3 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:36:31.04 ID:
kjZ97UB40 3112番目の勇者の死を見届け、僕とモララーは魔王を倒すべく先へ進む。
目指すは遥か北にあると云う魔王の城、『ニュー速』だ。
長い旅の始まりとなった嘆きの森を抜け、視界いっぱいに広がる草原に伸びる、一本の細い土の道を歩き続ける。
足の疲労はとうに限界を突破して、なけなしの根性でただ前に進むだけ。
声に回す体力も勿体なくて、知らず知らずのうちに無言で歩き通しだった僕が久し振りに声を発したのは、
(;'A`)「あ、村がある…」
太陽が地平線の彼方に沈まんとする頃だった。
RPGとかの道中、主人公と仲間の会話がない理由がよく分かった。
きっと、みんな喋る気力もないほど疲れてたんだな。
4 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:37:18.28 ID:
kjZ97UB40('A`)ドクオは勇者になったようです
‐5‐『覚悟戦』
5 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:38:13.56 ID:
kjZ97UB40( ・∀・)「―――あれは農業村の『したらば』だよ」
夕日の橙に染まる小さな村を指して、モララーはふらふらになりながらも進む僕を待ちながら説明してくれる。
嘆きの森から、したらば村までの距離を歩くことなんて、モララーにとっては朝飯前かもしれない。
だけど僕は泣く子も黙るニート。
無駄に発達していたVIPの文明のせいで、昔と比べると現代人の足の筋肉はすっかり衰えているという話を聞いたことがある。
その話を聞いた直後は『長距離を歩く予定もないし、どうでもいい』なんて思ってたけど、
こんなに歩くのが辛いなら少しは運動しておけば良かった…。
後悔先に立たずとはよく言ったもんだ。
早くも筋肉痛を発症した足をだましだまし動かし、僕はしたらば村までの僅かな距離を時間をかけて詰めていく。
モララーにとっては、非常に退屈な道中だろう。
ごめんよ。
( ・∀・)「何も知らないままこっちに来たみたいだから、色々教えていくよ。
特に重要な話ではないから、何となくでもいいから聞いといて」
6 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:40:45.51 ID:
kjZ97UB40 ……あまりにも退屈過ぎたようだ。
歩きながら、モララーはラウンジの説明をしだしてしまった。
なんか物凄く申し訳ない気持ちになるから、正直無言を貫いて欲しかった。
( ・∀・)「ラウンジにはVIPと同じように村や街があるけど、そのどれもが独立してて、何かしらの仕事を担ってるんだ」
( ・∀・)「したらば村は、村人全員で野菜を育てるのが仕事。ここの人達はみんなで野菜を育ててるし、
北の方にある『機械都市・シベリア』では、街人全員が機械を造る仕事をしてるんだよ」
言わば、街ひとつが一個の会社のようなものか。
雑多な仕事で溢れてるVIPとは少し違う。
好きなことを仕事にできるなら、僕は断然ラウンジの街に住みたい。
そしたらニートなんかとっとと卒業してたのにな。
('A`;)「な、なるほど。モララーは、色んな事、知ってるね」
( ・∀・)「…昔、人に聞いたんだ。それよりドクオ、君も勇者なんだからはっきり喋ろうよ。挙動不審に見えるよ」
('A`;)「う、うん、頑張る…」
夕日が完全に地平線へと消える前に、僕とモララーはしたらば村へたどり着いた。
7 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:41:53.02 ID:
kjZ97UB40したらば村は、一言でいうと「素朴」。
家と通路以外の地面は全て畑として使っているらしく、どこを見ても畑だらけだ。
目の前にある一枚の畑に、大根や白菜のようなものが規則正しく並んでいるのが見える。
ラウンジもVIPも、食べるものは変わりないらしい。
村自体は決して広くはなく、VIPドーム二つ分くらい。
『村』にしては狭すぎるような気もするけど、これくらいが住む人にとっては一番いい広さなのだろう。
外からやって来た僕たちを見る、したらば村の人達の表情は好奇心に満ち溢れていた。
どうやら外部の者に対して敵意を持っている、なんてことは無いようだ。
石とか投げられたらどうしよう、なんて心配したのがバカみたいだな。
(´・ω・`)「ようこそ、したらば村へ。私どもは勇者さまご一行を歓迎いたします」
( ・∀・)「どうもこんちは。いい感じの村だね」
すぐ近くの畑からやって来たしょぼくれ顔のオッサンが恭しく頭を下げ、モララーは気さくに彼に話し掛けた。
どこか嬉しそうに顔を綻ばせながら自分の村の良い所を語っていくオッサンが言うには、
(´・ω・`)「この村は何もありませんが、モンスターなどの襲撃を滅多に受けず、平和です。
気候や地質から、ここで作物を育てながら生活していくのが我々にとっても、作物にとっても、最も良い環境なのですよ」
だそうだ。
8 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:50:10.08 ID:
