December 30, 2010
【+ 】ゞ゚)は異世界で出会ったようです
【+ 】ゞ゚)
目が覚めた。
頭の中に靄が広がっている。
まともに思考出来たのは、何だか寒いな、ということだけ。
【+ 】ゞ-)
まだ眠い。
もう一回寝よう――
「あ」
【+ 】ゞ゚)
――自分のものではない声に、眠気が霧散する。
声のした方へ顔を向けると、
川 ゚ 々゚)
幼い少女が、そこに居た。
【+ 】ゞ゚)は異世界で出会ったようです
【+ 】ゞ゚)「……」
誰だ。
川 ゚ 々゚)
本当に幼い。5、6歳くらいか?
長い黒髪、赤いリボンと白いヒラヒラがたくさん付いた黒いワンピース。
黒いタイツに、黒い靴。
全体的に黒い格好をしている。
その中で、肌だけが異様に白い。
青白いとさえ言えるか。
俺も、人のことは言えないが。
【+ 】ゞ゚)「……お嬢ちゃん――」
川 ゚ 々゚)「ほんとに来た」
【+ 】ゞ゚)「あ?」
川*゚ 々゚)「ほんとに来た! くるうのおともだち! 来た! おともだち!!」
【+ 】ゞ゚)「……」
さて。どうしたものか。
【+ 】ゞ゚)「あのね、お嬢ちゃん、ちょっと静かにしようか」
川*゚ 々゚)「おともだち! くるうの! おともだち!」
【+ 】ゞ゚)「……訊きたいんだけどさ、ここは……」
川*゚ 々゚)「おともだち! あそぼ! ね!」
話を聞きやしねえ。
だからガキは嫌いなんだ。
【+ 】ゞ゚)「……ちょっとさ、おじさん……いやお兄さんとお話を」
川*゚ 々゚)「あそぼ! あそぼ! あそぼ! あそぼ! あそぼ! あそぼ! あそぼ!!!!!」
【+ 】ゞ゚)
やだ、この子ちょっと恐い。
川*゚ 々゚)「おともだち! 何して遊ぶ!?
このクマさんのお腹じょきじょきする!?」
熊のぬいぐるみと鋏を掲げながら、少女が言う。
恐い恐い恐い。
【+; 】ゞ゚)「だからさ……」
「――お嬢様ー! 何を騒いでるんですかー!?」
【+; 】ゞ゚)「うおっ!?」
突如響いた男の大声。
少女の後ろ――今更気付いたが、そこにドアがあった――で、
がちゃりと音を立てながらドアが開いた。
そこから、ひょっこり顔を出す男。
( ・∀・)「また何か気に入らないことでも?」
( ・∀・)
その男――くそっ、何だこいつ物凄く美形だ。
しかも若い。まだ20代っぽい。糞が。
――その男は、少女と俺を交互に見て、
( ・∀・)
(#・∀・)
(#・∀・)「変態だぁあああああああああああああああああああ!!!!!」
めちゃくちゃ不名誉なことを、めちゃくちゃデカい声で言い放った。
【+ 】ゞ゚)「は?」
変態だなんてとんでもない、と抗議しようとして、
――そのとき、理解してしまう。
俺は今、ピンク色のベッドの上に居た。
全裸で。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 14:29:21.00 ID:b5IBNt2jQ
ベッドの上に居座る全裸のおっさん。
頬を染め、きゃあきゃあ騒ぐ少女。
ははは、これはいけませんね。
【+; 】ゞ゚)「――違う!!」
(#・∀・)「何がだ! この野郎、変な仮面着けやがって!
どこからどう見ても変態じゃねえか!!」
【+; 】ゞ゚)「仮面? ……あっ」
顔の右側に触れると、何やら硬い感触。
慌てて、それを外した。
こんなもの着けてりゃ、たしかに怪しいことこの上ない。
【+ 】⊂(;゚"_ゞ゚)「これは衣装の一部なんだよ! 衣装!
私物じゃない!!」
(#・∀・)「衣装!?」
(;゚"_ゞ゚)「そう! 俺は所謂、俳優ってやつで――え? あれ?」
必死で説明してる内、ますます混乱してきた。
仮面を落とし、頭を抱える。
俺は舞台俳優だ。
結構大きな劇団に所属していて、自慢じゃないが、それなりにファンもいる。
――目を覚ます寸前まで、俺は舞台に立っていた筈。
仮面を着けた怪盗役。主役でこそないものの、かなり重要な立ち位置の。
そう、そうだ、俺は演技をしている最中だった。
大勢の観客の前で、決め台詞を吐いている最中だったのだ。
そこで、急に意識が混濁して――
目を覚ましたら、こんなことに。
どういうことだ。
どこなんだ。何時なんだ。
この少女と男は誰なんだ。
何で全裸なんだ俺。舞台ではちゃんと衣装着てたのに。
(#・∀・)「ええい、ともかく出ていけ――」
川 ゚ 々゚)「だめ!!」
俺の腕を掴み、ベッドから引きずり下ろそうとした男。
そいつに、少女がしがみついた。
川 ゚ 々゚)「だめ、くるうのおともだちなの」
( ・∀・)「――な……」
川 ゚ 々゚)「くるうがおねがいしたの。おともだちが欲しいって。
そしたら来てくれたの。だから、くるうのおともだちなの。
モララーが連れていっちゃだめなの」
( ゚"_ゞ゚)(なにがなんだか わからない)
( ・∀・)「……――」
男は、しばらく少女と見つめ合ったかと思うと、
( ・∀・)「……ちっ。おい、おとなしく待ってろよ。服持ってくる」
そう言って踵を返した。
( ・∀・)「お嬢様に手を出すなよ」
(;゚"_ゞ゚)「出すかボケ!!」
*****
( ゚"_ゞ゚)
男が持ってきた服は、タキシードによく似ていた。
何だ、おい、俺意外と似合うじゃないかタキシード。
数少ない自慢ポイント、高身長によく映える。
若いお姉ちゃん方もイチコロかもしれんね。
……いや、この顔が駄目か。
青白い肌、ぎょろっとした目。
「夜道で会ったらビビる」って劇団の仲間に言われたことあるからな。
あいつ絶対許さねえ。
川*゚ 々゚)「似合うー!」
しかし、若いお姉ちゃんというか若すぎるお姉ちゃんには好評みたいだが、嬉しくない。
この子ったら変なんだもん。
川*゚ 々゚)⊃【+ 】「これ着けて!」
興奮気味の少女が、先程俺が落とした仮面を渡してきた。
どうやら気に入ってくれたらしい。
顔の右側だけ蒸れるから、あんまり着けたくないんだけど。
( ・∀・) ジロリ
男が、「てめえ言うこと聞けよ」的な目を向けてくるので、
仕方なく受け取っておいた。
【+ 】ゞ゚)「よいしょ」
川*゚ 々゚)「かっこいー!」
この子、ちょっと変な趣味してるよね。
*****
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 15:34:55.18 ID:b5IBNt2jQ
男を先頭に、移動する。
長い廊下。赤い絨毯が敷かれ、所々でランプが光っている。
――外国のお屋敷って感じだ。
少女のことを「お嬢様」とか呼んでたし、金持ちの家なのかもしれん。
【+; 】ゞ゚)「うおお」
階段に差し掛かる。
吹き抜け。シャンデリア。階段も物凄く広い。
こんなん舞台のセットかテレビでしか見たことないぞ。
( ・∀・)「お嬢様、足元にお気を付けて」
川 ゚ 々゚)「ん!」
階段を下り、広間を抜け、ある部屋に入った。
革張りのソファ、ぴっかぴかのテーブル。
ソファに座れと言われたので、腰掛ける。
気持ちいい。俺もうここに居座る。
川 ゚ 々゚)
少女が俺の隣に座り、ぴったりくっついてきた。
( ・∀・)「さて。――名を名乗れ、変態」
向かいに座った男は、足を組み、踏ん反り返りながら言った。
見下してる、完全に俺を見下している。
絶対俺より年下じゃねえか、ふざけんな。
おっちゃんにもな、こんな生意気な小僧に負けられないぐらいのプライドはあるぞ。
( ・∀・)「 は や く 」
【+ 】ゞ゚)「オサムっていいます! 棺桶死オサムです! 36歳です!」
やだ、最近の若者って何でこんなに威圧感たっぷりなの、もう。
( ・∀・)「オサム、ね。どこから来たんだ?」
【+ 】ゞ゚)「東京です!」
_, 、_
( ・∀・)「トーキョー?」
訝しげな顔。え、東京知らないの?
言葉通じてるし、ここ日本だよね?
【+ 】ゞ゚)「……ちょっと、逆に訊きたいんだけど」
( ・∀・)「ああ」
【+ 】ゞ゚)「ここ、どこ?」
( ・∀・)「スナオ家の屋敷だが」
やっぱりお屋敷か。スナオ、は所有者の名前かな。
でも俺が訊きたいのはそういうこっちゃない。
【+ 】ゞ゚)「そうじゃなくて、国、っていうか……都道府県とかさ……」
_, 、_
( ・∀・)「はああぁぁああ?」
おっと腹が立ちましたよ。
何かな、その心底馬鹿にしたような顔と声。
ぶん殴りたい。ぶん殴りたいけど、俺は大人だから笑ってスルーしてやろう。
( ・∀・)「あんた、自分が住んでる国の名前も知らねえのか」
【+ 】ゞ゚)「お前は自分が住んでる国の首都も知らんのか。日本人のくせに」
( -∀-)「……なーんか話が噛み合わないぞ」
男は眉間を指先でぐりぐりし、盛大な溜め息を漏らした。
そして、口を開く。
( ・∀・)「――ここは、ヴィップ国。
この世界で、たった二つしかない国の内の、一つだろうが」
【+ 】ゞ゚)
【+ 】ゞ-) …フッ
( ・∀・)「何だ、その笑みは」
【+ 】ゞ゚)「いや、気にするな」
分かった。分かったぞ。
所謂、ドッキリだな?
