2009年01月10日

(´・ω・`)ショボン警部が虚構の城を崩すようです捜査編その2

67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:53:03.83 ID:ZXe5gVqI0

 −11−

 しぃは買い物かごを押しながら、夕飯は何にしようか考えていた。
 横を歩いているギコは、いつものスウェット姿だった。

 夕方のマーケットはそこそこ混んでいて、主婦の姿が多く見えた。
 腹が出た厚化粧の主婦が目の前を通り過ぎるのを見たとき、
 自分もこのようなおばさんと同じ立場であるという思い込みから、憂鬱な気分になった。

(,,゚Д゚)「今日は鍋がいいぞ」

(*゚ー゚)「ごめんなさい。今日は魚が安い日だから、焼き魚とか、お刺身にしたいの」

(,,゚Д゚)「ちっ」

 ギコは不満げに舌打ちをした。彼から見えないように、しぃはそっと顔をしかめた。
 どうしてこの男と結婚してしまったのだろうと、毎日のように彼女は考えている。

 鉄工所で働いているギコと出会ったのは、彼女がまだ高校生の頃だった。
 若かった、とその頃を思い出して、しぃは自分の思慮の浅さに後悔する。



69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:55:30.00 ID:ZXe5gVqI0

 魚のパックと漬け物、それからビールを2缶買って、しぃは会計へ向かった。
 会計はいつもギコがしていた。しぃにはほとんど金を持たせない主義だった。
 しぃの月々の小遣いは安く、同じ年頃の女のような遊びが何一つ出来なかった。

 会計を終え、袋に商品を詰める作業はしぃがやっている。
 ギコは先にマーケットから出て、吸い殻入れがある場所で煙草を吸っていた。

(*゚ー゚)「おまたせ」

(,,゚Д゚)「帰るぞゴルァ」

 ギコはしぃの手から買い物袋を奪い取り、先に歩き出していった。
 彼と並ぶことはせず、少し後ろを歩くようにしてしぃはついていった。
 これはギコが優越感を感じる距離感なのだと、しぃは知っていた。

 アパートまでは歩いて十分ほどで、しぃはその間ずっとギコに喋りかけていた。
 彼が打つ相づちは素っ気なく、ほとんど一方的なお喋りという感じだった。

(,,゚Д゚)「あっ」

 アパートの前に停めてあった車に、もたれかかっている者を見つけたとき、ギコは小さく唸った。
 先日アパートを尋ねてきた二人組の警察だとすぐにわかった。



71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:57:10.17 ID:ZXe5gVqI0

(,,゚Д゚)「犬どもが。しつこくやってきやがるな」

 声が届かないのを良いことに、警察相手に毒を吐くギコの後ろで、しぃは青ざめた顔をしていた。
 二人組の警察のうち、男の方が先にこちらに気がつき、にこやかな顔で近寄ってきた。

(´・ω・`)「どうも。先日も話を訊かせて頂いたショボンです」

 胸ポケットから警察手帳の端を出し、ショボンは言った。
 彼の後ろに居た女も「ルカです」と名乗り警察手帳を開いた。

 初めて会ったときから、とても警察とは思えない女だ、としぃはルカを見て思っていた。
 話し方や素振りを見ても、同年代のような親しみがあった。
 ただし気を許せる訳が無く、しぃの体はかちこちに緊張している。

(´・ω・`)「今日はしぃさんに話を訊きにきました」

(*;゚−゚)「私にですか」

(´・ω・`)「ええ。お時間よろしいですか?」



72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 18:59:01.72 ID:ZXe5gVqI0

(,#゚Д゚)「まどろっこしいやつだな。さっさと訊けばいいだろ」

 早くもギコは苛立ってきているようで、その様子にルカは怯えていた。

(´・ω・`)「当日の様子をもう一度確認したいだけです」

(,#゚Д゚)「それだったらしぃはずっと家にいたはずだ。そうだろ?」

 ギコが同意を求めているしぃは、ただ頷いているだけである。

(´・ω・`)「間違いありませんね?」

(,#゚Д゚)「当たり前だろ。しぃが嘘をつくはずねえじゃねえか」

(´・ω・`)「私も、しぃさんが嘘をつくタイプでは無いと思っています」

 ショボンはやたらしぃを持ち上げるように強調して言った。
 すると逆に、しぃはどんどん萎縮していった。

(,#゚Д゚)「しぃ。行こうぜ。こいつらに何か変なこといったら、すぐにマスコミに流れちまうぞ」

(*;゚−゚)「マスコミ?」



73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:00:57.66 ID:ZXe5gVqI0

 俯き気味だったしぃがぱっと顔を上げた。
 彼女は何かに怯えるような目つきをしていた。

(,#゚Д゚)「そうさ。マスコミと警察は繋がってるからな。
     ちょっとでもネタになりそうなこと言えば、すぐに記事にされて晒しもんにされんだよ」

(´・ω・`)「個人の情報は守りますけどね。繋がりだって大してありませんし」

(,#゚Д゚)「いいや、嘘だな。おまえらは嘘つきだ。警察はみんな嘘をつく」

(´・ω・`)「つくのではなく、見抜くのが仕事です」

(*;゚−゚)「あのっ、あ、ごめんなさい」

 しぃは泣きそうな顔をしていた。頭が混乱しているようだ。
 どうして自分がショボンたちに謝っているのかさえわからないような顔をしていた。

 今日も無理そうだな、とショボンは思った。
 適当に別れの挨拶をしてから、ショボンたちはギコたちの前から去っていった。

 ギコは鼻息荒くし、ショボンたちの背中を睨み続けていた。
 しぃはいつまでも青い顔をして俯いていた。



74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:03:20.16 ID:ZXe5gVqI0

 −12−

 ショボンはルカと別れ、単独で行動していた。
 今夜ショボンが行くのが、クーが働いているキャバクラだったからだ。

 繁華街の中心にあるビルの三階に、目的のキャバクラがあった。
 重そうな木の扉の前に、ロシア語の店名が書かれている看板がある。
 ショボンはネクタイの位置を直してから、店の扉をくぐった。

