February 25, 2011

( ФωФ)の一番長い日のようです

1 : ◆4br39AOU.g:2011/02/20(日) 02:58:18 ID:zB5oITV2O

この作品はブーン系音楽短編フェス参加作品です

さだまさしさんの親父の一番長い日をモチーフにして書かせていただきました

尚、諸般の事情により、一部書きためが完成していないままの投下になりますので、かなりスローペースになることが予測されます
もし朝7時までに投下が終わらなかった場合、再開は21日夜になると思われますので、ご了承をば

それではどうぞ





2 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:00:19 ID:zB5oITV2O
それは、小学生の長男……ホライゾンと街頭テレビでプロレスを見ていた時のことだった。

その時代の多くの家がそうであったように、我が家にも"てれび"なんてものは存在しない。
こうやって街頭テレビを見にみんなが集まってくるのは、いつもの事だった。
まだ幼い次男は母に任せて家に置いてきた。

ホライゾンは私の隣で、食い入るようにテレビを見つめていた。
一方の私はどこかぼうっとしたままで、力道山と名前のわからない誰かとの戦いを見つめている。

お腹が大きく膨らんだ私の妻は今病院にいる。
三人目の子供がもうすぐ産まれるのだ。
時期ももうそろそろだった。

三人目となると慣れてきてもおかしくないのかもしれないが、
やはり心配な物は心配で、私はここ数日呆けっぱなしだった。

不意にテレビを見ていた数人がおぉ、と歓声をあげる。
どうやら力道山が何かをしたらしいが、あまりよくわからない。

そんな時のことだった。


「ああ!いたいた杉浦さん!」


( ФωФ)「……うん?」


「うん?……じゃねぇよ!産まれたんだよ!元気な女の子だってさぁ!!」


3 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:01:52 ID:zB5oITV2O
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         ( ФωФ)の一番長い日のようです




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4 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:05:31 ID:zB5oITV2O
(;ФωФ)「クー!!」


「杉浦さん!病室ではお静かにお願いします!」


(;ФωФ)「す、すまないのである」


(;^ω^)「と、とーちゃん!待ってくれお!」



知らせを聞いた私は慌てて病院に駆け込んだ。
ホライゾンも小さな体で必死についてきた。
病室は少し薬の臭いがした。


( ФωФ)「……クー」


川 ゚ -゚)「む、早かったな」


妻は少し疲れた表情で、小さく笑みを作ってこちらに語りかけてきた。
足下にホライゾンの姿を確認すると、先ほどよりも明らかな笑みを浮かべて、手招きをする。
そしてゆっくりと起き上がって、隣のベットで寝ていた、生まれたばかりの娘を抱きかかえた。


5 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:09:44 ID:zB5oITV2O
川 ゚ー゚)「ホライゾン、お前の妹だ。兄弟で一番年上のお前がしっかり面倒をみるんだぞ」


(*^ω^)「おっ!お兄ちゃんに任せるお!」


(*ФωФ)「おぉ……、これが私の娘か……なんと愛らしい」


「ぇ……ふぇ……いぎゃぁぁぁぁ!!うぎゃぁぁぁぁぁ!!」


(;ФωФ)「おぉぉ!?なぜ私の顔を見て泣く!」


川 ゚ -゚)「おーよしよし、大丈夫だぞー。あの顔でもお前の父親だからなー」


(;ФωФ)「ひどい!」


そんな私たちのやりとりを、看護婦さんはくすくすと笑いながら見ていた。

秋に色づきつつある、晩夏の事であった。


6 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:13:20 ID:zB5oITV2O
それから私は、占いの本に辞書に首っ引きで娘の名前を必死に考えた。
お七夜までに決めなくてはいけないが、あれもこれもと案が有りすぎて困っていた。
きっと初めての女の子ということもあったろう。


(;ФωФ)「ミセリ……トソン……デレ……玲子……」


会社に行ってもあまり集中出来ず、家にいても自分の部屋で妹の名前ばかりを考えている。
ホライゾンも、私にいくつか案を持ってきてくれた。


( ^ω^)「とーちゃんとかーちゃんの名前をあわせてクマネスクでどうだお?」


(;ФωФ)(ホライゾンの時にクマネスクと名づけようとしたが、クーに怒られたからやめたなんて言えない……)



結局、娘の名前が決まったのは、娘が生まれてから一週間の事だった。
ちょうど妻が退院してくる日と同じだった。


7 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:17:01 ID:zB5oITV2O
(*ヽФωФ)「おい母さん!決まったぞ!娘の名前が!」


J( 'ー`)し「あらあら、よかったねぇよかったねぇ」


川 ゚ -゚)「毎度の事だが随分と時間がかかったんだな」


(*ヽФωФ)「お七夜に間に合ったんだから問題ないのである!母さんや、今晩はご馳走を頼むぞ!」


J( 'ー`)し「わかってますよ」




川 ゚ -゚)「……それで、どんな名前にしたんだ?」


(ヽФωФ)「うむ。"ひいと"だ。元気な子に育って欲しいからな」


川 ゚ -゚)「ふむ。私の名のクールに対してヒートか。悪くはないな」


8 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:21:22 ID:zB5oITV2O
筆と硯を持ち、命名書に力強く娘の名前を書いていく。
元気な子に育つように、優しい子になるように、一字一字に思いを込めながら。

書き終えた後、もう一度マジマジとその名前を見つめた。
杉浦ヒート、我が三人目の子にして、初の娘だ。


その日の夕食には秋刀魚が並んでいた。
当時の稼ぎでは鯛など買えるわけもなく、秋刀魚でいっぱいいっぱいだ。

肝心の娘は夕食の最中ずっと寝ていた。
ホライゾンは時折彼女の顔を覗いては、怪訝そうな顔をしていた。

私はこの娘がただただ健やかに育ってくれることを祈る。
2人の息子と共に、立派に成人してくれることを。

秋刀魚の腹を割って、褐色の身とはらわたを口に運ぶ。
程良い苦味が、口の中いっぱいに広がった。


10 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:25:11 ID:zB5oITV2O
(*ФωФ)「ヒートちゃーん」