そう多いわけでもないが、何度かテレビドラマや映画に出演したし、
知名度はそれなりにあるつもりだ。
恐らく、どこぞのバラエティ番組のドッキリ企画なんだろう、これは。
それにしたって全裸にまでさせるとはなかなか過激な番組だな。
設定も奇抜。気に入った、引っ掛かってやろうじゃないか。
カメラはどこに隠されているのかな?
あの花瓶か、戸棚か。
それとも、
(*^ω^)オッオー
この、俺の足にじゃれついてくる丸っこい生き物かな?
【+ 】ゞ゚)
(*^ω^)オンオン
丸い。丸っこい。本当に球形ってぐらい丸い。
短い出っ張りが四つ。足だろうか。
全身が真っ白い毛に覆われていて、それが天井から注ぐ明かりで、つやつや光っている。
なかなか良い毛並みだ。
【+; 】ゞ )「――いやぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 16:33:32.42 ID:b5IBNt2jQ
(;・∀・)「!?」
川 ゚ 々゚)「?」
(;^ω^)オン!?
犬じゃない、猫じゃない、豚でもない。
こんな生き物、見たことない。
大人の頭ぐらいの大きさをした生き物は、俺の声にびっくりしたようだった。
:( ;ω;): オーン、オーン
奇妙な鳴き声をあげながら、ひょこひょこ歩いて俺から離れると、
そいつは少女の方へと移動した。
そして――ふわりと浮かび上がったのだ。
川 ゚ 々゚)「よしよし」
( ;ω;)オーン、オーン
少女の膝に着地した生き物の頭を、少女が撫でる。
【+; 】ゞ゚)「何!? 何それ!!」
川 ゚ 々゚)「ブーンっていう名前だよ」
【+; 】ゞ゚)「名前じゃない! 名前じゃない!!
訊いてるのはそこじゃない!!」
ξ#゚⊿゚)ξ ツン!!
【+ 】ゞ゚)
今度は、黄色いのが来た。
ブーンとかいうのと同じくような形と大きさだが、
こいつは毛の色が黄色い。
それに、体毛がブーンより少し長く、ふんわりしている。
ξ#゚⊿゚)ξ ツンツン!!
それは、俺の足に体当たりを繰り返していた。
布越しだけど、ふわふわむにむにな感触が伝わってくる。全然痛くない。
川 ゚ 々゚)「オサムがブーン泣かせるから、ツン怒っちゃった」
【+; 】ゞ )「だから何なのコレエエエエエエェェェェエエエエエエ!!!!!」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 16:59:43.78 ID:b5IBNt2jQ
( ・∀・)「あんた……国名だけじゃなく、『AA』も知らないのかよ」
【+; 】ゞ゚)「え、えーえー!?」
( ・∀・)「そいつらだよ。この国……いや、隣の国の人間でさえ知ってるぜ」
【+; 】ゞ゚)「い、犬とかじゃなくて……?」
( ・∀・)「犬とAAは全くの別物だろ」
犬、は通じるのか。
そういう設定……
――いやいや。設定なのか? 偽物なのか?
この生き物も、作られたものなのか?
ξ#゚⊿゚)ξ ツンツン! ツーン!!
黄色いのを抱え上げる。
じたばた暴れる動きに、規則性や硬質さは無い。
機械ではなさそうだ。
あったかい。やわらかい。
素手で触ると、そのもふもふさが一層際立つ。
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 17:08:16.18 ID:b5IBNt2jQ
スリスリ【+* 】ゞ-);゚⊿゚)ξ ツーン! ツーン!!
( ・∀・)
( ・∀・)「おい」
【+ 】ゞ゚)「はっ!!」
気付くと、勝手に顔を押しつけてAAをもふっていた。
いかん、危険だ。この気持ち良さは危険だ。
とりあえず膝に乗せ、頭を撫でてみる。
【+ 】ゞ゚)「えっと……ごめんな」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ*///)ξ ツ、ツン…
(;^ω^)!!?
――少女が言うには、白いのがブーン、黄色いのがツンという名前らしい。
ブーンが雄でツンが雌。まだ子供なのだとか。
見た限り、ブーンとツンに作り物のような感じはしない。
ちょっかいをかけてみると、ツンも、ブーンのように浮くことが出来た。
羽などは見当たらない。下から吹き上げる空気も無い。
不思議な生き物と言うより他はないだろう。
ムニムニ
【+* 】ゞ゚)⊃))^ω^)オンオン
うむ、ブーンも気持ち良い。
さらさらで短い毛が、ツンとは違う心地よさを生む。
ツンがふわふわむにむになら、ブーンはするするむにむにだ。
こんな殺人級のやわらかさを持つ生き物が、世界中で流行らないわけがない。
男の発言から察するに希少種ということでもなさそうだし、
もし昔から存在したのなら、俺が産まれてから今までの36年間、
AAを知る機会が全く無かったというのは、おかしい。
それらのことから考えてみるに。
――もしかしたら、ここは、俺が住んでいた世界とは違うのかもしれない。
勿論馬鹿げた考えなのは分かっている。
ブーン達が、よく出来た作り物、あるいは新種の珍獣である可能性だって、
捨て切ることは出来ない。
だが。
【+ 】ゞ-)「……」
ここが異世界だとして、元の世界に戻る方法も分からない。
これがドッキリだとして、「引っ掛かるかバーカ」と言うわけにもいかない。
俺がするべきことは。
ただ困り果てるんじゃなくて、
この世界を受け入れることだ。
【+ 】ゞ゚)「――ちょっと、聞いてくれないか」
――俳優なめんなよ。
舞台の上とはいえ、色んな世界に順応してきた男だぜ。
……エンジンかかるのは、遅れたけどな。
*****
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 17:59:15.13 ID:b5IBNt2jQ
( ・∀・)「……信じられねえだろ、そんなん」
【+ 】ゞ゚)「デスヨネー」
男は、俺の説明をばっさり切り捨てた。
元々別の世界に居ました、気付いたらここに居ました。
いきなりそんなこと言われて、信じる奴もいないだろう。
川 ゚ 々゚)「くるうは、しんじるよ!」
【+ 】ゞ゚)「あんがとさん」
( ・∀・)「……」
――男の方が、ドッキリに引っ掛かったような顔をしている。
作った表情には見えないな。
( ・∀・)「……たしかに、俺の知らない内に屋敷に侵入することは不可能だ。
ずっと、あんたがどこからお嬢様の部屋に入ったのか気になってたんだが……」
突然現れたっていうなら、納得はいく――と、男は呟いた。
( ・∀・)「あー……前から、この屋敷、不思議なことはちょくちょく起きてたんだ」
【+ 】ゞ゚)「不思議なこと?」
( ・∀・)「理解し得ないようなことが、割とな。
――特に多いのは、お嬢様の欲しいものが現れること」
男は、少女へ視線を向けた。
( ・∀・)「お嬢様が『あれが欲しい、これが欲しい』って言うと、
いつの間にやら、ご希望通りの品が現れるのさ」
【+ 】ゞ゚)「……ふむ」
脳裏に過ぎる、さっきの少女の言葉。
――『くるうがおねがいしたの。おともだちが欲しいって。
そしたら来てくれたの。だから、くるうのおともだちなの』――
……なるほどね。
( ・∀・)「あんたが異世界の人間だなんてのは、まだ信じられない。
が、お嬢様の『ご希望の品』であることは認めておこう」
【+ 】ゞ゚)「……おともだち、ね」
川*゚ 々゚)「おともだちー」
( ^ω^)オッオン
ξ゚⊿゚)ξツツツン
ひとまず、俺についての確認はこれでおしまい。
次は――こいつらだ。
【+ 】ゞ゚)「お前らのことについて、教えてくれ」
( -∀-)「はいよ」
*****
――驚いたことに。
屋敷に住んでいるのは、この場に居る者だけらしい。
少女――スナオ・クルウと、
その世話役の男、モララー。
そしてAAのブーン、ツン。
屋敷の本来の持ち主であったクルウの両親、スナオ夫妻は、
2年ほど前に事故で亡くなってしまったそうだ。
当時屋敷に居たのは、死んだ両親を除いて、クルウと10人ほどの使用人、
拾われてきたばかりのブーンとツン。
【+ 】ゞ゚)「その使用人達は?」
( ・∀・)「俺と執事長以外は、解雇したよ。
旦那様と奥様がいなくなった時点で、お嬢様に残されたのは
この大きな屋敷と、莫大な遺産……」
【+ 】ゞ゚)「……信用出来ない奴は追い出したわけだな」
( ・∀・)「この上、さらに遺産まで奪われちゃあ、お嬢様があまりにも可哀相だろう」
――それからしばらくして、去年、「執事長」とやらも亡くなってしまった。
彼の場合は、老衰だったとか。
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 18:54:28.24 ID:b5IBNt2jQ
( ・∀・)「執事長は、亡くなる間際までお嬢様と俺のことを心配してくれていた。
優しい人だった。
――彼のためにも、俺が、お嬢様をしっかり育てなきゃいけないと思ったよ」
川*゚ 々゚)「んふー」
クルウが照れている。
幼いながらに、モララーの心遣いは理解しているようだ。
( ・∀・)「そんなところだ。……部屋は有り余ってる。
好きな部屋を使ってくれ」
【+ 】ゞ゚)「へ?」
( ・∀・)「は?」
【+ 】ゞ゚)「……俺、ここに住むの?」
( ・∀・)「行くアテあんのか」
【+ 】ゞ゚)「ない」
( ・∀・)「……本当は、あんたみたいに怪しい輩を住まわせたくないが」
川´゚ 々゚)
( ・∀・)「お嬢様の『おともだち』だからな」
川*゚ 々゚)ノシ
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 19:11:30.66 ID:b5IBNt2jQ
*****
その後、食堂――馬鹿みたいに広い――に移動し、食事をとることになった。
料理等は、どうやら俺の世界のものと大差無いらしい。
目新しいようなものは無い。
( ・∀・)「ったく、急に1人分増えるんだから参っちまうよ」
【+ 】ゞ゚)「悪い」
( ・∀・)「いいけどな、簡単なメニューだし」
熱された鉄の皿の上で、じゅうじゅうと音を立てながら香ばしい匂いを放つ肉。
もっさり盛りつけられた野菜にドレッシングがかけられたサラダ。
(野菜の名前を訊いたが、俺の世界では聞いたこともないものばかりだった)
ぱっと見、何の変哲もなさそうなコンソメスープのようなもの。
そして、出来たてなのか、湯気を立てている丸いパン。
普通だ。
【+ 】ゞ-)「いただきます」
( ・∀・)「何だそれ」
【+ 】ゞ゚)「食事の前の挨拶だ」
川*゚ 々゚)「いただきます!」
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 19:20:01.42 ID:b5IBNt2jQ
で。
【+ 】ゞ゚)「……モララー、ナイフは?」
ステーキ(らしきもの)を食べようとして、俺は足りないものに気付いた。
フォークとスプーンはあるのだが、ナイフが無い。
( ・∀・)「何で?」
【+ 】ゞ゚)「肉、切れないだろ」
川 ゚ 々゚)「いらないよ!」
言いながら、クルウはステーキにフォークを突き立て、手前に引いた。
【+ 】ゞ゚)「……おお」
すうっと、肉が切り分けられる。
試してみると、たしかにナイフなんか必要ないほど、よく切れた。
柔らかいってレベルじゃねえ。
向かいのモララーを見る。
モララーはパンを二つに割ると、間に切り分けた肉を挟んで口へ運んでいた。
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 19:29:26.20 ID:b5IBNt2jQ
俺も、それに倣ってみた。
パンを割って、間に肉を。
そして、かぶりつく。
かりっとしたパンの表面を通り過ぎると、
ふわふわで、もっちりした食感が楽しめた。
それから、中心、挟まれた肉を噛む。
【+* 】ゞ-)「……おうふ」
焼きたてのパンの香り、ほのかな甘み。
柔らかい肉、溢れ出す肉汁と、程よいしょっぱさ。
噛めば噛むほど旨味が増す。
( ・∀・)「美味いか」
【+* 】ゞ゚)「ああ、最高だな。肉なんか、とろけるように柔らかい……」
( ・∀・)「そりゃあな、AAの肉だし」
:【+ 】ゞ ):
川 ゚ 々゚)「どーしたのオサムー」
勘弁して下さい。
AAってあれでしょ?
