID:miYbjGbB0
しかし、どこはでいっても同じ通路が延々と続くだけであった
(;^ω^)「誰か助けてお!」
ブーンは走りながら、叫んだ
しかし、自分の声が壁に反響して響くだけで、誰の返事はなかった
(;^ω^)「カーチャン!
どこだお!」
ブーンは疲れてきて、そのうち走るのをやめた
58 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 17:47:46.85 ID:miYbjGbB0
ブーンはいつまで経ってもこの空間から抜け出す事ができなかった
( ^ω^)(もうどれくらい時間が経ったのかお・・・)
主観的な感覚ではあったが、ブーンにはここに来てから何年も経ったように感じていた
( ^ω^)(ここから出たいお・・・)
59 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 17:51:44.43 ID:miYbjGbB0
( =゚ω゚)ノ「うん?
ブーン君が何だか苦しそうだな」
看護婦「そうですね
このところ、どうも寝苦しいのか、うなされていることが多いようです」
( =゚ω゚)ノ「薬の副作用か
それとも、病気のせいか・・・
どちらなんだろう?」
研修医であるモニュにはブーンがなぜ苦しそうにしているのか分かりかねた
64 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 17:58:14.45 ID:miYbjGbB0
(ヽ;-ω-)「おー、おー」
( =゚ω゚)ノ「もしかして・・・」
モニュ研修医はブーンの額に手をあてた
( =゚ω゚)ノ「!」
看護婦「どうしました?」
( =゚ω゚)ノ「すごい熱だ!
これって危険なんじゃないか?」
モニュ研修医は判断に迷った
側にいた看護婦は、モニュ研修医のうろたえ方に不安になっていた
67 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 17:59:55.26 ID:miYbjGbB0
看護婦(こんな研修医で大丈夫かしら?)
( =゚ω゚)ノ「どうしようかな・・・」
看護婦「だれか医師を呼んできましょうか?」
( =゚ω゚)ノ「いや、いいよ」
看護婦「・・・」
71 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 18:13:58.91 ID:miYbjGbB0
( =゚ω゚)ノ(ここは俺の力でなんとかしたい
俺にはそれぐらいのことができる力がはるはず)
モニュ研修医は自身の力を過信している部分があった
( =゚ω゚)ノ「君、解熱剤を注射して」
看護婦「大丈夫ですか?」
( =゚ω゚)ノ「大丈夫だよ
僕の指示どうりにしてればいいんだ」
看護婦「・・・」
看護婦はだまってモニュ研修医に言われたとおりにブーンに解熱剤を注射した
79 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 18:40:02.30 ID:miYbjGbB0
( =゚ω゚)ノ(俺ももうここで1年以上働いている
十分に精神科医としてのスキルも身についているはずだ)
モニュ研修医は、国立でもトップクラスの大学の医学部に合格していた
また大学時代の成績も優秀で、首席で卒業したのだ
( =゚ω゚)ノ(俺は医学会全体を変える人材になる)
モニュ研修医は学生時代にそのような抱負を胸に抱いていた
89 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 18:50:49.45 ID:miYbjGbB0
( =゚ω゚)ノ(この患者の治療には院長をはじめ、皆手に負えない状態だ
それを俺が治したとなると、一躍俺の実力は医学会で認められる)
近頃、モニュ研修医は自分だけの力でブーンを治療しようと考えるようになっていた
だから、ブーンの容態の変化に気付いても、病院への報告をあえて行っていなかったのだ
モニュは自分でブーンのカルテを作成し、密かに記録をつけていた
ブーンを治した暁に、これを証拠に自分が一人で治したことを証明しようと考えていたのだ
( =゚ω゚)ノ(今に見てろよ
偉そうにふんぞり返ってる、時代遅れのボケ老人ども)
モニュ研修医は医学会の幹部を密かにボケ老人と呼んでいた
97 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 19:01:26.39 ID:miYbjGbB0
・・・ジリリリリッ!
目覚まし時計が騒がしく朝を告げた
J(‘ー`)し「・・・もう朝ね」
ブーンの母はけだるそうに上体を起こし、目覚まし時計を止めた
J(‘ー`)し「なんだか最近体がだるいわ・・・」
母は朝弱いといった体質ではないのだが、どうもこのところ朝起きるのが非常に辛かった
100 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/11(土) 19:03:58.46 ID:miYbjGbB0
母は布団から出て、出勤の仕度をはじめた
J(‘ー`)し「ごほっごほっ!」
咳が出た
気のせいか、咳の後、血の味がするような気がする
J(‘ー`)し(薬はきちんと飲んでるし、大丈夫だとは思うけど)
母は肺結核が悪化しているのではと思ったが、それを否定したかった
236 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/12(日) 01:11:21.16 ID:91Org5Ri0
J(‘ー`)し「おはようございます」
同僚「おはようございます
今日も一日頑張りましょうね」
J(‘ー`)し「はい」
母は作業服に着替え、モップを手にし仕事に取り掛かった
午前中はなんとか仕事をこなすことができ、昼の休憩に入った
J(‘ー`)し(体が熱っぽいわ)
240 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/12(日) 01:12:52.00 ID:91Org5Ri0
母は休憩中、少し横になった
やがて、休憩時間が終わり、再び働き出した時であった
J(‘ー`)し「ごほっごほっ」
激しい咳が始まった
母は咳が終わるまで動けなかった
242 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/12(日) 01:14:11.59 ID:91Org5Ri0
J(‘ー`)し「ごふっ!」
喉からなにやら暖かいものが出てきた
それは口を覆っていた手についたようだった
母は手を口から離した
J(‘ー`)し「!!」
245 : ◆vUsDOjbm1w :2006/02/12(日) 01:17:09.28 ID:91Org5Ri0
手には鮮やかな色をした血がついていた
J(‘ー`)し(まさか・・・)
母は信じられない気がしたが、血を見たとたんに、強烈な眩暈がおこり、
その場で気を失い倒れた
同僚「ちょっと!
大丈夫!」
母は薄れていく意識の中で、同僚がかけてくれる声だけが聞こえた
第2部 完
(ヽ゚ω゚)ブーンが精神病になったようです 第三部 第十八話
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