( ・∀・)恋実れ!のようです Case 2:根個ギコ
2011/05/26 Thu 01:44
311 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:18:09 ID:lZVrCK2o0
ガァン
固いボールが鉄に当たり、投げた俺の後ろまで飛んでいく
(;,,゚Д゚)「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……クソッ」
押し殺した悪態は、誰もいない体育館に小さく木霊した
312 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:18:51 ID:lZVrCK2o0
Case 2:根個ギコ
313 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:19:32 ID:lZVrCK2o0
コート内ギリギリを半周してシュート
フォームを変えてシュート
角度を変えてシュート
何度も何度もゴールに向けてシュートするも、全くネットを通らない
(,,゚Д゚)「クソッ……クソッ……クソッ、くそっ……!!畜生!!!!」
鬱憤が溜り、堪忍袋の緒が切れる
右手で力いっぱい投げられたボールは体育館の壁に当たり、だぁんと大きな音を響かせる
そのまま転がっていくボールを眺めながら、その場に腰を落とした
俺は焦っていた
高校三年
引退試合も受験も、間近に控えていた
部活では今までレギュラーを落としたことはなく、成績もそこそこ
このままなら推薦を取れるレベルだった
しかし、ここ最近調子がよろしくない
得意だった遠距離からのシュートも、今では見る影もない
推薦の為にレギュラーの座を死守しようとそちらに注力した結果
スランプに陥り、しかも成績まで落ちてしまった
何度投げても入らないし、何時間勉強しても頭に入らない
苛立ちだけが、募っていった
314 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:21:19 ID:lZVrCK2o0
(*゚―゚)「ギコ、君」
呼ばれる
男バスマネージャーの羽生しぃだ
(,,゚Д゚)「……」
正直、放っておいてほしかった
こんな姿を見せるのは、男としてのプライドが許さないからだ
しかし相手はマネージャー 選手のコンディションの管理も、彼女の仕事だ
仕方がないので、適当にあしらって帰すことにした
(,,゚Д゚)「……しぃか。どうしたんだ?部活なんかとっくに終わったろうに」
(*゚―゚)「体育館から、明かりが見えたから……
ほ、ほんとはもっと前から気になってたんだけど……」
(,,゚Д゚)「あぁ、それ俺だわ。自主練だから気にしないで帰っていいんだぞ」
315 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:22:11 ID:lZVrCK2o0
(*゚―゚)「ごめんなさい。部長から鍵預かってるんです」
……あの野郎
(,,゚Д゚)「ジョル公仕事しやがれよったく……俺が鍵預かるぞ?」
(*゚―゚)「いえ、そういう訳には……終わるまでお手伝いします」
(,,゚Д゚)「いやいいよ」
(*゚―゚)「マネージャーの、仕事ですから☆」
(,,゚Д゚)「……………」
しぃはそのまま、遅くまで自主練に付き合った
俺としては一人の方がやりやすかったのだが、仕方がない
練習を終える頃には外はすっかり暗くなってしまっていたので、仕方なくしぃを送っていくことにした
316 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:23:14 ID:lZVrCK2o0
(*゚―゚)「ギコ君は、どこの大学志望だっけ?」
(,,゚Д゚)「……シベリア」
(*゚―゚)「シベリア文大?」
(,,゚Д゚)「教師目指してんだ」
(*゚―゚)「すごぉい!!」
(,,゚Д゚)「すごくねぇよ 推薦取れるかもわかんねーし、なれるかもわかんねーし」
(*゚―゚)「受験生の言葉じゃないなぁ」
(,,゚Д゚)「……うまくいかねーんだよ」
(*゚―゚)「?」
317 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:24:04 ID:lZVrCK2o0
俯いてしまう
下を向いてしまうと、垂れ出すように弱音がたらたらと出てきてしまう
(,,゚Д゚)「部活……レギュラー落ちしそうだし、それ逃したら推薦ねーし……」
上を 向かなければ
(,,゚Д゚)「レギュラーに拘って練習ばっかしてたら、成績落としちまうし……」
弱音なんか 零してたら
(,,゚Д゚)「勉強時間増やしても、頭に入んねぇし…………」
(*゚―゚)「…………」
(,,;Д;)「俺……」
……不安が止まんなくなっちまうんだよ
318 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:25:13 ID:lZVrCK2o0
ぼろぼろとこぼれ出してきてしまった『弱虫』
(,,つД;)「……すまね なにも見なかったことにしてくんねぇか」
袖で乱暴に目元を擦る
しぃは気を使ってか、視線を逸らしてくれていた
情けないと思いつつ、その優しさを甘受する
沈黙の中に 呼吸を整えようとする自分の息遣いと、二人分の足音だけが小さく響いている
(,,゚Д゚)「……」
(*゚―゚)「大丈夫?」
(,,゚Д゚)「おう もう大丈夫だ。ごめんな」
(*゚―゚)「ううん 私、何もしてないよ?
