( ^ω^)荒野のサムライ×ガンマンのようです


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 22:47:24.14 ID:aMAroM8j0





               ( ^ω^)荒野のサムライ×ガンマンのようです

                      4th Lesson : バッド・ボーイズ






4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 22:48:41.37 ID:aMAroM8j0

                       * * * * *



                       "笑い男"を追う旅

                  大和の姫君、旅路の果てにAA牧場へ



                    かたや一方、シベリア超牧場

                    彼女らの追う、男の姿は――



                       * * * * *


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 22:51:00.78 ID:aMAroM8j0

――シベリア超牧場、邸宅。
   書斎、朝。



壁、床は黒ずんだ木。
本棚の背は低く、並ぶ本もまばら。

AA牧場とは違う。
質素、そして簡素な書斎である。

ただしその背表紙は、英語のみならず。
キリル語、フランス語、スペイン語。さまざまな国の言葉のもの。

(   )「――」

その奥の机に座る男。
羽ペンの先で白地図を叩き、ひとつ息を吐いた。

( ゚д゚ )「――ふう」

西にこのシベリア超牧場、そして東にAA牧場。
塗り分けられ、波打つ境界線の中央に、ヴィッパーズ・クリーク。
その周囲は未だ、いずれの色にも塗り分けられていない。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 22:53:18.65 ID:aMAroM8j0

――控えめに、ノックの音。
   ドアが開く。



( ^ω^)「おはようございますお。ミルナコフさん」

書斎に踏み入った男は、小柄の東洋人。

小袖に馬乗袴、左腰には大小の刀。
濃紺の鞘が、純白の紐で帯に掛けられている。

内藤。
深々と一礼し、室内を見る。

( ゚д゚ )「いつものことですが。ミルナで構いませんよ、ナイトウ」

ミルナ、立ち上がり、敬語で答える。
彼の言葉遣いは、誰に対しても変わることはない。

( ^ω^)「お仕事ですかお?」

( ゚д゚ )「ええ。地図を見直していました」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 22:55:34.26 ID:aMAroM8j0
ミルナの衣服は整い、派手ではないが清潔。
その態度も、また同じ。

慇懃無礼では、決してない。

彼が身に着ける純白のシャツと同じように。
折り目正しく、それでいて不快感を感じさせない。

( ゚д゚ )「一部は盛り返しています。
    が、しかし、やはり苦しい」

内藤、歩み寄り地図を覗き込む。
それから腕を組み、壁にもたれた。

( ^ω^)「水、ですかお」

( ゚д゚ )「かねてよりの懸案ですな。
     ヴィッパーズ・クリーク以西には、安全な水場が少ない」

ミルナ、答えて羽ペンをインク壺に戻す。
ヴィッパーズ・クリークの傍を流れる川は、東に大きく歪曲している。

( ^ω^)「んむ……難しいものですお。
      僕の故郷では、水不足なんて滅多になかったし」

( ゚д゚ )「羨ましいものですな。
     こちらは今や、牧場の運営に支障を来しかねない有様です」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 22:57:53.67 ID:aMAroM8j0
ミルナ、立ち上がる。
地図を半回転させ内藤に向けると、彼の隣から見下ろした。

長身、均整の取れた体格のミルナ。
それとは対照的な体格の、内藤が。
狭い室内、互いに好対照をなす。

( ゚д゚ )「――我々には、ヴィッパーズ・クリークが必要です」

二人、地図を見る。
塗り残された、シベ超とAA牧場の中間点を。

いくつかの狭い飛び地と、その中心。
すなわち、ヴィッパーズ・クリーク。

( ゚д゚ )「しかし……戦いは、避けられないでしょうな」

シベ超が動けば、AA牧場も動く。
疑う余地もない。

( ^ω^)「勝てますかお?」

やや表情を険しくし、内藤。
左手で顎を撫でる。

( ゚д゚ )「あなたは、どう見ます?」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 22:59:52.95 ID:aMAroM8j0
内藤は、しばし沈思黙考。

