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( ^ω^)ブーンと犬のようです |
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 19:48:49.18 ID:43pBehSE0
- ここに立つのは何度目だろう。
呆けたように頬を撫でる風を感じながら、 転落防止用の柵と向かいあって何分立つのか。
結局は、柵を越えられずに戻るのに、 どうして足が自然とここに向くのだろう。
( ^ω^)「死にたいからだお」
気持ちを整理するために、口に出す。
( ^ω^)(そうだ。僕は死にたいんだ。 死にたい。死ぬんだ。死ね。死ね……)
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 19:49:45.63 ID:43pBehSE0
- (´・ω・`)「さすがにエロゲはないよ。気持ちが悪い」
なぜか鞄に入っていたお気に入りのエロゲを見た、 唯一の友人の冷たい一言が胸を抉る。
(;^ω^)「ち、違うお。これは僕のじゃないお」
(,,゚Д゚)「あーらら。苦し紛れのいい訳ですか~?」
('A`)「どうしようもねえな」
違う。違うんだ。確かにこれは僕のだけれど、なにかの間違いなんだ。 きっと、ドクオが犯人だ。ドクオが僕の趣味を知っていて、 僕の大好きなエロゲを僕の鞄に――。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 19:51:05.14 ID:43pBehSE0
- 必死だった。人間は一人では生きていけない。
唯一の友人なんだ。ショボンはただ一人の友人で、 苛められ疎外されている僕と話してくれる、唯一の……。
(,,゚Д゚)「ちょっと貸してみ」
震える僕の手から、ギコがエロゲを掴み取った瞬間に、 ドクオとギコが見せた笑みは、死ぬまで忘れられないと思う。
(,,゚Д゚)「ちょ。名前書いてあんぞ!」
('A`)「え? まじまじ? うえっ。これはねーな」
(;^ω^)「えっ。ちょっと待ってお」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 19:53:04.16 ID:43pBehSE0
- 慌てて伸ばした手を弾き、ギコがエロゲを掲げて教室を走り出した。
僕もすぐに追いかけるが、運動神経のいいギコには到底敵わない。
(,,゚Д゚)「ブーンがエロゲ! ブーンがエロゲ!」
ξ゚⊿゚)ξ「うわあ。本気で気持ち悪いわ」
(*゚ー゚)「うん……。フォローのしようがないよね」
( ^ω^)「やめてお! 返しておー!」
僕は典型的な苛められっ子だった。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 19:56:09.06 ID:43pBehSE0
- 別に、エロゲ趣味が判明したから自殺するんじゃない。
友人から冷たい視線を送られ、担任に告げ口され、 職員室でエロゲを振り回す担任に三十分以上も注意されたほうが辛かった。
ショボンや担任、諸先生方は味方をしてくれると思っていたのに、 凍りつくような職員室の空気を感じた瞬間に悟った。 味方なんて、誰もいない。周りはみんな敵だ。
中二病が災いし、自分が孤独に思えた。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 19:57:15.98 ID:43pBehSE0
- ギコやドクオは学校中にいいふらすだろう。
ツンやしぃのお喋りは、彼ら以上かもしれない。
そのうえ、僕の性癖が全教師の知るところとなった。 当然、担任から親に連絡がいっているだろう。
垓下に追い詰められ、漢軍に囲まれた項羽以上に辛い。
( ^ω^)「もう無理だお」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 19:59:03.20 ID:43pBehSE0
- みんな僕のことが嫌いなんだ。
疎まれているのは知っていた。
見た目は最悪。顔が悪い。肥満体。汗臭い。 社交性が皆無で、授業態度も不真面目。
どうして生きているんだろう。 自分は誰からも必要とされていない。 生きている価値なんてない。
だから死のう。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:02:06.16 ID:43pBehSE0
