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( ^ω^)だれかさんとだれかさんが二人逢うようです

1 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:20:35 ID:IP/JHSTA0

第一話 第一幕:だれかさんと見返り美人



 美府県の県庁所在地に位置する美府高校は、校舎でニワトリを飼っていること以外には
なにもアピールポイントのない平々凡々な退屈な学校である。

 学校が退屈なら生徒も退屈、輩出されたOBの中に総理大臣やコメディアンや凶悪犯罪者がいるわけでもない。

 そんな学校へ毎日登校する僕、内藤ホライゾンも、ご多分に漏れず退屈な人間だ。
自慢する訳じゃないけど、成績は中の中、身長も中の中、ルックスも中の中……と言いたいところだが、
陰毛をフライパンで炒めたような縮れた髪の毛と、その下のあんパンのように膨れた脂肪たっぷりでっぷりな豚面は、
他人がみればおそらく人間と豚の合いの子に見えることだろう。

これに関しては生まれつきだし、配られたカードで勝負するしかない。

もっとも、手札はどれもカス札のブタ役なのだけれど。

2 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:22:03 ID:IP/JHSTA0

 その日も僕は、毎度毎度飽きもせず校門へ続く長い坂をブヒブヒと荒い息を湛え登っていた。
一メートル進むごとに気圧はどんどん僕の体を圧迫する。

こんな時、いつも僕は、昨日の晩ご飯、一杯減らせば良かったなあと後悔するのだけれど、
結局その日の晩には忘れて平気な顔でおかわりするのだ。

(;^ω^)「ひいひい、苦しいおおおおおお」

('A`)「ようブーン、グッドモーニン」

(;^ω^)「ドクオかお、おはようだお」

 隣から声をかけてきたこいつは、鬱田ドクオというネガティブ要素を濃縮還元したよう名を持つ男。

 僕と同じく美府高校に通う男子生徒で、僕と同じく中ぐらいの成績を保ち、
僕と同じく童貞な身ではあるが、僕と大きく違うのはその体型。

 まるでゴボウにリバテープを巻いたかのごとくやせ細った姿をしており、
中学時代はもやしっこを越えた存在、もやしの芯っことしてその名を馳せていたほどである。

3 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:24:38 ID:IP/JHSTA0

 そんなに痩せているんならさぞかし貧乏なんだろう、
毎日の食事は隣の家のゴミ箱に捨てられていた使用済みラップの匂いをおかずに水を飲んで
飢えを凌いでいるんじゃないかと思うかもしれないが、
ところがどっこい、こいつの実家は地元でも有名な豪族で、
トリュフでビリヤードをしたって怒られないほど恵まれた生活を送れているのだ。

 じゃあなんでそんな痩せているのかというと、そりゃドクオ曰く、俺は小食だからというわけらしい。

 もったいないことだ、死ぬほど食えるのに本人は食わないなんて、八百万の神に対する侮辱である。
人生って理不尽だ、大人って汚い。

('A`)「なんかえ、まるでデブのような表情してからに」

(;^ω^)「デブは生まれつきだお」

 いつも誰かかしらに豚だのデブだの馬鹿にされ続けた僕にとって、
もはやその程度の侮辱は釈迦に説法、なんのダメージもない。
しかし、そうなるまでに悪口言われてきたんだと思うと、ちょっぴり悲しくもあるが。

 おそらく僕のあだ名である「ブーン」というのも、僕が豚にそっくりだからつけられたんではないかと推測する、
いつ「ブーン」と呼ばれ出したのかも、もはや定かじゃないが、それ以外の理由は思いつかない。

4 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:25:44 ID:IP/JHSTA0

('A`)「どしたんかブーン、そんなにうつむいちょって、かりんとうでも見つけたんか、
   一つ忠告しちょくと、道にかりんとうが落ちててんそりゃ大抵犬のうんこやけん
   うかつに食うと痛い目に遭うってばっちゃがいいよったぞ」

( ^ω^)「ちがうお!だいたい、犬のうんことかりんとうを間違えて食べるのは4歳の頃に卒業しちょるお!」

('A`)「え……ちゅうことは4歳まで」

( ^ω^)「あ、今のオフレコやから、書いた社はおわりやお」


 そんなくだらなさのバーゲンセールみたいな会話をしているうちに、僕たちは学校へと着いた。

 校門を抜けた先には初代校長の銅像が建っている。
 この銅像は不良生徒のサンドバックという大事な役割を果たしており、一ヶ月に一度のペースで額に「肉」と書かれたり、
台座のネームプレートに文字を書き加えられ「初代校長兼こんにゃく職人」と言う肩書きになっていたりと、
多種多様なモデルチェンジを繰り返している。

5 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:27:04 ID:IP/JHSTA0

('A`)「あ、副会長や」

( ^ω^)「ん、お?」

 ドクオが指さした先には、銅像の胸に書かれた「ギャランドゥ」という文字をゾウキンで必死に消す女子の姿があった。
油性マジックで書かれているのか、何度ゾウキンをこすりつけてもなかなか消えないらしく、困惑の表情を浮かべている。


