2009年02月21日

( ^ω^)の涙のようですその4

350 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:20:13.93 ID:tyseMyVc0

ブーンは狼狽した。なぜショボンがいない? なぜ?

もしかして自分に愛想を尽かせて出ていってしまったとか?

まさか。

昨日もいつも通り二人で仲良く暮らしていた。

問題などあろうはずもない。

今まで一度もこんなことはなかった。大体、ショボンがいなくなってしまうなど考えた事さえなかった。

J( ‘-`)し「ブーン? もう学校いく時間でしょ? 遅刻しちゃうわよ?」

息子がいつまで経っても階下にこないことを心配し、母が様子を見に来た。

(;^ω^)「母ちゃん、母ちゃん! ショボン知らないかお!?」

ブーンは母に詰め寄った。

ただ事ではない息子の形相に母は少したじろぐ。



352 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:21:40.42 ID:tyseMyVc0
J( ‘-`)し「ショボンって何?」

(;^ω^)「僕がいつも頭に乗せてた猫のぬいぐるみだお! まさか捨てたんじゃないおね!?」

J( ‘-`)し「捨てるわけないじゃない」

(;^ω^)「だって、いないんだお! ショボンがどこにもいなくなっちゃったんだお!」

J( ‘-`)し「失くしちゃったんじゃないの?」

(;^ω^)「いなくなるわけないお! 昨日までは確かにいたんだお!」

母は少し怪訝そうな顔をする。

J( ‘-`)し「そんな事言っても、なくなっちゃったんでしょ? しょうがないじゃない」

(;^ω^)「でも……」

J( ‘-`)し「そんな事より早く学校に行きなさい? ぬいぐるみはまた買えばいいじゃない」

そうブーンを促すと、母は1階に降りていった。



( ^ω^)「ショボンの代わりなんていないお……」

ブーンはショボンのいない自室で、そう一人ごちた。



353 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:23:35.84 ID:tyseMyVc0
“ひょっとすると学校にいるかもしれない”ブーンにとって天啓にも思えたその考えは、
いつもの通学路を歩いているときに閃いた。

そう思うと居ても立ってもいられず、弾かれたように走りだす。

頬を撫でる風が切り付けるかの様に冷たい。

――クソッ、こんなに寒いのはショボンがいないからだ。あいつがいれば温かかった
のに――。

心の中でショボンへの悪態をつきながらも、学校へと逸る気持ちを抑えられずにいた。



教室に入ってみると、すでに自分以外の生徒は全員いた。




     l;:;:;:;:l:;:;:;:;:;:;:、;:;l
     /;:;___l____:;:;:;:;.ヽ!
.    'y'‐_ _ィ‐ヾ=ミ、_〉
.    lfィ。ッ rf。ッ〈:::::ミ|
      l! ´7_,! ´ ,.;!:::ミ,!
     | ィrュ,ヽ ' {::7〃   「ブーンおはようでおじゃる」
     ヽ  ̄ _,..ノソv′
      ,ハ三 =彡'く
    ,∠ニ ⊥ ニニム、_
. ,. -‐'7   /     / ̄`ヽ


355 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:25:38.14 ID:tyseMyVc0
麻呂が挨拶をしてきた。いつもならZIP談義に花を咲かせるところだが、ブーンの心境はそれ
どころではない。

麻呂に浅く会釈すると、自分の席に着いた。



――頼む、ここにいてくれ。

神に祈るような気持ちで、自分の席を見渡す。引き出しの中を覗き込んで――。


――いない。

ここにも、いない。

ブーンは深くため息をついたが、すぐに顔を上げ考え直す。

まだ、まだ探すべきところはあるはずだ。そう、例えば屋上とか。

二人が友達になれたあの場所にショボンがいる可能性は低くないはずだ。今日もジョルジュたちと
昼食をとるはずだから、そのときに確認してみよう。



そう一人決意した。



356 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:27:14.93 ID:tyseMyVc0

授業とはこんなにも退屈なものだったのか。

教師がなんだかよくわからないことを喋っているように思える。ショボンがいた時はそんなふう
に感じなかったのに。


そうか、とブーンは得心がいく。


ショボンがいた時はショボンと話していたから。二人で授業内容の確認と各々の解釈についての
談義を自然としていたのだ。だから退屈じゃなかったし、より深く理解が出来たのだ。

