mesimarja
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( ^ω^)エゴイスティックな世界のようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:17:49.48 ID:8NUoK72Y0
注意事項

・じゅくじょ
・かーちゃん
・としまえん

前に衝動的に投下した事があったものを書き直して投下


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:18:39.11 ID:8NUoK72Y0

いつもの道。

在日中国人、韓国人の娘達の腕引きを振り払う。
鬱陶しいのもそうだが、あの手に掴まれていたくないからだ。

最近の小洒落たOLやホステスの無駄に長い爪には、
ネイルアートという奇っ怪な装飾が施されている。

自分でやったのか、誰かに頼んでやってもらったのかは知らない。
知ろうとも思わない。ただ単に、その爪が恐いと思う。
長い爪を、固くて重そうなものでコーティングしている凶器的な爪に、
傷つけられたくない。連れて行かれたくなんかないと思う。


( ´ω`)「はあ……」


背中に、まだ彼女達の視線を感じる。
向こうも客引きに必死なのだろうが、他人に恵んでやる金はない。
いいや、金はある。心の広さがないのだ。

自分で稼いだ金は、自分で使いたい。
こんなんだから、こんな年になっても女の気配がないんだろう。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:22:52.02 ID:8NUoK72Y0

いつもの光。

目に痛いネオンが、下から更にライトアップされた看板。
最初は入るのをとても戸惑ったが、何、今となっては常連だ。

人生はわからないものだと思いつつ、地下に通じる階段を下りる。


( ^ω^)「お?」


目的の扉の前で、やたらキョドっている男がいた。
くたびれたスーツに、色褪せた鞄。年は僕より若そうだ。

やけに周囲を気にしている。まるで万引き犯。
僕と目が合うと、気まずそうな顔で会釈をしてきた。

そんな姿に、昔の自分を重ねて見る。
確かあの時は、先の常連が僕を引っ張って行ったのだ。
だったら、僕も同じ事をするしかあるまい。


( ^ω^)「ほら、入るお」

(;<●><●>)「え、あ、ちょっ」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:29:17.62 ID:8NUoK72Y0

いつもの店。

扉を開けると、錆びた蒸気機関車の一部が僕らを出迎える。
ぐるぐる回る、あの滑車の部分だ。もう動かない。
これは一種のアンティークらしい。

その隣の硝子棚に、店でストラドと呼ばれるヴァイオリン。
詳しくはストラディバリウスと呼ばれるものの模造品らしい。
こちらはヴィンテージだそうだ。

そういったものに疎い僕には、違いがわからない。
古い物=アンティークなのではないかと軽く言うと、
普段は大人しくて優しいママが、とても静かに激昂した。

あの出来事は、最早のトラウマの一部だ。


( ^ω^)「おーこわ」


ぶるんと身震いしてから、屈んでのれんを潜る。

腕を掴まれている男は、抵抗する事なくすいすいと進む。
それでも、僕より前には進もうとしない。

ますます昔の自分を見ているようだ。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:32:51.01 ID:8NUoK72Y0

|゚ノ ^∀^)「いらっしゃーい、来る頃だと思ってたわん」


カウンターでコップを磨いていた女性が声をかける。
髪を眉の辺りで切り揃え、横の髪をピンで止めている。
頭上に揺れる耳は、若い子のような張りはない。
しかし、賢人曰く「だがそれがいい」だそうだ。僕もそうだ。


( ^ω^)「おいすー、新しい人だお」

|゚ノ ^∀^)「あら、初めましてねー」

(;<●><●>)「あ……」


(;<○><○>)「ど、どうも! お世話になります!」


緊張していたのか、どこか他の場所へ飛んでしまったようだ。
僕に掴まれていた腕を振り払い、斜め45度のお辞儀をする。
突っ込みは間に合わなかった。先に場が静けさに包まれた。

他の客や、客の接待をしていた店の人も固まってしまっている。
レモナは声が出ないようだ。コップを持ったまま動かない。
僕も声が出ない。言葉が出ない。振り払われた姿勢から動けない。
本人も、お辞儀をしたその体勢から動こうとしない。動けないのだろう。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:33:59.63 ID:8NUoK72Y0

J( 'ー`)し「何をやっているのかしら」


そんな場の気まずい空気を吹き飛ばしたのはママだった。
流石はママだ、場のふいんき(ry なんてなんともないぜ。
と言うのは冗談で、自分の店だからだろう。

静止芸のように固まっていた男も、ゆっくりと上体を起こした。
店中の視線が視線が自分に集まっている事に気付いたのだろう。


(;<●><●>)「その、えと、すみませんでした……」


申し訳なさそうに頭を掻きながら、小さく謝った。
その謝罪がスイッチになったのか、場の硬直が解ける。
酔っていたお客さんや店の人が、一斉に笑いだす。

僕もつられて笑っておいた。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:37:04.30 ID:8NUoK72Y0

(; Д )「あひゃははっは、は、はひがysんlぢhshwtるびゃォll;fg」


笑い過ぎて呼吸困難になった客が奥に連れて行かれ、
店の中にまたゆったりとしたジャズが流れ始める。

元の場所に落ち着いていく客達を見て、目の大きな男は取り乱す。


(;<●><●>)「あと、ええっと」


その様が見ていられなくて、肩をぽんと叩く。
びくっと背を縮め、目を合わせまた会釈をする。

どうも、不必要に腰が低い人のようだ。

僕はカウンターのほうへ目をやった。男もそちらを見る。
そこにはカウンターから身を乗り出し、手招きするレモナさん。

背中を押してやると、ひょいひょいとそちらへ向かった。
振り返って会釈するのも忘れない。お陰で椅子につまずく。

礼儀正しいのか、ただの癖なのか判断に迷う。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:40:06.60 ID:8NUoK72Y0

