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6: ◆xh7i0CWaMo :2009/04/14(火) 22:36:01.91 ID:jRo/zMdi0
虚無は虚無の色をしている。知覚しようにも不可能な色。 そして音と空間。死者よりも感覚を失ってしまったかのように、何も感じられない世界。 三人はその中で佇んでいる。立っている感覚も寝ている感覚もなく、 あえて言うならば、わずかに浮沈伸縮しているような錯覚はある。 何もかも消えてしまった。全部自分が殺したのだろうか。ブーンには分からない、 ただ、消えてしまったことだけは確かだ。全て。時間も音も、空間も。 残ったのは自分たち三人と、異次元媒体としての文字のみ。 川 ゚ -゚)「……夢・特殊性夢遊病・集合的無意識・身体醜形障害・批評 主観的時間・客観的時間・記憶・妄想・メタフィクション・スターシステム」 クーが言葉を一つ一つ、ゆっくりと並べていく。 彼女の声は反響しない。消え入りもしない。音波の傷跡はいつまでも空間に残り続けた。 川 ゚ -゚)「……この物語で語られてきたことだ。 導入部を終えた後は、ほぼ首尾一貫であると言って良い」 ( ^ω^)「きみは、やっぱり主人公なのかお?」 川 ゚ -゚)「違う。私は狂言回しの役割にすぎない。強いて言えば、 物語の中で出てきた不必要なフラグメントを、適宜『魔法で』処理していくという役割か。 たとえば、そこにいる女のような断片を」 言われてブーンはハインを見た。 それは、さっきまで無数にいたハインの中で、間違いなくこの物語の登場人物としてのハインだ。 彼女はたまたま、偶然に生き残ったとしか言いようがない。 しかし、それがあり得ないことだと言うことも重々承知できる。 ほとんど無限にいた人物の中で、 最後に残るのがこのハインだなんて……そんなことがあり得るわけがない。 从 ゚∀从「俺は、消されたんだと思っていたよ。あんたによって、完璧にな。 だから、もう二度と登場することはないと思っていた」 罪悪感からか、それとも怨恨からか、ハインの声はひどく沈んでいた。 从 ゚∀从「しかし、こうやってもう一度、ここに立っている。いったい何でだ? 俺に恥をかかせようっていうのか?」 川 ゚ -゚)「ほう、恥か。面白いことを言うな。どうしてそう思う?」 从 ゚∀从「恥だよ。俺はついさっき晒したばっかりだ。嘘つきとしての自分をな」 そういえば、さっき彼女はブーンの肩に手をおいてこう言った。 从 ゚∀从『試しに、ブーン、あの警官隊の群れに向かって走ってみろよ』 从 ゚∀从『絶対死なないから。銃弾なんて一つも当たらない。 流れ弾が頬を掠るかもしれないけどな』 11: ◆xh7i0CWaMo :2009/04/14(火) 22:43:14.82 ID:jRo/zMdi0 何を恥じ入る必要がある? 事情を理解できないほど、ブーンは狭量な男ではない」 从 ゚∀从「お前には分からんだろうが、俺だって個性があるんだ。 個性があるから、プライドもある……少なくとも、もう俺にここへ立つ資格はねえよ」 川 ゚ -゚)「ほう、資格か。この物語の最下層でさえ、お前に居場所はないか」 从 ゚∀从「ブーン」 ハインがブーンを呼んだ。彼女は笑っている。あるいは、恐怖に顔が歪んでいるだけかもしれないが。 沈黙。その時ブーンは、初めて彼女の額に一つ、薄いホクロがあるのを見つけた。 手が曖昧に、虚空をつかもうとうごめく。 从 ゚∀从「さ、俺も殺せ。そうしねえと、終わらないぞ。 終わらせなきゃならねえだろ? 何もかもすべて。できればこの話全部ひっくるめて、な」 ( ^ω^)「でも、ハイン……僕はもう、金属バットを持っていないお」 その通り、ブーンの手の中はすでに空っぽだった。 バットも消えてしまった。それと同時に、殺人への衝動と快楽も消えてしまっていた。 やはり操作されていたのだ。簡単な話……。自分はそうするようにし向けられていた。 从 ゚∀从「なら、お前は俺を、殺してくれないのか」 ( ^ω^)「……」 从 ゚∀从「かまわないけどな、それでも。 