【記事】「猟奇」に関するごく私的な考察

1 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:17:02 ID:???
1.はじめに

参加受付の開始まで二週間を切りました。
ここで導入、というか自分自身のおさらいと案内を兼ねて、「猟奇とは何か?」という
テーマで少し書いてみたいと思います。簡単ですが、参考になればと思います。

一応、以下のような人は一度目を通してみると分かることがあるかもしれません。

・「猟奇」という言葉の意味や成り立ちを知りたい
・主催者がこのテーマをどう捉えているのか知りたい
・意味を調べていたら、この掲示板のトップに書いてあるのと全然違う意味が出てきた
・書いてる、またはネタを練ってるけど、これでいいのか自信がない
・八仙飯店に出前を注文した

ただし、すべて個人的に調べたり考えたりしたことをつらつらと書いたもので、内容が正しい
かどうかは分かりません。あくまでも、祭に際してテーマの「猟奇」という言葉、ジャンルが
指すものを個人的に考察してみようかな? というものです。

ここで書いた通りの内容でなくては猟奇短編祭の作品として認めない、ということでは
決してありません。私は主催者としてこう捉えている、ということで、あくまでも予備
知識程度に、「へーこいつこんなこと考えてんだ」ぐらいに捉えてもらえればと思います。

あと、内容はほんの少しだけ閲覧注意になっていますので、ご了承ください。

2 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:17:24 ID:???
2.「猟奇」ってなに

「猟奇」という単語を聞いて、何を連想するでしょうか?
そう聞かれると、大部分の人がまず「猟奇殺人」のような単語を思い浮かべるのではと
思います。

「猟奇の檻」を思い浮かべた人は(検閲により削除)してください。それはエロゲです。
ですが横田守さんの原画は非常に良いと思います。特にドット絵に起こすと陰影が映え
ますね。個人的には「人形使い2」「いきなり! はっぴぃベル」あたりがいちb

すみません。いきなり脱線しました。

おそらく、大部分の人が連想するのは、普通では考えられないような異常な手段で人を
傷付けたり、殺したりする行為、またそれを扱った文学や映画、ゲーム作品。
あるいは、海外で"bizzare"と呼ばれるようなジャンルの、理解不能なハードSMのような
ものではないでしょうか。ちょっと昔ですが、韓国映画の「猟奇的な彼女」を思い出した
人もいるかもしれません。

というように、「猟奇」≒「ハードコアなエログロ」というのが、今の一般的な捉え方です。
この祭の宣伝文句にも「普通の人の感覚では堪えられないほどグロテスクであったり残忍で
あったりすること」とありますし、世間ではこの意味で使われることが多いでしょう。

ところが、「猟奇」を辞書やネットで調べてみると、違う解釈が見つかることがあります。
「猟奇」とは、正しくはどんな意味の単語なのでしょうか。

そもそも、語源は何でしょう?

3 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:17:48 ID:???
3.単語の起源

「猟奇」という単語が生まれたのは、大正時代の文学界です。
この時代、文壇では様々な出来事があったのですが、それは別にどうでもいいので省きます。
「猟奇」という単語を知るにあたって重要なのは、この時代に「探偵小説」というジャンルが
日本で生まれ、確立したことです。

「探偵小説」は、今の言葉で言うと「推理小説=ミステリ」になりますが、当時のジャンル
分けはまだ曖昧で、現代で言う「ミステリ」よりもずっと範囲の広いジャンルとして捉えられ
ました。探偵が推理を働かせて事件を解決する、といった王道ものの本格ミステリから、怪奇・
超常現象、幻想、果てはメタフィクショナルな作品まで、全てが「探偵小説」と呼ばれました。

また海外からの推理小説の輸入と翻訳が積極的に行なわれ、日本独自の探偵小説も次々と
生まれました。江戸川乱歩が本格推理小説と怪奇小説の両方で活躍したのも、この時代です。

文学史のお勉強みたいになってしまって申し訳ないのですが、もう終わりです。

このようなことがあった時代、佐藤春夫という作家さんが、この探偵小説のジャンルを論じる
際に"curiosity hunting"という語を「猟奇耽異(りょうきたんい)」という造語で訳しました。