 薄暗い店内には、洋楽のポップ曲が流れていた。

(‡`Д´)「いらっしゃいませ! お客様お一人ですか!?」

(´・ω・`)「すいません、私はこういうものです」

 すぐさまやってきた黒服に、警察であることを伝えると、男は営業スマイルをやめた。
 黒服の頬にはタトゥーを消した跡がある。
 ショボンは薄く笑いながら、店長と話をしたいと言った。

 「少々お待ちください」そう言って黒服は奥へ走って消えた。
 間もなく店長らしき中年の男がやってきて、ショボンは店の奥にある事務室らしき部屋に案内された。



75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:06:55.18 ID:ZXe5gVqI0

(´・_ゝ・`)「店長のデミタスです」

(´・ω・`)「警部のショボンです。お忙しいところ申し訳無い」

 小さなデスクに二人は向かい合って座った。
 壁にはスーツやカレンダーがかかっていて、ロッカーなどのせいで部屋は狭い。

(´・_ゝ・`)「それで、うちの従業員に何かあったのでしょうか」

(´・ω・`)「いや、直接の関係は無いんです。ちょっとした確認の為だけに来たので。ご安心を」

 しかしデミタスの警戒は解かれず、緊張した顔は強ばっていた。

(´・ω・`)「クーさんという女性が働いていますよね」

(´・_ゝ・`)「ええ」

(´・ω・`)「彼女の住んでいるアパートで、先日殺人事件が起こりました。
     そのとき彼女はこちらで働いていたと聞いています」



76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:08:44.65 ID:ZXe5gVqI0

(´・_ゝ・`)「いつでしょうか」

(´・ω・`)「18日です。正確にいえば18日と19日でしょうか」

(´・_ゝ・`)「少々お待ちを」

 デミタスは近くの棚から勤務表を取り出し、確認してからデスクの上に置いた。

(´・_ゝ・`)「確かに働いています。まだカメラの記録にも残っているはずです」

(´・ω・`)「そうですか」

(´・_ゝ・`)「調べることは、以上でしょうか」

(´・ω・`)「一応カメラのデータをこちらで保管したいのですが、よろしいですか」

(´・_ゝ・`)「いいですよ」



77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:11:31.82 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「記録メディアを持ってきていますので、そちらにデータを移してください」

(´・_ゝ・`)「わかりました」

 デミタスがパソコンで作業を始めている間、ショボンは携帯を開き、きていたメールを確認した。
 ルカからだった。メールには一言、見失いましたとだけ書かれていた。
 彼女はショボンの指示によって、ジョルジュの尾行をしていたはずだ。
 あとで連絡する、と返し、ショボンは携帯を閉じた。



80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:14:03.09 ID:ZXe5gVqI0

 −13−

 ルカと合流したショボンは、アパートに向かって夜の街を車で走っていた。
 煌びやかで騒がしいビル街を抜け、ちらほらと住宅が見え始めた頃に、ショボンが口を開いた。

(´・ω・`)「どうも犯行は行き当たりばったりで、いまいち計画性が見えない」

从*゚ーノリ「計画性ですか」

(´・ω・`)「まあ、多少は構想があったのかもしれんが、大したものじゃない。
     容疑者の四人には未だにアリバイが無い。
     しかもジョルジュ以外は犯行時に家にいたと言っている。
     アリバイ工作とまではいかないまでも、せめて外に居たと証言した方が精神的にも楽なはずだ」

从*゚ーノリ「下手なアリバイ工作で疑われるのを避けたという考え方も出来ますよ」

(´・ω・`)「それにしても捜査に対して無防備過ぎる。これじゃ一度疑いがかかったら振り切るのは難しい。
     犯行は物取りに見せかけようとしている意図が見えるが、ごまかし程度にもなっていない。
     その証拠にあの部屋を見た警官は全員このアパートの住人を疑った」



82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:16:14.60 ID:ZXe5gVqI0

从;゚ーノリ「私は物取りのセンで進めようとしましたけど」

(´・ω・`)「おまえは経験が少ないから仕方が無い。ともするとかなり感情的な犯行だったのかもしれないな。
     まあ、考えてもわからないかもしれないことを考えるのは無駄過ぎる。
     今考え、答えを出さないといけないことは何だ、ルカ?」

从*゚ーノリ「犯人の侵入経路。そして逃走経路ですね」

(´・ω・`)「その経路を選んだ証拠と、その理由が解明できれば、案外すぐに犯人が特定出来ると思う」

从*゚ーノリ「今時間はちょうど十時半です。
     アパートに着くのは十分後なので、犯行時刻の再現が出来ますね」

(´・ω・`)「運動は得意か?」

从*゚ -ノリ「はい?」

(´・ω・`)「運動。特に木登りとか」

 ルカはきょとんとした顔で首をかしげた。
 ショボンはFMラジオの音量を上げ、流れてきた流行のポップ曲に体を揺らし始めた。



83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:19:02.54 ID:ZXe5gVqI0

 −14−

 アパートに着くと、まず103号室へ向かった。
 経路の確認の為にちょっとした実験をする為、住人のしぃとギコに許可を取りにいったのだ。
 ところが二人は留守らしく、部屋の明かりはついておらず、呼び鈴を鳴らしても反応は無かった。