それより ……ギコ君」
しぃが足を止める
疑問に感じて振り返ると、しぃは何やら思いつめた顔をしていた
319 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:25:57 ID:lZVrCK2o0
(,,゚Д゚)「……しぃ?」
(*゚ -゚)「……」
沈黙
沈んだしぃの面持ちは、暗くなった路地にそのまま融けてしまいそうなほどに重かった
やがて深呼吸すると、しぃはにこりと笑って見せた
(*^―^)「――― なんでもない!勉強も部活も、お互いに頑張ろうね!!私、ギコ君のこと応援してるから!!」
しぃはそれだけを捲し立てると、「私、家こっちだから」と言って手を振り、近くの路地に走って行ってしまった
(,,゚Д゚)「……?」
何だったのだろう
そもそも、送る話だったはずなのに……
ギコは首を傾げつつ、来た道を戻っていった
320 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:26:43 ID:lZVrCK2o0
時計を見れば、0時を回っていた
(,,゚Д゚)「……やべ」
帰宅後、戸棚からカロリーメイトをひと箱取り出して部屋に入った
それだけで空腹を誤魔化しつつ勉強をし、気付けばこんな時間だ
大会の選抜も近い 明日も朝練で朝は早い
もう夕食をとって風呂に入り、すぐに就寝しなければならない時間だ
辞書や参考書 問題集を閉じ、居間で冷めているであろう夕食に思いを馳せた
最後にノートをぱしんと閉じ、部屋を後にした
視界の端に何か黒い影が映ったのは、きっと気のせいだ
疲れているのだろうか 早く寝よう
( ・∀・)
322 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:27:58 ID:lZVrCK2o0
夕食のシチューを味わって食べた
温かい濃厚なシチューが食道を通る度に、体中がじんわりと温まっていき、心地良かった
その後少し熱めの風呂にじっくり浸かり、軽くマッサージして筋肉をほぐした
身体から湯気が出るほど温まってから部屋に戻り、そのまま消灯してベッドに入る
ケータイを開くとジョルジュからメールが来ていたので、それへの返信に『仕事しろや部長』と付け加えて送信
アラームを確認して枕元に置き、そのまま重くなっていた瞼に全てを託した
***
かつん かつん
音がする
何か固いものが落ちる音
角のあるものが転がる音
あれは 何の音だろうか
323 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:29:02 ID:lZVrCK2o0
視界は薄暗い
心地良い闇と静寂
ここは何処だろうか
誰もいないのだろうか
( ・∀・)「いらっしゃいませ☆」
(;,,゚Д゚)「うおっ!?」
目と鼻の先に突如現れた、黒いベストを羽織った青年
立てた襟に黒いリボン おどけた仕草でお辞儀をする彼は、ディーラーか何かに見えた
( ・∀・)「僕の名前はモララー しがない魔法使いです」
前言撤回 魔法使いだそうだ
(,,゚Д゚)「……えー…はじめまして ギコといいます」
( ・∀・)「初めまして
君が行き詰っているように見えたのでね、少々スパイスを加えに」
(,,゚Д゚)「はぁ……」
324 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:29:50 ID:lZVrCK2o0
自称魔法使い()のモララーさんは、スパイス と言って、賽子を何処からともなく取り出した
手品師か
( ・∀・)「さて、今君は何処に座っているかな?」
座っている?