( ^ω^)「え?あん娘、副会長かお?」

(;'A`)「知らんかったんか、この前の総会ん時にえれえ愛らしいけんち、”美しすぎる副会長”ち
    しんけん話題になっちょったやんか」

 そう言った後、ドクオはわざとらしく手を打った。

('A`)「あ、そういやそん時おまえおらんかったな」

(;^ω^)「ああー、そうだお」

6 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:28:07 ID:IP/JHSTA0

 数週間前に開かれた生徒会総会の時、僕は部室で全員分のフルーチェを作ることに必死だった。
「暑いと言ったら負けゲーム」で負けた際の罰ゲームだったのだ。

 部長は牛乳とフルーチェの素の配合が少しでもまずいと機嫌を損ねて遊んでくれなくなるので、
総会をサボタージュしてでもこちらを優先せねばならなかったのだ。

 くそ、勝負中に「”分厚い”ステーキが食べたい」なんて言わなきゃ良かった。

 それにしても……

             ξ;゚⊿゚)ξ


( ^ω^)「へえ、あれが副会長かお……確かにえーらしい顔しちょるお……」

 彼女は、顔の左右の縦ロール金髪を揺らしながら、一所懸命にゾウキンを動かしている。
童顔に玉の汗をかいてまで必死になっている様子は、ビーバーがダムを造るようでもあるし、
リスが木のウロに住処を作るようでもあるし、お掃除ロボットの円盤が猫の猛襲から逃げているようでもある、
とにかく可哀想で見ていられないのだ。

 よく「守ってあげたくなるタイプ」だなんて言うけれど、彼女はまさにそれだ。
のび太が可愛い女の子だったら、さぞかしモテていたであろう、そんな感じ。危なっかしいというか……。

7 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:29:06 ID:IP/JHSTA0

(;^ω^)「あーあー、まったくもう……」

('A`)「おい、どこ行くんか!?」

 思わず僕は彼女の元へと駆け出していた。

 たとえばドクオのような血も涙もない薄情野郎ならいざ知らず、僕のような赤い血流るる人間にとって、
彼女の行動は側によって手伝ってあげずにはいられない。

 雨の中寒さに震える子犬を飼ってやるのは出来なくとも、傘を被せてやるぐらいは出来るはずだ。
それと同じように、僕はただ、僕自身の同情心を救ってやるために、手伝いに行くのだ。


( ^ω^)「そこの副会長さん!」

8 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:32:11 ID:IP/JHSTA0

ξ゚⊿゚)ξ「へっ……? 私?」


(;^ω^)「あっ……!?」

 振り向いた顔をよく見て、突如、僕はとてつもない懐かしさに襲われた。

 間違いない、僕は彼女を知っている。

 デジャブというのか、いつかどこか遠い昔、彼女と会ったことがある気がするのだけど、それが全く思い出せない。
タンスの裏の10円玉に数センチ手が届かないようなもどかしさが頭の中をひっかく。
 記憶の断片だけちらついて、全貌が引っ張り出せない。

 たしかに出会っていた、その筈なんだけれども。


ξ゚⊿゚)ξ「どうか……されましたか?」

 自分から声をかけたくせに黙って突っ立ってるままな僕を見て、副会長は怪訝な表情で僕を見た。

(;^ω^)「あ、ああ……取れないんかお、それ?」

9 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:33:01 ID:IP/JHSTA0

ξ゚⊿゚)ξ「汚れですか、ええ、まあ。そのままにしておくわけにはいかないので……」

(;^ω^)「じゃあ、ちょっとそれ貸しち!」

 半ば強引に彼女の手からゾウキンを奪い取ると、落書きの上に当ててゴシゴシと擦る。

 と、同時に、先ほどの既視感を今一度確かめるため、合間合間にちらちらと彼女の顔をのぞき視る。
そんな僕の姿は、端から見れば副会長をオカズに手慰しているように見えたことであろう、誠に心外だ。

ξ;゚⊿゚)ξ「い、いいですよ! そんな、あなたが頑張らなくても、私でなんとかしますから!」

(;^ω^)「いいけんいいけん」

ξ;゚⊿゚)ξ「でも……」

(;^ω^)「僕が手伝いたいから手伝ってるんやから、遠慮せんでいいお」

ξ;゚⊿゚)ξ「すみません……」

10 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:34:24 ID:IP/JHSTA0

 僕がありったけの力で擦ったのが作用したのか、ギャランドゥの文字はほとんど消えかけていた。
もう一踏ん張りとさらに手に力を込める。こんなに筋肉を使ったのは、さっき坂道を上ってたとき以来だ。

 要するにわりと頻繁に筋肉使っているから問題はないってこと。

( ^ω^)「ん、もう消えたおね」

 果たして、ラクガキは完全に消えた。我ながらいい仕事したものだ、と労働の喜びに一息つく。
こんな調子なら卒業後の就職難でも肉体労働者としてやっていけそうだ。
職場に副会長のような女の子がいるのかという問題はあるが。

 まあそれはそうとして、結局彼女と以前どこであったのかは思い出せそうもない。
もしかしたら僕の勘違いだったのかもしれない、糖分の取りすぎで脳味噌のコードが
混線して架空の記憶を作り出したのかもしれない。

 彼女に直接訪ねてみるという手段もあるが、もし違っていたらなんとなく恥ずかしい、
彼女とお近づきになりたくて勝手な御託並べてるんじゃないかと誤解されると、末代の恥だ。

