2009年02月21日

( ^ω^)の涙のようですその2

目覚ましの音が聞こえる。そうだ、今日は学校に行くと母に言ってしまったんだ。
のそりと起き上がる。そのとき、ベッドから何かが落ちた。ショボンだ。

忘れていた。そういえば布団の上でショボンが寝ていたんだ。ブーンは慌ててショ
ボンに駆け寄った。しかし、ショボンは動かない。何事もなかったかのようにすやす
やと寝ている。

ブーンは呆れてしまった。この調子では今起こったことも覚えてないに相違ない。
それにしてもねぼすけの涙なんて聞いたことがない。いや、涙が活動するという話
自体聞いたことがないが。ショボンがねぼすけなのか、涙は皆こうなのか、判断し
かねた。



77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:30:41.87 ID:Gpvvevlw0
だが寝ていてくれるなら、それはそれで助かる。ブーンは体調を確かめてみる。良
くはない。けど、何とか学校には行けそうだ。これで母との約束を違えないですむ。

顔を洗って制服に着替える。荷物を持ち、扉の前で深呼吸する。よし、大丈夫。今日
一日寝て過ごせばいい。いつも通りだ。

ブーンが気持ちを落ち着かせ、ドアノブに手を掛けた瞬間。



(´・ω・`)「学校に行くのかい?」

背後からショボンに話しかけられる。

( ^ω^)「起きてたのかお?」

(´・ω・`)「ひどいなぁ」

よっこいしょ、と言いながらショボンは床から起き上がり、ブーンの足元まで来る。

(´・ω・`)「起こしてくれても良かったじゃないか。ブーンは、一人で学校に行くつもりだっ
たの? 僕を置いて?」

当たり前じゃないか、と喉まで出掛かって、その言葉を飲み込む。



78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:31:54.90 ID:Gpvvevlw0
この部屋で一人ブーンの帰りを待つのは寂しすぎる、そう思った。それに、
いきさつはどうあれブーンがショボンを生み出したのなら、しっかり面倒をみ
る義務がある、とも思った。

足元を見てみるとショボンはブーンの足をよじ登ろうとしている。頭に乗りた
いのだろう。そう察してブーンはショボンを優しく掴み、自分の頭の上に乗せて
やる。

( ^ω^)「悪かったお。置いていかないお」

(´・ω・`)「うん。そうしてくれると僕も嬉しいよ」

そんな会話をして外にでる。

玄関をでるブーンの足取りは、ショボンを乗せて少しは重くなっているはずな
のに、なぜだかいつもよりも軽い気がした。



おおよそ普通の生徒よりも早い登校時間。ブーンはいつもこの時間に学校に
向かう。いつだったかのようにそわそわして、ではない。登校途中の生徒達に会
いたくないのである。

いつだって孤独を感じるのは一人きりよりも群衆の中――。なるほど、確かに
真理だと思う。しかし、その真理を知るための対価としては、この孤独は過払い
に過ぎるのではないのかと思えた。



80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:33:12.46 ID:Gpvvevlw0
(´・ω・`)「ねぇねぇ、なんでこんな早くに登校するのさ?」

ショボンが他意なく聞いてくる。

( ^ω^)「人に会いたくないんだお」

ブーンも他意なく答える。

ショボンはふーん、と返事をするとブーンよりも高いであろう目線で景色
を眺め始めた。

興味がないのか、全てを察するにはその一言でよかったのか。どちらに
しろブーンにはありがたいことだった。もし根掘り葉掘り質問されていたら、
平常心を保ったまま答えられる自信はない。自分自身の心臓を、どうぞ、と
言ってさらけ出せるほどブーンは強くなかった。

学校が近付いてきた。心配はないと思うが、一応ブーンはショボンに声を掛
けた。

( ^ω^)「ショボン、学校にいるときは僕の内ポケットにでも隠れてて欲しいお」

(´・ω・`)「また昨日みたいに誰かに見られたら困る、ってことかい?」

ブーンは頷く。

(´・ω・`)「そうか。まぁ僕にとっては歓迎できる提案じゃないけど、そう言うなら
従うよ」



81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:34:29.68 ID:Gpvvevlw0
ショボンはブーンの頭から器用に降りてきて、制服である紺色のブレザーの内
ポケットに収まる。

(´・ω・`)「ぴったりだ。ぴったりすぎて窮屈だな」

無駄口を叩くショボンを嗜める意味で、ブーンはブレザーの襟を掴み軽く上下さ
せた。

教室に入ると、ブーンは一目散に自分の席へ向かい、いつもそうしているように
机に突っ伏した。“自分は寝ているぞ”というサインだ。

しかし今日はどうも眠れない日らしい。だからといって体を起こす理由にはなら
ず、息苦しい姿勢のままブーンは今日が早く終わることを祈った。

(´・ω・`)「ねぇ」

体勢のせいか、ショボンの声が近くから聞こえる。どうもショボンのいる内ポケッ
トを覗いている形になっているらしい。

(´・ω・`)「誰か教室に入ってきたよ。挨拶しないの?」

そう聞いてくる。

( ^ω^)「しないお」



83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:35:42.67 ID:Gpvvevlw0
とブーン。確かに人の気配がする。しかしそれを確かめるわけにも行かない。
顔を上げて確かめれば自分が寝ていないことがばれてしまうからだ。

(´・ω・`)「友達じゃないのかい?」

( ^ω^)「友達じゃないお」

“いないお”の間違いだろうと自嘲する。

(´・ω・`)「なんだよ。せっかくクラスメイトになったんだから仲良くしなきゃ」

ショボンの他意がない言葉に、しかしブーンは苛立ちを覚える。

( ^ω^)「人には合う合わないっていうのがあるんだお」

(´・ω・`)「へぇ、そうかい。じゃあさ、俯せになってるのは何でなんだい? 授業
中もそうしてるの?」

嫌味を言っているのか。触れられたくない箇所をまるで撫でるかの如く触れて
くるショボンに嫌気がさす。

( ^ω^)「うるさいな。もう放っておいてくれお」

そう言い放つと、昼休みになるまでブーンは机にへばりついたまま起き上がる
ことはなかった。



85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:37:17.50 ID:Gpvvevlw0
目を閉じていたからといって寝ていたわけじゃない。

