(-_-)素晴らしい世界のようです
2011/04/27 Wed 05:02
93 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:27:12 ID:RPoHcvr2O
生まれて来た意味、生きて行く理由。
それさえ持って生まれたら、幸せになれると思ったんだ。
(-_-)素晴らしい世界のようです
(-_-)「醜い羽だね。とてもこの世のものとは思えない」
本来蜘蛛の巣にかかった蝶は、それはそれは儚くも美しいものだろう。
そんな固定観念を打ち壊す程に色褪せて、ボロボロに傷付いて、模様の狂ったその羽は、ただただ滑稽だった。
蝶は絡まる糸に抵抗する事もなく、目を閉じたまま、顔を上げて。
微笑んだ。
(# ;;- )「こんにちは」
盲目なのだと分かったよ。
こんな時に挨拶なんてね、自分の置かれた立場を理解してないのかな。
ましてや先程の皮肉に対しての返事がそれとは。
94 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:28:06 ID:RPoHcvr2O
泣きながら助けを乞われると思った。
なのに、待てども彼女は柔らかい笑みを浮かべるばかり。
“生”を諦めているのか、“死”を望んでいるのか。
恐らくは後者だ。
目の前に一筋の光が射しているのに、何を諦める必要がある。
(-_-)「待ってなよ」
(-_-)「今、助けに行く」
思えば最初は至極簡単で残酷な動機だったかもしれない。
“死”を望む君に“生”を植え付けてやりたかった。
なんて幼稚な嫌がらせなんだろう。
巣の主の不在を確認した後その場を離れる。
背に罪を、胸に蝶を、抱えて。
95 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:29:17 ID:RPoHcvr2O
傷が付かないようにと、全身に絡み付いた透明な糸を丁寧に解いていく。
醜いと思った羽は近くで見てもやはり醜かった。
(-_-)「ねぇ君、死にたいの?」
(# ;;- )「死にたくないから助けを呼ばなかったんです」
(-_-)「何それ。声を出さないと誰も気付いてくれないよ」
(# ;;- )「でも、貴方は来てくれました」
(-_-)「…あのねぇ」
この出会いを偶然と捉えるか、運命と捉えるか、それは僕次第なのだろう。
ふいに伸ばされた細い手が、確かめる様に僕の背中の羽に触れる。
「ありがとう」と言った。何か勘違いしてるんだと思う。
(# ;;- )「見えなくとも羽に触れれば分かります」
(# ;;- )「貴方はとても美しく、優しい蝶なのでしょう」
(-_-)「そんな事…ないよ」
無性に悲しくなって、怒りが込み上げて、でも嬉しくて。
息が出来なくなった事を、君は知らない。
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96 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:30:27 ID:RPoHcvr2O
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夏が来るよと森が騒ぐ。
命を震わせて叫ぶ蝉達の声は、短い障害を愛に捧げる為らしい。
見るもの聞くもの何もかもが初めてで、全てが光り輝いていたけれど、やがて慣れと煩わしさを覚えた。
(-_-)「うー…蝉がうるさい」
(# ;;- )「私は羨ましいです。蝶は歌を知りませんから」
(-_-)「歌?」
(# ;;- )「はい。歌です」
いつしか隣にいる事が当たり前になっていたこの子には、あの叫びが歌に聞こえるそうだ。
この不協和音が歌…ねぇ。
求愛行為ならば蝉の歌より、蝶の舞の方が良いよ。絶対。
97 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:31:31 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「お腹すきませんか?」
(-_-)「別に」
(# ;;- )「そろそろ御飯にしましょう」
(-_-)「勝手にすれば」
(# ;;- )「花の蜜はお嫌いですか?」
(-_-)「僕は行かないよ」
(# ;;- )「…分かりまし」グイッ
(# ;;- )「…どうしました?」
(-_-)「あー…」
(-_-)「やっぱり僕も行くよ」
(-_-)「一緒に行ってあげる。だって君、一人じゃ危なっかしいんだもん」
(# ;;- )「…ふふ。ありがとう」
98 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:32:20 ID:RPoHcvr2O
むせかえる様な花の香りが花につく。
舌に染み込む花の蜜は甘くて、甘くて、吐き気を誘った。
(# ;;- )「美味しいですね」
(-_-)「(おぇっ)…そうだね」
(# ;;- )「私達のいる桜の木。あの木が恋をしたら、蝶の森へ行きましょう」
(-_-)「恋?」
(# ;;- )「はい。恋です」
(-_-)(恋…?あー、なるほど)
秋が来たらと君が言う。
見上げた木の葉は青青として、気持ちよさそうに風にそよいでいた。