(*^ω^)モグモグオン
ξ*゚⊿゚)ξモムモムツン
今、俺の足元で美味そうに餌食ってるコレでしょ?
【+ 】ゞ )「AAって食べれんの……?」
( ・∀・)「もっともポピュラーな食肉だが」
ああ、俺の世界でも、豚とかペットにする人達いるしね。
兎とか食う人達もいるしね。
別に、その辺は理解出来る。
でも、せめて事前に何か言ってほしかった。
*****
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 19:54:38.34 ID:b5IBNt2jQ
何とか食事を終えた。
今更だが、現在は夜らしい。
クルウが眠そうにしている。
川*- 々-) ウツラウツラ
( ・∀・)「お嬢様、眠るのは、お風呂に入ってからですよ」
川 ぅ々-)「んーんー……」
川 ゚ 々゚)「……オサム、お風呂入ろ」
【+ 】ゞ゚)「僕は後でいいです!!!!!」
一緒に風呂なんか入ったらモララーに殺されそうなので、全力で拒否しておく。
しょんぼりしたクルウを抱え、モララーは風呂へ向かった。
……いつもはモララーと入ってるのか。
*****
(*゚"_ゞ゚)「うっひょwwwwwふほほうwwwww」
クルウとの入浴を拒否して、本当に良かったと思う。
(*^ω^)オオーン
ξ*゚⊿゚)ξチューン
ブーンとツンを洗ってやれと、モララーに命じられたのだ。
お湯でしっとりになったブーンに擦り寄られることの心地よさよ。
泡まみれでもこもこになったツンの愛らしさよ。
永遠であれ。
こいつらスポンジ代わりにして体洗えたら、俺死んでもいいや。
可哀相だからやらないけど。
*****
――それから、風呂を出て、用意された寝間着を着用して。
寝ましょうか、となったところで。
川 ゚ 々゚)
【+ 】ゞ゚)
( ・∀・)
どうしよう。
クルウが、俺の寝間着を掴んだまま放そうとしない。
川 ゚ 々゚)「一緒に寝るの」
( ・∀・)「……お嬢様、こいつは素性の知れぬ男で――」
川 ゚ 々゚)
( ・∀・)
川 ゚ 々゚)「モララー嫌い」
( ・∀・)「おらっ、さっさとお嬢様と一緒に寝ろや!
ただしお嬢様に何かしたら苦しんで苦しんで苦しんで死なすからな」
【+ 】ゞ゚)(ええー)
川 ゚ 々゚)「オサム」
( ゚"_ゞ゚)「ん?」
仮面を外し、ベッドの隣にある机へ慎重に置いた。
この世界に来てから最初に仮面を外したときは、
混乱していたあまりに落としてしまったが、あのときはベッドの上だったから無事だった。
しかし、床などに落ちてしまえば、すぐに割れてしまうだろう。
これが割れると、面倒なのだ。色々。
川 ゚ 々゚)「寝る前に、お話聞かせて」
( ゚"_ゞ゚)「話?」
ベッドの中、なるべくクルウと距離をとる。
人と密着するのは苦手だ。
子供も苦手だし。
川 ゚ 々゚)「おとぎ話でも、なんでもいいよ」
( ゚"_ゞ゚)「……」
面倒臭い、という言葉は、飲み込んだ。
川 ゚ 々゚)「くるう、いつもひとりで寝てるの。
くらくて、しずかで、とってもさみしくて、こわいの」
モララーと風呂は一緒でも寝るのは別なのか。
その区別が、よく分からん。
川 ゚ 々゚)「でも今日はオサムがいるから、お話、して」
( -"_ゞ-)「……うーん」
何を話そうか。
話すこと自体は、何も問題無い。
――何せ劇団所属。演じた物語が、大量に記憶に残っている。
ただ、どれを選べばいいのやら。
どの話なら、子供が喜ぶのだろう。
( -"_ゞ-)「――ある国での話なんだが……」
川*゚ 々゚)「うん」
( -"_ゞ-)「貧しい親子が居たんだ。母1人、娘1人。
2人とも体が弱くて、あまり仕事が出来なかった――」
――だが、ある日。娘に一目惚れした金持ちが、娘に結婚を申し込んだ。
母親の面倒を見てやるぞと言うものだから、娘は喜んで受け入れた。
そして嫁いだ娘だったが、夫になった金持ちはあまり性格が良くなくてな、
生活は豊かになったものの、あまり楽しくはなかった。
そんな日々を送る中――娘は、1人の男が気になってきた。
使用人の男だ。
金持ちよりも年上で、娘の父……下手したら祖父ぐらいの年齢なんだ。
足腰はしっかりしてるし、礼儀正しく、頭も良くて、
主人だからといって金持ちを甘やかさないほど厳しい。
それでいて――とても優しいのさ。
娘が金持ちに叱られて落ち込んでいると、使用人は優しい言葉をかけ、
甘いお菓子と美味しい紅茶を出してくれる。
娘の母が具合を悪くしていると、いち早く気付いて介抱してくれる。
いつも怒ったような表情を浮かべているくせに、
そういうときばっかり、優しく笑うんだ。
気付けば、娘はその使用人のことが好きになっていた。
恋という意味での『好き』かどうかは分からないが、
誰よりも使用人のことを信頼していたのは確かだ。
( ゚"_ゞ゚)「それで――」
川*- 々-) クゥクゥ
( ゚"_ゞ゚)「……」
いつの間にやら、クルウはすっかり寝入っていた。
俺は口を閉じ、仰向けになる。
思いのほか早く、俺の意識は沈んでいった。
***
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 21:38:31.48 ID:b5IBNt2jQ
lw´‐ _‐ノv「呼ばれてもないし飛び出てもないけどじゃじゃじゃじゃーん」
( ゚"_ゞ゚)
誰だこの女。
つか、どこだここ。
lw´‐ _‐ノv「私はシュール。ここは君の夢の中さ」
声に出していない疑問に、あっさり答えられた。
夢の中ってあなた。
周囲を見渡すと真っ白だった。
真っ白い部屋で、このシュールとかいう女と向かい合っている。
lw´‐ _‐ノv「ちなみに! なんと、私が君をこの世界に連れてきた張本人なのだ!」
( ゚"_ゞ゚)
( ゚"_ゞ゚)「ふーん」
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
*****
158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 21:44:15.93 ID:b5IBNt2jQ
( ゚"_ゞ゚)
目を開ける。
窓から差し込む光が、室内を照らしている。
川*- 々-) クゥクゥ
クルウはまだ眠っているようだ。
……さっきのは夢か。変な夢だった。
*****
( ・∀・)「屋敷内の掃除手伝え」
クルウも起床し、朝食を済ませた後、モララーは唐突に命令してきた。
ちなみに今日も俺はタキシード姿だ。
【+ 】ゞ゚)「えー」
( ・∀・)「『えー』じゃない、ここに住むなら、働け」
【+ 】ゞ゚)「はいはい」
川 ゚ 々゚)「くるうも手伝うー」
(*^ω^)オン!
ξ*゚⊿゚)ξツン!