男が無事に席へ座るのを見届けてから、ママの所へ。


J( 'ー`)し「内藤君こんばんわ、今日は何か食べる?」

( ^ω^)「もうちょっとお腹を空かせてから頂くお」

J( 'ー`)し「はいはい」


そう言って、既に酒が入ったコップを置く。
これは僕がキープしておいたボトルだ。


J( 'ー`)し「悪いんだけど…これ、そろそろ消費期限よ」

( ^ω^)「大丈夫だお、今日はもう2本くらい開ける気で来たお」

J( 'ー`)し「あらあら、無理しないでね」


このボトルをキープしたのと開封したのは同じ日だ。
あの日から、もう4週間。1ヵ月も経ってしまっている。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:43:45.07 ID:8NUoK72Y0

僕が好むのは、度数のあまり高くないお酒。
下戸と言うわけじゃないが、ザルでもない。

酒を飲み込んだ時の、あの胸を焼く感覚が少し苦手なのだ。
それじゃあ何故に酒を飲むんだと突っ込まれたら、答えられない。

もしかしたら軽度のアルコール依存症なのかもしれないが、
医者にその可能性は有り得ないと真正面から否定された。
だから、多分、違うのだろう。奴がヤブでない限り。

この酒は口当たりが軽いので、ぐいぐい行けてしまう。
それでも、僕はいつもよりも早いペースで酒を飲み切った。
早く酔って、洗い浚いぶち撒けてしまいたかったのだ。

2本目を持ってきたママが、心配して顔を覗き込む。


J( 'ー`)し「少し早いんじゃないの? 大丈夫?」

( ´ω`)「そんな事よりぃ、ママさぁん、話を聞いておくれお」

J( 'ー`)し「いいよいいよ、今日もお疲れ様」


酒が入ってきて、頭も呂律も回らなくなってくる。
それでもママは、僕の隣で話を聞いてくれる。

泣き上戸の客でもいるんだろうか、店の中に泣き声が響く。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:45:11.70 ID:8NUoK72Y0

( ´ω`)「最近の若い子は怖いお、上の爺さんも怖いお」

J( 'ー`)し「……」


( ´ω`)「部下には憎まれる、上司からは疎まれる」

J( 'ー`)し「……」


( ´ω`)「どうすればいいんだお、僕にはわからないお」


中間管理職は辛いお、と話している内に、手に手を重ねられた。
無意識に握り拳を作っていたらしい。それも両手で。
顔をあげると、ママの微笑みがあった。


J( 'ー`)し「大丈夫よ、今日は私が傍にいてあげるわ」

( 。´ω`)「ママ……」

J( 'ー`)し「今日は後少ししかないけど、今夜だけはゆっくりしていってね」


アルコールで緩んだ涙腺から、少し液体が漏れる。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:48:43.71 ID:8NUoK72Y0

そう、ママは優しいのだ。聖母マリアも慄く程に。

膝の上で拳を握り締めれば、そっと手を重ねてくれる。
泣きそうになれば、それを悟って優しく抱き締めてくれる。

その上、ママはその胸で泣かせてもくれるのだ。
下世話な事でなく、何人がその胸で泣いたのだろう。

その胸に顔を埋めながら頭を撫でられれば、涙はもう止まらない。
子供のように泣き喚いて疲れて、ぐっすり眠ってしまうのだ。

全部を酒の所為にして、今日だけは子供になる。
赤ちゃんプレイ御用達の風俗ではない。
ここは数少ない、大人が泣ける場所なのだ。


( ^ω^)「……お腹空いたお」

J( 'ー`)し「はいはい、メニューよ」


再度、繰り返しておく。
ここは赤ちゃんプレイ御用達の風俗ではない。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:52:06.54 ID:8NUoK72Y0

ネットの界隈ではメイドだロリだ貧乳だと騒がれているが、
母親の包容力に勝てるものはないと僕は信じている。

メイド? コスチュームプレイの一つじゃないのか。
日本じゃいないんだから、家政婦で我慢しとけ。
それでも雇いたかったら、外国行って絶望しろ。

ロリ? 犯罪だろ、二次元だけにしとけよお前ら。
三次元に手を出す性犯罪者はまとめて豚箱行っとけ。
性犯罪者の再犯率は高いってのに、日本の法律は狂ってる。

妹も姉もだ。兄弟は論外。
義理だとしても、身内に欲情してどうする。


J( 'ー`)し「内藤君険しい顔してるわよ、どうしたの?」

( ^ω^)「なんでもないお、ママ」


隣に座るママからは、懐かしい香りがする。
子供の頃に嗅いだ、母親の匂いに似ている。

若い娘がつけるドギツい甘さの香水じゃあない。
加齢臭を隠す為におばちゃんがつける悪臭でもない。

うまく言葉にできないが、『母親』のような匂い。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:53:37.26 ID:8NUoK72Y0

