February 26, 2011
( ^ω^)シベリア殺人事件のようです
*モチーフ
ZABADAK/オハイオ殺人事件
*原曲スキーな方、ごめんなさい。
*音楽短編祭参加作品
( ^ω^)「僕は人を殺しました」
とある冬の日のこと。
シベリア警察署に、中年の男が出頭してきた。
彼の左手には血まみれのナイフがあったから、何かしらの事件があった事は明白だ。
「…え?」
( ^ω^)「僕は、妻を殺しました。これが妻の胸を刺したナイフですお。
一応、念のために身分証明とか持ってきましたお」
( ^ω^)「さぁ、逮捕してください」
突然のことに驚きを隠せないでいる警官にナイフを渡し、男は両手を差し出す。
それはシベリアで起きた、小さな事件。
永遠の幸せを求めた男が引き起こした、『間違った』事件だ。
( ^ω^)シベリア殺人事件のようです
‐1‐
( ^ω^)「―――今日はいい天気ですね、刑事さん」
( ・∀・)「あぁそうだな。こんな日は殺人事件の話なんか聞きたくなかったんだがね」
( ^ω^)「はは、それはすいませんでしたお」
( ・∀・)「あんたの名前は?」
( ^ω^)「内藤ホライゾンです」
( ・∀・)「はい、内藤…ホライゾン、ね」
( ・∀・)「……で、なんで奥さんを殺しちゃったんだ? しかも自首なんt」
( ^ω^)「僕は妻を殺しましたお」
( ・∀・)「……それは今聞いたよ」
( ^ω^)「遺体は冷蔵庫の中にしまってありますが、特に意味はありません。
血がちょっと凄いことになってるので、あまり慣れてない人は行かせない方がいいと思いますお」
( ・∀・)「…そうかい、そんな気遣いいらんから、事件起こさないでほしかったもんだよ」
( ^ω^)「もう遅いですおねww」
( ・∀・)「笑いごとじゃねえ。…奥さんの名前は?」
( ^ω^)「内藤ツンですお」
( ・∀・)「ツンさんね」
( ^ω^)「ツンは、僕にはもったいないくらいの人でしたお」
( ・∀・)「ほー。…じゃあ、なんでまた」
( ^ω^)「今も昔も、これからも、ツンは僕が知ってる中で1番の女性ですお。
ツンと今まで一緒に生きてこられたこと、まだ夢みたいに思ってるお…」
( ・∀・)「……そんなに惚れてたんなら、何で殺しちゃったんだ?」
( ^ω^)「…刑事さん、恋人はいますかお?」
( ・∀・)「…いや、いないけど」
( ^ω^)「愛せる人がいるってのは、いいもんです。結婚はもっといいですお」
( ・∀・)「…生憎、相手がいないんだ。それより、奥さんを殺した動機を―――」
( ^ω^)「僕はね、刑事さん。ツンを殺した事を、
これっぽっちも後悔してないんですお」
(;・∀・)「……何で?」
( ^ω^)「さぁ、…何でだと思いますか?」
楽しそうに、刑事をからかうように、内藤は言った。
( ^ω^)「刑事さんに分からないのも無理はない。あなたは正常で、僕が異常なだけだお。
気にする必要はないんだお」
(;・∀・)「……? 何、言ってんだ?」
( ^ω^)「今日はいい天気ですおね。本当に。
何十年も前にシベリア教会で結婚式を挙げた日もね、こんな感じの天気だったんですお。
季節もちょうど、この時期だったお……」
(;・∀・)「……」
どうも、会話が噛み合わない。
他の事は素直に答えるのに、動機の話になると、途端に内藤は口を閉ざしてしまうのだ。
( ^ω^)「動機は答えられません。恋人がいない刑事さんには、僕が何でツンを殺したか、
絶対に理解出来ないからだお」
そう言うと、ついに内藤は何も喋らなくなってしまった。
取り調べ室の窓から空を見上げる内藤の横顔は、どこまでも穏やかだ。
数日後、法は正式に内藤の有罪を認め、彼はシベリア刑務所へと送られる。
そして看守により、日が差し込まない暗い独房へと案内された。
( ^ω^)「……」
独房は狭く、必要最低限のものしか置いていない。
ベッドは薄汚れているし、申し訳程度についている窓には、
頑丈そうな鉄格子が取り付けられていた。
周りの房に収容されている者は、みんな疲れたように俯いていたり、
死んだようにベッドに横になっている。
( ^ω^)「……」
<よお
看守が独房に鍵をかけ、立ち去ったあと。
隣の房から、しゃがれた男の声が話しかけてきた。
( ^ω^)「?」
<刑務所は初めてか? まあ力抜けよ
( ^ω^)「あ、はいですお」
<何か分からねえことがあったら、何でも聞きな。暇なんだ
<どいつもこいつも話しかけても返事すらしやがらねぇんで、退屈なんだよな
( ^ω^)「はぁ」
<アンタ、名前は?
