長岡速報 |
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6 : ◆tOPTGOuTpU :2009/06/30(火) 23:31:56.03 ID:ESuTb+vC0
24.Attack Of The Grey Heart ・失われた文献(または、見向きもされない慟哭) 私がこれを書いていることは、誰も知りはしないでしょう。 私がどんな思いでこれを書いているのか、誰もわかってはくれません。 いいのです。 私はそれでいい。 誰かに理解されるとか、まったく望んでいないのだから。 きっとクーさん……いや、クー様だって、 私のことは、名前程度しか知らないんでしょう。 どれだけ気持ちを訴えたくっても、彼女の気迫がそれを許さなかった。 彼女はそれまでに私の存在を無視していた。 状況を整理しようかな。私はそれを目的に……他にも目的はあるのだけれど、 これを執筆している。孤独な暗い部屋で、学習机の上で書いている。 私がこれを書いているのは11月9日。計画は成功した。 あまりにもうまくいき過ぎたので、逆に恐ろしいくらいだ。 なにか、天からの逆らえない指図の元で行ったような気さえする。 私は手を汚しちゃいない。ただ、そうなってくれると嬉しいなって 願っただけで、そうなるように細工はしたけど、裁かれるようなことなんかはしてない。 うざったい警察なんかじゃ私を捕えられない。 私の罪は誰にも裁けないんだ。 姉が消えたのは私のせいじゃない。 私はただ、そう願っただけ。 この内藤ペニサスが愛のシナリオを望んだだけなんだ。…… 9 : ◆tOPTGOuTpU :2009/06/30(火) 23:37:49.53 ID:ESuTb+vC0 ああそうだった。状況を整理するのが目的だった。 変な文ばっか書いたけど、消しゴムで消すのもめんどいし、このままでいいや。 私は元から姉のことが好きじゃなかった。 ブサイクなくせして、明るい振舞いをしていたのが気に入らない。 根が凄く暗いのは昔から知っている。 でも、人に好かれようと笑顔でいるのが、なんだかバカにされているみたいだった。 私のほうが絶対に綺麗だ。姉は蒙古ひだのせいで奥二重だけど、私は 沖縄人のような美しい目つきなんだ。鼻だって、シャンと筋が通っている。 髪はちょっとクセ入ってるけど、やっぱ姉の方が汚らしい。 前に計ったんだけど、わたしはEラインを満たしていると思う。姉は違う。 化粧もばっちりしていて、女としてヌカリはない。 クレヨンみたいにアイシャドーの色もそろえている。眉もきっちり整えてる。 けど、姉はその汚らわしい素顔のまんまで生きている。理解できない。 何考えてんだろ? 化粧の存在理由とか分かっているのかな? 私だったら恥ずかしくて生きていけないな。 だから姉が死んでても別に驚くことじゃないし。 10 : ◆tOPTGOuTpU :2009/06/30(火) 23:42:40.75 ID:ESuTb+vC0 でも何でだろ。私はどうしてこんな暗くなっちゃったんだろ。 もちろん友達は居る。姉なんかと違って、わたしはクラスの中心だ。 それでも心はいつだって虚無で充ちている。 ときどき思う。友達と安室ちゃんの話をしても、それが何なの? ってなる。 恋愛話にしてもそう。脈どうこうとか言ってても、それは心の底ではウソなんだ。 なんだか、まるで化粧と化粧がキャピキャピ話しているみたい。 私とその友達は全く会話していなくって、みんなそういう仮面の流れに任せている。 いつしか街に出ることも少なくなって、部屋にこもっていることが多くなった。 ……… 11 : ◆tOPTGOuTpU :2009/06/30(火) 23:46:09.03 ID:ESuTb+vC0 そんなだから、姉はもっと暗くなると思っていた。 でも全然ちがった。夕食のときはうるさく父と話すし、 玄関に行くたび「イッテキマース」とかバカじゃないんかな。 そのうちに私はこう思った。 きっと、姉が私から元気を奪い取っていったんだ。 「美貌を与えたんだから、それをよこしなさい」とか、妖怪みたいな感じで。 だから余計姉が嫌いになった。 みじめな姉に元気を奪われる自分も嫌いだ。 それをのほほん顔で笑ってる父も嫌い。 父なんて、父なんてそう、仕事だとかで家に全然いないくせに 家に居るときは姉とばっか話してるし。 ウジウジしてた。でも、このときはまだ何かしようとは思わなかったな。 