(´・ω・`) ショボンは休日を過ごすようです 前編

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:26:49.09 ID:jRcJpbOP0
のんびりなお話しです

 
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:27:24.01 ID:jRcJpbOP0


とある日曜日。貴重な休日。
いつも上手く過ごせなくて、悔しい思いをするんだけど、
その日は珍しく、素敵な日だった。




ショボンは休日を過ごすようです

 
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:28:38.96 ID:jRcJpbOP0
__朝、雨がアパートの部屋の窓を打つ音が聞こえる。
その勢いは弱い。しかし、長い間シトシトと降り続いているようだ。
ウィスパーボイスのようにささやかなメロディーが、僕の耳元に入ってくる。


(´・ω・`) 「う……ん」


僕はその囁きで目を覚ました。
枕元の目覚まし時計に目を配る。


(´・ω・`) 「…珍しい。まだこんな時間か」


時計の針は8時半を指していた。
僕がベルをセットしたのは9時半。
ベルより早く目覚めることが出来て、寝惚けながらも僕は少し嬉しくなる。
”よく分からないが、なぜか嬉しいとき”というやつだ。

 
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:30:08.69 ID:jRcJpbOP0
目覚ましのセットを外し、
僕は布団の温みに暫し包まれることにした。
窓を伝う雨粒を尻目に、ゆっくりと瞳を閉じて気持ちは二度寝の体勢に入る。

(つω・`)「ぬくぬくだ〜……」

自分の体温で温められた布団ほど、気持ちいいものはない。
そして外は雨模様。
僕は少年期を思い出した。野球チームに入っていたときだ。


いつも週末は早朝練習だった。
練習は別に嫌いではなかったが、太陽も昇り切らない刻に、
重い身体を起こすのが何よりの苦痛だった。
しかし、雨が降っていれば雨天中止となり、連絡網が入ってくる。
母からその知らせを聞いたときの安心感といったら…。
僕はその度、起きかかった身体のスイッチをオフにして、
二度寝の快楽へと身を委ねるのだった。


(つω・`) 「懐かしいなぁ。もう、野球なんて何年もやってないや」

(つω-`)「……すぴぃ〜」

 
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:31:38.42 ID:jRcJpbOP0
(´-ω-`)「にゃむにゃむ」




眠りの世界の淵の淵あたりに立ったときだった。
僕の下半身に、とある生理現象が押し寄せる。

(´・ω-`)「とっ」

(;´・ω-`) 「トイレ行きたい……」

温みが気持ち良い一方で、非常にむずむずとした感覚を貰ってしまった。
そういえば昨日の晩、ビールを飲みすぎたなあ。などと回想する。
僕は寝返りを打った。卓上でビールの缶が微かに揺れている。
三つも置かれてあった。ああ、僕は昨日の自分を憎む。

(´;ω;`) 「…トイレ行こ」

僕はあったか布団を後にして身体を起こす。
一度、体は目覚めている。だから、活動を始めるのは実は容易いのだ。
しかしまだまだ動きたくないというこの感情。

面倒臭いなあ。

 
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:33:31.83 ID:jRcJpbOP0
ジョボボボボ

(´-ω-`)「ふひぃ〜」

(´・ω・`) 「よし」

ジャァ――――……

(´・ω・`) 「さてさて」


排尿を済ますと、不可抗力で体が目覚めてしまう。
もうこの状態まで達してしまったら、二度寝は出来ないな。
そう思いつつも布団に入りたくって、僕は急ぎ足で戻ろうとする。
寒い、寒い。早く眠りたい。


(´・ω・`) 「今日の天気は不安定だなあ
     雨も止んでるんだか、降ってるんだか……」

(´・ω・`) 「うー、さむい」

 
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:35:14.75 ID:jRcJpbOP0
僕は無事、布団の中へと帰還した。
少しだけ冷えた体を温め直す。僕は頭まで布団の中へずっぽり入った。
目を閉じなくても暗闇が広がる。
ああ、少年の頃を思い出してしまいそうだ。

