April 30, 2011

ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 第一章 最終話~エピローグ

281以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:14:15 ID:EUXDbcH.O
(; ↓ )「……なぜだ。三年もラウンジの闇に尽くしてきた俺が、なぜ処分される……」

(/ )「……勘違いするなよ、お前らはよく頑張ったさ。ドクオが一枚上手だっただけだ。
  ハインリッヒ高岡を逃がしたのは失態だが、俺もその程度で大事な右腕を落としたりはしねーって」


只でさえ左腕が喰われたのに、フードの男がまるで感情の無い口調で言う。

……失態。
根喰いの巣穴で遭遇した二人の冒険者をみすみす取り逃がし、自らも逃亡した事。


(;・↓ )「……?」

(/ )「ま、相手が強すぎたってのは分かる。俺達も正直、ハインリッヒを舐めてた。
  ……ただ、俺は良くても、上と隣は許してくれないんだよね」



282若干、閲覧注意気味:2011/03/22(火) 20:15:44 ID:EUXDbcH.O
フードの男は、スッと片手を上げる。
闇がさざめき、その腕を覆った。


(;・↓・)「な……にを……」

(/ )「絶対に“動くな”よ。なぁに、お前に責任の取り方を教えてやるだけさ」


まるで指揮者がタクトを振るように男は腕を宵に踊らせ、纏った闇がオリッチを飲みこむ。
自らを包もうとする真っ黒な波を前に、彼はこの時初めて闇の正体を理解した。

蛾、だ。
鮮やかな夜色の、冷たい死の色の、降り注ぐ絶望の色の──


(; ↓ )「──ぎ……がぁぁああぁぁあッ……!」



283若干、閲覧注意気味:2011/03/22(火) 20:19:06 ID:EUXDbcH.O
頭、顔。目、耳、鼻、口、舌、喉。首、脇、腕、指。胸、腹、背。股、尻、足、腿、脛、指。
鎧の隙間を縫い全身を這い回る羽虫の感触に、オリッチの意識は溶かされてゆく。

……やがて身体を支える気力が尽き、オリッチは倒れ伏す。


「……はい準備完了ー、お疲れさん。じゃあ後は──」


今一つ緊張感のないフードの男の声は、オリッチには届いていない。
それに気付いた様子もなく男は好きなだけ喋り、満足したように踵を返した。

現れた時と逆に霧散するように消える、フードの男。
そして、夜陰に静寂が戻る。






284以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:23:22 ID:EUXDbcH.O
(;#+↓)


( ,'3 )「うわぁ、酷い有り様ね……」
/ ゚、。 /「……」


“それ”が発見されたのは、キャラバンがルーキーを送り出してから三日後のことだ。

懐から発見された登録証から“それ”はオリッチ黒田と断定され、数日の後に荼毘に付される。



ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 第一章 新緑の木立

最終話『意思』





285以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:24:19 ID:EUXDbcH.O
……

ミセ*゚ー゚)リ「ふぃぃ……わりと暑いねぇ」
  _
( ゚∀゚)o「ん。あぁ、もう夏だなー……」


ベースキャンプ生活、最終日。ミセリ達ルーキーに言い渡された指示は、「ヨツマに帰還すること」だった。
一ヶ月の強化合宿のシメは実践による実力試験ということだ。

試験と言っても、落第者にへの救済も合格者への報奨も無い。
賭ける物は、己の命一つ。

ただし、他の冒険者との協力など、合格の手段に関しては一切の規制が無い。
生きる為にあらゆる手を尽くすことは冒険者の、いや、全ての生命の当然の権利だからだ。

ミセリは同室だったという理由で、ハイン、ジョルジュ、フォックスの3人と共に行動している。
他のルーキー達も、きっと同様に各々のパーティーと共に行動しているだろう。

彼ら全員が同時にベースキャンプを出発してから、一週間が過ぎていた。






286以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:25:48 ID:EUXDbcH.O
──一週間前。


( ^ω^)「さぁ若造ども、戦争【しょくじ】の時間だ……が、その前に明日の事を説明しておきますお」

ミセ*゚ー゚)リ「……?」

( ^ω^)「皆さんは今日まで、主に実践を以て樹海を生きる能力を磨いて頂きました。
       非常に満足の行く成果を上げる事ができましたおね、一部を除いては」
  _,
(;-∀-)「……」(-∀ -;)

二十と数回目を数える洞窟での夕食時、キャラバンを束ねるブーンが言った。

“根喰い”の一件を過ぎて十日ほど、キャラバンでは積極的に実技指導が行われている。



287以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:27:30 ID:EUXDbcH.O
樹海で必要とされるのは戦闘能力だけではない。
食糧・飲み水の確保や外敵への警戒、野営、方角を知る方法まで、あらゆる技術が問われる。

一応、ミセリもそうした技術を一通り“知って”はいた。
しかし、例え知識として習得していても、技として身に付けるとなると、まるで話が違う。
他の冒険者の指導を受け、何とかミセリもそれらを形にする事ができていた。


ハインやフォックス、でぃ、クー、アサピーは優秀だった。
ヘリカル、なち、ツンはミセリと同程度。……まだマシな方。
……そして、キャラバンから『不可』の烙印を頂戴することになったのが、今も渋い顔をしている二人。またんきとジョルジュ。


( ^ω^)「まぁ、仕方ない事もあるお。とにかく、本題……お前ら、明日で帰れ。以上」

ξ゚⊿゚)ξ「……は?」
(・∀ ・)「どゆ事?」

('A`)「……おい……」


ルーキーの間に動揺が広がった。
言葉少なに切り上げようとする上司を一睨みして、彼の副官が補足に入る。



288以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:28:41 ID:EUXDbcH.O
('A`)「強化プログラムの最後の試練だ。自力でヨツマに帰ること、俺たちからは他に何も指定しない」


相変わらず早口かつ俯きがちな姿勢で、一息に言い切るドクオ。
疲労が重なっているのだろうか、青白い肌はますます色を失ったように見えた。

その彼がふと視線を上げ、愉快そうに口の端を持ち上げる。


('∀`)「まぁ、お前達には簡単すぎるかもしれないな」

( ^ω^)「……そういう事ですお。もうすぐギコ達が『次』を連れて来る予定だから、ぶっちゃけお前ら邪魔なんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「……いちいち癪に障るわね」

( ^ω^)「お、それはごめんだお。……何か質問はありますか?」


歯に衣を着せぬブーンの物言いに、ツンが舌打ちを返した。

キャラバンに居る間、彼女だけは萎縮する事なくブーンに突っ掛かる。
ブーンが軽く流すのも、同じだけ繰り返されて来た事だ。

聞きあきたとばかりに、ジョルジュがブーンを急かす。

  _
( ゚∀゚)o彡゜「無い。無いから早く飯にしようぜ」



289以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:29:49 ID:EUXDbcH.O
爪'ー`)「ジョルジュ君に賛成だ。こんなご馳走を前に生殺しは良くない」
ミセ*゚ー゚)リ「そーだそーだ!」

ξ;-⊿-)ξ「あなた達、ミセリまで……」


テーブルには、とても良い香りの料理が所狭しと並んでいる。
この日の食事当番はブーン、彼かミセリが当番の日は特に美味いものが食えると評判が高い。

食い意地の張った連中からすると、『おあずけ』の時間はまさに拷問だ。


(* ^ω^)「おっお! 長々と悪かったお! では待ちに待った晩餐タイムですお!」


一拍、呼吸を整える。


(* ^ω^)「これが全員で食う最後の飯です。思いっきり楽しめお! では、」

『いただきます!』






290以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:33:38 ID:EUXDbcH.O
轟く蹄音と共に、濃茶の獣がミセリに突進する。

`/ミミ ミ ミ ノ)(Wノ

螺牙。
突撃槍のように螺旋状に伸びた必殺の牙を有する、樹海で有数の短気者。

小柄な体躯を弾丸のように跳ばし、四足の牙獣はミセリを襲う。


ミセ―ミセ*-ー-)リ「、……、!」

`/ミミ ミ ミ#ノ)(Wノ 「ΒβρρυαААОотс:!」

,,ミセ*-ー)リ「……、……」


もしもその双牙が掠めれば、ミセリの柔らかい体は簡単に引き裂かれるだろう。
その突撃を受ければ、ミセリの骨は簡単に砕かれるだろう。
嵐のような猛攻を、ミセリは危なげなくかわしてゆく。

少なくとも、安全な樹上からミセリの戦いを眺めるハイン達、
大猪の咆哮の合間に三人の話し声が聞こえる程度の余裕はある。



291以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:36:26 ID:EUXDbcH.O
从 ゚∀从「……なかなか調子が良いじゃないか」
  _
( ゚∀゚)=3「はぁー、大したもんだ」

( ・(エ)・) 「・・・モーイ」
爪∪ー∪y‐~「それで、ここからどうするんだろうね? ……ねぇポン太君、降りてくれないかなぁ?」


ミセ;-ー)リ 彡「どうするって……どうしようかなぁ……」
`/ミミ ミ ミ#ノ)(Wノ 「ΖΦφψААкк!」


螺牙の強みは三つ。
すなわち機動力、貫通力、そして、防御力。

脅威的な破壊力を生み出す跳弾のような猛攻は、ミセリのスピードで完封している。
しかし、最後の一つ──鋼のような剛毛による防御力だけは、スピードではどうしようも無い。

幾度か試みた反撃は全て獣の体毛に阻まれ、その身に傷を付けるにすら至らなかった。



292以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:39:00 ID:EUXDbcH.O
ミセ;-ー゚)リ「……んー……」

`/ミミ ミ ミ#ノ)(Wノ「ΓΙΒВраах!」

ミセ*-ー)リ=3「……ま、何とかしようか」


ミセリはゆっくりと目を開けた。
緑の瞳を通して、ミセリの世界が遅くなる。


`/ミミ ミ ミ ノ)(Wノ「────!」

ミセ#゚ー゚)リ「ッ!」


螺牙の激しい突進。ゆっくりと近付いて見えるその鼻面に、ミセリは両足を着いた。

衝撃、膝のバネを合わせて相殺。
牙獣が鼻を跳ね上げる。想定済み、バネを解いて跳躍。

逆さの世界の天井を蹴り、獰猛な牙獣がミセリに追い縋る。



293以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:40:42 ID:EUXDbcH.O
「……」ハ(-。*+ミ

`/ミミ ミ ミ#ノ)(Wノ


跳ね上げた獲物が落下する隙を狙うのは、螺牙の“狩り”の常套手段。
彼は本能的に、空を舞うミセリを追撃しようとした。

……彼の牙獣の、これが唯一にして最大の失敗だった。
ミセリが着地したのは、彼女の背後に立っていた大木の幹だったから。


`/ミミ ミ ミ;ノ)(Wノ「、────!」
ミセ*゚- )リ「もう遅いよ」


急制動を行い、辛うじて大木との正面衝突を避けた螺牙。
間抜けに獲物を見上げた彼の、動きが止まったその一瞬。

幹を足場に真下へと跳んだミセリの、全体重と共に突き出された長剣が眼前に迫る。



294以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:43:45 ID:EUXDbcH.O
`/ミミ ミ ミ#ノ)(Wノ「ΤτυГкКоΑ……!」

ミセ*゚-)リ「──ごめんね」


長剣は牙獣の眼窩を縫い、その奥の脳髄を掻き回した。
たった一撃。圧倒的優位に立っていたはずの猛獣は、たった一撃の元にその命を落とす。


ミセ* -)リ「……」


ミセリは静かに、痙攣する大猪の側に降り立った。



295以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:44:45 ID:EUXDbcH.O 
从 -∀从「……お疲れ。ずいぶん動けるようになったじゃないか」