 僕で末代だろうけど。

11 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:35:47 ID:IP/JHSTA0

ξ゚⊿゚)ξ「あの、ありがとうございました!」

( ^ω^)「いいってことよ」

 ふと時計を視ると、針は8時を指そうとしていた。

 やばい、遅刻してしまう。

 親からは赤点で落第するのはいいが遅刻で落第は絶対にするなと何度も言われている。
遅刻ぐせがつくと、人生まで落第してしまうというのが両親の教えだった。
そんな理由で、遅刻はなるべく避けねばならぬ。

 周りを視れば、ドクオはすでにいない。あの野郎、親友の僕をおいて教室に行ったようである。
あいつは人生は落第しないが心根は落第だな、ふてえ野郎だ。


( ^ω^)「ホームルームがあるけん、僕はもういくお、じゃ!」

12 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:36:50 ID:IP/JHSTA0

ξ゚ー゚)ξ「どうもありがとうございました」


(;^ω^)「……!」

 彼女の笑顔を見て、僕は改めて確信した。

 間違いない。僕はこの笑顔を見たことがある。二人きり、暑い日差しの中で。
それ以外はなにも思い出せないが、出会ったことは確実だ。

 しかし確かめる暇もないので、僕は彼女に軽く手を振ると校舎へと走り出した。
彼女は僕に向かって頭を下げ、その際に金髪の縦ロールが振り子のように揺れていた。


 ちらと振り返ると、銅像の裏側に「ヒデキ」と書かれているのを見て、僕は苦い顔をした。

13 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:40:25 ID:IP/JHSTA0

第一話 第二幕:だれかさんと煙草盆



 美府高・ファー・イースト・リサーチ部。

 それが僕の所属する部活動の名である。部員は僕を含め8名、男女比は5:3。
レモンの香りよりも雄のフェロモンの方が勝っているのが現状だ。

 この部は、初代部長が特命リサーチ2000Xに感銘を受けて設立したのが始まりで、
当時の校長がとてもノリノリだったせいで「校内の謎を解明する」という活動内容で部活動として正式認定された。

 だがこんな平凡な学校に謎などそうそうあるはずもなく、
「昼休みに三階の男子トイレから美味しそうな弁当のにおいがする」という謎を解明したら
実際はただの便所飯だったという事件があってからは、おおっぴらな活動は自粛され、
今となってはダメ生徒のたまり場となっているのが現状である。

14 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:41:51 ID:IP/JHSTA0

 放課後、ドクオと別れた僕は早速部室へと向かった。

 部室は長屋型のプレハブの一室をあてがわれており、両隣には新聞部とボランティア部の部室がある。
学校の地位向上に貢献するクソまじめな部活に挟まれているせいで、
穀潰し部員な僕たちはいつも耐えがたい屈辱と劣等感に苛まれている……わけでもなく、
普通に毎日キン肉マンごっこをしたりボーリングをしたりして迷惑を台風のようにまき散らしている。


 部室玄関のアルミ製のドアを軽くノックし、僕は中へ声をかけた。

( ^ω^)「もしもし、入りますお」

 すると、

「合い言葉は」

 と女の声が返ってきた。部室へ入るときは必ず合い言葉を言うのが取り決めであり、これも初代部長が考案したものだ。

 何でも防犯対策らしいが、中はアラビックヤマト数本とひげ剃りぐらいしかないのに、
わざわざここを襲いに来る奴は世界広しといえどもいないだろう。

15 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:43:45 ID:IP/JHSTA0

( ^ω^)「えーっと、梵我一如」

「入ってよろしい」

 許可がでたので、僕はドアノブを回して扉を開いた。

 というか、外側からドアが開くのに合い言葉なんてこれっぽっちも意味がないと思うのだが。
これはこれで楽しいし気分も出るので、僕としては特に反対もしないが。


( ^ω^)「失礼するおっと」

 玄関を跨いで入室した僕の目に、飛び込んできた光景。



(;´・ω・`)「クッ……こん、ぬぬぬぬ」

(゚∀゚;)「ぎ、ぎぎぎぎぎ」

 それは、二人の男が互いの腰を掴んで押し合いをしているという、目が腐り落ちそうなほど醜い争いの様子だった。
二人とも顔を真っ赤にさせ、腕を突っ張り相手を転ばせようと必死になっている。

16 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:44:27 ID:IP/JHSTA0

 僕はてっきり相撲部の部室と間違えたのかと思ったが、
先ほど合い言葉を尋ねてきたあの声は間違いなく部長のものだったし、
ここがファー・イースト・リサーチ部であることはコーラを飲んだらゲップが出るぐらい確実だと思われる。

 だとしたら、いつからこの部活は相撲部屋、あるいは陰間茶屋になったのだろうか。

(;^ω^)「えーと、なんですお、こりゃ」

 と僕は、壁にもたれ掛かってレッドブルをちびりちびり飲んでいる部長に向かって尋ねた。

川 ゚ -゚)「見てわからんのかえ、相撲だよSUMOU。男と男の意地、プライド、汗、視線のぶつかり合い、美しいじゃんか」

(;^ω^)「じゃあなして目をそむけちょるんですかお」

川 ゚ -゚)「気色悪いから」

(;^ω^)「本音がすぐ出ちょるし……」

17 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:46:09 ID:IP/JHSTA0

 部長のクーさんは大体いつもこんな調子だ。

暖簾に腕押しというかティッシュに平手打ちというか、とにかくつかみ所のない飄々な性格で、
美府市で「スナフキンっぽい人コンテスト」が開催されたら確実に優勝トロフィを手にしそうな人である。