( -ω-)「……」

仮にも、一国の剣術指南役を務める武士である。
兵法の素養はある。

しかし、新大陸の地は広大。
銃を用いた戦闘の様式も日本とは異なる。

( ^ω^)「……数では向こう。連携ではこちらに分があるかと。
      すなわち、こちらの強みを活かせる場所を選ぶのが前提ですお」

結果、下せるのは最低限の判断のみとなる。

( ゚д゚ )「ですな。私も同意見です。そして――」

( ^ω^)「――戦えば、いずれの被害も甚大。
      立ち直れる確証は、どこにもないですお」

( ゚д゚ )「その通りです。我々の敵は、AA牧場だけではありませんからな」

夜盗、流れのごろつき、兵隊崩れ。
日照り、竜巻や豪雨といった天災への備え。
あらゆる事態に対処するために、人手が要る。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:01:51.37 ID:aMAroM8j0
( ゚д゚ )「我々は――」

ミルナ、言葉を切り。
目を細めて、耳を傾ける。

( -д- )「――ふむ。今日も、そろそろですな」

(; ^ω^)「またですかお? よく飽きないですお……」



――そして。
   二人の目の前、廊下を。
   小柄な人影が横切った。




13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:04:08.97 ID:aMAroM8j0
  ∧ ∧
ヽ(・∀ ・;)ノ「ふもっふ!!」

年若い、少年と言っても差支えのない年齢。

だが、丈の余ったチャップスを不器用に履き。
腰には、不釣合いな黒いガンベルトを揺らして。

こんがり焼け、脂を滴らせる厚切りのペーコンをくわえたまま。
床に両手足をつき、獣のような姿勢で走り去ろうとする。

( ゚д゚ )「……」

(; ^ω^)「……」

と。

从#゚∀从「待てやコラァッ!!!」

背後から追いつく足音。
その主が、少年の襟首を力任せに捉えた。

从#゚∀从「捕まえたぜ……このドクソガキが」

厚手のエプロンを着け、片手には肉切り包丁。
その男――ハインリッヒ、額に汗を滲ませ、凄む。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:09:15.64 ID:aMAroM8j0
从#゚∀从「てめーの脳はスポンジか? 何度も言わせんな。
      メシ食いたきゃその分働けつってんだよ!」
  ∧ ∧
ヽ(・∀ ・;)ノシ「うっさいやいっ! ボクは成長期だぞ!」

从#゚∀从「半人前に食わせる肉はねぇっ!!」

  ∧ ∧
ヽ(・∀ ・;)ノシ「くっ、この……」

じたばた、もがく少年。
彼らを見やり、ミルナ、肩をすくめる。

( ゚д゚ )「マタンキニコフ。彼にも困ったものです」

(; ^ω^)「取り戻したとして……僕らが食べるのかお? あれ」

またんきの口元で揺れるベーコン。
厚い脂身が、ぷるぷると震えている。

( ゚д゚)「……」

( ゚д゚ )「今日は、肉は控えたい気分になってきました」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:12:02.26 ID:aMAroM8j0
ハイン、またんきの襟を、ぐいと引き上げ。

从#゚∀从「来やがれ。てめーには、身をもって償わせてやる」

.∧ ∧
(・∀ ・#)「なんだよ、離せよ! つぐなうってナニさせる気だよ!」

从 -∀从「なに、大したこっちゃねぇ。
      てめーをベーコンにするだけだ」
.∧ ∧
(・∀ ・)「えっ」

( ^ω^)「えっ」

从 -∀从「ま、ガリガリのガキでも三日分くらいの肉にはなんだろ」

  ∧ ∧
ヽ(・∀ ・;)ノシ「ちょ、ちょっ……」

从 ゚∀从「おら、肉。厨房までツラ貸せや」

襟首を掴まれ、そのままずるずると引きずられていくまたんき。
ドア越しにミルナを見ると、情けない声を上げる。

.∧ ∧
(・∀ ・;)「ミ、ミルナさーん……」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:14:38.63 ID:aMAroM8j0
( ゚д゚ )「まあ、いい経験になるでしょう。行って来なさい」