- 本当は、エロゲ嗜好が知れ渡ったのなんてどうでもよかった。
死ぬきっかけが欲しかっただけなのかもしれない。
ふいに膝の震えが止まった。汗が引いた。 肋骨を突き破らんばかりの勢いで鼓動していた心臓が正常に戻った。
ああ。本当に僕は死ぬんだなあ。
妙な感慨に耽りながら柵を乗り越えた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:03:43.33 ID:43pBehSE0
- 人間は必ず死ぬ。大抵は、百年経たずに死ぬ。
どう足掻いても結局は死ぬのに、どうして死に急ぐのだろう。
生きたくても生きられない人がいる。
病だったり、親の都合だったり、貧困だったり、 理由は様々でも、もっと生きたいと思うものがいる中で、 自殺する心境が僕にはわからない。
現状が打破できないなら、引きこもったり、家出したりすればいい。 袋小路に迷い込んでばかりなら、腰を下ろしてみればいい。
( ^ω^)(わかっていても、自殺する人は減らないお)
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:06:27.45 ID:43pBehSE0
- 瞑った瞼の裏側に、肋骨を浮かせ、異常に腹の膨らんだ子供が見える。
漂流し、魚に皮膚を食い千切られながら、懸命に意識を保つ夫婦が見える。 車に轢かれる人が見える。首を吊る人が見える。屠殺される豚が見える。
豚は血を抜かれながら、男性の顔を見つめている。 心臓が動きを弱めながらも、全身に血を送っている。 どうせ送った血は抜かれるのに、懸命に脈を刻み続けている。
屠殺前に気絶させる場合、確実に気絶しないことが稀にある。 意識を保ったまま血を抜かれ、屠殺される豚を見て笑う 男性の顔がギコと重なり、僕が豚になる。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:07:59.37 ID:43pBehSE0
- (´・ω・`)「大げさじゃないか?」
( ^ω^)「それは、飛び降りてみなきゃわからないお」
(´・ω・`)「そっか。じゃあ僕には一生わからないんだろうね」
頭蓋骨を骨折しただけですんだのは、僥倖なのだろうか。
植物人間になる可能性もあると示唆されていたのに、 僕は図太く意識を取り戻した。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:10:10.29 ID:43pBehSE0
- 僕が入院している間に、卒業式が執り行われた。
卒業証書を届けてくれたのは、毎日のように見舞いに訪れていたショボンだった。
一見すると、仲が戻ったように見えた。 ショボンが向ける笑みは、昔と変わらないように思える。 でも、僕と彼の繋がりは、やはりどこかが狂っているのだろう。
ショボンは罪悪感から見舞いに訪れ、 以前のように快活な態度で接してくれている。
僕は僕で、修復されたように思える関係を歓迎していた。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:12:03.24 ID:43pBehSE0
- ちなみに学校は、自殺ではなく事故と発表した。
自殺問題が取り沙汰されている現状を考えると、仕方がないような気もした。
ドクオとギコは一度も顔を見せなかったが、あまり気にならなかった。
彼らのことよりも、大学のサークルや胡散臭い編集長が、 毎日のように走馬灯の有無や落下中の感想を求めに 訪ねてくるのが面白かった。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:13:40.66 ID:43pBehSE0
- 退院の際には、看護師や医師が出入り口まで見送りにくるものだと
思っていたのに、予想に反して誰も出てきてくれなかった。 僕はショボンに車椅子を押してもらい、タクシーで自宅に戻った。
久しぶりの自宅は、外観こそ変わっていなかったものの、 靴の脱ぎ散らかされた玄関や、散乱する衣服、積もった埃など、 以前の温かい空気はどこにも感じられなくなっていた。
( ^ω^)(ああ。僕の医療費のせいだお)
そういえば心なしか、母の背中が一段と萎んだ気がする。 落ち窪んだ目元や、荒れた肌、乾燥して罅割れた唇、乱れた髪が痛々しい。
( ^ω^)(全然、気づかなかったお)
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:15:46.06 ID:43pBehSE0
