February 26, 2011
('A`)はボンクラのようです
部屋を久々に出ようと思ったが、出られない。
出ようとすれば背後のクソ女が全力で妨害をしてくるからだ。
そいつを振りきるのが面倒で、俺は結局椅子にもたれる。
(゚A゚)「死ぬぞ」
川 ゚ -゚)「死ぬな」
ペンタブを握る指がこちこちに固まっていた。
つーか、タブレット部分が油まみれでやばい。
ギトギトだ。俺自身ももう、四日は風呂に入っていない。
外に出る時=風呂に入る時の生活の俺ってことは、四日外に出てないことになる。
外の景色が恋しい。外の空気が恋しい。太陽光も、窓越しじゃ気持ち悪い。
川 ゚ -゚)「描け」
さて、なぜ俺が描けと強制されているのか。
顛末から全てを話すと長くなるんだが、端的に言えばヒモのような状態だからだ。
こいつにある程度の生活の保障はされている。つまり、俺は働いていない。
('A`)「描く。描くよ描くよ描くから」
目の前のディスプレイには、俺の描いた肉感豊かな全裸の少女が居る。
そいつは眼球がでかく頭もでかく、乳もでかけりゃ尻もでかい、立体的平面少女だ。
頭のてっぺんに猫耳がついているが、生物的にどういう仕組みなのかわからない。
川*゚ -゚)「いいぞ、そのまま汁まみれにしろ」
世間様から見れば気持ち悪いものを描いてんだろう。だがそうしなきゃならねえんだ。
夏だからこそ熱いシャワーを頭にぶっかける。
久々に外へ出るお許しが出て、俺はノリノリで頭を洗った。
頭皮の油がかさぶたのように固まっているような気がして、四回洗った。
洗えば洗うほど、浄化されているような気がして気持ちいい。
そのまま久々のオナニーに興じようとして息子を握ると、臭かった。
('A`)「果たしてこれは使いものになるのだろうか」
もう二週間は抜いてない俺だけの息子を洗いつつ、少し冷静になる。
俺はもう今年で二十一歳だ。
去年の成人式には行ってないが、知り合いのmixiを勝手に覗くと色々あったらしい。
学生もいりゃ、社会人もいるし、結婚して子供を生んだ奴もいる。
死んだ奴もいれば行方不明になった奴もいるし、旅に出たやつもいるとか。
その中で言うなら、俺は行方不明になった奴か。
たまに顔を合わせる奴もいないことはないが、友人と呼ぶかはわからない。
居ても居なくても同じとか、そんなもんだと思う、お互いに。
大学は行ってねえ、高校も行ってねえ、中学は途中で行くのをやめた俺だ。
さすがに、社会不適合者の烙印を押されて他人と顔を合わせるなら、
行方不明者として扱ってくれる方が愛を感じる。
愛っつーと気持ち悪いから撤回する。
とにかく萎えた。オナニーはやめるべきだ。
皮の被った息子をデコピンではじき、俺はなんとなく洗面所の鏡を見た。
('A`)「やっぱ使えねえよな、お前」
シャワーから出た。
2LDKのそこそこの家に住んでるんだが、風通りも結構なもんだ。
涼しい風に煽られながら体を拭き、パンツ一丁で居間に歩いていく。
川 ゚ -゚)「出るのか」
('A`)「おう。デジカメあるか」
川 ゚ -゚)「ある。棚の上。充電は微妙だ」
('A`)「……まあいいか」
デジカメを取り、部屋に持っていった。
着替えてバイクの鍵を取り、デジカメを適当なポシェットに入れた。
前回ドライブに行った時には他に何が欲しくなったっけ。
思い出してみるが、手袋を忘れたことに後悔したくらいだった。
後悔先に立たずってことで、薄手のシャツを余分にポシェットへぶち込んだ。
川 ゚ -゚)「ついでに買いものを頼めるか」
俺の部屋の入り口から声がした。
メモと三万円を手に握らされ、釣りは勝手にしろと言われた。
('A`)「このメモ、明らかに五千円分の食料代じゃねえか」
我慢できずに漏らした。家を出てからそれを言っても意味はないんだが。
アイツの目の前でそれを言っちまうと、持たされる金額が何故か増えちまう。
過保護のカーチャンかよ、って感じに。
ヘルメットを入れる収納スペースにポシェットを入れた。
乗せる相手もいないから、ヘルメットは玄関に置いてる俺用だけでいい。
携帯を開いて今日の天気を確認すると、全国的に晴れだと言っていた。
今日までなら、どこに行っても雨に打たれることは無さそうだ。
愛車はスズキのアドレスv125。
はっきりいって良いのか悪いのかはわからない。
おととしなんとなく免許を取った時に、アイツがくれた。
調べてみるとリコール喰らったりしてるらしいが、それが普通なのかも知らん。
小さいのは車検が必要ない、とかいう話だったから受け取っただけだ。
もっとも、手入れをしているうちに愛着が湧いた。俺のスズキだ、みたいな、
('A`)「さあ行こうぜスズキ」
/ ゚、。 /「え」
(;'A`)「あ、お隣の鈴木さん……今日も洗車ですか……」
/ ゚、。 /「君もドライブかい」
('A`)「天気もいいですし。鈴木さんもですか?」
/ ゚、。 /「そうだね。妻と一緒に」
('A`)「仲良いんですね」
/ ゚、。 /「そうかな。そうでもないさ」
たまーにバイクを走らせると、
いかに自分の生活が静的で起伏のないものかを知れる。
街はやかましいし、道は左右に、上下に振れる。
誰だか知らん人間が歩いて、なんだか知らん車が走ってる。
ネット中心の生活だと、そんなもんがどこにでも転がってることを忘れちまう。
いわゆるネットの海にのんべんだらりと浸かってると、人格が薄れちまう、気がする。
別に感情豊かな人間だって主張したいわけじゃないが、
感覚刺激的な時間を送れるのが外なんだ。
(゚A゚) フギッ
( ,'3 ) ア――
本屋にバイクをとめようとしたところで婆さんを轢きそうになった。
これだからドライブはやめられないぜ……。
('A`)「ワンピ売れすぎワロタ」
入ってすぐの特設籠に漫画の販売数がでかでかと載っている。
こういうのを見るたび、作者は対創作への体力が異様なくらい高いんじゃないかと思う。
俺はエロ絵を描いてるが、描くたび飛ぶように売れるなら毎週なんて描いてられん。
もちろん絵を描くのは好きだし、そいつを誰かに見せるのだって好きだ。
一日の四分の三以上を絵にくれてやることなんてザラにあることだ。
だけど、自分も他人も納得させられるようになるにはそれ以上が要るんだろう。
俺は余分な金で息抜き練習の資料になりそうな植物カット集を買った。
実際に使うかは、また別だ。
その後はマクドナルドのドライブスルーを通過して、近所の自然公園まで行った。
混んでいた駐車場に入り、自分の荷物を見て、本屋に先に行ったことを後悔した。
肩にポシェットを下げ、邪魔なものは全部バイクに突っ込む。多少汚れても気にしない。
上着も脱ぎ、デジカメ片手に公園を徘徊する準備をして、俺は歩きだした。
('A`)「死にたい」
ハンバーガーを食い終わると、すぐに死にたくなった。
どうやら世間様もすでに夏休みに入っているらしく、
ウォーキングの外周コースにも人が行ったり来たりしていた。
もちろん、外周の内側にある遊具地帯や草原部分には、
じじい、おっさん、ばばあ、おとうさん、おかあさん、若人、キッズと様々だ。
何故ばばあは少ないのだろうか。
俺のバイクに轢かれて怪我でもしているのか。
まあばばあがいようがいまいが、こんなふうに人が多いところは好きじゃない。
かといって、ここまで来て何もしないで帰るのは嫌。
せっかくカメラも持っているし、俺は公園内の池に向かうことにした。
さて、ようやくここで本題に入る。
起伏のない生活を送っていると、そこで最悪の出会いが待っているとは考えないだろう。
起伏がなくて当然だと思っているから、イレギュラーの対応もうまくできないし、しない。
改めて言わせてもらえばこれは、理知性もなけりゃ頑強な志もない中途半端な童貞頭に、
バカみてえなデカさのハンマーをいきなり振りかぶってんじゃねえよって話。
(´・ω・`)「あれ、ドクオじゃないか」
('A`)「 」
なんか池に向かって突っ立ってた奴と目が合って。
