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(,,゚Д゚)己を信じる争いのようです川 ゚ -゚) |
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:01:48.27 ID:f9WbjnGCO
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その国には、二つの種族が暮らしていた。 “ヒト”と“エルフ” 容姿こそ似てはいるが、両者には大きな違いがあった。 それは“魔法” エルフは魔法と呼ばれる、自然の力を借りた不思議な力を使うことができた。 自然を愛し、自然と共に生きるエルフ達だからこそ扱うことができるモノだ。 人間にはそのような力はない。 しかし、人々は利口であった。 魔法を使うことはできずとも、人々は火を、水を、風を、作り出すことができた。 人々には“科学”の力があったのだ。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:03:19.49 ID:f9WbjnGCO
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その違いは、両者に別々の暮らしをもたらした。 エルフ達は森で、自然と共にひっそりと暮らしてきた。 人々は街を作り、そこで発展や衰退を繰り返しながらも豊かな生活を手に入れた。 そこに、お互いが交わるような点はほとんど存在しなかった。 人とエルフが顔を合わせることも無く、どちらかが互いの領域に踏み込むことは決してなかった。 (#^ω^)「大臣!大臣はどこにおるか!!」 (;‘_L’)「はっ!お、お呼びでございましょうか」 (#^ω^)「呼んだらすぐに来ぬか!たわけめ!」 それが変わったのは彼、ホライゾン=ガストラが帝王になり、しばらくしてからの事であった。 十数年前発生した原因不明の、VIP町大火災。一夜にして町民の殆どが炎に呑まれた、史上最大級の火災であった。 その原因が、エルフの魔法によるのものであったとホライゾン帝が発表し、戦争は始まった。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:04:57.92 ID:f9WbjnGCO
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エルフの森と帝国間に広がる荒野での戦争はしばらくの間続いた。 物量で勝る帝国は、広範囲殲滅兵器、魔導アーマーなどの活躍もあり、順調に侵攻を続け、エルフの森との距離を縮めていた。 ( ^ω^)「まぁよい。戦況はどうなっておる」 (‘_L’)「は……。現在も数で圧倒しているため、こちらがかなり優勢な模様です」 (*^ω^)「ぶひひひひ!いいお!さっさと奴らを滅ぼしてしまえ!」 (‘_L’)「……」 そして、ついに人間はエルフの森の目前まで辿り着いた。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:06:25.06 ID:f9WbjnGCO
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(‘_L’)(この戦争は……いつまで続くのだろうか……) エルフ達は自分達の住処を守るために。 人々は自分達の国を守るために。 彼らは戦い、争う。 ただひたすらに、己の正義を信じ、それを貫かんと―――
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:07:14.28 ID:f9WbjnGCO
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†(,,゚Д゚)己を信じる争いのようです川 ゚ -゚)†
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:08:33.59 ID:f9WbjnGCO
- ――帝国軍 前線基地
パチッ バチッ 火の爆ぜる音が、夜の空気を鳴らす―― ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― スモッグに覆われた空。鉄に舗装された道。山のように大きな工場と煙突に囲まれた町。 帝国の郊外に位置する町。それが少年の故郷だった。 家業を手伝い、近所の人々、友人と話し、遊び、笑い、両親と夕飯を食べ、寝る。 平和な日常。平凡な日常。昨日と違う点は、近所の子と些細な喧嘩をしたこと。 「明日、ごめんなさいしようね」と母に言われ、少年は泣きつかれた瞳をしょぼしょぼさせ、寝台に向かった。 明日は、どんな一日だろう。 明日は、モララー君にごめんなさいしないと。 明日は、どんな遊びをしよう。 明日は、どんなご飯だろう。 明日は楽しい一日かな。 明日も平和な一日かな。 明日は――― その明日は、少年の思い描いていたモノと大きく異なる、あまりに残酷なモノだった。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:10:04.05 ID:f9WbjnGCO
- パチッ バチッ
瞳を閉じていた少年は、何時の間にか現れた炎に起こされ、裸足で舗装された道を駆けていた。 母の愛に抱かれ寝ていた少年は、いつのまにか悪意の炎に抱かれていた。 家を、家畜を、人を、町を、飲み込んでいく。普通の炎とは明らかに異なる速度で燃え上がる炎。 ( ;Д;)「カーチャン!トーチャン!!」 泣き、母を、父を捜しながら、炎に追われて、ただただ熱から背を向ける。 取り囲むように燃え上がる炎。鉄で舗装された道をも焼き尽くす、悪意の炎。 熱された鉄が少年の小さな足を焼く。焼け落ちてきた屋根が少年の小さな腕を焦がす。 あつい。あつい。あつい。 皮膚が焼ける匂いが少年を包んだ。 やがて、炎から逃げ道を失った少年は、村の中央に位置する広場に辿りつく。 かつては清らかな水で覆われていたという、枯れた噴水と、枯れた井戸がぽつりとある広場。 広場から続く道は全て炎に覆われ、家々も燃え上がっている。 パチッ バチッ 呆然と枯井戸の前に立ち尽くしていた少年の背後に、炎が迫る。 もう逃げ場は無い。眼前にある、ぽっかりと、招くように開く枯井戸の穴を除けば。 パチッ バチッ 少年は躊躇った後、枯井戸へとその身を――――――
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:11:37.04 ID:f9WbjnGCO
- ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
( ^Д^)「もう一押し、ってところだな」 ( ・∀・)「そうだね。ま、こっちの方が数は多いし、このまま押し切っちゃえばいいんじゃない?」 声で、現実に引き戻される。 焚き火を見つめている内に、昔のことを思い出してしまっていたようだ。 パチッ と再び、焚き火が爆ぜた。 空に昇った月の下、荒野に造られた陣地にて数人の男達が火を囲み、話をしていた。 その陣地からはエルフ達の森の様子も伺える。 エルフの森と人間国の間に広がる荒野での戦争が続き、人間軍はようやく森を眼前にすることができた。 鉄と油に覆われた帝国では一切見られない森。 (,,゚Д゚)「あの森にエルフ達がいるんだな……」 ( ・∀・)「そうだね。ようやく追い込んだって感じかな?」 会話を交わすのはギコ=マーシアスとモララー=ボナパルト。 二人とも部隊を率いる身でありながら、戦場では積極的に前に出るタイプである。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:13:27.56 ID:f9WbjnGCO
- (-@∀@)「一気に攻め入るのはオススメできないな。敵の本陣も近いし、慎重に進むべきだ」
( ^Д^)「そんな心配いらないって。俺の魔導アーマーでみんな焼き尽くしてやんよwww」 ギコ達の会話に参加してきたのは、アサピーことアサ=ペロリストとプギャー=マリウスだ。 アサピーは研究者だ。 中年の、無精髭によれよれの白衣と、位が高いとは思えない風体だが、頭脳は相当のものであり、様々な兵器を作り出した。 プギャーの乗る魔導アーマーもその一つである。 魔導アーマーとは、科学の力を用いて限りなく魔法に近い攻撃が可能になった二足式の兵器である。 戦車二台分ほどの大きさがあり、その破壊力、耐久性はエルフ達にとってもかなりの脅威となっていた。 無論、大量生産はできなし、燃費も悪い。故に、今この前線にある魔導アーマーもプギャーの一機のみだ。 他にもアサピーはギコやモララーが身に付けている、魔法への耐性を上げる軽鎧を作ったりもしている。 ( ・∀・)「今の僕らには勢いがあるし、尻込みする必要はないんじゃない?」 (-@∀@)「尻込みしているわけではない。今勢いがある以上、万が一があった場合に立て直すのが困難になる」 ( ^Д^)「だからー、心配し過ぎだってwww」 各々が思ったことを口に出す中、ギコは一人、夜空を見つめていた。 頂点に月を置き、その周囲では無数の星達が煌めいている。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:15:01.14 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)(すげーな……。こんなの、俺達の国じゃあ見れないぞ)
帝国の、化学物質やスモッグで汚れた空気を通してでは、決して見ることが出来ない満天の星空。 月が明るくなければもっときれいに見えたのだろう。 (,,゚Д゚)(……もうすぐ満月か) 空から視線を戻せば、まだ三人が一気に行くか慎重に行くかで議論を続けていた。 彼らがこうやってお互いに意見をぶつけ合うことは少なくない。 かと言って、彼らが不仲なわけではなかった。 この言い争いも、互いに自分の意見を率直に言い合い、議論し合い、そこから最善の道を見つけ出すためにやっているのだ。 その議論を行う三人は、この前線基地での地位はトップクラスである。 博士号を持つアサピーに、前線基地にいる二つの部隊の内一つを束ねる、隊長のモララー。 そして、頭脳はさほど良くないが機械を扱う腕は確かな操縦士のプギャー。 ( ^Д^)「とっとと終わらせてとっとと帰ろうぜ。それが一番。この糞ったれ戦争はそろそろ終わって良い頃だろ」 (-@∀@)「それはそうだが……急がば回れという言葉もあってだな」 ( ^Д^)「でもよ、魔導アーマーの性能はすごいんだぜwww」 (-@∀@)「それくらい知ってる。私の設計した兵器だからな。……だが魔導アーマーの攻撃は強大な分、大味だ。 森の中では有効に使えない場合が多いと想定される。森をあまり傷つけてはならないと帝王閣下も仰せだしな」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:16:41.43 ID:f9WbjnGCO
- ( ^Д^)「まぁ確かに魔導アーマーは森での戦闘を想定してないからな……でも腐らすにゃ勿体無さすぎるぜ?」
( ・∀・)「ねぇ、ギコはどう思う?」 (,,゚Д゚)「俺?」 ギコはしばらく森を見つめ黙りこくる。 やがて、頭の中を整理し終えたのか、口を開いた。 (,,゚Д゚)「進軍しつつ様子を伺うってのでどうだ?魔導アーマーを先頭に、その後ろに俺達が続く」 (-@∀@)「……?どういう事だ?」 (,,゚Д゚)「プギャーの魔導アーマーなら突っ込んでって集中攻撃されても被害は少ないはずだ。なんせ、装甲は城壁並みだからな」 (,,゚Д゚)「後は、俺とモララーの部隊でなるべくエルフを迎撃して、被害を最小限度に留める」 (,,゚Д゚)「……そして、好機と判断すれば一気に打って出る。」 ( ・∀・)「……森のエルフがどんな動きをするか、まだ分からないものね。慎重かつ大胆な、良い策だと思うよ」 ( ^Д^)「えっ?俺に壁になれって?」 (,,゚Д゚)「まあ……、そういうこったな」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:18:11.92 ID:f9WbjnGCO
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( ^Д^)「いや、嫌だよそんなの、俺」 (-@∀@)「なんだ。さっきまで一気に攻め込みたいと言ってたくせに」 ( ・∀・)「魔導アーマーの性能なら大丈夫でしょ?」 ( ^Д^)「いや、そうだけどさ……」 (,,゚Д゚)「もし敵が何の対策もしてなかったらプギャーの一人舞台だぞ」 ( ^Д^)「あ、ああ……そうだな……」 (-@∀@)「ふむ。そうなれば戦功を独り占めだな」 ( ・∀・)「帝王陛下からすごい額の報奨が貰えたりして」 (*^Д^)「そ、そうかな……?」 (,,゚Д゚)「ああ、きっとそうだ」 (*^Д^)「しゃーねーな!じゃあこの俺が先陣切ってやるよwww」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:19:40.69 ID:f9WbjnGCO
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(,,゚Д゚)「うし。作戦は決まったな」 (-@∀@)「ああ。プギャーを餌に向こうの出方を伺い、ギコとモララーの部隊でプギャーを援護、状況に応じて一気に反撃、だな」 ( ・∀・)「……とにかく明日が勝負、だね」 モララーの言葉に、一同の表情が一気に険しくなった。 互いに視線を合わせ、小さく頷く。 (,,゚Д゚)「国の為に」 ( ・∀・)「平和の為に」 勝負は明日。 男達は月の下、決意を新たにそれぞれの寝床へと戻っていった。 焚き火の火は消え、寝ずの番をしている兵の持つ小さな火だけがゆらゆらと揺れる。 夜空の星は一層輝きを強くしているように見えた。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:21:26.64 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
輝く夜空は、いずれ陽光に掻き消される。 朝。 太陽が東から昇り、恵みを万物に分け隔てなく与える時。 健やかに枝を伸ばす木々 その枝で囀る色とりどりの小鳥達 可憐な花が何万種類と咲き乱れ その間を優雅に闊歩する草食獣達 さんさんと木漏れ日が降り注ぐ森 ――エルフの森 神秘的で、幻想的なその風景の中、小鳥達と同じように細枝に止まっている一つの影があった。 川 ゚ -゚)「……」 その人物は、美しい、楽園のようなその風景の中に見事に溶け込んでいたが、 残念ながら背負っている弓と矢だけは風景に溶け込めていなかった。 長く艶やかな黒髪、すらりと伸びた四肢、整った顔立ち、そしてなにより特徴的なのが、ピンと尖った耳。 彼女は、エルフだ。 彼女は、細枝に座ったまま、彫像の如く動かない。まるで、なにかを待っているかのように。 凛々しい顔を、森の外側に向けている様は、まるで森の守護女神の様だった。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:22:57.45 ID:f9WbjnGCO
- 彼女が微塵も動かないまま数時間経った。彼女は流石に退屈したのか、もしくは何かを感じ取ったのか、すくっと立ち上がる。
すると、森が、揺れた。 平和を謳歌し、朝日を浴びていた小鳥達が動揺し、飛び立っていく。 川 ゚ -゚)「……来たな」 森の藪が二つ、彼女の囁きに呼応するかのように蠢いた。 黒髪のエルフは背中の弓を手に持つと、木から木へ、枝から枝へと素早く飛び移る。 藪からも、黒い影が二つ、躍り出る。 三つの影が、常人には追えない速度で移動していく。 その終着点にあるモノは、人間軍の魔導アーマーだった。その傍を何人か人間の兵士も同行している。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:24:17.73 ID:f9WbjnGCO
- その金属の足が動く度に、木々の根を捻じ曲げ、花を踏み散らし、動物を怯えさせる。
彼女達にとっては、人間達の汚らわしい機械が神聖なる森に踏み入ったことだけでも、死罪に値する侮辱であった。 黒髪のエルフが、樹上から木製の矢を放つ。 無論、矢は鋼鉄に弾き返された。 魔導アーマーは、その脆弱な一撃でエルフ達に気づくと、銃口を樹上に定め、鉄の雨を放った。 人間達もそれに呼応し、銃を構える。統率の取れた、的確な対応だ。 だが、遅かった。エルフ達は、そのワンテンポ前に姿を消していた。 そして再び樹上に現れ、挑発するかのような矢が魔導アーマーに命中。 それが幾度も繰り返される。時には人間の首を狙い、時には背後から。 魔導アーマーは苛ついたかのように機械の足を踏み鳴らし、銃口を下げる。 傍のニンゲン達を置き去りにしたまま加速し、エルフ達がいるであろう樹に体当たりする。 豪快な音を轟かせ、木々が倒れる。 だが、エルフはその木々から既に離れていたようだ。黒い影が他の樹上に写る。 魔導アーマーは逆上したかのように、樹を砕きながらエルフを追う。……人間達を背後に置き去りにして。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:25:33.89 ID:f9WbjnGCO
- ζ(゚ー゚*ζ「順調ですね!まんまと計画にかかってくれてますよ!」
樹上を高速で移動しながら、美しい金髪のエルフが言う。 ξ゚⊿゚)ξ「コラ、調子乗ってるんじゃないわよデレ。まだ終わったワケじゃないんだから」 金髪の、双子だろうか。よく似た顔の二人が、追ってきている魔導アーマーに挑発するかのように足を止める。 魔導アーマーは、それに反応し、鉄の雨を放つが、彼女達からすればその動きは余りにも緩慢。 川 ゚ -゚)「ああ、まだ気を引き締めてやらなければ……と言いたい所だが、もう終わりだな」 先陣を切る黒髪のエルフが後ろの二人に言う。 三人のエルフに浮かぶのは、余裕の笑みであった。 弓を適度に放ちながら、逃げ回り、魔導アーマーを森の奥深くまで誘い込む。単純な策だった。 魔導アーマーの乗り手も、流石に何かおかしいと気づいたのか、それとも余りに攻撃が当たらないので諦めたのか、突如立ち止まった。 だが、もう遅かった。一度蜘蛛の巣に掛かった羽虫は、二度とその羽で飛ぶことはできないのだ。 荒野での戦争では彼女達を苦しめた魔導アーマーも、彼女達の本拠地、森では大した脅威にならない。 一体であればなおさらのこと。 いつの間にか、魔導アーマーを囲むように、樹上に何十人ものエルフが並んでいた。 黒髪のエルフの合図で、一斉に口を動かし、呪文を詠唱した。 次の瞬間、地面を突き破り生えてきた太い木の根に、魔導アーマーは絡めとられていた。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:27:50.96 ID:f9WbjnGCO
- パニックになったのか、銃を我武者羅に振り回し、光線を放つ魔導アーマー。
レーザーが魔導アーマーの足に絡まっていた根を何本か焼き切る。 が、切っても切っても、次から次へと根が生えてきて、光線銃の持つ手も封じられた。 そして根はついに魔導アーマーの後方部の内部、ぶ厚い鉄板で守られている動力部を、内部から侵食し、貫いた。 低い音が鳴り、一切の活動を停止する魔導アーマー。 動力部が止まり、開くことすらできなくなったコクピットを、内部から拳で叩く音が喧しく鳴る。 搭乗者が出ようとしているのだろう。だが、防護用に分厚く作られたのが仇となった。 そのコクピットの前に、黒髪のエルフがふわりと飛び乗る。 川 ゚ -゚)「……」 黒髪のエルフは、冷ややかな眼でコクピットの内部を見下す。その眼は、籠に閉じ込められ、もがく虫を見る眼であった。 少しの間コクピットを見つめ、搭乗者を観察した後、エルフは弓を構えた。 エルフは背中の矢筒から矢を取り出すと、なにかを唱え、矢を放った。 木製の矢ではコクピットに弾かれるだけのはずなのだが、彼女の放った矢は、コクピットを鮮やかに貫き、赤い花を咲かせた。 彼女が唱えたのは、付与系呪文の一つ、貫通の呪文だった。 魔導アーマーを取り囲んでいたエルフ達は、敵が息絶えたのを悟ると、緊迫した雰囲気を解き、地に降りた。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:30:01.43 ID:f9WbjnGCO
- ξ゚⊿゚)ξ「無事作戦成功……と言いたいですが、成功とも言えませんね、女王様」
川 ゚ -゚)「そうだな、相手は様子見をしてきたようだ。自惚れあがって一気に攻め込んでくると予想したのだが、釣れたのはこの一匹のみか」 ζ(゚ー゚*ζ「一毛打尽にする予定でしたもんねー。でもでも、上手くいったんですし良かったことには変わりませんよ!!女王様! この憎たらしいでっかい機械、フツーに倒そうとしたらすっごく難しいですもん!!!」 川 ゚ -゚)「それもそうだが……素直には喜べないな。まぁとりあえずはまだ森に居るニンゲンを攻めるぞ。後、間違えてるぞデレ。毛をどうするつもりだ?」 この黒髪のエルフは、エルフの女王。傍の二人は彼女に仕える女中だ。 人間の考え方に従えば、位の高い人物は安全な所で、部下に指示を出すものだが、エルフは違う。 エルフにとってこの戦争は初めての戦争。そもそも外敵と戦うのが初めてであり、妙なしきたりは存在しない。 なので、女王も等しく前線に立ち、勇猛に戦っているのだ。 無論、大多数の、女王を敬愛するエルフは、女王が傷つくことを恐れ、彼女が戦かうのに反対した。 が、彼女自身が、戦場に立つことをどのエルフよりも強く希望したのだった。 川 ゚ -゚)「ツン、ニンゲンの死体を森の外に出しておけ。森が穢れる」 ξ゚⊿゚)ξ「はっ!」 そう、女王は、エルフの誰よりもニンゲンを憎んでいたのだ。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:31:57.15 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
(;゚Д゚)「くっ……!早く下がれ!!傷ついた奴らには構うな!!」 四方から降り注ぐ矢の雨。 それもなんらかの魔力が働いているのか、銃弾のような破壊力と速度を持った矢だ。 それをなんとか避け、後退しようとするも、気がつけば木々に道を塞がれていた。 まるで生き物のように動く植物達に退路を制限され、そこにどこからか矢を射かけられるのだ。 そもそも、なぜこんなことになってしまったのか。 作戦自体に問題はなかった。 万が一の事があったとしても、被害を抑えるための準備や心構えはしていた。 ―――ただ一人、挑発に乗り、独断先行し、皆と足並みを揃えずに敵陣のど真ん中へ突っ込んでいった馬鹿者を除いて。 (;・∀・)「えぇい!!邪魔な木だ!魔導アーマーさえあれば全部なぎ倒して進めるのに……!」 だがその魔導アーマーは、護衛のギコ達を振り払い、単騎で突撃。 結界、人間達の科学技術の結晶は木々の間へ消え、帰ってこなくなった。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:34:06.50 ID:f9WbjnGCO
- (’e’;)「も、もう逃げらんねぇよ!と、投降する!だから命だけは……」
武器を捨て、諸手を挙げた兵士の胸を無情にも矢が貫いた。 兵士がその場に倒れると、とどめとばかりに無数の矢が兵士の体に突き刺さっていく。 (#・∀・)「くそっ!!」 それを見てモララーは矢が飛んできた方向にすぐさま発砲した。 しかし、手応えは感じられない。 (;・∀・)「ダメだ!あいつら木の上を飛び回りながら矢を飛ばしてる!」 (;゚Д゚)「今は逃げることに専念しろ!この状況じゃまともに戦えるわけがない!」 言ってる間にも矢は休み無しに飛んでくる。 どうやらエルフ達は相当の数の兵を森の中に潜ませていたようだ。 全軍で足並みを揃えて突撃していたら、成す術無く全滅していたかもしれない。 そう考えれば、プギャーが単騎で突撃したことも結果的にはよかったのだろうか。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:35:34.02 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)「……しかしっ!この矢の雨はどうにかならんかねっ!」
剣で矢を器用に弾き返しながら、ギコがボヤいた。 あらゆる方向から、目で追うのが困難な速度で飛んでくるそれを、確実に叩き落として。 (,,゚Д゚)「……モララー、部隊の連中を頼む」 ( ・∀・)「何をする気だい?」 (,,゚Д゚)「俺が囮になる。そうすりゃ、少しは逃げやすくなるだろ」 ( ・∀・)「……ちょっと危険じゃない?」 (,,゚Д゚)「今はできるだけ多くの人間を生かすことが大事だ。それに、俺かお前以外に囮が出来る奴はいないだろ そして、逃げながら攻撃できるお前より俺のほうが囮は適任だ」 ( ・∀・)「……死なないでね」 (,,-Д゚)「努力するよ」 左右後方から飛んできた矢へ一閃。 一振りで三本の矢を弾き、一人逆方向へと駆けていく。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:37:08.72 ID:f9WbjnGCO
- (#゚Д゚)「出て来いエルフ共!!ギコ隊長が相手をしてやらぁ!!」
「隊長」の部分だけわざわざ強調してギコは叫んだ。 当然エルフ達の注意が集まり、攻撃も集中する。 ほぼ全方位からの射撃。 しかしギコには矢の一本も掠ることは無かった。 回避可能な物は体の軸をズラして回避し、避けることが出来ない物は剣で防ぐ。 それは、決して人間には……いや、ギコ以外には真似できない動きだった。 ギコは銃器を扱うのが苦手で、剣の扱いを得意としていた。 彼の剣の才能は他の追随を受け付けないものであった。 だが、ほとんどの兵士が銃を使う戦場において、剣が役に立つ場面は少ない。 剣が届く間合いにさえ入れば有利なのは間違いないが、 不意討ちでもしない限りその間合いに入ることはまず不可能だろう。 しかしギコは、その不可能を可能にするかもしれない人間だった。 卓越した剣技と、常人離れした反射神経。そして“恵まれた”身体があったからだ。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:39:01.17 ID:f9WbjnGCO
- 故郷の大火事で身体の殆どを損失したギコは、身体に機械を埋め込む手術を受け一命を取り留めた。
その時に授かった改造された四肢。 機械の身体が常人には不可能な挙動をも可能にする。 (#゚Д゚)「遅い遅い!」 エルフ達の攻撃を悉く防ぐギコ。 サイボーグ化した彼の反応速度は常軌を逸している。 おそらくエルフ達は、このままではギコに攻撃を当てるのは不可能だろう。 だが、孤立無援の状況下に隊長格の人間がいるのだ。 エルフ側としても、ここでギコをむざむざ見逃すわけには行かなかったろう。 もちろんそれはギコも同じ。 囮としてその場に残ったわけであるが、ただ攻撃を躱すだけではエルフ達の足を完全に止める事にはならないのだ。 (,,゚Д゚)(奴らは木の上を飛び回りながらこっちを狙ってる……モララーの言った通りだ) 樹上を動き回るのはこちらに居場所を把握させないためだろうか。 なるほど、確かにこれでは銃で狙うのは難しい。 (#゚Д゚)(……俺がただ避けているだけだとは思うなよ!!)
