February 25, 2011
(#゚;;-゚)バレエ・メカニックのようです
――私は休息が、呼吸できる空間がほしかったのだ。
――機械の時代の躍動性のあとで、
――私は大きな人物たちのもつ静的状態の必要性を感じたのである。
Fernand Leger
(#゚;;-゚)機械舞踊のようです
モチーフ曲:坂本龍一『Ballet Mecanique』
( "ゞ) カリカリカリ
( "ゞ)
( "ゞ)「それで、体の調子が悪いので検査しに来た、というお話でしたが」
( "ゞ)「具体的には、身体のどのあたりに不調を感じるのか」
( "ゞ)「事前に出した問診票は白紙のようですし、教えてもらえると嬉しいのですが」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「はい」
(#゚;;-゚)「具体的にいうと、実はどこも異常はないんです」
( "ゞ)「どこにも?」
(#゚;;-゚)「はい。腕も、足も、頭も、身体も至って正常です」
( "ゞ) カリカリカリ、カリ
( "ゞ)
( "ゞ)「よくわからないのですが」
( "ゞ)「では何故、あなたは当病院へ通院されたのですか?」
( "ゞ)「身体のどこにも異常はない、ということが自分でわかってるなら――」
( "ゞ)「いや、これ以上はからかってるだけだね……やめようか」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「どうして病院なんかに来たんだい?」
( "ゞ)「君の身体に異常が発生した場合は、所定のラボラトリーに出向くのが当たり前だろう?」
( "ゞ)「ロボットの病院へ行かずに、ここへ来た理由は何だい?」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「一応、受付で帰してあげなさいって言ったんだけどね」
(#゚;;-゚)「それは私が看護婦の方に無理を言って、ここまで入れて頂いたんです」
( "ゞ)「うん、そうだね」
( "ゞ)「この病院には風邪をひいた人間、お腹を痛めている人間、頭痛に悩まされる人間」
( "ゞ)「いっぱいの病人が僕の診察をうける為に、待合で長い時間待ってるんだ。今も辛い思いをしてね」
( "ゞ)「そしてそこにロボットはいないんだ」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「お時間をとっていること、お仕事の邪魔であることは理解しています」
(#゚;;-゚)「ですが、どうしても先生に診てもらいたかったんです」
(#゚;;-゚)「人間のお医者様に」
( "ゞ)
( "ゞ)「強情なロボットだね」
( "ゞ) カリカリカリ
( "ゞ)「ここまで来たんだ。一応、君が僕の患者であることには違いない。診察はしよう」
( "ゞ)「でもさっきも言ったように、ここには他に大勢の患者が待っている。君よりずっと緊急を要すかもしれない患者がね」
(#゚;;-゚)「理解しています」
( "ゞ)「ありがとう」
( "ゞ) カリカリ、カリッ
( "ゞ)「約束は守るよ。だから診察時間が終了するまで、もう少しだけ待合で待っていてくれないかな」
( "ゞ)「患者さんをひと通り診終わったら、君の診察を……いや、話を聞こう」
( "ゞ)「必ずね」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「わかりました。お待ちします」
* * *
ロボット三原則、というものがある。
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また人間が危害を受けるのを何も手を下さずに黙視していてはならない。
第二条 ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一条に反する命令はこの限りではない。
第三条 ロボットは自らの存在を護(まも)らなくてはならない。ただし、それは第一条、第二条に違反しない場合に限る。
人間がロボットを開発し、隣人として認めた時に、私たちへ植えつけられたものだ。
全てのロボットはこの三原則に従わなければならない。
安全と信頼をもって、人間が私たちと向き合っていくために絶対不可欠なプログラム。
だが、もしもの場合に限って。
ロボットが――私たちがこの三原則を破るようなことが(万に一つも可能性はないけれど)あった時。
その時、私たちはロボットであるのだろうか。
あるいはロボットでも人間でもない何かに変わるのだろうか。
* * *
( "ゞ)「どうぞ、お入りなさい」
(#゚;;-゚) ギィ
(#゚;;-゚)「失礼します」
( "ゞ)「そう遠慮しないで。もう仕事の時間じゃないんだ。いわば……ボランティアなのかな?」
( "ゞ)「よくわからないけど、とにかくそう固くならないでね」
( "ゞ)「……なんて言い草も、君たちロボットに失礼だね。失礼」
(#-;;_-) )) フルフル
(#゚;;-゚)「私は先生に診ていただけるだけでも嬉しいのです。お気になさらないず」
( "ゞ)「嬉しい、ね」
( "ゞ)「なんだって僕みたいなへっぽこ医者のいる診療所に来たんだかねえ、君は」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「異常を感じたのは、ついぞ二年ほど前でした」
( "ゞ)「正確には?」
(#゚;;-゚)「二年と二ヶ月、二十四日と17時間37分42秒前です」
( "ゞ)「ふむ、それで?」
(#゚;;-゚)「はい」
(#゚;;-゚)「私はあるおうちに家政婦兼介護士として働かせていただいてます」
(#゚;;-゚)「働く、といってもご本人たちからお給金をいただいているわけではないのですが」
( "ゞ)「知ってるよ。国立ロボット介護センターから、生活困窮者のご家庭にほぼ無償で介護ロボを派遣する制度」
( "ゞ)「ほぼ無償と言っても数は限られる上に、審査は必要だと聞くけどね」
(#゚;;-゚)「はい」
( "ゞ)「……失礼、続きを聞こうか」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「はい」
(#゚;;-゚)「私がお手伝いをさせて頂いてるご家庭は、ご兄妹の二人暮らしで」
(#゚;;-゚)「当時、配偶者を――ご両親を酷い事故で亡くしたばかりのころ、まだ未成年であったお二人を介助するため」
(#゚;;-゚)「お二人が立派に成人して働けるまでという条件でお手伝いをさせてもらっていました」
(#゚;;-゚)「二年と二ヶ月、二十四日と17時間37分42秒前までは」
( "ゞ)
( "ゞ)「その日に、何かあったのかな?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「お兄様――モララー様が、その日」
(#゚;;-゚)「酷い雨の日でした。外出中でしたのに、傘をお忘れになっていたので私がお迎えに行くと」
(#゚;;-゚)「電話で私が申し出たのですが、モララー様は断って――」
(#゚;;-゚)「本当に、前も見えないくらいの酷い雨で……」
「雨がひどくて」
「モララー様は冷たい冷たいと、電話越しに笑って」
「お風邪を引いたら大変と」
「お止めしたのですが」
「警察の方が教えてくださった話では」
「モララー様は私と通話したまま横断歩道を」
「わたられて」 「注意散漫」
「トラックの運転手の方も、ブレーキが間に合わなかったらしいです」
「本当にあの日は」
「酷い雨で」
(#゚;;-゚)「モララー様は交通事故に遭われて、大怪我をなさいました」
(#゚;;-゚)「頭部をひどく打たれたのが原因だそうです。お命は助かりましたが」
(#゚;;-゚)「遷延性意識障害――植物状態に」
(#゚;;-゚)「なってしまわれたのです。二年と二ヶ月、二十四日と17時間38分36秒前に」
( "ゞ)
( "ゞ)「うん、なるほど」
( "ゞ)「なるほど……そうか、うん。それで?」
* * *
(#゚;;-゚) ガチャ
(#゚;;-゚)「ただいま戻りました」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ハイン様、ハイン様。いらっしゃいますか? でぃはいま帰りました」
ミ从 ゚∀从 ヒョッ
从 ゚∀从「ああ、うん。おかえり」
从 ゚∀从「お前、玄関の鍵開いてるんだからあたしがいるに決まってんだろ」
(#゚;;-゚)「申し訳ございません」
从 ゚∀从「いいよ……もう。それより今日はどこ行ってたんだよ?」
从 ゚∀从「まさか、またラボか?」
(#゚;;-゚)「いえ、病院です」
从 -∀从「ああ、はいはい。ラボね。お前、もうどこに行ったって結果は変わんねーよ」
(#゚;;-゚)「いえ、今日はラボではなく――」
从 -∀从「ハード、ソフト両方の面で一切問題なし。ネジ一つの緩みなし。ナシ無しなし」