( ^ω^)「あ…内藤ですお。内藤ホライゾン」
<そうか、知らない奴で良かったよ
( ^ω^)「あなたは?」
<俺は鬱之宮ドクオだ。よろしく
( ^ω^)「よ、よろしくですお」
<殺人だろ?
(;^ω^)「は、はぁ」
<何人殺したんだ?
( ^ω^)「……1人ですお」
<そうか。俺も1人だ
ドクオと名乗った隣の房の男は、今まで相当暇だったのか、
聞いてもいない事を一人でペラペラと話し始めた。
<俺が殺したのは、クソみてぇな野郎さ
( ^ω^)「何か、されたんですかお?」
<何かなんてモンじゃねぇよ
<俺にはさ、結婚を前にした彼女がいたんだよ
<それを妬んだあのクソ野郎が、嫌がる彼女を無理やり襲ってな
( ^ω^)「……」
<俺が殺したのは、そいつさ
<あの野郎のおかげで、彼女は病んで病院行き
<俺は地獄行きだ
( ^ω^)「それは…大変でしたおね」
<あの野郎がいなけりゃ、今頃俺らは結婚して幸せに暮らしてたんだぞ?
<それが、今はどうだ?
<アイツを守ってやれねぇわ、こんなところにブチ込まれるわで最悪だよ、ほんと
( ^ω^)「やろうと思えば、いくらでもやり直せますお」
<…そうか?
( ^ω^)「もちろん」
<……
( ^ω^)「そんなに心配しなくても、きっと大丈夫だお」
<……なら、いいけどな
<そういや、あんたは何で殺人なんかしたんだ?
<虫も殺せねぇような声してやがるじゃねぇか
( ^ω^)「……色々あったんだお」
<え?
( ^ω^)「僕の話なんかより、あなたの話が聞きたいですお」
( ^ω^)「彼女さんは、どんな方だったんですかお?」
<お、それ聞いちゃう? 俺、ずっと語っちゃうぜ?
( ^ω^)「僕も退屈だし、のろけ話でも何でも聞かせてくださいお」
<よしきた、じゃあ遠慮なしに語るぜ
うまく話題を変え、内藤は聞き手に徹する。
今までほとんど喋る相手がいなかったのだろう、
ドクオは、放っておいてもよく喋った。
<彼女…クーってんだけど、もうほんっとに美人なんだよ
<俺なんかにゃもったいないくらい、いい女なんだ
<俺が風邪引いた時なんか、好物持って見舞いに来てくれたり―――
<ちょっと意地っ張りだけど、そこがまた可愛くてさ
<シベリア1、いや、世界で1番の美人だと思うんだ。マジで
( ^ω^)「……」
<初めて会ったのが、シベリア図書館の近くのカフェでさ
<もう一目惚れよ
<話しかけるのに、多分寿命10年は縮んだな
<なんとか気を引きたくて、クーの横を通った時に財布落としてみたりなんかしてさ
<わざわざ追い掛けてきてくれたりな
( ^ω^)「……いい人ですおね」
<そうだろ? 器量よし、スタイルよし、じゃ男は放っておかねえよ
( ^ω^)「…………」
<付き合い出したときにさ、色んな奴に言われたんだ
<「お前はラッキーな奴だ」って、そりゃもう血の涙を流さん勢いでwww
<狙ってる奴も、結構いたみたいでさwww
( ^ω^)「……」
<でも、俺も本当にラッキーだと思うよ
<夢の中にいるんじゃないかって思うくらいだ
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「その……結婚、直前だったんですかお…?」
<あぁ。あとは婚姻届を提出するだけだった
<新居の相談とか、ハネムーンとか
<そういう話ししてるだけで本当に幸せでさ
<「小さくてもいいから、庭がある家がいい」とか
<「屋根の色は赤がいいな」とか。「子供は2人がいい」とか
<一生、俺の命を懸けても絶対に幸せにしてやろうって思ったね
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「……あなたは、きっとその彼女さんを心から愛して幸せにしてあげられますお」
<お、そうか?
