May 29, 2011

ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 第二章 プロローグ

491以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:11:35 ID:gyh/j6CUO
………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………

青ざめた街の中を、長剣を腰に帯びた少女が歩く。

ヨツマの朝は早い。
往来には日が昇るか昇らないかの内に人の姿がちらほらと現れ始め、店先に商品が並び始める。


ミセ*゚ー゚)リ


ミセリはこの時間が好きだった。
やがて賑わいを取り戻す街の、もう一つの静かな顔。

中央市場を抜け、入り組んだ路地を通って北へ。
見上げれば建物の隙間から高台の王城が窺え、左右の民家からは朝食のスープの香りが漂う。
目指す市議会までは、残りあと数十分と言ったところだろうか。

夏の終わりの夜明けの風が、心地よい冷たさを運ぶ。
あと数十分。数十分だけ、この最高の時を独り占めできる。


ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

第二章、霧立つ樹林





492以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:14:08 ID:gyh/j6CUO
プロローグ

……

ヨツマ北西地区・市議会中枢府。
王制が形式と化したヨツマにおいて、最も強い権力を持つ機関。

役割は、大きく分けて三つ。

一つ目は、市の運営や他市との折衝を司る『感覚機関』。
二つ目は、樹海との闘いを司る『筋肉』。
三つ目は、上の二つを統制する『神経』。

市民からの数多くの要請を『感覚機関』が吸い上げて、『神経』を通じて『筋肉』が動く。
そして、振り下ろされる『剣』がミセリたち冒険者だ。

ミセリが訪れたのは、ちょうど『神経』にあたる部分。
『感覚機関』からの情報や『筋肉』への情報が集う所。

王城が聳え立つ高台の麓、石と漆喰で造られた建物には連日多数の冒険者が訪れ、今も武具を下げた連中がちらほらと見受けられる。


∬´_ゝ`) 「おはようございます……ホントに早かったわね、ミセリちゃん」


493以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:16:19 ID:gyh/j6CUO
ミセ*゚ー゚)リ「おはようッス、姉者さん。ラウンジの使節から連絡あったんでしょ? どうだった?」

∬´_ゝ`) 「ええ、あなたの期待通りのモノよ」

ミセ*゚ー゚)リ「おおお、ありがとうです!」


ミセリが近付くと、眠たげな眼で重木造りのカウンターに肘を突いていた女性が顔を上げた。

姉者。
ミセリの顔馴染みで、受付の業務を一手に受け持つ優秀な執務官。

ぼんやりした見た目とは裏腹に高い記憶力を持つ彼女は、敵国ラウンジ出身でありながらこの市議会の受付を任されるようになった。
椅子を取り巻くようにコの字型に高く組み上げられた書類棚を支配する様から、彼女は陰で『受付の女帝』と評される。

山のように積み上げられた依頼書や報告書の束から、彼女は一枚の皮紙を引っ張り出した。

ミセリに手渡されたそれには、北のラウンジへの使節団からの報告。
並べたてられた小難しい言葉の渦を、ミセリは眉を顰めて読み進める。


  _,
ミセ;゚-゚)リっ□「んー……『報告』、『状況に関する』……『対ラウンジ外交の』?」



495以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:17:53 ID:gyh/j6CUO
ヨツマとラウンジの超長期にわたる戦争、その最後の戦火が幕を下ろしたのは十年近く前。
互いに妥協を重ねた停戦条約が結ばれて以降、両国は辛うじて幾つかの城塞を挟んで睨み合うに留まってきた。

しかし近年、両国の干渉線付近で新たに希少資源──火薬の原料が発見され、均衡は崩れ始めた。
折悪くヨツマ王バチカーヌが体調を崩し、揺らぐヨツマの弱腰な姿勢を前にラウンジは更に勢い付く。

ヨツマ側は新たに使節を送り交渉を試みるが、ラウンジはそれを撥ね付け続けている。

ミセリのギルドの構成員、ビロードとちんぽっぽは、その交渉を続ける使節の護衛に付いていた。
……そして外交関係は更に悪化、使節とその護衛は今に至るまで帰還できずにいる。