.∧ ∧
(・∀ ・;)「そ、そんなぁ!」

从 ゚∀从「ま、そーゆーワケだ。
      朝メシは遅れっからな、待っとけ」

ハイン、背中越しに持った肉切り包丁を振る。
そのまま少年をずるずると引きずり、去って行った。

  ∧ ∧
ヽ(・∀ ・;)ノシ「あ、あああ、あ〜〜〜〜〜……」

二人が去った後の廊下には。
またんきがくわえたままのベーコンから滴る、脂の跡が点々と。

ミルナ、そしてブーン。
二人は首から上だけを動かして、それを見送った。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:17:09.75 ID:aMAroM8j0

――しばし後。
   シベリア超牧場、屋敷前。



屋敷の玄関前。
日除けの庇の下には、一揃いのイスとテーブルが置かれている。

(´・ω・`) 「……」

そこに座る男、服装は農夫同然の野良着。
小柄で、およそ迫力とは程遠い人相。

だが、通りがかった男たちはみな、彼に首を垂れる。
農夫、工夫に、ガンマンたちまでもが。

゙シ ・∀・)「ショボーンビッチさん。お元気で?」

ミ ´∀`彡「おはようございます!」

ミ´<_` ミミ「同志ショボーンビッチ、今日も早いな。頭が下がる」

そのたびに男は顔を上げ、気さくに答える。

(´・ω・`) 「ああ、ご苦労様。みんなも、身体には気を付けて」

彼こそが。
シベリア超牧場の主、ショボーンビッチであった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:19:55.71 ID:aMAroM8j0
椅子に腰かけ、敷地の土肌を眺めるショボン。
その正面の椅子が、静かに引かれた。

( ^ω^)「……」

(´・ω・`) 「やぁ、お早う。ナイトウ」

内藤、静かに目礼し。ショボンの正面に、腰掛ける。
ショボンも内藤にならい、ぎこちなく頭を下げた。

(´-ω-`) 「……」

(´・ω・`) 「君がここに来てから、もう何週間になるかな」

おもむろに。
遠くを見たまま、ショボン。

( ^ω^)「忘れてしまいましたお。
      ここは、故郷とは時間の流れが違いますゆえ」

(´・ω・`) 「君のおかげで、この牧場はどうにか持ち直せた。感謝の言葉もないよ」

(; ^ω^)「いえいえ、逆ですお」

内藤、首を振る。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:21:23.60 ID:aMAroM8j0
( ^ω^)「行き倒れた僕を拾ってくれたのは、ショボンさんですお。
      あの時会えなければ、僕は今ごろ無縁仏ですお」

(´・ω・`) 「行き倒れの、それも異邦人を放っておくなんてできないさ。
      でも――」

ショボン、静かに内藤を見る。

(´・ω・`) 「――たった一晩の寝床と食事の礼にしては、十分すぎるほど働いてくれた。
      ここを去ろうとは、思わないのかい?」

( ^ω^)「今は、まだ。一段落するまでは、お力添えさせていただきますお」

(´・ω・`) 「律儀なものだね。理由を聞いても?」

内藤、目を伏せる。
しばし考え、口を開く。

( ^ω^)「あの時……ショボンさんは言いましたお。
      "虐げられる異国の移民に、居場所を作りたい"と」

(´・ω・`) 「……ああ。そうだったね」

( ^ω^)「僕は、そのショボンさんをお手伝いしたいと思ったのですお。
      だから、それが為されるまではと。そう決めていますお」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:23:18.67 ID:aMAroM8j0
内藤、腰につと手を伸ばし。
鈴の模様を彫り込んだ大刀の鍔に、触れた。

( ^ω^)「僕の剣は……人を殺める業に過ぎないですお。
      それがショボンさんを助けることで、人を活かす剣になれば、と」

一人の悪人を殺す剣、すなわち殺人剣。
しかして、その悪人を殺すことで一万人の命を救う。

それを、活人剣と称する。

( ^ω^)「師に。西川谷重洲礼(にしかわやおもすれい)様に、そう習いましたお」

(´・ω・`) 「それが"サムライ"というものなのかい?」

( ^ω^)「少なくとも、僕はそう思っていますお」

異人に理解することは、難しい。
だがショボン、どことなく得心の言った風で頷いた。

(´-ω-`) 「僕達には、まだ君の力が必要だ。
       手助けをしてもらえるなら、これほど心強いこともないよ」

( ^ω^)「是非もありませんお」

二人、それぞれの思いを胸中に抱えたまま。
静かに、青く広い空に目を向けた。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:25:18.32 ID:aMAroM8j0
と。