"要するに探偵小説なるものは、やはり豊富なロマンチシズムという樹の一枝で、猟奇耽異の
 果実で、多面な詩の宝石の一断面の怪しい光芒で、それは人間に共通な悪に対する妙な
 讃美、怖いもの見たさの奇異な心理の上に根ざして、一面また明快を愛するという健全な
 精神にも相結びついて成立っていると言えば過言はないだろう"
(以上引用)

これが、「猟奇」という単語の生まれです。

4 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:18:23 ID:???
日本語と英語の意味を詳しく見てみましょう。
「猟奇耽異」の「猟」は「狩」と同じ意味で、「猟り」と書いて「かり」と読むこともできます。
「耽」は、熱中する、没頭する、という意味です。「耽美」という言葉があるように、集中すると
いうよりはむしろ心を奪われて、ついついのめり込んでしまうようなニュアンスです。

英語のほうを見ると、"curiosity"とは、珍奇なもの、物珍しいもの。"hunting"は文字通り狩る
ことです。そして、"hunt"には「漁る、探し求める」という意味もあります。

「奇妙なものを求め、狩りあさること」

これが直訳に近い意味です。
個人的には、以下のような意味に解釈しています。

「倫理的悪であるからこそ魅力を感じる、妖しい、異様なものに心を奪われ、追い求めること」

なお、gooの国語辞書によると、「猟奇」とは「怪奇・異常なものに執着して、それをあさり
求めること」とあります。こちらの意味は、「猟奇耽異」という単語本来の意味から来たものと
言うことができそうです。

5 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:18:47 ID:???
4.意味の移り変わり

このような意味を(たぶん)持って生まれた「猟奇」という単語は、最初のうちは当時の小説家
たちを中心に、意図された通りの意味で使われていました。しかし、時間が経つにつれて、この
単語はセンセーショナルさ、過激さ、卑猥さだけを前面に押し出して使われるようになります。

「異常なもの、怪奇なもの」は、直接的かつ分かりやすい、変態性欲、異常行動、残虐行為、
過激で不道徳で、ときに卑猥ですらあるようなもの……というような「曲解」を受けます。

これらのものをひとまとめにする単語は他になく、字面からして異様な印象を与えるこの語は、
エロ・グロ・ナンセンスをまとめて表現するといった意味では便利な言葉ではなかったのでは
ないかと思います。

こういったものを表現するには他に「変態」という語が良く使われますが、こちらは品性下劣さ
をアピールするようなイメージがあります。私は好きですが。

私は好きですが。

この辺りの流れに関しては、明確な資料が見つからなかったのが残念なところです。
昭和戦後に生まれた「カストリ雑誌」と呼ばれるエログロがメインの娯楽雑誌で使われたことが
流行のきっかけだとか、新聞や大衆紙が見出しに使い始めたのがきっかけだとか、諸説ある
ようです。

こうして、探偵小説の一分野に対する分析から始まった「猟奇」という語は、「異様さ、奇妙さ」
の意味を残しながら、「不道徳で、時に卑猥であるようなもの」を指す語に意味を変えていき
ました。

6 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:19:11 ID:???
5.現代の「猟奇」

それでは、現代で「猟奇」という言葉が使われる場面を考えます。
今では「猟奇」という語はそれなりに市民権を得ていますが、私自身の感覚から、現代で「猟奇」と
いう単語が使われる場面は、大まかに二つあるように思えます。

第一に、「行為に対して」。
第二に、「精神に対して」です。

「行為」は、異様かつ残酷な方法で人間の身体を傷つけたり、拘束したりすることそれ自体です。
性的な行為を伴う場合もありますが、多くの場合はそれが目的ではなく、傷つけること、そして
それにより死に至らしめることを目的とすることが多いように思えます。

