( ^ω^)ブーンの中から目覚めるようです
- 37 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
11:43:38.47 ID:ETtVG602O
‐4‐
愛した者の為に
‐あと1日(最終日)‐
彼女から素性を告白されたとき、あまり驚いた感じはしなかった。
むしろ、やっぱりといった心地の方が強かった。
あの日を共に過ごして、子ども心に違和感を感じ取っていたのだろうか。
今になれば、彼女が普通の人間で無いことの方が当たり前だった。
( ^ω^)「まぁ、そりゃあ柊の低木一本にしたって、普通の人間に消せる訳がないお」
ξ;゚听)ξ「そんな……そこからもうバレてたの?」
( ^ω^)「うん、あんたバカかお」
20年を越しても、彼女の姿はあの頃とあまり変わっていない。
まるで、彼女が小さくなってしまったようで、空虚が心を埋めた。
それでも、懐かしさはある。彼女が去ってからも、暇のある日は彼女を探した。
それほど自分にとって大きな存在だった。再会は、純粋に嬉しかった。
- 38 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
11:45:13.01 ID:ETtVG602O
( ^ω^)「そう言えば、君は僕の体に居座っていたんだお?」
彼女が語った事を思い返し、内藤は訊いた。
ξ゚听)ξ「言い方が気に食わないけど、そうよ。私はあなたの中でずっと暮らしてきた」
内藤の背中を、いやな汗が流れた。
(;^ω^)「じゃ、じゃあさ……」
ξ゚听)ξ「えぇ。あなたがどんな苦しみを味わってきたか、
どんな喜びを得たのか、全部知ってる」
一瞬、内藤は安心して、その後突如走り回って壁に突っ込む事になる。
ξ゚听)ξ「……それから、あなたが毎夜毎晩何をしてたのかも」
( ゚ω゚)「さらばっ!」
ξ;゚听)ξ「いやあぁっ!」
- 39 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
11:47:34.42 ID:ETtVG602O
気絶している時間はそう長くなかった。
下手をすれば致命する可能性もあった傷を受けたはずなのだが、その痛みも消えていた。
ξ゚听)ξ「目が……覚めたかしら?」
その言葉で、少女の力のおかげだとすぐ気付いた。
(;^ω^)「ごめ、また迷惑かけちゃったお、……」
彼女にあげるために、20年近く頭に入れたままにしてきた名前を口にしようとした時、
彼女はふと目の色を失って、床についていた内藤に倒れ込んだ。
( ^ω^)「……?」
状況を、一瞬で把握する事は出来なかった。
彼女はいつも突拍子もなく行動を起こして、それでいて何も言わないから参る。
(;^ω^)「ちょ、ちょっと? 大丈夫かお! しっかりするお!」
ともかく内藤は起き上がって、かわりに少女を寝台に寝かせた。
熱を出したらしい。彼女の体は熱かった。額は汗ばみ、眉間に皺が寄って辛そうだ。
- 40 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
11:50:22.97 ID:ETtVG602O
冷水に布を浸し、水分を絞ったら額に乗せてやる。
( ^ω^)(……単に疲れが出ただけなら良いんだけど)
語られたとおり、彼女は内藤から出てきた鬼だ。
ちょっと倒れただけとて、それがどう転ぶか分からない。
内藤は窓を開け放し、空気を入れ換えながら外を眺めた。
( ^ω^)「……何だお、あれ?」
太陽が、空を下りだした頃の事だった。
それははじめ、内藤の目には何か黒いものが広場で蠢いているようにも見えた。
箪笥から双眼鏡を引っ張り出してようやく、内藤は気付いた。
(;^ω^)「な……何でっ!」
彼らは、手に手に武器を持って、その身に軽い防具を着けていた。
機動力を重視して、敵からの攻撃を顧みない、
奇襲、もしくは圧倒的な力を持つ単体の撃破に用いる部隊だろう。
- 41 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
11:52:25.95 ID:ETtVG602O