( ^ω^)「これとこれを頼むお、あと今月のオヌヌメ」

J( 'ー`)し「はいはい、それじゃあ用意してくるわね」


席を立って、奥へ消えるママを見送る。

一緒に入った男は、早々に店に溶け込んだようだ。
泣いているのか、酒の飲み過ぎか、カウンターに突っ伏している。
その背中を、レモナが優しい手付きで擦っていた。

視線に気付いたのか、レモナがこちらを振り返った。
口に人差し指を当てて、しーっの動作をする。

僕も、最初に来た時はべろんべろんに酔ったものだ。
そもそも、彼にどうこう口出しする気はない。
頷くと、にこっと笑ってカウンターのほうへ回った。
彼に氷水でも飲ませてやるつもりなんだろう。


J( 'ー`)し「お待たせ、内藤君」

( ^ω^)「おっお、全然待ってないお」

J( 'ー`)し「そう?」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:55:14.66 ID:8NUoK72Y0

僕が頼んだメニューは、『アサリの酒蒸し』『南瓜のシチュー』。
南瓜シチューと言っても、量は重くない。黄色くもない。
オーダーで、好きなように量を変えられるのだ。

アサリの酒蒸しは、好きな酒で蒸す事が可能だ。
たまに、奇天烈な酒で蒸そうとする勇者もいる。
その結果、大抵は飲みこめずに吐く。
悪ければ、その日に食ったもの全てをリバースする。

その為に、奇天烈メニューを頼む人の両サイドには、
水とタオルを持った店の人が、吐いてもいいよう構える。

囲まれたいが為に、メニューを頼む猛者もいる。
僕はまだやった事がない。やる勇気がない。


( ^ω^)「ママの手料理はおいしいお~」

J( 'ー`)し「あらあら、褒めても量は増えないわよ」


その言葉に、隣のボックスに座っていた客が笑う。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 19:57:36.91 ID:8NUoK72Y0

(,,*゚Д゚)「行け行けー! そのまま口説き落とせー!」

(´<_`* )「頑張れ酔わせろ落としちまえ! お前が最初の男になるんだ!」


酔った二人の常連客の野次に、周囲も便乗する。


( *・∀・)「うはははははwwwwwねーよwwwwwww」

{(;´゚ω゚`)}「くっw……ぷ、むむむ」


(´゚ω゚`).,:';∵'「んぼふ」

( ;・∀・)「ちょwwwwwwwwwwwwww」


どうやら「ママの最初の男」発言がツボに入ったらしい客が、
笑いを堪え切れず、口に含んだ酒を勢いよく噴出する。
その酒は、そのまま前の席に座っていた店の人にかかった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:01:09.97 ID:8NUoK72Y0

∬#´_ゝ`)「ちょっ……何すんのよ!」


酒を噴きかけられた店の人が、噴出した男の襟首を掴む。
そのまま彼の右頬に、左手でビンタを繰り出した。


( ^ω^)「おおう」


かなりいい、澄んだ音が鳴る。
まるで銃弾を発射した時の効果音のようだ。


(#;)゚ω゚`)「あべし!」


椅子から転げ落ち、べしょんと床に落ちる男。
しかし、頬を叩かれた彼は心なしか嬉しそうだ。
そんなに強く叩いてはいないのだろう。
言うなれば、これはパフォーマンスの一環だ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:03:06.19 ID:8NUoK72Y0

(#;)・ω・`)「いやー今のは効いたよアニー、起こしてほしいんだけど」


周囲が更に笑いに包まれる。
野次の対象は、僕ではなく二人へ。


∬´_ゝ`)「この軟弱者が、そこでずっと這って雑巾代わりにでもなれ」


……一応、彼女、としておこう。ここでは。この空間では。
彼女は、SMバーなどでもやっていけるのではないかと最近思う。

ぼーっとそちらを見る。上質ではないが、飽きないコメディだ。
けど、彼女にしっしっと犬を払うようにされたので大人しく戻る。

僕が連れてきた男は、こちらを見ておろおろしていた。
大丈夫だとジェスチャーして、ママのほうを向く。

いや、全く大丈夫ではないんですけどね。
自分、こういったものが最高に苦手でして。

結果的に庇ってくれたあの二人には、後でお礼を言っておこう。
アル厨のショボンさんには後で酒を要求されるかもしれないから、
予め手包みでも用意して、それを差し出そう。スピリタスでいいか。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:06:32.08 ID:8NUoK72Y0

J( 'ー`)し「みんな酔ってるのねぇ」

( ^ω^)「本当にですお」


言いながら、シチューとアサリを腹に詰め込む。
酒だけだとキツくなってきたので、他の飲み物を頼む。


( ^ω^)「んげぷ、いつもの下さいお」

J( 'ー`)し「はいはい、ちょっと待ってね」


酔い潰れる客が頻発する時間帯。10時半。
この時間だと、手の空いてる店の人が少なくなる。
手伝ってやりたいが、客である僕が厨房に入れる道理はない。


( ^ω^)「それにしても、」


すっかり常連となった今は「いつもの」というキーワードで、
好みの料理や、好みの酒が用意されるようになった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:07:37.00 ID:8NUoK72Y0

