( ^ω^)は三秒ルールを遵守するようです
( ^ω^)「くちゃくちゃ」
( ^ω^)「ガムうめぇな」
( ^ω^)「くっちゃくちゃ」
( ^ω^)「あ、」
(; ^ω^)「やべ、落とした」
( ^ω^)は三秒ルールを遵守するようです
( ^ω^)「まだ味残ってたのに勿体無いことしたお」
('A`)「え、ほら早く拾えよ。三秒ルールだ」
( ^ω^)「三秒、るーる?」
('A`)「知らないのかよ」
全ての始まりはこの日だった。
忘れもしない、二〇〇八年二月六日。
僕はドクオの部屋で、発売したばかりのスマブラXを楽しみ、
――あぁ、もちろんドクオのような貧弱な輩に負けはしなかった。コテンパンにしてやった。
そして、午後七時三十分。
腹の虫が鳴き始めたころ、僕たちは近所のファミレスに向かったのだ。
道すがら、丁度 月極不動産とゴランノ社について語っていたときだろうか、
僕が噛んでいたガムが、ぽろり口からこぼれ、地面に落ちた。
('A`)「落とした食い物、三秒以内に拾えばセーフってやつよ。
まぁさすがに外で落としたものは嫌だろうし冗談で言ったんだけどさ、
三秒ルールしらないんじゃあ、通じないわな」
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「三秒ルール、ホントに三秒以内に拾えばセーフなのかお?」
(;'A`)「え?そのへんは人によるんじゃねぇの?俺は三秒ルールなんか使わんけど」
( ^ω^)「ふーん」
僕は釈然としなかった。
ルールがあるというのに、それが機能していないじゃないか。
三秒以内に拾えばセーフ、そういうルールがあるのならば、
例え馬糞に飴玉落としたってセーフにするべきだ。
規則を尊ぶ精神が、フェアプレイを生むのだから。
( ^ω^)「ブーンは、三秒ルールを守るお!!!」
('A`)「いや、そんなたいそうな話じゃないんだって」
( ^ω^)「ま、とりあえずお腹空いたしファミレス行こうぜ」
僕たちは再び歩き出した。
路地に香る、カレー、焼き魚、餃子。子供たちの笑い声、洗濯物の匂い。
あぁ、ノスタルジー。
('A`)「オレ、お子様ランチ頼もうかな」
( ^ω^)「どうしたんだ?急に」
('A`)「へへっ何でもねぇやい!」
( ^ω^)「こいつぅ!」
二月六日。
三秒ルールを知り、一つ賢くなった僕は
夕食にカレーを食べ、ドクオと別れ、帰宅し、風呂に入った。
もう何年も 洗いも干しもしていない布団に包まりながら、
僕は、ごく普通の一日を終えようとしていたのだ。
さて、今日は何の妄想をしながら眠ろうかな。
頭の中のファンタジー妄想セーブフォルダを漁り始めたそのとき。
僕は腹部に妙な違和を感じた。
( ^ω^)「……?」
お腹が空いただとか、トイレに行きたいだとか、
そういう感覚とは違う。何かが上に乗っかっているような、圧迫されるイメージ。
(;^ω^)「く、くるし」
次第に存在を増し、痛みに変わる奇妙な感覚は、
僕を苦しめるのに十分な重さにまでなると、ぐらりと揺れた。
瞬間、その「何か」がすっと軽くなる。
(;^ω^)「はぁ、はぁ」
苦しさから解放され、すっかり息のあがった僕は、水でも飲みたい気分だった。
誰かに圧し掛かられていたとしか思えない。
この部屋に越してきて二年になるが、まさか突然に心霊現象に遭遇したのだろうか?
夜中、目が覚めると幽霊が跨っていたなんて、よく聞く話だ。
( ^ω^)「ふぅ、水でも飲むお」
僕の額にうっすら浮かぶ汗は本物であったし、
僅かに残る腹部の違和だって事実だ。
けれど、どちらかというと怖がりの僕は、
恐怖を認めてしまうと、もう取り返しのつかない気がして、あえて明るい声色で歌う。
( ^ω^)「光るかーぜーを、おいーこしたらー」
布団から出て、台所の灯りをつける。
それだけで随分心は楽になる。あの体験が夢だったのかもしれない、という希望も生まれる。
しかし生まれたばかりの希望は潰えた。
从 ゚∀从「よぉ。おまえは偉いなぁ」
台所に人がいる。
知らない人がいる、見たことない人がいる。
( ^ω^)「……」
从
゚∀从「三秒ルール守りたいんだって?お兄さんそういう良い子好きだなぁ」
( ω
)「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ」
銀髪のそいつは、どう見たって日本人じゃない。
いや、そもそも見た目の問題ではなく、
戸締りしたはずの僕の家にどうして他人が入ってきているのか、
台所で冷蔵庫を漁っているのか、あぁ、腰が抜けてしまう。
从 ゚∀从「おいおい、そう怖がることはないぞ」
偉そうに踏ん反り返っているこいつは、まさか幽霊なのだろうか。
さっきの妙な体験が、脳裏によみがえる。
どうすればいい、どうすればいい。
( ゚ω゚ )「なむあみだぶつなむあぬだjふぁい」
从;゚∀从「ったくよ、オレは幽霊でもお化けでもないぞ」
