February 08, 2011
('A`)が入山したら案の定衆道だらけだったようです 前編
『衆道』
若衆道の略語。男性における同性愛・少年性愛の形式あるいはそのものを指す。
主に女犯を忌避し禁欲生活を強いられる僧たちの間で流行した独自の男色文化。
~柔即山毘譜寺~
(´・ω・`)「それではドクオさん」
('A`)「はい」
(´・ω・`)「今日よりあなたには我々雲水とともに修行をしてもらいます」
('A`)「はい」
(´・ω・`)「……三年、でしたか」
('A`)「そうです」
(´・ω・`)「禅僧に混じっての生活、あくまで出家ではないゆえ、何も開眼せよとは申しません」
(´・ω・`)「しかし己を見つめ直し大悟してもらえれば、それに如くことはありませぬ」
('A`)「努力はします」
(´・ω・`)「では改めて意気込みをお聞かせ願いたい」
('A`)「分かりました」
('A`)「えー、自分はこれまでのだらけきった生活に終止符を打ち」
('A`)「こちらのお寺にて精神の鍛練を積ませていただくべく……」
('A`)「修行を希望しました」
(´・ω・`)「成程。結構結構」
('A`)「しかし、あのー、諸梵和尚」
(´・ω・`)「なんですかな?」
('A`)「大変申し上げにくいことなんですけれども……」
(´・ω・`)「なんでも遠慮なさらずお話なされ」
('A`)「オナニーも禁止なんですかね?」
(´・ω・`)「は?」
('A`)「ですから自分でシコシコぴゅっぴゅすることです」
(´・ω・`)「残念ながら自慰行為は忌むべきものとされております」
('A`)「やはりですか……」
('A`)「ですがこれを禁じられると私の人生の存在意義が……」
(´・ω・`)「そうした煩悩を振り払うための修行である」
('A`)「ですよね」
(´・ω・`)「しかしながら禁忌事項でがんじがらめと言う訳でもない」
(´・ω・`)「最近は妻帯も肉食も許されております」
('A`)(妻とか俺にゃまるで関係ない話だな……)
(´・ω・`)「とはいえこちらの寺では旧来の修行様式を守り続けておるのです」
(´・ω・`)「規律には従っていただきたい。よろしいかな」
('A`)「承知しました」
(´・ω・`)「うむ」
(´・ω・`)「それではドクオさん」
(´・ω・`)「あなたはこれより毒念と名乗りなさい」
('A`)「えっ?」
(´・ω・`)「私は只今より本名ではなく毒念と呼びますので」
('A`)「まだ正式に仏道に入ると決めたわけじゃないですよ」
(´・ω・`)「ですがこの場所での扱いは我々と同じ」
(´・ω・`)「名を一時預け、寺院に馴染んでもらったほうが何かと都合がよろしい」
('A`)「はあ」
('A`)(ネトゲみたいに自分で決められないのか……)
(´・ω・`)「では……おい」パンパン
(*゚ー゚)テッテッテッ
(*゚ー゚)「はい!」
(´・ω・`)「今から毒念さんに寺の内部を案内してあげなさい」
(*゚ー゚)「心得ました」
('A`)「……あの」
(´・ω・`)「なんでしょう?」
('A`)「この方は、というかこの子は……尼僧かなにかですか?」
(´・ω・`)「いえいえ立派な小僧でこざいます」
('A`)(男かよ!)
('A`)(この顔でちんちん付いてるのは神様の悪ふざけだろ……)
('A`)「えーと、名前は」
(*゚ー゚)「椎伊でございます。先日十三を迎えました」
('A`)「十三歳って、義務教育は」
(´・ω・`)「椎伊はみなしごなのです」
(´・ω・`)「赤子の頃に寺の前に預けられておりました」
(´・ω・`)「戸籍もありませぬゆえ」
('A`)「はあつまり、純粋な寺育ちと」
(´・ω・`)「その通りです。幼少から真摯に修行に励む、いやはや立派な僧ですよ」
(*゚ー゚)「私の素性は分かってもらえたと思います」
(*゚ー゚)「それでは参りましょう。後ろからついてきてください」
('A`)「お、おう」
('A`)(ケツちっちゃいな……)
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:11:05.90 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)テクテク
('A`)「……あのさあ」
(*゚ー゚)「はい?」
('A`)「ちょっとさっき聞けなかったんだけど……諸梵和尚って何者なんだ?」
('A`)「なんか何考えてるか全然読めないんだけど……」
(*゚ー゚)「諸梵様はこの寺の管主……貫首・住持・住職ともいいますが」
(*゚ー゚)「要するにこの寺の頂点に座する方なのです」
(*゚ー゚)「本来なら下山して禅を広める立場にいるべきお方なのですが……」
('A`)「ですが?」
(*゚ー゚)「悟りに至らぬ私たちのために残ってくださっているのです」
('A`)「ふうん」
(*゚ー゚)「まずは六知事の紹介からさせていただきます」
(*゚ー゚)「寺の造りは前日見学で既に把握していらっしゃるでしょうから」
('A`)「六知事ってなんだ?」
(*゚ー゚)「噛み砕いて答えますと……禅寺には寺院経営を担当する重要な役職が六つありまして」
(*゚ー゚)「その位に就いておられる六名を総称して六知事と呼ぶのです」
(*゚ー゚)「いずれも徳の高い僧侶がなります」
('A`)「なるなる、諸梵和尚が社長とするとそれに次ぐ幹部が六人ってことか」
(*゚ー゚)「どういう意味でしょうか? なにぶん不勉強でして……」
('A`)「ああ気にしないでくれ」
('A`)(そうかあ、ずっと寺にいたから社会のこととか分かんねえんだな)
('A`)(しかしケツちっちぇえな……)
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:25:11.35 ID:Y/PyUVPA0
(´<_` )「おう椎伊じゃないか。どうした」
(*゚ー゚)「あっ、弟蛇和尚! ちょうどいいところに」
(´<_` )「おお、そのお方が今日から我々と一緒に修行するという」
(*゚ー゚)「はい。毒念さんです」
('A`)「よ、よろしくお願いします」
(´<_` )「そう肩肘張りなさるな、毒念殿」ポンッ
('A`)「あ、はい。ちょっと力抜いときます」
(´<_` )「うむ」
('A`)(顔つきからすると四十くらいかな……)
('A`)(しかし袈裟の上からでも分かる歳相応でない筋肉……こいつは明らかに鍛えている)
('A`)(肩叩かれた時痛かったし……)
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:31:59.46 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「弟蛇和尚は六知事の一人、典座であられます」
('A`)「『てんぞ』ってなんだ?」
(*゚ー゚)「ええとですね、私たち雲水の食事全般と御仏への供え物の準備を司る……」
(´<_` )「簡単にいうとコックさんだよ」
('A`)「そいつは分かりやすい」
(´<_` )「飯炊き坊主だ。大した僧じゃない。諸梵様のように偉くなんてないぞ」
(´<_` )「だから毒念殿も余計な気づかいは要らぬぞ」
('A`)「はっはい」
('A`)(いい人だなー)
('A`)(人に優しくされたのって……いつが最後だっけ……)
('A`)(……横断歩道のみどりのおばちゃんかな……)
(´<_` )「じゃあ自分は薬石のこしらえがあるから」
(*゚ー゚)「はい。お勤め頑張ってくださいな」
('A`)「薬石というのは」
(*゚ー゚)「夕食のことです」
(*゚ー゚)「毒念様は入山前に腥の類を喰いだめしたと聞いていますから不要でしょうが」
('A`)「焼き鳥はやっぱ塩だよ塩」
(*゚ー゚)「……弟蛇和尚はあんなことを言っていましたけど」
(*゚ー゚)「事実上の寺内五番目ですからね」
(*゚ー゚)「管主の諸梵様は既に修行ではなく教えを導く立場にいますから」
('A`)「それで実質五位か」
('A`)(生活の根幹である食事に携わってるんだから……実際の権力はもっと上に違いない)
('A`)(……媚びるか)
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:46:43.51 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「では次の知事のところへ行きましょう」
('A`)「……ってなんで建物の外に出るの?」
(*゚ー゚)「おそらく今頃は外におられるでしょうから」
(*゚ー゚)「あっ、いましたよ。茂羅和尚ー!」
( ・∀・)「やあ椎伊くん。どうしたのかね新顔を連れて」
(*゚ー゚)「挨拶回りです。こちらが毒念さん」
( ・∀・)「ほう。君が修行を積みたいと願書を出してきた者か」
(*゚ー゚)「毒念様もなにかお言葉を」ボソッ
('A`)「ど、ども」
(*゚ー゚)「もっとはっきりと喋らないと駄目ですよ」ボソッ
('A`)「この俺に目を見て話せと言うのか……」
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:53:44.38 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「こちらは監寺の茂羅和尚」
(*゚ー゚)「六知事のうちの上位三つは、昔は監寺のひとつでまとめていまして」
(*゚ー゚)「そこから三つに役職を分割したそうです」
('A`)「ほう」
('A`)(眠い)
(*゚ー゚)「近年はまた統合して監院、そして補佐する副監院と分けるのが主流です。しかし」
(*゚ー゚)「諸梵様もおっしゃられましたが毘譜寺では古くからの様式を保持し続けていますので」
(*゚ー゚)「役職の数も従来のままになっているのです」
('A`)「なるほど」
('A`)(眠気が加速する)
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 22:59:12.81 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「監寺の仕事は寺院自体の監督官です」
( ・∀・)「読んで字のごとくだね。つまりはお寺の管理人」
(*゚ー゚)「六知事で監寺より上の重職は都寺だけです」
('A`)(ということはこの男が組織のナンバー2……)
('A`)(ならばこっちに媚びたほうが得策か……)
('A`)「……でも随分お若く見えますけど」
( ・∀・)「今年でようやく三十歳になるよ」
( ・∀・)「まあ僕の場合は入山が早かったからね。十五でここに来た」
('A`)「それにしてもその歳で監寺……凄いですね」
(*゚ー゚)「序列に年齢は関係ありません」
(*゚ー゚)「もっとも出家してからの日数もそれほど関係はありませんけれど」
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:05:06.41 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「しかし中卒でお坊さんとは……なんか妙な世界だな」
(*゚ー゚)「十五で寺に入る方はそれなりにはいます」
(*゚ー゚)「元々仏寺は稚児などを養う場でもありましたし、それだけの器量はあります」
('A`)(ああ、そういえば椎伊は……)
( ・∀・)「ただ若い子の中には、修行が辛くて脱走する人も多いけどね」
('A`)「そんなことして許されるんですか」
( ・∀・)「無論。来る者は拒まず、去る者は追わず」
( ・∀・)「これが禅宗の基本だからさ」
( ・∀・)「煩悩を捨てれずに我を失って逃げ出す雲水もいるけど」
( ・∀・)「そうした人たちを咎めたりはしないんだ」
('A`)「へえ……」
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:11:47.73 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「それでは次へ。副寺の譲留和尚の元へ参りましょう」
('A`)「ん? その人はなんか聞いたことがあるな」
(*゚ー゚)「でしょうね。譲留和尚はよく山を下りて町中での作務も行っていますから」
('A`)「あー思い出した。あれだ、『イケメン坊主』とかいう」
('A`)「雑誌とかテレビで見たぞ」
(*゚ー゚)「それです。単語の意味はよく分かりませんが……」
(*゚ー゚)「ともかく、寺の名前と禅を広める活動をされておられるのです」
('A`)「広報マンってわけか」
(*゚ー゚)「副寺とは金銭や収穫の高の計上を担当する役職なのですが」
(*゚ー゚)「この頃はそれだけでなく外に目を向けることを譲留和尚は心がけているようです」
('A`)「ほうほう、会計が本業なのね」
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:17:15.07 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「……それと、あまり大きなことでは言えないのですが」
(*゚ー゚)「譲留和尚は他山からこちらに移ってきた僧なのです」
('A`)「ってことは、改宗したのか?」
(*゚ー゚)「なんでも諸梵和尚が直々に勧誘したそうで」
('A`)「そんなのありなのかよ……」
(*゚ー゚)「他山の僧を招くことはよくある話でございます」
(*゚ー゚)「それだけ譲留和尚が優れた仏僧だということなのでしょう」
('A`)「なるほどねぇ」
(*゚ー゚)「管主様の中には見知らぬ血を導入するという狙いもあったのではないでしょうか?」
(*゚ー゚)「禅は永遠に古くそして常に新しくあるべきなのです」
('A`)「十三歳に禅問答されてるのか俺は」
( ゚∀゚)サッサッサ
(*゚ー゚)「あっ、あちらで埃を掃いておられますね」
(*゚ー゚)「譲留和尚ー!」
( ゚∀゚)「んっ? ああなんだ椎伊か。それと知らない男」
('A`)「あっ、どうも。毒念です。今日からしばらくお世話になります」
( ゚∀゚)「ほーう。俺は副寺の譲留だ。よろしく」ガシッ
('A`)(なんて自然な握手。これは間違いなくコミュ力最高峰)
('A`)(歳は雑誌情報だと三十半ばだが……生で見るとマジイケメンだな……)
('A`)(イケメンっていうか美しいな……)
('A`)(肌もつやつやしてるし顔立ちなんか西欧人っぽくすらあるし)
('A`)(美しすぎるお坊さん……)
('A`)(金の臭いがしてきたな……)
( ゚∀゚)「……しかし……」
(*゚ー゚)「どうかなされましたか?」
( ゚∀゚)「俺ら雲水に混じって修行するには、少々貧弱すぎるな」
('A`)「じ、自分のことですか?」
( ゚∀゚)「そうだ。もっと鍛えねば頓悟の機は訪れぬぞ」
( ゚∀゚)「健全な精神は健全な肉体に宿るからな」
('A`)「はあ……」
( ゚∀゚)「それじゃ、俺はこのへんで。膳を並べる手伝いでもしてこよう」
(*゚ー゚)「あの、今日は単には……」
( ゚∀゚)「上がらないよ。今日もな」
(*゚ー゚)「そうですか……」
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:33:58.82 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「はあ……」
('A`)「どうかしたか」
(*゚ー゚)「いえ、あの」
(*゚ー゚)「こう言うのは若干適切ではない気もしますけれど……」