厨二病真っ盛りの時は、こういったものに憧れたものだ。

バーのカウンターに腰掛け、マスターに向かって呟く。

    『マスター、いつもの』

マスターは手早い動きで酒瓶を手にし、無言でグラスへ注ぐ。
そして差し出される『いつもの』酒。僕はそれを黙って飲む。

実際、この妄想と現実とではかなりの差があるが……。
まさか、こんな形で実現するとは夢にも思わなかった。
人生、何があるかわからないものだ。


J( 'ー`)し「はい内藤君」

( ^ω^)「おっお、ありがとうだお」


『いつもの』と言っても、氷を入れた普通のサイダーなのだが。


ミセ*゚ー゚)リ「はぁ~い内藤君、今日のオ ス ス メ」

( ^ω^)「おっ?」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:09:38.96 ID:8NUoK72Y0

J( 'ー`)し「あら、ギコさんは?」

ミセ*゚ー゚)リ「酔い潰れて寝ちゃったわ~」


何にしろ、客が一人潰れたから人手が空いたのか。
僕はミセリと言うそのままの名前の人から料理を受け取る。

彼女は、容姿は今時の若奥さん。
いわゆるヤンママといった感じの人だ。

この外見に、一時期常連客のからクレームが飛んだ。
その場に居合わせていたので、よく知っている。
「茶髪なんかに染めやがって」と酔って怒り狂う客に、
彼女は「あたしハーフなの」とさらりと返した。

しかし、酒が入った男がそれで止まるわけがない。
その後、彼女はコンタクトを外し、目を見せた。

遠目からでその時はわからなかったが、
彼女の目の色が喧騒を収めたそうだ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:12:41.07 ID:8NUoK72Y0

理科が最大の不得意教科であった僕は、
遺伝について何も言えないので、黙るしかない。


ミセ*゚ー゚)リ「ほいほーい、次見たい人ー」


彼女の眼の色を知る為に、色々な客に目を見せる彼女。
その様が、子供がやる「あっかんべぇ」に似ていて、
思わず芋焼酎を噴き出した。いい思い出だ。


ミセ*゚ー゚)リ「何笑ってるの? 内藤君」

( ^ω^)「なんでもないおぅ」

ミセ*゚ー゚)リ「まあ、内藤君はいっつも笑ってるもんね」


空いた皿を持って、カウンターのほうへ向かって行く。
茶髪がさらりと揺れて、細かいすだれみたいだと思った。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:17:42.39 ID:8NUoK72Y0

J( 'ー`)し「綺麗な髪よねえ、羨ましいわあ」


僕が何を見ていたのか、ちゃんとわかっていたらしい。
流石ママだ。そう言いたいのを押し留めて、話に乗る。


( ^ω^)「ですおねえ、でも、ママさんはその髪型が一番
      ママの髪が茶色になったら、スケバンですお」

J( 'ー`)し「まあ、内藤君ったら」


酔った時に一度見せてもらったが、彼女は根元まで茶髪だった。
彼女の色の薄い蒼い目も、きっとハーフだからなのだろう。

ああ、今はダブルと言うんだっけ?


J( 'ー`)し「今日の常連さんに出す料理は、ちょっとした実験作なの
      おいしくなかったり、甘すぎたりしたら言ってね」


ママが皿を押して、箸を渡す。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:21:01.46 ID:8NUoK72Y0

今日のお勧めは、パンプディングと言う料理らしい。
小麦色の生地に、紫、赤、緑の果物が乗っている。

主に、スイーツ(笑)と言われる料理だろう。
甘い物は好んで食べないが、ママの手料理だ。
床に落ちた欠片だって、残さず食ってやる。


( ^ω^)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」

∬;´_ゝ`)「ちょっと」


擬音的に飛び散りそうだが、そんな事はさせない。
飾り付けでトッピングされていたソースも舐めとる。
ミントも食う。細かい金箔も、まとめて吸い込む。

意地汚いと言うなかれ、こんなものだ、男なんて。


J(;'ー`)し「お、おいしかった?」

( ^ω^)+ 「とても、おかわり!」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:22:30.30 ID:8NUoK72Y0

デザートの追加注文に、ついでに新しいボトルもと頼む。
これは勿論開けるつもりだ。キープはしない。飲み切る。

新しく頼んだボトルを開けてしまえばそれなりの出費になるが、
この為に稼いだと言ってもいい金だ。後悔はしない。


J( 'ー`)し「はい新しいの、どっちをキープするの?」

( ^ω^)「うーん……それじゃ、マティーニを」


初めて僕がこの店に来た時に頼んだ、思い出の酒だ。
常連客には、「それは女子供が飲む酒だ」と馬鹿にされた。
後からその人は、度数の高い酒責めにあう。

勿論、急性アルコール中毒になんかしたりはしない。
みんな、加減を弁えて遊んでいる。

他人の注文に口出すな、がこの店の暗黙のルールだ。
酔っていたとはいえ、ルールを破った人には酒責めが待つ。

酒が飲めない人には、この店特性のミックスドリンク。
飲み切った人は誰一人としていない、伝説の飲み物だ。
ミックスされているものは、当たり前だがシークレット。
アルコールが混入していないと言う事しかわかっていない。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:25:55.84 ID:8NUoK72Y0

