( ^ω^)それでもゾンビが歩く理由、のようです('A`)
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:35:56.53 ID:pkqNyGm4O
-
滴り落ちる赤は、涙のように思えた
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:37:53.54 ID:pkqNyGm4O
-
私は今の状況を「まあアリなんじゃないかなあ」なんて思った。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:39:05.69 ID:pkqNyGm4O
-
( ^ω^)それでもゾンビが歩く理由、のようです('A`)
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:41:09.48 ID:pkqNyGm4O
-
凜とした佇まいの彼女は窓の外を見ていた。
部屋の中には、あまりの気温の高さに思わず付けた冷房の稼動音と蝉の声。
そして、僕と風邪をひいた彼女だけがいた。
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
気まずい空気だ。僕はお見舞いに来ていた。
去年の今頃は彼女と二人で川に遊びに行っていた。
今年もそうなる予定だったが、彼女の体調もあり、中止になった。
どうやら彼女はそれが不快で仕様が無いらしい。
じわじわじわ、と部屋に蝉の声が響く。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:46:22.11 ID:pkqNyGm4O
-
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
(;^ω^)「あのξ゚听)ξ「みかん」
(;^ω^)「お?」
長い沈黙に流石に耐えられず、無理矢理に何か話題を出そうとした時だった。
見舞いに来てから「いらっしゃっ」以外喋らなかった彼女が言葉を発した。
それは、
ξ゚听)ξ「みかん」
とのこと。
はてさてどういう意味だろう、そんな事を考える間もなく彼女は言った。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:49:21.01 ID:pkqNyGm4O
-
「食べたい、買ってきて」
はいはい。そうですか。
*****
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:53:09.80 ID:pkqNyGm4O
-
ある日、この世界にゾンビが現れた。
死体が起き上がり、闊歩し始めた。
映画や漫画の世界に、ではなく現実に。
そのゾンビ達は映画のように凶暴では無いが、油断して近づくと噛み付かれたりする。
ゾンビ箘か何かが感染する。自分もゾンビになる。ワーオアンビリーバボー!
早急に対策は取られた。
犬猫みたくゾンビは保健所へと連れていかれ始末された。
幸いゾンビ箘(仮)は空気感染しないらしく、生きている人はホッとした。
今でもたまにゾンビは現れるが、直ぐに始末されるようになった。
それは対して珍しくも無い事柄になった。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:55:58.52 ID:pkqNyGm4O
-
ある日、僕は大学の鬱田教授の家へとお邪魔することにしていた。個人的な用事があったのだ。
支度を終え、原付きに乗って30分ばかし走る。
教授の家は住宅街から少し外れた場所にあった。
小さな一軒家で夜は明かりがついてないと廃墟のように見える。
簡単に言うとボロ家である。
住宅街を離れている癖に自転車などの撤去には、熱心な地域なので駐車出来る場所を探していた時だ。
( ^ω^)「お?」
知った顔を見つけた。
( ・∀・)
鬱田教授とは別のモララー教授である。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 16:59:40.47 ID:pkqNyGm4O
-
なんでこんなところに?