なんだかんだで、退屈だったけど、死ぬほどじゃないし、こういうのが人生なのかもって。 いつか運命の人と出会って、こんな俗世からは抜け出してやろうとか。 そう、クー様が使っていた「ワンダランド」。 私はそのワンダランドに向かっていくんだ。これから。 変わったのは、姉がその人を連れてきたとき。 13 : ◆tOPTGOuTpU :2009/06/30(火) 23:51:06.00 ID:ESuTb+vC0 私よりはるかに美人って思った。 姉の部屋に入る時の、あの凛々しそうな表情!! でもどこかはにかんでるのが、とっても可愛らしくって、女って感じだった。 名前をそれとなく聞いた。クーというらしい。 響きがいいと思った。すらっとしたルックスに相応しい。 ペニサスだなんて名前が恥ずかしくなった。親は無能。 初めて会ったときから、この人が運命の人なのかもってキャアキャアだった。 それからも、クー様はちょくちょくと家に来た。 でも、哀しかったのは、その目的が私じゃなくって姉だってこと。 運命の人まで姉に奪われたのか。 もうホント、姉の顔を見るのもイヤだった。 ブサイクが笑顔貼り付けてるとか本当にありえないのに、ほんといやらしい。 殺してやろうかと思った。 この女がいる限り、私は、私の人生はきっと光がない。 20 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:17:32.57 ID:U1bcOptu0 だって、クー様の瞳を見ればわかる。この人が誰を愛しているのかさえ分かった。 クー様は姉のことが好きなんだ。それも、友情的な意味じゃなくって、 私のような、真剣な感じで。 私もそんな感じだから、すぐに分かって、死にたくなった。 で、私はどうやったら二人が愛し合えるかと考えた。 姉がとにかく邪魔だ。いらない。子供のころからいらない。 荒巻じいさんとお話したかったのに、姉が勝手になんか指きりとかしてて、 さびしかった。その思いは今でも変わらない。あのころから、奪われてたんだ……。 でもどうすればいいのか分からなかった。 日増しにクー様は姉を愛していくし、歯車なんか止めようがなかった。 これが私の運命なのかなって思うと、哀しくなった。 どうしてあんなブスの引き立て役に終わってしまうんだろう? 変ったのは、夏になってから。 姉が、とあるヤンチャ男と付き合いだしてからだった。 21 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:21:19.30 ID:U1bcOptu0 やった! て思った。ガッツポーズだった。 これですべてウマくいくかもって思ってた。でも現実はそううまくいかなかった。 クー様はそれでも、姉を愛しようとしていた。 それほどに愛が強かった。姉のことについても聞かれた。 話ができたことはとても嬉しかった。内容は悲しかったけれど。 頬はかってにゆるむのに、目がショボンとなる。 悟られないように努力してたけど、日記を見てると、私の感情なんかこれっぽちも分かって なかったみたい。彼女にとって、私はモブだったんだ。 そのうち、姉は男と別れた。 というより、振られたっぽい。 ギコって男はうちの学年でも有名なくらい女ったらしだったから、 どうせそんな結末だろうとは思っていた。 そして姉は引きこもった。 クーさまはそんな姉と交流を取っていた。ノートの上で。 場所は家、姉の住屋でもあるけど、私の住屋でもある。 やっと、運命が操作できる。 そんな気がした。 22 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:24:36.22 ID:U1bcOptu0 姉はクーさまと交換日記をしていて、そこに介入できると思った。操れる。 その交換日記は姉の部屋の、扉に立てかけられているだけだった。 しばらく観察していたけど、姉はなかなかその日記を取ろうとはせず、部屋にこもってばっかりだ。 憎い。そんな行動がまた自慢しているようでイヤだった。じらすな。 そのうちに、私は日記を廊下に座ってパラパラと読みだしていった。 内容はとくに記憶に残っていない。ちょっと暗めだけど、私がいつも学校で 話していることとそんなに変わらない。 それを読んでわかったのは、クーさまの感情だ。 物凄い、偏執的な愛をそこに見た。 でも姉はそれを受け取っている様子はない。 