ミセ*゚ー゚)リ、「えへへ……そうかな」


これで数度目、数日ぶりの獣の襲撃。退けたミセリは、傷一つ負っていない。
苦戦の末に仕留めた大きな猪は、たった今ジョルジュが解体している。

今日・明日程度の食には、これで困らなくなった。


从 ゚∀从「頑張っているのは認めるが……無理はするなよ」

ミセ*゚ー゚)リ「……? 私は大丈夫だよ? ほら、この通りケガ一つ無いもん」


道中における師匠ハインの訓練メニューは極めて単純、即ち『ひたすら戦え』。
この方針に従って、獣との戦いは基本的にミセリ一人が担当してきた。

このスパルタ式の修行の効果は目に見えてあがっているようで、
はじめは一々ズタボロにされていたミセリも、今は掠り傷すら受けない程度。
ミセリはかなりの手応えを感じていた。

……しかしハインから向けられる視線は、なぜか次第に険しくなってきている。



296以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:47:25 ID:EUXDbcH.O
  _
( ゚∀゚)o「ま、俺達はかなり楽だからいいけどさ。マジでたまには休めよ?」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……うん、わかってるよ。ありがとう」

从 -∀从「……」



爪'ー`)y‐「しかし、落ち着かないねぇ」
  _
( ゚∀゚)o「ん?」

爪'ー`)y‐「今日はやけに『声』が多い。森全体がざわついているみたいだ」
  _
( ゚∀゚)o「あー、そうなの?」


フォックスは緑の親和による極めて高い感知能力を持ち、周囲の生物の気配を読み取れる。
本人曰く、「本気で範囲を広げると、3,4000歩くらいの距離ならはっきり分かる」らしい。

同じく緑の親和を持つハインは、「訓練すれば近い事はできるが、フォックスは精度も範囲も段違いだ」と言う。



297以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:48:29 ID:EUXDbcH.O
从 ゚∀从「……確かに、妙だな。近くで何かあったか」

爪'ー`)y‐「触らぬ神に、とはいかないよねぇ。なぁ嬢ちゃん?」

ミセ*゚-゚)リ「……うん」
っ((エ)・ )


樹海の獣は大抵の場合、可能な限り他の生物を刺激することを避ける。
2人が言うのはつまり、他の冒険者が危険な目に遭っているかも知れない、という事だ。

自分たちに余裕がある以上、助けられる限り助けたい。


从 ゚∀从「……行こうか。少し急いだ方が良さそうだ」


ハインとフォックスは、同じ方向──北に足を向けた。恐らく、獣の気配が強い方向だろう。
感知を持たないミセリとジョルジュが後に続く。

ふと不吉な予感がミセリを過った。



298以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:49:53 ID:EUXDbcH.O



ξ;-⊿゚)ξ「痛……! アサ、近寄るな!」

(;-@∀@)「……、……!」


異形の爪が掠めた頬から血が流れた。
とっさに駆け寄ろうとするアサピーを怒鳴り声ではね除ける。


ξ#゚⊿)ξ「良いから、『霧衣』を解かないで! 足手纏いよ!」

(;-@∀@)「……ッ」


怒号を受け、アサピーは踏み出しかけた足を止めた。

……それでいい。
異形どもは彼に気付く様子もなくツンに詰め寄ってくる。



299以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:50:38 ID:EUXDbcH.O
ξ#゚⊿)ξ「く……!」


闇雲に振り回したツンの片手剣はむなしく空を切り、それでも白い異形は彼女から距離を取る。

周囲の樹上には同じ姿の異形が数頭、様子を伺っているらしい。

……孤立無援の自分をなぶり殺しにしよう、そういう魂胆だろう。
ツンは頬から流れる血を、剣を握る左手で強引に拭った。


ξ#゚⊿)ξ「……この畜生ども。私はタダで死ぬつもりは無いわよ」


淡い金髪がじっとりと汗をはらみ、ツンの頬に張り付く。
……アサピーは擬装術──『霧衣』を纏っている。自分は駄目でも、彼を逃がす事ならできるかもしれない。

遠巻きに二人を囲う白い輪が、じりじりと狭まる。


ξ#゚⊿゚)ξ「掛かって来なさい! 全員道連れにしてやるわ!」


周りを取り囲む数十もの異形に、ツンは全力で吼えた。

誰かを守る為の力。騎士として、冒険者として、彼女は剣を握る。
大盾と片手剣を構えたツンに、異形の白群……鉤爪持つ猿猴が一斉に襲い掛かった。






300以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:54:10 ID:EUXDbcH.O
爪'ー`)y‐~「……んー」

フォックスが細めていた眼をゆっくりと開いた。
親和を行使している証に、その瞳は鮮やかな緑に染まっている。


爪'ー`)y‐~「猿の群……かな。相当に興奮しているようだ。ちょうど獲物に襲いかかっている感じ」

从 ゚∀从「距離と数は分かるか?」

爪'ー`)y‐~「約5000歩。数は2,30だと思うが、範囲外の距離だ。正直どちらも自信が無い」

从 ゚∀从「わかった。……何事も無ければ良いが」


爪'ー`)y-~「それと、もう少し遠くにもっと大きな群れ──恐らく、親集団の気配がある。
      ……僕ら四人だけじゃあ、いくらなんでもそっちの相手はしんどいと思うよ」



フォックスの言葉に、ハインは考え込むように顔を俯ける。
ミセリは背負う長剣に重さが増したように感じた。


从 ゚∀从「俺たちが先行しよう。来れるな、ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「え、あ、うん」



301以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:54:50 ID:EUXDbcH.O
从 ゚∀从「走るぞ、遅れるなよ。……ジョルジュとフォックスは後から来てくれ」
  _
( ゚∀゚)っ「おう。気をつけろよ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、行ってくるね」
( っ((エ)・ ) ?


ハインの瞳は深い緑。その能力は、脚力を主とした身体強化。
軽く足踏みをして駆け出したその後を、ミセリは慌てて追った。


ミセ;゚ー゚)リ「って、速……ッ!」

爪'ー`)y‐「本当、ハインリッヒ氏は教育熱心だ」
( ・(エ)・) ・・・♪
(∪゚∀゚)o「……」


ジョルジュに小熊──ポン太を預けてハインの後を追うミセリ。
フォックスが後ろでぽつりと呟くその声すら、疾走する二人は置き去りにする。



302以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:56:58 ID:EUXDbcH.O
ミセ*゚ー゚)リ「よっ……とと」


樹の根に足を置き、踏み越える。
ハインが残した足跡を辿ると、自然に前へ前へと体が飛んでゆく。

ミセリは全力で駆けるが、遥か前方を走るハインは徐々に遠ざかる。


ミセ;-ー-)リ「んー……」


ミセリは、確かに強くなっている。
こうしてハインに何とかついて行く事ができる、それが何よりの証拠だ。

しかし、それでも、まだまだ目標は遠い。

ミセリがそう思った丁度その瞬間──不意に先行するハインの姿が消えた。


ミセ;゚-゚)リ「な、に……?」


戸惑ったのは、ほんの一瞬だった。
やや遅れて、前方の白い猿の群れがミセリにも見える。

その白い群れから、真っ赤な花が舞い上がった。



303以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 20:59:03 ID:EUXDbcH.O
ミセ;゚-゚)リ「ハイン……ッ!?」
从;-∀从「ッ、間に合ったか……」

((#//#゚)9)


僅かに遅れて追い付いたミセリは、血の色に染まった光景に絶句する。

白い猿の死骸が一面に散乱している。
首を失い痙攣する数頭の異形の獣。いずれも大柄でミセリとそう違わない。

ほんの数秒にも満たない間に、ハイン一人が“これ”を作った。
唖然とするミセリ、そして倒れ伏す冒険者を、そのハインが叱咤する。


从;-∀从「まだ終わりじゃ、ない。気を抜くな、ミセリ、ツン!」

ミセ;゚-゚)リ「!」
ξ; ⊿メ)ξ「う……」


ミセリは反射的に剣を抜いて、倒れ伏す冒険者──ツンを庇い立つ。
周囲の樹々を埋め尽くすように、白い猿が集まっていた。



304以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:01:38 ID:EUXDbcH.O
ξ; ⊿メ)ξ「ミ……セリ? それに、ハインリッヒ……」

ミセ*゚-゚)リ「ツンさん! 無事!?」

ξ;-⊿メ)ξ「ッ……アサ……は……?」

ミセ*゚-゚)リ「? アサピーさん?」


ミセリの呼び掛けに、彼女は弱々しく応える。
どうやら命の心配は無いようだ。

……安堵のため息を吐いたその時、研ぎ澄まされたミセリの感覚は、背後にもう一つの気配を察知した。

驚き振り返るミセリの目の前、ツンの傍らに駆け寄り膝をつく別の冒険者。


(-@A@)「……ここに居ます!」

ミセ;゚-゚)リ「ッ、いつの間に……」
ξ;-⊿メ)ξ「今すぐに、私を……動けるようにして」

(-@A@)「はい! すぐに処置します!」



305以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:04:58 ID:EUXDbcH.O
現れた眼鏡の青年アサピー・バレントンは、ツンを抱き起こすと素早く鞄の中身を展開する。

ミセリには驚ききる暇も無かった。
彼は鎧の一部を外したツンの腹と太股、爪傷に素早く薬品と包帯布とを当て、固定。
この処置が終わるまで、ほんの数秒足らず。

最後に彼は小瓶を一本ツンに手渡す。
ツンはその栓を開け、薄紅色の液体を躊躇わず飲み干した。


ξ-⊿メ)ξ「……ありがと、少し楽になったわ」

(-@∀@)「ハインリッヒさん! あなたは、怪我は!?」


从 ゚∀从「無い。すまないが、ツン嬢には少し無理をしてもらうぞ。まずは……」


白い群れは、再びジリジリと輪を狭めて来ている。
その数は徐々に増えており、今や目で数えきる事もかなわない。


从 ゚∀从「こいつらを何とかしてから、だ」


ハインが言い終わると同時に、白猿猴の群れが一斉に飛び掛かってくる。



306以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:07:50 ID:EUXDbcH.O
ミセ*゚-゚)リ「来たよ、ツンさん……ツンさん!」

ξ-⊿)ξ「……ええ」


ふっと息を吐いて眼を開く。
ツンの瞳は、彼女の持つ親和の色──純白の輝きを放っていた。


ξ#゚⊿メ)ξ「大丈夫、やれるわ」


盾を前、剣を左下。
飛び掛かる一体の胴を盾全体で押し付け、返しの剣で頭蓋を割る。


ξ#゚⊿)ξ「發ッ!」

(6(#||#)


ミセ*゚ー゚)リ「……ひゅー!」



307以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:09:46 ID:EUXDbcH.O
護衛騎士の戦いは非常に美しい。

右手の盾で攻撃を防ぎ左手の片手剣で返す、極めて冷徹で堅実な戦い。
鍛練の繰り返しによって得た、ツンの……騎士の武の真髄。

……実のところ、一対一での決闘でより力を発揮するこの技術は、今のように圧倒的な大群の前には分が悪い。
先はそうして不覚を取った。だが──


ξ;゚⊿メ)ξ「っ!」

ミセ#゚ー゚)リ「~~~!」


──今度はそうはいかない。

構えた盾を掻い潜った猿猴が繰り出す鉤爪を、ミセリが剣の腹で防いだ。
間髪入れずに右手の剣を振り上げ、ツンが敵の顔面を両断する。


ξ;゚⊿メ)ξ「ありがと、助かったわ」

ミセ#゚ー゚)リ「いえいえ、どういたしまし、てッ!」



308以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:11:25 ID:EUXDbcH.O
二人の奮戦もあり、猿はその数を減らしてゆく。
ハインはと見ると、少し離れた所で弓矢と鉈とを駆使し、
ミセリとツン以上に多くの猿を引き付け殲滅している。

