(´・ω・`) ショボンは休日を過ごすようです 後編
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
18:28:03.70 ID:EsL6ymac0
※
僕は、空っぽの頭で町をウロウロしていた。
なんとなく、家には帰りたくなかった。
頭上には、太陽が燦然と輝いている。もう、雨は降らないだろう。
しぃと一緒に見た虹は、消えてしまった。
すぐに消えてしまうから、良いんだろうな。花火だってそうだ。
誰かとの恋も同じく。
(´・ω・`) (あー駄目だ駄目だ)
(´・ω・`) (しぃのことは切り離さそう)
どれだけ、実は彼女を欲していたかが分かってしまった。
でも、その気持ちもすぐに止むだろう。
そんなもんだ。そう、そんなもん。
こうして自分を無理矢理納得させる、青い僕がいた。
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
18:30:05.93 ID:EsL6ymac0
僕は、近所の公園へと軟着陸した。
そして、ベンチに腰を下ろす。時計を見てみると、まもなく正午を迎える時刻だった。
ただ喋って、コーヒーを飲んでいただけなのに、
意外と時間は過ぎていたんだな。
(´・ω・`) 「…っふう〜」
両手を後ろに着き、上体を反らして空を仰ぐ。
空は、さっきまでの不機嫌が嘘のように、澄み渡る青をしていた。
眺めていると、なんだかこれから、いいことが起こりそうな…
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「おなか減ったなあ」
僕はお腹を擦って、周囲を見渡してみる。
特に満杯にならなくてもいい。何か口に挟めるものが欲しい。
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
18:33:23.57 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`) 「…お、ちょうどいいのが見つかった」
70メートルくらい離れた場所に、
フランクフルトを売るキャラバンを僕は見つけた。
そういえば、そういったジャンクフード的なものは最近食べていないな。
興味が沸き、早速、買いに僕は歩き出した。
(´・ω・`) 「すいません、三本お願いします」
(´・ω・`) 「…あ、それとマスタード多めで」
「はい!400円になります」
僕は小銭入れの中から百円玉を4枚取り出す。
ソーセージの香ばしい匂いが食欲をそそる。
「出来立てですよ!毎度!」
(´・ω・`) 「どうも」
発砲スチロールの器を手に、僕はベンチへと戻る。
太陽の日差しが増してきて、過ごしやすい天候になってきた。
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
18:37:07.52 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`) 「いただっきまーす」
ベンチに腰掛け、フランクフルトを一口かじる。
ソーセージは、噛み千切る瞬間の、この歯ごたえがいいんだ。
口の中に肉汁が広がっていく。ジューシーという言葉がよく合う。
その塩味を、多めにしてもらったマスタードが統制して、美味しさを引き出している。
(´・ω・`) 「はふっはふっ…… ああ、おいし」
上唇に付いたケチャップをペロリと舐めて思った。あの店は当たりだ。
会社の昼休みにでも、今度また顔を出そうと僕は思った。
都会の喧騒を離れ、
独り公園のベンチで、フランクフルトを頬張る。
実に、悪くない。
自然に笑みがこぼれた。
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
18:40:42.75 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`) 「ああ、食べた食べた」
大きなフランクフルト三本は、何気に腹が膨れるということを知った。
ゴミ箱に皿を捨て、ベンチに再び腰掛けると、
自然と横たわる体勢になっていった。
(つω・`)「ううっ……」
心が楽だと、体も楽になる。
それ故、昼食を摂った僕は激しい眠気に襲われた。
太陽の光が暖かい。このままベンチで寝てしまおう。
(´-ω-`)「ねむねむ……」
瞼の裏にしぃを投射して僕は眠る。
……目覚めたとき、彼女のことを少しでも忘れていればいいな。
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
18:49:22.82 ID:EsL6ymac0
〜〜〜〜〜〜〜
(*゚ー゚)「えと、山形県から入学してきました。椎名です」
(*゚ー゚)「地元の友達からは”しぃ”とか”しぃちゃん”って呼ばれてました」
(´・ω・`) (しぃちゃんか。かわいいなあ…)
〜〜〜〜〜〜〜
(*゚ー゚)「私もこのバンド好きなんだ」
(*゚ー゚)「どう?今度ライブ行かない?チケット余っちゃって…」
(´・ω・`) 「ぜ、ぜひ!(女の子と遊ぶのなんて、始めてだ!!!)」
〜〜〜〜〜〜〜
(;´・ω・`) 「しぃちゃん! 僕は君のことがすすすすすすすす」
(*゚ー゚)「……私も君のこと、好きだよ。付き合っちゃおうか?」
(;;´・ω・`) 「つ、付き合っちゃいますか!?」
(;;´・ω・`) 「よ、よろしししししし…」
(*゚ー゚)「あはは… 面白いねショボンくん」
(´゚ω゚`)
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
18:55:01.11 ID:EsL6ymac0
〜〜〜〜〜〜〜
(*゚ー゚)「このパーカーなんて似合うと思うな」
(´・ω・`) 「そうかな?よし、試着してこよう」
(´・ω・`) 「…サイズ合わなかった」
(*゚ー゚)(着痩せするタイプだから意外と太ってるのよね…)
〜〜〜〜〜〜〜
(#゚ー゚)「ショボン君のバカ。自分が言ってることが全て正しいと思わないで!!!」
(´・ω・`) 「うるさいな! 君こそそうやって屁理屈言うばかりじゃないか」
(#゚ー゚)「中身のない文句より、中身のある屁理屈よ」
(;´・ω・`) 「うっ…」
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
19:00:56.47 ID:EsL6ymac0
〜〜〜〜〜〜〜
(´・ω・`) 「僕たち、ずっと一緒にいられると思うかい?」
(*゚ー゚) 「さあ」
(´・ω・`) 「…君ってよく”さあ”って言うよね」
(*゚ー゚) 「だってずっと一緒にいられる なんて言ったら」
(*゚ー゚)「そんなの、私たちにとって、重荷にしかならないと思わない?」
(´・ω・`) 「なるほど…」
(*゚ー゚)「……ねえ、もっと寄っていい?」
(´・ω・`) 「うんいいよ。でも、いきなりなんで?」
(*゚ー゚)「この夜の間くらいは、こうやってずっと一緒にいられるから!」
(;´・ω・`) (かわいいなチクショウ……)
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
19:30:57.56 ID:EsL6ymac0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(´-ω-`)「…」
「打った! 打ったぞ!」
「ばか! 思い切りファールじゃん!」
「高っかー!! どこまで上がるんだよ!」
「あそこのベンチに人寝てるよ?」
「落ちる! 落ちちゃう!」
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
19:32:24.46 ID:EsL6ymac0
――――ぼこっ
鈍い音が微かに聞こえた。同時に、痛烈な痛みが鼻に走る。
一体何がどうした?
