April 30, 2011
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 幕間γ
(,,’」’)「これは、喜多様!失礼ですが、通行証は?」
( `v´)「……」
王城の門を護る衛士が、仰々しい声で定型の言葉を口にする。
これらの一通りの入城手続きは、面倒ではあるものの、決して無視することはできない。
言われた喜多の方は傍らに控える取り巻きに顎で指示を下した。
「ハッ、こちらにございます」
(,,’」’)「喜多様、および部下の四名。客人。……この客人とは?」
( `v´)「この方だ。故あってフードを取ることはできないが、こうして通行証がある限り問題なかろう?」
喜多の物言いに、衛士は眉根を寄せた。
無理もないだろう。たとえ通行証があるとは言え、ここはヨツマが誇る王城。
一国の生ける象徴の住まわう城に、身体全体をフード付きの外套で覆い隠したような不審人物をおいそれと通すわけにはいかない。
(,,’」’)「し、しかし……」
454 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:07:55 ID:AKi63ZcEO
(ΘωΘ)「構いません、お通ししなさい」
迷える衛士に助け舟を出したのは、城門前のベンチに腰かけていた白髪交じりの男性だった。
黒い直杖を突きながら、身なりの良い初老の彼は一行に微笑みかける。
(,,’」’)「は、殊能執務長がそうおっしゃるなら……直ちに門を開きます」
( `v´)「ふむ、御苦労」
豪奢な装飾の施された巨大な扉が押し開けられた。
十年ぶりに見た前庭の光景を、全身をコートで纏った客人は無感情な瞳で一瞥した。
複雑に配置された採光窓や鏡石からもたらされた光が、植えこまれた庭木と戯れる。
門に施された結界を潜ると、空気が一変する。
ヨツマ国王・バチカーヌの──王家デクレアラの持つ親和能力の気配に。
……『太陽の宮殿』。設計段階で付けられていた、それがこのヨツマ王城の名前だという。
樹海を征く者のようです 幕間γ
455 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:09:58 ID:AKi63ZcEO
(ΘωΘ)「……さて。お疲れ様です、喜多。そして……」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
(ΘωΘ)「お久しぶりです、ツン第一王女」
ξ゚⊿゚)ξ「ん」
ホールを抜けて客間に通されたツンは全身を包むコートを外し、周囲を見渡した。
数人の執事と王族騎士、いずれも十年来の忠義者揃い。
ツンが王家の世継ぎである王女、デレ・デクレアラと瓜二つである事に驚く者はいない。
ξ゚⊿゚)ξ「殊能さん、私はもう王女じゃないわ。知っているでしょう?」
(ΘωΘ)「これは失礼を、つい十年同じ気持ちになっておりました」
ξ゚⊿゚)ξ「……浴室を貸して。王にお会いするには汗の臭いが強すぎるから」
(ΘωΘ)「はい、直ちにご案内いたします。……ツン様」
456 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:13:02 ID:AKi63ZcEO
……
ヨツマ王家・デクレアラ家は遥か古来に起源を取るとされる、強力な親和能力を持つ。
それは言うなれば──『奇跡』の力。
ヒトに与えられた親和の力の、その究極とも称しうる力。
その力が振るわれた事は、過去数百年の歴史を遡っても一度として無い。
ただそこに“在る”だけで、人々を導くに足るだけの、象徴の力。
偶像としてしか在り得ず、しかしながら確かな余韻を有する、矛盾を超えた力。
デクレアラ家の長い歴史の中を、その力は代々一人ずつの後継者を選び、渡り続けてきた。
所有者は全て──当代・バチカーヌ王も含め、すべて五色の親和を有してきたという。
……十六年と半年ほど前の夜、まだ真新しかった王城に産声が響き渡る。
長く待ち焦がれられていた世継ぎに、王城ばかりでなく市民全体が沸き立った。
しかし同時に、王家はある問題に直面した。
城に響き渡った産声は、一つではなかったのだ。
