2008年09月25日

( ^ω^)変わった人達のようです その2

( ^ω^)変わった人達のようです その1の続き

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:21:11.06 ID:CcPdhQurO

それは、誰も愛さない彼女の話。

それは、僕の愛した彼女の話。

それは、挟み込まれた彼女の話。

彼女は彼女を僕から奪い、他に何を求めるのでしょうか。


『みっつのひとつ。』


始まりは、三人の関係。



75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:24:02.01 ID:CcPdhQurO

ぱたん
かちゃん。

僕は何を考えるでもなく、ただ背筋に未だ感じるぞわぞわを持ったまま、少しだけ移動しました。

3と書かれた扉の前に立ち、僕は深呼吸をします。

この扉の向こうには、彼女がいるからです。


かちゃ。



77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:27:09.42 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「あ……内藤さん」

( ^ω^)「……デレちゃん、こんにちはだお」


薄茶の巻き毛を揺らして僕を見る彼女は、ベッドで膝を抱えていました。
その隣に寝転がる彼女の姉は、眠る様に目を瞑っています。

僕はその柔らかそうな金色の巻き毛を見つめて、視線を外してドアを閉めます。


ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、どうぞ……何もありませんけど、座ってください」

( ^ω^)「……有り難う、だお」


少し戸惑いがちに話す彼女はへなりと笑って、僕は促されるがままに椅子に座ります。

ぎこちない笑顔。

少し俯く彼女は、横たわる姉を見て、笑顔に含まれた戸惑いを濃くしました。



79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:30:07.53 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「あの、内藤さん…………どうしたんですか? ……その、いきなり……」

( ^ω^)「……話を、聞きたくて」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

( ^ω^)「なんであんな事をしたのか……」

ζ(゚ー゚*ζ「なんで、こんな事をするのか」

( ^ω^)「聞かせてもらえる、かお?」

ζ(゚ー゚*ζ「……内藤さんもご存じの事ばかりだと、思います……それでも、よろしければ……」

( ^ω^)「…………お願い、するお」

ζ(゚ー゚*ζ「……分かりました、分かりづらいかも、知れませんが……」

( ^ω^)「それでも、お願いするお」

ζ(゚ー゚*ζ「はい……」


始まりは、三人の関係の変化だった。



80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:33:10.02 ID:CcPdhQurO

彼女らは双子でした。
良く似た、可愛らしい双子でした。

気が強く、誰に対してもはっきりと物を言うしゃんとした姉。
少しばかり気の弱い、控えめで姉の後をついて歩く妹。

二人には幼馴染みの男が居て、その男は姉が好きでした。
そして、妹も姉が好きでした。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんはとても綺麗で、可愛くて、私には無い物ばかり持っていました。
      私はそんなお姉ちゃんが大好きで、尊敬していたんです」


幼い頃から三人は良く一緒に遊び、話し、男が姉をからかい、すぐに熱くなる姉、その姉を宥める妹。

その関係を維持したまま、時は流れて三人は高校生になります。


それでも暫くは変わる事の無かった関係。
歳を重ねても、いつもいつも、変わらずに居ると。
そう、思っていたのです。



82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:36:10.67 ID:CcPdhQurO

けれどある日、男が姉に好きだと告白をしました。

姉は困った顔をしましたが、照れた様に笑ってその申し出を受けたのです。


妹がそれを知ったのは、数日後。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんに恋人が出来たと知った時は、驚きました。
     もちろん祝福をしようと思いましたけど、けど、
     何も言わずに恋人を作って、お姉ちゃんからは何も言わなくて……。
     何だかよく分からないけれど、凄く……寂しかったんです」


妹は、姉と男が二人で並んで歩く姿を見ていると、どうしようもない孤独に苛まれました。

幸せそうに笑って歩く二人が羨ましい。
けれどその羨ましいと言う感情は、どちらに感じる物なのか。
恋人同士と言う関係にか、姉にか、それとも、男に、か。


ζ(゚ー゚*ζ「ずっとずっと考えてました、二人が歩く後ろを、数歩引いて。お姉ちゃんの笑顔が寂しくて」



85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:39:28.62 ID:CcPdhQurO

そんな事ばかり考えていたある日、夜中に目の覚めた妹は何かを飲もうと部屋を出ました。
廊下を歩いていると、姉の部屋から光が漏れている事に気付きます。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんが夜中に起きてるなんて珍しいと思って、覗いてみたんです」


