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ζ(゚ー゚*ζは奴隷のようです
1 名前:afo ◆2z7bKNbsWo :2008/01/16(水) 22:25:21.42 ID:CNfxuPXw0
まとめてくださっているサイト様
ttp://bouquet.u-abel.net/index.html

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:25:44.33 ID:eANWmQF/0
あふぉ

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:26:30.73 ID:CNfxuPXw0

 夏が来る。




 オスティアを離れてから二週間。
 季節はもう六月になろうとしていた。


 その日は朝から歩き詰めだった。

 外套は二つに切ってデレとブーンの頭巾に作り変えていた。
 日差しも風も強いビップ半島中部では、頭巾はとても役に立った。

 ζ(゚ー゚*ζは奴隷のようです     第四話


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:28:05.55 ID:CNfxuPXw0

('A`)「よう、また会ったな」

 学生らしい若者が街道で歩くデレたちに話しかけてきた。



 デレ達と彼は三日ほど前から街道を同じ方向に旅していた。
 一緒に歩いていたわけではないが、どうやら先に歩いていた彼をデレ達が追い抜く形になったらしい。


 最初に彼の姿を見たのは、街道脇の木陰で彼がマンドクさそうに腰掛けて休憩している時だった。
 デレ達と彼は挨拶もしなかった。ただの通りすがりだからだ。

 次に出会ったのは、今度はデレ達が昼食のため街道脇で火を起こしていた時。
 彼とデレは「おや」という顔でお互いを見はしたが、挨拶まではしなかった。


 そんなこんなで三日間、彼とデレ達は追い抜き追い抜かれで街道を北上していたのだ。
 

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:29:22.63 ID:CNfxuPXw0

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは。あなたも北へ旅してるのね」

('A`)「…まあね。旅っていうかね」


 若者は言いにくそうに口ごもる。

ζ(゚ー゚*ζ「私はデレ。あなたは?」

('A`)「俺はドクオ・ネリウス・スッラ。ドクオでいいよ」


 その名前を聞いてデレは驚いた。貴族の名前だった。
 家門名のネリウスも一族名のスッラも、ともに幾多の政治家や軍人を輩出している名門中の名門。

 そういえばドクオの着ている物は豪奢な生地を使ったビップ服だし、
 顔立ちにも育ちのよさがにじみ出ている。

 もっとも目になんともいえない無気力さが浮き出ており、
 それが彼全体の雰囲気にけだるそうな影を落としている。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:30:45.40 ID:CNfxuPXw0

ζ(゚ー゚*ζ「貴族なんだ…」

('A`)「まあね。あんたもそうだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「私? 私は…」

 デレは先を歩くブーンを見る。
 ブーンはドクオとの会話に興味なさそうに、一人ですたすたと前を歩いている。

ζ(゚ー゚*ζ「…奴隷なの」

('A`)「ええっ」

 ドクオはのけぞった。

('A`)「マジかよ…。もしかしてあんた、先の同盟者戦争で捕虜になったニューソク人のクチかい?」

 デレは少しの逡巡の後、「真実の中の嘘」をつくことにした。

ζ(゚ー゚*ζ「…ええ、私はニューソク人よ」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:31:33.04 ID:FCN+UXTx0
ktkr

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:33:57.82 ID:CNfxuPXw0

('A`)「やっぱりか。俺が行ってたのオスティア大学にも何人か奴隷身分の先生がいたからなあ」

ζ(゚ー゚*ζ「あなた学生さん?」

('A`)「『元』学生さ。つまらんよ、大学なんて」

 若者はわざとらしくうそぶき、デレから目線を離してしまう。

('A`)「あんなとこに行ったって何にもなりゃしない。俺は故郷に帰るんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「…大学、辞めるの?」

('A`)「辞めるもなにも…。去年の春にこっちに来てから、ろくに授業にも出てないや」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなの。もったいないなあ」

('A`)「ばからしい。出世だの何だの、俗物どもに興味はないよ」

 どこか言い聞かせるようにドクオは語る。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:36:44.42 ID:CNfxuPXw0

('A`)「俺はモデナに帰るんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「モデナ…。北方の都市ね。あなたの故郷?」

('A`)「そうだよ。あんたらはどこに行くんだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「私達も北方よ」

('A`)「ふーん。おまえらなんでわざわざ北方なんて行くんだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「…ブーン様のお父様が亡くなっちゃってね。
       そのお父様が遺言を残したのよ。俺が死んだらゲール族の地へ行けって」

 デレの言葉は半分は本当、半分は嘘だった。


 ブーンとの旅の途中でデレはいくつかのことを聞き出していた。
 あの廃墟では父親と二人で暮らしていたこと。
 父親から剣の訓練を受けていたこと。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:37:11.49 ID:FCN+UXTx0
支援

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:38:45.20 ID:CNfxuPXw0

 デレがブーンと出会った日は、ちょうど父親が死んだ直後のこと、
 ブーンが始めて廃墟を離れて外界に出た日だったのだ。

 父親の遺言、というのは本当だった。

 ブーンはあの日、一人でゲール族のいる地までいこうとして、方角も道もわからず途方にくれていたのだ。



 だが二人が旅に出た理由はそれだけではない。

 ブーンには追っ手がかかっていた。
 ギコを殺したことは既にサスガ兄弟から当局に連絡が行っていた。

 人質とはいえ、一つの立派な独立国から預かっている大事な王族留学生である。
 安全の責任はビップ国にあった。
 追撃隊が編成されることは確実だった。
 ブーンはこれ以上オスティアに留まることはできなかった。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:39:27.58 ID:CNfxuPXw0
('A`)「ゲール族? 北方蛮族じゃねえか」

