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川 ゚ -゚)行方不明のお嬢様が帰ってきたようです |
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:02:50.49 ID:Kia0C6X20
- 1.ヴィップ港
むかしむかしのお話です。 ヴィップ港にとても大きな客船がやってきました。 港は野次馬でごった返しです。 なにしろ小さな港なものですから、こんな大きな客船は珍しくて珍しくて。 客船は外輪をゆっくりと回しがら港に着きました。 黒煙が真っ青な空に汚れをつけていきます。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:05:16.91 ID:Kia0C6X20
- 客船からたくさんの人が降りてきました。
大きな荷物を持った人、小奇麗な格好をしたレディ、埃まみれのコートの男、シルクハットの老人。 一等客船から三等客室までたくさんの人が乗っていました。 この地に移り住んで大きな夢をつかもうと野心に燃える人たちがほとんどでしたが、 (´<_` ) どうやらこの長身の男は違うようです。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:07:23.26 ID:Kia0C6X20
- ずいぶん使い古したかばんと灰色のコート、そしてよれよれの帽子。
名をサスガと言います。 三等客室から外に出てきた瞬間、凛とした冷たい空気が肌と触れました。 彼は、雲ひとつ無い真っ青な色をした空を仰ぎ、空気を思い切り吸い込みます。 それが、鼻の奥から冷気とすがすがしさを感じさせるのです。 そうして船旅で疲れた体を起こし、港に降り立ちます。 (´<_` )「流石に冷えるな……」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:09:17.54 ID:Kia0C6X20
- 彼の兄は奇病にかかりました。
自国の医療ではこの病気は治すことが出来ないそうです。 サスガは病気のことなんてわかりませんでした。 ただ、悩んだり、悲しんでいる場合じゃない。そう思って自国から飛び出しました。 薬を探すあてなんてありません。 それでも行動しないよりはマシだと、そう思ったのです。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:11:54.26 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「あの、すみません。この近くに薬屋は?」
('、`*川「そこの角さまがれば、すぐにわかるだぁ」 (´<_` ) (´<_`;)「あ、わかりました。ありがとう」 (´<_`;)(想像してたより訛りが強いな……。何とか聞き取れたが)
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:13:34.67 ID:Kia0C6X20
- 決して大きいとは言えないこの港ですが、野次馬たちや商人であふれ返っているのでとても賑やかです。
普段はこれほどまで活発ではありません。けれども、今日この日から他所から来た人々が、今日よりもっともっと 賑やかにしてくれるに違いありません。 この港の住人もそう望んでいました。 港に押し寄せる小さな波がぶつかり、ちゃぽちゃぽと音を立てます。 まだ真新しい赤レンガの倉庫はやさしい光に当てられて輝いているようです。 そして、穏やかな港の情景を彩るように海鳥が猫のように鳴きます。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:15:55.14 ID:Kia0C6X20
- 人ごみを掻き分け薬屋に向かうと、少し禿げた猫背の男が薬屋の前で立っていました。
('A`)「ん?」 (´<_` )「薬を買いに。たしか通貨はペリカでよかったよな? この人ごみだ。とりあえず店に入れて……」 ('A`)「ああ、すまんな。私は薬屋の主人じゃないよ。君と同じで客だ」 (´<_` )「なんだ。恥ずかしい思いをしたじゃないか」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:17:39.97 ID:Kia0C6X20
- 苦笑しながらそう言い、ドアノブに手をかけたのですが、
(´<_` )「入らないのか?」 ('A`)「財布がな……」 (´<_` )「掏られたのかい?」 ('A`)「そのようだ」 この人ごみです。そのような輩が紛れ込んでいても不思議ではありません。 とっさにサスガも確認しました。コートのポケットに手を入れ財布の感触を確かめると男と目が合い、また苦笑しました。 男も苦笑しながら薬屋を後にしようとしました。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:19:45.49 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「貸すよ」
('A`)「……本当か?」 (´<_` )「ああ。この国に来て早速洗礼を受けたところだろう? これじゃあんまりすぎるからな」 すると男は頭を掻きながら、空気の抜けたような声でクスッと笑い、 ('A`)「残念だが産まれも育ちもこの国だよ」 と答えました。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:22:25.51 ID:Kia0C6X20
- (´<_`;)「失礼した。訛りが無かったもんだから勘違いしちまったよ」
('A`)「ははっ。使用人は常日頃から綺麗な発音を心がけるもんさ。気にするなよ」 ('A`)「お金は待ってもらえればすぐ返せる。恩に着るよ。ありがとう」 (´<_` )「なに。構わないさ。さあ、入ろう」 ドアを開けると薬の匂いと生活臭が混ざって独特の匂いがしました。 その匂いは不思議と嫌ではなく、なんともいえない落ち着いた気持ちになれる様な気がしました。 しかし、勢いで入ったは良いものの、サスガには薬の知識はありません。 ('A`)「相変わらずくせえな」 店に入ってすぐ、男が毒づきます。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:24:39.45 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「すまないがどんな奇病でも治せる薬というのは・・・・・・・」
(,,゚Д゚)「ドクオのだんなじゃあないか。もう薬が無くなっただ?それと例のブローチ、直しといたべ」 (´<_` )「・・・・・・」 ('A`)「おお、早いな」 薬屋の主人が引き出しから取り出したブローチ。 濁った様な深い緑色。薬の劣化を抑えるために暗くした店内の中では色わからないような、深い深い色でした。 ('A`)「器用なお前さんにしか頼めなかったことだ。ありがとう」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:26:47.59 ID:Kia0C6X20
- (,,゚Д゚)「なに。いつもの薬は用意してあるだぁ。あと、おめさん。何でも直せるような薬はないぞ」
(´<_`;) (;,゚Д゚)「症状がわからんとどうにも出来んなぁ・・・・・・」 (´<_`;)「熱が出たり、顔に発疹が出たりするんだが」 サスガは頭をぽりぽりと掻きながらつぶやきます。 (,,゚Д゚)「そのしゃべり方・・・。ここの奴じゃねえな」 (,,゚Д゚)「じゃあ寄生虫に違いね。最近多いんだよなぁ。おめさんみてぇな客」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:28:49.82 ID:Kia0C6X20
- そう言い終わると、よっこらと声を上げて重い腰を上げました
ほっそりとした白い腕を上げ古びた戸棚に手をかけます。 (´<_` )「おお!効くのがあるのか。ありったけ貰おう!」 (;,゚Д゚)「ありったけか。とりあえず今あるのはこんだけだ。これ飲んでいっぺぇおしっこ出せばなおるさ」 戸棚から取り出したのは小さな麻袋。 サスガは今にも踊りだしたい気分でした。 これで兄の症状がよくなるのです。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:30:14.85 ID:Kia0C6X20
- 外に出ると、冬とは思えないような強い日差しが二人の視界を奪います。
活気付いた空気に包まれた港から見る海は、日差しと相まってキラキラと輝いているよう。 うれしいときには全てが美しく見えるものです。 ('A`)「宿はあるのかい?」 彼の言葉で一気に現実へと連れ戻されました。 宿のことなど一切考えてなかったのです。 (´<_`;)「無いな」 ('A`)「そうか。なら今日はご主人の屋敷に泊まられるといい。ロマネスク卿なら許してくれるだろう」
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:33:57.94 ID:Kia0C6X20
- 願っても無い幸運でした。
初めて足を踏み入れた大地で、こうも優しくされるとは創造だにしていなかったのでしょう。 (´<_`;)「い、いいのか?」 ('A`)「一晩くらいなら大丈夫だろう」 それにお金も早く返せるしな、と言って男はニヤリと笑いかけました。 ('A`)「港の外れに馬車を止めてある。それでいこう」 (´<_` )「では運転は任せてくれ。せめて役に立ちたい」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:36:59.92 ID:Kia0C6X20
- ―――――――それはチャリオットと見まごうほどの立派な馬車でした。
その大きな栗毛色の馬は息を荒げながらも、長い尾を振り、静かに待っていました。 ('A`)「しばらくまっすぐだ。曲がる時になったら言うよ」 二人が乗り込むとサスガは馬を走らせます。 石畳を力強く進む立派な馬車は、風のように加速していきます。 しばらく進み、後ろにはさっきまでいた港が小さく見えました。 そして、サスガは前をまっすぐ見つめつつ、突然呟くようにしゃべり始めました。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:38:59.32 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「まさかこの異国の地にてこれほどまで人に優しくされるとは思わなかった」
(´<_` )「不安だったんだ。本当に薬を見つけることができるのか」 (´<_` )「それも考えすぎだったようだな。現にさっきの港で目的は達成されたのだから」 (´<_` )「あとは明日来る定期船を待つだけだな。この国には感謝してもしきれ・・・・・・」 ('A`) その男はさっきのブローチを見つめていました。 深い緑は日の光に照らされて、今度は幻想的に暗く光ります。 吸い込まれそうなほどの深い緑です。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:41:03.74 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「不思議な色をしたブローチだな。大切なものなのかい?」
('A`)「ん?」 ('∀`)「ああ、大切な人からもらったものだよ」 自然に口角があがったような優しい笑顔です。 そう言うと、子供が宝物を扱うように力強くブローチを握りました。 (´<_` )「これだけ大切に思われているなんて幸せな人なんだな」 馬はスピードを下げずに進んで行きます。 前から当たる冬の空気は顔を緊張させて、乾いた目には涙がたまるのです。 冬に馬車に乗るといつもそうでした。 そういった寒さからか二人の間に会話は無くなりました。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:44:18.69 ID:Kia0C6X20
- ( A )「・・・・・・・・・ 俺は・・・・・・」
( A )「本当にしたっ・・・・・・のか・・・・・・?」 突然、途切れ途切れの声が沈黙を破りました。 (うA;)「・・・・・・もっとっ・・・! 出来ることが・・・・・・」 (うA∩)「あったんじゃないのかっ・・・・・・?」 馬は馬車が揺れることを考えずに進んでいきます。 そして、耳が赤くなるほどに吹き付ける風。 乾燥した空気が皮膚に刺激を与えます。 (´<_` )「・・・ブローチの主かい?」 ( A )
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:46:18.68 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「この先長いんだろう?よかったら聞かせてくれないかな」
( A )「面白くはないぞ?」 (´<_` )「いいさ。俺が聞きたいだけだ」 ・・・どこからはなせばいいか。 男はそう言い、ぽつりぽつりとまるで昨日のことを思い出すかのように話し始めました。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:47:59.39 ID:Kia0C6X20
- ――――馬は走り続けます。
澄んだ空に雲が一つ、二つ。 相変わらず空は高く、日差しが降り注ぎます。 そして、空に舞う一羽の鷲。 むかしむかしの、お話です。 ~川 ゚ -゚)行方不明のお嬢様が帰ってきたようです~
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:50:05.28 ID:Kia0C6X20
- 2.世話係の男とお嬢様
モララー卿は次第に狂い始めていました。 ( ・∀・)「クーの世話の一切をドクオに任せる」 妻であるトソンを亡くしてから一ヶ月。 食事もほとんど手をつけることが無く、子供たちとの会話も無くなりました。 (;<●><●>)「お父様。どういうおつもりで」 (;'A`)「私がお嬢様の世話を・・・ですか? ではだんな様は・・・」 ( ・∀・)「疲れたのだ。何もかもが」 長い髭を右手でさすりながら、しわがれた声で冷たく言い放ちました。 そして、左手が椅子の肘掛をトントン、と打ち、また続けます。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:51:55.94 ID:Kia0C6X20
- ( ・∀・)「ワカッテマス」
(;<●><●>)「はっ」 ( ・∀・)「用意が済んだら彼奴ら民族の撲滅も考えておる」 ( <○><○>)「・・・!!」 敷き詰められた赤い絨毯とベージュのカーテン。 優雅な空間に静寂が走りました。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:54:10.09 ID:Kia0C6X20
- (;<●><●>)「戦争はやらないお考えでは無かったのですか」
(;<●><●>)「血が流れることに抵抗は無いのですか」 ( ・∀・)「全てを終わらせたくなったのだ。この辺境の地にて彼奴らとの戦いに幕を下ろす」 (;<●><●>)「国王は彼らとの和平を望んでおられるはずでは・・・!」 ( ・∀・)「この地の全ては私に任せられている。違うか?」 (;<●><●>) ( ・∀・)「お前はまだ青い」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:56:16.18 ID:Kia0C6X20
- モララー卿は、またどっしりと座りなおすと、虚空な目でお坊ちゃまを見つめました。
( ・∀・)「とにかく、今はその時ではない。後にまた呼び出す」 ( ・∀・)「ドクオ」 (;'A`)「はっ」 ( ・∀・)「クーは西塔に幽閉しろ。それ以外に私はこの件に関して、一切口を出さない」 ( ・∀・)「いいか?」 (;'A`)「わかりました・・・」 ( ・∀・)「以上だ。二人とも戻れ」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:58:21.20 ID:Kia0C6X20
- 二人は廊下に出るとため息をつきました。
ドクオもお坊ちゃまもモララー卿の考えが全然わかりませんでした。 愛する人の死はモララー卿を大きく変えてしまったのです。 ('A`)「お嬢様はまだ13。親の愛が必要な年頃だろう・・・」 ( <●><●>)「後で西塔に顔を出します。私もクーが心配です」 ('A`)「わかりました。では私は早速西塔にてお嬢様を迎える準備を致します」 ( <●><●>)「頼みました。迷惑をかけます」 ('A`)「いえ・・・」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:00:09.45 ID:Kia0C6X20
- 西塔はこの小さな城の中でもほとんど使われることの無い建物で、この城の使用人でさえあまり立ち寄ったことの無く、
廃墟のような扱いを受けていました。 ドクオは足が重く感じました。まるで自分の足では無いかのように。 お嬢様はどう思われるだろうか。 私にお世話が勤まるだろうか。 突如降り注いだ責任感とモララー卿への不信感でドクオの心は押しつぶされそうです。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:03:12.23 ID:Kia0C6X20
- もともとモララー卿はそのようなことをするような人ではありませんでした。
ドクオがこの城に来たときも優しくしてくれて、子供たちとは仲良く、何よりも妻であったトソンとの仲睦まじい様子 は見ていて大変気持ちの良いものでした。 ドクオはいまだにその変化を信じられていません。 いつかはまた元のように・・・・・・。そう考えているのです。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:04:59.64 ID:Kia0C6X20
- ('A`)「なんだ。もう綺麗になっているのか」
