2009年01月10日

(´・ω・`)ショボン警部が虚構の城を崩すようです捜査編その1

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:01:57.07 ID:syuAxS930

 −1−

ドクオはコンビニの弁当をテーブルの上に広げ、遅めの夕食を始めた。
テーブルの周りにはキャンバスが積み重なっており、画材道具や関連の本で、狭いアパートは散らかっていた。
今年で還暦を迎えるドクオだが、肌はみずみずしく、眼光は鋭い。

弁当を食べ終えると、中身が詰まってぱんぱんになったゴミ袋に、弁当の空箱を無理矢理押し込んだ。
「おしっ」と気合いを入れ、袖をまくる。彼が絵を描くときの合図だ。

椅子に座り、イーゼルに立てかけられたキャンバスと向かい合った。
キャンバスには描きかけの山の風景が描かれている。
彼が描いているのは油絵だ。
彼の部屋に置かれている絵は全て彼が描いた油絵で、一般人なら鼻が曲がりそうなほどの油の異臭が部屋に漂っていた。
 


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:03:45.26 ID:syuAxS930

 部屋はわざと薄暗くしていた。少し暗い方がより落ち着いて絵が描けるからだ。
 筆を手に取り、山の風景に思いを馳せる。
 彼の故郷は山奥の村で、記憶にあるそこの景色を絵に起こそうとしているのである。

('A`)「……………………」

 彼が絵を描いているときの集中力は凄まじいものがある。
 視界はキャンバスのみで、聴覚は全く無意味の器官と化す。

 以前このアパートのトイレでボヤ騒ぎが起こったとき、彼は避難するどころか火事にも気がつかなかった。
 消防隊がサイレンを流し、どたどたとアパート内を走り回っていたことさえ気がつかなかったほどだ。
 近所の高校生が遊びで放火し、捕まったというのを聞いて、初めて火事のことを知ったのだ。
 それほどまでに彼は絵を描くという行為に没頭でき、アパートの住人は彼のことを不気味な男だと認識していた。

('A`)「……………………」

 彼の意識は今キャンバスに半分描かれた故郷の町並みを巡っている。
 自身の想像からインスピレーションを得ようと、脳細胞をフルに働かせていた。



3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:05:22.77 ID:syuAxS930

 その140億個の脳細胞の内、10分の1程度でも背中に向いて働いていたならば、
 彼は助かっていたのかもしれない。
 
(;゚A゚)「ぐっ」

 意図した声では無かった。
 首に巻き付けられた紐が、喉を締め付けたことで漏れたものだ。 

 キャンバスにあった意識がアパートの一室に戻ってきた。
 手足をばたつかせ首に巻き付いたヒモから脱出しようとするが、普段から全く体を動かさない老体の彼には難しかった。

 やがてドクオの心臓は止まった。
 しかし後ろからドクオを締め上げていた者は、しばらくそのままの格好で力を入れ続けた。

 5分後、その者はようやくドクオの死に確信を持ったのか、ヒモを握りしめていた手を離した。
 ドクオは顔から床に倒れ込んだ。
 彼が倒れた場所には、もう永遠に完成しない、描きかけの故郷が描かれたキャンバスが落ちていた。



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:06:32.79 ID:syuAxS930

 ショボン警部が

   【虚】
   【構】

   の城を
    崩すようです



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:09:57.89 ID:syuAxS930


  **** 捜査編 *****



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:12:21.61 ID:syuAxS930

 −2−

 車のハンドルを握っているショボン警部は珍しく顔に疲れがあった。
 いつも鋭い光が宿っている目が、やや曇り気味だ。

从*゚ーノリ「教えてくださいよ。こういうのって、上司と部下の絆を深めると思うんです」

 助手席に乗っているルカ警部は、二十台半ばとは思えぬ若者のアクセントでショボンに話しかける。

(´・ω・`)「面白い話じゃない」

 キャリア組だったショボンが、どうして警部の座に居座り続けているのか、ルカが訊いているのだ。

从*゚ーノリ「凄く深い事情とかあって、話しにくいんですか?」

 彼女の声には、その“深い事情”を期待しているような含みがあった。

(´・ω・`)「それより、今回の事件の話をしてくれ」

 呆れた声で言った。
 ルカはつまらなそうに唇を結び、それ以上質問するのをやめた。



9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:14:03.36 ID:syuAxS930

 鞄からファイルを取り出し、紺色のスカートを履いた膝元で広げた。

从*゚ -ノリ「害者の男性は鬱田ドクオ。59歳。無職。
     個人アパートVIP荘の203号室で1人暮らしをしていました。
     結婚していましたが、15年前に妻を亡くしていて、子供はいません」

(´・ω・`)「生活はどうしていたんだ」

从*゚ -ノリ「生活保護を受けていたみたいです。それから両親の年金の仕送りとかもあったようです」

(´・ω・`)「友人とか」

从*゚ -ノリ「アパートの住人に聞き込みを行った結果、今までそんな人を家に呼んだことは無いだろうって。
     かなり偏屈なじいさんだったみたいですよ。毎日部屋に籠もって油絵を描いてたらしくて」

(´・ω・`)「油絵?」

从*゚ -ノリ「ええ。アパートに行けばわかりますよ」

(´・ω・`)「そうか」



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:16:36.41 ID:ZXe5gVqI0

 ショボンの質問は続いた。
 ルカにとっては、彼が何故そんな質問をするのかわからないようなものも多かった。
 答えられない質問が続くと、あとでファイルで確認すると言って、ショボンの質問は終わった。