(;^ω^)「もしかして、徴兵……? 戦争でも始まるのかお?」
しかし、その観測は外れているとすぐ分かった。よく見ると、女も混じっているし、
そうなのだとしたら、自分の所へも国からの使者がやって来るはずだ。
(;^ω^)「だったら、何で……」
寝台の横に置いた椅子に座り、ぬるくなった布を再び冷水に浸け、軽く絞る。
ほど良く冷えているのを確認して、少女の額にまた乗せてやった。
ξ;--)ξ「う……」
その時、少女の声が小さく聞こえた。
( ^ω^)「あ、起きたかお……」
すぐに彼女が目覚めたと解り、声をかけたが、彼女にそれは聞こえていないらしい。
ξ;--)ξ「え? ど、どういう事だよ?」
( ^ω^)「……?」
- 42 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
11:56:32.44 ID:ETtVG602O
ξ;--)ξ「何なんだよ、殺されるって?」
内容は物騒だし、いつもの彼女らしい口調ではなかった。
彼女の言葉は、いつかの柊のようにツンツンしていて、
時折傷つけられもするけど、それでも気遣いや優しさが見えていて、
内藤はそういう彼女が大好きだったのだが。
ξ;--)ξ「ま、待ってよ! 創歌!」
だけどこれは何だかそれが空回りしていて、誰かに似ていた。
でも、その口調が誰に似ているのか思い出す前に、
彼女は最後に自らの通名を呼んで、その目を開いた。
( ^ω^)「……気分はどうだお?」
しばらく辺りを見回して、彼女はひと息つく。
ξ;゚听)ξ「……最悪ね。夜道を一人歩いてたら空から変態が降ってきた気分だわ」
( ^ω^)「僕の精神を崩壊させる気かお」
内藤は困ったように頭を掻いた。彼女のこういう所に、
いちいち鬼らしさが見えるのが玉に傷なのだった。
- 43 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
11:58:16.06 ID:ETtVG602O
( ^ω^)「で、さっきのって……」
何だかおかしく思えた先ほどの寝言の事を訊こうとして、
内藤はそれよりも大事な話題を思い出した。
(;^ω^)「あ、いや、それより! さっき村の方で、
武装した沢山の人達がいたんだお」
少女はあまり驚いた様子ではなかった。その声を待っていたようですらある。
それから彼女が伝えた言葉は、内藤に絶望を与えるには十分であった。
ξ゚听)ξ「あら、もう気付いたんだ……落ち着いて聞いて頂戴。
あの人達……ここの村人たちは、私を殺すために準備を進めてるのよ」
( ^ω^)「へ……?」
様々な感情が渦巻いて、混沌とした中に初めて見えたのは、怒りの念だった。
- 44 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:03:09.07 ID:ETtVG602O
( ^ω^)「……どういう事だお、それ?」
ξ゚听)ξ「そうね、簡単に言うなら……あなたは、私の罪を知ってるかしら?」
彼女の声はか細くて、この部屋に他の誰かがいたなら聞こえないくらい小さかった。
単に、語ることへ迷いがあるのか、弱りきって声が出せないのか。
或いは、その両方か。
( ^ω^)「……いや」
内藤は首を横に振る。
ξ゚听)ξ「そう……じゃあ、少し昔話をするわ。人は知らないお話を」
( ^ω^)「……」
彼女は体を起こし、寝台の柵に体を寄りかけた。
それから、いくらか逡巡して、ゆっくりと語りだした。
- 45 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:05:06.40 ID:ETtVG602O
ξ゚听)ξ「今からちょうど3000年前のこと。世界には6つの大陸がありましたと」
その頃、「神さま」と呼ばれる存在が、土の中から生まれたそうです。
神さまは立ち上がってみてびっくりしました。
辺りそこらじゅうで、人間は殺し合いばかりしていたのです。
そこで、心優しい神さまは考えました。
どうすれば彼らに殺し合いを止めさせる事が出来るのだろう、と。