kjZ97UB40 まさに、農業をやるにうってつけの場所というわけだな。
そして、なんか今微妙に襲撃フラグが立った気がする。
(´・ω・`)「申し遅れました。私はしたらば村の代表、ショボンでございます。
外部の方をお見かけするのが久し振りだったもので、つい長話をしてしまいました」
ショボンさんはまた深く一礼してから僕とモララーを村に迎え入れてくれた。
(´・ω・`)「村の住人はみな、気のいい者ばかりです。何かあったら、遠慮なく彼らにお申し付けください」
農作業中の老若男女が手を休め、村の中に足を踏み入れた僕らを興味深そうな眼差しで見つめているのが分かる。
彼らに敵意がないというのは理解してはいるけど、やっぱりこうもじろじろと人に見られるのは慣れてない。
('A`;)
あぁ、『こんなヒョロヒョロで頼りなさそうな奴が勇者か』、なんて思われていたらどうしよう。
事実なだけに、凄く凹む。
9 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:51:14.52 ID:
kjZ97UB40('A`;)「あ、ああありがとうございます」
(´・ω・`)「いえ、本当に何もない所ですが、どうぞごゆっくり」
('A`;)「ご、ご丁寧に、ありがとうございます、すいません」
( ・∀・)「……(はっきり喋るの、まだ時間かかりそうだな…)」
(´・ω・`)「では、私はこれで。仕事が残っておりますので…」
ショボンさんは、またも深く頭を下げて畑の方へと戻っていった。
物腰柔らかで、誠実そうな人だった。
顔はしょぼくれてたけど。
**********
10 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:52:05.55 ID:
kjZ97UB40**********
ショボンさんと別れた後、僕たちは村を一周見学してから宿屋に行った。
『何もない村だ』といっていたショボンさんの言葉は、どうやら嘘でも何でもなかったようだ。
畑と家以外にあったものといえば、人々の休憩所として設置してある四阿くらい。
屋根に絡み付いて咲く鮮やかな白い花が、夕日の橙に染まっていたのが印象的だった。
したらば村を回って目についたのは、それくらいだ。
どこを見ても畑しかない状況は、したらば村に入ってすぐに慣れた。
生活を便利にするような道具はラウンジに来た時点で何も望んじゃいなかったけど、この村には、そんなことを思う以前に何もない。
電気も水道もガスも、テレビも洗濯機もパソコンも、まるで何もない。
('A`)「……」
( ・∀・)「どうかした? なんかぼんやりしてるけど」
だけど、この村には、VIPに無いものがあった。
この村に足を踏み入れて感じた、不思議な感覚。
体の芯から暖かくなるような、陽だまりのような、訳の分からない気持ち。
その感覚を何と呼ぶのか、今の僕には分からない。
11 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:54:23.14 ID:
kjZ97UB40('A`;)「…あ、い、いや、なんか、思ったよりも、ふ、普通の人が多いんだなって…」
('A`)「それに、この村、何だか、暖かい。気温とか、そういうんじゃないんだけど」
('A`)「……何だろう」
VIP政府が云うラウンジの姿は、残虐非道な亜人がそこらを跋扈していて、魔王の配下であるモンスターが蔓延っていて、
とにかく全てが魔王の支配下だというようなものだったはずだ。
だから、人間がいたとしても、彼らはVIPから来た者に対して敵意を剥き出しにしていると思ってた。
少なくとも、ショボンさん達のような普通の人間がいるなんて話は聞いたことがないし、
僕をラウンジへ送り込んだあの大統領も、ラウンジについては特に何も言わなかった。
( ・∀・)「はぁ、何か色々考えてるんだねぇ」
日が沈み、すっかり外は真っ暗になっている。
宿屋の部屋の窓から身を乗り出して空を見上げながら、
( ・∀・)「ドクオがVIPで何を言われて育って来たのかは知らないけど、ラウンジにだって普通の人間は沢山いるよ」
モララーはゆっくり答えた。
( ・∀・)「この村が暖かいと思うのも分かるよ。
村人みんなが俺らに良くしてくれるし、一日中好きな事をやって過ごしてるから幸せだろうし」
12 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:57:14.00 ID:
kjZ97UB40('A`)「…好きなこと?」
( ・∀・)「作物を育てることだったり、科学の実験をすることだったり、音楽を聴くことだったり、
そんなのは人によって違うけど、少なくとも、したらばには植物を育てるのが嫌いな人はいない」
( ・∀・)「一日中ずっと、土をいじって、自分が植えた作物の芽が出て来ることに至上の喜びを感じる人ばかり。
だからみんな笑顔だし、みんなが笑ってるからこの村は、ドクオが感じた通りに『暖かい』」
( ・∀・)「この村の人柄はともかく、街の方針に関しては先代の魔王が提唱した政策なんだ。
彼は、良い意味で人や亜人やモンスターの使い方をよく知っていたよ。
誰もが幸せになる方法を、彼は最期までずっと模索してた」
( ・∀・)「…VIPは違うだろ。好きなことも嫌いなこともやらなくちゃいけない。
