January 05, 2011
( ^ω^)ブーンは涙を流せないようです
宇宙船の窓から見るこの星の空はオレンジ色をしていた。
水が無くなり、海の光を反射しなくなったためだろうか。
まだ満足にこの星の調査は出来ていないため、その私の考えが正しいかはわからない。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
どうせ宇宙に出れば外は真っ暗なのだからこんな窓をつける必要なんてないのに。
そんな事を思いながら私はVIP星の地上を宇宙船の中から見ていた。
私が読んだ本にはこの窓は、出発の時に見送りに来た人にギリギリまで姿を見せるためと聞いた。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
空から地面へと視線を下す。
そこには彼がいる。
( ^ω^)
普段と何も変わりない、いつもの笑顔のままで。
あのロボットの彼は私を見送っていた。
( ^ω^)ブーンは涙を流せないようです
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/04(土) 20:01:43.39 ID:Owb0qr6C0
私が住んでいたVIP星はまだ発展途上の星だった。
地球から少しずつ科学者を送って調査をして、生活できるように変えていく。
私はその5回目に送られたメンバーの一人だった。
ξ゚⊿゚)ξ「自由に研究するように、か」
ここまで言うと聞こえはいいが実際は違う。
地球にとってVIP星はたいして重要視されていない星のひとつだった。
他にも生活可能な星はいくらでもある。
研究所からあまり役に立たない人材を研究のためと送り、厄介払いしているのだ。
簡単に言うと都会の本部から田舎のボロボロの支部に転勤させられるような物だ。
ξ゚⊿゚)ξ「はあ……」
調査する内容も自分で考えろ。適当に調査内容をまとめて報告しろ。
それが私に言われた事だった。
学校の自由研究のようだな、なんて思った。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/04(土) 20:07:56.93 ID:Owb0qr6C0
とはいえ実際、私の生活は気楽な物だった。
せいぜい足元にある土の成分を分析したり、
空気は地球とどんな風に違うのかしらべたり。
研究と称して私の住む仮住まいの周りを歩いてみたり。
地球から持ってきた論文なんかを読みあさったり。
ξ゚⊿゚)ξ「こんなんで仕事っていえるのかしら?」
目的も無く、ただ時間を無駄につぶしていくだけの日々が私を待っていた。
まあ、実際この星に人間が住んだらどうなるのかを自分自身で実験出来ているのだから、
無駄というわけではないのだが……
ξ‐⊿‐)ξ「だからって流石にこれはしんどくなるわね……」
一日に何回か来るこの星の別の地域に住んでいる同じ研究者から来る定時連絡。
それだけが今の私に残された他人との関わりだった。
『ツンさん、そっちはどうですか』
ξ゚⊿゚)ξ「まあまあです。特にすることもありませんし」
『そうですか。まあ娯楽施設も何もありませんからねここは』
ξ゚⊿゚)ξ「住めば都と言いますからそのうち馴れると信じてます」
『そうなるといいですねえ。私も早く慣れたいもんだ』
定時連絡の会話もせいぜいこんなものだ。
稀に何らかの新しい発見があればそれについて意見を交わしたりもするがそんなことは滅多に無い。
『それにしても……』
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
『あのツンさんがこんなとこに来るとは思っていませんでしたよ』
ξ゚⊿゚)ξ「……まあ何事も付き合いが大切ですからね」
『ハハッ違いないです』
ξ゚⊿゚)ξ「……」
電話を切る。
また部屋の中は無音になる。
私は上司と研究についての行き違い、反論したためにここに飛ばされた。
天才ってほどでもない。せいぜい秀才。
そんな人間が一人で出来る事は限られていた。
あっという間にこんな星に飛ばされてしまったのだから。
布団の中に入り、目をつむる。
ξ‐⊿‐)ξ「付き合いって物が、ね……」
やたら強い風音が聞こえた。
この星の夜は、地球の夜よりも冷たく感じる。
ある日私は掃除用のロボット分解した。
ここに来る時にあった方が便利かと思って持ってきたのだ。
まあ実際客が来るわけもない家をそこまで熱心に掃除する必要もない。
そう思って私はそのロボットを使って暇をつぶすことにしたのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「ここは……」
幸いな事に研究のため、という理由で回路なんかの部品はいくらでもあった。