ζ(゚ー゚*ζ「今ではかなりビップ化が進んで、文明的になっているそうよ」

 オスティアから北に行く街道は二本。
 海沿いのアウレリア街道と、内陸のカッシア街道だ。

 海沿いの街道は、海運が中心のこの世界では大変な賑わいがあり、
 旅をするにはもってこいのルートだと言えた。
 ただし、追っ手のかかった身としては、人通りが多いというのはなにかとまずい。
 そこで、ブーン達は内陸部のカッシア街道を北上していた。

 このドクオという青年も、アウレリア街道を使わずにわざわざカッシア街道を使っているのは、
 何らかの事情があるに違いなかった。


ζ(゚ー゚*ζ「ゲール族を知ってるなんて、ドクオは物知りなのね」

('A`*)「ま、まあな」

 突然褒められてドクオは赤くなった。根が純粋なのだろう。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:41:22.86 ID:CNfxuPXw0

('A`)「デレさん、あんた…」

 言いかけてドクオの言葉が止まる。
 いつのまにか先を歩いていたブーンが振り返り、怒りの表情でドクオを睨み付けていたからだ。


( ゚ω゚)「いつまで話してるんだお…」

 ドクオはたじろぐ。

('A`;)「な、なんだよ…」

( ゚ω゚)「デレに近づくんじゃないお…」

('A`;)「い、いや、俺はただ…」

( ゚ω゚)「デレは漏れの物だお!!」

 ブーンはドクオに掴みかかる。
 ドクオはとっさに両腕を上げて顔をかばう。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:43:31.77 ID:CNfxuPXw0

 ブーンはドクオの両手首をつかみ、強い力で揺する。
 ドクオの手首に巻きつけられていた一本の赤い毛糸が揺れる。

('A`;)「ちょ、ちょっと待ってくれよ…」

( ゚ω゚)「デレを取るんじゃないお!」




ζ(゚−゚ζ「ブーン様!」

 デレはピシャリと言った。
 ブーンは手を止めて首を巡らし、デレのほうを見る。


ζ(゚−゚ζ「乱暴をしてはいけません」

( ゚ω゚)「らん…ぼう…」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:45:20.63 ID:CNfxuPXw0

 旅をする中で、デレはひとつ解ったことがあった。
 ブーンは幼児のようなものだ。
 それさえ解ってしまえば彼は扱いやすかった。

 まず最初に、デレはブーンの暴力性を抑えようとした。

 ブーンは時として非常に暴力的になった。
 そして身体能力の点では、腕力でも剣の腕前でも、デレは彼にかなわなかった。

 だから叱った。
 暴力的なふるまいをすれば、怒る。
 暴力を止めれぼ、褒める。

 根気強くこれを繰り返した結果、今ではブーンの怒りの発作にも
 ある程度の歯止めをかけることができるようになっていた。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:46:47.80 ID:CNfxuPXw0

( ゚ω゚)「でもこいつ、デレを取ったお」

ζ(゚−゚ζ「……」


ζ(゚ー゚ζ「取ったんじゃ、ありません」

ζ(゚ー゚*ζ「私とドクオはお友達になったんです」

( ゚ω゚)「友…達……?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう。友達に乱暴するのはいけないことです」

( ゚ω゚)「乱暴…いけない…」


 ブーンはドクオから手を離す。
 ドクオの手首に巻いていた赤い毛糸が切れて、袖口から垂れ下がっていた。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:48:35.85 ID:CNfxuPXw0

ζ(゚ー゚*ζ「乱暴を止めましたね。私のお願いを聞いてくださって、とても嬉しいです」


 自分の背丈よりもかなり高いブーンの頭に、苦労して手を伸ばす。


 何度か頭をなでる。

 ブーンは表情を変えない。だが、内心ではとても喜んでいるのだ。
 デレはそう確信していた。



 ドクオはそれをあっけにとられて眺めていた。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:50:33.14 ID:CNfxuPXw0

('A`;)「な…何なんだ、あんたらは…」


ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、ブーン様が乱暴なことをしてごめんなさい」

('A`;)「あ、ああ、まぁいいんだけどよ」


 ドクオは自分の左手首にまいてあった赤い毛糸をはずし、
 切れてしまった部分を再び結びなおす。

ζ(゚ー゚*ζ「その糸は、何かのおまじない?」

('A`)「ん、これか…」


 ドクオはすこし恥ずかしそうにためらう。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:50:34.29 ID:FCN+UXTx0
支援

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:52:54.59 ID:CNfxuPXw0
('A`)「俺、あやとりが得意なんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふーん…そうなんだ。私は下手だから、手先の器用な人ってうらやましいな」