それどころか──


ミセ*゚-゚)リ 「『──彼の国との緊張は悪化するのみ、外交員及び護衛一団の追加を要請』……と」

∬´_ゝ`) 「いよいよ開戦が現実身を帯びてきた、かなぁ?」



496以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:19:18 ID:gyh/j6CUO
ミセ*゚ー゚)リ「姉者さん、確かラウンジ出身だったよね?」

∬´_ゝ`) 「そうよ。本当に困るわ……弟二人は一応、ラウンジの冒険者だし……」


姉者は大きく溜息を吐く。

ラウンジの冒険者制度は、冒険者それぞれの権利を重んじるヨツマとは対照的に、より支配的な面を持つ。
例えばこのまま両国の間で戦争が再開した場合、ラウンジは冒険者に参戦の義務を課すだろう。

ヨツマの場合は、参戦は『義務』ではない。
市からの『任務』の形で広く戦力を募集し報酬を以て報いる。言うなれば、冒険者を『雇う』ものだ。

加えて、ヨツマが相対している敵はラウンジばかりではない。
南方から東方にかけて樹海を広く跋扈する亜人族・「森の人」もまた、勢力を広げるヨツマを疎んでいる。
彼らに対してヨツマは東方にベースキャンプ『キャラバン』を、南方に植民郡『ノーラス』『トカラス』を
それぞれ防波堤として配置しており、戦力が割かれた状態にある。


ミセ*゚ー゚)リ「……って、あれ? 姉者さんって弟さん居たの?」



497以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:21:12 ID:gyh/j6CUO
∬´_ゝ`) 「ええ。その冒険者の双子の兄弟と、その下にまだ小さい妹と弟が居るわ。
     ラウンジではそこそこ名が知れてるって話だから、向こうの冒険者も底が知れるわよ」

ミセ;゚ー゚)リ「それはまたヘビーな事情で……」


対ヨツマ戦争に国家の総力をつぎ込むも、国力に劣るラウンジ。
兵力こそ勝るも、対ラウンジ戦のみに集中できずにいるヨツマ。

過去数十度を超える交戦はいずれも決定打に欠けたままに終わっている。

∬´_ゝ`) 「ま、私達は立場が決まってるから良いわ。問題は貴方たち」

ミセ*゚ー゚)リ「私たち」

∬´_ゝ`) 「そ。ビロ君もぽぽちゃんも今はラウンジでしょ? こうなったら、一番危険ね」


ラウンジはまるで手段を選ばないから、そう姉者は付け足す。
ミセリは手渡された資料に再び目を落とした。

黄土色の混じった皮紙に踊る、墨色の共通文字。
堅苦しい文面が実際の重みに変わっているかのように感じ、ミセリは思わず両手に力を込めた。



498以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:21:54 ID:gyh/j6CUO

∬´_ゝ`) 「ああ、それ一応機密資料だから……」
ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ姉者さん。この護衛一団って、たぶん冒険者に降りてくる依頼だよね?」

∬´_ゝ`) 「ええ、半分は騎士だけど、残り半分はその予定よ。あなた、もしかして……」

ミセ*゚ー゚)リ「これ、私も受けちゃダメかなぁ?」



ミセ*゚ー゚)リ「……と言う訳で、三日後にラウンジへ向かいます!」



499以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:22:34 ID:gyh/j6CUO
从 ゚∀从「まぁ好きにしたらいい……けど、よくそんな仕事を取れたな」

ミセ*゚ー゚)リ「まぁ、それに関しては姉者様様、ビロ君様様ですけどね」


纏亭の談話室で増幅器の手入れをするハインに、ミセリは事情を説明する。

ラウンジとの対立の深刻化を受け、追加護衛の任務は騎士と上・中級の冒険者に割り当てられる事が決定した。
階位Dの上の方、つまりギリギリ下級に分類されるミセリには、本来ならば重荷に過ぎる。