 仕方無く許可無しでやろうということになり、二人はアパートの裏手に回った。
 アパートに庭などはなく、コンクリートの塀とベランダに挟まれた狭い隙間があるだけだった。

(´・ω・`)「まず僕がやってみる」

从*゚ーノリ「落ちても受け止めれませんよ」

(´・ω・`)「そんなことは期待していない」

 ショボンは103号室のベランダを囲う木の柵に足をかける。体重で木が軋み、音が鳴った。
 片方の足は塀に当て、両手両足を使ってするするとのぼり始めた。
 そして彼が二階のベランダに手をかけたときだった。塀の向こうからぱっと明かりに背中を照らされた。

 振り返って確認したところ、隣の住宅についている泥棒よけのライトの光のようだった。
 動体探知機がショボンに反応したらしく、眩しい照明が目に入ってくる。

从;゚ーノリ「ショボンさん」

(´・ω・`)「とりあえず最後まで上ってみる」



85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:20:55.07 ID:ZXe5gVqI0

 光を浴びながらも塀に足をかけ、二階のベランダへ到着した。
 時間は一分もかかっていなかった。

从*゚ーノリ「じゃあ、私行きます」

 二階でショボンが見守る中、彼と同じ場所を通ってルカがよじ登ってきた。
 だがショボンよりずっと身長の低いルカは多少の苦戦を強いられた。
 不格好な体勢で苦心しつつ、それでも何とか二階まで上りきった。

从;゚0ノリ「ふぅー。死ぬかと」

(´・ω・`)「じゃあ次は下りてみよう」

从;゚ーノリ「はーい」

 ベランダの柵をまたぎ、両手でぶら下がるような格好になった。
 ここでまた動体探知機が反応し、ショボンの姿が夜の闇に浮き彫りになった。
 彼の体の影が103号室の閉じられたカーテンに大きく映し出されている。

(´・ω・`)「早く来い」



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:22:48.51 ID:ZXe5gVqI0

从;゚ーノリ「い、いきますよ。いけばいいんでしょう。
     あと私スカートだから、真下にいないでくださいよ」

(´・ω・`)「落ちたときの保険だ。我慢しろ」

 小声でぶつぶつと文句を言いながら、ルカは柵に足をかけ、上をまたごうとした。
 足の長さがぎりぎりだから、大きく体を曲げる必要があった。

(´・ω・`)(白か。意外だ)

 ルカの腰が木の柵に乗ったとき、彼女の体がぴくんと跳ねた。

(;´・ω・)「危ない!」

 上体のバランスが崩れ、彼女の体はぐらりと空中に傾いた。
 低いうめき声を上げながら、スローモーションで宙を舞っている。
 背中から落ちてきたルカを、ショボンは両手を広げて地面に落ちる寸前に抱き留めた。

(;´・ω・)「大丈夫か?」

从*;ーノリ「はいぃ……」



96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:40:19.73 ID:ZXe5gVqI0

 腕の中で荒い呼吸をしている彼女を、ひとまず地面に降ろした。
 スカートがめくれて露わになった股下から、血の筋が続いている。

(´・ω・`)「なんだコレ」

从*;ーノリ「たぶん、尖ってるところに足をぶつけたんです」

 そんなものあったかなと疑いつつ、持っていた懐中電灯で二階のベランダを照らした。
 目を懲らすと、確かに金属片が柵の手をかける部分の影から出ているのがわかった。
 おそらく柵の補強材だろうとショボンは目をつけた。

(´・ω・`)「あの赤さびがついているやつか」

从*;ーノリ「たぶん。どうしましょうショボンさん。凄い痛いです」

(´・ω・`)「そうか。唾でもつけとけ」

从*;ーノリ「舐めてくれるんですか?」



99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:42:07.23 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「僕は上司だぞ。あまり舐めた口を利くな」

从*;ーノリ「舐めるだけに?」

 ショボンは呆れかえって夜空を仰いだ。
 落下の混乱が冷め切っていないようで、ルカは未だによくわからないことをのたまっている。

(´・ω・`)(しかし、これはどういうことだ)

 隣の住宅から降りかかるライトの光と、103号室を交互に見上げて、ショボンは考え込んでいた。



100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:44:39.60 ID:ZXe5gVqI0

 −15−

 ショボンは空き部屋である202号室のベランダに居た。

从;゚ーノリ「い、いきますよ」

 柵に足をかけ、今まさにルカが203号室からこちらに飛び移ろうとしているところだった。
 ベランダとベランダの距離はおおよそ2メートルあり、足を踏み外せば下の室外機にダイブすることになる。

