( ^ω^) in the ルームのようです (1)
2010/08/16 Mon 06:00
※ http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/37256/1281015271/ より
1 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/05(木) 22:34:31 ID:bfQ/4e0c0
_.。ャイて死刀フ7ッ。._
,.ィ炙ヲ㌍≠┴⇒弍j込ス>。
,ィ衡ヲナ'´ `゙'<無心、
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反W 円い
|警カ }ソ川
イ ( ^ω^) in the ルームのようです ト
セ ヌ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
まとめ,仮酉>>2
2 : ◆Bc/QkV.jwU:2010/08/05(木) 22:35:27 ID:bfQ/4e0c0
ブーン系小説総合【裏】まとめ さん
ttp://sogomatome.blog104.fc2.com/?no=481
シベリア図書館に投下した作品から書き方等を変えてみたので、
最終回とほざいてしまったついでにタイトルを一文字変更しました。
本家に批評スレが立った時本人確認できるよう仮酉名前欄。
自分で気付いた誤字を修正しつつ、最初から投下。
170 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 11:52:13 ID:Ony8SuP20
以下よりルーム。
- AA - でそのAA視点に切り替え。第三者視点は予告なく。
171 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 11:54:03 ID:Ony8SuP20
6)『幻惑する選択肢とその過程』
172 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 11:54:52 ID:Ony8SuP20
僕らは今、窓も無い白く長い廊下を歩いている。
端と端が2つのドアとドアで繋がっている、シンプル極まりない廊下だ。
いつも部屋間を直接移動していたからか、廊下を歩く行為を久しいと感じる。
と言っても、何の感慨も郷愁も抱くわけではなく、ただそれだけだ。
照明が1つも見当たらないのに何故明るい、とかも、もう考えない。
('A`)「なんかこういうの、精神病院とかでありそうだよな」
( ´_ゝ`)「余計精神が捩じ曲がらないか? それ」
( ^ω^)「こんなホラーがありそうだおねー」
('A`)「あー確かに」
怪談でよくある、歩いている筈なのに周囲の景色が変わらないとか。
進んだ筈なのに、いつの間にか元の場所へ戻って来ていたとか。
階段の終わりが見えているのに、いつまで経っても降り切れないとか。
そんなパターンを僕らの状況に当て嵌めると、3番が近い。
目的地であるドアが見えているのに、いつまで経っても近付いた気がしない。
( ^ω^)「…………」
(;'A`)「ちょ、ちょ、早いってブーン!」
173 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 11:56:06 ID:Ony8SuP20
( ^ω^)「ごめんお、自分で言ったら気になって……」
('A`)「こんな真昼間からあるかよ」
( ´_ゝ`)「わからんぜ、外は夜かもしれんよ」
そんなこんなで雑談をしながらドアの前に辿り着く。一見普通のドアだ。
これで開かないなんてオチは付随する訳もなく、何の抵抗もなく開いた。
( ^ω^)「はい?」
開いたのだが、その先にはまた同じドア。心の中でポルナレフが叫ぶ。
ドアを開けたと思ったら、その先にまた同じドアがあった。超常現象(ry
今なら彼の精神状態が理解出来る。意味が解らない。言葉に出来ない。
振り返って言葉を求めてみるが、片方は首を傾げ、片方に首を振られた。
( ;^ω^)「うーん……」
入った横には左右に廊下があり、ちょっと行ったところで上に折れている。
