( ^ω^)が一億円を手に入れたようです
-
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:18:12.88 ID:gb3u/rpN0
- 25.
船内のリビングで、内藤は白い粉末を睨んでいた。
ξ ゚听)ξ「リュックの背中んとこに入ってたの」
(;^ω^)「こ、これは……!?」
ツンが不思議そうな顔でこちらをじっと見ている。
内藤は説明に苦慮した。
( ^ω^)「これは何ていうか……クスリだけどクスリじゃないっていうか……」
ξ ゚听)ξ「クスリ? びょうきをなおすの?」
( ^ω^)「えーと、そうじゃないんだお。僕もよく知らないけど、頭が変になる薬なんだお。
気持ちいいけどパーになってしまう危険物なんだお」
ξ ゚听)ξ「???」
ツンはよくわかっていない顔だ。まあ仕方ない。
-
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:19:11.71 ID:gb3u/rpN0
- 26.
( ^ω^)「いいかお、ツン。この砂糖の事は絶対誰にも言っちゃダメだお」
ξ ゚听)ξ「なんで?」
( ^ω^)「とにかくダメだお。触るのもダメだお」
ξ ゚听)ξ「わ、わかった」
何とかツンを言い包めたものの、内藤は頭を抱えた。
誘拐の上に麻薬所持とは。
( ^ω^)(あのDQN親父、よりによって娘のリュックに隠すとは……)
内藤は気分を落ち着けようと甲板に出た。
椅子に腰かけ、画帳を開いて鉛筆で風景画を描き始める。
ξ ゚听)ξ「内藤さん、何やってるの?」
( ^ω^)「ん? 絵を描いてるんだお」
-
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:20:13.28 ID:gb3u/rpN0
- 27.
ツンがやってきて内藤の画帳を覗き込む。
ξ ゚听)ξ「じょうずね」
( ^ω^)「漫画家に憧れてたころがあるんだお」
ツンはしばらく彼の手元を眺めていたが、船内に入っていった。
すぐに内藤が買ってやった色鉛筆とノートを持って戻って来ると、彼の隣に座る。
二人は並んで絵を描いた。
内藤がツンの絵を見ようとすると、ツンはさっとノートを隠す。
ξ ゚听)ξ「見ちゃだめ!」
( ^ω^)「そうかお」
ξ ゚听)ξ「できたら見せてあげるね」
( ^ω^)「楽しみだお」
それから、しばらく後。
-
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:21:12.55 ID:gb3u/rpN0
- 28.
内藤は水平線を粗方描き終え、自分の作品の出来映えに満足していると、ツンが自分の絵を見せた。
ξ ゚听)ξ「見て、内藤さんだよ」
( ^ω^)「僕かお。嬉しいお」
ξ ゚听)ξ「これがツンで、それでこれがお母さんで、これがお父さん」
( ^ω^)「……」
( ^ω^)(なんてこっただお! この子はまだ親のことを忘れていないんだお。
なんであんなクソ親を……うう、それでも一応は親ってことなのかお)
ξ ゚听)ξ「どうしたの、内藤さん」
( ^ω^)「ツン、お母さんとお父さんに会いたいかお」
ξ ゚听)ξ「……」
ツンはやはり無言だった。
再び内藤の内側にどうしようもない感情が渦巻き始める。
-
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:22:13.78 ID:gb3u/rpN0
- 29.
( ^ω^)(僕はこの子の親でもなんでもないんだお……一体この子のなんだって言うんだお。
僕なんかがこの子とずっと一緒にいていいのかお。でも僕が、僕が親になってやれば……)
親になる? 自分が?
ただ一度の幸運で手に入れたカネで生涯働く気すらない自分が?
学校にも行かせてもらえず、そんな自分を見て育ったツンが一体どんな大人になるって言うんだ?
( ^ω^)(僕にお金意外に何かあるのかお……何にもないお。本当に何にもないんだお。
それなのにツンは絵に書いてくれて……絵? そうか、絵だお!)
思うところがあり、内藤はパソコンに向かった。
ボディペイント専用の染料をネットで買い、局止めで次に向かう港町の郵便局に送る。
数日後、それを手にした内藤はリビングにツンを呼んだ。
( ^ω^)「ツン、腕を見せるお」
ξ ゚听)ξ「……」
-
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:23:15.00 ID:gb3u/rpN0
- 30.