どうせ俺たちはこれから、どうしようもない奈落の闇に行くんだろう?」 もしかしたらここが、最終話かもしれない。もしそうだと――」 クーは頭上を見上げた。 川 ゚ -゚)「――納得しない者も、いるかもしれないが」 本当にそうだろうか……。周りを見ると、そんな気もする。虚無に彩られた空間。 これ以上何もないと主張しているかのように、どこまでも、どこまでも広がっている。 でも、まだ解決していないことだって様々ある。目の前の、自分とハインの関係にしたって……。 でも、そういうのが解決されないまま終わることなんてままあることだ。 この物語の書き手が未熟なら、尚更……。 クーが狂言回しだというなら、自分だって同じようなものだった。 もしかしたら、それはすべての物語に言えることかもしれない。 数多くの僕が、数多くの物語の中で様々な役割を、請け負って請け負って。 揺りかごから墓場までの直行便。休む暇などなく、駆け抜けていった。 僕だってそう……結局一度も自由なんかなかったし、それは本来的に存在し得ないのだ。 この空間にこぎ着けるまで、いや、ここに来ても未だ、僕は司会進行し続けている。 結末は、バッドエンドだと約束されている。 さっき証明したばかりだ。たとえここから何らかの奇跡が起きて、 読者に向けてハッピーな終わり方をしたとしても、そこで僕たちの人生は終わらない。 永遠に続く連続性を見せかけながら、行き着く先は誰もいない、迷妄の中。 从 ゚∀从「なら、ここで終わるか?」 ハインがにやりと笑った。歓喜の笑みだった。 だが、クーは一人、ただ首を振った。 川 ゚ -゚)「まだ、お前たちの役割は終わっていない」 从 ゚∀从「へえ、どういうわけだ? お前、さっきこれが最終話かもしれないって言ったじゃねえか」 川 ゚ -゚)「確かに、終わることは可能だ。やろうと思えば、この私の台詞を最後にすることもできる。 それで納得する者だって、少数だろうが存在するだろう。 だが、私たちはまだ、物語が当然すべき手順を踏んでない」 ( ^ω^)「それは……?」 川 ゚ -゚)「証明だ。すなわち……ここまでの物語が、私たちにとっての現実世界であったという、証明」 从 ゚∀从「……そんなものが、必要か?」 ハインが煙たげにそう言った。それにはブーンも同意だった。 今更、これが現実世界だという証明など、必要だろうか……。 それに、そもそもこの世界はあくまで物語世界であり、 本当の現実世界には、文字媒体を介した発信以上のかかわり合いを持つことが出来ないのだ。 『ここは現実世界です』とか、『実はここは夢の中だったんです』とか。 それを俺たちにわざわざ証明させるんて、遠回り以外の何者でもないぜ」 川 ゚ -゚)「仮にそれをここで書いて、誰が信用する? ここまでの経過を見てきて分かるように、この書き手が平気で嘘をつき、 デタラメをまくし立てることは自明的だ。そんな書き手の一文を、私たちを含めて、 誰も信用など出来はしまい。厄介なのは、ブーンが特殊夢遊病患者であるということだ。 この世界も私たちも全て彼の夢であるということも否定は出来まい」 確かにそうだ。ブーンは思う。特殊夢遊病になって気づいたことの一つに、 夢の中での自分は決して自分の意志でばかり動くことが出来ないと言うことだった。 自分の中で自分を見ていながら、身体は勝手に動くし、 仮にその時自分の意志だと信じ込んでいても、目が覚めればそれが錯覚だと瞬時に気づくのである。 先ほどの殺人衝動……操作されていたような感覚も、 そのせいであるとすれば、説明が付くかもしれない。 川 ゚ -゚)「また、集合的無意識による能動の可能性もある」 从 ゚∀从「でもそりゃあ、どこまで行っても水掛け論だろうが。 証明の手だてなんて、一つも思いつかないぜ」 川 ゚ -゚)「簡単な方法が一つ……つまり、着想を探るんだ。 この物語のゼロ地点……すなわち、スタートラインを発見すれば、 そこに自ずと答えは書かれている。つまり、物語以前の場所に、だ」 そんなもんを探って、いったい何の意味があるっていうんだ」 川 ゚ -゚)「着想は無意識からやってくる。人は、無意識でまで嘘をつくことは出来ない。 