从;゚0ノリ「とぉ――!」

 間抜けなかけ声と共に、ルカが夜空を舞った。
 彼女の体は202号室のベランダの柵を越え、ショボンの眼前に落ちた。

从;゚ーノリ「で、出来ました!」

(´・ω・`)「子供でも飛び越えられる距離だしな」

从;゚ーノリ「帰りも飛び移るんですか?」

(´・ω・`)「いや、この部屋を抜けて外に出よう。もう一つの経路を確認しなければいけない」

从*゚ーノリ「良かったぁ」



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:45:48.41 ID:ZXe5gVqI0

 二人は靴を脱ぎ、202号室を抜けて外の廊下へと出た。
 しっかりと部屋に鍵をかけてから、ショボンはルカに向き直った。

(´・ω・`)「残る経路は屋根だ。さあルカ、おまえならどうやって屋根の上に上る?」

从;゚ーノリ「どうやってって言われても、梯子か何か無ければ無理でしょう」

(´・ω・`)「梯子があるなら一階からベランダに上がる方がよほど簡単で楽で早いぞ」

从;゚ーノリ「そうでしょうね。でも自力で上がるのは無理なんじゃないでしょうか」

(´・ω・`)「ああ。僕もそう思う」

 二人は無言で見つめ合い、しばらく沈黙があった。

从*゚ーノリ「あの、どうします?」

(´・ω・`)「鉄棒の体操選手を呼んで実験しても無意味そうだしな。今日はもう帰ろうか」

 ついさっき経路を確認しようと言ったショボンが、既に帰るつもりでいる。
 どうも自分が振り回されているようで、ルカは面白くなかった。



104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:48:19.78 ID:ZXe5gVqI0

 −16−

 模試の結果を手にしたまま、アサピーは予備校の門をくぐった。
 外は薄暗く、遠くの空に夕焼けの名残が残っていた。

 模試の結果は実に満足の出来だった。志望校の判定がAだったのだ。
 浪人までした成果が確実に現れていることに、顔がほころびた。

 実家に報告しようかどうか考えながら、路地の角を曲がったとき、目の前にいた人物に体を強ばらせた。
 先日も会った警察だった。いつまで経っても、警察と話をするのは慣れないだろうと彼は思った。

(´・ω・`)「こんにちは」

(-@∀@)「こんにちは」

(´・ω・`)「模試の帰りかな?」

(-@∀@)「今日は結果をもらいにいっただけですよ。予想通りのA判定でしたけどね」



106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:50:01.47 ID:ZXe5gVqI0

 訊かれてもいない模試の結果を自分から言ったのは、誇らしい成績だったからだ。
 ショボンは顔を輝かせて「やったじゃないか」とアサピーの肩を叩いた。
 照れくさいらしいアサピーは、ぽりぽりと頭を掻いた。

(´・ω・`)「軍手、けっこう痛んでるね」

 ショボンはアサピーの右手にはめた軍手を指さして言った。
 汚れた布には縫った跡があり、糸がほつれていたりして随分とくたびれていた。

(´・ω・`)「新しい手袋にしないの?」

(-@∀@)「ああ、まあしたいんですけど、これでも使えない訳じゃないし」

 普通の手袋ではなく軍手、それも破れているものを使っているのが恥ずかしいのか、アサピーは俯いている。

(´・ω・`)「縁起が悪いから、早く買い換えた方がいいよ」

(-@∀@)「お母さんから買って貰ったものなんで、使えなくなるまで使いたいんです」



107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:51:52.08 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「お母さん思いなんだね。道具を長く使うのはいいことだよ」

(-@∀@)「あの、それに、うちは貧乏なんで。余計なものは買いたくないんですよ」

(´・ω・`)「実家は何処だったっけ?」

 世間話をしているようで、しっかりと職務質問になっている。
 ショボンの穏やかな口調のせいで、アサピーはそれに気がついていない。

(-@∀@)「××県です」

(´・ω・`)「結構遠いね。一人暮らし、お金がかかるんじゃない?」

(-@∀@)「そうでもないです。実は大家さんとうちのお母さんが親戚で。
      それで家賃をタダにして、勉強の為に一年間貸してくれるって、あの部屋をくれたんです」

(´・ω・`)「ほう。親切な人だね。お父さんは何してる人?」

(-@∀@)「いません。小さいとき亡くなりました」

(´・ω・`)「ああ、すまない」

(-@∀@)「いえ」



108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:54:39.34 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「じゃあ母子家庭で育ったんだな」

(-@∀@)「ええ」

(´・ω・`)「苦労したろうに」

(-@∀@)「ええ、結構。兄弟もいましたから」

 腕を組んだショボンは、まるで見てきたかのようにしきりに頷いていた。

(-@∀@)「あのう、今日は何の用できたんですか?」

(´・ω・`)「ああ、そうそう。実はアパートの住人について訊きたいことがあったんだ。
     君はあのアパートに住んでいる人と仲が良かったりするのかい?」

(-@∀@)「いえ。挨拶をする程度です」



111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:58:06.92 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「じゃあ他の住人で、一緒にいるところを見たこととか」

(-@∀@)「部屋の違う人同士で一緒にってことですか?」

(´・ω・`)「そうだ。夫婦や家族同士じゃなくて、他人同士で」

 一瞬考え込む素振りを見せたが、アサピーはすぐに「知りません」と答えた。

(-@∀@)「もしかしたらいるかもしれないですけど、僕にはわかりません」

 ショボンは少しばかり落胆しているようだった。
 「引き止めてしまってすまない」とだけ言うと、ショボンたちは踵を返し、
 近くに停めてある車に向かって歩き出した。

 アサピーは話が終わって初めて、自分の心臓が大きく鼓動しているのがわかった。
 やっぱり警察には今後一生慣れないだろう。
 ショルダーバッグに模試の結果を詰め込みながら、アサピーは短いため息をついた。



112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 19:59:54.34 ID:ZXe5gVqI0

