98 名前:ブーンが宇宙交流の架け橋になるようです :2006/03/19(日) 23:54:12.03 ID:SXO89K1Y0
ブーンとしぃが出会って二週間ほど経ったころ、しぃの様子に変化が起きました。
活力が失せ、食が細り、睡眠時間が増えるようになりました。

( ^ω^)「どうしたお?」
(*゚ー゚)「なんでもないです……ちょっと疲れただけです」
( ^ω^)「母船に連絡したほうがいいんじゃないかお?」
(*゚ー゚)「あ、いや、いいんです。そんなことしたら今回の交流プログラムが打ち切りになっちゃいます。
     あいつら、あたしに任務押し付けておいて、いざ結果を出すとすぐ引き剥がしにかかるんだから」
( ^ω^)「……それって、ただ単純にしぃを心配してるだけじゃないかお?」
(*゚ー゚)「え?」
( ^ω^)「プログラムも大事だけど、しぃの身も大事だから、って風には考えられないかお」
(*゚ー゚)「そうか……そういう考え方もありますよね……ケホッ、ケホッ」
( ^ω^)「あ、安静にしてるお」
(*゚ー゚)「そうですね……今日はもう寝ますね」

ですが、それからさらに一週間後の夜、しぃが突然に吐血しました。

(;^ω^)「しぃ!」
(*゚ー゚)「あれ……どうしたんだろう……ゴホッ」


133 名前:ブーンが宇宙交流の架け橋になるようです :2006/03/20(月) 00:52:00.94 ID:cbwMD8Gy0
(;^ω^)「きゅ、救急車呼ぶお!」
(*゚ー゚)「無駄ですよ……ブーンさん、気がつかなかったんですか?
     あたしのことは、ブーンさん以外の地球人には知覚出来ないようになってるんです。
     あたしに関することはすべて認識から外れてしまうんです」

ブーンはいたたまれなくなって、しぃを抱えたまま表に飛び出しました。

ブーンの腕のなかで、しぃは弱々しく語りました。

(*゚ー゚)「地球に降りる前に施した、環境適応措置の効力がきれたみたいです。
     活動を極力抑えてだましだましやってきたんですが、限界みたいです」

二人が辿りついたのは、あの小高い丘の上、小型艇の隠蔽場所でした。

(;^ω^)「ここに宇宙船が埋まってるんだお!?」

地面を手で掘り続けるブーンを、しぃは優しく諭します。

(*゚ー゚)「どこまで掘っても出てきませんよ。
     それにいずれ今生の別れが訪れるはずでした。それが少し早まっただけです」
(;^ω^)「どういうことだお?」
(*゚ー゚)「この交流プログラムは、三百年後の実現を目標としたスパンのながい計画なんです。
     この次に誰かが地球に派遣されるのは、どんなに早くても60年後です。
     そしてそれは、あたしたちの種族ではほぼ一世代に相当します。
     だから、あたしが地球を離れたら、再び戻ってくる可能性はゼロに等しいんです」


136 名前:ブーンが宇宙交流の架け橋になるようです :2006/03/20(月) 01:12:59.93 ID:cbwMD8Gy0
しぃは最後の力を振り絞るように、ゆっくりと言葉を紡いでゆきます。

(*゚ー゚)「そしてあたしに与えられた任務は……地球人のリアクションデータの収集と、
     環境適応措置の性能実験でした。これがどこまで持つのか、その限界を確かめるのが目的でした。
     でもこれは別に、『死んで来い』っていう命令じゃなくて、いつ帰還するかはあたしの判断に委ねられてます。
     あたしが、この星で最後まで暮らすことを望んだんです」
(;^ω^)「なんでだお!? せっかく仲良くなれたのに、なんで死ななきゃいけなんだお!」
(*゚ー゚)「このデータがあれば……適応技術は格段に進歩します。あたしたちは帰る星のない孤独な民です。
     その中にあって特に孤独だったあたしは、その辛さを誰よりも分かっているつもりです。
     あたし、あの暗くて狭い船が大嫌いでした。いつも『ここではないどこか』を夢見ていました。
     それがここにあったんです。あたしを気にかけてくれる人がいました。
     あたしを心配してくれる人がいました。そのお陰で、あたしは同胞への信頼を取り戻せました。
     表に見えていないだけで、彼らもあたしを愛してくれていたって、そう気付かされました」

しぃの呼吸はどんどん弱くなっていき、いまにも消え入ってしまいそうです。
ブーンはしぃの手をとり、そのかぼそい言葉を聞き漏らさないように顔を近づけました。

(*゚ー゚)「だから、あたしは最後まで任務を……。
     ……それになにより、ブーンさんと離れるのが、苦しかったんです」
(;^ω^)「ウッ……」
(*゚ー゚)「苦しいです……この身体がなくなっちゃうのが、ブーンさんと離れるのが……。
     だけど、あたしはあの星に帰るんです……。
     そうしたら、いつかの未来、きっと、たくさんのあたしの同胞がこの星を訪れるでしょう。
     その時……地球の皆さんは、歓迎してくれるでしょうか」


ブーンがそれに答える前に、しぃはそっと目を閉じ、その手から力が抜け落ちてしまいました。


137 名前:ブーンが宇宙交流の架け橋になるようです :2006/03/20(月) 01:22:52.43 ID:cbwMD8Gy0
体温がどんどん消えてゆくしぃの身体を抱きしめ、ブーンは泣きながら天に向かって叫びました。

(;^ω^)「降りてくるお! しぃを助けてやってくれお! しぃを……僕を、
     僕たちを一人ぼっちにしないで欲しいんだお!」

まどろむ意識の中、ブーンは、瑠璃色に輝く巨大物体が頭上に下りてくる夢を見ました。

そしてブーンが目を覚ましたとき、しぃの姿はどこにもなく、
小高い丘も消えうせて、そこにはだだっ広い平地が広がっているだけでした。



──そして。


('A`) 「あれ、ブーン久しぶり。学校来る気になったんだ」
( ^ω^)「久しぶりだお」
('A`) 「まあいいや。そういえば、進路希望調査表、まだ提出してないだろ」
( ^ω^)「ちゃんと書いてきたお」
('A`) 「どれどれ……なんだこれ。『宇宙飛行士』? こんなこと書いたら怒られるぞ」
( ^ω^)「僕は本気だお」


美術室の隅には、描きかけの肖像画がひっそりと置かれていました。


その1へ

もどる