从*゚ーノリ「それで、どうしてキャリアの道を蹴ったんです?」

(´・ω・`)「またか」

 ルカはどうしても知りたいようだった。彼女も有名大学を出たキャリア組の1人である。
 ろくに経験もしないうちに警部となり、ショボン警部の下についた。
 同じキャリアであったショボンが、どうして30歳を超えても警部なのか、疑問に思っているのだ。

 数々の功績を打ち立てたという記録から、ショボンが無能だから昇進しない訳ではないと知っていた。
 上を目指しているルカにとって、ショボンの存在は異色過ぎるのである。

(´・ω・`)「面倒だからだ。仕事が増えるのは嫌いだ」

从*゚ -ノリ「嘘でしょう。ショボンさん、歩いたままでも寝られるんじゃないかって捜査一課で言われてますよ。
     24時間仕事してるから」

(´・ω・`)「本当だ。まさに今とても怠い」



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:18:20.74 ID:ZXe5gVqI0

 ショボンの言葉は半分真実である。
 彼は実際に心身共に疲労していた。
 しかしそれは部下の質問攻めに困っているからである。

从*゚ -ノリ「警察が嘘ついちゃ駄目なんですよ」

(´・ω・`)「ついていい嘘もある」

从*゚ -ノリ「何です、それ」

(´・ω・`)「嘘も方便ってことだ」

 ハンドルを大きく右にきり、大通りから小道に入った。
 車を真っ直ぐ走らせると、2台のパトカーが前方に見えた。
 そのすぐ傍に、目的地のアパートがあった。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:20:27.30 ID:ZXe5gVqI0

 −3−

 ショボンとルカが駐車場に車を止め、中から降りると、待っていた警官が帽子を取って2人に挨拶をした。
 彼らに一言、二言告げると、警官たちはパトカーに乗り、走り去っていった。

(´・ω・`)「アパートにつけばわかるの意味が理解出来た」

从*゚ -ノリ「でしょう」

 外に居ても、油絵の油の匂いが風に乗って運ばれてきた。
 悪臭に気分が滅入ってくる。

(´・ω・`)「ここには誰が住んでいるんだ」

 ツタが這う古い木造アパートを見上げ、ショボンがルカに訊く。

从*゚ーノリ「101号室にフリーターが一人。102号室に浪人生。103号室には若い夫婦。
      201号室にも、夫婦が。こちらには子供もいます。202号室は空き部屋です」

(´・ω・`)「203が害者の部屋だったな。まずは現場が見たい」

从*゚ーノリ「鍵は予め大家から預かっているので、中に行きましょう」

 アパートの外側にある階段から二階を目指す。
 歩く度に軽い金属音が響く、さび付いた階段だった。



14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:22:37.18 ID:ZXe5gVqI0

 アパートの部屋のドアは全て通りに面している。
 しかし人通りの少ない道なので、例え犯行の際ドアを使って出入りしたとしても、
 犯人を目撃した者はいないだろうとショボンは思った。

 カラーコーンが置いてある203号室の前までいき、ドアを引き開けた。
 ドアは階段と同様のさびに覆われていて、開けるときに金属の悲鳴が聞こえた。

(´・ω・`)「凄いな」

从*゚ーノリ「中のものはほとんど動かしてません」

 ものが溢れかえった部屋の中を見て、ショボンはしばし立ち尽くした。
 玄関で靴を脱ぎ、2人は中へ入った。むせ返る油の匂いが彼らを出迎えた。

 キャンバスが溢れかえっていて、足の踏み場が少ない。
 害者が倒れていたであろう位置に、チョークで印がつけられていた。

从*゚ーノリ「財布の金が盗まれているみたいです。
      棚とかも荒らされているし、ただの物取りの犯行のようですね」

 ショボンは部屋の中心に立ち、ぐるりと周りを見渡した。
 押し入れの奥から放り出された布団や衣類を見て、顔をしかめた。



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:24:32.12 ID:ZXe5gVqI0

从*゚ーノリ「害者の部屋には隠し金庫がありました。
      小さな金属のもので、犯人はそれを見つけて、こじ開けようとしたらしいです」

(´・ω・`)「どこにある」

从*゚ーノリ「風呂場の天井が一部開くようになってて、金庫はそこに隠されていました」

(´・ω・`)「風呂は各部屋にあるんだな」

从*゚ーノリ「トイレだけ共同ですね」

 ショボンは風呂場へ続くガラス戸を開けた。ダイアル式の金庫が風呂のタイルの上に置いてあった。
 確かに金庫のふたの隙間部分に、金属が剥がれた跡があり、こじ開けようとしたことがわかった。

从*゚ーノリ「犯人は金庫が開かなかったから、元の位置に戻したみたいです」

(´・ω・`)「ふうん」



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:26:33.88 ID:ZXe5gVqI0

 ショボンはルカに「金庫の中身を確認しておけ」と言ってから、風呂場から出た。
 チョークが引かれてあった場所に、一枚のキャンバスが落ちているのを見て、手袋をはめた手でそれを拾い上げる。

