April 30, 2011

ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 幕間β

414以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 22:46:59 ID:7T1J403gO
纏亭。


ミセ*゚ー゚)リ「いらっしゃい! ……って、ナチにヘリちゃん?」

ハソ ゚-゚リ「ん、ミセリか? なぜここで店員を?」
*( - -)*「ナチ、聞きなさるなよ。冒険者ってのは世知辛い業界なんです」

ミセ*^ー^)リ「ちっくしょう、仕事中じゃなきゃグーの一閃なのになぁ。ほら、ここ私の家だし」

*(‘‘)*「ありゃりゃ、私はてっきり弱っちいあなたが仲間に捨てられたのかと……」


ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ -゚)リ
ミセ*´ -`)リ

*(;‘‘)* そ
ハソ; ゚-゚リ そ



415以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 22:48:03 ID:7T1J403gO

ミセ*´ -`)リ「……だって、キャラバンから戻ってきたらぽっぽちゃんもビロ君も居ないし。
      聞いたら、二人とも別の任務を取ってラウンジに行ったとかだし。
      しかもその任務が延長され続けてるせいで、今もまだ帰ってきてないし。
私、一応リーダーなんだよ? 一言くらい何か言ってくれても良いじゃん。
      ……まぁ、書置きは残してくれてたけど、こんなんだしさぁ……」

ミセ*´ -`)リっ□

*(;‘‘)*「『大きなお仕事貰ったんです><』」
ハソ;゚-゚リ「『ラウンジで蜜柑の食べ比べするっぽ』」

ミセ*´ -`)リ「寂しいよぅ……心が寒い……」

*(;‘‘)*「……重傷ですね」


ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 幕間β





416以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 22:50:31 ID:7T1J403gO
*(‘‘)*「ごちそうさん、美味かったですよ」
ハソ ゚-゚リ「また来るぞ、ミセリ……ミセリ?」

ミセ*´ -`)リノシ「はいー、今後とも御贔屓にー……?」


ヘリカル沢近、ナスターシャ・フォン・ツィーフロイント。
かつて共闘した、歌姫と魔術師。
朝も遅く人の引けた纏亭の、二人が最後の客だった。

これから纏亭は二時間程の準備時間に入り、昼の営業が過ぎれば夜に向けた準備時間になる。

フヌケた顔で手を振るミセリに苦笑しながら、二人の少女は纏亭を後にした。

その笑顔の意味にミセリが気付くのは数秒後、軽木造りの扉が鈴の音を立てて閉じたとき。
後ろから伸びてきた手が、ミセリの頬を捻り上げたとき。


ミセ* ゚Д゚>リ「痛い痛い痛い痛いって、やめて放して!」
    ⊂(゜д゜#@「あぁ?」

ミセ* ;д;>リ「ごめんなさいー!」
    ⊂(゜д゜#@「……ちっ」


ミセリが必死で謝り、纏亭の店主・アラヤダはようやく手を離した。



417以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 22:52:13 ID:7T1J403gO
広い店内では既に数人の店員が慌ただしく働き、菷や雑巾を手に掃除を始めている。
厨房の方では昼の食事が用意されていて、甘味のついた醤油の香りが微かに漂ってくる。

真っ赤な指の跡の残った頬をさするミセリを見下ろし、アラヤダは呆れたように告げた。


(゜д゜@「……全く。今日の朝番はもう終わりだから、たまには気晴らしに散歩でも行ってきな」

ミセ*゚ー∩)リ「や、大丈夫ッスよ、もう復活しましたし。もう一働き……ッ?」


掃除用具を取りにに向かおうとしたミセリの首根を、アラヤダがすれ違い様につかみ上げた。
小柄で体重の軽いミセリは容易く吊り上げられ、恨めしげに母を見返す他にない。


ミセ*゚ -゚)リ「むーッ! 何するのさーッ!」

(- д- @「……あんた、最近ずっとここか樹海じゃない。息抜きして来いって言ってるの」



418以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 22:59:32 ID:7T1J403gO
ミセ*゚ -゚)リ「えー、でもぉ……」


