611 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 11:59:37.30 ID:4cj+10080
昨日まで降り続いていた雪はもう降っていない。
青く晴れた空に浮かぶ太陽を背に、二人の学生が雪を踏みしめ前に進む。
('A`)「うぇ、歩きづらくてしょうがねぇ……土日でこんなに積もるなんてなぁ」
( ^ω^)「でも今日はいい天気だお。きっともうすぐ春だお」
('A`)「2月だしな。俺らもいよいよ卒業間近、か」
( ^ω^)「うん、卒業の季節だお。ドクオとこの校門くぐるのもあとちょっとかと思うとさみしくなるお」
校舎を見上げる二人。てっぺんのでっかい時計の分針がカチリ、と動いて8時ジャストを指す。
チャイムが鳴る。遅刻決定。でも二人は慌てない。
( ^ω^)「いつものことだお」
('A`)「だな、いつものことだ」
二人は学生服を風になびかせて、昇降口へと走っていく。
揺れる風の匂いは、もう、春。
【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】
「アメリカへ行く、ですってえええええ!!!?」
612 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:02:45.31 ID:4cj+10080
ξ゚听)ξ「ちょっとブーン!聞いてないわよ!!」
( ^ω^)「あうあう……」
('A`)「落ち着けよ、ツン。」
驚きと怒りを隠せないツン、あうあうするブーン、そしてそれを眺めるドクオ。
ここは学校の屋上。屋上は本来立ち入り禁止だが、三人は昼休みいつもここで昼食をとっている。
ξ゚听)ξ「だって……なんでアメリカになんか」
( ^ω^)「ロケットの研究しにいくんだお。日本はアメリカみたいに広い土地がないから不利だお」
ξ゚听)ξ「ろ、ロケットって、あんたの頭でそんなの出来るわけないじゃない!」
('A`)「あのさ、ツン。ブーンの奴、最近滅茶苦茶勉強してるんだぜ。」
ξ゚听)ξ「え」
('A`)「留学語学検定もパスしたし、すげーよな」
ξ゚听)ξ「嘘、そんな訳……だって、なんで……ブーン……」
ツンがブーンを睨みつけたまま動かない。と、その時、予鈴のチャイムが聞こえてきた。
( ^ω^)「そ、そろそろ授業が始まるお! ブーンは先に教室行ってるお!!」
ブーンは慌てて身体を起こすと、一目散に校舎の中へと走っていった。
ξ゚听)ξ「ブーンの、バカ……。」
613 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:04:29.10 ID:4cj+10080
ツンはブーンを追いかけることができず、フェンスにもたれるようにして立ち尽くす。
ドクオは屋上の床に座り込んだまま、ツンの横顔を眺める。
ξ゚听)ξ「……ドクオは、いつからブーンの留学のこと知ってたの?」
('A`)「だいぶ前かな。ツンには黙っててくれ、ってブーンに頼まれてた」
ξ゚听)ξ「どうして……」
('A`)「ツンが知ったら心配するから、って言ってたぜ。あいつはあいつなりに考えてんだよ」
ドクオはツンから視線を逸らし、フェンス越しに遠くの山を眺める。
ツンは正反対の方向を向いたまま動かない。
('A`)「……ツンは桜丘学園への推薦進学が決まってるだろ、俺は情報技術の専門学校へ。」
('A`)「んでもってブーンがアメリカ。……みんな違う道を歩いてくんだよ。当然のことさ」
ドクオは持っていたコーヒーを飲み干す。すっかり冷めていて、苦い。
('A`)「さ、そろそろ行こうぜ、ツン。授業始まってる。きっとブーンだって心配してるぜ……って、ツン?」
ξ゚听)ξ「ドクオ、あんたちょっと先行ってなさい」
ツンの頬から何か零れたような気がした。
614 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:06:26.13 ID:4cj+10080