僕は寝惚けてながらも、鼻を擦る
(´・ω・`) 「はな、ぢ……」
掌には真紅の液体が、べったりと塗りたくられていた。
慌てて飛び起き、水飲み場を探す。
とりあえず、鼻血が垂れ流しになっているであろう無様な顔面を洗いたい。
(;´・ω・`) 「お、見つけた。急げ急げ…」
鼻を手で覆い隠しながら、蛇口へと急ぐ。
遊んでいた小学生達が僕をジロジロと見ている。畜生、こっちも大変なんだよ。
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
19:40:50.12 ID:EsL6ymac0
蛇口を捻って水で顔を洗う。
水は血の色をまとって流れていく。ああ、かなり冷たい。
眠気が一瞬にして覚めていく。せっかく気持ち良く寝ていたのにな…
「おい・・ 怒ってないか?」
「わからない! 顔洗ってる」
「でもなんか弱そうだし大丈夫じゃね」
「ばぁか。ああいうのが一番怖いんだよ」
後方から子供たちの声がする。
…? 僕のことを言っているのか?
167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
19:44:23.02 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`) 「…ふう」
水を服で拭い、鼻の穴の近くに軽く触れてみた。
鼻血がついた。やはりまだ少し流れているらしい。
僕は一番近くにいた、左グローブの男の子に話しかける。
(´・ω・`) 「ちょっと、ティッシュを貰えるかい?」
(;○ω○)「びくっ!! は、はいだお」
変な口調のその男の子は、丸いメガネをクイッと上げて、
ポケットティッシュを差し出してくれた。
僕はありがたく受け取り、半分に千切ったティッシュを丸めて鼻の穴に突っ込む。
これでベンチで横になっていれば、すぐに止むだろう。
(´・ω・`) (何をこんなに怯えているんだこの子は)
169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
19:48:24.92 ID:EsL6ymac0
「遂に絡まれたか…」
「あーやばい。おい内藤、あとはおまえが責任とれよ」
「逃げろ〜」
(;○ω○)「やばいお……」
(´・ω・`) 「へ?何が?」
少し疑念を持ちつつも、僕は少年に礼を言って、ベンチへと向かう。
芝生に埋もれていた、何か球状のものを僕は踏み付けた。
(´・ω・`) 「これはボールだな」
(´・ω・`) 「…これが当たったのかな?」
なるほど、リンクした。
野球をしていた少年たちの球が、僕の鼻に当たったわけか。
いや、最初から気付けよ自分。
176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:06:23.27 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`) 「このボール飛ばしたの君かい?」
土と草の色をした、軟球Cの球を拾い、
眼鏡の少年に差し伸べた。しかし少年は直立不動。
そして、こう返事をした。
( ○ω○)「そ、そうですお……」
少年の向こうに、スコアボードやら、
ほとんど消えかかっている野球のラインが引かれているのを見つけた。
(´・ω・`) 「ベースはあそこかあ。ふふっ」
(´・ω・`) 「えらく特大ファールだな」
( ○ω○)「す、すいませんだお!」
( ○ω○)「どうか命だけわー…」
少年は頭を両手で隠した。
そんなに怖がらなくていいのに。
177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:08:46.03 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`) 「…? 何言ってるんだ」
(´・ω・`) 「別にそんなに怒っていないから」
(´・ω・`) 「今度はちゃんと真っ直ぐデカく飛ばすんだぞ」
(´・ω・`) 「…んじゃ」
「おーいおっさーん! その球くれよー!」
僕が怖い人物ではないということを確認したかのようなタイミングで、
向こうから少年たちがまたひょこっと現れた。
球を飛ばしたこの子を残して、みんな逃げたのか。子供の集団にはよくあることだな。
僕は軟球をちゃんとした握り方で握り直した。
大袈裟に振りかぶって、向こうの子供が出しているグローブに目掛けてぶん投げる。