布団に潜って、向こう側に出たら不思議な世界だった。

そんな内容の絵本を読んだ覚えがある。そして小さい僕はそれに憧れていた。

布団の中に全身で入って、ゆっくり進み、ちょっとだけ顔を出してみる。
目の前に広がるのはもちろん自室の風景。分かっていながらも何故かワクワクしていた。
ちょっと早起きした時の、何気ない楽しみだった。


(´・ω・`)「よぉし、久しぶりに潜り進むか」


何を思ったか、僕は布団の中を体を丸めて進み始める。
しかし僕はすっかり大人になった。図体もでかい。
数秒で向こう側へと辿り着いた。

僕はひょこっと顔を出す。甲から顔を出す亀さんのように。
見慣れた、色褪せた茶色の壁が僕を迎えた。


 
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:36:39.66 ID:jRcJpbOP0
(´・ω・`) 「ふとんの向こう側には不思議な世界」

(´-ω-`)「か……」

(つω-`)「……ぐぅ」



目を閉じると、雨の勢いが激しくなったのを耳で気付いた。
窓に打ち付ける雨音も大きくなる。
でもいいや。変わり者だと思われそうだが、
雨が降る音は僕にとって最適な子守唄なのだ。

 
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:38:12.59 ID:jRcJpbOP0
(´-ω-`)「…」







――ぴちょん

(´゚ω゚`)「うひゃああっ!?」


首筋に冷たい雫が落下した。
驚き、反射的に半身が起き上がる。
僕は慌てて天井を見た。まさかとは思うが……


(;´・ω・`) 「雨漏りしてるジャマイカ!!」

 
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:40:49.86 ID:jRcJpbOP0
そのまさかだった。天井の隅が雨に濡れ、液体に濡れた色に変わっていた。
あたふたする僕の頭上、ちょうど旋毛あたりに二滴目が落ちる。
そして三滴、四滴。段々ペースが上がってきている。アッチョンブリケ。


(´・ω・`) 「あわわ…」

(;´・ω・`)「このボロアパートめ!」


すると今度は、テーブルの上にあったビール缶に滴が落ちる音が。
まさか二箇所も? 僕は完全に起き上がって部屋を眺めてみた。


…ああっ、二箇所だけじゃない。ざっと見て5箇所ぐらいある。
なんてこった。

 
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:42:15.52 ID:jRcJpbOP0

(#´・ω・`) 「こっちはこのコップ!」

(#´・ω・`) 「ここはコレだ!」


(;´・ω・`) 「ふぅ… これで良し」


全部の雨漏り箇所に処置を施した頃には、僕の眠気はすっかり抜けていた。
二度寝はもう無理だ。

しょうがないなと、僕は渋々、一日を始めることにした。





滴が器に落ちる音、音が、まるで歌うたいのようだった。

 
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:44:33.53 ID:jRcJpbOP0
―――時刻は午前9時。
僕は顔を洗い、歯を磨く。
鏡に移る僕の顔は酷くだらしない。締まりがない。


(´・ω・`) 「しょぼいなあ、僕の顔」

(´・ω・`) 「この眉毛がいかんよな」


僕は歯ブラシを置いて眉尻をクイッと上げてみた。


(`・ω・´) 「イメチェンでもしてみようかなあ。ふふっ」

 
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:47:55.62 ID:jRcJpbOP0
(´・ω・`) 「…なーんてね」


(´・ω・`) 「しゃこしゃこ……」

(´・ω・`) 「がらがらがら」

(´・ω・`) 「ぺっ」


青々と生えた無精髭を摩りながら、
歯磨きを終えた僕は、ぼんやりと考える。


(´・ω・`) 「朝ごはんは何を食べようかな」


冷蔵庫を開けてみる。
数本のビールと、キャベツと卵と食パンがあった。
ん? よく見るとベーコンも少しあるじゃないか。
よし、これで朝食は決まりだな。

 
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:51:14.78 ID:jRcJpbOP0
料理を作るのは下手だが、嫌いではない。
レパートリーも貧弱、しかし自分が作ったものって何故か何でも美味しい。
僕は久方ぶりに台所に立つ。網戸の向こうでは、まだ雨がふり続く。