ここは狩人×狩人の漫画に従い、左に行くように見せかけて右へ行くべきか。
174 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 11:57:31 ID:Ony8SuP20
『その部屋に入る前に、部屋の周りを一周してみて』
スピーカーの放送。首を回してスピーカーを探してみるが、見当たらない。
向こうから聞こえた感じはしないので、近くの壁の中にでも埋まってるんだろうか。
('A`)「二手に別れる?」
( ´_ゝ`)「3人なのにどう別れろと、ぼっち怖いくせになんでそんな言葉を出せる」
('A`)「俺は2人のどっちかに着いてくよ、お前らなら1人でも楽勝だろ」
『出題ではないから、別れずに皆で一緒に周ればいいよ』
スピーカーに諌められたので、素直に皆で一緒に周ることにする。
僕の左側にいた毒男がそのまま左へ行ったので、後を追う。兄者も続いた。
('A`)「狩人×狩人であったよな……人は無意識に左へ向かうとか」
( ^ω^)「あったおね、でもそれを知ってて何で左に来たんだお?」
('A`)「漫画とかで知らせたら、それを知ってる奴らが右を選ぶだろ?」
175 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 11:58:25 ID:Ony8SuP20
( ´_ゝ`)「だから敢えて左を選ぶってか?」
('A`)「裏の裏をかいたつもりだったんだけど」
( ´_ゝ`)「こんなとこでそんなことしても無意味だと思うがな」
('A`)「結果は変わらなくても、やり方に意味があるのだよ」
珍しく毒男が キリッ としている。似合わなさが気持ち悪い。
起き抜けに読んでいたデスノ全巻の影響でも受けたんだろうか。
こんな時の彼は饒舌なので、話し掛けないようにしている。
毒男と兄者の主張と否定を聞き流しながら周囲を見るが、窓以外には何もない。
窓からは部屋の中が見れる。窓はそれなりに大きく、体を横にすれば僕でも通れそうだ。
部屋の中は空の本棚があり、机があり、椅子があり、複数の箱がある。
箱の大きさは大小様々で、片手で持てるような箱から大の大人が入れそうな箱まで。
( ´_ゝ`)「だからってどうなるんだ、やり方変えたからって変わらない結果もあるだろ」
('A`)「だからやり方自体に意味があるんだってば、結果が全てとは限らない」
いつもは二人が見たものについて自らの考察を述べて、意見の交換をしあい、
それを僕が横で聞いてるという構図なんだけど、今回ばかりは……。
176 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 11:59:37 ID:Ony8SuP20
( ´_ゝ`)「大人になったら結果が全ての成果主義な社会ですよ?」
('A`)「全員がそうとは限らないさ、俺は経過主義を貫いて評価されてみせる」
しかも、段々論点がズレてきている。もう駄目だ。
( ´ω`)「はあ…………」
移り変わった話題も、主義がどうたらと難しくて着いていけないので聞き流す。
廊下は一本道で別れ道もなく、突き当たりで右に曲がり、直進し、突き当たりで右へ。
その辺りでもう予想はしていたが、予想通りだからってテンションが上がったりはしない。
僕らは、入って来た場所に戻っただけだ。本当に、部屋の周囲を一周しただけ。
( ´ω`)「戻って来ちゃったお」
( ´_ゝ`)「こんなとこでこんなことしても無意味だったな」
('A`)「結果が変わらなくても、やり方に意味があるのだよ」
会話が無限ループに突入しそうだったので、開いたドアに二人を押し込める。
兄者は軽くよろけただけで済んだが、毒男に手加減し損ねて一回転させてしまった。
慌てて駆け寄るが、垂れ目で睨まれる。地味だけど妙な圧迫感。
177 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:01:10 ID:Ony8SuP20
(#'A`)「いきなり何すんだブーン……」
( ;^ω^)「か、会話がループしそうだったから!」
吐く嘘すら見つからなかったので、素直に答える。
毒男が次の言葉を探す間に、スピーカーからの割り込み。
『30分間、その部屋を調べておいて』
聞いたことのない命令。これは出題として捉えていいのか?