そいつはもう七年は会ってない、俺を今の生活に追いやった根本で。
野郎は感傷に浸る余裕もくれないくらいに、スカした面を見せてきやがった。
('A`)はボンクラのようです
(´・ω・`)「まさかここで再会するなんてね」
ショボンは俺の顔を伺うように見て、少し離れたベンチに座ろうと勧めた。
特定されてんのにシカトするのはありえねえだろうから、俺は座った。
('A`)「あー……」
(´・ω・`)「なんだい? まるで七年間引き籠っていたような顔じゃないか」
('A`)「は?」
(´・ω・`)「言ってみればなんだろうね、根を抜かれた植物みたいな」
('A`)「萎れてるってか」
(´・ω・`)「そうだよ」
('A`)「てめえこそ、ボケ老人みたいに平和そうな面してんな。インポにでもなったか」
(´・ω・`)「平和だよ。お前がいない外の社会に生きているんだから」
七年越しに会った人間に対する反応じゃねえだろ。
('A` )「チッ……その根性は期間挟んでも変わってねえのな」
物心ついた時から変わってない。三つ子の魂百までって言葉はよく出来てやがる。
再会して確信したが、やはり死ぬまでこいつは俺のことをいたぶって喜ぶんだろう。
こっちが何を考えてるかも知らずに、貼り付けたような微妙な表情で。
(´・ω・`)「変わってない? 自己完結も大概にしろよ、ドクオ」
('A`)「変わってねえだろ。てめえ、七年経ってんだぞ」
(´・ω・`)「全部違うさ、何もかも違うだろう」
そりゃあ、違いはあって当たり前だ。
身長、体重、顔つき、髪型、服のセンス、アクセサリ、体毛の濃さ、
声のトーンも、雰囲気だって違ってる、こんなとこで会うなんて状況も、昔ならあり得ねえ。
('A`)「まともに会話できてねえ時点で、同じだっつの」
昔のままなら俺は、多分もう何度かこいつを殴ってる。
(´・ω・`)「ま、落ち着こうか。再会を喜んでいられる余裕くらいならあるんだろう」
('A` )「てめえから吹っ掛けたくせに……」
俺はこいつと目を合わせずに会話をしていたことに気付いた。
だから休憩を挟んで、落ち着きついでにショボンの顔を見た。
(´・ω・`)「改めて。久しぶりだね、ドクオ」
('A`)「年単位で久しぶりだな」
(´・ω・`)「中学以来だ」
('A`)「中学二年以来だな」
(´・ω・`)「ああ、夏以来だ」
そういや最後にあなたの顔を見たのはこんな晴天でしたねえ、とは言わなかった。
(´・ω・`)「お前がまだ引き籠っているのはブーンから聞いた」
('A`)「なんだ急に」
(´・ω・`)「近況の確認くらい、させてくれ」
('A`)「……あー」
ブーンは俺の幼馴染で、こいつの幼馴染だ。今は工業高校出て車の整備工場に就職してる。
ちょこちょこネットで絡んでる奴だが、プライベートについては特に無理して話してはいない。
そいつがショボンとも連絡を取り合っていることも、今知った。
(´・ω・`)「実家を離れて二人暮らしらしいな、近所のくせに」
('A` )「そこまで言うかよ……あの肉野郎……」
(´・ω・`)「別にそこは問題じゃない。それより、今は何もしていないのか」
('A`)「してねえよ。カスニートだっつの」
(´・ω・`)「本当にか」
('A`)「してねえって」
(´・ω・`)「絵は」
('A` )「…………」
(´・ω・`)「絵は、もうやめたのか」
絵。
ショボンの指している絵は、「裸の女」じゃなくて「裸婦」とかいう方の絵だ。
完成したキャンバスの前で蛆の入った頭をビリヤードの球みたいにぶつけあうヤツだ。
('A`)「てめえの方は?」
俺は質問に質問で返した。
(´・ω・`)「描いているよ」
即答だった。
(´・ω・`)「お前とは違う。今だって、県外の美大に通ってるところさ」
俺とは違うらしい。そりゃ、同じ人間なんて居るわけがねえ。
(´・ω・`)「今日はその息抜きだ。少し地元が懐かしくなったから、帰省した」
そういや世間様は夏休みだった。帰省の喜びも、俺は知らん。
(´・ω・`)「この公園は何年も変わらないね。景色も、背が伸びたから違うくらいで」
言われてみると体格も結構変わってる。こいつは、少し筋肉質になっていた。
(´・ω・`)「変わらないことがいいこととは思えないけど。やっぱりいいよ、ここは」
('A`)「……あてつけか?」
(´・ω・`)「そんな女々しいことをすると思ってるのかい、呆れるね」
('A` )「お前は何やってんだ?」
俺は話題を変えようと思った。
とりあえず、次々に話題を変えないと無駄に挑発されているような気分になる。
(´・ω・`)「だから今言っただろう。美大で絵を描いている」
('A`)「そうじゃねえって」
(´・ω・`)「なんだい」
('A`)「あれだよ、お前――――元気か?」
(´・ω・`)「…………」
コミュ力は様々な経験を通して培っていけるもんだと改めて思った。
こりゃ漫画は描けねえな。会話がループすんだろ。
(´・ω・`)「元気だけど。会話が下手になったのかな」
('A`)「上手いとか下手とか、そういうの気にしちゃう系かよ」
(´-ω-`)「……そりゃ、気にしなければいけないじゃないか」
('A`)「何気張ってんだお前。クソでもすんのか」
(´・ω・`)「うんこ製造機には言われたくない」
(;'A`)「スラングレベルの言葉使うなよ……」
14 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 21:49:56 ID:5/H7En9.0
俺たちはそのまま、池を眺めて固まった。
会話が下手だと言われた手前、言葉を探すのもアホ臭くなった。
水辺で鴨がちんたら泳いでいて、その手前ではガキと親父が退屈そうにしていた。
風もだらしなく吹いていた。木が夏の暑さに負けて、がさがさ言わせて深呼吸してた。
俺は足元の砂を削って、こいつとの不可侵境界線を作った。
(´・ω・`)「お前とは、やっぱり話すことが無いよ」
('A`)「俺もねえよ」
このやりとりを、俺が先手の場合を二回、こいつが先手を三回した。
お互いがお互いを馬鹿だと思い過ぎて、会話に興味を向けなかった結果だろう。
同じ会話をしても、同じ感情とトーンで返せる。我ながら腐ったメンタルだ。
(´・ω・`)「そうだ、お前とは何も話すことが無いから、クーに会いに行こう」
ショボンはそれに飽きたのか、おもむろに立ち上がった。
('A`)「マジで言ってんのか?」
そのタイミングを見計らったかのように、俺の携帯がなった。
すぐに電話を開くと、液晶には「私」と表示されていた。
(´・ω・`)「電話か。出なよ」
('A`)「……お前が今話してた奴だけど、出るか?」
(・ω・`)「………………出るっ」
(´・ω・)白「違う? あ、やっぱりわかるかな」
(´・ω・)白「誰でしょう。ヒントはカスニートが嫌いなヤツです」
(´・ω・)白「ブーンじゃないよ」
(´・ω・)白「ドクオの友達じゃないよ」
(´・ω・)白「わからない?」
(´・ω・)白「じゃあドクオと一緒に会いに行くよ」
プツッ
('A`)「おい何故切った」
(´・ω・`)「あ、用事があるからかかってきたんだっけ。悪いね」
('A`)「別にいいけどよ……。つかお前、足はあんのか?」
(´・ω・`)「バス」
('A` )「……まあ、近所だからいいか……」
(´・ω・`)「そっちはあるのかい?」
('A`)「バイクだよ。ノーヘルでいいなら乗ってけ」
幸いにも警察と対面することはなかった。
もし出くわしたら、必死にしがみついてきたショボンを振り落として逃げてやったが。
(´・ω・`)「腕が痛い。そして寒かった」
('A`)「止まったら一気に暑いだろうが」
駐車場にバイクを置きに行った。隣の部屋の鈴木さんちの車はなかった。
やっぱり鈴木さんは、まともな生活をしてまともな家庭を築きあげているんだろう。
俺みたいに仲の悪い野郎と義理でドライブなんて、しないに違いない。
(´・ω・`)「結構良い部屋っぽいね」
('A`)「部屋だけはな」
