108 名前:ブーンが機械になったようです :2006/03/04(土) 23:23:57.67 ID:mlt9eQzq0
―――キュィー…カシン…キュィー…カシン
全身が痛かった。腕も、足も、頭も、内臓も、骨も、全部が痛かった。
痛みは徐々に強まり、僕はいつのまにか意識を失っていた。
目が覚めたとき、僕の体は、奇妙な音に包まれていた……。
( ^ω^) 「うう……」
ミ,,゚Д゚彡 「やあ、目が覚めたようだね?」
真っ白だった視界に、ふさふさした黒い影が急に浮かんだ。
そこで気がついたのは、僕が手術台のようなものに縛り付けられているということだった。
( ^ω^) 「ここは……? あなたは……? 僕は、僕は……」
ミ,,゚Д゚彡 「病み上がりで、そう一気にいろんなことを考える物じゃない」
そう言って、フサフサは手術台に腰をおろした。
110 名前:ブーンが機械になったようです :2006/03/04(土) 23:32:19.70 ID:mlt9eQzq0
何から話そうか、と、フサフサはコーヒーを口に含んだ。
ミ,,゚Д゚彡 「端的に言ってしまえば、君はもう死んでいる」
(;^ω^) 「……北斗の拳?」
ミ,,゚Д゚彡 「……気持ちはわかる。だが、真実だ」
いきなり、初対面の人間に言われて、信じる方がどうかしている。
そんなのをあっさり信じているようでは、とっくに宗教団体の餌食になっている。
( ^ω^) 「冗談きついおw僕はこうしてあなたと話してるお?」
僕は笑い飛ばした。もし、幽霊だと言われても信じない。
目の前のライトのまぶしさ、手首足首の鉄枷の冷たさ、腹に感じる鈍痛は、僕が生きてると主張しているのだ
だが、ふさふさは、真剣な顔を崩そうとはしなかった。
ミ,,゚Д゚彡 「……自己紹介が遅れたね。私はフッサール。生化学と機械工学の権威だ。そして……」
言葉と一緒に、フッサールは懐からカッターを取り出し、それを……
(;^ω^) 「ちょ……っ!?」
僕の腕に、振り下ろした。
――パキィンッ!!
(;^ω^) 「……えっ……?」
ミ,,゚Д゚彡 「君の身体を機械化した……マッドサイエンティストだ」
カッターは、握りだけを残して、僕の身体を傷つけることなく、根元から折れてしまった。
112 名前:ブーンが機械になったようです :2006/03/04(土) 23:49:20.71 ID:mlt9eQzq0
異常な光景を目の当たりにして、僕は言葉を失った。
( ^ω^) 「………」
ミ,,゚Д゚彡 「君は、この研究所の前にある浜に打ち上げられていたんだ」
淡々と聞こえるフッサールの声は、フィルターやスピーカーを介して聞くような、
どこか生々しい、機械そのものの音声に聞こえる。
ミ,,゚Д゚彡 「大腸破裂、脳溢血、全身打撲、粉砕骨折……上げればきりがない状態だ
脳もだいぶまずかったんだがね、そこは何とか持ち直したようでなによ……」
( ω ) 「……あなたは……」
さして深刻そうな顔もせず、カルテを読み上げるフッサールの言葉を押しとどめ、僕は口を開いた。
ミ,,゚Д゚彡 「ん? なんだね?」
(#^ω^) 「あなたは……なんで、僕を助けたんだお……!?」
何故だろう、怒りは自然と、心のそこから湧き出すように、僕の頭を支配していた。
そのまま……放って置いてくれればいいのに……機械の身体なんかに、なぜしたんだ……。
がなるような僕の声に、フッサールは怯えることもなく、さも愉快そうに、こう言った。
ミ,,゚Д゚彡 「ほう……? 君は、自分が今までどんな人間だか、覚えているのかい?」
(;^ω^) 「……えっ?」
言われて、気がついた。
僕は、自分の名前すらも、思い出せないということを。
121 名前:ブーンが機械になったようです :2006/03/05(日) 00:02:23.18 ID:au9Dv9fK0
ミ,,゚Д゚彡 「……ま、当然だな」
あからさまに、がっかりとした口調でフッサールが言った
ミ,,゚Д゚彡 「君の脳は、今じゃ半分が私の構築した人工ニューロンで出来ている
大した事は、腐った脳みそごとどっかに吹っ飛んでいるはずだからな」
(;^ω^) 「じゃあ……じゃあ……」
僕は、フッサールのその言葉に、全身が震えた。
身体は、機械になり、脳は、半分を人工物に取り替えられ、記憶は、ほとんどない。
ということは……僕は……!