从 ゚∀从「どんな検査ももう必要ねーし、お前は壊れちゃいねーよ。それより、あんまり家空けんなって」
从 ゚∀从「いざとなった時にお前がいないと色々困るだろ」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「いざという時とは、例えばどういう時でしょうか」
从 ゚∀从、 チッ
从 ゚∀从「牛乳切れた。買ってこい。いつものやつ、VIP印のでな」
从 -∀从「あと、アレ頼む。家が臭くてたまんねー」
从 -∀从「帰ったら飯もな。今日、腹減ったから早めに」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「かしこまりました」
ガチャ
(#゚;;-゚)「……モララー様」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「モララー様? ただいま帰りました。でぃです」
( -∀-)
(#゚;;-゚)「遅くなりました。申し訳ございません。おむつ、気持ち悪いですか?」
(#゚;;-゚)「すぐお取り替えしますね」
(#゚;;-゚) セッセ セッセ
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「これでよろしいでしょうか? 苦しくはないですか?」
(#゚;;-゚)「ハイン様のお食事を用意し終わったら、お体を拭きますね」
( -∀-)
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「その前に、牛乳が切れていたらしいですから、買って来ますね」
(#゚;;-゚)「今日、ハイン様のお夕食はどうしましょうか」
(#゚;;-゚)「モララー様、シチューがお好きでしたよね。せっかく買い物に出ますし、今日はシチューにしましょうか」
( -∀-)
(#゚;;-゚)
(#-;;_-)「点滴も……あとでちゃんと替えておきますね」
((...(#゚;;-゚) トコトコ
(#゚;;-゚)「ハイン様」
从 -∀从´
从 ゚∀从「なんだよ、まだ行ってなかったのかよ」
从 ゚∀从「腹減ったって言ったじゃん。早く行って、帰って、飯作れって。早く」
(#゚;;-゚)「申し訳ございません」
(#゚;;-゚)「あの、それでお夕食は、せっかくですのでクリームシチューにしようかと」
(#゚;;-゚)「よろしいでしょうか? もし他に何かご要望がありましたらと思いまして、仰って――」
从#゚∀从「早く行けよっ! のろま! 牛乳買ってこいって言っただけだろ!」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「も」
「……申し訳ございません」
* * *
(#゚;;-゚)「センターは特例として、妹のハイン様のご成人後も」
(#゚;;-゚)「ハイン様と、モララー様のお手伝いを継続して行うように私へ指示しました」
( "ゞ)「では、ご兄妹とは長い付き合いなんだね」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「妹のハイン様は、事故当時は大層悲しまれていました」
(#゚;;-゚)「モララー様は奨学金を受けながら、晴れて高等学校を卒業なさった偉い方です」
(#゚;;-゚)「その後もすぐに働きに出て、ハイン様が少しでも苦労なさらないよう毎日必死でいらっしゃいました」
(#゚;;-゚)「ですが、苦労や辛さなどおくびにも出さない。ご両親を亡くした悲しみは、あの方だって同じはずなのに」
(#゚;;-゚)「ハイン様にとっても……私にとっても、モララー様は誇らしい方でした」
( "ゞ)
( "ゞ)「妹さんも、悲しかっただろうね」
(#゚;;-゚) コクッ
(#゚;;-゚)「ハイン様はモララー様を心からお慕いしてらっしゃいました」
(#゚;;-゚)「ですが、モララー様が事故にあって、奇跡的にお命を取り留めたというのに」
(#゚;;-゚)「ハイン様はまるでモララー様から目をそむけるように接し始められたのです」
( "ゞ)
( "ゞ)「現実を直視するのは、辛いだろうからね」
( "ゞ)「大好きだったお兄さんといえども、変わり果てた家族の姿を見つめるのは……心を抉られるだろう」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「変わってしまった……そうでしょうね。きっと」
(#゚;;-゚)「ハイン様にとっては、きっとすべてが変容してしまったように思われたのでしょう」
( "ゞ)
( "ゞ)「君はどうだった?」
(#゚;;-゚)「?」
( "ゞ)「君が身体に異常を感じたのは、モララーさんが植物状態になってからなのだろう?」
( "ゞ)「君は? 君は何か感じなかったのか? 彼の――」
( "ゞ)「彼らの"変容"に」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「おっと」
( "ゞ)「失礼、ロボットの君に『何か感じた?』なんて質問は――」
(#゚;;-゚)「"変容"という意味では」
( "ゞ)´
(#゚;;-゚)「おそらく何も。私にとっては、それは僅かな違いでしかなかったからかもしれません」
( "ゞ)「わずか、なのかい? 尽くすべき主人の一人が、寝たきりになってしまって」
( "ゞ)「ハインという子もだ。兄弟と君の家庭は、今までとは大きく変わってしまったのでは?」
(#゚;;-゚) )) フルフル
(#゚;;-゚)「変わりません。少なくとも、私が変わる必要はないはずです」
( "ゞ)「何故?」
(#゚;;-゚)「何故って、先生。モララー様が酷い事故に遭われて、植物人間になっても」
(#゚;;-゚)「ハイン様がお兄様を、まるでいない者のように振舞われていても」
(#゚;;-゚)「私はお二人のお世話をしなければいけません。いけないんです」
(#゚;;-゚)「それは今までと何一つ変わらない事実です」
( "ゞ)
( "ゞ)「そうか……でも、君は」
( "ゞ)「何か異変を感じたんだね? 自分の体に」
( "ゞ)「それは君の気付かなかった、君自身の"変容"なのかい?」
(#゚;;-゚)
* * *
(*゚ー゚)「でぃちゃん!」
(#゚;;-゚)´
(#゚;;-゚)「お姉ちゃん」
(*゚ー゚)「久しぶり、元気してた? どうなの最近? 大変そうじゃない?」
(#゚;;-゚)「ううん、大変じゃないよ。元気。最近は……いつもと変わらない」
(*゚ー゚)「そう? 良かった」
(*゚ー゚)「お買い物の最中?」
(#゚;;-゚) )) コクッ
(#゚;;-゚)「牛乳ね。買ってきてって言われて」
(*^ー^)「そう! あたしはね、ウチのぼっちゃまを習い事に送ってきた帰りなの」
(*゚ー゚)「また八時に迎えに行かなきゃ! すごいのよ~? ぼっちゃま空手の茶帯なの!」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「すごいね」
(*^ー^)「そうなの、すごいの! 奥様も旦那様も鼻高々なのよー!」
(*゚ー゚)「もうすぐね、黒帯の昇段試験があるから、その時は応援に行かないと」
(*゚ー゚)「おっきな横断幕作ってぼっちゃまをサポートするの! 『ギコぼっちゃま頑張って!!』って書かなきゃ!」
(*^ー^)「晴れて黒帯をゲットした時のために、当日のご馳走も今から考えないと!」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) )) コクコク
(#゚;;-゚)「すごそうだね」
(*^ー^)「えへへ、そうでしょお?」
((...(#゚;;-゚)*^ー^) トコトコ
(*゚ー゚)「そういえばさ、ハインさんはどうしてる? お元気?」
(#゚;;-゚)「元気にしていらっしゃるよ」
(*゚ー゚)
(*-ー-)「……モララーさんは?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「うん、変わらない。お元気」
(*゚ー゚)「そう……」
(*゚ー゚)「お二人は本当に、大変だったものね。もちろん、今もすごく大変だし」
(*゚ー゚)「でぃちゃん、お二人によく尽くして偉いと思うな」
(#゚;;-゚)「そんなの、しぃちゃんだって同じだと思うよ」
(#゚;;-゚)「私なんて、当たり前のことしか、してさしあげられないし」
(*゚ー゚)「うん、まぁそうだけどさ。でぃちゃんはやっぱすごいよねぇ」
(#゚;;-゚)
(*゚ー゚)
(*゚ー゚)「うん、そろそろ私、おウチに戻らなきゃ」
(*^ー^)「久しぶりに会えて嬉しかった。また会えたらいいね!」
(#゚;;-゚)「うん」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ねえ、しぃお姉ちゃん。聞いていいかな?」
(*゚ー゚)「なぁに?」
