226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/27(金) 01:47:01.69 ID:VKRjnPVm0
ブーンは知的障害者のようです
学校というものは、不思議なところだ
成績で生徒が優劣を競う、あるいは競わせ、だというのに、平等を唱えるのだから滑稽だ
「おはようだお! みんなおはようだお!!」
元気な笑顔で、にこやかに挨拶をする少年。しかし、挨拶に応える人間はいない
なぜなら、上の表現は、少し御幣があったからだ
元気な笑顔? ―――いいや、これは白雉めいた笑顔と表現するべきだ
にこやかに挨拶? ―――いいや、これはある種、機械的で平坦な、作業というべきものだ
無視され、時にはあからさまに不機嫌そうな顔をされながらも、少年は挨拶する
「おはようだお! 朝はおはようだお!!」
時折、不思議そうに首をかしげる以外、特にリアクションをするでもなく、挨拶
……もう、気づいたであろう。彼は、少しばかり障害をもっているのだ
足や、腕ではなく、その頭に
「おはようだお!!」
ただただ笑顔で、挨拶を繰り返す少年
その姿は、さながらプログラムで動く、RPGの村人のようにも見えた
227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/27(金) 01:59:07.67 ID:VKRjnPVm0
学校が始まる。……と、言っても、別段長期の休みがあったわけじゃない
単に、授業の開始という、それだけだ
ただ、私は学校という物は授業があってこその物だと思っている
なので、授業の開始をもって学校の始まりだと認識しているのだ
「ねぇねぇ? ツンちゃんは予習してきた?」
「ええ、予習というほどではないけど。さらっと教科書ぐらいなら読んでる」
右隣の少女に、わざと不機嫌そうに言う。学校はもう始まっているのだ
それなのに私語をするというのは、感心できない。ちょっと前に聞けば済むではないか
「あ〜、頭いい人は得だね〜。あたしなんかさ、………」
どうやら、間接的な注意は無意味みたいだった。
少しきつく言っておこうかな、と思った時、
「すうがくだお! あれ? ノートないお? どこいったお?」
「……内藤、少し静かに。な?」
左隣の男子が、大声を出し、それを教師にたしなめられた
生真面目なツンには不愉快極まりない情景ではあるが、このクラスではこれが日常だった
230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/27(金) 02:10:30.18 ID:VKRjnPVm0
(ああ、本当についてない……)
彼の声を聞くたびに、強く、そう思う。なんで自分は、あんなのと同じクラスなのだろう?
ここで言っておこう。別に自分は知的障害者に、悪い感情は抱いていない
よく、知的障害、というだけで毛嫌いする人がいるが、自分は違う。特に関心はないのだ
知的障害者というレッテルが貼られる以外、その人物は他人であることに変わりはない
自分に関係のない人間がどうであろうと、どうでもいい話ではないか
しかし、こうして授業を受ける環境で、その人物がうるさいのであれば話は別だ
「えー、ここでxを代入し、式を単純化してだな……」
「あれー? ノートーノートー……どこだおー?」
「……なぁ、内藤? ノートもいいがな、先生の話も聞いてはくれないか?」
「うん、わかってるお? でも、ノートがないんだお」
先生も、無視してくれればいいのに、いちいち彼に構っては授業をつぶしがち
周囲の生徒は皆、笑ってはいるが、自分には我慢ならない
「先生! いいから授業を進めてはもらえませんか?」
「あ、ああ、すまないな。で、と、だな。あー、どこまでやったか?」
爆笑。彼も意味もわかっていないのだろう、笑っている
まったく、不愉快だ
231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/27(金) 02:19:59.76 ID:VKRjnPVm0
「え? 内藤? 別にいいじゃん、授業も潰れんだしよ」
パックジュースを下品に音を立てながら飲むドクオ
時々、件の彼と話しているので注意してもらえないかと聞いたら、この答えだ
相談する相手を、間違えたかもしれない。しかし、ここで引き下がっても意味はない
「でもね、私は授業中は授業を受けたいの。遊ぶなら、休み時間で十分でしょ?」
「んで? 俺にどうしろっつの? あいつが学校にこれなくすればいいのか?」
「!? な、何も、そこまでは……」
唐突に過激なことを言うドクオに、すこし引く
それを感じ取ってか、ドクオはめんどくさそうに頭を掻いた
「だからよ、あいつに静かにしろっつのは、それ以外できねっつの」
