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( ^ω^)だから、ブーンは追いかけたようです |
前スレ
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:22:12.64 ID:m5EJzKXK0
- 前スレ
ツンが逃げてしまったようですξ゚⊿゚)ξ ttp://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1304860903/ こわくないよー よっといでー
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:25:29.24 ID:m5EJzKXK0
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あの人に近付きたかった。 少しだけでも、近付きたかった。 追いつけなくてもいいから。 距離が縮まるだけでよかった。 置いて行かれない様に。 僕は、遠ざかる背中を追い掛けた。 でも、その背中はいつも先に行ってしまう。 止まっても、休んでもくれない。 あの人はずっと先にいて。 あの人は時々振り返るだけで。 あの人は絶対に歩く事を止めなくて。 僕は、追うしかなかった。 あの背中を、ずっと見ていたかった。 見続ける為には、追い続けるしかなかった。 追い続けないと、見失ってしまうから。 見失ったら、僕は、捨てられてしまうから。 あの人にだけは。 あの人にだけは、捨てられたくなかった。 あの人にだけは、見捨てられたくなかった。 僕に優しさを教えてくれた、あの人にだけは。 あの人が僕を捨てないでくれるなら。 僕の人生は、それだけで意味がある。 だから。 だから、僕は―――
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:33:50.76 ID:m5EJzKXK0
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( ^ω^)だから、ブーンは追いかけたようです
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:36:32.20 ID:m5EJzKXK0
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僕が最初におねーちゃん、つまり、ツンおねーちゃんを見たと覚えているのは、二歳の時だ。 僕が二歳だから、ツンおねーちゃんは五歳ぐらいと云う事になる。 ツンおねーちゃんはとってもかわいかった。 見ていて、とっても落ち着いた。 僕が何かを喋ると、ツンおねーちゃんは呆れた様な眼で僕を見た。 何がいけなかったんだろうと、当時の僕は思っていた。 嫌われたくなかったから、僕はツンおねーちゃんと一緒にいた。 もっと、ツンおねーちゃんと仲良くなりたかったからだ。 僕が遊ぼうって言うと、ツンおねーちゃんは何も言わずにいつも遊んでくれた。 嫌そうな顔をしていたけど、でも、拒絶しなかった。 僕を虐めもしなかった。 おねーちゃんは、本当に優しいと僕は思った。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:38:35.10 ID:m5EJzKXK0
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近くにいると、僕は安心できた。 何でもできるし、何でも知っているおねーちゃんは、僕にとって全知全能の存在だった。 今になって思うのは、当時の僕は甘え過ぎていた気がする。 どれだけ甘えても、おねーちゃんは受け止めてくれたから。 僕はかくれんぼとか、特に鬼ごっこが好きだった。 ツンおねーちゃんが鬼になった時が、僕の楽しみだった。 僕を追い掛けてくれるから、僕は全力で逃げた。 全力で逃げると、おねーちゃんは全力で追い駆け、そして捕まえた。 僕は鬼も好きだった。 鬼の時、皆と遊んでいると実感できた。 一番足の速いジョルにいを捕まえる事は出来たけど、でも。 僕は、一回もおねーちゃんを捕まえる事が出来なかった。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:41:13.99 ID:m5EJzKXK0
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かくれんぼの時、僕はおねーちゃんと一緒に隠れた。 何度か怒られたけど、でも、僕は懲りなかった。 僕が原因で見つかった時、後が怖かった。 〝うめぼし〟をされた。 ξ#゚⊿゚)ξ「あんたの、あんたのせいで!」 おねーちゃんは、怒ると怖かった。 でも、僕が悪い事は分かっていたから、文句は言わなかった。 うめぼしをされた後、おねーちゃんはお風呂で僕に優しくしてくれた。 だから、僕はおねーちゃんが怒る事をわざとした時があった。 僕が一人で勝手に困った時、助けてくれたのはツンおねーちゃんだった。 特に、木に登って降りられなくなったのが一番多い原因だった。 高い場所にいると、おねーちゃんがどこにいるのか直ぐに分かるし、心配してくれたから止めるのは難しかった。 止めたのは、ツンおねーちゃんが僕よりもずっと高い場所に登れた事が分かったからである。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:44:03.69 ID:m5EJzKXK0
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僕に常識を教えてくれたのはおとーさんとおかーさん、そしてツンおねーちゃんだった。 逆に、非常識な事とか危ない事を教えてくれたのは、ツンおねーちゃんの友達だった。 ジョルにいは、その中でも一番沢山僕に教えてくれた。 最初にジョルにいと話した時、僕は正直に言って、怖かった。 顔が怖かった。 声が怖かった。 行動が怖かった。 兎に角、全部が怖かった。 だけど、話しているとそれが間違いだって分かった。 理由は知らないけど、僕に優しくしてくれた。 鬼ごっこで僕に合わせてルールを変えてくれたのもジョルにいだったし、速く走る方法を教えてくれたのもジョルにいだった。 今でも、僕は感謝している。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:47:46.98 ID:m5EJzKXK0
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最初に僕が教わった悪い事は、〝くっつきむし〟を人の服に付けることだった。 通行人や遊んでいた友達に、僕は馬鹿みたいに投げてくっつけた。 つんおねーちゃんに大量に付けたら、お尻を何度も叩かれた。 もう二度としないと心に決めた。 何が危ないかと云う事も教わった。 最初は、虫だった。 ハチやムカデの恐ろしさを教わり、次に戦い方を教わった。 靴で戦う術を実戦で試し、僕はハチを一匹殺した。 後でツンおねーちゃんのゲンコツで学んだ事だけど、そのハチはかなり危険な種類だったらしい。 オオスズメバチだった。 変な話だけど、僕はツンおねーちゃんの折檻を通じて、悪い事や危険な事を学んだ。 ハチよりも、おねーちゃんの方が怖かった。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:50:20.41 ID:m5EJzKXK0
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遊び終わった後は、デレおかーさんのご飯を食べるのが習慣になっていた。 理由は未だに不明だが、帰って来た時と同時に、おかーさんの料理は完成した。 出来たての料理が、いつも僕達を温かく迎えてくれた。 デレおかーさんの料理は、どれも美味しかったけど、僕はカレーが一番好きだった。 ご飯は水気が少なくて、カレールーと合わさって、味がよく混ざり合っていた。 辛すぎず、甘すぎず。 適度な領域でその味がコントロールされていて、絶妙な、表現しがたい味だった。 野菜には火が通っているけれど、しっかりとした食感を保っていた。 ゴロリ、と入っている大きな肉は、牛の時もあれば羊の時もあった。 牛の時は、その肉が持つ旨味を味わった。 羊の時が、一番僕を混乱させた。 牛と羊の肉は、全く異なる。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:54:07.35 ID:m5EJzKXK0
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食感は勿論だ。 しかし、一番の違いは何と言っても匂いだった。 羊は匂いが強く、カレーの匂いにまで影響を及ぼした。 独特の匂いを残したままでも、デレおかーさんのカレーは絶品だった。 味の秘密を聞いた事があったけど、デレおかーさんは笑ってこう言った。 ζ(゚ー゚*ζ「愛情よ♪」 初めてその言葉を聞いた時、僕は感動した。 愛情とは、魔法の様だと思った。 その事をツンおねーちゃんに言うと、不思議な事に、次の日もカレーだった。 前の日と比べると味は劣るけど美味しくて、そして、デレおかーさんの料理に似た味がした。 ご飯の時、よくおねーちゃんが僕のほっぺたについたご飯を取って食べてくれた。 おねーちゃんは、おかーさんによく似ている。 髪の色も、眼の色も。 性格は違うけど、それ以外は本当にそっくりの綺麗な人達だった。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 21:57:32.08 ID:m5EJzKXK0
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でぃおとーさんは、今でも僕の中で一番不思議な人だ。 顔中と言わず、体中も傷だらけのおとーさんは、今までの人生で見た中で、一番無口だった。 多くを語らず、でも、態度や行動が雄弁だった。 この後続く人生の中で、僕が最も尊敬する人でもあった。 仕事の内容は知らなかったけど、いっつも家族の為に働いているのは分かった。 夕食までには家に帰っていて、疲れた顔一つ見せなかったけど、きっと。 本当は、大変だったのかもしれないと、重ねて僕は今思う。 おかーさんとおとーさんの性格を上手く混ぜたのが、きっと、ツンおねーちゃんなんだって、僕は今でも信じている。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:00:09.34 ID:m5EJzKXK0
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ご飯の後、僕はおねーちゃんに遊んでもらった。 面倒くさそうだったけど、おねーちゃんはちゃんと遊んでくれた。 僕が喜ぶ度、おねーちゃんは笑ってくれた。 ツンおねーちゃんが笑うと、僕は、またツンおねーちゃんを喜ばせたいと思う様になった。 ブロックで巨大なお城を作った時は、凄く感動した。 絵本の中や写真で見たような、立派なお城をブロックで作ったおねーちゃんを僕は尊敬のまなざしで見た。 機嫌がいいと、本も読んでくれた。 難しくてよく分からなくても、おねーちゃんが読んでくれているだけで、十分だった。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:03:32.75 ID:m5EJzKXK0
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小学校中学年まで続いた事だけど、ご飯の後、僕はツンおねーちゃんと一緒にお風呂に入っていた。 小さい頃の僕は、熱いお風呂が嫌いだった。 体の洗いっこが終わってからお風呂に入って、僕は三分ぐらいでもう十分だと思った。 そう思ってお風呂から上がろうとすると、ツンおねーちゃんが両手両足で僕を後ろから捕まえた。 逃げたかったけど、しっかりと体を固定されてたから、逃げられなかった。 許しを請うと、おねーちゃんは嬉しそうな顔をしていた。 許してはくれなかった。 おかげで、今では熱いお風呂にすっかり慣れている。 一日の中で、僕はその時が一番好きだった。 すごく近くにおねーちゃんがいてくれるから。 恥ずかしかったけど、でも、嬉しかった。 小さい頃から僕は色々とあれだった。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:06:05.67 ID:m5EJzKXK0
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思い出すたびに、口からヨガフレイムを出すぐらい恥ずかしい奴だった。 年齢を言い訳にすればなんちゃ無いけど。 今でも身悶える時があるのは秘密だ。 おねーちゃんも覚えてるかもしれないけど、きっと、何とも思ってないだろうな。 時々、僕は寝ぼけておねーちゃんの布団に潜り込む事があった。 体が自然とおねーちゃんを探しているようで、何か得体の知れないセンサーが僕にはあると、おかーさんは笑っていた。 一度もおねーちゃんは僕を部屋から追い出さなくて、朝起きると、おねーちゃんが僕をぬいぐるみみたいに抱いていてくれた。 でも、僕の腰を両足でガッチリと固定していたせいで、僕はおねーちゃんが起きないと僕も起きれなかった。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:09:13.42 ID:m5EJzKXK0
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確かその習慣は、中学生になるまで続いていた様な気もする。 誰かに知られたら、僕は変態の烙印を押される。 だから僕は誰にも喋らなかった。 僕とおねーちゃんだけの秘密だった。 僕の事をおねーちゃんが名前で呼んでくれるようになったのは、小学校に僕が入学した時だった。 登校班が同じだし、それに、学校でも一緒にいられると分かったから、僕は大いにはしゃいだ。 新しい生活よりも、おねーちゃんがいる方が重要だった。 あまりにもはしゃぎ過ぎて、ベタベタとひっついた。 迷惑そうな眼で見られたけど、でも、やっぱりおねーちゃんは僕を拒まなかった。 その優しさに甘えて、僕は登下校中はおねーちゃんと一緒にいた。 別に僕はその時友達がいなかったとか、虐められていたとかいった事は無かった。 そうそう、友達だ。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:12:15.84 ID:m5EJzKXK0
- 友達と言えば、僕と幼稚園のころから一緒のドクオがいる。