ショボンは俺がバイクを止める間、ぼうっとマンションを見上げていた。
俺がごそごそと荷物を取り出している時も、その後も。
スーパーで食糧買った袋を持ったまま乗っていたのに、疲れた様子は見せなかった。
('A`)「つか、案外ヘタレてねえのな」
(´・ω・`)「絵描きにも体力は要るんだよ」
('A`)「……まあ、その意見には同意してやるよ」
四日も絵を描き続けてたら、栄養ドリンク程度じゃカバー出来なくなる。
適当になんか食っててもとにかく神経が痩せていく感じだ。
(´・ω・`)「口だけなら誰だって賛同できるよね。気楽でいいよ」
17 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 21:58:55 ID:5/H7En9.0
( ^ω^)「お。お帰りだおー」
荷物を持った俺たちを出迎えたのは、アイツではなく、丸いやつだった。
('A`)「……は?」
こいつと直で顔を合わせるのは半年くらい前になる。
年越しの時に彼女と喧嘩したとかで一人で家に来たんだ。
適当に酒をあおってなだめてやったら、翌朝に彼女へ電話してさっさと帰った。
(´・ω・`)「やあブーン。去年以来だっけ」
( ^ω^)「だおだお、とりあえず荷物持つお」
ブーンはショボンの持っていた食糧を奪って、俺の持っていたビール瓶の袋も取った。
妙に張り切っているようで違和感を覚えたが、何故かはすぐにわかるだろう。
川 ゚ -゚)「急にこいつが来てな。お前に早く帰ってこいと連絡を――」
(*´・ω・)「久しぶりだねクー」
雑音を聞き流して台所に買い物袋を置いた。
そして冷蔵庫を整理しようとした際、ブーンがやけににやけていることに気付いた。
('A`)「……お前らもしかして、元々勝手に来る予定立ててたのか」
( ^ω^)「ご名答だお。ちなみに後でツンも来るんだお」
('A`;)「いや、こっちの都合とか考えろよ……」
一応、家の掃除を軽くすることにした。
急な客の手前で掃除するというのは失礼だろうが、相手が相手だ。
川 ゚ -゚)「ツンに備えて風呂入ってくる」
('A`)「勝手にしろ。覗くなよショボン」
(´・ω・`)「覗かないよ掃除してるんだから」
( ^ω^)「あ、ドクオ窓開けてお」
簡単に言えば、ここには腐れ縁の幼馴染しかいない。
関係の長さは幼稚園からの十年程度が共通年数になる。
ブーンの彼女のツンも小学校からの付き合いになるはずで、俺は二年くらい前に見た。
('A`)「つーか、なんで俺の居場所わかってんだよ」
居間のカーペットに掃除のコロコロをかけながら、ふと思ったことを口にした。
( ^ω^)「へ? 僕引っ越してから家着たことあるお?」
('A`)「ちげっつの。コイツ。ショボンがなんで俺の行き先知ってたんだ」
(´・ω・`)「偶然だよ」
('A`)「出来過ぎだろ、ブーンもあらかじめ家に居たし」
( ^ω^)「そういえば二人一緒に来たおね。ショボンがドクオに連絡したのかと」
('A` )「……するわけねーだろ、バカかよ……」
川 ゚ -゚)「さっぱりした。掃除も大方終わったようだな」
( ^ω^)「ドクオの部屋がまだだお」
川 ゚ -゚)「ああ、せっかくだからやっておくか。ツンが来るまで時間もある」
('A`)「必要なくね……」
押しとどめるのも面倒だから、ついでに掃除することになった。
はっきり言って人に見せられるような環境ではないが、この際。
( ^ω^)「漫画多すぎてワロタ 右の壁がネカフェみたくなってるお」
('A`)「唯一の趣味だ」
(´・ω・`)「なんだいこの操り人形の出来そこない」
('A`)「うるせえなてめえは死ね」
( ^ω^)「てかPCまわりごちゃごちゃしすぎだお、マウスパット多すぎるお」
('A`)「ちげえよペンタブだよあんま触んな、その辺体液的な意味で汚ねえから」
(´・ω・`)「……」
('A`)「どこ見てんだショボン」
(・ω・`)「いや、別に」
('A`)「あっそ。ならさっさと動けよ体力自慢」
俺の部屋の内訳は、漫画が五で、
それ以外の資料とかが二、残りが家具とPC関係で埋め尽くされている。
もったいないお化けに取りつかれているため、
適当なスペースにくだらないもんがあったりするがそれは俺の愛嬌だ。
三年前実家から出た時に色々引っ張ってきちまったから、自分でも何があるかわからん。
( ^ω^)「カクレンジャーて」
('A`)「その青二才変身後のほうが格好悪いよな」
( ^ω^)「ざっくり捨てていいかお」
('A`)「鬼畜だな……いや別にいいけど」
(´・ω・`)「そのへんは今捨てるようなものじゃないよ」
ショボンの言った「そのへん」とは、
本棚とPCの間のスペースに放置してある二段積みダンボールのことだ。
おそらく、そこが俺の部屋の中で最もくだらない部分だろう。
('A`)「まあ、色々あり過ぎて分別とか面倒だし」
(´・ω・)「……重そうだ」
('A`)「当たり前だろ、詰め過ぎてダンボール歪んでるじゃねえか」
今持ちあげたら腰がぶっ壊れるに違いないが。
スペース取ってるし、近いうちもったいないお化けと戦わないといけなくなる。
めんどくせえったら。
21 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:08:59 ID:5/H7En9.0
( ^ω^)「終わったおー」
川 ゚ -゚)「ごくろう野郎共」
俺の部屋まで掃除を終え、ゴミ袋を持って居間に戻った。
居間の分と合わせて四つのでかい袋がぼてんとソファに置かれ、邪魔だ。
川 ゚ -゚)「涼みついでにゴミ袋捨ててくる。シャワーは勝手に使って良いぞ」
(´・ω・`)「なら僕も捨てに行くよ。ブーンとドクオは二人でシャワーを浴びたらいい」
体力自慢が大手を振って、袋を掴んで出ていった。
ショボンはクソ女に何かを言いながら、玄関を出ても大きな声で話していた。
( ^ω^)「懐かしいおー」
二人が行った直後。
別に懐かしく無さそうな声を出して、ブーンはのんびりソファに座った。
('A`)「ショボンか」
( ^ω^)「クーとの絡みも含めてだお」
('A`)「あのクソはあのクソのことまだ好きなのか」
( ^ω^)「さあ。というかショボンはいいけど、半ヒモで同棲してる癖に酷過ぎないかお」
('A`)「あいつの頭は狂ってるからな」
( ´ω`)「……ドクオが言っても……説得力皆無だお……」
22 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:11:09 ID:5/H7En9.0
('A`)「いやお前……あれ? なんで俺があいつと暮らしてるか話したっけ」
( ^ω^)「成り行きとしか」
('A`)「あぁ……この際だから言うけどよ、あいつと俺、はとこなの」
(;^ω^)「…………えェ……?」
('A`)「そっから聞いてないか。じゃあそっからさらっと説明するわ」
( ^ω^)「ばっちこいだお」
('A`)「俺 勘当 アイツ 家出 遭遇 強請り 事件寸前 土下座 資金援助」
( ^ω^)「理解を放ると気持ちよくなってくるお」
('A`)「だから、俺をダシにしてアイツは俺ん家強請ってんの。俺自身は親戚一同から基地外扱い」
( ^ω^)「勘当された後じゃドクオの実家は関係ないんじゃないのかお」
('A`)「知らねえよ。事件にはされたくねえから月九万払ってるとか聞いただけ」
(;^ω^)「……どこをどうしたら……?」
('A`)「だから知らねって。つか、クーんとこの家が俺を訴えれば済むのにそれやらねえのな。
その時点で多分だけど、クーは実家と縁切れてねえんだよ。わざと俺ん家放置してんの」
(;^ω^)「被害者面で放置してるのかお?」
('A`)「イカれてるだろ? どこにも筋通ってねえのに状況だけは成立しちまってる確変状態」
とは言っても、俺自身が実家に勘当されてることは事実だから、なんとも思わない。