銀髪が、僕のほうに一歩踏み出す。
( ω )「ひいいお助けええ」
从 ゚∀从「よく聞け!オレ様は『三秒ルールの神様』だ。
ちゃんとルールを守ろうっていう嬉しい心がけの青少年に恩返しをしてまわってる」
( ω )「……」
从
゚∀从「さっきお前の腹を踏んづけちゃったのはごめんな、
でも、きっとおまえはオレが来て嬉しいはずだぜ」
そんなわけがなかろうが。
僕は確かに三秒ルールを守ると言った。正直覚えちゃあいないが、多分言った。
しかし、それはこんな目に遭いたいからじゃなかったのだ。
そんでもって、先程の腹部の違和感はこいつのせいだったのか。
从
゚∀从「最近の人間は、落としたものはすぐに捨てちまうからなぁ
神様はそれが寂しくってよぉ、だから、お前の言葉嬉しかったなぁ」
( ^ω^)「……何しに来たんだお」
どうやら僕に危害を加える気はないらしい その神様は、
僕が落ち着きを取り戻した様子を見て、満足げに頷くのだった。
从 ゚∀从「お前が三秒ルールを守るお手伝いをしてやる」
( ^ω^)「は?」
もうこの際、夢オチを期待している僕は、投げやりに聞き返す。
从
゚∀从「お前が三秒以内に『拾った』ものは、
落とす前と同じ状態にしてやるよ」
( ^ω^)「どういうことだお」
从 ゚∀从「じゃあ、例えばこれ、割ってみな」
神様の手には、ガラスのコップ。
そういえば昨夜ビールを飲むのに使ったまま、シンクに置きっぱなしだったものだ。
从 ゚∀从「ほら、はやく」
僕は大人しくそれに従うことにした。
コップを受け取り、そして、壁に投げつける。
我ながら豪快にやったもので、もちろんコップは粉々に砕けてしまう。
从 ゚∀从「よし、三秒以内に、「割れたコップを拾った」と言え」
( ^ω^)「わ、割れたコップを『拾った』お!」
僕が『拾った』と口走った瞬間だ。
神様が眩く発光し、そしてコップを投げた方向からも、目も向けられないほどのフラッシュが。
思わず視線を逸らした僕に、少し自慢げな声色で言葉が投げかけられる。
从 ゚∀从「どうだ!できたぞ」
(;^ω^)「……う、そ…………だお」
神様の指差す場所は僕の手のひら。
そう、僕の手に、割れる前と同じ状態のコップが収まっているのだ。
(;^ω^)「さっき確かに割れたはずだお!!なんでだお!!!」
それを言うなら、目の前の自称神様は何者なのだ、そこから追及しろ、というものだが
しかし僕は、このマジック……いやイリュージョンに感嘆していた。
( ^ω^)「すごいお!すごい、すごいお!」
从
゚∀从「わかってもらえたか?」
( ^ω^)「……」
僕は恐る恐る、自分の頬を抓る。
痛い、夢じゃない。多分。
从 ゚∀从「他人が落としたものは、拾えない。自分が落としたものなら、何でも拾える。
『拾った』、そう言ってくれれば、言葉でも、行動でも、何でも元通りにしてやるよ」
( ^ω^)「言葉でも……行動でも……?」
それは、例えば人の悪口だとか、人を殴ったりだとかしたとして。
三秒以内に『拾った』と言うだけで、やり直せる。なかったことに出来る。
つまりはそういうことなのだろうか?
神様は、僕を、どうして選んだのか。
从 ゚∀从「大事なのは『三秒以内』。
じゃ、オレは必要なときにまた来るから」
僕が問いかけるより先に、神様とやらは消えてしまった。
アニメでよくあるような、キラキラした光に包まれて、瞬きする間に、消えてしまった。
思い切り抓った頬がヒリヒリ痛んだとしても、
この手にあるコップの感触がリアルだとしても、
こんなにも不思議な体験なのだ、夢である可能性のほうが高い。
だけれど、物事を好きにやり直せる『三秒ルール』なんて、
僕が生きてきた中でこれ以上ないほど魅力的な体験で、
だから、たとえ夢だとしても構わない。
僕は、三秒ルールを遵守する。
二月六日、
僕はあまりに不思議な出来事に遭遇したため、眠れなかった。
コップを握り締めたまま、僕は一夜を明かしたのだった。
そして翌朝。
いつもどおり太陽が昇り、さて僕は学校に行かなければならない。
サボろうか、休んでしまえばいい、
そう思わなかったといえば嘘になる。
しかし、この『三秒ルール』を試してみたいという気持ちがあった。
当たり前の事だが、僕が気になっていたのは
「言葉でも、行動でも」という部分で、
それらを試すためにも、僕は眠気をはらって大学に行く事にしたのだった。
('A`)「なんだぁ?話って」
僕は、ドクオをトイレに呼び出した。
学校に来てから気付いたのだが、そもそも僕のまともな話し相手なんて……
つまり、友達なんて、ドクオしかいないのだ。
実験台一人目は、ドクオに決定。
(*'A`)「おいおい、黙っちゃってどうしたんだよ、まさか愛の告白か?」
( ^ω^)「……ドクオ。実はブーンは、隠してたことがあるんだお」
('A`)「なんだ?」
( ^ω^)「この前、金が盗まれたって言ってたお?
