( ・∀・)ストレンジ・リレーションシップのようです
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 17:30:43 ID:X3/apXzc

飲んでいたお茶を胸の辺りにこぼしてしまった。

Tシャツが透けて皮膚が見えるので、濡れた位置を乳首に合わせようとする。

いつの間にか30分経っていた。

( ・∀・)「やることないなぁ」

月曜の昼間から部屋に閉じこもっていた僕は、遂に「する事がない」宣言を発令した。

1日に一回は発令される大災害地区だ。
心なしかコップのお茶も、うわんうわんうねっている。

( ・∀・)「恐竜の足音だ! 伏せろ!」

( ・∀・)「どーん! 肉食だいなそー!」

マンガもゲームももう飽きた。繰り返し広がる光景は手垢で汚れている。
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 17:35:11 ID:X3/apXzc

テレビに映るのは何百回と見たニュースやバラエティーだけで、誰も僕を驚かしてはくれない。

誰か発狂しろよと思いつつテレビを消した。

( ・∀・)「乳首が可視性! 乳首が可視性!」

僕が発狂していた。

隣人怒りの壁ノックが聞こえ出したので、一通り叫んだ僕はダルい体を動かしてキッチンに向かうことにした。

( ・∀・)(ごめんなさい、許してね)

僕の心の声が届いたのだろう。
美しいけどいつも泣いている隣人は怒りの抗議を止めたようだ。
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 17:38:48 ID:X3/apXzc

換気扇を回し、煙草を取り出して火をつける。

( ・∀・)y−~「ふぅ〜……」

やはり人生に一服は必要だ。もっと皆休むべきなのだ。

( ・∀・)「一番モララー、フサの真似いきまーす!」

ミ ・∀・)「それ食べたらダメだから! つーに怒られるから!」

あまりの似すぎさに独りで腹がよじれるくらいに笑った。

( ・∀・)「あっはっはっは!」

僕がフサの代わりをしてやってもいいくらいに似てる。
フサ、もう死んでも大丈夫だぞ。

友人特製の煙草が良く効く。
多分ニコチン以外にも何だかいけない成分が入ってるのだろう。
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 17:42:24 ID:X3/apXzc

煙草の残りは数える程しかない。味わうように根元まで吸いきる。

( ・∀・)y−~「はぁ〜……」

小鳥に近づいても逃げられない人は、心の優しい人だと昔何かで聞いた。

そんな人間になれたらいいなと子供心に思ったが、鳥はおろか犬猫さえも僕が近づけば逃げていく。

今、僕の指先にハエがとまっている。

震える両手を気にしていないのか、逃げようともしない。

( ・∀・)「勘違いしちゃうから、優しくしないでよね!」

事実、ハエの優しい行動で僕は優しい心の持ち主なのかと優しい気持ちになれたのだ。

優しくハエの羽をちぎってやった。
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 17:46:11 ID:X3/apXzc

ハエは動転して指から落下した。
かさかさとフローリングの床をのた打ち回っている。

踏み潰さないのは優しさだ。

( ・∀・)「一生、地べたハエずりまわってろ!」

いささか強引なギャグだったが、ドクオには受けたようだ。窓の外で笑っている。

窓を開けると、ドクオの下品な笑い声が聞こえてきた。

('∀`)「いひひひひひ……」

( ・∀・)「いつから居たの?」

('A`)「酷いなぁ、ずっといるじゃないか」

( ・∀・)「それもそうだったね」
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 17:49:49 ID:X3/apXzc

ドクオは角部屋の僕の部屋の隣にダンボールを敷いて住んでいる。
いわゆるホームレスだ。

('∀`)「いへへへ、ハエ落ちちゃったね」

そういえば、もう一人の隣人の様子がおかしい。ドクオに頼むことにした。

( ・∀・)「ねぇ、でぃさんの様子を見て来てよ」

( ・∀・)「今日はまだ泣いてないみたいなんだ」

('A`)「いいよ」

( ・∀・)「ありがとう」

('∀`)「ふふふふ」
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 17:54:09 ID:X3/apXzc

僕たちは皆それぞれ大事な何かを無くしている。

ドクオは生きる意志を無くしてふらふらしている。
僕が残飯を彼に分けなければ、そのうち餓死するだろう。

でぃさんは笑顔を無くし、僕はきっと頭のどこかが欠けてしまっている。
社会に必要とされない存在だ。

一番重症に思えるのは生に関心が無いドクオだが、彼が一番よく笑っている。
おかしな話しだ。

煙草を灰皿に押し当ててもみ消す。
ニコチンのせいなのか何なのか、頭がハッキリしてくる。

やはり僕も様子が気になって、怒りの壁ボクサーでぃさんの部屋に向かうことにした。

( ・∀・)「でぃさん入りますよー」
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 17:58:50 ID:X3/apXzc