一年生の時、僕はドクオと同じクラスになった。 幼稚園の頃は何度もドクオの家に行って遊んだ事があったけど、暫くの間はあの家が苦手だった。 いや、家と云うよりかは、ドクオの家族が苦手だった。 僕の知っている限り、あんなに個性的な家族は他に居ない。 まずは、ドクオのお父さん。 ( ФωФ)「おう、小童、また来たか」 ドクオのお父さんは凄くおっかなかった。 絶対に人を殺した事がある様な眼をしていた。 初めて見た時に失禁しなかったのは、今でも驚きである。 言葉遣いは乱暴だったけど、僕達に優しかった。 ( ФωФ)「どうだ、ブーン。 煎餅でも食うか?」 ('A`)「とーちゃん、それ俺の煎餅……」
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:15:13.16 ID:m5EJzKXK0
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僕が行く度、何時もお菓子をくれた記憶がある。 煎餅とか、飴とか、ラムネとか。 いい人だった。 イ从゚ ー゚ノi、「おや、ブーンか。 どうじゃ、ジュースでも飲むか?」 ('A`)「かーちゃん、それ俺のコーラ……」 ドクオのお母さんは、ビックリするぐらい綺麗な人だった。 デレおかーさんと同じぐらい綺麗だった。 いい人だった。 リi、゚ー ゚イ`!「ドクオー、ここにあったクッキー知らねーか?」 ドクオのお姉ちゃんは、僕達よりもずーっと。 ツンおねーちゃんよりも年上だった。 確か、あの当時は、高校生だった気がする。 从´ヮ`从ト「あー、それ私が食べちゃった」 もう一人のお姉ちゃんはのんびりしていて、この人も、高校生だったはずだ。 リi、゚ー ゚イ`!「おい、あれはあたしの楽しみだったんだぞ!」
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:18:12.85 ID:m5EJzKXK0
- ('A`)「あれ、俺のクッキー……」
从´ヮ`从ト「ありゃりゃ」 リi、゚ー ゚イ`!「まぁ、無くなっちまったもんは仕方ねーな」 ('A`)「クッキー……」 从´ヮ`从ト「あーもー。 明日新しいの買ってきてあげるから、そんな顔しないでよー」 ツンおねーちゃんとは違って、二人ともドクオの事を積極的に虐めていた。 でも、それは動物が愛情の印として甘噛むような物だと、僕は何となく感じていた。 嫌いだったらそんな事をしないし、ドクオの反応を見て、あんなに優しい笑みを浮かべる筈がないから。 いいお姉ちゃん達だった。 ドクオの家で遊ばないときは、ジョルにい達と一緒に、公園で皆で遊んだ。 面倒見がいいジョルにいはドクオにも、僕と同じように接してくれた。 勿論、僕はおねーちゃんも呼んだ。 そうすると、おねーちゃんの友達も来て遊んでくれた。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:21:25.70 ID:m5EJzKXK0
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同年代は、二人だけしかいなかったけど、楽しかった。 皆優しかった。 あと、どうやって年上の人達に勝つのかを考えるのが面白かった。 負ける時の方が多かったけど、勝つ時もあった。 ドッヂボールは、性別や年齢に関係なく人気があった。 休日の一日中ドッヂボールをやって過ごした事もあった。 ジョルにいの呼びかけで、沢山の年上の人達が集まって、大会見たいな事をやったんだ。 あれは面白かった。 僕とドクオは別々のチームになって、最後の試合で戦った。 どの様な背景があったかは知らないけど、僕はツンおねーちゃんと同じチームだった。 僕はおねーちゃんの前で格好いい所を見せたくて、張り切った。 球が飛んできて、それを掴もうとして。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:24:03.03 ID:m5EJzKXK0
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顔で受け止めてしまった。 僕は泣かなかった。 痛かったよ、そりゃあね。 でも、泣いたらおねーちゃんが心配すると思ったし、格好悪いと思ったんだ。 僕は格好いい姿を見せる前に、ジョルにいの投げた球でアウトになった。 最後に一人コートに残ったツンおねーちゃんが格好良かった事を、僕は今も鮮明に覚えている。 あれは本当に格好良かった。 人数は6対1。 怯えもしないし、喚きもしない。 ジョルにいが挑発しても、おねーちゃんはそれを鼻で笑った。 気高く、悠然と身構えた。 ドッヂボールの基本の構え。 風が吹いた。 そう、一陣の風が吹き、ツンおねーちゃんの金髪が風に靡いて、皆の声が聞こえなくなった。 僕の持つ眼は空と同じ色をしたおねーちゃんの瞳を見ていた。 耳は、おねーちゃんの息遣いだけを聞いていたのだ。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:27:20.67 ID:m5EJzKXK0
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助走を付け、勢いのある球をジョルにいが投じた。 真っ直ぐな、ミサイルの様な球を、おねーちゃんはしっかりと両手で抱く様にして受け止めた。 次は、おねーちゃんが狩りをする番だった。 音も無く地面を滑る様な一投。 低い位置の球は取りにくいのは、ドッヂボールの常識である。 取ることも可能だが、アウトになる確率は非常に高い。 故に、その球を回避するのが最も賢い行動と言える。 ジョルにい達のコートに残っていた6人の内、全員がそれを理解していた。 一人、理解していながらも果敢にも挑んだ男がいた。 ドクオである。 日頃、あのお姉ちゃん達にいじられていると云う強みから、ドクオは臆さずに球を掴もうとした。 球はドクオの腕の中に、確かに入った。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:30:05.88 ID:m5EJzKXK0
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次の瞬間、ドクオの腕の中から球が零れ落ち、おねーちゃんの元に戻った。 高威力、高い回転が掛かっていた事に加え、長期戦によってドクオの掌が汗ばんでいた事が災いしたのだ。 5対1の状況に変わり、おねーちゃんは構えた。 最後まで生き延びたドクオの実力を皆が認めていただけに、おねーちゃんの投げる球の恐ろしさは、皆が分かっていた。 球の威力が下がり、そして軌道が読みやすいように全員が後ろに下がる。 最前線はジョルにいで、リーダーらしい姿だった。 そして、ツンおねーちゃんは球を投げた。 球は外野の人の手に渡り、ドッヂボールで最も好ましくない展開に発展した。
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:33:20.25 ID:m5EJzKXK0
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外野の連携力を生かした攻撃は、猛者と呼ぶに値する人を一人、また一人と脱落させた。 疲弊しきっていた皆にとって、外野の攻撃は脅威としか云えず、挑む者は皆無だった。 あのジョルにいも、回避に徹していた。 それぐらい、外野の攻撃は激しかった。 しかし、人数が減ると球の軌道が限られてくる。 狙う数が減る事によって、誰が狙われているかが分かるからである。 遂に、対象は一人だけ、ジョルにいだけとなった。 リーダーによる、1対1。 皆は、その二人の対決が見たかった。 僕も見たかった。 外野の人が気を利かせて、おねーちゃんに球をパスした。 その慢心を、ジョルにいは見逃さなかった。 甘めに高く投げられた球を、見事な跳躍で掴み、球を我が物とした。 でもやっぱり、直ぐに攻めようとはしなかった。 コートの中央に戻って、おねーちゃんと対峙した。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:36:19.26 ID:m5EJzKXK0
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_ ( ゚∀゚)「勝負だ!」 ξ゚⊿゚)ξ「さっさと来なさいよ」 ジョルにいの手から、球が消えた。 違う。 あれは、ジョルにいの必殺技。 一撃必殺の、ジャンピング・ブロウクンマグナム! 球をやや斜め前に高く放り、自分は加速してその球に飛び掛かる。 空中で掴んだ球を、滞空中に投げると云う荒技だ。 一体どのような利点があるかは今でも不明だけど、派手な上に確かに、あれを受け止めようとした人は皆アウトになった。 上空から、斜めに投げられた球は、ごぅ、と音を立ててツンおねーちゃんに迫った。 ジョルにいが着地する。 球が迫る。 一撃必殺の球が迫る。 ツンおねーちゃんは、ひょい、とその球を避けた。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:39:46.11 ID:m5EJzKXK0
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避けてしまえば何てことない。 当たり前の話である。 球はおねーちゃんの後ろ、外野の人達の頭上を越え、壁に直撃した。 背の高いコンクリート製の壁に当たった球は、ノーバウンドでジョルにいの元に戻った。 壁には球の痕がクッキリと残り、あれに当たったらと思うと、ぞっとした。 _ (;゚∀゚)「避けるのかよ!」 そりゃあ、止めて欲しい気持ちは分かる。 よく分かる。 男の子だったら、分かる筈だ。 でも、おねーちゃんは女の子だから関係ない。 ξ゚⊿゚)ξ「避けるわよ」 _ ( ゚∀゚)「今度は避けさせねぇ!」 もう一回、ジョルにいは必殺技を解き放った。 今度は別の必殺技。 本人曰く全部で48ある中でも、これは飛びきりの技だとか。 ちなみに、僕は全部を見た事がない。
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:42:10.24 ID:m5EJzKXK0
- 球をドリブルさせ、そして、一際強く叩きつける。
球は大きく跳ね、センターラインのギリギリに落下する。 落下する前に、ジョルにいはすでに走り出していた。 今度は飛ぶのではなく、加速させた状態のまま、ギリギリまで相手に近付いて投げる高度な技。 ジョルジュ・ファイナルアタック! 文字通り一歩間違えれば、ラインアウトになり兼ねないと云う危険を持つ、正に諸刃の剣。 しかし、初速、そして距離共に限界ギリギリまで高めただけあって、回避するのは難しかった。 球の速さに、避ける方向を考える前にアウトになってしまうのだ。 球が手を離れると同時に、ジョルにいは叫んだ。 勝利を確信した雄叫びであった。 _ ( ゚∀゚)「俺の勝ちだぁぁぁぁ!!」 ドン、と云う音がした。 まさか。 そう、そのまさか。 ξ゚⊿゚)ξ「あんたの負けよ!!」
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:45:13.45 ID:m5EJzKXK0
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止めた。 止めて、いた。 基本を守り、そして、止めたのだ。 どれだけ速い球でも、しっかりと受け止め、抱きとめれば不可能はない。 勝利の雄叫びは瞬く間に敗北の悲鳴へと変わった。 バランスが崩れ尻もちをついていたジョルにいに対して、おねーちゃんは容赦なかった。 動けないジョルにいの急所に球が当たり、ジョルにいの声にならない絶叫と共に試合は終了した。 ジョルにいの必殺技は、おねーちゃんを倒せなかった。 一番格好良かったのは、やっぱり、おねーちゃんだった。 負けない、逃げない、諦めない。 凄くて、綺麗で、格好いいんだ。 僕は、そんなおねーちゃんが大好きだったし、誇りに思っていた。 おねーちゃんの背中を追っていれば、僕もおねーちゃんみたいになれるかもしれない。 憧れていたんだ。 あの綺麗な人に。 あの、優しい人に。
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:48:18.20 ID:m5EJzKXK0
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僕は背中を追ったまま、三年生になった。 この時期、どうしてか分からなかったけど、ツンおねーちゃんの態度が微妙に変わっていた。 少し距離があるって言うか、何て言ったらいいんだろう。 今までと違った。 おねーちゃんじゃなくて、お姉ちゃんみたいになった、って云うのかな。 いきなりスイッチが切り替わった感じがして、ちょっと怖かった。 怖かったけど、おねーちゃんはおねーちゃんだから。 おねーちゃんに違いはない。 でも、僕も少しは大人になるぞ、って思って。 まずやったのは、おねーちゃんの真似だった。 テレビもおねーちゃんと同じのを見て。 ご飯も同じ様に食べた。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:52:07.71 ID:m5EJzKXK0
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ホラー映画をおねーちゃんが見ていた時は、本当に怖かった。 自分の力を過信していた訳じゃないけど、僕は自分の無力さを痛感した。 井戸の中から変なのが出て来て、僕の我慢は限界だった。 泣き叫んで、僕は反射的におねーちゃんにしがみ付いていた。 おねーちゃんに触れていると、怖い気持ちが薄らいだ。 背中をぽんぽんと叩いてくれて、僕を落ち着かせてくれた。 チャンネルは変えてくれなかった。 やっぱり、おねーちゃんは凄かった。 映画が終わって、僕は自分の部屋に行って布団を被って寝ようとした。 寝れなかった。 無理だ、無理。 眼を閉じても開けていても暗いから、何か、その暗い所にいる様な気がした。 怖かった。 ぶるぶると震えて、僕は今度こそは迷惑をかけないぞと思ったけど。 駄目だった。 僕は弱かった。
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:55:15.53 ID:m5EJzKXK0
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おねーちゃんの部屋に行って、僕は事情を説明した。 すんごい呆れてた顔をしていた。 呆れるだろうな。 こんなに弱虫な僕、嫌いになっちゃうのかな。 おねーちゃんは、僕が泣かない事を条件に一緒に寝てくれると言った。 嬉しかった。 でも、怖さで流れた涙はなかなか止まらなかった。 そしたら、見かねたおねーちゃんが涙を拭ってくれた。 嬉しさのあまり、涙は止まった。 それだけじゃなくて、おねーちゃんは手を繋いで布団まで連れて行ってくれた。 僕はその手を握ったままだった。 布団からは、おねーちゃんの甘い匂いがした。 究極的に安心した僕は、そこで記憶が途絶えた。 一瞬で眠ってしまったのだ。 翌朝。 やっぱり、僕はぬいぐるみの様に抱きしめられていた。
