2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 20:43:57.50 ID:6eWn52vy0
昔から自分に投げ掛けられる言葉は、酷く辛辣だったと思う。
きちがい
のうたりん
くるっとる
いかれている
(。A。)アヒャっているようです
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 20:48:06.64 ID:6eWn52vy0
長年不思議だったのだが、そう思う反面私はその言葉の本意を多分、意識水面下で汲み取っていたのだ、とかなんとか。
難しい事を考えてみても、
「アヒャ、帰るお」
「あひゃー」
どうせ産業だって持ちやしない。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 20:56:04.24 ID:6eWn52vy0
そんなお粗末な自分の脳味噌にはほとほと愛想が尽きた頃合ではあったので、試しに自殺をしてみようと思った。
「理想の死に方ぁ?」
「アヒャ」
かくん、と首を傾げたクラスメイトは、嫌悪感と嘲笑をたっぷり含んだ笑みで俺をみた。
「相変わらずアヒャってんなぁ、お前」
アヒャ?
いかれてるなって事だよ、
と
友人は口の端を釣り上げ、
「いやだ。教えてなんてやらん。手前の死に方なんぞを世話する気はねぇ」
「……あひゃ?」
俺は間抜けのように口を開いた。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 21:05:04.61 ID:6eWn52vy0
「お前の最善の死に方はお前が決めるんだよ」
にやりと笑った友人の生白い首には痛々しい縄の痕が映えていた。
夕暮れの差し込む教室の空気は埃っぽく、きをぬいたら咳込んでしまいそうだった。
教卓に降り積もった埃がオレンジ色に舞う。
じゃあ俺先帰るから、と席を立った友人は、教室をでる手前でちらと座ったままの俺を振り返った。
「勘違いしてるみたいだから言っとくが、俺は自殺志願者なんかじゃないぜ」
じゃあその首の痕は何かと考えてみたが、冴えない俺の脳味噌では答えは出なかった。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 21:14:31.01 ID:6eWn52vy0
それはね、あいつなりの折り合いなんだお、と内藤は言った。
「あいつは頭が悪いから、そうやって無いと現実と妄想に折り合いがつけれないんだお」
帰り道はすっかり暗く、内藤の吐く息も俺の吐く息も綿菓子のように白い。
街頭に照らされた裸の桜が寒々しく俺の眼に映る。
「首を吊ってはこれは妄想だこれは現実だって、終いにはわからなくなって僕に泣きつくんだお」
「……アヒャ」
「何言ってるかわかんねぇお。……でもそうだお」
俺には内藤が何を言っているのか分からなかった。
けれど、友人、ドクオの生き方は、酷いものだとだけ思った。
俺と同等か、それ以上に。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 21:19:18.65 ID:6eWn52vy0
まぁ、そういう話は置いておいて。
少なくとも彼らから自殺方法を伝授してもらうのは不可能だと判断した俺は、とりあえずもっとてっとり早い方法を考える事にした。
死に方が分からないなら、今にも死にゆく人に聞けばいい。
俺の冴えない脳味噌に神が舞い降りたと思った。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 21:25:01.78 ID:6eWn52vy0
「見るな」
「アヒャ」
「見るな」
「アヒャ」
こののうたりんが、と爺さんは俺を罵り、顔を歪めた。
街の真ん中辺りに位置する公園、の通路に設置された段ボールハウス。
今にも凍死しそうな爺さんを、俺は今にも凍死しそうになりながら観察していた。
爺さんは俺を追い払う気力も無いのか、弱々しい声で悪態を吐くばかりだった。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 21:29:22.60 ID:6eWn52vy0
死ぬということは、
どういうことなのか。
動かなくなった爺さんを眺めながら思惟に暮れた。
心臓が動かなくなる事ではあるまい。
爺さんは死ぬ寸前、俺に悪態を吐きながらも満足気に瞳を閉じた。
その体の中で何が起きたのか。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 21:36:26.02 ID:6eWn52vy0
地面にしゃがみ込んで居た事もあってか、制服がすっかり汚れてしまった。
このまま帰るのも気が引けたので、病院の待合室で仲良くなったお兄さんの家にお邪魔になる事にした。
「こりゃ随分汚したなぁ」
「あひゃ」
「俺の制服貸してやるよ、明日はどうせさぼりのつもりだったから」
そう言ったお兄さんは弟さんにジャンピングニーを食らわされていた。
妹さんから手渡されたココアを啜っていると、頬を腫らしたお兄さんが俺の向かいに座った。
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 21:44:05.38 ID:6eWn52vy0
お兄さんは少しの間にやにやと笑いながら俺を眺めていたが、程無くして今日は面白いことあったか、と俺に聞いた。
爺さんの事を話すと、お兄さんは素っ頓狂な声を上げ、げらげらと笑った。
ちょっと俺は顔をしかめる。
「死生観か。今回はまた壮大なテーマでアヒャってるな」
「アヒャっ……」
「ああ、いや自殺か? 残念ながら俺は死にたがりじゃないからそれについては何とも意見出来ないね」
「……」
「死ぬってなあに、っていうのはさ、あひゃ」