なんだよ、こんなとこでもショボンのいない弊害があるなんて。

ブーンは心中穏やかではなかった。

あぁ、つまらない。いっそ、寝てしまおうか。
そんなの無理だ、わかっている。

寝ようとしてもそわそわして眠れないだろう、とブーンは理解していた。早く授業が終わって欲しかった。
普段の2倍は長く感じられたのではないだろうか。

苦痛の授業が終わり、昼休みに突入する。それを報せるチャイムとほぼ同時に、ジョルジュたちがブーン
の教室に顔を見せる。



358 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:29:06.58 ID:tyseMyVc0
 _
( ゚∀゚)「おーすブーン。飯行こうぜ。飯飯!」

(;^ω^)「うん、行こう行こう」

 本当は走り出したいのだ。走って、一刻も早くショボンがいるかどうかを確かめたいのだ。

しかし、ジョルジュたちと一緒に向かっている以上それはできない。もどかしい気持ちを抑えつつ、ブーンは
いつもの“食堂”へと歩を進めた。

途中にしたジョルジュたちとの会話なんて頭に入ってこなかった。



階段の最上階踊り場。そこにブーンたちの“食堂”へと通じる鉄扉がある。

その扉の前で、ブーンは立ち尽くしていた。

――失念していた。

ショボンがいないということは鍵を開けられないということだ。

なんといううかつ。馬鹿め。おまえはショボンがいなければ満足に食事の場所も確保できないんじゃないか。

そして、
 _
( ゚∀゚)「ブーン? 早く開けてくれよ」

ジョルジュの催促の声。



359 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:31:14.72 ID:tyseMyVc0
そう言われてもブーンにはこの扉を開けることが出来ない。

――ということは。

もしこの扉が開いていれば、ショボンがここにいる可能性が高い、という事になるのではないか? 
この鍵はショボンにしか開けられないのだから。

ブーンは若干緊張した面持ちで扉に手を掛ける。

徐々に力を込めると、やがてガラガラと低い音を立て扉が開く――。

――はずだった。いつもならば。

でも、今日はそうじゃない。鍵はしっかりとかかっているし、扉も開くことはない。

思えばショボンはこの扉を一人で開けられないじゃないか。扉が開き放しでもない限り、ショボンは
一人で屋上に行けない。閉まっているということは、つまりそういうことだ。少し考えれば分かる。自明
の理じゃないか。

ショボンがいない、という動揺と、ここにいて欲しい、という希望がブーンの思考を鈍くさせていた。
 _
( ゚∀゚)「ブーン? どうしたんだよ? 大丈夫か?」

(;^ω^)「え? あ、あぁ」

ジョルジュの声で現実に引き戻される。



361 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:36:43.74 ID:tyseMyVc0

(;^ω^)「ごめん、悪いけど今日は鍵を開けるための針金を忘れちゃったんだお。
だから屋上にはいけない。ごめんだお」

そう言うとしぶしぶ、といった体でジョルジュたちも了承した。
 _
( ゚∀゚)「じゃあ今日はどこで飯食おうか?」

('A`)「ここでいいんじゃね? 今から移動してもなぁ」

( ∵)「賛成」
 _
( ゚∀゚)「じゃあここで食うか。ブーン、明日は頼むぜ?」

(;^ω^)「う、うん。ごめんだお」

そうして階段の踊り場で昼餐となった。なんだかコンクリートの地面が冷たく感じる。風がある分、
おそらく屋上のほうが寒いだろう。なのに、ここはとても寒い。まるで極寒の土地に裸でいるみたいだ。

食べる場所とショボンがいない、という相違があるだけでなんだかその日の弁当はやけに味気なく思えた。



367 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:50:14.45 ID:tyseMyVc0
午後の授業中、ブーンは深く深く咨嗟した。自宅にも教室にも屋上にもショボンはいなかった。
あとどこを探せばいいのだ。