玄関が乱暴に開かれ。
見るからに荒々しい足取りで、ハインが姿を現した。

从#゚∀从「ったく、あのガキャア……!!
      おい、そこの二人。またんきのガキ見なかったかよ?」

(´・ω・`) 「いや、こちらには来ていないね」

(; ^ω^)「そりゃあ、ベーコンにされかけた後なら逃げたくもなるお……」

(´・ω・`) 「?」

从#゚∀从「あの野郎、今度は倉庫から弾丸持ち逃げしやがった。
       これで三度目だぜ?」

はああ、とため息を吐いてから、木組みの床を踏み鳴らす。
なお、ハインはショボンに対しても敬語を使う様子はない。

从#゚∀从「メシはつまみ食い、ウシの縄を解いて逃がしかけるわ、食器は割るわ。
      いい根性だ……お仕置きが足りてねーようだな、あのガキ!」

(´・ω・`) 「君に頼むよ。ハイン。ただ、やりすぎないようにね」

从#゚∀从「わーってるよ。見つけ次第、きっちりシメ直してくらぁ。キュッとな」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:27:50.80 ID:aMAroM8j0
言い捨てて。
ハイン、足早に去っていく。

(´・ω・`) 「……まあ。またんきにとっては、いいことなのかもしれないね」

(; ^ω^)「ほ、本当ですかお?」

(´・ω・`) 「ああ――」

ハインの去って行った方を見送り、ショボン。
優しげな、双眸で。

(´-ω-`) 「――皆、色々な過去がある。君もそうだろう?」

( ^ω^)「……」

内藤、押し黙る。

(´・ω・`) 「ハインは比較的年も近いし、見ての通り世話焼きだから。
      またんきなりの接し方なんだろうね。不器用だけれど」

( ^ω^)「不器用……ですかお」

内藤、今一つ釈然としない表情で。
今朝の騒ぎを、思い返した。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:31:10.96 ID:aMAroM8j0
そして、目を伏せる。

( -ω-)(過去……)

顧みるべきものは、何一つ。全て、捨ててきてしまった。
そうして身一つ、この新大陸まで。

( -ω-)「羨ましいものですお。僕には、もう何もない」

(´・ω・`) 「……」

ショボンの見る、内藤の顔。
そこには明らかな苦悩が見える。

だが、それを尋ねはしない。

そして。

内藤は、いまだ知らない。
彼を追う、過去を。

それが、まさに。
すぐそこまで迫っていることを。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:33:57.84 ID:aMAroM8j0

――同じくシベリア超牧場。
   敷地内。



晴れ渡る、青空に。
銃声が二度、三度。

たて続けに、響く。

.∧ ∧
( ∀  )「――どりゃっ!!」

敷地の隅、切り立った赤土の崖。
そこに面した柵の前。

固めて並べられた樽の上に、透き通る酒の空きビン。
割れも欠けも、していない。

.∧ ∧
(・∀ ・)「……あれー?」

数メートルほど離れ、先ほどの少年。
マタンキニコフ――またんき、と呼ばれた少年。

腰だめに拳銃を構えたまま、疑問の声。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:35:12.90 ID:aMAroM8j0
.∧ ∧
(・∀ ・)「おかしいなー、パリーンっていくはずなのになー」

首を傾げ、腰の銃をガンベルトに戻す。
再び、抜き打ちの構え。

.∧ ∧
(-∀ ・)「……」

片目を閉じ。
右手の指をひらひらと動かして、拳銃のグリップを探る。

.∧ ∧
(・∀ ・)「うりゃっ!!」

威勢良く抜き。
だが次に、たどたどしくハンマーを起こす。
一呼吸してから、どうにかトリガーを引く。



――発射された弾丸は、少年の頭上。
   数メートルの高さの土肌に食い込み、泥を落とした。




34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:37:41.44 ID:aMAroM8j0
.∧ ∧
(・∀ ・)「あれー……」