このルールがあるからこそ、あのアサリ料理に変な酒を入れ、
自分の味覚を壊したいとしか思えない注文をする人がいるのだが、


( il^ω^)「うっぷ」


貰いゲロではなく、思い出しゲロをしそうになる。
頭の中の爆弾を追い払って、目の前の料理に意識を向ける。


( ^ω^)「ねえママ、この上に乗ってるのは何々だお?」

J( 'ー`)し「苺を切ったものと、ラズベリーとマスカットよ」

( ^ω^)「ふむふむ」


おk. わかった。苺以外わからないのがわかった。
マスカットって葡萄じゃないの? グレープと違うの?
まあまあ、諦めて大人しく食べようじゃないか僕よ。

けど、沈黙があまり耐えられない僕は、また口を開く。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:28:58.94 ID:8NUoK72Y0

( ^ω^)「このソースは?」

J( 'ー`)し「姪っ子が持って来たものよ、おいしいから使ってるわ」


おk. これは分からなくても大丈夫だ。
寧ろ、分かってしまったらストーカー確定だ。


( ^ω^)「おいしかったお」

J( 'ー`)し「ふふ、嬉しいわ」


この言葉は世辞などではない。
ママにはちゃんと伝わっただろうか。


( ^ω^)「余裕がある時は、またこれを頼むお」

J( 'ー`)し「あらあら、ならもっと頑張らなくっちゃね」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:31:05.83 ID:8NUoK72Y0

時計が0時を差し、客の数も少なくなる。
この店のいい所は、24時間営業である事だろう。

この時間帯になると、勤務歴が長い人や、常連客、
これから常連入りを果たす客が多くなる。

ママは勿論、店側ではアニーやレモナさん。
客では、ショボンさんに野次馬コンビに僕といったところだ。
その他にも沢山いるが、全員紹介してたらきりがない。

これから常連入りを果たす客は、あの目の大きな彼だろう。


|゚ノ ^∀^)「はーい、それじゃ男衆ファイトー!」

(,,゚Д゚)「よーし頑張るか!」

( ^ω^)「筋肉痛にならない程度に頑張るおー」

J( 'ー`)し「頑張ってね内藤君」

(  ゚ω゚)「当たり前ですとも! この身が崩れようとも命尽きるまで!」

(´・ω・`)「wwwwwwwwww」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:34:24.74 ID:8NUoK72Y0

∬´_ゝ`)「ファイトー」

(´<_` )「お前も手伝えよ」

∬´_ゝ`)「黙れカス、さっきの客が吐いたゲロお前の口に詰め込むぞ」

(;<●><●>)「えっ? えっ?」


流れについていけない彼が、最初来た時のようにキョドっている。
説明してやろうかと歩を進めれば、先にレモナさんが彼に近付く。
素早い対応だ。惚れ惚れする。婿にしてくれ。


( ^ω^)「よい、しょっと」


自分がついていたテーブルを持ち上げ、店の中央に移動させる。
ギコや弟者も同じ事をしている。例の彼は挙動不審になっている。

何故こんな事をするかと言われれば、この店の恒例行事だとしか。
いつもやっている訳ではなく、金曜の深夜にだけこうする。

毎週開かれるイベントのようなものだ。
参加した回数は覚えていない。

田舎にある個人が経営している店なので、結構なんでもありだ。
都心部にある、怖い人達がバックについているような店は知らない。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:36:28.94 ID:8NUoK72Y0

店のテーブルを集めて固めて、一つの大きなテーブルにする。


( ^ω^)「ふぅ」


「よいしょ」を自然と口走ってしまった自分に絶望しつつ、
額に流れる汗を手の甲で拭う。

そんな僕を見たママが、そっとお絞りを差し出した。
将来嫁を持つなら、こんな嫁を娶りたい。


∬´_ゝ`)「ほーらジャンケンしてー」


アニーが、店の奥からこの時だけ使えるソファを出してきた。
このソファには、ジャンケンで勝った奴だけが座れるのだ。
その両隣には、指定した人を座らせる事ができる。

言わば、小さなハーレムだ。王様だ。キングだ。
負けた奴は、いつもの椅子でちびちびと酒を啜る。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:40:41.29 ID:8NUoK72Y0

負けた事を慰めてくれる女は、王に取られている。
敗者は、配られたお絞りを噛み締める事しか許されない。

肝心のソファの座り心地は、他ならぬ僕が保証する。
折角勝って楽園を手に入れたのに、あまりの気持ちよさに、
座り心地の良さに、ママの膝で涎を垂らして爆睡してしまったのだ。

いや、あれはママの膝が気持ちいいから爆睡したのか。
だからだな。多分そうなのだ。おそらく。きっと。絶対。

そう、思い込むことにする。


(,,゚Д゚)「よーし今日こそ俺が勝つぜ!」

( ^ω^)「言ってろお、僕が勝つお」


無意味に、袖を捲りあげてみる。

しかし上手く捲れず、ママが手伝ってくれた。

ああ、ママン。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:43:04.68 ID:8NUoK72Y0

(´<_,` )「俺が勝ったら指名してやるよwwwww」

∬´_ゝ`)「ふざけんなクソボケカス死ね」

( ^ω^)「アニー本性出し過ぎだお」

(;<●><●>)「えっ……」


店の中では、ちょっとキツ目のお姉様で通っているアニー。
色々な事情があってこうしているのだが、そろそろ見納め時だろう。

ギャップに驚いたのか、目の大きい彼はすっかり委縮してしまっている。

彼になんて声をかけようかと迷っていたら、ショボンさんが行った。
よくスタートダッシュが遅れ気味、と指摘された小学生時代。
クックル先生、アンタ間違っちゃいなかったよ。