- 「後遺症の心配はありません。リハビリは必要ですが、
根気よく続けていけば、必ず元通りになりますよ」
怪我は治る。後遺症の心配もない。 でも、巻き込まれるようにして崩れた周囲は直らない。
( ^ω^)「うはっ。なんか哲学的だお」
J( 'ー`)し「うん? どうかしたのかい?」
( ^ω^)「なんでもないお」
過ぎてしまったことは、どうにもならない。 後ろを見ずに、前を見て生きるのが大事なんだ。
誰の言葉だっけ。薄っぺらで、微風にさえ飛ばされそうな言葉だ。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:17:12.91 ID:43pBehSE0
- リハビリを続けながら、ショボンの紹介で仕事を得た。
ショボンの父はウェブデザイナーで、ショボンは 中学を卒業すると同時に、父の下でデザインの勉強をしている。
(`・ω・´)「薄給で悪いね。個人の会社だから、あまり儲かってなくてね」
( ^ω^)「なんの技術もない僕を雇ってくれただけでありがたいお。 本当に、感謝のしようがありませんお」
僕の仕事は、画像の編集だった。 現在はFlashが主流で、以前のようにFlashが見られない 環境の人は皆無なのだから、仕事はないに等しい。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:18:13.95 ID:43pBehSE0
- 実際には仕事は山積みらしいけれど、
経験のない僕が仕事をこなせるわけがなかった。
大抵は雑用で時間を潰している。
借金もようやく返し終わり、母は仕事をひとつに絞った。 僕も一応は職に就いているし、怪我の経過も悪くない。
毎日自殺を考えていたころからは考えられないほど 順調な生活を送っている。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:21:43.29 ID:43pBehSE0
- J( 'ー`)し「ブーン。仕事は終わりそう?」
( ^ω^)「えっと」
視線の意味を理解したのか、シャキンが頷いた。
(`・ω・´)「作業が一段落するから、もう大丈夫だよ」
頭を下げ、「うん。帰れるお」と伝える。
J( 'ー`)し「そう。ところで今日がなんの日か覚えてる?」
すぐにメモ帳を開いて確認するが、なにも書かれていない。 というよりも、怪我のせいか、日付の記憶が曖昧だ。 パソコンで日付を確認し、「あっ」と叫んだ。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:23:01.59 ID:43pBehSE0
- ( ^ω^)「僕の誕生日だお!」
J( 'ー`)し「ケーキとプレゼントを買って帰るからね。 楽しみにしているのよ」
電話を切ると、シャキンとショボンが満面の笑顔で祝いの言葉をくれた。 僕は照れくさくて、小さく呻いた後に咳をして誤魔化した。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:24:21.83 ID:43pBehSE0
- 本当に順調だ。なにもかもが都合のいいように回っている。
外れた歯車が戻るなんてありえないと思っていたのに、 この軽快な回転はどうだ。順調に過ぎるじゃないか。
しかし、医者の言葉には疑問が浮かぶ。 僕は全ての落とし穴を回避したのだろうか。 もう足を掬われることはないのだろうか。
僅かに不安を感じながら、松葉杖をついて家路を急いだ。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:33:31.59 ID:43pBehSE0
- 洗濯物を取り込み、風呂のスイッチを入れて外灯を点ける。
( ^ω^)(今日は、から揚げにするお)
手馴れた動作で下ごしらえを済ませ、 油で揚げていると、玄関の開く音がした。
続いて、小さな鳴き声が廊下に反響した。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:33:59.31 ID:43pBehSE0
- ,-'"ヽ
/ i、 /ニYニヽ _/\/\/\/|_ { ノ "' ゝ /( ゚ )( ゚ )ヽ \ / / "' ゝ /::::⌒`´⌒::::\ < わんわん!!> / i ,-)___(-,| / \ i 、 |-┬-| /  ̄|/\/\/\/ ̄ / `ー'´ /. i' /、 ,i.. い _/ `-、.,, 、_ i /' / _/ \`i " /゙ ./ (,,/ , ' _,,-'" i ヾi__,,,...--t'" ,| ,/ / \ ヽ、 i | (、,,/ 〉、 、,} | .i `` ` ! 、、\ !、_n_,〉>