不服げに、またんき。
拳銃を抜いて空にかざし、ためつすがめつ、眺める。

.∧ ∧
(・∀ ・)「なんでうまくいかないんだろ?
     こんなの、ハインのヤツだってできるのになー」

剥き出しの土の地面に座り込み、しばし悩む。
が、特に答えの出た様子もなく立ち上がる。

その構え。
形だけは真似ているものの、動作は稚拙で未熟。
ガンマンから見れば、明らかに妙なものだと知れる。

.∧ ∧
(・∀ ・)「ま、いいか。
     誰も教えてくれないしなー、一人で練習、れんしゅー」

呟き、再び構える。

が。
背後から歩み寄った人影が、ふいにその右の肘を掴んだ。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:40:36.47 ID:aMAroM8j0
.∧ ∧
(・∀ ・;)「あだだっ!?」

またんき、飛び上がり。
腕を押さえて、振り返る。

逆光に、明るい色の蓬髪が揺れた。

从 ゚∀从「ったくよぉ、ちぃと目離しゃコレだ。
      オレがいつ、ンな無様な射撃を見せたっつーんだ? あ?」
.∧ ∧
(・∀ ・)「な、なんだよ。ジャマするなよな!」

その抗議にも答えず。
彼の背後からハイン、辟易した様子で腕組みをした。

从 ゚∀从「お前、バカだろ」

.∧ ∧
(・∀ ・)「え? バカ?」

从 ゚∀从「おおよ。バカもバカ、バイカル湖級のミラクルバカだな」

.∧ ∧
( ∀ #)「な、なんだよ、このやろー!」

突然の罵倒に、またんき、声を震わせる。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:46:00.41 ID:aMAroM8j0
しかしハイン、それにも頓着する様子なく、首を振る。

从 -∀从「上っ面だけマネて上達するわきゃねーだろ。
       てめーに早撃ちは百年早えーよ。マセガキ」
.∧ ∧
( ∀ #)「むっかー!!」

ハイン、構わずまたんきのすぐ背後まで歩み寄ると。
背中から、その両腕を掴んで押さえた。

.∧ ∧
(・∀ ・;)「なななにすんだよっ、離せよっ!」

从 -∀从「うっせーよ。黙って年長者の言うこと聞けガキ。
      ……基本だけ、教えてやる」
.∧ ∧
(・∀ ・;)「…………え?」

右腕を引っ張り、拳銃のグリップを掴ませる。
後ろから支えたまま、両手で保持させて持ち上げた。

从 ゚∀从「狙い撃ちもできねぇ奴に早撃ちは無理だ。
      まず、両手で銃を支えてきっちり狙え。いいか?」
.∧ ∧
(・∀ ・;)「あ……う、うん」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:49:36.14 ID:aMAroM8j0
またんき、仕方なくそれに従う。
両腕、両脚をまっすぐ伸ばして拳銃を持ち、ビンに向ける。



――小ぶりのグリップ、「く」の字に曲がった特徴的なハンマー。
   帝政ロシアにも輸出され、ここシベ超のガンマンには馴染み深い。
   スミス・アンド・ウエッソン M3、ロシアン。



从 ゚∀从「きっちりフロントサイトを見て狙いを付けろ。
      練習だからな、いくら時間をかけてもいい。そん代わり、確実に当てろ」

またんき、言われるがままに。
ハインに支えられたまま、そろそろと銃口を動かす。

フロントサイト――銃口の先端、上側に突き出た凸型の部品を見て。
そして、その先にビンを見据える。

从 ゚∀从「――よし。撃ってみろ」

またんき、ハンマーを起こし。
両肩に、ぐ、と力を入れる。

途端に、ハインに後頭部をはたかれた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:52:58.69 ID:aMAroM8j0
.∧ ∧
(;∀ ;)「あだっ!!」

从 -∀从「アホ。銃は水汲みポンプじゃねーんだぜ?
       引き金さえ引きゃタマは飛ぶ。無駄な力入れると外すぞ」
.∧ ∧
(・∀ ・;)「わ、わかってるよ!」

