2007年12月11日

(´・ω・`)としぃの願い事 その2

(´・ω・`)としぃの願い事 その1の続き

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 20:46:22.25 ID:AyApI6HH0

時刻はすでに真夜中を過ぎている。
七月の夜風が、座り込んでいる三人を包み込み、そして過ぎ去っていった。

(,,゚Д゚)「・・・で、その続きは?あるんだろ。話してくれよ」

(-_-)「そ、そうだよ。俺も気になる」

(´・ω・`)「・・・・・そうだね。どこまで話したかな」

(,,゚Д゚)「神様とさよならしたところだよ」

(´・ω・`)「ああ、そうだったね。うん。それから僕は―――」



――――それから僕は、路上で仰向けに倒れた状態で、意識がもどったんだ。

あの部屋で目覚めたときのように、とても長い時間眠っていて、自然に目が覚めるような感じで。
そしてゆっくりと起き上がって、辺りを見回した。すぐそばに、原型をとどめていないほどに大破した自分の車があったよ。
その自家用車は、トラックのフロント部分にへばりついていた。

トラックの運転席に動かない運転手がいるのが見えたけど、そんなことにかまっている暇はなかった。

僕はすぐに自分の家の方向に向かって走り出した。身体はどこも怪我をしていなかった。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 20:48:39.44 ID:AyApI6HH0

しばらく走っていると、タクシーがこっちへ向かってくるのが見えた。
僕は手を上げながらそれに飛びつくように近寄った。

タクシードライバーは驚いて急ブレーキをしたようだったけど、間に合わずに僕を跳ね飛ばした。

痛かったよ。なにせ本日二回目の自動車事故だ。でも痛がっている場合じゃなかったからね。
すぐさま起き上がって運転席側の窓を叩いた。

(;´・ω・`)「乗せてくれ!!頼むよ!時間が無いんだ!!」

後部座席のドアが開いた。僕は迷わず飛び乗ったよ。止めとけばよかったと、今になって思う。

(;´・ω・`)「美府町の5番地だ!そこへ向かってくれ!とにかく急いでくれ!」

( ・∀・)「・・・・・」

それからタクシーは走り出した。そして一分も経たないうちに気がついた。

(;´・ω・`)「おい!美府町だって言ってるだろう!?この道じゃあ等雲寺町に行ってしまうじゃないか!」

( ・∀・)「・・・」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 20:51:23.33 ID:AyApI6HH0

(#´・ω・`)「聞いているのか?僕の家はこっちじゃない!美府だよ!」

( ・∀・)「・・・・・まずは等雲寺病院へ行かなければいけません。
      あなたの自宅へはそのあと向かいます」

(#´・ω・`)「・・・!!ふ、ふざけんな!僕はなんともない!僕は死なないんだ!」

( -∀-)「・・・頭も打っているようですね。申し訳ありません・・・」

(#´・ω・`)「なんだと!?僕は狂ってなんかいないぞ!本当なんだ!怪我なんてしてない!」

( ・∀・)「私はこの仕事に誇りを持っています。お客様を然るべきところへお送りすることが私の仕事。
      例え人身事故で自分の免許を剥奪されようと」

(;´・ω・`)「ぐ・・・!!もういい!車を止めて僕を降ろしてくれ!」

( ・∀・)「できません。それではひき逃げになってしまいます」



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 20:53:41.71 ID:AyApI6HH0

だめだ。これじゃあ話にならない。そう思った僕は、スーツの内ポケットをまさぐった。
そして、あの神様からもらったピストルを取り出し、わからずやの運転手の頭に押し付けて、すべての怒りを込めて言った。

(´・ω・`)「言ってるだろう?僕は急いでいるんだ。娘が、僕を待っているんだよ」

僕の表情と、こめかみに突きつけられたピストルをバックミラーで確認した運転手は、悲鳴をあげて車をとめ、すぐさまドアを開けて
逃げ出した。最初からこうしておけばよかった。