不利を悟った最後の数匹が逃げ出すまで、さほど時間は掛からなかった。


从;゚∀从「無事か、二人とも」
ミセ*゚ー゚)リ「うん、こっちは大丈夫だったよ」

ξ゚⊿メ)ξ「ハインリッヒ!」


急ぎ足で駆け寄ってくるハインを見るや、ツンは深々と頭を下げた。
驚くミセリとハインに、怒鳴るように続ける。


ξ゚⊿メ)ξ「お願いします。私の仲間が危ないの。……力を貸して!」


……ハインの、ミセリ達の答えは初めから決まっている。


从 ゚∀从「わかった。話してくれ」


陽は未だ高く、樹海に光を降り注ぐ。



309以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:13:36 ID:EUXDbcH.O



从 ゚∀从「仲間とはぐれたのは何処だ?」

ξ゚⊿゚)ξ「北東の一角。崖が多くなっている辺りよ」


崖が多くなっている辺り。
ツンの言う通り、ここから北東に行くと高低差が激しく、野生の動植物も多い。
話を聞くと、ツン達は野営中に猿猴の群れに追われ、気付くとそこに追い込まれていたという。


ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、急いで探しに行こう。フォックスさんが居れば、すぐだよ」

从 ゚∀从「ああ。ミセリとアサピーは戻って二人を連れてきてくれ、俺とツンで北を……」

(;-@∀@)「! ちょっと待ってください」


ツンの受けた傷に入念な手当てを終えたアサピーが、慌ててハインを振り返った。



310以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:18:08 ID:EUXDbcH.O
(;-@∀@)「ハインさん、調子が悪いですよね。渡航後の、親和能力の乱発が原因でしょう?」

从 ゚∀从「……」

(;-@∀@)「しばらく森で過ごせば親和は元に戻る、それまでは我慢しなければ。
      絶対に無理は避けてください、あなたが一番大きな爆弾を抱えているんです」


親和とは身体が持つ精霊の総容量であり、身体と精霊の調和の証。
長く樹海に浸ればそれだけ容量は増えるし、身体に精霊が満ちる。

そして、その逆も十分にあり得る。

精霊が持つ最も大きな弱点、それは『海』だ。
潮風に当たるだけで身体の精霊は剥ぎ取られ、海水を浴びれば親和が死ぬ。

ハインは海を渡ってヨツマに来た。
その航海の過程で一時的に容量の大半は失われ、例えるならば空気の抜けた風船のような状態になっている。
無理に全盛期のような親和の使い方をすると、今のように負担がすべて身体に跳ね返る。


ミセ*゚-゚)リ「ハイン、私がツンと一緒に行くよ。大丈夫、私だって強くなってるんだから」


……ミセリの提案に、ハインはすぐには頷かなかった。



311以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:22:34 ID:EUXDbcH.O
从 -∀从「……」

ミセ*゚-゚)リ「……ハイン」

从 -∀从「わかった。任せるぞ」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん」

从 ゚∀从っ∵「いいか、決して無理はするな。……コレも持っていけ」

ミセ*゚ー゚)リっ∵「……信号弾?」


ハインはミセリに、掌に収まる位の黒いボールを三つ渡した。
信号弾と呼ばれる火薬の詰まったそのボールは、木や地面に強く投げつけると大きな音を出して爆発する。
冒険者が非常時に連絡を取り合う際に使われることが多いが、それなりに値の張る装備でもある。


从 ゚∀从「なるべく使うなよ。猿猴は鼻は弱い分、目と耳で獲物を追い詰める。
    下手に音を立てると、俺達よりも先にお前らを見つけるかもしれない。
    ……それと、まずは真っ直ぐ北に向かえ。地形を考えると、またんき達は西に進んだはずだ」

ミセ*゚-゚)リ「……うん、わかった」



312以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:23:41 ID:EUXDbcH.O
从 ゚∀从「行くぞ、アサピー。……ミセリ、ツン。お前達に古霊の加護あらんことを」


ハインがアサピーを引き連れ南へと走る。
フォックスの親和能力があれば、きっとツンの仲間の居場所もすぐに掴めるだろう。

二人の姿が樹々の間に消えた。


ミセ*゚ー゚)リ「行こう、ツンさん」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。……ありがとう」


ツンの小さな呟きをミセリの研ぎ澄まされた聴覚が拾い上げた。

剣士と騎士の少女二人は北へと足を向ける。

彼方から響いてくるのは、微かな猿猴の声。



313以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:25:10 ID:EUXDbcH.O



ハインの読みは的中する。
真っ直ぐ北に向かったミセリ達は樹海の緑の中に一ヶ所だけ、赤い光を見つけた。


ミセ*゚ー゚)リ「ツンさん、あれ!」

ξ゚⊿゚)ξ「! ナチの合図よ、間違いない!」


ミセリが指さした先には、円形に焦げ跡の付いた太い針葉樹。
親和による特殊な炎なのか、焦げの中心には親指の先ほどの赤い光が三つ、静かに燃え続けているようだ。

それを見るや、ツンは嬉しそうに声を上げる。


ξ*゚⊿゚)ξ「灯火が三つある……三人とも無事なんだ!」


見渡すと遠くの樹々にも同じような火が灯っているのが見える。
焦げ跡の方向を見る限り、それらは西へと続いているようだ。
……同時に、ミセリは辺りに猿の白い毛が多く残っている事にも気づいていた。
そして再び遥か遠くから、何とか聞き取れるような微かな鳴き声。



314以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:26:37 ID:EUXDbcH.O
ミセ*゚-゚)リ「急ごう。……東から猿の鳴き声が近づいてきてる」

ξ゚⊿゚)ξ「猿が……!」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫、皆はきっとすぐに見つかるよ」

ξ゚ー゚)ξ「……うん」


……二人が立ち去ったしばらく後、数百を超える白い群れがその場を覆い尽くした。
大群はまるで一つの生物のようにうねり、人肉という最高の馳走にありつかんとする。
その白い濁流が過ぎる所、木々はすべて薙ぎ倒され枝葉の一つ一つまでが食らい尽くされた。

飢えし真白の獣群は、食らえど食らえど満たされぬ。






315以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:27:51 ID:EUXDbcH.O
|っ∴) |

| ( ) |


ξ゚⊿゚)ξ「……これでよし」

ミセ*゚ー゚)リ「……ねぇツンさん。ナチさんって、どういう人なの?」


樹々に点けられた焦げ跡は、すでに十数個を数えている。
二人は念のため、焦げ跡に真ん中に残った火の印章を一つ一つ消していた。

不思議な灯火のマークは剣の先でつついても消えず、指先で触れると静かに色を失う。熱さはない。

ξ゚ -゚)ξ「んー、見たまんまの娘よ。普段から大して騒がないし、でもどこかブッ飛んでるし」

ミセ*゚ー゚)リ「ブッ飛んでる?」

ξ゚ー゚)ξ「そう、ブッ飛んでる。私と出会った時なんか、あの娘ヨツマの街中で炸裂弾ばら蒔いたのよ」

ミセ*゚ー゚)リ"


『樹海熊でも一撃必倒!』
……武器商家ストロサス家が開発した弱小冒険者向けの使い捨て装具・炸裂弾には、そんな謳い文句が付いていた。

言わずもがな、そんな代物は決して人に使ってはいけない。衛兵さんが血相を変えて飛んでくる。



316以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:29:43 ID:EUXDbcH.O
ξ゚⊿゚)ξ「結局その時はリーダーと、居合わせた私とで必死に止めて、死人は出なかったんだけどね」

ミセ;-ー゚)リ「ん、んー……。ツンさんって、皆と知り合って長いの?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ、出会ったのは今年の春よ。リーダーとナチが初期メンバー」


ツンは、ふと振り返った。つられてミセリも振り返る。

さほど太さのない樹々が立ち並ぶ森を、日の光が明るく照らし出している。
歩いていると気づかなかったが、緩やかな斜面になっていたらしい。

二人の足跡に合わせて、小さく消えかけた獣道が背の低い茂みを通る。

再び歩き出しながら、ツンが続けた。


ξ゚⊿゚)ξ「それから私が入って、ヘリが押し掛けて来て、アサを勧誘に行って……まだ、三ヶ月しか経ってないのね」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……そうだね。まだ三ヶ月、か」

ξ゚⊿゚)ξ「それで……ミセリの方はどうなの? 『チェトレ』だっけ、入院してる仲間」

ミセ*゚ー゚)リ「ん? うん」

ξ゚⊿゚)ξ「どういう経緯で知り合ったの? ミセリ、ギルドリーダーなのよね」

ミセ*゚ー゚)リ「あー、えーと……」



317以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:31:51 ID:EUXDbcH.O

ミセリはビロード達と出会った経緯を、そして、ちんぽっぽが大怪我をするに至った経緯を簡単に話した。

ツンは初め興味深そうに聞いていたが、やがてビローの名が出ると、その美しい空色の瞳を大きく見開いた。


ξ゚⊿゚)ξ「ビロードって……あのビロード・ミリオム? 『邪視』の二つ名の?」

ミセ*゚ー゚)リ「邪視ってなに……って、ビロ君の名前は確か出発前にもホライゾン隊長が出さなかった?」

ξ;-⊿-)ξ「あー、半分無視してたからなぁ……。ミセリ、本当にビロードの二つ名を知らなかったの?」

ミセ;-ー)リ「……うん」

ξ゚⊿)ξ「えっと、……!」


ツンは言葉を切り、立ち止まった。
彼女の視線を追い、ミセリも驚きの声をあげる。


ミセ*゚-゚)リ「な……に……!」


二人の進む、次の目印の先。
樹々の合間に見えたのは、青空だった。

……二人の思考は同時に真っ白になり、同時に同じ事に思い至った。



318以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:33:26 ID:EUXDbcH.O
,,ξ;゚⊿゚)ξ「そんな……嘘でしょ……!」

ミセ*゚д゚)リ「ッ……、ツンさん、待って!」


ミセリの静止を聞かず、ツンは駆け出した。

すぐに後を追おうとしたミセリの耳に、最悪の追跡者の声が聞こえてくる。


ミセ;゚-゚)リ「ツンさん……ツン!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ミセリ……これ、どういう事?」


森が途切れ、青空が一面に広がっていた。
樹々に印されてきた灯火が──いや、樹々そのものがそこで途切れている。

2人の足元には切り立った崖が口を開けていた。
とても人の降りられる高さと傾斜ではない、絶望の断崖が。

ツンが焦ったように声を荒げる。
高地特有の澄んだ空気に、彼女の鈴の音のような声が響いた。



319以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:34:55 ID:EUXDbcH.O
ξ;゚⊿゚)ξ「……灯火、灯火はどこかに無いの!? みんな生きているはずよ!」

ミセ*゚-゚)リ「ツンさん」


足元を良く見ると、崖の淵が不自然な形に削れ、樹の根が露出しているのが分かる。
間違いない。崖崩れの跡だ。
またんき達がここから落ちたのは間違いないだろう。


ミセ*゚-゚)リ「ここ、崩れた跡がある。多分、三人はここから落ちたんだと思う」

ξ;゚⊿゚)ξ「ッ! じゃあ、みんなが死んだって言うの!?」

ミセ*゚-゚)リ「それはわからない。でも、少なくとも無傷で居るとは思えないよ」

ξ#゚⊿゚)ξ「ふざけたこと言わないで! あの三人が簡単に死ぬわけが……!」

ミセ*゚ー゚)リ「ね?」

ξ#゚⊿゚)ξ「!? ……!!」

ξ-⊿-)ξ「……そっか。そうよね」


ミセリが微笑みかけ、ツンはようやく落ち着きを取り戻す。
振り返って晴れやかな笑みを見せる美少女に、今度はミセリが溜息を吐く番だ。



320以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:36:46 ID:EUXDbcH.O
ξ゚ー゚)ξ「ごめんなさい、ミセリ。どうかしてた。……どこかから迂回して崖下に降りましょう。三人が心配だわ」