だから、そこに書かれていることがすべて真実と言うことになる」 从 ゚∀从「着想ってのは思いつきってことだろ? んなもん、適当かもしれねえじゃんか」 川 ゚ -゚)「適当なら適当なりの構成がなされているはずだ。 それを上手く紡げないのは、単純に書き手の怠慢と構成力不足の問題だ」 ( ^ω^)「つまり、これから作者の脳内を覗くのかお?」 川 ゚ -゚)「それは流石に、作者が恥ずかしがるだろうから違うだろうな。 イメージ像とでも呼ぶべき場所へ行くことになるだろう」 これは絶望の証明だ……ブーンは思った。 だってそうだろう。これ全部が夢だったらどんなに良いことか。 もしもこの世界が物語世界であるという大前提が、夢落ちってことでひっくり返るかもしれないんだ。 そんなに深いところじゃなくてもいい。たとえばこれから行く場所が迷妄でなく花畑であるとか、 いやいやそんなに都合の良いことは考えない。せめて僕の殺人罪だけでも浄化されないだろうか。 されないだろうな。されるわけがない。夢落ちは手塚治虫が禁止して以来云々。 でもそういう一抹の希望は、ひとまず残されているわけだ。 物語が終わった後のことなんて、実際に物語を終えてみないと分かったもんじゃない。 読者が読む部分じゃないし、めちゃくちゃ幸福な桃源郷が待っているかもしれないじゃないか。 妄想する分には無罪じゃないか。それをわざわざ、きわめて消極的に、 物語内で証明しようって言うんだから……。 それ以前にまず、ここから脱出できるのか?」 川 ゚ -゚)「その点に関しては心配ない。そのための『魔法』を、私は持っている」 从 ゚∀从「結局、狂言回しなのな、お前って……」 ハインはすっかり諦めてしまったらしい。 自分が、大した役割をもてないということを理解してしまったのだろうか。 なんだかちょっぴり寂しい気分だ。僕が言うことじゃないかもしれないけど。 从 ゚∀从「というか、俺も一緒に行っていいのか?」 川 ゚ -゚)「別に問題はない。ただし、意味があるとも思えない」 クーが虚無の彼方を向いた。そして、斜め上に人差し指で円を描く。 いかにも魔法少女らしい魔法の唱え方。 从 ゚∀从「ああ、ブーン」 ハインが再度ブーンを呼んだ。 ( ^ω^)「なんだお?」 从 ゚∀从「……どうも、今を逃したら、後々言う機会がないような気がするから、今のうちに言っておくよ」 ( ^ω^)「クーがいるけど、いいのかお?」 とっさの思いつきにしては、なかなか上等な心遣いじゃないだろうか。 声が震えている。 そういえば、そういうことになっていたなあ。 朧気に思い浮かぶ、図書室の風景――。 そういや僕は学生だったんだ。先生の授業を聞いてノートを取り、 友達とバカ話をしたりして、笑ったりしてたんだ。そういう自分も、確かにいたんだよなあ。 どうしてこうなっちまったんだろう。まったくやりきれない。勝手に回ってくれる世界が恋しいなあ。 僕が寝ても死んでも別段支障なく世界が回ってた。今は違う。 僕が寝てる時間なんてカウントされないし、僕が死んだら世界ごと終わるんだよなあ。 なんかすげえや。 まあ、今思えば、あの学生生活は導入部だったんだろうな。読者をついてこさせるための、 撒き餌だったんだ。違いない。あれえ、今の僕、しゃべらされてる感じだなあ。 昼休み、彼女はそこで本を読んでいた。 確か、その前の日に僕が読んでいた本。心理学系の本だったような気がする。 あのとき、彼女は僕にとって、どっちかって言うと敵だった。 訳が分からなかったし、何より不気味だった。 それが変化した。ラブストーリーの王道みたいだ。 互いのことを知って、それにつれて惹かれあっていく。 もっとも、彼女は最初から僕のことを全部知っていたんだろうし、 時間経過とともに惹かれたのは僕の方だけなんだろうけど。 でも、それはハインについても同じだった。 うわ、三角関係に悩んでるみたいだ。気持ち悪い。 恐らく、ああいうことだろう。ああしてこうしてそうなる話だろう。 人の肉は酸味が効いていて、旨くないらしい。たぶん、それに似た味を味わうことになるんだろう。 从 ゚∀从「……まあ、なんだろうな。