(´・ω・`)「未完成だ」

从*゚ーノリ「鬱田ドクオはその絵を描いている途中で殺されたとみています」

 ルカは倒れていたイーゼルと丸椅子を立て、ショボンからキャンバスをもぎ取りイーゼルに立てかけた。

从*゚ーノリ「ちょうどこんな感じで」

 キャンバスに向かい合うように椅子に座った。
 背中がベランダに向いている格好だ。

(´・ω・`)「そして後ろから、ナイロン製の洗濯用のヒモで絞め殺したという訳か」

从*゚ーノリ「ええ」

(´・ω・`)「妙だな」



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:28:30.07 ID:ZXe5gVqI0

 開けはなった戸からベランダに出たショボンは、低い声で呟いた。
 くるりと後ろを向き、ルカの方を振り返る。

(´・ω・`)「犯人はこのベランダから侵入し、室内で絵を描いていた鬱田ドクオを殺害したということか」

从*゚ーノリ「そう見ています」

(´・ω・`)「いくらなんでも部屋に誰か入ってきたら気がつくだろう」

从*゚ーノリ「そのことについて、ちょっと面白いことが聞けました」

 ルカはアパートの住人から、ドクオが絵に熱中しているときは
 例え火事が起こっても気がつかないという話を聞いたことを伝えた。

(´・ω・`)「そういう人間なら、気がつかないかもしれないな」

从*゚ーノリ「よほど絵がお好きだったんでしょうね」



21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:30:20.21 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「ベランダのガラス戸に鍵はかかっていなかったのかな」

从*゚ーノリ「絵を描くときは解放していたらしいです。死体発見時も解放していたままでした」

(´・ω・`)「……そうなんだ」

 訊きながら、ベランダの木の柵から身を乗り出し、下をのぞき込んだ。
 下は103号室だ。下の部屋のベランダの柵を使えば、二階に上がれるかもしれないとショボンは思った。
 アパートの裏はコンクリートの塀を挟んで建っている民家のせいで、ほとんど陽が当たってこなかった。

(´・ω・`)「んっ?」

 ふと横を向いたとき、隣の部屋のベランダと意外と近いことに気がついた。
 意を決して飛び移れば移動できない距離ではなさそうだ。
 じっくり確認してから、ショボンは部屋の中へ戻っていった。



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:32:24.69 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「ルカ。隠し金庫のことだけど、住人はその存在は知っていたのか」

 物取りのはずなのに、どうして隠し金庫と住人を結びつけるのか、ルカにはわからなかった。

从*゚ -ノリ「絵と金庫の自慢話を会う度に聞かされていたみたいです。
     アパートの住人は全員金庫があることを知っていました」

(´・ω・`)「金庫がどこにあるのか、中身はなんなのか、というのは?」

从*゚ -ノリ「さすがにそこまでは聞いてないみたいでしたけど。
     でも中身はきっとお金でしょう。銀行は信用出来ないということを言っていたと、住人から証言を得ましたし」

 ルカは資料で確認するでもなく、ぺらぺらと住人の証言を述べていった。
 そういえば彼女のあだ名は“歩く資料室”だったな、とショボンは思い出した。
 ファイルの内容や証言などを、メモを取らなくても完璧に思い出せる特徴からきている。
 また証人の一挙一動も頭の中に入っている。天才的な記憶力だと捜査一課では噂されていた。



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:34:32.24 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「指紋は出てるか」

从*゚ -ノリ「そういうへまはしていないみたいです。
     部屋の中とベランダの指紋を確認しましたけど、害者の指紋以外は出てきませんでした」

(´・ω・`)「きっともう一度取ることになる」

从*゚ -ノリ「えっ?」

 ルカの困惑した態度には反応せず、ショボンは部屋から出ようとしていた。

(´・ω・`)「聞き込みを始める」

 彼の歩みには、何かを掴んでいるような自信が感じられた。
 ルカは急ぎ足で、彼の背中を追った。



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:36:30.16 ID:ZXe5gVqI0

 −4−

 202号室は空き部屋なので、聞き込みは201号室から始めることにした。
 しかしショボンは202号室を素通りすることはせず、中を調べたいとルカに言った。

从*゚ーノリ「この空き部屋から侵入して、ベランダから飛び移ったって考えてるんですか?」

(´・ω・`)「まあな」

从*゚ーノリ「無理ですよ。空き部屋にだって鍵はかかっていたんですから。壊された形跡もありませんし」

(´・ω・`)「ちょっと中を確認したいだけだ」

 輪っかに束ねられた鍵から空き部屋の鍵を探し、ルカがドアを解錠した。
 ドアを開け、二人は中へ入った。家具も人もいないと、同じ部屋でも広く感じられた。

 靴を脱ぎ、中に入ると、キッチンとバスルームを確認した。
 次に押し入れの中を探り始める。

(´・ω・`)「……」



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:38:43.08 ID:ZXe5gVqI0

 頭から押し入れに入っていったショボンは、出てきたときには一枚の毛布を手にしていた。

从*゚ーノリ「1年前まで住人がいたらしいです。臭いに堪えかねて出て行ったって、大家さんが」

(´・ω・`)「無理もない」

 ショボンは毛布に顔を近づけ、臭いを嗅いだ。

从*゚ーノリ「ここのベランダの鍵は、事件当時開いていたらしいです」

(´・ω・`)「開いていた?」

从*゚ーノリ「まあつまり、ずっと開いたままだったってことでしょうね」

 ルカがガラス戸に手をかけると、何の抵抗もなくするすると開けられた。
 ベランダから見える景色は、203号室と同じ、窓の無い民家の壁と、その向こうにある殺風景な雑木林だった。