そのまま死んでしまえば良いのに。
それにしても、なんてうるさい沈黙だろう。
愛の為に下手くそな歌を叫ぶ彼等に会いたくなった。
じきに夏が終わる。
99 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:33:16 ID:RPoHcvr2O
飛ぶ事の出来ない二人の頭上を、鮮やかな彩りの蝶達が飛んで行く。
あんなにも焦がれた羽にすら、今では疑問符が浮かんで止まない。
同じ色彩、同じ模様、
あれは果たして“美しきもの”か。
複雑な極彩色であるだけのそれは、酷くつまらないものに感じた。
そこには個性など微塵もなく、器用な模造が顔を並べている。
全部同じなら、誰でも良いんじゃないか。
(-_-)「初めて会った時、僕は君の羽を醜いと言った」
(-_-)「今でもそう思う」
(-_-)「でも」
(-_-)「僕は君の羽が好きだ」
色が褪せているのも、傷付いているのも、君が生きた証。
世界で唯一、一つしかない色。
なんて醜く、それ故に愛しい。
100 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:34:26 ID:RPoHcvr2O
(-_-)「…なんで泣くの」
(#。;;- )「…ありがとう」
ぽたり。
(-_-)「…何言ってるの」
(#。;;- )「ありがとう…」
ぽたり。
(#。;;- )「私も貴方の形が大好きです」
(-_-)
涙を流した君以上に僕が泣きたかった事、気付かないままでいい。
頭を撫でたらくすぐったいと子供みたいに笑うから、つられて笑ってやった。
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101 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:35:07 ID:RPoHcvr2O
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願いは届かず葉は紅く染まり、木々の渇きは潤される事なく落ちて行く。
秋なんて大嫌いだ。
蝶は行くべき場所を知ってるらしい、そう作られた。
何も知らずはしゃぐ君を連れて行く。
蝶の森へ。
102 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:36:22 ID:RPoHcvr2O
そこは極彩色の楽園だった。
そこは平穏と笑顔で溢れていた。
君によく似た色をした、数え切れない程の蝶達がひらひらと空を舞う。
僕等が足を踏み入れた途端、しんと静まり返る蝶の森。
みんながこっちを見てる。
コソコソ、コソコソ、蝶達の囁く声がする。
川 ゚ -゚)「ご覧よ、あの異様に長い手足を。あちこち尖った体を。まがまがしい柄を」
ノパ⊿゚)「なんておぞましい姿だ!あれは蜘蛛じゃないか!!」
(*‘ω‘*)「盲目の蝶が楽園に蜘蛛を連れて来たよ」
lw´- _-ノv「食らった蝶の羽を背に縫い付けているよ、きっと我々の事も食らいに来たんだ」
みんながみんな、滑稽なこの姿を見ては逃げて行く。
木の陰から広場に立ち尽くす異端の二人を見下ろしてる。
103 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:37:05 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「蜘蛛?」
後ろでぽつりと君が呟いた。
何かを探す様に空中を泳ぐ手が、こちらへ伸びて来る。
真実に触れる為に伸びて来る。
(# ;;- )「何をおかしな事を」
(-_-)(やめろ)
(# ;;- )「そんなはずないじゃないですか」
(-_-)(やめてくれ)
君の手が伸びて来る。
伸びて来る。
伸びて来る。
伸びて、来た。
104 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:38:30 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「彼には確かに羽が」
指先が触れる。
腐り、乾き、脆くなっていた借り物の羽が、触れられた箇所から砂の様に崩れた。
驚きのあまり見開いた君の瞳、初めて見た。
(#゚;;-゚)
本来あるべき黒目はなく、全体が白く濁り、下手くそな御世辞すら飲み込ませた。
(-_-)(醜い、なぁ)
(-_-)(誰にも見られなくなかっただろうなぁ)
(# ;;- )
(-_-)「そんな顔しないでよ」
(# ;;- )
(-_-)「ごめんね」
(-_-)「やっぱり僕、蝶にはなれなかった…」
105 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:39:37 ID:RPoHcvr2O
生まれた時から空を見上げてはあの美しい羽に焦がれていた。
蝶が好きだったのか、蝶になりたかったのか、それは分からない。
でもただ一つ確かな事、僕は蜘蛛だ。
('A`)『ほうら、あれが糸を張らない風変わりな蜘蛛さ』
(´・ω・`)『この間花の蜜を吸って吐いてる姿を見たよ』
(`・ω・´)『馬鹿らしい。自分が蝶だとでも思っているのか』