いや、本当は寝てしまいたかったのだ。ただ単純に夢の中に入れる
ときとそうじゃないときがある。今回は後者だったというだけの話だ。

そして寝たふりというのは起きるときに一番神経を使う。自分が寝て
いなかったことを周りの人間に悟られてはいけない。

ブーンはあたかも周りの喧騒によって目を覚ましたかのような気怠い
所作で起き上がると、誰に気付かれることもなく弁当を持ち、彼専用の
“食堂”に向かった。

ブーンの住んでいる地域では、中学校にあがると給食がでない。今と
なってはそれが幸運だった。

この状況で人と机を突き合わせて食事をとるなんてとても耐えられそう
になかったから。

ブーンはいつも通り、使用されていないフロアの男子トイレに駆け込む
と、奥から2番目の個室に歩を進めた。ここがブーンの食堂だった。

ズボンを下げずに洋式トイレの便座に腰掛ける。初めはその妙な感覚
にむず痒さを感じたが、今はもう慣れてしまった。

(´・ω・`)「まさか本当にずっと寝たふりをしたままだとは思わなかったよ」



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:38:52.85 ID:Gpvvevlw0
もう隠れている必要がなくなったショボンが、今や定位置になりつつあるブー
ンの頭上から話し掛けた。

( ^ω^)「ショボンがうるさいからだお」

そう言いながら弁当の蓋を開ける。中身はエビのフライ、コロッケ、一口カツ。
コールスローに煮物、鳥の炊き込みご飯だった。揚げ物ばかりだな、と苦笑し
た。

母の気持ちを考えると泣きそうになる。実際、今まで何度も泣きながらの昼食
になった。

今回涙が出なかったのは、ショボンがそばにいたからだろう。誰かがいると涙
は見せられない。

 その点は感謝してもよかった――。

(´・ω・`)「ねぇ、なんでみんなと食べないの?」

――うるさい所がなければ。

ブーンはショボンのデリカシーのなさに辟易していた。いい加減質問責めにさ
れるのも面倒だ。もう全てを話してしまおうか。

しかし理由を話してしまえば自分の中にわずかに残った矜持を保てなくなって
しまう気がして、ブーンに二の足を踏ませた。

(´・ω・`)「友達、いないのかい?」



87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:40:26.75 ID:Gpvvevlw0
いきなり核心を突くショボン。その言葉に動悸が激しくなり、脳を揺さぶられる。

ショボンに気付かれてしまった。

自分から告げるのと相手に感付かれるのではその意味合いが違う。

( ^ω^)「……そういう事だお。だからクラスメイトと挨拶を交わさないし、寝たふ
りをしてるんだお」

なんとか表面上は平静を保てたと思う。

(´・ω・`)「そうか」

( ^ω^)「納得できたかお? できたんなら、もう余計なことは聞かないで欲しいお」

言ってしまった。

もうプライドはズタズタだ。まあ、いい。これでショボンも放っておいてくれるはず。も
う静かに暮らしていきたいんだ。質問されれば、言葉にだしてしまえば孤独を再確認
してしまう。それは凄く辛いことだ。だって、傷口だから。傷をまじまじと見てしまえば、
その痛みを忘れることが出来ない。

そしてブーンが再び弁当に箸をつけようとしたとき、

(´・ω・`)「待った」

ショボンの声。少し何かを考える素振りをして再び口を開いた。



90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:41:44.60 ID:Gpvvevlw0
(´・ω・`)「じゃあさ、せめて場所を変えようよ。いくらなんでもトイレで食べ
ちゃお母さんが可哀相だ」

( ^ω^)「どこに行くんだお? この学校にはどこにも僕の居場所なんか
ないお」

そう口答えするブーンに、「いいから」と言って顎をしゃくるショボン。仕方
なしに弁当に蓋をして、ショボンの指示する場所へ向かう。


着いたのは階段の最上階踊り場。なるほど、ここなら誰も来ないし、トイ
レよりは気分がいいだろう。

( ^ω^)「確かにここの方が気分がいいお。ありがとう、ショボン」

そう礼を言うブーンに、ショボンは首を振る。

(´・ω・`)「おいおい、ここはまだ目的地じゃないよ」

そしてブーンの頭から飛び降りると、トコトコと歩きだす。向かった先は、
踊り場の横にある屋上へと続く扉。

( ^ω^)「屋上で食べようって言うのかお? そこは立ち入り禁止だお。そ
れに、鍵がかかってるお」

そう制止するブーン。「任せとけ」と胸を叩くショボン。



93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:43:46.69 ID:Gpvvevlw0
器用に扉をよじ登ると施錠してある南京錠の鍵穴を覗く。どこから取り出したのか、
針金のような棒を二本持ち、鍵穴に挿すとカチャカチャといじくり回す。

そして。

カチャリ、という小気味良い音が聞こえた。

(´・ω・`)「開いたよ」

そう言ってまたブーンの頭に登るショボン。

(;^ω^)「どこでそんなこと覚えたんだお?」

(´・ω・`)「僕は君らより小さいから細かい作業が得意なのさ」

質問の答えになっていない。

(´・ω・`)「そんなことどうでもいいからさ、行こうぜ。さすがにこの扉を開ける
のは僕じゃ無理だよ」

そう促され恐る恐る扉に手を掛けるブーン。おい、いいのか? ここから先は立ち
入り禁止だぞ。見つかったら怒られるぞ。そんな自分の声が聞こえた気がした。

扉を開いてみると、澄み切った秋の青空が頭上に広がっていた。

地上5階。その高さから見上げる天空は、近づいたはずなのにいつもより高く感じた。



94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:45:06.44 ID:Gpvvevlw0
(´・ω・`)「な? こっちで食べたほうが絶対おいしいって」

