( ^ω^)ブーンの中から目覚めるようです

73 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:37:41.20 ID:CNsmISllO

‐2‐
  記憶の彼方

 ‐あと10日‐

 今日もまた、変態は小さな石造りの部屋の中、いじけていた。
 外はもう、一面の闇であったが、今のところ賑わいは静まる様子はなく、むしろより賑わっていくようである。

 そんな中で、二人の男は静かな時を過ごしていた。

( ^ω^)「ドクオ」

('A`)「あ?」

( ^ω^)「クーはいるのかお?」

('A`)「もう帰ったよ。お前と同じ建物にいたくないってさ」

( ^ω^)「お前ってのはつまり自分の事かお」

('A`)「あぁ、そうだよ」

( ^ω^)「……かわいそうに」

('A`)「本当。無職で女にも好かれないとか……辛くないの?」

( ^ω^)「? ……いや、お前に言ってんだお」


 
76 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:38:04.06 ID:CNsmISllO

('A`)「あ? ……いや、だからお前が自分って言ったのはお前のことじゃねーの?」

( ^ω^)「え? ……あぁ、お前のこと言ってたんだお」

('A`)「……そうすっとつまり俺が同じ建物にいたくない人物で? お前は何だ」

( ^ω^)「僕? ……いや、僕は関係ないお? え?」

('A`)「は?」

( ^ω^)「ほ?」

('A`)「……ともかく一緒の建物にいたくない人物はお前だ」

( ^ω^)「お前じゃね?」

('A`)「俺じゃねえ」

( ^ω^)「その「俺じゃねえ」は「俺じゃね?」みたいなニュアンスのDQN語かお?」

('A`)「それじゃねぇ」

( ^ω^)「その('A`)「黙れ」

( ^ω^)「……」

 祭囃子は、どこか遠くで響いていた。


 
78 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:39:03.09 ID:CNsmISllO

( ^ω^)「……あのさ、ドクオ」

('A`)「んー?」

 しばらく遠い歌の音を聞いていた内藤が、静かに、懐かしむように呟いた。

( ^ω^)「ドクオの子供の頃って……どんな感じだったんだお?」

('A`)「はぁ? 何でったって急にそんなことを……」

(;^ω^)「んー……何か、このお囃子聞いてたら昔の事思い出しちゃって」

 内藤は恥ずかしげに頭を掻いた。それは、過去に何かの秘密があるかのようであった。

('A`)「昔の事?」

(;^ω^)「……まぁ、大したことはないんだお。
       あまり人には話したくないんだけど、こんな事があったんだお……」


 
82 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:40:02.18 ID:CNsmISllO

 20年前も、祭囃子は村中に響いていた。あちこちに赤く炎を揺らめかす提灯が吊され、町は活気に溢れていた。
 ある者は笛太鼓の音に合わせ、その手足を楽しげに踊らせ、
 又ある者は喧騒を離れ、神社の境内で二人静かな時を楽しみ、
 又ある者は共に屋台を巡る友人も居らず、少し人混みを離れて佇むばかりであった。

( ^ω^)「……はぁ」

 幼いころの彼は、今と比べると物静かで、友人と呼べる存在も数少ない。過疎村に送られた都会の子供のように、
 家の中一人、塞ぎ込むことが多い。彼はともかく、その年齢らしからぬ生活を送っていた。

( ^ω^)(お祭りなんて来たって、別に面白くないお)

 思考も然り。
 内藤、当時は嘲笑も込めてブーンと呼ばれていた彼は、母親に無理やり背中を押されて村祭りに来ただけであった。
 それならば、なぜ直ぐに家へ戻らないのか。その理由はある。

 
86 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:41:15.73 ID:CNsmISllO

 彼の母は、一枚の紙幣を掴ませ、内藤を送り出していた。

J( 'ー`)し「お夕飯に、屋台で何か食べてくるのよ」

 そう言いつけて、抵抗する内藤少年を祭りに行かせた。
 彼女の目がどんな色だったか、彼の記憶にはないが、恐らく純粋な親心よりの行動であったのだろう。

( ^ω^)「はーあ……どこのお店も開いてないし、かと言って……」

 一度、内藤の目が燈色の明かりに包まれた広場に向けられる。

( ^ω^)「無いお」

 草むらにしゃがみこんで、一面の星を見る。自分はあそこの暗い星よりも大きいのだろうか。
 それとも、あの星の方が、ずっと大きいのだろうか。あの星からしたら自分は砂粒より小さいのかもしれない。
 ちっぽけだ。空遠くの星からも、そこらの誰かからも、自分はどうもちっぽけだ。
 内藤は苛まれた。

