mesimarja
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(-_-)いつかの夏でもまた、共に在るようです
2016/08/15 01:14
- 2 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:14:43.415 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「……ここは、相変わらずだなぁ」
騒がしいとはいえない、
いつもより少しばかり賑やかなだけの祭り。
ちんとんしゃん、というBGMが古びたテープレコーダーから流れてくるだけ。
後は祭りに参加している人の足音や会話が空気を揺らすばかり。
夜も更けてきた闇の中、
伝統的な提灯と近代的な電球が小さな神社を照らしていた。
毎年開催されている地元の小さな祭り。
鳥居からでも祭りの様子を一望できる規模の祭りには、
大学受験を控えるヒッキーの同級生達の姿はない。
具体的な参加人数について言及するのは酷というもので、
両手があれば充分に数えられてしまう出店数が全てを物語っている。
焼きそばとたこ焼き、わたあめ。
金魚すくいとくじ引き、輪投げ。
毎年出店しているのはこの六つくらいで、
あとはカキ氷や型抜き、ヨーヨーすくいなどが不定期に店を構えていた。
そんなちっぽけな祭りに心惹かれる若者がいるはずもなく、
勉強の息抜きに足を運ぶにしても、
駅を一つ二つ越えた場所で開催される、それなりの規模がある祭りを選択することだろう。
- 3 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:17:25.601 ID:Qk6OV/y10
-
この場にいるのは、昔からこの辺りに住んでいる老人達か、
遠くまで子供を連れて行く元気がない親連中とそのやんちゃ坊主、嬢ちゃん。
ζ(゚ー゚*ζ「おかーさん、わたあめー!」
ξ゚听)ξ「はいはい。キュアキュアの袋ね」
( ФωФ)「この祭りはいつきても落ち着くのである」
('、`*川「えぇ、えぇ。そうですねぇ。
また、来年も一緒にきましょうねぇ」
( ^ω^)「たまにはもっといろんなおみせがあるおまつりにいきたいおー」
J( 'ー`)し「ブーンがもっと大きくなったらねぇ」
明らかに浮くであろう祭りの中へヒッキーは足を踏み入れる。
周囲の人間は、彼を横目で認識しては、祭りの中へ視線を戻す。
気に止め続けたり、声をかけることはしない。
(-_-)「待った?」
彼は受験勉強のストレスを発散しにきたわけではない。
興味本位で地元の祭りについて調べているわけでもない。
親戚の子供を預かり、
丁度いい具合に開催されていた祭りへと連れ出すべくやってきたわけでもない。
- 4 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:20:23.187 ID:Qk6OV/y10
-
从 ゚∀从「いんや」
参道の先にある小さな神社。その縁に座っていたのは、
白く長い髪を夏の蒸し暑さに溶け込ませた女性。
後ろは高めの位置で結われているものの、
左右の前髪に関しては、特に触れられていないのか、
風が遊ぶままに揺らされている。
身にまとう浴衣は、赤と白の市松模様。
その上に鮮やかな朝顔が描かれたもの。
浴衣は女性の魅力を三倍にする、等とよく言われているが、
彼女の美しさを鑑みるに、
その程度の倍率では到底足りやしないのだろう、
とヒッキーは毎年のことながら思わずにいられない。
(-_-)「それはよかった」
从 ゚∀从「お前さんも律儀だねぇ。
去年の約束なんて、無視してくれていいのに」
(-_-)「そうもいかないでしょ」
小さく笑う彼女は、女の色気を過分にかもし出している。
この世の者とは思えぬ美がそこにはあった。
ヒッキーは彼女、ハインリッヒに会いにきたのだ。
- 5 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:23:06.029 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「約束は守らないと」
从 ゚∀从「そりゃモノによるだろうさ」
ケラリ、と笑って、ハインは縁から腰を降ろす。
白い髪と鮮やかな浴衣が揺れ、
一瞬だけ、甘いような爽やかなような香りを周囲に振りまく。
从 ゚∀从「そんじゃ、焼きそばでも食べるとするか。
んでからわたあめ食べて、何かしらすくって、輪投げして……」
軽くのびをしたハインは、ヒッキーの返答を聞く素振りも見せず、
カランコロンと下駄の音を響かせながら歩いていく。
食べるもの、遊べること、を指折り数えて見せるが、
一分も経たぬうちに作成が終わってしまう計画表だ。
予定通りに事を成すにも、急ぐ必要などどこにもないため、
心地良い音を鳴らすハインは非常にゆったりとした足取りだ。
たった数軒の出店。
売り切れも順番待ちもありはしない。
从 ゚∀从「お前も食べるだろ?」
(-_-)「……うん」
振り向いた彼女にヒッキーは首を縦に振って返す。
嬉しげに、楽しげに笑うハインとは対象的に、、
彼の顔に浮かんでいるのは苦笑いだった。
- 7 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:26:10.332 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「おじさん、焼きそば一つ」
ソースの芳しい香りが充満する店の前へ行き、
ヒッキーは指を一本立てる。
_
( ゚∀゚)「ほい」
(-_-)「どうせなら今焼いたヤツにしてよ」
_
( ゚∀゚)「我が侭いうんじゃねぇ」
出店の焼きそばは、安いとは言いがたい価格であるくせに、
特別美味いわけでもない。
具材一つ見ても、そこいらの総菜屋にある焼きそばの方がずっと量が多いだろう。
作り置きを渡されては気持ちが降下するのも無理ない話だ。
(-_-)「そんなにお客さんもこないんだし、
毎回焼くようにしたら?」
_
( ゚∀゚)「少なくても毎回焼くって大変なんだぞ。
お前もやってみたらわかる。
っつーことで、文句言うな」
(-_-)「ちぇ」
それでもつい手が伸びてしまうのは、
祭りという特殊な空間に酔ってしまっているからに他ならない。
こんな小さな祭りであったとしても、
日常とは違う空気を持っているのだから、祭りとは末恐ろしい存在だ。
- 8 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:29:14.348 ID:Qk6OV/y10
-
从 ゚∀从「おいおい、二つ買えよ二つー」
(-_-)「……他にも食べるんでしょ」
唇を尖らせるハインを横目に、
ヒッキーは少しばかり熱の冷めた焼きそばを開ける。
少量のキャベツと豚肉。
そしてかつおぶし。
湯気もないというのに、どこか食欲を増進させるソースの香り。
( ^ω^)「おっおっー!