あれ、ドクオの財布から二万円抜いたのはブーンでしたwwwwwwサーセンwww」
('A`)
( ^ω^)「二万円はエロゲに消えましたwwwww」
(#'A`)「って……てめぇえええ」
先週の金曜日だったか、ドクオがトイレに行っているあいだに、
財布から二万円抜き取ったのだ。
悪気があったわけじゃない。金が欲しかった。
(#'A`)「返せよ!!!」
ドクオが今にも殴りかかってきそうな形相で叫ぶ。
一秒、二秒。そして、次に僕が、あの言葉を、叫ぶ。
( ^ω^)「僕の告白を『拾ったお!!!』」
瞬間、辺りが光に包まれていく。銀髪の神様の声が、脳に響いた。
从 ゚∀从「利口だなぁ。さっそく呼んでもらえるとは」
光が全て退き、本来あるべき影が戻ってくると、
そこには穏やかな顔をしたドクオがいた。
('A`)「で?なんだって?何のようだ?」
( ^ω^)「……今日財布忘れてきたから昼飯奢ってくれお」
三秒ルールは、最高だった。
その力の威を知るや否や、僕は三秒ルールを使いまくった。
しばらくの間は、まるでオナニーを覚えたての猿みたいにほとんど毎日、
僕の中の倫理から外れない程度の、それでも結構な酷いことをして楽しんでいたのだ。
誰かに悪戯をしては、その行為を拾った。
女の子にふざけて声をかけ、芳しい返事が来なかった場合も、自分の言葉を拾った。
僕は我ながらに中々悪知恵の働く男だ。
それが周りに良い影響を出さなくても、良い結果を生まなくても、
『拾った』ことで、全てがやり直せた。
そういえば、こんなこともあった。
( ^ω^)「ショボンって頭いいしモテるしムカつくお」
学校中の女の子たちの注目の的である、ショボンという学生がいた。
認めたくはないが容姿端麗で、言動物腰柔らかく、成績も優秀なやつだ。
それでいて澄ました顔をして過ごしているものだから、
半ば やつあたりではあれ、というか確実に妬みであっても、
僕はそいつをギャフンと言わせたかったのだ。
もちろん普段の僕は地味な学生で、
ショボンとの接点なんてほとんどない。
お互い名前を知っている程度なので、ごく稀に挨拶するかしないかという関係だ。
ある朝、偶然に学内で顔を合わせたのだが、
僕はショボンと並ぶと自分が惨めになると知っているため、
出来るだけ早足で擦れ違おうとした。
そんな考えの時に限って、ショボンが声をかけてきたのだった。
(´・ω・`)「やぁ、ブーンじゃないか」
从'ー'从「あれれぇーショボン様には、そんなピザ野郎よりも私のこと見ててほしいなぁ」
川 ゚ -゚)「ショボン、次は私と手を繋いでくれ」
( ∵)「ショボン様ぁ」
ノパ听)「しょぼおおおおおおおおおおおおおおおん!」
('、`*川「ショボンさまぁ〜私を罵ってええ」
取り巻きの女の子がスゴい。
どの子も美人でスタイルがよく、何よりショボンに向ける眼差しが、
所謂「恋する乙女」のそれであった。
僕が最後にまともに女子と会話したのはいつだろう。
段々むかっ腹が立ってきた。
同じ男なのに、同じようにチンコぶら下げた生き物なのに、
この発情したメスはどうしてこいつばかりに媚を売る?
怒りの矛先は、取り巻き、そしてもちろんショボンへ向いていく。
なんだ、こいつ。
何が「やぁ、ブーンじゃないか」だ。
舐めやがって畜生。
(#^ω^)「おらっ!!金玉つぶしてやんよ!!!1」
思うより早く、いや、散々心中で罵った後なので思うことのほうが多かったのだが、
僕は右足を蹴り上げた。
足の甲が見事にショボンの股間へヒットする。
(´ ゚ω゚ `)「う」
一秒……二秒…………ショボンの苦しむ姿をギリギリまで観賞。
取り巻きの女の子たちの青ざめた顔。
ざまあみろ。
( ^ω^)「ショボンへの暴力、『拾ったお』」
もちろん小心者の僕は、事態を収拾するべくルールを守った。
从
゚∀从「よ、おまえ随分酷い事すんだなぁ」
( ^ω^)「……」
从
゚∀从「まぁ、いいや。その男への暴力、なかったことになったぜ」
もうすっかり慣れてしまった目映い光のなか、
僕は零れる笑いを抑えられないでいた。
やりたい放題。
三秒ルール様様である。
(´・ω・`)「あ、ブーンくん、おはよう」
从'ー'从「あれれ〜わたしドジっこだから、何もないところで躓いて
反射的にショボン様の肩に掴まってしまったよぉ」
川 ゚ -゚)「ショボン、今日の昼食は是非一緒に」
( ∵)「ショボン様ぁ」
ノパ听)「しょぼおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!」
('、`*川「ショボンさまぁ〜私を蹴飛ばしてぇ」
( ^ω^)「あぁ、ショボンくん、おはよう」
( ^ω^)ニコニコ
僕は、ある日突然考えた。
今まで、道行く女性に対し、卑猥な言葉を投げかけこそしたものの、
真摯に愛を伝えようとしたことはなかった。
例えば、「好きです」という。
相手が嫌そうな素振りを見せたのならば、拾えばいい。
何回でもやり直せる。
そう、選択肢のミスだって、三秒という厳しい縛りはあるにせよ、
何度も選びなおせる。
これって、恋愛の成功率が格段にあがるのではないか。
思いつくや、当たり前のように、僕は実行した。
標的は、ツンデレという女性。今まで出会った中で、一番僕好みの人だった。
ドクオの知り合いで、一年ほど前になるか、一度だけ会ったことがある。
近所のカフェでアルバイトをしているというドクオの話を頼りに、
僕はツンデレの元を訪れた。
ξ゚听)ξ「いらっしゃいませ」
いた。
ツンデレは端正な顔に涼しげな表情をのせて、