最初にそう思った。そして次に、
嫌な人と会ってしまったな
とも思った。
モララー教授は鬱田教授と仲が悪いのだ。
怒鳴り合いなどをしているわけでは無いが、モララー教授があからさまに鬱田教授をぞんざいに扱うのだ。
鬱田教授を敬愛する僕としては、あまり気分のよい事ではない。
ただまあ、会ってしまった物はしょうがない。
( ^ω^)「こんにちは」
簡単に挨拶をする事にした。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:06:07.59 ID:pkqNyGm4O
-
( ・∀・)「ん?」
( ^ω^)「どうも大学の…」
( ・∀・)「ああ鬱田君の教え子か。こんにちは。」
( ・∀・)「どうしたんだい、こんなとこに?」
ちなみにモララー教授はあくまで鬱田教授に対して態度が悪いだけだ。
いくら鬱田教授と親しいからといって、他の人には丁寧な態度をとっていた。
そこがまた苦手だったのだけど。
( ^ω^)「ちょっと…鬱田教授に用事がありまして」
( ・∀・)「……ふーん」
若干声のトーンが落ちる。
話すんじゃ無かったかな、なんて思った。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:14:58.38 ID:pkqNyGm4O
-
一瞬の沈黙。
しかし直ぐに声のトーンを戻しモララー教授は明るく言った。
( ・∀・)「まっ、事故んないように気をつけてね」
( ^ω^)「はいですお」
( ・∀・)「ん?」
( ^ω^)「どうかしましたか?」
モララー教授は見ていた。
僕の、荷物を。
( ・∀・)「いや、やたらデカイ荷物だなあと思ってね」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:18:49.32 ID:pkqNyGm4O
-
( ・∀・)「やたらデカイ鞄だね」
( ^ω^)「運動部だった時のなので」
( ・∀・)「何が…入っているんだい?」
( ^ω^)「飲み物やレポートなどですお!教授へ手土産と思いまして」
( ^ω^)「中身は案外からっぽですけど見ますかお?」
( ・∀・)「……」
モララー教授はじっ、と鞄を見て一つため息をついた。
( ・∀・)「いや、別にいいよ」
( ^ω^)「そうですかお、それじゃあこれで」
( ・∀・)「ああ……」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:26:50.59 ID:pkqNyGm4O
-
「君が鬱田君とは違うのを祈るよ」
そんな声が背中越しに聞こえてきた。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:28:37.51 ID:pkqNyGm4O
-
*****
鬱田教授の家へと到着した。部屋はやたらと冷房が効いていて肌寒い。
変わり者とゼミでも評判の教授だったが僕は何故か彼を好きだった。
いや……きっと彼が僕と似ているから親しみを覚えるのだろう。
そんな彼が急にこんな事を言い出した。
('A`)「ゾンビは何で走れないと思う?」
( ^ω^)「ゾンビですか?」
('A`)「ああ、彼等は大抵が愚鈍だ。もっとも、最近はゾンビが走る映画もあるみたいだけどね」
('A`)「どうして走れないのだと思う?」
そう僕に聞きながら彼はくつくつと笑った。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:32:36.28 ID:pkqNyGm4O
-
教授はよくこういうオカルト系の話題をふってくる。
もっとも、彼が研究する分野とは全く関係無いので与太話も多分に含まれる。
まあ、彼とのよくある雑談のテーマの一つだ。それが彼の偏屈な評判っぷりに拍車をかけるのだけど。
( ^ω^)「さあ……なんででしょう?」
考えた事も無かったのでそう言った。
そういう物だ、としか考えた事が無い。
教授は微笑を浮かべながら言った。
('A`)「いやね、どうも内臓が腐ってるから、走れないらしいよ」
( ^ω^)「へえ」
('A`)「確かゾンビ映画の監督がそんな事を言っていた」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:36:19.79 ID:pkqNyGm4O
- 喉が渇いたので鞄からペットボトルを取り出し、一口飲む。
ふと、部屋が寒い事に気づいた。夏とはいえ冷えすぎだ。
( ^ω^)「教授、ちょっと温度上げていいですかお?」
('A`)「え?ああ、すまないね。つい下げたままだった」
( ^ω^)「冷やしすぎは体に悪いですお」
('A`)「違いないね」
教授がリモコンで何度か温度を上げながら言った。
('A`)「さっきの話しなのだけどね」
( ^ω^)「はい?」
('A`)「内臓が腐ってて走れないなら」
('A`)「何でゾンビは立てるのだと思う?」
クーラーの稼動音が小さくなった。
僕は自分の荷物をちらりと見た。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:39:23.74 ID:pkqNyGm4O
-
( ^ω^)「何故…なんでしょうね……」
ゾンビ自体非現実的な事柄の塊だから立てるのだ!そんな結論は思考停止でしかない。