今まで自分の姿勢を把握していなかったが、どうやらどこかに座っているようだ
目で確認しても、薄暗くて判別出来ていないが
モララーさんがぱちんと指を鳴らすと、世界は反転した
(,,゚Д゚)「っ!?」
光が溢れ 色彩が踊り出す
黄色い光に、赤や黒 黄色や白が整然と並んでいる
此処は何処だ
325 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:30:56 ID:lZVrCK2o0
モララーさんは、黒い台を挟んで向こう側に居る
もはやただのディーラーにしか見えない
( ・∀・)「この台は本来、クラップスというギャンブルに使われる台です」
(,,゚Д゚)「モロディーラーじゃないですか」
( ・∀・)「僕は魔法使いさ この台も、単なる雰囲気だしね」
(,,゚Д゚)「他意はない、と」
( ・∀・)「全くないわけじゃないよ。ちょっとした賭け事をしようじゃないか」
(,,゚Д゚)「ルールなんて知りません」
( ・∀・)「僕が考えた簡単なルールさ」
手の中にある二色の賽子を、ころころと回していた
326 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:32:47 ID:lZVrCK2o0
どちらがいい?と差し出された賽子から、透き通った青の賽子を選んで手に取った
モララーさんは掌に残った赤い賽子を、台の上に転がした
出目は4
( ・∀・)「僕より多い数を出したら君の勝ち。君が勝てば、僕は願いを叶えよう
ただし、僕が叶えてあげられる範囲は、君が賭けてくれたものの価値によって変動する」
(,,゚Д゚)「持ち合わせならありませんよ」
( ・∀・)「そんなことはない。金なんかいらない 君の持っている モノ を賭ければいい
君のモノなら、なんでも賭けられる
例えば成績や、思想ですらね」
意味を、理解しかねた
(,,゚Д゚)「…?」
( ・∀・)「一度、試してごらん 何を何を賭けて、何を望むのかを言って」
327 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:34:09 ID:lZVrCK2o0
(,,゚Д゚)「…………じゃあ、『理科の成績』を賭け物に『部活のレギュラー』」
( ・∀・)「そうそう ……で、だよ。理科は推薦の受験科目じゃないね。でも一般では必須だ 充分賭ける価値はある。
こうして天秤にかけた時に対等な条件であった時、賭け事は成立する。勿論、賭けるものの価値が高ければ高いほど、勝つ可能性も上がっていく
その辺はその賽子が判断してくれるよ」
現実ではあり得ないゲームの説明が、すらすらと流れていく
そして俺はモララーさんに促され、自分の賽子を振った
( ・∀・)「君の勝ちなら、願いを叶えて 君が賭けたものは君に帰っていく」
かつん
( ・∀・)「君が負けたら、僕は君の賭け物をもらっていく」
かつん かつん かららら……
( ・∀・)「このゲームは」
328 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:35:51 ID:lZVrCK2o0
出目 5
( ・∀・)「君の勝ち」
( ・∀・)「週末の選抜試験、期待しているといいよ」
(,,゚Д゚)「え?」
( ・∀・)「さて、この賽子は君に貸してあげよう 好きな時に使うと良い
責任は取らないけどね」
(,,゚Д゚)「は?」
( ・∀・)「最後に一つ 君に近しい女の子、気をつかってあげたほうがいいよ
彼女は無理をしはじめたようだからね」
(,,゚Д゚)「近しい?」
( ・∀・)「じゃ、そゆことで☆」
彼は台を、ちゃぶ台のように俺に向けてひっくり返してきた
329 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:36:28 ID:lZVrCK2o0
(;,,゚Д゚)「うおおおおっ!?」
がばりと上体を起こす
視界は見知った景色で埋め尽くされる
(,,゚Д゚)「…………夢?」
自室のベッドの上で、固いものを握り締めて冷汗をかいている
……固いもの?