僕に話しかけてくる。
ξ゚听)ξ「あの、もしかしてドクオの……」
( ^ω^)「あ、そうですお。覚えてくれてて嬉しいですお」
僕はあくまでも偶然を装い、そして運命的な、というような風を装って
ツンデレとの再会を楽しんだ。
ξ゚听)ξ「でも、ほんと、偶然ですね」
( ^ω^)「まさかまた会えるなんて思ってもみなかったですお」
どうやら彼女も嫌な顔をせずに話に付き合ってくれ、
これはもしかしたら脈アリなのだろうか、と僕は胸を躍らせる。
その日は、お互いに連絡先を教えあって別れた。
会話がだいぶ弾んだこともあってか、彼女から申し出たことだ。
僕は綻ぶ口元を隠しもせず、スキップで浮かれながら家に帰った。
それほどに、楽しく、そして嬉しい時間であった。
( ^ω^)「ちょwwwwwwそれはないお」
ξ゚听)ξ「えーなんでよ!」
それから一ヶ月。
僕とツンデレは恋人同士、とまではいかなくとも、
普通以上に親しい間柄になっていた。
これは僕が何度も『拾った』結果だ。
バレンタインには、義理とはいえどチョコをもらい、
そしてホワイトデーに、僕から彼女に贈ったクッキーは
それ以来ツンデレのお気に入りのお菓子になった。
( ^ω^)「そんで、ドクオに引っ掛けてやったら、ニダーのやつが……」
ξ゚听)ξ「えー酷い」
( ^ω^)「そのとき僕が……」
ξ゚ー゚)ξ「まさか!」
( ^ω^)「そのまさかだお!」
ツンデレは基本親切、というか少々お節介な女の子で、
けれど、僕が何かにつけて感謝の言葉を述べると、
恥ずかしがってツンケンしてしまうような可愛い面を持っていた。
始めて会ったときは、綺麗な子だな、と思っただけ。
二度目にカフェで会ったときは、まぁあれは僕から押し掛けたのだけれど、
案外話していて楽しい子なんだな、という印象を持った。
そして、一ヶ月経った今、
僕は確実にツンデレに好意を抱いている。
それは、異性に対する愛情で、
つまり、僕は恋をしているのだ。
( ^ω^)「……ツン」
ξ゚听)ξ「なによ?」
白い肌、長い睫毛が影を落とし、形の好い唇が僕の次の言葉を待っている。
(* ^ω^)「ツンちゃんとズコバコしたいよぉ〜」
ξ゚听)ξ「……は?ごめん、聞こえなかったわ。
もういちど言ってみろピザ豚野郎が」
これはやばい。失言だった。
彼女は下品なネタが大嫌いなのだ。
以前、ふざけてそういう話を振ったときも、
まさに空気が凍ったものだから僕は心臓が止まるほど驚いたものだ。
いくらツンデレからいい匂いがしてこようとも、
少なくとも今の段階でこんな発言をしたのはいけない。
( ^ω^)「ツンへの発言、『拾ったお!!!!!!』」
しかし、僕にはこれがある。
いちいち彼女に気を使わなくても、何とかなってしまうのだ。
从 ゚∀从「おっけーおっけー。だいぶ板についてきたな。
落としちまったって事実も、三秒以内に拾えばなかったことになる。
その女への暴言はなかったことになったぜぇ」
ξ゚听)ξ「え?ごめん、もう一回言ってくれる?」
( ^ω^)「ツンって優しくってかわいいお」
ξ///)ξ「ばば馬鹿じゃないの、わ、私、そういうこと言われても全然嬉しくないんだけど!!」
ある雨の日だった。
ツンデレの働くカフェで、簡単な内装工事をするということで
僕はその手伝いを頼まれた。
女性から頼られるというのは嬉しいもので、
それが好意を抱いている相手からとなると、もちろん断るわけにはいかない。
だから例え、そういった依頼の連絡が来たのが休日の朝八時半で僕はまだ寝ていて、
しかも積みゲー崩しという本日の予定を無下にすることになっても、
僕は電話口のツンデレに、努めて明るく「手伝うお」と言ったのだ。
ξ゚听)ξ『悪いわね……何時くらいに来れるかしら?』
( ^ω^)「今から朝ごはんだから……十時には行けるお」
本当のところ、朝食はおろか、顔さえ洗っていない状態で、
僕は寝巻きのまま布団に包まっているのだが。
ξ゚听)ξ『じゃ、十時に、お願いね。ありがとう』
( ^ω^)「うん、またあとで……。ふぅ」
さて、のんびりしてはいられなくなった。
ここで、手伝いを頼まれたのがドクオだったなら、
あいつは生来、出不精で、めんどくさがりやなので
素敵な女性からの誘いであっても断ってしまうに違いない。
今までモテない仲間として親しくしていたが、
最近の僕は、ドクオにやや優越感を感じてしまう。
僕の内面が、少し前とは比べ物にならないくらいに充実しているせいか。
それから僕は大急ぎで支度をした。
僕の家から、目的地であるカフェまでは四十分ほどかかる。
今日は雨が降っているので、一時間は見ておくべきだろう。
朝食のために湯を沸かしながら、僕は歯を磨き、手近な服を着た。
カップ麺にお湯を注ぎ終わってからヒゲを剃り、そして着ている服に醤油のシミを見つけた。
二分しか待たずに口に突っ込んだ麺は美味しくなく、味気ない気がしたので
冷蔵庫から練りにんにくを出し、ラーメンに入れた。
そうして、今から意中の人と会うというのに、にんにくなんか食ってしまったと後悔しながらもう一度歯を磨き
トイレに入って初めて、パンツを履いていないことに気がついたのだった。
( ^ω^)「……よし!いってきマスオ!」
三十分前よりも確実に乱雑さを増した自分の城に、元気に挨拶を送ると、
時刻九時十五分。全ての身支度を整えた僕はようやくカフェへ出発したのである。
休日ということで、通りは賑やかだった。行きがけにビニール」傘を買う。
折り畳み傘では少し心許ないかな、そのくらいの風雨が吹き荒れ、