内藤が無言で手を出すと、ツンもまた震える両腕をテーブルに伸ばした。
上着の袖をめくると、腕にところどころ黒い火傷の跡が見える。
内藤は筆を手に取って薄く下書きを始めた。
ξ ゚ー゚)ξ「く、くく、く、くすぐったいよぉ!」
( ^ω^)「動くなお。これはインド人の女性が顔にペイントする時に使う塗料なんだお」
かつて漫画家を目指した腕を活かして、内藤はツンの両腕に見事な絵を描いた。
腕に巻きつく蔦とそこに咲き乱れる花の絵だ。
火傷の黒い点は蕾や花心となった。
ξ ゚听)ξ「す、すごい……きれい……」
( ^ω^)「一ヶ月くらいは洗っても落ちないらしいお」
ξ ゚ー゚)ξ「ありがとう、内藤さん」
今度は内藤が腕を差し出した。
-
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:24:13.84 ID:gb3u/rpN0
- 31.
( ^ω^)「ほい」
ξ ゚听)ξ「?」
( ^ω^)「ツンも僕の腕に何か描いてくれお。好きなものを描くといいお」
ξ ゚ー゚)ξ「いいよ。じゃあねー、内藤さんのかおをかいてあげる」
こうしてツンはその日から袖をまくったまま出歩くようになった。
⊂ニニ( ^ω^)ニ⊃「ブーンだお!」
⊂ニニξ ゚ー゚)ξニ⊃「ぶーん!」
二人で剥き出しの腕を広げ、甲板を走り回る。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
流石兄弟は港で手分けして聞き込みを続けていた。
紆余曲折を経て兄者はとうとう二人が立ち寄ったらしき弁当屋に行き着いた。
-
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:25:13.46 ID:gb3u/rpN0
- 32.
(*゚ー゚)「あー、見たわ。明け方にウチでおにぎり買ってったわよ。男の人と二人連れでねー」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ほほう。詳しく頼む」
兄者が差し出したツンの写真を見、店員は覚えている限りのことを口にした。
しばらく後に流石強大は合流し、情報を交換した。
∧_∧
弟(´<_` )「どうだ、兄者」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「見つけたぞ。東に向かったそうだ」
∧_∧
弟(´<_` )「東って、そりゃまたえらいアバウトだな」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「東沿いに沿岸部の港町で片っ端から聞き込みをしよう」
∧_∧
弟(´<_` )「やれやれ、割りに合わない仕事だぜ」
少女を連れた男は目立つ。
情報は案外簡単に集まり、数日のうちに二人は確実に獲物を追い詰めつつあることを感じていた。
-
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:26:13.07 ID:gb3u/rpN0
- 33.
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ケツに食い付いたぜ」
∧_∧
弟(´<_` )「先回りして網を張ろう」
流石兄弟は小さな港町に目星をつけ、そこに宿を取って船着場を張った。
寂れた場所だ。高そうなクルーザーに乗った少女と男の二人連れが現れたらすぐにわかるだろう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ある日の夕暮れ時、内藤は食料を買い込みに港町に船を停めた。
( ^ω^)「ツンも行くかお」
ξ ゚听)ξ「ううん、待ってる」
ちょうどテレビアニメ『( ´∀`)ぼくは猛者』がいいところだったので、ツンは首を振った。
( ^ω^)「そうかお。じゃあ留守番を頼んだお」
-
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:27:12.81 ID:gb3u/rpN0
- 34.
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ブーン号……あの船だ!」
∧_∧
弟(´<_` )「男しかいないようだぞ。ガキは船か?」
流石兄弟は民宿の二階から双眼鏡を覗いていた。
ちょうどブーン号から内藤が出ていったところだ。
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「まあいい、好都合だ。武器は持ったか?」
∧_∧
弟(´<_` )「もちろん。さあ、行こう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すっかり日も落ちたころ、内藤は買い物袋を抱えて船に向かった。
( ^ω^)「フヒヒ、かき氷機買っちゃったお。夏と行ったらこれだお」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「よう」
( ^ω^)「ん?」
-
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:28:12.59 ID:gb3u/rpN0
- 35.
はしけの所に男が一人立っている。
瞬間、内藤の背筋に冷たい電気が走った。第六感が働くってヤツだ。
(;^ω^)(うっ、もしかしてヤクザかお!?)
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「俺は兄者。あんたに話がある」
( ^ω^)「それはもしかして『砂糖のようなもの』についてかお」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ははは、いいカンだぜ。船に入りな」
( ^ω^)「わかったお」
彼に続いてブーン号に乗りながら、内藤は水中銃をしまってある棚のことを考えていた。
甲板には弟者とツンがいた。
( ^ω^)「ツン!」
ξ ゚听)ξ「内藤さん!」
-
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:29:13.59 ID:gb3u/rpN0
- 36.
