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(,,゚Д゚)不覚にも女子プロゴルファーに恋をしてしまったようです |
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:28:36.13 ID:eWJBmiaRO
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── 照りつける太陽の下、無心で芝の上を歩き続ける。 その先にはフェアウェイのど真ん中にある二つのボールと、向こうに見える旗と、大勢のギャラリー。 トーナメント最終日。 同じ組のハローと同じトップスコアで迎えた最終ホールの二打目地点。 ほとんど並んでいる二つのボールの後ろに、ハローと共に立つ。 ハハ ロ -ロ)ハ「アナタのボールの方が若干後ろネ」 (*゚ー゚)「…ええ」 自分のボールを見つめ、そしてその先にある旗を見つめる。 すると、横に立つキャディのモララーが、周りに聞こえないように口を開いた。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:30:40.32 ID:eWJBmiaRO
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( ・∀・)「距離は165ヤード。風は無し。グリーンは正面からが速いから、手前に落とす感覚でいい」 (*゚ー゚)「…7番アイアンを」 モララーがバックから7番アイアンを抜き取り、静かに手渡す。 手前に落とす感覚でいい。 頭の中でその言葉を繰り返しながら、ゆっくりと構える。 (*゚ー゚)(…いや、ダメだ) 深く考えるな。いつも通り自然に打てばいい。 無心で打てば、結果はついて来る。 一つ深呼吸を置き、再度構え直し、自然にボールを打った。 旗に向かってまっすぐ、そして横にぶれない球筋。 完璧だ。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:32:07.80 ID:eWJBmiaRO
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ボールはグリーンの手前に落ち、そのまま転がっていく。 どこまで行ったのかはこちらからは見えない。だが、ギャラリーの歓声と拍手の様子からみて、相当カップに近いところまでは行ったはずだ。 勝てる。 学生時代からライバルだったハローに、初めてプロのトーナメントで勝てる。 そして、初めて優勝できる。 (*゚ー゚)「…ふぅ」 ハハ;ロ -ロ)ハ「やるじゃナイ」 引きつった笑顔を向け、同じように構えるハロー。 彼女の打ったボールは僅かに逸れ、旗から5メートルほど右の地点に止まった。 (*゚ー゚)「……」 人の失敗を喜ぶようなマネはしたくない。 が、心の中でガッツポーズをせざるを得なかった。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:34:45.60 ID:eWJBmiaRO
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( ・∀・)「いいショットだった」 (*゚ー゚)「ありがとうモララー。あなたのおかげよ」 好青年の専属キャディに礼を返しながら、グリーンへと歩く。 ギャラリー達の拍手に迎えられながらグリーンに上がると、自分のボールの位置を見て、またも心の中でガッツポーズをしてしまった。 その距離、カップから約1メートル。 ハハ;ロ -ロ)ハ「く……」 対するハローは、カップから約5メートル。 有利だ。圧倒的に。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:37:14.02 ID:eWJBmiaRO
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(゚∈゚ )「上りのカップ二つ半スライス。思い切って打てば入る」 ハローの専属キャディ、クックルが呟く。 彼の言葉が勇気になったのか。ハローの目に、自信に満ちた光が宿る。 静まるギャラリー。静かに構えるハロー。 彼女の打ったボールは、見事にカップ二つ半右に曲がり。 (;゚ー゚)「……」 (;・∀・)「ッ…!」 カップの中に沈んでいく。 そして、カコンという軽快な音を、辺りに響かせた。 途端、静まり返っていたギャラリー達が、大きな歓声をあげた。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:38:47.15 ID:eWJBmiaRO
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ハハ*ロ -ロ)ハ「ヤッタ!!」 (゚∈゚*)「ナイスインだ!ハロー!」 歓声と拍手に包まれながら、ハローとクックルがハイタッチを交わす。 カップからボールが取られると、またも静寂が戻ってきた。 ここにいる全ての人間が、この1メートルのパットに注目している。 ( ・∀・)「真っ直ぐな1メートル、たった1メートルだ。いつも通りに打てばいい」 (;゚ー゚)「うん…」 いつも通りに打てばいい。 先ほども聞いたその台詞が、全く頭の中に入ってこない。 パターを構える両手が、体が、小刻みに震える。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:41:00.05 ID:eWJBmiaRO
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これを入れなければ負ける。 このボールを一発でカップに沈めなければ、優勝が逃れる。 また、ハローに負けてしまう。 心臓の鼓動がうるさい。 (;゚ー゚)「……」 静かな世界で、震える両手で、震えるパターで、ゆっくりとボールを打つ。 (;・∀・)「ッ!」 (; ー )「……」 とろとろと進んだボールは、カップの僅か1センチメートル手前で止まり、それから動くことはなかった。 ──
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:43:22.57 ID:eWJBmiaRO
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(,,゚Д゚)不覚にも女子プロゴルファーに恋をしてしまったようです
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:46:02.29 ID:eWJBmiaRO
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── ミ,,゚Д゚彡「ギコ。今日こそ学校に行くんだろうな」 (,,゚Д゚)「……」 ミ,,゚Д゚彡「おい聞いてるのか」 (,,゚Д゚)「っせーな親父…だから制服着てんだろうが」 少し睨まれたが、そんなことはどうでもいい。 ただ、今日も朝食が美味しくない。 ミ,,゚Д゚彡「それじゃ父さんは先に出るが…学校に遅れるんじゃねえぞ」 (,,゚Д゚)「あーうっせえな…さっさと行けよ」 ミ,,゚Д゚彡「……」
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:48:59.38 ID:eWJBmiaRO
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背広姿の親父が、ボロいアパートの玄関から出ていく。 それを確認してから、ポケットに忍ばせていたタバコを一本取り、それに火を付けた。 (,,゚Д゚)「ふう…」 朝のテレビはうるさいだけで面白くない。 だから、こうして静かな家の中で一人タバコを吸うのが、何よりも落ち着く。 時刻はAM8時半。 通っている高校では、もうすぐ遅刻になってしまう。 (,,゚Д゚)「…たまには行くか」 そういえば、あと一週間分休んだら留年だと担任に言われた気がする。 それはダメだ。19歳の高3なんてあまりにも格好悪い。 タバコを消し、大きく欠伸をしてから、ボロいアパートを出た。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:51:52.04 ID:eWJBmiaRO
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家から学校までは割と近い。 朝のショートホームルームが始まった直後、騒がしさが無くなった教室のドアを開けた。 ( ´∀`)「それじゃ出席を…ってギコ!久しぶりだモナww」 (,,゚Д゚)「……」 クラスメイトの注目を浴びながら、静かな教室の隅の席に座る。 この空気は苦手だ。全員が「お前は何しに来たんだ」とでも言ってるかのような目で見てくる気がする。 というより、多分そう思われてる。 ( ´∀`)「おいおい、せっかく来るんだったら鞄くらい持ってきたらどうだモナ」 (,,゚Д゚)「うっす…」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:53:29.64 ID:eWJBmiaRO
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だから学校など行きたくないんだ。 冷めた目で見てくるクラスメイト。何かといちいちうるさい担任。 そして── (;-_-)「あ、あの…ギコくん…」 (,,゚Д゚)「あん?」 (;-_-)「えっと、1組のプギャー君達が、昼休みに屋上に来い、って…」 (,,゚Д゚)「はあ…」 これだ。 いちいち不良達に目を付けられる。 これだから学校なんて嫌なんだ。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:55:17.31 ID:eWJBmiaRO
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( ^Д^)「おい本当に来たぜwwwプギャwww」 ( '_L')「素直でいいじゃないか。こういう気取ったヤツほどやりやすい」 <丶`∀´>「ただの馬鹿ニダwwww」 (,,゚Д゚)(3人か…) 昼休みの屋上には、見覚えのある不良達が待ち構えていた。 何かとしつこく絡んでくる奴らだ。 好都合だ。こちらとしても、そろそろ黙っていてほしい連中だから。 (,,゚Д゚)「久しぶりだな…あー…フィレンクトとニダーと…」 ( ^Д^) (,,゚Д゚)「……誰だっけ」 ( ^Д^)「ちょっとこいつ先にやらせて」