- 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 22:58:10.99 ID:m5EJzKXK0
- 苦しかったけど、凄く安心した。
おねーちゃんがいる。 僕は捨てられていない。 僕は本当に嬉しかった。 ある日の昼休み、見慣れない女の子がクラスに入って来た。 友達に訊くと、友達も知らないと云う。 誰だろうと思って、僕は話しかけた。 ( ^ω^)「おはようだお!」 ミセ*゚-゚)リ「お、おはよう……」 ( ^ω^)「……」 ミセ*゚-゚)リ「……」 ( ^ω^)「転校してきたのかお?」 ミセ*゚-゚)リ「ち、違う……ます」 ( ^ω^)「お名前、なんていうのかお?」 ミセ*゚-゚)リ「ミセリ、です」 ( ^ω^)「ミセリちゃん?」 ミセ*゚-゚)リ「は、はい」 ( ^ω^)「ドッヂボール、好きかお?」
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:01:28.27 ID:m5EJzKXK0
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ミセ*゚-゚)リ「ぁ、あぅ……」 (〃^ω^)「皆と一緒に遊ぼうお!」 僕は、ミセリちゃんの手を取って、皆と一緒に校庭に向かった。 当時流行っていた男女対抗のドッヂボールを通じて、僕はミセリちゃんと仲良くなった。 何でも、今までは外国にいたとかで、こっちに帰って来れなかっただけらしい。 ミセリちゃんは、時々学校にいなかったけど、いる時は皆と一緒に遊ぶようになった。 その年、僕にちょっとした事件が起きた。 バレンタインデーの日に、手紙をもらった事が始まりだった。 ピンク色の封筒が下駄箱の中にあって、僕はその手紙をその場で読んだ。 まるっこい字で、『放課後に校舎裏にブーン君一人で来てください、待ってます』と書かれていた。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:04:41.60 ID:m5EJzKXK0
- 何か誰かを怒らせる様な真似をした覚えがなく、僕はその手紙の通りその場所に一人で向かった。
場所はおねーちゃんに訊いたから、ばっちり分かった。 僕を待っていたのは怖いお兄さんとか、先生じゃなかった。 同じクラスの、ミセリちゃんだった。 となれば、手紙はミセリちゃんが書いたんだろう。 ミセ*゚ー゚)リ「あ、ブーン君」 ( ^ω^)「ミセリちゃん、待ったかお?」 先に居たんだから、僕が遅刻をした事になる。 それはそうと、僕は訊きたい事があった。 ( ^ω^)「どうしたんだお? ミセリちゃん、ここの掃除当番だったのかお?」 他の皆がいないってことは、皆サボったのかな。 手伝った方がよさそうだ。 ミセ*゚ー゚)リ「あ、いや、そうじゃなくてね。 あのね。 ……ブーン君、今、好きな女の子いる?」
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:07:10.32 ID:m5EJzKXK0
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掃除じゃないらしい。 そして、好きな女の子は誰か、と尋ねられた。 好きな女の子について、僕はいつでも即答できる自信があった。 ( ^ω^)「いるお!」 ミセ;゚-゚)リ「え、だ、誰?」 ( ^ω^)「ツンおねーちゃんが大好きだお!」 強くて、優しくて、いい匂いのするおねーちゃんが僕は大好きだった。 おとーさんもおかーさんも好きだけど、おねーちゃんの方が、同じ好きの中でも一番だった。 選べないけど、真っ先に口から出るのがおねーちゃんだから、そう思う。 ミセ*゚ー゚)リ「お、お姉さんか。 そうじゃなくて、三年生の女の子に誰かいる?」 ( ^ω^)「それなら皆好きだお!」 怖い子もいるけど、嫌いじゃない。 嫌いじゃないってことは、好きってこと。 僕の思考回路は単純極まりなかった。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:10:10.75 ID:m5EJzKXK0
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ミセ*゚ー゚)リ「じ、じゃあ誰か一人好きな人はいないのね?」 ( ^ω^)「おー、そうだおね」 ミセ*゚ー゚)リ「あのね、わ、私……」 関係ないけど、私って連続で言うとその内タワシになるって、ドクオが言ってた。 ワシワシタワシ。 タワシって、コロッケに似ているよね。 ミセ*゚ー゚)リ「私……」 そんな事言ったらきっと怒るのだろうなと思い、僕は黙っていた。 ミセ*゚ー゚)リ「私、ブーン君の事が好きです」 ( ^ω^)「え?」 おとーさんとおかーさん以外にそんな事言われたの、僕は初めてだったから。 何の事か、一瞬分からなかった。 好き、好き、好き? 誰が、誰を? ミセ*゚ー゚)リ「私と、付き合って下さい! 明日、この時間にここでお返事待ってます!」
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:13:11.60 ID:m5EJzKXK0
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僕は茫然としていた。 何だって、こんな事になったんだろう。 僕、ミセリちゃんが好きになる様なことしたっけ。 こう云う時、何て言ったらいいのか僕は分からなかった。 手渡された白い箱を持ったまま、僕は馬鹿みたいに突っ立っていた。 とりあえず。 帰ろう。 僕は、帰る事だけを考えてとぼとぼと歩き始めた。 帰り道の景色は覚えていないし、ちゃんと信号を守ったかも覚えていない。 僕は家に帰って、ミセリちゃんの言葉の意味を考えなきゃいけない。 そう思っていると、僕は家の前に着いていた。 扉を開けようとして。 デレおかーさんは買い物に行っているのだろうか、扉には鍵がかかっていた。 体育座りで待っていると、おねーちゃんが帰って来た。 とっても呆れた顔をしていた。 黙って鍵を開けてくれた。
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:16:05.47 ID:m5EJzKXK0
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今僕が何かを聞いたら、おねーちゃんが不機嫌になっちゃうから、僕は自分で考える事にした。 どうしても分からなかったのは、付き合うって言葉だった。 なんじゃそりゃ状態である。 百科事典には載っていなかった。 箱の中身が気になって開けると、やっぱりチョコレートだった。 大きなハート形のチョコだった。 真ん中から半分に割って、おねーちゃんの分を残しておいた。 いつもお世話になってるから、たまにはお返しをしないと。 食べたけど、なんか、こう、足りない味だった。 おねーちゃんがくれるチョコは、もっと、あれ、えーっと。 そう、優しい味がした。 不味くは無かったから、僕はおねーちゃんの分を残して全部食べた。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:19:19.71 ID:m5EJzKXK0
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気付いたら、僕は図鑑に突っ伏して寝ていた。 起きたのは、ご飯の匂いがしたからだった。 自分がどれだけ情けないか、よく分かった。 何時まで考えていても、今の僕には知識がなかったから、答えが出なかった。 おねーちゃんに訊きに行くと、案の定、おねーちゃんは不機嫌だった。 やっぱり、いっつもこうして僕がいると迷惑なんだろうな。 ごめんね、おねーちゃん。 僕が『付き合う』って言葉の意味を訊くと、おねーちゃんは僕から目をそむけた。 こんなに嫌われていたんだ、僕は。 頼ってばかりだったから、僕は駄目なんだろうな。 今度から。 いや、今日から頑張ろう、僕なりに。 何だかんだで、おねーちゃんは僕にヒントを教えてくれた。 どうやら、漫画で学べる事らしい。 漫画だったら大好きだ。 僕はお礼に、チョコ(半分)をおねーちゃんにあげた。
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:22:12.57 ID:m5EJzKXK0
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そしたら、おねーちゃんはミセリちゃんを知ってた。 ξ゚⊿゚)ξ「これ、ミセリちゃんから貰ったんじゃないの?」 ( ^ω^)「お? どうしておねーちゃんミセリちゃんを知ってるんだお?」 どうしてだろう。 ひょっとして、おねーちゃん。 ミセリちゃんの友達なのかな? ξ゚⊿゚)ξ「おねーちゃんだからよ」 理由を聞いたら、妙に納得した。 (〃^ω^)「やっぱりおねーちゃんは凄いお!」 やっぱり、おねーちゃんは凄い。 僕は改めて思った。 ( ´ω`)「おぅふ……」 部屋に戻って漫画を読んでみると、おっかない内容だった。 アイドルとやらには怖いマネージャーって人がいて。 仕事が忙しいから会えなくなって。 遠くに仕事に行ったら、そこでも大変らしくて、何でか知らないけどヒステリックになって。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:24:35.40 ID:m5EJzKXK0
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その内主人公は自分の存在理由が分からなくなって、地球の反対側まで追い駆けたって話だった。 付き合うって云うのは恋人同士になるってことで。 恋人って云うのは一番好きな人同士が一緒にいるってことで。 つまり、そう云うものなんだと分かった。 だけど、随分と曖昧だなとも思った。 境目がない。 何かをすれば恋人って言えるのだろうか。 じゃあ、恋人じゃない人がその真似をすれば、それは何て言うんだろう。 それに、僕はミセリちゃんの事は好きだけど、この漫画の主人公みたいには思えない。 友達として僕はミセリちゃんが好きだ。 それ以上の関係。 つまり、地球の反対側まで追い駆ける程好きではない。
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:26:40.57 ID:m5EJzKXK0
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そこまで好きって気持ちを抱いた人は、今のところ一人しかいない。 そう、ツンおねーちゃんだ。 ツンおねーちゃんが地球の反対側にいても、会いたくなったら僕は追い駆けて行きたい。 何で追い駆けるんだろう。 理由は分からない。 昔っからそうしているからだと思う。 兎に角、僕はミセリちゃんと付き合う事は出来ない。 よし、明日、断ろう。 地球の反対側には行くぐらい好きじゃないって。 で、翌日。 僕は昨日と同じ場所、同じ時間にミセリちゃんと会った。 そして、まずはチョコの味の感想を言った。 それから、ごめんねって言って、理由を言おうとして。 でも、僕には言えなかった。 ミセリちゃん、悲しそうな顔をしてたから。 僕は、謝るしか出来なかった。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:29:39.48 ID:m5EJzKXK0
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そしたら、ミセリちゃん。 僕が好きになる様に頑張るって、言った。 嫌いじゃないんだよ。 好きだけど、ただ、一番好きってわけじゃないだけで。 聞いちゃくれなかった。 さっさと何処かに走って行っちゃった。 まぁいいか。 今度言えば。 その日から、僕は一人でも帰れるようになった。 鍵も忘れないよう、首から下げた。 その紐は、おねーちゃんがくれた。 一人で帰れるようになったけど、時々、おねーちゃんと一緒に帰った。 家に帰ってから、僕はおねーちゃんに漫画を返した。 最後まで読んだから面白かったけど、もう一回読むのは辛いから遠慮しておこう。 受け取った漫画を読んで、おねーちゃんは短く言った。 ξ゚⊿゚)ξ「……そう」
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:32:10.00 ID:m5EJzKXK0
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それから数カ月。 六年生の人達が、卒業した。 卒業式の日、僕の学年は休みだった。 夕方、家でデレおかーさんと一緒にテレビを見ている時、卒業って何かって尋ねた。 ζ(゚ー゚*ζ「うーん、そうねぇ…… 燕さん達の巣立ちと同じってことよ」 僕はクレープを食べたまま固まった。 巣立ちって言葉は知っている。 百科事典に載っていた。 お家から出ていって、そして、戻ってこない事。 僕は号泣した。 その時丁度、おねーちゃんが帰って来た。 僕は真っ先におねーちゃんに抱きついて、何処かに行かないでとお願いした。 ( ;ω;)「おねえちゃあぁぁぁん!! いっちゃやだお、いやだお!!」 ξ゚⊿゚)ξ「何の話よ?」 ( ;ω;)「おーん!!」 ξ゚⊿゚)ξ「泣くんじゃないわよ」
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:35:11.76 ID:m5EJzKXK0
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泣くなって言われても、そんなの無理だった。 ( ;ω;)「だって、だってぇぇぇぇ!! おねえちゃん、どこかに一人でいっちゃんでしょ? そんなの嫌だお!! いい子にするから、いい子にするからあぁぁぁ!!」 置いて行かれたくなかった。 僕はまた捨てられたくなかった。 だから、僕は出来るだけのお願いをした。 ( ;ω;)「置いて行かないでえぇぇぇ!!」 ξ゚⊿゚)ξ「あのね、私は中学校に進学するだけよ」 ( ;ω;)「ちゅーがっこー?」 何だろう、それは。 新しい学校の名前なのかな。 ξ゚⊿゚)ξ「六年生の上よ。 行く学校が違うだけで、私はこの家にいるわよ」 ( ;ω;)「おー」 安心した。 心底安心した。 もうそれだけで良かった。
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:53:09.18 ID:m5EJzKXK0