(´・ω・`)「よーっし新人君、君の名前は? 愛称でいいよ
      僕はショボン、あのピザがブーン、あとバカとアホ」

(;<●><●>)「わ、ワカッテマスです」


ショボンあとでぶち殺す。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:46:37.82 ID:8NUoK72Y0

自己紹介を終えると同時に、ちりんちりんと鈴が鳴る。
のれんを潜った時の音だ。こんな時間に客は来ない。


*(‘‘)*「やっほー始まってるー?」

(,,゚Д゚)「おっ、ヘリカルじゃねーか」

*(‘‘)*「へへー、そろそろだと思って来ちゃった」

J( 'ー`)し「あらあら」


どうやら、イベント開催時間に合わせてやって来たらしい。
この店の、「元」従業員だ。ついでにマスコットキャラクター。

いい年した女性が髪の毛を頭の横で二つ結いはどうかと思うが、
彼女は地元で魔女と呼ばれる程外見が変わっていないらしい。

この店の従業員の採用条件は、33歳を越えている事だ。

ババアとか思った奴は、今すぐそこになおれ。
ババア結婚してくれ! と叫んだ奴は、友達になろうじゃないか。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:47:48.27 ID:8NUoK72Y0

とてもじゃないが、彼女は30過ぎには見えない。
頑張っても、ませた中学生。幼い大学生。その辺だ。


*(‘‘)*「ブーンちゃん久しぶりぃ~」

( ^ω^)「久しぶりぃ~」


ヘリカルの本当に年齢は、ママしか知らない。

その事を、僕はママに尋ねた事はない。
知っても知らなくても怖すぎる。


∬´_ゝ`)「旦那さんはどうしたんだよ」

*(‘‘)*「会議だって、暇だから来ちゃった」

( ^ω^)「うおぉい」


いいのかそれで。旦那さんは了承してるのか。
僕だったら、嫁が風俗に遊びに来るのには全力で抵抗したい。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:52:05.04 ID:8NUoK72Y0

彼女が「元」従業員な理由。この店を辞めた理由。
それは、この店の常連客の玉の輿に乗ったからだ。

何でも、博打で起こした事業が成功したらしいとか。
その時の大量の金と指輪を持って、ヘリカルさんに告白したと。
彼女はそのままそれを受け入れて、とんとん拍子で話が進み、
ママもおつかいを頼む時のように「幸せにねー」と言ったらしい。

結婚したからには、ここには来れない。当たり前だ。
だから彼女は、顔見知りや信用できる人だけのイベントを利用して、
たまにここへ遊びに来ている。と言う事らしい。

一応、風俗というグループに片足突っ込んでる店がそんな事を。
僕は疑問に思ったが、ママ曰く「幸せならいいのよ」だそうだ。

それはつまり、僕も希望が持てるという事だ。


*(‘‘)*「流石に人妻に手を出す狼はいないよねぇ?」

( ・∀・)「どうかなー指名しちゃおっかなー」

(´<_`; )「うわ、居たのかお前」

( ・∀・)「ああ、トイレでゲロってた」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:53:40.92 ID:8NUoK72Y0

飛び入り客の話題も一段落したところで、元の話へ移る。


(´・ω・`)「ジャンケンくらいわかるよね?」

( <●><●>)「あ、はい」

( ・∀・)「早くやろーぜ、新人だからって容赦しないよワカッテマス
       ママとレモナとアニーとミセリとヘリカルは僕のモンだ」

(,,゚Д゚)「全員じゃねーか」

J( 'ー`)し「欲張りねえ」

(´<_` )「逃げろヘリカル!」

*(‘‘)*「きゃ~」


ギコの突っ込みと、ママのどこか見当違いな発言。
弟者とヘリカルが、モララーの言葉に乗る。

ワカッテマスも、もう殆ど慣れたようだ。
少しぎくしゃくしているが、普通に笑っている。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:57:08.37 ID:8NUoK72Y0

場が一通り笑いに包まれたところで、全員真顔になる。
ワカッテマスも指名したい人がいるのか、真剣だ。


|゚ノ ^∀^)「後出しや無敵は反則よー」

(´・ω・`)「わかってるともさ」

J( 'ー`)し「はーい、それじゃあ……じゃん、けん、」




( ^ω^)( <●><●>)( ・∀・)

               「「「「「 ぽ ん ! 」」」」」

                         (´<_` )(´・ω・`)*(‘‘ )*


 ぱー    ぱー   ちょき

                          ぱー  ぱー  ぱー


……まさか一発で勝ち負けが決まるとは。
これは仏が僕を見捨てたとしか思えない。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 20:58:44.33 ID:8NUoK72Y0

( *・∀・)「いやっほぅうううううあああああ!!」

( ^ω^)「ぐぬぬぬぬ……」

(´・ω・`)「僕もう半年くらい王様なれてないや……」

(´<_` )「つか、何で普通に参加してんだよ」

*(‘‘)*「ノリですよ」


勝者はモララーだった。僕は敗者。さながら惨めな負け犬。
王は軽い足取りのスキップでソファに近寄り、ドカッと座る。


( ・∀・)「それじゃあ早速、ママにレモナにアニーにミセリにヘリカル
      僕の隣へカマン! 何なら膝の上でも肩車でもいい!!」

J( 'ー`)し「ミセリならもう帰ったわよ」

( ・∀・)「マジで!? でもいいや! みんなおいで!」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:01:55.65 ID:8NUoK72Y0