空とブーンの間から、声が聞こえる。

( ^ω^)「そうだおね。ありがとう、ショボン」

ブーンは素直に感謝した。少し涼しい風が頬を撫でる。久しぶりに感じる
晴れやかさだった。

(´・ω・`)「お礼なんかいらないよ。その変わり、弁当少しよこせよ。一緒に
食べようぜ」

その言葉を聞いてブーンは昨日の事を思い出した。ショボンは確か、こう
言ったはずだ。“涙に食事なんか必要ない”と。

けれどブーンと一緒に昼食をとる、とショボンは言っているのだ。

そんなショボンの優しさに気付き、ブーンの胸にここ最近感じたことのない
熱が広がる。

( ^ω^)「ありがとう」

ブーンは鼻を赤らめながら礼を言った。

ショボンと二人で食べる弁当は、今まで食べたどんな食べ物よりおいしく感じた。

本当は飲み込むことに必死で味なんかよくわからなかったが、それでもブーン
はこれ以上なく美味に感じた。



96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:46:23.65 ID:Gpvvevlw0
(´・ω・`)「はぁ、美味かった。ごちそうさま。ブーンのお母さんは料理が上手だな」

そう言ってコンクリートの地面に寝転がるショボン。ブーンもそれに倣う。

屋上はそこら辺がすすけて汚かったが、それが些細に思えるほど心は晴れやか
だった。

(´・ω・`)「これからもここで弁当食べような、ブーン」

( ^ω^)「仕方ないお」

ブーンはわかっていた。ショボンが自分に気を遣ってくれたことを。自分が寂しくし
ていた事をわかってくれて、そしてそれを助けてくれようとしている事を。

そのことに感謝していたが、素直になるのも恥ずかしいのでわざとぶっきらぼうに
返事をする。

そして、やおらにむくりと起きだすと、ショボンは口を開いた。

(´・ω・`)「そういえば自己紹介がまだだったね」

( ^ω^)「え」

ブーンは一瞬困惑した。自己紹介なら昨日したではないか。しかしその言葉を飲み
込む。



98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:47:36.56 ID:Gpvvevlw0
(´・ω・`)「僕はショボン」

ショボンが手を伸ばす。

(´・ω・`)「ブーン、君の友達だ」

ブーンは親指と人差し指で差し出されたショボンの手を握る。

ショボンの手は、ふわふわしていて、そして温かかった。

 

99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:48:15.72 ID:8bdLVjaxO
なんか救われる話になってきた
支援



100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:48:34.34 ID:/ynKjcYO0
ちょっと泣きそうだ


102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:49:57.96 ID:Gpvvevlw0
それからブーンは、ブーンの生活は変わった。

毎日ちゃんと学校に通うようになった。もう机に伏せて寝たふりをすることもない。

内ポケットには、いつもショボンがいてくれたから。

ショボンは大抵ぐうぐう眠っていたが、たまに起きだすと小声で他愛もない会話を
してきた。

本当になんでもない、世間話とも呼べないような会話だったが、ブーンはそれさえ
もがたまらなく嬉しかった。

もう、一人ではない。

ブーンはその喜びをひしひしと感じていた。

二人はいつも一緒だった。登校時も下校時も、食事時だって眠る時だって一緒だ
った。

ブーンはショボンの提案通り屋上で昼食をとるようになっていた。

幸いにも誰にも見咎められる事はなく、以前に使っていた“食堂”は、もう立ち寄る
事もなくなっていた。

母親も喜んでくれた。ブーンが明るくなったと、以前のようなブーンに戻ったと快哉を叫んだ。

何もかもが充実しているように思えた。



105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:51:31.93 ID:Gpvvevlw0
半ば色褪せて見えた景色に色が着いた。鮮やかな色彩を帯びた。

いつまでもこんな日々が続けばいいと思ったし、続くと思っていた。

季節の変わり目が訪れたある日。

少し肌寒くなって身を縮める人を多く見かけるようになった頃。

その日もショボンはブーンの頭の上に乗っていた。

もうお決まりになっていたショボンの専用席だ。

この時期になると、ブーンは一層ショボンに感謝した。

何しろショボンは猫である。身を裂くような寒い朝は、そのふわふわの毛
皮で暖を取るのが何より心地よかった。

ショボンは「気持ち悪いからやめろ」と苦言を呈したが、ブーンが嫌がるショ
ボンを無理矢理布団の中に引きずりこむ事も度々あった。

そんなショボンだから、頭に乗っていてくれるだけでも多少のぬくもりは感じ
られるように思えた。

( ^ω^)「いっそ首にまいておきたいぐらいだお」

ブーンが楽しげに提案する。



108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:52:45.20 ID:Gpvvevlw0
(´・ω・`)「やめてくれよ。僕はここが気に入ってるんだ」

心底迷惑そうに答えるショボン。

いつもと同じ帰り道。ショボンと出会ってから色が着いた帰り道。いつものよう
になんでもないことを話し、そしてそれが心地よい帰り道。

二人で、もうお馴染みになった通学路を帰っていると、空き地のそばでブーン
は突然足を止めた。

(´・ω・`)「おい、なんだよ。行こうぜ」

ショボンが怪訝そうに話し掛ける。

どうやらブーンは何かに目を奪われているようだ。

ショボンもブーンの視線の先に目を向ける。

ブーンと同い年ぐらいの少年たちが3人、空き地で野球をしている。

(´・ω・`)「ははぁ、わかった。ブーン、君、あれに混ざりたいんだろう」

( ^ω^)「そんな事ないお」

そんな事ない事なかった。その証拠に、ブーンの目線は彼らから動かない。

ショボンは知っていた。自分は、ブーンの遊び相手としては力不足だということを。



109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:53:59.65 ID:Gpvvevlw0
なにしろ体高15センチ。ブーンの身長の10分の1以下である。その体格差でできる
遊びなどあろうはずもない。

