6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:21:46.62 ID:
GrEcyBuw0 素直ヒートについての事件は抹消されていた。
我々の記憶には残っているが、新聞などの記録には一切掲載されていない。
インターネットのニュースサイトですら、件の事件に関するバックナンバーは残されていなかった。
我々以外にも疑問に思ったものがいたのか、本件の映像を動画サイトに投稿した者も居たが十分と経たずに動画そのものがなかったことになっていた。
なんらかの強大な力が働いていることは明白であった。少し頭が働けば、その正体も危険なほどにまで見えてくるだろう。
身を乗り出して覗こうとするものはいない。見ても誰も信じない。彼らを祭り上げる意見で溢れている。
私は巨大掲示板を閲覧することがよくあった。書き込みこそしなかったが、毎日ページを開いていた。
膨大な情報が更新・排他されるその場所は最も真実から近い場所でもあったが、同時に最も胡散臭い情報で溢れていた。
そのためか協会の手も回りにくく、全てを削除することは不可能で、そこまで必死に関連情報を削除すると不壊の信用にヒビが走ってしまう。
そこで私は気になる書き込みを見つけた。
興奮のためか乱文であったが、要約すると『俺の仕事場の人間が次々と不審な死を遂げている』ということであった。
そんな書き込みから連鎖的に話題は広まり、続々と情報が集まってきていた。様々な人々が己の命をも考えず思考を巡らせる。
断片的な情報を無理矢理に繋ぎ合わせても意味不明であり、もはやそれは「無関係」と切り捨てられる話になっていき、やがて終息した。
全てを理解できるのは我々かヒーロー協会でも上層部の人間だけであろう。
いくら新型とはいえ協会内での私はあくまで末端にすぎない。
ではなぜ、私がどうして表・裏の情報に精通しているのか。私を手引きする存在がいることは当たり前であった。
魔王と呼ばれている、言わば悪人側のヒーローが我々を纏め上げていた。
ロマネスクと名乗る彼は両眼を縦に切り裂かれていたが眼球まで傷は届いておらず、失明はしていないようであった。
彼も元ヒーローであり、ヒーロー機関の創設者とはかなり縁が深かった。
そして現在、私は魔王が来訪してくると聞き、これから行われる出来事の準備に奔走している。
実に、長かった。あまりにも、長すぎた。しかしそれもようやく終わるのだ。私は昔を懐かしみ、回想を始めた。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:25:24.16 ID:
GrEcyBuw0 生まれたばかりの私に詰め込まれた知識はこの世がヒーロー至上主義である、ということであった。
正義か悪か、私にはそんな概念すら教え込まれなかったが(当初、判断材料すら与えられなかったことが現在の私へと繋がったのだ)、
最低限から日常作法などを教え込むのは面倒だったためか、知識の土台として一般常識程度の知能が既に組み込まれていた。
機関のものは私に「やるべきことと現状」を説明し、それに対して私は質問によって生み出された疑問を浮かべて口に出していった。
そんな私を見て彼らは知能の成長だと喜んではいたが、中には不審な表情を作るものもいた。
『人間に近づけすぎた人工物』が意図しない(ある意味最も意図できる)行動に出ることを恐れる人物も沢山いたのだ。
私の機関内での記憶はいつも、白色の研究室だけであったような気がする。
影すら存在しないその部屋には光源がいくつあるのか判断できなかった。
機械がたくさんあって、水泡の音や電子音が響いていたことを私は覚えている。
『自分が製造したものだから何も不備はないはずだ』そんな科学者の自惚れと、
『本気で暴走すれば圧倒的な力を持つ私』に関わりたくないという大多数の人間。
後者の怯えが前者に通じた結果、私には弱点と副作用がつけられることとなった。
( ・∀・)「君は吸血鬼だ。圧倒的筋力と運動能力を持ち、知能は人間並みで、体を霧に変身させられる。
まさに超越者なのだけど、どうにも君を恐れる連中がいてね。完璧ではないのだ。太陽の光を浴びると体が灰になる。
定期的に人間の血液を体に取り入れなければならない。ニンニクが苦手で十字架に怯え、流れる水は渡れず心臓に杭を打ち込まれると死ぬ」
<_プー゚)フ「弱点だらけではないですか」
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:27:01.14 ID:
GrEcyBuw0( ・∀・)「仕方がないと諦めてくれ。完璧な存在はあってはならないらしい。
基本性能の優秀さに弱点の数も比例していなければならない。それが調和というものだ」
<_プー゚)フ「憎き怪人や悪人たちにそれを知られては、私はすぐに廃棄されてしまうのではないでしょうか」
( ・∀・)「……そんなことはないだろう。君は夜に戦わせるし、
目を瞑っていても問題ない程度の戦闘力をもつものしか相手にはいない。どちらかというと、組織内部の人間のほうが怖いのだよ。
まあそれは置いておいて、大丈夫だ。飛びぬけた性能は失われるが弱点も同時に消し去る方法も用意している」
この頃すでに私の中ではヒーロー組織そのものに対しての猜疑心が膨れ上がっていた。
『どうしてそんな相手にならないようなものに対して、強大な力を行使する必要があるのか』と思ったものだ。
「正義の力は絶大で、悪が決して刃向かうことのないような抑止力だ」そうやって誰かが言っていた。だが当然、腑に落ちることはなかった。
白衣を着た科学者は私に後ろを見たまえと言った。
見るとそこには私の身長よりも大きい棺桶が壁に立て掛けられていた。
( ・∀・)「あの中に入り眠ることによって君の能力は維持される。逆に言えば、入って眠らなければ君の性能はどんどんと落ちていく。
私のような人間であれば睡眠と食事をまともに行わない、ということだが、君は死にやしない。衰弱を感じるだろうが、時期に慣れるだろう。
血液を摂取しなくてもよくなり、ガーリックトーストを食べられるし十字架に向けて祈りを捧げることもできる。
楽しい水遊びを行うことも可能になるが、構造が人間と同じなため、心臓に杭を打ち込まれると生態活動は停止される。
代わりに、美味しく栄養のある食事を沢山食べるように」
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:29:09.21 ID:
GrEcyBuw0<_プー゚)フ「わかりました」
( ・∀・)「まあ、基本的には棺桶で眠ってくれよ。そして、実践投入はもうすぐだったな?」
<_プー゚)フ「訓練では予想以上の結果が出たらしく、実践投入が早められた結果、明後日になりました」
( ・∀・)「そうか。……人を助けると、絶対に血液を貰うんだぞ」
<_プー゚)フ「私は思うのですが……『身を挺して庇った人間に対してどうして苦痛を伴う行為』を行うのですか?」
科学者は腕を組み、目を瞑って考え込んだ。私はしばらく待つことを覚悟したがほんの数秒で彼は口を開いた。
( ・∀・)「人間は、完全な自己犠牲を掲げる人間を決して信用はしない。何かしらの見返りを求めるものだと本能の奥底で知っているのだ。
だから彼らに身を捧げさせてあげなければいけない。日常の献身的行動に加えて『自分自身に向けられている正義』を認めさせなければいけない。
多くのヒーローの場合は肉体を使ってヒーローの性的欲求を満たす相手となるだろう。
しかし君の場合は性欲がないため、『相手の首筋から血を吸うこと』だ。少しだけだぞ。献血みたいなものだ。
相手はこれを決して嫌がらない。恍惚感に溢れ性的興奮も高まることだ。相手が男女二人組みならば後に情事に耽るだろう。
双方が奥手であったのならば、君は恋のキューピッドということになるのかもな、ああそうだ、安心したまえ。牙はきちんと消毒できるようになっている」
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:31:04.28 ID:
GrEcyBuw0 自分自身の構造と扱い方を知った私はその翌日に逃亡した。
逃亡の際に機関内の人間やヒーローを幾人か絶命させてしまったが、私は『自分自身の正義』を信じているため心は痛まなかった。
両手にべったりと付着した血液を舐め取ると、満足感が体中を駆け巡った。
依存性があるようで、果てには見境無く人を襲うだろうことが容易に推測できたので私は棺桶で眠らない決意をした。
そうして、生みの親、育ての親を殺した私は街に紛れ込んだ。
広大な街は人で溢れており、何の不自由も感じなかった。
何日か過ぎたが、協会に属する存在が私を追い掛け回しているような情報は手に入らなかった。
深夜に交番前を歩いてみたりもしたが、私の人相書きなども掲示板に張られておらず、拍子抜けしてしまった。
仕舞いにはコンビニエンスストア前で頭の悪そうな学生に絡まれたので一目散にその場から駆け出した。