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ξ゚⊿゚)ξ「分かったら涙を拭きなさい」 ( うω;)ゴシゴシ ξ゚⊿゚)ξ「鼻もかみなさい」 テッシュを渡してくれたので、鼻をかんだ。 ( >ω<)ジーム ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、これからは出来るだけ私に頼らないようにしなさい」 ( ´ω`)「おー? なんでだお?」 おねーちゃんの顔は、厳しかった。 声は静かで。 眼は、真っ直ぐ僕を見ていた。 ξ゚⊿゚)ξ「いつまでも私に頼ってばっかりだと、成長しないからよ。 目標を見つけて、それを追いなさい。 そうすれば大丈夫よ」 ( ´ω`)「分かったお、僕、頑張るお…… だから……」 ξ゚⊿゚)ξ「置いて行かれたくなきゃ、頑張りなさい」
- 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:56:07.47 ID:m5EJzKXK0
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僕は。 僕は、どこまでも頑張ろうと思った。 おねーちゃんに置いて行かれたくないから。 ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、うふふ」 おかーさんは僕達を見て笑っていた。 おねーちゃんは部屋に戻ってから、直ぐに寝てしまった。 きっと、疲れていたんだろう。 もう、これ以上は。 これ以上は、僕が負担をかけるわけにはいかない。 僕は部屋に戻って、こつこつと勉強を始めた。 分からない事があっても、僕は自分で考えたり調べたりして、教科書を全て終わらせた。 でも、あんまり頭には入らなかった。 次の日から、僕はおねーちゃん離れを本格化させた。 学校におねーちゃんがいなくなっても、僕は自分で何でもできるようになりたかった。 まずは友達を沢山増やす事にした。 これは比較的簡単で、そこまで難しい問題では無かった。
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/15(日) 23:59:44.37 ID:m5EJzKXK0
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勉強はどうしても苦手だった。 だから僕は、運動に力を入れた。 元々体を動かすのは好きだったし、走るのも好きだった。 四年生になってから、僕は陸上クラブに入った。 そこで短距離走と中距離走を専門に、僕は必死に走った。 人一倍練習をして、誰よりも速く走る練習をした。 初めて出た大会で、僕はこの年齢の日本記録を樹立させた。 沢山インタビューされ、新聞にも載った。 そんなのに、興味はなかった。 僕はただ、おねーちゃんに認めて欲しいだけなのだから。 偉いモララーとか云う人が僕に練習方法を教えてくれたけど、なんか、嫌な感じだった。 僕の事じゃなくて、僕の記録しか見ていない気がした。 でも我慢した。 速く走る為だった。 叩かれる事もあったけど、耐えた。 家に帰っておねーちゃんを見ると、僕は嫌な事を忘れられた。
- 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:02:52.60 ID:MDSVctv/0
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おねーちゃんは勉強で忙しそうで、あんまり遊んでくれなかった。 いてくれるだけで、僕は満足だった。 勉強とか、そう云う事でおねーちゃんに追いつけないのなら。 僕は、この足でおねーちゃんを追い駆ける。 六年生になり、僕もいよいよ進学が他人事ではなくなった。 おねーちゃんにアドバイスを貰って、僕はそれを全部守った。 しかし、まだおねーちゃんの態度は、お姉ちゃんのままだった。 それが寂しかった。 おねーちゃんも進学を目の前にしていて、目標の学校は、相当レベルの高い高校だった。 僕の頭じゃ、とてもじゃないけど行けない様な。 知っている人なら誰もが凄いと言っちゃうような高校だ。 そこに、おねーちゃんは挑むらしい。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:04:59.95 ID:MDSVctv/0
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ところで僕の進学だけど、他の皆と違って周りがうるさいぐらいに口を出してきた。 特に、コーチがうるさかった。 担任のフォックス先生もうるさかった。 口を揃えて言うのは、もっといい設備のある中学に進みなさい、だ。 なんで、そんな事をする必要があるんだろうか、と僕は訊いた。 コーチは如何に自分が僕の事を大切に思っているかを喋ったけど、大嘘だって分かった。 涙を流して顔を真っ赤にしていたけど、僕はその涙がとても安い物に見えた。 結局、自分の都合と望みを僕に押し付けているだけなんだ。 僕は陸上がしたいんじゃない。 陸上しか、選択肢がないからしているだけなんだ。 おねーちゃんを追い駆ける為に、僕が持てる力はこれだけだから。 此処に来るまでに僕が成長したのは、確かにコーチたちのおかげもあるだろう。
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:07:20.13 ID:MDSVctv/0
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あるだろうけど、僕は陸上で生きていくつもりはない。 別の何か、おねーちゃんを追う事の出来る物があれば、僕はそっちを選ぶ。 目的は一つしかないのだから、学校を変える必要はない。 おねーちゃんのいたあの中学校に、僕は進みたかった。 フォックス先生は、僕の進学の選択肢に、おねーちゃんの中学校を入れていなかった。 僕は猛反発して、意地でもあの中学校に進むと言った。 三者面談で、フォックス先生はデレおかーさんに、僕の持つ才能が云々と喋ったけど。 ζ(゚ー゚*ζ「この子が自分の意志で決めた道なら、私達は手助けはしますが口出しはしません。 それが、我が家の教育方針です」
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:11:08.29 ID:MDSVctv/0
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僕の味方でいてくれた。 何か勘違いをされたらしく、僕の進む中学校は学費は免除すると言ってくれた。 入れ違いでおねーちゃんは卒業し、僕は入学した。 小学校からの友達がたくさんいたし、寂しくはなかった。 陸上部に入って、僕は中距離を止め、短距離を専門にした。 先輩達が怖かったけど、ジョルにいが何か言ってくれていたらしく、僕は虐められなかった。 でぃおとーさんが、僕に新しいスパイクを買ってくれた。 より一層、僕は練習に専念した。 ドクオも陸上部に入り、1500メートル走を専門にした。 ミセリちゃんは仕事の影響で殆どいなかったけれど、陸上部のマネージャーとなった。 知り合いがいてくれて、僕は心強かった。 小学校の陸上クラブにいた筈のコーチは、中学校の陸上部に移ってきた。
- 173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:14:36.73 ID:MDSVctv/0
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筋肉は無駄が削がれ鍛え上げられ、爆発的なスタートを可能にした。 筋肉は密度を増し、更なる加速を可能にした。 足は地面を捉えるのに最適化し、獣の足の様に地面を捉える事を可能にした。 僕の体は、スプリンターとしての進化を着実に歩んだ。 中学生で初めて出た大会の決勝の時、僕は無意識の内に会場を見渡し、おねーちゃんを探した。 来ている筈なんてないのに、探してしまった。 声が聞こえないかと耳を済ませたけど、知らない人の声しか聞こえなかった。 僕は、おねーちゃんを探していた。 スターティングブロックを設置して、いつものように調整した。 僕は深呼吸して、手首と足首を軽く振って体をリラックスさせ、両足の太股を強く叩いた。 悪い緊張は…… ……していない。
- 174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:17:27.48 ID:MDSVctv/0
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おねえちゃんを想うと、緊張して無様な姿を晒す事の方が怖かった。 足が走る事を求めていた。 期待感が体中を支配した。 これから、僕は――― ―――いや、僕達だ。 これから共に走る6人のスプリンターは、誰も知らない世界に身を投じる。 無呼吸で、只管な加速と速さだけを求める世界。 100メートルの中で、自分の力を出し切る世界に、挑む。 決勝戦に残った6人は、自分との闘いを目前に、それぞれの方法で心を落ち着かせていた。 最適な緊張感。 出せるか? 僕は、今の僕が持つ全力を。 準備が整い、僕はクラウチングスタートの姿勢を取った。 全員の準備が整うと、会場がしん、と静まり返った。 これだ。 この世界が、僕は好きだ。 スターターピストルが空に向けられる。 爆発が来る。 衝撃来る。 来る!
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:20:57.71 ID:MDSVctv/0
- 音ではなく、空気を読み、僕は足に力を込めた。
タイミングは、体が覚えている。 僕がブロックを壊す勢いで蹴飛ばしてから、一瞬の間も置かず、破裂音がスタートを告げた。 完璧極まりないスタートだった。 僕は皆より先に、一歩踏み出していた。 そして、一歩先に進んだ。 僕に出来る限りの、極限の加速の世界に。 僕は、飛び込んだ。 風が正面から吹きつけていた。 ごう、ごう、と。 向かい風だ。 ストライド、そしてピッチを武器に向かい風に立ち向かう。 あっという間に、僕は体二つ分皆の先を走っていた。 景色が後ろに流れて行く。 ゴールが見える。 タイムが見える。 白い直線が、真っ直ぐにゴールに向かっている。 僕は幻視していた。 見えない背中がそこにあると思って、僕はその幻を追い駆けた。 足は僕の気持ちを裏切らなかった。
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:24:56.62 ID:MDSVctv/0
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向かい風が徐々に凪いだ。 意識がぼやけた。 息苦しかった。 後少し。 後少し、僕はあの幻に近付きたい。 最後の力を、僕は出し切る。 そして。 僕は、後ろの5人に圧倒的な差を付けてゴールした。 結果、僕は中学1年の日本記録を更新した。 ゴールすると同時に、僕はふら、ふら、と倒れた。 苦しかった。 足は力を出し切ってしまい、力が入らない。 立ち上がれなかった。 喘ぐように酸素を吸う僕の元に、ドクオがやって来た。 水筒を手渡してくれて、僕はそれを受け取って、がぶがぶと飲んだ。 呼吸を落ち着かせ、立ち上がろうとした。 すぐに倒れて、立ち上がれなかった。 よかった。 全力で走れた。 満足している僕の手を取って、ドクオが立ち上がらせてくれた。
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:28:17.36 ID:MDSVctv/0
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('A`)「お疲れさん。 後でコーラで乾杯だ、勿論部費で出るってさ。 皆が待ってる。 行こう、ブーン」 ドクオが僕に肩を貸してくれて、部活の皆が待っている場所に向かった。 その後、部活の皆でコーラを飲んだ。 部費で買ったコーラは美味しかった。 皆がコーラを飲んでいる所に、あのコーチが来た。 コーラではなくプロテインを飲めと、コーチは激怒していた。 そして、激励の言葉ではなく僕の走り方に文句を言ってきた。 ( ・∀・)「もっといいタイムが出せたのに、俺の言う事を聞かないからあの程度のタイムだったんだ! これからは、俺の言う事を聞いて練習メニューをしっかりと守れ、いいな? お前だって、もっといいタイムを出したいだろ? いいタイムを出したかったら、俺の言う事だけを聞くんだ!」
- 184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:31:17.28 ID:MDSVctv/0
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流石に我慢できなかった。 僕はコーチに、いいタイムは望んでいないから、二度と指導をしないでくれと怒鳴った。 代わりに他の皆の指導をしてくれと言ったら、僕はコーチに殴られた。 そしたら。 部長やドクオ達が、コーチに対して、こう言った。 自分の為にしか指導をしないあなたは必要ないから、もう来るな、と。 何かを言おうとしたコーチに、皆が手に持っていたコーラの中身を全部ぶっかけた。 その様子を見ていた他の学校のコーチや顧問が、何事かと集まって来た。 僕が殴られた事を目撃していた人達もいて、コーチは逃げる間もなく取り押さえられ、警察に通報された。 警察に引き渡されたコーチが僕に関わる事は、二度と無かった。 その事は、新聞の片隅にひっそりと載った。 結果的に、この事件が元で僕は本当の意味で部活の皆に迎え入れられた。
- 189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:34:38.20 ID:MDSVctv/0
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なかなか、見所があるな、と。 今まで僕はちょっと皆に避けられていたけど、その日から、僕は皆と近しくなった。 会場から帰る途中、部長が僕にカップアイスを買ってくれた。 それを食べながら、途中で僕は殴られた頬を冷やして、家に帰った。 家に着いた頃には傷の痛みは引いて、痕は無くなっていた。 僕は大会で優勝した事をおかーさん達に伝えた。 おかーさんは僕の頭を撫でて褒めてくれた。 おねーちゃんも、久しぶりに僕を褒めてくれた。 僕はもっと頑張りたいと思った。 練習を自分なりに工夫したり、先輩達のアドバイスを取り入れて練習方法を変えたりした。 コーチがいなくても、なんだかんだで僕の練習は続けられた。 正直、いらなかったとさえ思ってしまった。
- 193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:37:26.11 ID:MDSVctv/0
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練習だけじゃなくて、僕は遊ぶ事もたくさんした。 ゲームセンターに行ったり、自転車で何処かに行ったり。 おねーちゃんがいなかったけど、とても楽しかった。 次に開かれた大きな大会で、僕はまた記録を更新した。 追い風による補正も無しで、文句無し、実力による記録更新だった。 走り終わると同時に、でぃおとーさんが買ってくれたスパイクが壊れてしまった。 毎日履いて練習していたから、そりゃあ壊れても仕方がない。 大切に手入れもしていたんだけど、それでも耐えきれなかったようだ。
