859 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 05:12:02.14 ID:m7BRbT1f0
―――のどが渇いた
暗い暗い部屋で、渇きとともに目がさめる
時刻は夜中の三時
ちょうどいい時間だ
( ^ω^)「食事に出かけるお」
窓をあけ、身一つで夜の空へと飛び立つと
黒いマントをはためかせ、今宵の犠牲者を探すため、赤い瞳を爛々と輝かせた
860 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 05:21:20.46 ID:m7BRbT1f0
いつからだろう?
のどの渇きを赤い血潮でしか潤せなくなったのは
もう覚えてもいない、はるか昔のことだということだけしかわからない
( ^ω^)「どうでもいいことだお」
つぶやき、空を飛んでいた自身の身体を霧へと変え
―――ブ、ブブブブゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウンンンンッッッ!!!
霧に変じた身体は次の瞬間、無数のハエへと変化していた
( ^ω^)「さて……粋のいい娘を探すお、我が分身達」
ハエの一つ一つが夜の街の隅々まで散らばり、獲物を探す
その感覚は普通の人間には理解できないものだった
幾つもの視覚、聴覚、嗅覚が、同時にごちゃまぜになって意識に入り込み
そのくせその一つ一つがどこのどんな場所なのかはきっちりと把握できるのだ
常人なら狂い死んでもおかしくない情報の海に、意識を浮かべ、ただひたすらに獲物を探す
( ^ω^)「みつけたお」
街の端。昼間でも人通りが少ないであろう閑静な住宅地に、獲物を見つける
―――夕餉の始まりだ
861 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 05:34:29.30 ID:m7BRbT1f0
―――人のいない夜の公園
ブランコに腰掛け、寂しげに揺らす少女が一人
「……はぁ……」
ため息は白く、10センチほど冷えた空気を泳ぎ、掻き消えていく
―――なんでだろうなぁ……
自問と共に、視線は足元のかばんへと注がれた
いや、その視線はかばんなどは見ていない
見ているのはその中身、渡せなかったチョコレートをじっと見つめていた
「バレンタインだからって……浮かれなけりゃよかったよね……」
今日、告白しようとした
昨日の深夜までかかって作ったチョコレートは、その意気込みの現れだった
―――もし、OKされたらどうしよう?
ベッドに入ってからも、ずっとそればかり考えていて少し寝不足気味だ
ドキドキして、わくわくして、迎えた今日の放課後
結果は―――言うまでもない
「はは……ホント、馬鹿みたい……あは、あはははははは……」
おかしいはずもないのに笑うのは―――辛い
でもきっと、辛くても笑っていなければ、笑えなければ、もっと辛いはず
そう思い込もうと、必死に自分に言い聞かせているときだった
863 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 05:43:59.65 ID:m7BRbT1f0
「? あれ……?」
目の前を一匹の大きなハエが通り過ぎていった
―――こんな寒い日に……?
虫もほとんど見なくなるこの季節、珍しいこともあるものだ、と
現実逃避気味にそのハエを視線で追う。すると、
―――ブ、ブブゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウンンンッッッ!!!!!!
「!?」
さっきのハエを囲むように、四方八方からやってきたハエが集まり始め
―――メチィ…メキ、パキ……プチップチッ……メチメチメチィ…………
ハエは中心に集まろうとする自分の力で、自分の体が崩れることも気にせず
さらにさらにと数を増やしていき、最終的には空中で黒い肉塊を作り出し、そこから
―――ズルンッ!
「…………ッッ!?」
( ^ω^)「やあ、こんばんわ、だお」
黒いマントを着込んだ男が、肉塊の中から這い出してきた
864 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 06:00:32.33 ID:m7BRbT1f0
―――え? 何? 何なの…………!?
目前で起きた異常事態は、たやすく思考力を奪い、現実感を喪失させていく
―――……きっとこれは夢なんだ! ショックでとんでもない夢を見てるんだ!!
そうとしか思えない、思いたくない、そう思おう、と身体をこわばらせながら、言い聞かせる
しかし、夜の空気の冷たさは、その妄想をあっさりと打ち砕き
( ^ω^)「夢なんかじゃないお?」
「……っ!!」
男の手が肩に乗ったところで、完全に妄想は消えてしまった
ガタガタと全身が震えるのが理解できる
当然だ、誰があんなものを見て平然としていられるだろう
「あ、あなたは……なんなんですか……?」
平静を保とうとして、選んだ言葉はそれだった
間抜けな質問だと思う
まともな答えなんか期待できないのに、なぜ聞いてしまったのだろうか
( ^ω^)「……ぼくかお?」
男は、そんな少女の動揺を感じ取ったのか、さも愉快そうに微笑み
( ^ω^)「ぼくは、吸血鬼・内藤ホライゾン、だお」
「!!」
口元の牙を光らせた
870 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/15(水) 06:26:16.11 ID:m7BRbT1f0
「吸血……鬼……?」
( ^ω^)「そうだお」
―――そんなの、信じられない……
フィクションのお話の中だけにしか存在しない生物
それを自称されて、そうやすやすと信じられるわけがない
しかし、先ほどの常軌を逸した現象は、そんな荒唐無稽な話にも説得力をもたせていた
そして、考える
―――もし、この男が本当に吸血鬼だったら……
「それじゃあ……私は、どうなるの……」
自分で結論を思いつく前に、尋ねる
思いつきそうになった最悪のシナリオを、せめて本人から否定してほしい
そんな儚い希望を込めての質問だった。しかし
( ^ω^)「決まってるお? 僕は君の血をすすりにきたんだおw」
―――ああ、やっぱり……
男の浮かべるいやらしい笑いは、この上なく不快なものだった
その2へ
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