モララーの呼び声に、従業員が集まって行く。
呼んだ中にはママもいた。ママはモララーの右隣に座る。


( ^ω^)「ぬぅ……」


僕の隣に座ったママにかける言葉を考えていた僕に、
この仕打ちは酷過ぎる。先祖も鼻で笑っているだろう。

遠回しに、運命や僕自身が諦めろとでも言っているのだろうか。
給料3ヶ月分だなんてものは、もう古臭い事だと若い子は言う。
でも、諦めきれない。好意ばかりは、どうしようもできない。

誰にも気付かれないように、胸ポケットに入れた指輪の箱を撫でた。


(´・ω・`)「こりゃハメられたねえ……」

( ^ω^)「誰に? 誰が? 何に? ママが!?」

(;´・ω・`)「ちょっと落ち着いて」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:04:05.69 ID:8NUoK72Y0

ショボンが言うには、

じゃん、けん、で振り被った時、モララーの手は既にチョキだった。
他人の手を見ている奴は、無意識の内にグーを出す。
モララーはそれを見計らって、振り下ろす瞬間パーに変える。
これで上手くいけばモララー勝利、少なくともあいこになる。

だそうだ。これはやられた。

モララーが勢いよく手を振り上げ、視線をそっちに持ってかれた。
彼はチョキを出していたと言われれば、そうかもしれない。
結果的に、モララー以外の全員がグーを出したのだ。

偶然かもしれないが、こんな偶然認められない。

モララーには悪いが、今回だけは少し恨ませてくれ。
何かしたりはしないが、こうしないと僕の気持ちが落ち着かない。


(,,゚Д゚)「ちっくしょー俺のレモナがああああああ」

|゚ノ ^∀^)「誰がいつ何処でアンタの女になったのよ」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:05:22.86 ID:8NUoK72Y0

今回ばかりは、心の底から楽しめそうにない。
ママには悪いが、甘い物の食い過ぎで胸焼けがすると言い、
トイレに駆け込んだ。ごめんよ、ママ。料理はおいしかった。


( ´ω`)「はあーあ、タイミング逃しちゃったお……」


事前に準備して来た事で、逆に心に応えた。

胸ポケットを漁り、そっと箱を取り出す。
間違っても便器に落とすような真似はしない。

蓋を開けると、電灯の光を受けて指輪についてる石が赤く光る。
7月が誕生日だと言うママに、奮発してルビーの指輪を買ったのだ。

前に、酔った振りをしてパチンコの玩具の指輪をママの指に嵌め、
二度程こっそりとサイズを測っている。合わないはずがない。

……バレてはいないと思いたい。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:07:35.78 ID:8NUoK72Y0

( ´ω`)「来週は祝日だから、再来週かお……」


このルビーの指輪を今日、ママに渡すはずだったのだ。
花束はないけど、その代わり精一杯考えた口説き文句を携えて。

そうやって着々と準備をし、その後のハネムーンまで考えた。
そんな妄想で上がりまくったテンションで、今日は来店したのだ。


何故か絶対ジャンケンに勝てるような気がして、

ママに喜んでもらえるような気がして、

皆に祝福されるような気がして、


( ´ω`)「はあ……」


現実は、上手くいかない事は判っているけれど、

諦めきれなくて。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:10:27.77 ID:8NUoK72Y0

取りあえず、出すものを出して、手洗いで顔を洗う。
冷たい水に顔をつけると、酒で火照った体が冷まされるようだ。

あんまりトイレに長く居座っていると、ギコ辺りに「うんこマン」
とからかわれかねない。ヘリカルは絶対乗ってくるだろう。


( ^ω^)「よーし、よし、再来週もあるんだお、頑張るお」


鏡の中の自分に向かって、励ましの言葉を贈る。
激励を受けた自分は、困ったような顔でこっちを見ている。

そんな顔でどうするんだ、僕のバカ。







 


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:13:57.53 ID:8NUoK72Y0

平民の席に戻ると、上から言葉が降って来た。


( ・∀・)「便器に向かって、僕に対する嫉妬でも吐き出したのかい?
      あの、王様の耳がロバだと知ってしまった青年のように」

( ^ω^)「兵がいない王なんて怖くないお、一揆してやろうかお」


当たらずとも遠からずなところが少し悔しい。
彼に対する言葉が少し攻撃的になってしまった。

モララーは気付いたのか、気付いていないのか、
ぴゅうと口笛を吹いて、僕の発言を軽くスルーした。

その後、見せ付けるようにどかりと足を組む。
なんだ、短足がコンプレックスな僕に対する嫌がらせか。


( *・∀・)「俺はキング! 俺は王様! つまり俺様神様! 俺ネ申!
      童話の王とは違い、ここでは安全が保障されてるのだよ」

*(‘‘)*「なんという暴君、これは間違いなく他国に粛清される」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:15:21.61 ID:8NUoK72Y0