ミ,,゚Д゚彡 「ああ、君はもうほとんど別人だと思った方がいいだろうな、外見以外は」
(;^ω^) 「そん……な……」
―――ガラ、ガラガラッ……
別に立っているわけでもないのに、足元が崩れるような感じがする。
僕は、僕であって、僕じゃない。じゃあ、僕はいったい、誰なんだ……。
ミ,,゚Д゚彡 「まあ、良かったじゃないか」
僕の落胆を他所に、フッサールは気楽にそう言った
ミ,,゚Д゚彡 「君の覚えている範囲での君は、死にたがっていたみたいじゃないか
こうして、すべてを別人となれたんだ、新しい人生を歩んでみてはどうだ?」
122 名前:ブーンが機械になったようです :2006/03/05(日) 00:11:37.07 ID:au9Dv9fK0
やさしく、ポンと僕の肩を叩く、フッサール。
だが、僕は首を横に振った。
ミ,,゚Д゚彡 「ん? どうしたんだ? まさか、まだ死にたいのかね?」
( ω ) 「僕は……」
―――ギヂッ、ギヂヂッ!!
手首を拘束する、鉄枷が、奇妙な音を立て始め、
( ω ) 「僕は……」
―――ギ……ギギィ……グ……グチィィッッ!!
ミ,,゚Д゚彡 「!? ……なっ……?」
鉄枷は、限界を超えた力に耐え切れず、粘土のように引きちぎれた。
そして、僕はカッと目を見開くと、宣言した。
( ^ω^) 「僕は……自分が誰なのか……知りたいお……!」
ミ,,゚Д゚彡 「…………」
(#^ω^) 「自分がどうして、死にたがったのかも知らずに、安穏と生きるなんて、真っ平だお!」
それは、不安をごまかす、虚勢の怒りだったのかもしれない。
でも、それでも、いい。僕は、僕が誰なのか、知りたいんだ……!
123 名前:ブーンが機械になったようです :2006/03/05(日) 00:19:05.92 ID:au9Dv9fK0
両手両足の拘束を、力任せに引きちぎり、起き上がる。
その光景に驚いたのか、フッサールは手術室の出口付近まで移動していた。
僕は、フッサールを追い詰めるよう、わざと威圧的に近寄った。
( ^ω^) 「身体をくれたこと、感謝するお……」
礼をいい、その後は、脅してでも、僕につながる情報を引き出すつもりだった。
だが、
ミ,,゚Д゚彡 「……意思は、固いようだね。内藤ホライゾン」
( ^ω^) 「内藤……ホラ……?」
ミ,,゚Д゚彡 「内藤ホライゾン。君の名前だ」
あっけなく、フッサールは僕の望んだことを教えてくれた。しかし、
ミ,,゚Д゚彡 「……正直に言おう。私と君には、縁があったんだ……」
( ^ω^) 「縁……?」
ミ,,゚Д゚彡 「ああ、だがこれ以上は教えるつもりは、ない」
そう言って、毅然とした態度で、出口を指差した。
ミ,,゚Д゚彡 「出て行きたまえ。君に残されたわずかな思い出と、その名があれば
君はいずれ真実にめぐり合うだろう。だが……」
一息
ミ,,゚Д゚彡 「現実は、きっと君に、優しくはない……それでも、行くのかね……?」
124 名前:ブーンが機械になったようです :2006/03/05(日) 00:25:25.26 ID:au9Dv9fK0
厳しいように聞こえるフッサールの言葉の影、そこには、やさしさがあるように、僕には見えた。
だから、僕は笑ったんだ。
( ^ω^) 「現実を無視するより、冷たくされてでも向き合いたいんだお」
ミ,,゚Д゚彡 「……そうか」
フッサールが、僕の笑顔に何を感じたのか、それはわからなかった。
ミ,,゚Д゚彡 「もし……現実と向き合えない時が来たならば、ここにきたまえ」
私が……君の記憶を消してあげよう……
( ^ω^) 「…………」
僕は、フッサールのその言葉を聞くよりも早く、手術室を後にした。
ミ,,゚Д゚彡 「願わくば……自分の過去につぶされないでくれよ……ブーン」
( ^ω^) 「さて……どこに行こう……」
つぶやいてから、気づく。
どこでもいいんだ。そこはきっと、僕の知らない風景なのだから……
−fin−
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