457 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:15:20 ID:AKi63ZcEO
通例ならば王家の第一子のみが五色の親和を有し、先代が亡くなると“奇跡”が発現する。
誕生した瓜二つの姉妹……母親に似た淡い金髪の赤子のいずれがその資格を持つか、わからなかった。
デクレアラ家はそれまで、家督に関する余計な争いを避けるため、一人ずつしか子を為さなかった。
御子が夭逝する心配はない。五色の親和を有する時点で“奇跡”の加護は約束されている。
二人目以降の御子が生まれた場合その存在は公開されず、親の顔を覚えるより早く騎士団に預けられた。
それらの御子は例外なく高い親和の才能を持ち、騎士として最高級の栄光を受けている。
この代は、慣例を解釈し、生まれた御子が双子である事を隠した。
外向けには姉妹の内の一方を随伴し、その間はもう一方を城内に置く。
そうしてついに姉妹は五歳を数え、城付きの歌姫が“歌”を聞かせてみせる日が来たる。
結果は明白だった。
姉が聞き取ったのは、白の一節のみ。持っていた親和は、白一色のみ。
妹が聞き取ったのは、五つ全ての節。持っていた親和は、世界の全て。
かくして王家の継承者は定まった。
では、選ばれなかった一方はどうなっただろう?
458 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:17:29 ID:AKi63ZcEO
国王は酷く思い悩んだ。
これは過去の慣例とはまるで話が違う。物心の付かないうちに引き剥がされるならばまだ良い。
だが、既に言葉も文字も覚えたこの子は、両親に突き放された時、どれだけ深い絶望を味わうだろう?
では王城に留めるか。いや、それは出来ない。
象徴として国を支える国王が慣習を放棄できるはずがない。
これ以上存在を隠し通そうとするのも無理だ。娘を一生涯に渡り城に監禁し続ける訳にはいかない。
……やがて、憔悴しきった王は浅薄で残酷な結論を下した。
姉妹はそれぞれ、ツン・デクレアラ、デレ・デクレアラという。
459 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:21:56 ID:AKi63ZcEO
……
ξ*゚⊿゚)ξ「王女は?」
(ΘωΘ)「はい。デレ王女は現在、御部屋で御休みになっておられます」
ξ*゚⊿゚)ξ「案内して」
(ΘωΘ)「……はい、承知いたしました」
殊能は恭しく頭を下げ、ツンを先導して廊下を進む。城内の様子はツンがかつて住んでいた頃とまるで変わらない。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
一歩一歩廊下を進むたびに、ツンの心は少しずつ重くなってゆく。
次々と浮かぶ後ろ暗い感情を、ツンは必死で打ち消した。
(ΘωΘ)「ツン様……ツン様?」
460 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:25:53 ID:AKi63ZcEO
ξ;゚⊿゚)ξ「……ん、何?」
(ΘωΘ)「到着いたしました、が……大丈夫ですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「……ええ、もちろん」
(ΘωΘ)「むぅ、それならよろしいのですが……」
……幾つかの角を曲がり、階段を上った先にある大きな木の扉。
殊能は呼び鉦を数度鳴らし呼ばわった。
(ΘωΘ)「王女。御休みの所、失礼いたします」
『……はい、何の用ですか?』
(ΘωΘ)「御客人を──下級騎士ツン・デクレアラ様をこちらにお連れいたしました」
『!?すぐに入りなさい! ああ、でも、やっぱりちょっと待って!』
へぇ、デレもこんな慌てた声を出すんだ。
ツンの頭の冷えた部分が、場違いな感想をもたらした。
殊能が苦笑しながら「失礼します」と断り、重いドアを押し開ける。
461 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:33:00 ID:AKi63ZcEO
ζ(゚ー゚;ζ「うわ、殊能さん!? ……それに、」
(ΘωΘ)「落ち着いてください。なにもあなたを食う化け物を連れて来たんじゃありませんよ」