( ´_ゝ`)「それは出題?」
ああ、聞いたほうが早いよね。
『いいや、これは違うよ。30分後、また放送するよ』
質問する暇は与えないらしい。言い切った後すぐ、ぶつんと切れた。
178 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:03:25 ID:Ony8SuP20
( ^ω^)「何々だお……」
('A`)「いつもの事だろ、取りあえず見て回ろうぜ」
見て回ると言われても、こんな狭い部屋で見る場所なんて箱と机しかないじゃない。
残り時間は横にあるソファの上で寝て過ごそう。でも、取り合いになりそうだなあ。
そう、そんな事を考えていた時期が、私にもありました。
( ´_ゝ`)「それじゃ、いっせーの、せっ! で持ち上げるぞ」
( ^ω^)「じゅ、準備できたお」
('A`)「何かごめん」
( ´_ゝ`)「よーし、いっせーの……」
( #´_ゝ`)「「せっ!!」」(^ω^# )
がごごごと壁に角を擦りながら、本棚が持ち上がる。
空だと思って油断していたが、何だこれ滅茶苦茶重い。
('A`)「オッケー何もない! もう降ろしていいよ!」
179 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:05:34 ID:Ony8SuP20
本棚の下を覗き込んでいた毒男が急いで離れ、僕らを見守る。
兄者と目配せしながら、バランスが崩れないよう慎重に本棚を降ろす。
( ;´_ゝ`)「これ重いにも程があるぞ……材料は何だ? 鉄か?」
( ;^ω^)「僕ちょっと手が痛いお……」
(;'A`)「手伝えなくてごめんな、机の中全部調べてくるよ」
毒男が一人、僕らとは違う原因から汗を流す。気にしなくていいのに。
僕としては、メインである謎解きに助力できないのが一番歯痒い。
( ´_ゝ`)「内藤、ちょっと手見せてみろ」
( ^ω^)「もう大丈夫だお」
( ´_ゝ`)「そうか? まあ、無理すんなよ」
兄者が中くらいの箱の中身を床にぶち撒け、二人でばら撒かれたものを見る。
中には、ホッチキス、ガムテープ、セロハン、木工用ボンド、水のり、厚紙。
まるで、小学校の図工の時間にでも使うような道具のオンパレードだ。
180 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:07:25 ID:Ony8SuP20
( ^ω^)「何かを作らせるつもりなのかお?」
( ´_ゝ`)「さあ……俺は創作とか苦手だな」
ぶち撒けた中身を箱の中に戻すが、箱の蓋は開けたままにしておく。
次に、カンペンケースのような箱を開ける。中には鉛筆と消しゴム。
( ^ω^)「……筆箱?」
( ´_ゝ`)「像が踏んでも壊れませんってか」
見たところ、普通の鉛筆と消しゴムだ。芯以外、全部真っ白な所を除けば。
消しゴムを割ってみても、中に鍵が! とかがある筈もなく、普通の消しゴムだった。
( ^ω^)「勿体無いことしちゃったお」
( ´_ゝ`)「まだ使えるってこの消しゴム」
鉛筆と、四分割にされた消しゴムをケースに戻し、一番大きい箱へ。
181 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:13:11 ID:Ony8SuP20
( ´_ゝ`)「何も入ってないな」
( ^ω^)「空気より重いガスが、この中に入ってるって事はないかお?」
( ´_ゝ`)「あるかもしれないけど……あ、そうだ」
兄者は箱の底に手を突っ込み、唐突に角をがりがりと引っ掻く。
見ていて、爪が、こう、べきりと剥がれそうで怖い。
( ;^ω^)「何してるんだお?」
( ´_ゝ`)「これ、二重底とかになってないかなーって」
( ^ω^)「成程お」
しかし、そんな兄者の考えも当たらず、本当にただの箱だった。
期待していただけに、ちょっとがっかりしてしまう。
最後に、期待を込めて長方形の大きな箱を開く。
これも中に何かが入っているという事はなく、見事に空。
( ^ω^)「何もないおー、RPGで開けた宝箱が空だった時のような気分だお」
182 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:21:24 ID:Ony8SuP20
('A`)「おーい二人ともー」
机を調べ終えたらしい毒男が、一冊のノートを持って来る。
( ^ω^)「それ何だお?」
('A`)「白紙のノート、何も書いてない」
( ´_ゝ`)「白紙ぃ?」
('A`)「嘘じゃないぜ、ほら」
ばららららと高速でページを捲る毒男。確かに何も書いていない。
それと、ノートの風圧が心地良い。
('A`)「なんだろう、擦ったら何か出てくるとか?」
( ´_ゝ`)「炙り出しとか?」
( ^ω^)「鉛筆ならあるおー」
ケースから鉛筆を取り出し、毒男に手渡す。