(-_-)
始まりは春の終わりだった。
これは君と出会うほんの少し前の話。
主が不在の巣に一匹の蝶が捕らわれているのを見つけた。
絡まる糸に弱々しくもがく姿さえ、儚くも美しいと思った。
迷わず助けに向かった僕に蝶は最期の力を振り絞り、「来ないで」と、「助けて」と、「死にたくない」と、叫んだんだ。
しばらくもしない内に、蝶は死んだよ。
やがて降り出した雨に濡れた巣は、皮肉にもキラキラと光り輝いていた。
どうしてだろう。目の当たりにした死を悲しむより、憧れを捨てられない。
夢の為ならいくらでも残酷になれた。
この羽が欲しい。
欲しい。
欲しい。
気が付いたら、自分の背中に羽を縫い付けていた。
106 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:40:19 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )『貴方はとても美しく、優しい蝶なのでしょう』
悪意のない君の言葉が胸に突き刺さる。
様々な形の感情が産声をあげて、芽となり心に根を張り巡らす。
君の声で夢を見た。
そして、君の手で目が覚めた。
君といる間だけ、僕は蝶でした。
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107 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:41:12 ID:RPoHcvr2O
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冷たい風が命の枯れる季節を運んで来た。
秋に想いを寄せた桜の恋は破れ、散り散りになって飛んで行く。
誇らしく咲いていたあの頃の見る影もなく、花々が朽ち果てていく。
結局花の甘い香りは吐き気を誘うばかりで、飢えを満たしてはくれなかったな。
もう二度とあの味を口にせずに済むのかと思うと、安心感すら覚えた。
(-_-)(やっぱり僕は蜘蛛さ)
体のどこにあるかも分からない心にはどす黒いものだけが積み重なっていく。
悲しい、苦しい、切ない、寂しい、死にたい、消えたい、会いたい…いつもこの辺で分からなくなって考えるのをやめるんだ。
空腹のせいだ。
目の前が霞んで来た。もうしばらく何も食べていない。
あの色とあの羽を失ったあの瞬間から、二度と狩りをしないと心に誓ったんだ。
ふと光る粉を振り撒く蝶を下から眺めては無意識にこう思う、なんと美味しそうな御馳走だと。
窶(やつ)れた細く長い自分の手足は、より一層蜘蛛らしかった。
(-_-)(やっぱり僕は蜘蛛さ)
(-_-)(蜘蛛なのさ)
108 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:42:04 ID:RPoHcvr2O
体が動かない。瞼が重い。
このまま眠ってしまおうか。
それがいい。
「こんにちは」
(-_-)「……えっ」
(# ;;- )
瞳を開く。
ぼやけた視界の中心で、君だけが鮮明に映し出される。
(# ;;- )「良かった。あれからずっと貴方を探してたんですよ」
(# ;;- )「やっぱりこの桜の木にいたんですね」
(-_-)「どうして…」
(# ;;- )「だって貴方はここが好きでしたから」
(# ;;- )「春も、夏も、秋も。私達はいつもここにいましたね」
いつしか君は冬が好きだと言っていた。
見た事がないから憧れるのだと、知らないからこそ愛する事が出来るのだと。
もうすぐ君の愛した冬が来る。
109 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:43:02 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「どうしても会いたかったんです」
(# ;;- )「冬が来る前に」
何を言えば良いのか、夢幻ではないのか。
考えがまとまる前に君の唇から漏れた言葉が耳を通り抜ける。
優しい母の様な微笑みが一変、責める様な口調に。
(# ;;- )「どうして嘘ついたんですか」
(# ;;- )「本当の事を言えば離れていくとでも?」
(# ;;- )「貴方は私を信じてないんですね」
(# ;;- )「私だけには、本当の事を話して欲しかったのに」
その手が。
僕の指に触れる。
腕に触れる。
背に触れる。
110 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:43:59 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「…そんな事言えませんよね」
頬に触れて、
(;_;)
涙に触れた。
(# ;;- )「ごめんなさい。ごめんなさい」
(# ;;- )「私が悩んだ以上に、貴方はどれだけ悩んだことでしょう」
(# ;;- )「貴方の事何も知ろうとしなかった」
(# ;;- )「貴方に嘘を吐かせていたのは、私」
(# ;;- )「苦しかったでしょう、悲しかったでしょう、辛い思いをさせて本当にごめんなさい」
(-_-)「!!」
ゆらりと揺れる違和感に気付いてしまった。