上手く言えねえけど、ほんと、すまなかったと思ってる」 ( ^ω^)「……」 从 ゚∀从「俺がお前に最初に近づいたキッカケはさ、単純にお前の病気っていうか…… その時の俺には特殊能力っぽく見えてかっこよかったんだけど、 まあそういう好奇心のみだったじゃん」 ( ^ω^)「うん」 从 ゚∀从「それがこうして、こんなことになって……まあ、なんというんだろうな」 ( ^ω^)「……」 从 ゚∀从「ゾッコン?」 ( ^ω^)「古いお」 吐き気がする。胃の内容物を全て吐瀉してしまいそうなほどの激烈な吐き気。 胃があるかどうかさえ定かではないが、思わずブーンは口を押さえる。 今更、誰を恨むわけでもないけどな……。 恨みたい奴も、一緒に消えるんだろう? なら、おあいこだ」 一筋、涙がハインの頬を流れた。彼女はそれを隠そうとしない。気づいてないのだろう。 彼女は泣いているつもりなどない。涙は彼女の意識に反逆して、 つまり無意識のほうから流れ出している。 ( ^ω^)「僕は……」 なんだこれ。なんなんだこれ。僕は今から特攻するのか? 剣を振るってラスボスを倒すのか? ロマンチックすぎる。再び吐き気。蟻走感。これじゃあまるで、まともに死ねるみたいじゃないか……。 所詮キャラクターの僕たちが、なんだかまともに恋愛の話をしている。 滑稽だなあ。誰だってそう思うだろう。完璧な、他人事だしな……。 彼女は気づいているのだろう。あるいは、事実以上に誤認しているのかもしれない。 ブーンが必然的、運命的にクーへ惹かれていることを。 それを知っているから、こんなにも回りくどいのだろう。不憫で仕方がなかった。 カースト制度みたいなもんだ。クーにしてみればブーンでさえ最下層、 ハインなんかはピラミッドにすら入れてもらえない、地面の砂利にすぎないのだから。 それを必死に……彼女らしい体裁は整えたままに、激情を隠して、 言いたいことの半分も伝えられないことを理解しながら……。 沈黙を見て取ったクーが言った。間髪入れずにハインがうなずく。 川 ゚ -゚)「これから、まあ有り体に言えばワープをする。その先がどこに続いているのかは分からない。 そして、もしかしたらワープ先に私がいないかもしれない。 私の役目は、すでに終わっているからな」 ( ^ω^)「そこが、最後の場所なのかお?」 川 ゚ -゚)「最後の場所、というのはおかしいだろう。お前たちの証明作業が終われば、 自然と物語は終息する。要は、いつ証明出来るか、ということだ」 从 ゚∀从「……お前、それだけで良いのか? 言うことは」 川 ゚ -゚)「他のことなど必要ない。私は狂言回しであり、ただの魔法少女だ。 それ以上の役目は、私が自ら行使すべきものではない」 从 ゚∀从「飼い犬みたいなことを言いやがって」 虚無に光が降ってくる。陽光よりもいくらか暖かい輝きが燦々と。 それは赤ん坊に対する母親の手のように、ゆっくりと三人を包み込む。 やがて、白色は互いの顔を塗りつぶしていく。 从 ゚∀从「つまんねえよ」 最後、ハインが投げやり気味にそう言った。 頭蓋骨とレードルがぶつかって、金属のこすれる音が脳内に響き渡る。 悪夢を見た。赤い小人が地面にぶつかってはじける夢。胎児を投擲する夢。 終わってしまった。物語は終わっていないけれど、少なくともあの場面は終わっている。 懐古。あるいは回顧。様々な不条理の記憶がパノラマ式に駆け巡っていく。 数にしてみれば、一般的な同年代の人間よりも、遙かに少ないだろう。 しかし、密度を考えてみれば、ブーンのこれまでは誰よりも濃密だった。 時間にして、どれぐらいだろう。一年も経ってないんじゃないかな。数ヶ月。数週間。数日……。 レードルの音。寒気が内側から広がっていく。蜘蛛か何かに頭蓋骨を囓られているような不快感。 それも、もうすぐ終わる。この証明作業を終えてしまえば、僕は終わる。 換言すれば、証拠を集め終えた名探偵が、ロジックを組み立てるようなもの。 また換言すれば、死地と決した戦場に赴く戦士のようなもの。 死ぬのではなく、永遠に生き続けるのでもなく、その境目辺りを、彷徨い続ける。 たぶん、最初のうちは快楽だろうな。