縁切ってるどっかの家が、勝手にこっちに金送ってくるんだからそれでいい。
アイツもクソだが、俺もクソだ。それを無視する体制も、クソかもしれない。
('A`)「何考えてんのかね。失業するか収入減らすかで迷ったのかな、元俺んち」
( ^ω^)「予想外に壮絶で言葉も出ないお、笑っていいかお?」
('A`)「笑えよ、無関係を貫いてやる」
( ^ω^)「ははは、よせやい」
('A`)「よさねえよ馬鹿。お前はどうなの」
( ^ω^)「ツンとめでたく四年の付き合いだお。仕事も問題ないしまあまあだお」
('A`)「……」
ものすごい勢いで全うな生活を叩きつけられた気がした。
心拍数が跳ねあがった気がしたが、そんなこともなかった。
( ^ω^)「まあ、中距離恋愛だしツンは大学生だから、ぶっちゃけ寝取られたりしたお」
( 'A `) 「 うは 吹いた 」
( ^ω^)「顔ひきつってるお。どうせ僕も先輩と風俗とか合コンとか行くし」
('A`)「でもまあ、お互いぶっちゃけられてて続いてるならいいんじゃねえの」
( ^ω^)「いや。お互い証拠を見せてるけど、お互いでその話題を出したことはないお」
(;'A`)「…………」
( ^ω^)「高校の頃とかはそんなことなかったけど、多分そういう流れなんだお」
(;'A`)「へえ、俺はまだ最高に童貞だぜ」
( ^ω^)「そんなの気にする意味無いお。普通は結構ドライなもんだお」
('A`)「そういうもん?」
( ^ω^)「うーん、どこも似たようなもんだと思うお」
(;'A`)「恋愛って怖いね!」
( ^ω^)「そんなことないお。なんだかんだで、ツンはたまに言ってくれることがあるんだお」
('A`)「なんて?」
(*^ω^)「全然違う、って」
殺してやりたくなったのは何故だろう、とか考えると疲れるに決まってる。
ぶん殴りたくなったのは何故だろう、とか探ってみると脳が禿げるに決まってる。
だから考えを捨てた。
そしたら頭がぞわぞわと鳥肌を立てて、首筋から肩から脇から胸に過ぎていって胸焼けになった。
('A`)「死ね」
(*=ω=)「幸福で死ねるなら本望だお」
25 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:19:11 ID:5/H7En9.0
そのあとブーンがシャワーを使い、次に俺がシャワーを浴びた。
クソとショボンがやけに遅いような気がしたが、スルーした。
('A`)「で、ツンはいつ来るんだ?」
( ^ω^)「サークル旅行の帰りでお土産持って来るとか言ってたお」
(A` )「あの話聞いた後だと聞き流せねえ……」
(;^ω^)「言っておくけど、別にツンは節操ないわけじゃないお?」
('A`;)「童貞の価値観とは違いすぎるって……つか、お前らはちょっと変だ」
( ^ω^)「実際寝取られたの二人だけだお、知ってるところで」
(#'A`)「じゃあ回数はッ!?」
( ^ω^)「えにー」
(#'A`)「めにーじゃなくて良かったよクソが!」
(-ω- )「そこまで言わなくても……じゃあもう何も言わないお……」
他人には他人の認識がある。
だから相違を文句として言うのは変な話だが、勝手に言葉は出ちまう。
こればかりはしょうがない。未熟な童貞の戯言だと笑って流してくれればいい。
('A`)「ったく、この日本の貞操観念の低さったらもう」
( ^ω^)「……そんなことより。まだ話すことがあるんだお」
改まった様子を見せたブーンは、頭を拭いたバスタオルを干しながら言った。
俺も水分を適当に取り、ソファに座りなおす。
( ^ω^)「いいかお。真面目な話になるけど」
('A`)「なんだよ」
( ^ω^)「ショボンのことだお」
('A`)「は?」
そこでショボンの名前を出すのは突拍子も無さ過ぎる。
なんて言おうとしても、多分そんなことはないから言わなかった。
( ^ω^)「いや、もしかしたら僕ら全体のことかお」
どっちにしろ今更だ。
そう言おうとしたが、不真面目な返しだと思った口は開かなかった。
( ^ω^)「中学の時、ドクオが来なくなったこと。全部清算したいんだお」
そんな言い方をすると、まるで俺に非があるみたいだ。
それにこれは本当に今更なことで、現在の俺に過去を清算までして這い上がる隙はない。
('A`)「意味ねえだろ。手遅れだよ」
( ^ω^)「手遅れでもいいから、ちゃんとけじめをつけるんだお」
ブーンは言った。自分がめちゃくちゃ言ってるって理解出来てんのかは微妙だった。
「手遅れでもいい」なんて言えるのは、頭に蛆が湧いた連中しかいないんだよ。
27 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:23:06 ID:5/H7En9.0
俺はそれからも話そうとはしなかった。
だからブーンも何も言わなかった。
クーとショボンが帰ってきた。
クーの顔は赤く、ショボンも疲れたような顔をしていた。
川 ゚ -゚)「二人とも晩飯はここで食べるつもりか」
( ^ω^)「そのつもりだったけど、駄目なら外で食べるかお?」
川 ゚ -゚)「いや。こっちで食べるならいい。カレーと、あとはつまみがあればいいだろ」
(´・ω・`)「ツンはいつ来るんだい?」
( ^ω^)「あと一時間ってメールきたお」
川 ゚ -゚)「ならちょうどいい。私がカレー作ってる間に酒買って来い」
( ^ω^)「じゃあ客の僕とショボンがいってくるお」
(´・ω・`)「そうだね。それがいい」
川 ゚ -゚)「なら頼む。段取りが悪くてすまん」
(´・ω・`)「気にしないでよ、押し掛けてるのはこっちだから」
今日は家の出入りが激しい。玄関がばたばたすんのは一体いつ以来になるのか。
奴らはてきぱきと動いて、また玄関が開いて、閉じる。
んで少し静かになって。やっと家を見渡したら、久々のいつもの光景だ。
これに安心しないといえば嘘になるんだが、安らぎはない。
28 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:24:13 ID:5/H7En9.0
クソもといクーはカレーを作り始めた。
食材はさっき買ってきてるから、余分なくらいのはずだ。
俺は暇になる。調理を手伝ってやろうかとも思ったが、そんな柄でも間柄でもない。
('A`)「おい」
川 ゚ -゚)「なんだ」
('A`)「ショボンに何か言われたか」
包丁の音がとんとんと聞こえる。
俺はその音を背にして、テレビを眺めることにした。
川 ゚ -゚)「特には。気になるのか?」
('A`)「訊くんだから気にしてんだろ。ちなみにお前じゃなくて、ショボンの方をな」
とんとんと小気味良く野菜が切られていく。
俺はテレビの音量をあげた。ローカル番組のくだらねえ特集が始まってた。
川 ゚ -゚)「あ。皮剥きを忘れていた。剥かなくてもいいものが欲しいな」
('A`)「あのな……俺は言われたんだよ、ブーンに」
川 ゚ -゚)「何を」
('A`)「清算をしようとか、何とか」
川 ゚ -゚)「レジか」
ξ*゚⊿゚)ξ「久しぶりー」
ブーンとショボンは酒屋でツンと出くわしたそうだ。
そのまま三人で帰ってきて、居間に酒が増えた。
ξ゚⊿゚)ξ「てか結構良い家じゃん。あれ、前来たっけ?」
ツンは相変わらずだった。
くるくるヘアーは癖毛と一体化していて、二年前よりボリュームが少し下がっていた。
ξ゚⊿゚)ξ「お、カレー臭がする今気付いた」
落ち着きはない。ブーンやショボンとしゃべくりながらキョロキョロしていた。
俺とクーは基本的にハイになることはないため、その様子をだらだら眺めるだけだ。
川 ゚ -゚)「久しぶりと言っても、実感はないな」
ξ゚⊿゚)ξ「だねー」
('A`)「…………んで、そろそろ訊いていいのか?」
部屋に居る俺以外の視線が一斉にこちらを向いた。
狩猟民族に狙われるウサギみたいに俺は萎縮したが、目だけは逸らさない。
('A`)「お前ら、なんで集まったんだよ」
