315 名前:どうにかなるようです(タイトル未定) ◆tHHHpZL76g :2006/02/03(金) 16:59:12.44 ID:AaVqIqO70
ブーンがタケシに会う一ヶ月前。
小学校に創立記念日なんてものはないので、もちろん平日の昼ならばタケシは学校にいた時。
タケシは友達と運動場で野球をしていた。タケシはあまり運動が得意ではないが、
皆と騒ぎながらするスポーツというよりは遊びが大好きだったので毎日のように昼休みは
友達との野球を楽しんでいた。
ピッチャーが放った球をいつにない捕らえ方をしたので球はピッチャーの頭上を、センターの頭上をはるか越えて
校舎の裏まで吸い込まれていった。
「すっげー!タケシがホームラン打っちゃったよ!」
「ちぇー、これで明日の揚げパンはタケシ様に献上かー」
ピッチャーは悔しがってはいたが、普段ヒット性の当たりさえ珍しいタケシのホームランとあれば
興奮を抑えられないようで、タケシの肩をバンバン叩いていた。
タケシの給食がちょっとだけ豪華になる予定の、その日のことだった。
ちょうどその日は週に一度開かれる全校集会の日で、
いつもならとりとめのない・・・小学生からすればとんでもなく下らない、
校長先生の話があるだけの30分だった。
「3年生の○○さんが、昨日の昼休みに運動場から飛んできたボールのせいで
目に大きなケガを負いました。今日、○○さんは病院で手術を受けるそうです。」
どよめく運動場。
「・・・野球してたのって、あいつらだよな・・・」
「あー、ホームラン打ったやついたよなあ、何年だっけ?」
「だから男子って野蛮なのよね」
手術を受けねばならない大怪我を負った生徒のことより、
大怪我を負わせた生徒のことの方が気になる群集心理。
その視線がタケシに来るのに、そう時間はかからなかった。
317 名前:どうにかなるようです(タイトル未定) ◆tHHHpZL76g :2006/02/03(金) 17:08:21.75 ID:AaVqIqO70
全校集会が終わり、一時間目の授業までの10分だけ空いた時間。
タケシのクラスは、その10分の間、今朝の「目に大怪我」の話で持ちきりだった。
「あーあ、あんた達、知らないわよー」
「オ、オレじゃねえよ!オレはピッチャーだったんだって!」
「あんなホームラン、誰だって捕れないし、外野のせいでもないよなー」
「じゃあ打ったのは誰だったのよ」
・・・
その後、先生は『あの場で野球をしていた全員』に見舞いと謝罪をさせたが、
タケシと、クラスの間に得体の知れない溝が入ったのだった。
もちろん、タケシは初めから自分に非があると思っていたのだが、
全校集会の時、授業前の10分間の時。
その時自分に集められた視線が忘れられないでいた。
318 名前:どうにかなるようです(タイトル未定) ◆tHHHpZL76g :2006/02/03(金) 17:23:02.03 ID:AaVqIqO70
だからこそ、自分に分け隔てなく、真っさらな関係から友達になってくれた
ブーンの存在が嬉しかった。だが、そんなことをこと細かにブーンに話すほどのロレツは回らなかった。
タケシの部屋がタケシの嗚咽と、ブーンの『ごめんお』だけが響く時間。
世間でも人が自分の部屋でゆっくりと流れる時間を楽しむ時だが、
この部屋ではその何十倍の遅さで時間が流れていた。
もっとも、それはタケシの半分望む所であったのだが。
タケシ「なんで、なんで僕はブーンが見えたんだろうね・・・?」
( ^ω^)「そう言えばそうだお・・・」
ようやくタケシが口を開いてくれたことに少しだけ安心するブーン。
これで、もう少し話ができる。
( ^ω^)「タケシの名前も・・・タケシのお母さんも、VIPにゆかりがあるから、
僕と、VIPと何かしら波長があったのかもしれないお」
タケシ「そうだね、だからこそ、いい友達になれるといいなって、思ってたんだけどね・・・」
( ^ω^)「・・・(本当に、僕らは出会わない方が良かったのかお?)」
ブーンはディスプレイの外、現実世界にいながらスレの様子は分かるので
タケシとの重いやり取りの間でもスレの加速具合を伺っていた。
( ^ω^)「金曜日なのに、過疎・・・?」
考えられないほどあまりに早すぎる過疎。
さすがの出来事に驚いてしまったブーンは、ふとそれを声に出してしまった。
320 名前:どうにかなるようです(タイトル未定) ◆tHHHpZL76g :2006/02/03(金) 17:38:14.08 ID:AaVqIqO70
( ^ω^)「(ま、まずいお・・・)」
ブーンは自分のつま先から、段々と感覚が無くなっていることに気付いた。
幸いタケシはずっとうつむいたままなので、それに気取られることはなかった。
ブーンはこれが最後だと思った。
( ^ω^)「タケシ・・・
今、ここにいる僕は居なくなるお。
でも、でも、VIPに・・・2chに来さえすれば、
この世界じゃ会えないけど・・・また会えるお」
タケシ「ブーン?・・・!」
ブーンに向き直ったタケシがとうとうブーンの最後の異変に気付いてしまった。
目は赤かったが、それを涙で曇らせてハッキリと見えないようにしてしまうわけにはいかない。
白かったブーンの体がどんどん後ろの壁紙に溶けていく。
タケシ「ブーン・・・!」
( ^ω^)「泣かないで欲しいお、タケシ・・・
今日は凄く短い時間だったけど、楽しかったお
今は・・・今は限られた時間でしか会えないけど・・・
今度会う時は、ずっと、いつまでも会えるお、タケシ・・・!」
ビキビキとなってもずっと笑っていたブーンの目が、その先の頭のてっぺんまで、
ブーンは消えてしまった。
タケシ「ブーーン!!!!」
322 名前:ブーン( ^ω^)が生まれた意味を知るようです ◆tHHHpZL76g :2006/02/03(金) 17:40:45.01 ID:AaVqIqO70
J( 'ー`)し「タケシ、ゴハンよー、おりてらっしゃい」
タケシ「今行くよ、オフクロ」
ドロドロのユニフォームが入っているカバンを肩からおろし、母の呼びかけに答える。
タケシ「その前に巡回しないとな・・・」
勉強机の角に置かれたノートパソコンを自分の目の前まで手繰り寄せ、電源を入れる。
慣れた手つきでブラウザを開き、すぐにあるページに辿り付いた。
『( ^ω^)ブーン小説総合案内』
タケシ「ただいま、ブーン」
その日は日曜日で、選りすぐりのブーン小説書きがこぞってやってくるのを楽しみにしていた週末。
ちょうど前の晩から書かれていた、とあるブーン小説スレのレスとして書かれていた言葉が、
タケシの目に入った。
240:名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/04(土) 18:22:23:21 ID:AwwS3/2N0
スレの数だけ、ブーンがいるんだなあ・・・
今もきっと、ブーンはどこかのスレで羽ばたいて、誰かを喜ばせているに違いない。
タケシはそう確信しながら、夕食を取りに階段を下りていった。
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