- 195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:41:01.19 ID:MDSVctv/0
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修理できないかどうか先輩に訊いたけど、素人が見ても修理は不可能だと言われてしまった。 スパイクを失って途方に暮れていると、何回も記録を更新したからだろうか、今日はテレビ局が取材してきた。 走り終わって疲れているのに、皆が出ろ出ろとせかす物だから、僕は仕方なく応じた。 アナウンサーの人が、記録更新の裏に何があったのか、その秘密は何かと聞いて来た。 皆のおかげです、と僕は言った。 その皆の中には、当然、おねーちゃんも入っている。 厳しい練習を沢山したんじゃないですか、と尋ねて来た。 なんでそんなことを聞くのだろうかと思ったら、いきなり僕の体を触って来た。 僕はビックリした。 女の人に、そんな風に触られるのなんて初めてだったから。 確かに上半身も鍛えていたけど、それは普通の事だと言った。 逃げる様にして、僕は家に帰った。
- 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:44:20.97 ID:MDSVctv/0
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大会が終わった次の週、僕はミセリちゃんにどうしてもと頼まれて、テレビの生放送に一緒に出る事になった。 気乗りしなかったのは、僕がテレビが苦手だからだ。 ミセリちゃんは慣れているんだろうけど、僕はまだまだ慣れないし、慣れたいとも思わない。 番組では、陸上の専門家の人や、オリンピックの選手の人達が僕を待っていた。 いろんな貴重な話を聞けたし、CMの間にはアドバイスも貰った。 命令口調ではなく、むしろ、僕を気遣っている口調だった。 僕は司会の人達や有名人ではなく、ミセリちゃんやその陸上関係の人達を見ていた。 そうすれば、少しは緊張が和らいだからだ。 番組の中身が、陸上の話から徐々に変わって、芸能界の話になった。 全くついていけなかった。 頭の中で、僕は今晩のご飯を考えていた。 いきなり、話題の矛先が僕に向けられた。
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:47:12.89 ID:MDSVctv/0
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同級生で、小学校の頃から一緒のミセリちゃんとは、どんな関係なのかと聞かれた。 恋人同士だったりしないか、とも聞かれた。 ミセ*゚ー゚)リ「えー、そ、そんな事ないですよー。 ね、ねぇ?」 ミセリちゃんがちょっと困ってそうだったから、僕は首を横に振った。 そして、きっぱりと言った。 ( ^ω^)「そんな事はありませんお」 ミセ*゚-゚)リ「……」 その後、ミセリちゃんはどうしてか少し不機嫌だった。 やっぱり、テレビは僕には向いていない様だ。 家に帰ると、おねーちゃんが僕に話しかけてくれた。 凄く嬉しかった。 次の日、学校の帰り道で僕は久しぶりにジョルにいに会った。 最初は凄い髪形をしていて誰か分からなかったけど、直ぐに分かった。 昔と変わらず、僕に話しかけてくれた。
- 202 名前:>>201前スレでアイドルと説明されております:2011/05/16(月) 00:51:35.49 ID:MDSVctv/0
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_ ( ゚∀゚)「そういやおめぇ、この前テレビに出てたじゃねぇか。 しかもよ、ミセリちゃんと一緒に」 ( ^ω^)「おー、あの時は大変だったお……」 _ ( ゚∀゚)「だろうな。 おめーは昔っから、ねーちゃん以外の女に興味示さないからな」 ( ^ω^)「そうなのかお? 僕、自分じゃ分からなくて」 _ ( ゚∀゚)「そうなんだよ。 おめーらは昔っからそうさ」 ジョルにいが言うなら、そうなんだろう。 僕達の事をよく分かっているジョルにいの言葉だ、疑う理由がない。 そうだ、と僕は思った。 ( ^ω^)「ねぇ、ジョルにい。 陸上のスパイクを安く売ってるお店、知らないかお?」 大会でスパイクを壊してしまった事を言うと、ジョルにいはなるほど、と頷いた。
- 204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:55:25.82 ID:MDSVctv/0
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_ ( ゚∀゚)「靴屋や専門店にでも行けば、それこそ幾らでもあるけどよ。 安いってのは、なんでだ?」 (;^ω^)「あんまりお小遣い無くって……」 _ ( ゚∀゚)「なんだ、お前が自分で買うのか? 偉いじゃねぇか! そうだな……スワガー通りって分かるか? あそこにな、安くていい店があるんだよ。 確か陸上のスパイクも売ってたはずだから、行ってみるといい。 ちょっと待ってろ、確か……お、あったあった。 ほれ、このメンバーズカードやるよ」 財布の中から取り出した金色のカードを、ジョルにいが僕に渡してくれた。 ( ^ω^)「お? これがあると何かあるのかお?」 _ ( ゚∀゚)「通常価格より安く買える……時もある……らしい」
- 207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:58:50.52 ID:MDSVctv/0
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あいまいだった。 でも、僕はそれをありがたく受け取った。 ( ><)「兄貴、何やってるんですか?」 _ ( ゚∀゚)「あぁ? 弟分に、ちょっとな」 ( <●><●>)「こいつが兄貴の舎弟ですか? ひょろっちぃですね」 _ ( ゚∀゚)「ばっか、おめぇ、こいつが俺の舎弟一号だよ。 こいつに手ぇ出したら、そいつを俺が殺す。 丁度いい、他の連中にも言っておけ。 こいつとこいつの家族には、手を出すなってな」 ジョルにいの周りには、20人以上の怖い人達がいる。 皆して僕を見て、頷いた。 _ ( ゚∀゚)「よっし、ブーン、それじゃあまたな。 困った事があればいつでも俺の所に来い」
- 209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:01:42.23 ID:MDSVctv/0
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バイクに乗って遠ざかって行ったジョルにいの背中は、とても頼もしくなっていた。 中身は変わっていないけど。 ジョルにいの格好は、とても怖くなっていた。 あれが不良と云うスタイルだと、おねーちゃんが次の日の夜に教えてくれた。 その頃になってようやく、おねーちゃんがおねーちゃんに戻っている様な気がした。 でもまだ、お姉ちゃん、の部分が残っていた。 話す時間は、少しずつ増えた。 毎日が充実していると改めて思えるようになったのも、その時間があったからだろう。 昔の様な気持ちで、僕はおねーちゃんと話した。 毎晩20時。 おねーちゃんの部屋に行くと、おねーちゃんが淹れた紅茶とおねーちゃんが僕を待っていた。 おねーちゃんの部屋は、おねーちゃんの甘い匂いで一杯だった。
- 210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:04:53.24 ID:MDSVctv/0
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紅茶には砂糖をスプーン一杯分。 時計の音と静かに流れるラジオをBGMに、僕等は会話を楽しんだ。 僕の知らない話を、おねーちゃんは沢山聞かせてくれた。 童心に戻った様に、僕はその話に聞き入った。 高校の事。 授業の事。 友達の事。 色んな事。 そして僕も話した。 学校の事。 部活の事。 友達の事。 僕は、自信過剰は嫌いだと云う考えを、おねーちゃんに話した。 自信を持つ事は大切かもしれないけど、それを過信している人間の醜さを、僕は大会で沢山見て来た。 才能を言い訳に努力を怠った人は、いつか何もできなくなる。 努力をせず、自分はそんな事をしなくてもまだ出来ると信じているからだ。
- 213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:09:28.22 ID:MDSVctv/0
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逆の人間もいた。 自分の怠慢を棚に上げ、自分には才能がないからと、練習を疎かにする人間だ。 そのまま過ごしていても、何か結果が出せるわけでもないのに。 結局、努力から逃げているだけだと云う事に、気付いていないのだ。 僕が一番嫌いだったのは、努力している人を笑う人間だ。 そして、笑うだけならまだしも、練習の邪魔をする様な人も、今の部活にはいる。 グラウンド整備に手を抜いたり、部活の道具をどこかにやったり、乱暴に扱って壊してしまう人間。 正直、邪魔だった。 この考え方が間違っているのかどうか聞こうと思って、僕はその事を話したのだ。 おねーちゃんは何も言わなかったけど、紅茶のお代りを注いでくれた。 ゴクゴクと飲んだ。 おねーちゃんが焼いたクッキーを僕にくれた。
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:12:17.23 ID:MDSVctv/0
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学校の鞄から袋に入ったクッキーを皿に出して、僕はそれを食べた。 チョコチップクッキーは、美味しかった。 二杯目の紅茶を飲みほしてから、僕はスパイクの事を思い出した。 折角昔みたいに仲良くなっているんだから、と。 勇気を出して、僕はおねーちゃんを買い物に誘った。 おねーちゃんは、顔色一つ変えずにその誘いを受けてくれた。 でも忙しいみたいで、一緒に家を出る事は出来ないって言われちゃった。 それでもいいや。 おねーちゃんと一緒に買い物ができるのだから。 僕はその日、興奮してあまりよく眠れなかった。 とか思っていたけど、次の日はちゃんと起きれた。 早めに起きて、僕はジャージに着替えてリビングに向かった。
- 216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:15:55.10 ID:MDSVctv/0
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毎朝、僕が朝練に行く時でも、デレおかーさんは僕よりも早く起きて作ってくれた。 そうでなくても、おかーさんは僕達よりも絶対に早起きで、お茶を淹れて僕達が起きるのを待っていた。 僕がご飯を食べているのを、おかーさんは紅茶を飲みながら嬉しそうに眺めていた。 ほっぺを指さされ、僕がそこに手をやるとそこにはジャムが付いていた。 おかーさんとおねーちゃんは、そう云うところも似ている。 お弁当とは別に、デレおかーさんは僕におにぎりを持たせてくれた。 朝練の後はお腹がすいて授業どころではなくなってしまうからだ。 中身は梅干し、時々唐揚げ。
- 218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:18:43.62 ID:MDSVctv/0
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唐揚げが入っている日は、決まっていい事が起こる日だった。 昨日も、二つのおにぎりの中身は唐揚げだった。 教科書の入っていない鞄にお弁当をしまって、僕はおねーちゃんを起こさない様にそっと家を出た。 学校の校庭にある部室棟に向かい、部室を開けて鞄を置いて、ランニングシューズを履いてスタブロとハンマーを手に、練習を始めた。 スタブロとハンマーは校庭の隅に置いて、僕はゆっくりとランニングを始めた。 校庭を走る音だけが、朝の静かな学校に木霊している。 僕に聞こえるのは、自分の息遣いと、シューズが地面を蹴る音だけだ。 軽めのランニングをしてから、念入りにストレッチをした。
- 219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:21:45.09 ID:MDSVctv/0
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筋肉をほぐして、僕はスタートの練習を始めた。 スタブロを地面に打ち付けて、しっかりと固定させ、ブロックの角度と位置を調整する。 練習はあくまでも、スタートだけ、だ。 校庭に落ちていた手頃な石を空高くに放り投げる。 そして、僕は素早くクラウチングスタートの姿勢を取る。 石が落ちる音に意識を集中させ、半ば予測も含めて、僕はスタートした。 ブロックを蹴ると同時に、石が落ちる音がした。 スタートは好調だった。 タイミングを耳ではなく、体で覚える事。 それが、より速く走る為に今の僕が出来ることだった。 脚力はどうとでもなる。 全ての鍵は、このスタートにある。 走りだした時の体のブレ。 腕の振り。 ありとあらゆる要素が、スピードに直結する。 理論とかどうとかは知らない。
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:24:23.30 ID:MDSVctv/0
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こうするとこうなる、だからこうした方がいい。 アドバイスを元に、僕は自分なりに改良して、時には先輩のアドバイスで改善させた。 いつもより念入りにその練習をしたのは、おねーちゃんとの約束を今から楽しみにしていたからで。 つまりは、僕は遠足を楽しみにしている様な物だった。 そうなると、授業中が大変だった。 一時間目は空腹との戦い。 おにぎりを見つからない様に食べるのは何てことないけど、見つかると厄介な先生だった。 (=゚д゚)「で、ここがこうなって……」 トラギコ先生が黒板に向いた隙に、僕はおにぎりを一口。 獣の様な勘の鋭さで、先生は直ぐに振り向く。 でもその時は、僕のおにぎりは机の下。 口はチャック。
- 223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:27:09.56 ID:MDSVctv/0