僕はすぐさま運転席に移ると、自分の家の方向へ向かって発進させた。

(´・ω・`)「はやく帰らなきゃ・・・しぃが待ってる・・・僕の帰りを・・・一人で」

あの運転手のせいでかなり家から離れてしまっていた。
僕は呪文のように同じセリフをつぶやきながら、今度こそ事故を起こさないよう気をつけて車を飛ばした。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 20:56:36.17 ID:AyApI6HH0

僕は神から貰ったピストルを、娘に使うつもりだった。
このピストルを受け取ったときから、ずっとそう考えていた。
せめて娘の願い事を叶えてあげて、そして死にたかった。

そのためにも、はやくしぃに会って願い事を聞かなきゃいけない。

今までに出会ったひと達とはもう会えない?しぃとはもう会えない?そんなバカな。会えないわけがない。
あの子には僕しかいないんだ。あんな最低の神の言うことなんて、くそくらえだよ。

そう考えていた僕の耳に、パトカーのサイレンが聞こえてきた。それも一台や二台じゃない。
どうやら僕の運転する車の後ろから聞こえてくるようだった。
そして、スピーカーを通した声も聞こえてきた。

『そこのタクシー!今すぐ車を脇に寄せて停まりなさい!!』

(#´・ω・`)「チッ、あのタクシードライバーめ・・・通報しやがったな・・」

もちろん止まるつもりなんてなかった。僕はアクセルをさらに踏みつけ、警察どもを引き離しにかかった。
それでも彼等はしつこく僕を追いまわした。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 20:59:42.93 ID:AyApI6HH0

その後何十分も追いかけっこを続けていたら、前方からもパトカーが現れたんだ。

しかたなく僕はわき道へ入ったよ。
その先は山だったんだけど、とりあえずそこに逃げ込んで隠れ、やつらをやり過ごそうと思ったんだ。

山に入ってしばらくすると、ライトの調子がおかしくなった。
僕を跳ね飛ばしたときにすこし壊れたらしい。
おかげで前方はまっくら。その先が崖になっていることにも、気づけなかった。

墜ちたよ、崖から真っ逆さまにね。何回も車は斜面を転がって、ようやく止まった。
体中を半端じゃない痛みに襲われて、これなら死ねるんじゃないかと思ったよ。
でも、どこも怪我はしていなかった。血も出てないし、あざもできてない。

車から這い出して、僕は木の群れの中に逃げ込んだ。
警察のやつら、逃げる僕を見逃したらしく、追っては来なかった。

山を下りたあとも、僕は諦めなかった。

通りかかった車の運転手に銃をみせて脅して、車を奪ったりもした。
だけどなぜか、自分の家に向かおうとするたびに邪魔が入って、娘に会うことはできなかったんだ。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:02:30.40 ID:AyApI6HH0


(-_-)「・・・・・」

(,,゚Д゚)「・・・・・それで、その後はどうなったんだ?」

男が語り終わってから、年配の浮浪者が聞いた。
もはや若い方の浮浪者は、口を挟まなくなっていた。

(´・ω・`)「・・・あらゆる方法でしぃに近づこうとしたけど、結局は駄目だった。
     ほかの知り合いにも会いに行ったけど、無理だっんだ」

(´・ω・`)「あるとき昔の友達の家にいったら、火事を起こしていた。
     拾った新聞に、その一家が全員焼死したって書いてあったよ。

     それ以来、しぃに近づいたら彼女も死んでしまうんじゃないかと怖くなってね。近づくこともできない。
     彼女の願い事がなんだったのかすら、僕は知ることができなかった」

(,,゚Д゚)「・・・」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:04:41.41 ID:AyApI6HH0

(´・ω・`)「ある日、知り合った男に頼んだんだ。
     このピストルで、僕の家に一人待ってる娘を、撃ってくれってね。僕や君たちのような、素性の知れない男に。