七年越しにわざわざこの面子を揃えるのには間違いなく意味があるってことはわかる。
つーかむしろ七年間も何で集まらなかったのか、疑問を持つレベルかもしれん。
同じ小学校で、同じクラスで、似たような嗜好で、似たような趣味で。
同じ中学の、同じ美術教室で過ごしていたいたってのに、っていう関係で。
ξ-⊿-)ξっミ「お土産ー」
ツンは手提げの紙袋から、太めの缶を取り出して俺にぶつけてきた。
なんか一瞬卑猥なパッケージに見えたが、違った。
('A`)「いってえなこら……ソーセージか?」
ξ゚⊿゚)ξ「つまみにでも? あ、カレーに入れてみる?」
('A`)「んなのは後でいいだろ、質問に答えろよ」
ξ-⊿-)ξ「んなのは後でいいでしょ。あんたみたいな奴にとってはメシマズだから」
(´・ω・`)「空気読みなよ」
つーことは、やっぱり話があるからここに集まったわけだ。
しかしわざわざ俺に言うことなんて、大して想像もつかん。
俺たちはクーの作ったカレーを居間のテーブルに並べ、適当に食い始めた。
話を聞いていると、ショボンとブーンは長期休暇の度に会っていたらしい。
クーとツンはメールと電話で連絡を取り合うくらいはしているそうだ。
そんなことを聞いていると、俺だけ取り残されていたような気がした。
( ^ω^)「クーは今仕事何やってるんだお?」
川 ゚ -゚)「キャバやめたから無職。知り合いに株教えてもらってるけど微妙」
しかしこいつらの会話に妙な違和感がある。
コミュ障のせいかは知らんが、なんかがおかしい。
(´・ω・`)「キャバ嬢やってたんだ……」
スプーンが食器を叩く音が、俺の手元だけでしきりに鳴っている。
川 ゚ -゚)「なんだ失望したか?」
(´・ω・`)「意外ってだけだよ」
川 ゚ -゚)「あれほど割の良い仕事もないぞ。寝なくていいし」
( ^ω^)「え、そうなのかお」
川 ゚ -゚)「私が客を選んでるからな。態度で」
こいつの仕事の話なんて今まで聞いたことはなかった。
しかしまあ、クーが何やってようが心底どうでもいい。AVに出たら抜いてやるくらいだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「へー」
横ではなんかツンがスプーンをくわえて感心したような声を出した。
やっぱそれはおかしいだろうよ。お前ら連絡取りあってんじゃねえのかよ。
(´・ω・`)「仕事か……僕はどうなるんだろう……」
( ^ω^)「美大の就職ってどうなってるんだお?」
だから、お前もその質問は明らかにおかしいだろうが。
(´・ω・`)「コネが基本だよ。まあウチは、美術系の仕事に就かない場合も多いから」
32 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:29:23 ID:5/H7En9.0
カレーを食い終わり、食器を水に浸けた。
冷蔵庫から瓶ビールを二本出して、氷も持っていく。
食器のどけられたテーブルには菓子や乾きものが広げられて、俺もその手前に座った。
( ^ω^)「さて腹ごしらえも済んだことだし。適当に飲んでくかお」
乾杯、とかはしないらしい。
こいつと飲むのも久々だが、その時はどうだっただろう。
(´・ω・`)「注ごうか、ドクオ」
二本のうち片方のビール瓶をショボンが空け、俺がもう一本を開けた。
二人して瓶を持って固まってんのもおかしいから、グラスをとって傾けた。
ショボンは泡のバランスがうまかった。俺は人につぐ経験がないから、下手だ。
('A`)「お前、酒強いのか?」
ビールを一口入れて、なんとなく訊ねてみた。
(´・ω・`)「普通だよ。馬鹿みたいには飲まないから安心してくれ」
普通だよ、という言葉があまりにも普通に聞こえて、何故か気持ち悪くなった。
慌ててツンの持ってきたソーセージを頬張ったが、味はよくわからなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「ドイツのよそれ、もっと味わいなさい」
('A`)「舌肥えてねえからよくわかんねえ」
川 ゚ -゚)「贅沢は敵だからな」
酒も入ってきて、適当な昔話をした。
小学校低学年くらいの記憶ならかろうじてある。から、そのへんから。
ブーンとツンはその頃から距離が近かったとか、
ショボンはクーに嫌がらせを続けていたとか、
俺が担任の先生(当時三十一)に惚れていたとか。
印象的な出来事なんて数えるほどしかなかったが、楽しかった。
道路に落書きをしまくって、自治体から学校に苦情がきただとか。
その時は俺とショボンとクーが主犯格だったけど、ブーンも一緒に謝りに行ったとか。
言葉にするには足りないし、書き下す情報は多くない。
当時を再現する言葉なんてものは消えちまってるから、上っ面は案外さっぱりしてる。
ξ*゚⊿゚)ξ「あとそれから、六年生の頃さ、アレひどかった」
俺はほろ酔いと素面との間で会話を続ける間に、心臓が徐々に跳ねていることに気付いた。
今、俺たちは時間を遡って、もう一度現在に向かって時を進めていた。
川*゚ -゚)「ドクオとショボンが学芸会の大道具やったやつか?」
そうなれば、ゆくゆくは目を背けたくなる地点に向かうだろう。
俺がこの共有時間軸から、外れちまうような。
(*^ω^)「森のだまし絵のやつかお? あれは酷過ぎたお、どうみてもちんこだったお!」
(´・ω・`)「あの絵、ドクオのアイデアなんだよね。あれは面白かった」
('A`)「あん時の劇中に徐々にざわめきが増える感じな。裏で笑い死ぬかと思ったわ」
酒のペースは上がっていく。
ブーンなんてがぶ飲みって感じに焼酎をロックで飲んでいきやがる。
(*^ω^)「ふへぇ」
ξ*゚⊿゚)ξ「べたべたすんな馬鹿」
ブーンは実際、腹の内でどう思ってるんだろうか。
とりあえず仲良さげに体預け合ってるから、まあいいのか。
(´・ω・`)「あと中学は……」
('A`)「中学ねえ……」
(´・ω・`)「あー、トイレ行ってこよう」
ショボンの顔色は普通だったが、トイレへの足取りはちんたらしていた。
一応それなりに酔っているんだろう。俺も実際、視界が雑になってる。
川*゚ -゚)「おいドクオ、飲んでるか?」
('A`)「お前の倍はな。弱いんだから無理すんな」
吐かれると困るんだ。つーか、キャバやってたのにこの弱さはマズイだろ。
ぜってえ記憶飛んで、ろくでもないことになってんだ。
俺はするめの足をかじりながらテレビを眺め、適当にザッピングした。
ショボンがギリギリ会話になる相手だと思っちまってたから、普通に待ってた。
まだ酒はないかとブーン達の持ってきた買い物袋を漁り、発泡酒を握って。
(´・ω・`)「ドクオ」
トイレに行っていたショボンが戻ってきた。
他の奴らもだらだら飲んでるが、やっぱショボンは意識がはっきりしていた。
('A`)「あ?」
(´・ω・`)「涼みに出ないか。つまみと酒も持って」
マンションは四階で、ベランダは無い。
だから涼みに行くとしたらバルコニーの廊下側だ。
あんまり騒ぐとまずいが、まあ、こいつなら大丈夫だろう。
俺は缶とするめを二つずつ持って、玄関に向かった。
川*゚ -゚)「私もつれてけー」
ξ*゚⊿゚)ξ「ぬけがけー」
(*^ω^)「逆に僕がぬけがけー」
好き勝手言いやがる三人は放っておくのが一番だ。
足にまとわりついたブーンは一応蹴った。俺には珍しく優しく蹴った。
とりあえず、ぼうっとした頭を冷やしたかった。
(´・ω・`)「さすがに涼しい」
('A`)「あー」
風は弱い。太陽が引いてくれた空は暗く、涼しい。
俺とショボンは、どちらともなく手すりにもたれた。
('A`)「自分で持てよ」
(´・ω・`)「ああ」
発泡酒とするめを渡した。
味なんてわかんねえけど、俺はするめをかじった。
(´・ω・`)「温いと、まずいね」
('A`)「とか言って、もう温度しかわかんねえんだろ」
(´・ω・`)「その通り」
二口。
('A`)「……あれおっかしーな、まだ五時間くらいしか経ってねえぞ」
