川д川人魚の木乃伊のようです('A`)
- 1 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 15:49:52.52 ID:lL/o96KP0
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猟奇短編祭ゲリラ・ながら
突発的なものですので逃げるかもしれないし、
ダラダラやるし、暑いし、色々拙いですがご容赦を
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 15:55:20.00 ID:lL/o96KP0
-
昔、小学六年生の頃くらいに
遠足で、とあるお寺に訪れたことがあった
子供のわたしたちにとって、とても退屈なそこは
人魚のミイラを保管していることで有名な場所だったらしい
人魚といっても、まだ幼かったわたしには
絵本で見たような金色の髪を頂いた、綺麗ないきもの
耳がとろけるような歌を唄う、神秘的ないきもの
でも、おばけと同じで本当はいないもの
その程度の想像が全てだった
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 15:58:17.37 ID:lL/o96KP0
-
でも、お寺の住職さんがニコニコと笑いながら
差し出した小さな箱には、金髪の美人も綺麗ないきものも入ってはいなかった
ただ乾いて、小さくて
そしてとびきり醜い、なにかの死骸だった
わたしは初めて見た人魚のミイラが、あまりにも怖くて膝が震えたけど
一緒に付いて来てくれた彼は、興味津々に住職さんに尋ねていた
「このミイラは本物の人魚なんですか?」
って
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:04:34.78 ID:lL/o96KP0
-
住職さんはまたニコニコしながら、でも首を横に振った
でも機嫌は良さそうで、多分、その質問を聞いて欲しくて欲しくて
堪らなかったんだと思う
「これはね、残念だけど作り物なんじゃよ」
「昔の人が魚の骨と、猫とか、猿とかの亡骸を寄り合わせて」
「作ったらしい。それでも、当時の人はこれを本物の人魚と思っていたそうだ」
「とてもとてもありがたいものとして、手を合わせる人もいたんだよ」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:11:00.25 ID:lL/o96KP0
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「人魚は生前、罪を犯した人が生まれ変わったという話もある」
「つみ? 一体何をしたの?」
「色々じゃよ」
「魚を取ってはいけない神聖な場所で、多くの魚を獲ってしまった漁師とかかのう」
「人魚になってからは、自分の姿を末永く残して、殺生の罪の重さを人々に伝えて欲しい」
「そう言った、という逸話もあるんじゃ」
私には住職さんのお話は退屈で、冗長で、難しかったけど
彼はとても興味津々で、一心不乱に聞き入っていた
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:14:03.80 ID:lL/o96KP0
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てっきり、ミイラが本物じゃないからガッカリしている
そう思っていたけれど、彼は思いのほか上機嫌で
帰りのバスの中でも、隣の席で妙に興奮していたのを良く覚えている
「ねえ、ドクオ君」
「何?」
「人魚、本物じゃあなかったね」
「そうだね」
「でも、とても面白いものを見れたと思う」
「ガッカリしてないの?」
「まさか!」
ドクオ君は身を乗り出してそう言った
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:17:16.58 ID:lL/o96KP0
-
「どうして? 人魚、作り物だったでしょ?」
「ドクオ君、今日ここに来る前に、本物の人魚が見れるんだって」
「すごく楽しみにしてたじゃない?」
「うん、人魚が本物なら、確かにもっと嬉しかったかも」
「でも今は別の意味で、すごく有意義な気持ちだよ」
「?」
「感動したんだ」
「昔の人が、魚や動物の骨から、あんなリアルで、グロテスクで」
「心に訴えかけてくるものを、作ったって事実に感動した」
「胸を打たれたんだ。カルチャーショックだよ」
「???」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:20:32.11 ID:lL/o96KP0
-
私には彼の言っていることが良く分からなかった
私は、やっぱり綺麗で美しいものが好きだから
少なくとも、あのミイラは好きになれそうになかった
彼のように感動する事なんて、できなかった
「すごいなぁ。たくさんの人がアレを人魚って信じたんだ。神様みたいに手を合わせたんだ」
でも喜んでいる彼を見ているのも、好き
美しいものや綺麗なものを見るよりもずっと、ずっと好きだ
昔も、今も
だからその点においては、あのミイラにありがとうを言いたい
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:22:30.86 ID:lL/o96KP0
-
「美しいもの、素晴らしいものは人間の手で作れるんだ」
「僕も、僕もいつか作りたいなぁ」
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:24:58.74 ID:lL/o96KP0
-
人
魚
の
ミ
イ
ラ
の
よ
う
で
す
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:27:56.16 ID:lL/o96KP0
-
* * *
ピンポーン
('A`)「はい、はい、今出るよ。出る」
ガチャ
川д川
川д川「おはよう、ドクオ君」
('A`)「んん」
('A`)「うん、おはよう。暑いな、今日も」
川д川「夏、だからね」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:30:43.78 ID:lL/o96KP0
-
バタン
('A`)「スリッパ、いる?」
川д川、「うん、ごめんね。サンダル履いて来ちゃったから」
川д川「フローリングに足跡、付いちゃうもんね」
('A`)「それくらいいいよ、拭けば消えるし」
('A`)「うん、でも……はい、スリッパ。ピンクでいいよな?」
川д川「うん、うん」
川д川「ありがとう」
('A`)
ガチャ
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:35:09.47 ID:lL/o96KP0