そしてブーンが気を遣ってその事を自分に言わないことも。

実際、ブーンは同年代の子たちと走り回って遊びたいのだろう。無理もない。

(´・ω・`)「遊びたいのなら声をかければいいのに」

( ^ω^)「いいんだお。僕にはショボンがいるし……。それに……」

(´・ω・`)「それに?」

( ^ω^)「声のかけ方が、わかんないお」

なるほど、とショボンは納得した。

確かにブーンの心は自分と関わったことで多少救われたかもしれない。しかし、抜本
的な解決になってはいないのだ。

ショボンは何とかしてあげたい、と思った。

この口下手な大きい友人に、自分以外の友人を作ってあげたいと思った。

(´・ω・`)「じゃあ、僕がきっかけを作ってやるよ」

( ^ω^)「え?」



110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:55:28.44 ID:Gpvvevlw0
“どういう意味だ?”とブーンが尋ねるより早く、ショボンは大きく息を吸い込む
と少年たちに怒声を浴びせた。

(´・ω・`)「オルァァー! このド下手糞共! 特にバッター! ブンブンブンブン
空振りばっかしやがって! 扇風機かテメーは!」

ピクリ、と彼らの動きが止まった。そしてブーンを睨み付ける。明らかな敵意を
込めた視線をうけて、ブーンは竦み上がった。

やがて彼らの一人がこちらにゆっくりと近づいてきた。

(;^ω^)「ショ、ショボン! 何してるんだお!」

(´・ω・`)「何って、“きっかけ”だよ。“きっかけ”」

きっかけもクソもない。これではブーンが彼らに喧嘩を売った形になってしまう。
いや、彼らの中ではもうそういうことになってしまっただろう。

名指しで罵声を浴びせられた少年がブーンのすぐそばまで歩みを進めていた。

半眼になっている目には隠すことなく怒りが宿されている。それでブーンを殴る
つもりだろうか、手にはショボンが扇風機のようだと揶揄した金属バットが握られ
ている。



112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:56:42.32 ID:Gpvvevlw0
中肉中背、決して体格に恵まれているとは言えなさそうだが、なんというか、
いわゆる“悪”のオーラを身にまとった少年だった。

その目つきはギラギラとしていて、とても自分と同年代ぐらいとは思わせな
い迫力があった。

(;^ω^)「あわ、あわわ」

恐怖に焦るブーン。

(´・ω・`)「じゃあ、後は自分で仲良くなってね」

そう言ってするりとブーンのブレザーの内ポケットに入ってしまったショボン。

いや、確かにショボンを人に見られては困るのだが、それはあんまりなので
はないかとブーンは思った。
_
(#゚∀゚)「おい、お前、何か言ったか?」

もうすでにブーンの目と鼻の先まで来ていた少年が、声変わりもしていないく
せにやたら人を震え上がらせそうなその声でブーンに聞いた。



113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:56:55.19 ID:8bdLVjaxO
ショボンww


114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:58:12.78 ID:6+36qSfy0
ちょwwwwwwwwwwww


115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:58:21.01 ID:Gpvvevlw0
(;^ω^)「いや、え、あの」

(´・ω・`)「下手糞って言ったんだよこのエアコンいらず!」

ショボンが内ポケットの中から少年を罵る。
  _
(#゚∀゚)「ほー、面白い。どうやらあの世でご先祖様に会いたいようだな」

うまい具合にブーンが悪口を言ったと勘違いしてくれた少年が、ブーンの
襟を掴み自分の眼前へと引き寄せる。やはりバットで殴る気だ。そう思った
らショボンを非難する余裕さえなくなり、ブーンはしどろもどろになった。

(;^ω^)「やめ、やめ……」

(´・ω・`)「やめろ。下手糞に下手糞と言ってしまったことは謝る。ただ、僕の
ほうがよっぽどうまくバットに当てられると思ったんでね」

そうショボンが挑発すると、少年は手に込められていた力を緩め、ブーンを解放した。
_
(#゚∀゚)「やってみろ」

そう一言だけ発言すると、ブーンにバットの柄を差し出す。

ブーンに“打ってみろ”と言っているようだ。



116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 22:59:41.15 ID:Gpvvevlw0
_
( ゚∀゚)「打てなかったら殺す」

静かにそういう少年には、“やるといったらやる”という凄みがあった。

さぁ、困った。なにしろブーンは野球などやったことがない。いや、あるには
あるのだが、お遊びみたいなもので、仲間内のなぁなぁ野球だったのだ。こん
な勝負がかかったバッティングなどしたことがない。

(´・ω・`)「もう賽は振られたんだぜ。やるしかないだろう」

勝手なことを言うショボン。お前が余計な煽りを入れるからこうなったんだろ、
と心中で非難するがそんなことをしてもこの状況は変えられない。

ブーンは震えながらバッターボックスに立つ。するとマウンドに立った不細工
な少年が話しかけてきた。

(‘A`)「おまえ、ジョルジュにつっかかるなんてやるなぁ」

どうやらあのチンピラみたいな少年はジョルジュと言うらしい。そんな○得情
報は今は必要ないが。

(‘A`)「まぁ、俺も手加減はしないぜ。なんたって、“下手糞共”の中には俺も入ってるんだろ?」



117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:01:19.10 ID:Gpvvevlw0
違う、あれはショボンが。言い訳をしたかったが、そういうわけにもいかない。