すでに他の使用人たちが綺麗にしたのでしょう。 塔の内部はある程度まで片付いていました。 最上階には今後お嬢様が暮らしていくことになる小さな部屋があります。 部屋の扉を開けるとお嬢様はすでにそこにいました。 川 ゚ -゚)「遅かったではないか」 (;'A`)「もういらしていたのですか。申し訳ございません」 川 ゚ -゚)「私が不甲斐ないばかりに父に捨てられた。これから世話になる」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:06:22.06 ID:Kia0C6X20
- (;'A`)「・・・・・・お嬢様が悪いわけでは」
川 ゚ー゚)「いいんだ」 ドクオは分かっていました。 お嬢様はモララー卿の狂いを認めたくないのです。 自分が悪いわけじゃないのは知っています。 自分のせいにすることでモララー卿は正常であるということを自分に信じ込ませたかったのです。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:08:01.88 ID:Kia0C6X20
- 川 ゚ -゚)「そうそう、まだ片付けが終わっていないんだ」
そういってお嬢様は、その美しく細い手で机を運ぼうとしました。 (;'A`)「私がやりましょう。座っていてください」 川 ゚ー゚)「そうか。悪いな」 そう言うと、お嬢様は目を瞑り、微笑みながらほこりの被ったベッドにちょこん、と腰掛けました。 少し顔を上げて窓を見つめるその大人びた横顔は、日差しに当てられ美しく光ります。 お嬢様が退くのを確認し、ドクオは真っ白な手袋をキュッと着けます。 そして、中途半端に片付いた部屋を整理しながら考えました。 これからのこと、さっき言っていた戦争のこと、そしてこの家のこと。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:10:17.60 ID:Kia0C6X20
- ( <●><●>)
(;'A`)「どわっ!!」 川;゚ -゚)「どうしたドクオ。びっくりするぞ」 窓にはお坊ちゃまが張り付いていました。 ( <●><●>)「空けてください。様子を見に来ました」 お嬢様が立ち上がり窓を開けました。 春風が通り、しなやかな茶色い髪が綺麗になびきます。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:12:24.46 ID:Kia0C6X20
- 川 ゚ -゚)「兄様。普通に入ってくることは出来なかったのか?」
( <●><●>)「幽閉されたのなら窓から密会するのがセオリーですから。わかりませんか?」 (;'A`)「どうやって上ってきたのです」 ( <●><●>)「ツタを上れば簡単です」 川 ゚ -゚)「そんなやんちゃする年でも無いだろう。23にもなって恥ずかしくないのか」 (;<●><●>)「様子見に来ただけなのにひどい言われようですね」 ほっ、と声をあげて窓の縁に手をかけ勢い良く部屋の中に入りました。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:15:39.22 ID:Kia0C6X20
- そして、すこし汚れてしまった正装をパンパンと叩き、大きな目で部屋を見渡します。
最期にふーむ、と声をもらし、 ( <●><●>)「なかなか住み心地悪そうですね」 と一言。 川 ゚ -゚)「そうか?私は入った瞬間気に入ったぞ」 特にこの大きな窓がな、とニコリとつぶやいて、両手を窓の縁について身を乗り出し空を見上げました。 真っ青なキャンパスには鷹が二羽。 つられてお坊ちゃまとドクオも空を見上げました。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:17:30.06 ID:Kia0C6X20
- ('A`)「確かに良いお部屋ですね。今まで使われていなかったのが嘘のようだ」
( <●><●>)「遠くには麦畑が見えます。あんなところに民家も。見晴らしのよさは抜群といったところですか」 川 ゚ -゚)「な?素敵だろう?」 三人はしばらく塔からの景色を見ていました。 会話の無い、居心地の良い時間が過ぎていきました。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:20:05.86 ID:Kia0C6X20
- 川 ゚ -゚)「・・・・・・ドクオも兄様も心配しなくて良いぞ」
お嬢様は景色から目を離さずしゃべり始めました。 二人は突然喋りだしたお嬢様に目を向けます。 川 ゚ -゚)「元気にやっていけるから」 川 ゚ -゚)「もし、この先悲しいことがあったり、つらいことがあったりしたら、二人とも助けてくれるんだろう?」 川 ゚ -゚)「ドクオ」 ('A`)「はい」 お嬢様は静かに振り向き、 川 ゚ー゚)「これから、よろしく」 とだけ言いました。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:22:06.59 ID:Kia0C6X20
- ('∀`)「はい。絶対に悪い思いはさせません」
川 ゚ー゚)「頼りにしている」 ( <●><●>)「クーを赤ちゃんの頃から知っている唯一の使用人です。私もドクオを頼りにしてます」 ('∀`)「お坊ちゃま・・・」 ドクオは責任感の強い男です。 しかし、今、彼を満たしているのは重い責任感だけではありませんでした。 お嬢様の笑顔を守りたい。 そう思ったのです。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:23:53.37 ID:Kia0C6X20
- ( <●><●>)「私もこれからちょくちょく顔を出します。彼を頼りにしているとは言え、クーの顔は毎日見たいですし」
川 ゚ー゚)「私も兄様との会話は幽閉されていても続けたい」 (*<●><●>)「ふむ、照れますね」 お坊ちゃまの顔は赤くなりました。 それは、いつの間にか茜色に染まっている部屋のせいだけではないでしょう。 お坊ちゃまのお嬢様に良く似た茶色い綺麗な髪が、突如、吹いた風に乱されました。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:26:37.33 ID:Kia0C6X20
- <●><●>)「では私はこの辺で。また明日にでも」
('A`)「私も食事の用意をしてきます。空が暗くなった頃また来ます。そしたらお掃除の続きをしましょう」 川 ゚ー゚)「わかった。二人ともありがとう」 お坊ちゃまは照れを隠すかのように部屋を後にしました。 それに続けてドクオも。 二人が去った部屋は広く感じました。 ですが、不思議と寂しさは感じません。 お嬢様は、夕食が来るまでずっとずっと、大きな窓から燃えるような赤を見つめていました。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:28:32.92 ID:Kia0C6X20
- ―――――それから二年と半年ほどがたったでしょうか。
その間、ドクオは優しくお嬢様を気遣い、お嬢様も彼に対して決してわがままを言いませんでした。 ドクオはお嬢様の気持ちをいつだってわかっていましたし、お嬢様も日ごろから自分のことを一番に考えてくれている ドクオのことを誰よりも信頼していました。 二人で窓からの景色を眺めることもありました。 今日の食事がおいしい、おいしくないの言い合いもありました。 お嬢様が眠れぬ夜には故郷の神話を話すこともありました。 その話が楽しくて寝れないふりをしたことだってあります。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:30:15.33 ID:Kia0C6X20
- 時に城に兵が集まることが何度もありました。
しかし、戦争は起きることなく、毎回演習だけして帰っていく姿が塔から見えました。 そのたびに、兄様ががんばっておられるのだな、とお嬢様はつぶやきます。 母が亡くなり、父が狂おうとも、ドクオとお坊ちゃまがいつもそばにいました。 そんな季節が足早に過ぎ去っていく中で、ある日変化が起こります。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:32:49.01 ID:Kia0C6X20
- ('A`)「さて、お召し物を持ってきました。どうです?」
('∀`)「特にこれなんかが私のお気に入りなんですが」 川;゚ -゚)「これまた沢山買ってきたな」 ドクオの両手に抱えられた沢山の服。 その一つを満面の笑みで広げて見せます。 清楚で、白い簡素なドレスでした。 ('A`)「レディたるもの身だしなみは大切ですから。気に入ったものはありましたかな?」 川 ゚ -゚)「ふむ。どれも素敵だと思うぞ。ゆっくり選ばせてもらおう」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:34:08.69 ID:Kia0C6X20
- ('A`)「もう着れなくなったものはこちらで売りにでも出しましょう」
川;゚ -゚)「最近また胸が大きくなったからな。世話をかける」 話しながらもお嬢様は一枚一枚じっくりと選んでいきます。 白く広がる空に何枚かの枯葉が風に運ばれていく様子が窓に映し出されています。 もうすぐ冬になります。 ('A`)「成長とはそういうものです。ではまたしばらくしたら来ます。気に入らなかった服は私に」 川 ゚ -゚)「うむ。いつもありがとう」
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:35:47.16 ID:Kia0C6X20
- では、と扉を優しく閉め、部屋にはお嬢様一人。
色とりどりの服を細く白い手で触れ、体と重ねます。 真剣な顔つきで見定めていくのです。 ドクオや亡き母から教わっていたことをしっかりと守っていました。 自分の召し物を選ぶのは自分を磨くことなのです。 川 ゚ -゚) まだ少しあどけなさの残っていた顔つきは、二年ほど経ったことで完全に消え始めていました。 誰が見ても美しいと思えるような容姿。 塔に幽閉されていることで、誰の目にも触れることなく純粋に、 まるで山頂の百合のように可憐に育っていきました。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:37:24.19 ID:Kia0C6X20
-
( ^ω^) 川;゚ -゚)「ひっ!」 ふと窓を見るといつからか童顔の青年が張り付いていました。 川 ゚ -゚)「・・・・・・何奴」 (;^ω^)「入っていいかお?」 (;^ω^)「いつもこの塔で一人っきり。遊びに来てやったお」 川;゚ -゚)
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:39:17.04 ID:Kia0C6X20
- お嬢様は不審に思いながらも窓を開けました。
窓を開けていれば大声でドクオを呼べる。それなら開けてもいいかも。 恐怖心だけでなく好奇心も入り混じった複雑な心境です。 冷たい風が部屋に流れ込み、お嬢様の髪を静かに撫でます。 ( ^ω^)「こんにちわお!ツタを上って塔に入るなんて雰囲気出るお」 川 ゚ -゚)「何しに来たのだ。それにしてもよく敷地内に入れたな」 ( ^ω^)「意外とちょろいもんだったおっお!」 川 ゚ー゚)「おかしなしゃべり方だ」 ( ^ω^)「そうかお?」 お嬢様はくすくすと笑いました。 この青年に不思議と恐怖心をかき消されてしまったのです。 日は暮れ初め、静かな闇が近くまでやってきていました。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:41:39.17 ID:Kia0C6X20
- 3.元気な若い水夫
その男はブーンと名乗りました。 悪いことなど一回もやったこと無いような、純粋な顔をした青年。 その優しい風貌としゃべり方がお嬢様の気持ちをくすぐります。 ブーンはそのまま縁に腰掛け、お嬢様はベッドの上の召し物を優しく退かして、ゆっくりとベッドに体重を乗せました。 夜を告げる風が部屋に吹きます。 薄暗い部屋に男女の声が静かに響いていました。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:52:43.90 ID:Kia0C6X20
- ( ^ω^)「こんなところでいつも何してるお?」
川 ゚ -゚)「暮らしてるのだ」 ( ^ω^)「一人でかお?」 川 ゚ -゚)「いや、私は一人の世話係と暮らしていると思っている」 ( ^ω^)「その人が親代わりなのかお? 一人ぼっちかと思ってたお! 良かったおー」 ブーンは安堵の声を上げ、一息吐きました。 川;゚ -゚)「なぜ喜ぶ。君には両親はいないのか?」 ( ^ω^)「いないお」
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:54:30.85 ID:Kia0C6X20
- 川 ゚ -゚)
(;^ω^)「で、でも全然寂しくないお! それに、お父さんの残してくれたスカーフがあるんだお」 お嬢様の申し訳なさそうな表情を見て、慌ててフォローを入れました。 それでもお嬢様は、すまなかった、とだけ言って俯いてしまったのです。 (;^ω^)「気にしないでお! 元気出してお!」 (;^ω^)「僕は寂しくないし、一人でも生きていけるように育てられてたんだお」
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:56:42.52 ID:Kia0C6X20
- 川 - )
川 - ) 川 - )「君は強いのだな」 お嬢様は俯きながら続けます。 川 - )「私は母が亡くなったときずっと泣いていた。父が狂い始めたとわかった時も涙が止まらなかった」 川 - )「今はドクオや兄様がいる。・・・でも本当に寂しくないと言われたら少し嘘になるのかな」 川 - )「この窓からは民家も見える。そこには平凡な家庭があって、たまにうらやましいと思うんだ」 川 - )「最近思うんだ。ドクオも兄様も私のことを考えてくれているのに、 こんなに幸せなのに、どこか寂しい自分が罪だ」
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:00:06.13 ID:Kia0C6X20
- 川 - )「私は君ほど強くない」
いつの間にかシーツを強くつかんでいた拳を、力なく和らげました。 ( ^ω^) ( ^ω^)「それは多分普通のことだと思うお」 ( ^ω^)「そしたら僕だって、弱いお」 ( ^ω^)「周りのみんなには今みたいに全然寂しくない、とか言ってるけど 強がってるだけなのかもしれないお」 ( ^ω^)「強がって、自分に嘘ついて・・・・・・でもそれは弱いからやってることじゃないと思うお」 ( ^ω^)「みんなを心配させないために一生懸命強がってるんだお」
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:02:27.34 ID:Kia0C6X20
- 川 - )
川 ゚ -゚)「うん。勢いで恥ずかしいこと口走ってしまったな」 ( ^ω^)「なあに。前向きに、お!」 川*゚ー゚)「ありがとう」 そういって二人はくすくす、と笑いあいました。 雲は晴れ、空には月が浮かんで見えます。 川*゚ -゚)「不思議なものだな。初めて会ったのにこんなにも暖かい」 ( ^ω^)「おっお」
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:04:35.82 ID:Kia0C6X20
- 扉の向こうでは夕食を持って二人の会話を聞いている男がいました。
彼もまた俯いて話を聞いていたのです。 ゆっくりと扉が開きます。 ('A`)「・・・・・・お嬢様」 川;゚ -゚)「聞いてたのか。恥ずかしい」 ('∀`)「お友達、ですかな?」
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:06:29.25 ID:Kia0C6X20
- ドクオは今すぐにお嬢様を抱きしめ、泣いて詫びたいぐらいでした。
自分が両親の代わりになりきれぬこと。 自分の優しさが葛藤を生ませていたこと。 ですが、そんなことをすれば余計にお嬢様は自分に気を使ってしまう。 そう思い、グッとこらえました。 ( ^ω^)「ブーンですお。水夫をやっておりますお」 ('A`)「私はお嬢様の・・・」
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:08:50.15 ID:Kia0C6X20
- 川 ゚ -゚)「紹介しよう。私の父だ」
('A`)「・・・!」 かぶせるように言い放ったお嬢様の言葉にドクオは不意をつかれました。 私は親の変わりになりきれてなかったのではないか。 そのドクオの表情をみて、少し口角を上げながらお嬢様は続けます。 川 ゚ -゚)「確かに寂しいと思うときはある」 川 ゚ -゚)「だが、それを埋めてくれるのはやっぱりドクオだ」 川 ゚ -゚)「それが家族じゃなくてなんだ?」 川 ゚ー゚)「ドクオは私の父だよ。まぎれもなく、な」
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:11:21.04 ID:Kia0C6X20
- ( A )
( A )「こんな私でも、父に、なりきれていますかな」 川 ゚ー゚)「あたりまえだろう」 (;A;) ぽろぽろと涙がこぼれました。 嗚咽が漏れ、それは静かな部屋に小さく響きます。 ドクオは胸から取り出したハンカチで涙を拭いて、失礼、とだけ言い残し、 この部屋から外に出ていきました。 残された二人は顔を見合わせてクスクスと笑い合います。
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:13:15.54 ID:Kia0C6X20
- 川;゚ -゚)「なにも泣くことないだろう」
( ^ω^)「おっお。良いお父さんだお」 ( <●><●>)「ふむ。本当に」 (; ゚ω゚)「うおっ!」 窓から顔を覗かせるのはお坊ちゃま。 背中から聞こえる落ち着いた声にブーンは飛び跳ねました。 ( <●><●>)「はて、こちらの殿方はどなたでしょうか?」 皮の手袋を外し、こめかみをぽりぽりと掻きながらさっきまでブーンが座っていた窓の縁に腰掛けます。 ブーンはたじたじと落ち着かない様子で、お坊ちゃまをちらちらと見ました。