俺はふらつく足で、なんとなく持ってきた携帯を開いた。
(´・ω・`)「何が?」
('A`)「七年越しからだ」
(´・ω・`)「…………」
('A`)「てめえには、色々言いたいことはあんだけどよ」
(´・ω・`)「ああ」
('A`)「思ったより、ねえわ」
(´・ω・`)「そうなのかい」
('A`)「いや、あんだよ。俺が、中学ん時、絵、台無しになったこととか」
(´・ω・`)「ああ」
('A`)「そっから、一切連絡も寄越さねえてめえの態度とか」
(´・ω・`)「そうだね」
('A`)「ブーンとか、色々よ」
(´・ω・`)「ブーンは悪くないよ。あいつは優しいから」
('A`)「かばってんのか」
(´・ω・`)「そういうわけじゃないさ」
('A`)「じゃあなんだよ」
(´・ω・`)「別に。中学の時に君の絵を潰したのは僕一人だって、そういう話だよ」
中学二年の夏。
俺は美術部で、ショボンもクーも、ブーンもツンも美術部だった。
俺とショボンとクーが絵描くのが好きだったからとか、適当な理由でそうなった。
(´・ω・`)「酒が入らないと言えないね」
そんで、俺は絵を描いてた。
コンクールとかそういうのじゃなく、完全に趣味の領域で勝手に描いてた絵があった。
そいつは多分、当時の俺の思春期くせえ気持ちをベタベタに塗ってるもんだった。
(´・ω・`)「それにもともと、お前も知っていたことがあるだろ」
別にその絵に価値があるとか思ってたわけじゃねえ。
そんな客観性があったら、逆に必死になってなかったと思う。
(´・ω・`)「僕がクーを当時好きだったこと」
だから外からの言葉なんてどうでもよかったし、興味を向けるのがキツかった。
自分のことで精いっぱいだった。
(´・ω・`)「お前が、周りに本当に評価されるものを描いてたこと」
でもそれも、とっくに過去の話だ。
(´・ω・`)「秋のコンクールに向けてあの絵を完成させていれば、お前の人生は違ってたこと」
俺の絵がぶっ壊れたのは確か事故だって聞いてた。
ブーンと、後輩の一年と、ショボンが、ちょっと水をこぼしたとか、その程度の。
それでも中学生の俺の絵画への意欲は簡単に削られて、癇癪起こして逃げた。
そいつが今更、しかも結果的には何も変わらないことを言われても、知るかよって。
('A`)「知らねえよ」
ここで自分が全部悪いんだとか言われても、俺にはどうすることもできない。
当時の俺に言ってりゃ、それはまあ違う結果はあったかもしれねえが。
もう俺には、中学の時みたいな絵への情熱みたいなもんがない。
ちょっと絵をぶっ壊されて、癇癪起こしてひきこもるくらいの感情も擦り切れてやがる。
世の中が全部敵だと思いこむこともできねえし、絶望したふりもできねえ。
(´・ω・`)「それと少し言っていいかな」
('A`)「まだあんのか」
ショボンは酔っていると言うが、顔色が普通でよくわからない。
目の焦点が合ってるかは、俺も視界がぐちゃぐちゃでわからない。
(´・ω・`)「多分僕はね、なんていえばいいんだろう」
('A`)「もったいつけんなよ」
(´・ω・`)「……うーん……」
本当に言い淀んでいるようで、いきなり発泡酒をぐいと飲み干した。
(´・ω・`)「それでもやっぱり僕は、君の絵の一番のファンだった、かな」
そう言って、ショボンは部屋に戻っていった。
勝手なこと言ってんじゃねえよ、クソが。
40 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:41:07 ID:5/H7En9.0
俺は一人残って、するめをかじった。
時刻は八時で、なかなかいい時間だった。
ばたん、とドアの開く音がした。
隣の鈴木さんちから、奥さんが出てった。
目が合わなかったので、挨拶はしなかった。
また、ばたんとドアの開く音がした。
ξ゚⊿゚)ξ「酔った」
('A`)「何だビッチかよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ビッチじゃないし」
('A`)「……つーかよ、結局何しに来たわけ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、忘れてた。メシマズにしてやるわ」
するとツンは両手を開いてこちらに向けた。
ξ゚⊿゚)ξ「来週ブーンと婚約する。来年の六月に式挙げるから」
とか言っているが、その指には婚約指輪はなかった。
('A`)「……婚約する、って時点で婚約してんじゃねえのか……」
ξ゚⊿゚)ξ「とにかく来年、式に来い、って話をあんたにしに来たのよ」
('A` )「んなことかよ……」
ξ゚⊿゚)ξ「その様子はなに、もうショボンと話はついたの?」
('A`)「最初から終わってんだよ、それは」
思えば、渦中にこいつは一切関わってねえような気がする。
ξ#゚⊿゚)ξ「はァ?」
(;'A`)「なんだよ……」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ全然終わってないじゃない」
('A`)「終わってんだろ、俺の人生とか」
ξ-⊿-)ξ「ふざけんなー」
('A`)「つかお前、何も関係ねえだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「完全に人生終わったようなヤツを挙式に呼ぶわけないでしょ童貞」
('A`)「……会話になってねえ」
ξ゚⊿゚)ξ「知ってんだからね、あんたが今何やってるか」
('A`)「ブーンから聞いたのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「あんた、ネットで有名な絵師やってんでしょうが」
それはブーンにも教えてねえことだ。
ってことは、あのクソ女が漏らしたのか。
42 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:44:26 ID:5/H7En9.0
('A`)「別に有名じゃねえし、絵師って呼ぶのは気持ち悪い」
エロ絵エロ漫画をダウンロード販売してるだけで、マジで有名ではない。
五十枚千円で売り出したら二百人程度が金出すってくらいで、界隈の事情も知ったこっちゃない。
技術も上を見たらいいとこ二流がせいぜいで、ぶっ叩かれることもある。
ξ゚⊿゚)ξ「てかそもそも実力あんでしょうが、昔から」
('A`)「だからなんだっつの」
ξ゚⊿゚)ξ「それで就職しろってこと」
('A`)「お前には関係ねえだろうが、考え甘過ぎだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「就職して、ちゃんとして、クーと一緒に式に出なさい」
話が抽象的過ぎてわけがわからなくなりそうだ。
('A` )「だから――」
ξ#゚⊿゚)ξ「――待ってるんだってば!」
ツンは一方的に叫んで、家に戻っていった。
うるせえから、隣の鈴木さんが不快そうな顔をしただろう。
ばたんとドアが閉じ、俺は最後のするめの欠片を口に含んだ。
('A`)「もうなんか、コミュ障だろ……」
酔ってるとか、そういう問題なのかこれ。
43 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 22:45:50 ID:5/H7En9.0
それから俺も部屋に戻って、飲みなおした。
ショボンもツンも、二人で話したことについては一切触れてこなかった。
俺もちょっとわけわかんなくなってるから、ややこしい話をされなくて安心した。
(^ω^ )「チラッ」
('A`)「チラ見を口に出すな、なんだよ」
( ^ω^)「いや、別に」
そういや、けじめとか言っておきながらこいつは何も言ってこない。
ただ言ってみたかっただけなのか。そうだったらまだマシだ。
('A`)「はぁ……。つか、そろそろお開きじゃね?」
少なくともクーとツンは完全に寝てるし、ショボンはトイレに吐きに行って戻って来ない。