ミセ;-ー-)リb「あー……えっとぉ、その前にちょっと野暮用と言いますか、ですねー……」

ξ゚ー゚)ξ「?」

ミセ;゚ー-)リσ

ミξ゚ー)ξ

ξ゚ー)ξ"そ

ミセリが指差した先には、一頭の白毛皮の猿。
その一頭の後ろからまた別の一頭が現れ、更に後ろにもう一頭。

瞬く間に異形は数を増し、気付くと数十を超える白い影が崖を背にしたミセリとツンを取り囲んでいた。


ミセ;-ー-)リ「ごめんね。たくさん居たことには気付いたんだけど、なかなか言い出せなくて……」

ξ;゚ー゚)ξ「いいわよ、あたしがあなたの立場に居ても言い出せなかったもん」

威嚇しながら詰め寄る、白い毛皮の塊。
剣士と騎士と白猿猴、死闘が第二幕を迎えた。

二人が武器を構えると同時に、白猿猴がその両腕のかぎ爪を繰り出す。



321以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:41:12 ID:EUXDbcH.O
ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ、伏せて!」

ミセ*゚ー゚)リ「うぃ!」


ツンの鋭い指示に、ミセリは素直に従う。
獣群の前に立ちふさがったツンが盾を構え、姿勢を低くした。

猿猴の爪が迫る。


ξ#゚⊿゚)ξ「うおりゃっ!」
(|゚//)9)「ッ!!」

ミセ*゚ー゚)リ「おおおっ!」


ツンに鉤爪を叩きつけようとした猿の体が軽々と宙を舞い、そのまま崖下に振り落とされる。
伸ばした腕の真下に盾を入れられ、力の向きを無理やり変えられたのだ。


ξ#゚⊿゚)ξ「まだまだ」


返す刀でもう一匹、別の猿の背を殴り付け、これも崖下に放り込む。

この高さだ。親和を持つ冒険者ならまだしも、野生生物ごときが生き延びられるとは思えない。



322以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:43:27 ID:EUXDbcH.O
ミセ*゚ー゚)リ「かっこいー! なに、今の!?」

ξ゚ー゚)ξ「パリィの応用よ。この技だけは団長にも負けない自信があるわ」


言いながらも盾を構え、次に備えるツン。
仲間が次々に転落していった事に警戒しているのか、猿群は躊躇うように勢いを無くした。


ξ゚⊿)ξ「とりあえず、頑張って切り抜けましょう。全部崖下にぶち込むのは無理でも、数は減らせるわ」

ミセ*゚ー゚)リ「そだね。ハイン達が来るまで時間を稼げば私たちの勝ちだよ、っとと……」

(6(##||#)「ッ」



323以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:44:49 ID:EUXDbcH.O
飛びかかってきた異形から身をかわし、右手の長剣を一閃。
白い毛を赤く染めた猿猴が、勢いそのまま二つに分かれた躯を崖下に飛び込ませた。

同時に、ツンが弾き飛ばした白猿もその後を追う。


ξ゚⊿゚)ξ「ずいぶん信頼してるのねッ……! あの人、正式な仲間じゃないんでしょ?」

ミセ*゚ー゚)リ「ん、んー……。そうなんだけど、そうじゃなくて……」


死角からツンを襲おうとしていた猿に、ミセリが一歩踏み込んで斬撃を与える。
彼の獣の腕を裂いた一撃は致命傷には至らなかったが、振り向いたツンの片手剣がその命を奪う。

続けてミセリが放った回し蹴りが命中し、吹き飛んだもう一頭が崖から落ちた。


ミセ;-ー)リ「ほら、いま私達って絶体絶命でしょ? 来てくれなきゃ、どうしようもないじゃん」

ξ;゚⊿゚)ξ「……もし見捨てられてたらどうするのよ」



324以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:45:29 ID:EUXDbcH.O
ツンの左右から二匹の猿の鉤爪が迫る。
向かって右の鉤爪を右手の盾が防ぎ、左の鉤爪は身を捻って回避。

回転の勢いのまま片手剣を振るって右の猿を斬った時には、もう一方は首をミセリの長剣に貫かれていた。


ミセ*゚ー゚)リ「どうするも何も、どうもできないってば。普通に死んじゃうんじゃないかな」

ξ;-⊿)ξ「聞きたくなかったそんな事……」

ミセ*゚ー゚)リ「ま、心配なんてする暇も無いって」


手近な白猿の懐に飛び込み長剣を抉り込むミセリ。
息絶えた猿猴を盾に群れに飛び込み、数匹に斬り付ける。

四肢を傷つけられた猿は互いに折り重なり、集団全体の動きが鈍る。
冷徹に敵の戦力を奪うミセリにツンが一瞬だけ気を逸らし、その一瞬が明暗を分けた。


,ξ;゚⊿゚)ξ「……ッ!?」


足を、何かに絡め取られた。
慌てて見ると、瀕死の白猿猴が両手でまとわりついている。



325以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:50:37 ID:EUXDbcH.O
ξ;゚-゚)ξ「い、いや……!」

(6(##メ|)「……ッ!」


必死で振りほどこうとしたツンの、疲労の溜まった膝が崩れた。
猿猴が容赦なくツンの身を引き裂きにかかる。


(|"V")P)「~~!」

ξ;゚⊿)ξ「っ、いやっ……!」

(j(゚¥゚))「! ~~、」
  _,
ξ;-⊿)ξ「ううっ……!」



326以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:52:31 ID:EUXDbcH.O
一撃目を盾で受け、二撃目を片手剣で弾き、三撃目は親和を活用して耐えた。


ツンの持つ親和は白。
白は拒絶の色。白の精霊は最も冷たい拒絶の精霊。
白の力は全てを拒む。
牙も剣も炎も毒も、精霊すらも通さない。
彼の精霊を剣に纏えば全てを断ち割る剛刃となり、盾に纏えば貫くこと叶わぬ鉄壁となる。


ツンが使ったのは、白の精霊で全身を覆う事による完全防御。
ただし白の精霊は特に制御が難しく、その状態はすぐに途切れてしまう。

防ぎ得ない猿の追撃を覚悟し、ツンは眼を固く瞑った。しかし──


ξ;-⊿-)ξ「……!!」

ミセ* -)リ「だから、ね……」


──痛みの代わりに、感じたのは温かさ。
ツンが眼を開けると、全身に返り血を浴びて立つミセリの姿。
飛び散った白猿猴の死骸。



327以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 21:53:41 ID:EUXDbcH.O
彼女が身に付ける軽鎧は至る所が鋭い爪に引き裂かれ、決して少なくない量の血が流れ出している。


ミセ;゚ー )リ「みんなを信じて、ちょっとでも長く生き残ろう?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ミセリィッ!?!」


綺麗だ。そんな場違いな感想が、ツンの脳裏に何より先に浮かんだ。

ミセリの身体が傾き、ツンの胸に倒れ込む。
剣士の名を呼ぶ騎士の叫びが、樹海の崖地に木霊した。



328以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:00:21 ID:EUXDbcH.O
ξ;゚⊿゚)ξ「ミセリ! しっかりして、ミセリッ!」

ミセ; ー)リ「あ……はは、大丈夫だよ、大げさだなぁ」


左腕にミセリ、右手に片手剣を抱えたツンが怒鳴る。
ミセリの呼吸は荒く、流れる血は止まらない。

白猿はジリジリと距離を詰めてきていて、背後にあるのは切り立った崖。
絶望がツンの心を侵してゆく。


ξ;⊿)ξ「……ごめん、なさい、ミセリ。あたしのせいで……」

ミセ; ー)リ「ツンさんのせいじゃ、ないって。それより──」


……この時も、ツンの絶望を打ち破るのは腕の中の瀕死の少女だった。


ミセ; ー)リ「──さっき考えたんだけどね。私達のできる最後の手段」



329以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:03:02 ID:EUXDbcH.O
ξ;⊿)ξ「……?」

ミセ; ー)リ「────」


ツンは己の耳を疑った。
少女の言う『最後の手段』は、あまりにも無茶が過ぎる。

……それでも、むざむざ殺されるのを待つよりはよっぽどマシだ。


ξ;⊿)ξ「……わかったわ、やりましょう。信号弾使うわよ」


ツンはミセリの懐から黒いボールを取り出した。
周りを囲んでいた白猿が一気に距離を詰める、その直前。


ξ#゚⊿)ξ「喰らえッ!」


ツンが勢いよく信号弾を地面に叩きつけると、非常に大きな破裂音が響き渡る。
驚いた猿群が動きを止めた隙に盾を拾い上げ、ミセリを抱えたツンは後ろに跳び退った。

そう、何もない空中へと。


ミセ; ー)リ『後ろの崖を飛び降りれば、こいつらから逃げ切れるんじゃないかな?』



330以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:04:21 ID:EUXDbcH.O
唖然とする白猿猴を後目に、重力に引かれた二人の体は下へ下へと落ちてゆく。
力が抜けてゆくミセリの体を、ツンはしっかりと抱きしめた。


ξ-⊿)ξ「絶対に……」


森が、緑が、死が近付いてくる。
遥か下にあった地面、激突まで残り数秒。

……自信なんて、無かった。
『完全防御』の鎧は一瞬しか展開できず、自分以外を守った事もない。

ツンは一度だけ目を瞑り、しっかりと見開いた。


ξ#゚⊿゚)ξ「絶対に、守るんだ……!」


空色の瞳が白く輝く。
まるで雪のように脆く儚く美しい、彼女の“覚悟”の色──


──衝撃。





331以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:06:01 ID:EUXDbcH.O
  _
( ゚∀゚)「よっ……と、これで終わりだな?」

从#゚∀从「ふん、手間取らせやがって……」


最後の白猿の頭を鉈で叩き割り、苛立ちを露にハインが言う。
身の丈ほどもある大剣を豪快に振り回していたジョルジュも、担当する猿猴を駆逐し尽くしたらしい。
少し離れた所に居るアサピーとフォックスは無傷。どうやら上手く隠れていたようだ。

ハイン達が炸裂弾の音を聞き取ったのは、樹に印された灯火を辿っている最中。
それから間もなくこの崖上に到着し、白猿の群れと遭遇する。

目の前に崖があり灯火が途切れている事、先ほどまで白猿の群れが居た事を考えると、またんき達三人、
それにミセリとツンの二人も崖下に居ると考えた方がいいだろう。

……やはり多少の無理は押し通してでも、自分が来ていれば良かった。
いくら後悔しても追いつかない。



332以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:07:42 ID:EUXDbcH.O
从#-∀从「くそッ……」

爪'ー`)y-「荒れてるねぇ。ミセリちゃんが心配なのはわかるけど、あまり熱くなるなよ?」

从#゚∀从「わかっている!」


左右を見渡すと、北の方で崖の傾斜が緩くなっているのが分かる。
鉈についた猿の血を払い、ハインは早足に歩き出した。

ふらふらと後に続くフォックスと、崖の下を覗いて動かないジョルジュ。

心配そうにジョルジュを振り返るアサピーの耳に、ジョルジュの呟きが届いた。

  _
( ゚∀゚)「……面白そうじゃん」
( っ"^,(;・(ェ)・) そ パス


(-@∀@)「え? ……っと!」
(っ( ・(ェ))" キャッチ

  _
( ゚∀゚)「アサピー、だっけ。お前はハイン達に付いてけ。……俺はちょっと近道するわ」


装備を確認し、特に大剣を慎重に背負い直す。
自分の身長ほどもある剣なんてよく親和も使わずに持てるものだ、ふとアサピーは思う。



333以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:10:39 ID:EUXDbcH.O
  _
( ゚∀゚)「俺の事は全く心配要らない。最悪、ヨツマには一人で帰るさ。……それじゃ、」


言い終えると、ジョルジュは崖から跳んだ。
……跳んだ?