しかし、街行く人の足を疎らにするほどの威力もない暗い空に、都会の喧騒は吸い込まれていった。
( ^ω^)「タクシーで行きたいけど……やっぱり電車か」
僕は懐の状況に思いを馳せながら、地下鉄の階段を降りていく。
四駅先まで乗れる金額の切符を買うと、水滴の鬱陶しいビニール傘を畳んだ。
電車に乗り込み、座席が全て埋まっているのを確認する。
ちょっと座りたかったな、そんなことを考えながら、僕はドアの傍に位置を取ったのだった。
( ^ω^)「雨はどうだお、止んだかな」
カフェの最寄り駅で降りた僕は、地下にいた二十分程度のあいだで
どうやら空模様に望んだ変化が起こらなかったことを知り、
僅かながら落胆した。
( ^ω^)「……急ぐお」
僕は別段雨が嫌いなわけではない。
けれど、今。切実に、雨が止む事を願っていた。
( ^ω^)「……」
地下鉄の駅から、さらに歩く事 十数分。
僕の目の前に現れるのは、長い長い階段である。
ここを上りきれば、そこに小さなカフェが構えているのだ。
さて僕は、すぐそこまで迫っている、けれど遠い目的地に向かって、再び歩き始めた。
(;^ω^)「いつ来ても……はぁ、きついお」
石で出来た階段は、一段ずつの高さがまちまちで、
更に今日は雨が降っている、とにかく疲れるのだ。
時折 吹く強い向かい風に負けないように、僕は階段を踏みしめていく。
( ^ω^)「うわっ」
足元ばかり見ていた僕は、あとどれくらい上ればいいのか、
それが気になり、顔をあげた。
その瞬間の突風にあおられ、バランスを崩す。
(;^ω^)「ぎゃっ」
辛うじて体勢を立て直した僕の手に握られていたのは、ゴミだった。
いや、先程までは、確実に僕のために働いていてくれたのだが……。
骨がひん曲がってしまったビニール傘は、もう直しようもない。ご臨終だった。
( ^ω^)「うーむ」
これでは、まるで雨を防げない、ただのお荷物である。
時計に目をやる。時刻は十時十分。
あぁ、急がねば。雨脚が弱まったのを見て、僕は、階段を駆け上がった。
傘はあまりに邪魔なので、道の横に捨て置いた。
あとで取りに戻ればよい、そもそもあんなの数百円に価値しかないのだ。
(; ゚ω゚ )「ハァハァヒィ……ちかれたお」
最後の段を大げさに踏みしめて、僕は深呼吸する。
腕時計を確認、十時十三分。遅れてしまった。
そして、死力を尽くして階段を上った僕の身だしなみは、相応に酷いものになっていた。あぁ、最悪だ。
ξ;゚听)ξ「ブーンっ!」
(;;゚ω゚;;)「あぁ、おはだお、ツン」
まだ寒い季節だというのに、僕は汗をだらだら掻いていた。
恥ずかしいとか、見っとも無いという気持ちが頭を擡げるよりも先に、
とにかく、どこかに座らせてくれ。そう思った。
ξ゚听)ξ「大丈夫?朝からごめんね」
傘を持って駆け寄ってきたツンデレが、僕を気遣ってか、滅多に聞かせないような声で言う。
(;^ω^)「だ、だいじょうぶだお、遅くなってごめんお」
ξ*゚听)ξ「時間なんて気にしちゃいないわよ!風邪ひかれたら困るし、こっち来なさい」
ツンデレが僕の手を引っ張る。
彼女の傘は大きくて、僕が入ってもどちらかが濡れることなく収まった。
心地よくもあった小雨のしとしとという感触がなくなり、そして一瞬ののち、僕は状況に気付いたのだ。
僕たちは、ひょっとして、ひょっとしなくても、相合傘というやつをしているのではないか。
運動で体温の上がっていた僕の身体が、なんだか更に熱くなった気がして、
それを知られぬように、隣のツンデレをより一層意識してしまったのだった。
結局のところ、内装工事というのはテーブルと椅子の移動が主で、
確かに店長とツンデレの二人では厳しいだろう内容だったが、
僕が思っていたよりは遥かに楽に、事は済んだ。
やることが終わったのは夕方の六時。
三人の腹の虫が同時に鳴くものだから、その日は店長の奢りで、夕食を食べに出かけたのである。
いよいよ二人の仲も深まって、確実に友人というラインは越えたように思う。
ある日、僕はツンデレの家にお呼ばれした。
今までの僕ならば、萎縮してしまって会話もままならないだろうが
『三秒ルール』を遵守する現在の僕にとってみれば、
どんなイベントも恐れるに足らない。
段階からいって、そろそろ愛の告白くらいしてもいいか。
そんな糞恥ずかしい考えさえ、余裕を持って出来るのだ。
ξ゚听)ξ「ねぇ、相談にのってくれない?」
ツンデレの淹れる紅茶は、少し濃かった。
僕はそれをぐいと飲みながら、僕に出来る限りの優しい笑顔で答える。
( ^ω^)「ん?お安い御用だお」
ξ゚听)ξ「……その、ね。私の知り合いの話なんだけど」
知り合いの話、で始まる内容っていうのは
大体において本人の悩みなのだ。
僕は、ツンデレ自身の相談事なのだ、と納得すると、尚更真剣に、話を促した。
ξ゚听)ξ「その子、好きな人が出来たんだって。
今までは特に意識してなかったんだけど、最近ちょっと気になってて」
ξ*゚听)ξ「ねぇ、もしも今まで友達だと思ってた女の子から告白されたらどうする?」
( ^ω^)「そりゃ、おっけーするお!!!ツンみたいに可愛い子なら当然、断る理由もないお!!」
僕は鳩のように胸を張りながら言う。
深く考えなくとも、ツンデレの「好きな人」というのは……。
ξ゚听)ξ「ば、ばかじゃないの!私じゃなくて私の知り合いの話よ!!!」
( ^ω^)ニヤニヤ
ξ*゚听)ξ
ξ///)ξ「……そ、そうよ、ホントは知り合いじゃなくって私自身の話」
( ^ω^)「相手は誰なんだお?」
