March 17, 2011
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 第一章 第三話
, ,, ,, ,,ミセ*゚ー゚)リ「よっ、とっ……」
ハインが付けた目印を辿り、樹々の枝の上をミセリが駆ける。
キャラバン付近の樹はどれもヨツマ近郊の樹々とは桁違いに大きく、太い枝を選べば飛び乗る事も容易い。
例えば地上で野犬に囲まれた冒険者が、枝々を伝って北の急流・ダット河まで逃げのびた例もある程に。
……とはいえ、やはり枝は枝。
丸みを帯びていたり捻じ曲がっていたりすると、足を滑らせてしまう事も大いにあり得る。
, ,, ,, 、ミセ|i!゚Δ゚)リ「ほっ、んがッ!?」
そう、今のミセリのように。
ミセ;゚◇゚)リ「のおぉぉおっ!?」
从 -∀从=3「……やれやれ」
長剣を幹に突き立ててなんとかしがみ付くミセリを、ハインは苦笑とともに見下ろした。
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 第一章 新緑の木立
第三話『兆しのうろ』
ミセ*;ー;)リ「うっう……ありがと、ハイン。死んじゃうかと思った……」
肩で息をしながら、枝によじ登ったミセリが言う。その目は既に緑の輝きを失っていた。
辺りは薄明るくなりつつある。朝食の時間まで、あと数十分と言ったところだろうか。
ハインが課した今日の訓練メニューは、走り込み。
ただし、足場は高低差が激しく非常に不安定な枝々の上。
足の運びは事前にハインに定められており、一足一足本気で跳んでなんとか次のポジションに着く、といった形。
しかし、身体とは上手くできたもので、慣れるにつれて段々と一歩で多くの距離が稼げるようになる。
ハインが言うには、次はバランス感覚と脚自体の速さを高めるらしい。
ここ五日でハインがミセリに叩き込んで来たのは、「身体の使い方」だった。
从 ゚∀从「ま、今回はなかなか頑張ったんじゃないか? さっきより大分遠くまで来れた」
ミセ*;ー;)リ「うん……」
振りると、ハインが樹々に付けた目印が遠くに点々と続いている。
走っている時は気にならなかったが、こうして見るとかなり間隔が置かれているとわかった。
ついでに枝の下を覗き込んで、ミセリは後悔した。ここから落ちたら普通に死ねるだろ、と。
从 -∀从「ま、今日はここまでにしとこう。帰るぞ」
ミセ*っー゚)リ「……うん、今日はかなり疲れたよ。ありがと、ハイン」
ノハ从 ゚)「別にいいさ。どうせ暇なんだ」
言いながらも、ハインはそっぽを向く。
どうやら、礼を言われるのは苦手なようだ。
ハインはほぼ毎朝、ミセリの訓練に付き合っていた。
足運び、重心の取り方、剣身一体の心得、そしてそれらの伸ばし方。
ミセリの戦闘センスは、この五日間で急上昇している。
同時に、ハインやでぃがどれほど遠い存在なのかも、さらに深く知らしめられていた。
ミセ*-ー-)リ「もっと、頑張らないと、ね」
枝と枝の間を軽々と渡るハイン。ミセリが追い縋る間に、その背中はあっという間に遠ざかってゆく。
……しかし、そのハインは不意に足を止めた。
ミセ*゚ー゚)リ「え、どうしたの?」
从 ゚-从b「……」
ミセ*゚-゚)リ「……?」
声をかけたミセリの前に、ハインは手をかざした。
ミセリはその意を汲んで口を閉ざし、代わりに親和を起動する。
「……!」
「……、……」
──本当に微細な、空気の震え。
ミセリの強化された聴覚は、微かな叫び声を聞きとめた。
ハインがミセリの肩に手を乗せる。
从 ゚∀从「聞こえたな? ……行くぞ」
ミセ*゚-゚)リ「ん」
ハインは躊躇わずに枝から飛び降り、幹のコブや別の枝を足がかりに、次々と下ってゆく。
ミセリは慎重に、躊躇いながらそのすぐ後を追った。
…
地上に降りた後、ハインは無言で歩き始める。
その間もミセリは親和を解かなかったが、強化された聴力が拾い上げたのは、
自分達二人分の足音と樹々の微かなざわめきだけだった。
ミセ*゚-゚)リ「……」
静寂が耳を貫く。
夜の淵に立っているような、言い知れぬ不安感。
しばらく進むと、一際大きな樹の根元でハインは立ち止まった。
地面には、引き摺られたような血の痕。
まだ乾き始めてもいないそれを目で辿ると、樹の根に大きなうろ穴が見えた。
ハインは慎重に、そして素早くそこに近づいてゆく。
从 ゚-从「……ちっ」
うろ穴を覗き込んだハインは顔をしかめた。
同じく覗き込もうとしたミセリを制し、ハインは拾い上げた『それ』を見せる。
ミセ;゚д゚)リ「!? これ……!」
从 ゚-从「冒険者、だな。まだ真新しい」
『それ』は、血と肉片のこびり付いたナップザックだった。
ミセ*゚-゚)リ「これの持ち主は……」
从 ゚-从「死体は無かった。だが、これだけの血の量で生きているとは思えない」
ハインは無言で真っ赤に染まったナップザックを開け、中身を検分してゆく。
保存食、飲み水、薬品、そして冒険者登録証とギルド登録証。予備の増幅器、色は赤。
名はネーノ・バリーズ、ギルド『ゴボド』のリーダー。
『ゴボド』は三人組のギルドで階位はC、残り二人はボルジョア・ソズ、オリッチ黒田。
从 ゚-从「……さっきの叫び声は、こいつの断末魔か? いや、だとすると残りの二人は……」
ミセ;゚ー゚)リ「え、何?」
血の痕を逆向きに辿り、ハインは歩調を早めて歩き出した。
その瞳は尚も緑の輝きを残しており、要あればいつでも背中の鉈を抜けることを示している。
从 ゚-从「他の二人の装備は、ここには無かった。もしかしたら、連れ去られた仲間を追ったのかもしれない」
ミセ*゚-゚)リ「!」
血の痕は一層深い茂みを通り、別の樹の根を幾つか渡るまで続いた。
やがて、草地に入る間際でハインが立ち止まる。
从 ゚∀从「……ここだ」
ミセ*゚-゚)リ「ここ、って……」
ハインの足元には、地面の亀裂がひび割れて崩れた痕。
漆黒の闇が大きく口を開いていた。