( ・∀・)「お嬢様は、こんな雑用なんかしなくても……」
川 ゚ 々゚)「手伝うったら手伝う!!」
( ・∀・)「……しょうがないですね。無茶はなさらないように」
川*゚ 々゚)「わーい!」
*****
箒と雑巾、バケツを持って、モララーに指示された部屋へ向かった。
掃除用具も、俺の世界と大体同じなんだな。
掃除機は無いのが面倒だが。
――不意に、足が止まった。
【+ 】ゞ゚)
川 ゚ 々゚)「? オサムー?」
廊下の壁に飾られた額縁。
その中の、肖像画。
【( ФωФ)lw´‐ _‐ノv】
右側、椅子に座っている女性。
見覚えがある。
【+ 】ゞ゚)「……シュール……?」
川 ゚ 々゚)
川 ゚ 々゚)「オサム、どうしてママのなまえ知ってるの?」
*****
168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 22:17:15.95 ID:b5IBNt2jQ
掃除をして、昼飯を食って、クルウの相手をして、夕飯を食って、風呂に入って。
寝る時間。
川*゚ 々゚)「きのーのつづき!」
(;゚"_ゞ゚)「……はいはい」
シュールのこととか色々気になって、それどころじゃないんだが。
仕方ない、話すとしよう。
( ゚"_ゞ゚)「――その頃、国は、ある怪盗の話題で持ち切りだった」
不定期に現れる怪盗は、裕福な家庭に忍び込んでは宝石等を盗んでいき、
それらは、全て砕いて捨てていた。
自分で使うでもなく、他人に与えるでもなく、
ただ盗むのが楽しいからやっているだけのこと。
171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 22:27:11.86 ID:b5IBNt2jQ
そんなふざけた奴なのに、警察が何度追いかけようと全く捕まらない。
正体を知る者もいない。
――こんな怪盗が、居たんだ。
川*- 々-) クゥクゥ
( ゚"_ゞ゚)
( -"_ゞ-)
*****
173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 22:41:07.57 ID:b5IBNt2jQ
lw´‐ _‐ノv「それで? 怪盗どうなったの? 娘は? 使用人は?」
(;゚"_ゞ゚)「おわっ!!」
真っ白な部屋。
向かいに居るシュール。
――例の夢だ。
lw´‐ _‐ノv「まあ、続きは明日クルウに話すのを待っておくかね」
( ゚"_ゞ゚)「……おう」
lw´‐ _‐ノv「で、だ。私の肖像画を見ただろう」
( ゚"_ゞ゚)「ああ」
lw´‐ _‐ノv「私がクルウの母であるのを聞いただろう」
( ゚"_ゞ゚)「聞いた」
lw´‐ _‐ノv「じゃ、信じてくれるよな。
――君をこの世界に連れてきたのは私だったのだぁあああああ!!」
(;゚"_ゞ゚)(急にテンション上がったな)
――とりあえず、信用しておこう。
嘘だ偶然だと喚いたところで、どうしようもない。
( ゚"_ゞ゚)「……あんた、2年前に死んだんだよな」
lw´‐ _‐ノv「死んだとも。だから私は幽霊いぇい」
何か、だいぶ面倒臭いノリの人のようだ。
lw´‐ _‐ノv「子を想う母の心って凄いよね。
クルウのために、色々してあげられるようになっちゃった」
( ゚"_ゞ゚)「『ご希望の品』とかか」
俺を連れてきたのはシュールだという。
なら、モララーが言っていた『不思議なこと』は、シュールの仕業だったんだろう。
lw´‐ _‐ノv「いえすいえす」
( -"_ゞ-)「――あー……訊きたいことは山ほどあるが」
とりあえず。
( ゚"_ゞ゚)「何で、俺なんだ?」
lw´‐ _‐ノv「……ふん?」
183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/28(火) 23:43:03.43 ID:b5IBNt2jQ
( ゚"_ゞ゚)「クルウの『おともだちが欲しい』って願いを叶えてやったんだろ」
lw´‐ _‐ノv「うむ」
( ゚"_ゞ゚)「それが――どうして、俺なんだ。
国が違うとかそういう問題じゃなく、世界が違うんだぞ。
せめて、同じ世界の奴にしてやれば良かったのに」
lw´‐ _‐ノv「いや」
lw´‐ _‐ノv「異世界人同士の交流って、ドラマチックじゃん」
( "_ゞ )「目覚めろ。早く目覚めろ俺」
lw´‐ _‐ノv「ちょっと待ってよーほんの些細な可愛い冗談じゃーん」
何なんだ、この人。
話してると若干苛々してくるぞ。
lw´‐ _‐ノv「あのねのね。んー、何つーか、私もよく分からん」
( ゚"_ゞ゚)「はい?」
lw´‐ _‐ノv「私は、『クルウにとって、一番いい友達を』って念じただけ。
どこそこの誰かさん、って指定したわけじゃないのよ」
( ゚"_ゞ゚)「……」
まあ、そうか。
指定するなら、こんな36歳のおっさんは選ばないだろう。
lw´‐ _‐ノv「私も予想外だった。まさか異世界の人間なんてさあ」
――しかし、そうなると、クルウにとって一番いい友達とやらが俺になるんだが。
……何で、俺なんだ。
それと、もしや俺は元の世界に帰れないのか。
lw´‐ _‐ノv「帰れないってことは、ないと思うよ」
( ゚"_ゞ゚)「そうなのか?」
lw´‐ _‐ノv「君を連れてきたのは私だもの。君を帰すことも出来らあ」
( ゚"_ゞ゚)「でも、シュールの意思で俺を選んだわけじゃないんだろ?」
lw´‐ _‐ノv「うん。ああめんどくせえ。上手く説明出来ないけど、よく聞けよ」
シュールは、俺が着ている寝間着を指差した。
そして、胸元に付いているポケットに、手をぶち込んできた。
lw´‐ _‐ノv「私が、ここに手を突っ込む」
(;゚"_ゞ゚)「うおっ」
lw´‐ _‐ノv「それから『クルウにお似合いの友達!』って念じながら、
この中を探るだろ」
(;゚"_ゞ゚)「あ、あひん」
ごそごそがさがさ、無遠慮に手を動かしやがる。
くすぐったいったらない。
194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 00:20:01.83 ID:W7pfSox/Q
lw´‐ _‐ノv「すると、手に、その『友達』が引っ掛かる」
ずるり、手を引き抜いた。
lw´‐ _‐ノv「つまりは、そういうこと。
連れてくるのは私。
選ぶのは私じゃない何か。神様か世界か、そういう壮大な」
( ゚"_ゞ゚)「……うーん」
lw´‐ _‐ノv「君の世界の『位置』は把握出来たから、
帰らせることは出来るよ」
正直よく分からないが、一応、理解したことにしとこう。
( ゚"_ゞ゚)「なら、俺を帰らせてくれるのか?」
lw´‐ _‐ノv「そうだねえ。ずっと異世界に住むというのも可哀相だし。
いつかは帰らせてあげるよ」
( ゚"_ゞ゚)「……いつか?」
lw´‐ _‐ノv「いつか。タイミングは選ばせてもらうよ。
君がいきなりいなくなっちゃったら、クルウ、泣いちゃうでしょう」
それもそうか。
まあ、生活が不便なわけでもないし、多少この世界で過ごすのも悪くない。
196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 00:35:01.62 ID:W7pfSox/Q
lw´‐ _‐ノv「そういうわけだから、しばらくクルウのこと頼んだよ」
( ゚"_ゞ゚)「ああ」
lw´‐ _‐ノv「私はクルウの身の回りのことしか把握出来ないから、
クルウや私の与り知れぬところで何かあったら、よろしくね」
( ゚"_ゞ゚)「……努力する」
lw´‐ _‐ノv「ふふ」
( ゚"_ゞ゚)「――そうだ、どうしても、1個、訊きたいことがある」
lw´‐ _‐ノv「何?」
( ゚"_ゞ゚)「何で、俺は異世界に来たとき全裸だったんだ?」
lw´‐ _‐ノv
200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 00:42:02.68 ID:W7pfSox/Q
lw´‐ _‐ノv「ほら」
lw´‐ _‐ノv「ちょっとしたハプニングがあった方が面白いじゃん」
( ゚"_ゞ゚)「おい、あんた女だけど殴らせろ。軽くビンタするだけでいいから。なあ――」
*****
( ゚"_ゞ゚)「……」
目が覚めた。朝だ。
畜生、あのアマ。
203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 00:55:21.90 ID:W7pfSox/Q
*****
( ・∀・)「おい」
【+ 】ゞ゚)「ん?」
( ・∀・)「おつかい行ってこい、お嬢様と一緒に」
【+ 】ゞ゚)「……」
川*゚ 々゚)「行く!!」
昼時。
ずいっと財布を突き付けながら、モララーにおつかいを頼まれた。
嫌だったけれども、クルウの方がノリノリだし、断っても無駄なんだろうなあ。
205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 01:02:37.02 ID:W7pfSox/Q
――そういえば、初めて外に出たな。
屋敷を出ると、目の前に木々が連なっていた。
何でも、この屋敷と街は、林で区切られているのだそうだ。
川*゚ 々゚)「ちょっと歩けば、まちがあるよ!」
【+ 】ゞ゚)「ほいほい」
(*^ω^)オーン
ξ*゚⊿゚)ξ ツーン
ブーンとツンもお供する。
歩くより飛ぶ方が速いのだろう、ふわふわ浮かびながらついてきている。
――空も、太陽も、雲も、木も、土も。
俺の世界と何ら変わらない。
シュールと話しているときにも思ったが、しばらくここに住むのも、悪くないな。
*****
208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 01:22:20.50 ID:W7pfSox/Q
街に出ると、屋敷同様テレビで見るような光景が広がっていた。
煉瓦造りの建物と建物の間、その広く長い道に、簡素な店が並んでいる。
見たこともない野菜や果物。
吊されている、鶏――のような生き物――の肉。
市場みたいだ。
皆、元気に声を張り上げ、客を呼ぶ。
通りを歩く人々の中には、AAを連れている者もいた。
川*゚ 々゚)ノシ
テンションの上がりまくっているクルウが走り出さないよう手を引っ張りながら、
モララーに渡されたメモを見る。
買ってくるものと、それが売られている店への地図が書かれたものだ。
……文字は平仮名や片仮名と近い形をしているし、
文法や言葉の使い方も日本語と殆ど一緒だから、難無く理解出来る。
こういう辺り、異世界って感じがあんまりしないんだよなあ。
212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 01:43:14.45 ID:W7pfSox/Q
*****
肉、野菜、雑貨。
一通り買い揃えたし、あとは帰るだけだ。
ていうか帰りたい。
ξ*゚⊿゚)ξ⊃▽⊂(^ω^*)
ブーンとツンが、仲良く荷物を持ってくれている。
この和む光景はしばらく眺めていたいが、
それ以上に、人々の視線が心に来るのだ。
俺に向けられる、
「何あの仮面……」的な、そういう視線が。
らめえ、こんなの恥ずかしいよう。
【+; 】ゞ゚)「……クルウ、早く帰ろう。な」
川 ゚ 々゚)「やー!」
ああ、そんなにはしゃがないでくれ。
さらに視線が集まるじゃないか。
219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 01:59:08.89 ID:W7pfSox/Q
――そのとき、クルウの手が俺の手と離れた。
【+; 】ゞ゚)「あっ……!」
Σ(;^ω^)オン!?