新聞やニュースでよく見かける「猟奇」はこの意味で使われることがほとんどで、大抵は「殺人」と
セットにして「猟奇殺人」と用いられることが多いと思います。またこの場合、その精神性について
は特に問題とされず、その行為自体を「猟奇的」と表現します。

例えば、「猟奇殺人」と題されるバラバラ殺人事件があった場合、その動機が異常性欲であった
か、それとも憎悪か、嫉妬か、復讐心によるものか、はたまた信仰によるものか……は、殺害の
手段が「猟奇的」なものであるか否かとは関係はありません。

その動機が常人には理解不能な分裂病気質であろうが、運搬のためにやむを得ずであろうが、
新聞や週刊誌では「猟奇殺人」として語られるでしょう。

ただし、「猟奇的」な行為は、それを行なった人の神経を疑いたくなるほどに非人間的であることが
多いのもまた確かです。「FBI心理分析官」「異常快楽殺人」のようなシリアルキラーを取り扱った
書籍を見るとそのような行為のオンパレードで、被害者はだいたいオーバーキル状態です。

7 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:19:36 ID:???
「精神」は、常人の理解が及ばないような、倫理や道徳からかけ離れた、そして多くの場合は暴力的
な状態の精神、思考です……と書くと、分かるようでよく分かりませんね。

映画のジャンルで言うとサイコサスペンス、サイコスリラーで扱われるような、犯罪に繋がる異常な
精神状態が該当します。身も蓋もない言い方をしてしまうと……いわゆる「ヤンデレ」の精神です。

例えば、好きな人と一緒にいたい、と考えることは決して異常ではありません。
しかしそれが、相手の家族や友人や恋人を殺したり、二度と外を歩けなくなるような目に遭わせたり、
果ては無理心中してまで一緒にいたいか? と問われると、ほとんどの人は頷けないでしょう。

精神が正常の垣根を越えて普通の人には理解できない状態になったとき、その状態を「猟奇的」
と表現することがあります。そして少なくともフィクションの世界では、それはしばしば「猟奇的」な
行為に繋がります。

8 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:20:10 ID:???
6.「猟奇」とグロテスク

「猟奇」という語の意味と用いられ方に関する私の解釈は、ここまで書いてきた通りです。
最後に、曖昧にされがちな「猟奇でないもの」と「猟奇」の境界を考えてみます。

「猟奇=グロテスク」

直感的には、このような捉え方をすることは多いです。また、「猟奇」という実体のよく分からない
言葉を、頭の中で「グロ」に置き換えて考えることも往々にしてあるのではないかと思います。

「猟奇」という語の用いられ方について、ここまで可能な限り「グロテスク」という単語を使わずに
書いてきました。それでも「猟奇とか結局グロでしょ」と思う人もいるかもしれません。

しかし、この等式は正しいでしょうか?

私個人の考えを述べる前に、簡単な思考実験をしてみましょう。
以下に二つの例文と四つの質問があります。
文章を読んで、質問に「YES」「NO」で答えてみてください。



(1)「病院の解剖室でベッドに横たえられた男性の死体」を写した写真があります。
   彼はお腹を切り開かれており、取り出された内臓が身体の脇に整然と並べてあります。

   Q1-1:あなたはこの写真を「グロテスク」だと思いますか?
   Q1-2:あなたはこの写真を「猟奇的」だと思いますか?



では、次の質問はどうでしょう。

9 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:20:29 ID:???
(2)「アパートの台所で食卓に横たえられた男性の死体」を写した写真があります。
   彼はお腹を切り開かれており、取り出された内臓が身体の脇に整然と並べてあります。

   Q2-1:あなたはこの写真を「グロテスク」だと思いますか?
   Q2-2:あなたはこの写真を「猟奇的」だと思いますか?



どうだったでしょうか。
おそらく、Q1-2に「NO」、Q2-2に「YES」と答える人が多いのではないかと思います。

それでは、この二枚の写真の間にある違いとは何でしょう。
お腹を切り開かれた男性が解剖台に乗っているときには感じず、食卓に乗っているときに感じるもの
は何でしょうか?