所属ギルド『チェトレ』のビロード達が先んじて護衛団に参加しているため強引に名前をねじ込む事ができた、そう姉者は言う。

二人の様子を眺めていたジョルジュが、のんびりと口を挟んだ。

  _
( ゚∀゚)「んー、じゃその間はお前の修行も当分は休みかー……」

ミセ*゚ー゚)リ「え、ハインとジョルジュさんは志願しないの?」
  _
( ゚∀゚)「えって……俺達は特に志願する理由は無いし、なぁ?」

从 ゚∀从「ん……」



500以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:23:42 ID:gyh/j6CUO
ジョルジュに話を振られたハインは、考え込むように増幅器を持ち上げ、窓の光にかざした。
小さなエメラルドの耳飾りを通して明るい緑に染まった光が差し込み、その頬を照らす。

上等な増幅器の価値は、純金塊にも倍すると言われる。
丹念に磨き上げられたハインの増幅器は、あまり装具に詳しくないミセリから見ても、極めて質の良いものと分かった。

それを丁寧に絹の防護布に包みケースに収め直したハイン。
テーブルに頬杖を突くミセリの胸元、剣の柄から外されたペリドットの増幅器を指し、言う。


从 ゚∀从σ"「俺も志願するよ。……それ貸しな」
  _
(;゚∀゚)「え、マジで? なんで?」
ミセ*゚ー゚)リっo

从 -∀从「どうせ暇だからな。一度ラウンジを見てみたい」



501以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:25:04 ID:gyh/j6CUO
ミセ*^ー^)リ「やたっ、ハイン確保!」

从 ゚∀从「確保て。じゃあ逆に、ジョルジュ、お前は退屈しないのか?」
  _
(;‐∀-)「……暇だし退屈です」

ミセ*゚ー゚)リ「へへへ」


ハイン達はもともと大陸の出身の分、ある程度の実力は既に認められている。
さらに『キャラバン』隊員からの報告も含め、こと戦闘力に関してはほぼ正当な評価を勝ち得ていると言えるだろう。

ミセリの増幅器を磨き直すハイン、ミセリが最も頼りにしている冒険者。
そのハインからも一目置かれている異端の実力者、ジョルジュ。

二人も翌日には多くの志願者の中から選出され、隊列に加わった。





502以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:26:33 ID:gyh/j6CUO
同じ頃、ヨツマ市街。


*( ´ `)*=3「いやー、満足だ。やっぱり人に奢らせて食う飯は最高に美味いですねー!」

ξ;-⊿-)ξ「この子は全く、人の金だと思って……」

*(‘‘)*「何を言います、貴女はこうして奢ってくれる金ヅ……友達なんです! 少しは遠慮しましたよ!」

ξ゚ー゚)ξ「どうやら辞書すら買えないだけ逼迫してるみたいね。よく食べると思ったら道理で」

*(‘‘)*「逆に貴女は随分と余裕さんですね、文字通り太っ腹ですし。
     私は食べた分だけ太くなる哀れな貴女の代わりに消費して差し上げるんですよ?」

ξ#゚ー゚)ξ「余計なお世話をありがとう、でもあたしには無駄な脂肪は無いわ」

*( - -)*=3「んなこたぁ貴女のその生産コスト絞りすぎの残念な胸を見りゃ分かりますって。ほんの冗談ですよ、冗談」

ξ゚⊿ )ξ「……斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る」

*(;‘‘)*))「うわったた、止して下さい! 刃物キチも絶壁女も今の仲間で飽和してるんですよッ!」



503以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:27:53 ID:gyh/j6CUO
ξ゚⊿ )ξ「誰が刃物キチの絶壁女だって?」

*(;‘‘)*))「待て待て待て落ち着きやがれです! ヤメテ無理無理無理死ぬ死ぬ!」ドンッ
('、`*川「おっと」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、ヘリ……ごめんなさい、大丈夫ですか?」

