February 25, 2011
( ∀ )白痴のエデンなようです
遅刻かしら。申し訳ないですわ。
しかも直しながらの投下なので、スローペースですの。
モチーフ曲は、スコット・ジョプリンの『Maple Leaf Rag』
曲を解釈したというより、ふいーんきだけです。
ほんと、申し訳ないです。
とにかくゲリラ、行きますです。
モララーは祈りを捧げた。ビップびとであるモララーは、
ラウンジとの戦争のためクソスレの地へと駆り出されていた。
モララーは正規の兵ではない。
歌と踊りを愛する若者で、主を恐れ敬いながら毎日を過ごしてきた。
戦争というものが何なのかも、まるで理解してはいなかった。
(´・ω・`)「こんな装備で大丈夫だろうか。ラウンジびとは知恵遅れの乱暴者だが、
体だけは強く大きく、死ぬまで戦うことをやめないと聴く。
このような装備では、やつらの蛮行に抗しきれないのではないか」
眉の垂れたショボンは、さらに眉を垂れ下げながらいった。
ショボンもモララー同様、動員された兵である。
さして立派な体躯というわけでもない。
革で造られた薄い鎧を着込んだその上からでも、
ショボンの体格が立派でないことは見て取れた。
ショボンはすがるようにして槍を抱えている。
槍の鋒先には、申し訳程度の刃が付けられていた。
ちょっとした衝撃で、いとも簡単に折れてしまうそうなか細い獲物だった。
ショボンは戦争を知っている。不安がるのも当然だった。
だがしかし、モララーにショボンの気持がわかろうはずもない。
モララーはショボンがしているものと同じ装備を堂々と掲げながら、叱咤した。
( ・∀・)「主に守られし我々が、あのような異教の民に負けるはずがない。
あなたは主が信じられないのか。だとしたら、それこそが敗北の原因となろう。
信じよ。敬いたまえ。さすればこそ主も、我らの願いに応えてくださるだろう」
ショボンは黙り伏せた。主の御名を出されては、返す言葉などありようもなかった。
モララーは満足して、胸のペンダントを握りしめた。
_
( ゚∀゚)「さっきから気になっていたのだが、そのペンダントはなんだい?
見たところ手製のようであるけれど」
(* ・∀・)「うふふ、よくぞ聴いてくだすった」
同僚の言葉に気分を良くしたモララーは、
木彫りのペンダントを突き出して、誇るようにして朗々と語った。
(* ・∀・)「これはぼくが作った手製のペンダントで、同じ型のものはこの世にひとつしかない。
すなわち我が妻クーが、それの所有者なのだ。クーはこの僕が舌を巻くほど信仰篤く、
器量も良く、それでいて肉付きも豊かな女なのだよ」
_
( ゚∀゚)「うらやましい話だね。毎日激しいのかい?」
(* ・∀・)「うふふ、それがまだなのだよ。実のところつい先日結婚したばかりで、
まだ一度も夜を共にしていないのさ。だけれどもこの戦争から帰った日には、
それはもう激しいことになるだろうね」
モララーはそのときを思い浮かべて、含み笑いを漏らしながらペンダントをなでた。
ペンダントの先がクーとつながっているような気がする。
鋭く尖った先端は、槍の鋒先よりも強く硬く、モララーを勇気付けた。
同僚の男たちからの嫉妬や羨望を心地よく受け取りながら、モララーは談笑した。
妻のある者は妻の自慢を、あるいは愚痴を語った。女と縁なき者は口惜しそうにして、
戦争が終わったら誰もが羨む妻を娶ってやると意気込んでいた。
そして話は、夜の話題へと移っていった。
_
( ゚∀゚)「女を悦ばすには、ふたつのテクさえ押さえていればいい。そのふたつとは――」
女遊びの頻繁なジョルジュが薀蓄を語ろうとした。
だがその言葉は、だれに伝えられることもなく途切れた。
ジョルジュの頭は、上から半分吹き飛んでいた。
風を切る音が連続して飛来した。音が地面に留まると、同僚のどこかが欠損した。