-
('A`)「はい、麦茶」
川д川「ありがとう」
川д川、「暑いよ、外、すごく。喉渇いちゃって」
川д川、「私、細いから。水気無くなると頭ボーっとしちゃうから大変」
川д川「一応、水筒持ってるけど、あんまり重いの持てないから」
川д川「ちっちゃくて……すぐ、無くなっちゃった」
('A`)
('A`)「うん、飲んでいいよ。俺はいいから」
川д川
川д川「……うん」
ゴクッゴクッ
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:39:32.74 ID:lL/o96KP0
-
川д川
('A`)
川д川
川д川「おじさんとおばさん……いないんだね」
('A`)「うん、そう」
('A`)「ここ二週間くらい、海外に行ってるんだ。俺、ほっといて」
('A`)「ひどいよな。まぁ、ひとりが気楽でいいけど」
川д川
川д川「でも、そうだよね」
川д川「おじさんとおばさんいたら、今日、私を呼んだりしないもんね」
川д川、「うん、うん、そうだよね」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:43:47.51 ID:lL/o96KP0
-
ジーワ ジーワ ジーワ
('A`)「セミ、すげぇな」
川д川「うん」
('A`)「猛暑だな。もう八月だし、すっかり夏だ」
川д川「うん」
('A`)「……そういや、あの遠足も夏の入り際だっけ」
川д川
川д川「どう、だったかな」
('A`)
川д川
川д川「ねえ、ドクオ君」
川∩д∩川「その……お風呂、借りてもいい、かな?」
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:48:05.28 ID:lL/o96KP0
-
('A`)
('A`)「でも、湯船……空だぞ?」
川∩д∩川「いいの、シャワーだけ借りられたら、いいから」
('A`)「……それならいいけど」
川∩д∩川「ごめんね、急にこんなこと言ってごめんね」
川∩д∩川「でもすぐ終わるから。ごめんなさい」
('A`)
('A`)、「いいよ。洗面所のタオルも、好きに使っていいから」
('A`)「だから、あんま謝んなよ」
川∩д∩川「うん、うん……」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:59:00.24 ID:lL/o96KP0
-
* * *
( ^ω^)「おーぅい、どくおや、どくお」
浜を蹴って、漁師仲間のぶぅんが駆け寄ってきおった。
コイツは昔から太っとる。
わしや他の漁師連中と同じように、毎日細い食で食いつないどるとは思えんほどの巨漢だ。
羨ましいが、あれはあれできっと体重くて毎日仕方がないのじゃろう。
('A`)「何じゃ、ぶぅん」
( ^ω^)「何じゃて、漁じゃ漁! そっちの網はどうじゃった?」
('A`)「どうもせん」
わしが解れを編んどった地引網には、鰯一匹おりゃあせん。
三月も前というのに、まだ赤潮で悪いもんがのこっとるのか。
ぶぅんのように元気には振舞えん。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:02:56.96 ID:lL/o96KP0
-
( ^ω^)「厳しいのう」
ぶぅんは肉で細なった目を、余計に細くして海を睨んだ。
( ^ω^)「おいらは嫁とカーチャン食わしてやらにゃならんから余計に大変じゃ」
('A`)「独りは独りで辛いんじゃ。食いぶち以上にの」
ぶぅんには嫁がおる。家族がおる。
しかしわしには何もありゃあせん。財産も、家族も何もかも。
ぶぅんが太っとるんは、きっと幸せ太りじゃ。
そう言い聞かせて、わしは家に戻った。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:08:28.85 ID:lL/o96KP0
-
家は狭いが、わしには広すぎた。
('A`)「…………」
床に据え取る、死んだ嫁の着物に手を合わせてから。
苔むした水瓶から柄杓をとった。もうそこを突きかけとった。
('A`)「また調達せにゃあの」
独り言が癖になりだしたのは、きっと嫁が死んでからじゃ。
独り身の時はずぅっと黙って暮らしとったが、
嫁がおった頃は、嫌でも嬉しくても家の中はうるさかった。
その名残で、今でも嫁が「はいはいそうだねあんた」と、
返事をしてくれるのを待っているのかもしれん。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:13:26.54 ID:lL/o96KP0
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('A`)「酒もありゃあせん……か」
薄い布団に横たわって、じぃと天井を見つめる。
着物に染みついた汗の臭い。湿った木と潮の臭い。
嗅ぎ慣れたそれも、なんだか鼻の奥に沁みて、沁みて。
きっとわしは今でも寂しくてしゃあない。
嫁が死んでから、もう何日も何ヶ月も何年も。
女の身体が恋しいのではない。
('A`)「広すぎる家が寂しいんじゃ……」
ほれ、また独り言じゃ。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:19:41.00 ID:lL/o96KP0
-
明日も早い。
漁師に休みなんてない。
泣く暇も、寂しさに震える時間も、何もない。
(-A-)。°
だから、嫌なこと全部投げ出して、寝よう。
そんな風にうとうとしていると、浜から波に紛れて、
何か、何か聞こえてくるような気がした。
('A`)「なん、じゃ……?」
初めは寂しいあまり、夢で嫁の声を聞いとるのかと思った。
でも、なんだかやわっこくて、細くて、絹のようなそれは確かに浜から聞こえとった。
波に紛れて、誰かを呼んでおった。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:25:03.86 ID:lL/o96KP0
-
もしかしたら、誰ぞが網や船に悪さをしているのかもしれん。
夢見心地で声に聞き入っている反面、そう思うとやけに頭がしゃっきりした。
床から立ち上がり、なるたけ長い薪を握るとずずぅっと戸を開けた。
夜の浜は暗い。足元もおぼつかん。
ぴしぴしと夜風に吹かれた砂を頬に受けて、それでもわしはじりじり進む。
耳を頼りに、声のする方へじりじり、じりじりと。
次第に、大きな松の生えた岩陰の方から、声がしとると分かる。
近付いて分かったが女じゃ。そんで歌を唄っているらしい。
あんまり綺麗な声なんで、蕩けて薪を取り落としそうになる。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:28:31.20 ID:lL/o96KP0
-
夜の浜で? 女が歌を?