玄関を開けると、女物の靴の中にひとつあるボロボロのドクオの靴が目立っていた。

訪ねる人なんていないから、という理由で彼女はドアに鍵を掛けない。

不用心だと思うがその辺はでぃさんの自由だ。

彼女の陰気臭いただならぬ気配で、強盗さえもこの部屋を素通りするだろう。

部屋の真ん中で立ち止まっていたドクオが振り返って言った。

('∀`)「あ、やっぱり来ると思ってたよ」

('∀`)「ふひひひひ」

でぃさんはベッドの上でブランケットを頭から被っており、顔が見えない。
◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:03:40 ID:X3/apXzc

( ・∀・)「でぃさんどう?」

('A`)「これも知ってたけど彼女、尋ねても返事しないよ」

('∀`)「ボク超能力者だったみたいいひひはははは」

ベッドの近くのカーペットに座り彼女に話し掛ける。

( ・∀・)「さっきは騒いでごめんね」

( ・∀・)「だけど君を傷つける人は居ないから出てきてよ」

柔らかい拒絶の布の中から、すすり泣く声が聞こえてきた。

優しい言葉すら涙のスイッチらしい。
僕は困惑しながらも、泣き声さえも美しいでぃさんに感動した。

( ;∀・)「でぃさんは素敵だなぁ」

( ;∀;)「うええーん華麗だよぉおお!」
10  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:06:43 ID:X3/apXzc

その光景を見ていたドクオがげらげらと笑いだした。
いや、ずっと笑っていたのかもしれない。

(# ;;- )「うう……」

( ;∀;)「わああん! あああん!」

('∀`)「えはははひひひひひ!!」

泣き声と泣き声と笑い声がハーモニーを生み出す。声の三重奏だ。

ヴェートーヴェンが指揮をしてくれたら完璧だ。
Nコンの課題曲にならないか意見書を出してみよう。

ブランケットからやっと顔を出したでぃさんが、目尻を指でこすりながら言った。

(#゚;;-゚)「ウルサいな、死んじゃえ……ぐすっ」
12  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:15:45 ID:X3/apXzc

('∀`)「死んじゃえ発言頂きましたああ! ひひひひひ!」

テーブルの上にあったボールペンを掴んだドクオは、自身の腕にYシャツの上から何度もそれを突き刺す。

鮮血がぽたぽた、と絨毯を濡らしていく。ドクオはにやにや、と笑っている。僕は慌てて言う。

(; ・∀・)「ここで死なれたら迷惑だよ、ドクオ君」

('∀`)

('A`)「それもそうだね」

ドクオはボールペンを元の場所に戻し、絨毯の血をティッシュでぬぐい始めた。

('∀`)「ごめんね、でぃちゃん」

僕の部屋の隣にドクオが勝手に住み着いた時にあるルールを二人で決めた。

不法に占拠している事を管理人に言わない代わりに、迷惑を掛けない事を約束させたのだ。
13  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:23:21 ID:X3/apXzc

生きていなくてもいいと思っているドクオに、そんな事を決めさせるのは矛盾している。

けれど、人の思いなんてそんなものなのだろう。

僕だって、自分のことが分からないのだ。
でぃさんにはずっと泣いていてほしいし、笑っていてほしい。

( ・∀・)「ねぇ、でぃさん一緒に散歩してこようよ」

(#゚;;-゚)「……やだ」

('∀`)「床拭けたよ、ほら血の後見つからないでしょう?」

じとっ、と僕らを睨みつけるその眼はまだ赤い。

(#゚;;-゚)「……ちりやろう共め」

でぃさんには体のあちこちに傷がある。そのわけを訊いても、ひとつも教えてくれない。
14  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:31:58 ID:X3/apXzc

多分でぃさんは物凄くおっちょこちょいなのだ。

細い腕に残る傷は転んだ時のだろうし、脚のもそうに違いない。

頬に残った二本の傷痕も、きっと料理中に間違えて切ってしまったんだ。

そんな痕の数々は別に僕にはどうでもよかった。

ただ、彼女に新しい傷はつけてもらいたくない。
誰にも、でぃさん自身にも。

今のでぃさんの状態が完璧に美しい。

マッチの上にビー玉を置いたような、究極的なバランスの美しさ。
そんな人だと僕は目の前の泣き虫兎を見て思った。
15  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:38:19 ID:X3/apXzc