     しぃの願い事が何なのかは分からなかった。
     けど、とにかく他の人にそのピストルを使ってしまう前に、彼女に使ってしまいたかった」

(,,゚Д゚)「・・・それで、成功したのか?」

(´・ω・`)「・・・何日か経って、僕のところに戻って来たその男が何ていったと思う?」




『なんだよ、あの銃。弾が当たったのにあの女の子、何ともなかったぜ。
 仕方ねえからちゃんと俺がナイフで殺しておいてやったよ』



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:06:48.98 ID:AyApI6HH0


(,,゚Д゚)「・・・・・」

(-_-)「・・・・・・」

(´・ω・`)「・・・僕は空を見ながら、娘の願い事が何だったのか、ずっと考えていたんだよ。
     でも、もうそれを知る方法は、どこにもないんだ・・・どこにも。
     風の噂では、明日にも僕の家は取り壊されるらしい。帰るところも、なくなってしまう」

(-_-)「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・・・気の毒になあ。俺たちはみんな、ひとりぼっちなんだよ。あそこで光ってる星みてえによ・・・」

男は鼻をすすりながら、汚い夜空を指差した。たしかに、ひとつだけかろうじて輝いている星があった。

(,,゚Д゚)「そういえば、今日は七夕だな。んじゃあ、あの星は織姫か彦星かも―――」





(´・ω・`)「・・・・・そうだ・・・七夕だよ」



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:08:18.31 ID:AyApI6HH0

(,,゚Д゚)「・・・?」

(´・ω・`)「七夕・・・なぜ今まで気づかなかったんだ」

(,,゚Д゚)「ど、どうかしたか?」

(´・ω・`)「僕はしぃが書いたり造ったりしたものは、全部大切に保管していた。どんなものだって」

(,,゚Д゚)「・・・?」

(-_-;)「そ、そうか!そうだよ!」

いままで黙っていた男が急に立ち上がって言った。

(,,゚Д゚)「どうしたんだよ、二人とも」

(-_-;)「わかんないのか?あんた何年生きてんだよ!七夕ってやつは、笹を飾るんだよ!そして―――」

(´・ω・`)「・・・そう。願い事を書いた紙を、それに吊るすんだ。ということは」

(,,゚Д゚)「そうか!それを見れば、娘さんの願い事が分かるのか!」



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:09:53.13 ID:AyApI6HH0

(-_-;)「なあ!あんた覚えてないのか?娘さんがなんて書いていたか!」

(´・ω・`)「・・・いや、覚えていない。でも、その短冊もしっかりとっておいたはずだ。
     家の書斎の引き出しの中に箱があってね。そこにしぃが描いたりしたものを、全部保管してある。
     もちろん、短冊もね」

(-_-)「じゃあ、行こう!いますぐに!まだ残っているかもしれない!」

(´・ω・`)「・・・」

(,,゚Д゚)「・・・なあ、急ごうぜ!あんたの家が取り壊される前によ」

(´-ω-`)「・・・でも、娘の願い事をいまさら知ったところで・・・・・彼女はもう、いない」

(-_-)「それでも!行ってもらいたいんだよ!あんたには!」

(´・ω・`)「なんでそこまでして?君たちには関係ないだろう?」



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:11:55.10 ID:AyApI6HH0

(#-_-)「関係なくなんか無いさ!俺たちにだって、暖かい家庭があった!
    あんたみたいな、やさしい親父がいたんだ!その親父がこんな・・・
    こんな姿で空ばっかり見上げてるのなんか、見たくないんだよ!」

(,,゚Д゚)「そうだぜ。俺にも息子がいた。
    どうしようもないバカ息子だったが、あいつが残したものが手に入るのなら俺はなんだってやる。
    あんたはそう思わないか?」

(´・ω・`)「・・・」

(;-_-)「ああもう!立ち上がれよ!早くしないと二度と手に入らなくなるだろう!」



・・・そうだね。ボブ・マーリーも歌っていた。『Get up Stand up』と。
今が、そのときなのかもしれない。

(´・ω・`)「・・・・わかったよ。今度こそ帰り着こう、我が家へ」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:13:32.32 ID:AyApI6HH0


