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(´・ω・`)紺色の記憶のようです(4) |
- 2 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:19:13.887 ID:FebFiyUa0
- そわそわしながら待つこと十数分、ようやく僕の名前が呼ばれレース待ちの列に並ぶ。
前を見るとこれから泳ぐ人達がまだ数人いた。 僕の出番はまだ、もう少し先のようだ。 (´・ω・`)「......」 何をするわけでもなく、ただひたすらに自分の出番を待つ。 一組、また一組と僕の前のレースが終わっていくのを眺める。 少しずつ、少しずつ列が前へと進んでいく。 プールへと近づいていく。 前の人達が減っていく。
- 3 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:21:21.279 ID:FebFiyUa0
- 「......次のレースの人達はコースに入ってください」
そして、遂にこの時が来た。 2分にも満たない短い戦い。 (´・ω・`)「......っし」 短く息を吐き、頭を切り替える。 周りは見ない。 応援する声も無視する。 ただ、目の前に広がる水を見つめる。 余計なことは考えない。 ただ、泳ぐだけ。 短く、三回笛が鳴った。 その音に僕はスタート台へと向かう。 一際、応援の声が大きくなったが、ピーッ、と再び笛の音が会場内に響き渡ると同時に聞こえなくなった。
- 4 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:22:58.835 ID:FebFiyUa0
- シンと静まり帰った会場。
スタートの合図を待つ。 数秒しかないその時間。 それでもとても長く感じられ、鼓動が早くなる。 『よーい......』 ピッ! 短い笛の音が聞こえたと同時に水の中に飛び込む。 水により外の世界から切り離され、一人きりの戦いが始まった。
- 5 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:25:07.932 ID:FebFiyUa0
- 個人メドレーは4泳法を全てを泳ぐというかなり変わった種目である。
そのため、人によってかなり泳ぐペースが異なる。 バタフライが得意な人は序盤から飛ばすし、逆に苦手な人は疲れないように飛ばしすぎないようにする。 こういった風にどの泳法で勝負を仕掛けるのかが異なっているのだ。 勿論、オリンピックの選手ならば、全種目を早く泳ぐことも可能だろう。 だが、勝負をしているのは高校生なのだ。 全種目を早く泳げる選手など、ほんの一握りだろう。 つまり、今この大会において言えば大切なのはいかに自分のペースを乱さないか、得意種目で勝負できるかということである。 だから僕は苦手なバタフライはセーブ気味に泳ぐことにしていた。 序盤戦を捨てる。 体力があるうちに飛ばした方がいいような気もするが後半バテて泳ぐなんて、御免である。
- 6 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:27:08.335 ID:FebFiyUa0
- (´・ω・`)(マジかよ、はっや)
レース開始から25m。 一度目のターンを終えた頃、隣のコースの選手が離れていくペースがおかしい事に気がついた。 どんどんと離れていくのが分かる。 少し、ペースを落としすぎているのではないか。 もっとあげられるんじゃないか。 (´・ω・`)(......) だが、ペースは上げない。 そんなことしてもあれには追い付けない。 バタフライが苦手なのは知ってたことだ。 今はいかに疲れないかが重要である。
- 7 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:29:16.665 ID:FebFiyUa0
- (´・ω・`)(......っ)
ようやく50m。 苦手なバタフライを終え、背泳ぎへと移行。 個人メドレー特有の違う泳法へのターン。 一見地味だがこれがスムーズにいくかいかないかでかなりタイムが変わる。 バタフライや平泳ぎのタッチターンとも、クロールや背泳ぎのクイックターンとも異なるこのターン。 見た目以上に、うまくこれをやるのは難しい。 (;´・ω・`)(やっちまった) だから、今年からスタイル1を変えたばかりの僕には思うようなターンは出来なかった。 通常、背泳ぎへと移行する際、バサロキックと呼ばれる水中でのバタフライのキックの仰向け版を行い、勢いをつける。 だが、思うように呼吸が続かず、さらにターンの勢いがないせいでかなり失速してしまった。