やきそばたべるお!」
一人の少年が焼きそばを求め、駆けてくる。
そうしなければならないような広さなど、この境内にはないのだが、
幼い子供というのはどうしたって暴れがちなものだ。
同時に、その年頃というのは、バランス感覚が不完全であったり、
大きな頭を支えるだけの体が未発達であったりと、
転びやすいつくりになっている。
(;^ω^)「おっ?」
地面に足をとられたか、ゴミでも踏んだのか。
少年の体が前方向へと倒れていく。
从 ゚д从「おっと!」
- 9 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:30:15.308 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「……大丈夫?」
(;^ω^)「おー。
ありがとうだお、おにーさん」
(-_-)「気をつけてね」
ヒッキーに体を支えられたことにより、
どうにか地面と少年の衝突は避けられた。
冷や汗を流しながらも、きちんと礼を言った少年は、
そのまま焼きそばを忘れ、母の方へと歩み寄っていく。
走ることを選択しなかったのは、
さっきの今、ということを加味すれば妥当な判断だったといえる。
从;゚∀从b「ナイスヒッキー!」
少年の背を見送るヒッキーにハインは親指を立てた。
彼女も手を伸ばしていたのが、その行為が身を結ぶことはない。
しかしながら、それを残念に思う彼女ではなかった。
結果として、少年が無傷であったのならば、それが何より最良である。
故に、ハインはヒッキーを褒め称えるようなジェスチャーをしてみせたのだ。
(-_-)「どうも」
从 ゚∀从「んだよ。スカしやがって。
今時の若者はそーいうのがいいのか?」
- 10 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:32:10.973 ID:Qk6OV/y10
-
あっさりとした反応を返したヒッキーに、
ハインは自身の手を腰に当てながらため息をつく。
別段、これといって望む反応があったわけではないのだが、、
賞賛の言葉への返答だと思えば、ヒッキーのそれはあまりにもそっけない。
(-_-)「さあ。でも、クールな人がいい、とは聞くけど」
从 ゚∀从「っかー!
わかってないねぇ。
男ってのは、度胸と情熱があってこそだろ」
(-_-)「今時、スポコンは流行らないよ」
ヒッキーが手にしていた焼きそばは、
少年を掴んだ反動でわずかに零れてしまっていた。
しかし、彼はそれを気にすることなく割り箸を用いて麺をすする。
ありきたりなソースの味と安い豚肉の味。
出来たてならばもう少し旨みも感じられるだろうけれど、
冷えて硬くなり始めていては、味も半減してしまっている。
从 ゚∀从「どうだ?」
(-_-)「微妙な味」
_
( ゚∀゚)「せめてうちの店から離れて言えよ。
そういうことはよ」
- 11 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:34:15.068 ID:Qk6OV/y10
-
店主に肩を押され、たたらを踏みつつその場を離れる。
半分余っている焼きそばに蓋をしながら、一度だけ後ろを振り返ると、
先ほど掴んだ少年が焼きそばを焼いてもらっている最中だった。
青年の域に達する男には優しくないが、
小さな子供には優しいらしい。
从 ゚∀从「次は金魚すくいか?
ヨーヨー釣りか?」
(-_-)「今年はヨーヨーないよ」
从;゚д从「マジで!」
(-_-)「代わりにスーパーボールすくいがある」
从 ゚∀从「お! スーパーボールか!
アタシ、クリアがいい。中の方に金色のラメが入ってるやつ」
(-_-)「ボク、ああいうの、苦手なんだけどなぁ」
焼きそばの斜め向かいにある『スーパーボールすくい』めがけ、
ハインの下駄が進んでいく。
あの薄っぺらい和紙を張ったポイを用いて何かを掬うというのは、
手先が不器用な性質である彼にとっての鬼門だ。
上手くできたためしはなく、
いつも参加賞として金魚を一匹、ヨーヨーやスパーボールなら一つ貰うばかり。
- 12 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:35:25.108 ID:Qk6OV/y10
-
無論、ハインはヒッキーの戦果を重々承知している。
彼らがこうして小さな夏祭りを楽しむのは、
何もここ数年でのことではない。
从 ゚∀从「ほら、あれだよあれ」
(-_-)「期待はしないでね」
脆いポイに二百円を払い、
ヒッキーは静かな水面を見る。
プカプカ浮かんでいる色とりどりのスーパーボールの中で、
ハインが求めているものは中央部に位置していた。
せめて壁際であったならば、
ポイの縁を利用することもできただろうに。
意図せぬところでヒッキーの眉間にしわが寄る。
从 ゚∀从「頑張れ! 頑張れ!」
(-_-)「ちょっと黙ってて」
背後からの応援にストップをかける。
ただでさえ苦手分野なのだ。
どれだけ集中力をかき寄せても足りない。
それをむざむざ散らしていくことを良しとはできなかった。
从 ゚∀从「がんばれ、がんばれ」
(-_-)「小さく言っても聞こえてるから」
- 13 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:36:44.887 ID:Qk6OV/y10
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小声で囁かれても効果は一緒だ。
もっと騒がしい場所ならばともかく、
ここでは周囲の喧騒に声がかき消されることもない。
(*゚ー゚)「ほらほら、早くする!
