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(,,゚Д゚)LOVE LETTER FROM HEART BEATのようです |
- 2 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 20:41:42.67 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)「……」
規則正しく揺れる電車のリズムに耳を傾けながら、窓の外を見る。 所々に雪の残ったシベリアの街並みが、後ろへと流れていく。 ヴィップはもう葉桜の季節なのに、こっちはまだ桜すら咲いていない。 (,,‐Д‐)「……」 この街に、あいつがいる。また、あいつに会える。 そう思うと、胸が高鳴り熱くなっていくのを感じた。 (,,゚Д゚)「……」 鞄を漁って、丁寧にファイルされた紙をふたつ取り出す。 ひとつは写真。仏頂面の俺に、対照的に満面の笑みのあいつが腕を絡ませている。 ふたりの後ろには満開の桜と、入学式の看板。もう1年前の事だ。 (,,゚Д゚)「しぃ……」 誰に言うでもなく、名前を呼んだ。 そして、もうひとつの紙に視線を移す。 結局渡す事の出来なかった、俺からしぃへの恋便りに。
- 3 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 20:44:21.54 ID:eR2+uwiI0
-
(,,゚Д゚)LOVE LETTER FROM HEART BEATのようです
- 4 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 20:47:07.04 ID:eR2+uwiI0
- ――――――
初めて会った時の事は今でも鮮明に覚えている。 『すいません、本日隣に引っ越してきた羽仁屋です。つまらない物ですが……』 『わざわざありがとうございます。その子はお子さんですか?』 (*゚-゚)『……』 (,,゚Д゚)『……』 しぃはお母さんの後ろに隠れて、不安そうにしていた。 くりくりとした大きな瞳がとても印象的だった。 『ほら、挨拶しなさいしぃ』 (*゚-゚)『……』 『もう……すいません、この子ったら人見知りで……』 『いえいえ、せっかくですしうちのギコと遊んでいかせます?』 『そうしようかしら……子供同士なら打ち解けられるかもしれませんし』
- 6 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 20:51:05.12 ID:eR2+uwiI0
- そう言って、大人は俺にしぃを任せて居間へと入っていった。
玄関先には俺としぃのふたりだけが残される。 (*゚-゚)『ぁ……』 (,,゚Д゚)『……』 (*;-;)『おか……さ……ぅぇっ』 弱弱しい声をあげて、しぃはただその様子を見ていた。 そして、ついには泣き出してしまった。 (,,゚Д゚)『……おい』 (*;-;)『っ!!』 普通に声をかけただけなのに、びくっと体を震わせる。 恐る恐る俺の方を見たしぃは、明らかに俺を怖がっていた。 (,,゚Д゚)『おれ、ギコっていうんだ。よろしくな』 (*;-;)『……しぃ』
- 7 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 20:54:05.18 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)『なんでないてるんだよ。なきむし』
(*;-;)『だ……ておか……さん……いな……うぇぇぇぇん』 声を絞り出してそう答えると、さらに激しく泣き出してしまった。 この時のしぃにとって、お母さんだけが頼れる存在だったんだろう。 (,,゚Д゚)『おまえ、さびしいのか?』 (*;-;)『うぇっ……えっぐ……』 しゃくりあげながら頷く。 子供心ながら、なんとかしてやりたいと思った。 (,,゚Д゚)『じゃあおれがともだちにやってやるよ。そしたらさびしくないだろ?』 (*;-;)『……ともだち?』 (,,゚Д゚)『そう、ともだち。おれとおまえはきょうからともだちだ』
- 8 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 20:57:05.15 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)『こうえんいってあそぼうぜ。ぶらんことかあすれちっくとかあるんだ』
(*;-;)『……おだんご』 しぃは涙を瞳に浮かべながら答えた。 だけど、その声はもう泣いてはいなかった。 (*゚-;)『……おだんごつくりたい』 (,,゚Д゚)『よし、じゃあすなばでおだんごつくってあそぼう』 (*゚-゚)『……うん』 涙をぬぐって、しぃは泣くのをやめた。 俺はその手を引いて、公園へと歩き出す。 (*゚-゚)『……ギコくんギコくん』 (,,゚Д゚)『なんだよ、しぃ』 (*゚ー゚)『……ありがと』 (*゚Д゚)『べ、べつにおれいいわれるようなことじゃねえよ』 今思えば、俺はこの頃からしぃの事が好きだったのかもしれない。 初めて耳たぶが染まる音を聞いた、涼風が吹くあの午後から、ずっと。 ――――――
- 9 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:00:01.30 ID:eR2+uwiI0
- ファイルを鞄に戻して頬杖をついていたら、足元に何か当たる感触がした。
視線を向けると、それは小さなピンク色のゴムボールだった。 なんでこんな物が、そう思って辺りを見渡してみる。 (;^ω^)「お……」 ξ;゚⊿゚)ξ「ほら、おにいさんおこってるじゃない!」 開けっぱなしにしていた客室のドアの前で、ふたりの小さな子供が俺を見ていた。 どうやら、このゴムボールはこの子達の物らしい。 (,,゚Д゚)「これは君達のボールかい?」 拾い上げて、出来るだけ優しく尋ねると、ふくよかな男の子が恐る恐る頷いた。 どうも俺の顔は子供には怖いらしい。思い返せば、しぃにもそう言われた事があった。 (;゚Д゚)「別に怒ったりなんてしてないから、ほら」 (;^ω^)「あ、ありがとうございますお……」 ξ;゚⊿゚)ξ「ごめんなさい……ほら、もっと頭下げる!」 ( ;ω;)「おーん、痛いおツーン!」 ボールを受け取った男の子の頭を、金髪の女の子が無理矢理下げさせる。 この歳にしてすっかり尻に敷かれてしまって不憫だと思えた。
