581 名前:('A`)短篇 :2006/04/18(火) 21:05:42.06 ID:Gyh2tBgeO
めんどくさい。
何もかもがめんどくさい。
もう、明日死んでしまおうか。

「ドクオ、どうしたんだお?」

('A`)「別に」

そっけない俺の言葉にブーンが気にする様子はない。
ブーンは、俺が本気で死ぬ気なのを、気付いているのだろうか?
友人が居ないわけじゃないし、現状に何か不満があるわけでもない。
とにかく、めんどくさいのだ。
最近、俺みたいな奴が増えているらしい。
ま、どうでもいいけどな。
明日、樹海に行こうか。

昼休み、俺は最後の景色を見に屋上に向かった。
今の俺の心境にぴったりの空模様。



582 名前:('A`)短篇 :2006/04/18(火) 21:06:39.73 ID:Gyh2tBgeO
あれ、あいつは。

俺と同じの空気を纏う者。
――自殺者、だな。

('A`)「あー、あんた。
ちょっと待ってくんね?」

その生徒は僅かに体を震わせ、俺の方を向いた。
結構可愛いのに、なんで自殺なんか考えるのかね。

('A`)「こんな所で自殺なんかされちゃ、迷惑なんだけど」

俺の言葉に、女生徒は反論してきた。

「あなたには関係ないでしょ!?
他人の事に口を挟まないで下さい!」

これだから素人は困る。
少し教えてやろう。

('A`)「あんたが今、自殺すれば変死扱いになる。
そうすれば、発見者の俺は警察に連れて行かれるだろうな。
あと、あんたの担任も責任を問われるだろう。
最悪の場合、クビさ。
ああ、全校集会も開かれるな。
それにあんたのクラスメイトも、残らず事情聴取を……」



583 名前:('A`)短篇 :2006/04/18(火) 21:07:44.58 ID:Gyh2tBgeO
「もう、やめて下さい!
私にどうしろって言うんですか……」

そこまで言って、女生徒は泣き出してしまった。
やれやれ。

('A`)「そこで提案があるんだがあんた、樹海にいかねぇか?
……旅は道づれってな。」

普段の俺なら、こんな事は口が裂けても言わない。
女と喋るなんてそれこそずいぶん久しぶりだ。
自暴自棄、になっているのかもしれない。

('A`)「明日の八時、美府駅に集合な」

それだけ言って俺は屋上から出た。
これで、第一発見者は免れたわけだ。
あの女、明日来るかな?



584 名前:('A`)短篇 :2006/04/18(火) 21:08:35.89 ID:Gyh2tBgeO
('A`)「早ぇな」

俺の時計が確かならば、まだ十分前のはずだ。

「早く行きましょう」

その意見は賛成。
でもその前に。

('A`)「あんたの名前、なんてーの?」

女はケイ、と名乗った。

('A`)「んじゃ、ケツに乗りな」

まさか、このメットが日の目を見るとはね。
傍目に俺達はデートに行くように見えるだろう。
実際には、死地に赴くのだが。
二時間後、目的地に着いた。



585 名前:('A`)短篇 :2006/04/18(火) 21:09:29.30 ID:Gyh2tBgeO
('A`)「ここが樹海の入り口。ここを入ればもう戻れないぜ」

ケイの決意は俺が思った以上に固いみたいだ。
一人で樹海の奥に進んで行った。
慌てて俺も、後に付いていく。
不意にケイが口を開いた。

「どこに行けばいいんですか?」

('A`)「さぁ、どこにでも行けばいいんじゃねぇか?
いずれ、前も後ろも分からなくなるさ。」

二人で歩いて、休んで、また歩いて。
日が暮れてしまった。
どこかで野犬の遠吠えが聞こえる。
木立から見える満月がやけに綺麗だ。



586 名前:('A`)短篇 :2006/04/18(火) 21:10:30.15 ID:Gyh2tBgeO
「あの、ドクオさんは、何で自殺を……?」

心細さを紛らわすためだろうか。
それとも、俺に興味を持ったのだろうか。
恐らく、前者。

('A`)「全てにおいて、まんどくせ。
……それだけさ。
あんたは?」


便宜上の俺の問いに、ケイは顔を伏せた。
答えたくなきゃ、いい。
そう言う俺を無視して、ケイは言葉を絞りだした。

「義父に、レイプされて……お母さんも出て行っちゃって、借金も沢山…」

うわぁ、聞くんじゃなかった。
そりゃ、死にたくもなるよな。
俺は、自分を恥じた。
なんて、俺は贅沢だったんだろうか。

俯きながらも、ケイは再び言葉を絞りだした。
凄く申し訳なさそうに。
それは、俺を再び自己嫌悪に陥らせた。

「……でも、死にたく、ないんです……。
やっぱり、私は、生きたい……
たとえ、これからいい事がなくても……」



587 名前:('A`)短篇 :2006/04/18(火) 21:11:27.49 ID:Gyh2tBgeO
死ぬ気が最初からなかった訳じゃないだろう。
現実に死を目前に感じて、初めて気付く事実もある。
俺は、その事実に気付かなかった。
ケイは、何故こんなにも強いのだろうか。
俺よりも不幸な境遇にいながら。
俺にはわからない。
だがしかし、今此処でケイを死なせる訳には行かないという事はわかる。

('A`)「んじゃ、帰るか」

立ち上がる俺を、意外そうな顔をしながらも、ケイは涙を拭きながら立ち上がった。

なんとしても、生きて帰ってやるさ。
自分の為じゃなく、ケイの為に。

人の為に生きる事を、俺は初めて学び、そしてその後日。

俺に初めての彼女ができた。

終わり


もどる