3 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 00:56:38.35 ID:
8eISQ9XDO‐序‐
突然だが、君は勇者という存在についてどう思うだろうか。
剣を振って敵を薙ぎ払い、固い絆で結ばれた仲間達と一緒に世界を救い、可愛らしいヒロインとイイ感じになっちゃったり…。
多分、大多数の人が抱える勇者像はそんなものだと思う。
だけど所詮、『勇者』は架空の存在だ。
現実には誰ひとりとして勇者と呼ばれるに価する奴はいない。
過去にだって、どこの世界を捜しても《勇者》と呼ばれた人間はいなかったと思う。
二次元の中になら、剣と盾を持った精悍な顔付きの《勇者らしい勇者》が掃いて捨てるほどいるけど、それらはやっぱり現実にはいない。
科学やらなんやらが伸びる所まで伸びたこの国で、勇者が必要になった事例なんか聞いた事すらない。
だけど想像の世界から《勇者》が絶滅しないのは、科学やら機械文明がいくら発達しても叶うことがない、
非現実的なシチュエーションの『憧れ』があるからだと思う。
4 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 00:58:31.31 ID:
8eISQ9XDO 僕だってガキの頃は、強くてたくましい勇者様になりたいと思った事もあったさ。
けどその思いは成長と共に無理だと痛感し、
なんと今は泣く子も黙るニートになったという訳だ。
世界を救う勇者様とはまるで正反対だ、笑えるだろ?
5 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 00:59:50.45 ID:
8eISQ9XDO‐1‐『勇者法案』
ここまでつらつらと語ってきた僕の名はドクオ。
世間で云う所謂引きこもりニートであり、近所の人はもちろん、故郷の親でさえも僕をいないものとして扱っているようだ。
親にも見捨てられて、それでも働こうとしない人間。
一見すぐにくたばりそうだけど、そういう人間は割としぶとく生き延びる。
何故かというと、ダメ人間最後の砦である生活保護や、国から派遣されてくるメイドロボットなど、
どんなにダメな奴でもそう簡単に死なせない世の中になっているからだ。
僕みたいなニートは細々と死んでいるかのような生活を送って、外の世界とは一切関わらず。
毎日毎日ネットに自分の時間を使い、
毎日毎日僕らダメ人間は政府に生かされて貰っている。
世間の、名前も知らない人の税金で生かされている。
6 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:01:43.67 ID:
8eISQ9XDO('A`)
―――今日も今日とて、やることがない僕はネット三昧だ。
お気に入りに入れたネット掲示板の気に入らない書き込みに対しては、様々な方法を使って完膚なきまでに叩きのめして暇を潰す。
我ながら最悪な時間の潰し方だとは思うよ。
腹が減る時間には、優秀なメイドロボットが美味くもまずくもない料理を作ってくれるし、洗濯も掃除もやってくれるから僕は何もしなくていい。
ニートに対してめちゃくちゃ優しい国。
それが、この国VIP。
家事の出来ない一人暮らしの為にメイドロボットは派遣してくれるし、
面倒な手続きさえ済ませば金までも振り込んでくれる。
買い出しなんかしなくともネットのサービスで店の方から配達しに来てくれる。
世の中は本当にニートの為のものになってきたと思う。
それこそ、真面目に働いてる奴が馬鹿に見えるくらいに、だ。
アナ ゚ー゚)「――では、次のニュースをお伝えします」
7 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:03:21.93 ID:
8eISQ9XDO 12時のニュースが立体視テレビから流れる。
メイドロボットが洗濯から掃除に移行した。
やかましい掃除機の音に混じり、アナウンサーがニュースを告げる。
アナ ゚ー゚)「―――政府は、『Not in Employment, Educ――― or Training』―――通称ニート対―――て、
本日から一週――――後1時までに何か―――職に就かない人間に――――――をする、『勇者法案』―――可決されま―――』
ニュースを読み上げるアナウンサーの表情は、いつも見るものと変わらない。
当然っちゃ当然だ。
彼女は人間じゃない。
機械技術が伸びるところまで伸びたこのVIPでは、ぱっと見人間にしか見えないロボットの開発に成功、実用化までしているのだ。
うちにいるこのメイドもその機械技術の恩恵にあずかって、可愛らしい少女のフォルムになっている。
……まぁそんなことはどうでもいいな。
問題はアナウンサーの言った言葉だ。
8 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:04:41.78 ID:
8eISQ9XDO 『勇者法案』?
ニート対策??
(;'A`)「ちょ、ちょっとメイドさん、掃除機ストップ!」
メイ ゚⊿゚)「分かりました」
メイドロボットは、僕の命令通りに掃除機のスイッチをオフにした。
静かになった室内に、アナウンサーの述べる詳細情報が流れる。
アナ ゚ー゚)「では、詳細情報をお伝えしますね」
そう前置きして、アナウンサーの彼女(ロボットだが)は、フリップを出した。
フリップには赤く強調した字で、『勇者法案』と大きく書かれている。
アナ ゚ー゚)「『勇者法案』とは、全く働く意思のないニートに対して政府から使命を与える事を指します」
(;'A`)「…はぁ?」
アナ ゚ー゚)「本日から一週間後の午後1時までに、現在のニートの中でやむを得ない事情がある人間以外、
働いている事が確認出来ない人は、政府から『勇者』の称号を与えられます」
アナ ゚ー゚)「『勇者』に選ばれた人は、VIPを脅かす仮想敵国家、ラウンジを牛耳る『魔王』を倒しに行ってもらうようですね」
アナ ゚ー゚)「皆さまご存知ではあると思いますが、ラウンジとは――――――」
10 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:07:39.66 ID:
8eISQ9XDO そこまで聞いて、僕はテレビの電源を切った。
途端に消えるアナウンサーの姿。
僕の命令を忠実に守り、今も掃除機片手に佇むメイドロボット。
(;'A`)「な、なぁメイドさん、今の聞いたよね? 本当だと思う?」
メイ ゚⊿゚)「恐らく本当でしょう。それよりドクオ様、掃除の続きをしてもよろしいでしょうか?」
(;'A`)「今日はもういいや、夕飯の支度でもしててよ」
メイ ゚⊿゚)「了解いたしました」
メイドは掃除機を片付けに別室へ。
僕は、吸い寄せられたようにパソコンの前に座った。
《勇者法案》について調べるのではなく、いつもの掲示板へアクセスし、たった今放送されたニュースについてのスレッドを検索して、他の人間の意見を聞く。
11 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:08:56.94 ID:
8eISQ9XDOこの時の僕は、勇者法案の内容よりも、世界中にいるニート達の反応が気になっていた。
…思った通り、掲示板には勇者法案についての書き込みが多数あった。
**********
**********
1080:訳わかんね
1081:何だ?今のニュース
1082:今北産業
1083:何で勇者?