180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:11:59.30 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`) 「僕はまだ」
(´・ω・`) 「おっさんでは」
(´・ω・`) 「なぁああああい!!!!」
僕の右腕がしなった。
投げ飛ばされた球は真っ直ぐに、一定のスピードを保って飛んでいく。
( ○ω○)「わっ!速いお!」
差し出したグローブの中に、軟球は気持ちのいい音を響かせて収まった。
子供たちが驚いた顔になり、僕はなんだか自慢げになる。
(´・ω・`) 「ふふっ。元球児をなめるなよ」
182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:16:07.41 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`)「さて… 僕はベンチで横になりながら、ちびっこ達の観戦でもするか」
(´・ω・`) 「っと、その前に」
僕はコーヒーが飲みたくなり、自販機へと向かうことにした。
少年たちの前を横切ると、賛美の言葉が送られた。
「すげーおっさん! 野球やってたの?」
「いい球投げるねおっさん!」
(#´・ω・`) 「僕はおっさんじゃない! まだ26だ!」
「四捨五入すると30歳だよおっさん!」
(#´・ω・`) 「やかましい!」
185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:20:10.91 ID:EsL6ymac0
(´・ω・`) 「…、あ、君、ティッシュありがとね」
( ○ω○)「は、はいだお…」
眼鏡の少年にティッシュを返し、僕は一先ず公園を後にした。
再び、公園に少年たちの元気な声が、
散らばっていくのが分かった。
――
(´・ω・`) 「さーてと」
公園のすぐ傍に、自動販売機はあった。
僕は自販機に小銭を入れようとする。
しかし、一つ二つ建物の向こうに、スターバックスの看板を見つけてしまった。
(´・ω・`) 「おっ、そういえば最近オープンしたんだっけ」
休日ぐらい、缶コーヒーじゃなくてあそこのコーヒーをテイクアウトして飲みたいな。
そんな思いに駆られて、僕の足は店へと進み始める。
186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:27:49.68 ID:9jBGa78U0
※
(´・ω・`) 「…ふう」
僕はコーヒーの紙コップを手に、ベンチに戻った。
コップに鼻を近づけてまずは香りを楽しむ。
本場の豆があーだこーだ とか、関係ない。ただ僕を良い気分にさせてくれればいい。
煙草やお酒もそうだけど、僕は銘柄をあまり意識しない。
僕が煙草やコーヒーなど、やたら嗜好品を好む理由。
それは落ち着くからだ。煙草の煙や、熱いコーヒーが体の中に入り込んでジワッと広がってくる瞬間、
僕はこの世のものとは思えない落ち着きを手にする。
それは、非常に悪い言い方をすれば、「依存」とか「中毒」と呼ぶのだけれど、別に僕が勝手に溺れているだけだから構わない。
(´・ω・`) 「二杯目か」
(´・ω・`) 「…今夜も眠れなさそうだなあ」
190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:34:27.27 ID:9jBGa78U0
器の中に僕はそっと舌を差し込む。
コーヒーの熱さで、僕の舌はたちまち痺れてしまう。
すると熱さに段々と慣れてくるから、少しずつ、少しずつ噛んでいく。
飲み物を噛むというのは、語弊が生じる。
しかし、それは飲み物をよく味わうには必須の行為なのだと僕は思う。
喉だけで味わうのは、発泡酒だけで十分だ。
(´・ω・`) 「ふぅ… 落ち着くなあ」
コーヒーは基本的にブラックだが、今回はなんとなく砂糖を少し入れてみた。
口の中に広がっていく痛烈とした苦味の中で、微かな甘さを探し出して、
それを味わうのがなんとも楽しい。
僕の視線の向こうでは、少年たちの熱戦が繰広げられていた。
192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:38:39.42 ID:9jBGa78U0
「やった! 打ったぞ!」
「これで満塁だ… よし!逆転のチャンス!」
少年たちの盛り上がった声はこちらまで響いてくる。
テイクアウトしないで、店内で飲んでいれば、
小洒落た音楽を聞きながらそれはそれで良い感じなのだが、これも悪くない。
「次のバッターは誰だ?」
「…」
「どうしたんだよ」
(´・ω・`) (誰なのかな?)