「うぇ…………ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


娘は相変わらず私の顔を見ては泣いていた。
もしかしたら、私は一生ヒートに好かれることがないのだろうか。
そんな心配があった。

それをクーに相談すると、彼女はその度に「その怖い顔を直せばいいだろう」と真顔で言うのだ。
一体どこまでが本気でどこまでが冗談なのかわからないから怖い。


それでもたまに、本当にたまに見せてくれる娘の笑顔が私の今一番の楽しみだ。


(*ФωФ)「ああもう、ヒートはかわいいなぁ!」

  _, _
( ^ω^)「……」


川 ゚ -゚)「……ん?どうした、ホライゾン」


( ^ω^)「……いや、なんでもないお」


12 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:30:17 ID:zB5oITV2O
相変わらず、ホライゾンは娘の顔を見ては怪訝そうな顔をしていた。
ヒートに何か変なところでもあったろうか。


( ФωФ)「……まったく。あいつは一体どうしたんだ」


川 ゚ -゚)「……おおかた私たちがヒートに構ってばかりだから妬いているのだろう。あいつもまだ小学生だからな」


( ФωФ)「そうか。……たまにはホライゾンにもかまってやらねばならんな」



それから数日後、ホライゾンがヒートに「……強く生きるんだお」と言っているのを見かけた。
小学生とは思えない台詞に少々驚いたが、ぶっちゃけ私には意味がわからなかった。

妻に聞いてみたら、生涯私という父親につきまとわれる妹への同情だろうと言っていた。

私は、本気で自分の顔の悪さを呪った。


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13 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:35:53 ID:zB5oITV2O
娘が生まれた頃の我が家は、あまり豊かではなかった。
食事も質素なものばかりだったが、ホライゾンもクーも何も文句を言わないでいてくれた。

そんな妻の笑顔、ホライゾンの元気にはしゃぐ姿。
最近初めての七五三祝いをした次男、ショボンの紡ぐ稚拙な言葉の一句一句。
そして新たに家族になったヒートの存在。

それら一つ一つが、私にとっての宝物だった。
貧しくとも、太陽はすぐそこにあった。

そんな妻のために、息子のために、娘のために私はより一層頑張ろうと思い、仕事に打ち込んだ。

ホライゾンはヒートが生まれてから家が明るくなったと言っていたが、それは正しくもあり、間違いでもある。
確かにヒートが生まれたということは私たち家族に光を与える一つのきっかけとなった。
だが、ヒートが生まれる前にもホライゾンとショボンという光があったのだ。


そんな私の努力が実を結ぶのにそこまで時間はかからなかった。
収入も少しずつ増えていった。

家族という名の光に照らされた父は強いということだろう。


14 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:39:37 ID:zB5oITV2O
そうやって仕事に熱を入れていたためか、時の流れがとても早く感じられた。


( ФωФ)「七五三?ショボンはもう済ませただろう?」


川 ゚ -゚)「何を言ってるんだ。ヒートのに決まってるだろう」


( ФωФ)「ああ……そうか。ヒートももう3歳だったな」


娘の成長が早いのは嬉しくも寂しくもある。
ちょっと前まで私の顔を見ては泣いていた彼女が、今は私に惜しみなく笑顔の花を届けてくれるようになった。
いつの間にかおしめも外れて、1人で用を足せるようにもなった。

だがそれまでの手が掛かる時期の娘も、手が掛かる分愛おしく、愛らしかった。
その娘を愛でる事は二度と叶わないのだ。

ホライゾンももうすぐ中学生になる。
母もいつの間にか逝ってしまった。
妻も大分小皺が目立つようになってきた。


15 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:44:30 ID:zB5oITV2O
( ФωФ)「……そうか、もう3歳か」


ひとりごとのように呟いて、熱いお茶を一口。
じんわりとした苦味が広がっていった。



ヒートの初めての七五三は何かと大変だった。
その日はヒートのお転婆ぶりを思い知らされた。

神社の砂利が珍しかったのか、動きにくいであろう境内を縦横無尽に走り回り、挙げ句には転んで唇を切ってしまった。
他にもレンタルした着物を着せようとしたら逃げたり、
鳩に向かって石を投げ、他の参拝客にぶつけたり、
千歳飴で口の中を切ってちょっとした惨劇になってたり。



(;ФωФ)「……まったく、とんだお転婆娘だな」


川 ゚ー゚)「ふふっ。仕方あるまい。私たちの子どもなのだからな」


(;ФωФ)「……だが、女の子だぞ?あんなに怪我してばかりだと将来が……」


川 ゚ -゚)「心配するな。私も昔はああだった。…………多分」


16 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:49:58 ID:zB5oITV2O
娘が歳を重ねる毎に、彼女のお転婆ぶりは増していった。
ショボンの話では、彼女は近所の子供たちの中でもリーダー的な存在になっているとか。

元気なのは一向に構わないのだが、やはり心配である。
子供の手前ではそのような素振りを決して見せないが妻と2人になるとそうは行かない。

しかしホライゾンは中学に上がり、反抗期を迎えて少し男らしくなった。
根がいささか優しすぎる子ではあったが、大人の男に確実に近づいていっている。

ヒートも中学に入れば女らしくなるのだろうか。
きっとそうだ。
だから今はもう少し、この天真爛漫な娘の姿を見ていたいと思う。


ノハ*゚⊿゚)「っしゃあぁぁぁぁ!!行くぞ野郎共ぉぉぉぉ!!」


(´・ω・`)'A`)`゚益゚以「「おおおぉぉぉぉ!!」」


(;ФωФ)「……」


いや、やっぱりもうちょっとだけ女らしくなって欲しい。


17 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:54:09 ID:zB5oITV2O
それにしても時の流れは速い。
ついちょっと前に娘が生まれたらあっという間に七五三を迎えて、保育園を卒園し、もう小学校の入学式だ。


