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(・∀ ・)と兄弟のようです(後編) |
前スレ
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:29:53.85 ID:O5cxbXo50
- ( ^ω^) 2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
・開催場所 VIP/創作板/創作板内専用スレ ・開催期間 11月18日(金)0時~25日(日)23時59分 ・まとめ(イラスト展示中) REST~ブーン系小説まとめ~ 前回 http://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/list/3.htm(REST~ブーン系小説まとめ~) あと半分弱と言ったな? あれは嘘だ。数えたらもっと短かった。
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:32:13.42 ID:O5cxbXo50
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翌日、またんきはオムライス城の城下町にいた。 (*・∀ ・)「すごいぞー!」 流石兄弟達が盗んできた良質の服に身を包み、本物の笑顔を浮かべている。 笑顔以外の表情はまだ見せないが、最も見ていて気持ちの良い表情があるのだから、 急いで別の感情を見せる必要はない。 ('A`)「コロブゾー」 (*・∀ ・)「だって! すごいぞー!」 (´<_` )「それだけ褒められれば、オムライス城も嬉しいだろうよ」 興奮しているまたんきの頬は赤い。 顔いっぱいで楽しさと興奮を表しているようだ。 ( ´_ゝ`)「これを見れば、オムライスが美味いわけもわかるだろ?」 (*・∀ ・)「おう! これは、うまくないとな!」
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:35:14.49 ID:O5cxbXo50
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国王が住まうオムライス城。 左右対称の形をしており、左右は低く、中心は高い山型となっている。 壁はレンガで出来ており、赤茶色をしている。 そんな城を包み込んでいるのが、黄色のベールだ。 魔法の力を込めた黄色の薄いベールは、赤茶色の城を優しく包み込む。 山の頂上辺りから中腹にかけて、ベールには赤い刺繍がされていた。 無論、その刺繍にも魔法がこめられている。 赤茶色の中身に、黄色の外側。そこにある赤い色。 その姿は、まさに「オムライス」そのものだ。 もっとも進んだ技術を用い、 もっとも素晴らしい芸術作品に城を仕立て上げる。 国の象徴として、また主が住まう場所として、これ以上に相応しい場所などあるはずがない。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:38:36.78 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「あのベールは攻撃を跳ね返すためにあるんだ」 (・∀ ・)「うすいぞ?」 (´<_` )「あぁ。だけど、常に最新の魔法をこめて、反射を可能にしているらしい」 (・∀ ・)「まほうってすげー」 またんきはオムライス城を見る。 大きな城の中には、多くの者が住んでいるのだろう。 それらを魔法が守っている。 ( ^ω^)「そうだお。まほうはすごいんだお!」 小さな力ではあるが、魔法を使うことのできるブーンが言う。 (・∀ ・)「何で、おれは使えないんだー?」 (´<_` )「盗みの技術を教えてもらいながら、魔法の練習もしような」 (・∀ ・)「うー」 ( ´_ゝ`)「ほれ、この顔だ」 (・へ ・)「むー」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:41:17.59 ID:O5cxbXo50
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('A`)「オムライスジョウモ、ミタシ、ツギハ、ドウスル?」 ( ´_ゝ`)「クレープ喰おうぜ!」 そう言うと、誰の返事も聞かずに兄者はクレープ屋へ駆けだした。 ( *^ω^)「くれーぷ……」 返事はなかったが、誰も拒否しない。 甘い物が好きな一行だった。 (´<_` )「追いかけないと兄者に全部決められるぞ」 ( ^ω^)そ「それはこまるお!」 慌てて兄者を追いかける。 すでに注文は終わっているだろうが、彼に文句をつけるくらいはできるだろう。 何を言ったところで、それならもう一つ食え。と、言われてお終いなのだけれど。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:44:14.53 ID:O5cxbXo50
- (・∀ ・)「おいしいなー」
( *^ω^)「あまーいお」 クレープを食べながら城下町を探索する。 国の中でも一等栄えているこの場所には、様々な施設がある。 食事やファッション、小物に始まり、娯楽施設まで。 実に多様で、実に面白い。 (*・∀ ・)「つぎはどこにいくんだ?」 またんきは未だ興奮冷めやらぬ様子で、視線をあちらこちらに飛ばしている。 その表情は、実に子供らしい笑顔だ。 ( ´_ゝ`)「美味しいものも食べたし、パーッと遊ぶか」 (´<_` )「ダーツなんてどうだ?」 ('A`)「イロイロスレバイイ」 ( ´_ゝ`)「そうだな。しばらくは滞在する予定だし」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:47:41.42 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「滞在中はずっとそうやっていてもいいかもな」 (*・∀ ・)「あそぶのかー!」 ( ^ω^)「またんきも、うれしそうだし、いっぱいあそぶお!」 ブーンは嬉しそうに兄者の周りを飛ぶ。 誰も遊ぶことに関しては反対しない。 この旅も大まかに見れば遊びの範囲内だ。 今さら遊ぶ日数や密度が濃くなったところで、気にする者などいるはずもない。 むしろ、自由気侭に生きる彼らとしても、そうやって過ごす方がずっと自然だ。 ( ´_ゝ`)「よし! 遊ぶぞ!」 (*・∀ ・)「おー!」 またんきが軽く跳ねた。 服の裾がふわりと舞う。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:50:19.05 ID:O5cxbXo50
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遊ぶと決めたらとことんだ。 兄者は目についた建物に片っ端から入っていく。 (・∀ ・)「これは何だ?」 (´<_` )「ダーツだ。こうして――」 ( ^ω^)「ないす!」 ('A`)「ヒャクテン」 ( ´_ゝ`)「ならオレはこうだ!」 (・∀ ・)「ふたつどうじか!」 ( ´_ゝ`)「ほれ、またんきもやってみろ」 ('A`)「トウゾクニハ、トウテキノウデモ、ヒツヨウダゾ」 (・∀ ・)「なるほど……えい!」 ( ^ω^)「はずれー」 (・∀ ・)「もう!」 ( ´_ゝ`)「はいはい。教えてやるから」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:53:12.27 ID:O5cxbXo50
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(´<_`* )「ふっふっふ。 ダーツでは負けたが、今回は勝たせてもらった」 (;´_ゝ`)「オレが負けるだと……」 ( ^ω^)「おとじゃは、びりやーどがうまいお」 ('A`)「アタマヲツカウカラナ」 (・∀ ・)「おとじゃー。こうかー?」 (´<_` )「もう少し腰を落としてみろ」 (・∀ ・)「わかったー」 (;´_ゝ`)「弟者! もう一回だ!」 (´<_`* )「何度でも相手をしてやろうじゃないか!」 ( ^ω^)「むだだとおもうおー」 (;´_ゝ`)「オレだって本気を出せばなぁ!」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 11:56:15.89 ID:O5cxbXo50
- ( ´_ゝ`)「こんな施設もあるんだな……」
( ^ω^)「『ろっくくらいみんぐ』ってかいてるお」 (・∀ ・)「ようは、これをのぼるんだろー?」 ('A`)「オレトブーンニハ、カンケイナイナ」 (´<_` )「登ってみるか」 (;・∀ ・)「あぶないぞー」 ( ´_ゝ`)「ドラゴンに乗ってる時の方が高いぞ」 (・∀ ・)「あ、そうか」 ('A`)「ソレニ、コレクライノボレナイト、トウゾクナンテ、ムリダゾ」 (・∀ ・)「やる! おれ、のぼる!」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:01:16.39 ID:O5cxbXo50
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('A`)「タイリョクソクテイ、スルゾー」 (´<_` )「兄者に任せとけー」 ( ´_ゝ`)「おー」 (;^ω^)「それじゃ、いみないだろうお」 (・∀ ・)「やるぞー」 (´<_` )「無理はするなよ」 (・∀ ・)「わかってる!」 ( ´_ゝ`)「いい機会だし、またんきの動きでも観察するか」 (・∀ ・)「はずかしいぞ!」 (´<_` )「気にするな」 ('A`)「ムチャナ」 ( ^ω^)「きになるだろうお。じょうしきてきにかんがえて」 (・∀ ・)「いくぞー!」 ( ´_ゝ`)「予想はしてたが、これ程酷い反復横飛びは始めてだ」 (´<_` )「足元が絡まってるぞ」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:04:21.46 ID:O5cxbXo50
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数日をかけて、五人は的芽を堪能した。 遊びを知らなかったまたんきは、他の四人よりも楽しんだ。 毎日が笑いの日々だった。 誰かが失敗しては笑い、 誰かが上手くいっては共に手を叩きあった。 ( ´_ゝ`)「いやー。遊んだな」 (´<_` )「もう十分だな」 (・∀ ・)「たのしかったぞー」 ( ^ω^)「そうさくもきっとたのしいお」 (・∀ ・)「そうなのかー」 一通りの場所で遊んだ五人は、何の変哲もない公園にいた。 芝生があって、滑り台とブランコ、鉄棒にベンチ。それらがあるだけの場所だ。 時間帯がズレているのか、子供の姿はない。 地元の子供と遊ぶのもいい経験になると思っていたのだが、あてが外れた。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:07:32.13 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「そうさくは、どんなばしょなんだ?」 ブランコをこぎながら疑問を投げかける。 (´<_` )「発展途上の地域さ」 ( ´_ゝ`)「雷雨が激しい場所でもあるな。 たぶん、国の中でもかなり活気がある場所だな」 公園のベンチに座っている流石兄弟が疑問に答える。 今までとは違い、海を越える必要がないので、地方についての情報を出し惜しみしない。 (・∀ ・)「らいうかー」 ('A`)「カミナリト、アメダゾ」 (;・∀ ・)「し、しってるぞ!」 ( ^ω^)「あやしいお……」 知らなくてもおかしくはないのだが、またんきが隠そうとするのでからかいたくなる。 ブーンは疑わしげな目を向けてやる。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:10:16.79 ID:O5cxbXo50
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(;・∀ ・)「うそじゃないぞ!」 ブランコから飛び降りて強く主張する。 ( ^ω^)「わかってる。わかってるお」 どうどう。と、またんきを落ち着かせようとするが、その余裕面が彼をまた苛立たせる。 (#・∀ ・)「もー!」 (;^ω^)「おっ?!」 ブーンを捕まえようとまたんきが手を伸ばす。 間一髪のところで避けることに成功したブーンに、また手が伸びる。 (#・∀ ・)「まてー!」 (;^ω^)「まてないおー」 ('A`)「カラカウカラ……」 二人の様子をドクオが眺める。 ベンチに座ったままの流石兄弟も、あれは兄弟喧嘩のようなものだろうと傍観を決め込む。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:13:29.92 ID:O5cxbXo50
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(#・∀ ・)「まて――うぶっ」 公園内を走っていたまたんきが、誰かとぶつかる。 柔らかな腰に顔を埋める形になってしまったまたんきは、慌てて顔を上げた。 (・∀ ・)「ごめんなさい!」 (*:::ー ) ヒュゥ ヒュゥ (・∀ ・)「……?」 そこにいたのは、耳族の女だった。 ボロ布をまとった姿は、的芽では見ることのなかったものだ。 布で隠されていない場所に見える桃色の毛は、旅を続けている流石兄弟以上の有様だった。 (・∀ ・)「どうかしたのかー?」 ボロボロの服も、酷い様子の毛並みもまたんきは気にしない。 ニュー速でも灯南でも似たような者は山のようにいた。 話しかけることや触れることに抵抗はない。 (*:::ー ) ヒュゥ ヒュゥ だが、返事はない。 喉から掠れるような風の音が聞こえるだけだ。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:16:28.87 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「またんき。こっちへきなさい」 (・∀ ・)「どうしたんだー?」 兄者に招かれ、またんきは耳族の女を気にしながらもベンチへ向かう。 (´<_` )「彼女は、もう駄目だ」 (・∀ ・)「だめ?」 またんきは弟者が何故、冷たい目をしているのかがわからなかった。 駄目。と、いう言葉の意味もわからない。 彼は気づいていなかった。 耳族の女は、全身に細かな傷を持っており、その部分は毛が生えていない。 また、目は片方が潰れていた。おそらくは、喉も潰されているのだろう。 声を発しないのがその証拠だ。 彼女がそのような目にあっているわけはすぐにわかる。 首にかけられている首輪は、彼女がもはや耳族ですらない証だ。 爪'ー`)「見つけたよ。愛しの奴隷ちゃん」
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:19:28.28 ID:O5cxbXo50
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(*:::ー )そ ヒュゥッ 女が後ずさる。 足は震え、歯はかみ合わなくなり鳴っている。 爪'ー`)「どうして逃げるんだ?」 ニヤける面はどこか恐ろしい。 兄者はまたんきの手を引き、近くに引き寄せる。 (´<_` )「またんき、彼女は奴隷だ」 (・∀ ・)「どれい、なのか」 自分がいた立場に、耳族の女がいる。 またんきはあれほど無残な姿にされたことはないけれど。 爪'ー`)「オレは悲しいよ。 せっかく、お前を買ったっていうのにさぁ」 男は煙草をくわえた。 懐からライターを取り出し、火をつける。 爪'ー`)y-「――もう、さよならなんてさ」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:22:55.11 ID:O5cxbXo50
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ライターが傾く。 すると、炎が一直線に耳族の女へと走る。 (*:::ー ) ヒュ――ッ! 女は背を向けてどうにか逃げようとする。 このままでは死んでしまう。 (;・∀ ・)「あっ……」 またんきが声を零す。 火は真っ直ぐ女へ向かった。 女は逃げられなかった。 (:: ー:::)「――ぁ、ああ――あぁ――!」 火は女に追いつくと、彼女を包み込むような軌道を描き、炎を着火させた。 女の毛は燃え、一瞬で火達磨になる。 掠れた悲鳴が公園に響く。 ( ∀ ) またんきはそれを見た。 弟者が視界を手で覆ってくれたが、確かに見た。 そして、いくら視界を隠そうとも、音も臭いも隠せはしない。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:25:17.87 ID:O5cxbXo50
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長く感じた時間が終わる。。 黒コゲになった女が公園で崩れ落ちる。 もう息はしていない。 (; ∀ )「うっ……」 表情は変わらずとも、吐き気はする。 またんきはその場に膝をついた。彼の傍でブーンも地面に落ちる。 爪'ー`)「あー。ごめんねぇ。嫌なもん見せちゃって」 男がヘラりと笑う。 罪悪感など欠片もないらしい。 ( ´_ゝ`)「構わんが、こういうことはお前の敷地内でしてくれないか。フォックスさんよ」 爪'ー`)「オレのこと知ってるんだー」 (´<_` )「有名だからな」 間延びした声に応える。 流石兄弟は表情を少しも変えていない。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:28:15.11 ID:O5cxbXo50
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フォックスは奴隷の扱いが悪いことで有名だった。 奴隷をどのように使うかは、本人しだいではあるが、今回のように、公共の場で奴隷を殺すこともしょっちゅうだ。 いたぶることを好まない者や、奴隷を見下していない者からすれば、気分の悪い光景だ。 ゆえに、そういった趣味は自身の敷地内でのみさせる。と、いうのが基本的なマナーとされている。 金があるという意味でも、マナーがなっていないという意味でも、フォックスは有名だ。 ( ´_ゝ`)「オレの記憶が正しけりゃ、あの奴隷だってまだ一ヶ月経ってないだろ」 爪'ー`)「そうだねー」 軽い返事だ。 先ほど黒くなってしまった奴隷は、またんきを盗み出す前に見た耳族の女だった。 あの時は美しい毛並みを持っていたというのに、何をどうすれば、あのような有様になるというのだ。 もはや加虐趣味ではすまされない。 爪'ー`)「だってさ、使ってみたかったんだ。コレ」 フォックスが手を上げる。 何かを持っているらしいが、認識することができない。 爪*'ー`)「見える? 見えないだろ?」 流石兄弟がフォックスの手の内にある物を見ようとしていることに、彼は楽しげに笑った。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:31:19.48 ID:O5cxbXo50
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爪*'ー`)「これは極細の糸だ。 細いが、ちょっとのことじゃ切れない。そして軽い。 あの奴隷にはこれを巻きつけておいたのさ。この糸はよく燃えるんだって聞いてたからな! いやー。アレほど燃えるとはな!」 最新の道具を試したいがために、一人の命を奪った。 いや、彼の中では奴隷を一人とは数えないのだろう。 ('A`)「……クズガ」 ドクオが吐き捨てた言葉はフォックスに届かない。 彼の脳内は奴隷の死という実験結果でいっぱいだ。 ( ´_ゝ`)「あぁ、本当だ。触れてもわからない」 爪*'ー`)「だろ?」 兄者はフォックスに近づき、糸に触れる。 近づいて目をこらして、ようやく細い線が見える程度だ。 重さも何も感じない。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:34:18.08 ID:O5cxbXo50
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何やら糸の成分について説明してくれるが、学のない兄者にはさっぱり意味がわからない。 あからさまに聞き流しているものの、フォックスはそれで構わないらしく、一人で勝手に話し続けていた。 兄者が糸を眺めようが、またんきを見ようが、彼の口は止まらない。 爪*'ー`)「次はこれを使って、どんなことをしようかなー。 おっと。その前にまたニュー速に使いを出さないとな!」 しばらく話し続けて満足したのだろう。 糸を手繰る動作をし、胸ポケットに糸をしまったように見える。 離れたところにいる弟者には、糸など見えない。 爪*'ー`)「よーし。首を絞めれるかやってみよう!」 誰にそれを試すのかによっては、警察を呼ばれる台詞だ。 ギョッとした顔をされないのは、彼はいつも奴隷に対してそのような行為をおこなっていると知っているからだろう。 フォックスはスキップでもしそうな勢いで公園を出る。 その際、誰かが「ゴミは片付けておけ」と、忠告をしていた。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:37:38.05 ID:O5cxbXo50
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(; ∀ )「何だよ、あれ……」 ( ´_ゝ`)「フォックスだ。奴隷をすぐ殺すことで有名な男だ」 (; ∀ )「あの人、何で……」 ( ´_ゝ`)「奴隷だからな。しかたない」 (; ∀ )「しかたないって! そんなの……」 黒コゲになって死んだ。 死後もゴミとして扱われた。 およそ、耳族としての扱いではない。 (´<_` )「またんき。残念だが、これが、オレ達の生きている世界だ」 またんきの背中を撫でる。 暖かい体温が服越しに伝わった。 あの女も、同じ体温を持っていたはずだ。 ('A`)「……ウケイレロ」 (; ∀ )「だって……!」 (; ω )「きもちはわかるお」 ブーンが羽根を使い、宙へ浮く。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:40:36.84 ID:O5cxbXo50
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(; ω )「でも、これがげんじつなんだお」 明るく優しいブーンは心を痛める。 奴隷という存在は生き物としての扱いさえ受けられない。 どれほど嘆いたところで変わらぬ事実だ。 ( ´_ゝ`)「お前は元奴隷だ。 だが、今は違う。そうだろ?」 (; ∀ )「でも……」 ( ´_ゝ`)「オレ達は国中の奴隷を救うなんてことはできない。 時間も、力も足りない。だから、彼女を助けなかった」 冷たい声だ。 兄者は死んだ女に何の関心も抱いていない。 哀れだとは思っても、涙は流れないし落ち込むこともない。 (´<_` )「……宿屋に戻ろう。 最後の日に、とんでもないものを見ちまったが、 的芽には良い思い出もたくさんあるだろ?」 (; ∀ )「……うん」 どうにか頷けたのは、ほとんど奇跡だった。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:43:41.87 ID:O5cxbXo50
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気持ちが晴れないままに、またんきは宋咲へ行くこととなった。 陸続きの道のりなので、風景が劇的に変わることはない。 しかし、ドラゴンに乗っているからこそ、よくわかる変化もあった。 (・∀ ・)「くもが黒いぞー」 (´<_` )「あれは雨雲だ。 もう宋咲に入った証拠だな」 雨雲と宋咲の関連がイマイチ理解できない。 またんきがさらなる疑問を口にしようとしたとき、鼻先に水滴があたった。 上を見れば、雨雲から細かな雨が降ってきている。 ( ´_ゝ`)「おっと。降ってきたな。 ドラゴンこれからは歩きだ」 (;^ω^)「あめがふったってことは――」 ブーンが不安気に言う。 すると、空が一瞬光った。 光にまたんきが驚く寸前、辺りを激しい音が襲った。 ( ;゚ω゚)「うおおお! かみなりがおちたおー!」 ('A`)「モチツケ」 ( ;゚ω゚)「こんなところにおもちはないお!」 ('A`)「ダメダコリャ」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:46:15.62 ID:O5cxbXo50
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雷の音にドラゴンも慌てて地上へ降りる。 茂っている木々が邪魔だったが、構っていられないとばかりに、枝を破壊しながらの着地だった。 細かな枝がまたんきを襲うが、小さな切り傷を作った程度ですんだ。 (;・∀ ・)「何だ、いまのは」 木のおかげで、大方の雨は防がれている。 またんきは上を見上げた。 空は静かに雨だけを落としているが、先ほどはまったく違うものが落ちた。 ( ´_ゝ`)「雷だ」 (・∀ ・)「雷、かー」 雷は五属性の中にも入っている属性だ。 またんきも存在は知っていたが、こうして実物を見るのは始めてだった。 光以上に音が印象に残る。今もまだ耳の中であの暴力的なまでの音が響いているように感じる。 (;^ω^)「ぼくはきらいだお」 ('A`)「スグ、ビビルモンナ」 ドクオは平気らしく、気落ちしているブーンの頬を突いていた。 (´<_` )「何にせよ、こんな状態で空を飛ぶのは危ない。 ここからは歩きになるぞ」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:49:02.68 ID:O5cxbXo50
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ドラゴンが申し訳なさそうにしているが、雷は自然現象だ。 彼にどうこうできる問題ではない。 ( ´_ゝ`)「オレの記憶が正しければ、この方向に町があったはずだ」 この雨の中、野宿は勘弁したいところ。 兄者は最も近い町を頭の中で叩きだす。 (´<_` )「しかし、宋咲は変動の激しい地方でもある。 念のため確かめるか」 流石兄弟はお互いを見る。 彼らが全速力で走れば、それほど時間はかからずにすむだろう。 ただし、弟者の体力が心配ではあるが。 ('A`)「オトジャハ、ノコッタラ?」 (´<_` )「そういうわけにもいくまい。 大丈夫だろうけど、何があるかわからんからな」 ( ´_ゝ`)「いやー。兄思いの弟で本当に助かるわー」 (´<_` )「例えば、町で兄者が遊び呆けてるなんてことがあったら困るだろ?」 (;´_ゝ`)「ツンデレ? ねえ、ツンデレだよね? 本気では思ってないよね?」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:52:16.98 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「おれはるすばんかー?」 声に元気がない。 ( ´_ゝ`)「盗みに行くわけじゃないから、すぐに戻るさ。 だが、お前が嫌だって言うなら、行かない」 (・∀ ・)「…………行ったほうが、いいのか?」 (´<_` )「絶対というわけではないさ。 変動がある宋咲といえど、町一つ消えるなんてそうそうないことだし」 (・∀ ・)「そうかー」 またんきは顔を俯けて少し考える。 元気がないのは、何も置いて行かれるという心配だけではない。 (・∀ ・)「……すぐかえってくるんだぞー」 ( ´_ゝ`)「把握した」 (´<_` )「じゃあ、行って来る」 ('A`)ノシ「イッテラ」 (;^ω^)「はやくしてくれお? かみなりがおちちゃうお」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:55:45.29 ID:O5cxbXo50
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走る流石兄弟を見送り、またんきはドラゴンによりかかる。 降っている雨は、彼の心の靄を払いはしない。 ('A`)「ドウシタ?」 今にもため息をつきそうなまたんきの近くにやって来る。 ドクオが乗った肩と反対の肩にブーンが乗った。 (・∀ ・)「……どれいって、ごみなのか?」 またんきの脳裏には、黒コゲになった奴隷の姿が鮮明に残っている。 あの掠れた叫び声も忘れることはないだろう。 そして、死した彼女がゴミ扱いをされたこと。 兄者も弟者もそれを咎める素振りさえなかったこと。 どれもこれも、彼の中に強くこびりついている。 元奴隷であるまたんきには、思うところがあった。 今さら流石兄弟を疑うようなマネはしない。 彼らはハーフであるまたんきを手放さないし、一度内側へ入れれば守ってくれる。 それくらいはわかっていた。 けれど忘れられない。 灯南でも見たあの冷たい目。 宋咲では手を差し伸べることもなければ、声をかけることもなかった。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 12:58:13.74 ID:O5cxbXo50
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( ^ω^)「ぼくも、はじめはとまどったお」 暗い雰囲気の三人を、ドラゴンが心配そうに見つめている。 ( ^ω^)「あにじゃも、おとじゃも、ぼくやどくおにはやさしかったお。 でも、ほかのひとにはぜんぜんだったお」 それは、またんきが的芽で見た光景とほとんど変わらない。 目の前で誰かが飢え死にしても、殺されても、表情一つ変えないのだ。 生まれたときから、そんな風景が当たり前だったとしても、そう簡単に無関心にはなれないはずだ。 ( ^ω^)「だけど、ぼくらをいじめたことはなかったお」 ('A`)「ソレドコロカ、オレタチガ、ツカマリソウニナッタトキハ、ホンキデオコッテクレタ」 他人はその他大勢であり、死のうが苦しもうが気にしない。 その反面、仲間が唯一であり、傷ついた姿を見ることさえ厭う。 流石兄弟が持つ二面性は、恐ろしくもあったが、頼もしくもあったのだ。 ( ^ω^)「めんどうごとに、まきこまれなければ、おかねをまいたり、ごはんをあげたりはするんだお」 他者を助けるのが嫌なわけでない。 また、一人助けたところで。と、思っているわけでもない。 兄者の、そして彼自身は無意識だろうけれど弟者も、行動原理は興味の有無だ。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:01:30.68 ID:O5cxbXo50
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('A`)「ギコガ、ドレイヲナクシタイッテ、イッタラ、ソウナレバイイナ。ッテ、イウンダ」 ( ^ω^)「だお。 あにじゃも、おとじゃも、どれいせいどなんて、なくなればいいとはおもってるんだお」 (・∀ ・)「でも、どれいはごみだって。ひていしなかった。 おもってるんだ。おれは、もうどれいじゃないけど、ほんとうなら、ごみだったんだ」 奴隷であること、実験体であること。 それらに嫌気が差したことはあるが、劣等感の元になったことはなかった。 しかし、ゴミだという言葉を聞き、それを流石兄弟が否定しなかった。 そんな簡単なことで、奴隷という過去は膿み始める。 (・∀ ・)「ハーフじゃなかったら、ほんとうに、ただのごみだったんだ」 涙は流さない。 国を回り始めてからは、一度も流していない。 けれど、またんきの声は震えていた。 (・∀ ・)「どれいなんて、ごみなんだ……」 雨が強くなる。 またんきの代わりに泣いているようだ。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:04:15.09 ID:O5cxbXo50
