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(・∀ ・)と兄弟のようです(前編) |
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 00:42:02.75 ID:EHpwtljV0
- ラノベ祭り宣伝を兼ねて投下
( ^ω^) 2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです ・開催場所 VIP/創作板/創作板内専用スレ http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1348068145/(専用スレ) ・開催期間 11月18日(金)0時~25日(日)23時59分 ・まとめ(イラスト展示中) REST~ブーン系小説まとめ~ http://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/0.htm もしかしたら前編後編になるかも
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 00:43:13.40 ID:EHpwtljV0
- ニュー速地方は、いつもうだるような暑さで支配されている。
そこに住まう者達は、その暑さからいつも鬱憤が溜まっているのか、非常に喧嘩っ早い。 毎日、あちらこちらで怒鳴り声が聞こえている。 路地裏では誰かが死に、表通りには乞食がいる。 真昼間から強盗を働く者も少なくはない。 この地方、治安の悪さならばVIP国で一番に違いない。 しかし、そんな場所だからこそ生きられる者がいるのも確かだ。 罪を犯した者も、この地方であればまるで一般人のような顔をしていられる。 この地方には指名手配書さえない。 警察は、いるにはいるが、問題行動を起こしたような警官ばかり。 どこを見てもまともな者は一人もいない。 いつかこの地を抜けようと思っている者はいるが、極少数であるし、 成り上がる方法は大抵ロクなものではない。 ニュー速ででかい顔をしている方がマシというものだ。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 00:48:00.38 ID:EHpwtljV0
- 無法者の集まるこの地方の最大の特徴と言えば、奴隷市場が定期的に開催されていることだ。
金を持つ者、権力を持つ者は奴隷を持つことが当然のような考えがこの国にはある。 けれども、汚らしい奴隷を自分達の住む地域で販売するのは気に障る。 ならば、灯南地方から程近く、奴隷達と変わらぬ者が集まるところで売ればいい。 奴隷が欲しければ使いを出せばいい。 使いの者など捨てるほどいる。そういった者、もしくは、それに足る理由を持った者だけが、奴隷を必要とする。 こうして、ニュー速地方は国内有数の奴隷市場を持つことになった。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 00:52:15.24 ID:EHpwtljV0
- そこに最も多く並ぶのは、人間ではない。
卑しい獣とよく似た姿をしている耳族だ。 この世界に住まう、知能を持った種族は三種。 人間と、耳族と、精霊だ。 気位が高く、国によって全ての者に権利が認められている精霊が奴隷市場に並ぶことはないが、 闇の世界にどっぷりと浸かりきっている奴隷市場では、彼らにも首輪が付けられているのだという噂もある。 隣国ラウンジ王国との戦いに備え、魔法の技術が日々進歩しているVIP国では、精霊を実験台に使うことすらあるのだ。 通常、誇り高く、ほぼ無限の命を持つ精霊が人間や耳族のような、寿命を持つ者に従うことはありえない。 己の中にある魔力を使いきってしまわない限り生き続けることのできる者としてのプライドが彼らにはあるのだ。 けれども、世の中というのは常識だけで計ることはできない。 闇の中にも世界は続いている。 そして、その闇が光の世界と繋がっている場所。それが、このニュー速だ。 人の口から人の耳へ。 また人の口が噂を紡ぐ。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 00:55:50.59 ID:EHpwtljV0
- 「さあさあ皆様! 奴隷市場、本日大開催でございます!」
奴隷商人の声が高らかに響いた。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 00:58:32.38 ID:EHpwtljV0
- ベルが鳴り、人々が集まる。
奴隷を買いにやってきた者、 興味本位の者、 いつかあちら側に行くのだろうかと絶望の眼差しで見ている者。 様々な種族が、様々な目的でそこに立っていた。 \(^o^)/「今回の目玉はこの奴隷! 麗しの耳族、愛らしい眼差し、愛おしい耳!」 奴隷商人が檻にかけられていた布を取り払う。 ボロ布が風に舞い、下に隠されていた冷たい金属の檻が観衆の目に入った。 思わず感嘆の声が上がったのは、彼女にとって幸いだったのだろうか。 (*;≡;) 少なくとも、涙を流し、口を塞がれている姿からは、幸せの感情を読み取ることはできない。 流れる涙など、観衆は見ていない。 見ているのは、彼女の商品としての価値だけだ。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:02:02.78 ID:EHpwtljV0
- 檻の中にいたのは、耳族の愛らしい女だった。
耳族特有の、頭の上に生えた耳。そしてふわふわとした体毛と尻の上から生えている尻尾。 涙を流している瞳は丸く、可愛らしい。 彼女はどれをとっても一流の商品だった。 生まれる場所が違えば、多くの男から求婚されていたに違いない美貌だ。 奴隷として売り出されてしまえば、 異常性癖の男になぶられるか、 見世物として一生を終えるか、 労働力としてこき使われるか。 そのどれかでしかない。 (´<_` )「可哀想に」 遠目で奴隷市場を眺めていた男が呟いた。 彼の頭には、ぴょこんと耳が生えている。 今、値段のつり上げが行われている奴隷と同じ耳族のようだ。 けれど彼の持つ黄緑色の体毛はパサついており、柔らかさを感じない。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:06:01.74 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「同情してるのか?」
男の隣に立っていた男が笑う。 彼の頭上にも耳がはえている。三角の耳だ。 黄緑色の男と同じくパサついた体毛をしているが、色は水色だ。 彼らの顔立ちはよく似ていた。 人間であったのならば、見分けがつかなかっただろう。 (´<_` )「まさか。あんな奴は腐るほどいる」 黄緑色の男が肩をすくめる。 鼻から息を出し、呆れた様子を見せている。 (´<_` )「オレは可哀想だという事実を述べただけだ」 ( ´_ゝ`)「腐るほどいるんだ。可哀想もクソもないだろ」 水色の男は笑いながら言う。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:10:03.87 ID:EHpwtljV0
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('A`)「ミンナ、フコウダ」 笑う水色の肩に紫色の生物が座っている。 小さなソレは精霊だ。背中から生えている四枚の羽は半透明で美しい。 ただし、精霊本体は何とも貧相な顔をしている。 彼が背負う負のオーラは、せっかくの羽を色あせて見せる。 ( ´_ゝ`)「そうそう。灯南生まれなんて皆あんなもんさ。 それも耳族ともなればな」 (´<_` )「それでも可哀想だろ? 誰に買われるか知らんが、ろくな人生にはならない」 研究材料に使われるか、無茶な労働をさせられるか。 彼女ほどの美貌を持つのならば、変態男の性奴隷にされる可能性も高い。 どれにしても、彼女には死を望むような未来が待っている。 それを可哀想だと言わずに何とする。 ( ´_ゝ`)「確かにな。 あの子を幸せな奴と可哀想な奴に分けるなら、間違いなく可哀想の部類ではある」 同じ状況の者が他にもいるからと言って、「可哀想」でなくなるわけではない。 世界中にいる全ての者が飢饉に陥れば、全ての人間が「可哀想」になるだけだ。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:14:07.06 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「状況を打破したいなら、相応のリスクを負うしかない」 ( ^ω^)「わるいことはしちゃだめだお」 水色に反論したのは、黄緑色の肩に乗っていた白い精霊だ。 ドクオと比べると横に大きく、さわり心地が良い。 全身から朗らかな雰囲気に溢れており、見る者を安心させる。 ( ´_ゝ`)「おっと。そいつは言いっこなしだぜ」 白色の頬を青色が突つく。 マシュマロのような頬が青い指を包む。 (´<_` )「兄者の言う通りだぞ」 白色を水色、兄者の指から救い出しながら黄緑色が言う。 (´<_` )「何せ、オレ達は犯罪者なんだからな」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:18:13.50 ID:EHpwtljV0
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周りは彼らの言葉など聞いていない。 麗しい耳族の女が、どのような金持ちに買われるのかだけが観衆の興味を引く。 けれど、周囲が四人の言葉を聞いていたとしても、何ら問題はない。 ニュー速において犯罪者など珍しくも何ともない。 人は、外に石が落ちていたとしても驚かない。それと同じだ。 彼らは双子の盗賊。 流石兄弟。その名と姿を知っていたとしても、やはり反応は変わらないに違いない。 ( ^ω^)「でも……あにじゃもおとじゃも、いいことをしてるお」 弟者の手の中で守られながら白色が言った。 少し不安げな声だ。 ( ´_ゝ`)「そうかぁ?」 兄者が大げさな動作をしながら尋ねる。 その表情は楽しそうだ。 弟者は小さくため息をついた。 双子の兄である彼が、白色をからかうのは今に始まったことではない。 それこそ、二人の精霊と初めて出会ったときからだ。 ( ´_ゝ`)「盗むのが良いこと? そりゃどこの法律で常識だ?」 ニヤニヤとした顔が憎たらしい。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:22:05.07 ID:EHpwtljV0
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(;^ω^)「ぬすむのはわるいことだお。 でも、ふたりはただぬすんでいるんじゃないお!」 ( ´_ゝ`)「盗んでるだけさ。 オレは欲しいモノを手に入れるだけ。 ブーン。お前も、オレが欲しかったから盗み出しただけだ」 水色の指がブーンを指差す。 悲しげな顔をしているのに気づき、兄者は指差した指でブーンの頭を軽く撫でる。 ( ´_ゝ`)「必要とあれば殺しもする。 傷つけもする。 いいか? これは正真正銘、犯罪さ」 兄者は自身が着ている服を軽く持ち上げる。 じゃらじゃらと装飾がなる。 ニュー速生まれ、ニュー速育ち、耳族の彼がこのような豪華な服を着れるはずがない。 ならば答えは簡単。 盗んだのだ。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:26:06.38 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「でも……」 (´<_` )「オレ達のしていることは犯罪だ。 でも、それが悪かどうか判断するのはブーン自身だ。それでいい」 ( ^ω^)「おっ」 (´<_` )「正しいか、正しくないかなんて、どうでもいいんだ」 (;^ω^)「それはよくないとおもうお……」 ('A`)「イインダヨ。ドウセ、マトモニイキレルヤツナンテ、ホトンドイナインダカラ」 ( ´_ゝ`)「そうそう。ドクオの言うとーり!」 兄者がくるくると回る。 同時に歓声が上がった。 どうやら、奴隷の買い手が決まったらしい。 ( ´_ゝ`)「おお、決まったか」 楽しげな声を上げ、兄者は観衆に近づき軽く跳躍する。 元々、身体能力の高い耳族の中でも、彼は群を抜いている。 軽い跳躍で周囲よりも頭一つ分の高さを得る。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:30:05.18 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「あー。ありゃ、すぐ死んじまうな」
(´<_` )「加虐趣味のあるフォックスか」 ( ´_ゝ`)「あぁ。あいつはすーぐ奴隷を壊しちまうからなぁ」 買い手を確認した兄者は三人のもとに戻る。 ( ´_ゝ`)「耳族の子供でもすぐ死ぬからな。 よっぽど酷い扱いなんだろうよ」 耳族は身体能力が高く、体が丈夫で成長も早い。 そのため、奴隷としての値段は人間よりも幾分か高い。 使用用途は労働から性奴隷まで幅広くこなす。 彼らの欠点といえば、高い身体能力や丈夫な体の代償とばかりに、寿命が人間の半分もないことだ。 頻繁に買い替えを必要としているため、コストがかかってしまう。 (´<_` )「先月も耳族の女買ってたよな?」 ( ´_ゝ`)「金が有り余ってるんだろ」 二人はそれを羨ましいとは思わない。 金など盗めばそれですむし、必要なときに必要なだけあればいい。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:33:02.88 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「オレが欲しいのは金じゃない」 兄者は笑う。 孤児として生きてきた彼が盗みを覚えたのは必然だったが、 それを続けたのは盗みの快感とスリルに魅せられたからだ。 (´<_` )「次の獲物はもう決めてあるんだろ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」 先日まではニュー速を離れて宋咲にいたのだが、 何らかの情報を得たらしい兄者に引きずられて、生まれ故郷であるニュー速に帰ってきたのだ。 ( ´_ゝ`)「そうだな。そろそろ教えてやってもいいか」 悪戯を成功させた子供のような顔で言う。 いつも余裕を持っている弟者を焦らすのが楽しいようだ。 ( ´_ゝ`)「――あ」 人差し指を立て、今まさに次の目的を口にしようとしていた兄者の目が、何かを捉えた。 彼の視線を弟者達はたどる。 目線は空へと続いていた。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:37:00.32 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「空察か」 空域警察。通称空察。 魔法大国であるVIP国では珍しい、機械仕掛けの飛行船が使われている。 少人数精鋭で構成されており、他の部隊を持たない唯一無二の空の管理人達だ。 ( *´_ゝ`)「挨拶しに行こうぜ!」 青空に飛ぶそれを目に映していた兄者が叫ぶように言った。 それに対して弟者が返事をする前に、兄者は走り出していた。 (´<_`;)「こら! 待て!」 ( ^ω^)「あにじゃはとまらないお」 (´<_`;)「知ってる! クソッ!」 町の端へ向かう兄者の後を急いで追う。 身体能力が非常に優れている兄者に対し、弟者は耳族の中でも鈍臭い方だった。 そんな彼が兄者に追いつき、止めるなどできるはずがない。 すぐに兄者の背中を見失うが、彼が向かっている場所はわかる。 息を荒くしながらも弟者は走った。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:41:00.01 ID:EHpwtljV0
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( *´_ゝ`)「弟者ー!」 (´<_`;)「うわ! 馬鹿!」 人通りの少ない道を走っている最中、兄者の声が聞こえた。 見れば、前方から兄者が迫ってきているのが確認できる。 ただし、兄者はピンク色をしたドラゴンの背中に乗っていた。 ( *´_ゝ`)「捕まれー!」 (∩<_`;)「あーもう!」 片手で額を抑えながらも、伸ばされた手に弟者も返す。 身体能力が劣っていようとも、弟者は兄者の手を取れることを疑っていなかった。 兄者もまた、弟者が己の手を掴めることを疑わない。 弟者の上をドラゴンが通ると同時に、二人の手が重なる。 その瞬間を逃すことなく、二人は互いの手に力をこめた。 ( *´_ゝ`)「よし」 ドラゴンはさらに高く飛び、空を目指す。 宙にぶら下がっている状態だった弟者も、体に反動をつけてドラゴンの背に飛び乗る。 無論、兄者の引き上げる力もあるからこそできる芸当だ。  ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/11.jpg
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:44:13.07 ID:EHpwtljV0
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( *´_ゝ`)「流石だな!」 (´<_` )「はいはい。流石だな。オレら」 (;'A`)「キュウニ、ハシルナヨ……」 ( ´_ゝ`)「すまんな。すぐに追いつきたくて」 (´<_`;)「大丈夫かドクオ」 (;'A`)「ウーン。ツカレタ……」 ( ^ω^)「どくおはちからがないから、どらごんにつかまるのもたいへんだお」 ('A`)「セメテ、オマエクライ、トブノガハヤケレバナァ」 ドクオは弟者の肩に座らせてもらい、その周りをブーンが飛ぶ。 すばしっこい動きは、蝿を連想させるのだが、 それを言えばブーンが傷つくことはわかりきっているので誰もが口を閉ざしている。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:48:08.67 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「いやー。ジョルジュ達に会うのも久々かー?」 (´<_` )「一週間ぶりくらいか」 一週間を長く感じるか、短く感じるかは種族によって違う。 流石兄弟のような耳族は、一週間を長く感じる。 対して、ブーン達のような精霊にとって、一週間はほんのわずかな時間だ。 ( ^ω^)「ひんぱんにあってるきがするお」 ('A`)「……イキルジカンガ、チガウンダナ」 弟者の上でドクオが頭を下げる。 何事に対しても悲観的な精霊である彼は、耳族と精霊の生きる時間が違うことを嘆く。 精霊の感覚からしてみれば、耳族の流石兄弟は明日にも死んでしまうような存在だ。 ( ´_ゝ`)「それはしょうがないだろ?」 悲しげなドクオに、兄者はいつも笑いかける。 (´<_` )「生まれは誰にも決められない。 寿命は変えられない」 ( ´_ゝ`)「そうだ! だからこそ、オレは好きなことをする。 欲しいモノを全て手に入れる! 楽しいことを山のようにする!」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:51:20.04 ID:EHpwtljV0
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(´<_`;)「わっ! 馬鹿! 立つな!」 ドラゴンから手を離し、立ち上がった兄者の腰を掴む。 いくら身体能力が高くとも、上空から地上に落下すれば死に至る。 盗みに失敗して殺されるのならばともかく、こんなつまらない死にかたは御免だ。 ( ´_ゝ`)「なーに。大丈夫。大丈夫」 ('A`)「ソウイッタヤツカラ、シンデイクンダ……」 (;^ω^)「ふきつなことをいうなお」 ('A`)「オレタチハ、オイテイカレルンダ……」 ( ´_ゝ`)「はいはい。そんな暗い顔するなって。 ほら。座ったぞ。これで安心だろ?」 (´<_` )「頼むからいつも大人しくしていてもらえませんかねぇ」 ( ´_ゝ`)「無茶を言うな」 (´<_`# )「何が無茶なのか教えてもらいたいものですねぇ」 (;^ω^)「ここであばれたらあぶないお」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:54:13.66 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「おっ。もうすぐだな」 兄者の言葉に反応してドラゴンが甲高い声を上げる。 空に浮かぶ機会仕掛けの船はそれなりの大きさを持っている。 (´<_` )「丁度ギコさん達が外にいるな」 ( ´_ゝ`)「本当だ」 兄者と弟者を乗せて、まだ少し余裕を持っている大きさのドラゴンも、 空察の飛行船と比べれば小さな生物にしかなれない。  ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/21.jpg ( ´_ゝ`)ノシ「おーい!」 (´<_`;)「おいっ!」 甲板の上をドラゴンが通過する。 そのタイミングにあわせて、兄者が背中から飛び降りた。 慌てて弟者が手を伸ばすが、当の兄者は下にいる面々に手を振るばかり。 弟者の手は兄者を掴むことができなかった。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 01:57:59.23 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「おっひさー」 (,,゚Д゚)「……お前は、もう少し静かに来れんのか」 甲板で空を見ていた耳族の男が言う。 呆れたように半目で兄者を睨んでいた。 ( ´_ゝ`)「別に爆竹を使ったわけでもあるまいし」 (,,゚Д゚)「使ってたら、ここから放り出すところだった」 ( ´_ゝ`)「すんません。しません」 身軽な兄者とは対照的に、その男は腕力がある。 制服の上からでもわかる筋肉は、兄者程度の者ならば甲板から放り投げることもできると予想させる。 (´・ω・`)「大体から、キミが堂々とボクらの前に現れるってのもどうかと思うよ」 二人の様子を眺めていた、これまた耳族の男が口を挟む。垂れた眉毛が特徴的だ。 先の男ほどではないが、彼の体も見事な筋肉がついている。 大人しそうな顔に騙される者もいるに違いない。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:00:46.75 ID:EHpwtljV0
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(´<_`;)「ギコさん! ショボンさん! ジョルジュさん! うちの馬鹿が迷惑かけて――ますよね! すみません!」 旋回したドラゴンが甲板に足を着ける。 ほぼ同時に駆けだした弟者はそこにいた三人に声をかけた。 _ ( ゚∀゚)「お前も大変だねぇ」 兄者と耳族達の様子を眺めていた男、ジョルジュが煙草の煙を吐き出す。 人間でもなく、耳族でもないその姿は、彼が精霊であることを示している。 ドクオ達のような羽根は見えないが、それは制服の下に隠されているだけだ。 (´<_`;)「ええ。もう少し落ち着いた行動をして欲しいです」 (,,゚Д゚)「言われてんぞ。馬鹿」 ( #´_ゝ`)「馬鹿じゃないぞ!」 (´・ω・`)「大丈夫だよ。馬鹿兄貴はいつも通りだから」 (´<_`;)「それって駄目じゃないですか……」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:03:37.44 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「じょるじゅさん、このあいだぶりですお」 _ ( ゚∀゚)「おー。チビ。お前らの主人は相変わらずだなぁ」 ('A`)「チビ……」 精霊の能力は大きさに比例する。 兄者や弟者の肩に乗る程度のドクオ達の能力は、高がしれている。 対して、今も煙草を吹かしているジョルジュの体は大きい。 長身の兄者達に比べると小さいが、それでも普通の人間と比べれば少し大きい。 その大きさは、そのまま彼の能力の強さを表している。 _ ( ゚∀゚)「ははは。しゃーねぇだろ? お前達とオレじゃ、どうしたって違う。 生まれは誰にも決められない。しかたないことさ」 ( ´_ゝ`)「よっ! 大将! 言うことが違うね!」 _ ( ゚∀゚)「うちの隊長はそこのギコだがな」 (,,゚Д゚)「創始者にして初代隊長が何を言っているんですか……」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:06:36.73 ID:EHpwtljV0
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ギコはため息をついた。 耳族である彼は、精霊であるジョルジュの半分も生きていないし、生きられない。 そんな自分が隊長を務めていることは、一生解決されない疑問としてギコの中にある。 ( ^ω^)「でも、ぼくは、あそこでうまれてよかったお」 _ ( ゚∀゚)「そうかい」 ('A`)「……クルシカッタシ、シニタカッタケドナ」 ( ^ω^)「それでも、あそこでうまれたから、ぼくらはあにじゃとおとじゃにであえたんだお」 (´<_` )「ブーン……」 弟者は思わずブーンを撫でた。 これが庇護欲とでもいうのだろうか。 _ ( ゚∀゚)「お前さんらは何でも拾うからなぁ。 そっちのドラゴンも拾ったんだろ?」 ( ´_ゝ`)「ちーがーうー。 盗んだんだ! 欲しかったから!」 (´・ω・`)「ボクら、一応警察なんだけど……」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:09:29.56 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「こいつらの能力じゃ大したことできねーだろ?」 ショボンの言葉を無視して、ジョルジュはドクオとブーンを指差しながら言う。 (´<_` )「目くらましくらいはできますよ」 能力の弱いブーン達にも役目はある。 精霊使いである弟者と契約していることだ。 兄者ほど身体能力の高くない弟者は、代わりとばかりに精霊使いになった。 精霊と契約し、その能力を借りる。 契約を交わした精霊との距離が近ければ近いほど、 その精霊が強ければ強いほど、弟者が使うことのできる魔法の威力は上がる。 ( ^ω^)「ぼくがもっとおおきければよかったんだけどお……」 ('A`)「イウナ。オレガミジメニナル」 小さな彼らではあるが、遠く離れた地方にいる精霊の力を借りた魔法と比べるならば遜色はない。 国中を窃盗して回ったついでに、弟者は様々な属性の精霊と契約している。 けれども、やはり使う魔法は光と闇が多い。 (´<_` )「そう言うな。 珍しい属性だから、相手の意表をつくこともできるんだ」
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:12:08.66 ID:EHpwtljV0
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五大属性とは違う属性をブーンとドクオは持っている。 ほがらかなブーンは光の属性を、 重い空気を持つドクオは闇の属性を持つ。 珍しい属性なので、対策を打てる人間も少ない。 盗みをする上で、相手の意表をつくことは大切だ。 ( *^ω^)「そうかお? ぼくら、やくにたってるかお?」 (´<_` )「勿論だ」 ( *^ω^)「おっおっ!」 ブーンは嬉しそうに弟者の周りと飛び回る。 活発ではないドクオは、照れながらその場でふわふわしていた。 (´・ω・`)「……そういうことをするから、捕まえられないんだよねぇ」 困ったような口調。 しかし、その表情は嬉しげだ。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:15:28.00 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「いいじゃないか。どうせここはニュー速地方。 犯罪者を捕まえる奴なんていない」 持ち歩いている携帯灰皿に煙草を放りこみながら笑う。 本当はショボンも兄者達の行動を楽しみにしている節があることを彼は知っている。 _ ( ゚∀゚)「第一、オレ達の仕事は国の治安を守るためっつーよりも、 ラウンジが飛行船で押しかけてこないかを見張るって役割の方が強ぇし」 (,,゚Д゚)「職務はまっとうしなければなりません」 お堅い顔をしてギコが言う。 真面目な彼らしい言動ではあるが、その口から出る全てが真実だとは限らない。 _ ( ゚∀゚)「またまたー。 お前さんは納得できなきゃしない男だよ。 だからこそ、隊長に選んだんだ」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:18:39.73 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「ギコは良い奴だもんな」 (,*゚Д゚)「なっ……!」 (´・ω・`)「『奴隷制度は廃止するべきだ!』って、隊長に昇格したときにお上に言ったよね。 普通に却下されてたけど」 _ ( ゚∀゚)「真面目ー」 (,*゚Д゚)「あー! みんなでニヤニヤするのはやめろ! オレは奴隷なんてものが許せないだけだ!」 (´<_` )「正義感が強いんだよな」 ( ^ω^)「いいひとだお!」 ('A`)「ソレハミトメル」 _ ( ゚∀゚)「いやー。隊長が良い奴でオレも鼻が高いよ」 (,*゚Д゚)「ジョルジュさん! いい加減にからかうのはやめてください!」
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:21:45.39 ID:EHpwtljV0
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全員でギコを撫で回そうとして、彼に一本背負いをかけられていく。 弟者達よりも少し年上の彼は、人間で言えばそろそろ中年に差しかかっている。 流石に撫で回されるのは恥ずかしい。 (;´・ω・`)「痛いよー」 (,,゚Д゚)「反省」 (´・ω・`)ゝ「イエス。サー」 (,;゚Д゚)「敬礼はいらん」 ( ´_ゝ`)ゝ「イエス。サー」 (,,゚Д゚)「お前、強制的に空察へ入隊させてやろうか」 ( ^ω^)「やめておいたほうがいいお。 すきかってして、ひこうせんをぼろぼろにするお」 ('A`)「ヤリカネナイ」 (;´_ゝ`)「あれっ! オレって信用ない?!」
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:24:16.98 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「いやー。本当に大変だな」 (´<_` )「まあ、そうですね」 楽しげな面々を横目に、ジョルジュと弟者は並んで立っている。 騒ぎの中、いち早く抜け出した二人だ。 新しい煙草にライターで火をつける。 体に悪いとはいえ、精霊である彼にしてみれば大したものではない。 元より寿命の短い弟者にも関係ない。 (´<_` )「古いライターですね」 _ ( ゚∀゚)「そうだな。もう、数十年は使ってる」 (´<_` )「修理の跡が見えますよ」 _ ( ゚∀゚)「馬鹿。このくらい使い込んでるほうが、格好良いだろ?」 そういうが、使い慣れたものを手放したくないだけだ。 手に馴染んでいるそれを手放すつもりはない。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:27:28.06 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「……いつか言おうと思ってたんだけどよ」 ジョルジュは煙草を吸い、煙を吐く。 煙草は間を言い出しにく話をするときには最適だ。 自分の背中を押す一瞬を、違和感なく作ることができる。 _ ( ゚∀゚)「お前、辛くねぇか?」 (´<_` )「え?」 予想外の質問に、弟者はジョルジュを見た。 ジョルジュとしては、予想通りの表情が返ってきただけだ。 騒がしい声をBGMに、ジョルジュがまた口を開く。 _ ( ゚∀゚)「兄者は、盗みとかスリルとか、好きだろ。 でも、お前は違うんじゃねぇか?」 (´<_` )「……」
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:30:04.18 ID:EHpwtljV0
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弟者は沈黙した。 それは肯定を示している。 _ ( ゚∀゚)「静かに暮らしたいんだろ? 何なら、研究でもしながらさ」 (´<_` )「……したい、ですね」 魔法が使えるとはいえ、身体能力の低い弟者が兄者に着いて行くのは難しい。 足を引っ張ることもある。その度に、弟者は悔しい思いをすることになる。 本当に手を掴みたいとき、弟者の手は兄者を逃がす。 _ ( ゚∀゚)「お前ならできるさ。 頭も良い。性根も真っ直ぐだ。お前には、お前の生き方があるだろ? 兄貴に言ってみろよ。受け入れてくれるさ」 おそらく、兄者は今の生活を変えることはできない。 スリルにとり憑かれている。平和な日常など許容できないに違いない。 それならば離れて暮らせばいい。 ずっと一緒にいなければならないわけではない。 (;´_ゝ`)「ぎゃー! マッチョ共に潰されるぅぅぅ!」 兄者の叫び声が聞こえる。 見れば、ギコとショボンに左右から圧迫されていた。 また余計なことを言ったに違いない。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:33:32.83 ID:EHpwtljV0
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(´<_`;)「何やってんだ……」 _ ( ゚∀゚)「弟者、お前が望むなら、研究者に口を利いてやってもいい。 これでもそれなりに生きてる。コネくらいならあるぞ」 兄者の方へ足を踏み出した弟者へ言う。 押し付けがましいわけでもなく、ただ単純に弟者のことを思ってくれているのがわかる。 (´<_` )「……」 咄嗟に言葉がでない。 胸の内にある思いの形は見えているはずなのに、表に出すのは難しい。 (;´_ゝ`)「弟者ああああ! ヘルプミィィィ!」 (´<_`;)「おお。兄者、が見えなくなる!」 一度足を止めたものの、弟者は答えることなく床を蹴った。 彼の目に映る兄者は、筋肉に呑まれていっているようにさえ見える。 何が起こっているのかはともかく、助けを求められていることに違いはない。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:36:22.48 ID:EHpwtljV0
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(;'A`)「アニジャ、ツブサレル!」 (´<_` )「むしろ取り込まれているようにも見える……。 お二方、その馬鹿は何をしでかしたんですか?」 一先ずは現状の把握が必要だろう。 何とも言えぬ状況の一塊に声をかける。 (´・ω・`)「操縦できる! とか言って操縦室に行こうとするから……」 (;´_ゝ`)「一人でできるもん!」 (,,゚Д゚)「歯磨きまでにしとけ」 二人の間に挟まれて兄者は呻いている。 せめて左右の二人が女性ならば幸福だっただろうに。 (´<_` )「兄者、反省しろよ」 (;^ω^)「たすけてあげてほしいお!」 ブーンの叫び声が甲板に響いた。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:39:03.36 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「あー。死ぬかと思った」 (´・ω・`)「私刑は許されてないからねぇ」 (;´_ゝ`)「許されてたら殺られてたの?」 _ ( ゚∀゚)「まあまあ、仲良きことは美しきかなってことで」 (,,゚Д゚)「何が『ってことで』なんですか……」 ジョルジュ達は警察だ。しかし、他の警察とは一味も二味も違う。 その役割から積極的に犯罪者を捕まえようとはしない。 空を守っているとは言っているが、VIP国の者で空を飛べる者は精霊くらいだ。 _ ( ゚∀゚)「オレらも似た者同士だしぃ?」 (,,゚Д゚)「こいつらと違ってちゃんと働いてますよ……」 ( ´_ゝ`)「オレだって働いてるよ」 (´<_` )「おそらく盗みは仕事ではないと思われ」 (´・ω・`)「そういうことだよね。それがお仕事ならボクもするよ」 (,,゚Д゚)「お前は更生したんだろうが」 ギコがショボンの頭を殴る。 それほど力は入っていなかったようだが、打撃音は鈍く響いていた。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:42:06.45 ID:EHpwtljV0
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この空察にいる者は、殆どが孤児か元犯罪者、国に合わぬ思想を強く持った者達ばかりだ。 ニュー速に流れ着くこともできなかったような、外れ者達ばかり。 _ ( ゚∀゚)「お前達は相変わらずだなぁ」 彼らを拾ったのが、この隊の創始者であるジョルジュだ。 飛行船に乗っている者は皆、彼に拾われ、ここで働いている。 (,,゚Д゚)「お前は少し不真面目が過ぎる」 (´・ω・`)「じゃあ、真面目に流石兄弟を逮捕します」 ( ´_ゝ`)「だが断る」 (´<_` )「同意」 彼らは顔をあわせる度に、このような茶番を繰り広げている。 空察は彼らを捕まえる気など毛頭ない。 _ ( ゚∀゚)「善人を捕まえるわけにはいかねーしな」 ( ´_ゝ`)「オレ達が善人?」 兄者はまたまたー。と、手を振る。 ( ´_ゝ`)「オレ達は盗賊ですよ。っと」
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:45:39.09 ID:EHpwtljV0
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腰に下げていたククリを抜く。 軽い調子でその切先をジョルジュに向けた。 無論、それでどうにかしようというわけではない。 _ ( ゚∀゚)「お前がどういう考えで動いていても、助かってる奴は大勢いるってことだよ」 ( ´_ゝ`)「ふーん」 ククリを軽く投げ、また柄を握る。 まるで大道芸のような仕草だ。 ( ´_ゝ`)「オレは好きに生きているだけだよ。 耳族の寿命は短いんだから、好きなことを好きなだけするのさ」 ('A`)「イキイソイデル……」 ( ´_ゝ`)「そうでもないさ。 ヤバイことはしない。オレだって長く生きていたいからな」 _ ( ゚∀゚)「ま、好きにした結果、そいつらやドラゴンは助かってるわけだ。 お前はいらない金はそこいらにバラ撒く癖があるし」 (´<_` )「兄者は宵越しの金は持たない主義なんだよな」 ( ´_ゝ`)「おうともさ! 金なんて、必要なときにあればいい!」
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:48:32.97 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「はは。そういうところ、好きだぜ」 ( ´_ゝ`)「ヤダ。ホモ?」 (,,゚Д゚)「てめぇ、殺されたいのか」 (´・ω・`)「ジョルコン……」 (,#゚Д゚)「あ?」 (´・ω・`)「ジョルコン」 (,#゚Д゚)「尊敬して何が悪い!」 ギコがショボンの胸倉を掴み上げる。 それなりの体格をしている男が取っ組み合い間近という様子は何とも恐ろしい。 (´<_`;)「喧嘩が勃発してますけど」 _ ( ゚∀゚)「えー。放っておけよ」 ( ^ω^)「けがしちゃうお」 _ ( ゚∀゚)「バーカ。んな柔じゃねーよ」
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:51:19.12 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「で、お前ら次はどこ行くんだ?」 とうとう取っ組み合いを始めた二人を無視して問いかける。 武器を使い始めたら止める気ではあるが、二人共そこまで馬鹿ではないはずだ。 (´<_` )「そういえば、オレもまだ聞いてないぞ」 ( ^ω^)「きになるお」 ('A`)「ドウセ、マタヘンナモンダロ」 基本的に兄者は興味の惹かれるモノしか盗まない。 必要があれば金を盗むこともあるが、今回はわざわざニュー速に来ているところを見る限り、 何かしらの曰くつきか、違法のもとに生み出されたナニカなのだろう。 ( ´_ゝ`)「ふふふ! それは、ドラゴンの上で教えてやろう!」 _ ( ゚∀゚)「何だ。オレには教えてくれないのか?」 ( ´_ゝ`)「ちゃんと盗んだら紹介してやるよ」 (´<_` )「一応、盗みの情報だしな」 ( ´_ゝ`)「そうそう」 ('A`)「ゼッタイニ、アニジャハ、ソコマデカンガエテナイ」 ( ^ω^)「だお」
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:54:37.06 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「じゃあ、そろそろ行くか! いい感じに日も暮れてきたし」 ( ^ω^)「空から見る夕日は綺麗だお」 _ ( ゚∀゚)「羨ましいだろー」 未だに喧嘩をしている二人を除いた全員が夕日を見る。 オレンジ色の太陽が沈んでいく様子は圧巻だ。 (´<_` )「ま、そろそろお暇いたします」 _ ( ゚∀゚)「おう。頑張れよ」 ('A`)「ソレモオカシナハナシダロ」 ( ´_ゝ`)「オレの辞書に失敗の二文字はない!」 兄者がドラゴンの背中に飛び乗る。 その後に弟者が続く。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 02:57:21.28 ID:EHpwtljV0
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沈む日にあわせてドラゴンが降下していく。 場所はずれたが、まだニュー速地方の中だ。 (´<_` )「で、今回の目標は?」 ( ´_ゝ`)「ハーフだ」 (´<_` )「ハーフ?」 思わず鸚鵡返しになる。 異種族が恋に落ちることがないとは言わない。 しかし、所詮は違う種族。 子を成せたという話は聞いたことがない。 それどころか、まともな夫婦生活を送れたなど、物語の中でもお目にかからない。 ( ´_ゝ`)「そうだ。それも、すごいぞ!」 ('A`)「イヤナヨカン」 ドクオが沈んだ声を出す。 彼が沈んでいるのは今に始まったことではないが、彼の嫌な予感というのは中々の確率で当たる。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:00:14.21 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「精霊と人間のハーフだっていうんだ」 ( ^ω^)「せいれいと……?!」 精霊の相手が耳族でなかっただけ、マシだったと言うことしかできない。 ブーンは驚愕の声を上げた。 他の二人など声を出すこともできず、呆然としている。 (´<_`;)「待て待て。精霊が、他の種族と? それも、子を成したと?」 極一部を除けば、精霊は他の種族を見下している。 彼らが人間と色恋に発展するとは思えない。 さらにいえば、自然界から生まれるとされている精霊に、生殖機能があるのかという疑問もわく。 ('A`)「オレハナイノニ……」 ドクオが己の股間を眺める。 彼が精霊だからか、特殊な生まれのためか、そこに生殖機能を持ったブツはない。 ジョルジュにでも聞けば、その辺りの疑問は解決するのだろうけれど、 たった今、手を振ったばかりの相手に聞きに行くことは憚られる。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:03:30.47 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「場所は?」 ( ´_ゝ`)「おっ。やる気か?」 (´<_` )「オレのやる気に関わらず、決行するんだろ? なら、最善を尽くすだけさ。お兄様」 ( ´_ゝ`)「最高の弟を持ててオレは世界一幸せだよ。 場所はニュー速、dat町の外れ。イカレタ研究者の家さ」 dat町は、ニュー速の中でもおどろおどろしさの強い町だ。 活気はなく、いつも静かで、それでいて一度気を抜けば、一瞬で丸裸。 最悪でなくとも、命を落としてしまうような場所だ。 ただ、頭のわいた人間には丁度いい町でもある。 ( ^ω^)「けんきゅうしゃ、かお」 ブーンの眉間にしわが寄る。 不服そうな、悲しそうな。そんなしわだ。 ( ´_ゝ`)「あぁ、可哀想な子供だと。 望まれて生まれたわけではないと言われ、奴隷として売り出されたらしい」 (´<_` )「奴隷闇市場か」