姉はいつもそうだ。いい子に見せたいから、都合の悪いことははぐらかしてきてばっかだけど、 これはあんまりにもひどいと思った。許せない。 姉がこもり出してから、内容が狂気的に傾いている。 このままでは危ない。このままではクーさまが姉に引きずられる。 何とかしなければ、と思った。 ほどなくして、私は姉の代わりに日記をつけ出した。 25 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:28:28.26 ID:U1bcOptu0 手元に日記はないからよく覚えていないけど、十月の半ばだったと思う。 同じ色ペンを使って私は書いた。 内容は父に暴力を受けている……そんな空想ものだった。 ウサ晴らしのつもりで、嫌いな二人を紙面上で汚してやった。 よく覚えてないけど、かなりあり得ない感じだったと思う。 でも、クーさまはそれを信じていた。 そんなに盲目的な愛だなんて……直に筆談できた喜びもあったし、嫉妬もあった。 クーさまは殺意を見せた。父への怒りを日記にぶちまけていた。 何かとんでもないことをしたような気がするけど、私には関係ないし、知ったこっちゃない。 で、姉だ。 26 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:31:40.57 ID:U1bcOptu0 姉はとにかく酷かった。人間としておかしい。もう女を捨ててるどころじゃなかった。 こんなのが家に居たら堪らない。もうさっさと死んでほしかったけど、 なんか知らないけどしぶとかった。 日記が来なくなったことすら気付かなかったらしい。 日記を見ているとき、姉のフリして書いているとき、私はふと、とある計画を思いついた。 私がクーさまを愛しているように…… クーさまが姉を愛しているように…… それくらい、死ぬほどの勢いで、姉はギコを愛している。…… この矛先を何とかすれば、たぶん、私の願いが叶えられる。 姉が死に、そして、悲しみに暮れるクーさまと私が一緒に…… 方法は簡単だ。ただ、姉にそれとなく伝えるだけ。それだけでいい。 ギコがどこかで女と密会している。 場所は……日記にやたら出てきた「崖」でいいだろう。 28 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:36:06.03 ID:U1bcOptu0 狂人をそこに向かわせて、あとは自殺でも何でもしてくれればいい。 でも、向わせたはいいとして、そこからどうさせよう。 誰も居なかったらどうするんだろ。寂しくて自殺するのかな。 そんなとき、友達のトソンから思わぬ情報を得た。 ギコが、本当に夜な夜な日記に出てきた崖で女と愛し合っているという!! ……素晴らしい。ほんとうに神というのは存在するのか。 何もかもが完璧だ。これなら成功できる。やれる。 こんな設定、状況の元でやらないわけがない。 わたしは、さっそく姉が背後に居るのを確認してから、 電話しているフリをして姉に情報を渡した。 「……でね、そのギコって人はアネキと同じ学年の人なんだけど……」 こんな感じで私は一人で喋り続けた。 姉が 息を吹き返したようにバタバタ階段を昇ってたのが間抜けだった。 あとはどうなるか。私はワクワクしながら日々が過ぎ去るのを待った。 29 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:39:18.82 ID:U1bcOptu0 ……そして、忘れもしない10月30日。 学校から帰ってみると、姉が消えていた。 私はさっそく家の中を調べ回った。もう、塵一つ残さない勢いで。 灯油が減っていた、ごみ箱の中からでかいペットボトルも消えている。 姉の部屋の灯油を見ると、満タンになっている。 でも、残量を計算してみると、どうしても減った量が合わない。 どう考えても、消えたペットボトル分だけ灯油が減っているのだ。 そして、姉のベッドの上には、これ見よがしにグラジオラスの刺繍のハンカチが置いてある。 片付けられた部屋の中で、それはメッセージにしか見えない。 グラジオラスの花言葉はたしか、「密会」だったか。 胸の高鳴りがやばい。本当にあのバカは行ったんだ。 死んだのは誰だろう。ギコ? ツレの女? 姉? まあ誰が死のうと私にはいい方に転ぶ。殺人鬼になって 牢獄に入るのも、姉の生き方の一つには合っていると思うし。 