―――それから三人は、連れ立って街を抜け出した。
七月上旬の夜風は、ぼろきれしか着ていない彼等にはとても肌寒く感じられた。

(,,゚Д゚)「それより、どうすんだ?ここから近いのか?あんたの家は」

(´・ω・`)「かなり遠いね。山の麓にある」

(-_-)「なら足がいるね」

(´・ω・`)「・・・・・それなら、いい考えがある」

彼等は道路沿いで、震えながら待機していた。
やがて一台の車がこちらへやってくるのが見え、一人の男が道路に飛び出した。

案の定、彼は見事に自動車に跳ね飛ばされ、吹き飛んだ。
そして彼をはねた不幸な運転手は急ブレーキをかけ、車から降りて駆け寄った。

(;゚∀゚)「お、おい!大丈夫か!?くそっ、なんてこった・・・」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:16:08.29 ID:AyApI6HH0

(,,゚Д゚)「よお、にいちゃん。ずいぶん派手にやっちまったねえ」

(-_-)「このことは無かったことにしてあげるから、その車貸してよ」

突然現れた二人が運転手に詰め寄って脅し始める。

(;゚∀゚)「な、なんだと・・・!さては当たり屋か?おまえら!?」

男は二人を突き飛ばし、車に戻ろうとした。
が、すでに運転席には先ほど跳ね飛ばしたはずの男が我が物顔で座っていた。

(;゚∀゚)「おい!おまえなんで・・・!!」

(,,゚Д゚)「おおっと、その車は返さねえぞ」

(-_-)「警察に言われないだけ感謝してよ」

起き上がった二人に取り押さえられ、もがく運転手。
助手席の窓がひらき、車を奪った男が身をのりだして言った。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:17:30.07 ID:AyApI6HH0

(´・ω・`)「悪いね・・・少し借りるだけだよ。用が済んだらまたここに置いておくから、あとで取りにきなよ。

     ・・・・・それから二人とも、本当にありがとう。この恩は永遠に忘れない」


(,,゚Д゚)「食いモンと酒をくれたお礼だよ。それと、面白い話もしてくれたしな」

(-_-)「願い事を見てきたら、帰ってきて俺たちにも教えてくれよ。そのときはこっちがもてなすからさ」

(´・ω・`)「うん。わかった・・・・・それじゃあ」

そして彼は窓を閉め、山へ向かって車を発進させた。それを見送る二人は、その車に向かって親指を立てて幸運を祈った。

あわよくば、また彼に会えますように、と―――――



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:19:56.94 ID:AyApI6HH0

――――僕はなぜ、ここまでしてこの家にまた来たのだろう。
もう我が家には、愛しい一人娘も、妻もいないというのに。

ただ、僕は思い出したいだけだ。
もう一度、玄関を開けただいまと言って、リビングから返ってくるおかえりという返事を聞きたいだけだ。

娘が走ってきて、僕に飛びつく。彼女を抱きかかえながらリビングへ行き、娘をソファーに下ろす。
それから娘は今日描いたという絵を僕に嬉々として見せてくる。
よほど自信作なのだろう、ふんぞり返った彼女を前に僕は「上手になったなあ」と褒めてあげる。

お世辞じゃない。この絵は、ダ・ヴィンチやゴッホの絵よりも僕の心を動かすんだ。
そこには、僕としぃの二人が元気いっぱいに描かれていた。

それから仏壇へいき、クーに今日のことを報告する。写真の中の彼女は不器用に笑っている。
それでも、彼女は世界一美しかった。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:21:28.99 ID:AyApI6HH0

しぃの話を聞きながら夕食を食べ、そのあとテレビを見てしぃと笑いあう。

やがて眠くなった娘を部屋へ連れて行き、怖いというので眠るまでそばにいてあげる。
そして世界で二番目に美しいその寝顔を見ながら、布団をかけなおして「おやすみ」と言い、部屋を出る。

