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(,,゚Д゚)ギコは8895の秘密を追うようです |
- 1 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 20:59:37.685 ID:xAQZOW8J0
- はじまるよー
恐くないよー よっといでー
- 2 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:01:41.117 ID:xAQZOW8J0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「真実はいつも一つ」 ―――とある探偵の言葉 「真実が一つだけなら、この世界は俺には狭すぎる」 ―――とある刑事の言葉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻
- 5 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:03:16.953 ID:xAQZOW8J0
- 一か月間、その街では雨が降り続いていた。
灰色の空から降り注ぐ雨粒は大きく、街の中にある汚れの全てを洗い流す天のシャワーの様だった。 街を行き交う人々は雨に慣れていたが、ここまで長引く雨は久しぶりだった。 それは肌寒い六月の朝だった。 記録的豪雨は農作物に打撃を与えただけでなく、街の中心を流れる川の氾濫によって交通網にも影響を及ぼしていた。 霞がかった街の奥に、その豪邸はあった。 世界的な数学者にして生物学者、宇宙研究の第一人者にして兵器開発の革命児。 あらゆる肩書を持つ世界最高の天才の豪邸は、四方を背の高い柵に囲われ、広い庭とプールを敷地内に持ち、噂では大統領邸よりも高価だと言われていた。 贅の限りを尽くした調度品や防犯設備は、まさに現代の城だった。 一生かけても使い切れないだけの財を築き上げた天才は、ブーン・ゴットフリートという名前だった。 城の主は今、哀れな姿となって多くの人々に見下ろされていた。 最高級のベッドの上ではなく、最高級の絨毯の上で仰向けになり、息をしていなかった。 涎で汚れた口は笑みの形で硬直し、血走った目は大きく見開かれ、髪は乱れていた。 ブーンを見下ろすのは地元警察の面々で、その中にギコ・ヘイウッド刑事の姿があった。 櫛を何年も入れていないような灰色の髪、肉食獣のような眼光を放つ気だるげな目。 無精ひげをはやし、草臥れたグレースーツに身を包むギコは死体の傍に屈みこみ、嘲笑するように鼻を鳴らした。 若くして天才の称号を得て、それから三四半世紀。 その結果が、この死体だ。 (,,゚Д゚)「……こうなっちまうと、天才も哀れなもんだな」
- 6 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:05:40.415 ID:xAQZOW8J0
- 白いゴム手袋をはめた手で、ギコは床に転がる死体を指さした。
鑑識の男は何も言わなかったが、誰もが同じ感想を抱いていた。 世界最高の天才の死が、このような物だとは。 乱れた衣服と部屋の様子から、発狂して死んだのは間違いなさそうだ。 最期に彼がどのような夢を見て狂ったのか、ギコには想像もつかない。 天才の考えることは、凡人には一生理解できないのだから。 見方によっては幸せそうな死に顔と言えなくもないが、ギコはこのような形で死にたいとは思えなかった。 (,,゚Д゚)「で、俺が呼ばれたのはどういうわけなんだ?」 形はどうあれ、自然死ならばギコが出てくる必要はない。 事件性がなければ、ギコは警察署に戻って書類の山と格闘するか、始末書をこっそりとシュレッダーにかける作業に取り掛からなければならない。 ( ´∀`)「これを見てほしいモナ」 同じ警察署の部長であるモナー・マエオが差し出したのは、ジップロックに入った一冊のシステム手帳だった。 懐に入る大きさで、黒い皮張りの表紙は一目で使い込まれていることが分かる。 ( ´∀`)「これが、お前を呼んだ理由だモナ」 受け取り、ギコは手帳を慎重に開く。 どうやらブーンの私物の様だ。 万年筆やボールペン、鉛筆などで書き綴られた字は男とは思えない程綺麗な物だった。 (,,゚Д゚)「俺がシステム手帳を欲しがってるなんて言ったことあったか?」 ( ´∀`)「違うモナ。 メモと日記を見てみるモナ」 (,,゚Д゚)「メモっつたって、何も……」
- 9 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:09:04.357 ID:xAQZOW8J0
- ギコはメモのページを捲り、モナーの言葉の意味に気付いた。
ページを捲り、次に日記のページを見た。 そこには共通の言葉が例外なく書かれていた。 全ての日記に書かれ、全てのメモに書かれている共通の文字。 異様なまでに目立つ文字だった。 (;,,゚Д゚)「何だ、これは?」 ( ´∀`)「だから、それを調べてもらいモナ。 ブーンの死と無関係だとは思えないんだモナ」 モナーの表情がどこか思わせぶりなものに変わった。 ブーンの死には何かしらの裏がありそうだ。 (,,゚Д゚)「どういうことだ?」 ( ´∀`)「実は、夫人からの証言があったモナ。 死ぬ直前も、死ぬ前日も、その前の日も、その言葉を本人が口にしていたんだそうだモナ」 (,,゚Д゚)「……なるほどねぇ」 夫人からの証言があったとは初耳だった。 後で直接本人と話をした方がよさそうだ。 未亡人となったツン・ゴットフリート。 彼女からなら、有益な情報が得られそうだ。 ( ´∀`)「この国の天才が死んだ理由がただの発狂だとは思えないモナ。 だから、お前を呼んだんだモナ」
- 10 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:11:39.165 ID:xAQZOW8J0
- ギコは溜息を吐いた。
米神に親指を当て、口の端を吊り上げる。 成程、とギコはモナーの意図に気付いた。 これまでに力技で、それこそ非合法に事件を解決してきたギコの力が必要と言う事なのだ。 表立って出来ない捜査を任せるなら、成程確かに、ギコが適任と言える。 (,,゚Д゚)「経費がかさむことになるけど、いいんだな?」 事件を解決すること二十年。 その度に始末書と経費申請書が山となり、その度にギコは悪評と好評の両方を手にしてきた。 だからこそ、三十八歳になった今も刑事と言う肩書のままだった。 ( ´∀`)「構わないモナ。 ただし、真実を必ず見つけ出してほしいモナ」 (,,゚Д゚)「失敗したら?」 ( ´∀`)「署の男子トイレで人間ウオッシュレットとして働かせてやるモナ」 (,,゚Д゚)「ま、せいぜい頑張らせてもらうさ。 それにしても、何なんだ、この数字は」 ギコは改めて手帳に書かれた文字を見つめた。 あらゆるページに必ず登場する奇妙な四つの数字。 その数字に意味があるのか。 凡人であるギコにはそれは分からないが、この数字を死の直前までブーンが気にしていたのは間違いない。 調べて行けば、何かしらの成果は得られそうだった。 手帳をジップロックに戻し、ギコはツンに話を聞くためにブーンの寝室を後にした。 ――8895という数字については、まだ何も思いつくことはなかった。 .
- 11 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:12:29.830 ID:xAQZOW8J0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ (,,゚Д゚)ギコは8895の秘密を追うようです ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ .
- 12 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:16:23.158 ID:xAQZOW8J0
- 夫人は涙で顔を濡らして夫の死に嘆き悲しんでいる、という様子は一切なかった。
まるで肩の荷が下りたかのようにすっきりとした顔をしていて、そのことがギコの目には奇妙に映った。 開け放たれたままの扉の横に立ち、扉をノックする。 (,,゚Д゚)「シュタラバ警察のギコ・ヘイウッド刑事です。 奥さん、少しお話をしてもいいですか?」 自室で椅子に腰かけ、紅茶を飲んでいたツン・ゴットフリートは突然の来訪者にも驚かなかった。 妙に落ち着き払った夫人はギコに椅子をすすめ、新たなティーカップに紅茶を注いでそれを差し出した。 ξ゚⊿゚)ξ「えぇ、どうぞ」 椅子に座ったが、紅茶には手を付けなかった。 (,,゚Д゚)「旦那さんが死んで悲しいと思いますが、8895という数字に聞き覚えはありますか?」 刹那、ギコは夫人の目に怒りの色が宿るのを見た。 仇の名前を聞いたかのような、激しい怒りの色だった。 それはすぐに鎮火し、何事もなかったかのように彼女の口から淡々と言葉が紡がれた。 ξ゚⊿゚)ξ「えぇ、勿論。 夫が死ぬ寸前まで執着していた数字です」 (,,゚Д゚)「何の数字か分かりますか?」 ξ゚⊿゚)ξ「さぁ、あの人は何も教えてくれませんでした。 ただ、随分と昔からその数字にこだわっていましたね」 遠い目をして、夫人は紅茶を啜る。 (,,゚Д゚)「どれくらい昔ですか?」 ξ゚⊿゚)ξ「約75年前からです。 その日を境に人が変わったみたいになってしまったのを、よく覚えています」
- 14 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:18:49.070 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「なるほど。 きっかけは何か分かりますか?
些細なことでもいいのですが」 ξ゚⊿゚)ξ「流石に分かりませんわね。 でも確か…… そう、手紙があったはずです。 夫の金庫に手紙が入っていて、それをいつも食い入るように見ていました。 刑事さん、これは事件なのですか?」 不安そうに尋ねられ、ギコは笑みを浮かべた。 紅茶を一気に飲み干し、笑顔を崩さずに返答する。 (,,゚Д゚)「金庫ですね、ありがとうございます。 それと奥さん、事件でなくても刑事は仕事をするんですよ。 紅茶、ごちそうさま」 再びブーンの寝室に向かい、ギコは金庫を探し出した。 金庫はすぐに見つかったが、その金庫の前には鑑識の男がいた。 男は金庫を開けようと奮闘していたが、暗証コードの入力で戸惑っているようだ。 電子錠に何ケタの数字を入れるのかも分からなければ、その解錠は出来ない。 (,,゚Д゚)「……8895で試してみろ」 男は訝しげに眉を顰め、しぶしぶその数字を入力した。 すると金庫は素直に開き、中にしまわれていた物が明らかになった。 何故数字が分かったのかと尋ねる鑑識にギコは頭を指で軽く二度叩いて答えた。 金庫の中には現金や貴金属は一切なく、大量の用紙が積まれていた。 恐らくは論文の類だろう。 ギコは紙を全て取り出し、彼の仕事机の上に広げた。 小難しい論文の中にも、8895という数字がいくつも散見された。 取り分け目を引いたのは、一番上にあった論文だった。 それは、一見すればまともな文章に見えるが、明らかに狂った文章だった。
- 17 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:20:44.894 ID:xAQZOW8J0
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――これが世界を構成する無尽蔵のデポジットにして経済を破滅へと導く栄光の架橋。 エレクトロニックの申し子が運命を超越するために掘り起こしたとされる偶像。 でたらめで作られた世界を塗り替えるための潤滑油。 あらゆる建造物をパレードの一員として迎え入れる破格の待遇。 枯れ果てた涙が潤す砂漠のミイラ。 偶発的産物が爆発的感覚で盲信者を作り出す一つの選択肢。 砕けた歯車が流れる川に溶けだすノスタルジー。 ゴールデンレトリーバーの見る刹那の夜行列車。 新入社員が抱く妄執。 未亡人の愛する液状化した吐しゃ物。 淫らな修道女が匿う産業廃棄物。 聖書に挟まれた色男の顔の皮。 海辺に流れ着いた夏の残滓。 コンクリートに沁み込んだ娼婦の破瓜の涙。 畑に宙を舞う有人フライトアテンダント。 トウモロコシの悲劇。 喜劇作家の昼下がりの宴。 破滅した富豪の明滅する命。 振り下ろされた撃滅のサイコロ。 合理化の社会が否定し続けた夢想者のなれの果て。 空虚な空を落とすために作り出された碩学の素人。 これこそが8895の正体である。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
- 19 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:23:33.333 ID:xAQZOW8J0
- 意味を文章中に見出すことは出来ず、ギコはそれから目を逸らし、携帯電話で写真を撮った。
このまま読み続ければ精神が汚染されそうな気がしたからだ。 他の紙に交じって、一通の茶封筒を見つけた。 封筒を開くと、そこには手紙が入っていた。 紙の劣化具合を見るに、かなり昔の物だろう。 (,,゚Д゚)「こいつか……」 ギコは突如、ある感覚に襲われた。 今自分が見つけて読んでいる手紙。 恐るべき爆心地を見るような、原罪を見つけたような、心臓を掴まれるような奇妙な感覚だった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 〝世界最高の天才たるブーン・ゴットフリート氏へ。 私は長年、ある数字に頭を抱えています。 世界最高の天才である貴方ならばこの数字の意味を理解できることと信じ、託します。 その数字は【8895】。 どうか、哀れな私に代わってこの数字の意味を世界に向けて発信してください。〟 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 封筒に差出人の名前も住所もなかったが、四月三日に国際郵便で送られた証の印があった。 発送元はシュタラバから遥か離れたニューソク国の首都、ヴィップ。 発端となった8895の秘密は、ニューソクのヴィップにある。 手紙の内容と封筒を撮影し、ギコはモナーを探した。 出張が必要だった。 海外出張の申請と経費を彼から受け取り、すぐにでも出発したかった。 モナーは屋敷のキッチンで食事をしていた。 不快な臭いがキッチン中に漂っていた。
- 20 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:25:30.403 ID:xAQZOW8J0
- ( ´∀`)「どうしたモナ?」
(,,゚Д゚)「それは俺の台詞だ。 何食ってんだ? ダウンタウンの下水道の方がよっぽど上品な臭いがするぞ」 ( ´∀`)「キノコ料理モナ。 奥さんが是非皆さんでって言うし、ちょうど腹も減ってたモナ」 平皿の上に山と盛られたのは、シイタケの煮物だった。 ギコがこの世で嫌悪する食べ物の一つだった。 (,,゚Д゚)「けっ、キノコ料理なんてよく食えるな」 ( ´∀`)「この天然の旨みが分からないなんて哀れな奴モナ。 このシイタケを見てみろ、市場では出回らないぐらい立派なもんだモナ。 金持ちの道楽とは言え、キノコ狩りが趣味とはいい奥さんだモナ」 (,,゚Д゚)「毒があったどうすんだよ」 ( ´∀`)「ニガクリタケやアンカダケを知らないのか? 毒抜きって調理法も世の中にはあるモナ。 微量な毒も味わいの一つだが、うん十年もキノコ狩りをしている奥さんだモナ。 毒キノコなんて入らないモナよ」 キッチンに充満するキノコの匂いに、ギコは吐き気を覚えた。 昔からキノコだけは食べられなかった。 臭い、味、食感。 全てが不快で、どのような場面においてもギコは決して手を付けることはなかった。 確かに、この地域では天然のキノコが多く取れることもあってキノコ料理が有名だ。 屋敷の奥にある山に登れば、さぞや立派なキノコがたくさん取れる事だろう。