( ^ω^)「……お腹減ったお」

 そして、救いを求めた。
 自分を強く変えてくれるような、大きな救いを。

 
89 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:42:13.56 ID:CNsmISllO

J( 'ー`)し「……本当に良いんですか?」

 内藤の母は、男に尋ねた。か細い手には、似つかわしく小さな包丁が緩く握られていた。

( ^з^)「……あぁ。これも、人の運命だからか……全く迷いが無いな」

 男は、じっと自分を睨む刃先にも、まるで動じていない。男の目はむしろ、震える女性に向いていた。

J( '-`)し「ですが……やはり、未練があるのでは?」

 そこで、男は初めて俯いた。

( ^з^)「……それはもちろんある。愛しい息子を残しては死にたくないさ」

J( '-`)し「それなら……!」

( ^з^)「だが……私はその愛しい息子のために……本当にあいつの為になるかは分からんが、
       鬼など継ぐよりは余程ましなはずなのだ。……だから、私は鬼を解放する」

 長く、沈黙が訪れる。決意を湛え、なお暗い瞳に、女性の心は揺らいだ。

J( '-`)し「……分かりました」


 
92 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:43:17.82 ID:CNsmISllO

 男は頷いた。

( ^з^)「ありがとう。……辛いことを頼んでしまうな。すまない」

J( 'ー`)し「それでもし、私たちのブーンの未来が救われるなら……私はなにも辛くなんてない。
      だから……安心して逝ってくださいね」

 女性の浮かべた笑みは、自嘲的だ。自分の選択と、運命を呪うかのような。

( ^з^)「……柔らかな封印だな。印主の絶命、それだけで解放される
       「鬼」など、恐るべきではないのかも知れんな」

J( 'ー`)し「それは分かりませんよ。実際に滅ぼすか、滅ぼされるかしなければ」

( ^з^)「……そうだな。あとのことは頼むぞ」

 男は優しく、今までを労うように妻の肩に手を置いた。

J( 'ー`)し「えぇ。きっと、最後の時までは守りますよ。神には抗えませんけど、せめて……」

 一歩の距離をゆっくりと歩み、愛する夫の腕の中へ包まれていく。
 握った包丁の先は、前の方へ向けたまま。


 
94 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:44:03.07 ID:CNsmISllO

(;^з^)「っ……」

 彼も、自分の体へ異物が侵入していくのが分かった。同時に、終わりも。
 女の肩を掴んだ手に刻まれた紋章から、黒い炎が上がる。

(;^з^)「これで……終わりか」

 男はよろめきながら一歩退がって、床に座り込んでしまった。
 体に埋まっていた包丁が、落ちて床に血だまりをつくる。

J(;'-`)し「あなた!」

 内藤の母は跪いて、夫を伺う。内臓に達したのか、口端から血が漏れでて、
 既に助かりそうもなかった。

(;^з^)「もう……体に力が入らないか……私も弱くなったな……」

J( '-`)し「……何ででしょうね? 私たちがこんな因果に巻き込まれることなんて無かったのに……」

(;^з^)「はは……私が甘かったんだ。お前には苦労をかけてしまったよ……」

 小さく、祭囃子が聞こえてきた。楽しげなその音は、遠い丘の上での出来事など知らず響く。
 最後の歌は、悲しみを包むように流れていく。

(;^з^)「せめて……喜びのまま最後を……」

 だが、彼の願いは歌の元には届かなかった。

 
95 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:45:03.93 ID:CNsmISllO

 その頃。

(;^ω^)「んー……鼻がムズムズするお」

 低い鼻をこすりながら、内藤は星の数を数えるのをやめた。
 その瞬間は、内藤少年が自分の行動の無意味さに気づいた時であり、
 彼の知らぬところで父親を亡くした時であり、
 また、その少女が自らの眼前に現れた時でもあった。

ξ゚听)ξ「こんにちは」

 先に声を掛けたのは、少女のほうだった。

( ^ω^)「……今は夜だお」

 内藤は、至極つまらなそうに答える。
 目の前の少女が人間でないことを知らなければこその反応であろう。

ξ゚听)ξ「確かにそうね」

 少女はくすっと笑ってから、内藤の隣に座する。
 そのまましばらく居ると、真横から視線を感じた。

( ^ω^)「……? 何か用かお?」

ξ゚听)ξ「別に……」

 内藤は、食事ばかりは十分に摂るため、体躯は齢に合っている。


 
98 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:45:49.04 ID:CNsmISllO

 けれど、少女は痩せていた。骨と皮だけ、という程でもないが、
 背の高さと体の細さがなんだか合わない気がする。

ξ゚听)ξ「……」

( ^ω^)「……」

 内藤は、じっと空遠くを見ている少女を注意深く観察した。
 痛々しい痣や、灰受けにされたかのような火傷痕は見当たらない。
 単に痩せたがっているのか、何かの拍子から拒食状態なのか。