ξ*゚听)ξ「ば、ばか、言わせるつもり?」
ツンデレの狼狽する様がおかしくって、
僕は笑いながら、彼女の背中を叩いてやった。
( ^ω^)「まぁ、きっと相手もツンからの告白を待ってるお」
ξ*゚听)ξ「……ちょっと勇気でたわ。私、記念日に告白する」
( ^ω^)「記念日?」
ξ゚听)ξ「そう……えっと、」
彼女から告げられた日付は、間違いない。僕らの初対面の日だ。
時は流れ、ツンデレの言う『記念日』がやってきた。
僕とツンデレが初めて出会った日。
もうあれから一年なのだ。
といっても、彼女と親しくなったのはここ三ヶ月ほどの出来事だし、
なんとも不思議な感覚である。
ここ最近の僕は、あまり『三秒ルール』を使っていない。
以前までの使用頻度が異常だっただけなのだが。
いくら記念日といえども、僕の本業は学生であり、
そしてツンデレもアルバイトがあるため、会えるのは午後になるはずだ。
こういう日は気持ちを引き締めなければ、
そう思い、僕は朝から風呂に入った。
普段は遅刻ギリギリに起きるのだが、今日はしっかり朝食もとったし、
テレビで朝のニュースのチェックまでしたのだった。
(*'A`)「オレさぁ〜どうしっよかなぁぁあ」
登校中、僕のうしろから、すっかり耳に慣れた声が聞こえる。
この聴き取りにくい、ぼそぼそした喋り方、
振り向かずともドクオだとわかる。
( ^ω^)「おはだお。どうしたんだお、朝から」
(*'A`)「それがさあ、今日に日付が替わった瞬間よ、夜中の零時だよ、
ツンデレちゃんっているじゃん?美人なさぁ、あの子から告白の電話もらっちゃってぇ」
( ^ω^)
('A`*)「ずっと好きだったってぇ、今日、言いたかったってぇそんなこと嬉しくってもう」
(*'A`)「今日、学校終わったらデートなんだよおおどうしよ、オレ死にそうだよぅ」
( ^ω^)「死ね」
('A`)
僕は走り出した。
背中の向こう、ドクオの喚く様子は簡単に想像できてしまう。
大方、「話を最後まで聞け」だの「俺のが先に彼女が出来た」だのを のたまっているのだろう。
しかしそんな言葉に耳を貸す気にはなれないし、動き始めてしまった足は止まらなかった。
慣れない香水、少し付けすぎてしまって、
ヒゲも、いつもより丁寧に剃ったし、一番気に入ってる服に、アイロンまでかけた。
なんなんだ、僕は、ツンデレは、ドクオは。
この気持ちが所謂 失恋なのだろうか、
そうだとしたら、僕はまたひとつ新しい経験を積んだことのなるのだが。
今僕が『拾える』のは三秒前の虚しい思考くらいなもので、
ここにきて初めて、三秒という時間があまりに小さく無力だと知った。
やり直したい。『三ヶ月ルール』だとか、せめて『三週間ルール』が欲しい。
そうしたら全力で守る。
泣きたい、喉の奥が、いがいがして、すごく惨めだ。
走っていると、少しずつ頭が冷えていく気がした。
状況が、わかってきた。
揺ぎ無い事実が、僕の脳内を駆け巡る。
これまで、まるでツンデレのことを自分の恋人か何かとでも思っていたのだ。
実際はどうだ?ドクオとツンデレが結ばれて、僕は二人の共通の友達。
僕の心は複雑に波立っているというのに、
三人の関係を表すには、たったそれだけで、十分に事足りてしまう。
( ^ω^)「……」
大通りを抜けて細い路地に入ったところで、僕は立ち止まった。
今更どうしたってしかたのないことだ。
ドクオに謝りにいこうか、それとも、「おめでとう」とツンをからかえばいいのだろうか。
このまま一方的に縁を切ろうか、いっそ二人を刺し殺すか。
あぁ、最後のは冗談だ。
僕は自分の一番傷つかない方法を、一番立ち直れる方法を、探している。
怖いのは、また余計なことを聞いて、僕自身がショックを受ける事なのだ。
自己保身、上等じゃあないか、だって僕はこんなにも惨めなのだから、
今更何をしたところでプライドが侵されるわけもない。
( ^ω^)「やっぱ、今日は家に帰るお……」
俯きながら呟く僕の脳裏に、こういうときのお決まりに則って、ツンデレの顔が浮かんだ。
( ^ω^)「今浮かんだツンの表情、僕の頭に描かれた笑顔、『拾っ……」
( ^ω^)「……」
今日一番の盛大な溜息と共に、僕は歩き出した。
行く先が、変わった。
( ^ω^)「……おめでとう、でいいのかお」
いつものにやけ顔を貼り付けて、出来るだけ楽しいことを思い出しながら
彼女に伝える言葉を考える。
足取り軽やかに、とはいかないが、それでも嫌々という気持ちは微塵も存在せず
僕はツンデレの働くカフェへ、向かうのだ。
ξ*゚听)ξ「あ、ブーンじゃない!」
開店前の店先で、箒を持ったツンが手を振る。
ハイテンションに絡めばいいのか、
それとも僕の失恋を仄めかすような言動をするのは……やっぱり卑怯だ。
迷った末に、僕は笑いながら手を振り返した。
ξ゚听)ξ「どうしたの?何か用事?」
( ^ω^)「ちょっと近くを通ったんだお」
さすがに無理があるな。
町の高台に位置するこのカフェの周りには数件の民家があるだけで、
それでも午後にはお洒落な女の子が来店したりするようだけれど
こんな朝早くに、僕みたいな地味な大学生が偶然に通りかかるような場所じゃあない。
ξ゚听)ξ「あら、暇なのね」
そういうツンデレの顔はどことなく、いつもより女性らしさが漂っていて、
僕は本来の目的を忘れることも出来ずに、苦笑いをするのだった。
( ^ω^)「そうかお」
ξ゚听)ξ「そうよ」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……この前の相談覚えてる?あれ、ありがとね。