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( ^ω^)「ちがうお」 雨の音に負けない強さで言う。 またんきが顔を上げ、ブーンを見た。 ('A`)「アア、チガウネ」 次はドクオを見る。 二人は呆れたような顔をしていた。 心なしか、ドラゴンも呆れているように見える。 ( ^ω^)「またんきは、ごみにごはんをあげるかお? ふくや、おかねをあげるかお?」 ('A`)「ゴミガ、カラダニクッツイタラ、ハラッテヤルダロ?」 ( ^ω^)「でも、あにじゃもおとじゃも、どれいやうえたひとに、ごはんやふく、おかねをあげるお」 ('A`)「スガッテキタラ、ソットハナスコトハアッテモ、オイハラウコトハナイ」 行動の一つ一つが、対人に対するものだ。 ゴミと人は違う。 人には意思があって、命がある。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:07:26.81 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「でも、だったら……」 ( ^ω^)「ごみじゃない。でも、めんどうだったり、どうでもよかったりはするんだお」 ('A`)「ムカンシン」 ( ^ω^)「そう。でも、それだけだお。 ふたりは、どれいをみくだしたりしてないお」 同じ生き物であることを認めていることと、無関心とは矛盾しない。 流石兄弟は、間違いなく人を人として認めている。 どのようなことがあったとしても、奴隷をフォックスのように扱いはしないだろう。 (・∀ ・)「それでも、あんまりだ」 女の悲鳴が聞こえる。 いつまでも残る声だ。 ('A`)「ソウカモシレナイ」 ( ^ω^)「たすけられたかもしれない。 そのかんがえは、もちろんそうだお。またんきはまちがってないお」 遠くの方で雷が落ちた。 ブーンは一瞬、体を硬くしたが、すぐに力を抜く。 ずいぶんと距離があるようなので心配は必要ない。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:10:26.19 ID:O5cxbXo50
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('A`)「オマエハ、ジユウダ」 (・∀ ・)「何を、いまさら」 ( ^ω^)「だから、すきにしていいんだお」 雨が強くなる。 町を確認しに行った流石兄弟は無事に帰ってくるのだろうか。 (・∀ ・)「どういういみだよ」 ( ^ω^)「にげてもいいお。とうぞくになんて、ならなくてもいいお。 ねがえば。ほんきでねがえば、あにじゃはかなえてくれるお」 泣かせてやるとは言っていたが、またんきが本気で離れたいといえば、許すだろう。 一度、内側に入った子供だ。身内に甘い兄者が許さないはずがない。 ('A`)「イヤナラ、ナットクデキナイナラ。 イッテモイイ」 ( ^ω^)「もちろん、あにじゃやおとじゃに、じかだんぱんするのもいいお。 でも、ふたりはぜったいにかわらないお」 ブーンは苦笑している。 今までに、彼らの考え方を変えることができたことなどないのだ。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:13:23.18 ID:O5cxbXo50
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人の考え方を変えるのは難しい。 奴隷をゴミのように見ていないだけ、マシだというべきだろう。 またんきは口を閉ざした。 ('A`)「オマエハ、アニジャトオトジャガ、キライカ?」 (・∀ ・)「……きらい、じゃない」 首を横に振る。 冷たい目は怖いが、優しく抱きしめてくれることを知っている。 盗みの技術を教えてやると言った兄者は好きだ。 物事を教えてくれる弟者は好きだ。 (・∀ ・)「ただ……。あのひとを、わすれられない」 すぐ近くにいた、生きた耳族。 悲鳴を上げて、死んだ耳族。 忘れられるはずがない。 ( ^ω^)「なら、いまはそれだけでいいんじゃないかお」 (・∀ ・)「いいのか? 何かしたほうがいいんじゃないか? もっと、何か……」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:16:36.59 ID:O5cxbXo50
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('A`)「オボエテテモラエテ、アノヒトモ、ウレシイダロウサ」 ( ^ω^)「あにじゃも、おとじゃも、おなじになれとはいわないお」 仲間だとは言う。しかし、同じような考えを持てとは言わない。 忠告をすることはあっても、押しつけることはしない。 盗みに心を痛めるブーンのことも受け入れてくれる。 できないことを認めてくれる。 ('A`)「イインダ。スキニカンガエロ」 (・∀ ・)「……すきに」 またんきは空を見上げる。 暗くて、青空なんて欠片も見えやしない。 何かを吹っ切るには、これ以上ないほど最悪のシチュエーションだ。 いつか、またんきが大人になって力を得たとき、奴隷を助けようとしても流石兄弟は止めはしないだろう。 手助けをしてくれるかもしれない。傍観しているかもしれない けれど、それを咎めることはしない。 ( ^ω^)「らくにいきるお。すきにいきるお。 それをはじめにねがったのは、あにじゃなんだから」
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:19:32.39 ID:O5cxbXo50
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しばらくして、兄者と弟者が帰ってきた。 二人とも雨に濡れ、毛から水が滴っている。 ( ´_ゝ`)「やっぱりあったぞ」 (´<_` )「宿もとっておいた」 二人はドラゴンの背から、大きなビニールシートを取り出す。 互いに両端を持ち、腕を上げる。 ( ´_ゝ`)「またんき、ここに入れ」 流石兄弟によって作られたのは屋根だった。 二人の間に入れば、雨は入ってこない。 幼いまたんきが風邪をひかぬように考えてくれたのだ。 (・∀ ・)「……ありがとう」 (´<_` )「どういたしまして」 またんきは素直に礼を言う。 作られた屋根の下に入り、雨から守られる。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:22:34.51 ID:O5cxbXo50
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強い雨の中を五人が歩く。その隣をドラゴンが歩いているのは、何だか新鮮だった。 それぞれ違う足音の中に、一際大きくゆっくりな音がしている。 彼の鱗は雨などに負けることはないようで、むしろシャワーを浴びているのだと言わんばかりだ。 (・∀ ・)「なぁ」 ( ´_ゝ`)「どうした?」 水溜りに足を入れ、靴に泥をつけながら口を開く。 (・∀ ・)「おれ、やっぱり、うけいれられない」 雨が降る。 ビニールに落ちた雨が音をたてる。 三人とドラゴンはぬかるんだ地面を踏み、前へ進んでいく。 ブーンとドクオは黙って飛んでいた。 ( ´_ゝ`)「そうか」 (・∀ ・)「うん」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:25:38.67 ID:O5cxbXo50
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雨の音と、歩く音だけが聞こえる。 時折、雷の音が聞こえたが、何処か遠くの話だ。 ( ´_ゝ`)「それが、普通なんだろうな」 生まれながらの犯罪者でも、闇属性の精霊でもない。 極普通の者が持つべき感情。 兄者にも、弟者にもない気持ちをまたんきは持っている。 (´<_` )「辛いぞ」 (・∀ ・)「つらいって、すこしわかったぞ」 始めはわからなかった感情が、段々とわかってくる。 それは嬉しくもあったし、悲しくもあった。 (・∀ ・)「あのひとが死んだとき、つらかった」 またんきは胸の辺りを握る。 強く握ったため、服にしわができた。 (・∀ ・)「でも、きっと、このつらい、からは、にげられないんだ」
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:28:19.81 ID:O5cxbXo50
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好きに生きてもいいと言われ、またんきは考えた。 本当にしたいこととは何か。 逃げることか、解決することか。 流石兄弟は逃げることも肯定する。 またんきにとって、自由は辛く、迷うものではなかった。 いつでも、後ろに支えてくれる人がいれば、自由も責任も恐ろしくはない。 だから、またんきは自分の心に真っ直ぐ向きあうことができた。 どのような道を選んだとしても、後ろには流石兄弟や、ブーン、ドクオにドラゴンがいてくれる。 ( ´_ゝ`)「……お前は強いな」 兄者は頬を緩めた。 ビニールシートを持っていなければ、またんきの頭を撫でていただろう。 (´<_` )「向きあうことにしたんだな」 (・∀ ・)「だって、わすれられないし、わすれたくないんだ」 助けられるとは思っていない。 手を差し伸べることが絶対的な善だとも思っていない。 行動して何かが変わるわけでもない。 だから、目の前の人を救ってみたい。 辛くて不平等な現実を黙って受け入れたくない。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:31:23.48 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「そうか。お前の選んだ道だ。しっかり進め」 (・∀ ・)「うん」 (´<_` )「ところで、他人を救いたいって気持ちと、盗賊になりたいって気持ちは矛盾しないのか?」 (・∀ ・)「え?」 ('A`)「ブーンハ、イツモ、ヌスミマエハオチコムナ」 ( ^ω^)「ふつうのぬすみはちょっと、にがてだお」 (・∀ ・)「えっと……。えっと……?」 またんきは首を傾げる。 他者を救いたいという気持ちはある。 しかし、言われてみれば、他人の物を盗むというのは、誰かを傷つけることにも繋がる。 まだ話にしか聞いたことがないが、流石兄弟は殺しもしているらしい。 教わる技術にも、そういったことは絡んでくるだろう。 (;・∀ ・)「む、むじゅんしない!」 散々頭を悩ませて結論を出す。 些か力のない声ではあったが。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:34:30.97 ID:O5cxbXo50
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(;・∀ ・)「おかねをいっぱいもってるヤツからとる! できるだけ、ひとはころさない!」 ( ´_ゝ`)「ま、その辺りはおいおい自分で線を引いていけばいいさ」 今回のことも、目の前で現実を見たからこそ出すことができた結論だ。 未来の、それも、そういった事態に直面するのかどうかもわからない段階で、頭を必要以上に悩ませることはない。 兄者の言葉にまたんきは一息つく。 元よりそれほど回転が早い頭ではない。 すぐに答えを出すことなどできはしないのだ。 ('∀`)「マタンキガ、リッパナトウゾクニナッタラ、アニジャヤオトジャガ、イナクナッテモ、オレガテツダッテヤルヨ」 (・∀ ・)「ほんとうか? やくそくだぞー!」 ('∀`)「ナレタラナ」 (#・∀ ・)「ばかにしたなー!」 ( ^ω^)「またんき、おくちはこうだお」 (#・へ ・)「もー!」 ブーンが手を大きく広げてまたんきの口角を下げる。 不満気にまたんきが声をもらすが、周りは笑うばかりだ。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:37:26.79 ID:O5cxbXo50
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狭い空間ではあるが、兄者と弟者によって作られている屋根の下で精霊の二人とまたんきは暴れる。 水がはねてズボンを汚しているが、気づいてさえいないようだ。 ( ´_ゝ`)「子供は元気でいいねぇ」 (´<_` )「オレ達は風邪をひきそうだ」 弟者が小さなくしゃみをする。 雨に濡れた上に、宋咲は少々寒い気候にある地方だ。体はすっかり冷え切ってしまっていた。 宿屋についたら、風呂に入る算段を脳内でつける。 ( ´_ゝ`)「しっかし、あの町もずいぶん完成してきてたな」 (´<_` )「店もいくつかできてた」 ( ´_ゝ`)「今日は特に酷い雨だから、誰もいなかったが、明日は晴れるだろうなぁ」 (´<_` )「……あぁ、そうだな」 二人の会話は隠されているわけではなかったのだが、楽しげにしているまたんきの耳にはは入らなかった。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:40:22.92 ID:O5cxbXo50
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途中、大きな雷の音にブーンが逃げ出したことを除けば、無事に宿屋に着くことができた。 ドラゴンとはいつも通り、町の近くでわかれた。 ( ´_ゝ`)「あー。さむかった」 (・∀ ・)「なあ、このまち、へんだぞ」 (´<_` )「ん? 何でだ?」 またんきが弟者の服の裾を引っ張る。 一応、宿屋の者に聞こえぬようにと思っているのか、声は小さい。 (・∀ ・)「だって、ぼうだけのたてものがあるぞ」 町に入ったまたんきが真っ先に思ったことだった。 普通の建物もあるのだが、所々に棒だけで構成されているものがあった。 形からすれば、建物なのだろうけれど、人が住めるとは思えない。 雨や雷のせいで見間違えたわけではない。 またんきはハッキリと不可思議なそれを確認していた。 (´<_` )「それは建ててる途中のものだ」 (・∀ ・)「とちゅう?」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:43:26.38 ID:O5cxbXo50
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まさか建物が生えてくるとは思っていないが、出来上がる過程というのは想像できない。 意味はわかれど、疑問は多い。 ( ^ω^)「そうさくは、はってんとじょうのくにだって、おしえたお?」 ('A`)「ダカラ、ケンチクトチュウノモノモ、ワンサカアルノサ」 (・∀ ・)「あんなのがたくさんあるのか?!」 ( ´_ゝ`)「あるぞー。この町はずいぶん完成してきてるが、他の町へ行けば、まだ砂利しかないような場所もある」 何もない地方も、何でもある地方も見たまたんきだが、できる途中を見るのは始めてだ。 完成されているものとは違う魅力がそこにはある。 部屋にある窓から外を覗く。 雨がガラスにあたり、まばらな模様を作っている。 (・∀ ・)「あ、光った」 ( ^ω^)「おっ」 雷が落ちる。 そこそこ近い距離のようだ。 (; ω )「――っ!」
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:46:23.49 ID:O5cxbXo50
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ブーンは慌ててベッドの中にもぐりこむ。 この先も、雷に慣れることは一生ないのだろう。 怯えているブーンを横目に、弟者が風呂に入り、兄者が次に入る。 結局、またんきが風呂から上がるまで、ブーンは布団から出てこなかった。 (・∀ ・)「ブーンは、ほんとうに雷がきらいなんだなー」 (;^ω^)「びっくりするんだお……。 ひかりはともかく、おとが……」 ('A`)「ビビリメ」 ( ´_ゝ`)「明日には雷も過ぎ去ってるさ。 今夜は我慢だな」 ( ´ω`)「おー」 ブーンは力なく返事をした。 雨は勢いを増して窓に攻撃をしている。 またすぐにでも雷がなりそうな様子だ。 (・∀ ・)「そうさくにくるのは、たのしみっていってたのになー」 宋咲について説明してくれているときのブーンは楽しそうだった。 これほど雷が怖いのならば、宋咲は恐ろしい場所にしかならないのではないかと思う。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:49:26.14 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「宋咲だって、年がら年中雷が鳴ってるわけじゃないぞ。 ちょっとばかし発生率が高いだけだ」 ( ´ω`)「ぼくだって、かみなりがなってないそうさくはすきだお……」 またんきは、宋咲に来て一日目から雷雨に見舞われたので、この地方ではそれが当然なのかと勘違いしていた。 どうやら他の地方に比べれば雷雨はよく発生するが、毎日というわけではないらしい。 むしろ、一日目から雷雨に見舞われたまたんきの方が珍しいのかもしれない。 ( ´_ゝ`)「雷が怖い気持ちもわからなくはないがな」 ('A`)「タシカ、ソウサクノハッテンガ、オクレテルノハ、ソコガカンケイシテルンダッケ?」 (´<_` )「強い雨と雷が作業の邪魔をするんだよな。 川が決壊することもあるみたいだし」 ただ、流石兄弟が宋咲へ始めてやって来たころには、何らかの対策が打たれ、 誰もが自然の脅威を気にせずに町の建設に勤しんでいた。 その姿はまるで、いつどこに雷雨が発生するのかがわかっているようだった。 (・∀ ・)「あんなのがいっぱいあって、まちができるのかー」 またんきは棒だけの建物を思い浮かべる。 ( ´_ゝ`)「その辺りは、明日になればもっとよくわかるさ」
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:52:34.38 ID:O5cxbXo50
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兄者の言葉は本当だった。 雷に怯えるブーンと一緒のベッドで眠り、朝に目覚めたまたんきはそう思った。 うるさいくらいだった雨音が消えていることに気づき、彼はすぐさま窓の外を見た。 雨上がりの世界は、太陽の光に照らされて輝いていた。 美しい世界の中で見る棒の建物は、奇妙さを増している。 (・∀ ・)「おー」 感嘆の声をあげる。 さらによく見てみれば、その建物に登っている者が複数いた。 彼らは同じような棒を持ち、建物を組み建てていく。 その様子は非常に興味深く、いつまでも見ていたいような気がした。 (・∀ ・)「ほら! あれ!」 朝食を食べたまたんきは、すぐさま四人に建設途中の建物を見せた。 耳族や人間が各々の仕事をこなし、一つの建築物に取りかかっている。 ( ´_ゝ`)「おー。新築の匂いがするな」 (・∀ ・)「いいにおいだー」 雨の匂いに混じって、木の匂いがする。 その匂いを胸いっぱいに吸い込むと、心が晴れやかになる。
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:55:19.28 ID:O5cxbXo50
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( ^ω^)「……」 (・∀ ・)「ブーン?」 ブーンは無言だった。 新築の匂いにも、建物にも興味がないようだ。 もう雷は鳴っていないというのに、様子がおかしい。 ('A`)「マタンキ、アノヒトタチノ、クビヲミテミナ」 (・∀ ・)「くび?」 ドクオに言われ、またんきは働いている者の首を見る。 露出しているはずの首には、何かが巻きついていた。 黒く、わずかな光沢がある。 またんきはそれを知っている。 (・∀ ・)「――あ」 思い出す。 それは、かつてまたんきもつけていた物だ。 正確には、つけられていた物。 思わず自身の首に触れてしまう。 もうそこには何もない。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 13:58:17.62 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「くびわだ」 首輪は奴隷の証だ。 またんきが心を躍らせながら見ていたものは、奴隷が作ったものと、彼ら自身だった。 よく見てみれば、彼らの顔色は悪い。 無茶な働かされかたをしているのだろう。 目は虚ろで、淡々と与えられた仕事をこなしているだけのようだ。 (´<_` )「フォックスみたいな奴の方が珍しいんだよ」 弟者が告げる。 (´<_` )「大抵の奴隷は、ああやって働かされる。もしくは、お子様には話せないようなことをする。 わざと傷つけて殺す奴はそうそういない」 (・∀ ・)「……つらそうだ」 ( ´_ゝ`)「昨日の雨で、足場はそうとう悪いだろうからな」 疲れも溜まっているのだろう。 直接的な殺されかたはしないかもしれないが、結果としてはそう変わらないのかもしれない。 見る限り、ここでも奴隷は働くことのできるゴミとして見られているようだ。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:01:34.44 ID:O5cxbXo50
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どうするべきなのだろうか。 助けたいとは思うが、彼らを救う術が思いつかない。 しかし、ただ見ているだけというのも、昨日得たばかりの決心を覆してしまうような気がする。 ( ^ω^)「あせらなくてもいいんだお」 またんきの肩に乗って、ブーンが言う。 子供であるまたんきは、どうしてもできることが限られてくる。 彼自身がまだ世間を知らないというのも、弱点の一つだ。 (´<_` )「まずは色々経験して、できるようになってからだな」 ( ´_ゝ`)「自分が困ってるときに、他人を助けようとしても、上手くいかないぞ」 まだ一人で生きていくこともできないまたんきが、すぐに人を助けられるはずがない。 無理に何かをしなければと思い、胸を痛めるくらいならば、未来のために力をつくす方が有意義だ。 (・∀ ・)「わかるけど……」 ('A`)「マズハ、マホウデモオボエタラ、ドウダ?」 (・∀ ・)「うー」 ドクオの言葉に呻き声をあげた。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:04:31.24 ID:O5cxbXo50
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毎日かかさず練習をしているのだが、またんきが魔法を使えたことは一度もない。 火が駄目なら、水ではどうだ。と、試したこともあるが、結果は変わらない。 またんきも魔法を使いたいという思いが強いので、現状には満足していなのだ。 けれど、どうしても魔法を使うことができない。 またんき自身にはどうすることもできないことの一つだ。 (´<_` )「一度、視点を変えてみるか」 弟者は顎に手をあてて、言葉をもらす。 彼を信頼しているまたんきは目を輝かせた。 何か現状が変わるのではないかという期待だ。 (・∀ ・)「どうするんだー?」 (´<_` )「精霊として、ではなくて、人間として、魔法を使ってみたらどうだ?」 ('A`)「ナルホド」 ( ^ω^)「いいかんがえかもしれなお!」 (・∀ ・)「……どういうことだ?」 精霊二人はわかっているようだが、またんきには意味が理解できない。 兄者もよくわかっていないのか、無言を貫いている。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:07:26.89 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「つまり、精霊使いになってみたらどうだ?」 わかりやすく、誰にでもわかる言葉を使う。 すると、またんきは目を見開いた。 (・∀ ・)「できるのか?!」 (´<_` )「どうせ、次に行くのはシベリアだ。 あそこでじっくり教えてやるよ」 精霊使いになるには知識が必要だ。 口頭で教えたところで、どこまでまたんきが理解できるのかわからない。 それなりの状況が必要だ。 弟者は口角を上げ、悪魔のような笑みを浮かべた。 ( ´_ゝ`)「またんき、覚悟しとけよ」 (・∀ ・)「え? 何がだ?」 ('A`)「オトジャハ、スパルタダゾ」 (・∀ ・)「え?」 ( ^ω^)「あにじゃのたいりょくづくりよりきびしいお」 (・∀ ・)「え?」
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:10:23.43 ID:O5cxbXo50
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最近は、兄者に盗賊としての訓練も受けている。 その中にある体力づくりが、またんきには中々辛い。 耳族にあわせて作られているであろうメニューに、またんきも参戦させられるのだ。 辛くないはずがない。 それよりも、弟者との勉強は辛いのだという。 どのような地獄が待っているのか、予想もつかない。 ただ、悪寒がまたんきの背筋を走った。 (´<_`* )「いやー。シベリアが楽しみになってきたな!」 (;・∀ ・)「……しべりあがこわいんだぞー」 ( ´_ゝ`)「じゃあ、次の町まではゆっくり歩いていくか」 怯えるまたんきのために、兄者が提案する。 ドラゴンに乗れば、あっという間に宋咲を抜けることができてしまうので、歩くことで時間を稼ぐ。 ( ^ω^)「そうさくはしぜんもいっぱいあるし、どらごんといっしょにあるけるし、 ぼくはさんせいだお!」 ('A`)「ワルクナイ」 弟者を除いた全員が賛成の声を上げた。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:13:43.62 ID:O5cxbXo50
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かくして、一行は徒歩で次の町を目指すことになった。 徐々に開発が進んでいっている宋咲では、町と町の間にあまり距離がない。 子供連れだとしても二日とかからない距離だ。 (・∀ ・)「おー。じめんが、ぐちゃぐちゃだぞー」 水溜りやぬかるみを蹴り上げながら歩く。 泥が前方に飛ばされ、草木を汚す。 それらの二の舞を避けるべく、他の四人はまたんきの後ろを歩いていた。 ( ^ω^)「こうして、どらごんとあるくのもたのしいお」 ブーンの言葉にドラゴンが喉を鳴らす。 大きな彼の足跡が地面についていた。 ( ´_ゝ`)「この辺りを歩く奴なんていないしな。 気兼ねなく歩けるってもんだ」 (´<_` )「適当なおやつもあるしな」 (・∀ ・)「おやつ?」 前方を歩いていたまたんきが立ち止まり、振り返る。
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:37:16.56 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「ほら、その辺りの木に実がなってるだろ?」 (・∀ ・)「この赤いのかー?」 (´<_` )「そう。それは食べられるんだ。甘いぞ」 (・∀ ・)「へー!」 さっそくまたんきが手を伸ばす。 (・∀ ・)「……」 しかし、あと少しのところで手が届かない。 背伸びをしても、ジャンプをしてみても、届かないものは届かない。 ('A`)「ウーン」 ドクオが手助けに向かったが、非力な彼では木の実をもぎ取ることができない。 力いっぱい羽ばたいても、実がわずかに揺れるだけだ。 非力な二人組はじっと実を見つめるばかり。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:40:53.48 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「ほい」 二人に代わり、兄者が実を取る。 またんきに一つ。ブーンとドクオに一つ。自分と弟者に一つずつ。ドラゴンの口にも一つ。 計五つの実がもぎ取られた。 (・∀ ・)「いただきまーす」 受け取った実にさっそく齧り付く。 硬さはあるものの、歯は簡単に果肉に食い込む。 果汁が垂れ、口の中を甘くする。 ( ^ω^)「あまくておいしいお。しぜんのめぐみだお」 二人で一つの実を食べながら言う。 ドクオの方は無心で果肉を口にしていた。 (´<_` )「野生でこれだけの甘さがある実は珍しいんだぞ」 弟者も実を齧りながら話す。 彼の一口は、またんきのそれよりもずっと大きい。 (・∀ ・)「へー」 またんきは自分が持っている実と弟者の持っている実を見比べながら、気のない返事をする。
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:43:30.16 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「作物なんかだと、より甘くなるように交配されてるからな」 (・∀ ・)「がったいさせて、いいものをつくるんだなー?」 (´<_` )「そういうことだ」 弟者はまたんきの頭を撫でる。 彼も兄者と同じく、褒めて伸ばす方針を持っているようだ。 ('A`)「ウマカッタ」 ( ^ω^)「どくお! しょくごのうんどうだお! きょうそうするお!」 (;'A`)「エッ」 ( ^ω^)「ごーるは、あのきだお。 あの、ぴんくのはながさいてるき」 ('A`)「アノキカ」 ( ^ω^)「じゃあ、いちについてーよーい――」 (;'A`)「イヤ、イマノハ、リョウカイノイミジャナクテ……」 ( ^ω^)「どーん!」 ブーンが勢いよく飛び出す。 一瞬迷ったが、ドクオもゴールを目指す。
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:47:00.44 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「おれもはしるぞー!」 ( ´_ゝ`)「おー。いけいけー」 またんきも駆け出した。 彼の後押しをしたのは兄者だったが、ブーンに勝てないことはわかっていての行動だ。 兄者と同等の速さを持つブーンに勝つのは、並大抵のことでは叶わない。 それをよく知っている弟者は苦笑いだ。 隣にいるドラゴンに目を向ければ、彼も同じような感情を持っているような気がした。 (´<_` )「……体力作りの一環てことで」 ドラゴンはゆっくりと目蓋を閉じた。 彼なりの頷きだ。 ( ´_ゝ`)「なら、お前も走るか?」 (´<_` )「冗談。 むしろ、兄者の方が走りたいんじゃないのか」 ( ´_ゝ`)「いや、こうして後ろからあいつらを見てるのも楽しいもんだとな」 (´<_` )「それには同意しよう」 弟者は微笑んだ。 騒ぐ三人の声が少し遠い。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:50:25.08 ID:O5cxbXo50
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彼らがゴールとしていた木の下にまで行くと、ブーンが嬉しそうに飛び回っていた。 ドクオは地面に膝をつき、またんきは木にもたれている。 (・∀ ・)「おそいぞー」 ( ´_ゝ`)「歳なもんで」 ( ^ω^)「なにいってるんだお。 それより、ぼく、いっとうしょうだったんだお!」 (・∀ ・)「おれはにとうしょー!」 (´<_` )「ドクオ……。またんきより先に出たのに負けたのか……」 (; A ) 言葉にならぬほどショックだったらしい。 ドクオも自分の身体能力の低さは知っているが、まさかまたんきに抜かされるとは思っていなかった。 その辺りの能力を求められていないとはいえ、悔しいものは悔しい。 幸い、魔法に関する能力とは違い、身体能力はある程度、努力で覆せるものだ。 これからはまたんきと一緒になって、兄者の特別メニューを受けようと決心する。 おそらく、この決心は小一時間と経たずに瓦解するだろう。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:53:26.58 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「すっかりドロドロになったな」 (;・∀ ・)「ごめんなさい……」 ( ^ω^)「そのくらい、あらえばいいお」 果実を食べ、昼食に柔らかいパンと肉を食べたまたんきは、すっかり落ち着いていた。 そうなれば、先ほどまでの遊びで汚れてしまった靴にも意識が向く。 (´<_` )「そうそう。何なら、まだ泥蹴りしてもいいぞ」 (;・∀ ・)「もうしないぞー」 泥蹴りをしていると、周囲に誰もいないことにも気づいた。 ドラゴンも汚れたくないので、先ほどまでは後ろにいた。 大人しくすることで、ようやく周りに全員が集まってくれる。 遊ぶのも楽しいが、一人っきりで遊ぶのは味気ない。 楽しげにしてくれている仲間が必要だ。 外に出ることで、知ることができたそれを手放したくはない。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:56:30.63 ID:O5cxbXo50