( ФωФ)「ハンカチとティッシュは持ったか?」


ノハ*゚⊿゚)「持ったー!」


( ФωФ)「筆箱に鉛筆は少し余分入れたか?」


ノパ⊿゚)「22本入れた!!」


(;ФωФ)「入れすぎだ!多くても6本くらいにしときなさい」


ノパ⊿゚)「はーい」


( ФωФ)「忘れ物はないな?」


ノパ⊿゚)「ばっちりだぜ!」


18 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 03:59:20 ID:zB5oITV2O
川 ゚ -゚)「ヒート。上靴はどうした?」


ノハ:゚⊿゚)そ「おおっ!わすれてた!」


( ФωФ)「まったく。ばっちりではないではないか」


ノハ:゚⊿゚)「おのれうわぐつ……。かげのうすいやつめ!!」


( ^ω^)「上靴のせいにすんなお」


(´・ω・`)「早く行かないと先に行っちゃうよ?」


ノハ:゚⊿゚)「おわっ!まってまって!」


ヒートは慌てていろんな物を無理矢理ランドセルに詰め込んでいく。
上靴の袋くらい、手で持っていけばいいものを。


19 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:04:31 ID:zB5oITV2O
( ФωФ)「今度こそ忘れ物はないな?」


ノハ*゚⊿゚)「おっけー!!」


黄色い通学帽をかぶり、赤いランドセルを背負って娘が答えた。
ホライゾンとショボンはもう外で待っている。
ショボンはまだしも、ホライゾンに関しては行き先が違うのだから別に待っていなくてもいいだろうに。
妹思いの良い兄貴達だ。


ノハ*゚⊿゚)ノシ「じゃあ行ってくるぞぉぉぉ!」


( ФωФ)「うむ。車に気をつけてな」


やはり少しランドセルが重いのか、ヒートの足取りはフラフラと落ち着かない。
2人の兄がそんな彼女を支えながら、学校へと伸びる坂道をゆっくりと下って行く様を、私はどこかぼんやりとした気分で眺めていた。



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20 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:09:21 ID:zB5oITV2O
夏の暑さがまだ残る初秋。
その日は朝から良く晴れていた。
妻は朝早くから大きな弁当を作り、私はビニールシートやカメラの準備をしていた。
休日はいつもゴロゴロしているホライゾンも、私の事を手伝ってくれた。

ヒートとショボンは体操服に着替え、すでに学校へ行く準備を終えている。
今日はヒート達の通う小学校の運動会だ。

私の子ども達は皆運動が得意な方である。
特にヒートはクラスの女子の中でも一番足が早いので、学級対抗リレーのエース的存在になるほどだ。
そのため子ども達はもちろん、私も運動会を毎年楽しみにしていた。


(*ФωФ)「今日は頑張れよ。とーちゃんも応援に行くからな」


ノハ*゚⊿゚)「おっけぇぇぇ!!任せとけ!!」


(´・ω・`)「……応援であんまり大声出し過ぎないでね。正直恥ずかしいから」


(´ФωФ)


21 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:14:26 ID:zB5oITV2O
天気は快晴のまま、運動会は開催された。
徒競走、綱引き、玉入れ、騎馬戦、大縄跳び。
みんなでお昼ご飯を食べた後は綱引きと騎馬戦の決勝戦、借り物競争、障害物競争。

そしてトリを飾るのは学級対抗リレーだ。


女子の4レーン。
紅白帽子からはみ出たポニーテール。
青組のアンカーを務めるのが家の愛娘だ。


(*ФωФ)「おい、クー!ホライゾン!ヒートが走るぞ!ヒートが走るぞ!!」


川 ゚ -゚)「わかっている。かわいい娘の出番を忘れるわけがないだろう」


( ^ω^)「親父はちょっと落ち着けお」


(´・ω・`)(……今年も父さんは自粛しそうにないな)



22 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:20:21 ID:zB5oITV2O
第一走者の子供達がレーンに並び、よーいの構えをとる。
グラウンドのざわめきが少し小さくなり、火薬の音が響くと共に爆発した。


(#ФωФ)「いけぇぇぇぇぇ!!走れ走れぇぇぇぇぇ!!」


(;´-ω-`)(あぁ……やっぱり)


川 ゚ -゚)「ふむ。先頭の子は少し出遅れたか」


( ^ω^)「赤組の子が速いおね」


先頭は赤組で、その後に白組、黄色組と続き、青組は四番だった。
しかも、ビリの緑組の走者とそんなに差はない。

バトンは第二走者に渡る。


23 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:23:52 ID:zB5oITV2O
(#ФωФ)「負けるなぁぁぁぁ!!行けぇぇぇぇぇぇ青組ぃぃぃぃぃ!!」


腹の底から声を出し、青組を鼓舞する。
ヒートに出来るだけ上の順位でバトンを渡してほしい。


全員のバトンが第二走者に渡りきった時、突然白組の子の足が止まってしまった。


从'ー'从「あれれ~。わたしのバトンがないよ~?」


どうやらバトンを落としてしまったようだ。
この隙に青組は順位を三番に上げた。
そして前の黄色組との差をどんどん縮めていく。


(#ФωФ)「よっしゃぁぁぁぁ!!今だ!差せ!差せぇぇぇぇぇ!!」


(´・ω・` )(自分のクラスにもどろ……)