それは、「普通ではないという感じ」、「異様さ」だと考えます。

「腹を切り開かれた男性」というモチーフそれ自体はグロテスクではありますが、それが「猟奇的」な
ものでありうるか否かを決定するのはその死体それ自体ではなく、それが置かれた状況です。

まったく同じ被写体でありながら、そこに常軌を逸した何らかの背景が想像できるか否かが、解剖室と
台所の食卓という場面の違いから浮かび上がる「猟奇」と「グロテスク」の境界線になるのではないで
しょうか? 私には、そのように思えます。

このことから、「グロテスクは『猟奇』と必ずしもイコールではない」というのが私の結論です。

10 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:20:53 ID:???
ただし、グロテスクは、この「異様さ」を演出する手段としては非常に有効なものであるとは思います。

同時に、グロテスクそのものが「猟奇」を表現する上で安直であるとか、だからグロテスクを含まない
「猟奇」の描写に比べて劣っているとも思いません。グロテスク描写は、あるものを表現しようとする
ときに無数に存在する着眼点のひとつに過ぎない、と思うためです。

なお、エロティシズムについて詳しく語ることはしませんが、同様だと思います。
「エロではあるが猟奇的でないもの」と「エロくて猟奇的なもの」の境界は、感覚的にグロテスクと
「猟奇」の境界よりもはっきりしていると考えられます。

また、個人の好みが反映される傾向もグロテスクより強くなると思われます。そのため、ここで一般
論として語ることは難しいでしょう。

11 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:21:16 ID:???
7.おわりに

ここまで、「猟奇」という語の歴史、現代での用いられ方、そして混同されがちに思える「グロテスク」
との差異を考察してきました。

多分に主観的な部分もありますが、「猟奇」って何? と困り気味の人に参考になればと思います。

最後にもう一度繰り返しますが、これは私個人の考察です。
そして、この内容が参加者、読者の方々の作品への態度に不要な影響を与えないことを願います。

ここに書いた内容と、これを読んでくれた方々の「猟奇」に対する捉え方は違っていて当然です。
そして違ったからといって、どちらが間違っているというものでもありません。

ただ、主催者としてテーマの捉え方を明らかにするのは当然のことで、また、これを読んだ人が「猟奇」
というテーマに関して何らかの着想を得るための一助にしてもらえれば、幸いです。

12 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:21:38 ID:???
補足:正常と異常の境界

この文章の中で、度々「正常」「異常」「異様」「常軌を逸した」という言葉を使用しています。
これらに関して、私がこの文章でどのような意図を持って使っているかを補足しておきます。

私にとって、ある物事が「正常であるか否か」は、「その場にいる大多数の人がそれを自然なものと
して受け入れるか否か」と同じ意味と思います。

「正常⇔異常」という客観的な万能の尺度があるのではなく、ひとりひとりの人が住んでいる場所の
文化や、生まれてから今までの経験に照らし合わせて主観的に判断した結果の寄り集まりが「正常
か異常か」という「一見絶対的なように見えるが実は相対的」な基準を作る、といった考え方です。

例えば、人食い人種の村では、カニバリズムが「異常」な行為であるとは見なされないでしょう。
また、厳格なカトリック教国では、自慰行為や、避妊や、騎上位での性交が「正常」な行為とは
見なされないかもしれません。しかし日本では、おおむね前者は異常、後者は正常と見なされます。

これらの考え方から、この文章の中で私は「正常=別にそれがおかしいとは思わない人が多数派」、
「異常=それはおかしいと思う人が多数派」と同じ意味で使っています。

もちろん、この判断の仕方が全ての事柄に当てはまるとも言えない(例えば、判断が付かなかったり、
ちょうど半々で意見が割れるようなものがでてきたらどうすればいいのか? など)のですが、今回
「猟奇」を語る上では、少なくともよほど意地っ張りな人が出てこない限り判断の食い違いが起こる
ことは少ないのではないかと思います。

13 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:22:04 ID:???
8.参考資料

ここでは、「猟奇」というものを考えるにあたり、ここで書いてきた内容に沿ってお勧めできるような
書籍、映像類を簡単に紹介します。ただし、ある程度知名度があり、入手が簡単なものに絞ります。