26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:41:20.10 ID:ZXe5gVqI0

 −5−

 201号室は夫婦が住んでいる部屋だ。

 呼び鈴を鳴らすと、すぐにドアは開いた。一番最初に見えたのは、小学生の女の子だった。
 彼女は開いたドアのすぐ下に居たので、ドアを開けたのは彼女だとわかった。

 少女の後ろには、カーディガンを羽織った三十前後の女が立っていた。
 化粧っ気が無いが顔が整っているので、化粧次第では随分と若く見えるだろうとショボンは思った。

(´・ω・`)「警察の者です。203号室の事件のことで、お話を」

 無表情だった女の顔に、緊張の色が浮かんだ。
 空気が変わったことに気がついたのか、少女は奥の部屋に走り去っていった。

川 ゚ -゚)「話すことは全てお伝えしましたが」

(´・ω・`)「ああ、ご心配なく。いくつか確認を取るだけですので」

 話しながらショボンは女越しに室内を一瞥した。
 取り立てて変わったものも置かれていない、ごく一般的な家庭という感じだった。
 先ほどの少女がこたつに潜っているのが見える。
 部屋を訪れる前に確認した資料では、少女の名前はヘリカルといった。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:43:51.54 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「ご主人はおられますか?」

川 ゚ -゚)「今出かけています」

 最も話を聞きたい相手が居なかったことに多少の落胆を覚えるが、悔やんでも仕方が無い。

(´・ω・`)「あなたはクーさん、ですよね」

川 ゚ -゚)「ええ」

(´・ω・`)「事件が起こったとき、あなたは店で働いていたと聞いていますが」

川 ゚ -゚)「はい、そうです」

(´・ω・`)「申し訳ありませんが、一応店の方の連絡先を教えて頂けないでしょうか」

 表情の少ないクーが露骨に嫌そうな顔をしている。

(´・ω・`)「よほどの事情が無い限り職場に連絡をつけることはりません。
     それにあなたを疑っている訳ではなく、あくまで確認の為なんです。
     事件を起こしたのは強盗の仕業ですしね。何とか捜査にご協力できないでしょうか」



29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:47:09.32 ID:ZXe5gVqI0

 そこまで言われて、渋る訳にはいかない。
 クーは一度奥に戻り、店の名前と電話番号が書かれた紙を持ってきて、ショボンに渡した。
 キャバクラの名前だった。

 ショボンの後ろでじっとしているルカは、ただの聞き込みでそこまでしなくても、と思っていた。
 無理矢理聞き出したショボンよりもルカの方が申し訳なさそうな顔をしていた。

(´・ω・`)「第一発見者はあなたでしたね」

川 ゚ -゚)「はい」

(´・ω・`)「そのときの様子を教えてください」

川 ゚ -゚)「仕事から帰ってきたとき、いつもより油絵の臭いが酷いと思って。
     そしたらドクオさんの部屋の扉が少し開いていたんです。
     このアパート、玄関の立て付けが悪くて、鍵をかけてないと勝手に開いちゃったりするから」

(´・ω・`)「なるほど。ではドアを閉めようとして近づいたところに、ということですか」

川 ゚ -゚)「ええ。そうです」



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:50:23.81 ID:ZXe5gVqI0

 ショボンは訊いたことをメモに取り、考え込むように唇を指を当てた。

(´・ω・`)「モララーさんは働いておられないんですよね」

 質問の内容が突然夫に飛んだことで、クーの目が微かに揺れ動いた。

川 ゚ -゚)「ええ、まあ」

(´・ω・`)「普段は何をしているんでしょうか」

川 ゚ -゚)「仕事を探すか……たまにバイトをしたりしています」

 事件のことと無関係に思える質問に、ルカはうろたえている。
 これはただの聞き込みでは無いと感じ始めた。

(´・ω・`)「お子さんは事件当日、この部屋で眠っていたらしいですね。
     少しだけ話を訊かせてもらってもよろしいでしょうか」



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:51:37.93 ID:ZXe5gVqI0

川 ゚ -゚)「いいですよ。ヘリカル」

 クーが奥の部屋に向かって呼ぶと、こたつに入っていた少女がとたとたとこちらに駆けてきた。
 ショボンたちの姿を見やると、クーの後ろに隠れてしまう。

(´・ω・`)「やあ。訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 こくん、とヘリカルは頷く。

(´・ω・`)「この前の金曜日、夜の九時よりあとに、変な物音とか聞いてないかな?」

*(‘‘)*「聞いてないよ」

 小さなおさげを横に振って、ヘリカルは否定した。

(´・ω・`)「そのとき何してたか覚えてる?」

*(‘‘)*「テレビ見て、お風呂入ってから寝た」

川 ゚ -゚)「大体十時頃には、いつも寝ちゃうんです」



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:53:38.22 ID:ZXe5gVqI0

 若者の夜更かしが年々酷くなっている統計があるが、ヘリカルは小学一年生だ。
 最初から期待はしていなかったが、それ以上彼女について訊くことは無さそうだった。

(´・ω・`)「お父さんは一緒にいた?」

*(‘‘)*「いたよ」

(´・ω・`)「寝るまでいたの?」

*(‘‘)*「うん」

(´・ω・`)「寝てからも?」

*(;‘‘)*「えっ?」

 「変な質問ですよ」ショボンの後ろからルカの非難が聞こえてきた。

从*゚ -ノリ「寝てたらわかるはずないじゃないですか」

(´・ω・`)「ああ、そうだったな。これは失敬」

川 ゚ -゚)「……」



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:55:21.59 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「以前訊いた話では、モララーさんはずっと部屋にいたらしいですね」