「そうじゃなくって、何とか注意できないの?」
ああ、そりゃ無理。きっぱりと断言された
自分が何か言い返す前に、ドクオは笑いながら
「だってよ、あいつ池沼だぜ? まともに話して効くかよw」
いつもそうだ。彼に関わる問題は、いつもそれで片づけられる
彼は、それで全部許されたつもりでいるのだろうか? だとしたら、不愉快だ
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/27(金) 02:33:43.07 ID:VKRjnPVm0
「あ、内藤。俺遊び行くから掃除頼むな」
「あ、俺も。代わりにやっといてな」
「うん、わかったお!」
クラスの人間が帰っていく中、彼は一人で掃除をする
一緒に掃除をする人なんて、一人もいない。なのに、彼はそこに疑問をもたずに掃除をする
「うんしょ、うんしょ」
机を動かすだけでも結構な時間がかかるだろうに、文句ひとつ言わない
ある日、自分は暇つぶしのつもりで、その様子をずっと見ていた
「うんしょ、うんしょ」
彼はずっと一人で机を運ぶ。机を運ぶ。机を運ぶ。机を……
そこで気が付いた
彼は机を運んでしかいない。前に運び終えたら、次は後ろに。その繰り返し
「…………」
彼は、『机を運ぶ』という行為を掃除だと思っているのだろう。なんて愚かなんだ
結局、彼の『机運び』は、教師がくるまで続けられた
「お、内藤。また一人か? しょうがないな、今日はもう帰りなさい」
「わかったお。せんせい、さよならだお!」
満足げな表情は、仕事をまっとうしたからだろうか
ふざけるな。何もしていないくせに。まったく、不愉快だ
237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/27(金) 02:50:19.98 ID:VKRjnPVm0
「あー、内藤君ね。ま、しょうがないんじゃい? 池沼だし」
「内藤? 池沼のやることにいちいち構ってられっかよ」
「あいつ、マジうざくない? ツンも迷惑してるみたいだし、ホント死んでくんないかな」
彼に対する評価は、いずれもこの三つに大別される
一つは、『笑って済ませる』
一つは、『無視。または無関心』
一つは、『極上の嫌悪』
よくよく考えてみれば、その本質は変わらない
彼の行動を理解しようとか、改善しようとか、そういう意思がまるでない
遠巻きに眺めて、やり過ごす。理由は単純、知的障害者だから
自分はそこに違和感、というか、不快感を感じる
まるで、彼を人間扱いしない、動物か何かのように見るその感覚が、我慢ならない
……いや、自分も変わらないじゃないか。遠巻きに眺めるだけで、彼自身に関わろうとはしていない
そう思ってしまったら、自分自身も嫌いになりそうになった
だから、一歩、踏み出してみた
「ねぇ、内藤君? ちょっといい?」
「なんだお? なんだお? ぼく、なにすればいいお?」
「うるさい」
そう言って、自分は彼の右頬を平手で叩いていた
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/27(金) 03:03:39.90 ID:VKRjnPVm0
ざわざわと、クラスがどよめくのがわかる
まぁ、そうだろう。知的障害者はそれだけで特別扱いをされる。特に教師に
だからと言って、何をしても許されるというわけではないだろうに……
「?? ?? あれ? ぶたれた? ……ぶたれた?」
「ええ、ぶったわよ。でもね、私はあなたに言いたいの、すこしは……」
「うあああああああああああああああぁあぁあああああぁああああああっっ!!!!」
「!?」
叩かれてから、数秒。自分が『ぶった』と認めたとたんに、彼は大声で泣き始めた
「ちょ、なによ、うるさいな……!!」
「!! ぶたないで! ぶたないで!! ぶたないで……! ぶたないで…………!!」
今度は『うるさい』という言葉に、肩をビクッとゆらし、頭を抱えて震えはじめる
いったいなんだというのだろう。理解が出来ない
これでは、まともに話すこともできないではないか
騒ぎを聞きつけたのか、それとも誰かが呼んできたのか、教師が慌てて教室に駆け込んできた
教師の姿を認めた内藤は、すばやく教師にすがりつき、泣きついた
「せ、せんせい! ぶった! ぶたれたお! ぼく、ぶたれたお!!」
「な、なんだ!? どうした、何があったんだ!?」
「先生! ツンさんが、内藤君を……」
「なに? ……おい、ツン。ちょっと職員室まで来い」
なんで。なんで私が呼び出されなくちゃいけないのだろう
注意しようと思っただけで、これか。馬鹿げている。不愉快だ
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