息抜きと言われても、する事なんて無い。
反抗しようと試みたミセリだったが、アラヤダに対しては全く無意味だった。
例えば──

"щ(゜д゜@
ミセ;゚ー゚)リ「行ってきます」

──こうして母が手を構えるだけで、身体は素早く反応する。

ようやく下ろされたミセリは、先ほどとは180度反対に向け、一息に駆け出した。

扉につけられた鈴が明るい音を鳴らす。



419以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:04:43 ID:7T1J403gO
ミセ*゚ー゚)リ「……まぁ、ここだよね」


北西地区は、ヨツマ市議会中枢府。
市民、冒険者、諸外国の事情を全て統括する、市の事実上の最高権力。

……こう表現すると聞こえは良いが、要はあらゆる雑用を混ぜ込んだだけだ。

ミセリが近寄ると、焼き菓子に口をつけていた受付の女性が眉間に皺を寄せる。


ミセ*゚ー゚)リ「こんにちはーっす、……って、なんでいきなり嫌そうな顔するのさ」

∬´_ゝ`)「なんでって、最近あんたが来る時は大抵ヒマ潰しじゃない」

ミセ*゚ -゚)リ「むー、そう……だっけ」

∬´_ゝ`)「そうよ。今日はお店の仕事は?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、それがさぁ……」


冒険者窓口は昼過ぎにはヒマになるらしい。
と言うのは、冒険者は基本的に日を跨ぐ仕事を嫌うので、朝の内に依頼を受け昼夜でそれを遂行するからだ。

姉者も何だかんだ、ミセリの話を楽しみに聞いている。



420以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:08:04 ID:7T1J403gO
ミセ*゚ー゚)リ「……という訳なんだけど、結局する事なんて無いじゃない」

∬;´_ゝ`) 「知らないわよ、そんなの」


姉者は焼き菓子を口に放り込むと、ミセリにも一つ勧める。

ビー玉ほどの大きさのそれを噛み砕くと、口いっぱいに砂糖の甘みが広がった。


ミセ*゚ー゚)リ「ん、おいしい! 久しぶりに食べたよ、お砂糖」

∬´_ゝ`) 「あー、最近ちょっと高いわよね。ラウンジが締め付けてるからかしら」

ミセ*゚ー゚)リ「またラウンジかぁ……」



421以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:09:57 ID:7T1J403gO
∬´_ゝ`)っ旦 「ま、その辺うちは実家の恩恵を受けてるって訳よ。ほれ」

ミセ*゚ー゚)リっ旦「ん、ありがと」


続けて、姉者は湯のみを差し出す。

『樹海の進攻』以来、植物は専ら脅威の対象であり、その制御は困難を極める。
栽培という形で植物を利用するには相当の技術と慎重さが必要であり、
ヨツマにおいても一部の高位親和能力者以外には許可が下りていない。

ラウンジは特に農業に優れており、姉者の実家の流石家は特にその名家。

そのため、彼女は時折こうした嗜好品を手に入れる事が出来るのだ。



422以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:11:48 ID:7T1J403gO
ミセ*゚ー゚)リ「何か簡単な依頼とか残ってない?」

∬´_ゝ`) 「ヨツマ市より、南門近郊での野犬狩り」

ミセ*゚ー゚)リ「ヤダ」

∬;´_ゝ`) 「随分仕事を選ぶようになったじゃない、一年目」

ミセ*゚ー゚)リ「はは、今はちょっとそういう仕事はしたくないんスよ……」

∬´_ゝ`) 「仲間二人が頑張ってるのに、申し訳なくないの?」

ミセ;-ー゚)リ「それはあるッスけどねー……でも多分、二人も嫌がるんじゃないかな」

∬´_ゝ`) 「……ま、とりあえず今は他に良い仕事は無いわ。ミセリちゃん、個人の方の階位もDだったわよね」


姉者が資料を手元に言う。
D級程度のめぼしい依頼は朝の内に他の冒険者に持って行かれたらしい。
残っているのは、功績と仕事量との釣り合いがまるで取れていない依頼ばかりだった。

長期の依頼ならば無い事もないが、仲間二人と離れている今、それは受けたくなかい。



423以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:14:34 ID:7T1J403gO
ミセ*゚ー゚)リ「そっかぁ……うん、じゃあ、ここで暫く時間潰そうかな」