 −17−

 「ば、ば、ばれてねえよな」

 「大丈夫だ。いい感じにあの件が目くらましになってる」

 「本当だな? 本当だよな?」

 「ああ。安心しろよ」

 「ちくしょう。こんなことならさっさと引っ越しとけば良かった」

 「そうだな。ところでそろそろ限界か?」

 「あ、ああ、かなり、やばいよ。凄くやばい。おまえに言われた通り、全部捨てちまったんだから」

 「そんな目で見るんじゃねえよ。そうしてもらわないと危険なんだ」



113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:01:35.82 ID:ZXe5gVqI0

 「いつになったらこんなこと終わるんだよ」

 「もう少しの辛抱だろ」

 「なあ、少しだけ、少しだけでいいから」

 「ちょっと待て。今はやめろ。絶対に駄目だ」

 「どうして」

 「おまえつけられてただろ。おれが気がついて場所を変更しなかったらあのときおしまいだったんだぞ」

 「いいじゃねえか。あの後だって、ちゃんとくれただろ」

 「あのときはな。でももうだめだ。やつらに感づかれないように、下手なことはしない方がいい」

 「でも、でも駄目だ。おれ、もう……」

 「おれだって我慢してるんだよ」

 「そうだけど。でも」



116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:03:20.37 ID:ZXe5gVqI0

 「でもじゃねえ。とにかく今は辛抱だ。いいな?」

 「ああ、ああわかってるよ。わかってるさ。我慢だろ。くそ」

 「かなりきついみたいだな」

 「う、うん」

 「じゃああと一週間。一週間我慢出来たら少しだけならいいぜ」

 「本当だな」

 「ああ。あいつにも言っておく」

 「頼むぜ相棒」

 「相棒? ふざけんな。おれとおまえが相棒だなんて冗談でもわらえねえ」

 「……」

 「じゃあな、お客さん」



117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:05:10.76 ID:ZXe5gVqI0

 −18−

 警視庁捜査一課本部の自分のデスクの上で、ショボンはパソコンを睨んでいた。
 画面には事件当時、クーが働いていたキャバクラの映像が映っている。

 確かに彼女はあの時間、そこで働いていたようだ。
 記憶にある店の内装は同じだし、クーと一緒に頬にタトゥーの跡があった黒服も映っていた。

(´・ω・`)(さて、どういうことだろうな)

 視線はパソコンに置いたまま、事件をおさらいする為に、彼は頭の中で思考を巡らせた。



118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:07:17.86 ID:ZXe5gVqI0

 殺人があったのは203号室。殺害されたのは独り身の鬱田ドクオ。59歳。
 自称画家だが名声があった訳ではなく、単なる趣味で絵を描いていた。

 しかし住人たちには、名のある画家だと言いふらしていた。
 犯人の目的はドクオの殺害と金庫の中身である。


(´・ω・`)(そういえば、金庫に何があったか訊いていないな。あとで訊いておこう)


 住人たちはドクオの話から、金庫には大金があると思っていた。
 金庫の存在を知っていたのは住人たちだけ。


 またドクオが絵を描いているとき、周りが全く見えなくなるまでに集中することを知っていた。
 よって容疑者はアパートの住人で、あの時間にアリバイの無い四人。
 アサピー、しぃ、モララー、ジョルジュ。



 ジョルジュは外で飲んでいたというが、未だ裏は取れず、証言は非常に曖昧。
 その他の者は全員家に居たと証言している。


 犯人の侵入経路として考えられるのは二つ。一階からよじ上る方法。
 もう一つがベランダを飛び移る方法の二択であり、その他は考えられない。



121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:09:08.99 ID:ZXe5gVqI0

 まず侵入経路を考えたときに大きな疑問が生まれる。
 一つは103号室に居たはずのしぃの存在だ。


 アパートの隣に建っている住宅には動体探知機が取り付けられた照明がある。
 一階からよじ上るとすれば、自分の影が大きく室内に投影されてしまう。
 しぃがそれに気がつかないはずは無い。

 隣の102号室から上ると考えても、あの部屋にはアサピーがいるから同じことである。
 101号室のジョルジュはその時間居なかったことになっているが、すぐ上の201号室にはモララーが居る。

 共同トイレに行っていた一瞬の間に上ることは出来るかもしれないが、
 しぃもアサピーもその時間にトイレには行っていない。


 これをクリア出来るのは、102号室と103号室に住んでいるアサピーとしぃだけである。
 つまり一階から侵入したと考えると犯人は二人のうちの誰かになる。

(´・ω・`)(待て待て待て。あれだけ目立つ照明なんだ。
     いくら浅はかな犯人でも、自分が疑われるという考えに行き着くだろう。
     大体自分の部屋から上って殺すなんて、考えるか?
     だったら人がいない時を見計らって……待て、アサピーは浪人生だ。
     あの時間に部屋を開ける可能性があるのはしぃとギコ。
     事件当日はしぃが居たが、僕が侵入経路の実験をしたときには103号室は空いていた。
     居ないときもあるんだ。犯人はそのときを狙って犯行をすればいいだけの話だ)



123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:11:19.42 ID:ZXe5gVqI0

 一旦気持ちを落ち着かせて、もう一つの侵入経路について考える。
 空き部屋の202号室のベランダから飛び移る方法である。

 しかし202号室のドアには鍵がかかっていて、事件当日も開いていなかった。

 すると202号室のベランダに行くには下からよじ上るか、さらに隣から飛び移るの二つに絞られる。
 真下の102号室にはアサピーがいるので、前述した理由で(アサピーが犯人でない限り)不可能である。