ドアの向こうには、膝を抱えて横たわる姉の姿。
その手には何かが握られていて、妹にはそれが何か分かりませんでした。

けれど姉が手をそっと開き、ころりと転がり落ちる小さな何か。

それは、細く小さな指輪。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんは、指輪を何度も拾って転がしてを繰り返してました。
      私は何をしてるのかよく分からなくて、お姉ちゃんは虚ろな目をしてたから、
      覗くのをやめて部屋に戻ったんです」


小さなピンクの石がついた、可愛らしい指輪。
妹がその正体を知ったのは、翌日でした。



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:42:04.16 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんの右手に、薬指に、あったんです……その、指輪が」


指輪をつけた姉と、それを喜ぶ男。
二人の後ろ姿に、指輪の意味が分かりました。

あれは、男が姉に渡した物。
つまり、二人は


ζ(゚ー゚*ζ「指輪を渡す様な関係に、なってしまったんだ、と…………それを見ていたら、なんだか胸が、気持ち悪くなりました」


理解不能なもやもや。
胸に抱えた暗くて重いそれをどうすれば良いのか分からなくて、妹は二人の背中から、また、離れて行きます。


何日も、何日も
妹の中にたまったもやもやは無くなる事は無く妹の中に存在し続けました。

無くなるどころか肥大して行くもやもや。
妹はすっかりふさぎこみ、姉を見る事すら躊躇う様になりました。



88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:45:06.51 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「それと……ああ、ある時リビングに行ったら、お姉ちゃんがソファで寝ていました」


制服のまま横たわる姉は、しなやかな白い足を投げ出して眠っています。
整った顔立ち、やわらかな巻き毛、長い睫毛、形の良い、唇。

その姿はひどくひどく美しく、妹は姉の寝顔に見とれながら、少しずつ身体を動かして。

姉に、覆い被さりました。


ζ(゚ー゚*ζ「綺麗でした……すごく、甘い匂いがして……お姉ちゃんは、きれいなんだなあ、って……」


姉に覆い被さった妹は、躊躇う事無く、唇を重ねました。
少し弾力のある柔らかさ、心地よさ。
ふわりと鼻をつく姉の匂いは、とても優しくて華やかでした。


『デ、レ?』


唇を離したその瞬間、洩れる声。



90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:48:40.37 ID:CcPdhQurO

姉は驚いた顔で間近にある妹の顔を見つめていました。

その姉の表情を見た妹は、はっとして一瞬だけ身を引きましたが、不意に動きを止めて。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん、驚いた顔も、きれい…………色んな顔が、見たくて……私は、お姉ちゃんを貪りました」


二人以外は誰も居ない家。
腕を押さえつけて、服を脱がせて、小さな胸を覆う下着を剥ぎ取って。
白い太ももを撫でながらスカートの中にするすると手を入れて、下着越しに触れて。

頬を、鎖骨をぬらりと嘗めました。
首筋に、乳房に優しく噛み付きました。
内腿へ、脚の付け根へ指先を動かして。

妹はただ貪欲に姉の表情を楽しみました。
姉の身体を犯しながら。


ζ(゚ー゚*ζ「私、気付いたんです……私が好きなのは、お姉ちゃん…………ただ、お姉ちゃんが好き……」



91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:51:19.77 ID:CcPdhQurO

ただただひたすらに身体を弄ばれていた姉は、ろくな抵抗も出来なくて。
荒い息と虚ろな目を妹に向けて、問いました。


『私が、嫌い?』


ζ(゚ー゚*ζ「とんでもない、とんでもないんです。
      私はお姉ちゃんを嫌う様な事は絶対ありません。
      だから私は言ったんです、お姉ちゃんの薬指を噛むのをやめて」


虚ろな目をしてぐったりとしている姉の頬に貼り付いた巻き毛を払って、妹は、にっこり。


ζ(゚ー゚*ζ「私が好きなのはお姉ちゃん、お姉ちゃんが好き、きっとずっと昔から、私はお姉ちゃんが好き、誰にも渡すものか」


口許にだけ浮かべた笑みをそのままに、妹は姉へと告げました。
姉の表情を見ていると、胸のもやもやは消えていった。
姉に触れていれば消えた。


ああ、もしかして、これは恋ですか?

