( ^ω^)悪意のようです
-
519 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:22:08.13 ID:O1eAIe2e0
- 15章
('A`)「あははははははははははは! あー! あーあー……はは……ははははははははは!」
最高。エクセレント。ざまあみろ。
この前しぃに写真を送ってからと言うもの、思い出すたび笑いが止まらない。
ここ最近のしぃからの愛の連絡で俺には良く分かるぜ。
奴はしぃと繋がりを失った。
('A`)「くふ……ふふふふ……あーっははははははははははは!」
惨めだなあ。内藤ホライゾン。
大体しぃが本気でお前のことを好きなわけないだろ?
これはなぁ、照れ屋のしぃが、俺の気を引く為に、打った芝居なんだよ。
-
522 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:23:28.63 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「大丈夫。わかってるよ、しぃ。ふふふ、本当に可愛いなあ」
この歯痒い位の距離感。
お互いに分かりつつも、決してそれを表に全て出すことは無い。
素晴らしい純愛だろ。マジでこの世で最高の、神聖なカップル。
性欲しか無い豚どもが決して辿り着けない高み。
俺達は正しい人間。霊長類様。
('A`)「……さーて、あとはこのクソどもを誘導するだけだな」
しかし、どこの誰だか知らないが、いいシステムを作ってくれたもんだ。
奈落だかなんだか知らないが、書かれている名前が自動的に凶悪犯になる。
そしてそれを有志が殺してくれる。
-
524 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:24:37.17 ID:O1eAIe2e0
- 皆この中から実行犯が出ていると気付いているのに、
殺人犯は自分達とは関係ない遠い存在として祭り上げている。
そうして自分は綺麗であり続けようとするクソッタレな奴等だ。
そして、このシステムの最高にクソッタレなところは、
既にシステムが一人立ち出来るほど成熟しているところだ。
('A`)「アップロード、完了。あとはアドレスを張るだけ、と」
奴等はいわば目的の無い憎悪だけの代物。
方向を示せば、それに付き従う生粋の能無し野郎だ。
だから?
そう、例えばもうその目的は『本物』である必要は無いんじゃないか?
('A`)「俺が模倣した第二の閻魔帳の登場だ」
煽り文句とアドレスを張れば完了。
例え失敗したとして、俺に損はあるか? 無いだろう?
罪はあるか? 無いだろう!?
-
526 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:25:45.09 ID:O1eAIe2e0
- 296 :名無し:2008/01/13(日) 18:43:23.07 ID:dfg+Uqw80
>>295
これ、マジ?
297 :名無し:2008/01/13(日) 18:44:20.09 ID:A3kmBOWfO
祭り?
298 :名無し:2008/01/13(日) 18:44:27.44 ID:TTvPZEeq0
おい、この名前検索かけたら引っかかったぞ
こいつ人殺しかも
('A`)「バーカ、そりゃ俺のブログの記事だよ。それも架空の事件のな」
食いつきは上々。能無しどもめ。
後は決定打があれば……。
-
528 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:26:57.24 ID:O1eAIe2e0
- 299 :名無し:2008/01/13(日) 18:48:40.47 ID:SsdFKgfQO
その事件あんまり名前挙がらないけど、有名だぞ。
本当はそいつがやったってのが定説らしい。
300 :名無し:2008/01/13(日) 18:49:16.16 ID:pcDfjSiv0
>>299
だよな、知らないとかマジゆとりだろ
301 :名無し:2008/01/13(日) 18:52:22.50 ID:ghEfgsGgO
なんだ、またクズかよ
氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね
('∀`)「……クク……ククク……あーっはっはっはっは!
なんだよこいつ等! マジで想像力豊か過ぎるだろ!」
-
531 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:28:04.42 ID:O1eAIe2e0
- 最高だ。
これで俺が立ち上げたサイトは地位もバッチリ。
記念すべき第一号の名前? もちろん内藤ホライゾンだ。
しぃからいろいろな事を教えてもらってるからな、わけねぇよ。
('A`)「これで俺達を邪魔する奴はもう完全に居なくなるんだ。
そしてこれからも誰も俺達を邪魔できない。やべえ」
ほっときゃ誰か頭のおかしい奴がやってくれるだろう。
そん時は存分に褒めてやるぜ。
歪んだ現代の救世主だ! ってな。
('A`)「おっと、しぃを大分ほったらかしにしちゃったな」
しぃが寂しがっちゃうからな。
大丈夫、今繋ぐよ。
-
535 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:29:37.46 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「ん? なんだ。ケンカ?」
やけに怒鳴ってる奴の声が聞こえる。
この声は……まさかアイツか?
おい、今しぃは家に居るんだぞ。
なんでお前の声が聞こえるんだよ。
('A`#)「おい! ふざけんな! 帰れよ!」
クソッタレが! 上手く聞き取れねえ!
なんだ、何を話してるんだ。
('A`)「……収まった?」
なんだ、あいつ帰ったのか?
妙に静かになりやがった。
くそ、しぃに何かしてたら承知しねえ。
-
539 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:30:48.78 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「……は?」
今、お前なんて言った?
('A`#)「おい、内藤! お前今なんて言った!
救急車って言ったのか!? おい!」
ふざけんな。
なんで救急車呼んでんだよ。
早くしぃの声聞かせろよ。
('A`#)「クソッタレ!」
早くしぃのところに行かなきゃ。
早くしぃを助けなきゃ。
救急車とかマジふざけんなよ。
-
543 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:32:35.63 ID:O1eAIe2e0
*
('A`)「はぁ……はぁ……はぁ……」
そして俺が辿り着いたしぃのマンション。
その駐車場近くに人が疎らに集まっていた。
('A`)「……」
遠巻きに眺めてる奴等に、うずくまった奴等。
何を見てるんだよ。
誰か答えろよ。
-
547 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:33:50.45 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「嘘……だろ……」
そいつらが見ていたのは、冷たい地面にうつ伏せに寝るしぃだった。
髪は乱れてて、腕と足が操り人形みたいに変な方向を向いていた。
('A`;)「しぃ!」
駆け寄って、肩を掴んで起こした。
('A`)「え……潰……れ」
押しつぶした仮面みたいに、しぃの顔は平らになっていた。
後ろで誰かの吐く音がした。
('A`#)「なに吐いてんだよ! しぃの顔見て吐いてんじゃねぇよ!」
サイレンが聞こえる。
車のタイヤが、小石を踏む音がする。
マンションの壁に真っ赤な模様が見える。
しぃの顔は潰れたまま。
-
552 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:35:08.31 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「……ゆるさねえ」
俺が甘かった。
内藤ホライゾンは、正真正銘のクズだった。
俺の罰し方がぬるかったばかりに、奴はつけあがった。
あいつは……。
('A`#)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
ぶっ殺す……ぶっ殺す! ぶち殺してやる! ぶち殺してやる!」
待ってられねえ。俺が、閻魔になる。
しぃを殺しやがったあの豚野郎を、もう一秒たりとも放置できない。
-
558 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:36:10.17 ID:O1eAIe2e0
- 病院へタクシーで向かっている間も、
俺は泣きながら内藤を殺すことを考えていた。
警察に連れて行かれて事情聴取を受けている間も、
俺は話しながら内藤を殺すことを考えていた。
内藤を殺すことを考えている間も、
俺は内藤を殺すことを考えていた。
内藤を殺すことを考えていた。
俺は内藤を殺すことを考えていた。
続
-
561 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:37:59.47 ID:O1eAIe2e0
- 十六章
川 ゚ -゚)「例のスレッド。あなたは御覧になりましたか」
(´・_ゝ・`)「ああ。過去に起こった事件の時のログを読んだ」
川 ゚ -゚)「では最近の動向は?」
(´・_ゝ・`)「なんか変わったのか?」
川 ゚ -゚)「……はい」
クーは上着のポケットからPDAを取り出すと、
いくらか操作を加えてデミタスに渡した。
画面に映されていたのは、今話題に上げたスレッドであった。