183 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:28:11 ID:Ony8SuP20
もし炙り出しだったら、鉛筆で擦ったら見えなくなるんじゃないか、
なんて議論も空しく、毒男が見つけたライターで炙っても、擦っても、
ヒントのヒの字すら出てこなかった。無駄にページを消費した。
取りあえず、少し焦げたノートはメモ帳として使う予定でいく。
( ´_ゝ`)「ここまで何もないと、逆に清々しいなー」
( ^ω^)「僕は苛々してきたお」
('A`)「俺はどうでもよくなってきた」
部屋の中も、思いつく限り調べ尽くし、時間が余る。
それぞれがそれぞれのマイナス方向へ傾いていると、スピーカーの放送。
『30分経ったよ、一度部屋から出てね』
正直、やっとか、と思った。
のろのろと立ち上がりつつ、痛む尻を擦る。
どうせ座るなら、ソファに座っておけばよかった。
184 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:33:42 ID:Ony8SuP20
一応、部屋の簡易見取り図をノートに書いておいた。
空間把握能力と絵心なぞ皆無に等しいので、部屋を上から見た落書きだが。

ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_216.jpg
('A`)「なんかちょっと物でかくね?」
( ^ω^)「文句言うなら毒男が書いてくれお」
(;'A`)「ごめん」
その後、毒男の書いた見取り図が僕より上手かった為、普通に落ち込んだ。
『落ち込んでるところ悪いけど、その部屋から出てね』
スピーカーにまで突っ込まれる。
186 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:41:56 ID:Ony8SuP20
書き忘れてた。図の右上にある黒い四角はスピーカーです。
185 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:40:40 ID:Ony8SuP20
廊下で待機していると、何もないと思っていた廊下の一部が開き、ドアになる。
周囲を歩く時、間違ってもよく観察していたとは言えないが、継ぎ目すら見えなかった。
これで縦に線が入ってる等のカモフラージュをしてあるなら少しは解るが、これは。
('A`)「こういうのはもう考えるだけ無駄だぜ……ダンジョンだと思えよ」
( ;^ω^)「う、ううむ」
( ´_ゝ`)「隠しが多いダンジョンだこと」
納得出来るような、出来ないような理由で説得される。
もしかしたら、あの部屋にも隠し通路があったのかもしれない。
けど、こんな巧妙に隠されていたのでは、向こうが曝け出さない限りわからない。
('A`)「なんだここ」
そして、隠し扉から入った部屋には椅子が一つ。
これは、3人で椅子取りゲームでもしろって事なのだろうか。
187 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:45:35 ID:Ony8SuP20
『流石君、そこで15分待機』
( ´_ゝ`)「俺?」
『他の二人は、そのまま奥に』
椅子の真後ろの壁が動き、ドアが現れる。
こんなの初めてだ、知恵比べなのか? 謎解きなのか?
('A`)「ちょっと待てよ、今回は何々だ?」
『何、とは?』
('A`)「今まで、謎解きとか、論理パズルとか、知恵比べとかあったろ」
『今回は何をするのか、と聞きたいんだね?』
('A`)「……その通りだよ」
188 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/06(金) 12:53:55 ID:Ony8SuP20
暫く、砂嵐のような音が流れる。それに紛れて、咳払いにも似た音。
もしかして、答えを出すのを勿体振ってるつもりなんだろうか。
『それを決めるのは、君達自身だ』
('A`)「は?」
『時間は決まっているからね、次に進んで』
兄者が椅子に座ったのを機に、毒男が先へ進む。
今までとは比べ物にならないくらい、嫌な予感がする。
兄者に手を振って、次に入った部屋にも椅子が一つ。
ここでスピーカーは、予想通りの放送をかけてくれた。
『鬱田君、そこで20分待機』
( ;^ω^)「おぅ…………」
194 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:30:15 ID:Gc30rjAE0
初日で一緒になった日から、自分らがそれぞれ一人になる事はなかった。
トイレ、風呂、着替えと、常識で人の目を避けるべきもので別れたり、
個人の判断で一時分断する事はあっても、それが強制ではなかったから。
ああ、毒男が一人先行したり、兄者が一人残ったり、二人を見失ったりしたが、
