400 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/01(木) 04:09:17.94 ID:6TN+TSRT0
そいじゃ、俺も投下します。
401 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/01(木) 04:12:12.57 ID:6TN+TSRT0
目が覚めれば、年が明けていた。
といってもまだ朝は来ていない。
薄手のカーテンを貫く日光がまだ現れていないのが、なによりの証拠である。
付けっぱなしだったテレビの中では、未だ元気満点の芸能人が大声を上げて何か言っていたが、僕はそんなことより画面左上に表示されている時間を注視していた。
四つの数字は、まだ今日という日が来てから三時間しか経過していないことを示している。
(;^ω^)「まじかお」
過ぎた時間はどうしようもない。一二月三一日、僕はいつも通りアルバイトにいって帰ってきた。大晦日故に営業時間はいつもより早かったが、仕事をして家に帰ると、すぐに体が睡眠を欲する。アルバイトを始めてから一ヶ月ほどで身に付いたサイクルである。
404 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/01(木) 04:15:18.81 ID:6TN+TSRT0
しかし折角の節目である。
お笑い番組でも見て年を越そうと思ったのだが、僕の体はささやかな願望さえ無視してしまったらしい。
リビングのソファーでいつしか横になり、眠っていた。こうして日が昇る前に一度覚醒できたことが、既に奇跡だ。
と、いってもだ。
カーテンを開き、空を仰ぐ。まだ形の悪い月がよく映えていた。
どう考えても除夜の鐘を突きに行くには遅く、初詣に行くには早い。
というか、一人で行くのは嫌だ。
お祈りとか、占いとか、そういうものも信用していないから、
季節的な寒さと孤独故の寒さに襲われながら出張っていく必要はない。
今頃、どこぞのカップルは「何をお祈りしたの?」「君と一緒にいられるようにって」「きゃー」なんて三文芝居を繰り広げているに違いない。
目覚め早々、新年早々、何僕は暗い想像をしているんだろう。
405 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:17:08.51 ID:6TN+TSRT0
( ^ω^)「雨とか降んねえかな」
無意味な願いである。
もう一眠りしようかと思ったが、その前にテーブルの上に置いてある携帯が、
オレンジ色のランプを灯しているのが見えて、僕はソファーから体を起こした。
携帯を開くと、メールが届いている。送信者はドクオだった。
『はっぴーにゆーいやー』
そんなやる気のないメッセージと共に、画像が添付されていた。
何かと思いそれも受信してみると、美味しそうに焼けたステーキが映っている。
ドクオの携帯で撮影したものにしては鮮明すぎるので、インターネットでダウンロードしたものだろう。
相変わらずくだらないことをする奴だ、と苦笑する。しかし、こういうくだらないことをするドクオが、僕は好きなのだ。
僕も何か変な画像を添付しようと思ったのだが、何も思いつかない。
テーブルに積んであるみかんでも撮影しようかと思ったが、それでは面白くない気がする。
みかんで一発芸でもやってみるか。
406 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:19:24.06 ID:6TN+TSRT0
( ^ω^)「……よし」
みかんを二つ手にとって、それで両目を塞いでいる。
丁度ヘタの部分が虹彩になる感じだ。しかし、これだけではインパクトは薄いだろう。
僕はTシャツを脱いだ。
部屋には暖房が効いている。寒さに体を震わせることはなかった。
携帯のカメラを起動し、セルフタイマーを設定して、僕はみかんを両目に当てた。
電子音が規則正しく三回鳴り、リビングと廊下を隔てるドアが開いて、シャッターが切られた。
从;゚∀从 「兄貴……」
反射的に振り返ると、友達と除夜の鐘を突きに行っていた妹がいた。
家政婦は見た的な狼狽と困惑が入り混じったような表情で立っていた。
無言で僕と視線を合わせるだけで、何をしているかさえ聞いてこない。
そりゃそうだ。目の前に上半身裸でみかんを両手に持っている男が居たのなら、僕だって凍結する。
409 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:21:57.75 ID:6TN+TSRT0
(;^ω^)「ハイン、これは、その」
从;゚∀从 「待て兄貴。何も言うな。あたしは全部分かってるつもりだ」
ハインは焦燥に背を押されたような速度で言葉を紡ぐ。
从;゚∀从 「あたしは兄貴が淡白に振舞いながら裏では色々と変な趣味を持っていることは知っているからな。
本棚に惜しげもなくいかがわしい雑誌を並べてるし、
机の一番下の鍵をしてある引き出しの中に何が入っているかも知ってる」
(;^ω^)「嘘吐くなお」
从;゚∀从 「嘘じゃないさ。
ちなみに鍵は一番上の引き出しの奥にある小学校のときに水泳大会で取った銀メダルの下にある」
饒舌に僕のプライバシーを暴露していく。
反論が一切できなかった。なぜなら、その通りだったからだ。
しかし何故そこまで知っているのか。僕がそれを尋ねる前に、ハインは表情を持ち直した。適応力のある妹である。
从 ゚∀从 「まあ、なんだ。明けましておめでとう」
(;^ω^)「……おー」
410 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:23:33.58 ID:6TN+TSRT0
つれないなあ、とぼやくハインを他所に、僕はみかんを置いて、
服を着なおしてソファーに座り、今さっきまで僕の右目だったものの皮を剥いてほお張る。瑞々しい果肉が口の中で弾けた。
从 ゚∀从 「それで、兄貴は何をやってたんだ?」
( ^ω^)「ドクオが変なメールを送ってきたから、更に変なメールを返そうと思って……」