∬;´_ゝ`) 「アタシが仕事中だよ。そうねぇ、今日は騎士団の模範演武があるか」

ミセ*゚ー゚)リ「退屈そうにお茶してたくせに……。模範演武?」

∬´_ゝ`) 「そ、王族騎士長が武芸を披露するらしいわ」

ミセ*゚ー゚)リ「王族騎士長……って、ブーンさんが」

∬´_ゝ`) 「そ。見に行ってみたら?」


姉者は手元の茶を飲み干した。

丁度そのとき市議会正面の扉が開き、冒険者のギルド一団が入ってくる。
ミセリは姉者に軽く会釈し、市議会を後にした。

現れた四人組のギルドが下げている金色の紋章――階位Aの証は、ミセリの知らないものだった。



424以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:17:56 ID:7T1J403gO
……

ミセ*゚ー゚)リ「それで来てみたんですが……何だこれ」


練兵場。ヨツマの騎士と衛士とが修練に用いる広大な円形闘技場。
楕円形に広がる何も無い空間と、それを取り巻く幅の狭い観覧席。

今日はその観覧席のほぼ全てが、ヨツマの市民で埋め尽くされている。


ミセ*゚ー゚)リ「油断したなぁ、こんなに大きなイベントがあったのか。……さて、と」


大きく息を吸い込み、人々の背中越しに練兵場を見下ろした。
人の壁はそれ自体が意思を持つ一個の生物であるようにうねり、異物を排さんと脈を打つ。


ミセ*-ー-)リ「久しぶりに……根性!」


小柄な体躯を生かし、ミセリは人垣に割って入っていった。

人波を泳ぐ苦難には、冒険者としての実力をもって抗することができる。
タイミングを見計らって人々の合間に身体を差し込み、押される力は抵抗せずに受け流す。
纏亭を身一つで逃げだした事が功を奏し、幸いにも邪魔になる長剣は今は無い。

……どれだけ時間を掛けただろう、気付くとミセリは最前列にまで出てきていた。


ミセ;゚ー゚)リ「……おおぅ、疲れたー……」


ミセリの呟きは、人々の間に掻き消える。



426修正、変換ミス:2011/04/23(土) 23:26:25 ID:7T1J403gO
練兵場内には未だ演武を行う騎士達の姿は無い。

見渡すと、ちょうど向かい側の観客席に一部だけ人の居ない一角が見えた。
その無人の真四角の中心には、豪奢な紫のテントと十数人の銀騎士。


ミセ*゚ー゚)リ「んー……?」

( ^ω^)「──」
(`・ー・)「──!」


騎士の一団の中に、一つだけ見知った顔があった。

内藤・ブーン=ホライズン、ヨツマ最強の騎士。
声までは流石に聞き取れないが仲間の騎士と話し込んでいる。

やがて彼はテントの脇に控え、代わりに別の老人が進み出た。



427以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:29:34 ID:7T1J403gO
/ ,' 3『静粛に』


たった一言、彼は命じた。
恐らく誰かが親和で拡張しているのだろう、明朗に響き渡る声に場が静まり返る。

ヨツマ市議会最高議長、荒巻スカルチノフ。
緊張の広がる楕円を見渡し、彼は悠然と演説を始めた。


/ ,' 3『王族騎士の諸君、上級騎士の諸君、下級騎士の諸君。我らヨツマの誇る、最強の盾たる諸君。
   諸君らは武を磨き、我らの宝たる民を護るものである。
   諸君らは忠義を尽くし、我らの光たる宣告の天座を護るものである。
   諸君らの稀ならぬ尽力は常にこの実り溢れる町に安寧をもたらし……』

ミセ*゚ー゚)リ「……」


荒巻議長の演説の間に練兵場の両端──楕円の腹の門が開き、それぞれから騎士の部隊が入場する。

深紅の旗を掲げているのが上級騎士、橙の旗を掲げているのが下級騎士。
王族騎士の旗は紫紺だが、彼らは紫のテントの周囲を固めている。



428以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:37:28 ID:7T1J403gO
ミセリが下級騎士の中にツンの姿を探していると、観客席に別のどよめきが広がった。
目を戻すと荒巻が演説を中断し、膝を折って敬礼の姿勢をとっている。