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:40:44.86 ID:f9WbjnGCO
- 一歩踏み出しからの、跳躍。
ギコの視線の先には一本の木があった。 その枝にエルフが一人、別の木から飛び移ってくる。 自分がその木に飛ぶことを読まれていたからか、人間では有り得ない高さまでの跳躍に驚いたか。 射線がずれ、矢はギコの頬を掠めただけだった。 そしてそれとほぼ同時に、エルフの胸をギコの剣が貫いていた。 (#゚Д゚)「まだまだ!!」 すぐさま剣を引き抜くと、別の木に飛び移る。 そこには別のエルフが矢をつがえて立っていた。 ギコの反撃を予測していなかったか、少し慌てた様子で矢を引き、放つ。 矢は、ギコの体にまっすぐ向かって行ったがあっさりと剣に防がれてしまった。 それを見て、慌てて二本目の矢をつがえようとするが、それより早くエルフの首が胴から離れた。 エルフの首が地面に転がり、次いで胴体も樹上から落下する。 少し遅れてギコも地面に降り立った。 いつの間にか矢の雨はすっかり止んでいた。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:42:15.84 ID:f9WbjnGCO
- 「攻撃を避けながら、私たちがどう動くかを見ていたのね」
(,,゚Д゚)「!」 一人のエルフが木の上から降りてくる。 美しい金髪が風に揺れ、燃えるような灼眼がギコを捉えた。 ξ゚⊿゚)ξ「それに今の動き……ただの人間じゃないわね」 エルフが矢を放つ。 それは弾丸のような速度でギコへ向かって飛んで行くが、ギコはそれを素手で掴んで止めて見せた。 (,,゚Д゚)「すまんな。俺は少しばかし体を機械で強化してあるんだ」 ξ゚⊿゚)ξ「人間は神から与えられたその身に鉄の塊を埋め込むまで堕ちたのね」 (,,゚Д゚)「悪いが、俺は無神論者だ!」 ギコが灼眼の少女へ向かって飛び出した。 一瞬で間合いを詰め、細く白い首へと剣を突き出す。 しかし、その刃は何かに弾き返され、少女に傷を付けることはできなかった。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:43:46.92 ID:f9WbjnGCO
- ξ゚⊿゚)ξ「話の途中で襲いかかって来るなんて。野蛮よ、野蛮」
(,,゚Д゚)「……なんとでも言うがいいさ。俺たちが何をしようともお前らは否定しかしないんだからな」 ξ゚⊿゚)ξ「そうね。私たちにはあなた達人間のことなんて理解できないし、理解したくもないわ」 (,,゚Д゚)「ふん。そうかい」 ξ゚⊿゚)ξ「えぇ。こうやって仲間を囮に使うなんてね?」 (,,゚Д゚)「…これは戦争だ。仲間のため、国のために囮になり、命を危険に晒すのも必要なことだ」 ξ゚⊿゚)ξ「……やっぱり。あなた達の考えは理解できないわ」 (,,-Д゚)「理解しようともしないくせに、よく言う」 ξ゚⊿゚)ξ「ああ、そうだったわね」 灼眼のエルフの少女の口が小さく動いた。 それに伴い、少女を震源に地面が揺れる。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:45:30.54 ID:f9WbjnGCO
- ξ゚⊿゚)ξ「木々を腐らせ、川を汚す人間よ」
揺れは徐々に強くなる。 ギコはどこから何が来てもすぐ対応できるように武器を構えた。 ξ#゚⊿゚)ξ「大地の怒りを知りなさい!!」 (;゚Д゚)「っ!?」 少女の叫びと同時にギコの足元から岩の槍がいくつも出現した。 さすがに真下からの攻撃は予想外だったか、後ろへ回避したときにバランスを崩してしまう。 ξ#゚⊿゚)ξ「まだよ!」 地面から生える岩の槍の側面から、さらに新たな岩の槍が出現し、ギコに襲いかかった。 (;-Д゚)「ちぃっ!」 体勢を崩していたため、回避はできない。 ギコは咄嗟に剣を突き出して、それを受け止めようとした。 しかし強い力により、どんどん押し込まれていく。 「隙あり!!」 (;゚Д゚)「っ!?」 背後から声がして、思わず振り返った。 ギコの目に映ったのは自分の体へと向かってくる矢。 剣を滑らせ岩の槍をなんとかいなし、横へ転がってそれらを回避した。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:47:39.42 ID:f9WbjnGCO
-
ζ(゚ー゚*ζ「あり?避けられちゃった」 ξ;゚⊿゚)ξ「あんたね……。不意打ちするなら隙ありだなんてわざわざ叫んじゃダメでしょ」 ζ(゚ー゚*ζ「あ、そっか」 背後から現れたのは先ほどの少女と瓜二つの少女だった。 だがその少女は先ほどの少女とは違い、透き通った碧眼を持っていた。 (,,゚Д゚)(位が高そうなエルフが2人……厄介だな) それだけでなく、まだ樹上に待機しているかもしれない他のエルフも厄介だった。 いつまた矢の雨が降り注ぐかもわからないのだ。 (,,゚Д゚)(……イチかバチか、一気に勝負をかけるか……) 少なくとも、仲間達が森の外へ逃げる時間は十分稼げたはず。 味方の被害を最小限に抑えるという役目は果たしたはずだ。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:49:33.38 ID:f9WbjnGCO
- エルフの少女はギコを挟むようにして立ち、ギコの動きを伺っている。
どちらかに攻撃をしかけようとすればもう一方が、この場から逃げ出そう物なら両方が魔法で攻撃してくるのだろう。 (,,゚Д゚)(せめてどちらかは仕留めておきたいな……) 一度深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。 そして、灼眼のエルフの方へと駆け出す。 ξ゚⊿゚)ξ「させないわ!」 ギコの予想通り、その瞬間に背後から巨大な木の枝が数本向かってきた。 踏み出した足を強く踏ん張り、逆方向へ蹴り出した。 眼前に迫る木の枝を身体を捻って躱し、そのまま碧眼の少女の方へと駆けていく。 (#゚Д゚)「もらった!」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:51:22.26 ID:f9WbjnGCO
- 勢いを乗せ、少女の胸へと剣を突き出した。
……が、無情にもそれは再び弾かれてしまった。 (;゚Д゚)(こいつもか……!) ζ(^ー^*ζ「甘い甘ーい!結界だよ!」 勢いがあったため、その反動も強い。 だが、体勢を立て直そうにも、灼眼の少女が魔法を使ってくることは予測できていた。 今すぐ避けなければ、間違いなく攻撃を受ける事になる。 ギコの勘がそう告げていた。 (;゚Д゚)「っつぁ!!」 転ぶように横へ跳ぶと、右足を何かが掠めていった。 視界の端で、先ほどまで自分がいた場所に巨大な石柱ができあがっているのが確認できた。 ζ(゚ー゚*ζ「おー、よく避けたねぇ」 ξ゚⊿゚)ξ「……でも、ここまでよ」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:53:18.12 ID:f9WbjnGCO
- 跳んだ先、受け身も取れず無様な着地をしてしまった。
視界の先にあるのは、螺旋状に折り重なり、大きな槍のような形となった木の枝。 避けようにも、防ごうにも間に合わない。 (;-Д゚)(っ……!ここで……!) ここで終わりなのか?と考える前に、風を切る音が聞こえた。 思考が追いつく前にもう一つ風切り音がした。 次いで弾ける音が2つ、目の前で響いた。 ζ(゚ー゚*ζ「……ありゃりゃ」 ξ゚⊿゚)ξ「……」 そこでようやく、風切り音は弾丸が通る音で、自分へと向かってきた木の枝が弾け飛んだのだと気づいた。 弾丸が放たれた方向には、見慣れた顔があった。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:55:02.68 ID:f9WbjnGCO
- ( ・∀・)「……」
(;゚Д゚)「モララー!?お前……!」 モララーは両の手に拳銃を握り、まっすぐ前方を鋭く睨んでいた。 そしてギコの言葉に何かを答える前にもう一発、右の手から弾丸が放たれた。 ξ゚⊿゚)ξ「!」 灼眼の少女の方向へ飛んでいった弾丸は、やはり少女の眼前で何かに弾かれてしまう。 ( ・∀・)「……やっぱり、か」 (;゚Д゚)「おい、モララー!なんでここに……」 ( ・∀・)「逃げる途中、僕らを心配してこっちに来たアサピー博士と会ってね。いろいろ話を聞いたんだ」 ( ・∀・)「ま、詳しい話は博士に聞いてよ。君が逃げる時間は稼ぐから」 (,,゚Д゚)「いや、逃げるくらいならばお前と一緒に……!」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:57:05.61 ID:f9WbjnGCO
- ( ・∀・)「ギコ、君は一刻も早くアサピー博士のとこに行ってくれ」
(,,゚Д゚)「けど……」 ( ・∀・)「いいから」 モララーは少し切羽詰まった様子でギコにそう迫った。 いつもとは違うモララーを見て、ギコはなにも聞かず、少女達を一瞥した後そこから駆け出した。 ξ゚⊿゚)ξ「逃がさないで!!」 灼眼の少女の合図で、樹上に待機していたエルフが数人、ギコ目掛けて矢を放つ。 そして、矢が飛んだ分だけ発砲音が森へ響いた。 発砲音に驚いたか、どこかで鳥が飛び立つような音が聞こえた。 一瞬の静寂の後、木の上からエルフが次々と落下してきた。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 19:58:59.98 ID:f9WbjnGCO
- ξ゚⊿゚)ξ「……あなた"も"、ただの人間じゃないわね」
( ・∀・)「いやいや。ちょっと普通の人より目と耳がいいだけさ」 ζ(゚ー゚;ζ「う、うそだ!あんな一瞬であんないっぱい撃てるわけ無いもん!」 ( ・∀・)「あいにく両利きでね。拳銃二丁扱うくらいお茶の子さいさいだよ」 ξ゚⊿゚)ξ「それにしては、あの子達を正確に撃ち抜いたみたいだけど」 ( ・∀・)「だから言ったでしょ?人よりちょっと目と耳がいいって」 ( ・∀・)「ま、常人の10倍程度だけどね」 ζ(゚ー゚*ζ「……あなたも改造人間ってこと?」 ( ・∀・)「サイボーグ、って言ってくれないかな。こっちの方がかっこいいから。」 ξ゚⊿゚)ξ「……」 ( ・∀・)「さぁ、しばらく僕の相手をしてもらうよ……」 静かな森に、発砲音が2つ響いた。 そして、それを皮切りに森は再び騒がしさを増して行った。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:00:34.70 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
気障な台詞と共に改造人間が発砲する。 が、先程と同じように結界に弾かれた。 アクロバティックに移動しながら、様々な角度からツンとデレを狙う。 後ろに回り込んだり、飛び上がって真上から狙ったり、と高速で動き回る。 男は何度も弾を放つ。 ……が、何度撃っても二人は無傷だった。 ξ゚⊿゚)ξ(コイツ……馬鹿なの?) 改造人間、確かに、その能力には眼を見張るものがある。 その運動能力はニンゲンを超越、いや、エルフよりも優れているであろう。 ξ゚⊿゚)ξ(でもオツムの方はやっぱり愚かなニンゲンのままみたいね)
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:03:55.63 ID:f9WbjnGCO
- 男が先程からとっている、俊敏に動き回り、四方八方から鉛の雨を浴びせるという戦法。
人間相手ならば有効……というかとっくに蜂の巣になっているだろうが、エルフ相手にはそうはいかない。 ξ゚⊿゚)ξ(時間が経てば、とか何度も攻撃を加えれば……と考えてるのかしら) 普通の結界は時限式だったり、盾のように耐え切れない攻撃がある。 しかし、今二人が張っている結界はそれらとは異なっていた。 耐金属結界、とエルフで呼ばれている、この戦争が始まってから編み出された魔法だ。 熟練のエルフにしか扱えないが、その名の通りありとあらゆる金属を無力化する結界。逆に言えば金属以外にはまったく無力な結界である。 10秒の間に、男は360度からツンに銃弾を浴びせたが、全て耐金属結界に虚しく弾かれていた。 その攻撃のあまりにも無為なこと。 男もようやく諦めたのか、敏捷な動きを止めた。 そしてその10秒間、ツン達も黙って見ていたように見えるが、それは違う。 彼女達は魔力の補充をしていたのである。相手を攻めさせ、動き回らせ、消耗した所を、潰すために。 ξ゚⊿゚)ξ「あら、そっちの攻撃は終わり?なら……」 ξ゚⊿゚)ξ「反撃よ」
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:07:44.90 ID:f9WbjnGCO
- ツンが手をかざす。
地が割れ、木々が生え、水が流れ、岩が落ち、風が吹き荒れる。 怒涛の、魔法攻撃。 男はそれを焦ることなく冷静に対処していく。 地割れをジャンプで回避し、そのまま木に乗り、水をやり過ごした後、迫り来る岩を避け、さらにその影に隠れ風からも逃げた。 その最中にも、石を投擲してツンに反撃する。 耐金属結界では石は弾けないが、たかが石。片手で弾きながらツンは魔力を練る。 ξ゚⊿゚)ξ(改造人間、想像以上にやるわね……。人間なんか比じゃないわ) そしてツンが新たな魔法で改造人間を攻めようとした時――― 男が、眼前に迫っていた。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:10:09.89 ID:f9WbjnGCO
- 刹那のことだった。
まるで瞬間移動。岩の後ろにいたはずの男が、肉薄していた。 ξ;゚⊿゚)ξ(――――――ッ!!!) ξ;゚⊿゚)ξ(いや、でも耐金属結界がある!なにを焦ってるのよ私……!奴には破れな――) 男は腕を引き、その腕をそのまま真っ直ぐに振りぬく。 鮮やかな、正拳突きの構え。 そしてそれがツンに達する前に、半分機械化している男の腕が機械音を発した。 ガ チ ャ リ と 男の腕が、杭打ち機へと、変形する。 半分は血肉でできた人間の腕、もう半分は殺傷力に長けた兵器の腕。 耐金属結界は、金属のみでできた物を弾く結界。 血肉でできた人間の腕を、通過させてしまう。 ξ;゚⊿゚)ξ(この男……!ただ改造しているだけじゃない……!魔法を回避した後、機動力を活かし一瞬で攻めに転じる判断) ξ;゚⊿゚)ξ(そして、銃は通じないが石は私に届いたことから、瞬時に有効な攻撃法を見破る思考) ξ;゚⊿゚)ξ(機械化した身体に慢心せず、その能力を極限まで使いこなしている!) ξ;゚⊿゚)ξ(一流の戦士ね……!) 耐金属結界の盲点を突いた、必殺の一撃が、ツンに届く――――
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:11:33.08 ID:f9WbjnGCO
- ことは無かった。
改造人間は、"消え"た。 ツンの周囲には、罠がしかけてあった。 強制転移の魔法陣を、彼とツンが戦っている間に、デレがツンの周囲に仕掛けていたのだ。 故にツンとデレは戦いが始まってから一歩も動かなかった。自身の魔方陣に掛からないようにするためである。 それが起動し、彼は何処かに飛ばされた。 強制転移、文字通り強制的に対象を移動させる魔法だ。 本来移動用の魔法だが、場所を指定できないのが難点であり、空中に移動してたり、海底に移動してたりで移動目的ではまともに使えない。 だが、敵に使えば、不確定だがかなりの高確率で、安全に"消す"ことができる、有用な魔法になるのだ。 ζ(>ー<*ζ「やったー☆デレの罠にひっかかったひっかかったー☆ツンちゃんばっか目だって寂しかったんだよ?」 ξ゚⊿゚)ξ「ふぅ……。あんたの罠があると分かっていてもちょっと焦っちゃったわ」 ζ(>ー<*ζ「えっへっへ~、褒めて褒めて~」 ξ゚⊿゚)ξ「はいはい、よくやったわねデレ」 双子には不思議なことがよく起こるというが、この双子のエルフも例外ではなかった。 普通のエルフは、全ての魔法を平均的に扱うことができる。個人によってどの魔法が得意、ということは基本的に無い。 魔法が得意なエルフはあらゆる魔法を扱うことができ、魔法が不得手なエルフは全ての魔法を扱えない。没個性的に、魔法が得意、不得意の二種があるだけなのだ。 しかし、この双子は、魔法の種類によって得意不得手があった。 姉のツンが動的な魔法、攻撃的な魔法が非常に得意だが、静的な、防御的な魔法は欠片も使えない。 妹のデレはその逆である。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:13:21.05 ID:f9WbjnGCO
- ツンははしゃぐ妹を撫でつつ、先程まで改造人間の男が立っていた場所を見つめる。
この男は、確かに一流の戦士だった。 一騎打ちでマトモにやりあえば、勝てるエルフはいないかもしない。 だが、ここは戦場である。 どれほどの猛者が一人いても、一人なら、すぐに潰されてしまう。先程の魔導アーマーもそうだった。 エルフ達はそのことをこれまでの人間との戦争で痛感している。 エルフと人間が一騎打ちで争っていれば、エルフの圧勝だったろう。 エルフは人間に比べ、あらゆる点で勝っているといっても過言ではない。 魔法を操り、狙いと寸分違わず矢を放ち、家一軒ほどの跳躍力、獣のような俊敏性を持つのだ。 が、この戦争ではエルフは人間軍に負け越している。 理由は明白だった。『数』である。 エルフは、めったに繁殖しない。 一年に十人程度しか生まれない年も珍しくない程だ。 寿命が千年はあるエルフ達は、寿命が短い故に大量に子を生み育てる人間のようなことをするのを疎んでいるのだ。 故に、戦争では、数の暴力に押され、エルフは負け続けていた。 今回の戦いは、その逆だけだっただけだ。 広大な荒野から、密集した森へと戦場が変わったので、エルフは樹上に戦力を固めやすく、人間は樹に邪魔され、戦力を分散させざるを得なかった。 ξ゚⊿゚)ξ(一流の戦士だったけど、一流の"兵士"ではなかったようね) ξ゚⊿゚)ξ(兵なら、自身を次の作戦で有効に活かすため、潔く退くわ。あれ程の実力を持っているなら、尚更) 徐々に、森に活気が戻ってきた。平和を察知した鳥達が木々に戻り、秩序を感知した小動物が巣からのそのそと出てくる。 ツンは、この平穏を守ったのが自分だ、と思うと、満ち足りた気分になれた。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:15:08.47 ID:f9WbjnGCO
-
* * * * * * * * * * * * うっすらと聞こえていた発砲音もいつの間にか聞こえなくなってしまった。 そこまで距離が離れたか、それとも――― (,,゚Д゚)(いや、そんなことは無いはずだ) モララーは強いし、そして何より賢い男だ。ここでむざむざとやられるような男ではない。 自分はとにかくアサピーの元へ急ぐのが先決だ。 ギコはそう何度も自分に言い聞かせながら森を走っていた。 モララーがなぜギコを逃がすために戻って来たのか。 アサピーはなぜわざわざギコを指名したのか。 まだ分からないことはたくさんあった。 (,,゚Д゚)(そういえば……兵士達はどれだけ生き延びただろうか)
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:16:59.63 ID:f9WbjnGCO
-
元々、ギコが単身でエルフ達と対峙したのは1人でも多くの兵を逃がすための殿を務めるためだった。 戦争は数だ。 優秀な指揮官、優秀な戦士がいることに越したことはないが、ほとんどの戦は数で勝負が決まる。 モララーもそれは良く分かっているから、あそこで俺と変わったのだろう。 モララーは、誰がどう言おうと、一流の兵士だった。 間もなく森を抜けようとした時、ようやく自軍のテントらしきものが見えた。 「……あっ!隊長!!」 「ギコ隊長!よくぞご無事で!」 (,,゚Д゚)「おう。お前たちも無事に逃げられたようで何よりだ」 ギコの姿に気づいた兵士が数人駆け寄ってきた。 ギコはそれに答えながら陣地を軽く見渡している。 陣地の中はまだ割と賑やかだった。 先の撤退戦での被害は大きかったが、それでもまだエルフ達を圧倒するような人数はいそうだ。 「隊長、博士がお待ちです」 (,,゚Д゚)「わかった。すぐ行く」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:19:44.67 ID:f9WbjnGCO
- 一度、森の方を振り返った。
大きく、それでいて青々とした緑が生い茂った美しい森だ。 人間の住む"セカイ"には存在しない緑。 端から見れば、そこが戦場であることなど信じられない。 ギコは森から視線を外し、空へと目を向ける。 日は陰りつつあり、透き通った青が徐々に橙色へとグラデーションしていた。 (,,゚Д゚)(モララー……無事でいてくれよ) 空の向こうの何かに、ギコは祈る。 そして、アサピーのいるテントへと足を早めた。 (-@∀@)「ギコ。無事でよかったよ」 (,,゚Д゚)「……すまん博士。プギャーを守りきれなかった」
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:21:37.39 ID:f9WbjnGCO
- アサピーのテントに入ると、油の臭いがギコの鼻腔を掠めた。
国にいるときはいつも嗅いでいる臭いだが、なぜか息苦しく感じられる。 (-@∀@)「話は簡単にだがモララーから聞いている。まさかプギャーが1人でつっこんでいくとはな……」 (,,゚Д゚)「やっぱり、あの時博士が言ったように慎重に行くべきだった」 (-@∀@)「過ぎたことを悔やんでも仕方がない。問題はこれからのことだよ」 アサピーは話ながら設計図らしきものに必死に何かを書き込んでいた。 パッと見はシンプルな楕円形の機械のようだ。 だが、その横に書き込まれた大量の数式や化学式が「それ」がかなり高度な機械であることを示していた。 (-@∀@)「それで、これからについてだ」 (,,゚Д゚)「……しばらくは様子見か?あの森で戦うのは分が悪すぎる」 (-@∀@)「それはダメだ」
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:22:28.86 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)「だが、魔導アーマーがない以上は……」
(-@∀@)「確かにあの森はエルフ達の本拠地。森の外での戦いなら我々に分があるかもしれん」 (-@∀@)「だが、そんなことは向こうも承知さ。いつまでもここで様子見を続けていればいずれ兵糧も尽きる」 (-@∀@)「そこを突かれれば、我々に勝ち目はない」 アサピーの言うことももっともだった。 森の外で戦うことが何を意味するか、ここまで負けを続けていたエルフ達が一番わかっているだろう。 (-@∀@)「それに、一つ気になったことがあるんだ」 (,,゚Д゚)「気になったこと?」 (-@∀@)「エルフ達は負け続きだった。そして、戦線をエルフの本拠地前まで上げられた……」 (-@∀@)「普通こんな状況になれば全体の士気も相当下がっているだろう」 (-@∀@)「一方の我々は連戦連勝で士気も高い」 (-@∀@)「なのに、今回はやけにあっさり撃退されてしまった」
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:23:59.34 ID:f9WbjnGCO
-
(,,゚Д゚)「……背水の陣ってやつじゃないのか?」 (-@∀@)「その可能性もあるが、あまりそうは考えられないね」 言われてみれば妙な話だ。 明らかに流れはこちらにあった。 しかし、今回の戦闘では完敗だったと言ってもいい程の負け方をした。 今までほぼ無敵だった魔導アーマーも、プギャーが独断専行したとは言え、あまりにも呆気なく撃破されたのだ。 (-@∀@)「確証はないが、我々はここまでまんまとおびき寄せられたのかもしれないな」 (,,゚Д゚)「まさか……」 そんなわけない、と言葉は続かなかった。 撤退するギコ達を追撃してくるエルフ達の動きはいやに統率が取れていたし、 ギコが対峙した双子のエルフからは余裕しか感じられなかったのだから。 (-@∀@)「この仮説が確かなら、様子見をした所で総攻撃を食らって全滅する可能性もある」 (,,゚Д゚)「森の外で戦っても勝てないかもしれない……って事か」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:25:16.56 ID:f9WbjnGCO
- 今は流れはエルフ側にある。
それに、今まであっちから戦闘を仕掛けてきたことは無かったはず。 この状況で総攻撃を仕掛けられたら、例え森の外であったとしても相当の被害を受けるかもしれない。 (-@∀@)「だから、我々は攻め続けるしかないんだ」 (,,゚Д゚)「受けに回れない……か……。厳しいな」 厳しいなんて物ではない。 今回の敗北は、兵の士気に大きく影響したはずだ。 その状態で人間達にとって分の悪い戦いをしなくてはならない。 正直、勝ち目はないだろう。 だが、それならばなぜモララーを危険にさらしてまで自分を呼び戻したのか。 ギコの疑問はまだ解消されていない。 もしかしたら、そこに何か勝利へ繋がる糸口があるのではないか。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:28:42.69 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)「……博士。俺を呼んだ理由は?」
(-@∀@)「今までの話で薄々感じているとは思うが……お前にしか扱えない"モノ"があるんだ」 (-@∀@)「そう……対エルフ用の最終兵器がね」 ―――最終兵器。 アサピー博士が用意した人間の切り札。 その切り札を使わねばならぬということが、現在の戦況をよく表していた。 (,,゚Д゚)「俺にしか扱えない……?どういうことだ」 (-@∀@)「性能については完成したら教えるさ。まだ未完成で、不確定要素も多くあるしね」 (,,゚Д゚)「モララーじゃダメだったのか?」 (-@∀@)「モララーにも扱えない事はないだろうが……モララー向きの装備じゃないことは確かだ」 モララーにはあまり向かず、自分に向いた機械。 ギコにはイマイチそれがわからなかった。 ギコはどちらかと言うと不器用な方で、機械の扱いも得意ではない。 一方のモララーは何でもソツなくこなすことができる天才タイプだ。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:31:01.67 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)(俺にしか扱えなくて、モララーには向いていないもの……?)