24 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:27:38 ID:zB5oITV2O
第三走者にバトンが渡った時には青組と黄色組の差はほとんど無かった。
しかし、なかなか抜き去ることができない。
トップの赤組との差は少しずつ縮まっているようだが、未だ三番のままである。


赤組のバトンがアンカーに渡る。
それから少し遅れて黄色組と青組のバトンがアンカーに渡った。


(#ФωФ)「っしゃぁぁぁぁぁ!!いけぇぇぇぇぇひぃとぉぉぉぉぉぉ!!」


さすがは我が娘と言おうか、バトンを受け取った瞬間に黄色組の走者を抜き去り、差を広げていく。
赤組の走者もなかなか速いが、ヒートはぐんぐんと差を詰めていった。


(#ФωФ)「うぉぉぉぉぉ!!ヒート!!ヒート!!ひ・い・とぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


川 ゚ -゚)「おぉ。さすがにヒートは速いな。私の娘なだけある」


(*^ω^)「おっ!並んだお!」


25 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:32:05 ID:zB5oITV2O
ヒートがとうとう赤組の子と並んだ。
赤組の子も負けじと最後の力を振り絞る。
私も負けじと腹の底から声を絞り出し、大声で叫んだ。


(#ФωФ)「そこだぁぁぁぁぁ!!負けるなぁぁぁぁ!!ひぃとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


川 ゚ -゚)「お、ヒートが体一個分前に出たな」


(*ФωФ)「よぉぉぉっしゃぁぁぁぁぁ!!ヒートが一番だぞ!!」


(;^ω^)「落ち着けお。しかも一番はヒート個人じゃなくて青組だお」




ヾノハ*゚⊿゚)ノシ ワーイワーイ

从;゚∀从(ちっくしょぉ……なんなんだよあのうるさいおっさん……)


26 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:37:06 ID:zB5oITV2O
運動会が終わり、一月が経った。
スポーツの秋が過ぎれば、芸術の秋。
ヒート達の学校では学芸会の準備が始まっていた。

演目は一寸法師。
ヒートもちゃんと役をもらったらしい。
さすがは自慢の我が娘だ。


川 ゚ -゚)「ほうほう。ヒートもちゃんと役を貰えたか。さすが私の娘だ」


( ^ω^)「お袋も小学校の頃は学芸会に出てたのかお?」


川 ゚ -゚)「ああ。北小のヴィヴィアン・リーと呼ばれてたくらいだ」


(´・ω・`)(誰だよ……)


(*ФωФ)「で、何の役なんだ?」


ノパ⊿゚)「赤鬼!」



27 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:41:33 ID:zB5oITV2O
( ^ω^)「赤……鬼……?」


(´・ω・`)(えー……)


(*ФωФ)「そうかそうか!赤鬼か!いい役じゃないか、頑張れよ」


ノハ*゚⊿゚)「おう!」


(´・ω・`)(えぇぇー…………)



それからヒートは毎日学校に遅くまで残って劇の練習をしていた。
それでもやりたりないのか、家でも一生懸命に赤鬼を演じていた。


本番ではヒートは迫真の演技で赤鬼を演じてみせた。
姫様をさらう場面でも、他の男の子にも負けない迫力があったし、
一寸法師と戦う場面でも下手したら一寸法師に勝ってしまうんじゃないかと思うくらいの勢いがあった。

もちろん劇は大成功。
私も、ステージの上でスポットライトを浴びている娘に惜しみのない拍手を送った。



28 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:44:52 ID:zB5oITV2O
************************************


それはヒートが小学校5年生の時。
ある日家に帰って来て、玄関を見るとヒートの靴だけ乱雑に転がっていた。


( ФωФ)(……まったく。ホライゾンとショボンはキチンと揃えてあるというに)


女の子らしさは一体いつ身につくのか、と少し頭が痛くなった。

居間に入ると、ヒートが床に寝っ転がりながら本を読んでいた。
ご丁寧にへそまで出ている。


( ФωФ)「……ただいま」


ノパ⊿゚)「んー」


ヒートは視線を本に向けたまま、気のない返事を返してきた。
もちろん、寝転がった体勢のままだ。


29 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:48:44 ID:zB5oITV2O
( ФωФ)「なんだなんだヒート。行儀が悪いぞ。女の子なんだからもっとちゃんとしろ」


ノパ⊿゚)「んー」


相変わらず聞いてるのだか聞いていないのだかわからない返事だ。
結局ヒートは一度寝返りをうっただけで、姿勢を正そうとはしなかった。


( ФωФ)「ヒート」


ノパ⊿゚)「はいはい。わかったわかった」


(#ФωФ)「なっ……!お前、父親に向かってそんな口の利き方があるか!!」


ノハ;-⊿゚)「あー……。うるさいなぁ……」


(#ФωФ)「なんだとぅ!!うるさいとはなんだうるさいとは!!」



30 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:52:41 ID:zB5oITV2O
川 ゚ -゚)「喧しいぞ、ロマ。少し落ち着け」


(#ФωФ)「クー!私は今ヒートと話をだなぁ!」


川 ゚ -゚)「わかったから少し頭を冷やせ。家のなかでそう怒鳴り散らすな」


(#ФωФ)「むぅぅ……」


川 ゚ -゚)「ヒートも、今回はお前が悪いんだからな。少しは反省しろ」


ノハ;-⊿-)「はーい」


ヒートは、少しだけ反省したような素振りを見せて自室へと引っ込んでいった。
それを見届けると、妻も何事もなかったかのように夕飯の支度に戻る。


( ФωФ)「……まったく。最近のヒートはどうしたのだ」


31 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 04:55:22 ID:zB5oITV2O
ヒートが私に対して少し反抗的な態度をとるようになったのは今日が初めてではない。
ここ最近ずっとそうである。