- 11 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:03:03.63 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)「そこまでしなくていいよ、怒ってないって言っただろ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ありがとうございます……」 俺の説得で女の子はようやく男の子を解放した。 男の子は未だに頭を押さえて涙目だ。 (,,゚Д゚)「ふたりはお友達かい?」 自分の思い出と目の前のふたりが重なって、思わず尋ねてみる。 (*^ω^)「ちがうお、ぼくたちふうふなんだお! おおきくなったらちゃんとけっこんするんだお!」 ξ//⊿/)ξ「ち、ちがうもんっ! そんなんじゃないもん!」 実に嬉しそうに、男の子はそう答えた。 女の子は否定こそしているが、その顔は真っ赤に染まっている。 ( ;ω;)「おーん! こないだけっこんしきもしたのにツンひどいおー!」 ξ//⊿/)ξ「だっておままごとじゃない!」 幼さ故の純粋さというのは、見ていて本当に微笑ましい。 それと同時に、好きな相手に好きだと言える事が羨ましく思えた。
- 12 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:06:00.85 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)「なんだ、一緒に遊んでるのにその子の事嫌いなのか?」
ξ//⊿/)ξ「えっと……その……」 もごもごと、何か言いたげに口を動かす。 きっと本心を言うのが恥ずかしいんだろう。 (,,゚Д゚)「言わないから、お兄ちゃんにこっそり教えてくれないか?」 女の子の前でしゃがみこんで、耳に手を当ててお願いする。 少し考え込んでから、小さな手で周りに漏れないように筒を作ってこっそり教えてくれた。 ξ//⊿/)ξ「わたしだって……ブーンことのすきだもん」 (,,゚Д゚)「……そっか。おい、ボウズ」 ( ;ω;)「おーん、おーん……お?」 立ちあがって、今度は未だに泣きじゃくる男の子の前でしゃがみこむ。 (,,゚Д゚)「いつまでも泣いてるんじゃない。ツンちゃんに嫌われちゃうぞ?」 ( ;ω;)「それはいやだお……」 (,,゚Д゚)「だったらもう泣くな。もっとかっこいいとこ見せてやれ。 そうしたら、好きになってくれるかもしれないぞ?」
- 14 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:09:01.10 ID:eR2+uwiI0
- 最初は何を言われてるのか分からないようで、ぽかんとした表情をしていた。
だけど、しばらくして男の子は目をごしごしと擦って顔を上げた。 目の周りこそ真っ赤だが、その瞳は確かに力強い輝きを帯びている。 ( ^ω^)「よくわかんないけど、もうなかないお。それで、ツンにすきになってもらうお!」 (,,゚Д゚)「おお、さっきより全然かっこいいぜ。ツンちゃんもそう思うだろ?」 ξ//⊿/)ξ「え……あ……はい」 (*^ω^)「ほんとかお!?」 ほんの少し意地悪をして、女の子に問いかける。 すると、以外にも小さい声ながら正直に答えた。 ただ、その顔はさっきよりも真っ赤だった。 (,,゚Д゚)「よかったな、ボウズ」 (*^ω^)「ありがとうだお、おにいちゃん!」 ξ//⊿/)ξ「た、た、たまにはほめてあげないとかわいそうだとおもっただけだからねっ! ほら、もうおかあさんたちのところもどるわよ!」 (*^ω^)「わかったお! ばいばーいおにいちゃーん!」 女の子は不自然に話題を逸らして、男の子の手を引いて客室から出ていった。 男の子は、俺が見えなくなるまでお礼を言いながら手を振っていた。
- 16 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:12:00.82 ID:eR2+uwiI0
- 静かになった客室の中、俺は再び頬杖をついて窓の外を見る。
あの子たちは大きくなってどうなるのだろう。 本当に結婚するのか、それともなんらかの理由で疎遠になってしまうのか。 (,,‐Д‐)「……」 目を閉じて、あの子たちが大きくなっても変わらない未来を描いてみる。 それが現実になる事を俺は願わずにはいれなかった。 それは、 『―‐くん、ギ――ん』 俺は変わらずに大きくなって、 『ギコ――、―コくん』 それが幸せだと思えたからかもしれない。
- 18 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:15:04.42 ID:eR2+uwiI0
- (*゚ー゚)『ギコくんギコくん! ほら笑って!』
(;‐Д‐)『言われると余計笑えねぇもんなんだよ……』 (*゚ー゚)『じゃあもっとくっついて! 入学式の看板と一緒に写るんだから!』 そう言ってしぃは俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。 (;゚Д゚)『おまっ……』 (*゚ー゚)『ほら、カメラの方向いて! いいよー、かあさーん!』 『撮るわよふたりともー、1+1はー?』 (*^ー^)『にー!』 (;゚Д゚)『にー……』 俺としぃは小学校、中学校と同じ所に通った。 そして一年前、高校も同じ所に通う事になった。
- 19 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:18:03.24 ID:eR2+uwiI0
- (*゚ー゚)『ギコくんギコくん』
