2008年12月19日

川 ゚ -゚)それはうみのようです

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 16:48:59.27 ID:I0RG3f+c0

台所の床に座り込んで、今日の献立を考える時間がこの世で一番幸せだと思う。


料理の本と成分調査表をにらめっこしながら、台所の暖かい空気に埋もれるのが、たまらなく私は好きなのだ。ただ、料理は好きでは無いのだけれど、それが仕事ならば従事する他無いだろう。
私の仕事というのは、一人暮らしの老人宅に昼頃だとかに現れて、食事を作るというものだ。初めて二年目になるが、どうして中々慣れない仕事だ。

自分の食事を作るのさえ億劫になるから、私はこの二年で五キロは痩せた。

職場環境は、あまり良くない。同職の方々は良い人に恵まれているけれど。しかして給料は文句無いので、私は黙るしかない。
高校も出ていないような小娘に一人前の給金を出してくれるところなんて、私の貧相な頭脳では後はもう風俗くらいしか思いつかなかった。


台所は、好きだ。



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 16:51:44.07 ID:I0RG3f+c0

仕事が終わって時間を持て余すと、よく友人が遊びに来てくれた。料理パーティなんてやって、台所の床に直接座り込むなんてしていた。
その友人の一人が病に伏して、早五ヶ月。


あの日暑い熱気から逃げるようにして駆け込んだ病室に、冷たい空気を伴って入室する。


( ^ω^)「もう、ドクオ、何時になったら退院するんだお? 僕鶴折りまくりだお?もう千羽なんて目じゃねぇお」

('A`)「……いや、あたかも俺が入院してるみたいに発言しないでくれる? 入院患者お前だから。何時退院とか俺がお前に聞きたいわ」

川 ゚ -゚)「しかし入院患者が似合いそうなのは、どう見てもドクオだよな。貧相だし」

('A`;)「えぇえ、何かひでぇ……インフルエンザにもかかった事の無い俺に向かって……」

川 ゚ -゚)「いや、インフルエンザは私もかかったこと無いぞ。あんなんかかる奴そんなに居ないだろう」

( ^ω^)「えー、何この丈夫な人達……毎年かかってる僕に謝れお」


個室の、広いんだか狭いんだか分からない病室。青いそこに生活感があるのは、それだけ長い間入院している証。



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 16:54:31.50 ID:I0RG3f+c0

( ^ω^)「おー、まぁ取り合えず林檎でも食えお」

病院の篭もった消毒の臭いを、彼のにおいだと認識するようになったのは何時からか。


('A`)「え、何俺が剥くの? まじかよ」

病院に入る度に頭痛を訴えていた彼が何も言わなくなったのは何時からか。



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 16:57:57.78 ID:I0RG3f+c0

川 ゚ -゚)ノ=◆「あ、そうだブーン、差し入れだ。食え」

( ^ω(◆=「へぶっ! ……食えって言いながら折り紙出すなお」

川 ゚ -゚)「じゃあノルマだ。折れ」

( ^ω(#)「何で命令系だお」


ベットに寝転がったままのブーンに、鞄から出した折り紙の袋を投げつける。それを顔で受け止めたブーンは困ったように口の端を上げた。
隣でドクオは林檎とナイフを器用に翻している。

こいつ、私より料理がうまいから本当にむかつく。


( ^ω^)「なんか最近鶴折るのめっきり早くなったお……っていうかあれ?何で僕が鶴折ってんの?逆じゃね?」

('A`)「俺ホタテしか折れない」

川 ゚ -゚)「私も蟻しか折れない」

( ^ω^)「何その偏った技術」



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:00:39.01 ID:I0RG3f+c0

ドクオから渡された林檎をかじり、咀嚼する。独特の酸味にしばらく味を知覚していなかった味蕾が驚いたのか、少し痛みを感じた。

ブーンは手早く青い鶴を一匹折ると、デスクの上の果物籠に放り込んだ。一定数溜まったら繋いで、束が溜まったら繋げて吊すんだそうだ。
そんな感じでブーンの病室の壁は青く染まりつつある。