(;-@д@)「え……ええええ!? 何してるんですか!?」
( っ(;・(д)・)
  _
( ゚∀゚)「ハイン達によろしくなあぁぁぁぁぁぁぁ……」


叫び声の余韻を残しながらジョルジュの姿は小さくなり、やがて緑の中に消えた。

白猿に追い詰められた剣士と騎士の二人の少女が飛び降りたのが、これより一時間ほど前。
猿猴群との交戦中に崖崩れに巻き込まれて三人の冒険者達が転落したのが、これより三時間ほど前。

白毛皮の群れを統べる不遜の猿猴王が討ち果たされるのが、これより──






334以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:12:18 ID:EUXDbcH.O
時間は巻き戻り、ミセリとツン。

ξ゚⊿゚)ξ「うーん、多分この辺りなんだけど……」

ミセ ゚ー゚)リ「……あっ、あったよ。ほらアレ……」


ツンが投げ落した盾は、二人が墜落した所から少し歩いた茂みの中で見つかった。
見上げると猿群と戦った崖はかなりの高さがあり、傷一つ付いていない盾の頑丈さが窺い知れる。


崖から飛び降りた時、二人を救ったのはツンの親和だった。

白の精霊による絶対防御。
地面に激突する衝撃を、ツンは全力で『拒絶』した。

一人分ならばまだ何とかなるかも知れない。
しかし、負傷したミセリを抱えたままでのダイブはどう見ても分の悪い賭けだ。

ツンは限界近くまで精霊を酷使し、その試練を超えてみせた。



335以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:15:55 ID:EUXDbcH.O
ξ*゚ー゚)ξ「んんー、やっぱりこの盾が無いと落ち着かないわね……」

ミセ ゚ー゚)リ「気に入ってるんだね、その盾」

ξ*゚⊿゚)ξ「うん、まぁ、ね。もう十年も使ってるし……」

ミセ ゚ー゚)リ


ツンははにかんだ笑みを浮かべる。
白銀の盾を愛おしげに撫でるツンにミセリは、


ξ゚⊿゚)ξ「さ、戻りましょ。ナチが心配だわ」

ミセ;゚ー゚)リ「えあ、お……うん」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、まさかまた血が……!?」

ミセ;-ー-)リ「や、大丈夫ッス。ただ、ちょっと、鼻血が出そうになっただけで……」

ξ゚⊿゚)ξ「……? 無理はしないでね?」

,,ミセ;-ー)リ「うん、大丈夫」



336以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:18:36 ID:EUXDbcH.O


崖下で、大きな収穫があった。
探していた三人のうち二人、またんきとナチの消息を掴むことができた事だ。


無事に着地できたツンが辺りを見渡すと、崖壁に沿って深い亀裂が入っている個所を見つけた。
人一人がぎりぎり入れるほどの幅の奥を覗くと、意外にも広く空洞になっている様子が見える。

明らかな血の流しすぎで、ツンが肩を貸してようやく立てるような状態のミセリ。
彼女を休ませるため、少しでも安全な場所が欲しい。
悩んだ末に足を踏み入れたツンを、突然の爆発が襲う。

先の戦いで崖下に盾を投げ落したため、やむなくその爆撃をツンは親和を用いて防いだ。
しかし爆風による容赦のない攻撃は続き、ツンは慌てて亀裂を離れた。


ナスターシャ・ヴィルヘルミナ・フォン・ツィーフロイント。
ツンが必死で探し求めた仲間の一人、ナチ。

恐慌状態に陥った彼女は、呼びかけるツンの言葉を聞き入れず、狂ったように親和による爆撃を繰り返している。

放っておくと洞窟の中に居るナチ自身が自分の炎で蒸し焼きになってしまう。



337以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:20:05 ID:EUXDbcH.O
恐慌状態に陥った彼女は、呼びかけるツンの言葉を聞き入れず、狂ったように親和による爆撃を繰り返した。

放っておくと洞窟の中に居るナチ自身が自分の炎で蒸し焼きになってしまう。
ツンは仕方なくミセリを外に待たせ、親和による守りを纏って岩壁の裂け目を強行突破した。

ナチは怯えた顔で突然の乱入者に右手を向けたが、それよりも素早くツンの拳に顎を打ち抜かれ昏倒する。

数分後に再び目覚めた時には、ナチは落ち着きを取り戻していた。
聞くと、ヘリカルは崖崩れの際に見失い、自身とまたんきも数十の猿に襲われたという。

……そして、彼女に促されるままに洞窟の奥に進んだツンは、……。

しばらく一人にして欲しいというナチの言葉を受け、
既に応急措置を終えていたミセリと共に無くした盾を探しに出た。





338以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:21:11 ID:EUXDbcH.O
ξ゚⊿゚)ξ「それより、本当に動いてて大丈夫なの? 痛まない?」

ミセ ゚ー゚)リ「……うん、まだビリビリするけど、もう傷は塞がってるし……」


答えるミセリは、まだどこか弱弱しい。

傷そのものは塞がったとはいえ、失った血を取り戻すことはできない。
今はアサピーから預かっていた手持ちの非常薬──血の代用薬を全て使って、なんとか持ちこたえている状態だ。

これ以上の処置は、ドクオやアサピーのような治療術師でもなければ行えないだろう。

……進む先に先ほどの岩壁が見え、ツンの表情が曇る。


ξ゚⊿゚)ξ「……」

ミセ ゚-゚)リ「……入ろう。中の方がきっと安全だよ」


ミセリが言葉を掛けると、ツンは無言で頷いた。
鳴き声こそ聞こえないが、鋭敏になりつつあるミセリの感覚は周囲から明確な殺気を感じ取っている。
このまま樹海をさ迷っていても、白猿猴に見つけられるのは時間の問題だろう。



339以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/22(火) 22:22:38 ID:EUXDbcH.O
ツンが洞窟の奥のナチに呼びかけると、予想したよりしっかりした声が返ってきた。


ξ゚⊿゚)ξ「……ナチ、戻ったわ。大丈夫?」

ハソ ゚-゚リ「ああ、もう大丈夫。さっきは無理を言ってすまなかった」


日差しが届かない暗さのせいだろうか、ナチの顔は青白く、今にも死にそうに見える。

壁に背をもたれさせたまま休む、金髪を後ろで纏めた『ソーサラー』の少女。
その横顔を見つめていたミセリは、不意に視線を向けてきた彼女と目が合ってしまう。

ミセリが内心で動揺する一方で、ナチは気を悪くする素振りも見せずに言う。


ハソ ゚-゚リ「特に、ミセリ君。君は怪我をしているというのに……」

ミセ ゚ー゚)リ「にゃ、私は結構丈夫だよ?」


手をパタパタと振って自分は大丈夫だと示してみせるが、同時に急な立眩みに襲われた。
立っている事すらできなくなったミセリは、少し悩んだ末にナチの隣に腰をおろす。



341以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:02:03 ID:0jWVAm.kO
ハソ ゚-゚リ「ミセリ君? おい、ミセリ君!」

ミセ;゚ー゚)リ「あー、何と言うか……少し疲れたみたい。ちょっと休めば大丈夫だよ」

ハソ ゚-゚リ「む……」
ミセ;゚ー゚)リ「うわ、ちょっとっ?」


突然間近で顔を覗きこまれたミセリは、ついうろたえた声を出してしまう。
ナチは尚も無言のまま、今度はミセリの額に自分の額を押し当てた。


ミセ;゚д゚)リ「何? ……何?」

ハソ ゚-゚リ「……熱はないようだ。ちょっと待っていてくれ」

ミセ;゚-゚)リ「?」

ハソ ゚-゚リ「確か、リーダーもアサピーから薬を預かっていたはずだ」

ξ;゚⊿゚)ξ「待……っ、ナチ!?」


呼び止めるツンを無視して、ナチは洞窟の奥に足を向ける。

ツン達、『ワルハラ』のリーダー──斉藤またんきの遺体の元へと。



342以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:02:45 ID:0jWVAm.kO


ツンが慌てて後を追うと、ナチは暗がりに一人佇んでいた。
足元には外套に覆われた人型が倒れていて、嫌忌剤の強烈な匂いに微かな血の匂いが混じっている。


ξ゚⊿゚)ξ「……」

ハソ ゚-゚リ「……またんきは私を庇って死んだ。私が殺したようなものだ」


人型に掛っていた枯れ草色の外套を、しゃがみ込んだナチが除けた。

_}∀#。シ)

頭の半分以上を喰われた、若いリーダーの骸。
血の匂いが強まり、吐き気を伴う不快感がツンを襲う。


ハソ ゚-゚リ「本当にすまない。リーダーを死なせ、ヘリカルも見失って、それなのに私一人が無事で……」

ξ゚⊿゚)ξ「……私も、アサピーも生きているわ」



343以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:03:33 ID:0jWVAm.kO
すでに冷たくなっているまたんきの懐から、ナチは一つの小瓶を取り出した。
続けて、彼の腰の短剣と羽飾りの付いた御守、背中の長剣の鞘、そして彼の登録証を外す。

代わりにナチは自分の左耳のピアスを外して彼の胸に乗せた。


ハソ ゚-゚リ「……カソウ、というらしいな。私の国では無かった習慣だが、ここは彼の郷土だから」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうね」


ツンはナチの隣に進み、膝を着いた。
またんきに一枚の硬貨を握らせ、その手の甲に短く接吻を与える。


ハソ ゚-゚リ「──、──」


共通言語でない、古めかしく耳慣れない言葉でナチが呟く。
別れの言葉である事だけは、彼女の今にも泣き出しそうな顔を見ていればわかる。

ナチがまたんきにかけ直した枯れ草色の外套が彼女の愛用の物だと、その時はじめてツンも気付いた。



344以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:06:09 ID:0jWVAm.kO
ハソ - リ「あなたの夢は、私が連れて行くから……」


ナチの瞳が深紅に輝き、触れていた遺骸が勢いよく燃え上がる。
冒険者、斉藤またんきの──『ワルハラ』の旅が終わりを迎えた。

渦を巻いて上がった炎が消える。
……焼け跡には何も残っていない。






345以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:09:50 ID:0jWVAm.kO
ハソ ゚-゚リ「ミセリ君、これ。アサピーの調合したものだから、信頼していい」

ミセ ゚ー゚)リ「ありがとう。……もう終わったの?」

ハソ ゚-゚リ「ああ」


ナチが差し出した薬瓶には、薄紅色の液体が詰まっている。
先程ツンから受け取ったものと同じもの。

水筒は鞄ごとジョルジュに預けていたため、ミセリはそれを水なしで強引に飲みこんだ。


ミセ;--゚)リ「苦ぁ……これ、どういう仕組みなの?」

ハソ ゚-゚リ「さあな。副作用が強いとか反動が大きいだとか、一日に幾つも使えないとは聞いた」
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。アサピーの薬の説明なんて、どうせあたし達もわかってないから」

ミセ;゚ー゚)リ「ああ、さいですか……」


ナチはごく自然に、先ほどと同じくミセリの隣に座る。
ツンが一瞬羨ましげな顔をした事を二人は知らない。



346以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:10:43 ID:0jWVAm.kO
ハソ ゚-゚リ「ありがとう、ミセリ君。君と君の仲間が居なければ、ツン達まで死んでいた」

ミセ;゚ー゚)リ「ああいや、私はあんまり役に立ってないですし……」


沈黙が流れる。
ふと顔を上げると、ツンがやたらと激しく首を振っていた。


ミセ;゚ー゚)リ「あのぉー……、ツンちゃーん……」

ミξ;-⊿-)ξ彡「このバカ……違う、違ってて、そうじゃなくて、あの……」


現実に戻ってこないツンに呆気にとられるミセリ。
隣のナチが小さくクスッと笑った。


ハソ ゚ー゚リ「ツンが言いたい事は私にだってわかる。
     そのアホは照れ屋なんだよ。素直に礼を言いたいのに、何と言っていいか分からない」

ξ;゚⊿゚)ξ「って、ちょっとナチ! 何を吹き込んで……」

ハソ ゚ー゚リ「ミセリ君。君が何と言おうと、君は私達の恩人だよ。
     私もツンも、きっと死んだリーダーも、本当に心から感謝している。
     ……違わないね、ツン?」