・映画
 ・ミザリー(主演:ジェームズ・カーン、原作:スティーヴン・キング、監督:ロブ・ライナー)
   ベストセラー作家が遭遇する狂気の事件を描いた映画作品です。
   タイトルの「ミザリー」は、その作家が書いている人気作品のタイトルから取られています。
   純粋なサイコスリラーで、映像ならではの狂気、痛みが伝わる描写になっています。

   ある人気作家が、絶賛連載中の小説「ミザリー」の生原稿を持ったまま事故を起こし、両脚を
   骨折して人里離れた場所にひとり取り残されてしまいます。そこに通りかかり彼を助けたのは、
   彼の熱狂的なファンの元看護婦(中年のおばさんです。一応)でした。

   元看護婦は、彼が「ミザリー」の作者であると知ると狂喜し、手厚く看病して豪華な食事を振舞い
   ます。しかし、ある出来事をきっかけに、彼女の内に秘められていた異常さが姿を現していきます。

   作家とその熱狂的なファンの女性、という関係ですが、前に書いたようなヤンデレ的猟奇の精神
   を描いたスリラーです。わりと痛いシーンも多いので、見るには少し覚悟がいるかもしれません。

   多少古い映画ですが、難なく見られる、という方には、同じスティーヴン・キング原作で、
   スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」もお勧めです。こちらは不条理系の狂気を感じ
   られる出来栄えになっています。

   なお、勉強ばかりして遊ばないとバカになりますので注意してください。

14 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:22:24 ID:???
・書籍
 ・FBI心理分析官(ロバート・K・レスラー他、相原真理子訳、ハヤカワ文庫)
   異常快楽殺人者の経歴と犯罪の手口、刑務所でのインタビュー内容、犯行時のプロファイリング
   結果から見た人物像の分析といった、それまであまり描かれることのなかった側面からシリアル
   キラーを扱った書籍で、「羊たちの沈黙」に代表されるような現代のシリアルキラーにスポット
   が当たりはじめた頃のものです。

   この手の本はゴシップ趣味に傾いておどろおどろしさを強調するようなものも多いのですが、
   その点この本は犯罪心理学をしっかり軸に据えているため事件や犯人の心理が掴みやすく、
   また翻訳のせいもあってか客観的な描写に努めているため資料的な価値もあります。

   「FBI心理分析官2」も出ているのですが、こちらに比べるといまいちぱっとしない印象です。
   これを読んで満足できたら、2を読む必要はない気がします。

 ・殺戮にいたる病(我孫子武丸、講談社文庫)
   猟奇殺人を実行犯側から真っ向から扱った長編小説で、その精神と行為を妥協なく描写して
   います。
   性描写も多く、妥協なさ過ぎて苦手な人は気分を害してしまうかもしれませんので、ご注意。

   動機はシンプルながら、上に上げた「FBI心理分析官」に掲載されているシリアルキラーに
   影響を受けていると思われる箇所が見られます。

   この作家さんの作品としては、ジャンル以外の箇所でもすこし違う方向性の作品です。
   「かまいたちの夜」をプレイして興味を持ったけど、他のミステリを読んでみたらいまいちぱっと
   しない、というかつまらなかった……という人も、諦めずに読んでみる価値はあると思います。
   「腐蝕の街」シリーズを読めた人なら文句なしにお勧めできます。

15 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:22:43 ID:???
 ・人間椅子/鏡地獄(共に江戸川乱歩、ちくま文庫ほか)
   グロテスクな行為ではなく、猟奇的な精神の在り様に重点を置いた短編小説です。
   グロテスク描写がなくても描写しうる猟奇の精神を知りたい方にはお勧めです。
   短いので内容に触れるとほとんどネタバレになってしまうため、タイトル以外の内容は伏せます。

   今読むと、発想はさすがにレトロに感じるかもしれません。それでも、異様な精神の在り方が
   決して複雑怪奇にではなく、分かりやすく異様な形に表現されていて、「猟奇」の根底にある
   精神は変わらないものだと思えます。