ちなみに私のオススメはこれ」
店主が指差したのは、隅にある一際大きなスーパーボール。
ポイよりもわずかに小さいだけのそれを取ろうと思えば、
プロを呼んでくるか、いっそのこと網が張られたポイを用いるかしかないだろう。
(;-_-)「無茶言わないでください」
口元が大きく下がる。
からかわれているのだ、と分かっていても、
受け入れるための余裕や心の広さというものをヒッキーはまだ持っていない。
(-_-)「…………」
雑念を振り払うべく深呼吸。
そして、ポイをそっと水に沈める。
一度、全体を濡らしておくのがコツだと、
昔何かの番組で見た記憶があった。
大小、色様々なスーパーボールを縁で横に避けながら、
目的の物へと近づけていく。
急がず慎重に。
しかし、時間をかけすぎず。
水の下からポイを持ち上げる。
- 14 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:38:34.935 ID:Qk6OV/y10
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(;-_-)「あ」
一度は持ち上げられたスーパーボールだが、
あっけなく和紙が破れてしまい、再び水の中に舞い戻ってしまう。
質量のある物が水に落ちる音がわずかに響き、
ヒッキーは肩を落とした。
今年も彼の敗北が決定した瞬間だ。
(*゚ー゚)「はっはっは。
残念だったね青年」
店主はヒッキーが狙っていたスーパーボールを一つ、
素手で水から取り出すと、
近場においてあったタオルで水気を拭った。
(*゚ー゚)「ほら、参加賞」
大きな物ならばともかく、
一番小さいサイズのスーパーボールならば、
こうして最終的に手に入れることは可能だ。
だが、だからといって、ヒッキーのプライドが守れるのか、と問われれば、
それはまた別の話になってしまう。
(:-_-)「ぐぬぬ……」
- 15 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:40:05.112 ID:Qk6OV/y10
-
店主から受け取ったスーパーボールを強く握り締めながら、
ヒッキーは呻き声のようなものを上げる。
今年こそは、と毎年思っているのだけれど、
成果は一向に上がらない。
ζ(゚ー゚*ζ「もー、おにいちゃん、だめねぇ」
(-_-)「え?」
ζ(゚ー゚*ζ「でれがおてほん、みせてあげるね」
何時の間にやらヒッキーの隣には、
一人の少女がしゃがみこんでいた。
白地に赤い金魚が描かれた、なんとも可愛らしい浴衣を着ている。
彼女は小さな手で店主にお金を渡し、ポイを受け取る。
心なしか、ヒッキーが貰ったものよりも和紙に厚みがあるように見えた。
ζ(゚ー゚*ζ「よいしょー!」
(;-_-)「おぉ……」
感嘆の声が漏れる。
幼い、と侮ることなかれ。
彼女は手早く、正確な手つきで次々スーパーボールをすくいあげていく。
その光景は、圧巻、という言葉が相応しいものだった。
- 16 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:41:12.013 ID:Qk6OV/y10
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ζ(゚ー゚*ζ「どう?」
(-_-)「すごいね。
弟子入りしたいくらい」
ζ(゚ワ゚*ζ「でれのとくぎなの!」
容器一面をボールで満たした頃、
少女の持っていたポイの和紙が破れた。
その瞬間でさえ、彼女は油断することなく、
落ちるボールの下に容器を移動させていた。
数年後には祭り破りの才能を開花させているかもしれない。
ヒッキーはそんな彼女へ一点の曇りもない拍手を捧げる。
誰かを尊敬することに年齢は関係ないのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「はい。どーぞ」
从 ゚∀从「え?」
掬ったスーパーボールを三つ。
残りを大玉と引き換えた少女は、小さいスーパーボールの中から、
赤と白の斑模様をしているものをハインに差し出した。
ζ(^ワ^*ζ「ぷれぜんと。
おねーちゃん、すーぱーぼーるすきなんでしょ?」
- 17 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:42:23.291 ID:Qk6OV/y10
-
ハインがヒッキーにスーパーボールをねだっているところを
彼女はしっかりと見ていたらしい。
自分の特技を用いて人のために何かを成せる彼女は、
とても心が暖かい、良い子だといえるだろう。
从 ゚∀从「……ありがとな」
ζ(゚ー゚*ζ「どういたしましてー」
小さな手がハインに向けられる。
手にしたスーパーボールを早く受け取ってくれ、と言わんばかりだ。
(-_-)「良い子だね。
ありがとう。
来年はボクもキミの真似をしてみるよ」
ヒッキーは少女の頭を撫でながら、
さりげない動作でスーパーボールを受け取る。
大人になりかけている彼の手は、
同年代の男と比べればやや細いものの、
男性としての太さやたくましさを兼ね備えていた。
元より小さなスーパーボールは、
彼の手に収まることでよりいっそ小さく見える。
- 18 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:45:37.560 ID:Qk6OV/y10
-
ξ;゚听)ξ「すみません。うちの子が」
パタパタと駆け寄ってくるのは、少女の母親らしき女性だ。
おそらく、どこぞの母親と井戸端会議ならぬ、
境内会議に勤しんだ結果、娘のことを放置してしまっていたのだろう。
地元民の中でも、老人か子供しか集まらないような場所だ。
多少気が緩んでしまっていても仕方がない。
まして、この神社の敷地内だ。
万が一もありえない、と信用しきってしまう気持ちをヒッキーは否定できない。
(-_-)「いえ。むしろ、彼女のおかげで助かりました」
貰ったばかりのスーパーボールを見せながら告げると、
少女の母親は安堵したような笑みを浮かべてみせた。
ξ゚ー゚)ξ「その子、上手だったでしょ?