僕はメールと画像をハインに見せた。ハインはなるほどなあ、と納得した風に言った。
从 ゚∀从 「で、さっきの写真を送るのか?」
(;^ω^)「いや、実はちゃんと撮れてなかったんだお。腹から下だけ写ってて」
もともと一発撮りをする気はなかった。少しずつ調整していくつもりだったのだ。
だが、ハインに見られたことが予想外でテイクツーを行う気力はなくなった。
( ^ω^)「みかんに顔でも描いて送るかおー」
从;゚∀从 「……どうしても変なやつがいいのか?」
( ^ω^)「ここまで頑張ったんだからなんとかやり遂げたいお」
412 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:25:09.13 ID:6TN+TSRT0
これはあくまで僕とドクオの遊びだ。無理をする必要は微塵もない。
けれどどうにか初志貫徹したいと思うのは、僕のプライドの問題だろう。
自分の発言通り、みかんに自分の似顔絵でも描こうかと思った矢先にハインが自分の鞄を漁りだした。
从 ゚∀从 「そういやこれがあった」
ハインが取り出したのは、ビニール袋に包まれた厚紙だった。
表には白い楕円が描かれ、裏には目や鼻など顔のパーツらしいものがある。
( ^ω^)「あ、これって福笑いかお」
从 ゚∀从 「なんか鐘突いた人に配ってたんだ。これやれば?」
僕はそれをありがたく受け取って、ビニールを剥がす。
まずはパーツの取り外しからだ。といっても破線がついているから、少し押すだけで簡単に外れた。
テーブルに並べられた輪郭とパーツ群を並べ、僕はどうすれば面白いかを真剣に考える。
鼻を額に持ってきたり、口を縦にしてみたりと試行錯誤を繰り返すが、どうもしっくりこない。
414 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:26:56.48 ID:6TN+TSRT0
一分ほどしてから、ハインが声を上げた。
从 ゚∀从 「兄貴、何やってんの?」
( ^ω^)「どうすれば笑える顔になるか考えているんだお」
从 -∀从 「はー」
ため息を吐き、ハインは肩を竦める。呆れているようだ。
从 ゚∀从 「折角だから普通にやればいいじゃん。パーツはあたしが渡してあげるから」
(;^ω^)「そうかお? それじゃ、頼むお」
僕は目隠し代わりにTシャツを頭に被る。
何か探してくる、とハインが言ったが面倒だからこのままでいいと制して、福笑いを始める。
从 ゚∀从 「まずは、鼻な」
( ^ω^)「おっ」
从 ゚∀从 「次、目行くか」
( ^ω^)「おっおっ」
419 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:52:36.65 ID:3fcLnwOtO
僕が二つのパーツを置くと、ハインが鼻を鳴らした。
その時点で形がおかしいのは分かったが、まだ見てはいけない。
( ^ω^)「じゃあ、次は口で」
从*゚∀从 「はいよ」
最後に耳を置いて、僕はTシャツを元に戻す。
そして、ご対面。
( ゚ω゚)「うわあ!」
从*゚∀从 「あはははははは!」
そこには、人間ではない何かがいた。
鼻は眉間の辺りから斜めを向いており、目は鼻の横にあるが、左目が鼻に被さっている。
口はまあ、あながち間違いではない位置にあるが、鼻がおかしいので鼻の下が異常に長い。
そして最後に耳だが。
421 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:55:00.67 ID:3fcLnwOtO
从*゚∀从 「こいつ、どこに耳あんだよ! あはははは!」
(*^ω^)「ファンネルみたいだお」
完全に輪郭から外れた位置にあった。これでも僕はまじめにやっていたつもりなのだが。
从*゚∀从 「なあ兄貴、これあたしもやりたい!」
(*^ω^)「おっお。ちょっと待てお。今ドクオに送るから」
僕は写真を撮って、ドクオに送信する。しばらく待っていたが、返事は来なかった。
メールを受信したのは一時間以上前だから、眠っているのかもしれない。
それからしばらくの間、僕とハインは福笑いで遊んでいた。
ハインが途中で流石に眠くなったらしく部屋に戻り、僕もそれに続こうとした。そのときだった。
423 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 04:59:38.29 ID:3fcLnwOtO
携帯が鳴り響いた。ドクオかと思って反応を楽しみにしながらメールを開いたが、全く違うアドレスからだった。
『童貞のあなたにお勧め!秘め始めの相手が大勢居ます!』
俗に言う、迷惑メールというやつだった。出会い系サイトの広告メールだ。
確かに僕は童貞だけど、こんなものに頼ろうとは思わない。
童貞を捨てる。これは僕にとっては、重大なことである。僕は、好きな人にそれを捧げたい。
僕は迷惑メールを消去して、携帯をポケットに押し込む。
( ^ω^)「……後でお祈りしに行ってみるかお」
素敵な彼女ができますように、とか。
叶うとは思わないが。
( ^ω^)「……寝るかおー」
僕は部屋に戻って、ベッドに倒れこむ。眠気はすぐにやってきた。
次に起きた頃にはちゃんと日が昇り、母さんがお雑煮を用意してくれているだろう。
僕にとってのお正月は、そういうものだ。そうでないと始まらない。
僕はお雑煮の香りを想像しながら、眠りの中に落ちていった。
完
425 :中途半端な新年のようです:2009/01/01(木) 05:05:02.49 ID:6TN+TSRT0
お題
>>184 変わることのない毎日
>>192 牛
>>198 人生の転機のフラグを折る
>>199 新年福笑い
中途半端な新年のようです。これにて終了です。
あ、これ書くのに四時間もかけたのか・・・。
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- 2009/01/01(木) 12:38:41|
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