こんな事を真剣に話すから僕は教授を慕っているのだ。
('A`)「私の持論を言おうか」
( ^ω^)「気になりますお」
教授はニコリ、と笑った。
('A`)「君はこういう話を真面目に聞いてくれるから好きだよ」
( ^ω^)「誤解されそうな発言ですお」
(;'A`)「生憎そういう趣味は無いなあ」
( ^ω^)「おっおwww」
('A`)「まあ、その前に」
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:42:54.50 ID:pkqNyGm4O
-
「少し昔の話をしようか」
そういって教授はぽつぽつと話し始めた。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:44:58.60 ID:pkqNyGm4O
-
*****
私には姉がいた。
まあ、美人…と言えるかは微妙な容姿ではあったが愛嬌のある人だった。
私はそんな姉が好きだった。
('、`*川「ドクオドクオ」
('A`)「なんですか姉さん」
私は当時、まだ大学院生であった。
ろくに物事を知らない若者なりに頑張っていたと記憶している。
ある日の事だ。
姉が呑気な声のトーンで話しかけてきた。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:48:58.86 ID:pkqNyGm4O
-
('、`*川「あのねー」
('A`)「はいはい、なんですか」
('、`*川「なによう、そのどうでも良さそうな反応は」
('A`)「姉さんのトーンに合わせているだけです」
その日は今よりも涼しかったのを覚えている。
春から梅雨へ、ちょうど移り変わる時期だったかも知れない。
ゆったりとしたテンポでなかなか本題に入らないので、
私は少々面倒臭く感じていた。
('、`*川「いーじゃないー、聞きなさいよー」
('A`)「はいはい」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:52:55.50 ID:pkqNyGm4O
-
('、`*川「私さあ」
('A`)「はい」
('、`*川「結婚します!」
('A`)
('、`*川
('A`)「へ?」
('、`*川「結婚します」
馬鹿みたいにぽかんとしていた。
お付き合いをしている人の事など一度も聞いた事が無かったので、それもあり衝撃だった。
('A`)「なんと……」
('、`*川「なによー、おめでとうの一言ぐらいちょうだいよ」
('A`)「ああ、おめでとうございます」
('、`*川「よろしい!」
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 17:57:22.04 ID:pkqNyGm4O
-
そこからはとんとん拍子に事が進んだ。
どうやらかなり前から交際をしていたらしく、挨拶にその日のうちにやってきた。
(´・ω・`)「どうもはじめして」
('、`*川「こちらショボンさんよ」
('、`*川「ちなみに彼は弟のドクオよ」
(´・ω・`)「よろしくね」
('A`)「はじめまして」
お似合いだな、なんて思った。
落ち着いた雰囲気の人だった。
姉のテンポにも合わせてくれるだろう。
なんて思ったりした。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:01:22.27 ID:pkqNyGm4O
-
私はなぜだか憂鬱になっていた。
長年仲の良かった姉から何も教えてもらっていなかった事を嫉妬していたのかもしれない。
( ・∀・)「お前…シスコンだな…」
('A`)「なのかねえ…」
(;・∀・)「それも重度の、な」
当時はまだ仲の良かったモララーにもそんな事を言われた。
*****
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:03:27.48 ID:pkqNyGm4O
-
( ^ω^)「友人だったのですか」
('A`)「ああ、むしろ仲の良いほうだったよ」
( ^ω^)「意外ですお…」
('A`)「もしかしたら」
('A`)「親友といえる間柄だったかもね……」
( ^ω^)「……」
とても今の関係からは想像出来なかった。
鬱田教授は話しを続けた。
どこか、つんとした臭いがした気がした。
*****
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:09:57.33 ID:pkqNyGm4O
-
やがて結婚式が行われた。
いくらシスコンと言われた私でも、
姉の幸せを祝福しないわけがない。
心の底から二人の門出を祝った。
('A`)「……」
( ・∀・)「まー元気だせよシスコン」
('A`)「その言い方はやめてくれ」
( ・∀・)「いーじゃんいーじゃん、のもうぜ」
('A`)「ああ」
その日はモララーと二人で飲み明かした。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:14:30.27 ID:pkqNyGm4O
-
その時、素直に願っていた。
姉が幸せに過ごしていく事を。
もしかしたら私は歪んだ愛情を姉に対して抱いていたのかもしれない、
ただ、その時は酒と一緒に私の中にしまい込んだ。
嗚呼、でも、
あの日、