人との関わりも希薄で、苦痛を感じる人もいる。だから、君みたいな現実逃避をするニートが出てくる」
君みたいな、は余計だ。
……だけど、相変わらずモララーの話は簡潔だ。
黙って話を聞いていた僕は、ただただ納得せざるを得なかった。
しょーもない政治しかしない、どこぞの大統領に聞かせてやりたいね。
('A`)「(そうか、この暖かさは、人から生まれるものなのか…。
じゃあ、人との関わりが薄いVIPでは感じなかったのも当然だな…)」
('A`)「あ、じゃあ、どうしてショボンさん達は、僕を、歓迎してくれたの、かな?」
ラウンジの魔王討伐を命じたのは、元々VIPだ。
13 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 17:58:24.79 ID:
kjZ97UB40 少なくともしたらば村の人達の間に魔王に対する不満はないように見えた。
それなら、魔王を倒しに来た僕ら勇者を歓迎する意味はないと思う。
( ・∀・)「それも簡単な話さ。歴代に比べたら、今の魔王は最低最悪だ。
凶暴なモンスター共は野放しだし、時には魔王の側近の者が村や街を破壊しに来る」
( ・∀・)「VIPとかのような、街を護る妨害装置なんてありゃしないから、モンスターも亜人も人里を襲い放題だ。
だけど街が襲撃されたという話を滅多に聞かないのは、先代の魔王がモンスターたちにも慕われていたから」
( ・∀・)「先代がモンスター達に、人里を襲ってはいけないと教えていたから」
( ・∀・)「だけど、先代の魔王が死んでしまった。先代の教えは忘れられて、
ラウンジに住む人間はモンスターや亜人の恐怖に怯える毎日を送ってる」
( ・∀・)「だから、誰かが魔王を倒してくれるというなら喜んで歓迎してくれるだろうさ。
たとえそれが、大量生産されたニート勇者だとしても、ね」
( ・∀・)「他力本願ではあるけど、仕方がないんだよ。戦う術を彼らは知らないんだ」
モンスターたちに襲われる危険はあっても、それでも皆がみんな、毎日楽しそうに過ごしている。
いつか誰かが、魔王を倒してくれると思ってるから…?
VIPから追放された一万人程の勇者の中で、一体何人が魔王の前に立てると言うのだろう。
一体、あとどれだけの月日が流れれば、この村の人たちに本当の平和が訪れるんだろう。
('A`;)「…なんか、大変なんだな……」
14 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:02:07.98 ID:
kjZ97UB40 それを聞いても人ごとにしか感じられない僕は、もしかしたら魔王よりも最低かもしれないな…。
…それにしてもモララーは、VIPやラウンジの事情について詳しすぎやしないか?
『昔、人に聞いた』にしては随分と深い所まで知っていそうだし、他の亜人と違って、人を殺そうとする様子もない。
訳ありだと言ってたけど、色々知っている理由に何か関係があるのだろうか?
( ・∀・)「それよりさ。VIPって鉄で出来た、レールの上を走る乗り物があるだろ? 『クルマ』…だっけ?」
窓から身を乗り出すのを止め、モララーは部屋のベッドに腰掛けた。
( ・∀・)「俺、あれに一度乗ってみたいんだよ。ドクオは『メンキョ』、持ってる?」
('A`;)「え…。く、クルマ? ず、ずいぶん古い情報だね…」
(;・∀・)そ「えっ、古いの?」
('A`;)「く、クルマなんて、結構前に、なくなったよ。危険だから、って」
(;・∀・)「そ、そんな…。クルマの時代は終わってたのか…」
15 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:02:59.88 ID:
kjZ97UB40 そして、モララーの知識。
『クルマ』の話も、誰かに聞いたものなのか?
それにしては、随分古い話だけど。
ちなみにVIPの主な交通手段は、一部を除いて大体が徒歩か『自動転送装置』だ。
『クルマ』があった時代よりも事故は少なく、燃料も必要なし。
安全性も値段も、随分良心的になっていますよ。
**********
**********
翌日。
「勇者さまからお金なんて取れないですわ」
と、結局最後までお金を受けとってくれなかった宿屋のおばさんに見送られて、僕とモララーは『防具屋』の前に立っていた。
VIPで流通しているお金は、ラウンジでも問題なく使えるようだ。
ラウンジで生活する上で割と重要な知識がひとつ増えた。
( ・∀・)「ドクオの武器はあるから、何か必要があるとすれば防具かな。
剣での戦い方なんて、俺は教えられないから実戦で覚えるんだよ」
('A`;)「わ、分かった…」
16 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:04:36.39 ID:
kjZ97UB40( ・∀・)「多分、君の体力じゃあまり重い防具は向いてないだろうから、最初は『麻の服』なんていいんじゃないかな」
('A`;)「わ、分かっ…え、麻?」
( ・∀・)「そう、麻。麻を侮るなかれ。麻は凄いんだよ。汗とか吸い取ってくれるし、濡らすと丈夫になるし」
('A`;)「う、…うん…?」
人の身体を喰らうような化け物に襲われたら何を着てても無駄だという、モララーなりの死刑宣告か?