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('A`)「デモ、タダアルクダケジャ、タイクツジャナイカ?」 (・∀ ・)「うーん。ちょっとだけなー」 (´<_` )「なら、適当に薬草について説明してやろう」 辺りに生えている雑草のような草を指差して弟者は一つ一つ丁寧に説明を始める。 傷に効く草や、腹痛に効く草。 灯南とは違って様々な種類の草が生えていた。 (・∀ ・)「いっぱいだなー」 ( ´_ゝ`)「雨が多いと、植物も育ちやすいんだよ」 ( ^ω^)「またんきもそだつおー」 (・∀ ・)「おーきくなるぞ!」 ('A`)「チイサクテモイイゾー」 大きくなれば、精霊としての力が強くなる。 ドクオとしては、いっそのこと、幼い姿のままでいてくれても構わない。 (´<_`;)「おまっ……。 自分が一番小さいからって」 (;'A`)「ウルセェ」 (・∀ ・)「あにじゃやおとじゃくらいおーきくなるぞー!」
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 14:59:38.69 ID:O5cxbXo50
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楽しい時間は過ぎるのも早い。 あっというまに日が沈む。 (・∀ ・)「きょうはのじゅくかー」 ドラゴンと共に歩くというのは新鮮だった。 途中で、歩くドラゴンに乗ったが、空を飛んでいるときとは違う揺れは面白いものがあった。 彼を踏み台に、普段ならば届かない位置にある木の実を取ったりもした。 始めて自分でもいだ実が、非常に不味かったことだけが悔やまれる。 そんな自然に溢れた一日を過ごした。 恒例となっている魔法の練習は、やはり成果を見せず、 兄者との訓練は相変わらず疲れがたまる。 早く寝てしまおうと思うのだが、はたと気づく。 (・∀ ・)「……ここで?」 地面はぬかるんでいる。 テントを張っても、地味に水分が染み込んでくるだろう。 そもそも、木の根が邪魔でテントが張れない。 何をどうすれば、こんな場所で休むことができるというのだろうか。 またんきは呆然と立ちつくす。
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 15:02:25.51 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「旅をしていたらな、泥の中で眠ることもある」 ('A`)「ネーヨ」 ( ^ω^)「さらっとうそつくんじゃねーお」 一瞬、信じかけたが、二人のおかげで弟者の言葉が嘘だとわかる。 しかし、結局どのようにするのかはわからないままだ。 またんきは兄者に聞こうと彼の姿を探す。 ( ´_ゝ`)「ばーん!」 (・∀ ・)そ「うわ!」 唐突に視界の中に入ってきた兄者は、またんきにシートを見せる。 (・∀ ・)「あ、それ……」 ( ´_ゝ`)「そう。この前も使ったビニールシート」 (・∀ ・)「それをしくのか!」 ( ´_ゝ`)「ご名答!」
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 15:06:05.55 ID:O5cxbXo50
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ビニールシートの上にテントを張れば、水分の心配はほとんどしなくてもいい。 残る問題は、どこにそれらを使うかというところだ。 そのことをまたんきが口にすると、兄者は胸を張った。 ( ´_ゝ`)「オレには頼りになる弟がいるからな」 (・∀ ・)「おとじゃか?」 ( ´_ゝ`)「そう」 見れば、弟者はまだマシな地面を探していた。 あまり木の根がなく、盛り上がりや陥没の少ない開けた場所。 (´<_` )「このくらいなら、もう少し平らにすれば大丈夫だろ?」 ( ´_ゝ`)「あぁ」 弟者は不安気に頭をかく。 (´<_` )「灯南から遠いからな……。 上手くいく保障はないぞ」 ( ^ω^)「がんばれおー!」 ('A`)「オウエンシテル」
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 15:41:18.63 ID:O5cxbXo50
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周りの声援に後押しされ、弟者が口を開く。 (´<_` )「土の精霊、ゼアフォーと契約せし我が命ず。 世界を支える土よ、自然を育む地面よ。 この場を平らにせよ」 ズズッと、地面が音をたてた。 またんきは、弟者が土の魔法を使ったことはわかっているが、それ以外のことはなにもわからない。 (・∀ ・)「おー」 だが、わずかに動く土に驚きを隠すことをしなかった。。 ('A`)「ホントウニ、チョットダナ」 (´<_`;)「遠いんだからしかたないだろ」 魔法を使う前と、使った後ではわずかな変化が見られる。 しかし、それは本当にわずかで、少し無理をすればテントが張れる。と、いうレベルにしかなっていない。 ( ^ω^)「でも、おとじゃのまほうがなかったら、てんとがはれなかったお! ありがとうだお!」 ( ´_ゝ`)「そうそう。ついでにテントも張ってくれたら嬉しいなー」 (´<_` )「宋咲なら雷かー。 雷の精霊、電気王と――」 ( ´_ゝ`)「勿論、兄であるオレが張らせていただきますけどね!」
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 15:45:40.67 ID:O5cxbXo50
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わいわいと騒ぎながらテントを張り、その中で眠る。 中に入ってしまえばいつも通りかと思ったが、それは違う。 宋咲の森は虫の声がよく聞こえる。 風の音や、木々の匂い。心を落ち着かせる自然の恵みだ。 目を閉じれば、まるで自分が自然の一つになったような気持ちになれる。 地下なんぞとはまったく違う。 またんきは幸せな心地だった。 (-∀ -)「何だか、いいなぁ」 ( ^ω^)「そうさくはいいところだお?」 (-∀ -)「うん。ぶーんのきもちがわかるぞー」 (´<_` )「お前ら、明日も歩くんだぞ。 早く寝ろ」 (-∀ -)「はーい」 ( ^ω^)「おやすみだおー」 ('A`)「オヤスミ」
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 15:48:27.33 ID:O5cxbXo50
- 幸せな心地も、一瞬で崩れ去ることがある。
雷の音で目が覚め、テントから一歩出れば濡れネズミとなるほどの雨が降っていた時がそれだ。。 進むにはテントを片付けなければならない。 塗れぬためにはテントの下にあるビニールシートが必要だ。 木々があっても濡れるほどの雨だ。 またんきにはもはや回避のしようがない。 (・∀ ・)「……ずぶぬれだぞー」 ( ^ω^)「それはみんなおなじだお」 ( ´_ゝ`)「こればっかりは諦めるしかないな」 (・∀ ・)「むー」 ('A`)「モンクヲイッテモ、シカタナイコトダ」 (´<_` )「自然のことだからな。 精々、風邪をひかずにすむことを祈るくらいしかできん」
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 15:51:28.31 ID:O5cxbXo50
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その日のうちに町につけたのは幸運だっただろう。 すっかり雨に濡れてしまったまたんきは、宿をとるとすぐに風呂へ向かった。 半分は精霊といえど、流石に寒かったようだ。 ブーンとドクオもそれは同じだったらしく、またんきと一緒になって風呂に入っていた。 (´<_` )「この町はもうしっかり形ができてるな」 ( ´_ゝ`)「宋咲の中心になるんだろうな」 建築途中の建物は殆どなく、道もしっかりと舗装されている。 的芽の町と比べても遜色ない作りだ。 (´<_` )「明日、軽く探索して、シベリアに向かうか」 ( ´_ゝ`)「そうだな。宋咲も面白いところだが、シベリアも面白い」 (´<_` )「オレはまたんきを図書館に連れて行ってやりたいな」 ( ´_ゝ`)「精霊使いにするんだっけか」 (´<_` )「適性があるのかはわからんが……。 兄者も興味があるだろ?」 ( ´_ゝ`)「ある。 これで、あっさり精霊使いになれるなら、またんきは人間という性質の方が強いということになるな」 またんきは大切だ。 しかし、それと興味とは別の話だったりする。
- 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 15:54:48.47 ID:O5cxbXo50
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再び雨上がりの朝を向かえ、一行は町を探索する。 的芽ほど娯楽施設があるわけではないが、それなりに栄えている町のようだ。 昨夜の雨などものともせず、道は水溜り一つない。 (・∀ ・)「まとめのいえとは、ちょっとかんじがちがうな」 宋咲の建物は奇抜な色をしているものが多い。 新しい試みをしようとする者が多い証拠だ。 それはそれで目を楽しませるのだが、住むとなるとここには住みたくないと思わせる何かがある。 ('A`)「ヘンナミセモ、イッパイアルナ」 ( ^ω^)「うらないやさん、げてものやさん……」 建物が奇抜ならばとばかりに、中に入っている人も奇抜なようだ。 面白みはあるが、長居していると毒されそうでもあった。 (´<_` )「ふーん。カラクリ屋ねぇ」 ( ´_ゝ`)「VIP国では珍しいな」 魔法が主流のVIP国では、カラクリが少ない。 試しに見せてもらったものは、大した作りではなかったが、目新しいことに違いはない。
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 15:58:06.67 ID:O5cxbXo50
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( ^ω^)「あにじゃー。おとじゃー。 おもしろそうなのみつけたおー」 ( ´_ゝ`)「この町に面白そうじゃなさそうなモノがあるのか?」 そう言いつつも、兄者はブーンの後を追う。 彼が指差す方向には、一見、何の変哲もない家があった。 この町にしてはシンプルなデザインで、白を基調にし、余計な装飾や色を一切使っていない。 シンプルを極めた壁にかけられている看板は、これまたシンプルなものだ。 簡潔な文字。 『記録屋』 それだけがかかげられていた。 ( ^ω^)「おもしろそうだお?」 ('A`)「キロクヤ。ッテ、ナンダヨ」 (・∀ ・)「きになるー」 言葉こそ異なれど、三人は興味を隠すことなくその店を見ていた。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:06:30.01 ID:O5cxbXo50
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弟者も興味深げに『記録屋』なるものを眺めている。 名前だけ見れば、何かを記録しているのだろう。 だが、スコアがあるわけでもないのに、記録はできない。 あの建物の中にいる人物は、何を記録しているのだろうか。 日々のことを記録しているだけならば、それは個人の日記でしかない。 ああして、看板を構える程度のものではあるはずだ。 (´<_` )「確かに気になるな」 建物を見ながら呟く。 真っ白な壁は美しいが、どこか儚げだ。 ( ´_ゝ`)「入るか!」 観察している弟者を無視して、兄者は足を踏み出す。 変な店だったら。などとは考えない。 法外な金をとられたら。という心配など欠片もしない。 兄者は興味の赴くままに扉を開けた。 せめてノックくらいはしろ。と、苦々しげに言ったのは弟者だった。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:09:26.97 ID:O5cxbXo50
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 ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/24.jpg ( <●><●>) 「――いらっしゃいませ。 兄者さん、弟者さん、ブーンさん、ドクオさん、またんきさん」 静かな空間。 本棚しかないような、現実感のない部屋だ。 そこに男はいた。 床に座り込み、羽根ペンを使い本に何かを記していた。 顔は五人に向けられているが、手は止まっていない。 サラサラと、何かを記し続けている。 不思議な雰囲気の男だった。 彼の周りだけ、雰囲気が違う。 静かで、どこか張り詰めている。 清廉な空気とでもいうのだろうか。 男は精霊なのだろう。 耳もなく、髪もないとなればすぐにわかる。 それにしても、彼の持つ空気は独特だ。 羽根は見えないが、ジョルジュのように服の下にあるのかもしれない。 何の属性を持っているのかはわからないが、宋咲にいるのだから、雷とだろうと弟者はあたりをつけた。
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:12:39.34 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「何で、オレ達の名前を?」 兄者が疑問を口にする。 先ほど、男は間違いなく五人の名前を呼んだ。 無論、全員が彼とは初対面だ。 ( <●><●>) 「あなた方が来るのは、わかってました」 男の手が止まる。 部屋は一気に静寂に抱かれる。 誰も口をきかない。 主である男が口を開くまで、言葉を発することが許されていないようだ それでいて、重苦しいわけではない。 自然と、口を閉ざすことができていた。 ( <●><●>) 「私は記録屋。 過去に起こった出来事と、これから起こる出来事を記しています」 再び彼の手が動く。 彼の言葉を信じるのならば、本に記されているのは、過去か未来かのどちらかなのだろう。 またんきは無意識のうちに弟者の服を掴んでいた。 清らかさは時として、他者に恐怖を与える。 男は相手を怯えさせているなど考えもしていないようで、五人から目を離して手元の本を見る。
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:15:29.87 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「信じるかどうかはあなた方しだいですがね」 冷たさすら感じる口調だ。 すっかり怯えてしまっているまたんきは、さらに強く弟者の服を掴んだ。 対して、弟者は部屋にある本棚を見る。 少々の威圧や静寂に怯える彼ではない。 本棚は、歴史書と、宗教本が三分の一を占めていた。 残りはわずかな空きと、男が持っている物と同じ本が入っている。 (´<_` )「そこの本棚には、過去も未来も記されているのか?」 よく見れば、大量にある本には年代が張られている。 ずいぶん古い時代からあるようだ。 ( <●><●>) 「いいえ。未来を知るのは、一握りの人でいいのです。 そこにあるのは、この世界の過去だけです」 (´<_` )「個人的な過去は?」 ( <●><●>) 「それはプライバシーの侵害にあたるでしょう」 弟者は呆れたように息を吐いた。 この男、『記録屋』などと偉そうなことを言ってはいるが、実際のところはただの歴史をまとめているだけだ。 建物の雰囲気に圧倒されれば、彼の言うことを信じてしまいそうになるのは上手い作りだと思う。
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:18:28.23 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「ちなみに、これは触れても?」 ( <●><●>) 「どうぞ。見てもらうために書いていますので」 弟者は適当な本を取り、またんきに見せる。 (・∀ ・)「何だこれー」 ( ^ω^)「れきしだお。 これは……まだ、らうんじとせんそうしてないころおね」 本の中身は、文章だけではなく、図解も入れられている。 そこにらに売っている歴史書よりもずっと読みやすく、わかりやすい。 胡散臭い男ではあるが、まとめるという点に関しては素晴らしい才能を持っているようだ。 これが出版されれば、多くの者が歴史に興味を持つに違いない。 あまり歴史に興味のなかった流石兄弟も、ここにある歴史書ならば、過去を学んでもいいと思える程だった。 (・∀ ・)「よくわからんけど、すごいぞー」 またんきはいくつかの字が読めない。 そのため、歴史を全て知ることはできないが、図を見ているだけでも、この国の過去がおおよそつかめる。 先ほどまでの恐怖心も忘れ、すっかり本にのめり込んでいる。
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:21:38.23 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「あんたすごいな」 兄者は本を片手に、素直な気持ちを口にする。 褒められているのだが、男は手元の本を見たまま、素っ気なく返す。 ( <●><●>) 「私は見ているものを書いているだけです」 男は周囲に人がいないかのように振舞う。 しかし、声をかけられれば言葉を返しているので、意図的に無視しているわけではないようだ。 (・∀ ・)「なぁ!」 沈黙したままの男に、本を持ちながらまたんきは声をかけた。 一瞬、男はペンをとめ、またんきを見た。 すぐに視線は本に戻ったが、一応話しは聞くつもりらしい。 (・∀ ・)「まとめに、でっかいかべがあるんだ。 あれはどうやって、できたんだ?」 (´<_` )「したらば海に面したところにある壁か」 本で調べようともしたらしいが、いつできたのかがわからなければ探しようがない。 歴史の本を書いている張本人であれば、すべてを知っている違いない。と、いうのがまたんきの考えだ。 それはあながち間違いではない。
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:24:25.03 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「あれは、一八四年前に作られました。 発案者は当時の王、エクストです。 建築に携わったのは奴隷が五百人、精霊使いが二百人、普通労働者が六百人。 三年と一〇八日をかけて建てられました。 ミルフィーユ構造と呼ばれ、レンガとレンガの間に粘着式の粘土を挟みこんでいます。 それを精霊使いが高温の炎で焼くと、人の力ではどうにもできないほどの硬さを持ちます。 ちなみに、建てられた理由としては、当時の反奴隷制度派が、的芽から船を出し、 灯南の者を的芽に連れてきていたため、それを防ぐ目的とされています。 灯南からやってくる者を防ぐため。と、いうのは後につけられたデマです」 つらつらと言葉が溢れ出る。 これを何も見ないで、かつ、ペンを動かす手は止めないで言っている。 またんきだけではなく、全員が驚いたとしてもしかたのないことだ。 ( <●><●>) 「必要であれば、奴隷、精霊使い、普通労働者の代表名も教えますが」 (・∀ ・)「……いや、それはいいや。 ありがとう」 ほぼ無意識で言葉だけを返す。 それ程に、男が発した言葉の羅列は凄まじかった。 流石にそこまでの興味はない。 作った技術と理由がハッキリしただけで満足だ。 またんきは思いもよらぬ量の知識を与えられ、未だに夢見心地だ。
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:27:37.70 ID:O5cxbXo50
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放心している子供を放って、弟者はまた本棚に目を移す。 綺麗にわけられている本は、それだけで目を幸せにさせる。 (´<_` )「あれ。この本……」 本棚を端から見ていた弟者はあることに気がついた。 最後の本と、ペンを走らせている男を何度も見比べる。 ( ´_ゝ`)「どうした?」 眉をひそめている弟者に気づき、兄者が近寄る。 弟者は最も新しいと思われる本を手にしていた。 (´<_` )「最後の本、昨日のことが書かれてる」 ( ´_ゝ`)「え?」 兄者も男を見る。 特に何があったわけでもない昨日のことが書かれていることも気持ち悪いが、 昨日までの歴史を書きとめてあるとするならば、あの男は何を書いているのだろうか。 ペンの音が何か、恐ろしい音に感じられ始めた。 手にしていた本を戻し、弟者は男の方を向く。 絶妙な角度で書かれているため、彼が何を書いているかはわからない。 ペンが動き、文字が書かれていることだけがわかる。
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:30:37.96 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「……それは、何を書いているんですか?」 ( <●><●>) 「未来ですよ」 躊躇いなど欠片も見せぬ即答だ。 次の言葉を告げることさえ忘れてしまうほど、彼の口調は強かった。 ( <●><●>) 「あなた方には見せられませんがね」 男は何かを綴る。 それが未来だとしても、まったく別のことだとしても、薄ら寒いことに変わりはない。 彼には、間違いなく自分達とは違うものが見えている。 ここを出よう。 弟者は目線で兄者に伝える。 同じことを思っていたのか、兄者もすぐに頷いた。 本棚を眺めている三人に声をかけ、すぐにでも出ようとする。 ( <●><●>) 「――そうだ。 一つだけ、あなた方へ贈り物を」 ただ声を発せられただけのはずなのに、流石兄弟は背筋が粟立った。
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:34:03.59 ID:O5cxbXo50
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男は本を閉じた。 大きな目が五人を映す。 ( <●><●>) 「私は、神の使い、時の精霊ですから。 神の名において慈悲を与えてあげましょう」 流石兄弟だけではなく、全員に悪寒が走る。 男の目は本気だった。 彼が何を思っているのかは知らないが、時の精霊など聞いたことがない。 世界に唯一の属性であることも考えられるが、それにしても「神」という言葉がどこか不穏だ。 流石兄弟もブーンもドクオもまたんきも、誰一人として「神」など信じていない。 ましてや、目の前にいる男は「神」を妄信していることが肌で感じられるほどだ。 信じられない上に、気持ちが悪い。 男の中にある「神」が恐ろしいことを告げれば、彼はそれを実行するのだろう。 不安定で、それでいて狂気的な瞳をしている。 閉じた本を床に置き、男は立ち上がる。 座っているときは意識していなかったが、彼はずいぶんと大きい。 長身の流石兄弟よりも、少し背が高い。 属性が時であったにせよ、別の何かであるにせよ、精霊としての力はかなり強いだろう。 小さなドクオなどその姿に圧倒されている。
- 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:37:30.81 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「あなた方は、近いうちに全員死にます」 空気が凍る。 笑い飛ばすことができないほど、その言葉は真実味があった。 何なら、その言葉だけで心臓は動きを止めそうなほどに。 ( <●><●>) 「ですから、今のうちに、したいことをしておきなさい」 特に。と、男は一人を指差す。 ( <●><●>) 「あなたは、ね」 (;・∀ ・) 指の先にいたのはまたんきだった。
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:40:39.84 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「出るぞ」 沈黙の中、兄者の声が反響した。 兄者はまたんきの背を無理矢理に押す。 ショックを受けたのか、呆然としているまたんきは押されるがままに外へ出た。 兄者は扉を抑え、その間に弟者とブーン達が外へ。 最後に兄者が扉をくぐる。 その前に、彼は顔だけ後ろに少し向けた。 ( ´_ゝ`)「……あんた、ワカッテマスか」 ( <●><●>) 「そうですよ。 流石兄者さん」 ( ´_ゝ`)「…………」 ワカッテマスの表情はわからない。 ただ、兄者の名を呼んだときの声は、楽しげに歪んでいた。
- 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:43:33.93 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「おれ、死ぬのかー?」 ('A`)「シヌカモナ」 (´<_` )「ドクオ。今はそういう冗談は止めろ」 ( ´_ゝ`)「そうだぞ。またんきはピュアなんだからな!」 五人はすぐに町を出た。 これ以上、ワカッテマスがいる町にいたくなかった。 ほとんど逃げるようにドラゴンのもとへ戻る。 日向でまどろんでいたドラゴンを目にしたときの安心は、言葉では言い表せない。 ( ^ω^)「しなないお。 あんなの、うそっぱちだお」 (´<_` )「あの部屋の雰囲気にのまれたが、本当なわけがないだろ」 落ち込んでいるまたんきを励ます。 つい最近、外に出てきて生きる楽しさを学び始めたばかりの彼にとって、死というものはひどく恐ろしい。 不安気に揺れる瞳を見ると、ワカッテマスが許せなくなった。 弟者は眉間にしわを寄せ、歯を鳴らした。 言って良いことと、悪いことというのが、この世にはある。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:46:31.74 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「気分を入れ替えて、シベリアに向かうとするか」 弟者は深呼吸を一つしてから言った。 少しでもまたんきを励ましてやりたいと思う心に偽りはない。 ('A`)「サムクナルナ」 精霊といえども、極寒のシベリアは寒い。 最北の島、シベリアに向かうときは彼らも上着を羽織るのが常だ。 ( ´_ゝ`)「弟者ー。オレの上着とってー」 (´<_` )「はいはいっと」 一番後ろに乗っている弟者が、全員分の上着を取り出す。 その中にはまたんきの分もしっかりと入っている。 (・∀ ・)「そんなにさむいのかー」 ワカッテマスのことを忘れるべく、またんきはこれから向かう場所について考える。 ( ^ω^)「さむいってなもんじゃないお。 いつもどおりのふくじゃ、こおってしまうお」 (・∀ ・)「へー?」 よくわかっていないらしい。
- 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:49:32.76 ID:O5cxbXo50
- ( ´_ゝ`)「シベリアは年中雪が降っているような土地だ。
暮らしにくくはあるが、灯南と違って、 寒さに耐性のある植物なら育つから、そこそこ人もいる」 ('A`)「ユキガ、ホントウニ、スゴインダヨ……」 (・∀ ・)「ゆきかー。たのしみだぞー」 (´<_` )「国内最大の図書館も見所だぞ」 (;・∀ ・)「と、としょかんか……」 弟者がまたんきを精霊使いにするため、みっちり勉強をさせると言っていたところだ。 図書館という場所には興味があるが、誰もが恐ろしいと口をそろえる弟者のスパルタは恐ろしい。 魔法を学びたい気持ちと同等の割合で逃げたい気持ちがあふれる。 ( ^ω^)「しべりあは、みずぞくせいのちほうだから、またんきもまほうがつかえるかもしれないお」 ニュー速では失敗していたが、水属性の方が得意なのだとしたら、 シベリアで魔法を使ってみるのもいいだろう。 上手くいけば精霊使いになるためのスパルタかたも逃れられる。 (・∀ ・)「そうだな! そうする!」 かすかな希望に縋る。 (´<_` )「図書館は明後日くらいになるだろうしな。 せいぜい足掻け」 弟者の笑い声は、またんきからしてみれば、まるで地獄の門が開くような恐ろしさだった。
- 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:52:59.59 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「そんなにとおいのかー」 たどり着けないほうが幸せなのかもしれない。 そんな思いを隠して尋ねる。 ( ´_ゝ`)「いや、図書館自体は島の中心部より南にあるから、そう遠くないんだが……」 (;・∀ ・)「なら、すぐついちゃうんじゃないのかー?」 一瞬の希望が消えるのを感じた。 冷汗を流すまたんきを見て、弟者は少し笑う。 (´<_` )「ま、すぐにわかるさ」 またんきは首を傾げた。 地理に関して詳しくはないが、ドラゴンの飛ぶスピードは速いはずだ。 ( ^ω^)「ま、かくごしておいたほうがいいお」 ('A`)「タエロ。ソレダケシカ、イエナイ」 不穏な言葉を発する二人。 またんきの疑問はますます深くなる。 しかし、疑問の答えを、彼はすぐに知ることとなった。
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:55:37.90 ID:O5cxbXo50
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(; ∀ )「さむむむむむむむ……!」 本島から延びる橋の上を飛び、シベリアに入る。 しばらくは、本島とそう変わらない風景だった。 緑があって、空は薄く雲がかかっていて。 そんな風景が、あるとき一転した。 ( ^ω^)「だいじょうぶかお?」 ('A`)「アイカワラズ、フブイテルナー」 シベリアに入って小一時間。 またんきはさっそく、吹雪という名の洗礼を受けたのだ。 横から吹きつけてくる雪は、もはや凶器でしかない。 暖かい格好をしているはずなのに、手先が冷える。 またんきよりも寒さに弱いと思われる流石兄弟が平然としているのは、一重に覚悟と慣れなのかもしれない。 (; ∀ )「あばばばば……」
- 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 16:58:44.56 ID:O5cxbXo50
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吹きつける吹雪に、ドラゴンは地上へ降りる。 吹雪の中での飛行が危険だという理由もあるが、それ以上いドラゴンの身が心配であるがゆえの判断だ。 元々、彼は寒さに弱いらしく、見るからに弱っている。 無理をさせるくらいならば、シベリアなどこなくてもよかった。 またんきは切実に思う。自分の身も心配だった。 ( ´_ゝ`)「大丈夫だって。すぐに慣れる」 (; ∀ )「何も見えないんだぞー」 (´<_` )「目を開けるコツがあるんだよ」 またんきは流石兄弟に手を引かれながら歩いている。 近くに町があるらしいが、吹雪で一歩前さえ危ういような状態だ。 何故、流石兄弟が自信満々に進んでいるのかわからない。 どうにか開けた目で隣を見ると、ドラゴンが目を細めて歩いている。 いつもは気力に溢れている金の瞳が、悲しそうに見えた。 (; ∀ )「どらごーん。おれら、ここで死ぬかもしれないなー」 吹雪く音で何も聞こえないが、ドラゴンのことだから喉で返事をしてくれたに違いない。 そう自分に言い聞かせ、またんきは一歩ずつ進む。
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:01:36.83 ID:O5cxbXo50
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( ^ω^)「ほら、またんき、ゆきがいっぱいだお」 (; ∀ )「ちっともきれいじゃないぞー」 ( ´_ゝ`)「これだけあれば、綺麗なもんでも憎くなるな」 まったくもってその通りだ。 これが、空からハラハラと落ちる程度ならば幻想的だっただろう。 しかし、現実を見てみれば、暴力的なまでの数と勢いだ。 美しさなど遠くに投げ捨てている。 これならば、まだ宋咲の雷の方が綺麗だ。 (´<_` )「シベリアの町は、いい人が多いから、もう少し頑張れ」 (; ∀ )「そうなのか?」 ('A`)「ナカマイシキガ、ツヨインダ」 自然の脅威の中で生きていると、人と人との結びつきは強くなる。 荒れている灯南やニュー速から遠い位置にあることも、優しさの秘訣かもしれない。 何にせよ、シベリアの町は雪と違って暖かいらしい。 そんな励ましに背中を押され、またんきは足を進めていく。 雪に足がはまる感覚も、こんなときでなければ楽しかったはずだ。