( ^ω^)「美味いおー」


相変わらず、ブーンは患者着が似合わない。

('A`;)「四つ切りを一口で食うな……。お前本当に病人かよ」

( ^ω^)「余命幾ばくかだお」

('A`)「何だそれ、寒いわその洒落」

川 ゚ -゚)「そうだ、寒いんだからもっとホットな洒落をだな、」



( ^ω^)「本当だお」



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:03:37.66 ID:I0RG3f+c0

顔色も良いし、声だって張っていて良く通る。


ただ、入院する前より少し痩せて。

ただ、入院する前より肌に艶がなくなって。

ただ、入院する前より私達に甘える事が少なくなって。

ただ、入院する前より、強がりになった、だけだ。


丸で私達が離れても平気だと言うように。何時でも離れてくれてかまわないと言うように。


それだけだ。



('A`)「冗談千万甚だしいな」

川 ゚ -゚)「悲劇の主人公(笑)」

(# ^ω^)「UZEEEEEEEEE!!!」



それだけなんだ。



15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:06:49.39 ID:I0RG3f+c0


('A`)「ん、そろそろ俺は帰るかな」


私が働き先の色惚け爺の話をし、ドクオが学校での失態を面白おかしく語り、ブーンが近頃配属された看護師の胸についてを熱くシャウトし、
女性の胸は『やっぱり美乳(ドクオ談)vs男は黙って巨乳(ブーン談)vs慎ましやかが一番楽(私談)』で盛り上がったあたりで不意にドクオが腕時計を見下ろし、呟いた。


(# ^ω^)「おっきいのが一番いいお!」

川#゚ -゚)「バカめ! 巨乳はケアを怠ると垂れるんだぞ! 汗疹になるし! 辛いんだぞ……ってうん? ドクオ、帰るのか?」

('A`)「ああうん、今日ちょっと晩飯作る日だから。早く帰って食材買わなきゃ」


ドクオの家は両親が共働きで、こいつはそんな両親を思って自ら料理や洗濯等の家事をこなしているらしい。偉い。
本人は「かーちゃんが帰ってくるまで飯待てっかよ」などと嘯いているが。