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:07:02.32 ID:EHpwtljV0
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奴隷市場の中でも、さらなる闇の部分。 どこかで開催されているらしい。と、いう情報しか兄者達も知らない。 厳重に鍵をかけられている情報だ。そして、然したる興味もない。 ('A`)「ソイツヲ、ヌスムノカ?」 ( ´_ゝ`)「そうだ。面白そうだろ?」 兄者の顔は赤く染まり始めていた。 夕日は沈みきったというのに、頬に浮かぶ赤さは変わらない。 ( *´_ゝ`)「ハーフなんて始めて見る。 本当にハーフなんだろうか。人間と、耳族と、精霊と。それのどれとも違うんだろうな! 何ができて、何ができないんだろうな!」 ある意味では、兄者も研究者達と変わらないのかもしれない。 純然たる興味を持って、彼は対象を見る。 相手がそれによって不快感を持つことなど欠片も考えてはいない。 ( ^ω^)「いじめられてないといいけどお……」 それでも、兄者は非道なことはしていない。 痛めつけることも、傷つけることもしない。 そのことは、ブーンとドクオが誰よりも知っていた。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:10:20.26 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「いつ決行する?」 ( ´_ゝ`)「今日がいいけどなー」 もう空も暗い。 dat町は近いので、今すぐに向かえば丁度良い頃合に着くだろう。 何より、兄者の心はハーフに向いてしかたがない。 誕生日を心待ちにする子供のように、胸のうずきが止まらない。 ('A`)「ジャア、イク?」 (´<_` )「だな」 兄者のことをよくわかっている面々は、すぐに答えを出した。 光の中、堂々とモノを頂くのも悪くはない。 しかし、やはり盗賊は闇の中、華麗に、気づかれぬうちに盗み出すのが美しい。 時には強盗といっても差し支えのないこともするが、本意ではないのだ。 ( ´_ゝ`)「じゃあ決定!」 ( ^ω^)「ぼくもがんばるお!」 ( ´_ゝ`)「期待してるぞ!」
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:13:15.30 ID:EHpwtljV0
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彼らの意思に従う意思を見せようとしたのか、ドラゴンも喉を鳴らす。 得物を狙うときのような音は、彼の昂揚を示しているようにも思えた。 (´<_` )「お前も楽しいか」 真面目で、安定した生活を望んでいる弟者でも、仕事の前は胸が高鳴る。 どうしたって気分か高まり、脳が熱くなる。 耳族よりもずっと単純で、本能だけで生きているドラゴンならば、その高まりはなおさらに強い。 彼自身が仕事をすることはあまりない。 奇襲、陽動、逃げる足。それくらいのものだ。 ( ^ω^)「どらごんもたのしみにしてるといいお!」 ( ´_ゝ`)「絶対に、すげーからさ」 ドラゴンも仲間だ。 道具ではない。 だからこそ、同じような気持ちになる。 ('A`)「アニジャ、ソロソロdatマチダゾ」 下には何も見えない。 明かりの一つもない町。dat町。
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:16:34.15 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「よし。一度地上に降りるぞ」 よりいっそ、静かで暗い時間を狙ってきているのだ。 ドラゴンの背に乗って突撃するわけにはいかない。 兄者の指示にしたがい、ドラゴンは町から少しだけ離れたところに着陸した。 派手な色をしているドラゴンだが、月明かりしかないような場所ならば、隠れることは容易い。 弟者は動くことのないようにしっかりと言い含め、兄者の後を追う。 dat町には何度か来たことがあるが、腕がたつ者でも、一人でいることはオススメできない。 見境なしに絡まれるため、進むのに時間がかかってしかたがない。 何人かが固まっていれば、絡まれる確率はそれなりに下がる。 ( ^ω^)「いつものおとじゃとあにじゃだお」 ('A`)「ミスボラシイ?」 (´<_` )「うるさい。そこまでみすぼらしくはないだろ」 豪華な装飾を着けてあるくなどもっての他だ。 余計なものを取っ払ったシンプルな服を着ている二人は、奴隷市場を見ていた時とは雲泥の差だ。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:19:48.36 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「イケメンはどんな姿でもイケメンだろ?」 ('A`)「……?」 (;´_ゝ`)「黙って首を傾げるな」 飛ぶことが得意でないドクオは、先頭を歩く兄者の肩に乗っている。 軽く傾げられた首は、兄者の心を痛めつけるには十分過ぎる威力を持っていた。 (´<_` )「あまり遊ぶな。 どの家だ?」 ドクオと戯れている兄者に尋ねる。 家とはいっても、この辺りの建物は廃墟といった方がしっくりくるモノが多い。 下手に普通の家を建てようものならば、すぐに襲われて一家惨殺がオチだ。 そのため、この町で非合法な行いをする者達も廃墟を使用する。 しかし、廃墟はフェイクで、実際はどこかに隠し通路が用意されていることが殆どだ。 一つ一つの廃墟を探していくなど、不可能に近い。 ここで仕事をするということは、ターゲットの場所を明確にしていて当然なのだ。 ( ^ω^)「ひかり、いるかお?」 ( ´_ゝ`)b「いーや。大丈夫。しっかり調査済みだ」
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:22:39.49 ID:EHpwtljV0
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四六時中一緒にいるはずなのだが、弟者にはそのような気配を微塵も見せていない。 そもそも、今回の盗みに関する情報の元とて、弟者は知っていない。 教えてくれてもいいではないかと思わずにはいられなかった。 ( ´_ゝ`)「えっとだな……」 兄者が細い目をさらに細める。 暗闇の中で、廃墟の判別をつけているその目はせわしなく動いていた。 ( ´_ゝ`)「あの廃墟だ」 ( ^ω^)「みぎからにばんめかお?」 ( ´_ゝ`)「そうだ。 あそこの一番奥の部屋に、地下へ続く扉がある」 (´<_` )「そこにいるのか」 ('A`)「ケンキュウシャハ、スンデルノカ?」 ( ´_ゝ`)「いいや。お目当てはあそこで飼われているだけらしい。 お偉い研究者様は、廃墟の地下なんぞで暮らしやしない」 (´<_` )「中々のご身分ですことで」
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:25:24.79 ID:EHpwtljV0
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カラカラと笑う。 生まれも育ちも底辺の彼らとしては、もはや嫉妬の気持ちもわきあがらない。 ( ´_ゝ`)「右よし」 (´<_` )「左よし」 ( ^ω^)「いくお!」 (;'A`)「ウオッ」 走りだした兄者に、ドクオの態勢がブレる。 しっかりと掴まってはいるが、大した力ではないのだ。 素早く、けれども足音はたてない。 盗賊特有の走り方だ。 兄者は当然のこと、弟者もマスターしている。 ( ´_ゝ`)「よし、いよいよ一歩踏み出すぞ……!」 (´<_` )「オレが開ける」 地下への扉に手をかけようとしていた兄者を制した。 こんなところに隠しているとはいえ、何らかの罠がないとも限らない。 念を入れるに越したことはない。
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:28:14.47 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「ドクオ。やるぞ」 ('A`)「ドーゾ」 弟者は扉に手をかざす。 触れぬように気をつけながら、ギリギリのラインまで手を伸ばす。 (´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず。 光を宿さぬ内側の闇よ、外に溢れる闇よ。 この扉を我に伝えよ」 詠唱が始まると、扉の向こう側にある闇が蠢く。 弟者が使っている魔法の源はドクオだが、彼自身に影響は何らない。 あるのは弟者への負担だけだ。 隙間も痛みも重さもない闇が扉を隅々まで調べていく。 その情報は弟者の頭へ直接叩きこまれていく。 ( ´_ゝ`)「相変わらず、すげーなぁ」 その様子を兄者はじっと眺めている。 扉や宝箱を開けるとき、弟者はいつもこの魔法を使う。 頭の中に直接情報を叩きこまれている状況なので、他の魔法以上に集中力を必要としている。 そのため、兄者の言葉は、現在弟者に届いていない。
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:31:27.93 ID:EHpwtljV0
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弟者のおかげで、罠に引っかからずに済んだことは、両手の指を使っても数えられない。 そもそもが、行き当たりばったりな兄者だ。 罠のことなど頭にないことが多い。 扉を丹念に調べている弟者ほどの集中力は、殺気渦巻く中の戦いの中か、金庫を開けるときくらいのものだ。 ( ^ω^)「あにじゃもみならうお」 ( ´_ゝ`)「馬鹿だなぁ。 弟者ができるんだから、オレはできなくてもいいの」 ( ^ω^)「そういうもんかお?」 ( ´_ゝ`)「そういうもんさ。 ドクオはお前ほど早く飛べなくてもいいし、お前はドクオほど慎重じゃなくていい」 同じようなことができる者が集まっていてもしかたがない。 適度に違うことができる者が必要なのだ。 (´<_` )「二、三の罠があったが、何とか解除したぞ」 弟者が顔を上げる。 ドクオは飛ぶことにつかれたのか、弟者の頭の上だ。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:34:31.63 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「よくやった!」 弟者の背中を軽く叩く。 簡単な罠ならば兄者にも解除はできる。 けれど、それはあくまでも、普通の罠だった場合の話だ。 精霊と人間のハーフなんぞを飼っている研究者が張る罠が、縄や刃物を使った普通の罠のはずがない。 しかけられていたのは、精霊の力を利用した魔法の罠だ。 細かい種類は、解除した弟者にしかわからないが、単純明快なものではなかっただろう。 (´<_` )「まだ盗みが終わったわけじゃないんだぞ」 そう言いつつも、弟者は嬉しそうだった。 ( ´_ゝ`)「確かにな。よし。ならば、先へ進もう」 扉を開ける。 重たい音を響かせて開いたソレは、下へ下へと続く階段の存在を明らかにする。 明かりのない階段はどこまでも暗く、底どころか二段下さえ見えない。
- 130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:49:43.39 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「じゃあ、つぎはぼくのばんだお?」 ブーンが期待を胸に尋ねる。 暗い中、明かりを使えば、誰かに見つかってしまう可能性がある。 その辺りを考えれば、明かりを使うことはあまり褒められた行為ではない。 しかし、地下に入るのならば外に明かりが漏れることもないだろう。 何より、先が見えないというのはどうにも不安だ。 まだ罠があるかもしれない。 弟者も常に気を張っているわけにはいかない。流石に集中力にも限界がある。 (´<_` )「そうだな。ブーン、力を貸してくれるか?」 ( *^ω^)「もちろんだお!」 ('A`)「マブシクナル……」 ( ´_ゝ`)「昼の光ほどじゃないだろ」 ('A`)「ソーイウモンダイジャナイ」
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:52:34.99 ID:EHpwtljV0
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闇の精霊であるドクオは、ブーンの光が苦手だった。 無論、ドクオがブーンのことを嫌っているわけではない。 ただ、本能として苦手意識がどうにも拭い切れないだけだ。 ( ´_ゝ`)「ま、気になるならオレの懐にでも入っていればいいさ」 兄者が服を少しはだけさせると、ドクオはそこに潜り込む。 硬い毛並みは、けっして心地良いとはいえないが、少しばかり高い体温は何故か心地良い。 ( ^ω^)「ごめんだお……」 ('A`)「イヤ、ソレハオレノセリフ」 二人はどちらかといえば仲が良い方だ。 だからこそ、互いに謝罪の言葉を投げあう。 (´<_` )「よし。じゃあ少しだけ降りてから使うぞ」 弟者が階段を降りる。 兄者がそれに続く。 暗い階段を降りれば、世界全体が闇に包まれてしまったかのように思える。 頭上にあるはずの外の世界とて、それほど明るいわけでもないので、 どこまでも暗いトンネルが続いているような錯覚さえしてくるというものだ。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:55:18.31 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「光の精霊、ブーンと契約せし我が命ず。 彼が作り出す光よ、常闇の世界をまばゆく照らせ。 闇に呑まれた我らを救え」 途端、弟者の手のひらに光の球体が現れる。 ( ´_ゝ`)「おー。見える、見えるぞ!」 ( ^ω^)「すすむおー」 光の球体によって階段の先が見えるようになる。 特に罠もなさ気な、至って普通の階段だ。 それでも、できるだけ慎重に進むのは、先頭を歩く弟者の性格故だ。 ( ´_ゝ`)「夜が明けちまうぞー」 (´<_` )「朝日を浴びないうちに死んだらどうするんだ」 兄者の野次にも屈せず、己のペースで進んでいく。 下へ向かうほど、空気が薄くなっているような気がして、胸がしぼむ。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 03:58:23.59 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「しかし、ブーンもドクオも便利だな!」 ゆっくりとしたペースには飽き飽きしているのか、兄者は声を上げる。 構っても疲れるだけだとわかっている弟者はその声を無視した。 ( ^ω^)「ぼくらだけじゃ、どうにもならないお。 おとじゃがいるからだお」 代わりにブーンが答える。 飛んでいる彼に疲れは見えない。 ( ´_ゝ`)「精霊使いってすごいよなー」 精霊だけで能力が使えないわけではない。 彼らの持つ能力に優劣が存在しているとしても、元々は火を灯すことや、コップ一杯の水を出現させることくらいのもの。 けれど、精霊使いが使う魔法は強力だ。 時にはうねりを上げる炎を使い、空から豪雨を降らせることさえある。 ( ^ω^)「おとじゃがせいれいつかいでよかったお! あにじゃだけじゃ、ぼくらはやくわりをもらえなかったお」 精霊使いは、精霊の体と互いに交わされた契約を通して、精霊の属性の力を引き上げることができるのだ。 弟者の力を持ってしても、大したことができるわけではないブーンとドクオなど、 自身の能力を存分に使ったとしても、何もおこっていないのと変わらない。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:01:34.91 ID:EHpwtljV0
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しばらく下り続けて、一行は最下層と思われる場所にたどり着いた。 特に何か起こるわけでもなく、ひたすらに兄者が喋っていただけだった。 最下層では、もはや外の空気など微塵も感じられない。 彼らの目の前には一枚の扉がある。金属でできたそれは、重く、冷たい。 何をされているのかは知らないが、こんなところで飼われているハーフも、ろくな目にはあっていないだろう。 ( ^ω^)「ずいぶんとおりてきたお」 (´<_` )「思ったよりも深かったな」 ( ´_ゝ`)「隠し財宝ってのは、深い、深いところにあるもんさ」 ('A`)「オレモ、オタカラミタイ……」 兄者の懐に隠れていたドクオが顔を出す。 光が眩しいのか、細い腕で何とか影を作ろうとしている。 ( ^ω^)「だいじょうぶかお?」 ('A`)「ダイジョウブ。ダイジョウブ」 一回り体の大きいブーンが影になろうとドクオのもとへやってくる。 彼自身は発光していないので、丁度良い光避けだ。
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:04:24.71 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「よし。全員……ドラゴンはいないが、しかたないか。 まあ、おおよそ揃ったところで、ご対面といこうじゃないか」 (´<_` )「その前に、ドクオ、もう一度力を貸してくれ」 ('A`)「ワカッタ」 最後にとてつもない罠がないとも限らない。 すぐにでも扉を開けたい気持ちはあったが、弟者の言うことは間違いではない。 忘れて駆け出すことも多々あるが、扉を見つけた時は極力、弟者を待つつもりではいる。 弟者が口を開き、兄者は一歩下がる。 失敗するか否かなどは心配していない。 一刻も早く中に入りたいという気持ちだけが胸の内に溢れている。 (´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず――」 途端、バチンッと、激しい音が響いた。
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:07:09.81 ID:EHpwtljV0
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(;´_ゝ`)「すごい音したぞ! 大丈夫か?!」 一瞬、弟者の手から火花が飛んだようにも見えた。 集中力が途切れてしまったためか、ブーンの力で作り出していた光の球体も消えてしまっている。 何も見えないなか、兄者は勘と記憶を頼りに弟者へ手を伸ばす。 (´<_` )「……大丈夫、だ。 少し痛かったくらいだ」 弟者に手が触れる。 苦痛を感じたのか、彼の声は低い。 (;´_ゝ`)「大丈夫じゃないだろ。怪我をしたのか?」 感情を隠さぬ兄者の言葉からは焦りが読み取れる。 彼を安心させねばと思ったのか、弟者もすぐに言葉を返す。 (´<_` )「いや、酷い静電気みたいなものだ」 (;´_ゝ`)「ヤダ痛い」
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:10:16.57 ID:EHpwtljV0
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見えないため、兄者は弟者の手を遠慮なく触る。 \\血が出ていないのか確かめているのだ。 (´<_`;)「あー。今、明かり出すから。離してくれ」 ( ´_ゝ`)「わかった。でも、無理ならいいんだぞ?」 (´<_`;)「平気だっつーの」 弟者は手早く詠唱を始める。 基本的に人の話を聞かない兄者だ。これでもか。と、いう程触れてくるのを止めさせるには、 何一つ異常がないことをしっかりと見せてやるしかない。 (´<_` )「ほら」 光が四人を照らし出す。 広げられた弟者の手には特に傷があるようには見えない。 ( ´_ゝ`)「あぁ。ならいいんだ」 ( ^ω^)「それにしても、びっくりしたおー」 ブーンが間延びした声を出す。
- 149 名前:>>147変な\\が入ってた……脳内補完で消してくれ:2012/11/18(日) 04:11:44.15 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「どうやら、魔法避けが張ってあるようだ。 外からの侵入者を弾くため。と、いうよりは、中にいるナニカを閉じ込めるためのようだが……」 ('A`)「ヨク、ワカルナ」 扉に触れながらドクオが尋ねる。 冷たい扉は、触れるだけならば反抗の意思を示さない。 ( ´_ゝ`)「そりゃ、ますますお宝への期待が高まるな。 よし。オレが開ける。調べられないなら、しかたがないだろ?」 (´<_` )「……そうだな。 オレは後ろで何かあったときに備えていよう」 素直に引き下がった弟者を見て兄者は満足そうに笑う。 一度、深呼吸をして、扉のノブを掴む。ひんやりとした感触が手のひらから全身へ伝わる。 何が起こるかわからないスリル。 兄者は思わず口角を上げる。 ( ^ω^)「あぶなくないかお?」 ( ´_ゝ`)「大丈夫さ。弟者もお前達もいる」 (´<_` )「後始末を任せないでもらいたいものだ」
- 152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:14:56.82 ID:EHpwtljV0
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言葉を聞き流し、兄者はノブを回す。 鍵がかかっているかもしれないと思っていたのだが、ノブは引っかかることなく、回った。 そのまま扉を引けば、金属と石が傷つけ合う音を立てながら中の様子を四人に見せる。 (´<_` )「罠はなかったようだな」 弟者はいつでも魔法を使えるようにと構えていたのだが、 部屋の内装が見えるとその心配もなかったのだと、構えを解く。 ( ^ω^)「おー?」 体の小さいブーンが真っ先に部屋の中へ入る。 それに兄者が続く。 ( ´_ゝ`)「子供部屋か」 地下の底、重たい扉の向こう側にあったのは、子供部屋だった。 柔らかい玩具と、暖かい毛布がある。 窓はないが、風景を描いたパズルが壁のそこかしこに飾られ、 色とりどりのカーテンがかけられている。 ただ、そこに不似合いな扉が一枚ある。 この部屋に繋がっていた扉と同じく、重い金属でできた扉だ。 ('A`)「アッチ、イヤナカンジ」 (´<_` )「おそらく、研究施設があるんだろうな」
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:17:10.41 ID:EHpwtljV0
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どのようなことをしているかなど、知りたくもない。 弟者は周囲を見渡す。 家具はあれども、生き物の姿は見えない。 (´<_` )「兄者、本当にここか?」 ( ´_ゝ`)「そのはずだが」 兄者も同じように周囲を見ていた。 けれども、見えるのは玩具やパズルくらいのもの。 ハーフの奴隷など見つからない。 床に敷かれている絨毯に手を触れる。 ふわりとした感触だ。 (´<_` )「いい物使ってるな」 ( ´_ゝ`)「奴隷に対する待遇とは思えんな。 ……それにしても、気配はしないが視線は感じる」 味わったことのない感覚に兄者は鳥肌をたてる。
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:20:25.07 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「……へんな、けはいがするお」 部屋の中心部へ飛んだブーンが呟く。 気配に疎い彼は、「変な気配」の出どころがわからないらしく、キョロキョロしている。 (´<_` )「気配。か、なるほど、これは気配なのか」 ( ´_ゝ`)「弟者にはわかるのか」 仲間はずれのような状態に、兄者は頬を膨らませる。 いい歳をした男に相応しい仕草とは到底言えない。 (´<_` )「混ざったような、よくわからんモノだがな」 生きている人間や、精霊、耳族。など、単純な生物の気配ならばわかる。 だが、それらのどれとも違う気配はどうにもわかりにくい。 生まれて初めての感覚に戸惑う。と、言ったほうが正しいのかもしれないが。 ドクオも神妙な顔をしているので、弟者やブーンの言っている気配がわかるのだろう。 精霊であったり、精霊使いだからこそ、感じ取れるナニカがあるらしい。
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:23:46.65 ID:EHpwtljV0
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気配のもとを探すべく、弟者は再び周囲を見渡す。 ( ´_ゝ`)「弟者」 壁に隠し扉でもあるのだとうかと、手をつき始めたと同時に兄者が声をかけてきた。 振り返れば、彼はとある方向を指差している。 指先をたどれば、オレンジ色のカーテンが揺らめいていた。 (´<_` )「揺れて……?」 その違和感に弟者は気づく。 ('A`)「ココ、チカデ、シツナイダゼ……?」 風など吹いていない。 だというのに、カーテンが揺れている。 カーテンの向こう側にも壁があるのだと思いこんでいた。 けれど、そうである確証はどこにもなかったのだ。 ( ´_ゝ`)「ビンゴっぽいな」 (´<_` )「あぁ。流石だな。兄者」 二人は顔を見合わせ、口角を上げる。 その表情はやはりそっくりだ。
- 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:26:15.40 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「て、ことだ。 できるなら、あんたの意思を尊重したいと思ってる」 ( ´_ゝ`)「選ぶがいいさ。 自ら姿を現すか、無理矢理その布を剥ぎ取られるか」 二人は一歩、また一歩をカーテンに近づく。 引くという選択肢を用意するつもりは毛頭ない。 ( ^ω^)「だいじょうぶだお。こわくないお」 ブーンもカーテンの向こう側に語りかける。 できることならば、無理矢理ではなく、向こう側にいる誰かの意思で出てきて欲しい。 兄者と弟者が、誰かを悪いようにするはずがないのだから。 二人がカーテンの前に立つ。 ブーンとドクオは少し後ろで羽根を動かしている。 「あんた達、だれなんだ?」 布越しに声が聞こえた。 声変わりもしていない少年の声だ。
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:29:31.46 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「盗賊さ」 (´<_` )「今夜はあんたを盗みにきた」 嘘はつかない。その必要がない。 本当のことを言って抵抗されたとしても構わないのだ。 相手がどのような行動に出たところで、彼らの成すべきことは決まっている。 それならば、下手に誤魔化すよりも、真実を教えてやる方がずっと親切だ。 「ぬすむ? ぬすむって何さ」 奴隷としては破格の待遇。 研究対象としてはそれなりの場を用意してもらっている彼は、どうやら何も知らない子供のようだ。 ('A`)「ソコカラ、ダシテヤルッテコト」 (´<_`;)「おいおい。嘘をつくなよ……」 ( ´_ゝ`)「結果だけ見ればそうかもしれないけどなー」 盗み出すということは、今ある場所から不当に移動させることでもある。 その観点からいけば、この地下から少年を連れ出すことにもなるだろう。 その過程と行動理由には、天と地ほどの差があろうとも。
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:32:16.23 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「ふーん。ここから、出してくれんの?」 声と共に、カーテンが開かれた。 オレンジ色のカーテンが揺れる。 ( ´_ゝ`)「お前が望もうと、望むまいと。な」 即答する。 同時に、向こう側にいる少年を観察する。 少年の首には首輪がはめられていた。 口元にこびりついている血の跡と、体に刻まれているきり傷が、 部屋から見える待遇とは違い、彼が普段どのような扱いを受けているのかを示している。 さらされている上半身の下部には、切り傷の他に、奴隷の証である烙印が山のように施されていた。 柄こそ、可愛らしいマークだが、知る者が見れば眉をしかめずにはいられないはずだ。 (´<_` )「さあ、こっちへ来い」 弟者の目は奴隷の烙印に交じって、魔力を他人が好き勝手にできるような術式が見えた。 研究の一環なのだろうけれど、最低限に省略化されているあの術式では、 魔力を動かされるたびに苦痛が伴うはずだ。 幸い、術式を発動させるには発動者が近くにいなければならない。 ここから連れ出すことができれば、もう魔力を動かされる苦痛を味わうことはないだろう。
- 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:35:07.98 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「あんた達は、おれに、いたいことするか?」 向こう側から質問が投げられる。 カーテンの向こう側は、小さな押入れのようになっていた。 彼の寝室のようなものなのだろう。 空間いっぱいに敷かれた布団に、そこらかしこに散らばっているぬいぐるみを見れば、一目瞭然だ。 ( ^ω^)「しないお。あにじゃも、おとじゃも、そんなことはぜったいにしないお!」 疑問に答えたのはブーンだった。 兄者や弟者が声を出す前に、少年を安心させる言葉を吐く。 ('A`)「チュウシャモ、デンキモ、キュウインモサレナイ」 ドクオがブーンに続く。 彼らは必死だった。こちら側に来て欲しい一心だった。 痛ましい場所から逃がしてやりたいと思っていた。
- 173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:38:14.61 ID:EHpwtljV0
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少年はじっと精霊の二人を見る。 (・∀ ・)「なら、いいや。 いたくないなら、どんなヤツだって、かまわない」 その言葉は、この場所の痛みを表している。 ドクオとブーンは胸が痛んだ。 ( ^ω^)「もう、いたいおもいなんてしなくていいお!」 ('A`)「ツツカレタリハ、スルケドナ」 (´<_`;)「おいおい。彼が決断を変更したらどうしてくれるんだ……」 非道なことはしていないが、からかう程度のことは何度もある。 じゃれあいの範囲ならば、痛い目を見せることもあった。 けれど、それが真実だとしても、今現在において、その言葉が必要だとは思えない。 (・∀ ・)「つつくのかー」 (´<_` )「痛くはない」 (・∀ ・)「ならいいぞー」
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:41:10.31 ID:EHpwtljV0
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少年は、見た目よりもずっと幼い話しかたをする。 兄者は何故か彼に違和感を感じていた。 奴隷にしてはまだ小奇麗なことは気にならない。 これだけ立派な部屋を与えられているのだ。 珍しさからか、それなりに大事にはされているらしい。 ならば、少年の容姿かと思うが、それも違う。 金糸の髪は地下とはいえ、人工的に作り出されている光を反射して輝いている。 烙印なんぞ、珍しくともなんともないものだ。 唯一、意識を向けずにはいられないのが、左右で色の違う瞳だ。 片方は青で片方は赤。その不思議な色合いは思わず魅入る。 ( ´_ゝ`)「……違うな」 それでも、違和感は感じない。 兄者は一人首を傾げる。 (´<_` )「どうしたんだ。いつもなら、大騒ぎしていそうなものを」 ( ´_ゝ`)「いや、ちょっとな……」 目的のモノは手に入れたも同然だ。 後は彼の手を引いて階段を登るだけで終わりだ。 いつもの兄者ならば、彼の存在について、歯に絹を着せぬ物言いで何もかも聞きだしていただろう。 それが、今回に限っては質問を投げる気にもならない。
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:44:14.04 ID:EHpwtljV0
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('A`)「テアシニ、クサリハナイカ?」 (・∀ ・)「ないぞ」 答えるものの、少年はカーテンから離れようとしない。 未だに彼と四人の間には壁があるように感じられる。 (´<_` )「こっちへこい」 弟者が手を差し出す。 日が出るまでには抜け出さなければならない。 いざとなれば、強硬手段にも打って出るつもりだ。 (・∀ ・)「…………」 少年は黙っていた。 手を差し出すこともなく、何か言うでもない。 ( ^ω^)「どうしたんだお」 ブーンが尋ねる。 やはり怖いのだろうか。そんな考えが頭を過ぎる。
- 181 名前:アドレス規制入った:2012/11/18(日) 04:48:52.34 ID:EHpwtljV0
- (・∀ ・)「……なあ」
少年はカーテンを握る。 その手は震えていた。 四人はじっと少年の言葉を待つ。 急かしたい気持ちはあったが、そうできないほど、少年は弱々しい。 (。・∀ ・)「ほんとうに、出してくれるのか? いたいこと、しないか? びりびりなことも、しないか?」 少年の目から、涙が零れた。 しかし、それでも、彼の口は弧を描いたままだ。 (NO.5 またんきイラスト) ( ´_ゝ`)「――っ!」 兄者は理解した。 己の中に巣食っている違和感の正体を。
- 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:50:54.08 ID:EHpwtljV0
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( #´_ゝ`)「何なんだお前は!」 涙を流す少年に、微塵の同情も見せずに怒鳴り声を上げた。 地下深くにある場所だ。今更、声の大きさなど気にしていない。 (;^ω^)「あ、あにじゃ……。 おちつくお……!」 兄者の腕にしがみつくが、小さなブーンが彼を抑えられるはずもない。 この場において、唯一兄者を止めることができる弟者は、事態を静観している。 驚くような行動に兄者が出るのは、今に始まったことではない。 その行為に巻き込まれ、苦労をすることも少なくはない。 しかし、今の状況において、彼が少年に対して非道なことをするとは思えない。 止める必要があるような行為ではない。と、弟者は判断した。 (;・∀ ・)「何なんだよ! なぐるのか? いたいのか?!」 ブーンを振り切った兄者は、少年の腕をつかんだ。 見えぬ壁をぶち壊し、力いっぱいに少年に触れている。 細い少年の腕は、耳族である兄者の力に悲鳴を上げている。
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:53:46.74 ID:heQEwZZhT
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- 188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:56:21.20 ID:EHpwtljV0
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( #´_ゝ`)「何で笑うんだ!」 (・∀ ・)「……は?」 怒声に部屋が静まり返る。 ('A`)「エガオ、ワルクナイ」 ( #´_ゝ`)「いーや! 悪いね!」 強引に引き寄せる。 軽い少年は、あっさりと兄者の胸の中に飛び込んだ。 ( #´_ゝ`)「悲しいのに笑うな! 泣きたいのに笑うな!」 責めるように、傷を癒すように、兄者は胸の中にいる少年を強く抱きこんだ。 強い力に少年が呻くが、知ったことではない。 (´<_` )「なるほどな」 慌てているドクオとブーンを横目に、弟者は納得した風だ。 (;^ω^)「お?」
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 04:58:10.77 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「いや。なに。 案外、熱血漢な兄者らしいな。と」 ( #´_ゝ`)「お前いくつだ!」 (;・∀ ・)「いくつって何だよ!」 少し力を緩められ、少年は息を大きく吸い込む。 ( #´_ゝ`)「年齢だ。年齢、わからんか?」 (;・∀ ・)「わからんぞ!」 ( #´_ゝ`)「お前は今、どういう気持ちだ!」 (;・∀ ・)「きもちってわからん!」 ( #´_ゝ`)「そうか。なら、何で笑ってるんだ」 (;・∀ ・)「本にかいてた。しあわせ、なら、わらうんだって。 しあわせって、あたたかくて、いたくないんだって。 わらうと、しあわせになるんだって」 問答の最中、兄者は少年の目を真っ直ぐ見ていた。 少年は他社と目を合わせる。と、いう行為に慣れていないのか、気まずげに目をそらそうと試みている。 今のところ、成功した様子はない。
- 194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:00:46.83 ID:EHpwtljV0
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(;・∀ ・)「はかせ、だって、わらってる方がいいって、いった! その方が、いい子だっていってくれる。 いい子は、あまりいたくないんだって……」 主張する彼の瞳には涙が溜まっている。 ( #´_ゝ`)「なら、お前はそれで幸せだったか?!」 少年の言葉を真っ向から否定するように兄者は声を荒げる。 一瞬、少年は肩を揺らした。 ( ∀ )「……じゃなかった」 (´<_` )「聞こえんなぁ」 兄者を手助けするように弟者が呟く。 悪役顔負けな言い回しだ。 精霊の二人はその様子を見守ることしかできない。 少し間が開いてから、少年の口が開く。 (#・∀ ・)「しあわせ、なんかじゃなかった!」 叫び声だ。 ただの大声にも聞こえたが、それは間違いなく叫びだった。 そして、それは産声だった。 少年が、この世界に誕生した証。
- 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:02:46.63 ID:EHpwtljV0
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(#・∀ ・)「いたいのはきらいだ! ここから出たい! そとってとこには、何があるんだ!」 ( ´_ゝ`)「辛かったか? 悲しかったか?」 (#・∀ ・)「わかんない! つらいも、かなしいも、しらない! 何もしらない! いたいしかわからない!」 とうとう少年は涙を流した。 感情の名前を何一つ知らない少年は、兄者の腕の中で大粒の涙を零す。 ( ´_ゝ`)「なら決まりだ!」 兄者は少年を抱えなおす。 脇に抱え込む形だ。 (;・∀ ・)「うわっ?!」 視界の変化に戸惑う少年を放って、兄者はさっさと部屋から出る。 弟者は光の玉を作ってからそれに続く。 (´<_` )「まあ、こうなることは決まってたんだ。諦めてくれ」 段差もあって、少年と弟者は視線が丁度合う形になっている。 弟者は小さく笑いながら言った。 (´<_` )「今日からキミはオレ達のモノだ。 好きにさせてもらう」
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:04:22.93 ID:EHpwtljV0
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(;・∀ ・)「けんきゅーってヤツか?」 ( ´_ゝ`)「いいや違う!」 兄者が返答する。 ( ´_ゝ`)「オレはお前を泣かせることに決めた!」 言葉にすることでテンションが上がったのか、階段を登る速度を早める。 二段飛ばしに駆け上がる兄者に、弟者はため息をつきたい気持ちだ。 そんなことに費やす酸素も二酸化炭素もないので、黙って二段飛ばしに習う。 (;・∀ ・)「なく? なくって、目から水を出すことだろ? おれはもうないたぞー?」 ( ´_ゝ`)「あんなもの、泣いたうちに入らないぞ!」 カラカラと兄者は笑う。 どこまで続いているのかもわからない階段など、気にもならない。 ( ´_ゝ`)「もっと、ぐっちゃぐっちゃの顔にしてやる!」 (;・∀ ・)「ぐ、ぐっちゃぐちゃ?」 恐ろしい擬音に少年は戦慄する。 体は硬直し、額から汗が流れる。
- 204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:06:03.86 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「ついでに、本物の笑顔というのも、作らせてやろう」 ( ^ω^)「それはいいお! すぐにできるようになるお!」 弟者の少年の間でブーンが一回転する。 体力的に限界が近い弟者としては、鬱陶しいことこの上ないのだが、叩き落す気力もない。 ('A`)「スグニハ、ムリダロ……」 ( ^ω^)「なにいってるんだお。どくおだって、あそこからでて、すぐにわらってたお」 (*'A`)「ソンナコト、ネーヨ」 弟者の懐でドクオは照れくさそうに笑っている。 ( ´_ゝ`)「いいじゃないか! 笑え! 泣け! どんな生物も好き勝手に生きるべきだ! 感情を偽るだなんて、つまらないことこの上ないぞ!」 (´<_` )「兄者は勝手すぎると思われ」 ( ´_ゝ`)「オレらの生は短いからな! しっかり謳歌しようじゃないか!」 兄者の言葉に、弟者はジョルジュの言葉を思い出した。 お前には、お前の生き方がある。 脳内に言葉が反響する。 (´<_` )「……あぁ、そうだな」
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:08:20.48 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「どうだ! これが外だ!」 階段を登り切り、五人は外へ出た。 重苦しい空気はもうない。 乾燥しきった空気がそこいらにある。 (・∀ ・)「なにも見えないぞー」 ('A`)「マダ、ヨルダカラナ」 (´<_` )「まだ夜明けには時間があるが、長居は無用」 ( ´_ゝ`)「だな」 どのような非道をおこなっていたのかはわからない。 しかし、実験に生きている者を使っているのだから、定期的に世話をする必要がある。 夜のほうがここに住まう者達は活発に動く。 やってくるのならば、日が出た朝になるはずだ。 そうなる前に離れるのがいい。 兄者は少年を降ろす。 ( ´_ゝ`)「立て」 (・∀ ・)「お、おう……」
- 210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:10:41.78 ID:EHpwtljV0
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少年は二本の足で地面にしっかりと立つ。 室内で育てられた彼は、当然のことながら靴など持っていない。 (・∀ ・)「この……ちょっといたいの、何だ? いたいけど、ちっともいやじゃないぞー」 少年はその場で足踏みをする。 少しの痛みとは、砂に紛れている小石だろう。 ( ´_ゝ`)「それは地面だ」 (´<_` )「そして、地面と構成する砂と小石だ」 ( ^ω^)「おひさまがでたら、すなもじめんもみえるお」 ('A`)「ソレコソ、イヤニナルクライナ」 (・∀ ・)「ふーん。 すな。すな、かー」 少年は確認するように、もう一度地面を強く踏みしめる。