 これでルックスが蛾の羽並みの醜さだったらただの不気味人間として相手にされないだろうが、
どっこいわりかし美少女でもあり、何人もの人が彼女にアタックしてはよくわからない回答を貰う羽目になっている。

 いくら美人といえども、まさか告白の返事が「ライチ好き?」などではどうしようもない。
ということで、部長には現在恋人はいない。


( ^ω^)「で、何でこん二人は相撲なんかとっちょるんですかお」

川 ゚ -゚)「これん取り合いらしいじ」

 そういって部長は飲みかけのメローイエローのペットボトルをかざした。
ということは、あの二人は部長の唾液付きのボトルを我が手中にせんと、男同士で肉をぶつかり合わせているのだ。

18 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:47:58 ID:IP/JHSTA0

アホだ。

 ドアホである、好奇心で消しゴムを食べる行為ですらまともに思えてくるほどのドアホっぷりである、
頭の悪さとかそういう問題ではなく、人間として落伍している。

 ともかく、こんなはしたない、その場にいるだけで惨めさを享受しそうな行為は、
一刻も早くやめさせる必要がある、これは人間の尊厳に関わる問題だ。

 僕は二人の腹と腹の間に腕を挿し込み、引き離そうと頑張る。

(;^ω^)「おい止めんか、みっともねえで、やめんかお」

(;´・ω・`)「しゃあしい、このサモハン野郎! 香港でチャーハンでも食ってろデブ! 邪魔だ!」

(゚∀゚;)「てめえには部長の愛の宝石箱は、ゼエゼエ、絶対渡さんけんな!」


 だが、いくら引き離そうとしても、二人は僕を口汚く罵ってはまた争いを続けるばかりだ。まったく止めようとする気配が無い。
やはり、フェティズムが関わると人間というものはとてつもない馬鹿力を発揮するらしい、

 その力を人力発電にでも生かせば、節電なんてする羽目にならずにすむだろうに、
無駄にエネルギーを消費して、もったいないお化けが出ても知らないぞ、なんて思いながら、
どうすればいいか悩みかねていた。

19 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:49:46 ID:IP/JHSTA0

(;^ω^)「大体、なしちこんな事に?」

川 ゚ -゚)「私が、このボトルを相撲じ買った方にやるっちゅう権利をつけたら、二人とも必死になっちからに、まあおかしいおかしい」

(;^ω^)「あんたが元凶やないかお!」

 もうどいつもこいつもおかしいことだ。僕は諦めてもう放っておくことにした、関われば馬鹿を見るのはこっちだ、
君子危うきに近寄らずというではないか。僕は君子ではないけれど、それぐらいはわかる。

 さて、馬鹿は無視してテレビでも見るかと、僕はリモコンの電源スイッチを押す。
すると、画面にNHKの子育て講座が映し出された。スピーカーから若い女のナレーションで
「今回は搾乳特集、赤ちゃんに母乳をうまく飲ませるには……」と聞こえる。


(´・ω・`;)ミ バッ!
(゚∀゚ )ミ


 とたんに二人とも喧嘩を止め、テレビの方へ振り向き、画面を凝視し始めた。
まるで新種の細菌を探す野口英世のごとく、今まで見せたこともないような真剣な面もちで、
若妻の搾乳シーンを今か今かと待ちかまえている。

 やはりエロで勃発した争いは、エロで鎮めるのが一番のようだ、人生を生きていく上での教えをまたひとつ学んだ僕であった。


川 ゚ -゚)「すげえな、まったく」

 飲み終わったレッドブルの缶を右手で弄びながら、部長はまるで人ごとのようにそう口にした。

20 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:51:46 ID:IP/JHSTA0

川 ゚ -゚)「副会長?」


 相撲騒ぎが収まりしばらくして、僕は部長に副会長のことを知っているかと尋ねてみた。

 今日は一日ずっと彼女の事が頭をちらついており、気になって授業もどこかうわの空、
日本史の時間には坂上田村麻呂のことを田村亮子と答えてしまう大失態を犯してしまったほどであった。

 ともかくこの飛蚊症のような頭のちらつきを押さえるべく、副会長についての情報を得るべきだと判断したのだ。
それでなにか思い出すかもしれない。


( ^ω^)「うん、知っちょりますかお?」

川 ゚ -゚)「知っちょるもなにも、部活動会議の時に、各部ん部長が集めらりち、そん時に会うちょる、
     名前は、ええと、夏川月子さんやったか」

(´・ω・`)「あ、ツンさんやろ? えーらしいねえ」

 床に倒れて月刊卓球王国を読んでいた、
先ほどの力士の片方の男(2年生の初穂 健、名字をもじってショボンと呼ばれている)がダルマのように勢い良く起きあがった。
 僕ほどではないにしろ肥満体型であり、起きあがる際には腹筋にありったけの力を入れて跳ねなければいけないらしい。
らしいというか、僕もそうだ。

21 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:53:15 ID:IP/JHSTA0

( ^ω^)「ツンちゃん?」

(´・ω・`)「月子って本名やけど、言いにきいけん、なまってツンっち呼ばれちょる、
      そんなことも知らんのかえ?本当に世間知らずやの、それでん高校生か?」