しぃがいつものように二回、名前を呼ぶ。 小さい頃からずっと変わらない癖だった。 (,,゚Д゚)『なんだ?』 (*゚ー゚)『高校でもバスケ続けるの?』 (,,゚Д゚)『聞くけど、俺が続けなかったらしぃはどうするんだ?』 (*゚ー゚)『そりゃもう、続けるって言うまで説得するよ?』 (;‐Д‐)『……やっぱりな。まあ、俺も続けるつもりだから。説得は勘弁してくれ』 (*^ー^)『そっかぁ、じゃあわたしマネージャーになるね』 俺がバスケを始めたのは小学生の頃だった。 授業でバスケをやった後、しぃが俺の事をかっこよかったと言ったから。 その頃の俺にとって、それは動機には充分過ぎた。 (*^ー^)『レギュラーになれるといいね、わたしも応援するね』 今はバスケは好きでやっているが、しぃの存在も立派な続ける動機のひとつだった。 上手くなれれば楽しいし、上手くなればこうやって嬉しそうに笑ってくれるから。 ~~~~~~
- 22 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:21:04.94 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)『ふっ!』
(;'A`)『ちぃっ!』 ドリブルで抜くと見せかけて打ったシュートが、ゴールに吸い寄せられるように入った。 (*^ー^)『ナイッシュー!』 (,,゚Д゚)『ありがとうございました、先輩』 (;'A`)『まだ一年のくせにとんでもねえ奴だ……』 (*゚ー゚)『お疲れ様です、先輩!』 しぃがドリンクをふたつ持ってこっちへ駆け寄って来た。 (*'A`)『あ、うん……ははは』 (*^ー^)『ギコくんギコくん、すごかったね! かっこよかった!』 (*‐Д‐)『……たまたまだよ、やっぱり簡単にはやらせてくれない』 ('A`)『……リア充爆発しろ』 三年生も引退して、新チームが始動したばかりの秋。 バスケ部に入った俺は、一年生ながら夏の試合にも出させてもらえた。 そして、今度の新人戦では一桁の番号も貰えて、レギュラーでいく事になっていた。
- 26 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:24:03.78 ID:eR2+uwiI0
- (´・ω・`)『それじゃあ、今日の練習はこれで終わりだ。お疲れ様』
(,,゚Д゚)『お疲れさまでした!』 キャプテンが練習の終了を告げると、みんなぞろぞろと部室へと歩いていく。 俺も挨拶をしてから、すこし遅れて部室へと向かった。 ('A`)『おう、お疲れ。ちょっといいか?』 (,,゚Д゚)『お疲れ様です、先輩……いいですけど何か?』 ('A`)『ああ……お前に聞きたい事があってな』 どうやら俺を待っていたらしく、先輩は部室の外へ俺を連れだした。 ('A`)『あのさ……しぃちゃんの事なんだけど』 (,,゚Д゚)『あいつがどうかしました?』 ('A`)『いや……お前と……付き合ってたりするのかな、って……』 (;゚Д゚)『え……い、いやそんな事はないです』 ('A`)『そうか……じゃあさ、誰かと付き合ってるとか好きな人がいるとか』 (;゚Д゚)『分からないですけど……見た感じはそんな気配は全く』
- 29 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:27:24.82 ID:eR2+uwiI0
- 心臓がドクンと高鳴り、さっきまで掻いていたのとは違う汗が頬をつたう。
先輩は大きく何度も頷きながら話を続ける。 ('A`)『そっかそっか……ありがとな』 (;゚Д゚)『も、もしかして……先輩ってしぃの事……』 ('A`)『んー、まあ……今お前が考えてる事で合ってるだろうな』 照れくさそうに顎を掻いて、先輩はそう言った。 自分の心臓がより一層強く脈打つのを感じた。 (;゚Д゚)『あいつの……しぃのどこがいいんですか?』 ('A`)『俺さ……あんまり人と話すの得意じゃないんだわ。 それで顔もこんなだろ……マネもろくに話しかけてこねえ』 先輩はそう言って体育館の入り口を見つめた。 その視線を追うと、ボールを片付けるマネージャー達の姿があった。 (*^ー^) o(^ー^*川o 当然、その中にはしぃの姿もあった。隣の子と喋りながらボールを運んでいる。
- 32 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:30:02.85 ID:eR2+uwiI0
- ('A`)『でもな……あの子は誰にでも変わらずに話しかけてくれる。
レギュラーにもベンチ外の奴にも、一年にも三年にも、そしてこんな俺にも』 (,,゚Д゚)『……』 ('A`)『ろくに女子と話した事もない俺はコロッと惚れちまった訳だ。おかしいだろ』 (,,゚Д゚)『……おかしくなんてないですよ。そんな事、絶対にないです』 胸が得体のしれないもやで埋め尽くされる。 それでも、口は本心を隠して言葉を紡いだ。 (,,゚Д゚)『先輩は口数は多くないけど、優しい人だし一生懸命な人です。 俺もしぃも先輩はいい人だって知っています』 ('A`)『でも、伝えたら嫌われたりしないかねえ……』 (,,゚Д゚)『そんな奴じゃないですよ、あいつは』 ('A`)『お前がそう言うなら、そうなんだろうな…… 俺ビビりだからどうなるか分かんねえけど。 疲れてるとこ悪かったな、もういいよ。ありがとな』 (,,゚Д゚)『いえ……』 みんなが帰った部室にふたりで戻って、俺と先輩は帰り支度をした。 先輩はすぐに帰り、俺は校門でしぃが来るまで待った。
- 34 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:33:03.07 ID:eR2+uwiI0
- (*゚ー゚)『ごめーん、待った?』
(,,゚Д゚)『……いや』 (*゚ー゚)『もしかして……怒ってる?』 (,,゚Д゚)『……いや』 さっきの事があってか、しぃの顔をどうも見れない。 そんな俺の様子を察して、しぃは覗きこむようにして俺に尋ねて来た。 (*゚ー゚)『……うん、ギコ君がそんなに言うならきっとそうなんだろうね』 そう言うと、前を向いて俺の少し先を歩き出した。 (,,゚Д゚)『大した事じゃないから心配するな』 背中に向かって、ぽつりと言った。 (*゚ー゚)『じゃあ、大した事になったら心配するね』 振り向いたしぃは、それ以上何も言ってこなかった。 口下手な俺への、ささやかな気遣いなんだろう。
- 37 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:36:03.07 ID:eR2+uwiI0