- 213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:12:47.24 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「さむくないかお?」 少年の姿といえば、かろうじてズボンをはいている程度の服装だ。 夜のニュー速は寒い。 昼間の暑さはどこへ消えてしまっているのか、夜になったとたんに冷え込む。 この地方に住む人間が長袖を愛用しているのは、陽射しの強さばかりが理由ではない。 (・∀ ・)「んー。あんまし、だなー」 少年は首を傾げる。 感情がわからないのと同じように、気温の感覚もわからないだけなのではなさそうだ。 上半身が裸だというのに、鳥肌の一つもたっていない。 (´<_` )「耳族のオレ達でさえ、夜は寒いというのに」 自前の毛皮を持ってしても、肌寒く感じてしまうような寒さだ。 見た目は人間と変わらない少年が、寒さを感じないというのは、なんとも不思議な現象だ。 ('A`)「マア、オレモサムサハ、アマリカンジナイナ」 ( ^ω^)「ふくがいらないくらいだお」 ( ´_ゝ`)「そうか。やはり、精霊と人間のハーフなんだな」
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:14:09.09 ID:EHpwtljV0
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信じていなかったわけではない。 兄者自身が情報を掴んできたのだから、それは当然のことだ。 けれども、見た目は普通の人間だ。 いまひとつ実感には欠ける。 (・∀ ・)「ハーフ……」 (´<_` )「わからないか?」 字は読めるようだが、少年は知識が豊富ではない。 単純に教育を受けていないのか、幼さゆえの無知なのかわからない。 背丈を見る限り、十歳程度に見えるが、精霊としての性質を持っているならば、見た目と年齢は一致しない。 まだ生後一年だとしても不思議ではないのだ。 (・∀ ・)「わかるぞー。 はかせが、いつもいってたからなー」 ( ´_ゝ`)「ほう」 兄者の目が光る。 元より、彼を盗み出したあかつきには、根掘り葉掘り聞いてやろうと想っていたのだ。 この話題に興味がわかないはずがない。
- 218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:16:12.40 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「と、残念。兄者」 ( ´_ゝ`)「む?」 (´<_` )「時間切れだ」 少年への問いかけを用意した兄者に、弟者が水を差す。 不満気な表情をしてみせるが、水を差した張本人はそ知らぬ顔だ。 ( ^ω^)「もうすぐ、よがあけるお」 ニュー速は日が出るのが早い。 正確な時間はわからないが、空の様子や風の吹き方から、ブーンや弟者は夜明けを感じ取っていた。 日が昇ってする研究者が来るということはないだろうが、慎重であることにこしたことはない。 ( ´_ゝ`)「そうか……。しかたないな」 ('A`)「ジカンハイクラデモアル」 ( ´_ゝ`)「あぁ、そろそろ行こう」 (´<_` )「一度眠らないと頭も回らないしな」
- 219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:19:07.60 ID:EHpwtljV0
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兄弟が少年の左右に立つ。 彼らは朝から起きているので、そろそろ布団に潜りたい心地になっていた。 ( ´_ゝ`)「これからについての詳しい話は起きてからするとして」 (´<_` )「まずはちょっとしたアトラクションにご招待」 二人がそれぞれ、少年の腕を片方取る。 ぐっと力を入れられれば、少年は兄弟の間で宙ぶらりんになる。 (;・∀ ・)「何だ?!」 (´<_` )「兄者、あまり突っ走ってくれるなよ」 ( ´_ゝ`)「うむ。善処しよう」 ( *^ω^)「よういはいいおー」 (;'A`)「オー」 ブーンは体を水平にし、ドクオは弟者をしっかりと掴む。 どうやら、何が起こるのか、わかっていないのは少年だけのようだ。
- 222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:22:47.72 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「スタート!」(´<_` ) 左右からほとんど区別のつかない、別の声が少年の耳をつんざく。 耳を抑えようにも、腕は兄弟がしっかりと掴んでいる。 刹那のめまい。 その後に感じたのは疾風。 (・∀ ・)「う、わぁ……!」 思わず声が上がる。 夜は外の風景を見せない。 その代わり、冷たく心地の良い風を少年に与えた。 ( *´_ゝ`)「肩車じゃ、この風は感じられないぜー!」 (´<_`i||) はしゃぐ兄者とは対照的に、弟者の顔は青い。 走る。と、いう単純な動作だけならばともかく、障害物を避ける、兄者と息をあわせる。等、 技術が必要とされているため、圧倒的に身体能力が劣る弟者はどうしても辛い。 (;'A`)「シヌナ、オトジャ……」 その声が届いていたのかどうかもわからない。
- 224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:25:13.02 ID:EHpwtljV0
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兄弟は息を合わせて町を駆け抜けた。 障害物があったのならば、少年を放り投げ、また捕まえる。 (;・∀ ・)「お、おわった、のかー?」 ( ´_ゝ`)「おうよ。流石ジェットコースターはこれにて終了だ」 ( <_ i||) ヒューヒュー (;^ω^)「おとじゃがしんでるお……」 町を抜け、ドラゴンのもとにたどりついたとき、弟者は虫の息となっていた。 兄者と息を合わせておかなければ、少年は地面に激突するか、 左右からの力に悲鳴を上げることになってしまう。 それゆえに、少々無茶な筋力の使い方をした。 (;´_ゝ`)「弟者……すまんかった」 走っているときは楽しさのあまり、弟者を気にかけていなかった。 何を言っても、自分と合わせてくれるだろうという信頼の証でもあるのだが、 その結果がこれだと思うと罪悪感もわくというものだ。
- 226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:27:12.99 ID:EHpwtljV0
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(´<_`i||)「いや、だいじょう、ぶ……だ」 何とか息を整え、弟者は顔を上げる。 本来、耳族が持つ身体能力を持っていれば、ここまでの負荷はかからないはずだ。 弟者は自分の体に文句をつけたくてしかたがない。 ('A`)「ムリスンナ」 (´<_` )「大丈夫だって」 ( ´_ゝ`)「本当にすまんかった。 お前相手だとどうも加減がきかなくてな」 (´<_` )「いやいや。オレとしかこんなことしてないだろ」 ( ´_ゝ`)「一度快感を知ったらやめられない☆的な」 (´<_`;)「キモイ言い方すんな」 ドン引きしている弟者に、兄者は心外そうな顔を向ける。 しかし、それも一瞬のことで、すぐに笑顔になった。 ( ´_ゝ`)「ま、お前と息合わせてるときが楽しいんだよ」 (´<_` )「……そーかい」 ( ´_ゝ`)そ「あれっ! 弟者さん、やっぱり怒ってらっしゃいます?!」
- 227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:30:09.37 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「べっつにー?」 素っ気なく返事をして、ドラゴンの背に乗る。 (´<_` )「ほら、少年、手を出せ」 (・∀ ・)「おう」 小さな手が伸ばされる。 人間と同じ形、同じ暖かさを持った手だった。 ( ´_ゝ`)「そんじゃ、出発進行!」 兄者は先頭に、少年は真ん中、弟者は後ろに座る。 ドラゴンが羽根を広げ、力一杯に羽ばたく。 (・∀ ・)「うわっ」 (´<_` )「落ちるなよ」 飛び際の振動に少年が体を揺らす。 弟者は片手を少年の腰に回し、彼が落ちないように固定した。
- 229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:32:08.25 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「さっさと慣れてくれよ。 ドラゴンは、オレ達の戦利品であり、仲間なんだから」 (・∀ ・)「なかま?」 (´<_` )「オレらのモノってことだ」 (・∀ ・)「おれは、あんた達のモノで、なかま、なのか?」 (´<_` )「勿論だとも」 ( ´_ゝ`)「そうだ。オレは大切なことを忘れていたぞ!」 兄者が両手を離して振り返る。 (;'A`)「オチルゾ」 ( ´_ゝ`)「落ちないですー。 それよりも、だ!」 (´<_` )「兄者、あんたが落ちなくても、少年が真似したら困る。 前を向いて話してはくれないだろうか」 ( ´_ゝ`)「人とお話するときは目をしっかり見る!」
- 232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:34:06.10 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「ドラゴン、宙返りでもしてみるかー」 (;´_ゝ`)「うわ! 馬鹿!」 (;^ω^)「どらごん、やめるお!」 弟者の言葉を忠実に守ろうとしたドラゴンに、兄者は慌てる。 脅しだろうとは思うが、弟者という男は時々驚くような行動に出る節がある。 (´<_` )「じゃあ、しっかりと掴む」 (;´_ゝ`)「我が弟ながら恐ろしい……」 (;・∀ ・)「何がおこるところだったんだ?!」 宙返りを理解できなかったらしい少年は、それでも起こりかけた事態の危険性は察していたようだ。 不安気な声にブーンが少年の頭に乗る。 ( ^ω^)「だいじょうぶだお。 おとじゃが、ちゃーんとつかんでいてくれるお」 (・∀ ・)「そうなのか?」 (´<_` )「勿論」
- 234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:36:17.38 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「お二人さんの親睦が深まったところで、オレの話を聞いてもらえるか?」 (´<_` )「勿論だとも兄者」 首だけで後ろを振り返っている兄者に言葉を返す。 ( ´_ゝ`)「オレ達は自己紹介を忘れていた」 言葉は夜の風にかき消されることなく弟者達に届く。 少年以外の全員が目を丸くしていた。 (´<_` )「おお、確かにそうだ。すっかり忘れていた」 ( ^ω^)「うっかりだお」 ('A`)「ソウイエバ、カレノナマエモシラナイナ」 (・∀ ・)「じこしょーかい?」 どうやら、またもや少年には理解できない単語が登場してしまったらしい。 首を傾げる仕草は実に幼い。
- 236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:38:21.66 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「自己紹介というのは、自分のことを説明することだ。 何、難しく考える必要はない。 他に知りたいことがあればこちらから聞くし、お前もそうしてくれてかまわん 一応の説明をしてみたが、イメージができないのか、少年は首を傾げたままだ。 兄者は片手だけドラゴンから離し、少年の頭を撫でる。 乱暴な動作だったので、少年の髪の毛はくしゃくしゃになってしまう。 (;・∀ ・)「やーめーろー」 拒絶の意思を見せる少年から手を離す。 乱雑になった髪を少年は手ぐしで戻そうと躍起になった。 ( ´_ゝ`)「最初はオレ達の方からしてやるよ」 兄者は親指で己を指す。 効果音をつけるならば、ビシッ! と、いうところだろう。 ( ^ω^)「どんどん。ぱふぱふーだおー」 ('A`)「ナンデ、コウカオン……」
- 242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:43:03.09 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「オレは流石兄者。 見ての通り、耳族だ。あ、耳族、わかるか?」 (・∀ ・)「本にかいてたぞー。あたまの上に耳がはえてるんだー。 うごくのがとくいで、あまりながくは生きられないらしいなー」 ( ´_ゝ`)「よしよし。えらいぞー。 概ねその通りだ。オレはその耳族で、盗賊だ。 得意なことは戦うこと。嫌いなことは罠の解除や暗号の解読だ」 ( ^ω^)「てんけいてきな、のうきん。ってやつだお」 (;´_ゝ`)「情報収集もしてるでしょーが!」 (´<_` )「そうち、出所を聞きたいもんだ」 ( ´_ゝ`)「別に怪しいところから仕入れてるわけじゃないぞ?」 (´<_` )「だとしても、だ」
- 245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:45:08.55 ID:EHpwtljV0
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ないがしろにされている。と、まではいかずとも、どこか信頼されていないのではないかという不安はある。 血の繋がった兄弟だからとは言わないが、仲間なのだから包み隠さずにいて欲しい部分はあったりする。 (・∀ ・)「のうきん?」 無邪気に首を傾げる少年はに、ドクオが言葉を返す。 ('A`)「アタマガワルイ、タイリョクバッカリノ、ヤツノコトダゾ」 (・∀ ・)「へー。あにじゃはバカなのかー」 (;´_ゝ`)「違いますー! 兄弟で分担してるんですー!」 少年は「バカ」を知っているらしい。 要らぬ情報が増えた。 (´<_` )「はいはい。 んじゃ、ついでだ。次はオレの自己紹介といくか」 少年は顔を上げて弟者の顔を見る。 首が痛そうなほど反っているが、彼自身は気にしていない様子だ。
- 248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:47:39.97 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「オレは流石弟者。 兄者とは双子の兄弟だ。兄者と一緒に盗賊をしてる。 動くことは苦手だが、魔法はそれなりにできる」 (・∀ ・)「ふたご?」 やはりというか、少年には「双子」という単語が理解できなかったらしい。 しかしながら、その単語を説明するのは少々面倒だ。 (´<_`;)「うーん……」 弟者が脳内をフル回転させ、彼の知的欲求を満たそうとする。 どの程度のことを教えればいいのか悩んでいる間に、別の声が疑問に答えた。 ( ´_ゝ`)「オレと弟者は同じ母親から、一緒に生まれてきたんだよ」 (・∀ ・)「へー。いっしょにうまれたのかー」 「生まれる」という事象はわかっているようで、少年なりに双子という存在も理解したようだ。 兄者は少年に納得してもらえたことが嬉しいのか、楽しげに耳が動いている。
- 251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:50:13.95 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「魔法は一通り使えるぞ。 この辺りなら火の魔法が強いな」 補足のように付け足す。 ニュー速地方は火属性の土地だ。それ故、火属性の精霊が多く存在している。 昔、弟者が契約を交わした精霊がどこにいるのかは知らないが、ニュー速地方にいることだけは確かだ。 (・∀ ・)「ふーん。火、かー」 少年が呟く。 風にかき消されてしまった声に、誰も気づくことはない。 ( ^ω^)「じゃあ、つぎ、つぎはぼくだお!」 ( ´_ゝ`)「おー、いけいけー」 (´<_` )「囃したてるようなことじゃないだろ……」 ブーンはドラゴンと並走できるだけの速さを持っている。 綺麗な羽根を使い、少年の周りをくるくると回る。
- 254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:52:21.16 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「ぼくはぶーんだお! ひかりのせいれい、なんだお。 きみとおなじように、あにじゃとおとじゃにぬすまれたんだお」 (・∀ ・)「あんたもぬすまれたのかー」 ('A`)「ツイデニ、オレモソウダ」 (・∀ ・)「おれとおなじがいっぱいだ」 ('A`)「アト、ナマエハ、ドクオ。 ヤミノセイレイ……」 (・∀ ・)「よろしくなー」 ('A`)「オウ」 ( ^ω^)「よろしくだお!」 精霊の血が流れているらしい少年は、何か通じるところがあるのか、 ブーンやドクオには心を開いているようだ。 ( ´_ゝ`)「微笑ましいねぇ」 若干の羨ましさを込める。
- 257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:55:01.98 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「同じ、といえば、ドラゴンも同じだぞ」 (・∀ ・)「そうなのか?」 少年は自分が乗っているドラゴンの背を数度叩く。 呼応するようにドラゴンが喉を鳴らした。 ( ´_ゝ`)「そうそう。一番最初に盗んだ生物だ」 ('A`)「デアッタコロカラ、イルヨナ」 (´<_` )「宋咲にいたんだよな。懐かしい」 ( ´_ゝ`)「オレ達と同じ言葉は使えないが、間違いなく仲間だよ」 自然な動物としてドラゴンは存在していない。 蝙蝠と蜥蜴を合成したキメラなのだ。 ( ^ω^)「あにじゃはめずらしいものがすきなんだお」 ドラゴンも、ブーンやドクオも、少年も。 通常では考えられないような生物だ。 だからこそ、興味がわき、手にしたいと願う。
- 259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:57:36.69 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「さあ少年。オレ達にキミのことを聞かせてはくれないか」 弟者が少年の自己紹介を促す。 いつまでもキミ、とは呼んではいられない。 (・∀ ・)「おれは、またんき、っていうんだぞー」 一つ、確認するように少年、またんきは言った。 呼ばれることが少なかったのかもしれない。 己の名前に自信がないように感じられた。 ( ´_ゝ`)「良い名前じゃないか」 (´<_` )「またんき。か、覚えたぞ」 ( ^ω^)「これでなまえがよべるお」 ('A`)「マタンキ、ヨロシク」 ブーンとドクオはまたんきの頭に乗る。 小さな手を一生懸命動かしているのは、頭を撫でているつもりなのだろう。
- 261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 05:59:17.17 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「せいれいと、にんげんの、ハーフだって、はかせはいってた」 精霊の二人に髪を乱されながらも、またんきは言葉を続けた。 (・∀ ・)「せいちょうするせいれいだ。って、いってた。と、おもう」 (´<_` )「ほう。またんきは大きくなるのか」 (・∀ ・)「まいにち、たいじゅーと、しんちょーをはかったぞ」 (´<_` )「大きくなってたか?」 (・∀ ・)「うん」 本来、精霊というものは成長しない。 生まれたときの大きさは能力の大きさであり、年齢による成長はありえないのだ。 成長できるのだとしたら、ある程度ならば能力を底上げすることができるはずだ。 ( ^ω^)「ちょっぴり、うらやましいお」 ('A`)「ハゲドウ」
- 263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 06:02:22.67 ID:EHpwtljV0
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二人は成長しない。 小さな体のまま、小さな能力のまま、長い一生を終えることになる。 (・∀ ・)「あと、火と水のちからが使えるって、いってた」 ( ´_ゝ`)「二つもか!」 驚愕の声を上げる。 通常、精霊は一つの属性のみを持つ。 (´<_` )「人間とのハーフなのに、不思議なものだな」 これが仮に、火の精霊と水の精霊のハーフだというならば、 またんきが二つの属性を有することも理解できなくはない。 けれど、彼は人間とのハーフだ。 博士と呼ばれている研究者が語ったように、また、彼自身の姿をみればそれは疑いようもない。 (・∀ ・)「ほかは……。うーん」 他に言葉が見つからないらしく、頭を悩ませる。 自己紹介といえば、好きなものや嫌いなものを上げるのが定石なところがある。 しかし、またんきには好きなものがわからない。
- 275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 06:56:01.33 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「おっ。見ろ」 兄者が声をかけた。 全員が正面を向く。 ( ^ω^)「よあけ、だお」 空の端、地面の線から明かりが昇る。 命の塊がそのまま現れたような輝きだ。 (・∀ ・)「すげー。 なんだ、すげー。何かわからないけど、すごいぞー」 またんきは大きな目を、さらに大きくして光を見ていた。 (・∀ ・)「はじめてだ。こんな、つよい、ひかり」 意識していないのだろう。 口から言葉が勝手に零れていっている。 ('A`)「ソトノヒカリハ、ハジメテカ」 思えば、またんきは外の風景というものを思い浮かべることができないようだった。 いつから奴隷としていたのかはわからないが、物心がついたころには地下にいたのだろう。
- 276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 06:58:13.36 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「あれは太陽だ」 (・∀ ・)「たいよう」 ( ´_ゝ`)「綺麗だろ?」 (・∀ ・)「きれい……。 わからないぞ。でも、うん。きれいだ」 わからない言葉のはずなのに、またんきは頷いた。 あるのかどうかもわからないような心に、朝日はじんわりと染み渡る。 美しさを言葉にすることはできない。 ただ、感じることだけをした。 ( ^ω^)「もうすぐ、じめんがみえるお。 おそらだってみえるお。 ここにはあまりないけど、くさきだってみえるお」 (・∀ ・)「草木はしってるぞー。本にかいてたんだぞー」 ゆるりと昇る太陽から目を離さずに答える。 網膜に焼き付けるような凝視の仕方だ。
- 277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:00:37.61 ID:EHpwtljV0
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('A`)「ソウイエバ、オレタチハドコニムカッテルンダ?」 ドクオの疑問に弟者もそういえば、と同意する。 行き先はいつも兄者が決めているので、あまり気にしていなかった。 まさかとは思うが、適当に飛んでいるだけなのではないだろうか。 ( ´_ゝ`)「ちゃんと目的地はあるって」 弟者の不安は視線が物語っていたようだ。 茶化すような口調ではなく、至って真面目に兄者が返す。 彼もそろそろ眠りたいのだろう。馬鹿なことをして睡眠時間を削るつもりはない。 ( ^ω^)「まえのまちで、やどでもとってたのかお?」 彼らは一応、盗賊という身分なので、野宿することも少なくない。 何の気兼ねもなしに宿をとれる地方はニュー速くらいのものなので、 前の町であらかじめ宿を取っていたとしても不思議ではない。 (´<_` )「いや、殆ど一緒にいたから、それはないだろ」 弟者が反論を口にする。 空察を見つけて兄者が走りだすまで、四人は固まって行動していた。 あのわずかな時間で宿を取ったとは考えにくい。 ('A`)「イイノジュクバショガアルトカ?」 例えば、見張りを置いておかなくても眠れるような。
- 279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:02:45.06 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「そんなところだ。 おっ。見えた」 何が見えたというのか。 その答えは背を伸ばせば見えた。 (´<_`;)「兄者……。まさか、とは思うが」 (;^ω^)「えぇー」 (;'A`)「サスガノオレモ、ヒクワ……」 三人が気まずげに顔を歪める。 目に映るものを理解できていないまたんきだけが、変わらぬ表情でいる。 ( ´_ゝ`)「紹介してやるって約束したしな」 ドラゴンの前、兄者の目の先、そこにあったのは飛行船だった。
- 282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:04:24.54 ID:EHpwtljV0
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この国唯一の飛行船。 乗っている者も唯一。 見間違うことなどできるはずがない。 (´<_`;)「オレ達は一応、犯罪者なんだが……」 空察の持つ飛行船。 兄者はそれを今日の寝床に選んだという。 いくら時間の感覚が長い耳族の弟者とはいえ、 夕べ別れを告げたばかりの相手と再会するには早すぎると思える。 ( ^ω^)「やくそくって、あにじゃがいっぽうてきにいってただけだお……」 ( ´_ゝ`)「細かいことはいいの!」 何一つ細かいことなどあるものか。 弟者はその言葉をぐっと飲み込んだ。 ここまできたら、兄者が引くことはない。 申し訳ないが、ここは空察の皆様を犠牲にして、己の睡眠を確保しよう。 真面目な弟者ではあるが、兄者と血がつながっている。 多少の身勝手さならば持ち合わせているのだ。
- 284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:06:11.71 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「でかいなー」 またんきは感嘆の声を出す。 今の今まで、彼の見たもののなかで一番大きかったのはドラゴンだ。 しかし、今その順位は変動した。 ('A`)「コレハ、ヒコウセンダ」 (・∀ ・)「ひこーせん」 言葉を繰りかえす。 一つでも物事を覚えるように。 (´<_` )「空を飛ぶ機械だ」 (・∀ ・)「きかい、はしってるぞ。 はかせもいっぱいもってた」 実験に使う機械なのだろう。 またんきは笑みを浮かべたままだったが、瞳が不安定に揺れる。
- 286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:08:04.08 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「あそこに乗ってる奴らは、オレ達の知りあいだ。 乱暴な奴もいるが、大概は良い奴らだよ」 (´<_` )「乱暴なのは、兄者が余計なことをしてるからだ。 悪さをしなけりゃ、皆良い人だよ」 (・∀ ・)「わるいこと、かー」 またんきは顔を俯けて悩む。 彼の中にある「悪いこと」は、口答えをすることと、泣き叫ぶこと、動かないこと、嫌がること。 悪いことをしないためには、じっと体を小さくして、相手の言うことを黙って聞くことだ。 考えていると、またんきの体は小刻みに震える。 それは恐怖という名の感情だ。 ( ^ω^)「だいじょうぶだお」 ブーンがまたんきの前へ姿を現す。 ('A`)「アバレルトカ、モノヲコワストカ、ソウイウコトダカラ。 ワルイコト、ッテノハサ」 ドクオはまたんきの肩から声をかける。 精霊二人に言われ、少し気分が安らいだのだろう、またんきは体を震わせることを止めた。
- 290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:10:11.04 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「精霊同士の友情に水を差すようで申し訳ないが、そろそろ着陸するぞ」 ドラゴンは一度、飛行船を飛び越える。 上空から徐々に甲板へ向けて下降していく。 (´<_` )「あー。場所、空けてくれてるなぁ」 目立つピンク色のドラゴンに気づかないという方が難しい。 甲板に立っていた何人かの船員は掃除を中断して、ドラゴンが着陸する空間を作ってくれている。 流石兄弟が突然やってくることは、今に始まったことではない。 船員達も彼らのことはよく知っているので、この程度の事態では慌てない。 彼らの好意に甘え、空けてくれた空間にドラゴンを着陸させる。 周囲に集まっている人間や耳族にまたんきは戸惑っていた。 ( ´_ゝ`)「よー。お久――」 (,#゚Д゚)「昨日! つい数時間前! 会ったところだ!」 昨日は見なかった早朝の面々に挨拶しようとしたところ、 船内に繋がっている扉からギコがやってきた。 大股で近づいてくるその様子は、誰がどう見ても怒り心頭だ。
- 292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:12:13.00 ID:EHpwtljV0
- (´<_`;)「すみません……」
ドラゴンから降りた弟者が真っ先に頭を下げる。 己の睡眠のために、空察の皆々様を売ったことに対する謝罪だ。 しかし、事情を知らぬギコからしてみれば、それはいつも通り兄者の身勝手に対する謝罪にしか聞こえない。 (,,゚Д゚)「いや、お前が謝ることじゃない。 この馬鹿が悪い」 (;´_ゝ`)「ギャー! 首が! 首がー!」 太い腕に首をきめられ、兄者が叫ぶ。 断末魔の叫びのようにも聞こえるその声に、またんきは弟者の腰にしがみつく。 (;・∀ ・)「いたいのか? いたいのか?!」 (,,゚Д゚)「ん? その子供は何だ?」 またんきの姿を目にとめたギコは、兄者の首を絞める力を少し緩める。 一度見たら忘れられないであろうオッドアイ。 間違いなく、夕べはいなかった存在だ。
- 297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:18:19.37 ID:EHpwtljV0
- _
( ゚∀゚)「朝っぱらから騒がしくしてくれるねぇ」 (´・ω・`)「はいはい。皆、持ち場に戻ってー」 ギコが出てきた扉から、ショボンとジョルジュがやってくる。 煙草をふかしているジョルジュは寝起きのようだ。 (,,゚Д゚)「コイツの始末はオレがしておく。心配するな」 せっかくの騒動も、上司からの命が下れば見ることはできない。 集まっていた船員達は無念を隠そうともせず、渋々持ち場へ戻っていく。 何人かは、兄者に頑張れ。と、声をかけていたが、何をどう頑張ればギコの拘束から逃れられるのかわからない。 (;´_ゝ`)「始末されるー! 助けてー!」 バタバタと暴れてみるが、ギコの拘束が解けないのは勿論のこと、弟者が救出にくる気配も見えない。 ドクオやブーンも、いつものこととしているので、心配そうな顔をしてくれているのはまたんきだけだ。
- 300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:20:18.95 ID:EHpwtljV0
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(´・ω・`)「おや。この子は?」 (,,゚Д゚)「今から問いただそうとしていたところだ」 またんきを発見したショボンは、彼に目線を合わせるべく膝を折る。 幼さの残る姿ではあるが、体に刻まれている傷や烙印を見ればどのような身分なのかは察せられる。 聞きたいのはそういうことではない。 ( ´_ゝ`)「盗んだ!」 _ ( ゚∀゚)「あぁ……。 ご丁寧に、紹介しにきてくれたわけか」 煙草の煙を吐きながら呟く。 まだ頭は覚醒していないようだが、昨日の会話は忘れていないようだ。 ショボンの隣にしゃがみこむ。 (;・∀ ・) 体格も良く、人相が良いとは言いにくいジョルジュに見据えられ、 またんきは体を弟者の後ろに隠してしまう。 目を合わせるなど、とてもではないができそうにもない。
- 303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:23:15.35 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「おびえてるおー」 ('A`)「イジメ、ヨクナイ」 _ (;゚∀゚)「別にいじめてねぇよ」 小さな精霊に言われ、ジョルジュは立ち上がる。 ショボンも倣って立ち上がった。 視線から逃れることができたので、またんきは再び弟者の後ろから顔を出す。 観察するようにジョルジュとショボンを見つめている。 ( ´_ゝ`)「この子は、今回の戦利品。またんきだ」 軽く頭を殴られたのか、後頭部をさすりながら兄者が皆のもとへやってくる。 ( ´_ゝ`)「またんき、こいつらは見た目は良くないが、中身は良い奴らだから。 そんなに怯えなくてもいいぞ」 (;・∀ ・)「おびえるってなんだよー」 虚勢を張って声を荒げているが、所詮は子供の声だ。 恐ろしくもなんともない。むしろ、弱々しさを増幅させるばかりだ。
- 306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:25:27.20 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「人間……じゃねーな」 見た目は人間だ。 しかし、中身は違う。 ジョルジュはその場にいる誰よりも早くそれを見抜いた。 (´<_` )「流石ですね。ジョルジュさん」 肯定を意味する言葉に、ショボンとギコが目を見開く。 言われてみれば、そこにある気配は精霊とも人間とも違う。 ( ´_ゝ`)「またんきは、精霊と人間のハーフだ」 (;´・ω・`)「なっ……!」 (,;゚Д゚)「馬鹿なっ!」 二人が驚愕の表情を浮かべる。 対してジョルジュは、いつも通りの余裕ぶった表情で煙草を吸うばかりだ。
- 309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:27:32.33 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「お前さんらも物好きだねぇ。 そんなにたくさん抱え込んでどうするんだ?」 視線はまたんきから、ブーン、ドクオ、ドラゴンへと移行していく。 言葉でこそ複数形になっているが、実質的に言えば兄者にのみその言葉は向けられていた。 ( ´_ゝ`)「別に? オレは興味があったから盗んだだけ。 どうするつもりもない」 実験に使うことができるほど、兄者は知識や技術があるわけではない。 弟者はそれらを有しているかもしれないが、他者を実験体にするような者ではない。 それ故に、彼らが盗みだしたモノ達は、誰一人欠けることなく、今日までを過ごしている。 (,,゚Д゚)「……なるほど、ハーフ、か」 その珍しさを理解することは容易い。 同時に、有用な実験体になることを想像することも、また容易い。 ギコは己の想像が間違っていないだろうことを悔やむ。 またんきに刻まれている烙印は、彼が奴隷であり、嬲られてもそれほど問題にはならない立場であったことを示している。 (;・∀ ・)「おこってる……ぞ?」 (´<_` )「違うよ。ギコさは元々、あんな顔なんだ」
- 312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:29:36.56 ID:EHpwtljV0
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(,#゚Д゚)「おい」 ( ´_ゝ`)「自分の人相が良いといつから錯覚していた……?」 (,#゚Д゚)「してねーよチクショウ!」 向けられた拳を避けた兄者は、その動作のまま弟者の隣に立つ。 ( ´_ゝ`)「ギコはお前のことが心配なだけだよ」 またんきに優しい眼差しを向けて言う。 その言葉が真実なのかどうか、またんきに確かめる術はない。 (・∀ ・)「いたいことしないのかー?」 (,,゚Д゚)「しねぇよ」 (´・ω・`)「ガラ悪いよ」 ぶっきらぼうな言葉遣いしかできないギコを嗜める。 自覚があるのか、彼自身も唇を噛みしめていた。
- 315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:31:33.38 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「ちなみに聞きたいんだけど、精霊って生殖器あるの?」 _ ( ゚∀゚)「ある」 明け透けな問いかけ。 見事なほどの即当。 女性がいないむさ苦しい空間でのこととはいえ、 質問も答えも適切だとは言いがたい状況なのではないだろうかと誰もが思った。 風紀を気にする性質のギコなどは、その場に膝を落とす。 言いたいことはあるのだが、尊敬するジョルジュの言葉でもある。 もうどうすばいいのかわからない。 (;^ω^)「ぎこさん、そんなにおちこむようなことじゃないお!」 (;´・ω・`)「ジョルジュさんが自由なのは今に始まったことじゃないでしょ!」 慌てて二人がギコの肩を叩く。 放っておいたら、いつまで経っても立ち直らない可能性がある。
- 318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:34:17.02 ID:EHpwtljV0
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('A`)「アルノカ……」 もう一人、落ち込んでいる者がいたが、こちらは放っておいても大丈夫だろうと判断された。 そこに触れると、ギコがまた落ち込みそうだという理由もある。 _ ( ゚∀゚)「でも、性欲はねーなぁ。 繁殖行為をしなくても勝手に生まれてくるし」 ( ´_ゝ`)「じゃあ、またんきは正真正銘、精霊の種か腹から生まれたんだな」 _ ( ゚∀゚)「だろうな。行為に及ぶ精霊、それも別種族となんて、信じられないが」 (´<_` )「いた場所が場所なんで、正直……」 愛し愛されで生まれたとは思えない。 その言葉を飲み込む。 いくらなんでも、奴隷として売られた子供本人の前で話すようなことではない。 (,,゚Д゚)「……お前ら、子供用の服とか持ってるのか?」 どうにか立ち直ったらしいギコが問う。 視線の先にいるまたんきは、痛々しい半身を晒している。 夜は寒いだろうし、昼間の陽射しには肌を焼かれる。
- 321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:36:41.78 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「あー。ない、です」 ( ´_ゝ`)「起きたら盗みに行こうかと」 (,,゚Д゚)「どこで寝るか知らんが、この子の体は目立つぞ」 流石兄弟は互いの顔を見る。 再びギコの方を向いたとき、兄者は笑っていた。 ( ´_ゝ`)「そうそう。ここに泊めてもらおうと思ってたんだ」 (,,゚Д゚)「は?」 (´<_` )「眠いです」 (´・ω・`)「知らんがな」 ( ^ω^)「またんきはだいじょうぶかお?」 (・∀ ・)「ねむたいぞー」 ( ´_ゝ`)「子供もこう言っていることですし」 (,,゚Д゚)「いや、お前達が盗んだんだろ。 お前達が何とかしろ」
- 323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:39:13.52 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「えー。今から宿屋を探すのは面倒だし、半裸の子供連れで野宿も厳しいでしょー」 (,,゚Д゚)「おい弟者。コイツどうにかしろ」 (´<_` )「無理です。 というか、オレも眠たいのです」 _ ( ゚∀゚)「一日くらいならいいだろ。 まだニュー速地方の空を回る予定だし」 短くなった煙草を消して言う。 元より、ジョルジュは彼らが泊まることをそれほど拒絶していない。 (,,゚Д゚)「ジョルジュさん!」 (´・ω・`)「諦めなよ。 ジョルジュさんは兄者みたいな生きかたしてる奴が好きだし」 ショボンは肩をすくめた。 幼いころ、ジョルジュに拾われたときから、彼がどのような存在を好いているのか知っている。 この飛行船に乗っている者ならば、誰もが理解していることだ。 _ ( ゚∀゚)「ま、オレは一船員だからな。 隊長に任せるぜ」 (,,゚Д゚)「……ずるいです」
- 326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:41:18.13 ID:EHpwtljV0
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現在、ギコが隊長という地位についていたとしても、彼はジョルジュを越えることはない。 精神的にも、周りから見られている評価としても。 そして、ギコ自身が、ジョルジュを越えたいと思っていない。 (,,゚Д゚)「わかった。 その代わり、空いてる部屋に全員ぶち込むからな」 ( ´_ゝ`)「アイアイサー! あ、ドラゴンはそこで寝てていいぞー!」 (´・ω・`)「そんな勝手なことを……」 船内へ通じる扉へ向かうギコの後を追う。 またんきはブーン達に服を引かれ、兄者の後に続く。 (´<_` )「すみませんね」 _ ( ゚∀゚)「本当にそう思ってるなら、兄貴を止めろ」 (´<_` )「引き返せないような所で種明かしをするもので」 己の持ち場があるのか、ショボンは別の場所へ移動していく。 甲板には弟者とジョルジュ、そして眠りにつこうとしているドラゴンだけが取り残されていた。
- 328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:44:21.52 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「ついていかねーと、場所がわからなくなるぞ」 (´<_` )「わかってます。 ただ、答えなければいけないことを忘れていたので」 上空に舞う風を体に受けながら、弟者は言葉を紡いでいく。 顔は甲板の向こう側に広がる空を見ている。 _ ( ゚∀゚)「何なら、あの子供も保護してもいいぜ? 兄者だって、手元にずっと置いておきたいってわけでもないんだろ?」 所有欲があるような男ではない。 興味がある程度薄れれば、後は好きにすればいいというスタンスを取っている。 (´<_` )「しばらくは置いておくつもりですよ」 _ ( ゚∀゚)「へー」 (´<_` )「ぐっちゃぐっちゃに泣かせてやりたいんですって」 _ (;゚∀゚)「おいおい。心配になるようなことを言わないでくれよ」 兄者が虐待めいたことをするとは思っていないが、実の弟から放たれた言葉が不穏すぎる。
- 331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:46:22.77 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「実際、何をするのかは起きてからのお楽しみだそうで」 _ ( ゚∀゚)「兄者はいつも楽しそうだな」 (´<_` )「ええ。 自由で、好き勝手で……。 刹那主義者が多い耳族の中でも、頭一つ抜けてますよ」 _ ( ゚∀゚)「そりゃいい。 オレも亡命してきたかいがあるってもんだよ」 一瞬、甲板に沈黙が降りる。 ジョルジュが口を滑らせたわけではない。 彼の言ったことは、この飛行船に乗っている者ならば誰もが知っていることの中に含まれている。 (´<_` )「本当に、あなたは変わった精霊ですよ」 空からジョルジュに視線を移す。 _ ( ゚∀゚)「自覚はあるぜ。 特にラウンジでは珍しいタイプの精霊だよ」