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:21:40.45 ID:pkqNyGm4O
-
(;・∀・)「〜〜〜!!!」
('A`)
(;・∀・)「……!…!!」
崩れてしまった。
私のささやかな願いは、いとも簡単に。
(;・∀・)「ドクオの姉さんと義兄さんが事故って!!」
どうして、どうして。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:25:20.20 ID:pkqNyGm4O
-
*****
教授の顔は暗かった。
思い出したく無い過去なのだろう。
( ^ω^)「教授…あまり無理矢理に話さなくても」
('A`)「……いや、話すよ」
教授は一度深呼吸をした。
何か、それ以外にも話したくないことがあるような雰囲気だ。
('A`)「それに…」
( ^ω^)「……」
('A`)「多分、君のここに来た目的も関わってくるからね」
( ^ω^)「……はい」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:30:18.71 ID:pkqNyGm4O
-
*****
僕が思い出すのは蝉の声だ。
てんてん、てんと夏蜜柑が転がる音も覚えている。
( ω )
あっさりと、掌を幸せはすり抜けていく。
じわじわじわじわ。
覚えているのは音だけだ。
何があったかは理解していても、
光景は何も覚えていない。
*****
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:34:11.01 ID:pkqNyGm4O
-
*****
通夜はひそやかに行われた。
姉は顔こそ僅かな傷で済んだが、
腹に穴が出来たらしい。
棺桶から覗く顔しか私は見る事が出来なかった。
('A`)「……」
淡々と事は済んだ。
ぼうっとしていると、辺りには誰もおらず、
私と棺桶の中の姉だけが部屋にいた。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:38:58.50 ID:pkqNyGm4O
-
(-、-*川
('A`)「……」
死体には独特の臭いがある。
死臭というのか、私にはそれが姉から発生している事実さえ認めたく無かった。
('A`)「……」
目を逸らし、立ち上がる。
外に出よう。
この部屋にいるのは些か辛い。
そんな、時だった。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:42:34.16 ID:pkqNyGm4O
-
こつん、こつん。
そんな音が聞こえた。
('A`)「……」
背中越しにだ。
何が起きた?ラップ現象とでもいうのだろうか。
振り返り、棺桶に近づいた。
こつんこつん。
こつんこつん。
そんな音が一歩近づくたびに、大きくなる気がした。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:47:32.73 ID:pkqNyGm4O
-
(;'A`)
棺桶の前まで来て、ようやく理解した。
( 、 *川「……」
こつんこつん
こつんこつん
姉だ。姉の死体が棺桶の内側を叩いている。
('A`)「……」
私はネットなどで見た、ゾンビの情報を思い出していた。
与太話だと思っていたが実在したとは。
場違いだが思わず「ほー」等と声を出してしまった。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:55:04.52 ID:pkqNyGm4O
-
それから私は半自動的に行動した。
具体的に言うと彼女に噛まれたりしないように慎重に、棺桶からだし、
手足を縛り車のトランクにしまった。
ゾンビの動きは愚鈍である。油断しなければまず、噛まれはしない。
もっとも、触れるのには躊躇したが。
棺桶には適当重りを入れた。
家族には「顔を見るのが辛い」と話し、
棺桶の窓を閉めた。
私の様子を見ていた家族は皆納得してくれた。
( ・∀・)「……」
失敗があるとすれば、その時のモララーの視線には気がつかなかった事か。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 18:59:15.56 ID:pkqNyGm4O
-
姉であったゾンビをトランクにしまうとき、ぽたりと血が垂れた。
私のでは無い。
姉の傷口からの血だ。どうやらゾンビになるといくらか身体の機能が蘇るらしい。
('A`)「……」
( 、 *川 「あ、あ、あ、あ」
声とは言えない呻き声を姉は上げていた。
滴り落ちる赤は、涙のように思えた。
私のであり、姉の、涙。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:04:57.75 ID:pkqNyGm4O
-
私はそのまま姉を隠した。
少しして、火葬をした際に骨が無いことが問題になる事に気がついた。。
私は恐怖に怯えた。だが、不思議と遺骨が火葬場からは出た。
モララーがいろいろと工作してくれたと後で知った。
骨を持ってきただとか。
('A`)「……」
私は考えた。
なぜ姉がゾンビになったか。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:07:52.29 ID:pkqNyGm4O
-
ゾンビ化に意味は無い!