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:15:26.49 ID:Kia0C6X20
- 川 ゚ -゚)「紹介しよう。今日仲良くなったブーンだ」
( <●><●>)「ほうほう。クーにお友達ですか」 川 ゚ー゚)「びっくりしたようだな。私の兄、ワカッテマスだ」 (;^ω^)「ブ、ブーンですお!水夫をやっておりますお!」 ブーンはお坊ちゃまの召し物、その風貌、体躯。全体から滲み出てくる貴族のオーラにたじたじです。 お嬢様は塔の窓からいつも見えていたし、年も離れてないようので緊張しなかったのですが、 お坊ちゃまの前ではガチガチになってしまいました。
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:18:49.74 ID:Kia0C6X20
- ( <●><●>)「ブーン君」
(;^ω^)「はいお」 するとニッコリと笑い、 ( <∩><∩>) ( <∩><∩>)「クーをよろしく頼みます」 と優しく呟きました。 (;^ω^)そ (;^ω^)「もちろんですお!」 笑顔が怖いとも思いましたが、元気良くそれに返事をしました。
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:20:51.53 ID:Kia0C6X20
- ドクオもお坊ちゃまもブーンが無断で侵入したことを責めませんでした。
二人は知っていたのです。 年の近い、遊んだり話したり出来る相手をほしがっていたこと。 お嬢様は口にこそ出しませんでしたが。 彼らはブーンがお嬢様にコンタクトを取ったことを喜んでいました。 ('∀`)「やはり年を取ると涙もろくなっていけませんな」 鼻をすすり、下を向きながらドクオは部屋に戻ってきました。 その表情はどこか照れくさそうです。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:22:53.81 ID:Kia0C6X20
- (;<●><●>)「泣かされたのですか! ブーン君、君って人は!」
(;^ω^)「僕じゃないですお」 ( <●><●>)「わかってます。聞いていましたから」 ( ^ω^)(変わった人だお) するとお嬢様も照れくさそうに、兄様も聞いておられたのか、と聞こえるか聞こえないかわからないくらいの 小さな小さな声で呟きました。
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:24:25.92 ID:Kia0C6X20
- ドクオは思いました。
慎ましく生きるお嬢様の姿勢に心を打たれる。 そのたびに自分も変わっていく気がする。 お嬢様の世話が出来て、本当に幸せだと。 ( <●><●>)「さて、知ってましたかブーン君。この城は小さいながらも夜になると 尋常じゃないほどの警備が敷かれるのですよ」 (;^ω^)「それってやばいんじゃないかお」 ( <●><●>)「ですから私が送りましょう」 大きな目をもっとまん丸にして、しゃべり終わらないうちに窓の縁から立ちあがると、 ほっ、と声を上げてツタをするすると降りていきました。
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:26:20.83 ID:Kia0C6X20
- ( <●><●>)「さぁ早いうちにいきますよ」
下におりたワカッテマス様のこえが部屋の中からでも聞こえます。 ( ^ω^)「じゃ、また来るお!」 川*゚ー゚)「毎日でも来てくれ」 ('∀`)「お嬢様をどうかよろしく」 最後にお嬢様に微笑んで、ブーンはするすると塔を下っていきました。 下に降り、お坊ちゃまの後を小走りで付いていきます。 見えなくなる前に、ちらっとこちらを見て手を振りました。 お嬢様もそれを見て小さく振り替えします。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:29:01.99 ID:Kia0C6X20
- 川 ゚ -゚)「ドクオ、星が綺麗だぞ」
お嬢様はいつものように縁に身を乗り出して空を見上げました。 空には満天の星。 今にも落ちてきそうなそれは、闇を明るく照らすのです。 ('∀`)「左様にございますね」 ドクオも一歩前進して星空を見上げます。 川 ゚ー゚)「ブーン、また来るかな」 ('∀`)「きっと来ますよ。きっと」 川 ゚ー゚)「ああいう人は今まであったこと無かった。自然と優しい気持ちになれるんだ」
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:31:20.99 ID:Kia0C6X20
- ('∀`)「あの愛嬌のある顔のせいもありますかな」
とドクオがおどけてみせると、二人は星を見ながらクスクスと笑います。 ('∀`)「お嬢様に素敵なお友達が出来て私はうれしいです」 ('∀`)「あんな姿のお嬢様、滅多に見れるものではありませんしな」 川;゚ -゚)「あれはもう忘れろ」 お嬢様は茶色い髪をわずかに揺らして、はにかんだ様に空から目を離してまいました。 冷たい夜風が二人の体に吹き付けました。 不思議と寒くは無く、今まで顔を赤らめていた二人にとっては心地よく感じます。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 03:33:46.23 ID:Kia0C6X20
- ('∀`)「絶対に幸せにしてみせます」
('∀`)「つらいことも、みんなで乗り越えていきましょう」 ('∀`)「私たちはお嬢様の見方ですから」 川*゚ー゚)「・・・・・・うん」 時折窓から見る満天の星。 お嬢様にとっては見慣れた光景です。 ですが、今日は特別輝いて見えました。 もうすぐ冬がやってきます。
- 114 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 11:52:49.33 ID:VqFtaIxD0
- 4.ラウンジ公園
それからというもの、ブーンは毎日のようにお嬢様に会いにきました。 ( ^ω^)「空けておー」 川*゚ー゚)「今空けるから待って」 ('A`)「ブーン、スカーフが緩んでるな・・・。お嬢様の前だというのに」 ( ^ω^)「おっおー。くすぐったいおー」 ('A`;)「ええい、動くな!」 川 ゚ー゚)「ふふっ」 時には新鮮な魚を持って。 町の楽しい話を持って。 亡くなったお父さんの話。 優しかったお母さんの話。 塔に暮らしているお嬢様にとっては毎日が斬新そのもの。 それはまぎれもなく幸せな日々でした。
- 115 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 11:54:29.33 ID:VqFtaIxD0
- ―――それから三年と半年たったでしょうか。
二人の関係は縮まり、ついに恋愛感情が芽生え始めました。 純粋な恋愛。 もちろんドクオもお坊ちゃまも知っています。 お嬢様たちの幸せが二人の幸せであるのです。 ドクオたちは何も言わずにそれを見守っていました。 そんな中、あることが起こりました。
- 116 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 11:56:59.85 ID:VqFtaIxD0
- ( <●><●>)「これ以上父を抑えることは不可能です。近いうちに戦争が起きるでしょう」
塔の一室にて静かな声が響きました。 いつもとは違う声色。 いつもとは違う顔つきで。 川 ゚ -゚)「・・・・・・ここが戦場になるのか?」 ('A`)「残念ですが、なるでしょうな」 リー、リー。 外では、闇の中で夏虫たちの美しい音色が鳴り響きます。 ( <●><●>)「このままでは町の人たちが戦渦に巻き込まれます。私が至らなかったばかりに・・・」
- 117 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 11:59:32.35 ID:VqFtaIxD0
- 川;゚ -゚)「違う! 兄様のせいではない」
声をかぶせる様にお嬢様が力強く言い放ちました。 その声は少し震えて、今にも泣き出しそうな声です。 川 - )「ここから見えるあの家族も、ブーンも、みんな」 川 - )「戦争に巻き込まれてしまうの?」 ('A`)「・・・私が掛け合って、何とかなら・・・」 ( <●><●>)「ならないでしょう。もう無理です」 お坊ちゃまの口から珍しく弱気な声が漏れました。 そこから塔の一室は凍りつくかのように一切の音を失いました。
- 118 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 12:01:39.08 ID:VqFtaIxD0
- そして、ワカッテマス様が沈黙を破り、無表情でこう言ってのけました。
( <●><●>)「クー。ドクオ。私たちの父を」 ( <●><●>)「狂った父を殺そうと思う」 しかし、声が震えていました。 その大きな目は赤く、十二分に潤ったそれから涙がいまにも零れ落ちそうでした。 大いに悩んだ結果です。 眠れぬ夜も過ごしました。 何をしていても考えることはそればかり。
- 119 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 12:05:54.88 ID:VqFtaIxD0
- 川 - )
お嬢様は何も言いませんでした。 ただただ俯いていて、二人にはどんな顔をしているのかわかりません。 少しだけ間をおいてお坊ちゃまは続けます。 ( <●><●>)「明日、毎年行われる狩りの行事があります。 場所はいつもと同じでラウンジ公園です」 ( <●><●>)「どうにかして私は父と二人っきりになります」 ( <●><●>)「ドクオ」 ('A`)「はい」 ( <●><●>)「猟銃で父を撃ってください。終わらせましょう。全てを」
- 120 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 12:08:52.25 ID:VqFtaIxD0
- ('A`)「望むのならば・・・私は撃ちます」
ドクオはまっすぐと見つめるお坊ちゃまに目を合わせました。 何時にも増した彼の目力は、たじろぐほどの妙な力強さを感じます。 決意の力でしょうか。 ( <●><●>)「私はこの地を統治できるほどの権力を持っていません。 ですが、狂った父をそのままにしておくことはとても危険な行為です」 ( <●><●>)「そして、この先もっと狂うでしょう」 ( <●><●>)「あなたたちは知らないでしょうが、父は夜な夜な異教徒の淑女を連れてこさせて、その手で殺します」 ( <●><●>)「それほどまでに・・・もう・・・・・・」
- 121 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 12:10:56.17 ID:VqFtaIxD0
- 川 - )
今まで動かなかったお嬢様が少しピクッと反応しました。 ( <●><●>)「せめてこの家のもので決着をつけたい」 涙こそは出ていませんでしたが、声が上ずり、感情が溢れていました。 そして一つ咳払い。 ( <●><●>)「わかってくれるね、クー」 低く落ち着いた声。 それに引き込まれるようにお嬢様は、コクリと頷きました。
- 126 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 12:32:07.93 ID:VqFtaIxD0
- ( <●><●>)「ドクオ。あなたには迷惑かけます」
('A`)「いえ・・・」 うまく答えることができませんでした。 しかし、その与えられた仕事に不思議と葛藤はありません。 まるで泥を掴んでいるような、なんともいえない不思議な気持ちが、ドクオをいっぱいにします。 ( <●><●>)「では、そろそろ戻ります。後は頼みました」 そう言うとお坊ちゃまはいつもの様にツタをくだり部屋を後にします。 再び部屋に静寂が訪れました。 お嬢様はずっとずっと俯いたまま。 起こっているのかも、泣いているのかも、わかりません。
- 128 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 12:34:09.98 ID:VqFtaIxD0
- 川 - )
('A`)「お嬢様・・・」 お嬢様はずっと強く拳を握っていました。 理解はできるのです。 理解はできるのですが、ただやるせない。 同じ血の流れている兄が、自分たちに生を与えた父の命を奪うのです。 困惑しないわけがありません。
- 129 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 12:36:27.74 ID:VqFtaIxD0
- お嬢様はスッと立ち上がって窓に寄ります。
もう大人といっても差し支えないほどはっきりとした顔立ちが、月の光に照らされます。 可憐な顔立ちに垣間見える深く、悲しい表情。目には涙を溜めて。 川 - )「どうか・・・」 ('A`) 川 - )「どうか、終わらして」
- 130 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 12:38:35.18 ID:VqFtaIxD0
- 搾り出した言葉がそれでした。
決意したかのような低い声。 細く白い手で目に溜まってた涙をぬぐい窓を閉めます。 そして、凛とした姿勢でドクオに振り向き、 川 ゚ー゚)「私は大丈夫」 川 ゚ー゚)「この家を守って」 と微笑みました。 強く、どこか優しい微笑です。
- 134 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 13:15:30.01 ID:VqFtaIxD0
- 月に照らされたそれは暗い室内の中で何よりも煌びやかで、どんな勇敢な者よりもたくましい。
ドクオにはその様に感じました。 ('A`)「必ず・・・」 ('∀`)「遂げて見せます」 夏の夜風が窓を叩いて音を立てます。 その生暖かい風に吹かれて、木々がざわめいていました。 いつまでも、いつまでもざわめいていました。
- 135 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 13:18:38.76 ID:VqFtaIxD0
- ――――狩りの行事。
毎年、夏に行われるラウンジ地方からサロン地方までの爵位のある者だけで行われる、 伝統ある狩猟祭です。 その中にはモララー卿とお坊ちゃまも入っています。 領主たちの交流を深めるという名目で始められたそれは、領主制が失われてもなお、続いているのでした。 今年の狩りの行事も人数が集まり、それなりの規模で行われようとしています。 昔、ラウンジ公園にはオーロックスなどの動物が沢山いたのですが、今となっては狩れる動物は激減。 猪くらいしか満足に狩れないのです。 それは、ほとんど狩りという名目だけを借りた、交流の行事と成り果てているのでした。
- 136 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 13:23:46.60 ID:VqFtaIxD0
- ドクオはモララー卿とお坊ちゃまを馬車でラウンジ公園へ送った後、自分も猟銃を持ち、公園へと入ります。
('A`) ドクオは茂みへと身を隠しました。 城を出るときも、馬を操っているときも、こうして猟銃を片手に身を潜めているときも。 これほどまで落ち着いた気持ちは初めてでした。 目の前の茂みから臭う土の香りと、草の匂いが混ざったのがドクオの嗅覚を刺激します。
- 137 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 13:27:37.46 ID:VqFtaIxD0
- お坊ちゃまの言うとおりなら、モララー卿とお坊ちゃまは二人っきりになる。
それを信じてドクオはじっと待ちます。 偉そうな人たちが集まり始めました。 久方ぶりに顔を合わせるわけですから、ただの挨拶でも話は弾みます。 | ^o^ |「らうんじの もららー きょう おひさしゅう ございます」 ( ^Д^) 「今年はどれだけの猪が狩れますかな」 ( ・∀・)「はっはっは。そんなに期待しないでいきましょう」 しばらく経ち、沢山の偉そうな人と一通り話し終わったモララー卿は、お坊ちゃまと一緒に 人のいる場所から離れました。 それを見ていたドクオは、少しだけ体が震え始めます。
- 138 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 13:29:56.66 ID:VqFtaIxD0
- 震えに反応するように木々がざわめきました。
生暖かい風。湿気を帯びたような夕暮れの風です。 お坊ちゃまとモララー卿は二人きり。 今がチャンスでした。 ドクオは猟銃を構えます。 川 ゚ー゚)『この家を守って』 ('A`)(この家を守って、か) 構えた瞬間、脳裏にお嬢様の顔が浮かんだ気がしました。
- 139 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 13:32:48.58 ID:VqFtaIxD0
- ゆっくりと狙いを定めます。
動作の一つ一つが慎重そのものでした。 狙いはモララー卿。 お坊ちゃまとお嬢様の父であり、ドクオの主人です。 ドクオの耳から一切の音が無くなっていきます。 視界に雄大な自然が映し出されることはありませんでした。 周りから黒いふちのようなものが真ん中へと迫り、眼中にはモララー卿。 引き金に指をあわせます。
- 141 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 13:35:41.69 ID:VqFtaIxD0
- パン。
乾いた低い破裂音が遠くの山に跳ね返り、こだましました。 木に止まっていた鳥たちが一斉に逃げ始めます。 自然が、ざわつきました。 (;<○><○>)「んぐぅ!」 ( ・∀・) ('A`)