何事だろうか。ミセリが疑問を顔に浮かべる前に、鈴の音のような美しい声が場内に届けられた。


『……父王に代わり、私がこの模範演武を見届けます』

ミセ*゚ー゚)リ「え、この声……?」


ミセリの呟きは非常に小さなものだったが、隣に立つ観客は不快そうに肘を動かした。
驚くのも無理は無いだろう、声の主はヨツマが頂く王のものではなかった。


『騎士よ。私達の――ヨツマ王家の誇り高き番犬よ』

『私達がお前達を切り札とする、その意味を示しなさい』


/ ,' 3「聞こえたな、騎士の諸君! 我らを導く御光の君に、最高の演武をお見せせよ!」

( ^ω^)「ディルクレッド、ハンナバル! 出ろ!」

(メ`D´)「ハッ!」(・ー・´)


ブーンが命じ、二人の王族騎士がそれぞれ練兵場に降り立った。
場内に割れんばかりの歓声が響き渡り、騎士による演武が始まる。

ミセリの頭に浮かんだ疑問は、すぐに吹き飛ばされてしまう。



429以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:38:46 ID:7T1J403gO
……

ミセ*゚ー゚)リ「うおおおお!!」


最初の集団での戦闘を想定した演武や続く個人の決闘を模した演武、様々な形式で騎士達が激突する。
場内の歓声は収まるどころか激しさを増し、気付くとミセリも大声をあげて応援していた。

数十人以上の銀色の騎士達が一糸乱れずに動き激しく攻防を繰り広げる様は、圧巻の一言では言い表せない。

王族騎士は言うまでも無く、上級騎士や下級騎士まで全てが一体となり場を沸かせていた。

……そして、観客が最も期待を寄せていた演武が始まった。

場内に十数人の上級騎士が隊を組み、武器を構えて見せる。



430以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:47:20 ID:7T1J403gO
( ‐λ‐)

( 个△个)

( δJδ)


彼らの実力は、これまでの演武の中で十二分に見せ付けられていた。
しかし、観客達の歓声を浴びているのは、今だけは彼らでは無い。

向かい合う形に降り立ったのは、白銀の鎧に身を包んだ一人の王族騎士。

最強の二文字を背にする、たった一人。


( ^ω^)「……さて。遠慮は要らない、本気で倒しに来いお?」


騎士団の鉦が盛大に打ち鳴らされ、上級騎士達が一斉に動く。

前衛は散開し後衛は弓を引き絞り、全ての戦力がブーンを狙う。


( ^ω^)「ふぅ……ん。かなり訓練したみたいだおね。でも、」


飛び込んで来る矢を一本一本切り払い、ブーンは静かに盾を構える。

ただそれだけで、練兵場に居る全ての人々がこの演武の結末を理解した。


( ^ω^)「まだまだ……まだまぁだ、僕には遠く及ばないお」


十五対一。
最後で最大の演武は絶望的な戦力差を以て。



431以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:51:46 ID:7T1J403gO
……

演武は、やはりブーンが勝った。

十五人もの騎士が全力で掛かり、ブーンはそれらを容易く圧倒。
終わってみれば、ダメージらしいダメージなど一切与えられていない。

人の引けた練兵場で、ミセリは一人座席に座っていた。


ミセ*゚ー゚)リ「強かったなぁ、ブーンさん……」

ξ゚⊿゚)ξ「あれは手加減しすぎな位ね。あの程度、ブーンなら両目を瞑っていてもできるわ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん。それも含めて、やっぱり物凄く強いよ。……お久しぶり、ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「驚かないのね、せっかくこっそり忍び寄ったのに」


少しだけがっかりした様子で、ツンは改めてミセリの隣に腰掛けた。
鎧を纏ってはおらず、ベージュの半袖の胸元には増幅器を兼ねたハウライトのペンダント。

ミセリは結局、演武に参加した騎士の中に彼女の姿を認める事ができなかった。



432以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:56:02 ID:7T1J403gO
ξ゚⊿゚)ξ「ま、あの男が本気なら上級騎士が全員で掛かっても負けるわよ。片手で瞬殺」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか……」

