2 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:34:38.04 ID:
BEM+PlRB0('A` )
杉浦城の使用人部屋に備え付けてあるベッドの上で、
僕はかれこれ一時間は寝返りを繰り返していた。
昼間銃で狙われて走り回ったせいか、足に特に疲労が溜まっているのが分かる。
部屋の中に沢山あるベッドはどれもきちんとメイキングされていて、皺ひとつない。
壁に掛けてある、先代魔王ロマネスクの肖像画は毎日丁寧に掃除されていて、
額縁に埃は溜まっていなかった。
どこを見ても粗が見付からないくらい、綺麗に整理整頓された使用人部屋。
僕の向かい側のベッドには、仰向けで爆睡しているモララーがいる。
片足がベッドの縁から落ちていた。
したらば村の宿屋でも思ったけど、コイツ寝相悪いな。
('A`;)
また寝返りをひとつ。
月でほんのり明るい室内に、木々の影が怪しく蠢く。
何の音も聞こえない、静かな夜だ。
クーはまだ悩んでいるのだろうか?
これから僕はどうなるんだろう。
魔王なんかと戦えるのか?
3 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:35:45.40 ID:
BEM+PlRB0VIPに置いてきたメイドロボットは、また何かドジをやらかしてないだろうか―――。
ラウンジに来てまだ一週間くらいしか経ってないのに、もうVIPが懐かしい。
これがホームシックってヤツだろうか。
特にVIPに対して未練はないと思ってた。
だけど今振り返ってみれば、非常に住みやすい国だったのも確かだ。
住みやすすぎたから、勇者法案なんてものが考え出されたんだろうけど。
(A`;)「……」
眠らないと明日が辛いな。
でも、どうしても眠れないんだ。
寝癖でぼさぼさになった髪を掻き回しながら、仕方なく僕は半身だけ起こした。
何か暇を潰せるものがないか部屋中を見回してみる。
だけど、あるものと言えば使用人の数のベッドだけ。
ロマネスクの肖像画を見て眠りにつくのは、ちょっと遠慮したい。
変な夢見そうだ。
('A`)「何かないかな」
4 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:37:04.95 ID:
BEM+PlRB0―――あぁ、そういえば。
ベッド脇の小机に目をやる。
そこにはデレちゃんから受け取った携帯電話と、紙切れが置いてあった。
紙切れには、ここに来る前に兄者たちが教えてくれた連絡先が書かれている。
『連絡してくれ』って言ってたもんな。
夜も遅いけど、とりあえず電話してみるか。
( 'A`)
( -∀-)ZzzZz
モララーが爆睡してるのを確認して、
僕はなるべく音を立てないように使用人部屋を出た。
紙切れに殴り書きされた番号に電話を掛ける。
携帯電話の使い方、これであってたかな。
('A`)】
数回のコール音。
その後、
『……はい』
6 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:38:55.99 ID:
BEM+PlRB0 大層眠たげな声が、電話に出た。
声だけでは兄者か弟者かは断定できないけど、……まぁ兄者だろう。
(;'A`)】「あ、も、もしもし? 寝てたらごめん」
『……誰?』
(;'A`)】「あ、ドクオです、はい」
『おー、ドクオか。そっちどう? 今どこ? 廃棄街? 幽霊には会えたか?』
電話の向こうの眠たげな声の持ち主が、一気に覚醒したようだ。
次々に寄せられる質問に答えながら、僕は城の中をどんどん移動していた。
廊下は声や足音がよく響く。
その物音なんかでモララーの睡眠を邪魔するのも悪いし、クーの邪魔もしたくない。
城の廊下をそっと移動し、赤い絨毯が敷かれたエントランスホールへ。
そして、大きな両開きのドアを開けて、外へ出た。
城の中の空気が清浄だったせいで忘れていたゴミの臭いにむせ返りつつ、
医療都市にいる兄者との情報交換を進める。
『こっちはナースが沢山いるぞ。羨ましいだろ、羨ましがれ』
7 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:40:04.63 ID:
BEM+PlRB0(;'A`)】「……」
(;'∀`)】「こっちなんか、メイドさんがいたよ」
『なん……だと……? おい、どういうことだ? それって幽霊じゃないのか!?