空には太陽と、雲と、無数の矢で埋め尽くされていた。ラウンジの奇襲だと
気づけた者はごくわずかだった。ほとんどの者はただ慌てふためくばかりで、
事態を理解できなかった。モララーもその内のひとりだった。
『撤収! 撤収だー! クソコテの砦に撤収せよー!』
号令は悲痛な叫び声となって、それもまた風切り音に押しつぶされた。
モララーは撤収という言葉の意味を理解できなかった。だがとにかく、
クソコテの砦へ逃げなければならないことだけはわかった。
逃げるのに邪魔となる槍を放り出して、モララーは一目散に駆け出した。
「邪魔だー、どけー!」
「いやだ、死にたくなーい!」
「助けてくれー!」
人はいとも簡単に吹き飛んだ。あたり一面血肉の海と化していた。走ると水音が立った。
だれもがだれもを押し退けたために、かえって全体の動きは鈍っていた。
その男は、前を走る腕のない者を除けようとした。
しかし勢い余って滑って転んだ。転んだところに、矢が飛んできた。
慣性のままに首が跳ねた。
跳ね飛んだ首が、モララーに激突した。モララーも転んだ。
眼前に矢が落ちてきた。細かに振動していたが、やがて止まった。
血の気が引いた。モララーは立ち上がろうとしたが、うまく体が動かせない。
死んだ人の首と眼を合わせながら、逃げなければともがいた。
そうしている間にも、後ろからは大勢の人が押し寄せてくる。
モララーは踏まれ、蹴られた。精神的にも物理的にも、まともに身動き
取れなくなっていた。主よ! モララーは口に出せぬ分まで、心の中で強く祈った。
胸にかかったペンダントを握ろうとした。
だがいくらまさぐっても、ペンダントは見当たらない。落としたのだ。
モララーがそう思い至るのに、大して時間はかからなかった。モララーは地を這って、
ペンダントを探した。踏む者は押し返し、蹴る者は蹴り返した。
死への恐れを塗り替える恐怖が、モララーを支配していた。
果たしてペンダントは見つかった。そのときにはすでに、周囲で
五体満足な者はいなかった。飛来してくるのは、もはや矢だけではない。
ラウンジびとの構える槍が、尻先にまで迫っていた。
モララーは慌てて砦へ逃げ去った。槍に刺し貫かれる前に、
なんとか砦へ到着することができた。だが――。
(; ∀ )「おお主よ! 我らが神よ!」
モララーは砦の中へ入ることはできなかった。
堅牢堅固で巨大な扉は、何者をも寄せ付けないよう堅く閉じられていた。
逃げ遅れ、砦の外に放置された者は、モララーだけではなかった。
しかし彼ら全員が力を合わせようと、扉は開かなかっただろう。
そもそ事態は、それどころでなくなっていた。
進軍してきたラウンジびとは、砦目掛けて火をまとった矢を射始めてきたのだ。
砦内部から悲鳴が響き渡る。狙いの逸れた矢は、砦の外へも落ちる。
砦周辺からも悲鳴が響き渡った。
火の燃え移った人は、右も左もなく暴れまわった。
彼が暴れると、他のだれかにその火が拡散した。
そのだれかもまた、他のだれかに被害を移していた。
二次被害は三次被害へと、三次被害は四次被害へと際限なく拡がった。
火矢の勢いが収まることもなかった。
真に阿鼻叫喚である。
モララーはかろうじて無事であったが、いつ自分も被害に見舞われるかわからない。
動転した彼は、死体の被った兜を剥ぎ取り、自らの物とした。重く大きな兜で、
ぶかぶかとして隙間が多く、そのくせ視界は狭かった。臭いもきつかった。
それは体臭と、酒の臭いと、血の臭いだった。
とてもではないが被り続けることはできそうにない。
早々に外してしまおう。モララーは臭いにむせかえり、咳き込んで背を丸めた。
そのときだった。モララーの首に多大な衝撃が伝わった。
頭をかち割るような、尋常でない音が耳内を叩きつけた。
(; ∀ )「おああああああああああああ!!」
兜を貫通した火矢が、モララーの頬を突き刺していた。