(-@∀@)「完成までに最低三日はかかる。それまで時間を稼がなくてはならん」 (,,゚Д゚)「三日か……。それくらいの時間稼ぎなら簡単だな。じゃあ、今から兵を集めて軍議を……」 (-@∀@)「その必要はない」 テントを出ようとしていたギコの足が止まる。 一拍間を置いてから、ゆっくりと振り返った。 (,,゚Д゚)「なんだと?」 (-@∀@)「この三日間は、お前には戦線を外れてもらう」 怪我を負ったわけでもないのに戦線を外される。 一人の戦士であり、同時に部隊の隊長であるギコにとって、それは耐え難い屈辱であった。 隊長が戦線を外されるということは、戦力外通告。 言い換えれば「お前が戦線に立つと迷惑だ」と言われたようなものなのだ。 かつて、血に餓えていたころのギコならばアサピーに剣を向けてでも戦場に出ていただろう。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:44:07.09 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)「おい、どういうことだ」
(-@∀@)「考えればわかるだろう。最後に勝つためには、お前の力が必要だからだ」 (-@∀@)「言っただろう?最終兵器はお前にしか扱えないと」 自分の力を否定されたわけではないと理解し、ギコはホッと胸を撫で下ろした。 しかし、だからと言って納得したわけではない。ギコは隊長なのだ。背負うモノがある。 (,,゚Д゚)「今はモララーもいない。指揮する者がいなくてまともに戦えるとでも?」 (-@∀@)「まともな戦いは期待していないさ。三日もってくれるだけで構わない」 (#゚Д゚)「お前……まさか兵を時間稼ぎに使うのか!!」 (-@∀@)「ああ、そうなるな」 その言葉を聞き、ギコの中で何かが切れた。 アサピーの白衣の襟を掴み、強く引き寄せる。 皺だらけの白衣が更にクシャクシャになる。 ギコと比べて小柄なアサピーの体は地面から離れ、ギリギリつま先がついているような形になった。
- 87 名前:最近VIPのブーン系寂しいし……:2012/11/07(水) 20:48:03.36 ID:f9WbjnGCO
- (#゚Д゚)「その命令は納得しかねる!!明日は俺も出るぞ!!」
(-@∀@)「落ち着け。ギコ」 (#゚Д゚)「俺は落ち着いている!少なくとも、兵を捨て駒に扱うような奴よりはな!!」 (-@∀@)「お前が出て、万一の事があったらどうする。エルフ達もバカではない。 勢いがある今のうちに隊長格の人間を討とうとしてくるだろう」 (#゚Д゚)「知ったことか!」 (#-@∀@)「甘ったれるな!!」 (#゚Д゚)「っ!?」 普段冷静なアサピーが声を荒げた。 そんなアサピーの姿を見るのは、ギコにとっても初めての経験だ。 腕の力が弱まりアサピーの拘束が解かれる。 乱れた襟を正しながら、アサピーは言葉を続けた。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:50:22.94 ID:f9WbjnGCO
- (-@∀@)「……いいか、ギコ。これは戦争なんだ」
(,,゚Д゚)「……わかってる」 (-@∀@)「戦争である以上、どんな手を使ってでも、勝たなくてはならないんだ」 (-@∀@)「我々は、国を、民を背負って戦っているのだからな」 アサピーの言葉に、ギコは何も答えず、重い足取りでテントを出た。 それが、ギコなりの無言の肯定だった。 「隊長……」 (,,゚Д゚)「お前ら……」 テントを出ると、数人の兵士達がギコに寄ってきた。 普段からギコと仲が良かった兵士達だ。 (,,゚Д゚)「聞いてたのか……」 「はい……。失礼ながら」
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:51:59.05 ID:f9WbjnGCO
- ギコは胸が締めつけられる思いがした。
アサピーは彼らを捨て駒と言った。 ギコはそれを肯定した。 彼らは上官に死ねと言い渡された。 (,,゚Д゚)「……すまん」 「隊長……」 兵士の一人がおずおずと前に出る。 少し照れくさそうに笑いながら、話を始めた。 「俺……故郷に嫁と娘がいるんです。娘は今年六つになって、もうすぐ学校に行けるとはしゃいでました」 (,,゚Д゚)「……」 兵士達の中には、彼のように家庭を持つ者もいるのだ。 いたたまれなくて、気まずくて、ギコは視線を反らす。 しかし兵士は、笑みを浮かべたまま、元気よく続けた。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:53:53.29 ID:f9WbjnGCO
- 「だから、この戦争に負けるわけにはいかないんです!娘が笑って学校に行けるように、絶対に負けられないんです」
「ですから隊長……。必ず、この戦争に勝利してくださいね!」 (,,゚Д゚)「……!」 その兵士は笑ったまま、自分の死を肯定した。 戦後の家族の幸せを願い、それをギコに託して死することを認めたのだ。 「自分も同じ気持ちです!」 「頼みますよ!隊長!」 「三日間、死ぬ気で戦いますから!」 (,,゚Д゚)「お前ら……」 彼らは皆、自分の命よりも国の勝利を願っていた。 彼らは皆、兵士の鑑であった。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:55:46.57 ID:f9WbjnGCO
-
(,,-Д-)「……すまん。お前らの思いは、ちゃんと受け取ったからな」 兵士達は顔を見合わせ、笑い合った。 その顔は、翌日死地に赴く者の表情ではなかった。 日は西の空に沈み、東の空から月が昇ってきている。 この月が沈み、また日が昇ってくれば、また戦いが始まるのだ。 いつかの勝利のために、敗北するための戦争が……。 ギコは拳に力を込め、いつかの勝利を強く願った。 (,,゚Д゚)(これが戦争……か……)
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 20:57:26.68 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
―翌日 ――ガストラ帝国 帝国城 謁見の間 (:‘_L’)「ご報告します!」 (:‘_L’)「……先日のエルフの森への侵攻、失敗に終わりました!」 (;‘_L’)「被害は、魔導アーマー一機、死亡者二万…(#^ω^)「もうよい!!!」 (#^ω^)「酒が不味くなるわ!!何故負けるのだ!!!」 (;‘_L’)「それは……まだ正確な報告書が届いておりませんので……」 (#^ω^)「ええいこの役立たずめ!!!!」 ホライゾン王がその手に持つ、酒の入ったグラスを、フィレンクトに向かい投げつける。 フィレンクトは、軌道も滅茶苦茶な、容易に避けれるであろうそのグラスを、微動だにせず、その身に浴びる。 (‘_L’)「……申し訳ありません。報告書を直ちに取り寄せます」 ( ^ω^)「ふん!!!もうよいわ!!!下がれ!!!」
- 106 名前:>>105 ちゃう:2012/11/07(水) 20:59:20.83 ID:f9WbjnGCO
- (‘_L’)「……承知しました。……しかし、その前にもう一つご報告があります」
( ^ω^)「なんだ?朕の機嫌を更に損ねるものではなかろうな?」 (‘_L’)「モララー隊長が、帝国の郊外で発見されたので、現在城で保護しております」 ( ^ω^)「……何故前線へ出てたモララー隊長が此処へいるのだ?脱走か?」 (‘_L’)「逃走した訳ではないようです。恐らく、エルフの魔法で強制的に移動させられたものと思われます」 ( ^ω^)「……ふむ、ではモララー隊長を此処へ連れて来い。あと、酒を持て!」 (‘_L’)「ハッ!!!」 頭から酒を滴らせながら、ホライゾン帝に高級酒と豪華な装飾が施されたグラスを渡し、謁見の間を後にするフィレンクト。 謁見の間を出てすぐ、待機していたモララーにフィレンクトが声を掛ける。 (‘_L’)「陛下の声は聞こえていたでしょう。謁見の間へどうぞ。」 (メ ・∀・)「了解。……あんたも大変だね」 (‘_L’)「……それほどでも。本当は、陛下もそこまで悪人ではないのです。嫌わないで頂きたい」 (メ ・∀・)「……まぁ、エルフに飛ばされて空から落ちた僕に、帝国のトップクラスの医師と技師を回してくれて感謝してるからね、素直に従うよ」 (‘_L’)「その謝礼は陛下へ。……では、どうぞ」
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:00:59.54 ID:f9WbjnGCO
- 近衛兵にじろじろと見られながら、謁見の間へ入り、うやうやしく頭を下げるモララー。
( ^ω^)「モララー隊長。そちはエルフと何度か交戦しており、更に前回のエルフの森への侵攻にも参加していたな」 (メ ・∀・)「その通りで御座います」 ( ^ω^)「……問おう。何故エルフの森への侵攻は失敗したと思う?」 (メ ・∀・)「一言で申すなら、地の利の差、かと」 ( ^ω^)「ふむ、詳しく申せ」 (メ ・∀・)「エルフの森の樹で御座います。エルフ達は樹の上を俊敏に動き回り、我々を撹乱し、分断した所を狙ってきます」 (メ ・∀・)「恐らく、樹上のエルフへの対策を立てなければ侵攻は永遠に不可能かと… 私のように機械化した兵なら対応できるため、サイボーグ兵の増員が妥当と私は思います」 ( ^ω^)「ほほぅ……役に立つ情報を良くぞ持ってきた。そちが魔法で此方へ戻ってきたのは、我々にとって追い風となりそうだな」 ( ^ω^)「下がって良いぞ、モララー隊長。大儀であった。後の作戦は朕が考える」 (メ ・∀・)「ハッ!」
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:02:29.57 ID:f9WbjnGCO
- 一礼した後、豪奢な絨毯の上を仰々しく歩き、謁見の間を出るモララーを見届け、ホライゾン皇帝は口を開く。
( ^ω^)「大臣!」 (‘_L’)「ハッ!」 ( ^ω^)「火炎放射器を用意せよ。前線基地に送るのだ」 (‘_L’)「……申し訳ありませんが、何をなさる気で御座いますか」 ( ^ω^)「そんな事も分からぬか。森を焼き払うのだ!」 (;‘_L’)「それは……!!!!」 ( ^ω^)「森が我が軍の侵攻を妨げてるのなら、その森を破壊すれば良いのだ!我ながら妙案であるぞこの策は!」
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:04:12.30 ID:f9WbjnGCO
- (;‘_L’)「陛下!!この戦争の目的はエルフの森の木々を資源として活用することでしょう!?本末転倒でございます!!!」
(#^ω^)「ええいうるさい!!!朕に逆らうのか!!反逆者として晒し首にするぞ!!!!」 (#^ω^)「朕は負けるのが嫌いだ!朕に抵抗するものは叩き潰す!!!」 (;‘_L’)「………」 ( ^ω^)「大臣、前線のアサピー博士に使者と、火炎放射器を送れ。これは命令だ」 ( ^ω^)「輸送部隊の指揮はビコーズ小隊長に任せる!」 (*^ω^)「これでこの戦争も朕の勝利で幕を閉じる!今から勝利の美酒が楽しみだ!!」 長い沈黙の後、苦々しくフィレンクトが頷いた。 (;‘_L’)「…………承知、しました」
- 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:06:11.36 ID:f9WbjnGCO
- 重い顔のまま謁見の間を出たフィレンクトの前に、見慣れた顔が立ちはだかった。
(‘_L’)「……モララー隊長」 (メ ・∀・)「……」 モララーは無表情だった。 ただ、その身に纏う威圧感だけは、彼の今の心情をよく表している。 (メ ・∀・)「『この戦争の目的は、エルフの森の木々を資源として活用すること』……これってどういう意味?」 しまった、とフィレンクトは思った。 この戦争はエルフからの侵略に対して始まったものだとしていたのだ。 モララーも、エルフに故郷を焼かれ……そう思い込んで戦争に参加した身だ。 (‘_L’)「それは……」 (メ ・∀・)「早く言え」
- 118 名前:>>117 ミス:2012/11/07(水) 21:09:28.26 ID:f9WbjnGCO
- (‘_L’)(……この人に、ごまかしは通用しないでしょうね)
(‘_L’)「……わかりました。全てをお話しします」 (メ ・∀・)「……」 (‘_L’)「まず、この戦争の目的は先ほど言った通り、エルフの森の自然を活用しようという名目で始まりました」 (‘_L’)「……この国は度重なる開発によって自然が失われてしまいましたから」 (メ ・∀・)「だから、自然が豊かなエルフの森をぶんどっちまおうってことか」 (‘_L’)「……言葉を汚くすればそうなりますね」 (メ ・∀・)「じゃあ、あの火災は?」 (‘_L’)「……エルフを攻めるにあたり、新型兵器の開発を極秘で進めていました」 (‘_L’)「あなた方がよくご存知の、魔導アーマーです」 (‘_L’)「その時の指揮は陛下が直々に行っていました」 (メ ・∀・)「待ってくれ。魔導アーマーの開発は戦争が始まってから、アサピー博士が行ったんじゃないのか?」 (‘_L’)「……魔導アーマーの開発は、とある事故で一度白紙に戻ったからです」
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:12:17.31 ID:f9WbjnGCO
- (メ;・∀・)「事故……?まさか……!?」
(‘_L’)「……当時、魔導アーマーにはエルフの魔法を模した機能を付ける予定でした」 (‘_L’)「しかし、それは我々の技術では再現出来なかった」 (‘_L’)「私はアサピー博士に協力を依頼することも考えましたが……彼は平和主義者ですから」 (‘_L’)「頼んでもきっと協力はしてもらえない。そう思って彼に内緒で無理にでも計画を進めようとした……」 (‘_L’)「……結果、魔導アーマーは暴走した」 (メ;・∀・)「!?」 (‘_L’)「暴走した魔導アーマーは町を一つ焼き、その先で自らのエネルギーに耐えきれず大破しました」 (‘_L’)「……運の悪かった事に、その炎はエルフの炎を模した、特殊な炎」 (‘_L’)「人間の消火技術では、火を消すことは出来ませんでした」 (‘_L’)「……その結果は……あなたもご存知の通りです」
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:14:15.11 ID:f9WbjnGCO
- (メ;・∀・)「あれは……エルフの炎じゃなかったのか……!?」
(‘_L’)「……陛下は、その事故をも戦争に利用することにしたのです」 ( ^ω^)『そうじゃ!この火災は、エルフが起こしたことにすればよい!』 (;‘_L’)『……は?』 ( ^ω^)『そうすれば民衆はエルフを憎むであろう?徴兵も楽になるし、事故の事を余が追及されずに済む!うむ!見事な案じゃ!』 (‘_L’)「……そして、戦争が始まった」 (メ#・∀・)「フィレンクト……!なぜ止めなかった!!」 (‘_L’)「私は陛下に仕える身でありますから」 (メ#・∀・)「略奪のための戦争を行い、挙げ句町を一つ丸焼きにした愚帝だぞ!!なぜそんな奴に仕えるんだ!! (‘_L’)「……彼は、優しい王でした」
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:15:49.73 ID:f9WbjnGCO
- (‘_L’)「誰よりも民の身を案じ、不器用ながらも一生懸命に民の為の政治をしようとした」
(‘_L’)「……今は少し道を間違えてしまっただけなのです」 (‘_L’)「……いつか、あの優しい陛下に戻ってくれると、私は信じています。だから、私は彼に仕え続けるのです」 (メ#・∀・)「たとえそれが悪へ続く道に進んで行ったとしてもか!!」 (‘_L’)「はい、それが私の正義です」 (メ#・∀・)「っ……話にならない。とにかく、火計部隊は止めさせてもらう」 (‘_L’)「それは………なりませぬ。今の戦況はご存知でしょう」 (メ#・∀・)「知ったことか!このふざけた戦争を続けるよりはマシだ!!」 (‘_L’)「はい。そのふざけた戦争は、もう始まってしまいました」 (メ#・∀・)「……どういうことだ」 (‘_L’)「ここで戦争を止めることはすなわち降伏……負けを意味します」 (メ;・∀・)「……!」 (‘_L’)「……理解が早くて助かります。戦争に敗れれば、民衆の身はどうなるか……わかりますよね」
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:17:39.50 ID:f9WbjnGCO
- (メ;・∀・)「くっ……」
(‘_L’)「……今日は、ゆっくりおやすみください。まだ傷も癒えていないようですので」 フィレンクトは一礼すると、その場を去って行った。 そこに残されたモララーは唇を噛みしめ、壁を強く殴りつけた。 (メ ・∀・)(……戦争はもう始まってしまった。今さら何を言っても和解はできない) (メ ・∀・)(だが、人間の身勝手から始まった戦争だ。これ以上続ける意味なんてないはずだ) (メ ・∀・)(……それに、戦争の敗国は悲惨な目に会うが……エルフ達はどう考える?今まで人間に無関心だったエルフは……?) (メ ・∀・)(そもそも、この戦争に勝った所で、本当に平和な世が築けるのか……?) (メ ・∀・)「……もう少し、調べてみるか」 モララーは踵を返し、自分の部屋とは逆の方向へ歩き出した。 その目にはどこか決意の色が伺えたような気がした。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:26:58.95 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
―同刻 ――エルフの森 人間が見たことも無いような大木が立ち並ぶエルフの森の中でも、一際巨大な樹が、エルフの森の奥深くにある。 神秘的であり、厳しくもあり、そしてなにより美しい、古代樹がある。 昇りたての朝日を背負った古代樹、その巨影の下に、エルフ達が集っていた。 川 ゚ -゚)「先刻の戦い、ご苦労だった」 古代樹の麓、いや、むしろ古代樹に腰掛けるようにしている女王が口を開いた。 その傍には、例の灼眼と碧眼の双子の侍女が立っている。 川 ゚ -゚)「我々は昨日無事、この美しき森を守ることができた」 川 ゚ -゚)「全て、諸君らの頑張り、そして我々の結束のおかげだ」 女王の労いで群集が沸く。 川 ゚ -゚)「では、これからの戦闘のための議論を交わそうか」 が、ざわめいていた群集が、女王の一言で波を打ったかのように静まる。 エルフの民全員による議会が、始まるのだ。 エルフには古来より、何かを決定するときは森に属する者全員が集い、議論を交わす掟があるのだ。
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:29:18.30 ID:f9WbjnGCO
- 川 ゚ -゚)「昨日の戦いでは、人間共が油断していたこと、さらに我々の領域で戦うという地理的要因で勝つことができた」
川 ゚ -゚)「荒野の戦いでは多くの仲間を失ったが、森までおびき寄せ迎え撃つ作戦は有効だったようだ」 群集が静かに沸く。 仲間の犠牲は無駄ではなかった。今まで舐めた辛酸は、有益だったのだ。 川 ゚ -゚)「だが、次の戦いではこうも上手くいかまい」 そして再び、静まり返る。 川 ゚ -゚)「奴らも馬鹿では無い。何故負けたのかを考え、手を変えて攻め込んでくるだろう」 川 ゚ -゚)「今宵集会を行ったのはその為だ。作戦会議、という奴だ」 川 ゚ -゚)「我々に課せられた課題ははこの森をいかに護り、奴らを追い払うか、つまり、防衛戦だ。 防衛戦において最も大切なことは・・・敵の動きを読むことだ。 ニンゲン達が次にどう動くか、幾つかのパターンが考えられる。 どのような行動が予想されるか、思いついたものから挙手したまえ」 2、3秒の間の後、灼眼の侍女が手を挙げた。 ξ゚⊿゚)ξ「1つ目は、物量作戦で攻めてくることが考えられます」 ξ゚⊿゚)ξ「先程の戦闘は、小手先調べだったのか、過去の荒野での戦闘より明らかに敵の総勢力が少なかったです」 ξ゚⊿゚)ξ「よって、先程の戦闘は囮であり、次に人間共の得意な物量作戦で押してくるのが一番確率的に高いかと また、この戦法で来る場合は、敵は、こちらの疲れが癒えぬ早い段階…今日中にでも攻めてくると予想できます」 灼眼の侍女、ツンは熱意の篭った口調で捲くし立てた。
- 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:32:42.76 ID:f9WbjnGCO
- 川 ゚ -゚)「確かに、その線は濃いな……これに関してはなんら対策の仕様が無い、か」
ξ゚⊿゚)ξ「強いて言うならば、指揮官を狙うこと、ですかね。 大群だと、指揮系統を崩せば足並みの乱れも大きいかと」 川 ゚ -゚)「そうだな……。そうだ、以前考えた『狙撃手』の用意をしておこう。後、今日は警備を多く巡回させよう。 他に意見はあるか?」 ζ(゚ー゚*ζ「ハイハイハイ!!」 ハイテンションな碧眼の侍女、デレが元気一杯に手を振り上げる。 ζ(゚ー゚*ζ「デレは、逆に忍び寄ってくるんじゃないかな、と思うよ」 ζ(゚ー゚*ζ「私達が有利なのは、森を知り尽くしてるからだよね? なら相手も森について詳しくなろうとするんじゃないかな」 ζ(゚ー゚*ζ「だから、森にこっそり……えーと、なんて言うんだっけ……すねーく?」 言葉に詰まるデレに、ツンが赤面しながら耳打ちをする。 ζ(゚ー゚*ζ「ああ、そうそう!侵入して潜伏して、地図を作ったり、盗み聞きしたりするんじゃないかな!」 川 ゚ -゚)「ふむ、それも考えうるな。侵入に関しては『狙撃手』でついでにカバーできるが、まぁ巡回を強化することにしよう」 あらかた、考えうる行動は出尽くしただろう、とクーは思った。 今敵がしうる最善の行動はこの二つだろう。 一応、という思いで、クーは再び群集に問う。 川 ゚ -゚)「他に意見は?」
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:37:26.11 ID:f9WbjnGCO
- 沈黙が流れる。やはり、もう意見は無いだろう。
エルフの民の多くは自己主張を好まない。 全員出席、とは半ば形ばかりであり、以前から声の大きい者、地位の高い者の発言が多くを占めていたのだ。 女王は、そんな状況を快く思っていなかった。 民全員の議会と謳いながら、議会は自分とその取り巻きの発言で完結するのだ。 これでは人間共となんら変わらないではないかと常々皮肉に思っていた。 故に、いつも女王は民に何度も意見を求める。しかし、その問いかけはいつも虚空に響くだけであった。 女王が何度も問いかけることにより、民が更に意見を言い出しづらくなっているのだが、女王は残念ながらそのことには気づいていなかった。 女王は強かったが、故に弱者の心を理解することはできなかったのだ。 今日も、意見は無いのか……。 そう思い、女王がしぶしぶ解散と口にしようとした時、群集の中から一本の手が、オドオドと挙がった。 川 ゚ -゚)「……そこ、意見を」 (*゚ー゚)「……はい」 手を挙げたのは、まだ一人前に成り立てであろう、若いエルフであった。 エルフの寿命に照らし合わせれば、幼い、と言っても過言ではない程だ。 (*;゚ー゚)「え、えーと、その……私は……」 群集の視線を浴び、若いエルフはしどろもどろになってしまう。 川 ゚ -゚)「何をしている、早く言うが良い」 そんな若いエルフを女王が急かす。 嫌がらせでも何でもなく、ただ純粋に久しぶりの民の発言に心を躍らせているのだ。 若いエルフは、しばらく口をぱくぱくと無意味に動かした後、意を決したかのように発言した。
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:39:44.33 ID:f9WbjnGCO
- (*;゚ー゚)「その……森が焼かれるんじゃないかな、って思います」
瞬時に、群集から幾つもの怒声が沸いた。 森は、彼女達にとって、住居であり、故郷であり、聖域であるのだ。 それに対する冒涜的な発言は、言うならば信者の前で無神論を主張するようなものである。 群集の中には若いエルフに今にも掴みかからんとする者までいる。 また、木々を、生命を焼く火は、エルフにとって冒涜的な事象なのである。彼らは火の魔法を嫌い、使う事を禁忌としている。 仮定の話だったにしろ、彼女は二重に森を冒涜したのだ。 川 ゚ -゚)「静まれ!静まるのだ!!」 女王の一喝。 怒りを露にしていた群集が静止する。 川 ゚ -゚)「……そこにいては面倒だ。壇上に上がるが良い」 女王なりの配慮であった。 女王も若いエルフの発言には眉をひそめたが、それ以上に、面白いと思っていた。 不謹慎であるが、女王は森への冒涜を咎めるより、久々の発言者と議論を交わすことが重大に思えたのだ。 群集の中では彼女も思うように発言できまい、という、配慮である。 二人の侍女が、そんな女王を二度見する。 女王が、このような心遣いをするのは、稀なことであった。 特に、名も知らぬ者に対しては。
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:40:56.14 ID:f9WbjnGCO
- 群集がスッと、静かに動き、女王までの道を開ける。
その道をオドオドと歩く若いエルフを、群集の多くは睨みつけていた。 川 ゚ -゚)「問おう。そのように考える理由は何か」 (*゚ー゚)「えーと……その、まず、誤解されてるかもしれないので、その誤解を解いときたいんですが…… 私は、次の戦いで早速森を焼いてくるとは思っていません」 (*゚ー゚)「ただ、もしこのまま何度も森を守りきることができたら、森が焼かれることも考えないとな、と思ったんです」 (*゚ー゚)「人間達だって、森のせいで負けてるって気づくでしょうし」 川 ゚ -゚)「だが、ニンゲンは我々の緑溢れる森を奪うのが目的なのだろう? それでは本末転倒ではないか。何度も負ければ大人しく諦めるのでは?」 (*゚ー゚)「ええっと……そうですね……。でも、人間達の間の戦争では割と良くあることのようです。 他国の宝や食料を奪いたくて戦ってる内に、相手が憎くなって憎くなって、勝つために相手の国に火を放つ、ってことが」 川 ゚ -゚)「……本当にニンゲンは愚かだな。だがそんな話どこで聞いたのだ。信憑性はあるのか?」 (*゚ー゚)「私のお婆ちゃ……祖母が、昔人間を弟子にしてたそうです。その弟子かr……」 川; ゚ -゚)「ニンゲンを弟子にしていた!?……それは薬草のか?」 (*゚ー゚)「いえ……その……魔法の、です」
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:42:21.24 ID:f9WbjnGCO
- 女王は、思わず黙ってしまった。
ニンゲンは魔法を操ることなんてできない。 とうの昔に、自然を愛で、感謝する心を失っているのだから。 ではこの娘は嘘を吐いているのか? 女王の個人的な考えでは、エルフの弟子のニンゲンなんて、一笑に伏すべきおとぎ話である。 が、エルフの女王としてその真偽を問いただす必要があった。 川 ゚ -゚)「……そなたの名前は何か。それと、そなたの祖母を呼びたまえ」 (*゚ー゚)「シィ、と申します。祖母は、荒野での戦争で……」 川 ゚ -゚)「それはすまなかった。どうしてもその話は信じがたくてな……」 本人からの話は聞けない、か 女王は残念に思った。確証が持てない、白黒付かないのは彼女の好みではない。 (*゚ー゚)「確かに、信じがたいですよね……。別に信じて頂けなくても結構です。 ただ、その、具体的に森が燃やされた時の対策を練るべきだと……」 川 ゚ -゚)「ああ、少し脱線してしまったようだ。では本題に戻るが、我が民の多くは水の魔法を扱える。万が一の時も、それによる消化で事足りるのでなかろうか?」 (*゚ー゚)「言い返すみたいで恐れ多いのですが…… 同時に幾つもの場所で発火される可能性が高いと思います。混乱も生じますし、事前になんらかの対策をしておかないと危ういかと……」
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:44:08.94 ID:f9WbjnGCO
- 川 ゚ -゚)「ふむ……そうか、では魔力が余っている者達に水の魔方陣を組ませておこう」
(*゚ー゚)「本当ですか!ありがとうごz」 ξ゚⊿゚)ξ「女王!お待ち下さい!」 ツンが、シィの意見を可決しようとした女王を制止する。 先程のシィの発言にもツンは顔を紅潮させて怒っていた。 ツンも多くのエルフの民同様、森が焼けるという発想自体が許せないのだ。 ξ゚⊿゚)ξ「起こるか分からない火計への対策より、近日。必ず起こるであろう敵の侵入への対策を強化すべきです!」 川 ゚ -゚)「いや、私は対策を並列して行おうと考えているのだが」 ξ゚⊿゚)ξ「私には火計が起こるとは考えがたいです!ここは是非多数決を取りましょう!」 女王は、多数決を取れば負けることは分かっていた。 エルフの民の多くは、森が焼かれるなんて考えたくもないのだ。 森を愛するあまり、森が一番弱い火から守ることを直視できないでいるのだ。 そのエルフの民達の弱さが、女王には疎ましく思えた。 しかし、女王という立場故、ここで多数決を拒否する訳にはいかなかった。