('、`*川「ええ、大丈夫よ。次は周りの事も気をつけなさいね?」

*(;‘‘)*「すみません……」
ξ;-⊿-)ξ「すみません……」

('ー`*川「よし、いい子だ。縁があればまたお会いしましょう、ツンちゃんにヘリちゃん」

*(‘‘)*「はい、もしご縁があれば……」
ξ゚⊿゚)ξ「……!?」

"(`*川ノ川「ふふ、また一つ生きる楽しみができたわ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ……ちょっと待って、なんであたし達の名前を……」
*(‘‘)*「……? もう居ない」



504以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:30:11 ID:gyh/j6CUO
……

ξ゚⊿゚)ξ「……って事があったのよ」

ミセ*゚ー゚)リ「ふぅん……なぜかツンの事を知ってた黒髪の美人さん、か」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。鞄に付いてた赤銅の紋章を調べたら、それが『エメロン』ってギルドの紋章らしくて」

ミセ*゚ー゚)リ「『エメロン』……って、確かキャラバンの時の?」

ξ゚⊿゚)ξ「誘われたのに来なかった、肝っ玉の太い人達よね」


纏亭・大食堂。
猪肉のソテーを切り分けながら、ツンはミセリに語る。


505
以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:33:53 ID:gyh/j6CUO
紋章は、階位B以上のギルドに与えられる、いわば力の象徴だ。

それぞれの階位に応じて色が変わり、Sが白銀色、Aが黄金色、そしてBが赤銅色。
ヨツマには数多くの冒険者が居るが、その大半は紋章を持たない階位C以下で構成されており、
……その紋章持ちのギルドも、ほとんどが赤銅色で頭打ちになる。

階位がAに上がるための条件は「天国山脈から生還すること」
階位がSに上がるための条件は「天国山脈を踏破すること」

現在"白銀"を飾る権利を持つのはただ一組――英雄、旧『VIP☆STAR』のみ。
"黄金"を持つのは七組、"赤銅"を持つのは六十五組。

紋章を持たないギルドは、数百では足りない。

ミセ*゚ー゚)リ「……それ、どんな紋章だったの?」

ξ゚⊿゚)ξρ「ええと……稲穂と杖、竜の翼をあしらったモノらしいけど……」

ツンは指先でテーブルに図を描いた。
三つの図形が弧を描くように配置され……ている……?

ミセ*゚ー゚)リ「うん、全っ然わかんね」

ξ#-⊿)ξ「……いや、今回はあたしの図と説明が悪かった、落ち着こう」

ミセ*゚ー゚)リ「あはは、ドンマイ」



506以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:34:45 ID:gyh/j6CUO
ふと周りを見渡すと、空席は他に一つも無い。
朝食時の纏亭はとても騒がしく、過剰なまでの活気に満ちた様相を見せていた。

時折ツン達二人の座るテーブルの横を通る従業員が、非番のミセリに恨めしげな視線を送る。


ξ゚⊿゚)ξ「調べれば調べるほど奇妙なギルドだったわ。
     三人組でリーダーが呪式士だって事以外はほとんど分からなかった。
     どんな手を使ってるは知らないけど、功績は一年目のギルドの中では一番だし」

ミセ*゚ー゚)リ「え? でぃさん達より功績があるの?」

ξ゚⊿゚)ξ「数字の上ではね」


ミセリ達『チェトレ』の階位が、夏に至った現時点でもまだD級。
でぃ達『シン』の階位はハインやジョルジュの評価と同じC級ということ。
一年目にしてB級に達するのは、確かに異例の出世といっていい。


ξ゚~゚)ξ「ヘリは『考えすぎだ』なんて言うんだけどね。……あら、これも美味しい」

ミセ*゚ー゚)リ「えへへ、それ母さんの得意料理だもん。……でも、何なのかな、その人たち」


香草のスープに目を細め顔を綻ばせるツンに、ミセリも自然と頬が緩む。

纏亭の料理は冒険者の間では非常に人気が高く、今やツンも常連の一人。
……もっとも、荒くれ者の多い冒険者の中には質より量を優先する者も少なくないが。



507以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:36:07 ID:gyh/j6CUO
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇミセリ、纏亭に来た冒険者でそんな人に心当たりない?」