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:57:38.68 ID:eWJBmiaRO
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額に青筋を浮かべた男がずんずんと歩み寄ってくる。 いやマジで名前なんだっけこいつ… (#^Д^)「三人で一気にいくのは卑怯だと思わねえか?」 (,,゚Д゚)「……」 (#^Д^)「だから、まずは俺一人でテメエをなぶってやるよ!!」 大きくステップを取りながら、右腕を繰り出してくる。 振りが大きい。 (,,゚Д゚)「同感だね」 (#^Д^)「!!」 それを外側にかわし、ついでに回し蹴りを顔面に喰らわせてみた。 あっさりとぶっ飛ばされる男。眺めはいい。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 21:59:24.75 ID:eWJBmiaRO
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(,,゚Д゚)「でもさ、ほら…面倒じゃん?そういうのって」 (;#)Д ) パタリ (#'_L')「……」 <#丶`∀´>「こいつ…」 フィレンクトとニダーが一気にこっちを睨む。 ほんと、こういう奴らは睨むのだけは一流だ。 (,,゚Д゚)「二人で来いよ。いちいち一人ずつ構うのは面倒くせえ」 (#'_L')「貴様…」 <#丶`∀´>「ふざけるなニダ!!」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:01:13.67 ID:eWJBmiaRO
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二人して正面から飛びかかってくる。 まったく、こいつらには挟み撃ちする頭はないのか。 (#'_L')「ふんっ」 フィレンクトの横払いの蹴り。 それを足が出る前に避け、少し手を添えて蹴りのコースを伸ばしてやる。 すると、フィレンクトの蹴りは見事にニダーの股間を捕らえた。 <;丶 ∀ >「ふ、フィレンクト…謝罪と…賠償を……」 (#'_L')「貴様ッ!!」 ニダーには目をくれず、すかさずパンチを繰り出すフィレンクト。 こいつも振りが大きい。拳が来る前に、顎にアッパーカットを見舞うと、いとも簡単に崩れた。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:03:09.22 ID:eWJBmiaRO
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(,,゚Д゚)「つまんねー喧嘩挑んでんじゃねえよ。せっかくの昼休みが台無しだ」 (,,゚Д゚)「あと…なんだっけ、ピギー?お前の名前もちゃんと覚えるようにするよ。悪かったな」 (;#)Д )(それ…セサミストリートの豚……) 踵を返し、屋上から出る。 せっかくの休み時間を台無しにした奴らをそのまま屋上に閉じ込め、とりあえず教室に向かった。 また、退屈な時間が始まる。 ──
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:05:13.72 ID:eWJBmiaRO
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── 『…続いてはスポーツです。昨日行われた女子プロゴルフヴィップトーナメントの最終日。劇的な展開になりました』 ミ,,゚Д゚彡「……」 夜。 ボロい家のドアを開けると、既に親父が帰ってきていた。 テレビから目を離し、こっちを見ながら「おかえり」と声をかける。 それを無視し、テレビの近くにある冷蔵庫へ向かう。 ミ,,゚Д゚彡「…椎田しぃがまーた負けたかあ…」 (,,゚Д゚)「?」 親父が何やら呟いたので、その目線に釣られてテレビを見る。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:07:30.10 ID:eWJBmiaRO
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小さい画面には、ゴルフ場と二人の女性が悠々と移っていた。 (,,゚Д゚)「…またゴルフかよ」 わざと親父に聞こえるように呟く。 こんなスポーツ、ただ自然の中を歩いてるだけにしか見えない。 つまらなさで言えばマラソン中継と張るレベルだ。 ミ,,゚Д゚彡「ムッ…ゴルフは良いもんだぞ。お前も見たらどうだ」 (,,゚Д゚)「どこがいいんだよ、ちっせえ球打ってるだけだろ」 ミ,,゚Д゚彡「ゴルフとは自然との戦いだ。芝を読み、風を見つめ、そして心を…」 (,,゚Д゚)「あーはいはいそうすか」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:09:19.90 ID:eWJBmiaRO
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語りだすとうるさい親父を置いて、自室に戻る。 くしゃくしゃな布団に寝転り、天井を見つめながら、思わず呟いた。 (,,゚Д゚)「ゴルフ…」 …ゴルフ(笑) おっさんにのみ人気のあるスポーツに、今のところは全く興味がない。 しかし、親父の唯一の趣味がゴルフ観戦だというもんだから、あながち馬鹿にはできない面もある。 何が楽しいのかわからないが、それなりに魅力はあるのだろう。多分。 (,,゚Д゚)「サッカーのが100倍面白いっつーの…」
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:11:18.77 ID:eWJBmiaRO
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そのまま制服を脱ぎ捨て、携帯電話を開いて音楽を流す。 この瞬間が一番気分がいい。しかし、これは趣味なのだろうか。 (,,ーДー)「……」 目を閉じ、明日のことを考える。 また学校に行かなきゃな、と自分に言い聞かせながら、いつの間にか眠りに落ちた。 退屈な1日が終わり、退屈な1日がまた始まろうとしていた。 ──
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:13:06.00 ID:eWJBmiaRO
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── (#メ^Д^)「おいギコ!昨日はよくも!」 (,,゚Д゚)「お前らが呼び出したんだろ」 (#メ^Д^)「あのあと大変だったんだぞ!テメエ屋上の扉閉めやがって!!」 (#'_L')「そのせいで俺達は四階の教室に決死の侵入!お前の所業でな!」 <#丶`∀´>「謝罪と賠償を請求するニダ!!」 (,,゚Д゚)(っせえ……) 朝から騒がしい馬鹿どもを置いて、教室に入る。 今の騒ぎを聞いていたのか。クラスメイトの目がますます痛い。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:15:05.31 ID:eWJBmiaRO
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席に座ると、隣の根暗──ヒッキーが声をかけてきた。 今度はなんだ、と耳を向ける。 (;-_-)「あっ、あの…」 (,,゚Д゚)「んだよ」 (;-_-)「あの…ギコくん、ありがとう」 (,,゚Д゚)「は?」 驚いて目を向ける。 相当勇気を振り絞って言ったのだろう。変な汗をかきながら、ヒッキーが続けた。 (;-_-)「あの、僕、ニダー達にいつもいじめられてたんだ」 (,,゚Д゚)「……」 (;-_-)「それが、その…君がやっつけたおかげで、あいつらの関心が、僕から君に移ったんだ」 (;-_-)「だから…その…」
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:16:57.53 ID:eWJBmiaRO
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(,,゚Д゚)「あー…気にすんな。お前のためにやったわけじゃないから」 確かに、こういう形でいじめが無くなるのもアリだろう。 それにしても、あんなちんけな喧嘩で感謝されると、こっちが照れる。 よそよそしく頷き、ヒッキーはもう一度ありがとうと呟いた。 (,,゚Д゚)(…悪くないかもな、学校) (#メ^Д^)「おいギコ!昼休み体育館裏に来い!!」 (,,゚Д゚)(あ、やっぱ面倒くせえ) ──
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:18:20.27 ID:eWJBmiaRO
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── 夜の公園でタバコを吸いながら、今日のことを思い返してみる。 あの不良達は置いといて、ヒッキーとの会話がやけに印象的だった。 それは初めて学校を「悪くない」と思えたからか。 それにしても、あの根暗一人に心を動かされたのが、我ながら意外だった。 (,,゚Д゚)「…そろそろ帰るか」 タバコを踏み消し、公園を出る。 途端、ポケットにある携帯電話が鳴り響いた。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:19:52.92 ID:eWJBmiaRO
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電話着信の最中の画面を見る。 知らない番号だが、好奇心で電話を取ってみた。 『猫田ギコくん?』 (,,゚Д゚)「え?はい…」 聞き覚えのない男の声。 男は警察だと名乗り、やけに静かな声で話を続けた。 『落ち着いて聞いてください。先程、お父さんのフサギコさんが、交通事故で…』 亡くなった。 それを聞いた途端、手から携帯電話が滑り落ちるのを、意識の遠くで感じた。 ──
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:21:47.40 ID:eWJBmiaRO