( ^ω^)「はいお。ずっとずっと、大切にしてあげられると思いますお」
<そう言われると嬉しいね
<ま、どっちみちしばらく俺はこの地獄からは出られねえけどな…
( ^ω^)「……あなたなら、大丈夫ですお」
どこか寂しそうに笑い、内藤はベッドに腰掛けた。
ドクオののろけ話は、まだしばらく終わりそうにない。
‐2‐
( ・∀・)「ったく、マスコミってやつは相変わらずだな…」
テレビのニュースを見ていた刑事は、苦々しく吐き捨てた。
画面の向こうでは、頭の弱そうなアナウンサーが、
大袈裟な身振りを交えながら、内藤の起こした事件を報道している。
ミセ*゚ー゚)リ『ニュースをお伝えしまぁす。先日、シベリア町で殺人事件がありました。
被害者はナイフで胸を刺された後、冷蔵庫にしまわれていたようです。
犯人は凶器のナイフと身分証明を持って、警察署に出頭した模様で……』
(;・∀・)「なんだこのアナウンサー、全然なってないな」
(´・ω・`)「あぁ、例の事件のニュースかい?
全く、マスコミってやつは本当に人の不幸が好きな人種だねぇ」
( ・∀・)「あ、ショボンさん」
(´・ω・`)「やあ、モララー。君もそうは思わないかい?」
食事を摂っていたモララーの元にやって来た中年の刑事は、
テレビから視線を離し、肩を竦めてみせた。
(´・ω・`)「この事件の犯人…内藤、だっけ。取り調べしたのは君だろ?」
( ・∀・)「はい。全く奇妙な奴でしたよ。奥さんを愛してたくせに殺したとかなんとか…。
さっぱり意味が分からない」
(´・ω・`)「動機は話してくれなかったのかい?」
( ・∀・)「ダメでしたね。動機を聞こうにも、自分の世界に入っちまって、話が支離滅裂で。
殺害方法とか凶器をどこで買ったとか、そういうのは聞いてない所まで話すのに、
動機に話題が移るとだんまりです」
( ・∀・)「人ひとり殺しておいて、『後悔してない』とか言ったり。
恋人もいない僕には、何故殺したか絶対に分からないとか。
異常なんですよ、あいつは」
(´・ω・`)「……そうか」
(´・ω・`)「内藤は、いくつだったっけ?」
( ・∀・)「ショボンさんと同じくらいだと思いますよ」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「君、まだ結婚してないんだよね?」
( ・∀・)「してないですね。恋人もいませんし。恋愛してる暇がないと言いますか」
(´・ω・`)「そうか……。じゃあ、君には分からないのも無理はないかもしれないなぁ」
( ・∀・)「? …どういう事ですか? ショボンさんには分かるんですか?」
(´・ω・`)「なんとなく、だけれどね。君も考えてごらんよ。
たまーに、こういう事件が起こるのさ。犯人は、だいたい中年の男でね」
( ・∀・)「……? 実は内藤、奥さんを愛してなかった?」
(´・ω・`)「いや、多分愛してたと思うよ。ほんとうに、心の底からね」
( ・∀・)「……分からないです。お手上げです」
(´・ω・`)「…時々、いるんだよね。若い頃に結婚して、
奥さんとずっと一緒に毎日を過ごしてると」
(;・∀・)「…?」
(´・ω・`)「子供がいて、奥さんがいて。
何もないけど幸せな日常の中で、ふっ、と思う」
(;・∀・)「…し…ショボンさん?」
(´・ω・`)「まぁ、『それ』を思っても実行はしないのが普通だけどね」
(;・∀・)「……内藤然り、ショボンさん然り、なんか……おかしいですよ」
(´^ω^`)「はは、ごめんごめん」
( ・∀・)「…で、結局内藤の動機は何なんでしょう?」
(´・ω・`)「……」
モララーの質問には答えず、ショボン刑事はテレビに視線を移した。
アナウンサーは、相変わらず間延びした声で、報道を続けている。
ミセ*゚ー゚)リ『―――被害者、内藤ツンさんが冷蔵庫にしまわれていた意味。家の中の凄惨な光景。
何が加害者を凶行に駆り立て、被害者は殺されねばならなかったのか。
近所では評判の仲良し夫婦だったという彼らに、一体なにがあったというのでしょうか』
ミセ*゚ー゚)リ『……それでは、近所の方に、お話を伺いたいと思います』
ミセ*゚ー゚)リ『内藤氏は、どんな方でしたか?』
ζ(゚ー゚*ζ『いつもニコニコしてて、優しい人でしたよ~。