(#゚;;-゚)「なんだか、昔から思っていたけどお姉ちゃんて人間みたいだね」
(#゚;;-゚)「いっぱい喋って、いっぱい笑って、すごく綺麗」
(#゚;;-゚)「どうして、そんなに人間みたいに振る舞えるの?」
(*゚ー゚)
(*^ー^)「製作段階でソフトにそういう性格がプログラミングされただけだよぉ」
(*^ー^)「子供持ちの家庭で喜ばれるっていうか、受け入れやすいようにね」
(*゚ー゚)「だから私と同期のモデルにも、でぃちゃん世代のモデルにも同じような性格の子は少なくないじゃない?」
(#゚;;-゚)
(*゚ー゚)「幸い私のこんな受け答えや反応で、奥様も旦那様も、ぼっちゃまも嬉しそうだし!」
(*゚ー゚)「私はあのおウチで、こういう自分でいられたことを幸せに思えるなぁ」
(*゚ー゚)´「幸せ、だって! ロボットの私にしたら変な表現」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ありがとう。またね、お姉ちゃん」
(*^ー^)「うん!」
* * *
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「例えば、私がモララー様の事故に際して」
( "ゞ)「?」
(#゚;;-゚)「もうおそらく二度と目を開けることも、働かれることも、お優しく笑うこともできなくなってしまったモララー様を見ても」
(#゚;;-゚)「私はロボットなので、泣きません。涙を流す機能は付いていません」
( "ゞ)
( "ゞ)「うん」
(#゚;;-゚)「ですがもし、もし仮に、万が一にもありえはしませんが、涙を流せたとしたらその時、私は」
(#゚;;-゚)「私は人間へと変容するのでしょうか。それとも違う何かに、変容するのでしょうか」
(#゚;;-゚)「あるいはもう、変わってしまったのでしょうか」
( "ゞ)
* * *
(#゚;;-゚) ガチャ
(#゚;;-゚)「ただいま戻りました」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ハイン様、ハイン様。いらっしゃいますか? でぃはいま帰りました」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ハイン様? どちらに?」
ガチャ
(#゚;;-゚) (もしかして……モララー様のお部屋に?)
从 -∀从 (-∀- )
(#゚;;-゚)「……ここに、いらっしゃったんですか」
从 -∀从´
从 ゚∀从「おせーよ、のろま。もう待ちきれねーからカップ麺食っちまった」
从 ゚∀从「牛乳、買ってきたろーな? ちゃんと冷蔵庫にぶち込んどけよ」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「はい、わかりました」
(#゚;;-゚)「……あの、ですがどうしてこのお部屋に? いつもは」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「いつもは、滅多なことでお入りにならないのに」
从 ゚∀从
从 ゚∀从「一人で飯食うのが、少し心細かったんだ」
从 ゚∀从「だから、ここに……機械でも一人よりはマシだろ、って」
(#゚;;-゚)「?」
(#゚;;-゚)「あの、失礼を承知で申しますが、モララー様は機械ではございません」
(#゚;;-゚)「人間です。そんな、ハイン様はどうしてそのようなことをおっしゃるのですか?」
从 ゚∀从
从 ゚∀从「お前、これが人間に見えるのかよ」
( -∀-)
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「見えます」
从 -∀从「……だからお前は機械なんだよ」
(#゚;;-゚)「? 私は機械ですが?」
从 -∀从「違う。違う違う、何もわかってないし、違うし」
从 ゚∀从「お前は機械で、これも機械だ。人間じゃない。人間は俺だ」
从 ゚∀从「この家で生きているのは俺だけだ。ほかはみんな死んでる。お前も」
从 ∀从「これも……こんなもの、見たくもないのに……どうして」
( -∀-)
(#゚;;-゚)「モララー様は」
(#゚;;-゚)「モララー様は生きてらっしゃいます。脳幹は機能しています」
(#゚;;-゚)「呼吸も、排泄も、瞳孔反射もなさいます。心臓も動いています。生命活動をしていらっしゃいます」
(#゚;;-゚)「この状態でも必死に生きていらっしゃいますし、僅かながらも回復の可能性も――」
从 ∀从「違うッ!!」
(#゚;;-゚) ビクッ
从#゚∀从「息して目玉が動いて、糞してたら生きてんのかよ」
从 ゚∀从「そんなの生きてない。緩やかに死んでる。ゆっくり腐っていく最中なだけだ」
从 ゚∀从「まるで壊れた機械だ。規則的に息して、点滴で栄養とって」
从 ∀从「機械メイドに糞の始末してもらって……あとは、ずっと布団の上だ」
从 ∀从「死んでる。これはとっくに死んでる。いや、あの時に死んでくれてたほうが良かった……」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「モララー様は人間です。お願いです、"これ"なんて呼び方なさらないでください」
从 ;∀从「兄貴はもう死んだんだ!!」
パンッ
(# ;;- )「!」
从 ∀从「くそ、くそ、家政婦ロボットのくせに」
从 ∀从「お前の、お前なんか、お前さえ……くそっ」
(#-;;_-)「…………」
从 ∀从「殴っても柔らかいし、なんだよ。こんなのシリコンだろ? おかしい」
从 ∀从「不気味の谷だ……こんな、人間みたいな機械、頭がイカれてる」
从 ∀从「どうして? どうしてだよ……なんで、あたしたちばかり、こんな……」
( -∀-)
从 ∀从
从 ∀从「ここ片付けて、あとで洗濯機回しておけよ」
从 ∀从「点滴も替えておけ。あと、臭い。もっかい糞の処理して、臭いも何とかしとけ」
(#-;;_-)
(#-;;_-)「かしこまりました」
* * *
( "ゞ)「どのラボラトリーでも異常はなし」
( "ゞ)「どの箇所を調べても、HDDを洗い直しても、問題らしい問題はゼロ」
( "ゞ)「それなら、君は健康――というか正常だ」
( "ゞ)「そもそも、君の違和感を感じるという表現も不思議だよ」
(#゚;;-゚)「?」
( "ゞ)「システムや部品に異常があるなら、君たちロボットはそれがハッキリと分かるものだろう?」
( "ゞ)「検査のデータ上、異常がないのだとしたら」
( "ゞ)「君が事故の日から感じ始めたそれは、一体何なんだ?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ラボではこれ以上何を調べてもらっても、それは分からないのだと理解し」
(#゚;;-゚)「こうして、人間のお医者様をお訪ねしたんです」
( "ゞ)
( "ゞ)「君は"それ"を、人間の病気だと思ったのかい?」
( "ゞ)「君は、ロボットの自分が人間の病気にかかったと?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「どうでしょう」
( "ゞ)「どうもしない。それはありえないよ」
( "ゞ)「どうやったら金属の塊である君が、風邪をひいたり発熱したりするんだ」
(#゚;;-゚)「熱暴走は設計上避けられません。しかし熱対策に問題はなく、現在のところHDDの発熱が原因では――」
( "ゞ)「いや、うん。そうじゃなくてね」
( "ゞ)
( "ゞ)「こころの病気……か?」
(#゚;;-゚)「?」
( "ゞ)「うん、いや、これも相当馬鹿げているけど」
( "ゞ)「説明しようか。人間はね、身体の異常だけが病気じゃない」
( "ゞ)「人間は心も病むことがある」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「こころ――それはいわゆる、魂や精神といった概念ですか」
( "ゞ)
( "ゞ)「少し違うが、それほど間違ってもいないね」
( "ゞ)「そして、君たちロボットに魂や精神は存在しないのも理解できるかい?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) )) コクッ
* * *
( -∀-)
(#-;;_-) カチャカチャ
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「モララー様、申し訳ございません。すぐにお体をお拭きしますね」
(#゚;;-゚)「お背中も痛くないですか? 床ずれになったらいけませんものね」
(#゚;;-゚)「すぐにお手伝いします。待っていてくださいね」
( -∀-)
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) (こんな時、人間はどうするのだろう? しぃお姉ちゃんはどうするんだろう?)