人の人生に置けるメインテーマだよ、とお兄さんは笑う。
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 22:18:41.25 ID:6eWn52vy0
「人はそれぞれ心臓を動かし始めた瞬間から死ぬ準備を始めるんだ。
そんでもって死ぬってなあにって言うのは死ぬ瞬間まで分からないようになってるんだ。逆から言うと死ぬ瞬間までは適当に流しておけば大した問題じゃ無いんだよ、其れは。
人間五十年。そんだけかけてちょってずつ考えりゃいいのさ。
けどな、自殺なら話は違う。
そのタイムリミットを自分から縮めるようなもんだから。
なぁ、あひゃ、お前、自殺がしたいっていうんなら、そこから考えなきゃだめなんだ。
まぁ、ある意味正しい経路を辿って順調に段階踏んでいる気もするがな」
「アヒャぁ?」
お兄さんの言うことは一から十まで分からなかった。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 22:27:03.12 ID:6eWn52vy0
大体俺はあたまがわるいし、お兄さんは詭弁主義のうそつきだ。会話が上手く成立しているなら其れはお兄さんが嘘を吐いて俺をだましているだけなんだろう。
頸を傾げる俺を見て、お兄さんは全部冗談だよそんなん知らないよとげらげら笑った。
ちょっとむかついた。
一頻り笑って満足したらしいお兄さんは、笑い涙を浮かべたままひぃひぃと呼吸を荒げ、
「俺は家族がみんな死ぬのを見てからじゃないと死なないよ」
と微笑んだ。
嘘だけどさ、と付け足して。
俺には嘘かどうか分からなかった。
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 22:33:58.05 ID:6eWn52vy0
お兄さんが弟さんに跳び足刀を食らわされているのを眺めたり、妹さんからココアのお代わりを貰っている内に、窓から見える空が真っ暗になっていた。
最近時間の流れが早い気がする。
いつまでもお邪魔している訳にもいかないので、お兄さんから制服を借りてお暇させてもらった。
昨日内藤と帰った道を一人で歩く。
夜はいやだなと思った。
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 22:41:21.64 ID:6eWn52vy0
例えばゲームのゲームオーバーの画面。
真っ暗な其れが何だか夜と被って、俺は夜の度に死んだ気になる。
しんでしまうとはなさけない
けれど現実はゲームとは違って、朝が来ても生まれ変わっているなんて事は多分滅多に無い。
けれどもし、
生まれ変われるんだとしても、これまでの5532回の死とか誕生とかで、賢しい脳味噌を手に入れられる事はなかったんだろうと思う。
ばかは死んでも直らない、
けど、
けれど
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 22:44:13.27 ID:6eWn52vy0
「死んだらばかっていう現実から、逃げられるんじゃないのかって」
そんな事を思ったのは、やっぱり俺がばかで、いかれていて、アヒャっているからなんだろう。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 22:51:20.79 ID:6eWn52vy0
図書委員は、賢い。
俺の知っている人の中で、多分一番賢い。
だから、翌日。
サイズの合わないお兄さんの制服を着た俺は図書室を訪れて、図書委員の座っているカウンターの横に立った。
図書委員は暫く俺のことを無視していたけれど、痺れをきらしたのかいらいらした口調で俺に用を問うた。
ノンフレームのめがねが反射して、少し眩しい。
俺はしぬってなにと言うような事を図書委員に聞いた。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 22:59:14.76 ID:6eWn52vy0
「……私は、」
図書委員は少しだけ困ったように無表情を崩してこちらを見る。
「その問いの答案を持ち合わせていません。残念ながら」
「ア……ヒャ」
図書委員は本当に申し訳なさそうに俺なんかに頭を下げる。
ごめんなさい、
と。
何でも教えてあげるなんて言ってごめんなさい、と。
「アヒャ」
それは、図書委員と俺が幼い頃交わした約束だ。
俺は賢しい彼女がなんでも知っていると勘違いし、彼女もなんでも知った気でいた。
そんな稚拙な約束には、お兄さん曰く人の人生のメインテーマは荷が重かったらしい。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 23:05:17.43 ID:6eWn52vy0
そんなものだ。
俺がアヒャってしまってからは、図書委員の事をトソンちゃんと呼ぶ事もなくなったし、あひゃくんと呼ばれる事もなくなった。
「アヒャ」
違う。
「アヒャヒャヒャヒャヒャ」
俺がアヒャっていると気づかれてから、だ。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
死にたいな、と初めて思った。
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 23:13:55.27 ID:6eWn52vy0
「アヒャッ、ヒャ」
「おっお、あひゃじゃ無いかお。どうしたお?」
内藤は、取りようによっては重力に負けているような笑顔で俺を見つけた。
その顔を見てやっと体が疲労を感知する。
へたりと膝が勝手に折れる。
フルマラソンの後のように疲れていた。死にそう、と口の中でだけ呟く。
心臓がなる心臓がなる心臓がなるしんぞうがなる
しんぞうがしんぞうがしんぞ心臓が、
鳴っている。
?