俺正直言うと、ナースよりもメイドさんのが好みなんだ!』
(;'∀`)】「は、はは……」
……嘘は言ってない。嘘は言ってないぞ。
少々攻撃的な性格と、機械と融合した身体については敢えて言わなかったけど。
『あーなんだよ、俺もメイドさんに会いたかったなぁ。
弟者のヤツがさぁ、ナース大好きだからもう医療都市から出ないとか言っちゃっててな……』
(;'A`)】「そ、そうなんだ……」
『あぁ、そうなんだよ。それと、俺ら明日医療都市を出発するよ。そっちは?』
('A`)】「僕らも多分明日廃棄街を出発すると思う。
ヒロユキ街でちょっと会わなきゃならない人がいるんだ……」
『あー、なんか俺らもヒロユキ街で待ってるって、携帯に電話が来たな。
話したい事があるって言われたよ。面識もない人なんだが』
(;'A`)】「それってもしかして……」
8 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:40:47.45 ID:
BEM+PlRB0 脳裏に、VIPの服屋で会った名前も知らないあの女の人の姿が浮かぶ。
ショッキングな登場をした、あの人……。
政府の人間だと自称してた、本当に変な人だったな……。
『まぁ、ヒロユキ街でまた会えたらラッキーって感じだよな』
『それよりドクオ、【あの噂】聞いたか?』
兄者の声のトーンが、少し下がる。
今まで和やかだった雰囲気が、突然真面目なものに変わった。
……噂? ……何のだろう。
('A`)】「……噂って?」
『なんかな、最近勇者がどんどん攫われていくらしいんだ。
で、攫われた奴らは皆、北に連れて行かれる』
('A`)】「北……」
『北っつったら、魔王の城があるんだろ? だから、なんか嫌な感じがしてな。
お前なんか攫いやすそうだし』
9 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:42:45.76 ID:
BEM+PlRB0『まぁただの噂ではあるから、あまり気にすんなよ。
俺らも、そんな話を聞いたって程度だk―――』
『――ザザ――――ザ――』
('A`)】「あれ? 兄者?」
兄者の声を塗りつぶすかのように、携帯から耳障りなノイズが流れて来る。
何だろう? 電波が悪いとか、そういうのだろうか?
(;'A`)】「……兄者?」
『……ザザ……ザ……』
呼び掛けても、返って来るのはノイズばかり。
携帯電話の画面を見ると、電波マークが付いたり消えたりと何だかおかしな事になっていた。
(;'A`)「?」
仕方なく電話を切り、暗い城の玄関前の階段に腰掛ける。
……勇者を攫う奴がいる、か。
10 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:43:27.59 ID:
BEM+PlRB0非力な奴らを攫って何か得があるのだろうか?