火は兜の内部で、瞬く間に燃え拡がった。火は狭い視界をさらに遮って、
音を焼き、呼吸を飲み、意識を蝕んだ。
モララーは叫びながら、しゃにむに突っ走った。逃げなければと走る。
しかし兜の内部が燃えているのだから、走ろうとも逃げることは適わない。
であれば兜を脱げばよいのだが、そうもいかない。矢が兜と頬を貫通しているために、
固定されて動かなくなってしまったのである。
まずもっていまのモララーに、そんな思考が働く余裕はない。ただ駆けた。
されば救われん。時も場所も放り投げて駆け続けた先には、地面がなかった。
視界の遮られたモララーではあったが、そこが足を踏み入れてはならない場所だということには気づいた。
そして、自分が落下していることにも。
(; ∀ )「ああああああ! あ、あ、ひあああああああ!」
長い間落下し続けた。地面に激突するときが、間違いなく生命の最後だろう。
モララーは神に祈った。主よ、助けたもう。主がその願いを聞き届けたのか否か、
モララーは死ななかった。モララーが落下した先には、汚く淀んだ湖が広がっていた。
兜の中は消化され、かろうじて一命は取り留めた。
しかしモララーが、神の奇跡に感謝することは叶わなかった。
兜の重みにより、底へ底へと沈んでしまう。モララーは大量の水を飲み込んだ。
その水はねとついて苦く、腹の中で汚濁物が堆積されていくのがわかった。
湖の一番底にまで落ちた。モララーは水の抵抗もなんのその、
首をねじ切らんとばかりに兜をひねりまわした。それが功を奏した。
いい加減衝撃に堪えられなくなっていた矢が、中ほどからふたつに折れたのだ。
モララーと兜をつなぐものは、これでなくなった。
不要な重りを投げ捨て、めちゃくちゃに泳いで水面を目指した。
モララーの頭が水面から飛び出た。そこは深き森の中だった。
光を遮る陰鬱とした空気は途切れを見せず、果てなく続いているかのように思わせる。
上空では切り立った崖が、遥か先の方にてそびえていた。
元の場所へ戻ることは不可能だった。
帰らなければならない。ビップではクーが待っているのだ。
モララーはペンダントを握りしめた。錯乱しようとも、これだけは手放さずにいた。
他の何を失っても、クーと、神と、信仰を失うわけにはいかなかった。
なぜ自分がこのような目に遭うのか、モララーには判然しなかった。
しかしすべての行いは神の御心のままに。人間には思いもよらぬ、
深い考えあってのことだろう。しかしてそれは、罰ではあるまい。
この試練を乗り切れば、きっとクーと再会させていただけることだろう。
モララーは湖からでた。クーと再び出会うには、とにかくも生きなければならない。
この森から脱出しなければなるまい。モララーには右も左もわからなかった。
けれど信じて突き進めば、きっと道は拓けるはずだ。無策のままに、森の奥深くへと踏み入った。
始めこそ揚々と歩きだしたモララーだったが、どこまで行っても変わらぬ景色に、
次第と不安を覚えだした。なによりのどが渇く。こもった熱気が辺りに充満しており、
一息ごとに胸が焼けた。このままでは早晩、倒れてしまいかねない。
モララーは脱出することよりもまず、水分を補給できる場所を探すことにした。
急がば回れ。慌てて進んでも良いことなどひとつもないぞと、自分自身に言い聞かせて。
だがしかし、いくら探し回っても、水気のある場所には辿り着かなかった。
気配もなかった。水滴一粒たりとて、見つけること叶わなかった。
見つからないとなると、いっそう渇きがうずいてくる。
何でもいいからのどを潤したい。死んでしまう。
その瞬間脳裏に、ある場所が浮かんできた。モララーが飛び込んだ湖。
汚れ濁りきっていたが、あれもれっきとした水分ではないか。
いやいやしかし、あれを水分と呼ぶのはどうだろう。
それこそ腹を下して、死んでしまうのではないか。まずもって吐き気を催すあの苦味!