だけど、本人は至って真面目な顔。
半信半疑で、僕は店頭に吊されていた麻の服を取った。
…どこからどう見ても普通の服です、本当に(ry
('A`;)「(本当に普通の麻の服だ…)」
_,
( ・∀・)「…それがお気に召さなければ、『危ない水着』もあるけど……」
('A`;)「麻の服大好きです! 凄く気に入りました!」
『危ない水着』を自分で勧めておきながら、何だその嫌そうな顔。
それにしても、これめちゃくちゃ際どいな…。女の人に着てほしい。切実に。
('A`)「(剣と同じで、無いよりはあった方がマシってやつか。
これからの事も考えて、痛いのが少し和らぐなら、持ってても損はないな。…麻だけど…)」
17 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:05:35.88 ID:
kjZ97UB40('A`)「じ、じゃあ…これ」
_,
( ・∀・)「危ない水着は?」
('A`)「いらねーよ」
防具として『麻のシャツ』を買って着てみたはいいけど、全く装備した感じがしない。
そりゃそうだ、普通の服だからな。
「たいへんお似合いですよ」と店員さんが言ってくれたけど、麻の服に似合うも似合わないもないからな。
**********
**********
( ・∀・)「防具も買ったし、そろそろこの村からお暇しようか。まだまだ先は長いy」
道具屋を出て、数歩。
そろそろ出発しようというモララーの言葉を遮り、女の人の絶叫が村中に轟いた。
('A`;)「な、なんだ?!」
( ・∀・)「!」
農作業をしていた村人達が絶叫を聞き付けて、何事かと声が聞こえた方向へと走る。
18 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:07:44.92 ID:
kjZ97UB40(;・∀・)「俺たちも行ってみよう」
言うが早いか、モララーは既に悲鳴が聞こえた方向へと走り出していた。
少し遅れて、僕もモララーの後を追う。
幾つもの畑の脇を走り抜けて着いた先は、したらば村の東にあった四阿。
ζ(゚ー゚;ζ「たすけてー!!」
白い花が絡み付く屋根の下にいたのは、金髪の髪を二つに結った、まだ年端もいかない女の子。
そして彼女の前には、
(;・∀・)「…な、何だあれ…」
モララーでさえそんな呟きを漏らすほどの、異質なモンスターがいた。
モンスターの見た目を素直に言えば、土人形。
辛うじて人のような形をしてるけど、目も鼻も口も耳もない。
子供が泥で作ったような、ずんぐりむっくりとしたヒトガタの土人形。
四阿の周りには、無残に壊された家の名残が散乱していた。
したらば村の人達が大切に大切に育て上げてきた畑の作物は引っこ抜かれ、土は生臭い泥に侵されて。
嘆き悲しむ人たちの見ている前で、土人形は、その太い腕を振り回して村の破壊を進めていた。
誰も近付けないのをいいことに、破壊は派手さを増していく。
19 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:10:53.86 ID:
kjZ97UB40 このままでは、あの少女も危険だ!
ζ(゚ー゚;ζ「誰かたすけてー! 誰かー!」
四阿に取り残された少女と破壊を進める土人形を囲むしたらば村の人達は、
少女に向かってそこから早く逃げろと口々に怒号に近い声をあげて叫ぶ。
……だけど到底無理な話だ。
ζ(;ー;*ζ「う、うぇえぇえ…」
目の前にいるのは、自分よりも大きな身体の、得体の知れない化け物。
自分の身を守る術を持たない、か弱いただの少女が、殺されるかもしれない恐怖の前で身動き出来るはずがない。
剣を持っている僕だって、彼女の立場になってみたら身動き出来ない自信がある。
('A`;)「ま、まずいよあれ…」
ζ ;д;)「勇者さま!」
群集の中、ただ成り行きを見守っていた僕の前に、金髪の女の人が人混みを押し退けながらやって来た。
その顔は涙や鼻水に濡れ、彼女は必死な形相で僕の肩を掴んで揺さ振る。
20 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:12:02.38 ID:
kjZ97UB40ζ ;д;)「私の娘を助けてください!」
ζ ;д;)「あの子は、デレは、私の娘なんです! お願いします! 勇者さま!
お願いします! あの子を助けてください!」
('A`;)「う、あ、あの、ぼ、僕は…」
終いには何度も何度も地面に頭を擦りつけてまで女の人は僕に懇願するようになってしまった。
見ているこっちが辛くなるほど、その行動は必死そのものだ。
ζ ;д;)「お願いします…あの子を…」
誰もが、少女の命を助けて欲しいと願う。
なぜなら彼らは、僕が魔王を倒しに来たテンプレート通りの『勇者』だと信じて疑わないからだ。
強く、勇敢で、凛々しく、ついでにイケメンの理想の『勇者』。
実際の勇者は、ただ歩くだけでも疲れきってしまうクズだというのに。
ζ(;ー;*ζ「うわああああああん!! うわあああん!」
ζ ;д;)「お願いします! 娘をッ、デレを助けてッ…!!」
デレと呼ばれた女の子が、座り込んだまま悲鳴のような声を上げて泣き叫ぶ。
デレの母だと名乗る女の人は、立ちすくむ僕の足に縋り付いて懇願する。
21 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:16:25.68 ID:
kjZ97UB40( A ;)「……」
だけど、どれだけ哀願されても僕の足は動かなかった。
( A ;)
―――僕は望んでもいないのに『勇者』にされ、ラウンジに放り出された。
だけど勇者の前に、僕だってひとりの人間だ。
あんな得体の知れない土人形と戦う技術も勇気も持っていないし、反撃されたら一撃で死ぬかもしれない。
生きている限りは死にたくないと思うのは当然で、だけどそれは僕だけじゃなくてデレちゃんも思ってるはず…。
彼女を助けてあげたい。
それなのに、どうしても、身体も心も動かない。
彼女を助けたいと思う気持ちと、助ける為にあのモンスターと対峙することを考えると、
足は根を張ったように動かなかった。
(;A;)
知らず知らずのうちに、涙が溢れていた。
22 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:17:29.51 ID:
kjZ97UB40 僕はどうすればいい?