何であの人が、奥さんを殺したんですかね~…』
ミセ*゚ー゚)リ『なるほど、ありがとうございます。家庭環境や仕事など、
内藤氏にストレスが溜まっていたようには見えませんでしたか?』
ζ(゚ー゚*ζ『いいえ、全然! 昔は、休日になるとお家の庭でお子さんと一緒に遊んでましたよ。
奥さんとも仲が良かったようだし、ストレスなんて溜まっていたようには思えなかったです~』
ミセ*゚ー゚)リ『では、被害者の内藤ツンさんはどんな女性でしたか?』
ζ(゚ー゚*ζ『若い頃は、シベリアで1番の美人だったって言われてたみたいです。
お子さんもしっかりしてるし、本当に…殺されたなんて嘘みたいです……』
ミセ*゚ー゚)リ『お話、ありがとうございます』
ミセ*゚ー゚)リ『では今から、惨劇の現場…内藤氏の自宅へ行ってみたいと思います―――』
(´・ω・`)「……ダメだねぇ」
( ・∀・)「本当ですね。あのアナウンサー、ちゃんと教育さr」
(´・ω・`)「彼らは、被害者のことにしか目を向けてないよ」
( ・∀・)「……当然だと思いますけど」
(´・ω・`)「真実を報道するなら、色んな方向から物事を見て、冷静に分析しなくちゃいけないよ。
でも、彼らは『被害者』の視線でしか報道していない。
これじゃあ、いくら取材したって真実はねじ曲がってしまう」
(´・ω・`)「特に、彼らは報道を仕事にしているんだから、そこら辺慎重にならなきゃ」
(;・∀・)「……」
(´・ω・`)「被害者の悲劇を伝えるだけなら、子供にだって出来るよ」
(´・ω・`)「何が正しくて、何が間違ってるのか判断するのは誰だい?
法律は罪を判断するだけだよ。
『正しい』も『間違い』も、人によって簡単に変わってしまうんだ」
(´・ω・`)「内藤の中では、奥さんを殺したことが『正しい』と思ってるかもしれない。
こういう事件はデリケートなんだから丁重に扱わないといけないのに、
全く…偏った報道するなんて、最近のマスコミはダメだね」
(;・∀・)「そ、そうですね…」
( ・∀・)「……ショボンさん、もしかして…内藤を擁護してます?」
(´・ω・`)「あぁ、そんなつもりはなかったんだ。
『第三者から見れば』、間違いなく内藤は裁かれるべき事をした。
少なくとも、僕は彼を擁護するつもりはないよ」
(´・ω・`)「ただ、偏った情報だけで一方的に犯人を非難するのはどうかと思うんだ。
言葉ってのは難しいね」
( ・∀・)「……」
(´・ω・`)「…取り調べしてるとき、内藤は満足した顔をしていただろう?」
( ・∀・)「……してました。自首してきた時も…」
(´・ω・`)「どうやら、『後悔してない』っていうセリフは、嘘じゃないみたいだね」
(;・∀・)「愛してた奥さんを殺して、それで満足って……狂ってます。
おかしいですよ!」
(´・ω・`)「そうかもしれないね。殺人なんて、どこか箍が外れてる奴しかやらないものさ。
内藤も、他に殺人を犯した奴も、狂ってるんだ。
そして、内藤の気持ちがなんとなく分かってしまう僕も、もしかしたら狂ってるのかもしれない」
(;・∀・)「…じ、冗談やめてくださいよ…」
(´^ω^`)「はは、ごめんごめん」
(´・ω・`)「でも、君も結婚して、何年も奥さんと暮らせば、
今回の動機はなんとなく分かると思うよ」
(;・∀・)「……そんな事も言ってらんないですよ。僕には恋人なんかいないし、動機はさっぱり。
どういう事なんですか? 内藤の奥さんは凶暴で、毎日暴力を振るわれていたとか?
そういうことですか?」
(´・ω・`)「さぁ? どうだろうね。でも、たとえ奥さんが暴力的だったとしても、
内藤が奥さんの尻に敷かれてたとしても、
それが今回の事件を起こした直接の原因にはならなかっただろう」
(;・∀・)「……?」
立ち入り禁止のテープが張り巡らされた内藤の自宅を遠目に、
アナウンサーは今回の事件を細かく解説している。
頭の弱そうな彼女の顔を、ショボンは眺めていた。
* * * * *
* * * * *
<それでさ、その彼女が――――
( ^ω^)「おっおっ、本当に可愛らしい方ですおね」
<だろ? だろ? でも、やらねえぜ
( ^ω^)「あげると言われても、遠慮しときますお」
<ん? なんだ、アンタも彼女がいんのか?