血の痕は穴の入り口で途切れ、持ち主が中に落ちたことが用意に想像できる。
ミセ*゚-゚)リ「これ……根喰いの巣穴? でも──」
从 ゚-从「ああ、既に役割を終えたものだ。『ゴボド』なのか別の生き物かは知らんが、誰かがかかったのは間違いない」
ハインは穴の奥を覗き込んだ。
しかし、緑の親和で強化した視力でも、その奥を見通すことはできなかったのだろう。
やがてハインは立ち上がり、ミセリに向き直る。
从 ゚-从「ミセリはキャラバンに戻って報告してくれ。俺はこの中を調べる。場所は分かるな?」
ミセ*゚-゚)リ「……うん、大丈夫。でもハインは一人で平気なの?」
心配するミセリの額に、ハインは軽く手刀を落とした。
……軽く見えるが、これも実はかなり痛い。
そもそも、親和を集中させたミセリの動体視力を上回る辺り、既に反則だ。
从 ゚ー从「誰に訊いてるんだ?」
ミセ;-ー゚)リ「う……私のお師匠様です」
从 ゚∀从「よろしい。……さ、行け」
ヒラヒラと手を振り、ハインは穴に身を踊らせた。
少し遅れて反響した着地音。
ミセ*゚ー゚)リ、「本当に気を付けてね、ハイン……」
ミセリもキャラバンの方角へと走り出す。
……
……
キャラバンの行動はきわめて迅速だった。
ミセリができる限り正確に報告を行うと、ブーンはすぐに対応を打ち出す。
( ^ω^)「……なるほど。色々と引っかかる所はあるけど、だいたい把握しましたお。
すぐに部隊を編成して援軍を派遣、調査します。ドクオ!」
('A`)「ああ、わかっている。……俺とダイオードの他に『ワルハラ』から三人、それにフォックスを同行させよう。
ミセリ、そこまで先導してくれ。ブーン、こっちはお前とバルケン達だけで平気だな?」
( ^ω^)「もちろんだお」
('A`)「決まりだな。行こう」
ドクオは早足で冒険者の宿室に向かう。
ミセリが報告を始めてから、かかった時間はわずか数十秒。
それから更に数十秒後には、参加者全員が集合していた。
……
根喰いの巣穴は、深いものでは時に大人数十人分もの深さに達する。
そのため、出る時のことを考えると、そう容易く入ることはできない。
ドクオはまず、近くの地面に深く突き立てた杭にしっかりとロープを括り付け、穴の底に垂らした。
樹海大蜘蛛の糸で編みこんだロープは極めて頑丈で、意図的に刃物を打ち付けたとしてもそう簡単に切れるものではない。
即席の梯子に手を掛け、ドクオは冒険者たちを見回した。
('A`)「……よし、と。一人ずつ、俺の後に続け。 は念のため、最後に」
ロープを軽く片手で支えたまま、彼は穴の底に飛び込む。
ギシギシとロープが揺れる音が、急激に遠ざかってゆく。
(・∀ ・)「それじゃ次は俺たちなー」
ハソ ゚-゚リ「……」
またんきが気合の入らない声で宣言し、ロープを掴んだ。
ワルハラの五人の構成員の内、ここに居るのは三人。
リーダーである斉藤またんきと、下級騎士のツン・デクレアラ。それに……
ハソ ゚-゚リ
先に降りたまたんきに続きロープを降りようとしている少女、ナチ。
装備を持たない冒険者は、大抵の場合は何か特殊な役割を持つ。
例えばドクオは医術・毒術に長けているし、ミセリの仲間のビロードは発火能力を持っている。
ワルハラの五人のうち、武器を持たないのは三人。その内アサピーは医術の専門のようだが、
残りの二人――この少女とヘリカルがどの様に戦うかは、ミセリは知らない。
ξ゚⊿゚)ξ「……それじゃ、先に行くわね。落ちてこないでよ?」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、うん」
/ ゚、。 /「……」
ナチに続き、ツンも降下してゆく。
これで残りはミセリとフォックス、それにダイオードだけだ。
ミセ*゚ー゚)リ「ええと……」
爪'ー`)y‐「ん、あぁ、先に行っていいよ」
ミセ*-ー゚)リ「あー……それじゃ失礼します」
ミセリが掴もうとする間、ロープは細かく揺れ続けた。
下の冒険者、恐らくツンがまだ到達していないのだろう。
ミセ*゚ー゚)リっ、「よっ、と……」
初めて掴んだ樹海蜘蛛の糸は、ミセリの手に奇妙な感触を与えた。
摩擦は少ないようで手に吸い付く感覚は強い。まるで水浴びの後の髪の毛だ。
やがてロープから伝わる振動は止まり、前の冒険者、すなわちツンが下に到着したとわかる。
それならば。中空に足を踏み出したミセリは、おもむろにロープを掴んだ手を放す。
ミセ*゚◇゚)リ「……おおぉぉお」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、な、ミセリ!?」
だいたいの深さはハインが飛び込んだ時に把握してあるし、今は穴の底でドクオが灯火を点けている。
ミセリは途中で数度ロープを掴み速度を殺しながら、一気に穴の底にたどり着いた。
顔を上げると、松明に照らされたツンの顔がすぐ近く。
ミセリが驚くより早く、彼女は咎めるような目でミセリを睨み付ける。
ξ#゚⊿゚)ξ「もう、落ちて来るなって言ったでしょ! 怪我でもしたらどうするの!」
ミセ;゚ー゚)リ「あう……ごめんなさい……」
ξ゚⊿゚)ξ「全くもう……って、本当にひどい反響の仕方ね。まるで市議会の大講堂だわ」
根喰いは巣穴の内壁を特殊な分泌物で固め、漆細工のように滑らかに仕立てあげる。
その形は大抵は釣り鐘型。円柱に掘った居住部分に、天井を持ち上げる形で地上への道を掘るもの。
ツンの怒声はそれほど大きくなかったが、こうして造り上げられたドームは、激しく彼女の声を跳ね返した。
見回すと、ドームの壁には幾つもの横穴が空いているのがわかった。
それは根喰いが開けたトンネルであり、このワームはそこを通って幾つかの巣穴を渡り歩く。
根喰いは基本的に数十匹単位の血縁で群れを作り、こうした集団住居を組み上げるのだ。
……ただし、虫に高度な知性など無い。
餓えた根喰いはしばしば他の集住同居人をも補食し、己の身体を肥大させる。
