82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/30(月) 11:32:43.70 ID:3fTK76o90
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、ブーンは白い風のように走った。野原で酒宴の、
その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、
少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を
小耳にはさんだ。
( ・∀・)「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」
ああ、その男、その男のために僕は、今こんなに走っているんだお。その男を死なせてはならないお。
急げ、ブーン。おくれてはならないお。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがいいお。風態なんかは、
どうでもいいお。ブーンは、いまは、ほとんど全裸体であった。警察が追っかけて来たがそれも振り払った。
呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向うに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。
塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/30(月) 11:39:00.23 ID:3fTK76o90
ヽ|・∀・|ノ「ああ、ブーンさん」
うめくような声が、風と共に聞えた。
( ^ω^)「誰だお?」
ブーンは走りながら尋ねた。
ヽ|・∀・|ノ「ようかんマンでございます。貴方のお友達ドクオのネトゲ友達でございます」
その若いようかんも、ブーンの後について走りながら叫んだ。
ヽ|・∀・|ノ「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません」
( ^ω^)「いや、まだ陽は沈まないお」
ブーンは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/30(月) 11:40:22.76 ID:3fTK76o90
ヽ|・∀・|ノ「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。
刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、ブーンは来ます、とだけ答え、
強い信念を持ちつづけている様子でございました」
( ^ω^)「それだから、走るんだお。信じられているから走るんだお。間に合う、間に合わぬは問題でないお。
人の命も問題でないお。僕は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているお。ついて来るお! ようかんマン。」
ブーンは本当はドクオが信じていた事に感動した
ヽ|・∀・|ノ「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/30(月) 16:30:33.29 ID:3fTK76o90
>>84の続き
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、ブーンは走った。
ブーンの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。でもよくよく考えたらいつもそうだ。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに
最後の一片の残光も、消えようとした時、ブーンは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
( ^ω^)「待つお。くそみそはダメだお。ブーンが帰って来たお。約束のとおり、いま、帰って来たお」
と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、群衆は、
ひとりとしてブーンの到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、準備の整ったドクオは、徐々に入れられる体制に入ってる。
ブーンはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
( ^ω^)「僕だお、刑吏! 殺されるのは、僕だお。ドクオを人質にした僕は、ここにいるお!」
と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、入れられてゆく友の両足に、齧りついた。
124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/30(月) 16:45:45.38 ID:3fTK76o90
群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。ドクオの縄は、ほどかれたのである。
( ^ω^)「ドクオ」
ブーンは眼に涙を浮べて言った。
( ^ω^)「僕を殴ってほしいお。力一ぱいに頬を殴ってほしいお。僕は、途中で一度、
悪い夢を見たお。君がもし僕を殴ってくれなかったら、僕は君と抱擁する資格さえ無いお。殴るお」
ドクオは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くブーンの顔面を殴った。
(メ;^ω^)「顔面は痛いお」
殴ってから優しく微笑み、
('A`)「ブーン、俺を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。俺はこの三日の間、数えきれない程、
お前を疑った。でもお前は来た。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
ブーンは腕に唸りをつけてドクオの顔面を殴った。
(メ'A`)「そうか。顔面はやっぱり痛いな」
125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/30(月) 16:52:09.05 ID:3fTK76o90
( ^ω^)('A`)「ありがとう、友よ」
二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。暴君ショボンは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと
見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
(´・ω・`)「おまえらの望みは叶(かな)ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。
どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
人々「万歳、王様万歳。」
ひとりの少女が、緋のマントをブーンに捧げた。ブーンは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
('A`)「ブーン、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。
この可愛い娘さんは、メロスの裸体を皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
勇者?は、ひどく赤面した。
128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/30(月) 17:00:20.25 ID:3fTK76o90
その後、ブ−ン達はショボンと仲良くなった。ショボンは今までの事を深く反省するため、
王様という職業を辞め、本格的なバーボンハウスのマスターになった。ブーンとドクオは
VIP町に出来たバーボンハウスの支店で働く事になり、引きこもり、ニートから脱退した。
ブーンはツンと仲良く暮らしているようだ。ドクオは彼女募集中みたいだ。ショボンは今のままで
幸せらしい。そして俺は・・・いつでも空の上からお前らを見守ってる。俺が誰かって?
そんな事はどうでもいい。みんなが幸せならば
完
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