- 334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:48:11.19 ID:EHpwtljV0
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一つの大陸からなるラウンジ国は、魔法よりも科学技術が発達している。 そのため、あちらの国では精霊がぞんざいに扱われているのだ。 けっして精霊の力が弱いわけではない。 むしろジョルジュのように強い力を持った精霊の方が多い。 _ ( ゚∀゚)「ラウンジもさ。この国みたいに多くの属性を持てればよかったんだ」 遠い目をして言う。 VIP国の土地には五属性が揃っている。 対して、ラウンジ国には二属性しか備わっていなかった。 両国が同じように五属性を備えていれば、間違いなく魔法戦争となっていただろう。 しかし、現実的には機械と魔法の戦争が過去に行われ、未来にも行われる。 (´<_` )「そうすれば、精霊の地位も安定していたでしょうね」 ぞんざいな扱いを受けていた精霊達は人間や耳族に強い不信感を抱いた。 VIP国の精霊も同種族同士が固まって生活し、進んで他種族を受け入れようとはしない。 しかし、ラウンジ国の精霊は、その傾向がVIP国よりもずっと強い。 他種族と口を聞くことすら禁じ、己達のテリトリーから離れることも許さない。 弟者がこの事実を知ったのは、目の前にいるジョルジュ自身の口から聞かされたときだった。
- 337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:50:25.15 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「オレはずっと思ってたもんな。 命の制限が目に見えている種族ってのは、すげーって」 彼の目から見た他種族はいつも輝いていた。 一瞬の命ではあるが、その間に多くを成す。 子供を作ること、名を知らしめること、笑うこと、泣くこと。 _ ( ゚∀゚)「ずっと、ずっと隠れて見てたんだ」 ほぼ無限の命を持つジョルジュには眩しい生き物達だった。 長い時間を持つあまり、精霊には自由が少ないと感じることさえある。 短いからこそ、好きに生きることができる。 誰だって、長く長く続くであろう生活に、暗闇を落としたくないと願う。 願うあまり、無難な選択肢以外を切り捨ててしまう。 (´<_` )「オレは、ジョルジュさんも十分過ぎるくらい自由だと思いますよ」 _ ( ゚∀゚)「今はな。 ……この状態になるとき、あれは最高に自由だったな」 ケラケラと笑う。 今でも思い出す度に笑いが込み上げてくるらしい。
- 340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:52:56.55 ID:EHpwtljV0
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仲間が引き止めるのも聞かず、精霊の集落を抜けた。 差別的に扱われることに嫌気が差し、適当な飛行船をかっぱらった。 よりにもよって、兵器ともなる飛行船を、敵国であるVIPにまで運んできたのだ。 _ ( ゚∀゚)「こっちに来てよかった。本当にそう思うぜ。 耳族も人間も、オレのことをぞんざいに扱わない。 対等に扱うことだって多い。ギコのあれは、オレが精霊だとか関係ないしな」 憧れていた種族達と暮らすことは幸福だ。 国に所属しているとはいえ、それなりの自由はもぎ取っている。 落ちぶれた者を広い、空を旅する至福だ。 _ ( ゚∀゚)「……なあ、お前達の命は短いだろ?」 VIP国へきて、空察を設立させて、ジョルジュは何度も仲間の死を見た。 精霊ならばほとんど訪れることのない、生きる者と死に逝く者の別れ。 輝く命は儚い。彼にとっては儚すぎた。 (´<_` )「あなたに比べればね」 _ ( ゚∀゚)「そうだ。オレに比べればずっと早く死んじまう。 オレは自由な奴が好きだ。自由が好きだ。 だから、その手助けができるってんなら、喜んでする」 真っ直ぐな瞳は、彼の意思を示している。 押し付けるわけではない。 選択も、自由だ。
- 343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:54:39.36 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「お前の答え、聞かせてくれよ」 兄者と離れ、静かに暮らす。 研究でもして、日がな一日、本を読むような生活。 短い命の中で、ゆるやかな時間を緩慢に過ごす。 派手な輝きではないかもしれないが、綺麗な輝きを持った光だ。 (´<_` )「ジョルジュさん」 弟者は困ったように笑う。 静かな風が一陣、二人の間に吹く。 (´<_` )「オレ、このまま兄者と一緒にいますよ」
- 346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:56:29.85 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「……いいのか?」 眉を寄せ、困ったような笑みを浮かべている弟者へ問いかける。 彼の表情からは、兄者といる未来に希望を見ているようには感じられない。 (´<_` )「いいんですよ」 照れくさそうに頬を掻く。 (´<_` )「ちょっと考えました。 堅実に、静かに、危険なんて感じずに生きることも」 _ ( ゚∀゚)「お前はそれが一番したいって思ってたよ」 兄者といるのは、それを現実にするための手段がないから。 また、後押しがないから。それだけの理由だと勝手ながら思っていた。 (´<_` )「オレも、それが一番かな? って思いました。 でも、違ったんです」 扉の方へ一歩踏み出す。 (´<_` )「兄者のしたいことをする。 それが、オレのしたいことでした」
- 349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 07:58:45.15 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「そうか。なら、オレの言ったことは、お節介極まりなかったな」 (´<_` )「いえいえ。ご心配をしていただき、ありがとうございます」 _ ( ゚∀゚)「……別の道を勧めたオレの台詞じゃねーかもしれないが、 よかったよ。お前が兄者といてくれる道を選んでくれて」 弟者の後にジョルジュも続く。 _ ( ゚∀゚)「兄者だけじゃ、心配すぎる」 (´<_` )「一緒にいたい理由の一つですよ……」 猪突猛進ともいえる兄者だ。 どこで罠に引っかかって死ぬとも限らない。 二人は扉を通り、船内へと入っていく。 ギコ達の姿は見えないが、ジョルジュが弟者の前を進み、心当たりへと向かう。 _ ( ゚∀゚)「嫌になったらいつでも言ってこいよ」 (´<_` )「ありがとうございます。 でも、一生ないと思いますよ」 _ ( ゚∀゚)「何だ、いよいよお節介が過ぎるか?」
- 350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:01:23.98 ID:EHpwtljV0
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ジョルジュが二つ目の扉を開け、中に目的の者達がいないことを確かめてまた閉める。 _ ( ゚∀゚)「……ところでよ」 その声はやけに硬い。 真剣、というよりは、緊張を感じさせるものだった。 このようなジョルジュは始めてで、弟者にも緊張が走る。 _ ( ゚∀゚)「あの子供……。またんきっつったか」 (´<_` )「はい。 dat町にあった研究所から盗んできました」 _ ( ゚∀゚)「精霊と人間のハーフってか」 (´<_` )「見た目と気配から、それが真実だと判断しました。 あと、属性もしっかり持っているらしいです」 _ ( ゚∀゚)「ほう……?」 (´<_` )「火と水です」 _ (;゚∀゚)「二つも属性を持ってるのか!」 前例がないことに、ジョルジュも驚愕の声を上げざるを得ない。
- 353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:03:23.54 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「どういうことなんでしょうかね。 火の精霊と水の精霊ならともかく」 _ (;゚∀゚)「いや、ありえない話ではない」 (´<_` )「え?」 _ ( ゚∀゚)「人間や耳族にだって属性はある。 ただ、それを発生させることができないだけだ」 水属性の地方に生まれた人間は、水属性を持つ。 火属性の地方に生まれた人間もまた、その地方にあった属性を身に宿す。 精霊と違うのは、それを扱い、外へ放出できないという点だけだ。 _ ( ゚∀゚)「だから、属性が違う精霊と人間だったなら、ありえなくはない」 (´<_` )「なるほど」 _ ( ゚∀゚)「しかし、そうなると、何の間違いでも冗談でもなく、本当にハーフだということになるな」 精霊のような羽根は持たず、 人間のような髪を持つ。 精霊のような能力を持ち、 人間のような成長を持つ。 二つの種を掛け合わせたとしか考えられない存在だ。
- 356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:05:20.05 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「あの子は奴隷だろ?」 (´<_` )「元、奴隷です」 _ ( ゚∀゚)「すまんすまん。他意はない。許せ。 でだ。元奴隷ってことは、親はどうした」 (´<_` )「兄者の話によると、望まれぬ子だったと」 弟者の言葉に、ジョルジュは渋い顔をする。 顎に手をあて、自分の考えを告げるべく口を開く。 _ ( ゚∀゚)「精霊が他種族と交わることは、まあ控えめに言ってもほとんどありえない事態だ」 (´<_` )「でしょうね。だからこそ珍しい」」 _ ( ゚∀゚)「珍しいのは勿論そうだが……。 おかしくないか?」 扉を開けては閉め、次の扉に手をかける。 せめてこの話が終わるまでは兄者達を見つけたくないと弟者は思い始めていた。
- 358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:07:29.94 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「ありえない事態を超えて、子供ができた。 それが愛ならば何故子供を捨てる。 それが無理矢理の事態だったならば、堕胎させないのは何故だ。 第一、精霊と人間の属性が違うなんてできすぎている」 偶然に出会った二人ならば、その属性は両者とも同じであることの方が自然だ。 精霊は普通、自分の属性を持つ土地から離れない。 あちらこちらに移動することのある人間ではあるが、精霊が住まうような場所へ行くのは、 地元の人間くらいのもののはずだ。 (´<_`;)「それは……」 弟者は言葉に詰まる。 偶然でないのならば、何なのだ。 何者かが、ハーフを、違う属性を掛け合わせることを目的としていたとでもいうのか。 静まり返った通路で弟者は唾を飲む。 _ ( ゚∀゚)「……今のは、オレの推測だ。 だが、気をつけろ。目的も、出所もわからんモノほど恐ろしいモノはない」 (´<_` )「何がくるかもわからない。そういうことですね……」 眉をひそめる。 盗賊として、他の地方では追われた経験もある。 だがその正体はいつでもハッキリしていた。
- 361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:10:11.61 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「もし、何らかの目的を持って生み出されたのがまたんきだったとしたら、狙われるだろうな。 ブーン達やドラゴンのような、人工的に生み出された生物とは違う。 性行為をして、十月十日。生まれるには時間がかかっている。 量産もできなければ、時間もかかる……」 (´<_` )「……肝に銘じておきます」 新たにハーフを作るかもしれない。 だが、新たに生まれるまでの間、またんきを探さないとも限らない。 流石兄弟は研究の首謀者を殺したわけではない。 危険だと言われれば、それを否定できない。 _ ( ゚∀゚)「助けが必要なら言えよ。 限りはあるが手を貸す」 (´<_` )「ありがとうございます」 仕事をしているようには見えない空察だが、国の機関の一つだ。 その中心にいると言っても過言ではないジョルジュが手を貸すと言った。 ギコも、ショボンも、手を貸してくれること間違いなしだ。 対立する職ではあるが、今まで上手くやってきている。 互いに気を許しあうことができる間柄だ。 弟者は彼らを信じている。
- 363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:12:29.44 ID:EHpwtljV0
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(,,゚Д゚)「あっ。どこ行ってたんだよ弟者!」 (´<_` )「ギコさん」 _ ( ゚∀゚)「おお、お前らを探してたんだ」 キョロキョロとしていたギコが駆け寄ってくる。 どうやら、兄者達の中に弟者がいないことに気づいたらしい。 (,,゚Д゚)「こっちだ」 _ ( ゚∀゚)「オレは一仕事してくるわ。 見送りくらいはしてやるからなー」 (´<_` )「そんなお構いなく」 _ ( ゚∀゚)「遠慮するな。どうせ暇だ」 (,#゚Д゚)「暇じゃないでしょ!」 _ ( ゚∀゚)「怖い怖い。 じゃーな!」 手をヒラヒラさせてジョルジュは駆けて行く。 彼が具体的に何をしているのか弟者は知らないが、あれでも初代隊長で、空察の創始者だ。 何かしら重大な仕事があるに違いない。
- 365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:14:47.02 ID:EHpwtljV0
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(,,゚Д゚)「お前がしっかりしてないと困るぞ」 (´<_` )「すみません。睡魔に負けて……」 (,,゚Д゚)「そっちじゃない」 (´<_` )「え?」 てっきり宿屋代わりにしてしまったことを怒られているとばかり思っていた。 目を丸くした弟者に、ギコは言葉を渋る。 (,,゚Д゚)「その、だな……。ほら、そっちじゃなくて」 (´<_` )「はい」 (,,゚Д゚)「……またんきだよ」 (´<_` )「あぁ、なるほど」 ようやく出た単語に、納得する。 外見はともかく、他者に優しい男だ。 それも子供で、元奴隷ともなれば、優しさは倍増するだろう。
- 367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:16:56.03 ID:EHpwtljV0
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(,,゚Д゚)「盗んだのって夜だろ? 半裸でドラゴンに乗せてここまできたのか」 (´<_` )「いや、半分精霊なんであまり寒さを感じてないらしいです」 (,,゚Д゚)「だとしてもだ!」 近くにジョルジュという精霊がいるギコは、精霊があまり寒さ暑さを感じないことは知っている。 けれど、問題はそこではないのだと力説し始める。 (,,゚Д゚)「今はまだよく物を知らないと見た。 だからこそ、正しい知識を入れてやらねばならないだろ。 寒さを感じないとはいえ、凍傷にはなる。暑さを感じずとも日焼けはする」 (´<_`;)「うっ……」 正論だ。 精霊の体は凍傷や日焼けにも強いが、暑さ寒さを感じにくいため、気づけば重傷を負っていることもある。 特にまたんきなどは、己の感情や感じている物事を伝える言葉を持っていない。 周囲が気をつけてやらねばならない。 (,,゚Д゚)「それに……あの体は、あまり晒しておくべきではないだろ」 ギコは渋い面持ちになる。
- 370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:18:59.81 ID:EHpwtljV0
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またんきの体には奴隷の証がいくつもついている。 彼自身や、兄者達か気にせずとも、何も知らぬ者達はまたんきを蔑むだろう。 奴隷だと詰られるか、奴隷上がりのゴミだと言われるか。 どちらにしても良いことなど一つもない。 (´<_` )「……そうですね」 己の考えがいかに甘かったのかを思い知らされる。 舌打ちの一つでもしたい気分だった。 (,,゚Д゚)「そんな顔をするな。お前が悪いわけではない」 ギコは自分よりも若い流石兄弟の甘さが嫌いではない。 年数にしてしまえば、本当に短い間しか生きていないだろう二人は、良くも悪くも純粋といえた。 (,,゚Д゚)「お前達自身が、奴隷を見下していない証拠だよ」 寿命が短く、頭脳明晰だとは言い難い耳族は、他の種族から見下されがちだ。 しかし、だからといって全ての耳族が奴隷と己を重ねはしない。 大抵の者は己より下を見つけ、侮蔑の言葉を吐きかける。 (,,゚Д゚)「多くの者はそうではない。 覚えておけ」 奴隷制度に対して強い反対意思を見せるギコらしい忠告だった。 悲しげに伏せられた目は、自分の力のなさを嘆いているようにも見える。
- 372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:21:39.80 ID:EHpwtljV0
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(,,゚Д゚)「おっと。ここだ。 他の者達はすでにベッドに入っている。お前も好きなのを使え」 (´<_` )「二度も案内させてしまってすみません」 (,,゚Д゚)「そう思うなら、兄者と一緒に行動していてくれ」 (´<_` )「善処します」 今回のように、弟者がそこに留まったために離れた。と、いうようなことは殆どない。 兄者が先に先にと走って行くほうがずっと多いのだ。 それは弟者がどう頑張ったところで、どうにもできない問題だ。 (,,゚Д゚)「起こさんから、勝手に起きろ。 起きたらその辺りの船員を捕まえて、オレの報告させろ」 <(´<_` )ビシッ 「了解いたしました船長!」 (,,゚Д゚)「……お前ら、兄弟だよなぁ」 ギコは少しばかり表情を柔らかくした。 しかし、そこに含まれているのは怒気。 普段は兄者の奔放さに隠れているが、弟者も十分に人を小馬鹿にした態度を取る。 (´<_` )「おやすみなさい!」 怒られる。瞬時に危険を察知した弟者は、素早く扉の中に身を滑りこませた。
- 375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:23:43.36 ID:EHpwtljV0
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しばらく体で扉を抑えていたが、特に恐ろしい衝撃はなかった。 室内に入ってまで怒るつもりはなかったようだ。 (´<_` )「危ない。危ない」 冷汗を拭い、室内を見渡す。 質素な部屋だ。 ベッドが四つとチェストが一つ。 どのベッドが空いているのだろうかと見て回る。 一番扉に近いベッドには兄者が眠っていた。 その隣のベッドにまたんきがいる。 (´<_` )「細かなところに気配りができる人だ」 小さなブーンとドクオを探した弟者は、チェストの上に籠があることに気づいた。 覗きこんでみれば、中には小さなクッションが敷かれ、柔らかなハンカチが掛け布団として置かれている。 二つに挟まれたブーンとドクオは夢見心地だ。 この部屋にきてから、そう時間は経っていないはずなのだが、全員ぐっすり眠っている。 またんきは知らないが、弟者達は起きてからそろそろ二十四時間が経とうとしていた。 眠たくもなるというものだ。 (´<_` )「オレもさっさと寝るか」 どうせ兄者が起きれば、問答無用で叩き起こされるのは目に見えている。 一時の休息は、長ければ長いほどいい。
- 377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:26:19.70 ID:EHpwtljV0
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流石兄弟達が眠っている頃、飛行船では船員達がそれなりに仕事をこなしていた。 仕事とはいっても、多くの者は掃除や見張りをしているくらいで、 操縦や国からの指令を受け取る者の数は限られている。 (´・ω・`)「ギコ、早速あの二人の犯罪歴が追加されたみたいだよ」 (,,゚Д゚)「国もそういう仕事をするのは早いな」 ショボンから差し出された紙を受け取り、文字に目を通す。 それは所謂、指名手配書のようなもので、飛ぶ術を持つ犯罪者に関しては、こうして書面で送られてくるのだ。 (´・ω・`)「仕事する?」 (,,゚Д゚)「……いや、そんな卑怯な真似はしたくない」 真剣に対峙すれば勝算など五分五分だ。 流石兄弟は機動性に優れた兄と、遠距離攻撃や頭脳を使うことに優れた弟がいる。 捕まえるのは簡単なことではない。 (,,゚Д゚)「何より、あの子供が可哀想だ」 ギコは受け取ったばかりの書類を丸め、ゴミ箱に投げ込んだ。
- 380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:28:21.33 ID:EHpwtljV0
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(´・ω・`)「ギコは優しいね」 (,,゚Д゚)「お前だって、捕まえたいとは思っていないだろ」 (´・ω・`)「彼らを見てると、毒気を抜かれちゃうんだよねー」 そう言って苦笑いを浮かべる。 他者を助けているとはいえ、彼らは犯罪者だ。 今回追加された罪名は窃盗だけだったが、過去の犯罪歴として殺人や放火も載せられている。 (´・ω・`)「同じ犯罪者でも、多くの奴らはもっとドロドロしてる。 恨み言を呟き、目を血走らせて、ニタリと笑うんだ」 (,,゚Д゚)「そうだな」 ショボンもギコも、その場所にいたことがある。 その時は、捕まえる側ではなく、捕まえられる側の存在だった。 (´・ω・`)「あんな風にカラカラ笑ってさ、人生を謳歌してます! ってのは、中々見ないよ」 (,,゚Д゚)「だから、ジョルジュさんもあいつらのことを放っておけないんだろうな」 (´・ω・`)「一度は勧誘したこともあったもんね」
- 383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:31:41.78 ID:EHpwtljV0
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思い起こせば懐かしい出来事の一つだ。 空察が始めて流石兄弟と会ったとき、ジョルジュは迷わずに彼らを勧誘した。 (,,゚Д゚)「あいつら、ジョルジュさんの誘いを断りやがって」 (´・ω・`)「いやー。ボクはよかったと思うよ」 (,,゚Д゚)「ん?」 (´・ω・`)「だってさ、兄者が空察の一人だったら、毎日大変そうじゃない?」 (,,゚Д゚)「あー。確かに……」 (´・ω・`)「本当に、弟者はお疲れ様。って、感じ」 二人は廊下を歩きながら雑談を広げていく。 隊長であるギコにはやることが幾つもある。 あまり時間を無駄にはできない。 _ ( ゚∀゚)「ギコ。国から新しい書面が届いたって聞いたんだが」 廊下の向こう側からジョルジュがやって来る。 先ほど別れたばかりなのだが、書面のことを聞いてやって来たらしい。 (,,゚Д゚)「はい。流石兄弟絡みのものでした」
- 385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:34:20.81 ID:EHpwtljV0
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新人の訓練を主に担当しているジョルジュは、彼らを見張らなくていいのならばそれなりに時間がある。 今回も、サボることなどできない用事でも与えて出てきたのだろう。 _ ( ゚∀゚)「何て書いてた?」 (,,゚Д゚)「窃盗が犯罪歴に追加されただけです」 _ ( ゚∀゚)「そうか。ならいい」 (,,゚Д゚)ゝ「はっ!」 _ ( ゚∀゚)「おいおい。今の隊長はお前だぞ? オレに敬礼してどうするんだ」 (,;゚Д゚)「癖で……」 ジョルジュに笑われ、ギコは視線をさまよわせながら頭を掻く。 拾われた時からの癖なのだ。 今さら、ジョルジュに命令することもできないし、ましてやタメ口など聞けるはずがない。
- 388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:36:55.55 ID:EHpwtljV0
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(´・ω・`)「何か気になることでもあったんですか?」 _ ( ゚∀゚)「いや……。ハーフなんて今まで発表されたことのない存在だろ? 国としても研究対象として捕まえようと躍起になるんじゃないかと思ってな」 ジョルジュの視線が下がる。 (´・ω・`)「……国が本格的に動くと、ちょっと困りますね」 重い命令が下されるだろう。 それこそ、従わなければ空察の存続が危うくなるような。 _ ( ゚∀゚)「あぁ……」 弟者には手助けしてやると言った。 しかし、相手が国となればそうはいかない。 彼はれっきとした国家の犬なのだ。 (,,゚Д゚)「大丈夫ですよ。 送られてきた書類には、ハーフのことなど一文字もありませんでしたから」 _ ( ゚∀゚)「なら、オレの思い過ごしだ」 少しだけ不安が解消されたのか、ジョルジュはいつも通りの笑みを浮かべる。
- 390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:39:08.79 ID:EHpwtljV0
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(,,゚Д゚)「それより、新人達はどうしたんですか」 _ ( ゚∀゚)「甲板で筋トレ中」 (´・ω・`)「あそこは誰かしらいますからね」 _ ( ゚∀゚)「そうそう。サボったらすぐにバレる絶好のポイント」 (,#゚Д゚)「他の船員がグルだったらどうするんですか!」 ギコの怒声に、近くを通りがかった船員は肩を揺らす。 その一方で、ジョルジュはどこ吹く風とばかりに笑ったままだ。 _ ( ゚∀゚)「そりゃ、嘘をつくような船員の隊長が悪い」 (,#゚Д゚)「責任の半分は背負いますがね! そういった悪い誘惑が発生するようなことを止めていただきたいのです!」 ここで、自分の責任ではないと言いきらないのが、彼の良い所だろう。 (´・ω・`)「まあ落ち着いて」 (,#゚Д゚)「新人の育成は何よりも大切だろうが! 落ちつけるか!」
- 392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:41:24.79 ID:EHpwtljV0
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( ゚∀゚)「いやいや。国のもとで働いてるオレ達だ。 上からの命令が一番さ。ってなわけで、流石兄弟を逮捕してきまーす」 (,#゚Д゚)「これっぽっちも真実味のない嘘はつかないでください」 去ろうとしたジョルジュの腕を掴む。 これが他の者だったならば、首根っこを引っ掴んで投げ飛ばされていたはずだ。 (,,゚Д゚)「ショボン。ジョルジュさんを甲板までお運びしろ」 (´・ω・`)「了解」 _ (;゚∀゚)「うおっ」 ほとんど同じ体格のジョルジュを、ショボンは易々と担ぎ上げる。 ギコと違い、そこに躊躇はない。 _ ( ゚∀゚)「おっとギコ。お前はどこに行くんだ? そっちは執務室じゃないだろー?」 ジョルジュ達に背を向けたギコへ言葉を投げる。 彼は体ごとジョルジュの方を向く。 (,,゚Д゚)「少々、野暮用が。 ご安心ください。すぐに戻ります」
- 395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:44:42.50 ID:EHpwtljV0
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それだけ言うとさっさと駆けて行ってしまう。 ジョルジュに何かを言う暇さえ与えない。 _ ( ゚∀゚)「職権乱用って言わね?」 (´・ω・`)「どうでしょうね」 ショボンに担がれたまま、ジョルジュは呟いた。 自分はこれから楽しいお仕事の時間だが、どうやらギコは仕事とは違った用事があるらしい。 (´・ω・`)「堅物隊長ですから。 本当にすぐ職務に戻りますよ」 _ ( ゚∀゚)「だろーなぁ」 大きな仕事が舞いこんでくることは殆どないし、危険もあまりない仕事場なのだから、 もう少しくらい気を抜いて職務に挑んでもいいとジョルジュは思う。 彼はその思いを体全体で表現し、見本を見せているつもりなのだが、 現隊長のギコにはまったく伝わっていない。 _ ( ゚∀゚)「ショボン」 (´・ω・`)「はい」
- 397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:46:22.60 ID:EHpwtljV0
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いつもより低い声で呼ばれ、ショボンも真剣な色を返す。 _ ( ゚∀゚)「今の通信受け取りはお前が頭だったな」 (´・ω・`)「そうです」 _ ( ゚∀゚)「これから、ハーフ……いや、流石兄弟に関して国から書類やら何やらが届いたら、 ギコより先にオレへ届けろ」 (´・ω・`)「それは命令ですか」 _ ( ゚∀゚)「……あぁ、初代隊長、空域警察創始者として、命ずる」 (´・ω・`)「了解いたしました」 _ ( ゚∀゚)「ちなみに、このことは他言無用だ」 (´・ω・`)「承知しております」 ギコには背負いきれない。 ジョルジュが零した言葉は、聞こえないフリをした。
- 399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:48:25.82 ID:EHpwtljV0
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太陽が真上に昇り、徐々に下り始めたとき、兄者は目を覚ました。 ( ´_ゝ`)「うーん。よく寝た!」 ベッドの上で体を伸ばす。 周囲を見るが、まだ誰も起きていない。 ( ´_ゝ`)「寝ぼ助さん共め!」 兄者は体に反動をつけてベッドから飛び降りる。 着地の際に音がしないのは流石だ。 ( ´_ゝ`)「起きろー!」 静かだったのは着地の時だけ。 すぐさま兄者は大声を出した。 (;・∀ ・)「何だ?! 何がおこったんだ!」 ('A`)「アー、ヨクネタ」 ( ^ω^)「あにじゃやかましいお」 起きだす面々を他所に、弟者は未だに目蓋を閉じたままだ。 生まれてからずっと連れ添ってきているため、兄者の大声に慣れてしまっている。
- 401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:50:28.06 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「おーとーじゃー」 (´<_` )「んー」 体を揺すられてようやく起きる。 全員が体を起こしたのを確認すると、寝起きとは思えないほど良い笑顔で兄者は言う。 ( ´_ゝ`)「おはよう」 もう昼を過ぎているのだが、挨拶は挨拶だ。 ( ^ω^)「おはようだお」 ('A`)「オハヨウ」 (´<_` )「おはよう」 (・∀ ・)「おは、よう……」 挨拶だということはわかったらしいが、またんきは「おはよう」をわからなかったようだ。 ぎこちない声ではあったが、他の者達を真似て挨拶をする。
- 402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 08:53:18.70 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「よし。朝の挨拶も済ませたところで、飯でもたかりに行くか」 (´<_`;)「待て兄者。流石にそれは駄目だろ」 ( ´_ゝ`)「そうか?」 眠気もとれてすっきりした弟者は、兄者を止めるという役割を取り戻す。 首を傾げる兄者に言葉を重ねていく。 (´<_` )「警察である空察が、こうしてオレ達に寝床を貸してくれた。 それだけで感謝するべきだ。 ほとんどを空の上で過ごすこの飛行船には、限られた食料しかないはずだしな。 余所者、それも犯罪者であるオレ達が食べるのはよくないだろ」 食料など、地上に降りれば山のようにあるのだ。 あるところから盗めるというのに、ないところから盗るのは気が進まない。 ( ´_ゝ`)「なるほど。それもそうだな。 なら、とっととお暇するとしようか」 ( ^ω^)「なんというみがって」 (・∀ ・)「おなかへったぞー?」 ('A`)「モウチョットマッテナ」
- 404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:00:24.40 ID:EHpwtljV0
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兄者を先頭に五人は部屋から出る。 運悪く通りがかってしまった船員に、出て行くことをギコへ伝えるように言付ける。 待つつもりはないが、見送りに来るなら来るで構わない。 ( ´_ゝ`)「ドラゴン、いじめられなかったか?」 甲板に出た兄者は真っ先にドラゴンへ駆け寄る。 放置していただけのように思えるが、彼なりにドラゴンを大切にしているのだ。 ドラゴンは兄者の問いかけに答えるように声を上げた。 怒りの色は見えないので、良くしてもらったのだろう。 (・∀ ・)「どらごんすげー。ここが、ぎゅっ! ってなるぞ」 またんきが胸に手を当てる。 ( ^ω^)「すごいはくりょく、ってことかお」 (・∀ ・)「はくりょく? そうだなー。はくりょくだ!」 新しい言葉を何度も連呼する。 どうやら気に入ったようだ。
- 407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:03:21.58 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「下に行ったらどうする」 ( ´_ゝ`)「まずは食い物だな。 食いながらこれからの予定を発表する」 (´<_` )「またんきの服も忘れるなよ」 ( ´_ゝ`)「おっと。そうだった」 奴隷の証を気にしない性質だからか、 単純に興味のないことに意識がいかないのか、 兄者はまたんきに服を与えるということをすっかり忘れていた。 ギコから直々に忠告された弟者は肩を落とす。 周囲が烙印をどのように見ているのか意識がいかなかった自分が言えることではないが、 常に肌を露出させて周りをウロウロしているのだから忘れないで欲しい。 ( ´_ゝ`)「またんき、行くぞ」 (・∀ ・)「おう」 兄者はドラゴンの首に手を置き、背に乗ろうとした。
- 410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:05:32.75 ID:EHpwtljV0
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(,,゚Д゚)「ちょっと待て」 飛び乗るつもりで足に力を入れていた兄者は、突然の声に力を緩めることになる。 振り返れば、お馴染みの三人が顔をそろえていた。 ( ´_ゝ`)「何だ。見送りにきてくれたのか?」 _ ( ゚∀゚)「それも兼ねてる」 (´<_` )「と、言いますと」 堂々と居座った上に、礼も述べずに去ろうとしたことへの説教だろうか。 ジョルジュはともかく、ギコならばありえそうな話だ。 (´・ω・`)「はい」 ショボンが何かを投げる。 風が吹いている中とはいえ、彼の投げた物は正確に兄者の手の内へ届いた。 ( ´_ゝ`)「これは?」 小さな包みだ。 軽いわけではないが、重いわけでもない。 (´・ω・`)「おにぎり」 (´<_` )「くれるんですか?」
- 413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:07:20.33 ID:EHpwtljV0
- 着陸することの少ないすくない飛行船の者達にとって、食料は貴重だ。
わずかな米とはいえ、こうして分け与えてくれるとは思ってなかった。 (,,゚Д゚)「お前達にではない」 (´・ω・`)「育ち盛り……か、わからないけど、お子様に」 二人の視線はまたんきを見ていた。 骨が浮き出るほどではないが、彼の体は細い。 日にも当たらず、地下に閉じ込められていたのだから当然のことだ。 ( ´_ゝ`)「そうか」 兄者はまたんきの傍に屈み、受け取った包みを手渡す。 ( ´_ゝ`)「お前にだ」 (・∀ ・)「おれに?」 受け取ったまたんきは、兄者の顔を見る。 次いで、ギコとショボンを見る。 何度かそれを繰りかえした。 ( ´_ゝ`)「お礼はな、『ありがとう』だ」
- 416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:09:27.91 ID:EHpwtljV0
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またんきは兄者をじっと見つめてから、ギコ達の方を向く。 (・∀ ・)「ありがとう!」 包みを持ち上げて言う。 浮かんでいるのはいつも通りすぎる笑みだ。 ただ、赤と青の瞳がわずかに暖かさを帯びていた。 (,,゚Д゚)「どういたしまして」 出会ったときから作られた笑みを絶やさないまたんきを、ギコは心配していた。 流石兄弟と一緒にいれば、自然と表情は変わるだろうと思っていたが、 冷たく凍ってしまっているような瞳を見て痛まぬ心はない。 その瞳がわずかでも暖かさを帯びたのだ。 嬉しくないはずがない。 _ ( ゚∀゚)「ギコ、まだ渡すもんあるんだろ」 (,,゚Д゚)「あ、はい!」 喜びに浸っていたギコの横っ腹をジョルジュが突く。 我に返ったギコは掴んでいた物を弟者に渡す。
- 418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:12:35.87 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「靴と服、ですか?」 渡されたのは、お世辞にも綺麗とはいえない布だった。 広げてみると、それは服の形をしている。 一緒に渡されたのは子供用の靴だ。 (,,゚Д゚)「もう捨てるかどうか迷っていた物だ。 一先ず、それを着せてやれ」 ずっと着ているには向かないであろうし、兄者や弟者の着ている物と比べても見劣りする代物だ。 上等な服を盗んで着せてやれ。と、までは言えないが、 すぐにでも新しい服を手に入れてやれ。と、暗に伝える。 ( ´_ゝ`)「良かったな。これも、お前のだ」 (・∀ ・)「ありがとう!」 服を受け取ったまたんきは、もう一度ギコへお礼を述べる。 そして、さっそく袖を通す。 (・∀ ・)「ぶかぶかだぞー」 _ ( ゚∀゚)「ちとでかかったか」 (´<_` )「ピッタリの物を用意してやるから。 今はそれを着ておけ」
- 421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:14:39.35 ID:EHpwtljV0
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袖の長さに対して、腕の長さが足りていないことが面白いのか、 またんきは何度も余っている袖を揺らす。 靴も少々大きく、歩く度に踵が露出している。 (´<_` )「色々ありがとうございます」 改めて弟者が頭を下げる。 兄者はまたんきと一緒になって遊んでいた。 (´・ω・`)「いいんだよ。ギコが好きでやってるんだし」 _ ( ゚∀゚)「好意はありがたく受け取っとけ。 ここだけの話、あのおにぎりはギコの分の飯で――」 (,;゚Д゚)「うわー! ここだけの話になってないですよ! っていうか、何で知ってるんですか!」 (´<_` )「ギコさん……」 何と良い人なのだろうか。 弟者は改めて思う。 ギコ自身はわかっていないようだが、弟者にはジョルジュが彼を隊長に選んだ理由がよくわかる。
- 423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:17:16.70 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「おーい。そろそろ行くぞー」 (´<_` )「すまん。今行く」 いつの間にか、兄者はまたんきを連れてドラゴンの背に乗っていた。 弟者は慌ててドラゴンに飛び乗る。 (,,゚Д゚)「いいか、その飯はまたんきに食べさせるんだぞ!」 (´・ω・`)「お母さんみたいだ……」 _ ( ゚∀゚)「またなー」 甲板から見送ってくれている三人と、偶然甲板で仕事をしていた船員達に手を振りながら、 五人とドラゴンは地上に降下して行く。 (´<_` )「オレが抑えておいてやるからおにぎり喰っとけ」 (・∀ ・)「わかったぞ」 貰った包みを解き、中にあるおにぎりと対面する。 海苔も何もない質素なおにぎりが二つ。白い米粒が美しく見える。 ( ^ω^)「おいしいかお?」 一つ目を口いっぱいにほうばったまたんきは咀嚼をしながら頷く。
- 425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:20:21.73 ID:EHpwtljV0
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('A`)「メシガウマイノハ、イイコトダ」 ドクオはまたんきの頭の上で何度も頷く。 彼がそこにいる理由は、またんきの頭の上が最も風に吹かれないからだったりする。 (・∀ ・)「……だれかがいるところで食べるのは、はじめてだぞー」 二口目は小さく口に含む。 口角は上がったままだが、明らかに元気がない。 (´<_` )「今はオレ達がいる」 ( ´_ゝ`)「明日もいるぞ」 (・∀ ・)「なかま、だからか?」 (´<_` )「よく覚えてたな」 片手でまたんきを撫でる。 上にいたドクオが慌てて少し飛んだ。
- 428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:22:27.04 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「なかまは、ずっといっしょなのか?」 ( ^ω^)「ずっといっしょだお」 三口目、四口目を食べながら尋ねると、ブーンが即答してくれた。 他者を疑わぬ瞳はまたんきの心に直接届く。 (・∀ ・)「おれ、ハーフだけど」 ( ´_ゝ`)「何を今さら。 むしろ、ハーフだからいいんじゃないか」 またんきがただの奴隷であったのならば、兄者は盗み出そうとはしなかった。 昨日見た耳族の女と同じ。可哀想な部類にいる者でしかない。 (・∀ ・)「うったりしないか?」 一つ目のおにぎりを食べ終わったまたんきが上を見る。 弟者とバッチリ目があった。
- 430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:25:29.04 ID:EHpwtljV0