- 142 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 13:38:21.84 ID:VqFtaIxD0
- お坊ちゃまは静かに倒れこみます。
その口からはどす黒い血がとめどなく流れていました。 手足は痙攣し、反り返ったような体制で緑に色づいた地をのたうち回っています。 ドクオは引き金を引いていませんでした。 猟銃からは煙も出ていません。硝煙の匂いも立ち込めていません。
- 144 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:04:28.98 ID:VqFtaIxD0
- ( ・∀・)「ワカッテマス?」
(;<○><○>)「んごっ・・・・・・ごご・・・」 ( ・∀・) モララー卿はすばやくお坊ちゃまを抱き寄せました。 抱き寄せた枯れ枝のような手はプルプルと振るえ、支えるのが精一杯であるかのように頼りなさげ。 衰弱しきった手でお坊ちゃまを強く強く抱きしめます。 ( ;∀;)「だ、誰ぞ・・・」 ( ;∀;)「誰ぞ在れぇ!!」 モララー卿の声に気づいた近くの護衛が駆けつけました。 護衛たちがお坊ちゃまのもとに駆け寄り、懸命に何かを叫びます。
- 145 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:08:44.58 ID:VqFtaIxD0
- ドクオには何がなんだかわかりませんでした。
その血はなぜお坊ちゃまから出ている? 引き金を引いてないのにどうして倒れる? いくら考えても、混乱しきった彼の頭の中では疑問は解決しません。 ドクオは、その慌しく騒ぐ貴族たちを茂みに混ざって、ただただ眺めるしかありませんでした。 力なく、虚ろな目で。
- 146 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:11:42.03 ID:VqFtaIxD0
- ( ;∀;)「・・・・・・おぉ・・・おお・・・・・・」
すでに日は暮れ始め、空は綺麗な紫色に染まっていました。 薄い雲が流れる中、鳥たちが歌声を奏でます。 風が優しく吹き、つられるように木々たちの歌声。 幻想的な空の下、公園に響き渡るのは自然の息吹とモララー卿の嗚咽だけでした。
- 148 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:15:30.05 ID:VqFtaIxD0
- 5.お嬢様と水夫
魔弾を放ったのは、戦争がしたくてしたくてしょうがないラウンジの武器商人でした。 モララー卿が、かの民族を撲滅しようと企んでいる事はラウンジでは常識。 またお坊ちゃまがそれを阻止していることも知らないものはいませんでした。 あれからお坊ちゃまは亡くなりました。 お坊ちゃまが居なくなってからのモララー卿は目に見えて狂っていったのです。 長く艶やかな長髪は抜け落ち、埃を被ったように白くなりました。 威厳に満ちた長い髭も同様に抜け落ちました。 有無を言わせない力のあった瞳は黒く濁り、こけた頬が腐っているかのように落ち込んでいます。
- 149 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:19:24.93 ID:VqFtaIxD0
- そして、毎日のように小さな城に運ばれる異教の娘や異教の子供。
彼女らは無残にもモララー卿の手で殺され、城を出ることはありません。 かの民族が奮起するのも時間の問題。 戦争が今、起きようとしています。 そしてお嬢様はそれ以来、喋らなくなってしまいました。 食事もろくに取らなくなり、ブーンの問いかけすら応じませんでした。 そんな時の話です。
- 150 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:23:28.73 ID:VqFtaIxD0
- ('A`)「お嬢様、もうこの家に未来はありません」
川 - ) ベッドの上に腰掛ける乙女の肩がピクリと動きました。 (;^ω^)「・・・どういう意味ですお」 ('A`)「・・・そのままの意味だよ」
- 151 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:26:31.44 ID:VqFtaIxD0
- ドクオはブーンの問いに一切の表情を変えずに返しました。
それを聞いたお嬢様はシーツをぎゅっと握ります。 兄の死の矢先、父と慕っている男から現実を突きつけられたのです。 何の感情も湧かないわけがありません。 ('A`)「お嬢様」 ('A`)「この家を捨ててください」 川 - ) (; ゚ω゚)
- 152 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:29:09.00 ID:VqFtaIxD0
- お嬢様が覚悟していた通りの言葉が発せられました。
夏の夜風が開いている窓から優しく吹き付けます。 お嬢様の茶色い髪がなびきました。空気のようにふわり、と。 (; ゚ω゚)「捨てるって・・・」 ('A`)「ブーン」 ブーンの言葉に被せるように低い声が入りました。 ('A`)「お嬢様を連れてこの付近から逃げてくれ」 川 - ) 川 - )「ドクオは?」
- 153 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:32:17.27 ID:VqFtaIxD0
- 俯いた姿勢のままでお嬢様が呟きます。
久しぶりに発せられた声は、他人の身を案じた言葉でした。 握った拳はシーツを捕らえたままです。 ドクオは直立不動のままその問いに答えます。 自分の気持ちを。ありのままの答えを。 ('A`)「私はこの家を最後まで見守ろうと思います」 ('A`)「お坊ちゃまが変えようとしたこの家を」 ('A`)「お嬢様に守って、と言わしめたこの家を」
- 156 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/17(金) 14:35:54.55 ID:VqFtaIxD0
- 川 - )
川;゚ -゚)「なら私も・・・」 俯いていた顔が自然と上がりました。 茶色い瞳は潤んでいて、目の周りが赤く腫れていました。 自然に握った拳が緩みます。 ('A`)「なりません」 ドクオらしくない厳しい声がお嬢様の心を強く打ち付けました。 時が止まったようです。 上がった顔はその姿勢のまま凍りつき、再び拳をきゅっと結びました。
- 216 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:12:00.02 ID:CAM9WLfs0
- ドクオはやはり表情を変えずに続けていきます。
('A`)「あなたは生き延びなければなりません」 ('A`)「汚名を被ってでもあなたとお家を守りたかったお坊ちゃまのために」 川;゚ -゚)「でも、ドクオはどうなる? 死ぬ気なのか?」 ('∀`)「まさか」 今まで表情を変えることが無かったドクオが、にかっと笑いました。 少し扱けた頬に小さなえくぼ。 ('∀`)「必ずお嬢様に会いに行きます。どうかそれまで私の言うことを聞いてください」
- 217 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:15:08.04 ID:CAM9WLfs0
- お嬢様はじっとドクオの顔を見つめました。
今にも崩れてしまいそうな、悲しい笑顔を。 ( <●><●>)『わかってくれるね、クー』 表情は違えど、亡き兄の面影。 どこか遠くへ行ってしまいそうな不安。 お嬢様の思考は程なくして停止しました。 川 - ) ('A`)「お嬢様・・・」
- 221 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:17:45.77 ID:CAM9WLfs0
- ( ^ω^)「・・・クー。ドクオさんもつらいんだお」
沈黙を貫いていたブーンが口を開きました。 お嬢様は黙ってブーンの話を聞きます。 結んだ口をさっきよりもキュッとしめて。 ( ^ω^)「目の前でクーのお兄さんが殺されて、その上クーが死んだら ドクオさんはどう思うお?」 ( ^ω^)「別れは辛いかも知れない。でも、ドクオさんは必ず会いに行くって言ってるお」 ( ^ω^)「クーも覚悟を決めなきゃいけない時なんじゃないかお?」 さっきと同じような風が部屋に吹きました。 生暖かくて、それでいて少し爽やかな。
- 223 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:22:00.76 ID:CAM9WLfs0
- 川 ゚ -゚)
ブーンが語りかけている間に、お嬢様は顔を上げていました。 整った顔に不安を見せながらも。 しかし、その茶色い瞳にはもう涙は溜まっていません。 腰掛けていたベッドからスッと立ち上がり、あのときと同じように凛とした姿勢で ドクオに視線を向けました。 まっすぐな力強い表情で。 川 ゚ -゚)「悪かった。ドクオの気持ちも考えずに」 川 ゚ -゚)「ブーン。ありがとう目が覚めたよ」 ( ^ω^)「おっお」
- 224 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:25:41.83 ID:CAM9WLfs0
- 川 ゚ -゚)「ドクオの言うとおりこの家を離れるよ。私が生きることで、」
川 ゚ー゚)「生きることで幸せとしてくれる人がいるのなら」 いつもと同じ優しい微笑みでした。 お嬢様は窓に近寄り、空を見上げます。 夏の夜空。 お嬢様にとって星たちの輝きが後押ししてくれるような気がしました。 月明かりがお嬢様の顔を照らします。
- 225 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:30:13.93 ID:CAM9WLfs0
- ('A`)「必ず、必ず会いに行きます」
その後ろで呟くように決心を口にしました。 風に揺れる美しい茶色い髪を見ながら。 しばらく見ることは出来ない月明かりを浴びる、白い肌を見ながら。 川 ゚ー゚)「わかってる」 空を仰ぎながらささやくように返答しました。 ('A`)「ブーン。お嬢様をしっかりとお守りするんだぞ」 ほんの少しだけ声が震えていました。
- 226 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:32:39.68 ID:CAM9WLfs0
- 長くに渡り、幽閉された乙女を見守り続けた男。
古びた塔の一室で健気に女を磨き、強く強くあり続けた乙女。 二人の関係が一幕降りようとしています。 ドクオの目に映るのは、月明かりに照らされた強く、たくましい男女。 その傍らの男にドクオは全てを託しました。 全てを託された男。 ただ一言、 ( ^ω^)「もちろんですお」 とだけ口にしました。 迷いの無い、まっすぐな答え。
- 227 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:34:39.04 ID:CAM9WLfs0
- 川 ゚ -゚)「ドクオ」
お嬢様は空から目を離し、長年共に歩んだ男に目を向けます。 そばにある箪笥から深く輝くものを取り出しました。 深い深い緑です。 川 ゚ -゚)「これを」 ドクオに差し伸べるのはブローチ。 お嬢様の白い手のひらからそれを優しく受け取り、まじまじと見ました。 吸い込まれるような深い色。 ドクオの良く知るブローチでした。
- 229 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/18(土) 23:40:27.05 ID:CAM9WLfs0
- 川 ゚ -゚)「わかっているかとは思うが母の形見だ」
川 ゚ -゚)「いつの日か再び会えるときまで持っていてほしい」 川 ゚ー゚)「わがままかな」 ドクオは、いえ、と首を振って答えました。 ブローチをキュッと握ってお嬢様の顔を見ます。 ('∀`)「では、二人の明るい門出のご用意をいたしましょう」 はじける様な満面の笑みでした。
- 234 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:13:44.23 ID:tJz1Xvvy0
- ――――ドクオがお嬢様の荷物の用意を済ませる頃には月が真上まで来ていました。
月明かりがよりいっそう強くなる中で、二人は窓からツタを降りて地に足を付きます。 お嬢様は被っていたフードを取って塔を見上げました。 長く暮らしていた塔。 それは月明かりに照らされ、幻想的な白金色に輝いていました。 そして、窓からドクオが手を振ります。 どうか元気で、と。 お嬢様とブーンもそれに答え、手を振り替えしました。 どうか元気で、と。
- 236 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:19:15.45 ID:tJz1Xvvy0
- 涙の別れにはなりませんでした。
三人は、姿が見えなくなるまで、笑ってずっとずっと手を振り続けました。 頭上に沢山の星が輝く中で、塔に幽閉されていた乙女が、ゆっくりと地を歩み始めます。 この先の人生を自分の足でしっかり進んでいけるように。 隣には全てを託された男。 同じ歩みでお嬢様と一緒に。 第二の人生が幕を開けたばかりでした。
- 237 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:22:03.03 ID:tJz1Xvvy0
- ――――その星空の中、一つの決心をした民族がありました。
_ ( ゚∀゚)「立ち上がるときが来た」 川辺に集まるはモララー卿に虐殺され続けた異教徒。 女性たちはキャンドルを持ち、祭壇と思わしき石の土俵を囲みます。 小さな火の光に囲まれた男たちは、中心の大男の声に耳を傾けていました。 中心の大男は夜空を仰ぎ静かに深呼吸を繰り返します。 透き通る水に映し出される月。 魚が跳ね、月が歪みます。
- 238 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:25:15.14 ID:tJz1Xvvy0
- _
( ゚∀゚)「クー・フーリンの加護を」 そう一言小さな声で宣言すると、周りの男たちが大きな声を上げます。 地鳴りがするほどの大声。 その叫びと共に狂うように踊りだす男たち。 スカカカッ カカカッ 上半身をまったく動かさない特殊なステップダンス。 一糸乱れぬ動きがそこにありました。 幻想的な火の光の中で戦いの誓いがたてられました。 戦争が始まろうとしています。
- 239 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:29:18.97 ID:tJz1Xvvy0
- 6.港町
お嬢様が歩き始めた一週間ほど前のことです。 遠く離れた王都にてモララー卿の勝手な振る舞いは問題視されていました。 しかし、隣国との戦争が控えている故に、誰もそれを咎めようとする者はいません。 そんな中、国の動きに危機感を覚えた男がいました。 ( ФωФ) その一人、ロマネスク卿です。 あまり名の知れない伯爵でしたが、人望は厚く、頭の切れる男だといいます。 背は高く、整った顔をしており、なによりも若さに相応しくない白髪交じりの短髪が特徴的でした。
- 241 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:35:39.96 ID:tJz1Xvvy0
- 出兵命令の出されているロマネスク卿は葛藤していました。
自分の国で流れるはずの無い血が流れようとしている。 国が国として成り立っているのは民が国を支えているから。 彼らが血を流そうとしているのにそれを咎めることなく他国の侵略に精を出す。 相手は事もあろうか王が協和を望んでいる異教徒たち。
- 242 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:41:49.45 ID:tJz1Xvvy0
- ( ФωФ)「ダイオード卿、ちょっといいあるか?」
/ ゚、。 /「わざわざ屋敷まで出向くとは、こんな夜更けに何用だ」 シンとした闇の中で密会が行われていました。 現れたのはそのもう一人となるダイオード卿。 その昔、武力を買われて伯爵となった男です。 ロマネスク卿の父と深い交流があり、ロマネスク卿は幼い頃から知っていました。 ( ФωФ)「ヴィップ地方を治めているダイオード卿なら詳しいと思って 来たのである。噂に聞くラウンジ地方の話なのであるが」 / ゚、。 /「王都に来てまでこの話か。教えてやろう」 ロマネスク卿の問いに対して、伸びきらない髭を擦りながら神妙な顔つきで答えます。
- 243 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:44:53.29 ID:tJz1Xvvy0
- / ゚、。 /「王都に流れてきている噂どおりで、まず間違いない。
モララー卿を止めなくてはわが国にて血が流れるだろうな」 ( ФωФ) ( ФωФ)「・・・・・・そうであるか。ならば我輩はラウンジに出向くである」 失礼した、と足早に去ろうとするロマネスク卿。 背後から呼び止める声がします。 / ゚、。;/「待て、隣国との戦いはどうなる?」 ( ФωФ)
- 244 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:47:38.01 ID:tJz1Xvvy0
- ( ФωФ)「国王は彼奴ら民族との協和を望んでおられる。勝手な振る舞いは許せぬのだ」
( ФωФ)「それに、流れるはずの無い血が流れようとしているのに、それを止めようとしない 戦士がどこにいるであるか」 ( ФωФ)「迷える民が出ようとしている時に領土を広げようなど笑止千万」 振り向かずにあっけらかんと答えました。 表情こそは見えませんが、その声は心に刺さるような鋭さを帯びていました。 そして、その後でもう一言添えます。 ( ФωФ)「ラウンジ地方で流れる血は一人のもので十分である。 我輩はモララー卿を討つ」 押さえつけられるような言葉の重圧。 それはダイオード卿に深く食い込みました。