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── それから5日ほどはあまり記憶がない。 知らないうちにいろんな手続きやら葬儀やらが終わり、気がつくと、一人であのボロいアパートの中にいた。 窓から外を見る。 夕方なのか、空はオレンジ色になりつつあった。 (,, Д )「……」 ふと、家の中が暗闇に襲われた気がした。 まだ明るい外とは違って、この家は暗く、広く感じる。 それは、みるみるうちに恐怖へと変わっていった。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:23:18.13 ID:eWJBmiaRO
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(,,; Д )「う、うわあああああ!!」 大声で恐怖を振り払い、思わず家を飛び出した。 何がしたいのか、何をしてるのか、自分でもわからない。 ただ、一人が怖い。 (,,; Д )「ハッ、ハッ、ハッ」 多分、頭がおかしくなったのだろう。 すべてが突然のことだった。 親父が死んだことも。 ついさっき、いつの間にか自分が家にいた、ということも。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:25:09.48 ID:eWJBmiaRO
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暗くなりつつある街の中を、全速力で駆け抜ける。 一体どこに? わからない、気の向くままに。 …いや、明るいところに。 この街で一番明るいところ。 それが何なのかはわからない。 ただ、いつの間にか遠くに見える緑色のネットを目指していた。 (,,; Д )「ハッ、ハッ、ハッ、…」 まるでどこかの運動場のように、大きく張られているネット。 それの駐車場に辿り着くと、それが何なのかを理解する前に、冷たいアスファルトの上に倒れ込んだ。 そして、そのまま意識を失ってしまった。 ──
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:27:18.00 ID:eWJBmiaRO
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── (*゚ー゚)「ふう…」 いつものように練習を終え、入念にストレッチをこなし、練習場の会計に入る。 常連となったこの練習場で、受付に座る初老の男性が声をかけてきた。 ( ^ω^)「おっ、しぃちゃんお疲れ様だお」 (*゚ー゚)「内藤さんも、お疲れ様です」 ( ^ω^)「こないだのトーナメントは惜しかったおね」 (*゚ー゚)「ええ。でも…」 精一杯の笑顔を、内藤さんに向ける。 (*゚ー゚)「私には、二位でも上出来なくらいです」
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:28:55.86 ID:eWJBmiaRO
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( ^ω^)「…そうかお」 何かを察したような顔で、素っ気ない返事で話を終わらせた内藤さん。 優しい人だ。本当に。 (*゚ー゚)「…それでは内藤さん、今日もありがとうございました。明日も来ますね」 ( ^ω^)「おっお。いつでも来るといいお」 ゴルフバッグを担ぎ、駐車場に出る。 自分の車のトランクを開けたところで、車のすぐそばに人が倒れているのが見えた。 (*゚ー゚)「あーなんだ人か…」 (*゚ー゚)「……」 (;゚д゚)「人!!?」
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:30:33.22 ID:eWJBmiaRO
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(,,;ーДー) 高校生くらいだろうか。 顔色は非常に悪いが、外傷があるわけではなさそうだ。 (;゚ー゚)「医者!医者!」 (;゚ー゚)「…携帯忘れた……」 しょうがない、と自分に言いきかせ、その男の子を車に引きずりこむ。 少し介抱してやればどうにかなりそうだ。 急いで車を動かし、自らの家へと向かった。 ──
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:32:06.72 ID:eWJBmiaRO
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── (,,゚Дー)「…ん……」 重い瞼を開ける。 気分は悪くない。が、体がやけにダルい。 (,,゚Д゚)「……」 起き上がって周りを見る。 狭い部屋に、四方の壁にはゴルフ用品らしきものがかけられている。 全く見知らぬ部屋だ。 (,,゚Д゚)「……どこだ、ここ」
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:33:13.61 ID:eWJBmiaRO
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「あっ、起きた?」 (,,゚Д゚)「?」 若い女性の声。 振り向くと、やはり見知らぬ女性が部屋の中に入ってきた。 (*゚ー゚)「大丈夫?」 20代前半、くらいだろうか。 よくよく見ると、どこかで見た覚えのある顔だ。 (*゚ー゚)「何か食べ物用意するね!」 (,,゚Д゚)「……どうも」
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:34:32.38 ID:eWJBmiaRO
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笑顔を向け、台所らしき場所へ戻っていく。 年上は好みじゃないが、随分と綺麗な人だ。 (,,゚Д゚)「てゆうか…」 もう一度周りを見る。 狭い部屋、数々のゴルフ用品、綺麗な女性。 どこだ、ここ。 ──
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:36:06.40 ID:eWJBmiaRO
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── (*゚ー゚)「それでキミ、私の車の横に倒れてたんだよ?もうびっくりしたんだから」 (,,;゚Д゚)「す、すんません…なんか…」 (*゚ー゚)「あーいいのいいの。ほら、食べて」 (,,;゚Д゚)「ありがとうございます…」 用意された冷凍ピラフを食べながら女性と話をするうちに、自分が今置かれている状況がわかってきた。 何故かゴルフ練習場の駐車場で倒れていたのを、この人が介抱してくれたのだ。 しかし、なぜゴルフ練習場? 記憶があまりない。というより、ぼーっとして頭が働かない。
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:38:03.30 ID:eWJBmiaRO
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黙々とピラフを食べていると、別の話が始まった。 (*゚ー゚)「ねえ、名前なんていうの?」 そうだ。この人のことを何も知らない。 そして、この人も何も知らないはず。 ピラフを無理やり飲み込み、小さく返事を返す。 (,,゚Д゚)「…猫田ギコ」 (*゚ー゚)「ギコ君ね。私は椎田しぃ。よろしくね」 また綺麗な笑顔が向けられる。 それを直視できなくて、俯きながら「ハイ」と答えた。 (,,゚Д゚)「……え?」
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:40:26.56 ID:eWJBmiaRO
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待て。ちょっと待て。 椎田しぃ。その名前にはやけに聞き覚えがある。 ミ,,゚Д゚彡『椎田しぃがまーた負けたかあ…』 そうだ。思い出した。 親父がよくチェックしていた女子プロゴルファー。 その名前が「椎田しぃ」だった。 (*゚ー゚)「?…どうしたの?」 そして、その次の日、親父が死んだ。 親父が死んで、気付いたらあのボロアパートに一人でいて、それが怖くなって、それで──
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:41:50.92 ID:eWJBmiaRO
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(,,;Д;)「あ……っ…」 (;゚ー゚)「え、ちょ、どうしたの!?」 そうか。この人が女子プロゴルファーの椎田しぃか。 女子プロゴルファーの家にいるなんて、何てラッキーなんだろう。 そう自分に言い聞かせるも、頬をつたう涙は一向に止まろうとしない。 それは間違いなく、今初めて親父の死を実感できたからだ。 人前で泣くなんてみっともない。 そう思っていても、涙は全く止まってくれない。
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:44:03.93 ID:eWJBmiaRO
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(;゚ー゚)「え、なんで、私の名前ってそんなにヒドい!?」 しかし、椎田しぃはあまりにも的外れな方向で焦っている。 それが何だか面白くて、ちょっとだけ笑顔が戻った。 (,,;Д;)「……はは…んなわけねえだろ…」 (;゚ー゚)「あ、なんだ、良かった…」 天然な性格なのか。美人なのにある意味勿体ない。 こんなときにも関わらず、いや、こんなときだからこそなのか。 目の前にいる椎田しぃがとても可愛らしく、そして美しく感じられた。 ──
- 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:46:05.45 ID:eWJBmiaRO
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── それから2日後。 久しぶりに学校へと出かけた。 しぃさんとはあれきりだ。 あのあとは少しだけ身の上話をして、夜も遅いから、と帰された。 (,,゚Д゚)「……」 騒がしい校舎に入り、教室の扉を開ける。 ざわめいていた教室が一気に静まり返り、全員の目がこちらに向いた。 いつもの邪魔くさそうな目じゃない。 何か可哀想なものを見下すような、嫌な目だ。