王女の部屋はもともと、十年前に亡くなった王妃が使っていた部屋だった。
高級そうな丁度のそろった部屋の奥、天蓋付きのベッドに身を起こした少女がこちらを見返してくる。
まるで鏡でも見ているような、不思議な感じがした。
一つ大きく深呼吸をした後、努めて落ち着いた様子で少女は言う。
ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶりです、ツン様。お待ちしていました。……このようにお見苦しい姿で申し訳ありません」
ξ゚⊿゚)ξ「……お久しぶりです。……、王女、あの……」
喉から出かかった単語は声になる直前に締め付けられ、くぐもった音に変わる。
ツンはさらに何かを言おうとしたが、言葉が見つかからなかった。
462 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:35:12 ID:AKi63ZcEO
(ΘωΘ)「……それでは私はこれで失礼致します。王の御薬の時間に改めてデレ王女を御迎えにあがります」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、御苦労様です」
ξ゚⊿゚)ξ「……!」
立ち去り際、殊能はツンに軽く微笑みかける。
肩にこもっていた力がすっと抜けていったように感じた。
463 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:38:11 ID:AKi63ZcEO
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「……相変わらずね、殊能さんも」
ζ(゚ー゚*ζ「! ええ、彼にはずいぶん助けられています」
ξ゚ー゚)ξ「……ふふ、いつまでそんな他人行儀な喋り方してるの」
ζ(゚、゚*ζ「う、だって……」
デレ・デクレアラ。
ツンが微笑みかけると、ヨツマの王女は困ったように顔を赤くする。
464 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:42:38 ID:AKi63ZcEO
ベッドのそばに歩み寄り、ツンはデレの頭を撫ぜた。
「とにかく元気そうで良かったわ、……、」
言いかけた妹の名は、またも口に出る直前に音を無くす。
ツンの心に施された三つ目の枷だ。
──話せるだけマシか。
ツンは苛立ちを抑えるべく自分に言い聞かせた。
デレがツンに心配そうな目を向ける。
「……お姉様、まだお父様の呪いが……」
「そうね。とりあえず話せるだけ良いわよ」
465 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 03:48:11 ID:AKi63ZcEO
ツンの父、現ヨツマ国王は、ツンを騎士団に追放した際に幾つかの呪いを掛けた。
一つは、王家の境界を踏み越えることを禁ずる呪い。
一つは、王家の関係者との会話を禁ずる呪い。
一つは、王家の者の名を口に出来なくなる呪い。
王城に入るまで、ツンはこの三つの呪いへの対処法を探さざるを得なかった。
一つ目は防呪に特化した外套を纏うことでクリアした。
二つ目はデクレアラ家の“奇跡”が持つ余韻、王家の結界がクリアしてくれた。
三つ目は、どうにもならなかった。今もツンはデレ王女やバチカーヌ国王の名を口に出せない。
……これらの呪いは全て、王がツンの身を案じて掛けたものだ。
隣国ラウンジとの関係が悪化の一途を辿っていた当時、王家の出身という素性は知られるだけでも危険だった。
幼いツンにとってこれらの制約は確かに重い苦しみだったが、それだけならば耐える事が出来た。
彼女の心が決壊したのは、王が己の失敗に気付いたのは、それから一年ほど過ぎた後。
美貌と聡明さで知られたヨツマ王妃が胸の病に倒れ、帰らぬ人となった時だ。
466 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:07:47 ID:AKi63ZcEO
ξ゚⊿゚)ξ「それで……お父様の御様子は?」
ζ(゚ー゚*ζ「……うん。今は良いけど、いつ意識が無くなってもおかしくないって」
ξ-⊿)ξ「……そう」
ツンは大きくため息を吐いた。