(´・_ゝ・`)「これは?」
川 ゚ -゚)「とにかく読んでみてください」
言われるままにスレッドの流れを追うデミタス。
しかし、彼にはクーが何を言いたいのかが把握できない。
-
564 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:39:06.59 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「分からん。俺が見たのと同じに見えるが」
川 ゚ -゚)「そのアドレス、踏んでみてください」
(´・_ゝ・`)「ん、これか?」
指差されたアドレスを、デミタスはそのままペンでタッチした。
すると開かれたページは、何度も見た奈落というサイトのようだった。
(´・_ゝ・`)「……このサイトが何だって言うんだ?」
川 ゚ -゚)「そのサイト、例のサイトじゃないんです」
(´・_ゝ・`)「ん? どういうことだ。被害者の名前も書いて……おい、名前が違うぞ」
川 ゚ -゚)「模倣サイトなんです」
(´・_ゝ・`)「……模倣サイト? 改装でもなく、あくまでも模倣サイトなのか」
川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「だとしたらこのスレッドに書き込んでる奴らはどうして気付かない」
川 ゚ -゚)「いえ、みんな気付いています」
(´・_ゝ・`)「……偽物だと気付いてるのに、こんなに盛り上がってるってか」
川 ゚ -゚)「もはや、彼らには関係ないんです」
(´・_ゝ・`)「……」
デミタスは眉間の辺りを押さえると、舌打ちをし、閉じた歯の隙間から鋭く息を吸った。
-
570 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:40:10.46 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「これは……予想以上にヤバイな」
川 ゚ -゚)「ええ」
(´・_ゝ・`)「それで、お前はここに名前を書かれから、助けてくれって俺に言いにきたんだな?」
川 ゚ -゚)「いえ、そのサイトには私の名前はありません」
(´・_ゝ・`)「何? じゃあ何だってんだ」
川 ゚ -゚)「この流れを止めてください」
(´・_ゝ・`)「……何故?」
川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「まあこの流れが悪いことは誰にだって分かる。
だけど、それを一般人のお前がわざわざ他人にまで頼む意味が分からない」
川 ゚ -゚)「……罪悪感です」
(´・_ゝ・`)「……お前、まさか……」
川 ゚ -゚)「私がオリジナルの、奈落の管理人なんです」
(´・_ゝ・`)「……」
川 ゚ -゚)「……」
デミタスはジッとクーの顔を見つめ、
クーもまたデミタスから目線を逸らすことは無かった。
-
577 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:41:34.53 ID:O1eAIe2e0
- やがてデミタスは自らのポケットに視線を移すと、
そこからタバコを取り出し、火を点けた。
(´・_ゝ・`)「落ち着きがなくなるとタバコを吸いたくなるんだ。我慢してくれ」
川 ゚ -゚)「どうぞ」
ゆっくりと時間を掛けて煙を肺に落とし、
タバコを口から離すとそのまま数秒静止。
そして吸った時と同様に静かに、ゆっくりと紫煙を口から逃がしていく。
そうして何度かタバコを燻(くゆ)らせたデミタスは、改めてクーの顔を見た。
-
582 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:43:10.05 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「お前なのか」
川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「あんなに沢山殺しといて、今更罪悪感か?」
川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「反論は無いんだな」
川 ゚ -゚)「形はどうあれ、私は共犯に違いありません」
(´・_ゝ・`)「……違うな。お前はそんな奴じゃない」
川 ゚ -゚)「推定で人格を否定しないで下さい」
(´・_ゝ・`)「人格は他人が決めるもんだ」
川 ゚ -゚)「それを否定する権利は私にあります」
(´・_ゝ・`)「ふん、人殺しめ」
川 ゚ -゚)「……」
綺麗に磨かれたガラス細工の灰皿に、デミタスは煙草の火を押し付けた。
そしてグラスに口を付けると、それを持ったままクーを指差した。
(´・_ゝ・`)「断言する。お前はこの状況を楽しんでいた。
少なくとも自分のサイトだけだったときはな」
川 ゚ -゚)「では何故私は今ここにいるのですか?」
(´・_ゝ・`)「さあな、俺は哲学が苦手だからな」
川 ゚ -゚)「はぐらかさないで下さい」
(´・_ゝ・`)「それはお前だ。言いたいことがあるなら言え。俺はお前のカウンセラーじゃねえんだ」
川 ゚ -゚)「……」
溜息を吐き、クーはデミタスから視線を外すとカウンターに腕を乗せた。
そしてグラスを両手で握り、ポツリポツリと語り始めた。
-
586 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:45:18.45 ID:O1eAIe2e0
- 川 ゚ -゚)「事の始まりは、私がある事件を目撃したことに始まります」
(´・_ゝ・`)「手短に頼むぞ」
川 ゚ -゚)「はい。あれは私がとある用事でレストランに急いでいる時でした。
少年と口論をしていた男が、階段の上から少年を突き落としたのを見てしまったのです。
少年は全身を強く打って、左下半身が麻痺するという不幸を被りました」
(´・_ゝ・`)「そりゃあ、可哀想だな。その男も何を考えていたんだか」
川 ゚ -゚)「しかし、男は逮捕すらされませんでした」
(´・_ゝ・`)「は? だって、お前見てたんだろ? それに、周りにまだ人も居るだろ」
川 ゚ -゚)「いえ、偶然にも私とその男、そして少年の三人だけだったんです」
(´・_ゝ・`)「……となると、お前も男も犯人はもう一人の方だと言うだろうな」
川 ゚ -゚)「ええ。しかし最終的に、少年が足を滑らせた事故という形で終わりました」
(´・_ゝ・`)「救われねえな。……まさか、その男の名前は」
川 ゚ -゚)「はい、あのサイトで最初に挙げた名前です」
-
590 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:47:04.12 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「……読めてきたな。お前は無実とはいえ、その男と運命共同体だ。
恐らくお前らは、お互いに声には出さずとも通じ合っていたはずだ」
川 ゚ -゚)「ええ、そうですね。少年は更に不幸なことに、記憶までもが欠落していたのです。
覚えていないのだから余計なことはするな。男の眼はそう言っていました」
(´・_ゝ・`)「お前の眼もな」
川 ゚ -゚)「……。そして私は男と何度か外で会うようになりました。
世間話のようなものをしながらの、腹の探り合い。
私は、会うたびに目の前の男に嫌悪感を募らせていきました」
(´・_ゝ・`)「……」
川 ゚ -゚)「……勿論、私自身に対しても」
(´・_ゝ・`)「それで、サイトを立ち上げたと」
川 ゚ -゚)「はい。ですが、正直なところこんなことになるとは夢にも思いませんでした。
最初は、ただこういう悪人が居るということだけを知らせたかっただけなんです」
(´・_ゝ・`)「だけどな、お前はただ情報を垂れ流しただけで、
その男の本質には触れてないじゃないか。それでどうして知らしめられる」
川 ゚ -゚)「書き込めばいいんです」
(´・_ゝ・`)「……お前」
川 ゚ -゚)「写真や事件の概要を至る所に書き込むんです。出来るだけ感情を煽るようにして」
(´・_ゝ・`)「しれっとした顔で言いやがって……」
-
594 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:48:58.26 ID:O1eAIe2e0
- 川 ゚ -゚)「そうして広く認識されたところで、悪は裁かれるということを知らしめるため、
私はサイトにあらかじめ記載しておいた日付に、彼を殺しにいきました」
(´・_ゝ・`)「なるほど。流れの出来ていない一人目は、おまえ自身がやったってわけか」
川 ゚ -゚)「いえ、ところが彼は殺されていたんです。私以外の別な人物に」
(´・_ゝ・`)「……」
川 ゚ -゚)「それが誰かは今も分かりません。しかし掲示板はこの事実に熱狂し、
殺人犯を神と崇め、殺人犯もまた、それに酔いしれているようでした」
(´・_ゝ・`)「待て、本人が来たのか」
川 ゚ -゚)「ええ」
(´・_ゝ・`)「しかし、お前犯人が誰なのか分からないんだろ?」
川 ゚ -゚)「舌です」
(´・_ゝ・`)「……舌?」
川 ゚ -゚)「犯人らしき人物は最初、事件が明るみに出る前に、
『舌を切り取った』と書き込んでいたんです。そして、事実が遅れてそれに答えた」
(´・_ゝ・`)「……それから舌を切り取るなんていうのが習慣になったのか」
川 ゚ -゚)「恐らくそうでしょう」
-
598 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:50:10.21 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「しかし……そんなに早くから、始まっていたのか……」