薪を握る手に力がこもった。怪しい奴じゃ。
いや、もしかしたら頭がおかしいだけかもしれん。
しかし、本当に船や網に悪さをしていたら放ってはおけない。
('A`)「ッ!」
岩陰に乗り出すと、女の影にがばぁと覆い被さった。
川д川
そこには確かに女がおった。
じゃが、あんまり驚いたんで飛び出したわしが薪を取り落としてしもうた。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:33:17.22 ID:lL/o96KP0
-
女には手足がなく、代わりに青い青い魚の”ひれ”が付いておった。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:35:03.85 ID:lL/o96KP0
-
* * *
シャアアアァアァア……
('A`)「貞子」
('A`)「貞子、聞こえるか?」
「うん、聞こえてるよ……」
('A`)
('A`)「着替え……俺のシャツとズボンしかないけど、置いておくから」
「うん、うん、ありがとう」
('A`)「…………」
('A`)「大丈夫か? のぼせたか?」
('A`)「暑いんだから、適当な所で上がれよ?」
「うん、そうだね。そろそろ、あがろうかな」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:39:08.98 ID:lL/o96KP0
-
「あ、そうだ、今上がるよ。ほら、着替えあるし……」
('A`)「俺、出るから。その後に上がれよ」
「いいよ、裸くらい」
「もう付き合い長いんだし、幼稚園の頃、一緒にお風呂入ってたじゃない」
('A`)「それ、いま出ていい理由と関係ないs――」
ガララ
川д川
('A`)、「うあ、も、もう出るから……」
('A`)´
('A`)「お前それ……肩のところ、タバコの跡か?」
川д川「……うん」
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:41:37.48 ID:lL/o96KP0
-
('A`)
('A`)、「親父さんか……?」
川д川「うん、そう。朝にちょっと、怒らせちゃって……」
('A`)
('A`)「もう慣れた……のか?」
川−川 )) フルフル
川д川「慣れないよ。我慢も出来ないし、痛いし、熱いしね」
川д川「慣れたら、良かったのにね。もう何年も叩かれて、これだもん」
('A`)
('A`)「ごめんな」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:44:49.60 ID:lL/o96KP0
-
川−川「ドクオ君は悪くないよ? 何も」
川д川「私の運がなかっただけだよ。運悪く、怒りっぽいお父さんとお母さんの家に」
川д川「生まれちゃっただけだから」
('A`)
川д川「むしろ、こうやって最後に協力できて、私、嬉しいよ」
('A`)
川д川
川−川「嫌なもの見せて、ごめんね」
('A`)「うん……いいよ、だからそんな」
( A )「謝んなくていいから……」
- 65 名前:忘れてた、一応グロにつき閲覧注意です 投稿日:2010/07/19(月) 17:49:22.45 ID:lL/o96KP0
-
ガチャ
川д川「はは、ドクオ君の服でも結構ブカブカだなぁ」
川д川「同じくらい痩せてるけど、不思議だね」
('A`)「肩幅が全然違うからな」
川д川「ドクオ君も男の子なんだねえ」
('A`)
ギシッ
川д川
川д川「お風呂ありがとう。最後にさっぱり出来て、良かった」
川д川「それで……いつ始めようか?」
川д川「夏の、自由研究」
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:56:36.05 ID:lL/o96KP0
-
('A`)
('A`)「いつでもいいけど、な」
川д川「場所は?」
('A`)「地下のガレージに、一晩かけてビニールシート張っといたから」
川д川「すごいすごい、頑張ったね」
('A`)「まぁ、結構広いからな」
('A`)
川д川
川д川「私も、いつでもいいから」
('A`)「……うん、じゃあ、行くかな」
('A`)「先、行っといてくれ。工具とか、材料色々取ってくるから」
川д川「うん」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:00:59.81 ID:lL/o96KP0
-
* * *
川д川「疲れて動けなくなっていたところを、どうもありがとうございます……」
助けた女は、柳のように黒く長い髪をしな垂れさせて、礼を述べる。
海水を張った桶の中で、というのがどうにも奇妙じゃったが。
('A`)「そんで、その、お前さんは……」
川д川「はい、人魚です」
えらくはっきりとそう答えた。
わしは疑うことも馬鹿らしくなる。そりゃあそうじゃ、ひれの生えている女が人魚と名乗うとる。
足なんてびっちり鱗の生えた魚の尾っぽそのもの。疑うべくもない。
疑うなら、寂しさでわしの頭がどうかしたくらいだろう。
('A`)「人魚、のう……」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:06:31.82 ID:lL/o96KP0
-
('A`)「人魚というと、海に住んどる妖怪みたいなやつか」
川д川「妖怪、でしょうかねぇ?」
('A`)「自分が妖怪かも分からないのか」
川д川「私は、人魚ですから。それ以上のことは何も」
('A`)「ふむ……」
眠気も消えて、すっかり眼が冴えてしまう。
何でも人魚は、強い潮の流れにのって遠くから流されて来たらしい。
故郷の海は、わしの住む浜よりもずっとずっと南の方で。
帰りたいのは山々だが、ひれをサンゴで切ってしまい痛くて動かせないと。
聞くだに難儀な話じゃ。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:11:28.59 ID:lL/o96KP0
-
わしも何故にこいつを拾って、わざわざ行水用の桶を引っ張り出して。
海水まで汲んでこの人魚を家に引き入れたのかさっぱりわからない。