人として、あんな汚水を飲むわけにはいかない。
モララーはそう考えた。そう考えたがしかし、意思は思考と裏腹の行動を促した。
気づけば湖の前に座っていた。モララーは地面に両手を付き、首を伸ばした。
濁った水面に、モララーの顔が映った。
('A`;)「お、おお、おおおおお!?」
モララーの顔は醜く焼け爛れていた。綺麗に開かれていた丸い瞳は、
伸びて垂れ下がったまぶたに塞がれている。男性的な瑞々しさを湛えていた唇は、
何倍にも膨れ上がっていた。そしてなにより、自慢だった髪の毛が焦げ散っていた。
ちぢれた毛髪が、情けなく点在しているのみだった。
水面に波紋が拡がった。モララーの眼から落ちた涙が原因だった。
モララーは泣いた。涙はとめどもなく溢れてきた。しかしいくら泣いたところで、
のどの渇きは癒せない。モララーは犬のような格好で、水を飲んだ。
体の隅々に、汚らわしいものが溜まった。
のどを癒すと、生理通り今度は空腹に襲われた。モララーはまた、
森の中へと入って行った。木の実がなってやしないか、果物はないか。
辺りを見回す。しかしこれまた予想通り、どこにも食べられそうなものは見当たらない。
三日三晩歩き回った。空腹はもはや妄想を抱かせるまでに進行していた。
堅い木の幹を、焼きたてのパンと見間違えて齧りついた。
毒々しく変色した草を、コルシチ亭の薄い肉と勘違いして貪り食った。
それらは食べてすぐに、吐き戻してしまった。
モララーは木によっかかって、倒れた。
クーと会いたい思いが、クーを食べたい思いとないまぜになって、
知らぬ間にゆびを食んでいた。動きのない景色を、ただ茫然と眺めていた。
どれだけそうしていたことだろうか。視界の端で、何か蠢くものが見えた。
それは虫だった。足のない、地を這う不浄の生き物だった。よだれが垂れた。
まともに噛み、吸収できる獲物だった。だがそれは、主の許されぬ獲物だった。
そう決まっていた。
('A`;)「主、主も、きっとお許しになられるはずだ……」
死んでしまっては妻に会えない。死んでしまっては信仰することもできない。
ならば神とて、敬虔な信者を見殺しにするようなことはあるまい。
そうだ、この生き物は神が食せと、私のためを思って遣わせたものなのだ。
モララーは逃げられることのないよう、音を立てずに近づいた。
その虫は触覚を鋭敏に動かしていた。
何かあれば、すぐさま逃げてしまうに違いない。
一撃で仕留める必要があった。モララーはペンダントを高く掲げた。
先端の鋭く尖ったペンダント。ふたりをつなぐペンダント。
こんなことに使っていいはずがない。しかしきみと会うためなのだ。
仕方ないではないか。許してくれ。
モララーは素早く腕を振り下ろした。
湖を拠点としたモララーの生活が始まった。腹が減れば虫を食い、
のどが乾けば湖に口をつけた。他に水を得られる場所はなかった。
留まる他なかった。夢も現も関係なく、幻覚に苛まれた。
それはあたかも亡霊のように、モララーの周囲を付き纏った。
('A`;)「ひああああ、ひあ、ひゃあああ!」
火矢を放つラウンジ兵が、槍を構えるラウンジ兵が、モララーを殺そうと
襲い掛かってきた。あるときは逃げまどい、あるときは立ち向かった。
ペンダントの先端を突き刺すと、彼らはいとも簡単に吹き飛んだ。
しかしどういうわけか、死体の頭はいつもビップびととすり替わってしまうのだ。
ほとんど眠ることなく格闘し続けた。叫び声には、美しい歌声を
響かせていたころの面影はない。動物の鳴き声がごとく、かすれて
不快ないやらしい声だった。顔は崩れたまま固定されてしまい、
同じビップびとであろうと彼を彼と判別できないような有様だった。
真に彼を人間たらしめるものは、クーへの思いと、主への信仰のみとなっていた。
どれだけの月日が過ぎたことだろうか。湖の水は底をついて、錆びた兜が
あらわになっていた。モララーはその日も、幻覚と格闘していた。
奥から奥からラウンジびとが現れては、死んだビップびとに変わっていった。
武装したラウンジびとの中から、常とは異なる格好をした者が現れた。
茫漠とした他の幻覚と異なり、そのラウンジびとはいやにはっきりと存在していた。
モララーには判別付かなかったが、彼は幻覚の住人ではなく、現実に居す人間であった。
(゚A゚#)「がああああ、ふううー、ふううー!」
モララーは威嚇しつつ、そのラウンジびとに迫り寄った。
切っ先を相手に向け、いざ殺さんと飛び掛ったその瞬間、
後頭部に激しい衝撃が襲い掛かってきた。頭を叩かれた!