それだけの強さがあれば、そうぼんやりと考える。

まるで心を読んだかのように、ツンがミセリの顔を覗き込んだ。


ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇミセリ。あなた、何を悩んでるの?」

ミセ*゚ー゚)リ「へ? うーん、晩御飯は何にしようかな、って」

ξ゚⊿゚)ξ「そうじゃなくて。……キャラバンを出た辺りから、たまに一人でボーっとしてるでしょ?」

ミセ*゚ー゚)リ「キャラバンを出た辺り……」

ξ-⊿-)ξ「……いいえ。白猿猴と戦った頃から、ね」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……。別に?」

ξ゚⊿゚)ξ「よし、わかった。ちょっと来なさい」

ミセ*゚ー゚)リ「んぇ?」



433以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/23(土) 23:57:58 ID:7T1J403gO
ツンはおもむろに立ち上がり、鉄製の柵を乗り越えて練兵場内に飛び降りた。

ミセリを振り返り、手招きする。


ミセ*゚ー゚)リ「ええと……私も入っていいの、ここって?」

ハソ ゚-゚リ「いいんじゃない、私が一緒なら。どうせ文句を付けてくる奴だって居ないでしょ」

ミセ;゚ー゚)リ「ちょ、ちょっと待ってよ……よっ!」


ミセリがその後を追うと、既にツンは楕円の外枠――装備品の保管庫の鍵をこじ開けていた。

重木の扉が軋みながら開き、埃っぽい空気が漏れだす。

ツンはためらわずその奥に進み、暗い中をゴソゴソと探る。



434以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:04:14 ID:nHOCJIvkO
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇミセリー、あなたの親和って何色?」

ミセ*゚ー゚)リ「え? 緑と、あと白がちょっと」

ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん、じゃこれかな。ほいっ」

ミセ;゚-)リ「っと!」


ツンが投げ渡したのは、鞘に入ったボロボロの長剣だった。

柄には安っぽい黄緑色の増幅器が付けられており、引き抜くと刃は鈍く潰されている。



435以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:12:13 ID:nHOCJIvkO

ミセ;゚ー゚)リ「ええと、一応聞くけど……何するの?」

ξ゚⊿゚)ξ「模範試合。……だってズルいじゃない、隊長たちだけ楽しんじゃって」


聞きながらも、ミセリは既に親和を試していた。

慣れない増幅器だが、それなりの出力を出す事はできるようだ。

同じように刃の潰れた片手剣、小さな盾を構えたツンが保管庫を出てきて、数度地面をつま先で叩く。


ξ゚⊿゚)ξ「私達だって、たまには思いっきり剣を振り回したいじゃない、ね!」

ミセ;-ー゚)リ「ッ! ……それなら、訓練とかでやればいいんじゃない、のッ!?」


ツンの片手剣を長剣の腹でいなし、返しの一撃は盾に阻まれる。

バックステップで距離を取ったミセリを、ツンは追撃してこなかった。



436以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:13:56 ID:nHOCJIvkO
ξ゚⊿゚)ξ「嫌よ、そんなの。最近みんな戦争がどうとかでピリピリして辛気臭いし」

ミセ;゚ー゚)リ「それで私ですか」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。あなたも同じでしょ?」

ミセ ゚ー゚)リ

ξ゚⊿゚)ξ「さ、構えなさい。折角だから親和も使って、本気でやりましょう」

ミセ*-ー)リ「んー……わかった。でも、」



437以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:16:17 ID:nHOCJIvkO
ミセ*゚ー゚)リ「後悔しないでね。私は手加減なんてしないよ」

ξ゚ー゚)ξ「そっくり返すわ。大丈夫、騎士に負けたって恥にはならないから」

一撃目、盾腕の反対――向かって右側から、薙ぐように一閃。片手剣に阻まれる。
二撃目、勢いを残したまま回転し後頭部を柄で殴打。頭を縮められてかわされる。
三撃目、ゼロ距離から右の膝蹴り。親和を用いて守られたのだろう、『拒絶』の感触。
四撃目、肩からの体当たり。ようやくダメージらしいダメージが通った。