翌日になってから、捜索願いが出され、警察が家の中をウロウロしだした。 32 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:43:42.18 ID:U1bcOptu0 父のウロタエぶりが笑えてくる。自分では娘のことを分かってたに違いない。 きっと、「デレはそのうち分かってくれる」とか思ってたんじゃない? でも、結果はこんなあり様なんだ。 クーさまも必死な顔をして私に質問を浴びせかけてきた。 私は涙が出てきた。こんな間近で本心のアナタを見ていられる。 そんな私の肩をクーさまは抱いてくれた。 この日を私は忘れない。 幸せになれる。 私は姉なんかと違うんだ! (ここで突然ページが飛ぶ) 33 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:50:51.86 ID:U1bcOptu0 警察も最近は来なくなった。 灯油のことは当然ダマっていたし、それらしい進展もないらしい。 友達から聞いたけど、ギコはどうやら生きている。 でも、人が変ったように暗いみたいだ。 目の前で死なれたりしたのだろうか。 自分のせいだから、他人に言えないだろうね。 最近の環境を見て、分かった。 クーさまはどうやら学校に行かなくなったみたいだ。 何とかして交流を取ろうと思ったけど、そのとき、 私はクーさまの何も知らないってことにようやく気付いた。 手の届かない場所に行ったんだなって思った。 彼女のいう、ワンダランドへ、向われたんだなって。 でも、私は取り残されたんだ。 34 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:54:42.47 ID:U1bcOptu0 父は姉のことばっか気にかけている。 死んだだろうに、「絶対生きているお! だから安心するお!」なんて 涙流して私に言ってくるんだ。 さすがに可哀そうになってきて、真実を告げたくなった。 でも、もう取り返しのつかないことなんだ。 そう、取り返しのつかない……。 クーさまが手の届かない存在になったのも、 姉が、姉が死んでしまったことも、 父が、それを必死に探していることも、 もう、私にはどうすることも出来ないんだ。 いや、正確には、教えてあげられるくらいのことは出来るかもしれない。 だけど教えたからどうなるっていうんだ。 私のこれからとか考えたら、絶対誰にもこんなことは言えない。 (またもページの途切れ。文体も飛礫文字に近くなる) 37 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 00:59:08.20 ID:U1bcOptu0 もうやだ。耐え切れないよ。 どうして私はこんななんだろう。 現実が酷いくらいにしっちゃかめっちゃかだ。 歯車が可笑しくなるたびに悲鳴をあげたくなる。 クーさまはもう居ない。話によればこの町から出て行ったそうな! ほんとばかみたい。 あーあ、なんのために姉を動かしたんだろう。 時間がたつたびに息苦しくなる。 38 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 01:03:25.52 ID:U1bcOptu0 こんなに私が苦しいのに、こんなに心の中で叫び続けているのに、 今日も私の心を知る者は現れない。 相変わらずの化粧同士の会話、父の空しい願い、クーさまへの想い。 泣きたい。もう街中で首切って死にたいよ。 でもこんな心を理解してくれる人は、これからも現れないに違いない。 私は忘れ去られた少女 全てを投げだした人形遣い (ノートの最後に続く) 39 : ◆tOPTGOuTpU :2009/07/01(水) 01:07:31.08 ID:U1bcOptu0 <ノートの最後には、口紅で執筆された、引用と思しき英詩が載っている。 紙いっぱいに書かれてい、朱いろに混じったラメは、いつまでも輝いている。 > But my conscience is intact. I can deny everything. I'm waving into blind eyes. (Attack Of The Grey Heart 終) コメント
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