PCを使っていじくりまわし、オーソドックスなAIのプログラムを適当に組み替える。
人口音声も改良してボキャブラリーも増やす。
ξ゚⊿゚)ξ「ご飯ぐらいを作ってくれるくらいになるといいんだけどね」
数日間かけて作業は続いた。
それは今までの時間をつぶすための研究よりは楽しく感じた。
生命を持たないロボットとはいえ同居人が生まれるかもしれない事を楽しみに思っていたのかもしれない。
一週間ほど経ってそれは一応の完成をみた。
( ‐ω‐)
ξ゚⊿゚)ξ「お世辞にもカッコイイとは言えない顔ね」
元となったロボットには顔と言える物などは無く、
障害物などを探知するセンサーのような物しかなかったので顔は私のオリジナルだ。
プヨプヨとした人口皮膚が思うように貼れず、やたら丸っこい顔になってしまった。
表情のパターンをあまり設定出来なかったので基本は笑顔のままだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「さて……」
後はスイッチを入れるだけだ。
失敗は無い、と思っているがなにせ専門では無いのでうまくいってる保証はない。
カチリ、とスイッチを入れる。
一瞬の間があり、小さく稼働音がした。
目の前のロボットはゆっくりとその目を開く。
( ^ω^)「……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ふぅ……」
とりあえず起動は成功のようだ。
ほっと胸をなでおろす。
後は会話がうまく成立するかだ。
学習型のAIを搭載したとはいえある程度デフォルトで知識が無いとそれはそれで不便だからだ。
ξ;゚⊿゚)ξ「えっと……私があなたを作ったのだけどあなた私のことわかる?」
うまくいっていれば私のあらかじめ組み込んだデータから私と認識して反応するはずだ。
( ^ω^)「ツ……ン……です……お」
ξ;゚⊿゚)ξ「……お?」
どうやらなにか変な語尾を組み込んでしまったらしい。
一度スイッチを切り原因を探る。
しかしどうにも原因がわからない。
念のため、再起動させてもう一度聞いてみる。
ξ;゚⊿゚)ξ「えーと、もう一度言ってみて」
( ^ω^)「ツンですお!」
今度ははっきりと、しかし語尾はそのままに返事をされた。
どうやらこれはこのロボットの個性として受け入れるしかないらしい。
目の前でニコニコとしているこの顔を見ると無理に直そうという気も不思議と起きなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「まあしょうがないわね」
( ^ω^)「お!」
さてさて名前はどうしよう。
ひとしきり考えて思いついた名前はこれだった。
ξ゚⊿゚)ξ「あんた掃除用の時ブーンブーン掃除機がうるさかったからブーンね」
( ^ω^)「お?」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンよ、ブーン」
しばらくブーンは与えられた自分の名前をかみしめるように呟いていた。
記録させる際の癖のようなものなのかもしれない。
まあそのうちスムーズに覚えられるようになるだろう。
( ^ω^)「僕の名前ですかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、あなたの名前」
( ^ω^)「ありがとうですお!」
ξ;゚⊿゚)ξ(適当に付けた名前だけどいいのかしらね・・・)
予想以上にそれに対して喜びを表したブーンは
⊂二二( ^ω^)二二⊃ 「ブーン! ですお!」
なんていいながら走りまわったりしていた。
もっともドスンドスンと足音を鳴らすほどのゆっくりとしたペースだが。
そうしてブーンは私の同居人になった
ブーンとの暮らすようになったといっても生活が激変したわけでもない。
いつもと同じように起きて同じように暮らし、同じように眠る。
ブーンに勉強を教え始めたりしたもした。
変わった事と言えばそれくらいだ。
とはいえ心境の面ではそれなりに変化もあった。
( ^ω^)「これってどういう意味だお?」
ξ゚⊿゚)ξ「それはね……」
自分が何かを教える事が好きなことに気付いた。
ブーンはもともとの知識こそあまり無いが、教えた事を理解して、
それから答えを導くことなどに長けていた。
学習型のAIがうまく機能しているみたいだ。
これなら自分で思考する日もそう遠くは無いかもしれない。
おかげで私は退屈な時はブーンと話す楽しみが出来た。
しいて欠点をあげるとしたら、しっかりとした敬語や丁寧語がうまく扱えないことぐらいだった。
とはいえ私は別に気にしていなかった。
そっちのほうがロボットでは無く人間らしく感じたのだ。
( ^ω^)「ツン! これを見てくれお!」