どこか私を避けようとしている様子さえ伺えた。


川 ゚ー゚)「ふふっ。心配するな、ただの反抗期だ」


( ФωФ)「反抗期だと?まだヒートは小学生ではないか」


川 ゚ -゚)「そういう年頃になっているのだ。みんながみんな中学に入ってから反抗を初めるわけではないのだぞ?
それに女の子の方が反抗期に入る時期が早いとも言われているしな」


( ФωФ)「む……そうなのか」


川 ゚ -゚)「それにしてもヒートはまだ大人しい方だと思うぞ。
高岡さんとこのハインちゃんなんか最近ますます口が悪くなったらしい」


( ФωФ)「大人しい方か……そうか」


32 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:01:05 ID:zB5oITV2O
男と比べるのはどうかと思うが、確かにホライゾンの時は酷かった。
私にとって子供の初めての反抗期だったこともあり、私自身があまり余裕を持つことができなかったからだろう。

ホライゾンの反抗的な態度に怒り、説教し、手を上げることもしょっちゅうだった。
一週間以上互いに口を利かないこともあった。

今思えば、その時まだ幼かったヒートとショボンには心配をかけただろう。
ホライゾンも高校生になり、随分と大人の男らしくなってくれた。

きっとヒートもこの時期を過ぎれば、随分と女らしくなってくるかもしれない。

これも大事な大人への階段。
今度は私も心に余裕を持って、暖かくヒートのことを見守ってやろうと、そう思った。




しかし、私達夫婦が嵐を予想していたにも関わらず、ヒートの反抗期は穏やかに、そして静かに過ぎていったのだった。



33 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:05:22 ID:zB5oITV2O
それから暫くして、ヒートは6年生になった。
そんなある冬の朝の出来事だ。


ノハ;゚⊿゚)「のあああぁぁぁぁぁぁ!?」


(;ФωФ)「な、なんだ!?どうした!?」


ノハ;゚⊿゚)「うぉぉぉぉぉ!?父さんは来るな!母さん!母さーーーん!!」


川 ゚ -゚)「なんなんだ騒々しい」


(;ФωФ)「えっ?お、おい、どうして私はダメなんだ」


ノハ;゚⊿゚)「ダメったらダメだ!こっちくんな!!」


(´・ω・`)^ω^)「なんだなんだ」


ノハ#゚⊿゚)「兄貴達もくるんじゃねぇぇぇぇ!!」



34 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:08:59 ID:zB5oITV2O
また反抗期に入ったのかと思うほどの強い拒絶だった。
息子達も何がどうなってるのかわからないといった表情だ。

仕方なく居間に戻り、少ししたら妻が笑いながら戻ってきた。


( ФωФ)「一体ヒートはどうしたんだ?」


川 ゚ー゚)「ふふふ。いたって正常だよ。まあ、初めてのことで大分びっくりしたみたいだがな」


( ФωФ)「……?」


川 ゚ー゚)「さて、私達は買い物に行ってくる。これからいろいろと必要になってくるからな」


ノハ//⊿/)「っ……」


(;ФωФ)「……?……??」



35 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:13:23 ID:zB5oITV2O
その日、ヒートはほとんど口を開かなかった。
何があったのか聞いても教えてくれはしない。

その謎が解けたのは夕飯に赤飯が出てきた時だった。

なるほどヒートがなかなか言いたがらないのも納得だ。
これでヒートも多少は女らしくなるだろうか。

ヒートももう来年からは中学生だ。
いい加減この男勝りな性格を直してもらわねば。


息子二人は久しぶりの赤飯に舌鼓をうっていた。
せっかくの赤飯だが、私はあまり小豆がすきではない。

塩を少し振りかけて、茶碗の中の赤飯を一口、二口と口に運ぶ。
なんだか無性に喉が渇いた。


それから少しして春になり、ヒートは中学にあがった。
これで少しは女らしくなるだろうと妻と話していたが……。


ノハ*゚⊿゚)「中学の友達とサッカーしてくるね!行ってきまーす!!」


……夫婦の淡い期待はあっさりと裏切られてしまった。


36 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:17:21 ID:zB5oITV2O
************************************


月日は流れて、紅葉彩る秋。
ヒートは高校二年生になっていた。

そんな時、今年度の冬に受験を控えたショボンから気になる話を聞いた。


( ФωФ)「……ヒートが恋?」


(´・ω・`)「うん。おっと、僕が父さんに話したってことは秘密ね」


( ФωФ)「う……うむ……」


今までヒートの学校での話を聞けば、やれどこの男と喧嘩した、
やれテストで赤点を取ったなどと、色恋に関する話などまったくなかった。

私自身、そんな娘をからかって「早く男でも作って少しは女らしくなれ」とよく言った物だが、
いざ娘の近くに男の影が見え隠れすると、不安で不安で仕方がなかった。

もし変な男に誑かされたりしたら、もしどこの馬の骨ともわからぬ男にかどわかされたりしたら……。
ヒートがどこかへ嫁に行き、自分の下を去っていく姿が、いよいよ現実味を帯びて脳裏に浮かんできた。


37 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:20:45 ID:zB5oITV2O
さて、ショボンの話では、ヒートの初恋の相手はバレー部のキャプテンをやっている男で、気立てがよく、優しい好青年であるらしい。
もちろんそんな彼に好意を寄せているのはヒートだけではない。
ライバルはかなりいるようだ。


ヒート自身、それが初恋ということもあり、なかなか彼に自分の思いを打ち明けることが出来ず、
結局娘の初恋は、冬になり落ち行く枯れ葉のように、静かに、儚げに散ってしまった。