そのラウンジびとはひとりでやってきたのではない。
仲間と行動を共にしていたのだ。勢い良くうつぶせに倒れたモララーは、
そのまま意識を失った。三人のラウンじびとが、モララーを取り囲んだ。
そして担ぎ上げ、そのまま連れて行った。
眼が覚めるとモララーは、木の檻の中に閉じ込められていた。
馬車に乗せられ、移動しているようだった。どこへ運ばれるのだろう。
後頭部にうずく痛みと戦いながら、モララーは遥かに続く道のりを眺めた。
それは、見覚えのある道だった。子どものときから幾度となく目にした、
我がビップの街へと続く道だった。モララーは塞がった眼を一杯に見開き、
腹の底から吼えた。檻の隙間を掴み、頭を打ち付けてゆらした。
(゚A゚;)「だせ! 帰せ! 帰してくれ! あれこそが我が故郷なのだ!」
モララーはありったけの力で暴れ、声も尽きんとばかりに吼え叫んだ。
それは正に動物の咆哮と同じだった。前を行く二頭の馬は恐れおののき、
それぞれ勝手な方向へ逃げ去ろうとした。
モララーと馬の行動により馬車のバランスは崩れ、木の檻ごと見事に横転した。
強い衝撃により、檻は砕けた。モララーは外へ出た。
柵の一部となっていた円柱型の木の棒を引っ掴み、自分を捕らえた
三人のラウンジびとを叩きのめした。鼻息荒く地面を掻いている二頭の馬も、
同様に叩き伏せた。必要以上に叩いた。
背後の憂慮を断ち、モララーは懐かしき我が故郷、
愛しき我が妻の下へ駆けた。ビップの街へ入ると、方々から悲鳴が上がった。
長い野生生活の中で、モララーはほとんど半裸となっていた。
必死の形相で駆ける彼を、人間だと認識できた者はいなかった。
モララー自身は周囲の喧騒など意に介すこともなく、よろこびと感謝に打ち震えていた。
やはり主は全能であらせられる。私に満ち溢れるこの幸福!
ああ主よ、神よ! 私は永遠にあなたのしもべであります。
ビップへ帰していただき、本当にありがとうございます!
モララーはよろこびの裡にあって、その心地のまま我が住処へと辿り着いた。
小さく狭くみすぼらしいが、大切なふたりの愛の巣である。
モララーは勢いそのままに、玄関扉を引っ張った。力のこもった引っ張り方だった。
だが扉は、勢い同等の音を鳴らしだけで、けして開くことはなかった。
おかしい、鍵など取り付けてはいなかったはずだが。
モララーは乱暴に扉を前後させた。前後させながら考えた。
考えてみれば女の一人暮らし、これくらいの防犯意識はあって当然かもしれない。
ましてクーは美人で、信仰篤く、肉付きのよい女だからな。
当然のことさ。しかしこの扉、一向に開かないな。モララーがゆするたびに、
家そのものが振動した。埒が明かない。モララーはよろこびの笑顔を
張り付かせながら、全身を使った体当たりを繰り返した。
扉は砕け散った。細かな木屑が突き刺さったが、
いまのモララーにはそんなもの存在しなかった。果たしてクーはそこにいた。
白い肌をはだけさせ、裸のラウンジびととつながりながら。
川;゚ -゚)「だ、だれだ!?」
クーは胸を隠して、恐怖に顔を歪ませていた。
モララーがモララーであると、わかっていないようだった。
モララーは自分でも聞き取れない言葉で喚きたてた。
それはまったく逆効果でしかなかった。
クーはさらに恐怖して、裸のまま逃げ去ってしまいかねなかった。
モララーは地面を叩き、壁を叩き、何かを掴んで掲げて投げた。
それは死の淵に瀕しても手放さなかった、あのペンダントだった。
ペンダントは家の中を跳ね飛んで、クーの眼にもしっかりと映りこんだ。
川;゚ -゚)「モララー、なのか……?」
クーの声色に、先程までとは異なる恐怖感が表れた。
モララーは暴れることを止め、ひざまずき、祈りを捧げるようにして肯定の意を示した。
クーの顔から表情が抜け落ちた。彼女の首にはたしかに、彼が与えた
ペンダントが下がっていた。それが持ち上がった。木彫りではあるが、
先端は鋭く、硬い。肉なら裂き、貫くことだろう。ましてそれが、女の柔肌ならば。
切っ先が、クーの首にあてがわれた。
(;゚д゚ )「お、俺は何も知らん! 知らないぞ!」
ラウンジびとの男はほとんど裸のまま、わずかばかりの金を
置いて走り去っていった。後には動かなくなったクーと、
動けないでいるモララーだけが残された。
( ∀ ;)「あひ、あひひ、ふへは、うへふひはははひひひひひ!」
なぜだか笑いが抑えられなかった。クーは最後の最後まで、モララーから
贈られたペンダントを離さなかった。赤く彩られた彼女の体は、
記憶の中とは異なりやせ細って、まるで老婆のようであった。
笑いが止まらなかった。モララーは往来に飛び出した。
( ∀ ;)「主よ、私は罰する主よ、私が何をしたというのですか!