それが魔王の放った刺客かどうかも分からない。
('A`)「今、何人勇者がいるんだろうなぁ……」
('A`)「……」
左手の甲に浮かんだ、8208という数字。
一万人近いというVIPのニートは、今どのくらい減っているんだろう。
('A`)「……戻るか」
兄者の忠告を信じよう。
攫われたら、元も子もないわけだし。
**********
**********
翌朝。
僕とモララーは、杉浦城の前でこれからの行き先を確認していた。
その場にも城内にも、クーは結局姿を見せなかった。
だから、そういう事だろう。
先代魔王の命令を守り通し、城と一緒にここで生きる選択肢を選んだようだ。
それが正解か不正解かは僕らが決めることじゃない。
少し残念ではあるけど。
11 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:44:47.15 ID:
BEM+PlRB0('A`)「結局、廃棄街の幽霊ってのはクーの事だったのかな」
( ・∀・)「……」
(;・∀・)「そ、そうだよ多分」
……何だ今の間。
(;・∀・)「……ま、じゃあ、行こうか」
左肩に包帯を巻いたモララーが、杉浦城の広い庭を進み出した。
視界に映るゴミが、城から遠ざかるにつれて増える。
それに比例して濃くなる、空気の汚染。
あぁ臭いなぁほんともう……。
早くここから出たいよ……。
('A` )「……」
振り返って見た杉浦城は静かで、退廃的なムードが漂っていた。
ラウンジ中から要らないと云われたものが集まる街に、文字通り『棄てられた城』。
綺麗で重厚な外観とは裏腹に、血生臭い歴史を持つ杉浦城。
今の魔王が、生まれた場所。
13 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:46:20.65 ID:
BEM+PlRB0**********
**********
ゴミ山で杉浦城が見えなくなり、
棄てられたゴミの種類が鉄や配線のような工業的なものばかりになった頃、
( ・∀・)「おっ! やっと出口が見えてきた!」
ようやく廃棄街の終わりが見えてきた。
高い塀に備え付けられた『またお越しください』と書かれた錆びた看板が侘しい。
僕は、もう一度杉浦城があった方角を見る。
見えたのは高く積まれたゴミ山ばかりで、城の屋根すら見えなかった。
(;・∀・)「早く早く、もうこんな臭いところはこりごりだ」
('A`)「あ、うん」
モララーに促され、歩く足を早める。
廃棄街の出口にある門を潜る直前、静かな街に突如、
「勇者はっけぇえぇええぇえん!!」
下品な大声が轟いた。
(;'A`)そ
14 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:48:18.11 ID:
BEM+PlRB0 すっかりよそ見をしていた僕は、慌てて視線を前に戻して声の主を探す。
何が?
どこにいる?!
動態視力がいいはずのモララーも、突然降ってきた声の主を見つけられないようだった。
(;・∀・)(;'A`)「!?」
・∀ (;'A`)「な、何だ―――」
不意に、今の今まで誰もいなかったはずの後ろにふと気配を感じた。
恐る恐る振り向くと、そこには、
( ・∀ ・)(A`;)そ
(・∀ ・)「我らが魔王様が、お前らみたいな勇者を故郷に帰してくれるそうだぜ。
どうだ、黙って俺に着いて来るか?」
妙に両目が離れた爬虫類顔の男がいた。
全身を覆い隠す真っ黒なローブを纏い、離れた両目はてんで違う方向を見据えている。
かなり気持ち悪い男だ。
モララーも嫌悪感を感じているようで、あからさまに眉間に皺を寄せていた。
ギョロギョロと左右好き勝手に動き回る男の目が、唐突に僕に向けられる。
(・∀ ・)「どうする?」
(;'A`)「お、お前が、最近勇者を攫ってるのか?」
15 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:49:16.27 ID:
BEM+PlRB0(・∀ ・)「攫ってるとは失礼な奴だな。
他の勇者は、自分の意思で俺に着いて来たんだぞ?」
(・∀ ・)「お前もVIPに帰りてぇんだろ? 一緒に来いよ」
真っ黒なローブの中から、妙な色をした腕が伸びて来た。
その腕からは、酷い腐臭が漂ってくる。
廃棄街のゴミの臭いが気にならなくなるほど、その臭いは強烈だった。
これは人の身体から漂っていい臭いじゃない……。
それこそ、死んだ身体を放置したような、そんな臭いだ。
(;・∀・)「お、おいドクオ、まさかとは思うけど、その気持ち悪い奴に着いて行くとか言わないよな?
魔王の手先だぞ?」
(・∀ ・)「気持ち悪いとは失礼な奴だな。顔のパーツはほとんどお前と同じだぞ?」
差し出された、妙に長い腕を見る。
どす黒く変色した肌に、血色のない割れた爪。
おまけに目は、寄生虫に体を乗っ取られたカタツムリのよう。
いくらVIPに帰りたいといえど、この男に着いて行く気は起こらなかった。
クー達の人生をめちゃくちゃにした魔王が、素直に僕らをVIPに帰してくれる訳がないだろ!