ツンはよろけた体勢のまま剣を振り回し、ミセリの追撃を防ぐ。

ミセリは深追いせずに距離を取り、剣を構えた。


やはりツンの防御は非常に堅い。
僅かな攻防を通して、ミセリは相手の強さを十分に理解した。

……ならば。



438以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:22:02 ID:nHOCJIvkO
ξ-⊿゚)ξ「つー……、相変わらず速いわね」

ミセ*゚ー゚)リ「えへへ、そうでしょ。ごめんね、私──」


縞。
防御されるよりも、反応されるよりも早く動けば良い。

息もつかせぬミセリの猛攻に、ツンは次第に押されてゆく。


ξ;-⊿゚)ξ「ッ! ……!」

ミセ*゚ー)リ「でぃさんと戦うまで、もう二度と負けないって決めたんだ」


十秒に満たない短い攻防。三度盾で防がれ、二度剣で防がれ、親和は五度起動させた。

──押している。ミセリの心に、ほんの少しだけ“隙”が生じる。

更に追撃を仕掛けるミセリを、ツンの狙い澄ました片手剣が迎え撃つ。


ξ;-⊿゚)ξ「へぇ……霧村でぃ、あの無口な侍ね」

ミセ;゚-゚)リ「っとと、」


顔面をたたき割るように繰り出された斬撃を、ミセリは身体全体を反らせて避けた。
ツンの容赦のない追撃が降り注ぎ、ぎりぎりで回避しながらかろうじて距離を取る。

ミセリの黒い前掛け――実は纏亭の制服だが――数か所が裂け、ボロ衣と化していた。
それでも、ミセリ本人はかすり傷一つ負っていない。ミセリの黒い前掛け――実は纏亭の制服だが――数か所が裂け、ボロ衣と化していた。
それでも、ミセリ本人はかすり傷一つ負っていない。



439以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:25:19 ID:nHOCJIvkO
ξ゚⊿゚)ξ「あの侍と何かあったの?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、決闘して負けた」

ξ;゚⊿゚)ξ「はぁ!? いつ、どうして!?」

ミセ;-ー゚)リ「キャラバンに居た頃。ちょっと私がワガママ言って」


ミセリは、でぃとの闘いを思い出していた。

霧村でぃ。
目にもとまらぬ抜刀の速さ、正確無比な斬撃、峰打ち。
骨折一つ、長引く怪我一つ残さない、無骨な加減と優しさ。

小熊・ポン太。
そう言えば、今朝エサ食わせるの忘れてたっけ。


ミセ*゚ー゚)リ「強かったよ、でぃさん。手も足も出なかった。……頭は出たけど」

ξ;゚ー゚)ξ「それでも、まだ諦めてないんでしょ? あなたって娘は本当に……」

ミセ*゚ー゚)リ「バカ、でしょ。自覚はあるんだ、だって──」


──あぁ、そうか。
ミセリは一人、納得した。



440以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:30:11 ID:nHOCJIvkO
ξ゚⊿゚)ξ「?」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか、そうだよ。私は」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、どうしたのミセリ? さっき頭とか強くぶつけ過ぎた?」

ミセ*^ー^)リ「あはは……楽しかったんだよ。楽しいんだよ! あはははは!」
  _,
ξ;゚⊿゚)ξ

ミセ*゚ー゚)リ「さ、続けよう、ツン! 最高だよ、私、ツンと出会えて本当に良かった」
  _,、_
ξ;゚⊿゚)ξ

ミセ*゚ -゚)リ「……って、ツン……ツン?熱中症か何かかな、顔が変だよ?」

ξ#゚⊿゚)ξ「……もう、人が心配してたら! 覚悟しなさい、騎士団式の説教してやるから」

ミセ*゚ー゚)リ「ふふん、ツンじゃ私に膝すら着かせられないよ」

ξ#゚ー゚)ξ「へぇ、試して……みる!?」

ミセ゚ー゚)リ「望むところだよ!」


三度、二人の少女は激突する。

騎士と剣士、冒険者と冒険者。
二人の決闘ごっこは数時間にも及び、お互いのボロの武器が壊れるまで続いた。



441以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:30:27 ID:nHOCJIvkO
ξ゚⊿゚)ξ「?」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか、そうだよ。私は」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、どうしたのミセリ? さっき頭とか強くぶつけ過ぎた?」