- 245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 00:53:27.41 ID:tJz1Xvvy0
- / ゚、。 /
その言葉を聴いて棒のように立ち尽くすダイオード卿。 深く刻まれた目じりの皺がたるんだように落ち込みます。 若い頃、数々の内戦から迷える民を救ってきた彼にとってこの状況は許せるものではなかったはず。 しかし、自らラウンジ問題の解決を目指すことはしませんでした。 隣国との戦いを第一に考えていたのです。 ダイオード卿は戦士の本分を忘れていたことを恥じました。 ( ФωФ)「我輩は間違っているであるか?」 ロマネスク卿は振り返りました。 そして、少しだけ俯いたダイオード卿を見つめます。 偽りの無い、真っ直ぐな瞳で。
- 248 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:13:05.12 ID:tJz1Xvvy0
-
/ ゚、。 / / ゚、。 /「・・・いや、どうやら間違っているのは私らしい」 / ゚、。 /「目が覚めた。私もラウンジへ向かおう」 騒々しい王都が闇に静まっている時の話です。 二人の間に交わされた会話はたったのそれだけ。 ダイオード卿の言葉を聴き、ロマネスク卿は再び背を向けて足早に帰っていきました。 二人とも表情を変えることなく。
- 249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 01:15:35.90 ID:tJz1Xvvy0
- 3分にも満たない密会。
しかし、結束するには十分なようで、その週のうちに兵をまとめ、日は違えど、ロマネスク卿、ダイオード卿、共に ラウンジ地方へと向かいました。 共に銃兵を持たない特殊な編成。 特に打ち合わせたわけではありません。 王都からラウンジまで5日ほど。 国のために国を裏切り、静かに奮起した男たちの戦いが始まったのです。
- 250 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:19:16.51 ID:tJz1Xvvy0
- ――――塔を出てから夜が開け、お嬢様とブーンは港町にたどり着きました。
港に向かったのはブーンの船があるからです。 ブーンはこのラウンジから離れて別の地に降り立とうと考えていました。 ( ^ω^)「お・・・。結構荒れてるお」 ( ^ω^)「今日ラウンジを離れるのはなかなか厳しいかお・・・」 海は荒れていてとても船を出せるような状態ではありませんでした。 海風が強く吹きつけ、潮の香りが鼻につきます。 お嬢様は深く被っていたフードを取り、海を眺めました。 波と波が激しくぶつかり合う。 久しぶりに見る海は穏やかな表情ではありません。
- 251 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:21:50.24 ID:tJz1Xvvy0
- ( ^ω^)「しょうがないから一旦港の小屋に行くお。船が出せるようになるまで
待つしかないお・・・」 港の小屋は船着場を少し行ったところにありました。 非常に簡素な小屋。 どうやらそこには人が住んでいるようで、窓から人影が覗きます。 ( ^ω^)「お邪魔しますお」 ぼろぼろの扉を開けると、さまざまな道具が無造作に置かれていました。 どの道具もお嬢様が知らないもので、不思議な世界が広がっています。 まるで倉庫です。
- 252 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:24:15.90 ID:tJz1Xvvy0
- (´・ω・`)「やあ、ブーン。海は大荒れだろう?」
奥からひょっこり出てきた男。 垂れた眉毛の特徴的な顔つきをした男は優しい声でブーンに話しかけました。 タールで汚れた顔を拭ってお嬢様を見ます。 (´・ω・`)「別嬪さんだね。恋人かい?」 ( ^ω^)「まあ、そんなところかお」 (´・ω・`)そ (´・ω・`) (;´・ω・)「えっ」
- 253 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:29:25.66 ID:tJz1Xvvy0
- 川* - )
お嬢様は少し照れました。 顔がほんのりと桜色に染まっています。 (´・ω・`)「照れちゃってかわいいもんだ」 (´・ω・`)「しかし、口に金玉みたいなのがついた男のどこがいいんだか・・・」 ( ^ω^)「お前もだお」 (;´・ω・)「・・・まあ、紅茶でも入れるよ。待っててくれ」 そういってしょぼくれ眉毛の男は、奥の方へと消えていきました。 ちょっと経って持ってきたのは欠けたカップを三つ。
- 254 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:33:56.25 ID:tJz1Xvvy0
- (´・ω・`)「僕の名前はショボン。ここの主だ。代々船着場は僕の家系が管理しているよ」
(´・ω・`)「この汚い家が僕の家。ちなみにそばにあった大きな白い建物が仕事場さ」 (´・ω・`)「水夫たちからは小屋って呼ばれてる。ひどいよね!」 ショボンと名乗る男は、汚いテーブルに紅茶を並べながら喋ります。 途中、ブーンとお嬢様を、まあまあ座って、と制しました。 座ると椅子がぎしぎしと音を立てて、いかにも頼りなさげです。 (´・ω・`)「こう見えて僕は今年で48になる。驚いたろう?」 川;゚ -゚)(見たまんまだ)
- 255 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:36:54.26 ID:tJz1Xvvy0
- (´^ω^`)「で、君の名前は?」
目にしわを寄せて、ニカッと微笑みました。 お嬢様の答えを待たずに、ズズッと音を立てて紅茶に口に含みます。 川 ゚ -゚)「・・・私はクール。商人の娘だ」 お嬢様は苗字を隠しました。 異教徒じゃないとは言え、モララー卿の悪政に反感を持っているものは少なくないはず。 娘だとばれる訳にはいかなかったのです。 幸い、幽閉されていて、存在がなかったことにされていたのでお嬢様を知るものはあまりいませんでした。 (´・ω・`)「そう。良い名前じゃないか」 そう言うとまた、ズズッと音を立てて紅茶を口に含みます。
- 256 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:40:25.76 ID:tJz1Xvvy0
- ( ^ω^)「そうそう、船が出せるようになるまでここにいさせてほしいお」
(´・ω・`)「ああ、構わんよ。夜には治まるだろう」 ( ^ω^)「ありがとうだお」 ( ^ω^)「クー、明日の朝にはラウンジを離れるお」 川 ゚ -゚)「・・・わかった」 生まれ育ったラウンジを離れるのは抵抗があります。 しかし、そんなことは言ってられません。 ドクオの為にも、お坊ちゃまの為にも、そしてブーンの為にも元気でいれるように。 その気持ちを再確認しました。
- 258 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:42:39.81 ID:tJz1Xvvy0
- (;´・ω・)「えっ。ブーンはラウンジを離れるのかい?」
それを聞いたショボンは目を丸くして驚いていました。 そして、持っていたカップを置きます。 ( ^ω^)「・・・そうだお。僕たちは約束したんだお」 まっすぐとショボンを見つめるブーン。 お嬢様はこんなにも自分を思ってくれているブーンを見て少しだけ泣きそうになりました。 彼もまた、今までの生活を捨てることになるのです。 お嬢様は涙をこらえるために紅茶を口にします。
- 262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 02:03:49.39 ID:tJz1Xvvy0
- (;´・ω・)「えらく急だな」
( ^ω^)「すまんお」 (;´・ω・)「ま、まあ事情は人それぞれ。君たちのこれからに幸多きことを祈るよ」 ショボンは置いていたカップを手に取り紅茶を口に含みます。 相変わらずズズッと音を立てて。 ( ^ω^)「いろいろ世話になったお」 そう言うとブーンもカップに口をつけました。
- 263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 02:06:17.46 ID:tJz1Xvvy0
- 川 ゚ -゚)
部屋の中に広がる紅茶とタールが混ざった匂い。 お嬢様はその不思議な匂いを吸い込みます。 いままで嗅いだことの無い匂いが、これから始まろうとしているラウンジの外の世界を彷彿させました。 もっと自分の知らない世界が広がっているのだろうか。 わくわくはしません。 どこからか湧き出てくる使命感と緊張感が胸をいっぱいにしました。
- 264 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 02:11:10.24 ID:tJz1Xvvy0
- 7.ロマネスク卿とダイオード卿
――――その日の晩。 この港町に簡素な武装をした異教徒たちが、どっと押し寄せました。 武器を高々と掲げ猛進する異教徒たち。 そして、大群の中には松明をもった異教徒が何人か。 人魂のように恨みを具現化したそれは、皮肉にも闇の中で美しく舞っているのでした。 町の人々はすぐに感づきました。 それが王国軍ではなく異教徒たちだと。 ついに皆が恐れていた日がやってきたのです。
- 265 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 02:15:06.25 ID:tJz1Xvvy0
- 大きな馬たちが街道を蹴りって力強く加速します。
蹄が地を打ちつけ、リズミカルな音が町中に鳴り渡りました。 民衆は感じたことの無い恐怖に冷静さを失うばかり。 _ ( ゚∀゚)「王国軍をおびき寄せる! 町に火を放て!」 異教徒たちは大声を上げ町に火をつけて回ります。 逃げまとう民。 今日は一段と風の強い日です。 悲鳴と歓声の混じった絶望の中であっという間に一面火の海となりました。 町中が赤に染まり、熱が大気を支配します。
- 266 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 02:20:50.96 ID:tJz1Xvvy0
- ( ゚∀゚)「来い。呪われたこの地にて貴様を討つ」
城とはいえ、小さな城。 どれだけ準備をしていようと兵力など限られているものです。 それをおびき寄せ、城を手薄にしたところを攻め込むつもりでした。 特別風の強い日です。 火の強さは強まる一方。 まさに地獄でした。 _ ( ゚∀゚)「・・・どうやらお出ましのようだな」 大男は目を凝らしました。 まだ火の上がってない暗い地平線から沢山の人影。 次第にそれは迫ります。 王国軍です。
- 267 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 02:23:49.59 ID:tJz1Xvvy0
-
_ ( ゚∀゚)「勝利を掴め! クー・フーリンの子らよ! その怒りを剣に込めよ!」 火の光で赤くきらめく一回り大きな剣を高々と掲げます。 地鳴りのような異教徒たちの雄たけびが町中に響き渡りました。 興奮し、皆が皆目を血走らせ闘争心をむき出しにしています。 しかし、王国軍は怯むことなく突き進んでいきます。 / ゚、。 / 先頭に立っているのはモララー卿でなくダイオード卿でした。 剣を片手に、まっすぐな顔で火の海を目指します。
- 268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 02:27:58.09 ID:tJz1Xvvy0
- / ゚、。 /「・・・すでに火の手が上がっているか。これだけ急いで間に合わぬとは情けない」
/ ゚、。 /「だが狙い通りだな。彼らが誇り高き民族で助かる」 誇り高き民族に銃を使うという発想は無い。 銃を持たないダイオードたちにとって血を流さない戦いの舞台は整っていました。 / ゚、。 /「行くぞ! 絶対に血を流させるな! 騎馬兵は異教徒どもの武器を奪え! 衛生兵は民の安全を確保!」 国王軍は、ごおおおっ、というような雄叫びをあげました。 血を流さないための戦い。 その響きがが兵士たちを鼓舞させるのです。
- 270 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 02:31:24.07 ID:tJz1Xvvy0
- 国王軍は勢いを落とすことなく、熱気に包まれた町へと入りました。
馬の蹄が地を打ち付け、音を立てます。 降りかかる火の粉を物ともせず異教徒たちに向かっていきました。 幾つかの火の粉が当たり、ダイオード卿の伸びきらない髭が多少焦げます。 国王軍の姿をを目視した異教徒たちも武器を構えます。 目を血走らせ、獣のような顔つきで。 _ ( ゚∀゚)「モララー卿ではない・・・?何奴か」 大男は大きな剣の切っ先を、向かってくるダイオード卿に向けました。 それを見たダイオード卿は他の異教徒たちに目もくれず大男に向かっていきます。
- 271 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 02:35:28.06 ID:tJz1Xvvy0
- / ゚、。 /「異教徒の長とお見受けする。一つ手合わせ願おう」
ダイオード卿は大男の武器を弾く様に自らの武器を力を込めて当てました。 はじけた様な乾いた金属音が響きます。 _ (;゚∀゚)「くっ!」 大男は武器こそは弾き飛ばされなかったものの、強靭な力で当てられてバランスを崩し、乗っていた馬から 転げ落ちました。 とっさに受身を取り、地にしっかりと足を着いて体制を整えます。 ダイオード卿は馬を止め、大男に切っ先を向けました。 ダイオード卿の黒い大きな馬は落ち着いた様子で地に蹄を立てます。
- 275 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 02:41:54.97 ID:tJz1Xvvy0
- / ゚、。 /「我が名はベルウッド・ダイオード。貴様は?」
_ ( ゚∀゚)「・・・ジョルジュだ。王国の腐った犬よ。我が民族の怒りを受けるが良い」 二人が名乗り終わると、ダイオード卿は乗っていた馬からゆっくりと下り始めました。 まるで、そこが戦場ではないかのように。自然に。 / ゚、。 / ダイオード卿は地に降り立ち、ジョルジュの興奮しきった顔を見ました。 そして、すでに皺くちゃの顔をもっと皺くちゃにして笑います。 / ゚、。 /「ジョルジュ。貴様をここで食い止める。この私が聖なる地に血を流させはせんよ」
- 277 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 03:04:34.93 ID:tJz1Xvvy0
-
_ (#゚∀゚)「・・・抜かせぇ!」 周りの鍔迫り合いより幾分も激しい鍔迫り合いが始まりました。 _ (#゚∀゚)「ぬぉおぉおおぉおおお!!!」 / ゚、。 /(この老いぼれの体には少々こたえるな) それはまるで竜巻のようです。 平和だった町はどこもかしこも荒れ狂っていました。 この王国軍の登場をもって、兵士と異教徒が奏でる金属音が炎に包まれた町を支配し始めたのでした。
- 290 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:11:23.58 ID:9oLao2+Y0
- ―――― 一方、今しがたラウンジに着いたロマネスク卿は燃え盛る町とダイオード卿の戦いを見て、行く先を変えました。
直接城に行ってモララー卿を討つためです。 ( ФωФ)「伝令、ダイオード軍に我が軍隊の三分の二を町に向かわせたことと、 我輩は少数の兵を引き連れ城に向かうことを伝えるのである」 ロマネスク卿は疾走します。 大きな赤黒い馬は息を荒げ、今にも崩れ落ちそうです。 夏にしては冷たい夜風がロマネスク卿を打ちつけます。
- 291 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:16:18.39 ID:9oLao2+Y0
- 夏にしては冷たい夜風がロマネスク卿を打ちつけます。
( ФωФ)「もっと速く・・・! 町が燃え尽きる前に・・・」 町から城まですこしだけかかります。 元は小さな軍事拠点だったものですから、丘の上に立っているのです。 それまでにモララー卿と鉢合わせれば、そこで討つ。 町が燃えているのでモララー卿は兵を繰り出してくるだろう。 そう考えていました。
- 293 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:20:09.66 ID:9oLao2+Y0
- ( ФωФ)「民よ、許せ。だが、今全てを終わらせよう」
独り言のように呟き、人影の無い闇の中を何頭かの馬が駆けます。 蹄が土を抉り、撒き散らして。 後ろには赤に輝く町。 夕日のように美しい輝きを見せていました。 しばらくして、遠くに城が見えてきました。 城はシンと静まりかえっていて、廃墟のような佇まい。 ロマネスク卿は不思議に思いました。
- 294 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:24:50.39 ID:9oLao2+Y0
- ( ФωФ)「何故、兵が出ていない・・・。町が燃えているのがわからんのか?」
ロマネスク卿は、そんなはずは無い、というふうに馬に鞭を入れました。 鞭が入り、馬はいっそう加速します。 より土を抉り、撒き散らして。 シンとした闇の中で疾走する兵とその主。 焦る気持ちが体を駆り立てながらも、その不思議なラウンジの光景に、 危機感を感じつつ、しゃかりきになって城に向かっていくのでした。
- 295 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:28:55.58 ID:9oLao2+Y0
- 8.無題