16 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:50:46.71 ID:
BEM+PlRB0(;'A`)「い、行かない! 行かない!」
(・∀ ・)「あ、そ。じゃあ仕方ねぇな」
思ったよりも呆気なく、男は伸ばしていた腕を引っ込めた。
このまま引き下がってくれるのか……?
(・∀ ・)「―――」
依然としてこちらに向いたままの男の口が、何かを告げる。
『声』としてその音が届く前に、僕は、
(;゚A゚).・.
腹に受けた大きな力によって、思い切り吹き飛ばされていた。
(;゚A゚)「?」
(;゚A゚)「?!」
20代男性の平均体重よりも軽い僕の身体は、かなりの距離を飛んだだろう。
空気を裂き、ゴミ山の一つを崩し、重力に引かれて地面に叩きつけられる。
その衝撃で辺りには砂埃が舞い、体中に擦り傷が出来た。
(;・∀・)「ドクオーッ!!!!」
離れた所から、モララーが僕を呼ぶ声が聞こえる。
だけど、その呼び掛けに反応する事すら出来なかった。
17 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:52:54.78 ID:
BEM+PlRB0腹を鋭利な刃物で貫かれたかのような激痛。
内臓が潰されたんじゃないかと思うほどの衝撃。
息をする度に弥が上にも痛みが全身に駆け巡る。
何をされた?!
何があって、僕は今こんな所に倒れてる?!
(・∀ ・)「―――お前もバカな奴だなぁ」
腹を抱えて蹲る僕のすぐ傍に、笑顔を顔に張り付けたさっきの男が佇んでいた。
ありえない……。
さっきまでこいつはモララーと同じ所にいたはずだ!
それこそ瞬間移動でもしない限り、こんなに早くここに来れるはずが…!
(・∀ ・)「黙って着いて来りゃこんな痛い目に合わなかったのによ」
(;'A`)「っ何、が……!?」
(・∀ ・)「あぁん? 何をされたか分かんねぇってか? お前それでも『勇者』かよ」
(・∀ ・)「いいぜ、教えてやんよ」
男は下品な笑みを湛えたまま、ローブを脱ぎ捨てた。
鼻をもいで捨てたくなるような腐臭が一層酷くなる。
18 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:54:08.10 ID:
BEM+PlRB0痛みや臭いに耐えつつ、視線を男へ向けた。
黒いローブの中にあった身体は小綺麗な服に包まれている。
(・∀ ・)「俺は魔王直属の部下、六将がひとり、斎藤またんき!
数年前に大量の人間を撲殺して処刑されたが、魔王のおかげで生き返った男だ!」
(;'A`)「い、生き返っ……?」
一度死体になってからそのまんまの状態で生き返ったというなら、
この酷い腐臭の理由は、まぁ納得できる。
でも、『生き返った』……?!
VIPにいた頃ですら、一度死んだ人間を甦らせることは不可能だと言われていた。
それこそ万能な『魔法』じゃない限り、死者は甦らないはずだ!
(・∀ ・)「魔王の造った機械が俺を動かしてんだと。
俺ぁバカだからよ、どういう原理で生き返ったかなんて聞くなよ」
(・∀ ・)「生き返らせてくれた上に、瞬間移動装置とやらもくれたんだ。
魔王の命令くらい何でも聞かなきゃバチが当たるってもんだよな」
(・∀ ・)「魔王にゃ感謝してんだぜ。機械で頑丈な身体に、人を殺す役目を俺らだけに与えてくれる。
デメリットなんざ何もねぇ!」
(・∀ ・)「これほど生きてて良かったと思った事はねぇな!」
喋りを重ねる度に饒舌になっていくまたんきを見上げながら、
どうにか痛む身体を起こす。
19 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:55:41.37 ID:
BEM+PlRB0未だに腹はズキズキと痛むけど、明らかな敵意を持っている奴の前で無防備に倒れている余裕はない。
死んだ身体のくせに『生きてる』なんて、笑えない冗談だ。
(;'A`)「つ……」
(・∀ ・)「ほぉ、とりあえず起き上がれるのか。
俺と着いて来るのを嫌がった他の『勇者』は、さっきの一撃で大体動かなくなったんだがな」
(・∀ ・)「ま、ゴミがクッションになったとかそんなんだろうな。
運がいいのか悪いのか分からねぇ奴だ」
(・∀ ・)「……さてと、少し喋り過ぎたか。
興奮すると喋りが止まらなくなるのはどうにかならんもんかね」
(・∀ ・)「そうそう、俺の一撃でKOしなかったご褒美だ。
もう一度だけ、さっきと同じ質問をしてやるよ。よく考えて答えろよ?