出店があると、すぐ掬いに行っちゃうの」
(-_-)「鮮やかな手つきでした。
ボクでは取ってあげることができなかったので、、
こんなに綺麗なものをいただけて良かったです」
少女は母親の足に抱きつくように腕を回している。
親の関心が自分に戻り、ご満悦なのだろう。
しかし、母親の表情を何処か硬い。
娘を見つけたときの笑みは消えうせ、
固唾を呑むかのようなぎこちない顔をしている。
- 19 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:46:24.950 ID:Qk6OV/y10
-
ξ゚听)ξ「その……。
喜んでもらえましたか?」
(-_-)「…………」
強張った顔をする母を娘は不思議そうに見上げている。
言葉の意味がわからないのではない。
彼女が普段、見せない表情を浮かべていることへ、疑問を抱いているのだ。
从 ゚∀从「そりゃ、嬉しいだろ。
な、ヒッキー?」
(-_-)「……そうですね。
とても、嬉しく思ってます」
ハインに背中をトン、と軽く押され、
ヒッキーは肯定の言葉を差し出す。
嘘偽りない言葉である証拠に、
傍らにいるハインのような満面の笑みではないものの、
彼の顔には、多少ぎこちないながら笑みがあった。
それを受け、母親の方も一安心したのか、
柔和な笑みを見せてくれた。
- 20 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:48:44.739 ID:Qk6OV/y10
-
にこやかな母子と別れ、
ハインとヒッキーは次なる獲物を求めて境内を見渡した。
残っているのはたこ焼きとわたあめ。
輪投げとくじ引き、金魚すくい。
当たり年であれば、
ここに林檎飴が追加されることもあるのだが、
それは数年に一回という割合なので期待するほうが無駄というもの。
从 ゚∀从「わたあめ!」
(-_-)「勘弁してください」
げんなりとヒッキーが言うのも無理はない。
ふわふわと可愛らしいわたあめではあるが、
中身のわりに単価が高く、手が出しにくいものの筆頭でもある。
大きくは見えても圧縮してしまえば拳大程度になってしまう砂糖の塊。
幼い頃であればともかく、
いい年をした男が好き好んで購入するものではない。
特に、ヒッキーは甘い物が苦手だった。
珈琲はもっぱらブラックであるし、
卵焼きは塩味が好ましいと思っている。
- 21 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:49:33.762 ID:Qk6OV/y10
-
从 ゚3从「ケチー」
(-_-)「何とでも」
絶対に購入しない、という意思をヒッキーは露にする。
少しでも隙を見せれば、遠慮なくつけいられてしまう。
ハインというモノはそういった存在なのだ。
从 ゚∀从「なら、たこ焼き!」
(-_-)「まあ、それなら別に……」
ヒッキーは渋々頷いた。
つい先ほど、焼きそばを食べたばかりなので、
気持ちとしてはソースもの以外が食べたいところだが、
この祭りにそういったことを要求しても無駄なことは承知している。
むしろ、たこ焼きの代わりにベビーカステラ屋がある、という事態が避けられただけ、
彼にとってはありがたいことだったりするのだ。
从 ゚∀从「青海苔青海苔ー」
(-_-)「普通、女性は嫌がるでしょうに」
从 ゚∀从「美味いもんを厭う理由があるか?」
(-_-)「見た目を気にする人なら、それが理由になるでしょ」
- 22 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:50:34.992 ID:Qk6OV/y10
- たこ焼きはその場で焼いたものを買うことができた。
運よく、次の分を焼いている最中だったのだ。
ただ、味は言うに及ばず、
小さめのタコが入っているだけで、
何の特色もないものだった。
近頃は他店と差をつけるために、
チーズ入りだの明太子入りだのが流行っているというのに、
競合する店舗が無ければこの有様だ。
けれども、祭りの真っ只中であれば、
無駄に個性をつけずとも、雰囲気で買ってしまえるし、
おそらく、日常の中で食べるよりも美味く感じてしまうものだったりする。
(-_-)「わさび入りとか作って欲しいんだけどなぁ」
从;゚∀从「げぇ。なんだよそれ。
ゲテモノ食いだなぁ」
(;-_-)「最近は普通にあるんだよ」
从;゚∀从「マージーかーよー」
ハインは顔を顰める。
屋台物でわさびが入ることは滅多にないので気づかなかったが、
どうやら彼女はわさびが嫌いらしい。
- 23 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:52:35.221 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「……さて、輪投げでもしようか」
一列残ったたこ焼きを焼きそばのパッケージに移動させ、
蓋をしてしまえば心なしか身軽になった気がする。
適当に遊んで腹ごなしができればいいのだが、生憎の場所だ。