それでも一応は個人のもので別たれただけで、スピーカーによる強制ではない。
( :^ω^)「毒男……」
('A`)「……」
助言か激励か、慰めか、その他の何かを期待して名前を呼ぶ。
けど、彼はらしくもなく、乱暴に椅子にどかっと座り、足を組んだ。
『内藤君、次に進んで』
スピーカーは、椅子に座った時、調度目線の位置に来るよう天井からぶら下がっている。
かたかたと椅子が揺れているのは、毒男の貧乏揺すり。苛立っているんだろうか。
……苛立っているんだろうな。
195 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:33:11 ID:Gc30rjAE0
いつもは『部屋に進んで』『知恵比べ』『10時までに此処へ』等々、
目的とする道が、はっきりと見えている事ばかりを喋っていた。
なのに、ここに来て、これから出題されるであろう問題のジャンル説明なし。
さっきの部屋を調べろとの命令も、それがこの先どう繋がるのか、
何をやればいいのか説明すらなし。打つ手どころか、打つ場所もない。
『内藤君、次に進んで』
何回も言わなくてもわかっている。大事な事だからとかそんな話じゃない。
この命令に何度も逆らい続けてるとどうなるのか、皆で実験した事がある。
結果は、知恵比べの対戦相手の顔すら知れずに、こちらの不戦敗であった。
逆らっても、多少の時間稼ぎに使えるくらいで、目当てのメリットはない。
けど、素直に従ったところで、僕らに何らかのデメリットが生じる訳もない。
初の敗北が不戦敗という汚点を心とPCの個人データに刻まれ、
あのような事はもうしないと皆で誓い合ったのがつい先日。
あの時は5回でアウトだったが、仏の顔も三度までとの諺がある。
また同じ回数とは限らない。4回でアウトかもしれないし、次が最後かもしれない。
196 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:34:43 ID:Gc30rjAE0
『内藤君、次に進んで』
仏が鬼に変わる三度目の放送が来た。もう後はない。
( ;^ω^)「ぐぬぅ」
わざと大きい足音を立てて、次の部屋へ向かう。
毒男からのお言葉は何もない。それが余計に不安を煽る。
諦めてドアノブに手をかけた時、ようやく背中に声をかけられた。
('A`)「なあ、ブーン」
( ^ω^)「ど、どうしたお?」
前に述べた何かを期待して振り返るが、毒男はこちらを見てはいない。
足を戻そうとするが、スピーカーが視界に入り、彼に近付く事を躊躇わせる。
('A`)「スピーカー、これから何をするんだ?」
なんだろう。とてつもないフェイントでもかけられたのだろうか。
肩を叩かれて振り返ったら、指ではなくナイフが待ち受けていたような気分だ。
197 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:36:02 ID:Gc30rjAE0
『それを決めるのは、君達自身だ』
( ;^ω^)「毒男……」
('A`)「今のスピーカーの言葉、絶対に忘れるなよ」
( ^ω^)「え?」
今のって、『それを決めるのは、君達自身だ』って言葉か。
それなら兄者が留まった部屋でも聞いたじゃないか。
('A`)「これから何があっても、俺達を信じろよ」
こちらを見ずにそう言って、ひらひらと手を振る。僕には分からないし、解らない。
ただその言動、格好いいじゃないか。毒男の癖に。何の漫画読んだんだ。
『内藤君、次に進んで』
( ^ω^)「ひぃ」
まさかの四度目を真正面から受け、慌てて次の部屋へ走る。
198 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:36:46 ID:Gc30rjAE0
入ると同時に勝手にドアが閉まり、ロックもされた。
ノブをがちゃがちゃ回してみるが、ぴくりともしない。
『内藤君、そこで25分待機』
( ;^ω^)「25分かお」
短いような、長いような、微妙な時間だ。
何時間とかではなく、何分単位なだけマシなんだろうか。
この部屋には座る為の椅子しかなく、他にはスピーカーだけ。
暇を潰すような物は一切ない。暇を潰せる物も、持って来てはいない。
( ^ω^)「ふーむ」
仕方なしに、椅子に腰掛ける。ついでに脚を組んで、腕も組む。
背もたれに体を預けてみるが、硬い椅子だ。疲れが出る。
偽占い師のところにあった、ふっかふかなソファがよかった。
あのソファなら、疲れるどころか熟睡できるだろう。
199 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:37:47 ID:Gc30rjAE0
考える人のポーズを取って、少し考えてみる。
ペンやメモ帳、紙屑すら持ち込み厳禁の訳は、これだったのか。
僕の待機時間は、25分。兄者が15分。毒男が20分。
それぞれ違う待機時間は、何か意味があるのだろうか?