(;,,゚Д゚)「どっちなんだよ」
掌には、あの赤と青の賽子が握られていた
机の上には、ご丁寧に説明書まで置いてあった
330 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:38:10 ID:lZVrCK2o0
朝練でジョルジュを小突き、しぃと女バスの子に挨拶をした
しぃの態度は普段通りで、昨日の面影などどこにもなかった
(,,゚Д゚)「……」
( ゚∀゚)「どうしたんだよ」
(,,゚Д゚)「……なんでもない」
( ゚∀゚)「さいですかい んじゃっ、俺は旦那にレギュラーから蹴落とされないよう頑張りますかぁ」
(,,゚Д゚)「お前はレギュラー確定だろ」
( ゚∀゚)「んなこたねぇさ 気ぃ抜けば蹴落とされる 後輩も粒揃いだしなぁ
でももう最後になるしよ、大人になった時にガキに自慢出来るくらいの功績は残してぇなぁ」
(,,゚Д゚)「えらく先を見るんだな」
( ゚∀゚)「そりゃそうさ 部活も 大学選びも、将来の為だもん」
331 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:39:11 ID:lZVrCK2o0
(,,゚Д゚)「狼だっけか」
( ゚∀゚)「そっ だから何としてもレギュラーとって、試合も勝ち進まなきゃなんねぇ」
(,,゚Д゚)「難儀だな」
( ゚∀゚)「お前も推薦に賭けてんだろ」
(,,゚Д゚)「俺は、どうだかな……」
( ゚∀゚)「なに 旦那鬱期?」
(,,゚Д゚)「さぁな」
( ゚∀゚)「いけねぇな うん、いけねぇよ
なんならしぃちゃんに相談してみれば? 優しくしてくれるぜ?きっと」
(,,゚Д゚)「しぃ……か」
( ゚∀゚)「ん?」
(,,゚Д゚)「なんでもねぇ 早く練習戻れよ部長」
332 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:39:49 ID:lZVrCK2o0
ジョルジュとの雑談を打ち切り、ボール練習を始める
(,,゚Д゚)(負けられねぇんだ)
少し、驚いてしまった
あのジョルジュでも先を見据えている
少し、恥じた
こんなところで立ち止まってはいけないと
今日は調子がいい
保持出来れば、レギュラーはかたいくらいに
練習試合では、敵チームの中の現在のレギュラーメンバー ジョルジュをあしらい、
連携プレイが抜群の流石兄弟を出し抜いて、ランニングシュートを決め込んだ
このまま
このままやっていいけばいい
視界を覆う霧が 晴れた気がした
333 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:40:57 ID:lZVrCK2o0
インターハイ レギュラー選抜
結果を言えば、合格だった
無事メンバーに選ばれ、一緒に合格したジョルジュと拳を合わせた
しぃとも喜びを分かち合った
一時あった気まずさも消え失せ、しぃは満面の笑みで祝福の言葉をくれた
その目元には濃い隈があったのを 俺はまだ知らなかった
(*^―^)「ギコ君、ジョルジュ君、兄者君に弟者君、それにショボン君 みんなおめでとう!」
今回のメンバーには、二年のショボンが食い込んできた
しなやかな強さがある、去年からの有力者だった
334 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:41:49 ID:lZVrCK2o0
( ゚∀゚)「じゃ、レギュラーだけ特別メニュー課すぞ」
( ´_ゝ`)「面接練習の時間よこせよ」
(´<_` )「小論の方が優先だろう」
( ゚∀゚)「試合に勝ち進まなきゃ、推薦の予行なんて意味はねぇんだぜ
我らがしぃマネージャーが、受験対策を用意してくれるらしい
だから、今は気合入れて試合に打ち込め」
(´・ω・`)「……って、しぃ先輩隈すごいじゃないですか 大丈夫ですか?自身も受験生なのに」
(,,゚Д゚)「ぇっ…………」
(*゚-゚)「…………」
言われて振り返ると、しぃは困ったように笑ってみせた
(*゚―゚)「……大丈夫だよ。 みんなの方こそ、頑張ってね」