私にはそう言い切れなかったのだ。
何か理由がある。そう自分で信じたかった。
姉が、意味も無く醜いゾンビになったなど、
私には認められなかったのだ。
そして一つの考えに至る。
('A`)「ショボンさん……」
彼に、彼に会おうとしたのでは無いか?
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:14:18.28 ID:pkqNyGm4O
-
( ・∀・)「こじつけだ…」
姉の火葬の後、モララーが私に話しかけてきた。
私に「死体をだせ」と言ってきた。
「気持ちはわかる、だが現実を見ろ」
そう言われた。
私は無視した。
そんなことより、そんなことよりもショボンさん姉をどうやって会わせるかを考えていた。
( ・∀・)「ドクオ…ゾンビ化なんてしてない…お前はそう思い込んでるだけだよ」
そう無視を決め込む私にモララーは言った。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:15:19.34 ID:pkqNyGm4O
-
「だって」
「……」
「だって死体は」
「……」
何を言われたかは記憶に無い。
記憶には霞みがかかっている。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:19:50.72 ID:pkqNyGm4O
-
('A`)「……」
私はショボンさんの棺桶の前で待ち続けた。
彼が、起き上がるのを。
そうして彼がゾンビ化したら姉と会わしてやろう。
後は野となれ山となれ、
私は姉の目的を叶えてやらねばならない。
*****
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:22:55.86 ID:pkqNyGm4O
-
( ^ω^)「ゾンビが歩く理由は」
( ^ω^)「愛する人に会うためだと?」
('A`)「……私はそう思うよ」
( ^ω^)「……」
もしも僕がマトモならば彼を否定していただろう。
もしも、マトモなら。
( ^ω^)「……」
僕はチラリと自分の荷物を見た。
つんとした、独特の臭いが染み出ている気がした。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:27:59.04 ID:pkqNyGm4O
-
('A`)「話しを続けるよ」
*****
私は待った。
夜通し待ち続けた。
丑三つ時を過ぎても尚待った。
貴方も会いたいはずだ、姉に。
しかし、
('A`)「……ショボンさん」
「……」
('A`)「ショボンさん」
「……」
(#'A`)「ショボンさん!!」
彼が、起き上がる事は無かった。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:32:09.44 ID:pkqNyGm4O
-
私は何をすればいいかわからなくなった。
ショボンさんの死体は火葬された。
彼の遺骨を見た時には涙がたらたらと目から落ちつづけた。
悲しみではない、怒りだ、憎しみだ。
なぜ、なぜ貴方は起き上がらない。
なぜ貴方は姉を救わない。
私は一人暮らしを始めた。
小さなアパートだった。
荷物はトランクひとつ。
中身は死体。姉のゾンビ。
こつんこつん、と音がした。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:37:30.07 ID:pkqNyGm4O
-
それから私は勉学に励みながら姉の世話をした。
どうやらゾンビは一定異常は腐らないらしい。
体を維持出来る程度にしか肉は腐り落ちはしなかった。
ぐじゃぐじゃの肉片をトイレに流した。
可能なかぎり防腐処理をした。
そして時間は流れていく。
季節は瞬きをする間に変わっていった。
- 88 名前:誤字 投稿日:2010/07/19(月) 19:42:01.47 ID:pkqNyGm4O
- 時折、モララーが尋ねてきた。
「もうやめろ」
「現実を見てくれ」
「キチガイだ」
そんな言葉を私にぶつけてきた。
私は聞こえないふりをし続けた。
やがて私は大学に勤めはじめた。
最初は生活もそう、楽でも無かった。
しかし家には姉がいた。
帰宅してそっと体を拭いてやる。
腐り落ちた肉片を処理してやる。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:44:23.99 ID:pkqNyGm4O
-
いつしか私は今の状況を「まあアリなんじゃないかなあ」なんて思った。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:48:49.08 ID:pkqNyGm4O
-
*****
ふうっと鬱田教授はため息をついた。
それは少しの自己嫌悪も混ざっていたかも知れない。
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
沈黙。
教授が口を開く。
('A`)「軽蔑するかい?」
( ^ω^)「いいえ」
自嘲気味に笑った。
だって彼と僕は同類だから。