真偽を確かめる為に細い腕を引き寄せる。
片羽が、ない。
(;-_-)「なんだよこれ!蝶達にやられたのか!?」
いいえと彼女は首を横に振り、凛と言ってみせた。
これは、これこそが、自分が望んだ結果だと。
111 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:44:55 ID:RPoHcvr2O
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『やっぱり僕、蝶にはなれなかった…』
(# ;;- )『待って下さい』
(# ;;- )『待って』
貴方の背中を追いかける足はあった。
引き止める手もあった。
あとは貴方を見失わない目さえあれば。
(# ;;- )『置いて行かないで下さい…』
貴方が去ったすぐ後、近くに足音を感じた。
蝶のみんなが木の上から降りて来たのだ。
『やれやれ、まさか醜い蝶が狡賢い蜘蛛に唆(そそのか)されて蝶の森へ連れて来るとは』
『美しく舞う事も子を残す事も出来ない上に、みんなを危険に晒したのか』
『蜘蛛が誰も殺さずいなくなって良かったぜ。あんな生き物早く死んじまえば良いのに』
みんな、笑ってた。
112 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:45:49 ID:RPoHcvr2O
私はそっと懐の中から、布で巻かれた物を取り出す。
もしもの時の為にと、今は亡き母に渡された物だ。
手の感覚で布を解いていく。風に吹かれて布が飛んでいく。
今このナイフは、太陽の光に反射して光っているのでしょうか。
それは綺麗なのでしょうか。
刃を背にあてがう。
誰にも邪魔されないよう、事は瞬く間に済ませた。
ざわめきがどよめきと悲鳴に変わる頃には、私の片羽は土の上。
地を紅く染め上げる。
(# ;;- )『貴方がたには見えなくても、私には見えます』
(# ;;- )『彼は誇り高き蝶です』
(# ;;- )『蝶の羽を持たぬ者を蝶ではないと言うなら、私は蝶をやめます!』
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113 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 19:46:18 ID:6DaKlZakO
この雰囲気好きだなあ
114 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:46:35 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「本当は両羽を切り落とそうとしたんです」
(# ;;- )「でも」
思い出してしまったんです、そう彼女は続けた。
片方だけになってしまった傷だらけの羽を、大切そうにそっと撫でる。
星の色した粉がキラキラと宙を舞った。
(# ;;- )「生まれた時から盲目の私には、自分の羽の模様が分かりません」
(# ;;- )「けど、みんなが口を揃えて言いました」
(# ;;- )「醜い、と」
(# ;;- )「だからきっと、そうなのでしょう」
蝶はなおも話を続ける。
(# ;;- )「みんなと同じになりたいと、いつも願ってました」
(# ;;- )「人と違うこの羽が大嫌いでした」
(# ;;- )「醜いだけの羽なら、いっその事…」
115 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:47:22 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「でも、貴方は言ってくれました」
(# ;;- )「醜いこの羽を、好きだと、言ってくれました」
(# ;;- )「私にはそれがとても嬉しかったんです」
(-_-)「…君は、馬鹿だね」
(# ;;- )「はい。馬鹿です」
ああこれは、救い様のない馬鹿なんだ。
永久に続くであろう平穏を脅かしてまで守りたいものだったのか。
群れからはぐれてどうなる、普通から離れてどうする。
なのに僕は今、嬉しくてたまらない。
(-_-)「いいの?あんなに蝶の森へ行きたがってたのに」
(-_-)「楽園なんでしょ?」
(# ;;- )「いいんです。あそこはあそこを楽園と呼んだ“誰か”にとっての楽園」
(# ;;- )「私はもう、私の楽園を見つけましたから」
116 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:48:13 ID:RPoHcvr2O
(-_-)「この裸になった桜の木の事?」
飾るもの全てを捨てた枯れ木は楽園と呼ぶには寂し過ぎるだろう。
君は口の端を上げて首を横に振る。
そして僕の左胸の鼓動にそっと触れて、言った。
(# ;;- )「私の楽園は、ここ」
めでたしめでたし、だろう。
御伽噺ならこれでお終いだろう。
安心した途端、糸の切れた人形の様に体の力が抜けて、倒れ込んだ。
思い出したかの様に襲いかかる空腹。
やせ衰えた足では、もう君と肩を並べる事すら叶なかった。
視覚のない分優れた彼女の触覚は、骨ばった体に触れてすぐに状況を理解したようだ。
(# ;;- )「こんなに痩せて…早く何か食べないとっ」