――――ドクオは自室で町の燃え上がる様を眺めていました。 買い物に行けば商人たちが明るく振舞う。 海はキラキラと煌き、その側で子供たちが遊ぶ。 水夫たちが酒を飲み、暴れ、夜の町に花を添える。 ・・・ああ、そういえばブーンも水夫だっけか。 そんなことを考えながら。 ('A`)「もう、終わりにしなければならないな」 聞こえないくらい声で独り言を言うと、ドクオは静かに自室から出ます。
- 296 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:32:24.26 ID:9oLao2+Y0
- 兵は町に出ました。
しかし、町には行くことができないでしょう。 町に火が上がったころ、ドクオは馬の首を掻っ切って、全て殺しました。 全て、といっても大した数の馬はこの城にありません。 それに、兵といっても全くいません。 城にいるのは多少の使用人たちだけです。 そんな少ない数の兵がいたところで何もできないでしょう。 何故兵がいないかと言えば、モララー卿は戦争の用意を全くしていませんでした。 戦争が起ころうとしていたのに、です。 モララー卿はもう完璧に狂っていました。
- 297 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:34:35.86 ID:9oLao2+Y0
- ( ・∀・)「おお。ドクオじゃないか」
ドクオがモララー卿の部屋に入ると虚ろな目で迎えました。 なにを考えているのかわからないような顔つきで。 ドクオは、モララー卿の妙に明るい声色が気色悪く感じました。 ( ・∀・)「ははっ。ワカッテマスは戦いにいったか?町が燃えているものなあ」 モララー卿はお坊ちゃまがまるで生きているかのように、しかも楽しそうにドクオに語りかけます。
- 299 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:38:03.27 ID:9oLao2+Y0
- 顔は常に傾き、骨と皮だけになった体を椅子から起こしました。
モララー卿はいろんなことをぺらぺらと喋りながら、ドクオに近づきます。 やはり、その顔は笑っていなく、声だけが陽気です。 死んだ魚のような目を全く動かさずに。 そのうわごとのような話の中にはお嬢様の名前は一回も出てきませんでした。 ('A`)「だんな様」 ( ・∀・)「どうした、思いつめたような顔をして」 ('A`)「私はあなたを殺しに来ました」
- 300 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:41:45.37 ID:9oLao2+Y0
- ( ・∀・)
( ・∀・) ( ・∀・)「おお。そうか」 とだけぽつりと呟くと、またうわごとのようにいろいろな話をぺらぺらと喋り始めました。 ドクオはそれを無視するかのように、そばにあった装飾用のサーベルを手に取ります。 取っ手の部分が銀と金で彩られた素敵なサーベル。 装飾用とはいえ、骨と皮だけになった老人を貫くには十分です。 モララー卿はドクオがサーベルをつかんでも表情すら変えませんでした。 静かな部屋には、抑揚の無いモララー卿の喋り声。
- 304 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:05:38.38 ID:9oLao2+Y0
- ドクオはモララー卿に向かって走りました。
そして、胸に目掛けて刃をつきたてます。 ずぶり、とサーベルは吸い込まれるかのようにモララー卿に刺さりました。 そして、そのまま勢い良く部屋の壁にサーベルごとモララー卿を突き立てました。 壁に釘付けになったモララー卿。 ドクオが向かってくるとき、何の抵抗も見せませんでした。 色の無い目だけがドクオを捕らえているだけで、手も足もなんの動きを見せずにいたのです。
- 305 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:09:13.27 ID:9oLao2+Y0
- ( ∀ )「ゴフッ・・・ワ、ワカッテマスは・・・?」
('A`)「亡くなられましたよ。だんな様の目の前で」 ( ∀ )「そうか」 ぶくぶくと血の泡をふくモララー卿。 うわ言のように息子の名前を呟きます。 それを目の前にしてドクオは怒りも、悲しみも、何も浮かびませんでした。 ただただ、虚しさだけが胸をいっぱいにします。
- 306 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:12:11.73 ID:9oLao2+Y0
- しばらくドクオはモララー卿を何も考えずに見ていました。
次第に血を吐かなくなり、ついに体はピクリとも動かなくなりました。 目の前で人が死ぬのは二回目です。 どちらも自分にとっては係わり合いの多かった人物。 その一人は自分の手で殺しました。 ( A ) (;A;) ふと、涙がこぼれました。 悲しくなんか無いのに、こぼれました。
- 307 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:18:35.26 ID:9oLao2+Y0
- 涙が落ちないように上を向きます。
とめどなく流れる涙は上を向いていてもぽたぽたと流れて落ちました。 血の匂いが充満する部屋で、ドクオはいつまでもいつまでも涙を拭うことなく立ち尽くしていました。 町の赤い光は暗い室内を優しく照らします。 この世のものとは思えないような残酷な光景を。 やさしく、やさしく。 やさしく、やさしく。
- 309 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:26:37.19 ID:9oLao2+Y0
- ――――ドクオが涙を止められずに居る頃、やっとのことでロマネスク卿は城に着きました。
小さな城の門には何人か兵がいます。 遠目では確認できないほどの少ない人数です。 ( ФωФ)「・・・何故、兵がここにいるのである。モララー卿は町に繰り出してないのか?」 ロマネスク卿は馬上から門の兵士に尋ねます。 しかし、ロマネスク卿の突然の来訪に兵士はたじろぐばかり。 <;`∀´>「こ、これはロマネスク卿! なぜ王都の伯爵がこんなところにいるニダ!」
- 310 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:29:46.23 ID:9oLao2+Y0
- ( ФωФ)「質問に答えるである」
驚く兵士たちに鋭い言葉を投げかけました。 たじろぐような仕草を見せる兵士たちは、ぽつりぽつりと話し始めます。 <ヽ`∀´>「ウリたちは出兵命令は出されてないニダ。それに町に行こうにも馬が全滅してた ニダ! 城にいる兵は全部で10程度。こんなんじゃ何にもできないニダ」 (;ФωФ)「・・・馬鹿な! 戦争が起きようとしていたのに何の用意もしていないというのか? モララー卿は狂ったか!」 <ヽ`∀´>「そ、その通りニダ。一兵であるウリは詳しいことは知らないけど、おかしくなった事 位はちゃんとわかるニダ」
- 311 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:36:15.75 ID:9oLao2+Y0
- (;ФωФ)「くっ!」
ロマネスク卿らは急いで城内に入りました。 モララー卿の気がふれたのなら、この勝手な行いにも納得がいく。 焦る気持ちがロマネスク卿の体を支配します。 急いで馬から飛び降り、城へと入っていきます。 門はお世辞にも大きいとは言えない様な物で、壁が崩れているところも。 その姿は名ばかりの城で、ほぼ大きな屋敷のようなものでした。
- 348 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 06:56:13.60 ID:VHaj8j5o0
- (;ФωФ)「モララー卿! 居られまいか!」
そう叫び、使用人たちによって綺麗にされた廊下を走ります。 馬によって撒き散らされた土が廊下を汚しながら。 行き着いた先は、三階にある大きな部屋。 そこからは、嗅ぎ慣れた、嫌なにおいが鼻を突きました。 ロマネスク卿の兵士たちは剣を抜き、慎重な顔つきをして指示を仰ぎます (;ФωФ)「開けるである。油断するな」 ロマネスク卿は異臭を放っている部屋を慎重に空けました。
- 349 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 06:58:35.67 ID:VHaj8j5o0
- 目の前に広がる信じられない光景。
一番に目に付いたのは、壁につきたてられて絶命する老人。 紛れも無くモララー卿です。 そして、亡骸の前で涙を流す中年の男。 誰が見てもどういう状況かというのは明らかでした。 兵士たちは武器を納め、ただただその異様な光景を眺めるしかありませんでした。
- 350 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:00:45.98 ID:VHaj8j5o0
- ( ФωФ)「・・・捕らえよ」
落ち着きを取り戻したロマネスク卿の声が、血生臭い部屋に響きました。 低く、太く。 兵士たちがドクオを床に押さえつけます。 押さえつけた拍子に胸のポケットから何かが落ちました。 深い深い緑。 床に叩きつけられたそれに亀裂が入ります。 それを見ても彼は何の抵抗も見せませんでした。 ただ黙って泣いているだけです。
- 351 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:03:55.07 ID:VHaj8j5o0
- ( ФωФ)「・・・伝令。ダイオード卿にモララー卿は死んだということを伝えて欲しいである」
それだけ言い終わると、ロマネスク卿はドクオに近づきます。 ( ФωФ)「その姿を見ると使用人か」 ( ФωФ)「何故、殺した。狂っていたからか」 (;A;) ドクオは何も喋りません。 ロマネスク卿はその泣き顔を見て、そうか、とだけ呟きました。 兵士たちは困惑を顔に出し、どうしたら良いかわからないような目で主を見つめます。
- 353 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:06:52.84 ID:VHaj8j5o0
-
( ФωФ) ( ФωФ)「使用人ごときが侯爵を殺すとは死罪は免れぬだろう。たとえ狂っていた としてもである」 ( ФωФ)「・・・我輩が討ち取ったことにするである。このラウンジの件に関しての罪は全て被ろう」 兵士が驚いた顔でロマネスク卿を見ました。 ロマネスク卿の顔は心なしか、どこか悲しそうにしていました。 それは、自分が罪を被ることを悲しんでいるのではありません。 ただ、虚しく、悲しいのです。 部屋の窓から見える町は、まだ明るい赤色をしていました。 ぼうっとぼやける様に、闇の中で明るく明るく光っていました。
- 354 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:10:10.15 ID:VHaj8j5o0
- 9.お嬢様
夜通しで歩き続けたお嬢様とブーン。 ショボンの家で船が出せるようになるまで、少し眠ることにしました。 倉庫のような小屋の中の、少し薄汚いベッドでまどろむ様に二人は眠りに付きます。 (;´・ω・)「おい、起きろ! 非常にまずいことになった!」 ( -ω-)「・・・お?」 川う -゚)「・・・船が出せるようになったのか?」 お嬢様たちには寝る前にかかってなかった毛布がかかっていました。 タールの匂いが染み込んだ少し汚い毛布。 ショボンがかけてくれていたのでしょう。
- 355 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:12:02.32 ID:VHaj8j5o0
- (;´・ω・)「窓の外を見ろ!」
ショボンは非常に焦った様子でブーンたちを捲し立てます。 まだ寝ぼけた様な目をした二人は、ベッドのすぐそばにある窓を覗きました。 (; ゚ω゚)「・・・!!」 川;゚ -゚)「町が燃えている・・・」 逃げまとう民衆。 目に付く家々に火をつけていく男たち。 ついに町は戦場と化したのです。
- 357 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:15:04.80 ID:VHaj8j5o0
- (;´・ω・)「いつかはこうなると恐れていたが・・・」
(; ゚ω゚) (; ゚ω゚)「・・・今日は風が強かったはずだお! こんなのすぐに燃え広がっちゃうお!」 川;゚ -゚) 室内でもわかるほど大きな音を立てて燃える町。 民衆の悲鳴が町を覆いつくします。 お嬢様とブーンはその地獄のような光景を放心したような顔つきで見つめていました。
- 358 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:17:17.24 ID:VHaj8j5o0
- (;´・ω・)「ボーっとしてる場合じゃないぞ! いつここに火が移るかわからない。
ここから速く出ないと・・・」 二人はショボンの声で我に返りました。 ショボンに連れられて小屋の外に出ます。 外に出ると、夏の夜の暑さとは違った熱が襲いました。 窓からでは判らなかった熱、蹄の音、そして戦場の空気。 川;゚ -゚)「・・・ブーン! みんなが、みんなが死んでしまう!」 お嬢様は胸の内が焼き付けるような気持ちです。 自分たちのせいで町が焼け落ちてしまう。 町の人々が死んでしまう。 頭の中は焦りでいっぱいでした。
- 359 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:19:40.53 ID:VHaj8j5o0
- (; ゚ω゚)
(; ゚ω゚)「・・・・・・で、出来るだけ火を消して、みんなを助けるお」 (;´・ω・)「ラウンジを離れるのは良いのかい?」 (; ゚ω゚)「そんなこと言ってる場合じゃ無くなったお!」 (;´・ω・)「それもそうか・・・。そしたら、とりあえず水辺まで行こう」 (; ゚ω゚)「い、急ぐお!」 ブーンは急いで船着場まで走りました。 お嬢様とショボンもそれを追います。
- 361 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:21:56.46 ID:VHaj8j5o0
- 船着場には何個かバケツがおいてあります。
ブーンたちはそれに海水を汲んで火を消そうと考えていました。 しかし、そんなことをしても焼け石に水。 燃え広がる火の海を押さえることなど出来やしないのです。 それでも、ただ見てることはできません。 (;´・ω・)「あの甲冑は王国軍か。ずいぶん早いお出ましだったな」 川;゚ -゚)(けど紋章はヴィップ・・・?) (;´・ω・)「消火作業を手伝ってる兵士もいるか・・・」 戦場と化した町は王国軍の到着をもって、いよいよ激化しました。 剣と剣が擦れ合うような金属の音。 民衆の不安と混乱は頂点に達しています。
- 362 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:24:13.20 ID:VHaj8j5o0
- ようやく到着した船着場も炎に包まれていました。
船も幾つかは燃えており、涼しげな水面は火を映して幻想的な赤に煌いています。 しかし、目当てのバケツやバケツに変わるものは思ったよりもありませんでした。 (;´・ω・) (;^ω^)「あんまり無いお・・・」 (;´・ω・)「足らないな・・・。僕の家にバケツがまだ何個かあるはずだ。家に火が移ってなければいいが」 (;^ω^)「取りにいってくるお。ショボンさんはクーをよろしく頼むお」 川;゚ -゚) (;´・ω・)「頼んだ。危なかったらすぐに戻るんだぞ」
- 365 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:06:49.93 ID:VHaj8j5o0
- ブーンはすぐに駆け出していきました。
ブーンにとっても大切なこの町。 親を亡くして、くじけていた自分を支えてくれた町です。 自分が冷静でないのはわかります。 わかるのですがこの気持ちを抑えることができないのです。 (; ゚ω゚)「もう火が回ってるのかお?!」 小屋の中は煙でいっぱいでした。 煙が入って涙目になった目を見開き、棚を見回ります。 ごちゃごちゃと物で溢れかえった部屋が、このときばかりは憎く思ったのでした。
- 366 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:09:16.18 ID:VHaj8j5o0
- 小屋の煙が濃すぎて周りの様子が把握できません。
もやもやと体の回りにまとわり付くそれは、この戦火を治めるのを阻止しているかの様です。 (;うω゚)「ぜんぜん見えないお・・・。煙も強くなってきたしあきらめるしかないかお」 あきらめて小屋から出ようとした時でした。 ミシッ、ミシリ。 奇怪な音が小さく呻きました。
- 367 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:13:08.75 ID:VHaj8j5o0
- そこからはまさに一瞬でした。
棚が傾き、乱雑に積まれていた物が一気になだれ落ちます。 それに導かれるかのように他の棚も崩れて落ちました。 ガラガラとにぎやかな音。 (; ゚ω゚)「――――――!!」
- 369 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:17:42.90 ID:VHaj8j5o0
- (; ω )「ぐあっ・・・・・・」
煙が凄くて目視できなかった小屋の中。 火は確実に棚を蝕んでいて、棚が力なく倒れるとあっという間に火が広がります。 パキパキと音をたてて灰を撒き散らす炎。 目の前が見えなくなるほどの煙が、崩壊しかけている小屋を支配しました。 ブーンはなす術もなく、下敷きになりました。 地獄のような光景を前に、いつ火が自分に襲い掛かるかわからない恐怖感が自分の胸を締め付けていきます。
- 371 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:22:15.06 ID:VHaj8j5o0
- (; ω )(熱っ・・・! 火が僕に移ったのかお・・・?)