 では隣から飛び移ったとしたら。


(´・ω・`)(犯人はモララーだ。その時間部屋に居たのはモララーと彼女の娘のヘリカルだけ。
     小学一年生があのベランダを飛び移りドクオを殺害し金庫を探したとは思えない。
     ベランダから飛び移ったとなれば犯人はモララーということで確定してしまう)

 ここまで考えて、全く犯人が絞れていないことに気がついた。


 アサピーが犯人の場合。自室から202号室によじ上り、ベランダを飛び移って侵入出来る。
 しぃが犯人の場合。自室から203号室のベランダによじ上れる。
 モララーが犯人の場合。自室からベランダを飛び移って203号室に侵入出来る。

(´・ω・`)(容疑者四人の内、一応この三人は侵入可能だった訳か)



125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:12:58.76 ID:ZXe5gVqI0

 この考えでは、容疑者の内、唯一ジョルジュだけが侵入不可能だったということになる。

(´・ω・`)(本当にそうか?)

 ショボンの頭の中で事件に関しての記憶がいくつも想起され、消えていった。
 必要な情報だけを結合し、纏まった考えにならなければそれも消えていく。
 そうやってしばらく思考の渦が巻いていた脳に、一つの考えが浮かび上がった。


(´・ω・`)(玄関から侵入したらどうだ?)

 何らかの方法でドクオ自身に玄関を開けさせ、侵入した。


(´・ω・`)(無いな。話によれば、消防隊員がノックしても気がつかなかったやつだ。
      玄関を開ける訳……)

(;´・ω・)「! ルカ」

从*"ーノリ「へあ?」



126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:14:17.10 ID:ZXe5gVqI0

 少し離れたデスクの上で、涎を垂らして寝ていたルカは、ショボンの声に反応して顔を上げた。

(´・ω・`)「死体発見時、ドクオの部屋の鍵は開いていたらしいな」

从*"ーノリ「そうですよぉ」

(´・ω・`)「何故だ」

从*"ーノリ「さあ……」

(´・ω・`)「そういえばベランダも開けっ放しだったらしいな」

从*"ーノリ「そうですねぇ」

(´・ω・`)「何故だ」

从*"ーノリ「ベランダは殺される前から開いてたって言ったじゃないですかぁ」

 問題はそこであった。元から開いていたベランダが、どうして開けっ放しになっていたか。
 また玄関の鍵が開いていたのはどうしてか。



127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:16:17.51 ID:ZXe5gVqI0

从*"ーノリ「ベランダは閉め忘れたからでしょう」

(´・ω・`)「あり得ない。犯人は家の中を荒らしているんだ。その最中は絶対に閉じていたはずだ」

从*"ーノリ「じゃあ、犯人がもう一回開けていったんでしょう。玄関のドアも」

 ショボンもそう考えざるを得なかった。ただし理由は全くわからない。


(;´・ω・)(落ち着け。落ち着くんだ。この事件は複雑でもなんでもない。
      犯人は普通の思考の持ち主で、通常の人間が取る行動しかしていないはずだ。
      事件の全容が見えないのは他の要素が邪魔しているからだ。
      落ち着いて考えるんだ。真相は絶対にシンプルなものなんだ)


 ショボンは自分が犯人になったつもりで考えてみた。
 あらゆる事態を想定して、疑問が上手く融解出来る方向をめざし、頭を働かせる。

 玄関のドアが開いていたのは、閉められなかったからである。
 死体が発見されるのは時間が経ってからの方が都合が良いに決まってるからだ。



129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:18:35.88 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)(犯人は玄関から逃走した?)

(´・ω・`)「ルカ。ドクオの部屋の鍵は室内にあったか?」

从*"ーノリ「ありましたよぅ。テーブルの上に」

 玄関から逃走したとすると、鍵をかけて逃げるだろう。
 テーブルの上にあったなら犯人だって気がついていたはずだ。
 何故犯人は玄関から逃走したのに、鍵をかけなかったのか。

(´・ω・`)(鍵をかける暇がなかった。それくらい、慌てていた)

 なるべくシンプルになるような答えを考え、思いついたのがそれだった。


(´・ω・`)(どうして犯人は、侵入経路を通ったときと同じ方法で逃げなかったんだろう)


 思考は時間をさかのぼる。


(´・ω・`)(犯人は、どうしてベランダを使って逃げなかったんだろう)


 シンプルに、より直感的な答えを探して。


(´・ω・`)(使わないじゃない。これも使えなかったと考えるべきだ)



131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:20:25.45 ID:ZXe5gVqI0

 逃走時、ベランダが使えなかった理由。
 ここに、全てが隠されている気がした。

 何故容疑者全員にアリバイが無いのか。
 住人たちが嘘をついているとすれば、それはどうしてなのか。

 絡み合った糸の末端が、そこに、全て。


(´・ω・`)「指紋だ」

从*゚ -ノリ「はい?」

(´・ω・`)「指紋を調べよう」

从*゚ -ノリ「203号室はもう調べ尽くしましたよ」

(´・ω・`)「違う。調べるのは、202号室だ」



133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:22:53.39 ID:ZXe5gVqI0

 −19−

 クーは仕事帰りにしばしばコンビニへ立ち寄っていた。
 その日もいつものように、アパート近くのコンビニへ、ツマミとビールを買いにいっていた。

 時々このコンビニでドクオを見かけたな、と思い出し、彼女は顔を暗くした。
 どうしてあの人が殺されたんだろうと、彼女は一人のときによく考えていた。
 犯人が未だに捕まっていないことも彼女の憂鬱の原因の一つだ。