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:34:50.74 ID:43pBehSE0
- ( ^ω^)「おっおっ」
J( 'ー`)し「ずっと前に犬が欲しいっていっていたでしょう?」
( ^ω^)「それ、僕が小学生のころだお」
母が柵から子犬を取り出し、僕に差し出す。
( ^ω^)「うわっ。不細工だお~。 ブルドッグって、どんなセンスだお」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:37:09.81 ID:43pBehSE0
- J( 'ー`)し「違うわよ。パグっていうの。可愛いでしょう。
ブーンもそろそろ松葉杖がいらなくなるし、 リハビリに散歩なんてのもいいんじゃないかと思ってね」
( ^ω^)「おっおっ。それで小型犬かお。 僕はてっきり、僕と似たような顔の犬を買ってくるという カーチャンの嫌がらせかと思ったお」
「そんなわけないでしょう」と笑い声を上げていた母の顔が、急に険しくなった。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:37:39.99 ID:43pBehSE0
- J( 'ー`)し「ねえ。なんか焦げ臭くない?」
( ^ω^)「あー!」
慌ててコンロに近寄るも、煙で涙が零れた。
( ^ω^)「あはは。焦げちゃったお」
換気扇を回し、舌を出して笑う。 母も煙に噎せながら、殴る振りをして笑った。
そのころ、リビングのソファに尿が染み込んでいた。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:39:08.10 ID:43pBehSE0
- 初めは不細工だなあと思っていたのに、いつの間にか、
これほど愛くるしい犬は存在しないと考えるようになった。
潰れた鼻や大きな瞳、短い手足に弛んだ腹と、 不恰好を極めたような見た目で、鼾はうるさいし、 トイレのしつけや散歩に時間が取られてしまい、 生活のリズムが狂ってしまったのだけれど、可愛くて仕方がない。
( ^ω^)「もふもふで気持ちがいいお」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:39:58.96 ID:43pBehSE0
- 犬と一緒なら、安眠できた。
以前は、落下する夢や苛められる夢で、夜中に目を覚ますことが多かった。 しかし、犬の鼾と心地よい体温のおかげで、悪夢は影を潜めるようになった。
「犬の散歩は腰に負担をかけるので、あまりよくないですよ」 と医者はいったが、昼日中から一人で住宅街を歩くのは、 不審者に間違えられそうでどうにも気恥ずかしかったから、 散歩を装う(というよりも実際に散歩だが)のに最適だった。
( ^ω^)「落とし穴は全部乗り越えたお」
目の前の落とし穴にも気づかず、笑っていた。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:41:44.32 ID:43pBehSE0
- どうして人生は思うようにいかないのだろう。
どうして順調に回っていたはずの歯車が外れるのだろう。 母はどうしてパグを選んだのだろう。
母がいて、僕がいて、パグがいて、我が家は磐石で、 ずっと幸せな生活に浸っていられると思っていたのに、 どうして僕の落とし穴はこんなに多くて深いのだろう。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:42:20.78 ID:43pBehSE0
- ( ^ω^)(なんかおかしいお)
毎日一緒にいるから感じる些細な違和。 風邪だろうか。病院に連れていこうか。 シャキンの仕事が忙しくなり、病院には連れていけそうもない。
家で映画を観ていた。犬は膝の上で丸まっていた。 ふいに犬が頭を起こし、トイレに向かった。
「ぐぎゅぎゅ」
奇声に驚いて振り返ると、犬が泡を吹いて痙攣を起こしていた。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:43:19.36 ID:43pBehSE0
- MRIを撮った。病名は、パグ脳炎らしい。
医学の進歩は目覚しいのに、どうして不治の病なのだろう。 落下中に見た、悲運な人の叫喚が重なった。