('A`)「そうやって含みを持たされたら気になるじゃないか」
(*゚ー゚)「その……譲留和尚は……いささか僧の中でも異端でして」
('A`)「まあなーメディアとかに露出してるくらいだし」
(*゚ー゚)「それだけではございません。ほとんど座禅を組まないのです」
('A`)「なんだそりゃ?」
(*゚ー゚)「あの方にとって悟りの境地に至る手段は『頓悟』なのです」
('A`)「なんだその『とんご』ってのは」
('A`)「アフリカの共和国にありそうな響きだけど」
(*゚ー゚)「頓悟とは段階を踏まず一挙に悟りを開くことです」
(*゚ー゚)「閃きに近いとでも申しましょうか……」
(*゚ー゚)「日々の修行の中で咄嗟に悟る、という概念の中で生活していらっしゃるのです」
('A`)「へー、そんな考え方もあるのか」
(*゚ー゚)「そうなのです」
('A`)「……で、それになんか問題でもあるのか?」
(*゚ー゚)「それは……次の知事の方に会ってから話しましょう」
(*゚ー゚)「次は維那の擬古和尚です」
('A`)「いの、とは?」
(*゚ー゚)「維那は雲水の修行を監視し、作法を伝授する役職のことです」
(*゚ー゚)「皆の模範となる僧侶ですね」
(*゚ー゚)「その他にも挙経を務めたり……いろいろと気苦労が多いそうでして」
(*゚ー゚)「あ、挙経とは読経の際に唱え始めを任されることです」
(*゚ー゚)「六知事では四番目にあたりますよ」
('A`)(風紀委員だな)
('A`)(それにしても風紀委員という言葉が醸し出すエロさは異常だ)
('A`)(生徒会と並んで何やってるか謎なのに異常にラノベ登場率の高い委員会)
('A`)(それが風紀委員)
(*゚ー゚)「今は擬古和尚は単に向かってらっしゃるかと思いますが……」
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/05(土) 23:51:51.38 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「つーことで禅堂にまでやってきたが……」
(*゚ー゚)「あ、いましたね」
(,,-Д-)「……」
(*゚ー゚)「申し訳ありませんが、少し声を落としてください」ボソッ
('A`)「なんでまた」
(*゚ー゚)「擬古和尚が瞑想に入られていますので邪魔をしてはいけません」
(,,-Д-)「……」
('A`)「すげー、まったく動かない」
(*゚ー゚)「……本当は座禅を行う時間帯ではないのですが……」
('A`)「じゃあなんで未だに続けてるんだ?」
(*゚ー゚)「擬古和尚は日の大半を座禅に費やすのです」
(*゚ー゚)「只管打坐、という言葉を知っていますか?」
('A`)「舐めないでいただきたい。そのぐらいは学校で教わってるぞ」
(*゚ー゚)「あれは元来初心者向けの方便だったのですが……」
(*゚ー゚)「擬古和尚はまさしくそれなのです」
('A`)「ちょっと待てよ、初心者向けなんだろ」
('A`)「この寺のトップクラスがそんなことに執着する必要あるのか」
(*゚ー゚)「違うのです。擬古和尚はあくまで外面だけを捉えた時にそう映るだけなのですよ」
(*゚ー゚)「実際はもっと深い考えがあって座禅をしているのでしょう」
(*゚ー゚)「擬古和尚にとっての悟りとは『漸悟』……徐々に大悟に近づくことなのです」
(*゚ー゚)「積み重ねの中で答えを自ずから見出していく……」
(*゚ー゚)「譲留和尚とは、真逆、ですね」
('A`)「なんかつかめてきたぞ」
('A`)「あれだ、二人は仲がよろしくないんだろ」
(*゚ー゚)「まさしくその通りでして……」
(*゚ー゚)「お互いの悟りに対する認識の相違が大きな障害となっているのです」
(*゚ー゚)「噂では、雲水内で派閥にも別れているとか」
('A`)「マジかよ……ドロドロしてんな」
ゴーンゴーン
('A`)「お、鐘が鳴った」
(*゚ー゚)「そろそろ食事の時間というわけです」
(,,゚Д゚)パチッ
(*゚ー゚)「擬古和尚が目を開けました。くれぐれも粗相のないよう」
('A`)「いっ、いきなりそんなことを言われてもだな、君ィ」
(,,゚Д゚)スタスタ
('A`)(や、や、やべぇ、近づいてきた。威圧感半端ない)
('A`)(しかしこの人もイケメンだな……譲留和尚とはタイプは違うが……)
('A`)(なんていうかワイルドだな……)
(,,゚Д゚)「おい」
('A`)「ひゃ、ひゃはあいっ!」ビクンッ
(,,゚Д゚)「そなたではない。椎伊よ」
(*゚ー゚)「なんでございましょうか?」
(,,゚Д゚)「伴っているのは誰だ」
(*゚ー゚)「今日から修行道に入られる毒念さんです」
('A`)「え、まあ、そういうことです……」
('A`)(そのぐらい俺に直接尋ねたらいいだろ……)
(,,゚Д゚)「そうか」
(*゚ー゚)「これからどちらへ?」
(,,゚Д゚)「決まっておる。薬石だ。昏鐘が聴こえたのでな」
(*゚ー゚)「左様ですか。では私も後で本堂に向かいます」
(,,゚Д゚)「うむ」スタスタ
(*゚ー゚)「……行きましたよ」
('A`)「あああああ緊張したああああああ」
('A`)「あの人絶対俺とかいうどうしようもないゴミクズを受け入れてないよ……」
(*゚ー゚)「そんなことはないと思いますが」
('A`)「いいやあの目は確実に畜生を見つめるような目だった」
(*゚ー゚)「そこまで卑下しなくても……」
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 00:22:37.11 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「あとは直歳と都寺ですね」
('A`)「その前に椎伊は飯食いに行かないでいいのか?」
(*゚ー゚)「少し時間をずらします。諸梵和尚の言い付けなので」
('A`)(ええ子や……)
('A`)(ケツがますます引き締まって見える……)
(*゚ー゚)「廊下で薬石を頂きにいく僧とすれ違うと思いますが、会釈程度はお願いします」
('A`)「会釈ね。そんぐらいなら……ん?」
( ^ω^)「あ」
('A`)「……」
('A`)「……どうも」
( ^ω^)「……どうも」
( ^ω^)スタコラ
('A`)サッサ
(*゚ー゚)「あの、蓬莱和尚となにか?」
('A`)「……いや、別に」
(*゚ー゚)「そうですか。あっ、それより」
(*゚ー゚)「正面から直歳の兄蛇和尚が来ましたよ! 行きましょう!」タッタッ
( ´_ゝ`)「んー? なんだ椎伊じゃないか」
(*゚ー゚)「お勤めご苦労様です、兄蛇和尚」
( ´_ゝ`)「いや大して仕事なんてなかったんだが……それよりそいつ誰よ?」
('A`)「ど、どうも、本日から厄介になります毒念です」
(*゚ー゚)「兄蛇和尚は弟蛇和尚の実の兄です」
('A`)「どうりで顔が似てると思ったら」
('A`)(しかし弟蛇さんと比べたら筋肉質じゃないな)
(*゚ー゚)「毘譜寺の直歳ですね」
(*゚ー゚)「直歳とは叢林、つまり僧たちが暮らすこの寺院の修理や整備を担当なさっています」
('A`)「しっすいって名前の雰囲気はダントツかっこいいな」
(*゚ー゚)「六知事の一人ですね」
( ´_ゝ`)「六知事といっても一番下だからな。そう他の雲水と変わらん」
(*゚ー゚)「それは自虐が過ぎます。兄蛇和尚のおかげで私たちは安心して暮らせてるんですから」
(*゚ー゚)「皆が皆感謝していますよ」
( ´_ゝ`)「んなこたないよ」
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 00:41:14.06 ID:I5ZkQb6J0
( ´_ゝ`)「それより飯だ。二人とも早いとこ本堂に行くぞ」
( ´_ゝ`)「せっかく弟がうまい料理を作ってやってるんだからな」
(*゚ー゚)「毒念さんは入山前に昼食と同時にお召し上がりになっているそうなので」
( ´_ゝ`)「じゃあ椎伊だけでいいや。行こ行こ」
(*゚ー゚)「いえ、まだ都寺の荒巻和尚に会っていませんから」
( ´_ゝ`)「荒巻のおっさんはもう寝ちゃったよ。起きてたのは三時の茶礼までだった」
(*゚ー゚)「うう……なんとなく、予測はできていた事態ですが……」
( ´_ゝ`)「んじゃ大人しく食事しとけ」
(*゚ー゚)「はあ……そうですね。そうさせていただきます」
(*゚ー゚)「それでは毒念様」
('A`)「えっ? このタイミングで俺?」
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 00:47:47.83 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「私たちは本堂で薬石を頂いてきますので」
(*゚ー゚)「あとは解定……ええと消灯までの間ご自由になさってください」
('A`)「急に言われても何すりゃいいのか」
(*゚ー゚)「せっかくですので単に上がってみてはいかがでしょう?」
('A`)「一切の知識なしでやっていいのかよ……」
(*゚ー゚)「あくまでもひとつの案ですよ。本気になさらずにしてくださいな」
(*゚ー゚)「では、また明日の朝に」
( ´_ゝ`)「あー今日は味噌汁の具がわかめだったらいいなー髪欲しいよなー」スタスタスタ
('A`)「……」
('A`)「一人になった……」
('A`)「さて……どうしようか」
('A`)「手荷物とかもねぇし……運ぶものとか何もないな」
('A`)「完全にゼロからのスタートなわけだ」
('A`)「……んん?」
( ^ω^)「!」ビクッ
('A`)「……」スタスタ
( ^ω^)「……」
('A`)「蓬莱和尚」
( ^ω^)「な、なんですかな? 毒念殿」
('A`)「……ブーンでいいよな」
( ^ω^)「そうしてくれお。そっちのほうが気が楽だお」
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 00:56:50.35 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「中学以来か」
( ^ω^)「てかなんでドクオがこんなところにいるんだお」
('A`)「こっちのセリフだろそりゃあ」
('A`)「お前こそなんで寺なんかにいるんだ。頭丸めてよー」
( ^ω^)「……出家したんだお。中学校卒業後」
('A`)「そういやお前高校行かなかったんだよな」
( ^ω^)「元々母子家庭だったし……それに母ちゃんも中二の時に死んだから」
( ^ω^)「ハナから進学は諦めてたんだお」
('A`)「だとしても仏教徒になるかねぇ。普通に働いたんでいいだろ」
( ^ω^)「生活できるならどこでもよかったんだお」
( ^ω^)「変にブラックな企業に勤めるぐらいなら寺のほうが安寧できるお」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 01:00:54.03 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「そっちこそどうなんだお」
( ^ω^)「剃髪してないってことは僧になったというわけじゃなさそうだし」
('A`)「いや、俺は……単に修行目的で」
( ^ω^)「修行?」
('A`)「俺高校出てから就職もせずブラブラしててさぁ」
('A`)「四、五年ぐらいそうしてたらさすがに親もぶちきれて」
('A`)「この腐った心身を叩き直すために寺に入れられたわけよ」
( ^ω^)「戸塚ヨットスクール感覚かお」
('A`)「みたいなもんだ」
( ^ω^)「あれのせいで横浜市戸塚区がいわれのない中傷を受けたお」
('A`)「まったくの無関係なのにな」
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 01:07:10.28 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「何年寺にいるつもりなんだお」
('A`)「一応、三年」
('A`)「でもま、多分三年後には俺も出家の道を選んでると思うわ」
( ^ω^)「なんでだお?」
('A`)「だって現実世界に戻ったところで……」
('A`)「学歴なし職歴なし資格なしの男にマトモな就職口なんてあるわけないだろ……」
( ^ω^)「気が滅入る話はやめろ」
( ^ω^)「まあ二十代半ばでの出家なら早いほうだお」
( ^ω^)「決断としちゃあ悪くないと思うお」
('A`)「本当か!」
( ^ω^)「動機はともかくとして」
( ^ω^)「十代で入山した人たちは僕始め数人いる」
( ^ω^)「というか現在進行形でまだ十代の雲水もいるお」
( ^ω^)「だけど大半は人生の途中でつまずいて最終手段として寺に来る人ばかりだお」
( ^ω^)「いろんな人たちがやってくる。駆け込み寺とはよく言ったもんだお」
('A`)「中卒のくせにずいぶんと客観的な視野を持ってんな」
( ^ω^)「うるせえ」
( ^ω^)「けど六知事の方々はさすがにエリート揃いだお」
( ^ω^)「擬古和尚なんかはもっとも大悟に近い僧だと寺内じゃ評判だお」
('A`)「諸梵和尚じゃないのか?」
( ^ω^)「うちの管主は一番悟りから遠くにいる人だお」
( ^ω^)「あの人はもう通り過ぎちゃったんだお」
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 01:21:17.12 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「……とまあ、世間話はここまでにして」
( ^ω^)「夕ごはん食べてくるお」
('A`)「もう言っちゃうのか?」
('A`)(久々に会えてちょっと嬉しかったんだけどな……)
( ^ω^)「腹は減るんだおこっちだって」
( ^ω^)「大体お前口からニンニクの臭いがするんだお。挑発してんのかお」
('A`)「シメに食べたガーリックステーキは最高でした」
( ^ω^)「その想像だけで飯が食えそうだお」
('A`)「でもよ、お前、中学時代より大分ガタイよくなってんじゃん」
('A`)「肉や魚食ってないのになんでそんな筋肉付くんだよ」
( ^ω^)「畑の肉を甘く見るなお」
( ^ω^)「じゃっ、そういうことで」ピューッ
('A`)「行っちまった」
('A`)「さーてと……」
('A`)「ぶっちゃけ……寝るまでやることねぇよな……」
('A`)「消灯は九時だったか……小学校三年生みたいなライフスタイルだ」
('A`)「……」
('A`)「……少し体でも動かすか」
('A`)「せっかくの山なんだし斜面を上り下りしよう」
('A`)「……」ザッザッ
('A`)「二往復でばてた……俺どんだけ足腰弱いんだよ……」
('A`)「やめやめ。寝るまで時間を無駄遣いしてやる」
~消灯後~
('A`)「なんとなく流れで椎伊とブーンの間に布団を敷いてしまった」
( ^ω^)「ぐごおおおおおおおおおがぎおおおおおあああああ」
('A`)「こいつはもう寝てるし……」
('A`)「しかし九時か……下の世界じゃまだまだガンガン目が覚めてる時間だぜ」
(*゚ー゚)「私たちは三時に起きてますから、もう眠くて仕方ありません……」
('A`)「でもまだ袈裟を着たままの人がいるんだが」
(*゚ー゚)「あれは……ふわあ、夜座ですね。明かりを消した後も座禅を行うのです……」
('A`)「殊勝な連中だな……」
(*゚ー゚)「私などはまだ不徳ですから……ふみゅ……そこまではできません……」
(*゚ー゚)「おやすみなさい……」Zzz...