今日、勇気だしてみたわ」
沈黙が辛くなってきた頃合で、照れながらツンデレが言う。
僕は、それに対してもやはり曖昧に笑いながら、そうかお、と答えた。
ξ゚听)ξ「知ってる?今日はドクオの誕生日。
去年の誕生日会、確か、ブーンもいたわよね」
そう、去年だ。ドクオの誕生日に、知り合いで集まってパーティーを開いた。
そこで出会ったのが、ドクオのゲーム仲間だというツンデレで、
フランス人形のような容姿と、言葉の端々に垣間見えた強気な性格を、僕は気に入ったのだ。
とはいってもその日以降、僕からしたら高嶺の花とわかりきっている相手に会おうとも思えず、
そうして再会するまでに一年近い月日が流れていた。
( ^ω^)「……、そういえば、今日はドクオの誕生日だお」
僕は、彼女と再び顔を合わせるまでの数多の日々、
もちろんツンデレを思い出すこともあったし、
下品な話だが、性処理のネタにしたこともある。
だって、今生会うこともないような
飛び切りの美人なんて、絶好のおかずだったのだ。
やがて僕は『三秒ルール』を知り、そして守るようになり、
くだらない憂さ晴らし以外の使い方を思いつき……
どこへ行けばツンデレに会えるか、
それをドクオに聞いたとき、彼はどんな顔をしていただろう。
たしか、いつもと変わらない陰鬱な雰囲気で、
('A`)「なんだ、突然だなぁ、最近はVIP川の方のカフェで働いてるみたいですけど?」
(*'A`)「まぁ、理由は聞かないでおいてやるさ。彼女かわいいよな?精々頑張れよ」
親切にカフェまでの地図を描いてくれた。
あの時は、ツンデレと恋人同士になるだなんて思ってもいなかっただろう ドクオ。
しかし、今思えば、僕がツンデレと再会するまでのあいだにだって、
ドクオとツンデレは友達付き合いを続けていたのだから、
初めから勝機なんてなかったのかもしれない。
第一に、僕は敵の存在にも気付いていなかった事だし。
( ^ω^)「……ドクオの、誕生日、かお」
果たして、彼女は僕の誕生日を知っているのだろうか。
生憎、僕は誕生日パーティーを開いたこともないし、
もしもツンデレが知っているのだとしたら、どうやって調べたんだお前は、という話になる。
けれど、少し、いや、とても悔しいのだ。
ξ゚听)ξ「そうよ、だからいいタイミングかなって……思い切ってみたの」
いいタイミング、か。
たしかにそうだろうな、最高の誕生日プレゼントだ。
こうしてツンデレの願いも叶った事だし、ドクオとの仲が続く限り、
今日は二人にとって「誕生日」、いやそれ以上の特別な意味を持つことになるのだ。
( ^ω^)「おめでとお」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ、何それ」
僕の気の抜けたおめでとうに、ツンデレは笑う。
その笑顔はやっぱり可愛らしくて、
情けないけれど僕はまた、彼女と恋仲であるような錯覚をした。
( ^ω^)「……変なこと聞いていい?」]
僕はわざと少し低い声で、ツンデレの様子を伺いながら問う。
いつもみたいに馬鹿明るい間抜けな声じゃ、聞く気になれなかった。
申し訳程度にニヤケ顔だけ貼り付けて、僕は彼女に、真剣に答えを求めている。
ξ゚听)ξ「どうしたの?」
( ^ω^)「ブーンのことどう思うお?」
ξ*゚听)ξ「面と向かって言うのも恥ずかしいけど、
すごく感謝してる。こんな友達を持てて、幸せに思うわ」
( ^ω^)「……」
僕の耳が勝手に、『友達』というフレーズを強調して捉える。
僕の脳が勝手に、『友達』というフレーズを繰り返す。
ξ゚听)ξ「恋愛相談できる相手なんて、そういないものよ」
( ^ω^)「……そうだお!だから、ブーンみたいな友達は大事にしたほうがいいお」
ξ゚听)ξ「そうね、考えてあげないでもないわ」
( ^ω^)「ブーンも、ツンみたいな……友達が出来て嬉しいんだお」
ξ゚听)ξ「その件に関しては、ドクオにも感謝しなきゃ。
だってドクオのおかげでブーンに会えたんですもの。
あ、でも、ブーンのおかげでドクオと、その、一緒に食事の約束まで出来たし」
( ω )「……お」
ドクオ。ドクオ。ドクオ、その名前を彼女の口から聞くたびに、胸が痛い。
ちくり、なんて生やさしくはない、包丁で抉られるかのごとく、僕の惰弱な心は磨り減る。
馬鹿みたいじゃないか。
ここまで、折角朝風呂に入ったのに大汗をかきながら階段をのぼって、
わざわざ、こんな言葉を聞きにきたのか?
僕の手が、彼女に向かって伸ばされる。
ξ゚听)ξ「どうしたの?」
( ^ω^)「……なんでもないお」
それはツンデレに触れることなく、行き場を探して彷徨った。
人通りがない今だったら、彼女を無理矢理に抱きしめることだってできる。
カフェ店内から気付かれさえしなければ、できるのだ。
友愛を装ってツンデレに触れることだってできる。
いっそ、キスをして、三秒ルールを使えばいい。
違う。
僕がするべきことはそうじゃあないのだ。
わかっていた。だから、さっきから鼻の奥が痛いのだ。目のふちが、塩っぽいのだ。
今日は、もう、帰ろう。
僕はツンデレに背を向ける。
顔を見るのも辛いという気持ちを、はじめて理解した。
それはつまり、僕がそれほど彼女を愛していたということなのだろうか。
傍迷惑な話だ。ごめん。
ξ゚听)ξ「え?もう帰っちゃうの?」
( ^ω^)「……ごめんお、講義あるから」
僕は、出来るだけツンデレを見ないように呟いた。
彼女の反応はどうだ?おかしな顔をしていないか?