川 ゚ -゚)「ええ。私一人から生じたはずだった悪意が、いつの間にかネットの海を伝播し、
気付けば手の付けられないところまで成長してしまったのです」
(´・_ゝ・`)「気付けば……ねえ。ところで、二人目以降の情報はどうやって手に入れた」
川 ゚ -゚)「SNS……ソーシャルネットワーキングサービスはご存知ですか?」
(´・_ゝ・`)「知ってるが……」
川 ゚ -゚)「憎しみに駆られた私は、あるSNSに行き、悪人らしい人物を探し出して、
コンタクトを取るようになりました。もちろん、実際に会ったりもしました」
その言葉にデミタスが薄く笑った。
(´・_ゝ・`)「ふん、やっぱりお前は下衆だな」
川 ゚ -゚)「そういった言葉を使う方も、どうかと思いますが」
(´・_ゝ・`)「お前、二人目の情報をサイトに上げた時、どんな気分だった?」
川 ゚ -゚)「……」
-
601 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:51:18.66 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「俺が言ってやろうか。
お前はこれまで味わったことの無いような気分の高揚に酔いしれていた。
そしてサイトを更新した後のスレッドの反応を想像して悦に浸り、
更新後、想像通りに沸き立つスレッドの様子を見て、更に快感を得た」
川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「一人目で止めておけば、こうはならなかったかもしれない。
しかしお前は癖になっていたんだ。この自分が注目されている感覚に。
お前、二人目にはそんなに恨みも無かったんだろ」
川 ゚ -゚)「それは違います。二人目だろうが三人目だろうが、彼らは間違いなく悪者でした。
だから私はそれを伝えるために……」
(´・_ゝ・`)「それじゃあ、二人目はお前、殺しに行ったのか?」
川 ゚ -゚)「それは……」
(´・_ゝ・`)「大方、家でスレッドの流れでも見ていたんだろ。次も殺されるのか、殺されないのか、
そう考えながらお前は画面を見ていた」
川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「まるで他人事だ。お前の確たる意思はなく、
既にお前も茫漠(ぼうばく)とした悪意の内の一つに、成り下がっていたんだ」
長い対話の果てに、クーは言葉を失い、目を伏せた。
しかしその様子を見ても尚、デミタスは口を開くことを止めなかった。
-
603 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:52:26.33 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「それが、今更になって罪悪感か。面白すぎるな。
いったい俺に何をしてほしいんだ? 褒めてあげれば良いのかな? ん?」
川 ゚ -゚)「誰かに知って欲しかったんです。不確かなネットの世界ではなく、現実の世界で」
(´・_ゝ・`)「知らせてどうする。俺に何を望んでいるんだ」
川 ゚ -゚)「……知っていただいた今、何故かもうこれ以上何もする気が起きなくなりました」
(´・_ゝ・`)「助けてくれって言ってたじゃないか」
川 ゚ -゚)「そう、でしたね」
(´・_ゝ・`)「……」
萎れてしまった。
デミタスは目の前の女を見てそう思った。
想像よりも脆かった管理人の実態に、デミタスは正直がっかりしていた。
結局は自身も、このネットに共有された悪意の大きさに中(あ)てられ、
実際よりも巨大な悪を勝手に心の中に作り上げていただけなのかも知れない。
そう思い、彼は飲みかけのグラスに口を付けた。
-
605 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:53:30.75 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「……話は終わりか?」
川 ゚ -゚)「……ええ」
(´・_ゝ・`)「……そうか」
唐突に話が途切れてしまったという空気が、彼らを包んでいた。
恐らくは、まだこの話にも続きがあるに違いないが、クーはそれを話そうとはしなかった。
やがて彼女は財布から取り出した札をカウンターに置き、マスターに目配せをした。
意思の疎通が図れたと認識したのか、外套を身に付け、そのまま席を立った。
(´・_ゝ・`)「帰るのか」
川 ゚ -゚)「はい」
ふと、デミタスは自分の手元にあったPDAを思い出すと、
それをクーの元に差し出した。
-
608 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:54:47.91 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「忘れ物」
川 ゚ -゚)「……いいです。それは、今日のお礼にあなたにあげます」
(´・_ゝ・`)「こんな高い物貰えねぇよ」
川 ゚ -゚)「それじゃあ、せめて明日まで取っておいてください」
(´・_ゝ・`)「なんだ? 明日またよこせってか」
川 ゚ -゚)「いえ、明日は私の命日なんです」
デミタスがその言葉の意味を考えているうちに、クーはバーを立ち去った。
(´・_ゝ・`)「……命日?」
やがてその言葉の持つ意味に気付いた時、デミタスは身の震えと共にPDAに飛びついた。
小さな画面を食い入るように見つめがら、慌てた様子で操作をする。
そうして辿り着いた場所はオリジナルの奈落。
そこに表示された文章を見て、デミタスは息を飲んだ。
-
610 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:55:32.82 ID:O1eAIe2e0
[八月二十一日 亡]
八月三十日 素直クール 【詳細】
-
612 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:56:37.73 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「……バカ野郎っ!」
デミタスはすぐにバーを飛び出し、辺りを見回した。
しかし既にクーの姿はどこにも見当たらない。
(´・_ゝ・`)「くそっ! それは違うだろ、一番胸糞悪いじゃねえか!」
だが、デミタスの叫びは誰に届くことも無く、
圧倒的な夜の闇の中へと吸い込まれていく。
そして翌々日、クーは遺体となって発見された。
続
-
620 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:58:34.28 ID:O1eAIe2e0
- 17章
しぃが自殺してから何日かして、
ブーンはツンに家へ呼び出されていた。
しかし確固たる目的があると言うわけでもなく、
居間で二人飲み物を飲みながら、
何を話すと言うわけでもなく、ただ空間を共有するだけだった。
直接現場に居合わせたブーンのストレスもさることながら、
自分の行動が原因になっているツンのストレスも大きなものだった。
二人は互いに罪悪感を抱きつつも、
そのストレスから解放されたいという思いから、
支えを求め合っていることも事実であった。
-
624 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 02:59:47.81 ID:O1eAIe2e0
- しぃが死んだというストレスが、二人を求め合わせ、
求め合うことで罪悪感からストレスが生まれる。
そのジレンマが二人を無言にさせていた。
やがてコップの中の飲み物がなくなり、
二人は手持ち無沙汰そうにテーブルを見つめる。
冷蔵庫のコンプレッサが音を立て始め、
それに乗じて二人ともが姿勢を直した。
しかし、やはり交わす言葉は無く、
やがてコンプレッサの音がまた静かになった。
昼が夕方になり、部屋に差し込む光が少なくなるも、
ツンに電気を点ける様子は無い。
そして、ブーンに帰る気配も無い。
ただこの距離を静かに保ったまま、
二人は時が経つことにも無言の抵抗を示していた。
-
628 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:01:12.23 ID:O1eAIe2e0
- 日が沈み、開いたままのカーテンから、
僅かに月明かりだけが差し込むのみとなった部屋。
そこに、ようやく静寂を破る音が流れた。
軽快なメロディと共に流れる歌声は、
ツンの携帯電話に着信が来たことを知らせるものだった。
ξ゚听)ξ「……もしもし」
暗い部屋で、画面から出るライトを浴びて、
ツンの顔は半分だけ明るくなっていた。
照らされた方の顔に表情らしいものは無く、
それを眺めながらブーンは、もう片方の顔をぼんやりと想像していた。
ξ゚听)ξ「うん、うん、えーと……ウチに居るけど。
うん。ところで、なんで……あれ、切れた」
一体誰からだったのか、ブーンは尋ねようとも思ったが、
立ち上がり電気の紐を引っ張るツンの姿を見て、
言いかけた言葉を飲み込んだ。
-
631 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:02:31.07 ID:O1eAIe2e0
- 電気が点いた瞬間、あれだけ曖昧だった空間が急にその境界をはっきりとさせ、
自分の存在を闇に薄めることも出来ず、ブーンは妙にそわそわとし始めた。
次いでカーテンを閉めるツンの後姿を見て、その腰から尻に掛けてのラインに、
ブーンは俄にあの日の夜の事を思い出した。
あの日の温度、匂い、音。
ツンの表情、声、触り心地。
そして、それらを思い出すたびに、
イメージの奥底からしぃの顔が浮かび上がってくるのだ。
ベランダの外、空中に浮かんだしぃと、表情の曖昧な顔が、
あの日の事を思い出すのを、阻害するのだ。