('A`*)「そ、そんないいもんじゃねえよ」

 ドクオの顔がまた赤くなった。

('A`*)「まあなんだ、大学じゃ一人の友人もできなかったからな…ほとんど下宿からも外に出てないし…
     時間なら無限にあったっていうか…」

 ドクオは大きな輪になった赤い毛糸を両手で器用に手繰る。
 それは十本の指のあいだで、あるときは四角形、あるときは重なり合う三角形、
 そして円錐、立柱と、さまざまな形に変化する。

 あざやかな手つきだった。

ζ(゚ー゚*ζ「…すごーい!」

 あっという間に、ドクオは両手のあいだに橋をつくる。
 ブーンは目を丸くしてそれを見ていた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:55:16.32 ID:CNfxuPXw0


( ゚ω゚) フ




( ゚゚ω゚゚)) フォ…


   フォ――――――――――((( ゚ ゚ ω゚ ゚ ゚)))))――――――――――!!!!!



( ゚ω゚)「すすすすすすすすすすすすごいお!!!」


 ブーンはドクオの肩に手をかけ、大興奮しながら揺する。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:55:54.39 ID:jkb9j9xV0
ワロス

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:56:23.97 ID:CNfxuPXw0

('A`;)「お、おい痛いよ」

( ゚ω゚)「すごすごすごいお!!」

('A`;)「おおすごいか、じゃもう一回やるから離してくれよ」


 ブーンの手が止まる。
 ドクオは糸を解き、もう一度最初から「橋」を作る。

 ブーンはドクオの手元を食い入るようにして見つめている。
 ドクオはさっきよりスピードをあげて糸を繰る。


 半分ほどの時間で、さっきと同じ「橋」が組みあがった。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:57:46.80 ID:CNfxuPXw0
( ゚ω゚)「すごすごすごいお!!」

('A`;)「そうか、ありがとよ」


 ブーンは視線を落とし、ドクオの手元を見つめる。
 しばらくじっとみつめた後、
 ふたたび顔を上げて、ドクオの顔を見る。

( ゚ω゚)「…………」


('A`;)「…やりたいのか?」

 激しくうなづくブーン。

 ドクオは「橋」を崩す。
 たちまちのうちにそれは一本の赤い毛糸に変わる。

('A`)「ほれ、やってみろよ」


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 22:59:43.96 ID:CNfxuPXw0
('A`)「ほれ、やってみろよ」

 ブーンは毛糸を受け取った。
 両手のあいだに糸の輪を渡し、右手中指で最初の糸を取る。

('A`)「あれ? お前、やりかた解るのか?」

( ゚ω゚)「さっき、みてた…」

('A`)「一回見ただけで覚えたのか。お前もすげぇな」

 だがさすがに一度見ただけでは全部は覚えきれておらず、
 橋の平面部分ができあがったあたりでブーンの手も止まる。

 両手に平面の「板」を渡した状態で、ブーンはうなり声を上げた。

('A`)「ほれそこ、そこを取るんだよ」

( ゚ω゚)「…お?」

('A`)「ちげーよこの指だよ、そう、それで次はここの糸を…」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:01:41.51 ID:CNfxuPXw0

 ドクオの指導で橋はどんどん完成していく。

('A`)「…で、最後にこれを引っ張るんだよ」

( ゚ω゚)「お…」

 ブーンの両手の間に「橋」がかかった。


( ゚ω^)「…」

( ^ω^)「おっおっおっおっおっ」

 ブーンは両手をドクオの前に突き出す。

('A`)「そうだ完成だよ。まぁ初めてにしちゃ結構うまくできたんじゃね?」

( ^ω^)「おっおっおっおっおっ」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:06:29.64 ID:CNfxuPXw0

 ブーンは今度はデレの前に手を持ってくる。


ζ(゚ー゚*ζ「素敵ですよ。よくできましたね」

( ^ω^)「おっお。おっおっおっ」


ζ(゚ー゚*ζ「ブーン様、いいお友達ができましたね」

( ^ω^)「おっ…?」

ζ(゚ー゚*ζ「こうやっていっしょに遊んだり、お話したりする人のことを、友達って言うんです」


( ^ω^)「ドクオ…友達…?」

 ブーンはドクオのほうを向く。
 両手に橋を作ったまま、ドクオの胸を小突く。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:06:49.98 ID:FCN+UXTx0
ブーン萌え

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:07:30.37 ID:jkb9j9xV0
ギコワロス

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:08:02.12 ID:CNfxuPXw0

( ^ω^)「ドクオ、ともだち」

( ^ω^)「ともだち、ともだち」

('A`;)「バカよせよ、恥ずかしい奴だな…」


 ブーンの手を避けながらも、ドクオもまんざらでない顔をしている。
 それはそうだろう。
 彼が故郷を離れてから、誰かに友達といわれたのは初めてなのだから。


 はしゃぎまわるブーンを見ながら、
 デレもドクオも笑顔だった。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:12:54.49 ID:CNfxuPXw0
 三人は一緒に歩き始めた。
 ドクオは雑学が豊富だった。
 だが、それを「教えてやる」的な口調で話し出すため、
 デレにとってはそういうところが鼻についた。

ζ(゚ー゚*ζ(いわゆる「薀蓄たれ」ね…)

 常に上から目線。それは、人を遠ざけてしまう原因としてもっともポピュラーなものだ。
 病気というようなものではないが、一種の関係性構築障害として、これに悩む人は数多い。