射的があるわけでも、釣りがあるわけでもない。
お面屋すらない祭りだ。
金魚すくいならば毎年設置されているが、
スーパーボールでさえ散々な戦績のヒッキーが好んで向かうはずもなく、
消去法によって次の店は輪投げ屋となった。
从 ゚∀从「すげーのとれよ」
(-_-)「プレッシャーかけないで。
得意ってわけじゃないし」
何とか掬い、に比べれば幾分か自信があるものの、
得意だと言って胸を張れるわけではない。
普通という言葉がしっくりくる具合だ。
お菓子くらいならばとれるかもしれないが、
ぬいぐるみだのフィギュアだのを取れる力量ではない。
- 24 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:53:13.124 ID:Qk6OV/y10
-
从 >∀从「ヒッキーくぅん! がんばってぇー」
(;-_-)「何、その気持ち悪い声。
やめてよ。寒気がする。呪われそう」
从 ゚∀从「おいこら。どういうことだ。
マジにやっちゃうぞ? あん?」
(-_-)「すみませんっした」
三百円を対価に、輪を五本。
妥当な値段かは考える気もおきないけれど、
この祭りではいつもこの値段だ。
不景気になろうが、好景気になろうが、
それだけはいつだって変わらない。
(-_-)「――っと」
一つ、赤い色をした輪を投げる。
真っ直ぐ投げたつもりだったが、
輪は予想を外れ、やや右へと飛んでしまう。
当然、狙っていた物を捕らえることはできない。
- 25 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:54:04.695 ID:Qk6OV/y10
-
(´<_` )「残念。次いけ、次」
輪が当たって倒れてしまったお菓子を立ち上げ、
店主はヒッキーに次を促す。
回転率を上げる、というような高尚な考えから出ている言葉ではない。
気負わずに行け、というだけの意味だ。
挑戦権は望めば得られるけえれど、
ヒッキーの財布にも限界はある。
屋台の景品を入手するために中身を空にすることはできない。
残された四つの輪から一つを選択し、
片腕を地面と水平に構える。
(-_-)「……とぅ」
今度こそ、と目の前の商品に集中する。
力を込めすぎると軌道がずれてしまうが、
弱すぎると目標まで輪が届かない。
从 ゚∀从「いっけー!」
絶妙な力加減を用いて輪を投げる。
それは予想通りの動きで空を飛び、着地してみせた。
- 26 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:55:26.382 ID:Qk6OV/y10
-
(´<_` )「ほい」
輪の中に鎮座していた景品を店主はヒッキーへと手渡す。
そこに賞賛の言葉はないけれど、
渡されたそれが何よりもの喜びへ変換されていく。
(-_-)「どうも」
一つの輪を引き換えにして手に入れたのは、
そこいらのスーパーでも売っているようなお菓子だ。
一つ二百円程度。
景品を一つずつ買うはずもないので、
大量購入割引がなされているだろう、と考えれば、
ヒッキーが思い浮かべるよりも安い値で購入されているに違いない。
それでも、自力で手に入れた、というだけで、
安物のお菓子は高級な味わいをかもし出す。
从 ゚∀从「ほらほら、あと三つ!」
ハインが楽しげに残りの輪を指差す。
景品を一つ取ったからといって、
遊びが終わるわけではない。
三百円五回。
その分、きっちり遊ぶのが礼儀というものだ。
- 27 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:56:14.212 ID:Qk6OV/y10
-
一つ、二つと投げ、ヒッキーはもう一つお菓子を手に入れた。
こちらはスーパーというより、駄菓子屋で見かける類のものだ。
無論、値段は非常に安い。
(´<_` )「最後一投。気合入れろ」
ヒッキーは頷く。
最後の勝負というのは、
人を否応なしに燃え上がらせる。
从 ゚∀从「最後はどーんとでかいの狙えよ!」
勝手なことを言うハインは放っておく。
大きな商品を狙うようなリスクは犯さない。
獲物はただ一つ。
今まで同様、どこにでもあるようなお菓子だ。
ただ、ほんの少々値は上げさせてもらうけれど。
(-_-)「――よ、っと」
手から輪が離れる。
その瞬間、ヒッキーは自身の失敗を感じ取る。
(;-_-)「しまった」
力が入りすぎた。
輪は真っ直ぐ飛ばず、少しずれた位置へ。
- 28 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:57:11.305 ID:Qk6OV/y10
-
コトン、と音がたつ。
从 ゚∀从「あ、ああ……」
(;-_-)「うえ」
引きつった声。
それに被さるようにして、
店主の手が乾いた音を響かせた。
(´<_` )「おめでとう。
うちの目玉商品。
花火セットをゲットするとは、昔と比べて腕を上げたな」
にこやかな笑み一つ浮かべない無愛想な店主だが、
その声はヒッキーへの賞賛で彩られている。
从*゚∀从「お前マジかよ!!!