結界の効果が空間に満ちる精霊の密度が不安定になっている辺り、父の具合が良くないのはよく分かる。
ξ゚⊿゚)ξ「……それじゃ早速だけど、服借りるわね」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、ちょっと待って」
デレはベッドサイドの呼び鈴をカラカラと鳴らした。
隣の部屋に控えていた年老いた侍女が、数秒とおかずに現れる。
これも、ツンの顔見知りだ。
467 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:12:07 ID:AKi63ZcEO
リコ-○-○)リ「はいはい、どうなさいました?」
ζ(゚ー゚*ζ「お父様に会います、“私の”着替えを用意して下さい。“三分以内に”お願いしますね」
リコ-○ー○)リ「……承知いたしました、“三分以内に”“王女の”着替えをお持ちいたします」
含みありげに笑い、侍女は元の部屋の奥に戻る。
……着替えを取りにゆくだけで三分もかかるはずはない。
老侍女が消えると同時にデレは自分のネグリジェに手を掛け、脱ぎ捨てた。
ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、そっちの服を貸して。時間が無いわ」
ξ゚⊿゚)ξ「……なるほどね。って、髪はどうするの?」
申し訳程度に布団で身体を隠すデレに、ツンは自分の脱いだシャツを手渡した。
代わりに受け取った服に身体を通し、次いでパンツに手を掛ける。
……言ってみれば、これは儀式のようなものだ。
城の全員を騙した気分になる、一つの馬鹿祭り。
ふと、子供の頃二人で悪戯をしていた頃が思い出された。
……何度試してみても、あの人だけは騙せなかったっけ。
468 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:14:44 ID:AKi63ZcEO
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、後で整えて貰えば」
ξ*゚ー゚)ξ「……無計画ね」
ζ(゚ー゚*ζ「いいの、リコ婆なら察してくれるから」
ζ(゚ー゚*ζ「そんな事よりお姉ちゃん、この服、胸の所キツい……痛ッ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「……」
ζ(゚、゚*ζ「もう、王女が叩かれるのなんて初めてだよ……」
──うるさい。
469 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:21:04 ID:AKi63ZcEO
……
リコ-○ー○)リ「御客人。王女はお召替えなさいますので、しばし御退室願えますかな?」
ζ゚⊿゚)ζ「『ええ、わかったわ』」
ツンに扮したデレが扉を開け、廊下に出る。
侍女はツンの背中にまわり、簡素なドレスを着付けを始めた。
身体の線が浮き出る深紅のワンピース。背中は大きく開き、胸元にはゆとりがある。
それにしても、ツンは考える。
この服一枚でさっきデレに渡したシャツが何十枚買えるだろう。
リコ-○-○)リ「……さて、デレ王女。婆はこれより独り言を申し上げます。御返事は下さいますな」
ξ(゚ー゚*ξ「……?」
470 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:21:57 ID:AKi63ZcEO
リコ-○-○)リ「……この国に王女様とその姉上が御誕生なさってから、気付けばもう十七年。
見守って参りました我々は、僭越ながら御二方を己の孫のようにすら思っておりました」
ξ(゚、゚*ξ「……」
リコ-○-○)リ「私ばかりじゃございません。国王をはじめ、この城の全員が王女様を愛しております。
……王女とはもちろん、影姫として騎士団に放逐されてしまいました王女様の姉上の事もです」
ドレスの背紐を網上げていた手を止め、老侍女はツンの顔を覗き込んだ。
リコ-○ー○)リ「少しばかり離れていただけだと言うに、本当に御立派になられましたなぁ……」
ξ(゚、゚*ξ「……そう」
リコ-○ー○)リ「さて、これで……あら?」