私がヒーロー協会に目をつけられていることは明白であったが、彼らは決して私に向けて本格的に手を下すことは無かった。
理由は大きく三つ考えられた。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:32:18.45 ID:
GrEcyBuw0 一つ目は私がヒーロー協会に反抗するつもりがなかったこと。事なかれ主義者なのである。
二つ目が、私の格好が生活には不便しない程度のものであること。(とはいえ、街中を長時間歩き回れるほどではないが)
略奪行為を行う必要もなく、頭を下げれば食料を手に入れれたし『生産機』を使用すれば人型怪人は幾人も作り出せた。
三つ目が一つ目をやや複合する形になるのだが、最たる理由であった。
『同士を集う行為を行わなかったこと』だ。私一人程度ならば野放しにしていても問題ないと踏んだのであろう。
実際問題、私一人では囲まれて袋叩きにされるのがオチだ。
『生産機』も人間と同じ程度の戦闘能力しか持たない怪人しか生み出さない。結論から言うと、何人相手でもヒーローは負けないのだ。
つまり、とても簡単な問題であって、『ヒーロー機関そのものが怪人(一般大衆を殺害できる程度の)を作り出し野に放っていた』ということになった。
私がヒーロー協会の仕組みそのものにまで手を突っ込んだことは、上層部に知られている。
けれどもやはり、『社会的に有為でない人間以外の存在が、もはや磐石である機関を脅かせるほどの存在ではない』と判断されたようであった。
これは私にとっても好都合であった。度々、深い事情を知らない新米ヒーローたちが私を見つけると襲い掛かってきたが、その度に適当に倒されたふりをしていた。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:34:03.31 ID:
GrEcyBuw0 ある日突然のことであった。
( ФωФ)「おい、お前。そこの背の高い黒コートだ」
人型汎用怪人ドクオをアルバイトに送り出した後、
私がアパート(現在と同じ場所)で形状記憶生物である猛獣型怪人の背中を撫ぜていたときのことであった。
見上げると水に濡れた白いタンクトップを着た筋骨隆々の男がいた。窓枠に脚をかけて部屋へと入ってこようとしている。
肌にぴっちりと張り付いているため肌色が浮き出ており「これはもしや変態ではないのか」と疑った。
そして周りを見渡し「編隊を組んでいれば逃亡もやむなし」と脳内の私たちが満場一致した。
<_プー゚)フ「なんでしょうか。もしや、タンクトップを無理矢理着せる行為に性的興奮を覚える方ですか?」
( ФωФ)「待て待て、確かに季節は冬であるが我輩はそういう輩ではない」
はあ、と私は猛獣型怪人を床へと置いた。
とうとうこの筋肉奇人が私の部屋へと侵入してきた。濡れたタンクトップに乾いたジーンズ。果たして何があったのであろうか。
そんな疑問も気になったが驚いたのは彼が私に引けを取らない身長を持っていることであった。それでこの筋肉。はたして何者であろうか。
( ФωФ)「単刀直入に言うぞ、貴様、元ヒーローだろう?」
<_プー゚)フ「……」
追手。
その二文字が頭の中で瞬時に「ヒーロー機関から私を殺そうとやってきた刺客」という意味を持った、
飛躍した理論ではない。相手の気まぐれ一つか、もしくは本腰を入れて始動した。
理由はわからないが私が邪魔者であることは確かであったため、至極まともな理解であった。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:36:36.04 ID:
GrEcyBuw0( ФωФ)「なぁに、別になにも――」
両目に入った縦傷から、歴戦の戦士であることは間違いなさそうであった。
私は男から背を向けて木の扉へと向けて走り出した。そして飛び込む。
この扉を外から見ていた者がいれば、さながらアクション映画俳優がガラスを突き破って飛び出してくるかのように映っただろう。
飛び散る木屑の中で黒コートを翻す男。格好良すぎるかもしれぬ。映画化決定だ。
市街地を目指して走り出した。棺桶で眠らなくなっていたため吸血鬼としての突出した能力は失われていたが、
一般人や少し上等なヒーロー相手には負けるとは思えなかったが、明らかにタンクトップの男は段階が違った。
体から滲み出る空気と雰囲気が圧倒的戦闘力を秘めていると容易に察せた。逃げるほかあるまい。
だが、
<_;プー゚)フ「やはり、そう上手くはいかないよなあ」
( ФωФ)「まあ、そうだろうな」