放課後、4時20分、教室。
多くの生徒がざわつきながら教室を出て行く中、一番騒いでいたのはツンとブーンだった。
( ^ω^)「ツン、留学のこと話してなくてごめんだお……。許してほしいお」
ξ゚听)ξ「もう気にしてないって言ってるでしょ! これ以上何か言ったらぶんなぐるわよ!!」
( ^ω^)「ほんとにほんとかお?」
ξ゚听)ξ「だーかーらー、もうやめてよ!! あたしもう帰……」
( ^ω^)「ちょwww待つおwww」
どんがらがん、と机を押しのけてツンが教室の出口を目指す。
ブーンがそれをタックルで捕まえる。
ξ゚听)ξ「ちょっ……は、は、放しなさいブーンっ!」
( ^ω^)「いやだお! ツンと喧嘩したままなんていやだおー!」
ξ゚听)ξ「ひぁ、ちょっ、どこ触って……」
( ^ω^)「ツンー!」
ξ゚听)ξ「いやああああああ!!」
教室の中に居る生徒数は少なくなっていたが、その全ての視線がツンとブーンに集まる。
ただ一人、ドクオだけは、その喧騒を背にして窓の向こうの青空を眺めていた。
('A`)(ツン、もう大丈夫みたいだな。ち、いらねぇ心配しちまった)
('A`)(全く似合いのカップルだぜ……あいつらなら、離れても大丈夫だな)
('A`)(あーあ。羨ましすぎて俺には見れねーよ)
615 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:07:54.63 ID:4cj+10080
・・・
('A`)「バレンタイン?」
( ^ω^)「そうだお。明日はバレンタインだお。今年もツンのチョコが食べたいお」
ブーンとドクオは、ツンと校門で別れた後、二人並んで下校していた。
雪が溶けかかっている。歩くには注意が必要だ。
('A`)「あーあ、貰えるって確定してる奴はいいよな。俺には関係ねーよ」
( ^ω^)「きっとドクオも誰かからもらえるお」
('A`)「無いな。俺を誰だと思ってる? 天上天下唯我独尊、天涯孤独のドクオ様だぜ。」
( ^ω^)「それもそうだお」
('A`)「肯定すんな」
ふぅ、とドクオはため息をつく。
('A`)「そう、天涯孤独のはずの俺なんかが、ブーンやツンと友達になれたのが奇跡みたいなもんさ」
( ^ω^)「奇跡なんかじゃないお。むしろ運命だお」
('A`)「かもな。つーかブーン、お前よくそんな恥ずかしい台詞さらっと言えるな」
( ^ω^)「む。ドクオがいつも恥ずかしい台詞ばっか言ってるから、それがうつったんだお」
('A`)「そっか?」
( ^ω^)「だお。」
616 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:10:19.89 ID:4cj+10080
――俺は孤独と共にある。
元々俺は小さい頃から、人付き合いを拒んで生きてきた。
その上、親父とおふくろは中学1年の時に逝っちまった。
俺にとって、完全な孤独の訪れだった。
俺に残されたのはやけに広い部屋と高額な保険金。
親戚連中は金目当てに俺を引き取ろうとしたが、俺は拒否した。
しばらくの間、薄暗いリビングに引きこもる日々が続いた。
空しさは感じていたが、悲しみは感じなかった。
映画やアニメ、小説、教科書。それらを読むだけで一応満たされていた。
そんな訳で、中学2、3年はまったく学校に行かなかった。
高校受験を受けたのは、単なる気まぐれだ。
学校なんざ行かなくてもトップレベル校に行けるってことを証明してやろう、っくらいのモンだった。
('A`)「――で、受かって、お前らと同じクラスになった、って訳だ」
( ^ω^)「ん? ドクオ、今なんか言ったかお?」
('A`)「うんにゃ、別に。」
617 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:11:24.73 ID:4cj+10080
('A`)「じゃあな、ブーン」
( ^ω^)「うん。ドクオ、また明日だお。」
ブーンの家はドクオの家よりももう少し向こうにある。