- 21 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:28:21.221 ID:xAQZOW8J0
- モナー達からすれば宝の山だが、ギコからすれば有害物質の山である。
(,,゚Д゚)「まぁいい。 それより、ヴィップに出張に行く。 費用とかの申請はどうすればいい?」 話を聞いていたモナーは大きなシイタケを一口で頬張り、ギコにジェスチャーで少し待てと言った。 噛み締め、味わい、そして飲み込んでからモナーはようやく口を開いた。 ( ´∀`)「何でヴィップなんだモナ?」 (,,゚Д゚)「金庫から例の数字の発端になる手紙が見つかったんだ。 差出人と住所は不明だが、印はヴィップになってた。 あの街に答えがある」 ( ´∀`)「なるほど」 再び肉厚のシイタケを口に運び、満足そうに唸りながら食事を続ける。 フォークとナイフでシイタケを切り、口に含む。 悍ましい光景だったが、ギコは耐えた。 ( ´∀`)「今回の件、実は警察の上からの要請でもあるんだモナ。 国としては、天才が狂人だった、なんて発表は避けたいんだろうな」 (,,゚Д゚)「なら何で俺なんだ? 国だったらもっとまともな人間を用意できるだろ」 目立たずに真相究明を行うのならば、国の諜報機関が最も適している。 警察の威信をかけての捜査ならばギコが出る必要があるが、国が絡んでくるとなると、それは役人たちに任せた方がいい。 ( ´∀`)「だから、お前なんだモナ。 割と目立たず、それにこんな大役を任されているとは誰も思わない人間を使えば、目立つことはない。 マスコミ相手には病死として発表されるが、その裏で真実を探るのに適しているのはお前だったんだモナ。 それに、諜報員たちは警察とは違って捜査権を持っていないモナ。 目立たずに、それでいて警察としての権限を持つ人間が必要だったんだモナ」
- 23 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:30:35.206 ID:xAQZOW8J0
- 口をもごもごとさせながら、モナーは続ける。
( ´∀`)「勿論、警察の上の連中も手放しでお前に任せる訳じゃないモナ。 条件が一つあるモナ」 (,,゚Д゚)「条件?」 ( ´∀`)「首輪の役割を持った補佐役を一人、捜査に同行させるモナ」 (,,゚Д゚)「おいおい、首輪なんて……」 ( ´∀`)「始末書の山がなければなぁ」 (;,,゚Д゚)「ちっ……!」 ( ´∀`)「それに、補佐役も兼ねていると言っただろ? 若手のエースだモナ」 (,,゚Д゚)「誰だ? 俺の知っている奴か?」 ( ´∀`)「ヒート・オックスフォードだモナ」 (;,,゚Д゚)「オックスフォード…… あのオックスフォードか?! 冗談じゃねぇぞ! 何であいつが!」 ( ´∀`)「相性もいいし、何より彼女は素直だから何でも報告してくれるモナ」 ギコが更に反論をしようとするのを、モナーはナイフの先端を向ける事で制した。 ( ´∀`)「君たちの過去に興味はないモナ。 結果だけ出せればいいモナ」 (;,,゚Д゚)「マジかよおい……」 ギコのつぶやきを黙殺し、モナーはシイタケを次々と胃袋に収めた。 皿の上にシイタケがなくなると、彼は自分で大きな鍋からよそって食事を続けた。
- 24 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:31:23.158 ID:xAQZOW8J0
- ( ´∀`)「いったん警察署に行き、そこで経費をもらうといいモナ。
申請すれば必要な額が渡されるモナ」 (,,゚Д゚)「……分かったよ、じゃあちょっとヴィップに行ってくる。 捜査で分かった事があれば教えてくれ」 ( ´∀`)「分かったモナ。 調べてほしいことがあれば、こっちに連絡をするモナよ」 キッチンを出て、ギコは玄関に向かった。 館から出るとすぐに庭が広がっている。 広大な庭には、三台のパトカーと一台の救急車が停まっていた。 激しい雨に遠くの景色が霞んでいた。 雨はまだ続きそうだ。 屋根の下に避難していたレインコートを来た若い警官がギコに気付き、軽く敬礼をした。 ( ><)「お疲れ様です!」 (,,゚Д゚)「署まで送ってくれ、大急ぎで」 急いで準備をすれば、ヒートと合流しないで済む。 首輪は誰の首も取り付けられることなく、その役割は終わる。 とにかく速さだ。 ギコは若い警官に運転させ、警察署に急いだ。
- 25 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:34:21.588 ID:xAQZOW8J0
- ※ ※ ※
結果から言うと、ギコの目論見は失敗だった。 まず、必要な経費を現金化する作業が思いのほか時間がかかってしまったこと。 特に飛行機を使っての出張となると、便の予約や宿泊施設のランクなど細かな説明を受け、市民の税金を使う身分であることを徹底された。 飛行機のクラスは一番下、ホテルのルームサービスは使用不可、高級レストランなどは言語道断などなど。 そして、ギコの予想とは違い、ヒートは警察署で彼の事を待っていた事が何よりも誤算だった。 ギコのデスク周りで彼の荷物をスーツケースに詰め込み、呆然とそれを見つめるギコに、ヒートは手を振って己の存在を主張した。 ノパ⊿゚)「おじさん、お久しぶりです!」 署内の人間全員の視線が、ギコに向けられた。 偏屈で頑固な人間嫌いというレッテルを貼られていたギコに注がれる視線は、間違いなく好奇のそれだった。 (,,゚Д゚)「……」 ヒート・オックスフォードとは十年以上の付き合いになる。 正確な数字を言えば、十八年の付き合いがある。 それと言うのも、ギコはヒートが生まれた時から知っているのだ。 ヒートが発言したおじさん、はギコの年齢の問題ではなく、文字通りの叔父さんなのだ。 (;,,゚Д゚)「お前、俺の机で何やってる」 ノパ⊿゚)「おじさんの私物を詰めてたんです! おじさん昔から準備するの苦手だったから、あたしがやってるんです! パンツはボクサータイプでいいですよね!」 怒りを通り越し、ギコは悲しみすら覚えた。 ギコは深々と溜息を吐き、そしてヒートを睨んだ。
- 26 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:35:37.336 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「勝手に詰めるのを止めろ、今すぐにだ」
ノパ⊿゚)「え?」 だが、ヒートはギコに睨まれても一瞬も怯まなかった。 昔から関わっていただけに、殺人犯ですら怯え竦ませる眼光も効果はなかった。 (,,゚Д゚)「いいか、俺は自分の事を自分でやる。 お前は自分の荷造りでもしてろ」 ノパ⊿゚)「もう終わってますよー」 確かに、ヒートの指さす先にはスーツケースが置かれている。 しかしそういう事ではない。 (,,゚Д゚)「旅行するわけじゃねぇんだ。 そんなでかいスーツケースはいらねぇんだよ」 スーツを一瞥し、ヒートはギコに視線を戻した。 ノパ⊿゚)「でも着替えは……」 (,,゚Д゚)「下着だけでどうにかなる。 スーツで十分だ」 ノパ⊿゚)「そのスーツで行くんですか?」 (,,゚Д゚)「あぁ、俺の一部だ」 ノパ⊿゚)「大分汚れてますよ?」 (,,゚Д゚)「あぁ、これ以上汚れても気にならないからな」 ノパ⊿゚)「背中に穴空いてますよ?」 (,,゚Д゚)「あぁ、通気性が大切なんだ」 ノパ⊿゚)「匂ってますよ?」 (,,゚Д゚)「あ……匂う、か?」 ノパ⊿゚)「匂います」 (,,゚Д゚)「どんな匂いだ?」 ノパ⊿゚)「あー…… おじさんの匂い?」 (,,゚Д゚)「……そうか。 まぁ、スーツは後でどうにかする。 ヒート、お前は俺が手続きを終わらせるまでに荷物を軽量化しろ。 それまで終わってなければ荷物は置いていく、いいな」
- 27 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:37:32.570 ID:xAQZOW8J0
- 全ての書類手続きを終え、ギコは一万ドル近くの現金を手に入れた。
往復の航空券を二枚と拳銃の携行許可証二枚を受け取り、武器保管庫の顔馴染みから拳銃を二挺借り出した。 警察で正式採用されているグロックを選んだのは、ヴィップの警察でも使用されている物であると同時に、手に入りやすい弾種を使用するからだった。 ロッカーで予備のダークスーツに着替え、匂いを確かめる。 恐らくは大丈夫だった。 刑事課のフロアに戻ると、ヒートはアタッシェケースを二つ手に立っていた。 ノパ⊿゚)「お帰りなさい!」 (,,゚Д゚)「お、おう。 詰め込んだのか、そのケースに」 ノパ⊿゚)「もちのロンです! さ、行きましょう!」 (,,゚Д゚)「……行き先、分かってるのか?」 ヒートは胸を張って自信満々に断言した。 ノパ⊿゚)「おじさんの後ろです!」 (,,゚Д゚)「頼もしい補佐役だよ、お前は」 それから二人は署を出てすぐにタクシーを拾い、空港に向かった。 消臭剤の匂いとタバコの匂いが混同し、湿度の高い車内にはラジオがかかっていた。 女のDJが淡々とニュースを読み上げていた。 『……本日朝、世界最高の天才と名高いブーン・ゴットフリート氏が心臓発作のために急逝されました。 氏は多くの発明と発見によってあらゆる分野の発展に貢献し、また――』 (,,゚Д゚)「……心臓発作、ねぇ」 ノパ⊿゚)「おじさんも気を付けないとね!」
- 29 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:39:37.464 ID:xAQZOW8J0
- 隣に座るヒートが屈託のない笑顔でそう言った。
ギコは同僚の目がなくなった途端にヒートの態度が変わった事から、こちらが本来の彼女なのだと理解した。 本来は敬語を使わせなければならないが、ヒートとの関係を考えると、それは必要ない。 娘を見守る様な気持ちで、ギコは眩しそうに目を細めてヒートを見た。 元気と素直の固まりだ。 昔はその素直さから、〝素直ヒート〟なんて呼んだものだった。 (,,゚Д゚)「何でお前が警官やってるんだ?」 ノパ⊿゚)「おじさんに憧れて!」 (,,゚Д゚)「高校出たばっかりだろ、確か」 ノパ⊿゚)「うん! でも、ちゃんと訓練したから大丈夫だよ」 不安ばかりが残る補佐だった。 確かに、ギコの記憶の中ではヒートの運動能力は抜群だった。 陸上競技部では短距離走のエースとして名を馳せ、国内でも屈指の短距離走者だったはずだ。 子供の頃は怪我をしても泣かず、笑っていたのをよく覚えている。 膝頭から血を流しても消毒したらすぐに動き始めていた。 それがまさか、警官になるとは。 (,,゚Д゚)「銃は撃てるか?」 ノパ⊿゚)「うん、撃てるよ。 人を撃ったことはないけど」 (,,゚Д゚)「その方がいい。 お前は人を殺すにはまだ若いからな」 ノパ⊿゚)「おじさんは人を殺したことがあるの?」 (,,゚Д゚)「あるさ。 仕事だからな」 ノパ⊿゚)「そっか……」
- 30 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:42:29.094 ID:xAQZOW8J0
- それから無言になり、タクシーは空港に到着した。
金を支払い、ギコはロビーに歩き出した。 その後をヒートが小走りで追いかける。 カフェテラスの椅子に座り、注文を取りに来たウェイターを手で追い払った。 テーブルにアタッシェケースを置いて、ギコはヒートと向き合う。 (,,゚Д゚)「さて、ヒート。 俺達の仕事については飛行機の中で話す。 だがその前に、お前に渡しておくものがある」 懐からホルスターに入ったグロックと許可証を渡した。 ノハ;゚⊿゚)「何で銃があるの?」 (,,゚Д゚)「いいか、俺の経験上銃は持っていても邪魔にはならない。 特に、俺達がこれから関わる事件は何か嫌な気配がするんだ。 だから銃がいるんだよ。 お前が一人でいる時に何かがあっても、俺は助けてやれない。 スーパーヒーローじゃないからな。 だけどそのグロックは、お前が正しく使えばお前を守ってくれる」 ノパ⊿゚)「うん、分かったよ。 おじさん。 でも飛行機の中に持ち込めないんじゃない?」 (,,゚Д゚)「大丈夫だ。 そのための書類ももらってる。 それと折角だしいくつか取り決めをしておこう。 一つ、一人で勝手に行動しない。 二つ、俺が指示をしない限りは捜査中に余計なことをするな、喋るな。 三つ、自分の身は自分で守れ。 四つ、警察関係者がいる時は俺の事をおじさんと呼ぶな、絶対に」 ノパ⊿゚)「それだけ?」 (,,゚Д゚)「あぁ、これだけだ。 俺とお前は確かに親戚だが、仕事は仕事だ。 いいな」
- 31 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:44:17.624 ID:xAQZOW8J0
- 念押しをすると、ヒートは口を真一門に結んで頷いた。
指示をせずとも、ヒートはホルスターを身につけた。 物わかりが良くて助かる。 (,,゚Д゚)「よし、まずは飯を食おう。 朝から何も食ってねぇんだ」 アタッシェケースを持ち、ギコはずんずんと空港内を歩き始めた。 ノパ⊿゚)「あれ? さっきのところで食べないの?」 (,,゚Д゚)「あそこは高い、遅い、不味い店だ。 いいか、お前も覚えておけ。 仕事中の飯は安い、速い、美味いが一番だ」 そしてギコが選んだのは老舗の蕎麦屋だった。 値段は三ドルから。 速度は注文から最短三十秒。 そして、味は悪くない。 ノハ;゚⊿゚)「立ち食い蕎麦屋っ…… だとっ……?!」 (,,゚Д゚)「何だよ、そば嫌いだったか? うどんもあるぞ」 ノハ*゚⊿゚)「ううん、大好き! おじさんがおごってくれるの!?」 (,,゚Д゚)「経費で落とすから好きなトッピングを頼んでいいぞ」 ノハ*゚⊿゚)「やったー!」 立ち食い蕎麦屋とは言っても、椅子のある席もあった。 混雑時でなければ、立ち食いをする必要はない。 二人はカウンター席に並んで座った。 ギコは海老天そばを頼み、ヒートはうどん大盛りに野菜かき揚げとちくわ天、海老天にイカ天を乗せ、最後にコロッケと温泉卵を注文した。 年頃の女性が食べる平均量よりも遥かに多いが、ヒートはその分を運動で燃焼するため、驚くほどではなかった。
- 35 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:45:59.885 ID:xAQZOW8J0
- ノハ*゚⊿゚)「美味いなぁ、美味いなぁ!」
(,,゚Д゚)「慌てずに食えよ」 ノハ*^ー^)「うん!」 こうして見ると、ヒートはまだ子供だった。 あどけなさの残る顔。 大きく、目尻がややつり上がった目。 綺麗な二重の瞼に、形の良い眉。 癖の強そうな赤茶色の髪を後ろで一房だけ結び、前髪と横髪は外側に向けてはねている。 小柄ながらもしっかりとした体つきで、乳房はやや小ぶりだが女性的な魅力は損ねていない。 きっと将来は今よりも美人になる事だろう。 早々にそばを食べ終えたギコは汁を少しだけ飲み、蕎麦湯で薄めて全部飲み干した。 一方のヒートも、すでに残骸と成り果てたコロッケと天かすに汁を含ませ、それを飲み終えたところだった。 ノハ´⊿`)=3「ぷふー、満腹だー」 (,,゚Д゚)「そりゃよかった。 よし、そろそろ行くぞ」 これだけ食べても十ドルもしないというのだから、立ち食い蕎麦は止められない。 荷物検査を行い、続いて身体検査をする前にギコは書類と警察バッジを担当者に見せた。 担当者は無言で頷いて、金属探知機の前にいる職員に頷きかけた。 二人は何事もなくゲートをくぐり、三番ゲートの前にある椅子に座った。 慌ただしく動くギコに合わせるヒートは文句を言わなかったが、満腹のためか眠そうだった。 ノハ´⊿`)「うおー」 (,,゚Д゚)「何だ、眠いのか?」 ノハ´⊿`)「うん、昨日あんまり眠れなくて……」 (,,゚Д゚)「何でだ?」
- 37 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:47:44.163 ID:xAQZOW8J0