土人形と対峙するのは怖い。
立っていられないくらい、怖い。
少女を助ける『覚悟』に戦いを挑むのが怖い。
震えるくらい、怖い。
死ぬかもしれないという『現実』が怖い。
逃げたくなるくらい、怖い。
じゃあ、今すぐここから逃げ出す?
助けを求める少女から逃げて、魔王から逃げて、ラウンジやVIPから逃げてみるか?
そんなの出来る訳がないだろう。
現実から逃げ続けた奴がラウンジに追放されて『勇者』になったというのに、僕はまだ逃げるつもりか?
それが、誰かの描く勇者の姿?
それが、子供のころに憧れていた勇者の姿?
違うだろう。
僕が子供の頃に憧れた勇者の姿は、大多数が描く勇者の姿。
モンスターを前に、尻尾を巻いて逃げるような勇者じゃない!
ζ(;ー;*ζ「きゃああぁあぁああぁ!!!」
23 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:21:12.35 ID:
kjZ97UB40 耳を劈くような、子供独特の高い悲鳴。
そして、大きく揺れる地面。
破壊の限りを尽くす土人形の両腕が、デレちゃんの目と鼻の先に振り下ろされていた。
四阿の屋根が一部壊れ、瓦礫が落ちる。
デレちゃんに瓦礫が当たらなかったのが救いだけど、それも時間の問題だ。
土人形の無差別攻撃によって、重量と力が一気に加わった地面はひび割れ、亀裂が蜘蛛の巣のように広がっている。
ζ(゚―゚ ζ
今まで泣き叫んでいたデレちゃんの身体から、完全に力が抜けた。
放心状態で彼女は、目の前に迫る土人形を見上げている。
その青い瞳には一体何が映っているのだろう。
土人形の背後から顔を覗かせる絶望の姿か、それとも…。
悪を断つ為に追放された、臆病な希望の姿か。
ζ ;д;)「勇者さまぁああぁあっ!」
デレちゃんのお母さんの絶叫に、村人たちの困惑した視線。
ζ ;д;)
目の前には、恨めしそうな瞳。
―――お前は魔王を倒しに来た勇者じゃなかったのか?
25 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:26:47.52 ID:
kjZ97UB40( A ;)「っくそ!」
理想だなんだと余計なことを考えるな!
最高の展開を考えろ!
土人形の攻撃を剣でいなし、デレちゃんを逃がす!
その後は、戦って勝てばいい!
口にしたらこんなに簡単なんだ、出来ない訳がないだろう!
だから、だから頼む、僕の足!!
形だけでも『勇者』でいさせてくれ!
自分が危険に脅かされるかもしれないけど、それでも僕は彼女を見殺しにしたくないんだ!
だから僕の足よ、
('A`;)「動k ( ・∀・)「…ドクオ」
今までずっと土人形を睨んでいたモララーが、不意に僕の名を呼ぶ。
その声は、こんな状況だというのに熱がなく、ひやりと冷たく感じられた。
( ・∀・)「もしかしてと思うけどさ」
そしてその冷たい声で、モララーは言い放つのだ。
26 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:28:41.10 ID:
kjZ97UB40( ・∀・)「まさかあの女の子を助けに行こう、…なんて、思ってないよね?」
聞いてるこっちが、耳を疑うような事を。
('A`;)「……は…?」
……な、何を言ってるんだ? モララー…?
('A`;)「も…モララー…?」
( ・∀・)「俺さ、いつも思ってたんだよ。
『ゲームなんかでこういう状況に陥った主人公は、どうして人質を助けに行くリスクを考えないのか』って」
( ・∀・)「襲って来た敵が、ラスボスよりも強かったらどうする?
デレちゃんを助けようと下手に刺激して、被害がもっと広がったら?
君自身が殺されてしまったら?」
( ・∀・)「これだけのリスクを背負って、君はあの化け物と戦えるかい?」
( ・∀・)「俺だって彼女を助けてあげたいよ。だけど、目先の正義感と同情心なんかじゃ結局誰も救えやしない」
( ・∀・)「剣も満足に振れない君が、彼女の命を背負う覚悟はある?」
( ・∀・)「君は言ったよね、『メイドロボットが待ってるから、魔王を倒して必ずVIPへ帰る』って。
その為に、ここで死ぬ訳にはいかないよ」
畳み掛けるかのように、モララーは、僕が行動した際に起こりうるリスクを挙げていく。
それはもう、こっちが口を挟む暇がないほど的確で、反論しようとする気すら失せる程だ。
27 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:36:28.28 ID:
kjZ97UB40 反論しようとした言葉を、思わず呑み込んでしまった。
腹が立つくらい、正論だ。
だけどここで黙ってちゃいけないと思う。
正論だけど、何かが違う。
目の前の誰かを見捨てて断つ『悪』には、何の価値もないんだよ。
みんなが思い浮かぶ『勇者』は、決して誰も見捨てたりしないんだよ。
形だけだけど、僕だってやるからには『勇者』でいたいんだ。
『悪』を断つ、勇者でいたいんだ!