ξ;-⊿-)ξ「あぅ……そうです……」



347以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:12:33 ID:0jWVAm.kO
ハソ ゚-゚リ「感謝の印という訳では無いが、私に出来る事なら何でも言ってくれ。可能な限り、」
ミセ*゚ー゚)リ「 本 当 に ? 」


ハソ;゚-゚リ「!? い、いや、あまり無茶は言わないでほしいかな……」

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ二つお願い。まず、君付けで呼ぶのは止めて。何かむず痒いよ」

ハソ;゚-゚リ「そ、そうか? では改めよう」

ミセ*゚ー゚)リ「で、もう一個……さっき見せてくれた笑顔、可愛かったからもう一回見たいんだけど、ダメ?」

ハソ;゚-゚リ「だ、ダメだ!」


たじろぐナチ、ニヤつくミセリ。
向かいに座るツンも意地悪な視線を向ける。


ミセ*゚ー゚)リ「仕方ないなぁ、今回は貸しにしとくよ。……さて、そろそろ行こうか」

ξ゚⊿゚)ξ「ん」


ナチに貰った方の薬も、効果が現れはじめたのだろう。ミセリは体が軽くなったように感じた。
効果は一時的なものだと言うから、急ぐ必要がある。



348以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:14:03 ID:0jWVAm.kO
ξ゚⊿゚)ξ「何をボーっとしてるの。あなたも来る!」

ハソ ゚-゚リ「え、あ……」

ミセ*゚ー゚)リ「私の仲間と合流する。ヘリカルちゃんを見つける。できれば白猿も潰す」

ハソ ゚-゚リ「!」


ナチ達がヘリカルを見失ったのは、もう三時間も前だと言う。
戦う事も隠れる事も不得意なヘリカルが生きている可能性は絶望的だが、決して零でははない。

索敵に長けたフォックスの親和能力があれば、きっと見つけることができる。

……丁度同じ時、それは空から降ってきた。


──ガサッ!



349以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:21:38 ID:0jWVAm.kO
ミセ*゚-゚)リ「!」
ξ;゚⊿)ξ「ッ! 何?」


ツンの背後、木々の間の背の高い茂みが音を立てて揺れた。

それぞれが一斉に武器を構え、油断なく茂みを睨む。
……しかし、やがて草を分けて出てきたのは──

  _
(;-∀゚)「痛ー……。ちょっと無茶だったか……」

ミセ;゚д゚)リ「ジョルジュさん!? なんで空から!?」


ポンポンと服に纏わりつく枝葉の欠片を払うジョルジュには、三人のような緊張感が微塵も無い。



ξ;゚⊿゚)ξ「……って、身体は!? 平気なの?」
  _
( ゚∀゚)o彡「ん、余裕。鍛えてるもん」


ハインを『理想』と置くならば、彼は『規格外』と置ける。彼はまだ、親和能力を起動していない。
圧倒的に理不尽な存在、それがジョルジュ長岡。

  _
( ゚∀゚)「さて。久しぶりだな、ミセリ……と、ツンちゃんにナチちゃん? 助っ人に来たぜ」



350以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:24:14 ID:0jWVAm.kO


  _
( ゚∀゚)「またんきが、か……」


自称・最強の助っ人ジョルジュを加えた一行は、北へと歩みを進める。
彼によると、ハイン達は北から崖を迂回してくるという。

それならば、自分たちも北に向かう方が手っ取り早い。


ミセ*゚ー゚)リ「ジョルジュさん、上の三人と連絡取れる?」
  _
( ゚∀゚)「いや無理。最悪、俺は放っておいてくれと言ってあるし……」

ミセ*゚ー゚)リ


僅かなミセリの沈黙をどう捉えたのか、ジョルジュは慌てて言い添える。

  _
(;゚∀゚)「ああいや、でも大丈夫だよ。ほら、きっと北の方に行けば合流できるし……」



351以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:26:08 ID:0jWVAm.kO
ミセ*゚~゚)リ「信号弾……は不味いか。猿猴に見つかる方が早いよね……」

ハソ ゚-゚リ「この一帯の樹々を焼き払ったらどうだ? 見晴らしも良くなるぞ?」
ξ゚⊿゚)ξ「結局目立つじゃない、無意味よ」




(;゚∀゚)「無視かー、ヘコんじゃうなー」

ミセ*゚ー゚)リ「いやいや、そんな気は無いッスよ」


結局、歩く事くらいしかできる事が見つからない。
……本音を言えば、猿群の目と鼻の先に居る現在、ハインに匹敵する
戦闘力を持つ(らしい)ジョルジュの存在はとても心強い。


ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ、猿の鳴き声は聞こえる?」

ミセ*゚ー゚)リ「ん、ちょっと待って……」


血を流しすぎて力が上手く入らなかったため、ミセリは親和を切っていた。

ツンの言葉を受け、親和を行使して聴力を高める。
一瞬だけ足元がふらついたが、なんとか上手く力を使う事ができた。

猿が仲間との連絡に使う甲高い鳴き声が、ミセリの耳に小さく届く。



352以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:28:15 ID:0jWVAm.kO
ミセ*゚-゚)リ「……北の方、から少しだけ」

ξ゚⊿゚)ξ「最悪ね」

ミセ*゚ー゚)リ彡"「……どうする?」
  _
( ゚∀゚)「突破一択」
ハソ ゚-゚リ「右に同じ、と言いたいが……ミセリ、君の体調次第だ」

ミセ*゚ー゚)リ「私は平気だよ。……ツンさん?」

ξ-⊿-)ξ「あー、あのさ。さっき言いそびれたんだけど……そのツンさん、って言うの止めて」

ミセ*゚-゚)リ「?」

ξ゚ー゚)ξ「ツン、だけで良いわ。……ミセリ、あたしはあなたに任せる」

ミセ*゚ー゚)リ「……わかった。このまま行こう、ツン、ナチ!」


剣士ミセリと騎士ツン、魔術士ナチ。そこにジョルジュが加わった。
歩き出した四人の足取りに、迷いはない。

こうして死闘の最終幕は近付き、やがて──



353以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:29:16 ID:0jWVAm.kO
──茂みに足を踏み入れたミセリは、その先に広がる光景に、つい足を止めてしまう。

そこには何も無かった。
ただ大きな楕円を描くように木も草も無い空間が広がり、かつて見た衛兵の練兵場を思い起こさせる。

……そしてミセリ達の視界の奥、楕円の焦点辺りに、彼らを苦しめた貪欲なる獣の王が鎮座していた。


一足ごとに獣群との距離が近づく。
今や、親和を使うまでもなく、はっきりと猿の息遣いが聞こえる。

心地よい緊張感が、ミセリの首筋をざわざわと撫でた。


ミセ*゚ー゚)リ「……向こうからも近づいてきてたんだね」

ξ゚⊿゚)ξ「……ふん、好都合よ」
ハソ ゚-゚リ「……」


ツンが肩口の盾を外し、右手に取った。
剥き出しの土を踏みしめる足が微かに震える。



354以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:33:27 ID:0jWVAm.kO
ミ゙ ミ(○)(○))ミ「……」


取り巻きの白猿の数倍の巨体を誇る、凶悪な姿。
彼の大猿の咆哮とともに、数百を数えうるだろう白猿が楕円の到る所から姿を現した。

そして大猿は悠然と腰を上げ、ミセリ達の方へと歩みを進めてくる。

それぞれに武器を抜き大猿猴へと踏み出す冒険者。
自ら近づいてくる『餌』に歓喜の声を上げる不遜の王。

……不意にジョルジュが足を止め、大剣を構えた。


ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?」
  _
( ゚∀゚)「周りのは俺が相手してやる。安心してデカイのをやりな」

ミセ*゚ー゚)リ「そいじゃ遠慮なく……」


ミセリとツンがそれぞれ猛然と斬りかかり、ナチが続く。
大猿が今一度咆哮を上げ、取り巻きの白い獣が共鳴する。


ミセ*゚ー゚)リ「……いくよッ!」



355以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:35:56 ID:0jWVAm.kO
ミ゙ ミ(○)(○))ミ「──」

ミセ#゚ー゚)リ「遅いッ!」


鋭敏に研ぎ澄まされたミセリの五感は、大猿の振り下ろす腕を詳細に知覚する。
でぃの、ハインの方が数百倍は速い。この程度、掠める事すらない!


ミセ#゚ー゚)リ「疾ッ!」


地面を抉る鉤爪をすり抜けて突き出した長剣は──しかし、大猿猴の腹を貫くことが出来なかった。


ミセ*゚-゚)リ「ッ!? 固……!?」

ξ゚⊿゚)ξ「ミセリっ!」

ミ゙#ミ(○)(○))ミ「──ッ!」



356以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:37:41 ID:0jWVAm.kO
大猿猴が続けて振りぬいた左の鉤爪を、ミセリは剣の腹で受けた。
他の猿の攻撃とは比べ物にならない強い衝撃がミセリを吹き飛ばす。


ミセ;゚⊿゚)リ「ペッペッ……これは辛い」


……破壊力は抜群、と言った所か。
血の混じった痰を吐き捨て、ミセリは立ち直る。

少し離れた所では、他の白猿を引き付けるジョルジュ。
やたらと猿群が集中しているところを見ると獣寄せの香薬でも使っているのだろうか。
身の丈程の大きさの大剣を楽しそうに振り回す彼には、苦戦している様子はない。

一方、猿猴王の猛追はツンに矛先を向けていた。


ξ゚⊿゚)ξ「……、……!」


圧倒的な破壊力を持つ大猿の一撃一撃を構えた盾ですべて弾くツン。
白く輝く瞳に焦りの色は無いが、反撃を繰り出す余裕がない以上、劣勢は明らかだ。



357以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:44:30 ID:0jWVAm.kO
ミセ*゚ー゚)リ「ッ、ツン!」


駆け寄ろうとしたミセリを目の端に捉えたのか、ツンは声を上げる。


ξ゚⊿)ξ「ダメ、待って! 3、2、1──」

m9ハソ゚-゚リ「──Feuer」


不意にツンが姿勢を下げる。
同時に、ナチの巻き起こした爆風が大猿を襲い、その巨体を吹き飛ばした。

ナチの持つ親和能力。
揃えた指先を起点に、様々な特質を持つ『爆炎』を巻き起こす事。

ビロードの“燃やす”能力と違い直接炎を生み出すため、汎用性は高い。
しかし──


ハソ*゚ー゚リ「ビンゴォ! 流石に今のは効い……て……?」

ξ;゚⊿)ξ「ない、みたいね」

"ミ#゙#ミ( )( ))ミ"「……Γγκκκ」


両腕からぶすぶすと煙は上っていたものの、再び立ち上がった巨体にダメージを受けた様子は無い。



358以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:49:41 ID:0jWVAm.kO
他の白猿共と桁違いの耐久力と破壊力、圧倒的な戦闘力を持つ傲慢なる白群の王。

ミセリ達は初めて、彼の獣の脅威を知った。


ミセ;゚-゚)リ「ツン! そいつから離れて!」

"ミ~#゙# ミ(○)(○))#ミ"「Кυυаッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「!? きゃっ……!」