 だがブーンはそんなことを気にしなかった。
 ブーンにとっては、ドクオの話すいろいろな薀蓄がなにもかも珍しかった。
 ブーンは目を輝かせてドクオの話を聞いた。

('A`)「…で、今の政界はこうなってんだよ」

( ゚ω゚)「ほうほう、それでそれで?!」

('A`)「んだよ知らないのか…これくらい常識だよ、西方属州ではな、今…」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:13:31.42 ID:CNfxuPXw0

 ドクオとブーンが話しながら歩くのに、デレは少し離れて着いていった。

 会話に参加する必要も隙もなかったし、
 それにドクオの薀蓄も知識としては正確なものだったから、
 世間と隔絶されて廃墟に暮らしていたブーンには、とてもいい勉強になるだろう。


 何より、のべつ幕なしに話をしている二人は楽しそうだった。
 デレはそんな二人を後ろから見守りながら歩き続けた。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:15:14.07 ID:CNfxuPXw0

('A`)「ところでさ」


 ドクオがひさしぶりにデレに話しかけてきた。

('A`)「あんたら、今夜の泊まりはどこだい」

ζ(゚ー゚*ζ「…とくに考えてないけど」

('A`)「そうか、じゃ…カステリア山のふもとの村は知ってるだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「カステリア村ね。知ってるわ」


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:16:30.35 ID:CNfxuPXw0

('A`)「あそこに親戚がいるんだ。俺は今夜そこに泊まるつもりだけど、あんたらも一緒にどうだい」

 デレは少し迷う。

 正直、屋根の下でゆっくりと眠れる誘いはありがたい。
 しかしブーンの凶暴性、幼児性は、まだ完全におさまったわけではないのだ。


ζ(゚ー゚*ζ(人里に出して大丈夫かな…)


 その心配があった。
 だが、ブーンはそんなデレの心配も知らず大はしゃぎだった。

( ^ω^)「おっおっおっ。ドクオ、一緒に泊まるのかお」


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:18:45.98 ID:CNfxuPXw0

('A`)「ああ。いい叔父さんだぜ」

( ^ω^)「宿についたらあやとりをもっと教えるお」

('A`)「いいぜ。俺様の匠の技を叩き込んでやる!」

( ^ω^)「いっぱい話もするお」

('A`)「それはいいが、明日も早いんだからちゃんと寝られる程度にしてくれよ…」

( ^ω^)「おっおっ」

 そんなブーンを見ていると、デレも断りにくくなる。

ζ(゚ー゚*ζ(…ま、ドクオと一緒にいれば大丈夫か……)


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:19:10.69 ID:fPZ7zba8O
支援

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:21:06.62 ID:CNfxuPXw0

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ君、じゃあ行ってもいいかな」

('A`)「決まりだな。じゃ、さっさと村まで行っちまおう」

 ドクオは街道をさらに北へと進む。


('A`)「あっ、そうだ…」

('A`)「デレさん、あんた奴隷ってことは秘密にしておくよ。ブーンの従者ってことにしとくから、よろしくな」

ζ(゚ー゚ζ(あっ…)

 時として忘れがちになる、左腕の腕輪の存在。
 だがこの世界では現実に奴隷制度が存在し、実際にいたるところでたくさんの奴隷たちが働いているのだ。

ζ(゚ー゚ζ「うん、わかった」


 この感情にはなかなか慣れなかった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:21:07.21 ID:FCN+UXTx0
支援

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:23:21.07 ID:CNfxuPXw0


 カステリア村の入り口の柵を越えたころ、日はちょうど沈むところだった。
 この村はオスティア最北端の村として、北のバスク地方からの商人たちが多く訪れる交易地となっている。



ζ(゚ー゚*ζ「いよいよここを越えればオスティアともお別れね」

('A`)「ふん…せいせいするぜ」

 といいながらも少しうしろ髪引かれるふうのドクオ。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ君、本当に大学を辞めるの?」

('A`)「ああ、あんなとこに行っても何にもならないからね」


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:24:46.90 ID:CNfxuPXw0

( ^ω^)「ドクオ、大学って何だお?」

('A`)「スイーツやイケメンがくだらない芸能の雑談をしに毎日集まる場所だ」

( ^ω^)「…言葉が難しくて何を言ってるのかわからないお」

('A`)「ま、俺のような奴がいく場所じゃなかったってことさ」


 旅商人の一団が、荷車を引いて通りがかる。
 デレたち三人は道のわきにどけて荷車をやりすごす。

 この日没時、村は宿を求める旅人たちでごったがえしていた。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:27:44.55 ID:zqXi+Gvg0
しえ

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:28:44.22 ID:CNfxuPXw0

('A`)「んじゃさっさと叔父さんの家に行こうか」


 ドクオは街の大通りをはずれ、静かな住宅街のほうへと向かった。
 大きな邸宅の並ぶ一角でドクオは立ち止まる。

('A`)「懐かしいな、ここだよ叔父さんの家は」


( ゚ω゚)「お…」

( ゚ω゚)「でっかいどーーーーー!!」

 石造りの門には確かにドクオと同じ「スッラ」の一族名が刻まれていた。
 中から楽しげな合唱が聞こえる。

 井戸のある中庭には誰もいず、小鳥が数羽、水を飲みにやってきていた。

('A`)「夕食時なのかな、門番もいない…」
('A`)「かまわんだろ、中に入ろうや」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:29:53.94 ID:fPZ7zba8O
支援