( ^ω^)「彼女というか……奥さんが」
<なんだ、既婚者かよ!
<…既婚者が人殺しなんて、穏やかじゃねぇよなぁ
<何があったんだ?
(;^ω^)「ドクオさん……結構グイグイ聞いてきますおね」
<暇だからな
(;^ω^)「……」
<子供は?
( ^ω^)「…2人、いますお。男女が。もう成人してるけど」
<2人か…。まさに、俺と彼女の理想じゃねえか
( ^ω^)「……理想なんて…」
<まぁいいや、今度はあんたの話を聞かせてくれよ
<何があって、殺人なんてつまんねーことしたんだ?
( ^ω^)「……ドクオさんには、話しちゃいけないと思うお」
<え?
( ^ω^)「特に、あなたみたいに、彼女をずっと大切にしようと思ってる人には。
でも、だからこそ聞いてほしいとも思うんだお」
<……何言ってんだ?
( ^ω^)「……ちょっと、時間をくださいお」
<おい、内藤? ……内藤?
ベッドの上で膝を抱え、内藤は微笑みながら目蓋を閉じる。
突然黙り込んでしまった内藤を心配する声が何度か聞こえていたが、
そのうち諦めたのか、やがてその声もなくなった。
* * * * *
* * * * *
(*^ω^)『―――おっおっ、ツンはいつもそうだお』
ξ;゚⊿゚)ξ『な、なによ! そんなことないんだからね!』
(*^ω^)『僕が風邪引いたときも、ツンは何だかんだ言いながら看病しに来てくれてたお』
ξ*゚⊿゚)ξ『そ…それは、別にアンタの為なんかじゃないもん!!
私に移ったら大変だから、それでっ』
(*^ω^)『うちに来たら余計に移ると思うけど……』
ξ*;゚⊿゚)ξ『な、なによ! 何が言いたいの!』
(;^ω^)『いたいいたいwwww叩かないでほしいおwww』
遠い昔、二人がまだ恋人だった頃に交わした、何気ない会話。
一字一句、彼女の仕草や表情ひとつひとつが愛らしくて、
そんな彼女と一緒にいられる自分もこの上ない幸せで。
シベリアの町で1番の美人と噂されていた彼女を手に入れたとき、
男どもの羨望の視線が痛かったけれど、それでも毎日が輝いていて。
自分たちの血を分けた子供が生まれたときは、世界の全てを好きになって。
子供が成長する分、自分たちも歳を取る。
そして、すっかり老けた自分と、皺だらけになってしまった妻を見て―――
( ^ω^)
21 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 23:50:01 ID:211/obnoO
* * * * *
* * * * *
( ^ω^)「……」
目が覚めたとき、すでに周りからは寝息が聞こえていた。
どうやら、少し眠ってしまっていたようだ。
内藤はゆっくりと起き上がり、ドクオの房の方へ近寄る。
そして、
( ^ω^)「ドクオさん、ドクオさん」
内藤はなるべく小声で、隣の房に声をかけた。
どうやらドクオも眠っていたようだが、やがて目を覚ましたようで、
少し不機嫌そうな声が返ってくる。
( ^ω^)「話しますお」
( ^ω^)「あなたにだけ、話します」
<? ……。……何を?
( ^ω^)「僕が誰を殺して、…どうして殺したのかを。
きっとあなたは怒ると思うけど、それでも聞いてほしいんだお」
<……明日じゃダメか?
( ^ω^)「暇なんですお。お付き合いしてくださいお」
<……
( ^ω^)「まずは誤解されないように前置きしますお。僕は誰よりも、彼女を大切に想ってたお。
間違ってるのは間違いなく僕だし、多分、マスコミは僕を異常だと騒ぎ立ててると思うお」
( ^ω^)「でも、それで構わない。僕は…」
( ^ω^)「今、とても幸せなんだお」
壁の向こうの顔も知らない人間へと、内藤は語り始めた。
どこまでも間違っているけれど、永遠の幸せを手に入れた男の話を。
‐3‐
( ^ω^)「僕は、自分の奥さん……。妻を、殺しましたお」
<……
( ^ω^)「もう30年くらい前になるかお……。ツンは、町角のカフェで働いてたんだお。
今はもうないけど、小綺麗ないい店でね。いつも賑わってたカフェなんだお。
あそこのコーヒーがまた美味しかった」
( ^ω^)「まぁ、賑わってたのはコーヒーや店の雰囲気だけじゃなく、
ツンがいたからっていうのが大きいと思うけど」
<……で?