そろそろ、と。
今度は、引き金にゆっくりと、力を掛ける。

ある程度引いたところで、かきん、とハンマーが落ち。
銃口が、発砲音と共に火煙を噴いた。

.∧ ∧
(・∀ ・;)「……」

煙が、晴れた後。
樽の上のビンが、首の部分で割れて破片を散らしているのが見えた。

.∧ ∧
(・∀ ・)「あ……!」

それを見るや。
またんきの顔に、喜びの表情が広がる。

その顔を、見ようともせず。
ハイン、立ち上がりそっぽを向いた。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:56:02.40 ID:aMAroM8j0
从 -∀从「ま、そーいうこった」

乱暴に頭を掻く。

从 -∀从「早撃ちってな、狙って当てられる奴がやるモンだ。
       姿勢だけマネんのは踊りだよ、踊り。人間は撃てねーぜ」
.∧ ∧
(・∀ ・)「……」

从 -∀从「分かったら、まずは狙って当てる練習から始めろ。
       それと、マメに手入れ。とにかく毎日触ってろ。まずはそっからだ」

返事も聞かずに、背を向ける。

从 -∀从「ったく、なぁにが"ハインのヤツだってできるのに"だっつーの。
       ヨソでオレの見よう見まねとかほざいてみろ。背骨へし折るぞ」

聞こえよがしに、乱暴にぼやいた。

.∧ ∧
(・∀ ・;)「……」

またんき、手の中の銃と、ハインの背中を見比べ。
口を開き、ためらいがちに、言った。

.∧ ∧
(・∀ ・)「あのさ、ハイン」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/05(火) 23:57:42.00 ID:aMAroM8j0
从 ゚∀从「ンだよガキ。年上にゃ敬語使え」

.∧ ∧
(・∀ ・)「ボク……ボク。ミルナさんとか、……みたいなガンマンになりたい!」

从 ゚∀从「止めやしねーよ。勝手にしな」

.∧ ∧
(・∀ ・#)「それで、ショボンおじさんのために悪者をやっつけるんだっ。
      パパとママをひどい目に合わせたアメリカ人……ヨーロッパ移民の奴らなんか、
      ボクが皆殺しにしてやるんだ!」

从 -∀从「……」

ハイン、立ち止まる。
顔だけで振り返り、静かに返した。




从 ゚−从「あいつらが、それを喜ぶと思うか?」

――重い、声で。




44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:00:24.52 ID:aMAroM8j0
.∧ ∧
(・∀ ・)「えー……当たり前じゃん。なんで?」

無邪気に首を傾げる、少年。

从 ゚−从「……」

从 -∀从「ま、わかんねーならいいさ。せいぜい腕磨いとけ」

それきり。

返事を返さないまたんきを置いて、ハインは歩き出し。
今度こそ、振り返ることはしなかった。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:03:05.71 ID:Is7rjU3q0
崖から少し離れた、小屋。

その裏の壁に、ミルナが背中をもたせかけている。
二人の会話も聞こえる距離である。

( ゚д゚ )「……」

その横を、通りがかったハイン。
彼を見ようともせず、言い捨てた。

从 -∀从「あいつが望むなら、戦いに行かせるさ。
       文句あっか? 参謀さんよ」

( ゚д゚ )「……いえ」

ミルナ、静かに首を振る。

( ゚д゚ )「あなたの面倒見の良さには、頭が下がる。それに」

壁に立てかけたライフルを。
手袋に包まれた両手を、見下ろす。

( ゚д゚ )「私には、彼に拳銃を教えることはできそうにありませんのでね」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:05:33.39 ID:Is7rjU3q0
从 -∀从「……ま、いいさ。
       ガキに特攻さすような采配は勘弁だぜ。分かってんな」

棘のある言葉。

ミルナ、俯き。
ハインは、その前を通り過ぎた。

足音が消えてから。
ミルナ、ぽつりと漏らす。

( -д- )「……誰も、望みなどしませんよ。
      ハインリッヒ。あなたと同じです」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:11:24.16 ID:Is7rjU3q0