姉に抱いたこれは、恋だったのですか?



92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:54:06.02 ID:CcPdhQurO

翌日から、妹は己の感情を隠す事を止めました。

姉と男が並んでいるならば、そこに割り込んで姉の手を握り。
姉が男と出掛けて帰ってきたなら、その場で姉の服を脱がせて。

姉に男が寄り添いあって居るのなら、
男を殴って、姉の側から引き剥がして。

妹の男を見る目はひどくひどく冷たくて、姉が見ていようが気にする事もなく殴って、蹴り上げて。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんの隣は渡さない、恋人だなんて許さない。
      私は、嫉妬していました。
      今まで何の躊躇いもなくお姉ちゃんの横を陣取っていた、あなたに」


流石の男も妹がおかしいと気付いたのか、姉にその事を問いただしました。
けれど姉は何も答えず、小さく笑って、ごめんなさい。

それでも男は、姉を守らなければならないと言う感覚に陥りました。
どうすれば妹は目を覚ますのか、そんな事を考える男の耳に届いた言葉。


『ねぇ、別れよう』


姉は小さな笑顔を崩す事なく、そう、囁いて。



93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 21:57:07.88 ID:CcPdhQurO

 『私はあなたを男として好きになれるのか分からない、それでも良いのなら、こんな中途半端な女で良いのなら、お付き合いします』


姉が男の告白を受けた時の、言葉。
それはあまりにも不安定で、姉はもう崩れ落ちそうなくらいで。

にこりと笑った男は、姉の頭を撫でて頷きました。
突然切り出された別れを、受け取って。



ζ(゚ー゚*ζ「ざまあみろ。
      真剣にそう思ったあの時の私は、最低でした…
      …でもこれで、お姉ちゃんを私の物に出来る……その気持ちでいっぱいで……」


それでも薬指の指輪を外さなかった、姉。
指輪を返そうとして、男に首を振られた姉は、小さく泣いてその指輪を、薬指に。

決して外す事のない指輪は、姉を求める妹にとってひどく邪魔な物でした。



ζ(゚ー゚*ζ「やっと解放されたのに、私のものに出来るようになったのに、
      あの指輪があると、あなたの顔が浮かんでくる。
      邪魔、でした」



96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:01:00.24 ID:CcPdhQurO

男は姉を友達として接し、妹は姉を女として接しました。

なんともないと言う様な顔をして笑う男、ただひたすらに姉を求めて笑う妹。

もう、限界だったのでしょう。


ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんの部屋に入ったら、そこにはお姉ちゃんがぶらさがっていました。
      だらん、と舌を出して、目を飛び出させて……」


首を吊った姉を下ろした妹は、呆然として姉の姿を見詰めます。

あんなに美しかったのに、あんなに愛らしかったのに。
この顔は、姿は、いったい。

変色したた姉は、ぱんぱんに膨れた顔は、どこも、美しくはありませんでした。

妹は必死になって姉の美しい部分を探します。
すると見つけた、一枚の紙。



97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:03:51.62 ID:CcPdhQurO

『私はきっと、死んでいるのでしょうね
 肺の中に水がたまる様な感覚は、
 私を少しずつ少しずつ崩した。
 しょうがなかった、
 悲しかったけれどそう思います、
 愛してくれてありがとうデレ、
 世界の誰よりも大好きでした。
 内藤、ごめんね、
 いっぱい、沢山の思いをくれたのに。