- 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:46:23.01 ID:f9WbjnGCO
- その後、女王の予想通り、水の魔方陣を貼る魔力があるのなら『狙撃手』に回すべきだという意見が九割を占め、議会は閉会した。
女王は、最初はシィの意見に対し否定的であったにも関わらず、何時の間にかシィに好感を持っていたことに気づき、多数決の結果に胸を痛めた。 強気で、平生弱い者を嫌う女王が、何故弱気なシィに好感を持ったのかは女王本人にも分かっていない。 そして女王は議会終了後に、急遽、シィを新たな侍女に任じた。 理由は、複数あったが、女王の本心は至極単純明快であった。 女王は、シィともっと話がしたかったのだ。 そして、時は流転し、太陽は廻り――― * * * * * * * * * * * *
- 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:48:19.50 ID:f9WbjnGCO
- ―三日後
――エルフの森 「押せぇぇぇ!!まだ数では我々の方が勝っている!」 「一気に攻めろ!相手に反撃の隙を与えるな!!」 「腕を一本やられても怯むな!!命の限り攻め続けろぉぉぉ!!」 エルフの森は喧噪に包まれていた。 誰が傷つこうが、誰が死のうがただ無策に攻め続ける人間達。 本来ならば不利でしかないはずのこの戦法。 しかし兵士達は死を恐れずに攻撃を続け、まだかなりある兵力差にものを言わせた結果、勢いでは人間達が圧倒していた。 エルフ達には理解できないのだろう。 命を盾に向かってくる兵士達の心情が。 兵器とは違い、一度失えば二度と補給はできないたった一つの命。 それらを無駄に散らせかねないこの戦法が。
- 164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:49:41.39 ID:f9WbjnGCO
-
この無謀な戦いが始まってからもう三日目。 ここを耐えきればたとえ全滅したとしても彼らの“勝利”となる。 攻撃は最大の防御とはよく言ったもので、彼らは攻め続けることでエルフの反撃を確実に抑えていた。 「まだだ!もっと押し込……ぐはっ!?」 「しょ、小隊長!」 しかし、勢いで圧倒していても、エルフの反撃を抑えていても、人間達は決して『優勢』にはなれなかった。 「またあの矢か……!この場は俺が代わりに仕切る!攻めの手を緩めるな!」 エルフ達が扱う魔法の矢。 それはどこからともなく飛んできて、そして確実に兵士達を貫くのだ。 勢いのままあと一日彼らが耐えきるか、それとも現在優勢を保っているエルフ達が彼らを撃退するか。 それはまだ、誰にも予測はできなかった。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:51:10.55 ID:f9WbjnGCO
- ――帝国軍 前線基地
(,,゚Д゚)「……」 一方そのころ、ギコは自軍の陣中からエルフの森を見ていた。 負けるための戦いが始まってから二日。 森からは時折轟音が聞こえてくるので、彼らがまだ戦っていることはギコにも理解できた。 (,,゚Д゚)「あと一日……耐えてくれ」 アサピーは自分のテントに篭もりきりでずっと作業をしている。 最終兵器とやらの完成は近いだろうか。 モララーもまだ戻って来ないことを考えると、恐らくやられてしまったのだろう。 ギコはどことなく不甲斐ない感じを覚えた。 しかし最終兵器が完成すれば、自分も再び戦場へ行ける。 そして今度こそ、エルフ達に引導を渡してやれる。 ギコの闘志は、すでに熱く燃えたぎっていた。 戦士としてこの戦争に参加したギコにとって、この休息はただの無駄な時間でしかない。
- 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:53:05.04 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)「……ん?」
ギコが視線を森から陣地に戻すと、遠方に砂煙が見えた。 エルフ達が森から出た様子は無かったから、あれは敵ではないだろう。 では味方か?援軍? 戦える兵士は全て連れてきたはずなのに、援軍を出す余裕などないだろうが……。 (,,゚Д゚)「違う……。あれは……」 ギコの目が捉えたのは兵士ではなく、荷物だ。 恐らく、城の方から物資の補給をしてくれたのだろう。 (,,゚Д゚)(兵糧もまだ少しなら余裕があるが……まぁ、あって困るものではないか) 本来ならばこういう補給物資の対応はアサピーがやるのだが、彼は最終兵器とやらの準備でまだ忙しいはず。 ギコはめんどくさそうに頭を掻きながら、補給部隊の方へ歩いていった。
- 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 21:55:31.87 ID:f9WbjnGCO
- ( ∵)「おや、ギコ隊長。今日は出撃なさってないのですか」
(,,゚Д゚)「……いろいろあってな。それより、物資の補給か?ご苦労さん」 ( ∵)「はっ。食糧と武器、そして、油と火炎放射器をお持ちしました」 (,,゚Д゚)「……なんだと?」 どういうことだ、とギコが口を開く前にその台詞は背後から飛んできた。 (-@∀@)「どういうことだ」 (,,゚Д゚)「……博士」 顔色も悪く、足元もおぼついていない。 いつ倒れてもおかしくない風体だ。 (-@∀@)「食糧と武器はわかる。……油と火炎放射器はどういうことだ。まさか、森を焼くのか?」 ( ∵)「はい」 (-@∀@)「……それはいい。エルフ達にも大打撃になるだろう」 ( ∵)「でしょうな」
- 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:01:03.71 ID:f9WbjnGCO
- (#-@∀@)「ふ……ざけるな!!」
アサピーが兵士につかみかかろうとする。 しかし、一歩踏み出したところでバランスを崩しギコがアサピーを受け止めた。 (;゚Д゚)「おい、博士。無茶をするな」 (#-@∀@)「落ち着いてられるか!あの森を焼けだと!?森の保護を優先しろとの命令だっただろう!」 ( ∵)「王が直々に方針を変更なさったのです。我々が意見できることはありません」 (#-@∀@)「貴様等はあの森の価値をわかっていない!敵の住処ではあるが、この大地に残された数少ない緑が集結しているのだぞ!」 (#-@∀@)「緑が無ければ……人は生きていけないことがなぜわからん……!」 ( ∵)「……」 (,,゚Д゚)「博士……少し落ち着け。ここであんたに倒れられちゃかなわん」 (-@∀@)「く……」
- 177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:02:47.34 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)「……俺も森を焼くのは反対だ。いくらなんでも横暴すぎる。そんなの、侵略者のやることだ」
( ∵)「……」 かつての、憎しみに狩られていたギコなら、森を焼くのに賛同していただろうが、今、ギコは森を焼きたいとは思わなかった。 ただ単純に、あの森の緑を失いたくない気がしたからだ。 自分達の国では決して見ることは叶わない緑を。 (,,-Д-)「それに……俺達の戦争はあの火災が発端だ。あの火災と同じ行為を繰り返したら……」 戦争は、憎しみは、繰り返すだろう。 戦いに明け暮れた、一人の兵士として、ギコは憎しみの連鎖を止めたかった。 ( ∵)「なるほど、あなた方の言いたいことはわかりました」 ( ∵)「……ですが、現状を見る限り、このままでは戦の勝利を収めることはいささか厳しいように思えますが」 (-@∀@)「ぐ……」 ( ∵)「アサピー博士。緑を残したとしても、戦に敗れれば我々人間は、残忍なエルフに皆殺しされるでしょう……。 そこまでいかなくともエルフの捕虜、奴隷として生きることとなります」 ( ∵)「まず戦に勝利し、可能ならば緑を残すことがあなた方の仕事と私は心得ております」 ( ∵)「しかし戦に勝利することが困難な今、なりふりに構っている場合ではないかと」
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:04:56.55 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)「……」
(-@∀@)「……」 ( ∵)「納得が行かないのはわかりますが、我らの勝利のために、強いては民たちのために何卒……」 この戦に負ければ、国に残された人達の生活が危ぶまれる。 今命をかけてエルフ達の足止めをしている兵士たちの家族も、だ。 彼らのためにも、森を焼いた卑怯者、森の価値をわからぬ大馬鹿者の汚名を自分達がかぶらねばならないのだ。 (,,゚Д゚)「博士……」 (-@∀@)「……わかっている。私も子供ではない」 (-@∀@)「森を焼いても、種があればいずれまたあの緑豊かな森へ戻るはずだ。それに賭けるしかない」 ( ∵)「ご理解いただけたようでなによりです」 (-@∀@)「ああ。……ご苦労さん。あんたは戻っていいぞ」 ( ∵)「はっ。失礼します」
- 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:06:12.89 ID:f9WbjnGCO
- (-@∀@)「……やれやれ。火計工作の部隊と火をつけるための作戦を考えねばな」
(,,゚Д゚)「……あれ。最終兵器はできたのか?」 (-@∀@)「おぉ!そうだったそうだった。これをお前に渡そうと思ったのだ」 (,,゚Д゚)「これ……腕輪?」 アサピーが取り出したのは銀色の腕輪だった。 パッと見ではただの腕輪にしか見えないが、一体どこが最終兵器なのだろうか。 (-@∀@)「この世の全ての現象は科学で証明できる。エルフの使う魔法も然りだ」 (-@∀@)「魔法を使うのにしても何をするにしてもエネルギー、言わば熱量が必要になる。エルフ達は先天的に持つ……」 (,,゚Д゚)「すまん博士。結局これはなんなんだ?」 (-@∀@)「…………。それは半径三m以内で魔法の効果を無効化する腕輪だ」 (,,゚Д゚)「魔法を無効化……?」 (-@∀@)「ああ。例えば向こうが火を噴いてきたとしても、その腕輪があれば無効化できる」 (,,゚Д゚)「……へぇ。結界もか?」 (-@∀@)「範囲内ならばな」
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:08:58.17 ID:f9WbjnGCO
- つまり、剣の届く距離ならば結界を気にせずに攻撃ができるということだ。
それに、遠距離からの魔法も無効化できる。 エルフにしてみれば魔導アーマーよりも厄介な代物だろう。 (,,゚Д゚)「これが……最終兵器」 (-@∀@)「時間さえあればもっと広範囲の魔法を無効化できる物が用意できただろうが……」 (,,゚Д゚)「いや。十分だ」 半径3m圏内ならば、インファイターのギコにはちょうどいいくらいの範囲だ。 なるほど、間合いが遠いモララーには確かに扱い辛いだろう。 (,,゚Д゚)(だから俺の方がいいと言ったのか……) (-@∀@)「ただ、魔法で作られた火を防ぐことはできるが、火計の火を防ぐことはできないからな。注意してくれ」 (,,゚Д゚)「大丈夫だ。問題はない」
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:10:42.86 ID:f9WbjnGCO
- (-@∀@)「……よし、じゃあ私は部隊の再編を……」
(,,゚Д゚)「それは俺がやる。博士は休んでいてくれ」 (-@∀@)「だが……」 (,,゚Д゚)「どうせここ最近寝ていないんだろ?大丈夫だ。俺に任せてくれ」 (-@∀@)「……すまんな」 (,,゚Д゚)「気にするな」 この腕輪があれば、あの厄介な結界も怖くはない。 魔法の攻撃ですらギコの前では無力なのだ。 (,,゚Д゚)(今度こそ、奴らを……) フラフラと自分のテントへ戻っていくアサピーの背中を見つめながら、ギコは決意を新たにする。 明日は決戦だ。 この戦いできっと勝負は決まるだろう。 (,,゚Д゚)「勝つ……絶対に、な」
- 192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:12:52.61 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
―同刻、エルフの森 (*゚ー゚)「位置、捕捉。二時の方角……情報想信します」 川 ゚ -゚)「了解した」 矢をつがえ、弦を張り、矢を放つ。 ビィン と、弦が鳴る。 これだけの作業で、人が死ぬ。この小さな音が、人の断末魔となる。 敵の前に出ることも、構えも、狙いすらも不必要。それが“狙撃手” 狙撃手は連携魔法の一種であり、一人が森全体に探知型魔法陣を張り、敵を捕捉し、もう一人が矢を魔法で操り、探知した相手を射抜く、というものだ。 探知型魔法陣で捕捉した敵の位置情報は、脳内イメージを相手に見せる魔法――〝想信〟によって正確に伝えられる。 矢を操作できる、敵を見ずとも場所が分かるという性質上、木々が鬱蒼と、壁のように立ちはだかるこのエルフの森でも、 樹を避け、茂みを潜り、盾を越え、鎧の隙間を、遠距離から正確に射抜けるのだ。 更に、射抜いた対象が小隊長であれば、兵は混乱し、分散していく。 これが功を成し、圧倒的多数で、三日間攻めてきているにも関わらず、ニンゲン達は森を攻略できていなかった。 一見ニンゲンが攻めているように見えるが、この進行は寧ろ、徒に兵を減らしているだけだった。 ニンゲンが樹上のエルフを見つけ、一人殺すまでの間に、狙撃手は十人のニンゲンを射殺している。 そして、ニンゲンが狙撃手の矢の源を探っても見つかる訳が無いのだ。 狙撃部隊は、はるか後方―森の最奥地に潜んでいるのだから。 今、前線では多量の血が流されていることだろう。 今、前線では断末魔が、銃声が轟いていることだろう。 だが、この狙撃部隊が潜む奥地にはそのどれも届かない。
- 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:15:27.71 ID:f9WbjnGCO
- 我ながら恐ろしいモノを考え出したものだと、感心すると同時に、女王は寒気も感じる。
この狙撃手は、罪悪感を一切感じさせず、人を大量に殺しているのだ。 女王は一際ニンゲンを憎んでいる。が、それでも、人が虫を殺す時に感じるような、憐憫にも似た微量の罪悪感は常々感じていた。 しかし、狙撃手にはそれがない。 恐らく、敵を、血を、人が苦しむ様を見ないからだろう。 我々がしているのは『矢を放つ』という作業だけのように感じてくるのだ。 これは、ニンゲンの大砲等と同じだ。 奴らも、大砲を放つ時、弾を込め、導火線に火を点けるだけの作業と感じていたのだ。 その大砲で放たれた爆弾が多くのエルフを殺していることを、感じていなかったのだ。 狙撃手は、ニンゲンの造りだした鉄の兵器―――銃や大砲、魔導アーマーとなんら変わらないのではないか? ニンゲンを憎む余り、ニンゲンに近づいているのではないか?と、危惧すら抱いてしまう。 そんな女王の考えを肯定するかのように、近くで声が上がる。 ζ(^ー^*ζ「やったぁ☆るいけー千人突破だよ~!!ほらハイタッチハイタッチ!」 ξ゚⊿゚)ξ「何やってんの。そんな暇あったらさっさと次の的を教えなさいよ」 一番功績を上げている、ツンとデレのコンビであった。 元々攻撃、防御とキッパリ分かれているこの二人は、まさに狙撃手にうってつけなのだ。 その相性の良さを見込んで、狙撃手に抜擢した時、ツンは前線に出れないことを不満そうにしていたが、 いざ狙撃手を始めると、この一方的な破壊に快感を感じ始めているようだ。
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:16:53.35 ID:f9WbjnGCO
- 女王は、シィと組んでいた。シィが探知役を務め、女王が操作矢を放つ役割を担っている。
この狙撃手、唯一の欠点は、探知型魔法陣が元来迷子の子供を捜すための魔法陣(誰が戦争で使われると夢想しただろうか)であるため、 連続で探知することは想定されておらず、一度目標を捕捉すると、再び捕捉するまでに時間がかかることだ。 特に、シィはまだ若く、未熟なエルフなのでかかる時間が長い。 額に汗を浮かばせつつも、必死に敵を捕捉しようとしている。 (*;゚ー゚)「んっ……」 川 ゚ -゚)「シィ、少し休もうか」 (*;゚ー゚)「いえ、大丈夫です!私の気遣いなんて――」 川 ゚ -゚)「いや……しかしだな」 (*;゚ー゚)「私が疲れたからといって休んだら、人間の攻撃が止まず、またエルフの民が一人多く死んでしまうかもしれないんですよ!」 川 ゚ -゚)「……命令だ。ここを一時離脱するぞ」 (*;゚ー゚)「そんn」 川 ゚ -゚)(落ち着け、少し離れた場所で話したいことがある) (*゚ー゚)「……はい」
- 203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:19:05.66 ID:f9WbjnGCO
- 黙々と矢を放ち、人を着実に殺めていく狙撃手達を尻目に、二人のエルフは森のさらに奥地へと進んでいった。
小鳥のように梢を踏み場とし、跳躍しながら、女王はシィに語りかけた。 川 ゚ -゚)「実は先日の会議で、そなたの言っていた対火計の魔法陣を張っておきたくてな」 (*゚ー゚)「!!!本当ですか!ありがとうございます!!」 川 ゚ -゚)「まぁ、他の民は反対のようだから、私とそなたの二人だけで張る、心許無い対策となるが……無いよりはマシだろう」 (*゚ー゚)「本当によかった……。ありがとうございます」 川 ゚ -゚)「それと、もう一つ用件がある」 (*゚ー゚)「?」 川 ゚ -゚)「先日言っていた、魔法を学んでいたニンゲンの話を聞きたい」 (*゚ー゚)「あぁ、それですか……」 話している内に、二人は奥地へと辿り着いた。 エルフの森の奥地は、祖先の墓所であり、エルフの森が生みだしたと言われる、一本の古樹――始原の世界樹が聳え立っている。 集会に使われる古代樹も、この始原の世界樹の子孫の一本に過ぎないのだ。 何百年も前から、枯れかかっており、かつての威光は消えているが、それでもエルフ達が崇める樹であり、エルフの魔力の源となっている、と言われている樹である。 女王は、これが燃えるのだけは、避けたかったのだ。
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:21:01.88 ID:f9WbjnGCO
- (*゚ー゚)「では、魔法陣を張りながら話しましょうか」
川 ゚ -゚)「ああ、頼む」 二人で手を翳し、太古の文字、ルーンで始原の世界樹を囲む。 魔力が、二人の手からルーンに注がれてゆく。 魔法陣を張る段取りを済ませたので、女王がシィに話し始めるように催促する。 シィは軽く芝居がかった咳払いをすると、私は直接その人を見たことは無いんですが……と前置きをし、語り始めた。
- 212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:22:48.56 ID:f9WbjnGCO
- ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
時は、今から二百年程前に遡る ニンゲンの国の、田舎の、狭く小さい村に、一人の男児が生まれた。 (*'A`) オギャーオギャー その男児は、ドクオと名づけられた。 ('A`)「……」 <ヽ`∀´>「うわーwwwwドクオが来たニダwwwww菌が移るニダよwwwwwwwww」 (・∀ ・)「うわっwwwくっせぇwwww帰れよドクオwwwwwなんで生きてんのwwwwwww」 その男児は、醜かった。 それだけの理由だったが、村の者達に忌み嫌われ、迫害されるには十分だった。 成長するにつれ、彼はますます醜くなり、迫害も、それに比例して激しくなっていった。 (・∀ ・)「お前は俺達に貢ぐぐらいしか生きてる価値ねぇんだからとっとと金持って来いやオラァアアア!!!」 <ヽ`∀´>「金が無い?ババアの財布なり戸棚なりから盗ってくるニダ!!!!さもないと謝罪と賠償を請求するニダ!!!!!」 彼の友達は、山や畑に居る、昆虫や、獣や、鳥たちだけだった。 自然は、誰に対しても平等だった。醜くとも、美しくとも、弱くとも、強くとも。 彼は、一日の大半を山で過ごしていた。 青年になっても、大人になっても、山は彼の唯一の救いであった。
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:25:29.39 ID:f9WbjnGCO
- しかし、帝国による開発の手が、彼の山にも及んだ。
山は、大量の火薬により消し飛び、機械のシャベルにより崩された。 山に住む昆虫や、獣や、鳥も、同時に。ゴミクズのように消し飛ばされた。 ドクオは、生まれて初めて、泣いていた。 どれだけ迫害されても流さなかった涙を流し、吼えていた。 気がつくと彼は村を出ていた。――返り血を浴びた服を纏い、酷使され、原型を留めなくなった刃物を持って。 何日も荒野を彷徨った。 見渡す限り、地平線しか移らない荒野。 極稀に現れる小動物を、捕まえ、何も考えずに食した。 服はいつの間にか剥がれ落ち、髭は伸び、まるで獣のような姿に――否、彼は、飢えた獣になったのだ。 混濁する意識の中、理性が失われたまま、彼は一つの方向に導かれるかのように進んでいた。 空腹が、疲労が彼の体を死へと誘っていたが、何かに操られるかのように彼は一つの方向へと進んだ。 辿り着いたのは、エルフの森だった。 彼は、再び光を取り戻した眼で森を見た。 彼は、再び涙を流し、長い旅で疲弊しきった体を動かし、一本の樹に触れると、糸が切れたかのように倒れこんだ。
- 218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:28:01.49 ID:f9WbjnGCO
- そして彼は、倒れている所を、一人の変わったエルフに拾われた。
(*゚∀゚)「起きたか」 ('A`)「………」 (*゚∀゚)「言葉は話せんか、まぁ無理も無いな。なんせ獣になっていたんだから」 ('A`)「………」 (*゚∀゚)「ま、お前さんみたいな純粋な心を持ったニンゲンは初めて見る。面白いから研究させてもらうよ」 そのエルフの下で、ドクオは徐々に体と心を癒していった。 エルフが不可視の魔法を掛けてくれているらしく、ドクオが外へ出、他のエルフや獣に近づいても、誰も危害を加えようとしなかった。 そして長い年月が経ち、ドクオは再び言葉を発することができるようになった。 ドクオは、そのエルフ……ツーに魔法を教えてくれるよう頼んだ。
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:29:32.10 ID:f9WbjnGCO
-
断られた。 が、何度も彼は頼み込んだ。 やがて根負けする形で、ツーはドクオに魔法を教え始めた。 しかし、種族が違う。 ツーが魔法を教えようとしても、ドクオはまず魔力を集めることすらできなかった。 最も簡単な魔法……光の魔法さえも灯すことはできなかった。 しかし、ドクオは諦めなかった。 魔力の根源は自然を愛する心だとツーから聞いてから、自然と一体化するための努力を始めた。 何年も、何十年も、様々な努力を続けた。 何回も、何十回も、様々な挫折を味わった。 そして、気の遠くなるような年月を重ね、彼が老衰による死の直前に至った時。 彼は、指先に、小さな光を灯した。 彼は、微笑みながら死んだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:31:41.46 ID:f9WbjnGCO
- (*゚ー゚)「……以上です」
川 ゚ -゚)「…………」 (*゚ー゚)「私は、この話を聞いて以来、人間のことが嫌いじゃなくなりました」 (*゚ー゚)「確かに、人間は愚かです。しかし、彼らは努力することがどんな生き物よりも得意です」 (*゚ー゚)「私、思うんです。人間達の機械は、私達の魔法に憧れて作られたんじゃないか、って」 (*゚ー゚)「魔導アーマーなんて、特にそうです。努力で積み上げた技術で、彼らは魔法を手にしたんです。 その力の使い道を間違えているのは確かですが……」 川 ゚ -゚)「……」 (*゚ー゚)「私は、今は無理かもしれないけど……その……いや、やっぱいいです!」 川 ゚ -゚)「気にするな、話せ。そなたの話は……興味深い」 (*゚ー゚)「ん……そうですか……なら、えーと」 (*゚ー゚)「人間とエルフが仲良くしてる世界が、いつか訪れると思います」 (*゚ー゚)「十年先、百年先、いえ、もっと先でしょう。私達も生きていないと思います。」 (*゚ー゚)「そんな遠い未来かもしれないけど、きっと、訪れると思うんです」 川 ゚ -゚)「……」 (*゚ー゚)「……やっぱ、私、変ですかね?こんな事考えるなんて」
- 230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:32:59.93 ID:f9WbjnGCO
-
川 ゚ -゚)「変、だな」 (*゚ー゚)「即答ですか……」 川 ゚ -゚)「ああ、変だ」 川 ゚ -゚)「だが、面白い」 (*゚ー゚)「それ、褒めてるんですか?」 川 ゚ -゚)「無論だ。私には理解できない、いや、そんな話エルフの民にも、ニンゲンにも理解できない話だろう」 川 ゚ -゚)「だが、面白いな」 (*゚ー゚)「そうですか……あっ、もうすぐ魔法陣完成しますね!!」 川 ゚ -゚)「ああ、まぁこれが役に立たないこと祈ろう」 (*゚ー゚)「そうですね……今日はありがとうございました!!」
- 233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:34:26.65 ID:f9WbjnGCO
-
川 ゚ -゚)「構わん。元々私が言い出したことだ。それより、これが終わってもまだ狙撃手をやらなければならんぞ」 (*゚ー゚)「あっ……そうでしたね……」 川 ゚ -゚)「ふふっ、エルフの民を守るんだろう?」 (*゚ー゚)「ええ、そのために人間を殺すのは気が進まないですが……」 川 ゚ー゚)「お前は、おかしな奴だな」 女王はシィに気づかれないように、背を向け、微笑んだ。 久々に笑みを浮かべたことに気づき、最後に笑ったのはいつかと思いを馳せる。 思い返せば、それは、先代女王を殺したニンゲンを殺した時だった。 あの時は狂喜したものだったが、再び笑みを浮かべるのがこのような会話をした後とはな、と女王は皮肉に思った。
- 236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:36:29.69 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
朝日が昇る少し前。 ギコは、自身のテントで、この戦争を回想していた。 ギコは、故郷を焼かれた恨みからこの戦争に参加した。 まだ少年とも言える年だったが、積極的に大人も音を上げる訓練に参加した。 機械化された身体、血反吐の出るような鍛錬、そして、何よりもその原動力となった"憎しみ"。 この三つの武器は、エルフを効率よく刈り取る兵器になり、ギコは瞬く間に戦果を上げ、異例の若さで隊長にまでなった。 しかし、戦い、戦果を上げるにつれ、徐々にその原動力――憎しみが、薄れていた。 親を斬られ泣き叫ぶエルフを見てからだろうか、美しい空を、森を見てからだろうか。 剣という、エルフに肉薄する武器を使っていたからかもしれない。 わからなくなってしまったのだ。 ギコは、エルフ達を憎んでも良いのか。 故郷を焼かれたから、大切な人を殺されたから憎んだ。 だからエルフを、誰かの大切な人を殺し、その故郷を焼こうとしている。 (,,゚Д゚)(……間違っているのだろうか……俺は) そんなことを考えても今さらどうしようもない。 今は自分にできることをやるだけだ。 ……この戦争を、終わらせよう。俺がどれ程の返り血を浴びても。 身支度を整え、テントから出る。 エルフの森の前にできていた人集り。ギコはその一番前に立った。
- 238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:38:07.40 ID:f9WbjnGCO
-
(,,゚Д゚)「……残ったのはこれだけか」 陣地に残していた兵と、先の戦いで生き残った兵を合わせても五百は行かないほどの数。 今までエルフを数で圧倒していたはずの人間軍が、いつの間にかこんなに小さな勢力になってしまった。 (-@∀@)「この少人数のさらにほとんどが火計の用意に回る。まともに戦うのは百程度と思っていい」 (,,゚Д゚)「……そうか」 この三日間の戦いについては生き残った兵士から聞いた。 ギコが相対した灼眼と碧眼のエルフのような強力な魔法を使うエルフは前線には姿を現さず、 代わりにどこからともなく不可避の矢が飛んできたとか。 盾をかいくぐり、どこへ逃げようと確実に急所を射抜く魔法の矢。 それも、小隊長などの指揮する人間を優先的に狙い撃つらしい。 まるで何かに見られているような気さえすると言った兵士もいた。