(´・ω・`)「すいません」

 コンビニの駐車場を横切っていたとき、車の影からクーを呼び止める声があった。
 以前と同じスーツ姿だったので、クーはすぐに警察だと気がついた。

(´・ω・`)「こんな夜更けになんですが、少しお話をさせて頂けないでしょうか」

川 ゚ -゚)「ええ、いいですよ」

 いつも一緒にいる婦警の姿が無かった。
 クーの考えていることを見透かしているように、「今日は一人できたんです」とショボンは付け加えた。



136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:24:48.16 ID:ZXe5gVqI0

川 ゚ -゚)「ドクオさんのことですか」

(´・ω・`)「ええ」

川 ゚ -゚)「もうお話しすることはありませんよ。あの日のことは、もうだいぶ忘れちゃってるし」

(´・ω・`)「あの事件のことで私は動いていますが、質問の内容自体はあなたとモララーさんのことなので」

 クーの額に小さな皺が寄った。
 攻撃的で挑発的なショボンの視線が、クーの不安を煽った。

(´・ω・`)「モララーさん、仕事見つかりましたか?」

川 ゚ -゚)「いえ、まだ」

(´・ω・`)「今のアパートに移ってからずっと働いておられないようですね」

 調べたのか、という非難の目線をショボンに向ける。
 ショボンは無表情でその視線をはねのけた。



138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:27:01.21 ID:ZXe5gVqI0

(´・ω・`)「今のお店で働き出したのは、いつ頃ですか」

川 ゚ -゚)「1年前くらいです」

(´・ω・`)「アパートに移った時期と同じですよね」

川 ゚ -゚)「ええ」

 ショボンの下唇を噛む仕草が、クーは気になって仕方が無かった。
 彼が何を考え、どういう意図で質問をしてきているのか、はっきりとわからないのがもどかしい。

(´・ω・`)「ヘリカルちゃん、小学一年生ですよね」

 クーは半開きの口で目を見開いた。
 まさか子供の名前が出てくるとは思わなかったからだ。

(´・ω・`)「難しい年頃になってきますよ。
     小学生になれば学費やらで色々と負担あるでしょうし、これから大変ですね」

川 ゚ -゚)「何が言いたいんだ」



141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:28:55.84 ID:ZXe5gVqI0

 クーは無表情だった。鉄仮面のような表情をしていた。
 しかし声は尖っていて、冷静さはほとんど無かった。

(´・ω・`)「気に障ったなら申し訳ありませんでした」

川 ゚ -゚)「何が言いたい。何が訊きたい。どうして私たちにつきまとう」

(´・ω・`)「事件解決の為ですよ」

川 ゚ -゚)「モララーが殺したと思ってるのか」

 ショボンは無表情だった。張り付いたような顔は、クーと同じだった。
 ただし目の奥には燃えたぎる闘志があった。クーには無い輝きだった。

(´・ω・`)「私は、間違いを犯さない人間はいないと思っています」

 ショボンは静かに、丁寧な口調で言った。

(´・ω・`)「ただ、どんな状況でも、絶対にやり直しは出来ると思っている。
     だから私は犯人を捕まえるんです。被害者の為だけでなく、犯人の為にも」

 「また出直します」ショボンは深く頭を下げてから、車に乗り込んでいった。
 車が見えなくなるまで、クーはその場に立ち尽くしていた。



143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:31:20.66 ID:ZXe5gVqI0

 −20−

 おさげを左右に振りながら、ヘリカルは学校の校門を抜けた。
 今日はお母さんが仕事だから、夕ご飯が無いのを知っていた。
 またお弁当なのかな、と少しだけ元気が無かった。

 大股でリズミカルに歩く彼女は、前方にいた大人を見て、顔をきょとんとさせた。
 どこかで見た顔だった。誰なのかというは思い出せなかった。

从*゚ーノリ「ヘリカルちゃんだね?」

 ヘリカルは答えられなかった。知らない大人と話してはいけないのだと思っていたからだ。
 大人の女は困った顔で笑った。子供っぽい笑顔で、思わずヘリカルも少し笑ってしまった。

从*゚ーノリ「お姉さんはね、ルカっていうの。まえに家に行ったことあるんだけど、覚えてない?」

*(‘‘)*「あっ!」

 記憶に残っていた女と目の前の女が重なり、ヘリカルは破顔した。
 知らない人じゃないから、喋ってもいいのだと思い、気が楽になった。



145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:33:00.40 ID:ZXe5gVqI0

从*゚ーノリ「あのね、お姉さん、ちょっと訊きたいことあるんだ。
      ここでいいからお話させてくれないかなあ」

*(‘‘)*「いいよ」

从*゚ーノリ「ありがとう」

 ルカは膝を折り、ヘリカルと同じ高さになって話し始めた。
 話の内容は学校のことや、友達のことなど、世間話だった。
 本題に入る前に、必ずその話をしてからやれ、と彼女は上司に言われていた。