それで僕の一日は、幕を閉じるんだ。

幸せだったあのころを思い出し、胸に何かがこみ上げてきた。
もう、そんな日常は戻ってこない。分かっているんだ。
だから今は、この涙を拭って探し物をしなくてはいけない。



しぃが残した、願い事を。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:23:43.25 ID:AyApI6HH0


書斎らしき部屋に、そのかつての持ち主が立っていた。
使う人がいなくなったその部屋はほこりだらけで、蜘蛛の巣がいくつも張られていた。

(´・ω・`)「・・・・・あった」

大きめな机の一番下の引き出しを開け、中に入っていた大きな箱を取り出す。
それを持って、彼は書斎をあとにした。

彼が向かった先に、仏壇があった。
やはりそこもほこりだらけで、飾ってある写真は何が写っているのか分からないほどに汚れていた。
男はそれを服で丁寧に拭き取り、久しぶりに見る妻の顔を眺めた。

(´・ω・`)「・・・クー、ごめんよ」

彼は写真をそばに置き、持っていた箱を開け中身を取り出し始めた。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:25:25.90 ID:AyApI6HH0

(´・ω・`)「ずっとしぃのそばにいるって言ったのに」

彼の娘が、ずっと昔に描いた家族の絵。
ハの字の眉毛でやさしそうな瞳を持った男性と、髪の短めな女の子が、画用紙いっぱいに描かれていた。

(´・ω・`)「僕の不注意でさ、事故を起こしてしまったんだよ」

紙粘土でできた動物の置物もあった。猫だろうか。

(´;ω・`)「僕はただ、ただ早くしぃに会いたかっただけだったのに・・・」

幼い文字でびっしり埋め尽くされた作文。家族のことについて書かれている。
「だいすき」という言葉が、ひときわ大きく書かれていた。

(´;ω;`)「・・・神様は、ひどいやつだったよ。
     君は今しぃと一緒に天国にいるのかな?
     そうそう天国へはいけないって神様は言ってたけど、君たちなら絶対にそこにいるって信じてるよ」



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:26:53.66 ID:AyApI6HH0

そして、彼の動かす手が止まった。とうとう、探し物が見つかったようだ。
いつかの七夕の夜、笹に飾ったあとここに大事にしまった、娘の願い事が書かれた短冊。

それを手に取り、白々と明け始めた日の光にかざして読む。

(´・ω・`)「・・・・・ああ、そうか―――」

――――思い出したよ。いつも言ってたもんなあ。しぃ、ごめんよ。こんなお父さんで。





その瞬間、彼の意識は何者かに連れ去られた。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:28:08.84 ID:AyApI6HH0

――――前にもあったな、この感じ。

確かそのときは、目を開けるとそこは色鮮やかな部屋の中で、僕はソファーに座っていた。
そして神とか名乗る男が目の前に座っていたんだ・・・・・今みたいに。



('A`)「こんばんは。また、会ったな」

(´・ω・`)「・・・もう会うことは無いって言っていたじゃないか」

('A`)「気が変わったんだよ。神は何をしても許されるんだ」

神を名乗る男は腕を組んでそう言った。

(´・ω・`)「・・・・・いまさら何の用だい?できればその貧相なツラ、二度と見たくはなかったんだけど」

('A`)「おい・・・神にむかってずいぶんな口をきくようになったじゃねえか」

(´・ω・`)「・・・・・それで、僕になんの用があるんだ?」

神は立ち上がり、いつかのようにレコードプレイヤーのもとへ歩き、レコード盤を取り出して乗せ、針を落とした。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:29:39.29 ID:AyApI6HH0