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:30:19.34 ID:FCN+UXTx0
支援た

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:30:54.59 ID:CNfxuPXw0

 三人は門をくぐり、中庭に入る。
 ドクオはためらいもなく、合唱の聞こえてくる右手の建物のほうに向かう。

('A`)「こっちが食堂だよ。挨拶にいこうぜ」

 デレとブーンはドクオについていった。


 食堂の開け放たれた入り口をくぐったとき、ちょうど合唱団が曲を一つ歌い終えたところだった。
 家人だけのまばらな拍手が聞こえる中、ドクオは姿を現した。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:31:43.94 ID:CNfxuPXw0

ダディ「誰だい」

 いちばん奥の席に座っていた、どっぷりと太った初老の男性が言った。


ダディ「いま食事中だ、勝手に入ってこられても困るよ」


('A`)「すいませんダディ叔父さん、ドクオです。ドクオ・ネリウス・スッラです」


ダディ「ドクオ?!」

 男性が立ち上がる。
 家族のものも驚いたまなざしでドクオを見つめる。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:32:15.02 ID:CNfxuPXw0

「まあ…ドクオじゃない、久しぶりね」

 男性の横に座っていた中年の女性が親しげな声をかける。


ダディ「おおドクオ君よく来た、今日は一体どうしたんだい?」

('A`)「叔父さん、俺、いまモデナに帰る途中なんですけど、今晩泊めてもらってもいいすか」

ダディ「もちろんいいとも。それにしても懐かしいな…さあさあ、掛けなさい。一緒に夕食にしよう」


('A`)「それでその、友達も一緒なんだけど…」

ダディ「これはこれはよくいらしたね。さあ、あなたがたもともに食卓につきなさい」


ζ(゚ー゚*ζ「…ありがとうございます」


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:34:41.95 ID:CNfxuPXw0

 料理が三人分、あらたに取り分けられた。
 合唱団はしばらく休憩をとっていたようだった。


ダディ「なにか聞きたい歌でもあるかい? 彼らにやらせるよ」

('A`)「おじさん、この方々は?」

ダディ「ん、ちょうどいま村に旅回りの芸人集団が来ていたからな。歌をやらせているんだ」

 ドクオは合唱団を見る。

 太った楽団長と何人かの手下、それから十人前後の奴隷。


 金持ちの家で音楽を演奏するのが仕事だから、みな身の回りは小奇麗にしているが、
 身分が奴隷であることは明らかだった。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:34:55.88 ID:FCN+UXTx0
ダディ顔無しwwwwwww

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:36:11.20 ID:j6O35VLYO
ブーン可愛いな。今後の精神的な成長に期待

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:36:47.70 ID:CNfxuPXw0
 ドクオは彼らに話しかけた。

('A`)「あんたら、北方から来たのかい?」

 北方の人間は一般に色が白く背が高い。
 ドクオの故郷の人間だ。


 ドクオの問いに、ダディが横から答える。

ダディ「そうだ。わたしは同郷の彼らに目をかけてやってるんだよ」


('A`)「…じゃ、「ひばり」は知ってるだろう? やってくれよ」

 ドクオは合唱隊に言った。
 ビップ国北端、アルプス山脈のふもとでは、ひばりが多いことでよく知られている。
 ドクオの故郷であるモデナも、街の紋章にひばりを取入れるほどだ。

 太った楽団長はうなづき、仰々しく一礼すると、合唱団の音あわせを始めた。


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:37:52.13 ID:CNfxuPXw0

('A`)「故郷ではいちばん有名な歌なんだ」

 デレとブーンに向かってドクオは言った。

 ほどなくして、合唱が始まった。



         おお ひばり 高くまた
         軽く 何をか歌う
         天の恵み 地の栄え
         そを讃えて歌う
         そを祝(ことほ)ぎ歌う


 いい歌だった。軽やかなリズムと高く突き抜けるソプラノ。
 自由に空を舞うひばりの姿が目に浮かぶようだ。


 ブーンとデレは、楽しい食事をした。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:39:21.33 ID:CNfxuPXw0

 その夜、ブーンとドクオは、ブーンたっての希望で同じ部屋で寝ることになった。
 デレだけは別の一室を与えられ、そこで一人で過ごすことになった。

 デレはとても嬉しい気分になっていた。

 ドクオは良い旅の道連れだった。
 それに、予期せぬ豪華でおいしい夕食と安らかな眠りを手に入れることができた。


ζ(゚ー゚*ζ(ベッドでゆっくり眠るなんて、いつ以来かしら)


 ブーンとドクオの部屋からは大はしゃぎをする声が聞こえてきていた。
 単語をひとつずつ叫びあっている。
 どうやらあやとりは終わり、次は「しりとり」に興じているようだ。