- ノハ´⊿`)「あたし、今日からあの署に配属だったんだー。
それで、引き継ぎの書類とかいろいろやってたら結局二十四時間働いててさー」 (;,,゚Д゚)「……お前、今何歳だっけ?」 ノハ´⊿`)「十八だよー」 (;,,゚Д゚)「警官になったのは?」 ノハ´⊿`)「十八だよー」 (;,,゚Д゚)「実務経験は?」 ノハ´⊿`)「二ヵ月、ソーサク署で」 シュタラバ署に比べて、ソーサク署はかなり治安の悪い地域を担当する警察署だ。 最初の頃の情熱を失った市長の政策によって街は荒れ放題となり、治安は悪化しつつある。 一日の出動回数と死人の数は現在も上昇傾向にあり、そこでの一年は他の署の五年に相当すると言われている。 そこで新人が二ヵ月経験を積むというのは、あまりにも酷な話だ。 それだけ実力を見込まれたのか、それとも何かしらの意図があってそうされたのか。 ギコに調べる術はない。 しかし、ソーサク署で二ヵ月も働けたのだから、新人警官とは違う扱いをしてもいいだろう。 (,,゚Д゚)「あそこのサトゥー所長は元気だったか?」 ノハ´⊿`)「うん…… 元気……だっ……ら」 (,,゚Д゚)「おい、あと少しで出発だからまだ寝るな」 ヒートの頬を軽く叩く。 肌は柔らかく、そして滑らかだった。 時間になり、搭乗が始まる。 今にも眠りに落ちそうなヒートを抱えて、ギコは搭乗手続きを済ませた。 窓際の席にヒートを寝かせ、座席を倒して毛布を掛けて枕を頭の後ろに置いてやる。 シートベルトを締め、窓のブラインドを閉めた。
- 38 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:49:36.708 ID:xAQZOW8J0
- ノハ´⊿`)「しゅみ……ましぇ……ん……」
(,,゚Д゚)「いいから寝てろ。 着くまでは半日以上かかる」 言われるまでもなくヒートは眠っていた。 ギコはその横で椅子を倒し、頭を仕事のために切り替えた。 ヒートは本当に首輪の役割を兼ねた補佐として署から派遣されたのだろうが、実際は彼女の経験値のために選ばれた可能性が高かった。 彼女の出世速度はあまりにも異例だ。 ひょっとしたら、看板的な存在として育て上げるという意図があるのかもしれない。 (,,゚Д゚)「8895、か」 ブーンの死因については考える意味が今のところはないが、8895という数字が彼の死に繋がっている可能性はあった。 果たして本当に8895という数字に意味などあるのだろうか。 天才であるブーンが辿り着けなかった答えに、凡人であるギコが辿り着けるのか。 可能性を考え、ブーンが最期に遺した論文を携帯電話の画像で確認した。 やはり、精神を汚染されてしまいかねない程意味の分からない文章だった。 (*゚ー゚)「お客様、電子機器の電源をお切りください」 フライトアテンダントがギコを窘めた。 ディスプレイを閉じ、ギコは謝罪した。 (,,゚Д゚)「あぁ、済まない。 それと、安全な状態になったらコーヒーを一杯俺のところに持ってきてくれ」 (*゚ー゚)「かしこまりました。 もう間もなく出発いたしますので、座席を元の位置に戻してください」 (,,゚Д゚)「こいつのもかい?」 ヒートを見る。 (*゚ー゚)「申し訳ありません、規則でして」 (,,゚Д゚)「ならしかたないさ」
- 39 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:50:14.021 ID:xAQZOW8J0
- 少しずつ座席を元の位置に戻し、ヒートがそれでも起きないことにほっとした。
それからギコは携帯電話の電源を切り、頭の中で推理をすることにした。 まずは始まりの8895という数字を追う所から始めなければならない。 ヴィップという街で数字に最も関連性のあるのは、何と言ってもアンカー大学だ。 世界最高峰の数学者たちを数多く輩出するアンカー大学には、数学者による秘密結社的な物があるという。 そこに行けば何かしらのヒントが得られるかもしれない。 最初に行くべきはアンカー大学だ。 他国の地で捜査権が使えるかどうかは、まだ分からない。 そこまでの根回しが済んでいればいいのだが、国のプライドをかけている以上、それはなさそうだ。 怪しまれずに大学に潜入するには、それなりの智恵を絞らなければならない。 (,,゚Д゚)「大学、か……」 アナウンスが入り、飛行機が徐々に速度を上げる。 機首が持ち上がり、やがて安定した飛行が始まった。 ヒートの席を倒してやり、ギコも席を倒した。 (,,゚Д゚)「……」 普通なら、ヒートも大学に通っている歳だ。 ギコに憧れて警官になったと言っていたが、事実は違うだろう。 彼女の両親が逃走車両に巻き込まれた自動車事故で死亡し、金銭的な問題と犯罪者を憎む気持ちで警官を目指したのだろう。 一応ギコも金銭面での支援はしていたが、引き取り先の親戚と何かあったに違いない。 詳しい話を聞くつもりはないが、いつかそれが足枷とならなければいいのだがと、ギコは願う。 フライトアテンダントがコーヒーを運び、ギコは軽く礼を言ってそれを飲んだ。 (,,゚Д゚)「ううむ……」 再び数字の意味を考えてみる。 数字の共通点は、5よりも大きな数字であるということだ。 それ以外にはない。
- 40 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:51:45.652 ID:xAQZOW8J0
- 8895。
奇数と偶数が二つずつ。 全ての数字を足すと30になり、引くと-14。 8+8+9+5=30 8-8-9-5=-14 30-14=-14+30 =16 意味という観点で言えば、意味は何もなさそうだ。 では逆に、意味を持たせるとしたら。 アルファベットに置き換えるとHHIE(Hearing Handicap Inventory for the Elderly)となり、高齢者のための難聴のハンディキャップ自己評定尺度を意味する。 携帯電話のキーに置き換えれば、UWJとなる。 そこまでは調べたが、意味と言う意味を持たせろというのであれば、意味はなかった。 HHIEをわざわざ数字に置き換える意味はなく、そうであれば、別の何かが関係していると考えられる。 有力なのは暗号だ。 特定の暗号コードに直せば、何かしらの意味が見えてくるかもしれない。 数学に強い大学であれば、それを解読できるだろう。 大学への潜入はヒートを上手く使えば問題なさそうだ。 彼女の進学のための見学と言えば、どうにかなる。 少し溜息を吐き、コーヒーを飲み干した。 それからギコも瞼をおろし、眠りにつくことにした。
- 41 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:52:26.741 ID:xAQZOW8J0
- ※ ※ ※
飛行機が着陸してから、しばらくの間ヒートは緊張した様子だった。 (,,゚Д゚)「飛行機酔いか?」 ノパ⊿゚)「そういうわけじゃないんだけど、なんかこう、落ち着かないって言うのかな」 その言葉を聞いて、ギコは映画のあるワンシーンを思い出した。 (,,゚Д゚)「飛行機嫌いが治る秘密を教えてやるよ。 ホテルについたら裸足で指を丸めて、カーペットの上を歩くんだ。 シャワーやコーヒーよりも効き目があるぞ」 だが時代の問題なのか、ヒートはよく分かっていない風だった。 ギコは軽いショックを受けた。 ヴィップ空港に到着した二人を歓迎したのは、乾いた空気と汚れた大気だった。 昼の十一時ともなれば、日差しは強く、シュタラバとは違って肌寒さは感じない。 青い空に浮かぶ雲に向かってヒートは大きく手を伸ばし、声を上げた。 ノパ⊿゚)「っしゃああああ!!」 (,,゚Д゚)「……元気だな、おい」 ノパ⊿゚)「やっぱり地に足がついてないとね!」 (,,゚Д゚)「まぁいい。 まずはホテルだ。 ホテルに荷物を置いてから捜査を始めるぞ」 空港前に集まっていた黄色いタクシーの一台を呼び、二人で乗る。 ¥・∀・¥「どこまで?」 (,,゚Д゚)「サンセットホテルへ。 言っておくが、距離をちょろまかそうなんて考えるなよ」
- 42 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:53:46.001 ID:xAQZOW8J0
- コーヒー色の肌をした運転手は苦笑を浮かべ、タクシーを発進させた。
十数分後、タクシーはホテルの前に到着した。 メーターは三十ドルを示していたが、トラギコが睨むと十五ドルになった。 チップを含めて十五ドルと一セントを支払い、二人はホテルにチェックインをすることにした。 エントランスで名前を告げ、部屋は一つにすることにした。 一瞬だけヒートが頬を赤らめたが、ギコはそれを無視した。 小娘と情事に至ることはないし、ましてや、姪に対してそのような感情を持つことはまず有り得ない。 ポーターを従えることなく二人は部屋に行き、荷物を置き、一息ついた。 ヒートは律儀にもギコの言った通りに、裸足でカーペットの上を歩き回っていた。 ノパ⊿゚)「ねぇおじさん、これ本当に効くの?」 (,,゚Д゚)「……信じろ、二十年間やってきてるんだ」 満足したのか、ヒートはベッドに腰掛けた。 ベッドは二つあり、幸いなことにベッド一つ分の距離が離れていた。 ギコはヒートの正面を選んでベッドに座り、話しを始めた。 (,,゚Д゚)「飛行機じゃ結局話せなかったから、色々とまとめて話すぞ」 ノパ⊿゚)「はい!」 どこからかメモ帳とペンを取り出し、ヒートは構えた。 (,,゚Д゚)「まず、俺達が調べなければならないのは〝8895〟という数字についてだ。 これはヴィップから発送された約75年前の手紙で、それをブーンが読み、それ以来彼の全てを変えたと言われている。 手紙の内容は、8895って数字の意味についての問い合わせだった。 天才のブーンでも解決出来なかったこの数字の意味を俺達が調べ、何故ブーンが狂死したのか、それを報告するのが仕事だ。 ここまでに質問は?」 ノパ⊿゚)「8895という数字とブーンの関連性は? 生年月日とか、結婚記念日とか」
- 44 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:55:54.658 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「今のところない。
夫人からの話だと、ブーンがその手紙を開いた時から様子が変わったそうだ。 正確な死因や司法解剖は今向こうでやってる頃だろうよ。 さて、続けるぞ。 俺はこの数字にこそブーンの死につながるヒントがあると思っている。 その数字を解決するには俺達の手には余る。 アンカー大学のモーリスクラブは知ってるか?」 ヒートは首を横に振った。 (,,゚Д゚)「数学研究者達の秘密結社と言うか、秘密クラブだ。 選ばれた人間だけが加入を許され、ニューソクの第二十七代目大統領もそこに所属していたらしい。 そこの連中にこの数字について訊こうと思う」 ギコも詳細は知らないが、名立たる数学者たちが入会を希望してやまない数学者の聖域。 数字を信仰し、数字の秘密を追い求める組織。 言わば、数学狂いのサークルのような物だ。 過激な活動や反政府的活動もせず、神秘に満ちた数字に恍惚とし、それを共有して共感する集団。 彼らならば、この四桁の数字の秘密を解き明かしてくれるかもしれない。 ノパ⊿゚)「でも、どうやって大学に行くの?」 (,,゚Д゚)「俺は保護者、お前は進路を間近に控えた高校生。 その体で潜り込み、話を聞く」 ノパ⊿゚)「大学に行ったとしても、あたしたちに捜査権って……」 (,,゚Д゚)「そこは任せろ。 俺の得意分野だ」 ノパ⊿゚)「すげー!」 ヒートが感嘆の声を上げるのとほぼ同時に、部屋の扉がノックされた。 (,,゚Д゚)「ん? 誰だ?」 「ルームサービスです」 (,,゚Д゚)「頼んでねぇよ」 「それが、モナー・マエオ様からこちらの部屋に食事をお届けするように、と言付かっておりまして」
- 46 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 21:58:16.402 ID:xAQZOW8J0
- 困惑したような男の声が扉の向こうから聞こえてくる。
ヒートが小声でギコに囁きかけた。 ノパ⊿゚)「あたしが出るよ」 (,,゚Д゚)「いや、待て。 俺が出る」 ギコはベッドの上から立ち上がり、扉に向かった。 のぞき窓から外を見ると、確かに、ホテルの従業員の男がカートを持って立っていた。 チェーンを外さず、扉を少しだけ開く。 ( ゚д゚ )「ギコ・ヘイウッド様ですか?」 (,,゚Д゚)「そうだが」 ( ゚д゚ )「こちら、ルームサービスのお食事になります。 扉を開けていただいても?」 (,,゚Д゚)「あぁ、ちょっと待っててくれ」 チェーンを外し、ギコは勢いよく扉を引いた。 その手にはグロックを握り、従業員の体に銃腔を向けていた。 (;゚д゚ )「お、お客様!?」 (,,゚Д゚)「両手を上げろ。 カートを向こうに蹴って、部屋に入ってこい。 妙な真似をすると俺の指に力が入るぞ」 男は素直に従い、部屋に入った。 (,,゚Д゚)「ヒート! こいつに銃を向けろ!」 ノパ⊿゚)「はい!」 状況に即応し、ヒートはグロックをホルスターから抜いてそれを男に向た。 ギコは銃をしまってから扉を閉め、チェーンをかける。 そして男の体を調べ、ボールペンに仕込まれた長さ十センチの隠し針を見つけ出した。 暗殺者が好んで使う暗器だ。
- 49 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:00:47.807 ID:xAQZOW8J0
- (;゚д゚ )「何故気づいた?」
(,,゚Д゚)「ルームサービスは却下されてるんだよ、お前の言ったお偉いさんにな」 (;゚д゚ )「……くそっ」 (,,゚Д゚)「さて、質問だ。 俺達に何の用だ?」 (;゚д゚ )「……」 (,,゚Д゚)「ヒート、こいつに近づかず、銃を離すな。 変な動きをしたら撃っていい」 ギコはペンを胸ポケットに差し込み、拳を鳴らした。 ヒートは頷き、グロックを男に向けたまま距離を保った。 不安げにギコを見つめる男の鳩尾に、手加減抜きで拳を叩きこんだ。 (;゚д゚ )「っ……おっ……?!」 (,,゚Д゚)「ニューソク流の挨拶を受けたから、次はシュタラバ流の挨拶を教えてやるよ」 体が折れ曲がったところで、頭を抑え込んで顔に膝蹴りを二発。 髪の毛を掴んで顔を上げさせ、目を狙って殴りつけた。 衝撃で倒れ込んだ男の股間を足で踏みつけ、ギコは優しく話しかける。 (,,゚Д゚)「なぁ、俺達に何の用だ?」 (;゚д* )「お前達に警告に来たんだ……! あの数字に……関わるな! あれはお前達の触れていい数字じゃない!」 (,,゚Д゚)「おうおう、関わるな、と来たか。 たまんねぇなおい。 だが警告はいらねぇ、答えが欲しいんだ。 8895ってのは何の数字だ?」 (;゚д* )「喋ると思うか?」 (,,゚Д゚)「その内喋りたくてたまらなくなるぞ。 玉がなくなってから喋ってもいいことはない」 睾丸を踏む足に徐々に力を入れていく。
- 50 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:02:17.138 ID:xAQZOW8J0
- (;゚д* )「ぐっ……ぎ……」