不細工な少年が大きく振りかぶり、球を投げる。


――速い。


ブーンは身動き一つとれずにいた。白球がキャッチャーのミットに吸い込まれて
いったかのように思えた。

(‘A`)「なんだ、びびって動けなくなっちまったのか? ワンストライクだぜ」

キャッチャーからの返球を受けながら不細工が言う。いや、大したものだ。ブー
ンには野球はよくわからなかったが、素直にそう思った。

この不細工の投げる球はかなり速い。それはブーンにも分かる。なるほど、この
球を打てないことを揶揄されたら頭に血も上ると言うものだ。

ブーンも逆の立場だったら罵声を浴びせた世間知らずに言うだろう。“打ってみろ”と。

(´・ω・`)「なんだい。見送りかい。情けないなぁ」

無責任王ショボンがその名に恥じぬ無責任振りでブーンに話しかける。

(;^ω^)「マジで速いんだお。とても打てないお」

泣き言を言うブーン。



118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:02:32.86 ID:Gpvvevlw0
(´・ω・`)「まぁ、とりあえず振るだけ振ってみなよ。ひょっとしたら当たるかもしれないよ」

そんなうまくいくか、と言おうとしたブーンをショボンが制す。

(´・ω・`)「来るぞ」

バッターがバッターボックスに立っている以上、ピッチャーはいつでも投球しても良い。不
細工は既にボールを掴んだ腕を振り下ろすところだった。

白球がブーンにせまる。ブーンは慌ててバットを振る。

しかし、バットは空を切るのみでボールにかすりもしない。

やはり無理だったのだ。恐らくブーンは次の投球が終わるとほぼ同時に、自分が今握って
いるバットで殴られるのだろう。

ブーンは泣き出したくなった。なんでこんな事に。恨むぞ、ショボン。

(‘A`)「おいおい、全然かすりもしねぇじゃねぇか。それでよくジョルジュを馬鹿に出来たもん
だぜ」

不細工は馬鹿にすると言うよりも呆れたように言った。

(´・ω・`)「低い」

ショボンが口を開く。



119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:03:56.89 ID:Gpvvevlw0
(´・ω・`)「君のバットはボールよりかなり低いところを通ってる。今より拳1個
ぶん高く振るんだ。いいかい?」

突然のショボンのアドバイス。ショボンに野球が分かるかどうかも疑問だが、
今のブーンはそれに従うしかない。

(‘A`)「じゃあラストだ。可哀相だけど手加減はしないぜ。まぁ、ジョルジュがや
りすぎないようには注意してやるからよ」

どうやら終わりが近いらしい。

(‘A`)「いくぜ」

不細工が大きく振りかぶって――、

(´・ω・`)「タイミングは僕が教える。君はさっきと同じスピードでスイングするん
だ」


――投げた。


ボールが不細工の手元から放たれた。もう数瞬もしない間にキャッチャーの手
中に納まるだろう。ボールがやけにスローモーションに見える。無理だ。打てない。

(´・ω・`)「今だ!」



121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:05:15.58 ID:Gpvvevlw0
叫ぶショボン。その声に体が反応する。不思議とスムーズにバットが振れる。


キン。


バットから高く乾いた音が響く。ボールはどこだ? 打てたのか?

みなが唖然と一点を見つめている。その位置は不細工の後方、遥か空高くだ
った。

打てた。

僕が、あんな速い球を打てた。

恐らく一番びっくりしているのはブーンだったのだろう。自分が打ち取れた喜び、
というよりも面食らったような顔をしていた。



白球は、冬の高い空をいつまでも進んでいった。



122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:07:16.01 ID:Gpvvevlw0
_
(;゚∀゚)「す……すげぇ」

誰しもが唖然としている中、ようやく口を開いたのはジョルジュと呼ばれていた、
ブーンの胸ぐらを掴んできた少年だった。
_
(;゚∀゚)「何でドクオの渾身の球が打てるんだ?」

ドクオというらしい不細工も、はっ、と我に返ったように首を振った。

(‘A`)「お……おぉ、すげぇじゃねぇか! いや、俺の完敗だよ! ジョルジュなん
て目じゃねぇ!」

“目じゃない”と評されたジョルジュは少し不満げに眉をしかめたが、やがて諦
めたような笑みを浮かべた。
_
( ゚∀゚)「まぁ、確かに俺は空振りばっかだったからな。これなら下手糞って言わ
れてもしょうがねぇ」

(∵)「僕も驚いた。明らかに最初の2振りまでは素人。でも最後はきっちり真芯
に合わせてきた」

キャッチャーをしていた少年が初めて口を開いた。なんだか埴輪みたいな顔
をしている。人間の顔を限界まで簡素化したらこんな造形になるのではないか。

(;^ω^)「あの……」

ブーンもおずおずと口を開く。



123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:08:43.65 ID:Gpvvevlw0
(;^ω^)「さっきはごめんだお。変な事言っちゃって」

本当はショボンのせいなのだが、それは言えないのでブーンは素直に
謝った。
_
( ゚∀゚)「あ? あぁ、いいよ。もし口だけの野郎なら殴ってたけど、あそこ
まで気持ち良く実力差を見せ付けられちまったらな」

(‘A`)「おまえ、野球部かなんかか?」

さて、どう答えたものか。正直言ってドクオの球を打てたのもショボンの
おかげだ。しかし、それもやはり言えない。嘘をついて野球経験者とでも
言ってしまうか。いやいや、やはり正直に未経験だと言ってしまうべきだ。

ブーンは二つの選択肢をしばし天秤にかけていたが、最終的には後者
を選んだ。

( ^ω^)「野球部じゃないし、やったこと自体あんまりないお」
_
( ゚∀゚)「え?」

再び彼らの表情が固まる。

しまった、下手をうったか。やはり初心者があの球を長打にすれば、訝し
られて当然だった。

ブーンは心中波立った。



124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:10:16.77 ID:Gpvvevlw0
  _
(*゚∀゚)「うぉぉー! 初心者!? じゃああのヒットは才能って事!? 半端ねぇ!」

