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('、`*川ペニサスは詞のない歌を口ずさむようです 2009.05.04
――いつでも夢を。
彼が遺した詞(ことば)は甘く、そして残酷なものだった。
作りかけの歌詞を書き殴ったノートは、何度も書き直した跡であちこちが黒ずんでいた。
('、`*川「……あの日のー、君のーようにー……」
傍らのコンポから流れる詞の無い未完成な歌に、シャーペンとキッチンテーブルで淡々とリズムを取る。
私が暮らす小さな小さなアパートの一室。
そこは暮れ始める空に合わせて、赤みがかった寂しげな光に彩られていた。
('、`*川「違うなぁ……」
イヤホンを外し、また歌詞を消した。
どうせメモみたいなものなんだからそんな必要もないのだけれど、やっぱり一度ダメだと思ったものはもう目に入れたくない。
ごしごし、ごしごし。また黒ずみが増える。
(*゚∀゚)「もいーん♪ もいーん♪ もっもっもいーん♪」
聞いていて馬鹿らしくなるような変な歌が聞こえてきたかと思うと、ノックもなしに玄関が開く。
(*゚∀゚)「はろー、ペニー! 元気してるにゃん?」
('、`*川「元気よ」
上がり込むや否や、つーは持ってきたらしいコンビニの袋をテーブルに放り投げる。
(*゚∀゚)「……なんかリアクション少ないのは仕様?」
('、`*川「じゃあ言わしてもらうけど、にゃんとかキモいしノックくらいして頂戴」
(*;∀;)「ズバズバきちゃった!? ひどい! つーちゃん泣いちゃうぞ!」
('、`*川「せいぜいいい声でお泣きなさい」
ふと、ノートに『わたしのむねでおなき』と走り書きしてみた。
でもやっぱり気にくわない。再び消しゴムを手に取る。
('、`*川「何買ってきた?」
(*゚∀゚)「プリン」
(*>∀<)「つーちゃんのヒップもプリンプリンだぞ! なんちて!」
('、`*川「はいはい」
くしゃくしゃのビニールから中身を引っ張り出してみる。
出てきたのは確かにプリンで、ひんやりとしたそれはつやつやと私の手のひらで輝く。
('、`*川「おいしそうね」
つーはにんまりと笑いながらビニールをひっくり返す。ころんころんと、同じプリンが三つも四つも。
(*>∀<)「プリン祭じゃーっい!! それそれ!
プリンがプルプルと弾けながら自由落下(フリーフォール)していくぞぉ!」
だが勢い余ったらしい。コロコロと転がったプリンが二つ、テーブルからフローリングへと墜落する。
(*゚∀゚)「見たかい、助手のペニサスくん?
今のプリンの落下には、一見ありとあらゆる物と因果関係はなさそうに見える。
でも実は自由落下は自由ではないのだよ。
私がコンビニでこのプリンたちを手にした時から、彼らの落下は定められていてそれは科学的にも――」
('、`*川「何でもいいから拾いなさい」
ちぇー、と残念そうにむくれるつー。
その手の中の救出されたプリンは、落ちて崩れたのか容器の表面にカラメルの帯が走っていた。
(*゚∀゚)「ペニー、ご飯食べてる?」
つーは床に落ちたのと卓上のプリンたちをひょいひょいと、部屋の小さな冷蔵庫に放り込みながら聞いてくる。
彼女のこういうところが嬉しくて、ちょっと嫌いだ。
普段へらへらしてるのに、やたらと勘がいい。
そして私もこういう時は決まって――
('、`*川「食べてるわよ」
嘘をつく。
(*゚∀゚)「そう、ならいいや。あたしも一個食ーべよ」
つーは冷蔵庫に放り込みかけてたプリンを、一つ取り出す。
こうやってしょっちゅう気遣ってくれるつーに平然と嘘をついてしまうのは、きっと私が彼女に並々ならぬ甘えを抱いてるからだろう。
(*゚∀゚)「あンまぁあーくて、美味しーぃ!」
('、`*川「よく疲れないわね、あんた」
つーは優しい。
それが嬉しくて、ちょっと嫌いだ。
(*゚∀゚)「これ、あの曲の?」
まだまだ肌寒い二月、バレンタインの熱が冷め切らない街。
その片隅にある小さな公園で私たちはチューニングをしていた。
背にして腰掛けているのは、公園の真ん中を陣取っている大きな桜の木。
そんな中、つーは使い古しのフォークギターを左の小脇に抱えながら言う。逆の手には私が念の為と持って来たさっきのメモ。
('、`*川「そう、あの曲の」
(*゚∀゚)「あれから一年だけど……まだ完成せず?」
('、`*川「いいのよ、半ばライフワークみたいなものだし」
書いては消して、書いては消して。
そう、こんなことの繰り返しでもう一年経ってしまった。
曲はもう出来ているのに。と言っても、私が書いた曲じゃない。
試しに私も自分のギターを調律してみる。捻るとペグがすっかり固くなっていた。
もう古くなっているから。仕方の無い事。
この曲を書いた人はもう死んでいる。
私の恋人だった人。
名前はデルタ関ヶ原。
寡黙で、無愛想で、時折何を考えているのかわからない人だった。
でもたまに見る笑顔と、作る歌の優しいメロディーが、私をどうしようもなく虜にした。