私の犯した罪とはいったい何なのですか!」
モララーは笑い叫んだ。周囲の人間は、不審なものを眺める眼で
モララーを一瞥した。モララーもまた彼らを見た。そこで気がついた。
周囲にいるのは、ラウンジびとばかりだった。
ビップびとの姿は、どこにも見当たらなかった。
('A`;)「主よ、父よ、母よ、同胞よ! どこにいるのですか! 私は帰って来た!」
モララーはビップの街全域、ビップびとを探して駆け回った。
ビップびとはどこにもいなかった。いても路上に転がった、死体と判別の
つかない者だけだった。昼もなく夕もなく探して回り、やがて夜になった。
周囲から男と女の交じり合う声が聞こえだした。
川д川「すいませんそこの人、お願いですこっちを見てください」
髪の長いラウンジびとの女が、たくしあげた服から性器を露出して立っていた。
女といってもまだ、十前後の子どもにしか見えなかった。晒された両足には
脂肪と呼べる箇所がまるでなく、二本の足で立てていることこそが奇跡とさえ思えた。
川д川「お願いします、私を買ってください。もう三日も何も食べていないのです。
このままでは飢えて死んでしまうのです。わずかでもいいのです。慈悲をください。
私を救うことで、あなたも救われるのです。一生懸命やりますから、私を助けてください――」
女が言い終えるよりも前に、モララーは女の顔面を殴っていた。
女は驚きに眼を見開いていた。モララーは獣の声で吼えながら、
自らの性器を女の性器にむりやり結合させた。叫び声を上げた女へ、
モララーはもう一度拳をみまった。
(;A;)「主よ! 神よ!」
腰を振り、神の御名を叫び、女の顔を殴った。
殴られながらも、女はおぞましい悲鳴を上げていた。
その悲鳴を聴きつけたのか、どこかから数人のラウンジびとが現れた。
ラウンジびとはモララーを殴りつけながら、ふたりを引き剥がした。
ふたりの性器には、精を吐き出した痕が糸を引いていた。
ラウンジびとはモララーを撲殺するつもりらしかった。
手加減や手心といったものは微塵もなく、腫れ上がった顔に容赦なく
次の拳を打ち込んできた。モララーは呻き転がり、されるがままに死を待った。
次で死ぬ。だが死なない。次で死ぬ。まだ死なない。
モララーはモララーが思った以上に、頑丈でしぶとかった。
頼むから一思いに殺してくれ。そう伝えようとしても、口が開ける状況になかった。
何でもいいから死にたい。そう思った途端、ラウンジびとの暴行が止まった。
( ^ω^)「まあまあ、ここはこのくらいで抑えてくれませんかお。
同胞の罪は私が贖いますからNE!」
そのビップびとブーンは、ラウンジびとひとりひとりに金を渡していた。
それは結構な大金だった。ラウンジびとは予想外の報酬に、気分をよくして
去って行った。ビップびとブーンは彼らがいなくなるのを見届けると、
モララーをかついで歩きだした。
川;д;川「呪われよ! 呪われよ!」
背後で女が、呪いの言葉を投げつけていた。
そのビップびとブーンは、モララーの体を手厚く介抱した。
それは彼らにとれる最善の方法に違いなかった。にも関わらず、
モララーの体は一向に快復しなかった。腫れ上がった皮膚は
奇妙な弾力を持ち、青く裂け、性器からは膿が浮いた。
モララーは苦しみにのた打ち回った。苦しみの中で、主を呪った。
生を受けなければ苦しみに悶えることもなかったと訴えた。
なにゆえ、悩む者に光を賜い、心の苦しむ者に命を賜ったのか!