肥えた根喰いは多く子を産み出し、迷宮を肥大させる。
こうした底無しの貪欲さこそが、この死の蟲どもの真髄である。
地面には飛び散ったような血の跡。主が底面に激突して潰れたのだろう。
引き摺られた跡は薄まりながら東の方に続いている。
ミセリは両目を閉じ、耳にエレメントの力を集中させた。
しかし、遠くから聞こえて来るのは歪みきった残響音だけだ。
ミセ*-ー゚)リ「んー……ダメだ、全部が変に跳ね返って来るや」
ξ゚⊿゚)ξ「? ……ああ、聴覚強化?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。ハインはどっちに行ったのかなーって」
('A`)「……ま、それも想定内だ。今回はその為に──」
「──僕を連れてきた、って訳だね」
振り返るまでもない。鼻を突く煙草の臭いに、ツンが露骨に顔をしかめた。
爪'ー`)y‐~「や、お待たせミセリちゃん。最後尾まで全員到着だ」
煙の主、彼の名はフォックス・イル・メトロハルト。
特定のギルドに所属せず雇われ兵・マーセナリとして活動する、凄腕の傭兵……らしい。
ヨツマに来てから僅か数ヶ月、強ギルドを転々としつつ自身も早々と階位C級まで到達したと聞く。
情報が曖昧なのは、ミセリが未だ彼の能力を見ていないから。
“得体が知れない”事に関して、ミセリにとって彼が暫定1位の人物である。
唇に煙草を挟み、空いた右手をヒラヒラと振るフォックス。
その左手には、細身の彼に似つかない大柄で攻撃的な鉄甲が装着されている。
ξ-⊿゚)ξ「……」
爪'ー`)y‐~「悪いが、煙いのは少し我慢して貰いたいね。コイツが僕の“切り札”なんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「切り札って……その煙草が?」
爪'ー`)y‐「そ。っと、ちょい待ち」
ふっと煙を吐き出すフォックス。彼の身体に纏わりつく様に、白い煙が踊る。
緩やかに閉じた目を再び開いた時には、彼の瞳は青葉の緑に染まっていた。
爪'ー`)y‐~「ドクオ。君から見て右二つの方角・距離約550歩に二名と450歩に一名。
恐らく『ゴボド』とハインリッヒ氏だろう。氏は本当に“かくれんぼ”が上手い」
ξ;゚⊿゚)ξ「……ッ!?」('A`)「根喰いは?」
爪'ー`)y‐「右一つ、三つ、左五つにそれぞれ200歩、400歩、150歩。いずれも大型の蟲のようだ。
前者は先の三人、後者はここに進んでいる。……もう数分でここに着くだろうね。
もう少し範囲を広げれば、1000歩程度までに居る分は数え切れない。いずれもここと『ゴボド』に向かっている。
それと……ハインリッヒ、『ゴボド』と思しき気配のすぐ近くに、ただの蟲じゃない“何か”が居る」
フォックスの持つ親和能力。それは、“感知”の力。
緑の精霊の持つ『命』の力を増幅し、感覚能力を限界を越えて高める事。
彼はこの力で他の生命の持つ“気配”を察知し、正確に割り出すことができる。
同じ緑の親和を持つと言えど、ミセリは愚かハインですら、探査能力において彼には遠く及ばない。
戦闘には向かない能力とはいえ、冒険者としては間違いなく超一流の才能だろう。
獣の襲撃を常に警戒する冒険者ギルドにとって、まさに羨望の的たり得る。
ミセリは、そしてツンもまた、彼の見せた実力の断片に驚愕した。
ミセ*゚ー゚)リ「……凄い」
ξ#゚-゚)ξ「本当ね」
爪'ー`)y‐~「ふふん……」
('A`)「……隊列を分けるぞ。ダイオード、またんき、ツン、ナチ。この場を確保し、襲来する根喰いは全て駆逐してくれ。
俺、フォックス、それにミセリはハインリッヒと合流し、『ゴボド』を保護する」
/ ゚、。 /「了解」
,('A`)"「あと……お前ら、コレを武器に塗っておけ。素手では触るなよ」
コートから取り出した硝子の瓶を、ドクオはまず手近にいたまたんきに投げ渡す。
受け取ったまたんきは、怪訝そうな顔で薄紫の液体を凝視した。
('A`)「対“蟲”用の致死毒だ。連中は大抵、普通に斬っても殺しきれない」
(・∀ ・)「はぁ、キャラバンには便利なものも有るんだな」
('A`)「ねぇよ、ソイツは俺の特注だ」
またんきは腰のポシェットから粗布を出し、三つに割いた。
その内の一片に液体を染み込ませると、瓶と粗布の一片をツンに手渡し、もう一片をフォックスに投げ渡す。
(・∀ ・)「訂正するよ。キャラバンには便利な医術士がいる」
('A`)「次は『VIP☆STAR』には、に訂正しろよ」
軽口を叩きながら、またんきは外套の留め金を外す。
うわ、とミセリは驚きの声を上げてしまった。
またんきの外套の裏地には数本のホルダーが付けられており、それぞれに数十ずつのナイフが収められていた。
またんきは左上から順に四本を抜き放ち、それらに毒を塗り付けた。
ξ゚⊿゚)ξっ□「びっくりするわよね、あれ。何よりまず全部に毒塗ろうとする馬鹿さ加減とか」
(・∀ ・;)「……。い、いや、流石に全部に塗るのは後で良いんだよな。分かってたし!」
ミセ;-ー)リっ□「すげー間空いてたッスけど……」
ツンは硝子瓶をフォックスに投げ渡し、毒の染みた布を慎重にミセリに手渡した。
ミセ*゚ー゚)リ「って、ナチさんは良いの?」
ハソ ゚-゚リ「ん……私は刃物は使わないからな」
ミセ*゚ー゚)リ「んー……!」
ミセリの聴覚が、先程から続いていた残響音が一段と大きくなったと知らせる。
やがて地響きのようなその反響音は更に大きくなり続け、他の冒険者たちも口を閉ざす。
('A`)「……来るぞ。ダイオード、迎え撃てるな」
/ ゚、。 /「ああ」
ドクオが素早く指示を下し、ダイオードが短く答える。
彼は背の突撃槍を抜き放つと、一度だけ他の冒険者たちを振り返った。
/ ゚、。 /「……お前たち、よく見ておけ。コイツが今から駆逐する害蟲──」
轟音。
壁面、高い場所に空けられた横穴の1つから、巨大な蟲が姿を表した!