川 ゚ -゚)「はあ、たぶん」

(´・ω・`)「わかりました。その辺りは今度、モララーさん自身にお聞きするとして」

 クーは小さくため息をついた。
 また来られるのが嫌なようだ。

(´・ω・`)「ドクオさんのことについて、お聞かせください。
     彼が普段どういう生活をしていたか、どんな人柄か、答えられる範囲で良いので」

 クーは顎に手を当てて、考え込む仕草をした。

川 ゚ -゚)「昨日お話ししたことと同じだと思うんですけど」

(´・ω・`)「はい」

川 ゚ -゚)「かなり変わった人でした。絵が凄い好きらしくて」

(´・ω・`)「変わってるというのは?」



35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:57:08.75 ID:ZXe5gVqI0

川 ゚ -゚)「いつも大体アパートにいて、絵を描いているみたいなんですよ。
     ほら、匂いでわかるんです。描いているかどうか」

(´・ω・`)「ああ、なるほど」

川 ゚ -゚)「アパートとかですれ違ったら、よく話しかけてきました。
     大抵は絵の話でした。昔は相当有名な画伯だったと言っていました」

(´・ω・`)「信じていましたか?」

川 ゚ -゚)「少し。絵を見せてもらったことがあるんですけど、凄く上手かったし。
     いつも自慢げに話していたから、ひょっとしたらって」

(´・ω・`)「ドクオさんの部屋には金庫があるんですが、そのことは?」

川 ゚ -゚)「聞いたことがあります。凄い大金が入っているんだったかな」

(´・ω・`)「そう聞いたんですか?」

川 ゚ -゚)「いえ、たぶんはっきりとそう聞いた訳ではないんですけど……」

 その後、資料と照らし合わせながらいくつか質問をした。
 聞き込みが終わると、ショボンは丁寧に礼を述べた。
 扉が閉め切られるまでショボンは頭を下げていた。



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 17:58:56.47 ID:ZXe5gVqI0

 −6−

从*゚ -ノリ「ショボンさん。ただの聞き込みの度を超えていますよ」

(´・ω・`)「何が?」

 アパートの階段を下りていたショボンは、振り返らずに言った。

从*゚ -ノリ「まるで容疑者にするような質問でした」

 下に降りると、ショボンは102号室を目指して歩いた。
 そこには男が一人で住んでいるはずだ。

(´・ω・`)「間違ってない」

从;゚ -ノリ「それじゃあ……」

(´・ω・`)「この部屋に住んでいるのは浪人生だったか」

 ショボンはここに来る前に聞いておいたデータを思い出しながら言った。

从*゚ -ノリ「そうです。19歳の浪人生が一人暮らしで」



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:00:50.89 ID:ZXe5gVqI0

 こうやって逐一質問しなければならないのがうざったかった。
 昨日、ルカは一人でこのアパートにやってきて、聞き込みをしていた。
 ショボンが別件で仕事をしていて、二人で来られなかったせいだ。

 呼び鈴を鳴らし、しばし待った。
 反応が無いので、もう一度呼び鈴を鳴らそうとショボンが手を伸ばしたとき、ドアが小さく開いた。

(´・ω・`)「警察の者です」

 開いたドアから、眼鏡をかけた神経質そうな男が顔を覗かせた。
 警察と聞くと、男はドアを完全に開き、姿を見せた。
 片手をポケットに入れていて、あまり態度は良くなかった。

(´・ω・`)「事件のことで、いくつか訊きたいことがありますので、ご協力ください」

(-@∀@)「良いですけど」

(´・ω・`)「アサピーさん、でしたね」

(-@∀@)「はい」



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:02:36.82 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「18日の金曜日、午後九時以降に、不審な物音を聞いたり、不審な人物を見たりとかしませんでしたか?」