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:09:19.81 ID:O5cxbXo50
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どうにかこうにかで、やっと町にたどりついた頃には日が暮れていた。 一切の光がなくなったときは、ここで死ぬのだとまたんきは本気で覚悟した。 ( ^ω^)「しべりあは、たいようがしずむのがはやいんだお」 (・∀ ・)「何でだ?」 (;^ω^)「そ、それは……」 (´<_` )「図書館にいったら、そういうことの調べ方も教えてやるからな」 現在、五人は宿屋にいる。 日が暮れた後にやってきた五人に対し、宿屋の主人は暖かく出迎えてくれた。 寒かっただろうと声をかけてくれ、暖かいスープも振舞ってもたらった。 さらに、寒さに震えるドラゴンを壊れかけとはいえ、屋根のある場所にいれてくれたのだ。 今まで町の中にドラゴンを入れなかった流石兄弟だが、シベリアでは少し違うらしい。 ドラゴンも今頃は寒さから少し逃れられているだろう。 またんきはほっと一息つく。 自分の身も心配だったが、弱っているドラゴンもずっと心配だった。
- 189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:26:24.57 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「な? シベリアの人は優しいだろ?」 (・∀ ・)「どらごんを見てもおどろかないんだなー」 ('A`)「ココノヒトタチハ、アマリホカノバショヲ、シラナイカラナ」 ( ^ω^)「ふしぎなものがあっても、ほかにはあるんだろう。で、すませちゃうんだお」 (;・∀ ・)「それはそれですごいなー」 ドラゴンのような存在を、他にもいるんじゃない? ではすまされないだろう。普通ならば。 今までも地方特有のあれこれは目にしてきたつもりだが、ここにきて、また一つ驚かされることになるとは思っていなかった。 (´<_` )「明日は、雪も少しはマシになるといいな」 窓を覗きながら言う。 外は未だに吹雪いており、白い雪が斜めに降っている。 (・∀ ・)「晴れたときのもみたいぞー」 ('A`)「ソレハ、レア」
- 192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:29:18.57 ID:O5cxbXo50
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シベリアは滅多に晴れない。 大抵は雪。時々曇り。年に数度といっても過言ではない回数の晴れ。 それがこの地方だ。 ( ´_ゝ`)「しかし、ずいぶん遠くまでこれただろ?」 ベッドに腰かけ、またんきに問いかける。 思い起こせば、最南端であるニュー速から最北端であるシベリアまできたのだ。 ドラゴンがいたとはいえ、ずいぶん遠くまで来ることができた。 ( ^ω^)「これで、ひととおりまわるおね」 (・∀ ・)「……うん。 たくさん、すごいものがあったぞ」 何もないように思えた灯南にも、 何でもあるような的芽にも、 発展途上の宋咲にも、 そして、寒いシベリアにも。 地下で暮らしていた頃では、想像もできなかったようなものがたくさんあった。 それに触れ合えることが、どれほど素晴らしいことか。そして、幸せなことか。 (*・∀ ・)「あにじゃ、おとじゃ、ありがとう」 ('A`)「オレラハー?」 ( ^ω^)「きもちはわかるが、くうきよめお」
- 194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:32:59.32 ID:O5cxbXo50
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五人は和気藹々とした雰囲気で言葉を交わしあう。 外の寒さを感じさせない室内は、夜を過ごすのにもってこいだ。 (・∀ ・)「そと、すごいおとだなー」 ( ^ω^)「でもさむくないお」 (´<_` )「壁の構造が、他の地方とは違うんだよ。 確か、窓やら扉やらも違ってたはずだ」 ( ´_ゝ`)「玄関は二重になってるしな」 (・∀ ・)「あれはそういうことだったのか!」 ('A`)「ジモトノ、チエニハ、アタマガサガル」 室内にいると、外の寒さを忘れる。 そうなれば、吹雪の憎さも少しはマシになるというものだ。 ( ´_ゝ`)「明日は吹雪かないらしいぞ」 (・∀ ・)「そうなのかー」 (´<_` )「少しくらいなら遊ぶ時間も取るか」 ( *^ω^)「やったおー」
- 195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:35:35.50 ID:O5cxbXo50
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その朝は実に心地良い目覚めだった。 芳しい香りと、宿屋の主人の声で目が覚める。 丁度いい時間帯に、サービスで朝食を作ってくれたのだ。 またんきがテーブルにつくと、ニュー速で食べた魚料理よりも美味しい魚料理が出てきた。 (・∀ ・)「うまいぞー!」 ( ´_ゝ`)「この辺りは魚介類の宝庫だからな」 (´<_` )「美味いし栄養もあるし。 寒さを押してくる価値はある」 食堂の窓から外を覗けば、吹雪はやみ、緩やかな雪が降っているだけだ。 昨日の雪は憎ささえ感じたが、ふわりふわりと舞い降りてくる雪は羨望すら持てる。 またんきは食事を終わらせると、いの一番に外へ出た。 ( ´_ゝ`)「子供は元気だねー」 続いて宿を出ると、降ってくる雪を捕まえようとしているまたんきの姿がある。 寒いだろうに上着も着ていない。 (´<_` )「こら。ちゃんと上着を着ろ」 弟者が上着を持って行くと、始めて寒さに気がついたようで慌てて袖を通す。
- 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:38:31.08 ID:O5cxbXo50
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( ^ω^)「ゆきは、こうしてあそぶんだおー!」 ブーンは雪の上に倒れ、手足をばたつかせる。 少しの間そうして、起き上がれば、ブーン自身とは少し違う跡が残る。 雪天使というのだが、そんな名称まで彼は知らない。 (・∀ ・)「なるほどー!」 さっそくまたんきも真似する。 雪の中に自身の体が埋まる感覚も少し楽しい。 冷たいばかりだと思っていた雪も、こうしてみるとわずかな暖かさがあるように思える。 ('A`)「ユキアソビッツッタラ、ユキダルマダロ」 雪天使をしている横で、ドクオは小さな雪玉を作り、ミニサイズの雪だるまを作っている。 (・∀ ・)「ゆきだるまー」 次の標的は雪だるまになったらしい。 またんきは楽しそうに雪玉を作る。
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:41:34.23 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「まだまだ青いな」 (´<_` )「しかたないさ。あいつらも子供……」 ( ´_ゝ`)「大人の雪遊びは」 (´<_` )「やはりこれだよな」 二人は全員が入れる大きさのかまくらを作っていた。 真っ白なかまくらは、見た目は冷たいが中に入れば暖かい。 ここに火鉢でも置けば、最高だ。 (・∀ ・)「おー?! 何だこれー!」 ( ´_ゝ`)「かまくらだ。さっ。中へどーぞ」 (・∀ ・)「あったかいぞー! 何でだー?」 (´<_` )「本当はドラゴンも入るサイズにしたかったんだが……」 ( ´_ゝ`)「流石のオレらでも大変だ」 かまくらに入った五人を、ドラゴンが見つめている。 こうして遊ぶことも滅多にないので、共にいるだけでも嬉しいのかもしれない。
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:44:53.00 ID:O5cxbXo50
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五人はかまくらを堪能した後、ドラゴンを交えた雪合戦を始める。 とはいっても、ドクオやブーンは満足に雪玉を投げれず、ドラゴンに至っては雪玉すら作れない。 そのため、雪合戦というよりは雪のかけあいだ。 (´<_`;)「くっ……! やはり兄者とドラゴンが同じ陣営にいるのは卑怯だ……!」 (;・∀ ・)「ひきょーものー!」 ( ´_ゝ`)「ふはは! 何を言っているかわからんなあ!」 (;^ω^)「ぎゃー!」 ('A`)「アレ。オレッテイラナイ?」 白い雪が当たりに散らばる。 動きの速い兄者と、力のあるドラゴンが相手では、いくら弟者といえども策を練ることさえできない。 しかも、彼の仲間は幼いまたんきと、速さはあるが力はないブーンだ。 (´<_`;)「こうなったら魔法だ! 水の精霊、荒巻と契約せし――」 (;´_ゝ`)「もっとずるいだろー!」 兄者の声がこだました。
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:47:34.65 ID:O5cxbXo50
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楽しげに遊ぶ彼らを、町の人間は暖かい目で見ている。 時には地元の子供が混ざり、大人数で雪のかけあいをすることもあった。 子供につられてやってきた母親達は、五人とドラゴンにも暖かいココアを振舞ってくれる。 (・∀ ・)「みんなやさしいなー」 またんきが素直にそう言うと、子供も大人もこぞって彼を撫でる。 人が集まれば暖かくなるので、この地方の者からしてみれば、みんなで撫でるというのは、最大限のお礼なのかもしれない。 寒さや吹雪は厳しいが、永住するならばシベリアかもしれない。 そんなことまでまたんきは思った。 ( ´_ゝ`)「幸せいっぱいのところ悪いが、そろそろ行くぞ」 (・∀ ・)「えー」 (´<_` )「明日はまた吹雪くらしいからな。 今の内に次の町へ行かないと」 (・へ ・)「むー」 わざわざ自分で口角を下げて不満を表す。 そんなことをせずとも、他の四人はまたんきを見ただけで機嫌の良し悪しがわかるのだが。
- 204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:50:39.86 ID:O5cxbXo50
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一緒に遊んでいた子供達に別れを告げ、またんきはドラゴンの背に乗る。 吹雪いていない空は存外快適で、寒さは残っているが震えるほどではない。 昨日とは違って余裕があるので、またんきは空から地上を見る楽しみを堪能する。 ある意味では、ニュー速の空から見た風景とよく似ていた。 どこまでも一色で続き、時折に別の色が見える。 退屈なようで、魅入ってしまうところがある風景だ。 (・∀ ・)「まっしろだなー」 ( ´_ゝ`)「年中雪が積もってるからな」 ('A`)「コノアタリノユキハ、トケルコトガナイ」 (・∀ ・)「へー。とけたところも、見てみたいなー」 ( ^ω^)「だおね」 雪の下に何があるのかは誰も知らない。 美しい緑があるのか、荒れた大地があるのか。 もしかすると、静かに息を失った者がいるかもしれない。 何があるのかわからないからこそ、雪は美しい。 素晴らしいものしか想像できないまたんきではあるが、心はどこか不安定な雪に惹かれているのだろう。
- 205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 17:53:42.91 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「溶けた雪もいいが、何をいってもシベリアは雪祭りだ」 (・∀ ・)「おー。きいたことあるぞー」 吹雪の頻度が下がる季節に行われる祭りだ。 普段は大人しく家にいることが多いシベリアの住民が、こぞって外へでる珍しい時期でもある。 またんきは、以前四人の口から聞いたことを思い出す。 ('A`)「ミンナガ、ユキデイロイロ、ツクルンダ」 (・∀ ・)「いろいろか」 ( ^ω^)「そうだお。 けものだったり、たてものだったりで、げいじゅつさくひんなんだお」 ( ´_ゝ`)「綺麗にライトアップもされるし、次に来る時はその時期を狙うか」 (*・∀ ・)「やったー! たのしみだぞー!」 また一つ、外の楽しみを知る。 未来への楽しみが増える。 またんきは笑みを浮かべていた。
- 210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:00:11.27 ID:O5cxbXo50
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また暗くなった頃に宿屋についた。 次の日も外で遊ぶことをまたんきは考えていたのだが、弟者が言ったように、その日は吹雪だった。 シベリア育ちではない五人は勿論のこと、地元民である宿屋の主人でさえも外には行かない。 こういたことが頻繁にあるため、シベリアでは食料が大量に買いこまれているらしい。 (・∀ ・)「しべりあもたいへんだなー」 (´<_` )「どこの地方でも、それなりの大変さはあるものだ」 ( ´_ゝ`)「辛いことがない場所なんてないぞ」 (・∀ ・)「だなー」 かろうじて的芽では不便を感じなかったが、あの場所はあの場所で苦労があるのだろう。 主に金銭的な苦労が。 ('A`)「アシタハ、フブキモヤムッテサ」 (´<_` )「そうか。なら、お楽しみの図書館に着けるな。またんき」 (;・∀ ・)「うー」 結局、今日までまたんきは魔法を使うことができなかった。 宿屋に迷惑をかける危険を押してまで練習をしたというのに、何とも残念な結果だ。
- 216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:06:07.55 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「そうと決まったら、またんきは先に寝ておけ。 明日は辛いぞー」 (;・∀ ・)「やーめーろー」 不安を煽るような言葉を吐く兄者を、またんきはポカポカ殴る。 ニヤニヤしている時の兄者は意地悪だ。 ( ^ω^)「あにじゃはねないのかお?」 ( ´_ゝ`)「オレも明日に向けて英気を養うさ。な? 弟者」 (´<_` )「ん? ……あぁ、そうだな。そうするとしよう」 二人の間に妙な間があった。 何か、視線だけで伝えるような。そして、それを確かに受け取ったような。そんな間だ。 彼らが目だけで会話をするのは今に始まったことではないが、こうして五人だけのときにそれが発揮されるのは稀だ。 言いにくいことなのか、何か意地悪なことをするつもりなのか。 どちらにしても、悪い予感しかしない。
- 217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:09:36.01 ID:O5cxbXo50
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( ^ω^)「……おとじゃ?」 (´<_` )「どうした? ブーン」 ('A`)「ニヤケテルゾ」 弟者は口元を抑える。 ニヤけてしまっている自覚はあった。 普段はポーカーフェイスを決めているが、身内同士の中で無理に演じる必要はない。 (´< ` )「何でもないさ」 口を隠したまま言う。 怪しい。またんきの目から見ても、精霊二人の目から見ても怪しい。 兄者も笑っているところが、なお怪しい。 ('A`)「……ワカッタゾ」 考え込んでいたドクオが答えを見つけたらしい。 目を細めて、二人を責め立てるような視線を向ける。 その目にブーンも合点がいったらしい。 未だにわかっていないのはまたんきだけだ。
- 219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:12:39.74 ID:O5cxbXo50
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('A`)「サケヲ、ノミニイクツモリダロ」 (・∀ ・)「さけ?」 ( ´_ゝ`)「ま、そういうことだ。 いいだろ? せっかくのシベリアだ」 またんきの疑問を無視して会話が進んでいく。 どうやら、二人はまたんき達を放って酒を飲みに行くつもりだったらしい。 (・∀ ・)「なー。さけって?」 (´<_` )「大人が飲む、最高にハッピーなもんさ」 (・∀ ・)「……おれは?」 ( ´_ゝ`)「残念だ。実に、実に残念だ! この国の法律で、未成年は酒を飲んではいけないと! そう決められていなければ!」 悲劇を演じる舞台上のように兄者は嘆きを口にした。 しかし、いくら何でも白々しすぎる演技だ。 法律を言い出せば、盗みをするなどもってのほかであるし、 ニュー速育ちの流石兄弟は幼いころから安酒を飲んでいた。 けれど、悲しいことに、その辺りのことにツッコミを入れることができる人物はいない。
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:15:37.74 ID:O5cxbXo50
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( #^ω^)「だめだお! ふたりは、さいげんなくのむお!」 ブーンは小さな体をいっぱいに使って二人を止めようとする。 記憶が叫ぶままに行動しているのだ。 かつて、泥酔した兄弟に絡まれたことは未だに忘れていない。 ( ´_ゝ`)「……ブーンよ」 真剣な声だ。 悲しげで、真っ直ぐな声が兄者から発せられる。 ( ´_ゝ`)「ここはシベリアだ。 わかるだろ?」 兄者は足に力を入れ、一気に間合いを詰める。 驚きのあまり思考が止まった一瞬の隙をついて、兄者はブーンを縛りあげた。 どこから出したのか、ブーンを拘束したものは毛糸だった。 ( ´_ゝ`)「――ここで酒を飲まなけりゃ、男じゃない」 格好良い台詞のようにも思えるが、ただ単に酒が飲みたいだけだ。 寒さ対策にアルコールを摂取するシベリアでは、酒造の技術が高い。 極上の酒が当たり前のように振舞われるのだ。 縛りあげたブーンをベッドに降ろし、兄者は扉を開ける。 (´<_` )「いい子にしてろよ」 兄者に続き、楽しげに笑っている弟者が部屋を出た。
- 222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:18:40.83 ID:O5cxbXo50
- 部屋から聞こえる怒声を無視して、二人は宿屋に設置されているバーへ足を運ぶ。
ここはシベリアだ。 余程、質の悪い宿屋でもない限り、バーは設置されている。 ( *´_ゝ`)「おー。この匂い、久々だなー」 (´<_`* )「シベリアの酒を飲むと、他は飲めないからな!」 ( *´_ゝ`)「オレは飲むけどな!」 (´<_` )「流石兄者。どんなものでもいいというその考え。 実に嘆かわしい考え方だ」 ( ´_ゝ`)「おい。急に冷静になるなよ」 カウンター席に二人並んで腰をかける。 吹雪ということもあって、客の殆どはここにきているようだ。
- 223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:21:53.19 ID:O5cxbXo50
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周囲に倣って、二人はウォッカを注文する。 他の酒も極上なのだが、シベリアといえばウォッカだ。 ( ´_ゝ`)「あー。最近、飲んでなかったからなぁ」 (´<_` )「元々、オレ達は毎日飲むほうじゃないだろ」 弟者が苦笑する。 酒を飲むこともあったが、仕事が余程上手くいったときくらいだ。 飲めば楽しいが、二人っきりで飲むとどうしてもパターンが決まってしまっている。 楽しさを重視する彼らとしては、些か物足りないものがあるのだ。 ( ´_ゝ`)「……なぁ、弟者」 (´<_` )「ん? どうした兄者。 おかわりか? 飲め飲め」 ( ´_ゝ`)「それは飲むけれど」 一杯を空にした兄者は続けて二杯目を注文した。
- 225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:25:30.92 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「お前、またんきの情報をどこで手に入れたかって、聞いてたよな」 (´<_` )「あぁ。何だ。教えてくれるのか?」 弟者はつまみと一緒に、新たに一杯を注文する。 アルコールが回り始めてはいるが、珍しく兄者が真剣な顔をしている。 これを聞かないで、彼の弟は名乗れない。 ( ´_ゝ`)「あれは、直接誰かから聞いたとかいうもんじゃない」 兄者は一気に酒を煽る。 そうすることで、口を軽くしようとしているようにも見えた。 ( ´_ゝ`)「宋咲で噂になってたんだ。 人知れず、しかし、はっきりと」 コップの中に入っている氷を鳴らす。 透き通った綺麗な音だ。 ( ´_ゝ`)「変なもんばっかりだったよ。 オレが興味を持って盗みに行ったモノの情報は、ほとんどそれだ」 (´<_` )「ほう。噂か」 宋咲には弟者も行っていたが、気づかなかった。 兄者の耳は地獄耳のようだ。
- 229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:28:46.20 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「今、思えば、奇妙だったのかもしれん」 (´<_` )「奇妙?」 弟者は眉をひそめる。 ( ´_ゝ`)「どれだけの噂があの町にあったんだ。 普通は隠されているような話ばかり」 (´<_` )「噂なんてそんなもんだろ」 兄者が心配するなど珍しい。 それは弟者やドクオの役目だ。 真っ直ぐに突き進むことしかできない兄者らしからぬことだ。 ( ´_ゝ`)「その噂の中に、一つの名前が上がったんだ」 目を閉じる。 その名前が忘れられない。 ( ´_ゝ`)「噂のもとは、ワカッテマスという男だと」
- 231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:31:40.71 ID:O5cxbXo50
- (´<_` )「ワカッテマス?」
弟者は首を傾げる。 彼はその名前を知らない。 ( ´_ゝ`)「あの、宋咲で会った記録屋の男。 あいつだ。あいつが、ワカッテマスだ」 (´<_`;)「なっ」 思わず立ち上がる。 あの奇妙な予言をしてくれた男が、またんきの情報を始めに持っていたということになる。 ならば、あの時、またんきのこともわかっていたのかもしれない。 世にも珍しいハーフだと。 それを知った上で、あのおぞましい予言をしたのかもしれない。 弟者の背に冷汗が流れる。 嫌な予感がした。 ( ´_ゝ`)「お前には話しておきたかった」 (´<_` )「……あぁ」
- 233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:35:23.49 ID:O5cxbXo50
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二人はわずかな沈黙の後、互いに顔を見合わせた。 そして微笑む。 ( ´_ゝ`)「まぁ、考えてもしかたがない」 (´<_` )「手を打てるわけでもないしな」 心配はある。 それを頭の片隅に置いておく必要はあるだろう。 例え、それが杞憂だとしても。 ( ´_ゝ`)「んじゃ、改めて」 (´<_` )「明日の図書館に向けて」 ( ´_ゝ`)「カンパーイ」(´<_` ) 二人のグラスが音をたてる。 暗い顔を引きずっていては、またんきにも心配をかける。 まだ成長途中の彼に、余計な心配は必要ないのだ。 流石兄弟はグラスを傾ける。 その凄まじい飲みっぷりに、周囲の者が彼らを見ていたことなど、知りもしないで。
- 237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:41:16.85 ID:O5cxbXo50
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盗みに入るわけでもないし、彼らが非常に楽しそうに部屋を出たので、またんきは止めることができなかった。 ただ、それほど美味しい物ならば、いつか飲んでみたいと思う程度だった。 しかし、おかしな匂いを巻きちらしながら帰ってきた二人を見れば、考えは払拭される。 ( *´_ゝ`)「まひゃんひー!」 (´<_`* )「まてよー。まきゃんきは、おれとまほうのれんしゅーするんだー」 (・∀ ・)「何だこれ」 思わず真顔になる酷さだ。 ( ^ω^)「これがさけのちからだお」 (・∀ ・)「何だこれ」 (;'A`)「マタンキ、キヲタシカニモテ」 (・∀ ・)「何だこれ」
- 241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:44:41.84 ID:O5cxbXo50
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流石兄弟がまとっていた匂いは、酒の匂いらしい。 キツイ匂いに、またんきは鼻を抑える。 思わず押しのけたくなる程絡まれるが、耳族の力には適わない。 非力だという弟者でさえ、またんきからしてみれば強靭な力を持っている。 本人達は楽しそうだが、巻きこまれている身としてはこれっぽっちも楽しくない。 むしろ不愉快だ。 ( ´ω`)「こうなるからいやだったんだお……」 (;'A`)「ヤベ。ツブサレル。ツブ……アッー!」 (・∀ ・)「……ゆめだ。うん。ゆめ。 おやすみなさい」 (´<_`* )「いっしょに、ゆめみよーぜー!」 (;・∀ ・)「くっせええええええ!」 ( *´_ゝ`)「わーい! おれもー!」 (;・∀ ・)「こっちくんなああああああ!」
- 243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:47:55.22 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「さて。天気は曇天。目指すは図書館!」 (´<_` )「大丈夫か? お前達」 ( ω ) ( A ) ( ∀ ) 夜に絡まれつくした三人は、気力も何もなかった。 流石兄弟が眠りにつくまで眠れなかった上に、彼らが眠った後は酒気に当てられて気持ちの悪い思いをした。 そのくせに、酔っ払っていた二人は二日酔いもなく元気なものだ。 ( ´_ゝ`)「弟者ー。またんき貸してー」 (´<_` )「ほい」 またんきを抱き上げ、強制的にドラゴンの上へ乗せる。 ドクオとブーンは流石兄弟がしっかりと掴み、空の旅へ連衡していく。
- 245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:50:39.03 ID:O5cxbXo50
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図書館につく頃には、三人ともどうにか気力を取り戻していた。 途中、何度か空の上からゲロを降らせかけたが、寸前のところで止めることに成功してきた。 (・∀ ・)「これが……としょかんかー」 (´<_` )「そう。国最大の図書館。 シベリア図書館だ」 またんきの眼前に広がっている図書館は広い。 離れたところから全貌を見たオムライス城よりも大きく感じられる。 古びた外観ではあるが、それなりに人は来ているらしい。 ('A`)「ダレデモハイレル。ダレデモツカエル」 ( ^ω^)「りっちじょうけんは、ちょっとわるいけどおね」 種族など関係ない。 例え、奴隷であったとしても、シベリア図書館の門は開かれる。 知識を求める者には平等である。と、いう信念がそこにはあるのだ。 ( ´_ゝ`)「入ろうか。 オレも入るのは始めてだ」 ( ^ω^)「いつもおとじゃだけだったおね」
- 246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:53:43.35 ID:O5cxbXo50
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五人が図書館の中へ入る。 警備員は立っていたが、特に咎められることはなかった。 流石にドラゴンは外で待機だったが、彼も本には興味がないらしく、平然としている。 (・∀ ・)「本だ。本ばっかりだー!」 (´<_` )「図書館では静かにするものだぞ」 (・∀ ・)「はーい」 図書館の中は、当然といえば当然なのだが、本ばかりだ。 壁一面が本棚になっており、大きなエントランスにもたくさんの本棚がならんでいる。 入ってすぐのところに分類表が書かれており、どこにどのような本があるのかわかるようになっていた。 (´<_` )「オレらは精霊魔法学のところに行くぞ」 またんきの首根っこを掴んで言う。 ( ´_ゝ`)「オレは小説でも読んでる」 ( ^ω^)「ぼくらもそうするお」 (´<_` )「じゃあ、ことが終わったらそっちに行くわ」 (;・∀ ・)「たーすーけーてー」 助けを求めるまたんきに、三人は合掌した。
- 247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:56:46.17 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「ちょっとここで座っててくれ」 精霊魔法学が集中している場所に設置されていた椅子に座らせる。 またんきに待っていると言って、用に本を探しに行った弟者の目は、逃げたときの恐ろしさを表していた。 (・∀ ・)「それにしても――」 辺りを見渡す。 周囲の本棚は、それなりの高さだ。 またんきならば踏み台が必要だが、弟者や兄者ならば手を伸ばさずとも届く。 人が本を探しやすいように出来ているのだろう。 整理整頓された本棚には、古い本から新しい本まで、様々な本が入っている。 装丁も一つ一つ違い、それらを見比べるだけで暇つぶしができそうだ。 外の寒さも、図書館では感じず、静かな空間は穏やかな心持にさせてくれた。 (-∀ -)「こーいうのも、いいなぁ」 目を閉じる。 椅子を揺らし、静かな空間を楽しむ。
- 248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 18:59:36.17 ID:O5cxbXo50
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足音が聞こえて目を開ける。 (´<_` )「待たせたか?」 (・∀ ・)「まってないぞー」 手にいくつかの本を持った弟者がいた。 わかりやすい本を選んでくれたのだろう。 フルカラーの本ばかりで、字が読めずとも理解しやすい。 (´<_` )「まず、属性の説明からしようか」 一冊の本をめくる。 そこに書かれているのは五属性だ。 弟者はその中でも、火のページと水のページをまたんきに見せた。 (´<_` )「わかるか? これが、お前の持つ力だ」 (・∀ ・)「火と、水」 図に目を通し、文章を少しだけ読む。 (´<_` )「読むから聞いておけよ。 火の属性が持つ力は――」
- 250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:02:50.21 ID:O5cxbXo50
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精霊使いが魔法を使う際には、属性のことをしっかりと理解していなくてはいけない。 間違った知識を持ったままだと、身を滅ぼすことになりかねないのだ。 弟者はまたんきの疑問に根気よく答えてくれる。 他の三人が言っているほど、弟者は厳しくはない。 ただ、別のことを考えていて、彼の言葉に返事をしないと軽く叩かれる。 (´<_` )「属性についてはわかったか?」 (;・∀ ・)「な、何となく……」 (´<_` )「この辺りは、追々テストもするからな」 (;・∀ ・)「てすと?!」 そんな話は聞いていない。 言っていないのだから当然だ。 またんきの苦情を無視して、弟者は次の本を取り出す。 そこにも図が描かれているが、一目見ただけでは理解ができない。 丸や三角、星や四角の図が折り重なっているように見えた。