ただ怪我をしたこいつ見つけた時は、体が自然に動いた。
それだけの話じゃった。
('A`)「かわいそうじゃがな、人魚。そのひれじゃあ、あの潮に逆らって泳ぐのは無理じゃ」
('A`)「怪我を治すか、季節が変わるまでこの湾で待つしかあるまい」
川;д川「そんな、故郷には家族もいるんです」
川д川「きっと帰らないのを怒っています。早く帰りたいのに……」
('A`)「わしにはどうすることも出来ん」
しおらしくなる人魚を見ていて胸が痛かった。
じゃが、本当にどうしようもないんじゃ。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:17:41.32 ID:lL/o96KP0
-
('A`) (人魚なんて、本当におるとは思わなんだなぁ)
夜は明ける。
怪我した人魚を家に置いて、わしは漁に出掛けた。
網を引いたり、櫂を漕いだり、ぶぅんが耳元でくっちゃべるのを怒鳴ったり。
その日も変わらない忙しさ。だが、頭の中は人魚のことでいっぱいじゃった。
('A`) (見世物小屋の偽物や、絵巻くらいでしか知らんようなもんが目の前におる)
('A`) (珍しい生き物じゃ。もしかしたら誰ぞが高う買い取ってくれるやもしれん)
たくさんの銭に囲まれて、三食腹いっぱい飯を食べる自分を想像して。
でももう一度人魚の顔を思い浮かべると、そんな気も失せる。
('A`) (甘ちゃんじゃのう、わしは……)
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:22:27.46 ID:lL/o96KP0
-
人魚は一人ぼっちじゃった。
家族や故郷から離れて、見知らぬ土地で怪我をして。
不安だろう。怖いだろう。
そう考えると、家に一人置いてきたことも惨めな気分に思えてくる。
( ^ω^)「おン?! どくお、どくお! どうしたお?」
('A`)「今日はもう帰る」
沖に出た船がやっとこさ浜に底を付けると、わしはすぐさま家に引き返した。
人魚が心配で堪らなかったわしの耳に聞こえてきたのは、歌じゃった。
案の定、わしの家から聞こえてくる。
それで戸の前に黒山の人だかりじゃ。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:29:17.02 ID:lL/o96KP0
-
( ・3・)「おお、どくおじゃ!」
(; ><)「どくおさん! ウチの中から女の人の声がするんです!」
('、`*川「いーい声だねえ」
(,,゚Д゚)「新しい嫁でもとったのかい? いつのまにだよ?」
(*゚ー゚)「ねえ、どくおさん教えとくれよ! 嫁さんの歌が気になって仕事が手に付かないよ!」
漁をやって毎日退屈に過ごしとる奴らは、こういう身近な事件に敏感じゃ。
(゚A゚)「帰れ! 帰れ!」
わしはそいつらを押し退けて、蹴っ飛ばして、開けた戸の隙間に滑り込んだ。
しっかりとつっかえ棒を挟む。桶の中で人魚が目をまん丸にして驚いておった。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:34:26.06 ID:lL/o96KP0
-
川д川「ど、どうかしましたか?」
('A`)「どうして静かにしとらん! 歌なんぞ唄ったら人が寄ってくる!」
川;д川「ご、ごめんなさい……」
桶の中で、人魚はしゅんと小さくなる。
('A`)「お前さんのことは村の奴らには秘密じゃ。わかったか?」
('A`)「でなきゃ、見世物小屋に売られてしまうぞ。みんな貧乏なんじゃ、銭のためなら何でもやる」
――さっきの自分ですらそう思ったのだから。
喉まで出かかったその言葉を飲み込んで、わしは天秤に小さな桶を吊るす。
('A`)「海水を汲んで来る……。静かにしとれよ」
川д川「はい……」
すがるような目付きの人魚が、本当に哀れだと思う。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:42:21.57 ID:lL/o96KP0
-
水平線に日が沈む。
('A`) (わしは後どんだけあの人魚を家に匿わねばならんのじゃ……)
煩わしいなら見捨てればいい。浜に逃がすでも、見世物小屋に売り付けるでも。
でも出来ない。同情なのか、偽善なのか、良く分からんかった。
('A`) (嫁か……)
死んだ“くぅ”の顔が浮かぶ。
長い黒髪が綺麗で、肌が白くて、わしにはもったいないほどの美人じゃった。
ちょっと物言いのきついところもあったが、根は優しくて真面目な娘じゃった。
だが、ある年に流行った病で、くぅは死んだ。
綺麗な顔がぱんぱんに腫れ上がる様子は、傍でも見ていられなかった。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:47:18.34 ID:lL/o96KP0
-
もしかしたら、人魚にくぅの面影を重ねとるのかもしれん。
長い髪、白い肌、似ているところは多い。なにより顔は綺麗な娘じゃった。
(-A-)「いいやぁ、相手は人魚じゃ……」
わしは人間で、ただの貧乏な漁師。
望むべくもない。何より昨日今日転がり込んできた相手に、嫁になれなど。
ただ、あのまま一人で家に閉じ込めておくのも可哀想でならなかった。
何か、何かしてやれないか。
そう思いながら桶いっぱいに海水を汲んで、わしは家に引き返した。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:54:03.18 ID:lL/o96KP0
-
* * *
ガチャ
川д川「あ、ドクオ君……」
('A`)「よいしょ、っと」
川д川「すごい量だけど、大丈夫?」
('A`)「うん、一応……失敗しないように結構前から、準備してたから」
('A`)「包帯とか、ありったけ用意したし。ガーゼも」
('A`)
('A`)「こんなんで何とかなるとは思わないけど、な」
川−川 ))「ううん、充分だよ。これだけあれば」
川д川、「これは……、あ、ぎ、義眼、かな?」
('A`)「いや、ドール用のやつ。義眼なんて、どうやって調達すりゃいいか分からないし」