それは決してしぃの呪いなんかではなく、
自分自身が生み出した幻影である。
しかし、その自分自身が生み出した幻影が、
自分自身を責め立てるのだ。
-
634 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:03:35.05 ID:O1eAIe2e0
- やがてカーテンを閉め終わったツンが、元居た位置に腰を下ろした。
そして、ポツリと呟いた。
ξ゚听)ξ「……私ね……」
ツンが声を出したのを聞いて、ブーンは視線を向けた。
お互いに、この空気をどうにかしようという思いが働いているのを、
なんとなく感じていた。
ξ゚听)ξ「あの時……突然泣いちゃったじゃん」
( ^ω^)「お」
ξ゚听)ξ「……あれね……その、私、しぃを応援してたんだ」
( ^ω^)「……」
話の繋がりが怪しいのは、恐らく何から話そうかを考えているせいなのだろうと思い、
ブーンは下手に質問をせず、しばらくは静かにその言葉に耳を傾けた。
-
637 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:05:13.57 ID:O1eAIe2e0
- ξ゚听)ξ「しぃ、ブーンが好きらしかったし。私も、しぃが幸せになるなら良いと思ったし」
視線が下に動いて、口が一度への字に結ばれた。
ξ゚听)ξ「でも、私どっかで……その、ブーンが気に……なってて、さ。
それで、嫉妬して、ブーンを取っちゃおうって思ったの」
消え入るように囁くツンは俯き、再び口を閉じた。
ξ;凵G)ξ「でも、ね……」
次に口を開いた時、既にツンは涙声だった。
たった三文字を喋るにも必死な様子で肩をわななかせ、
両手は膝の上でギュッと握られていた。
-
642 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:06:25.10 ID:O1eAIe2e0
- ξ;凵G)ξ「私、ブーンを好きじゃなかったの……。
ただ、ブーンが自分のものじゃないのが嫌だっただけなの……」
( ^ω^)「……」
その言葉に、ブーンは唸るようにして喉から空気を漏らした。
体を重ねたと言う事実から、彼には少しばかり、いや、それなりに期待していた面もあったのだ。
好きという気持ちが実らなかったことに対する悲しみと、
これを体験したであろうしぃの心中を想像し、ブーンは心の痛むのを感じた。
ξ;凵G)ξ「私どうしよう……ブーンにも、しぃにも酷いことして……」
( ^ω^)「僕は……」
慰めようと口を開いたブーンだったが、思い浮かべた単語のどれもが嘘偽りで、
それを口に出すのを躊躇ってしまった
-
644 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:07:44.05 ID:O1eAIe2e0
- ξ;凵G)ξ「私のせいで、しぃが……」
( ^ω^)「それは、違うお」
少なくともツンだけのせいではないと思い、ブーンは強めに否定をした。
しかしツンはまるで納得した様子ではない。
ξ;凵G)ξ「じゃあなんで? なんでしぃは死んじゃったの?」
( ^ω^)「それは……」
その言葉にブーンが口ごもり、視線をそらした時、
部屋にチャイムの音が飛び込んできた。
( ^ω^)「……誰か来たお」
ξ゚听)ξ「……ちょっと、待ってて」
涙を拭き、顔を作ると、ツンは早足で玄関の方へ消えていった。
ブーンはそれを目で追うこともなく、ただ心の沈むままに頭を垂れていた。
-
650 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:08:58.65 ID:O1eAIe2e0
- 程なくして、玄関の方から聞きなれない男の荒々しい声が聞こえてきた。
酔っ払った父親でも帰って来たのだろうか。
しかしそれにしては声が若い。
『なんでそんな物持ってるの!』
『いいからあいつを早く呼べっつってんだ!』
ただならぬ雰囲気に、ブーンは玄関の様子を窺いに行った。
そこに居たのは、ツンと、どこかで見たことのある小柄の男だった。
そして手には、刃先まで黒く塗られたバタフライナイフが握られていた。
その光景にブーンは恐怖を感じ、後退ったが、
ツンを助けなければいけないと思い直し、二人の前に姿を現した。
-
655 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:10:33.39 ID:O1eAIe2e0
- ( ^ω^)「ツン、こっちに来るお」
ξ゚听)ξ「ブーン……」
('A`)「おい、見つけたぜ。内藤ホライゾン」
小柄の男が、背中を丸めたまま首だけをぐるりとブーンの方へ向け、目を見開いた。
見上げるような体勢にも拘らず、ブーンはその不気味さに怯んだ。
そして同時にブーンは目の前の男の名前を思い出した。
( ^ω^)「ドクオ……」
('A`)「久しぶりだ。なぁ、ブーン君よ」
ξ゚听)ξ「え、ブーン、知り合いだったの?」
( ^ω^)「……しぃと居た時に、会ったことがあるお」
('A`)「ああん!?」
いきなりドクオが体勢もそのままに大声を上げた。
そして少しの間を置き、ゆっくりと上体をブーンの方へ曲げた。
ナイフの切っ先が自分に向いたことで、ブーンは手のひらに汗が滲むのを感じた。
-
664 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:12:01.98 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「お、ま、え、よぉ」
一文字ずつ言葉を切り、睨みつけながらドクオがブーンににじり寄った。
土足のまま上がるドクオを見て、ツンは僅かに手を伸ばしたが、
止めることはしなかった。
('A`)「自分が、何をしたか、分かってるわけ? ああ!」
更に詰め寄ってくるドクオに、ブーンは気圧されつつも、
なんとか状況を回避しようと考えていた。
しかし心臓がドクドクと拍動し、冷静に物事を処理できない。
( ^ω^)「……何を言ってるのか分からないお」
('A`)「……人語! 通じろや、クソが! クソが、クソが!」
とにかく刺激しないように接するのと同時に、
ツンを避難させなければいけない。
そう考えたブーンは、無言のままツンの方をチラリと見たが、
ツンの視線はドクオに釘付けだった。
-
669 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:13:11.88 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「いや、俺が悪いんだよな。ゴメンよ、しぃ。お前を守れなかった」
( ^ω^)「……」
口内に溜まった唾液を嚥下し、ブーンは一度ナイフを見た。
刃渡り十五センチはあるだろうか。
黒い塗装がされていて金属光沢は見られないが、
刺されると冗談では済まないだろう。
良くない未来を一瞬想像して、チクリと胸に痛みが走った。
('A`)「本当なら早めにコイツを処理するべきだったんだ。
俺はそれを知っていたのに、急がなかったんだ。ゴメンよ、ゴメンよ」
どこを見ているのか分からない目をしながら、
ドクオは低い声でブツブツとしばらくの間呟いていた。
ぴくり、とナイフが僅かに動く度に、ブーンは心臓が急激に縮むのを感じた。
-
676 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:15:02.06 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「だからさ、しぃ。俺が今お前の無念を晴らしてやるよ。
それが俺の使命なんだ。俺が生まれてきた理由なんだ」
( ^ω^)「……」
ブーンは再度ツンの方を見た。
すると、偶然にも視線がピタリと合った。
ブーンは、この期を逃がすまいと、密かに左手の真ん中の指三本を折り、
手で受話器の形を作った。
そして首を固定したまま、ツンの顔と自分の左手へ交互に何度も視線を送った。
ξ゚听)ξ「……」
ツンはブーンの意図に気付いたのか、ぎこちなく一回頷いた。
これで希望が見えたと、ブーンは内心溜息を吐いた。
ツンがドクオの後ろをそっと移動して家の外に出れば、
すぐに携帯で今の合図通りに警察に連絡してくれるだろう。
後は、目の前のナイフをどうにかしなければいけないと、
ブーンは震えそうになるのを耐えながら、ドクオの隙を窺っていた。
-
681 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:16:22.63 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「だから、俺がしぃの敵を討つ。お前を殺して、天国のしぃを笑顔にする」
( ^ω^)「え……殺す……?」
呟いて、ゾッとした。
ナイフを持っているだけではない。
目の前の男に殺意が確かにあるのだ。
次の瞬間に死んでしまうかもしれないという恐怖は、
あっという間にブーンの心を食(は)み、
現実と空想の境界を曖昧にしていく。
緊張に視界が歪み、呼吸は浅くなり、
ナイフが自分の体に突き刺さる妄想が止まらなくなる。
(;^ω^)「やめて……くれお」
ブーンにしてみれば力なく懇願するのもやっとだった。
生きていたい。死にたくない。
命のためなら何でも出来るという思いが湧き出てくる。
-
684 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:17:51.69 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「やめてくれ? ……お前よお。お前よお、お前よお!」
(;^ω^)「……」
('A`)「お前! しぃは! しぃはお前に殺されて! お前が殺して!