「内藤だ… もう駄目だ人生オワタ」
(;○ω○)「……」
193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:42:12.00 ID:9jBGa78U0
(;○ω○)「……」
内藤。僕にボールを当てた気弱そうな子か。
「あー!どうしよう! 今日の試合は絶対勝ちたいのに…」
「…代打出すか?」
「ばっか! このチームは9人しかいないこと分かってるだろ」
「あの人だよ」
少年の一人がこちらを指差した。
僕は、「じ、自分ですか?」といった感じに自分の顔を指差す。
すると少年は屈託ない笑顔で大きく頷いた。
…やれやれ。僕はとりあえずあっちへ向かうことにした。
(´・ω・`) 「コーヒーまだ少し残ってるんだけどな、まあいっか」
195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:47:59.54 ID:9jBGa78U0
グラウンドへ行くと、そこで出迎えたのはグローブを差し出した男の子だった。
長身で、小学生ながらいいガタイをしている。
('A`)「よおおっさん。頼みたいことがあるんだ」
('A`)「あ、俺はドクオな」
ドクオは両手を合わせて、
頭を下げて僕にこう頼み込んだ。
('A`)「頼むっ! 内藤に代わって打ってくれ! このままじゃチャンス逃してまた負けちまうよ!」
僕は腕を組み、考えている素振りをちらつかせながら答える。
(´・ω・`) 「…内藤くんじゃ、駄目なのかい?」
すぐさまドクオは大きい声で答える。
('A`)「駄目だ! こいつはやばいくらい下手クソなんだよ!」
('A`)「おっさん、さっきの投球を見る限り、打つほうもイケるだろ?」
199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:51:20.65 ID:9jBGa78U0
(;○ω○)「うう…」
(´・ω・`) 「まあな、小中高と野球漬けだったし」
(´・ω・`) 「…でも、内藤くんはいいのかい?」
(;○ω○)「…」
('A`)「おい内藤てめえ、空気読めよ」
「そーだそーだ」
ドクオが内藤を睨み、内藤が僕を弱々しい瞳で見つめ、
僕はといえば、相手チームのピッチャーの憤慨に気付いた。
「なあ、まだ? 早くしてくれよな」
203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:57:08.81 ID:9jBGa78U0
ピッチャーは不機嫌そうな顔で、
球をミットに投げたりを繰り返していた。
ピッチャーの心理にしてみれば、内藤が見れば抑えるのは楽勝だ。
しかし、僕が打席に立ったらとても厄介。ドクオの策にイライラしているのだろう。
(A`)「ごめんな〜 あと20秒!」
「おう」
('A`)「…で?どう?」
('A`)「これやるからさあ」
ドクオはポケットの中から、チュッパチャップスを取り出した。カラフルな包み紙が懐かしい。
……この僕を、このショボン様を、飴玉ひとつで買収しようってのかコイツは?
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
20:59:53.93 ID:9jBGa78U0
(*´・ω・`) 「ふふっ!! 面白い! やってやろうじゃ―――」
(;○ω○)「僕が打つおーー!!!!!!!!!!」
('A`)(´・ω・`)「…え?」
内藤の声がグラウンドに轟いた。
ドクオチームの少年達が、一瞬にして疑念の表情になる。
相手ピッチャーが、いやらしい笑みを浮かべた。
209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:05:04.37 ID:9jBGa78U0
(;'A`)「いや、おまえ、ちょっと待てよ」
(;○ω○)「バット貸せお!!」
内藤はドクオから乱暴にバットを奪い、汗を拭ってバッターボックスに立った。
ドクオが呆然としている間に、ピッチャーはさっさと球を二球投げる。
…内藤はどちらもチップし、早くもツーストライクに追い込まれた。
(;'A`)「…はっ!」
(;'A`)「ツーストかよ! もう交代できねえじゃん!!!」
(;○ω○)「はあはあ…」
「負けを覚悟したかいドクオくん?」
(;'A`)「るせえ、言ってろ!!!」
214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:10:49.97 ID:9jBGa78U0
どの塁のランナーも「打ったら走る」的スタンスで、
必死で内藤が球を飛ばすのを見計らっていた。
三球目が放られる。
反応して内藤の体が動く。
(;´・ω・`) 「内藤くん、それは振っちゃだめー!」
(;○ω○)「…!」
振ったか振らないかギリギリの姿勢で、球はミットに収まった。
アンパイヤは一呼吸おいて、重い口調で「ボール」と呟いた。
守備をしていた子たちの罵声が飛ぶ。
「いや、今の入っただろー!」
「ひいきしてんじゃねーぞ!!」
(;'A`)「あいつは俺の町内のやつなんだ… もし向こう側から出していたら間違いなくストライク取られてたよ」
(;´・ω・`)「うん。絶妙なところだったね」
(;○ω○)「ふう……」
218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:15:07.63 ID:9jBGa78U0
ドクオはごくりと唾を飲み込み、声を大にして叫ぶ。
(;'A`)「ないとーー!! なんとしてでも当てろ!! 当てるんだ!当てなきゃぶっ殺す!!」
「そうだ!ぶっ殺す!ぶっ殺す!」
「顔面ぶん殴るぞ!」
「公開リンチだくそやろ!!!」
ぶっ殺すだの、ぶん殴るだの、そういった言葉を、容易に子供達は使ってしまう。
しかし、なんだか本当に殺意が込められているような感じがして、僕は怖くなってしまった。
それだけ必死なのだろう。絶対に負けられないと言っていた。
理由が知りたいな。
「ボール!」
(´・ω・`) 「…ふう」
四球目は、明らかにすっぽ抜けのボール玉だった。しかし捕手はしっかり受け止める。
後ろへ逃していれば、ランナーが走れたのに。
220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:19:40.73 ID:9jBGa78U0
ピッチャーは深呼吸をして、しっかり球を握り直して、
五球目を投げる。
一直線に球は伸びる。いい球だ…、よし!!