- 241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:40:08.05 ID:f9WbjnGCO
-
(,,゚Д゚)(魔法だとしても、この腕輪がある限り俺には通用しまい……) (,,゚Д゚)(だが、これ以上いたずらに兵を減らすのは辛いな) (-@∀@)「ギコ」 (,,゚Д゚)「どうした?」 (-@∀@)「戦を終わらせる最も簡単な方法を知っているか?」 (,,゚Д゚)「敵の殲滅か?」 (-@∀@)「いや。もっと簡単な方法だ」 (,,゚Д゚)「なんだよ。勿体ぶらずに話してくれ」 (-@∀@)「敵大将の撃破だ」 (,,゚Д゚)「……」
- 242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:41:55.14 ID:f9WbjnGCO
- ギコはアサピーの言わんとすることをすぐさま理解した。
前線のエルフに構わず、一気に敵本陣へ攻め入り敵大将を討てということだ。 (-@∀@)「恐らく向こうはこちらの居場所を的確に特定し、狙い撃つことができる魔法を使っているのだろう」 (-@∀@)「だが、それがあればお前にその魔法は効かん」 (,,゚Д゚)「俺の居場所は向こうに伝わらない。……敵の裏をかける、ってことか」 (-@∀@)「そうだ。他の兵士達には火計部隊の援護、及びエルフが侵攻して来ないように足止めをさせる」 (-@∀@)「その間に、敵の大将を討ち取ってくれ」 (,,゚Д゚)「……わかった」 この戦の勝敗はギコに委ねられた。 ギコが死ねば負けは決まり。 死ななくとも、時間がかかりすぎればエルフ達に一気に侵攻されてしまう恐れがある。 なるべく速く、そして確実に敵を仕留めねばならない。
- 246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:43:19.55 ID:f9WbjnGCO
-
(,,゚Д゚)(責任……重大だな) (,,-Д-)(緊張は……ないな。やけに落ち着いてら) 初めは人間が圧倒していた。だが、敵を追い詰めたところで、逆に追いつめられてしまった。 単純な戦力ならば五分。 あとはエルフの作戦と人間の作戦、どちらが上策足りうるか……。 そして、残された戦士の力量はどうか、だ。 (,,゚Д゚)「……勝つ。絶対にな」 (-@∀@)「当たり前だ」
- 249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:45:15.57 ID:f9WbjnGCO
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(#゚Д゚)「……よし!総員!作戦の位置へ移動!!移動後は速やかに作戦を開始!森を焼き払え!!」 (#゚Д゚)「後がないのは向こうも同様!今回の戦いで全てが決まる!!」 (#゚Д゚)「だが恐れるな!!我々に負けはない!!この戦の終端は我らの勝利で飾られるのだ!!」 (#゚Д゚)「信じろ!!勝利を!!戦え!!国のために!!」 最初は、故郷を焼かれた恨みから参加したこの戦争だが、いつからか、恨みだけでなく、様々な思いや、責任を抱きながら、戦っていた。 その戦いが終わると思うと、自然と、声に力が篭った。 鬨の声が辺りに響き渡る。 地平線の向こうからは、ちょうど朝日が上ってきたところだった。 そして、その昇る朝日を覆いつくすかのように、頭上には暗雲が立ち込めていた。
- 251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:47:22.88 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
森の深部には、木漏れ日すら差し込まない。だが、姦しくもある小鳥の囀りで時間は分かる。 朝日が昇ったのだろう。 エルフの森の奥地では、空を覆いつくすほど木々が生い茂っているので、奥地のエルフ達に朝の訪れを知らせるのは木漏れ日だけだ。 木漏れ日が瞼を閉じた女王の顔を照らす。 眩しさを感じたのか、女王の長い睫がゆっくりと動き、その瞼が開く。 鮮やかな花に包まれた木の葉の寝台から身を起こす。 川 ゚ -゚)「……爽やかな朝だ」 気配を殺していたのだろう、何時の間にか傍にいた双子の侍女がその独り言に答える。 ξ゚⊿゚)ξ「お早う御座います女王様。これほど爽やかに感じられるのも、勝利の美酒のおかげですね」 川 ゚ -゚)「ああ、ツン、デレ、此度の勝利はそなた達の功績による部分が大きい。誇りに思ってくれ」 ζ(^ー^*ζ「えっへっへー☆ありがとうございますぅ」 ξ゚⊿゚)ξ「そんな!私達には勿体無きお言葉…ほら!デレも頭を下げなさい!!」 川 ゚ -゚)「構わぬ、此度の英雄はそなた達だ。次もこの調子で頼むぞ」 ξ゚⊿゚)ξ「ハッ!」 ζ(゚ー゚*ζ「はい~ミ☆」
- 254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:49:20.66 ID:f9WbjnGCO
-
森での二度目の戦闘が終わってから、半日が経っていた。 三日間に渡る防衛戦を勝ち取ったのは、エルフ達だった。 圧倒的多数の攻撃と、圧倒的少数の防衛だったが、地の利、士気、そして何より狙撃手の活躍により、ほぼ被害を出すことなくエルフは森を防衛しきった。 防衛戦、と言ったが、犠牲者の数字のみを見たならば、まるでエルフが人間達を一方的に虐殺したかのように見えるだろう。 前線に出ている人間軍の総数も、最早追い詰められていたエルフと同数にまで減っただろう。 今、エルフの半数以上は勝利を祝った後、各々休みを取っていた。 女王も、半日程の休眠を取り、連日の戦いの疲れを癒していたところだったのだ。 そして、女王はこれほどの大勝利を挙げたにも関わらず、今の状況を楽観していなかった。 川 ゚ -゚)(此度の戦いで、戦況は一転した) 川 ゚ -゚)(ニンゲン達は大量の兵達を失った……だが、奴らはまだ本国に戦力が眠っているだろう) 川 ゚ -゚)(此度の戦いで全力を出し切ったとは思えない…むしろ、これからの戦いが本番だ) そう、ニンゲンはあくまで『攻め』。いつでも撤退できるし、いつでも戦力を補給することができるのだ。 常に全力を出す必要も無い。 この点がエルフと人間の、この戦争に対する決定的な価値観の違いだ。 奪うための戦いと、守るための戦い。 どちらが背負うものが大きいかは、明白だ。
- 255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:50:46.09 ID:f9WbjnGCO
- 薄い朝霧に包まれる、美しい森を見渡す。
エルフの民を結束させているのは、私ではない、と女王は考えていた。実際、そうだろう。 本来争いを好まないエルフの民が力を合わせ、戦っているのは、この森を守るためである。 本当に、美しい。 うっとりした眼で獣や梢を眺めていると、シィが慌てた様子でこちらに向かい走ってきた。 川 ゚ -゚)「どうした?」 (*;゚ー゚)「狙撃手に反応がありました!!敵襲です!!」 ξ゚⊿゚)ξ「!!!」 ζ(゚ー゚*ζ「……ツンちゃん、やろっか」 ξ゚⊿゚)ξ「ええ……。それにしても、随分早いですね」 川;゚ -゚)(まさか……そんな筈が……)
- 257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:52:07.56 ID:f9WbjnGCO
- 川;゚ -゚)(ここは戦闘を控え、補給が来るのを待つのが奴等にとって最善の手の筈だ……斥候から人員が増えたという報告は聞いていない)
川;゚ -゚)(狙撃手の存在も、奴等に明確にはバレていない筈だ。対処の仕様が分からないのだから、ここは一度手を引くだろう……) 川;゚ -゚)(補給の兵がいないのか?まさか……最終決戦のつもりか…?) 川;゚ -゚)(だが、あれだけの戦力で攻めてきても負けたのだ……人員補給が出来ない現状で再び攻めるのは余りにも無謀の筈……) 川;゚ -゚)(いや、待て……ニンゲンがこの戦況を大きく覆す方法がたった一つだけあるではないか……!!) そう、数日前の議会でも挙がった話ではないか。 川;゚ -゚)(森を焼く……?) まさか、と首を振る。 否定したいが、その可能性は否定できない。 万一の時の為に、防火用魔法陣を張っておいたが、アレはおまじないのようなものだ。 実際に火を放たれたら、迅速に、最適な対応をしても森の四分の一は焼けるだろう。
- 258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:53:17.03 ID:f9WbjnGCO
- (*;゚ー゚)「女王様!!我々も狙撃手の準備を!!」
川;゚ -゚)「あ、ああそうだったな!すまない」 シィの声で我に帰る。 川 ゚ -゚)(私の読みが当たっているとしても……今からでは対処できない。それならば、火を放つ兵を一人でも多く狙撃するのが最善!!) 大樹に立て掛けていた愛用の弓を手に取り、矢を番える。 ――この瞬間、最終決戦の火蓋が切って落とされていたことに、多くのエルフ達は気づいていなかった。
- 261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:55:42.61 ID:f9WbjnGCO
- すぐさま狙撃手となり、矢を操る。
的確に、一人を狙い放たれた矢は、まるで自身の手足のように自在に動き、目標へと近づく。 が、その反応が、消えた。 操っている感覚が、突如として消えたのだ。 川;゚ -゚)「!?」 何かに弾かれた感覚ではない。 何かに妨害された感覚ではない。 そう、矢が物理的に消えたのではない。 原因は分からない。シィが想送してきたイメージでは、目標は先陣を切っており、如何なる障害も無いはずだ。 慌てず、もう一度捕らえた目標に矢を放つ。 が、これも先ほどと同じ感覚を残し、翼を奪われた鳥のように地に落ちた。 川 ゚ -゚)「……」 まるで、ナニかが人間を守っているようだった。 ナニか、とても大きなナニかが。
- 267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 22:57:28.04 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
キィィィ―――ン…… 何かが空気を裂く音が聞こえた。 他の人間には……もしかしたらエルフにも聞こえないであろう音に反応した男が、1人。 (#゚Д゚)「……っらぁ!!」 樹上から勢いよく上空へ飛び出したギコの眼前には、一本の矢。 腰の剣でそれを一刀両断すると、矢は力無く地面に落下した。 (,,゚Д゚)「これが……あいつらを苦戦させた魔法の矢か……」 最初にこの矢を見たときはギコも驚いた。 弓でただ放たれただけの矢とは違う、不思議な軌跡。 まるで矢自身が目標を目指して飛んでいっているようであった。 キィィィ――― (#゚Д゚)「だぁぁっ!!」
- 268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:00:54.48 ID:f9WbjnGCO
- 再び飛んでくる矢をギコは剣で叩き落とす。
ただでさえ兵数は少ないのだ。 これ以上被害を増やすわけにはいかない。 それに、火計は必ず成功させる必要があった。 ギコは飛来する矢を叩き落としながら、単身、矢の放たれる方向へ急ぐ。 矢がどのような方法で放たれているのかはわからないが、とにかくその仕掛けを破壊する必要があるのだ。 「……なっ!?貴様、ニンゲ……」 (#゚Д゚)「でぇい!」 途中、エルフに出会ったが問答無用で斬り捨てた。 エルフは断末魔をあげる間もなく物言わぬ屍と成り変わる。 (,,゚Д゚)(エルフが俺の存在に気づくのが遅い……?どういうことだ?) (,,゚Д゚)(考えられるのは……この腕輪のおかげか)
- 273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:07:10.06 ID:f9WbjnGCO
- エルフが敵を察知するときになんらかの魔法を使っているとしたら、ギコに気づくのが遅くなるのにも納得が行く。
そもそもこの木が鬱蒼としている森の中で五感に頼り遠距離から敵を見つけ出すなんて無理な話だ。 (,,゚Д゚)(だとすれば……この戦、勝てる!!) 上空に放たれた矢を叩き落とし、ギコは笑みを浮かべた。 この矢だって、まだギコに向かって飛んでくることはない。 指揮官クラスの人間を優先して狙っているという話だったが、ギコは狙われない。 そこから導き出される答えは一つ。 (,,゚Д゚)(奴らは……俺の存在に気づいていない……!) ギコが愚直に突撃し、エルフと相対すれば図らずとも奇襲になる。 それも、一騎当千の実力を持つ人間達の“切り札”が。 エルフ側の混乱は火を見るより明らかだ。
- 274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:08:39.24 ID:f9WbjnGCO
- (,,゚Д゚)「―――!」
何本目かわからない矢を斬り捨てた時、ギコの目が黒煙を捉えた。 煙は一つだけではない。 様々な場所から立ち上っている。 それらは全て火計の作戦予定地点の辺りだ。 (,,゚Д゚)「あっちも成功したか!」 程無くしてエルフの森は火の海に変わるだろう。 そしてそれはエルフ達にとっても想定外の事態のはずだ。 火を使うのならばもっと早い段階で使うはず。 なのに今まで人間達は火を使わなかった。 エルフ達の頭の中に火計の文字はすっかり無くなっているだろう。 想定外の火計に、不可視の将。 今までの劣勢を覆すのにこれほどの上策があるだろうか。
- 275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:09:32.41 ID:f9WbjnGCO
-
(,,゚Д゚)「あとは俺次第……だな」 アサピーも兵士達もやるべきことはやった。 残された仕事といえばギコが敵大将を討ち取ることのみ。 ―――人間達の勝利を、確定させることのみだ。 (,,゚Д゚)(待ってろ……この戦争は必ず終わらせてやる!) この作戦のために犠牲になった兵士達への言葉を心の中で叫び、ギコは先を急ぐ。 目指すは森の中心。 おそらく敵本陣があるであろう場所だ。 最後の戦いが始まる。 もう間もなく火の海になるであろうエルフの森で。 様々な生き物が住む、この美しい森の中で……。
- 277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:11:07.60 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
川 ゚ -゚)「……どうやら、狙撃手の矢が一定のエリアを通ると無力化されるようだな」 何発か打って分かった。 ある小さな円状のエリアを通ると、何らかの手段により矢は無力化される。 探知型魔法陣ではなんの反応も得られなかったが、 無力化された矢の場所は分かるため、何度も矢を撃ち、無力化される範囲を測量したのだ。 その一点を通っていない矢は問題なく目標に辿り着いているため、人間側の狙撃手への対策は行き渡っていないようだ。 突如発生した謎の円。探知型魔法陣による調査も行ったが、生体反応は無かった。 そして、その円は着実に移動している。 ここ、エルフの森の奥地、狙撃部隊の潜む地点へと向かって。 川 ゚ -゚)「となると……」 (*゚ー゚)「機械、ですかね」 飛来する矢を全て打ち落とす機械でも作ったのだろうか? だが、狙撃手は数日前使い始めたばかりだし、具体的にどんなモノかバレていない筈だ。 こんな短期間でこんなピンポイントな対策を? 疑問は残るが、今は考える時間も無い。 とりあえず、機械がここに辿り着くまで、機械の反応するエリアを避け、敵兵を駆除するのみだ。
- 278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:13:53.38 ID:f9WbjnGCO
- 探知型魔法陣によって分かったことだが、今回攻め込んで来ている敵兵の総数は前回までと比較にならない程減っている。
やはり、人員補充は無かったようだ。 突撃のつもりだろうか?前回までと違い、一人一人分散している。 こちらからしたら好都合だ。分散している兵を、一人ずつ狙い撃ちにする。 そして、今回の戦闘が始まってから一時間程経った頃。 一人の負傷兵が、奥地へと運び込まれてきた。負傷兵は、前線に配置されていたエルフだった。 ―――そのエルフは、全身に痛々しい火傷を負っていた。 狙撃部隊のエルフ全員が、息を呑んだ。 前線の、樹上で戦うエルフが、火傷を負っている。これが意味することは、一つ。 森が、焼かれている。 怪我人を運び込んだエルフも、青ざめた顔を無言のまま縦に振る。
- 280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:15:22.80 ID:f9WbjnGCO
- 最も早く行動したのは、デレだった。
普段愚鈍な彼女が、前線から来たエルフに、火を放たれた場所を手短に聞き出したかと思えば、疾風の如く駆け出した。 釣られるように、ツンも着いていく。 その姿を見て我に返った女王が、号令を下す。 川;゚ -゚)「者共!!!今すぐ消火活動にあたれ!!!!ニンゲンは無視せよ!!!!森を第一と考えるのだ!!!!!」 否、それはとても号令とは呼べない。叫びであった。 パニックに陥っていた狙撃部隊全員が、女王の声で、狙撃体制を止め、持ち場を放棄し、各々発火地点へと駆け出す準備をする。 冷静に考えれば分かることだった。 いや、そもそもこの戦闘が始まった時点で、放火される、という考えは脳裏をよぎっていたではないか。 川;゚ -゚)(……兵が分散していたのは火を安全に放つためだったのか……!!!) ニンゲン側からすれば、火計の火にまきこまれないようにする為以外に、分散するメリット等無い。 そして分散することで、こちらの前線を引き伸ばし、火を様々な箇所から起こすことで、消火を困難にすることができる。 (*゚ー゚)「待ってください!!!!」 冷や汗を流し、自責する女王のすぐ隣で、シィが声を上げた。 弓を置き、水の魔法を詠唱し始めている狙撃部隊達が、怪訝そうにシィを見る。
- 281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:17:26.99 ID:f9WbjnGCO
-
川;゚ -゚)「何故だ!!!森が、この森が、奴らに、ニンゲン共に燃やされているのだぞ!!!!」 ヒステリーな声で喚く。 (*゚ー゚)「……」 (*゚ー゚)「……ここで全員が消火活動に行ったら、人間達の思う壺です」 川 ゚ -゚)「何故だ……!」 襟首を掴むような剣幕で、シィに迫る。 だが、シィは物怖じせずに答えた。 (*゚ー゚)「確かに人間側も何らかの狙撃手に対抗する手段を得たようですが、それは微々たる影響でした。」 (*゚ー゚)「わずか三メートルほどしかカバーできないモノでしたので、私達は狙撃手で他の地点にいる兵を狙い、着実に減らしていました」 (*゚ー゚)「私達が狙撃した兵の中には、放火を担当している兵も多くいたはずです。狙撃手達が居る限り、放火は思うように進まないんです」 (*゚ー゚)「しかし、ここで狙撃手を消火に回してしまうと……?」
- 283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:19:06.62 ID:f9WbjnGCO
- 煮えたぎっていた脳に、冷水が掛けられる。
そうだ、指導者として落ち着くのだ。 川 ゚ -゚)「……他の放火兵を殺すことができず、第二、第三の火が放たれる!!」 (*゚ー゚)「そうです」 川 ゚ -゚)「………ありがとう。冷静さを欠いていたようだ」 川 ゚ -゚)「狙撃部隊!!消火活動は前線に任せることにする!!!前線に立っている歴戦の戦士を信じるのだ!!!」 川 ゚ -゚)「我々は、更なる被害を食い止めるため、ここで、今できることをすべきだ!!!各々再び狙撃手を開始せよ!!!!」 凛とした声が響き、狙撃部隊が統率の取れた動きで弓を構える。 女王の声で、皆、落ち着きを取り戻したかのように見える。 いや、焦燥感は皆抱いているだろう。だが、焦りに身を任せるのが得策では無い事を、皆悟った。 川 ゚ -゚)「……ツンとデレは行ってしまったか」 (*゚ー゚)「……彼女達なら大丈夫でしょう。……敵、捕捉しました」 川 ゚ -゚)「了解」 冷静に、冷酷に、女王は再び矢を放ち始めた。
- 291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:32:25.52 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
――人間軍 前線基地キャンプ (-@∀@)「……む」 兵が死地へ赴き、一人残された研究者兼、前線指揮官のアサピーは、荒野に立ち尽くし、森を見ていた。 ここでは、兵達の断末魔も聞こえず、血飛沫も届かない。が、彼はそれらを痛々しいまでに感じていた。 三日間に渡る時間稼ぎの突撃命令。 そして、火を放った兵も、その炎に焼き尽くされるであろう今回の火計。 もう少し、犠牲の少ない選択肢は無かったのだろうかと、何度も、何度も、痛切に彼は後悔していた。 それでも、残酷なことにその作戦は常に最善の策であったのだ。 (-@∀@)「……どうやら、成功したようだな」 見つめ続けていた森から、煙が立ち上り始めた。 火計成功だ。 本来なら、この戦争の関係者として喜ぶべきなのだろうが、むしろ彼は悲痛な思いだった。 あらゆる資源の源である森が、生命が、自分達のエゴで損なわれているのだ。
- 294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:34:27.43 ID:f9WbjnGCO
- 森を、煙を見つめていると、キャンプの後方、荒野の方から爆音が近づいていることに気づいた。
(-@∀@)(何だこの音は……?追加の増援部隊か?今更?) 森から眼を背け、荒野の方を仰ぐアサピー。 遥か遠くから猛烈に砂煙を巻き上げ、爆音を轟かせながら近づいてくるそれは、アサピーも知る移動用の機械だった。 規格外の速度を誇るが、騒音や搭乗者にかかるGが問題となり、いくつかの試作機が作られるのみであった、駆動型魔導アーマーである。 (-@∀@)(アレは帝国の格納庫に封印したはずだったが……というか、常人ならGに耐えかねて数十秒も稼動できない筈だ……!) そして、キャンプに着いたそれのコクピットが開く。 (-@∀@)(そのGに耐えかねる人物と言えば……!) (メ ・∀・)「……久しぶりだね」 (-@∀@)「生きていか……!!!」 (メ ・∀・)「ああ、エルフの魔法で帝国の近くに飛ばされててね……いや、そんなことより、森は―――」
- 295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:36:40.56 ID:f9WbjnGCO
- (メ ・∀・)「……遅かったか」
黒煙の上がる森を見て、モララーは舌打ちをする。 エルフを恨んでいるはずのモララーも、森の大切は分かっているようで、アサピーは少しだけ安心した。 (-@∀@)「……火計を止めに来たのか」 (メ ・∀・)「ああ、偶然聞いてね。止めようとコレに乗って全速力で此処に来たんだけど」 (-@∀@)「フッ……間に合っていても、あのギコを止める事はできなかっただろう」 (メ ・∀・)「……彼は故郷をエルフに焼かれたから、かい?」 (-@∀@)「いや、違う。奴は、自分が血を浴びる事でこの戦争を終わらせる決意をしたからだ」 (メ ・∀・)「……損な役回りをするね、ギコも」 (-@∀@)「奴はこの戦争の全てを背負い込んだ。我々にできるのは、ここで戦争が終わるのを見届ける事だけだ」
- 297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:39:26.38 ID:f9WbjnGCO
- (メ ・∀・)「……そうでもないんだなこれが」
(-@∀@)「どういうことだ?」 (メ ・∀・)「僕達にも、アイツが終わらせた戦争の後の世の中を、できる限り良くする、という仕事があるさ」 (-@∀@)「難しい仕事だな。まず初めに何をする?」 (メ ・∀・)「………王を、殺す」 (-@∀@)「……正気か?大逆罪だぞ。 それに、ホライゾン帝は賢帝ではないが、王位を奪う必要があるほどの悪帝とも思えん」 (メ ・∀・)「正気さ。この書類を見てくれ。城を探索してたら、機密文書を多数見つけてね。それの一つなんだけど…… この戦争で勝った後の、エルフに対する扱いに関する政策が書かれている」 (-@∀@)「……………奴隷同然じゃないか」 (メ ・∀・)「ああ、危険だからと魔法を封じ、体力が優れているからと一日に二十時間以上の労働を義務とする」 (メ ・∀・)「僕はコレを城で見つけたとき、謀反を決意した。こんな政策を実行しようとしている王は、間違っている、と」
- 299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:41:32.59 ID:f9WbjnGCO
- (メ ・∀・)「まだ理由はある。十数年前のVIP町火災事件……アレは実は当時開発中だった魔導アーマーの暴走だったんだ」
(-@∀@)「なんだって!?」 (メ ・∀・)「実験の指揮をしていたのはホライゾン帝その人。……その試験中の兵装はエルフの魔法を再現した、特殊な炎だった。 町一つ焼き尽くすまで、放たれた炎は消えなかった。そして多くの人の命を奪い……ギコの人生を、歪ませた」 (-@∀@)「……ではエルフの放った炎だと言っていたのは」 (メ ・∀・)「彼が責任逃れと、エルフの森の資源を奪う為に捏造した口実……。全部、フィレンクト大臣がリークしてくれたよ」 (-@∀@)「……我々は、とんだ暴君に仕えていたのだな」 (メ ・∀・)「ああ、ホライゾン帝が統治している世の中じゃ、戦争が終わっても碌な世の中にならない。ギコが残した世界だ。僕達が変えよう」 二人の男が、無人のキャンプで視線を交わし、頷きあう。 そして、黒煙のあがる森を見て、決意を固めたように拳を強く握った。
- 300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:43:07.74 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
―同時刻、エルフの森 中部 ξ゚⊿゚)ξ「水圧!!!」 燃え盛る木々に、川一つ分はあろう水が放たれる。 帝国の城一つに当たる面積の木々が、一瞬で鎮火した。 ζ(゚ー゚*ζ「……こんな時になにもできなくてゴメンね。ツンちゃん。大丈夫?」 デレは、攻めの魔法、その初歩である水の魔法を放つことすらもできない。 ξ;゚⊿゚)ξ「……大丈夫よ。次の場所を教えて頂戴」 なら私にできることをするだけ、とデレは考える。 デレの探知型魔法陣は、誰よりも高精度であり、他のエルフでは知ることのできない情報まで汲み取ることができる。 今は、熱を探知することで燃えている場所を速やかに感知している。 ζ(゚ー゚*ζ「……コッチ!!着いてきて!!!」 枝から枝へと、跳ぶ。 時々樹の下にいるニンゲンが様々な兵器を撃ってくるが、デレが二人に耐金属結界を張っているので、関係の無いことだ。 今は兵を相手にする余裕も無かった。
- 303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:45:28.75 ID:f9WbjnGCO
- やがて、眼前に燃え盛る木々が広がる。
ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん!お願い!!!」 ξ゚⊿゚)ξ「分かったわ!!」 詠唱を始める。 永遠にも思われる一瞬が過ぎ去り、ツンの掌から多量の水が迸る。 これで、またエルフの森を守れる――― が、その水は、突如空中で掻き消えた。 唖然として、消えた点を見る。 すると、一人の男が跳躍していた。 眼が合う。 (,,゚Д゚) いつかの、改造人間だった。 改造人間は空中で体を捻り、崩れかけている樹を蹴り、此方へと跳んでくる。
- 305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:47:26.34 ID:f9WbjnGCO
- 男が、空中で、剣を抜く。
だが、こちらには結界があるのだ。 ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん!!迎え撃ってあげて!!!」 ξ゚⊿゚)ξ「ええ!」 ツンの掌から、跳んでくる男へ向かい巨岩が放たれる。 が、それも 消えた。 ζ(゚ー゚*ζ「―――????」 ξ゚⊿゚)ξ「―――!!!!」 驚愕。 魔法が――打ち消された?