何からも解き放たれた世界。疲労を癒すには十分すぎる。 でも、やがて退屈に感じるんだ。食い溜めや寝溜めが出来ないのと一緒さ。 どれだけ刺激的でもう二度と味わいたくないっていうような世界を過ごしても、 少し立てばまた、刺激を求めるようになる……。それを求めなくなったときは死ぬときだ。 これから、僕は求めることができなくなる。結末を単純に考えたら、まあ発狂か。 こんなとき、僕がもし蜉蝣だったらどうしていただろう。体も知能も蜉蝣レベル。 彼らは生殖本能にのみ絆されているから人間以上に苦痛なのかな。 もっと小さく、アメーバとかだったら良かったかもしれない。そういうのは差別になる? 背骨が歪んでいる。全身の骨格が溶けていき、球体のようになった気分だ。 レードルの音。そろそろ目を覚まさないと、どやされる……。 目覚めは、夢見から覚醒するとき同様に気怠かった。 頭がぼんやり重く、しかし当然、レードルでかき回された形跡は無い。 重たい目蓋をあげる。さてここはどこだろう。少なくとも、聴覚的には何も無いが。 ( ^ω^)「……」 目の前に、木製の扉。周囲は、虚無の色をした……もう何度目かも分からない……虚無の空間。 何のことは無い、モララーたちのいた、パソコンが置いてあるだけの、 無機質な集合的無意識の部屋への扉ではないか。 拍子抜けした。なんだ、もっと大がかりなものを想像していたのに……。 これじゃあ、さっき駆け抜けた街の風景よりもしょぼいじゃないか……。 从 ゚∀从「でもよ、着想部分に来たんだろう? だったら、こんなもんなんじゃないか。 少なくとも、これまでに登場した場面ってのは自然だと思うぜ」 ただ一つ違う点……隣に、ハインがいること。そして、魔法少女はいなかった。 彼女はやはり役目を終えたのだろうか。去ってしまったとしたら、様々な意味で未練がある。 从 ゚∀从「……奴は、いなくなったか。なんだ。それなら、ここで言っても良かったんじゃねえか」 ( ^ω^)「ハインは、クーが嫌いなのかお?」 从 ゚∀从「そりゃそうだろ」 ハインは木製扉に手をかけて言った。 从 ゚∀从「敵だぜ、あいつ」 天井も壁もすぐ近くにあるのだ。これでは仕方がない。跳ねる音の狂騒の中、二人は黙々と進む。 从 ゚∀从「しかし、これが着想なのかねえ、よく分からんのだが」 ( ^ω^)「……多分、そんなこと誰にも分からないと思うお」 そりゃそうだ。着想なんて微細なフラグメントにしか過ぎない。 それをイメージ化して公開しようだなんて無理がある。着想は、様々な装飾を施してようやく、 人に見せても恥ずかしくないレベルにまで到達するのだ。 装飾に難があれば、そのフラグメントは破棄せざるをえなくなる。 この階段のような暗澹たる迷宮を抜けてようやく、形になるものを一つ、見いだせる。 クーの言っていたことには一部虚言がある。ここは着想世界などではないだろう。 言うなれば包括する世界……ここまでの物語を、薄皮で包み込むような場所だ。 ……走馬燈のようなものだろう。それは作品、或いは作者の走馬燈なのだ。 ひたすら上っても、不思議と疲労は感じない。機械化した脚に乗せられているようだ。 暗闇はいつまでも近づいてこない。彼らのいる場所は、つねに不自然に明るかった。 おかげで視界は利いている。猫目にでも、なっちまったんだろうか……。 从 ゚∀从「……ん?」 ハインが途中で立ち止まった。 ( ^ω^)「どうかしたかお?」 从 ゚∀从「数字が刻まれてるぜ、ここ」 ハインが壁面を指さす。そこには大きく、『00060』と五桁のアラビア数字が記載されていた。 ( ^ω^)「……とりあえず、置いておくお」 从 ゚∀从「そうか?」 看過するのもどうかと思うが、分からないものは仕方がない。 いくら考えたところで、『00060』これだけで何が分かると言うんだ。 だが、その疑問はその後すぐに氷解した。 ハインがまた、壁面にアラビア数字を発見したのである。今度は、『00059』。 从 ゚∀从「ははあ、つまり、カウントダウンってわけだな。 もうすぐ、『00058』があるんだろうぜ、どうせ」 ( ^ω^)「……」 ブーンは億劫に感じた。