471 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:22:50 ID:AKi63ZcEO
侍女はツンの身体を見返し、一部で目を止める。
顔も背丈も瓜二つのツンとデレの間には、大きな壁がある。
ξ(゚、゚;ξ「……」
リコ-○ -○)リ「ふむ。残念ながら、こちらはさほど御立派におなりでなかったようで……痛ッ!」
ξ(゚ー゚#ξ
_,
リコ-○ -○)リ「全く、王女に叩かれるなんぞ初めてです……」
──うるさい。
472 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:31:06 ID:AKi63ZcEO
……
ζ(゚ー゚*ζ「『さて、お父様が御薬を御召しになる時間ですので、私は少々席を開けます。
私の部屋を開放いたしますので、しばしごゆるりとお寛ぎ下さい』」
ζ*゚⊿゚)ζ「『ありがとうございます、デレ王女』」
侍女に髪型を整えさせると、ツンとデレはほとんど見分けが付かない。
青いドレスに身を包んだデレの方が、今はツンだ。
(ΘωΘ)「さて、それでは参りましょう」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
ツンの格好をしたデレが、階段の上から殊能とツンを見送る。
表情を努めて柔らかくし、ツンはデレを装い始めた。
廊下を更に進み、やがて玉座のほど近くの扉の前で殊能は立ち止まる。
ζ(゚ー゚*ζ「……」
(ΘωΘ)「失礼します。デレ王女がいらっしゃいました」
473 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:35:59 ID:AKi63ZcEO
「……どうぞ、お入りください」
しわがれた声が答え、殊能は扉を押しあける。
声の主は治療師を示す白衣で、ツンとの面識は無い。
部屋には他に十数人が居た。王族騎士内藤ホライズン、市議会議長荒巻スカルチノフ、“ツン”が知らない人がたくさん。
そして、ベットに寝込むやせ細った男──
(_ -_v-)
国王、バチカーヌ・デクレアラ。
ζ(゚ー゚*ζ「失礼します」
( ^ω^)「……?」
/ ,' 3「……!」
| @Θ@)「デレ王女、王は今は幾分か落ち着いておられます。あまり刺激を与えてはなりませんぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、わかっています」
ツンはバチカーヌのもとに歩み寄り、その手を握った。
閉ざされていた王の両目が細く開かれる。
474 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:44:45 ID:AKi63ZcEO
ζ(゚ー゚*ζ「……お父様」
(_´_v`)「デレ、か……」
バチカーヌの目は既に殆ど見えていないという。
いくら父親と言えども、声だけでは姉妹の区別などつかないだろう。
バチカーヌが王妃と同じ病に罹ったと知ると、デレはすぐにツンに連絡を取ろうとした。
しかし、それを押しとどめたのは他ならぬバチカーヌ自身だ。
……王妃が亡くなった時、ツンはまだ七歳だった。
国王の最愛の妃が急病に倒れる。その知らせを聞くや、幼いツンは王城に走った。
己の身体に掛けられた呪いの事は知識としては知っていた。しかし実際に発動させた事は無い。
ツンに掛けられていた呪いは、彼女が思っていたよりもずっと残酷だった。
王家の結界は城の周縁すべてに張られていて、一歩どころか指先一本触れただけで激しく少女を拒絶する。
王の呪いは身体を這う無数の文字の形で顕現し、少女に壮絶な苦痛を与えた。
それでも、少女は諦められなかった。
全身に電流が流されるような苦しみを何度も何度も受けながら、それでも結界に挑み続けた。
いつか必ず再会できる。
少女を支えていた希望が、掻き消されないように。
475 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:47:13 ID:AKi63ZcEO
胃液をぶちまけ、幾つもの擦り傷を作り、何度も血を吐き……彼女が目覚めたのは、薬方院のベッドの上だった。
王妃が亡くなった事を迎えに来た世話役の王族騎士が悲しみにくれた声で告げた時、少女の感情は壊れた。