('A`)「行きがけに冷蔵庫見たら空っぽでさ。買い物して帰らなきゃいけんのよ。有り得んだろ」

川;゚ -゚)「それは……」



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:10:58.66 ID:I0RG3f+c0

('A`)=3「まぁ、かーちゃんも大変なんだろうから良いんだけどさぁ」


何とも微妙な顔になっている。


( ^ω^)「……そうかお。んじゃ、早く帰った方がいいお? ほらはよ帰れ」


ブーンはしっしっとばかりに手を払う。うっぜ、とドクオが呟いた。


川 ゚ -゚)「そうか、じゃあ私はもう少し残ろうかな」

( ^ω^)「いいおいいお、クーはドクオに着いてってやってくれお。どうせ買いだめとか言って意味なく買い込むからこいつ」

('A`;)「おま、さすがの俺もクーに荷物持ちなんてさせねぇよ」

川 ゚ -゚)「……いいぞ、してやる」

('A`;)「はい?」



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:13:42.12 ID:I0RG3f+c0


ドクオがかくっ、と首を傾げた。午後四時の光は、薄ら赤く病室の窓から差し込む。
ブーンがちょいと体を伸ばして、カーテンを閉めた。


川 ゚ -゚)「何時までも居座ってもあれだしな。帰るついでに荷物持ちでもしてやる」

('A`)「ええー、何この子の漢らしい台詞。どっくん惚れそう」

川 ゚ -゚)「きめぇ」

('A`)「ひでぇ」


私達のおざなりな掛け合いを聞いて、ブーンは口の端を上げて目を細める。其れが私は何だか、






('A`)「んじゃ、まぁ、また来るわ」

( ^ω^)「おっおー」



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:16:45.25 ID:I0RG3f+c0

('A`)「正直見舞うの面倒なんだけどな」

(; ^ω^)「ひどっ……。まぁ、いいお」

川 ゚ -゚)「そういやツンは? 最近来てるか?」

( ^ω^)「んー? ツン? 来てくれるおー。放課後まで来てくれるからちょっと心配なくらいだお」

('A`)「あー……だから最近あいつ付き合い悪いとか言われてんのか。ちょっとは他の対人関係も気にしろよなぁ」

( ^ω^)「おっお、僕からも言っとくお」

('A`)「いや、それは失礼だろお前……」


 手元のスイッチで、電気を付ける。無機質な光が青い病室を照らした。


( ^ω^)「だって、ツン、此処に来ても直ぐに泣いちゃうんだお。此処で泣いてるくらいなら、友達と遊んで笑ってて欲しいお?」

('A`)「……そ、だな」


 ドクオが口を歪めた。



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:19:53.16 ID:I0RG3f+c0

('A`)「俺からも言っとくかね。こんなさぼり魔見舞うなって。こいつがっここねぇしさ! 寂しいんだよね俺!」

( ^ω^)「さぼり魔違うおー! 学校はもう辞めたおー! ってかドクオこそ友達作れお!」

('A`)「知ってらーよ」


 その侭踵を返し、病室を立ち去ろうとする。ひらひらと右手を振った。ブーンにまた来る旨を伝え、其れを追いかけ、後頭部をはったく。

 ぱしこーん、と良い音がした。


川 ゚ -゚)ノシ「ドクオ待てコラ」

('A`)そ「おゎっ! え、何痛っ!」

川 ゚ -゚)「何ってお前、荷物持つって言っただろ。置いていくな」

('A`)「え? あれ本気だったのか」


 もう一回はったいた。



('A`)「俺、もう高校辞めようかな」



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:23:23.21 ID:I0RG3f+c0

病院から歩いて十分程にあるショッピングセンター一階の食品売場は、四時過ぎという時間帯からか、人がそろそろ増え初めていた。
あまり大きな声を出す趣味の無い私達の話し声は直ぐ掻き消されたが、葱の品定めをしながらのドクオは嫌に明瞭に聞こえた。


ちょっと混乱した私は、取り合えずその後頭部をはったく。


('A`;)そ「いだぁっ! 何?! 何でそんな後頭部集中攻撃すんの?!」

川 ゚ -゚)「……何でだ?」

('A`#)「俺が聞いてんすけどー?!」


川 ゚ -゚)「何で辞めるんだ? 勿体無い」


私がそう言うと、ドクオは少しだけ罰の悪そうに俯き、青々とした葱を籠に放り込んだ。
その侭の足で総菜のコーナーに向かうので、着いていく。


小さな子供が親に菓子を強請る声が耳をつんざく。少々、不快。



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:27:10.75 ID:I0RG3f+c0

川 ゚ -゚)「お前、私と違って頭良いんだから、大学だって推薦でもセンターでも狙えるだろ? 金だって国立なら負担は小さいし、奨学金くらいならお前は貰えるだろう?」

('A`)「うん。全部うん」


さらりと頷く。うん、ちょっと苛っときた。

俺だってそうする積もりだ、と呟きながら、ドクオは牛蒡の甘辛揚げのパックを手に取った。


('A`)「でも、そういう道もあるって思ったんだよ。んだけだよ冗談だって首首首首ぃいい」

川#゚ -゚)「おれ、おまえ、まるかじり」

('A`)「いやぁぁぁああ、こないでぇぇぇええ」


食らいつこうとかけた手を外し、一発殴る。



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:30:27.79 ID:I0RG3f+c0

川 ゚ -゚)「お前位は、まともっぽい人生歩め」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「じゃないと、将来皆で集まったとき、突っ込む奴かいないだろ」

('A`)「……おう」



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:35:43.98 ID:I0RG3f+c0

手に下げたビニール袋が手に食い込む。明日は仕事休みだなぁ、何をしようかなぁ等と私は考えていた。
夕焼けは赤くて、目が爆発しそうなくらいにまぶしい。冷たい空気に混じって何億光年も昔の死んだ光が私とドクオを照らした。