頭を抱える思いだった。

頼む、ショボン。今なら許す。冗談だと言ってひょっこり顔を出してくれ。

ブーンがあと探すべき場所など限られている。さしあたって考えられるのは空き地だろうか。

よし、学校が終わったら空き地に行ってみよう。諦めるのはまだ、全然早い。

あと何分で授業は終わりだ? 20分? 長い、早く終われ。



ブーンは一日千秋の思いで授業の終わりを待ち、クラスは帰りのホームルームへと突入する。
ほんのわずかな時間だったが、ブーンは憤りを感じる。

早く、早く終われ。




そして待ち望んだ時が来た。

よし、早く空き地に急ごう。

ブーンは荷物を詰め込んだカバンを荒っぽく持ち上げて、机の乱れもそのままに教室の出口
へと駆け出す。



369 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:53:09.09 ID:tyseMyVc0
 _
( ゚∀゚)「よぉ、ブーン。ボーリング行こうぜ」

やはりいたジョルジュたち。

普段なら歓迎すべき彼らも、今はブーンの行く手を阻む障害にしか見えない。

('A`)「ブーン、今日もボーリングだってよ。まぁ明日は俺の権限で野球にするから今日は我慢しようぜ」

( ∵)「君にそんな権限があったなんて初耳」

そんなブーンの様子に気付くわけもなく、3人はいつも通りの呑気な会話をしてくる。

(;^ω^)「ごめん! 今日は用事があるから行けないお! じゃあ!」

説明もそこそこにブーンは3人を後にする。

('A`)「なんだぁ? あいつ」
 _
( ゚∀゚)「おい、じゃあボーリングどうすんだよ? 3人だとチーム戦できないぞ?」

( ∵)「僕対君たち二人でいい」

('A`)「!?」

( ∵)「かかってこい」
 _
( ゚∀゚)「おもしれぇ……」



371 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:55:53.75 ID:tyseMyVc0

ビコーズが二人を挑発するという意外な一面を見せていた頃、ブーンは風の様に疾走していた。

――早く、早く! 昨日の運動がたたって腕が重い。足だって思うように動かない。しかし、そんな
事は今のブーンにとっては些細なことだった。

とにかくショボンの所在を確かめたかったし、そして安心したかった。

僕は心配したんだぞ、と文句の一つでも言ってやりたかった。

空き地が見えた。あと50メートル程だ。

徐々に速度を緩める。肩で息をしながら空き地の敷地内に入る。

( ^ω^)「ショボン!」

ありったけの声で叫ぶ。自分からこんな大声が出るのか、と驚くほどだ。

( ^ω^)「ショボン!」

辺りを見回しながらもう一度。

( ^ω^)「ショボン! いるのかお!? 出てきて欲しいお!」

しかし、ショボンからの返事はない。



376 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 21:59:05.04 ID:tyseMyVc0
周囲はしん、と静まり返るのみで、生き物のいる音はおろか気配さえしない。

ブーンは返事を諦めると、辺りに僅かに残った草むらを掻き分けショボンの姿を探した。

( ^ω^)「ショボン……ショボン。どこにいるんだお。……絶対見つけるお」

ブーンも半ば意地になっていた。『ショボンはもう帰ってこないかも』という疑念が頭をよぎるが、
首を振り、無理矢理払拭した。

気が付けば西の空はすでに暗くなっている。空き地はあらかた探してしまったし、この暗さでは
あちらから呼び掛けてでも来ない限り見つけるのは難しいだろう。

断腸の思いで、ブーンは空き地を後にする。

あとどこを探せばいいのだろう。可能性の話をすればそれこそ無限にある。そしてそれを全て行う
のは、事実上不可能だ。これでは見つけるのはもう……少なくとも、今日は……。


――なんだ、諦めるのか。

自分を叱責する声が聞こえる。


――違うんだ。決して諦めたわけじゃない。ただ、今日はもう探すのは困難だと思って――。

誰にするでもなく、そんな言い訳が頭に浮かぶ。いや、恐らく自分自信に対する言い訳なのだろう。

実際、ブーンの心は折れそうだった。



378 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:02:48.25 ID:tyseMyVc0
寒さと寂しさと不安で、もう泣いてしまいたい気分だった。