(´・ω・`) 「油、油…」


熱したフライパンに油を敷き、馴染ませる。
料理ってこういう下準備が何気に楽しい。フライパンを回していると、油の匂いが鼻に触れる。

 
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:54:19.76 ID:jRcJpbOP0
(´・ω・`) 「たまごーたまごー」


卵を手に取り、角にカッカッと二回打つ。
ヒビを両手でかぱっとゆっくり開き、
薄黄色で透明な白身に包まれた、綺麗な卵黄を、フライパンの上に落とした。
よし、上手くできた。
ジュウッとした音がフライパンの上で響く。
透明だった白身が段々と固まっていく。


(´・ω・`) 「いいねえ」

 
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 14:58:40.95 ID:jRcJpbOP0
次に、まな板の上にベーコンを乗せた。
手で千切ってもいいんだが、何となくその場の気分で包丁を握る。
そして大雑把に一切れ、二切れと分けていく。
やや急ぎ気味だ。

(´・ω・`) 「これを、こうして…」

まだ固まりきってない白身の中へベーコンを放る。
放る度、パチパチと音が鳴る。
菜ばしでバランスよくベーコンを配置し、
コショウを二、三回振って味付けをする。美味しそうな匂いが漂ってきた。

(´・ω・`) 「よっし、そろそろいいかな?」

ベーコンも、卵も良い色に焼けた。
僕はガスを止め、換気扇を閉じる。
中皿の上に盛り付け、キャベツを端に添える。




(´・ω・`) 「ベーコンエッグの完成だ!」




僕は箸を口に咥えて、テーブルへと急いだ。

 
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:00:06.63 ID:jRcJpbOP0
部屋のBGMは器に落ちる雨の音。
僕は朝食を食べ始めた。
手を合わせてまずは一声。



(´・ω・`) 「いただきまんこ!」



朝っぱらからこういうことを言えるのも、
孤独な一人暮らしのいい所だ。

 
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:05:38.33 ID:jRcJpbOP0
まず中央の黄身を、箸で二つに分断する。
固まっていない液体状の部分がトロッと流れ出す。わざとこう調節した。
これをベーコンに絡める。
カリカリとしたベーコンの食感、
そしてコショウと黄身の味の掛け合いが堪らない。


(´・ω・`) 「本当はご飯でもいいんだけどな」

(´・ω・`) 「炊くの面倒だし、いいか」

(´・ω・`) 「…美味いなあ」


ジャムとマーガリンを塗ったオーソドックスなトーストもまた良し。
焼き上がりを、ちょうど料理が出来上がりそうな時間に調節して良かった。見事なサクサクもっちり。
何故か今朝は何枚でも食べれる気がした。

 
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:10:31.57 ID:jRcJpbOP0
(´・ω・`) 「猫娘ハァハァ」

テレビアニメをボンヤリ眺めながら朝食は済んだ。
鬼太郎も丸くなったものだ。僕が小さいときはこれの何倍も怖かった覚えがある。

(´・ω・`) 「…今日は何をして過ごそうかなあ」


箸を閉じたり開いたりして思案する。
雨は再び弱まり、気がつけば殆ど止んでいた。


(´・ω・`)「ま、何はともあれ……」


 
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:11:35.50 ID:jRcJpbOP0
皿を台所に置きに行き、戻ってきた俺は徐に棚の上へ手を伸ばす。
ライターと、あと数本しか入っていないセブンスターを手に取ると、
窓辺に座って、早速煙を吐き出すのだった。


(´・ω・`) 「朝たばこはたまらないな」


僕は大学に上がってすぐ煙草を吸い始めた。友達の影響だ。
高校時代から、周囲では煙草を吸う友達はそれなりにいた。
勧められたこともある。しかし、僕は断っていた。

「大人にならないと吸っては駄目だ」

といったような、社会道徳的理由ではない。本当になんとなくだ。
どうしようもなく嫌な気分のとき勧められていたら、もしかしたら吸っていたかもしれない。
そんなもんだ。