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また黒板に先生が目線を戻して。 僕が食べて。 おにぎりの具は、梅干しだった。 関係ないとは言い難い話だけど、おかーさんの漬ける梅干しはとんでも無くすっぱい。 どれ具合すっぱいかって言うと、先生が僕の顔を見て異変に気付く程だ。 必死に我慢していても、目と口がすぼまって、如何にもすっぱい何かを食べている顔になっていた。 (=゚д゚)「へいへい、ブーン。 おめぇ……俺の……っぷ……授業で朝飯たぁ、い、いい……っく……度胸してるラギねぇ」 (;゚ж゚) (=゚д゚)「……くぴっ!」 奇妙な声を出して。 (=;д;)「だーっはっはっは!! やめ……ちょっと、まっ……その顔は……駄目……ぷっ、くはははっははああああ!!」 先生は爆笑した。 僕はその隙に、水筒の中の冷水を飲んでおにぎりを飲み下した。
- 224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:30:06.48 ID:MDSVctv/0
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(=;д;)「ち、ちくしょ……!! は、はらい……いてぇ……ラギ!!」 暫くの間、授業が中断されてしまった。 すっぱかったけど、おにぎりは美味しかった。 一時間目と二時間目の間で、僕はもう一つのおにぎりを食べた。 具は、塩じゃけだった。 二時間目は問題なく過ごせたけど、三時間目は睡魔との闘いだった。 お昼前の適度な空腹もあって、僕の眠気は限界に近付いていた。 ( ´ω`) (゚、゚トソン「ですから、ここが…… ……ブーン君、起きてますか?」 ( ´ω`)「お、おきて……まふ」 (゚、゚トソン「そうですか。 では、前に来てこの問題を解いてください」 ( ´ω`)「……」 うとうと。 (゚、゚トソン「本当に起きてますか?」
- 230 名前:猿の魔法にかかっていました:2011/05/16(月) 01:47:35.66 ID:MDSVctv/0
- ( ´ω`)「おぷ……おぷてぃます……」
(゚、゚トソン「……ミルナ君、ブーン君を起こしてください。 彼がコンボイになる前に」 ( ゚д゚ )「あい。 おい、ブーン、起きろ、起きろって」 ぐらぐら。 ぺちぺち。 うつらうつら。 (;゚д゚ )「叩いても起きねぇ……」 ('A`)「待ちな! ここはこの幼馴染の俺に任せてもらおうか!」 何だか周りが騒がしい。 と云うか。 ぼやーっとしてて。 何が何だか分からない。 起きなきゃ。 起きなきゃ…… (゚、゚トソン「何でもいいから早くしてくださいね」 ('A`)ボソッ(……おい、ブーン。 お前のお姉ちゃんが見学に来てるぞ) ( ゚ω゚)「はぅぁっ!?」
- 234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:51:09.87 ID:MDSVctv/0
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僕は条件反射的に飛び上がった。 周りを見渡しても、おねーちゃんはいなかった。 クラスの皆が笑っていた。 恥ずかしくって、僕は顔を真っ赤にした。 手招きされ、僕は先生の所に向かった。 (゚、゚トソン「はい、それじゃあこの括弧の部分に単語を書き入れてください」 チョークを渡されて、僕は目の前の文章とにらめっこした。 結局僕はその問題に答える事が出来なかった。 先生は僕の頭を丸めた教科書で軽く叩いた。 (゚、゚トソン「部活動も大切ですが、授業も大切なんですよ。 どちらかに力を入れるのは構いませんが、両立できないのであれば、無理をしない様に。 いいですね?」 ちょっと、僕は焦っていたのかもしれない。 先生の云う通りだ。 僕は素直に謝った。 今度から朝練は軽めに、少しだけにしておこう。
- 235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:54:07.18 ID:MDSVctv/0
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(゚、゚トソン「いい返事ですね。 それじゃあ、今ブーン君を笑った方の中で、この問題が分かる方はいますか?」 皆が一斉に押し黙った。 (゚、゚トソン「ふーむ、分からないのなら、皆で少しこの問題を考えてみますか」 ミセ*゚ー゚)リ「あ、あの先生!」 一人、元気に手を挙げた。 ミセリちゃんだ。 ドラマの撮影とかで忙しいのに、ちゃんと学校に来ている。 僕とは違って、しっかりと両立させている。 今度、秘訣を聞こうかな。 ミセ*゚ー゚)リ「そこの括弧に入るのは、〝down〟で、全文を訳すと…… 〝スパルタ人よ、手にした武器を捨てろ〟になります。 その下の文は、〝ペルシャ人よ、武器を奪ってみよ〟です」 (゚、゚トソン「おぉ、そうです、正解ですね。 これを命令形と言って……」
- 237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 01:57:24.59 ID:MDSVctv/0
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ミセリちゃん、勉強もしっかりと出来るんだ。 今度、おかーさんとおとーさんに勉強を教えてもらおう。 おねーちゃんは、今、忙しいだろうから。 三時間目を終えた僕は、友達たちとお昼ご飯を食べた。 ( ゚д゚ )「ったく、ドクオ。 そろそろ教えてくれよ、ブーンに何て言って起こしたんだ?」 ('A`)「ふっふっふ。 そいつだけは教えられねぇな。 だが、ミルナよ。 お前の持ってる〝福田ーだ〟の漫画を俺に譲ってくれたら、考えてやろう」 ( ゚д゚ )「なっ……! なんでそれ知ってんだよ!」 ('A`)「それも知りたいのか? 二つも知りたいのか? だったら、〝くしゅくしゅ〟の画集も貰おうか!」 (;゚д゚ )「くっそ、誰だ、誰が俺のささやかな秘密を!」 ( ^ω^)ムグムグ
- 238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:00:07.73 ID:MDSVctv/0
- (,,゚Д゚)「ブーンは本当によく食うな。
太らないのか?」 ( ^ω^)「運動してるから、直ぐにお腹が減っちゃうんだお」 (,,゚Д゚)「はーん。 にしても、お前の弁当、美味そうだな、毎回思うけど」 ( ^ω^)「美味しいお! でもあげないお」 (,,゚Д゚)「な、なぁ。 俺のミートボール二つ、いや、俺も男だ三つ、三つ出す。 ミートボール三つと、お前の卵焼きを交換しないか?」 ( ^ω^)「おー…… 仕方ないお、一個だけだお」 (,,゚Д゚)「やーりぃ」 名残惜しいけど、僕はミートボールも好きだ。 二者択一。 二兎を追う者なんとやらとも言うし。 じゃあ、二食を食う者はなんだろう、太るのかな?太るんだろうな。 交換して、僕はミートボールを食べた。 甘いソースが美味しかった。
- 241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:04:25.80 ID:MDSVctv/0
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(,,;Д;)「う、美味い……美味すぎる!」 おかーさんの卵焼きは、好評だった。 さてさて。 午後一番の授業は、僕の嫌いな荒巻先生が担当だった。 意見を求めて来たから、僕の意見を言ったら物凄い剣幕で怒られた。 でも、女の子の意見は褒めちぎった。 先生が来る前に、僕は机につっぷして眠る事にした。 窓際の僕の席は、太陽の光が当たって夏は暑いが、冬はぬくぬくとする場所だった。 ぽっかぽかだ。 あっという間に、僕は眠りに落ちた。 久しぶりに、おねーちゃんの夢をみた。 そう、おねーちゃんの夢だ。 どうしておねーちゃんの夢を見たのかは、流石に僕でも分かる。 日曜日に控えたおねーちゃんとの買い物。 そして、この温もり。 陽だまりの温もりが、おねーちゃんの温もりに近いから。 だから僕は、おねーちゃんの夢を見たんだ。
- 243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:06:53.06 ID:MDSVctv/0
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それは不思議な夢だった。 僕は子供で、大人のおねーちゃんは白いワンピースを着ていて。 僕達は向い合っていた。 おねーちゃんは悲しそうに笑っていて。 僕は何も喋らなくて。 僕の周りには、僕よりも背の高いヒマワリが咲き誇っていた。 夏の日差しと冬の空。 そして、春の空気。 僕とおねーちゃんの距離は、そんなに離れていなかった。 二人が手を伸ばせば届く様な、そんな距離。 僕が近付くと、おねーちゃんは同じだけ離れた。 風でヒマワリ同士がこすれ合う音だけが聞こえる。 温かな風景なのに、僕は寂しかった。 おねーちゃんの口が動く。 何かを喋っている。 でも、聞こえるのはさわさわとした音だけで。 僕は、とても悲しかった。 声が聞きたかった。 何を話しているのか、何を考えて、何を感じているのか。 僕は知りたかった。
- 245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:10:07.66 ID:MDSVctv/0
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僕は口を開いた。 声が、声が。 声が出ない。 口が動くだけ。 おねーちゃんも、そうなのかな。 声が出ないだけなのかな。 じゃあ、どうやって。 僕はどうやって、この気持ちを伝えればいいんだろう。 この距離の中で。 何を伝えたいんだろう、僕は。 僕は、手を伸ばした。 おねーちゃんは、その手を――― ―――夢は、そこで終わった。 チャイムの音が、僕を眠りから覚まさせた。 黒板には何も書いていなかったし、プリントも配られていなかった。 今日も懲りずに口頭だけで授業を進めたらしい。 五時間目の授業は総合学習で、自分達の進路を少しでも考える授業になった。 要するに、将来の夢について考える、そう云う授業だった。 ドクオもミルナも、ギコも夢は決まっていた。 でも、僕は決まっていなかった。
- 247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:13:30.07 ID:MDSVctv/0
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漠然と、本当に漠然とした夢しか、僕には思い描けなかった。 口に出すのも恥ずかしい夢だったから、僕は今のところ夢がないと、先生に嘘を吐いた。 ('A`)「まぁ見てなって、その内俺の時代が来るさ」 ( ^ω^)「しかし、意外だおね。 ドクオが料理人なんて」 ('A`)「こう見えて、家じゃあ散々こき使われてて、料理は得意なんだ。 朝から晩まで俺が作ってるんだ。 それに、作るのは面白んだぜ」 ( ^ω^)「じゃあ、今度何か作ってくれお!」 ('A`)「ふふふっ、いいだろう。 今度の大会の時、はちみつレモンでも作ってやろう」
- 249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:16:10.20 ID:MDSVctv/0
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僕は配られた紙に、何も書けずにいた。 それだけならいいんだけど、最後に、これを発表しなければいけないのが問題だった。 だからこの時間を使って、皆はインターネットとかでその職業について調べていた。 僕は何だか一人だけ取り残された気がして、焦りを感じ始めていた。 その事をドクオに言うと、ドクオはこう言った。 ('A`)「夢ってのは、焦って見つけるもんじゃねぇ。 ふとした時に見る、夢なんてのは、そんなもんだ。 ちなみに今の俺には、他に夢が五つある。 それに、一生の夢なんて今の内に決められる訳ないだろ。 俺達はまだ中学生なんだから」 ( ^ω^)「ドクオ、意外と凄いお……」 ドクオに対する見方を変えよう。 何だかんだで、ちゃんと将来を考えているんだ。 偉いなぁ、なーんて思ってると。
- 251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:19:45.15 ID:MDSVctv/0
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(;'A`)「実は、姉貴達に相談したら散々に言われてな。 今から焦っても意味がない、生意気な事を言うなって。 ちなみにあれ全部、その時に言われた台詞な。 足りないのはゲンコツと四の字固めとコブラツイストだけだ」 ちゃんと理由があった。 ( ^ω^)「夢が五つってのは?」 ('A`)「地球防衛企業の社長だろ、何でも屋だろ。 MI6のエージェントと、ゲーム会社でシナリオライター。 それと後は、俺の家族に恩返しをして、あっと言わせる事だ。 特に姉貴達だ。 姉貴達が俺に泣いて感謝するぐらいの恩を返してやる」 地球防衛企業はどんな会社か知らないけど、最後の夢は、僕も分かる。 僕は今の家族に感謝している。 だから、何時か必ず恩返しをしたい。 ( ^ω^)「……僕も、恩返ししたいお」
- 253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:22:21.61 ID:MDSVctv/0
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('A`)「それでいいじゃねぇか、夢なんて。 どんな方法で恩返しするかは、お前の好きにすればいい。 それだって、立派な夢だろ」 方法は考え付かなかったけど、僕は小さな夢を持つ事が出来た。 それから日曜日まで、僕はいつも通りに過ごした。 いつも通りじゃなかったのは、僕の心だけだった。 早く日曜日になってほしかった。 遂に日曜日がやって来た。 晴天。 体調は万全。 柔軟体操をして、僕は備えた。 何に備えてるんだろう、僕。 おねーちゃんが先に家を出て行き、僕は今さらになってどの服を着て行くべきかと悩んだ。 ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、デート?」 (;^ω^)「デートじゃないけど、おねーちゃんと買い物に行くんだお……」 僕が変な服を着ていたら、おねーちゃんが笑われるんじゃないか、僕はそう思っていた。
- 257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:26:28.42 ID:MDSVctv/0