- 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:47:21.12 ID:eWJBmiaRO
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それを無視し、いつもの席に座る。 もう全員に伝わっているのだろう。 一週間前の、親父の死が。 ( ´∀`)「おーいみんな、席につk……ギコじゃないか!」 (,,゚Д゚)「うっす…」 ( ´∀`)「朝からクラスが全員揃うと気分がいいモナ。それじゃ出席とるモナ」 担任のモナーだけが、相変わらずの態度で接してくれる。 あれほど鬱陶しく感じていたのに、その優しさが、今はすごく嬉しかった。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:49:11.01 ID:eWJBmiaRO
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朝のショートホームルームの時間が終わり、一段落ついた後。 教室のドアが勢いよく開いた。 ( ^Д^)「おいギコ!!久しぶりの登校じゃねえかwww」 ( '_L')「ふん、俺達に怖じ気づいてたんだろう。矮小な男よ」 <丶`∀´>「昼休み体育館裏に来いニダ!!」 (,,゚Д゚)(っせー…) 相変わらずなのは担任だけじゃなかった。 いちいち面倒くさい連中だ。 …が、それを一方で嬉しく感じる自分もいた。
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:50:24.84 ID:eWJBmiaRO
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(;-_-)「ぎ、ギコ君…」 (,,゚Д゚)「おお、ヒッキー」 相変わらずなのはここにもいた。 よそよそしく声をかけてくる、唯一のクラスでの話し相手。 (;-_-)「えっと…お父さんのことは…」 (,,゚Д゚)「あー大丈夫大丈夫。もう立ち直ったから」 それはとある女子プロゴルファーの前で号泣したからです。なんて言えるわけもなく、会話を続ける。 (,,゚Д゚)「お前はどうよ?最近、あいつらに何かされたか?」 (;-_-)「いや、特に何も…」
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:51:26.16 ID:eWJBmiaRO
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(,,゚Д゚)「何も?マジで?」 喧嘩相手がいないといじめを始める。 てっきりそう思っていたもんだから、これは意外だった。 (;-_-)「うん……あいつらも、寂しかったんだと思う」 (,,゚Д゚)「寂しかった?」 (;-_-)「その…ギコ君がいないから」 (,,;゚Д゚)「おいおい…」 いつも喧嘩ばかりする相手がいなくて寂しい、なんてあり得るのか。 そう思いながら窓の外を見ると、グラウンドで入念にシャドウボクシングをしている馬鹿三人が見えた。
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:53:06.28 ID:eWJBmiaRO
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(,,゚Д゚)「…そうなのかな」 (-_-)「…そうだよ、きっと」 ギコ君もそうなんじゃないの?とヒッキーが真面目な顔で呟く。 びっくりして思いっきり否定したが、案外そうなのかもしれない、と心の隅で思った。 (,,゚Д゚)「んじゃ、昼休みにボコってやるか。ヒッキーも来るか?」 (;-_-)「え!?無理だよ…」 (,,゚Д゚)「大丈夫、見学だけでいいからさ。ほら、そしたらお前も喧嘩くらいならできる男になれるだろ」 (;-_-)「えー…」 (,,゚Д゚)「んじゃ、昼休み一緒に行こうぜ」 (-_-)「……まあ、見るだけならいいかも」
- 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 22:55:03.11 ID:eWJBmiaRO
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意外と楽しそうな顔を向けるヒッキー。 この日から、不思議と学校が退屈だなんて思わなくなった。 しかし、授業中に少しでも暇を感じると、どうしても考えてしまうことがあった。 (*゚ー゚) (,,゚Д゚)「……」 考えてしまう、というより頭に浮かんでくる。 しぃさんの、綺麗な笑顔が。 ──
- 130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:00:47.32 ID:eWJBmiaRO
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── 放課後。 夕暮れの中を何気なく、本当に何気なく、あのゴルフ練習場に向かって歩いていた。 しぃさんに会いたいから?いや、違う。 年上には興味がないからそれは違う。と思う。 どちらかと言えば、ゴルフというスポーツに強い興味が出てきたからだ。 親父の趣味と、しぃさんとの出会い。 この2つが、何らかの因果関係がある気がしてならなかった。 そして、それらに共通するものが、ゴルフというスポーツ。 (,,゚Д゚)「……ここか」
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:02:11.17 ID:eWJBmiaRO
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駐車場から入り口に入り、受付に座るおっさんに声をかける。 (,,゚Д゚)「おっさん、椎田しぃっている?」 ( ^ω^)「おっお、不良がしぃちゃんに何の用だおwwしぃちゃんなら左奥の打席にいるお」 (,,゚Д゚)「っせーな…サンキュ」 しぃさんがここにいる。 そう考えただけで、何故か鼓動が早くなる。 おっさんの言ってくれた通り、しぃさんはそこにいた。 (*゚ー゚)「~~!」 ( ・∀・)「~~ww~!」 知らない男と、楽しそうに。
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:03:36.33 ID:eWJBmiaRO
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足が止まる。 何故か、胸に穴が空いたような気分になる。 何故だ。年上なんて興味ないのに。 ゴルフというスポーツにだけ、触れに来たのに。 (*゚ー゚)「あっ、ギコ君!」 (,,゚Д゚)「!」 しぃさんがこっちに気付き、手招きをしてきた。 重い足取りで、二人に近付く。 (*゚ー゚)「あっ、こっちはギコ君。こないだ知り合ったの」 (,,゚Д゚)「……ども」 (*゚ー゚)「ギコ君、この人はモララー。私の専属のキャディなの」 ( ・∀・)「よろしくな、ギコ君」
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:05:04.47 ID:eWJBmiaRO
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キャディ?なんだそれは。 よくわからないが、この人としぃさんが良い関係にあるのは一目でわかった。 モララーさんは顔立ちがよく、態度も好青年のそれだ。 女性にはモテるだろう。間違いなく。 (*゚ー゚)「何か用があって来たの?」 (,,;゚Д゚)「!……あー…」 しまった。その答えを用意するのを忘れていた。 しかし、自分でも驚くほどスムーズな答えが、反射的に出てきた。 (,,゚Д゚)「あの…ゴルフやってみてえな、と思って」
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:07:39.16 ID:eWJBmiaRO
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(*゚ー゚)「!」 ( ・∀・)「おっ!」 目の前の二人が、嬉しそうに顔を輝かせる。 それを見ると、なんだか得体のしれない罪悪感に見舞われた。 もしかして、「ゴルフをやりたい」なんて台詞、ただの口実に過ぎないかもしれないのに。 いや、もしかして、ね。 ( ・∀・)「そっかそっか!君の年でもゴルフを始める人はいっぱいいるからなあ」 (*゚ー゚)「体つきもいいし、スポーツには向いているかもね、ギコ君」 (,,;゚Д゚)「そ、そうすか?」 ( ・∀・)「ちょっと内藤さんに貸しクラブあるか聞いてくるよ」
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:08:57.76 ID:eWJBmiaRO
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モララーさんが受付に向かい、少しの間だけ二人っきりになる。 (*゚ー゚)「ところで、どうしてゴルフを始めようと思ったの?」 (,,;゚Д゚)「えっと…前しぃさんがテレビに出てるのを見て、凄いなーって」 (*゚ー゚)「おお…私有名人…!!」 (,,゚Д゚)「……」 感動したような照れたような、不思議な顔で喜ぶしぃさん。 その姿に見とれていると、モララーさんがゴルフクラブを何本か持って戻ってきた。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:12:01.78 ID:eWJBmiaRO
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( ・∀・)「ギコ君はゴルフは未経験だよね?」 (,,゚Д゚)「あ、はい」 ( ・∀・)「うん、じゃあまずはこれを降ってごらん」 何やら銀色に光るゴルフクラブを渡される。 よく見ると、底の方に「9」と書かれてあった。 (,,゚Д゚)「9…?」 ( ・∀・)「9番アイアンと言ってね。これは数字なら3番から9番まであるんだ」 1番も10番もあるけどね、とモララーさんが笑う。 まったく意味がわからなかったが、とりあえず素振りだけやってみた。
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:14:19.74 ID:eWJBmiaRO