( ^ω^)(うーん……)

 そもそも内藤は、彼女に会った記憶は無かった。
 村へやって来た都会人だろうか。だけど、その人種は裕福な暮らしをしていると聞いている。

( ^ω^)「……あの」

 内藤は、いよいよ耐えかねたようであった。


 
99 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:46:23.58 ID:CNsmISllO

ξ゚听)ξ「何かしら?」

 振り向いた少女の顔は楽しそうなのだが、どこか不満げでもあった。

(;^ω^)「えっと……君はどこから来たんだお?」

ξ゚听)ξ「どこから……?」

 少女は戸惑っているようで、そこから先の言葉は続かなかった。

(;^ω^)「お、親とかは一緒に来てないのかお?」

ξ゚听)ξ「おや……? ……いいえ、それらしいのは来てないわ」

 普段は自ら沈黙を保とうとする内藤が、今日は自ら沈黙を破った。
 彼自身もそれが不思議でならなかった。彼女と話したい気持ちがある。

( ^ω^)(……難しい話だお)

 少女も不可思議だったが、自身もそうだった。


 
102 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:47:45.82 ID:CNsmISllO

 内藤は話し続けた。

( ^ω^)「……そうだ、名前は何て言うんだお?」

ξ゚听)ξ「名前?」

(;^ω^)「そう、名前だお!」

ξ゚听)ξ「私の名前は……。私には名前はないわ。必要ないし、欲しくもない」

 絶対に勝てない敵に出会ったような気分で、少し冷えた身をさすった。

ξ゚听)ξ「……ねぇ」

 少女から口を開いた。

ξ゚听)ξ「……あなたは、私が欲しいような名前をくれる?」

 その言葉の真意は、全く汲み取れなかった。

( ^ω^)「……え?」

ξ゚听)ξ「変な事を訊いたわね、ごめんなさい」

 しかも、何も解せないまま、少女はその話題を切り上げてしまって、
 内藤は何となく置いてけぼりを食らった気分になった。

 
106 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:48:51.15 ID:CNsmISllO

 途端、腹の虫が騒いだ。

(;^ω^)「そういえば君、お腹は減ってないかお? 良かったら、」

ξ゚听)ξ「良いわよ。あっちから食べ物の匂いがするわね……行きましょう?」

 祭りがあることを知らなかったかのような口ぶり。
 冷たかったり、陽気だったりする言葉。
 少女の全てが奇妙に見えて、それでも少女が悪い気はしなかった。

( ^ω^)(……あの子は、何なんだお? それに、名前が無いって……?)

 少女が何を考えているのか、内藤には全く分からなかった。
 むしろ、誰が彼女を理解することなど出来たのだろうか。

ξ゚听)ξ「……置いてくわよ?」

(;^ω^)「あ、ごめんだおっと!」

 立ち上がって、少女について行こうとした瞬間、落ちていた石を踏んだせいで
 平衡感覚が乱れて、近くの植え込みに突っ込んだ。


 
109 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:50:19.06 ID:CNsmISllO

( ゚ω゚)「……は?」

 そして、体のあちこちに痛覚が走る。

ξ;゚听)ξ「何やってんのよ……大丈夫?」

 鼻につく佳香は、柊の花のものであろうか。
 内藤の体は、痛そうな葉の棘でそこらじゅうから流血していた。

(;^ω^)「……! いたたたた! 痛いお! バカ、まんじょこ!」

 自分が何を口走っているのか、何が起こっているのか、
 痛みと混乱の中ではほとんど理解できなかった。

ξ゚听)ξ「落ち着きなさいよ……」

 少女が何かを呟き、瞬間、辺りに光が満ちた。
 眩い閃光を思わせる強烈な光に、内藤は反射的に目をつむった。

 それからすぐ、背中が平地に付いた。

( ^ω^)「……あれ?」

ξ゚听)ξ「大丈夫? ……もう痛くない?」

(;^ω^)「う、うん……まぁ」

ξ゚听)ξ「それなら行きましょう。餓死しちゃうわ」


 
112 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:51:28.77 ID:CNsmISllO

( ^ω^)「……」

 提灯のさがった道を歩きながら、内藤は考えていた。

( ^ω^)(……あのツンツンした葉っぱの木が、消えてたお。
       まさかあれは、あの子が消したのかお? ……
       そうだとしたら、今僕はとんでもない状況にあるみたいだお)