俺とブーンはぐでぐでに酔って、なんとか意識を保ってるくらいだった。
( ^ω^)「ショボンとは話したかお?」
('A`)「話したって。つかもう眠いんだが」
普通に、瞼が重い。もう十一時で、朝から動き続けてきた俺には体力的にキツい。
そろそろダウンしても、誰も文句は言わないだろう。
( ^ω^)「じゃあ良かったお。こっちに未練残しても、ショボンは辛いだろうし」
(-A-)「はいはい、もう寝るわ」
ウコンの力とか、事前に飲んでおけばよかったな。
朝。起きて、ダルさが半端じゃなく。
居間を見渡したら案外片付いてて、台所にクーがいた。
川 ゚ -゚)「遅いぞ」
別に睡眠管理はされてねえ。
('A`)「あいつらは?」
川 ゚ -゚)「帰った。ふらふらだったが、朝一でな」
掛け時計を見ると、十一時過ぎだった。
喉か異様に乾いて気持ち悪く、そばにあった焼酎をそのまま飲んだ。
('A`)「潤わねえ」
胸が爆発しなかったため、一応二日酔いはなさそうだった。
それから水を飲み、十分くらいぼうっとした。
川 ゚ -゚)「ああそうだ、ショボンが言ってたぞ」
('A`)「なによ」
川 ゚ -゚)「未練があったならどうして僕に言わなかったんだ、とか」
('A`)「……いつ言ってた」
川 ゚ -゚)「昨日の昼。ゴミ捨てに行った時だ。お前のバイクをいじりながらな」
マジでこいつもあいつらも、何考えてるかわからない。
駐車場まで降りた。
さっきちょっと言われて思い出したが、バイクに忘れもんをしていた。
/ ゚、。 /「やあ」
(;'A`)「あ、鈴木さん」
目が合った。鈴木さんは今日も洗車をしていた。
('A`)「これからドライブですか?」
/ ゚、。 /「いや、人探しだよ」
('A`)「……?」
/ ゚、。 /「恥ずかしながら、ちょっとね」
恥ずかしそうな顔をしていないんだが、恥ずかしいらしい。
そういえば鈴木さんちから昨日奥さんが出てったような気がしたが、まさか。
なんてな。
('A`)「そうなんですか」
/ ゚、。 /「まあ、多少のすれ違いはよくあることさ」
ははは、と乾いた笑いで、鈴木さんはまた入念に洗車を始めた。
俺はそれをナチュラルにスルーし、バイクの座席部分を開けた。
('A`)「……あれ、なによこれ」
カット集とポシェットが入ったままで、カット集の方に紙が挟まっていた。
手にとってみると、意味不明な言葉が書いてあった。
('A`)「『筆で描け』って、なによ」
なによ、と口に出してはみるが。
どう考えてもこれはショボンの言葉以外にありえない。
筆で、なんてわざわざ書いてんだから、入れたのは今朝だろう。
('A`)「趣味悪すぎて笑えねえ」
あんな意味の無い話をしておいて、今更何を言ってやがるのか。
反論してやろうか考えたが、どうせもう当分は会わねえし、やめた。
('A`)「……いや……」
ふと思ったが、当分、でいいのか。
何か頭に引っ掛かっているが、パッと思い出せん。
('A`)「あ」
そしてそんなに頭を悩ませることなく、パパッと思い出した。
俺はカット集を持ち、急いで部屋に戻った。ポシェットは忘れて放置しちまった。
早足で居間に戻り、自分の携帯を拾う。
クーが変な顔で俺を見つめてきたが無視して、ブーンに電話をかける。
耳元のコールの反対側で呟く言葉も、無視した。
川 ゚ -゚)「……まさか、まだ話を終えてなかったのか?」
『なんだお』
('A`)「てめえ、俺になんか言い忘れてないか」
『……ええっ、と?』
('A`)「ショボンのことで、未練とかなんとか言ってただろうが」
『ああ……。……えっ?』
('A`)「だから、あいつに何があんだよ。死ぬのか? 余命宣告でもされてたのか?」
『ちょ、ドクオ! 話してなかったのかお!』
('A`)「話してなかったのは俺じゃねえ、あいつだろうが」
『そんな、えっ、でもショボン、今朝もう言ったって話してたお』
('A`)「だから聞いてねえっつの、はっきり言えよおい」
『……だったら僕から言っていいか、わかんないお』
('A`)「優しいなおい、マジうぜえわ。俺の都合はガン無視かよてめえ」
『だってショボンがそれ言ったってことは、もうドクオのこと諦めたってことじゃ』
(#'A`)「俺に“筆で描け”なんて挑発するような馬鹿が、何を諦めんだっつーの!」
『――ああもう、だったらわかったお! 言うお! っていうか、僕もいくお!』
俺はブーンとの電話を切り、すぐに出られるように準備した。
ばたばたしてたが、別に持っていくもんはない。
('A`)「おいクー、ヘルメット出せ」
川 ゚ -゚)「あれは私の部屋のインテリアだぞ」
('A`)「お前のノリに構ってる暇はねえんだっつうの、勝手に持ってくからな」
クーの部屋に飛び込み、クローゼットの横にぶら下がるピンクのヘルメットを取った。
中に入ってたよくわからん丸い物体を落として、さっさと玄関に行く。
川 ゚ -゚)「聞いたのか」
靴を履く背後からクーの声がかかる。
('A`)「聞いた。っつーか、お前知ってたのか?」
川 ゚ -゚)「逆だ、お前以外みんな知ってた」
('A`)「何でだよ、わざわざ集まる日まで取りつけてか」
川 ゚ -゚)「全部終わらせて、みんなですっきりできればよかったから」
('A`)「ことごとくミスってんだよバカ共が。てめえら俺並のコミュ障じゃねえか」
川 ー )「……すまん」
立ち上がって、俺は一瞬だけクーの顔を見た。
口元がにやけてるように見え、ムカついてすぐにドアを閉めた。
スズキに跨る。
鈴木さんは奥さんを探しにもう出ていった後だった。
俺も、さっさと行かなきゃいけない。
エンジンを奮い起し、相棒と走りださなければならない。
ショボンは結局俺に何も言えてねえ。
あの頃の俺に一方的な懺悔をしただけで、何も伝わってきてねえ。
俺はもう違ってる。中学時代のアレじゃねえから。
とっくにもうボンクラのアホになって、ゴミみたいな人生送ってる。
過去に向けていくら叫ばれても、泣かれても、何も感じねえ不感症になっちまってる。
なのにクソみたいな言葉だけ遺して。
それこそ未練タラタラな、『筆で描け』って言葉だ。
俺は今ペンタブでどうしようもないエロ画像描いてんだよ。
猫耳とか触手とか強姦とか描いて、それ売ってるカスなんだ。
俺に絵画を描かせたいなら、自分の口で言えねえのか。
せめて殴って更生しようと思わねえのかって。
そんな半端な姿勢でクズに何を言っても無駄なんだよ。
だから、俺はあいつごときじゃ何も変わらねえことを突きつけてやる。
たかが絵描きの進路を断たれたつもりのゲロ童貞だ、どっちにしろ気持ち悪い方に進むって。
そいつを証明して、思い知らせる。
んで、俺がぶん殴る。
あわよくばバイクごと突っ込んで病院送りにしてやる。
( ^ω^)「ドクオ!」
電話で話した通り、駅前にブーンが居た。
一人でアホ面下げている、こいつもあいつ並のアホだ。
('A`)「さっさと乗れ」
ハンドルにぶら下げたままにしていたピンクのヘルメットを投げ渡した。
( ^ω^)「てか酔いは大丈夫なのかお?」
('A`)「この際だ、知るかよ」
( ^ω^)「死んでも知らないお」
(#'A`)「俺はいいんだよ。てめえこそ婚約マジおめでとう死ね」
(;^ω^)「えっ、なんで知って――」
ブーンが跨った直後、ぐわん、と一気に加速させた。衝突とかしたくないが、気にしてられない。
目的地までは確か一時間はかかるが、飛ばして短縮できるか、つーか間に合うかどうか。
('A`)「あ、本気で死んだら死ぬほど謝るから」
( ^ω^)b「がってんだお! さっさといけお!」
俺の胴に抱きついてくるブーンの腕は、やたら太いような。
こいつもこれから家族を持つんだから、それくらい当然かもしれねえ。
それに気付いたからか、急に手が震えた。俺は力を込めてハンドルを握りなおした。
(;^ω^)「急ぐお! 十二時三十分だお!」
(;'A`)「無理、やばい、走れない」