お前だって痛いのは嫌だろ?」
(・∀ ・)「―――俺と一緒に、魔王の元へ行くか?」
(;'A`)「……」
行かない、と、即答したかった。
喉まで出かかった言葉を押し止めたのは、腹や全身を襲う痛み。
またんきの口上からすると、まだ何か最終兵器的なものを隠し持っているだろう。
戦うことも考えた。
20 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:57:20.07 ID:
BEM+PlRB0でも、これは断言出来る。
絶対にこいつには勝てない。
こいつは人を殺すことに何の躊躇いもないから処刑されたんだ、
僕なんかが勝てるわけがない。
それなら、僅かながらの可能性に賭けて魔王の元へ行った方が……
(;'A`)「……」
(・∀ ・)「『行く』って言っちまえよぉ。簡単だろ?」
優しい声音でまたんきが思考を揺さぶる。
どうしよう、どうしよう、
どうしよう。
(・∀ ・)「どうする?」
僕を覗き込むかのように、またんきは身を屈めた。
吐き気を煽るような腐臭が一層近くなる。
(; A )
(;'A`)「……行かない」
あぁ、馬鹿だ。
いびり殺されるのを知ってて『行かない』と答えるなんて、我ながら正気の沙汰じゃない。
21 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:58:32.38 ID:
BEM+PlRB0でも、僕は結局答えを変えなかった。
僕の返事を聞いたまたんきは、あからさまに気分を害したようだ。
苛立ったように大きく舌打ちして、その腐った手で僕の頭を鷲掴みする。
(;'A`)「いっ……!」
(・∀ ・)「残念だ。俺は二度もチャンスをくれてやったのに、お前は二度もチャンスを無駄にしたんだぜ」
(・∀ ・)「さぁ、どうやって殺そうかな。まずは――」
僕の頭を掴む楽しげなまたんきの声が、途中でぷっつりと途切れた。
万力のようにキリキリと力が込められていく、またんきの手。
頭を握り潰されるかと思ったほどの力が不意に抜け、それと同時に、
目の前にいたまたんきの姿も掻き消えた。
何があったのか把握する前に、僕の足元に腐った腕が落ちる。
(;'A`)「うわぁ!! うわああ!!」
(・∀ ・)「……んだよ邪魔しやがって……。おめぇ、さっきの亜人か」
少し離れた場所で不機嫌そうな表情を浮かべたまたんきの視線の先にいたのは、
( ・∀・)「モララーだ。覚えとけ」
片腕しか使えないモララーだった。
22 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 21:59:54.94 ID:
BEM+PlRB0(;'A`)「も、モララー!」
( ・∀・)「さーて、これからどうしようか? あのキモい男を倒すか、逃げるか。
まぁ逃げられないとは思うけどね」
またんきは、あの気持ち悪い瞳で僕とモララーを見つめている。
彼の右腕は、肘の辺りから先が綺麗に無くなっていた。
腕の断面からは配線や得体の知れない基盤が露出し、ショートして時折火花を飛ばしている。
……モララーが、あの鋭い爪でまたんきの片腕を落として助けてくれたらしい。
(;'A`)「……逃げても、あいつは瞬間移動装置を持ってるから無駄だよ」
(;・∀・)「瞬間移動装置? ……それは大層めんどくさいものをお持ちなようだね」
( ・∀・)「つまり、逃げられないってことか」
(;'A`)「そういうこと」
唯一使える右腕を構え、モララーはまたんきの方へ向き直る。
またんきが何もしてこない間に、僕も立ち上がって剣を抜いていた。
腹へのダメージはかなり大きいけど、悠長にそんな事を言っていられる余裕はどこにもない。
剣を構える腕はどうしようもないほど震えるし、息をするのも辛いけど、
それでも僕は精一杯の虚勢を張った。