入った順に5分ずつ加算されていっているのも気になる。
何故に5分? すれ違いが狙いか。考え過ぎだろうか。
ていうか、25分待った後、何処に向かえばいいんだろう。
部屋が連なってはいるけど、時間的に二人には会えそうにない。
僕が来るまで、部屋で待っていてくれるのが一番だけど、
( ^ω^)「スピーカーに誘導されていないだろうし……」
うっかり口に出た。思わず両手で塞ぐが、ここには僕と無機物のみ。
( ^ω^)「ふぬぬぬぬぬ」
頭を両手でぐわしぐわしと掻き混ぜる。
200 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:38:32 ID:Gc30rjAE0
駄目だ。頭から煙が出そうだ。
こうなったら、考えるものを変えよう。
この前の毒男、PC保護ではテスト結果がどうのこうのと言っていた。
僕のように壊滅的な結果ではないのに、何故落ち込むのか分からない。
学期末テストで僕の倍の点数を取っていたのに、項垂れていた毒男。
……僕の点数が、有り得ないくらい低いのもあるかもしれないが、
70点というのは、僕から見ればいいとこまでいった点数だ。
苦手な教科を赤点回避していた事に涙する僕と毒男の対比は失笑物だろう。
( ^ω^)「思い出したら心が……」
微妙に思考が脱線したので、元に戻す。
自分の通っていた高校は、期末テストの順位を堂々と廊下に貼り出す学校だった。
毒男と兄者がまず見上げるのに対し、自分はまず見下ろして自分の名前を探す。
成績上位者だけが貼り出されればいいものを、何故最下位まで掲示するのか。
抗議しても、下位者の屁理屈である。相手は教師。言い負ける。
「ならもっと良い成績を目指せ」で説教、補習で終わってしまう。
なので、学内の顔見知りなんかには結果を知られているのである。
上位や下位は色んな意味で目立ち、口伝てにすぐ家族にもバレてしまう。
201 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:39:39 ID:Gc30rjAE0
自分はもう開き直ってるからいいのだが、二人は褒められて然るべき位だ。
見られて困るような人物は思い当たらない。頭が良くて悪い事は無い。
( ^ω^)「ぬぬん」
結局答えが見つからなかったので、これも考えるのをやめる。
腕時計を見れば、まだ7分しか経っていない。
二人は、今頃何を考えているのだろうか。
202 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:41:29 ID:Gc30rjAE0
『──……分間、待機しててね』
人が行くのを手を振って見送って、スピーカーを視界に入れる。
何の思惑があってかは知らないが、随分な事をしてくれたものだ。
部屋にはスピーカーと椅子のみ、他には何もない。
私物の持ち込み厳禁なので、それで何かする事も出来ない。
する事がないと、無作為に考えを張り巡らせてしまう。
先日の敗北、PASSの事、一覧に表示された見た事のある名前、
ここに来ているかもしれない二人の家族、知人、推理、これから。
不戦敗に関してはもう過ぎ去った事なので、今更どうしようも出来ない。
後から、スピーカーの放送を厳守しようと三人の間で決まった。異論はない。
PASSについては、PCや他二人が目の前にあってこそだ。
ネットで公開されている代表的な暗号作成方法は、あまり効果的ではない。
このPCの初期設定のPASSは、簡単な乱数で設定された4桁の数字で、
統計学をちょっとでもかじっていればすぐに糸口を見つけれるものだった。
たまに、デジタルを現実の創造物と誤解している者がいるが、
物理法則に従った物質とは違い、作るのも壊すのも手間がかかる。
創造は破壊よりも困難だとか、意外と破壊活動も疲れるものだと色々言うが、
それとこれとは全くの別物であり、わざわざ当て嵌めようとするのがおかしい事だ。
203 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:42:35 ID:Gc30rjAE0
PASS解析は、言うならば算数、数学の逆算みたいなものだ。
逆算なんて簡単だと言う馬や鹿もたまに、いや、かなりいるが、
それは逆算の式の位置も答えも知ってるからだろうと言う他ない。
求める答えが出ていない、解らないものもあるかもしれない。
例えば、 10+( )-6=9 の( )内に入る数字を求めましょうという問い。
これは単純計算もいいところな問題だ。小学生なら兎も角。
こんなのを例えに出したら相手はきっと怒るのだろうが、
相手が「簡単だ」と言ったのはこのLvか、それに近しいものだ。
馬鹿の言う「難しいけど簡単な逆算」は、中高で習う数学の、
整数、図形の相似などの証明問題と混同している可能性がある。