(#゚;;-゚) (笑うのかな? 泣くのかな? 私、どっちもできないや……)
(#゚;;-゚( -∀-) フキフキ、フキフキ
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) (昔は……お若い頃はあんなに華奢だった背中も)
(#゚;;-゚) (大人になるに連れ、大きく頼もしくなっていって)
(#゚;;-゚) (でも、事故に遭われて寝たきりになってからは、嘘みたいに萎んでいって)
(#゚;;-゚) (これは、人間の"変容"なのかな)
(#゚;;-゚) (人間は、死ぬまで変化し続ける。でも私たちは壊れる瞬間まで変わることはない)
(#゚;;-゚) (変わっていくということは、死んでいくことなのかな)
(#゚;;-゚( -∀-)
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「気持ちいいですか? モララー様」
(#゚;;-゚)「綺麗にしますから、安心してくださいね。パジャマも洗いたてのですよ」
( -∀-)
(#゚;;-゚) セッセ、セッセ
(#゚;;-゚)「はい、お着替えできました。気持ちいいですか?」
(#゚;;-゚)「今日もゆっくり寝てくださいね。おやすみなさい」
(#-;;_-) パタン
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) (点滴替えて、おトイレのお世話も終わって。あとお洗濯物、洗わないと)
(#゚;;-゚) (ハイン様、お腹空かせていないかしら? インスタントラーメンだけで足りるといいけど)
(#-;;_-) (でも今は、あまり顔を覗かせないほうが、ハイン様も気に触らないかな)
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) (お医者様には……どうしよう。また行ったほうがいいのかな?)
(#゚;;-゚) (あの先生は、なんだかラボの職員の人達とは違う雰囲気だったけど)
(#゚;;-゚) (人間のお医者様は、みんなああなのかな)
* * *
( "ゞ)「またここにおいでよ」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「よろしいんですか?」
( "ゞ) )) コクッ
( "ゞ)「知り合いづてに精神科病院へ話をつけたり、もっとカウンセリングやら他の方法はあるかもしれないけど」
( "ゞ)「君はロボットだからね。失礼な話だけど、多分まともに相手してもらえないと思う」
(#゚;;-゚)「私もそう思います」
( "ゞ)「ウチがそうだったからなぁ。おっきい病院でもどうせ鼻で笑われちゃうだろう」
( "ゞ)「だから、またおいで。また君の話を聞いてあげるよ」
( "ゞ)「手助けになるかは分からないけど」
(#゚;;-゚)
(#-;;_-)「ありがとうございます、先生」
( "ゞ)「ははは、いや、ホントに。そんなかしこまらないで」
( "ゞ)「ただ今日みたいな日は忙しいから、木曜日や土曜の午後の休診日に来てもらえるとありがたいかな」
( "ゞ)「お金はいらないし、僕みたいなへっぽこでいいならいつでも手を貸そう」
(#-;;_-)「本当に、本当にありがとうございます」
( "ゞ)
( "ゞ)「最後に、一ついいかい?」
(#゚;;-゚)´「なんでしょう」
( "ゞ)
( "ゞ)「君はその、よくわからない"何か"が気になって病院を訪れた」
( "ゞ)「ということは、君はその"何か"を取り除きたいってことなのかな。どうだろう?」
(#゚;;-゚)
* * *
( ∀ )「ハイン、おいで。君に会わせたい人がいるんだ」
从 ∀从「グスッ、何? お兄ちゃん?」
从 ∀从「誰なの? いま、あたし誰にも会いたくないの。会うならお母さんがいい」
从 ∀从「お母さんに会いたいよ。お父さんにも会いたい、会いたい」
( ∀ )
( ∀ )「父さんと母さんは、もう死んでしまったんだ。帰って来ないんだ」
( ∀ )「分かって欲しい。でもね、これからは新しい家族が増えるんだ」
从 ∀从「?」
( ∀ )「彼女が僕達の両親の代わりになってくれるんだ。これからは」
( ∀ )「三人で頑張って、生きていこう」
(#゚;;-゚)
从 ∀从「だ、誰? この女の人は、誰なの?」
( ∀ )「新しい家族、さ」
从 ∀从「新しい家族? 家族は、お母さんとお父さんだよ!」
从 ∀从「知らない! この人はお母さんじゃないよ! 家族じゃないよ!」
( ∀ )
( ∀ )「この人――でぃは介護ロボットなんだ」
( ∀ )「僕達みたいな親を亡くした子供や、お年寄りのお世話をするために生まれたロボットなんだよ」
( ∀ )「このロボットは味方だよ。そして家族だ。安心して」
从 ∀从「いや! いやいやいいやあああ! ロボットなんかいらない、いらない!」
从 ∀从「お母さん! お母さんがいい! お母さん! お母さん!」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) 从 ∀从
(#゚;;-゚)「ハイン様、お食事の準備ができましたよ」
从 ∀从
从 ∀从「いらない」
(#゚;;-゚)「ですが、お食べにならないとお食事が冷めてしまいます」
从 ∀从「いらない! いらないよ! ロボットの作ったご飯なんかいらない!」
从 ∀从「捨てて!」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「かしこまりました」
ドサドサ バサッ
从 ∀从
从 ∀从「本当に捨てちゃったの?」
(#゚;;-゚)「はい、ご命令でしたので」
从 ∀从「私の命令なら何でも言うこと聞くの?」
(#゚;;-゚)「ハイン様だけでなく、モララー様でも。お二人の命令ならなんでも聞きます」
(#゚;;-゚)「ロボット工学三原則に則れば、そうなります」
从 ∀从「???」
从 ∀从「じゃ、じゃあ片足でピョンピョンしてみて」
(#゚;;-゚)「はい」 ピョンピョン
从 ∀从「じゃあ! 猫さんの真似してみて!」
(#゚;;-゚)「はい。にゃーにゃー。ゴロゴロ」
从 ∀从「わはっ! すごい、本当に何でも言うこと聞くの?」
「ブリッジしながら階段降りてみて!」
「はい」
「逆立ちしてみて!」
「はい」
「踊ってみて! ダンス、ダンス!」
「はい」
「きゃははは、すごい! 本当に何でもやってくれるのね! すごい!」
从 ∀从「きゃはは、きゃはは」
从 ∀从「…………」
从 ∀从「ねぇ、でぃ。あなた、あたしのお母さんになってくれる?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「お母さんになれ、というのがご命令なら従いますが」
(#゚;;-゚)「申し訳ございません。私はお母さんになるということがよく理解できません」
(#゚;;-゚)「具体的にはどうすればよろしいのでしょうか?」
从 ∀从