('A`)「寝つき早っ! まあそんだけ疲れてるってことなんだろうけど」
('A`)「俺もさっさと眠っちまおう」
('A`)「三時起床なんてめざましテレビの大塚さんクラスの大業だ」
('A`)「羊がいっぴーき羊がにひーき……ん?」
('A`)「なんか……禅堂のほうから声がしてる?」
「伊陽よ、なぜ手を解かない。なぜ今更になって拒む必要がある」
「なりませぬ、和尚様。今宵は――いけませぬ」
「五濁悪世いかにして過ぐべき。暗い世に陽の光が不可欠なのだ。さあ」
「あっ……」
('A`)(おっ、おい)
('A`)(これってあれじゃん)
('A`)(あれじゃん!)
「和尚様――」
「綺麗だ。もう何度触れたか知れぬ。しかし未だ飽くことを覚えず」
「いけません、いけません」
「だがこの身体の震えは拒絶ゆえではない……歓喜にむせび泣いておる。
声を――聴かせてほしい。拙僧の耳に届かせてくれ」
「ああっ」
('A`)(やられてるのは……若い、いやむしろ、少年みたいな声だ)
('A`)(なんで甘美な嬌声……じゃなくて)
('A`)(え、なに、普通にホモがいるの、ここ?)
「これもっと肛門を気張らぬか!」
「ぬふうぬふう」
('A`)(もう一組だと!?)
('A`)(声だけならまだ我慢できる……)
('A`)(しかし……ぐちゅぐちゅとかぬぷぬぷとかいう……)
('A`)(水気を含んだ効果音はやめろっ……!)
('A`)「くっ……」キョロキョロ
('A`)(……周りにいる奴は……気付いてるのか……狸寝入りか……)
('A`)(いずれにせよ……)
「ああ! 和尚様っ、そこは、なりません!」
「拙僧は、否拙僧とそなたは、今まさに流連の狭間に活命の息吹を実感しておるぞ――」
「おおこれはよい! 格段と圧が増した!」
「うほおおおおお!!」
('A`)(この状況で……寝るのは無理……つーか怖い……)
~翌日、午前三時~
ゴーンゴーン
('A`)「うふふ……鐘が鳴ってますわ……」
(*゚ー゚)「ふわ~……むにゃん……あっ、毒念様、お早いですね」
(*゚ー゚)「つい先ほど暁鐘が鳴ったばかりですのに」
('A`)「起きたというか寝てないというか……」
('A`)「君のような純粋な少年には実に伝えにくい理由がありましてね」
(*゚ー゚)「はあ……ともかく、朝の粥まで少し時間があります」
(*゚ー゚)「私は朝課で少し用事がありますので」
(*゚ー゚)「粥座の後で荒巻和尚の元に参りましょう。あのお方は朝はお元気ですよ」
('A`)「あ、ああ、了解」
('A`)「……」
('A`)「さて……約一名を除き全員起床して朝の務めに向かったようだが」
('A`)「おい」
( ^ω^)「ぐーすかー」
('A`)「とっくに分かってんだぞ。ブーン起きてんだろ、おい」
( ^ω^)「……なんだお」
('A`)「ちょいとばかり質問がある」
('A`)「昨夜……禅堂の方向から怪しげな声がしていてだな……」
( ^ω^)「正直僕もあの気持ち悪い声で軽く目が覚めたお」
('A`)「あれは完全に男同士……ホモセックスを行っていたんだが……」
( ^ω^)「……まさかこんなに早くこの寺の暗部を知られるとは……」
('A`)「待て、聞き捨てならんぞ。暗部とはどういうことだ」
( ^ω^)「ドクオ」
('A`)「なんだよ話遮りやがって」
( ^ω^)「衆道って聞いたことあるかお」
('A`)「んー、完全無知」
( ^ω^)「>>1に目を通してみ」
('A`)「ほほーうなるほどな……ん?」
('A`)「ってことはつまり……」
( ^ω^)「そう、ドクオが今考えている通りだお」
( ^ω^)「この寺は昔の様式が保存されたままでいる……」
( ^ω^)「衆道文化も残ってるんだお」
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 02:22:29.35 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「……ここの仏僧たちは全員知ってるのか?」
( ^ω^)「おそらくは、ほとんどが」
( ^ω^)「そして知っててみんなスルーしてるんだお」
( ^ω^)「関わりたくないから」
('A`)「まあ自分に矛先が向いた時の恐怖は計り知れないからな」
( ^ω^)「そもそも衆道自体が禅宗とは切っても切れぬ関係……」
( ^ω^)「禁欲生活において一番困難を極めるのが性欲の抑制だお」
('A`)「確かにな」
('A`)「私もそれが最大にして最強の壁であると認識しております」
( ^ω^)「寺院で稚児を飼っていたのは少年を女の代替品にするためだったとも言われてるお」
('A`)「うへあ」
( ^ω^)「精進料理で腥が禁じられてる理由を知ってるかお?」
('A`)「そりゃあれだろ、殺生はダメとかそういう」
( ^ω^)「表向きはそうだお」
('A`)「違うのか?」
( ^ω^)「仮にそんな所以ならニラやニンニクまで禁止にしないお」
( ^ω^)「そもそも植物にも生命は宿ってるお」
('A`)「やけにもったいぶるな」
('A`)「じゃあなんなんだよ。納得のいく答えじゃないと二度寝しちゃうぞ」
( ^ω^)「一番の目的は性欲を抑えつけるためだという説があるお」
('A`)「ああ……香りの強い食い物もアウトなのはそういうことか」
( ^ω^)「あの手の野菜は精力が無駄についてしまうお」
( ^ω^)「おかげで僕はここ数年射精どころか勃起すらしたことないお」
('A`)「それはそれで勃起不全を疑えよ」
( ^ω^)「これが悟りの境地なら開眼なんかしなくていいお」
('A`)「だとしたら変だな。性欲が削がれてるはずなのにあいつら盛ってたぞ」
( ^ω^)「元々の性欲が凄まじいか、隠れて肉食ってるかのどっちかだお」
('A`)「肉とかどこで……あ」
( ^ω^)「山を下りればいくらでも」
('A`)「だよな」
('A`)「頻繁に山を下りて町に出てる人といえば……」
( ^ω^)「副寺の譲留和尚だお」
( ^ω^)「ただあの人は女好きで有名だお」
('A`)「坊主なのに女好きって……それはそれで嫌だな」
( ^ω^)「俗世間に女を囲ってるという噂が流れてるお」
( ^ω^)「これも余談になるけど」
( ^ω^)「わざわざ下山して衆道にはまる雲水もいたそうだお」
('A`)「なんじゃそりゃ」
('A`)「町に出たら女を抱けよ……」
( ^ω^)「女犯を常時気にかけてたのかただの少年性愛かは分からんお」
( ^ω^)「江戸時代には陰間茶屋という売春施設があったらしくて」
( ^ω^)「分かりやすく説明するとショタ専門の風俗」
('A`)「凄まじくニッチな商売だな」
( ^ω^)「とりわけ芳町という色街で流行ったらしいお」
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 02:46:35.03 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「しかしやたらと知識があるな……まさかお前も」
( ^ω^)「なわけねーお」
('A`)「しかしその鍛え上げられた肉体。俺の目からだとホモ受けしそうに思える」
( ^ω^)「勘弁してくれお……」
(´<_` )「おお、まだこんなところにおられたか」ガララッ
('A`)「弟蛇和尚」
(´<_` )「さっさと布団を上げとくれ。朝粥の準備が出来たんだ」
(´<_` )「二人とも両手が空いてるようなら運搬を手伝ってくれるか?」
( ^ω^)「承りましたお……」
('A`)「ブーン、さっきまでの話は」
( ^ω^)「僕から話せることは他にないお」
('A`)ガチャガチャ
('A`)「膳を運ぶのも大変ですね……」
(´<_` )「この寺には百名近くの雲水がおるからな」
(´<_` )「一人逃げ、二人逃げ、三人墨染に袖を通す」
(´<_` )「それの繰り返しだ」
( ^ω^)「全員分並べましたお」
('A`)「おお続々とやってきた。なんか壮観だな」
(*゚ー゚)「粥座は僧全員が一堂に会する貴重な機会です」
('A`)「椎伊」
(*゚ー゚)「ご覧下さい。諸梵和尚が最奥の上座にお座りなさっています」
(*゚ー゚)「その左隣が監寺の茂羅様。そして右隣が…都寺の荒巻様です」
/ ,' 3「あー食べたい早く食べたい」チャンチャン
/ ,' 3「昨日は薬石食べずに寝ちゃったもんなー」チンチリリン
('A`)「あの匙をひっきりなしにチンチン鳴らしてるじいさんがそうなの?」
(*゚ー゚)「はい」
('A`)「偉そうに見えない……」
ザワザワ
/ ,' 3「管主殿、もう全員集結しておりますぞ。早く号令を」
(´・ω・`)「そうですな。では」
(´・ω・`)「皆の者!」
シン……
(´・ω・`)「これより朝粥を頂かせてもらいますが」
(´・ω・`)「食事も修行の一環であること、そして食に対する敬意を忘れるでないぞ」
(´・ω・`)「それではいつものように私の後についてきてください」
(´・ω・`)「ひとつ、功の多少を計り彼の来処を量る!」
「功の多少を計り彼の来処を量る」
(´・ω・`)「ふたつ、己が徳行の全欠を忖って供に応ず!」
「ふたつ、己が徳行の全欠を忖って供に応ず」
(´・ω・`)「みっつ、心を防ぎ過を離るることは貪等を宗とす!」
「心を防ぎ過を離るることは貪等を宗とす」
('A`)(……なあ、これ何?)