从*゚ーノリ「あのねヘリカルちゃん。18日のこと、まだ覚えてる?」

*(‘‘)*「じゅうはち?」

从*゚ーノリ「ほら、まえにも訊いたこと」

*(‘‘)*「テレビ見て寝たこと?」

从*゚ーノリ「それ!」



146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:34:43.10 ID:ZXe5gVqI0

 「よく覚えてたねえ」ルカは満面の笑みで、ヘリカルの頭を撫でた。
 褒められるのが嬉しくて、ヘリカルは小さく飛び跳ねた。

从*゚ーノリ「あのとき、すぐに寝たんだよね」

*(‘‘)*「うん。テレビ見てから寝たよ」

从*゚ーノリ「そのあと、もしかして起きてたんじゃない?」

 ヘリカルは何かを言いかけて、あっと口をつぐんだ。
 俯いて、足をもじもじさせて、何も喋らなくなった。

从*゚ーノリ「喋るなって言われてるんでしょ?」

 ヘリカルは何も言わなかった。ただ、否定もしなかった。

从*゚ーノリ「大丈夫! お姉さん、ヘリカルちゃんが言ったこと絶対誰にも喋らないから」

*(‘‘)*「誰にも?」

从*゚ーノリ「うん! 約束は絶対守る。命かけるから!」



148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:36:37.21 ID:ZXe5gVqI0

 小学生のとき、よく男子たちが冗談で命をかける約束をしていたのを思い出しての台詞だった。
 思いつきの言葉だったが、ヘリカルにはよく効いているようだった。

从*゚ーノリ「誰にも言わないよ。あなたのお父さんにも」

*(‘‘)*「本当……?」

从*゚ーノリ「絶対言わない」

*(‘‘)*「本当に?」

从*゚ーノリ「本当に本当」

*(‘‘)*「本当に本当に本当?」

从*゚ーノリ「本当に本当に本当」

*(‘‘)*「……」

 「耳かして!」ヘリカルはルカの耳元に顔を近づけ、小声で話し始めた。
 間もなくして、ルカの目が大きく見開かれた。



151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:38:55.70 ID:ZXe5gVqI0

 −21−

从*゚ -ノリ「以上です」

 捜査一課のデスクに座っているショボンの傍で、直立不動のルカがディスクレコーダのスイッチを止めた。

(´・ω・`)「ご苦労」

 ヘリカルの証言をこっそり録音したものを、ショボンの前で流していたのだ。
 あんなに小さい子に嘘をついてしまったのは心が痛んだが、事件の為と腹をくくっていた。

(´・ω・`)「しかし、思わぬ収穫だったな」

从*゚ -ノリ「はい。想像以上の情報だったので、私も驚きました」

(´・ω・`)「そうか―――そういえばあのとき、ドアを開けたのは彼女だったな」

从*゚ -ノリ「え?」

 ショボンは初めてクーの家を訪れたときを思い出していた。

(´・ω・`)「彼女はあの時、父親の帰宅を待っていたんだ」



154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:40:54.43 ID:ZXe5gVqI0

从*゚ -ノリ「何の話ですか?」

(´・ω・`)「いや、こっちのことだ」

 ショボンはぐっと背伸びをした。
 事件解決が近いことを感じ、今までの疲労が一気に襲ってきているのだ。
 あとは野となれ山となれ。駄目なら強硬手段に出ようと、彼も彼で腹をくくっていた。

(´・ω・`)「そうだ。聞き忘れていたことがあった」

从*゚ーノリ「私にですか?」

(´・ω・`)「ああ。最初に聞き込みに行った日はいつだ?」

从*゚ーノリ「19日の朝です」

(´・ω・`)「聞き込みに行った部屋の順番は?」

从*゚ーノリ「201号室、103号室、102号室、101号室です」

(´・ω・`)「103号室にしぃは居たか?」



157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:44:38.55 ID:ZXe5gVqI0

从*゚ -ノリ「え、ええ」

(´・ω・`)「家を訪ねたとき、少し出てくるのが遅かっただろう」

从*゚ -ノリ「確か、そうだったと思います。呼び鈴を鳴らしてから1分以上はあったかな」

(´・ω・`)「彼女は何か言っていたかい?」

从*゚ -ノリ「電話をしていたので……と」

(´・ω・`)「そうか。うん、そうかそうか。だからジョルジュは……」

 ルカはまた置いてけぼりにされている気がした。
 彼と組んでから、このようなことはしょっちゅうだった。

从*゚ーノリ「ショボン警部。私はこれから、何を」

 ルカが指示を仰ごうとしたとき、捜査一課の他のデスクに座っていた警官が、
 ショボンに電話がかかってきたことを大声で伝えた。
 ショボンは電話を内線に切り替え、受話器を取った。

 彼がずっと待望していた報せに、思わずガッツポーズを決めた。



158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:47:44.88 ID:zsRICkY/0

从*゚ -ノリ「ショボン警部。何があったんですか?」

(´・ω・`)「走りながら話す。支度をしろ。おい! 手が空いている者はついてこい!」

从*゚ -ノリ「警部!」

 コートを乱暴に羽織り、ショボンは今にも飛び出そうとしていた。

(´・ω・`)「さあいくぞ。嘘だらけの虚構の城を崩しにいこうじゃないか」

 背中越しに言うと、ショボンは走って捜査一課を出ていった。
 彼の後を追って数名の警官がついていく。
 ため息を一つついてから、「待ってくださーい!」と出遅れたルカが駈けていった。



159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/10(土) 20:48:26.81 ID:zsRICkY/0


 捜査編 終わり → → →

  → → → 解決編へ続く




(´・ω・`)ショボン警部が虚構の城を崩すようです解決編へ続く

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