335 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:43:34 ID:lZVrCK2o0
焦っていた
正直 目の前が見えないくらい
がむしゃらになって模索していた
不可能を可能にする為に
皆の分と、自分の分
あれだけ折れていたギコ君も
あの日を境に立ち直って、無事レギュラーの座を死守した
自分も、立ち止まってはいられない
ハードルを上げたのは自分だ
背伸びしたのは、自分だ
志望校を、VIP学院大学から シベリア文科大学に引き上げた
普通に考えれば手の届かない学校
学院すら精一杯だった私が、背伸びした先
ギコ君と並んで歩けるようになりたい
ただそれだけで
ただ、その一心で
336 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:44:29 ID:lZVrCK2o0
インターハイ優勝を目標に掲げ、日々の練習は激しさを増した
地区予選・県予選突破で鼓舞しあい
ニチャン圏大会
準決勝戦 VIP高校 vs 新速大付属高校
試合では圧倒的な勝利を見せた
大きく広げた点差の殆どを、ギコによるものが占めていた
(;^ω^)「根個、絶好調だったおね」
(‘A`)「あいつ去年からこんな奴だったっけなぁ」
( ゚∀゚)「旦那、絶好調だったじゃねぇか」
(,,゚Д゚)「こんなところでへばってられないからな」
( ´_ゝ`)「このまま俺ら出番ないんじゃね?」
(´<_` )「そうしたいのは山々だが、男が廃るだろう兄者よ」
338 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:45:44 ID:lZVrCK2o0
無事決勝へと駒を進めた
優勝すれば、次はいよいよ全国大会だ
(,,゚Д゚)「……なーんて、実は実力でもなんでもねーんだけどなぁ」
帰宅しすぐ、制服のポケットから二つの賽子を取り出し机に投げた
自身の身はベッドに投げ、その弾力を甘受する
実はもう、この賽子によって 全国大会の道のりまでは約束されていた
あとはそれに見合うだけの技術を身につけるべく、練習を強化してきただけだった
(,,゚Д゚)「これって卑怯だよなぁ……」
339 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:47:04 ID:lZVrCK2o0
自らのこれまでの素行・成績を全て賭け物にし、圏大会の優勝を願った
結果賽子は自分に味方し、優勝を投げてよこした
結果が解っているせいかリラックスして試合にも臨めるし、勉強の方にも手を出す余裕が出た
必然的に成績もまだまだ向上の兆しを見せている
何もかもが快調だった
いやむしろ、快調過ぎた
挑むことの刺激を失くした世界はとても平坦で、とても退屈だった
(,,゚Д゚)「…………」
これを使えば、うまくいけば全国大会もものにできる
いや、受験さえも
だからこそ、決めた
(,,゚Д゚)「やっぱ、自分の力で勝ち取ってこそ男だよな」
賽子を机の引き出しに入れ、鍵をかけた
もう自分の為には使わない そう決めて
340 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:48:30 ID:lZVrCK2o0
全国大会を見据えて、自主練に励んだ
ボールを手の延長のように、ジャンプを足の延長のように体になじませ、
確実に、どこからでも・どんな体制でもシュートできるよう、徹底的に研究をした
ジョルジュがよくやる 女バス対自分 で多数の追跡から逃れシュートをきめられるようになったら、今度は 男バス対自分 にも挑戦した
一人で流石兄弟の連係プレイを出し抜いてボールを奪った時は、顧問すらも唸らせた
蒸し暑い季節にも、しぃと共に体調管理にも気を遣い、一度も体調を崩さなかった
決勝も勝ち進み、皆がお祭り騒ぎをしているときも、調子には乗り過ぎないよう心掛けた
341 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/21(土) 19:49:32 ID:UXKMF4W.0