(-@∀@)「昨日も話しましたよ」

(´・ω・`)「申し訳ありません。これは確認の為なので」

(-@∀@)「ずっと部屋に籠もっていたので、何も気がつきませんでした」

(´・ω・`)「部屋で勉強を?」

(-@∀@)「はい」

 ショボンはちらっと奥の部屋に視線を送った。無駄なものが一切無い部屋だった。
 壁の隅に、本がうずたかく積まれているのが見える。

(´・ω・`)「おっ」

 視線を戻すとき、玄関の靴だなの上に宝くじの券が数枚あるのが見えた。

(´・ω・`)「宝くじですか。私も買ったことがあります。
     といっても300円しか当たったことないですけど」

(-@∀@)「はあ」



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:04:37.24 ID:ZXe5gVqI0

 緊張をほぐすつもりの話だったが、あまり興味はなさそうだった。

(´・ω・`)「寝るまで勉強していたんですか」

(-@∀@)「そうです」

(´・ω・`)「ふむ。ドクオさんについて、知っていることを聞かせてください」

 アサピーは片手で眼鏡を直し、一拍間を入れてからドクオのことを話し始めた。
 大体クーの言っていたことと同じだった。

(´・ω・`)「ほとんど外出はしなかったそうですね」

(-@∀@)「はい」

(´・ω・`)「それにしても、油絵の臭いが酷いですね」

 こうやって玄関先で話しているときでさえ、つんと鼻をつく。

(-@∀@)「みんな困ってましたよ」

(´・ω・`)「みんなというと?」



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:06:46.96 ID:ZXe5gVqI0

(-@∀@)「アパートの人たちですよ。大家さんに苦情を言った人もいるみたいです」

(´・ω・`)「あなたはそうしなかったんですか」

(-@∀@)「どうせ誰かが言うだろうと思って」

(´・ω・`)「なるほど。他に何か、ドクオさんのことについて話せることはありますか?」

(-@∀@)「いや、特には。ところで刑事さん」

(´・ω・`)「何でしょう?」

(-@∀@)「強盗犯は捕まえられそうですか?」

(´・ω・`)「現在、捜査一課が死力を尽くしています。
     早くあなたが落ち着いて勉強が出来るよう努力しましょう」

(-@∀@)「お願いしますね」



42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:08:58.37 ID:ZXe5gVqI0

 −7−

 101号室のフリーターはどうやら留守らしく、呼び鈴を押しても反応しなかった。
 住人の名前がジョルジュということだけ確認し、ショボンたちは103号室へ向かった。

从*゚ーノリ「この部屋にはギコとしぃという夫婦が住んでいます。
     クーのところと違って子供はいません。事件当日は、夫は仕事で、家にはしぃだけがいたらしいです」

 ショボンがファイルを見て情報をおさらいしている横で、ルカは得意げに訊いたことを話している。
 歩く資料室はとてもお喋りなたちだった。

 ショボンが呼び鈴を鳴らすと、二十台前半らしき女がドアを開けた。
 ショートカットで髪を染めている、童顔の女だった。

(´・ω・`)「しぃさんでしょうか?」

(*゚−゚)「はい」

 口元に緊張が浮かぶ。ルカの顔は知っている為、二人が警察なのをわかっていた。

(´・ω・`)「警察の者です。先日の聞き込みの内容を確認する為に、いくつか質問にきました」

 話している途中で、奥から一人の男がやってきた。



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:10:39.94 ID:ZXe5gVqI0

 身長の低いしぃよりも少し高いくらいの、小柄な男だった。
 上下スウェットで、しぃと同じキャラクターもののスリッパを履いていた。

(´・ω・`)「ギコさんですか」

(,,゚Д゚)「そうだゴルァ」

(´・ω・`)「事件のことで、いくつか訊きたいことが」

(,,゚Д゚)「昨日も訊かれたぞ」

(´・ω・`)「今日はただの確認です」

 ギコの舌打ちは、ショボンの後ろに立っているルカにも聞こえた。
 警察が嫌いなようだった。

(´・ω・`)「18日の金曜日、ギコさんは夜遅くまで残業をされていて、家に居なかったようですね」

(,,゚Д゚)「ああ」

(´・ω・`)「大体いつ頃まで?」



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:12:38.97 ID:ZXe5gVqI0

(,,゚Д゚)「帰ってきたのが12時くらいだったから、11時くらいまでかな」

(´・ω・`)「職場の連絡先を教えて頂けないでしょうか?」

 ギコの顔が赤く怒張してくるのが目に見えて分かった。
 どうやら彼は相当な短気らしい。

(,#゚Д゚)「おれのこと疑ってんのかゴルァ!」

(*;゚−゚)「あなた!」

 彼の横でしぃが制止しようとするが、今にも掴みかかってきそうな剣幕で怒鳴る。
 ショボンは穏やかな顔で彼をなだめる。だが彼の怒りは収まらない。

(´・ω・`)「あなたを疑っている訳ではありません。強盗犯が同じアパートにいる訳無い」

(,#゚Д゚)「じゃあどうしておれの仕事が関係あんだぁ!? ゴルァ!」



46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:14:19.18 ID:ZXe5gVqI0

 ショボンの冷静な態度が逆に彼の勘に障るようだ。

(*;゚−゚)「申し訳ございません。今日のところはこれで」

 見かねたしぃが怯えた声で言った。

(´・ω・`)「そうした方がよさそうですね。おや」

 ショボンの視線はしぃの手に向いていた。
 手の甲に大きな絆創膏が貼ってあったのだ。

(´・ω・`)「その傷は、どうされたんです?」

 ショボンが指さすと、しぃは少し困ったような表情で、

(*゚−゚)「お料理に失敗しちゃって」

 と言った。



48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:17:02.79 ID:ZXe5gVqI0

 −8−

从*゚ーノリ「そろそろ話してくれても良いんじゃないですか?」

(´・ω・`)「何をだ」

 アパート近くの路地に車を止めて、ショボンたちは見張りを行っていた。
 モララーとジョルジュが帰宅するのを待っているのだ。

从*゚ーノリ「どうして住人を疑っているのかですよ」

 助手席から身を乗り出す勢いで迫ってくるルカに、ショボンは少々たじろいだ。
 ルカの体から仄かに香水の匂いがした。

(;´・ω・)「近い。離れろ」

从*゚ーノリ「離れたら教えてくれます?」

(´・ω・`)「少しだけな」

 ルカが離れると、気を落ち着かせるかのようにショボンはスーツの袖を直した。



49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:19:28.20 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「犯人の狙いはどう考えても金庫とドクオだ」

 ショボンは制服のポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。
 ルカが見たこともないような外国の煙草だった。

(´・ω・`)「外部犯ならもっと入りやすそうで、金がありそうな家を狙う。
     それも家に人がいるときなんて狙わない。
     犯人は確固たる殺意と金庫という目的を持った上でドクオの部屋を狙ったんだ。
     その証拠に、金目のものはほとんど盗まれていないにも関わらず、部屋はかなり荒らされていた。
     普通なら探さないだろう押し入れの奥も、中にあった布団をわざわざ出して調べている。
     犯人は殺害後、必死に金庫を探したんだ」