ミセ*゚ -゚)リ「『エメロン』の人か……わからないなぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「そう……」


纏亭には連日多くの冒険者が詰め掛ける。
しかし、ミセリとて彼らの所属するギルドまで把握しているわけではない。
もしかしたら、そうと知らずに接していた可能性もある。

ジョッキになみなみと注がれたビールに、ツンはちびちびと口を付けた。


ξ゚‐゚)ξ「んー、やっぱり苦手ね、お酒……」

ミセ*゚ー゚)リ「騎士団の方はどうなの、ラウンジの事?」


ツンはその問いに驚いた顔を見せる。
ジョッキに目を落としたままミセリに顔を寄せ、声量を落とした声で答えた。


ξ゚⊿゚)ξ「……昨日、全体召集があったわ。非常時に備えろ、って」



508以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:37:16 ID:gyh/j6CUO
ミセ*゚-゚)リ「非常時って、やっぱり……」

ξ゚⊿゚)ξ「戦争、ね。最前線になるのはあたし達と正規兵だから」

ミセ*゚-゚)リ「……そっか」


暗い顔をするミセリに、ツンは「大丈夫だ」と言って、軽く手を振る。


ξ゚⊿゚)ξ「まだ戦争になると決まった訳じゃないし、外交使節だって派遣してるんだから。
     きっと上手く交渉してくれるに決まってるわ」

ミセ*゚-゚)リ「そうだけど、二日前に聞いた話だと交渉はあまり上手くいってないみたいだよね。
     新しく大護衛団付きの使節を派遣するんでしょ?」

ξ;-⊿-)ξ「なんでアンタはあたし達より詳しいの……ああ、宿屋の娘だからか」

ミセ*゚ー゚)リ「それも有るけど、その使節団の護衛の任務を受けたからね」

ξ゚⊿゚)ξ「……は?」


目を丸くするツンに、ミセリは事情を説明した。

ラウンジとの関係は急速に冷え込んでおり、『チェトレ』が任務を受けた頃とはまるで危険さが違う。
下級とはいえ騎士という役職に居る以上はツンもその事情を理解している。
話を聞くツンの顔は次第に引き攣ってゆくが、ハイン達が志願した下りで少しだけ安堵した表情に変わった。



509以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:40:17 ID:gyh/j6CUO
ミセ*゚ー゚)リ「……と、こんな訳でして」

ξ;-⊿-)ξ「……まぁ、あの二人が付いていれば大抵の事は何とかなりそうだけどね。
     アンタ、ちょっとハイン達の事をアテにし過ぎじゃない?」

ミセ*゚-゚)リ「そんな事……あるかもしれないけど、もし私一人でも行くつもりだよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「……まぁ、そうよね。それでも、本当に気を付けなさいよ?
     ヨツマの旗を掲げて行く以上、ラウンジはほぼ敵国なんだから……」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん」


その後、食事を平らげたツンは「騎士団に用事があるから」と言って席を立った。

テーブルには、半ば残ったままのビールジョッキ。
一口呷ると、強い苦味を感じた。





510以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:41:28 ID:gyh/j6CUO



ヨツマ市の過剰とも言える人口増加は東地区──居住区を、外側だけでなく内側にも膨れさせた。

一階建ての建物を二階建てに、二階建ての建物を三階建てに。
建物と建物の間の空地に別の建物を、建物と建物の間の路地に別の建物を。
縦・横の次に高さの基準を加えた新たな路地は、そうした建物を強引に繋ぎ止める。

引き起こされた弊害は、煩雑さだけではない。

石造りの重々しい建物は所々に日の当らない"影"の部分を生み出した。
決して昼の届かない、暗く湿ったヨツマの闇を。

……一人分の足音が、暗い路地に響く。


(、`*ノ川「……ふぅ、まったくもう」



511以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:42:17 ID:gyh/j6CUO
足音の主、黒く美しい髪の女性が溜息とともに呟いた。その穏やかな瞳も緩やかな足取りも、まるで裏路地には似合わない。
鞄に付いた赤銅色の紋章と左耳に下げたジェットのピアス──黒の増幅器が無ければ、彼女が冒険者だと気付く者は居ないだろう。