(;○ω○)「だお―――!!」
(;'A`)「あてろおおおお!!!!」
(;´・ω・`) 「球をよく見て!」
ぱしっ
「ストライィイイイク!バッターアウト!!!!」
223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:23:54.17 ID:9jBGa78U0
「チェンジ!」
('A`)「はあ…」
ドクオチームの空気が一様に重たくなっていく。
キレてしまって、グローブを投げたり椅子を蹴っ飛ばししている子もいた。
ドクオは今までにないくらい拗ねた表情で、キャッチャーのプロテクターを着け始める。
(;´・ω・`)(振りはいいんだけど、如何せん球をぜんぜん見てないんだよな)
(;○ω○)「……」
内藤がバットを引きずりこちらへ戻ってくる。迎えるドクオの言葉は、勿論冷たく鋭い。
('A`)「おい」
(;○ω○)「……」
226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:28:01.58 ID:9jBGa78U0
(#'A`)「何か言えよ」
(;○ω○)「…」
(#'A`)「勝手にバッターボックスいきやがって!」
(#'A`)「しかもバットにかすりもしねえし!」
(;○ω○)「か、かすりはしたお!」
(#'A`)「そんなことどうでもいいんだよボケ!!!」
(#'A`)「まったくテメエは俺の足ばかり引っ張りやがる!」
ドクオの拳が怒りで震える。内藤の体が畏怖で震える。
僕は彼らより遥かに年長者として、この状況で言える事は……
(´・ω・`) 「ま、まあまあ!」
228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:33:28.40 ID:9jBGa78U0
('A`)「なんだよおっさん!」
(´・ω・`) 「これから九回の表だろ? まだまだ逆転のチャンスはあるじゃないか」
('A`)「無理だよ… 三人も走者が出たのがそもそも奇跡だし…」
(#´・ω・`)「何言っとるか! それでも球児か!」
(#´・ω・`)「九回裏でアウトを三つ取られるまで試合は終わらないんだよおおお!!!!!」
僕の言葉は少年たちの胸に届いただろうか?
僕は困惑の表情を浮かべながら、まるで監督面して青ベンチにどっかと腰を下ろす。
ドクオを始めとして少年たちは、依然拗ねているようだ。
やはり小学生の子供だからか、一度不機嫌になったら元に戻らない……
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:39:22.97 ID:9jBGa78U0
「しゃあ! 締まってイコー!」
「おー!!」
ピンチを切り抜けたことで、相手の士気は明らかに上がっている。
いかん、いかんぞ。このままいくと負け試合の定番パターンだ。
これ以上点差を広げられてはたまるか! と一同憤怒してほしいのだが……
金属バットの音が鳴り響いた。
('A`)「ライトー!!!」
(;○ω○)「あわわわ… まぶしっ…」
内藤の数センチ前に球は落ちた。湧き上がる様々な声。もう見てられない。
「やった!! 落としたぞ! 周れ周れ!」
(#'A`)「…ケッ」
232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
21:45:28.31 ID:9jBGa78U0
※
――結局試合は劣勢のまま、ぼろぼろに負けてしまった。
9回裏は上位打線が続いていたのに、駄目だった。
やはりスポーツにおいてやる気ってかなり重要なんだよな、うん……。
「よし、約束だな。グランド整備しろよ。それでお前らはこことオサラバだ」
('A`)「…ああ」
ドクオのまつ毛が少し濡れていた。その悔しさをバネに精進してくれ、としか僕は言えない…。
彼は整備具置き場からブラシを取り出し、引きずる。
他のチームの面々は薄情にも、内藤やドクオに罵声を浴びせて、
怒り心頭で早々に帰宅してしまった。
内藤はベンチでうずくまっている。
僕は一人でグランドを整備するドクオの姿がやりきれなくて、手伝うことにした。
(´・ω・`) 「ドクオくん、僕も手伝うよ」
('A`)「……」
249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:10:50.12 ID:9jBGa78U0
――ちょうど三時の鐘が鳴り響いた。
この町では、三時に鐘が鳴る。
(´・ω・`) 「ドクオくん、今日の試合に何か懸かってたのかい?」
('A`)「…このグランドさ」
(´・ω・`) 「?」
('A`)「この試合、勝ったチームだけこのグランドで遊べる…」
遊び場を賭けた戦いか。なるほど、あれだけ熱狂するのも頷ける。
仲良く遊べよ、とも言いたくなるけど、複雑なんだよな。子供も子供で…。
250 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:11:26.66 ID:9jBGa78U0
※
整備を終えたグランドは、急に静かになった。
小鳥のさえずりと、車が道路を走る音が爽やかに耳から耳を通り過ぎる。
(´・ω・`) 「あ」
僕は飲みかけのコーヒーを思い出し、ベンチへと戻る。
ドクオくんに「役に立てなかったからね…」と飴を返したときの、
いかんともしがたい、やり切れない彼の表情が胸を痛くさせた。
(´・ω・`) 「ふぅ、すっかり冷えてら」
僕はぐいっとコーヒーを飲み干し、コップをゴミ箱に投げ込んだ。
見事に命中。ナイスコントロール。
…仕方のないことなんだけど、打席に立ちたかったなあ。ちょっとだけ思った。
251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:13:15.59 ID:9jBGa78U0
数分が経った。
僕はグラウンドに戻ってきた。遠目だが、二人とも帰っていないようだ。良かった。
近場のスーパーで買った、アイスキャンデーを三本持って、二人の下へ向かう。
(´・ω・`) 「内藤くん、ドクオくん、アイス食べないかい?」
僕が声を掛けるも、二人はベンチの端と端で黙りこけているだけだった。