∧_∧
弟(´<_` )「おっと、動くな」
内藤に駆け寄ろうとしたツンを弟者が捕まえる。
( ^ω^)「ツンに触るなお!! このゴミクズ!」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「おいおい、そんなセリフ吐ける立場か? そういうお前は人攫いじゃねえか」
∧_∧
弟(´<_` )「まあ落ち着け。とりあえず船を出してくれないか? 人目につくとマズイんでね」
( ^ω^)「わ、わかったお」
ξ ゚听)ξ「内藤さん……」
内藤は流石兄弟の指示に従い、港からやや離れた場所へ船を進めた。
これじゃ叫び声も銃声も陸まで届かない。
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「『砂糖のようなもの』をこっちに渡してもらおうか。弟者、ガキを離すな」
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83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:30:13.51 ID:gb3u/rpN0
- 37.
二人の手の中ではドスが鈍く光っている。
(;^ω^)(くそお、ツンを人質に取られてるんじゃどうしようもないお)
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「しかし、お前も物好きだな。なんでこんなガキさらったんだ? ロリコンか?」
( ^ω^)「……」
そう言えば深く考えたことはないが、何故だろう。
黙ったままでいると兄者は肩を竦めた。
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「まあいい。で、例のものはどこだ」
( ^ω^)「僕とツンの安全を保障して欲しいですお」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「俺らが欲しいのはクスリだけなんでね。お前らの命は別にいらないんだ」
内藤は胃の底がザワつくような、イヤな予感がした。
(;^ω^)(クスリを奪った後に僕らを殺す気なんじゃ……?)
-
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:31:14.75 ID:gb3u/rpN0
- 38.
ツンを失うかも知れない。
そう考えるのは自分の死の恐怖が霞むくらい恐ろしかった。
何故だ? 何故こんなに他人の、彼女のことが気にかかる?
(;^ω^)(とにかくこれはマズイお。何とかしてあの子だけでも助けないと、何とかして……)
ツンと弟者は甲板にいる。そうだ、甲板……甲板には「アレ」がある。
内藤は兄者と一緒にリビングに入り、麻薬を隠した花瓶を手に取った。
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ん? そんなとこに隠したのか?」
( ^ω^)「オンダルァ!!」
内藤は花瓶を抱えたまま、ものすごい勢いで甲板に飛び出した。
∧_∧
兄(; ´_ゝ`)「なんのつもりだ!? どこに逃げる気だ、こら」
( ^ω^)「動くなお!」
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90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:32:13.43 ID:gb3u/rpN0
- 39.
内藤は甲板の柵から身を乗り出し、花瓶を海に落とすフリをした。
∧_∧
弟(´<_` ;)「ちょ、ちょっと待てこら! 人質がどうなってもいいのか!」
∧_∧
兄(; ´_ゝ`)「そいつには二千万円の価値があるんだぞ!」
( ^ω^)「動くなお! 動いたら海に捨てちまうお!」
流石兄弟は顔を見合わせた。
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「よし、いいだろう。“人質交換”と行こうじゃないか」
∧_∧
弟(´<_` )「いいのか?」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「しょうがないだろ」
( ^ω^)「じゃあ、ツンを離せお」
内藤はツンに目配せした。
ツンのすぐ側にある、鉄の箱に視線をやる。
彼女が震えながら頷いたのを確認してから、内藤は花瓶を差し出した。
-
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:33:14.57 ID:gb3u/rpN0
- 40.
∧_∧
弟(´<_` )「チッ。ほらよ」
弟者がツンから手を離した瞬間、内藤は叫んだ。
( ^ω^)「ツン、紐を引っ張れお!!」
ツンが言われた通りにすると、箱の中でパンという破裂音がした。
科学反応によって爆発的な勢いで発生したガスがボートを風船のように膨らませる。
∧_∧
弟(´<_` ;)「うぶほ!?」
小さなツンはすぐに逃げ出したが、体が大きい分だけ動きが遅れた弟者は
圧し掛かってきたボートに押し潰された。
∧_∧
兄(; ´_ゝ`)「てめえ!」
兄者が刃物を振り上げると、内藤は花瓶を海に落とした。
-
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:34:15.21 ID:gb3u/rpN0
- 41.
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「あっ……」
視線が反れた瞬間、内藤は全身の力をかけて兄者に掴みかかった。
彼の襟とズボンのベルトを掴み、海へ放り込む。
バシャーン!