しぃは、お前に、無理矢理! お前に! お前が! あああああ!」
殺された。殺した。
その言葉にブーンは誤解があると瞬時に理解し、それを解こうとした。
そうすれば助かるかもしれない。
今はとにかく助かりたい一心だった。
(;^ω^)「落ち着くお。しぃは……自殺だったんだお」
('A`)「自……殺?」
(;^ω^)「……そうだお」
('A`)「……」
効果あったか。
ドクオは信じられないといった表情でブーンを見つめた。
その様子を見て、ツンが僅かに身じろぎした。
どうやら行動に移す決心をしたようだ。
-
690 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:19:41.43 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「お前……本当に……救いようが無い。……クズだな」
(;^ω^)「……え?」
('A`)「どうして、今更、そんな嘘を、吐くんだ?」
(;^ω^)「嘘じゃないお。本当にしぃは――」
('A`)「……」
(;^ω^)「……」
ピリピリとした殺気が辺りに立ちこみ始めていた。
ドクオは再び俯き、まるで痙攣しているかのように口の横をひくひくとさせ、
目尻が裂けるくらいに目を剥き、はぁはぁと息を荒げ始めていた。
('A`)「嘘吐くんじゃねえよ。ここまできてよくそんな嘘が吐けるよなぁ……。
殺すだけじゃ足りねえ。嘘吐きのお前の舌ぁ引っこ抜くべきだよなぁ。
しぃの代わりに断罪だよなぁ……」
時々声量が大きくなったり小さくなったり、不自然に変化するイントネーションは、
必死に何かに耐えているような、あるいは気が狂ってしまっているかのようだった。
あまりに不気味すぎるその様子に、ブーンはドクオとは分かり合えないことを確信した。
-
692 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:21:29.38 ID:O1eAIe2e0
- しかし、今更下手に意見を変える気にもなれなかった。
だからブーンはただただ、弱々しく呟いた。
(;^ω^)「嘘じゃ……ないお」
その言葉に、ドクオが異常な速さで顔を上げ、ブーンを睨みつけた。
(#'A`)「ああああああああああああああ! うるせえうるせえうるせえうるせえ!
お前の話なんかどうでもいいんだよ! その舌引きちぎってやる!
俺が、悪を裁く正義なんだよ! そうだ。俺が、俺こそが正義なんだよ。
俺がこの世の悪を裁くんだよ。嘘吐きの舌を引っこ抜いてよぉ!」
(;^ω^)「僕は……」
ξ;゚听)ξ「ッ!」
その時、ドクオが叫んだのを合図に、意を決したツンが動いた。
よし、このタイミングなら、うまく外に出ることが出来る。
そう思ったブーンだったが、ツンが一歩を踏み出したその瞬間、心臓の止まる思いがした。
ツンが動いたのは、外への扉の方へではなく、ブーンが居る居間の方へだったのだ。
危険を顧みることなく、ドクオの脇をすり抜けようとツンは駆け出す。
-
696 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:23:17.75 ID:O1eAIe2e0
- (;^ω^)「違っ! ツン、外っ!」
(#'A`)「ああああああああああああああああああああああああ!」
(;^ω^)「!」
木霊する叫び声。
その瞬間に色々な事が起きた。
まず一つ目は、
ツンが居間に携帯を置き忘れていたということを、ブーンは思い出した。
しかし電話くらい外に幾らでもあるだろうに。
二つ目は、
ドクオがナイフをブーン目掛けて振りかぶったこと。
まっすぐ刺すという選択ではなく、切りつけるという選択をしたのだ。
そして三つ目は、
そのナイフが、弧を描きブーンに到達する途中で、
居間に足を伸ばしたツンの首筋に、深々と突き刺さったということ。
-
702 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:24:36.81 ID:O1eAIe2e0
- ('A`)「あん?」
ξ゚听)ξ「……ぁ」
( ^ω^)「……え?」
一瞬の間。
三者三様の反応の後に、ツンは血を噴出して床に倒れた。
どうしてこんなに勢いが出るのだろうか。
まるで噴水のように吹き出る血は止まらない。
心臓の鼓動にあわせるように、
びゅっ、びゅっ、と噴出しては床を濡らす。
ξ゚听)ξ「あ。あ。あ。……あ。……あ」
それに合わせて、ツンが細い声を上げていた。
ガシャン、と床にナイフが落ちた。
刃が血を弾いていた。
壁も、床も、真っ赤になっていた。
-
714 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:26:31.17 ID:O1eAIe2e0
- ('A`;)「う……うおおお……」
血まみれの手でドクオは頭を抱えて膝を突いた。
ツンを見ることも無く、ただ俯いて唸っている。
ブーンはと言うと、未だに状況を把握しきれずに居た。
何故、ツンがドクオに切りつけられなければならないのか。
そう考えた時、ブーンは自分でもゾッとするくらいのエネルギーを持った悪意が、
腹の底から湧いてきたのを感じた。
そんなブーンのズボンを、ドクオが掴んだ。
('A`)「な、なあ助けてくれよ……俺、人殺し……こんなはずじゃ……」
( ^ω^)「……」
('A`)「なあ! 助けてくれよ! 人殺しちゃったんだぞ!
俺を助けろよ! なんとかしろよ! なあ!」
懇願するならば態度が高慢すぎるじゃないか。
大体、人を殺しにここまで来たんだろうに。
ドクオのあまりに無愧(むぎ)な態度に、ブーンの中に悪意が蓄積されていく。
-
718 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:28:18.10 ID:O1eAIe2e0
- ( ^ω^)「そっか……」
('A`)「そうだ、俺は何にも悪くない。お前が、お前が素直に俺に殺されていれば、
俺は今頃ヒーローだったんだ。お前が全部悪いんだ。なんとかしろよ!」
本来ならば、ツンの為に救急車を呼ぶべきなのだ。
しかしブーンはそれを躊躇った。
( ^ω^)「お前が居たからこうなったのかお」
('A`)「お前だ! お前が全部悪いんだ!」
( ^ω^)「お前が、生きているから、代わりに、みんな、死んで、しまったんだ、お」
なぜなら救急車を呼べば、この男を殺せなくなるからだ。
( ^ω^)「……死ねお」
その声色に起伏は無く、その表情に色は無く。
だからと言ってその心までもが穏やかな筈はなかった。
-
721 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:29:35.37 ID:O1eAIe2e0
- 途方もない質量を持った怒りは、
ブーンの心の底に澱んで溜まり、全ての感覚を麻痺させていく。
ひとたび動けば血液が突沸して爆発するのではないか。
そう思えるほどのエネルギーが、
足の付け根や肩の付け根、腹の底や眼の奥に溜まっていく。
次第に視野は狭窄(きょうさく)になり、
眼前の男の存在以外の一切が世界の端から追い出されていく。
やがて、ふわりとその両手がドクオの首を掴み、一気に押し倒した。
触れて尚、ブーンは胸中に渦巻く怒りをどうやって発散させたらいいのかと、戸惑っていた。
あまりに怒りが大きすぎて、何をどうしてもそれを伝え切れそうにないのである。
どんな声色、どんな言葉で罵倒すればいいのか。
どんな表情で睨みつければいいのか。
どんな手段で相手を傷付ければいいのか。
どれだけの手段を使っても、まるでこの怒りをぶつけられそうにないのだ。
それに気付いた頃、ブーンは涙を流していた。
-
724 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:31:20.44 ID:O1eAIe2e0
- 涙を流しながら、青ざめたドクオの顔を持ち上げ、床に叩き付ける。
左手で喉を押し潰そうとしながら、右手を苦しそうに開いた口の中に突っ込む。
生暖かい口腔の中で舌を探し当て、生えている方向に対して垂直に引く。
しかしまるで取れる様子のない舌を諦め、眉間に拳を振り下ろす。
振り下ろす。
振り下ろす。
眉間の皮が剥け
振り下ろす。
振り下ろす。
艶のあるピンク色の肉に
振り下ろす。
振り下ろす。
微細な赤色のドットが浮かんできた
振り下ろす。
振り下ろす。
立ち上がり、踏みつける。
顔ばかりを執拗に、何度も何度も踏みつける。
物足りなく感じてはヌルヌルとした手で殴り、やはり駄目だと足で踏む。
-
729 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:32:52.51 ID:O1eAIe2e0
- 口元を踏んだ時、何かがへこんだような感触がした。