Σξ;゚⊿゚)ξツッツン!!
川*゚ 々゚)「わーっ」
【+; 】ゞ゚)「クルウ、待て! おい!」
ばたばた、クルウが駆け出した。
しかも、よりによって狭苦しい路地裏へ入り込む。
【+; 】ゞ゚)「クルウ!!」
慌てて後を追うが、……くそっ、あいつ意外と足速い。
(;^ω^)オッオッオー!!
ξ;゚⊿゚)ξツンツンツーン!!
【+; 】ゞ゚)「おっ、あ、わっ」
石に躓き、危うく転びかけた。足を踏ん張って何とか倒れずに済んだが。
危ない危ない。顔面から――というより仮面を下にする形で転んだ日にゃ、
俺の顔は血まみれになってしまうだろう。
それぐらい、これは衝撃に弱い。
【+; 】ゞ゚)「――クルウ!!」
路地裏を抜ける。
すると、広場のような場所に出た。
川 ゚ 々゚)
人だかりが出来ている。
上等な服を身に着けた男達ばかりだ。
その中に、クルウが混じっている。
【+ 】ゞ゚)「クルウ?」
川 ゚ 々゚)「……おんなのこ」
クルウに歩み寄ると、彼女は、人だかりの先を指差した。
それを目で追って――俺の口は、ぽかんと開いたまま、閉じられなくなってしまった。
( ^Д^)「はいはいはい、押さない押さないー」
人だかりの前で手を振る、若い男。
その後ろに。
(*゚‐゚)(#゚;;-゚)ミセ*; -;)リ川д川(;、;*川
たった一枚の布を纏っただけの少女達が、足枷をつけられた状態で並ばされていた。
何人かは、ぽろぽろ、涙を零している。
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 02:36:00.44 ID:W7pfSox/Q
【+; 】ゞ゚)「……!!」
クルウの腕を引っ張る。
クルウは、ぼうっとした顔で少女達を眺めたまま、動こうとしない。
その間にも、若い男は大きな声で「商品」の説明をし始めた。
( ^Д^)「つい最近仕入れた、この娘! 隣国、シベリア出身だ!」
(;、;*川
( ^Д^)「元々おとなしい性格のようで、調教のし甲斐は無いかもしれないが、
間違いなく生娘! ちょいと値段は張るが、どうだ、買っていかないかい!」
【+; 】ゞ゚)「クルウ!」
川 ゚ 々゚)
恐らくクルウは、これが何をしているところなのか分かっていない。
だが、異様な空気だけは感じ取ったのかもしれない。
無表情のままに、
悲しげな少女達と、下卑た言葉を吐き出す男と、楽しそうな人々を眺めている。
224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 02:51:16.24 ID:W7pfSox/Q
(;^ω^)オンオー…
ξ;゚⊿゚)ξ ツンーン…
ブーンとツンも、困ったようにクルウの頭上に浮かび、ぐるぐる回っていた。
「――おんやあ」
【+ 】ゞ゚)「!」
_
( ゚∀゚)「そんな小っちゃな子供連れて、こんな所に来ちゃ駄目っしょー」
後ろから現れた男。
黒い、スーツのようなものを着ている。
スーツの男は、クルウを見下ろした。
_
( ゚∀゚)「それとも、何、その娘売りに来たの?」
【+ 】ゞ゚)「――……違う、迷っただけだ……」
_
( ゚∀゚)「あっそ」
227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 03:07:54.07 ID:W7pfSox/Q
スーツの男はクルウの顔と体をじろじろ眺め回すと、
懐に手を突っ込んで、小さな紙を取り出した。
_
( ゚∀゚)「なかなか可愛い子じゃねえか」
言って、俺に紙を渡す。
ナガオカ・ジョルジュ、という文字に見えた。
名刺か?
恐らく名前であろう文字の横には、住所らしきものが記されていた。
_
( ゚∀゚)「いつか、その娘を売りたくなったら是非ここへ。高く売れると思うぜ」
【+ 】ゞ゚)「……!」
頭が、顔が、かっと熱くなる。
名刺を握り潰して地面に放り、俺はクルウを抱え上げた。
【+ 】ゞ゚)「くたばれ糞野郎」
_
( ゚∀゚)「……く、」
ジョルジュとかいう男は気を悪くするでもなく、さも可笑しそうに笑う。
――殴り飛ばしたい衝動を抑え、その場を離れた。
*****
( ・∀・)「お疲れさん、遅かったな」
【+ 】ゞ )「……」
ブーン達から荷物を奪い取り、モララーに投げつける。
袋の中で、皿か何かが、がちゃんと音を立てた。
(;・∀・)「おふっ。……おい?」
(;^ω^)ξ;゚⊿゚)ξ オロオロ
【+ 】ゞ )「寝る」
(;・∀・)「あ、ああ? まだ夕方……」
【+ 】ゞ゚)「寝る」
(;・∀・)「……はいよ」
クルウの部屋に向かう。
俺の後を、クルウがぴったりくっついてきた。
人身売買なんて、俺の世界のどこかでも行われているだろう。
それでも、実際に見たことなんてなかった。
あんなにも悲しくて、哀れで、虚しい。
街の表側の明るさに比べて、何て暗いことか。
まるで、異世界だ。
気分が悪い。
眠って――起きたときに忘れられたらいいのに。
( ゚"_ゞ゚)
仮面を外し、ベッドの中へ。
川 ゚ 々゚)
クルウが、転がる俺の隣に座った。
小さな手で、頭を撫でてくる。
( -"_ゞ-)
( -"_ゞ-)「……お話の続きだ」
クルウの手が一瞬だけ止まり――また、俺の頭を撫で始めた。
( -"_ゞ-)「怪盗が怪盗になった理由を知る者はいない。
だが、彼にも一応、目的はあったんだ」
――怪盗は、とても貧しい男だった。
娘達とは比べようもないほどに。
怪盗は顔の右側に酷い傷痕があって、それを皆が気持ち悪がった。
そのせいで、満足に仕事も与えられなかったんだな。
金が無い。家も無い。服も一着だけ。
ゴミや、動物の死骸を食べて生きてきた。
268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 12:51:58.72 ID:W7pfSox/Q
ある日、怪盗――この時点では、まだ怪盗じゃないけどな。
怪盗……になる男は、道端に捨てられている大きな布を見付けた。
広げてみると、なかなか良い素材の服とマントだった。
近くに劇場があったから、恐らくそこで使われた衣装だったんだろう。
さらに、奇妙な仮面がマントに包まれていた。
それが丁度顔の右半分を隠す作りになっていたから、男は大層喜んだ。
醜い傷痕を晒しているよりは、変な仮面を着けていた方が良かったのさ。
劇場でやっていたのは、多分、オペラ座の怪人だったんだろうな。
……知らない? だよな。
持ち帰り、それを身に着けてみると、偶然にも男の体にぴったりでさ。
男は、何だか気分が高揚してきてしまった。
275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 13:03:01.58 ID:W7pfSox/Q
何でも出来るような、そんな心持ちになった。
その日の夜、男はマントと仮面を身に着けて、大きな屋敷に忍び込んだ。
宝石や金を抱えて、家主のもとに行く。
ひとしきり家主を馬鹿にした後、
男は――怪盗は、すぐさま逃げ出した。
金が欲しかったわけじゃない。
屋敷ってもんに入ってみたかっただけ。
宝石も金も、思い出っつーか、土産みたいな感覚で盗んだんだ。
だが、屋敷を出ると、それらが急に何の価値も無いように思えてきた。
こんなもの、奪ったって仕方がない。
宝石を砕き、金を燃やし、怪盗は普通の男に戻った。
――それから、怪盗は何度も同じことを繰り返した。
くだらないこととは分かっていても、
すっかり癖に――……
( -"_ゞ-)「……なっちまった……んだ……――」
*****
いつの間にか眠っていたらしい。
目が覚めると、外は真っ暗だった。
モララーとクルウは食事を済ませたというので、
1人、だだっ広い食堂で、冷めた晩飯を食べた。
(*^ω^)オンオンオー
ξ*゚⊿゚)ξ ツンツンツー
正しく言えば、ブーンとツンは俺を待ってくれていたのだが。
*****
291 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 13:23:23.92 ID:W7pfSox/Q
川 ゚ 々゚)「あのこたちは、さみしいの?」
【+ 】ゞ゚)
寝る準備をしていると、クルウがそんなことを訊ねてきた。
「あの子達」は、……あの、売られていた少女達か。
川 ゚ 々゚)「泣いていたよ。くるしそうだったよ」
【+ 】ゞ゚)「……お前が気にすることじゃないよ」
川 ゚ 々゚)「お母さんもお父さんも、あのこたちにはいなさそうだった。
たくさん人がいたけど、ひとりぼっちだった」
( ゚"_ゞ゚)⊃【+ 】
クルウを寝かせ、隣に潜り込む。
いつもはしないけれど、クルウの背に手をやり、くっついた。
( ゚"_ゞ゚)「話の続き」
川 ゚ 々゚)「……」