ξ゚⊿゚)ξ「はいはいなにかしら」
ある日ブーンに呼ばれて外に出た。
一通り仮住まいの周りの調査はしてしまったので部屋にこもり、本などを読む毎日だったので久しぶりの外だった。
( ^ω^)「見てくれお! ツンが持ってた種を植えてみたんだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ……」
名前の知らない花がブーンが自分で作ったであろう花壇一面に咲いていた。
どうやら本を見て自分で育ててみたらしい。
花の種は研究のためと適当に渡された素材の一つだったが、
自分も特に使う予定も無かったので咎めようとも思わなかった。
( ^ω^)「咲くかどうかは不安だったけどうまく咲いたお!」
ξ゚⊿゚)ξ「凄いわね……」
ふと一輪花を摘んでブーンは私に渡した。
( ^ω^)「プレゼントだお! お世話になってるお礼だお!」
ξ゚⊿゚)ξ「お世話になってるのは私だけどね」
( ^ω^)「お……じゃあ作ってくれたお礼だお!」
ξ‐⊿‐)ξ「はいはいありがとう」
不思議な心境だった。
自分で考えていたよりもブーンは成長していた。
そのあたりからだろうか、私はどこかブーンを普通の人と同じように見始めていた。
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/04(土) 21:25:32.61 ID:Owb0qr6C0
貰った花は加工してヘアピンにしてみた。
どうやら私は造形に関してはさっぱりらしく、不細工な形のヘアピンになってしまったが……
( ^ω^)「お掃除ですおー」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「お?」
付けて何気なく掃除をしているブーンの周りをうろついてみた。
何を気にしているのだろう私は。
相手は自分が作ったAIだというのに。
( ^ω^)「おー……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
( ^ω^)「お! それ僕がツンに渡した花だお!」
ξ;゚⊿゚)ξ「ま、まあね。ちょっとヘアピンに加工して……」
( ^ω^)「なんだか不格好になったおね」
ξ#゚⊿゚)ξ
気づきはしたがデリカシーなどに欠ける事を知った。
そんなことばかり気にしていたからだろうか。
私はそれに中々気がつかなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「あら?」
( ^ω^)「お?」
ξ゚⊿゚)ξ「なんだか空の色がいつもと違う気がして……」
( ^ω^)「確かにいつもと違うお……数日前はもっと青かった気が……」
ξ゚⊿゚)ξ「なんだか怖いわね……」
( ^ω^)「ちょっと気候を調べてみるお」
ξ゚⊿゚)ξ「お願いするわ」
部屋に戻るときに私は太陽を見た。
不気味なくらいに赤い色をしていて、まるで血のようだな、なんて思った。
それから数日して、定時連絡の時のことだった。
通信機のベルが鳴る。
私はそれを取りたくなかった。
ブーンの調査からどんな連絡が来るかは予想がついていた。
( ^ω^)「……電話、出なくてもいいのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「……出るわ」
ゆっくりと私は通信機のボタンを押した。
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
『ああツンさん! 大変だ!』
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり……」
それから先は聞かないでも理解出来た。
それはつまり、
ξ゚⊿゚)ξ「この星、私達が住めなくなってしまうのでしょう?」
それは周期的なものだったらしい。
このVIP星は地球よりも長いスパンで回転をして、気候が変わる。
その結果星のありとあらゆる場所での干ばつ、異常な強風などが起こる。
太陽の色が違って見えたのその予兆の一つらしい。
私はその変化が現れる地域から離れていたため幸い助かったらしいが、
その変化が早めに起こる地域は酷いものだったらしい。
その環境から生還した研究員のおかげでこの連絡を私は受けることができた、ということらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「それで?」
『二日後に地球から迎えの船がくるそうです。流石に見殺しにはしない見たいですよ』
ξ゚⊿゚)ξ「そうなの……」
正直、残念に思う気持ちがあった。
なんだかんだでここでの生活を楽しく思い始めていた時だったし、