   どちらも数十ページほどで、それほど時間を掛けずに読めます。
   特に、読みやすくて他の怪奇作品も入っているちくま文庫の全集をお勧めします。

 ・ザ・ワールド・イズ・マイン(新井英樹、小学館。愛憎版はエンターブレイン)
   ここで書いた猟奇とは少し趣が異なり、グロテスク描写を全面に押し出した漫画作品です。
   少し昔(連載開始が1997年)の作品の上、すぐに絶版になってしまいましたが、エンター
   ブレインから大幅に加筆された愛蔵版が出ています。

   主人公の一人が起こす爆弾テロに始まり、無差別殺人、同時多発テロ、赤子殺しに政治批判、
   ヒューマニズム批判、2ちゃんねるを模した電子掲示板で拡大する殺人鬼信仰……等々、あまり
   にも過激な要素が時代を先取りしてこれでもかとばかりに盛り込まれています。

   劇画に近い癖の強い絵柄ですが、私が知っている限りでは人体、そして正気を失っていく人間の
   心を最も生々しく描けている作品だと思います。その殺人描写は、青年誌掲載でありながら修正を
   入れられたほどです。それだけに厳しい内容も多く、グロ耐性がない人は最後まで読むことすら
   一苦労ではないかと思います。綺麗でない性描写も多いです。

   グロテスク描写に強いこだわりのある方にお勧めします。それ以外の部分も荒いようで非常に
   良く練られ、細かく書き込まれていて読み甲斐があります。絵柄が趣味に合えば。

16 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:23:13 ID:???
・ゲーム
 ・スプラッターハウス(AC/PCE/PC/Wii、ナムコ、ACT)
   元はアーケードでその後PCエンジン、パソコンに移植されています。
   Wiiのバーチャルコンソールでも購入できます。

   タイトルの通り、スプラッタ系ホラーゲームの草分け的存在です。
   主人公の造形が「13日の金曜日」をイメージしていることからも分かるとおり、基本的に残虐
   描写が主なのですが……中盤以降、はぐれてしまった主人公の恋人との再会シーンは必見です。

   おどろおどろしく有機的なグラフィックは背景まで描き込まれ、拷問死した「人質」の死体や、
   あちこちに残る拷問の痕跡など、そこで起こった出来事がありありと想像させられます。

   それだけでなく、主人公が敵を殴れば首がもげて吹っ飛び、鉈で斬れば「スコーン!」と快音と
   共に首が宙を舞う、木材で殴れば画面奥の壁に叩き付けられて潰れるなど、怪物を虐殺する
   歪んだ爽快感をもたらす演出も秀逸です。

   アクションゲームとしてはそれほど難易度が高くない部類に入るのですが、繰り返しプレイして
   確実なパターンを作り上げていく攻略の仕方になります。興味はあるけどそういったスタイルの
   ゲームが苦手な人は、プレイ動画を探して見てみるといいでしょう。

   このゲーム、ゲームセンターでの稼動開始はなんと今から22年前の1988年です。
   猟奇的でもありますが、何よりホラーゲームの黎明期を知りたい方はぜひどうぞ。
   なお、続編が出ていますが、質が良くないです。よほど興味がない限りはお勧めできません。

   あと、ファミコン版は別物です。お姫様を脱がせる裏技ぐらいしか見るべきものはないので、
   こちらに関しては特に何も言いません。今では入手も難しいと思います。

17 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:23:32 ID:???
 ・サイレントヒル2/サイレントヒル2 最期の詩(PS2、コナミ、ADV)
   ホラーゲームとして評価が高いシリーズの二作目です。「最期の詩」はある人物のシナリオと
   本編にエンディングを追加した廉価版で、今から購入する場合はこちらのほうがお勧めです。

   他のシリーズ作に比べて敵クリーチャーの種類が少ないなどゲーム性はやや低く、霧に覆われた
   街と血にまみれた迷宮のギャップも少し弱いように感じられますが、代わりに他の作品以上に
   「人間の狂気」をクローズアップし、各登場人物の心理を深く描いており、他作品にない猟奇の
   精神とグロテスク描写の合わせ技を堪能できます。