( ^ω^)「町中の男が、ツン目当てにカフェに通ってたお。もちろん、僕もその一人。
裕福じゃなかったから、毎日コーヒー一杯しか飲めなかったけど、
それでも何とか僕という人間を知ってもらおうと、毎日毎日通ったんだお」
( ^ω^)「客の中には、花束とかアクセサリーをプレゼントに持って来てる人もいたお。
でも、ツンはそういうのは受け取らなかったみたいだお」
( ^ω^)「僕も何かプレゼントしたかったけど、一杯のコーヒーだけでいっぱいいっぱいなくらい当時はお金がなかったお。
だから、違う方法でツンの気を引こうと思って」
<何したんだ?
( ^ω^)「わざと、コーヒーをこぼしてみたんだお」
<……
( ^ω^)「ほら、よくあるおね。『火傷はしてませんか?』とか言って、
ウェイトレスさんがタオル片手にこっちに来てくれるってシチュエーション」
<アホだな
( ^ω^)「うん」
( ^ω^)「ま、とにかくやってみたんだお。ホットコーヒーを、そりゃあもう盛大にこぼしてみた。
ツンがタオル片手に来てくれるのを期待して、わざと服にかかるようにこぼしたお」
( ^ω^)「でも、コーヒーが思いの外熱くて」
<叫んだのな
( ^ω^)「絶叫したね」
( ^ω^)「しかも、ツンにめちゃくちゃ怒られたお。
『この忙しいのに余計な仕事作るんじゃないわよ!!』とかなんとか」
<……カフェの店員が?
( ^ω^)「そういうカフェだから。他にも、客にビンタするサービスがあったり、いろいろとね」
<……続けてくれ
( ^ω^)「まぁ火傷はするわ、ツンに怒られるわで凹んだお。
家で安静にしてる間に、他の誰かがツンを口説いてるかもしれないって思うと、もう本当に凹んだお」
( ^ω^)「火傷が治った頃、そのカフェにまた行ってみたお。
相変わらずツンは忙しそうに働いてたし、客の数も増えたみたいだったお。
だから、僕は店の外からツンを眺めるだけで、その日は帰るつもりだったお」
( ^ω^)「でも、向こうが気付いてくれたんだおね」
<ほう
( ^ω^)「気付いてくれただけで嬉しかったのに、手招きされて店に入れてくれて。
おまけに、コーヒーも入れてくれたんだお。本当にもう……あの時は死んでいいと思ったお。
そのときの言葉も、よーく覚えてるお」
ξ ^ω^)ξ「『座る場所はないけど、どうせ一杯飲んだら帰るんでしょ? 勘違いしないでよね。
この前アンタ、コーヒー全部ひっくり返したから作ってきただけなんだからね!』」
<セリフ覚えてるのがキモいけど、まぁ……覚えててもらってたんじゃねぇか
( ^ω^)「お。もう、フラグだと思ったお。
これで告白しなければ、僕はカスだと思ったお」
<ただのサービスだったと思うけど…まあいい、続けろ
( ^ω^)「ツンを呼び止めたお。でも、まぁツンも忙しいから注文以外は相手にしてくれなくて」
<で?
( ^ω^)「もちろん、告白したお。思い切り、叫んで」
<……
( ^ω^)「あの時、その場にいた人達の顔は傑作だったおwwww」
<結果は?
( ^ω^)「言葉じゃなく、ボディブローが返ってきたお」
<だろうな
( ^ω^)「殴られたし、その場じゃ返事もらえなかったし、ダメだろうと思ったお。でも」
<OKだったのか?!
( ^ω^)「カフェの閉店時間に呼び出されて、いろいろダメ出しされた後に、
『ありがとう』って、顔真っ赤にしてね」
<お前ら…よく分からん夫婦だったんだな…
( ^ω^)「そのあとは大変だったお。ツンのファンだった奴らからは視線で殺されかけたし。
でも、ツンがいてくれたから、そんなの何も苦に思わなかったお」
<……
( ^ω^)「付き合いだして、5年くらいかおね。
プロポーズして、OKもらって、結婚式挙げたのは」
<……
( ^ω^)「冬だったお。雪が降らない晴れた日に、式を挙げたんだお。
あの時の僕は、世界で1番、幸福な男だったお。これは断言できるお」
<……じゃあ…
( ^ω^)「ツンは本当に可愛かったお。君が君の彼女に対して思ったみたいに、
ツンは僕なんかにはもったいないと思ったお。
僕の毎日にキラキラした色をつけてくれて、何もない日だって楽しくて仕方なかった」
<……
( ^ω^)「…ドクオさん。君に問うお。君は、本当に最期まで彼女を愛し続けていられるかお?