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親に売られたまたんきだ。 直接、その事実を知らなかったとしても、研究に携わっていた者が言葉にした可能性は高い。 誰でも、いらないと言われることは辛いものだ。 傷つけることしかできない言葉を、幼い子供に何度も言った者がいるのだろう。 だから、またんきの目は薄暗い。 (´<_` )「売らないよ」 金や物ならばそこいらにばら撒いたことが何度もある。 必要のないものはあっさりと捨てられる。 けれど、またんきは物ではない。 ( ´_ゝ`)「ずーっと一緒だ。 それこそ、嫌だつってもな!」 ( ^ω^)「あにじゃも、おとじゃも、またんきをうったり、すてたりしないお」 ('A`)「ソレハ、オレタチカ、゙イチバンヨクシッテル」 ブーンとドクオは二つ目のおにぎりにまたんきの手を誘導する。 彼らに従い、またんきは二つ目のおにぎりに口をつけた。
- 432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:28:24.12 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「ぼくとどくおは、ふつうのせいれいじゃないんだお」 (・∀ ・)「ちがうのか?」 体は小さいが、見た目は普通の精霊だ。 羽根もある。魔法も使える。 またんきは不思議そうな顔をしながら二人を観察する。 彼は物事をよく知らないが、ブーンとドクオが特別おかしいとは感じない。 ('A`)「オレトブーンハ、ツクラレタンダ」 (・∀ ・)「つくられた」 ドクオの顔は苦しげに歪んでいる。 思い出したくもない記憶なのだ。 ('A`)「スコシ、マエノコトダ」 ( ^ω^)「ぼくらは、またんきとおなじように、じっけんたいにされてたんだお」
- 433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:31:38.77 ID:EHpwtljV0
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以前、奴隷となった多くの精霊を解剖し、分析していた外道がいた。 奴隷をどう扱おうが主人の勝手。 研究者はニュー速の片隅で研究を続けていた。 彼の目的は一つ。 五属性である火、水、風、雷、土。それらとは違う、存在は確認されているものの、 その属性を持つ精霊はほとんど見つかっていないとされていた存在。 光と闇の精霊を創りだすことだった。 多くの精霊の血が流れ、命が消えた。 その絶望しか生まれぬ空間の中に、二つの生命が誕生したのだ。 (;・∀ ・)「もしかして」 ('A`)「ソウ。ソレガ、オレタチ」 光の精霊ブーンと、 闇の精霊ドクオ。
- 436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:33:43.53 ID:EHpwtljV0
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生み出されたのは小さな精霊だった。 とてもじゃないが、役にたつとは思えないほどの大きさ。 研究者は生み出した存在をさらに解析し、より強い精霊を生み出そうとした。 強く、見知らぬ属性を持つ精霊は兵器になるに違いない。 この成果を持って、国に貢献すれば、誰もが彼を認めざるを得ないはずだ。 研究者は己の妄想に酔い耽っていた。 痛みに呻くブーンやドクオの声など、彼の耳には入らない。 生まれたばかりだったとはいえ、人工的に生み出されたとはいえ、ブーンもドクオも精霊だ。 痛みも苦しみも、理不尽も理解していた。 いっそのこと殺せとさえ思った。 だから、ある日、研究者が笑ったときは、喜びを感じたのだ。 「データはまとまった。これでいつでも創りだせる。 さあ、解剖してみようか」
- 440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:36:59.06 ID:EHpwtljV0
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これで楽になれる。そう思っていた。 ( ^ω^)「あにじゃと、おとじゃがきてくれるまでは」 突如、乱入してきた兄者と弟者は楽しげに笑っていた。 血生臭い部屋も、おどろおどろしい研究成果が張り出されている周囲も気にしていなかった。 彼らの目的は、もちろん世にも珍しい人工精霊。 創りかたを教えてやると言われてもどうでもいい。 欲しいのは今、目の前にある精霊だったのだから。 ('A`)「アニジャハ、アノヒトヲ、コロシタ」 喚き散らす研究者に嫌気が差した兄者は、無感情に殺した。 血の一つも浴びず、綺麗な殺し方だった。 彼は、邪魔者がいなくなった途端、顔を緩めて、 とても殺人を犯した直後とは思えないほど優しい笑みを二人に向けていた。 その日から、ブーンとドクオは流石兄弟のモノになった。
- 442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:38:29.74 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「ただ、オレ達は善人じゃない」 二人の会話に付け足しをする。 (´<_` )「本当の善人は、新たな犠牲者が出ないようにするもんだ」 ( ´_ゝ`)「あのデータはそのままだからなぁ」 話には聞かないが、どこかで新たな生命が生まれているかもしれない。 その生命が幸せな生活を過ごしているとは、到底思えない。 ( ^ω^)「そりゃ、あのでーたも、すべてけしてくれたほうが、よかったお」 ('A`)「デモ、ソレトコレトハベツダ」 ( ^ω^)「ぼくとどくおはたすかったお。 それをかんしゃしないことは、いけないことだお。 だから、そうしてくれたあにじゃとおとじゃは、いいひとなんだお」 ('A`)「ソレナリノジカンヲ、イッショニスゴシタ。 デモ、オレタチハ、マダイッショニイル」 二人の存在こそが、兄者も弟者もまたんきを捨てないことを示している。 研究対象となるような存在でも関係ない。
- 444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:40:28.75 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「そうだ。ずっと一緒だ」 (・∀ ・)「ずっとか」 ( ´_ゝ`)「オレと弟者が死ぬまで一緒だ」 前を向いたままの兄者の表情はわからなかったが、 冗談を言っているような口調ではなかった。 (・∀ ・)「かたほうだけ死んだら?」 ( ´_ゝ`)「それはない」 あんまりといえばあんまりな質問に、兄者はキッパリと答える。 どこからその自信はわいてくるのだろうか。 (´<_`;)「おいおい。ないことはないだろ」 ( ´_ゝ`)「馬鹿だな。オレとお前は双子だろ? 同じ母親の腹で育ち、同じ日に生まれ、同じように生きてきた。 死ぬときも同じに決まってるだろ」 (・∀ ・)「それまで、ずっといっしょなのか」 ( ´_ゝ`)「そうさ。オレは弟者から離れない。 弟者もそうだろ?」
- 446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:42:31.80 ID:EHpwtljV0
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兄者が振り返る。 ひとかけらも弟者を疑っていない笑みだ。 (´<_` )「――あぁ。ずっと一緒だ」 弟者は嬉しかった。 自分は、兄の思いを裏切ることはなかったのだ。 誇らしくすらあった。 ( ´_ゝ`)「な? だから、またんきも一緒だ」 ( ^ω^)「ごはんはこれから、みんなでたべるんだお」 ('A`)「ヒトリジャナイゾ」 (・∀ ・)「……うん」 二つ目のおにぎりは、とうに食べ終わっていた。 胃袋にはまだ余裕がある。 ( ´_ゝ`)「さあ、もうすぐ町だ。 ドラゴンにも肉を盗ってきてやるからな」 ドラゴンが高く吼えた。
- 449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:45:17.83 ID:EHpwtljV0
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町についた一行はまず食事をすることにした。 ( ´_ゝ`)「またんきを迎えた記念も兼ねて、パーッとやるか」 盗んでもよかったのだが、調理済みのものは盗みにくい。 その上、店で食べる。と、いう独特の空気を味わえない。 後で服を盗むことを考えても、まずは普通に対価を支払って食事をするべきだ。 (´<_` )「金はあるのか?」 金を持ち歩かない兄者だ。持っているはずがない。 兄者は笑いながら手を横に振る。 勿論、弟者も金など持っていない。 ( ´_ゝ`)「オレ達は何だ?」 (´<_` )「盗賊だ」 ( ´_ゝ`)「なら、答えは決まってるだろ?」 (;^ω^)「まあ、そうなるおね」
- 452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:47:19.78 ID:EHpwtljV0
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('A`)「ブーンハ、ヤッパリ、イヤナノカ?」 またんきを盗んだ時と違い、ブーンは浮かない顔をしている。 (;^ω^)「あまり……」 (´<_` )「こればっかりは慣れてもらわんとなぁ」 ブーンはその属性のためか、正義感が強い。 実験体とされているようなモノを盗みだすことには喜んで乗り出すが、 単に金銭や物品を盗むことには乗り気になれない。 それでも彼が流石兄弟と共にいるのは、助け出された恩と、彼らの気の良い性格、 そして、主に悪徳な金持ちから物を盗み、 余った物は乞食や生きることが難しい者に振りまいているからという理由が上げられる。。 ( ´_ゝ`)「さーて、獲物はどいつにしようかなー」 盗みの前にブーンが暗い顔をするのはいつものことだ。 兄者は気にも止めずに獲物を探す。 ニュー速の町に、そうそう金持ちは歩いていない。 ならば、それなりに持っていそうな者から盗むしかない。
- 454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:49:40.09 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「何するんだ?」 ('A`)「シーッ」 ブーンと違い、ドクオは平然としている。 罪悪感はあるのだが、それ以上の悲しみや不安がいつも彼の胸にはあるので、普段とあまり変わらない。 (´<_` )「兄者、今回はどうする」 ( ´_ゝ`)「オレ一人でささっと盗ってくるさ」 目ぼしい獲物を見つけたらしい兄者は不敵な笑みを浮かべる。 手の指を数回伸ばし、スリルを楽しむ目に変わった。 (´<_` )「いってら」 またんきやブーン達と弟者は待機する。 兄者は一度軽く手を振ってから、まばらな人の中に紛れ込む。
- 457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:51:20.17 ID:EHpwtljV0
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足取り軽く歩いている兄者は、周囲の人間と溶け込んでいる。 目立つこともなく、そこいらの石のような存在となっていた。 兄者は自然な足取りで獲物に近づく。 獲物は若い男だ。 服装から見て、ニュー速地方民としては金を持っている部類だろうと思われる。 鞄は持っていない。 財布はおそらく、ポケットの中。 気づかれずに抜き取るのは難しい。 ( ´_ゝ`) 血が流れる。 胸が鳴る。 何度やっても、このスリルと昂揚感は抜けない。 顔には出さず、胸の内だけで楽しむ。 地面を歩くとき、兄者は足音を立てない。 存在感を消す癖のようなものだ。 静かな兄者と、足音をたてながら歩く獲物がすれ違う。 兄者の胸の内は最高潮に達した。
- 461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:53:19.18 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「どうだった?」 戻ってきた兄者に問いかける。 答えはわかりきっていたが、形式美というやつだ。 ( ´_ゝ`)「オレに失敗の文字はない」 兄者は口角を上げて、手に持っている財布を見せた。 財布と一緒にネックレスもある。 (´<_` )「ネックレスまでよく盗れたな」 ( ´_ゝ`)「軽くて細いやつだったからな」 重みを感じないネックレスは、上手く盗ればしばらくは気づかれない。 得意気な顔をしている兄者は確かに上手い。 ( ´ω`)「さいふだけでよかったんじゃないかお……」 ('A`)「アキラメロ」 盗れると思ったら盗る。 それがスリルを楽しむ秘訣らしい。
- 463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:55:28.98 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「それをどうするんだ?」 (´<_` )「この中に入ってる金で飯を喰うんだ」 (・∀ ・)「ごはんか!」 ( ^ω^)「ごはんはおいしいお」 ('A`)「クイジノハッタヤツ……」 喜ぶまたんきと一緒になってブーンも辺りを飛び回る。 楽しげな様子は胸を暖かくするが、経緯を知ればあまり暖かくはなれないものでもある。 ( ´_ゝ`)「じゃあパーッといくか!」 (・∀ ・)「パーッと!」 先陣をきる兄者にまたんきが続く。 この町のことはよく知らないが、美味そうな店というのは前を通るだけでわかるものだ。
- 465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:57:37.06 ID:EHpwtljV0
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( *^ω^)「いいにおいがするお!」 ( *´_ゝ`)「おお! ここにしようか!」 美味い飯を出す店を探していると、乾いた風に混じって空腹を増長させるような匂いが漂ってくる。 ブーンと兄者は大げさなほどに喜び、ここで食べようと主張した。 (・∀ ・)「いいにおいだー」 (´<_` )「ならそこにしよう」 見たところそれほど高級な店には見えない。 先ほどの男から盗った金で十分足りるだろう。 最悪、食い逃げをしても問題はない。 ('A`)「ナニガアルカナー」 香りに惹かれて扉を開ける。 扉につけられていたらしい鐘が軽やかな音をたてた。
- 467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 09:59:24.08 ID:EHpwtljV0
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店内にはいくつかの丸テーブルとカウンター席が用意されていた。 匂いが示すように美味い料理を出すのか、ほとんどの席が埋まっている。 兄者達は五人いるとはいえ、二人は小さな精霊だ。 三人分の席があればいい。 そのくらいの席はどうにか用意してもらえた。 (´<_` )「何がいい?」 メニューをまたんきに渡す。 (・∀ ・)「読めない字があるぞー」 本を読んでいたといっていたのだが、全ての文字を読めるわけではないらしい。 古びたメニューを指先でなぞっているが、読めている気配はまったくない。 ニュー速にある飲食店のメニューに写真などついているはずもなく、 結果としてまたんきはどの文字がどのような料理なのか見当もつかなかった。 ( ´_ゝ`)「じゃあ、これでいいだろ」 (´<_` )「だな。それがいい」 兄者が指差し、弟者が頷く。
- 469 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:02:21.45 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「んー?」 二人の間だけで何かが決定したらしい。 またんきには決定した事項までわからなかった。 首を傾げて足をぶらつかせる。 ( ´_ゝ`)「じゃあオレはチーズハンバーグとサソリフライのセット」 (´<_` )「から揚げセットとタマゴサラダ」 ( ^ω^)「ぼくとどくおは「みにぴざはむのせ」がいいお」 体の小さな精霊二人はあまり食べることができない。 店で食事をする際は二人で一つのものを食べている。 決まったところで店員を呼ぶ。 弟者は決まった料理を口にしていく。 (´<_` )「――それと、お子様ランチ」 最後の注文は、またんきのためのものだった。
- 472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:04:33.62 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「おこさまランチ……」 その料理自体に覚えはない。 しかし、「お子様」という名称は、彼の心を波立たせる。 ('A`)「フフクカ」 (・∀ ・)「何だかなー」 笑みを浮かべてはいるが、どこか不服そうなことは雰囲気でわかる。 またんきは、正真正銘の子供ではあるが、自尊心がつき始めている年頃だと思われる。 お子様扱いは気に喰わないようだ。 ( ´_ゝ`)「お前はわかってないな」 兄者が人差し指を振る。 (´<_` )「そう言ってやるな。 またんきはずっと地下にいたんだ。知らなくてもしかたがない」 芝居じみた口調で弟者が返す。 大げさな動作で片手を額につける。 (・∀ ・)「何だよー」 ( ´_ゝ`)「きてからのお楽しみだ」 兄者は口角を上げた。
- 474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:06:53.64 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「さて、料理が揃うまでの間に聞いておこうか」 ( ´_ゝ`)「何をだ」 (´<_` )「兄者が立てている今後の計画をだよ」 二人は丸テーブルで丁度向かいになる位置に座っている。 兄者が真剣な顔をしていると、容姿の差は殆どなくなる。 ( ´_ゝ`)「そうだな。時間を有効的に使おうか」 細い目は楽しげにギラついているが、全体としては真剣な面持ちを崩していない。 盗みをするときと同じ表情だ。 ('A`)「ナカスッテ、イッテタヨナ」 ( ´_ゝ`)「そうだ。そこで考えた」 兄者はまたんきを目に映す。 普通の少年に見える彼を泣かすのには苦労するだろう。 何せ、辛いことも苦しいことも悲しいことも理解できていない。 まずは、生き物として当然持つべきである感情を持たせ、自覚させなければいけない。
- 475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:09:40.43 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「この国をぐるっと回ろう」
指が宙で円を描く。 ( ^ω^)「くにって……びっぷかお?」 ( ´_ゝ`)「流石にラウンジへ行こうとは思わないさ」 一度は行ってみたい気もするが、現時点ではVIP国でも十二分に楽しんで生きている。 わざわざ敵国に行く必要性は感じられない。 ( ´_ゝ`)「ニュー速からしたらば海を越えて灯南へ行く。 んで、また海を越えて的芽に行って、宋咲、シベリアに渡る」 VIP国は三つの島からなる国だ。 本島には南からニュー速、的芽、宋咲といった地方が存在する。 奴隷を多く生み出している貧困の島、灯南は本島としたらば海を挟んだ場所に浮かんでいる。 北にあるシベリアは、島の大きさこそ灯南よりも大きいが、 厳しい寒さに年中襲われているため、住み心地はあまり良くない。灯南よりはマシ。と、いう程度だ。 (´<_` )「……まあ、悪くないな」 世界を知らぬまたんきに、この国や情勢、一般的な知識を教えるにはそれが一番だろう。 流石兄弟は盗みついでに国を一周したこともあるので、遠出することに抵抗はない。
- 477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:11:45.30 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「この国を、まわるのか?」 ('A`)「ソウダ」 ( ´_ゝ`)「世界は広いぞ!」 (´<_` )「面白いものもいっぱいだ」 ( ^ω^)「おいしいものもだお」 世界を知る四人はまたんきにその素晴らしさを伝える。 その地方独特の行事や、昔訪れたときに起こった出来事。 話は尽きることがない。 (´<_` )「シベリアといったら、あの雪の量だな」 ( ^ω^)「あたたかいひとばっかりだったお」 ( ´_ゝ`)「あの地方の奴が作る雪像は大したもんだよ」 (・∀ ・)「せつぞー? ゆき?」 ('A`)「ユキッテノハ――」
- 480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:13:47.60 ID:EHpwtljV0
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一つ話せば、またんきが質問を投げる。 それに答えれば、また次の話が始まる。 丸テーブルを囲んで、五人はその口を止めることなく話し続けた。 (´<_` )「おっと。お喋りの時間はお終いだ」 弟者がそう言ったのは、店員が料理を運んできたからだ。 食事をしながら話すことは勿論可能だが、やはりメインの時間は食事に切り替わる。 ( ´_ゝ`)「うーん。いい香りだ」 ハンバーグとサソリのフライを前に、兄者は唇を舐める。 そうせざるを得ないほど、運ばれてきた食事は芳しい。 (・∀ ・)「これが、おこさまランチか?」 全員の前に料理が並び、またんきはまた一つ疑問を投げかけた。 ( ^ω^)「そうだお」 ブーンが頷く。 またんきの前に置かれている料理は、 一つのお皿に旗のついたケチャップライスと小さなサソリフライ、ハンバーグにシュウマイが乗せられ、 端っこにはゼリーが置かれている。 どこからどう見てもお子様ランチだ。
- 482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:16:25.71 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「……おれのだけ、ぜんぜんちがう」 他の者の皿と、またんきの皿は明らかに違う。 彼らのものがシンプルなものであるのに対し、またんきのものはカラフルに彩られている。 特別といった感じもするが、「お子様」の名称からは、侮辱に近いものを感じた。 ( ´_ゝ`)「なーにを言っているんだ!」 兄者はまたんきの肩を抱く。 そしてお子様ランチの旗を指差す。 ( ´_ゝ`)「見ろ。この旗を。 悠然としているこれは、この国の国旗だ」 (´<_` )「味のついた米は白い米とは全く違う美味さを持つ」 ( ´_ゝ`)「ハンバーグにサソリフライにシュウマイ! 誰もが食べたくなるものを、小さいならがも揃えている技量」 (´<_` )「食後のデザートまで完備されている」 ( ´_ゝ`)「これは、外で始めて食事をするお前に相応しい料理だ」 (´<_` )「ニュー速において、これほど祝いの席に似合う料理はない」
- 487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:23:19.31 ID:EHpwtljV0
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口先三寸というより、彼らは本気でそう思っているらしい。 自分達の分を頼まなかったのは、すでに成獣であるプライドからだろう。 またんきの皿を見つめる目は熱い。 (;・∀ ・)「そうだったのかー!」 大人の本気に、またんきは素直に驚きを見せた。 言われてみれば、美味しそうなおかずが絶妙なバランスで配置されている。 「お子様」という単語に気を取られなければ、間違いなく美味そうだと感じることができる料理だ。 ( ´_ゝ`)「よし。わかったな?」 ( ^ω^)「じゃあ、たべるお!」 四人は手を合わせる。 慌ててまたんきも手を合わせた。 「いただきます」 (・∀ ・)「……ます」 四人の声が揃い、少し遅れてまたんきの声が聞こえた。 食事など一人ですることが当たり前だった彼に、食事前の挨拶は新鮮だ。
- 489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:26:10.87 ID:EHpwtljV0
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予想に違わず、料理はどれも美味しいものばかりだった。 新鮮な素材を使っているとはいいがたいが、それでも十二分の美味さを引き出している。 噛めば肉汁が滴り、衣がサクっと音をたてる。 お子様ランチにつけられていたゼリーも自家製のものらしく、 果物の爽やかな風味がまたんきの口を潤した。 彼は先におにぎりを二つも食べていたのだが、お子様ランチは少しも残らず腹に収まってしまった。 (・∀ ・)「うまかったぞー」 ( ´_ゝ`)「あぁ美味かった」 (´<_` )「オレ達としたことが、こんな美味い店を知らなかったとは」 店を出た後も絶賛の言葉が尽きない。 的芽や宋咲とくらべると、どうしても質は落ちるが、ニュー速にある店では間違いなく一番だろう。 ( ^ω^)「またくるお!」 ( ´_ゝ`)「そうだな。覚えておこう」 ('A`)「アニジャハ、ドウセワスレルキガスル……」 (´<_` )「いやいや。美味いものは忘れられんよ」
- 490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:29:20.82 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「美味い飯は忘れない。
だが、今は次の仕事に目を向けようじゃないか」 ドラゴンのためにとテイクアウトしたハンバーグが入った袋を弟者へ投げ渡す。 落とせば中身が台無しになってしまうのだが、その心配は必要ない。 しっかりと受け取った弟者は袋を持ち直す。 ('A`)「フクカ」 ( ´_ゝ`)「その通り!」 (・∀ ・)「おれはべつにこれでもいいけどなー」 始めて他人から貰った物だからか、またんきはギコから貰った服を気に入っているようだった。 ボロの服ではあるが、またんきの肌を外気や目線からしっかりと守ってくれている。 しかし、流石兄弟の着ている物と質が違い過ぎるのは目立つ原因になりかねない。 気温に対することを考えても、新しい服は必要だ。 (´<_` )「どんな服がいいかねぇ」 店を眺めてみるが、そもそも服屋というものが少ない。 この地方では、服を生活の必需品とは認めていないのだ。 ( ^ω^)「かっこいいふくがいいお!」 ('A`)「ウゴキヤスイフクダロ……」
- 492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:32:25.69 ID:EHpwtljV0
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怪しまれない程度に視線をさまよわせて店を探す。 (´<_` )「おっ。いい感じの服屋があったぞ」 弟者が指差す方には小さいながらも立派な服屋があった。 ガラス越しに見える店内は、お洒落ではなかったが、品数が多い。 これならば四人のお眼鏡に適う服もあるに違いない。 ('A`)「ハイルカ」 ( ^ω^)「はいるお!」 (・∀ ・)「お、おう!」 精霊達が先陣を切るが、小さな彼らでは扉を開けることができない。 後から続いていたまたんきが代わりに開ける。 ミセ*゚ー゚)リ「いらっしゃいませー」 扉を開けると、店員の女の子が元気に挨拶をしてくれる。 (´<_` )「この子に服を買ってあげたいんだけど、オススメある?」 ミセ*゚ー゚)リ「少々お待ちください!」
- 494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:35:19.26 ID:EHpwtljV0
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店員はまたんきの前に屈み、彼と目を合わせる。 ミセ*^ー^)リ「キミはどんな服が好き?」 (・∀ ・)「どんな?」 ミセ*^ー^)リ「動きやすい服、格好良い服、涼しい服、薄い服。 色々あるよ。あ、好きな色とかあるかな?」 (・∀ ・)「…………」 彼女は純粋な善意とサービス精神で尋ねてくれた。 けれど、またんきはそのどれにも答えることができない。 動きやすい服も、格好良い服も、またんきは知らない。 まして、好きな色など、彼の中には存在していない。 ( ´_ゝ`)「お姉さんに見繕って欲しいって」 ミセ*゚ー゚)リ「あら。そう? じゃあ、二、三着持ってきますね」
- 496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:38:50.35 ID:EHpwtljV0
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パタパタと駆けて行った店員の後ろ姿を弟者が眺める。 (´<_` )「やるか?」 ( ´_ゝ`)「いや、彼女の選んだ服も見てみたい」 ( ^ω^)「てんいんさんなら、きっといいふくをみつけてくれるお」 ('A`)「カワイイテンインサンダシナ」 (;^ω^)「そこはかんけいないきがするお……」 あの店員がいないうちに盗んでしまおうと弟者は考えていたのだが、兄者は彼女が持ってくる服に興味が出ているらしい。 今仕事をしてしまった方が手っ取り早くはあるが、この店ならば強硬手段を取ったとしても問題ないだろう。 見たところ、店員は彼女と他に男が二人。こちらに気を配ってはいるようだが、大した手練ではない。 こっそり盗もうが、強引に盗もうが結果は変わらない。 兄者に倣って弟者も店員を待つことにした。 彼らの隣でまたんきはあちらこちらに目を向けている。 色とりどり、形様々な服が気になっているようだ。 時折、そっと触れては離し、また触れる。 自由にしていろと助言しようかとも他の四人は思ったが、こういうことは自らの行動と結果で覚えていくべきだろう。
- 498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:42:00.98 ID:EHpwtljV0
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ミセ*゚ー゚)リ「お待たせいたしました!」 戻ってきた彼女の手には二着の服がある。 どちらも上下セットのようだ。 ミセ*゚ー゚)リ「こちらは動きやすさを重視した服になります。 この年頃の男の子は活発ですので、お選びしました」 一着は体の線にピッタリ合うような服だ。 弟者が生地に触れさせてもらうと、伸縮性と肌触りの良さを感じることができた。 確かに、よく動く年頃としては適当な服だろう。 ミセ*゚ー゚)リ「そして、こちらはお二方の服に合わせたものです」 示された服は、確かに兄者と弟者が着ているものと似ている。 余裕のある採寸で作られており、先ほどの服ほど機動性に富んでいるとはいいがたい。 ( ´_ゝ`)「どっちがいい?」 (・∀ ・)「うーん」 またんきは示されている二つの服を見比べる。
- 500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:45:34.89 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「こっちがいい」 彼が指差したのは、店員が後で出した方の服だ。 つまり、兄者や弟者とよく似た服だ。 ミセ*^ー^)リ「ふふ。了解しました。 どうです? お兄さん方、彼は決めたみたいですよ」 またんきが店員から受け取った服は、オレンジが基調となっている。 落ち着いた色合いの服を着ている流石兄弟とは対象的だが、またんきの子供らしさが映える色でもある。 (´<_` )「うん。似合うだろうな」 ( ^ω^)「さすがぷろはちがうお」 四人はまたんきを囲んでわいわいと騒ぐ。 見ていて微笑ましさを感じるものであるし、客が多いというわけでもないので、店員は彼らの様子を黙って見ていた。 わざわざ、お会計の話をする必要はない。 楽しそうな人を見るのが彼女は好きだった。 ( ´_ゝ`)「さて、それじゃあ、お仕事と行きますか」 だから、彼女は何故、兄者がククリを己に向けているのかが理解できなかった。
- 501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:48:33.94 ID:EHpwtljV0
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ミセ;゚ー゚)リ「へ……」 思わず顔が引きつる。 彼女もこの地方の生まれなので、こういった事態に直面したことがなかったわけではない。 しかし、盗みを働いたり、人を傷つけたりするような者というのは、それらしい前兆を持っている。 他の地方の者にはわからないかもしれないが、 いつも危険と隣あわせなニュー速に生まれた者は誰もがその見分け方を知っていた。 だというのに、彼女は驚いた。 驚きのあまり、体が思うように動かない。 (´<_` )「炎の精霊、渋沢と契約せし我が命ず。 この地に宿る炎よ、息を吐け。 近づく者を燃やしてしまえ」 弟者が呪文を唱えると、五人の周りを一筋の炎がぐるりと線を描き消えた。 店に現れた賊を捕らえようとした男達を威嚇しての魔法だ。 (;^ω^)「うーん」 ('A`)「ソウムズカシイカオスルナヨ」 罪もない店員さんが被害に合うところを見るのは気が重い。 ブーンの眉間にはしわが寄っていた。
- 504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:52:15.34 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「お嬢さん。オレ達はこの服が欲しいんだ」 変わらぬ表情で言ってのける兄者が、いっそ不気味だ。 ククリを向けられている店員はゆっくりと頷く。 ( ´_ゝ`)「オレは流石兄者。 盗賊流石兄弟の長男だ。 欲しい物は何をしてでも手に入れる。 その意味がわかるな?」 ククリを軽く動かせば、店員は泣きそうな顔をしながらも頷く。 流石兄弟の名は彼女も聞いたことがあった。 盗むことが目的のような存在だと。 だからこそ、無邪気で、犯罪者の匂いを感じさせない。 彼らは人を殺すことだって厭わないというのに。 (´<_` )「走って逃げると、またんきが大変だからな。 こういった手段に出させてもらった」 ( ´_ゝ`)「要求はただ一つ。 この服一着をくれればいい」 他には何も要求しない。 服さえいただければ、店内にいる三人の命などどうでもいい。
- 510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 10:58:26.49 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「でも、抵抗するなら……」 (´<_` )「皆殺し、全焼。どちらでも好きなのをどうぞ」 結果は何一つ変わらない二択だ。 ここで彼らを逃せば、店員は店長に怒られることになるだろう。 しかし、それが何だというのだ。 ミセ;゚ー゚)リ「はい……。 通報しません。追いかけません」 怒られたところで、命は取られない。 選ぶべき選択肢はたった一つだけだ。 ( ´_ゝ`)「よろしい」 (´<_` )「余計な手間をかけさせられなくてよかったよ」 二人はよくに似た笑みを浮かべた。 未だにククリを向けられている店員としては、笑みなどどうでもよいから、さっさと消えて欲しい気持ちでいっぱいだ。
- 512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:01:22.00 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「似合うかー?」 ( *´_ゝ`)「似合うぞ!」 (´<_` )「動きにくくないか?」 (・∀ ・)「おう」 盗った服にまたんきは袖を通す。 ひらひらと生地が風に舞う。 ついでにと、盗ってきた靴は彼にピッタリだったようだ。 ( ^ω^)「まぁ、またんきがよろこんでるなら……」 (;'A`)「ソレデイイノカ……?」 先ほどまで店員の表情に同情していた精霊の台詞とは到底思えない。 ドクオは肩を落としてブーンを見る。 (´<_` )「じゃあ、ドラゴンのところに戻るか」 ( ´_ゝ`)「あいつも腹を空かせてるだろうしな」 ( ^ω^)「まずはひなんにいくのかお?」 ( ´_ゝ`)「そうだ。海を越えなきゃならんから、今日は港の方に向けて飛んで、途中で休憩だな」
- 514 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:04:32.60 ID:EHpwtljV0
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空を移動するとはいえ、移動時間はそれなりにかかる。 現在、兄者達がいる場所から灯南につくまで二日ほどはかかるだろう。 (´<_` )「灯南で過ごすなら用意もいるしな」 ( ^ω^)「そうだおね。 ひなんじゃ、あまりごはんたべられないお……」 (・∀ ・)「そんなばしょなのか」 ('A`)「フコウノバショ」 貧困層のみで構成されているような地方だ。 ろくな食べ物はなく、ニュー速のような熱気もない。 誰も彼もが絶望に堕ち、どうすることもできずに日々を暮らしている。 その日を生きることもできないような貧困は、人から攻撃性を失わせる。 ( ´_ゝ`)「怯える必要はないぞ。 オレ達がいるからな」 (・∀ ・)「べつにおびえてはないぞー!」 ( ´_ゝ`)「ならばよし」
- 515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:07:17.33 ID:EHpwtljV0
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ドラゴンの食事も終え、一向は早速、灯南のある方向へ向かうことにした。 (・∀ ・)「そういえばさー」 ( ^ω^)「お?」 兄者と弟者に挟まれているまたんきが足をぶらつかせながら呟く。 新しい靴は足に丁度はまっているので、抜け落ちる心配はない。 (・∀ ・)「きのう、すな? っていってただろ」 ('A`)「クラクテミエナカッタナ」 (・∀ ・)「うん。で、下にあるのは、ぜーんぶ、すな、なのか?」 下に見えているのは砂漠だ。 時たま緑も見えるが、おおよそ砂の茶色と黄色しか見えない。 (´<_` )「そうだ。あれは全部砂だ」 (・∀ ・)「すなっていっぱいあるんだなぁ」 ( ´_ゝ`)「おいおい。海はもっとすごいぞ?」 (・∀ ・)「そうなのかー!」
- 518 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:09:16.90 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「ついでだ。外にあるものについて教えてやろう。弟者が」 (´<_`;)「オレかよ!」 ( ´_ゝ`)「いや……役割的にお前だろ?」 ('A`)「アニジャニ、セツメイナンテ、ムリダロ……」 (´<_`;)「まぁそうか……」 ( ´_ゝ`)「あ、何か傷ついた」 (;^ω^)「こいつめんどうくさいお」 元々、騒がしい集団だったのだが、またんきが加わって騒がしさはさらに増した。 己の背中の上で作られる楽しそうな声に、ドラゴンも目を細めて喉を鳴らす。 (´<_` )「草木はわかるって言ってたな」 (・∀ ・)「あの、みどりのやつだろー」 (´<_` )「そうそう」
- 520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:12:43.21 ID:EHpwtljV0
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砂のこと、草木と枯れ木のこと、空のこと、風のこと。 弟者は聞かれたことは極力答えた。上手く説明できないものは、全員で言葉を投げあった。 空っぽだったまたんきは、弟者の答えをすぐに吸収する。 その様を見るのは楽しいものがあった。 (・∀ ・)「風がきもちいいぞー」 (´<_` )「そうだろ。ドラゴンの背中は飛行船なんかよりも快適だ」 またんきは目につくものについて質問しきった。 好奇心が満たされたのか、満足げに知ったばかりの言葉を使う。 (・∀ ・)「そういえば、おとじゃはまほうが使えるんだよなー」 (´<_` )「一通りの精霊とは契約してるぞ」 先ほど使ったのは、火属性の魔法だ。 火属性の土地であるニュー速で使う魔法に、これ以上適切なものはない。 ( ´_ゝ`)「契約するまで大変だったよな」 当時のことを思い出して呟く。 基本的に他種族を嫌う傾向にある精霊だ。 契約したところで、精霊へのメリットは少ない。デメリットも少ないのだが、そこは問題ではない。
- 521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:15:45.31 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「ずーっと黙ったままの奴とか、攻撃してくる奴とかいたからな」 (・∀ ・)「まほうでこうげきしてくるのか」 (´<_` )「いや、肉弾戦」 精霊使いを介さない魔法は弱い。 そのため、精霊達は力に自信がある者の方が多かったりする。 物理攻撃ならば倒せる。と、安心してはいけない。彼ら精霊は、合間合間に、弱いながらも魔法を仕込む。 普通の人間や耳族ではできない戦い方に翻弄される者は多い。 ( ^ω^)「ぼくもつよくなりたいお」 (;´_ゝ`)「ジョルジュみたいにムキムキになったブーンなんて嫌だぞ!」 ('A`)「キモチワルイ……」 小さなブーンに筋肉が隆々とついているところを想像したのか、 ドクオのただでさえ悪い顔色が、さらに悪くなる。 (・∀ ・)「おれもつよくなりたいぞー。 まほう使ってみたいぞー」 (´<_` )「またんきは精霊でもあるからな。 練習すれば使えるんじゃないか?」
- 524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:18:54.77 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「おとじゃみたいに、ガーッとできるか?」 (´<_` )「そうだなぁ……」 またんきはブーン達よりは大きい。 当然、能力は彼らよりも高い。使える魔法の威力も多少は勝っているはずだ。 しかしながら、精霊は単体では強い魔法を使えない。 そもそも、半分は人間であるまたんきがどれほどの魔法を使えるかなど未知数にもほどがある。 (´<_` )「……とりあえず、ブーンとドクオに魔法のコツを教えてもらえ。 オレは精霊使いだから、精霊自身がどうやって魔法を使っているのかまではわからん」 ( ^ω^)「おしえてあげるお! ぼくらがせんせいになるお!」 (・∀ ・)「せんせーか」 ('A`)「センセイ、ナ。チジョウニオリタラ、カルクシテミルカ」 ドラゴンの上で魔法の練習をするのは危険だ。 今すぐにでも使い方を学びたいまたんきをどうにか説得する。 (・∀ ・)「ぜったいだからなー」 ( ^ω^)「やくそくだお」
- 525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:21:49.58 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「地上に降りるのは夕方くらいになるぞ」 (・∀ ・)「そうかー」 長い時間を空で過ごさなくてはならない。 それも、飛行船とは違い、ドラゴンの背の上では動き回ることもできない。 退屈な時間が流れるだけだとわかっていながらも、またんきは文句を言わなかった。 ずっと一人で暇を潰し続けてきていた彼にとって、誰かといるという事実はそれだけで退屈から逃れられる。 (´<_` )「魔法に関してのレッスンは夕方からになるとして、明後日には灯南に着くはずだから、 軽く灯南地方について説明しておこうか」 ('A`)「ソレガイイ……。 アソコハ、アルイミ、ニューソクヨリアブナイ」 (・∀ ・)「そんなにあぶないのかー」 ドクオは頷いた。 彼も流石兄弟と出会ってから世界を回ったので、灯南に何度も訪れたわけではない。 一、二回訪れただけでも、危険だと思うほどの土地なのだ。