∧_∧
弟(´<_` #)「野郎、ぶっ殺……」
∧_∧
兄(; ´_ゝ`)「あばば、あぼぶばばばばば!!」
∧_∧
弟(´<_` ;)「い、いかん。兄者は泳げないんだった」
ボートの下から這い出した弟者はベルトをロープ代わりにして兄者を引き上げた。
内藤はすでにツンを抱えてリビングに駆け込んでいる。
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「くそ、麻薬が! 組長に殺されるぞ」
∧_∧
弟(´<_` )「その前にあいつらをぶっ殺してやる!」
-
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:35:14.13 ID:gb3u/rpN0
- 42.
リビングに入ろうとして二人は足を止めた。
水中銃を構えた内藤が狙いをこちらにつけていたからだ。
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「くそ……」
( ^ω^)「二人とも海に飛び込めお」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「そうしたいのはやまやまだが、俺は泳げないんだよ!」
( ^ω^)「ちょうど良いことに、そこにボートがあるお」
∧_∧
弟(´<_` )「ここは言う通りにした方がいいんじゃないか、兄者」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「くそ!」
二人が海に飛び込んだのを見計らってから、内藤はボートを落とした。
甲板の上から二人に声をかける。
( ^ω^)「麻薬のことは悪かったお」
-
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:36:13.21 ID:gb3u/rpN0
- 43.
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「てめえ、必ずぶっ殺すからな!」
∧_∧
弟(´<_` ;)「やめろ兄者、ボートに銛を打ち込まれるぞ」
( ^ω^)「そこで取引したいんだお。あの麻薬、僕が倍の値段で買ってもいいお」
流石兄弟は再び顔を見合わせた。
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「お前、掛け算できるのか?」
∧_∧
弟(´<_` )「四千万円だぞ?」
内藤はリビングに戻り、小切手に4000万円の金額を書き込んだ。
それを空っぽのペットボトルに入れてボートに投げ込む。
二人はそれを目を丸くして見ていた。
∧_∧
弟(´<_` )「こいつが不渡りじゃないって証拠は?」
( ^ω^)「不渡りだったらその時は僕を殺しにくればいいお。
-
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:37:12.82 ID:gb3u/rpN0
- 44.
( ^ω^)「それをあげるから、ツンのことにはもう二度と手を出さないって約束して欲しいお」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「ふうん。まあ、これなら組長も納得するだろうな」
∧_∧
弟(´<_` )「俺も別に文句はない」
( ^ω^)「取引成立ってことでいいかお」
∧_∧
兄( ´_ゝ`)「いいぜ、クソ野郎。俺の背広のクリーニング代はサービスだ」
流石兄弟はオールをこいで岸へ向かい、ブーン号には内藤とツンが残った。
ツンが泣きながら内藤へ駆け寄る。
ξ ;凵G)ξ「内藤さん、怖かっ……ひぎい!?」
( ;ω;)「ぶおおおおおおん!!!」
内藤は野獣の雄叫びのような泣き声をあげてツンに抱き付いた。
( ;ω;)「怖かったお! 死ぬほど怖かったお!! おしっこちびったお!」
ξ ゚听)ξ「だ……だいじょうぶだよ、もう。あのひとたち、いっちゃったから……」
-
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:38:13.88 ID:gb3u/rpN0
- 45.
( ^ω^)「う、うぷ……」
ξ ゚听)ξ「!?」
( ゚ω゚)「おげええええええ」
内藤は船の柵に捕まって思うさま吐いた。
今更こみ上げてきた恐怖が胃腸を直撃したらしい。
ξ ゚听)ξ「だ、だいじょうぶ?」
( ^ω^)「慣れないことはするもんじゃないお。セガールのようにはいかないお……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日から内藤は熱が出て寝込んだ。
まったくもって慣れないことはするもんじゃない。
ベッドでうめいているとツンが洗面器を持ってきた。
-
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:39:14.78 ID:gb3u/rpN0
- 46.
ξ ゚听)ξ「内藤さん、タオルだよ」
( ^ω^)「ありがとうだお」
額に冷たいタオルを当ててもらいながら、内藤は意を決した。
言わないままでいても、彼女はいつか知ることになる。
( ^ω^)「ツン、お前の親はもういないんだお」
ξ ゚听)ξ「?」
( ^ω^)「ママはパパに殺されたんだお。パパはその罪で警察に捕まってるお」
ξ ゚听)ξ「……??」
よくわかっていない顔だ。彼女の理解を超えているらしい。
内藤もまたどんな顔をすればいいのかわからない。
( ^ω^)「えーと、えーと、だから、その……」
-
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:40:14.13 ID:gb3u/rpN0
- 47.