(;‘A`)「マジかよ。俺、素人に打たれたのかよ」

(∵)「それは凄い。普通、あれを打てても初心者では内野ゴロになる」

意外な3人の反応。どうやらブーンの発言をいい意味に捉えてくれたようだ。ブーン
は胸を撫で下ろす。
  _
(*゚∀゚)「なぁなぁ、おまえ、俺たちと一緒に野球やらないか?」

突然のジョルジュの提案。

(‘A`)「おー、いいじゃねぇか。俺のピッチングの練習相手になってくれよ」

(∵)「賛成」

同意する2人。

ブーンはちらと内ポケットにいるショボンに目を配らせる。

ショボンはいつもと同じように困ったようなハの字の眉をしていた。

“この3人とならうまくやっていけるよ”

なんだかそう後押しされた気がした。

ブーンは顔を上げる。



126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:11:39.00 ID:Gpvvevlw0
( ^ω^)「わかったお。僕は本当に初心者だけど、一緒に野球をさせて欲しいお」

転校したてとは違う。今はショボンがいるから。

誰かに拒絶されても、もう一人じゃないから。
_
( ゚∀゚)「おし、決まりだ!」

(‘A`)「俺はドクオ。この下手糞がジョルジュ。無機質みたいな奴がビコーズ。よろしくな」

ドクオが握手を求めてくる。

(∵)「君は?」

ドクオの手を握り、ビコーズの質問に答える。

( ^ω^)「内藤ホライゾンだお」
_
( ゚∀゚)「ホライゾン? 言いにくいな。なんか良い呼び方ないのか? 今まで何て呼ばれて
たんだ?」

( ^ω^)「ブーンだお」
_
(*゚∀゚)「ブーン? 何でだよ! 意味わかんねぇ!」

そう言ってジョルジュとドクオは一斉に笑いだした。ビコーズは……よくわからなかった。



129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:13:06.62 ID:Gpvvevlw0

(;^ω^)「気が付いたらそう呼ばれてたんだお」
_
( ゚∀゚)「わかったわかった。よろしくな、ブーン。俺たちは今から仲間だ」

ジョルジュがガキ大将のようににかっと笑い、ブーンの肩を叩いた。
_
( ゚∀゚)「じゃあ、新しい仲間の歓迎を兼ねて飯でも食ってくか」

(‘A`)「あー……モスだな」
_
(;゚∀゚)「何でまたモス!? モスばっかじゃん! おまえはモス以外の食い物を知らな
いの!?」

(∵)「ドクオはモス信者」

そんなことを話しながら歩きだす3人。1人出遅れてしまったブーンの方に振り替えると
“早く来いよ”と促してくれた。

ブーンは置いていかれないように駆け出す。



斜陽が、4つの長い影法師を作り出していた。



133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:14:39.44 ID:Gpvvevlw0

四人はそれぞれの席に腰を下ろした。

ここはモスバーガーVIP支店。もともとそんなに混雑するような店ではないが、
夕刻、夜の手前という時間帯のせいか中々の盛況ぶりだった。

四人はそれぞれ手にトレイを持っている。トレイには注文した品が乗っていた。

ブーンは焼肉ライスバーガーを注文した。

焼肉ライスバーガー。それは通常のハンバーガーと異なり、パンの代わりに白
米を円形状に固めた物をバンズとして用いり、そのバンズで焼肉風に味付けをし
た牛肉を挟むというなかなか独創性溢れた一品だ。しかしその味はまさに絶品の
一語。もともと米食の民族である私たち日本人にとっては全く抵抗がなく、むしろど
こか望郷の念を思い出させてくれる、今となってはジャパニーズ・ソウルフードと呼
ぶにふさわしい人気メニューだ。

欠点として、やや食べ辛く感じる部分がある。なにしろ米を固めたものであるから
して、咀嚼しようとするとバンズである白米がぼろぼろと零れ落ちてしまうのである。
故に結果的にはハンバーガーとしての体裁を保ったまま食するのは難しく、またハ
ンバーガーであると言う特性上フォークなどの食器を使用しないため、手が汚れて
しまうと言う弱点も持ち合わせている。

とはいえ、上記にある欠点などその美味の前では些細なことであり、やはり至高
にして究極のハンバーガーといえるのである。



135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:15:45.19 ID:6+36qSfy0
>>133
お前モス好きすぎだろwwwwwwwwwwww



136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:16:29.04 ID:drpQHNNq0
主ライスバーガー大好きなんだなww


137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:17:17.32 ID:8bdLVjaxO
熱意がwwww


139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:20:13.58 ID:Gpvvevlw0
その焼肉ライスバーガーをブーンはやはりうまく食べられないでいた。

(‘A`)「あー、やっぱそれ綺麗に食べるの難しいよな」

ドクオはロースカツバーガーを口に運びながら、ブーンの零した米粒を注視
する。

(‘A`)「でもやるじゃねぇか。焼肉ライスバーガーを頼むなんて中々の通だぜ。
……おまえとは仲良くなれそうだ」

( ゚∀゚)「なんで焼肉ライスバーガーで仲良くなれるんだよ」

(∵)「変」

ジョルジュとビコーズも注文したチリドッグを頬張りながらドクオにつっこむ。

冗談とはいえ面と向かって仲良くなれそうだなどと言われたブーンはなんだか
気恥ずかしくなり、ぽりぽりと頭を掻く。

( ^ω^)「そういえば、みんな野球部なのかお?」

先ほどのドクオのピッチングは素人とは思えなかったし、その球を正確に捕球
するビコーズも只者とは思えない。

ジョルジュは……空振りしてただけだから何とも言えないが。



140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:23:20.96 ID:Gpvvevlw0
  _
( ゚∀゚)「いや」

ブーンの質問にジョルジュが答える。
  _
( ゚∀゚)「野球部じゃねぇよ。3人共、部活には入ってないし」

( ^ω^)「でもドクオのピッチングは凄かったお? ビコーズだってよくあんな球を
捕れるお」
_
( ゚∀゚)「ドクオは小学生の時、ジュニアに入ってたんだよ。ビコーズは……性格?」