普通の人より役立たずのニートに、左腕を使えない亜人。
相手は、死んだ肉体に機械やら何やらを埋め込んだ喋る死体。
23 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:01:10.07 ID:
BEM+PlRB0こっちの不利は、明らかだ。
( ∀ )「あぁ、いいなぁ……」
僕らの視線の先で、またんきは愉しそうに空を見上げて呟く。
(;'A`)
( ・∀・)
( ∀ )「今までの『勇者』は何の抵抗もなしに俺に着いて来るか、
ちょっと突いたら死んでったような奴らばかりだった」
( ∀ )「亜人もいんなら、少しは楽しませてくれよ? 俺ァ歪んだ性癖の持ち主でな。
抵抗してんのを嬲り殺すのが一番好きなんだ」
( ∀ )「勇者が恐怖に怯えた目をして、顔や身体中腫れ上がらせて、鼻からも口からも血流して、
泣きながら命乞いする様が目に浮かぶよ」
( ∀ )「あぁ……。……すんげぇ楽しみだ」
にたぁ。
そんな効果音がお似合いの笑顔を浮かべ、またんきは長さの違う両手を広げた。
24 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:02:17.82 ID:
BEM+PlRB0(;・∀・)「……」
(;'A`)「……」
(・∀ ・)「俺ァ一人。お前らはふたり。
こんだけハンデくれてやったんだから、ちっとは頑張ってくれよ?」
(・∀ ・)「仮にも勇者を名乗るんならなぁあぁ!」
(・∀ ・)「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
狂ったような笑い声を残し、またんきの姿が視界から消えた。
どこだ?!
どこに―――
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!! ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
(;・∀・)「ぐあっ!!」
奴の姿を捉える暇もなく、隣にいたモララーが殴り飛ばされた。
攻撃どころか姿すら見えない……!
「どぉぉしたんだよぉぉお!! 勇者一行なんてこんなもんかぁあぁ!?
つっまんねぇ! つまんねぇよおめぇら!」
25 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:03:41.25 ID:
BEM+PlRB0(;'A`)「っうぐ!!」
瞬間移動装置のせいで四方八方からまたんきの声が聞こえ、その度に足やら顔やらを殴られる。
一番最初の痛みほどではないけど、間違いなくどんどん僕の体力は削られていた。
恐らく、悪趣味な性癖を自称するまたんきの狙い通りだ。
僕が泣いて命乞いするまで、殺しはしないのだろう。
「なァにが勇者一行だよ! 笑わせる! 抵抗しろよ!
その手に持ってる剣は飾りか?! オモチャか?!」
(;メA`)「ぁがっ!」
(;メメ∀・)「くっそ! あいつを見付けられたら!」
「えっ何なに!? 俺を見付けられたら勝てるとでも思ってんの?
思っちゃってんの!?」
「なァアァァに勘違いしちゃってんのぉおおぉ!? 勝てる訳ねぇじゃねーか!!」
「俺もナメられたもんだ! 興ざめだ勇者どもよぉおおぉ!!
抵抗もしねぇくせに勝てるとか訳わかんねぇえよ!」
殴られた場所が酷く痛む。
殴られた目は霞み、頬も腫れ上がって熱を帯びているのが自分でも分かる。
何度も殴り飛ばされたモララーなんて、立っているのがやっとの状態だろう。
27 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:05:20.11 ID:
BEM+PlRB0(;メメ∀・)「……」
(;メA`)「……」
「んだよぉおぉ!! こんなつまんねぇカス共相手に割く時間がもったいねぇ!