胴回りの高さだけで大人の背丈程もある巨怪なワーム。その突進の矛先は、それを見上げる冒険者たちに向く!
/ ゚、。#/「──根喰いだ!」
ドクオが短く叫び、冒険者は散開した。
貪欲なり、樹海を喰う者。
勇敢なり、樹海を渡る者。
相容れるなき両者が、今ここに激突する!
230 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/22(火) 22:34:21 ID:qebsNMHsO
…
/ ゚、。 /「下がれ! 尾の打撃が来るぞ!」
鈴を鳴らしたようなダイオードの声にミセリが飛び退いた直後、根喰いはとぐろを巻いて身を震わせた。
一拍遅れて、暗いドームの空気までもが揺れる。
ミセ;゚ー゚)リ「うおっ、とっ!」
ξ;-⊿゚)ξ「ッ!」
爆風。
比較的ワームに近い所にいた冒険者は、吹き荒れる風にたたらを踏んだ。
凄まじい質量の尾が目の前を薙いだとミセリが気付いたのは、
突如現れた光球が放つ太陽のような閃光が彼の轟蟲を照らし上げてからだ。
ミセ;-д゚)リ「な、何!?」
ξ゚⊿゚)ξ「落ち着いて。ナチの援護よ」
目潰し!
暗闇に特化した根喰いは、突然の大光量に対応できずにいる。
ドクオが小さく感嘆の声を上げた。
ハソ ゚ー゚リ「……」
(・∀ ・)「照明弾か、ナイスだナチ!」
ξ゚⊿゚)ξ「よしっ、一気に押すわ!」
両手に短剣を備えたまたんき、剣と盾を構えたツンが、光に盲いた蟲を襲う。
しかし……。
(・∀ ・;)「んげっ……」ξ;゚⊿゚)ξ「ッ!」
二人の攻撃は根喰いの硬い背にたやすく弾かれた。
お返しとばかりに放たれた尾の一撃は、二人を軽々吹き飛ばす。
勢いそのまま、蟲はミセリとダイオードに飛び掛かってきた!
ミセ;゚ー゚)リ「二人とも……とッ!」
/ ゚、。 /「目の前の敵に集中しろ!」
まるで擂り鉢のように生えた根喰いの牙、ミセリはそれを素早く避ける。
そして次の一瞬で既に、ミセリは根喰いの真後ろに取り付いていた。
──『縞』。
ミセリが初めて、そして唯一名付けた技は、ハインの訓練で昇華しつつある。
体幹が強化された事で加速力が増し、トップスピードまでの時間が格段に短縮されていた。
ミセ# ー゚)リ「疾ッ!」
/ ゚、。 /「む……!」
爪'ー`)y‐~「ほぉ、やるね」
ミセリを喰らい尽くさんと飛び掛かる根喰いの、その首後ろにミセリは剣を突き立てた。
当然のように弾かれた長剣にミセリがバランスを崩すと、ダイオードの狙い澄ましたような槍撃がサポートに入る。
ミセ*゚ー゚)リ「っ、ダイオードさん!」
/ ゚、。 /「立ち止まるな、攻め続けろ!」
鈴木ダイオードは『キャラバン』に所属する冒険者の青年で、特に槍術に秀でる。
細身の身体から打ち出される槍は速度・破壊力共に高く、『シエラ』のダイオードの名と共に将来を期待された戦士だった。
味方の援護から単独での戦闘まで、彼の苦手とする戦いは無い。
巨大で頑強な甲蟲を、冒険者たちは上手く圧倒していた。
ξ;-⊿)ξ「、っ……」
(・∀ ・;)「うひょー、強ぇぇ……」
爪'ー`)y‐~「おいおい、君らはもうギブアップかい?」
ξ#-⊿゚)ξ「馬、鹿に……しないで!」
(・∀ ・;)「おぉ、ちょっとビックリしたのさ」
('A`)「狙いは間接部だ! 慎重に狙え、骨格装甲に当てても弾かれるぞ!」
(・∀ ・#)「了解ッ!」
っ†
早々に視力を捨てた根喰いの相手は、今はミセリと が引き受けている。
ドクオの助言を受け、またんきは素早く行動に出た。
(・∀ ・#)「……、……、……、」
っ、◎"
狙うは鎧甲の狭間、巨躯がうねる一瞬。
またんきの瞳は青に輝き、その掌でダガーナイフが激しく回転する。
(・∀ ・#)「食らえッ!」
彼が投げ放った短剣は的確に骨格の隙間を貫き、轟蟲は身を捩った。
攻撃力の低い投擲ナイフは致命打にはなり得ないものの、その隙はミセリら前衛には十分なものだ。
(・∀ ・)「ビンゴぉう!」
ミセ#゚ー゚)リ「ッいぃ!」
/ ゚、。#/「ツァッ!」
ミセリの長剣、ダイオードの突撃槍に深々と貫かれ、根喰いは断末魔の悲鳴を上げる。
('A`)「っし!」
ドクオが拳を握りしめる。
予想したより長い間蟲はその身をうねらせ、遂に沈黙した。
236 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/22(火) 22:48:43 ID:qebsNMHsO
ミセ;゚ー゚)リ「……」
ξ;-⊿)ξ=3「ふー……。なんとかなったわね」
痙攣し続けるワームの死骸を見下ろし、冒険者たちは息をつく。
(・∀ ・;)「なんつーか……こんなんばっかなのかよ、根喰いってのは」
('A`)「根喰いだけじゃないさ。脅威たり得ない生物なんぞ樹海には……いや、この世界には存在しない」
ドクオの言葉に、またんきは言葉を詰まらせた。
投げたナイフを回収する彼に、ドクオは続けて声を掛ける。
237 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/22(火) 22:50:36 ID:qebsNMHsO
('A`)「お前は……いや、誰だろうとだ。ドロップアウトしたい奴は好きにしろ。そこのロープを上れ」
/ ゚、。 /「臆病とは言わない。虚勢を張って己を過信する奴より、よっぽどマシだ」
(・∀ ・)「……いいや、残るさ」
ξ゚⊿゚)ξ「同じく」
ハソ ゚-ノリ「……」
爪'ー`)y‐~「全員残るらしいぜ?」
ミセ*゚ー゚)リ (……やべ、乗り遅れた)
('∀`)「……後悔するなよ。行くぞ」
ダイオード達四人を残し、ミセリ達三人は横穴に歩を進める。
その先に待つものは、……。
横穴はドーム部の様に分泌物のコーティングが為されておらず、
剥き出しの土の通路の所々に新たな蔦が芽吹き始めている。