どこを探せばいいかわからない。

今日、ショボンと所縁のありそうな場所は見てしまった。可能性でいえば、もうめぼしい所は
思い浮かばない。見つけられない。

しかし、ショボンと離れたくない。

自分を助けてくれ、全てを良い方向に導いてくれた友人だ。そんな友人と別れの挨拶もせずに
離れられるわけがない。

そんな相反する感情が、ブーンの中をぐるぐると回り混沌を作る。

ブーンは膝や腹部についた汚れを払うと、家に向かって歩きだした。

心身共に疲れてしまった。だからといってショボンの捜索をやめたわけではない。

無闇に思い浮かんだところを探すのではなく、ちゃんと色々な要素を考慮したうえで捜したほうが
効率がいいと思ったのだ。

帰路の途中にあるゴミ捨て場を、ちらと見てみる。

いない。当たり前だ。母はショボンを捨てていないと言っていたし、仮に捨てていたとしてもショボンは
本物のぬいぐるみとは違う。――帰ってこようと思えば、帰ってこられる。どこからでも。

つまり、ショボンが帰ってこようとしないのは――。



379 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:07:26.15 ID:tyseMyVc0

( ^ω^)「ただいま」

こんな沈んだ気持ちで玄関の戸を開けるのは久しぶりだった。

J( ‘-`)し「おかえり」

いつも通り母が出迎えてくれた。

J( ‘-`)し「ご飯出来てるわよ。食べるでしょ?」

( ^ω^)「いらないお」

J( ‘-`)し「どうしたの? 具合いでも悪いの? あら、あんた服が随分汚れてるじゃない」

( ^ω^)「うん……気分がよくないから、部屋で寝ているお」

J( ‘-`)し「そう……」

心配そうに見つめる母の視線をよそに、ブーンは自室に入る。



382 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:10:25.30 ID:tyseMyVc0

『帰ろうと思えば帰って来られるのに、そうしないって事は』


ブーンは先ほど頭に浮かんだ考えを反芻する。


『つまり、僕の元には帰って来たくないって事だ』


そこに思考が行き着き、ブーンは愕然とした。

どうしてかはわからないが、ショボンは僕と一緒にいたくなかった。だから出ていった。

なぜ? 今までうまくやっていたじゃないか。喧嘩もせず、どこに行くにも一緒で仲良く
やっていたじゃないか。

ここを出ていってどうするんだ? あんなマンガ猫、行く宛てがあるわけない。

という事は、それを踏まえた上でも僕と離れたかったのか。

馬鹿言うな。何度も言うが、ショボンと僕はちゃんと関係が良好だった。僕に愛想が尽きた
ような素振りなんて、少しも見えなかった。

しかし、それは表面上の態度かもしれない。僕が自分の知らないうちにショボンを傷付けて
いた可能性もある。いや、大いにある、と言うべきだろう。なにせショボンがいなければ他人と
付き合うことが出来なかったボンクラなのだ。自分の預かり知らぬところでショボンの反感を
買っていたとしても不思議ではない。



383 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:13:57.32 ID:tyseMyVc0
ブーンは思考の渦にはまっていた。

自分の中で“ショボンがいなくなるはずがない”という考えと“自分なら愛想を尽かされても仕方ない”と
いう考えを交互に繰り返していた。

しかしどちらにせよ、確かなことが一つある。


――ショボンは、もうここにはいない――


それはまごうことなき真実だった。

今日1日捜し回ったのだ。ショボンがいると思しきところはもう全て見て回ったように思える。

つまりもうショボンは戻ってこない。

このガランとしてしまった部屋でこれからの日々を過ごさなくてはならない。

それはブーンにとってとても辛いことだった。

自分を励ましてくれ、元気づけ、友人が出来るよう世話を焼いてくれた。

ショボン自身もよき友人であり、保護者であり、弟のようだった。

その全てを失った。

もう、ショボンは、いない。



385 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/21(土) 22:15:21.90 ID:cSCjmXNW0
ショボン・・・


386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/21(土) 22:15:47.04 ID:bxIPqKuDO
ショボン・・・


389 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:18:49.24 ID:tyseMyVc0
ブーンの眦に塩気を帯びた水が滲む。

( ;ω;)「あーー、あーー!」

ブーンは泣いた。ベッドに伏せ、まるで子供の様に慟哭した。

階下に母がいるだとか、声が大きいだとか、そんな事に気を回す余裕などない。


ショボンを失ってしまった。


無二の存在をなくした。


これからどうすればいい?