やったじゃん! やるじゃん! すげーじゃん!」
(;-_-)「偶然にしてもできすぎている。
実力勝負な店を選んでいるというのに」
(´<_` )「いや、これは運ゲとかじゃないから。
単純にあんたが上手かっただけの話で」
- 29 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:58:30.496 ID:Qk6OV/y10
-
当初、予定していた場所とは別の所へ落ちた輪は、
『花火セット』と手描きで記された紙を見事に囲っていた。
奥まった場所に設置されているわけではなかったけれど、
その分、周囲にお菓子やらトランプやらが設置されており、
そう簡単に花火を入手することはできない。
今回の件は、たまたま近くのお菓子を狙ったヒッキーの目と、
ほぼ正確にその場所へ向けられた腕があったからこそ起こりえた偶然。
幸運の女神だののおかげでないことだけは確かだった。
(´<_` )「ほら。
そんなに量があるわけじゃないが」
(-_-)「ありがとう」
(´<_` )「……ついでだ、これも持っていけ」
店主はズボンのポケットを軽くさらい、ライターを取り出した。
百均で見るような、クリアグリーンのライターだった。
(-_-)「え?」
(´<_` )「お前、タバコとか吸わないんだろ?」
(-_-)「……まぁ、そうだけど」
- 30 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 01:59:48.240 ID:Qk6OV/y10
-
(´<_` )「蝋燭は、小さいけどそこに入ってるから」
店主が指差す花火セットには、
確かに小さいながらも、れっきとした蝋燭が同封されている。
(´<_` )「この祭りで花火が上がることなんてないからな。
その代わりにでもしてくれ」
市町村単位ですらない小規模な祭りに、
打ち上げ花火のようなものがあるはずもない。
莫大な資金を集めるというのは、並大抵のことではない。
盛大な花火の代わりにするにはちっぽけすぎるかもしれないが、
それでも、何もないよりはマシだろう、と店主は言う。
少し照れくさそうな顔をしていた。
ヒッキーもハインも、彼がそんな表情を持っていることに、
失礼ながらも驚いてしまう。
从 ゚∀从「……サンキュな」
(-_-)「ありがとう。
使わせてもらうよ」
驚きは心の内に隠し、ヒッキーは頭を下げる。
彼の手の中には、店主から貰ったライターがしっかりと握られていた。
- 31 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:01:08.616 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「ハイン、こっち」
从 ゚∀从「おう」
ヒッキーが手招きをする。
提灯の明かりから逃れるように、神社の裏手へと回っていく。
小まめに草刈が行われているので、足元は意外としっかりとしていた。
歩く分には何ら問題ない。
細々とした、けれども子供達によって賑やかにも聞こえる声と、
古びたテープレコーダーのBGMが不思議なくらい遠くに感じてしまう。
物理的な距離はそうないはずなのに。
(-_-)「今年のお祭りはどうだった?」
从 ゚∀从「祭りはいつでも最高だよ」
神社の縁に荷物を置き、
ヒッキーは花火セットから蝋燭を取り出す。
水とバケツはスーパーボールすくい屋から借りてきていた。
(-_-)「そう言うと思った」
桃色をした小さな蝋燭に火が点る。
熱によって蝋が溶け出すと、ヒッキーはそれを地面に軽く垂らしてから、
蝋燭本体を落ちた蝋に押し付けて固定した。
- 32 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:02:28.109 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「今年も、お祭り、終わっちゃうね」
从 -∀从「また一年後、か……」
小さな神社だ。
祭事を行うことは少なく、
子供が楽しめるような祭りはこの日くらいしか行われていない。
(-_-)「ほら、見て」
ヒッキーが手にしていた花火から、
美しい緑の炎が飛び出す。
それは時間の経過と共に色を変え、
最終的にはゆっくりと明るさを消していく。
从 ゚∀从「おぉ、綺麗だなぁ。
やっぱ、夏は花火だよな」
(-_-)「来年は買ってこようか?」
从 ゚∀从「馬鹿、いらねーよ。
つか、来年もくんのか?」
(-_-)「重大な予定が入らなければ、ね」
从 ゚∀从「彼女とのデートとか?」
- 33 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:03:29.897 ID:Qk6OV/y10
-
ハインは楽しげにヒッキーを茶化す。
その間、彼は二本目の花火に火をつけ、周囲をわずかに明るくさせていた。
(-_-)「それはないかな」
从 ゚∀从「おいおい、悲しいこと言うもんじゃないぞ?
今年はいなかったみてぇだけど、
来年はまた色々と変わってるだろうし」
ニヤニヤとした笑い。
去年も一昨年も、その前も、ずっとずっと、
女の影一つ見せなかったヒッキーに対する嫌がらせだ。
しかし、当の本人はどこ吹く風、とばかりに、
サボりがちな表情筋を叱咤することなく、やりたいがままにさせている。
(-_-)「いや、そうじゃなくて」
二本目の花火が消えた。
次は今までとは見た目が多少違う物を二本選びとり、同時に火をつける。
もうもうとした煙と火薬の臭いがあたりに充満するが、
これも夏の一つだと思えば心が嬉しげにはずむ。
(-_-)「ボク、もう彼女出来てるから」
- 34 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:04:14.111 ID:Qk6OV/y10
-
从 ゚∀从「…………え」
火薬が音をたてる。
煙が舞い、いくつかの色が交互に輝く。
ハインの声は、それらの中にぽつり、と落ちた。
从;゚∀从「ま、マジで?」
(-_-)「マジ」
次々にヒッキーは花火を消費し、
借り物のバケツへと差していく。
从;゚∀从「いつ」
(-_-)「去年の夏。
祭りが終わったくらいの時」
从;゚∀从「えー。知らんかったぞ。
そういう重大発表は、出会い頭にするもんだろ」
(-_-)「そんなことしたら、ボクを追い出しにかかるかと思って」
从#゚∀从「ったりめーだろ。
こんな祭りにきてないで、彼女ちゃんとデートの一つもしてこいって」
気づけば、蝋燭は半分ほどの大きさになってしまっていた。
- 35 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:06:58.913 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「そしたらさ、ハインはどうするの?」
ヒッキーはハインを見た。
手にしていた花火は勢いをなくし、
周囲の闇を強調していく。
从 ゚∀从「アタシは一人で平気だ。
ガキじゃあるまいし。
まして、一年前の約束なんて、はなっから期待してねぇ」
夜の闇の中、二人の視線が交錯する。
だが、それも一瞬のこと。
数拍もすれば、ヒッキーは彼女から目をそらし、
線香花火を一つ、手に取った。
(-_-)「ボクは嫌だよ。
ハインがずっとボクを待ちながら、
小さな子供達をぼんやりと見ているのを想像するのは」
先端に火が点り、徐々に収束していく。
派手さはないが、どこか悲しげであり、どこか懐かしい雰囲気の光りが小さく生み出される。
それは、短い生を謳歌するかのごとく、パチパチと静かでありながらも強い音をたてた。
(-_-)「何の因果か、この歳になってもハインを見てられるんだ。
無視することも、放っておくこともできやしないよ」
- 36 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:09:31.195 ID:Qk6OV/y10
-
从 -∀从「……バカ」
ハインはため息をひとつつき、ヒッキーの隣にしゃがみこむ。
風に煽られ、彼女の白い髪がふわりと動いた。
そこから香る匂いは、何度振りまかれても不快感を周囲に与えない。
从 ゚∀从「こんなちぽけな神社の神様、
放っておいたって罰はあたらねぇよ?
