38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/19(木) 19:54:10.88 ID:qz05COlKO
電話の音で目が覚めた。
嫌がらせの様になかなか開こうとしない瞼を擦りながら僕は電話に出た。

「おはよう。何してたの?」

ああ『君』か。

「寝てたお。」

「今日は日曜日よ」

「うん。日曜日だお。」

「ねえ‥‥今日どこかに遊びに行かない?」

別にあなたに会いたいんじゃなくて、
暇だけど他の友人の都合が合わないだけなんだから、と『彼女』は付け足した。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/19(木) 19:55:41.16 ID:qz05COlKO
「いいお。僕もどうせ暇だお。
 それでどこに行くんだお?」

「そうね‥‥どこに行きたい?」

「映画はどうだお?」

「見たい映画でもあるの?」

「‥‥‥‥無いお」

駄目じゃない、と彼女は呆れるように言った。

「カラオケはどうだお」

「歌える歌はあるの?」

「‥‥ハピマテとVIP STARしかないお。」

「それでどうやって今日一日遊ぶのよ?」

そんな事を言われても、寝て過ごそうとしていた日曜日だ。
急に『何がしたいか』、と聞かれても思い付く物は殆ど無い。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/19(木) 19:56:34.61 ID:qz05COlKO
「『君』はどこに行きたいんだお?」

「そうね‥‥水族館なんてどう?」

「水族館かお‥‥‥」

黙ったままの僕に彼女は少し怒った様に言った。
「何?嫌なの?
それともアタシが水族館 なんて意外?」

「いや‥‥別にだお」

確かに意外と言えば意外だった。『彼女』はもっとアクティブな遊びが好きそうと言うか‥‥。
のんびり水族館、と言う人とはあまり感じていなかった。

「そう。じゃあ水族館でいいわね。十時に駅で会いましょう。遅れないようにね。」

また後でね、と互いに挨拶を交わし、僕は電話を切った。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/19(木) 19:57:22.72 ID:qz05COlKO
僕は適当に準備を終え、携帯の時計をのぞき込んだ。
まだ時間に余裕がある。これなら遅刻して『彼女』を不機嫌にさせることもないだろう。
僕は携帯をポケットに突っ込むと駅に向かってゆっくりと歩き出した。


駅の前では『彼女』が友達とお喋りを楽しんでいた。たまたま駅で友達と出会ったのだろう。
僕は『彼女』に声を掛けるのを一瞬躊躇したが、
ここで彼女達の会話が終わるのを待って遅刻したと思われるのも嫌だったので
わざと少し遠くから『彼女』に挨拶をした。

『彼女』は少し恥ずかしそうに目を背けた。『彼女』はいつもと違い、とても女の子っぽい服装というか‥‥
僕は『彼女』がスカートを履いているのを見るのは初めてのことだった。
ツインテールの髪も服によく似合っていた。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/19(木) 19:58:20.84 ID:qz05COlKO
『彼女』はとても可愛くて男友達の中でも人気があったが、
サバサバとして強気な性格から僕が『彼女』に対するイメージはもっとボーイッシュな感じだった。

『彼女』の友達はニヤニヤと笑いながら僕と『彼女』を交互に見た。

「二人って付き合ってるの?」

その瞬間、『彼女』は顔が真っ赤になった。

「そ‥‥そんなわけ無いでしょ!?
ただの友達よ!!友達!!
暇だったから仕方なく遊ぶことになっただけ!!」

「あら?暇だったの?
いつもならあたしの所に電話来るのに。」

『彼女』は顔を真っ赤にしたまま下を向いて黙ってしまった。
友達はお構いなしに今度は僕にぐりん、と顔を向けた。

「ねえ、本当は付き合ってるんでしょー?」


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/19(木) 19:59:11.66 ID:qz05COlKO
『彼女』がピクンと動きそっと僕を見た。
『彼女』の友達は相変わらず興味津々と言った様子で僕にニヤニヤと笑顔を向けている。

「え、えっと本当にただの友達だお。別に何にもないお。」

『彼女』の友達はふーん、といかにも「つまらないな」という顔で言った。

「ま!!頑張ってねおふたりさん。その子、まだ処女だから。
今が買い時よ。」

『彼女』の顔が一層赤くなった。
このまま爆発するんじゃないかと要らない心配をしそうになるほどに真っ赤だ。

「もう良いから早く行ってよ!!」

「はいはい。じゃまたね。
何かあったら連絡ちょうだいねー」

「何にもないわよ!!!」

『彼女』の友達は僕らに目を向けたまま歩いていった。
よっぽど興味をそそられたのだろう。
このままついてくるんじゃないだろうな‥‥僕はまた要らない心配をしてしまう。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/19(木) 20:00:03.11 ID:qz05COlKO
そんな僕をよそに、彼女はスタスタと駅の中へ入って行ってしまった。

なんだろう。『彼女』の機嫌が悪い様な気がする。
少し寂しそうで、ふてくされた様子で、彼女は黙ったまま券売機で切符を買った。

「切符っていくらだお?」

「280円」

僕を見ないまま淡々と答える彼女がちょっと怖い。何か言ってはいけない事でも言ってしまったのだろうか。
結局、電車に乗り込んだ後も僕らは黙ったままだった。
何か話題を見つけないと‥‥僕はこの重い空気に耐えられなくなってきていた。

「あ‥‥あのさ‥‥」

「何よ。」

「そ、その服と髪型似合ってるお。」

「‥‥え‥‥あ‥‥ありがと‥‥」

彼女の顔がまた真っ赤になった。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/19(木) 20:00:42.40 ID:qz05COlKO
それにつられて女の子を褒めることになんて慣れていない僕も恥ずかしさで頭に血が登ってしまう。

「な‥‥何照れてるのよ!!別にアンタなんかに褒められても嬉しくなんか無いんだから!!!」

そんな僕の様子に気が付いたのか、『彼女』は僕に向かって言った。
言葉とは裏腹に『彼女』の顔は赤く染まったままだった。

そのまま彼女は赤い顔を隠すようにうつむいてしまったので、結局僕らは無言のままで電車の中を過ごすしかなかった。


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