- 小さい頃のしぃは、俺がいないと何も出来ない気弱な子だった。
だけど、歳を重ねるにつれて、俺に足りない物を埋めるかのように明るい女の子になった。 それで目立つようになったからか、先輩のような相談も初めてじゃない。むしろ多すぎてまいってた時期もある。 (,,゚Д゚)『……』 元々とても愛嬌のある顔をしていたのだから、それも仕方ない。 それより不思議なのは、しぃからそういう話を今まで聞いた事が無い事だ。 俺によくそういう話を振ってくるし、色恋沙汰に興味がないようにはとても見えなかった。 (,,゚Д゚)『……』 (*゚ー゚)『ん? どうしたの?』 もし、しぃに好きな人がいたら。 もし、しぃに恋人が出来たなら。 俺とこうして歩く事も無くなるのだろうか。 (,,゚Д゚)『……持ってやる』 (;゚ー゚)『あっ……別にいいのに』 脳裏によぎった考えを振り払うかのように、しぃの鞄をひったくりに近い形で持った。 ~~~~~~
- 39 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:39:04.62 ID:eR2+uwiI0
- 何があっても、俺達はいつまでも変わらずにこうしていれる。
胸の片隅にある、一抹の不安を押し殺すようにそう思っていた。 だけど、 (* ー )『ギコくんギコくん』 (,,゚Д゚)『……なんだ?』 制服も長袖になった頃の、ひんやりとした茜時の事だった。 (* ー )『わたし、告白された』 (,,゚Д゚)『……え?』 ずっと変わる事のなかった何かは、音を立てて崩れ去った。
- 43 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:42:14.07 ID:eR2+uwiI0
- (* ー )『これがね、下駄箱に入ってたの』
(,,゚Д゚)『これって……』 見せられた一枚の紙は、恐らくラブレターというやつだろう。 (* ー )『差出人の名前はなかったけど、校舎裏で待ってるって』 (* ー )『待ってたらね、ドクオ先輩が来たの』 (* ー )『それで、付き合ってくれって。いたずらでもなんでもないって』 うつむきながら話すしぃの表情は読み取れない。 出来るだけ平静を装って、話の続きを催促する。 (;゚Д゚)『そ、それで……しぃは、しぃはなんて返事をしたんだ?』 (* ー )『ありがとうございます、すごく嬉しいです』 (;゚Д゚)『……っ!』 (* ー )『先輩はとても優しくて素敵な人だと思います』 頭の中が真っ白になって、体を不穏な浮遊感が襲った。
- 45 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:45:16.03 ID:eR2+uwiI0
- (* ー )『でも……でも、わたし好きな人がいるんです』
(;゚Д゚)『えっ!?』 その言葉に、手放しかけていた意識を覚醒させられる。 (* ー )『だから、先輩の気持ちには応えられません。ごめんなさい』 (*゚ー゚)『以上、わたしの返事でした』 少しおちゃらけたようにそう言って、しぃは顔を上げた。 (;゚Д゚)『好きな人いるのか!?』 (*゚ー゚)「ギコくんギコくん、気になるの?」 (;゚Д゚)『ふ、普段そんな話しないから驚いているだけだ!』 思い返せば、それが気になるという事なのに俺は何を言っていたんだろう。 (*^ー^)『いるよ。すごーく優しくて、すごーくかっこいい人なの』 慌てふためく俺で遊ぶかのように、しぃは意地が悪そうに笑った。
- 49 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:48:02.04 ID:eR2+uwiI0
- (*゚ー゚)『ほら、呆けてないで帰ろうよ』
(,,゚Д゚)『あ、ああ……』 手を引いて促されて、俺は初めて自分が立ち止まっていた事に気付いた。 (,,゚Д゚)『……』 俺の少し前を、しぃは夕日に向かって歩いていく。 細くて茶色い髪が透けて、きらきらと光っていた。 (*゚ー゚)『歩くの遅いよ、置いてっちゃうよ?』 (,,゚Д゚)『悪い……』 さっき、俺は真っ先に目の前の光景を失う事を恐れていた。 ずっとしぃとこうしていたい、という想いの裏返しだろう。 (,,゚Д゚)(じゃあ……どうしたらずっとこうしていられる?) 巡り巡った思考は、ひとつの結論に辿り着いた。 しぃが俺を好きになってくれれば、想いを伝えて恋仲になれれば。 そうすれば、誰かと付き合う事もない。
- 50 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:51:04.07 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)(どうやって伝えよう……)
ふと、脳裏をさっきしぃが見せたラブレターがよぎった。 (,,‐Д‐)(……いいかもな) 俺は自他共に認める口下手な人間だ。 告白なんて、何を言ってるのか分からなくなる事間違い無しだろう。 その点、書いてしまえば言いたい事が上手く伝わらない事もなんてない。 (#゚ー゚)『もー、さっきからずっと上の空! 置いてくからね!』 (;゚Д゚)『あっ……すまん、しぃ! 置いて行かないでくれ!』 この日から俺は、生まれて初めてラブレターという物を書き始めた。 ――――――
- 52 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:54:03.41 ID:eR2+uwiI0
- ( "ゞ)「どうも、切符を拝見させていただきます」
扉を開く音に振り向くと、その先には駅員が立っていた。 目元を覆い隠すほど伸びた前髪が、帽子からはみだしている。 (,,゚Д゚)「……はい、どうぞ」 ( "ゞ)「どうもありがとうございます。御一人ですか?」 切符を切り終えると、駅員は親しげに話しかけてきた。 都会のVIPではありえない行動に、少し戸惑いながら答える。 (,,゚Д゚)「え……まあ、はい」 ( "ゞ)「その様子ですと、シベリアに来るのは初めてのようですね。 駅員が普通に話しかけてくるなんて、なかなか他じゃないでしょう?」 (,,゚Д゚)「そうですね……少しびっくりしました」
- 54 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 21:57:03.17 ID:eR2+uwiI0