 
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:13:05.52 ID:jRcJpbOP0
(´・ω・`) 「ふう〜…」


「今は吸わないけど、大学に進んだらきっと吸うだろう」
僕はこう思っていた。予定ではない、予想だ。
そしてそれは的中。
今じゃ立派な喫煙者。社内で一、二を争うヘビースモーカーだ。

「煙草なんて百害あって一利なしなのに、なんで吸うの?」
よく聞かれる。しかし、それがミソなのだと僕は思う。
淡々と流れていく人生への唯一の反抗というか…、
すごく言葉に表し憎い思想がそこにはあるんだ、うん。
まあ単純に好きだから吸ってるんだけど。


(´・ω・`) 「もう一本吸いたいな」

僕は箱から一本を出そうとする。しかし、掴めない。
どうやら切れてしまったようだ。

(´・ω・`) 「…買いに出かけようか」

 
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:17:10.79 ID:jRcJpbOP0
僕は適当な格好に着替え、外へ出る。


そこら中の水溜りに、太陽が写っていた。



(´・ω・`) 「お、意外と暖かいじゃん」


雨上がりの町を進む足取りは軽やかではない。
道に散る落ち葉が水を含んで、滑りやすい。
蹴飛ばしながら進む。200メートル先の自販機へと。


 
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:18:21.84 ID:jRcJpbOP0
近所の中学校に差し掛かった。
道路沿いのテニスコートで、子供達が水をスポンジで吸い取っている。
これから部活の時間なのだろう。

(´・ω・`) 「テニスねえ。一度もやったときないなあ」

(´・ω・`) 「あ、そういえば来週の接待、ゴルフだった」


(´・ω・`) 「…困った困った」





わざとらしく、困ったように腕を組んで進む。
車の、水を切って走る音が聞こえた。

 
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:20:14.27 ID:jRcJpbOP0
僕は自販機の前に辿り着いた。
近場にコンビニやらが無いのは非常に致命的だ。


(´・ω・`) 「三箱くらい買っておこうかな」

ガタン

(´・ω・`) 「よし、じゃあ帰ろうか」


後ろを振り返る僕の脳裏に、一つの考えが横切る。


このまま帰っても暇だなあ と。

いや、休日なんていつも暇だ。
友達も少ないから遊ぶ予定も余り入ってこない。買い物も大して好きじゃないし。
そう。いつもなら昼過ぎに起きて、2chに入り浸って…。まあいいや。空しくなる。
でも今日は、珍しく早起きしたし……
何か惜しい感じがしたんだ。

(´・ω・`) 「じゃあ、喫茶店にでも行こうかな…。うん」

 
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:21:52.81 ID:jRcJpbOP0
――僕は喫茶店まで、散歩を始めた。
散歩は基本的に好きだ。一人になれる。
一人になれる時間は貴重だ。物を考えられる。

だけど、わざと頭を空っぽにして歩いてみる。
何も考えない。するとどうだろう。
何だか体が軽くなって、地に足を着けているのに、空を飛んでいるような気分になる。

前に同僚にこのことを話したら、ちょっと変な顔をされた。



(´・ω・`) 「……」



(´・ω・`) 「つ、つめたっ」



気がつくと衣服が軽く濡れている。
空を見上げると、彼は不機嫌な表情を浮かべていた。
また雨が降り始めたのか。
ため息が漏れた。

 
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:23:40.60 ID:jRcJpbOP0

(´・ω・`) 「あーもう」


僕は水気のある髪をくしゃくしゃに掻きむしり、歩を早める。
どんどん服と体が濡れていく。

(´・ω・`) (あそこで休もう)


目の前には本屋があった。緑のビニール屋根の下へと僕は駆け込む。
煙草を吸いながら、町が、再び濡らされていくのを見ていた。


「こほっ」


僕の煙にむせているような、女性の声が聞こえた。
隣に同じようにして雨宿りをする人がいたとは。
ぼーっとしすぎていて気がつかなかった。これはひどい。

(´・ω・`) 「し、失礼」


僕はまだ半分くらい丈が残っている煙草を地に落とし、踏んづけた。

 
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:25:23.53 ID:jRcJpbOP0
「いえいえ」