从*゚ -ノリ「殺意って、住人たちに殺害の動機なんて無さそうでしたけど」

(´・ω・`)「何が理由で憎しみを生むのかわからない。傍目には目を剥くような拙い理由かもしれない。
     とにかく、犯人は行きずりの強盗じゃなくて、このアパートの住人の可能性が高い。
     ドクオの友人関係は洗う必要も無いくらいさっぱりだ。
     彼の周りにいる者で、金庫のことを知っているのはこのアパートの住人くらいだ」

从*゚ -ノリ「ははあ、なるほど」

(´・ω・`)「アパートの住人の誰かが他の者に金庫のことを話したのかもしれない。
     でも通常は考えにくいし、殺意が生まれる理由にもならない」



50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:21:31.10 ID:ZXe5gVqI0

从*゚ -ノリ「じゃあ誰が殺したんですか?」

(´・ω・`)「幸い検死の結果で、死亡推定時刻は確定している。
     コンビニ弁当の消化具合から、午後十時半から十一時半だとわかっている。
     その間のアリバイを調べれば、わかると思っていた」

从;゚ -ノリ「思っていた?」

(´・ω・`)「きた」

 夕暮れ空の下、スクーターに乗った男が前からやってきた。
 ショボンたちが乗っているスカイラインの横を通り、アパートの駐車場へ入っていった。

 ショボンは無言で車から降り、早足で男に近づいていった。
 質問をはぐらかされたルカは、納得のいかない顔でショボンの後ろを追った。

( ・∀・)「……」

(´・ω・`)「警察の者です。モララーさんですよね?
     事件のことについて訊きたいことがあります。よろしいですか?」

( ・∀・)「いいよ」



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:23:15.72 ID:ZXe5gVqI0

 革ジャンを着た男は、長い前髪の間からショボンたちを観察するように目を這わせた。
 目尻にやや皺があるが、格好は今風の若者という感じだった。

(´・ω・`)「ここでお話するのはちょっとまずいですね。
     近くに車を停めてありますが、そこで良いですか?」

( ・∀・)「ああ」

(´・ω・`)「ではこちらへ」

 ショボンは車まで案内すると、助手席のドアを開けてから、運転席に乗り込んだ。
 モララーは助手席に座り、ルカは後部座席に座った。

(´・ω・`)「簡単なことです。先日訊いたことの確認程度ですから」

( ・∀・)「煙草吸ってもいいかい」

 ジャンパーの胸ポケットから、煙草を取り出しながらモララーが訊いた。
 「いいですよ」ショボンが答えると同時に、モララーはジッポライターで煙草に火をつけた。
 非喫煙者のルカが渋い顔をしたのが、ショボンの席からバックミラーで見えた。



53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:25:11.32 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「では、18日の金曜日のことを訊かせてください。午後九時以降から、寝るまでに。
     何か変わったことはありませんでしたか? 不審な物音や、人物などを見たとか」

( ・∀・)「さあ、知らないな」

(´・ω・`)「その時間はずっと家に?」

( ・∀・)「ああ。子供を寝かしつけて、酒を少し飲んでから寝たよ。12時くらいだったかな」

(´・ω・`)「お子さんとはずっと一緒だったんですね?」

( ・∀・)「まあな」

(´・ω・`)「寝かせたあとも?」

( ・∀・)「なあ、刑事さん」

 モララーは一度大きく煙草を吸い、深呼吸のようにはき出した。
 紫煙が車内に立ちこめた。
 ショボンはモララーの、左手の薬指を注視している。
 滑らかな光沢をした銀色のリングが輝いていた。