( ^ω^)「なんということを仰るのですお。汝の苦しみはすべて、
汝の罪に由来すのですNE! 懺悔なさいNE! 悔い改めなさいNE!
主に対して自らの罪を認めるのですお!」
('A`;)「私はだれよりも主を信仰してきた。言いつけを守り、恐れ敬ってきた。
不心得者ならば私以外にもいるはずだ。なぜ私なのか。クーが何をしたのか。
なぜ死ななければならなかったのか」
熱に浮かされたモララーの頭は、たがを取り払っていた。
頭の中は痛みと呪いで占められ、その矛先は救いを与えない神へと向っていた。
そしてモララーは、神を恐れぬ大胆な結論へと到達した。
('A`;)「そうだ、神などいないのだ。すべてまやかしだったのだ。
神がいるならば、ビップの街にラウンジびとが満たされる現状を、お許しになるはずがない。
これこそ神がいない証拠! 私はいもしない神に祈り続けてきたのだ!」
( ^ω^)「主の御心を計ろうとすること自体、間違っているのですお!
主の行いはすべて深い考えがあってのこと。表面的な物事だけで
推し量ってはならないですお! 主は汝が疑う者であることを
知っておられたのですNE。だからこそ汝を罰したのですNE!」
('A`;)「もういい、なんでもいい! とにかく痛いのだ、苦しいのだ!
助けてくれ! さもなければ殺してくれ!」
モララーはもはや苦しみの塊と化し、物を考えられる状況になかった。
頭の中にあるのは、この苦しみから解放されたいという一点のみだった。
見かねたブーンは、ぶどう酒と共に、練り上げられた霊薬をモララーの口に流し込んだ。
霊薬の効果はすぐに表れた。体中を蝕んでいた痛みが、瞬時にして消え去った。
同時に手先の感覚も消えうせ、意識は朦朧とし、全身が浮遊感に包まれた。
モララーは気づかなかったが、彼の性器からは膿と共に尿が流れ出していた。
モララーは歓喜に打ち震え、ブーンに感謝の意を伝えようとした。
しかしどういうわけか口の開閉がおぼつかず、舌が伸びきってしまっていた。
そのため意を伝えることは叶わなかった。ただブーンの方で意図を酌んだらしく、
教え諭すような口調でモララーに語りかけてきた。
( ^ω^)「これは主が我々に授けたもうた霊薬ですお。人の手ではけして
成すことのできない、マナの果実。信じなさい。敬いなさい。
汝が信じる限り、主はけして汝を見捨てませんNE! 」
モララーは心の中で誓った。主を信じるのだ。気づかぬところで、
多くの罪を犯していたのだ。主を疑うなど、なんたるハレンチなことをしてしまったのか。
感謝いたします。信仰いたします。我らに光をお与えください!
その気持に偽りはなく、モララーはたしかに己を恥じた。
だがしかし、マナの果実はいかばかりか。その効果が消え始め、
痛みが浮かび上がってくると共に、モララーの誓いにも影が差し込んできた。
痛い、苦しい、助けてくれ、死にたい!