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:51:21.90 ID:pkqNyGm4O
-
僕が夏蜜柑を買いに行っている間にツンは死んだ。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 19:55:10.69 ID:pkqNyGm4O
-
彼女は入院していた。
若くして、不治の病。
ドラマのようだと思った。
しかし、別れはドラマのように涙の別れではない。
突然に訪れた。
目を離した、ほんの数十分。
その間に彼女はこの世を去った。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:01:43.65 ID:pkqNyGm4O
-
( ω )
僕は呆然としながら考え続けた。
鬱田教授がよく話していた与太話。
インターネットでよく見たゾンビの噂。
そして自分の願望、願い。
それらが自分の中でグルグルと周り、
ドロりと溶け合った。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:06:06.65 ID:pkqNyGm4O
-
そうだ!彼女は死んだ!
儚くも!若くして死んでしまった!
だが、まだ終わりではないはずだ!
そう、信じた。
自惚れではなく、僕と彼女は愛し合っていたはずだから。
だからきっと、きっと。
彼女は動き出す。起き上がるはずだ。
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:12:03.96 ID:pkqNyGm4O
-
僕は鬱田教授に会おうと思った。
棺桶の中の彼女を見て、決心が着いた。
狭く、暗い棺桶から彼女を出してやり、鞄につめる。
華奢な彼女の体は簡単に収納できた。
すこし、折れてしまったけれど。
支度を終えて、原付きに乗った。
早く行こう、バレてしまう前に。
そう思った。
彼女の体は軽かった。とても、軽かった。
なんだか涙が出た。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:17:12.03 ID:pkqNyGm4O
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そうして今に至る。
( ^ω^)「……」
('A`)「……」
僕等は何も言葉を発していなかった。
何も言わなくても、理解しあえた。
部屋には冷房の稼動音が響いている。
それに紛れて、
こつんこつん、こつんこつん
小さな音が聞こえる。
空気は淀んでいるように感じる。
臭いがする。死臭だ。
二人の男と二体のゾンビ。
それがこの部屋には存在した。
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:22:32.94 ID:pkqNyGm4O
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しかし、
しかしそんな空気は突如として破られる。
何かが割れる音がする。
「ああ、窓かな」
教授が言う。
誰が来たかは検討が着いているようだった。
バタバタとした耳障りな足音が聞こえる。
ああ、彼だ。
( ・∀・)「……」
モララー教授だ。
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:29:01.77 ID:pkqNyGm4O
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( ・∀・)「……」
彼は僕の荷物の方に近づいてきた。
触らせない、そう思い阻止しようとする。
だが、彼は止まらない、鼻に一発殴られる。
僕は情けなく倒れ込んだ。
そして彼が鞄を開ける。
( ・∀・)「キチガイめ…」
ξ )ξ
ツンを見て吐き捨てるように言った。
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:36:12.19 ID:pkqNyGm4O
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( ・∀・)「ドクオ、いつまで続けるんだ」
('A`)「さあ?」
(#・∀・)「気づけ!ゾンビなんてデマだ!お前達はあると思い込んでいるだけだ!」
( ^ω^)「……」
(#・∀・)「ドクオ、お前はペニサスさんの死体を運んでなんかいない」
('A`)「……」
(#・∀・)「妄想だ。お前が現実から逃れるために考えた」
ドクオ教授の後ろにはクローゼットがある。
教授はそれを隠すようにして前に座っている。
ドクオ教授を殴り倒し、モララー教授はクローゼットの扉に手をかけた。
- 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:37:46.96 ID:pkqNyGm4O
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きいぃ
扉が開く音がした。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:40:38.30 ID:pkqNyGm4O