从 ∀从「私が、『お母さん』って言うから、そしたらあなたはそれに『ハイン、好きよ』って答えて」
从 ∀从「それで、抱きしめてくれればいいの」
(#゚;;-゚)「それがお母さんになるということなのですか?」
从 ∀从「うん、そうだよ。きっと、そうだよ」
(#゚;;-゚)「でしたら問題ありません」
从 ∀从「お、お母さん」
(#゚;;-゚)「ハイン、好きよ」
从 ∀从
从 ∀从「う、うぅっ、ひぐ、うぅ……おがぁしゃん……」
(#゚;;-゚) ギュウ
(#゚;;-゚)「ハイン、好きよ」
从 ∀从「お母さん、お母さん! うぅうう、お母さん、お母さん! おかあさん゛ん!」
(#゚;;-゚)「ハイン、好きよ」
(#-;;_-)「好きよ」
( ∀ )
( ∀ ) (ハイン……)
( ∀ )「ハインとは、上手くやれてるかな」
(#゚;;-゚)「はい、ハイン様とのご関係に問題はありません」
( ∀ )「そっか」
( ∀ )「本当は、ちょっと不安だったんだ。いきなり家政婦ロボットを雇って、それを親代わりなんて」
( ∀ )「子供の浅知恵だと思う。でもハインには、誰かに抱きしめてもらうことが必要だったんだ」
( ∀ )「たとえロボットでも、親の代わりが必要だったんだ」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「モララー様には?」
( ∀ )「?」
(#゚;;-゚)「モララー様には、ご両親の代わりは必要ないのですか?」
(#゚;;-゚)「私がモララー様のご両親の代わりになることは、不可能でしょうか?」
( ∀ )
( ∀ )「そんなことはないよ、そんなこと」
( ∀ )「僕だって、寂しい」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/20(日) 23:33:28.22 ID:guyQmzqo0
( ∀ )「僕も、ハインのやってたようなこと、やってもいいかな?」
(#゚;;-゚)「? なんのことでしょう?」
( ∀ )「あの、ほら……『ハイン、好きよ』って言ってたやつ……恥ずかしいけど」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「もちろんです。モララー様もハイン様も、私の家族です」
(#゚;;-゚)「どうぞ。また、抱きしめてあげればよろしいのでしょうか?」
( ∀ )「うん、うん。それでいいから。お願い」
( ∀ )
( ∀ )「う、うぐ、うぐ……母さん、母さん、なんで、なんで死んじゃったんだよ……」
(#゚;;-゚( ∀ ) グスッ グスッ
( ∀ )「でぃ、僕は頑張るよ。頑張って、ハインと一緒に生きていく」
( ∀ )「たった一人の家族だもの。手を取り合って強く生きて行くよ」
( ∀ )「でも、でも僕はまだ子供で甘えただから、きっと、きっと挫けそうになるから」
( ∀ )「その時はまた、こうやって抱きしめて欲しいよ」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「はい、もちろんです。いつでも、抱きしめて差し上げますよ」
(#゚;;-゚)「ハイン様も、抱きしめて差し上げます。お二人を私がお守りします」
( ∀ )「ありがとう、ありがとう……グスッ、うぅぅう~」
( ∀ )
「――ねぇ、でぃ。キスしたいよ。キスしてもいいかな?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「よく存じませんが、お母さんというのは子供にキスをしてあげるものなのですか?」
( ∀ )「わからないよ、でも、でも」
( ∀ )「今すごく、でぃが綺麗なんだ。キスしたいんだ。僕、なんか頭がこんがらがって」
( ∀ )「いい匂いだよ。すごく、胸も、手も柔らかくて、本当にロボットなの? すごく気持ちがいいんだ」
( ∀ )「君にキスが、したい。すごく、愛しいんだ」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「それは、命令ですか?」
( ∀ )
( ∀ )「本当はこんなの卑怯で、無理やりかもしれないけど、いまは……」
( ∀ )「命令にしたい」
(#゚;;-゚)
「でしたらどうぞお気遣いなく、キスしてください」
* * *
ロボットに、必要のない要素というものは少ない。
しぃお姉ちゃんが人間のように良く笑い、明るく振る舞えるのは理由があるからだ。
それは彼女が言うように、その方が介護ロボットとして、家政婦として家庭に受け入れられやすいから。
介護ロボットに容姿の若い女性モデルが多いのも、きっと似たような理由だろう。
だから、私は私の意味のある要素に気づいた。
私が女性型に作られ、女性のような思考ルーチンを持つこと。
その細かなデザイン、設計がことさら生身の女性に酷似していること。
例えば肌の柔らかさや、髪の質感、匂い。
例えば唇の瑞々しさ。
例えば乳房の膨らみ。
例えば女性器に似たような形状を持つ部位があること。
全てには意味があった。
だがしかし、何故、私の設計は開発段階で笑う機能を付加されていなかったのか。
笑う女性というのは、どんな人間からしても見栄えが良いものではないのだろうか。
どんな人間からも愛されることは介護ロボットとして必要不可欠なのではないかと、機械の私ですらそれを理解しているというのに。
ロボットに不必要な要素は存在しないが、不足してる部分はたくさんだと、
( ∀ )「はぁ、ああ、でぃ、好きだよ、離さないよ、うぅ、ぐすっ、はぁ、はぁ、命令、だよ?」
( ∀ )「ずっと一緒にいて、いて、ウッ、はぁ、あ、僕達と一緒に暮らして、あ、あっあっあっ」
( ∀ )「母さん、でぃ、あ、あっ、でぃ、母さん、一緒に、一緒がいいよ、うっ、うっ、うぅぅう――っ」
(#゚;;-゚)
モララー様と擬似的な性交渉を重ねる日々の中で、私はそう思った。
そしてそれは、どれだけ手の内に水をすくい取ろうと、溢れかえってこぼしてしまうのと同じで。
モララー様が私を、母親というよりもむしろ、悲しく粘ついた性欲と張り裂けそうな叫びの捌け口にしていること。
それは幼かったハイン様にもぼんやりと、でも確実に伝わっていて。
いつだったかお買い物へ付き添ってくださった時、そっと優しく楔を打たれた。
从 ∀从「ねぇ、でぃ。お兄ちゃんのことを好きにならないでね」
どんな命令よりも確実に、私の思考ルーチンに固い鎖をかけるその一言を、
(#゚;;-゚)「かしこまりました」
私はふたつ返事で了承した。
私はその時から、モララー様をハイン様と同じくらい愛したが、彼の求めるような形の愛情を提供しなくなった。
* * *
(#-;;_-)
(#゚;;-゚) パチッ
(#゚;;-゚) (スリープモードが自動解除? 時間は――)
(#゚;;-゚) (深夜の三時。こんな時間に? 動体センサーが反応したんだ。誰か室内を動いている?)
(#゚;;-゚) (戸締りはきちんとした。ハイン様、お水でも飲みに来たのかな?)
(#゚;;-゚) チラッ
(#゚;;-゚) (台所、いない?)