- 307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:49:52.09 ID:f9WbjnGCO
- 双子が驚くのも無理は無い。こんなこと、有史以来始めてなのだから。
だが、その驚愕する一瞬さえ、戦場では命取りとなる。 唖然とした顔のデレの腹部を、勢い良く飛んできた男の剣が貫いた。 ζ(゚ー゚*ζ「え?」 耐金属結界を張っていた筈だ。 ξ゚⊿゚)ξ「え?」 デレの口から、腹から血が吹き出す。 痛いよツンちゃん。おなかが熱いよツンちゃん。――助けてツンちゃん。 男は地上に着地すると、デレを突き刺した剣を振り、力を失ったデレの身体を中空へと放り投げる。 ξ゚⊿゚)ξ「………」 ツンは一瞬の間、虚ろな瞳で地へボトリと落ちたデレの身体を見つめるた後、怒りに燃えた紅蓮の瞳で男を視認した。 何も考えず、魔力の消費も、体力の消費にも構わず、激情に任せ、魔法を連続で放つ。 ツンは、攻撃魔法に関しては、どのエルフの民より優れていると自負しているし、実際そうである。 エルフの民一の怒涛の攻撃魔法が男へと襲い掛かる――。
- 309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/07(水) 23:53:04.73 ID:f9WbjnGCO
- * * * * * * * * * * * *
深々と突き刺さった剣。 それは少女の柔肉を引き裂き、腸を抉る。 乱暴に剣を引き抜くと、少女の体はそのまま地に落ちた。 美しかった碧眼からは光が消え、焦点の合わない目で虚空を見つめている。 血を吹き出した口が「お姉ちゃん」と動いたのは確認できた。 (,,゚Д゚)「……」 こういうことに慣れていないわけではいない。 エルフは敵だ。彼女らを傷つけることに抵抗はない。 だが、やはり心のどこかに罪悪感に似た感情があるのも確かだ。 (,,゚Д゚)(まだ息はある……が、ほうっておいても問題はないか) 瀕死の碧眼のエルフから目を逸らし……もう一人、強烈な殺気を放つ灼眼のエルフを見据える。 二人は姉妹だったのだろう。 ならば、今は魔法が通用しなかったという驚きよりも怒りと憎悪の方が強いはずだ。
- 313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:01:21.28 ID:+3xj7nt1O
- ξ ⊿ )ξ「よくも……」
強烈な怒気が周囲に広がる。 訓練されていない兵士ならば、きっとそれだけで気を失ってしまうだろう。 (,,゚Д゚)「……これは戦争だ」 これは戦争……。 それは傷つけた相手に、そして自分に対しての言い訳の言葉。 戦争だから、命を奪われるのは仕方がない。 戦争だから、命を奪っても許される。 ただの言い訳に過ぎない言葉を何度も使い、ギコは自分の中のどこかにある良心を押さえ込むのだ。 ……所詮は言い訳にしか過ぎないことから目を逸らして。 ξ# ⊿ )ξ「よくもデレをぉぉぉぉぉ!!」 (,,゚Д゚)「!」
- 318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:10:36.21 ID:+3xj7nt1O
- 刹那、地面が震えた。
ギコの正面からは圧殺するような水が。 上空からは木の枝で創られた槍が。 左右からは鋭利な刃と化した木の葉が迫り来る。 (,,゚Д゚)(こいつ……魔法をこんなに連発出来るのか) だがギコは動じない。 半径三m。 それがギコの絶対領域。 エルフの攻撃をことごとく無効化する結界のようなものだ。 怒りのままに彼女が放った魔法はギコの身に届くことなく、その力を失った。 炎は虚空へと消え、木の槍はただの木の枝に戻り、木の葉の刃は風に吹かれその場にひらひらと舞い落ちる。 ξ# ⊿ )ξ「ッ―――――!!」 熱気が収束。 先ほどよりも大きな炎がギコへと向かっていき……そして消えた。 魔法の連撃は止まらない。 巨岩、木の槍、高圧水流、魔法の矢……。 強烈な勢いのそれらがギコに襲いかかり、そして全てが無力化されていく。
- 321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:12:13.15 ID:+3xj7nt1O
- ξ# ⊿ )ξ「っ……ああぁぁぁぁぁぁ!!」
無駄だとわかっていないのか、わかっているのに続けているのか。 絶え間ない魔法攻撃は続く。 例えそれが、彼女達が守ろうとしていたであろう森を焼いても。 (,,゚Д゚)「……」 森が、燃えている。 人々の手によって、そして一人の少女の怒りによって。 少女に再び熱が収束していった。 今までよりも、遥かに強力なエネルギーだ。 ギコはようやく剣を構えなおした。 ……いたたまれない。 そんな感情が心のどこかに芽生えている。 ξ# ⊿ )ξ「う……ああああああああああああああああああ!!」 咆哮と共に、巨大な炎の渦が放たれた。 それは周囲の草木を灰に変え、ギコに向かって真っ直ぐに飛んでいく。
- 322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:13:35.84 ID:+3xj7nt1O
- ―――が、無情にもその炎は虚空へと消えた。
代わりに少女の眼前に現れたのは…… (,,゚Д゚)「……っふ!!」 ξ# ⊿ )ξ「!」 剣を振り下ろさんとする、ギコの姿だった。 剣が落ちるとほぼ同時に、少女は後ろへと跳躍する。 刃が少女の肌を浅く切り裂いた。 (,,゚Д゚)「ちっ……避けたか」 ξ# ⊿ )ξ「あんたに……あんた達なんかに……!!」 ξ#゚⊿゚)ξ「負けてなんかいられないのよぉぉぉぉぉ!!」
- 326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:16:05.05 ID:+3xj7nt1O
- 少女が短剣を抜いてギコに向かってきた。
その動きは俊敏にして隙はない。 ξ#゚⊿゚)ξ「らぁぁぁぁぁ!!」 (,,゚Д゚)「……」 だがギコはその攻撃をいとも簡単に止めて見せた。 ξ#゚⊿゚)ξ「ああぁっ!!はっ!でぇぇぇぇい!!」 少女の攻撃を躱し、防ぎ、弾き返す。 彼女の動きは疾い。 しかし、その攻撃はあまりにも稚拙過ぎた。 魔法と弓による遠距離戦しかしてこなかったエルフに近接戦闘をやれというのが無理な話だ。 特に、近接戦のスペシャリストであるギコ相手では分が悪すぎる。 ξ#゚⊿゚)ξ「だぁぁぁぁっ!!」
- 329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:19:04.44 ID:+3xj7nt1O
- それでも少女はギコへ向かっていった。
攻撃を悉く防がれても、ただひたすらにギコの急所を狙っていく。 ギコが一度距離を取ったのを見て、少女は短剣を思い切り振り上げた。 跳躍して、勢いを乗せての渾身の一撃。 ギコは剣を低く構え、少女の攻撃に合わせて反撃を繰り出した。 少女の右腕が宙を舞った。 ξ; ⊿ )ξ「あああぁぁぁぁああぁああ!!」 断末魔の叫びが森へ響く。 ぼとり、と腕が少女の後方に落ちた。 ξ;# ⊿ )ξ「うあああぁぁぁぁあ!!」 少女は右腕を抑えながら、それでも両の目でギコを睨みつける。 一方のギコは冷めた表情で少女を見下ろしていた。
- 334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:21:07.39 ID:+3xj7nt1O
- ξ# ⊿ )ξ「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
残った腕で少女はダガーを握り、再度ギコな向かっていく。 片腕を失いバランスが取れなくなったからか、動きが鈍重になっていた。 ξ# ⊿ )ξ「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!」 恨みの言葉を叫びながら、少女はギコへ斬りかかる。 今度は左腕が飛ぶ番だった。 ξ; ⊿ )ξ「ああぁぁぁぁぁぁ……あ……あ……」 (,,゚Д゚)「……」 両腕を失った少女には、これ以上刃向かう術は無い。 もう放っておいてもいいだろうと、ギコが剣を納めた瞬間だった。 ξ# Д )ξ「ああああああああ!!」 (;゚Д゚)「なっ……!?」
- 335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:22:19.95 ID:+3xj7nt1O
- 少女は両腕を失ったままギコに飛びかかり、その腕に噛みついた。
ギコの腕に食らいつき、憎しみの篭もった目でギコを睨むその姿はまるで獣だ。 (;゚Д゚)「ぐっ……放せ!!」 乱暴にふりほどくと、少女は地面へと叩きつけられた。 それでも、必死に立ち上がろうと足をもぞもぞと動かしている。 ξ# ⊿ )ξ「殺す……殺す……ころす……!」 ふらふらと何とか足だけで少女は立ち上がった。 武器はなくともギコの喉笛を食いちぎることができたら……。 少女はそう思っていただろう。 そのギコの喉が、目の前にあった。 ―――チャンス 少女の目が一瞬光を取り戻す。 そして口を大きく開け、そのまま………… ごとり、と少女の頭が地面に落ちた。
- 339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:25:01.08 ID:+3xj7nt1O
- 炎に包まれた森の中。
ギコはエルフの少女の死体を見下ろしていた。 美しく、可憐だった少女はバラバラの死体となっている。 (,,゚Д゚)「……せめて、あの世で妹さんと幸せに暮らせよ」 弔いの言葉を残し、今度は碧眼の少女の方へ目を向けた。 ……が、そこには何もない。 ただ、血の跡が点々と森の奥へ続いていた。 (,,゚Д゚)(逃げられたか……。だが、あの傷ではそう長くは持たないだろう) もう一度灼眼の少女の死体をちらと見て、ギコは森の奥へと再び走り出した。 この戦争を、終わらせるために。 彼女のような戦士を、これ以上出させないように……。
- 341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:27:01.23 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * *
鬱蒼とした木々に覆われ、日差しがまともに差し込まない奥地からでも、煙が視認できるようになっていた。 前線の消火活動は残念ながら効をなさなかったようだ。 この森も、もう長くは持たまい。 だが、狙撃部隊の活躍により、もう人間軍も壊滅状態だ。 後は、どちらが長く持ちこたえるか…それだけだった。 前線から、負傷者が運び込まれなくなってからどれ程経っただろうか。 負傷者が途絶えた理由は、無論怪我人が出なくなった訳ではない。 純粋に、負傷者を運び込む余裕が消えたからだろう。 川 ゚ -゚)「……」 女王は、黙々と狙撃を行いながらも、思いを巡らせていた。 自分の『生』をどう終わらせるか。
- 342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:30:02.36 ID:+3xj7nt1O
- このまま敵を殲滅し、消火活動を行ったとしても、残りの兵力と、残りの森ではどうしようも無い。
今この瞬間森を守れたとしても、ニンゲン達の本国にはまだまだ兵がいるだろう。 どう足掻いても、この戦い、我々の負けは決定したのだ。 もっと早く火計に気づけば―― ツンとデレを引き止めれば―― いや、そもそも こんな戦争、始めなければ――― もうすぐ死ぬというのに、後悔ばかりだ。 我ながら笑ってしまう。 悔いの多い人生を歩んできたが、最後くらいは悔いを残さずに散りたいものだ、と思う。 どのように散るか、と女王が思案していると、シィが語りかけてきた。 (*゚ー゚)「……すいません、私はもう限界です。探知用魔法陣を張る魔力が尽きてしまいました」 川 ゚ -゚)「ああ……構わん。もう敵の残党は僅かだ。我々が休んでも構わんだろう」
- 344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:34:52.19 ID:+3xj7nt1O
-
(*゚ー゚)「といっても、狙撃手ができないとやることが……」 (*゚ー゚)「そうだ!女王様は始原の世界樹の様子を見に行ってください。」 川 ゚ -゚)「……何故だ?」 (*゚ー゚)「燃えてないか、心配じゃないですか。私達二人の魔法陣だけじゃ心許ないですし」 川 ゚ -゚)「……分かった。シィも一緒に来ないか?」 (*゚ー゚)「私は下っ端らしく、警備でもしときます!」 川 ゚ -゚)「……まぁ無理にとは言わんが。シィも、狙撃部隊の皆も、危険を感じたらすぐ逃げるのだぞ。 もう森も持たない。自分の身を一番に考えるんだ。これは、命令だ」 探知型魔法陣で敵影は見えるから大丈夫だろうが、と思いつつ、命ずる。 (*^ー^)「はい!女王様もお気をつけて!」 ニッコリと笑うと、始原の世界樹へと向かう私に向かって手を振るシィ。 戦場であっても、彼女は笑顔を絶やさない。 あのような娘は、本来戦場に立ってはいけないのだ。 それを、私は―――
- 346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:36:42.66 ID:+3xj7nt1O
- いや、止めよう。
今更自責した所で何になるのだ。 シィも、分かっているのだろう。彼女は賢い。 もう、我々の負けは決まっていることを。 だから、始原の世界樹を見に行くように行ったのだろう。 確かに、エルフの始まりの地である始原の世界樹で終わるのも悪くはあるまい。 私は、女王は死ななければならない。 そうでなければこの戦争は終わらないだろう。これは、必然だ。 女王が死ねば、残党狩りも行われない。将を失った兵は、兵では無い。 女王の命一つで多くの民が救われるのだ。安いものだ。 私は、今生き延びている全てのエルフの民の生存を望む。 だが、それが無理でも、せめて――あの娘、シィには生き延びてもらいたい。 本気で、人間とエルフが仲睦まじく暮らす世界を夢想した、あの娘には。
- 349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:38:08.45 ID:+3xj7nt1O
- 始原の世界樹を、見つめる。
老いた樹は、森の異変に気づいているのか、どこか、苦しげに見えた。 女王が世界樹を見つめながら、様々な思案を巡らせていると、突如脳内に図が浮かんだ。 独特の感覚で『想信』によるモノだ、と分かる。 一人の男が、剣を振るう図が脳に浮かぶ。 (,,゚Д゚) その男に幾千の魔法が迫るが、その魔法は全て霧散する。 その後、場面は突如切り替わり、無地を背景に『半径三米』という文字が浮かぶ。 2、3秒その図が浮かんだ後、元の、炎に包まれる森に戻り―― そして、男は――金髪のエルフをその剣でk 図はそこで途切れ、後は錯乱したかのような原色の風景が描かれているだけだった。
- 351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:40:09.78 ID:+3xj7nt1O
- 誰からの想信だ?
あの剣で切られていたのは――ツンか。 なら、先程の想信を行った者は……デレか。 二人共、恐らく命を散らしたのだろう。デレも、最後の力でこのイメージを想信してくれたに違いない。 魔法を無効化?半径三メートル? そうか、あの時、狙撃手の弓を無力化していたのは―― 川 ゚ -゚)「……シィ達が危ない」 想信のイメージを信じるならば、あの男は、恐らく半径3メートル以内の魔法を何らかの方法で無効化している。 そしてそれは、どうやら探知型魔法陣も無効化するようだ。 なら、索敵を全て探知型魔法陣に頼っている狙撃部隊があの男に襲われたら? 女王は、踵を返し、狙撃部隊の元へ急いだ。
- 353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:42:18.22 ID:+3xj7nt1O
- 熱気を感じる。
もう炎は近くまで迫っているようだ。 煙を掻き分けながら、狙撃部隊がいる広場へ入ると――― 赤、だった。 眼に入るのは、迫る炎と、溢れる。赤い、液体。 そして、剣を、シィの喉元に突き立てる、あの男。 (,,゚Д゚) (* ー )
- 356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:44:02.87 ID:+3xj7nt1O
- 川;゚ -゚)「シィ!!!」
何が起こっているんだ? まさか、シィが捕虜になっているのか? (*゚ー゚)「止まりなさい!!!」 川;゚ -゚)「何を言っt」 (*゚ー゚)「良いのです……我々は戦に負けたのです。私は、女王はここで散ります」 何を言っているんだ? まさか、自分を女王と偽っているのか? (,,゚Д゚)「……その通りだ。女王は、ここで死ぬ。これで、戦争は終わる」 川;゚ -゚)「待て!!!女王はわt―――― 無情な刃が、銀影を残し、動いた。
- 361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:46:16.26 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * *
――数分前 (,,゚Д゚)「……!」 血の跡を追えば、きっと敵の本陣にたどり着くだろうと思い、進んでから十数分。 血の跡は途中で途切れてしまっていた。 ζ(- ζ 碧眼の少女の遺体が、そこにあった。 本陣に戻ろうとしたものの、途中で力尽きてしまったのだろう。 先の戦闘が思い出され、ギコはいたたまれない気持ちになる。 墓でも作ってやろうかと考えたが、その考えはすぐに払拭した。 ……彼女は敵だ、同情は不要。 そんなことよりもこの戦争を終わらせるのが先決だ。 (,,゚Д゚)「……すまんな」 一言、詫びの言葉を残してギコは再び駆け出した。 おそらく、敵の本陣はもうすぐだ。
- 363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:47:23.72 ID:+3xj7nt1O
- もう森のかなり奥へ来ているはずだが、火の手はもうギコのすぐ背後まで迫っている。
ギコは改めて、人間の生み出した科学の恐ろしさを実感した。。 そんなことを考えながら走り続けると、少し開けた場所に出た。 広場にはいくつかの魔法陣が展開されていて、その周囲にはエルフの姿もちらほらと見受けられる。 「な……!?」 「ニンゲン……だと……!!」 「馬鹿な……!魔法陣にはなんの反応も……!!」 その場にいたエルフ達のどよめきが聞こえる。 どうやらここからエルフ達は超遠距離攻撃を行っていたらしい。 この魔法陣で人間のいる位置を割り出し、そこへ向かって矢を放っていたようだ。 とすれば、ここはかなり重要な場所。 すなわち本陣に近い、もしくはこの場所自体が本陣の可能性もある。 ……戦争の終結は近い。
- 367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:49:08.63 ID:+3xj7nt1O
- 「ぐっ……おのれ!!」
エルフの1人が炎を繰り出してきた。 先ほど戦った灼眼の少女と比べると、明らかに小さく、弱々しいとも感じさせるほどの炎だ。 (,,゚Д゚)「まずは……」 ギコは炎に向かって走り出す。 炎はギコの絶対領域に入った瞬間に消えてしまった。 困惑の表情を浮かべるエルフの顔が近づく。 ギコはその胸に剣を容赦なく突き立てた。 (,,゚Д゚)「……1人」 剣を引き抜くと、大量の血液が吹き出し、ギコの体を汚していく。 他のエルフ達は困惑の表情を浮かべている。 が、ギコが再び剣を構え直すと彼女らは一斉に魔法で攻撃をしかけてきた。
- 370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:51:13.74 ID:+3xj7nt1O
- (#゚Д゚)「効かねぇよ!!」
エルフの魔法を無力化しながら……否、ただがむしゃらに突っ込んで次々とエルフ達の命を奪っていく。 魔法を放っているスキに距離を詰め、そのまま首をはね飛ばす。 ギコの前ではエルフ達はあまりに無力だった。 抵抗することもままならないで、1人、また1人と命を刈り取られていく。 十数人ほど斬り、あたりに血の臭いが充満してきた時のことだった。 「お止めなさい!!」 (,,゚Д゚)「……!」 突如、森の広場に若い女の声が響いた。 そして、森の奥から姿を現したのは、 (*゚ー゚)「それ以上の狼藉は、私が許しません」 背丈の小さな、一人のエルフだった。
- 373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:52:59.87 ID:+3xj7nt1O
- (*゚ー゚)「そこの人間。私の民達をこれ以上傷つけるのはやめなさい」
小柄ながらも、その立ち振る舞いは堂々としている。 そして、今の言葉。 そこから推測するに…… (,,゚Д゚)「……あんたが、エルフの女王か」 (*゚ー゚)「そうです」 少女は凛とした表情のままそう答えた。 すでに何人ものエルフを屍に変えているギコを見ても、全く臆することはない。 その体格に似合わず、かなりの度胸の持ち主のようだ。 (,,゚Д゚)「……じゃあ、お前を殺せば全て終わりだな」 (*゚ー゚)「そうです」 ギコは剣を構え直し、エルフの女王を見据えた。 相手はエルフ達の頂点に立つ者。 一体どんな攻撃をしてくるのかは想像もつかない。
- 377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:55:09.16 ID:+3xj7nt1O
- しばらく睨み合いが続く。
だが、エルフの女王は一向に攻撃して来なかった。 何か罠でも仕掛けてあるのかと、ギコが疑い始めた頃、女王は口を開いた。 (*゚ー゚)「私にはもう魔力は残っていません。殺したければ殺しなさい」 表情を変えずに、女王はそう言い放つ。 女王の言葉に他の生き残ったエルフ達もざわめきだした。 (*゚ー゚)「……ですが、その前にあなたに聞きたいことがあります」 (,,゚Д゚)「……なんだ」 (*゚ー゚)「人はなぜ、争いを望むのですか?争いからは何も生まれません。ただ失われるのみです」 (,,゚Д゚)「何を言う。俺達は降りかかる火の粉を払っただけだ」 (*゚ー゚)「降りかかる……?」 (,,゚Д゚)「ああそうだ。お前達が攻めてきたから、俺達は俺達の国を守るために戦ってるんだ」 (,,゚Д゚)「……そうじゃなきゃ、俺はこんなに迷っていない」
- 383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:56:41.52 ID:+3xj7nt1O
- ギコが呟いた最後の言葉は、エルフの女王に届かなかった。
女王は何かを必死に考えているようだ。 (*゚ー゚)「……そう……そういうことですか」 (,,゚Д゚)「……?」 (*゚ー゚)「……あなたも、かわいそうな人です」 (,,゚Д゚)「……どういう意味だ」 (*゚ー゚)「この戦いは、人間達の侵略から始まりました」 (*゚ー゚)「ですが、あなた達の王はエルフから侵略を受けたと虚偽の触れを出し兵を募ったのでしょう」 (,,゚Д゚)「……ふん。バカを言うな。俺達は町を一つ焼かれているんだ。……エルフ達の手でな」 (*゚ー゚)「……町を?」 (,,゚Д゚)「ああそうだ。俺の……故郷だ」
- 388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:58:04.90 ID:+3xj7nt1O
- (*゚ー゚)「……人間の業の深さには底は無いのでしょうか」
(,,゚Д゚)「どういう意味だ」 (*゚ー゚)「あなたは知らなくてよいのです……。私を殺し、すぐに国へお帰りなさい」 (*゚ー゚)「これ以上エルフを、人間を、そして……あなた自身を傷つけるようなことはありません」 (,,゚Д゚)「……っ」 女王の言葉に、ギコの心は揺れていた。 これが、人間を虐殺し、侵略しようともくろんでいた者の言葉だろうか。 全てを見透かすようなその瞳は、無垢な子供のように澄んでいる。 (,,゚Д゚)(でも……) ここまで来て、今さら後には引けない。 今ここで女王を殺せば戦争は終わる。 人間もエルフもこれ以上傷つかずに済むのだ。
- 392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 00:59:42.46 ID:+3xj7nt1O
- (,,゚Д゚)「……悪く思うなよ」
白く細い喉にギコが剣を突きつける。 女王はそれでも動かず、静かに目を閉じた。 そして、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぎ始めた。 (*-ー-)「……私は、例え人間が相手でも話し合えば分かり合えると思っていました」 (*-ー-)「きっとあなたなら状況が状況であれば話し合いに応じてくれたでしょう」 (,,゚Д゚)「……」 ギコは黙って女王の話に耳を傾けた。 これから死ぬ者の最期の言葉だ。 ちゃんと聞き届けるのが礼儀と思ったのだ。 (*-ー-)「……でも、諦めました。私達は私達の正義が、あなた達にはあなた達の正義がある」 (*-ー-)「それぞれの正義にとって、互いの存在は悪でしかない。優しい言葉も暴言と捉え、頬を撫でられれば殴られたと思い込む」 (*-ー-)「……『争い』になった時点で、言葉は気休めにしかならないのです」
- 396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:01:14.47 ID:+3xj7nt1O
- (*゚ー゚)「……さぁ、やりなさい。大悪に利用されし哀れな傀儡よ。私の命と引き換えにこの戦争に終止符を打つのです」
なんと気高く、そして優しい女王だろうか。 自らの命を差し出し、そして民達を守ろうとする。 これが本当の王たる者の姿だろう。 (,,゚Д゚)(……俺は、こんな王を殺さねばならないのか) ギコの剣を握る手に力が籠もった。 戦争を終わらせると決めた身、彼女を殺さないわけにはいかない。 剣先がゆっくりと動き…… 「シィ!!!」 (,,゚Д゚)「!」 森の奥から声が飛んでくる。 声がした方向に目を向けると、そこには美しい黒髪を揺らすエルフがいた。 その目に浮かぶのは困惑と、焦燥。 それもそうだ。 彼女たちの王は敵である人間に剣を突きつけられているのだから。
- 400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:02:54.13 ID:+3xj7nt1O
- (*゚ー゚)「止まりなさい!!!」
女王は今までより大きな声を張り上げた。 黒髪のエルフは思わず足を止める。 それからまた何かを言おうとしたが、その言葉を女王の言葉が遮った。 (*゚ー゚)「良いのです……我々は戦に負けたのです。私は、女王はここで散ります」 女王の言葉に、黒髪のエルフは目を白黒とさせるばかりだ。 状況が把握できないのだろう。 (,,゚Д゚)「……その通りだ。女王は、ここで死ぬ。これで、戦争は終わる」 顔を女王に向けたまま、ギコはそう言った。 ふと女王と視線が合う。 『早くやってくれ』と、そう言っているような気がした。
- 402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:04:40.86 ID:+3xj7nt1O
- 再び剣を握る手に力が籠もる。
黒髪のエルフが何かを言っている声が聞こえたが、その言葉までは届かない。 ゆっくりと剣を引き上げ…… (,, Д )「……すまん」 小さな、簡単な謝罪の言葉と共に銀閃は女王の首元を通過する。 なんとも細くて、柔らかい首。 切り落とすのには、そう力は必要無かった。 戦争は終わった。 もう誰も傷つかず、傷つけずに済む。 (,,゚Д゚)「……女王は死んだ。これで……戦争は終わりだ」 川 - ) ―――そう、思っていた。
- 405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:06:14.06 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
赤い、紅い、朱い水が、噴出す。 その血は、今まで何度も見てきた血と、同じ液体とは思えない程美しく滴り、大地を濡らした。 気づくと、腰に帯びた剣を抜いていた。 (,,゚Д゚)「待て!女王は死んだ。戦争は終ったんdあ[<-~\!#$$"$#{*}_争09@*$肴ネ――― 男が、ニンゲンがナニカ喚いているが、それは獣の鳴き声よりも取るに足らない声だ。 駆けて、剣を振るう。 男が剣を合わせてくる。 一、二、三、四……何度も剣と剣がぶつかる。 お互いの意思を代弁するかのように。
- 406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:07:28.57 ID:+3xj7nt1O
- 普通のニンゲンなら眼で捉えることもできない程高速の攻撃なのだが、どうやら相手はニンゲンではないようだ。
ツンの報告にあった改造人間――戦争のための悲しい機械人形、といったところか。 いずれにしろ、埒が明かない。 一度距離を取る。 本来なら、魔法を撃つべき場面だが、デレが決死の思いで伝えてくれた想信のおかげで、魔法が利かないことは分かっている。 なので、時間を置かず、すぐさま跳躍し、重力と共に男に剣を振り下ろす。 が、その攻撃は、容易く男にかわされる。
- 408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:08:09.94 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
(,,゚Д゚)「待て、女王は死んだ!もう戦争は終わったんだ!もう争いを続ける意味は無い!」 黒髪のエルフに向かって、両手を挙げてもう争う意思は無いことを訴える。 川 - ) が、エルフは聞く耳を持たない様子で、腰の剣を抜いた。 そりゃ、そうか。 女王を殺した男だ、なんとしても殺したい相手だろう。 だがこちらも、みすみす殺される訳にはいかない。 俺一人の為に、何人もの兵が、戦友が、命を散らしているのだ。 剣を抜き、応戦する。 黒髪のエルフは頭に血が上っているのか、我武者羅に剣を此方に振るってくるだけだ。 もっとも、改造していなければとっくに細切れになっているであろう速度なのだが。 その嵐のような剣戟を、冷静に一つ一つ受け止める。 (,,゚Д゚)(剣の腕はさほどでも無いか……) 幾度か、反撃する隙はあった。 が、先程の女王との会話が、ギコの刃を鈍らせていた。
- 412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:09:56.47 ID:+3xj7nt1O
- (,,゚Д゚)(どうにも、やり辛いな……)
突如、黒髪のエルフが後退した。 距離を置き、魔法を放つつもりだろうか。効きもしない魔法を。 そう考えながら、黒髪のエルフが下がった方向に眼をやると、エルフは消えていた。 ――何処だ? ――上か!! 何時の間にか高速で跳躍していたエルフが、兜割りを狙っていた。 兜割りは強力だが、その直線的な軌道は容易く読み取れ、回避するのも容易だ。 その軌道から、身をそらす。
- 414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:11:09.93 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
回避する男を見て、女王は中空でほくそ笑んだ。 川 ー ) ここまでは、読み通り。 これは、振り下ろすフリだ。 空中で身体を捻り、剣を地面と水平に、男の方向に修正する。 ニンゲンにはできない、高い身体能力を誇り、そして女王として厳しい近接戦闘訓練を受けた彼女だからこそできる技だ。 流石に改造人間といえど、予期せぬ攻撃は避けることはできまい。 剣が、男の左腕を捉える。十分な手応え。 そして、軽やかに着地し、男を視界に捉える。 ――おかしい。十分な手応えはあったはずだ。 男の左腕はつながったままだった。 切れた衣服から除く男の腕を見て合点する。 男の、本来皮膚があるべきそこには、機械の、鉄のパーツがあったのだ。 なら、狙うべきは、首か、頭か――全てか、だ。 再び、剣を男に向かい振る。 何度も、何度も、執拗に。燃え盛る木々に覆われた死の闘技場で。
- 417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:13:10.15 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
(;,゚Д゚)(危ねぇっ!!!腕じゃなけりゃヤバかったな…) 認識を改めないとならないようだ。 空中での変則攻撃。常軌を脱した技術。 このエルフ、できる。 先程の一撃で、内部の精密機械がやられたようだ。左腕が軋む。 左腕を意識している間にも、黒髪のエルフは再び剣を振り上げている。 再び、烈風のような剣戟。 もう、手加減はしない。 冴え渡った頭で再び剣戟を一つずつ捌く。 そして、刹那の隙を捉え―― エルフの剣を、手元から弾き飛ばす! 勢い良く跳んだ剣は、くるくると弧を描き、燃え盛る森の中へ飛び込んだ。 もう回収はできないだろう。 驚愕するエルフの喉元に剣を突き立て、言葉を放つ。 (,,゚Д゚)「今度こそ降伏しろ。捕虜の待遇は俺が保障する」
- 421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:14:20.95 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
川 - )(………) 川 - )(………クックック) 川 - )(アッハッハッハッハ!!!降伏だと?何もかも失った私にか!?) 森も、民も、ツンも、デレも、シィも失った。 私が捕虜として生き延びたとして、その残された生に何の意味があるだろうか? 川#゚ -゚)「断る!」 お前を殺して、私も死ぬ。 それがこの不毛な戦争にふさわしい結末だ。 喉元に突き立てられた刃から逃げるように跳躍し、一瞬で五メートル近くの距離を取る。 男は、動かない。 川 ゚ -゚)(確か、半径三メートルだったか) なら、機能するはずだ。 掌に魔力を集中させる。 作り出すのは、魔力の剣。
- 425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:16:32.46 ID:+3xj7nt1O
- そして男を睨み、造りだした剣を勢い良く振るう。
―――後ろの、燃える大樹に向かって。 根元からすっぱりと切れた大樹は、メリメリと嫌な音を鳴らせながら、男の方向へ倒れる。 この大きさの樹に押しつぶされれば、いくら鉄の身体と言えど持たないだろう。 ズッシィィイイイイイイイン!!!!! 轟音が鳴り、周囲が煙と火の粉に覆われる。 ―――男は?