努力家だな
342 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:49:41 ID:lZVrCK2o0
八月の始め
狼スポーツ公園第二アリーナ
全国大会四日目 準々決勝
第二試合 VIP高校 vs ラウンジ工業高校
第三クォーター終了時 48 ? 57
試合は劣勢のまま佳境を迎えた
_
(;゚∀゚)「次で最後だ!まだまだ逆転狙えるぞ!!」
(;´_ゝ`)「ラウンジを超えるんだ!」
(´<_`;)「俺達はまだまだいける!」
(;´・ω・`)「全国制覇果たして帰るんだ!絶対に!!」
(*゚―゚)「VIPは止まらない!」
(,,゚Д゚)「俺達はここで止まってちゃいけない」
( ゚∀゚)「……しまっていこう」
(#,,゚Д゚)(#´_ゝ`) 「オ―――――ッス!!」(´<_`#)(・ω・`#)
343 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:51:05 ID:lZVrCK2o0
円陣を解いて観客席を見やる
そこでは男バス 女バス 吹奏楽及び応援部 生徒会や父兄達が、必死に声援を送ってくれていた
負けるわけにはいかない
そう思い、観客席から視線を外す その時だった
見渡した時には見えていなかったはずの、黒服の男が見えた気がした
( ・∀・)
忘れもしない ニヤけ面で
(,,゚Д゚)「っ!?」
咄嗟に視線を戻すも、そこには何もいない
( ゚∀゚)「どうしたよ 旦那」
(,,゚Д゚)「……いや」
途端 気になりだしたポケットの違和感
一瞬考え、無視することにした
(,,゚Д゚)(自力でやるって決めたんだ)
第四クォーターが始まる ――
344 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:51:56 ID:lZVrCK2o0
これまでの得点の殆どをジョルジュが占めていた
負けてはいられないと、自分もボールを持って積極的にゴールに向かっていく
得意のジャンプシュートで相手選手をスルーして得点を稼いだり
流石兄弟と連携してランニングシュートをキメたり
ショボンの活躍で相手選手をファールに追い込んだりと、試合展開はこれまで以上に白熱した
残り15秒を切った時 点差は二点になるまでの追い込みを見せた
ジョルジュが遠方からパスを回してくる
流石兄弟が相手を牽制する
ドリブルしながら走る自分を、ショボンが並走して援護する
あと一回 スリーポイントラインの外側からシュートすれば、逆転勝ちとなる
バスケット左側 ライン直前でジャンプし、左腕でフックシュートを放つ
会場全体が息を?む
全員の動きが、ボールの動きがコマ送りのように遅く見える
自分の鼓動の音ばかりが大きく聞こえる
電光掲示板が、タイムリミットが1秒をきったことを知らせる
体勢を直しもせず、ボールを見つめる
345 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:53:26 ID:lZVrCK2o0
ピ―――――ッ
試合終了の笛が鳴る
ボールはバスケットを通らず、ばぁんと音を立ててコートに落ちた
会場は一瞬静寂に包まれ、次いで、相手側応援席から歓声が沸きあがった
(,,゚Д゚)「…………」
自分たちは負けたのだ
膝の力が抜け、体が浮遊感に包まれる
崩折れる直前に抱き止めてくれたのは、逞しい顔をした流石兄弟だった
( ´_ゝ`)b「ギコ、流石だったぞ」d(´<_` )
試合終了
ラウンジ工業高校 vs VIP高校
88 ? 86
準決勝進出 ラウンジ工業高校
346 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:54:31 ID:lZVrCK2o0
あれから二ヶ月
部活も引退の時期を迎え、夏休みも終わり、二学期が始まった
三年は全体的に受験モードに染まり、
ちらほらと推薦入試の合格通知をちらつかせる者が出て来た