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「ほら!なにもない!」
「現実を見ていないのは君だ、モララー」
「見ていないのはお前だ!見ろよ!この中を!」
「モララー……」
クローゼットの中は僕の位置からでは死角になり見えない。
立ち上がり中を見ようとした時だ。
がぶり、
首に冷たい何かと、痛みを感じた。
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:43:17.91 ID:pkqNyGm4O
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僕の首から血が流れ落ちるのを感じる。
何があった?
後ろを見ようとしても動きが取れない。
その時気づく。
背後から死臭がする事に。
ああ、ツン。
君なのか。
痛みはだんだんと痺れへと変わっていく。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:46:37.79 ID:pkqNyGm4O
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自由が効かない。
床を見る。
ぐじゃぐじゃとした肉片が落ちている。
そして赤い、血。
僕のだけでは無いように思えた。
滴り落ちる赤は、再開を喜ぶ涙のように思えた。
- 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:50:27.45 ID:pkqNyGm4O
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「…!……!!」
「〜〜〜!!」
「……!!!」
声が聞こえる。
断片的で内容はわからない。
熱気を感じる。
外気などの生温い物ではない。
これは、火だ。
家が、燃えている。
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:53:29.61 ID:pkqNyGm4O
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何かが崩れる音がした。
振動を感じる。
がらがらがらがら、という音が聞こえた。
衝撃を体に感じた。
意識が消えていく。
消えていく。
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
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- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 20:56:02.63 ID:pkqNyGm4O
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「ゾンビが歩く理由は」
「愛する人に会うためだと?」
「……私はそう思うよ」
「……」
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 21:00:48.90 ID:pkqNyGm4O
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【エピローグ】
そこには何も残っていない。
焼け落ちた家の残骸だけがある。
焦げた表札には「鬱田」と書かれている。
瓦礫の山だ。
誰も生き残ってはいないだろう。
みんな、みんな焼け落ちてしまった。
しかし、
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 21:06:06.44 ID:pkqNyGm4O
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瓦礫の山に影が、
ひとつ、
ふたつ、
立ち上がる。
黒焦げだ。だがかろうじてシルエットがわかる。
それは男と女の姿に見えた。
影達は互いを見つめる。
一歩づつ歩みより、抱きしめあう。
彼等は……なんだ?
既に命の無いはずの抜け殻はそうして抱きしめ愛しあう。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 21:07:09.32 ID:pkqNyGm4O
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僕は今の状況を「まあアリなんじゃないかなあ」なんて思った。
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/07/19(月) 21:08:05.47 ID:pkqNyGm4O
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( ^ω^)それでもゾンビが歩く理由、のようです('A`)
おしまい
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