ミセ*^ー^)リ「あはは……楽しかったんだよ。楽しいんだよ! あはははは!」
  _,
ξ;゚⊿゚)ξ

ミセ*゚ー゚)リ「さ、続けよう、ツン! 最高だよ、私、ツンと出会えて本当に良かった」
  _,、_
ξ;゚⊿゚)ξ

ミセ*゚ -゚)リ「……って、ツン……ツン?熱中症か何かかな、顔が変だよ?」

ξ#゚⊿゚)ξ「……もう、人が心配してたら! 覚悟しなさい、騎士団式の説教してやるから」

ミセ*゚ー゚)リ「ふふん、ツンじゃ私に膝すら着かせられないよ」

ξ#゚ー゚)ξ「へぇ、試して……みる!?」

ミセ゚ー゚)リ「望むところだよ!」


三度、二人の少女は激突する。

騎士と剣士、冒険者と冒険者。
二人の決闘ごっこは数時間にも及び、お互いのボロの武器が壊れるまで続いた。



442以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:35:24 ID:nHOCJIvkO
……


ξ;-⊿-)ξ「……見たか……これが、騎士の実力よ……」
ミセ;-ー-)リ「ふん……私だって、民宿の一人娘なんだから……」

ξ;-⊿-)ξ「む……まともな装具を使っていれば、まだ戦えたわよ」
ミセ;-ー-)リ「ふん……私なんて、民宿の看板娘なんだよ……」

ξ;=⊿=)ξ「何なのよ、その民宿押しは……」
ミセ;=ー=)リ「……母さんを初めとするヨツマ最強生物の証、みたいな?」


互いの剣が根元からへし折れると同時に、ツンは大の字に倒れこんだ。
ツンが大の字に倒れこむと同時に、ミセリも尻もちをつく。

見上げた空に日はすでに傾き、流れる雲の根元は赤く染まりかけている。


ミセ;-ー)リ「よっ……と」
ξ;-⊿)ξ「……? うぐッ!」


ミセリは疲れた体を無理やり動かし、武器を捨てて親和を解いたツン目がけて倒れこんだ。



443以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:37:53 ID:nHOCJIvkO
ξ;-⊿)ξ「み、ミセリ、重い……どいて……」
ミセ;=ー)リ「ヤダ。……ねぇツン」

ξ;-⊿)ξ「……言うなよ?」
ミセ;゚ー)リ「このまな板」

ξ#-⊿)ξ「……立て、小娘。第二ラウンドだ」
ミセ*-ー)リ「んー、止めとく。もうちょっと休みたい」

怒声を返したツンも、それ以上戦う気力までは無いらしい。
力なく伸ばした腕で、結局はミセリの頭に振り下ろす。


ξ;-⊿)ξ「ワガママね……」

ミセ*-ー)リ「ツンだから良いの」


静かに、ゆっくりと時間が流れてゆく。

ヨツマ市の外れに位置する練兵場、その外からも物音は聞こえてこない。



444以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 00:47:53 ID:nHOCJIvkO
ミセ* ー)リ「私、さ」
ξ-⊿)ξ「ん?」

ミセ* ー)リ「実はちょっとだけ、戦うのが怖くなってたんだ。
    纏亭で皆のご飯作って、運んで、皆が楽しく話すのを見て。
    死んじゃうかもしれない、とか、殺されちゃうかもしれない、とか考えるのが嫌で」
ξ-⊿゚)ξ「……」