- 8 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:31:48.728 ID:FebFiyUa0
- ここから巻き返すのは、かなり辛い。
水泳の勝負は波に乗れるかどうか。 そしてその波にいかに乗り続けられるか。 これが全てといっても過言ではないだろう。 (´・ω・`)(......) だから、勢いを殺してしまったのは致命的である。 少しでも勢いを取り戻せるように、ペースをあげる。 他の競泳者に追い付くために。 しかし、背泳ぎは他の泳法と異なり上を見ながら泳ぐ泳法である。 そのためあまり他の競泳者は見えない。 つまりここでは、周りと僕のとの差が全くわからない。 ただひたすらに天井を見て、泳ぐしかない訳である。
- 9 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:34:25.218 ID:FebFiyUa0
- その事もあってか、僕はかなりペースをあげてしまっていた。
見えないせいで、ここで上げなければ更に離されるのではないかと思ってしまったからである。 更には苦手なバタフライを終えたことで少し、気が緩んでいたのかもしれない。 もうあとには辛い種目はないのだと考え、飛ばしてしまっていた。 (´・ω・`)(......100mっ!) 再びのターン。 今度は意識をしていたためか、スムーズにいく。 先程まで飛ばしていたこともあってか、なかなかの勢いで平泳ぎに突入した。 再び視界が水のなかへと戻ってくる。 ちらりと周りを見てみる。 本当は周りを見るのは泳ぎ的にはフォームが崩れやすいのでよくないのだが、気になってしまうのだから仕方ない。 右に左に、なるべく頭を動かさないように他の泳者を探す。
- 10 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:37:14.063 ID:FebFiyUa0
- (´・ω・`)(よしっ)
視界の端に、黒い影を捉えた。 あれだけ離されていた隣と並んでいた。 つまりバタフライで離された分を背泳ぎだけで取り返すことに成功したということ。 まだあと100m近くあるが、これは大きい。 隣に人が見えるのは精神的にかなり助かる。 (´・ω・`)(平泳ぎは、速くねーな) 更に幸運なことに、となりのコースの選手は自分より平泳ぎが遅かった。 少しずつだが、離れていくのがわかる。 隣との勝負と言う訳ではないが、それでも勝てるかもしれないというのはかなりモチベーションが高まる。 正直にいうと先程の背泳ぎの飛ばしすぎのせいか、かなり疲れている。 普段ならもうここでペースを落とす頃だ。
- 11 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:39:47.148 ID:FebFiyUa0
- だが、今日は違う。
隣にいる人にこのままいけば勝てるかもしれない。 そんな考えがペースを落とさせない。 (´・ω・`)(ラストっ!) そしていよいよ、ラストのクロールに突入した。 もう、残っている力を全て注ぎ込み、腕を、足を動かす。 (;´・ω・`)(うっ) 体の疲労が、そろそろ限界に達しようとしていた。 だが、あと、あと50mもない。 あと少し、あと少しだけなんだ。
- 12 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:44:06.426 ID:FebFiyUa0
- (;´・ω・`)(......)
思い出したのは去年の自分。 あのボロボロだった自分。 だがまだ、あんなに苦しくない。 まだ僕は、泳げている。 辛いけど、まだ、まだいけるはず。 (;´・ω・`)(っ!) ここから何を考えてたとか、さっぱり覚えていない。 ただひたすらに腕を回し、足を動かしていた。 無心だった。 何も考えず、がむしゃらに泳いでいた。 赤い線が見えた。 ラスト5mの合図。 息を止め、最後の力を振り絞る。 あと、もう少しだけ。 苦しくても、力を出しきるんだ。 (;´・ω・`)「っは!」 腕を目一杯伸ばして壁にタッチし、顔をあげ空気を肺に取り込む。 軽く、深呼吸をしながら電光掲示板を見てみる。
- 14 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:46:17.143 ID:FebFiyUa0
- (;´・ω・`)(......あ)
