871 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 06:38:45.35 ID:m7BRbT1f0
―――……逃げなきゃ!
ダッ、と一度立ち上がり、この場から逃げ出そうと思った
だが、たちがあがったところでさっきの光景を思い出す
―――……逃げても、無駄、だよね……
「そう……なんだ」
ひざから下の力が抜けたように、またブランコに座り込む
吸血鬼に血を吸われたらどうなるのか
いろいろと説があるけれど、きっと無事にはすまないのだろう
そう確信すると、なぜかあきらめがついてしまった
「あーあ……今日のあたしって、ホントついてないな……ハハw」
不幸もここまでくれば笑えてくる
さっきの自嘲とは違い、心底おかしくて、笑ってしまった
そんな少女の様子に、男は首をかしげる
( ^ω^)「? なんで、笑ってるお?」
今までにない反応に戸惑った、というよりは、興味を引かれたというところだろうか
軽薄な笑いは影をひそめ、きょとんとした表情をつくった
「……んーとね、なんか、ここまでついてないってなるとね、笑うしかないかなって思ったの」
( ^ω^)「?? 暇つぶしに、聞いてみるお。どういうことだお?」
872 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 06:55:09.70 ID:m7BRbT1f0
ブランコをキィ、キィと揺らしながら、遺言でも残すように少女は語り始めた
「今日……って、もう昨日だよねw バレンタインだったの。知ってる?」
( ^ω^)「一応、知ってるお」
うなずく仕草はどこか朴訥としていて、まるで授業をうける生徒のようだった
さっきまであんなに不気味だった男が、急に神妙な顔をしているのを見て、思わず吹き出す
こんな化け物に失恋の愚痴をしようとしたり、おかしいと思ったり
自分はどうやら、本当に精神的に参ってるようだ、と妙な確信を覚え、そっか、と力なく笑い、少女は続けた
「あたしね、告白しょうとしたんだ。先輩に
あんまりさ、格好いいって感じの人じゃなかったんだけどね、おもしろくってさ
生徒会で知り合ってから、なんだかずっと気になってたの……」
―――なんで、こんな愚痴を言ってるんだろう。思い出すだけでも辛いのに……
先輩のことを思い出すだけで、胸がチクチクと痛む
それでも、今思い出して置かないと、今後そういうことを考えることはできないだろう
自分がもうすぐ死ぬかも知れないという状況は、
未練を少しでも無くそうと彼女に言葉を続けさせようとした
「それでね、チョコレートを作ってね、それ渡して、コクろうと思ったんだ」
―――でも
「……生徒会室行ったらさ、なんだろうね? 副会長と先輩が、抱き合ってた……」
( ^ω^)「…………」
二人は、ずいぶん前から付き合っていたらしい
ちょっと前から、『美女と魔獣』なんて言われて、有名みたいだった
873 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 07:07:36.04 ID:m7BRbT1f0
友達から、それを聞いたのは、生徒会室から逃げ出すように出て行った直後だった
どうやら自分がその先輩に告白しようしてたなんて、知らなかったみたいだった
「そんなことも知らなくってさ、『OKもらったらどうしよう?』とかね……
ずっとそればっか考えてたんだよね……」
( ^ω^)「…………」
「なーんかショックでっかくってさぁ……気がついたら、こんな時間まで、ここにいたのw」
おかげで吸血鬼に狙われちゃった。しかしそれは口には出さなかった
さっきから黙りこくっている化け物に気を使ったのかもしれない
今から自分の血を吸おうとしている輩に、なんでそんなことを、と思うだろうが
―――自分が凹んでる時に、八つ当たりなんてみっともないもんね……
少女は、その考えを相手が誰であろうと曲げるつもりはなかった
( ^ω^)「八つ当たりすればいいお」
「……え?」
突然の男の言葉に、うつむいていた顔をあげる
―――もしかして、自分は口に出してたのかな?
( ^ω^)「いわなくても、わかるお」
まただ。今度こそ何も言ってないはずだ。なのに、どうして……
「まさか……?」
( ^ω^)「そうだお、僕はひとのこころも見えるんだお」
874 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 07:22:18.75 ID:m7BRbT1f0
―――なんだ、気を使って損した……
割と重大なことのはずなのに、浮かんだ感想はそれだけだった
どのみち、もう言い残すことは全て言ったのだ
心を覗かれようが記憶を探られようが、どうでもいい
「さ、これであたしの愚痴はおしまい。さっさと血でも吸って、殺しちゃってよ」
カラカラと笑うのは、未練がなくなったからか自棄になったからか
しかし
( ^ω^)「……ふん、お前の血なんか飲みたくないお」
「え………?」
男は憮然とし表情で、いらだたしげにそう言った
「ちょ、待ってよ!? 何それ? 同情してるの? そんなのいらないからさっさと殺してよ!」
それは本心からの叫びだった
正直に言ってしまえば、もしかしたらあのまま自分は自殺していたのかもしれない
しかし、本当に自殺をする勇気もなく、ただ無為に時間をすごしていた
そこに現れた格好の『死ぬ理由』それに拒絶され憤らないわけがなかった
(#^ω^)「ああもう、うっさいお!」
「きゃっ!」
男は少女を振り払うと、大声でまくし立てた
875 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 07:33:06.23 ID:m7BRbT1f0
(#^ω^)「血をすすってる時に、そんな諦めがいい思考が流れてきたら興ざめだお!?
もっとおびえるなり何なりできる状態になってから来いお!!
新しい恋人でも見つけて、死にたくないって思いながら血を吸われに来いお!
じゃなきゃおいしくないお! 時間の無駄だったお!!」
一方的にまくし立て、そのまま男の体は宙へと浮かび上がり
―――霧へと変じて、夜の空へと解けて行った
(#^ω^)「まったく、胸糞悪いったらないお!」
ぶちぶちと文句を言いながら、空を飛ぶブーン
(#^ω^)「おかげで今日はご飯食べられなかったお」
そこまで腹が空いているなら、我慢して吸えばよかったのに
何故かブーンはそうしなかった
(#^ω^)「胸糞悪い……思考だったお……でも、でも、なんだろう……」
―――遠い昔、あんな想いを見たような気がする
( ^ω^)「ツン……。 !? ツンって、誰だお……?」
(#^ω^)「あーもう、わけわかんないお!!」
ブーンは今日も夜を飛ぶ
自分が血を吸う理由も知らずに
彼が、それを知る日はくるのだろうか……?
−fin−
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