その晩、二人は一緒に寝た。
ツンは内藤の腕の中でずっと泣いていた。
( ^ω^)「大丈夫だお。お前は一人じゃないお」
内藤はどうすることもできず、彼女の髪を撫でながらそう囁き続けた。
同時にあるひとつのことを強く決心する。
( ^ω^)(愛別離苦だお)
愛する者と引き裂かれることの悲しみは、愛する者と出会ってしまった瞬間から不可避となる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから数日は穏やかに過ぎていった。
ある日の夜、ブーン号は大きな港町についた。
出入りする大小様々な船の群れの中に混じり、内藤とツンは久しぶりに上陸を果たした。
-
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:41:13.53 ID:gb3u/rpN0
- 48.
ξ ゚听)ξ「どこへ行くの?」
内藤は答えない。
人々の雑踏が溢れる夜の通りを歩き、二人は警察署の前で止まった。
内藤はツンの前にしゃがみ込んで視線を合わせた。
眼には悲しい決意が満ちている。
( ^ω^)「ツン、この手紙を警察の人に渡すんだお」
ξ ゚听)ξ「いいけど、内藤さんは?」
( ^ω^)「僕は一緒に行けないんだお。ここでお別れだお、ツン」
ξ ゚听)ξ「……」
ツンは子供のながらに決別を悟ったらしい。
内藤の首に抱き付いた。
ξ ゚听)ξ「ツンは内藤さんと一緒にいたい」
-
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:42:13.64 ID:gb3u/rpN0
- 49.
内藤は心の底にしぶとく残った未練が、自分の体を強烈に引っ張るのを感じた。
こんなんでなくても、何か別の……他に方法はあるだろ?
自分はツンと一緒にいたいんだろ?
一人になりたくないんだろ?
涙がこぼれないように内藤は目をぎゅっと閉じ、言った。
( ;ω;)「いつか、いつか僕がまともな人間になったら……ツンと一緒にいても、誰にも
恥じることのないような立派な人間になったら、その時は必ず迎えに行くお」
ξ ゚听)ξ「……」
( ;ω;)「だからしばらく一緒にいられなくなるけど、ツンは何も悪くないお。
僕はツンが大好きだし、ツンは世界一良い子だお」
ξ ゚听)ξ「内藤さん」
( ;ω;)「許して欲しいお。それじゃあ……」
-
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:43:12.57 ID:gb3u/rpN0
- 50.
これ以上一緒にいたら決意が揺らいでしまう。
内藤はツンを突き飛ばすようにして離れ、歩き出した。
ξ ゚听)ξ「内藤さん!」
数歩離れたところで呼ばれて内藤は振り返った。
ツンは眼にいっぱいに涙を浮かべて、それでも笑っていた。
袖をまくり、消えかけた花のペイントを露にして、両手をいっぱいに広げる。
⊂ニニξ ゚ー゚)ξニ⊃「ブーンやって! ブーン!」
⊂ニニ( ^ω^)ニ⊃「ブ、ブーン……」
ツンは必ず迎えに行くという内藤の言葉を何一つ疑うことなく信じたのだ。
内藤は俯いたまま、人込みの中を走り去った。
( ;ω;)「ぢくじょー! 愛することはその身を削るおー!!」
-
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:44:15.34 ID:gb3u/rpN0
- 51.
その後、内藤はツンの学費を残し、貯金をすべて犯罪被害者児童の支援団体に寄付した。
残ったのはブーン号と自分の身一つ、それからツンとの絆。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あれから十年近くが経つ。
内藤は国内線のフェリーの船員として働いていた。
来年になれば10年以上の職務従事という資格を満たし、海技士の免許試験が受けられる。
船長の夢まであと一歩だ。
仕事が休みのある日、内藤はブーン号を貸し倉庫から引っ張り出してきた。
( ^ω^)「よおし、行くお!」
給料のほとんどはこいつの維持費に食われたが、どうしても手放すことができなかったのだ。
港に運び、燃料を入れて海に下ろす。
-
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2008/02/14(木) 20:45:15.82 ID:gb3u/rpN0
- 52.
季節は初夏。いい天気だ。
ウミネコがブーン号のあとを追ってくる。
『内藤さんへ』と書かれた手紙をポケットに入れて、彼はとある港町へ向かっていた。
( ^ω^)「お」
船着場のところでセーラー服の少女が一人、手を振っている。
彼女は両手をいっぱいに広げてブーンをやって見せた。
さあ、会いに行こう。
綺麗になったあの子に、会いに行こう。
おしまい
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