( ^ω^)「主を信じるのですお!」
ブーンは霊薬を与えるたびに、モララーに誓わせた。
誓わせてしばらくは、モララーも敬虔な信徒に戻った。
しかしそれも、マナの効果が切れるまでだった。
そして霊薬を服用する頻度は、日ごとに増していった。
( ^ω^)「では、行ってきますNE!」
ブーンはその日から数日間、要があってでかけなければならなかった。
モララーはひとり残されることになる。ブーンは一抹の不安を覚えながらも、
霊薬の置き場所を教えた。霊薬を一気に服用してはならないと堅く誓わせ、家を出た。
始めの数日は、モララーもブーンのいうことを守っていた。
神の果実をみだりに口にするのは、大変罪深いことだと思えた。
だが次第に、痛みが霊薬の効果を上回りだした。一粒では足りない。
二粒までならいいだろう。モララーはぶどう酒と共に霊薬を流し込んだ。
('∀`*)「ふへぁ~……」
苦痛は潮の如く引いていった。主よ、感謝いたします。
しかし二粒では効果がなくなるときがくる。今度は三粒飲む。
苦痛は引く。感謝する。そして四粒、五粒――。
――もうだめだ、我慢できない。
飲んでも飲んでも苦しみの引かないときが、ついにやってきた。
ちょっとやそっとでは、もうどうにもならない。モララーはブーンの
言葉をちらとだけ思い出したが、解放の誘惑から逃れることはできなかった。
モララーはある分だけの霊薬すべてを、一気に飲み干した。
('A`;)「ん」
( A ;)「けっ」
(゚A゚)「ぎぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
( A )「……ぽふぅ」
痛みが飛んだ。
苦しみが飛んだ。
意識も飛んだ。
尊厳も飛んだ。
記憶も飛んだ。
知恵も飛んだ。
モララーの中からはもう、あらゆる苦しみと、
あらゆる苦しみの元となるものが取り除かれた。
愛したクーのことでさえ、露ほども覚えてはいないだろう。
ただそこに、自己と自己以外の何かがあった。
モララーは何の抵抗もなく、それを信じられた。
それはたしかにそこに在った。
何も見えず、何も聴こえなかったが、モララーはいままでになく満たされていた。
何もかもを信じることができた。疑うことを失い、ただただ安寧の裡に横たわっていた。
( A )「幸福であった」
モララーは事切れた。その場には、帰ってきたブーンも居合わせていた。
( ^ω^)「モララーは知恵という罪から脱却し、信仰の裡で神と共に在ったのですお!」
ブーンはモララーのことを、隠れ住んでいるビップ人に伝えまわった。
( ^ω^)「得るための信仰ではなく、信仰のための信仰へと到達したのですNE!」
ブーンの言葉はビップびとの勇気を興した。
( ^ω^)「なによりそれが、人にとって最上の喜びであると我々に示してくれたのですお!」
ビップびとは一丸となって、ビップに住まうラウンジびとを皆殺しにした。
ビップびとはそのまま、ラウンジという国そのものを滅ぼした。
だがそれは、ビップという国の平穏を意味してはいなかった。
そのすぐあと、ビップは強国シベリアに攻め込まれ、敗北した。
ビップびとはそのほとんどが、奴隷となってシベリアに仕えた。
しかしビップびとの心に、真の絶望が訪れることはなかった。
モララーという聖人が、道を示したからである。
ビップびとはただ信仰の裡に、幸福を見た。
そのうちにシベリアも崩壊した。
ビップびとは国を失い、世界中へ散っていった。
それと共に、聖人モララーの話も世界へ拡がった。
場所を越え、時代を越え、ビップの神と、モララーの信仰は浸透していった。
多くの者がモララーを研究し、モララーより以上にモララーを知り尽くした。
モララーは賛美歌の中で信仰を歌い、礼拝においては我らの兄として神の御前に平伏した。
千年を経た。
そしてさらに千年を経た。
すべての者はモララーを知った。
それは――
こ れ を 語 る 我 々 に し て も 同 様 で あ り
こ れ を 聴 く 我 々 に し て も 同 様 で あ る
.
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この記事へのコメント
1. Posted by マイスリー ジェネリック|ed治療浜松 November 28, 2011 04:14
持ち込みはSTRとAGI料理とおいしい魚生命保険(実際使ってないw)、蝶くらい。
最終的に「光回線にしたらADSLよりも安くなる、ということになったら変えます。
方に切り替えて使わないといけなくてその作業がかなり面倒だった。
最終的に「光回線にしたらADSLよりも安くなる、ということになったら変えます。
方に切り替えて使わないといけなくてその作業がかなり面倒だった。
2. Posted by ilrelationshipxi November 29, 2011 08:01
退院したら、週3回のリハビリ通院。
テンポラリのたまりやすいも簡単に削除。
に弟子にとお願いしました(笑)。
妹:「いや、私ではなく姉が。
テンポラリのたまりやすいも簡単に削除。
に弟子にとお願いしました(笑)。
妹:「いや、私ではなく姉が。
3. Posted by studiousik December 01, 2011 17:27
そして外側Tシャツをズボンの外に出すのは、ズボンの中に粉塵が入ってこないようにするためです。
役所にて必要書類の手配すぐに引っ越しちゃうのにな。
役所にて必要書類の手配すぐに引っ越しちゃうのにな。