( ^ω^)「ヒートには可哀想だけど、よくあるパターンだおね」


ホライゾンの言うように、こういう結果になるだろうことは私も妻も薄々わかってはいた。
ヒートには幸せになって欲しい、でも、私の近くからいなくなって欲しくない。

相反する二つの願い。父親としての葛藤。
ヒートの恋が実ればいいともちろん思っていた。
でも、心のどこかでは恋など実らなければよいと思ってもいた。

だからヒートが失恋したらしいと聞いた時はどこか安堵感のようなものが確かにあった。


38 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:24:02 ID:zB5oITV2O
川 ゚ -゚)「……ヒートもそんな年頃か」


( ФωФ)「うむ。最近では、男友達ではなく女友達と一緒にいることが多いらしいぞ。
……いまさらという感じはするが」


川 ゚ -゚)「そうか……」


( ФωФ)「あいつももう17だ。本当なら彼氏がいてもおかしくない」


川 ゚ -゚)「もう……そろそろなんだな」


そう呟く妻の顔には随分と皺が増えていた。
ふと、手元に視線を落とすと、随分と老いた自分自身と目があった。

妻の行った通り、もうそろそろなのだ。
ヒートがどこかへ行ってしまうのも。


39 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:27:53 ID:zB5oITV2O
ここ最近、家の電話が鳴ることが多くなった。
受話器を取るのは、大抵娘だった。


ノパ⊿゚)「んー。わかったー。じゃ、また明日なー」


( ФωФ)「……」


( ФωФ)「おい、ホライゾン」


( ^ω^)「お?」


( ФωФ)「……今のは誰からの電話だ?男か?」


(;^ω^)「本人に直接聞けお。確かなことはわからないお」


( ФωФ)「本人に聞けんからお前に聞いているんだ」


( ^ω^)「んー……。多分、ヒートと同じクラスの渡辺って子だと思うお。少なくとも男ではないはずだお」


40 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:32:37 ID:zB5oITV2O
( ФωФ)「……そうか」


私は自分がひどく情けなく感じられた。
娘の幸せを願うのが父親であるはずなのに、私は幸せになろうとする娘を認めようとしていないのだ。

もし、今の電話の相手が男だったら、私はどうするだろう。
ヒートを叱りつけ、電話を使えなくするのだろうか。



ノパ⊿゚)「ちょっと出かけてくるね」


川 ゚ -゚)「……待て、どこに行くんだ」


ノパ⊿゚)「ん?ハインと買い物だけど……。昨日も言ったはずだよ」


川 ゚ -゚)「む。そうだったか。すまんな」


ノパ⊿゚)「じゃ、行ってきまーす」


41 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:35:49 ID:zB5oITV2O
気が気でないのは、私だけではない。
妻も、ヒートの何気ない言葉に一々反応するようになった。

子供達の手前ではいつも通りに振る舞っているが、私と二人きりになると本音が漏れてしまうようだ。


川 ゚ -゚)「……ダメだな私は」


( ФωФ)「何故そんな事を言う」


川 ゚ -゚)「私自身、親元を離れてこうやって今お前と一緒にいるのに、
ヒートが他の誰かの物になるかもしれないと思うと、辛くてたまらないのだ」


( ФωФ)「……お前もか。私もそうだ」


年季の入った湯呑みを掴み、まだ熱いお茶を口に含む。
熱さで舌がヒリヒリとして、味はよくわからなかった。


( ФωФ)「ヒートには幸せになって欲しい。だが、ずっと私の傍にいて欲しい……。
そんな矛盾した願望が大きくなって押さえきれないのだ」


川 ゚ -゚)「……ふふっ。今まで散々ホライゾンに早く結婚しろと言ってきたが、
今ホライゾンが結婚しても、あまり素直には喜べんな」


42 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 05:40:15 ID:zB5oITV2O
( ФωФ)「そう……かもな」


将来ホライゾンが結婚する相手にも、きっと両親がいる。
今ならば相手方の両親がどんな気持ちで愛娘を嫁に出すのか、が痛いほどわかる。

クーのご両親もきっとそうだったのだろう。


( ФωФ)「なあ、クー」


川 ゚ -゚)「なんだ?」


( ФωФ)「お前は私と結婚して、幸せだったか?」


川 ゚ー゚)「……過去形にするのはまだ早いぞ、ロマ。今だって幸せさ。可愛い三人の子供達がいるしな」


川 ゚ -゚)「……そう。幸せだから、今こんなに悩んでいるんだ」


44 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:10:40 ID:zB5oITV2O
( ФωФ)「……そう、か」


幸せだから、今が辛い。
少なくとも、私は妻を幸せにしてやることが出来たようだ。

いつかヒートの夫になる男には、必ずヒートを幸せにして欲しい。
そう願わずにはいられなかった。


ただ


ただそれはもう少し


もう少しだけ待って欲しい


もう少しだけ、私たちに今の幸せな時間を過ごさせてくれ……


************************************


45 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:11:13 ID:zB5oITV2O
そしてその日は突然やって来た。
セミの声がまばらだが聞こえてくるようになった初夏の事だった。

ホライゾンは自室でギターをいじっていた。
ショボンは大学へ行っていた。
妻は私のそばで、特に何をするでもなく窓から外を見ていた。
私は、老眼用の眼鏡をかけて、その日の新聞に目を通していた。


《ピンポーン》


静かだった室内に、チャイムの音が鳴り響く。
妻が立ち上がり、いそいそと玄関へと向かった。


それから少しして、私は妻に客間へと呼ばれた。


そこでは、ヒートと、スーツ姿の痩せ型の青年が並んで座っていた。

少し、目眩がした。


46 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:12:18 ID:zB5oITV2O
ノパ⊿゚) ('A`)


