98 名前:( ^ω^)が死神のようです。 :2006/05/15(月) 23:30:12.83 ID:holl3jibO
天正十年六月二日。

燃える本能寺を包むは地獄の業火。
寺の内部には、業火に焼き尽くされるべき人物、第六天魔王織田信長。

死神である内藤ホライゾンは、死に逝く信長と対峙していた。

人生五十年。
下天の内をくらぶれば、
夢幻の如くなり。

扇子を片手に持ち、炎に泳ぐ信長の幸若舞『敦盛』。
それは力強さと繊細さを併せ持ち、華美の中でも荒々しく。
舞踊の事などまるでわからない内藤だが、その信長の舞にただ見惚れていた。

舞終り、扇子をパタパタと顔に向け仰ぐ信長。
炎の熱気は皮膚を焼き、とめどもなく汗を流させていた。

「余の舞は、どうじゃった?内藤?」

(;^ω^)「あ……。
よくわかんないけど、凄かったお!
綺麗だったお!」


101 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/15(月) 23:32:14.07 ID:holl3jibO
舞の余韻にぼんやりとしていた内藤に対する信長の問い掛けに、
内藤は我を取り戻し、心からの賛辞と拍手を送った。

( ^ω^)「……もう、思い残す事は無いお?」

しばしの沈黙の後、躊躇いがちに内藤は尋ねた。
信長は宙を仰ぎ、何かを思案しているようだ。
本能寺の何処かが焼け落ちた。
内藤達のいる場所も、もうそれほど長くは保たないだろう。

やがて、信長は何かを決意した。
刀を抜き、内藤に刄を向けるその姿は、炎に揺らめいている。

( ^ω^)「やっぱり、貴方は武人だお」

内藤はマントの内側に手を入れ、三十センチ程の棒を取り出す。
その棒には、ドクロの彫刻で埋め尽くされていた。

「そのような獲物で何をする?
なんなら余の脇差しを……」



102 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/15(月) 23:33:08.09 ID:holl3jibO
( ^ω^)「慌てちゃいけないお」

棒がその姿を禍禍しく変えていく。
内藤の手には死神にふさわしい武器、大鎌が握られていた。

「それでこそ人外よ」

信長が含み笑いを洩らす。
魔王は、死神を最期の贄に選んだのだ。

「つぇいっっっ!!」

烈迫の気合いを、太刀に籠め突きを繰り出す信長。
内藤はその突きをそのまま受けた。
一気に刄が、内藤の背まで貫通する。

(; ゚ω゚)「ぐふぅ!!」

驚愕した信長だったが、両手に力を入れ、
内藤の身体の胸から股間まで縦一文字に切り裂いた。
内臓が溢れ、大量の血が炎によって蒸発した。

「現世に敵は無し。
地獄でまた会おうぞ、内藤」

内藤の身体を炎の中に蹴り飛ばし、信長はその場に座し、脇差しを取り出した。
一呼吸置き、一気に自分の腹に脇差しを突き立てる。


104 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/15(月) 23:35:21.29 ID:holl3jibO
「……がっ!ぐぐ!」

灼熱が信長の腹で、爆発したが強烈な自制心で悲鳴を押し殺し、
信長は脇差しを横にゆっくり動かした。

『介錯はいるかお?』

視線の先には、死神の足。
――やはり、人間風情には人外を殺す事叶わぬか。
なれば、真の魔となりて、地獄を制してやろう。
そして内藤。
次こそは負けぬ。

「内藤……余に、武士の情けを」

それが信長の最初で最後の弱音だった。

内藤の大鎌が振り下ろされて、生首が転がり、炎に消えた。
男の最期の願いを、死神は叶えたのだ。



105 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/15(月) 23:36:38.39 ID:holl3jibO
((;^ω^))「う〜、寒いお寒いお」

黒いマントに包まり、身体を震わせる内藤。
その頬に熱い缶コーヒーが当てられた。

('A`)「よぅ」

同僚のドクオだった。
ドクオは内藤の隣に腰掛けて、缶コーヒーを啜る。

('A`)「なぁ、聞いたか?
地獄の新しい閻魔に、人間が選ばれたらしいぜ」

( ^ω^)「……ふーん」

内藤はそれを知っていた。
『彼』ならばありうる。
魔王が閻魔に変わっただけだ。


107 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/15(月) 23:37:28.19 ID:holl3jibO
('A`)「しっかしお前も好きだねぇ。
男子フィギュアスケートなんか見て。
ま、俺も嫌いじゃないが……あいつ、うめぇな。」

銀盤の上では、地獄の支配者の子孫が、華麗に舞っている。
それは力強さと繊細さを併せ持ち、華美の中でも荒々しく。

二人の死神は、時が経つのも忘れて氷の上の舞を見続けていた。

終わり


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