- 527 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:24:34.12 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「そうだな。違った意味での危険だ」 (・∀ ・)「ふーん?」 (´<_` )「灯南は荒れ果てた土地でな、荒氏という植物以外は育たない。 だから作物なんてないし、動物も少ない。 飢えた土地なんだ」 飢えと絶望に負けた者は自ら己の体を安価で提供する。 そうやって食いつなぐしかなかった。 始めはただの奉公だったのが気づけば奴隷にまで落ちていた。 ( ´_ゝ`)「今じゃ、無理矢理連れてくるのが主流だけどな」 絶望に負ける者よりも、奴隷を必要とする者の方が増えてしまった。 泣き叫ぶ女子供を、家族を思う男を、奴隷へと変えていく。 生まれを嘆けばいいのか、奴隷商人に見つかった運命を嘆けばいいのかわからない。 (´<_` )「そんなわけで、基本的にみんな離れて暮らしてる」 (・∀ ・)「いみがわからないぞー?」 ( ^ω^)「みんないっしょにいたら、いちどにつかまっちゃうお。 はなれてくれしていれば、ぜんいんがどれいになるしんぱいはないんだお」
- 531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:33:23.23 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「なるほどなー」 (´<_` )「だから、はぐれたりするなよ?」 ('A`)「ミツカラナクナルゾ」 (・∀ ・)「だいじょうぶだぞー」 またんきは弟者にもたれて、足をぶらつかせる。 外に出られたからといって、好き勝手に動く気はないらしい。 ( ´_ゝ`)「奴隷商人に見つかっても面倒だぞ」 (´<_` )「灯南にいる奴は全員奴隷予備軍だと思ってるからな」 (・∀ ・)「どれいはいやだぞ」 ( ^ω^)「ならそばにいるお」 昨日の今頃はまだ実験体だったまたんきだ。 再び奴隷として売り出されるのは勘弁願いたい。 (´<_` )「武器はないし、強くなるだけの食料もないから、 暴力的な意味合いではニュー速ほど危なくないがな」 (・∀ ・)「そうかー」 隣の地方だというのに、ニュー速とはまった違う特性を持っているらしいことはわかった。
- 535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:42:50.50 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「よーし。今日は野宿だぞー」 日が落ち始めた頃、ドラゴンは地上に降りた。 周囲には何もない。砂とわずかな植物が生えているだけだ。 (・∀ ・)「のじゅくかー」 野宿については既に知識を得ている。 知識のみを有しているまたんきは、始めて経験する野宿に心が躍る。 ('A`)「メシー」 ( ´_ゝ`)「ちょっと待ってろ」 兄者は旅袋からいくつかのパンと干し肉を取り出す。 その間にブーンはわずかに生えていた植物をほんの少し摘み取る。 ( ^ω^)「おとじゃ、これでいいかお?」 (´<_` )「十分だ」 適当に掘った穴の中にブーンが摘んだ葉を放り込む。
- 536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:45:24.93 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「炎の精霊、渋沢と契約せし我が命ず。 この地に宿る炎よ、温もりを届けよ。 葉に火を灯せ。火よ留まれ」 弟者の詠唱で、葉に火がつく。 しかし、それは普通の炎とはまったく違う。 わずかな葉を燃やしているとは思えぬほど、大きく燃え上がり、焚き火のような明るさと暖かさをもたらす。 (・∀ ・)「すげー!」 またんきが歓声を上げる。 マッチやライターではできない。魔法だからこそできる芸当だ。 (・∀ ・)「やっぱり、おれもまほう使いたい!」 ( ´_ゝ`)「おー。やればいい。戦力が増えるのはありがたい」 (´<_` )「だがその前に飯だ」 懐からナイフを取り出し、肉とパンを切り分ける。 戦いで刃物を使うのは苦手だが、こうした日常生活の中での刃物使いは中々上手い。 手早く五人分のパンと肉が出来上がる。
- 539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:48:41.33 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「これだけかー」 ('A`)「フツウハ、コンナモンダ」 ( ^ω^)「ごうせいなのはおしごとしたときくらいだお」 ( ´_ゝ`)「十分だろ?」 (´<_` )「いや、兄者。これからはもっと栄養バランスとやらを考えた方がいいのかもしれん」 育ち盛りの子供には栄養バランスが大切だと聞いたことがある。 寿命の短い耳族や、体の小さな精霊だけならば、適当な食事でもよかっただろう。 けれど、今はハーフとはいえ子供がいる状況だ。 少しは考えて食事をする必要がある。 ( ´_ゝ`)「なら、明日の港町で仕事をするか」 (´<_` )「それがいいな」 ニュー速地方とはいえ、港町は栄えている。 その理由として、奴隷になる者がいる灯南へは、ニュー速の港を通過しないと行くことができないからだ。 金持ちに奴隷を売る為に灯南へいく奴隷商人は、必ず港を通らなければならない。 だから、港町には金持ちも大勢いる。 盗賊にとって、あれほど仕事をしやすい場所はない。 兄者はパンを齧りながら、仕事へ思いを馳せる。
- 540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:51:38.43 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「食べたらまほうだぞー」 ('A`)「ハイハイ」 子供には干し肉が硬いのか、またんきは食べ終わるのに苦戦していた。 弟者は次に干し肉を渡すことがあれば、もう少し細かく分けてやる必要があるなと分析する。 ( ´_ゝ`)「ならオレは運動でもしようかな」 (´<_` )「兄者はテントを張ってくれ」 ( ´_ゝ`)「へーい」 既に食事を終わらせている兄者は返事一つで駆けだす。 ドラゴンの背中に積んでいた簡易テントを展開していく。 一人でも作り上げることができるそれは、昔に兄者が盗んだものだ。 ドラゴンやブーン達に始まり、ククリやテントまで、流石兄弟が所持しているものは全てが盗品と言っていい。 盗んだ金で物を買うこともあるが、より珍しいモノに兄者が惹かれるため、市販品を所持することはあまりない。 ( ´_ゝ`)「明日も頼むな」 すぐにテントを完成させた兄者はドラゴンの体を優しく撫でる。 一緒に町へ入ることができない彼と一緒にいるのは、空を飛んで移動しているときくらいだ。 しかし、長時間の飛行はドラゴンに負担がかかる。 労われるとき、共にいることができるときは、できるだけ声をかけてやりたいと思う。
- 542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:54:45.84 ID:EHpwtljV0
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口をもごもごと動かしていたまたんきだったが、ようやくその動きが止まる。 ほぼ同時に細い喉が動いた。 (・∀ ・)「ごちそーさまでした」 (´<_` )「はい。お粗末様」 硬い肉とパンを飲み込んだまたんきは早速立ち上がる。 (・∀ ・)「まほうだ!」 ( ^ω^)「わかってるお」 精霊達は弟者が作り出した焚き火から少し離れる。 街灯など存在していないので、光源から距離をとると視界が一気に暗くなる。 またんきは美しい太陽を思い出して空を見た。 (・∀ ・)「……真っ暗だー」 ('A`)「チガウ。ホシガアル」 (・∀ ・)「あの、キラキラしてるやつか」 ( ^ω^)「そうだお。あれがほしだお。となりにあるおおきなのが、つきだお」 (・∀ ・)「へー」
- 543 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 11:57:29.33 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「たいようとはちがう、けど、きれい、だ」 ( ^ω^)「ぼくもほしがすきだお」 ('A`)「デモ、テハトドカナイ」 三人は顔を上に向けて、じっと星と月を見続ける。 月は満月だった。 (´<_` )「おーい。魔法の練習はいいのかー?」 焚き火のある場所から弟者が声をかける。 (・∀ ・)「そうだ! まほうだ!」 魔法を使うために焚き火から離れ、暗くなっている場所に移動したことを思い出した。 ハッとすると、ブーンが喉を鳴らす。 ( ^ω^)「っん。じゃあ、さっそくはじめるお」 (・∀ ・)「おう」
- 545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:00:42.56 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「ぼくはひとりでまほうをつかうとき、おなかのそこからちからをだすお」 ('A`)「オーラテキナモノヲ、ホウシュツスルカンジ」 (・∀ ・)「よくわからんが、やってみるぞー!」 抽象的なイメージのみを伝えられてしまったが、またんきはすぐに実行した。 お腹に力を入れ、それを放出することを想像する。 ( ^ω^)「どうだお?」 (・∀ ・)「食べたものが出そうだぞ」 (;'A`)「ワー! ヤメロー!」 力を入れることに間違いはなかったのだろうけれど、それに伴う結果は大違いだ。 ドクオとブーンは慌ててまたんきを止めにはいる。 (・∀ ・)「じゃあ、どうすればいいんだー?」 ('A`)「マタンキハ、フタツノゾクセイヲモッテルカラ、ヒト、ミズ、ドチラカヲ、イメージシテミロヨ」 (・∀ ・)「おー。わかったぞー」
- 547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:03:33.48 ID:EHpwtljV0
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またんきは弟者が火を操っている姿を見て、魔法を使うことに憧れた。 それまで、魔法を使えと言われることも、魔法に関する単語を聞くことも嫌だったというのに。 (・∀ ・)「むむむー。火よ、出ろー!」 雄たけびも虚しく、一つの明かりさえ出やしない。 静まり返った砂漠で、またんきは膝をつく。 (・∀ ・)「もー!」 (;^ω^)「だいじょうぶだお。すぐつかえるようになるお!」 ('A`)「オレタチハ、ウマレテスグツカエタ――」 (;^ω^)「どくお!」 (・∀ ・)「みてろー。おれだって、使えるようになってやるんだからなー!」 (´<_` )「おーい。そろそろ寝ないかー?」 地団駄を踏んでいるまたんきに、弟者が声をかける。 夜の砂漠は冷え込むので、そろそろ眠るなり、火のあたるところに戻ってくるなりして欲しい。
- 548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:06:42.48 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「まだねむくないぞー」 飛行船で昼頃まで眠っていたのだから、それもしかたあるまい。 (´<_` )「ドラゴンの上で寝てたら落ちるぞ」 (・∀ ・)「おとじゃはつかんでてくれないのかー」 (´<_` )「寝てる奴は知らんなぁ」 (・∀ ・)「むー」 まだ見たいものは山のようにある。 またんきは渋々火のもとへ戻っていく。それにブーンとドクオもついて行く。 ( ´_ゝ`)「またんき」 (・∀ ・)「何だ?」 戻ってきたまたんきは、兄者に手招きをされた。 疑問符を浮かべながらも、彼の方へ近づく。
- 553 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:19:34.03 ID:EHpwtljV0
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(;・へ ・)「な、何だよ!」 ( ´_ゝ`)「うーん。この顔の方が似合うぞ」 兄者はまたんきの口の端を指で抑えて下げる。 いつもの笑みが途端に不機嫌そうな表情へ変わった。 (;・へ ・)「やーめーろー」 またんきが暴れ、兄者は手を離す。 (;・∀ ・)「何がしたいんだよ!」 ( ´_ゝ`)「今さら何を。 オレは言っただろ? お前を泣かせてやりたい。 喜怒哀楽に相応しい表情を付加させてやりたいのさ」 魔法が使えなくて地団駄を踏んだときも、 吐きそうだと言ったときも、またんきは口角を上げて笑っていた。 その様子は事情を知っている兄者から見ても奇妙なもので、彼はそれが非常に気に喰わない。 (・へ ・)「……」 またんきは自分の指で口を下げてみる。 (・∀ ・)「……」 けれど、指を離せば元通りだ。
- 558 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:26:25.91 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「ま、オレは気が長いから、じっくり時間をかけて料理してやるよ」 (;・∀ ・)「食べられるのかー?」 (´<_` )「言葉のあやってヤツだ。気にするな」 弟者は焚き火に砂をかける。 火の明かりが消え、周囲は一気に暗さを得る。 (´<_` )「テントに行くぞ」 (・∀ ・)「まっくらだな」 ('A`)「オレニハ、チョウドイイ」 闇属性であるドクオは、この暗さの中でも十分に動くことができる。 陽射しが出ているときよりも活発に動けるくらいだ。 ( ´_ゝ`)「しかし残念! もう皆で寝る時間だ」 ('A`)「マッタクモッテザンネンダ……」 活発なドクオを見る機会は殆どない。
- 560 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:31:42.39 ID:EHpwtljV0
- 兄者が最初にテントの中へ入る。
次に弟者がまたんきを入れ、最後に弟者が入る。 それほど大きなテントではないので、三人も入れば体が密着する。 ( ´_ゝ`)「こうしてくっついていると暖かいだろ?」 (・∀ ・)「おう」 耳族は体温が高い。 左右を耳族で固められているまたんきは、テントの中で一番温かい場所にいることになる。 ( ^ω^)「ぼくらはまたんきのおふとんにはいるお!」 ('A`)「ツブスナヨ」 小さな体がわずかな隙間にもぐりこむ。 五人は三枚の毛布を被り、目を閉じた。 (-∀ -)「……あったかいぞー」 ( -_ゝ-)「天然毛皮だからな」 (-∀ -)「それもあるけど……」 もっと違ったところが暖かい。 またんきは言葉を発する前に眠りについた。
- 562 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:34:35.33 ID:EHpwtljV0
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翌日の夕方、彼らは港町についていた。 始めて見る港町に、またんきは目を見開いている。 (・∀ ・)「すごいぞー。いっぱい人がいる!」 ( ^ω^)「はぐれちゃだめだお」 (・∀ ・)「わかってるぞー」 ブーン達に声をかけられながらも、またんきは周囲を何度も見る。 見たこともないような店の数に、興味を持たずにいるなど、できるはずがない。 ( ´_ゝ`)「とりあえず、宿を取るか」 (´<_` )「もう盗ったのか。流石だな、兄者」 宿を取ることを提案した兄者の手には、見覚えのない財布があった。 膨らみのあるソレは、一目見ただけで金持ちの物だとわかる。 ( ´_ゝ`)「食料品は明日、ドラゴンのところに行くついでに盗ればいいだろ」 (´<_` )「そうだな。オレも手伝おう」
- 563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:37:40.37 ID:EHpwtljV0
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兄者ほどの技術は持っていないが、弟者も盗賊だ。 人混みに紛れて盗みを働くことは朝飯前といえる。 (・∀ ・)「何か、からだがきもちわるいなー」 ('A`)「ベタベタスルノカ」 (・∀ ・)「べたべた? わからんぞー。でも、へんなにおいもする」 (´<_` )「それは潮の匂いだろ」 (・∀ ・)「しお?」 ( ´_ゝ`)「磯臭いとも言う」 (・∀ ・)「いそ?」 (´<_` )「海の匂いだ」 (・∀ ・)「うみかー」 海はすごいと言われていたが、いまいち頭の中に思い浮かべることができない。 またんきは首を左右に動かしながら考える。
- 565 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:40:46.27 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「アレが海だ」 兄者が指を差す。 その方向には太陽の光を浴びて輝いている海面がある。 (・∀ ・)「へー。 おもったより、すごくないんだぞー」 ずっと広がっている砂漠の方が驚いたし、衝撃的だった。 海はもっとすごい。と、言っていた兄者の言葉とは、イメージが違う。 ( ^ω^)「うえをとんだら、すごさがわかるお」 (・∀ ・)「そうなのか?」 港町から見える海も広い。 しかし、船や建物に邪魔され、偉大な広大さの全てを知ることはできない。 それを知りたいのならば、上空から眺めるのが一番だ。
- 566 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:43:32.58 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「お楽しみは明日。 昨日は野宿だったし、ベッドが恋しいだろ?」 (・∀ ・)「そうでもないぞー」 ( ´_ゝ`)「なら、暖かいスープと柔らかいパンはどうだ?」 ( *^ω^)「こいしいおー!」 ( ´_ゝ`)「素直でよろしい!」 兄者は盗った財布から札だけを抜き取り、用なしになった空を捨てる。 札は己の懐へしまう。 (´<_` )「ここは美味い飯と宿屋がそろってるぞ」 どこに入っても、それなりの飯とベッドが用意されている。 その代わり、他の宿屋などとは比べ物にならないくらいに高い。 弟者は兄者に財布を投げる。 やはりそれも見覚えのない財布だ。 ( ´_ゝ`)「だが、あまり金持ち臭いところは嫌だな」 先ほどと同じように札だけを抜き、残りは捨てる。
- 568 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:46:46.49 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「仕事で行くのはいいが、泊まるとなれば、臭いが染み付く」 (´<_` )「なら、町の外れに行くか」 町の中心部や、港の近くには金持ち用の宿屋が多い。 逆に、町の中心から離れれば、端へ淘汰されてしまった安宿がある。 (・∀ ・)「またおこさまランチを食べるのかー」 (´<_` )「いや、せっかくの港町だ。 魚介類を食べよう」 (・∀ ・)「ぎょかいるい?」 ( ^ω^)「おさかなやかいのことだお」 ('A`)「ウマイゾー」 (・∀ ・)「たのしみだぞー」 ( ´_ゝ`)「じゃあ、競争するか!」 (´<_`;)「ゴールが決まってない競争などあるものか。 第一、兄者が有利すぎるだろ」
- 570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:49:54.77 ID:EHpwtljV0
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五人は町の外へ向かって足を進めていく。 人が減り始めたときだ。背後から音がした。 (・∀ ・)「何だ?」 小さなまたんきが背伸びをして、音のもとを見ようとする。 彼よりも背の高い流石兄弟と、空を飛ぶことができるブーンとドクオは、音が何から発せられているのかを見ることができた。 ( ^ω^)「おりだお」 暖かさのない声で零す。 彼らの視線の先には、幾つにも連なった鉄の檻がある。 中にいる者まで正確には見えないが、生き物が入っていることだけはわかる。 (・∀ ・)「おりかー」 檻の中に何がいるのか知らないまたんきは、興味なさ気に返す。 乱暴に運ばれている鉄の檻は、時々隣の檻とぶつかって酷い音をたてる。 ( ´_ゝ`)「早く宿を取ろう」 (´<_` )「そうだな」 流石兄弟は踵を返した。 哀れだとは思うが、助けようなどとは思わない。 彼らにとって、檻の中にいる奴隷は金持ちや浮浪者と変わらぬ、その他一般人の枠組だ。
- 571 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:52:25.78 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「今日は色々食べさせてやるぞ」 (´<_` )「好き嫌いは駄目だからな」 (・∀ ・)「いたいのはいやだぞー」 ( ´_ゝ`)「食べるのに痛いとか……あるか」 ('A`)「アニジャハ、カライノガキライダカラナ」 好き嫌いはよくわかっていないまたんきだが、ギコから貰った服は旅道具と一緒にしまってある。 概念の理解には遠いようだが、表面上にはしっかりと現れていた。 この調子で好きなものが増えれば、痛いこと以外の嫌いなものも増えるだろう。 誰もがそれを願っている。 生きているのだから、好きなことがあって、嫌いなことがある。 笑いもすれば、泣きもする。 ( ´_ゝ`)「じゃあ、辛いものを口に詰め込めば泣くんじゃね!」 (´<_` )「生理的な涙であって、兄者の求める涙はでないだろうな」 本当に実行した場合は、兄者にも同じことをしてやろうと決心しつつ言う。 辛さを痛みととらえたらしいまたんきは怯えている。
- 575 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 12:59:32.30 ID:EHpwtljV0
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五人は町外れの宿屋を無事にとることができた。 民宿といった風で、家庭的な汚れが目立つが、野宿と比べれば天国だ。 (・∀ ・)「あしたはうみだぞー」 (´<_` )「その言い方だと遊びに行くみたいだな」 ( ´_ゝ`)「あながち間違いでもあるまい」 国を一周するなど、ただの道楽だ。 彼らにとっての仕事は盗みであるが、半分趣味のようなところがある。 つまるところ、何をしていても、遊びに行くのと変わりはない。 ( ^ω^)「たのしいのはいいことだお」 ('A`)「ドウセ、スグシンデシマウンダ……」 暗い顔をしたドクオが床に座り込む。 小さな体で床に座られると、踏んでしまいそうで恐ろしい。 (;^ω^)「どうしてそうなるんだお」 ( ´_ゝ`)「死ぬのは真実だが、あまり連呼されたくないものでもあるぞ」 傷つきはしないが、気にはなる。 長い時間を生きるドクオが、流石兄弟の死を恐れているのは知っているが、 こうも落ち込まれると、おちおち死ぬこともできない。
- 579 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:05:25.48 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「ほら、重い話は止めて、美味い飯でも喰おう」 ( ^ω^)「そうだお。おいしいぎょかいるいだお」 (・∀ ・)「おお、さかなか!」 またんきは弟者を見上げる。 (´<_` )「魚だ。あと、貝とか海草とか」 (・∀ ・)「よくわらかんが、うまいんだろ?」 ( ´_ゝ`)「それは食べてから判断してくれ。 ほら、行くぞドクオ」 ('A`)「オウ……」 四枚の羽根が開き、小さく動く。 兄者達と同じ目線まで飛び上がったドクオは、当たり前のように弟者の肩に座る。 ( ^ω^)「はやくいくおー」 (´<_` )「速さだけなら兄者以上かもな」 ( ´_ゝ`)「ブーンは飛んでるし、障害物があまりないもんなー」 羨ましい。と、呟く。 弟者としては、あれだけの速さで走れる兄者も十二分に羨ましい。
- 582 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:09:43.80 ID:EHpwtljV0
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宿屋で出された食事は満足できるものだった。 特に、港で取れた魚をすぐに捌いたという刺身は、五人の舌を楽しませた。 またんきは前日の夜から硬いパンや干し肉ばかりを食べていたので、噛みやすく美味しい食事に喜びを示す。 まだ違和感の残るぎこちない笑みではあったが、少しずつ本当の笑みに近づいていることを思わせる。 ブーンを始めに、四人はそれぞれまたんきの変化を歓迎していた。 (・∀ ・)「きょうはべつべつにねるのかー」 (´<_` )「せっかく三つベッドがあるからな」 (・∀ ・)「そうかー」 ( ´_ゝ`)「……一緒に寝たいのか?」 (・∀ ・)「そんなことはないぞー」 否定を口にしたまたんきはさっさとベッドにもぐりこむ。 (・∀ ・)「おやすみー」 ( ´_ゝ`)「おやすみ」
- 584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:13:08.49 ID:EHpwtljV0
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暗くなった室内で、またんきは目を閉じる。 ベッドはまだ小さなまたんきが一人で寝るには十分な広さがあった。 (;・∀ ・)「何だ?」 掛け布団に誰かが触れた。 驚きの声を上げ、布団を掴む。 研究所のことを思い出してしまう。 突然起こされて、痛い思いをする。 喚けば殴られ、泣けば蹴られる。 痛いのは嫌いだった。 またんきは早まる心臓の音に、涙が出そうになった。 ( ´_ゝ`)「よお」 声がした。 同時に、布団に誰かが触れていた感覚がなくなる。 どうやら、布団に触れていたのは兄者で、彼が隣にもぐりこんできたことで、感覚が消えたようだ。 (・∀ ・)「あにじゃ……?」 (´<_` )「オレもいたりする」 (・∀ ・)そ「おとじゃ!」
- 587 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:17:55.32 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「精霊のお前は寒さを感じないだろうがな」 (´<_` )「オレ達には港の寒さが身に染みる」 気づけば、またんきは左右を流石兄弟で挟まれてしまっていた。 一つのベッドに三人が入っているので、密着率だけで言えば昨日以上のものだ。 ( ´_ゝ`)「そこでだ。 お前と同じベッドに寝れば、湯たんぽ効果でウマーなわけだ」 (・∀ ・)「よくわからんが、いっしょにねたいのか?」 (´<_` )「そういうことだ」 (・∀ ・)「……しかたないなー」 またんきは一緒に寝ることを許可する。 ( ´_ゝ`)「だがな、またんき」 (・∀ ・)「何だ?」 兄者の方へ顔を向ける。 狭いので動きにくいが、どうにか位置を変えた。
- 590 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:20:37.34 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「オレ達はもう寒くならないだろう。 だから、寒いときはお前から言ってくるんだぞ」 自前の毛皮を持つ耳族は寒さに強い。 兄者は耳を立てて真剣な顔つきで言う。 ( ´_ゝ`)「今回、お前が入れてくれたように、オレ達もお前と寝ることを歓迎する」 (・∀ ・)「……そんなきかいがあったらなー」 (´<_` )「あったらでいいさ」 弟者はまたんきの頭を一度撫でてから目を閉じる。 ( ´_ゝ`)「明日は海を見るんだろ?」 (・∀ ・)「そうだぞ。だから、はやくねるんだ」 またんきが目を閉じる。 それを見てから兄者も目を閉じた。
- 593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:24:05.25 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「うおー! すげー!」 翌朝、灯南に向けて盗むものを盗んだ流石兄弟は、ドラゴンと合流して海を渡っていた。 ( ^ω^)「そうだお? そうだお?」 興奮しているまたんきに、ブーンは何度も同意の言葉を返す。 滑空するドラゴンの下には、どこまでも続いているような海がある。 本島と灯南地方の島の間にある狭い海だが、湖も見たことがないまたんきからすれば、広大に見えた。 ( ´_ゝ`)「晴れてよかったな」 (´<_` )「雨でも降ったら出発が遅れるからな」 下が地面ならば、多少の悪天候は我慢でどうにかなる。 しかし、海上の雨は少々問題がある。 何か起こったときの対処法が難しいことと、荒れた海そのものが危ないからだ。 (・∀ ・)「あおいなー。 そらとそっくりだ!」 (´<_` )「海の青は、空の色を反射してるんだ」 (・∀ ・)「そうなのかー」 見事なまでの棒読みだ。
- 596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:27:39.95 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「あっ! 何かいたぞ!」 ('A`)「サカナダナ」 (・∀ ・)「あれがさかなか!」 昨夜の食事を思い出してまたんきの腹が鳴る。 ( ´_ゝ`)「食事は灯南についてからだな。 海辺で魚でも取るか」 兄者も海を見ながら呟く。 盗みだけでなく、漁もそれなりに上手いのだ。 (・∀ ・)「おー。また何かいるぞー」 ( ^ω^)「あれは……ふねだお」 海上を行く船があった。 上空からではわかりにくいが、大きい船のようだ。
- 599 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:30:56.47 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「あー。ありゃ、奴隷船だな」 なんて事もないように兄者が答える。 (;^ω^)「あにじゃ……」 またんきは元奴隷だ。 彼としては奴隷というよりも、実験体であった思いの方が強いだろうけれど、 それでも多少の気を使ってやってもいいはずだ。 (´<_` )「思ったら即だろ。兄者は」 咎める言葉を持たない弟者も同罪といったところか。 彼も海上にある奴隷船を目に映す。 (´<_` )「奴隷探しにでも行くんだろうな。 ご苦労なことだよ。本当に」 その声は呆れているようにも、馬鹿にしているようにも聞こえた。 奴隷制度に関して、流石兄弟はどちらもそれほど熱い反対を述べない。 それがこの国の摂理であると受け入れているし、おおよそ自分達には関係のない話だからだ。 (・∀ ・)「どれいにされるのか」 またんきの声は硬い。
- 602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:33:33.67 ID:EHpwtljV0
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('A`)「ソウダナ。ヒナンデ、ツカマエラレタヤツハ、アノミナトマチニ、ツレテコラレル」 檻の中に入れられ、奴隷市場で売られる。 ドクオの言葉に、またんきはハッとする。 (・∀ ・)「あのおりには、どれいがいたのかー」 ('A`)「ソウダ」 (;^ω^)「どくおも!」 またんきは顔をうつむける俯ける。 あの時は何とも思わなかったが、すぐ傍に奴隷がいたのだと思うと、恐ろしくなった。 また、あの場所に戻ってしまうような。そんな悪寒が体を駆ける。 (´<_` )「気にするな。 お前は奴隷じゃない」 ( ´_ゝ`)「盗るのは好きだが、盗られるのは趣味じゃないしな」 (・∀ ・)「……わかってるぞー」 顔を上げ、心を強く持つ。 表情は変わらない。 だが、彼らならば瞳を見ただけで心の奥底まで見てしまうのだろうと思った。 不安定な心を見せたくはない。
- 603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:36:34.13 ID:EHpwtljV0
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海の上を飛ぶこと数時間。そろそろ日が下がり始めようとしている頃に、彼らは灯南の端に着いた。 ニュー速の港町から見る海と、灯南から見る海はまったく違う。 またんきは空から見る海とも違う風景にまた揺れる海面を凝視する。 ( ´_ゝ`)「じゃあちょっと人数分取ってくるわ」 (´<_` )「火は任せろー」バリバリ (;´_ゝ`)「やめて! というか、バリバリって何!?」 魚を取りに行く足を止めて振り返る。 (´<_` )「早く行けよ」 (;´_ゝ`)「えっ。ナニソレ怖い……」 そんなことを言いながらも、兄者は再び海へ足を向ける。 そのまま焼くつもりなので、あまりにも大きな魚は向かないだろうと思いながら、腰の短剣を抜く。 使い慣れたククリを海水につけるつもりはない。 ('A`)「マタンキ、ウミニオチルナヨ」 (・∀ ・)「わかってるぞー」
- 605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:40:05.23 ID:EHpwtljV0
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外に出たことがないまたんきだ。 泳げないだろうことはわかりきっている。 (´<_` )「おーい。お前らすることないなら、焚き火用の枝を探してくれよ」 (・∀ ・)「えだがいるのかー?」 葉一枚で焚き火を作ることができる弟者だ。 わざわざ枝が必要だとは思えない。 海から目を離して弟者に近づく。 (´<_` )「せっかくいい感じの枝が転がってるんだ。 使えるものは使うさ」 灯南は荒れ果てた荒野の地方だ。 枯れ木や折れた枝がそこいらに転がっている。 ('A`)「サカナヲサスエダモイルシナ」 ドクオはふわふわと飛んで枝を一本持ち上げる。 彼の体から見れば枝一本も大きい。 どうにか持ち上げているが、ふらふらしている。 (・∀ ・)「てつだうぞー」
- 607 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:43:58.43 ID:EHpwtljV0
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またんきはドクオが持っていた枝を受け取り、近くに落ちている枝をまた拾う。 両手一杯に拾うと、それを弟者へ手渡す。 (´<_` )「ありがとう」 (・∀ ・)「おう」 弟者の隣に座る。 護身用のナイフを取り出した弟者は、受け取った枝を少し削る。 そこに魚を刺すつもりだ。 (・∀ ・)「おもってたより、草も木もあるんだな」 ('A`)「ソウミエルダロ?」 ドクオの言葉はネガティブだが、またんきの目に映る周囲は、緑も多い。 木の数は少ないが、全くないわけではない。 不毛の土地だと聞いていただけに、この風景は意外だった。
- 610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:46:31.54 ID:EHpwtljV0
- (´<_` )「その辺りに生えてる草は全部、荒氏だ」
(・∀ ・)「ぜんぶか?」 ( ^ω^)「ぜんぶだお」 またんきは再び周囲を見渡す。 言われてみれば、生えている草はどれも同じ形をしている。 (´<_` )「この土地は栄養も雨も少ない。 普通の草じゃ枯れてしまうんだ」 二本、三本と、鋭い枝を作り上げていく。 四本目の製作に取りかかりながら、この土地の説明を加える。 (´<_` )「その上、荒氏は他の植物の栄養まで奪うからな。 乾燥や栄養不足にも強い植物や作物も、ヤツラに侵食されてお終いだ」 悪循環が繰りかえされている土地だ。 樹木ならば侵食される確率は下がるが、それでも弱いものは淘汰される。 およそ人が住むのに適しているとはいえない場所だ。
- 614 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:49:39.99 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「あらしって、つえー」 ('A`)「ココニウマレタヤツラハ、ネコソギ、ヤキハライタイダロウヨ」 (´<_` )「違いない」 風が吹けば、荒氏が揺れる。 さわさわとした音は爽快感があるようにも思えるが、背景にあるものを考えれば暗くなる。 ( ´_ゝ`)「とったどー」 毛についた海水を振り払いながら兄者がやってくる。 海で取ったらしい魚を手に持っている。 (´<_` )「お疲れ様」 ( ´_ゝ`)「毛がまたパサパサになる」 (´<_` )「今度、念入りにリンスしろ」 ( ´_ゝ`)「そうするわ」 ( ^ω^)「するのかお……」
- 616 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:52:50.74 ID:EHpwtljV0
- 兄者は自分が取った魚を枝に刺していく。
その合間に弟者が焚き火を作る。 ( ´_ゝ`)「早く乾かねぇかなぁ」 魚が焼けるのを待ちながら自前の毛も乾かす。 いつまでも濡れているのは気持ちが悪い。 (・∀ ・)「おれがひでかわかしてやるよ!」 手を出して唸り声を上げる。 しかし、そこから火が出ることはなかった。 どれほど力を込めても、結果は昨日と同じだ。 (・∀ ・)「もー!」 ( ´_ゝ`)「はいはい。気持ちだけ受け取っておくよ」 (・へ ・)「むー」 また兄者がまたんきの口角を下げる。 ( ^ω^)「やっぱり、かってがちがうのかお?」 (´<_` )「わからんなぁ。 半分人間だから、習得に時間がかかるだけかもしれん」
- 618 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:56:14.37 ID:EHpwtljV0
- その後、無事に焼けた魚と、町で買ったパンを食べる。
夕焼けを眺めながら食べる食事は美味しいかった。 ニュー速から海一つ渡ったとはい、距離としてはあまり離れていないはずの灯南だが、 日が沈んだ後の寒気は向こうの地方ほどなかった。 寒いことは寒いのだが、またんきやブーン達ならば寒さをまったくといっていい程感じないくらいだ。 耳族である流石兄弟も、薄布を一枚被るだけで寒さを防ぐことができる。 (・∀ ・)「ぜんぜんちがうんだなー」 またんきは言った。 別の地方に行くとはいっても、高々隣の地方。と、 侮っていたのだが、そうでもないらしいことがわかる。 一つ移動すれば、空気の感じかたから、夜の過ごしかたまで変わってくる。 (´<_` )「北上していくと、また寒くなるけどな」 (・∀ ・)「そうなのか」 寒さに耐性のあるまたんきとしては、北上することに恐れはない。 むしろ、次は今いる地方とどう違うのかという点に興味がわく。 (・∀ ・)「まとめはどんなばしょなんだー?」 ( ´_ゝ`)「おっ。気が早いな。 また海を越えるときにでも話してやるさ。弟者が」 (´<_`;)「またそのパターンか!」 弟者が叫ぶ。
- 620 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 13:59:48.15 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「何だ。自分の知識に自信がないのか? いいんだぞ。お前はオレよりもずっと優秀な頭脳を持ってる。自信を持て」 (´<_` )「そりゃどうも。 だが、あいにく、オレもその事は自覚してるよ」 ('A`)「アニジャハ、セイレイトケイヤク、デキナイモンナー」 (;´_ゝ`)「あっ。そういうこと言う?」 精霊と契約するには、ある程度の知識が必要だ。 陣を描き、呪文を唱え、契約を結ぶ。 誰にでもなれるわけではない。 (´<_` )「どうせ兄者も説明するだろうに」 ( ´_ゝ`)「基本的にはお前がしろよ」 気分屋の兄者は、気が向かなければ教えない。 それならば、真面目で知識を有する弟者に任せるほうが良いに決まっている。 (・∀ ・)「おれはどっちでもいいぞー」 (´<_` )「流石兄弟、二人で教えますよっと」 ( ^ω^)「ぶーんたちもいるお!」
- 623 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:02:51.62 ID:EHpwtljV0
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そうして、寒くない夜を越え、ドラゴンはまた飛ぶ。 盗みこんだ食料を食べながら灯南を回っていく。 どこも彼処も荒れており、同じ荒氏が生えているだけ。 生き物の姿は殆どない。いたとして、小さなネズミのような生物がいるだけだ。 不毛の土地だと言われているのにも納得がいく。 沈む夕日は美しく、昇る朝日は輝いている。 風になびく荒氏の音は心地良いのに、生きることは難しい。 またんきは数度の夜をどこか虚しい気持ちで過ごした。 (・∀ ・)「あそこみたいだ」 ポツリと呟く。 ( ^ω^)「あそこ?」 (・∀ ・)「おれがいたとこ」 誰もいなくて、生き物がいる気配すらない。 ただ静かで、美しさだけが整えられているような牢獄。 絶望と静けさで彩られている灯南にはピッタリのイメージだ。 ( ´_ゝ`)「一度くらい誰かに会うかと思ったんだがな」 (´<_` )「近頃は、昔よりも住む間隔を広げてるらしいからな」
- 624 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:05:55.63 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「本当に悪循環が過ぎる土地だ。 奴隷制度に反対する奴や、この土地で一生を終えなければいけないことに同情してくれる奴だって存在するのに、 生きている奴を見つけられなきゃどうにもできない」 (´<_` )「かといって、集落を作れば、集落ごと奴隷にされる、か」 荒氏のことといい、救出の術のことといい、不幸な土地だ。 逃げ出そうにも、海を越えるための船を作る材料すらここにはない。 灯南へくる船といえば奴隷船で、一度入れば後は落ちるだけ。 ( ´_ゝ`)「しかし、ここにも飽きた。 明日、海辺まで飛んで、明後日には的芽に行こう」 (・∀ ・)「つぎのばしょか!」 またんきが嬉しそうに飛び上がる。 好奇心旺盛な彼は、日に日に瞳の輝きを増している。 ('A`)「マトメハヒロイゾ」 (・∀ ・)「うみよりか?」 ( ^ω^)「ざんねんながら、うみのほうがひろいお」 (・∀ ・)「なーんだ」
- 626 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:08:29.61 ID:EHpwtljV0
- 少し落胆しつつ、またんきは毎夜恒例になっている魔法の練習をする。
一度も魔法が使えたことはない。 不満を口にし、兄者に口角を下げられて眠る。 それが日常になっていた。 (・∀ ・)「あ、何だ、あれ!」 ドラゴンの背中の上、またんきが声を上げた。 鳥か何かいたのだろうと、弟者がまたんきの指をたどる。 (´<_` )「……お、誰かいるぞ」 ( ´_ゝ`)「ん? おお、ようやく生きてる奴に会えたか。 ドラゴン、降りてくれ!」 兄者の声にドラゴンが答え、ピンクの体が上空から地上へと舞い降りる。 下にいた者達は驚き、逃げようとしているが、灯南に住んでいるような者がドラゴンから逃げられるはずがない。 (・∀ ・)「あうのか?」 ( ´_ゝ`)「せっかくだからな。その地方に住む人間と交流するってのも、中々勉強になるぞ?」 勉強になるとは言っているが、兄者の目的は違うのだろう。 出会って数日ではあるが、またんきも兄者の性格を把握し始めていた。 彼は人のためには行動しない。あくまでも自分が楽しむことと、自分の利益が優先される。 兄者が会うというのだから、それ相応の楽しみが彼の中には存在しているのだろう。
