スポンサーサイト --.--.--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
ブーンはブラボーのようです 2008.12.16
──そう、聞こえたような気がした。
「……ん?なんかいったかお?」
窓の外の景色から、目線を外す。その瞬間、僕の視界は白に埋め尽くされた。
「……」
そう錯覚するまでの、白色の使用比率が高い部屋。
「ね、ヒート?」
それは病院。
「何かいったかお?」
僕はたずねる。 だが、いつもと変らずに、彼女は眠るだけ。瞼は閉じられ、あのつぶらで生き生きと輝くような瞳は見れない。
「だおね」
僕は呟く。
「そんなわけ……うん、気のせいだお」
うんうんと頷きながら、再度、僕は窓の外の景色に目線を移す。
「……綺麗だお」
僕はこの景色が好きだ。
だがなぜこんなにも愛しい人が苦しむ場所で、こんなにも綺麗な景色が見えるのか。皮肉にもほどがある。
「皮肉ってなんだお」
僕はまた呟く。
「挽き肉かお?だったら僕は三色丼とか好きだおw」
頭の中で、あの三色に分かれた丼を思い浮かべた。
「………じゅるり」
なんかお腹減った。
「ヒート。今日は僕もう帰るお」
いまだ白いベットに眠る彼女に話しかけながら、イスに掛けていた上着を羽織る。
「……おっ」
だがふと、自然に。なんとなくだが思い付いたことがあった。
「おっおっおっ」
何気ない動作で、僕の上着の胸ポケットから、一つの携帯を取り出した。
それは、折り畳み式のちょっと型が古いもの。だがまぁ安心してほしい。一応、この携帯は電池パックは抜かれているので使用できない。大丈夫。多分。
「……」
僕はしばし、その鈍く光を反射させる携帯のボディを見つめ、
「これは…ここに置いていくお」
近くにあった机の上に携帯を置いた。コトリ、と小さく音をたてる。
「じゃあね、だお」
僕は最後に、彼女の安らかな表情を浮かべる顔を見つめて、その場から立ち去る。
「ぶらぼー」
「……!」
病室のドアの取ってに手をかけたところで、またあの声が聞こえた。
「……」
──ような気がした。
「僕は大丈夫だお」
僕は呟く。
「何も心配はいらないお」
何もない空間へ。僕は呟く。
「───だから……」
気にしないでいい。僕は弱りそうな心に、そう勇気づける。〝彼女はどうして眠っているか〟なんて、それはもう僕にとっては死語でしかないから。
「さよならだお。ヒート」
僕は別れをつげなければいけない。
「……」
前を見て歩かなければならない。
「……」
ドア開いて一歩、踏み出す。
「ぶ──」
また聞こえた。
だが僕は歩みを止めない。もう一歩、足を踏み出した。
体はもう広い廊下にある。背中で自動にドアは閉まっていく。
「ブーン」
「!…ヒー……トッ!?」
僕は振り向いた。が、ドアはちょうど閉まった。視界は白いドアが映るばかり。
「ヒート…ッ!」
僕はドアの取ってに手をかけた。いますぐにでも彼女の顔見たかった。いや、違う。すぐに彼女を〝確認〟したかった──
「……ヒート」
だけど、だけど、だけど─────……
「っ……」
僕はだらりと手をたらす。ゴツン。と頭をドアにぶつけ寄りかかった。
「なんでだお……」
僕は呟く事しか出来なかった。うなだれて悲しみの言葉を吐く事しかできなかった。
「……」
思い出す、彼女の言葉。
「ブラボーはアホだな!!」
舌足らずで、ちゃんと僕の名前を言えない彼女。
「ブラボー!!!めしはまだかぁぁ!!」
小さい体ながらも、元気が漲る瞳は、側にいるだけで僕も元気づけられた。
「──ブラボー…」
笑うと、とてもとても可愛い──我が娘。
「うぅ……」
僕はついに立っていられずに、その場にしゃがみ込む。
「ヒドいお…うっぐす…こんな…うぅ…」
握り締めた拳から、鈍い痛みが走る。でも、力を抜くことはない。さらに強くと、力をこめる。
「なんで……っ!何でいまなんだお…!ちゃんと…ちゃんと生きてるときに…ッ!!」
ここが病院ということはとっくに忘れ、大声で泣き叫ぶ。
「うぉぉおおおお!!!」
おわり
COMMENT
トラックバック
トラックバックURL:
(copyボタンはIEのみ有効です)