(´・ω・`) 「…」

(´・ω・`) 「あっ…!」


返事をしたその人物に僕は驚いた。
失礼ながら、思わず指まで指してしまった。
驚きのモーションをとったら、相手も気付いたらしい。
急に、ハッとした表情を浮かべる。





(*゚ー゚)「ショボンくん!?」





そう、彼女の名前はしぃ。
僕と彼女は、学生時代同棲していた。
一つ屋根の下で。

 
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:29:56.68 ID:jRcJpbOP0
(´・ω・`) 「ど、どうしたの?こんな所まで」

(´・ω・`) 「君が働いてるのって、隣の県だよね?」


(*゚ー゚)「うん。昨日ね、友達の結婚式だったの」

(*゚ー゚)「一晩泊まって、今から帰るところ……」

話す彼女の顔は、昔より、大人びていた。
化粧の仕方が、なんだか上手くなったように思える。
口紅の色も全然違う。髪の毛も伸びたなあ……。大人の女性になったんだな。

ここで僕は、雨が止んだのちの自分の行動を思い出した。
そしてそれを、せっかく昔の彼女と会えたという事柄に繋げたくて、話しかける。




(´・ω・`) 「あのさ、久しぶりなんだし、ちょっと話さない?」

 
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:34:29.46 ID:jRcJpbOP0
彼女は少しだけ考えたあと、「いいよ」と言ってくれた。
考える表情は数年前と変わっていなかったことが、嬉しかった。

雨が止むのを待つのが、なんだか苛立たしい。
僕は、斜向かいのコンビニへと突っ走った。
ビニール傘を買う。そしてまた本屋へと急いで戻ってくる僕の姿を見て、しぃは笑った。


(*゚ー゚)「も〜。そんなに喫茶店行きたいんだ?」


(´・ω・`) 「あ、いや」


彼女の前では嘘はつけない。



(´・ω・`) 「う、うん!」

 
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:36:44.22 ID:jRcJpbOP0
「ご注文は?」


(*゚ー゚)「コーヒー、ホットで」

「かしこまりました。そちらの方は…」

(´・ω・`) 「こぶ茶」

「?」

(;´・ω・`)「あ、なんでもないっす!」


僕は無意識のうちに、かなり動揺していたようだった。
ここ数ヶ月、異性との関わりなんて何もなかったからな。
そもそも僕が、彼女と付き合えたことも、かなり運が良かったんだと、
今では思っている。




今では、ね。






 
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:38:50.88 ID:jRcJpbOP0
(*゚ー゚)「くすくす…」

考える顔は同じだったけど、笑い顔は違うかもしれない。
なんだか上品に笑いやがる。もっと大口空けてバカ笑いする子だったな。


(´・ω・`) 「……」

(´・ω・`) 「はあ」


(*゚ー゚)「何、ため息ついてんのよっ!」


(´・ω・`) 「いやね」

(´・ω・`) 「昔と今の君をやたらと、頭の中で比べてしまうんだ」

(´・ω・`) 「嫌だね、年をとるって」


しぃは静かにコップを置き、
優しく呟いた。


「あなたは何も変わってないわよ?」

 
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:41:54.53 ID:jRcJpbOP0

(;´・ω・`) 「そうかな?」


それは良いことなんだろうか。悪いことなんだろうか。
僕は学生の頃から、何かが変わったという自覚はない。
だけど、変わってないなんて確証もない。
そうさ、自分がどうなったかなんて、自分自身じゃよく分からないものなんだ。

しかし目の前にいる彼女は、簡単に「変わってない」と言い放った。
それは軽い意味なんだろうか深い意味なんだろうか
ああ。また考えが分断される。


(*゚ー゚)「何、考えこんでるの?」

(´・ω・`) 「あ、いや…」


(*゚ー゚)「ふふっ、やっぱり変わってない」

 
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:42:57.20 ID:jRcJpbOP0
彼女はいつも僕より一歩上だった。
僕が、何か悩み、苦悩する姿を見て、
まるで学校の先生みたいにアドバイスをくれる女の子だった。
思い起こせば、僕は彼女に、
頼りすぎていたかもしれない。