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 23:24:06.99 ID:6eWn52vy0
例えば俺は赤という色を知っているけれど、それは果たして他の誰かと同じ色を指しているんだろうか?
「 ?」
例えば俺は死ぬということについて考えたけれど、あの現象は果たして死ぬと呼べるものなのだろうか?
「 ?」
例えば俺はドクオの事を真実死にたがりだと思っていたけれど、果たして其れは正しいんだろうか?
「 ャ?」
例えば昨日俺はひとが死ぬところをみたけれど、あのじいさんは果たして本当に死んでいたのか?
「ア ャ?!」
たとえば、おれはいかれてなんていないとしんそこではおもっていたが、はたしてそれはほんとうなのか?
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 23:30:28.23 ID:6eWn52vy0
あひゃってるって
なに?
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 23:34:30.71 ID:6eWn52vy0
気がついたら部屋で寝ていて、なんだかお腹が一杯だった。
ああ、もう今日は眠ってしまおう。
明日にでも気が向いたら飛び降りて死んでしまえばいい。
死ぬなんて分からなくていいじゃん。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 23:39:53.89 ID:6eWn52vy0
屋上には先客がいた。
邪魔だなぁと思いながら柵を乗り越える。
先客のきれいなお姉さんは慌てたように俺の制服の袖を引いた、いや、お兄さんの借りたままだった。もういいや。
「なにをしてるんだ!」
「アヒャ」
言ってから、気づく。
もう良いんだっけ?
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 23:46:47.38 ID:6eWn52vy0
「自殺とか死とかについて考えてる、よ」
人前でまともに話すのは久しぶりだった。
「でも、俺は頭が悪いから分かんないんだ」
自分の頭が悪いということさえわからなかったほどのばかだから、アヒャってるなんて言われたのかも知れない。
何にせよ、俺には分からない事だ。理解の範疇を越えた事だ。
知りたくない。
分かりたくない。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/02(金) 23:54:25.63 ID:6eWn52vy0
もう、疲れた。
「お前は、死にたいのか」
「……そうなんじゃないかねぇ」
お姉さんは止めようとしてくれているのか、慎重な顔つきになって俺を見た。
そりゃあ、目の前で人に死なれたら胸くそ悪いから、だろう。あくまで推測だけれど。
お姉さんが本当はなにを考えて止めようとしているかなんて俺には分からない。
友人が、内藤が、爺さんが、お兄さんが、図書委員が、みんなが、
なにを考えているのか平等に分からないように。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 00:15:18.39 ID:FElHRGu40
「お前が死んだら悲しむ人がきっといる」
居るのかな、と思考を放棄した。
「ねぇお姉さん」
「何だ」
「死ぬってなに?」
お姉さんが言葉に詰まるのを見て、制服を掴んでいたお姉さんの手を振り払う。
「止めろ!」
少しだけ暖かかった気がしたけれど、多分気のせいだ。
「お前に死なれたら、私が此処で死ねなくなる……ーっ!」
ほら、やっぱり。
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 00:21:54.58 ID:FElHRGu40
風の音がする。
ああ、死ぬっていうのはこういうことな。やっぱりお兄さんはうそつきだった。時間なんてかからない。ひどく簡単だ。
お姉さんにもお兄さんにもあの賢しい図書委員でさえ分からなかったことが今の俺にはわかっている。ばかでも、わかる。
友人の言っていたおれの最善のしにかたっていうのはこれであってたんだ。
だけどおれはばがだから、たぶんこのあたまがじめんにぶつかったらあれもこれもこんどこそぜんぶぜんぶわすれてしまうから、
そのまえにこのさえないのうみそにこれをきざみこんできざみこんできざ、
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 00:28:52.27 ID:FElHRGu40
(。A。)「 アヒャッ!」
ーー……■■■■■ッ!
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 00:30:58.43 ID:FElHRGu40
あひゃっているようです
end
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 00:33:42.74 ID:FElHRGu40
以上終了です
いきあたりばったりのながら投下にご付き合い有り難う御座います。
ちなみに、AA無しなのは単純にpspだからです。
すみません
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- 2009/01/03(土) 00:51:29|
- ブーン系小説(短編)
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