(*゚ー゚)(五観の偈と申します。食前に唱える偈文ですね)
(´・ω・`)「よっつ、正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為なり!」
「正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為なり」
(´・ω・`)「いつつ、成道の為の故に今此の食を受く!」
「成道の為の故に今此の食を受く」
(´・ω・`)「それでは――いただきます」
「わーいいただきまーす」
('A`)「最後だけ小学生の給食みたいだったな」
(*゚ー゚)「朝は全ての礎です。しっかり食べて今日一日に備えましょう」
('A`)「でもこの粥……味が薄い……」
( ^ω^)「ほぐした梅干しが小皿にあるからそれ入れとけお」
('A`)「梅干し苦手なんだよな」
( ^ω^)「この期に及んで好き嫌いとか舐めてんのかお」
/ ,' 3「ふいー食った食った」
(*゚ー゚)「荒巻和尚」
/ ,' 3「おん?」
(*゚ー゚)「少し挨拶が遅れましたが、こちら、修行に参られた毒念さんです」
/ ,' 3「おお、あんたが噂の」
('A`)「ど……ども、よろしく頼みます」
/ ,' 3「ま、慌てず気張らずごゆるりとな」
('A`)「は、はいっ!」
('A`)(近くで見ると凄い威光だ……かなりの高徳を積んでいるに違いない)
/ ,' 3「わし茶礼の時間まで掃除してくるから、時間きたら呼んでね」
(*゚ー゚)「承知いたしました」
(*゚ー゚)「荒巻和尚もほとんど単には上がりません」
('A`)「譲留和尚と同じような感じか?」
(*゚ー゚)「いえ、そうではなく、既に座禅を極めてしまったためではないかと」
(*゚ー゚)「私たちはまだまだ未熟ですから禅堂に向かいましょう」
(*゚ー゚)「今日は僧堂での一日の解説、というより紹介をしたいと思います」
(*゚ー゚)「先程の粥座が四時、それを終えた者から座禅に取り組みます」
('A`)「何十分ぐらいやるの?」
(*゚ー゚)「六時までですね」
(*゚ー゚)「人によっては作務と茶礼を飛ばして昼まで続ける雲水もおります」
('A`)「うわ、だったらもうちょいゆっくり飯食えばよかった。なげぇ……」
(*゚ー゚)「何を言うんですか。己を見つめることこそが修行なのですよ」
(*゚ー゚)テケテケ
(*゚ー゚)「到着しました」
('A`)「既に先客が幾人もいるな」
('A`)「ずらっと整列して一心不乱に瞑想してる……凄い絵面だ」
(,,-Д-)「……」
(*゚ー゚)「擬古和尚もおられます。せっかくですので直々に作法を教えていただきましょう」
('A`)「ちょっ、ま、あんな集中してるとこ邪魔していいのかよ」
('A`)「めちゃくちゃ怖いんだけど」
(*゚ー゚)「維那なのですからそのくらいは許してくださりますよ」
(*゚ー゚)「擬古和尚! 些事ですがよろしいでしょうか!」
(,,-Д゚)「……何用だ」
(*゚ー゚)「毒念さんに座禅の作法を授けていただきたいのですが」
(,,゚Д゚)「承知。では毒念殿」
('A`)「ひゃ、ひゃい」
(,,゚Д゚)「まずは叉手を覚えてもらいたい」
(,,゚Д゚)「叉手とはこのように、左手で作った拳を胸のあたりに当て」
(,,゚Д゚)「そこに右掌を覆うように添える」
(,,゚Д゚)「左手の拳は親指を握り込むようにして作る。よろしいか」
('A`)「こ……こんな感じですかね」
(,,゚Д゚)「うむ。この姿勢が禅堂に足を入れて歩く際の作法である」
(,,゚Д゚)「基礎中の基礎であるがゆえ、まずはこれを覚えてもらわぬことには始まらない」
(,,゚Д゚)「次は単に上がるに際した時の礼法である」
(,,゚Д゚)「隣位問訊と対座問訊を識っていただく」
('A`)「なんですかそれ?」
(,,゚Д゚)「隣位問訊とは自分が座る場所に合掌し平頭することである」
(,,゚Д゚)「対座問訊とは背が合う雲水に行う同様の礼である」
(,,゚Д゚)「端的に言ってしまえば軽い挨拶だ」
(,,゚Д゚)「これを受けた僧……両隣と向かいの者だな」
(,,゚Д゚)「この者も合掌をする。ゆめゆめ忘れぬよう」
('A`)「はっ、はい」
(,,゚Д゚)「毒念殿の座蒲……座禅用の座布団だな、堂内右奥に空きがあるので」
(,,゚Д゚)「それをお使いなさい」
('A`)(それにしても男前だなこの人)
(,,゚Д゚)「続いて座り方の作法だな」
(,,゚Д゚)「結跏趺座と半跏趺座があるが、前者は負担が大きく長時間の座禅には向かぬ」
(,,゚Д゚)「ゆえに半跏趺座を推奨する」
('A`)「どのようにして座るのですか?」
(,,゚Д゚)「片方の足をもう片方の腿に乗せて座るのだ」
(,,゚Д゚)「重要なのは両膝を床に着けること。そして顎を引き背筋を伸ばす」
(*゚ー゚)「まさしく擬古和尚が今しがたやっておられた姿勢です」
(,,゚Д゚)「現実にやってみればすぐに理解できるであろう」
(,,゚Д゚)「更に足を組んでから法界定印を結んで瞑想に入る」
(,,゚Д゚)「乗せた足の裏に、両手を掌を上にして重ねるように置き、親指同士を合わせる」
(,,゚Д゚)「これが法界定印である」
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 10:20:40.49 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「瞼は開けていても閉じていてもよい」
('A`)「目開けててもいいんですか?」
(,,゚Д゚)「むしろ最初期はそちらのほうがよい。暗闇の中では睡魔に襲われるのでな」
(,,゚Д゚)「壁向かいに座るので正面の壁でも見つめておけばよい」
('A`)「いや……一応つむっときます」
('A`)(なんか気まずいし……)
(,,゚Д゚)「ただ口は開いてはならぬ。唇を一文字に結んでおくよう」
('A`)「わかりました」
(*゚ー゚)「それから……擬古和尚」
(,,゚Д゚)「分かっておる」
(,,゚Д゚)「毒念殿、最後に一つ注意点がありましてな」
('A`)「な、なんでしょうか」
('A`)「あなたにそんなふうに言われるととてつもなく恐ろしいんですが……」
(,,゚Д゚)「座禅を行う間直堂が堂内を巡回しながら監守する」
(,,゚Д゚)「少しでも心の乱れを察すればその雲水の肩を警策で打つ」
('A`)「警策って、もしかしてバシーンバシーンってやるあれですか?」
(,,゚Д゚)「いかにも」
(,,゚Д゚)「直堂当番は寺の者が位の順に交代で勤める」
('A`)「今日は誰が……」
(,,゚Д゚)「あの僧だ」
( ^ω^)ニコッ
('A`)(野郎……)
(,,゚Д゚)「以上だ。これより拙僧は瞑想に復帰させていただく」
(*゚ー゚)「ご教授誠にありがとうございました」
(*゚ー゚)「毒念様も」ボソッ
('A`)「あ、どうも、わざわざご丁寧にありがとうございました」
(,,-Д-)「……」
('A`)(すげえ、もう自己世界に閉じこもってる)
(*゚ー゚)「私たちも単に向かいましょう。私の座蒲はあちらですので……」
('A`)「行ってしまった……俺もいっちょやってみるか」
( ^ω^)「ふっふっふ」
('A`)「てめぇ……やる気だな。俺は決して負けんぞ……」
( ^ω^)「洗礼を浴びせてやるお」
ゴーン
(*゚ー゚)「鐘が鳴りました。ということは六時ですね」
(*゚ー゚)「毒念様、終わりましたよ。朝の作務に向かいましょう」
('A`)「お、おお……おうお……」
(*゚ー゚)「……どうなされましたか? 今にも息絶えそうですが……」
('A`)「通算百四十七発打たれた……」
(*゚ー゚)「一分間に一発以上の頻度じゃないですか」
('A`)「確かにちょっとぐらぐらしてたかも知れんが……完全に私怨だろあれは……」
( ^ω^)「ストレス解消に最適だったお」ニコヤカ
('A`)「クソが……! 必ず復讐してやるからな……!」
(*゚ー゚)「揉め事は回避願います……」
( ^ω^)「じゃあ僕は残って座禅する人たちの監督があるんで」
( ^ω^)「さっさと作務に行ってこいお」
('A`)「俺が正式に坊主になった暁にはお前の肩を完膚なきまでに崩壊させてやるからな」
('A`)「ところで椎伊よ」
(*゚ー゚)「なんでしょうか?」
('A`)「作務ってなにすんだ?」
(*゚ー゚)「基本的には掃除や畑仕事、補修作業……いわば労働ですね」
(*゚ー゚)「日々の仕事こそが最大の修行とも呼ばれています」
('A`)「なるほどな……寺の中とはいえ働かなきゃならんのだな……」
(*゚ー゚)「頑張りましょう。すべては己の身になることですから」
('A`)「俺の人生でやってきた仕事なんて文化祭で新聞紙の輪っか作ったことぐらいだよ……」
( ´_ゝ`)「手が空いてるなら床板の修繕を手伝ってくれよ」
(*゚ー゚)「兄蛇和尚」
( ´_ゝ`)「雑巾がけとか土いじりよりはちったあやりがいがあるぞ」
(*゚ー゚)「そうですね、では私と毒念さんで協力いたします」
('A`)「直歳の仕事じゃないですか……僕が働かないことで誰かが職に就けるんですよ……」
('A`)「席の数は決まってるんです」
( ´_ゝ`)「どこまで無職体質なんだおまいは」
( ´_ゝ`)「大体一人で全部やるわけないだろ。俺は現場監督みたいなもんだ」
('A`)「まあ当然ですよね」
( ´_ゝ`)「その日その日で暇な雲水を雇ってんだよ」
('A`)「はあ。んじゃ手伝います。何していいかも分かりませんでしたし……」
( ´_ゝ`)「おう。頼りにしてるぞーお前ら」
(*゚ー゚)「して、壊れた床板というのは?」
( ´_ゝ`)「ここだここ」
('A`)「廊下じゃないですか」
( ´_ゝ`)「本堂と給仕場を結ぶな」
( ´_ゝ`)「この廊下は人の行き来が激しいからすぐにささくれ立つんだよ」
(*゚ー゚)「それはいけませんね。刺さったら大変です」
( ´_ゝ`)「痛いぞー足の指の爪の間に挟まった時なんか」
('A`)「やめてください柔肉がうずきます」
( ´_ゝ`)「それじゃ板材渡しとくから、先行隊と合流して貼り変え作業頼むわ」
( ´_ゝ`)「俺は適宜支持出すんで」
(*゚ー゚)「承りました!」
('A`)「貼り変えて……ニス塗って……床磨きも終わった」
('A`)「腰がいてぇ……」
( ´_ゝ`)「お疲れさん。ちょうど作務の時間も終わったぞ」
('A`)(下の世界なら時給八百六十円ってところだな……)
(´<_` )「作務を終えたら茶礼だぞ」
( ´_ゝ`)「なんだ弟蛇じゃないか。出し抜けにどうした。てかいつからいたのよ」
(´<_` )「給仕場が俺の仕事場なんだからここにいるのは至極当たり前の話ではないか」
( ´_ゝ`)「息継ぎして喋れよ聞きづらい。お前も僧になってすっかり念仏口調になったな」
(´<_` )「そんなことより茶礼の準備だ」
('A`)「茶礼とは?」
(´<_` )「坊主のおやつだよ」
('A`)「おやつ? そんなものがあるんですか?」
(*゚ー゚)「お茶とお茶菓子を頂くのです」
(*゚ー゚)「一時の休息ですね」
(´<_` )「妙か?」
('A`)「いえいえ素晴らしい習慣だと思います」
(*゚ー゚)「ですよね。私もこれを一番の楽しみにしてるんですよ!」
('A`)「実に少年らしい無邪気な意見だな」
( ´_ゝ`)「私もなんですよ!」
(´<_` )「兄蛇和尚よ、もうじき五十だろ」
( ´_ゝ`)「かわいくなかった?」
('A`)「残念ながら……」
(*゚ー゚)「やかんが次々運ばれてきました。今日のお茶受けは?」
(´<_` )「栗まんじゅうだ。一人二個まで」
('A`)(ブーンの奴まだ来てないな……ひとつ奪っとくか……)
(*゚ー゚)「あっ、毒念様それは駄目ですよ!」
(*゚ー゚)「寺内の遺失物の管理も直堂が勤めていますから……」
(*゚ー゚)「蓬莱和尚に知られたら大事ですよ」
('A`)「……具体的にどう大事なのですかね」
(*゚ー゚)「今日は常に警策を携えていますから……おそらく……」
('A`)「それは職権乱用だ! 越権行為だ!」
(*゚ー゚)「絶対なのです。なにとぞ辛抱のほどを」
('A`)「クソが……俺は黙って涙を飲むことしか出来ないのか…・…!」
('A`)「集まってきたけど……朝より減ってるな」
(*゚ー゚)「まだ座禅を続けている僧、下山して作務に臨んでいる僧もいますから」
(*゚ー゚)「あっ、直日の方がやかんを持ちました。碗を掲げておいてください」
('A`)「直日ってなんだべ」
(*゚ー゚)「日直制の幹事です。作務の一日監督も兼任してますね」
('A`)「ほう」
('A`)「……なあ、今茶が注がれたんだけど……薄くないこれ? ケチってない?」
(*゚ー゚)「なにせ大所帯ですから」
(*゚ー゚)「それにしても栗まんじゅうはおいしいですね」
('A`)「その点に関しては同意見」
(*゚ー゚)「至福の瞬間です……」
( ^ω^)「やったー茶礼だお」テッテッ
(*゚ー゚)「あっ、蓬莱和尚。禅僧の見張りはもうよいのですか?」
( ^ω^)「茶礼の時間だからサボってきたお」
('A`)「ひどい坊主だな」
(*゚ー゚)「蓬莱様のような我執の境地こそ悟りだとする人々もいますが……」
( ^ω^)「無我なんてのは糞くらえだお」
( ^ω^)「まんじゅううめえ」
('A`)(なあブーン、ちょっとひそひそ声で頼む)
( ^ω^)(なんだお)
('A`)(お前一日瞑想する僧の監視をするってことは……夜も禅堂に行くのか)
( ^ω^)(……それを聞くかお)
('A`)(お前……あの現場に居続ける度胸はあるのか……?)