悲しい時、寂しい時、困った時、誰を頼ればいい?

楽しい時、笑顔の時、誰と喜びをわかちあえばいい?

落涙し続けるブーンの目は殴られたかのように腫れあがり、次いでその視界が狭まった。



すっかり日が落ちた冬の住宅街に、ブーンの嗚咽がいつまでも響いていた。



391 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:22:14.74 ID:tyseMyVc0
気が付けば、あたりは暗闇に包まれていた。

真夜中だってこんなに暗くない。もはや上も下もわからぬ程の闇。

暗いというよりは、黒い、と言ったほうがしっくりくると思えるほどの闇の中に、ブーンは
何をするでもなくつっ立っていた。

なぜ自分はこんなところにいるんだ?

記憶を辿ってみるが思い出せない。そもそもこんな場所は知らない。知らない場所に
来れるはずもない。

不思議と恐怖心はなかった。ただ違和感だけが胸中に現れる。そしてブーンは何かに
呼ばれたかのように淡々と歩きだした。

なぜ? と問われても困る。強いて言うならば、そうしなければならない気がした、という
のが一番しっくりくる表現だろう。


歩きだして少し経つと、光が皆無の闇の中で何かが見えた。

それは小さく、輪郭はぼんやりとしていて、まるで幽鬼か何かのようだった。

徐々に近づいてみると、今ははっきりとわかる。ブーンはそれをよく知っていた。

いや、ブーンしか知らない、と言うほうが正確か。

それはブーンが眼前まで迫ると、おもむろに開口した。



393 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:25:59.90 ID:tyseMyVc0
(´・ω・`)「やぁ」

ショボンだった。

いなくなったはずのショボン、いくら探しても見つからなかったショボンがこんな意味不明の
場所にいる。

(;^ω^)「ショボン……こんな所で何してるんだお? 僕は捜し回ったんだお? 勝手にいなく
なって、ひどいお! 何でいなくなっちゃったんだお!」

ブーンは自然と語気が荒くなる。

(´・ω・`)「……ブーン、僕はね。……お別れを言いに来たんだ」

(;^ω^)「お別れ?」

驚きすぎて返事がオウム返しになる。

(´・ω・`)「そう、お別れ」

ショボンはまるでそれが当然だとでも言うように、淡々と言葉を継いだ。



396 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:30:42.26 ID:tyseMyVc0
(;^ω^)「そんな……何でだお。ひどいお。自分勝手すぎるお。いきなりいなくなって、いきなり現れて、
それで、お別れなんて……ひどいお」

うまく言葉が出てきてくれない。

(´・ω・`)「本当は、何も言わないで別れようと思ったんだ。だけど……。……そうか、君はまた泣いて
いたんだなぁ」

ショボンは困った様に両眉の端を垂れさせた。

(´・ω・`)「僕は君の涙だ」

ショボンは言葉を継ぐ。

(´・ω・`)「最初に言ったろ? 君が本当に悲しいとき、僕が生まれるって。そしてこうも言ったはずだ。
『君が本当に泣き止むまで、僕はいなくならない』って。つまり、僕がいなくなったっていうのはそういう
事なんだ。君は泣き止んだんだ。もう涙は流さなくていいんだよ」

(;^ω^)「そんな!」

思わず抗議の声をあげる。しかし段々とその声は弱々しくなる。

(;^ω^)「そんなのって、ないお。……僕にはまだショボンが必要だし、これからもずっと一緒にいられると
思ってたお。ショボンは僕の涙だお? 僕が泣いていればそばにいてくれるんだお?さっきだってショボンが
いないから、泣いちゃったんだお。最初に会ったときみたいに」