( *・∀・)「よーしまずは裸踊りだ! 全員脱げ! 踊れ!」

∬´_ゝ`)「お手本見せて下さいよ王様」

( *・∀・)「それはwwwwちょっとwwwwwww」


先程からやたらと無理難題をふっかけているが、アニーが軽くあしらう。
酒の入ったモララーだが、周囲の人が上手くコントロールしている。


( *・∀・)「あーあ、日本も一夫多妻制にならないかなー」

( ^ω^)「昔にタイムスリップしたらいいお」

( *・∀・)「だよね、そしたら僕のイケメンの遺伝子バラ撒けるのに」


色んな場所から、複数のビキィという音が聞こえる。


*(‘‘)*「ブサメン一揆でFAよ」

|゚ノ ^∀^)「所詮か弱い女の身じゃあ、王様は守れないわ~」

( *・∀・)「ウハおっれヤバスwwwwwwwwwww」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:16:22.23 ID:8NUoK72Y0

盛り上がっているのが心の底から悔しい。
本当にお絞りを噛み締めてやろうかと迷っていると、
ワイングラスを持ったショボンさんに肩を叩かれた。


(´・ω・`)「隣、いいかい?」

( ^ω^)「どうぞですお」


荷物を反対側の席に置き、スペースを空ける。

そういやワカッテマスはどうしただろうと見回すと、
弟者とギコのグループに交じって談笑していた。
どうやら心配する必要はなさそうなようだ。


(´・ω・`)「全員指名とかできたんだね、僕知らなかったよ」

( ^ω^)「僕もですお、てっきり二人だけかと」


そもそも、自分のお気に入りの従業員以前に、
座るスペースの問題で指名は二人のみとなる。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:18:54.39 ID:8NUoK72Y0

モララーは常連入りをして、そろそろ1年になる。
金曜のイベントに参加するようになったのは、半年前。

ショボンさんが半年前から王様になれていない理由は、
モララーにあると言ってしまってもいい。

モララーはジャンケンが強いのだ。
地元で開かれたジャンケン大会で、優勝してしまうくらい。


(´・ω・`)「もっと早く気付けていればねー」

( ^ω^)「これからですお、再来週こそ王様ですお」


ショボンさんは王様になれない事がそこまで悔しかったのか、
そんなに指名したい人がいたのかは無暗に詮索しないでおく。

彼の勝利方法は、ショボンさんの冷静な分析で解明された。

だからと言って、自分が王様になれるかどうかはわからない。
結局、ジャンケンは運なのだ。運試しなのだ。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:20:46.87 ID:8NUoK72Y0

(´・ω・`)「そう言えば、ジャンケンで人を採用する会社あったよ」

( ^ω^)「マジですかお、大丈夫かおその会社」

(´・ω・`)「一応書類選考はするみたいだけど、どうなんだろうね」

( ^ω^)「ブラック企業じゃないんですかお?」

(´・ω・`)「さあねえ、ただ3連続で勝たないと採用されないんだってさ」

( ^ω^)「なんという会社」

(´・ω・`)「1年……や、2年くらい前にネットで記事になってたよ」

( ^ω^)「おっお、家に帰ったら調べてみますお」

(´・ω・`)「僕の家のパソコン壊れてるから、僕の分もお願いね」

( ^ω^)「会社のパソコンどうなんですかお」

(´・ω・`)「僕の会社は関係ないんだけど、Winnyで個人情報流出事件が」

( ^ω^)「ありましたおね、その所為で僕の会社は2chにフィルタかかりましたお」

(´・ω・`)「そこは突っ込むべきところかい?」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:23:48.43 ID:8NUoK72Y0

下らない事を談笑している内に、夜が明けてきたようだ。
この店は地下にあるが、入口が東を向き、向かいのビルもなく、
夜以外はのれんが外されているので、光が入ってくるのだ。


( ・∀・)「あーあ、王様タイムは終わりかー」

|゚ノ ^∀^)「ちゃんと払ってねー」

( ・∀・)「こんなモン、俺のポケットマネーで余裕だぜフゥハハー」


流石の彼女らにも、顔に疲れが見える。
モララーは疲れるどころか回復したようだ、化け者め。


(,,゚Д゚)「うあー……次は再来週までお預けか」

∬´_ゝ`)「店は開いてるぞ?」

(,,゚Д゚)「そうじゃねーよ、俺は王になりてーんだ……王様によう」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:26:59.25 ID:8NUoK72Y0

常連客には、このイベント目当てに来る客が多い。
その内の客の一人が僕だ。

中には熱を込め過ぎて、病院送りになった者までいる。
ストーカー的な意味ではなく、本人の精神状態的な理由で。


( ^ω^)「……」


この時期になると人材確保に会社は忙しくなる。
来店する客の平均年齢が高めなので、この時期は人が少ない。

そこを狙ってやったのに、モララーに全てを持ってかれたぜ。
ここが戦場なら、フゥハハーと笑いながら彼を撃ち殺している。



でも、まあ、仕方ない。仕方ないのだ。

僕は今日、運が悪かったのだ。

再来週こそは、きっと。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:28:00.14 ID:8NUoK72Y0
前編終わり

近所のおばちゃんがそれ系の店の裏口から出て来た時の衝撃

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 21:31:46.34 ID:8NUoK72Y0
読んでくれた方ありがとうございました

バトルも魔法も何もありませんが、カーチャンに少しでも惚れてくれたら幸いです

コメント

面白かった。
[2010/10/18 20:50] URL | #- [ 編集 ]


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