   登場人物の苦悩は様々で、その苦悩が辿りつく先は決して明るいものとはなりません。
   狂った世界に放り出された人間が徐々に狂気に侵されて行く様は、恐ろしくも悲惨です。

   この作品中で、最も精神を病んでしまっている人物は誰でしょうか?
   その心境は、まさに常軌を逸していると言えるでしょう。

18 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:23:48 ID:???
・動画・Flash
 ・腐った金魚の呻き声が聞こえる(ぴろぴと 様)
   URL: ttp://www.geocities.jp/buruton2000/pirobungei.html
   選択肢のないノベル形式のFlashで、十分程度で読めます。
   人を選ぶタイプの異様さですが、私は好きです。一度で理解できない場合もあると思うので、
   その場合は何度か読み返してみることをお勧めします。

   この人が作成したFlashには幻想的でありながら精神的な不安定さを感じさせるものが多く、
   一時期流行った恐怖系のFlashに懐かしさを覚える人にはお勧めできます。

   個人的なお勧めは「回転体」「晶子ちゃん」です。この二作品はFlashが存在しないようですが、
   ニコニコ動画とyoutubeをタイトルで検索すると見つかります。これもまた猟奇。

 ・妹が作った痛いRPG「エッチな夏休み」(高橋邦子の兄(?))
   URL: ttp://www.youtube.com/watch?v=gLcmGIWECyU(youtube)
      ttp://topicscollector.blog55.fc2.com/blog-entry-4991.html(ニコニコ動画)
   カオス、支離滅裂、理解不能……こういう方向に全力で踏み外した作品も十分猟奇だと思います。
   当したらばのおすすめ商品の元ネタでもあります。ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱぁーっ!

   なおこの動画はニコニコ動画発祥のシリーズで、他にもいい感じに発狂したシリーズ作が多数
   あります。他のも笑えますが、個人的にはこれが一番イカレた感じがしてお勧めです。

19 名前:主催者 投稿日:2010/06/06(日) 20:25:22 ID:???
記事は以上です。

ちょっと理屈っぽい感じで、カタい祭なのかな? と思わせてしまったら、申し訳ないです。
とにかく、お気軽に参加して貰えればと思います。

よろしくお願いします。

20 名前:主催者 投稿日:2010/06/18(金) 14:14:43 ID:???
【補足】
「8.参考資料」から映画の紹介が一作抜けていたので追加します。
ごめんなさい。

・映画
 ・8mm(主演:ニコラス・ケイジ、監督:ジョエル・シュマッカー)
   実在しない(と、今のところ言われている)殺人を娯楽として撮影した「スナッフフィルム」
   を扱ったスリラー映画で、脚本の原作は「セブン」の脚本家さんです。

   ニコラス・ケイジ扮する私立探偵が、依頼人の夫人から少女が惨殺される様子を撮影した
   スナッフフィルムを受け取り、その真贋と「主演」の少女の素性、そして生死を調査することに
   なります。

   ごく正常な性的嗜好の持ち主で奥さんもいる彼ですが、調査の過程でアンダーグラウンドな
   アメリカのポルノ業界に触れます。彼はその異様さに苦悩しながらも、調査に明け暮れます。
   やがて知り合った協力者や手がかりからそのフィルムの背後にあるものが見えてくるのですが、
   それは彼の予想以上にドス黒く、そして堕落した世界でした。
   
   アメリカのアンダーグラウンドな性風俗が舞台の中心で、全体的に暗く、そして卑猥なイメージ
   が付きまといます。ちょっと卑猥すぎるので、家族で見るのはお勧めしません。
   三次元のポルノが苦手な人も、ちょっときついかもしれません。

   残酷シーンもさることながら、個人的にはラスト、ある事実が明らかになってからの展開が
   好きで、賛否両論ではあるものの、その部分があるからこそここでお勧めできます。


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