( ^ω^)(あーもう夜座は自主トレだからノータッチなんだお)
( ^ω^)(第一見張りがいたら奴らはあんな行為に及ばないお)
('A`)(そ、そうか)
( ^ω^)(毎晩盛ってるというわけでもないし)
(*゚ー゚)「どうなされましたか? お二人も顔を突き合わせて」
('A`)「やー、いやいや、大した話じゃないんだ」
( ^ω^)「そうそうなんでもないんだおーなんでもー」
('A`)(……椎伊は気づいてるのか? 衆道の存在に……)
( ^ω^)(さあ……)
('A`)「しかしみんなのんびりしてんな……」
(*゚ー゚)「茶礼は一時間丸々使いますからね」
('A`)「なんていうか、穏やかだな」
( ^ω^)「この後はすぐに斎座に入るんだお」
('A`)「さうざー? 退かぬ媚びぬ省みぬ?」
( ^ω^)「さいざだお」
(*゚ー゚)「平たく言うと昼食のことですよ。十一時になったら食事です」
('A`)「十一時とか今までの俺なら起床時間だったな……」
(*゚ー゚)「斎座の間は管主様の提唱――禅に関する講義を拝聴できるのですよ」
('A`)「ほう」
( ^ω^)「あれは大分眠いお」
ゴーン
( ^ω^)「鐘が鳴ったお」
(*゚ー゚)「一斉に膳が運ばれて参りました。私も少し手伝ってきます」タッ
('A`)「働き者だねぇ。ん?」
(=゚ω゚)「あっ……」
(=゚ω゚)ペコリ
(=゚ω゚)タッタッタッ...
('A`)「目が合っちまった。あの子も少年僧か」
('A`)「少年……少年か……」
('A`)「まさかとは思うが……」
(*゚ー゚)「お二人の分を持ってきましたよー」
('A`)「なあ、ちょっといいか」
(*゚ー゚)「はい?」
('A`)「この寺には、君の他に十代の僧侶はどのぐらいいるんだ?」
(*゚ー゚)「成人前の雲水ですか?」
('A`)「ああ」
(*゚ー゚)「そうですね、私以外だと……」
(*゚ー゚)「先日の落伍者を抜いても……確か……十数人はいたと思いますが」
('A`)「一番若いのは?」
(*゚ー゚)「私ですが」
('A`)「いやいや椎伊を抜いてだな」
( ^ω^)「伊陽だお」
('A`)「なにっ?」
('A`)(その名前は……)
( ^ω^)「椎伊の次に年少なのは伊陽だお」
(*゚ー゚)「あっ、そうです。伊陽和尚になりますね。確か十六歳だったかと」
('A`)「そ、それはどいつだ?」
( ^ω^)「さっきドクオと視線が合ったあの子だお」
('A`)「あ……あいつか!」
('A`)(昨日……確かに伊陽という名を呼んでいた……)
('A`)(やけに耽美な雰囲気を発していたが、あいつが相手だったのか)
('A`)(ぬふぬふ喘いでたガチホモカップルは置いとくとして……)
('A`)「ブーン、ちょっと夜に相談がある」
( ^ω^)「把握したお。うっすらと内容が読めるけど」
('A`)「すまないな」
(*゚ー゚)「それよりも早く頂きましょう。午後からはまた作務があります」
('A`)「……あ、ああ、そうだな」
('A`)「でもこの味噌汁……具が納豆と豆腐と油揚げなんだが」
(*゚ー゚)「なにか差し障りが?」
('A`)「大豆の四重奏じゃねーか。どんな具材のチョイスだ」
( ^ω^)「貴重なタンパク源なんだから文句言うなお」
('A`)「しかもおかずは凍り豆腐だし……」
('A`)「てか納豆は納豆で食わせろよ」
( ^ω^)「小鉢を洗う手間を考慮しろお」
(*゚ー゚)「ネバネバを取るのも一苦労ですからね……」
('A`)「……ところで諸梵和尚がいないんだが」
(*゚ー゚)「托鉢に出かけておられます。食料を恵んでもらってそれを昼食にするのです」
( ^ω^)「まあ物乞いのことだお。他にも何人か行ってるお」
(*゚ー゚)「たぶんですが、擬古和尚や茂羅和尚もそうなさっているかと思われます」
('A`)「あの人らもか」
(*゚ー゚)「擬古和尚は座禅を行う以外の修行は従者を伴っての托鉢しかしませんからね」
(*゚ー゚)「茂羅和尚は……ちょっと何を考えていらっしゃるか分かりかねるのですが」
( ^ω^)「あの人の心中は誰にも推し測れないお」
('A`)「おい待て。管主の高説はどうした」
('A`)「出かけているなら聞けないじゃないか」
(*゚ー゚)「そういう日もあります」
('A`)「なんだその風任せみたいな言い分は」
(*゚ー゚)「禅とは一定にはあらざるのです」
( ^ω^)「不定の中に安定という光明と見つけ出すんだお」
(*゚ー゚)「打座して煩悩を絶つこともそれに通じます」
('A`)「やばい何喋ってるか分からん……」
(*゚ー゚)「それよりはやく斎座を済ませましょう。まだまだ作務がありますので」
('A`)「お、おう」
~午後三時~
('A`)「とりあえず掃除をしてきたが……」
(*゚ー゚)「お疲れさまです。本堂に皆様集まっています」
('A`)「なんでまた茶礼なの?」
(*゚ー゚)「この寺院では三度の茶礼があるのです。まあ、休憩ですよ」
( ^ω^)「わーい歌舞伎揚げだお」
('A`)「まあいいか……楽だし」
(*゚ー゚)「三時の茶礼は雲水の数の確認も兼ねています」
('A`)「出欠確認かよ。これは重要だな……これでも中学じゃ皆勤だったからな……」
(*゚ー゚)「帰ってこれない用事がある僧は仕方ありませんが」
( ・∀・)「管主様、九十六名、本堂に揃っております」
(´・ω・`)「ということは、全員ですか。珍しいですね」
/ ,' 3「ですな。いやはや満足な席になりそうですわい」
(´・ω・`)「だといいですね。では皆の者!」
シィン……
(´・ω・`)「半日の修行御苦労であった」
(´・ω・`)「気負わず茶を楽しもうではないか」
「いただきまーす♪」
('A`)「だからなんでちょっとかわいらしく言ってんだよ……」
(*゚ー゚)「解放感からでしょうね」
(*゚ー゚)「さて茶礼が終わりました」
(*゚ー゚)「あとは晩課……夕方の勤行になります」
(*゚ー゚)「それでは薬石の時間に会いましょう」
('A`)「そして一人残される俺」
( ゚∀゚)「おおいたいた、毒念殿」
('A`)「譲留和尚」
( ゚∀゚)「少しお時間よろしいかな?」
('A`)「手持無沙汰ですから構いませんけど……なんでまた自分なんかに?」
( ゚∀゚)「率直に言うとだな、俺はあんたと問答がしたいんだ」
('A`)「問答……ですか」
( ゚∀゚)「そうだ」
( ゚∀゚)「ちょっとついてきてくれ」
('A`)「ついてこいって、どこに」
( ゚∀゚)「俺の室だ。六知事にもなると個室が与えられるんだよ」
( ゚∀゚)「ここだ」ガララ
('A`)(すげー量の本……見かけやイメージと違って勉強家なんだな)
( ゚∀゚)「ま、腰かけてほしい」
('A`)「失礼します」
( ゚∀゚)「さてさて早速ひとつ尋ねたいんだが」
('A`)「はい」
( ゚∀゚)「毒念殿は、開くことと閉じること――どちらに答えがあると思っている?」
('A`)「開くことと閉じること、ですか」
( ゚∀゚)「左様」
('A`)「……あのー、少々意味が分からないのですが」
( ゚∀゚)「わっはっは、だろうな。いや急な返答は期待していなかったから構わんよ」
( ゚∀゚)「詳しく語ろう」
('A`)「頼みます」
( ゚∀゚)「禅とは正真正銘の、あるがままの自己を見つめることである」
( ゚∀゚)「自己とは体しかり、心しかり。その境目、あるいは外部に触れている空間すらも自己である」
( ゚∀゚)「飽くなき自己の追及こそ悟りに至る真髄。そのためには閉じた中で己を俯瞰せねばならない」
( ゚∀゚)「……だが俺は違うと思うんだよな」
('A`)(そういえば他山の出身なんだったな……)
( ゚∀゚)「自己ってのは後から形成されていくもの――」
( ゚∀゚)「現在進行形で完成していくものなのだ」
('A`)「はあ」
( ゚∀゚)「しかしながら禅はわざわざ櫓だの洞だの檻だの籠だのに己を封じてしまう」
( ゚∀゚)「経験なくして自己はなし!」
('A`)「自分を狭めていては進展しない、ということですかね?」
( ゚∀゚)「そうだ。旧来のまま閉じていては真なる自己を見つけ出すことはできん」
( ゚∀゚)「沈黙は可能性の否定に過ぎない」
( ゚∀゚)「だから俺は『開く』ことに大悟の鍵が隠されていると思っている」
( ゚∀゚)「そこによって得られる悟りは頓悟……他宗で呼ぶところの天啓だ」
('A`)「そう、ですか……」
('A`)(なるほど、およそ禅僧とは思えない破天荒な振る舞いには)
('A`)(そういう思想背景があったというわけか……)
( ゚∀゚)「まとめると……」
( ゚∀゚)「自身そのものを重視するか、境界線を重視するか」
( ゚∀゚)「そういうことだ」
( ゚∀゚)「……毒念殿はどう思うよ?」
('A`)「じ、自分ですか? 自分は……」
('A`)「……まだ分かりません。修行に励む中で、その回答を探せていけたらな、と」
( ゚∀゚)「ふうむ……まあ、今のところはそれでいいか」
('A`)「申し訳ないです」
( ゚∀゚)「いや話が出来ただけでも十分だ。帰っていいぞ。あまり拘束するのも悪いしな」
('A`)「失礼……します」
('A`)ガララ……タン
('A`)テクテク……
('A`)「はあああああああ疲れたあああああああ」
('A`)「あれが禅の教義か……頭がくらくらする」
('A`)「ただ譲留さんがこういう具合に考えているということは……」
('A`)「仲の悪い擬古さんは全く逆……『閉じる』ことを良しとしているんだろうな……」
('A`)「そりゃ相容れないわな……」
(*゚ー゚)「あっ、毒念様、こんなとこにいらしたんですか」
('A`)「椎伊」
(*゚ー゚)「畑の雑草を刈ろうと思うのですが、少し手を貸してくれませんかね?」
('A`)「あ、うん、そうだな。分かった。すぐ行くよ」
~日没~
ゴーンゴーン
(*゚ー゚)「昏鐘です。これで今日のお勤めは終わりですね」
(*゚ー゚)「あとは薬石と座禅、就寝前の茶礼になります」
('A`)「虫さされが酷いんだが」
(*゚ー゚)「急に呼び止めたものですから、虫よけを毒念様の分も用意できませんでした……」
(*゚ー゚)「あとでお薬を塗りましょう」
('A`)「頼むわ」
(*゚ー゚)「すみませんです」
(*゚ー゚)「薬、持ってきました」
('A`)「ありがてえありがてえ」
( ^ω^)「もう膳が並んでるお。そんなの後にして早く座るお」
( ^ω^)「食前の偈文ももう済んでるんだお」
(*゚ー゚)「そうですね、とりあえず座ります……」
('A`)「俺の真横かい。確かに空いてたけど」
( ^ω^)「顔がキモイから僕以外全員に避けられてるんだお」
('A`)「やめろ事実はやめろ」
('A`)「それより『とりあえず』ってどういうことだ」
(*゚ー゚)「頂く前にお塗りしようと思いまして」
('A`)「なんかドキドキしてきたんだが……」
( ^ω^)「アホ」
(*゚ー゚)「首筋のあたりがひどいですね……」
(*゚ー゚)「首の後ろは塗りにくいでしょうから私が」
('A`)「顔を寄せないで! 息が! 息が当たるの」
(*゚ー゚)「どうなされたんです、突然」
('A`)「お前の顔でそんなことをしてもらうのは俗世なら金銭が発生するんだよ」
('A`)「とある業界では御褒美なんだよ」
( ^ω^)「そいつ顔だけ見たら女だから分からんでもないお」
('A`)「だよな……」
('A`)(しかしこのルックスなら真っ先に毒牙にかかってそうだが……)
( ^ω^)「なんかよからぬことを考えてないかお」
( ^ω^)「ふー、食った食った。ごちそうさんだお」
('A`)「お前この程度の量で満足なのかよ」
('A`)「正直主菜がホウレンソウでは俺の腹は膨れんぞ」
( ^ω^)「気の持ちようでなんとでもなるお」
('A`)「そういうもんかね」
(*゚ー゚)「禅堂へ行きましょう。一日の締めとなる夜の座禅が始まります」
('A`)「了解っと」
(*゚ー゚)「一部の雲水は諸梵和尚や荒巻和尚の元に参禅しているようですね」
(*゚ー゚)「参禅とは直接師家の室で自身の見解を述べつつ指導を授かることです」
( ^ω^)「よーし打ちまくるおー」ブンブン
('A`)「やめろ! 素振りするな!」
(*゚ー゚)「先に単に上がらせていただきます」
('A`)「んじゃ俺も、っと」
('A`)「二回問訊をして、瞑想開始」
('A`)「……」
(,,-Д-)「……」
( -∀-)「……」
(*゚ー゚)「……」
( ^ω^)「……」カツ...カツ...
('A`)「……」
('A`)(静かだ……)
('A`)(なんていうか……悪くないな……)
('A`)(おのずと精神が安らぐってもんだ。これが静謐という状況か)
( ^ω^)「……」カツ...カツ...