そこにはこのレース内の順位とタイムが表示されていた。 このレースでの順位は、一位。 何度見直しても、そこには僕がトップだった記録が表示されていた。 (;´・ω・`)(......) 別にレース内で一位をとっても意味はない。 全体の順位がよくなければ決勝にはいけないのだから。 だから今回、一位だったのはたまたま組まれたレースが運よく僕が一番速かっただけで。 こんなのは単なる偶然で。 どうせ決勝には出れないのだから意味なんてない。 無い、けれど。 (´・ω・`)「......っし」 心の底からただ、嬉しかった。
- 16 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:48:29.387 ID:FebFiyUa0
- ダウンを行い、観客席へと戻る。
大会もそろそろ終わりに近いこともありみんな疲れた顔をしていた。 特に一年は声だしをやらされてるせいか更に死んでるようにみえる。 確実に泳いでだけではない疲れ具合。 何とも無駄な体力消費だ。 ( ´∀`)「ん、お、戻ったの。お疲れ」 (´・ω・`)「え、あ、はい。お疲れ様です」 ( ´∀`)「良いタイムだったね。ベスト、だよね?」 (´・ω・`)「っす」 ( ´∀`)「そーかそーか。ベストか。おめでとう。今年からstyle1変えてあれなら上々だよ」
- 17 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:50:50.230 ID:FebFiyUa0
- (´・ω・`)「......」
( ´∀`)「ま、今年は残念だったけどちゃんとタイムはのびてるし、来年こそ決勝に行こうね。モナも出来る限り頑張るよ」 (´・ω・`)「はい」 結局今年も、僕は上位16人のなかに入ることは出来なかった。 順位は26位。 まあ、分かっていたことだしそこまで落ち込むことはないけれど。 (,,゚Д゚)「おっ、ショボン!」 (´・ω・`)「あ、先輩」 (,,-Д゚)「惜しかったなぁ。ターンとか色々つめりゃもっと行けただろ?」 (´・ω・`)「あ、はは」
- 18 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:52:53.801 ID:FebFiyUa0
- (,,゚Д゚)「ほら、ビデオ。来年に繋げるためにしっかり見ろよ!」
(´・ω・`)「......うっす」 (,,゚Д゚)「ほらこことかよく見ろ。ここはこうした方が」 (´・ω・`)「あー」 流石に終わっていきなりこれは気分が滅入る。 勘弁してほしい。 ただそんなことを言えるわけもなく。 (,,゚Д゚)「それでここはだな」 (´・ω・`)「あー」 蒸し暑い中、熱い指導が続く。 多分このとき、僕の顔も後輩と同じくらい死んでいたと思う。 それほどに、苦痛だった。
- 19 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:54:35.472 ID:FebFiyUa0
- 先輩の暑い、いや暑苦しい指導は30分近く続いた。
疲れた、本当に疲れた。 泳いで疲れていたところにあれだ。 体も精神ももう限界である。 (-_-)「お疲れ」 (;´・ω・`)「......おー」 (;-_-)「大丈夫か?これから最後のリレーの応援あるけど」 (;´・ω・`)「......死にてぇ」 (;-_-)「ハハハ」 だが後輩が頑張ってるなか、サボる訳にもいかない。 嫌々ながらも応援の準備を始める。 そうしているうちにどうやらプールサイドにリレーの選手たちが出てきたようだ。
- 20 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:56:41.724 ID:FebFiyUa0
- チラリとそちらの方を見てみる。
そこには各学校の代表選手たちが自分達の学校の校旗を広げ、入場していた。 観客席からプールまではそこまで距離はないはずなのに。 とても、とても遠くに感じてしまう。 先程まで、僕もあそこで泳いでいたのに。 まるで、別世界だ。 (´・ω・`)「......」 遠い遠いその世界。 僕にはたどり着けないであろうその世界。 目を閉じ、校旗を掲げる自分を想像する。 そういえば一年前もこんな風な想像をしたことがあった。 確か、正選手の自分を想像したときだ。 そのときはあまりの似合わさに笑ってしまったが。 だが、今は違う。 どんなに似合わない姿でも。 どんなに無理だと分かっていても。 ただその姿に憧れていた。
- 23 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/11(土) 23:58:23.391 ID:FebFiyUa0
- .........