54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:27:04.19 ID:ZXe5gVqI0

( ・∀・)「早いとこ犯人を捕まえてくれ。うちには小さい娘がいるんだからよ」

(´・ω・`)「ええ、全力で捜査に当たります」

( ・∀・)「強盗殺人なんだろ。中国人とか、そういうギャングの連中か?」

(´・ω・`)「わかりません。鑑識の結果次第では、そういう可能性も」

 モララーはぺろりと唇を舐めた。
 ショボンとモララーはお互いがお互いを探り合うような目つきをしている。

(´・ω・`)「金曜日は、ふだん何をしているんですか?」

( ;・∀・)「は?」

(´・ω・`)「参考までに」

 思わぬ質問にモララーがたじろいだ。
 戸惑いの他に、何かが表情をよぎったようにショボンは感じた。

( ・∀・)「別に、何も」



55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:29:12.29 ID:ZXe5gVqI0

 表情はすぐに元通りになった。
 ショボンは納得したように数度小さく頷いてから、ドクオの質問に移った。

( ・∀・)「あいつは家があるホームレスだよ。一日中アパートに籠もって絵を描いてる」

(´・ω・`)「油絵ですね」

( ・∀・)「飯を食っているときなんかにあの臭いを嗅いだら吐きそうになるぜ」

(´・ω・`)「夏は大変そうですね」

( ・∀・)「まあな」

 モララーはしきりに時計の時間を気にしていた。
 クーの出勤時間が迫っているのかもしれないと思い、ショボンはそこで質問を切った。

(´・ω・`)「また確認をしにくるかもしれないので、その時はよろしくお願いします」

( ・∀・)「ああ。じゃあな」

 車を出て、アパートに戻っていくモララーの背中を、ショボンはじっと見つめていた。



57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:30:52.62 ID:ZXe5gVqI0

 −9−

 101号室のジョルジュがアパートに帰ってきたのは、午後八時を回った頃だった。
 歩いて帰ってきた彼は、ややほろ酔い気味の足取りだった。

(´・ω・`)「すみません」
  _
( ;゚∀゚)「えっ」

 後ろから声をかけると、ジョルジュはびくっと体を揺らした。

(´・ω・`)「警察の者です。203号室の事件のことで、少しお話を」

 ショボンの後ろにルカが居るのを見て、「ああ……」と納得した顔でジョルジュは呟いた。
 心なしかほっとしているようにも思えた。

(´・ω・`)「近くに車が停めてありますが、あなたの家で話を伺うことも出来ます。
     どちらがよろしいですか?」
  _
( ゚∀゚)「車が良いです」

 ジョルジュは迷うことなく即答した。ショボンはこくりと頷いてから、車に向かって歩き出した。



58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:32:42.94 ID:ZXe5gVqI0

 助手席に座っているジョルジュに、他の住人に訊いたことと同じ質問をした。
 ジョルジュの話では、午後九時からは少し遠くの繁華街で飲んでいたとのことだった。

(´・ω・`)「飲んでいた店の名前はわかりますか?」
  _
( ゚∀゚)「ああ、どこだったかな」

 腕を組んで鼻をすすりながら、目線を上に向けて思い出そうとする素振りをしていた。
  _
( ゚∀゚)「酔っていたから忘れたよ」

(´・ω・`)「お一人で?」
  _
( ゚∀゚)「ああ」

(´・ω・`)「帰ったのはいつ頃ですか?」
  _
( ゚∀゚)「12時くらいだったと思うよ」

(´・ω・`)「本当に?」

 ショボンがすごむと、ジョルジュの目が微かに泳いだ。



59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:33:58.76 ID:ZXe5gVqI0
  _
( ;゚∀゚)「えっと、いや、酔っていたから、そんなに精確ではないかも」

(´・ω・`)「……」
  _
( ;゚∀゚)「でもたぶん12時頃だったんじゃないかと。
     うちはテレビとか時計が無いんですよ。そのときたぶん携帯の電池が切れてたし。
     だからそんなに精確じゃないんじゃないかなあと思います」

(´・ω・`)「わかりました」

 ジョルジュは明らかに動揺していた。
 警察をとても恐れているようだった。

(´・ω・`)「出かけたとき、帰ってきたときに、何か気がついたことはありますか?」

 ジョルジュの瞬きの回数が徐々に増えていく。
 必死に思い出そうとしているようだが、何も覚えていないようだった。

(´・ω・`)「まあ、何か思い出したら連絡してください」



61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:36:52.09 ID:ZXe5gVqI0
  _
( ゚∀゚)「あっ、は、はい」

(´・ω・`)「それでは」

 ジョルジュはあまり体調がよくないようだった。
 質問の最中に何度も鼻をすすり、時折体を震わせていた。

 アパートに帰っていく彼は、肩を抱いて大げさに寒がっていた。
 モララーのときと同様に、ショボンは背中を凝視していた。



62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:38:18.53 ID:ZXe5gVqI0

 −10−

(´・ω・`)「困った」

 一応全員の聞き込みが終わったが、ショボンはアパート前に車を停めて動かないでいた。

从*゚ -ノリ「困りましたね」

 ジョルジュが出ていったあと、助手席に座り直したルカは、腕組みをして俯いていた。
 二人とも表情は暗い。

(´・ω・`)「事件当時、アパートにいたのは四人。モララー。アサピー。しぃ。そしてドクオ」

从*゚ -ノリ「でも容疑者は3人じゃない」

(´・ω・`)「ジョルジュのアリバイが無い以上、彼の証言を鵜呑みにすることは出来ない」

 ショボンは煙草を取り出し、火をつけた。
 ため息と一緒に煙をはき出した。

(´・ω・`)「つまりドクオを殺害出来た人物は4人で、その4人には全員アリバイが無い」



63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:41:01.74 ID:ZXe5gVqI0

从*゚ -ノリ「フツー逆ですよね」

 ルカの言葉には一種の苛立ちが含まれていた。

从*゚ -ノリ「ほら、ドラマとか小説だと、全員にアリバイがあるはずじゃないですか。
     なのに全員がアリバイなしって、どういうことなんでしょうか」

(´・ω・`)「時間的に仕方無いところもあるがな。だが僕が困っているのはもっと別のことだ」

从*゚ -ノリ「別のことって?」

(´・ω・`)「論理的思考を排除した刑事の勘というもので言わせてもらえると」

从*゚ -ノリ「もらえると?」

 ショボンは吸い殻入れに、まだ吸う余地が多く残っている煙草を押しつけた。
 エンジンキーを回し、ハンドルを握る。

(´・ω・`)「住人は嘘をついている。しかも全員だ」

 ルカがはっと息を呑んだ。
 車がゆっくりと発進していった。



64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:44:10.82 ID:ZXe5gVqI0
ちょっとだけ休憩です。↓アパートの見取り

  _
( ゚∀゚)101        (-@∀@)102   (,,゚Д゚)(*゚ー゚)103

( ・∀・)川 ゚ -゚)*(‘‘)*201   空きや202     ('A`)203




(´・ω・`)ショボン警部が虚構の城を崩すようです捜査編その2へ続く

この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/wordroom/51325740
この記事へのコメント
  1. Posted by 名無し at 2009年01月11日 17:32
  2. ルカたんハァハァ(*´Д`)