 桃色の石がついた指輪、
 嬉しかった、すごく
 いいのかなこんなの貰ってって聞いたら
 優しく、内藤は私の頭を撫でたね

 最初にくれたプレゼント、
 喜んでくれたかなって聞いたね、
 嬉しかったんだ、実は、すごく
 何言ってるの、当たり前でしょ、なんて、
 来年もまた一緒に過ごそうって言ったのに。

 ごめんなさい、二人とも』



101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:07:08.00 ID:CcPdhQurO

妹は手紙を握り潰して、姉の薬指を見下ろします。
近くにあったデザインカッターを取って、姉の薬指を、ごりごりごりぼき、ぶちん。

他の部位よりも美しいそこを胸に抱いて、妹は姉の部屋を出て行きました。




ζ(゚ー゚*ζ「これで、おしまいです」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

ζ(゚ー゚*ζ「綺麗なお姉ちゃんが好きでした、だからお姉ちゃんの綺麗だったところがほしかったんです。
      双子の姉を愛しちゃいけないなんて事、ありませんよね?」

( ^ω^)「だから……」

ζ(゚ー゚*ζ「だから、指を切りました。
      お姉ちゃんは綺麗でなきゃいけないから、
綺麗なところを引きちぎって、胸に抱いていたんです」

( ^ω^)「…………」

ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、私は」

( ^ω^)「もう……失礼、するお」



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:10:09.40 ID:CcPdhQurO

ζ(゚ー゚*ζ「……分かりました」

( ^ω^)「お邪魔しましたお……」

ζ(゚ー゚*ζ「……内藤さん、私は─────」



あなたを殺したい。


ドアを閉めるより早く舞い込んだ彼女の言葉に、ドアを閉めた僕は泣き崩れました。

どうして、どうして
そんなに僕が嫌いだったなんて


その場で膝を抱えて泣きじゃくる僕は、ただ嗚咽を堪えるだけで、精一杯、でした。


『みっつのひとつ。』
おしまい。



105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:13:01.18 ID:CcPdhQurO

それは、縛る事を喜ぶ彼の話。

それは、縛られる事を喜ぶ彼の話。

それは、二人が選んだ拘束の話。

彼らは何を縛り、何に縛られ、その先の何を求めるのでしょうか。



『よっつのかせで。』


始まりは、四つの言葉。



107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:16:01.64 ID:CcPdhQurO

僕は袖で涙を拭い、ぐずりと鼻水をすすってから、ひとつ咳をしました。

のろのろと立ち上がって、目元を擦りながら少しだけの移動。

もう考える事を止めたくて、ぼんやりした頭をそのままに、4と書かれた扉を開けました。


がちゃん、ぱたん。



109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:19:07.94 ID:CcPdhQurO

部屋の主はベッドの側面に立ち、ベッドに転がるその親友の髪を撫でていました。
室内に足を踏み入れれば、こちらへ向く大きな目。

無表情にこちらを見た彼は、少しだけ笑って、椅子を指しました。


( <●><●>)「お久しぶりです、内藤さん」

( ^ω^)「久しぶりだお、ワカッテマス」

( <●><●>)「どうぞ座って下さい、ビロードは寝ていますが」

( ^ω^)「いやいや、いきなり来て申し訳ないお。失礼しますお」

( <●><●>)「どうぞ、さて、何からお話ししましょうか」

(;^ω^)「お、お?」

( <●><●>)「話を聞きに来たんでしょう?」

(;^ω^)「そ、そうだけど……」

( <●><●>)「それくらいの事は分かってます」



111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:22:19.98 ID:CcPdhQurO
( ^ω^)「流石はワカッテマスだお……、じゃあ、お話を聞かせてもらえるかお? 何故、あんな事をしたのか」