彼女が病んでいても、歳をとって皺くちゃになっても、君は今と変わらずに彼女を大切に想えるかお?」
( ^ω^)「悲しいけど、人は変わってしまうお。思い出の中の彼女は美しくても、
目を開ければ歳をとった彼女がいる……。それを受け止めることは出来るかお?」
<……当たり前だろ
<俺とお前は違うんだよ。人は歳をとるし、良い方向に変わることなんかほとんど無い
<でも、そういうの全部引っくるめて、結婚するもんだろ?!
<歳とったって、お前が心底惚れた女なんじゃないのか?!
( ^ω^)「……。心底惚れた人だお。でも、簡単に割り切れるものじゃない。
思い出は残酷なんだお。僕の思い出の中のツンは、若いまま。でも、現実は違うお」
( ^ω^)「だから、僕の思い出が現実のツンに塗り潰される前に―――」
<止めろ
( ^ω^)「……」
<そんなの、お前の奥さんだって割り切れねぇだろ!
<『歳をとって醜くなったから殺しました』? 冗談じゃねぇ!
( ^ω^)「―――そうだお。ツンにしてみたら、僕の殺害動機はたまったもんじゃないお。
これは、僕が僕の為にした、最低な事件だお。マスコミも世間も、勝手に騒ぎ立てて推測して、
僕を頭のおかしい殺人鬼だと言えばいい」
( ^ω^)「でも、これで永遠に、僕の中のツンは美しく綺麗なままでいられるんだお」
( ^ω^)「だから、僕は幸せなんだお」
( ^ω^)「幸せなんだお」
何が『間違い』で、何が『正しい』か、果たして分かるだろうか。
過去を夢見る囚人は、たとえ牢の中でも幸せで
囚人の妻は、永遠に美しいままでいられる。
彼は、色んなものを失った代わりに、幸せを手に入れた。
たとえ世界が彼のやった事を『間違ってる』と言っても、
彼は死ぬまで、思い出の中の美しい妻と一緒にいられる。
彼は幸せなんだ。
幸せを掴むための彼の選択は、果たして『間違っていた』のだろうか?
29 :以下、VIPに代わりまして名無しのようです:2011/02/20(日) 23:54:50 ID:211/obnoO
* * * * *
* * * * *
内藤の話を聞き、ドクオはぼんやりと天井を眺めながら、
病院にいる彼女を思い浮かべた。
ドクオには、分からないのだ。
内藤の動機の意味も、妻を殺しておきながら『幸せだ』と宣う、その精神も。
(;'A`)「愛してたのに、殺したのか」
<愛してたから、殺したんだお
眠っていると思っていた内藤からは、間髪入れずに答えが返ってきた。
答えは返って来たが、それでもドクオは納得できそうにない。
(;'A`)「お前…狂ってるよ。異常だよ。間違ってるよ。
少なくとも……俺には理解できねぇよ」
<分かってるお。世間的には、それが『正しい』んだお
(;'A`)「……それで、いいのか?」
<いいんだお
<君ひとりが僕の動機を知っててくれれば、それでいいお
(;'A`)「…何で……動機、俺に教えてくれたんだ?」
<……
<……君と僕が、似ていると思ったからだお
(#'A`)「似てる? …ふざけんな、俺はお前とは違う!」
<そうだお。全然違う。けど、似てるんだお
(;'A`)「はぁ? ……さっきっから『間違ってるけど正しい』とか、
ややこしいんだよ、何なんだよもう……」
<……ごめんお
(;'A`)「ちくしょう、聞かなきゃ良かったぜこんな事……」
<…………
<ごめんお…
(;'A`)「もういいよ……聞いちまったもんは仕方ねぇだろ」
<……君は、僕みたいな選択をしないだろうと思ったお
<だから、話したんだお
(;'A`)「……爺さん婆さんになっても、そのままの彼女を愛してやれるって事か」
<そうだお
<僕の動機を聞いたら、君は間違いなく怒るだろうと思ったお
<でも、分かっててほしいんだお
<僕の動機には、恨みも憎しみも何もない
<あるのは、ただただ楽しかった思い出だけだお
<恋人もいない警察の人が聞いても、到底理解出来ない話だお
<だから、取り調べしてくれた刑事さんには話さなかったお
('A`)「……」
時代は違えど、町1番と呼ばれた『美人』を手に入れる為に、
ほほえましい努力をした内藤とドクオ。
結婚し、『大切な人』と幸せな家庭を築いた内藤と、
結婚直前で『大切な人』とバラバラになってしまったドクオ。
色褪せない『過去』にばかり目を向けるようになってしまった内藤と、
どんな姿になったとしても『現実』を大事にする、と言ったドクオ。