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ζ(゚ー゚*ζ「うふふ、だったら、これと……後はこれ。 そんなに緊張しなくても平気よ、ツンちゃんは優しいから」 それは知っている。 厳しい時や怖い時もあるけど、おねーちゃんはいつも優しい。 ζ(゚ー゚*ζ「ほーら、大丈夫だって。 あんまり格好つけ過ぎると、逆に恥ずかしいわよ」 との言葉を受けて、僕は準備を整えた。 待ち合わせの時間まで、まだ30分近くある。 駅までは徒歩で5分だから、余裕だ。 余裕だってことは分かってる、頭では。 居ても立ってもいられず、僕は駅に向かった。 我ながら馬鹿である。 だけど。 おねーちゃんは、僕よりも先に駅にいた。 凄く、凄くおねーちゃんらしかった。 頭が真っ白になった。 大会でもこんな気持ちになった事は無かった。 理性が吹っ飛んでいる。
- 258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:29:16.28 ID:MDSVctv/0
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僕はドクオが教えてくれた気持ちの落ち着かせ方を思い出し、必死に実行していた。 ('A`)『いいか、焦った時は偶数を数えるんだ。 偶数はいつでもお前と共にある』 偶数を数え始め、それが果てしなく続く事に僕が気付いた時には、僕達はメンフィス駅に到着していた。 早めに着いて、おねーちゃんが先導して僕達は目的の店を探した。 あっという間に見つかった。 まだ、店は開いていなかった。 おねーちゃんは、他の店も見たいと言って、散策を開始した。 久しぶりにおねーちゃんと歩いて、僕は楽しかった。 いつも通り、僕は半歩後ろを歩く。 これが、一番落ち着く。
- 260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:32:41.87 ID:MDSVctv/0
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あっという間に時間が来て、店が一斉に開店した。 ジョルにいの言っていた店に行き、早速スパイクを売っているコーナーに向かった。 安い、確かにこれはすごく安い。 専門店だと、とんでもなく高いのに、ここではその半分近くまで値段が下がっている。 一つ手に取って、棚に戻して、また別のを見てみる。 有名な選手が愛用しているモデルを見たけど、なんかいまいちだった。 ξ゚⊿゚)ξ「履いてみたら?」 ( ^ω^)「なんか、気に入った靴じゃないと履く気にならなくて。 それに、これ、なんか嫌だお」 特に色合いが。 黄緑と黒の配色が、僕は嫌だった。 ξ゚⊿゚)ξ「そう」
- 262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:36:49.28 ID:MDSVctv/0
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おねーちゃんは静かに僕の後ろに控えている。 見護られている気がして、僕はほっとしていた。 僕はようやく、二つに絞る事が出来た。 試し履きして、その履き心地を確かめてみる。 どちらとも、文句無しに履き心地が良かった。 真紅のスパイクかスカイブルーのスパイクか。 僕は、真紅のスパイクを棚に戻した。 ξ゚⊿゚)ξ「どうしてそっちを選んだの?」 散々迷った挙句、こちらを選んだ理由が気になるのだろう。 僕は素直に理由を話した。 ( ^ω^)「だって、おねーちゃんの眼と同じ色だから」 ξ゚⊿゚)ξ「……好きにしなさい」 呆れたように、おねーちゃんは僕に背を向け、別のコーナーに行ってしまった。 やっぱり、呆れられちゃった。 そう云えば、おねーちゃんの靴、新しいのにどうしてまた靴を見てるんだろう。
- 266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:45:33.27 ID:MDSVctv/0
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やがて、おねーちゃんが戻ってきた。 ( ^ω^)「それじゃあ、これを買うお!」 ξ゚⊿゚)ξ「それ、ちょっと貸して」 おねーちゃんに靴を渡した。 僕が選んだスパイクの構造が気になっているのだろうか。 スカイブルーとは言っても、おねーちゃんの瞳の方がもっとずっと綺麗な色をしている。 宝石の様に青く澄んだおねーちゃんの瞳が、僕は羨ましく、そして好きだった。 ぽけーっとしていると、おねーちゃんは箱を持ってレジに向かって行った。 理由を聞く間も無くおねーちゃんがお金を払って、その袋を僕に渡してくれた。 ξ゚⊿゚)ξ「私からのプレゼントよ」 そっけなかったけど、その声には確かな優しさが籠っていて。 (〃^ω^)「ほ、本当に!? やった、おねーちゃん、ありがとうだお!」
- 269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:49:05.22 ID:MDSVctv/0
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僕は本当に嬉しかった。 このスパイクは、僕の一生の宝物にしよう。 ほくほく気分の僕を、おねーちゃんは別の店に連れて行ってくれた。 その店を、僕は知っていた。 様々なスポーツ選手が、自分だけのはちまきを作りに来る店だ。 オーダーメイドで、刺繍の細かい指定も出来るとあって、多くの選手がここで作っている。 何で、この店をおねーちゃんは知っているのだろう。 (;^ω^)「おー?」 ξ゚⊿゚)ξ「靴だけがプレゼントじゃ寂しいからね。 はちまきぐらい、買ってあげるわよ」 (;^ω^)「いいのかお? さっき靴も買ってくれたし」 ξ゚⊿゚)ξ「いらないの?」 別にどっちでもいいけど、そんな含みのある声だった。 (;^ω^)「ほ、欲しいお……」 ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、自分で選びなさい」
- 272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:52:36.52 ID:MDSVctv/0
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言われた通り、僕は自分で生地の色と刺繍の色、そして文字を選んだ。 ξ゚⊿゚)ξ「……なんでその色なのよ?」 怒ってるのかな。 でも、答えないわけにはいかない。 恥ずかしいけど、僕はちゃんと答えた。 ( ^ω^)「おねーちゃんの髪と、眼の色を……」 ξ゚⊿゚)ξ「あんた、人を何だと思ってるの?」 そりゃあ、決まっている。 ( ^ω^)「自慢のおねーちゃんだお!」 誰にでも自慢できる、大好きなおねーちゃんだ。 そのはちまきもおねーちゃんが買ってくれて、僕はそれが出来上がるのを心待ちにした。 その後、僕達はおねーちゃんがおススメと云うレストランに行って、昼食を食べた。 美味しかったんだけど、気のせいか、おねーちゃんが僕の事をずっと見てた気がする。
- 275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:55:06.45 ID:MDSVctv/0
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おねーちゃんのおかげで、僕の食べ方は大分向上した。 心配しなくても、大丈夫だと言いたかったけど。 僕が食べたのはミートソーススパゲティで。 つまり、その、不可抗力と云うか。 ソースが口の端についているのを、おねーちゃんの視線で気付かされた。 恥ずかしかった。 おねーちゃん、笑ってた。 おねーちゃんの笑顔は、おかーさんにそっくりだ。 無垢で、綺麗で、かわいらしい。 華が咲いた様な、素敵な笑顔なのだ。 その笑顔に、僕は照れてしまった。 今日は、とってもいい日だと、僕はつくづく思った。 次の日から、僕は買ってもらったスパイクを使って練習を始めた。 おねーちゃんが一緒に走ってくれている様な気がして、いつもより練習に力が入った。 来月の大会で、僕は記録を出したい。 おねーちゃんのおかげだと示す為に。
- 277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:57:09.73 ID:MDSVctv/0
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新しいスパイクを、僕はこれまで以上に大切に扱った。 こまめに掃除をして、手入れをして。 大切に、大切にした。 おねーちゃんが買ってくれた、僕の宝物だから。 そして、県大会で僕ははちまきとスパイクを装備して、走った。 僕は一人じゃなかった。 同じ大会の中でも、一番安心して走っていたと、僕は言える。 見えなくても、聞こえ無くても、僕はおねーちゃんの存在を感じる事が出来た。 結果、また新記録を出す事が出来た。 おねーちゃんのおかげだった。 新聞の人に取材を受け、僕はこの先どの高校に進学するのかと聞かれた。 ローカルな新聞社だから、おねーちゃんが見ないだろうと思って、僕はおねーちゃんの高校の名前を答えた。
- 280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 02:59:11.88 ID:MDSVctv/0
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僕には知恵や知識はないけど、足がある。 この足で、僕はおねーちゃんと同じ場所を目指す。 そして、そこで僕がおねーちゃんに恩返しをするのだ。 今の段階で僕が描ける夢は、そんなものだった。 中学二年になり、そして瞬く間に三年になった。 買ってもらったスパイクは、まだまだ綺麗な状態を保っていた。 その頃には、僕は部活を引退していた。 受験とやらが忙しくなるからだ。 僕は志望先の高校から、是非来てくれと言われたので、受験はしないで済んだ。 僕がそう云う時期にいると云う事は、おねーちゃんもそう云う時期にいると云う事で。 おねーちゃんは、国内最難関の大学に合格した。 家からは電車で一時間ほどと云う事もあって、自宅通学が可能だ。
- 283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:01:54.02 ID:MDSVctv/0
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一緒にいられる。 進学しても、それが変わらない。 僕はそれがどうしようもなく嬉しかった。 出来ればずっと、一緒にいたいなぁ、って思っていた。 なんか最近、おねーちゃんが悲しそうな顔をしているのが僕は気になっていた。 話しかけづらい雰囲気を出していて、僕はどうにかして元気を出してほしかったけど。 でも、話しかけようとすると、おねーちゃんは僕から逃げる様に部屋に行った。 避けられているんだ、僕は。 忙しい受験の時期が過ぎてもそれは変わらず、僕は卒業式を迎えた。 トラギコ先生もトソン先生も、泣いて喜んで僕達を送り出してくれた。 僕も泣いた。 ドクオも泣いた。 皆泣いた。 そう云えば、ミセリちゃんも僕と同じ高校に進学したんだっけ。
- 284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:04:50.12 ID:MDSVctv/0
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アイドルとして大活躍中のミセリちゃんは、しょっちゅうテレビに出ていた。 見ない日は無いぐらいだ。 この前は、主演の映画が公開されて、その招待券を一枚だけもらった。 これまでのお礼の意味も込めて、僕はドクオにそれをあげた。 ドクオは調理師の専門学校に進学した。 ギコやミルナは、別々の高校に進んだ。 進路はバラバラだったけど、皆、中学三年の時に買ってもらった携帯電話の番号を交換していたので、いつでも話す事は出来た。 高校に進む前に、僕はジョルにいの所に遊びに行った。 _ ( ゚∀゚)「おー、ブーン! すっかり大きくなったなぁ、今高一だっけか?」 ( ^ω^)「今度、おねーちゃんの行ってた高校に行くんだお!」 _ ( ゚∀゚)「すげぇじゃねぇか。 これで後は大学も一緒だったら、ずーっと一緒か」
- 286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:07:29.37 ID:MDSVctv/0
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( ^ω^)「おねーちゃんの大学凄く難しいところだから、行けるかどうか…… でも、頑張るお!」 _ ( ゚∀゚)「おっ、ってことは、今からもう行くつもりなのか?」 ( ^ω^)「出来れば行きたいお! そしたら、一年は学校で一緒にいられるお!」 _ ( ゚∀゚)「勉強の事は駄目だけど、それ以外の相談ならいつでも受け付けるぜ」 ( ^ω^)「ありがとうだお!」 _ ( ゚∀゚)「で、今日は何の相談だ?」 (;^ω^)「えっ?」 _ ( ゚∀゚)「顔に描いてあるんだよ、お前。 何を悩んでるんだ?」 ( ´ω`)「そんなこと……ないお」 _ (;゚∀゚)「あいっかわらず嘘が下手だな、お前は」 ( ´ω`)「最近、おねーちゃんが僕の事避けてるみたいなんだお」
- 288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:10:45.84 ID:MDSVctv/0
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_ ( ゚∀゚)「へぇ、あいつにしちゃ珍しい。 なんだ、お前、あいつの着替えでも覗いたのか?」 ( ´ω`)「そんな事してないお……」 _ ( ゚∀゚)「つまり、理由が分からない、と」 ( ´ω`)「おー……」 _ ( ゚∀゚)「お前はどうしたいんだ?」 ( ´ω`)「そりゃあ、仲良くしたいお」 _ ( ゚∀゚)「今だって十分仲がいいだろ」 ( ´ω`)「何て言ったらいいか分からないんだお、今の僕の気持」 _ ( ゚∀゚)「……ん? 具体的じゃなくていいからよ、ちょっと言ってみろ。 こう、ぼやーっとしたイメージでいいから」
- 290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:13:26.67 ID:MDSVctv/0
- ( ´ω`)「ずーっと一緒にいたくて、誰かに取られるのが嫌で、傍にいたいんだお。
