97 名前: ◆oNwoV/bH1k :2006/03/04(土) 23:05:33.10 ID:pt4I9DMi0
深夜二時。所謂、草木も眠る丑三つ時ってやつです。
ブーンのあだ名で知られる内藤ホライゾン君は、こんな時間にお腹が空いてしまいました。

( ^ω^)「カニ食べたーい」

どうやら、ただ単純にお腹が空いたのではなく、「カニを食べたい」という欲求が爆発したようです。
肉でも魚でもなく、あくまでもカニ。ブーンの頭の中は、カニを食するということで一杯です。

夜中に急に何かを食べたくなるのって、非常によくあることですよね。
でも、一人暮らしで貧乏学生の彼に、美味しいカニを買えるだけのお金はありません。
しかし、お腹はくうくう鳴る一方。
どうにもこうにも、ブーンは考えを巡らせます。

( ^ω^)「あ、カップラーメンならカニが入ってるかもしれないお」

ブーンは自分でも素晴らしい閃きだと、思わず顔がにやけます。
貧乏学生御用達の食品、カップラーメン。確かに、その種類は非常に豊富です。
中には海鮮系のものもありますから、カニが入っていてもおかしくないでしょう。

ブーンはこうしてはいられないと、財布と上着を持って家を飛び出します。
その慌てっぷりは、ついつい鍵をかけ忘れるぐらいでした。


98 名前: ◆oNwoV/bH1k :2006/03/04(土) 23:06:05.31 ID:pt4I9DMi0
ブーンは家から一番近いコンビニへと走ります。
幸いなことにそのコンビニは二十四時間営業で、この時間でもちゃんと開いていました。
ブーンは自動ドアが開く間すらじれったくて、ついつい地団駄を踏んでしまいます。

「いらっしゃいませー」

( ^ω^)(おお、店員さんまでカニに見えるお)

どうやら、ここまで来てブーンの「カニが食べたい」という欲求は最高潮のようです。
店員さんの頭がカニに見えるという、おかしな幻覚すら見えています。
これで実物を目の前にしたら、一体どうなってしまうのでしょうか。

店内に駆け込むと、ブーンは一直線にカップラーメンの棚を探します。
一番右端、入り口から最も近い棚には雑誌が置いてあります。
普段ならついつい視線が向かってしまう成人雑誌のコーナーも、今のブーンは素通りです。

次は、二番目の棚。
どうやら、この棚は髭剃りやワイシャツなど、生活用品が置いてある棚のようです。
靴下に穴が空いて困っていたブーンですが、今はこの棚も外れでしかありません。

そして、三番目――

( ^ω^)「あったお!」


99 名前: ◆oNwoV/bH1k :2006/03/04(土) 23:06:24.37 ID:pt4I9DMi0
ブーンはついつい大声を出してしまい、少しだけ顔が赤くなります。
ですが、それもつかの間。
とうとうカップラーメンを見つけたブーンにとって、そんなことは小さなことに過ぎません。旅の恥はかき捨て、というやつです。

ブーンは早速カップラーメンの棚を品定めします。
置いてある棚を見つけることはできましたが、重要なのはカニが入っているかいないかです。
ブーンはまるで体操でもしているかのように、体を縦横無尽に動かします。
その表情は、真剣そのものです。

( ^ω^)「おっ、これは…」

そこで、ブーンは一つのカップラーメンを手に取ります。
商品名は「まんぞく海鮮ラーメン」。
ありきたりな名前ですが、ブーンは名前に惹かれてこれを選んだわけではありません。
ブーンが気になったのは、蓋に書かれていた煽り文句。
そこには、「カニ20%増量」と書かれてありました。

( ^ω^)「(きみに決めた)」

ブーンは誰にも聞かれないよう、小声でカップラーメンに呟きます。
そうして、ブーンは意気揚々とレジに向かって行きました。


100 名前: ◆oNwoV/bH1k :2006/03/04(土) 23:06:46.34 ID:pt4I9DMi0
ブーンは軽やかにぽん、とカウンターの上にカップラーメンを置きます。
嬉しそうに上着から財布を取り出しますが、何故かいつまで経っても店員さんが値段を教えてくれません。
どうしたものかとブーンが思っていると、店員さんが震えた声で喋り出しました。

「お客さん…よくこんなもの買えますね…」

( ^ω^)「へ? は、はあ」

すると、店員さんの肩がわなわなと震え出しました。
なんだか、怒っているみたいです。

「私の姿を目の前にして! よくこんなもの買えますねっ!!」

店員さんが勢い良くカウンターを叩きます。
ブーンは驚いて眼を見開きますが、店員さんが何を言っているかはわかりませんでした。

(;^ω^)「あ、あの…よく意味がわからないんですがお…」

「何言ってんですか! 思いっきり書いてあるじゃないですか!」

そう言って、店員さんはカップラーメンの蓋を指差します。

i i「思いっきりカニって書いてあるでしょうが!!」
(;^ω^)「ええっ!?」


101 名前: ◆oNwoV/bH1k :2006/03/04(土) 23:07:23.97 ID:pt4I9DMi0
ブーンは思わず腰が抜けそうになるほど驚きました。
自分の幻覚だと思っていましたが、店員さんの頭は本当にカニだったのです。
カニの店員さんは目をぱちくりさせているブーンに、さらにまくし立てていきます。

i i「あなた、これを見て私がどう思うか考えなかったんですか!?」
(;^ω^)「あ、す、すいません…」

ブーンは店員さんの迫力にたじろぎ、ついつい謝ってしまいます。
実際は「だったら置くなよ」という話なのですが、ブーンはびっくりしてそれに気付くことはありません。

i i「言葉よりも態度で示してくれませんか?」
(;^ω^)「は、はい」

ブーンは店員さんに見えるように、カニの入ったカップラーメンを棚に戻します。
そうして、ブーンが代わりに持ってきたのは豚肉の入ったカップラーメンでした。

i i「198円になりまーす」

ブーンは言われるがままにお金を払い、コンビニを後にしました。
帰り道、カップラーメンの入ったビニール袋のがさがさという音が、なんとも寂しく聞こえています。
ブーンは家に着くまでの間、まるで夢でも見ているんじゃないかという気分でした。

家に着くと、ブーンは無言でカップラーメンにお湯を入れ、無言で三分間待ち続けます。
出来上がったラーメンは、とりあえずブーンの空腹だけは満たしてくれましたとさ。


終わり


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