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意外と重い。 重いのだが、気持ちよさを感じるほど、綺麗に振り抜けた。 (*゚ー゚)「おお!」 ( ・∀・)「うん、割と綺麗なスイングだよ」 (,,*゚Д゚)「えっ、マジすか」 (*゚ー゚)「グリップと体重移動だけ教えればかなり良くなるんじゃない?」 ( ・∀・)「そうだね。ギコ君、もう一度構えてごらん」 (,,゚Д゚)「はい」 ボールの無い状態で、もう一度自分なりに構えてみる。 すると、モララーさんが目の前でしゃがみこんで、握り方を教えてくれた。
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:16:23.44 ID:eWJBmiaRO
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( ・∀・)「右手の小指と左手の人差し指を絡めて…そうそう。これでゆっくりと上げてごらん」 言われた通りの握り方で、ゆっくりとクラブを上げる。 すると、突然にしぃさんが後ろから左肩と右手首を触ってきた。 (,;*゚Д゚)「!」 (*゚ー゚)「クラブを上げるときに、少しだけ体重を右足に載せて…そう」 しぃさんの小さな両手が、この体に触れている。 そう考えるだけで、顔が赤くなっていくのを感じた。 (*゚ー゚)「どうしたの?」 (,;*゚Д゚)「な、なんでもない」 (*゚ー゚)「そう?…それで、下ろす時は少しずつ体重を左に流すの」
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/01(木) 23:18:15.50 ID:eWJBmiaRO
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しぃさんの指示通りに体を動かし、クラブを振る。 (*゚ー゚)「そうそう!そんな感じ!」 ( ・∀・)「よし、じゃあ実際にボールを打ってみようか」 既にセットされてあるボールに構え、教えられた通りにクラブを振る。 しかし、ボールに当たる前に地面に当たり、変な音と共にボールはふわりと飛んでいった。 なんか納得いかない当たりだ。 ボールは「50」と書かれた板の手前に落ちた。 (*゚ー゚)「うん、上出来上出来!もう少し練習すればもっと飛ぶわよ!」 (,,゚Д゚)「そう…?なんかすっきりしないんだけど」 ( ・∀・)「いやいや最初にしては上出来だよ。僕なんて最初はかすりもしなかったからね」
- 152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:07:22.81 ID:e+lNA16+O
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二人して楽しそうに笑う。 それに釣られて、思わず笑う。 「楽しい」という感情を久しぶりに得た気がする。 治まらない笑顔のまま、気がつくと夜になるまで9番アイアンを振り続けていた。 ──
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:09:18.17 ID:e+lNA16+O
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── (*゚ー゚)「どう?初めてのゴルフは」 (,,*゚Д゚)「すっげえ楽しかった」 練習が終わり、モララーさんと別れたあと、しぃさんが家まで送ると言ってきてくれた。 あまりにも嬉しい申し出、断る道理はない。 助手席に乗り込み、しぃさんと話を始める。 (,,*゚Д゚)「モララーさんもすごい良い人で良かった」 (*゚ー゚)「うん、モララーは良い人だよ。本当に」
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:10:50.21 ID:e+lNA16+O
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(,,゚Д゚)「……」 しぃさんの言葉でモララーさんの話が出てきた途端、自分の顔から笑顔が消えていくのがわかった。 自分からふっといて何だそれは。と自分に言い聞かせる。 しかし、どうしても気持ち良く聞ける話ではなかった。 (,,゚Д゚)「モララーさんってさ、なんだっけ…キャンディ?」 (*゚ー゚)「キャディね」 (,,゚Д゚)「ああそれキャディ。キャディって何?」 (*゚ー゚)「うーん…なんて言うんだろ…マネージャー?みたいな感じかな?ほら、大会のときに選手の横でゴルフバッグ担いでる人」
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:13:07.86 ID:e+lNA16+O
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ああ、あれか。たぶん見たことある。 一人で納得した後、自分でも信じられない台詞が、自分の口から出てきた。 (,,゚Д゚)「…彼氏?」 (;゚ー゚)「ぶっ!?」 何かを吹き出し、しぃさんは思わずアクセルを踏み込んだようだった。 急加速した車を落ち着かせ、しぃさんが冷や汗を流す。 (;゚ー゚)「いやいやいや何言ってんの!?てか彼氏いないから!」 (,,゚Д゚)「あ、違うんだ」 また笑顔が戻る。 彼氏はいないと知った途端、気分が軽くなった自分に疑問が生じる。 どうしてなんだろう。 年上なんて、興味ないはずなのに。 ──
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:15:13.81 ID:e+lNA16+O
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── (*゚ー゚)「…ふう」 家に入り、電気を付け、ソファーに転がる。 今日の練習は本当に楽しかった。 ギコ君が来てくれた、というだけなのに。 (*゚ー゚)「あと二週間かぁ……」 あと二週間。二週間後には、今年で一番大きな大会がある。 それなのに、練習が身に入らない。 ギコ君の顔が、常にちらつく。
- 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:17:08.16 ID:e+lNA16+O
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ため息をもう一度吐き、目を閉じる。 直後、テーブルに置いていた携帯電話が光り出した。 画面を見ると、モララーからの着信になっていた。 (*゚ー゚)「もしもし?」 『あ、もしもし、いま電話大丈夫?』 (*゚ー゚)「うん、大丈夫だよー」 こんな時間に電話をしてくるとは珍しい。 ソファーに寝転りながら、モララーの話に集中する。
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:21:21.27 ID:e+lNA16+O
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『ギコ君のことなんだけどさ』 心臓が跳ね上がる。 電話の向こうのモララーは、いつも通りの優しい声で続けた。 『君は大会までもう二週間しかない。もしこの先、ギコ君がこっちの練習場に通うつもりなら…』 (*゚ー゚)「…うん、わかってる」 わかってる。優先順位で言えば、ギコ君は決して大会より上じゃない。 なのに、その決断は、とても苦しい。
- 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:28:44.32 ID:e+lNA16+O
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『ギコ君は良い子だよ。物覚えも良いし…今日の練習は本当に楽しかった。だけど、君の大会の方が大切だ』 (*゚ー゚)「……」 『これから二週間は、ギコ君と合わない方がいい。ギコ君には俺から言っておくよ』 (*゚ー゚)「……そうね。いつもありがとう、モララー」 『ああ、今度こそハローに勝たなくちゃな』 人思いな性格のモララー。彼にはいつまでたっても頭が上がらない。 おやすみ、と言い合った後、またソファーの上で目を閉じる。 すると、またしてもギコ君の顔が浮かんできた。
- 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:30:08.48 ID:e+lNA16+O
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一体どうして。 どうしてこんなにも胸が痛むのだろう。 年下なんて、興味ないはずなのに。 ──
- 173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:34:34.65 ID:e+lNA16+O
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── (メ^Д^)「おいギコ!!今日こそテメエを潰す!」 (#)_L')「この痛み…そっくりそのまま返してやろう」 <丶メ∀´>「アンニョンハシムニカ!!」 (,,゚Д゚)「上等だよ馬鹿ども。よし、ヒッキー行くぞ」 (;-_-)「えっ僕も?」 (,,゚Д゚)「当たり前だ」 (;´∀`)「あの…せめて出席取ってからにしてくれモナ」
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:37:30.24 ID:e+lNA16+O
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いつも通りの楽しい日常。 学校が終わったら、またゴルフをしに行こう。 そう考えると、あれほど退屈だった日々が、うってかわって輝いているように思えた。 (メ^Д^)「ハリケーンブロー!!」 (,,#゚Д゚)「だから振りが大きいんだよ!!」バキッ (#)_L')「至高の痛み…クラッシュキック!」 (,,#゚Д゚)「お前もだよ厨二!!」バコン <丶メ∀´>「後悔するがいいニダ…アイニーカンツァンハイヤニダー!!」 (,,#゚Д゚)「日本語使ええええ!!!」バッコーン (;-_-)(何このコント…)
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:40:29.95 ID:e+lNA16+O