( <●><●>)「はい、何故こんな事をしているか、ですね」


彼はベッドに浅く腰掛けて、横たわる親友の顔を眺めながら返事をします。
それは昔から何ら変わらない事で、口と目が同じ物を追わないのは相変わらずでした。


( ^ω^)「聞かせて、もらえるかお?」

( <●><●>)「非人道的だと自分でも分かってます、だからどうぞ、遠慮なく言ってください」

( ^ω^)「そんな事、僕は思わないお」

( <●><●>)「……相変わらずですね」

( ^ω^)「そっちこそ」

( <●><●>)「では、ええと、何からお話ししましょうか」


親友の髪を撫でる事を止めずに、彼は首を捻ります。
そして、彼の横顔はゆっくりと口を開きました。


始まりは、彼が発した四つの気持ちだった。



114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:25:04.08 ID:CcPdhQurO

二人の出会いは校舎裏。
大した理由も無く虐められていた彼に声をかけた、転校生の、彼の親友となる彼。


『やめるんです! そんな事して何になるんですか!』


歳よりも幼い顔をした、おとなしそうな彼が怒鳴った事により、男子達は驚き、悪態をついて立ち去って行きました。
頬に擦り傷を作って座り込んでいた彼は、幼い顔をした彼を見上げて首を傾げます。


( <●><●>)「最初、驚きました。どうして彼が僕を助けたのか分からなくて……でも、彼に悪意等が無い事は、分かっていました」


幼い顔をした彼は、彼の頬の傷を少し撫でてから、手を引いて立ち上がらせました。
けれど彼の方が背が高く、幼い顔をした彼は立ち上がらせた事でバランスを崩して転んでしまいます。

制服の襟元を直して、彼は少し笑って、幼い顔をした彼を立ち上がらせました。


『えへへ……』


照れ臭そうに笑う幼い顔をした彼。

その日から、彼と、その幼い顔をした彼は、何故か一緒に行動する事が多くなりました。



116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:28:12.72 ID:CcPdhQurO

最初こそ、わけも無く虐められていた彼は幼い顔をした彼を信じずに突き放していました。

けれど幼い顔をした彼は、何度突き放されても彼の後ろをついて歩いて諦めずに話しかけ続けるのです。

ついに根負けした彼は、幼い顔をした彼を少しずつ構う様になります。
そこから二人の仲が良くなり、友人となるのに、時間は掛かりませんでした。


( <●><●>)「よく分かりませんが、僕とビロードは波長が合ったのでしょうか。
       最初は鬱陶しいだけでした、ただ気まぐれで助けたのだろうと思っていました。
       けど、彼はずっと、僕に話しかけてきて…
       …返事をしなければ、いけないような気がして」