どうやら前歯が折れたようだった。
それを確認したブーンは、嬉々として肋骨を踏みつけた。
右足。
左足。
ジャンプして、両足。
腕を持ち上げ、手首を掴んだまま腕の中ごろを踏みつける。
鎖骨の辺りに飛び乗る。
顔を踵で蹴り飛ばす。
一通りやりつくすと、次は道具が欲しくなってきていた。
忌々しい悪意を解消するために、ブーンは玄関をくまなく探す。
すると、置物の台に使っていた赤レンガのブロックを見つけた。
それを手に取るや否や、ドクオの顔目掛けて投げ付け、
その威力に陶酔すると、今度はレンガで顔を殴りはじめた。
-
733 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:34:03.71 ID:O1eAIe2e0
そうして不細工な折檻は、しばらくのあいだ続いた。
殺し方のランク付けがあるならば、かなりの下位ランクだろう。
幼稚で、原始的で、非効率的な暴力は、
ただ結果として果てに死があるというだけである。
当人が気付いていないだけで、相手を殺そうとはしていないのだ。
そもそも殺人をしたことの無いブーンにとって、
殺すというものはイメージでしかなく、暴力の誇大表現なのだ。
言うなれば、『殺す』というよりは、『死んでくれ』といったところだ。
沢山殴るから死んでくれ。
沢山踏むから死んでくれ。
それは暴行と言う名の祈りにも近かった。
-
737 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:35:49.50 ID:O1eAIe2e0
- 一通りの暴力を追え、ブーンは床に腰を下ろした。
ぐったりとした男の体は、ただ力の抜けた人間のものとは明らかに違っていた。
変色し脹れあがった顔は、もはやその原形を想起するのも困難なほどで、
なにより吐き気がした。
冷静になってみれば、助かったかもしれないツンを放って、
一体自分は何をしていたのだろうか。
『たった今、自分は人を殺してしまったのだ』
『死体を隠さなければ』
しかし、そう思ったときには既にブーンの目はゴミ袋を探していた。
-
741 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:37:47.28 ID:O1eAIe2e0
- 死体を解体する勇気は無かったものの、
とにかく目の前から非現実的な物を排除したかった。
納戸から黒いゴミ袋を見つけ出し、勢い良くそれを広げると、
死体を入れようとしたが中々入らない。
ブラブラとだらしない腕や足は独立し、胴体が重い。
死後硬直なんてものは嘘なのかと思ってしまう。
やっと袋に入れることが出来たと思ったところで、
今度はどうにも袋に収まりそうにないことに気が付いた。
肩から上がはみ出てしまうのだ。
焦ったブーンはもう一枚袋を取り出し、
それを死体の頭から被せ始めた。
そして近くにあったガムテープでぐるぐる巻きにすると、
ようやく自分の荒い息遣いに気が付いた。
唾液を飲み込み、一瞬袋の中の酷い顔を思い浮かべ身震いをした。
そしてブーンはゆっくりと部屋を見渡した。
蛍光灯に照らされた部屋は、しんと静まり返り、
誰も居るはずがないのに視線を感じる。
しかし立ち止まるわけには行かない。
ブーンは部屋の電気を消すと、ゴミ袋を抱きかかえツンの家を飛び出した。
-
743 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:39:05.59 ID:O1eAIe2e0
- 夜の帳を掻き分けるように、ブーンは疾走した。
人一人を抱えて走るのは途轍もない疲労を伴ったが、
そんなものは気にならなくなるほど切羽詰っていた。
闇の中を走っていると、冷たい風が頬を撫ぜ、
否が応でも冷静にならざるを得ない。
人を殺してしまったという事実。
そしてツンを見殺しにしてしまったという事実。
罪の意識は暗闇によって助長され、
後ろから何かが迫ってくる錯覚を起こし始める。
-
748 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:40:41.62 ID:O1eAIe2e0
- (;^ω^)「はぁっ……はぁっ……」
何度も後ろを振り返りながら、辿り着いたのは人気の少ない山道だった。
地元では不法投棄のスポットとして有名で、
タイヤやら電化製品やらが、山のように捨てられている。
役所も手を出すことを渋っているこの場所に、ブーンはドクオの死体を捨てた。
ここならば何かを捨てに来る者が居たとしても、
わざわざ拾いに来る者は居ない。
それに万が一捨てに来た者がたとえこれに気付いても、
自分の後ろめたさもあって放置する可能性もある。
回らない頭でそう考えて、ブーンはこの場所を選んだ。
ブーンは今一度周りを良く観察すると、
誰も居ないことを確認して、再び走り出した。
やり遂せたという、妙な達成感と開放感がブーンを包んでいた。
そうしてブーンが向かった先は、ツンの家だった。
理由は馬鹿馬鹿しくも、今更になって、
まだツンは助かるかもしれないなどと思ったからである。
-
754 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:43:07.68 ID:O1eAIe2e0
- 息も絶え絶えにツンの家に辿り着き、祈るような思いで電気を点けた。
もしやツンは無事で、何もかもがいい方向に向かっていないかと。
しかし電気を点けてみると、やはり床に広がる血溜まりが見えた。
そしてその奥に、力なく横たわるツンの姿があった。
( ^ω^)「……ツン?」
服はすっかり血を吸って赤茶色になり、
手のひらの皮膚が見えるところは、驚くほど白くなっていた。
その顔は血まみれで、髪は血が固まって束になったものが、顔にいくつも張り付いていた。
ブーンはその光景に、素直に恐怖し、そして脱力した。
( ^ω^)「……なんで?」
口から漏れたのは疑問の言葉。
しぃが死に、ツンが死に、気付けば自分は人を殺していた。
どうしてこうなってしまったのか。何がいけなかったのだろうか。
自問自答が加速する。
-
757 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:45:03.06 ID:O1eAIe2e0
- ( ^ω^)「ツンが殺されたのは、しぃが死んだから」
――それじゃあ悪いのはしぃなのか。それは違う。
( ^ω^)「しぃが死んだのは、ツンがしぃを裏切ったから」
――それじゃあ悪いのはツンなのか。それも違う。
( ^ω^)「……僕がツンと寝たから?」
――だからしぃが死んだ? だからツンが死んだ?
( ^ω^)「違うお。アイツが……」
――あの男を殺したのは……僕?
――悪いのは、僕?
――しぃを殺して、ツンを殺して、アイツを殺した。
一番死ぬべきなのは……僕だった?
-
763 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:46:49.59 ID:O1eAIe2e0
- ( ^ω^)「……あはははは……あははは……あは……」
なんだ、全ての元凶は僕だったのか。
そう思ったとき、目に映るものが現実味を無くしていった。
胸中に渦巻くのは、あの男への憎悪と自己嫌悪の念。
そんな時ブーンの胸中にある考えが芽生えた。
そうだ、嘘を吐こう。
すべての罪が僕に集約するように、嘘を吐けばいい。
いや、ただ黙するだけでも良い。
だから僕はその代わりに舌を抜こう。
罰として、そして全てを黙殺するために。
( ^ω^)「おっおっお」
思い立ってすぐに、
ブーンは左手を口の中に入れて、舌を引っ張ってみた。
けれども、まったく抜けない。
右手でも引っ張ってみる。
-
767 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:48:34.82 ID:O1eAIe2e0
- みちみち、と音を立ててはいるけれど、涙が滲むだけで抜ける気配がない。
それに舌が勝手に逃げてしまう。
( ^ω^)「……ぬけないお」
このとき既にブーンには、絶対に舌を切り離すと言う決心があった。
なのでハサミを見つけたときも、全く躊躇うことなく手に取ることが出来た。
( ^ω^)「ハサミがあったお」
そしてハサミを開き、舌を出す。
左手で舌の先をつまんで、舌をハサミで切った。
ぢょき!
(;^ω^)「えぅ! ひ、き、切れるお」
舌からは小気味いい音がしたが、
耳にはそれとは別に、ブツブツと繊維を切る音が聞こえた。
半分ほど切込みが入った舌へ、ブーンは更にハサミを入れていく。
-
772 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:50:04.18 ID:O1eAIe2e0
- ぢょき、ぢょきん!
