162 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/14(日) 08:33:28.63 ID:vPBBCqElO
小学生になったばかりの少女が、道をテクテク歩いている。
ぴかぴかの赤いランドセルに真新しい黄色い通学帽。
そして、希望に満ち溢れた表情は、見る者に笑顔を与えるだろう。

その少女が何かに気付き、後ろを振り向いた。
遥か遠方から、猛スピードで近づいてくるトラック。
少女の希望に満ちた表情が消え、無表情に変わった。
心が恐怖に凍り付いた時、人は感情を失うという。
少女は眼前に迫るトラックを、ただぼんやりと見つめていた。

――トン。

少女の身体がよろめき、すぐ真横をトラックが通り過ぎる。

「……ふえ?」

少女の口から戸惑いの声が洩れた。
が、すぐに気を持ち直し、少女は再び学校へ向けて小走りに駆けていった。



163 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/14(日) 08:34:56.08 ID:vPBBCqElO
無残にひしゃげ、黒煙が立ち上るトラックの下から、黒いマントを来た男が這いずり出て来た。

(;メ^ωメ)「ひ、ヒドイ目にあったお……」

のんびりとした口調なのだが、
その男は片腕が千切れ飛び、もう片腕は腕と言えないほどグチャグチャに変形していた。
顔が半分が潰れ、下半身の存在が無くなり、臓物をズルズルと引き摺るその男を、
興味深げにトラックを眺めるギャラリー達は気にも留めない。
男の姿は、皆には見えないのだ。

次第に、ビデオの巻き戻しのように男の身体が再生してゆく。
いずれ身体が完全に元通りになると、
男はマントの内側に手を突っ込み、手帳を取り出して捲ると、溜め息を吐いた。

男の名前は、内藤ホライゾン。
職業は、死神。



164 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/14(日) 08:36:06.07 ID:vPBBCqElO
内藤の手帳には少女の写真に、名前、死因、特記事項が書かれていた。

名前は渡辺菜尼香。
死因は老衰。
特記事項は【大凶性不幸障害】。

(;^ω^)「まさか、ここまで不幸だとは……」

不幸障害は霊界で決められた症状で、
いわゆる『運の悪い人』という事で、五段階に分けられる。

その中でも大凶性不幸障害は霊界の中でも極僅かにしか確認できない程、稀有な症例だった。

(;^ω^)「まぁ、仕事だからやるしかないお」

死神の仕事は、人間それぞれに決められた死因を守り、魂を霊界に運ぶ事。
他にも色々する事はあるが、今の内藤に他の仕事をする余裕はない。
死ぬ運命にない魂を運ぶと、減給対象になるのだ。

内藤は、再び溜め息を吐くと、渡辺の跡を追った。



165 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/14(日) 08:37:41.55 ID:vPBBCqElO
それからの渡辺にはやはりこの世の不幸が全て襲い掛かってきた。

階段から落ちかける所を支えてあげた。
頭上から落ちてくる植木鉢は内藤が渡辺の代りに受けた。
やくざの抗争に立ち合わせた時は、マシンガンに蜂の巣になりながらも庇った。
渡辺が銀行強盗の人質になった時もあった。
だが、それほどの不幸に見舞われても、
渡辺は自らの境遇に嘆かない渡辺の天性の朗らかさがあった。

数多くの友人、内藤に支えられ、渡辺の生涯は不幸続きだったが、
本人は幸せを感じていただろう。

――そして現在、渡辺は使い慣れた自分のベッドで最期の眠りにつこうとしていた。
次の朝日を、渡辺が見る事はない。
内藤はベッドに近付き、寝息を立てる渡辺に優しく声を掛けた。
内藤の、最後の仕事だ。

( ^ω^)「渡辺さん、起きるお」



166 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/14(日) 08:40:03.79 ID:vPBBCqElO
ムクリと渡辺の霊体が肉体から起き上がった。
内藤の姿を見て、不思議そうに首を傾げるその姿は、かつて見た希望に満ち溢れた少女。
渡辺はベッドに横たわる自分を見、全てを悟った。

「私、死んじゃったんですねぇ?
馬鹿だから地獄逝きなんですかぁ?
ふえぇ……」

べそをかき始めた渡辺の頭に、内藤が手を乗せた。

( ^ω^)「良い事を教えてあげるお。
――実は、頭のいい人よりも、少しは馬鹿の方が、天国には逝きやすいんだお」

なんで、どーしてと矢継ぎ早に尋ねる渡辺の霊体が、徐々に浮かんでゆく。

「天使さん、今まで護ってくれてありがとう!」

渡辺は、最後にそう叫び、手をブンブン振りながら空に消えていった。



167 名前:( ^ω^)は死神のようです。 :2006/05/14(日) 08:42:50.13 ID:vPBBCqElO
今、内藤の目の前には、魂の抜けた老婆の遺体。
明日になれば、家族が気付き、大騒ぎになる。

葬儀には沢山の人が集まるだろう。
沢山の人が故人を悼み、涙するだろう。
沢山の人が故人の不幸話に笑うだろう。

渡辺菜尼香。
享年九十八歳。
死因、老衰。

(;^ω^)「僕は、死神だお……」

内藤は呟き、幸せそうに目を瞑る老婆の枕元から静かに去った。

内藤の表情には、仕事をやりとげた満足感が浮かんでいた。

終わり


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