まるでそれらの小さな種々が音の力を吸い取っているように、
通路を歩いている間は足音の反響も多少はマシに感じた。
……少し歩くと、また別のドーム部に出た。
ドクオの持つ松明の灯が壁面を仄かに照らし、幾つもの横穴を見せる
爪'ー`)y‐~「んー……右上の、アレが近いかな」
('A`)「ふむ……ミセリ」
ミセ;-ー)リ「オッケイ……」
ドーム部を通るのは、これで三回目だ。
ドクオからロープの一端を受け取り、ミセリは慎重にドームの底に降下し始める。
その間にドクオは手慣れた様子でロープを固定し、フォックスは退屈そうな様子で見ているだけ。
ミセ*゚ー゚)リっ|「……っと。良いッスよー!」
ドームの底に到達したミセリが声を掛けると、ドクオとフォックスが順に降りてくる。
何気なく上を見上げると、小さな亀裂が陽の光を伝えていた。
,ミセ*゚ -)リ「んー……」
('A`)「ん? ……あぁ、あれが地上だよ。突然あの高さから落ちて……」
ミセリと並んでドームの天井を見上げたドクオは、次に爪先で床を叩いた。
驚くほど平らな面を見せる巣の底面は、トントンと小気味の良い音を立てる。
('A`)「ここで大抵はくたばる。生きていても、音を聞き付けた根喰いに踊り食いだ」
ミセ*゚ー゚)リ「……ねぇ、ちょっと気になってたんだけどさ。根喰いって、いつも獲物が落ちてから来るの?」
('A`)「? ああ、そうだな。それが?」
ミセ*゚ー゚)リ「んー、どうやって場所を探しあててるのかな、って」
('A`)「さぁな。俺の昔の仲間がそんな研究をしてたが、
結局は音を使ってるって事しかわからなかったんだとさ。
……フォックス、次どれだっけ?」
爪'ー`)y‐~「あれ。……三人とも近くに居るみたいだよ」
フォックスが指した横穴を確認し、ミセリはドクオからロープの一端を受け取った。
小さな増幅器の付いた短剣を引き抜き、親和を起動。精霊の行き渡った両脚に力を入れる。
ミセ#゚ー)リ「それじゃ行きます、か!」
短く一歩、長く二歩。
三歩で最高速に乗って、次の足は壁に着く。
弾かれるような力を全て斜め上向きに変換し、切り立った壁をミセリが駆け上がった。
ミセ#゚ー゚)リっ「ふっ!」
浮力が消えかけた一瞬、ミセリは左手の短剣を水平に突き立ててバランスを取り返す。
そこを新たな足場に、更にもう一歩飛翔。ミセリの左手は目指す横穴の縁を辛うじてとらえた。
勢いそのままミセリは通路に這い上がり、肩で息をつく。
ミセ#゚ー゚)リ、「……ふっ、決まった。……どーぞ!」
ロープを腕に巻き付けて合図を送ると、それに合わせてギシギシと重みが掛かる。
ミセリは親和を再起動し、二人分の重みの乗ったロープを引き上げた。
('A`)「あい、お疲れさん」
ミセ;-ー゚)リ「んやぁ、大したこと無いッスよ。さ、行こう」
ミセリが言いかけたその時、通路の向こうから轟音が響いて来た。
凄まじい重さを持った何かが大暴れしているような、そんな音。
爪'ー`)y‐~「んー、ちょい待ち……『ゴボド』とハインリッヒ氏の三人が根喰いと交戦してるね」
ミセ;゚ー゚)リ「!?」
('A`)「……急ぐぞ。他の根喰いは?」
爪'ー`)y‐~「……音に引かれて近付いて来ている。件の“何か”の反応は変わりないがね」
ミセ;-ー)リ「そう。それじゃ……」
……話は早いじゃないか。
親和を起動し、強化した脚力で数度地面を踏みしめる。
その意に気付いたフォックスは不敵な笑みを浮かべた。
,ミセ*゚ー)リ「先に行くよッ!」
(;'A`)「んなっ、……くそ、気を付けろよ!」
二人の返事を待つ時間すら疎ましい。
速度に特化したミセリの能力は、その一点においてのみ、ドクオ達を上回る。
光の無い洞窟を、ミセリは全力で駆けた。
この通路は他の通路と比べてやけに長い。それでも、三回分の呼吸が終わる前に次のドーム部が見えた。
闇の中に、松明が二本。
赤の炎に照らされて白刃が煌めく。
(;・3 )「、ッ」
(;・↓・)「ボル! くそ、化け物が……!」
二人の冒険者はいずれも相応の手練のようだったが、戦う相手はより強力だった。
根喰い、それもミセリらが先程倒したものに倍する、巨大な蟲。
広大な木のドームの中心で、“それ”は螺牙を剥く。
蟲の鎌首に突飛ばされた一人を庇い、三叉矛を構えるもう一人。
そして、薄闇の中を舞うもう1人の影。
从#゚∀从「伏せろ! 追撃が来るぞ!」
ハインの叫びを受け、二人の冒険者は地面に身を投げだした。
彼らがそうするか否かの内に、根喰いのブン回した尾が二人の頭上を薙ぐ。
244 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/22(火) 23:03:37 ID:qebsNMHsO
(;・3・)「うッ、危ねぇ……!」
(;・↓・)「危うく二人揃ってミンチだった、か……」
あの尾が直撃したら、恐らく容易く命が無くなる。
暴風のような横殴りの後、二人は何とか無事だったようだ。
ハインが大声で鼓舞しながら、鉈を構える。
从 ゚∀从「っし! 押し返すぞ! ……何をしている、さっさと来い──ミセリ!」
ミセ;゚ー゚)リ「え……お、おう!」
ハインは既に蟲の懐に潜り込んでいる。
ミセリは慌てて横穴を飛び降り、鉈を振るうハインに続いた。
从 ゚∀从「左側は任せるぞ、甲の毒爪に気を付けろ」
ミセ#゚ー)リ「了か……って、え?」
毒? 何それ聞いてない。
踏み出しかけた足を、ミセリは咄嗟に横に飛ばした。
根喰いは咆哮と共に牙をハインに向け、ミセリに背を突き出した。
甲鱗をブーツの底で受け止めると、確かに縁の一部が鋭く尖っている。
ミセ;゚ー゚)リ「……まじですか」
ミセリが驚く合間にも蟲はその身を捩らせ、その度に毒鱗が蠢く。
慌ててミセリは根喰いの背を飛び退き、のたうつ躯を避けた。
(;・3・)「あ、新手の! そいつの毒はかすり傷一つでも感染する!
