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以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/17(金) 23:28:42.05 ID:
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溜池の交差点から不規則な方形に切り取られた空が見えた。
空が少しずつ色を変えていくのがはっきりわかった。
黄昏の空は美しかった。しかしそれは十分しか続かなかった。
俺はその間にハイライトを三本吸った。
紙袋を抱えた男たちと小さなショルダーバッグを肩にかけた女たちが、師団編成で俺の前を通り過ぎた。
彼らはみな駅の方へ歩いていった。
終業後の約束のありそうなもの、まるであてのなさそうなのもとりまぜてだったが、
少なくとも朝の電車の中よりも生気が見える。
俺もこんなふうになりたいと痛切に望んだことがあった。もう昔のことだ。
九時から五時までの時間を売り、その代償としていくらかの金と、夕方から夜にかけての短い放恣な時間を得る。
首のまわりに硬い布を巻きつけることに慣れさえすれば、それは悪いことではないように思えた。
単調の中に安定があり、安定は心の平穏をたやすく育て、時々少量の不運とか不満とか野心とかの顆粒状の肥料をやれば、
適度に枝ぶりを歪めた幸福、または満足という名前の木が育つ。
あの枝を伐ろう、この枝のねじれを直そうと心を配ることに多忙なら、
いっそのこと木そのものを伐り倒してしまおうなどという大それた衝動に駆られるこもないから、
長期的に見れば、適度な不幸はむしろ木の健康には有益なのだ。
だが、俺はそういう生活を手に入れることができなかった。
いちおう人並みには望んでみたのだが、先方から拒否された。
おれは大した恨みも感じることなく結果を受け入れた。
何度も似たようなことがあったので無感動になっていたのだろうか。
よく理由はわからないが、いまでも勤め人の群を見ると心がうずく。
朝は嫌悪で。夕方はほんのわずかだが、憧れで。そして七月と十二月には嫉妬心で。
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