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いつも通りの馬鹿らしい喧嘩を終え、学校が終わり、ゴルフ練習場へ向かう。 しかし、その道中で思わぬ人と出会った。 ( ・∀・)「おーいギコ君!」 (,,゚Д゚)「あ、モララーさん」 モララーさんが爽やかな笑顔で手を振っている。 白銀に光るスポーツカーに、腰を下ろしながら。 (,,;゚Д゚)「これ…モララーさんの車ですか?」 ( ・∀・)「うん、昔からスポーツカーが好きでね。高かったんだよフェラレディZ」 (,,;゚Д゚)(フェラ…レディ?) ( ・∀・)「さ、乗って乗って」
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:44:23.28 ID:e+lNA16+O
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助手席に乗り込み、運転席のモララーがエンジンをかける。 ( ・∀・)「ちょうど君に話しておきたいことがあってさ」 (,,゚Д゚)「はい…?」 ( ・∀・)「しぃのことなんだけど」 体が跳ね上がりそうなのを抑え、どうにか冷静を装う。 ( ・∀・)「あまり言いたくないんだけど…実は彼女、もうすぐ大事な大会があってさ」 嫌な予感がする。 じんじんと胸が痛む。 ( ・∀・)「だから…大会が終わるまで、あの練習場に来ないでほしいんだ」 頭の中で、何かが倒れるような音がした。
- 182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:47:58.57 ID:e+lNA16+O
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( ・∀・)「いや、決して君のことが邪魔だって言いたいわけじゃないんだ。むしろ昨日の練習は楽しかった。君に感謝してるくらいだ」 ( ・∀・)「だけど、しぃには大会に集中してもらわないといけない。彼女はゴルフで生活してる…」 ( ・∀・)「…"プロゴルファー"なんだ」 わかっている。 わかっているつもりだったが、今初めて実感した。 椎田しぃはプロゴルファーなのだ。 身寄りのない不良高校生に構ってられるほど、彼女に余裕はない。 プロである以上、その頂点を目指さなければならない。それで食っていかなければならない。 モララーさんは優しく言ってくれたが、自分の存在は、しぃさんにとって間違いなく"邪魔"なのだ。
- 184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:54:29.13 ID:e+lNA16+O
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( ・∀・)「二週間後にまた遊びにおいで。この大会が終わったら、少しは余裕出るからさ」 (,, Д )「……はい、ありがとうございます」 そのままモララーさんは家まで送ってくれた。 礼を言い、ボロアパートの扉を開ける。 誰もいない家に入り、自室の布団に寝転がると、勝手に溜め息が出てきた。 目を閉じて、昨日の練習のことを思い返す。 (,,-Д-)「……」 しぃさんとモララーさんの笑顔。初めてボールを打ったときの感触。 そして、しぃさんの小さな手の温もり。
- 185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 00:58:44.98 ID:e+lNA16+O
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(,,゚Д゚)「……ん?」 ふと、自分の両手が変な形に組まれているのに気付いた。 無意識に作ったのか。右手の小指と左手の人差し指を絡めたこの形は── (,,゚Д゚)「ゴルフ……」 ゴルフクラブの握り方。 それを見た途端、胸の奥で火が灯ったような気がした。 (,,゚Д゚)「…よし」 勢いよく立ち上がり、自室を出て、あの日から一度も入らなかった親父の部屋に入る。
- 188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 01:05:25.62 ID:e+lNA16+O
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(,,゚Д゚)「…相変わらずだな」 本棚に詰め込まれ、机に山のように積まれている、ゴルフ雑誌の数々。 よくもまあこんなに集めたもんだ、と一人関心する。 (,,゚Д゚)「親父…ちょいと借りるぜ」 その中の一冊を手に取り、ページを開く。 スイングの解説、コースの攻め方、ゴルフのルール。 求めていたものが、全てそこにあった。 (,,゚Д゚)「よっし…」 山になった雑誌を数十冊抱え取り、自室に戻る。 この日から、初心者の怒涛のゴルフ研究が始まった。 ──
- 195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 01:41:53.40 ID:e+lNA16+O
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── ハハ;ロ -ロ)ハ「く、クックル…」 (゚∈゚ )「どうしたハロー。お前らしくもない」 ハハ;ロ -ロ)ハ「怖いのヨ…今度の大会、今度こそ椎田しぃに負けソウな気がシテ…」 (゚∈゚ )「何を心配している。いつも勝ってるじゃないか」 ハハ;ロ -ロ)ハ「全てラッキーよ。こないだのトーナメントも、しぃがあのパットを入れてたら、勝負はワカラなかった」 (゚∈゚ )「……」 ハハ;ロ -ロ)ハ「…この大会だけハ、確実に勝ちタイ」 ハハ;ロ -ロ)ハ「だカラ…」 椎田しぃを、潰してちょうだい。 ──
- 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 01:44:27.64 ID:e+lNA16+O
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── あれから二週間。 結局ギコ君は姿を現さなかったが、今はそんなこと言ってる場合じゃない。 『全日本女子プロゴルフニチャントーナメント2011。一組目一番、椎田しぃ選手』 (*゚ー゚)「よろしくお願いします」 ここから始まる。 プロとしての、大きな戦いが。 ( ・∀・)「肩の力を抜くんだしぃ。いつものお前なら勝てる」 (*゚ー゚)「…うん!」
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 01:46:32.36 ID:e+lNA16+O
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ボールをセットし、ドライバーを構える。 静かだ。 ギャラリーも、コースも、自分の体も。 ゆったりとスイングを始め、いつも通りに振り切った。 ボールはまっすぐ、遠くへと伸びていく。 ど真ん中、270ヤード。 出だしは最高だ。 (*゚ー゚)「…よし」 ギャラリーからの拍手に包まれる。 モララーの笑顔が、さらに心を落ち着かせてくれる。 調子がいい。 他の選手のボールを見て、軽快な足取りでコースへと歩き出した。
- 202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 01:53:01.70 ID:e+lNA16+O
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『一組目、注目の椎田しぃ選手!出だしは素晴らしいショットになりました!』 『二打目には最高のポジションですよ、これ』 (,,゚Д゚)「…よし」 早朝からテレビを着け、しぃさんの様子を見守る。 解説者の言う通り、二打目には絶好のポジションだ。 残り140ヤード。グリーンまではバンカーを避けた直線。 また、この角度だとカップまでの傾斜もストレートだ。 落ち着いた様子のしぃさんの二打目。 綺麗にカップの手前に落ち、スピンがかかってカップの真横で止まった。
- 203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 01:57:11.81 ID:e+lNA16+O
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(,,゚Д゚)「いよっしゃ!」 『これはナイスショットです!バーディは確実でしょう!』 初日の1ホール目はバーディ。 素晴らしい出だしだ。 しぃさんがモララーさんとハイタッチをした映像の後、画面は別の選手へと切り替わった。 (,,゚Д゚)「この調子で頼むぜー…」 応援している側なのに、気分が熱い。 少し前まで理解できなかったゴルフ中継の面白さが、ようやくわかった気がした。 ──
- 206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:04:04.72 ID:e+lNA16+O
- ──
3日間のプレーが終わり、総スコアは-11。 ハローと同スコアで、明日の最終日を迎えることになる。 ( ・∀・)「お疲れ様。今日もトップだね」 (*゚ー゚)「うん、明日次第だけど…」 ホテルの部屋でストレッチをしながら、モララーと明日について話し合う。 ハローと同スコアということは、明日の組み合わせはハローと同じということだ。 ( ・∀・)「…ハローのことは気にせず自分のゴルフをやるんだ。ゴルフは他人との戦いじゃない」
- 209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:14:37.34 ID:e+lNA16+O
-
(*゚ー゚)「…そうね」 そうだ。 他人に闘争心を向ける必要はない。 ゴルフは自分の「心」次第で勝てるのだ。 ( ・∀・)「じゃ、明日も早いからもう寝ようか。明日もスタート室に集合ね」 (*゚ー゚)「うん、おやすみ」 明日も頑張ろう。 今回こそ、優勝してやろう。 ベッドに潜ると、あっけなく意識は遠のいていった。 ──
- 210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:18:11.22 ID:e+lNA16+O
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── ( ・∀・)「よいしょ…っと」 早朝5時半。 ここにはすでにコースに降りて準備をしているモララーと、 _ ( ゚∀゚)「……」 そのモララーに忍び寄る男が一人。 男は静かにモララーの背後に立つと、その頭部に、持っていたゴルフクラブを振り下ろした。 ──