付き合っても相変わらずぶきっちょな人だったが、それでも嬉しかったし、つーも応援してくれた。
だから交通事故だなんて聞かされた時は、心臓が裏返って、吐き気を催すほどに怖くなって。
突然独りぼっちになった私に残ったのは、一曲の詞のない歌と彼の――
『……ペニサス。いつでも、ゆめ……を』
死ぬ間際の一言だけ。
(*゚∀゚)「うっ……ぶしょぉっ! ぶしょぉっ!! ふっ……ぶしょぉあぇい!!」
('、`*川「なにその奇怪な鳴き声」
(#゚∀゚)「くしゃみだから! あたし花粉症だから!! 仕方ないから!!!」
それから私はつーとデュオを組んだ。
寂しさを紛らわすためとか、新しいスタートとか、そういうことは何も考えてはいなかった。
ただギターを抱えて、歌う。
それが自分の中の普通で、音楽をやめようなんてことは今さら思いつきもしなかった。
でも確かに、彼が生きていた時とそうじゃない時では私の歌は変わってしまって、目に見えて劣化していた。
やがて気付いた。
あぁ、私は彼の幻想にすがっている。彼の居た場所に座り込んで動けないだけなんだ――と。
そしてそれを否定しようとも思わなかった。
(*゚∀゚)「うぅ、花粉症に苦しむつーちゃんは桜の木の下にいるだけでもう、おめめもお鼻もあばばばばばば」
('、`*川「別にあんたはそんなに歌わないから関係ないし」
(*゚∀゚)「……ペニー、あたしの言いたいこと分かる?」
つーは急に真面目くさった顔をする。
(*゚∀゚)「路上ライブとかもさ、こんな辺鄙なとこじゃなくても駅前とかの方が聞いてくれる人も多いじゃん?
それでもさ、ペニーがここにこだわる理由も……それにあの曲をずっと完成させないのも全部、デルタが関係してるんでしょ?」
この桜の木の下は、私たち――そう、デルタと私がいつもライブをしていたところだ。
人は確かに来ない。でもデルタはこの場所が、この場所に二人で居る事がすごく好きだった。
(*゚∀゚)「ペニー、もう一年だよ。デルタの思い出も大切だけど、あんたの未来の方がもっと大切だよ」
私の未来? それは一体どこに向かう未来だというのか。
このまま音楽を続け、音楽で生計を立てる未来?
こんなしがない路上アーティストにそんな展望が?
そんなものあるわけが無い。
では誰か他に男を作り、結婚して、子供を産んで育てて老いる未来?
なら問いたい。どうして彼以外の男と一緒にならなければならない理由があるのか。
でも、未来を示すというなら確かに言えることはある。
それはどう足掻いても、これらの未来に彼は――デルタはいないということだ。
('、`*川「いいのよ」
本音を言えば叫びたいし、つーに飛び掛って『あんたに何が分かる』と罵ってやりたい。
でもつーのことは好きだ。きっとデルタの次に好きな人だ。
だから大切にしてあげたい。抱き締めたいし、抱き締めて欲しい。そんな愛しい親友なのだ。
愛しくて優しくて、可愛い可愛い唯一無二の理解者。
彼女にそんなことをするなんて、私には出来ない。
('、`*川「私はこれでいいの」
つーは何も言わない。
ただとても悲しい目で、私をじっと見つめていた。
一頻り歌って、やはり相変わらず人は来ないので早めに私たちは切り上げることにした。
つーは、『自分のアパートに帰る』と先に帰っていった。いつも私の家に寝床を借りに来る彼女には珍しい事だった。
気を使ってくれているのだろうか。
私は鼻を啜る。いけない、つーの花粉症がうつったのだろうか。
冷たい鼻の頭を擦り、私は一人桜の木の下に立ち尽くす。
暗がりではっきりと見えない枝先、そこにはちんまりとした芽が見えた。
世の中は不変ではない。植物でさえ移り変わる。でも私は流れに逆らってその場を動こうとしない。
ずっとずっと、その優しくて温かい思い出の中に浸って、彼を想い続けている。
ひび割れてしまいそうなほど冷えた闇の中で、私はゆっくりと腰を下ろし、桜の幹に背を預ける。
例の書きかけのメモを取り出し、目の前で縦に横に――出切るだけ細かくそれを破った。
('、`*川「んーんー、んんーんー……」
ふっ、と白く濁った息を吹き掛ける。
掲げた手の平の上から、風に巻かれていく紙くず。
渦を巻いて踊る姿はまるで桜吹雪のように綺麗で、私はその眺めに陶酔していた。
('、`*川「んんんーんんんー……んんーんー……んー……」
口ずさむ、詞のない歌を。
私の中で、唯一不変であり続けるものを。
私はきっとこれからもこの歌の歌詞を考え続け、そして書き直しては消すだろう。
その時間が今の私にとって、一番心地が良いから。
('、`*川「――いつでも夢を」
――いつまでも夢を。
私は甘い眠気に誘われるまま、ゆっくりと、ゆっくりと眼を閉じた。
fin...
お題
・花粉症
・自由落下は自由ではないのだよ
・もいーん♪ もいーん♪ もっもっもいーん♪
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