( ^ω^)「あ?」

 なんだその言い方は。数ヶ月前までレタスとキャベツの区別も付かなかったノータリンに
そんな口調使われると無性にカチンとくる。
 だが寛容で天使のような器を持つ僕はこみあげる苛立ちを押さえ、中指を突き立てるぐらいで我慢しておいた。


川 ゚ -゚)「確かに、ツンさんは綺麗やけども、ありゃ性格キツいで」

 突然部長から意外な言葉が飛び出した。

 あのツンさん(副会長とか彼女とかいちいち呼ぶのはもう飽きたし、かといって月子さんじゃ味気ないので、ツンさんと呼ぶ)が、
キツい性格とは、にわかには信じがたい。

朝、必死に銅像を磨く姿や、僕に見せた懐かしい笑顔を思い出すと、とてもそうは思えないのだ。僕は軽く反論した。

22 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:55:00 ID:IP/JHSTA0

(;^ω^)「え? えれえ優しそうな顔しちょるけど、勝手な思いこみやないんですかお?」

川 ゚ -゚)「のんののんの、部長会議ん時は、むっ表情での、特にウチんことは排水口んヌメリ見るような目で見ちょったぞ」

(;^ω^)「そらウチん部が学校のガンやからじゃないですかお?」

川 ゚ -゚)「ああ、そうかもしれんなあ」

 そこまで言うと、部長は何でもない顔でお茶腕に注がれたコーヒーを啜った。
まったく、この人の話は信じていいものかわからない、本当のことと嘘でたらめがカレールーのように溶けて入り交じっているから。

 それでも、長年の経験から、ある程度の真偽は見分けることができた。
部長に冷たい視線を浴びせたというのは嘘だろうが、会議中に無表情だったというのは本当らしい、と
僕の脳内に備え付けられた部長専用ウソ発見機はそう告げている。


 ふうむ、まあ、そんなこともあるだろう。
副会長の立場として大事な会議に出席するならば、そうにこやかにしていられないだろうし、緊張だってするに違いない。
無表情になったっておかしくないはずだ。

 仮に僕がその立場だったとしたら、失神失禁とまではいかなくとも、
落ち着き無く隣の人の服をくるくる弄んでたりして顰蹙を買っていただろう、
そう考えたら、無表情で押さえたツンさんは、立派な人物のはず……と自分なりに彼女を擁護していると、
横から汚らしい声が割り込んだ。

23 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:56:54 ID:IP/JHSTA0

(´・ω・`)「でん、でん、そんつれん性格がいいんやないですか、
     ベタベタやとなんか重いっちゅうか、付き合うんがたりいくなりますよ、
     でん、適度に尖っててもらっちょって、たまにデレーっとされたら、大抵ん男はバッキューン!」

 「バッキューン」で一旦言葉を区切り、指でっぽうを作ってこちらに向けると、ショボンは軽くウインクする。

(*´・ω・`)「うわ〜〜〜! や〜ら〜れ〜た〜! 勘弁しちくり〜〜〜っちなりますよ、そんな女の子がいたら、ね」

(;^ω^)「きめえ」

 ひどい茶番である、この男は普通に論を語ることもできないのだろうか。
6歳ぐらいの幼女がするなら許されるが、内山君そっくりなルックスの野郎にこんなことされても、
殺意しか沸いてこない。

 もしも今、目の前に5トンハンマーがあれば僕はあらんばかりの力を込めて真っ先に奴を肉塊に変えていただろう。


(´・ω・`)「フン、別にお前に理解してもらわんでいいわ、自惚れんなチャーシューモンスター」

( ^ω^)「あ?」

 僕に軽口を叩いてから、ショボンは改めて部長の方を向いた。

24 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 20:58:23 ID:IP/JHSTA0

(´・ω・`)「それより、部長はそうは思いませんか!? んでから、部長も是非そんな性格を目指してみては!?」

川 ゚ -゚)「え? 何いいよったんか? あ、コーヒーお代わり」

(´・ω・`)「え、あ、は」

 部長は全く聞いていなかったらしい、ざまあみろだ、あのしょぼくれ眉毛め。


( ゚∀゚)「はいコーヒー、で、何の話しちょったんすか?」

 お盆にコーヒー入りのポットを乗せ、
ジョルジュが部屋の奥に区切られたキッチンスペースから暖簾をくぐって現れた。

 このジョルジュという男は先ほどのショボンの取り組み相手で、本名は芝 蒼太という至って普通のものだが、
顔つきがどことなくイタリアの顔を感じさせるため、次第にジョルジュというあだ名が定着していった。

 本人もまんざらではないらしく、初対面の人にもジョルジュと呼んでくれとか言ってる陽気な痛い男である。
彼の体型は、僕たちピザ2人とは違い、リンゴを足の指だけで潰せそうな筋肉隆々のマッチョメンだ。
制服のワイシャツの隙間から見える分厚い胸板が眩しい。

 前に一度、どんな物を食ったらそういう体型になるのかと聞いてみたら、
「お前らこそどんだけ食ったらそこまでの体型になるんだ」と皮肉られてしまったことがある。

25 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:01:39 ID:IP/JHSTA0

 部員は他にあと4人ほどいるが、今日は結局解散するまで来なかった。

 まあ大体いつもそうだ、この4人だけが部室に集まってお茶を飲むなり喧嘩をするなり地面のアリに砂糖をやったりしている。
こんな意味のないことばかりする、堕落した部活動に集結する人などそうそういない。