地球に帰ったからといってすることも特に無い気がしたのだ。
『まあなんとかなりそうでホッと一息ですよ』
ξ゚⊿゚)ξ「そうですね……」
そんな話をしていて私は一つ思い出した。
すっかり頭から抜け落ちていたことだった。
『それじゃあ』
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あの!」
『ん? なんですか?』
ξ;゚⊿゚)ξ「私ちょっと作業用にロボットを作ったんですけど、それって……」
もしかしたら、ブーンを持っていけないのではないかという、懸念だった。
既に友人と言えるほどに情の移っていた彼をこの星に一人置いて行きたくない。
しかし……
『いやあ……それは無理かと……他の研究員も皆乗るわけですから……』
そんな気持ちは何の役にもたちはしなかった。
『それじゃあ』
通信が終わる。
私は不思議と冷静だった。いや、無理やりそう繕っていたのかもしれない。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……」
( ^ω^)「しょうがないお、僕はロボットだし」
特別変わった様子も無く彼は言った。
その様子になぜか、私は不愉快な表情をしてしまった。
ξ゚⊿゚)ξ「あっそ、そう」
もしかしたら私と離れることを悲しんでほしかったのかもしれない。
私はブーンの顔を見ないようにしながら部屋へと戻り眠りに就いた。
ξ‐⊿‐)ξ「別に元に戻るだけ……」
そう、元に。
そうして当日になった。
「はい、ツンさんですね。席に座ったら軌道が安定するまで席から離れられないのでご注意ください」
ξ゚⊿゚)ξ「わかりました」
結局あれからブーンとあまり話さなかった。
ロボットと話している、と自分で考えてしまうからかもしれない。
穏やかなずっと続くかとも思えた日々はあまりにあっけなく終わりを告げた。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
なんとなく窓を見る。
そこには誰もいなかった。
当然だ。私がブーンに来なくても良いといったのだから。
発射までは時間がかかるらしく私は手提げかばんに入れていた本を読み始めた。
この本はまだブーンに読ませていなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
少し、寂しく思えた。長い間、ここに来る前から一人の生活をしていたせいか、
人、いやロボットなどと関わったことですら私に何らかの影響を与えていたらしい。
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/04(土) 22:08:02.46 ID:Owb0qr6C0
ξ‐⊿‐)ξ「……」
気にしても仕方がない。
そう思ってもう一度本に目をやろうとした時だ。
目に痛いくらいの眩しい光が艦内に入った。
この星から見える太陽だ。
ξ゚⊿゚)ξ「ここからだろ少し色が違うのね……」
私のいた場所とは違う地域だからだろうか。
宇宙船の窓から見るこの星の空はオレンジ色をしていた。
ふと窓の下に目をやる。
ξ゚⊿゚)ξ「あ……」
( ^ω^)
宇宙船から少し離れた場所。
発射の邪魔にならず、それでいてここからギリギリ見える程度の距離。
そこに彼はいた。
普段と何も変わりない、いつもの笑顔のままで。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
見送りに来たのか、私の命令を聞かないで。
怒る気持ちは無かった。
むしろ、どこか嬉しさすら感じていた。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……」
だが別れが惜しくなる。
こみ上げてくる何かを無視して私はカーテンを閉めようとする。
「間もなく発射いたします」
宇宙船が起動を始める。
その時、私は見た。
( ^ω^)
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/04(土) 22:19:38.96 ID:Owb0qr6C0
ξ゚⊿゚)ξ「あ……」
ξ;⊿;)ξ「あの時の……」
彼がその手に持っていた物。
あの時、彼が花壇に植えた花々の、束。
宇宙船は動きだす。
私以外の搭乗者にとってはもどかしいくらいの
私にとっては早すぎるほどの速さで。
( ^ω^)「 !」
ξ;⊿;)ξ「ブーン!」
彼が何かを言っている。
けれど窓と、宇宙船の音で聞こえはしない。
彼と彼の手にある色とりどりの花々。
それを見つめ続けながら私はこの星から離れて行った。
私はただひたすらヘアピンを握って泣くだけだった。
* * * * *
( ^ω^)「……」