('A`)「お前はさっき、自分の娘の願いごとを見たな?」

(´・ω・`)「・・・・・ああ、見たよ。しっかりと。なんで思い出せなかったのか、不思議だなくらいだ。
     いつも口癖のように僕に言っていたのにね」

彼はまた思い出してしまった。もう聞くことのできない、あのかわいらしい声を。あどけない笑顔を。

頭を抱える悲哀に満ちたその男を見て、神が言った。

('A`)「お前はあのピストルを他人に渡し、そいつに娘を撃たせた」

(´・ω・`)「ああ。だけど、しぃはそいつに殺された」

('A`)「だがその娘に弾が当たったのは事実だ。
   あとはお前が娘の願い事を叶えてやれば、お前は死ねるはずだった」

(´・ω・`)「・・・」

('A`)「お前の娘が短冊に描いた願い事は・・・」


(´・ω・`)「『おとうさんが いつまでも ながいきしますように』・・・・・だった」



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:34:13.40 ID:AyApI6HH0


それからしばらく、その部屋を古いスピカーから流れる音楽だけが包み込んだ。

小さな島国、ジャマイカ出身のそのアーティストの曲は、確かに生きることについて歌っているように聴こえた。

(´・ω・`)「・・・・僕は、どうなるんだい?これじゃあ・・・」

('A`)「そうだな。その願いをかなえるには、お前は生き続けなければいけない。
   だがそうなると、願いを叶えたら死ねる、という条件が無効になっちまう。さて、困った。どうしよう」

ふざけやがって。僕がどれだけ苦しんでいるのか、分かっているのか?
今まで気が狂わなかったのは、しぃとクーの思い出があったからだ。
それを思い出すたびにかつての幸せを感じ、そしてもう会うことのできない悲しみに襲われ、どれだけ涙を流したか。

お前は分かっているのか?

彼はもうこの部屋にいるのに耐えられず、自分の意思を神に伝えた。

(´・ω・`)「・・・・それなら、僕はしぃの願いを叶えるために、生き続けてやるよ。いつまでも。
     あんたの言う条件なんか、知ったことか。僕をあの世界に帰してくれ」



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:36:14.16 ID:AyApI6HH0

('A`)「そうはいかねえな。あまり調子にのるなよ、人間の分際で。
   てめえらは俺の命令にだけ従ってりゃいいんだ」

(#´・ω・`)「じゃあどうしろっていうんだ!!僕は生きればいいのか死ねばいいのか!
     さっさと決めたらいいだろう!!くそったれの神が!!」

( A )「・・・・・ああ、今決めたよ」

(#´・ω・`)「・・・」

言い過ぎただろうか。神に向かって。怒って僕を殺してくれはしないだろうか。
それならありがたいんだけどな。

('A`)「お前はもう一度生きて、そして死ね」

(;´・ω・`)「・・・・?」

その言葉を聞いた男は顔をあげ、神の表情をうかがった。どういうことなのか、説明してほしかった。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:38:19.52 ID:AyApI6HH0

('A`)「お前は一度死んでいる。トラックと衝突したときにな。
   その天に昇ろうとしていた魂をつかまえて、むりやり下界におしこんだのが今のお前だ。
   いうなれば手抜きの命。寿命を設定するわけでもなく、ただ生命を垂れ流しているだけの、なんの意味も無い命だ。

   生物ってやつはな。産まれて、生きて、そして死ぬことがその存在理由なんだ」

(;´・ω・`)「・・・それじゃあ」

('A`)「下界の時間を少し巻き戻して手を加え、そこにいまのお前を投下する。ちゃんと寿命を設定してな」

(´・ω・`)「・・・そんなことが、できるのか?」

('A`)「俺を誰だと思ってんだ。神だぞ。この世界を創った俺に、不可能なんてねえんだ」

('A`)「要するにな」

一呼吸おいて、神は言った。



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:40:12.31 ID:AyApI6HH0


('A`)「あの事故を、無かったことにしてやる」


(;´・ω・`)「・・・・!ほ、本当か!?本当に、すべてをあの頃に戻してくれるのか?」

神の言葉を聞いた男は、信じられないといった表情で問いただす。
もしも嘘だったなら、神だろうが八つ裂きにしてやる、と彼は思った。

('A`)「すべて、じゃねえ。手を加えるって言っただろ。今回はな、俺の不手際だったんだ。
   神にだって面子ってものがあるんだよ。それで、お前は同意するか?この案に」