- 252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:05:44.57 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「これが契約の陣だ」 (・∀ ・)「これが……」 思わず凝視して思う。 (;・∀ ・)「これって、おれがかくの?」 (´<_` )「当然だな」 (;・∀ ・)「えっー!」 (´<_` )「静かに」 (;・∀ ・)「ぇーっ!」 小さな声で再度叫ぶ。 再び描かれている図を見る。 複雑な図形だ。覚え切れるとは思えない。 (´<_` )「大丈夫だ。一つ一つに意味があるから、そこを理解すれば描ける」 (;・∀ ・)「こんなにたくさんあるのにか!」 (´<_` )「ほら、文句を言ってる暇があるなら覚える」
- 258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:12:45.95 ID:O5cxbXo50
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弟者の指が図に描かれている物を差す。 (´<_` )「これは、精霊使い。こっちが精霊を示す。 だから、精霊にかかるこの図形は、精霊の属性によって変わる」 どこからか借りてきたのか、ノートとペンを取り出す。 そして、またんきに文字を見せながら教えていく。 (´<_` )「これは、火」 (・∀ ・)「火」 (´<_` )「これは、土」 (・∀ ・)「土」 知らぬ字を覚えながら、図形を覚える。 属性によって図は変わり、精霊の性別によってもまた変わるのだという。 他にも様々な要素で図形はできていた。 これらを組み合わせなければ契約ができないのだから、兄者が精霊使いになれないのも納得だ。
- 260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:15:57.33 ID:O5cxbXo50
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(;・∀ ・)「おぼえられないぞー」 (´<_` )「陣に関してはオレのメモを持ってれば、ニュー速に戻っても勉強できるだろ?」 優しいように見えるが、定期的なテストが待ち構えていることを考えると、とてもそうは思えない。 またんきは机の上に伏す。 もう何も見たくない。 (´<_` )「おいおい。まだ序盤だぞ」 (;・∀ ・)「むーりー」 (´<_` )「まったく。 わかった。後一つだけやって、後はオレがまとめておいてやる」 この言葉も優しさからではない。 図書館にきてからずいぶんと時間が経っている。 閉館時間があるので、最低限のラインを設けただけだ。 (・∀ ・)「さいごか?」 (´<_` )「これが最後だ」
- 262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:19:02.31 ID:O5cxbXo50
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弟者は全ての本を閉じ、一つにまとめる。 すでに精霊使いとして立派に魔法を使っている彼からすれば、本などなくともまとめるとこができ、 これから話すという事柄に関しても上手く説明できるのだろう。 (´<_` )「精霊と、契約する方法だ」 (・∀ ・)「じんをかいておわりじゃないのか?」 (´<_` )「違う。それだけなら、精霊と戦う必要はないからな」 (・∀ ・)「なるほどー」 言われてみれば確かにそうだ。 またんきは弟者の方に向きなおる。 (´<_` )「契約には、精霊と精霊使い、陣と呪文がいる。 この呪文に関してはまた今度教えるとして、どのようにそれらを使うのかを教える」 紙にペンを走らせる。 『精霊』という文字から少し間隔を開けて『精霊使い』という文字ができあがった。
- 265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:22:45.00 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「まず、この二つは絶対だ」 (・∀ ・)「おう」 『精霊』と『精霊使い』の間に、『陣』が足される。 (´<_` )「これが、精霊使いと精霊を結ぶ」 『陣』から線が延び、他の二つを結ぶ。 まるでパイプのようにも見えた。 (´<_` )「そして、呪文」 上部に『呪文』とかかれ、ふき出しが描かれる。 その先端は『精霊使い』にだけではなく『精霊』にも延びていた。 (・∀ ・)「せいれいもじゅもんをつかうのか?」 (´<_` )「そうだ。二人が呪文を使うことで、陣が発動する」 『呪文』から伸びた矢印が『陣』にあたる。
- 268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:25:53.22 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「でも、せいれいは、あまりほかのヤツらとなかよくしないって、いってたぞ」 (´<_` )「そうだ。だから、この呪文は特殊なんだ」 弟者は『精霊』に新たなふき出しを加える。 しかし、その中身は空だ。 (´<_` )「精霊が無言である。それを了承ととる呪文だ」 悪徳にも程がある。 精霊使いは、精霊を気絶させ、強制的に無言状態を作らせているのだ。 (;・∀ ・)「ひっでー!」 (´<_` )「友好的な精霊なら、すっと通ることもあるんだぞ」 例えば、ジョルジュのような精霊ならば、契約もスムーズにいくだろう。 気の良い奴らとはいえ、一応は商売仇なので契約は結んでいないが、ジョルジュほどの力があれば色々と助かるはずだ。 (´<_` )「だから、一先ず契約するならブーンとドクオを勧めるよ」 (・∀ ・)「でも、さっきのせつめいに、光と闇はなかったぞー」 (´<_` )「あー。それは別途で教えるわ。 あいつらがいた研究所に描いてたヤツだから」
- 269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:28:52.47 ID:O5cxbXo50
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弟者は本を抱え、元の場所にしまってくると告げた。 またんきは再び待機のお時間だ。 それでも、ようやくの自由時間に息を吐く。 精霊使いとして魔法が使えるようになったとしても、悪徳商法のような手法は避けたい。 それは、彼が望む道とは違うものだ。 あまり意識をしたことはなかったが、ここは半分精霊であることを利用できないものか。 またんきは、ハーフであることを前向きに考えられるようになっていた。 (-∀ -)「んー」 また椅子を揺らす。 考え事をするのには丁度いい揺れだ。 そうしていると、遠くから足音が聞こえてきた。 (・∀ ・)「おと――」 戻ってきた弟者と一緒に、兄者達を探しに行こう。 そう思って目を開けた。
- 272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:31:52.90 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「じゃ?」 ( †)「ちょっと、来てもらおうか」 目線の先には見知らぬ鎧。 一瞬過去を振り返れば、足音は一つではなかったし、何やら重い音がしていたような気がする。 何故、弟者がそこにいると思ったのだろうか。 (;・∀ ・)「や、やめろよ!」 鎧が手を伸ばしてくる。 慌てて椅子から降りて距離を取ろうとするが、後ろは別の鎧がいた。 逃げ場がない。 ( †)「無駄な抵抗はするな」 (;・∀ ・)「やだやだ! はなせ! ばか!」 無茶苦茶に暴れ、鎧を蹴るが彼はびくともしない。 中に入っているのが人間なのか、耳族なのか、はたまた精霊なのかはわからないが、 またんき程度の力ではどうにもならないのは事実だ。
- 273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:34:41.67 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「またんき!」 (;・∀ ・)「おとじゃ!」 騒ぎを聞きつけたらしい弟者が本棚の上から現れる。 (´<_`# )「何のつもりか知らないが、うちのモノに手を出すなんざ、いい度胸だな」 少し目を離した間の騒動に、弟者は舌打ちをする。 油断していたことに言い訳はできない。 (´<_`# )「水の精霊、荒巻と契約せし我が命ず。 凍てつく水よ、荒々しい水よ。 水の圧力を見せつけよ!」 途端、彼らの頭上に水の塊が出現する。 すぐさま退避しようとするが、鎧の彼らよりも水が動く方が速い。 (; †)「うおおおお!」 水の圧力に、またんきの前方にいた鎧達は倒れる。 呆気にとられている後方の鎧を横目に、弟者はまたんきを抱きかかえた。 (´<_` )「逃げるぞ!」
- 276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:37:42.52 ID:O5cxbXo50
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本棚の上を跳躍し、移動する。 司書の叫び声が聞こえたが、おそらくはその者への危害ではなく、本の損傷に対する悲鳴だろう。 (´<_` )「兄者! 逃げるぞ!」 図書館の隅々にまで聞こえるように叫ぶ。 兄者の方も騒ぎには気づいていたはずだ。 この声を聞けばすぐにやってくるだろう。 (;・∀ ・)「あいつら……何なんだ」 弟者は真っ直ぐに図書館の出口へ向かう。 先ほどと同じような鎧を着ている奴がいるが、上手くステップを踏んで避ける。 重い鎧を着ている奴らに比べれば、弟者の方が速い。 (´<_` )「あの鎧には見覚えがある。 高等騎士の鎧だ」 (;・∀ ・)「こーとー?」 (´<_` )「つまり、国で一番偉くて強い警察だ」
- 277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:40:44.19 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「弟者! 進め!」 (´<_` )「言われずとも!」 駆けてきた兄者は、前にいた鎧を蹴り飛ばす。 関節部分にナイフを差し込み、中にいる誰かを刺す。 悲鳴が響き、図書館内はさらなるざわめきが起こった。 (;^ω^)「けがはしてないかお?」 (・∀ ・)「だいじょうぶだぞー」 またんきは抱きかかえられたままだ。 走らせるよりも、その方が速く動ける。 ('A`)「シカシ、コンナトコロニ、コウトウキシガクルナンテ……」 ブーンに捕まっていたドクオが眉間にしわを寄せる。 どうやら、こういった事態はそうそうあるものではないらしい。 (´<_` )「ドラゴン! 離陸準備!」 図書館の出口が見え、弟者は叫ぶ。
- 283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:47:35.56 ID:O5cxbXo50
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弟者が外へ出ると、ドラゴンは既にわずかに浮遊していた。 足の力を目一杯つかい、弟者は彼の背中に飛び移る。 (・∀ ・)「あにじゃは?!」 (´<_` )「もう来る!」 そうしている間にもドラゴンは上昇していく。 中途半端な高さを保つのは難しい。しかし、兄者を放ってはいけない。 弟者は下を見つめている。 ( ^ω^)「きたお!」 ブーンの言葉に、目を凝らすと、図書館から出てきたばかりの兄者がいた。 兄者はドラゴンの姿を確認すると、図書館の壁を蹴りあげ、わずかではあるが垂直に駆ける。 そして限界間際に跳躍した。 ( ´_ゝ`)「弟者!」 (´<_` )「こい!」 弟者が手を伸ばす。 その手を兄者はしっかりと掴んだ。
- 284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:50:49.61 ID:O5cxbXo50
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無事に五人全員を乗せたドラゴンは一気に上空へ飛び上がる。 重力がかかり、またんきは頭がくらくらしたが、あの鎧の集団から逃げ切れるのならば我慢できた。 ( ´_ゝ`)「ここまでくれば大丈夫だろ」 高く飛びあがり、ようやく兄者も一息つく。 雪はぱらついているが、吹雪いていなくて本当に良かった。 (´<_` )「それにしても、図書館に高等騎士が来るなんてな」 (・∀ ・)「それは、おかしなことなのか?」 先ほどからの疑問をようやく投げかけることができた。 ( ^ω^)「おかしな。と、いうより、めずらしいんだお」 ( ´_ゝ`)「高等騎士は、そもそも滅多に動くことがない。 テロだとか、兵器が暴走したとか。そういうときにしか普通は動かない」 (´<_` )「図書館は平等を謳ってるから、犯罪者が入っていたとしても、大人しく閉館を待つことが多いしな」 考えれば考えるほどおかしなことだった。 数々の盗みを働いたとはいえ、流石兄弟はテロリストではない。 国を揺るがすようなモノに手をつけた記憶はなかったし、それならばもっと大々的に指名手配されているはずだ。
- 287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:53:58.07 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「名残惜しくはあるが、さっさとニュー速へ行こう。 あそこは身を隠すところが山のようにある」 兄者の口調に焦りが見える。 今までにも、自分達を捕らえようとしている者を相手にしたことはあったが、 あのような精鋭部隊を相手にするのは始めてだ。 むしろ、ただの盗賊に高等騎士はオーバーキルだ。 有事に出てくるだけに、どのような武力を持っているのかは計り知れない。 奴らに捕まればただではすまないだろう。 正式に死刑を執行されるか、何らかの理由をつけて殺されるか。 結果としては同じようなものだ。 (・∀ ・)「さむいところから、きゅうにあついところにいくんだな」 ('A`)「ソウナルナ。カラダヲコワサナイヨウニナ」 (´<_` )「いや、直線距離で戻ったとしても、そこそこかかるぞ。 それまで宿屋は使えないから、むしろそこを心配しろ」 ( ^ω^)「のじゅくふぃーばー……」 ( ´_ゝ`)「嬉しくないフィーバーだな」
- 289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 19:56:42.18 ID:O5cxbXo50
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('A`)「ショクリョウモ、フアンダナ」 ( ´_ゝ`)「そうなったら、弟者を置いてオレがひとっ走りする」 極力、別行動は避けたい。 しかし、盗みに行くというときに団体行動をしてもしかたがない。 普通に買い物をすることさえ難しいような状況だ。 まさかまたんき達を置いていくわけにはいかない。 そうなれば、最も盗みの能力に長けている兄者が行くのは当然だ。 反論できる要素がないので、誰もが黙る。 またんきは不安気な顔をしていたが、兄者は笑う。 ( ´_ゝ`)「ちゃんと帰ってくるさ。 お前を、立派な盗賊にしないといけないしな」 (・∀ ・)「うん……。 やくそくだからな! っつーか、 ほんとうは、ひとりでぬすみにいくのも、だめなんだぞー!」 ( ´_ゝ`)「緊急事態ってやつだ、少しは大目に見てくれ」 (・∀ ・)「しかたないなー」 またんきの顔から不安の色が少し消える。
- 291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:00:57.80 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「ドラゴン、悪いができるだけ急いでくれよ」 ドラゴンは一度吼えで羽根を動かす。 できることならば、宋咲の半分は抜けたい。 雷雨の多い宋咲で足止めを食らうと厄介だ。 (・∀ ・)「がんばれー」 またんきもドラゴンの鱗を撫でて応援する。 スピードが出ると寒さが増したが、文句を言っている場合ではない。 後少しでシベリアを抜けられる。 そんなとき、ドクオが口を開いた。 ('A`)「ダレカ、イルゾ……!」 全員が固唾を呑んでドクオが差す方向を見る。 確かに人影が見える。 空にいるということは、精霊だろう。 高等騎士には精霊がいる。と、も聞いているので油断はできない。 弟者はまたんきの頭を下げさせる。 何らかの攻撃が放たれた場合、頭を上げていては危険だ。
- 292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:03:59.26 ID:O5cxbXo50
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_ ( ゚∀゚)「よぉ。流石兄弟には久しぶり。 ブーンとドクオ、またんきには先日ぶり」 そこにいたのはジョルジュだった。 羽根が出せる服を着て、空を飛んでいる。 流石兄弟も彼の羽根を見るのは始めてだった。 薄黄色をした半透明の羽根が四枚ある。 それらが動き、彼を空に留めていた。 ( ´_ゝ`)「ジョルジュ?」 兄者の声は戸惑いの色をしている。 ジョルジュが羽根を出していること、 このタイミングで空にいること、 彼が空察であること。 それらの条件を考えれば、事態はよろしくない。 しかし、兄者や弟者が知っているジョルジュは、情に厚く、優しい男だ。 今までも何だかんだと見逃されてきた。 それだけに、警戒しにくい。
- 293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:07:01.95 ID:O5cxbXo50
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ジョルジュは煙草に火をつける。 ゆったりとした雰囲気は、いつもと同じだ。 それが、逆に不安を呼ぶ。 (´<_` )「ジョルジュさん……。 オレ達、急いでるんです」 弟者が告げる。 少しでもシベリアから離れたい。 だが、ジョルジュを無視して行くことはできない。 味方ならば助けが期待できる。 敵ならば後ろから攻撃されかねない。 どちらにせよ、ハッキリさせなくてはならない。 _ ( ゚∀゚)「――あぁ、そうだろうな」 煙草の煙が吐き出される。 灰色のそれは、風に揺られ、空気中に霧散する。 ジョルジュは「そうだろうな」と、言った。 わかっているのだ。今、五人がどのような状態に陥っているのか。 知った上で、彼らの前に立ちふさがっている。
- 295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:10:45.45 ID:O5cxbXo50
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( ゚∀゚)「国からよー。命令がきたんだ」 煙草を吸い、目を伏せる。 その声は平坦だが、目の奥には憂いでもあったのかもしれない。 _ ( -∀-)「流石兄弟を捕まえろってな。 でも、それは、まあ、よくあることだ。 お前らだって犯罪者なんだからな」 じりじりと短くなる煙草。 それが、何かを終える合図になるような気がしてならない。 _ ( -∀-)「だけど、今回は本気なんだ。 高等騎士を派遣するって。その分じゃ、お前らはもう会ったんだろ? オレ達空察は、その支援に回れって」 五人は口を開くことができない。 最後まで彼の言葉を聞きたかった。 良き友人であった、彼の言葉を。 _ ( -∀-)「そんなもん、逆らえねぇだろ? 逆らったら、空察なんて潰される。 あの船にいる奴ら全員が、路頭に迷う」 何かを決心したように、ジョルジュは目を開けた。 そこには強い意思の色しかない。
- 299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:20:15.33 ID:O5cxbXo50
- _
( ゚∀゚)「ギコには教えていない。 知ってるのは、オレとショボンだけだ。 オレとしては、このまま内密に進めたいと思う」 優しいギコは、きっと流石兄弟を捕まえられない。 捕まえられたとしても、罪悪感に苦しめられてしまう。 ならば、汚れしごとは創始者である自分が負うべきなのだ。 _ ( ゚∀゚)「なーに。空察は「空に逃げたら」支援しろ。って言われてるだけだ。 お前らが地上を走ってくれれば問題ない。 何も、問題は起きないんだ」 ( ´_ゝ`)「……一先ずは、見逃してくれるんですね」 _ ( ゚∀゚)「オレだって、悪いと思ってるんだよ」 流石兄弟は好きだ。ブーンも、ドクオも、まだよくは知らぬがまたんきも好きだ。 けれど、ジョルジュには責任がある。そして、何よりも守りたい奴らがいる。 天秤にかけることはできない。 _ ( ゚∀゚)「――餞別だ。くれてやる」 ジョルジュが何かを投げる。 綺麗な線を描いて、何かは兄者の手中に収まった。
- 302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:23:44.96 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「……煙草を吸う奴なんて、うちにはいないぞ」 _ ( ゚∀゚)「餞別なんてそんなもんだ。 ありがたく受け取っておけ。何かの時に役立つさ。 オレの方は気にするな。火くらいは自分で出せる」 渡されたのは、ジョルジュのライターだった。 火属性である彼は、煙草の火くらいならば己でつけることができる。 それでもライターを持っていたのは、少しでも人間や耳族に近づきたいという思いからだった。 彼はその願いを捨てたのだ。 他でもない、耳族の友人を見捨てる代償にした。 (´<_` )「ドラゴン、降りてくれ」 無理に突っ切るという手段もあった。 しかし、国がそこまで本気だというのならば、わざわざ空察の連中を巻き込みたくない。 それに、例えニュー速まで逃げ切れたとしても、その後の安全など保障されていない。 被害者は少ないに越したことはない。 自分達が中心の彼らとしても、空察の連中が苦しむのは嫌だった。 気の良い連中で、何度も会ったことのある、大切な者達だった。 _ ( -∀-)「弟者、ごめんな」 (´<_` )「――いえ」
- 305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:26:46.31 ID:O5cxbXo50
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「助けが必要なら言えよ。 限りはあるが手を貸す」 そんな言葉、別に信じてはいなかった。
- 307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:29:40.87 ID:O5cxbXo50
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どうにか宋咲の端に着地することができた一行は、ぬかるんでいる道を進む。 誰もが無言だった。 ずっと仲良くしてきていたジョルジュと、あのような決別をしてしまった。 悔しいのか、悲しいのか、それすらもわからない。 様々な感情が混ざり合い、奇妙な形を形成している。 またんきにとっても、外に出て始めて触れあった人だっただけに、ショックは大きかった。 表情はそのままに、ただ歩くばかりだ。 ドラゴンも辛そうな顔をしている。 無言の中、足音だけが聞こえる。 兄者や弟者は極力音を消しているが、またんきやドラゴンにはそれができていない。 それでも、足音の数が合わなければ気づかれないかもしれないと、二人は足音を潜めている。 何もしないよりもマシだという心持だ。 始めて見たときは、楽しかったぬかるみも、今では憂鬱なものにしかならない。 またんきは俯いたまま、泥を目に映す。 木の根は、邪魔なだけだ。 赤い実は目障りだ。 何もかもが鬱陶しい。 心が不安定になる。
- 309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:32:49.56 ID:O5cxbXo50
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ひたすらに歩く。 状態の良い土とは言いにくい地面は、じわじわと歩く者の体力を奪う。 またんきとドクオはドラゴンの背に乗せてもらい、歩いているのは流石兄弟とドラゴンだけだ。 ずっと歩くという状態はそうなかった。 以前、宋咲で歩いたときは楽しみという気力の素もあった。 それさえなくなり、むしろマイナスの要素が胸を重くしている今のまたんきに、一日中歩く力はない。 勿論、ドクオにとってもそうだ。 彼は飛んでいるのだが、元々体力のない精霊だ。 精神的ダメージもあって、底の浅い体力はさらに少なくなっている。 ( ´_ゝ`) (´<_` ) 兄者も弟者も休憩を言い出しはしない。 それどころではないからだ。 止まることは死を意味する。 またんきをドラゴンの背に乗せてやることだけが、彼らにできることだ。 ドラゴンにも疲れが見えているが、もう少し頑張ってもらう必要がある。
- 311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:35:56.85 ID:O5cxbXo50
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もう少し。もう少しだけ頑張る。 それを先へ、先へと伸ばす。 重い沈黙は、彼らの足取りまでも重くする。 ぬかるみにはまる厚さが増しているような気さえした。 けれど、確認する時間も惜しい。 歩かなければならない。 何なら、走る必要だってあるかもしれない。 喉が渇くが、近くに川はない。 明日には川を見つけていなければ干からびるかもしれない。 弟者はそんなことを頭で考えては、胸の内で否定する。 ニュー速で生きていたときは、いつでも喉が渇いていた。 それでも今まで生きてきたのだ。 この程度のことで死んではいられない。 歩く。もう一歩だけ歩く。 少しでも遠くへ逃げる。
- 313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:38:30.80 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「ここに来ることは、わかってました」 もう、歩けない。
- 316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:41:57.30 ID:O5cxbXo50
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木の陰から男が現れた。 宋咲で会ったワカッテマスだ。 (´<_` )「あんた……」 弟者は眉をひそめる。 不気味な予言をしてくれた男だ。数日程度では忘れられない。 その上、不審な情報を兄者から得ている。 ドラゴンに乗っていたまたんきは、身を低くして少しでもワカッテマスから隠れようとする。 その意図を理解しているのか、ドラゴンも声を低くして唸っている。 ブーンとドクオもまたんきに近づき、彼を守ろうとした。 この状態で、あのような言葉を残した男が、信用できるはずがない。 高等騎士と何らかの繋がりがあると見ていいだろう。 ( <●><●>) 「どうでした? 私の言葉、神の言葉は当たっていでしょう」 楽しげな声だ。 己の素晴らしさに酔っている者の声。 ワカッテマスは、己の力に陶酔している。
- 320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:44:49.24 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「いーや? まだ、誰も死んでない。あんたの言葉は嘘っぱちさ」 ( <●><●>) 「やれやれ。わかっているのでしょ? 逃げ切ることなどできないのです」 ワカッテマスが一歩近づく。 流石兄弟とドラゴンは一歩退く。 間合いはできる限り開けておきたい。 ( <●><●>) 「私には全てわかっているのですよ。 あなた方がここを通ることも、空察が高等騎士を騙そうとすることも」 肩をすくめる。 間合いを詰めることは諦めたようで、その場からは動かない。 空察の名が出たことで、五人には緊張が走る。 先ほど決別したばかりだが、やはり気にはなる。 高等騎士を騙そうとしていることまでバレているのだ。何らかの処罰があってしかるべきだろう。 ( <●><●>) 「あぁ、安心してください。 空察の行動も知った上での計画ですから。 あの部隊を処罰はしません。正直、どうでもいいんです」 薄ら笑いを浮かべる。
- 322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:47:53.65 ID:O5cxbXo50
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五人はほっとするが、それでも緊張は緩めない。 緩めれば最後、目の前の男が何かしかけてくることは明白だ。 (´<_` )「あんた、何者だ?」 弟者が言葉を発する。 記録屋なんて胡散臭いものではないことはわかる。 高等騎士との繋がりがあり、どうやら予知能力も本物と見える。 情報は少しでも多い方がいい。 ( <●><●>) 「私はワカッテマス。 記録屋であり、時の精霊、神の使い」 楽しげな声だ。 歪んだ声は、楽しげで、いっそ吐き気がする。 ( <●><●>) 「今は、VIP国の中枢で働いています。 この国は、神の導きを欲しているのです」 高らかに言い、ワカッテマスは笑い声を上げた。 引きつったような笑い方は、彼の歪んだ心を表しているようにも思える。
- 324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:50:53.57 ID:O5cxbXo50
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またんきは怯え、ブーンとドクオを抱き寄せる。 兄者と弟者は眉間にしわを寄せて、そっくりな顔をしていた。 ( ´_ゝ`)「おいおい。こんなマジキチ野郎が国の中心にいたのかよ」 (´<_` )「この国は終わりかもしれんな」 二人は腰を低くする。 どう考えても、目の前にいる男を説得できる気がしない。 こうなれば強行突破しかないだろう。 ( <●><●>) 「あなた方が何をしようとしているのか、わかってますよ。 ですが、止めておきなさい。 それを聞かぬ、ということも、わかっていますが」 ( ´_ゝ`)「ならば!」 (´<_` )「その口を閉じてもらおう!」 二人が同時に飛びかかる。 兄者はククリを振り上げ、弟者は短剣を上げながら詠唱を始める。
- 327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:53:59.75 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「私に、その攻撃は当たりません」 兄者の攻撃を紙一重で避ける。 何とか避けたと、いうよりは、わかっているからこそ、余裕を持って避けることができた。と、いう風だ。 素早さには自信のある兄者だ。 あっさりと避けられたことに驚きを隠せない。 弟者は、詠唱によって雷をまとった短剣をワカッテマスに向ける。 避ける動作をしたばかりの彼に、こちらを避けることはできないはずだ。 完全なる無防備。 一つがはずれても、もう一つが当たればそれでいい。 弟者は口角を上げた。 「光の精霊、ワカッテマスと契約せし我が命ず。 輝く光よ目の前に姿を現せ。全てを防ぐ力となれ。 一枚の盾となれ」 敵はワカッテマス一人ではなかった。
- 329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:56:48.99 ID:O5cxbXo50