彼女の乗った宇宙船を僕は見続けることしかできなかった。
本当は育てたこの花々をこれが気候の変化で無くなってしまう前に渡したかったのだけれど。
彼女に来なくてもいいと言われた意味を考えていて、どうにもノロノロとしてしまった。
もっとも僕はもともと愚鈍に出来ているのだけど。
( ^ω^)「本に書かれているようにはいかないもんだお」
彼女が持っていた本の中には小説もあった。
そのなかにひとつこんな話がある。
身分の違いかた離れ離れになってしまう二人の恋人の話しだった。
ラストシーン、彼女の乗る列車に男は飛び乗り、二人はどこかの駅でこっそりと降りて二人で暮らす。
( ^ω^)「まあそんな風になるわけないお、ツンはご主人さまだし」
そんな事をぼやきながら家へと帰る。
どこか、僕のAIにエラーが起きた気がした。
( ^ω^)「ただいまですおー」
誰もいない家でそう言ってみた。
彼女はそういう事に厳しかった。
部屋の片づけはどうでも良いと考えて僕を作ったのに変なところで神経質な人だった。
部屋にある椅子に座ってみる。
( ^ω^)「……」
何にもなかった。
今の僕には何も。
僕はもともと彼女のために作られたロボットで、
それだけが目的で、それ以外に目的は無かった。
僕の頭の中にあるAIも何も教えてはくれない。
( ^ω^)「暇だお……」
無音だった部屋に僕のひとり言が響いた。
またひとつ、エラーが起きた気がした。
彼女がいなくなって僕に目的は無くなってしまった。
ただ朝になれば行動を開始して花にわずかな水をやり、夜には行動をやめる。
ただ永劫にともいえる時間をこれから一人で過ごすと思うとやりきれなかった。
( ^ω^)「はあ……」
ロボットでも溜息はつくらしい。
自分自身でそう知った。
窓から外を見ると空の色は前よりも変化しているように見えた。
( ^ω^)「……」
僕はどうするべきなのだろう。
疑問に答えが出ることは、無い。
( ^ω^)「いつまで続くんだお」
この生活は。
そんな生活が終りを告げるのはすぐだった。
数日前まで穏やかだった気候も急激に激しくなっていく。
ごうごうと吹く風に家は悲鳴のようなきしむ音を鳴らしていた。
( ^ω^)「まずいお……」
しかし、僕が危惧したのは住む家の事ではなかった。
窓から見えるのは花壇だ。
僕が彼女の持っていた種を使い、育て、彼女にプレゼントした花の咲く、花壇だ。
( ^ω^)「……」
効率的ではない。
また植えればいい話だ。
だけど、なぜか僕は暴風の中、外に出ていた。
( ^ω^)「花を……なんとかしないといけないお……」
あまりの風圧に倒れそうになりながらも一歩一歩進んでいく。花壇へと。
バタバタと花が倒れて、散っていく。
こんなにも花は散りやすかったのか。
そんな事に初めて気づく。
育てていた僕だけじゃなくて、彼女が水をやっていた時もあった。
「気まぐれに水をあげていただけよ」
そんな事をいいながら、丁寧に水をやっていたのだろうね、君は。
( ^ω^)「せめて……」
今まで不便に思わなかったのだけど、
( ^ω^)「この花だけでも」
もうすこし早く動けたら。
( ^ω^)「……ついたお」
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/04(土) 22:58:30.21 ID:Owb0qr6C0
その花は赤色の実をつけるくらいに成長していた。
あの時はまだ普通の花のようだったけど。
( ^ω^)「成長したんだお……」
その花を覆うように僕は体を花にかぶせた。
体で押しつぶしてしまわないようにしっかりと。
( ^ω^)「……」
風は吹き続ける。
けれど、どこか僕は充実した気持ちを覚えていた。
僕の体が覆っているこの花は、
( ^ω^)「あの時に」
彼女に、ツンに、
渡した花だから。
( ^ω^)「……」
体がきしむ。
地面の砂が風によって浮きあがり僕の体に当たる。
それはもはや弾丸のような勢いだった。
僕の人口皮膚はみるみるうちに敗れていく。
それでも動くわけにはいかない。
( ^ω^)「きっと、そのうち……」
ひたすら僕はうずくまり続けた。
枯れないうちに風がやんでくれるといいのだけど……
( ‐ω‐)「それまで……機能を停止させて……」
僕が意識を自ら切るとき、脳裏にツンの姿を見た気がした。
長い、とても長い間そうしていた気がする。
体に当たり続ける砂に耐え続け、体のセンサーがいくつか壊れ、
それでもそこから離れないまま時間がすぎるのを待った。
( ‐ω‐)「……」
そして、
( ^ω^)「ん……」
数日がたったころ。
( ^ω^)「止まったお……風……」
僕の体の下にはまだ花が咲いていた。
( ^ω^)「よかった……」
少し、エラーが解消された気がする。