(´・ω・`)「ああ、もちろんだ・・・・けど、前はそんなことできないって言ってなかったかい?」

('A`)「言ったよ。よほどのことが無い限りってな。今回は異例だったんだ。
   じゃあ、お前を下界に戻すぞ。いいか?さっさとこのマンドクセェことを、終わらせたい」



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:42:03.51 ID:AyApI6HH0


(´-ω-`)「・・・・・最後に一つ、言わせてくれ」

('A`)「なんだ?」

男は神にむかって、最後の言葉を言った。

(´;ω;`)「ありがとう・・・・・神様」

そしてすぐに、彼は意識を失った。

神は苦笑いを浮かべ、またレコードプレイヤーのところへ向かう。
そのとき神がつぶやいた言葉を、その男が知ることはなかった。


('A`)「・・・やれやれ。彼女を天国から連れてくるのに、手間がかかったぜ・・・」

それから神は、レコードをその手でとめた。



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:48:41.42 ID:AyApI6HH0


一台の車が、山の麓に向かって走っていた。

運転席には、一児の娘をもつ父親がハンドルを握って座っている。
暗い夜道を、彼は注意深く運転していた。

やがてその男は自宅へ無事たどりつき、車を降りて玄関へむかう。

彼がドアを開け「ただいま」と言うと、家の奥から「おかえりー」という幼い声が返ってきた。
その声に、思わず彼は顔をほころばせた。毎日聞いている声のはずなのに、なぜか涙が出そうになった。

靴を脱ぐ暇も無く、奥から走ってきた一人の女の子が彼に飛びついた。

父親は娘を抱きかかえながら靴をぬぎ、そのままリビングへむかう。
「また少し重くなったなあ」と彼が言うと、女の子は嬉しそうに笑った。

リビングのドアをあけ、女の子をソファーにおろす。彼女は今日描いたという絵を、父親に見せた。

家族三人がみんなで手をつないで笑っている絵だ。
彼は「上手だね」と言って娘のショートカットの髪を撫でた。



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/11/28(水) 21:50:05.45 ID:AyApI6HH0

(*゚ー゚)「おとうさんはね、あのね、あたしたちといっしょに、ずっとながいきするの!やくそくだよ!」

彼はそうはしゃぐ娘の頭を、もう一度撫でた。

スーツを脱いで娘の隣に座ったとき、今まで夕飯を作っていた彼の妻がやってきて、不器用に笑いながら言った。


川 ゚ー゚)「おかえりなさい、あなた」



(´・ω・`)「・・・・・ああ、ただいま。クー」





(´・ω・`)としぃの願い事 

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この記事へのコメント
  1. Posted by   at 2007年12月12日 03:54
  2. マジに泣いた
  3. Posted by 2 at 2007年12月12日 06:24
  4. 読みいってしまったよ。作成者に御礼・・・。
  5. Posted by    at 2007年12月12日 11:28
  6. BGMはジャズかな
    無駄な属性付けとかくどい自分ツッコミがなくてよかった。

    批評してからなんだが純粋に良かった。感謝を伝えたい。
  7. Posted by lock at 2007年12月12日 14:26
  8. 4
    BGMはどう考えても作者的にはレゲエだろ???
    最近のうるさいやつじゃあなくて、昔ながらの。

    作者さん、凄く良かったよ。
    ありがとう
  9. Posted by at 2007年12月12日 15:09
  10. 泣かすなよぉ(T_T)
  11. Posted by   at 2007年12月12日 18:09
  12. これは感動した。
    作者さんお疲れ様です!
  13. Posted by アラバマ州 at 2007年12月12日 19:04
  14. 私スイーツだけどボブマーリーにもありがとうって言った方がいいと思う
  15. Posted by VIP774 at 2007年12月13日 18:27
  16. マジ泣きした。

    これぞ泣ける2ちゃんねる
  17. Posted by 名無し at 2015年04月04日 17:32
  18. しぃちゃんが生き返って良かった