ドクオが内藤に対しての怒りを隠せないのも、無理はない。
(#'A`)「……」
勝手な事ばかり言う内藤に、投げつけたい言葉はたくさん浮かぶ。
でも何故かそれは、言葉にならなかった。
(#'A`)「……俺は、お前みたいな奴とは違う」
色々考えて、やっと絞り出した言葉は、独房の壁に阻まれたのか、
内藤からの返事は帰ってこなかった。
‐4‐
それから、数ヶ月が経った。
マスコミの興味は内藤から離れ、今は世間を騒がせている連続通り魔が、
噂好きの主婦たちの話のタネになっている。
でも、何も変わらない日常なんてどこにもありはしない。
(*・∀・)「俺、結婚したんですよ!」
内藤の取り調べを担当したモララー刑事が結婚したり、
( ^ω^)「……」
内藤の元に、娘から手紙が届いたり、
('A`)「……」
川 ゚ー゚)「ずっと、待ってるよ」
ドクオに、彼女が会いに来たり、
毎日は目まぐるしく過ぎ去っていく。
(´・ω・`)「なんだ、結婚したの?」
(´・ω・`)「………残念」
( ・∀・)「えっ」
(´・ω・`)「いや、何でもない。君が『第二の内藤』にならないように祈っておくよ」
( ・∀・)「あ、そういえば結局ショボンさん、内藤の動機教えてくれませんでしたよね」
(´・ω・`)「そうだっけ?」
(;・∀・)「そうですよ」
(´・ω・`)「うーん…。ま、過去の事件をほじくり返す必要もないよ」
( ・∀・)「えー、教えてくださいってば」
(´・ω・`)「分からないなら、分からない方がいいこともあるしね」
( ・∀・)「?」
(´・ω・`)「この事件は、動機が分からない方が幸せだって事さ」
モララーの肩を叩き、ショボンは立ち去った。
残されたモララーには、ショボンの言葉の意味を考える暇もなく、
次の事件が舞い込んでくる。
恐らく、どんなに年が過ぎても、彼が『第二の内藤』になる事はないだろう。
* * * * *
* * * * *
独房の中の内藤は相変わらずだ。
満たされた表情で、彼は娘からの手紙を繰り返し繰り返し読み続ける。
( ^ω^)「……」
彼は、シベリアの幸運な男。
目を閉じればすぐ、若かった頃の美しい妻に会える。
愛しい愛しい、妻に会えるのだ。
* * * * *
* * * * *
内藤が手紙を読んでいる隣の房では、
(;A;)
ドクオが声を押し殺して、泣いていた。
川 ゚ -゚)『何年かかっても構わない。
君がここから出てきて、私をもらってくれるのを待つよ』
そう言って笑った恋人に、救われたような気がした。
恐らく、彼も『第二の内藤』にはならないだろう。
彼は、シベリアの幸運な男。
いつまでも待っててくれる、優しく美しい恋人がいるのだ。
* * * * *
* * * * *
これが、シベリアの小さな町で起きた、とある殺人事件の全貌である。
何が間違って、何が正しいか…
あなたには分かるだろうか?
( ^ω^)「……」
過去を夢見る囚人は、牢の中、今とても幸せで。
囚人の妻は永遠に美しいままでいられる。
何が間違って、何が正しいか…
あなたには分かるだろうか?
('A`)「……」
未来を夢見る囚人は、牢の中、今とても幸せで。
囚人の未来の妻は、やがて老いてゆくだろう。
でも、それでも―――
( ^ω^)「僕(俺)は」('A`)
「幸せなんだ」
彼らは、一度間違えた自分を幸せだと思うのだ。
これは、シベリアで起きた小さな事件。
永遠の幸せを求めた男が引き起こした、『間違った』事件の裏側の物語。
( ^ω^)シベリア殺人事件のようです
おしまい
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この記事へのコメント
1. Posted by インポテンス|ジェネリック 問題点 November 28, 2011 23:59
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プロペシア 大学生
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2. Posted by Download software download for hp deskjet 870cse December 15, 2011 10:23
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