- 429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:18:23.62 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
,,-Д-)「ゲホッゲホッ」 ――なんて奴だ エルフが大切にしているはずの樹を切り倒すなんて。 魔法の剣を作り、此方に斬りかかると見せかけてからの奇策。 正直、完全に意表を突かれた。 なんとか致命傷は免れたが、右足がダメになった。 改造のおかげで片足でも普通の人間並みには動けるが、このエルフとの戦闘では、機動力の低下は大きな痛手だ。 (,,゚Д゚)(――――死ぬ、かもな) この戦争が始まって以来、常に意識していた、意識しざるを得なかった『死』をかつて無いほど身近に感じる。 (,,゚Д゚)(―――それにしても)
- 437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:21:26.15 ID:+3xj7nt1O
- (,,-Д-)(争いが始まりゃ、言葉は気休めにしかならないってのは、本当だな)
先程降伏を促した時のエルフの顔を思い出す。 形容しがたい、いくつもの拒絶的な感情の入り乱れた表情。 火の粉と煙が引いてきたようなので、顔を上げる。 すると、その『表情』が視界に入る。 川 ゚ -゚) (,,゚Д゚) ―――言葉は必要ない。会話は、機能しない。 二人は、黙って、何度目かの争いを再開した。
- 442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:24:46.12 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
腰から短剣を抜き、ニンゲンを睨んだ。 リーチに差はあるが、奴を殺すにはこれで十分だ。 川#゚ -゚)「……っ!!」 一歩で間合いを詰め、ニンゲンに突きを繰り出す。 喉、目、心臓……急所を狙って放った高速の連撃はあっさりとかわされてしまった。 ……やはり反応速度は尋常ではない。 普通の単調な攻撃では奴に手傷を負わせるのは不可能か。 川#゚ -゚)「ならば―――!」 魔力を集中、即座に射出。 岩塊がニンゲンに向かって行き、そして消える。 その隙にニンゲンの後ろへと回り込んだ。 ……魔法はただの目くらまし。 未だに先ほどまで自分がいた場所に視線を泳がせているニンゲンの首へ剣を突き出した。
- 448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:28:05.58 ID:+3xj7nt1O
- (#゚Д゚)「だぁっ!」
しかしニンゲンは振り返りざまにこちらの攻撃を弾き、すぐさま距離を取った。 ……反応速度、敏捷性もずば抜けている。 単騎でここまで攻めてくるだけの実力は十分に備えているみたいだ。 だが、スピードならこちらも負けていない。 それに、ニンゲンの武器が長剣なのに対し、こちらは短剣を使っている。 攻撃にかかる時間を考えれば間違いなくこちらが有利だ。 ……負ける要素などない。 (,,゚Д゚)「……」 ニンゲンは長剣を構えて一定の間合いを保ち続けている。 攻撃を仕掛けてくる様子は全く見られない。 ……賢明な判断だ。 あちらが攻撃を仕掛けてくれば、その隙に私の短剣が奴の喉を貫くだろう。
- 450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:30:07.41 ID:+3xj7nt1O
- しばし、睨み合いが続く。
不思議と頭の中は落ち着いてるように感じられた。 決して怒りを忘れたわけではない。 だが、もう先ほどのように無策に攻撃したりはしないだろう。 川 ゚ -゚)(……奴が隙を見せない限り、奴を仕留めることはできんな) 間合いを保ち、こちらの行動に目を光らせている今ならばなおさらだ。 こちらから仕掛けても向こうの反撃を食らうことは無いだろうが、決定打を与えることも出来ないだろう。 ……ならば、その隙を作り出せばいいまで。 川#゚ -゚)「はぁぁぁぁっ!!」 額、喉、腹と正中線上に突きを繰り出す。 ニンゲンは初撃を躱し、喉と腹への攻撃は剣で防いだ。 後ろへ回り込み、さらに連撃を加える。 全て防がれたものの、ニンゲンの顔に余裕の表情は浮かんでいなかった。
- 454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:31:21.76 ID:+3xj7nt1O
- 川 ゚ -゚)(……まだだ。まだ足りん)
余裕が消えたように見えるが、まだ攻撃は防がれ続けている。 ニンゲンの周囲をグルグルと回りながらさらに攻撃を続けた。 表情からは余裕が消えたが、どうやらまだ攻撃を防ぐ余裕は残っているらしい。 川 ゚ -゚)(ならば……) 魔法を弾幕に、さらに死角からの攻撃を繰り返す。 それでもニンゲンは私の攻撃を躱し、防ぎ、時には反撃もしてきた。 川; ゚ -゚)(く……!このニンゲン、死角という物が存在しないのか……!?) ただがむしゃらに、ただひたすらに。 突き、斬り、また突く。 狙うは仲間を……シィを殺した一人のニンゲンだ。
- 456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:32:58.65 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
(,,゚Д゚)「……」 突きを躱し、斬撃を防いで、次の突きに合わせてこちらも攻撃する。 まるで作業のように淡々と、それらを繰り返した。 魔法が来たら、全方向に耳を澄まし、どこから攻撃が来ても対応できるようにする。 相手のエルフは気づいているのだろうか。 自分の攻撃が単調で、ほぼパターン化されていることに。 (,,゚Д゚)(一歩下がった。次は魔法か) このまま疲れるまで防御に徹するのも戦術ではあるが、それではあまりに退屈である。 それに相手はエルフの一兵士として誇りを懸けて、それこそ、命を懸けてこちらに向かってきているのだ。 (#゚Д゚)「だったら……!!」 川; ゚ -゚)「っ……!?」 それに応えてやるのが礼と言うもの。
- 463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:35:58.84 ID:+3xj7nt1O
- (#゚Д゚)「らぁぁぁぁぁっ!!」
相手が一歩下がり、魔法を放とうとしたところへ一気に詰め寄った。 ……範囲内。 ここで魔法は使えないし、こちらの視界を隠されることもない。 一気に決めるつもりで、その喉目掛けて剣を降り出す。 エルフは無理矢理後方へ倒れるようにして、剣を避けた。 ならば、と返す刃で今度は腕を狙う。 致命的な一撃でなくともよい。 例え有効な攻撃を与えられずとも、傷つけさえすればエルフも焦るだろう。 川; ゚ -゚)「っふ……!」 キィン、と甲高い金属音が響いた。 あの体勢のまま短剣で俺の攻撃を防ぐとはなかなかやる。 (,,゚Д゚)(だが―――)
- 468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:38:07.40 ID:+3xj7nt1O
- 甘い。
今のは当たっても当たらなくともよい攻撃だ。 弾かれた剣を引き、一歩踏み込む。 攻撃を弾いて体勢を崩したエルフの懐に潜り込んだ。 (,,゚Д゚)「シッ―――!」 そのまま腹部へ突きを叩き込む。 ほぼ0距離からの攻撃。 普通のニンゲンなら、間違いなく躱せないだろう。 川; ゚ -゚)「ぐぅっ!?」 だが、エルフは身を捻らせて無理矢理直撃を免れた。 剣先はエルフの脇腹を浅く抉り、鮮血が飛ぶ。 もう少し深手を負わせたかったが、まあこれでも十分だ。 痛みは人を冷静にさせなくする。 エルフも同様のはず。 さて、これがどう転ぶか―――
- 473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:40:37.72 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
今まで防戦一方だったニンゲンが急に攻撃にでたと思えば、あっさりと一撃もらってしまった。 ぱっくりと裂けた腹からは血が溢れ出てくる。 この戦いが長引けば、自分の命が危ない。 だが焦って攻め続ければ今度は致命的な一撃をもらいかねない。 一方のニンゲンはこちらの攻撃を凌ぎ続ければかてるのだ。 何か、何かこの状況を変えられる一手はないのだろうか。 川; ゚ -゚)(魔法が通用すれば……) しかし、魔法を無効化する仕組みがわからない。 それに、わかった所でその仕組みをなんとかすることが出来るだろうか。 相手には近接攻撃が通用しないというのに。 川 ゚ -゚)(落ち着け……。焦ったところで相手の思うつぼだ……) 今までの攻撃パターンはもう通用しないだろう。 それに下手に魔法を使ってもこちらの死角を増やすだけだ。 川 ゚ -゚)(ニンゲンへの攻撃に魔法を使うのは控えた方がよさそうだな……)
- 476 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:42:24.48 ID:+3xj7nt1O
- ニンゲンはまだ動かない。
こちらの動きを伺っているようだ。 川 ゚ -゚)(……なるほど。落ち着いている) こちらの行動を分析し、冷静に対処していたのだろうか。 それに気づかず、ニンゲンに一撃お見舞いしてやることしか考えていなかった自分が少し情けない。 自分では落ち着いているつもりだったが、そうではなかったみたいだ。 川 ゚ -゚)(感謝しよう。痛みが私を冷静にさせてくれた) 腹の傷はそう深くないが、出血はなかなか止まりそうにない。 治癒の魔法を使いたいところだが、そんな素振りを見せたら、ニンゲンはすぐに斬りかかってくるだろう。 川 ゚ -゚)(攻めるしかないな) 強く一歩を踏み出し、間合いを詰めた。 ニンゲンは少しもどうじずにこちらを睨んでいる。
- 479 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:44:20.36 ID:+3xj7nt1O
- 川 ゚ -゚)(防御の構えをとると思ったが……まだ見るか)
さらに地を蹴り、ニンゲンの背後へ回る。 ニンゲンの目はしっかりと私の動きについてきていた。 もう一度、さらに背後に回り、一度後ろへ下がる。 その動きからも、ニンゲンは決して目を離さなかった。 (,,゚Д゚)「……」 川 ゚ -゚)(ふむ。よく見えているな) かなり速く動いたつもりだったが、これでもまだ足りないらしい。 これだけではニンゲンに傷一つ負わせることはできないだろう。 川 ゚ -゚)(だが、穴を見つけたぞ) 今の行動はニンゲンが自分の速度についてこられるか試すことだけが目的ではない。 相手はこの戦争で常に前線に立っていた男だ。 ここ最近敗戦続きだった人間軍の前線にいたのならば、どこかしらを負傷していてもおかしくはない。 そう思ってどこか痛めてる様子はないか探ったのだ。
- 482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:45:58.82 ID:+3xj7nt1O
- 川 ゚ -゚)(右足を庇う素振りがあったな。何かで痛めたのだろう)
足の故障は、自分に取って願ったり叶ったりのチャンスだ。 あの様子では、自分の動きを目で追って把握することはできても、同じスピードで相対することはできないはず。 川 ゚ -゚)(……そこをつかせてもらうぞ!) (,,゚Д゚)「!」 さっきよりも鋭い踏み込み。 ニンゲンは咄嗟に防御の構えを見せた。 こちらが攻撃してくると読んだあたりは、さすがだ。 川 ゚ -゚)(だが―――!) 間合いに入ったところで、上体を屈め、右足へと短剣を振り下ろす。
- 485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:47:32.47 ID:+3xj7nt1O
- (,,゚Д゚)「くっ……!」
予想通り、ニンゲンは体を捻りながら一歩下がり、攻撃を躱そうとする。 ……右足が下がり、体重が右足一本にほとんど集中した状態で。 川 ゚ -゚)(好機……!!) 振り下ろす途中で軌道修正。 屈んだ上体を起こす勢いで、そのままニンゲンの首を狙う。 ニンゲンの反応はコンマ2秒ほど遅れている。 踏ん張りが利かず、上半身の動きが鈍っているのだ。 川# ゚ -゚)「はぁぁぁっ!!」 そのまま一気に短剣を振り抜いたところで、派手な金属音が響いた。
- 490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:52:48.11 ID:+3xj7nt1O
- (;゚Д゚)「……っぁ!?」
―――防がれた。 チャンスと思って振り抜いた短剣は男の腕に……いや、男のはめた腕輪に弾かれてしまった。 せめて腕に直撃してくれれば、もしかしたら片腕の機能も奪えたかもしれない。 機械化しているとはいえ、もとはニンゲンだ。 ニンゲンの科学とやらがどんなものかは知らないが、ある程度の衝撃を加えれば破壊はできるだろう。 川 ゚ -゚)(……今ので捕らえきれなかったのは痛いな) だが、これでまだニンゲンと対等かそれ以上に戦えるのがわかった。 その証拠に、ニンゲンの顔には明らかな焦燥の色が浮かんでいる。 真っ二つに割れて落下する腕輪を見ながら、私は光明を見いだしていた。 川 ゚ -゚)(さぁ……反撃開始だ……!)
- 492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:54:52.75 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
(;,゚Д゚)(なんてこった……!) 焦りを、隠せない。 この戦い、最初は圧倒的に俺が有利だった。魔力を封じ、剣を飛ばした。 次に樹を倒す奇襲により右足を負傷し、一度、パワーバランスは均衡になった。 そして、先刻まで敵に傷を負わせ、追い詰めていたのは、自分だったのだ。 この戦闘、今まで俺が劣勢になることは無かった。 だが、その戦局が覆された。 俺がエルフに対し圧倒的優位を保てた理由――腕輪が壊れたのだ。 エルフを見る。 魔法を使う素振りは見せてない。 (;,゚Д゚)(腕輪が魔法を封じていたことは知らないのか……?)
- 494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:56:22.38 ID:+3xj7nt1O
- 希望的観測だ。
だが、この可能性は高いだろう。 もし敵がこの腕輪のことを最初から知っていたのなら、この戦闘が始まった時から狙ってきただろうし、 途中から気づいたにしても、腕輪が壊れた瞬間に、幾つもの魔法が俺の身を襲っているはずだ。 このエルフは、腕輪に気づいていないと考えるべきだ。 ならどう動くべきか……? 魔法が使えると悟られるのはマズい。 距離を置くと、先程の牽制、視界攻撃のために魔法を使われ、魔法が通じることに気づかれるかもしれない。 (,,゚Д゚)(右足がきてるが……捨て身の突撃と行くか!) ギコは右足の機動力の低下を無視するために、跳躍してエルフに接近する。 速度、移動距離の調整ができないが、今は一刻も早く敵を三mに捉える必要があった。
- 497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 01:57:41.61 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
川;゚ -゚)(なっ……!) 先程まで、焦っていたというのに、突如跳躍し、此方に迫ってくる男。 右足を負傷し、機動力が低下してる筈なのだが――守りは不利と判断したか。 此方から再び攻め入り、右足を重点に攻撃を繰り出す予定だったので、計算が狂う。 第一、短剣は、防御に適した武器ではない。 刃渡りも短く、強度も無い。何度も鍔迫り合いをする武器ではないのだ。 その短剣で、男の剣をいなす。 的確に、急所を狙った突き。 迅速に、退路を断つような振り。 不意に、意表を突き繰り出される格闘技。 男の、零距離での乱舞のような攻撃。
- 501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:00:23.77 ID:+3xj7nt1O
-
突きが、頬を掠める。 振りが、肉を切る。 格闘が、骨を絶つ。 川;゚ -゚)(くっ……何だこの男……!急に凶暴になったぞ……!?) 川;゚ -゚)(このままでは危険だ、とりあえず距離を……) だが、男の連撃がそれを許さない。 男は、攻めに全てを集中し、隙だらけである。 だがこの攻撃の嵐の中、女王には短剣を突き立てるのは愚か、蹴り一つ出す余裕も無い。 大きな跳躍には、筋肉の『溜め』がいる。 剣に追われ、必死に後ずさりながら命を保つのが今は精一杯だ。
- 502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:01:06.59 ID:+3xj7nt1O
-
ジリジリと追い詰められる。 激しい運動により、腹の失血も加速している。 短剣の刃も、4度目に男の剣を受け止めた時に砕け散った。 前から来る脅威から逃げ、後ろに、後ろにと逃げていると、何時の間にか、女王のすぐ後ろに、燃え盛る木々が広がっていた。 チリチリという熱を肌で感じる。 川;゚ -゚)(絶対絶命、という奴か……) 左足でステップするように接近してくる男。 右足を負傷させたことは、かえって男を高速化させていたのだ。 傷が無ければ、この男はもっと慎重に移動していただろう。 そして、疲れ知らずの機械の腕が、剣を構える。
- 504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:03:22.49 ID:+3xj7nt1O
-
後ろに下がることはできない。 左右に跳ぶか? いや、この男にそんな小細工は通じないだろう。 でなければここまで追い詰められることも無い。 女王は、本能的に、魔力を掌に集中させていた。 エルフの、生存本能である。 窮地に立ったニンゲンが、拳を握りこむように、エルフもまた、己に眠る力を手に集中させる。 理性では、魔法が使えないことは理解していた。 だが、追い詰められた本能が、それを越えた。 眼前に迫る剣を幻視した時―― 女王は、魔法を放っていた。
- 510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:06:45.79 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
(,,゚Д-)「がっ―――!!!!」 魔法の爆発が、剣に、腕に衝撃を与える。 剣がぶれ、軌道が歪む。 必殺の一突きが貫いたのは、燃え盛る樹だった。 (;,゚Д゚)(しまった―――!追い詰めすぎたか!!!) 魔法を使えないと思わせたまま、トドメを刺すための苦肉の策――捨て身。 途中までは効を成していたが、どうやらここにきて、裏目に出たようだ。 短剣も潰し、逃げる隙も作らせず、上手く追い詰めたが、失敗だった。 手足をもがれた蟻が、己の最大の武器である顎を思い出したかのように、噛み付いてきたのだ。 (;,゚Д゚)(マズイぞ!!魔法が使えることが分かればコイツは――) 樹から剣を抜く。 だが、ギコが再び剣を構えるより早く、灼熱の炎がギコを捉えていた。
- 514 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:10:10.92 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
川 ゚ -゚)(良く分からんが……どうやら魔法は使えるようだな) 掌に、今まで温存してきた、温存せざるを得なかった魔力を注ぎ込みながら、男と距離を取る。 自身でも意識せぬうちに放っていた爆発の魔法。 まさか通じるようになっていたとは思わなかった。 何故この男に魔法が効くようになったのか? 思い当たる節と言えば……どちらかと言うと防御に徹していた男が突如活発に攻め始めた転機。 ――腕輪が壊れた時、か? あの腕輪が媒体だったのか、それとも時間制限の別の何かだったかは分からないが、あの瞬間から男は焦り始めた。 正確な理由は分からないが、なにはともあれ 川 ゚ -゚)(形勢逆転……だ!!!)