ブーンはドクオにふりふりと手を振ると、超高速で路地を駆けていく。
('A`)「ったく、あいつも変わんねぇな。ガキみたく走りやがって」
ドクオはブーンの姿が消えるまで、それを見届ける。
('A`)「……そーいや、あの日もあいつはああやって両手を広げてたってか」
――3年前、高校入学式の日
618 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:14:28.76 ID:4cj+10080
ドクオは家の鍵をかけ、振り返り、薄く光る朝日を睨みつけた。
('A`)(ったく、こんな朝日を見るのは久々だ……。眠くてしょーがねぇな)
('A`)(ま、入学式くらいは出てやるって決めたし、一応行かないとな)
そんなことを考えながら、ドクオは路地にでてふらふらと歩き出す。
('A`)(あー、しかし、このままだと遅刻だな……ま、いっか……)
と、その時だ。
「うわああああああああああ、だおー!!!」
('A`)「!? ……な、なんだこの声!!? 背後から……」
ド ド ド ド ド ド ……
(;^ω^)「ちこくちこく! ちこくだおー!!」
('A`;)「!!?」
学生服を着た物体がありえない速さでドクオに突っ込んでくる。
(;^ω^)「そ、そこの人どいて欲しいお! ブーンは急には止まれないお!!」
('A`;)「ちょっ……おまっ……こっち来るなぁぁぁ!!」
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!』
どっかーん!
619 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:16:17.30 ID:4cj+10080
('A`)「――で、ぶつかって、一緒に遅刻して、一緒に怒られて……」
ガチャッ
('A`)「……なんだかんだで仲良くなっちまった」
ドクオは家の鍵を開け、リビングへと入る。
部屋の中は薄暗く、ドクオは壁のスイッチを押して明かりを点ける。
広いテーブルの上の、朝片付け忘れたカップラーメンの容器がライトアップされる。
('A`)「ま、俺は天上天下唯我独尊、天涯孤独のドクオ様。」
ドクオは独り言を言いながら、
カバンをソファーに投げ捨て、パソコンをつける。
('A`)「ブーンが変わり者だったから良かったが、また4月からは、孤独な日々の再開だろうな」
パソコンに向かうドクオ。
自分が孤独な人間だと悟った者だけが持つオーラが、そこに漂っていた。
620 名前:【ブーン達が別れの季節を迎えたようです】 :2006/03/15(水) 12:18:48.36 ID:4cj+10080
( ^ω^)「朝だお! おはよーだお! & バレンタインだおーーーーーーー!!!!」
ξ゚听)ξ「まったくもう、はしゃいでるんじゃないわよ、ブーン」
( ^ω^)「ツン! おはようだお。そしてハッピーバレンタイー ぷぉぁ!?」
ずばしん!
ブーンが勢いをつけてツンにルパンダイブしようとした所を、
ツンのカウンターパンチがブーンの顎を直撃し、ブーンはふっとばされてロッカーに叩きつけられた。
ξ゚听)ξ「朝から抱きつこうとしないでよ、この変態アメリカかぶれ」
( ^ω^)「ちょwwwツンwwwひどいおwww」
ξ゚听)ξ「知らないわよ。眠いんだから話しかけないでくれる?」
( ^ω^)「ん? 何で眠いんだお?」
ξ゚听)ξ「べ……別に何でもないわよ!! 徹夜でチョコ作ってたからなんて言える訳ないでしょ!!!」
・ ・ ・ 。
('A`)「……ツン、言ってるぞ」
静かになる教室の中で、ドクオが冷静にツンにツッコミを入れる。
ツンの顔面がオーブントースターみたいに赤くなっていく。
ξ゚听)ξ「え、あ、う……。ぶ、ブーンのばかー!!」
強烈なかかと落としがブーンの右肩を打ち砕き、ブーンはその場に倒れた。
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