足をどかし、ギコは先ほど取り上げたボールペンを手に取って隠し針を出した。 男の傍に屈みこんで、ギコはぞっとするほど冷たい笑みを浮かべた。 針を男に向け、ギコは笑顔を崩さず提案する。 (,,゚Д゚)「さて、もう一度やり直そう。 自己紹介からだ」 (;゚д* )「……」 (,,゚Д゚)「あぁ、こりゃあ誤解させちまったな。 悪ぃ、もっと分かり易く話した方がいいな」 無表情でギコは針を男の右腕に突き刺し、抉るように動かした。 深々と突き刺さった針を引き抜き、悲鳴を上げる男の顔を殴りつけた。 (,,゚Д゚)「俺は紳士的にやりたいんだ。 頼むよ」 (;゚д* )「み、ミルナ・マッケンローだ」 (,,゚Д゚)「そうそう。 最初からそうやって素直になればいいんだよ、ミルナ。 で、お前は何者だ?」 (;゚д* )「モーリスクラブの人間だ」 (,,゚Д゚)「おおう、ちょうどいいや。 俺もモーリスクラブに用があったんだよ。 8895の話を聞こうと思ってな」 (;゚д* )「だ、駄目だ! あの数字は!」 (,,゚Д゚)「なぁ、俺がいつお前に意見を求めた? なんなんだ、この数字は?」 針を左腕に向けると、男はやけ気味に話した。 (;゚д* )「……俺は分からない。 だが、クラブの会長なら」 (,,゚Д゚)「分からないなら、何でこの数字に俺達が近付くのを邪魔しようとしたんだ?」 (;゚д* )「それは…… そう命じられたからだ…… 殺すつもりはなかった、ただ、警告をしようと……」 (,,゚Д゚)「ほーん。 それは興味深い話だ。 これから俺達はクラブに行くんだが、どうやればクラブに入れる?」 (;゚д* )「そ、それだけは話せない! 話したら俺が殺される!」 (,,゚Д゚)「今殺されるのか、それとも俺に協力するか、選ばせてやる」
- 51 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:04:17.386 ID:xAQZOW8J0
- ※ ※ ※
大学に向かうタクシーの車内で、ヒートは無言だった。 気まずい空気が漂っていたが、ギコはさほど気にしなかった。 これがギコの仕事のやり方だからだ。 先ほど警察に突き出した男は結局、クラブへの接触方法を喋った。 そこに至るまでにカーペットに多くの血が染み込むことになったが、事態は進展した。 ギコが予想した通り、8895という数字はヴィップに関係があり、その謎を解決するためにはアンカー大学のモーリスクラブがカギになっていたのだ。 幸先が良かった。 アンカー大学の巨大な校舎が見え始め、学生らしき若者たちの姿も散見されるようになってきた。 タクシーは敷地内に入った。 (,,゚Д゚)「あれ? 何で中に?」 ( <●><●>)「そう仰せつかっているからですよ、ギコ様」 (,,゚Д゚)「……お前もモーリスクラブの人間なのかよ」 ( <●><●>)「えぇ、そうです。 あの数字を見つけた時、貴方様がこの国に来ることは分かっていました。 ミルナが大変な草々をしてしまったようで、無礼をお許しください」 (,,゚Д゚)「それで、俺達はどこに連れて行かれるんだ?」 ( <●><●>)「クラブにご案内しますので、銃から手を離していただけますか?」 (,,゚Д゚)「おっと、こりゃ失礼」 離れた場所に立つ寂れた校舎の前でタクシーが止まり、二人は金を払うことなく車から降りた。 浮いた費用は後で昼食代に回すことに決めた。 ( <●><●>)「そこの校舎がクラブの場所になります。 では、ごきげんよう」 タクシーはそのまま何事もなかったかのように二人の前から去って行った。 残った二人は無言で校舎を見上げる。 (,,゚Д゚)「ショックなのか?」 ノパ⊿゚)「……正直、結構ショックだった」
- 53 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:08:16.586 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「あれが俺のやり方なんだ」
ノパ⊿゚)「うん…… 分かってるよ。 分かってるけど、あたしの知ってるおじさんと違ったから……」 (,,゚Д゚)「お前はこうなるなよ」 そう言って、ギコはヒートの頭を軽く撫でた。 それから意を決し、鋼鉄製の扉を押し開いた。 陽の光に照らされたそこは、まるで教会の様だった。 なだらかな斜面に机と椅子が並び、窓から差し込む陽光が光の筋となって降り注いでいる。 神聖ささえ感じられる。 巨大な講堂には、生徒らしき人間は誰もいなかった。 だが教壇には人がいた。 不健康そうな顔つきをした、長身痩躯の男だった。 歳は五十代だろうか。 ('A`)「待っていたよ、ギコ・ヘイウッド君」 講堂中に響き渡ったのは掠れた声だったが、聞き取りやすい明瞭さがあった。 (,,゚Д゚)「あんたがモーリスクラブのトップか?」 距離を縮めつつ、ギコは周囲への警戒を怠らなかった。 ヒートはすでに銃を取り出し、男にその銃腔を向けている。 ('A`)「いかにも。 モーリスクラブの会長を務めている鮫島ドクオだ。 銃は必要ない、争う気も殺し合う気もない。 我々は知の探求が目的なんだ。 それに、ミルナ君からの警告を聞いても数字の秘密を知りたいというのだろう? ならばそれに答えるのが我々の存在意義だ」 (,,゚Д゚)「ありがてぇ。 なら先に答えを教えてくれよ」
- 54 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:10:26.733 ID:xAQZOW8J0
- ('A`)「ところがそうもいかない。
大天才ブーン・ゴットフリート氏が解けなかった数字の秘密を君に教えるには、少し時間がかかるんだ」 (,,゚Д゚)「あんたらは答えを知っているのか?」 ('A`)「実を言うと我々もまだ研究途中でね。 ブーン氏が発表した論文の解読をしつつ、我々なりに考察をしていてね」 (,,゚Д゚)「あの数字は誰が何のために送ったんだ?」 三人は遂に十メートルの距離にまで近づき、ギコはそこで足を止めた。 ('A`)「先代の会長、今は亡きデレーナ・カタストロフが生み出し、ブーン氏に送ったとされる。 あの数字について我々が知っているのは、あの数字が〝ジーニアス・キラー〟と呼ばれることぐらいだ」 (,,゚Д゚)「天才殺し?」 ('A`)「そうとも。 天才を殺すための数字だという事だ。 理屈は分からないし、答えも分からない。 デレーナ会長はその数字を生み出し、それから二十三歳の若さで亡くなった。 お子さんがいたが、天才とは言い難い人間だったし、すでに別の分野で働いている。 この数字は究極の宿題だよ、我々にとっては。 命題とでも言おうか」 ヴィップまで来て得られた答えは、数字の名前だけだった。 ジーニアス・キラー。 それが分かっても、数字で人を殺すことが不可能なのは誰でも分かる。 ブーンの死につながる秘密ではなさそうだった。 (,,゚Д゚)「……じゃあ答えは分からねぇのか」 ('A`)「ただし言えることがある。 あの数字は、そう滅多なことで使ってはならないという事だ。 キュート・アラベスク、クール・エル・ディアブロ、タカラ・セガール。 天才と呼ばれた学者の名前だが、彼らはこの数字に関わり、そして死んだ。 誰も答えを出せていないがね。 だから関わらないよう、私はミルナ君にも伝えていたのだ。 分かるかね? 深入りすると君まで死ぬことになる」
- 56 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:12:30.466 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「数字一つで人が殺せる時代になったなんて知らなかった。
家に帰ってもう一度算数の勉強からやり直すことにするよ」 ギコはドクオが口にした学者の名前を素早く暗記した。 当初の予想とは違う答えが出てきたが、結果としては数字の名前だけで十分だろう。 (,,゚Д゚)「ヒート、戻るぞ」 ノパ8895゚)「はい」 ギコは我が目を疑った。 ヒートの顔に、数字が浮かんでみたのだ。 目を凝らすとそこには普段通りのヒートの顔があった。 ノパ⊿゚)「どうしたの?」 (,,゚Д゚)「……何でもない」 どうやら、8895という数字にこだわりが強くなりすぎているようだ。 ('A`)「時に、ギコ君。 この数字の事を報告するつもりかね?」 (,,゚Д゚)「仕事だからな。 まだ隠居生活をするには金が足りてないし、この仕事が俺は好きなんだ」 ('A`)「そうか。 残念だよ、とても」 校舎を後にしたギコは、目頭を押さえた。 数字は所詮数字だ。 ノパ⊿゚)「おじさん、大丈夫?」 (,,゚Д゚)「……大丈夫だ」 ノパ⊿゚)「この後どうする? ホテルに戻る?」 (,,゚Д゚)「目的の情報は得られたからな。 この国に長居する理由はない、が。 どうにも引っかかるんだ、天才殺しの数字が」
- 57 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:14:55.304 ID:xAQZOW8J0
- 歩き始めたギコの横に、ヒートが並ぶ。
腕時計で時間を確認すると、午後三時だった。 ノパ⊿゚)「数字で人が殺せるのかな?」 (,,゚Д゚)「現実問題不可能だ。 会計係の人間が毎年大量死しているはずだ。 そうじゃない。 あの数字には何かがあるんだ。 天才だけを殺す数字、何故その数字が天才に送られたのか。 その理由は奴らも分かっていない。 なら、死んだ天才とやらを調べる価値はあるだろう」 ノパ⊿゚)「……手分けして探す?」 (,,゚Д゚)「それこそ、ミルナみたいな連中が来た時にお前が危ないだろ。 駄目だ、お前は俺の後ろにいろ。 死んだ天才たちの共通点があるかどうか、そこからだ」 大学から次に二人が向かったのは、国立図書館だった。 そこにはあらゆる新聞がデータ化されて保管されており、警察にあるデータベースを使わなくても故人の情報を調べられる。 多少時間がかかるだろうが、天才と呼ばれる人間の死は必ずニュースになる。 二人で検索を始めてから二時間後、遂に情報が揃った。 死亡した年月はバラバラだった。 性別も異なり、専門の分野も違った。 キュート・アラベスクは人工知能開発。 クール・エル・ディアブロは原子力工学。 タカラ・セガールは機械工学だ。 勿論、数学と心理学の権威であるデレーナ・カタストロフの死亡記事もあった。 死因は癌だった。 天才の最期はいつもあっけないものだった。 データを印刷し、二人はそれをファミリーレストランに持ち込んで考察することにした。 ピザとビールを頼み、食事をしながら記事を眺めていく。 (,,゚Д゚)「キュートとタカラは心臓発作だが、クールは自動車事故だな」
- 58 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:16:21.879 ID:xAQZOW8J0
- ノパ⊿゚)「75年以上前に死んだ人間はいないよ」
(,,゚Д゚)「ってことは、ブーンが数字を受け取ったのと同じタイミングの可能性があるのか」 ノパ⊿゚)「消印はいつになってたの?」 (,,゚Д゚)「四月三日だ」 日付と年代を合わせて見ると、確かに、他の天才たちは四月三日以降に死亡している。 最短で死亡したのはキュートだが、手紙が到着したと予想される日付から三年後だ。 それ以外の天才たちは五年以内に死亡しているため、即効性の死を誘発するものではないらしい。 ノパ⊿゚)「……同時期に送られたのかな?」 (,,゚Д゚)「たぶんそうだろうな。 挑戦状なのか、それとも――」 誰かがデレーナの見つけた数字を利用しただけなのか。 ノパ⊿゚)「おじさん、ちょっとこの記事。 クールの死亡記事に、心臓発作による自動車事故って書いてあるよ」 (,,゚Д゚)「じゃあ全員が心臓発作で死んだってことか。 ……いや、違うな。 そうしているだけかもしれないな、俺らの国と同じようにな。 死因は無視しよう」 冷めかけたピザを折って口に押し込む。 ノパ⊿゚)「おじさん、お行儀悪いよ」 (,,゚Д゚)「うるへぇ」
- 59 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:18:20.568 ID:xAQZOW8J0
- ナプキンを渡され、それで口の端に付いたソースを拭い取る。
ビールで口の中身を飲み込み、小さくげっぷをした。 ノパ⊿゚)「ねぇ、ブーンが残した論文っていうの見せてもらってもいい?」 (,,゚Д゚)「ほれ」 携帯電話に保存された論文の写真を見せた。 ヒートはそれを読み、首を傾げた。 ノハ;゚⊿゚)「意味が分かりそうで分からない」 (,,゚Д゚)「それが論文だっていうんだから世の中分からねぇよ。 何か思いつくことはあったか?」 ノパ⊿゚)「何もないよ。 でも逆に、ここまで意味のない文章って言うのも面白いよね」 (,,゚Д゚)「確かにそうだな」 ノパ⊿゚)「意味がありそうで意味がない、ってことなのかもね」 (,,゚Д゚)「その一言で済むだろ」 ノパ⊿゚)「だよねー。 天才の考えることは分からないや」 適当に相槌を打って同意しようとしたところ、ギコは何か引っかかる物を感じ取った。 それは誰もが疑問に思う事だった。 天才は考えることが分からない。 凡人と天才は考える次元が違う。 多面的に考え、更に三手先ではなく数百手先を見越して考える。 故に天才なのだ。 では、数学者たちの秘密結社を束ねる人間は凡人たり得るのだろうか。 答えは否。 凡人ではなく天才なのだ。 天才だからこそ秘密結社を統治し、残された宿題とやらに力を注いでいるのである。
- 60 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:19:47.041 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「……何で、ドクオは発狂しないんだろうな」
ノパ⊿゚)「?」 そう。 天才殺しの数字は、何故ドクオを殺さないのだろうか。 即効で死ぬわけではないのに、彼は長年その研究を行ってきたかのような口ぶりだった。 彼は今も研究を続けているのだ。 なのに、死なない。 なのに、狂わない。 異常だ。 (,,゚Д゚)「天才殺し、なんていう名前が付いてるならあいつも死んでるはずだ。 そうか、確かにそうだよ。 ヒート、これはえらくでかい山になるぞ。 数学者の残した宿題ならもっと大勢の人間が関わっているはずだ。 それでも、奴が挙げた人数は少なすぎる。 それに何であいつは送られた人間を知っているんだ? よくやったぞ、ヒート。 これは殺人事件だ、間違いなく。 ブーンを含めたこの天才たちは殺されたんだ」 ギコは己の推理をヒートに興奮気味に語る。 ヒートもギコの説明で理解できたのか、何度も首を縦に振った。 ノパ⊿゚)「つまり、被害者には何かしらの繋がりがあるってことだね!」 (,,゚Д゚)「そうだ。 それを調べるぞ。 天才が死んだ地域はどうだ?」 すでにそれら細かな情報をメモにまとめていたヒートが即答する。
- 61 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:20:42.167 ID:xAQZOW8J0
- ノパ⊿゚)「バラバラだよ。
ゲイブン、オムイラス、ナバツナ、シュタラバ。 地域に統一性はないよ」 (,,゚Д゚)「なら、この国に用はない。 天才という共通点に通じる何かがあるはずだ。 すぐにシュタラバに帰って調べ――」 ノハ;゚⊿゚)「おじさん、あれ!」 ギコはヒートの視線の先を目で追った。 覆面をした男達がカラシニコフ自動小銃を手に車から降りてくる瞬間を見たギコは、ヒートの手を取って店の裏手に走った。 (,,゚Д゚)「あのドクオって奴は、どうしても俺達に捜査をしてもらいたくないみたいだな」 二人は揃ってグロックを抜いた。 裏口のドアには鍵がかかっており、一般客は使えないようになっていた。 ギコは首を横に振って、扉が使えない事をヒートに伝えた。 ノハ;゚⊿゚)「ど、どうしよう……」 (,,゚Д゚)「おいおい、俺達は警官だぞ? 強盗にビビってたら仕事にならねぇよ」 ギコはヒートに援護を求め、一気に行動を起こした。 強盗は三人組だった。 ( ∵)「よーし動くな! 金目の物を――」 (,,゚Д゚)「鉛をやるよ!」 薄いピンク色の脳の一部が男の後頭部から噴き出した。 続けて、もう一人の男の上半身に四発を撃ち込む。 その間にヒートが最後の一人の足を撃って転倒させた。 瞬く間の制圧に、店内から喝さいが起きる。 (,,゚Д゚)「俺達は警察だ。 店内の皆さん、落ち着いてください。 さ、今の内に通報を」 てきぱきと指示を出し、ギコは店員の一人にこっそりと別の指示を出した。