下敷きになってから、少ししか経っていないにも関わらず時間が長く感じました。 力を入れても全く動くことの出来ない状況。 燃される足に脳が悲鳴を上げます。 ブーンは死を覚悟しました。 死ぬとわかると不思議と落ち着いた気持ちが湧き出て、緊張感をほぐします。 奇妙な心情。
- 372 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:26:02.44 ID:VHaj8j5o0
- 遠のく意識の中で扉が開く音がしました。
煙に赤い光跡が走り、外の空気が煙を巻きます。 川;゚ -゚)「ブーン・・・!」 (;´・ω・)「遅いと思って来てみれば・・・! 大丈夫か?!」 (; ω )「おっおっ・・・。大丈夫ではないかもしれないお」 二人は急いでブーンに駆け寄りました。 ショボンはブーンを押さえつけている棚や道具を退かそうとします。 しかし、火の手が強く、なかなか退かすことができません。
- 374 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:29:17.62 ID:VHaj8j5o0
- (; ω )「・・・多分、小屋はもう崩れるお。ショボンさん、クー、速く逃げるお」
川;゚ -゚)「な、何を言って・・・」 (; ω )「僕はもう死ぬってことだお。二人を巻き込むことはできないお」 (;´・ω・)「あきらめるんじゃない!」 ぽつぽつと喋り始めたブーン。 すすだらけの顔を上げて続けます。 (;^ω^)「クー。お前は生きろお」
- 375 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:31:45.81 ID:VHaj8j5o0
- この状況下の中でまじめな声色。
何よりも真剣な表情がクーの胸に突き刺さりました。 川; - )「だから何を言っている」 川 - ) 川 - ) 川 - )「・・・・・・もし。もし、君がここで死ぬって言うのなら、私も・・・」 (; ゚ω゚)「馬鹿言ってんじゃないお!」
- 376 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:35:13.64 ID:VHaj8j5o0
- 川 - )
搾り出したかのような怒鳴り声。 そして、人の焦げたような匂いが、すすの匂いに混じって漂い始めました。 (; ω )「・・・どんな思いで、お兄さんがクーのいる家を守ろうとしたお? どんな思いで、ドクオさんはクーに家を捨てさせたお?」 (; ω )「こんな僕のために捨てるような命じゃねぇんだお」 川 - ) 川 - )「・・・私には愛する人を見捨てることはできん」
- 377 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:37:47.14 ID:VHaj8j5o0
- (; ω )
(; ω )「だから一緒に死ぬお?」 川 - ) 川 - ) (; ω )「馬鹿かお。僕はクーと一緒に死にたいなんて思ってないお」 川 う- )「でもっ・・・」 お嬢様は、顔を手で覆いました。 今にも涙が零れそうだったから。
- 378 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:03:01.84 ID:VHaj8j5o0
- (; ω )
(; ω )「この世のどこに愛する人に死を願う人がいるお?」 川 う- ) 川∩-∩) 川∩-∩)「理解はできる」 川∩-∩)「理解はできるよ・・・」 覆った手をどける事が出来ません。 ここでぼろぼろと泣いてしまえば挫けてしまう。 挫けてしまえば、ここでブーンと一緒に死んで、全部を終わりにしたくなる。 必死に、必死に涙を堪えました。
- 380 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:05:13.08 ID:VHaj8j5o0
- (; ω )「わかってお。僕の、最期の願いだお」
( <●><●>)『わかってくれるね、クー』 ('∀`)『どうかそれまで私の言うことを聞いてください』
- 381 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:07:50.78 ID:VHaj8j5o0
- 不意に、頭によぎりました。
家を守るために父を殺そうとした兄が。 父の様に慕った優しい使用人が。 川∩-∩) (;´・ω・)「別嬪さん・・・。君は一体・・・」 (; ω ) 川∩-∩) ミシリ、ミシリ、と柱が悲鳴を上げ始めました。 今にも小屋は崩れそうです。
- 382 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:11:45.67 ID:VHaj8j5o0
- (;´・ω・)「ゴホッ・・・。まずいな・・・」
川∩-∩) (; ω ) 川∩-∩) 川∩-∩)「わかった」 震えた声。 小屋中がパキパキと悲鳴を上げる中で、その芯のある小さな声はしっかりとブーンに届いていました。 川う-∩) 川 ゚ -゚) 目に溜まった涙をクイっと拭ってブーンの顔を見ます。 腫れた目で、まっすぐに。
- 384 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:15:11.50 ID:VHaj8j5o0
-
川 ゚ -゚) 川 ゚ -゚)「生きるよ。私」 (; ω ) (; ω )「よかったお」 (; ω )「・・・ショボンさん。クーをラウンジから出してあげてお。」 (;´・ω・)「わ、わかった。この別嬪さんを生きて他の地に移せば良いんだな?」 ショボンの問いに対してブーンはしっかりと頷きました。
- 385 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:18:01.43 ID:VHaj8j5o0
- そして、ブーンは思い出したかのように顔を上げてお嬢様の顔を見つめます。
(; ω )「クー、これを」 ブーンは唯一動かせる左手で、首に巻かれたスカーフをシュルシュルと解きました。 今は亡き、父の形見。 薄い桃色をしたスカーフです。 生地の薄い、肌触りの良いスカーフ。 (; ω )「持っててお」 ぷるぷるとした手でお嬢様にそれを渡しました。 お嬢様は両手でそれを受け取り、力強く握ります。
- 387 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:25:24.31 ID:VHaj8j5o0
- 川 - )
先が少し焦げたそれは、ブーンの体温がほんのりと残っていました。 そのぬくもりが愛おしくて、お嬢様はスカーフを胸に押し当てます。 肉の焦げる匂いが充満した小屋。 ほとんど目視することができないほど煙が立ち込めていました。 柱がバキバキと音をたてます。 小屋は限界に近づいていました。 今にも崩れそうな音を小屋全体が惜しげもなく鳴らし始めます。
- 388 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:28:17.29 ID:VHaj8j5o0
- (; ω )
(; ω )「小屋は限界かお」 (;´・ω・)「もうまずいな。出よう別嬪さん!」 川 - ) 川 - )「ブーン」 (;^ω^)「お?」 川 ゚ー゚)「好きだよ」 さっき拭ったはずの涙がまた目に溜まっていました。 涙が零れ落ちるのを堪えるかのように引きつらせた笑み。 一見不自然な顔でも、ブーンにとっては一番素敵な笑顔に感じました。
- 389 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:32:17.99 ID:VHaj8j5o0
- ( ^ω^)「僕もだお」
痛みや熱さなんて忘れてしまうくらいの笑顔。 そんな笑顔を受けて、死んでいく。 ( ^ω^)(悪くないもんだお) 川 ゚ -゚)「じゃあ」 川 - )「さようなら」 ( ^ω^)「さようならだお」 ショボンに連れられて足早に小屋を出るお嬢様。 その後姿を見ていたら、涙がこぼれ始めました。 ぽろぽろ、ぽろぽろと。 悲しいわけではありません。 悲しいわけでは、ないのです。 ( ;ω;)「・・・さようならだお」
- 391 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:35:24.81 ID:VHaj8j5o0
- ――――ショボンは燃えていない船を捜すのに苦労しました。
なんとか見つけた一隻。 日に焼けて黒ずんだ小さな船でした。 (´・ω・`)「・・・・・・ブーンのか」 川 - ) さっき来たときよりも大きな炎を上げて燃え広がっていました。 水面に反射する赤が幻想的な光景を演出します。 皮肉にも先ほどより、美しく、感動的に。
- 410 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:19:14.51 ID:CAHqgM540
- (´・ω・`)「さぁ、早く乗り込もう。船が燃えないうちに」
ショボンはお嬢様の手を取りバランスを崩さないように船に乗せようとします。 お嬢様が船に足をかけたときでした。 突如背後から少女の悲鳴が聞こえたのです。 *( ;;)* 「おかああああさああああん」 从´-`从 振り向けば瓦礫に押しつぶされて動かない女性とその側で泣き叫ぶ少女。 混乱する民衆は誰一人として助けようとしません。 少女の悲痛な叫びが二人の耳に痛いほど届きました。
- 411 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:22:17.51 ID:CAHqgM540
- (;´・ω・)「っく・・・!」
川 - ) 川 - )「行って上げて」 (;´・ω・)「だが・・・」 船を見るとすでに火の手は迫っていました。 一刻も早く船を出さなければ燃え移ってしまいます。 後ろには泣き叫ぶ少女。
- 412 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:25:20.81 ID:CAHqgM540
-
川 - ) 川;゚ -゚)「私は大丈夫だから! 早く!」 (;´・ω・)「・・・!」 俯いていたお嬢様が叫びました。 真剣な表情で、ショボンを捲し立てます。 目の前で人が死んでいくのはもう見たくない。 その思いが強く表情に出ていました。
- 413 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:29:26.67 ID:CAHqgM540
- (;´・ω・)
(;´・ω・)「・・・・・・わかった。陸を西に進んでいけばサロン、もっと行けばヴィップだ!」 (;´・ω・)「助けたら必ず追いかける!」 お嬢様は小船に乗り込み、縄を解きます。 そして、ショボンが船を蹴り押しました。 燃え盛る船着場で、お嬢様を乗せた小さな小船がゆっくりと水面を走り始めます。 水面に移る炎を歪ませながら。 荒れた波が小さな船を大きく揺らします。 ゆらゆらと頼りなさげに進んでいく小船。
- 414 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:31:57.45 ID:CAHqgM540
- 川 - )
初めて恋におちた男が目の前で死に、 そして、産まれて育ったラウンジが焼け落ちる様を見ながら、 お嬢様は何を思ったでしょうか。 この先、お嬢様が見つかることはありませんでした。 海の藻屑となったか、はたまた名の知れぬ島に上陸したか。 かつて、ラウンジを守っていた一つの家族。 そのたった一人の生き残りは、 存在を隠し通された生き残りは、 小さくなっていく赤い光を見つめながら、 闇の中へ消えていったのでした。
- 415 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:41:15.91 ID:CAHqgM540
- 10.行方不明になったお嬢様が帰ってきた
――――空はどこまでも透き通ったような透明な青。 馬車に乗る二人は冷たい風を受けて、依然、屋敷へと向かっています。 蹄が心地よいリズムを打ち鳴らして。 ('A`)「ショボンという船着場の男が教えてくれたよ。お嬢様は暗い海の先へ消えて行ったって」 ('A`)「泣きながら謝ってくれた。なんも悪くないのにな」 (´<_` ) (´<_` )「・・・・・・そうか」
- 416 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:45:56.75 ID:CAHqgM540
- ('A`)「このブローチはロマネスク卿が拾ってくれてた。ひびが入っていたよ。大切なのに気づけなかったんだよな」
そういって中年の男は手に持っていたブローチに目をやりました。 深い深い緑色のブローチ。 日に当ててよく見れば、修復した後の薄い線が刻まれています。 ('A`) ('A`)「あのあとロマネスク卿は全ての罪を被った。普通は死罪ものらしい。 けど、爵位の剥奪で許された。モララー卿が狂っていたから、とのことだそうだ」 ('A`)「それで今はロマネスク卿に拾われ、なんとかおまんま食ってるってわけだ」
- 418 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:02:08.57 ID:CAHqgM540
- (´<_` )「もう一人のダイオード卿ってのは?」
('A`)「ロマネスク卿が罪を被ったおかげで特に罪には問われなかった。いまもヴィップを 統治してるよ。ヴィップにロマネスク卿の屋敷があるのはそのせいだ」 (´<_` )「爵位を失っているのにロマネスク『卿』なのかい?」 ('A`)「尊敬の意をこめて、な」 (´<_` )「そうか」 ('A`) ('A`)「・・・ほんの半年前の話だ」
- 420 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:04:54.56 ID:CAHqgM540
- どこまでも続くまっすぐな道を馬車が走ります。
遠くに分かれ道が見えてきました。 サスガはかじかんだ手をキュッと握り、手綱を引きます。 大きな栗毛色の馬が失速し、緩やかなスピードで分かれ道に差し掛かります。 速さが落ちたて、さっきよりも冷たい風が優しく体を撫でました。 相変わらず頭上に広がる透明な青に柔らかな赤色が混ざり始めます。 日はゆっくりと大きくなり、西に落ちて。 影が長くなるのを目で感じながら。
- 422 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:22:15.44 ID:CAHqgM540
- ――――ロマネスク卿の屋敷では使用人たちが慌しく動き回っていました。
それは少し前に一人の伝令がダイオード卿から来たためです。 一刻前、息を切らしながらやってきた伝令。 (;><)「伝令なんです!はぁはぁ・・・」 ( ´∀`)「どうしたモナ。こんなに焦って・・・。事件モナ?」 使用人は大きな扉を開けて顔を出します。 焦った様子の伝令を見て、胸に挿していたハンカチを渡します。 伝令は渡されたハンカチをお礼も言わずに受け取ると、早速、汗ばんだ額をくしゃくしゃと拭きます。 そして、ふぅ、と息を吐き、先ほどより落ち着いた様子で話し始めました。