俺達はそれでやられた! 感染したら身体が痺れるぞ!」
ミセ;゚ー)リ「ひぇぇ、この状況じゃ致命的じゃないッスか……」
とは言え、不思議と恐怖は無かった。
精霊の力を浸透させた両足に力を溜め、ミセリは再び獰猛な巨蟲に立ち向かう。
『縞』。
麻痺毒を有する背の爪も螺旋状に生えた牙も、それらを最大限に生かす巨大な躯も。
そんなもの、掠りもしなければ良いだけの話じゃないか。
ハインの降り下ろした鉈が、根喰いの鱗の一部を粉砕した。
暗闇の視界の悪さすらものともせず、ミセリは新たな根喰いの隙を──最上段の甲鱗の隙間を、果敢に狙う。
そして、
ミセ#゚ー)リ彡「ッ!」
ミセリの突き立てた長剣が柔らかい皮膚を貫通し、猛毒がその下の脳を破壊した。
从 ゚∀从「よぉし、良くやった!」
247 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/22(火) 23:06:40 ID:qebsNMHsO
(;・3・)「か、勝ったのか……?」
ミセ;-ー-)リ「……しんどいッスね」
ミセリは親和を解除し、息を吐いた。
『ゴボド』の二人は、と見ると、それぞれ小さな怪我は有りながらも、命に関わるものは無いようだった。
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫ッスか、ええと、ボルジョアさんにオリッチさん?」
(;・↓・)「あ、ああ。もう毒も抜けてきた」
男は立ち上がり、身体を曲げ伸ばしして見せる。
どうやら、本当に心配なさそうだ。
( ・3・)「助かったよ。あんた達が居なければ今頃……」
礼を言う男を片手で制し、ハインが言う。
从 -∀从「……まずはここを出よう。ミセリ、キャラバンは?」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、うん。すぐにドクオさんとフォックスさんが来るよ。ダイオードさんとまたんきさん達も来てる」
(;・3・)「ど、ドクオが!?」
(;・↓・)「……」
二人の反応を、ミセリは不思議に思った。
だがミセリの疑問を断ち切るように彼らは続ける。
(;・↓・)「あ……ああー、いや。あの有名なドクオさんが来るなら安心だ。もう近いのかい?」
ミセ*゚ー゚)リ「う、うん。ついさっき置き去りにしてきたばかりだから……」
( ・3・)「あ、そ。……じゃあ仕方ないなあ」
男の一人がミセリの近くに歩み寄った。
小柄なミセリからは、彼を少し見上げる形になる。
249 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/22(火) 23:10:14 ID:qebsNMHsO
ミセ*゚-゚)リ「……え?」
从;゚∀从「ミ……セリぃッ!」
ハインが慌てた声を出している、その理由がミセリにはわからなかった。
どうしたの。そう言おうとして、何故か言葉がうまく出て来ない。
横向きになった男の顔を見上げる内、ミセリは自分の身体の違和感に気付く。
( ・3)「ま、まだ殺しはしねーって。ちょっとお付き合いいただくのさ」
ミセ; ー)リ「あ……が……」
腹。革の軽鎧の隙間を縫うように、何かが突き立てられている。
痛みは無い。血が流れる感覚も無い。……身体の感覚も、無い。
ただ、意識だけがはっきりしていた。
从#゚∀从「ネーノ・バリーズを殺ったのも、やはり貴様らか」
( ・3・)「うん、気付いていたのかい? ……流石は大陸育ちの大冒険者だ」
(ν・ω・)ν「ハハハ、まぁ今さら何にもならねーって」
从#゚∀从「何を言って…… !?」
ハインは己の全身に絡み付く白い糸に気付く。
親和、おそらく目の前の男の。
迂闊だった。根喰いに気を取られて、初めから疑っていた方への注意が逸れるなんて!
( ・3・)「お前らが根喰いとやり合ってる間に仕掛けさせて貰った。気付かなかっただろう?」
从#゚∀从「く、この程度……!」
( ・3・)「すぐに引きちぎれる、だろう? そうしたらすぐに追ってこいよ。ドクオにチクらずにさ」
从#゚∀从「!」
男は手元の糸を数度手繰り、自分たち二人を、そしてミセリの身体を浮かせた。
そして、別の糸に引き寄せさせたのだろう、空中を飛ぶように移動し、横穴の一つに飛び込む!