身を屈めていた大猿が、口から何かを吐き出した。

それは、超高速で吐き出された大猿の胃液。
ミセリの声を受けてすぐに飛び退いていたツンは、左腕で顔を庇う。

しかし……


ξ; ⊿ )ξ「あぁああぁあぁあぁあぁああ!!」

ハソ;゚-゚リ「ツン!」


胃液を受けたツンの左腕が、手甲と衣服もろとも“焼け”た。
激痛のあまり剣を取り落とし蹲る彼女を大猿が容赦なく襲う。



359以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 05:54:38 ID:0jWVAm.kO
"ミ###ミ(○)(○「ッΙιιιΙΙΑΑΑ!」

ミセ#゚-゚)リ「~~!」
っξ; ⊿)ξ「ッ」


間一髪、ミセリがツンを抱えて大猿から逃れる。
見ると、ツンの左腕、肘から手首に至る広範囲が、真っ赤に爛れて血を流していた。
この腕では、当分は剣を握ることすらままならないだろう。


ξ; ⊿ )ξ「、……、ミセリ……」

ミセ;゚ー゚)リ「ん、大丈夫ッスね?」


苦しげに呻くツン。煙を上げる腕は余りにも痛々しい。



360以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:00:08 ID:0jWVAm.kO
ミセ*゚ー゚)リ「まだ戦える?」

ξ; ⊿)ξ「剣を握るのは……無理ね」


出来るならツンを下がらせたい。
しかし、今はどうしてもツンが要る。

「無理をするな」「あとは任せろ」
そんな言葉を掛けられる状況じゃない事を、ミセリの強さは知っている。
……それに、そんな言葉をツンが喜ばない事も。


ミセ;-ー゚)リ「ごめん、ツン。今は少し無理して頑張って?」

ξ; ー )ξ「……厳しいわね、アンタ」

ミセ*゚ー゚)リ「民宿の娘だから」

ξ;゚ー)ξ「ふふっ、いい女主人になれるわ」

ハソ;゚-゚リ「雑談は後にしてくれ……!」


ツンが身を起こし、右手の盾をしっかりと持ちなおす。
剣だろうが腕だろうが、無くしたって構わない。『仲間』を守る盾があれば、それで十分だ。



361以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:04:45 ID:0jWVAm.kO
ミセ*゚ー゚)リ「ありがと、お得意様一号さん!」

ξ;゚ー゚)ξ「やめてその言い方……」

ハソ#゚-゚リ「貴様らぁー!」

ミ#゙#ミ(○)(○)#)ミ「Оаа!」


二人は同時に駆け出した。
剣士の少女は猿猴の王に刃を突き立てるために。
騎士の少女は若き魔女の前に盾を掲げるために。


ミセ#゚ー゚)リ「……!」


ミセリの振るう長剣は、大猿の身体を捉えるも、その毛皮を傷つけるに至らない。
反対に、大猿の振るう爪は、ミセリなど容易く引き裂き得るも、掠めることすらない。

それでもミセリの巧みな体捌きは大猿の行く手を阻み、彼の獣をツンとナチから引き離す。
一方で散発的にナチとツンを襲う打撃と胃液は、ツンの盾が尽く無効化。
時折、ミセリが猿から離れると同時に、ナチの火炎が猿の白い毛皮を舐める。

幾度目かの爆炎が大猿を焼いた時、彼の猿猴王は苦しみに呻いた。
一撃一撃の決定力は足りないものの、幾度となく繰り返すミセリ達の攻撃は、確実に猿を弱らせている。



362以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:09:09 ID:0jWVAm.kO

ハソ;゚-゚リ「効いている! あと一歩だ!」

ξ#゚⊿)ξ「よし、一気に畳み掛けて、……ミセリ?」


確かに、もう一歩で猿猴は地に伏しただろう。
剣の一太刀、炎の一陣、一つ一つが獣を追い詰めていた。

……しかし、三人の掴みかけていた勝利は、思わぬ所から逃げてゆく。


ミセ; -)リ「ゲホッ……う……」


──ミセリの体を動かしていた薬の効果が、切れた。
ふらついたミセリの眼前には、白い悪夢が蹲る。


ミ#゙#ミ( )( ))ミ


咆哮が轟き、樹海を揺るがす。



363以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:12:11 ID:0jWVAm.kO




猿猴王は焦っていた。

極度の飢えにさらされた彼の王国の前にノコノコと数匹の餌が現れたのが今朝。
ヒト、それも滋養に満ちた活きの良いモノが、さあ喰らえとでも言わんばかりに出向いてきている。
彼は即座に群れに指示を下し、それらを捕らえさせようとした。

ヒトは良い。
甘く柔らかく、一口噛めば体中に痺れるような快感が走る。
かつて一度生きた冒険者を頭から喰らった時の興奮を、彼は未だに忘れられずにいた。

……その不幸な冒険者を喰らった事は、彼の体に劇的な変化をもたらす。
まだ並の猿と大差が無かった彼の体格は爆発的に膨れ上がり、皮膚は岩をも砕く硬さを得る。
それが親和を持つヒトを喰った為とは知らぬまま、やがて彼はその圧倒的な力を以て、ついに一帯を支配するに至った。

彼の群れにおいて、彼は唯一の帝。
彼の群れにおいて、彼の命令は絶対の法。
彼の群れにおいて、彼の望みこそ抗い得ぬ運命。

それなのに、あの旨そうな餌が、今に至るまで一匹たりとも運ばれて来ないではないか!

痺れを切らして出向いてみれば、餌が三匹、果敢にも挑みかかってくる。
──そして喰われ死ぬるべきその餌共の思いがけぬ奮闘に、帝王たる自分が追い詰められている。

有りえてはならない! 彼は今一度咆哮を上げる。
傲慢な王者の歪な誇り、その轟く先に有るは――。






364以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:15:50 ID:0jWVAm.kO

鼓膜をブチ破るような圧倒的な咆哮。
大猿の雄叫びは草木を揺らし、緑の大地に響き渡った。

想像の枠外からの白猿の反撃に最もダメージを受けたのは、最も白猿の近くにいたミセリだった。
咄嗟に親和を断ち耳を塞いだものの、音の爆弾は貧血に喘ぐ体を容赦なく貫き脳を揺さぶる。


ミセ; д)リ「がっ……!」

ξ#゚⊿゚)ξ「  、 !」


少しでも敵から離れようと踏ん張った足が、ミセリの身体をまっすぐ地面に叩きつけた。
天地がグワングワンと揺れ、その只中に白銀の騎士が見えた。

何を、何を彼女は怒鳴っているのだろう。耳が痛くて聞き取れない。

白い獣が闇雲に振り回す両腕を、盾一枚で捌く少女。
千切れかけたミセリの意識を、彼女の左腕の生々しい赤が呼び戻す。



365以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:21:09 ID:0jWVAm.kO

ミセ; -)リ「う……」

ξ゚⊿゚)ξ「  、 !  」

ハソ;゚-゚リ「    !」


無重力に新たな力が加わり、誰かに腕を引っ張られたと気付く。
銀色の騎士は尚も盾を振るい、大猿をその場に縫い付けている。

少しずつ聴力が、体の平衡感覚が戻ってきた。


ミセ;゚-゚)リ「う……ん……」

ハソ;゚-゚リ「よせ! まだ動くな!」


剣をついて立ち上がろうとするミセリを、ナチが押し留めた。
その間も彼女の瞳は真紅に輝いていて、熱を持った右手には赤の精霊が集まっている。



366以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:26:24 ID:0jWVAm.kO
ミセ;゚- )リ「それ、右手の……」

ハソ ゚-゚リ「ああ、いつでも撃てる。しかし……」

ミセ;゚ー )リ「じゃあ、それで──」

ハソ;゚-゚リ「……大丈夫なのか? 君と、ツンは!?」

ミセ;-ー )リ「……頑張る。たぶんツンも大丈夫だよ」


ミセリはもう一度、自分の身体を確認した。
──本調子の半分程度も力が入らない。だが、言うことは聞いてくれる。

ボロボロの全身を精霊で補い、ミセリは大猿猴の……ツンの元へと駆け寄った。



367以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:32:40 ID:0jWVAm.kO


ξ;゚⊿ )ξ「は……っ、は……っ」

~ミ#゙#ミ(○)(◎))#ミ「Врυ:ааΑッ!」


ミセリが長剣を握り再び猿に攻めかかる直前。
大猿から二人を引き付けるツンには、すでに体力が残っていなかった。

怒りに我を忘れた猿猴王の、力任せの猛攻。

一瞬でも集中を切らせてしまえば、一撃でもまともに受けてしまえば、ツンの小さな体など容易く肉片になる。


ξ;-⊿)ξ「くッ……」


……猿の大振りの隙を付いて飛びのいたその時、ツンを支える腕があった。


ξ;゚⊿-)ξ「……っ、ミセリ」

ミセ;゚ー゚)リ「お疲れッス、ツン。ちょーっとお願いしていい?」


ツンを支えたまま、獣の間合いの更に外へと飛び退くミセリ。
あまりに頼りない足取りの彼女に、それでもツンは安心した。

……しかし、この上お願いとは、流石に無理が過ぎる。



368以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:35:01 ID:0jWVAm.kO
ξ;゚⊿゚)ξ「……フザケ、てない、よね?」

ミセ;゚ー゚)リ「一瞬、一瞬だけでいいから、アイツの動きを止めて」


猿は身構えている。恐らく、また酸の胃液を飛ばすための構え。
ツンは呼吸を整え、答えた。


ξ;゚ー)ξ「わかった。……何をするのかは知らないけど、しくじらないでね」


ミセリが何かを言うより早く、ツンは盾をかざす。
読み通り、猿猴王が放った強酸が二人を襲った。

白銀の盾に、強烈な悪臭がブチ撒かれる。


ξ#゚⊿゚)ξ「……こっちの盾は王家の聖印入りよ! そんな下種な攻撃が効くと思うなッ!」


ツンが叫びながら押し返し、大猿に肉薄する。
両腕を振りかぶる猿の胴を盾を押し付けると、彼の獣はひるみ、隙が生まれた。

ミセリの望んだ、いや、それ以上の隙が。



369以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:40:15 ID:0jWVAm.kO
ミセ;゚ー゚)リ「ぐっじょぶ、ツン」

ξ;゚⊿゚)ξ「あとは任せ……え!?」


ミセリがツンの脇から大猿に寄り、その口に左腕を押し込んだ。
その腕が引き抜かれた直後、噛みちぎろうとする大猿の牙が噛み合わされた直後。
獣の口内で『何か』が爆音とともに弾け飛ぶ。


ξ;゚⊿)ξ「な……信号弾!?」

ミセ;゚ー゚)リ「イエス! そいで――」
m§ハソ゚-゚リ「チェックメイトだ」


ナチの爆撃は、対象が近ければ近いほど威力を増す。

彼女が居るのは、猿猴王の眼前。ぽっかりと開いた、貪欲なる大口の眼前。
ツンが、ミセリが、命がけで引きずり出した的。



370以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:44:12 ID:0jWVAm.kO
ナチの親和能力の真価は、その破壊力。
爆薬のイメージを身体に溜め込み、時間さえ掛ければほぼ際限なく引き上げられる事。

銃の形に揃えた指を向け、親和の引き金を絞る。
極限まで密度を高めた精霊が放たれ、獣の柔らかい喉を貫いた。
打ち出された爆炎は獣の脳を焼き尽くし、衝撃で獣の頭蓋は吹き飛ぶ。