VIP空港に辿りつき、駐輪場からターミナルが異様に遠い。走って間に合うのか。
(;'A`)「つーか! なんでお前ら見送り行かねえんだよ!」
(;^ω^)「だってショボンがどうしても来るなっていうんだお!」
(;'A`)「あーあれじゃね! 美大の友達に俺らの姿は見せられねえとか!」
(;^ω^)「ショックだおそれやっぱ走るの辞めるかお!」
(;'A`)「俺は行くからな! すっきりしねえからマジで!」
(;^ω^)「じゃあ僕もいくお!」
(;'A`)「じゃあ、じゃねえだろ! 何かてめえは言うことねえのかよ!」
(;^ω^)「あ! あるお! ショボンに言いたいことあるお!」
(;'A`)「マジで!? じゃあ行くしかねえだろ!」
ぶっちゃけ、この辺は言葉になってねえ。
酔いと疲れと気持ち悪さと体力のヤバさで、頭ん中ぐっちゃぐちゃだ。
それでも、くだらねえ主張をぶつけに行ってやらねえと、駄目だ。
(;^ω^)「やっばいおぅぅぉぉぉ吐きそうだおぉぉぉ!」
俺らは五百メートルくらいぎゃあぎゃあ呻きながら走った。
傍から見りゃ完全にキチガイ野郎だが、全力で走った。
(´・ω・) ダヨネー
(#゚A゚)「居たぞおおおおお!」
(#^ω^)「うおおおおおおおおおお!」
(・ω・`;) エッ
(#^ω^)「人の彼女寝取ってんじゃねェェェェェェェッ!!!!!」
ゴッシャァ
_ _ .' , .. ∧_∧
_ - ― = ̄  ̄`:, .∴ ' ( )
, -'' ̄ __――=', ・,‘ r⌒> _/ /
/ -―  ̄ ̄  ̄"'" . ’ | y'⌒ ⌒i
/ ノ | / ノ |
/ , イ ) , ー' /´ヾ_ノ
/ _, \ / , ノ
| / \ `、 / / /
j / ヽ | / / ,'
/ ノ { | / /| |
/ / | (_ !、_/ / 〉
`、_〉 ー‐‐` |_/
(;゚A゚)「えええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!」
空港が静寂に呑まれた。
ぶっ転がったショボンは旅行鞄ごとふっとび、その場でへたりこんだ。
(´ ω `)「死ぬかと……」
周りにはオシャレなそれこそ美大生がたくさんいて、俺らの行動にドン引きしていた。
(#'A`)「まあいいや!」
俺は倒れたショボンの胸倉を掴み、目の前に持っていく。
(#'A`)「おいショボン! てめえ図に乗ってんじゃねえぞコラァ!」
(・ω・`;)「待ってよ、理解が全く追いついてないんだけど」
(#'A`)「俺は絵画なんざ二度と描かねえからな! お前がどうしたってわけじゃねえ!
つまんねえからもう書かねえって決めたんだよ!」
(・ω・`)「…………」
(#'A`)「聞いたぞ! てめえドイツに留学に行くらしいな!
何か知らねえけど三年間だったか? だったら勝手に行けっつうんだよ!」
それが成功しようが失敗しようが、俺には関係ねえ。知ったこっちゃねえ。
(#'A`)「だから! てめえがなんて言おうと俺はな! この日本で、PC使って描き続けんだ!」
(#'A`)「ぜってえてめえみたいな道は踏まねえ!
俺はこの日本で!
しゅっごい萌えエロ職人になってやるんだからな!」
(´・ω・`)「…………」
(;'A`)「はぁ、はぁ、これで逮捕確定じゃねえか……」
(´・ω・`)「……そうか」
('A`)「おうよ」
(´-ω-`)「なら、勝手にしなよ」
警備員が笛を鳴らしていた。
クソッタレが鼻血出しててもスカしてる態度が気に入らなかったが、さすがに逃げることにした。
幸い、噛んだことについては誰も何も言ってこなかった。
しかしブーンはガチで逮捕ものだと思ったが、どうなんだ。
俺はブーンを駅に置いて、家に帰った。
その間体力の関係で二、三度ばばあを轢きかけたが、無事故円満だった。
川 ゚ -゚)「帰ったか」
(;'A`)「おう……結局何も言えてねえ気がするが……」
そういや途中でデジカメの存在を思い出したが、ブーンのせいで使う場面が無かった。
川 ゚ -゚)「それで?」
('A`)「は?」
川 ゚ -゚)「それで、何か得るものはあったか」
('A`)「ああ……俺、絵関係で就職目指すわ」
川 ゚ -゚)「マジでか?」
('A`)「日本を代表するエロ絵師になる。そう決めた」
川 ゚ -゚)「マジで、か?」
('A`)「そこまで聞く意味がわからねえんだが……」
川 ゚ -゚)「いや。就職する気があるなら、資金援助も切ってもらおうかと」
(;'A`)「それって……なに、どういう……」
川 ゚ ー゚)「説明は面倒だからしない。お前は絵で食っていけばいいんだよ」
二次会の席はやかましい。
( ^ω^)「それで?」
('A`)「いや、こっちの台詞だろ」
六月のこの日まで、結局俺はブーン達と顔を合わせなかった。
クーとの同棲は当たり前のように続いているが、肉体関係もまた無かった。
('A`)「お前ら何、実際どこまでクーと共謀してたの?」
( ^ω^)「えっ、してないお」
クーはどうやら、ショボンとの一件を利用して俺を就職に向けて動かすつもりだったらしい。
もともとクーから言わせれば、『きっかけさえあればいつでもお前は働いていた』そうだが。
実感はない。
('A`)「んなわけねーだろ。ツンだって俺に就職勧めてきたし、あの日はマジひどかった」
(;^ω^)「えぇ……そうなのかお……」
('A`)「知らなかったのかよ……わけわかんねえな……」
ξ*゚⊿゚)ξ「というわけで、私の親友のクーです!」
パチパチパチパチ
川*゚ -゚)「二次会からの出席ごめんなさい。盛り上げ頑張ります!」
('A` )「…………」
(^ω^ )「……クーって仕事何してんだお」
('A`)「変な保険会社」
(;^ω^)「えぇ……」
('A`)「つーかそれでよ、前話したろ親戚の件」
( ^ω^)「お」
('A`)「あれも何か、パトロンの真似事みたいな感じの理由だったらしい」
( ^ω^)「は?」
('A`)「要するにまあ、親バカだから、絵に専念できる環境作ったとか、そんなの」
( ^ω^)「じゃあ何でクーが一緒に暮らしてるんだお?」
(A` )「……それは、恥ずかしすぎて言えない……」
(*^ω^)「じゃあ来年はドk ('A`)「まあ、未だに親戚からは基地外扱いされ続けてるがな」
('A`)「とにかくだ」
( ^ω^)「お?」
('A`)「俺も無事、エロゲ会社に就職できたし。順風満帆ではねえけど、まともに生きてる」
( ^ω^)「うん」
('A`)「ショボンの野郎が絵で失敗したら口利きしてやるかな」
( ^ω^)「それはなかなかいい案だお」
('A`)「クーはまあ、そのうち夜這いするとして」
( ^ω^)「おお」
('A`)「お前の寝取られの件も解決したとして」
( ^ω^)「あれはたまたま思い出しただけだお黙れお」
(*'A`)「いいな、俺って最高に社会人だわ」
( ´ω`)「まあ……それでいいならいいと思うお……」
結果的にどうかっつーと、自信を持つのは正直すげえ難しい。
いつぶっ倒れるかもわかんねえ会社で一生やってくとか、限りなく不可能に近いだろうし。
そのうち俺も独立して、俺の絵を売り込んでいかなきゃならなくなる時が来るだろう。
このエロ絵師の道は険しいんだろうが、大した理由もねえのに挫折すんのはもうしねえ。
足掻いて足掻いて足掻きまくって、俺の絵を世間様に提供していくつもりだ。
ドイツに向かって飛んでったあいつに、俺の描いたエロ絵を届かせてやるために。
('A`)はボンクラのようです おしまい
モチーフ曲
Mr.Children/跳べ
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この記事へのコメント
1. Posted by 名無し April 09, 2011 22:23
何これ、すげえ面白かった。ドクオがやさぐれキャラやってる作品は他にもあるけど、これが一番面白いわ。