(´・ω・`) 「なあ、ドクオくん。遊び場なら新しく探せばいいじゃないか…」
僕はドクオの肩に手を置く。
しかし、咄嗟にそれを払って彼は突然立ち上がった。
(#'A`)「全部こいつがわりーーんだっ!!」
彼の指差した先、勿論、怯えている内藤の姿。
(;○ω○)「……」
253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:17:47.46 ID:9jBGa78U0
(#'A`)「あのとき、お前が出しゃばらないでおっさんに任しとけば良かったんだ!!」
(#'A`)「くそ!カス!バカ!アホ!死ね死ね死ね死ねーー!!」
(;○ω○)「ううっ」
僕は堪らずドクオを制止する。
(´・ω・`) 「さすがに言い過ぎだぞ、ドクオくん!」
('A`#)「おっさんもおっさんだー! 内藤が出しゃばる前にさっさと打席に立てよな!」
(;´・ω・`)「…」
(;^ω^)「ぼ、ぼくは・・・」
('A`#)「!!!」
…嗚咽交じりで、内藤がようやく口を開いた。
ドクオはしかめ面で内藤の方を向く。僕もそれに続く。
染み出る涙を拭うためか、眼鏡が外れていた。
ニコニコとしていて、誰より優しい顔を持っていた。
257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:25:52.63 ID:cUZ3qudg0
( ;ω;)「ぼ、僕はドクオの役に立ちたかったんだお……」
( ;ω;)「ドクオは僕に、野球を教えてくれたから… ひぐっ!」
( ;ω;)「ここで野球を教えてくれたから…、ここを守りたかったんだお……」
( ;ω;)「おーん おーん」
(´・ω・`) 「…」
(;'A`)「…」
( ;ω;)「でもやっぱり駄目だったおー。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
(;'A`)「うるせー!!」
( ;ω;)「……」
258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:27:00.12 ID:cUZ3qudg0
内藤が涙と鼻水を垂れ流しながら述懐する。
僕はなんだか、切ない気持ちで一杯になっていた。
心を小さな針でチクチク刺されているような気分だ。
(;'A`)「バカ野郎! だったらなんで打席をおっさんに譲らなかったんだよ!」
(;'A`)「打席を譲ることが、一番役に立てることだっただろ―――――!!!!」
(´・ω・`) 「こらっ」
僕はドクオの頭を軽く小突いた。
人様の息子を殴るのはとても悪いことだが、思わず手が出た。
('A`)「何するんだよっ!」
(´・ω・`) 「――察しろ」
( A )「……」
261 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:32:14.27 ID:cUZ3qudg0
僕は腕を組んで、荒い鼻息を一つ。
大人ぶってドクオに喋りかける。
(´・ω・`) 「ドクオくん、内藤くんを許してやれよ」
(;'A`)「でもよー! 遊び場は戻らないんだぜ!!!???」
(;'A`)「絶対許さねー!許さないったら許さない!!!」
( ;ω;)「おーんおーんおーん…… ごめんなさい、ごめんなさい…」
('A`;)「泣いてんじゃねーよ! キモいんだよー!!!」
( ;ω;)「おーん…」
(つω・`)「…ふう」
265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:37:09.81 ID:cUZ3qudg0
僕は膝を折り曲げて、ドクオと目線を合わせた。
上空で、まだ高度が低い飛行機が、空を行く音が聞こえる。
そして、内藤の嗚咽。
(´・ω・`) 「…なあドクオ?」
('A`)「なんだよ!?」
(´・ω・`) 「今、ここで内藤くんを許せなかったら、これからの人生、誰も許せなくなっちまうんだぜ……?」
('A`)「…」
('A`)「……誰も?」
(´・ω・`) 「そうさ」
ドクオがごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。良かった。言葉が心に伝わったみたいだ。
心に伝わらないと、それは言葉じゃない。ただの独り言なんだよな。
267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:43:17.82 ID:cUZ3qudg0
僕は、苦渋の表情を浮かべるドクオをじっと見ていた。
(´・ω・`) (大人になるんだ、ドクオ)
('A`)「……」
( ;ω^)「…」
ずっと固く握り締めていたドクオの拳が、ゆっくりと開く。
そして、傾げていた頭を徐々に持ち上げて、言った。
( A )「俺の一番弟子がよぉ、四打席連続三振じゃサマねーや」
( A )「おまえにはグランドすらまだ早えよ」
('A`)「…明日から、学校終わったら、裏山で練習な」
( ;ω^)「……………!!!!!!!!」
( つω^)「うん!!!! だお!!!!!」
269 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:48:17.48 ID:cUZ3qudg0
僕は手をぱんぱんと二回と叩き、
ニヤリと、わざとらしく微笑む。
(´・ω・`) 「いやー良かった良かった!」
(´・ω・`) 「仲良きことは美しき哉。ほら、アイス食べろよ」
('A`)( ^ω^)「うん!」
二人にアイスを手渡し、僕はベンチに座った。
秋の青空の下で、二人の子供と一人の大人が並ぶ。
僕は安堵した気持ちで、飛行機雲を目でなぞっていた。
277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
22:57:54.92 ID:cUZ3qudg0
('A`)「おっさん。やっぱこれやるよ」
僕はドクオから再び飴を受け取った。何も言わず、僕は受け取る。
( ○ω○)「僕もおじさんにこれあげるお!」
内藤も僕に何かを差し出してきた。
(´・ω・`) 「これは…なんだ? カードか」