ミセ* ー)リ「生きるために沢山の生物を狩って、いつかは私もそうして殺されるんだと思うと、
    剣を振る事がすごく悲しいことだと思いかけてた」


戦いが悲しいだけなら、なんの為に戦うのか、と。
……しかし丸一日もどつきあった今は、そんな考えは頭から抜けていた。


ミセ*゚ー゚)リ「ありがと、ツン。私、決めたよ。私もラウンジに行く。
    早くビロ君とぽっぽちゃんに会って、一緒に“私達の”冒険をするんだ」

ξ-⊿-)ξ「……そう。力になれて良かったわ」
ミセ*゚д゚)リ「のっ!?」


ツンは両手を伸ばし、ミセリの身体を抱きしめた。
薄い夏服二枚を通して互いの体温と鼓動とが伝わる。

ξ-⊿-)ξ

ミセ*゚д゚)リ
ミセ*゚ -゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ


静かに、ゆっくりと雲が流れてゆく。
穏やかな時間は、それからしばらく続く。

……やがて、聴力に優れたミセリが数人分の足音を聞きつけるまで。



445以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 01:13:28 ID:nHOCJIvkO
ミセ*゚ -)リ「ん……」

ξ-⊿)ξ「?」

ミセ*゚-)リ「誰か来たのかな、足音が聞こえる」


足音は次第に大きくなり、ミセリは身を起こす。
少し遅れて、楕円の出口の一つ、外に続く石門から高級な貴族服を纏った男が数人の取り巻きを従えて現れた。

( `v´)

男はミセリ達の姿を認めると、早足に歩み寄ってくる。


ミセ*゚ー゚)リ「ん……何かな、ツン……。ツン?」
ξ゚⊿゚)ξ「……」


ツンの返事は無かった。
この時ミセリははじめて、彼女が男を冷たい目で睨んでいると気付く。


( `v´)「探しましたよ、ツン様。緊急の用にございます」



446以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 01:23:03 ID:nHOCJIvkO
ξ゚⊿゚)ξ「今じゃなければならない話題なの?」

( `v´)「はい。しかし……」

ミセ*゚ー゚)リ「……」


貴族服の男はミセリを横目に見た。
その意を察し、取り巻きの一人がミセリに詰め寄る。


(ε3ε)「おい小娘、すぐに消えろ。お前が聞いていい話では──」
ξ゚⊿゚)ξ「貴方が消えなさい」

(ε3ε)「は……え?」

ξ-⊿-)ξ「二度も言わせないで、私は消えろと言ったわ。ねぇ喜多」


まるで感情の無い顔で、ツンは宣告する。
彼女の顔は、ミセリがそれまでに見たどのツンよりも冷淡だった。



447以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 01:27:29 ID:nHOCJIvkO
ξ-⊿゚)ξ「貴方の部下が、このツン・デクレアラの親友に暴言を吐いたわ。貴方はどうするの?」

(;`v´)「も……申し訳ありませんッ! 直ちに処分を、」

ξ-⊿-)ξ「直ちにではなく、後ににして。私の時間が無駄になるから」


貴族服の男は、雷に打たれたように竦み上がる。
同情する様子すら見せず、ツンは先を促した。


ξ゚⊿゚)ξ「話を続けて」
(;`v´)「は、しかし……」

ξ゚⊿゚)ξ「貴方は一日に三度も私を怒らせるつもりかしら?」

(;`v´)「……お父上の意識が戻られました。ただし治療師によると、快復の見込みは無いそうで……」

ξ゚⊿゚)ξ「長くないのね」

( `v´)「……はい」
ξ-⊿-)ξ「すぐに向かうわ……ミセリ」


首を振りながらツンは立ち上がり、ミセリに手を差し伸べ助け起こした。
男達に向けたのとはまるで別人のような優しい顔で言う。



448以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 01:34:34 ID:nHOCJIvkO
ξ-⊿゚)ξ「ゴメン! ちょっと急用ができたみたいだから、あたしはそろそろ行くわ」

ミセ;゚ー゚)リ「え、うん……」

ξ゚⊿゚)ξ「ほんとゴメンね、その内説明するから……あ、折れた剣はその辺りに置いておけば良いから」

ミセ*゚ー゚)ノシ「了解ッス。じゃあまたね、ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「ん。またね、ミセリ」


ツンと男達は練兵場を立ち去り、ミセリ一人がその場に残される。

ふと見上げると、赤みを増した空を分厚い雲が覆い始めていた。



ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 幕間β 了



boonkei_honpo at 22:16│Comments(0)TrackBack(0)

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