 部活動というものにはたいてい何かしらの意味があるが、僕たちは積極的に活動すればするほど憎まれるのだ。
だからといって毎日こうやって駄べってばかりいても、ただの学校のお荷物でしかない。
 がんじがらめとはこのことだろう。


 しかし、僕にとってはここも大事な居場所の一つだ、誰がどう思おうとも。

26 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:06:43 ID:IP/JHSTA0

第一話 第三幕:だれかさんと大きな背中



 内藤家は4人家族だ。母ちゃんと父ちゃんと兄ちゃんと僕。

 前には一匹猫がいたが、2年前に家を飛び出して以来帰ってこない、
死に場所を求めて去っていったんじゃないか、と人は言うが、まだ3歳だったし大きな病気も持っておらず、
おそらくはうちの出すカリカリより豪勢で美味しい食い物を与えてくれるアテが見つかったので
そいつのもとへ行ったんではないかと僕は推測する、あいつも僕と同じで食い意地が張った奴だった。

 母ちゃんは専業主婦で、父ちゃんは日本最大、世界でも有数の製鉄所である美府製鉄所の下請け会社に勤めている、
今年50歳のサラリーマンで、毎日遅くまで働いてはくたくたになって帰ってくる。

 そんな毎日毎日仕事ばかりで辛くないのだろうかと思うけれど、
これも僕のようなうすぼんやりっ子に飯を食わせるためだから仕方ないのだ。

 浮気の一つでもしたことないのかなと母ちゃんのいる前で呟くと、
母ちゃんは洗濯物を畳む手を休めずに「浮気ってのは、知っちょるよりしんけん大変なことやから、父ちゃんみたいな人には出来んやろう、
それも父ちゃんをわかっちょるやろうし、そんな浮気不倫なんちことにはならん」と言ったのが今でも印象に残っている。

27 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:07:53 ID:IP/JHSTA0

( ^ω^)「ただいま」

 部活を終え、我が家へと帰ってきた僕。
玄関のドアを開けると、靴を脱ぎ、ズボンを脱いで洗面所の天井に吊られていた家用のジャージに履きかえた。
これでようやく僕は帰宅したんだと安心できる。

 毎日の習慣として身に付いていたものなので、この一連の行動がないと、
まるで歯にさきいかが挟まったままみたいで落ち着かない。


 台所では、母ちゃんが天ぷらを揚げていた。
コンロ前の床には、油対策のため美府新聞がびっしりと敷かれている。
美府市長の禿頭を踏みつけ、母ちゃんは僕の方を向いた。

J( 'ー`)し「おかえりホライゾン、ちゃんと手洗ったかえ?」

( ^ω^)「あ、まだやったお」

28 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:08:46 ID:IP/JHSTA0

J( 'ー`)し「だめやんか、ちゃんと洗わんといけんっち、バイキンがついちょるんやけん……」

( ^ω^)「わかっちょんお、それより、兄ちゃんはもう帰っちょんかお?」

J( 'ー`)し「うん、ちょうどあんたが帰ってくるちょっと前に帰っちょった、それより、手!」

( ^ω^)「はいはい……」


 口うるさい母ちゃんを背にして、僕は台所を後にした。
母ちゃんはかなり衛生面に厳しいところがある、潔癖性というほどではないが、帰宅後の手洗いは絶対に疎かにさせない。

 トイレから出て手を洗わずに出来立ての唐揚げをつまもうものなら、
たちまち渾身のフライパンが脳天に突き刺さるだろう。
まあ程度の差はあれど、そんな事したらどこの家庭でも怒られるのは間違いないと思うが。

29 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:09:55 ID:IP/JHSTA0

 それから部屋で明日の宿題を片づけていると、母ちゃんの呼ぶ声が居間から聞こえた。

「ご飯よ、来んかえ!」

( ^ω^)「はーい、今行く!」

 慌てて椅子から立ち上がり、駆け足で居間へと向かった。
なるべく早く食卓へつかないと、僕を呼ぶ声はどんどんと大きくなる、これまでの経験から学んだことだ。

 数ヶ月前、TVゲームのセーブに手間取りなかなか反応できなかった時は、
成田空港ターミナルにでも住んでいるのかと思うぐらいの数億デシベル並の呼号が聞こえ、
僕は近所へ聞こえないか冷や冷やしたものだった、もうあの時の二の足は踏まない。

30 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:12:30 ID:IP/JHSTA0

( ^ω^)「おっ、兄ちゃん」

( ФωФ)「ブーン」

 兄ちゃんはすでに食卓についていて、僕とそっくりな顔をこちらに向けた。

 大学2年生で、僕とは3つ歳が離れているが、兄貴としての威厳など全く持ち合わせておらず、
唯一の取り柄といえば僕と比べてちょっと顔が怖いということぐらいである。
 しかし顔が怖いことが人生にそう役に立つわけない、バスにタダで乗れる訳じゃないし、ラーメンのチャーシューもおまけしてくれない、
無駄に畏怖の対象として恐れられるだけだ。