(∵)「ただ球を捕ればいいだけ」

ビコーズは何でもない事かの様に淡々と言う。
_
(;゚∀゚)「え? ていうか何? 俺は凄くないの?」

ブーンはどう返答していいのか言葉に詰まった。なにしろジョルジュのバッティングは
球にかすりもしていなかったのだ。

(;^ω^)「ジョルジュは……スイングスピードが……」

苦し紛れだったがジョルジュはまんざらでもなさそうだ。



141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:25:13.75 ID:Gpvvevlw0
( ^ω^)「でも、あれだけ上手いんだったら野球部に入ればいいのに」

これ以上ジョルジュを誉めろと言われても困るので、ブーンは話題を変えた。

(‘A`)「野球は今ジョルジュのブームなんだよ」

とドクオ。

( ^ω^)「ブーム?」

とブーン。

(‘A`)「あぁ。コイツその時その時でやりたいことが変わるからさ。今は野球なわけ。
その前はサッカーだっけ?」

(∵)「カバディ」

ビコーズが無表情で答える。

(‘A`)「そうだそうだ。な? 一貫性がないんだよ、コイツ。どうせすぐ飽きるんだから
わざわざ部活に入るまでもないのさ」

そこでドクオがコーラを飲んで喉を潤す。



145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:27:42.18 ID:Gpvvevlw0

(‘A`)「ま、俺も野球は嫌いじゃないから付き合ってるけどさ」

( ^ω^)「なるほどお」

ブーンは得心したように頷いた。そして焼肉ライスバーガーの続きを食べようと
手を伸ばすが、すでに無くなっていた。

いつの間にか食べ切ってしまったのだろうか。

そんな事を考えながらショボンに視線を落とすと、何かをむしゃむしゃと咀嚼して
いる。

……ショボン。食べるのはいいけど、誰かに見られたらどうするんだ。

ブーンはやきもきした。
 _
( ゚∀゚)「そういえば、ブーンって中学生だよ……な?」

ジョルジュが少し躊躇しながら尋ねてくる。そういえば名前以外何も自己紹介して
いなかった。

ジョルジュの語尾に勢いがなかったのは、万が一年上だったらどうしよう、という葛
藤ゆえだろう。

ブーンは大きく頷いた。



148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:29:34.02 ID:Gpvvevlw0
( ^ω^)「中学生だお。wktk中学の1−2」

そこまで聞いて、ジョルジュは目を丸くした。
 _
( ゚∀゚)「マジかよ。隣のクラスじゃねぇか」

今度はブーンが驚く。

( ^ω^)「そうなのかお?」
 _
( ゚∀゚)「あぁ。でも俺らブーンの事、見たことないぜ。なぁ?」

ジョルジュはドクオとビコーズに尋ねる。二人もジョルジュに同意する。

( ^ω^)「僕はあんまり学校に来てなかったから」

しまった、と思った。そこまで言ったらその理由まで聞かれるじゃないか。

“友達がいなかったから”なんて言ったらひかれるぞ。せっかく出来た友達なのに。
 _
( ゚∀゚)「何で学校に来てなかったんだ?」



151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:31:59.82 ID:Gpvvevlw0

ほら来た、馬鹿め。余計なことは言わなくていいんだ。知らないぞ、今まで友達
がいなかった奴なんて奇異の目で見られたって仕方ないんだ。

ブーンの中で自分をなじる声が響く。

でも、ちゃんと説明したほうがいいのではないか? 確かにせっかく出来た友達
を失うのは辛い。しかし、友達に隠し事をしたまま付き合うのはもっと辛い。

ブーンは一度大きく息を吸った。

( ^ω^)「僕は友達がいなかったから……あんまり学校に行きたくなかったんだお」
 _
( ゚∀゚)「そうか」

あっけらかんとしたジョルジュの言葉。そして、
 _
( ゚∀゚)「じゃあ明日からは学校に来るのが楽しみじゃん。友達出来たんだから」

そう言葉を継ぐ。

(‘A`)「おまえみたいな友達が出来ても嬉しくないだろ」

ドクオが憎まれ口を叩き、
 _
(#゚∀゚)「うっさいボケ」

ジョルジュがドクオの頭を叩く。



154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:33:36.89 ID:Gpvvevlw0
そんなやり取りを見て、ブーンは自分の中に生まれた疑問をぶつけたくなる。

(;^ω^)「ひ、ひかないのかお?」

よせばいいのに。せっかくジョルジュが軽く流してくれたのに。自分でわざわざ
重い雰囲気になるようなことを言うな。

しかし。
 _
( ゚∀゚)「あ? なんでひくんだよ?」

(;^ω^)「だって、友達がいない奴なんて……気持ち悪くないのかお?」

ジョルジュは『何言ってんだコイツ』という顔をした。
 _
( ゚∀゚)「あのなぁ、誰だって最初から友達がいるわけじゃねぇだろ。合う・合わない
もあるしな。そんな事で一々ひくか」

ドクオも苦笑いをして、

(‘A`)「気にしすぎじゃね」

そう言ってくれた。

(∵)「ブーンは繊細」

ビコーズは相変わらず無表情だ。



156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:35:17.54 ID:Gpvvevlw0
 _
( ゚∀゚)「それになぁ、気持ち悪いってのはコイツの顔みたいなのを言うんだよ」

(#‘A`)「よし、表出ろ」

ジョルジュに指を差され勢いよく席を立つドクオ。なんだか二人で言い争ってい
るようだが、それはブーンの頭の中には入ってこなかった。

代わりに別のことを考えていたから。


――あぁ、ショボン、わかったよ。友達を作るっていうのは、そう難しくないこと
だったんだ。

僕が悩んでいたことなんて些細な事なのかもしれない。

ショボン、君は凄いな。

僕がずっと抱えていた問題を、君は簡単に解決してしまった。


ありがとう、ショボン。



ブーンは2人が作る喧騒をどこか遠くの事のように感じていた。



162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:38:07.52 ID:Gpvvevlw0
 _
( ゚∀゚)「じゃあ、また明日な」