- 62 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:22:11.865 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「悪いが、俺達は次の事件現場に行かないといけない。
説明は任せるぞ」 (-@∀@)「お、お任せください!」 店を出てすぐにタクシーを捕まえる。 走り出して少しして、ギコは運転手の顔に見覚えがある事に気付いた。 (,,゚Д゚)「……またお前かよ」 ¥・∀・¥「……どこまで?」 (,,゚Д゚)「空港だ、大急ぎで」 ¥・∀・¥「お客さん、俺のタクシーがいつから速度指定のサービスを――」 黒塗りの車が背後からタクシーに迫り、激突させた。 反動か、それとも恐怖からかは分からないが、運転手は自主的に速度を上げた。 更に信号無視という特典までサービスしてくれた。 黄昏時。 周囲がオレンジ色に染まる街の中で、カーチェイスが始まった。 (,,゚Д゚)「追跡車輌まで用意してたのかよ、やるねぇ」 ノハ;゚⊿゚)「おじさん、これヤバいって!」 (,,゚Д゚)「ヤバいだろうな、何もしなければ。 おい運転手、絶対に追いつかれるなよ」 ¥;・∀・¥「ちょっとお客さん! 降りてくださいよ! 俺はこんなところで死にたくないですよ!」 (,,゚Д゚)「うるっせぇ奴だな。 誰だって死にたくねぇよ。 とにかく空港まで行け!」 ノハ;゚⊿゚)「さ、流石に撃っては来ないよね?」 (,,゚Д゚)「撃ってこなければなんだってんだ? 俺は撃つぞ」
- 64 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:24:30.895 ID:xAQZOW8J0
- 窓を開け、ギコはスモークガラスのセダンにグロックの銃腔を向けた。
二度銃爪を引き、銃弾はフロントガラスに命中した。 小さな蜘蛛の巣状のひびが入ったが、割れなかった。 (,,゚Д゚)「防弾かよ、くそ」 次にタイヤを狙って撃つが、セダンは蛇行運転でそれを避けてきた。 やはり夕方は狙いが付けづらい。 (,,゚Д゚)「ヒート、マガジン寄越せ!」 ノハ;゚⊿゚)「はい!」 空になった弾倉を車内に捨て、受け取った弾倉を挿入する。 遊底を引いて初弾を薬室に送り込み、ギコは一発だけ撃った。 その銃弾はフロントライトを破壊しただけに終わった。 車内に戻り、ギコは息を整えた。 (,,゚Д゚)「まいったな、撃ってこない」 ¥;・∀・¥「そりゃありがたい」 (,,゚Д゚)「これじゃ俺だけが悪者じゃねーかよ」 ¥;・∀・¥「え?」 (,,゚Д゚)「え、じゃねぇよ。 俺は刑事だ。 状況が分かるか?」 ¥;・∀・¥「……本当に刑事さん?」 (,,゚Д゚)「お前がメーターでちょろまかしてたこと、しょっ引いてもいいんだぞ」 ¥;・∀・¥「俺に出来る事は何かありますかね、刑事さん」
- 65 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:26:12.367 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「後ろの連中を撒け」
ノハ;゚⊿゚)「おじさん、パトカー来ちゃってるよ!」 (,,゚Д゚)「……やっべ」 この場合、市民の通報で発砲した車両がある事が分かっている。 その車両はタクシーで、男の人相はギコにそっくりのはずだ。 警察が追っているのはセダンではなく、このタクシーだ。 ¥;・∀・¥「け、刑事さん?」 (,,゚Д゚)「……上の連中が癒着してるんだ、あいつらもギャングの仲間だ! 頼むぜ、俺はドクオっていうんだ! あんたの名前は?」 咄嗟に嘘を吐き、ギコは運転手にとにかく走らせ続けさせた。 ¥;・∀・¥「へっ、へへ……! 俺はマニーっていいます。 ここまで貢献すれば市民栄誉賞だって夢じゃねぇですよね!」 (,,゚Д゚)「あぁ、そうだな。 ……よし、あそこの工事現場のところに突っ込んで車を停めろ! そうすれば映画化だってあり得るぞ!」 その時に浮かべた運転手の顔は、何とも形容しがたいものだった。
- 66 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:27:59.730 ID:xAQZOW8J0
- ※ ※ ※
ニューソクの夜空を飛ぶ旅客機の中で、ギコとヒートは貪るように食事をしていた。 出された機内食を肉片一つ残さず平らげ、二人は食後のコーヒーで喉を潤した。 カーチェイスの結果、二人は工事現場のマンホールから逃げ出し、どうにか空港まで辿り着き、こうして搭乗することが出来た。 (,,゚Д゚)「どうだ、警官ってのは退屈しないだろ?」 ノハ;゚⊿゚)「おじさん、タフだね」 (,,゚Д゚)「あれが俺の仕事の仕方なんだ。 器用なことが出来ないんでね」 ノパ⊿゚)「でも、おじさんはすごいなー。 強盗もあっという間に撃退したし」 (,,゚Д゚)「俺はそれよりもお前が落ち着いて弾を当てられたことが驚きだったよ。 人を撃ったことはないんじゃなかったっけ?」 ノパ⊿゚)「ううん。 殺したことはないけど、撃ったことなら何度もあるよ。 ソーサク署の担当地域は治安が悪かったからさー」 ギコが見立てた通り、ヒートが過ごした二か月間は彼女の成長にかなり影響していた。 撃つのに慣れていない警官は、必ずヘマをする。 そのヘマのツケは、相棒に来るようになっているのだ。 (,,゚Д゚)「お前は将来有望だな。 撃つのに慣れてもいいけど、殺すのには慣れない方がいいぞ」 ノパ⊿゚)「うん。 ありがとう、心配してくれて」 (,,゚Д゚)「向こうへの報告は、お前の好きにしてくれていい。 だけどその前に、この事件の全貌を突き止めさせてくれ」 ヒートは頷く。 そして、強い意志を感じさせる目でギコの目を見た。 ノパ⊿゚)「あたしもこの事件の終わりを見たい。 おじさん。 あたし、足手まといにならないようにするから、一緒に事件を追わせて」 (,,゚Д゚)「勿論だ。 だが、絶対に無理をするな。 見ての通り俺のやり方は荒っぽい」
- 67 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:30:41.373 ID:xAQZOW8J0
- ノパ⊿゚)「分かるよ。 でも、もう慣れたよ。
あれだけドンパチ目の前でやられれば、流石にね」 (,,゚Д゚)「とにかく、今は体力を回復しておこう。 精神的に大分疲れた。 シュタラバに着いたらまず俺は家に帰って、それから捜査をする。 お前も一度家に戻るといい」 ノパ⊿゚)「……うーん。 ねぇ、おじさん。 あたしもおじさんの家に行っていい?」 (,,゚Д゚)「どうしてだ? 引っ越しが終わってないのか?」 ノパ⊿゚)「そうじゃないよ。 だってあいつらが言ってたでしょ? 数字を見つけた時に来るのは分かっていた、って。 事件が起きてからすぐに行動したはずなのに、向こうはそれを知ってたってことはあたし達の事を監視してるってことでしょ。 一人で行動するよりも二人の方が安全だよ」 (,,゚Д゚)「まぁ言われてみればそうだな。 だけど、あんまり綺麗な家じゃないからな」 ノパ⊿゚)「知ってるよ、おじさんの事だもん」 そう言われると心外だったが、ギコがヒートの事を知っているのと同じく、ヒートもギコの事をよく知っているのだ。 彼女の両親が生きていた頃はよく遊んだものだが、いつからかそれもなくなっていたことに、今さらながら気が付く。 (,,゚Д゚)「分かったよ。 ただ、文句は言うなよ」 ギコはヒートの提案を受け入れることにした。 彼女の言う通り、モーリスクラブの手先はギコ達の行動を監視、報告している。 恐らく、事件現場を担当した人間の中にも息のかかった人間がいるかもしれない。 そう考えると確かに、単独行動は非常に危険だ。 事件が解決するまでの間、二人で行動をするべきだ。 それに、ヒートは何ともない風を装っているが、あれだけ命の危険に晒される機会があったのだから、精神的にも滅入っているだろう。 これが赤の他人だったら、ギコは間違いなく見捨てていた。 首輪がいなくなり、五月蠅い監視も足手まといもいなくなるからだ。 しかし、ヒートは家族だ。 彼女を見捨てることは出来ない。
- 68 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:32:02.852 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「そろそろ寝ろ。
六時間後に交代だ」 ノパ⊿゚)「分かった。 お休み、おじさん」 (,,゚Д゚)「あぁ、お休み」 ヒートはアイマスクをつけ、すぐに深い寝息をつき始めた。 人間は寝ている間が最も無防備だ。 モーリスクラブの手先が飛行機内にいるとしたら、このタイミングを狙ってくるだろう。 ギコは瞼を降ろし、腕を懐に伸ばした姿勢で待機した。 彼の特技の一つは、瞼を降ろしても眠りに落ちないところだった。 不眠症の一種と診断されていたが、ギコはこれを特技だと思っている。 相手を油断させ、誘い出すためには最高の手だった。 全神経を耳に集中させ、跫音や息遣いを聞きわける。 近付いてくるものがあればすぐに対応できるよう構え、数時間が過ぎた。 そして、進展があった。 跫音が近付き、ギコの席の前で止まったのだ。 気付かれぬよう薄目を開けると、そこにはフライトアテンダントがいた。 (*゚ー゚)「……」 テーブルの上に置かれた紙コップを、持ってきた紙コップと交換しようとしていた。 ギコはそのままの状態で口を開いた。 (,,-Д-)「いらねぇよ、お代わりは」 (*゚-゚)「あっ、す、すみません、起こしてしまいましたか?」 (,,゚Д゚)「いいや、気にしなくていい。 それよりも、何で交換しようとしたんだ?」
- 70 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:33:39.665 ID:xAQZOW8J0
- (*゚ー゚)「お、お代わりをと思ったのですが、迷惑でしたか?」
(,,゚Д゚)「なら何で、他の客の分が無いんだ?」 (*゚ー゚)「カートの音で起こしてしまうといけないので、必要そうな方の分だけをお持ちしたんです」 (,,゚Д゚)「俺が寝てると分かっていたのに、あえてコーヒーを持ってきた理由は何だ?」 (*゚ー゚)「お仕事で忙しそうでしたので、つい」 (,,゚Д゚)「分かった、ありがとう。 そのコーヒー、飲んでみてもらえるか? 俺は猫舌でね」 (*゚-゚)「……」 (,,゚Д゚)「どうした?」 突如黙り込んだフライトアテンダントの目は虚ろになり、まるで、人形のような表情でギコを見た。 果たしてそれは本当に、見たのだろうか。 (*゚-゚)「……」 (,,゚Д゚)「おい?」 (*゚ー゚)「……あれ? どうしました、お客様?」 (,,゚Д゚)「い、いや…… 何でもない。 コーヒー、下げてもらえるか?」 (*゚ー゚)「かしこまりました」 本当に何事もなかったかのように、フライトアテンダントはコーヒーを片づけ、静かに背を向けた。 ギコはその時、後催眠という物を思い出した。 悪意ある何者かによって彼女は催眠をかけられ、コーヒーのすり替えを行ったのだ。 流石は秘密結社。 やることがえげつない。 機内食に関して毒を避ける方法は、全てを指定する方法が最も確実だ。
- 71 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:35:05.815 ID:xAQZOW8J0
- 面倒だが、仕方がない。
他にも後催眠をかけられた人間がいないとも限らず、ギコは気持ちを休めることが出来なかった。 これから機内で出される全ての飲食に対して疑いを持たなければならないと思うと、気が滅入った。 (,,゚Д゚)「……くそ」 小さく悪態を吐く。 その音に反応したのか、それとも人間が無意識の内に温かな物に惹かれるからか。 ヒートの手が、ギコの指を僅かな力で掴んだ。 (,,゚Д゚)「……」 ギコは昔を思い出した。 ヒートが生まれた時も、こうして指を握られた。 その指が今ではここまで大きくなり、ここまで立派な人間になった。 自分とは違い、彼女は立派な警官になる資質がある。 暴力で解決するギコを反面教師として、誰もが認める警官として働く事だろう。 指から伝わるヒートの温もりが、ギコの心を少し落ち着けさせた。 振り返ってみれば、ギコにとっての身内で唯一生き残った味方はヒートだけなのかもしれない。 両親も、その他親戚一同も、ギコの事を一族の中でも鼻つまみ者として見ていた。 警官でありながら暴力を行使する姿は、あってはならない警官の姿そのものだ。 姉だけは理解を示し、警官として働くギコを何度も家に招いてくれた。 そうしなければならないから貴方はするんでしょう、と。 ギコとしても、出来れば暴力に頼らずに事件を解決したいと思う。 だが、世の中には話し合いで理解が出来ない輩がいるのが事実だ。 火にガソリンをかけるのと同じように、精神異常者に言葉をかけても意味がない。 彼らは殺したいから殺し、罪の意識など持ち合わせがないのだ。 だからこそ、ギコが力でねじ伏せる他ないのである。 誰かがやらなければ、被害者が増えてしまう。 それを、姉だけは理解してくれた。 故に、ヒートは姉と同じくギコを理解してくれる唯一の身内だった。 守らなければならない。 仕事上の義務でも、これまでの恩でもなく。 ギコに唯一残された、何よりも守らなければならない存在なのだから。
- 72 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:38:05.096 ID:xAQZOW8J0
- ※ ※ ※
戻ってきたばかりの朝のシュタラバは、やはり雨だった。 空港からタクシーでギコとヒートは、ギコの自宅に向かった。 まずは体制を整え、万全の状態で事件と向き合う必要があったからだ。 二人は疲れ切った体を浴槽いっぱいの湯で癒し、ビールで体の内部を冷やした。 冷凍庫にあったピザをオーブンで温めている間、ギコは警察署のモナーに電話をした。 事件に大きな進展があったが、まだ国内で調査を続ける必要がある、と。 ( ´∀`)『そう言えば、一つ進展があったモナ。 ブーン氏の死因だが、本当に心臓発作だったモナ』 (,,゚Д゚)「って言うと?」 ( ´∀`)『奥さんから聞く限り、日常的に幻覚や幻聴の兆候があったみたいだモナ。 ひょっとしたら、精神的な物が死因に繋がっているのかもしれないモナ』 電話を終え、ギコは溜息を吐いた。 死因が分かっても、それが事件性に繋げることは出来ない。 数字に関わったばかりに死んだ、とは言えるはずがない。 どうにかして事件との繋がり、犯人の目星、動機を繋げていかなければならなかった。 ノパ⊿゚)「おじさん、どうするの?」 大して美味くもない冷凍のサラミピザを食べつつ、ヒートが訊いてくる。 ギコは缶ビールを僅かに口に含み、答えた。 (,,゚Д゚)「ブーンを含めて四人の被害者達の共通点を探るしかない。 天才、心臓発作、って以外でな」
- 75 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:40:14.940 ID:xAQZOW8J0
- 天才殺しの数字に関わって、確かに天才が四人死んでいる。
決して無関係な死とは思えない。 ノパ⊿゚)「四人? 五人じゃなくて?」 (,,゚Д゚)「ブーン、キュート、クール、タカラだろ?」 ノパ⊿゚)「デレーナは含めないの?」 (,,゚Д゚)「数字を作った人間だぞ。 それに、そいつは癌で死んでる。 ……だけど、調べる価値はありそうだな」 彼女もまた、天才であり数字に関わった人間だ。 缶に残っていたビールを飲み干し、ギコは大きくげっぷをした。 ノパ⊿゚)「今から調べる?」 (,,゚Д゚)「そうしたいんだが、帰り道に大分疲れたからな。 少し眠ろう。 体力を回復しておかないとまともに仕事が出来ない。 ベッドがあるから、そこを使え。 俺はソファで寝る」 ノハ;゚⊿゚)「いやいや、おじさん。 あたしがソファで寝るよ!」 (,,゚Д゚)「いいか小娘、お前はまだ体力がないんだ。 それに俺はソファで寝慣れてる。 変に気を遣うな」 ノパ⊿゚)「駄目だって!」 (,,゚Д゚)「仕方ねぇだろ、ベッドは一つしかねぇんだ」 ノパ⊿゚)「じゃあ一緒に寝れば解決するよ!」 (,,゚Д゚)「そうか、そうす――」 ギコは言いかけ、止まった。 (,,゚Д゚)「――何言ってんだ、お前?」