...... ... 10月。 泳ぎのシーズンは終わりを迎え、今年も水泳部は筋トレ部兼マラソン部へと変貌した。 少しは慣れたと思っていたがやはり辛いものは辛い。 去年に比べればまだましだがそれでもかなりボロボロである。 (;´・ω・`)「うへぇ」 (;-_-)「ふっ!ふっ!ふっ!」 そんな僕に対し、ヒッキーは絶好調のようだ。 大会が終わってからの練習の気合いの入り方が半端じゃない。 今日の筋トレも去年の様子からは想像できないほどの追い込み具合である。
- 25 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:00:18.122 ID:+mZtl3WP0
- (;´・ω・`)「ずいぶん飛ばすね」
(;-_-)「んぁ?」 (;´・ω・`)「ペース早くね?」 (;-_-)「おうよ、追い込んでるからな」 (;´・ω・`)「どうしたのよ」 (;-_-)「そりゃお前、来年こそ正選手の枠を勝ち取るためよ!」 (;´・ω・`)「あー」 (;-_-)「来年こそ!あいつを!ぶっ倒す!」 そう宣言するとヒッキーはさらに筋トレの速度を上げる。 汗だくでかなり限界に近いはずなのだがそれでも落とすどころか上げていく。
- 26 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:02:01.907 ID:+mZtl3WP0
- (;-_-)「ぜっ......ぜっ......」
(;´・ω・`)「うへぇ」 見てるこちらも辛くなってくるほどである。 僕には絶対真似できない。 というより、やろうとも思わない訳だが。 (;´・ω・`)「......ふぅ」 それでもかなり辛い。 今日の練習を終えた頃には腕も足もパンパンになっていた。 普通にやってもこれなのにさらに追い込んでいたヒッキーは化け物じゃないかと思えてしまう。 (;-_-)「あ、お疲れ」 (;´・ω・`)「おー......あれ、なにそれ」 (;-_-)「んー?あぁ、これ?プロテイン」 (;´・ω・`)「......前から飲んでたっけ?」 (-_-)「んー?いや、最近飲み始めた」 (´・ω・`)「へぇ」
- 27 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:03:47.478 ID:+mZtl3WP0
- (-_-)「やれることはやらないとね」
(´・ω・`)「......すっげぇなぁ」 (;-_-)「そうかな?」 (´・ω・`)「うん」 心からそう思う。 だって僕なら、諦めてしまうだろうから。 そんなことをしようとすら、思わないだろう。 負けたら、そのまま。 何も考えずに諦めてきた。 そうやってここまで来た。 (-_-)「まっ、見てろよ!いつかショボンも追い抜いてやるぜ!」 (´・ω・`)「......おう」
- 28 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:05:04.406 ID:+mZtl3WP0
- 入部したてのときは僕と同じくらいボロボロになってて。
水泳だって初心者で。 正選手になりたくてもなれなくて。 それでも諦めなかった。 僕とは全くの別の生き方。 僕には出来ないその生き方。 (;-_-)「......ココア味まっずぅ」 (´・ω・`)「ははっ」 もしも僕も、そんな生き方ができたら。 そうやって生きてきたのなら。 少しは、変わっていたのだろうか。 あの、あの遠い世界に手が届いたのだろうか。
- 29 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:06:11.001 ID:+mZtl3WP0
- 12月に入ると筋トレがさらに本格的になり、寒さを忘れるほどに汗をかく。
ここに外部の室内プールでの練習が加わり冬の水泳部の最も辛い時期に突入した。 今年入った一年は一部例外を除き、去年の僕らみたいに死んでいた。 その姿によく僕が去年を乗り越えられたと思う。 (´・ω・`)「......」 そう、僕は乗り越えた。 乗り越えられたんだ。 ( ^ω^)「......」 あいつと、違って。
- 30 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:07:36.762 ID:+mZtl3WP0
- ブーンのサボりに、もう誰も何も言わなくなっていた。
練習はしないが、部活には来てマネージャー擬きの仕事をしているからだろうか。 でも、練習に参加することはほとんどない。 たまに参加したと思ったら少しだけ参加してすぐにアイシングを始めてしまう。 邪魔なこと、この上ない。 最初の頃は何も知らない一年が世話をしてくれるからかなついていたがいつの間にかそれもなくなっていた。 誰も話しかけず、誰にも話しかけない。 完全に孤立していた。