ツンおねーちゃんがいるだけで、僕は幸せだお。 だから、おねーちゃんが悲しそうだったり僕を避けたりすると、すっごく悲しいんだお」 _ ( ゚∀゚)「それって、お前……」 ( ´ω`)「おねーちゃん、どうしちゃったんだろう……」 ジョルにいは、厳しい顔で悩んでいた。 何か、答えを考えている。 どんな答えでもいい。 今の僕が考えるよりも、先に進む事が出来るから。 _ ( ゚∀゚)「好きな男でも出来たのかな?」 ( ゚ω゚)「えっ?!」 _ (;゚∀゚)「そこに反応するのかよ。 でも、あいつだってそう云う歳なんだ。 それによぉ」 珍しく、ジョルにいが口を濁した。 言いにくい言葉を、無理矢理口にしようとしている。
- 293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:16:22.40 ID:MDSVctv/0
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珍しく、ジョルにいが口を濁した。 言いにくい言葉を、無理矢理口にしようとしている。 _ ( ゚∀゚)「あいつ、相当の美人だからな。 ひょっとしたら、もう、彼氏がいるのかもな」 ( ;ω;)「……お」 _ (;゚∀゚)「今のは冗談だ、冗談! だからそんな顔するな! ったく、ほーんと、全然似てねぇな、お前らは。 でも、昔からあいつを知ってる俺から見れば、そうだなぁ……」 ( ;ω;)「……」 _ ( ゚∀゚)「あいつは、自分に厳しい。 そのくせして、優しい。 特に、お前に対しては人一倍そうだ」 ( ;ω;)「?」
- 294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:19:39.79 ID:MDSVctv/0
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_ ( ゚∀゚)「ここから先は自分で考えな。 丁度いい機会じゃねぇか。 自分の考えを整理して、自分に正直に生きてみろ。 あいつの考えとかじゃなくて、お前自身の考えで、な」 僕の背中を強く叩いて、ジョルにいが気合いを入れてくれた。 _ ( ゚∀゚)「高校生になるんだろ? お前がウジウジしてたら、あいつ、本当に愛想尽かすぞ。 それと、忘れるなよ。 俺は、お前達の味方だってこと」 その言葉を信じて、僕は高校生活を楽しむ事にした。 でも。 僕のそれは、気のせいではなくなっていた。 おねーちゃんは、僕と全然話してくれなくなった。 話したかった。 もっと、話したい。 もっと近くで、もっと、もっと。 おねーちゃんの事を知りたい。
- 295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:23:15.07 ID:MDSVctv/0
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笑顔を見たい。 もう一度笑って欲しい。 今のおねーちゃん、何か無理しているみたいで、僕は辛い。 だから話しかけた。 僕に出来る、僕が考えた事。 それは、おねーちゃんに話しかけて元気づけてあげる事だった。 冷たくあしらわれた時は、後少しで泣きそうになった。 でも、構ってくれた時は、そんな事も忘れるほど有頂天になった。 僕は時間があれば、自分の気持ちを考えるようになった。 本当は分かっていたのかもしれない。 ずっと昔から持っていた感情を今さら考え直しているだけだ。 見つめ返しているだけ、とも言う。 何一つ、変わっていない。 僕の気持。 僕は、嗚呼、そうだ。 僕は、おねーちゃんの事が好きなんだ。
- 297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:26:46.70 ID:MDSVctv/0
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大好きで、大好きで、誰よりも大好きで。 だから僕は他の女の子に惚れる事も無かったし、恋をする事も無かった。 昔から、愛している人がいたのだから。 僕が二歳の時から、それは始まっていたのだ。 僕は、自分の事が人間の屑だと思った。 家族に対して、僕は家族愛以外の感情を持ってしまっている。 幼い頃は知らなかった。 知らなかったから、僕はおねーちゃんを異性として愛したのだ。 高校生になった今なら、それが如何に道を外れた感情か分かる。 こんな事、誰かに相談できる筈がない。 抱いてはいけない感情を、僕は、おねーちゃんに対して抱いている。 おねーちゃんは昔からそれに気付いていて、それを僕に分からせる為に今、あのような態度を取っているのだと、僕は推考した。
- 299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:29:47.34 ID:MDSVctv/0
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僕が話せば話すだけ、おねーちゃんは僕の事を嫌いになったに違いない。 今、僕はおねーちゃんにとってゴミの様な存在に近しいことだろう。 病原菌の様な扱いをされるだろう。 だったら、これ以上嫌われない様にする為には、僕はおねーちゃんから離れるしかない。 ジョルにいも、その事を言いたかったんだ。 きっとそうだ。 僕を傷付けない様に、あんな言い方をしたんだ。 僕は、どうしようもない駄目人間だ。 だけど。 悪いとは思っていても。 どうしても思えなかった。 出逢わなければ良かった、なんて、馬鹿みたいな事だけは。 高校二年生になった、その日の事。 僕は、自己嫌悪のあまり熱を出してしまった。 どうにかこうにか授業を乗り切って、そしたら、ミセリちゃんが話しかけて来た。 久しぶりに話したけど、昔とあまり変わらない、いい子だった。
- 304 名前:またもやあの惑星に連れて行かれていました:2011/05/16(月) 03:57:13.32 ID:MDSVctv/0
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ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、ブーン君。 この後、ちょっといい? 二人っきりで話がしたいの」 ( ^ω^)「勿論いいお」 微熱だから、まだ大丈夫。 そう思っていた。 放課後に、僕達は誰もいない教室で話をした。 進路の事、クラスの事。 そして。 そして、恋の事。 僕はとてもではないが、おねーちゃんの事を言えなかった。 ミセ*゚ー゚)リ「ブーン君、今、好きな人っている?」 僕は首を横に振った。 ミセ*゚ー゚)リ「そっか……そうなんだ……」 もじもじと、ミセリちゃんは俯いている。 教室に差し込む夕陽が、ミセリちゃんの姿をオレンジ色に染め上げる。 夕陽のせいで、僕は気付かなかった。 その頬が、赤く染まっている事に。 ミセ*゚-゚)リ「あのね、わ、私……」
- 305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 03:59:14.60 ID:MDSVctv/0
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意識がぼやけていても、声は聞こえる。 どうしたの、と言おうとして。 ミセ*゚ー゚)リ「私、ブーン君の事が好き」 いつかのあの日と同じ。 僕は。 ミセ*゚ー゚)リ「ずっとずっと、私、ブーン君の事が好きだったの」 告白をされた。 僕がすぐに返事を出せない事を、ミセリちゃんは知っていた。 申し訳ないぐらいに、ミセリちゃんは僕の事を理解してくれていた。 ミセ*゚ー゚)リ「お返事、待ってるね」 心に、何か、ずんっ、てきた。 潰れてしまう。 握り潰されてしまう。 誰あろう、僕自身によって。 その後、どうやって家に帰ったのか、僕は覚えていない。 部活は休んだのだけは覚えている。 家に帰ってからの記憶も殆どなかった。 おかーさんがしょうが湯を作ってくれて、それを飲んでからの記憶がない。
- 307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 04:03:37.13 ID:MDSVctv/0
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翌日、熱は更に上がっていた。 38度4分。 でも、行かなきゃ。 ミセリちゃんに、返事をしなきゃ。 ばれない様に元気を装って、曇り空の下、僕は学校に向かった。 多分、おかーさんは見抜いていたと思う。 今日は家にいるから、って言ってたから。 学校の授業中、僕の頭は色んな事でごちゃごちゃになっていた。 一度好きになってしまって、それが十年以上も続いて、今さらそれを諦めろだなんて。 無理だよ。 どれだけ自分が間違っていると分かっても、僕は諦める事がどうしても出来ない。 結果はいらない。 いらないから、傍に居させてほしい。 傍にいる為だけに、僕は頑張って来た。 それだけは捨てるわけにはいかない。 それが無意味になったら、僕は何をして生きて行けばいいのか分からなくなる。
- 310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 04:07:19.88 ID:MDSVctv/0
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ミセリちゃんの事も考えた。 小学校三年生の時からだから、もう随分と長い付き合いになるのか。 僕を好いてくれて、本当に嬉しい。 でもどうして僕なんかを好いてくれたんだろう。 未だに分からない。 今日、答えなきゃ。 答えなきゃ。 僕は、僕は…… ぼやけた意識が限界に達し、僕の体は椅子から崩れ落ちた。 皆が何かを叫ぶ声が遠のき、重くなった瞼を閉じ、一旦そこで記憶は途絶える。 次に目を覚ましたのは保健室のベッドの上で、保健室の先生が僕のそばで文庫本を読んでいた。 ノパ⊿゚)「おぅ、起きたか?」 ぱたん、と本を閉じて僕の額に手を当てた。 ひんやりとした手が気持ち良かった。 ノパ⊿゚)「まったく、まだ無理してる姿が格好いいと思ってる年頃なのか?」 ( ´ω`)「違います……お」
- 311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 04:10:11.68 ID:MDSVctv/0
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ノパ⊿゚)「だったらいいんだけどな。 そしたら、次に私が言う台詞、分かるな?」 ( ´ω`)「早退、ですか?」 ノパ⊿゚)「命令だ」 ( ´ω`)「でも……僕……今日、約束があって……」 ノパ⊿゚)「黙れ。 そいつには、今日は無理だってメールでもしておけ。 今は家に帰って、ゆっくりと寝てろ。 生憎、学校じゃあ解熱剤をやることができねぇんだ」 保険医の先生が、窓の外を見た。 ノパ⊿゚)「雨が降る前に帰りな。 返事は?」 ( ´ω`)「分かりましたお……」 コチコチとミセリちゃんにメールを打って、僕は早退した。 ふら、ふら。 急がない様に、出来るだけ車の交通量の少ない道を選んで、僕は帰った。 家に帰ろう。
- 312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 04:13:45.33 ID:MDSVctv/0
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家に帰れば、おかーさんがいる。 今はまだ大学が春休みだから、おねーちゃんがいるはずだ。 家が見えて来て、僕は少し気が楽になった。 後少し、だったのに。 家の前に、大きなトラックが停まっていた。 あれは、引越し屋のトラックだ。 トラックのそばに、おねーちゃんがいた。 ξ゚⊿゚)ξ「……どうしたの?」 ( ´ω`)「熱があって……早退……してきたんだお」 その時、おねーちゃんは、何かを恐れている様な顔を浮かべた。 そこまで、僕は嫌われていたのか。 悲しさが込み上げて来て、その時、引越し屋の人が段ボールをウチから運んで、トラックに乗せた。 ( ´ω`)「おねーちゃん、その荷物は何なんだお?」 ξ゚⊿゚)ξ「……引越しの荷物よ」 ぽつり。 ぽつり、ぽつり。 大粒の雨が、空から落ちて来た。
- 314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 04:17:04.22 ID:MDSVctv/0
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( ´ω`)「誰が引っ越してくるんだお?」 ξ゚⊿゚)ξ「私が引っ越すのよ」 ( ´ω`)「……う、嘘だおね?」 何で? だって、家から通えるんでしょ。 だったら、何で引っ越すの。 僕は、そんな事知らない。 僕の思考を嘲笑う様に、シャワーの様に降り注ぐ雨が、僕の頭を冷やした。 分かろうとしない頭でも、流石に分かる。 追い打ちを、おねーちゃんがかけてきた。 ξ゚⊿゚)ξ「冗談や嘘で、引越し屋さんを呼ぶ訳がないでしょ」 それだけ言い残して、おねーちゃんはトラックに乗り込んだ。 ぼやけた頭でも、真っ白になった。 絶望が、僕の頭を白に漂白した。 遠ざかるトラックを、僕は見ているしか出来なくて。
- 315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 04:20:38.13 ID:MDSVctv/0
- どんどん遠ざかって。
僕の体から、力が抜けた。 鍛え上げた足でも、僕の体を支える事は出来なった。 速く走る事の出来る足でも、僕は走り出す事は出来なかった。 僕はただ。 おねーちゃんの傍にいたかったから、追いかけたんだ。 追い賭け、追い懸け、追い駆けた。 そして今。 おねーちゃんを追っていた僕の心が、音を立てて大きく欠けた。 僕の眼の前が真っ黒になって。 意識が途絶える寸前に、僕は最後に思った。 僕はまた、捨てられてしまった、と。 To Be Continued... 【Final title】 ( ^ω^)でも、二人の距離は変わらなかったようですξ゚⊿゚)ξ
- 191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 00:36:10.87 ID:g89vbv110
- http://nanabatu.web.fc2.com/boon/tun_nigetesimatta.html
すまんが先に寝るす
- 316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/16(月) 04:25:21.41 ID:MDSVctv/0
- 支援ありがとうございました!
すいとんから逃れられなかった為に、この様な時間まで投下する事になりまして、申し訳ありませんでした これにて本日の投下は終わりとなります 次回でこのお話は最後となりますが、投下の予定については未定でございます 質問、指摘、感想などあれば幸いです >>191 ま、まとめてもらえたぁぁぁぁ!!やったああああ!! ふぉおおおおおお!!
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