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) (もしかして、また……)
ガチャ
从 -∀从 (-∀- )
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ハイン様、眠れないのですか?」
(#゚;;-゚)「ミルクでも、温めましょうか?」
从 -∀从 )) フルフル
(#゚;;-゚)「そうですか。ですが、何か肩にかけないとお体を冷やします。毛布を」
从 ゚∀从「んん、すまん」
(#゚;;-゚)「いえ」
( -∀-)
从 ゚∀从「本当に機械みたいだよ、兄貴」
(#゚;;-゚)
从 ゚∀从「兄貴が事故に遭って、もう……どんくらいだかな」
(#゚;;-゚)「二年と二ヶ月、二十五日と4時間2分19秒前です」
从 ゚∀从「二年、そうか……もう二年も経ったのか。早いもんだよな」
从 ゚∀从「兄貴は二年間布団の上で、俺は大学を中退して二年間フリーターの日々」
从 ゚∀从「兄貴が汗水垂らして稼いだ金で入った大学。不思議と後腐れなく出て行けたよ」
从 ゚∀从「なんでだろうな」
(#゚;;-゚)
从 ゚∀从
从 ゚∀从「変わらないのはお前だけだよ。俺達兄妹のもとに来た時から」
从 ゚∀从「顔つきも、体つきも、何も変わっちゃいない」
从 ゚∀从「俺はお前が怖いよ。機械が怖い」
(#゚;;-゚)「何故でしょう」
从 ゚∀从「不変なものは不気味なんだ。変わるってことは、生きるってことなんだ」
从 ゚∀从「いつまでも、半永久的に変化しないものなんて最初から死んでるのと同じだ」
从 ゚∀从「そのくせ、見た目や仕草だけなら人間と変りない。いや、人間より人間らしいやつもいる」
从 -∀从「でも……やっぱ駄目だ。機械は怖い。恐ろしくて、おぞましい」
(#゚;;-゚)
从 -∀从
从 -∀从「兄貴はきっと天罰を受けたんだ」
(#゚;;-゚)「天罰、ですか?」
从 -∀从 )) コクッ
从 ゚∀从「兄貴はお前を家族にしようとした」
从 ゚∀从「そして……次第に目的が変わっていったんだ」
从 ゚∀从「兄貴はお前を女として見始めて、その時ロボットという怖いくらいの完全な要素に気づいたんだ」
(#゚;;-゚)
从 ゚∀从「いつまでも綺麗で、老いなくて、自分に従順な女なんて」
从 -∀从「男なら喉から手が出るくらい欲しいものだ。兄貴はそれに気づいて、それで……」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ですが、ハイン様。あなたは私に命令しました」
(#゚;;-゚)「モララー様を好きになってはいけない、と」
从 -∀从
从 -∀从「お前のことは嫌いじゃなかったんだ。本当の家族になれると信じていた」
从 -∀从「だから、お前と兄貴の関係を知った俺は、何としても止めなくちゃいけないと思ったんだ」
从 -∀从「だから命令した。これは、でも、でもきっと、そんな真っ当な理由じゃない」
(#゚;;-゚)
( -∀-)
从∩∀从「もっと、俺もおぞましいものを考えていたのかも」
从∩∀从「お前に兄貴を取られてしまうんじゃないかって、不安で、恐ろしくって」
从∩∀从「兄貴もお前も狂っていたんだ。兄貴は、兄貴は機械とセックスした。人間じゃないものを人間にしようとした」
从∩∀从「だから天罰を受けた。でも、本当に罰を受けるべきなのは――」
(#゚;;-゚)
从 ;∀从「あたしだったのかもしれない。あたしが、一番狂っていたんだ」
从 ;∀从「機械に――お前に嫉妬してしまった。兄貴を、家族を、好きな人を奪われるかもって」
从 ;∀从「だからこれは兄貴への天罰で、きっと同時にあたしへの天罰なんだ」
从 ;∀从「好きだった人がこんな、機械以下のモノになって、それでも」
从∩∀从「未練でこの家から出ていくことが出来ない。もう私の一存で、お前の派遣サービスも停止できるのに」
从∩∀从「出来なかった。だってお前のことも好きだったから。家族だったから」
(#゚;;-゚)
从∩∀从「これ以上家族を失うのは、もう嫌だったんだ。だから、この家にお前と留まった」
从∩∀从「ゆっくり死んでいく兄貴を、変わっていってしまう兄貴を、辛くても、見守るしかなかった」
从 ;∀从「これがあたしの、あたしに課せられた罰なんだ。呪いなんだよ」
从 ;∀从「でも、ひっぐ、でもこんなのおかしい……理不尽だ」
从 ;∀从「あたしたちはほんの少し前まで幸せだったんだ。何も、問題なんてなかった」
从 ;∀从「でも両親が死んで、お前が来て、兄貴が狂って、あたしも狂ってしまった」
从∩∀从「全部機械のせいだ! あたしの家族は、家族は……機械に乗っ取られちまった……!」
从∩∀从「どうして人間はロボットなんか作ったんだろう? こんなもの、どうやったって、敵うわけないのにィ……!」
(#゚;;-゚)
( -∀-)
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「なら、私の」
(#゚;;-゚)「私に課せられた罰は、なんなのでしょう」
117 : ◆IxZmEUwXJsdH :2011/02/21(月) 01:26:22.88 ID:wmuaRt4F0
从∩∀从 グスッグスッ
从∩∀从
从∩∀从「いつも、何かも、全部、お前がいるからだ」
从∩∀从「始まりはお前なんだ。でも、お前はあたしたちみたいに変われないんだ」
从∩∀从「変われないから苦しめない。人間にはなれない。家族にだってなれない」
(#゚;;-゚)
从 ;∀从「だから与えてやる。一生忘れるな。メモリーにこの光景を焼き付けろ」
从 ;∀从「お前が喰い潰した家庭が、幸せが――その最後のひと欠片が砕ける瞬間を」
从 ∀从っ━l二フ
「一生背負え。それがお前への罰だ、でぃ」
「終焉」
「包丁」 「台所を見たときには見当たらなかった」
「どうしてこんなことを」 「優先順位」
「迂闊」 「油断」
「止めなければならない」
(#゚;;-゚) 「使命」 「止めなくちゃ」
「護衛プログラム」 「理由」
「罰」 「間に合う」
「包丁なんて危ないものは捨ててください」 「ハイン様」
「モララー様を守らないと」
「呪縛」
「生命の危機」 「真理」
「ロボット三原則第一条の遵守」 「審査」
「ねぇ、でぃ」
「なんでしょうか」
「もしね、いつか僕がいなくなったら」
「もしね、僕が死んでしまったとしたら」
「きっとハインは、すごく寂しがると思うんだ。あの子は泣き虫だから」
「だからその時は、君が僕の代わりにあの子を守ってね」
「あの子は僕の大切な、たった一人の妹なんだ」
「約束してね。これは命令だよ」
「もしもハインが苦しんで苦しんで仕方が無い時は、君の手で」
「彼女を救って欲しい。それが僕が君に残す唯一の命令だ」
「そのかわり、いままで命じた全ての命令は破棄してもいい」
「――かしこまりました、モララー様」
「……約束だよ。大好きなでぃ」
(#゚;;-゚)
「ロボット三原則第一条の遵守」 「審査」
「≠特定条件下の第二条の優先」
「第一条の不明瞭化」
「=ハイン様をお救いしろ」
* * *
( "ゞ)「…………」
(#-;;_-)
从 ∀从
(`・ω・´)「凶器の包丁は確保したか?」
(´・_ゝ・`)「はい、問題ありません。被害者の運び出しも始めています」
(`・ω・´)「ふむ、まぁもう仏さんだ。先にきちんと手ぐらいは合わせといてやれよ」
(´・_ゝ・`)「了解です」
(`・ω・´)「お医者さん! ちょっと、あんた!」
( "ゞ)´「はい、なんでしょう」
(`・ω・´)「わざわざ来てもらっといてなんだけど、もう特にアンタにやってもらうことはないからね」
(`・ω・´)「一応、管轄内にある大きな病院――VIP総合の方へ仏さんは運ぶから。いいね?」
( "ゞ) チラッ
( ∀ )
(´・_ゝ・`)「お前らー! 一応ちゃんと仏さんに手を合わせといたか?」
('A`)「当たり前じゃないッスか。合わせてないの先輩くらいっすよ」
(´・ω・`)「寝たきりだったアンちゃん、ね……。どうりで軽い。運びますか」
(´・_ゝ・`)「丁寧にな。ドアのとこぶつけんなよ」
( "ゞ)
(`・ω・´)「お医者さん?」
( "ゞ)「はい。問題ないです。検案書はおって書きます」
(`・ω・´)「おう、すまんね! じゃ、後は任せときな」
タッタッタ……
( "ゞ)
( "ゞ) (さて、と。まさかこのおウチとはね)
(`・ω・´)「お嬢さん、いいかい」
从 ∀从
从 ∀从「……はい」
(`・ω・´)「詳しい話は署で聞くから、とりあえずパト乗ってもらうよ。手錠もするから」
(`・ω・´)「暴れたり逃げたりなんてこっちも考えてないから。ただ、形だけ付けなくっちゃいけなくてね」
