470 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:38:58.12 ID:G91PzZ/R0
父さん、母さん、今まで僕を育ててくれてありがとう。
今日、僕はこの世界のために人を殺します――
騒がしい街の通りに面した電器屋の前で僕は足を止めた。
並べられたテレビの中で美形の女性アナウンサーがニュースを読み上げている。
「――予定では、本日午後3時ごろにν速国のツン外務次官が会談のためVIP国を訪れるようです。
今回の来訪は現在我が国とν速国間に生じている外交上の摩擦を解消するきっかけとなる極めて重要な
機会である、と両国の首脳陣はともに期待しています――」
アナウンサーがそう言うと、バックに例の外務次官の顔が映し出される。
ウチの国にあるマスコミの間でも騒がれたくらい美しい女性だ。
そしてこの人こそ僕が射抜くターゲット。
472 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:39:23.76 ID:G91PzZ/R0
今回の任務はずいぶんと簡単だ。例の外務次官のスケジュールを調べたところ、
今日一日ウチの国の首相に連れられてVIP料理を満喫して打ち解けた後、本会談を明日の正午に行うらしい。
情報が正しければ、ターゲットは二日もこちらに滞在してくれることになる。
前回はたった15分のチャンスでターゲットを射抜いた僕にとって
今回の任務はアクビが出るようなものだ。
だが油断は禁物だってことは分かってる。だからこそ今日も最初のチャンスを狙いにきたんだ。
例の外務次官がやってくる予定の通りにはすでに歓迎の意をこめた垂れ幕が
所狭しとならんでおり、両国の国旗を模したフラッグを持った市民たちが今か今かと彼女の到着を待っている。
僕は二階にオープンテラスのある喫茶店に陣取った。
ここからなら彼女の姿はよーく見えるだろう。
473 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:39:46.07 ID:G91PzZ/R0
しばらくすると黒塗りの車の列が姿を現した。
人々は喜び勇んでフラッグを振り、通りはにわかに騒がしくなる。
好都合だ。
僕は望遠鏡で彼女の乗る車が3番目を走っていることを確認した後、テラスに居る全員の
死角であるテーブルの下に、懐から取り出したサイレンサー装備の小型ライフルを構えた。
上から見えるように改造したスコープを覗きながら、発射点を固定する。
準備は万端。
「ねぇ」
女の声が。
(;^ω^)「!!?」
思わず声を上げそうになった。狙っている最中に声をかけられたからという理由だけではない。
ξ゚听)ξ「ねぇってば、聞いてるの?」
僕に声をかけた女は、今まさに僕が射抜こうとしていたターゲットに他ならなかったからだ。
黒塗りの車は僕の視線から遠ざかっていく。
474 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:40:05.31 ID:G91PzZ/R0
(;^ω^)「…」
僕は黙るしかなかった。女は悪戯な笑顔を浮かべながら、テーブルに置いたサングラスをかけた。
変装のつもりなのだろうか。
ξ●ー●)ξ「あなたも“私”を見にきたの?」
(;^ω^)「ええ…そうですお」
そう答えながら小型ライフルをコートの内に隠す。気づかれてはいないようだ。
ξ●ー●)ξ「あまり大きな声を出さないように…って、あなたは結構物分りがよさそうね」
(;^ω^)「今日は首相と会食の予定ではなかったのですかお?」
ξ●ー●)ξ「ええ。でもせっかくこんなに遠い国まできたんですもの、あんな脂ぎった人と一緒にゴハンを
食べるより、自分の足でこのにぎやかな街を歩いた方が楽しいわ」
(;^ω^)「では、あの車に乗った方は誰なのですかお?」
ξ●ー●)ξ「あれは影武者よ」
そういうと女は立ち上がって僕の手をとる。
ξ●ー●)ξ「今日一日、私の相手をしてくださらない?」
(;^ω^)「…」
475 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:40:25.98 ID:G91PzZ/R0
彼女の話している事は真実なのだろうか。僕には分からない。
だがたった数回会話を交わしただけなのに、僕は彼女から何ともいえないオーラを感じた。
…恐らく本物だろう。
――しかし、本物だとしたら逆に好都合だというもの。人目に着かない場所まで連れ込んで、始末してしまえばいい。
( ^ω^)「…喜んでお相手させてもらいますお」
ξ●ー●)ξ「やっぱりあなたは物分りがいいわね。顔もちょっとタイプだし」
なんだか変な気分になった。一国の重要官僚がこんなに平民じみた言葉を口にするとは。
それからしばらくは彼女に振り回されっぱなしだった。
彼女はいくつものレストランを回り、通りの店に並べられたおしゃれな服に見とれ、
月並みな恋愛映画で涙を流した。
( ^ω^)「(こんなに普通な女を重要ポストにつけるなんて、あちらさんは何を考えているんだお?)」
僕は半ば呆れた表情で彼女と、向こう側に見える彼女の母国を眺める。
僕の思いなど露知らず、彼女はずっと先程の恋愛映画について語り続けていた。
ξ゚听)ξ「ねぇ、聞いてるの?」
終いにはサングラスも外してしまっている。