幼い顔をした彼は、あっという間に彼の親友へと。


『ワカッテマス君、今日は怪我はないんですか?』

「そう毎日はしませんよ」

『なら良かったんです!』

「……ビロード」

『はい?』

「どうして、僕に話しかけてくれたんですか?」



119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:31:35.27 ID:CcPdhQurO

二人で昼食を摂りながら、彼は親友に問いました。
ひどく真面目な顔をした彼に、親友は首を傾げて、俯いて、持ち上げていた箸を下ろしてしまいます。


『僕が転校生なのは、覚えてますか?』

「分かってます、半年前に転校してきました」

『僕は、前の学校と、小学生の頃に……虐められてたんです』

「…………ビロード……」

『でも、僕はお父さんの都合でここに越してきたんです、僕が虐められてた事を知る人は居なくなりました……僕を虐める人も、ここには居ません』

「……はい」

『だから、凄く楽しくて、嬉しくて……でも、また何かあるんじゃないかって、少し怖くて』

「……」

『そんな時に、ワカッテマス君が虐められてるのを見付けたんです』

「はい……」

『……前の自分と、だぶって見えたんです…………もう、虐めとか、嫌で……』



121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:34:04.83 ID:CcPdhQurO

「それで、僕を?」

『はい、昔の自分みたいに虐められてる人を放ってなんかおけなかったんです。
 虐められるのは苦しいって僕は知ってるのに、放っておくなんて出来なかったんです』

「…………」

『……ごめんなさいなんです、こんな、理由で……』

「いえ……有り難う、ビロード」

『……そん、な、』

「中学で、初めての友達です、ビロードは……嬉しいんです、僕は」

『ぁ……僕も、初めての友達なんです……有り難うなんです、ワカッテマス君!』

「…………弁当、食べなさい」

『あ、ワカッテマス君照れてるんです! そっぽ向くのやめるんで あでっ』

「…………」

『……お箸でデコを刺さないで下さいなんです……』



123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:37:08.21 ID:CcPdhQurO

( <●><●>)「ビロードと過ごす時間は、どうしようもなく楽しかった……どうやらビロードも楽しんでくれているみたいで、とても嬉しかったのを覚えています」


彼と親友はいつも一緒に行動していました。
二人が一緒に居れば彼が虐められる事も減り、彼らの色の少なかった生活はひどく色付きました。

けれど、彼が抱く、妙な違和感。


「あ、ビロード……」

『うん、うん、そうなんです! ワカッテマス君は……あ、ワカッテマス君! どうしたんです?』

「……いえ、何でも」

『? ワカッテマス君?』

「何でもありません、大丈夫ですよビロード」

『あ、ぅ?』


親友が他の誰かと話していると感じる、胸の違和感。
同年代の誰かと楽しげに話す親友の姿は、何故か、見ていると苦しくなるのです。



127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:40:03.87 ID:CcPdhQurO

その妙な違和感は、嫉妬や、不安。


( <●><●>)「ビロードが僕の側から居なくなるんじゃないか、
       そう考えると沸き上がる胸の違和感に、僕は苦しみました。
       けれどこんな事をビロードに言えるわけも無くて、
       僕が脆弱な神経をしているだけだと、分かっていました」


それでもぐるぐる渦巻き沸騰する様な不安や嫉妬は彼を侵し、何時でも胃を痛めている様な状態にまで。

その頃には、彼は何と無く気付いていました。

彼の視線が追う物に。


( <●><●>)「自覚した事はありませんでした、ただ髪や首筋が綺麗だと思うだけで。
       自覚は、していませんでした、男の彼が好きだなんて」


同性愛なんて非生産的で不毛な物。
気色の良い物では無い、自分には関係無い。下らない。


( <●><●>)「そう、思っていたのに」



129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:43:16.95 ID:CcPdhQurO

奇妙な背徳感、後ろめたさ、罪悪感、自己嫌悪、不安。

良くない物がぐるぐるとする中、彼は自分が親友に依存しすぎていると気付きます。
それは彼にとって、愕然とする事。


( <●><●>)「一人でも大丈夫だと思っていました、平気なんだと、
       誰かに依存する事なんてないと思っていました。
       なのに、僕はビロード無しでは
       息も出来ない様なくらいに、依存していたんです」


追加される苛立ちに、彼は親友に冷たく当たる様になります。
それにより覆い被さる罪悪感、罪悪感を消したくて、余計に冷たく当たる。
どうしようもない、悪循環。


『あ、の……ワカッテマス、君』

「何ですか」

『僕は、悪い事を……その、しました、か?』



132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:46:17.59 ID:CcPdhQurO

「さあ、」

『わっ、分かんないんです! 僕は頭が良くないから分かんないんです!
 あれをするなとか、これを見るなとか、言うなとか! 言って下さいなんです!
 悪いとこはちゃんとなおすんです、なおる様に気を付けるんです……
……だから……だか、ら……』

「……ビロード、」

『だから…………一人に、しないで下さい、なんです……』

「…………ぁ……」


 涙を堪えるように、俯いて言う親友の言葉は震えていました。


( <●><●>)「頭が悪いのは、僕の方でした。
       一人になるのが嫌だと思うのは僕だけだと思って、
       ビロードの事を考えなくて。
       ……でも、」