( ・3・)「すぐに追い付きな! じゃないと、この小娘でネーノみたいに遊んじゃうかもよ!?」
从#゚∀从「ク……ソがッ!」
ハインは自らを拘束する糸を力任せに引き千切り、二人の後を追った。
ハインの持つ親和は、ミセリと同じく“緑”。それも、ミセリと同じくスピードに特化した親和能力。
当然、冒険者になって一年目のミセリと比較すると、その最高速度はまさに桁違いだ。
……しかし、そのハインの行く先には、数え切れない程の細糸が張られていた。
从#゚∀从「しゃらくせぇッ!」
まとわりつく糸は、すべて脚力で振り払え。
幾重幾十重でも、ブチ破ればいい。
張り巡らされた糸は確かにハインの機動力を奪ったが、立ち止まらぬ限りそんなものは何の拘束力にもならない。
横穴二つを抜けた所で、ハインは男に追い付いた。
そのドームは浅く天井の亀裂が破られており、十分な陽の光が差し込んできている。
天井からは恐らく前もって用意してあったのだろうロープが垂れていて、
ドームに残っていたのは男のうち一人だけだった。
从#゚∀从「どうした、下らない鬼ごっこはもうおしまいか!?
それとも、もう一人は上手く逃げ切ったから良しとするのか!?」
( ・3・)「……そうぎゃんぎゃん喚くなよ。俺達の鬼はお前じゃなくてあのドクオだ」
从#゚∀从「……ンだと?」
( ・3・)「お前、大陸の冒険者だろ? まだまともに親和が戻ってないんだよな?
……知ってるぜ。冒険者は海を渡る時に親和の力が殆ど失われるんだ、ってなぁ!」
从#゚∀从「だったらどうした?」
( ・3・)「だーかーらー、お前なんざ俺一人でも余裕でツブせるんだよ。
ちょっと身体能力の高いだけで、能力はルーキーと大差ないんだろ?」
男はミセリの身体を投げ捨て、仰向けになったその胸を踏みつけた。
ブーツの底のスパイクがミセリの衣服を突き破り、革鎧の隙間から血が滲み出す。
ミセ; -)リ「う……あっ……」
从# ∀从「……その汚ぇ足を、ミセリから退けろ」
ハインの絞り出すような声に、男は高笑いする。
それどころか、ミセリの胸を踏みつけている足を上げ、力一杯踏み下ろした。
ミセリの革鎧は大きく裂け、生地を貫いたスパイクが直接肌に届く。
ミセ; д)リ「うあぁッ、あッ……ッ!」
( ・3・)「イヤダヨ。だってさぁ、コイツこんなに良い声で喘ぐんだぜ? そんな勿体ない事はないさ」
更にもう一度、男が足を持ち上げるのが見えた。
ミセリの意識は、この時もまだ残っている。
短剣に塗られていた麻痺毒は効果を無くしてはいなかったし、身体は全く動かせない。
それでも、痛覚や視覚聴覚は戻っていたし、思考力もあった。
……胸と腹とに走る痛みだとか息が詰まる苦しみだとか、或いは胸が晒される羞恥だとか、
その時に感じていたのは、そんな退屈なものではない。
ミセリの心にあったのは、純粋な“恐怖”。最も本能的な、原初の激情。
……自分の命が危ないとか、そういう事でもない。
从# ∀从
ハインが、キレた。
……
('A`)「……クソッ」
長い横穴を駆けながら、ドクオは一人毒づく。
ハインらの気配が遠ざかった事に、当然ながらフォックスも気付いた。
しかし、フォックスが告げたのはそれだけではない。
ずっと根喰いの巣の奥に居た“何か”、その“何か”が動きだした、と。
ドクオはその場で少しだけ考え込み、急ぎ追いかける判断を下す。
……もし自分の想像が正しければ、罠に掛かったのはこの根喰いの巣に入った全ての冒険者だ。
( 'A`)「……二人とも。無事で、」
「あぎャぁァァあアアああ、……」
ドクオが言いかけたその時、二人が進む先から悲鳴が聞こえ、唐突に途切れる。
続けて、狂気的な咆哮が巣穴全体を揺るがした。
思わずその場に凍り付いたドクオに、追い付いたフォックスが忌々しげに言う。
爪'-`)y‐~「……タイムアップ、ゲームオーバーだ。俺達もここを離れよう」
('A`;)「な……に……?」
爪'-`)y‐~「今の圧倒的な咆哮、この狂気に満ちた気配。
……こいつは竜種だよ、俺やあんたじゃ相性が悪すぎる」
……
ミセ; -)リ「あ……あい、ん……」
从 ゚-从「……済まない、助けるのが遅れた」
ミセリから足を退けた男、彼が槍を構えた直後。
糸を繰り出す男が、天井の穴に特製のロープを据え付け直後。
……ミセリが二人の命の危険を感じた直後。
鬼神が、鬼神の如く怒り狂ったハインが、巣穴のドームを吹き荒れた。
ハインは武器を使っていない。
もし使っていたとしたら、この男は、
(:+#。3゚)「……」
原型すら無かったに違いない。
彼の敗因なんて、どこにもない。
絶対の力量差を以てする一方的な蹂躙を、誰が勝負と呼ぶものか。
从 -∀从「……さ、帰ろう。この二人はここに残しておいて、ドクオに任せればいい」
ミセ; ー)リ「あ……っ……」
ミセリを抱きえかか、糸の男──ボルジョアのロープを上ろうとした時、ハインは彼が必死で何かを言っていると気付いた。
从 ゚∀从「……?」
(:+#。3゚)「……だ、だのんます……お゛、お゛れも、地上に、連れでいっで……」
从 ゚∀从「あん? なんで」
(:+#。3゚)「あいづが……あいづが、ぐる、んでず……」
从 ゚∀从「だから何が来るって……ん?」
横穴の一つ。
別のドームに続いているであろうそれから、凶悪な殺気が漏れ出してきた。
小さく聞こえる息遣い、足音、根の軋み。
それら全てが死を連想させる。
从;゚∀从「な……バカな、アレは……アイツは……!」
ミセ; -)リ「……?」
闇が、蠢いた。
ミセリには、それが闇そのものに見えた。
アレと関わってはいけない! 本能が警鐘を鳴らし、それ以上感覚を向ける事ができない。
……ミセリが、ハインが『呆然と目を背ける』中、絶対の死がその腕を伸ばし倒れ伏した男を掴む。
(:+#。3゚)「あ、あああ、あああああ、あぎャぁァァあアアああ、」
彼の叫びは、その首の消滅を以て中断させられた。