('A`;)「……も、モララーの言うことは確かだし、僕の中には、目先の正義感と同情心と恐怖しかないかもしれない。
それは、否定しないよ」
('A`;)「『勇者』なんて呼ばれてるくせに剣も振れないし、君がいなければ、僕はここまで来ることすら出来なかった。
今だって、ほんとに逃げ出したいくらいに怖い」
('A`;)「剣を触ったのだって昨日が初めてだし、体力もないし、頭も悪い。
ぶっちゃけ『勇者』なんて肩書を持ってるなんて図々しいくらい、僕には相応しくない言葉だよ」
('A`)「でも、デレちゃんは、助けて欲しいと泣いていた。僕はこんなにダメ人間だけど、彼女はそんな事知らない。
だからこそ思うんだ」
僕が訥々と呟く中、四阿では土人形の腕が、デレちゃんの頭上に振り上げられていた。
その腕を、デレちゃんは光を失った瞳で見つめる。
28 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:40:37.15 ID:
kjZ97UB40ζ ;д;)「きゃあああああぁあああぁあああぁ!!!! デレええぇええぇぇえぇぇええ!!!」
('A`)「――――目の前の人間ひとり救えない奴に、魔王なんか倒せない。
人を見捨てて魔王を倒しても、それは勇者とは呼ばない」
(;・∀・)「あ、おいドクオ―――」
モララーの制止が足を止める前に、僕は土人形目掛けて走り出した。
それと同時に、ゆっくりとデレちゃんの頭目掛けて振り下ろされる土人形の腕。
僕があの化け物に突撃するのが早いか、泥の腕がデレちゃんの頭を砕くのが早いか。
―――モララーは言っていた。
『ゲームなんかでこういう状況に陥った主人公は、どうして助けに行くリスクを考えないのか』と。
('A`;)「うわあああああああああああああああ!!!!」
では、僭越ながら奇遇にもそんな立場に立たされた不運な勇者の考えを述べてみよう。
29 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:42:26.68 ID:
kjZ97UB40('A`;)「あああああああああああああああああ!!!!!」
――――主人公は、リスクを考えていないんじゃない。
考えて、考えて、一生分悩みぬいたあと、結局は自分が後悔しない方を選ぶんだ。
理由は、多分三者三様。
『騎士の血を受け継いだ勇者だから』
『お礼に期待してるから』
『絶対に見捨てられない性分だから』
『し、仕方なく助けてあげるんだよ』
『なんとなく』
『いや俺勇者だし』
………。
自分の身に降りかかるかもしれない危険よりも、目の前の救済を求める手。
勇者である為に、目の前の人の為に、全てを乗り越えて、
('A`;)「ああああああああああああああ!!!!」
―――戦うんだ!!
**********
30 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:44:18.07 ID:
kjZ97UB40**********
('A`;)
僕の足元には、土人形の残骸が散らばっていた。
砕け散った砂は、一粒ひとつぶ粒子となって空に溶けていく。
確かモララーの話によると、ラウンジでは死んだものは粒子になるって…。
('A`;)「……あれ?」
どうやら決死の覚悟の体当たりによって、土人形はこっちが拍子抜けするほど簡単に崩れたようだ。
もしかしたら再生するかもしれないと身構えていたけど、粒子になっていった事から考えて再生することはないだろう。
多分。
ζ(゚―゚ ζ「……」
('A`;)「大丈夫?! 怪我は?!」
モンスターの最後の一粒が空に溶けるのを確認して、僕はデレちゃんの前にしゃがみこんだ。
髪や顔に少し汚れは見えるし、腰が抜けているようだけど、目立つような傷はない。
どうやら、あの体当たりは無駄じゃなかったようだ。
諦めなくて本当に良かった。
31 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:46:23.55 ID:
kjZ97UB40ζ(^ー^*ζ「だいじょうぶだよ! ありがとう、ゆうしゃさん!」
さっきまで泣いていた癖に、デレちゃんは既に満面の笑顔を浮かべていた。
立ち上がるのに時間はかかりそうだけど、傷がなくて良かったよ。
('∀`;)「ど、どういたしまして」
( ・∀・)「………」
気付けば、僕の後ろにはモララーが立っていた。
頭の上の蒼い三角耳が、しょんぼりと寝てしまっている。
( ・∀・)「ドクオ、ごめん。俺は君を見くびってた」
モララーの表情も、ばつが悪そうに少し陰っていた。
('A`;)「……」
( ・∀・)「正直、あんな大きな口叩いておきながら結局怖くなって逃げ出すと思ってたんだ」
( ・∀・)「戦った、にしては随分不格好だし、無茶苦茶なやり方だったよ。
今命があるのが奇跡なくらいだ。だけど、あの土人形を倒したのには変わりない」
( ・∀・)「……怪我は無いかい? 勇者さん」
33 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:49:11.90 ID:
kjZ97UB40 手を差し伸ばされてから、気付く。
デレちゃんの無事を確認した僕も、すっかり体中の力が抜けてしまっていたことに。
一気に緊張が、力と一緒に抜けてしまったようだ。
恰好がつかないな、ほんとに。
('A`;)「あ、う、うん、大丈夫」
( ・∀・)「それなら良かった。麻の服着てたおかげだな。
でも次に突撃するときは、体当たりじゃなくて剣でね」
('A`;)「あっ」
テンパり過ぎて、武器の存在をすっかり忘れてた。
装備しない武器は持ってても無駄。
基本中の基本だよ、まったく。
それにしても、あの麻の服がそんな威力を発揮してたのか?!