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(´<_`;)「ぐっ……!」 振り降ろした短剣は、光る壁によって阻まれた。 全力の攻撃が腕に強い振動を与える。 掴む力が緩まり、短剣がその場に落ちた。 ( <●><●>) 「ほら、当たらない」 大きな目が細くなる。 見下すような笑みだ。 ( ´_ゝ`)「大丈夫か!」 (´<_`;)「少し痺れただけだ」 腕を抑え、弟者は後ろに下がる。 無防備な状態で敵の近くにいるのは危険だ。 この場に、もう一人敵がいるというのならばなおさらに。 ( ´_ゝ`)「出てこい!」 兄者が怒鳴ると、ワカッテマスが出てきた木の陰から、新たに人影が現れる。
- 332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:00:14.14 ID:O5cxbXo50
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(‘_L’) 鼻筋の通った男がそこにいた。 人間であるその男は、何を言うでもなく立っている。 ( <●><●>) 「あちらも紹介しましょうか? 彼はフィンレクト。私と契約することを許された、幸運な人間です」 ご丁寧な紹介にも、フィンレクトは答えない。 石像のように立ち尽くしている。 (´<_` )「そういえば、彼は呪文を唱えるとき、光の精霊だと言っていたが、どうなんだい? 時の精霊さんとやらよぉ」 弟者は挑発的に声をかけた。 呪文は精霊の属性を明確にしなければならない。 どれだけワカッテマスが己を時の精霊としたところで、呪文はそれに応えない。 あの男が彼のことを「光の精霊」とするならば、ワカッテマスは光の精霊でしかない。 ワカッテマスが感情を昂らせれば、隙が生まれるかもしれない。 そうなれば逃げることも、あわよくば殺せる可能性だってある。
- 334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:02:56.73 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「そうですよ。私は、光の精霊です」 意外なほどにワカッテマスは冷静だった。 楽しげな声は相変わらずであったが、激昂する様子は見られない。 ( <●><●>) 「しかし、精霊を細かく分類してみるとどうでしょうか」 世間話でもしているような様子だ。 常人が考えもしないような発想をしていることは、彼が自身を「光の精霊」としていることからも窺えるが、 ここにきて中々興味深い発言をする。 弟者はこんなときでなければ、詳しく話し合ってみたいとさえ思ってしまった。 ( <●><●>) 「火の精霊がいたとしましょう。 私は彼らを三つに分類します」 ワカッテマスは指を一本立てる。 ( <●><●>) 「単純に炎を発生させる炎。 衝撃を作り出す爆破。 マグマのごとく灼熱の液体を生み出す溶岩」 一つ新たに足される度に指の本数が増える。 精霊使いでない者にはわからないだろうけれど、弟者には彼の言っていることがわかった。
- 337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:06:01.78 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「そして、この私。光の精霊であるワカッテマスは、何を司っているのか。 もう、おわかりですね?」 笑う。 声が、目が、表情が、笑う。 ( <●><●>) 「時間です。 光は過去にも未来にもある。光の早さは時間を超越する。 私は、その能力を有しているのです」 引きつった笑い声に無表情を貫いているのは、彼の後ろにいるフィンレクトだけだ。 五人は各々顔を歪めている。 (´<_` )「だが、あんたは他の力も使った。 さっきは盾を作り出した」 ( <●><●>) 「おやおや。本当はわかっているのでしょ? それほど私の気をそらさせたいのですか」 ワカッテマスが嘆息する。 図星をつかれ、弟者は押し黙る。 精霊一人につき属性は一つだ。 しかし、使う技は努力しだいでどうにでもなる。 単純に、使いやすい技、伸びやすい技が決まっているだけだ。
- 338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:09:49.62 ID:O5cxbXo50
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ブーンは体の小ささから、照らす力しか使えない。 ドクオは闇を操り、それを通した視界を手に入れることしかできない。 ワカッテマスのような大きな精霊であれば、ついでに他の技を使えるようになってもおかしくはない。 そのついでが、小さなブーンよりも強大な力を持っていたとしても、至極当然のことなのだ。 後ろに控えているフィンレクトは精霊使いだ。 体の大きなワカッテマスの力を、精霊使いが増幅させるのならば、どこまでのことができるのか、想像もできない。 ( ´_ゝ`)「なるほど。未来を見るってのが本当だとすると、国はその力が欲しいわけか」 どのような異常者であったとしても、国に有用だと判断されたのだろう。 予知能力は、誰もが欲するような能力の一つだ。 特に、国のような、一つの判断で事態が大きく変わるような存在にとっては、喉から手が出るほど欲しいに違いない。 その能力さえあれば、人間性はどうでもいい。 ただ真実を与えてくれさえすれば。 ( <●><●>) 「そう。この国は、神のお言葉を求めているのです」 ( ´_ゝ`)「あくまでも、あんたの予言は神の言葉、か」 本当に神というものが存在しているのならば、どうしてワカッテマスのような者に力を与えたのか問い詰めたい。 あるいは、力を持ったからこそ歪んだのか。 どちらにせよ、迷惑な神様もいたものだ。 ( ´_ゝ`)「それで、その神様はオレ達を殺せって言ってるのか」 ( <●><●>) 「あなた方の死は確約された未来なのです」
- 339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:12:56.27 ID:O5cxbXo50
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またんき達は怯え、体を寄せ合いながら震えていた。 捕らえられるのではない。死ぬのだ。 難なく未来を言い当てるワカッテマスが告げる死は重い。 またんきやブーン、ドクオではその重みに耐えられない。 恐怖に押し潰されてしまう。 (´<_` )「そうかい。なら、オレ達はその神様に逆らってでも生きる」 ( ´_ゝ`)「まだまだやりたいことが山のようにあるしな」 二人は再び戦闘態勢を取る。 先ほどは精霊使いがいるとは思っていなかったが、今は敵の戦力もわかっている。 戦い方を考えれば、希望が見えるかもしれない。 流石兄弟は目線を交える。 そして静かに頷いた。 ( ´_ゝ`)「オレ達の未来のため」 (´<_` )「あんたには死んでもらう」
- 341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:16:16.17 ID:O5cxbXo50
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兄者が地面を蹴る。 同時に懐にあるダーツを投げた。 ワカッテマスはそれを軽く避けると、フィンレクトの支援を受けて光の盾を出す。 ククリでの攻撃をそれで防ぐと、拳を兄者の腹に叩きこもうとする。 しかし、それをさせる弟者ではない。 雷を発生させ、ワカッテマスの体を狙う。 ( <●><●>) 「残念」 拳を開き、兄者の服を掴むと、そのまま盾にするべく振りまわす。 (´<_`;)「兄者!」 慌てて弟者は雷の軌道を変える。 寸前のところで空に向かった雷は、木の枝にぶつかって弾けた。 (;´_ゝ`)「なんつー馬鹿力……」 細い体をしているわりに力が強い。 一見すると筋肉などなさそうにみえるのだが、精霊特有の変化しない体の一つなのだろうか。
- 343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:19:54.65 ID:O5cxbXo50
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(;^ω^)「だいじょうぶかお!」 (;'A`)「モウ、ソラニ、ニゲヨウ!」 二人が叫ぶ。 (´<_` )「空に、ねぇ……」 弟者は空を見上げる。 空察の影など見えない。それもいい考えだろう。 けれど、それでは駄目だ。 ( ´_ゝ`)「コイツは、ここで仕留めておかないとな」 (´<_` )「あぁ。後々に面倒だ」 まだ大したダメージも受けていない。 諦めるには早すぎる。 尻尾を巻いて退散するのも早すぎる。
- 347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:22:48.88 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「――ああ、わかりました。 あなた方、二人は、わかっているのですね」 ワカッテマスが言った。 流石兄弟は押し黙り、鋭い光を宿した目を彼へ向けている。 それ以上の言葉を咎めるような光だ。 ( <●><●>) 「そうでした。そうでした。 私としたことが、うっかりしていましたよ。 あなた方は、わかっているのでしたね」 拍手だ。ワカッテマスは流石兄弟に賞賛の拍手を贈る。 手を叩く音が辺りに響く。 (;^ω^)「お?」 (;'A`)「ナンダヨ」 (;・∀ ・)「何がわかってるんだよー!」 後ろに控えている三人はわけがわからない。 口々に声を上げてみるが、流石兄弟は言葉を返さない。 返している余裕がない。と、言ったほうが正しいのかもしれない。
- 348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:25:48.92 ID:O5cxbXo50
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ワカッテマスは顎に手を当てる。 ( <●><●>) 「ふむ……。 どうしましょう」 ( ´_ゝ`)「見逃してくれるってなら、大歓迎だぞ」 まさか。と、ワカッテマスは返す、 ( <●><●>) 「ただね、私はあなたに感謝もしているのですよ。 ですから、ここは一つ、私の知っている、神から与えられた未来とは少し違った未来を、 存在させてみてもいいかもしれないと思ったのです」 (´<_` )「ちなみに、それは、オレ達にとってのハッピーエンドか?」 ( <●><●>) 「結末は変わりませんよ。 あなた方は死ぬ。それだけは、変えません」 ( ´_ゝ`)「その未来以外はいらないんだがな」 ククリを構える。 もう一度。いや、一度ではない。 何度でも突っ込む。ワカッテマスが死ぬまで。
- 352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:29:07.50 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「慈悲深い神に感謝してください。 一筋の希望を持ったまま、死ねるのですから」 兄者が駆ける。 今度は真正面からは向かわない。 木に登り、枝から枝へと身を躍らせる。 (´<_` )「雷の精霊、電気王と契約せし我が命ず。 輝く稲妻よ、煌く閃光よ。 走れ。障害なき奴のもとへ!」 雷がワカッテマスに向かう。 それは、そうあることが当たり前のように、光の壁に阻まれた。 しかし、正面に盾を張っている隙をついて、兄者が上から降る。 ワカッテマスの真上に、ククリを携えて。 重力に任せるだけで、彼の頭は綺麗に割れるだろう。 ( <●><●>) 「今回の件は、全て私が仕組みました。 ですので、もしも、万が一、私を殺すことができれば、 あなた方はもう追われることなく生きることができるでしょう」
- 354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:32:47.22 ID:O5cxbXo50
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軽い跳躍でワカッテマスは兄者の攻撃を避ける。 だが、兄者にとって、今はそんなことはどうでもよかった。 目を見開き、ワカッテマスを見る。 ( <●><●>) 「あなた方の敵は、国ではありません。 私ですよ。この、ワカッテマスです」 (´<_` )「そんなことを教えていいのか?」 ( <●><●>) 「問題はありません。あなた方は死ぬのですから」 ( ´_ゝ`)「いやいや。俄然、殺る気が出るってなもんさ」 流石兄弟の口元には笑みが浮かんでいる。 目の前の男を殺せば、今まで通りに生きることができる。 それだけで気力がわく。 ( ^ω^)「どういうことだお?」 ('A`)「ワカンネ」 (・∀ ・)「よくわからんが、あいつをたおせばいいんだろ?」 身を寄せ合い、三人は流石兄弟とワカッテマスの戦いを観戦する。 せめて彼らの邪魔にならないようにしているしかできない。
- 356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:36:00.36 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「何なら、私の計画の全貌もお教えいたしますよ?」 ( ´_ゝ`)「それは、いらないな!」 (´<_` )「同意!」 二人が駆ける。 狙いはワカッテマスではない。 (‘_L’) フィンレクトだ。 腰にナイフを下げてはいるが、使いこなせるとは思えない。 ( ´_ゝ`)「一先ずコイツを叩く!」 棒立ちしている人間を殺すなど、簡単すぎる行為だ。 罪悪感の欠片もなく、兄者はククリを振りかざす。 (‘_L’)「光の精霊、ワカッテマスと契約せし我が命ず。 収束する光よ、圧縮する光よ。 強気一閃となれ」 (;´_ゝ`)「――っ!」 危険を感じた兄者は、わずかなところで身を翻す。 兄者の体があった場所に光が一閃し、向こう側にあった木に穴を開けていた。
- 360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:39:49.36 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「何だっけ……。 ジョルジュさんから聞いたことある。こんな兵器」 ( <●><●>) 「ビームですよ」 (´<_` )「それだ。 ビームとか卑怯だろ……」 魔法による攻撃をしかけようとしていた弟者の腕が、だらりと垂れる。 ワカッテマスのサポート以上に、己の身は気づかっているらしいフィンレクトに力が抜けた。 それが正しい姿ではあるが、直立不動を貫いている姿からは想像ができない。 むしろ、本当に生きて思考していたのだな。と、いう感想が真っ先に頭の中にわき出た。 ( ´_ゝ`)「その男がいないと、あんたも困るもんな」 死なないように全力を尽くせとでも命ぜられているのかもしれない。 どちらが契約者なのか、わかっったものじゃない関係だ。 ( <●><●>) 「そうですよ。ですから、無駄なことは止めて、 私の計画でも聞いてくださいよ」 (´<_` )「嫌だね」 ( <●><●>) 「そう言わずに。 私が、本物の神になるための計画なのですから」
- 362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:43:09.29 ID:O5cxbXo50
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何故か、ワカッテマスはまたんきを見た。 真っ黒で、底の見えない瞳にまたんきの肌は粟立つ。 ('A`)「ダイジョウブカ?」 (;・∀ ・)「う……うん」 ( ^ω^)「あいつ、どっちかっていうと、やみっぽいお」 ('A`)「オレハ、アンナノト、ドウレベルカ」 ( ^ω^)「あ、そういうわけじゃなくて」 精霊二人はまたんきに抱きかかえられたまま言葉を交わす。 何かあった時は、この暖かな腕の中から抜け出て、戦う覚悟もある。 その時がこないのが一番なのだけれど。 ( ´_ゝ`)「しつこいと嫌われるぞ」 ( <●><●>) 「どうせ一期一会です」 (´<_` )「もう二度も会っただろ」 ( <●><●>) 「上げ足を取らないでください」
- 364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:46:49.97 ID:O5cxbXo50
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兄者がククリを振るう。 弟者が雷を呼び出す。 手法を変えてみても、結果は変わらない。 ワカッテマスは魔法だけではなく、体もしっかりと作りこんでいるらしく、全ての攻撃を避けてしまう。 ( <●><●>) 「私は完璧ではないのですよ。 光の壁も、精霊使いがいなければ薄くて使い物にならない」 ( ´_ゝ`)「精霊の悲しいところだな!」 ククリを降ろすが、やはり避けられる。 ( <●><●>) 「えぇ。悲しいところです。 寿命の短い哀れな生物がいなければ、私は一、二分先しか見えません。 国としても、そんな短い未来は必要ないのです」 だから、精霊使いが死ねば、すぐに新しい者が置かれる。 それを何年も繰りかえしてきた。 ( <●><●>) 「誰もが私を敬います。 私にひれ伏し、私を崇め、私を愛します。 けれど、たかが私のオマケである精霊使いまでもが、同じ扱いを受けるのです」
- 367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:49:54.87 ID:O5cxbXo50
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ワカッテマスの声に怒気が混じる。 今までは避けるばかりだったのに、反撃の手が混じり始めた。 (;´_ゝ`)「ぐっ……」 (´<_` )「退け! 兄者!」 ( <●><●>) 「私は思いましたよ。 完璧な存在であるならば、私が、自身の力を最大限に活用できたのならば!」 ワカッテマスは小さな光の玉を生み出し、弟者にぶつける。 (´<_`;)「お?」 痛みはあるが、子供に殴られたようなものだ。 怪我の一つもできない。 (#<●><●>) 「……私個人が発揮できる力はそんなもの。 悔しい。悔しい。悔しい。悔しい!」 眉間にしわが寄る。 しかたのないことが受け入れられなかった子供だ。 怒りや不満を解消する術を知らないのだろう。 おそらくは、ずっと国の中枢で、ちやほやと生かされてきたから。
- 370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:52:57.59 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「考えましたよ。精霊使いの力を借りるのは癪なので、未来は見ませんでしたが、 私は一人で、素晴らしいことを思いついたのです!」 ワカッテマスは笑みを浮かべ、両手を上に掲げる。 神に捧ぐ供物を持ち上げるように。 ( ´_ゝ`)「甘くみてるんじゃねーぞ!」 がら空きの懐に入りこむ。 しかし、魔法によって弾き返された。 (´<_` )「誰だって、一人の力は大したことないんだよ!」 雷を叩きこもうとするが、これも弾かれる。 流石兄弟の声はワカッテマスに届いていない。 彼はただ笑い、空を見上げている。 曇った空だ。 あの雲の上に神がいると思っているのかもしれない。 ( <●><●>) 「精霊と精霊使いの間で何が起こり、魔法が増幅されているのか! それさえ解明されれば、私自身が完全な魔法を使うこともできるはず!」
- 371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:56:43.95 ID:O5cxbXo50
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実質は四人、見た目は三人の攻防が続く。 ( <●><●>) 「私は一人で研究を重ねました。 歴史をあさりました。魔法を学びました。 けれど! 求めた答えはありませんでした!」 ( ´_ゝ`)「そらそーだ!」 そんなものがあるのならば、ラウンジ辺りの精霊が喜びそうだ。 また、そんな技術があるのならば、戦争は国家間ではなく、種族間の戦争になっていただろう。 ( <●><●>) 「ですから、私は考えたのです」 (´<_` )「よく考えるなぁ。 もっと楽に生きてみたらどうだ?」 ( <●><●>) 「過程がわからなくてもいい。 一人で全てをおこなう結果さえ見ることができれば」 兄者のククリを弾き、腹に拳を叩きこむ。 地に伏した彼を放って、弟者の方へ拾ったダーツを投げる。 ( <●><●>) 「そのためには、精霊と他種族が混じった生き物がいればいい」
- 372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:00:02.27 ID:O5cxbXo50
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またんきは、体を硬直させた。 精霊と、他種族が混ざった生き物。 精霊使いになることができる生き物。 それは、例えば、精霊と人間でもいい。 (・∀ ・)「お、れ……?」 ブーンとドクオを離し、両腕を垂れさせる。 呆然とした目には光がない。 ( <●><●>) 「そうです! あなたです! 私の苦労の結晶! 精霊の母と、人間の男の間に生まれた子供!」 ワカッテマスは嬉しそうに話す。 まるで我が子を見つけたかのような喜びだ。 (*<●><●>) 「苦労しましたよ! 精霊を単体で戦力にするための研究だとか、 私自身の能力をさらに伸ばすためだとか、 国で研究させるために言い訳するのにはね!」 後ろに立っているフィンレクトは無表情でそれを聞いている。 国家の転覆を狙えそうな計画だが、ワカッテマス自身が上に立つことよりも、 己の力を誇示することに意識が向いているため黙っているのか、 それとも、もはやワカッテマスにつき従っているだけなのか。
- 374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:02:54.33 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「じゃあ、こーとーきしがきたのは……」 一応は国の中枢が主導を取って行っていた研究だ。 当然、実験体を取り戻すだろう。 ( <●><●>) 「私が宋咲に行っている間に、あのクソ女が逃亡し、子供を売り払ったと聞いたときは、 周囲の奴らを皆殺しにしてやろうかと思いましたがね! 研究所で奴隷としているあなたを見つけたときは嬉しかったですよ!」 しかし、そこには問題があったと言う。 ( <●><●>) 「奴隷は私物。いくら国とはいえ、それを易々と没収はできないのですよ。 ですから、私は兄者、流石兄者に情報を流し、あなたを盗ませた。 後は、保護とでも言って回収すれば世間的にもオールオッケー!」 (・∀ ・)「……おれは、むりやり、うまされたのか」 またんきは俯く。 望まれて生まれてきたわけではないと知っていた。 だが、根本から実験体になるために生まれてきたとは思わなかった。 (*<●><●>) 「いえいえ! 望まれていたのですよ。私に! 前々から町に面白い品の情報を流していて良かったですよ。 こうして、役にたったのですから」
- 376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:06:01.60 ID:O5cxbXo50
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( #^ω^)「おい! くそでかめ!」 嬉々としているワカッテマスに、ブーンが怒声を上げる。 気分を害された彼は、黙って己と同じ属性を持つ精霊を見る。 近くで立っている流石兄弟も、ブーンと似たような表情をしていた。 ( #^ω^)「またんきはてめぇのじゃねーお!」 (・∀ ・)「ブーン……?」 小さな体を精一杯広げて、またんきをワカッテマスの視線から守ろうとする。 その姿は勇ましく、小さいからといって侮ることができるものではない。 ( #^ω^)「またんきは、じゆうにいきるんだお! あにじゃが、おとじゃが、そうのぞんだように!」 ( <●><●>) 「まったく。何を言っているんですか。 その子は、正真正銘、私が作った子供。 精霊でもある己と、人間でもある己が契約し、強い力を得られるのかどうか。 それを知るために、その構造を知るために作られたのです」 ( #^ω^)「だまれお!」 ('A`)「ブーンノ、イウトオリダ」
- 378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:09:50.84 ID:O5cxbXo50
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ドクオがブーンの隣に並ぶ。 小さな精霊は、またんきを守るために動く。 ドラゴンも唸り声を上げて、ワカッテマスを威嚇した。 ('A`)「マタンキハ、オレタチノナカマダ。 オマエニハ、ゼッタイニヤラネ」 その声に呼応し、ドラゴンの尾が地面を叩く。 近づけば彼の牙が食い込むのだろう。 ( <●><●>) 「嫌な生き物ですね……。 ビームで殺してしまいましょうか」 ( ´_ゝ`)「させねーっつの!」 (´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず。 周囲を埋める木の影よ、そこに潜む闇よ、 今こそ奴の身を封じこめろ!」 二人の声が重なった。
- 385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:16:46.65 ID:O5cxbXo50
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_ ( ゚∀゚) 久々に己の羽根で空を飛んだのはいいが、ジョルジュは気が重かった。 友人を裏切ったのだ。 心が軽やかなはずがない。 胸ポケットから煙草を出し、口にくわえる。 ライターを取り出そうとして、思い出す。 _ ( ゚∀゚)「……オレは、忘れない」 今日という日に、友人を裏切ったことを忘れてはならない。 何度も修理しては使ってきた愛用のライターを渡したのは、その戒めだ。 煙草を吸うたび、ライターを探すたび、ジョルジュは彼らの顔を思い出す。 _ ( -∀-)「兄者、弟者、ブーン、ドクオ、またんき……。 悪かった。責めるなら、オレを責めてくれ」 己の力で煙草に火をつける。
- 387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:19:49.68 ID:O5cxbXo50
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笑った顔を忘れない。 怒った顔を忘れない。 困った顔を忘れない。 傷ついた顔を忘れない。 本当は何がなくとも、何があっても、それらを忘れることなどできない。 今まで共に過ごしてきた耳族や人間の奴らのことだって、ジョルジュは忘れていない。 裏切ってしまった奴の顔を忘れることなどできるはずがない。 灰色の煙を空に漂わせる。 心はどん底だ。 ニュー速の空が懐かしくなる。 _ ( ゚∀゚)「向こうであいつらと会ったときは、楽しかったな」 誰もが笑っていた。 自分がいて、流石兄弟がいて、ギコやショボン、ブーンやドクオがいた。 そして、またんきもいた。
- 388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:22:55.20 ID:O5cxbXo50
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( ゚∀゚)「ん? 飛行船か……。 思ったより早く着いたな」 予定ではもう少しかかる予定だったのだが、考え事をしていたので、時間が早く感じられたのだろう。 短くなってしまった煙草を、携帯灰皿に入れると、ジョルジュは何事もなかったかのように甲板に降りる。 (,,゚Д゚)「ジョルジュさん、どこに行っていたんですか?」 すぐにギコがやってくる。 真面目な男なので、ジョルジュがサボっていることが許せないのだろう。 _ ( ゚∀゚)「たまには羽根を伸ばさないと、腐っちまうだろ? あ、今の「羽根」は比喩じゃねーから」 四枚の羽根を伸ばす。 ピンと伸びた羽根は飛ぶことに不自由しなさそうだ。 _ ( ゚∀゚)「ちょっとくらいいいだろー? 新人への訓練メニューはちゃんと言い渡してから行ったし」 ギコはジョルジュを睨んだままだ。 日々を真面目に生きているギコが、この程度の言い訳で怒りを収めるとは思っていない。
- 391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:26:01.13 ID:O5cxbXo50
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( ゚∀゚)「悪かったって。 もうしねーよ。何なら、罰だって受けるさ。 何をする? 便所掃除か? 朝飯作りか? 禁煙以外なら何だってしてやるぜ」 笑って言葉を続ける。 どの罰を受けても、立派にやりこなす自信がある。 同時に、ギコのことだから、己に罰など与えないのだろうとも思っている。 今までだって一度も罰を下されたことはない。 初代隊長で創始者で、拾ってくれた恩人でもあるジョルジュに、ギコはどこか甘い。 (,,゚Д゚)「……あるいは、その全部」 _ (;゚∀゚)「え?」 いつものギコとは違う。 ジョルジュはようやく気づいた。 (,,゚Д゚)「ジョルジュさん」 _ (;゚∀゚)「おう」 (,,゚Д゚)「もう一度聞きますよ? ジョルジュさん、どこに、行って、いたんですか?」
- 392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:29:57.49 ID:O5cxbXo50
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(;゚∀゚)「は?」 再びそこを問われる理由がわからない。 先ほど答えたばかりのはずだ。 ちょっと羽根を伸ばしにでは駄目だったのだろうか。 _ (;゚∀゚)「どこって……」 (,,゚Д゚)「言い方を変えましょうか」 その言葉はどこまでも冷たく、絶対零度の怒りが垣間見えた。 灼熱の怒りを燃やすことが常のギコには珍しい。 (,,゚Д゚)「誰と会っていたんですか」
- 393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:33:01.27 ID:O5cxbXo50
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誰と会っていたか。 そんな質問は、まるで、全てを知っているようで。 _ (;゚∀゚)「ギコ……?」 口が震える。 笑顔が上手く作れない。 (,,゚Д゚)「答えてください。 誰と、会って、いたんですか」 確信を持っている質問の仕方だ。 あくまでも、真実はジョルジュの口から暴くためにギコは問うている。 _ (;゚∀゚)「お前、何を知って……」 (´・ω・`)「ジョルジュさん、無駄な足掻きですよ」 声の方を向けば、ショボンが立っていた。 手には一枚の紙を持ち、風になびかせている。
- 397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:36:55.98 ID:O5cxbXo50
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(;゚∀゚)「お前……。 まさか……」 ショボンの手の中にある紙には見覚えがある。 ちらりちらりと見える文字は、以前目を通したものだ。 あれは、すぐに焼き払うように命じたはずだ。 _ (;゚∀゚)「お前! 命令っ……!」 (,,゚Д゚)「ジョルジュさん」 ショボンのもとへ行こうとするジョルジュをギコが止める。 振り返れば、先ほどと同じ顔をしたギコがいる。 (,,゚Д゚)「この船の隊長は誰ですか」 _ (;゚∀゚) 今まで、ギコはそんなことを一度も聞かなかった。 現在の隊長はお前なんだと、何度言っても首を横に振っていた。 それと同じ人物が、船の隊長を尋ねている。 _ ( ∀ )「――お前だよ。ギコ」