別れた理由?
そんなの忘れ―――――



「怒ってる? 急に飛び出したこと?」




(´・ω・`) 「…」





しまった。急に真顔になってしまった。
そうなんだ。僕は、「忘れたということにしている」だけ。
君は、出て行った。手紙一つ残して。

 
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:44:05.00 ID:jRcJpbOP0
僕は笑って答える


(´・ω・`) 「怒ってないよ全然」


君は咄嗟に返事する


(*゚ー゚)「なんで?」


僕は笑って答える


(´・ω・`) 「…時間が、経ったからだよ」



しぃは、コーヒーを飲み干し、窓から町を眺めて、言った。
その表情は、安堵が少し、混じっていた、かな。


「作り笑い、してるでしょ?」

 
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:48:40.39 ID:jRcJpbOP0
やっぱり彼女は僕の上を行く。
見抜かれていたか。なるべく上手くやろうと思ったんだけど。


(´・ω・`) 「この笑顔は作り物だけど…」

(´・ω・`) 「言ってることは、本当さ」


我ながら、演技臭いことを言ってしまったと思った。
しぃの顔が緩む。次の彼女のアクションは決まっている。

(*゚ー゚)「何言ってるのよー! もう〜!」

無邪気な表情。昔のまま。良かった。なんだか、本当に良かった。




(´・ω・`) 「君も全然変わってない」


(*゚ー゚)「そう? 私、結構美人になったんだけどなあ〜」


(´・ω・`) 「そ、それは認める」

 
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:57:33.77 ID:GsCDWTzDO BE:962545875-2BP(125)
待ち時間に駄画を一つ
http://imepita.jp/20071111/571710

 
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 15:58:01.57 ID:jRcJpbOP0
(´・ω・`) 「最近、どうなの?」


   僕の生活に、彼女が入り込んできたのは突然のこと。
   サークルで知り合って、お互いが気になって、一緒になった。


(*゚ー゚)「んー。別に…? 仕事も普通、恋愛もなし」


   二人の暮らしは普通に過ぎる。
   何も特別なことなんてなかった。喧嘩もほとんどなかったかな。


(´・ω・`) 「そっか。僕も同じようなもんだ」


   僕の生活から、彼女がスポッと抜けたのも突然のことだった。
   部屋に戻り、当たり前のように彼女がいると思っていた。


(*゚ー゚)「二人ともそんな遊び好きな人じゃなかったもんね!」


   でもいなくて、そこにあったのは一通の手紙だけ。
   その日から彼女のいない生活が始まった。

 
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 16:01:30.06 ID:jRcJpbOP0
最初は当たり前に悲しかったさ。
だけど、酒を飲んだり、煙草を吸ったり、友達と遊んだりして、なんとかなった。すぐにね。



「そんなもんなんだ」って思った。



結局本当に大事なものなんて、自分だけなんだ。どうってことない。
ここまで悟ることもできた。まぁこれは極論だけども…


(´・ω・`) 「あ、君さあ、さっき僕のこと変わってないって言ったけど」

(*゚ー゚)「うん?」

(´・ω・`) 「大人になったと思わないかい?」

(*゚ー゚)「君が?」

(´・ω・`) 「ああ」

(*゚ー゚)「あはは!! そういうの自分で言うかな? 良かったら理由を教えてよ」



(´・ω・`) 「き、君が出て行った理由を、求めないあたりが……」

 
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 16:06:04.53 ID:jRcJpbOP0
一瞬、彼女の顔が強張る。
だけど、すぐにまた優しくなった。

(*゚ー゚)「…」

僕はあんな一言を吐いて何がしたかったんだろう。逆にしぃから理由を引き出したかったのか。
いや違う。完全に否定は出来ないけど… 違うんだ。


(*゚ー゚)「理由は言わないよっ」


(´・ω・`) (ああ…、やっぱりそう捉えられてしまったか)


