393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/17(金) 23:32:17.48 ID:mQ59skQe0
彼は唐突に話を始めた。

('A`)「なぁ、メンマってあるだろ? よくラーメンに入ってるやつさ」

それまでの行動はメンマを連想させるものではなかったし、
もし連想していてもわざわざ口に出すようなことじゃないと思う。

だから、僕は聞いてみた。

( ^ω^)「……うん、それで?」

('A`)「凄いと思わねぇ?」



訳がわからない。

美味いとか不味いとか、せめて味に関するものなら理解も出来る。
だが『凄い』とは? メンマのどこがどう『凄い』のか。
その結論を出した理由を聞いてみる。




394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/17(金) 23:32:32.14 ID:mQ59skQe0
( ^ω^)「なんでだお」

('A`)「メンマってさ、よく残す人がいるよな」

一見関係ない話題へ飛んだようだが、ドクオはよくこうして別の場所から物事を進める癖がある。
そのことを良く知っていた僕は特に何も言わず話を聞いていた。

('A`)「味が嫌、色が嫌、歯ごたえが嫌。まぁ理由はさまざまだ」

こうなったドクオはほかの事をまったく気にしなくなる。
話を聞いてほしいのではなくただ喋りたいだけだからだ。
だから僕が話を聞き流しながらコーヒーを飲んでいても、彼が気を悪くすることは無い。

('A`)「他の具と見比べても特に豪華なわけでもない。特に健康に良いわけでもない」

鞄の中から読みかけだった文庫本を取り出す。
たしか主人公がヒロインに告白するかどうかという場面だったはずだ。

('A`)「だが、メンマがラーメンのイメージから消えることは無い。
   必ずと言ってもいいほどラーメンにはメンマのイメージが付いて回るんだ」




395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/17(金) 23:32:47.06 ID:mQ59skQe0
恋愛小説というものはあまり読まないのだがなかなかどうして。
ツンも良作を選んでくれたのだろうが、ここまで話に入り込めたのは久しぶりだ。

('A`)「ここまで言ったら分かるだろ?
   あまり秀でたところが無いメンマが、ここまで日本人の意識に根付いているんだ」

青春特有の甘酸っぱい葛藤。
単純に見えて実は複雑に絡み合っている人間関係。
目は勝手に文字を追い、手は勝手にページを捲る。

('A`)「理由なんて考え付きもしない。これは凄いとしか言いようが無いだろう?」

( ^ω^)「……理由なんて、簡単なことだお」

架空の少年は無事に告白を終えた。
架空の少女は返事を出してはいないが、ツンが薦めるくらいだ。ラストではきちんと両思いになるのだろう。

('A`)「へぇ? どんな理由なんだよ」

残りのページはほとんど残っていない。
ここからは、クライマックスへ向けて展開は収束していく。




396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/17(金) 23:33:03.52 ID:mQ59skQe0
( ^ω^)「理由は――――凄いから」

架空の世界で少年が少女を追いかける。
ちっぽけな力を使って、愛する存在を助けに向かう。

そこで僕は本を閉じた。

( ^ω^)「それ以外に、理由なんていらないお?」

少しぬるくなったコーヒーを一気に飲み干す。
砂糖も何も入れていないそれは、苦い大人の味がした。

('A`)「……は、それもそうだな」

ドクオは少し笑って自分の紅茶を啜る。

( ^ω^)「じゃあ、そろそろ帰るお」

('A`)「おう。また明日な」



397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/17(金) 23:33:18.25 ID:mQ59skQe0

鞄を持って椅子から立ち上がる。
財布から出した代金は、コーヒー一杯で250円。
ドクオのやる気の無い挨拶を背にドアをくぐった。

( ^ω^)「今日の晩御飯は何かおー?」

ここは『喫茶VIP』

いろんな人間と、いろんな話が行き交う場所。
今回の話は「メンマ」のお話。
次回の話はまだ未定。

もし話が語られることがあれば、軽快な鈴の音とドクオのやる気のない挨拶が迎えてくれるでしょう。


('A`)「いらっしゃいませー。ご注文は?」


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