遠い、とは言わない。
近い、とは言えない。
惜しいとは言える。
主観的に、解析幾何学が数学の中ではPASS解析に一番近いだろうと思う。
尤も、これは主観であり、個人的な意見であり、同意は誰にも求めない。
204 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:43:15 ID:Gc30rjAE0
ざっと見たファイルの中で、いくつか見つけた知人の名前も気になる。
向こうがこちらの存在にに気付いているかどうかは定かではない。
何らかのアクションを起こそうにも、まずセキュリティという壁がある。
こちらからは連絡が取れない。それは向こうも同じ状況。
一人が、「自分達のPCにかけてあるセキュリティを一日だけ解く」
なんて無茶にも程がある案を出してくれた。即行で却下した。
ある意味、銀行の通帳を人の沢山いる場所へ投げ捨てるのと変わらない。
引き出しに使うパスワード? そんなものありませんよ、と同義だ。
こちらが不利になる情報を出せるだけ引き出されて終わり。
自分達で確認する事は出来ないが、預金は確実に減っている。
荒唐無稽な案を出した人物が、ここいらで反論をしてきたが、
「その一日で、相手が見えないバリアを取り払った事に気付けるか」
と語気を強めて一人が言うと、
「もしかしたら、気付くかもしれない」
との事。
相手がどういったアクションを起こすのか考えてすらいなかった。
もしこれで気付いたとしても、何の反応も返さない、あるいは、
自分達がその何らかのアクションに気付かない可能性もあるのに。
205 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:45:51 ID:Gc30rjAE0
自制して口には出さなかったが、荒唐無稽を辞書で引けと言いたい。
嫌な性格だとは自分でも思う。でも、考えるだけなら、きっと自由だ。
一応、自分達のものには丸一日かけて作った長いだけのPASSを掛けてある。
塀で例えるならば、ただ上に上に長いだけの、とても脆い塀だ。
頑強な塀にしようにも、材料はあれど、硬くなる混ぜ方を知らない。
案はあるが、複雑な暗号を生み出す式に数式を使おうにも、自分らは高校生。
DQNのまま成長した大人や同年代ならまだしも、大学生には負けるだろう。
ぐるぐると思索を巡らし、換字でも何でもランダムで生み出された4桁の数字を式にし、
その解答を次の式の一部にし、そしてまたそれを次の式にと使用する方法を考えた。
考えを巡らせば、忘れない内にそれを実行、出来れば書き留めておきたくなる。
小説家なら、浮かんだ展開をメモ帳にでも書くような。
研究者なら、浮かんだ案を今すぐ実行に移すような。
数学者なら、浮かんだ式を紙に書いて解くような。
作曲家なら、浮かんだ旋律を譜面に記すような。
206 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 19:54:53 ID:Gc30rjAE0
「……チッ」
苛々が募り、舌打ち、貧乏揺すりを実行するが、晴れる気配はない。
腕時計を目をやるが、入った時の時間を確認していなかった。
いっそ椅子でも壊してやろうかと思い立った時、放送がかかる。
『──分経過、さっきの部屋へ』
さっきの部屋とはなんともまあ、放送にしては分かりにくい表現だ。
仕事場とか、云番目の部屋とか、他にも言い方はあるだろうに。
心の中でスピーカーに愚痴りつつ、開かれたドアから出た。
出た瞬間、背筋にぞっと泡立つような悪寒が走る。
嗅覚はそんなに良くない筈だが、緊急時だからなのか、
第六感か、野生の勘か、鉄錆のような血の臭いがする。
短時間で掻いた汗で衣服をじっとりとさせながら、部屋へ向かう。
何かあったのか、戦闘でもあったのか、死んだのか、殺されたのか。
想像は尽きない。血生臭い妄想に似た希望が頭を過ぎる。
207 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 20:18:39 ID:Gc30rjAE0
指定された部屋のドア、その下の隙間から流れ出る赤い液体。
期待は確信となり、蝶番が歪む程に荒々しくドアを開け放つ。
この時から、彼の頭はいつもの正常な状態から脱していた。
自分に都合のいい、有り得ない解釈をしてしまう程に。
「……そう言えば、俺、誕生日だったっけ」
ある種のパニック状態とも言えるが、始めから狂った部分は変わらない。
唐突だが、ここである人種について説明をしたいと思う。
推理小説を好む輩にたまにいる、少し危険な人種のついて。
金目当て、女目当て、地位目当て、何かを求めて誰かを殺し、
その罪が露呈される事を恐れる輩に、推理小説を好む者がいる。
推理小説に書かれているシナリオを、そのまま実行しようという輩だ。