この日少女が、父王がどれだけ心を痛めたか、はかり知る事など出来ないだろう。
……十年の月日が流れ、次はバチカーヌが昏睡状態に陥る。
デレは結局、密かに人を送ってツンに父王の病を告げた。
そしてツンが出した条件は、自分がツン・デクレアラだと告げずに父王に会う事だった。
ζ(゚ー゚*ζ「……はい、デレです。御身体の具合はいかがですか?」
476 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:51:17 ID:AKi63ZcEO
(;_´_v`)「相変わらず、だ……。デクレアラの“奇跡”は慈悲を掛けているらしい……が……げほ」
ζ(゚ー゚;ζ「!いけません、身を起こしては……! さ、蜜薬です。御召しになって下さい」
卓に用意されていた蜜薬を匙に取り、身体を起こしかけたバチカーヌの口元に運ぶ。
王は少し驚いた顔をした。十秒、二十秒と目を瞑り、やがてゆっくりとツンの差し出した匙を口に含む。
(_´_v`)「……はは、お前は相変わらず優しいな。顔も見えないのが悔しくてたまらないよ」
ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、私の心得など、お父様の御威光とは比べるべくもありません。
ですから、どうか一日も早く快復する事のみを御考え下さい」
(_´_v`)「……私はもう助かるまい。これはそういう類の病だろう? 自分の身体の事くらいは分かるさ」
何も、言えなかった。
彼が長くない事など、誤魔化し様が無いほどに明白だ。
477 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:54:00 ID:AKi63ZcEO
(_´_v`)「思い返せば、私などは真につまらない人間だった。五十年も生きたのに、未練が尽きん」
ζ(゚-゚*ζ「ですが、お父様は……!」
言いかけたツンの手を、バチカーヌの手が握り返した。
黙って聞いてくれ。そう頼まれている様な気がして、ツンは口を噤む。
(;_´_v`)「……悔しいよなあ、本当に。私の身体は、私の残してきたものすら振り返らせてくれんのだ」
王はそこで苦しそうに言葉を切る。
彼の呼吸が整うまで、ツンはじっと待ち続けた。
(;_´_v`)「国外の事は荒巻が何とかするだろう。国内の事はモナーが居れば問題ない。
私の心残りは、……お前達、だ」
ζ(゚、゚*ζ「私達……」
478 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 06:57:07 ID:AKi63ZcEO
(;_´_v`)「王家は……ヨツマの、庇護の象徴だ。民を護る最大の城壁であらねばならん。
……十六の若さでその重荷を担うのは、どれだけの苦難を伴うだろうか」
ζ(゚、゚*ζ「……」
(_´_v`)「もう十年も前……私はその重さに耐えかね、保身に走り、娘を捨てた。
五つ六つになったばかりの娘を騎士団の寮に放逐し、この城への出入りの一切を禁じ、
母や妹の名を呼ぶ権利すらも呪い取った。その頃の事は、お前も覚えているだろう?」
ζ(゚、゚*ζ「……はい。ですが、お父様はお姉様に対して常に御慈愛を……」
(;_´_v`)「やめてくれ! 私がツンにしてやれた事など、何一つ無い! それどころか私は……ごほッ……
……私は、あの娘に更なる重責を与えようとしているのだから」
ζ(゚ー゚*ζ「重責……?」
予想外の言葉に、ツンは思わず背中をさする手を止めた。
バチカーヌはゆっくりと呼吸を整える。
479 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 07:00:51 ID:AKi63ZcEO
(;_´_v`)「……私が死ねば、必ずやラウンジはこのヨツマに戦を仕掛けてくる。
連中の戦争は、どこまでも手段を選ばない。恐らく、真っ先に新たな女王を狙うだろう」
暗殺。
ツンの脳裏に、その二文字が浮かび上がる。
半ば盲いた老王の目が、まっすぐにツンを射抜いた。
黄金期のヨツマを支えた名君の、老人とは思えぬ眼光に、ツンは思わず息をのむ。
(;_´_v`)「デレを、あの娘を失う訳にはいかぬ。……必ずあの娘を護る盾が、必要なのだ!