294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 13:37:41.77 ID:W7pfSox/Q
( ゚"_ゞ゚)「娘と使用人へ、話を戻そう」
――娘が使用人を想うように、使用人も、娘を愛おしく思い始めた。
だけど、年齢のこと、主人のことを考えると、
こんな感情捨てた方がいい。
使用人は娘と距離をとろうと思った。
でも、そんなの逆効果だった。
離れれば離れるほど、娘が気になって仕方がなくなる。
彼女のことで頭がいっぱいになった。
そしてそれは娘も同じ。
今、何をしているのか。
何を考えているのか。
自分をどう思っているのか。
互いの気持ちがどんどん大きくなる。
いつしか、それは我慢できないほどになって――
ついに、娘と使用人は、その心の内をぶちまけた。
296 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 13:44:29.37 ID:W7pfSox/Q
両思いと分かれば、ますます2人は加速する。
娘が「一緒に屋敷を出よう」と誘った。
金は、ある程度なら持ち出せる。
母も連れて、どこかへ逃げよう――
使用人は、娘の言う通りにしたかった。
だが、使用人は使用人、主人を見捨てるのは心苦しい。
しばらく考えさせてくれと答えた。
……それがいけなかった。
さっさと頷けば良かった。
主人が、娘と使用人の関係に気付いてしまったんだ。
299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 14:06:38.09 ID:W7pfSox/Q
主人――金持ちの怒りも露知らず、使用人は娘と逃げることを決めた。
母の体を気遣いながら準備を終えて……
娘達がいざ逃げ出そうとしたのと、
金持ちが娘と使用人を殺す決意をしたのと、
――怪盗が、この金持ちの屋敷に侵入したのは、
同時だった。
金持ちは剣を持ち、娘達を追い詰める。
使用人が娘を庇い、刺されようとしたところで。
それを隠れて見ていた怪盗が、飛び出した。
何せ、マントと仮面を着けている間の彼は、気持ちの上では無敵だからな。
心ってのは凄い。
貧弱な体のくせに、素手で金持ちと渡り合うんだ。
( ゚"_ゞ゚)「だけど――」
川 - 々-) クゥクゥ
( ゚"_ゞ゚)「……寝たか」
俺も眠りたいところだが、夕方に一度寝てしまったせいで、
まったくと言っていいほど眠くない。
クルウを起こさないよう、ゆっくりベッドから離れた。
少し、散歩でもしよう。
*****
真っ暗な廊下をそろそろと移動し、慎重に階段を下りる。
扉の鍵を開けようとしたが、
( ゚"_ゞ゚)(あれ?)
その鍵は、開きっぱなしだった。
不用心な。
そっと扉を押しやり、外に出る。
何かの生き物の鳴き声が、林の向こうから聞こえた。
この世界にも、月はある。
ブーンみたいに真ん丸な月が、夜空から光を注ぐ。
屋敷の周りを歩き、庭の方へ向かった。
( ゚"_ゞ゚)(……?)
ふと、林の中から声がした。
動物などではなく、人間が意図的に声を抑えて話すような。
その方向へ近付くと、ある木の下で、大人が2人対峙しているのが見えた。
大きな木の陰に隠れて様子を窺う。
彼らの会話の断片が、耳に入り込む。
( )「……した……、……る……」
( )「……もちろん……んな……」
――1人の顔が、月明かりに照らされた。
_
( ゚∀゚)
(;゚"_ゞ゚)「……!?」
あれは、あいつは、あの――
_
( ゚∀゚)「……クルウ、……、――」
何故あいつがここに居る。
何故あいつがクルウの名を口にする。
何故。
( ・∀・)
モララーが、あいつと話しているんだ。
308 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 14:47:15.13 ID:W7pfSox/Q
(; "_ゞ )
屋敷に戻り、クルウの部屋へ行った。
モララーとジョルジュが、何故一緒に?
あいつらは何の話をしていた?
――聞くのが恐くて逃げ出してしまったが、
頭の中では、どんどん嫌な想像が広がっていく。
風呂は一緒に入るくせに、寝るときはクルウを1人にさせるモララー。
モララーが何を思ってそうしているかは分からない。
深い意味は無いかもしれない。
だが、もしも、夜にジョルジュと会うことを考慮していたのなら。
クルウが寝入るまで彼女から離れられないのが、
モララーにとって、とても都合の悪いことだったのなら。
311 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 15:11:49.15 ID:W7pfSox/Q
……考えすぎだ。
そんなこと、有り得ない。
だって、モララーはクルウにあんなに甘いじゃないか。
掃除のときも、クルウに手伝う必要はないと言っていたし――
(; "_ゞ )「……じゃあ……今日は……?」
今日は。
モララーの方から、クルウと買い物に行けと言った。
そして――あのとき、ジョルジュは俺の後ろから現れた。
後ろは、街の表側に続く路地しかなかった。
つまり、あの「店」に帰ってきたところだったのだ。
どこから帰ってきた?
もしかしたら。
もしかしたら、この屋敷から帰ってきたんじゃないのか。
クルウや俺が居ては出来ない話をしたいがために、
俺達を、モララーが追い出したんじゃないのか。
315 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 15:26:04.85 ID:W7pfSox/Q
(; "_ゞ )(んな筈ないって。まさか、モララーが、)
部屋の前に来る。
――中が、騒がしい。
(;゚"_ゞ゚)「クルウ!?」
川 ; 々;)「ああ! わあああ! あああああ!!」
まさかと思い部屋に入ったが、クルウ以外には誰もいなかった。
ただ、クルウがわんわん泣き叫んでいる。
(;゚"_ゞ゚)「クルウ、どうし――」
川 ; 々;)「ああああっ! ばかあ! ばかあああ!」
クルウは、俺に枕を投げつけてきた。
顔に当たったそれは、そのまま床に落ちる。
(;゚"_ゞ゚)「クルウ……」
川 ; 々;)「なんで! なんで!!」
川 ; 々;)「なんでくるうを、ひとりにするの!!」
317 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 15:37:41.59 ID:W7pfSox/Q
(;゚"_ゞ゚)「……」
川 ; 々;)「おかあさんもいない! おとうさんもいない!
おともだちもいないの! くるうには、だれもいないの!」
ベッドの上に立ち、今度は布団を投げてくる。
布団は大して飛ばずに、床へ広がった。
川 ; 々;)「ひとりにしないで!
くるうのおともだちになってくれるなら、はなれないでよ!」
( ゚"_ゞ゚)
――なんて可哀相な子。
そんなにも、孤独なのか。
俺に縋るほど。
( ゚"_ゞ゚)「クルウ」
川 ; 々;)
322 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 15:59:47.07 ID:W7pfSox/Q
( ゚"_ゞ゚)「モララーと離れても、平気か?」
川 ; 々;)「……モラ、ラ……?」
( ゚"_ゞ゚)「もしかしたら、モララーと別れることになるかもしれない。
それでも、クルウは大丈夫か? それとも嫌か」
川 ; 々;)
川 ; 々;)「オサムといっしょのが、くるうは、しあわせ」
( -"_ゞ-)「……」
会ってから3日くらいしか経ってないくせに。
どうして、こんなにも俺に懐くんだ。
愛おしい。
なんて可哀相な子。
なんて可愛らしい子。
――使用人の心は、こんなものだったのだろうか。
――オォン!!
不意に、すっかり聞き慣れた鳴き声がドアの外からした。
――オン、オン!! オ……――
――ツンツ、ツン――ツン! ツンツン! ツン!!
ブーン達の鳴き声だ。
ブーンの声が途切れ、ツンの声が激しくなる。
( ゚"_ゞ゚)「……」
何か、不穏な気配がする。
机の上から仮面を取り、それを見下ろした。
川 ぅ々;)「……ブーン……?」
328 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 16:31:14.11 ID:W7pfSox/Q
「――うるせえな……」
一瞬の間。
それから、突然ドアが派手な音を立てて外れ、室内に倒れ込んできた。
【+ 】ゞ゚)「……!」
仮面を着け、クルウが投げた布団を羽織る。
そして、すぐに明かりをつけた。
暗い部屋に、一気に光が溢れる。
廊下に居た男は、目が眩んだようだった。
( ⊃∀・)「……っつ……」
_
( ∩∀-)「……」
モララー、ジョルジュ。
(メ´ω`)オ…
ξ#゚⊿゚)ξ ツン! ツン!!