- 399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:40:04.75 ID:O5cxbXo50
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初代隊長の命令より、創始者の命令より、 ショボンは現在の隊長の命令を取った。 当然だ。 一々、昔の隊長に従っていては、何のために現在の隊長がいるのかということになる。 (,,゚Д゚)「ならば、現隊長として命じる」 _ ( ∀ )ゝ「はい」 ジョルジュは敬礼する。 現隊長への忠誠を敬意を示して。 (,,゚Д゚)「お前は、今まで、どこに行っていた。誰と会っていた」 _ ( ∀ )ゝ「私は、シベリアと宋咲の境目にいました。 そこで流石兄弟、およびその一味と対峙していました」 (,,゚Д゚)「何を話した」 _ ( ∀ )ゝ「国に狙われていること。 空察は助けになれないこと。 そして、地を行くことを勧めました」 (,,゚Д゚)「そうか……」
- 400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:42:46.97 ID:O5cxbXo50
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ギコはジョルジュの胸に、軽く拳を当てた。 (,, Д )「……流石兄弟は、おかしな話ですが、友人です」 敬語に戻ったギコが零す。 顔は伏せられ、彼がどのような顔をしているのかジョルジュにはわからない。 (,, Д )「犯罪もたくさん犯しています。 ですが、根はいい奴らです。 まして、またんきという少年は、まだ外の世界を知ったばかりです」 _ ( ゚∀゚)「だがな……」 (,,゚Д゚)「国からの命はきました! 確かに、我々は、この船に乗っている全員の一生を抱えています。 迂闊な行動は取れません!」 顔を上げる。 悲しげな瞳をしていたが、それでもギコは強い眼差しを持っている。 (,,゚Д゚)「ですから! ですからこそ! 何故、お一人で解決しようとするのですか! 船員全員で考えてはいけなかったのですか!」
- 401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:46:07.10 ID:O5cxbXo50
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流石兄弟は船員の殆どが知っている。 言葉を交わしたことのある者も多い。 全員がとは言わないが、彼らを好いている者は多い。 孤独な空の船で、時折やってきてくれる客人は、いい刺激と笑いを与えてくれていた。 彼らがいなくなれば、船員も悲しむ。 それも、事故や寿命ではなく、捕まって殺されるのであればなおさらだ。 (,,゚Д゚)「ジョルジュさん。 あなたは、流石兄弟が嫌いでしたか……?」 _ ( -∀-)「……そんなわけねーだろ」 好きだ。 あの自由に生きている姿が好ましい。 楽しく生きていて、あれこそ、人生を謳歌しているというに相応しい。 一生の中で、彼らのような友人と出会えたことは、ジョルジュの中に美しい記憶としていつまでも残っているはずだった。 今回のような裏切りがなければ、そうなるはずだった。 また、今日までは美しい記憶になることを信じて疑わなかった。
- 406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:50:16.33 ID:O5cxbXo50
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( ゚∀゚)「でも、どうしようもねーだろ?」 バレてしまったものはしかたがない。 しかし、どうすることもできないのも事実だ。 ギコが要らぬ重みを背負ってしまうことは悲しいが、それもしかたのないことなのだ。 (,,゚Д゚)「いえ……。 ジョルジュさん。オレ達は、あなたに拾われました。 あなたと共にいるために、この船にいます」 風の音がうるさい。 それでもギコの声は真っ直ぐに届く。 (,,゚Д゚)「オレ達は、あなたがしたいことを達成するためにいます。 あなたがオレ達といたいと言うから、オレ達はいます。 この国が好きだと言うから、この国にいます」 _ ( ゚∀゚)「お前、何を――」 (,,゚Д゚)「ジョルジュさんはどうしたいんですか? 流石兄弟を、ドクオを、ブーンを、またんきを、どうしたいのですか」 どうしたい。 そんなもの、答えは決まっている。 しかし、それを選んでどうする。 部下に甘えて、部下を路頭に迷わせるのか。 そんなことはできない。
- 410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:57:10.54 ID:O5cxbXo50
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(,,゚Д゚)「もしも、オレ達の存在が、あなたの足を引っ張るというなら」 ギコは懐から紙を取り出す。 ショボンが持っている紙とはまったく違う。質の悪い紙だ。 (,,゚Д゚)「空察を辞めてください」 渡されたのは、除隊書だ。 正式に提出されれば、ジョルジュはこの船の船員ではなくなる。 (,,゚Д゚)「ジョルジュさんは、隊長にこの船の譲渡権限も、何もかもを現隊長に譲って、 三日前にこの隊を辞めていることにしています」 (´・ω・`)「最悪の場合、これを提出します。 ですが、例えあなたがこの船の人でなくても、オレ達は待っています」 (,,゚Д゚)「犯罪者になってしまったら、しっかり匿いますから安心してください」 真っ直ぐだ。 どこまでも真っ直ぐに、ジョルジュのことだけを考えている。 ジョルジュは一瞬言葉に詰まった。 _ ( ∀ )「はっ……。 馬鹿。匿ったら、意味ねーだろうが」
- 413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:00:54.22 ID:O5cxbXo50
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ジョルジュは羽根を伸ばす。 ここまでしてくれる部下がいるのだ。 思いに答えてこそ、上司というものだろう。 _ ( ゚∀゚)「ちょっと行ってくるわ」 (,,゚Д゚)ゝ「ご武運をお祈り申し上げます」 (´・ω・`)ゝ _ ( ゚∀゚)「敬礼すんなよ。 オレは隊長じゃねーぞ」 待ってくれている者がいる。 背中を押してくれる者がいる。 それが、これほどまでに心強いものだとは知らなかった。 耳族が、人間が愛おしい。 ジョルジュは空を飛ぶ。 今さら間に合うかわからないが、どこにいるのかもわからないが、ドラゴンの足跡を探せばどうにかなるだろう。
- 414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:03:55.33 ID:O5cxbXo50
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闇がワカッテマスに向かい、同時に兄者が駆ける。 どんな生き物にも弱点はある。 精霊も死ぬときは死ぬ。 ( <●><●>) 「呆れてしまいますよ」 闇を避け、剣を光で防ぐ。 ( <●><●>) 「無駄なんですよ。全部。 計画を知ったあなた方、というか、その子に関わったあなた方を生かしておく予定はありませんし、 その子はこれから私のために実験体になってもらわねばなりません」 ( ´_ゝ`)「だから、そんなことはさせないってんだよ!」 ( <●><●>) 「どうやって止めるのですか? 私にはあなた方の行動が見えています。 防御は精霊使いが、少しの攻撃ならば私が己の能力で予知し、避けることができます」 攻撃が当たらなければ死ぬことはない。 先ほどから攻撃を受けているのは流石兄弟だけだ。 何度も地に伏しているため、彼らの服は泥で汚れている。
- 418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:06:50.94 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「命乞いでもしてみます? 無駄ですけど、やってみてもいいですよ」 (´<_` )「それで、またんきを見逃すのか?」 ( <●><●>) 「いいえ」 (´<_` )「なら、しねぇよ!」 弟者が物理攻撃に出る。 予想外の行動ではあるが、先を見通すことのできるワカッテマスに奇襲は意味をなさない。 兄者よりもトロい攻撃をあっさりと避けて、顔面に拳を入れる。 (∩<_` )「ってー」 呻きながらも立ち上がる。 黙って寝転んでいては殺してくれと言っているようなものだ。 ( <●><●>) 「対策なんてうてないでしょうに。 奇襲も、遠距離攻撃も、私に届く前にわかるのですから」 ( ´_ゝ`)「だからって、諦められるわけねーだろ!」
- 419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:10:19.09 ID:O5cxbXo50
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弟者の仇とばかりに短刀で突き刺す動作をする。 しかし、ワカッテマスには届かない。 ( <●><●>) 「それも駄目。これも駄目。あれも駄目。 まぁ、よくも向かってこれますね」 (;・∀ ・)「あにじゃ……。おとじゃ……」 ( <●><●>) 「あなたのために、皆さん、一生懸命ですねぇ」 か細い声を出したまたんきに、ワカッテマスは微笑みかける。 その目が笑っていないのは言うまでもない。 (#'A`)「コッチミンナ」 ドクオが二人の間に立ちはだかり、追い払う仕草をする。 ワカッテマスは怒った様子もなく、肩をすくめる。 彼にとって、ドクオのような小さな精霊は、眼中にもないのだろう。 ブーンはまたんきの傍で彼を撫でている。 少しでも気が楽になればいい。
- 420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:13:20.41 ID:O5cxbXo50
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ワカッテマスを攻撃しながら、時折フィンレクトを狙ってみる。 そちらを攻略する術も同時に探しているのだ。 フィンレクトを倒すことができれば、戦力は格段に落ちるはずだ。 (´<_`;)「ちっ」 四人の中で、最初に膝をついたのは弟者だった。 体力のない弟者が、魔法だけでなく体術も使って戦っているのだ。 普段から考えれば、むしろよく動いている方だといえる。 ( ´_ゝ`)「弟者! 休むなら下がれ!」 (´<_`;)「大丈夫だ!」 動くことができないのならばと、弟者は再び詠唱を始める。 詠唱をするだけのものとはいえ、日に数十回も使えば精神的な疲れが出る。 弟者を苦しめているのは、動かぬ体だけではない。 ( <●><●>) 「はいはい。あなた方はよく頑張っています。 神に変わって、私が花丸をあげましょう」
- 423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:17:02.60 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「馬鹿にしやがって……」 兄者は低い声を出す。 どうにか突破するために頭を働かせる。 集中する。これは殺しあいだ。 己のモノを守るために、相手を殺さなくてはならない。 愛用のククリを握り、歯を食いしばる。 (´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず。 木々の影よ、そこに接する影よ、 奴の動きを封じよ!」 ワカッテマスの影が蠢き、彼の足を捕らえる。 周囲が木々の影で溢れているからこそ使える魔法だ。 いくら未来が見えているとはいえ、己の影から湧き出る攻撃には対処できまい。 ( ´_ゝ`)「ナイス弟者!」 ククリを握って走る。 狙うは一つ。心臓だ。 魔法を発動したばかりの弟者も兄者に倣う。 手持ちの短剣は落としてしまったままなので、一撃顔面に拳を入れるつもりだ。
- 424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:21:22.02 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「……少々、鬱陶しいですね」 彼の足元から光が溢れる。 それは影を消し去り、ワカッテマスを自由の身にした。 不愉快そうな彼は、またんきの傍にいるドクオを睨む。 ( <●><●>) 「闇などという、汚らわしい存在が私に触れる。 そのような所業が許されるとでも?」 小さく呟き、ドクオから離れる。 その後を兄者と弟者が追う。 兄者は転がっているダーツを広い上げ、ワカッテマスの背に投げつける。 それは光の壁で防がれてしまったが、本命はククリだ。 壁のないところに入りこみ、刃をワカッテマスの身に当てようとする。 ( <●><●>) 「おっと」 避けられたが、そこには弟者の魔法がある。 ワカッテマスは不安定な態勢から、兄者の頭を掴み、無理矢理に体を捻る。
- 427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:24:55.66 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「外したかっ!」 ( ´_ゝ`)「首持っていかれるかと思った」 すぐさま身を引いた兄者は首をさすり、ワカッテマスを見る。 ( <●><●>) 「……このくらいでいいでしょうか」 ( ´_ゝ`)「何がだ」 ワカッテマスが手を上げる。 それを目視したフィンレクトは、ゆらりと顔の向きを変えた。 (´<_` )「おい」 弟者の目がフィンレクトをはっきりと映している。 感情のない瞳が向けられているのは、離れたドラゴンの方向だ。 流石兄弟は思ったよりも彼らから離れてしまっていた。 ( <●><●>) 「邪魔なんですよ」 誘いこまれてしまっていた。
- 429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:28:10.25 ID:O5cxbXo50
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(‘_L’)「光の精霊、ワカッテマスと契約せし我が命ず。 収束する光よ、圧縮する光よ。 一閃となれ」 (´<_`;)「逃げろ!」 弟者が叫ぶ。 同時に兄者が駆ける。 全速力、足の力を限界まで使う。 (;´_ゝ`)「ドラゴン! ブーン! ドクオ! またんき!」 届かない。 手も、足も、意味をなさない。
- 431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:31:57.24 ID:O5cxbXo50
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(;^ω^)「うわっ!」 ドラゴンが体を動かし、ビームを避ける。 彼の背に乗っているまたんきと、その頭を撫でていたブーンは同じように避けることができた。 しかし、またんきの前で浮遊していたドクオは反応が遅れた。 (;・∀ ・)「ドクオ!」 またんきが手を伸ばす。 しかし、ドクオはその手を振り払った。 (・∀ ・)「――な、んで」 呆然と呟く。 ('A`)「マタンキ……」 ドクオには見えていた。 ビームがもう避けようのないところまできていたのが。 もしも、またんきがドクオを掴めば、彼の手もビームで焼かれることとなっただろう。 ('∀`)「マケルナヨ」
- 435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:35:01.26 ID:O5cxbXo50
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蒸発するような音がした。 それだけだった。 (・∀ ・)「ど、くお……?」 そこにはなにもなかった。 何かいた証すら残らなかった。
- 440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:39:01.16 ID:O5cxbXo50
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( ^ω^)「どくお……。 なんで……だお。 どくお……?」 ブーンも呆然としている。 生まれたときから一緒だった。 流石兄弟とは違うが、双子のようなものだった。 ( ;ω;)「なんでだおおおおおお!」 慟哭。 消失してしまった片割れを求めて泣き叫ぶが、返事はない。 (・∀ ・)「……」 またんきも言葉を発せずにいた。 負けるなよ。と、いうのが最期の言葉だったが、何に負けてはいけないのだろうか。 (・∀ ・) ドラゴンに触れる。 心配そうな顔をしていた。 ワカッテマスに負けてはいけないのだろうか。 世間に負けてはいけないのだろうか。 己の心に負けてはいけないのだろうか。
- 442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:42:58.47 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「ぜんぶ、なのかなー」 答えはわからない。 答えを教わろうと、視線を彷徨わせるが、ドクオはいない。 彼の声は聞こえない。 ドラゴンは顔をまたんきにこすりつける。 慰めのつもりだ。 (・∀ ・) けれど、反応は返ってこない。 ブーンの泣き声だけが聞こえる。
- 445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:46:05.08 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「――ドクオ」 (´<_` )「てめぇら……」 流石兄弟が歪んだ顔でワカッテマスとフィンレクトを睨む。 今にも泣きそうな顔だ。 しかし、今は泣いてもしかたがない。 歯を食いしばって耐える。 ( <●><●>) 「だって、邪魔だったんです。 闇なんて、汚らわしい」 ( #´_ゝ`)「てめぇに、ドクオの何がわかる!」 兄者がククリを片手に向かう。 ( #´_ゝ`)「臆病で! ネガティブで!」 ワカッテマスが剣を避ける。 光の壁は現れない。 ( #´_ゝ`)「体力もなくて、力もない!」 ワカッテマスが近くに落ちていた短剣を拾う。 ( #´_ゝ`)「でも! 優しくて、男気があって、勇気があって、慎重に考えてくれる……。 そんな奴だったんだ!」
- 448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:49:55.50 ID:O5cxbXo50
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ククリがワカッテマスの体をわずかに切る。 フィンレクトは何をしているのだと、彼が視線を向けた。 (´<_`# )「殺す! 殺す! てめぇを、殺す!」 弟者はフィンレクトに何度も攻撃をしかけていた。 拳を振るい、蹴り上げる。 そして合間に魔法を使う。 闇魔法を使うことは、もう二度とない。 (‘_L’)「光の精霊――」 (´<_`# )「させねぇ!」 肘をフィンレクトの顔面に入れる。 その代わり、彼が持っていたナイフが腹に刺さった。 (゚<_゚ # )「殺す! 何があっても、てめぇだけは!」
- 450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:53:11.26 ID:O5cxbXo50
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( #´_ゝ`)「うちの弟はこえーぞ? 怒らせるもんじゃない」 ( <●><●>) 「そのようです、ね!」 腹を刺されても、弟者は痛みを訴えなかった。 興奮状態から脳内麻薬でも出ているのだろう。 あまり長時間、相手をしたくはない。 ( #´_ゝ`)「お得意の予知はどうした!」 ( <●><●>) 「この結末ですか? それは変わりません、よ! 私の精霊使いが魔法を使わずともわかります」 ( #´_ゝ`)「そうかよ!」 光の壁をあてにすることをやめたワカッテマスは、己の予知のみを使い、兄者の攻撃を避ける。 おかげで油断がなくなり、刃先が彼の体に掠ることはなくなった。
- 454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:57:08.58 ID:O5cxbXo50
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(゚<_゚ # )「殺す!」 弟者が跳躍し、フィンレクトの頭を掴む。 そのまま膝を叩き込んだ。 衝撃は大きいが、黙って倒れるわけにはいかない。 手にしていたナイフを弟者の太ももに突き刺し、フィンレクトはその場に倒れた。 (゚<_゚ # )「雷の精霊、電気王と契約せし我が命ず。 走る稲妻よ、駆け巡る信号よ、 この者の体を潰せ!」 弟者はフィンレクトの胸に手を押し付ける。 瞬間、倒れていた彼の体が激しく動く。 跳ねるように地面をのたうち回るが、弟者は手を離さない。 (゚<_゚ # )「死ね。死ね。死ね。潰えろ」 まともに動かぬ手で、フィンレクトはナイフを弟者の腹に再び突き刺す。 血があふれ、辺りに鮮血が飛び散るが、弟者の目はただ一点。 フィンレクトだけを映している。
- 455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:01:01.21 ID:AaWc7ilq0
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フィンレクトの体が止まる。 もう息をしていない。 弟者は死体の上に覆い被さるように倒れた。 腹からは血が出ている。 複数回刺されたそこは、同じだけの傷が刻まれた。 (´<_ )「やっべ……。 血、出しすぎ……」 今になって痛みが走る。 相打ち覚悟で突っ込んだかいがあるというものだが、どうせならば生きていたい。 弟者は腹を抑え、足に力を入れる。 足も痛い。動くことが辛い。 それでも動く。 精霊使いは倒した。 後は、あの精霊だけだ。
- 458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:04:23.54 ID:AaWc7ilq0
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( <●><●>) 「……えげつないことをしますね。あなたの弟は」 どこぞの死刑道具のような魔法だ。 ただ電流を流しただけとはいえ、非道とも言える行為だ。 思いついたとしても、普通は実行しない。 ( ´_ゝ`)「だろ? 自慢の弟だ」 兄者が笑う。 しかし、弟者の腹や足から血が出ていたのは気なる。 ( ´_ゝ`)「……もう、何も失わない」 重い言葉を零し、兄者はドラゴンの方へ顔を向ける。 精霊使いが死んだことで、ワカッテマス自身も積極的に攻撃をしかけてくるようになった。 あまり時間を取ることはできない。 兄者は軽く地面を蹴り、弟者の方へ近づく。 死体に覆い被さっていたはずの彼も、震える足で立ち上がり、こちらに来ようとしていた。
- 462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:07:12.32 ID:AaWc7ilq0
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( ´_ゝ`)「ドラゴン! 飛べ! コイツさえ殺れば、空察だっていつも通りだ!」 またんきを心配していたドラゴンが羽根を広げる。 口で器用にまたんきの服を掴むと、背中に放りなげる。 (・∀ ・) 呆然としているまたんきは反応を返さない。 黙って背中で揺られている。 (´<_ )「あにじゃ……」 弟者はフィンレクトから奪ったらしいナイフを手にしている。 腹からは血が流れ、彼が歩いたところまで赤くなっていた。 ( ´_ゝ`)「弟者、お前もドラゴンに乗れ」 (´<_ )「なに、言ってんだ。 オレも殺る。あいつを、殺す」 ナイフが強く握られる。
- 465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:10:43.00 ID:AaWc7ilq0
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( <●><●>) 「逃がすとでも?」 ワカッテマスが迫り来る。 もはやあのビームは出せないだろうけれど、彼自身の強さも中々のものだ。 深い傷を負った弟者では、相手にもならない。 (´<_ )「ほら、殺るぞ、あにじゃ。 あいつは絶対に、殺す。殺す」 上手く思考もできていない。 そんな弟を、戦いの場に置いておく兄など存在しない。 (´<_ )「雷の、せいれい、でんき王と、けいやく、せし――。 ゴホッ。ウッ……」 弟者が血を吐く。 詠唱もできない。体術もできない。 それでも弟者はワカッテマスを睨んでいる。 あるのは殺意だけだ。 戦略も、力も何もない。
- 467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:13:44.65 ID:AaWc7ilq0
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ワカッテマスが走る。 兄者は彼を止めるため、前へ躍り出た。 ( ´_ゝ`)「弟者! お前は邪魔だ! そんな体で何ができる。死にたいだけなら、別のところで死ね!」 (´<_ )「あに、じゃ……?」 ( ´_ゝ`)「早くいけ! こいつはオレに任せろ!」 ( <●><●>) 「あなた一人で何ができるんです?」 ( ´_ゝ`)「お前の精霊使いだって、弟者一人に殺られてただろーが!」 ( <●><●>) 「あんなクソ人間、どうでもいいですよ。 私が完璧になれば、精霊使いなんて皆殺しです」 ( ´_ゝ`)「おー。怖いねぇ。 ますます、お前を生かしてはおけねぇな」 兄者が不敵に笑い、ワカッテマスを睨みつける。
- 470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:16:24.04 ID:AaWc7ilq0
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( ;ω;)「おとじゃ! どらごんにのるお!」 ドラゴンが困ったような顔をしている。 弟者を回収したい気持ちはあるようだが、弟者本人にその意思がないと、途中で飛び降りられでもしたら危ない。 ブーンは涙を流し、小さな手を伸ばしている。 (・∀ ・) それでもまたんきは呆然としていた。 表情は笑みのままで、それでも感情はどこにもない。 (´<_ )「あにじゃ」 ( #´_ゝ`)「早く行け! 馬鹿! 邪魔なんだよ! 魔法も、物理攻撃も、何もできないだろうが!」 弟者は腹を抑えながら兄者とワカッテマスの戦いを見つめる。 視界がぼやけ、彼らの動きを追うことすらできない。 (´<_ )「――はあく、した」
- 472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:19:19.29 ID:AaWc7ilq0
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頷いた弟者は、ドラゴンの背に飛びのる。 その際に血が飛び散ったが、その程度で騒いでいる場合ではない。 ( ;ω;)「おとじゃ! しんじゃだめだお!」 (´<_ )「しなん……たぶん……」 ぐったりとドラゴンに体を預ける。 流れる血の量からして、すぐにでも病院に駆け込まなければ危ないだろう。 ( ´_ゝ`)「――――」 その様子を地上から見ていた兄者も、気が気ではない。 しかし、目の前の男に集中しなければ、こちらも死んでしまう。 ( <●><●>) 「安心してください。 すぐに、全員が同じところへ逝きますよ。 あの子は実験をしてからなので、少し遅れて、ですけど」 ( ´_ゝ`)「黙れ」 ( <●><●>) 「未来は変わりません」 ( ´_ゝ`)「黙れと言った」
- 473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:22:29.60 ID:AaWc7ilq0
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兄者はククリを持つ。 ( <●><●>) 「どうやって私に勝つつもりなんです?」 ( ´_ゝ`)「その口を閉じろ」 地を駆け、ワカッテマスの隙を狙う。 だが、攻撃の来る場所やタイミングのわかる彼に、その攻撃は通用しない。 木の上から攻撃をしても、複数の攻撃を同時にしても、結果は同じだ。 一人で攻撃しているのだから、全方位からの攻撃は不可能。 当然、隙は生まれる。 ワカッテマスはその隙間を縫って、攻撃を避ける。 ( <●><●>) 「あなたも、中々やり手ですけどね」 ワカッテマスの攻撃を兄者は寸前のところで避ける。 これは彼の経験と身体能力の賜物だ。 未来を見るワカッテマスに隙をつかれないためにも、兄者は攻撃の手を緩めない。 能力から考えても、無駄な動きがどうしてもできてしまうことを考えても、不利なのは兄者だ。 最小限の動きをできるワカッテマスとは差が開く一方だ。
- 475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:25:41.47 ID:AaWc7ilq0
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( ´_ゝ`)「オレは、兄なんだよ」 ククリを持つ力が強くなる。 ( ´_ゝ`)「だから、守ってやらなくちゃいけない」 唇を噛みしめ、血が出たが気にしない。 その痛みは罰だ。 ( ´_ゝ`)「なのに、守れなかった。 ……今度は、守りきる」 兄者が走る。 目はしっかりとワカッテマスを捉えている。 ( <●><●>) 「無理ですよ」 ククリの攻撃を避け、兄者の太ももを蹴る。 疲れで兄者の動きが鈍り始めていた。
- 477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:28:41.39 ID:AaWc7ilq0
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痺れる足を叱咤し、兄者は走る。 ワカッテマスの死角から攻撃をする。 未来が見えるといっても、動きに体がついていかなければいい。 もしくは、見えていても、どうにもならない攻撃をすればい。 兄者は少しでも避けづらいところから攻撃を繰り出す。 泥に足を取られ、無様に転ぶこともあった。 それでもすぐに立ち上がり、ワカッテマスと対峙する。 ( <●><●>) 「泥だらけですね」 ( ´_ゝ`)「それがどうした」 ワカッテマスの懐にもぐりこむ。 玉砕覚悟の攻撃かと、ワカッテマスは目を細めた。 ( <●><●>) 「無様です」 兄者のククリを避ける。少しだけ体に触れたが、ワカッテマスは短剣で兄者の腕を切った。 両断はできなかったが、それなりに深い傷だ。 鮮血が手を伝って地面へ落ちる。 ( ´_ゝ`)「まだ、だ……」 兄者は再び地面を蹴る。
- 478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:31:45.75 ID:AaWc7ilq0
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弟者の攻撃を彷彿とさせる動きだったが、兄者のしていることは無意味だ。 ワカッテマスは嘲笑する。 兄者が彼につける傷よりも、ワカッテマスが兄者に与える傷の方が大きい。 これでは、兄者が死ぬだけだ。 ( <●><●>) 「あなたは馬鹿ですね」 (メ´_ゝ`)「馬鹿でいいさ」 ワカッテマスの肌が少しだけ裂ける。 赤い血がわずかに滲んだが、兄者の腹からはそれ以上の血が溢れた。 (メ´_ゝ`)「最後に勝つのはオレだから」 ( <●><●>) 「何を根拠に」 ワカッテマスはため息をつく。 彼に疲れた様子はない。
- 480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:34:15.62 ID:AaWc7ilq0