- ( "ゞ)「でも、これがこのシベリアでは普通なんです。
シベリアは訪れた人を誰でも歓迎し、積極的に交流していく。 極寒の地ですが、人の心はとても暖かい街ですよ」 そう言うと、駅員は柔和な笑みを浮かべた。 その笑顔がシベリアという街をまさしく体現しているように思えた。 ( "ゞ)「しかし、見た感じ大分お若いですね。 ここはお世辞にも若い人が喜ぶような者がある場所ではありません。 シベリアにはどういった御用件で?」 (,,゚Д゚)「……シベリアに幼馴染がいるんです。 学校が休みの期間を利用して、会いに行く途中なんです」 俺にしては珍しく、スムーズに会話が進む。 まるで初対面ではなく、何年も付き合ってきたかのようだ。 ( "ゞ)「ふむ、幼馴染がいるという事はあなたもシベリア出身ですか?」 (,,゚Д゚)「いえ、実は……」 ――――――
- 55 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:00:01.18 ID:eR2+uwiI0
- (;゚Д゚)『僕は……あなたの事が……』
(;゚Д゚)『いや、俺こんなキャラじゃないしな……』 消しゴムで消すも、何度も書き直し過ぎて完全に消えない。 大きなため息を吐いて、緊張の糸を一旦切る。 適当に紙飛行機を作ってゴミ箱へ投げると、綺麗に吸い込まれていった。 (;‐Д‐)『ゴミ箱に綺麗に届いても意味がないんだよ……』 胸に詰まっている想いも、これくらい簡単に届けばいいのに。 それを妨げる文才の無さが憎たらしくて仕方なかった。 (;゚Д゚)『えーと……好きだ。付き合え。 駄目だ、いくらなんでも無愛想過ぎる』 再び緊張の糸をつなぎ合わせて、鉛筆を走らせる。 こんなに一生懸命に机に向かう事なんて、これが最後だろう。 こうして、学校から帰ったらラブレターを書く日々が延々と続いた。 A4の紙が無くなって、たまたまあったB5の紙に書いたら不思議とすらすら書けた日もあった。 次の日、小遣いを全てB5の紙に変えて少し後悔したりもした。 そして、街がクリスマスムードに包まれた頃、ようやくラブレターは書き上がった。
- 57 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:03:14.61 ID:eR2+uwiI0
- (,,‐Д゚)『ふあ……』
(*゚ー゚)『ギコくんギコくん、今日も眠たいの?』 マフラーで口元を覆ったしぃの吐く息が、白雪のように宙を舞う。 温暖化だのヒートアイランドだの言われても、登校の時間はさすがに応える寒さだ。 (,,゚Д゚)『まあ、な……あまり寝ていない』 (#゚ー゚)『ダメだよ、ちゃんと寝ないと! 最近よくあくびしてると思ったら、もう! まったく……寝ないで何してるんだか』 少し前からずっとあなた宛てのラブレターを書いていました。 そして、それが昨日書き上がりました。 なんて事が言える訳もなく、適当にごまかす。 (;゚Д゚)『お、面白い番組がやっててな……つい夜更かしをしてしまうんだ』 (*^ー^)『ギコくんギコくん、目が泳いでるよ?』 長い付き合い故か、あっさり嘘を見破られる。 ちらりとしぃを見ると、目が笑っていない笑顔が飛び込んできた。 ここで本当の事は言えないが、謝らないと大変な事になる気がした。 (;゚Д゚)『……すまない、今は言えない』 (*゚ー゚)『ふーん……じゃあそのうち言ってくれるんだよね?』 (;゚Д゚)『言う! 必ず言うから……その時まで待っていてくれ』
- 59 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:06:07.78 ID:eR2+uwiI0
- (*゚ー゚)『しょうがないな、約束だよ?』
はい、と言って小指を立てた手を差し出してくる。 細く、小さな指が折れてしまわないように、恐る恐る小指を絡めた。 (*゚ー゚)『ゆーびきーりげんまん、うーそついたらはーりせんぼんのーます、ゆーびきった』 (;゚Д゚)『ゆーびきった……と』 (*^ー^)『ちゃんと言ってくれなきゃ、ヤダよ?』 (,,‐Д‐)『……ああ』 もし俺に告白されると知ったら、しぃはどんな顔をするだろうか。 もし俺に告白されたら、しぃはどんな顔をするだろうか。 今みたいに、笑って聞いてくれるだろうか。
- 60 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:09:04.04 ID:eR2+uwiI0
- 思案にふけっていると、前方からよし、と小さな声が聞こえた。
前を見るとしぃが眉をキッと上げて俺の方を見ていた。 (*゚ー゚)『そういえばさ……クリスマス、って空いてる?』 (,,゚Д゚)『家で過ごす、ってのが予定に含まれないなら……空いてるぜ』 (*゚ー゚)『そっか……だったらさ、わたしと一緒にお買い物しようよ』 (,,゚Д゚)『……え?』 思いも寄らない提案に言葉が詰まる。 その間にもしぃは会話を続けた。 (*゚ー゚)『駅前でお買い物したり、ついでにご飯食べたり……あ、ツリーも見てみたい』 (,,゚Д゚)『あ、ああ……いいんじゃないかな……』 反射的に口から、内心に正直な返事が漏れる。 (*゚ー゚)『よかったぁ……絶対だからね! 他の約束入れちゃダメだよ!』 (;゚Д゚)『しないしない! 絶対しない!』 (*^ー^)『ははは、ギコくん慌てすぎ』
- 61 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:12:05.57 ID:eR2+uwiI0
- そう言って、笑いながら俺の周りをくるくると回る。
何回か回って、何故か俺の後ろで急にしぃが止まった。 違和感を感じて後ろを向こうとした時、神妙な声で一言だけ呟いた。 『ありがとう……本当にありがとう』 (,,゚Д゚)『どうした? 急にそんな事言いだして』 すぐに俺を追い抜いて、しぃはこちらを振り向いた。 その表情にさっきの声のような暗さはない。 (*゚ー゚)『なんでもないよ、お礼言っただけ。さー、学校へ急ごう!」 (,,゚Д゚)『……変な奴だな』 乾いた空気を裂いて、しぃは駆けていった。 追いつこうと加速するための一歩を踏み出す。 その時、俺の頭の中で電球がつくかのようにある考えが浮かんだ。 (,,゚Д゚)(そうだ、クリスマスに渡そう……これ以上ないってくらいのいいタイミングだ) 渡す時期は決まった、あとはどうやって渡そう。 しぃを追い抜いてしまい、後ろから呼び止められるまで俺はそればかり考えていた。 ~~~~~~