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:40:40.00 ID:CNfxuPXw0

 机の上のランプがベッドに腰掛けるデレの顔を下から照らしていた。

 窓の外は漆黒の闇。
 ブーンと廃墟で過ごした頃は満月だったから、ちょうど半月が経ったのだろう。

 明日の昼までにはカステリア山の峠を越える。
 そうすれば、そこはもうオスティアの領地ではなくバスクの領地となる。

 ビップ国は都市国家連合の形をとっているため、
 いちおう連邦国家の形はあっても、各都市の独立性はいまだ強い。

 オスティアで起きた事件のために、バスクで捕まることはあるまい。
 警戒すべきはオスティアからの追っ手だけということになる。


 ギコ。
 ギコのことを思い出すと、そのたびに心が重くなる。
 ギコを殺した男に仕えなければならない自分の運命にも、呪詛を投げかけたくなる。


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:41:12.35 ID:CNfxuPXw0

ζ(゚ー゚*ζ(でも…)

 デレはブーンのことを考える。
 彼はおそらく将来、デレの何倍もの苦しみを味わうことになるだろう。


 人間は、自分が「いけないこと」と無意識に思っている行為を現実にやってしまった場合、
 あとあと何度もその自分の行為を思い出し、そのたびに自責の念に襲われることになる。
 いわゆる「トラウマ」というやつだ。

 人殺しはいけない、ということを「知らない」うちは、人を殺しても良心の呵責はない。
 ちょうど森の動物たちを殺して食べるのと同じように。


 しかし、もし「人殺しはいけない」という観念が無意識に生まれてしまったら。



 血塗られた自分の両手に対し、ブーンはどう対処していくのだろうか。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:41:41.54 ID:tzWNnCOlO
支援

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:42:16.52 ID:CXBl3g//0
支援

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:42:27.38 ID:CNfxuPXw0

 デレはどれくらい考え込んでいたのだろうか。



 いつのまにかランプの明かりは消えていた。
 油がなくなったのだろう。

 新月の夜に、星の明かりが満天を埋める。



 その窓の向こうから、ふいに声が聞こえてくる。


('A`)「デレさん…」


 ドクオの声だ。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:42:32.63 ID:Yw0rQIQy0
支援

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:44:54.30 ID:CNfxuPXw0
 デレは窓のほうを見る。ドクオの姿は見えない。
 窓の下のほうから再び声が聞こえる。

('A`)「デレさん、起きてますか」

 デレは立ち上がり窓際に行く。
 窓の外では、外壁にもたれてドクオが小さく背を向けて座っていた。


ζ(゚ー゚*ζ「うん、起きてるよ。どうしたの?」

 デレは窓越しに声をかける。
 返事はない。

ζ(゚ー゚*ζ「眠れないの?」

 窓の下から、しゃくりあげるひそやかな鼻音が聞こえる。


ζ(゚ー゚*ζ「…泣いてる?」


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:45:59.36 ID:CNfxuPXw0

 ドクオの肩が揺れる。

('A`)「…あいつらの歌っていた「ひばり」が、耳に残って離れない」


 大きな流れ星が一つ、地平線近くの夜空を流れていった。
 一瞬の輝きだった。


('A`)「あれを聞くとたちまち故郷の景色が浮かんで来ちまった。
    そう、ちょうど今くらいの季節。
    大学の合格発表を持った使者が家に来ていたんだ」

('A`)「…とーちゃんが俺のオスティア行きを飛び上がって喜んで、
    カーチャンが泣いて何度も言ってたよ、「立派になるんだよ、ドクオ」って…」


ζ(゚ー゚*ζ「そう…」

 ドクオは鼻をひとつすすり上げた。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:47:24.57 ID:CNfxuPXw0

('A`)「おかしいよな、あの歌を歌ってたのは奴隷たちなんだぜ。
    自由無き奴隷が、空高く舞うひばりの姿を歌うんだ」

('A`)「…俺と、おんなじなんだ」


 ドクオの語りが独白調になる。

('A`)「俺はえらそうなことばっかり言うけど、現実には俺は、俺自身のプライドと怠惰に縛られた奴隷だ。
    マンドクサイ。俺はそのうちビッグになる。俺に合った環境さえあれば天才の働きをしてみせる。
    …なんて言って、いつも一歩も動けない…」

('A`)「動けない…んだ…」


 窓の外に沈黙が訪れる。
 遠くのふくろうの声に混じって、ドクオのすすり泣きの声が聞こえる。


 デレはじっと窓辺にたって、ドクオの話に耳を傾けていた。 

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:48:41.47 ID:CNfxuPXw0

 ドクオは腕を上げ、目元をぐいっとぬぐう。

('A`)「デレさん、すまん…初対面なのにいろいろと語っちまって。
    あんたは不思議な人だよ。話してるだけでも心が安らかになるし、
    親近感を持っちまうし、あんたになら何でも喋れそうな気がしてくる…」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、私が魅力的な女ってこと?」

 デレはわざと冗談めかして言う。


('A`)「そこなんだよなあ…」

 ドクオは不思議そうに言う。

('A`)「俺、じつは女の人とまともに喋るのは初めてなんだ。
    なのにこんなに若くて美人な人と喋ってるのに、変な安堵感につつまれちまう…」

 ドクオはひとつため息をつく。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:48:44.21 ID:FCN+UXTx0
('A`)支援

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:49:36.73 ID:tX1xV+xQ0
クーはどうなったんだ?