1084:それよりあのアナウンサーロボット可愛くね?
1085:お前らに言うと怒ると思って今まで言えなかったんだが、俺実はニートじゃないんだ…
1086:>>1082、
勇者法案
が
可決
>>1083
政府「ニートはみんなゲームとかアニメとか好きだろwwwww勇者とかって称号与えれば言うこと聞いてくれんじゃねwwwwwwwwwww 俺天才wwwwwwwwwwww」
13 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:12:04.51 ID:
8eISQ9XDO1087:>>1086おとなしく就職した方が勇者なんじゃ?
1088:俺政府関係者だけど、お前ら冗談抜きで早く就職しろ。
ガチで勇者になったwwwなんて喜んでられないぞ。ラウンジの護国システムは異常。
『勇者』なんて名前付けてお前らみたいなのおだてて、実はニート全員ラウンジに特攻させて殺すのが目的なんだよ。
いいか?これはマジだぞ。お前ら早く就職しろ。
1089:あなたも私も勇者です
1090:>>1088長い。産業で
1091:自宅警備員という仕事をしてる俺は大丈夫そうですね。
**********
**********
…まぁ予想はしてたことだけど、為になる話なんか何も書かれちゃいない。
そりゃそうだよな。
いきなり『このままだと一週間後、あなたは勇者になって魔王を倒しに行ってもらうことになります』なんて言われても、
政府が考えた事にしちゃ妙に現実感がないs
<キャー!
<ガシャーン!
………。
『ドジっ娘』システムが追加されているうちのメイドが、どうやら皿を割ったようだ。
14 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:15:30.53 ID:
8eISQ9XDO どうせ『勇者法案』なんて馬鹿げた話はすぐに消えるんだろ?
今まで怠けていたニートだって大人しく就職する訳ないし、この法案は全くの無駄に終わるはず。
こういう突飛な話はあまり大事にならずに鎮火するものだし、いざという時は、自宅警備員で言い逃れられるだろ。
メイ ゚⊿゚)「ドクオ様、申し訳ありません…」
粉々に砕けた皿の破片を手に、メイドが僕の部屋へ来た。
(;'A`)「あーいいからいいから、料理続けて」
メイ ´⊿`)「はい…」
申し訳なさそうな表情のメイドロボットを台所へ帰し、僕は中断していたネトゲへ戻る。
勇者法案は絶対に立ち消えになる。
政府の言いなりになったようでムカつくから、職を探すなんてことはしない。
情弱はみんな、こんにちはワークにアクセスでもしているんだろう。
>キャー!
<ガシャーン!
…メイドロボットが2枚目の皿を割る音を聞きながら、僕はまたネトゲの中の『勇者』の操作を再開した。
15 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:17:36.16 ID:
8eISQ9XDO ネットゲームの中の勇者は凛々しくて、ひとたび剣を振るえばモンスターは恐れおののく。
現実で今、大量生産されそうな勇者はどうだろう?
怠けていた分、体力は衰えているだろうから剣を振るう程の力はないだろうし、魔法なんて使える訳がない。
ゲームの中の勇者は人望があって、パーティも増えていくけど、
現実で勇者にされそうな奴らは、他人に話しかけるようなコミュ力もないような人間ばかりだ。
漫画の中の勇者はたった1人だけど、勇者法案が可決されれば、世の中には沢山の勇者が排出されるだろう。
…世の中に溢れかえる勇者の図も、それはそれで面白そうだけどな。
('A`)「よし、レアアイテムゲット」
――――こんな風に余裕ぶっこいて、働こうという意思すら見せないこの行動を、僕は後で存分に後悔することになる。
16 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:18:28.53 ID:
8eISQ9XDO('A`)ドクオは勇者になったようです
‐1‐『勇者法案』終了
18 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:20:01.05 ID:
8eISQ9XDOもしもし規制解除されてたから…。
支援とかありがとうございます。
なんかあったらどうぞ
19 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:21:10.68 ID:MYVk5wUu0
似たようなタイトルを見たことがあるような…
気のせいか?
20 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:22:39.01 ID:
8eISQ9XDO>>19
多分あると思う。
かぶらないようにしたつもりだけど、もしかぶってたらタイトル変える
21 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:23:14.53 ID:aAYKHAnaO
ファンタジーとかではなく、未来またはパラレルワールドと考えていいの?
あと乙
22 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:26:18.28 ID:MYVk5wUu0
>>20
そうか
内容は面白かった、今後にwktk
それと乙
23 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/11(日) 01:26:24.37 ID:
8eISQ9XDO>>21
うーん、近未来的ファンタジーとかかな…。
最近のファイナルファンタジーみたいな感じ
→
‐2‐『人が苦手な勇者候補』
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