- 628 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:12:01.33 ID:EHpwtljV0
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(;`ハ´)「お前達、奴隷商人アルか!」 地上にいたのは、一人の耳族と一人の人間だ。 耳族の男は、人間の女の子を庇うように前へ出る。 ( ´_ゝ`)「おー。耳族の男が、その年齢になるまでここにいられるとは……。 お前は運がいいんだな」 悪役めいた口調でいい、口角を上げる。 どこからどう見ても、奴隷をとりに来た者にしか見えない。 ||;‘‐‘||レ「「シナ兄……」 女の子はシナ兄と呼んだ耳族の服を握る。 奴隷になることへの恐怖と、慕っている兄と離れ離れにされるのではないかという不安がそうさせる。 常人ならば、見ているだけで胸を痛めるような光景だ。 (;^ω^)「ぼくたちはどれいしょうにんじゃないお!」 兄者が植え付けた誤解を解くため、ブーンが前へ出る。 奴隷商人だと思っていた男の後ろから現れた、朗らかな精霊に灯南の二人は毒気を抜かれたような顔をした。
- 629 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:15:33.13 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「ぼくたちは、たびのとちゅうなんだお」 ('A`)「ヒナンデハジメテ、ヒトヲミタカラ、ハナソウト、オモッタダケダ」 二人の精霊が説得を計るが、灯南の二人は疑いの目を辞めない。 奴隷商人が毎日出入りしているような地方で住んでいるのだから、それも仕方ないだろう。 (;`ハ´)「我らは貴様らと話すことなどないアル」 (´<_` )「どっちだよ」 (;`ハ´)「ないヨ」 ( ´_ゝ`)「いやいや、そう言わずに」 笑みを浮かべて、灯南の男に一歩近づく。 またんきはドラゴンの近くでその様子を眺めていた。 ||‘‐‘||レ「近づかないで!」 響いたのは、女の子の声だ。
- 631 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:18:35.98 ID:EHpwtljV0
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||;‘‐‘||レ「あたし達が何をしたっていうの!? この地で、ただ、ただ生きてるだけなのに……」 女の子の声は震えている。 生まれてこの方、安心して外を歩いたこともないのだ。 ||;‐;||レ「奴隷なんて……嫌よ……。 あたし、荒氏しか食べれなくてもいい……。だから、だから……」 涙を流し、その場に崩れ落ちる。 慌てて男が彼女の傍に寄りそう。いざとなれば、彼女を抱えて逃げるのだろう。 (・∀ ・)「あらしって、食べれるのか?」 (´<_` )「食べれんことはない。 が、ただの雑草だ。栄養は殆どないし、不味い」 近づいてきたまたんきの問いに答える。 弟者の言葉に、またんきは周囲を見る。 そこいらに生えている荒氏は、確かに美味そうには見えない。 (・∀ ・)「まずいのに食べるのか」 ('A`)「ソレシカ、タベラレナインダ」
- 635 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:27:13.07 ID:EHpwtljV0
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ネズミはいれども、姿を見ることは殆どない。 当然、主食は肉よりも草に偏る。 作物のできない灯南で、荒氏を食べるのは必然的なことだった。 ( `ハ´)「……我が奴隷になるアル。 だから、この娘は見逃せヨ」 ||;‐;||レ「嫌! シナ兄がいなくなったら、あたし……生きていけないよ!」 女の子は男に縋る。 人間の彼女はまだ小さい。確かに、何らかの庇護がなければ生きていけないだろう。 ( ´_ゝ`)「落ち着けって。 オレ達は本当に奴隷商人じゃない」 ( `ハ´)「……じゃあ、なんで灯南なんぞにきたアルか。 旅をしているとはいっても、灯南に見るものはないヨ」 (´<_` )「国を知る勉強のため。と、いったところだ」 不信感は抜けていないようだが、奴隷商人にしては毛並みが悪いと判断され、多少ではあるが警戒を緩めてもらう。 男にしがみついている女の子は、未だに嗚咽をもらしていた。
- 638 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:30:35.79 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「耳族と人間のペアか。兄弟ではないんだろ?」 ( `ハ´)「当然ネ。 我とこの子は同じ時期に生まれたヨ」 (・∀ ・)「それにしては大きさがぜんぜんちがうぞー」 (´<_` )「耳族だからな。成長が早いんだ」 男は女の子の背を撫でる。 同時期に生まれたとしても、物心つくころには男のほうが大きかったので、彼女は男を「兄」として呼ぶ。 ( `ハ´)「我が大きくなったら、この子と一緒に放り出されたアル」 我が子を奴隷の道から逃がすための行為だ。 彼もそのことはわかっているが、幼い人間の女の子を捨てた親を許すことはできない。 撫でる手にも力が入る。 ||‘‐‘||レ「シナ兄……?」 ( `ハ´)「すまんアル。大丈夫アルヨ」
- 640 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:33:50.71 ID:EHpwtljV0
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( `ハ´)「そういえば、この子以外と話すのは久しぶりアル」 零された言葉は重い。 奴隷商人から逃げるため、この地方の者は接触を避ける。 年頃になれば伴侶を探して移動するが、孤独な死を選ぶ者も多いという。 果たして、奴隷となって死ぬ人生と、飢えと孤独に抱かれたまま死ぬ人生。どちらがマシなのだろうか。 それを選ぶのは現地の者だとしても、恐ろしい選択肢しかないことに違いはない。 (・∀ ・)「かわいそうだなー」 現状をどうにかする術を彼らは持たない。 またんきはそれを知っている。 かつて、地下にいた自分がそうであったように、努力や気合では解決できないことがある。 あの地獄から流石兄弟が救い出してくれたのは、単に運が良かっただけだ。 幼いまたんきには、自分が灯南の二人を助けるという発想はないし、 ただの貧民である二人を流石兄弟が救い出すとも思えない。 故に、同情の言葉を零すしかなかった。
- 642 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:36:36.34 ID:EHpwtljV0
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||#‘‐‘||レ「何よ! あんたに、何がわかるのよ! 同情なんて! 何の役にもたたないんだから!」 女の子が立ち上がり、またんきの方へ向かう。 驚いたまたんきが慌てて後ろに下がるが、彼女の方がわずかに早い。 ||#‘‐‘||レ「せめて、シベリアか、ニュー速に生まれていれば! こんな……こんなっ……!」 本島であるニュー速ならば、地方を移動することができた。 シベリアは灯南と同じく、海に浮かぶ島だが、本島と繋がっている橋がある。 このVIP国で、灯南だけが完全に隔離されているのだ。 (・∀ ・)「うわっ! 何するんだよー!」 ||#‘‐‘||レ「あんたみたいな奴に、わかるもんか!」 (´<_` )「歴史を紐解けば、元は荒れた土地に生まれた奴が、 本島へ奉公に出てたってだけの話なのにな」 ( ´_ゝ`)「気づけば奉公人は奴隷へと変わり、 荒れていただけの土地は奴隷畑になったってか」 叩かれているまたんきを横目に言う。 仮にもまたんきは男で、精霊だ。ガリガリの人間、それも女の子にやられることはないだろう。
- 647 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:39:35.10 ID:EHpwtljV0
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( `ハ´)「歴史なんてどうでもいいアル。 我らは今を生きることに精一杯ネ」 彼の体は細い。 生きることすら難しいことがそこに表現されている。 ('A`)「ソレデモ、シニタクナイノカ」 絶望に抱かれたままならば、いっそのこと死んでしまえばいい。 そうすれば、今の苦しみからは解放される。 闇の精霊であるドクオは、本人に自覚がないにせよ、他者を追い詰めることがある。 ( `ハ´)「……確かに、死んでしまった方が、マシかもしれないヨ」 男は顔を俯ける。 慌ててブーンがフォローするが、絶望している者に光の言葉は届きにくい。 彼はひたすらに落ち込むばかりだ。 (´<_` )「近いうちにこの地から生き物はいなくなるかもな」 奴隷として連れて行かれる人数が多い。 統計を取ることはできないが、年々人口は減っているはずだ。 いずれ、どれだけの奴隷商人がやってきたところで、人一人見つけられなくなる。
- 650 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:42:31.18 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「そういうのはよくないお!」 優しいブーンは叫ぶ。 なくなっていい命はなく、誰もが幸福である権利を有しているのだから、 ここで必死に生きている者を貶していいはずがない。絶望に追いやる必要などない。 ( ´_ゝ`)「あんたは、生きたいんだろ? あの少女と」 またんきを叩きながら、また涙を流している少女を指差す。 泣いている彼女をどうしてよいのか、またんきにはわからないらしく、助けを求める瞳をこちらに向けていた。 ( `ハ´)「……あの子は人間ヨ。 我よりも長く生きる。我が死んだ後、あの子はどうなるネ」 まぶたを閉じて言葉を零す。 見えぬ瞳は、慈愛と不安に満ちているのだろおう。 ||;‐;||レ「シナ兄、どこか行くの?」 うなだれている男を心配して、女の子が駆け寄る。 自分も泣いているというのに、他人を心配できる子だ。 ( `ハ´)「大丈夫ヨ。大丈夫……」 ( ´_ゝ`)「根拠のないことを言ってやるな」
- 653 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:45:49.38 ID:EHpwtljV0
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きっぱりとした口調で言い捨てる。 ( #^ω^)「あにじゃ!」 ブーンの怒鳴り声もどこ吹く風。 兄者は互いを支えあう二人を見る。 ( ´_ゝ`)「大丈夫なもんか。こんな不毛の土地。 奴隷になるか、飢えて死ぬかだ」 (#`ハ´)「なら……お前が助けてくれるとでも、いうアルか!?」 細い手が兄者の胸倉を掴む。 誰の目から見ても殴りあいをすれば男が負ける。 (´<_` )「さあな。でも、黙ったままで助けてもらえるほど、 自分達を特別だと――思ってないだろうな?」 弟者が男を兄者から引き剥がす。 軽い体は簡単に剥がれ、地面に落ちる。 (・∀ ・)「あにじゃ? おとじゃ?」 二人の様子に、またんきも戸惑いの声を出す。 他者に対して冷たいところのある二人だが、これほどまではっきりとした冷たさは始めてだった。
- 656 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:48:43.36 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「あの子、またんきはオレ達が盗んだ。 お前達からしてみれば救ったとも言えるかもしれん。 だが、またんきは特別だった。だから、救われた」 (´<_` )「お前達はどうだ? 特別か?」 長身の二人が並び、男と女の子を見下ろす。 その姿は奴隷商人以上の非道さを思わせる。 男は二人を見上げながら唇を噛んだ。 特別なところなど何一つない。この灯南ではよく見る人間と耳族だ。 救われる理由がない。 ( #^ω^)「ふたりとも! ぼくもおこるお!」 (;'A`)「モウオコッテルッテ」 怒りをあらわにしているブーンをドクオが宥める。 ドクオやブーンは、冷たい兄弟を何度も見てきた。 平然と他者を殺す姿も、這う浮浪者を見捨てる姿も。 けれど、こうしてわざわざ相手の心を逆撫でするような行為は始めてだ。 基本的にいえば、流石兄弟は相手の生きかたを尊重する。 彼らもまた、自由に生きる者が好きなのだ。
- 661 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:51:47.47 ID:EHpwtljV0
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( ハ )「……けて、くれ……」 (´<_` )「何?」 弟者が屈む。 顔を男に近づける。 ( `ハ´)「助けてくれアル!」 男が弟者の腕を掴む。 相手を見る瞳には強い意思があった。 何をされても腕は離さない。助けてもらうまでは、意地でも縋りつく。そんな目だ。 ||‘‐‘||レ「シナ兄?」 ( `ハ´)「助けてくれ! こんな生活はもう嫌ネ! 二人は無理だというなら、この子だけでも、本島へ連れて行くだけでもしてくれアル!」 ||;‘‐‘||レ「嫌だ。嫌だよ! シナ兄!」 女の子が男の手を掴む。 必死に首を横に振り、一人は嫌だと何度も告げる。 ( ´_ゝ`)「一緒に助かりたくないのか」 ( `ハ´)「できるならば! 我と、この子を!」
- 663 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:53:26.87 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「そうか。だが、残念ながら、オレ達の移動手段であるドラゴンは定員オーバーだ」 (;`ハ´)「なっ……」 助ける気など毛頭なかったというのか。 男は悔しげな顔をする。隣にいる女の子は眉を吊り上げ、兄者を睨みつける。 ( ´_ゝ`)「――だが、代わりにコレをやろう」 取り出したのは、小さな袋だ。 安っぽい袋の中には、何かが入っているらしい。 ( `ハ´)「これは……?」 受け取った男が袋を開ける。 中には、小さな種がいくつも入っていた。 ||‘‐‘||レ「種……」 (・∀ ・)「たね?」 ( ^ω^)「しょくぶつのあかちゃんだお」
- 666 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:55:40.35 ID:EHpwtljV0
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( `ハ´)「馬鹿アルか。この土地は見ての通り、荒氏が覆い茂っているヨ。 雨も降らない。栄養もない。何が育つというネ」 袋を握り締める。 種が育つというのならば、こんな苦しい重いをせずにすんだのだ。 (´<_` )「それは、以前オレ達がとある施設から盗んだ物だ」 弟者は立ち上がり、砂を払う。 (´<_` )「その研究者はたいそう善人でな。 奴隷制度に反対し、灯南の者が普通に生活できるようにと思っていた」 ( `ハ´)「……それが、どうかしたアルか」 (´<_` )「どれだけ反対しても奴隷制度はなくならない。 灯南の者を保護するにも、見つけることができない。 そこで、研究者は己の本分。すなわち、研究で灯南を救うことにしたんだ」 ( ^ω^)「そういえば、ちょっとまえになにかぬすみにいってたお」 ('A`)「オレタチハ、ルスバンダッタナ」
- 669 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 14:57:38.14 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「そうして完成したのがその種だ」 ( `ハ´)「つまり?」 男は呆然としている。 ただ、手の中にある種が、大切な物のように思えてきた。 (´<_` )「荒氏から養分を吸い取る種。水が少なくとも育つ種。 灯南専用の、種だ」 ||‘‐‘||レ「それじゃあ、これを育てれば」 (´<_` )「食環境が少し整えば、力をつけることもできるだろうな」 ( ´_ゝ`)「美味けりゃ出荷もできるかもしれん」 男は手の中にある袋を優しく握る。 小さな種だが、大きな希望だ。 ( ^ω^)「おとじゃ、あにじゃ……!」 ブーンは感動の声を出す。 先ほどまでの怒りは消え去っていた。 やはり、彼らはいい耳族だ。
- 671 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:00:59.54 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「ただし!」 兄者が付け加える。 ( ´_ゝ`)「成功してるのをオレ達は見たが、あくまでも実験段階だ。 実際の状況で上手くいく保障はどこにもない」 ( `ハ´)「それでも……。希望があれば、それに縋るアル」 ( ´_ゝ`)「そうか。なら立派に育ててくれよ?」 (´<_` )「そいつは淡い水色の花を咲かせるんだ。 この灯南一面に、それが咲いたら綺麗だろうなぁ」 (・∀ ・)「きれいなのか? ( ^ω^)「きっと、きれいだお」 ( ´_ゝ`)「オレはその光景を見たくて、拝借してきたんだ。 あの研究者に任せてたら、いつまで経ってもここに届かないだろうからな」 兄者は灯南の二人に背を向ける。 ( ´_ゝ`)「でも、育てるなんてオレには向いてないし、そんな時間も暇もない。 だから、お前達に任せた。また、来年くるから、しっかり育ててろよ!」
- 673 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:02:50.54 ID:EHpwtljV0
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( `ハ´)「やってみるアル」 ||‘‐‘||レ「……ありがと」 二人は立ち上がり、弟者達を真っ直ぐに見つめる。 そこには、出会ったときのような陰鬱さは見受けられない。 (・∀ ・)「あのさ」 またんきが女の子に近づく。 (・∀ ・)「楽しみにしてるから」 ||‘‐‘||レ「見てなさい。びっくりさせてあげるわ」 (・∀ ・)「できるのかー?」 ||#‘‐‘||レ「このっ!」 (・∀ ・)「おまえのはいたくないぞー」 ||‘‐‘||レ「じゃあ何で逃げるのよ!」
- 676 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:04:51.14 ID:EHpwtljV0
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女の子とじゃれていたまたんきは兄者を追い越し、ドラゴンの足に掴まる。 (・∀ ・)「じゃーな!」 ||‘‐‘||レ「来年きなさいよ」 ( ´_ゝ`)「来るさ」 (´<_` )「必ず」 ( ^ω^)「またおー」 ('A`)「ドレイショウニンニ、ツカマルナヨ」 五人はドラゴンの背に乗り、二人に手を振る。 彼らも手を振り返してくれた。 ドラゴンが羽ばたけば、地上はすぐに小さくなる。 それでもまたんきは下を見ていた。 彼らを見つけたときのように、ずっと見つめていた。
- 679 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:07:09.28 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「そういえば、名前聞くの忘れてたな」
(´<_` )「耳族の男は、シナ兄と呼ばれてたな」 (・∀ ・)「らいねんきけばいいぞ」 ('A`)「ソウダナ」 ( ^ω^)「たのしみがふえたお!」 ドラゴンの上で五人は騒ぐ。 その中で、またんきは来年への約束に心を温かくした。 少なくとも、来年はまだ一緒にいる。ささいな約束だが、 兄者達を信用していないわけではないのだが、 口約束の重みを知った。 ( ´_ゝ`)「今日はいい気分で飯が喰えそうだ」 (´<_` )「海辺に降りるから、魚も食べれるしな」 ( ´_ゝ`)「またオレが海に入るのか……」 ( ^ω^)「いやなのかお?」 ( ´_ゝ`)「毛がバサバサになるもの」 (・∀ ・)「……もともとだぞ?」 またんきが兄者の毛に触れて言う。
- 681 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:09:33.80 ID:EHpwtljV0
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(;´_ゝ`)「そりゃロクに手入れしてないからねーって、 止めて! 耳族にとって毛並みは大切なんだぞ!」 ('A`)「ナラ、チャントテイレシロ」 (´<_` )「ドクオの言うとおりだぞ」 呆れるドクオに重ねて弟者が言う。 海に入っていない彼の毛並みは、良いとは言い難くとも、兄者よりはマシだ。 ( ´_ゝ`)「お前も特に何もしてないくせに」 (´<_` )「宿屋に泊まったときはしてるぞ」 (;´_ゝ`)「えっ! 初耳!」 (´<_` )「一々報告しないだろ常考……」 (・∀ ・)「おれもきれいにしてるぞー」 ( ^ω^)「またんきはきれいなかみしてるお」
- 684 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:11:48.76 ID:EHpwtljV0
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灯南にきたときのように海で取れた魚を食べる。 ただの丸焼きなので、特別美味いわけではない。 (´<_` )「次に来た時は、魚以外のものが灯南にもあるかもな」 魚を食べながら言葉を零した。 ( ´_ゝ`)「もしかすると、焚き火に使えるような枯れ木なんてないかもな」 (・∀ ・)「それはこまるなー」 他愛もない話だ。 たった一年でそこまでこの土地が変わると思っていない。 けれど、夢に思いを馳せるのは自由だ。 ( ^ω^)「やっぱり、あにじゃたちはやさしいお」 ドクオと一緒に魚を食べながら言う。 冷たいところもある二人だが、助ける術があるのに見殺しにはしない。 多少、厳しいところはあるかもしれないが。
- 688 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:14:07.67 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「不幸なのも、哀れなのもしかたないさ。 同情はしても、手を差し伸べることはしない」 食べ終わり、魚を刺していた枝を焚き火に入れる。 ( ´_ゝ`)「だけどな、不幸か幸福。どっちが良いかって聞かれたら、そりゃ幸福だろうさ」 (´<_` )「自分が不幸のどん底にいるときは、他人の幸福が鬱陶しい。 でも、オレ達はそうじゃないからな。他人の幸福は見ていて楽しいもんさ」 つまるところ、彼らは自分の楽しみのためにしたことだと言いたいらしい。 照れからきているのか、元来の信条がそうさせているのかはわからないが、 どちらにしても、灯南でただ死を待つばかりだった二人を助けたことに変わりはない。 ('A`)「ソウダナ。コウフクハ、イイナ」 (・∀ ・)「あのふたりは、しあわせになるのか?」 ( ´_ゝ`)「そりゃ、あいつらしだい。来年のお楽しみ」 (´<_` )「楽しみは後にとっておくもんだ。 だから、的芽の話も明日だ」 (・∀ ・)「えー! そっちは、かんけいないだろー!」 (´<_` )「関係ありますー。オレはもう寝ますー」
- 690 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:17:33.39 ID:EHpwtljV0
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テントに入っていく弟者。またんきはそれを追いかける。 ドクオとブーンはまたんきの肩の上だ。 ( ´_ゝ`)「今日はオレが外側かー」 続いて兄者もテントに入る。 灯南から的芽への移動は、ニュー速へ行くよりかは短い。 長い飛行時間にはならないだろうが、首都のある場所へ行くのだ。 準備は万全にしておきたい。 テントに入った五人はすぐに眠りについた。 今日、久々に人と会い、またんきは疲れていた。 他の四人は、今までの旅の中ですぐに眠ることができるように体が変化している。 眠った彼らの夢の中には、水色の花が咲き乱れる地があった。 そこにいる人々は、誰もが笑っている。 いつか現実になるであろう夢だった。
- 695 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:20:17.77 ID:EHpwtljV0
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翌日は、朝早くからドラゴンに乗り込み、空を楽しむこととなった。 灯南に来る時と違うところといえば、その高度だろう。 (;・∀ ・)「何か、たかくないか?」 以前は海が見え、船が見えた。 しかし、今は海はかろうじて見えるが、船が通っていたとしても気づけない。 (´<_` )「的芽に行くからな」 ( ´_ゝ`)「安心しろ。灯南から的芽への海路で、面白いものはない」 ('A`)「フネヒトツナイサ」 どうやら、的芽に行く。と、いうことは、またんきが思っている以上に大変なことらしい。 ドラゴンが高く飛んでいるのも、人目につかないようにするという意図があるようだ。 (´<_` )「的芽は灯南と近いが、奴隷の地ともいえる灯南から何者かがやってくることを嫌ってる。 だから、灯南と的芽の間に船が通ることは許されていない」 そもそも、距離だけを考えるならば、奴隷市場はニュー速よりも的芽であるべきだ。 人も多く、交通の便もよい。 ニュー速に括るのは穢れた者が大量に入ってくることを防ぐためだ。 ( ´_ゝ`)「どうせ殆どの奴隷は買われて、的芽か宋咲に行くのにな」 カラリと笑うのは兄者だ。
- 698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:23:15.64 ID:EHpwtljV0
- (´<_` )「そう言うな。
お偉いさんは、視界に入っていなきゃ、 この世界に汚物は存在していないと思えるような奴ばかりなんだ」 弟者もフォローをしているようで、酷い言い草だ。 わけがわからず首を傾げるまたんきに、お前はまだわからなくていい。と、二人で告げる。 (´<_` )「的芽ってのはそういうところだ。 だから、灯南から的芽に入るのは難しい。 海岸沿いには馬鹿高い壁が作られてるしな」 見えるころになったら、少しだけ高度を下げようと兄者に提案する。 彼も同じことを考えていたらしく、同意はすぐに貰えた。 ( ^ω^)「でも、わるいところばっかりじゃないお」 的芽という地方に悪印象だけを持ったまんたんきに、ブーンが付け加えた。 ( ^ω^)「まとめは、くにのちゅうしんだお。 だから、たくさんのものがあって、たのしいところだお」 (・∀ ・)「ちゅうしんかー」
- 700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:25:19.34 ID:EHpwtljV0
- 的芽には国の中心、首都がある。
中心というだけあって、この国で最も栄えている地方だ。 ( ´_ゝ`)「一度首都には行くとしよう。 VIP国に住んでるんだ。城を見ていて損はない」 (´<_` )「あの城はこの国を象徴しているからな」 彼らは仕事で幾度となく首都へ入ったことがある。 城下町には金持ちも多く、珍しい物も少なくない。 珍しい物好きの兄者が足を運ばないわけがなかった。 (・∀ ・)「しろか。たのしみだぞー」 ('A`)「デモ、スコシキヲツケロ」 (・∀ ・)「何でだ?」 ドクオの言葉に問いを返す。 彼がネガティブで、人の気持ちを萎えさせるようなことを言うのは今に始まったことではないが、 妄想による不安より、現実味のある不安を口にする方が多いので、聞いておくほうが無難だ。
- 703 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:27:32.39 ID:EHpwtljV0
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('A`)「コレマデノチホウ、トハ、チガウ」 (´<_` )「オレ達は犯罪者だってこと」 無法地帯と化しているニュー速や、奴隷予備軍ばかりがいる灯南とは違う。 これから向かう先は、法のもとに成り立っている世界だ。 盗賊であり、時には人を殺すこともある流石兄弟は、間違いなく検挙の対象となる。 (;・∀ ・)「じゃあ、どうするんだ?」 コソコソ過ごすくらいならば、自由に歩けるニュー速や灯南にいた方がマシだ。 見てみたい物はあるが、人の目を掻い潜って見ることができるかわからない。 またんきは不安気な目を弟者に向ける。 (´<_` )「大丈夫。オレ達だって、しょっちゅう的芽や宋咲には行ってる」 ( ´_ゝ`)「他人の顔なんて、じっと見るもんじゃないしな」 (´<_` )「毎回使ってるブツもあるし」 ( ´_ゝ`)「あぁ、またんきの分はついてから用意しよう」
- 705 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:29:46.11 ID:EHpwtljV0
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またんきを除いた全員が、理解し頷いている。 一人だけ仲間はずれなのは気に入らないが、後々にわかることなのだろう。 文句をぐっと飲み込む。 ( ´_ゝ`)「……文句があるなら言えよ?」 台詞だけ聞けば、脅しているようにも取れる。 しかし、意味を理解すれば、単純に我慢をするなとうことが言いたいらしい。 (・∀ ・)「べつに、もんくじゃねーよ」 言わなければ気がすまない程のことではない。 少しだけ、拗ねているのだ。 ( ^ω^)「ま、まとめにはまだまだおもしろいものがあるお!」 またんきの気持ちを察したブーンが面白いものを並べていく。 ニュー速や灯南とはまったく違う街並み。 甘いお菓子が並ぶ店。 子供達が遊ぶ公園。 その言葉の一つ一つがまたんきを魅了する。 早く行きたい。と、心が急く。
- 710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:31:53.28 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「お前も、ずいぶん素直な顔をするようになったな」 首だけで後ろを覗いていた兄者が笑った。 (・∀ ・)「え?」 ( ´_ゝ`)「あまり変わらないが、楽しそうだし、怒るし、不安そうな顔もする」 元より、またんきの表情が気に喰わなくて始めた旅だ。 国中を知っている兄者からしてみれば、どの地方よりもまたんきの変わりようが面白い。 (´<_` )「まずは大笑いして欲しいな」 ('A`)「マトメニナラ、オモシロイモノガ、イッパイアル」 ( ^ω^)「いっぱいあそぶお!」 (・∀ ・)「……おう!」 誰かと遊んだことなどなかった。 それを想像することすらなかった。 またんきは遊ぶ楽しみを想像し、元気に返事をする。
- 713 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:33:42.59 ID:EHpwtljV0
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しばらくすると、兄者が下を見るように言った。 胸の高鳴りを感じつつ、またんきは指示に従う。 (・∀ ・)「おおー!」 ドラゴンが高度を下げると、下に壁が見えた。 高度を下げたといっても、低空飛行になったわけではない。 それだというのに、壁はよく見えた。それほど高い壁だった。 レンガを積み、接合しできたらしいその壁は、高さもさることながら、厚さもあった。 ちょっとやそっとの衝撃では崩れないだろう。 ( ´_ゝ`)「でかいだろ?」 (・∀ ・)「でかい!」 またんきは勢いよく返事をする。 圧倒される。 飛行船を始めて見たときは、まだ外の世界というものに慣れていなかった。 感情を上手く感じることもできなかった。 しかし、今は違う。 目の前にある物が胸に直接、突き刺さる。
- 715 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:35:46.74 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「あれはだれがつくったんだ?」 (´<_` )「オレと兄者が生まれた頃には会っただろうな。 正確にはわからない。考えたこともなかった」 (・∀ ・)「こんなのをつくるヤツは、きっとでかいんだろうな」 ( ´_ゝ`)「何らかの技法を使ったのかもしれないぞ」 またんきは想像が掻き立てられた。 見知らぬ技術にせよ、見たこともない生物にせよ、誰もわからぬ今ならば、 どのような答えがあるのかわからない。 わからぬ答えが楽しく思えた。 ( ^ω^)「こんど、いっしょにしらべるお」 ブーンが誘う。 またんきは間をおかずに頷いた。 その瞳は輝いている。
- 718 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:38:06.73 ID:EHpwtljV0
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('A`)「コレデ、ヒナンカラ、ダレカガヤッテクルノヲ、フセイデルンダ」 どうせ、誰もこれやしないのに。と、目を伏せる。 ニュー速と灯南ほど離れていないとはいえ、やせ細った者が泳いで渡れるほど、したらば海は細くない。 船を作る材料すらない灯南の人間が、どうして的芽へ来ることができるというのだ。 ( ´_ゝ`)「不満と鬱憤を抱えた奴は何をするかわからないからな。 お偉いさん方も、その辺りの自覚はあるんだろうよ」 嫌味でも何でもなく、兄者はただ事実を述べる。 底辺の者こそ恐ろしい。 改革を起こそうと奮起するのは、地の底にいる者なのだと、誰もが心の片隅に置いている。 ( ^ω^)「みんな、なかよしがいいお」 (´<_` )「そうはいかないのが現実なんだよなぁ」 ( ´_ゝ`)「弟者の言うとおり。 だからこそ今を楽しめばいい。 いつ崩れるかわからんものを気にするのも、待ち望むのも馬鹿らしい!」 ドラゴンの横腹を軽く蹴る。 それを合図とした彼は、体の角度を変え、空から地上へと降りて行く。
- 721 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:40:27.93 ID:EHpwtljV0
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唐突な方向転換に、兄者以外の全員が驚いた。 弟者は慌ててまたんきを抱きしめ、ドクオはまたんきの髪の毛を掴む。 (´<_`# )「兄者! 危ないと何度言ったらわかる!」 ( ´_ゝ`)+「お前を信じてた」 (´<_`# )「他に言いたいことはあるか?」 (;´_ゝ`)「……すみませんでした」 背中越しでもわかる。 冷たい視線だ。ビームにでもなっているのではないかと思えるほどの威力に、兄者は呆気無く降参する。 このやり取りも、今に始まったことではない。 兄者は学習せず、弟者も彼を突き落としたりはしない。 (・∀ ・)「あにじゃは、ばかだなー」 ('A`)「セイカイ」 彼らの言葉も、今は流石兄弟に届かない。
- 724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:43:29.92 ID:EHpwtljV0
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いつも通り、ドラゴンは町から少し離れた場所に着陸した。 ニュー速や灯南ほど荒れてはいない土地で、木々も多い。 身を隠すには丁度いいが、着陸には若干手間取る。 ( ´_ゝ`)「今日は町で泊まる。飯は自分で取れるな?」 兄者の問にドラゴンは首を動かして答える。 図体のわりに彼はあまり食事を必要としない。 吸血蝙蝠だったころの名残なのか、固形物よりも液体を必要とする性質だった。 ( ^ω^)「どらごんもいっしょにいけたらいいのにお……」 それが理想であるのは誰もが思うところだ。 しかし、それが実現することがないこともまた、全員が知っている。 お尋ね者である流石兄弟が連れて歩くには目立ちすぎる。 一目見ただけで、合成によってできた生物であるということがわかるのも不味い。 またんきのように、見た目は一般的であったならば、共に行くことも可能だったのだろうけれど。 ドラゴンも悲しそうな目を五人に向ける。 移動中や、灯やシベリアのような土地ならばともかく、ここで行動を共にすることはできない。 (´<_` )「国を一周したらニュー速でこれでもかというくらい遊ぼう」 (・∀ ・)「いっしょにあそぶのたのしみだぞー」
- 726 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:45:39.40 ID:EHpwtljV0
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二人の言葉に、ドラゴンは頷いた。 ( ´_ゝ`)「その時はオレが特性のボールでも用意してやるよ」 ('A`)「ドラゴンガ、アソベルキョウドノ、ボールカ……」 ちょっとやそっとじゃ見つからないだろう。 市販のゴムボールでは、ドラゴンがくわえただけで破裂する。 (・∀ ・)「たのしみがいっぱいだ」 約束が増えることが嬉しい。 増えれば、比例して楽しみが増える。 ( ^ω^)「うれしいかお?」 (・∀ ・)「うれしい。 ……うん。うれしい」 感情をまた一つ覚える。 またんきは言葉を反芻し、頷いた。 (´<_` )「そろそろ行くぞ。宿屋を探す必要があるからな」 弟者はドラゴンの背から下ろした荷物の一つを兄者に渡す。 肌触りのいいその荷物は、彼らの身の丈に合っている服だ。
- 728 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:47:44.30 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「あたらしい服か?」 ( ´_ゝ`)「いや、これはこっちに来るときにいつも使ってる服だ」 広げられた服は、素人目にも良い品であることがわかる。 刺繍一つとって見ても美しい。 つけられている装飾品も、下品ではなく、それでいて存在感があった。 (´<_` )「良い物を着てると、誰もオレ達を疑わないのさ」 ( ´_ゝ`)「まさか、あんな良い物を着ている人が、盗みなんてするはずない。ってな」 兄者は嘲笑する。 ( ´_ゝ`)「盗むからこそ、こういう服を着るんだ」 他人の目を誤魔化すため、また、相手の警戒を解くためには、相手よりも裕福であることを主張すればいい。 誰も自分よりも下の者から金品を奪おうと考えていないと思っているのだ。 (・∀ ・)「おれのはー?」 (´<_` )「明日には用意しよう」 (・∀ ・)「ずーるーいー」 ( ´_ゝ`)「ずーるーくーなーいー」
- 729 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:50:16.50 ID:EHpwtljV0
- またんきと一悶着あったが、流石兄弟としても早く彼の服を用意しなければならない。
ニュー速で強奪した服は、それなりの物ではあったが、的芽で着るとなると些か質が悪い。 豪華な服を着ている流石兄弟と共にいるとなればなおさらだ。 (・∀ ・)「ぜったいだぞ」 ( ´_ゝ`)「あぁ、絶対だ」 兄者は美しい服をなびかせて約束する。 立ち振る舞いは変わっていないはずなのに、どこか優美さを感じさせる姿だ。 服が変われば印象は変わる。それを兄者は如実に表している。 (´<_` )「まとまったか? なら町へ行くぞ。 ドラゴン、行ってくるな」 ドラゴンの背を軽く叩き、弟者は町へ向かう。 ('A`)「ソウダナ」 ( ^ω^)「いくおー」 弟者を精霊の二人が追う。 五人が町へ行く姿をドラゴンはじっと見ていた。
- 732 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:54:34.91 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「……」 町に入り、またんきは始終無言だ。 不機嫌が原因ではない。 (´<_` )「またんき、手を繋ごう」 ( ´_ゝ`)「おっ。じゃあ逆はオレが」 両手を流石兄弟と結んで歩く。 同意も拒否も示さず、されるがままだ。 ( ^ω^)「だいじょうぶかお……」 ('A`)「チュウイリョクサンマン、ダナ」 二人にそう言われてもしかたがない。 またんきは立ち並ぶ家の風景に、目を見開いたままなのだ。
- 735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 15:57:33.09 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「ずっと地下だったし、今までの地方は廃れてたからな」 ( ´_ゝ`)「正真正銘、都会の的芽に驚いてもしかたない」 ( ^ω^)「たしかに、ぼくらもはじめはおどろいたけど……」 偶然というべきか、環境から当然というべきなのか、五人全員がニュー速生まれだ。 またんきの正確な生まれはわからないが、物心ついたころからニュー速の地下にいたのだから、 ニュー速生まれといっても間違いではないだろう。 同じ国の、隣の地方にあるとは思えないほど、ニュー速と的芽は違う。 誰しも、的芽に始めて訪れたときは驚いた。 流石兄弟とて、始めは驚き、一日口をきけなかったくらいだ。 ('A`)「マタンキ、ハグレナイヨウニナ」 (・∀ ・)「……」 ( ´_ゝ`)「駄目だこりゃ」 (´<_` )「しばらくは手をしっかり握っていないとな」
- 738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:00:13.15 ID:EHpwtljV0
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またんきの脳は、周りの風景を認識することで精一杯だった。 今まで見てきた場所とは全く違う。 建物は、無計画に建てられたのではなく、計画的に建てられたことがわかる。 道は自然のままではなく、人が歩きやすいように舗装されていた。 景観を重視しているのか、道の端に立っている木は定期的に剪定されている。 店だって目新しいものばかりだ。 ガラス越しに見える服は布の質から違う。 甘い香りをさせる店もある。生クリーム。と、ブーンが呟いていた。 また、路上で寝ている者がいない。 怒声が聞こえない。 死にそうな者は一人もおらず、誰もが綺麗な服を着ている。 そして、幸福そうに笑っていたり、悩ましげな表情をしている。 色とりどりの人だとでもいえばいいのだろうか。 ニュー速といえば、絶望している者か、怒っている者、見下している者。 種類はあったが、どれもこれも似たような色をした表情であったし、見ていて楽しいものではなかった。 それが的芽ではどうだ。 一日中町を眺めているだけでも飽きないとまたんきは確信する。