“奇跡”が形になるまでは決して……ごほ、げほッごほッ!」
ζ(゚ー゚;ζ「ッ! 少し御休みになって下さい! この御話は後日改めてお聞きしますから……」
(;_;´_v`)「いいや、今でなければ駄目、だ。私は……他ならぬお前に、聞いてほしいのだから」
480 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 07:08:14 ID:AKi63ZcEO
一層激しく咳き込んだ王に顔色を変えたのはツンばかりではない。
荒巻やブーンをはじめ、控える治療師達もバチカーヌに駆け寄ろうとした。
しかし、バチカーヌは手を伸ばして治療師を遮り、全員を追い返してしまう。
(;_´_v`)「私が掛けた呪いは、私が死ぬと同時に消滅する。お前達を裂くものは何も無くなる。
……お前達二人は互いに協力しあって生きろ。足りない部分はそこのブーンが補うだろう」
ζ(゚-゚;ζ「わかりました……わかりましたから!」
| @Θ@)「王女、これ以上は……」
治療士がデレに声を掛ける。
王を興奮させるな、そう言うのだろう。
ζ(゚-゚*ζ「……ええ、わかっています。お父様、私はそろそろ失礼します」
(;_´_v`)「……ならば。最後にただ一つだけ、私の人生を自慢させて欲しい」
立ち上がりかけたツンに、バチカーヌは震える両手を伸ばした。
身を乗り出した娘の両肩を死の淵の父が抱き寄せ、その淡い金髪を皺だらけの細い掌が撫でる。
481 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 07:11:05 ID:AKi63ZcEO
居並ぶ人々には聞き取れない程度の、小さく掠れた声。
ツンの耳元で、王は囁く。
(;_´_v`)「やっと、頭を撫でてやる事ができたなぁ。これで心残りは何一つ無くなった。
お前達姉妹は、昔から何度も悪戯をしてくれたよ。顔が同じなのを良い事に、服や髪形を交換したりして。
……しかし、私は一度だって、お前達を間違えた事は無いんだよ。……なぁ、ツン」
(_´_v`)「お前達が私の、一番の自慢だ」
……
482 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 07:16:38 ID:AKi63ZcEO
ξ(゚ー゚*ξ「……もう帰っちゃうの、お姉ちゃん」
ζ゚⊿゚)ζ「ええ、いつまでも同じ顔が二つあっても皆は困るでしょ」
ξ(゚、゚*ξ「私は別に良いと思うんだけどなぁ、勝手に困らせちゃえば」
ζ;-⊿-)ζ「本当にいつまでも悪戯ッ子ね、あなたは」
ξ(゚、゚*ξ「むー、それじゃお姉ちゃんは違うって言うの?」
ζ-⊿゚)ζ「……悪かったわ。悪戯ッ子なのはあたし達、かな」
ξ(゚ー゚*ξ「……えへへ」
ζ゚⊿゚)ζ「ねぇ、……、」
ξ(゚ー゚*ξ「ん?」
ζ゚⊿゚)ζ「あたし、騎士なのよ。まだ下級だけど、盾捌きならだれにも負けないんだから」
ξ(゚ー゚*ξ「……!」
ζ゚ー゚)ζ「もしあなたが危なくなったら、すぐに駆けつけるからね」
ξ(゚ー゚*ξ「うん……!」
ζ゚⊿゚)ζ「じゃあまたね、困った事があったら何時でも呼びなさい」
ξ(^ー^*ξ「うふふ、今度は私が遊びに行くよ」
ζ;゚⊿゚)ζ「ヤメテ。忘れたの? お父様の呪いで、外では王家の人と話せないんだってば」
ξ(゚、゚*ξ「あ、そっか。それじゃあ……それじゃあ、ええと、」
ζ-⊿)ζ「ま、いいじゃない。またね、で」
ξ(゚ー゚*ξ「……そだね。それじゃあ、またね、お姉ちゃん」
ζ-⊿)ζ「ん」
483 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 07:19:39 ID:AKi63ZcEO
真白の騎士と虹色の姫の物語は、もうしばらく続く。
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 幕間γ 了