一思いに殺ってやんよ!」
「感謝するんだな!」
既に満身創痍の僕らの前に、瞬間移動するのを止めたまたんきが現れた。
だけど、もう僕もモララーも戦う気力なんてない。
……またんきの言う通りだったかもしれない。
大人しく着いて行けば、もしかしたら無事にVIPに戻してくれたかも……。
(・∀ ・)「よし、よし、じゃあ死んでくれよ。よく考えたら俺も暇じゃなかったんだ。
他の奴らの所へも行かなきゃなんねぇんだったわ」
皮膚を内側から引き裂くかのような、めりめりという音がまたんきの身体から聞こえる。
普通の人間からは絶対に聞こえるはずがない音だ。
だけどコイツが普通じゃないというのはよく分かった。
28 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:06:45.25 ID:
BEM+PlRB0別段驚くことじゃない。
死体が蘇るのも、ラウンジじゃ普通のことなんだ……。
だから、
(;メメ∀・)「おい……なんだよその身体……」
だから、こんな規格外の身体もラウンジじゃ普通なんだろ……?
狂った笑い声をあげながら、またんきは一歩足を踏み出す。
(・∀ ・)「俺を墓場から掘り起こして改造したのは魔王だぜ!?
色んなモン付けるのもお手の物だろうよ!」
(;メメ∀・)「むっちゃくちゃだな……」
距離にして、5メートル程前。
僕らの視線の前で、またんきは恐るべき変貌を遂げていた。
肩甲骨辺りから生えてきたのは、細く異様に長い鈎爪。
空気を切り裂いて振り回されるそれが、巨大なゴミ山を一気に薙ぎ払った。
大量の電化製品やら瓦礫が、凹み、砕け、なだれを起こす。
あんなもんに殴られたら、全身が文字通り粉々になりそうだ……。
29 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:08:33.77 ID:
BEM+PlRB0(・∀ ・)「無茶苦茶で結構。俺は充分この身体を気に入ってるんでね!」
新たに武器として現れた長い鈎爪を大きく振り回し、またんきはこちらに突っ込んで来る。
瞬間移動をしないのは、もう僕らが動けないというのを知っているからか。
ぎょろりぎょろりとした目が僕を真っ直ぐに見据え、鈎爪の狙いは―――
(;メメ∀・)「ドクオ逃げろ!!」
(;メA`)
僕に、定まったようだ。
(・∀ ・)「うひゃああぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
足はがくがくで、もう避けられないのを悟る。
思わず目を閉じ、無駄とは分かってても身を縮こませた。
すぐそこにいるであろうまたんきが、興奮した状態で鈎爪を振りかぶっているのを気配で感じた。
もう無理だ、諦めよう。
今更何をしたって遅いんだよ。
一思いに殺してくれるのなら、この痛みがどうにかなるなら、
……死んでみるのもアリかもしれない。
30 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:09:39.28 ID:
BEM+PlRB0(・∀ ・)「あひゃああああああああああああああいああ!!!!!」
嬉しくて愉しくて仕方ないといった様子で、またんきが叫ぶ。
見てはいないけど、モララーの叫び声からして鈎爪はもう僕の身体を貫こうとでもしているんだろう。
( A )
寒いような、怖いような、よく分からない死の感覚を打ち消したのは、
―――バンッ――
たった一発の銃声だった。
(・∀ ・;)「うぉおっ!?」
(;'A`)そ
またんきの攻撃を無理矢理中断させた、一発の銃弾。
僕もモララーも、緊迫した状況だというのを忘れ、思わず銃声が聞こえた方角を見上げた。
(・∀ ・#)「っんだァ?! 誰だ邪魔しやがったのは!」
怒りを露にするまたんき。
その視線の先にある崩れたゴミ山の上に、『彼女』はいた。
31 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:10:21.57 ID:
BEM+PlRB0銃に変化した左腕から白煙をあげ、
川 ゚ -゚)「誰だと問うなら答えてやろう」
女の人にしては低い声で、
川 ゚ -゚)「私は杉浦家直属の」
『彼女』が。
川 ゚ -゚)「メイドさんだッッ!!」
(・∀ ・)「メイドぉ…?」
またんきがクーを睨む。
頭に血が昇っているからか、完全に僕の事を忘れているようだ。
それはそれでいい。
でも!