- 76 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:41:46.989 ID:xAQZOW8J0
- ノパ⊿゚)「だから、一緒にベッドを使えばいいんだよ!」
(,,゚Д゚)「あのなぁ、一応お前も若い女なんだからそういう事を軽々と言うな。 もう少し恥じらいを持て」 ノパ⊿゚)「いや、あたし別に気にしないけど」 (,,゚Д゚)「俺が気にするんだよ」 ノパ⊿゚)「えー」 (,,゚Д゚)「いいからほら、さっさと寝ろ」 抗議しようとするヒートを無視し、ギコは机上にあったゴミを捨て、ソファに寝転がった。 玄関には鍵とチェーンをかけてある。 流石に警官の家に乗り込んでくる度胸はないだろうが、相手の規模も思想も分からない以上、油断はできない。 ギコは瞼を下ろし、腕を組んで静かに呼吸を始めた。 ヒートが席を立ったことが音で分かった。 音で分かったことが二つあった。 一つは、ヒートは確かに席を立ち、足を動かしたということ。 もう一つは、彼女がギコに近づいてきたということだ しかしギコは反応をしないと決め込んでいた。 ここで反応をするから、彼女はギコの反応を面白がって余計な行動をするのだ。 ここは無視をするのが彼女のためであり、延いては自分のためになるのである。 やがて彼女の気配がギコの側で動きを止めた。 「ねぇ、おじさん」 ヒートの言葉がギコの耳朶を優しくくすぐった。 甘い香りが鼻腔に届く。 「……どうして、警官になったの?」
- 77 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:45:10.652 ID:xAQZOW8J0
- その質問は、ギコにとっても命題だった。
初めは正義感から警官を目指し、がむしゃらに事件に取り組んだ。 やがて、その正義感は暴走し、暴力に結びついた。 皮肉な話だ。 暴力のない世界を望んだはずが、暴力によってそれを叶えようとしているのだから。 初めの頃の情熱はとうに失せ、義務感だけがギコの体を動かしていた。 こうして事件に取り組んでいるのも、実際は自分のためだった 自己満足のために事件に一心不乱に取り組み、燃え尽きることを望んでいた。 今では、どうして警官になったのか、よく思い出せない。 果たして自分にあったのは正義感だったのか。 それとも凶暴な牙がその姿を変え、正義の剣と化していたのだろうか もう、よく思い出せない。 だからギコは答えない。 例え、ヒートが心からその答えを聞きたがっていたとしても。 自分とは違う道を歩む彼女のためにも、ギコは反面教師でなければならないのだ。 「あたしさ、本当は別の夢があったんだ」 ギコは答えない。 「大学生になって、教師になって、それからね……」 ギコは答えない。 「おじさんに、褒めて欲しかったんだ。 ずっと昔から、あたしの味方だから……」 ギコは答えない。 「お父さんもお母さんも、事故で死んじゃったけど、あたしはどうしても納得出来なかった。 警察がしっかりと犯人を捕まえていれば、あんなことは起きなかったんじゃないか、って思うんだ。 だからあたしは、警官になったんだ。 おじさんみたいに、犯人に容赦をしない警官になって、あたしと同じ気持ちの人間を生み出さないために ごめんね、あたし嘘吐いてた」
- 78 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:46:14.241 ID:xAQZOW8J0
- ギコは、それでも答えない。
独白させるがままにし、彼女がなぜこのタイミングで話を始めたのか、その原因に至るまでは。 「ねぇ、おじさん。 あたし、おじさんみたいになれるかな?」 「成るもんじゃなぇし、成れるもんでもねぇよ。 俺がお前になれない様に、憧れに近づけても成ることは出来ないんだよ、誰にもな」 瞼を降ろしたままでギコは答えた。 それはかつてギコが上司であるトラギコ・アケーディアから言われた言葉だった。 トラギコは退職前日に、恨みを持つ部下の警官に殺された。 部下の女性警官はトラギコの指導を受けた人間だったが、それが殺害の理由に繋がった。 ギコから見てもトラギコは厳しい人間だったが、決して冷血漢ではなかった。 彼は部下に背中を見せ、必要な時にだけ指示をする人間だった。 結果、その部下はトラギコに不満を募らせた。 その部下が望んでいたのは、情報の絶え間のない提供であり、沈黙ではなかったのだ。 上司として失格だと罵倒し、資質の無い人間に代わって自分が地区のリーダーになるとまで言い出した。 彼女からは報告も、連絡も、相談もなかった。 察することが上司の仕事だと彼女は常に言い続け、トラギコはそれを彼なりに受け入れ、処理をした。 だが無駄だった。 一度恨みを持った人間は、その恨みに捉われてトラギコの全てを否定した。 そして遂には、命をも否定した。 職場で刺殺されたトラギコは悲鳴を上げることもせず、出来たはずの助けすら呼ばなかった。 深夜に刺され、発見された時にはトラギコは自らの血溜まりの上で息絶えていた。 ギコにはそこまで寛容にはなれない。 刺される前に撃ち殺していただろう。 憧れはいつまでも追いつくことの出来ないゴールだ。 「だから、お前はお前のままでいればいい」 ギコは背中をヒートに向け、今度こそ沈黙することに決めた。 ヒートはそれ以上何も言う事はなかったが、ギコの背中に温かな体が押し当てられた。 彼女の鼓動と呼吸を間近で感じながらも、ギコはそのまま眠りについた。 久しぶりに、ギコはゆっくりと眠ることが出来た。
- 79 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:47:22.519 ID:xAQZOW8J0
- ※ ※ ※
眠りから覚めた二人は命がある事を確認し、それから砂糖をたっぷりと入れたコーヒーを昼食代わりに胃に収め、雨の中警察署に向かった。 警察署内は湿度が高く、籠った空気が漂っていた。 小会議室を使い、モナーを含めた三人は小さなテーブルを囲んで座っていた。 ギコから一連の説明を受けたモナーは明らかに微妙そうな顔をしていた。 ( ´∀`)「……数字で人を殺す、ねぇ」 (,,゚Д゚)「あくまでも数字は起点だろうな。 死んだ天才たちについて調べたいから、データベースを使わせてくれよ」 モナーは腕を組み、やがて縦に首を振った。 ( ´∀`)「いいモナ。 今回の件は全面的にお前に任せているモナ」 (,,゚Д゚)「悪いな」 ノパ⊿゚)「ギコさん……」 (,,゚Д゚)「行くぞ、ヒート」 口を開きかけたヒートを連れて、ギコは小会議室を出て行った。 部屋を出てから少しして、ヒートがギコのスーツの裾を引っ張った。 ノパ⊿゚)「何でモーリスクラブの事を言わなかったの?」 (,,゚Д゚)「昨日寝ながら考えてたんだが、どうにも奇妙でな。 もしあいつらが本当に俺達を殺すつもりなら、家に着く前に殺されてただろうよ。 だがそうはならなかった。 いや、それだけじゃあない。 後催眠が出来る奴らが、どうしてミルナなんて普通の人間を使ったんだ? これは単純な話じゃなさそうだから、モナーにも言わなかった」 ノパ⊿゚)「でも、力になってくれそうだよ?」 (,,゚Д゚)「どうだろうな。 俺は疑い深い人間だからな。 裏切者ってのは、案外近くにいたりするもんだからな」 トラギコを殺したのが警官だったように。 背中を任せられる人間は、結局のところ、ギコにはほとんどいないのだ。
- 80 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:49:52.028 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「さ、行くぞ」
国内外の犯罪者・事件の検索が行えるデータベース室に入り、ギコは管理人に目配せをした。 ( ´W`)「またかい?」 (,,゚Д゚)「あぁ、まただ。 誰も入れるなよ」 ( ´W`)「あいよ」 管理人は部屋の扉を閉め、ギコはパソコンの電源を入れる。 画面に現れた入力フォームにキーボードで名前を入力し、複数の情報を一つの画面に表示させた。 それはドクオが口にした天才たちとブーンとデレーナのデータだ。 (,,゚Д゚)「死因は心臓発作で変わりはなかったか……」 ノパ⊿゚)「つまり、別の何かが?」 (,,゚Д゚)「やっぱりそこなんだよ。 人間関係についても問題は…… なさそうだな。 それに借金とは無縁そうだ」 一般人ならばそこまで深い調査はされないが、名高い人間であればその死の真相を調べるために細かな捜査がされる。 デレーナを例外とする死体の写真を見ると、ブーンのそれと非常に酷似していた。 通常の心臓発作とは明らかに異なる表情の死体は、思わず眉を顰めてしまうほどだった。 心臓発作であればある程度は安らかな表情をするものだが、明らかにも狂ったような顔だった。 デレーナだけは病死であり、事件性が皆無であることから生前の写真だけしか残されていなかった。 (,,゚Д゚)「ひでぇな」 ノパ⊿゚)「うへぇ…… これが普通なの?」 (,,゚Д゚)「いや、やっぱりブーンと同じように狂ったんだろうな」 ノパ⊿゚)「そう言えば、何で借金と無縁だって分かるの?」 データには借金額などは当然書かれていない。 そこは、ギコがこれまでの仕事で培ってきた一つの予想だった。 ギコは画面を指さす。 (,,゚Д゚)「こいつらは大手企業と契約してるだろ。 天才を飼ってる企業ってのは、天才を手放さないよう大金を弾むし、家族への待遇も良い。 警察とは大違いだよ」
- 81 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:51:36.263 ID:xAQZOW8J0
- 家族の情報を新たなウィンドウで表示する。
妻や夫を持つのは、ブーンとキュートだけだった。 彼らに孫がいたとしても、その額はすさまじいものになるだろう。 勤務先はどれも大手企業だった。 今なお右肩上がりの成長を続ける企業との契約は、目減りしていくばかりの年金よりも魅力的だ。 ツンも含めて、遺族たちが今後働く必要はなさそうだった。 ノパ⊿゚)「へぇー。 羨ましいなー」 (,,゚Д゚)「……ん?」 そこでふと、ギコは何かひっかかる物を覚えた。 務めている企業。 そこに何か、法則性を見つけた様な気がしたのだ。 もう一度、画面を凝視する。 社名でも本社の場所でも、創始者でもない。 (,,゚Д゚)「……ヒート、分かったぞ。 この天才たち、全員兵器関連の仕事に携わってる」 キュート・アラベスクは人工知能開発により、自立機動兵器の発明を。 クール・エル・ディアブロは原子力工学を活かし、安価で高威力な原爆を。 タカラ・セガールは機械工学を元に、新型無人兵器の構想を。 ブーン・ゴットフリートはあらゆる面において、兵器の発展を促した。 全員が、兵器と言う共通の発明を行っていたのだ。 ノパ⊿゚)「本当だ……! でも、兵器の仕事ってだけで……」 (,,゚Д゚)「それが次のステップに繋がりそうだ」 ギコが表示されていた情報をまとめて印刷し、プリントアウトされた物をヒートが回収した。 つまり、ギコ達を追っていたのはモーリスクラブではなく、兵器に関係する会社の回し者かもしれない。 兵器産業は大金が動くだけでなく、大国が動く市場だ。 一つの発明が世界全体の均衡を崩し、途方もない大金を生むこともあれば、一国を破滅させることもある。 ヒートは知らないだろうが、警官に支給される拳銃を巡っては毎年多くの企業がしのぎを削り、最後は採用担当責任者のスーツがテーラーメイドの物に変わることで、採用される銃が決定する。 下手に関われば命取りになることは、エーゲリスの元女王が武器廃絶運動に力を入れた翌年に証明されている。
- 82 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:54:42.888 ID:xAQZOW8J0
- データベース室を出ると、そこにはモナーが立っていた。
一瞬だけ心臓が止まりそうになったが、どうにか平静を装う。 ( ´∀`)「何か分かったモナ?」 (,,゚Д゚)「……いいや、何も」 無理やり横を通ろうとしたが、モナーが肩をぶつけてきた。 (,,゚Д゚)「何だよ?」 ( ´∀`)「隠し事をするなモナ」 (,,゚Д゚)「そっちの捜査はどうなってるんだ?」 ( ´∀`)「……何も進んでないモナよ」 (,,゚Д゚)「それと同じさ」 署を出て、ギコはセダンの覆面パトカーに乗り込んだ。 ヒートは助手席に乗り、不安そうな顔でギコを見る。 (,,゚Д゚)「用心するに越したことはない、そうだろ?」 ノパ⊿゚)「それで、どこに行くの?」 (,,゚Д゚)「もう出張はできそうもないが、やれることがある。 この国に、ブーンが契約していた兵器メーカーがあるんだ。 アバランチ・アンゼル社だ」 シュタラバ国内最大の武器製造会社アバランチ・アンゼル社、通称AA社。 世界第二位の生産率と多くの有名銃器メーカーを傘下に持つその会社は、警官に配給されている銃器メーカーをも内包していた。 ノハ;゚⊿゚)「おじさん、止めとこうよ。 それで当たりだったらどうするのさ!」 (,,゚Д゚)「喜ぶさ」 エンジンをかけ、車を走らせる。 ワイパーを最高速度で動かし、雨を弾き飛ばしていく。 ノパ⊿゚)「真面目な話だよ! 殺されるかもしれないんだよ!」
- 83 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:57:14.176 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「それは困るな」
ノハ;゚⊿゚)「おじさん!」 (,,゚Д゚)「AA社には俺が行く。 お前は途中で降ろす」 ヒートの顔が、一気に蒼白になった。 怒りなのか、それとも悲しみなのか、あるいはその両方なのか。 (,,゚Д゚)「勘違いするなよ、俺はお前を信用してるんだ。 ここで捜査を二手に分ける。 お前に調べて欲しいのは、ブーンの死因だ。 いいな、俺には天才たちがこぞって心臓発作で死ぬなんていうのは信じられないんだ。 警察の発表も信じられない。 あらゆる方法で死因を調べるんだ」 ノハ;゚⊿゚)「で、でも!」 (,,゚Д゚)「死体安置所にいるクルウ・ストレートチップって奴なら、喜んで調べてくれる。 お前はその結果を俺に教えてくれればいい」 クルウは生き残った数少ない同期の女だ。 ギコと同様に群れることに慣れていない、生粋の変人である。 (,,゚Д゚)「いいな、頼むぞ」 ノハ;゚⊿゚)「おじさんが電話で頼めばいいじゃん!」 (,,゚Д゚)「そうもいかない。 俺達の動きに気付いて、死体をどうにかして処分しようとする奴らがいた時に対処するのは誰だ?」 ノハ;゚⊿゚)「ぐぅ……」 (,,゚Д゚)「何かあったら連絡をしろ。 じゃあな」 ギコは車を停め、警察署から十キロほどの郊外にある安置所でヒートを降ろした。 その場を去る車の姿をヒートは雨に打たれながら見ていたが、やがて安置所に入っていった。 (,,゚Д゚)「……これで一安心だな」 ここから先は、ヒートには見せられない状況が待っている可能性が高い。 ギコがニューソクで見せた様な撃ち合いではなく、殺し合いが待っているはずだ。 正直、自分の手に負えないのではないかという考えばかりが溢れ出てくる。
- 84 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:58:53.336 ID:xAQZOW8J0
- 無論、全てが思い過ごしである可能性もある。