( ФωФ)「……話とは、なんだね」


私は青年の向かいに腰を下ろした。
そっと、妻が私の隣に正座をする。

ホライゾンは、重い雰囲気に呑まれたのか、部屋の隅で静かに佇んでいた。


チラ、とヒートに視線を向けると、彼女は気恥ずかしそうに俯いている。
対照的に、青年の方は緊張した面持ちでこちらを真っ直ぐと見つめていた。
澄んだ綺麗な瞳をしていた。


これからどんな話が、そこの見知らぬ青年から語られるのかは想像に難くない。
だからこそ、この沈黙の時間が重苦しくて、もどかしくて、私の胸をギュウギュウと締め付けてくる。


ようやく、青年が口を開いた。


47 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:13:30 ID:zB5oITV2O
('A`)「……三年ほど前から、ヒートさんとお付き合いさせて頂いております。鬱田毒男と申します」


青年は、震えた声で、しかし強い口調で言葉を紡いでいた。
彼の視線はこちらを真っ直ぐと向いたまま、少しもぶれない。

しかし今、この男は私の心に拳銃を突きつけている。


('A`)「本日は、大事な話があってここに参りました」


その言葉がいつくるか、この男は私に突きつけた拳銃の引き金をいつ引くのか。
頬を冷たい汗が伝う。




('A`)「お嬢さんを、僕に下さい」


透き通った声で
今までよりも大きな声で
はっきりと

青年はその言葉を口にした


48 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:15:10 ID:zB5oITV2O
青年の放った弾丸が、私の心に穴を開けた。
開いた穴から次々と、可愛い娘との思い出が溢れ出してきた。


頭の中が真っ白になる。
口の中がカラカラになる。
胸が熱い。
顔が熱い。
また目眩がした。


思い出の中のヒートはお転婆で、嫁のもらい手がつくのかと心配になるほどやんちゃな子供だった。

それがどうだ。

今、ここにいるヒートは、いつの間にかに随分大人びて、綺麗になった一人の大人の女だった。

溢れ出る思い出達は消えない。
可愛い可愛い私の娘との思い出。



―――その大切な娘を、この男にやるのか?


49 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:15:54 ID:zB5oITV2O
いつかは私のそばからヒートがいなくなる。
それは前から覚悟をしていたことだった。

だが、いざそれが目の前に現実として現れると、それを受け入れることなどできやしなかった。


私の娘だ、私のヒートだ。
それをこんな男にくれてやるわけには行かない。

カァーッと頭に血が上ってくる。
マグマのようなそれはてっぺんを目指して一気に上昇しそして――――



(#ФωФ)「なにを言うか貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」



―――爆発した


50 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:16:47 ID:zB5oITV2O
川;゚ -゚)「ロ、ロマ!?」


(#ФωФ)「なぜ……なぜ貴様なんぞに娘をぉぉぉぉぉ!!」


(;'A`)「っ!?」


(;^ω^)「親父!落ち着くお!!」


もう何も考えられなかった。
ホライゾンが私を押さえてくれなかったら、きっと私はこの青年につかみかかっていたろう。


(#ФωФ)「許さん……!私は断じて許さんぞ!!」


ノハ;゚⊿゚)「そんな……!」


(;'A`)「お義父さん!僕は……」


(#ФωФ)「えぇーい黙れ黙れ!!貴様に父と呼ばれる筋合いなどないわ!!」


51 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:17:23 ID:zB5oITV2O
川;゚ -゚)「ロマ!一度落ち着いてだな……」


(#ФωФ)「五月蝿い!クーは黙ってろ!!」


ノハ;⊿;)「父さん……」



頭の中ではわかっていた。
クーの言うとおり、落ち着いて2人の話を聞くべきだと。

だが、それを聞くときっと私は許してしまう。
2人の結婚を。
この青年にヒートを託すことを。


(#ФωФ)「お前に……お前に私の気持ちがわかるかっ!!」


(;'A`)「!!」


(#ФωФ)「今まで大事に大事に育ててきた、可愛い娘を奪われる私の気持ちが!!」


52 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:18:10 ID:zB5oITV2O
青年は逃げることなく、私の目を見て私の罵声を浴び続けた。
私も青年の目を見て思いの丈を余すことなくぶつけていった。

ヒートを失うつらさを、ヒートをどれだけ愛しているのかを。

妻やホライゾンの制止も聞かず私はひたすらキツい言葉を青年に浴びせ続けた。


(#ФωФ)「出ていけ!!貴様の顔なぞ見たくもない!!」


ノハ;⊿;)「父さん……」


(#ФωФ)「二度とこの家の敷居を跨ぐことは許さんからな!!」


ノハ;⊿;)「父さん……!」


(#ФωФ)「そして二度と娘に近づくなこの―――」


ノハ#;⊿;)「お父さん!!」


53 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 07:19:18 ID:zB5oITV2O
娘の声で、私は我に返った。
喉元まで出掛かっていた言葉が引っ込んでいく。
ゆっくりと頭に上っていた血が引いてゆく。


ノハ;⊿;)「……私ね、ガサツであんまり女らしいとこがなくて、父さんにもよく言われてたよね?」


(#ФωФ)「……」


ノハぅ⊿;)「でも、ドクオは、そんな私をちゃんと女の子として扱ってくれた。……大切にしてくれた……だから……」


( ФωФ)「……」


ノパ⊿゚)「……私、ドクオと結婚しても、絶対に後悔しない。そう言い切れる」


娘の言葉に嘘偽りは感じられなかった。
この青年に絶対の信頼と、強い愛情を持っていることがよくわかった。


57 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 20:21:37 ID:sra5vC0wO
( ФωФ)「……彼ならば、お前を必ず幸せにしてくれると?」


ノパ⊿゚)「……うん」


( ФωФ)「……そうか」



娘の本当の心を聞いて、私の心も随分とすっきりした。

あとは、私が認めるだけ。
全てを認め、娘を送り出してやるだけだ。

目を閉じて、一度深呼吸をする。


( ФωФ)「……わかった。娘はくれてやる」


絞り出した声は、蚊のように細く、弱々しかった。


58 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 20:23:48 ID:sra5vC0wO
ノハ*゚⊿゚)(*'A`)「「!!」」