……冒険者の少女二人と別れてから数分、一つ路地を曲がると人通りは消えた。
彼女が立ち止ると足音も止まり、微かな余韻を残すばかり。

湿った土の臭い、遠くの雑踏と自分の鼓動、生き物の気配一つ無い薄暗い路地。
彼女の言葉を聞き留める者はその場には誰も居ない、はずだった。

誰も居ないと確認したばかりのその空間を振り返り、なおも彼女は問いかける。


('、`*川「……そこに居るのよね、リーダー?」



512以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:43:00 ID:gyh/j6CUO
静寂。
土の臭いと雑踏の音が増したように感じる。

もしもこの場を見る者が居たならば、彼女が不意に独り言を呟いたと思っただろう。
あるいは、彼女が亡霊を見ているか幻覚に取り憑かれているか、そう思ったかもしれない。

……しかし、いずれも正しくはない。


『……あれ、気付いてたのかい?』


明瞭に響く、けれど何処か霞がかった声。
亡霊でも幻覚でもない証拠に、何も無い空間から声のみが返ってきた。

問いかけた女性の方は、わずかに驚いた様子を見せた。
口の端を軽く持ち上げ、彼女は再び空間に声をかける。


('、`*川「いいえ、全く気付かなかったわ。なんとなく言ってみただけよ」



513以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:44:31 ID:gyh/j6CUO
『むぅ……もう少し黙っていれば良かったかな?』

('、`;川「やめて頂戴、そんなタチの悪い嫌がらせみたいな事は……。いつから見ていたの?」

『君がさっきの二人と話してた辺り。楽しそうだったね』

('、`*川「……ええ。どこかの誰かと違って、二人とも素直で良い子だったから」

『ふふ……それじゃまるで、私が捻くれた悪い子みたいじゃないか』


くすくすと笑う、姿無き声。その声に、彼女はもう一つ溜息を吐く。

声の出所を探ろうとするのは、早々に諦めた。
彼女の"術"に対して──最高級の『黒』の親和能力に対して、後付けの抵抗などまるで無意味だ。

見上げると建物と渡し橋とに切り分けられた、昼下がりの明るい空。
いつもは気にしない澄んだ青色が、なぜか手を伸ばしても届かないほどに遠く感じる。


('、`*川「……捻くれた悪い子か。そうね、私はそう言ってるのよ。ネーヨは?」

『買い出し。きっとそろそろ帰って来るよ。私達は先に帰って待っていよう』

('、`*川「そう。じゃあその前に……そろそろ出てきたら?」

『ん、ごめんごめん』


ぬるり、闇が蠢く。彼女の知覚に、ようやく声の主の姿が入りこんだ。



514以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/23(月) 04:48:02 ID:gyh/j6CUO
視線を下ろした彼女のすぐ傍、手を伸ばせば届くような距離を蠢く、モザイク状の空間。
水桶に広がった波紋が次第に落ち着くように、『彼女』は輪郭を結んでゆく。


('、`*川「……何度見ても不気味ね、あなたのソレ」

l     ノv 『酷いな、その言い草。私は結構気に入ってるのに……」



……黒は夜、意思を溶かす深淵の色。
瞳に映らざるを統べる、姿無き影の色。
黒の精霊が司るものは、『心』。
その親和のもたらすものは、魂に触れる忌まわしき力。



lw´‐ _‐ノv「……まぁいいや。さ、行こうか」

('、`*川「はい、リーダー。……何を考えているのよ」

lw´‐ _‐ノv「あー、うん。……悪いコト、かな」


二人分の影が、薄暗い路地を進む。
彼女たちの――ギルド『エメロン』の抱える闇のような、狂気を孕んだ宵口への路地を。

こうして、剣士の少女の次の旅は動き始めた。
近く遠く暗く黒く、轟く蠢く黒の章。


……第一話、『呪式士の事情』へ



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1. Posted by レビトラ|ed 悩み   November 28, 2011 19:44
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