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:00:12.84 ID:lL/o96KP0
-
('A`)「色は個人的な趣味で……」
川д川
川д川「人魚の瞳は、エメラルド色かぁ……」
('A`)「そんな定説ないけど、な。何かキレイな色のがいいかなって」
川−川「海の底から、ずっとずっと空を見上げてたからかな?」
('A`)「?」
川д川、「海と空の境界線で、水面がうっすらエメラルド色を帯びて」
川д川「そんな綺麗な碧色が目に焼き付いて――とかだったら」
川*д川「ろ、ロマンチックかなって。変かな?」
('A`)
('∀`)「そうだな、ロマンチックだな」
川д川
川ー川「――うん」
- 104 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 21:20:25.09 ID:lL/o96KP0
-
川д川「あ、こっちは……ヒレだね。スキューバの、かな」
('A`)「うん、フィンだよ。色塗って陰影つけて、少しカットしてみたけど」
川*д川「本物みたい……。そっか、ドクオ君、絵を描くのも好きだったもんね」
('A`)、
川д川「これ、私が付けるんだね」
川д川「似合う……かな?」
('A`)
('A`)「きっと似合うよ、似合うはずさ」
川−川
川д川「尾ひれの方も、あるんだね」
- 108 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 21:28:21.35 ID:lL/o96KP0
-
('A`)「うん、こっちは二枚重ねでちょっと大きめにしてる」
('A`)´「そうだ、作業始めるの……まず脚でいいかな?」
川д川「脚から?」
('A`)「うん、その……鱗だけはどうしようもなかったから」
('A`)「腰から脛までに、アクリルガッシュで手描きするよ」
川д川、「時間、かからないの?」
('A`)「ささっと済ませる。それに――」
( A )「長引くならウチ泊まってもいいよ。それに」
( A )「貞子も、もしかしたら考え直したいんじゃないかなって」
('A`)「時間が、欲しいんじゃないかなって」
- 109 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 21:31:40.96 ID:lL/o96KP0
-
川д川
川−川
川ー川「ありがとう、じゃあ脚に鱗……お願いします」
川д川「でもね、でも……いいの、もう。決心したから」
川д川「長い時間、いっぱい、いっぱい考えて、泣いて、決めたから」
( A )「やっぱ、気持ちは変わんないのか?」
川−川「うん」
( A )「もしかしたら、もしかしたら」
(;A;)「これからの人生で、もっと、イイことがいっぱいあるかもしれないのに?」
川−川
川−川「……うん」
- 111 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 21:35:24.70 ID:lL/o96KP0
-
(;A;)「まだ高校も卒業してないのに?」
(;A;)「まだ結婚もしてないのに?」
(;A;)「子供だって、産んでないじゃん……」
(;A;)「お前、それに、だって、恋愛とか、恋人だって……」
川−川「うん、うん。全部、そうだね」
川−川「この世界にはそんなキレイで素晴らしいことがいっぱいいっぱい、あるもんね」
川д川「でも」
川−川
川ー川、「でも私、もう疲れちゃったよ。ドクオ君」
(;A;)
- 112 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 21:40:05.27 ID:lL/o96KP0
-
(ぅAと) )) ゴシゴシ
('A`)
('A`)「うん、わかった。……ごめんな」
川д川「謝らないで。ドクオ君は、何も悪くないんだから」
('A`)「うん、うん」
カチャ カチャ
川д川「ズボンは当然として、パンツは脱いだ方が良いかな?」
('A`)「……その方が塗り易いかな」
('A`)「悪い。出来るだけ見ないようにするから」
川−川「うん。大丈夫、一応……下の毛も剃ってきたし」
川−川「恥ずかしくないよ。だったドクオ君だもん」
('A`)
- 114 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 21:45:33.99 ID:lL/o96KP0
-
「…………」
「何か変な感じだね」
「そうだな」
「はひっ、ちょっとくすぐったいよ」
「我慢してくれ」
「…………うん」
「あのね、ドクオ君。実は私ね、さっき一つだけ嘘をついたんだよ?」
「嘘?」
「そう、嘘。私、恋人はいないけど、恋ならしてるよ」
「恋……恋か。そうなのか、なんだ、良かったな」
「誰なんだろうな、そいつ。ちょっと羨ましいよ」
「うん、そうだね」
「へへ、誰だろうね?」
- 115 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 21:51:15.22 ID:lL/o96KP0
-
幼馴染の貞子が、自殺することを僕に打ち明けたのはちょうど一か月前
17歳の僕にはまだ広すぎた世界が、その日を境に小さくしぼんだ感覚を
今も、覚えている
- 118 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 21:59:48.21 ID:lL/o96KP0
-
* * *
人魚と暮らして、いつのまにかひと月が経った。
(*゚ー゚)「さだこさん! 今日もキレイだねえ」
川*д川「あ、はい、おはようございます。しぃさんもお綺麗ですね」
(*^ー^)「またまた、そんなこと言って!」
わしの家の屋根の下で、桶に腰まで浸かったさだこは近所の女どもに挨拶をする。
死んだ嫁の着物を着せて、ひれが見えないようにしっかりと袖は結んでいる。
尾ひれも布でぐるぐると覆っておけば、少なくとも「脚を怪我してる」という嘘でまかり通る。
わしはあれから考えて、貞子を違う形で村人たちに引き会わせることにした。
川*д川ノシ「あ、どくおさん!」