(´・ω・`)「そうみたいだね」

苦笑しながら肯定するショボンに、ブーンは気持ちが明るくなる。



398 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:34:15.49 ID:tyseMyVc0
( ^ω^)「じゃあ!」

(´・ω・`)「でも今はあの時と違う」

ショボンはキッパリとブーンの言葉を制す。

(´・ω・`)「確かに君はあの時泣いていて、僕の助けが必要だった。でも今は違う。今は、ジョルジュ達が
いるだろう? 助けてくれる友達がいるだろう?」

(;^ω^)「でも……」

(´・ω・`)「それにクラスメイトともうまくやれてる。ブーン、君はもう一人でも平気なんだよ。……いや、違うな。
君はもう一人じゃないんだよ、ブーン。だから僕の助けは必要ないのさ」

(;^ω^)「それは……」

なんとか喉から声を絞りだす。何か言わないと、このままショボンが消えてしまう気がして。

(;^ω^)「それは違うお、ショボン。僕はまだまだ弱いままだお。これからもショボンに助けていってほしいんだお。
それに、ショボンは僕のことを友達って呼んでくれたお? 友達なら、ずっとそばにいて欲しいお」

ショボンはその小さな手で頭を掻いた。



399 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/21(土) 22:35:18.54 ID:ihN4WiEDO
(´;ω;`)


400 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/21(土) 22:37:07.13 ID:idwJHcc+O
行くなよ…ショボン…


402 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:37:24.86 ID:tyseMyVc0
(´・ω・`)「……君は困ったやつだなぁ、ブーン。君はこれからも、大人になってからも僕の助けが必要なのかい? 
いいかい? ブーン。誰だって困った時には誰かに傍にいて支えてほしいものなのさ。でも最後はやっぱり自分自身
なんだよ。自分自身に頼っていくしかないのさ」

ショボンはどこまでも真面目な声で、諭すようにブーンに話し掛ける。

(´・ω・`)「今は、今回は僕が役に立てたかもしれない。でも、そうもいかない時だってあるだろう? 大人になって、
社会に出たら、僕が助けてやれない事だってあるだろう? なのに、その時に僕が傍にいるのに助けてあげられないのは、
辛いんだよ、ブーン。友達が困っている傍らで何も出来ないのは、辛いのさ」


わかってくれ、とショボンは願った。

これは去り行く自分からの、友達に送る最後のエールだ、と。


(´・ω・`)「だからブーン。君は僕から離れなきゃいけない。今は一人じゃないけど、一人になってもやっていけるように。
僕に頼ってしまわないように」

どこか苦しそうな表情で、ショボンはブーンに語り掛ける。


(´・ω・`)「もう、涙は止まっただろう?」

何も言わなくなるブーン。その目は虚ろで、何を思っているのか見て取ることは出来ない。



405 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:40:24.30 ID:tyseMyVc0
(´・ω・`)「それになぁ」

はにかんだように苦笑するショボン。

(´・ω・`)「涙がいないと困るなんておかしな話だぜ? 涙って悲しい時に出てくるだろう? 悲しみの凝縮さ。
本当なら忌み嫌うべき存在なのに一緒にいたいなんて。おかしな奴だよ、君は」

( ^ω^)「……」

ショボンは自分の足元に視線を落とす。

(´・ω・`)「……だから……」

( ^ω^)「いやだお」

それまでずっと黙っていたブーンが口を開く。

目に溜まった涙が零れ落ちる。


(#;ω;)「いやだ、いやだお!」

(´・ω・`)「ブーン……」

(#;ω;)「いやなんだお! 何でそんな事言うお!? 大人になったらとか、関係ないお!
僕はショボンとずっと友達でいたいお! 一緒にいたいんだ!」



410 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:43:04.90 ID:tyseMyVc0
半ば発狂したかのように叫ぶブーン。泣いているせいだろうか、うまく呼吸できずに息が荒い。