 心中で実の兄をバカにしていると、兄ちゃんは僕のほうを向いたまま、お茶碗をテーブルに配りつつ、訊いてきた。

( ФωФ)「ブーン、お前、ループザループ何回できるん?」

( ^ω^)「なあにをいきなり言い出すんかお、ヨーヨー?」

( ФωФ)「んー、ちょっと今日話題になっちょってな、
       たしか犬の散歩とブランコは出来ちょった気がするんやけど、
       ループザループになるとちっと自信がねえでから、当時練習しよったんは覚えちょるんやけど……
       お前まだもっちょんか? 俺のファイヤーボール、ブームが終わった後お前にやったやんか、あれ?ハイパードラゴンやったかな……」

31 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:14:34 ID:IP/JHSTA0

 てっきり女の子に喜ばれるエイトフォーの香りについて意見を求めてくるのかと思えばこれである、色気もくそもない。

 こんな兄ちゃんが果たして恋愛とか異性不純交遊とか出来るのであろうか、
その兄の血と同じ血が流れている僕の少し不安になる。

 先ほども言ったように、兄ちゃんと僕は顔の怖さ以外は大体一緒なのだ、
言うなれば、兄ちゃんは僕の人柱であり、毒味役であり、テスト人形である。

 兄ちゃんがしっかり恋愛できていれば、僕も大丈夫だと安心できるのだ。


( ^ω^)「んー、押入探せばあるかんしれんお、探してみるお」

 あと、兄ちゃんが昔くれたヨーヨーはファイヤーボールでもハイパードラゴンでもなく、
よくわからない玩具メーカーのパチモンだった気がするけれど。

32 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:16:09 ID:IP/JHSTA0

J( 'ー`)し「父ちゃん今日も遅くなるっち電話があったけん、先に食べよこっか」

 母ちゃんはテーブルに料理を起き終わると、自身も椅子に腰掛けた。

( ^ω^)「うん、食お食お」

( ФωФ)「腹減ってもう我慢できん、はよ食おうえ」

( ^ω^)「腹減るようなことしたんかお?」

( ФωФ)「うるさい」

 父ちゃんが遅くなるのは今日に限ったことではなく、むしろ夕食に間に合ったことのほうが稀である。
なので3人での食事ももう当たり前になっている。


( ^ω^)「いただきます」
( ФωФ)「いただきます」
J( 'ー`)し「いただきます」

33 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:17:14 ID:IP/JHSTA0

 手を合わせて、僕は箸をとり、食事に手をつけた。
 今日のおかずはオーソドックスな肉野菜炒めだ、豚肉とキャベツを炒め、塩こしょうで味付けしたもの。
それと、ポン酢と白ごまがたっぷりかかった冷奴である。

 僕は豆腐には断然醤油ではなくポン酢だ、もちろん冷奴だけでなく、湯豆腐のときもそう。
ポン酢の絶妙な酸味が、豆腐の素朴な味とからみあい、極上のおいしさを完成させている、
それに白ごまの風味も加わり、まさに絶品、料亭の味に及ばなくとも、この冷奴だけで秋田の田んぼを絶滅させる勢いでご飯が進む進む、


( ^ω^)「おかわりー」

 と言っても母ちゃんがご飯をよそってくれるわけじゃないので、
自分で炊飯ジャーのところまで行き、おかわりの白米を茶碗山盛りに入れて、テーブルまで戻る。

 まったく、冷や奴だけでも驚異的なおかずとなるのに、これに肉野菜炒めが来るとなれば、
食欲は留まることを知らぬ、言うなれば暴走新幹線、怒濤の勢いでかっこむ肉、肉、野菜、米、米、豆腐、肉、豆腐、肉、肉!

34 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:18:38 ID:IP/JHSTA0

J( 'ー`)し「こら、野菜もたべんね、生活習慣病になるで!」

 肉ばかり口にする僕を見かねて、母ちゃんは口出しするが、

( ^ω^)「ちゃんと後で最後に食べるけん心配せんでんいいけん、好きなものは後に残すタイプだお、僕は」

 至ってどこ吹く風、平気の平座で肉をむさぼり続ける僕に呆れ、どうしようもないなと言いたげな溜息を付く母ちゃん。


J( 'ー`)し「そういっていっつも野菜残しよんやんか、今日こそ全部食べよえ」

( ^ω^)「うんうん、わかっちょんお」

J( 'ー`)し「キャベツだけじゃなくてピーマンも入っちょんけんな? それも食べよえ?」

(;^ω^)「げ? そりゃ無理やお」

( ФωФ)「ごちそうさま」


 僕と母ちゃんが言い合っている横で、兄ちゃんが空の茶碗と取り皿を重ねて持ち、席を立った。

35 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:21:10 ID:IP/JHSTA0

( ^ω^)「ありゃ、もういいんかお? じゃあ僕が肉全部食べるお?」

J( 'ー`)し「まだおかずもご飯ものこっちょるにん、珍しい」

( ФωФ)「うん、ちょっと、まあ」

 何がちょっとなのか僕には全くさっぱりわからないが、兄ちゃんは汚れた食器を流し台に置くと、
何か慌てた様子で居間から出ていった。それはまるで物音に驚いて逃げ去る猫みたいであった。
猫に例えるほど可愛い人間でもないが、とにかくそんな風である。


J( 'ー`)し「変やねえ……」

( ^ω^)「うーん……なしかお?」

 いつもはこんな感じではない、ゆっくりかつ大胆に食事をとり、
その後は食後のアイスをいやらしく舐め回しながら、笑ってこらえてを見ては小刻みに放屁するような人であったのに、
今日の様子はいったいどういうことだろうか、少し気になった。