傲慢なる白猿猴の王の、あまりに呆気ない終焉だった。



371以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:48:45 ID:0jWVAm.kO




ξ;゚⊿゚)ξ「勝っ……た」
ハソ;゚-゚リ「……」


ツンとナチは言葉を失っているようだった。
ぶすぶすと煙を上げる白く巨大な死骸は、もう動くことは無い。

死闘を制した余韻に、二人は完全に脱力していた。


ミセ;゚-゚)リ「……ジョルジュさんは!?」
  _
( ゚∀゚)「ん、見てたぜ。三人ともカッコ良かったよ」

ミセ;゚-゚)リ「あ、ありがとう……じゃなくて、他の猿たちは?」


猿群を任せていたジョルジュを思い出し、ミセリは慌てて振りかえる。
しかし、そんなミセリの心配をよそに、ジョルジュは緊張感のない様子で気の抜けた拍手を送っていた。

彼の衣服は真っ赤な返り血に染まっていたものの、彼自身は傷一つ負った様子が無い。
見渡すと、あれほど大量に居た白猿も一匹も居なくなっている。



372以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:52:20 ID:0jWVAm.kO
  _
( ゚∀゚)「お前らがボス猿を倒しそうになったのを見て慌てて逃げてった。もうしばらくは大人しいんじゃねーの?」

ミセ;゚ー゚)リ「そう、なの……っとと、ごめん。ちょっともう限界かも……」
  _
(;゚∀゚)「お、おいおい……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ミ……」

ミセ; ー)リ


ジョルジュが心配そうにミセリの顔を覗き込む。
彼の太い眉毛が、暗転してゆくミセリの視界の最後の光景だった。






373以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 06:58:37 ID:0jWVAm.kO
また、いつかと同じ夢を見た。
同じ荒野の風景に、同じ冒険者たち。

彼らの顔は靄が掛かったようにぼやけていて、はっきりしない。
一人が歩み寄ってきて、靄が少しずつ晴れてゆく。
白銀の盾と鎧、淡い金色の髪。空色の瞳。

もう手を伸ばせば届くような距離に、


ξ*゚⊿゚)ξ「あ……アサ、来て! 見て! 起きた!」

ミセ ´-`)リ「……?」


目覚めるとツンの顔がすぐ近くにあった。
寝返りをうとうとすると、強引に肩を押されて寝かしつけられる。


ξ*゚⊿゚)ξ「無理しちゃ駄目だよ、横になってて!」

(-@∀@)「お早うございます、ミセリさん。体の調子はいかがですか?」

ミセ ´-`)リ「……」


薄く瞬きをする間に、眼鏡の青年が視界に映り込む。
……体の調子? ひたすら眠い。



374以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:01:42 ID:0jWVAm.kO
取り敢えず、もう一睡しよう。そう思い堅く眼を閉ざしたミセリの肩を、金髪の少女が揺する。


ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、ミセリ! 起きてよ! 」

(;-@∀@)「落ち着いて、ツンさん! 言ってる事が無茶苦茶です!」

ミセ ´-`)リ「……んー」

ξ;゚⊿゚)ξ「どうしたの、どこか痛む?」

ミセ ´-`)リ「眠いー……」

ξ;゚⊿゚)ξ「……あ、そう」


……結局、ミセリが目覚めたのは更に数時間後だった。


ミセ*゚ー゚)リ「ごめん、からだが重くて……」

ξ;-⊿-)ξ「いや、いいけどね。眠いだろう事はわかってたけどね」

从 ゚∀从「ツンに感謝しろよ。ずっと付きっきりで看病してたんだぞ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ……っと、ハイン!?」



375以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:06:55 ID:0jWVAm.kO
聞くと、今回は合わせて十数時間の気絶で済んだらしい。
ハインたち三人とはミセリが寝ている間に合流したらしく、今は獣の襲撃の心配も無いという。

ツンの左腕には包帯がぐるぐる巻きにされていたが、すぐに治るとアサピーは言った。

彼女の後ろでは、ナチが寝息を立てている。
ツンと交代でミセリを看ていたんだとかで、特に負傷は無いから心配はいらないらしい。

……そして、ツン達『ワルハラ』の最後の一人、ヘリカル沢近。

フォックスが親和を行使して調べたが、それらしい気配は付近に無かったという。
考えられるのは、既にフォックスの能力の範囲を出ている事。
或いは、……既に死んでいる事。

『ワルハラ』でのヘリカルの役割は戦闘補助。彼女自身は戦う事が不得手だった。
生きているとは考えにくい。

自然と口を閉ざすミセリに、ツンは「ヘリはうちで一番したたかな娘だから、きっと大丈夫」と明るく振る舞ってみせた。



376以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:10:47 ID:0jWVAm.kO
ミセ*゚ー゚)リ「それで、これからどうするの?」

ξ゚⊿゚)ξ「しばらく同行させてもらう事にしたわ。あたし達『ワルハラ』は、ほぼ壊滅したから」


今や唯一の前衛がこのザマじゃあね、そう言って左腕を掲げるツン。
彼女が剣を握れない以上、『ワルハラ』の攻撃手段はナチの火力しか残っていない。


(-@∀@)「……という訳で、しばらくお世話になります」
ξ゚⊿゚)ξ「改めてよろしく、ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、こちらこそ宜しく!」


ミセリ、ハイン、ジョルジュ、フォックス。
それにツン、ナチ、アサピーを加え、七人は再び西へ。

……数日の後、彼らはヨツマに帰還した。
ミセリの『キャラバン』の旅は、これで終わる。



377以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:15:48 ID:0jWVAm.kO



ミセリ達の野営地から北に数千歩。
高地を抜けると、東西に走る大きな川がある。

東端は天国山脈の渓流。それらが幾筋も集まり、やがて西端で別れて一部がヨツマ近郊に流れ着く。
また、分流の一本はヨツマ市街を横切り、市民の貴重な水資源として活用されている。

その川は当然、ヨツマとキャラバンとを往復する冒険者たちにとっても貴重な水源として、多くの冒険者が利用していた。

……深い所では人の背丈の数倍ほどもあるその流れ──ダット河の中程に、一つの人影が浮かぶ。


*(;‘‘)*「ぶはぁ! ……ったく、酷い目に遭いました」


──ヘリカル沢近。ギルド『ワルハラ』の、最年少の“歌姫”。
独り毒づきながら、彼女は南岸へと泳ぎ始めた。

水中の生物は「樹海の進攻」の影響を受けていないとは言え、時折河で餌を取る動物は見受けられる。
もし遭遇してしまえば、水の中での動きを得意としないヘリカルでは逃げる事もままならない。

──どれほど流されたかは分らないが、少なくとも白猿どもを撒く事はできただろう。
途中で逸れてしまった仲間達も無事に逃げきっていれば良いが。

ようやく辿り着いた川岸に手を掛けてよじ登ろうとするヘリカルの、その頭上から冷たい声が掛かった



378以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:21:21 ID:0jWVAm.kO
    「動くな。静かにしろ」

*(;‘‘)*「な……何です?」

    「静かにしろ、そう言った」


恐怖に駆られたヘリカルが辛うじて視界を上に動かすと、ブーツを履いた足が見える。
強い殺気、その気配には油断が全くない。恐らく何かの武器を構えている。

声質は女性、美しいハスキー。


*(;‘‘)*「……何が望みですか?」


ヘリカルは油断なく問う。
隙があれば“声”を使って逃れる準備もできている。

……しかし、声の主は事も無げに答えた。


    「晩飯の食糧」

*(#‘‘)*「ふざける……ッ!?」


岸にしがみ付いたまま激昂するヘリカルの背後で、一際大きな水音が立った。
同時に目の前のブーツの女が精霊を行使した気配。
轟音と衝撃、血の匂いが立ち込める。



379以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:23:59 ID:0jWVAm.kO
*(;‘‘)*「……!」

    「大丈夫か?」


思わず目を閉じたヘリカルが再び眼を開くと、ブーツの女が屈みこんで手を差し伸べている。
彼女からは、先ほどまでの痛いほどの殺気は欠片も感じられない。

革の手袋を嵌めたその手の主は、つい先日まで同居(?)していた人物だった。


川 ゚ -゚)「すまない、驚かせたな。ほら、掴まれ」

*(‘‘)*「あ……あんた、素直……!?」


ヘリカルは、迷った末にその手を掴む。
何とか岸から上った彼女に一瞥もくれずに、ブーツの女、素直クールは歩きだした。



380以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:25:34 ID:0jWVAm.kO

*(‘‘)*「ありがとうございます……じゃなくて、何を?」

川 ゚ -゚)「先ほど言っただろう。晩飯の食糧を狩りに来た」


彼女の指さす先を見ると、真っ赤に染まった流れの中に大きな鰐が浮かんでいる。
頑丈そうな鱗鎧は、ちょうど頭蓋の辺りを一撃で粉砕されていた。


川 ゚ -゚)「引き上げるのを手伝え。晩餐に付き合わせてやる」


返事を待たずに川に入る銃士を追って、唄歌いの少女も流れの中へと歩みを進める。
先ほどは気付かなかった夏にそぐわない冷たさが、足を伝って全身に這い上がる。

最終話『意思』了



381以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:36:07 ID:0jWVAm.kO
『エピローグ』:1/3-1/3-1/3


ミセ*゚-゚)リφ,.,


私達七人がヨツマの城門に辿り着いたのは、猿猴王との死闘から更に一週間ほど後の深夜です。
その頃には私やツンやナチ、それにアサピー君は疲れ果てていて(残りの三人が異常なんだよ)、
市議会への報告を終えてすぐに、私が──半ば強引に──紹介した纏亭で休養を取りました。

私達が驚いたのは、でぃさん達『シン』の二人がヘリカルちゃんを保護し、先に帰還していた事。
これで『ワルハラ』の他の三人は、ひとまず安堵の息をつく事ができました。

ただ、隊長の欠けたギルドは、存続を認められません。
またんき君が死んでしまった以上、『ワルハラ』は自動的に消滅します。

「今後、どうするの?」私の質問に、ツンは「わからない」と答えました。
「わからないけど、今後リーダーの面影のあるメンバーでの活動はないだろう」と。
彼女の答えを裏付けるように、後日『ワルハラ』の元メンバーは全員が別離を選択したと聞きます。

樹海の旅は一期一会。もう二度と、『ワルハラ』と出会う事は出来ません。
紆余曲折の末『シン』についてゆくと決まったヘリカルちゃん、
当面の間フリーで活動を続けるナチ、治療術を磨くと決めたアサピー君、騎士団の任務に戻るツン。
そして、樹海に眠るまたんき君。
それでも、彼らと出会った私達の中に『ワルハラ』は残り続けます。
冒険者が樹海に挑む理由の一つが、私にも分かり始めた気がしました。



382以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 07:38:34 ID:0jWVAm.kO
…そして、私の所属するギルド──『チェトレ』の二人はと言うと。
実は私達がキャラバンから帰還する数日前、護衛団の任務で北のラウンジへと発ってしまっていたのです。
『チェトレ』のリーダーは私なのに、二人が帰ってくるまで、今度は私がお留守番です。

そして、ハインとジョルジュさん。
二人はフリーの冒険者で宿も急務もきめていないというため、教示と引き換えに纏亭の部屋を提供する取引をしています。
(母はとても良い笑顔で、二人に特上の部屋、私に零の沢山ついた請求書を用意してくれました)

本当はフォックスさんもお誘いしたのですが、「大事な用事があるから」と断られてしまいました。
彼とはそれ以来一度も会っていません。それどころか、噂の一つも聞きません。
ですが、きっと彼ならば心配する必要はないでしょう。
……いずれ必ず再会する日が来る、そんな気がします。

それと、新しい家族のポン太。
普段は私の部屋でゴロゴロしているんだけど、採集などの任務では、その野生の勘を生かして手伝ってくれています。
いつか彼も樹海に帰るべき時が来るのかも知れません。
……たまにお客さんに擦り寄って食べ物を分けてもらう人懐っこい姿を見るに、その日は遠そうですが。

私は今は個人単位で仕事を受け、また修行しながら力を溜めています。
もう一度、樹海の深みに歩を進めるために。
求めてきた夢の答えに近づくために。

……日記はここで途切れている。






boonkei_honpo at 21:48│Comments(0)TrackBack(0)ファンタジー | 樹海を征く者のようです

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