そして訪れる沈黙。

お互いに譲れないし、どう言葉を発していいかわからない。

ブーンはショボンを睨み付け、ショボンも穏やかな視線をブーン向ける。



(´・ω・`)「……君に」


沈黙を破ったのはショボン。


(´・ω・`)「君に会うのは、実は3度目なんだよ」

( ^ω^)「えっ」

唐突なショボンの述懐にブーンは驚きを隠せない。

(´・ω・`)「3回目は、今。2回目は、この間だ。ブーン、君が秋に部屋で泣いていたときだよ。でもね、
君は小さかったから覚えてないだろうけど、君が4歳ぐらいの時に僕たちは一回会ってるんだよ」

そう言われブーンは記憶探る。しかし、思い出すことは出来なかった。



411 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:46:45.06 ID:tyseMyVc0
(´・ω・`)「やっぱり覚えてないかい? その時もね、ブーン。君は友達が出来ないって
泣いてたんだよ」


そういえば、ショボンは『“また”泣いていたのか』と言っていた。

また――。つまり、ショボンとブーンは以前にも会ったことがあるということだ。そして
ショボンがそこにいたということは、ブーンはその時も涙を流していたという事だ。

(´・ω・`)「君は小さい頃から人とうまく話せなくてね。やっぱり今回と同じように僕が
手助けしてあげたんだよ」

ショボンは「今回みたいに荒っぽくはないけどね」と付け加えた。


――思い出した。

いや、正確には全て思い出したわけではないが。

ブーンは今から10年近く前に、ショボンに導かれ友人をつくった。

確かに疑問には思っていたのだ。口下手な自分がどうやって人と関われていたのか。
この前までは如才なく自力で友人関係を築いていたと思っていたが。

なんのことはない。その時もショボンの力を借りていただけだった。



414 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:50:08.99 ID:tyseMyVc0
(´・ω・`)「もう、4度目はよしてくれよ」

ショボンは冗談めかしてそう笑う。



――あぁ。

ブーンは思った。

自分が離れたくないというわがままで、この素晴らしい友人をこれ以上困らせてはいけない。

自分がずっとずっと小さい頃から見守っていてくれたこの友達に、これ以上迷惑をかけちゃいけない。

自分が悲しい時、行き詰まった時に二度も背中を押してくれたショボン。

そんなショボンにどんな顔をしてまだ世話を焼いてくれなんて言えるだろう。

幼い頃から面倒を見てきてくれたのだ。いい加減解放してあげなくちゃ。

そしてブーンはもう大丈夫、とショボンが判断したんだ。それを信じるしかないじゃないか。

二度も助けてもらった。それで十分すぎる程だ。



(´・ω・`)「……本当は、今もこうして会うつもりじゃなかったんだ」

そう呟くように言って、ショボンはブーンの頬を指差す。



418 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:56:02.22 ID:tyseMyVc0
(´・ω・`)「涙。――本気で悲しんでくれたんだね。わかるよ。僕がこうして君に会ったことが
……会えたことがその根拠だ」

ブーンは決意したかのように涙をぬぐうと、無理に笑った。

( ^ω^)「おっおっお。もし今会えてなかったら明日も捜すつもりだったお。……明後日も、
その先も、ずっと捜す気だった。……ショボン、今までありがとう。もう、引き止めないお。
ショボンが心配しないように、これ以上、引き止めないお」


悲しいはずなのに、不思議と微笑むことが出来た。


(´・ω・`)「うん、ありがとう。僕はいい友達を持った。ブーン、君に会えて良かった」

( ^ω^)「それはこっちのセリフだお」

ブーンの事を考えてくれたショボン。そのショボンとどうしても離れなくてはいけないのなら、
せめて胸を張らなければいけない。



423 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 22:58:59.53 ID:tyseMyVc0
(´・ω・`)「じゃあ僕は行くよ。もう、一人でも平気だね?」

ショボンからの最終確認。その問いに、ブーンはゆっくり、しかし力強く頷く。

(´・ω・`)「うん、その返事が欲しかった。やっぱり今会って正解だったよ」

( ^ω^)「また会えるのかお?」

今度はブーンからの質問。どうしても答えの欲しい、質問。

(´・ω・`)「わからない」

ショボンは首を振る。

(´・ω・`)「会えるかもしれないし、会えないかもしれない」

( ^ω^)「そうかお……」

「でもなぁ」とショボンは言葉を継ぐ。

(´・ω・`)「さっきも言ったけど、本来なら涙なんて御免被りたいのが普通なんだぜ。なにせ君が
本当に悲しい時しか会いに来ないんだ。君はそんなに悲しい思いをしたいのかい?」