( ・∀・)「たまには外に出ないといけないよ」

彼女は一週間は外に出ていない筈だ。
少しは日光を浴びないとお肌に悪い。

( ・∀・)「三人で川沿いを歩こう。きっと楽しいよ」

('A`)「ボクはずっとお外にいるけどね」

('∀`)「ひひひ」

でぃさんの手を掴み、半ば強制的に彼女を玄関の外に放り出す。
ドクオは後からついてくる。

玄関前の通路を彼女の背中を押して進む。

しばらくするとでぃさんは自分から歩きだした。

(#゚;;-゚)「……ばかやろう共め」

('∀`)「ひっひっひ」
16  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:49:04 ID:X3/apXzc

夕暮れ時の太陽は、ぎらぎらと怪光線を未だに送ってきている。

それでも風がある分、外の方がいくらか涼しい。

('A`)「歩くのは久しぶりだなぁ」

( ・∀・)「運動しないと体が弱って死んじゃうよ」

('∀`)「生きてるって素晴らしいネ」

ドクオは本当はそんなこと微塵も思っていないのだろう。
彼のジョークだ。

('∀`)「ふふふふ」

大通りを10分ほど歩いて河川敷に出た。
穏やかな川の流れが映るだけの平々凡々な夕時だ。
17  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:54:26 ID:X3/apXzc

自転車に乗った女子高生が、訝しそうにこっちを見ながら通り過ぎていった。
それもそのはずだ。

淡い花柄のワンピースから覗く多数の痛々しい傷痕がある女。

着古したYシャツの男は血染めのオマケ付き。

真ん中を歩く僕は身なりこそは普通だが、手先の震えが止まらない。

改めて僕たちの格好を見て、少し僕は愉快になった。

( ・∀・)「ほら、川に夕日が反射して綺麗だよ」

黒い羽の塊が水辺を漂っているのを見つけた。

( ・∀・)「あそこに浮いているのはカラスかな?」
18  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 18:58:59 ID:X3/apXzc

('∀`)「ほんとだねあははは」

(#゚;;-゚)「……くずやろう」

でぃさんが何を言っていたのかはよく聞こえなかった。

多分感謝の言葉をでぃさん式に吐いてたのだろう。

「こらあああ!! 待てええええ!!」

突然の大声に後ろを振り向くと、微かに赤い髪色の女が走ってきた。

▼・ェ・▼「わん!」

女は犬のリードを離してしまったようだ。猛烈な勢いでこちらに向かってくる。

そして、犬っころはでぃさんの足元でぐるぐる回りだした。
19  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 19:07:02 ID:X3/apXzc

(#゚;;-゚)「お、おい……」

追いついた飼い主がでぃさんに謝る。

落ち着いたでぃさんは犬を見つめている。

ドクオは笑うまいと笑顔を押し込めている。

僕は何も考えていなかった。

ノハ;゚听)「ごめんなさいいい!!」

ノハ;゚听)「だめだろおお! ビーグルううう!」

▼・ェ・▼「わん!」

でぃさんは横に首を振って、恐る恐る犬を撫でていた。

やたら声の大きな女だなぁと思っていると、突然僕の意識が離れ出した。

ブラックホールに引き伸ばされるように重力に逆らって飛んでいく。

気付くと僕は、悟りを開いたかのような天空から周りを見ていた。
20  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 19:14:03 ID:X3/apXzc

いつの間にか溶け出した世界にでぃさんとドクオだけが映る。

でぃさんは優しい心の持ち主だ。僕の100倍は優しさ心の持ち主だ。
犬っころが近づいてくるんだ、間違いない。

ドクオは、飼い主と犬を見送るでぃさんの隣で笑っている。

死んだ目をしながら、何でそんなに生き生きと笑っているんだ。

人間も社会も何もかもが矛盾している。
矛盾したなかで奇妙な関係をもって生きている。

そんなことを考えていた僕は、ドクオの声で急降下しながら現実に戻された。

('A`)「あ、痛たたた」

( ・∀・)「どうしたの?」
21  ◆mleClOX7jw 2010/07/19(月) 19:18:05 ID:X3/apXzc

('A`)「腕が痛いんだ」

見れば、ドクオは血の染みたシャツの上から腕を押さえている。

( ・∀・)「帰ったら消毒しないとね」

( ・∀・)「でぃさん家にバンソーコーある?」

(#゚;;-゚)「……ある」

( ・∀・)「そっか、じゃあそろそろ戻ろう」

('∀`)「へへへへ」

明日も明後日も変わらない退屈な日常が続くだろう。

だけど優しさを無くしていない僕らは、気持ち次第で世界を明るくできる。

この詰まらない日々が何故だか幸福に思えた。
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