- 741 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:05:10.18 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「どの宿屋にする?」 (´<_` )「的芽にまでくれば、よっぽど酷いか、高級か、でなけりゃ、どこでも一緒さ」 ( ´_ゝ`)「なら、手短に済ませるか」 豪華な服を着る耳族の二人に、彼らと手を繋いでいる質素な服を着た人間の子供。 傍から見れば、奇妙な組み合わせに見えなくもない。 だが、首都である的芽には奇特な者も多くいるので、存外目立つことはなかった。 流石兄弟に手を引かれながらも、またんきは町の様子を眺めている。 宿屋の話や食事の話が出ても、意識がそちらに向くことはない。 ( ^ω^)「こんなちょうしでだいじょうぶかお……」 ( ´_ゝ`)「大丈夫だって。明日になれば慣れるさ」 目新しいのは最初だけだ。 思わず思考が停止してしまうほどのものならば、収まるのはなおさらに早い。
- 744 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:07:59.60 ID:EHpwtljV0
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人の出入りが激しい的芽は、宿屋が豊富だ。 小さな町でも、一、二件の宿屋を見つけることができる。 今回、彼らが選んだ宿屋は、レベルも値段も平々凡々な所だった。 (・∀ ・)「……」 そこでもやはりまたんきは無言を貫く。 清掃が行き届いている宿屋をじっと見る。 板の床ではなく、絨毯が引かれた床。 白い壁にはタペストリーがかかっている。 端には観葉植物が置かれており、窓にかかっているカーテンにはしわ一つない。 ('A`)「イクゾー?」 手を引かれても、動くことを忘れていたまたんきに、ドクオは耳もとで声をかける。 返事も驚いた様子もなかったが、言葉を理解することだけはできたらしく、 またんきは緩慢な動作で足を進めていく。
- 747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:09:48.38 ID:EHpwtljV0
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宿屋の奥に進み、部屋へ向かっている最中、またんきはあることに気づいた。 廊下で横に広がって歩くわけにもいかないので、今は兄者がまたんきの手を引いている。 その兄者の前に、もう一人、誰かいる。 女のようだが、見覚えはない。 内心、首を傾げる。 すると、彼女はとある部屋の前で立ち止まり、何かを告げてから兄者に鍵を手渡した。 そしてお辞儀を一度して、またカウンターへと戻って行く。 彼女の言葉がわからなかったのは、声が小さかったからではなく、またんきの意識が声を拾わなかったからだ。 去って行く彼女を見て、またんきは衝撃を受けた。 知識はなかったが、理解はできた。 おそらく、彼女は五人を部屋まで案内してくれたのだ。 ニュー速ではそんなことをしてもらったことがない。 港町の宿屋でさえ、カウンターで鍵を渡して終わりだった。 衝撃的だった。場所が変われば、対応も変わってくる。 灯南と的芽を見比べればわかりそうなものだが、ここにきてまたんきは始めて気づいたのだ。
- 748 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:12:24.42 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「べっどー!」 (´<_` )「お前はどうせベッドで寝ないだろ」 ('A`)「ダカラコソ! イマ! タンノウスル!」 精霊の二人がベッドへ突進する。 安価なベッドとはいえ、ニュー速のものと比べればすべてがふわふわしている。 ( ´_ゝ`)「中々いい部屋だな」 三つのベッドに二つのソファ。 壁には絵画のレプリカが飾られ、備え付けのチェストにはメモ帳が置かれている。 ( ^ω^)「ばんごはんはどうするお」 (´<_` )「ここで出してくれるのを食べる」 ('A`)「マトメッテ、ナニガトクサンダッタッケ」 ( ´_ゝ`)「そりゃ、.オムライスだろ」 (´<_` )「特産ではないだろ……」
- 753 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:14:50.45 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「そうだ。またんき」 兄者が声をかける。 しかし、部屋の内装に夢中になっているまたんきは返事をしない。 ( ^ω^)「まだじかんがかかりそうだお」 ( ´_ゝ`)「うむ。しかし、それでは困る」 一瞬、真剣な顔をした兄者は、またんきの肩に手を置いた。 顔を合わせ、左右で色の違う彼の瞳を真っ直ぐに捉える。 ( ´_ゝ`)「またんき。オレと弟者、ブーンとドクオは今夜、ちょっと仕事に行ってくる。 お前はここで留守番をしていてくれ」 (・∀ ・)「……え?」 町について始めて言葉を発した。 だが、その声は喜びを表すものではない。 (´<_` )「お前を連れて忍び込むわけにもいくまい」 (;・∀ ・)「な、なんで!」 彼らの言う「仕事」が、盗みであることは重々承知している。 黙っていろと言われれば黙っているし、じっとしていることもできる。 邪魔などしない。
- 756 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:16:35.54 ID:EHpwtljV0
- ('A`)「アブナイダロ」
(;・∀ ・)「ドクオもブーンもいくんだろ?」 ( ^ω^)「ぼくらは、なれてるお。 あと、ちいさいから、こまわりもきくお」 (´<_` )「二人がいないと、オレの能力も半減するしな」 五属性を使えるとはいえ、相手の隙をつくならば闇と光がある方がいい。 となれば、留守番はまたんきだけとなる。 正論ではあるが、またんきも二つ返事で了承することはできない。 (#・∀ ・)「おれがじゃまなのか!」 (;'A`)「ソウイウワケジャ……」 ( ´_ゝ`)「端的に言えばそうなるな」 ドクオのフォローも虚しく、兄者が言いきってしまう。 先ほどまで、好奇心に輝いていたまたんきの瞳に暗い色が落ちる。
- 760 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:19:07.55 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「お前がどういう特性を持っているのかはまだわからん。 だが、見る限りは人間とそう変わらないだろ」 小さな体。羽根はない。 その姿は、弱い人間の子供にしか見えない。 (´<_` )「耳族のような身体能力も、精霊使いの魔法も、精霊としての力もない。 まして、お前はまだ未成熟な子供だ」 できることは限られてくる。 単純な遊びにならばいくらでも連れて行ってやれるが、今宵は遊びに出かけるわけではない。 向かう先は金持ちの屋敷で、そこで行われることは、まごうことなき犯罪だ。 失敗の可能性は一つでも減らしておきたい。 また、どのような罠があるかわからぬ場所に幼い者を連れていくのは良心が咎める。 (・∀ ・)「でも!」 ( ´_ゝ`)「すぐに戻るさ」 (・∀ ・)「……」 またんきは唇を噛む。 好きに生きろと言った兄者がまたんきを止める。 矛盾というよりは、またんきの願い以上に兄者は己の願いを優先させているだけだ。 彼もまた、好きに生きている。
- 764 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:21:52.01 ID:EHpwtljV0
- (・∀ ・)「…………わかった」
何を言っても無駄だ。 諦めることが上手いまたんきはうなだれるように頷いた。 (´<_` )「すまんな。 月が沈み始める頃には戻ってくる」 頭を撫でようとした弟者の手をまたんきは払う。 腹が立っていることを体全体で表現している。 それを見ている兄者は笑う。 どうみても子供としか見えない行動だ。 地下で育っても、ハーフでも、子供のすることは変わらない。 ( ^ω^)「あにじゃが、にゅーそくでとったおかねを、ばらまかなきゃ、こうはならなかったお……」 港町で取ったお金は全て海へ出る前にばらまかれた。 町から出る際、路地裏を通りながら札を振りまいていく姿は、ブーンが好むものではあるが、 悲しげなまたんきの背中をみていると、あれが正解だったともろ手を上げる気になれない。
- 768 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:23:52.22 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「現地調達できるんだから、持っておく必要ないだろ」 (;'A`)「ゲンチチョウタツッテ……」 問題のないように思われる言い回しを使っているが、 兄者にとっては誰が持っている金も関係なく、そこいらに落ちている金と同意義だということに他ならない。 流石のドクオもどん引きだ。思考回路はともかく、それを堂々と口にしてしまう辺りに。 (´<_` )「ほーら。またんき、そういうときの顔はこれだぞ」 (・へ ・) 屈んだ弟者がまたんきの口角を下げる。 鬱陶しそうに手を払われては、また手を伸ばすの繰り返しだ。 (;^ω^)「そろそろ、ほんかくてきにおこられるお」 (´<_` )「いや、何か楽しくて」 (#・へ ・) (´<_`;)「うおっと」 突如、またんきが牙を向く。 寸前のところで手を引いた弟者はブーンを見る。 ( ^ω^)「だから言ったんだお」 (´<_` )「まさかすぎるだろ……」
- 771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:26:05.81 ID:EHpwtljV0
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またんきの機嫌は、夕飯時にもなおっていなかった。 町についたときとは違う理由で口を閉ざしている。 ( ´_ゝ`)「そんな顔してたら、せっかくの飯が台無しだぞ?」 五人の前にはオムライスが並んでいる。 一口にオムライスとは言っても、その種類は様々だ。 プレーンなものから、チーズがかかっているもの、中のご飯にキノコが入っているもの。 オムライスが持つ無限の可能性が、五人のテーブルには集約されている。 ( ^ω^)「まとめのおむらいすはおいしいんだお」 ('A`)「ナンツッテモ、クニノショウチョウダカラナ」 特別に用意してもらった小さなスプーンを手に二人が言う。 またんきは不機嫌な顔はそのままに、オムライスへ視線を落とす。 ( ^ω^)「おいしいお」 迷うまたんきを放って、弟者と兄者はオムライスに口をつけ始める。 欠けたオムライスから、とろりとタマゴが垂れる。 (・∀ ・)「……」 どれだけ拗ねていても、怒っていても、腹は減る。 またんきはオムライスの誘惑に負けた。
- 774 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:28:55.49 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「……おいしい」 またんきのオムライスはプレーンだった。 シンプルだが、それゆえにタマゴやご飯の味が直に伝わってくる。 ('A`)「ダロ?」 (´<_` )「オムライスが不味い店なんて、的芽にはないぞ」 ( ´_ゝ`)「反逆罪に問われてもしかたないからな」 冗談口調で言うが、反逆罪という言葉が出るには、相応の事情があるのだろう。 ドクオもオムライスが国の象徴だと言っていた。 腹立たしさと好奇心を天秤にかける。 (・∀ ・)「なんで、オムライスがまずいとだめなんだ?」 天秤は傾いた。好奇心の方が重かった。
- 777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:30:45.27 ID:EHpwtljV0
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待ってましたとでも言いたげに、兄者が口角を上げる。 ( ´_ゝ`)「この国の王様がどこにいるか知ってるか?」 (・∀ ・)「しらんぞ」 物語の中では、王様は城にいる。と、だけかかれていた。 それがどこにあるのかなど、またんきが知っているはずがない。 (´<_` )「この国の中心、首都。そこにあるオムライス城だ」 (・∀ ・)「オムライス……」 ( ´_ゝ`)「そう。オムライスだ。 料理が先か、城が先かは知らんが……まあ、料理が先だろうな」 ('A`)「オムライスジョウハ、スゴイゾ」 (・∀ ・)「あのかべよりもか?」 ( ^ω^)「すごいお!」 (・∀ ・)「みてみたいぞ!」 またんきの瞳に光が入る。
- 779 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:33:32.39 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「なら、明日は城を見に行こう。
ドラゴンの背に乗れば、小一時間で着く距離だ」 (´<_` )「この国に生きてる者なら、一度は見ておかないとな」 明日、話に聞いたオムライス城が見れる。 またんきの心はそれだけで楽しく踊る。 笑みを浮かべながら食べるオムライスはさらに美味しい。 口の中でバラける米も、舌先で感じるケチャップの味も、誰が食べたとしても美味いとしか言えないものだ。 ( ^ω^)「こっちもひとくちたべるかお?」 (・∀ ・)「食べる!」 ビーフシチューがかけられたオムライスを食べる。 先ほどのものとはまったく違う味。しかし、これも美味しい。 (´<_` )「機嫌、なおったみたいだな」 ( ´_ゝ`)「いや……。あれは、忘れてるだけだろ」 舌鼓を打っているまたんきを前に、二人は小声で言葉を交わす。 一時のことにせよ、食事は笑顔であるべきだ。 流石兄弟は余計なことを言わぬように、己のオムライスを口に入れた。
- 782 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:36:17.59 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「……」 夜、人々が寝始める時間。 またんきは部屋の中で腕を組んでいた。 (´<_`;)「すぐ帰ってくるって」 困り顔で弟者が言うものの、またんきは彼の顔を見ようとさえしない。 そっぽを向いて、ご機嫌斜めだ。 ( ´_ゝ`)「いくら言ってもしかたないだろ。 さっさと行って、さっさと帰ってくるのが一番だ」 ('A`)「マァ、ソウダロウナ」 頭ではわかっていても、実行に移すのは難しい。 兄者に言われて腰を上げた弟者と違い、ブーンは未だにまたんきの周りを飛んでいる。 ('A`)「ブーン、イコウゼ」 (;^ω^)「で、でも……」
- 784 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:39:07.33 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「心配だが、オレ達と行くより、ここにいる方がずっと安全だろ?」 ( ^ω^)「お……」 ( ´_ゝ`)「よし。行こう」 (;^ω^)「へんじしてないおー」 ブーンの返事を待たずして、兄者は部屋を出る。 一瞬、迷ったが、ブーンも後を追う。 兄者の言うとおり、宿屋は安全だ。それも、的芽ともなれば治安もいい。 わざわざ犯罪行為の現場に連れて行く必要はまったくない。 今は拗ねているが、帰ってきてから機嫌をとれば問題ないだろう。 明日も楽しく、好奇心がくすぐられる一日になるのだから、いつまでも拗ねてはいられないはずだ。 最後に弟者が部屋を出て、扉が閉まる。 その音は、静かな部屋に重く響いた。
- 786 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:41:31.01 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「よっ」 高い塀から地面へ着地する。 兄者の隣に弟者が降りるが、彼も音をたてない。 (´<_` )「今回の目標確認」 ( ´_ゝ`)「金品」 ( ^ω^)「ふく」 ('A`)「イジョウ」 (´<_` )「オーケー。じゃあ、進むぞ」 流石兄弟が駆ける。 目的の屋敷はこの町の中で一番大きなものだ。 犬が何匹かいたので、口を縄で縛らせてもらった。 ( ´_ゝ`)「さて、選択肢を提示しよう。 その一、窓を割る。 その二、鍵が開いている場所を探す。 その三、窓を溶かす」 (´<_` )「その四、ピッキングで。 というか、その三はどうやって実行するつもりだったんだ」
- 787 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:44:23.55 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「そりゃ、お前の魔法で」 (´<_` )「ニュー速から離れてるし、火力が足りん」 そう言いつつ、兄者にピッキングの道具を渡す。 玄関の鍵を慣れた手つきで弄る。 ( ^ω^)「どうだお?」 ( ´_ゝ`)「この兄者様に、不可能はない。と、何度言わせれば気がすむ?」 不敵な笑みを浮かべ、ノブを回す。 ('A`)「サスガダナ」 ( ´_ゝ`)b「だろ?」 扉は何の障害もなく、四人を受け入れた。 屋敷の主人から使用人に至るまで眠りについているらしく、中は暗い。
- 791 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:46:16.70 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「ひかり、いるかお?」 (´<_` )「いや、今はいい」 小さな明かりでも、屋敷の者にばれてしまう可能性がある。 バレたところで盗みを止めるつもりはないが、殺人強盗よりは、ただの盗みの方が楽しい。 ('A`)「ジャア、オレノデバンダナ」 ドクオが弟者の前に出る。 (´<_` )「そうだ。頼むぞ」 ('A`)「マカセロ。 ……トハイッテモ、ジュモンヲトナエルノモ、マホウヲツカウノモ、オトジャダケドナ」 (´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず。 光のない屋敷の闇よ、漂う闇よ。 この屋敷を我に伝えよ」 この魔法の不便なところは、膨大な集中力を必要とする他、使用する闇が精霊使いのすぐ近くになければならない点だ。 遠方からでも使うことができれば、あらかじめ探っておくことも可能だろうに。 ( ´_ゝ`)「そんなに範囲を広げて大丈夫か?」 ('A`)「タブン、イマハキコエテナイ」 ( ´_ゝ`)「あー。だろうなー」
- 792 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:48:40.52 ID:EHpwtljV0
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扉の罠を見るのとはわけが違う。 広い屋敷の見取り図や内装が、頭の中に直接叩きこまれていくのだ。 歯も食いしばりたくなる。 ( ´_ゝ`)「……罠はなさそうだな」 辺りに軽く触れて呟く。 何かあったときのことは考えていない。 ( ^ω^)「ふつうのおやしきだからおね」 厳重に隠さなければならない何かがあるわけではない。 無論、金品が盗まれるのは困りものだが、そのための番犬と錠だ。 ('A`)「チョット、ミマワリシテコヨウカ?」 ( ´_ゝ`)「バレるなよ」 ('A`)「マカセロ」 闇の精霊であるドクオは暗闇でも目が利く。 体も小さく、闇に紛れる色合いをしているので、兄者やブーンよりも他者にバレる確率が低い。
- 795 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:50:47.68 ID:EHpwtljV0
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扉が閉まっているところは入れないが、それ以外の場所をぐるりと見て回る。 極普通の上流家庭のようだ。 流石兄弟に目をつけられたのは、不運でしかない。 ('A`)「オワッタ?」 ( ´_ゝ`)「そろそろじゃないかと。 そっちはどうだ?」 ('A`)「トクニナニモ。 スミズミマデ、キレイダッタ」 ( ^ω^)「かせいふさんが、がんばってるんだお」 (´<_`;)「把握しきれたぞ」 ( ´_ゝ`)「お疲れー」 疲れ切ったような声が闇に溶ける。 行き当たりばったりでの行動をしても、兄者は乗り切る自信がある。 弟者もそれができると信じている。 しかし、心配性の弟者が石橋を叩くというのならば、兄者はそれを止めない。 自分は弟に、労わりの言葉をかけるだけでいいと思っている。
- 800 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:52:58.44 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「金目の物は一階の奥。 衣装部屋は二階だ」 ( ´_ゝ`)「手分けするか?」 ( ^ω^)「そのほうが、はやくかえれるお」 ('A`)「マタンキガ、マッテルシナ」 満場一致で可決する。 残る問題は、どのように分かれ、どこに行くかだ。 (´<_` )「ブーンはオレときてくれ。 オレとお前がいれば、明かりを出すことができる。 兄者はドクオの目を頼りに進んでくれ」 ( ´_ゝ`)「把握した」 ( ^ω^)「じゃあ、ぼくとおとじゃは、どこにいくお?」 弟者は少し考える。 (´<_` )「……兄者は金目の物を頼む」 ( ´_ゝ`)「それは構わないが、その間は何だ。その間は」
- 802 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:54:39.82 ID:EHpwtljV0
- (´<_` )「いや……。
兄者はとんでもない服を持ってきそうだな。と……」 ( ´_ゝ`)「オレのセンスに文句をつけるのか」 (´<_` )「そうじゃなくて、面白い服があったら、そっちを優先しそうだ」 ( ´_ゝ`)「……」 ( ^ω^)「ひていできないんだおね」 ('A`)「マチガイナイナ」 ( ´_ゝ`)「さて、素晴らしい宝石でも探そうか」 かくして、チーム編成と目的地が決定した。
- 804 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:56:58.12 ID:EHpwtljV0
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弟者は手短に金目の物が集まっている場所を告げる。 人の気配がない場所ではあったが、扉を二枚ほど抜けなければならない。 音をたてるなど、初歩的なミスを兄者がするとは思えないが、念のために注意しておく。 ( ´_ゝ`)「大丈夫だって。 んじゃ、また後で」 兄者は音もたてずに去って行く。 見えはしないが、おそらくは彼が向かっているであろう方を向いていた弟者は、少しの間を置いてからその場を去る。 向かう先は二階の衣裳部屋だ。 魔法で知ったこの屋敷の見取り図を頼りに歩く。 ( ^ω^)「ひかりはいいのかお?」 (´<_` )「衣裳部屋で少し使うが、それ以外は極力使いたくない」 ドクオのように闇の中でもよく見える目をブーンは持っていない。 下手に飛ぶのも危ないので、弟者の肩の上に乗っている。 静かな屋敷で活動しているのは、自分だけなのではないかと思うほど、そこは静かだった。 一階には兄者がいるのだが、物音は聞こえない。 仮に、屋敷の者の意識が眠りから浮上したところで、まさか盗人が入っているとは思わないだろう。
- 808 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 16:59:13.56 ID:EHpwtljV0
- 無駄に長い廊下は、金持ちの特権だ。
弟者は階段からの歩数を慎重に数える。 (´<_` )「――確か、ここのはずだ」 壁に手をつく。 手を横にずらしていくと、壁とは違う材質に触れる。おそらくは扉だ。 扉の辺りを探れば冷たいノブがあたる。 (´<_` )「光の精霊、ブーンと契約せし我が命ず。 彼が作り出す光よ、闇夜を薄く照らせ。 一筋の光で導け」 いつか出した光の玉とは違い、一筋の光が現れる。 弟者はその光をわずかに開けた扉の隙間に差し込む。 ( ^ω^)「……いしょうべや、だお」 (´<_` )「よし。入るぞ」 間違いでないことを確認すると、光を消して素早く部屋の中に身を入れた。
- 811 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:00:56.26 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「光の精霊、ブーンと契約せし我が命ず。 彼が作り出す光よ、闇夜を薄く照らせ。 闇に呑まれた我らを救え」 再び呪文を唱える。 今度は、光の玉が出現した。ただし、その光は淡く、二歩も離れれば闇が待っている。 ( ^ω^)「なんちゃく、くらい、さがすお?」 (´<_` )「二、三でいいだろ。多くても邪魔になるだけだ」 ( ^ω^)「りょうかいお」 (´<_`;)「あ、待て」 「あー。みえないおー」 (´<_`;)「だと思った。 何で手分けしようとしたんだ」 (;^ω^)「つい……」
- 813 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:02:58.32 ID:EHpwtljV0
- 衣裳部屋には様々な服がかけられている。
装飾の少ないものから、それほどついていては満足に動けないのではないかと疑うようなものまである。 弟者とブーンが狙うのは、前者だ。 さらにいうならば、子供用の服。 ( ^ω^)「このあたりは、おとなよう、だおね」 (´<_` )「子供用はどこかなっと」 この屋敷に子供がいるのはわかっている。 どこかに小さな服があるはずだ。 仕事の早い兄者との待ち合わせもある。 あまり時間をかけているわけにもいかない。 わずかな光を頼りに、服の大きさを見分ける。 数多くあるであろう子供服の中から、二、三着を選ぶ必要もある。 一分一秒の時間が惜しい。
- 816 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:04:41.13 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「あったお!」 (´<_` )「本当だ。 ……中々に多いな」 大人のもの程ではないが、子供服の数も膨大だ。 やはり目が止まるのは煌びやかな装飾品がつけられた服だが、それは今回の趣旨に合わない。 豪勢なその服を押しのけるようにして、弟者は自分がイメージするようなものに近い服を探す。 邪魔な装飾はなく、無駄に金持ち臭くない物。 できることならば、子供らしい色合いがいい。 子供らしく笑い、泣き、怒ることが似合うように。 (´<_` )「まったく……。 どうして金持ちってのは、こうも服が多いのかね」 布の海をさまよっているような感覚に、弟者は毒を吐く。 目の前にある布をすべて燃やすことができれば、どれほどスッキリするだろうか。 (;^ω^)「めがすわってるお……」 危ない雰囲気を感じ取ったブーンは、服探しのスピードを速めた。
- 819 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:06:42.22 ID:EHpwtljV0
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( ^ω^)「お?」 小さなブーンの手が触れた服。 肌触りは他の服と同じく良い。 色は、見えにくいがオレンジだろう。 羽ばたき、どうにか掴んだ服を引きずり出そうとする。 (´<_` )「いいのがあったか?」 必死な顔をしているブーンに気づいた弟者が、あっさりと彼が掴んでいた服を抜き取る。 (´<_` )「……お手柄だ」 弟者が口角を上げる。 彼の手の中にある服は、無駄な装飾がなく、しかし、目を凝らせば質の良い物であることがはっきりとわかるものだった。 サイズもまたんきに合うに違いない。 ( *^ω^)「もういっちゃくも、ぼくがさがすお!」 褒められたことに気を良くしたブーンは、再び布の海へ入り込む。 目指すは、先ほどの服と似た傾向の服だ。
- 821 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:09:13.19 ID:EHpwtljV0
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一方、兄者はドクオの目を頼りに屋敷を歩いていた。 ('A`)「オトジャタチ、ダイジョウブカナ」 ( ´_ゝ`)「何を心配してるんだ。 弟者ほど慎重な耳族はいないぞ」 ('A`)「ソリャソウダケド」 耳族の多くは、その時を生きる。 弟者は生まれたときから、兄者という飛び抜けた無鉄砲が傍にいたから、あれほど慎重な者になったのだろう。 いつかストレスで毛が抜けてしまうのではないだろうか。と、ドクオは密かに心配していたりする。 ( ´_ゝ`)「で、そろそろか?」 ('A`)「ソコカラニホ。トビラガアル」 二歩を慎重に歩き、兄者はノブを回す。 小さなドクオが通れるだけの隙間を開ける。 ('A`)「マッテテナ」 ドクオが扉の内側に入る。 兄者はじっと息を潜めて待機していた。
- 823 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:11:54.39 ID:EHpwtljV0
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('A`)「ウン」 素早く移動する。 広い廊下なので、物にぶつかる心配があまりない。 静かに進んでいると、前方から音がした。 ( ´_ゝ`)「ドクオ、上だ」 小声で指示すると、兄者は跳躍した。 自らの羽で天井近くまで昇ったドクオの隣に、兄者は身を置く。 天井にナイフを突き立て、重力に逆らったのだ。 頭に血が上るが、それを気にしていては盗賊は務まらない。 しばらくじっとする。 緊張感が体中を支配し、兄者は思わずニヤける。 再び、扉が開く音と閉まる音がして、兄者は天井からナイフを抜いた。 ( ´_ゝ`)「さぁ、進もう」 どうやら、音の主は用を足しに行っただけのようだった。 またしばらくは眠りについているだろう。
- 824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:14:24.31 ID:EHpwtljV0
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('A`)「ココ」 ( ´_ゝ`)「よーし。鍵は……ないな」 兄者はノブを回し、部屋の中に身を滑り込ませる。 ( ´_ゝ`)「闇に目が慣れてきたとはいえ、近づかないと見えん。 ドクオ、適当に見繕ってくれ」 そう言って、空の袋を手渡した。 ('A`)「ハアクシタ」 金の匂いに鼻をひくつかせながら、兄者は辺りを物色する。 手に触れる金属に顔を近づければ、それがどのような物なのかわかった。 金であったり、宝石であったり。 ここにあるものは、装飾品の類のようだ。 ついでに金庫でもないものかと、また手をさまよわせる。
- 826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:16:45.35 ID:EHpwtljV0
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('A`)「イレタゾ」 手渡された袋にルビーやサファイア、ダイアモンドをあしらえた装飾品をたっぷり詰め込んだ。 ドクオに誘導されて兄者が袋に触れる。 ( ´_ゝ`)「良い物ばかりだ。 お前も目が肥えてきたな」 ('A`)「イッショニ、シゴトヲシテレバナ」 当然だと言いたげに、しかし胸を張って答える。 兄者は闇の中でどうにか確認した装飾品を袋に戻す。 それを腰のベルトにつけ、ドクオを招く。 ('A`)「ドウシタ?」 ( ´_ゝ`)「金庫」 兄者は楽しげに笑い、壁に隠されていた黒い箱を撫でる。 中身は開けてからのお楽しみ。しかし、ハズレはない。
- 829 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:19:05.38 ID:EHpwtljV0
- 本来の目的は金ではない。しかし、貰える物は貰っておきたい。
兄者はダイアル式の鍵に手を伸ばす。 ('A`)「ジカンガ、アマリナイゾ」 ( ´_ゝ`)「兄者様を信じろ」 金庫に耳をあて、集中力を高める。 弟者もそうだが、兄者も集中すると周りの音を遮断する傾向にある。 こうなってしまっては止められない。 ('A`)「アトデ、オコラレテモ、シラナイゾ」 ドクオはため息をつきながら、近くの机に腰を下ろした。 静かな空間は闇に支配されている。 ドクオの目が暗さに弱ければ、今頃一人っきりの気分を味わうところだっただろう。 わずかな音も聞き逃さないためか、今の兄者は呼吸の音さえ潜めている。 待っているドクオの耳には何も聞こえないが、兄者には金庫の鍵が少しずつ開いている音が聞こえているのだ。
- 833 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:21:18.46 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「――開いた」 楽しげな声だ。 ドクオは机から離れ、金庫の中身を覗く。 ( ´_ゝ`)「現金か。 契約書もあるが……こっちはいいや」 現金だけを掴み、装飾品が入っている袋とは別の袋に詰める。 金に対する敬意など微塵もない乱暴な手つきだ。 ('A`)「モドロウ」 ( ´_ゝ`)「そうだな。 あまりにも遅いと、弟者の説教が長くなる」 ('A`)「セッキョウヲ、ウケルコトガ、ゼンテイカ」 無駄な時間を使った自覚はあるのだろう。 反省はしていないようだが、その辺りのことは弟者に任せるべきだろうとドクオは判断した。
- 834 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:22:59.34 ID:EHpwtljV0
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別れた場所に兄者が戻ると、そこには既に弟者とブーンがいた。 彼らを始めに見つけたのはやはりドクオだった。 ('A`)「オソカッタカ?」 (´<_` )「ちょっとな。 どうせ、兄者が余計なことをしたんだろ。すまんなドクオ」 弟者にはお見通しのようだ。 ドクオの後を追ってきていた兄者は肩をすくめる。 ( ´_ゝ`)「余計なことじゃないぞ。現金だ」 (´<_` )「詳しい言い訳と説教は帰ってからにしてやろう」 説教をすることは確定したらしい。 兄者はうなだれ、四人はドクオを先頭に屋敷を出た。 庭にいた犬の口はそのままに、来たときと同じく塀を越えて外へ出る。
- 837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:25:13.53 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「時間をかけたんだ。上手くいったんだろうな?」 ( ´_ゝ`)「あったりまえ! 装飾品と現金。金庫は閉じてもう一度隠したから、いつ気づくかはわからんが、 これだけ盗めば、服の二着や三着、気にもならないだろうよ」 宿屋への道を歩きながら二人は言葉を交わす。 もう真夜中なので、誰も町を歩いていない。 的芽にある町の多くは、夜になれば人っ子一人いなくなる傾向にあった。 彼らはそれを知っているからこそ、盗みの話を気兼ねなくする。 また、弟者は盗んだ服を平然と手にしたまま歩いている。 (´<_` )「なら、誰かがこの服を着ていても、気にならんだろうな」 ( ´_ゝ`)「そうさ。誰も服なんて見ていない」 ('A`)「マタンキ、ヨロコブカナ」 ( ^ω^)「あした、またんきがおきるのが、たのしみだお」 子供は寝る時間だ。 近頃は規則正しい生活をしているまたんきは、今頃眠りの底だろう。 ブーンは明日に心をときめかせる。
- 838 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:27:46.10 ID:EHpwtljV0
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宿屋に戻った四人は、静かに己達の部屋へ向かう。 誰かに見つかれば、こんな時間に何処へ行っていたのかを問い詰められてしまう。 手や腰にある盗品を見られれば、言い逃れはできない。 屋敷に入ったときと同じくらいの緊張感を持って歩く。 幸い、ボロい建物ではないので、足音はたたない。 ( ´_ゝ`)「静かにな」 兄者が人差し指を口に当てる。 眠っているであろうまたんきに対する配慮だ。 ('A`)「ナンカ、ヤシキニイルトキヨリ、キヲツカッテルナ」 屋敷の者など、起きたところで口を封じてしまえばお終いなところがある。 けれど、またんきの場合はそうするわけにはいかない。 穏やかな眠りを妨げるなどもってのほかだ。 仲間には甘いところがある兄者だが、それにしてもまたんきには甘い。 やはり子供であるというところが大きいのだろうか。 弟者は苦笑いを浮かべながら、そっと扉を開けた。
- 842 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:32:13.86 ID:EHpwtljV0
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(´<_`;)「うおっ?!」 弟者が後ろによろける。 ( ´_ゝ`)「どうした――。 またんき?」 兄者が首を傾げる。 よろけた弟者の腰には、またんきがしがみついている。 どうやら寝ていなかったようだ。 ( ^ω^)「どうしたんだお? なにかあったのかお?」 ('A`)「コワイユメデモ、ミタノカ?」 口々に疑問を投げかける。 しかし、またんきは弟者の腹に顔を埋めたまま首を横に振るばかりだ。 (´<_`;)「ひとまず、部屋に入ろう。な? お前に土産もあるんだ」 またんきの肩を掴み、そう言うと、彼は渋々弟者から離れた。 泣いているのではないかと思っていたのだが、離れた顔はいつも通りだった。
- 846 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:34:08.00 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「それで、どうしたんだ?」 (・∀ ・)「……」 部屋の扉を閉めて問いかける。 またんきは黙したままだ。 機嫌が悪いようには感じられない。 ('A`)「ホレ、オマエノ、フク、ダゾ」 ドクオが盗ってきた服を少しだけ持ち上げる。 流れるような布は美しい。 (・∀ ・)「……」 けれど、またんきは何も話さない。 笑みを崩さずに沈黙を保っている。 彼一人で部屋の空気が重くなることはないが、ブーンなどはいたたまれない気持ちになってしまう。 ( ´_ゝ`)「言わないとわからんぞ。 早く言え。じゃないと、オレは寝るぞ」 (;^ω^)「あにじゃ……」 (´<_`;)「流石だな……」 甘いとはいえ、兄者は兄者だった。
- 848 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:36:45.78 ID:EHpwtljV0
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(・∀ ・)「……おれ、きめたぞ」 ( ´_ゝ`)「何をだ?」 ようやく口を開いたまたんきは、鋭い目を兄者に向けた。 (・∀ ・)「おれもとうぞくになる。 まほうも使えて、ぬすみだってりっぱにできる。 そんなとうぞくになるぞ!」 置いていかれたのがよっぽど悔しかったらしい。 またんきはハッキリと意見を主張した。 兄者は元々またんきを盗賊にするつもりでいた。 彼が強く他を望むのならばともかく、そうでない限りは共にいるのだ。 同じ仕事をするのが自然というものだろう。 ( ´_ゝ`)「またんき」 (・∀ ・)「何だ」 しかし、こうもハッキリと主張されれば、喜びも生まれる。 結びつきが強くなっていることが、目に見えてわかる。
- 850 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:39:04.50 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「置いていかれたのが、そんなに嫌だったのか」 (・∀ ・)「おう」 ( ´_ゝ`)「そうか。わかった」 兄者は盗んだ装飾品と、現金をベッドの上にバラ撒く。 暗闇ではわかりにくかったが、盗んできた品はどれもまばゆい輝きを持っていた。 ( ´_ゝ`)「国を回り終わるまで、これで過ごそう!」 その言葉に弟者が驚く。 金は使うもので、消え去るものとしている兄者が、しばらく金を持つというのだ。 ( ´_ゝ`)「お前と一緒に盗みに行く。 それまでは金に困ってもスリしかしない」 (・∀ ・)「いかないのか……?」 ( ´_ゝ`)「あぁ! 旅すがら盗みの方法や体作りを教えてやる。 そんで、ニュー速でデビューだ! それまで、盗みには入らない」 (*・∀ ・)「うそじゃないだろうな!」 またんきが笑う。 楽しそうに、嬉しそうに。 心の底から。
- 851 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:41:51.60 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「――あ」 子供みたいだ。 そう思って、すぐに考えを打ち消す。 またんきは子供だ。 ( *´_ゝ`)「またんき!」 (;・∀ ・)「うわ!」 兄者がまたんきを抱き上げる。 ( *´_ゝ`)「笑ったな? 心から、笑ったな?」 (;・∀ ・)「しらないぞー」 ( *´_ゝ`)「いーや。オレは見た。 弟者も見ただろ?」 (´<_` )「見たぞ。アレは、笑顔だった」 ( ^ω^)「わらってたお」 ('A`)「ハジメテミタ」
- 854 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:43:56.93 ID:EHpwtljV0
- 作り物の笑顔ではない。
本当に嬉しいから、自分が笑いたいから笑った顔だ。 ( *´_ゝ`)「よしよし。一歩前進だな! なら、今日は前進を祝して一緒に寝るぞ!」 (;・∀ ・)「まえ、いっしょにねるって、いわないっていってたくせに!」 ( *´_ゝ`)「知らん。知らん。 ほら、弟者もドクオもブーンも寝るぞ。 明日は新しい服を着て、オムライス城に行くんだからな!」 またんきを抱えたまま、兄者は何も乗っていないベッドにもぐりこむ。 (´<_`;)「オレはともかく、こんな密着した状態だと、 ドクオとブーンは潰れるぞ」 弟者もベッドに入る。 いつも通り、またんきを挟みこむ形だ。 (;^ω^)「つぶされるのはこまるお」 ('A`)「チカクデネルワ……」
- 855 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:45:05.16 ID:EHpwtljV0
- (・∀ ・)「……あにじゃ」
( ´_ゝ`)「ん?」 ベッドの中で、またんきが小さな声を出す。 (・∀ ・)「さっきいってたの、ほんとうか?」 ( ´_ゝ`)「盗みに入らないのも、技術を教えてやるのも、本当だ」 (*・∀ ・)「そっか」 (´<_` )「二人とも、さっさと寝ろよー」 ( ´_ゝ`)「はーい。弟者せんせー」 (・∀ ・)「ねるぞー」 (-∀ -) 笑えたことが嬉しかった。 笑顔を他の皆が喜んでくれたことが嬉しかった。 【後編】へ続く
- 857 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/18(日) 17:46:20.41 ID:EHpwtljV0
- 眠気の限界と時間の限界を悟った
金曜日の夜からか土曜日の朝辺りから後編投下します ちなみに、ここまでで半分を少し過ぎたくらいかと
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