292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/12(日) 04:09:06.45 ID:wLqwRmrL0
何故なんだろう。
何故出会ったばかりの、名前も知らない女にこんなことを話しているんだろう……。
内藤自身にも分からなかった。
女のペースに引き込まれたからかも知れない。
もしかしたら、内藤自身が、誰かに話してしまいたかったのかもしれない。
内藤は自分でも気付かないまま、独白じみた話を続けた。
( ^ω^)「僕は一人だお。だから、人目を避けて野宿したお。誰も来ないところまで逃げてきたお。
君が来たのには驚いたけど……」
ξ゚听)ξ「……」
女は内藤の語りを黙って聞いている。
掛ける言葉が無いのか、呆れているのかは分からない。
でも内藤にはそれでよかった。
誰かに話すことで、自分の言葉を、意思を、確かめたいのだろう。
( ^ω^)「……この旅の中で思い知ったお。
人は一人じゃ生きていけないなんていうけど、そんなの嘘だお。
一人でも十分生きていけるお。
誰の迷惑になるとか、誰かが嫌いだとか、そういうこと考えることもないお。
楽なんだお。生きていくのが。
親しい人がいなくなって悲しくなるなんてことも、全然ないんだお。
僕はこれから先も一人だろう。
一人で生きて、一人で納得して、一人で死ぬお。
それが、この旅で見つけた、僕なりの答えなんだお」
293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/12(日) 04:09:42.43 ID:wLqwRmrL0
内藤の独白は終わった。
内藤の声が響いていた小屋の中は、また雨の泣き声でいっぱいになった。
何も言わない女に、内藤は満面の笑顔を見せた。
だが、その顔を向けられた女には、その笑顔は渇き、しかし今にも涙が堰を切って流れてしまいそうな、そんな哀れな顔にしか見えなかった。
女は一瞬哀れそうな顔をしたが、すぐさま能面のように無表情な顔になった。
ξ゚听)ξ「……あんたさ、そんな風に生きてて楽しい?」
( ^ω^)「……楽しいお」
ξ゚听)ξ「本当に?」
( ^ω^)「……ほ、本当だお……」
ξ゚听)ξ「嘘ね、それ」
( ^ω^)「……う、嘘じゃないお!」
ξ゚听)ξ「……あんた、ここに来たとき、一人だったわよね」
( ^ω^)「そ、そうだお……」
ξ゚听)ξ「寂しいとは思わなかった?」
( ^ω^)「!」
内藤は体をびくりとさせた。
図星だった。
確かにこの小屋に来てベンチに座ったとき、寂しいと一瞬でも思ってしまった。
ξ゚听)ξ「あたしはね、寂しいと思うわ」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「だってそうでしょ?
こんな薄暗くて、周りには何も無くて、一人じゃこんなにも広い小屋。
あたしは寂しいと思うわよ。
外はまだ森もあるし、小鳥は飛んでるし、木陰には虫たちも影を潜めてる。
それなのに、それすらも閉ざされたこの小屋が、寂しくないわけないじゃない」
294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/12(日) 04:10:08.45 ID:wLqwRmrL0
一旦、言葉をとめて内藤を見る。
内藤の顔に笑顔はもう、ない。
そこにあるのは、必死に自分を大きく見せていた毛を全て刈り取られた羊のような、
哀れな素顔だけだった。
ξ゚听)ξ「……人は一人でも生きていけるって、言ったわよね」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「確かに、それは嘘じゃないと思うわ。誰にも頼らず、人間は生きていける。
でもそれって、生きていけるだけだと思う。
人間、一人じゃ寂しいに決まってるじゃない」
( ^ω^)「……」
女の一言一言が、必死に造り上げていた自分の心の壁を削り取っていく。
初めて出会い、話しただけの女に、何故ここまで……。
ξ゚听)ξ「あたしはそう思うから、率先して話しかけるわ。
今日あなたに話しかけたように。
……さっき、あんたは、まるで自分に言い聞かせるように話してたわよね。
あたしだって一緒。
一人は嫌だ。一人じゃ寂しい。
だから、自分に一人じゃないと言い聞かせるように、あんたに話しかけたの。
こうやって話してるのも同じね。あたしは自分に言い聞かせてるんだわ、きっと」
( ^ω^)「……そ、それは……」
ξ゚听)ξ「え?」
( ^ω^)「それは、違うお……」
内藤は口を開きながら、ついに分かった。
なぜ女の言葉が、何年もかけて作り上げてきた内藤の心の壁を、いとも簡単に削り落とせるのかを。
295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/12(日) 04:11:29.73 ID:wLqwRmrL0
女も、内藤と一緒なのだ。
一人なのだ。
ただ、立っている場所が違っていただけのこと。
内藤は、初めからこの小屋の中で、身を縮めて何も見ないようにしていただけだった。
女は、外に広がる大自然の中で、自分より大きなものにぶち当たっていたのだ。
内藤は、初めて人が恋しいと思った。
恋愛感情とか、そういうものじゃない。
誰かが傍にいることの幸せが分かったのだ。
自分の声を聞き、返してくれる相手がいることの嬉しさが、分かった。
( ^ω^)「僕らは、話を、してるんだお……」
その言葉を聞いた女は、恥ずかしそうに顔を赤らめたが、だが嬉しそうに内藤に頷いてみせた。
二人は、どちらからともなく、手を差し伸べていた。
繋いだ手の温かさは、二人にとって、一番の会話だった。
ξ゚听)ξ「雨、やっとやんだわね。もうずーっと降り続くかと思ったじゃない」
( ^ω^)「やまない雨なんて、ないんだお」
日の光が見えた。
今はまだ暗雲も残っているが、じきに消えるだろう。
ξ゚听)ξ「……じゃ、あたしはこっちだから……」
296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/02/12(日) 04:11:51.44 ID:wLqwRmrL0
女は内藤の来た道を指差す。
そこには、内藤が強く踏みしめてきた足跡が幾つか残っていた。
( ^ω^)「……あ、あの……」
ξ゚听)ξ「な、なによ……」
( ^ω^)「もし、良かったらだけど……」
ξ゚听)ξ「だ、だから、何なのよ……」
内藤は、足跡がついていない道を指差しながら言った。
( ^ω^)「一緒に、こっちに行かないかお……?」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「あ、い、嫌だったらいいんだお! じゃ、じゃあ僕は行くお!」
そう言い残し、走り出そうとする内藤。
だが、女は大声でそれを止めた。
ξ゚听)ξ「だ、誰も行かないなんて言ってないじゃない!」
( ^ω^)「……え?」
ξ゚听)ξ「だ、だから、あんた一人だとまた変なこと考え出しそうだし、
一緒に行ってあげてもいいっつってんのよ……!」
( ^ω^)「あ、ありがとうだお……」
ξ゚听)ξ「べ、別にお礼なんて言われることじゃないわよ!
あたしはあたしがそっち行こうと思ったから行くだけなのよ!」
( ^ω^)「それでも……僕にはとても嬉しいんだお……」
ξ゚听)ξ「ば、バカ……」
二人は歩き出した。
今まで独り言しかなかった二人の旅も、
ようやく応えてくれる人が、見つかった。
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