――ところは変わり、AA牧場。
   夜半、応接間。



部屋には、モララー。
そして、数人のガンマンの姿。

クー、そしてデレの姿は、ない。

( ・∀・)「――目下、このAA牧場が目指すべき場所。
      知っての通り、このヴィッパーズ・クリークだ」

壁に掛けられた地図。
その中心部分を拳で叩き、モララーは言う。

( ・∀・)「ここさえ占領できれば、シベ超には大きな痛手になる。
      同時にこちらには水源と土地、労働力、その他の資源が入る」

テーブルのランプの灯りがゆらめき、影がゆらり、と揺れる。

反対の手を、腰の後ろに添え。
少し離れた場所に立つ男たちの顔を見回し、続けた。

( ・∀・)「この平野一帯の全てを僕のものにするために。
      大きな、そして必要不可欠な一歩だ。分かるな?」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:14:07.25 ID:Is7rjU3q0
(,,-Д-)「……」

腕組みをし、壁に背を預けるギコ。
彼を、筆頭に。

( ´_ゝ`)「分かってるって。何度も聞いてるぜ」

(´<_` )「仕方ないな。俺ら、トリ頭だからな」

( ´_ゝ`)「それはお前だけだろ。俺は違う」

テーブルに背中合わせに腰掛け、小声で悪態を吐く兄弟。
弟者。おもむろにすぐ隣、巨躯の男を見る。

( ゚∋゚)「……」

(´<_` )「いや、なんでもない。気にするなよ、兄弟」

( ´_ゝ`)「呼んだか?」

(´<_` )「呼んでねーよ」

( ゚∋゚)「……」

( ゚∋゚)「黙」

(´<_` )「へいへい、悪うござんした」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:16:58.53 ID:Is7rjU3q0
そのさらに後ろ。
やや年かさの男、フサギコ。

火の点いていない葉巻をくわえ。
黒いジャケットの襟を直して、ソフト帽を頭から取る。

ミ,,゚Д゚彡「遠いな」

賛同の言葉ではない。
モララー、眉を寄せるが、何も言わずにそれを聞く。

ミ,,゚Д゚彡「馬で飛ばして、およそ半日弱。
      主力をそちらに集めれば、ここは手薄になる。他の農地もだ」

( ・∀・)「関係ないね。一気に占拠すればいいだろう」

(,,゚Д゚)「ヴィッパーズ・クリークをか?
     住民はシベ超とは無関係だぜ」

割り込んだギコ。
その声に、モララー、にわかに表情を険しくする。

(#-∀-)「金で抱き込めばいい。保安官さえ買収すれば、あとは思い通りだ」

忌々しげに、手を振り言う。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:19:46.69 ID:Is7rjU3q0
(,,゚Д゚)「それで逆らえば、実力行使、か?」

(#-∀-)「……何か、文句でもあるのか? ギコ」

(,,゚Д゚)「失敗でもすりゃ賞金首だ。西部に居場所がなくなる。
     オレらは野盗じゃねぇんだぜ?」

(#-∀-)「だから給料を上げろ、とでも言いたいのか?」

(,,゚Д゚)「違ぇよ。オレはただ、他にもっと――」

(# ・∀・)「――うるさいっ。
      君は兵隊だろ。黙って従えばいいんだよ!」

モララー、ついに。またしても怒鳴る。
誰もそれに言葉を返さず、ひととき室内は沈黙する。

やがて、兄者が首を振った。

( ´_ゝ`)「……ギコ。確かに、俺たちのアタマはお前だ。
      だが、雇い主はモララーさんだ」

(,,゚Д゚)「ああ。残念ながら、知ってるぜ」

(# ・∀・)「……」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:23:54.70 ID:Is7rjU3q0
( ´_ゝ`)「俺達は、モララーさんに従う。
      お前が俺たちに給金を払うというなら、話は別だがな」