- 424 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:25:38.75 ID:CAHqgM540
- (;><)「ロマネスク卿に、クール・スナオ・ラウンジ=ラウンジって人が、
近くで見つかったと言うことを知らせてほしいんです!」 使用人はその名前を聞いてもピンときませんでした。 首をかしげながら伝令に尋ねます。 (;´∀`)「だ、誰モナ?」 (;><)「・・・わかんないです」 伝令から早くロマネスク卿に伝えるように言われた使用人は、ロマネスク卿の自室まで走ります。 伝令があれだけ急いでいたのだから、なにかとても大切な人物に違いない。 そう思って使用人も急ぎました。
- 425 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:31:03.58 ID:CAHqgM540
- 使用人は息を整えてから、ロマネスク卿の自室の扉を二回ノックをして丁寧に扉を開けます。
(;´∀`)「失礼しますモナ」 (;ФωФ)「ん?こんなに急いでどうしたである」 広い屋敷を走ってきた使用人の額には汗。 先ほどの伝令にハンカチを返してもらうのを忘れてしまったものですから、主に会う前に顔を拭けずにいたのです。 この様子を見て、ロマネスク卿は白髪交じりの短髪を掻きます。 きょとんとした顔のロマネスク卿。 読んでいた本を一旦置いて、使用人に目を合わせます。
- 426 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:34:16.00 ID:CAHqgM540
- (;´∀`)「なんでも、クール・スナオ・ラウンジ=ラウンジという人物がみつかったとか・・・」
( ФωФ)「・・・・・・本当か?」 きょとんとした顔から急に険しい顔に変わったロマネスク卿を見て、使用人は少し焦ります。 (;´∀`)「本当ですモナ」 ( ФωФ)「今すぐ馬車を用意させろ。それとモナーもついて来るである」 慌しく屋敷から飛び出す使用人とロマネスク卿。 半年前、暗い荒波に消えたお嬢様が見つかったというのです。 どういうわけか、ヴィップの民家に倒れているところを拾われたということでした。 まさか、ラウンジからヴィップまで自力でやってきたのか。 ロマネスク卿は焦る気持ちを抑えて、民家まで向かいます。
- 429 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:40:23.44 ID:CAHqgM540
- 民家は屋敷からそう遠くない場所にありました。
この民家の周りにはほかの民家は無く、幾つかの畑がぽつぽつと点在しています。 ヴィップでは珍しい平野部で、なだらかな丘がいくつも重なっています。 民家の近くを走っていると、牛や馬が飼われているのか、動物の匂いがしました。 遠くにはなだらかな低い山が見え、もっと遠くにはヒロユキ山脈。 山頂の白いキャンパスに、ほんのりと赤が混じっています。 この雄大な自然の中でお嬢様は倒れていた、というのです。
- 431 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:46:32.70 ID:CAHqgM540
- ( ゚д゚ )「こっち、こっちだぁ!」
民家の近くまで行くと男が出迎えてくれました。 ロマネスク卿が来ると聞いてか、農民らしくない召し物を身に着けていました。 その男は、大きく手を拱いて、早く早くと捲し立てます。 ( ФωФ)「・・・!」 川 - ) 中に入ってすぐに目に付いたベッドに横たわる女性。 ロマネスク卿は一度も見たことが無い故、わかりません。 わかりませんが、黒ずんでしまった洋服、気品に満ちた横顔。 それらがお嬢様だと確信させるのです。
- 432 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:51:37.90 ID:CAHqgM540
- ( ФωФ)「・・・この娘は我輩が引き取るのである」
( ゚д゚ )「ああ。かまわんだぁ。ここじゃあなんもしてやれねぇ」 男はロマネスク卿にそう答えると、お嬢様が持っていた荷物をモナーに渡しました。 荷物と思わしき、少し大きめの麻袋は軽く、ほとんど空の様なものでした。 ロマネスク卿はお嬢様を抱き寄せ、馬車へと向かいます。 ロマネスク卿が、外に出たことを確認すると、扉を押さえていたモナーは男に、お騒がせしましたモナ、 と謝罪を入れます。 そして、ロマネスク卿を追うように、足早に馬車へと乗り込みました。
- 433 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:54:39.95 ID:CAHqgM540
- ( ´∀`)「では、走らせますモナ」
( ФωФ)「うむ」 川 - ) モナーは手綱を引き馬を走らせました。 主人とお嬢様を刺激しないように緩やかに馬を走らせます。 ゆっくりと自然が流れる中、お嬢様は静かに目を覚ましました。 川 - ) 川 - )「・・・ここは?」
- 436 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:17:57.24 ID:CAHqgM540
- 川 - )
川 - )「・・・ここは?」 ( ФωФ) ( ФωФ)「ヴィップである」 ( ФωФ)「今から我輩の屋敷に向かうが、よいな」 川 - ) 川 - )「・・・サロンを歩いていたはずなのが」 川 - ) 川 - )「・・・私は倒れたのか」 ( ФωФ)「うむ」
- 438 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:24:25.06 ID:CAHqgM540
- これ以上会話はありませんでした。
そのまま力尽きたようにお嬢様は眠りにつきます。 一定のスピードで走っていく馬車。 薄汚れた娘と小奇麗な白髪の男性をのせて屋敷へとゆっくり進んでいきます。 ( ФωФ)「すまぬ・・・」 ( ФωФ)「・・・すまぬ。我輩が早くに兵を進めていれば・・・」 ロマネスク卿は寝てしまったお嬢様の顔を撫でながら、何度も何度も謝り続けていました。 お嬢様の安らかな寝顔は、いままで何も無かったかの様な優しい顔色をしていました。 少し扱けているものも、半年前の美しい顔立ちを十分に残して。
- 439 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:28:40.94 ID:CAHqgM540
- ――――サスガたちは無事ロマネスク卿の屋敷へとたどり着きました。
サスガは、かじかんだ手を息で温めながら、馬車を降ります。 大きな馬はその場で疲れたように首を下げて立っていました。 (´<_` )「おぉ・・・」 (´<_` )「信じられんな」 屋敷と呼ばれる大きな家を、始めて間近でみたサスガは言葉を失いました。 こんな大きな家に住んでる人がいるのか。 ただただ、ため息が漏れるばかりです。
- 441 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:35:00.00 ID:CAHqgM540
- ('A`)「こうした屋敷は初めてか」
(´<_` )「すごいな、ほんとに」 ('A`)「見とれるのも良いが、外も寒いだろう。良ければ上がってくれ」 そう行ってドクオはサスガを玄関まで案内します。 馬車を置いた場所から少し歩きました。 立派な屋敷の庭の広さにサスガはただただ驚くばかり。 自宅のの古ぼけた扉とは違う、立派な赤い扉がサスガを出迎えました。 重い扉を開ければ広い廊下が顔を見せます。 サスガは玄関に入る前に靴の泥を少し取ってから入りました。 サスガなりの気の使い方です。
- 442 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:38:30.03 ID:CAHqgM540
- (´<_`;)「うーむ。本当にいいのかい?」
('A`)「そう緊張することも無いさ」 サスガは自分が場違いなのではないかと思い始めました。 身なり、風格、教養。その全てが。 現にこうして立っているだけでもそわそわと落ち着きません。 少しと経たないうちに奥から小走りで使用人がやってきました。 (’e’)「お帰りなさいませだんなさ・・・・・・」 (’e’)「うわぁ、ドクオか」
- 444 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:42:58.00 ID:CAHqgM540
- 奥から出てきた使用人は、玄関にいたのがドクオだと確認すると姿勢を屈めました。
ドクオはその使用人と目を合わせ、きょとんとした顔で話します。 ('A`)「ん? だんな様はお出かけになっているのか」 (’e’)「忙しなく出て行かれたな。後ろのは客人か?」 ('A`)「そうだ。困ったところを助けていただいてな」 (´<_`;) ('A`)「どうした?」 サスガは完全に屋敷の空気に飲み込まれてしまいました。 声を出そうにもなかなか声が出せません。
- 445 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:49:34.27 ID:CAHqgM540
- ('A`)「うん、まとりあえずあがってく・・・」
そのとき玄関の大きな扉が開きました。 玄関に夕暮れの冷たい空気が流れ込みます。 ( ´∀`) 入ってきたのは使用人の男。 白い手袋をした手で、扉を押さえて道を作ります。 (´<_`;)(あっ) それを見たサスガもとっさに反対側の扉を押さえに走りました。 この屋敷に来た、何ともいえない申し訳なさから勝手に体が動いてしまったのです。 扉は思っていたよりもズシリと重く、グッと、体を使って押さえました。
- 448 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:54:52.21 ID:CAHqgM540
-
( ФωФ) 川 - ) 扉から入ってきたのは白髪の男性と今にも倒れそうな薄汚い娘。 ロマネスク卿はお嬢様の肩をしっかりと押さえて、倒れないようにゆっくりと歩いてきました。 一歩ずつ、一歩ずつ。 玄関に入るのと同時にひんやりとした冬の風が玄関に吹き付けました。 お嬢様の美しい髪が、ふわりと浮きます。 その、のっぺりとした光景をこの場にいた誰もが黙って見つめていました。
- 450 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:58:04.73 ID:CAHqgM540
- ('A`)
('A`)「お嬢様・・・?」 川 - ) 川 - ) 川 ゚ -゚) ドクオの声を聞いて、 何かに気づいたように、 まるで、さりげなく、 ゆっくりと顔を上げました。 ('A`) 薄汚い洋服と、首に巻かれた、薄桃色のスカーフ。 お嬢様に今の今まで何があったか。 言葉を交わさずとも、その身なりが全てを物語っていました。
- 452 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:03:27.88 ID:CAHqgM540
- 川 ゚ -゚)
川 - ) 川 ;-;) 今まで我慢していたものが、お嬢様の目から、一粒、二粒とこぼれて落ちました。 肩を押さえていたロマネスク卿から離れ、ふらふらとドクオに向かっていきます。 今にも崩れてしまいそうなほど頼りない足。 一歩、一歩、長年ツタの塔で共に歩んだ父との距離が近づいていきます。 そして、フッと、吸い込まれるようにドクオの胸に寄りかかりました。
- 454 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:06:13.51 ID:CAHqgM540
- ('A`)
ドクオはお嬢様を包み込むように腕を回しました。 力なく、空気のように。 川 ;-;) 川 ;-;)「ヒィ―――・・・・・・」 川 ;-;)「ヒィ――――――・・・・・・」 堪えていたものが出てしまったような、窮屈そうで、長い泣き声が屋敷に響きました。 肩を震わせて、崩れ落ちます。
- 456 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:13:20.33 ID:CAHqgM540
- ( A )
(;A;) (;A;)「おぉ・・・・・・おぉぉ・・・・・・」 崩れ落ちたお嬢様を抱えるようにして、ドクオもまた、膝を地に着きます。 二人は肩を震わせながら、小さく小さくなりました。 川 ;-;) (;A;) 力なく抱き合うように崩れ落ちた二人。
- 457 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:18:09.84 ID:CAHqgM540
- 誰もこの光景から目を離そうとする者はいませんでした。
二人の窮屈そうな嗚咽だけがこの屋敷を響かせていて、 そしていつまでもいつまでも、二人は抱き合っていました。 誰もがその場から動こうとはしませんでした。 誰もが、その場から動こうとはしませんでした。 川 ゚ -゚)行方不明のお嬢様が帰ってきたようです おわり
- 459 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:20:43.68 ID:CAHqgM540
- P.グレインジャー作曲 組曲「リンカンシャーの花束」をヒントに
※歌詞等は参考にしておりません
- 463 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:33:16.57 ID:CAHqgM540
- あとがき
全体を通して素朴な作風にしようと思っていまして、極端に盛り上がらせないように 心がけて参りました。 そんなわけで終わり方も盛り上がりすぎず、さらっと終わっています。 ところどころお嬢様の顔がつぶれていたりすることと、更新が相当不定期になってしまったこと。 これらは本当に申し訳ありませんでした。 最後に、支援、保守、最後まで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。 皆様方のおかげで無事最後まで投稿することができました。 以上です。本当にありがとうございました。
- 464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/20(月) 22:39:05.93 ID:rJBJ461O0
- 乙!
弟者はどうなったんだろうか
- 467 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:45:34.04 ID:CAHqgM540
- >>464
ちゃんと帰国しましたよ 兄者の奇病も完治します
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