( ^ω^)「ちくしょう……肩を叩きたいのになんの揺らぎもないお……」
( ^ω^)「わずか一日でコツをつかむとは……」
('A`)(ククク……焦っておる焦っておる)
('A`)(ブーンの心理が手に取るように分かるぞ。心身が研ぎ澄まされている)
('A`)(やだ、俺って才能あるのかも……)
(,,-Д-)「堂内右の奥から三番目、裡に邪念が漂っておる。精進なされよ」
('A`)「す、すんません……」
( ^ω^)バシーン
('A`)「ふぐああああああああああああああああ!!」
(´<_` )「おうい」ガラガラ
(´<_` )「茶礼の用意ができたぞ。禅を切り上げる者は参られよ」
ガヤガヤ
('A`)「やっと終わりか……擬古さんはやっぱりまだ続けるみたいだが……」
(*゚ー゚)「お疲れさまです。いやはや災難でしたね」
('A`)「なんであの人に俺の心の動きが分かったんだろう……」
(*゚ー゚)「推察ですが……」
(*゚ー゚)「自己にひたすら埋没している分、外側の動揺に非常に敏感になっておられるのかと」
('A`)「『閉じる』の極致だな……」
(*゚ー゚)「どうしましたか?」
('A`)「いや、なんでも」
(*゚ー゚)「茶礼も通過しましたし、一日も終わりです」
(*゚ー゚)「あとは解定して眠るだけですね」
(*゚ー゚)「雲水の生活が分かりましたか?」
('A`)「そりゃもう親切なナビのおかげでバッチリでして」
(*゚ー゚)「では、布団を天井裏の棚から下ろして寝床を確保しましょう」
('A`)「いやその前に……ちょっとトイレに」
(*゚ー゚)「御不浄の位置は」
('A`)「知ってるよ、今日のうちに調べといた」
('A`)「あー、そうそう、ブーン。連れションしようぜ」
( ^ω^)「仕方なしだお」
('A`)「……さてブーン。昼の話の続きになるが」
( ^ω^)「しっ。前から弟蛇和尚が歩いてきてるお」
(´<_` )「おう蓬莱殿に毒念殿か。こんな時間にどうした」
( ^ω^)「ちょっと厠のほうに」
(´<_` )「ほほう茶を飲みすぎたか」
( ^ω^)「まあそんなところでして」
('A`)「それより弟蛇和尚はどちらに?」
(´<_` )「いや……自分は茶礼に使った食器を洗わなくてはならんからな」
(´<_` )「しばらくは給仕場にこもらせてもらうよ」
('A`)「はー大変ですね」
(´<_` )「これが責任というものでな、致し方あるまい」
(´<_` )スタスタ
('A`)「……行ったか」
( ^ω^)「みたいだお」
('A`)「ふう。それじゃ始めさせてもらうが……」
('A`)「伊陽はこの寺の雲水と性的関係を持っているのか?」
( ^ω^)「どうやらそうみたいだお。入山して一年の間に手篭めにされたらしく……」
( ^ω^)「たぶん本人の意志じゃあなく無理やりさせられてるんだお」
('A`)「そうか……」
( ^ω^)「それがどうかしたのかお。かわいそうだけど僕らには無関係な話だお」
( ^ω^)「彼の事情に踏み入れる必要なんてないお。僕たちにまで危害が及ぶかも知れないのに」
('A`)「それじゃダメなんだよ。ブーンよ、俺はな」
('A`)「伊陽に誰に抱かれたかを訊こうと思う」
( ^ω^)「……なんでそんなことを?」
('A`)「誰がホモなのかを把握していなきゃ心配で夜も眠れねぇよ」
( ^ω^)「無視が一番だお!」
('A`)「ダメなんだ、それじゃ安心できない」
('A`)「ブーン、俺は座禅していて分かったんだ、安心することこそが幸福なんだ」
('A`)「安息の地なしには生きていけない」
('A`)「それが内にあるのか外にあるのかまでは……ちょっと察しが及ばないけど……」
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「……僕だって毎晩毎晩いつ掘られるか怯えながら過ごす暮らしは嫌だお」
('A`)(そういやこいつも十五歳で出家……様々な危機が訪れていたに違いあるまい……)
( ^ω^)「僕だって現状をなんとかしたいお」
('A`)「協力してくれるか?」
( ^ω^)「秘密裏にだお。あくまでも」
( ^ω^)「最悪の事態を想定してみるお。僕らまで衆道に引きずり込まれるお」
('A`)「その結末は否定できないな……」
( ^ω^)「そんなリスクは背負いたくないお……」
('A`)「分かった、表で活動するのは俺だけだ」
('A`)「お前はあくまで内通してるってだけ。それでいいな?」
( ^ω^)「……御意」
('A`)「よし」
('A`)(この寺の暗部……俺が暴いてやる)
('A`)(そして最高の安心を手に入れてやろうじゃねえか……!)
~一週間後~
(*゚ー゚)「お勤めご苦労様です、毒念様!」
('A`)「おう。頑張って朝から掃除してるぞ」
(*゚ー゚)「寺での生活にはすっかり慣れましたでしょうか?」
('A`)「まあ、さすがにな」
(*゚ー゚)「それはよかったです。では、私はこれで」
('A`)「へいへい」
('A`)「……」
('A`)「……この二週間詰問する機会をうかがってみたが……」
('A`)「まったく伊陽の姿を捉えられない……禅堂でも見かけない」
('A`)「どこにいるんだ……?」
( ^ω^)「ドクオ、ちょっといいかお」
('A`)「うわおお! なんだブーンか。脅かすなよ」
( ^ω^)「どんだけ背後を取られることに敏感になってんだお」
('A`)「仕方ないだろこういう舞台だぞ。慎重になるに決まってる」
( ^ω^)「言えてるお……それより伊陽には会えたのかお?」
('A`)「皆目」
( ^ω^)「そりゃあ残念だお」
( ^ω^)「まあ僕も、この数ヶ月間ほとんど日の出てる時間には伊陽を見かけてないんだけど……」
( ^ω^)「……それより別の情報を調べてきたお。たぶん有益なはず」
('A`)「お前結構乗ってるな」
( ^ω^)「ちょっと燃えてくるものがありまして……」
('A`)「生粋の探偵気質め」
( ^ω^)「これを見てほしいお」パラ
('A`)「なんだこの紙は?」
( ^ω^)「毘譜寺に在籍する少年僧の一覧だお」
('A`)「こんなもんまで作ったのかお前……大した熱意だ」
('A`)「それはともかく十七人か。椎伊や伊陽の名前もあるな」
( ^ω^)「このうち衆道に付き合わされているのは……僕の見立てだと少なくとも八人」
('A`)「なぜそんなことが分かるんだよ。当てずっぽうか?」
( ^ω^)「違う違う。この十日の間、夜座の名目で寝床を開けた僧を数えてたんだお」
( ^ω^)「もちろん普通に座禅をしに行っている人がほとんだお」
( ^ω^)「ところが少年僧に限って見ると妙に割合が偏っている」
( ^ω^)「十七人中十三人が夜座に出かけてるんだお」
('A`)「な、なんじゃその比率は!?」
( ^ω^)「当たり前だけど偶然ということもあるお」
('A`)「じゃあ、どこから八人なんていう数字が……」
( ^ω^)「このうち……複数に渡って夜座に出向いたのが八人」
( ^ω^)「不自然だお」
( ^ω^)「少年僧は発育のために早めに寝るように諸梵和尚から言い置きされているというのに」
( ^ω^)「何度も夜更かしするだなんて破戒に当たるお」
( ^ω^)「うちの雲水がそんな愚か者揃いとは思えないお」
('A`)「……ということは、それプラス、相手の分だけの数が禅堂に集まっているのか?」
( ^ω^)「いや、なにも禅堂にだけとは限らないし」
( ^ω^)「そもそも禅堂になんて元からいないのかも知れないお」
('A`)「なんでだ、禅堂の方角から嬌声は聴こえてきてるぞ」
('A`)「てか昨夜も一昨夜も聴いた」
( ^ω^)「地獄だったお」
('A`)「……あっ、そうか、擬古さんだな」
('A`)「あの人のことだから真面目に夜座するに決まってる」
('A`)「そんなところで性行為になんて及ぶわけないか」
( ^ω^)「外れ。擬古和尚は自室で瞑想しているお」
( ^ω^)「それに一般雲水も夜座は廊下で行うことが多いし、わざわざ単に上がることは稀だお」
('A`)「じゃあ禅堂でやりたい放題じゃないか」
( ^ω^)「そうじゃないお」
('A`)「じゃあなんなんだよ!」
( ^ω^)「恥じらいだお」
('A`)「恥じらいだあ?」
( ^ω^)「衆道カップルにだって……そのぐらいはあるはずだお」
('A`)「ふざけるなよ、なんだその乙女チックな理由は」
('A`)「俺が見てきたゲイやオカマは馬鹿みたいに面の皮が厚い奴ばっかだぞ」
('A`)「そんな連中に恥じらいなんてあるかよ」
( ^ω^)「男しかいない世界では下界とは違う風潮が出来上がるんだお」
('A`)「だからって根底から揺らぐとは」
( ^ω^)「お前は知らんのだお! 僕は十八の時に僧同士の接吻を見たお!」
( ^ω^)「あいつらは肉体だけでなく精神的にも繋がろうとしてるんだお」
('A`)「……こええ……」
( ^ω^)「理解したかお」
('A`)「……そもそも、恥じらうってどういうことだ」
( ^ω^)「罪の意識と……それから、背徳感からくるものだと分析してるお」
('A`)「それが興奮に直結するんだろうな」
( ^ω^)「不気味なことを言うなお」
( ^ω^)「ともあれ、だから奴らは人目を避けたがってるに違いないお」
('A`)「確かにどこでしているかなんて謎に包まれたままだな……」
('A`)「禅堂なんていう分かりやすい場所には行かないか」
( ^ω^)「あえて選択肢から外して、禅堂ががらんどうになっているということもあるはずだお」
('A`)「でも禅堂の方角から……」
( ^ω^)「聴いただけだお。見たわけじゃない。聴覚なんて信用ならないお」
('A`)「ぐぬ」
( ^ω^)「とはいえ一組ぐらいは禅堂にいることもあるかも知れない」
( ^ω^)「なんなら一度覗いてみれば解決するかも」
('A`)「勘弁してくれよ」
( ^ω^)「僕だってそんな危ない橋は渡りたくないお……」
('A`)「……とにかく、分かった。役に立つ情報だったぜ」
('A`)「八人の小僧が飼われているということは……相手役も八人か」
( ^ω^)「とは限らんお。一人で何人も子飼いにしてる線は捨て切れないお」
( ^ω^)「逆に一人が複数に囲われている可能性も……」
( ^ω^)「あ、それと少年を相手にしない単なるガチホモ連中もいるお」
('A`)「ああそれは車琴和尚と浪漫和尚だろ。二人揃って堂々とわふわふ叫ぶからな」
( ^ω^)「やっぱ分かってたかお」
('A`)「あいつらは隠す気ないだろ」
~午後八時の茶礼~
('A`)「結局今日も伊陽を見つけることはできなかった……」
(=゚ω゚)カチャカチャ
('A`)「一応いることはいるんだが……衆目の前で訊くわけにはいかない」
('A`)「やはり一対一の現場でなければ」
('A`)「長期戦だな……」
(*゚ー゚)「毒念様、もう碗を片付ける頃合いですよ」
('A`)「ああ、すまん……」
('A`)(一対一か……)
('A`)(そもそも奴は……どこにいるんだ?)
('A`)(どこに……いや。違う。知るべきはどこかじゃない、どちらかだ)
( ^ω^)「伊陽の派閥?」
('A`)「ああ、擬古さんと譲留さんん、どっちを支持しているか教えてくれ」
( ^ω^)「ううん、聞いたことないお」
('A`)「そうか……」
( ^ω^)「そんなことが一体どう関係してくるんだお?」
('A`)「いや……伊陽の影を掴めないのなら、仮にどっちかの派閥に属しているとして」
('A`)「目に見えるところにいる擬古さんか譲留さんを追えばいいのではないか、と思ってな」
('A`)「派閥があるなら会見することもあるだろ」
( ^ω^)「なるほどだお」
( ^ω^)「ちなみに僕は譲留和尚派だお」
('A`)「なぜまた」
( ^ω^)「擬古和尚の堅い感じがどうにも苦手で……」
( ^ω^)「あと譲留和尚は下山した帰りにお土産をくれるから」
('A`)「そんなことだろうと思ったよ」
( ^ω^)「擬古和尚も一応托鉢で山を下りることもあるんだけど」
( ^ω^)「選ばれた数人ほどの従者としか行かないから近寄りがたいお」
('A`)「どの道托鉢で恵まれる物なんかもらっても仕方ないだろ」
( ^ω^)「一理あるお」
('A`)「ま……この辺で切り上げるとして、さっさと寝るか」
( ^ω^)「そうするお。眠りに入ってしまえば喘ぎ声を耳にしなくて済むお」
('A`)(伊陽は……なるほどな、確かにいない)
('A`)(夜座にかこつけて逢引に行ったってことか)
ゴーンゴーン
('A`)「朝か……」
(*゚ー゚)「むにゃ? 毒念様お早いですね……」
('A`)「全力で鐘が鳴る前に目覚めるようにしたからな……」
('A`)「ふふふ……なぜ今の今まで思い浮かばなかったんだろうな……」
(*゚ー゚)「毒念様?」
('A`)「そうだよ、最初っからこうすりゃ早かったんだ……ふっふっふ……」
(*゚ー゚)「なにやらただならぬ気配を醸していますが……」
('A`)「じゃ、俺朝課に行くから」シュタッ
(*゚ー゚)「は、はあ……」
(=゚ω゚)「ふああ……まだ眠いです……」トコトコトコ
('A`)「やあ伊陽くん」ヌッ
(=゚ω゚)「ひっ!?」
(=゚ω゚)「ど、毒念様……ですか?」
('A`)「これから顔を洗いにいくところかな?」
(=゚ω゚)「そっ、そうでございますが……」オドオド
('A`)(この怯えた仕草……誠に奥ゆかしい……)
('A`)(じゃなくて)
('A`)(ふふふ……朝一番なら確実に探り当てることができるじゃないか……)
('A`)(なにせ寺の人間は全員僧堂で寝泊まりしているんだからな……)
('A`)「いや、実は、ちょっと君に話があって」
(=゚ω゚)「話ですか」
('A`)「そうだ。ちょっと大っぴらにはできない話でね、少し離れまでついてきてほしい」
(=゚ω゚)「え? あ……はい」
('A`)テクテク
(=゚ω゚)テク...テク...