(,,-Д-)「なら、お前らはどうだ」

ギコ、居並ぶ男たちを見回す。

(,,゚Д゚)「農地は荒れ気味だ。夜警で疲れが溜まってる奴だって多い。
     それでも、どっちの牧場にも無関係な街に攻め込む方が大事か?」

弟者は肩をすくめ。
フサギコは帽子をかぶり直し、巨体の男クックルは……微動だにしない。

同じだ。
兄者と同じ、少なくとも彼に賛成はしていない。

(,,-Д-)「……そうかい。
     なら、オレがいちいち言うことはねえな」

( ・∀・)「ああ、それでいい。いい加減身の程をわきまえろ、ギコ」

兄者の加勢を得て、機嫌を直したモララー。
腕を組み直し、地図の前を往復する。

( -∀-)「とはいえ、確かにヴィッパーズ・クリークへは距離がある。
      それなら――」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:27:16.29 ID:Is7rjU3q0
ヴィッパーズ・クリークの北西、そして南東に隣接する箇所。
地図上のそれらを、交互に手の甲で叩いた。

( ・∀・)「その北側、"ゴッデス・ヴァレー"。
      南側、"アンカー・ヒル"。まず、そのどちらかを押さえよう」

シベ超で、ミルナが広げていた地図。
そのヴィッパーズ・クリーク周辺の塗り残された区域が、それに当たる。

( -∀-)「周辺を包囲するように確保すれば。
      そうすれば、ヴィッパーズ・クリークにも容易に攻め込めるはずだ」

( ´_ゝ`)「モララーさん、そいつぁいい考えだ。なあ弟者」

(´<_` )「ああ。行ける気がしてきたぜ」

得意顔のモララー。
調子良く、彼に迎合する流石兄弟。

(,,-Д-)「……」

ギコ、すでにモララーの話を聞いていない。
シャツの襟に顔をうずめ、眼を閉じている。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:29:55.67 ID:Is7rjU3q0

――資源が欲しいから、ヴィッパーズ・クリークを攻め落とす。
   そのために、周囲の土地を占領する。



戦略も何もない、ただ欲しいから奪う。
野盗、ゴロツキと何も変わりはしない。

(,,-Д-)(……ゴッデス・ヴァレー、アンカー・ヒル。痩せ地じゃねえか)

モララーはともかく。
あの辺りを偵察した人間――部下なら皆知っているはずだ。
ヴィッパーズ・クリークへの足掛かりになるかは、甚だ疑問だ。

(,,-Д-)(……オレは)

幼稚な牧場頭、形ばかりの"隊長"。
数は多いが、連携の取れない味方。

シベリア超牧場。
そして、ヴィッパーズ・クリーク。

(,,-Д-)(オレは……)

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/06/06(水) 00:32:31.49 ID:Is7rjU3q0
結局、ギコはこの後、一度も口を開くことなく。
当然のごとく、ゴッデス・ヴァレーとアンカー・ヒル攻撃の指揮を任命され。

無言で一人、足早に屋敷を出た。

(,,゚Д゚)「……」

怒るでも、悲嘆するでもなく、澄んだ夜空に星を見上げ。
玄関のドアでマッチを擦り、紙巻き煙草に火を点ける。

暗闇、虫の声。
無精髭の顔が、黄味を帯びた火に照らされる。

何をするでもなく、しばし脇道を歩き。
そして、数分も歩いたのち。



――彼の足は。
   宿舎へ向かう途中で反れ……馬小屋の方角へと、消えた。




61 名前: ◆BXpnga8YvJwe 投稿日:2012/06/06(水) 00:36:56.74 ID:Is7rjU3q0

――離れ、元使用人宿舎。



女が一人、身体を起こす。
白く、裾の長い、大和の国の夜着。

ζ(   *ζ「――」

隣には、また一人の女。
白い枕に、はらり、と広がる、艶のある黒髪。

それを気遣ってか、静かに立ち上がり。
窓辺に寄ると窓枠に手を掛け、外を見る。

壁に、身を隠すようにして。

ζ(゚−゚*ζ「……」

起き上がった女、デレの視線の先。



――馬が、一頭。草を踏んで足音を消し、闇の中へと走り去る。
   彼女と、そして宿舎の一室にともったランプの灯だけが、それを見送った。


                                             - 4th Lesson : 終


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