私が立ち止まった直後、後ろでタンクトップの声がした。微塵も疲労は感じられない。
( ФωФ)「我輩も元ヒーローなんだよ。しかも幹部だ」
<_;プー゚)フ「で、そんな人がどうして私を追うんだ?」
( ФωФ)「我輩は現在『ヒーロー』と敵対する『悪人』を名乗っている」
<_;プー゚)フ「……」
察しがついた。この後に続く言葉は相場が決まっているだろう。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:38:35.25 ID:
GrEcyBuw0( ФωФ)「貴様を『悪人』の組織へと勧誘しにきた」
<_;プー゚)フ「拒否権なんて、ないじゃないか」
街を引っくり返すような闘争はなく、心の根底から覆されるような意見はなく、命乞いから私は彼の仲間となった。
彼はロマネスクと名乗り、ヒーローや同僚からは『魔王』と呼ばれていることを教えてくれた。
そうして笑顔を浮かべる
( ФωФ)「ようこそ……『悪人の世界』へ……」
無理矢理な勧誘ではあったが、元ヒーローである私を『悪人』として認め、祝福し歓迎してくれた気高さと穏やかさを私は確かに感じ取った。
そうして、回想は終わる。
『ヒーローを打倒する』というロマネスクさんの最終目標は私への影響も決して悪いものではなかった。
次第に私は「この人の仲間になり成功であった」と思い、そのままこの近辺の警備(弱者の振りを続けること)を任された。
そういえば、私をエクストプラズマンと名づけたのはロマネスクさんであった。
由来はなんだったのかと聞いてみると『人間と人間以外の中間的存在からだ』と言ったのだが、
本来のエクトプラズムの意味から大きく外れていたので私は笑っていいものかわからず、ただそうですかと頷いたものであった。
現在に至り、ロマネスクさんが今目の前へといる。重要な出来事であることは様子から明らかであった。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:45:47.08 ID:
GrEcyBuw0( ФωФ)「ヒーロー、関西支部を落とした。住民は大騒ぎだ。我輩たちの行動は紛れもないテロリズムだからな。
一般人も何人か死んだよ。で、だ。大きな都市にしか大きな支部はない。そして、まだ中枢となれる大きな支部は二つ。
昨日潰してきた関西と、エクスト、お前のいるここだ。他にも中小は多いが、頭を叩いておかしな点を上げればあとは警察とかがなんとかしてくれる」
<_プー゚)フ「……」
( ФωФ)「わかってる。我輩の意見が通るかどうかだろう? それらは全て他人にゆだねることになるがな」
そう言ってロマネスクさんは悲しそうな顔をした。
( ФωФ)「味噌汁作ってやるよ。我輩、部下の世話をしていたからとてもウマいぞ」
こんなにも饒舌に語る人物だっただろうか? この人はこんなにも捲くし立てて喋っただろうか?
<_プー゚)フ「いただきます」
仮面のロマネスクという名前のミュージカル作品を私は知っていた。
内容こそ知らなかったが、フランスの作家ラクロの「危険な関係」を歌劇化したものだということも知っていた。
そして、私が『これからの舞台で』どんな役を務めるのか、それも知っていた。
#6 「チャイルドフッズ・エンド」 終わり
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:48:35.34 ID:
GrEcyBuw0これにて終わりです。短いですね。次回とかその次ぐらいで最終話です。
こねくり回しているだけでほとんど直線ですね。やはり練りこみが甘い。
>>18は投下ミスです。実際の物語は>>19になります。書きながら書き溜めを投下という自転車操業。
それではまた、そのうちに。
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:52:53.46 ID:qjk1NmnXO
乙でした!
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 03:57:44.05 ID:4k4dKFmg0
来てた乙
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 04:55:20.55 ID:24sWA5hN0
きたら終わってた……乙
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