('A`)(こいつ……震えてるが俺に犯されるとか考えてるんじゃないだろうな……)
('A`)「伊陽くん、安心してくれ。俺はそういうつもりじゃあないから」
(=゚ω゚)「そういうつもり――とは?」
('A`)「君、この寺の僧侶に抱かれてるだろ」
('A`)「誰にやられたんだ? 場合によっては君を助けられるかもしれない」
(=゚ω゚)「……どういう、ことでしょうか……?」
('A`)「もう皆に知られてるよ。隠したってしょうがない」
('A`)「俺ら全員不安なんだよ。怖いんだ。君を手にかけてる輩の存在が」
('A`)「相手は誰だ? もし強要されてるんだったら諸梵和尚に追放してもらおうぜ」
(=゚ω゚)「……」
(=゚ω゚)「それは……言えませぬ」
('A`)「言えない? あ、そうか、恥ずかしいからかな」
(=゚ω゚)「違います。外聞を気にしてではありません。どうしても答えられないのでございます」
('A`)「どうして――」
(=゚ω゚)「申し訳ありません! 失礼させていただきます!」タッ!
('A`)「あっ……クソッ、行っちまった」
~本堂前庭園~
( ^ω^)「お前の聞き方が悪いお」
('A`)「そうかなー」
( ^ω^)「怖がらせちゃダメじゃないかお。心に傷があるかも知れない子を……」
('A`)「でもよ、どの道あの感じじゃ聞き出せかったと思うぜ?」
('A`)「なんていうか……悲壮だった」
( ^ω^)「ふうむ……」
( ^ω^)「どっちにしろ、もう伊陽に接触するのは無理だと思った方がいいお」
('A`)「だな。露骨に避けてくるに違いねぇ」
( ^ω^)「この道筋からの推理は途絶えたお」
~午後九時~
(*゚ー゚)「消灯の時間です。布団も並べましたし後は就寝するだけですね」
('A`)「今日も疲れたな……腰が痛い」
( ^ω^)「また床板の修繕をやらされてたのかお」
('A`)「そうそう。これで三日連続だ」
('A`)「つーか今日なんかささくれ立ってるところ一カ所だけだぜ。やりすぎだっての」
(*゚ー゚)「あのー、それよりも毒念様……ちょっと付き合ってもらいたいのですが」
('A`)「なんだ改まって。別にいいけどさ、何用なのよ」
(*゚ー゚)「……小水のほうに」
('A`)「マジすか」
('A`)「……おーい、終わったか?」
(*゚ー゚)「も、もう少し……」チョロロ
('A`)「早くしてくれよ」
('A`)(この水がぶつかり合う音が聴こえるほどに薄い戸板一枚を挟んで……)
('A`)(椎伊が下半身丸出しで放尿している……)
('A`)(……いかん何を考えてるんだ俺は……)
('A`)(どうもこの空間内にいると道徳心や常識がマヒしてしまう……)
(*゚ー゚)「すみません待たせました」
('A`)「それにしても十三にもなって一人便所が怖いとか……」
(*゚ー゚)「そっ、それは自分でも恥じ入るべき点だと思っております」
('A`)「もう帰るぞ。夜は冷える」
(*゚ー゚)「そうですね……」
('A`)「……ん?」
(*゚ー゚)「どうなされました?」
('A`)「いや、なんか声がしてさ、椎伊も聴こえないか?」
(*゚ー゚)「声?」
「――そう、そうだ。今度は向きを変えなさい、そう――」
('A`)「こ、こ、これは……」
(*゚ー゚)「毒念様……」
('A`)「声の元は……給仕場の方向からだ……」
(*゚ー゚)「毒念様、なりません! ただちに戻りましょう!」
('A`)「戻れるかよ!」
(*゚ー゚)「……毒念様?」
('A`)「ついに糸口を発見したんだ、現場を抑えてやる」
(*゚ー゚)「毒念様、どこに!?」
('A`)「決まってる! 火元だ!」ダッ
('A`)(近づくほどに声が大きくなる……間違いない……!)
('A`)「給仕場だ……明かりがついている。障子戸の隙間から声が漏れていたのか」
(*゚ー゚)「ど、毒念様、ここは」ハァハァ
('A`)「……なんだ、結局ついてきたのか」
(*゚ー゚)「見捨てては……おけません」
('A`)(隙間から覗けるな……)
(*゚ー゚)(毒念様、それより先はなりません! そこは深淵です!)
('A`)(しっ!)
(´<_` )「そうだ……よい眺めであるぞ。尻を高くすれば尚よい」
('A`)(あれは……典座の弟蛇さんじゃねぇか!)
('A`)(あの人も衆道狂いだったのか……)
(*゚ー゚)(毒念様……)
('A`)(椎伊、お前は目を伏せるんだ!)
(*゚ー゚)(しょ、承知……)
('A`)(相手は……見たことのある少年僧だが、伊陽じゃないな)
('A`)(しかしあれは何をやらされているんだ?)
('A`)(四つん這いになって、碗の中に口を突っ込んで……かすかに震えている)
('A`)(舌だけを動かしているのか……?)
(´<_` )「碗の中身を見せなさい」
「は、はい」
(´<_` )「ふうむ、まだまだ底に茶が溜まっておる。まだまだ修練をが必要だな」
(´<_` )「茶を追加してもう一度だ」
「分かりました――」
('A`)(どういうプレイなんだこれ……)
('A`)(少年が全裸だからプレイなのは確定してるんだが……)
('A`)(ん?)
(*゚ー゚)「……」ガタガタガタ
('A`)(どうした椎伊。そんなに震えて……)
(*゚ー゚)(毒念様――もう、よろしいでしょうか――?)
('A`)(うん、大丈夫だ。この目に証拠を焼き付けたからな)
(*゚ー゚)(でしたら……早く……去りましょう。ここにはいられません……)
('A`)(あ、ああ)
(*゚ー゚)「……」プルプル
('A`)(様子が尋常じゃない……)
('A`)(何かあったのか?)
('A`)「……ふう。この辺にまでくれば安全だな」
('A`)「給仕場からも本堂からも遠い」
(*゚ー゚)「そう、ですね……」プルプル
('A`)「一体どうしたんだよ。そんなに震えて」
(*゚ー゚)「……」
(*゚ー゚)「……毒念様」
('A`)「なんだ?」
('A`)「姿勢まで改めて……」
(*゚ー゚)「毒念様になら、明かしても支障ないと、信じております」
(*゚ー゚)「どうして私が、一人で御不浄に向かうことを恐れているか――」
(*゚ー゚)「――分かりますか?」
('A`)「いや……見当は……なんとなくつくけど」
('A`)「詳しくは分からない……」
(*゚ー゚)「御不浄に向かうまでの道には、給仕場と、典座の室があります」
(*゚ー゚)「その前を通らないと用を足しに行けない……」
(*゚ー゚)「……昔、一人で御不浄に向かった際、この廊下で私は衆道文化に勧誘されました」
('A`)「弟蛇さんにか!?」
(*゚ー゚)「いえ……私が誘われたのは……まだ九つの頃」
(*゚ー゚)「弟蛇和尚の先代の典座にです」
('A`)「そいつは、まだこの寺にいるのか?」
(*゚ー゚)「いえ、その方は既に山を下りました」
('A`)「そうか……」
('A`)「だが……弟蛇さんも同じだった」
('A`)「一番親しみやすい坊さんだなと感じてたんだが……」
(*゚ー゚)「はい……私も夢にも思いませんでした」
(*゚ー゚)「素直に尊敬しておりました」
(*゚ー゚)「だから……余計に衝撃で……」
(*゚ー゚)「昔のことが……不意に呼び覚まされて……ううっ」
('A`)「おっ、おい、泣くなって」
(*゚ー゚)「……お見苦しいところをお見せしてすみません……」ゴシゴシ
('A`)「いや……気にすんな……辛かったんだな」
('A`)「でもさ、拒否したんだろ?」
(*゚ー゚)「拒みました……しかし、おぞましい記憶は残っています」
('A`)「まあそうか……」
('A`)(ガキの頃に大人の汚い部分をモロに目にしちゃったんだもんな……)
(*゚ー゚)「毒念様……あの、このことはなにとぞ内密に……」
('A`)「言われずとも分かってるよ……」
(*゚ー゚)「心遣い感謝します」
(*゚ー゚)「……戻りましょう。消灯時刻から随分と経ってしまいました」
('A`)「そうだな、うん、そうしよう」
(*゚ー゚)「では、参りましょうか……」
('A`)(椎伊の奴……そんなトラウマがあったのか……)
('A`)(普段明るいから気づけなかった……)
('A`)「……椎伊」ポン
(*゚ー゚)「はっ、はい!?」
('A`)「忘れろ、忘れちまえ」
('A`)「今日のことも……過去のこともだ」
(*゚ー゚)「忘れる――ですか」
('A`)「まだお前は子どもなんだ。嫌な思い出なんかいくらでも上書きできる」
('A`)「だから忘れろ」ポンポンッ
(*゚ー゚)「あっ……はい……」
(*゚ー゚)「頭を撫でられたのは……七つの時以来です」
('A`)「そうか……」
~翌日、寺院内農耕地~
( ^ω^)「そりゃ舌先のエッチなトレーニングだお」
('A`)「なんだそれは」
( ^ω^)「お椀の底にわずかに溜まった水を舌だけで舐め取るってのは」
( ^ω^)「女性を悦ばせる練習法の一種だお」
('A`)「ああ僕には無縁なアレのことね」
( ^ω^)「僕にだって無縁だお」
('A`)「でもそれがなにかしら関係あるのか?」
('A`)「相手も自分も男なんだぜ?」
('A`)「女のイカせ方なんか練習させたところで意味がないだろ」
( ^ω^)「女がいないからそういうことをさせてるんじゃないかお」
('A`)「ますます意味不明になったんだが」
( ^ω^)「察するに弟蛇和尚は……少年が女性に奉仕する姿に興奮を覚えるんじゃないかと」
('A`)「あの碗が女性器の代用ってことか」
( ^ω^)「おそらく」
('A`)「……なあ、それって同性愛と呼べるのか?」
( ^ω^)「さあ……そこまで予測するのは僕の頭じゃ無理だお」
( ^ω^)「ただ脱がせてたってことは、少年の姿に性的興奮を覚えてるのは明白だお」
('A`)「なんじゃそりゃ……どこまで倒錯してるんだ」
( ^ω^)「ねじれにねじれて訳分かんなくなっちゃってるんだお、きっと」
('A`)「深い世界観だわ」
('A`)「とにかくこれで警戒すべきリストに一人名前が載った」
('A`)「だがそれが、よもや弟蛇さんだとは」
( ^ω^)「僕もびっくりだお」
('A`)「なんせ六知事の一人だからな……権力には逆らえなかったんだろうか」
( ^ω^)「弟蛇さんは……僕たちの食事の管理をしている……」
('A`)「やめろ」
/ ,' 3「おーい、畑仕事サボらんでくれよー」
('A`)「あっ、すみません、すぐに戻ります」
('A`)「……会話聞かれてねぇかな、荒巻さんに。あの人実質的なトップなんだろ?」
( ^ω^)「荒巻和尚は七十目前だお。その手の話には疎いから聞かれてたとしても大丈夫だお」
('A`)「密告されたら俺たちも弟蛇さんにゆすられるのかな……」
('A`)「さあ茶礼の時間だ」
( ^ω^)「今日はゼリーだお」
('A`)「なんかあまり坊主っぽくない菓子だな」
( ^ω^)「梨のゼリーは当寺では一番の人気メニューだお」
(*゚ー゚)「諸梵和尚は遊山に出かけておられます」
(*゚ー゚)「ですので音頭はなしですね。ゆっくりと羽を伸ばせます」
('A`)「あの人仮にも住職なのに自由だな……」
('A`)「それより椎伊。もう気分は切り替わったのか」
(*゚ー゚)「はて? なんのことでしょうか」
(*゚ー゚)「それよりゼリーを頂きましょう。冷えているうちに食べたほうがおいしいですよ」
('A`)「お、おう」
('A`)(ああ……そうか、すっかり忘れようとしてるんだな……)
( ・∀・)「毒念さん」
('A`)「これはこれは、茂羅和尚」
( ・∀・)「少し頼みたいことがあるんだけど」
( ・∀・)「いやなに、碗を空にした後でいいから、庭先で待っておくよ」
('A`)「はあ、授受しました」
( ・∀・)「それじゃあ」スタタ
( ^ω^)「……ドクオ、急いだほうがいいお。さっさと飲み干せお」
('A`)「えーもうちょっと緑茶飲んでたい……」
( ^ω^)「茂羅和尚は監寺……待たせるのは無礼千万だお」