476 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:40:49.09 ID:G91PzZ/R0
――瞬く間に時は過ぎ、陽が傾きだす。
暗くなるにつれ彼女の口数は徐々に少なくなっていった。
ξ゚听)ξ「今日は、ありがとう!もうそろそろ帰らなくちゃいけないの」
( ^ω^)「そうですかお」
ξ゚听)ξ「とっても楽しかったわ。久しぶりに普通の女の子にもどったみたいで」
僕は彼女を路地裏に連れ込む口実を頭に浮かべながら、彼女の声を聞き流していた。
( ^ω^)「それは僕としてもとても嬉しいですお、では――」
彼女を連れ込もうと、僕が何かを口にしようとしたとき。
ξ;凵G)ξ「…」
彼女が、涙を流していた。
( ^ω^)「…」
僕みたいなテロリストと呼ばれる人間にもモチベーションというものはある。
僕は何も言わずに彼女を抱きしめた。
477 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:41:06.33 ID:G91PzZ/R0
(;^ω^)「…」
不穏な空気感、とでも言うのだろうか。長年の経験から僕は一つのことを悟っていた。
(;^ω^)「(…誰かに狙われてるお)」
( ^ω^)「ついてくるお」
僕は彼女の手をひいて路地裏に入った。とたん、銃弾が表通りの壁に当たって金属音を鳴らす。
ξ゚听)ξ「!」
( ^ω^)「恐らくあんたを狙ってるテロリストか、スナイパーか、そんな類の人間だお」
ξ゚听)ξ「…」
( ^ω^)「僕がいれば大丈夫だお。逃げるお」
彼女は僕の手に逆らうことなくついてくる。
路地裏を出ると、黒いコートを身に纏った怪しげな男が立っていた。
男はこちらに気がつくとすぐに懐に手を差し込む。僕はためらうことなくライフルを抜いて男の手を撃った。
ぐぅ、と低い唸り声を上げて男が倒れこんだそのすぐ横を、僕たちは駆けていく。
(;^ω^)「(これじゃまるでお姫様を護るナイトだお…テロリストが聞いて呆れるお)」
次々と向かってくる敵へ引き金を引きながら、僕は思った。
478 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:41:23.02 ID:G91PzZ/R0
なおもわらわらと敵は集まる。僕と彼女は逃げながらいつの間にか彼女が泊まるホテルの
すぐ近くまでやってきていたようだ。
僕たちは敵の銃弾を避けながら、ホテルの見える脇道に入り込んだ。
すっかり暗くなってしまった。
追手は来ない。
僕と彼女はその場にうずくまった。
ただ僕と彼女が荒々しく息を吐く音だけが、暗い通りにこだましている。
(;^ω^)「…」
ξ;凵G)ξ「…ハァ…ハァ…」
( ^ω^)「(こいつを殺すなら今が一番のチャンスだお)」
僕はライフルを彼女に向けた。
( ^ω^)「(殺す?こんな、こんな普通な女を…僕は、殺すのかお?)」
彼女がこちらを向く前に、僕は構えたライフルから手を離した。
荒々しく息を吐きながら、涙を流しながら、彼女が僕にしがみつく。
ξ;凵G)ξ「うわああああん!」
(;^ω^)「シッ!声を出すな!」
ξ;凵G)ξ「…ウッ」
479 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:41:42.57 ID:G91PzZ/R0
僕は立ち上がった。
( ^ω^)「落ち着いてよく聞くお。ここにあるマンホール…この中を通っていけばホテルの駐車場に
繋がるところまで辿り着けるお…行けお」
そしてマンホールのふたを開け、彼女を呼ぶ。
ξ;凵G)ξ「…あ、ありがとう…私、あなたに逢えて本当に…」
(;^ω^)「いいから早く行けお」
彼女の後ろに現われた敵の眉間を撃ちながら、僕は言った。
ξ゚听)ξ「…!」
倒れた男が鳴らした鈍い音に、彼女が息を飲む。
( ^ω^)「さぁ…早く…」
ξ゚听)ξ「…」
マンホールに体を半分ほど差し込んだところで、彼女が僕のほうを向く。
ξ゚听)ξ「ねぇ…こっちを向いて欲しいんだけど」
( ^ω^)「何だお…んむっ」
そして彼女は僕に軽くキスをした。
呆気にとられる僕。彼女は初めて会ったときの悪戯な笑顔で、言う。
ξ゚ー゚)ξ「さよなら」
そしてマンホールの中に飛び込んでいった。
480 名前:( ^ω^)はテロリストなようです :2006/02/05(日) 22:42:06.16 ID:G91PzZ/R0
通りには、もう誰の息を吐く音も聞こえない。
(;^ω^)「…僕にもヤキがまわったもんだお」
ライフルを大事そうにさすりながら僕はつぶやいた。
足音が聞こえる。
(´・ω・`)「やぁ、ブーン」
灰色のコートに身を包んだ男が、僕の目の前に立っていた。
( ^ω^)「ボス…かお…」
――父さん、母さん、ごめんなさい。
(´・ω・`)「とても残念だよ」
すでに夜の帳の下りた街で、一人の男が壁にもたれている。
男の眉間からは真っ赤な血が流れ、その顔に紅い線をひいていた。
通りに止まった赤い車のラジオから、女性アナウンサーがニュースを読み上げる音が聞こえる。
「――本日首相と会食を行ったツン外務次官は“この国ではとても楽しい経験をさせてもらった。
来るべき会談は皆様の期待に沿えるような良いものになるだろう”と発言しており、明日の会談が
大変期待されます――」
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