あてる力もねぇ。ついでに願いを叶える力もねぇ」
オレンジの玉が先端から離れ、静かに落ちる。
しばしの間、地面でもその色を保っていたが、
それも時間が経過してしまえば暗く沈みこむばかりだ。
从 ゚∀从「お前はさ、アタシなんて放っておくべきだったんだ。
アタシが人じゃない、って気づけた段階で、な」
(-_-)「それこそできないでしょ」
新しい線香花火に火をつける。
また一つ、命が生まれ、いずれ消えていく。
(-_-)「ずっと、寂しそうだった。
ボクが子供のときから、ずーっと」
徐々に膨れ上がる球体を眺めながら、
ヒッキーは昔を思い返す。
- 37 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:10:39.901 ID:Qk6OV/y10
-
小さな神社の小さな祭り。
地元の人間ならば、誰しもが子供の頃にそこへ参加していたはずだ。
親の手間を省くため、
少しでも楽をさえるため、
地域交流のため。
それだけではない。
親達が皆、自身が幼い頃に見たモノを覚えているからだ。
もう、自分には見えなくなってしまった、白い髪の神様。
その神様は、少し口は悪いけれど、
子供が大好きで、とても優しい。
何故だか触れることはできなくて、
一緒に遊ぼう、と誘って手を差し出したとき、
神様はとても悲しそうな顔をしてしまう。
人と触れ合えぬことが、寂しいのだ、と彼女は言う。
すぐに明るい笑顔を見せてくれるのだけれど、
その顔が胸に刻まれたまま、子供達は大人になっていく。
成長の途中で、神様のことなんて忘れてしまうけれど、
自分に子供が生まれ、ふと思い出すのだ。
あの寂しがりな神様を。
- 38 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:11:55.899 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「みんなさ、ハインと話すことができないから、
結局、それでハインが悲しむと知っているから、
何か言葉を向けることがないだけで、
本当はとてもこの神社と、ここにいる神様を愛してるんだよ」
だから、あの店主はライターをくれたし、
スーパーボールすくい屋の店主はバケツと水を用意してくれた。
少女の母親は神様に捧げられるスーパーボールを嬉しく思っていただろうし、
ヒッキーが助けた少年はハインにも笑みを向けていた。
从 ∀从「そう、かなぁ」
そうだといいなぁ、とハインは言葉を続ける。
話すことができないから、自分に自信がない。
せめて、彼女に神としての力がもっと強く宿っていればよかったのだけれど、
年に一度しか目覚めないような寝ぼすけの神様だ。
ご利益に期待することもできない。
(-_-)「ボクを信じてよ。
毎年、周りから、今年も行くんでしょ? って強めに言われるくらいなんだよ?