- 32 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:08:41.288 ID:+mZtl3WP0
- (´・ω・`)「......」
この部活に入ったとき、あいつは僕の上にいた。 確実に、僕たちの代で上位の部類だった。 悔しいけど、才能があると認めざる終えない。 なのに、どうして。 ( ^ω^)「......」 (´・ω・`)「......」 あいつに対して何かを言う資格は僕にはない。 僕だってサボってしまったことはあったし辞めたいと何度も思っているから。 それでも僕は納得がいかない。 納得、出来ない。
- 33 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:10:12.626 ID:+mZtl3WP0
- だからといってあいつに話しかけようとは思わない。
何を話せばいいかなんて分からないし、変にあいつに関わると今後めんどくさいことになりかねない。 それほど浮いてしまっているのだ、あいつは。 僕の勝てなかった、僕の届かなかった世界にいたはずの男。 その面影はもうどこにもない。 そして12月のとある日。 今日は珍しく、ブーンが練習に参加していた。 さらに今日の練習は外部のプールでの練習であいつが泳ぐのは一体いつぶりのことだろうか。 そして久しぶりに見た、あいつの水着姿は酷いものだった。 サボりにサボり続けた体は、筋肉が落ちダルダルになっていた。 さらにひどいのは顔。 誰がどう見てもやる気を感じられない。
- 34 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:11:52.297 ID:+mZtl3WP0
- そして案の定、泳ぎ始めると練習に取り残されていた。
泳ぎの速さ自体は意外なことにも全く問題はなかった。 やはり、あいつには才能があると感じてしまう。 だが、体力が衰えきっていた。 数時間の練習に耐えられる、泳ぎきれる体力は残っていたなかったのだ。 初めは前の方で泳いでいたのに、少しずつ、少しずつと後ろに下がっていき終いには誰よりも遅く、今にも沈みそうな泳ぎでもがいていた。 あれが、あれが僕の勝てなかった男の姿なのか。 心のなかでそう呟く。 勝ちたかった相手だった。 負けて、悔しい思いもした。 そして今、僕はあいつに勝っている。 あいつは僕の遥か後ろにいて、僕はあいつを引き離す。 そう、僕は勝ってしまったんだ、あいつに。
- 35 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:13:23.810 ID:+mZtl3WP0
- だが、心はモヤモヤする。
一年の時、あれほど望んでいたはずなのに。 (´・ω・`)(......) 勝ちたかったのに、勝ちたくなかった。 あいつより速くなりたかったのに、僕より遅いあいつを見たくなかった。 もう、訳がわからない。 (´・ω・`)「......ふざけんな」 誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。 相変わらずあいつは後ろの方を泳いでいる。 もがくように泳ぐその姿は酷いものだった。 いつもは練習をしないせいで苛つくのに、練習をしている姿もどうしてこんなに苛立たしいのだろう。
- 36 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:15:23.391 ID:+mZtl3WP0
- .........
...... ... 年も明け、気がつけば2月。 もうあと半年ほどで引退である。 入部したのがついこの間のように感じるのに、もうあと少しで終わりなのだ。 ようやく、この辛い練習から開放される。 まあそのあと受験が待ち受けているからあまりその日はあまり来て欲しくないのだが。 さて今日はというと、僕はなぜか監督に呼び出されていた。 まさかまたstyle1の変更の話ではないだろう。 もしかして何かをやらかしてしまっただろうか。 前にも同じようなことを考えたなぁと思いつつ、部屋にたどり着く。 軽くノックをし、部屋に入った。 (´・ω・`)「失礼します」 (-_-)「あれ?」 (´・ω・`)「ヒッキー?」
- 39 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:17:21.655 ID:+mZtl3WP0
- そこには監督の姿はなく、代わりにヒッキーがいた。
(-_-)「ショボンも呼び出された感じ?」 (´・ω・`)「うん、ってことはヒッキーも?」 (-_-)「うん」 本当に用件が分からなくなってきた。 ヒッキーがいるなら説教とかじゃないと思う。 でも、そうだとすると本当になんの話なんだろうか。 そんなことを考えているとガチャリと扉が開く音がした。 どうやら監督が来たようだ。 ( ´∀`)「モナモナ、遅れてごめんモナ」 (-_-)「あ、お疲れ様です」 (´・ω・`)「お疲れ様です」