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(メ´_ゝ`)「お前は死んだら負けだろ?」 ( <●><●>) 「当然です。 死、以外の負けなどありません」 (メ´_ゝ`)「オレはな、あいつらを殺されたら負けなんだよ」 兄者は口角を上げる。 血と泥に汚れた男の笑みとは思えないほど、それは勝ち誇っていた。 (;<●><●>) 「何を……」 (メ´_ゝ`)「わかるんだろ? 未来が、さ」 笑って、空を見上げる。 思いを馳せるのは、逃げていった者達のことだ。 (;<●><●>) 「何だ! 何だ! お前は、次に何をする!」 ワカッテマスが怯えた声を上げる。 体は震え、必死に体を叩いている。
- 485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:37:15.11 ID:AaWc7ilq0
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兄者は視線を、対峙している男へ戻す。 怯えている顔は愉快だ。 ざまあみろ。と、思う。 (メ´_ゝ`)「ジョルジュ。 お前の言っていたことは本当だったよ」 ライターを取り出す。 使ったことはないが、使い方は知っている。 兄者は火をつけた。
- 488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:40:24.86 ID:AaWc7ilq0
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(;< >< >) 「あ、あああ……ああぁぁぁああああ!」 途端に、火が走り、ワカッテマスに巻きついた。 一度ついた炎は簡単には消えない。 身の焼ける匂いがする。
- 490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:43:24.64 ID:AaWc7ilq0
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(メ´_ゝ`)「念のため、この辺りの木にも巻きつけて、逃げられないようにしたんだが……。 必要なかったようだな」 兄者は火の海の中にいた。 周囲の木は燃え、目の前には狂ったように踊っている男がいる。 (;< >< >) 「たす……たすけ……っ……あぁぁぁあああ!」 (メ´_ゝ`)「燃えろ燃えろ。 いやー。備えあれば憂いなし。 スッておいてよかった」 兄者はその場に座り込み、懐から糸を出す。 それは極細で、目をこらさなければわからない。 体に絡みついてもわからない。 そしてよく燃える。
- 496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:46:33.36 ID:AaWc7ilq0
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(メ´_ゝ`)「お前と心中だ。 オレも、もう、動けない」 兄者は上半身を起こしておくのも辛くなって、その場に倒れこむ。 泥が背中についたが、もはやどうでもいい。 これから燃えて、骨だけになるのだ。 外側の汚れなど放っておけばいい。 (メ´_ゝ`)「楽しかったなー」 短い一生だった。 けれど、充実はしていた。 いつでも隣には弟者がいて、 ドラゴンがいるようになって、 ブーンとドクオがやってきて、 またんきを仲間にした。 様々な場所を回った。 遊んだ。 生きてきた。 (メ´_ゝ`)「うん。中々、いい人生だった」 笑って死ねる。 それは幸福だ。
- 499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:49:35.64 ID:AaWc7ilq0
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( ゚∀゚)「兄者」 (メ´_ゝ`)「よう。どうしたんだ」 ワカッテマスの悲鳴が消えた頃、見知った声が聞こえた。 どうにか目を向けてみると、やはりジョルジュがいる。 手を上げる力も残っていないので、適当に声をかけてみた。 _ ( ゚∀゚)「……死ぬのか」 (メ´_ゝ`)「そうだな。 でも、あいつを倒したら、追われないらしいし、それで、いいや」 ジョルジュは火属性の精霊だ。 この火の海の中にいたとしても生き残るだろう。 兄者は目を細める。ジョルジュがわざわざ看取りにきてくれたとは思えない。 情に厚い男ではあるが、決別を交わしたのだから。 _ ( ゚∀゚)「悪い」 (メ´_ゝ`)「謝んなって」 そうだ。と、兄者は己の手を開く。 (メ´_ゝ`)「これ、もう手が動かねーから、自分で取ってくれ。 オレの切り札。お前に、やるよ」 兄者の腹の上にはライターがある。
- 500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:52:39.14 ID:AaWc7ilq0
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( ゚∀゚)「……お前から物を貰うなんて始めてだよ。 コレ、そんなに役立ったのか」 (メ´_ゝ`)「ああ」 _ ( ゚∀゚)「そうか」 二人は沈黙する。 そうしている間にも火は着々と兄者に近づいていた。 _ ( ゚∀゚)「オレが、もっと早く来ていれば、お前は死ななかった」 ジョルジュは兄者の体を目に映す。 何処も彼処も血と泥だらけだ。 動脈がやられているのが一目見ればわかる。 もう助からない。 目だってもう見えてはいないのだろう。 (メ´_ゝ`)「ん……。そうだな」 _ ( ゚∀゚)「そこは、そうでもない。とか言っとけ」 (メ´_ゝ`)「言ったら、お前は満足するか?」 _ ( ゚∀゚)「しねぇ」 (メ´_ゝ`)「んじゃ、どっちでもいいだろ」
- 502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:55:39.07 ID:AaWc7ilq0
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(メ´_ゝ`)「そうだ」 か細い声だ。 もう死ぬのだろう。 ジョルジュはその最期を見届けるまで、この場を去るつもりはない。 贖罪の意識と、友人としての想いが交じり合う。 _ ( ゚∀゚)「ん?」 (メ´_ゝ`)「おまえ、わるいと、おもってんだろ?」 _ ( ゚∀゚)「まぁな」 (メ´_ゝ`)「なら、弟達のこと、たのむわ」 _ ( ゚∀゚)「弟達?」 兄者の弟は一人だ。 実は他にもいたというのだろうか。 ジョルジュが首を傾げ、兄者は笑う。
- 503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 00:58:22.05 ID:AaWc7ilq0
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(メ´_ゝ`)「弟者と、ブーンと、ドラゴンと、またんき。 みんな、おれの、かわいい弟だ」 一人、守れなかったけど。と、力のない声が聞こえる。 _ ( ゚∀゚)「――そうだな。 みんな、お前の弟だな」 (メ´_ゝ`)「かわいいだろ?」 _ ( ゚∀゚)「そこは、ノーコメント」 (メ´_ゝ`)「あっ。てめぇ」 兄者は笑う。 何も心配などしていないようだ。 死ぬことへの恐怖もない。 (メ´_ゝ`)「じゃあ、よろしく」 _ ( ゚∀゚)「任せろ」
- 505 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:01:32.41 ID:AaWc7ilq0
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木が燃える。 火が音を立てる。 その中で、耳族が一人、息を引き取った。 _ ( ∀ ) それを看取ったのは、一人の精霊だ。 彼は涙を流す権利さえ持たず、一つのライターと、ククリだけを手に、その場を去った。 遺体を持ち帰ることはできなかった。 残された言葉を守るため、遺体よりも気にかけるべきものがあった。
- 509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:04:33.47 ID:AaWc7ilq0
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ジョルジュが二つの品を持って飛行船へ戻ったとき、そこには託された四人の弟達がいた。 逃走中のドラゴンを発見し、ギコが甲板へ誘導したらしい。 (´・ω・`)「弟者が一番危なかったです。 こんな大怪我、始めてだって、船医も騒いでましたよ」 弟者は顔を青くした船医に治療されていた。 出血が酷かったらしいが、そこは血気盛んな船員の血を拝借したようだ。 今はどうにか持ち直したらしく、ベッドで眠っている。 ブーンは泣き疲れて眠っており、またんきは呆然としたままだ。 流石にこの状態の面々に真実を伝えることはできない。 _ ( ゚∀゚)「もう国がコイツらを追うことはないらしいぞ」 (,,゚Д゚)「それは、兄者が?」 _ ( ゚∀゚)「あぁ」 (,,-Д-)「そうですか」 兄者に会ったはずなのに、隣に兄者の姿はない。 それだけでギコは全てを察した。
- 512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:07:17.63 ID:AaWc7ilq0
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弟者が目覚めたのは、保護されてから数日が経ってからだった。 (´<_` )「兄者は?」 開口一番の台詞がこれだ。 あの場に兄者を一人置いてきたことが余程、気になっていたのだろう。 (,,゚Д゚)「こっちへ来い」 弟者が目覚めたと聞いたギコは、すぐに弟者の部屋に飛び込み、手を引いた。 まだ腹が痛んだが、今は言うことを聞いておくべきだろうと従う。 彼としては、ジョルジュの裏切りやら何やらがまだ解決していなかったので、 飛行船に乗っている者への不信感は切れていなかった。 (,,゚Д゚)「ここだ」 ギコはとある部屋に弟者を案内した。 (´<_` )「ここにいるんですか?」 (,,゚Д゚)「……」 黙って扉を開ける。
- 514 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:10:11.19 ID:AaWc7ilq0
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( ^ω^)「おとじゃ!」 (´<_` )「お、ブーン」 ブーンが弟者の胸に飛びこむ。腹が痛んだが、黙っておくことにした。 見れば、奥の方にまたんきがいた。 (・∀ ・)「……おとじゃ」 彼は光のない目で弟者に近づく。 不安定な表情だ。 的芽以降は、子供のような笑みを浮かべていたのが嘘のようだ。 (´<_` )「オレが寝ている間に何があったんだ?」 力のない手で弟者の服を掴んでいるまたんきを撫でる。 ( ^ω^)「……ぼくらは、あのあと、ひこうせんのひとたちにたすけられたんだお」 (´<_` )「それは何となくわかっていたが、何でまた」 飛行船の実質的な隊長であったジョルジュが流石兄弟達を切ったのだ。 当然、他の船員達もそうするだろうし、それが当然だと思っていた。 助けられる理由がわからない。
- 515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:14:05.69 ID:AaWc7ilq0
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ギコにでも聞こうかと顔を扉の方へ向けるが、そこに彼の姿はない。 何もしないと信用されているのか、まだ怪我の癒えていない弟者では何もできないと判断されたのか。 ( ^ω^)「よく、わからないお。 でも、みんな、いつもどおりやさしかったお」 貴重な食料だろうに、毎日ブーンとまたんき、ドラゴンの分まで用意してくれていたらしい。 何不自由なく、むしろ手厚い治療を受けたという。 ( ^ω^)「もう、くににおわれるしんぱいもなくなったって、いってたお」 (´<_` )「そうか。じゃあ、兄者が殺ったんだな」 少し安堵の表情を浮かべる。 光がわずかに見えた気がした。 (´<_` )「で、兄者は?」 ( ^ω^)「……ここでみたことは、いちどもないお」 ブーンも兄者については何も聞かされていなかったらしい。 眉をひそめた弟者は、服を掴んでいたまたんきの肩が揺れていることに気づいた。 (・∀ ・)「……あにじゃ」 ( ^ω^)「またんきは、ずっとそのちょうしなんだお」 感情を失ったように呆然とし、話したと思えば兄者やドクオ、弟者やブーン、ドラゴンの名を呼ぶだけ。 まるで廃人になってしまったかのようだ。
- 519 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:19:46.51 ID:AaWc7ilq0
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(,,゚Д゚)「こちらです」 _ ( ゚∀゚)「おはよう。弟者」 ギコに連れられて、ジョルジュがやってきた。 弟者はどう反応すればいいのか迷い、結局軽い会釈をした。 _ ( ゚∀゚)「お前が起きたらな、話そうと思ってた。 ドラゴンがいないのは残念だが、お前達を外に出すのはまだ駄目だって船医が言うもんでな」 頬を掻き、ジョルジュは視線を下に向ける。 煙草が欲しいと切実に思う。だが、そんなもので誤魔化してはいけない。 覚悟はしてきたつもりだったが、いざとなると言葉が出ない。 (´<_` )「兄者は……」 弟者が縋るような声を出す。 どこかに隔離されているような状態でもいい。 生きてくれているのならば。 ジョルジュは拳を握る。 _ ( ゚∀゚)「兄者は、死んだ」
- 521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:22:12.95 ID:AaWc7ilq0
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(´<_` )「……嘘だ」 _ ( ゚∀゚)「これは、形見代わりだ」 抜き身のククリを渡す。 見覚えのあるそれは、間違いなく兄者の物だ。 ( <_ )「……嘘だ。嘘だ。嘘だ!」 弟者はククリを落とし、床に膝をつく。 頭を掻き毟り、頭を下げる。 ( ;ω;)「あ、あにじゃ、やっぱり……」 ブーンにも予想できていたことだ。 弟者が考えていなかったはずがない。 それでも、必死に打ち消し、幸せを信じていた。 ( <_ )「嘘だ! 嘘だ! 兄者が、兄者が死んだ?」 床にシミがつく。 弟者の頬から涙が伝っている。 ( <_ )「だって、兄者は言ったんだ! 死ぬときは一緒だって! オレ達は、双子だからっ……!」
- 524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:25:04.13 ID:AaWc7ilq0
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嗚咽が交じり始める。 実の兄が死んだのだ。 それも、一緒に逃げていれば助かったかもしれない。と、いう状況で。 人目も憚らず涙を流すのは、おかしなことではない。 ( <_ )「あにじゃ……。あにじゃ、あにじゃ!」 床につくシミが段々と大きくなる。 (・∀ ・)「……あにじゃ、いないのか?」 弟者の背中に、またんきの小さな手が乗る。 ( <_ )「またんき……」 (・∀ ・)「あにじゃ、いないのか? ドクオも、ないのか?」 声が震えている。 小さな手が震えている。 ( <_ )「……あぁ。 もう、いない、死んだんだ」
- 528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:28:15.12 ID:AaWc7ilq0
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(・∀ ・)「あえない、のか……?」 ( <_ )「会えない」 (・∀ ・)「りっぱな、とうぞくにしてくれるっていった」 ( <_ )「言ったな」 (・∀ ・)「ずっと、いっしょにいてくれるっていった」 ( <_ )「そうだったな」 (・∀ ・)「ゆきまつり、みにいくっていった」 ( <_ )「そんなこともあったな」 (・∀ ・)「ひなんのはな、みにいこうっていった」 ( <_ )「あぁ。 でも、死んだんだ。 兄者も、ドクオも」 (・∀ ・)
- 532 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:31:28.94 ID:AaWc7ilq0
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(・∀ ・) _, (・∀ ・) _, (・Д ・) _, (;Д ;) _, (;Д ;)「いやだああああああ! あにじゃも、ドクオも、いなくなったらいやだああああああ!」
- 536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:34:20.70 ID:AaWc7ilq0
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またんきは泣いた。 大声で、喉が裂けそうなくらいに。 _, (;Д ;)「だって……。 やくそく、やくそくしたんだああああ!」 顔をぐしゃぐしゃにして、大粒の涙で目をいっぱいにする。 飛行船に保護されてからは、ずっと無感情だった少年とは思えない泣きっぷりだ。 (´<_` )「またんき……」 弟者が顔を上げる。 彼の顔も、綺麗とは言い難かった。 かろうじて涙を止めることはできていたが、流した涙の跡は隠せない。 _, (;Д ;)「おれっ……! はじめて、そと、出て……。 いっぱい、やくそく、して……っ! これ、からも、ずっと……ずっと……」 たくさんの約束を旅の中でした。 その約束全てが、消えてしまった。 _, (;Д ;)「何で! 何で! 何で死んじゃったんだああああああああ」
- 539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:37:11.78 ID:AaWc7ilq0
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泣き声が響く中、ジョルジュが口を開く。 _ ( ゚∀゚)「……オレはな、お前らの兄貴から頼まれたんだ」 ( ;ω;)「あにじゃかお?」 _ ( ゚∀゚)「そうだ。お前ら、全員の兄貴からだ」 _, (;Д ;)「ひっく……。うっ……。 あに、じゃぁ……ドク、オ……」 _ ( ゚∀゚)「お前らのことを頼むって。 アイツは、最期までお前達のことだけを考えてたよ」 ( <_ )「でも、その兄者は……。兄者はっ……!」 弟者は床を叩く。 それで兄者が帰ってくるわけでもなければ、気持ちが落ち着くわけでもない。 ただ、そうせずにはいられなかった。
- 541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:40:28.23 ID:AaWc7ilq0
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( -∀-)「お前達は、どうしたい? 何をしたい?」 ジョルジュが尋ねる。 彼は兄者の遺言を全うしなければいけない。 _ ( -∀-)「オレを責めてくれても構わない。殴ってくれてもいい。 そうするだけの理由が、権利が、お前達にはある。 でも、お前達のこれからを、少しでも手助けさせてくれ。 兄者の、友の、最期の頼みなんだ」 (´<_` )「あんたっ……!」 弟者がジョルジュの胸倉を掴む。 顔面を殴ろうともう片方の手を強く握った。 それでも彼は目を閉じたままだ。 抵抗はしない。することは許されない。 ( ;ω;)「おとじゃ、やめるお!」 (´<_` )「……」 ブーンの言葉に、弟者は握った拳を開く。 ただし、胸倉は掴んだままで、彼を見据える。 怒りとも、悲痛とも言える眼差しだ。
- 542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:43:20.80 ID:AaWc7ilq0
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(´<_` )「――兄者は、あんたを責めることを、望まない」 一呼吸を置いてから、ようやく吐き出す。 手を離し、ジョルジュに背を向けた。 (´<_` )「オレは、兄者のしたことをして生きる。 それが、オレのしたいことだ」 _ ( ゚∀゚)「お前は、お前の好きなように生きろ。 それが、兄者の望みだ」 (´<_` )「だから、兄者の意思を抱えて生きるんだ。 今さら、一人で優雅に暮らす気にはなれない」 _ ( ゚∀゚)「……いいのか」 (´<_` )「しつこい。 オレの答えは、以前ニュー速で出した。 それ以上は――」 _ ( -∀-)「お節介。か……」 弟者は泣きじゃくっているまたんきの隣に膝をつける。 考えてみれば、始めてみるまたんきの本当の泣き顔だ。
- 543 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:46:36.72 ID:AaWc7ilq0
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弟者は微笑みを浮かべた。 (´<_` )「一つ、兄者のやりたいことが終わったな」 _, (;Д ;)「え?」 (´<_` )「元々、国を回るのは、お前を泣かせるためだっただろ?」 _, (;Д ;)「あ……」 またんきは涙を袖で拭う。 けれど、涙は際限なしにあふれ出る。 (´<_` )「泣け。感情に素直になれ。 それでいいんだ」 泣いているまたんきを抱き締める。 弟者は溢れる涙を、腹の痛みのせいにした。 ( <_ 。)「なぁ。またんき。 オレ達と盗賊になろう。 灯南へ花を見に行こう。 雪祭りを見て、オレが死ぬまで、ずっと一緒にいよう。 それで、兄弟みんなで、自由に生きよう」
- 544 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:49:26.64 ID:AaWc7ilq0
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_ ( ゚∀゚)「あー。煙草が美味い」 船の甲板で煙草を吸う。 手にしているのはライターだ。 (`・ω・´)「ジョルジュさん! サボらないでください!」 _ (;゚∀゚)「げっ」 突然現れた男に、ジョルジュは声をもらす。 凛々しい眉毛が特徴的な耳族だ。 (`・ω・´)「げっ。って何ですか。げっ。って」 _ (;゚∀゚)「だって、お前も口うるせーんだもん」 (`・ω・´)「誰と比べてるんですか……」 _ ( ゚∀゚)「前隊長」 (`・ω・´)「あぁ、フサのお父さん……」 男はため息をついた。
- 546 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:52:13.22 ID:AaWc7ilq0
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(`・ω・´)「ギコさんは真面目な人だったのに、どうしたあいつは……」 ミ,,゚Д゚彡「人を親父と比べるなよー。隊長ー」 新たに男が現れる。 やけにフサフサした毛皮を持っている。彼もまた、耳族だ。 ミ,,゚Д゚彡「あー。ジョルジュさん、まだそのライター使ってるんスか? オレ、新しいのプレゼントしますよ?」 _ ( ゚∀゚)「いや、いい。 これは、オレの大切な友人から貰ったもんだからな」 わずかに焼け跡の残っているライターを、手の中でいじる。 これからも、ずっと使っていく予定だ。 刻まれている修理跡がいくら増えようとも、捨てるつもりはない。 (`・ω・´)「それより! お前、罰のトイレ掃除は終わったのか?」 ミ,,゚Д゚彡「うーん。そろそろ終わる」 (`・ω・´)「そろそろ?」 ミ,,゚Д゚彡「やべっ」 (#`・ω・´)「お前……。また他の船員を買収してっ……!」
- 548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:55:12.74 ID:AaWc7ilq0
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途端にうるさくなった甲板で、ジョルジュは少し前のことを思い出していた。 空は快晴。 場所はニュー速上空。 こんなところでウロウロしていると、奴がやってくることだろう。 以前のことを思い出したのもそのせいに違いない。 ちょうど、灯南に美しい花が咲く季節だ。 「空の上だからって騒いでんじゃねーよ! 折角の青空が台無しじゃねーか! どう責任取ってくれんだ! このバーカ!」 _ ( ゚∀゚)「おっ。悪餓鬼様がやって来たぞ」
- 550 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 01:58:34.10 ID:AaWc7ilq0
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(・∀ ・)「誰が悪餓鬼だ。オッサン!」 飛び出してきた声の主は、ピンク色のドラゴンに乗っていた。 金糸の髪が太陽に照らされ、キラキラと輝く。 最大の特徴ともいえる赤と青の目は、野生的に光る。 彼の腰にあるククリは、年代を感じさせるものの、今でも立派にその役目をこなすことがうかがえる。 _ ( ゚∀゚)「お前が悪餓鬼じゃなかったら、誰が悪餓鬼なんだよ。 近頃、お前の名前が入った手配書がよく届くんだよ」 (・∀ ・)「へっへーん! 流石盗賊の末っ子、流石またんき様の力! 思い知ったかー!」 (`・ω・´)「捕まえるよ?」 (・∀ ・)「やれるもんならやってみなー」 (;^ω^)「またんき。しゃきんをあまりちょうはつするなお」 (#`・ω・´)「キミは、ボクを怒らせた!」 (;^ω^)「どらごんのうえでけんかしちゃらめええええええ!」
- 556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 02:03:14.43 ID:AaWc7ilq0
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またんきは立派に成長した。 ただし、身長はジョルジュよりも低いままで成長が止まっている。 人間としては標準的なものなので、しかたないといえばしかたない。 _ ( ゚∀゚)「お前達は仲いいねー」 シャキンと戯れているまたんきを見ると、心の底から思う。 昔は誰かと喧嘩することなどなかったというのに、半分人間というだけあってまたんきの成長は早い。 ジョルジュは柄にもなくしんみりとした。 (・∀ ・)「火の精霊、またんきと契約せし我が命ず。 赤々と燃えろ。奴を取り囲め。 奴を捕らえよ」 (;`・ω・´)「危ないだろ!」 (・∀ ・)「へっへーん! ゼロ距離契約の魔法、思い知ったか!」 精霊であり、精霊使いでもあるまたんきの魔法は強力だった。
- 559 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 02:06:24.29 ID:AaWc7ilq0
- _
( ゚∀゚)「相変わらず、すげーな」 ( ^ω^)「おとじゃが、ぜろきょりけいやくのこうせいを、 くににおくってくれてなかったらとおもうと……」 またんきの力は強力だ。 本来ならば、その力を研究するために、新たな敵が現れてもおかしくはなかった。 _ ( ゚∀゚)「牽制代わりに、魔法が契約によって増幅される仕組みをまとめて提出したんだもんなぁ。 頭がいいのは知ってたが、あそこまでとは」 弟の為にやるべきことをやってから死ぬ。 生前のショボンが、あの兄弟はブラコンだ、と言っただけのことはある。 ( ^ω^)「もうすぐ、せいしきにうりだされるんだお?」 _ ( ゚∀゚)「あぁ。そう聞いてる。国に仕えてる精霊には配布されるらしい」 ( ^ω^)「いいおねー」 _ ( ゚∀゚)「またまたー。 どうせ、盗るんだろ?」 (;^ω^)「そ、それは、わからないお」 _ ( ゚∀゚)「兄者と弟者だったら、間違いなく盗りに行ってただろうな」
- 563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 02:09:39.17 ID:AaWc7ilq0
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( ^ω^)「……もう、あれから、なんねんになるかお」 ドラゴンの上で死闘を繰り広げているまたんきとシャキンを眺めながら零す。 精霊にも、懐かしむ気持ちは存在するのだ。 _ ( ゚∀゚)「さてな。精霊の感覚はあてにならんよ」 ( ^ω^)「だおね」 _ ( ゚∀゚)「しっかし……弟者が死んだときは、どうなるかと思ったが、 意外や、意外。しっかりやってるじゃねーの」 兄者が死んだときを思えば、ジョルジュの心配は当然だったのかもしれない。 けれど、あの時とは状況がまったく違っている。 ( ^ω^)「おとじゃは、じゅみょうだったお」 _ ( ゚∀゚)「あぁ、しっかり生きたな」 ( ^ω^)「それに、ぼくもどらごんもいるお」 _ ( ゚∀゚)「そうだな。 お前も、立派な兄貴だもんな」 ( *^ω^)「そうだお。ぼくも、あにきなんだお」
- 564 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 02:12:13.16 ID:AaWc7ilq0
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弟者が死んだ。 ショボンも、ギコも死んだ。 耳族は総じて寿命が短い。 それでも、彼らは人生を謳歌した。 誰かの為に生きるのも、結局は巡り巡って自分のためだった。 自分のために生きて、笑って死んだ。 _ ( ゚∀゚)「おーい。またんき。 次はどこに行くんだー?」 (`・ω・´)「どうせ、灯南ですよ」 (・∀ ・)「どうせって何だよー」 ミ,,゚Д゚彡「お前、あの花が好きだもんなぁ」 ドラゴンの上で取っ組み合いをしていた二人が甲板に降りる。 戦場の土台となってしまっていたドラゴンも一息ついた。 (*・∀ ・)「だって、黄緑色の茎に、水色の花が咲くんだ。 んでもって、実は紫色なんだ」 またんきは笑う。 当たり前のように、頬を赤くし、目を細めて口を開けて、どこにでもいる人間のように笑う。
- 567 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/25(日) 02:14:10.17 ID:AaWc7ilq0
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(`・ω・´)「はいはい。んで、その次はシベリアの雪祭りに行くんだろ? もー。お前はいつもそのコースだな」 (・∀ ・)「いや、今回は灯南に行く前に、行くところがあるんだぞー」 ミ,,゚Д゚彡「え? どこに行くんだ?」 またんきは口角を上げる。 その笑い方は、どこぞの長男とよく似ていた。 (・∀ ・)「弟をな、ちょっと掻っ攫いに!」 (・∀ ・)と兄弟のようです 完
- 573 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2012/11/25(日) 02:17:16.66 ID:AaWc7ilq0
- 以上!
予想以上に投下時間が長かった…… 前回から支援してくれていた人がいたらありがとう! けっこう序盤に双子の人?って聞かれたからはいオレしとく 代表作も中の人も劣等性です 何故すぐにばれたのかと 素敵な絵を描いてくださった絵師様方ありがとうございました。 あと、思いの向こう側さんは現行の絵などもありがとうございます いつも投下後の解放感で忘れてしまいがちなのでここで感謝を述べさせていただきました
- 581 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2012/11/25(日) 02:30:09.92 ID:AaWc7ilq0
- 気づいてもらえているかわからないので少しだけ補足
黄緑=弟者 水色=兄者 紫色=ドクオ
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