自分やジョルジュも、例に洩れず推薦で大学の合格通知を手にしていた
( ゚∀゚)「しっかしまぁ……」
( ゚∀゚)「しぃちゃんが受験対策作ってくれてなかったら、俺達今頃真っ暗だったよなぁ」
(,,゚Д゚)「まったくだな。しぃには感謝しないと」
(*゚―゚)「そんなことないよ 」
( ゚∀゚)「いんや、だって結局しぃちゃんが大変な思いしてるじゃん」
(,,゚Д゚)「そ。だから、俺達に出来ることは 全部やらせてほしいんだ」
347 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:56:14 ID:lZVrCK2o0
そう
部員の殆どが推薦入試に成功し、功労者であるしぃが 推薦入試で合格をもらえなかったのだ
受験先はシベリア文科大学 初等教育学科
学科は違うが、受験校は一緒だった
以前しぃが目指していた学校よりも、一回り程ランクが高い
しぃは直前になって志望校を変えた
(,,゚Д゚)「けど、なんでまたシベリアにしたんだ?」
(*^―^)「え?えへへ……どうせ大学へ行くなら、公務員の方がいいかな、なんて……」
笑ってみせたしぃだが、その表情は確かに疲弊していた
(,,゚Д゚)「…………」
何故だろう
二つの賽子が脳裏をよぎったのは
348 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/21(土) 19:57:29 ID:.Tn74H66O
よくがんばった!
つか注釈wwwww
349 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:57:31 ID:lZVrCK2o0
帰宅後、テーブルにガムテープで張り付けられていた賽子を剥がした
インターハイの時もそうだったが、何かしらの分岐点に立たされた時、この賽子はポケットの中に現れた
何度引き出しに戻しても出て来る為、勝手に動かないようにガムテープで固定していた
それを自分で剥がすということ
自分の意志で、使うということ
(,,゚Д゚)「久しぶりに使うなぁ……自分の為じゃないし、いいよな」
自分達の為に頑張ってくれた彼女に 今度は自分からしてあげられること
(,,゚Д゚)「俺の学力を賭け物に、しぃのシベリア合格を……!」
賽は投げられた
350 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 19:59:59 ID:lZVrCK2o0
二月
駅に赴き、切符を買った
シベリア行きだ
VIPから電車で一時間半 私鉄に乗り換えて一時間 更にバスで30分
シベリアは、VIPよりずっとずっと北にある
今日は下宿先のアパートを選ぶために、シベリアまでの長旅だ
黒いコートの襟を立てて、ホームで電車を待っていた
(*゚―゚)「……ギコ、君?」
(,,゚Д゚)「?」
振り返れば、そこにはしぃがいた
(,,゚Д゚)「おう。しぃもお出かけか?」
(*゚―゚)「うん シベリアまで」
(,,゚Д゚)「シベリア?」
(*゚―゚)「報告遅れてごめんね うかったよ、シベリア文大」
351 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 20:01:19 ID:lZVrCK2o0
しぃはそう言って、満面の笑みを見せた
しぃは無事、シベリア文科大学を合格した
感極まって、周囲の視線も忘れてしぃの両手を握る
(,,゚Д゚)「しぃ、本当に良かった!おめでとう!!」
(*゚―゚)「ギコ君、ありがとう」
(,,゚Д゚)「おう ていうか、おれの合格もしぃのお陰だし、むしろこっちがありがとう」
(*゚―゚)「ギコ君、そのことじゃなくてね。別件で、ありがとう」
(,,゚Д゚)「別件?」
(*゚―゚)「合格発表を聞く、前の日にね、変な夢を見たの
黒いベストを着た男の人が、私にトランプを一枚差し出してこう言ったの」
(*゚―゚)「 『この男に礼を言いなさい 彼は君の為に、己の努力の結晶を賭けた』 」
(*゚―゚)「起きてから、そのカードの意味を調べたの