从 ∀从「……はい、わかりました」
(#゚;;-゚)「あ、あの」
(`・ω・´)´「なんだい、お嬢ちゃん?」
(`・ω・´)「あ――ッ! もしかして犯行現場にいたロボットかいうのは君か!」
(#゚;;-゚)「は、はい、あの……」
(`・ω・´)「困ったな――っ、ロボット絡みの刑事事件なんて俺も初めてだからな――っ! ほんと、困っちゃうね!」
( "ゞ)「あの、いいですか?」
(`・ω・´)´「お医者さん? アンタまだいたの?」
( "ゞ)「ええ、ちょっとね」
( "ゞ)「一応彼女――ロボットも当事者ですし、証言は必要でしょう。連れて行くべきですが、ただ」
( "ゞ)「少しだけ被疑者とお話させてあげてもらえませんかね。ほんの少し」
( "ゞ)「あと、遺体も搬送を少し待ってもらえないかと」
(`・ω・´)「えーっ! お医者さん、あんたそりゃないよ!」
( "ゞ)、「申し訳ない。でもこのロボットの子とは少し面識があって……ほんの少しでいいんです」
(`・ω・´)、「……ちょっとだけだからね。あんまりのんびり仕事じゃないんだ、ウチも」
( "ゞ)「ありがとうございます」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「これでいいのかな?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ありがとうございます」
((......(#゚;;-゚) 从 ∀从
(#゚;;-゚)「ハイン様、ハイン様」
从 ∀从
(#゚;;-゚)「先に謝らさせてください。申し訳ございません」
(#゚;;-゚)「私は、本当はあの時あなたをお止めするべきだったと思います。そして、止める余裕は確かにありました」
(#゚;;-゚)「あなたが包丁を振りかぶった時、私は、すぐさまあなたの手から包丁を奪える確実な手段があったのです」
(#゚;;-゚)
(#-;;_-)「ですが、私は止めませんでした」
(#゚;;-゚)「私は、ロボット三原則に則りモララー様とあなたの危険を防ぐべきでした」
(#゚;;-゚)「ですが、ですがあの瞬間の私の思考回路は、秒数にして2.324152秒間、凍りつきました」
(#゚;;-゚)「パラドックスです」
从 ∀从
从 ∀从「いい、その先は、言わなくて」
从 ∀从「いいんだ。あたしはこの結果を望んだし、そしてそれは思い通りになった」
从 ∀从「逆に感謝してる。ありがとう、あの時フリーズしてくれて」
从 ;∀从「あたしに、兄貴を救わせてくれてありがとう」
从 -∀从。「あたしをこの家から救い出してくれて、ありがとう」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「私は、なにも」
(#゚;;-゚)「救えなかった、です。だって、このままじゃハイン様は――」
从 ;∀从 )) フルフル
从 ;∀从「こんな歪んだ形の罰を受け続けるよりも、兄貴を殺して、その罪を問われる方がいい」
从 ;∀从「あたしはそれでいい。その方が救われる。その方が、いいんだ」
从 ;∀从「あたしはこれでやっと、やっと自由になれる」
从 ;∀从「兄貴も、一緒に自由になれた」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「私の」
(#゚;;-゚)「私の罰は――」
(`・ω・´)「はい、すまんね。もうさすがに待ちすぎだ。連れてくよ」
从 ;∀从
从 ;∀从「はい、お願いします」
(#゚;;-゚)「! ま、待って。待ってください」
(`・ω・´)「ロボットのお嬢ちゃん、かんべんしてくれよ!」
(#゚;;-゚)「でも、でも私は、まだ、何も、何も――」
从 ;∀从
从 -∀从。「警官さん、行きましょう」
(`・ω・´)、「そ、そうかい? すまないね、ホント。ロボットのお嬢ちゃん、もう行くからね!」
(#゚;;-゚)「あっ……」
バタン、ブロロロロロロロ……
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「でぃさん」
(#゚;;-゚)´「先生……」
( "ゞ)「もう一人、待たせているんだ。彼とも話をしてくるといい」
( "ゞ)「ずっとお世話してきた、大切な人なんだろう?」
(#゚;;-゚)
ガチャ
(´・_ゝ・`)「は、もう被疑者は連行した? なんだよソレ聞いてないよ!」
(´・_ゝ・`)「それで今度は仏さんの顔見させてって、あんたねぇ……」
(#゚;;-゚)「お願いします」
(;´・_ゝ・`)
(;´・_ゝ・`)「どっくん、しゃーない。顔見せてやんな」
('A`)「いいんスか?」
(´・_ゝ・`) (こんなカワイコちゃんに頼まれちゃ仕方ないだろ……)
('A`) (ロボですけどね。同感っす)
ジィ――ッ カチャ、カチャ
( -∀-)
('A`)「どうぞ」
(#-;;_-)「ありがとうございます」
('A`) (本当におにんぎょさんみたいだな……って人形だけど。綺麗すぎて怖ぇ)
(#゚;;-゚) (-∀- )
(#゚;;-゚)「モララー様……」
( "ゞ)「何か言うことはないのかい?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「何も。多すぎて、何も思いつかないです」
(#゚;;-゚)「申し訳なくて、でも、でもあの生活がハインさんの言ったようにモララー様にとっての呪縛だったのなら」
(#゚;;-゚)「私は、あなたを救えたのですか。モララー様?」
( -∀-)
(#゚;;-゚)
(#-;;_-)
(#゚;;-゚)「頂いたもの、お返ししますね」
(#゚;;-゚(-∀- ) チュッ
(#゚;;-゚)「……本当に、本当にお慕いしていました」
(#゚;;-゚)「ありがとうございました。お元気で、さようなら」
* * *
モララー様に別れを告げてから、警察署に向かい、事情聴取を済ませた私は先生の診療所へ向かった。
表に「休診日」と書かれた札がぶら下がっていたけど、戸に鍵はかかってなかったので、上がらせてもらった。
先生は昨日と同じようにデスクにかけていて、真っ白な白衣を身につけて真っ黒なコーヒーをすすっている最中だ。
( "ゞ)「診察をやっていないんだけど、白衣とこの場所が落ち着くっていうかね」
( "ゞ)「言いつけを守ってくれてありがとう。休診日の木曜、まさか次の日に来るとは」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「話があるってことは、わかったのかな」
( "ゞ)「君が二年と……幾日前から感じていた、その"なにか"の正体が」
(#゚;;-゚)「二年と二ヶ月、二十五日と12時間39分7秒前、です」
( "ゞ)「ああ、そうだったそうだった。相変わらずすごいね」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「ハイン様のお言葉をかりるなら、あのおウチは」
(#゚;;-゚)「呪われていました。きっと、私のせいで」
( "ゞ)
(#゚;;-゚)「でもいまは、もうあの家に囚われる人はいません。もう、誰一人」
(#゚;;-゚)「結局、その原因となったのも私でした。私がすべてをあの家に閉じ込めて、最後に開け放ってしまった」
( "ゞ)「最後の役目は、ハインさんだよ。君じゃない」
(#-;;_-) )) フルフル
(#゚;;-゚)「三原則を歪めてまで、ハイン様を救うことを優先した。私の罪です」
( "ゞ)「潔く罪と認めるんだね」
(#-;;_-)「ひとりのご主人様を、間接的に死なせてしまったのですから、当然です」
( "ゞ)「では、それが罪として」
( "ゞ)「君を裁くのは一体誰だろう?」
(#゚;;-゚)「……きっと、そんな方はいません。いえ、いなくなってしまった」
(#゚;;-゚)「でも、ハイン様は確実に、私のHDDに深い傷と負うべき罰を与えてくださった」
(#゚;;-゚)「罰は、このメモリーと共に私がこれから存在していくことそのものが、罰です」
(#゚;;-゚)「私は、私を罰し続けます」
( "ゞ)
( "ゞ)「君はそれで幸せかい?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「必ずしも、ロボットが人間社会の只中で幸福になる必要は、ありませんから」
( "ゞ)「そうか……」
( "ゞ)
( "ゞ)「これからどうするんだい? 行くあてはあるのかい?」
(#゚;;-゚)「センターへ帰ります。それから……また別のご家庭へと派遣されます」
(#゚;;-゚)「最初からそういう手はずだったのです。今やっと、正常な流れの中に戻れた。ただそれだけのことです」