書かれている時点で完全犯罪とは程遠いのに、それに気付かない。
その時点で既に頭が終わっているのだが、本人がそれを隠している所為で、
始めから矛盾している「完全犯罪」を指摘してくれる人物もいない。
幼稚な犯罪は愚かな結末を残し、犯人は犯罪者のまま生を終わる。
ここで推理小説や火曜サスペンスドラマがあまり叩かれないのは、マスゴミだから。
208 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 20:36:07 ID:Gc30rjAE0
そんな腐った輩とは別に、純粋な犯罪に憧れる者がいる。
完全、パーフェクト、そんな響きに憧れ、実行しようとする者。
邪気眼、厨二病と言って罵られても仕方ない連中だ。
他者をどうにかする目的で動くのではなく、
他者の目から自分を外す目的で動き回る。
前者とは違い、こちらは作品の模倣犯罪をあまりやらない。
小説として世に出た時点で、それが完全ではない事を解っている。
だから彼らは、ふとした事を自身のトリックのネタにする。
それを頭の隅に置き留めたり、書き留めたりしておく。
ここで誤解を招くと怖いので、以下にフォローを入れておく。
全員が全員、思い付いた犯罪を現実で実行しようと思う訳ではない。
小説にしたり、漫画にしたり、別の形で発散している場合もある。
ミステリー研究会、推理小説愛好会などがいい例だと思う。
映画の完全犯罪クラブは、結構な酷評が寄せられているが、
「パーフェクトクライムに憧れる少年達を描いたもの」
としては良い作品だと思う。個人的に10点満点を送りたい。
209 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 20:50:24 ID:Gc30rjAE0
「完全犯罪」の生贄として殺される哀れな人物は、
実行者が殺意を抱いている人間から、通りすがりの不幸な犠牲者、
自殺サイトやで募集した希望者、他殺願望がある者を、だったり。
生死が関わるものではなく、金やデータ、動物に向かう者もいる。
「犯罪があった事すら気付かせたくない者」や、
「わざと人の目に晒して、自分を容疑者から外させる者」、
「大衆の前で何かを犯し、パニックにさせたい者」等々。
目的、手法、標的は多岐に渡る。
彼は、自分で自分がどの場所に立っているのか知らない。
それは外から自分を見た誰かが位置付けるものだと思っている。
誰かに殺意を抱く事はあっても、自分の手で殺そうと思った事はない。
ただ、相手がトラックにでも跳ね飛ばされて死なないかなと思うくらいだ。
死体を見ても、恐怖に駆られる事はなく、体中を興奮が駆け巡った。
冷たくなった首筋に手を当て、呼吸確認。鼻に手を当て、呼吸確認。
自分が殺したのではないという事実が、認識を狂わせたのだろう。
冤罪という言葉は頭から消え失せ、この死体をどうしようか、
この部屋を密室にして、密室殺人事件にしまおうかと考える。
落ち着きなく死体の周りを歩き、思いついたのか両手をぱんと合わせる。
210 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 21:22:47 ID:Gc30rjAE0
彼は死体の胸に刺さっていたナイフを抜き、本棚の裏へ投げる。
血が飛び散ったが、気にしない。自分にかかってなければいい。
時間は少ない、誰か来る前に、やれる事をやらなければ。
それから袖で手を隠して窓の強度を確かめる。少々心許無い。
道具箱に飛び付き、中からいくつかの道具を取り出す。
血溜まりを踏まないよう移動し、ソファを踏み台に、窓の前へ。
その窓にガムテープを対角線上に貼り、真ん中にガムテで取っ手を作る。
マイナスドライバーを窓枠と窓の間に捻じ込み、沿って一周する。
彼は、自分が何故こんな事しているのか理解していない。
もしかしたら、彼は誰かを惑わせていたいだけなのかもしれない。
ただ、力を強く込める時、窓に映った自分の顔が笑っていた事に気付いた。
211 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/15(日) 21:27:17 ID:Gc30rjAE0
6話ここまで
キャラのシンキングタイムで地の文だらけになってしまいました
212 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/16(月) 00:24:45 ID:Ph.8XeBEO
乙乙
213 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/08/16(月) 04:17:35 ID:JnakWIbsO
乙です
続きが気になる気になる
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