神さまはまず、人間たちと話し合おうとしました。人間は聞く耳を持ちません。
次に、いくつも山を作って戦争のしにくい地形にしました。
戦いは泥沼化して、より多くの犠牲が出るようになりました。
なかなか戦いをやめない人間たちに、神さまはだんだん困ってしまいます。
- 46 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:07:21.27 ID:ETtVG602O
その年の末頃でした。
神さまが途方に暮れていると、目の前をたくさんの兵士が通っていきました。
目をやると、その先にはやはり進軍していく兵たちがあります。
いつもを圧倒する大軍でした。
神さまは焦りました。
どうにかしてこの戦争を抑えなければ、人はいずれ滅びてしまうかも知れない。
焦って、焦って。神さまは、その力で以て、世界中を揺るがす大地震を起こしました。
その結果。
大地は割れ、多くの人々が地中へと飲み込まれました。
海はうねり、ほとんどの陸地を削り取り、又、人々を飲み込みました。
( ^ω^)「そんな……」
ξ゚听)ξ「……それでも、人間は僅かながらに生き残りました。
神さまは過ちを悔いながらも、これで人間は正しい道を歩めると信じたのです」
- 47 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:14:38.54 ID:ETtVG602O
ξ゚听)ξ「その考えの甘さを、神さまはすぐに思い知らされました」
神さまは、穏やかな気持ちで、人々の営みを眺めていました。
倒壊した建物を片付け、一つになった大陸で生きるために土地を広げる人。
死者を埋葬し、弔うために大きな慰霊の石像を彫る人。
それから、生き残った勇将を旗印に、「抗神軍」なる軍隊を組んでいる人。
生まれたばかりの神さまでも、彼らの成そうとしていることは分かりました。
神さまは、抵抗しようとも逃げようとも考えませんでした。
何人かの儲は神さまを護るために戦いましたが、彼らも人。
怒る抗神軍の足止めともなれずに、その命を散らしました。
そして、神さまの所へ抗神軍がやって来ました。
- 48 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:16:21.03 ID:ETtVG602O
軍勢に群がられ、幾度となく斬りつけられても、座り込んだままの神さまに、
抗神軍の将はこう持ち掛けました。
「おい、邪神。お前がまともな神になる為のチャンスをくれてやる」
神さまは、訳が分からない、といった様子でした。勇将は尚も言います。
「お前の精神を、良い所と悪い所で真っ二つにする。悪い所は封印して、良い所は放っておく。
それでお前の良い所が、俺らにとっても絶対に良い所と分かったなら、お前をまた神としてやるよ」
ξ゚听)ξ「……神さまの悪い所が、その提案を受け入れました」
( ^ω^)「……じゃあ、つまり。昔の大地震と津波、それから生き延びた事が、
邪使創歌……ツンの罪って奴かお? そんなの、何でも……」
唐突に名を出されて、彼女はちょっと面食らったようであった。
内藤からしたら、そういう少女の姿を見たのは初めてだったかも知れない。
- 50 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:18:51.12 ID:ETtVG602O
ξ゚听)ξ「ツン、か。まぁ何でも良いけど。今話すべきがあったわね」
彼女は、ちょっと機嫌が悪そうに、でもやっぱり少し嬉しそうに、名前を受け入れたようであった。
内藤が、どの位考えてその名をツンに与えたか、よく知っていたからだろうか。
( ^ω^)「そうだお。ツンはずっと封印されてたんだお? 最近、やっと外に出れた。
なのに、何でわざわざ殺してくれなんて頼むんだお!」
少女ツンは、木櫛で髪を梳きながら、呟くように言う。
ξ゚听)ξ「私は、生きていてはいけない。分かったのよ、外に出ていて」
金色の髪が、櫛に多く絡んで、抜けてしまっている。
それでも、彼女にはあまりその感覚が感じられないのか、構わず髪を梳いていた。