それでも、ギコがこれまでに培ってきた年月は、彼に身の危険を知らせていた。 逃げるなら、手を引くのなら今しかない、と。 そう出来るのならばそうしている。 だが彼の性格が、細胞が、それを許さないのだ。 これまでに積み重ねてきたあらゆるものが、ギコに撤退を許さない。 AA社は工場地帯に聳え立つ山のように巨大な会社だ。 背の高い中央ビルの周囲を取り囲むようにして、三角屋根の工場、かまぼこ型の倉庫が並ぶ。 チタン合金の壁が敷地の四方を覆い、監視カメラと高圧電流の走る有刺鉄線がその上にある。 出入り口は一か所だけで、街の東を向く形で存在していた。 三重の扉を守るのは最新の武器を持った人間と、感情と疲れを知らない無人兵器だ。 来客用駐車場に車を停めるが、キーは差したままにしておいた。 雨の中、ギコは傘もささずに悠然と歩哨の前に向かって歩いて行った。 (,,゚Д゚)「シュタラバ警察のギコ・ヘイウッド刑事だ。 ちょっと訊きたいことがあってな」 警察手帳を見せると、迷彩柄のレインコートを着た男は首を横に振った。 (`・ω・´)「駄目だ、そんな予定はない」 (,,゚Д゚)「んなもん当たり前だろ、今決めたんだ」 (`・ω・´)「なぁ、刑事さん。 ここがどこだか分かってるだろ? 俺は例えあんたが大統領でも、中に入れる訳にはいかないんだ」 (,,゚Д゚)「だろうよ、それが仕事だからな。 だけどな、これも俺の仕事なんだよ、若造」 歩哨は銃の安全装置をこれ見よがしに解除した。 見たところ、軍ですら配備されていないXM8と呼ばれるアサルトライフルだった。 (`・ω・´)「悪いが、刑事だろうが通すわけにはいかない」
- 85 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:00:57.202 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「なら、社長にこう伝えてくれ。
8895の件だ、ってね。 それとも、俺から社長に電話してやろうか?」 男は逡巡した様子を見せ、遂に受話器に手を伸ばしてどこかへと電話をかけ始めた。 そして受話器を置き、恨みと困惑の目でギコを見た。 (`・ω・´)「……入れ」 (,,゚Д゚)「悪いね」 しぶしぶと言った様子で男は開いた扉の向こうを顎で指した。 銀行の金庫を彷彿とさせる重厚な扉の隙間から先に進むと、無人機がギコを歓迎した。 |::━◎┥『ヨウコソ ギコ サマ』 歓迎とは名ばかりで、その無機質な機械の瞳はギコの全身を調べていた。 |::━◎┥『ジュウ ハ オモチコミ ガ デキマセン』 (,,゚Д゚)「実は主教上必要なんだ」 |::━◎┥『ジュウ ハ オモチコミ ガ デキマセン』 (,,゚Д゚)「おいおい、頼むぜ」 |::━◎┥『ジュウ ハ オモチコミ ガ デキマセン』 いくら冗談を言っても、機械は融通が利かない。 当然、ギコは無駄なことをしたつもりはなかった。 ギコが最初に口にした宗教上の、という言葉はある程度の無人機の矛盾した機能をすり抜けられるものだったが、流石にここでは無理だった。 大人しくグロックをトレイに乗せ、ギコは次の扉へと向かった。 そこは白い空間だった。 (,,゚Д゚)「……うへっ」 眩い白の正体は、床と天井、そして壁の白光だった。 恐らくは雑菌などの殺菌を行う空間なのだろう。 その予想通り、次の瞬間、生ぬるい風がギコの全身を撫でまわし始めた。
- 88 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:03:49.005 ID:xAQZOW8J0
- そして最後の扉を開くと、先が白んで見えない程長い通路があった。
一直線に続くそれが、本社となる中央ビルに続く通路であることは明白だ。 可動式の床の上を歩き、ギコは先を急いだ。 8895。 このAA社の社長は、その数字に反応を示した。 大当たりの兆候だった。 五分ほど歩き続け、到着したビルのエントランスは巨大な吹き抜けを持ち、ガラス張りの壁面からは薄暗い明かりが差し込んでいた。 そして、一人の女がギコを出迎えた。 |゚ノ ^∀^)「ようこそ、アバランチ・アンゼル社へ」 否。 これは人間ではなかった。 精巧に作られた人形だった。 笑みらしき表情は完全に固定化され、目には生気がなく、肌は不自然なまでに光を反射していた。 アンドロイドと呼ばれる技術が成す技だった。 (,,゚Д゚)「社長と話がある」 |゚ノ ^∀^)「……はい、承知しております。 では、こちらへ」 女は歩くのではなく、踵に仕込まれた車輪で移動し始めた。 エレベーターに乗せられ、一人と一体は最上階である33階に向かう。 |゚ノ ^∀^)「ギコ・ヘイウッド様」 (,,゚Д゚)「……」 |゚ノ ^∀^)「社長よりご伝言があります」 ギコは機械音声を無視する。 無視をしてもこれは傷つかないし、ギコの心も痛まない。 |゚ノ ^∀^)「紅茶とコーヒー、どちらがお好みですか?」 (,,゚Д゚)「コーヒー。 蜂蜜を三杯とブランデーを二滴垂らしておいてくれ」 |゚ノ ^∀^)「……かしこまりました」
- 90 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:05:47.569 ID:xAQZOW8J0
- 案外融通が利くロボットだった。
最上階に到着し、ギコだけがそのフロアの絨毯を踏みしめた。 この絨毯を一フロア敷き詰めるだけでも、ギコの生涯年収を上回る事だろう。 木製の扉をノックなしに開くと、そこにはガラス張りの部屋と男がいた。 男は灰色の空が見えるガラスを背に、ギコを向いていた。 _ ( ゚∀゚)「ようこそ、ギコ・ヘイウッド刑事」 若い男だった。 歳は二十代後半だろうか。 どこか幼さを感じさせる顔つきながらも、鋭い目つきをしている。 男の余裕を持った態度に、ギコは不快感を覚えた。 _ ( ゚∀゚)「ジョルジュ・アイブローです」 (,,゚Д゚)「わりぃな、名刺は机の中に置きっぱなしなんだ」 _ ( ゚∀゚)「いえ、お気になさらず。 単刀直入に訊きましょう、8895の何をご存じで?」 (,,゚Д゚)「ジーニアス・キラー、天才殺しの数字だってな」 それを聞いたジョルジュは、太い眉を片方だけ持ち上げて笑みを浮かべた。 _ ( ゚∀゚)「えぇ、そうですね。 その口ぶりからすると、数字の真実をご存じないのでしょう」 (,,゚Д゚)「ま、それを訊きに来たんだけどな」 _ ( ゚∀゚)「ははは、そんな事だろうと思いましたよ。 ですが、8895に関係する人間なら、少なくとも話は出来ますからね」 (,,゚Д゚)「……で、真実ってのは?」 _ ( ゚∀゚)「デレーナ・カタストロフが作り出したこの数字、天才殺しというのは方便です。 事実は、殺害予告状です」
- 91 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:08:45.116 ID:xAQZOW8J0
- 今度は、ギコが眉を動かす番だった。
_ ( ゚∀゚)「モーリスクラブはこの数字に意味があるものと思っているが、実際には意味なんてない。 我々兵器産業に携わる者で、この数字に関わることは命を失う事を意味します。 始まりはデレーナが死ぬ直前、彼女が配布した四通の手紙でした。 世界に点在する天才四名を狙い送られた手紙。 勿論、我が社と契約していたブーン・ゴットフリートも例外ではなく、その数字に狂わされました」 (,,゚Д゚)「……どういうことだ? 数字で狂った?」 _ ( ゚∀゚)「数字は合図にすぎません。 それを送られた人間は、何らかの対象になった事を示しているのでしょう。 実際は、狂い死んだと思わせるための下らない偽装です」 (,,゚Д゚)「偽装ってことは、殺されたってことか?」 _ ( ゚∀゚)「えぇ、そうです。 ただし、その証拠は未だに見つかっていない。 結局、8895によって狂い死んだとしか思われないのです。 恐らくは新型の毒物でしょうね」 (,,゚Д゚)「何でそこまで知ってる? お前は、どうやってそれを知った?」 _ ( ゚∀゚)「……私の父も、8895に関わって死にました。 父は天才とは言い難い人間でしたが、それでも、あの数字に関わって死にました。 私なりに調べ、そして行き詰りました」 沈黙を狙っていたかのように、アンドロイドが入室し、ギコに紙カップに入ったコーヒーを渡した。 ジョルジュには紅茶を手渡し、モーター音を残して退出した。 ブランデーの香りがほのかにするコーヒーを一口飲み、ギコは手短に告げる。 (,,゚Д゚)「俺に何をさせたい?」 _ ( ゚∀゚)「真実を調べて欲しいのです。 正直、警察の人間があの数字に関わるとは思ってもみなかったものですから」 (,,゚Д゚)「……あんたが知りたいことは、たぶん俺には分からねぇさ」 ギコが言葉を飲み込んだのは、懐の携帯電話が振動を始めたからだった。 番号は見るまでもない。 ヒートに違いない。 彼女は何かを知ったのだ。
- 92 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:10:45.241 ID:xAQZOW8J0
- _
( ゚∀゚)「あの数字からここまで辿り着けた方なら、間違いなく真実に辿り着けるはずです。 よく言うでしょう? 真実はいつも一つ、って。 一つだけの真実を追うのなら、簡単でしょう」 真実は多くの側面を持つ多面構造の物体だ。 見る側によっては全く別の姿を見せる物体は、決して単一の素材で出来上がっているわけではない。 小さな粒子が組み合わさって、複雑な物質を作り出しているのである。 真実は一つではない。 真実とは、それを見る人間の数だけあるのだ。 (,,゚Д゚)「真実が一つだけなら、この世界は俺には狭すぎる」 カップを持ったまま、ギコを一睨した。 (,,゚Д゚)「俺は俺のやり方で調べる。 ま、あんたに言われなくても自主的にやるさ」 _ ( ゚∀゚)「ははっ、それは頼もしい。 お願いしますよ、ギコさん」 若くして社長の椅子に座るだけあって、かなり度胸があるようだった。 ギコは兵器会社がブーンを殺したのではない事を知り、一つの答えに近い物を得ていた。 兵器会社に何かしらの感情を持つ人間が、天才たちを殺したのだ。 エレベーターを目指して一直線に部屋を出て、ギコはすぐに携帯電話を見た。 案の定、ヒートからの着信だった。 昇降機に乗り、一階のボタンを押しつつヒートに折り返しの電話をする。 ワンコールでヒートは応答した。
- 93 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:13:11.635 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「ギコだ」
ノパ⊿゚)『おじさん、死因はやっぱり心臓発作で間違いなかったんだけど…… なんだが変な成分が胃から見つかったって……』 (,,゚Д゚)「変な成分?」 ノパ⊿゚)『うん。 生前最後に食べた料理からなんだけど、すっごい微量の毒があったんだって。 でも、致死量じゃないから気にしない程度の毒。 食品に多かれ少なかれ含まれている毒だって、クルウさんが言ってた。 だけど、珍しい毒なんだってさ』 (,,゚Д゚)「かいつまんで説明をしてくれ。 俺は文系なんだ」 ノパ⊿゚)『アンカダケってキノコに含まれている珍しい毒なんだって。 一食分だと全く問題のない毒だけど、何年も、それこそ何十年も蓄積させ続ければ心臓が弱まっていつかは……って。 だけど、胃の中には本当に少しだけしかキノコがなかったんだ。 間違えて料理に使われた可能性が高いから――』 背筋に氷柱を突っ込まれた気分がした。 ヒートが気付いているのかどうかは問題ではなかった。 彼女は、答えに辿り着いたのだ。 (,,゚Д゚)「ブーンの屋敷に向かえ、今すぐにだ。 そこで合流するぞ」 すぐに電話を切り、ギコは思わぬところから答えを導き出せたことに動揺していた。 これまでの遠回りから一転して、最短の距離で最高の答えが導き出せた。 エレベーターのボタンを無意味に連打し、すぐにでも昇降機が下りるように虚しい行動を繰り返す。 (,,゚Д゚)「……っ」 間違いなく、ギコは答えに近づいている。 その手応えがある。 少なくとも、真実の一つに手が届く。 一階に到着した昇降機から降り、ギコは走り出した。 動く床の上を全力で走り抜け、白い空間を抜け、無機質なロボットの前を通り過ぎざまにグロックを手にし、不愛想な歩哨の隣を通り過ぎた。 セダンに乗り込み、深呼吸をした。 落ち着きを取り戻し、印刷された被害者達の資料に目を走らせる。 手が届く範囲にある真実があるのは事実だが、それは絵に描いた餅と同じだった。 あと一歩なのだ。
- 94 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:15:27.618 ID:xAQZOW8J0
- ブーンの資料を見続け、不審な点や疑問点。
これまでに知り得た情報と繋がるものがないか、徹底的に調べる。 だが何もない。 紙を一枚捲り、ツンの資料が出てきた。 確かに画面の情報の全てを印刷した際、彼女の情報も表示していた。 余計な一枚と思いつつも、改めてその紙に目を走らせる。 (,,゚Д゚)「……これは」 彼女の出身地。 そして、結婚前のファミリーネーム。 8895への接点が、そこにはあった。 デレーナの資料に目を通し、出身地、ファミリーネームなどの情報と見比べる。 偶然とは思えない一致があった。 (,,゚Д゚)「マジかよ!」 アクセルを力強く踏み込んで発車させた。 興奮でハンドル操作を誤らないよう気を付ける。 速度を出しすぎて同僚に捕まる事を避ける。 しかし、急ぐことは忘れなかった。 雨が弱まり、空がうっすらと明るさを取り戻しつつある。 車通りの少ない目抜き通りを進み、やがて、ブーン邸の前にまでやって来た。 黄色いタクシーがギコのすぐ後に停まり、アタッシェケースを持ったヒートが現れた。 ヒートはギコのセダンに乗り込み、アタッシェケースを膝の上に乗せた。 ノパ⊿゚)「どうだった?」 (,,゚Д゚)「武器会社もあの数字を追ってたみたいだ。 つまり、俺達を襲ったのは兵器関係じゃなさそうだ。 だけど、お前のおかげでいい結果が得られたぞ」 ノパ⊿゚)「本当?!」 (,,゚Д゚)「あぁ、答え合わせの時間といこう」 敷地に入り、豪邸の前で車を停めた。 呼び鈴を押し、おずおずと出てきた家政婦に警察手帳を見せつけた。 (,,゚Д゚)「ギコ・ヘイウッド刑事だ。 ツン・ゴットフリートさんに話があってね」
- 96 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:17:44.932 ID:xAQZOW8J0
- 川д川「か、かしこまりました…… どうぞ、こちらに……」
案内され、二人はツンの自室に通された。 そこでは安楽椅子に腰かけて紅茶を飲みつつ、本を読むツンがいた。 二人を見咎め、ツンは本を机の上に置いた。 ξ゚⊿゚)ξ「また、お会いしましたね、刑事さん」 (,,゚Д゚)「えぇ、お会いできて光栄です。 少しお話があります」 ξ゚⊿゚)ξ「どうぞ、私に答えられることであれば」 (,,゚Д゚)「何で、旦那を殺す必要があったんですか?」 単刀直入。 一切の無駄を省いたその言葉に、ギコの後ろにいるヒートが息をのむ音が聞こえた。 (,,゚Д゚)「殺そうと思えばすぐにできたでしょう。 なのに、どうして75年もかけたんですか?」 ξ゚⊿゚)ξ「なるほど、結婚は確かに人生の墓場といいますものね。 刑事さんは冗談がお好きなようですね」 (,,゚Д゚)「旦那さんの体から毒が検出されました。 奥さん、キノコ狩りが趣味でしたよね? なら、キノコが持つ毒の事についても知っているはずです」 ξ゚⊿゚)ξ「あぁ、つまり私が毒キノコであの人を殺したと?」 皺だらけの顔に、冷笑が浮かぶ。 その目は、ギコを見ていなかった。 話しにならない、といった風だ。 (,,゚Д゚)「アンカダケってのは、普通に喰う分には問題のない毒を持っています。 ですが、それが何十年も体内に蓄積され続ければ、結果として死を招きます。 つまり75年をかけた殺人ですよ、これは」 ξ゚⊿゚)ξ「ふふふ、面白い推理ですが、それこそ刑事さんがおっしゃった75年をかける必要性はありませんね。 毒キノコなら、もっと強烈なのがありますよ」 (,,゚Д゚)「俺にはそれが分からないんですよ。 だから直接答えを聞こうと思って、こうしてきたわけです」