彼らの足元で、元気なく横たわるブーン、怒るツン。
――そうか。残念だが。
【+ 】ゞ゚)「悪者だったか、モララー」
332 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 16:45:05.21 ID:W7pfSox/Q
ゆっくり足を踏み出しながら、モララーは言う。
( ・∀・)「……さっき、俺らの話を聞いてたろ」
【+ 】ゞ゚)「気付いてたのか」
( ・∀・)「屋敷に入っていくのを、たまたま見ちまったんだ」
_
( ゚∀゚)「……おやまあ。あんたら、昼の」
ジョルジュは俺とクルウを見て、目を丸くする。
モララーと接触していても、クルウの顔は知らなかったらしい。
( ・∀・)「昼?」
_
( ゚∀゚)「俺の『店』の前に迷い込んできたんだ」
( ・∀・)「ふうん。そうか。――じゃあ、お嬢様」
にこり。
モララーは、笑った。
( ・∀・)「あなたも、あのお店に行きましょうね」
川 ゚ 々゚)「……え……」
334 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 17:04:13.88 ID:W7pfSox/Q
【+ 】ゞ゚)「……お前、ずっと、そうするつもりだったのか」
( ・∀・)「そうだけど」
川 ゚ 々゚)「……なに……なんなの、モララー、どうしたの……」
( ・∀・)「他の使用人をクビにして、執事長を殺して、ガキと2人きりになって」
( ・∀・)「馬鹿みてえに甘やかして、俺を信用させて」
( ・∀・)「やっと。やーっと、実行に移そうと思ったのに」
( ・∀・)「……邪魔だな。あんた、ほんと邪魔だ」
あんた、と、モララーは俺を指差した。
――こいつは、ずっと金を狙っていたのだ。
スナオ家の財産、それと、クルウを売り払って得る金を。
その計画は、恐らく順調に進んでいたのだろう。
俺が現れるまで。
338 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 17:17:06.91 ID:W7pfSox/Q
【+ 】ゞ゚)「……お前――」
_
( ゚∀゚)「俺もいますよー」
【+; 】ゞ゚)「!!」
目の前にジョルジュが迫った。
その手に、光るものがある。
ナイフだ。
身を逸らし、何とか刃先が胸を掠る程度に留められた。
_
( ゚∀゚)「こんなに幼くて綺麗な顔したガキ、なかなか流れてこないからな。
俺としても、逃がしたくないんだ」
それにしても、と、ジョルジュが眉を顰めた。
_
( ゚∀゚)「何だ、その格好」
格好、とは、仮面と布団のことか。
たしかに端から見たら、かなりおかしな姿だろう。
【+ 】ゞ゚)「……生憎、マントが無くてな」
_
( ゚∀゚)「マント?」
341 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 17:34:53.30 ID:W7pfSox/Q
怪盗は、仮面とマントで強くなる。
俺は。
舞台の上じゃ、その怪盗役だ。
_
( ゚∀゚)「……ったく、気味悪い奴だな!!」
ジョルジュは、再びナイフを構えて向かってきた。
布団を翻し、それを避ける。
そのまま、右の拳をジョルジュの顔面に叩きつけた。
_
(; ∀ )「ぐっ!」
何度もやってきた動きだ。
金持ち役の奴ときたら暴れるのが好きらしく、
稽古中に台本を無視して好き勝手動いて攻撃してくるもんだから
俺も、ある程度の対応は覚えてしまった。
【+ 】ゞ゚)「――俳優なめんなよ」
346 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 17:51:44.63 ID:W7pfSox/Q
_
(#゚∀゚)「……てめえこそ……俺をなめんじゃねえ!!」
唾を吐き、ジョルジュがナイフを振りかぶる。
避けようとして――
川;゚ 々゚)「やあっ!」
クルウの方へ、意識を向けてしまった。
モララーに抱えられ、クルウが暴れている。
_
(#゚∀゚)「おらっ!!」
【+; 】ゞ゚)「!」
慌ててジョルジュの腕を掴もうとしたが、
それに構わず、ジョルジュは俺の上に被さってきた。
床の上に倒れ、縺れ合う。
少しの攻防の後。
【+; 】ゞ )
俺の腹部から勢いよく、赤い液体が吹き出した。
350 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:07:31.86 ID:W7pfSox/Q
ジョルジュは少し不思議そうな顔をしたが、
血にまみれたナイフを見て状況を理解したらしかった。
にやりと笑い、立ち上がる。
_
( ゚∀゚)「ざまあねえな」
【+; 】ゞ )「あ、が……っ」
川;゚ 々゚)「オサムぅ!!」
腹を押さえている俺の掌。
その下から、尚も血が溢れ続けている。
_
( ゚∀゚)「さあて、行こうか、お嬢ちゃん」
川;゚ 々゚)「オサム、オサム――」
( ・∀・)「はいはいおとなしくして下さい、『お嬢様』」
ジョルジュとモララーが、二人がかりでクルウを押さえつけた。
「うーん」とジョルジュが唸る。
_
( ゚∀゚)「お前、これに手ぇ出してないよな? 出してるなら値段下がっちゃうけど」
( ・∀・)「出すか阿呆。こんなガキに興奮しねえよ」
_
( ゚∀゚)「ふーん。そういう趣味の人には、たまんねえらしいがなあ」
( ・∀・)「理解できねえわ」
【+ 】ゞ )
本当、ね。
衝撃に弱いんだよ。
仮面を下にして転んだら、俺の顔面が血まみれで真っ赤になっちゃうし、
床に落としちゃ、床が汚れちゃうわけよ。
本当にさ、割れやすいの。
さっきまで仮面の内側にくっつけてた、この血糊入りの袋。
356 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:35:10.47 ID:W7pfSox/Q
――金持ちと戦う怪盗は、つい油断して、金持ちの攻撃を喰らってしまう。
剣先は怪盗の顔に突き刺さった。顔というより、怪盗の着けている仮面へと。
舞台では、仮面に切っ先がぶつかる衝撃で血糊が割れて、
仮面の下から血が滴る、という演出を予定していた。
だが、金持ち役の奴、ここぞというところで攻撃を外しやがったのだ。
おかげで血糊は割れずじまい。
テレビドラマの撮影と違って、舞台じゃNGを出してもやり直しは出来ない。
そのまま演技を続けるしかなかった。
だが――そのNGが、ここで役に立つとは。
モララー達がドアを蹴破るより前に、俺は仮面から血糊を取り外していた。
もしものときには目眩ましにでも使おうと思って。
いやあ、良かった良かった。
相手が、ろくに確認もしない馬鹿で良かった。
( ゚"_ゞ゚)「くたばれっつったろ糞野郎」
_
( ∀ )「――あ゙……!!?」
後ろから忍び寄り、後頭部に仮面を叩きつけた。
血糊は割れやすいが、仮面はかなり丈夫に作られている。
かなり鈍い音がした。痛そうだ。
直ぐさまジョルジュの顔を振り向かせ、顎に一発ぶちかました。
倒れたジョルジュを踏みつけて、ベッドからシーツを引っ張る。
そして、シーツでぐるぐる巻きにしてやった。
【+ 】ゞ゚)「いっちょあがり」
仮面を着け直し、ふう、と溜め息。
次は、あいつだ。
(;・∀・)「なっ……」
あいつ、モララーの口が、あんぐり開く。
予想外の出来事に慣れていないらしく、あからさまに呆けているモララー。
その腕から、クルウが逃れた。
(#・∀・)「……くっそ!」
俺とクルウ、どちらの相手をするか迷ったのか、
モララーの動きが、一瞬、完全に止まった。
そこに生まれた、隙。
(#メ^ω^)ブウウウゥゥゥウウウン!!!!!
ξ#゚⊿゚)ξ ツーーーーーーーーーン!!!!!
モフーン
≡≡≡≡(#メ^ω^)∀・#)
ブーンとツンが、モララーの顔と体に飛びかかった。
やだ羨ましい。
モッフモッフ
(#メ^ω^)∀・#)「こいつっ……!」
川 ゚ 々゚)「えい」
(#・∀・)「!!」
モララーが顔からブーンを引っぺがすと同時に、
クルウが、モララーに体当たりした。
その衝撃に吹っ飛んだブーンとツンが俺にぶつかる。気持ちいい。
――仰向けになる形で倒れたモララーの上にクルウは乗っかって。
川 ゚ 々゚)「おなか、じょきじょき、する?」
今さっき、モララーから逃げたときに戸棚から引っ張り出してきたのだろうか。
鋏を、掲げた。
377 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:28:53.16 ID:W7pfSox/Q
川 ゚ 々゚)「じょきじょきすると、綿が出て気持ちいいよ」
たしかにワタは出ると思う。
が、これはさすがに駄目だろう。
【+ 】ゞ゚)「ストップ」
川 ゚ 々゚)
モララーの顔を踏んづけながら、クルウの手を掴んだ。
【+ 】ゞ゚)「こんぐらいにしときな」
(; ∀ )「ぐっ、ぇっぶ!!」
クルウをどかして、俺は、モララーの鳩尾に踵をめり込ませる。
羽織っていた布団を脱ぎ、ジョルジュ同様、巻きつけることで動きを封じた。
【+ 】ゞ゚)「おつかれ」
(*メ^ω^)テレテレオッオッ
ξ*゚⊿゚)ξ テレテレツンツン
382 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:40:50.96 ID:W7pfSox/Q
【+ 】ゞ゚)「……この世界って、警察はあるのか?」
川 ゚ 々゚)「わるいひとを、つかまえるひと?」
【+ 】ゞ゚)「おお、あるか。どこに、どういう風に連絡とれば来てくれるんだ?」
川 ゚ 々゚)「……?」
【+ 】ゞ゚)「……クルウは分かんないか。おいモララー、教えろ」
( ・∀・)「誰が教えるか、自分が捕まるってのに」
【+ 】ゞ゚)「クルウ、じょきじょきしよっか」
( ・∀・)「教えまーす!!」
*****
――電話(っぽいんだけど何か違う機械)で警察を呼ぶ。
しばらくすると数人の屈強な男達がやって来て、
事情を聞き、モララーとジョルジュを連行していった。
この辺も俺の世界と大差無いな。
384 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:49:16.01 ID:W7pfSox/Q
ちなみに。
ジョルジュの「店」は、開く時間や場所がまちまちで、
警察もなかなか見付けられなくて困っていたという。
これからジョルジュに話を聞いて、「店」を潰しに行くそうだ。
商品である少女達は警察が保護して、孤児院(のような施設)に預けるとか。
一応は、丸く収まったというわけだ。
――そうして、俺とクルウが眠りに就いたのは、夜も明けそうな時間だった。
388 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:58:08.71 ID:W7pfSox/Q
*****
lw´‐ _‐ノv「ありがと」
( ゚"_ゞ゚)「ん」
やはり、来たか。
真っ白い部屋。シュール。
lw´‐ _‐ノv「モララーが悪い子とは思わなかった……。
小さい頃から私達に仕えてくれてたし」
( ゚"_ゞ゚)「人間、何考えてるか分かんないもんだ」
lw´‐ _‐ノv「そうだね」
( ゚"_ゞ゚)
lw´‐ _‐ノv
( ゚"_ゞ゚)「で?」
lw´‐ _‐ノv「やっぱ、さあ。今帰るのが、ぴったりじゃない?