- 63 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:15:04.87 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)『ふう……』
迎えたクリスマス当日の夜。 缶コーヒーを撫でて暖を取りながら、上を見上げた。 夜空に星をちりばめるかのように輝くもみの木が視界を覆った。 (*゚ー゚)『ごめーん、待った?』 (,,゚Д゚)『いや、今来たところだ』 (*゚ー゚)『うっそだー、遠くからずっと座ってるの見えたもん』 (,,゚Д゚)『すまん、本当は15分前には着いていた』 (*゚ー゚)『寒かったでしょ? さ、早くお店の中入って温まろう?』 一直線に俺の元へ走って来たしぃは、あっさり嘘を看破する。 そして、桜色の手袋をはめた手を差し出してきた。 (*゚Д゚)『……ああ』 顔の血流が良くなるのを感じながら、ゆっくりとその手を取る。 小さい頃はこうして手を繋いであちこち行ったものだ。 大きくなった今、この行為はとても特別な事に感じられた。
- 64 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:18:07.19 ID:eR2+uwiI0
- (*^ー^)『あ、顔赤いよ。サンタさんみたい』
(*゚Д゚)『そ、そんな訳ないだろう……』 視界の隅にビラを配るサンタが見えた。 いくらなんでもあそこまでじゃないだろうが、少し心配になる。 (*゚ー゚)『ほーら、鏡だったらお店の中に入ればたくさんあるから。 早く行こう、わたしも寒くなってきちゃった』 ショーウインドウをチラチラと見ようとする俺の心を読んだのか。 しぃは小さな手に力を込めて、俺を引っ張って歩き出した。 (;゚Д゚)『おわったたたた……』 急に引っ張られたために、少しバランスを崩しながらも付いていく。 心なしか、いつもより歩くのが速めに感じられた。 揺れる栗色の髪から覗く耳は、しぃの言葉を借りるならサンタのように赤かった。 ~~~~~~
- 66 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:21:04.35 ID:eR2+uwiI0
- (*^ー^)『あー、楽しかった楽しかった』
(;゚Д゚)『ああ、楽しかった……』 (*゚ー゚)『どうしたの、難しい顔して?』 (;゚Д゚)『いや、なんでもない……』 別に楽しくなかった訳じゃない、今までで一番楽しいクリスマスだった。 そして、これからしようとする事が最高を最低に塗り替えるかもしれない。 人ひとりいない住宅街の静寂の中で、自分の鼓動がやけに大きく聞こえた。 (;゚ー゚)『もしかしてあんまり楽しくなかった?』 (;゚Д゚)『そんな事ない! 最高に楽しかった!』 (*^ー^)『そっか、わたしも最高に楽しかった。ありがとうギコくん』 渡すチャンスがあるとしたらしぃの家の前だろう。 一歩、また一歩と踏み出すたびにそこへ近付いて行く。 ポケットの中で拳を強く握ると、こっそり忍ばせておいたラブレターがかさり、と音を立てた。 (* ー )『到着しましたー、今日はありがとうございました』 (;゚Д゚)『……ああ』 ついに家の前に着いて、しぃはぺこりと頭を下げてお礼を言う。 ラブレターを折れないように、そっと握りしめる。 そして、深呼吸を一回。意を決してしぃの名前を呼ぼうとした。
- 67 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:24:05.39 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)『なぁ、し……』
(* ー )『ギコくんギコくん、ごめん……』 (;゚Д゚)『え?』 ほんの少しだけ早く、しぃが謝罪の言葉を口にした。 俺にはしぃに謝られる覚えなんてなく、事態がさっぱり飲み込めない。 下げられた頭を上げないまま、しぃは続けて口を開く。 (* ー )『ずっと……ずっと言わないと、って思ってた…… でも、言っちゃったらいつもみたいに話してくれないと思って……』 (;゚Д゚)『な、何を……』 震える体と声で、はっきりと泣いているという事が分かった。 そしてそのまま、俺の疑問に最悪の答えを返してくれた。 (*;ー;)『わたしね……引っ越すんだ。シベリアって知ってるかな……? すっごい遠いところなの。地図の端っこにあるんだよ……』 (;゚Д゚)『な……い……いつ!?』 (*;ー;)『明日。秋には決まってて、ほんとはもっと早かったの……でもね。 最後くらい……ギコくんとクリスマス過ごしたいなぁ、って思って…… クリスマスまでわたしだけこっちに残って……それで、それで……』
- 68 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:27:09.27 ID:eR2+uwiI0
- しぃの家をよく見てみると、家中の電気が消えていた。
家の中で誰かが生活している気配は、全くない。 (*;ー;)『びっくりさせちゃってごめんね……ごめんね…… わたしが勇気出なかったから……ギコくんに……迷惑……』 (,,;Д;)『もういい……いいから……っ!』 ラブレターから手を離して、しぃの体を抱き寄せる。 それがスイッチだったのか、脳がようやく事態を理解したのか。 いきなり視界がにじんで何も見えなくなってしまった。 (,,;Д;)『迷惑なんかじゃない……謝る必要なんてない…… だから……泣くなっ……泣かないでくれ……!!』 (*;ー;)『ギコくんも泣かないでよぉ……悲しくなっちゃう……』 (,,;Д;)『無理だ……っ、そんなの……無理だ』 いなくなってしまう寂しさ。笑顔に出来ない悔しさ。 いろんな感情が混ざり合って、涙となって頬をつたう。 その年のクリスマスは最高に楽しくて、そして悲しかった。 ~~~~~~
- 69 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:30:03.61 ID:eR2+uwiI0