そう、あとは私が全て認めるだけだ。

だから―――


(  ω )「……その代わり……一度でいい。……奪っていく君を……君を殴らせろ……」


全てを認めるために、私に残った娘への執着心を涙とともに洗い流し、
青年へと募らせた少しの憎しみをこの拳で振り払うのだ。

握り拳に力を込め、青年への少しの恨み言と娘への愛情を乗せて、青年の―――いや、四人目の我が子の頬を殴った。

彼はその時でも、私の瞳を真っ直ぐと見つめていてくれた。
これでやっと、私は2人の全てを認めることができる。

今ならこの言葉も言えるはずだ。


( ФωФ)「……娘を、幸せにしてやってくれ」


(*'∀(#)「はい!」


頬を腫らしながら、ドクオくんは笑顔で力強く返事をしてくれた。
彼なら……娘が選んだ彼ならば、きっと娘を幸せにしてくれると、そう信じることができた気がした。


59 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 20:24:49 ID:sra5vC0wO
************************************


(;ФωФ)「どうだ?クー、変なとこはないか?」


川 ゚ -゚)「うむ。問題ない」


(:´・ω・`)「ちょ……母さんその格好派手すぎない?」


(;^ω^)「メインはヒートとドクオくんだお!その2人よりも目立ってどうすんだお!」


川 ゚ -゚)「むぅ……。いけると思ったのだが」


ヒートとドクオくんの結婚式は、蝉時雨鳴り響く夏に執り行われることになった。
私もその日は朝から小洒落た燕尾服なぞを着ていた。

可愛い娘の晴れ舞台、私も気を引き締めなくてはならない。
誇り高い父親として、娘を送り出してやらねば。


60 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 20:25:57 ID:sra5vC0wO
式場は森の中にある小さな教会だった。
小さくとも、我ら親族と数人の友人達が入るには十分な広さである。

私達は式の流れの簡単な説明を聞いて、一度だけ軽くリハーサルを済ませた。

いよいよ本番。
私はヒートと共に入り口前にスタンバイしていた。



ノパ⊿゚)「……父さん」


( ФωФ)「……うん?」


ノパ⊿゚)「……私がいなくなっても大丈夫?」


( ФωФ)「いらん心配をするな。問題ない」


ノパ⊿゚)「……そうだね」


61 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 20:26:38 ID:sra5vC0wO


―――父さん


―――なんだ


―――今まで、ありがとうね


―――……


―――私、父さんの娘で幸せだったよ


―――……馬鹿者。過去形にするな


―――うん。私、これからも幸せになるよ


―――ドクオくんならきっとお前を幸せにしてくれるはずだ。なんたって私の愛娘が選んだ男だからな


―――……うん



62 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 20:27:47 ID:sra5vC0wO
ファンファーレが鳴り、扉が開く。
私はヒートの手を取り、ヴァージンロードを堂々と歩いていった。

大粒の涙を流しながらこちらへ拍手を送るクー。
ホライゾンとショボンは涙を流してはいなかったが、それでも目を真っ赤に腫らしていた。

祭壇の前ではドクオくんが立派なタキシードに身を包み、こちらを見つめている。


一歩進む度にヒートとの楽しかった日々が思い出される。

赤ん坊の頃、私の顔を見る度に泣いていた。
幼少期ははしゃぎまわって怪我ばかりしていた。
小学校の運動会では学級対抗リレーの花形だった。
反抗期はいやにあっさりと過ぎていった。
思春期の頃は、夫婦で気が気じゃなかった。
初めてドクオくんに会った時は正直魂が抜ける気分だった。


そのドクオくんが徐々に近づいてくる。
彼に近づいているのは我々なのだが、そう錯覚させるものがあった。


63 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 20:29:18 ID:sra5vC0wO
( ФωФ)ノパ⊿゚)                       ('A`)



祭壇の前に到着し、ゆるやかにその場に立った。
花嫁の父の出番はここまでだ。

私の手からヒートの手がスルリと抜ける。
ほんの短い時間、花嫁姿の娘と見つめ合う。


本当に、綺麗になった。


胸の奥から何かが込み上げてくるのを感じ、私はその場から離れようと娘に背を向ける。



「ありがとう」




娘の呟きが背中から聞こえた。
娘の顔は見ることが出来ないが、泣いていたことは声でわかった。
私も、溢れ出す涙を堪えることはできなかった。


64 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/21(月) 20:30:13 ID:sra5vC0wO
ウェディング・ベルが避暑地の教会に鳴り響く。
人々は新しく夫婦になる2人へ惜しみない拍手と祝いの言葉を投げかけていった。

あんなに小さかった娘が、あんなに美しく輝いている。
時の流れとはなんと速いものだろうか。

ヒートが生まれたのがつい昨日のことのように思い出された。
いや、もしかしたら昨日のことだったか。
私が娘とともに過ごした20年は、ほんの一日の出来事だったのかもしれない。

なんと長く、そしてなんと素晴らしい一日だったのだろう。


私は幸せそうな2人への祝いの気持ちと、娘と共に過ごせた日への感謝の念を拍手にして贈った。

―――杉浦ヒートの父親としての、最後の拍手を。



( ФωФ)の一番長い日のようです       終わり






68 : ◆4br39AOU.g:2011/02/22(火) 20:16:21 ID:ODA0.Hf20
一応こっちにも貼っといた方がいいのかな?

youtubeより、モチーフ曲の親父の長い一日です
 



boonkei_honpo at 02:45│Comments(0)TrackBack(0)感動 | 音楽短編フェス

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