('A`)「ツンさ、最近俺とあんま喋ってくれないんだよ」

川 ゚ -゚)「お前がきもいからじゃないか?」

('A`)「まじでか……リアルに傷ついた……」

川 ゚ -゚)「後は、ブーンの事か」

('A`)「あー、」

呟いて、からからと笑う。


ばかだなぁツンも。


('A`)「ブーンがもうすぐ死ぬとでも思ってるのかね、あいつは」

川 ゚ -゚)「あり得なくも無いぞ。あれであいつは結構スイーツ(笑)脳だからな」

('A`)「それは無いだろー」



夕日が沈む。



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:39:07.51 ID:I0RG3f+c0

川 ゚ -゚)「ブーンのあれ。折り鶴」

('A`)「ん?」

川 ゚ -゚)「あれは、何なんだろうな?」


('A`)「……自分への励まし、とかそんなんだって。後、俺らが病気にかからないようにって、先回りして見舞っておくんだって、さ」


ドクオの両手にも、私の右手と同じ袋がかかっている。豆腐に牛乳、葱にミンチに白滝。油揚げや練り物に椎茸、人参、白菜。

今夜は鍋なんだろう。


川 ゚ -゚)「先回りして見舞う位なら、直接見舞えば良いのに」

('A`)「だよな。ってか縁起でも無いわ。俺らがあいつに負担寄越してるみてぃじゃねぇか」

川 ゚ -゚)「それもそうだ。っていうかあいつは何時まで私達を見舞わす気だ? 嫌がらせか?」

('A`)「……全く、早く回復しろよなぁ」

川 ゚ -゚)「激しく同意だ」

からからから、と人気の多い道の真ん中で笑う。



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:43:19.72 ID:I0RG3f+c0

('A`)「あいつが治ったらさ、前みたいにクーん家で料理パーティしようぜ」

川 ゚ -゚)「其れは良いな」

('A`)「朝から皆の好きなもん全部作ってさ、ずーっと食って喋って一日過ごす」

川 ゚ -゚)「魅力的な!」

('A`)「だよな!」


壊れたみたいに笑う私達を通行人が怪訝そうに振り返るが、気にしない。


('A`)「ブーンの好きなものっつったら何だろうな。やっぱカレーとかハンバーグとかか」

川 ゚ -゚)「いや、あいつは案外和食好きだぞ。焼き秋刀魚とか好きだった筈だ」

('A`)「へぇー、生まれてこの方あいつと幼馴染みしてきたけど、それは初めて知った」



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:46:44.79 ID:I0RG3f+c0

川 ゚ -゚)「まぁ、伊達に小さな頃惚れてないからな」

('A`)「あー……、懐かしいなぁ、それ」

川 ゚ -゚)「今じゃあんな甲斐性無し、こっちが願い下げだがな。病気治してから来いって話だ」

('A`)「……それでも、ツンは良いんだろうな」

川 ゚ -゚)「……うん」



ドクオの家まで、後三百メートル。夕日はすっかり沈み、現在時刻午後五時三十八分。
あたりは当然のように真っ暗で、足の先から凍っていくように寒かった。


川 ゚ -゚)「寒いな」

('A`)「めっさ寒いな」

川 ゚ -゚)「もっさり寒いな」

('A`)「めらっさり寒いな」



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:49:33.85 ID:I0RG3f+c0

適当な問答を続ける内に、ドクオ宅の前に着いてしまった。

無言で買い物袋をドクオに押しつける。


('A`)「ん、荷物持ちさせてごめんな」

川 ゚ -゚)ノシ「いや、いいよ。じゃあ、ばいばい」

('A`)ノシ「おう、ばいばい」

ドアが閉まり、私は一人になる。凍った息が鼻先に当たって少し泣きそうになった。