(*゚ー゚)「言わなくても分かることは喋らないよ」




(*゚ー゚)「だって君は大人になったんでしょう?」





(´・ω・`) 「あ…うん。そうだね」

やっぱりしぃには敵わない。
そう思った。

 
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 16:14:36.89 ID:jRcJpbOP0
気がつくと雨は上がっていた。
喫茶店の窓から、虹が見える。


(´・ω・`) 「あ、見て。虹だよ」

(*゚ー゚)「わぁ〜。ほんと…」



(*゚ー゚)「じゃ、雨宿りはもうおしまい!」

(*゚ー゚)「これ以上座り続けたら、お互い余計なことばっかり言いそうだなあ…」


また何か意味深いことを彼女は言う。
ちょっと困った顔をして、しぃはハンドバッグから財布を取り出した。

僕は、何か紙はないかとポケットの中を弄った。
レシートを発見。ジャケットの内ポケットからペンを取り出し、
電話番号を書いた。

しぃは僕の様子に気付いていないようだった。虹をただ眺めている。
僕はすぐに紙を渡さず、まずは会計を済ますことにした。

 
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 16:21:52.99 ID:jRcJpbOP0

二人は雨上がりの町へ出る。
晴れたり止んだり、今日の町は忙しい。


(*゚ー゚)「それじゃ… また会えたら、いいね!」



しいは屈託のない笑顔を、最後に僕に見せてくれた。
これは素の笑顔だってすぐ分かる。嬉しかった、最後にその表情が見れて。
…でも最後にしたくない。
僕はポケットの中から、電話番号が書かれたレシートを取り出し、握った。


しいは僕に背を向ける。ロングヘアーがふわっと浮き上がり、いい香りがした。
ここで引き止めなければ、彼女はそのまま去っていってしまうだろう。
言え、言うんだ。引き止めろ。また、一緒に……

 
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 16:23:47.30 ID:xTchjKTo0
(;´・ω・`) 「し、しい!!」






数十メートル離れたところで僕は叫ぶ。
しいは、不思議そうな顔で振り向いた。






(;´・ω・`) 「あ、あのさ―――――」









(*゚ー゚)「?」


 
81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 16:28:03.06 ID:xTchjKTo0
両手の握り拳に力が入る。
上手く喉から言葉をひねり出せない。



(´・ω・`) 「あ、あの…、その…」

(*゚ー゚)「何言いたいのか分からないよーっ!」







(´・ω・`) 「お、お元気でー! 体大切にねー!!!!!」









(´・ω・`) (…あ、あれ?)

 
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 16:32:22.34 ID:xTchjKTo0
僕はしいを引き止めて、電話番号を渡したかった。
また一緒に過ごしたいという気持ちがあった。
しかし、叫んだ台詞は全く異なる物。
ああ、何やってんだ僕。


(*゚ー゚)「…ぷっ」

(*゚ー゚)「あははははっ! わざわざ、引き止めて言うこと?」

(*゚ー゚)「でもありがとね! 君も煙草ばっか吸ってちゃ駄目だよ?」

(*゚ー゚)「それじゃ、またね!」




しぃと僕の距離は、そのまま縮まることなく広がっていった。

姿が見えなくなるまで、僕は、電話番号を書いた紙を握り締めながら、見送っていた。
呆然と、立ち尽くしていた。




(´・ω・`)「……………」

 
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日) 16:37:04.58 ID:xTchjKTo0
苛立ちも、切なさも、悲しみも、悔しさも、特に感じなかった。

ただ、あの日置いていった手紙の、最後の一文を思い出していた。






「さようなら。お互い、大人になったらまた………」








(´・ω・`) 「うん」

(´・ω・`) 「そういうことなんだね」

(´・ω・`) 「…引き止めなくてよかった」


僕はレシートを、クシャクシャに丸めて側溝に投げ捨てた。
「僕は一生ガキのままかもしれないな」 そんな、中二病みたいな事を考えながら、
僕も、喫茶店を後にするのだった。
 

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