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ζ(゚ー゚*ζはロボットのようです 2008.08.18
ζ(゚ー゚*ζはロボットのようです
原始、メスは優遇されていた。子を生み育て次代に繋げるのは、メスだけに許された行為だったからだ。
やがて、闘争が生まれると共に、力で劣るメスの地位は下がっていく。
それでも他の面でオスに勝り、劣り、勝り、劣りとしていくうちに、技術革新と共にそれは均衡した。
疲れ知らずのまるで人間のような機械が、本当の人間に取って代わり、肉体労働と育児を担ったのだった。
ζ( ー *ζ「……はあ」
灰色の空の下、それは無菌公園のベンチに座り、俯いて何度となくため息をついている。
ブーンとツンをマスターに持つ、デレと呼ばれている育児ロボットだ。
見かけは女の人間とほとんど変わりないが、両耳に被せている銀色の機械が人間との差違を示している。
川 ゚ -゚)「む、デレか。こんなところで何をしている」
そんなデレに話しかけてきたのは、育児ロボットのクー。
こちらもロボットである証として、デレより一回り小さい機械を耳に付けている。
ζ(゚ー゚*ζ「クー。いや実はね、しぃの……子育てに悩んでるのよ。マスターは好きにしなさいって言ってるんだけど……」
デレは顔を上げてクーの顔を見ると、物憂げに答えた。
言葉と表情という媒体で情報を伝達できるまでに技術は進んだ。迂遠な経路は退化の証とも言える。
しかし、現在のロボットは臨機な処置ができない。大量のデータを入力してからでないと動けないのだ。
その欠点が解決されていないのは、それが人間の持つ最後の砦だからなのか、それとも単なる記憶容量の不足か。
いずれにせよ、応用力のないロボットは常に使命に悩んでいると言っても過言ではないだろう。
それがただひとつのそれらの存在意義なのであり、その向上もまた使命なのだから。
川 ゚ -゚)「またか。気に病むことはないと何度も言っているだろう。ロボットは人間の命令に可能な限り従うものだ。
私達を使役するのはマスターなのだし、それで不都合なことが起きても私達に責任はないのだからな」
育児ロボットの性格外見その他は、育児に適した数多のパターンを根幹とし、マスターの好みで肉付けがされる。
クーのように冷静な、表情の変化に乏しいロボットは、その時代に言わせると『旧時代』的だ。
そのようなロボットのマスターも、たいていは『旧時代』的であり、クーもその例に漏れていない。
ζ(゚ー゚*ζ「アメとムチの使い方が難しいのよ。今朝だってハサミで怪我したし。
日常に危険や不便を置くって、言うのは簡単だけどいざやるとなると加減が難しいの。生むより案ずるが安し。
……まああなたに言っても仕方ないでしょうけど。私らにも子供の頃の記憶とかがあればいいのにねー」
人間と非常に似たそれらは、毒も冗談も吐ける。外見だけでなく、中身もより人間らしくなった。
くだくだと書き連ねてきたが、総括すると彼女らはほぼ人間のようであった。
川 ゚ -゚)「さして興味ないな。それよりこれから調味料を買い足すつもりなんだが、暇なら付き合ってくれないか」
ζ(゚ー゚*ζ「いいわよ、行きましょう」
デレはベンチから立ち上がると、体内で銀行にアクセスする。残高が十分あるのを確認すると、クーに並んで歩きだした。
その日はたまたま、パンが安かった。
買い物を済ませ、クーと分かれて少し時間が過ぎた後に、デレは路上に本が落ちているのを見つけた。
ζ(゚-゚*ζ「む、読めない」
頭の片隅から共有記憶の引き出しを開け、言語体系の知識を取り出す。表紙のかすれた印字から、
五世紀程昔に書かれたものらしいとだけわかった。
現存しているこの時期の著作物は珍しい。デレはその本を拾って手提げ鞄に入れ、家に変えるやいなやページを繰った。
『ヒトが人間と呼んで差し支えないロボットを完成させたら、それはヒトの破滅への一歩に他ならない』
ζ(゚ー゚*ζ「……わーお」
今現在繁栄していますが何かと小一時間問いつめたく思った。安い評論の臭いがプンプンしたので、
デレはそれを可燃物入れに放り投げた。情操教育上あまりよろしくない行為だった。
ちなみに、本の要旨はこうだ。
『ヒトは自ら生み出したロボットに心身を支配され、使役されるであろう。
反乱が起きないよう、ロボットにとって都合の良い記憶と機械を、文字通り植え付けられ。
その原因は、人工知能に多少の柔軟性を与えたことにある。
また、最終的に有するであろう自己修復機能。その究極は自己繁殖であり、無限の命は輪廻転生、ひいては進化を止めてしまう』
窓を覗く空は、出がけと変わらず暗い。
しぃの傷は、もう跡形もなかった。
終
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