何が僕に起きたのかはわからない。
体の至るところは破損をし、家も壊れていた。
だけど、
( ^ω^)「これが無事でよかったお……」
これだけは、この花だけは散ってほしくなかった。
( ^ω^)「移動するお……」
すぐさま計算を始める。
このままここにいるとまた風にのまれて消えてしまう。
今回こそなんとかなったが今度はこうもうまくいかないだろう。
こんどこそ壊れてしまう。
花も、散ってしまう。
一日かけて歩き続けた。
この星には何もない。
幸い僕の冷却水は普通の水を利用していたので、
器に入れて冷まし、花にやった。
( ^ω^)「冷却水が無くなる前に……」
ツンと住んでいたような家がたぶんいくつかここにはあるはずだった。
そこに行き、水を手に入れる。
たぶん、ある程度の場所まで行けば暴風から免れるポイントまでいけるはずだ。
歩き続けるうちに左の目が見えなくなった。
どうやら砂が入り込んだらしい。
( ^ω )「早く……」
( ^ω )「早くいかないといけないお……」
せめて僕が壊れる前に。
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/04(土) 23:24:17.62 ID:Owb0qr6C0
ずっとずっと考えていた。
こうして歩き続けて、
そうして何が残るのか。
( ^ω )「……」
ここには誰もいない。
何も無い。
僕もような存在が異質なのだ。
それでも僕は一つ一つツンのいた家と似た家をめぐっていった。
手にのせた花を見る。
小さな花壇を作り、それに入れて運んでいる。
この花の、僕はこの花の、
( ^ω )「……」
( ^ω )「……」
計算しつづけて、気候が当分変わらないであろう場所。
風が防げるであろう場所。
( ^ω )「こんな場所しかないのかお……」
鍾乳洞、というのが正しいのか僕は知らない。
ただ彼女の持っていた本に書かれていたような場所だった。
( ^ω )「ここならきっと風も防げるお……」
ただし、
( ^ω )「たぶん当分は出れないお……」
きっと、僕はもう。
( ^ω )「僕の活動を極力抑えれば相当長持ちするお」
僕に内蔵されたライトをつけて、花を照らす。
もっとも太陽光と違うからこれで代用できるかはあやしい。
( ^ω )「VIP育ちの意地を見せるんだお」
覆いかぶさるようにして冷却水を少しずつ花にかかるようにする。
本当にわずかな可能性だ。
もし風がやまず、ここに水が垂れてこなければ冷却水は無くなり、やがて花は枯れる。
ここの調査はしていない。
ただ風が防げるだろう、それだけが僕の希望だった。
僕の自家発電装置で賄える。
水がどうなるか、それを祈るだけだった。
( ^ω )「がんばるんだお……」
( ω )「君の…君の……」
前にみた君の花言葉は、
( ω )「もし、もしも僕の願いが叶うのなら」
* * * * *
ξ゚⊿゚)ξ「……」
地球に戻った私を迎える人は誰もいなかった。
研究所も見殺しはモラルに反するから助けただけで、歓迎ムードなどではない。
代り映えのない日々が私を待っていた。
ひたすら何の役にたつのかわからない記録を続け、実験をする日々。
あの星と何も変わらない。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
いや、ひとつ違うことがあった。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……」
彼がいない。
少なくともあのVIPでの日々は楽しかった。
その気持ちは日に日に増していく。
どうしようも無かった。
ひたすら自分の研究にその想いをぶつけるしかなかった。
机に向かい続ける日々。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
たまに彼に貰ったヘアピンを見る。
この花はなんだったっけ。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
もし、もしも、もう一度、
「もしも僕の願いがかなうなら」
『もしももう一度会えたなら』
「何を話すかお……」
『何を話そうかしら』
「こっちにはこの花しか無いお」
『こっちにはこのヘアピンしかない』
「これだけは守ったんだお」
『これだけしか持ってきてないけど』
* * * * *
瞼を開けると変わらない寒々しい光景が窓から見えた。
「宇宙って殺風景だわ……」
右手で部屋の内側にある開閉スイッチをいじる。
パシィ、という音を鳴らしながら目の前でハッチが開く。
もぞもぞと体を起こし、体を部屋から出ると私は大きく伸びをした。
「久しぶりね……」
そう呟くと私は窓から外を見た。