ヒーローって感じで」
( ゚"_ゞ゚)「……そうかもな」
lw´‐ _‐ノv「っつーわけで、君を元の世界に帰すわけだけれども」
( ゚"_ゞ゚)「……おう」
lw´‐ _‐ノv「おk?」
( ゚"_ゞ゚)「いいよ。多少未練はあるけど」
lw´‐ _‐ノv「……クルウ、泣いちゃうよなあ」
( ゚"_ゞ゚)「だろうなあ」
lw´‐ _‐ノv「……」
( ゚"_ゞ゚)「……」
――たとえば。
クルウの中の俺の記憶を消すことが出来れば、その辺も解決するのだろうけど。
lw´‐ _‐ノv「お前天才か」
( ゚"_ゞ゚)「出来んのかーい」ズコー
lw´‐ _‐ノv「それぐらいなら、まあ」
( ゚"_ゞ゚)「親心ってすげえ……。
……でもさ」
lw´‐ _‐ノv「君がいなくなった後のクルウ? 大丈夫、大丈夫。
任せろい」
( ゚"_ゞ゚)「――あんたが言うなら、大丈夫だな」
lw´‐ _‐ノv「そうとも」
それじゃあ、準備を終えたら帰してあげよう。
そう言って、シュールは手を振った。
lw´‐ _‐ノv「本当にありがとう。クルウを守ってくれて。
ぶっちゃけ君がいなくても、私が警察召喚すりゃ終わってたけど」
最後に、そんな余計なことを付け加えながら。
*****
( ゚"_ゞ゚)
ξ*-⊿-)ξ川*- 々-)(‐ω‐*)
目を覚ます。
隣には、まだクルウが眠っていた。
ブーンとツンに挟まれている。
その頭を一撫でして、机から仮面を取った。
【+ 】ゞ゚)
――怪盗は、裕福な家に忍び込むのを楽しんでいた。
今まで見たことのなかった、豪華な家具や、嗅いだことのない、華やかな匂い。
そこはまるで、怪盗にとって、
異世界だったのだ。
410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:43:36.78 ID:W7pfSox/Q
だが――あの金持ちの家に侵入したとき。
そこで、男と女の、生々しい争いが繰り広げられていた。
怪盗が、街で散々見てきたような、醜い争いが。
怪盗は気付く。
こんな異世界にも、自分のよく知る光景が広がっている。
この世界は、決して、自分が触れることの出来ない遠い遠い世界ではないのだ。
なんだか馬鹿馬鹿しくなって。
でも、少し嬉しくて。
金持ちを何とか倒した怪盗は、娘と使用人に告げる。
――そういえば、この決め台詞を言っている最中に、
俺はここに来たんだったな。
412 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:45:37.98 ID:W7pfSox/Q
【+ 】ゞ゚)「ありがとう。異世界の人達。
君達に出会えて、私は嬉しい」
目眩がした。
ああ、元の世界に帰るんだ。
クルウがどうなってしまうのか、それを見届けられないのは残念だが。
シュールのことだ、最高に幸せな展開を、用意してあげるだろう。
******
【+ 】ゞ゚)
眩しい。
目の前に、大勢の人が居る。
舞台の上、か。
そうか、帰ってきたんだ。
――観客達は、皆一様に口を開け放っていた。
そして。
「――きゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
主に、女性の歓声――ではなく、悲鳴が轟いた。
そうなるよね。
全裸だもん。
(;´・ω・`)「!? オオオオオサムさん!?」
从;'ー'从「ちょちょちょちょっ!!?」
隣にいた娘役の女優が、足元からマントを取り、俺の体に被せてくれた。
俺はというと、その場にへたり込んで、しくしく泣いていた。
乙女のように、泣いていた。
シュール。あのアマ、もう一度死ねばいいのに。
俺を抱き起こしながら、金持ち役の男が叫ぶ。
(;´・ω・`)「――ちょっと! この子誰ー!?」
ξ*-⊿-)ξ川*- 々-)(‐ω‐*)
【+ 】ゞ;)「え?」
――とにかく、公演は中止となった。
当然だよね。誰か俺を殺せ。
劇団員いわく、
「唐突に、本当に唐突に衣装が吹き飛んだ」
らしい。
俺が悪いという空気ではないそうだ。
寧ろ、おばけでもいるんじゃないかと皆が怪談で盛り上がっている。
何人かの団員は、「オサムさん最高です」とげらげら笑っていた。
あいつら二度とメシ奢ってやらねえ。
とりあえず全裸事件については、俺の性格からしてわざととは思えない、
吹き飛び方からして不可思議な力が働いたようにしか思えない、ということで、
クビにはならずに済みそうだ。
謹慎喰らったけど。
まあ、謹慎ぐらいで済んで良かった。
それよりも。
ヾ川*゚ 々゚)ノシ「オサムーオサムー」
(*^ω^)オーオー
ξ*゚⊿゚)ξ ツーンツーン
こいつらだよ、こいつら。
( ´∀`)「この子は……」
【+ 】ゞ゚)「知り合いの娘です、初めて舞台を見て興奮しちゃったみたいですね」
( ´∀`)「なるほどモナ、それでいつの間にか舞台上に」
从'ー'从「何これ~」
⊃));ω;)オーン、オーン
(-_-)「やわらかくて気持ちいい……」
⊃ξ#゚⊿゚)ξ ツンツン! ツン!
【+ 】ゞ゚)「ぬいぐるみだ、最近のぬいぐるみって凄いよな」
从'ー'从(-_-)「なるほど」
うん。
良かった、この劇団全体的に阿呆で。
【+ 】ゞ゚)「……ショボン君、たしか睡眠薬持ってたよな」
(´・ω・`)「はあ、最近寝不足で」
【+ 】ゞ゚)「貸してくれ」
(;´・ω・`)「だっ、駄目ですよ自殺なんて!!」
【+ 】ゞ゚)「そうじゃねえよ……ちょっと医務室行ってきます」
川*゚ 々゚)「くるうもー」
ツ-ンξ゚⊿゚)ξ( ^ω^)オーン
睡眠薬を適量分けてもらい、医務室に移動する。
ベッドを借りる旨を告げ、横になった。
隣にクルウ達がくっついてきたが、それどころではない。
俺は目を閉じ、眠りを待った。
*****
lw´‐ _‐ノv「はっ!」
【+ 】ゞ゚)「あっチックショ!!」
出会い頭にぶん殴ろうとしたが、華麗に躱されてしまった。
lw´‐ _‐ノv「さてさて。何かねオサム君」
【+ 】ゞ゚)「……全裸のことは、もう訊かない。
が、クルウ達はどういうことだ」
lw´‐ _‐ノv「それがさあ、聞いてくれよ」
【+ 】ゞ゚)「聞かせてくれよ」
lw´‐ _‐ノv「私さ、君を帰すときに、ついでに
『クルウが一番幸せになれる展開を』って念じたわけよ」
【+ 】ゞ゚)「……ああ」
lw´‐ _‐ノv「そしたらこんなことに」
【+ 】ゞ゚)「分かんないよ……私、あなたの言ってること分かんないよ……」
――要するに。
シュールは、「クルウにとって一番幸せになれる展開」を
彼女にプレゼントしようとしたらしい。
その「展開」の内容までは、シュールは決めていなかった。
例の、神様か、世界か、そういう壮大な何かに選ばせた。
そして、この結果である。
つまりクルウの『一番幸せになれる展開』は、
俺についてくることだったわけだ。
lw´‐ _‐ノv「来ちゃったもんは来ちゃったし。
クルウのこと、頼んだぜ」
【+ 】ゞ゚)「……そりゃ、出来るだけ頑張るが……。
なかなか難しいと思うぞ」
lw´‐ _‐ノv「手助けは私も精一杯する。
――だーいじょうぶ、心配すんな」
lw´‐ _‐ノv「何せ、もう、クルウの幸せは約束されたようなもんだし」
【+ 】ゞ゚)
【+ 】ゞ-)
――はいはい。たしかにそうですね。
なら、文句も言えねえわ。
こっそり喜んじまってる時点で、俺も賛成してるのと変わらないしな。
*****
【+ 】ゞ゚)
目が覚めた。
頭の中に靄が広がっている。
まともに思考出来たのは、何だか暖かいな、ということだけ。
川*゚ 々゚)
ξ*゚⊿゚)ξ(*^ω^)
【+ 】ゞ゚)
【+ 】ゞ゚)「重いよ」
全員で乗りやがって。
起き上がり、クルウの頭を撫でる。
川*゚ 々゚)「?」
【+ 】ゞ゚)「……これから、色々大変だろうなあ」
戸籍とか学校とか、本当に色々。
だが、まあ、シュールも手伝ってくれるらしいし。
何より、クルウは幸せになれるんだし。
大丈夫だろう。
……楽観的に考えなきゃ、やってらんねえよな。
川 ゚ 々゚)「オサム、大変?」
【+ 】ゞ゚)「んー?」
川 ゚ 々゚)
【+ 】ゞ゚)
【+ 】ゞ゚)「……お前が喜ぶなら、大した苦労じゃないよ」
468 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 22:20:57.79 ID:W7pfSox/Q
【+ 】ゞ゚)「『おともだち』で、家族だからな」
川 ゚ 々゚)「……」
川*^ 々^)「――えへへぇ」
【+ 】ゞ゚)は異世界で出会ったようです
ξ*゚⊿゚)ξおわり(^ω^*)
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この記事へのコメント
1. Posted by あ February 16, 2011 21:38