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:50:01.86 ID:CNfxuPXw0

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ君」

('A`)「は、はい」

 突然あらたまった物言いをされ、ドクオはまごつく。

ζ(゚ー゚*ζ「自由についての君の学説に対して、奴隷の立場からひとつ反論させてもらうわ。
       いい? たとえ自由を奪われても、人間は大きく空に向かって羽ばたくことができるのよ。
       いくら厳しい現実に手足を縛られていても、人間には想像という翼があって、
       希望と勇気を捨てなければ、がんばりつづけることだけはできるんです」

 ドクオは口をぽっかりと開けながら聞いている。


ζ(゚ー゚*ζ「学校に戻りなさいよ、ドクオ」

('A`)「……」

 月のない夜空はどこまでも黒く青く、
 そこに散らばる星はいっそうの輝きを身に纏っている。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:51:24.41 ID:CNfxuPXw0

('A`)「あんた、地動説派かい?」

ζ(゚ー゚*ζ「…そうね」

 突然の質問にぴんとこないまま、デレは返事をした。

ζ(゚ー゚*ζ「宇宙は無限の広がりがある、ってところが天動説より合理的かな」

('A`)「人間の外には無限の宇宙がある、ってことだよな。
    じゃあさ、人間の中には…。人間の中には、無限の宇宙は…ある、のかな」



 なるほどね。
 たいした修辞学を持ってるじゃない。

 デレは心の中で感心する。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:51:51.04 ID:99aSbfdj0
しえん

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:52:04.65 ID:CNfxuPXw0

ζ(゚ー゚*ζ「面白いことを考えるのね」

('A`)「すまん、俺が言ったんじゃないんだ。どっかのエラい人が死ぬ間際に言ったんだってよ」


 薀蓄好きのドクオが、どこかで聞いてきた名言を語っていたのだ。
 いつのまにかドクオの涙は止まっていた。


 ドクオは長い間無言で壁際に座っていた。
 デレはやがて夜着を取りにベッドにもどり、そのまま窓際には戻らず横になった。



 夜の帳の中で、どこか遠いところで犬が長く鳴き声をあげていた。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:54:50.59 ID:CNfxuPXw0

 翌朝早く、三人はダディ叔父さんにお礼を言って旅立った。
 天気も良く足取りも軽く、領境のなだらかな山を登る。



 カステリア峠。




 ここを越えれば、もうその向こうはオスティアではなくなる。

 峠近くで休憩を取った三人は、誰ともなしにそういう話になる。
 来た道を振り返れば、遥か遠く霞の向こうにオスティア大学の尖塔が見える。


 デレにとっての始まりの地、そしてドクオにとっての…



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:55:58.21 ID:fPZ7zba8O
支援

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:56:16.90 ID:CNfxuPXw0

('A`)「へっ、あんな俗物どもの巣なんかに未練はねえや」



 吐き捨てるようにそう言って、無理に大学のほうに背を向け座りなおす。


( ^ω^)「俗物って何だお?」

('A`)「くだらない奴らのことさ。くだらない時間をあそこで過ごすんだ」

( ^ω^)「…くだらないって何だお?」


('A`)「…生きるってことさ」


 ドクオはブーンから視線を逸らす。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:57:50.61 ID:CNfxuPXw0

('A`)「さ、こんなところでうだうだしてても仕方がねえ。さっさと峠を越えちまおうぜ」


 ヨッコラセックス…

 そういってドクオがめんどくさそうに立ち上がった、
 その時…



 気分よく晴れた日。

 正午近くの太陽が真上から強い日差しを投げかけてくる中、
 一羽のひばりが、峠の向こうからオスティアのほうへ飛んでくる。


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:58:38.06 ID:FCN+UXTx0
ヨッコラセックス無かったらドクオかっこよかったのにwwww

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:58:40.95 ID:CNfxuPXw0

 それは翼で風を切って、高く高く、大空の中どこまでも高く昇って行く。


 小さな体をせいいっぱい広げながら、
 軽やかな声で鳴きながら、
 天の青の中をくるくる回り続ける。

 力いっぱい、楽しげに。






 ドクオはひばりから目が離せなかった。
 ドクオの様子を見て、ブーンもその小鳥のほうを見ていた。
 デレも少し離れたところから眺めていた。

 三人は、しばらく上を向いて呆然としていた。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/16(水) 23:59:41.93 ID:CNfxuPXw0

 ドクオは左手首に巻きつけた赤い毛糸をほどいて、
 ブーンのほうに差し出した。

('A`)「ん」

( ^ω^)「…?」


 ブーンはそれを受け取る。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:01:25.50 ID:1Ao2k+bf0

('A`)「さて、これで俺達はもう友達じゃねえ」

( ^ω^)「…? ドクオ、何を…」


('A`)「お前みたいな気持ち悪いヤツと結ばれてた赤い糸を、俺はもう手放しちまったってことだ」


 ドクオはくるりとうしろを向く。
 肩が震えている。

 峠に背を向けたドクオが目を向けているのは、
 はるか遠くに霞む、オスティアの地。

('A`)「あばよ、腐れデブ」


( ^ω^)「ドクオ。何を言ってるんだお、ドクオ」

 追いかけようと一歩足を踏み出すブーン。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:02:37.46 ID:1Ao2k+bf0