ブーンの自宅前でジョルジュとビコーズが手を振る。

あれから段々本気になってきたジョルジュとドクオをビコーズと2人で止
めたのだ。最終的には“ドクオの不細工を悪く言わない”という謎の協定が
ドクオから持ちかけられ一応の解決を見せた。後に言う不細工協定だ。

不細工協定が締結された後も何でもないことを延々と話していた。

野球の事やクラスの事、学年で一番可愛いのは誰かという事やドクオに
彼女が出来るかなど。

とにかく色々な話をした。

ブーンも昔からの友人と話すかのような饒舌さをみせ、気が付けば日が
とっぷりと暮れていた。

みなまだ中学一年生。夜になれば親元に帰らなければいけない。

誰が言い出すでもなく、自然と帰宅することになった。

ドクオが自宅用にモスを買って帰ると言うので、3人は先に帰ることにした。

幸いにも3人共帰る方向が同じだったので、仲良く帰路に着くことにした。

どうやらブーンの家が一番近いらしい。ここで今日はお別れのようだ。



164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:40:14.07 ID:Gpvvevlw0
ブーンも今日出来た友人に手を振り見送る。

( ^ω^)「うん、また明日だお」

誰かに別れの挨拶をするなんてどれくらいぶりだろう。

そう考えると寂しいはずの別れもなんだか嬉しくなってしまうから不思議だ。

2人をしばらく見送った後、ブーンは玄関の戸を開いた。

( ^ω^)「ただいま」

J( ‘-`)し「おかえり」

母が出迎えてくれた。

J( ‘-`)し「今日は随分遅いわね。今ご飯作っちゃうから待ってて」

うっかりしていた。ついさっきみんなとバーガーを食べてきた事を思い出す。胃は満
タンだ。とてもこれ以上食事をとるなんて出来そうもない。

( ^ω^)「ごめん、実はご飯食べてきちゃったんだお」

J( ‘-`)し「そうなの? 誰と?」

( ^ω^)「友達と」

そこで母の顔が明るくなる。



166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:42:26.65 ID:Gpvvevlw0
J( ‘-`)し「あらそう。わかったわ。次からはちゃんと言ってね」

注意している割りには顔が綻んでいる。それだけブーンに友人がいなかった事に
心を痛めていたのだろう。

( ^ω^)「うん、わかったお。これからはちゃんと連絡するお」

それだけ告げて、ブーンは自室に向かった。


バタン。


扉が閉まる音がする。つまりこれでこの部屋は隔絶されたのだ。ブーンとショボン以外誰もいない。

(´・ω・`)「やったな」

ショボンが顔を覗かせる。

(*^ω^)「ショボン! ショボン! 凄いお! 友達が出来たお! それも3人も!」

よっぽど嬉しいのだろうか、ブーンが頬を紅潮させる。

(´・ω・`)「見てたよ。凄かったじゃないか」

(*^ω^)「僕に友達が! また明日って言ってくれたお!」

(´・ω・`)「嬉しいだろう。今まで辛かったもんなぁ」



169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:44:41.16 ID:Gpvvevlw0
ショボンのその言葉にブーンは黙ってしまう。

(´・ω・`)「偉いぞ」

( ^ω^)「いや……」

(´・ω・`)「偉いよ。よく頑張ったな、ブーン。君は強い奴だったんだなぁ」

ブーンは目頭が熱くなった。

ダメだ、ショボン。そんな事を言わないでくれ。

とても見せられない顔になってしまうから。

ブーンはショボンに背を向けた。

そうしないと、ダムが決壊してしまいそうだったから。

鼻をすすり、俯く。

なんとか震える声を絞りだせた。



( ^ω^)「……ありがとう」

(´・ω・`)「やだなぁ、僕は何もしてないよ。頑張ったのは君じゃないか」



173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:46:53.44 ID:Gpvvevlw0
そう言うと思った。

でも違う。違うんだよ、ショボン。

僕は君がいなかったら、ずっとこの部屋で泣いていただろう。

ずっと教室の片隅で机に突っ伏していただろう。

君がいてくれたから、今日ジョルジュたちと友達になれた。

君がいてくれたから、僕は潰されずに済んだんだ。

君がそばにいてくれたから、僕は勇気を持てた。安心できた。

――だから、ブーンは何度もショボンに言う。

( ^ω^)「……ありがとう」

(´・ω・`)「だから僕は何もしてないってば」

( ^ω^)「ありがとう」

(;´・ω・`)「しつこい奴だな。気持ち悪いぞ」

ショボンはハの字の眉を更に垂れさせて苦笑した。

言葉こそひどかったが、それがショボンの照れ隠しなのだとブーンはわかっていた。

ブーンはやっと、心が自由になった。



175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/20(金) 23:49:01.32 ID:Gpvvevlw0
――そういえば。

( ^ω^)「そういえばショボン、もし僕がドクオの球を打てなかったらどうする気
だったお?」

(´・ω・`)「ん? あぁ、多分ジョルジュに殴られていただろうな」

(;^ω^)「マジかお」

(´・ω・`)「結果オーライ結果オーライ。結局いい方向に転がったんだからそれで
いいじゃないか。あっはっは」

カラカラと笑うショボン。戦慄するブーン。

ぼそりと、

(;^ω^)「ショボン……恐ろしい子……」

そう呟いた。




( ^ω^)の涙のようですその3へ続く

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この記事へのコメント
  1. Posted by 名無し at 2009年02月22日 00:11
  2. やきにくライスバーガーのよさがわかるとは、作者とは楽しくモスが食えそうだ
  3. Posted by 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 at 2009年10月31日 00:55
  4. (′A`)