(-_-)「いいんだよ。もういいんだ…」
(# ;;- )「よくない!このままでは死んでしまう!」
目の前の存在が真実であると実感する度、不謹慎な歓喜に包まれた。
君は笑ってなんかいないのにね。
きっと、ただ側にいるだけで良かったんだ。
君がいて、僕がいる、それで良かったんだ。
117 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 19:48:37 ID:Ni2PGT/s0
鳥肌が立ってきた
118 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:49:06 ID:RPoHcvr2O
(-_-)(蝶と蜘蛛はいつまでも幸せに暮らしましたとさ)
(-_-)(めでたし、めでたし)
頭に酸素が回らなくて、悲しげな顔をした君の懐から出された銀を、ほんやりと眺めてた。
刃には羽を切り落とした時に拭いきれなかった血がまだ痛々しく付着してる。
何が起こったのか、よく分からなかった。
突き立てられた鋭利なナイフの先端が、彼女の胸に静かに埋まっていく。
両手を胸の前に重ねた姿はまるで祈ってるみたいだった。
何が起きてるのか、よく分からなかった。
嘘みたいな赤い色が、嘘みたいに溢れ出した。
下手くそな平然を装った君は、痛みに眉をひそめて笑う。
(# ;;- )「私を食べて下さい」
“死ね”よりも、“嫌い”よりも。
どんな心ない言葉の暴力よりも、何よりも。
出来れば永遠に、聞きたくなんかなかった。
(-_-)「何…を、してるんだ…」
誇らしげに突き刺さったままのナイフを引き抜きたいのに、ナイフを包み込む小さな二つの手がそうさせてくれない。
君は言った、「これで良いんです」。
119 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:50:11 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「いずれにせよ、この体は冬を越す事が出来ません」
(# ;;- )「本来私の一族は春に生まれ、夏に終わるのです」
(# ;;- )「皮肉な事に、私は普通を失い異常を患う事で、短い命を長らえる事が許されたのです」
少しずつ、少しずつ。
赤い滴が流れては土に滲んでいく。
(# ;;- )「命は何の為に生まれると思いますか?」
(-_-)「何…?」
(# ;;- )「初めて会った時、貴方は私に、私は貴方に言いました」
(# ;;- )「『死にたいのか』と」
(# ;;- )「『死にたくないから助けを呼ばなかった』と」
(# ;;- )「私にとっての“死”とは、生まれた意味がないまま終わってしまう事」
(# ;;- )「命の生まれる意味が子孫を残す事だと言うなら、それが出来ない私には、自らの命に意味が見いだせません」
(# ;;- )「そんなの悲しいから、生まれて来ておめでとうって言われたいから」
(# ;;- )「捕食者に食われ、血となり肉となり、それを私の生まれて来た意味にしたかったんです」
120 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:51:14 ID:RPoHcvr2O
(# ;;- )「…ただのワガママなんです」
(# ;;- )「私が誰かの命になるなんて、素敵な事じゃないですか」
(# ;;ー )「神様みたい」
そう言って、笑った。
何かに導かれる様にナイフに添えられた手に手を重ね、血に汚れる事すら厭わずか細い体を強く抱き締めた。
ああ、頭の中で音もなく蜘蛛の本能が理性を蝕んで行くのを感じる。
( _ )(なんて)
悲しくて、悔しくて。
( _ )(なんて美味しそうな)
こんなのは嫌なのに。
( _ )(御馳走なんだろう)
涙が溢れて、零れて落ちた。
121 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:52:07 ID:RPoHcvr2O
(-_-)「ずっと一緒にいよう」
(# ;;- )「はい」
(-_-)「二人で生きるんだ」
(# ;;- )「はい」
今、君の願いを叶えよう。
楽園へ連れて行く。今度こそ。
(-_-)「“ここ”へおいで」
白い首に針を突き刺した。
泣かないでと、どうか泣かないでと、頬を伝う涙が赤い手に拭われ、色を持つ。
最期の最後まで、どうして君はそんなにも綺麗に笑うの。
(#゚;;ー゚)「私、幸せですよ」
開かれ閉じた瞳にほんの一瞬、僕の姿が映った。
…そんな気がした。
122 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:52:42 ID:RPoHcvr2O
手を、口を、紅に染めた僕の姿を見つけ、知らない誰かが恐怖に震える。
空に沈んだ白い月だけが歯を見せて笑っていた。
手にした歪な模様の蝶の羽が視界に入る度、君との再会の瞬間が脳裏を駆け巡る。
(# ;;- )『こんにちは』
なんとなく、分かってたさ。
色褪せて破れた羽の、その理由。認めたくなくて見ないふりした。
本当はきっと全部分かってたんだ。
命にはいつか終わりが来るなんて分かり切った事。
今日すれ違った全てがいずれかは消える命。