(#゚;;-゚)´「もしかして、先生。私にここで働かないかと仰るつもりだったのですか?」
( "ゞ)「おっと、バレたか。さすがロボット、というかは分からないけど、鋭いね」
( "ゞ)「ここまで濃密に関わっておいて、ハイさよならというのも薄情に思えてさ。少しくらいなら」
( "ゞ)「面倒も見れると思ったんだけどね。君がまたすぐ、家政婦業に戻れるのか否かって点も気になって」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「お優しいんですね、先生」
(#゚;;-゚)「でも、無理はなさらないでください」
(#゚;;-゚)「先生は、多分ロボットがお嫌いなんでしょう?」
( "ゞ)
(#゚;;-゚)「個人の診療機関でも、職員やシステムにロボットを組み込むところは珍しくはないはずです」
(#゚;;-゚)「医療現場ほどの激務の場に、自動化・同時化・効率化の意味でも、ロボの手は猫の手よりも借りたいはず」
(#゚;;-゚)「ですが、先生の診療所は100%人間の人間による人間のための、ステレオタイプな医療機関です。受付でさえ、生身の女性職員」
(#゚;;-゚)「先生は、医療現場にロボットを持ち込みたくないんですね?」
( "ゞ)
( "ゞ)「参ったね。まさか……ロボットの君にそこまで見透かされるとは」
( "ゞ)「少し背筋が寒くなるのが本音だよ。そして、君の言ってることもだいたい合ってる」
( "ゞ)「うん……そうだ、君は正しい」
( "ゞ)「お察しのとおり僕は、自分の職場にロボットを組み込むことを頑なに拒んでいるんだ」
( "ゞ)「でも、ロボット自体が憎たらしいわけじゃないんだ」
( "ゞ)
( "ゞ)「ただね、医療の現場ってのは特殊な場でさ」
( "ゞ)「身体の弱った人間は往々にして心も弱るんだ。昨日話した、こころね」
(#゚;;-゚)「魂、精神と近似する概念」
( "ゞ)「そう、それ」
( "ゞ)「でね、心が弱った患者ってのは厄介で、すがれるものなら何にでもすがってしまいそうになる」
( "ゞ)「僕達にはそんな疲弊した彼らの心を受け止めるだけの、覚悟と勉強と訓練を重ねているけど、でも僕達だって人間だ」
( "ゞ)「疲れるし、こっちが心を病む場合もある。ところが君たちは別だ」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「機械は疲れないし、へこたれない。眠る必要がないし、食事もいらない」
( "ゞ)「おまけに技術は正確で、場合によれば地球の裏側ほど離れた場所にいる患者を救うことだってできる」
( "ゞ)「そして、美しい上に不変だ。ここがきっと、一番重要だ」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「まるで神様じゃないか、って僕は思うことがあるよ」
( "ゞ)「だって無敵だもの。きっと僕の代わりに、ロボット・デルタ医師でも開発してこのデスクに座らせた方が」
( "ゞ)「……きっと、救える患者の数だって二倍、三倍、それ以上になるだろう」
( "ゞ)「でも僕はそんなの、認めたくないんだ」
( "ゞ)
( "ゞ)「弱った人間を本当に救えるのは、プログラミングされた笑顔じゃない」
( "ゞ)「筋肉と骨格と感情が生み出す笑顔なんだ」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)
( "ゞ)「だから僕は、本当は介護ロボットというシステムも嫌いだ」
( "ゞ)「生活に困った人々を助けたいという意思は汲もう。でも、やり方がおかしい」
( "ゞ)「弱った心に、君たちロボットは……強烈すぎる。特効薬を通り越した、毒なんだ」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「私も、そう思います」
( "ゞ)「君たちを根っから否定するような考え方だけどね。申し訳ない」
( "ゞ)「ただ、そんな僕もほっとけなく思ってしまうほど、君は危うくて、美しいんだ」
( "ゞ)「いま乗り気じゃなくても、またいつか身寄りがなくなった時は、いつでもうちのドアを叩きなさい」
( "ゞ)「僕は歓迎するよ」
(#゚;;-゚)「ありがとうございます」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「先生、そろそろ最初の質問にお答えしますね」
( "ゞ)「"なにか"の正体?」
(#゚;;-゚) )) コクッ
(#゚;;-゚)「それは――」
( "ゞ)「おっとっと」
( "ゞ)「もしよろしければ、答えを明かす前に予想を立てさせてくれないか?」
( "ゞ)「……というより、なんとなく君の話を聞いて僕も分かり始めてきた」
( "ゞ)「君には僕の本性を見透かされてしまった。お返しに君の答えを見透かせてもらおう」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「どうぞ」
( "ゞ)「ありがとう」
( "ゞ)「モララーくんが事故によって植物人間になった時」
( "ゞ)「形だけでも描いてきた家族の姿が壊れた時」
( "ゞ)「ハインくんの言った、罰とやらがあのおうちを縛り付けた時」
( "ゞ)「君のこころ――に似た箇所で感じたものは」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)「"寿命"、いや」
( "ゞ)「自分の中にあるはずのなかった、"有限"だったんだね」
(#゚;;-゚)
( "ゞ)
( "ゞ)「ど」
(; "ゞ)「どうだろうか? 当たっているかな?」
(; "ゞ)「なんだか言った後ですごく自信がなくなってきたんだけど、君の答えは?」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「先生、先生も困ったお顔なんてされるんですね」
(#゚;;-゚)「汗までかいて。ちょっと興味深いです」
(; "ゞ)「ちょっと、はぐらかさないでおくれよ。本当は? どうなんだい?」
(#゚;;-゚)
(#^;;-^)「さァ?」
(; "ゞ)「えぇ――ッ?! ちょ、『さァ?』って君ね……」
( "ゞ)´ (あっ)
奇妙な話だが、私はそこでひどく感動を覚えたのだ。
あれだけ、泣くことや笑うことにコンプレックス(機械にコンプレックスがあるかどうかは不明だが)を抱き、
まるで夢幻の如く、それらへ無機質に憧れていた機械の少女が、
私との他愛ない会話の中で、ふっと柔らかく、まるで人間のような自然さで笑ったのだった。
「なんだ、君も笑えるんじゃないか」と指摘しかけて、私は口を噤む。
なぜなら彼女の笑顔はほんとうに自然で、屈託がなかった。
それこそ、人間が産み出した機械という神の恐ろしさと美しさを如実に現していた。
そして彼女は、自分が生身のような笑顔を浮かべている事実にさえ、気がついていない。
気がついていないからこそ、こんなにも美しく微笑むのだろうから。
* * *
先生はひとつ、勘違いをしていた。
でもその困ったお顔があまりにも興味深くて、結局伝えずじまいになってしまった。
私の伝えかった最初の質問の答えとは、本当は昨日の別れ際に聞かれたものだった。
「君はその、よくわからない"何か"が気になって病院を訪れた」
「ということは、君はその"何か"を取り除きたいってことなのかな。どうだろう?」
答えはNOだ。
私は確かに、自らに異常を感じてそれを調べるために奔走した。
でもそれは除去するためではなかった。むしろ逆だった。
私のHDD内に生まれた、その形のない希望のようなものをはっきりとさせた上で、守りたかった。
失いたくなかったのだ。
あの日、目覚めなくなったモララー様を前にして生まれた、その"何か"を。
結局、ラボのどんな高性能チェックをもパスしてしまう、その未知の異常の正体を明かしたのは、
人間のお医者様と、自分だけだった。検査にかかったお金は馬鹿にできないけど、それでも構わない。
いま、私の内には二年と二ヶ月、二十五日と15時間3分54秒前には存在しなかった大切な物が存在しているから。
ひとつは記憶による"罰"で、もうひとつは確実だけど優しい"有限"。
(#゚;;-゚)
(#^;;-^)
お二人が自由になったように、また私もある意味で束縛から解き放たれた。
私はこの罰と有限をもって、自由と命を謳歌しようと決めた。
その時から重かったセンターへの足取りも軽くなり、いつしか私は走り出していた。
大切な人たちが教えてくれた。この世に有限でないものは一つとして存在しないのだから。
もたもたしている暇はない。
私は胸の内から聞こえてくる、錆びた歯車の音色に身を委ねて、
長く、だけど限りある命の道のりを進み始めた。
fin.