- 『なぁ、本当に行かないでいいのか……見送り』
『うん、大丈夫。わたしだってひとりで駅くらい行けるもん。 それに……シベリアに行きたくなくなっちゃいそうだし』 『……そうか』 『ギコくんギコくん』 『なんだ?』 『ありがとう、ギコくんがいたからここでの生活……すごい楽しかった』 『俺も……俺もしぃがいたから、すごく楽しかった』 『もう……行く気無くさせるような事言わないで』 『ごめん……』 『せめて、せめて電車の時間だけでも教えてくれないか?』 『しょうがないなぁ……9時7分だよ。見送り来ちゃダメだよ?』 『……分かった』 『……それじゃあ、おやすみギコくん』 『……おやすみ、しぃ』 『それと……ばいばい、ギコくん』
- 71 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:33:03.45 ID:eR2+uwiI0
- (;゚Д゚)『はっ……はっ……』
昨夜の別れ際のやり取りを思い返しながら、階段を駆け上がっていく。 いくら冬とはいえど、体の内側から燃えてしまいそうなほどの熱さを感じる。 (;゚Д゚)『げほっ……くっそ……』 ヴィップの端にある、街全体を見下ろせる小高い丘の頂上。 ここから見送るならしぃだって文句は言わないだろうと思った。 (;゚Д゚)(余裕持って出たつもりだったんだけどな……) 地元ながら今まで行ったことがなく、ここまで急な階段続きだとは知らなかった。 おかげで思っていた以上に時間を食って、走らなければ電車を見送れない事態に陥った。 (#゚Д゚)『ああああああああああああああっ!!!!』 思い切り叫んで腿を叩き喝を入れる。 不思議と足が軽くなったような気がした。 しぃの顔を脳裏に浮かべ、俺は一段飛ばしで再び階段を駆け上がり始めた。
- 72 名前:>>70あんまりないですサーセン ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:36:04.36 ID:eR2+uwiI0
- 見つめる世界を横切るように動く何かが見えた。
それは一台の電車。静寂に包まれた冬の朝の中で、やけに目立っている。 腕時計に視線を落とすと、9時7分をほんの少しだけ過ぎていた。 (,,゚Д゚)『……あ』 (,,;Д゚)『……ああ』 (,,;Д;)『あああ……』 そうするのが当たり前のように涙が溢れてくる。 せっかくの絶景も台無しになってしまった。 それでも俺はずっと見つめていた、そうしないといけないと思った。 (,,;Д;) あの時はなんで泣いたのか分からなかった。 だけど、思い返して行きついた考えがある。 フィクションの中で、あの電車だけはリアルだと知っていたから。 目を背けたいほど悲しい事は、嘘なんかじゃないと突き付けられた気がしたから。 ――――――
- 73 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:39:05.02 ID:eR2+uwiI0
- ( "ゞ)「なるほど……そんな事が」
(,,゚Д゚)「初対面の人にここまで話したのは初めてですよ」 ( "ゞ)「私が初めてですか。それは光栄ですね。 ところで……渡さなかったんですね、ラブレター」 この人、おとなしそうな顔の割になかなか積極的だ。 前髪に隠れている目はきっと、爛々と輝いているのだろう。 (,,‐Д‐)「あいつが困る顔なんて見たくなかったんです。 結果がどうであれ、あいつの心残りになると思いました」 ( "ゞ)「それでも諦めきれず、渡すためにシベリアまで訪れた。 ここにいる理由はそんなところで合っていますでしょうか?」 (;゚Д゚)「っ!?」 話した覚えがない事を言い当てられ、驚きのあまり体が少し飛び上がる。 一気に大きくなった鼓動は、やがて俺の顔にじんわりと汗をかかせた。 駅員はふふふ、と軽く微笑むとある一点を指差しながら言った。 ( "ゞ)「おや、気付いていなかったんですか。 話をしている間、ずっと大事そうに鞄を撫でていましたよ。 中に入っている物は、話から大体想像がつきました」
- 74 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:42:03.14 ID:eR2+uwiI0
- 見事に言い当てられた俺は、ただ頷いて肯定するしかなかった。
この観察眼は駅員と言う職業柄、数多くの客と接して鍛えられたのだろう。 ( "ゞ)「私の青春時代は振り返ると後悔ばかりの日々でした。 それでも戻りたい、と無性に思う時があります。 あの頃にしかなかったのに、そこに置いてきてしまったものを取りに帰りたいと」 (,,゚Д゚)「……」 しみじみと話す駅員の声に、そっと耳を傾ける。 俺を見ると駅員は会釈をして、話を続けた。 ( "ゞ)「あなたの目に映っているものは、今しか見えないものです。 もし、ずっとそばにあって欲しいなら……掴んだら離してはいけませんよ」 (,,゚Д゚)「……はい」 ( "ゞ)「さて、少し道草を食ってしまいました。ここらで普通の駅員に戻るとしましょう。 それでは。微力ながらあなたの幸運を祈っています」 (,,゚Д゚)「ありがとうございます、駅員さんも御仕事頑張ってください」 口角を少しつり上げ、駅員は軽く手を振りながら客室から出ていった。
- 76 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:46:26.11 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)「……ふう」
窓の外に視線を戻すと、シベリアの街中には不釣り合いなほど大きな建物が見えた。 そこから俺の乗っている電車まで線路が伸びている。 いつの間にか、終着駅のシベリア中央駅が目前にまで迫っていた。 やがて、到着を告げるアナウンスが聞こえてくる。 すぐに他の客室から出てきた人たちで通路が埋め尽くされた。 (,,゚Д゚)「よっと……」 ゆっくりと立ち上がり、ぐるりと客室を見渡す。 忘れ物はない。初めて見た時と何一つ変わらない。 よし、と呟いてドアを開き、人混みの中へと潜っていった。 (,,゚Д゚)「ん……?」 (*^ω^)ξ*゚⊿゚)ξ 流れていく人混みの中で、あのふたりを見つけた。 保護者であろう大人に手を引かれながら電車を降りていく。 空いているもう片方の手を、お互いにがっちりと繋ぎ合っていた。