頭の中で歯車の螺子が弾け、煉瓦が崩れた。
犬が同じ場所を旋回するようになった。 仕事を辞め、一日を家にこもって過ごした。
家具に頭をぶつけるようになった。 目が見えていないのだろうか。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:44:36.25 ID:43pBehSE0
- ( ^ω^)「おっ。今日は少し調子がいいお」
視力が回復したようで、まだ旋回はしていたが、 足取りも少しだけしっかりしているように思えた。
( ^ω^)「最後になるかもしれないし、散歩にいこうお」
犬は頭がいい。「散歩」や「ご飯」を認識することができる。
僕が「散歩」というと飛び起き、 目を見開きながら嬉しそうに駆け回るのが常だった。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:45:23.19 ID:43pBehSE0
- 意地悪をして「散歩」といった後に顔を背けていると、
近くに座って上唇(で正しいのだろうか)を下唇で挟み、 拗ねたような、不満げな表情をする。
犬には表情がないと聞いていたから、 初めて見たときには驚いた。
ちなみに、不満顔、悲しそうな顔、嬉しそうな顔、 眠そうな顔、普通の顔は区別できるようになっていた。
でも、今の顔はわからない。わかりたくもない。 興奮しているのは、なんとなく感じ取れた。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:46:04.15 ID:43pBehSE0
- なのに、走り回らない。鼻を鳴らさない。不満げな顔もしない。
黒目を泳がせ、震える足で懸命に立っているだけだ。
リードは必要ないと思った。震える犬を抱き、外に出る。 離してやると、危なげながら、どうにか花壇まで歩き、 小さいころにしていたように、しゃがみながら排泄をした。
よく晴れた、雲ひとつない天候だった。 布団のシーツが風にはためき、小さく音を立てた。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:46:40.37 ID:43pBehSE0
- 僕は花壇に腰を下ろし、犬を見つめた。
本当に調子がよさそうだ。 もちろん、以前のような快活さはないけれど、 少なくとも、額をぶつけて歩いてはいない。
ふいに、安堵が胸に満ちた。 ようやく決心がついたといいかえてもいい。
犬は死ぬ。それも、遠くない未来に。
でも、太く生きてくれたと思う。 自己満足かもしれないけれど、幸せな生活を送っていたと思う。 いや。確信できる。姑息でもそう考えたかった。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:48:51.37 ID:43pBehSE0
- (*゚ー゚)「あれー。ブーン君じゃない?」
(,,゚Д゚)「うわっ。まじだよ」
人間って、本当にどうしようもない生き物だなあ。 一瞬で気分が変わってしまう。
(,,゚Д゚)「なに。生きてたの?」
あはは。
(*゚ー゚)「気持ち悪い。この人、なんで笑ってるの?」
(,,゚Д゚)「さあな。後遺症ってやつじゃねえの? 早くいこうぜ。吐き気がしてきた」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:49:20.05 ID:43pBehSE0
- (*゚ー゚)「あー。ちょっと見て。変な犬がいるよ!」
(,,゚Д゚)「あん? なんか挙動不審じゃねえ?」
(*゚ー゚)「本当だ。病気かな」
(,,゚Д゚)「こいつのがうつったんだぜ、きっと。 うええ。なんだあの顔。ブーンそっくりじゃねえか」
(*゚ー゚)「ねえ。早くどっかいこ。私、感染したくないし」
(,,゚Д゚)「ははは。待てよ。せっかくだから、楽にしてやろうぜ」
(*゚ー゚)「えー。やめようよ。気持ち悪いじゃない」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:52:26.51 ID:43pBehSE0
- (,,゚Д゚)「大丈夫だって。周りに人いねーし」
(*゚ー゚)「いいから。ね。ホテルいこ。私の奢り!」
(,,゚Д゚)「へへっ」
右手には園芸用の煉瓦。足元は血の池。 転がる生ゴミと、蘇る断末魔の叫び。
( ;ω;)「ふおおお。ふおおおおおおお」