キラキラに光るトレーディングカードを内藤から受け取った。
輝きに包まれたカードには、「ネガティヴアヴァター」と表記されている。
('A`)「あー! ヒーローカードじゃないか! しかも激レア!!」
(´・ω・`) 「へえ、中々貴重なものらしいね。 いいのかい?貰っても」
( ○ω○)「いいんだお! 僕はドクオとまた野球できてすっごく嬉しいお! だから宝物、あげるお!」
283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:04:56.85 ID:cUZ3qudg0
(´・ω・`) 「ありがとう」
僕はカードを太陽にかざし、
丁寧にそれを内ポケットへと差し込んだ。
(´・ω・`) 「…秋だなあ。もう空が茜色だよ」
その気がなくても、しみじみしてしまう。
僕は堪らず煙草を取り出し、遠い目で煙を胸いっぱいに吸い込む…。
鼻から煙を吐き出すと、内藤とドクオはいぶかしげな表情になった。
('A`)「うわっ!煙草くせえや!」
( ○ω○)「おじさん! 煙草の煙は、吸ってる人より、その周りにいる人の方が害が多いんですお!」
(´・ω・`) 「すまん、すまん」
そう言って、
僕は二人に背を向けて煙草を燻らし続ける。
285 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:09:27.17 ID:cUZ3qudg0
('A`)「…じゃ、そろそろ俺達帰るぜ!」
( ○ω○)「次の試合でヒット打てるように、家まで走って帰るんだお!!」
(´・ω・`) 「ああ、またな。元気でな」
次の試合のときは呼んでくれよ。
そう言い掛けて、口を煙草で塞いでしまった。
はあー、まただ。なんで最後の一言が言えずじまいになるのかな、僕は。
でも、そのうちまた見掛けるだろう。同じ町に住んでるのだから。
仲良く走り出す二人の背中を見ると、
ジワジワと切なさに、駆られる。
(´・ω・`) 「……一日も、終わりか」
292 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:18:38.88 ID:cUZ3qudg0
僕は帰路をトボトボと歩いた。
斜陽が差し込む町を一人で歩いた。
色んな人と出会っても、帰るときは一人さ。
(´・ω・`) 「…あぁ、疲れた」
煙のわっかを空に浮かばせながら、今日の出来事を回想していく。
部屋の雨漏り、しぃとの再開、ドクオと内藤。
(´・ω・`) 「まあ、いつもよりは幾らかマシに過ごせたかな!」
その一言を呟くと、心の裏から
「まぁた意地張っちゃって!」としぃの声が聞こえた。
294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:21:50.50 ID:cUZ3qudg0
(´・ω・`) 「しぃ……」
吐いて広がった煙がしぃに見える。ああ、異常かな。
僕はなんであのとき、数時間前、
彼女を引き止めなかったんだろう?
(´・ω・`) 「…」
答えは本当はしっかりと出ていた。
でもそれを認めることが、なんとなく嫌だっただけ。
299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:29:22.08 ID:cUZ3qudg0
僕との日々を忘れて、大人の女性になって、
毎日を過ごす彼女がいた。
僕は下心丸出しで、電話番号を渡そうとして、
そんな彼女ともう一度繋がりたかった。
しぃを大声で呼び止めたあの時だ。そんな自分がとても滑稽に感じた。
僕はまだまだガキだったんだ。
一度終わった恋を、実はずるずると引き摺ってた。
忘れた振りして、本当はずっと想ってたんだ。
友達と騒いだり、お酒に溺れたって、どこかにいつも君がいたんだ。
心の底の底で、君と僕の日々はまだ続いていた。
どうしても認めなくない、感情。
(´;ω;`)「ちっきしょお…」
なんでか涙が零れた。
今更だ。色んなことが悔しすぎて………
302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:33:50.80 ID:cUZ3qudg0
あの角の先に君がいないだろうか。
あの窓に君は写っていないだろうか。
どの街へ君は去ったんだろうか
今、君は誰と何をしているんだろうか。
あの道の先には君が…
(´・ω・`) 「あーもう!!!」
(´・ω・`) 「アホか僕は」
(´・ω・`) 「少女マンガかっつうの」
その思いつつも、
そんな嫌になるくらいのハッピーエンド。
それを望んでいる僕は、確実に格好悪かった。
309 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:43:46.60 ID:cUZ3qudg0
※
……僕は部屋に戻ってきた。
アイスキャンデーやコーヒーを食べたり呑んだりした性か、食欲が沸かない。
いや、一番の理由はしぃへの思いがグルグル廻っているからだ。
だけどどうしようもできない。だから余計にタチが悪い。
(´・ω・`) 「よいしょ、と…」
寝転がって煙草を吸う。
とにかく煙草、まずは煙草、とりあえず煙草。
煙草を吸わなきゃどうしようもならないんだ、こんな気持ちは。
…要するにいつも何かに”依存”してなきゃ駄目なんだな、僕は。
312 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:46:32.39 ID:cUZ3qudg0
※
悶々とした気持ちのまま、時計は9時を周った。
灰皿には何本もの煙草が。
今朝買ったストックも残り数本で終わりだ。これは間違いなく僕は不健康だね。
(´・ω・`) 「…」
天井を見つめて、ぼーっとしたり、しぃと過ごしてた日々を思い返したり、
それと…
(´・ω・`) 「あ」
僕は二人の少年から受け取った物を思い出した。
319 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:54:11.51 ID:cUZ3qudg0
(´・ω・`) 「飴とカード……」