頭を失った彼の身体は次に右腕を、胸を、左腕を、順に消滅させ、後には血飛沫すら残らなかった。
……その彼の末期を、ミセリは知らない。
彼女を抱えたハインが、その囮が犠牲になっている隙にドームの外へと脱出したからだ。
哀れな男を飲み干した死の権化は、次の獲物を求めて洞窟を這い進んでゆく。
……
地上。
从; ∀从「ハァ、ハァ、……追って来ては、居ない……か。」
ミセ; -)リ「あ、あいん……らいじょうう?」
从; ∀从「……あ、あぁ。ちょっと、驚いた、だけだ……」
毒で呂律の回らない舌でミセリが問いかけると、ハインは肩で息をしながら答えた。
二人が居るのは、初めに入った亀裂の辺り。ドームの出口からここまで、ハインは一息に駆けた。
しかし、ハインほどの冒険者ならばそれは決して息が上がる距離ではない。まして、滝のような汗を流すには。
从; ∀从「大、丈夫だ。まだ、まだ私は……」
ミセ; -)リ「な、ないを……?」
ハインは地面の亀裂を覗き込んだ。
底を見通す事は出来なかったが、話し声は聞こえる。
从; ∀从「おい、聞こえるか! この巣穴の奥に竜種が──玄竜が居る! すぐに退去の準備をしろ!」
一拍。
巣穴の底から、返事が返ってくる。
ダイオードの透き通った声は、動揺に震えていた。
「ハインリッヒか!? ……すまないが、よくわからない、状況を説明してくれ! ドクオは!?」
从; ∀从「だから……巣穴の奥に玄竜が出没したんだ! 俺とミセリは無事、ドクオとは会っていない!」
少し間が空いて、再び返答。
「……わかった、またんき達三人を上に送る! その場を確保してくれ!」
从; ∀从「……ああ!」
それだけ言い終え、ハインはその場に膝を突いた。
荒い息はそのままに、数歩だけ後退る。
……やがて、またんきとツン、ナチが穴から這い上がると、ハインは三人に事情を説明する。
ネーノを殺したのが残りの二人だった事。巣穴の奥に現れた玄竜の事。ボルジョアが死んだ事。
そうする内にドクオらが別の出口から帰還し、ダイオードが引き上げる。
この散々な一件を通し、それでも探索舞隊に表だった被害は出なかった。
ギルドゴボドは構成員二人を失い、一人は失踪。彼らはすでに活動が終焉した。
キャラバン付近の根喰いはこの日を境に消滅し、管理者を失った巣穴は
驚異的な再生力を持つ樹々に埋め立てられ、後には何も残っていない。
……こうした経緯を以て、キャラバンに起きた一つの事件の幕引きとする。
ただ、この件は幾つかの爪痕を残した。
……
('A`)「……と言う訳だ。どう思う?」
( ^ω^)「うん、わけがわからんお」
ドクオの報告を受け、ブーンは即答した。
ブーンの返答を聞き、ドクオは報復する。
(#'A`)「……」
(;^ω^)「ちょっ、痛い痛い痛い痛いって! 無言でこめかみ締めるのは止めろお!」
(#'A`)「お前に頭脳労働なんて無理なのはわかってたけどさぁ! ちょっとは頭使えよ!」
(;^ω^)「だ、だから僕もドクオの頭を利用して……いたいって!」
ブーンのタップを聞き入れ、ドクオはこめかみを掴んでいた手を放す。
頭を押さえるブーンを無視し、彼は話し始めた。
('A`)「今回の件。を殺した二人はラウンジ出身だ。ハインリッヒの話だと、そいつらは玄竜の出現を知っていたらしい」
( ^ω^)「お……。で?」
ブーンの目には、先程までの様なふざけた調子は無い。だからこそ、ドクオは黙って話を続ける。
ブーンは本気でドクオの頭脳をアテにし、ドクオは本気でブーンの期待に答える。
('A`)「……なのに、わざわざ危険を冒してまで根喰いの巣に入るか、現に一人はそうして死んだのに?
奴らの目的は何だった。……俺やお前を始末する事だよ、あの土色の竜を使ってな」
( ^ω^)「……ラウンジか」
('A`)「恐らく、な。……怪しいのは……」
キャラバンの夜は更け行き、それぞれの陰謀を写し出す。
……
_
( ゚∀゚)o「……ミセリは?」
从 ゚∀从「ぐっすり寝てる。傷も大したことは無いよ」
_
( ゚∀゚)o「……ふーん」
ジョルジュは心配そうに訪ね、ハインが答える。
昼以来ミセリが眠り続けているのも、無理もない。
結果的に二匹の根喰いと対峙し、その二匹ともに止めをさす形となったのだ。
それに加えて麻痺毒を受け傷を負い、もはや一年目の冒険者の可能な域をこえている。
ミセリの容態に安心したジョルジュは、不意に鋭く目を細めてハインを見据える。
_
( ゚∀゚)o「……聞いたぞ、竜がいたんだってな?」
从 -∀从「……あぁ、玄竜だ」
_
( ゚∀゚)o「……はっは、それはツイてないな!」
ジョルジュの高笑いは、ハインやミセリに同情したものではない。
むしろ、その逆の……
从 ゚-从「……そんなに竜と戦いたかったのか?」
_
( ゚∀゚)o「……おう。俺は──」
从 -∀从「──。そうだな」
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( ゚∀゚)o「それで、お前の方は? やけに取り乱していたらしいが」
从 -∀从「……ああ、嫌な事を思い出したのさ」
_
( ゚∀)o「か、そうか。……まぁ、それなら仕方ないな。竜の話は一旦は諦めるか」
ジョルジュはヒラヒラと手を振って、外へと歩き去った。
ハインがもう一度部屋を覗くと、ミセリは尚も穏やかな寝息を立てている。
从 -∀从「……兆し、か」
眠り続ける少女を見ながら、ハインは一人考える。
玄竜。『タウエレト』に居た頃から私を縛り続ける、戒めの鎖。
大地を統べる悪鬼が再び眼前に現れたのは、ただの偶然だろうか。
……冒険者たちを巻き込む運命。それがたった今、動き始めたのかもしれない。
第三話、『兆しのうろ』了
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この記事へのコメント
1. Posted by March 20, 2011 01:40
話飛んでないか・・・?