ついにぼろぼろと涙を溢す親友に抱く、溢れんばかりの罪悪感。


そして、ひずんだ愛情。



133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:49:15.46 ID:CcPdhQurO

( <●><●>)「もう、道徳とか、非生産的だとか、どうでも良くなりました。何もかも、下らないと思えました」


彼は親友の頭を撫でて、勢い良くあげられた顔を見て、頬に流れる涙を拭って。

唇を、奪って。



『……ぇ、』

「ビロードは何も悪くありません、悪いのは僕です」

『ワカッテマス……君?』

「……今日、帰りに、僕の家に来て下さい」


そう告げて、彼は学校を早退し、呆然とする彼を放置して帰宅しました。

帰宅途中に、犬の首輪と、鎖を買って。



ぴん、ぽん。
がちゃり。



136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:52:13.59 ID:CcPdhQurO

「ああビロード、上がってください……誰も居ませんが」

『は、い……なんです』

「そこに座っていて下さい、飲み物でも持ってきます」

『い、いいんですっ……それより、あの、その……聞かせて、ほしいんです……』

「何をですか? 僕が冷たく当たった理由をですか?」

『それも、だけど……その…………』

「じゃあ、ビロード……ここに居てくれませんか?」

『? 良いですよ?』

「ずっと、居てくれませんか?」

『……ぇ、?』

「ここに、ずっと、ずっと、」

『ワカッテマス……君?』

「僕の、側、に」

『ぁ…………あは、分かり、ました……側に、居ます』



137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:55:12.20 ID:CcPdhQurO

「良いんですか?」

『はい、なんです……それが、ワカッテマス君の……返事、なら……』


かちゃり、はめられた首輪から、ベッドに繋がる長い鎖。


「僕以外、何も見ないで下さい」

『はいなんです』


数日が経った、彼らは何故か幸せそうだった。


「何も、考えないで下さい」

『はいなんです』


数週間が経った、彼らは変わらず幸せそうだった。



139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:58:04.60 ID:CcPdhQurO

「何も、言わないで下さい」

こくり。


数ヵ月が経った、親友の食欲が急激に減った。


「僕は、君が好きです」

こくり。


半年が経った、親友はいつの間にか彼を想うようになっていた。


「君は、僕が嫌いですか?」
ふるふる。


更に数ヵ月が経った、親友は痩せ細り、歩くこともままならなくなった。



142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 22:58:55.93 ID:CcPdhQurO

「ビロード、僕を愛してくれますか?」

こく、り。


一年が過ぎた、彼らは盲目的な愛を覚えた。


「ビロード、僕は君を愛しています」



更に数ヵ月が経った、親友は動かなくなった。

更に数ヵ月が経った、彼はいつまでも親友に寄り添って眠っていた。

更に数ヵ月が経った、生きているのか死んでいるのかも分からなくなった。

更に数ヵ月が経った、それでも彼は幸せだった。

更に数ヵ月が経った、外が騒がしくなった、それでも彼は親友に寄り添って眠った。



145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 23:02:02.01 ID:CcPdhQurO

( <●><●>)「これで、話は終わりなんです」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

( <●><●>)「お互いに初めての友達でした、友達と言う区切りが何処までなのか、
       僕には分かりませんでした。
       どれだけの事を友達に求めて良いのか、分かりませんでした…
       …それは、お互いが、でした」

( ^ω^)「だから……」

( <●><●>)「だから、彼を縛りました、僕だけの友達であってほしくて。
       お互いに傷があって、お互いが初めてで、
       何も分からなくて……友情も愛情も、分からなくなったんです。
       もう、お互いがお互いを盲目的に愛するようになって、それでも、……」

( ^ω^)「……」

( <●><●>)「良い事だとは思いませんでした……寧ろ、悪い事だと思いました。
       それでも……僕は、ビロードを愛してしまったんです…
       …何度も、何度も……ビロードは、僕に縛られる事が、好きだって……」

( ^ω^)「ワカッテマス……」

( <●><●>)「……すみません、こんな話を長々と」

( ^ω^)「ううん、有り難うだお……話を聞かせてくれて……それじゃあ、失礼するお」

( <●><●>)「はい、内藤さん…………僕らは─────」



146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/24(水) 23:06:08.86 ID:CcPdhQurO

無知だったんですね。


ぱたん、と扉を閉めた僕は、ドアにもたれ掛かって天井を仰ぎました。


無知の愛とは、こんなにも恐ろしくて、まっすぐで、それは恋ではないと言うのに。

それでも、幸せそうで。


良く分からない、羨ましいような、恐ろしい様な感情を仕舞い込むように、僕は瞼を閉ざしました。



『よっつのかせで。』
おしまい。




( ^ω^)変わった人達のようです その3に続く

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