 生姜醤油の香ばしい匂いが近付いてきた。一層空腹を強く覚える。

( ^ω^)「……ま、何でもいいかお」

ξ゚听)ξ「そうよ。何でも難しく考えない方が良いわ」

( ^ω^)「全くだお。悩んでばっかじゃ、幸せが逃げるってもんだお」

ξ゚听)ξ「ふぅん……良いこと言うじゃない」


 
114 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:52:15.97 ID:CNsmISllO

 その後、一通り食べるものを食べ、空腹を満たした後のこと。

( ^ω^)「ゲェプ」

ξ゚听)ξ「汚い」

( ^ω^)「失礼」

 また少し喧騒を離れて、祭り囃子を聞きつつ語らう。
 無理やりに掘り進んだ質問はせずに、思いついた事を言い合う。

( ^ω^)「そういえば、名前が無いんだったお?」

ξ゚听)ξ「そうよ。気に入るような名前はね」

( ^ω^)「お? 気に入らない名前はあるのかお?」

ξ゚听)ξ「……まぁ」

( ^ω^)「教えて……欲しいなぁ」

ξ゚听)ξ「ヤダキモチワルイ」

( ^ω^)「……そんな事いうなお」

 そのうちに、だんだん辺りが暗く、静かになってきた。

 祭りの終わりだった。


 
117 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:53:36.81 ID:CNsmISllO

( ^ω^)「あらら……そろそろ帰らなきゃだお」

ξ゚听)ξ「そうね。きっと「親」が心配してるわよ」

 少女と別れるのは惜しかったが、内藤には何だか妙な確信があった。

( ^ω^)(また……会えるお)

 だからこそ、彼は笑う。そして、手を振る。

( ^ω^)「それじゃ、バイバイだお!」

ξ゚ー゚)ξ「えぇ、またね」

 少女もその時、初めて本心かららしい、飾り気のない笑顔を見せた。

 提灯がひとつひとつ消えていく。
 幾らかして、振り返った時には既に少女の姿は見えなかった。


120 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:54:28.74 ID:CNsmISllO

 ‐再びあと10日‐

(;^ω^)「ってなことがあって。……それ以来祭には行くようにしてたんだけど
        全然会えないもんだからもう行ってないお」

('A`)「へー」

( ^ω^)「……その日だったお。僕のトーチャンが死んだのと、紋章が現れたのは」

 内藤は、隙間から見える空を眺めた。

('A`)「……親父さんは、何で?」

( ^ω^)「殺されたみたいだお。その頃は此処みたいな役所はなかったから
        犯人も見つかってないお」

('A`)「……ふうん」



 
124 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:55:17.86 ID:CNsmISllO
 
 ドクオはそれ以上を訊かなかった。人の生き死にには、ドクオは敏感だ。
 内藤が語りたがらないのも分かったのだろう。

(;^ω^)「あああああああああぁっ!!」

(゚A゚)「うっせえええ!! 何だよ! 何なんだよいきなり!」

(;^ω^)「ドクオてめええぇ!! 誘導尋問に引っかけやがったなあぁ!!」

(゚A゚)「おめーが勝手に語り出したんだろうが! 知らねーよ! 知らねーよ!!」

(#^ω^)「きっさまああああぁぁぁ!! 二度と捕まってやらんからな!」

(゚A゚)「お前みたいな珍客、こっちからお断りだよ!」

 夜は、二人の馬鹿のせいで騒がしさのなか過ぎていく。

 ‐あと9日、内藤の釈放後‐

('A`)「……なあ、クーさんよ」

川 ゚ -゚)「む?」

('A`)「俺、最近あいつの話が単なる妄想とは思えなくなってきたんだが……」

川 ゚ -゚)「そうか、さらばだ」

(゚A゚)「らめえええぇぇぇ!!」

 5日ほど休みをもらう。そんな手紙がドクオの机上にあったのは、その日の事だ。

 
125 ◆WlNWAJKHjA :2007/11/12(月) 03:57:10.74 ID:CNsmISllO
第二話も、これにて終了。

たくさんの支援、嬉しかったです。
ありがとうございました。

 

 

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