(*゚ー゚)「蓬莱和尚の言うとおりです。なるべく早く参上したほうが吉でしょう」
('A`)「わ、わかったよ……」
('A`)「茂羅和尚、ただいま参上しました」
( ・∀・)「早かったね。期待値以上だよ」
('A`)「あの、自分に用事というのは……」
( ・∀・)「ああ、それなんだけどね」
( ・∀・)「大したことじゃあないんだよ」
('A`)「と言いますと?」
( ・∀・)「少し、一緒に歩かないかって、誘ってみただけさ」
('A`)「へっ?」
( ・∀・)「ついてきなよ。山の中を散歩しよう」
('A`)「ちょっ、ちょっと待ってください!」
('A`)(本格的な仏僧は歩くのが早すぎる……)
( ・∀・)「山中を散策するのは初めてかい?」
('A`)「初日に少しだけ」
('A`)「でも起伏にふくらはぎをやられてすぐやめちゃいました」
( ・∀・)「そうか。でもこうして心を落ち着けて眺めてみると、いい林だろう?」
('A`)「ですね。夏にもなればもっとよさそうです」
( ・∀・)「そうそう。青葉に囲まれてさ」
( ・∀・)「……叢林、といってね、樹木が群生する林のことをそう称するんだけど」
( ・∀・)「そこから転じて雲水が集団で暮らす禅寺のことも叢林と呼ぶようになったんだ」
('A`)「へー」
( ・∀・)「禅林という言葉はそこから更に転じて生まれたのさ」
('A`)(意外にもためになる話だな)
( ・∀・)「僕はね、この林の中をうろうろ当てもなく歩くのが好きなんだ」
('A`)「迷ったりとかしないんですか?」
('A`)「自分なんかもうこの時点で帰り道を見失いそうなんですけど……」
( ・∀・)「ははは、もう道順を足が覚えてしまったよ」
( ・∀・)「……毒念さん」
('A`)「な、なんでしょ」
( ・∀・)「正式に仏門をくぐったわけじゃない君にだから告白できることだけど」
( ・∀・)「僕はあの寺の中にいるのが厭なんだ」
('A`)「え……?」
( ・∀・)「あそこは空気が澱んでいる。できることなら長居したくない」
( ・∀・)「僕がやる作務といえば農作業や庭弄りに執心して」
( ・∀・)「暇さえあれば林に赴く」
( ・∀・)「寺から少しでも離れていたいから」
('A`)「けど……茂羅和尚は監寺という重要なポジションに就いているじゃないですか」
( ・∀・)「縛られているだけだよ」
( ・∀・)「位っていうのはね、権威の笠なんかじゃなく重責の枷なんだ」
('A`)「……」
( ・∀・)「それでも僕は、この寺からいずれ出ていこうと思ってるよ」
('A`)「どうして……自分なんかに……」
( ・∀・)「君は僧侶じゃあないからね」
( ・∀・)「あ、そうだ、毒念さん」
('A`)「なん……でしょうか」
( ・∀・)「ついさっきまでの続きだ。禅寺を林に例える話はしたね?」
('A`)「拝聴しました」
( ・∀・)「その中でも学問を奨励している寺を栴檀林と呼んでね」
( ・∀・)「特に菩薩心に篤い方がいると大々的に栴檀林を名乗れるんだ」
('A`)「学問ですか……」
( ・∀・)「うちの寺にも学問を修めて出家した人物はちらほらといる」
( ・∀・)「管主殿や副寺殿をはじめね」
('A`)「じゃあ条件的には当てはまってませんか?」
( ・∀・)「はいそうです、とはいかない」
( ・∀・)「毘譜寺に勉学はある。だけど毘譜寺は栴檀林じゃない」
('A`)「それは、どういう……」
( ・∀・)「栴檀林に雑樹なし……」
( ・∀・)「難しく考える必要なんかないんだよ。禅問答とかでもない」
( ・∀・)「だけど考えれば考えるほどに解答は遠くそして徐々に自ずから寄ってくる」
('A`)「ややこしいです」
( ・∀・)「はは、だろうね、いや少し偏屈な物言いになってしまった」
('A`)「さいですか……」
( ・∀・)「――稲麻竹葦」
('A`)「はい?」
( ・∀・)「君にはそう言っておく。あまり気にする必要もないけどさ」
( ・∀・)「……さっ、帰ろうか。寺院に到着するころには昏鐘が鳴るだろう」
~薬石の場~
(´・ω・`)「皆の者、束の間耳を貸してほしい」
シン……
(´・ω・`)「私は明日よりしばらく寺を空けることになる」
( ^ω^)(なんか他宗の代表で集まって会合があるらしいお)
('A`)(初耳だな)
(´・ω・`)「全権を都寺である荒巻和尚に委ねるがゆえ」
(´・ω・`)「なにか困り事があったら老師を頼りなさい」
(´・ω・`)「……よろしいですかな? 荒巻和尚」
/ ,' 3「心得ております」
(´・ω・`)「うむ」
(´・ω・`)「雲水全員で協力して、迷いながらで構わぬから大悟に至る道を歩むのだぞ」
(´・ω・`)「それでは今宵の薬石をいただくとしよう。ひとつ――」
( ^ω^)「管主の諸梵和尚が出張かお……はあ」
('A`)「どうした、ため息なんか吐いて」
(*゚ー゚)「そういえば毒念様が寺に入門してからは初めてでしたね」
('A`)「待て待て。気になるじゃないか。どういう事態になるんだよ?」
( ^ω^)「絶対的権力者の諸梵和尚の千里眼が及ばなくなる、それはすなわち」
(*゚ー゚)「譲留和尚と擬古和尚の確執が表面化する……ということです」
( ^ω^)「ああ、明日から修羅場の連続だお……」
('A`)「そんなピンチなのかよ……」
~翌朝の粥座~
('A`)「粥を運び終わったぞ。今日は水っぽくなくてうまそうだな」
( ^ω^)「でも作ったのは弟蛇和尚……」
('A`)「やめろ」
(*゚ー゚)「儀礼が開始しますよ」
(*゚ー゚)「平時であれば管主様の役割なのですが……」
(,,゚Д゚)「……今日より数日間、諸梵住職が合同会議に出席なさっておられるゆえ」
(,,゚Д゚)「代理として維那の拙僧が偈文を務めさせていただく」
( ゚∀゚)「……」ニヤニヤ
(,,゚Д゚)「拙僧の後に従ってもらいたい……では、ひとつ」
(,,゚Д゚)「功の多少を計り彼の来処を量る」
「功の多…を計…彼の……を量…」
(,,゚Д゚)「……ふたつ、己が徳行の全欠を忖って供に応ず!」
「己…徳行……欠を忖……供に…ず」
('A`)「あ、あれ? なんかいつもより音量小さくない?」
( ^ω^)「……派閥のせいだお」
('A`)「ブーン」
( ^ω^)「譲留和尚派の僧は擬古和尚の言葉には決して従わず、読み上げを拒否してるんだお」
('A`)「ってことは今閉口しているのは譲留派か……じゃあお前が黙っているのも」
( ^ω^)「そうだお。そういうスタンスを崩すとまた均衡がおかしくなるんだお」
('A`)「……ピリピリしすぎだろこの空気……」
(,,゚Д゚)「みっつ、心を防ぎ過を離るることは貪等を宗とす……」
「…を防…過……る…ことは貪等…宗…す」
('A`)「堪えられない……重たい空気が沈殿してて堪えられない……」
('A`)(椎伊は口上してるな……擬古派なのか……)
('A`)「しかし……擬古さんは粛々と進めるんだな」
( ^ω^)「公衆の場で騒ぎを起こすと、いくら維那の立場とはいえ罰則の対象になるお」
('A`)「ううん……そうだ、茂羅さんや荒巻さんは何か言わないのか?」
('A`)「あの人らは寺の総監督みたいなもんなんだろ?」
( ^ω^)「茂羅和尚は建物自体の監督、それにあの性格だから」
( ^ω^)「人間関係には我関せずといった立ち位置だお」
( ^ω^)「雲水を監督する荒巻和尚は……あの歳だから聴こえてないんじゃないかお」
('A`)「肝心要の人間に限って……」
('A`)「異常に緊迫した朝食が終わった……」
( ^ω^)「これが諸梵和尚が帰ってくるまで続くんだお。きついお」
('A`)「あの二人、和解とかしないのか?」
( ^ω^)「相反する思想が片方だけ裏返る、なんてことはありえないお」
('A`)「だよな……そんな浅い問題じゃないか」
(*゚ー゚)「毒念様! 蓬莱和尚! 大変です!」ダダダ
( ^ω^)「どうしたんだお、そんな慌ただしく駆けてきて」
(*゚ー゚)「譲留和尚と擬古和尚が……廊下ですれ違って……」
('A`)「なんだそんだけか――」
( ^ω^)「本気かお! 避難ルートを確保しつつ見守る体勢に入るお!」
(*゚ー゚)「一刻を争います! 急ぎましょう!」
('A`)「えっ、おい、ちょっと、放置やめて放置は!」
( ゚∀゚)「……」
(,,゚Д゚)「……」
('A`)「おお本当だ、譲留さんと擬古さんがが向かい合ってる……」
('A`)(そういえばあの二人が対峙しているところを見るのって初めてだな)
( ^ω^)(もうちょっと身を隠すお)
('A`)(ああ、そうさせてもらうよ……)
(,,゚Д゚)「譲留和尚……本日もこれから物見遊山に参られるか」
( ゚∀゚)「人聞きの悪い言い方ですな擬古殿。遊説と呼んでもらいたい」
(,,゚Д゚)「遊興に耽り俗世に身を窶すことが大層にも修行か、それは結構なことで」
( ゚∀゚)「擬古殿は頭が古い。悟りの在り処を固定概念で決めつけてしまっているのだ」
( ゚∀゚)「なんなら擬古殿を伴っても構わぬのだが?」
(,,゚Д゚)「戯言を申すな!」
(,,゚Д゚)「自己を裡側から心眼にて見つめ、自己を漸悟の刻への待機時間に消費する」
(,,゚Д゚)「拙僧にとっての禅とは是れが如くござる」
( ゚∀゚)「それが古いというのだ擬古殿」
( ゚∀゚)「自己とは後から形作られるもの。多様な経験をもってやがて頓悟は訪れる」
(,,゚Д゚)「愚論だ。聞くに堪えない」
( ゚∀゚)「そうして前進を放棄し続けて、後悔を生んでも知らんぞ!」
(,,゚Д゚)「疾うに承知の上! しかし決して後悔などせぬ!」
(,,゚Д゚)「拙僧が悔む瞬息は、貴様の誤った解釈を易々と甘受した時だけだ!」
( ゚∀゚)「それを思考停止というんだよ!」
('A`)(こ、こええ……ちびりそう……)
(,,゚Д゚)「……」
( ゚∀゚)「……」
('A`)(……睨み合ったまま動かない。波は過ぎたみたいだが)
('A`)(ひどく……静かだ……)
('A`)(静寂は安らぎだけでなく、恐ろしいものでもあるのか……)
( ´_ゝ`)「おーおー、お二人さん、ちょいとどいてくれ」
( ゚∀゚)「兄蛇殿」
(,,゚Д゚)「……何か」
( ´_ゝ`)「何かも何も、廊下の修理をしなくちゃならんのだよ。だからどいてくんない?」
( ´_ゝ`)「それを終えたら今度は柱の補修だ。おい! そこに集まってる連中!」
('A`)「げ、俺らのことか」
( ´_ゝ`)「げ、じゃないよまったく。ほらほらぼーっとしてないで働け働け!」
('A`)「分かりました……」
( ´_ゝ`)「あー、君らはちょっとこっちの手伝いお願い」
(*゚ー゚)「はいな」
( ゚∀゚)「……ふん」
(,,゚Д゚)「くだらぬ時間を過ごした。座禅に入る。賛同する者は拙僧に続くがよい」
( ゚∀゚)「時は金なり、ひどい浪費だ。帳面にでもつけておくかね」
(,,゚Д゚)「口は減らぬから無為にはならぬな」
( ゚∀゚)「お上手ですこと。さあて、俺も下山しますか。従者はついてきな」
(,,゚Д゚)「――『閉じた』世界に漸悟あれ」
( ゚∀゚)「――『開けた』世間に頓悟あれ」
(*゚ー゚)「あの、兄蛇和尚、ありがとうございます」
( ´_ゝ`)「へ? なんのこと」
('A`)「あの二人の諍いを鎮めてくれたじゃないですか」
( ´_ゝ`)「よく分からん」
('A`)(天然かい)
( ´_ゝ`)「それよりも修繕だ修繕。給仕場への廊下がまた傷んでいる」
('A`)「今日もですか……十分じゃないですかこれ」
(*゚ー゚)「綺麗なままのように私の目には映ります」
( ´_ゝ`)「いーや全然ダメ。直さなくちゃいけないんだ」
( ´_ゝ`)「直さなくちゃ、まっさらにしとかなきゃ……」
('A`)「まあ言われたことはやりますけどね」
続き('A`)が入山したら案の定衆道だらけだったようです 後編