171 :( ^ω^)殺人クラブ:2006/04/07(金) 21:44:53.64 ID:p9D9a3mVO
体中の筋肉が軋む。
肺が破れそうだ。
脇腹が痛い。
だが、僕の速度は弱まらなかった。

早くしなければ。
早く殺されなければ。

着いた先は、僕の教室。
嘘つき女が語った、悪魔の憑いた場所。

弾む息を整え、僕は教室の戸を開けた。

「遅いよ、内藤」

月下美人。そんな花があった。
現物は見た事が無いが、きっと美しい花なんだろう。
目の前に座る、少女のように。
彼女の整った目鼻立ち。
薄く紅がかった唇。
美しい巻き髪。
全てが月の祝福を受けている。
それはまるで一枚の幻想画のように……。



172 :( ^ω^)殺人クラブ:2006/04/07(金) 21:46:15.12 ID:p9D9a3mVO
「はい、これ」

ツンは僕の妄想に割り込み、何かを投げてよこした。

これは、まさか。

「飲みなよ」

僕はツンの言葉が終わる前に、謎の液体を飲み干していた。

飲むの早っ、

とツンが笑う。
つられて僕も笑った。

「なんで、解毒剤をくれたんだお?」

当然の疑問。
僕は、君に殺される為に来たのだ。

「んー。
内藤、あんた殺人クラブをどう思う?」

キチガイの集団、とは言えず、僕は黙っていた。



173 :( ^ω^)殺人クラブ:2006/04/07(金) 21:48:06.91 ID:p9D9a3mVO
「今の殺人クラブは、殺人を犯す度胸もないし覚悟もない。
ジョルジュとモナーがいい例よ」

なるほど。
だが、それが普通じゃないのか。

「でも内藤、あんたは違った。
殺られる前に殺る。
いや、相手が危害を加える気が無くても、殺れる」

ツンの口調が次第に熱を帯びてくる。

「あんたは選ばれたの。内藤。
殺人クラブに。
あんたと私ならうまく殺れる。
学校も協力する。
私とあんたは学園の正義となる!
昔の殺人クラブの様に!」


174 :( ^ω^)殺人クラブ:2006/04/07(金) 21:53:32.02 ID:p9D9a3mVO
「やだお」

今や唾を飛ばしながら演説をするツンに、僕は水をかけた。

僕の幻想は間違っていた。
この女は。

「お前はただ自分に酔っているだけ。
キチガイだお」

そうなのだ。

「殺人クラブ?
学園の正義?
……つまらないお」

あくびをする僕に、ツンは刺すような視線を向ける。

「あんたが何を言おうと勝手だけど、あんたはもう私からは逃げられない。
さっきの解毒剤、本物だと思う?
私に協力しなさい」



175 :( ^ω^)殺人クラブ:2006/04/07(金) 21:57:56.28 ID:p9D9a3mVO
この女はただの狂った思想家だ。
だが、僕の最後に残った良心は、この女の生存を。

「お前を殺す間、保てばいいお」

――許す訳にはいかなかった。

「お前、このノートが大事かお?」

この女に、絶望を与えて殺す。
その為に僕は古ぼけたノートを胸から取り出し、窓際に立った。




176 :( ^ω^)殺人クラブ:2006/04/07(金) 22:01:16.81 ID:p9D9a3mVO
「や、やめなさい!そのノートは、偉大な先人達の……!」

「大事なモノは標的にみせちゃだめだお」

僕は、窓からノートを放り投げた。

「イヤァァア!」

慌てて窓に駆け寄るツン。
そして、さようなら。
僕の初恋。

僕はツンの細い背中を、軽く押した。


――ベゴン。

これで……、全てが終わった。
僕の人生までも。

残り時間、0。


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