もちろん気になる。けれど、甲斐性のない僕には、確認する術がない。
ξ゚听)ξ「あ、待って」
ツンデレは僕を引き止めるかたちで立ち塞がった。
彼女の向こうに、石段が見える。長い、長い階段が。
ξ*゚听)ξ「じゃ、じゃあ、最後に、ドクオの好きな食べ物、教えてく」
ドクオ。
無意識、という言葉を使うのはずるいだろうか。
でも僕は、本当に。そう、まるで瞬きをするような感覚で、
ツンデレを、突き飛ばした。
ξ><)ξ「きゃあ」
糸の切れた人形みたいに、彼女はバランスを崩した。
僕がもう一押しすると、躓き、そして足を踏み外し――
( ゚ω゚)「……」
僕は、自分が何をしたのか理解できなかった。
間抜けなことに、僕はツンデレを助けなければならないと思った。
自分が突き飛ばしたというのに、それでも、彼女が傷つくのは許されざることだと。
僕は、そう感じていたのだ
(;^ω^)「ツン!!!」
階段を駆け降りる。
三十段ほど降った、踊り場の部分で、
彼女は足をおかしな方向に曲げながらうつ伏せて転がっていた。
(;^ω^)「ツン!ツン!!」
ξ
)ξ「あ……あ、あつ、いよぉ、おなか、……い、たい」
(;^ω^)「おなか?おなかかお?!!」
ツンデレに縋るように抱きついた僕は、まず彼女の脚に目を奪われた。
ありえない向きで、それは、
まるで幼稚園児が作った粘土のパーツであるように、ツンデレから伸びていた。
そして、彼女から聞こえる細い声の聞くままに、
僕はツンデレを抱き起こして、正面から見据える。
――何かが、ツンデレの腹部に突き刺さっていた。
ξ )ξ「……ぅ」
( ω )「あああ……」
これはなんだ。これは、どこかで見たことがある。
これは。これは、
ビニール傘だ。
骨が壊れて捨てられた、ビニール傘だ。
誰が捨てた。誰がこんなところに。ふざけるな。
違う、突き飛ばした僕が悪いんだ。どうしよう。
救急車、
こんなのは嘘だ、こんなはずじゃなかったんだ。
何が悪かった?やり直したい。違う、違う、僕は、やり直せるじゃないか。
長い長い逡巡の果てに、僕はようやく思い出したのだった。
僕には、守るべきルールがある。神様と約束したルールが!
(; ^ω^)「ツンを突き飛ばしたこと、『拾ったお!』『拾ったお!』」
僕を包むのは白い光。
今まで、眩しいとしか思わなかったこの光が、何故だか酷く心落ち着かせる。
( ^ω^)「神様!」
从 ゚∀从「よ、久しぶり」
目の前に現れたのは、やはり変わらぬ姿の銀髪の人。
状況に相応しくないフランクな物言いが、これもまた僕を一段階安堵へ導くのだ。
(;^ω^)「拾ったお!早く、なかったことにしてくれお!!!」
僕は叫んだ。
この距離で使うべきではない大きさの声で、嘆願した。
从;゚∀从「うわあ、この子可哀想に、内臓がぐちゃぐちゃ」
珍しく表情を崩した神様に、驚かなかったでもないが、
しかし僕はツンデレを抱く腕に力を込めて喚く。
(#^ω^)「はやく!!」
うるさいなぁ、と耳を塞ぐジェスチャーで示す銀髪は、
わざとらしく気取った声色を使って、心底気の毒ですが、と呟いた。
从
゚∀从「だめだな、だって突き飛ばしてから三秒以内に呼んでくれなかったじゃん。
もう時間切れ、ダメダメ」
三秒……。
ξ )ξ「……は、ぅ」
(;^ω^)「ツン!!!」
ξ )ξ
僕が彼女の肩を揺らす、そしてツンデレは、揺れる。
動かない。僅かに上下していた胸さえ、今は静止していた。
色素の薄い肌が、まるで蝋のようにそこにあって
さらさらの髪の毛が、されるがままに僕の指に絡まった。
(;^ω^)「ツン、ツン、ごめんお、ごめんお、目をあけてくれお」
呼びかけても無駄だと思った僕は、
今度はツンデレの頬を撫でる。
優しく何度も撫でる。
階段を遥か降った先から聞こえる街の喧騒に、
そして砂っぽくなってしまったカフェの制服に、
今にも彼女が文句をつけそうで、
だから、僕はその瞬間を待っていた。
从 ゚∀从「死んだな、たった今、心臓が止まったみてぇだ」
たった今?
そして、一秒……二秒……
言わなければならない言葉が、僕が思いつく限りで、ある。
( ゚ω゚
)「ツンを……ツンが死んだ事実を、『拾ったお!!!!!』」
从 ゚∀从「……おまえはもっと賢いと思ってた」
呆れきったようすの神様は、僕を冷たく見放した。
从
゚∀从「無理」
(;^ω^)「なんでだおっ!」
从 ゚∀从「死んだのはそこのお嬢さんだから。お前が拾っても無駄なのよ」
( ^ω^)「じゃ、じゃあ、ブーンがツンを殺した事実を『拾ったお!』」
从 ゚∀从「それも無理、死んじまったものは戻らない」
神様の表情は、初めて会ったときと変わらない。
銀髪は相変わらず、ネオンのチープな光だって、柔らかい太陽光だって
同じように綺麗に反射して、僕の思いもよらないほどに、それは美しく輝いて見せるのだ。
从
゚∀从「てめぇは、人の口から落っこちたガムを拾って、そいつの口に入れなおすつもりか?」
( ^ω^)「そうだお!」
「他人が落としたものは、拾えない」
二月六日に聞いたあの言葉が、僕の胸の中で疼いた。
从 ゚∀从「……例えを変えよう。
落としたものが無くなってしまったとき、それを拾えるのか?見当たらないのに?」
ツンデレの命は……なくなってしまった?
死んで、しまった。
从
゚∀从「とにかく三秒ルールにもタブーがあるわけよ。人生ってそう上手くはいかねぇのさ」
この瞬間まで僕は、何故だか自分がドラマの主人公にでもなったみたいに、
それほど悲しく感じていなくて、でも悲しいように振舞っていた。
けれど、神様の顔を見ていたら――
( ;ω;)「ツン……ツン、会いたいお。会いたいお。」
僕は泣いた。『三秒ルール』を守ってきた。三秒以内に、ありとあらゆるものを拾ってきた。
でも、拾えないものもあったのだ。
やり直せない事が、あったのだ。
从 ゚∀从「……鼻水でてるぜ、汚ねぇな」
( ;ω;)「だって……だって」
从 ∀从「ったくよ、しかたねぇ。いいこと教えてやる」
从 ゚∀从「世の中、不可能なこともあるのさ」
――おわり