- 519 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:12:14.13 ID:+3xj7nt1O
- とはいえ、女王も腹の失血で体力を失っていた。
貧血、そして煙による酸素欠乏により、女王の視界は暗転する一歩手前である。 距離はとったものの、もう男の攻撃を避けることはできないだろう。 怯んだ男の足元を潜り抜け、十分な距離を取る。 そして、掌にこもる魔力。 掌から魔力で呼び起こされた紅蓮の炎が放たれる。 エルフの間で禁忌とされていた、女王も初めて放つ火炎の魔法だ。 その炎は火計のそれと比較にならぬほど広範囲に放たれ、高温で、蒼かった。 蒼い炎が、剣を引き抜いた男の身体を舐める。 女王の掌を焦がす程に燃え上がる炎。その炎は彼女の怒りを代弁するかのように、森の草木を更に破壊する。 どれだけ優秀な反射神経があっても、身体を包む炎には対処できない。 川 ゚ -゚)(さぁどうする!!逃げるか?炎を消すか?それとも――)
- 526 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:14:46.39 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
(,,゚Д゚)(進むしか、ねぇ!!!) この炎をかわすのは無理だ。防ぐのも無理だろう。 なら、進んで、攻めて、炎の元を絶つしかない。 極めて合理的で、この状況でしうる最良の選択だった。 炎に包まれながら怯むことなく剣を盾のように構える。 だがその剣も、熱で溶けてゆく。 男はそれでも諦めない。 剣が無いなら、己の拳を武器とするのみ。 川;゚ -゚)(止まれっ!倒れろ!!諦めろ!!!) 膨大な汗をかきながら、震える手で照準をギコに合わせる女王。 この炎は女王が制御しきれない状態に、暴走状態に陥っていた。 怒りの炎は制御が利かず、彼女の腕をもその炎で包んでいた。この状態が続けば、彼女の身体も焼き尽くされるだろう。
- 529 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:16:27.02 ID:+3xj7nt1O
- 炎が足を溶かす。
男はそれでも止まらない。 炎が胴を焦がす。 男はそれでも怯まない。 炎が、首を舐める。 男はそれでも諦めない。 何故ギコは限界を超えている足を止めず、進むのか 何故女王は炎に耐え、魔法を放つのか 大義のためか?戦友のためか?平和のためか?贖罪のためか? 否――その何れでもない。ただ、男と女の、人間とエルフの、 目の前の『戦い』に勝つためだけの、『争い』。 女王渾身の、最後の炎が、男の顔を焼き尽くす――― その寸前、 男の、鉄の拳が、女王の顎を捉えた。
- 533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:18:10.11 ID:+3xj7nt1O
- * * * * * * * * * * * *
川; - )「が……っ……」 (%@ Д゚)「……」 エルフが倒れたのを見て、一息つく。 使用者が倒れたことで、ギコに纏わりついていた炎の魔法は消えたが、辺りは火の海だ。 このままここにいては、死ぬのも時間の問題だ。 だが、火が消えているであろう場所まで戻ろうにも燃え盛る火の中を通ることになる。 (%@ Д゚)(俺は大丈夫かもしれんが……このエルフが無事で済まないだろうな……) 退路はもう無い。 ならば、奥へと進むしかあるまい。 (;%@ Д-)「っ!?」 エルフを抱えて立ち上がると、右足で小さな爆発が起きた。 プスプスと黒い煙が出て、嫌な臭いが鼻腔を掠める。 (%@ Д゚)「……ちっ。俺も限界が近いか……」 ギシギシと錆びた音を立てながら、溶けかけた機械の足で、出来るだけ急いで歩を進める。 痛みも感じず、ただ命が削られていく感覚だけを感じながら。
- 538 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:20:04.99 ID:+3xj7nt1O
- ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(*゚ー゚)『人間とエルフが仲良くしてる世界が、いつか訪れると思います』 (*゚ー゚)『十年先、百年先、いえ、もっと先でしょう。私達も生きていないと思います」』 (*゚ー゚)『そんな遠い未来かもしれないけど、きっと、訪れると思うんです』 (*゚ー゚)『ですから、女王様はまだ生きてください。あなたはその未来のために必要な方なのですから』 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―――ドサッ 川; ゚ -゚)「――――っ!?」 衝撃と共に目が覚めた。先ほどのシィは……夢か。 気を失ってしまったのか、ニンゲンは……? (%@ Д゚) ……いた。 私のすぐそばで倒れている。 相打ちだったのか?ならば―――
- 541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:21:27.50 ID:+3xj7nt1O
- そこまで考えたところで、違和感に気づいた。
……さっき戦っていた場所とは景色が違う。 ここは始原の世界樹のある―――? なぜここに……? (%@ Д゚)「気づいたか」 川; ゚ -゚)「!」 ニンゲンの言葉に思わず身構えた。 武器はない、魔法を放つための魔力も残っていない。 このままではやられる……? しかしニンゲンはぴくりとも動かない。 仰向けに倒れたまま、視線は空へ向かったままで。 川 ゚ -゚)「お前……」 (%@ Д゚)「……俺はもう動けない。お前だけでも、逃げろ」
- 544 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:22:42.60 ID:+3xj7nt1O
- ニンゲンは空を見上げたままそう言った。
後ろを振り返ると、もうすぐそこまで火の手が迫って来ている。 どういうことだ。 状況から考えるに、このニンゲンは私を助けようとしたのか? ニンゲンが? なぜ? (%@ Д゚)「どうした、早く逃げろ」 川; ゚ -゚)「な……?」 ニンゲンの言葉に動揺する。 逃げろ? どういうつもりだ。 川 ゚ -゚)(罠か……?) 私が逃げようとして背中を向けた途端に切りかかってくるつもりだろうか。 ……いや、それならば何故私が気を失っていた時にトドメを刺さなかったのだ。
- 548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:23:53.95 ID:+3xj7nt1O
- 川 ゚ -゚)「貴様……どういうつもりだ」
(%@ Д゚)「……どうもしないさ。戦争が終わったのに、これ以上誰かを殺す必要はない」 ……このニンゲンは、エルフの女王を倒し、戦争を終わらせたと思いこんでいるのだ。 愚かな。 女王はまだここにいるというのに。 殺したのは一人のエルフの少女だというのに。 川 ゚ -゚)(……そうだ。コイツがシィを殺したんだ) シィは優しい少女だった。 なのにこのニンゲンはシィを殺した。 忘れかけてきた憎しみが沸々と湧き上がってくる。 ニンゲンは相変わらず動かない。 ならば、なんとか殺せるだろう。 川 ゚ -゚)「貴様が何を考えているか知らんが、私は貴様を許す訳にはいかんのでな」 (%@ Д゚)「……」
- 551 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:25:21.67 ID:+3xj7nt1O
- (%@ Д-)「許されたいとも思わないさ。……俺は、人殺しだから」
川; ゚ -゚)「……!」 ニンゲンは目を閉じ、抵抗する様子も、私の言葉を否定する様子も見せなかった。 なんなんだ。 このニンゲンは、何を考えているのだ。 (%@ Д-)「恨み言も聞く。殺したきゃ早く殺せ。早くしないとお前が逃げられなくなるぞ」 川; ゚ -゚)「お前は……」 本当にニンゲンなのか。 私利私欲の為に他者を退ける醜い種族。 それがニンゲンではなかったのか。 わけがわからない。
- 553 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:26:31.16 ID:+3xj7nt1O
- ふと、シィの言葉が思い出された。
人間とエルフが仲良くしてる世界が、いつか訪れる。 その言葉を聞いた時は、面白いが、有り得ない事だろうと思った。 もしそんな世界が実現したとしても、それはずっと遠くの、千年以上先の事になると考えていた。 しかし、ニンゲン、人間がもっとまともな種族ならば、もしかしたらシィが言ったことも世迷い言ではないのかもしれない。 川; ゚ -゚)(だが……ニンゲンだぞ!?) 此度の戦争もニンゲンの領土的野心によって引き起こされた。 過去にだってニンゲンがエルフの住む場所を襲った例はいくつもある。 そのニンゲンが…… (%@ Д゚)「どうした。早くしろ」 このニンゲンか……?
- 554 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:28:04.67 ID:+3xj7nt1O
- 川; ゚ -゚)(ダメだ……惑わされるな)
つい先ほどまで、私と本気で戦っていた相手だ。 殺し合いをしていた相手なのだ。 余計な感情はいらない。 こいつは敵だ。 刹那、大きな音がして地面が揺れた。 音の方向に目をやれば、一本の燃え盛る大木が倒れて道を塞いでいるのが見えた。 川; ゚ -゚)(しまった……!逃げ道を塞がれた!?) ニンゲンがやったのか? いや、しかしニンゲンは全く動いていない。 炎のせいで自然と倒れたのだろう。 いずれにせよこのままで私も炎に飲まれて死んでしまう。 鎮火しようにもそんな魔力はない。 川 ゚ -゚)(万事休すか……)
- 559 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:30:14.40 ID:+3xj7nt1O
- (%@ Д゚)「……だから、早く逃げろと言ったんだ」
ギシギシと音を立てながらニンゲンが立ち上がった。 ぎこちない動きで剣を握り、鋭い眼光がこちらを捉える。 ……戦うつもりか? やはり、さっさと殺しておくべきだったか。 川 ゚ -゚)(……上等だ) どうせこのままでは命を落とすのだ。 ならば、せめて最期はこのニンゲンに一矢報いてやりたい。 (%@ Д゚)「……」 ニンゲンは体のあちこちから火花を散らしながら、溶けかけた腕で剣を構えた。 限界が近いのはあちらも同じようだ。 武器も魔力もないが、この相手に遅れを取るほど堕ちてはいない。
- 563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:31:42.56 ID:+3xj7nt1O
- (#%@ Д゚)「おおおおぉぉおお!!!」
咆哮と共に駆けてくる。 いや、駆けると言うにはあまりにも鈍重すぎる動きだ。 これなら簡単にかわせる、かわした後にいくらでも攻撃することができる。 川; ゚ -゚)「な――――っ!?」 しかしニンゲンは、私の横を走り抜け、さらにその先へ向かった。 そこにあるのは先ほど倒れてきた大木。 ごうごうと音を立てて燃える木に向かって一直線に駆けていく。 (#%@ Д゚)「だらぁぁぁぁ!!」 そのまま、その木に向かって剣を振り下ろした。 しかし、力が入らないのか、斬ると言うよりは叩きつけるといった感じで、結局木の焼け焦げた表面が少し削れただけだ。
- 566 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:33:05.82 ID:+3xj7nt1O
- (#%@ Д゚)「くっ……おぉぉぉぉ!!」
それでもニンゲンは、何度も何度も剣を振る。 皮膚が火で溶けて、金属の部分が剥き出しになった腕で。 私はただそれを呆然と見ているだけしか出来なかった。 無意味な行動を繰り返すニンゲン。 それをただ見ている私。 なんなんだ。 これは。 (#%@ Д゚) なんなんだ。 こいつは。 川 ゚ -゚) なんなんだ。 私は―――
- 572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:34:49.45 ID:+3xj7nt1O
- (#%@ Д゚)「これで……」
ニンゲンが跳躍する。無残に焼け焦げた、いつ壊れてもおかしくない脚で。 さほど高さは無かったが、普通の人間が跳べるであろう高さはゆうに越えている。 (#%@ Д゚)「どぉだぁぁぁぁ!!」 落下の力を利用し、そのまま剣を振り下ろす。 鈍い音がして、何かが宙を舞った。 川; ゚ -゚)「あ……」 ニンゲンの右腕が、剣を握ったまま落ちてきた。 無機質なまま転がるそれは、しっかりと剣の柄を握りしめて…… (#%@ Д゚)「ちくしょうがぁぁぁ!!」 ニンゲンは剣を失ってもなお、木を殴り、蹴り、ひたすらにがむしゃらな攻撃を続ける。 燃え盛る大樹はビクともしないのに、それ以上続けたところで意味は無いのに。
- 575 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:36:05.03 ID:+3xj7nt1O
- 川; ゚ -゚)「もうやめろ!そんなことしても意味はないだろ!!」
そう、意味なんかないのだ。 ニンゲンがあの大樹を壊したところで、何があるのか。 あの様子では、ニンゲンももうもたない。 道を開いたところで、無事に生きて帰れるわけがない。 (#%@ Д゚)「意味……?そんなの知るか!!」 川; ゚ -゚)「なっ……」 (#%@ Д゚)「俺はアンタを助ける!例えこの身がどうなろうともなぁ!!」 助ける……? 先程まで殺し合いをしていた私を? エルフである私をか……? (#%@ Д゚)「戦争は終わった!もうエルフを傷つける事はない……!」 (#%@ Д゚)「あいつが…………それを望んだんだっ!!」
- 578 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:37:08.82 ID:+3xj7nt1O
- バチィッ!と何かが弾ける音がした。
音のした方を見れば、ニンゲンの右足から煙が上がっている。 川; ゚ -゚)「あいつ……?」 (#%@ Д゚)「ああ……そうだ……っ!」 ニンゲンは再び拳を振り上げる。 が、踏ん張れずに右膝が崩れ、そのまま倒れてしまった。 (#%@ Д゚)「あいつは願っていた……!エルフの女王は……!」 エルフの女王……? シィのことか……? (#%@ Д゚)「戦争を終わらせるために、自らの命を捨てた女王は……!」 (#%@ Д゚)「これ以上……エルフが傷つかないことを……!!」
- 581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:38:10.55 ID:+3xj7nt1O
- ニンゲンはなんと言った?
戦争を終わらせるために、シィが自らの命を捨てたと……? (#%@ Д゚)「だからっ!俺はあんたを助ける……!!」 そうか、そういうことか。 シィは、この馬鹿げた戦争を終わらせるために、自らを女王と称し、そして死んでいったのだ。 私を……エルフを守るために。 (#%@ Д゚)「うぉぉぉぉぉぉ!!」 そしてニンゲンは、シィの言葉を、願いを受けて私を守ろうとしている。 単純なことだった。 ニンゲンは……いや、“人間”は、私の知る“ニンゲン”ではなかったのだ。
- 583 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:39:06.94 ID:+3xj7nt1O
- (#%@ Д゚)「ぬらぁぁぁぁぁ!!」
ふらふらと立ち上がり、ニンゲンは再び燃え盛る木に殴りかかろうとした。 (#%@ Д゚)「!」 川 ゚ -゚)「……もう、いい」 その手を、私は掴んでいた。 すでに皮膚は焼けただれ、金属ばかりが露出している。 火の近くにいたせいか、私の炎のせいか、かなり熱せられていた。 (%@ Д゚)「……はなせ」 川 ゚ -゚)「もういいと言ったんだ。これ以上は無駄だ」 (#%@ Д゚)「無駄かどうかはやってみなけりゃわかんないだろ!」 川 ゚ -゚)「頼む……もうやめてくれ」 これ以上は見たくなかった。 このニンゲンが自らを傷つけてまで私を助けようとするのは。 これ以上は、惨めな気分になる。
- 587 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:40:13.15 ID:+3xj7nt1O
- (#%@ Д゚)「このままじゃ……死ぬだけだぞ」
川 ゚ -゚)「……」 それは承知だ。 だが、ここでニンゲンが私を助けようとすれば、私の誇りが―――エルフの女王の誇りが穢される。 ならば、誇りを持ったまま死にたい。 無様な生よりも、誇り高い死を……。 シィのように、エルフの女王として、民の為に命を落とすのだ。 誇りを守るために。 川 ゚ -゚)「ニンゲン。私は―――」 エルフの女王だ。 だから、戦争は終わっていない。 この場で私を殺してくれ。 そう、言おうとした時だった。
- 590 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:41:14.28 ID:+3xj7nt1O
- 川; ゚ -゚)「っ!?」
向かい合った反対側。 ニンゲンの背後。 燃え盛る木がもう一本、今にも倒れようとしていた。 川; ゚ -゚)「くっ……!!」 握ったニンゲンの左腕を強く引いて後ろへ。 代わりに自分の体が先ほどまでニンゲンのいた場所へ……。 (;%@ Д゚)「―――――!!!」 ニンゲンが何かを言ったが、声は届かない。 倒れてくる木は遠目に見た時よりもずっと大きく、太い。 それもそうだ。 始原の世界樹の周辺に生える木は、どれも樹齢千年を越えているのだから。
- 594 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:42:12.12 ID:+3xj7nt1O
- 川 ゚ -゚)
木が落ちてくる。 これは当たったら死ぬだろう。 まあいい。 仇敵を助ける……いや、あのニンゲンも長くはもたないだろうから死期を少し遅らせただけか。 それでも、自分の尊厳を守ったまま死ねる。 生まれ育ったこの森で死ねるのだ。 思い残すことは何もない。 川 ゚ -゚)(ツン、デレ、シィ……そして勇敢に戦い散っていった同胞達。私もお前達のもとへ行くぞ)
- 596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:43:06.65 ID:+3xj7nt1O
-
私は木に押しつぶされた そのはずだった
- 598 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:44:08.92 ID:+3xj7nt1O
- 川; ゚ -゚)「!?」
頭上に落ちてきた大木は、突如地面から上がった水柱に弾かれ、向こう側へと落ちていった。 一体何が起こったのだ。 まさか、ニンゲンが魔法を……? いや、まさかそんなはずがない。 しかし、地面にはしっかり魔法陣が浮かび上がっている。 川; ゚ -゚)(一体なぜ……?) (%@ Д゚)「なんだこりゃあ……辺りの火があっという間に消えちまった」 川 ゚ -゚)「……!」
- 602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:45:14.02 ID:+3xj7nt1O
- ああ、そうだった。
始原の世界樹を守るために、ここには水の魔法陣を張ったのだ。 シィが言い出したことだった。 私が、生きることを願った彼女が……。 川 ゚ -゚)(……まだ、死ぬには早いということか) シィはただこの世界樹を守るために魔法陣を張ろうと言ったのか。 それとも、こうなることを見越して、私を守るために魔法陣を張らせたのか。 そうならば、本当に、賢い娘だ。 (%@ Д゚)「魔法って……すげぇな」 ニンゲンの呟きに、思わず頷いてしまった。 私達にとって魔法は当たり前な物なのに。 それでも、すごいものだと、神秘的な物だと思ってしまったのだ。 今ならば、ニンゲンが魔法に憧れる気持ちがわかる気がした。 そして、魔法に憧れて科学を生み出したことも―――
- 605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:46:57.60 ID:+3xj7nt1O
- 背後でガシャンと何かが崩れる音がした。
ニンゲンが倒れた音だった。 (%@ Д゚)「……まぁ、よくもった方だな」 痛みや苦しみは感じないのか、ニンゲンは淡々とした表情で話す。 もげた腕から火花が散り、焼けただれて露出した場所からは金属が見えている。 川 ゚ -゚)「……」 (%@ Д゚)「すっかり焼けちまったが……緑の中で死ぬのも悪くない」 川 ゚ -゚)「お前は……これでいいのか?」 (%@ Д゚)「何がだ?」 川 ゚ -゚)「お前はエルフの軍を倒した英雄だ。それを誰にも讃えられることなく死んでいくんだぞ」 (%@ Д゚)「……英雄、ね」
- 607 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:48:06.33 ID:+3xj7nt1O
- (%@ Д゚)「俺は英雄なんかじゃない。……ただの人殺しさ」
川 ゚ -゚)「……そうか。……人殺しか」 人間達にとっては、きっとこのニンゲンは英雄なんだろう。 だが、私達にとってはただの人殺しだ。 ニンゲンは、自分が人殺しだと言った。 このニンゲンは……いや、この人間もきっと戦争は嫌いなのだ。 (%@ Д゚)「エルフの女王が言ったんだ。『あなたはかわいそうな人間だ』って」 川 ゚ -゚)「……」 (%@ Д゚)「……エルフを大勢殺した人殺しに、かわいそうな人間だなんてな」 川 ゚ -゚)「……シィは、お前をただの人殺しだと思っていなかったんだ。 お前も、戦争に巻き込まれたかわいそうな人間だと思っていたのさ」 (%@ Д゚)「……戦争なんて、しなきゃよかった」 (%@ Д゚)「戦争に参加して……ただ自分の正義を貫こうとしたら、多くの罪のないエルフを殺していた」
- 611 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:49:28.14 ID:+3xj7nt1O
- (%@ Д゚)「俺のせいで、罪もないエルフ達が大勢死んだんだ。人殺しじゃなかったらなんなんだ」
川 ゚ -゚)「……ならば、愚か者だな。……お前も…………私も」 川 ゚ -゚)「私は私の正義のために、人間を殺した。お前はお前の正義のために、エルフを殺した」 川 ゚ -゚)「互いの正義は、間違いなく正義だったのだ。……その正義を狂わせたのが、戦争だ」 誰が始めた戦争かは、私にはもうわからない。 だが、どちらも愚かだったことは確かだ。 どちらかが賢ければ戦争にはならなかった。 例えば、エルフの女王がシィのような賢い娘だったら…… 川 ゚ -゚)(……仮定の話をしても仕方はない、か) (%@ Д゚)「……本当、馬鹿だよな」
- 614 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:50:48.00 ID:+3xj7nt1O
- 川 ゚ -゚)「人間。お前はもう死ぬのか」
(%@ Д゚)「ああ。もう長くはない」 川 ゚ -゚)「そうか……」 川 ゚ -゚)「……だが、私は生きる」 川 ゚ -゚)「これから先、百年、二百年と生きる」 シィが望んだのだ。 私の生を。 その生で私ができることはないか。 いや、あるはずだ。 シィが望んだ世界のためにできることがあるはずだ。 川 ゚ -゚)「そして私は……こんな事が二度とないように、語り継いでいく」 (%@ Д゚)「……」
- 619 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:52:09.02 ID:+3xj7nt1O
- (%@ Д-)「そうか……」
人間は小さく笑った後、目を閉じた。 もう限界が近いのだろう。 川 ゚ -゚)「もう逝くのか?」 (%@ Д-)「……みたいだな」 川 ゚ -゚)「……最期に、お前の名を聞いてもいいか?」 (%@ Д゚)「ギコ……ギコ=マーシアス」 川 ゚ -゚)「そうか、ギコか……。私はクーだ。……覚えておいてくれ」 (%@ Д-)「ああ……覚えておくよ」 人間の声が徐々に小さくなっていく。 ギシギシと音を立てながら、人間の左手が空に向かって伸びる。 (%@ Д゚)「綺麗な空だ……」 (%@ Д-)「明日は……晴れ……だな」
- 624 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:53:49.65 ID:+3xj7nt1O
- 川 ゚ -゚)「……」
川 ゚ -゚)「ああ……、きっとそうだ」 私の言葉に、人間は小さく微笑むと、それきり動かなくなった。 川 ゚ -゚)「……人間は、皆醜くて、愚かな生き物だと思っていた」 結局、自分が本物の女王だと言うことはなかった。 言えなかったのだ。 私には、エルフの女王を名乗る資格など、とうに無くなっていたのだから。 川 ゚ -゚)「もしかしたら……美しい空の下、緑に囲まれたこの場所で、お前と話す未来があったのかもしれないな」 私は振り絞った魔力で治癒の魔法を使い、自分の傷を癒やし、立ち上がった。 そして、森の奥へとゆっくり歩を進める。 川 ゚ -゚)「……明日は、晴れるといいな」 暗く厚い、どんよりとした雲に覆われた空の下で―――
- 626 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:54:41.05 ID:+3xj7nt1O
-
――――――― ―――― 亡国の女王は、それから燃え尽きた森を背中に、延々と荒野を歩き続けた。 無人の荒野を、シィが語ったドクオという男と逆の方向へと歩き続けた。 途中、人間達が使ったであろう、野営地を見つけた。 生き残りは去った後なのか、それとも、全員戦地で死んだのか、人の気配は無く、片付けられることも無く様々な物資が吹き晒されていた。 簡素なテントの中には、戦地、我々の森へ入る前に書いたであろう、家族に向けた手紙や、日記が散乱していた。 女王、いや、クーは、簡素なテントの中で、静かに手を合わせた。 ――それから、クーの消息を知る者は居ない。 ただ、帝国の公の書物にはこの戦争でエルフの王族は根絶したと記されている。
- 630 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:55:42.26 ID:+3xj7nt1O
- ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ホライゾン=ガストラ帝王は、エルフ軍壊滅の報せを聞き、盛大な宴会を開き、酒池肉林の宴を開いた。 が、その宴の最中、戦争の最中消失したはずのモララー=ボナパルト少尉、そして研究者のアサ=ペロリストが軍隊内の有志を引きつれクーデターを起こす。 泥酔状態のまま、ホライゾン帝は被弾し、絶命。 また、その時忠臣、フィレンクト=ガラードもホライゾン帝王を庇い、絶命した。 その場に居た者によると、十六発もの弾丸をその身体で受け止め、ホライゾン帝を死守しようとしたと言う。 この時のクーデターはエルフの森での生き残りを中心とし、なんと軍隊の約八割が賛同したという。 モララーは後に「戦友ギコの名の下にあれだけの人間が集った。私だけの力では無い」と語っている。 モララー隊長はその後国民の支持も得、ホライゾン帝に嫡男が居なかったことも追い風となり、帝国の統治者となる。 モララーはホライゾン帝が出していた、エルフの森の資源徴収命令、及びエルフ民の保護令という名の、実質的な奴隷化政策を撤廃。 都市開発を緩和し、資源を有効に活用するために、エルフの森の再生を政令として出した。 また、モララーはエルフの保護、帝国への移住を推奨したが、結局保護を受けたエルフは三桁を越えることは無かった。 一説によると姿を隠して人の世に溶け込んでいるというが、真相は不明である。 ――ガストラ帝国の歴史、第六巻 二百四十項―― ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 634 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:58:09.91 ID:+3xj7nt1O
- そして、時は流転し―――
“戦争”から半世紀後 ガストラ帝国 郊外の村 人工的な空間ではあるが、自然に包まれた公園。 そこで、フードをすっぽりと被った、怪しい人物が子供達に囲まれている。 フードの人物は竪琴のような物を持ち、小さな鉢を置いていることから、吟遊詩人であることが察して取れる。 (::/ )「教科書にはそう書いてあるがな、本当は違うんだぞ少年」 ( ><)「そうなんですか?」 (::/ )「ああ、魔導アーマーなんてぜんぜん活躍しなかったんだぞ、本当は半身半機の兵士が大活躍したんだ」 ( <●><●>)「モララー王の英雄譚であることはわかっています」 (::/ )「なかなか鋭いじゃないか少年。だが惜しかったな。今はもうヨボヨボの爺さんの話なんて聞いてもつまらんだろう。 アイツの英雄譚は腐るほどあるしな。その友人の話だ」 ( ><)「友人?アサピーさんですか?」 (::/ )「いや、ギコという男の物語さ」
- 640 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 02:59:57.37 ID:+3xj7nt1O
- 前置きを終えると、フードの人物は竪琴に手を掛け、その、森で一人朽ちた、知られざる英雄の物語を朗々と歌った。
竪琴から美しい音が流れる。フードの人物の口から物語が紡がれる。 少年達は、冒険譚に眼を輝かせ、英雄の死でそのつぶらな瞳を潤ませる。 そして、琴が鳴り止むと、拍手し、鉢に小銭を入れた後、決まって最後にこう聞く。 ( ><)( <●><●>)「エルフは、エルフの女王はどうなったんですか!?」 フードの人物がその答えに応えようとした時、一陣の風が、フードを捲りあげた。 川 ゚ -゚)「さぁな、案外、人間と仲良くしてるかもしれない」 ――空は、美しく晴れ渡っていた ―Fin―
- 649 名前: ◆4br39AOU.g :2012/11/08(木) 03:04:36.51 ID:+3xj7nt1O
-
諸君、ブーン系タッグバトルというのをご存知かね? そう、半年ほど前に行われたイベントだ ……はい、ブーン系タッグバトル参加予定だった作品です 制作は( ^ω^)が世界樹の迷宮を踏破するようですの作者と、私精霊使いでお送りしました 長時間の投下に付き合っていただきありがとうございました! もし質問等あればお答えしますー
- 650 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 03:05:47.65 ID:hhqvuPC90
- エルフの国がどうなったのか
- 652 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/08(木) 03:08:03.97 ID:+3xj7nt1O
- >>650
女王はいなくなりましたが、森は残ってます 人間の国に住んでるエルフは少数いますが、一応焼け残ったエルフの森とそこに残ったエルフで国が成り立っていると考えていただければ
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