- 40 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:18:16.920 ID:+mZtl3WP0
- ( ´∀`)「ん、じゃあさっそく始めよっか」
そういうとごそごそと何かをあさり出す。 しばらくすると一枚の紙を取り出した。 数字が書かれた紙。 なんの紙だろうかと、じっくりと見てみるとどうやら色々な種目の記録のようだが。 ( ´∀`)「いやー二人とも最近よく頑張ってるよね」 (;*-_-)「あ、い、いえ」 ( ´∀`)「謙遜しなくていいモナ。現にこの調整不足の時期に自己ベストを更新してるんだし」
- 41 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:20:26.600 ID:+mZtl3WP0
- (´・ω・`)「......」
( ´∀`)「それでこれ、見てほしいんだけど」 そういい、差し出されたのは先程取り出した紙。 様々な種目のタイムがかかれているのだがなんのタイムなのかがわからない。 僕の記録ではないようだがなんなのだろうか。 (´・ω・`)「これは?」 ( ´∀`)「ん、去年の都校対抗戦記録会のA、B決勝のボーダー記録」 (-_-)「へっ?」 ( ´∀`)「見てくれるばわかるんだけど......二人とも」 ( ´∀`)「B決勝、狙えるぞ」
- 42 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:21:48.286 ID:+mZtl3WP0
- (´・ω・`)「え......?」
思わず、声が出てしまった。 B決勝に、出れる? ( ´∀`)「流石にすぐに、というのは無理だし毎年ボーダーはかなり変わるから絶対、とはいえないけどね」 心臓が、バクバクいっているのがわかる。 嘘ではないかと疑ってしまう。 でも、これは紛れもなく現実なんだ。 本当に、本当なんだ。 ( ´∀`)「去年のボーダーと今の君たちのタイム比べると、ほらあともう少しずつ速くなれれば狙えるよ」 差し出された紙を何度も見直す。 何度見直してもそこに書かれたタイムは確かに僕の自己ベストより少し速いだけのタイム。 夏までの期間を考えれば、普通に辿り着ける可能性は十分にある。
- 43 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:23:00.885 ID:+mZtl3WP0
- ( ´∀`)「モナ、あとショボンくん」
(´・ω・`)「え?あ、はい」 ( ´∀`)「一応なんだけど、自由形でも今年は出るかもしれないから」 (´・ω・`)「え?」 ( ´∀`)「君のタイム、自由形でも決勝ラインだからね。もし個人メドレーが危なそうだったらこっちに回ってもらうから」 (´・ω・`)「......」 もう、頭のなかが真っ白だ。 混乱しすぎて何を言われてるのかがよくわからない。 あまりに、今までの僕には関わりのなかった世界の話だから。
- 45 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:24:14.411 ID:+mZtl3WP0
- ( ´∀`)「まぁうちは自由形の選手が多いから出来たら個人メドレーで出てほしいんだけどね。まぁ、頭の片隅にでも」
(´・ω・`)「......っす」 ( ´∀`)「モナモナ、オッケー。お話はこれでおしまい。練習頑張ってね」 (-_-)「うっす!」 (´・ω・`)「はい」 ( ´∀`)「ん、じゃあまた部活で」 軽く頭を下げて、部屋から出る。 そして、先程言われたことを思い出す。 B決勝。 僕が、B決勝に。
- 46 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:25:29.414 ID:+mZtl3WP0
- (-_-)「......ショボン」
(´・ω・`)「ん?」 (-_-)「頑張ろうな」 (´・ω・`)「おう」 まだ、確実に決まったわけではないけれど。 それでも、手が届くところにそれはある。 後は手を伸ばすし、掴むだけ。 もう、やるしかない。 (´・ω・`)「やってやるか」 (-_-)「だな」 頑張るしかないだろ、こんなの。
- 47 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:26:50.443 ID:+mZtl3WP0
- なにこれ短すぎ
今日はおしまいです 次かその次くらいに完結です 読んでくれた人ありがとう
- 51 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/06/12(日) 00:52:39.883 ID:+mZtl3WP0
- やっぱ投下はもう少し早い方がいいのか
こんな時間までありがとね
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