- 213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:21:49.20 ID:e+lNA16+O
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── (,,゚Д゚)「さて…」 早朝にゴルフ場に来たのは初めてだ。 いや、ゴルフ場に来たこと自体初めてだ。 理由は至って単純。 (,,゚Д゚)「ギャラリーってどこで受け付けするんだ…?」 しぃさんの応援をするためだ。 タクシーから降り、ゴルフ場の中にある大きな建物を目指して歩く。 (,,゚Д゚)「しっかしでけえなゴルフ場て…」
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:24:04.69 ID:e+lNA16+O
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キョロキョロと辺りを見ながら歩く。 ふと、遠くの茂みに何かが動くのが見えた。 (,,゚Д゚)「……?」 不審な動きをするそれに、静かに近付く。 近くに来てみると、それが何なのかすぐにわかった。 _ ( ゚∀゚)「……」 何やら引きずっている男と。 (#)∀ ) 引きずられている、血まみれのモララーさんの姿。
- 216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:27:11.85 ID:e+lNA16+O
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(,,#゚Д゚)「……おい」 _ ( ゚∀゚)「!」 男の動きが止まり、こちらに目を向ける。 男はモララーさんから乱暴に手を離すと、ゆっくりと体を向けてきた。 _ ( ゚∀゚)「まさか人に見られるとはな…お前もこいつと同じ体になってみるか?」 (,,#゚Д゚)「テメエがやったのか」 _ ( ゚∀゚)「ああ、邪魔くさかったからな」 拳に力が入っていく。 こんなところで喧嘩をするつもりはなかったが、こいつを殴り飛ばさなければ気が済みそうにない。
- 217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:31:24.63 ID:e+lNA16+O
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「や、やめろ!!」 (,,゚Д゚)「!」 _ ( ゚∀゚)「!」 手を出そうとした途端。不意に誰かが割って入ってきた。 その姿を見ると、我ながら素っ頓狂な声が出てきた。 (,,;゚Д゚)「ひ、ヒッキー!?」 (;-_-)「…ギコ君、ここは僕達に任せて、早く行って!」 (,,;゚Д゚)「任せてって…」 (;-_-)「この人がキャディしてる選手、そろそろスタートでしょ?」 (,,;゚Д゚)「!!」
- 219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:35:08.43 ID:e+lNA16+O
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腕時計を見る。時刻は6時10分。 しぃさんのスタート時間は、確か6時半だったはずだ。 ( ^Д^)「そーのとーり!!おいギコ!今回ばかりはテメエの味方についてやる!」 ( '_L')「椎田しぃのキャディをお前がしてやれ。最近学校でゴルフ雑誌見てたから、大体できるだろう」 <丶`∀´>「ウリ達がこいつを倒すニダ!」 (,,;゚Д゚)「お前ら!どうして…!?」 ヒッキーに続いて、いつもの馬鹿三人も現れた。 状況がわからない。なぜ、こいつらがゴルフ場にいる?
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:38:36.20 ID:e+lNA16+O
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( ^Д^)「どうして?学校休みだし、女子ゴルフって意外と美乳が多いじゃん。だからついでにヒッキーも連れて選手の胸見に来た」 ( '_L')<丶`∀´>「以下同文」 (;-_-)「え!?僕にはゴルフと自然環境の勉強しようって…」 (,,;゚Д゚)(馬鹿ばっかだ…) だが、助かった。 あとはこいつらに任せて、しぃさんを助けなければ。 しかし、一つどうしても気になることがあった。 (,,;゚Д゚)「ヒッキー…お前、喧嘩なんてできんのか」
- 223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 02:40:46.55 ID:e+lNA16+O
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(;-_-)「…何言ってんの」 膝を震わせながら、ヒッキーが笑顔を見せる。 (;-_-)「喧嘩くらいならできる男になれって、ギコ君が言ったことじゃないか」 (,,゚Д゚)「……フ」 そうだった。 いつも喧嘩の見学をさせていたのは、紛れもない自分だ。 何となく男らしさの増したヒッキーに、笑顔を返す。 ( ^Д^)「早く行け!時間ないぞ!」 (,,゚Д゚)「ああ、ありがとうピギー」 (;^Д^)「だからそれセサミストリートの豚…」 _ ( ゚∀゚)「お喋りは終わりか?」
- 231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:08:29.57 ID:e+lNA16+O
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呆れ顔の男に、三人の不良と一人の根暗が目を向ける。 <丶`∀´>「うるさいニダ!韓国語使え!」 ( ^Д^)「いや日本語でいいけど、俺達を倒せるもんなら倒してみろ!」 ( '_L')「また一つ、尊い命が散る…」 (;-_-)「あわわ…どうしよ…」 四対一で向き合う、男と馬鹿達。 心の中で礼を繰り返しながら、コースの中へと走りこんだ。 6時17分。時間がない。 ──
- 233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:12:55.30 ID:e+lNA16+O
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(;゚ー゚)(遅い…) モララーと待ち合わせをしているスタート室前。 時刻は6時20分。あと5分でコースに行ってスタート準備をしなければ、競技失格となる。 (;゚ー゚)(朝の練習も行ってないし…何してんのよモララー…) (,,;゚Д゚)「ハッ、ハッ、し、しぃさん!」 (*゚ー゚)「遅いよモラr…」 (;゚ー゚)「…ってギコ君!?なんで!?」
- 235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:18:06.11 ID:e+lNA16+O
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久しぶりに会うギコ君の姿。 しかし、何故かモララーと同じキャディの格好をしている。 (,,;゚Д゚)「モララーさんはさっき転んで怪我したから今日無理って!代わりに俺がキャディやる!」 (;゚ー゚)「え、でも…」 (,,;゚Д゚)「いいから!時間ねえんだろ!」 そうだった。もう時間がない。 ギコ君に急かされながら、コースへと走る。 結局、なんとかスタート時間に間に合い、失格を避けることはできた。 ──
- 236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:21:53.88 ID:e+lNA16+O
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ハハ ロ -ロ)ハ「随分と遅かったじゃナイ」 (;゚ー゚)「ええ…ちょっとね」 何やら不敵な笑みを浮かべ、おどけるような口調で話しかける。 しかし、しぃのゴルフバッグを担ぐギコの姿を見た途端、ハローの顔が青くなった。 ハハ;ロ -ロ)ハ(ちょ、ちょっとクックル!キャディを消すって言ったじゃナイ!) (゚∈゚;)(ああ、俺にも何が何だかわからん) ハハ;ロ -ロ)ハ(こんの役立たず!鶏!) (゚∈゚;)(鶏て…)
- 237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:24:16.86 ID:e+lNA16+O
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ハハ;ロ -ロ)ハ(ふん、マアいいわ。いつものヨウニやってれば勝てるんダカラ) どうにか心を落ち着かせ、静かにドライバーを構えるハロー。 綺麗なスイングから放たれたボールは、見とれるほど真っ直ぐに伸びていく。 しかし、落ち際に左に逸れ、芝の深いラフへと転がっていった。 ハハ;ロ -ロ)ハ「~ッ!!」 悔しさを顔に出すハローを見て、珍しいわねと呟く。 (*゚ー゚)「あのハローがドライバーをミスするなんて」 (,,゚Д゚)「何言ってんだよ、冷静になれ」 (*゚ー゚)「え?」
- 238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:27:15.20 ID:e+lNA16+O
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(,,゚Д゚)「ティグラウンドは軽いつま先上がりだ。これじゃ球は左に逸れやすい」 (,,゚Д゚)「あと、風も微かに右から吹いてる。雲の流れを見ろ」 (;゚ー゚)「……」 急いで確認する。 確かにつま先上がりで、微かに風もある。 …いや、そんなことより。 (;゚ー゚)「ギコ君、一体どこでそんな知識が…」 (,,゚Д゚)「勉強したんだよ、ゴルフの。だから今日は俺に任せろ」 (*゚ー゚)「……うん」
- 240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:33:45.14 ID:e+lNA16+O