('A`)「うぃ、どうじゃ塩梅は?」
- 119 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 22:08:35.77 ID:lL/o96KP0
-
川ー川「調子、とても良いです。日中も影にいれば体も乾きません」
('A`)「そりゃあ良かった。水、汲んで来るか?」
川д川「あ、あ、いえ、もうしぃさんたちと潜りに行くので……」
川д川「出来れば浜まで運んで欲しいんですが」
('A`)「お安い御用じゃ」
わしは、人魚を“さだこ”と名付けて、村の連中には遠縁の親戚だと説明した。
ただ、さだこは病気で両手を切って、足も不自由である。
仕事は出来ないが泳ぎは上手いので、厄介払いを兼ねてわしの所に預けられた……と、うそぶいておいた。
奇妙なさだこの見た目も、病気といえば村の連中もなんとなく飲みこんでくれたようで。
海のもんはあまり難しいことは考えたがらない。そういうもんじゃ。
川д川「ここでいいです、ここで」
- 121 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 22:16:17.77 ID:lL/o96KP0
-
さすが、半分は魚。
布でくるんでおっても、尾ひれを力強く蹴って浅瀬を一気に泳ぎ抜けていく。
聞けば素潜りも上手いらしく、村一と言われとったぺにさすよりも長く潜るという。
当然じゃ、えらが付いておるからの。
(*゚ー゚)「いやぁ、ホント。さだこさんが来てから仕事がはかどるよ」
(゚、゚トソン「腕がないのに、あわびやサザエなんかを器用に口で咥えて取って来るんだからねぇ」
('、`;川「あたしゃ、素潜り村一の座が奪われて悲しいよ」
川;д川「そんな、ぺにさすさんだってすごいですよ?」
ξ゚听)ξ「まーったく、ぐうたらなウチの亭主よかずぅっと働いてくれる甲斐甲斐しい子だよ!」
( ゚ω゚)「聞き捨てならんお!」
さだこはすっかり村の連中と慣れ親しんどった。
- 122 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 22:21:49.03 ID:lL/o96KP0
-
('A`)「さだこ、漁は楽しいか?」
川*д川「はい、皆さんのお役にたてて嬉しいです!」
川д川「皆さん、私にとても優しいです。人間て、本当はとても親切ないきものなんですね」
川−川「私の故郷では、姿を見られたら網を投げられる毎日でしたから……」
('A`)「そうか、そうか」
川*д川「それに、歌も自由に唄えて楽しいです。以前は人気のない夜にだけ」
川д川「隠れるようにして歌っていましたから、本当に嬉しいんです!」
('∀`)「うん、うん」
くぅと子を授からんうちに死に別れた身としては。
娘がおったらこんな風だったのだろうかと、思う。
- 125 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 22:28:14.25 ID:lL/o96KP0
-
川д川
('A`)´「ひれが気になるんか?」
川д川´
川д川「はい、割と良くなって来たようで。泳いでも痛くないし」
('A`)「どれ、着物を脱がせたろう。傷の具合を見てやる」
川д川 )) ゴソゴソ
珊瑚で切った傷は、このひと月でだいぶ良くなっていた。
人魚の身体の事なんぞ良く知らんが、人間で言うならかさぶたが出来たような感じじゃった。
('∀`)「ようなっとるな。これはあと、ひと月もせんうちに潮の中を遡れそうじゃ」
川д川「…………」
('A`)´「どうした、嬉しくないんか?」
川д川「いえ、嬉しいです。でも……」
- 126 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 22:32:09.51 ID:lL/o96KP0
-
川д川「でも、もうすぐ皆さんと――」
川д川「どくおさんともお別れすることになるなんて、寂しいです」
川д川「私ここにいたい。皆さんとずっと一緒が良いです!」
('A`)、「しかし、さだこ。故郷には家族がいるんじゃろう?」
('A`)「きっと心配しちょる。怪我は早く治せ。それで早く、親兄弟のもとに帰れ」
('A`)
(-A-)、「これは言いたくないがの。やはりお前は人魚じゃ。人じゃない」
川д川「!」
('A`)「お前が人魚といつ村衆にばれるか、わかったもんじゃあなかろう」
('A`)「そうなれば、お前はここには長くおれん。どっちにしろな」
- 128 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 22:38:07.85 ID:lL/o96KP0
-
川;д川「そんな、どくおさん……」
('A`)「離れる時は、なんとか誤魔化す。嘘くらい、いつでもついてやるわ」
('A`)「じゃからな、お前さんは幸せな気持ちのままで故郷へ帰れ。後生じゃ」
川д川
川д川「どうして、どくおさんはそんなに良くしてくれるんですか?」
川д川「今まで、何で優しくしてくれたんですか?」
('A`)、「それは、怪我をして一人ぼっちのお前がかわいそうだったからじゃ」
('A`)「じゃから、村衆とも仲良くできるよう頑張ったんじゃ。独りは良くない」
(-A-)「良いわけあるめぇ……」
川;д川「でも!」
さだこは着物の裾を乱したまま、わしに寄りかかってきた。
川;д川「でもそれじゃあ、どくおさんがまたひとりぼっちになります!」
- 129 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 22:42:12.92 ID:lL/o96KP0
-
('A`)「さだこ……」
川д川「私、村の皆さんに聞きました。この着物、亡くなった奥さんのものだって」
川д川「どくおさんがきちんと畳んで、大事に大事にしまっていたものだって」
川д川「だから、それを着せてもらえる私は、とても大事にされてるのよって教えてもらいました!」
('A`)、「そ、それは」
( A )「女ものの着物がそれしか無いからじゃ……」
本当のことだけど、嘘じゃった。