よし、早く帰って飯食って寝よう。


そう決意して歩を進めようとして、

('A`)「まっ、」

川 ゚ -゚)「うおっ!」


玄関から飛び出たドクオを避けて転んだ。びびびびっくりした。
不審者とかに備えて身を引き締めた直後に飛び出てくんな頼むから。



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:53:06.96 ID:I0RG3f+c0

川 ゚ -゚)O<「びっくりしたわ何すんじゃわれぇ!」

<('A`;)「ぃいい?! いや、ささ流石に夜道はあれかと思って、送ってこうかと、」


思わず掴んだ胸ぐらを放し、息を吐く。ドクオは「いやあれって何だ……?!」とか自分につっこみをいれていた。こっちが聞きたいわ。

取り合えず立ち上がり、頭を下げる。


川 ゚ -゚)「ありがとうございます」

('A`)「あ? い、いえいえこちらこそ」





家に無事帰り着いた私は、とりあえず暖房のスイッチを入れると真っ先に台所に入った。



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:55:37.88 ID:I0RG3f+c0

しんと冷えた空気が私を出迎える。


何を食べよう。朝下拵えしておいたシチューでも煮ようか。


どうせ家に帰っても一人なんだから、別に送っても送らなくても一緒じゃないかと一瞬思ったが、そういう問題では無いのだろう、と納得した。
壁一枚で世界はいろいろと変わるものだ。


川 ゚ -゚)「……シチューでいいか」


ガス台に火を付け、鍋を置いて床に座り込む。
冷たい温度が服越しに伝わった。



家族が交通事故で死んだのは、三年前の話だ。
中学三年生だった私は唐突に天涯孤独になった。



37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 17:58:01.96 ID:I0RG3f+c0

運良く人の良い養父と養母に引き取られて、今日養父におとんっていってやったよ的なそんな日常を過ごしたりしたが、やはり養父は養父、養母は養母で、悲しいかな、私は彼らの事をお父さんお母さんと呼べなかった。
そんな自分が嫌で嫌で仕方無くて、高校を蹴って就職した。


養父に殴られた。養母に泣かれた。ブーンに叱られた。ドクオに睨まれた。


それでも、私は自立しなければならないと思っていた。
一種の強迫観念みたいなものだろうと思う。細かい事は知るか。

今では養父も養母も苦笑混じりではあるが容認してくれているし、ドクオやブーンも、私の道を認めてくれた。


だから、私はそれで良い。

それだけで、十分幸せ。

だったから。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:00:42.65 ID:I0RG3f+c0

ドクオから、ツンに殴られたとメールが来た。



ブーンから、ツンが見舞いに来なくなったと言われた。



ドクオがぼんやりとした目でブーンに謝って、



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:03:12.79 ID:I0RG3f+c0

( ^ω^)「……ドクオは?」

川 ゚ -゚)「今日は都合が悪いんだそうだ。……友達と、遊ぶって」


多分、嘘だ。


( ^ω^)「そうかおー。やっとあれにも友達が出来たかおー」


嘘なのに。
そう言い出せなくて、遠い目をするブーンから目を逸らして、私は雑談も早々にブーンの病室から引き上げた。  
 
久しぶりに明るいうちに帰ってきた台所で、私は少しだけ泣いた。
こんなのは可笑しいと、少しだけ泣いた。
 
直ぐ泣き止んで、明日の献立を考えた。

 