ということはつまり、あのアラビア数字が『00000』になるまで、 自分たちは階段を上り続けなければならないのである。これは相当な苦行だ。 ああ、気泡バネ内蔵のシューズを履いていればなあ。もうちょっと楽に上れるだろうに。 ハインの予想通り、しばらく行くと『00058』、またしばらく行くと『00057』のアラビア数字が、 それぞれ壁面に刻み込まれていた。そして、『00055』を越えた辺りで、突然視界が開けた。 从 ゚∀从「うわっ」 さすがのハインも驚きの声をあげる。 天井と壁が消失した。さらには、階段さえも消失した。 地面を踏みしめている感覚はあるが、完全な透明になってしまったのである。 天井の向こう、壁の向こう、そして階段の向こうに広がっていたのは、宇宙――。 圧倒的だった。思わず死にそうになったぐらいだ。それほどに、空間は美しかった。 从 ゚∀从「……こりゃ、すげえな。名前通り、星の海だぜ」 暗く無限に奥行きのある世界に、無数の光が横たわっている。寄り添うように、集うように、 互いに点呼し合うように、彼らは輝き続けているのだ。 星の海の中を、ブーンとハインは透明な階段で上る。 从 ゚∀从「どうも、宇宙よりも上に行くらしいな」 ( ^ω^)「じゃあ、やっぱり天国かお?」 从 ゚∀从「そうかもしれねえ……しかし、お前」 ( ^ω^)「?」 从 ゚∀从「なんつーか、大人になったよな。貫禄が違いすぎてビビるぜ」 ( ^ω^)「……」 それは、そうせざるをえなかったからだ。 限られた時間内で、人知を超越した理解と成熟を求められたからだ。 極限までクロックアップし、成長した。知識量もなぜだか増えた気がする。 まあ、それぐらいしとかないと、主人公として、箔がつかないよな……。 できれば、もうちょっとゆっくり歩きたかったけど。 せめて、今階段を上っている、その半分の速度ぐらいで。 プラネタリウムなんか目じゃない。遙かに圧倒的な光の海。 それなのに、都会のネオンサインなんかよりもずっと暖かく、優しい。 確信したことが一つある。星の光は音を鳴らす。間違いない。 天井と壁が無くなったから、反響音が無くなった。静まりかえると思ったが、とんでもない。 鼓膜はのべつ、星の鳴らす音を感じ取り続けていた。 彼らの音楽をどう例えればいいか……鉄琴に近いような気がする。 いや、それだけじゃないんだ。テナーサックスのような中低音も聞こえてきたりして。 どんなオーケストラよりも壮大だ。だって、この星々全てが演奏者なんだから。 耳を傾けていると上るのを忘れてしまう。それでもいいかと思ってしまう。 座り込んでいつまでも聴いていたい……この心地よさは、一体なんだろう。 从 ゚∀从「しかし、これにはどんな意味があるんだろうな」 ( ^ω^)「お?」 从 ゚∀从「無意味に宇宙が広がってるとは思えないぜ。 やっぱり、何かしら意味があるんだろうさ」 どうなんだろう。分からない。でも、憶測だったらいくらでもできる。 あの星々が一つ一つ、さっき撲殺したばかりのキャラクター達なのかもしれない。 人が死んだらお星様になる……ベッドタイムストーリーとしてありがちな話だ。でも、悪くない。 ( ・∀・)「それは、ある意味で正しいですよ」 頭上から声がした。 しかし、頭上でぷかぷかと浮かんでいるモララーは、ブーンたちの知っている彼ではなかった。 今の彼は、顔文字である。二次元的、異次元媒体となった、顔だけのモララーが浮かんでいた。 ( ^ω^)「……生きてたんですかお?」 ( ・∀・)「生きていたという表現はあまり正しくないかもしれませんね。 顔文字に死と生があると思いますか? 仮にあるとしても、死にはしない……。 創られてしまった以上、それはいつまでも生き続けます。 今の私はキャラクターとしての私ではなく、顔文字としての私です」 从 ゚∀从「ややこしいこと言うよな。俺には、立派に個性があるように見えるが」 ( ・∀・)「今の私は確かに普遍的存在ですが、だからといって、個性を失ったわけではありません。 いわば兼任ですね。そうでもしないと、普遍的存在のままではまともに会話できない」 確かに、彼がどこにでもいるありふれたモララーなら、 記憶もないわけだから、会話の成立は困難だったろう。 ( ^ω^)「……あの、星達のことを知ってますかお?」 ( ・∀・)「あなたの思った通り、彼らはキャラクターです。 彼らが鳴らす音は……そう、例えるなら点呼のようなものですね。 人間は、誰かに認識されない限り、死んでいるも同然です。 だから、彼らも自らの存在を主張し続けている。 ( ・∀・)「聴いていません。そもそも、彼らは感覚器官を有していないから、 誰かが聴いていてもそれを知ることが出来ない。だから、無意味と言えば無意味です。 しかし……それはもう、彼らは理解しています。だから、集合して叫ぶことにした」 ( ^ω^)「叫ぶ……?」 ( ・∀・)「集団として、認識してもらおうとしているのです。個人個人の区別はされなくてもいい、 ただ、せめて、集団としてでも、誰かに知って欲しい、自分の存在に気づいて欲しい――。 彼らは誰一人その思いを損じることなく光を発し、音を鳴らしています」 从 ゚∀从「……しかし、認識してもらうのが目的かい?」 ( ・∀・)「もちろん、目的は別にあります。ここが着想部分であることはご存知でしょう。 この小説グループにおける着想部分……つまりは、入り口の部分。 そこで輝くことに、彼らは意義を持っています。 これ以上自分たちのような存在を増やしたくない…… 或いは、自分の仲間を増やして光を強めたい……ないまぜな意義をね」 从 ゚∀从「わかんねえな」 ( ・∀・)「分からないんですよ。小説を語るときは常にそれを念頭に置かなければならない。 決められた枠などありませんから、常に新しいものが生まれていきます。 この物語だって、それを目指すところに着想が落ちた訳ですからね。 それと同様、彼らだって本当は分かっていないんです。 本来的な欲望は、物語世界で終わりたくなかったというところにあるでしょう。 しかし、彼らはもはや、終わってしまっている……迷妄なんですよ、それこそ」 从 ゚∀从「……」 ( ・∀・)「証明ですよ。私だって、あなたの証明待ちです。私だけじゃない、この物語に登場した、 全てのキャラクターが、ここに輝く全ての星々が、同じ心持ちで待っている」 ( ^ω^)「証明することが、あなたたちにどう関わるんですかお? 僕にはただ、絶望に向けての作業であるようにしか思えませんお」 ( ・∀・)「彼らはすでに絶望しきっている……そこであなたが証明することで、 何かが変わるかもしれないと思っています」 从 ゚∀从「奴ら、俺たちのこと知ってるのか?」 ( ・∀・)「一応、この物語世界では登場人物ですからねえ」 ( ^ω^)「……変わらなかったら?」 ( ・∀・)「その時はその時です。また、同じように輝き続ける……いつしか、 あなたたちのような存在が現れるその日まで」 変わるわけがないじゃないか……だってそうだろ? そんな、終わった物語世界全てに作用できるほどの能力を、僕が持ってるはず、ない。 でも、やっぱり、それは言うべきじゃないだろうな……。 僕と同じく、一抹の希望を奪い取られるのは嫌だろうから。 ( ^ω^)「……どこへ行くんですかお?」 ( ・∀・)「どこへともなく。さっきも言ったように、何も私だけがここを浮遊してるわけじゃない。 君たちに言いたいことがある人は、他にもたくさんいるはずですから。 ひとまず、私はここでお暇します」 从 ゚∀从「ああ、一つ教えてくれよ」 ( ・∀・)「なんです?」 从 ゚∀从「あいつ見なかったか……なんつーか、こう、女」 ( ・∀・)「魔法少女ですか……彼女なら、先ほど上に行きましたが」 从 ゚∀从「……あの野郎」 ふわりと漂い、モララーは星の海に沈んでいった。 彼と会うことはもう二度と無いだろう。でも別れの言葉は告げなかった。 もうすぐ、自分も彼方へ行くのだ。そんな言葉、必要ないじゃないか……。 二人は透明な階段を上り続ける。星の海。星の音。悲壮感。 アラビア数字の『00046』が近づいてきた。 第零話『 』終わり コメント
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