 その肩に、後ろからデレが手を置く。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーン様」


 ブーンはデレを見る。

( ^ω^)「デレ、お前もドクオを止めるお。ドクオが行っちゃうお」


ζ(゚ー゚ζ「…いいえ、だめです」

(  ω )「…だめですじゃないお! ドクオが、ドクオが」


ζ(゚ー゚ζ「彼が立派になるのを、私達が妨げてはなりません」

( ;ω;)「ドクオ…りっぱ?」


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:03:51.54 ID:1Ao2k+bf0

ζ(゚ー゚ζ「そうです。
       ドクオはいま、とっても大変な決断をしたんです。
       自分の人生を自分の力で切り開くために、困難な道に踏み出そうとしているんです。
       邪魔をしてはいけません」

ζ(゚ー゚ζ「だって、私たちは、ドクオの友達なんだから」



( ;ω;)「ドクオ…りっぱ…なる?」

 ドクオは足を止める。


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:04:50.90 ID:1Ao2k+bf0

 大きく息を吸い込み、大声で一気にまくしたてる。

('A`)「ああなるさ。ちゃんと学校に行っていっぱい勉強して偉くなってやる。
   それから今度は立派な職について、そこでも頑張りまくってやる。
   俺はいずれ親方になるぞ。俺はいずれ指揮官になるぞ。俺はいずれ総督になるぞ。いや…
   俺はいずれ執政官になってやるぞ。わかるか、執政官様だ、このビップでいちばんエラい人になるんだ。
   ブーンおまえなんか気軽に会えないようなエラい人になってやるんだぞ。
   そうしてドクオ・ネリウス・スッラ様の名前を、この国のどこにいようとお前に聞かせてやるんだ」


( A )「だから…だから…」

 最後のほうは涙と嗚咽で言葉にならない。後ろ向きのドクオの肩が揺れている。



( ;ω;)「ドクオ…」

 ブーンの涙もさっきから止まらない。


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:05:53.94 ID:1Ao2k+bf0

( ;ω;)「わかったお! もうお前なんか友達だけど友達じゃないお!
      ばーかばーかうんこたれ! しっしっ、早く向こうへ行くお!」

 赤い糸を握り締め、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらブーンは言う。


 ドクオは駆け出した。


( A )「俺様はドクオ・ネリウス・スッラ様だ!!!!」


 ドクオはそう絶叫して、オスティアの方角に街道を走り去っていく。
 見通しのいいカステリア峠にドクオの声が響き渡る。


82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:06:02.98 ID:WbfXzDzu0
支援

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:06:47.07 ID:dhOasOO10
別れ際が旅って感じでいいなあ

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:06:48.81 ID:NsNPxALeO
支援

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:07:30.39 ID:1Ao2k+bf0

 ドクオの後ろ姿はどんどん小さくなって、木々の向こうに消えていく。
 暖かい初夏の風が吹く。

 日に照らされた木々の葉がざわめき、ひばりはオスティアの大地に向かって飛び去っていった。



 ドクオが見えなくなってからも、
 ブーンは嗚咽を漏らしながら、いつまでもその場に立ちすくんでいた。


「俺様は、ドクオ・ネリウス・スッラ様だ!!」


 遠くのほうから、カステリア峠にもう一度だけドクオの声が響き渡った。
 ドクオのお別れの言葉だった。



第四話 ここまで---

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:08:22.25 ID:1/3DNVoj0
思えばブーンが笑うようになったのがすごいな

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:09:41.97 ID:NsNPxALeO
イイハナシダナ--(´;ω;`)

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:10:27.72 ID:Jcv/jmag0
面白かったわ

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:10:35.37 ID:NsNPxALeO
乙。次回にも期待してます。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:11:00.72 ID:vIpeAVeYO


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:11:31.37 ID:C7EBeZXD0
ブーンがドクオの頭蓋をかち割る展開にならなくてよかった

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:14:12.25 ID:aCfqQSIWO
乙!
普通におもしろかった。続き楽しみにしてます。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:14:17.85 ID:1Ao2k+bf0
支援ありがとうございます
クーの話はまた後日伏線ってことで
これからもよろしくお願いします!



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:14:56.38 ID:dhOasOO10
乙乙
普段のブーンが無表情だから、笑った時が可愛いなw

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:15:45.55 ID:LIWdOxju0
乙!!おもしろかった!

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:18:06.67 ID:MmSsWlnk0

なんかいいね。
続きが楽しみだ。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:22:41.61 ID:l7kg6n2mO
( ;∀;) ;∀;) ;∀;)ジェットストリームイイハナシダナー
なんか塩野七海の本読みたくなった

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 00:38:59.12 ID:Je0ITQSMO
乙!

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 01:07:57.86 ID:Je0ITQSMO
読んだ
テイストかわってきたな
次回にも期待!

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 01:24:53.23 ID:gibG4cArO
これはよいな

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 01:36:24.53 ID:dhOasOO10
何となく、寝る前保守しておきたい気分

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 02:07:14.55 ID:s8GEZKoGO
イマヨム

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 02:58:43.29 ID:ZU1poiAR0
今読み終わった
次もwktkしてるぜ

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/17(木) 03:35:56.91 ID:bjSC6KmXO