確かに体当たりした肩は別に痛くもかゆくもないけどさ…。
ζ ゚д゚)「あ、あの…」
モララーの手を借りて立ち上がった僕に、デレちゃんのお母さんがおずおずと話し掛けて来た。
傍らには、元気な様子でしっかりと立ち上がったデレちゃんもいる。
35 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:50:14.07 ID:
kjZ97UB40ζ ゚д゚)「デレを助けて頂いて…本当にありがとうございます!」
ζ(^ー^*ζ「ありがとう、勇者さま!」
('A`;)「あ、え、と、あの、こちらこそ、ハラハラさせちゃって、すいません、でした。
デレちゃんが助かって、良かったです」
デレちゃんがにっこりと笑う。
四阿の周りで、一部始終を見守っていた村人たちが、一斉に僕らの周りに集まって称賛の言葉をかけてくれた。
――――勇者が旅の道中で人を助けてしまう理由が、なんとなく分かった気がする。
「勇者さん、かっこよかったよ!」
「不細工!」
「よくやった!」
「流石勇者だな」
惜しみのない感謝の言葉や、助けた本人の笑顔。
これが貰えるなら、どんなに急いでいても、ついつい誰か困ってる人を助けてしまうと思う。
('A`*;)「あ、はい、すいません、ありがとうございます」
称賛の言葉は素直に嬉しいけど、やっぱり気恥ずかしいものだ。
人との関わりが皆無だった僕にとって、他人からここまで色々言われるのは初めてのこと。
36 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:51:41.68 ID:
kjZ97UB40 …だから『不細工』言った奴は大人しく出てこい!
人が気にしてることをどさくさに紛れて言いやがって!
こういう時くらい素直に称賛してくれたっていいじゃねーか!
**********
**********
ζ(゚ー゚*ζ「勇者さん、勇者さん」
四阿襲撃事件を解決した後、何故かしたらば村では、村人全員を巻き込んで宴が開かれていた。
村中の大人も子供も陽気に歌い、踊り、飲み、素面である僕にやたらと絡む。
色んな質問や好き勝手な話にもみくちゃにされていた僕の服を引っ張ったのは、デレちゃんだった。
('A`)「どう、したの?!」
喧騒のせいで、普通の声量じゃ会話すら出来やしない。
声を張り上げ、僕はデレちゃんの用件を聞く。
ζ(゚ー゚*ζ「あのね、機械がね、勇者さんのなまえをよんでるの!」
………機械?
人混みをどうにかくぐり抜け、デレちゃんは僕に『機械』を差し出した。
小さな液晶画面に、0から9までの数字が書かれたボタンが備え付けられた、軽い手のひらサイズの白い機械。
37 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:54:07.09 ID:
kjZ97UB40 画面の上にある小さな穴からは、確かに僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
記憶の彼方から、これに似た機械を探し出す。
何だったかな、確か通販で見た覚えがあるんだ。
『ムセンキ』じゃなくて、『ポケベル』じゃなくて…。
('A`)「あ、思い出した! これ、古いけど携帯電話だ!」
ζ(゚ー゚*ζ「けいたいでんわ?」
聞き慣れない単語に、首を傾げるデレちゃん。
彼女を横目に、僕は恐る恐る携帯電話を耳に当てた。
耳元からは、荒いノイズが聞こえる。
『もしもし、もしもし?』
('A`;)】「も、もしもし、どちらさまですか?」
かなり昔の携帯電話だ。
通話に問題はないようだけど、使い方はこれで合ってるだろうか?
『良かった、出たか。おい、ドクオ。君は今現在、どこにいる?』
('A`;)】「あ、えと…」
『ラウンジだな?』
39 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:56:22.41 ID:
kjZ97UB40 僕の質問を無視して、電話の向こうの人物は勝手に話を進めていく。
声は中性的で、男か女か全く判別がつかない。
ノイズも交じっているから、余計に判断は難しい。
('A`;)】「あ、はい、ら、ラウンジです」
『………』
『私の言った事は信じてくれなかったようだね。
期限までにちゃんと仕事をしていれば、君はラウンジに来ることは無かったというのに』
残念そうに沈んだ声。
彼(彼女)の話を聞いているうちに、ひとりだけ心当たりが浮かんだ。
VIPの服屋で、衝撃的な登場をしてくれたあの女の人―――
('A`;)】「あ! あの、あなたは、服屋で会っ『時間がない。要件だけ言うから、よく聞いてくれ。
君に話したい事があるんだ。…そこは、ラウンジのどこ?』
('A`;)】「……。…し、したらば村です」
『したらばか。なら、そのまま北に進んでくれ。いずれ、【ヒロユキ街】という音楽の街に着くはず。そこで私は君を待つ』
('A`;)】「あ、ちょっと、聞きたいことがあr」
……切られてしまったようだ。
つー、つー、と無機質な音が聞こえた。
昔の電話って、相手の顔が見えなかったんだな。
少し不便だ。
40 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:57:57.24 ID:
kjZ97UB40ζ(゚ー゚*ζ「…カノジョ~?」
('A`;)「違うよ、服屋で会った、変な人だよ」
(*・∀・)「ドクオー! お前もこっち来て女の子と戯れようぜ!」
人混みの中から、女の子二人を両手に抱いたモララーが千鳥足でやって来た。
まさに両手に花。
イケメンは死滅しろ!