じわ。どろどろ。
どくんどくん。
どくんどくんどくん。
(;゚ω゚)「えううううう! うううううええええええええううううううううう!」
び、び。
どくんどくんどくん。
(;゚ω゚)「えええええええええううううううえええええええええええええええあああああああああああ!」
どくん、どくん。
くら、ふらり。
(;゚ω゚)「いひっ! いいい! いっ! げっ! げぁっ! あっ! がっ! ばっ! あっあっ!」
想像を絶する痛みに、ブーンの視界はテレビの砂嵐のようになった。
そして大量に溢れだす血液は、喉に絡みつき、あるいは鼻へ逆流し、
ブーンの呼吸を阻害する。
-
780 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:51:15.57 ID:O1eAIe2e0
- ともすれば意識を失いそうになる状況で、
左手には舌を持ち、口はだらしなく開けたまま、ブーンはツンを見た。
(;゚ω゚)「うう! うううう!!!」
そしてゆっくりとツンににじり寄った。
自分が舌を切ったことを、しかと誇示するように。
ξ゚听)ξ「……」
見るも無残な表情のまま絶命したツン。
その顔が、ブーンの口から垂れ流しになっている血と唾液の混ざったもので、
上塗りされていく。
(;゚ω゚)「うう! うう! うっ! げほっ! がっ!」
何事かを喋ろうとしたブーン。
しかしそれが意味のある音になることは無かった。
-
787 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:52:58.67 ID:O1eAIe2e0
- 口からはポタポタと、赤く汚らしい液体がツンの顔へ落ちていく。
喋ろうとすればするほど、ツンの顔が自分の液体で汚れていく。
その様子を見たブーンは、肩を震わせ、
(;^ω^)「いひっ! いいいいいいひっ! ひいっひっひっ! ひひひひひひひひひひひひ!」
笑った。
(;^ω^)「ひひひひひひひひひひ! ひああははははははは! はっ! がっ! げぇっ!
……あっあはっ! あはっ! あっ! あ〜あ〜あぁぁぁぁ! ひひひひひひひ!」
ゴロゴロと床をのた打ち回りながら、ブーンはゲラゲラと笑っていた。
舌を切り取ってしまった自分がたまらなく面白くて、笑っていた。
喋れなくなった自分が間抜けで、笑っていた。
こんなことで罪から逃れられると思っている自分が滑稽で、哂っていた。
-
792 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:54:31.78 ID:O1eAIe2e0
その後、ブーンは凶器と共に自宅へ帰り、服を着替えることも無く、
部屋でずっとなんでもない壁のシミなんかを見つめながら、痛みに耐えていた。
今はこの痛みに耐えていさえすれば良いと、やるべき事、考えるべき事から逃避し続けた。
程なくしてツンの家に父親が帰って来たところで事件が発覚。
ブーンは夢現(ゆめうつつ)のまま警察の電話に応対。
そこで自分が現場に残してきた血液や、舌を切り取ったハサミを思い出し、
逃げられないことを悟ったため出頭。
しかしブーンは真実を語ることはしなかった。
自己嫌悪や被害妄想。
色々な要因が絡み合っていたが、最も大きな要因として、
ブーンはドクオという男を、あらゆる繋がりから隔離したかったのだ。
裁かれることも無く、報われることも無い。
暗いゴミ袋の中で、惨めな思いを抱きながら体を腐らせていく。
死体が抱くはずの無い感情を想像し、ブーンは愉悦の波に溺れた。
そして時々、思い出したように含み笑いをした。
-
796 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:55:39.28 ID:O1eAIe2e0
- だが、こういった加虐的思考と同時に、
口を噤(つぐ)むブーンの中には、身を刻むような被虐的思考も存在した。
自分という存在に対する嫌悪。
亡くなっていった人達から呵責(かしゃく)されているという妄想。
それを代弁するかのような親族、知人達の態度。
圧し掛かる罪の意識は、時間と共にその嵩(かさ)を増し、
ブーンの精神を痛めつけ続けた。
-
799 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:56:48.94 ID:O1eAIe2e0
- だがブーンは公判中も終始この事件に関する真実を打ち明けることなかった。
彼は黙ることによって自らが作り上げた罪により、公的な罰を科せられた。
もしも事実が明らかになってしまえば、自分はツンに関する罪を裁いてもらえなくなる。
おぞましい醜男に関する罪で、長い時間を拘束されなければいけなくなる。
そう考えれば、ブーンはこの心を刺す痛みにも耐えることが出来た。
宙ぶらりんの罪ほど、心に重苦しいものは無い。
だからこそブーンは舌を切ったのだ。
ドクオなど居ない。
全ての罪は自分にあるのだと、嘯(うそぶ)くために。
その代償、罰として、自ら舌を切り取ったのだ。
-
808 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 03:59:43.70 ID:O1eAIe2e0
そしてこの二十二年後。
内藤ホライゾンは、ついに一度も事実を公表することなく、
公園の個室トイレにて、ひっそりと首を吊って死んだ。
足元に添えられていた手紙にはただ一文だけ、
『追ってくる』
そう書かれていた。
この文章の意味も、この二十二年間彼が何を考えていたのかも、知る者は居ない。
続
-
816 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:01:24.88 ID:O1eAIe2e0
- 終章
西日もすっかり消え失せ、無数の蛍光灯の明かりが職場を照らしていた。
片付かない仕事の山に嫌気の差したヒッキーは、自販機へ行くために席を立った。
するとデスクで真剣に書類を見ているビコーズの姿を見つけ、
珍しいこともあるもんだと、ヒッキーは彼の元へと近寄った。
(-_-)「ビコさん、そんなに真剣に何を見ているんですか?」
( ∵)「ん? ああヒッキーか」
チラリと見ると、書類はただ文章を貼り付けただけのような雑な作りで、
どうも仕事の書類の様には見えなかった。
( ∵)「これは内藤の発言をまとめたやつだ。
非公式に漏らした愚痴から最終陳述まで色々揃ってるぞ。
……とは言っても、奴は喋れんけどな」
(-_-)「どうしてまたそんなのを? 仕事ですか?」
( ∵)「いや、それがよ――」
(´・_ゝ・`)「よー、居残り組」
突然二人の会話に割りこむようにして、デミタスが現れた。
-
823 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:02:41.82 ID:O1eAIe2e0
- (-_-)「……びっくりした」
( ∵)「テンションたけぇな。ほらよ、言ってたやつ」
(´・_ゝ・`)「ああ、悪いな。今晩メシでも奢るよ」
( ∵)「しかしなんだってこんなもんが欲しいんだ?」
(´・_ゝ・`)「ん? そりゃあ……だって、気になるじゃないか。自分で舌を切り落とす殺人者なんて」
( ∵)「あー……お前はそういう趣味の奴だったな」
(-_-)「えーと、どちら様ですか?」
( ∵)「ん? お前も一回会ってるだろ。ほら、えーと……自殺した内藤の知人宅に行ったときに」
(-_-)「あ、あの時の……失礼しました」
(´・_ゝ・`)「いや、気にしなくていいよ」
( ∵)「ところでよ、デミタス」
(´・_ゝ・`)「ん?」
( ∵)「お前んとこの事件はどうなった? やっぱ自首して来た奴が犯人だったか?」
(´・_ゝ・`)「……ああ。殺したのは彼らだったよ」
( ∵)「やっぱりな。ほら見ろ、俺の言った通りじゃねえか。事件解決だな」
(´・_ゝ・`)「ああ、そうなんだよ。本当に、事件は解決したんだ」
( ∵)「あん? なんだ、不満か」
(´・_ゝ・`)「……さすがにそんな事は言えないな」
-
825 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:03:46.34 ID:O1eAIe2e0
- あの日クーの死体が発見されて以来、ぱったりと殺人は起こらなくなった。
ドクオの死後も、第二第三と模倣サイトは生まれ続けたのだが、
それらが活用されることは無かった。
一体何が彼らの熱を冷めさせたのか。
第一の模倣サイトであったドクオのサイトにおいて、
一人目である内藤が、逮捕というある種の失敗に終わったことだろうか。
それが模倣は模倣でしかないというイメージを与えてしまったのは、確かに事実だろう。
それともそれに乗じて第二第三と立ち上がった模倣サイトのコピーにより、
劣化していくカリスマを見て冷めてしまったのか。
中には未だオリジナルサイトの更新を熱烈に待ち続けている者も居るが、
彼らは誰一人として、自分たちの悪意でそのカリスマを手に掛けた事を知らない。
事実上、システムはひっそりと崩壊の時を迎えていた。
-
829 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:05:13.12 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「……」
しかしデミタスにとっては、なんとも歯切れの悪い事件解決となってしまった。
いや、正確に言えば解決はしていないし、これからも解決はしないだろう。
いつの日か燻っている火が燃え上がらないとも限らない。