やっぱりわしはどこかで、くぅとさだこを重ねとったのかもしれん。
川д川「どくおさん……私、どくおさんにこんなに良くして頂いたのに」
川д川「何も恩返し出来ていません。これじゃ、不公平です」
('A`)「さだこ……」
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 22:51:35.50 ID:lL/o96KP0
-
さだこはゆっくりゆっくり、尾ひれに巻いとった布を剥がした。
暗がりでもつやつや光る鱗は不気味じゃが、愛おしかった。
碧色に光るそれは美しかった。
桶の海水を滴らせて、ぬらりぬらりと湿っておった。
川д川「私、どくおさんのお嫁になってもいいです」
どうぞ、と言ってさだこは鱗に指を這わせよった。
白くて細い指がつーっと辿ったのは、ちょうどへその下あたりじゃった。
そこでわしは驚いた。今までよう見とらんかったから気付かなんだ。
さだこが「くにり」と押し広げたのは、そそじゃった。
人間の女となに変わらんような、女陰じゃった。
- 137 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 22:57:17.61 ID:lL/o96KP0
-
「誰かを受け入れるのは初めてです」
「それに、人間の男の人になんて、きっと誰もしたことがありません」
「でも、多分しぃさんや、ぺにさすさんみたいに」
「亡くなった奥さんみたいに」
「人間の女の人と、同じだと思います。だから、だから」
(゚A゚)「さだ、こ……」
「どうぞ、どうぞ、お使いください。恩返しです」
「どうぞ、こんな小娘の人魚でよろしければ、娶ってくださいませ」
「夜伽いたします」
わしは長い間忘れておった、くぅの肌の温かさを思い出していた。
思い出して、泣いて、だが身体は正直じゃった。
- 140 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:02:10.65 ID:lL/o96KP0
-
* * *
川д川「キレイだね」
川д川「鱗の模様が素敵……本物のお魚みたい」
('A`)「うん、ちょっと気合入れたよ。出来るだけ時間かけないつもりだったけど」
('A`)、「結構、日が傾いちゃったな」
川д川「やるなら、急ごう。私、大丈夫。少しくらい」
川д川「だから、やろう。ドクオ君」
('A`)「うん、やろう」
(;A;)「うん、うん、やろう、ありがとう、ごめんね、ごめん」
川−川
川ー川「うん」
- 142 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:08:41.01 ID:lL/o96KP0
-
( A )「はぁ、はぁ、はぁ……」
('A`)「大丈夫、やれる、失敗なんてしない、行ける」
川д川
('A`)「いくよ、貞子。これ口に噛んで」
川д川「タオルだね。うん、舌噛まないようにだね」
川ー川、「うるさかったら、ごめんね」
カチャ
川;ー川「へへ、こわいな。スプーンがすごく近くに見えるよ。すごく怖い」
( A )
川;ー川「お手洗い行けば良かったかな? おしっこ、我慢できないかも。汚したらごめ――」
( A )「謝らなくていいからッ!! タオル噛んで!!」
川;ー川「うん、うん、ありがとう、へへ、ありがとうね」
川;ー川「こういうの初めてだから、痛くしないでね?」
- 144 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:11:40.19 ID:lL/o96KP0
-
僕は、泣きながら幼馴染の眼窩にスプーンを差し込んで
彼女の綺麗な目玉を力いっぱい抉り出した
- 146 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:16:16.22 ID:lL/o96KP0
-
「ああぎぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああぎあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああがあああああああああああああ
あああああああああいああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぎあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああぎああああああああああああああああああああああああああああああああ」
自殺を決意した幼馴染を止められなかった僕は、あろうことか逆に彼女から一つの申し出を受けた。
「ねぇ、ドクオ君。私を材料にして人魚を作らない?」と。
- 150 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:22:08.23 ID:lL/o96KP0
-
僕は彼女を止めたかった。
「いが、い、いだい、いだいよ、目がすごくいだい、どくおくん」
「まだ……まだ右目が残ってるから、ごめん、ごめんね、許して」
でも、それ以上に子供の頃からの夢である、人魚を作るということに。
「いあ、ま、て、まだ痛いの、左目があ、あ、いま、無いの、いたい」
「いま、あ、手で、左目、転がってたの、つぶしちゃった、がら」
抗えなかった。作りたかった。人魚をこの手で。
心のどこかで、僕はその材料を初めからサダコに決めていたのかもしれない。
「ごめんね! ごめんね貞子! 貞子! 貞子ぉおおおおお!!」
でもこれは、望んだけど、望みたくなかった夢だ。
- 152 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:26:05.69 ID:lL/o96KP0
-
「が」
「あぎ、ああああああい、だ、いだいいいいいいだああああああいいいいい」
「いぎぃいいあああきああああああ、いたい、いだいいいいどく」
「どぐおぐんいだい」
「あああ、ぎ、ああいだ、いだいいいだああああいいい」
「終わった……右目も刳り出せた……」
「終わったよ、貞子、終わったよ!」
