February 27, 2011
枕物語のようです ―手ぶらの王者のようです―
手ぶらの王者のようです
1960年
アメリカ、ケンタッキー州
(,,゚Д゚)「ただいま。我が故郷よ。」
俺の名はカシアス・マーセアス・クレイ・ジュニア。
アフリカ系アメリカ人のアマチュアボクサーだ。
アマチュア、と言っても俺はプロにも劣らない自信がある。
なんたって。
(,,゚Д゚)「…へへ。」
カバンの中を覗くと、金色のキラキラ光るメダルが入っている。
そう。
ローマオリンピック優勝の証。
世界一の証。
俺が、自分の腕で勝ち取った世界最強の称号。
36 : ◆Zb08y4eL/Y:2011/02/22(火) 00:36:28 ID:gfH7EHsEO
( `ー´)「なにニヤニヤしてんだよ黒んぼ。
檻にぶち込んでやろうか?」
背後から罵声が聞こえた。
俺が一番聞きたくない言葉だ。
(,,゚Д゚)「なんだ白豚ポリスマン。
テメーにしょっぴけんのか?
…この俺を。」
(;`ー´)「お前カシアス・クレイか!?
戻ってたのか!」
(,,゚Д゚)「正解だ。
そのサンドバックみたいな腹で俺がトレーニングを始めないうちにさっさと消えろ。」
37 : ◆Zb08y4eL/Y:2011/02/22(火) 00:39:46 ID:gfH7EHsEO
小言を吐きながら立ち去っていく警官を眺めながら、俺の腹はぐぅと鳴った。
この街には昔から入りたかったレストランがある。
足は自然とそこへ向かった。
俺は真っ白なレストランの前に立ち、扉に力を掛ける。
カランカランとベルが鳴り、入店を知らせた。
(-@∀@)「いらっしゃ…申し訳ないのですが、退店いただけますか?」
38 : ◆Zb08y4eL/Y:2011/02/22(火) 00:41:06 ID:gfH7EHsEO
(,,゚Д゚)「…なんでだよ。」
(-@∀@)「当店は肌の黒い方のご利用は遠慮させて頂いております。」
そうなんだ。この店は白人専用だ。
(,,゚Д゚)「俺でも駄目なのか?
金メダリストのカシアス・クレイ様でもか?」
(-@∀@)「…お客様。当店の椅子が見えますか?」
店内を見回すと外観と合わせたように白い椅子が並んでいる。
(,,゚Д゚)「白い椅子ばっかだな…それがどうした?」
(-@∀@)「黒い肌の方が座られますと、椅子が汚れます。
お引き取り下さい。」
(,#゚Д゚)「なんだと?この…。」
( `ー´)「そこまでだ。
さっさと出て行けクロンボ。
それ以上するなら…解ってるな?」
俺が激昂しようとした瞬間、さっきの警官が背後から制止をかけた。
(,,゚Д゚)「…クソ。」
レストランを後にし、俺は橋の欄干にもたれかかった。
なぜ、肌の色が黒いだけでこんな扱いを受けなければならないんだ。
カバンから金メダルを手に取って眺める。
ひんやりと、ずっしりとした感触を確かめて握り締める。
思い出したのは優勝が決まってリングを降りた、後。
まず耳に入ってきたのは歓声、拍手。
そして罵声。
黒い人波が拍手を送り、白い人波が罵声を浴びせてきた。
なにが起こっているのか解らなかった。
優勝者には拍手が送られるはずだろ?
白人を、黒人がぶっ飛ばしたからなのか?
黒人が世界一なのが有り得ないからか?
(,,゚Д゚)「…。」
サラサラと川は流れ続ける。
神が作りたもうた自然は、違いなど気にせず回る。
人が作った下らない世界と違って。
権力者達は怯えているのだ。
黒人のヒーローの出現に。
白人でも認めざるを得ない絶対的なヒーローを。
白人の尊厳を守るために、俺を卑下する。
(,,゚Д゚)「………。」
もう一度。金メダルを見る。
チャンピオンの証。
ただし、アマチュアの。
神が、この世界を変えてくれないのなら、俺が変えてやる。
そう心に決め、大きく振りかぶって、放り投げた。
金色の人工物は、綺麗な放物線を描いて川へ飛び込んだ。
レストランで食事する力もないこんなメダル、いらない。
俺には、神から授かった力と名前がある。
この力で、この名前を世界に広めてやる。
そして、あの白いベンチに堂々と座ってやろう。
俺の名はなんだ?そう。俺は
モハメド・アリだ。
MonsterC.C.
心無い声が響き
手ブラの王者は嘆く
いつまでも白いベンチに
座れない
'神に授かりし力’
権力者たちは怯え
これ以上ない罠で
奪いたい
奪いたい 奪いたい
奪いたいが奪えない
奪えない 奪えない
奪えないが浮かばれない
拍手と罵倒の風を
怪物のような腕で
かきわけて家へ帰るが
眠れない
眠れない 眠れない
眠れないが夢見たい
夢見たい 夢見たい
夢みたいな夢見たい
座りたい 浮かびたい
眠りたい 夢見たい
夢見たい 夢見たい
夢みたいな夢見たい
What's my name?
心無い声が響き
手ブラの王者は嘆く
いつの日か白いベンチに
座りたい