僕がなにをしたんだ。迷惑をかけたのか。 どうして僕に構うんだ。そんなに面白いのか。 人を甚振るのは、気持ちがいいものなのか。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:53:09.54 ID:43pBehSE0
- 地面を掘る。
爪が剥がれ、血が地面に染み込む。
長かったようで、短かった。 多分幸せだったと思う。 でもわからない。 言葉は通じない。 意思の疎通は一方通行だった。
でも、寂しくないよ。
カーチャンと一緒だもんね。寂しくないよ。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:53:51.06 ID:43pBehSE0
- 近所にホテルは一軒しかない。
閑静な住宅街に場違いなホテル。
目がちかちかする。耐えた。
どのくらいの時間が経過したのだろう。 時計を持ってくればよかった。 携帯電話でもよかったな。気になってしようがない。
こんばんは。見知らぬおじさん。 援助交際ですか。大層なご身分ですね。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:55:43.80 ID:43pBehSE0
- 僕の顔になにかついていますか。
警察に通報しますよ。早く帰ったほうがいいんじゃないですか。 奥さんが待っているでしょう。
結婚したばかりのころは、美人だったのでしょうね。
でも段々と皺が増え、頬が弛み、家事は手を抜かれ、 扱いにくくなり、そのくせ口だけは達者になる。 そりゃあ、援助交際だってしたくなりますよね。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:56:24.54 ID:43pBehSE0
- 右腕が痛い。重い。別のものにすればよかっただろうか。
一度家に帰って、別のものを――、などと考えていると、 タイミングよく出てくるんだなあ。本当に自分勝手な性格だ。
看板から飛び出し、煉瓦を振り下ろす。 悲鳴と怒声が交錯する。血が飛び散る。
痛いなあ。どうしようもないなあ。 仇さえ取れないのか。全く成長していない。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:57:07.84 ID:43pBehSE0
- エロゲが出てきたときもそうだった。
あれは僕の字じゃない。ショボンならわかってくれただろうか。
雨が冷たい。声をかけてくれる人さえいない。 ゴミを見るような目を投げかけ、視線を逸らして去っていく。
どうしてあのとき死ねなかったんだろう。 死ぬことさえまともにできない。
ドクオとギコの歪んだ笑みが浮かんで消えた。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:57:31.02 ID:43pBehSE0
- 人間は必ず死ぬ。大抵は、百年経たずに死ぬ。
どう足掻いても結局は死ぬのに、どうして死に急ぐのだろう。
( ^ω^)「簡単だお。死にたいから死ぬんだお」
飛び降りても壊れなかった僕の頭蓋骨も、煉瓦には勝てなかった。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 20:58:36.40 ID:43pBehSE0
- 男女の死体が発見されたのは、住宅街の一角に佇む、花壇の前だった。
全身には裂傷が見られ、喉笛が噛み千切られていた。
警察は野犬の仕業と断定し、付近の捜索を行ったが、 なにも発見できないまま、月日が流れた。
三人目の被害者は女性だった。 やはり同じように裂傷と噛み傷が見られた。
四人目の男性は、自宅で発見された。 戸には鍵がかかっており、窓も割れてはいなかった。 やはり同様の傷が見られた。
四人目の被害者が出た翌日に、最後の被害者が死んだ。
被害者の父はすぐに通報したが、野犬は見つからないままだった。
おしまい
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/06(木) 21:06:29.50 ID:43pBehSE0
- >>47
本当に滅入ってくれたらなら儲け物。 感情移入してくれたってことになるじゃないか。 まあ、そんあ大層なものじゃあないだろうけれど。
犬のAAは某スレから拾ってきた。 タイミングよかったから使ったけど、笑いはとれなかった。
落ちが弱いのは仕様。プロットは面倒くさかった。
後の細かい矛盾は脳内保管で。
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