みんな、ハインに寂しい思いをさせたくないんだってば」
从 ゚∀从「別に、嫌なら断っても――」
(-_-)「嫌だったらきてないって」
- 39 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:13:02.621 ID:Qk6OV/y10
-
从 ゚へ从「でも、お前の彼女さんは面白くないだろ。
神とはいえ、アタシは女だし」
(-_-)「そんなことないよ」
从 ゚へ从「我慢してるだけだ。
これからその子と仲良くしていきたいなら、
来年はもうここにくんな」
火の玉が落ちる。
从 へ从「アタシは、お前がいなくたって、充分祭りを楽しめる。
来年だって、アタシを見ることができる子供はいるはずなんだから」
ヒッキーは先端が落ちた線香花火をバケツに放り込み、
すっかりうつむいてしまったハインを見る。
(-_-)「ハインを放っておくなんてことしたらさ、
それこそ怒られちゃうよ」
从 へ从「何で」
(-_-)「だって、ボクの彼女、ここの神主さんの娘さんで、
ハインのことが、だーいすき、だからね」
- 40 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:14:01.665 ID:Qk6OV/y10
-
从 ゚∀从「は?」
(-_-)「そもそも、彼女とボクが付き合うことになったきっかけも、
ボクが毎年ハインと祭りを回ってるからだし」
ヒッキーは語る。
出会いは数年前。
ハインと祭りを楽しみ、半分残しておいた食べ物と、
景品でもらった玩具を神社に奉納したときだったという。
いつまでも神の姿をその目に映し続けるヒッキーに、
神主の娘が声をかけてきたのが始まり。
女性と縁があったわけでもないヒッキーは、
可愛らしく積極的な彼女に惹かれた。
彼女の潜在的な雰囲気の中に、
初恋の君であるハインの雰囲気を感じた、という点に関してだけは、
ヒッキーが末代まで抱えていかなければならない秘密であるけれど。
その後、数年かけて距離を縮め、
去年の夏、無事、交際に至ったという。
ちなみに、距離を縮める間、
彼女の口から何度「ハイン様」の言葉が出たのか、
ヒッキーは数えたくもなかったという。
- 41 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:15:48.903 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「だから、ボクは来年もくるよ。
再来年も、その次も、ずっと、ね」
彼女の婿養子にでもなってしまえば、
それこそ毎年、この日の予定は祭りで埋まることは必然。
今だって後ろめたい気持ちなど微塵も持っていないのだけれど、
堂々と口に出せる理由ができる、というのは、精神的な支えとなる。
ヒッキーは新しい線香花火に火をつけた。
今回は複数本を一度に持っているため、
今までよりも大きな玉が出来上がることだろう。
(-_-)「それに、ボクと彼女の間に生まれた子なら。
ずっとずっとハインが見えてて、
とてもとてもハインが好きな子に育つと思うんだよね」
从 ゚∀从「……そ、っか」
幸せな未来だ。
一年の中、たった一日しかこうして意識を持つことができない、
出来損ないの神には、有り余るほどの幸福。
ハインは潤みそうになる目を必死にこらえ、
パチリパチリと音をたてている線香花火に意識を集中させる。
- 42 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:16:35.523 ID:Qk6OV/y10
-
从*-∀从「それは、良いなぁ」
瞼を閉じ、来るかもしれない未来に思いを馳せる。
たとえ、その日がこなかったとしても、
この夢想だけで永遠を生きていられるだろう。
だが、ヒッキーはハインの想像を夢のままにしておくつもりはまったくない。
その場合、彼と神主の娘の間に待っているのは破局、ということになってしまうのだから。
(-_-)「あと十回も祭りを経験すれば、
そうなる予定だから、待ってて」
从 ゚∀从「お、気が早いんじゃないか?」
(-_-)「そりゃ、早くもなるでしょ」
小さく笑うヒッキーに、
ハインは小首を傾げる。
(-_-)「ボクらはどうやら、縁結びの神様のお力によって、
出会い、惹かれあい、共にあることになったみたいだから」
从 ゚∀从「えっ」
驚きの声と同時に、
大きく育っていた火の玉が地面に落ちた。
- 43 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:17:18.107 ID:Qk6OV/y10
-
(-_-)「はい、並んでー」
从'ー'从「可愛く撮ってね」
ノパ听)「ぱぱー! はやくー!」
小さな神社の前で、愛する妻と娘が笑う。
恒例行事である祭りを控えた前日、
渡辺家では家族写真を撮るのが慣わしになっていた。
(-_-)「オッケー」
カメラをセットし、ヒッキーは二人のもとへと駆け寄っていく。
並ぶ妻と娘。
彼はいつまでも美しく、愛おしい妻の右斜め後ろへ。
(-_-)「あの赤い光りがチカチカしたら瞬きしないように」
ノハ><)ノ「はーい!」
从'ー'从「そろそろよ」
カメラの光りが点滅を始める。
シャッターが切られるまであとわずか。
从 ゚∀从「はい、チーズ!」
- 44 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:18:35.006 ID:Qk6OV/y10
-
小さな小さな神社ではあるが、
近頃、ネット世界では有名になりつつある神社がある。
何でも、そこはとても強力な縁結びの神様がいるという。
恋人であったり、友人であったり。
縁の在り方はそれぞれだけれども、
特にご利益があるのは恋愛方面らしい。
曰く、その神社の神主も、神様のお力があってこそ、
今の奥さんと結婚できたのだ、と来る人来る人に語っているという。
(-_-)「お、ちゃーんと写ってるね」
从;'ー'从「うーん。やっぱりワタシには見えないよぉ。
せっかく、お祭りの日以外もお目覚めになられているのに、
どうしてワタシには見えないの〜?」
ノパ听)「ここにな、かみがな、しろいおんなのひとがいるんだぞ!
ほら! ここ!」
从;゚∀从「ヒートはいつまでアタシが見えてるのかねぇ。
でかくなってから空白のある写真見て怯えないといいんだけど」
(-_-)「ボクの子だし、ずっと見えてるんじゃない?」
从;'ー'从「ふえぇ……。仲間外れはよくないよぉ……」
ヒートが指差すのは、自身の後ろ。
彼女と、ヒッキー。そして、写っている張本人にはその姿がはっきりと見えていた。
白く長い髪を持ち、赤と白の市松模様の浴衣を着ている、
とても優しくて子供好きな、縁結びの神様の姿が。
(-_-)いつかの夏でもまた、共に在るようです
- 45 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/08/15(月) 02:20:14.582 ID:Qk6OV/y10
- o o
・。 ゚。
ヘ 。
)\/⌒\
/彡人从゚∀)
レイノ `∪∪
投下終了
序盤で使う予定だったけれど
魚にしか見えないという理由でボツになった振り返りハイン置いていきますね
ミ从 ゚)
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