36 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:22:29 ID:IP/JHSTA0

J( 'ー`)し「何か忘れてたんかねえ、そげん風に見えたけど」

( ^ω^)「やっぱり? 僕もそげん風に見えたお、なんか、誰かと約束しちょったみてえな……」

 慌てて閉めたために若干半開きになったドアの隙間をじっと見て、僕は唸った、そしてご飯をもう一度お代わりした。


J( 'ー`)し「もしかしてん、彼女とか……」

(;^ω^)「ぶっ!」

 突然母ちゃんが突拍子もないことを言ったために、僕は麦茶をおもいっきり吹き出し、
そのせいで白ご飯は麦茶漬けご飯になってしまった。ああ、貴重な白いご飯が。
清太や節子に怒られてしまう。

37 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:23:45 ID:IP/JHSTA0

(;^ω^)「ありえんありえんありえん!あげな兄ちゃんが、彼女とか、地球が逆回転しても絶対ありえんお!」

J( 'ー`)し「あーら、わからんで?」

( ^ω^)「朝飯抜きを賭けてんいい、兄ちゃんに彼女? 片腹痛えお!」

J( 'ー`)し「あら? おなか痛いん? やっぱり食べ過ぎじゃあねえん?」

( ^ω^)「そういうんじゃなくて……、まあいいお、ごちそうさま」

J( 'ー`)し「ちゃんと皿は軽く水洗いしちょくんで!」

( ^ω^)「うーい」

 母ちゃんのリアル天然ボケに気持ちが冷め、ついでに食欲も十分満たされたことでもあるし、僕は席を立った。

38 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:25:53 ID:IP/JHSTA0

 あの、あの女の子と見つめあうだけでお喋りできずに思考回路がショート寸前な兄ちゃんに、恋人が出来るなんてありえない。
どうせ、スカイプのビデオチャットでヨーヨープレイの見せあいをする時間に遅れそうで慌てていたんだろう。

 悲しいかな、僕はそういう風に決めつけていた。
 兄ちゃんに恋人が出来れば、僕にだってチャンスはあるという事なので、喜ばしいことなのかもしれないけれど、
僕と似たようなあいつに先に彼女が出来ちゃうのも、それはそれで腹立たしいという、ジレンマのようなものが、心の奥でとぐろを巻いていた。



 だからこそ、兄ちゃんの部屋の前を通りかかったとき、興味本位で部屋のドアに耳を近づけた瞬間に聞こえた言葉に、愕然としてしまった。

「愛しちょんって、わかっちょん、好きっちゃ」

 確かに、兄ちゃん自身のあの低い声で、そう聞こえたのだ。
初めは冗談で言ったのかと思ったが、数秒考えて、冗談のトーンにしては、やけに、愛情がこもっていた声だったなと気づいた。
筋金入りの童貞、恋愛に関しては数弟子リットルの経験もない僕が言うのも変であるが
、まるで、心から愛情を注いでいる人物に囁く、えらく本物じみた声だったのだ。

 もはや、兄ちゃんの受話器の先の恋人の存在を疑うことが出来ないほどに。

39 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:28:06 ID:IP/JHSTA0

 あの兄ちゃんに、ついに恋人が。
 力が一気に抜け、その場に経たり込もうとする体を気合いで支えつつ、僕は自分の勉強部屋まで戻った。
部屋の角に鎮座してあるぼろのソファーに寝っころび、ふうと息を吐く。

 胸に手をおくと、心臓の鼓動はいつもより増して強く感じる。
少女マンガの主人公じゃあるまいし、なぜ人の恋愛にこんなにドキドキせねばならぬのかと、自分で皮肉っぽく笑い、僕は腰を上げた。


( ^ω^)「あ、朝飯抜き、賭けちょったお……はぁ」


 僕にもいつか、恋人が。彼女が。そう思ったとき、
ふっと、今朝の副会長、ツンさんとの出会いが、脳裏に浮かび上がった。


( ^ω^)「あの子……ツン、さん……」

40 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:28:45 ID:IP/JHSTA0









第一話:だれかさんとだれかさんの日常  終わり

41 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:31:15 ID:c9nfxSZMO
続き滅茶苦茶きになる…!

乙!

42 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 21:34:07 ID:IP/JHSTA0

第一話終わりです。

この物語は、一話につき第一幕(ドクオパート)→第二幕(部活パート)→第三幕(家庭パート)の
三パートに分かれて展開されます。

また、ちょっとした思いつきで方言がバリバリに出てきますので、
作中のセリフで意味が分かりにくいところがあったらどんどん尋ねてください。

43 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/22(金) 23:59:36 ID:l7BjHZAkO
面白いなー

最近良作揃いでアタシ怖い!

44 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/23(土) 02:21:44 ID:XznYWsbc0
乙ー
方言北九州っぽい?

45 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/23(土) 16:58:01 ID:wRGJApsk0
文脈から分からないことはないんだが、解読に少し疲れる
否定系っぽい訛りは特に
あと「えーらしいねぇ」ってのはガチで分からない

46 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 04:18:14 ID:OPHDWQrMO
>>45 
ここでは多分、可愛いもしくは綺麗な女の子らしいの意

47 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/28(木) 21:20:41 ID:KDa6m3rk0

なにこれ小気味いい

長崎のとはちょっと違うっぽいから福岡とか佐賀のへんかな?


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