- 97 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:20:14.143 ID:xAQZOW8J0
- ツンが僅かに呆れた様な笑みを浮かべ、紅茶を一啜りした。
出来の悪い生徒の答えに苦笑する教師の様だった。 ξ゚⊿゚)ξ「それに、殺す理由がないじゃありませんか。 分からない物を答えるなんて、私には――」 (,,゚Д゚)「困ってるんですよ、ツン・カタストロフさん。 モーリスクラブの元会長で、貴女のお姉さんであるデレーナ・カタストロフが作った、ジーニアス・キラー。 そしてその数字に関わって死んだブーン・ゴットフリートさんは何故、75年もかけて殺されなければならなかったんでしょうか」 今度こそ、ツンの目がギコを見た。 まっすぐに向けられた瞳には、悲しみの色が浮かんでいた。 ξ゚⊿゚)ξ「……そこまで辿り着いていたんですか」 (,,゚Д゚)「教えてもらってもいいですか?」 瞼を降ろし、ツンはゆっくりと息を吐いた。 紅茶を置き、ゆっくりと椅子から立ち上がる。 ξ゚⊿゚)ξ「夫を憎んだことは一度もありません。 だからこそ、75年をかけたんです」 (,,゚Д゚)「殺す必要はあったんですか? 憎んでいないなら、殺す必要はどこにもないはずです」 ξ゚⊿゚)ξ「……8895、ジーニアス・キラー。 姉が作り、天才に送った数字です。 世界平和のために生み出された、一つの発明ですよ」 (,,゚Д゚)「世界平和?」 ξ゚⊿゚)ξ「天才が生きている限り、彼らは多くの兵器を作り出します。 彼らが望むと望まないとに関わらず、です。 人の代わりに仕事をするロボットは今や戦場で人を殺し、難病を救うはずだった薬は散布されて人を難病に追い込みました。 なら、天才がいなくなれば? 発明が終われば? そのためには何をすれば? 天才と呼ばれた姉は、一つの答えを出しました。 天才が世界からいなくなれば、少なくとも、今よりもよくなるだろうという答えです。 自分が死ぬ前に、その時代で最高の天才と呼ばれていた四人に手紙を送り、答えを見る前に姉は亡くなりました」
- 98 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:21:35.200 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「随分と単純な答えですね。
発想が12歳のガキと同じです」 ξ゚⊿゚)ξ「私もそう思いました。 でも、夫が発明した兵器をテロリストたちが使って大勢の人間が殺されている現実を見て、私は考えを変えました。 8895という数字の謎を天才たちに解かせることで、兵器の発明から意識を遠ざけさせ、気を狂わせる。 天才がその力を発揮できなくなることから、この数字はジーニアス・キラーと名付けられたんです。 結果はご存知の通り、大成功でした。 四桁の数字によって天才たちは翻弄され、兵器開発から遠のき、正気を失いました」 (,,゚Д゚)「だが、実際に殺すのであれば数字の存在など不要のはずです。 実際、貴女達は数字で殺したのではなく人間の手で殺したのでしょう?」 ツンは首を横に振った。 ξ゚⊿゚)ξ「今までに手を下したのは夫だけです。 他の天才たちは狙い通りに狂い、自然に死にました。 それに、殺すつもりは最初からありませんでした。 当初の目的は天才の才能を殺すことでしたが、結果的に死んでしまっただけです。 ちょとした副産物です。 兵器開発と同じようにね」 才能を殺す。 天才を殺すという事は、つまりはそういう事でもある。 才能を失った天才は、ただの凡人と化す。 命を奪わずに目的を達成するのであれば、確かに合理的だ。 だが結局は、命を奪う物だった。 ξ゚⊿゚)ξ「数字で人が狂い死ぬものか、と思うでしょうが、人の言葉一つで狂う人間もいるんですよ。 それが言葉か、それとも数字なのか、ということですよ」 言葉の暴力は、学校、家庭、職場などに広まっている。 何気ない一言が人を傷つけ、そして精神を病ませ、自殺に追いやることもある。 天才の思考にのみ影響を与える言葉があっても不思議ではないし、それが数字である場合も有り得るのだろう。 同級生の言葉で心を傷つけられ、身を投げる生徒がいる。 部下の言葉で心を病み、力を失う上司もいるのだ。
- 100 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:24:10.764 ID:xAQZOW8J0
- ξ゚⊿゚)ξ「……あぁ、私が夫を長い時間をかけて殺した理由を知りたいんでしたね。
先ほども言った通り、夫を憎んではいませんでした。 夫の才能を憎んでいただけで、夫を愛していました。 ですが夫は、命ある限り多くの発明をしていました。 狂ってもなお、その才能を失わなかったのです。 なら、多少強引にでも死んでもらう必要があったのですよ、その才能と共にね。 夫への愛情があったからこそ、私はすぐには殺せませんでした。 夫に初めて毒キノコを食べさせた時は罪悪感で苦しい思いをしましたが、姉の夢見た世界平和に少しでも近づけたのですから、十分です」 老婦人の独白にも似た言葉に、ギコは言葉を失っていた。 世界平和のためにと言いながら人を破滅に追いやる行為に、愛も正義もない。 仮に天才の数が減ったところで、世界が平和になるわけではない。 人間が望むから争いが起き、その度に天才の技術が使われるだけだ。 どうしようもないほどの自己満足の行動に、ギコがかけられる言葉は少なかった。 (,,゚Д゚)「……そんなことのために人を殺すのかよ」 ツンは溜息を吐くように、言葉を発する。 ξ゚⊿゚)ξ「分かりますよ、刑事さん。 これは愚かな偽善、どうしようもない独善です。 だからどうしたというのですか? 人はいつでもそうやって生きているものでしょう? 食肉にされる牛の生き死にと同じ、取るに足らない事なのですよ。 それに、私はブーン以外の人間を殺してはいませんよ。 彼らは勝手に死んだだけなんです」 本性が露わになったツンは、だがしかし、全く正気を失っているようには見えない。 これが彼女の本音であり、彼女なのだ。 8895によって世界を変えようとした女の、本来の姿なのである。 世界平和を求めるために、人の正気を奪い、そして夫を殺した殺人者だ。 (,,゚Д゚)「なら、俺は貴女の言う人間のルールに従って貴女を逮捕します」 ギコは物怖じすることなく、はっきりと断言した。 その目の奥には殺意に似たぎらつきを湛えていた。 まるでそれを待ち望んでいたかのように、ツンは微笑を浮かべる。 ξ゚⊿゚)ξ「ふふふ、そうですね。 なら、私は私のルールに従って、逮捕されることにします。 残り少ない老後、堀の中で過ごすのも悪くなさそうですね」
- 101 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:25:40.230 ID:xAQZOW8J0
- (,,゚Д゚)「ヒート、手錠を」
沈黙を守っていたヒートは、手錠を手にツンに近づく。 ξ゚⊿゚)ξ「……最後に一つだけいいですか」 (,,゚Д゚)「何ですか?」 ξ゚⊿゚)ξ「この事を、世間に公表しますか? つまり、8895の事です」 (,,゚Д゚)「言葉や数字で人が殺せる時代なんだ。 そんな言葉、世間に知らせる訳にはいきませんよ。 貴女のことは、遺産目当ての殺人、とでもしておきます」 ξ-⊿-)ξ「そう、それは良かった」 ヒートが手錠をかけた。 その音は、75年の企みが終わり、一人の女の贖罪の日々が始まる音だった。
- 102 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:28:06.399 ID:xAQZOW8J0
- ※ ※ ※
ツン・ゴットフリートの逮捕の翌日、長い梅雨は明け、久しぶりの青空が頭上に広がっていた。 目を細めて空を見上げ、夏の到来を予感させる強い日差しにギコ・ヘイウッドは思わず感嘆の息を漏らした。 (,,゚Д゚)「……おぅ」 今朝の新聞にはツンが遺産目当てにブーンを毒殺したと報じられ、8895という数字はどこにも載っていなかった。 これでいいのだと、ギコは一安心した。 凡人に天才の考えが分からないように、その数字がもたらす力は未知数だ。 死ね、という言葉は8895よりも短いが力を持っている。 それを連呼されれば、大人の人間でさえ死を選ぶ。 勿論、死を選ばない人間もいる。 他の言葉でも同じだ。 身体的欠点を指摘する言葉を言われて傷つく人間もいれば、そうでない人間もいる。 それがトラウマとなり、心を病み続ける人間もいる。 それがたまたま数字の羅列だった、というだけだ。 8895とは、人によっては無意味ではあるが、ある人間に対しては大いに意味を持つ数字。 言葉は武器にも凶器にも、人を守る楯にも癒すための薬にもなる。 言葉の力を改めて実感することになったこの事件は、やがて忘れ去られることだろう。 ノパ⊿゚)「おじさん、今日はどうするの!」 (,,゚Д゚)「だから、おじさんって言うな。 お前がおじさんって呼ぶたびに俺が老けるだろ」 ノパ⊿゚)「えぇー」 (,,゚Д゚)「っていうか、お前はお前の勤務があるだろ。 俺に付いてこなくていいんだぞ」
- 103 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:28:30.808 ID:xAQZOW8J0
- ノパ⊿゚)「あれ? モナー部長から聞いてないの?
あたし、今日からおじさんの相棒になったんだよ」 (,,゚Д゚)「は?」 間抜けな声を出したギコに、ヒートは満面の笑みで答えた。 ノパー゚)「だから、よろしくお願いしますね、おじさん!」 例えば。 そう。 (,,゚Д゚)「だから、おじさんって言うんじゃねぇ」 ヒートが口にするおじさん、という言葉。 これもまた、不思議な力を宿した物なのだ。 (,,゚Д゚)「……氾濫してたヤイサイレパー川の傍で不審車両が見つかったんだ、行くぞ」 ノハ*^ー^)「はい!」 二人は共に歩き出す。 ギコの背中をヒートが追う。 昔と変わらない、ちょっと変わった図の二人。 空はどこまでも透き通り、二人の新たな関係の始まりを祝福するかのようだった。
- 104 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:32:01.494 ID:xAQZOW8J0
- ※ ※ ※
そこは埃っぽく、そして仄かな明るさを保った部屋だった。 部屋の上部にあるステンドグラスのように色のついた窓ガラスは、長年の風化によって色づいた物で、透き通った色とは無縁だった。 部屋には長椅子と長机が並び、小さな教室である事が分かる。 ('A`)「結局、あの刑事は真実に辿り着いたようだな」 鮫島ドクオの声が、しんとした部屋に響く。 ('A`)「ははっ、残念だったな。 しかし君もだいぶ乱暴なことをしたが、あの刑事は公表することをしなかった。 よかったじゃないか、結果オーライだ」 部屋にはドクオ一人だけだった。 よく凝視すれば、彼の耳に小型のヘッドセットがかかっていることに気付き、透視する力があれば懐にある電話が通話状態にある事が分かる。 ('A`)「強盗はちょっとしたハプニングだったが、まさかこの国でカーチェイスをするとはね。 本気で入院させるつもりだったのか?」 沈黙。 ('A`)「そりゃそうか。 だがあのフライトアテンダントはどうやったのかね? ……ほう、なるほど、後催眠にかかったふりとはね。 随分と手の込んだことをしたじゃないか。 そこまでしておけば、流石に彼らも後には引けなくなるからね」 ドクオはタンブラーからコーヒーを喉に流し込む。 ('A`)「で、今後はどうするんだ? あの二人が喋らないとも限らないだろ。 ……あぁ、そうか。 それはすまなかったな。 なぁに、こっちはこっちで気長にやるよ。 人生は割と長いんだ。 やることがあるってのは、いいもんだよ」 ドクオは少しだけ笑った。
- 105 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:33:56.084 ID:xAQZOW8J0
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('A`)「秘密の守り手ってのも、楽じゃないな。 ……あぁ、お互いにな。 それじゃあな、モナー・カタストロフ」 The END
- 69 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 22:33:02.905 ID:bC3qAUZE0
- 姉心のひと?
- 108 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:36:08.482 ID:xAQZOW8J0
- 夜遅くまで支援ありがとうございました!
これにて投下はおしまいです。 何か質問、指摘、感想などあれば幸いです。 >>69 V / / _,, ァ=ニニ:} _ .V /,.ィ"f= <r'ニ三{ |_ ┐ _l_ l 'vf^<''" 弋z.ミ'テtフ |_ Х □_ 匚 L | У 〉!ト _ i{ ´ ̄r' =|' ./ェ゙‐ェi. 、__`_ヤ ( その通りでございます ) ./iュ.Hヽ.、 ゙,ニ/ -^ ー'-.、,i._`ヽ,.仁リ ー - .、 /、
- 112 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:39:08.914 ID:NNaBxYZ4d
- 面白かった
続きが気になる 何の作者?
- 114 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:43:15.255 ID:xAQZOW8J0
- >>112
从´ヮ`从ト 姉心と春の空のようです ζ(゚ー゚*ζお姉ちゃんは強いようです ∬´_ゝ`)が帰ってくるようです ノパ⊿゚)One-Chance(^ω^ )のようです (∪^ω^)おっ! のようです ( ^ω^)はじめてのおつかいのようです ( ^ω^)狼少年のようです ( ^ω^)ぼくのおねーちゃんはすごいようですζ(゚ー゚*ζ を書いていました。 おねーちゃんの人とか呼ばれています。
- 115 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/03(火) 23:45:09.692 ID:xAQZOW8J0
- あとはこの作品の前身となる
8895 http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1459517915/ も書きました
- 120 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/04(水) 00:05:27.105 ID:FdnXPZIT0
- >>115もそうだったんか。
- 121 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/04(水) 00:08:53.134 ID:12J4PdM40
- >>120
8895 したらば⇒シュタラバ (,,゚Д゚)ギコは8895の秘密を追うようです ニュー速VIP⇒ニューソク ヴィップ したらばからVIPに真実を追いに出かけるという演出でございました
- 123 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/04(水) 00:11:02.568 ID:0Fj+IJYa0
- あれ?これは続きはないのか…残念(´・ω・`)
- 124 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/05/04(水) 00:12:04.384 ID:12J4PdM40
- >>123
このネタで連載はきついので……
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