たった一種類の火種を失っただけで、火薬はこの世界中にまだ沢山残っているのだ。
( ∵)「よし、ヒッキーお前もさっさと今日の分を仕上げろ。コイツにスシ奢らせるぞ」
(-_-)「いや、僕は関係ないからいいですよ。それにまだまだ終わりそうもないですし」
( ∵)「……『ないでスシ』とはお前、またハイセンスなギャグを」
(-_-)「ち、違いますよ。勝手に人を滑らせないで下さい」
( ∵)「オラオラー、無駄口叩いてるとスシが乾いちまうぞー!」
(-_-)「いや、だから……」
(´・_ゝ・`)「別に一人や二人増えても変わんねえよ。
なんならこの内藤って奴の話を聞かせてくれ。それでチャラだ」
(-_-)「はあ……なんかスイマセン。て言うか個人情報ダダ漏れじゃないですか」
( ∵)「スーシーがーかーわーくーぞー」
(-_-)「あーもう、わかりましたよ! て言うか乾きません!」
(´・_ゝ・`)「ま、俺はしばらくこれを読んでるから、終わったら声を掛けてくれ」
( ∵)「おーう」
(-_-)「はい、わかりました」
-
831 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:06:34.87 ID:O1eAIe2e0
- 空いていたデスクの椅子に座ると、デミタスはゆっくりと書類に目を通し始めた。
その発言のほとんどが、胸焼けを起こしそうなほどネガティブなものばかりで、
デミタスは眉を顰(ひそ)めながらそれらを眺めた。
その中でも目を引いた記述が、
なぜ人を殺したかについて問われた時の、内藤の回答だった。
『僕は、風邪をひいてしまったのです。
悪意はそこらを飛び回る菌のようなものであり、
僕はいつの間にかその悪意渦巻く劣悪な環境に巻き込まれ、
罪と言う風邪をひいてしまったのです。
でなければ、僕は人など殺さなかった。
でなければ、僕に一体どうして人を殺せようか』
(´・_ゝ・`)「風邪か……」
他人に責任転嫁をしているだけの文章にも思えるが、
デミタスは先の連続殺人の犯人と内藤を照らし合わせていた。
-
836 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:07:51.55 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「私の中の悪魔が……なんて言う奴はいるけどな。
悪意ねえ……おい、ビコーズ」
( ∵)「おう、どうした」
(´・_ゝ・`)「こいつ家庭環境に問題でもあったのか?」
( ∵)「ん? いや、別に。なんつーか、何考えてるんだかよく分かんない奴なんだよなあ」
(´・_ゝ・`)「そうか……」
だとしたらこの内藤と言う男も、
殺人へと踏み切らせる何か目に見えないものを、感じていたのかもしれない。
それは自己の中に芽生えた強迫観念なのか、あるいは外部からの直接的な影響なのか。
(´・_ゝ・`)「しかしまあ、この文面を見る限り後者なんだろうな」
-
841 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:09:05.74 ID:O1eAIe2e0
- しかし一方で、
自分の中の罪の意識を強く認識している、次のような記述も見受けられた。
『僕がナイフを彼女の胸に突き立てなくたって、
結果としてナイフが彼女の胸に刺さって、そしてその原因が僕にあれば、
罰を受けるのは、やはり僕になるのです。
それが当たり前のことであり、僕はそれを望んでいるのです』
『裁判官の長い話を聞いて僕は思いました。
この世の誰も僕を裁くことは出来ないのだと。
それを痛切に感じさせることこそが、
死した者からの間接的な裁きなのです。
そして、自分の行いを強制的に苦悩させられ続ける地獄が、
これからの僕には待っているのです』
(´・_ゝ・`)「してしまったことの罪は自分にある。
けれどもその原因は他人にある……ってとこか?
潔癖と言うか、神経質と言うか……ちがうな、偽善者? うーん……」
-
844 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:10:33.58 ID:O1eAIe2e0
- しっくり来る言葉の思い浮かばないデミタスは、
うんうんと唸りながら天井を仰ぎ見た。
(´・_ゝ・`)「まあ何でも良いか。……しかし、間接的な裁きか。こいつも変なことを考えるな」
そこでデミタスが思い浮かべたのは、バーで会ったクーの顔だった。
(´・_ゝ・`)「……僕がナイフを突き立てなくても、結果として刺さり、
その原因が僕にあれば、罰を受けるのは僕である。
そして僕はそれを望んでいる……か」
あの時、助けてくれと言ったクーの本心は一体なんだったのだろうか。
流れを止めることに対して、果たして『助けてください』という言葉を使うだろうか。
全く無いわけではないが、デミタスにはそれが納得できなかった。
-
847 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:12:01.76 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「あいつも内藤と同じだったってことなのか……?」
罪の意識を感じ、裁きを求める。
その叫びが『助けてください』だったのか。
(´・_ゝ・`)「そう言えばアイツも悪意の伝播がどうのとか言ってたな……。
……やっぱ、俺ちょっと言いすぎだったのかもしれないな」
あれ以来、デミタスは何度もあの夜の事を思い出すようになった。
歯止めが利かない位に加熱してしまった自分を、後悔しているのだ。
(´・_ゝ・`)「まさか、俺も自覚が無いだけで既にってことなのか? ……ゾッとするな」
-
849 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:13:16.62 ID:O1eAIe2e0
- ( ∵)「よっしゃー! 終わったぜコンチクショウ! おいスッシー、飯行くぞ!」
(-_-)「スッシーって僕ですか? はしゃぎ過ぎですよビコさん。
多分耳を貸してもらえないとは思いますけど、僕の仕事まだ終わってないです」
( ∵)「ほら、デミタス。そんなもんは家帰って読め。行くぞ行くぞ」
(-_-)「あー、やっぱり聞いてない」
( ∵)「ヒッキー、俺だって話くらいはちゃんと聞く。寧ろ、他人は自分の鏡ってやつだな」
(-_-)「はい?」
( ∵)「俺を話の聞かない奴だと思っているお前こそが、
実は俺の話を聞いてない。どうだ、これ。耳が痛いだろう? そうだろう」
(-_-)「ごめんなさい、待たせすぎて頭に栄養行かなくなったみたいですね。可哀想なビコさん」
( ∵)「お前、後で人間パトランプの刑な」
(´・_ゝ・`)「……そうか。それだ、ビコーズ」
( ∵)「ん? どうした。人間パトランプやりたいのか?」
(´・_ゝ・`)「内藤も、あの女も、そして俺も。巻き込まれたと思っていた悪意は……」
デミタスはそこまで言うと急に黙り込んだ。
そして何かを振り払うように勢い良く立ち上がり、首を鳴らした。
-
851 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:15:00.08 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「あーやめた。考えたくもねえ」
( ∵)「そうそう、難しいことは考えずにスシ食いに行こうぜ。おいヒッキー早くしろ!」
(-_-)「はいはい、いま支度できましたよ」
環境は、土が作り、大気が運び、雨が地へ戻すサイクルの中にある。
しかし土も大気も雨も無いバーチャルの環境は、
現実のそれよりもはるかに早く、大量に悪意を伝播した。
しかし、それが初めから悪意だったのかは分からない。
もしや誰かが故意的に悪意へ変えたのかもしれない。
善意を悪意と受け取った者が居るのかもしれない。
だがそんな者が居たかを確かめる術は無い。
いや、そもそも果してそこに人が居たのかさえも、随分と怪しいものなのだ。
ただただ悪意に絡めとられる自分のみが、そこに居るだけなのかも知れない。
−終−
-
873 : ◆HGGslycgr6
:2008/01/20(日) 04:17:41.10 ID:O1eAIe2e0
- あとがき
俺べつにこういう話が好きってわけでもないんだが、
( ^ω^)←この顔見ていると、どこか狂気染みたものを感じずには居られない。
こいつ主役から降板だな。悪役の手下とかでもやってれば良いよ。スネ夫的ポジション。
( ・∀・)「……さすがに頭にくるね。今すぐその口、きけなくしてやるよ」
( ^ω^)「そーだお。お前なんかヒトヒネリだお」
( ・∀・)「行け! 内藤!」
( ^ω^)「いけいけー内藤!」
(;^ω^)「……って、あれー!? 僕ですか? ムリムリ!」
みたいな。そういう話ってもう結構あるのかな?
閑話休題、この話は、とあるスレが一部モデルになっています。
でも、勿論そんなもの知らなくても全然問題無いです。
とにかく心に湧き上がる悪意を溜め込んで、物語に昇華してやろうと思って書きました。
結果、書いているあいだ俺の中で悪意がねじれ曲がって、
話までねじれ曲がりました。なんだかなー、もっと違った角度から出来た気もする。
こんな話ばっかり書いているから俺って奴は……。脳内改造! 脳内改造!
もっと爽やかで暖かくて、かわいらしくてかっこよくて、そんな話が良いなああああ。
それじゃあ、こんな長い間読んでくれた人、本当にありがとう。
TOP 短編一覧へ