ちょっとからかうようなショボンの口調。

(´・ω・`)「涙を流さないのなら、それが一番なんだ」



428 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 23:02:21.85 ID:tyseMyVc0
それに対してブーンは堂々と胸を張る。

( ^ω^)「でも……。僕はそれでも、ショボン。君に会いたいと思うんだお」

(´・ω・`)「僕もだ」

二人は微笑み合って握手を交わす。

ブーンはしっかりショボンの手を握った。

その暖かさに、涙が出そうになる。

(´・ω・`)「さぁ、さよならだ。元気でやれよ」

しかしブーンは手を離さない。いや、離せない。

ぼんやりとしたショボンの輪郭が、さらにその濃度を薄めはじめた。

( ^ω^)「ショボン」

(´・ω・`)「あんまりお母さんに心配かけるなよ。ジョルジュ達と仲良くやるんだぜ? いいね?」

( ^ω^)「ショボン」

(´・ω・`)「それと野球、ちゃんと続けろよ。あれはいいホームランだった、君には才能があるよ」

( ^ω^)「ショボン」



432 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 23:05:28.24 ID:tyseMyVc0
掴んでいるはずなのに、しっかりと握っているはずなのに、ブーンの掌に感じるショボンの感触が希薄に
なっていく。

だけれど――。だけれどブーンにはわかった。ショボンが、泣いている。

今まであまり表情を変えてこなかったショボンが、涙のショボンが、泣いている――。

気配でも、視覚でも捉え辛くなったショボン。それでも、ブーンにはわかったのだ。


(´;ω・`)「まぁ、君が笑っていてくれたら、それでいいよ。……僕のことは、気にするな」

( ;ω;)「ショボン! ショボン!」

もうショボンの姿はほとんど見えない。そこにショボンがいる、とわかっていて初めて確認できる程度だ。

(´;ω;`)「最後に一つだけお願いだ」

もう声すらも消え入りそうだった。


(´;ω 「僕のこと、忘れな――」

( ;ω;)「ショボン!」

最後にそう言い残し、ショボンはいなくなってしまった。


目を凝らしてみてもどこにもいない。掌も何も掴んではいない。



434 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 23:08:02.92 ID:tyseMyVc0
( ;ω;)「ショボン……」

そう呼びかけても誰も応えない。

ただ一つ、さっきまでショボンの手を握っていた掌に、いつまでもぬくもりが残っていた。






気がつくと、ブーンはベッドにうずくまっていた。どうやら昨日泣いたままの体勢で
寝てしまっていたようだった。

窓の外にはすっかり太陽が昇っており、朝を告げる鳥の声がうるさい。


ではさっきのは、ショボンにあったのは、掌のぬくもりは――夢?

顔をゆっくりと上げる。無理な姿勢で寝ていたため、体がぎしぎしと痛む。ふとベッドに
視線を落とすと、シーツが涙で濡れていた。



436 :鳥五目 ◆81qK7JAbYs :2009/02/21(土) 23:12:00.02 ID:tyseMyVc0
( ^ω^)「ショボン」


さっきの出来事は、きっと夢だろう。

でも確かに、ショボンに会って、ちゃんと別れを告げた。

それははっきりとわかる。

なぜ? と聞かれても応える術など持ち合わせていないが、わかるのだ。

ブーンにはわかる。

だって、自分は涙を流していたから。本当に悲しかったから。

だから、ショボンは会いに来てくれた。

心が変に痛む。痛むと言うよりは、からっぽだ。

なのに、変に言い難い充足感があった。



( ^ω^)「忘れるわけないお……」

ブーンは自分の涙で濡れたシーツを見つめ、そう一人ごちた。




( ^ω^)の涙のようですその5へ続く

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この記事へのコメント
  1. Posted by か at 2009年02月22日 01:15
  2. 1ゲト!