- 77 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:48:35.46 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚ー゚)「……」
傍から見たら誤解されかねないなと思いながらも、つい頬が緩んでしまう。 俺はふたり見えなくなるまで、その光景を見つめていた。 (,,゚Д゚)「俺も降りないとな……」 言い聞かせるようにして呟き、視線を戻す。 ( "ゞ)「ありがとうございました、いってらっしゃいませ。いってらっしゃいませ」 その先では、あの勘のいい駅員がひとりひとりに挨拶をしていた。 あの後、ちゃんと全員の切符は切れたようだ。 そんな事を考えているうちに、俺も駅員の前まで辿り着く。 ( "ゞ)「ありがとうございました、上手くいく事を祈ってます。いってらっしゃいませ」 確かに俺を見て微笑みながら、駅員は頭を下げた。 返事をしようとするも、人の波に流されてどんどん遠ざかっていく。 ホームに降りてから立ち止まって振り返るも、当然だが車内にいるその姿は見えない。
- 78 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:51:04.05 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚Д゚)「……」
どうするべきか少し考えて、俺は改札へと向かう。 祈っていてくれるなら、俺がすべきなのは戻る事ではなく成功させる事。 心よりの恋便りを背中にしまい、しぃに届けるべく改札をくぐった。 ~~~~~~ ミ,,゚Д゚彡「……なんだろこれ」
- 80 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:54:02.75 ID:eR2+uwiI0
- (;゚Д゚)「フサ! おまっ……それを渡せ!」
ミ,,゚Д゚彡「ねー、なにこれー?」 (;゚Д゚)「い、いいから渡しなさい!」 ミ;゚Д゚彡「あー!」 (#゚ー゚)「朝っぱらから何やってんの、もー!」 ミ;゚Д゚彡「だってとうちゃんいじわるするんだもん!」 (#゚ー゚)「フサは早く幼稚園行く支度しなさい! お母さん怒るよ!?」 ミ,,;Д;彡「……分かった」 (;゚Д゚)「もう怒って……」 (#^ー^)「ギコくんギコくん、会社行く支度しないでフサと何してたのかなー?」 (;゚Д゚)「……すいません」 (*゚ー゚)「あら、それって……」 (;゚Д゚)「机の上に置いてあって、フサが見ようとしててな……」
- 81 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 22:57:06.44 ID:eR2+uwiI0
- (;゚ー゚)「ごめんね、私が出しっぱなしにしてたみたい」
(,,゚Д゚)「そうだったのか……しかし、なんでそんな昔の物を」 (*゚ー゚)「……なんだか急に読みたくなって、ね」 (;゚Д゚)「お、お前読み返してるのか!?」 (*゚ー゚)「結構読み返したりしてるよ?」 (*゚Д゚)「わ、忘れろ! 今思うと赤面必至な事ばかり……」 (*゚ー゚)「お前は俺にとってどんな景色や絵画よりも綺麗に……」 (;゚Д゚)「忘れてくれええええええええ!!!」 (*゚ー゚)「でも、忘れたらわたし達……今みたいになってないかもよ?」 (;゚Д゚)「……」 (;‐Д‐)「……忘れないでください」 (*゚ー゚)「よろしい」 ミ,,゚Д゚彡「かあちゃーん! おきがえできたー!」
- 83 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 23:00:03.12 ID:eR2+uwiI0
- (*^ー^)「偉いぞーフサ!」
ミ,,゚Д゚彡「だってもうすぐおにいちゃんだもん!」 (*゚ー゚)「そうだね、いい子いい子。それじゃ次はひとりで靴履いてみよう!」 ミ,,゚Д゚彡「みててみててー! ひとりではく!」 (*゚ー゚)「よーし、お母さん見ててあげる!」 ミ,,゚Д゚彡「ここをねー、こうしてねー……」 (,,゚Д゚)「よし、お父さんも見ておいてやろう」 (*^ー^)「ギk……お父さんはいいから早く支度して」 (;゚Д゚)「……はい」 ミ,,゚Д゚彡「んーとねー、ここをここに通すんだよー!」 (*゚ー゚)「あら、フサすごいじゃない!」 ミ,,゚Д゚彡「すごいでしょー!」 (,,゚Д゚)「……」 (,,‐Д‐)「……」
- 86 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 23:03:05.43 ID:eR2+uwiI0
- (,,゚ー゚)
また、ラブレターを書こうと思った。 今度はふたりに、もうすぐ三人に増える最愛の人に。 心よりの恋便りを届けようと思った。 (,,゚Д゚)LOVE LETTER FROM HEART BEAT のようです 終わり
- 87 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 23:04:41.58 ID:eR2+uwiI0
- 以上で終わりです。三国志Z投下作品となっています。
支援したり読んでくださった皆様ありがとうございました。 もっと投下来ますように。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/04(土) 23:10:39.35 ID:sdVMIguQQ
- 乙!超乙!
良かったよ やっぱりギコしぃの組み合わせは好きだなあ 駅を出てから先の展開が気になったかな いい話をありがとう
- 90 名前: ◆HIv4.sfA8Y :2010/09/04(土) 23:12:59.36 ID:eR2+uwiI0
- >>89
書こうと思ったけど告白なんてからっきしなんでキングクリムゾンしました。 ひとつ言えるのは思い返すと恥ずかしくて仕方ないような言葉で告白したということです。
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