政府は、勇者法案じゃなくてイケメン殲滅法案を作った方が良かったな!
そしたら、非モテ人間は真面目にイケメン殲滅の旅に出るだろうよ!
('A`;)「うわ、酒臭っ」
(*・∀・)「祝杯ってやつだ! ドクオが初めて勇者っぽい事した祝杯! 今日はめでたい!」
うひょひょひょ、と奇妙なテンションのまま、モララーが人混みの中へ戻っていく。
何だよ結局アイツ女の子はべらして見せ付けに来ただけかよ!
イケメン死滅しろ!
('A`;)「……」
('A`)「そうだ、デレちゃん。この機械、どこから持って来たの?」
ζ(゚ー゚*ζ「んーとね、したらば村からすこし離れたところに『廃棄街』があるの。そこでひろったの」
41 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 18:58:57.79 ID:
kjZ97UB40 廃棄街?
…ラウンジ中のゴミが集められたような場所だろうか?
なんか臭そうだな…。
ζ(゚ー゚*ζ「廃棄街には、おんなのひとの幽霊が出るんだよ! きもだめしに行ったら、それを拾ったの」
幽霊かぁ…。
正直、そういうの全く信じてないんだけど、亜人がいるくらいだから…。
…いるのかな。
(*・∀・)「廃棄街の幽霊、美人らしいね!」
('A`;)「うわぁ!」
背後からモララーが突然話に乱入してきた。
お前は女の人しか頭にないのかやっぱりイケメン死滅しろ。
ζ(゚ー゚*ζ「うん、すごくきれいな人だって!」
(*・∀・)「あぁ、一回見てみたいな! 廃棄街の幽霊! よしドクオ! 早く行こう! もう行こう!」
('A`;)「よ、酔っ払ってるじゃん。危ないよ」
(*・∀・)「廃棄街の幽霊を見るまで死にはしないから大丈夫! さぁ行こう!」
('A`;)「そういう問題じゃなくてさ…」
42 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 19:00:42.05 ID:
kjZ97UB40 廃棄街へ向かうのは構わない。
僕も幽霊には興味があるし、美人だというならひと目見てみたいし。
('A`;)「そ、そうだ。廃棄街からヒロユキ街までは近い? ちょっとヒロユキ街に寄りたいんだけど」
(*・∀・)「え? 近い近い! ここかrくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」
……話してる途中だというのに、モララーは泥酔して地面に大の字になって眠ってしまった。
何このダメ人間。
正確には亜人だけど。
('A`;)「あー、…えーっと…」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
デレちゃんは知っていそうにないな。
ショボンさん辺りだったら知ってるか、廃棄街からヒロユキ街までの大体の距r
ζ(゚ー゚*ζ「勇者さん、カノジョいないなら、わたしがなってあげるよ~」
('A`;)「え!!?」
(;´・ω・`)「勇者様には大変感謝しております。ささ、お酒でも……」
('A`;)「あ、いや、ただ突っ込んだだけなんで… ζ*゚д゚)「勇者様、いつかまたこの村にお戻りくださいね。たっぷりお礼をいたします」
('A`;)「あ、はい、でもそんな気を遣わなくて ζ(゚ー゚*ζ「ゆーしゃさん、けいたいでんわってなんなの~?」
43 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 19:02:14.52 ID:
kjZ97UB40(*-∀-) zZzZ
気のいい人々が、機関銃のように喋る喋る。
それに押される僕も僕なんだけど、
……お願いだから、喋らせてください…。
44 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 19:03:05.26 ID:
kjZ97UB40('A`)ドクオは勇者になったようです
‐5‐『覚悟戦』終わり
46 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 19:05:03.61 ID:
kjZ97UB40勇者で初めて30レスいった気がする。
支援ありがとうございました。
もう二度と夕方には投下しない。
何かあったらどうぞ。
長い文書くと訳わかんなくなってくる
48 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 19:26:33.22 ID:GHVKMQL80
乙乙!初めて読んだが面白い
勇者以外の旅人とかもいるの?
49 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 19:49:35.75 ID:
kjZ97UB40>>48
ありがとう。
勇者以外にも、なんか色々います。
多分次の話で出る。
ついでに、>>43のモララーの顔の訂正。
○(*-∀-)
×(-∀-)
50 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/26(月) 20:03:45.09 ID:DI9OJg3jO
面白いな。最近ブーン系から離れてたけどまた読みたくなるくらい良い
次回も期待してるよ。乙
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