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ボールをセットし、ドライバーを構える。 今日はギコというキャディに任せよう。 今のでわかった。1人前のキャディと、大会を共にしていることに。 ドライバーをテンポよく上げ、ボールを捕らえ、振り抜く。 放たれたボールは右に飛び、落ち際に左に逸れ、ど真ん中に落ちた。 (*゚ー゚)「やった!」 (,,゚Д゚)「いよっし!」 大勢のギャラリーの拍手を受け、コースの中を歩き出す。 大会最終日。出だしは最高だ。 ──
- 241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:36:29.74 ID:e+lNA16+O
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── 椎田しぃのゴルフバッグを、猫田ギコが担いでいる。 この状況を親父が見たら、どれほど喜ぶだろうか。 見せてやりたかった。 親父に、この大会を。 (,,゚Д゚)「最終ホール、か」 (*゚ー゚)「…そうね」 最終ホール。現時点でのスコアは、椎田しぃとハロー、ともに-14。 ドライバーを引き抜き、しぃに手渡しながら、小さく言葉をかける。
- 242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 03:39:20.50 ID:e+lNA16+O
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(,,゚Д゚)「いつも通り、練習通りに打つんだ。何も考えるな」 (*゚ー゚)「…うん」 真剣な目で言葉をくれるギコに、少しだけ心臓が反応する。 (*゚ー゚)「…ありがとう…」 (,,゚Д゚)「ん?」 (*゚ー゚)「ううん、なんでもない」 やめよう。この台詞は、終わってからいくらでも言えるのだから。 ボールをセットし、ドライバーを構え、無心で振り抜く。 低く鋭い球が、真っ直ぐ伸びていく。 ボールは勢いよく転がり、きちんと狙い目に止まった。
- 291 名前:あ、保守ありがとうみんな:2011/09/02(金) 09:41:40.53 ID:e+lNA16+O
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(*゚ー゚)「よしっ」 (,,゚Д゚)「ナイスショット!」 軽くハイタッチをして、今度はハローのショットを見る。 疲れを感じさせない、相変わらず綺麗なスイング。 放たれたボールは、しぃのボールに並ぶようについた。 (*゚ー゚)「……さすがね」 ハハ ロ -ロ)ハ「フン」 大勢のギャラリーとともに、二打目地点へと歩く。 二打目地点に着くと、しぃのボールの方がやや後ろにあった。
- 292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:43:17.85 ID:e+lNA16+O
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(,,゚Д゚)「ちょうど150ヤード、風は無し」 (*゚ー゚)「…8番を」 8番アイアンを手渡し、その場から少し離れる。 150ヤード先の旗を、真っ直ぐと見据えるしぃ。 もう、こっちから言うことは何もない。 緩やかなスイングで放たれた球は、見事にカップの手前に止まった。 (,,゚Д゚)「…っっしゃ!!」 (*゚ー゚)「よしっ!」 グリーンを囲むギャラリーから、歓声と拍手があがる。 クラブを戻し、ハローの方を見ると、既に構えに入っていた。
- 296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:47:04.05 ID:e+lNA16+O
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ハハ ロ -ロ)ハ「フッ!!」 綺麗で、鋭いスイング。 しかし、ハローの打ったボールは徐々に右へと逸れていく。 ハハ;ロ -ロ)ハ「チッ…」 カップより5メートル地点。 しぃのボールより圧倒的に離れた位置に、ハローのボールは止まった。 ハハ;ロ -ロ)ハ「…行くわよクックル」 (゚∈゚ )「ああ…」 大勢のギャラリーと、大きな拍手に包まれたグリーン。 そのグリーンに、四人は静かに上がっていった。
- 299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:48:26.96 ID:e+lNA16+O
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しぃのボール、カップより約1メートル。 (;゚ー゚)「……」 嫌な記憶が蘇る。 前回のトーナメントと全く同じ状況だ。 あの時は、この1メートルのストレートを外して、負けた。 ハハ ロ -ロ)ハ「…クックル」 冷や汗を流すしぃとは対照的に、不敵に笑うハロー。 彼女も思い出していたのだ。前回のトーナメントの事を。
- 301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:50:07.55 ID:e+lNA16+O
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ハハ ロ -ロ)ハ「入れるわよ、このパット」 (゚∈゚ )「ああ」 頷き合う二人。 ハローがパターを構え、クックルがハローを集中させる為に離れる。 静かな世界で、ハローはゆっくりと、パターを打った。 ハハ ロ -ロ)ハ (゚∈゚ ) 彼女の打った球は綺麗にカップに向かって転がり。 (;゚ー゚) (,,;゚Д゚) ──外れていった。
- 306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:52:39.87 ID:e+lNA16+O
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ハハ;ロ -ロ)ハ「~ッッッ!!」 ( ∈ ;)「……」 崩れ落ちるハローと、顔を俯けるクックル。 悔しそうに二回目のパットを沈め、いよいよしぃの番となった。 (;゚ー゚)「……」 これを入れれば、勝てる。 しかし、前回の記憶が頭から離れない。 どうすればいい。 体の震えが止まらない。 たかが、1メートルを真っ直ぐ転がすだけなのに。
- 309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:54:40.36 ID:e+lNA16+O
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(,,゚Д゚)「…しぃさん」 (;゚ー゚)「!!」 構えに入った途端、ギコが話しかけてきた。 構えを解いたしぃに、何事だ、とギャラリーの目が集まる。 (,,゚Д゚)「何をそんなに怯えてんだよ。たかが1メートルの真っ直ぐだろ?俺でも打てるよ。パターやったことないけど」 (;゚ー゚)「ギコ君に何が…!」 (,,゚Д゚)「わかんねえよ。しぃさんの気持ちがよくわかんねえからよ、さっさとそれ入れてあがろうぜ」 さっさと入れろ。 この言葉が、しぃの心を軽くしていく。
- 311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:56:00.98 ID:e+lNA16+O
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(*゚ー゚)「……そうね」 そう。何も恐れることはない。 たかが1メートルじゃないか。 さっさと入れて、帰ろう。 (*゚ー゚)「……」 再度パターを構え、静かにボールとカップを見据える。 震えは無い。 迷いのないストローク。 しぃの放ったボールは、静かにカップへと吸い込まれていった。 (*゚ー゚)「…入った」 (,,゚Д゚)「ああ、入った」 (*゚ー゚)「優勝……」 (,,*゚Д゚)「ああ、優勝だ」
- 316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:57:32.94 ID:e+lNA16+O
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ギャラリーからあがる、大きな大きな歓声。拍手。指笛。 それらに包まれながら、しぃはギコに飛びついた。 抱きしめ合う形となった格好で、ギコが呟く。 (,,*゚Д゚)「あーあ…」 (*゚ー゚)「どうしたの?」 (,,*゚Д゚)「俺、年上なんて興味無かったのにさ」 (*゚ー゚)「…私も、年下なんて眼中になかったのにね」 (,,*゚Д゚)「不覚だよ」 (*゚ー゚)「何が?」
- 319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 09:58:58.64 ID:e+lNA16+O
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一旦体を離し、互いに見つめ合う。 (,,*゚Д゚)「女子プロゴルファーに恋をするなんてな」 (*゚ー゚)「……そう」 直後、ギコがしぃの肩を思いっきり引き寄せた。 そして、大勢のギャラリーの中で、二人は唇を重ね合わせた。 歓声と拍手と指笛。それらがまるで祭のように、ゴルフ場に響いていった。 ──
- 320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 10:00:04.07 ID:e+lNA16+O
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── (#)Дメ)「すんませんほんとすんません」 (;#_L#)「僕らが馬鹿でしたほんと」 <メメ∀;>「謝罪と賠償しますから」 (;#)_ノ)「すんません生きててすんません」 _ ( ゚∀゚)(もう一人のガキは逃がしちまったな…ごめんハロー) _ ( ゚∀゚)「とりあえず俺帰るわ」 (#)Дメ)(;#_L#)「「はい、すんませんでした」」<メメ∀;>(;#)_ノ) (;#)∀・)「何しに来たんだ君らは…」 おわり
- 322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/02(金) 10:02:10.12 ID:e+lNA16+O
- おわりっす
支援保守ありがとうございました ラブコメくさいの書いてみようと思って書いてみた作品です 後悔も反省もない
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