(;メA`)「く、クー! 危ないから逃げた方がいい!」
(;メメ∀・)「そうそう、危ないからそこら辺に隠れて……」
川 ゚ -゚)「それはこっちのセリフだ。もうお前らボロボロじゃないか。休んでろ」
32 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:11:38.00 ID:
BEM+PlRB0 特に表情を変えることなく、クーは左腕を元に戻しながらゴミ山からひらりと舞い降りた。
突然のことに、さすがのまたんきも動揺を隠しきれないようだ。
(・∀ ・;)「…んだよ、ただの人間かよ」
(・∀ ・)「少しビビって損したぜ。まぁいい、やっと女の登場って訳だ」
(・∀ ・)「アンタ、気が強そうだなぁ。そういう女が屈服する姿が一番イイんだよな」
川 ゚ -゚)「ほう」
またんきとクーが睨み合う。
クーの言う通り、僕はダメージを負いすぎて一歩も動けないモララーを引きずって、
少し離れた場所まで避難していた。
情けないけど、今のこの状態じゃ余計に邪魔になるのは目に見えている。
すぐ諦める精神万歳。
ああ、……情けねぇなあ。
(;メメ∀・)「クーが戦うってんなら俺も戦うから! 俺も戦うから!」
(;'A`)「無理だって、歩けてすらないだろ!」
川 ゚ -゚)「ドクオ、モララー」
川 ゚ -゚)「私は決めたぞ。お前らに着いて行く。
そして、ワカッテマス様……いや、魔王を倒す」
33 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:15:17.33 ID:
BEM+PlRB0 決して表情は変わっていないけど、
決意を口にしたクーの声には揺るぎない意志が滲んでいた。
(;'A`)「クー」
川 ゚ -゚)「まぁ、そのためにはこの気持ち悪い汚物が邪魔な訳だな。
すぐに消毒するから、少し休憩していろ」
(・∀ ・)「消毒? ずいぶんな言いようだな」
またんきの文句を聞き流しながら、クーはメイド服の袖を捲り上げた。
艶やかな黒髪を紐で縛り、邪魔にならないように一つにまとめる。
そして、戦闘準備万端の状態で、またんきの文句に答えた。
川 ゚ -゚)「汚物は消毒するものだろう?」
(・∀ ・)「へぇ…。面白い女だ。ますます屈服させたくなった!!」
またんきが笑う。
クーが微笑む。
僕らが遠巻きに見ている前で、派手な戦闘が始まった。
35 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:16:09.44 ID:
BEM+PlRB0('A`)ドクオは勇者になったようです
‐9‐『六将』
終わり
36 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 22:19:05.68 ID:
BEM+PlRB0あばばばばあっばっば誤爆した誤爆くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」
支援ありがとうございました。
シベリアのみなさんごめんなさい、凍死してくる。
なんかあったらどうぞ。
超恥ずかしい死にたい
37 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 23:05:35.89 ID:tB4LRMlIO
来てた!乙!
38 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 23:17:46.94 ID:E1VXn7yP0
おつううううう!!!!!!
読んでるからな!!!支援できなかったけど読んでるからな!乙!!
39 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 23:18:51.07 ID:rqYA+dnh0
きたあああああああああああああああ
40 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/28(金) 23:31:23.70 ID:WpxZ5yAd0
乙、超乙
41 名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/28(金) 23:48:40.07 ID:rqYA+dnh0
乙うううううううううううううううう
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