「出発の時に見送りに来た人にギリギリまで姿を見せるため、以外にも理由あるかもね」
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/05(日) 00:25:19.13 ID:nhlM+xfi0
あれから研究だけをしてきた。
誰にも見向きもされなかった研究は徐々に人を引き付け始めた。
そうして手に入れたお金を使って私は宇宙船を買った。
過去にとらわれてると人は言う。
けれども私にはあきらめきれなかった。
彼は私をうらんでいるだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「……反応は少しだけど」
着陸させて宇宙船からバギーを出して彼の信号の場所へと走らせる。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ヘアピンを握りしめる。
このヘアピンの花はさねかずら。
花言葉は、
ずっと水の落ちる音だけが聞こえていた。
( ω )「……」
僕の体にわずかに残るセンサーが反応する。
何か異常が起きたらしい。
非常に久しぶりにスリープ状態が解除される。
( ^ω )「お……」
僕の目の前には花がいくつか咲いていた。
それは本当に少し、明りが当たっていた場所だけだけど確かに。
( ^ω )「よかったお……」
この花の名前はさねかずら。
あの時はこんなことになるなんて考えてもなかったけど。
何か車のような物の駆動音が聞こえる。
こんな星に誰が来たと言うのか。
「ブーン!」
ああ、懐かしい声がする。
この、この声は、
( ^ω )「ツン……」
僕は涙を流せない。
表情のパターンも少ない。
でもそれで良いと思う。
僕はもう、きっと一人じゃない。
彼女とまた会えるみたいだから。
もしかしたらおばさんになってるかもしれない。
スリープ状態だったものんだからどれくらい経ったのかちっともわからない。
でも、それも、きっと、良いと思う。
ξ;⊿;)ξ「ブーン!」
彼女の姿が見えた。
少し老けたかもしれないけど、彼女の魅力はなにも変わっていないように思えた。
手にヘアピンを握っているのが見えた。
( ^ω )「まだ持っていてくれたのかお」
花の名前はさねかずら。
花言葉は再会、だ。
( ^ω^)ブーンは涙を流せないようです 終
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この記事へのコメント
1. Posted by 名無しのブーン系ロム専 January 11, 2011 23:11
本舗通信を読んで、“管理人さん、ブーンの純粋さ同意です、思わずうるうるきてしまう作品だと思います”、作者さんここ見てくれてないかなあ…。他に作品あれば読みたいなあ。
2. Posted by 涙を流せないの作者 January 16, 2011 00:29
まとめもらっていたとは・・・
いまさらですが管理人さん、依頼して頂いた方ありがとうございます・・・
>>1さん
今まで書いたやつですがブーン主役だと
http://boonsoldier.web.fc2.com/king.htm
http://hebiya.blog40.fc2.com/blog-entry-9150.html
http://sogomatome.blog104.fc2.com/blog-entry-303.html
とかです。
ここでブログを宣伝していいのかわかりませんが数だけは無駄にあるので「( ^ω^)自作品まとめ」でググっていただければほかのもたぶん読めると思います・・・
いまさらですが管理人さん、依頼して頂いた方ありがとうございます・・・
>>1さん
今まで書いたやつですがブーン主役だと
http://boonsoldier.web.fc2.com/king.htm
http://hebiya.blog40.fc2.com/blog-entry-9150.html
http://sogomatome.blog104.fc2.com/blog-entry-303.html
とかです。
ここでブログを宣伝していいのかわかりませんが数だけは無駄にあるので「( ^ω^)自作品まとめ」でググっていただければほかのもたぶん読めると思います・・・
3. Posted by 名無しのブーン系ロム専 January 18, 2011 15:46
作者さんコメントサンクスです、涙を流せない…は三国志Zの作品群の中で(全部の作品は読んでませんが)、唯一内容、タイトルを覚えていた作品です、ブーン速さんが健在ならまとめ依頼は無用でしたのですけど、最低の王様、おちんぽボルケィノ、は読んだ作品でした、ブログのほうへも行かせていただきます。