- 51 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:20:01.43 ID:ETtVG602O
ξ゚听)ξ「分からないかしら……私は人を喰うの。それも、私が存在するために必要な
物を含んでる、子供ばかりをね。この世に異端は許されない。
だから神さまも消された……違う?」
(;^ω^)「でも、……でも!」
ツンは寝台から降りて、窓から外を眺めた。
ξ゚听)ξ「ブーンが私を救いたい気持ちは解るわ。……痛いほどにね。
だけど、私が殺されようが殺されまいが、私の死ぬ時は今晩よ。
それでも、私を救える? 一緒にいたいって、思えるの?」
彼女の口は、悲しい言葉を次々と放っていく。
内藤が隣にいないことが望みだ、とも言っているように思えてしまった。
( ^ω^)「……ツン」
赤々と燃えている空を見て、内藤はそっと、寝台のある部屋を後にした。
- 52 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:22:29.83 ID:ETtVG602O
少女が一人、取り残された。夕暮れを映してなお鈍色の瞳は虚ろである。
そのまましばらく居たツンが、小さく呻いて、膝をついた。
ξ--)ξ「……はぁ。もうダメか……ごめんなさい、ブーン……」
窓縁に掛かっていた手もずり落ちて、ツンは床に這いつくばるように倒れてしまった。
ξ;--)ξ「もう……何で居なくなったのよ……恨むわよ、詠歌……。
……やっと、人間を愛せた……のに……」
少女は、それきり息もせず、動かなくなってしまった。
( ^ω^)「結構使えるのがあったお、ツ……」
それはあくまで、内藤が武器を手に戻り、彼女を抱き上げるまでの事だが。
- 53 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:23:28.47 ID:ETtVG602O
ξ--)ξ「……ん?」
何度も響くその声に、ツンはやがて意識を取り戻した。
(;^ω^)「ツンっ! 目が覚めたかお?」
体が空中でガタガタと揺れているような奇妙な感覚の下、少女は目覚めた。
ξ;゚听)ξ「お、起きた起きた! 起きたから揺らさないで……」
(;^ω^)「あ、すまんk……お」
自分のことを、まるで猫みたいに抱えている人間の顔を見た時、
少女は涙をこぼしそうになるのを堪えていた。
ξ゚听)ξ「……どうして、戻ってきたの?」
( ^ω^)「聞こえなかったかお? ツンのそばにずっと居るって……。
照れくさかったから、心を読ませたんだけど……」
内藤は、頭をぼりぼり掻いて、人なつこく笑った。
ξ゚听)ξ「……ごめんなさい、もう心は見えないみたい」
- 55 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:25:33.68 ID:ETtVG602O
( ^ω^)「ツンの方も限界が近づいてるのかお……」
そこからはもう、内藤はまじめな顔で外を見ていた。
空が暗くなっていく。山際に、太陽が沈み込んだ。
同時、村中が動き出す。
('A`)「……そろそろ行くか、クー」
川 ゚ -゚)「あぁ。何とかなると良いんだが」
( ゚д゚ )「……日が沈んだか」
(´・_ゝ・`)「……行きましょう!」
( ∵)「……いよいよか」
('、`*川「やっと……」
#Ω「クソッ! あのガキ……どこにいやがる!」
( ^ω^)「……かかってこいお」
ξ--)ξ「ブーン……ありがとう……」
彼らは全て、愛する者の為に動いた。
救いや、幸福を与えるため。仇を討つため。最後まで一緒に居るため。
彼らは武器を手にした。
その小さな戦争に、嘆きの慟哭は響かない。
- 56 : ◆WlNWAJKHjA :2007/11/21(水)
12:27:39.71 ID:ETtVG602O
- 四章はこれまで。色々あったけど投下できて良かった。
この話も次の投下で終わり……頑張って仕上げます。
ではまた。俺はここの保守にまわります。
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