(´・ω・`) 「煙草ばかりじゃつまらないな。飴でも舐めるか」
僕はドクオから貰った飴を口に咥えた。
甘酸っぱいイチゴの味が、僕の無感情だった味覚を叩く。
その安っぽくも、単純で美味しい甘味は、僕を郷愁へと導いた。
(´・ω・`) (ああ… あの子達は、昔の僕達みたいだったな)
(´ ω `) (毎日日が暮れるまで球投げて…)
(´ ω `)
321 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/11(日)
23:55:33.05 ID:cUZ3qudg0
(´-ω-`)(なんだかんだで今日は、疲れたよ)
この心地良い気持ちを引き摺ったまま、
もう一方にあるやるせない気持ちを抑えるために、今日はもうこのまま寝てしまおうかな。
そんなことを考えながら、僕は立ち上がる。
そのとき、部屋の電話が鳴った。
(´・ω・`) 「…誰だよ」
- 328 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/12(月)
00:00:03.70 ID:yvNMBGBY0
- 僕が受話器を手に取り耳に当てると、そこから聞こえてきたのは―――
(*゚ー゚)「や、元気?」
(;´・ω・`)「し、しぃ!?」
(*゚ー゚)「なーんかあんときだけの会話じゃ物足りなくってさあ」
(*゚ー゚)「サークルの仲間介して、今のアパートの番号聞いたのよね」
(´;ω;`)「しぃちゃさんlさくぁwせぢこlp;@」
予想外の出来事に僕は呂律が回らない。
…ついでに涙も止まらない。
- 337 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/12(月)
00:06:52.53 ID:yvNMBGBY0
- (*゚ー゚)「何その声〜! 今何してるのよ!?」
(つω;`)「あ、いやたまねぎ切ってたんだよ、だから涙が。えへへへっ…」
(*゚ー゚)「そうなんだ! 久しぶりに君の料理食べてみたいな…」
(つω;`)「い、いつでも食べに来いよ。君の舌を唸らせてやんよゴルァー」
(つω;`) 「っていうか食べに来てください、お願いします」
(*゚ー゚)「うん。また時間が空いたら…」
電話で相手の顔も見れないからか、素直な言葉がバンバン口から出てくる。
もう止まらない。だけど、それでも”まだ君が好きなんだ”なんて、言えないよ、絶対。
(つω;`)「言っちゃ駄目なんだ」
(*゚ー゚)「え? 何が?」
- 348 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/12(月)
00:23:09.01 ID:yvNMBGBY0
- 色々と話しているうちに、段々と僕も平静を取り返してきた。
会話をしている時、はっきりと気付いたことがある。
しぃは僕とやり直す気はない。ただ純粋に話したかったから、電話してきただけ。
しぃはきっと、本当の意味で大人になったんだ。 もう僕を引き摺ってない。
だから僕も、大人にならなくちゃと思った。
書置きのあの手紙。最後の一行。
「さようなら。お互い、大人になったらまた………」
- 349 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/12(月)
00:24:07.02 ID:yvNMBGBY0
- あれに続く言葉は、二人の復縁を示唆している訳なんかじゃない。
少なくとも過去を汲み取る意味じゃないんだ。
(´・ω・`) 「”純粋に一人の人間として、向きあえるだろうね”だとか…。 そういうことを言いたかった?」
(´・ω・`) 「違うかい?」
(*゚ー゚)「…そうだね、きっとそういうことだと思うよ」
やっぱりしぃは僕の斜め上をいつも生きていたんだな。
- 352 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/12(月)
00:27:45.26 ID:RznpPSl90
- (*゚ー゚)「ありがと」
(´・ω・`) 「なんでお礼?」
(*゚ー゚)「…だって、私たち、今ちゃんと向き合えてるじゃない?」
(´・ω・`) 「そっ、そうだね」
(*゚ー゚)「…いい加減、君も私のこと引き摺ってないで、新しい恋探しなよ?」
(つω・`)「うわー! ストレートに言われちゃったよ!!」
(*゚ー゚)「ふふっ……」
(´・ω・`) 「ははは!!!」
他人に聞こえれば、非常にこっ恥ずかしいような会話は続いた。
僕の心が段々、自由になっていくのを感じた。
- 363 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/12(月)
00:39:32.29 ID:RznpPSl90
- 僕としぃとの電話は日付が変わるまで続いた。
こうして僕の日曜日を終わりを告げたわけだ。長いようで短い一日だった。
月曜日。今日からまた新たな一週間が始まる。
社会のため、会社のために身を磨耗するとなると正直気が滅入る。
本当にげんなりする。全てを投げ出したくなる。
だけど、束の間の休日に、また素敵な何かを見つけられれば、
それはそれで、その為に6日間を必死で頑張っても、価値はあるなあって思った。
窓辺で、キラキラ光るカードがそう思わせるんだ。
__23:59
(´・ω・`) 「…でさあ、そして僕は二人を後に帰ったワケだよ」
(*゚ー゚)「うん、いい話しだなあ… ドクオくんと内藤くん、仲直りして本当に良かった!」
- 366 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/12(月)
00:42:56.14 ID:RznpPSl90
- (´・ω・`) 「うん… 良かった…」
(´・ω・`) 「今日一日、色々あったけど」
(´・ω・`) 「まあ、なんというか、その」
(*゚ー゚)(ふふっ)
(*´・ω・`) 「実に悪くない… 一日だったよ!」
ショボンが休日を過ごすようです
おしまい

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