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:05:33.89 ID:I0RG3f+c0

ブーンの容態が悪化したのは、其れから三日後だった。
 
冷気から逃げるようにして駆けつけた病室には、ドクオがベットにもたれるようにして座っていて、ブーンの両親は出張で手がはなせられないという旨を私に伝えた。




('A`)「……ブーンのおばさん、泣いてた」

川 ゚ -゚)「そうか」

('A`)「どうか、私達の代わりについててやって下さいってさ」

川 ゚ -゚)「そうか」

('A`)「死なないのになぁ」

川 ゚ -゚)「……そうだな」


マナーモードにした携帯に視線を落とす。



44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:07:40.29 ID:I0RG3f+c0

川 ゚ -゚)「……ツンには、連絡入れたよ」

('A`)「ああ、有難う。……俺気まずくって」

川 ゚ -゚)「そんな事言ってる場合か」

('A`)「そうだな。ごめん。ありがと」


ドクオは青く染まった床に座り込みながら天井を見上げていた。
けど、と呟く声がする。


('A`)「こないな」

川 ゚ -゚)「ああ、……こないな」



床にかけられていた千羽鶴達は、根こそぎ床にまき散らされていた。まるで海のように。



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:10:37.05 ID:I0RG3f+c0

足下に散らばった青い青い青い折り鶴達を見下ろす。
ブーンがやったんだろうか。
本人は目の前に居るが、聞く術は無い。


病人みたいな色の呼吸器が、この上無くじゃまで。
点滴と、何だかよく分からない機械の吐き出す音が静かな病室に響く。


単調だ。
 

嗚呼、とため息を吐き出す。料理パーティだってまだやってないのに。


('A`)「来るよな」

川 ゚ -゚)「ああ」


目を閉じるブーンの布団の上には、無数の折り鶴と私のよこした折り紙の包みが散らばっていて、ノルマ達成できたんだな、と私は微笑む。



47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:13:16.63 ID:I0RG3f+c0

('A`)「そういえばさぁ……本物の鶴って見たことないよな」

川 ゚ -゚)「ああ」

('A`)「ブーンが退院したら、三人で、いやツン入れて四人か。四人で見に行こう」

川 ゚ ー゚)「……いいな、それ」

('∀`)「料理はやっぱその後にしようぜ」


私は笑った。ドクオも笑った。
まるでなんでもないように。

毎年、ブーンがインフルエンザに掛かったときのように。



('A`)「あー、でも料理も良いよな。クーはどっちが先が良い?」

川 ゚ -゚)「私は……旅行が先かな。最近行って無かったし」

('A`)「そうだな。それがいい」



50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:16:53.93 ID:I0RG3f+c0

そうと決まったらいろいろ話し合いたいな、ツン早く来ないかな。
 




そう呟いて、ドクオは天井を見上げる。


川 ゚ -゚)「来るさ」

ほら、廊下を走る音が聞こえてきた。代わりになんだか、機械の吐き出す音もゆっくりになっていく気がするけれど、気のせいだ。
気のせいだ。気のせいだ。気のせいだ。

だから、



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:18:58.98 ID:I0RG3f+c0

早く。







('A`)「うん」


嗚呼、


病室のドアが開く。



52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:21:14.33 ID:I0RG3f+c0





窓の外から青い空が覗いていて、それと同じような青い青い海が、私の足下にも





53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:21:52.43 ID:I0RG3f+c0




川 ゚ -゚)それはうみのようです



55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:23:12.55 ID:I0RG3f+c0
以上終了です。
支援等有難う御座いました。中途半端な終り方してごめんなさい。


質問等、ありましたら答えるような答えないような



56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:25:07.25 ID:ZROfswNnO
追い付いたら終わってた。
なんか切ない。乙



57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:27:50.97 ID:o4kkpeQn0


質問は…特にないな。
中身は重いけど表向きはむしろ清清しい、良い小噺でした。



58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:33:02.03 ID:anxpkAxu0
読みやすかったし短かったからよかったです




59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/19(金) 18:45:53.20 ID:pJxm1mQcO
逆にこういう終わり方だからこそ、良い余韻を感じる事が出来たよ
乙、良かった




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この記事へのコメント
  1. Posted by . at 2008年12月19日 21:35
  2. 切ない…
  3. Posted by 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 at 2008年12月19日 22:01
  4. どういうことだ?
    ブーンが死んだだけか
  5. Posted by ⊂(^ω^)⊃ at 2008年12月19日 23:13
  6. ブーンには出来るだけいつまでも元気に走り回ってほしい………
  7. Posted by ⊂(^ω^)⊃ at 2008年12月19日 23:13
  8. ブーンには出来るだけいつまでも元気に走り回ってほしい………でもこういうのも嫌いじゃないな。よみやすかった