「おぎぃいいいいぃいいだいい、いだい、めが、みえないぃ゛、いぃあああああ」
ミイラじゃない。
どうしても生きた人魚が作りたいなんて、僕の頭は最初からおかしかったんだ。
- 155 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:32:09.29 ID:lL/o96KP0
-
(゚A゚)「貞子! 貞子、しっかりして! ほら、眼だよ」
(;A;)「ほら、碧色の綺麗な眼だ。似合ってるよ」
「あああぁあ、め、め、みどり」
「あ、ある、エメラルド、みえないけど、あ、め、私めがある」
「人魚のめ、が、あるよ、ドクオ君、ドグオくん!」
(;A;)「うん、すごく綺麗だ。綺麗だよ!」
(;A;)「でも、でもごめんな、まだ、腕を落とさなきゃいけないんだ」
( A )「ノコギリ用意してるから、ホラ、分かるか? 冷たいの手に当たってるだろ?」
「うんん、うんう、うん分かる、分かる」
「はぁ、あ、はぁ、えへへ、ごめんね、うるさいよね、タオルかみちぎっちゃった」
「あひ、ひ、でも、へひ、うでも、ガマンするからね」
「えへへ、へ、今度こそ、痛くしないでね?」
「もう、はじめて、じゃ、ないけど、へへ」
- 160 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:35:53.16 ID:lL/o96KP0
-
貞子は目を繰り抜いた時に、もう失禁していた。
綺麗に彩色した太股に、黄色と茶色の染みが広がって、酷い臭いが部屋に充満した。
そこに眼窩から零れる血液が混ざって、汚らしい色になって。
でも僕はやめなかったし、貞子も歯を食いしばった。
貞子は本当に綺麗だった。
嘘じゃないし、この時だけはきっと僕は正常だった。
多分、きっと、貞子も正常だった。
- 162 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:38:45.71 ID:lL/o96KP0
-
ぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこぎこ
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- 166 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:42:56.70 ID:lL/o96KP0
-
* * *
川д川「見てください……、お腹、大きくなったでしょ?」
('A`)「そうじゃな、うん、そうじゃな大きい」
('A`)「やや子は元気じゃ。だからさだこ、お前も元気出せ」
川ー川「えぇ……はい……」
さだこを娶って、季節がひとつ変わった。
暑い夏が過ぎ、嵐と実りの多い秋になった。
潮の流れは完全に変わったが、貞子はわしの家に居付いていた。
二人で繰り返した夜伽はついに、さだこの腹の中にやや子を宿した。
めでたい、めでたいことであった。はずだった。
- 167 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:50:44.57 ID:lL/o96KP0
-
やや子は奇妙というか、異常であった。
なんせつわりが始まってから半年もたたぬのに、さだこの腹はぱんぱんに膨らんどった。
わしは怖くなった。だがそれ以上に村人は怖がった。
まだ優しくさだこに声をかける者もいるが、大方はビクついていた。
さだこは、奇妙だ。
そんな噂が、村を覆い尽くしておった。
川д川「どうしてでしょう……赤ちゃんのために、もっと元気にならないと」
川д川「いけないのに、どうしてか、食欲が、ないんです」
- 168 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/19(月) 23:54:50.96 ID:lL/o96KP0
-
(;'A`)「粥はいらんのか?」
川д川「いりません……」
('A`)「せめて、白湯だけでも飲まんか?」
川д川「ごめんなさい……」
('A`)「…………」
わしはただ、日に日にやつれていく貞子を労わりながら、
桶の海水を掬って、貞子にかけてやることしか出来んかった。
どうして、どうしてこうなった。
さだこは何も悪くない。さだこは、幸せになるはずじゃったのに。
わしの問いに応えてくれるもんは、おらんかった。
そして、ただ時だけが無情に過ぎて、やや子はどんどん腹の中で大きくなっていった。
- 171 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/20(火) 00:00:13.15 ID:phmzFJQc0
-
('A`) (仏様……神様……なんでもええ、さだこを、さだこをどうか……)
わしは漁に行くこともまばらになってきた。
ぶぅんが心配して声をかけてきたが、無視をした。
わしは、わしらは孤立していった。
どうして、なんで。
わしは毎日毎日、かたちのない何かに祈り続けた。
せめて、貞子とやや子だけは、何悲しみ苦しみなく救ってやって欲しい、と。
そして秋も終わりの、雨の日に。
さだこは突然ひどく苦しみ出した。
いよいよ、やや子が生まれるのかもしれない。
- 174 名前: ◆z9m3qj2a1A 投稿日:2010/07/20(火) 00:14:28.46 ID:phmzFJQc0
-
【ちょっと中断】
すません、連休最終日のこんな遅くまで支援保守して頂きありがとうございます。
しかしながらでどうなるか分からないまま突っ走りまして、ちょっと時間がヤバいです。
このままだと明日に差し支えてしまいます。これ以上の投下は体力的にもキツいです。
一度ここで投下を中断します。
明日の夜に再開しますが、それまでにスレが落ちていたらもう諦めるか日をおいて祭関係なしに再投下します。
祭作品だというのに非常に申し訳ない。ただスレが残っていたなら必ず書ききりますので。
本当に支援保守の皆様ありがとうございます、そしてすいませんでした。
うぐぅ、おやすみなさい……。
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