123 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:53:28 ID:RPoHcvr2O
世界に君の愛した冬が来た。
降り出した雪が桜の木を励ます様に飾り付ける。
まるで地獄みたいな季節だ。
僕は息を濁して凍えながら、小さな穴の中に逃げ込んだ。
そこは暗闇と静寂が支配する空間。
今僕に語りかけてくれるのは、自分の呼吸と鼓動だけだった。
トクトク、トクトク。
左胸の鼓動に呼びかける。
(-_-)「聞こえるかい」
トクトク、トクトク。
君が笑った気がした。
(-_-)「君が冬を見れなくて良かった」
(-_-)「冬は寒いよ」
(-_-)「草花は枯れてるしね、この世の終わりみたいだ」
(-_-)「きっと君でも愛せないよ」
かじかむ手と手を握り合わせ、温もりを思い浮かべる。
二つが一つになるなんて、これほど虚しいものはない。
もう話す事も出来ない。触れる事も、記憶と妄想の中でしか。
124 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:54:46 ID:RPoHcvr2O
( _。)「君が僕の命の理由だったのに…」
やっと見つけたのに、どうして君はいないんだ。
たった一つの命を失っただけなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
いくつもの無関心な命を見送って、死には慣れたつもりでいたのに。
自分が何の為に生まれて来たかって?
馬鹿だな。
君は、本当に、馬鹿だな。
生まれて来た意味なんて誰も持ってないんだから、そんなもの自分で決めれば良い。
必要なのは、生きて行く理由。
さぁ、僕は何の為に生きよう?
地獄の季節に耐えてまで、何を望む?
今生きてる、息をしてる。
きっとあるはずなんだ。
白い糸を体に巻き付けて、少しだけ眠ろうか。
瞼の裏に焼き付いた君の夢を見ながら。
次に目を覚ました時には世界が優しくなってる事を、願う。
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125 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:55:38 ID:RPoHcvr2O
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顔を照らし出す一筋の光に急かされ、瞳を開く。
随分と長い間眠っていたみたいだ。
もうじき果てるであろう衰えた四肢を引きずり、外の世界へと踏み出す。
大地を覆っていた雪はいつの間にか跡形もなく消えていた。
枯れた花の蒔いた種は新たな芽を育み、一度は命を亡くした桜も花を取り戻す。
ひらひら降り注ぐ鮮やかな彩りの波の中、僕はついに力尽きて倒れた。
(-_-)「……あ」
見上げた空には一面蝶の群れが飛んでいた。
とても懐かしいようで、知らない色。
虚ろな瞳に失いかけた光が返って来る。
(-_-)(そうか)
(-_-)(あったんだ)
(-_-)(地獄の季節を生き抜いた、理由)
126 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:56:22 ID:RPoHcvr2O
弱々しく伸ばした指と指のフレームに蝶の姿を捉える。
花びらと踊るその羽の、なんと美しい事だろう。
胸に熱いものが込み上げ、自然と表情が綻んだ。
なんてクソッタレで素晴らしい世界なんだろう。
(-_-)「ねぇ、幸せだったよ、でぃ」
(-_-)「僕は、満足だ……」
ぱたり、と。
何ものにも届く事なく落ちたちっぽけな掌。
一匹の蜘蛛を蝶達は指さしながら見下ろしていた。
「死んだ死んだ」と笑って。
満足だよ。また会えたんだ。
君とよく似た、あの色に―――
127 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:56:56 ID:RPoHcvr2O
(-_-)素晴らしい世界のようです 終
128 : ◆IibhHOZgZo:2011/04/16(土) 19:58:05 ID:RPoHcvr2O
終わりです。
次の乙女に届け!俺の下心がこもったバトン!!
129 : ◆LgksaGRSG2:2011/04/16(土) 19:58:54 ID:kU5xDoIA0
乙です 余韻が素晴らしい
130 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 19:59:29 ID:ALCQqgqo0
悲恋過ぎて生きるのが辛い……でも乙!!
131 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 20:00:23 ID:6DaKlZakO
このダークライトな感じたまらんな
132 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 20:00:31 ID:Ni2PGT/s0
うわあああああああ
乙!
これは悲しい
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