……でね、ここからは私の偏見なんだけど、カードを見た時に思ったの
あれは、ギコ君だって」
しぃは力説する
あのニヤけ面はしぃの夢にも出たのか
352 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 20:02:40 ID:lZVrCK2o0
(*゚―゚)「男の人がね、笑って言ってたの。
『僕もそう来るとは思わなかったけどね でも、彼が気付いたならそれでいい』
ギコ君が何をしたのかはわからない。でも、私の文大合格に大きく影響することをしたことはわかった
出来れば知りたいけど、あの男の人は秘密って言って教えてくれなかった
だから私は、ギコ君にお礼だけ言わせてもらうね
ありがとう」
しぃが深々と頭を下げる
前髪が垂れ、肩口で切りそろえられた髪が さらりと揺れた
(,,゚Д゚)「……あっ、いや、しぃ 頭上げてくれよ
お互い様なんだ 俺は、部活も、受験も、しぃに助けられてきた
だから、恩返しも込みで、少しだけ『お願い事』をしただけなんだ」
(*゚―゚)「お願い事?」
頭をあげて、見つめてくるしぃ
恥ずかしい こそばゆい
長く目を合わせていると、顔にまで出てしまいかねなかった
353 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 20:04:41 ID:lZVrCK2o0
少しだけ 視線が泳いでしまう
(,,゚Д゚)「えっと……お願い事 『しぃが文大受かりますように』」
言うべきか、否か
答えは、決まっている
あとは腹を、括るだけ
(,,゚Д゚)「…………と、」
(,,//Д/)「『これからもしぃと仲良くできますように』」
(*゚ -゚)「……………………!!」
354 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 20:05:08 ID:lZVrCK2o0
『自分の学力』を賭け物に、『しぃのシベリア合格』を
『大学生期間の恋愛の可能性』と『現在持ちうるスペック』を賭け物に、『しぃに近付けるように』
結局 自分の為に使ってしまった
卑怯者
でも、進むきっかけが欲しかった
だから今度は、俺が頑張る番
(,,゚Д゚)「俺、しぃが、好きだから
その……大学行っても、一緒に居たいなって」
でも、薄々気づいてることも、ある
(*゚―゚)「…………ギコ君、あのね……」
――――――――――
356 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/21(土) 20:06:53 ID:.Tn74H66O
ヒュウーーーッ!甘酸っぺえ!
355 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 20:06:47 ID:lZVrCK2o0
( ・∀・)「気付いたんだね 『勝ち』しか出ないことに」
( ・∀・)「でもそれは僕の力じゃなくて、『実力から測った憶測』だということ」
( ・∀・)「だから本当は 負けても賭け物は失わないし、勝てる努力を彼がしたから、賽子の結果通りになっただけ」
( ・∀・)「魔法って、便利だなぁ…………」
試合に勝てると思った彼は、結果に見合う為の努力をした
彼女が彼を好いていたから、彼は彼女に近付けた
結果を知っていれば、リラックス出来る
知っていれば、自分からきっかけすらも作り出せる
( ・∀・)「『先見賽子』 ってな」
357 : ◆zynqho4iRI:2011/05/21(土) 20:07:31 ID:lZVrCK2o0
もう彼らは大丈夫だろう
さぁ、次へ行こう
僕も暇じゃない
( ∀ )「――― ……早くしないと、『あの子』に会えない」
僕も賽子を振ってみようか
やめておこう
僕達の未来なんて、僕自身の力じゃ左右出来ないのだから
( ∀ )「実れ 実れ 『恋』 実れ 」
収穫祭まで、時間がない
( ・∀・)恋実れ!のようです Case 2:根個ギコ 了
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