3 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:05:24.00 ID:QKSHiEFPP
プロローグ
冬の寒さがより一層厳しくなり、僕は彼女と居間で備え付けの洋風暖炉にあたっていた。
僕らは互いに揺りかご椅子に腰掛け、色々な話をしていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「この部屋ね、私のお気に入りなんだ」
( ・∀・) 「へー。ああ、今日は星が綺麗だろうな」
ζ(゚ー゚*ζ 「また適当な返事するー。でも、この部屋ベランダないから見れないわよ」
他愛もない話、それだけでいい。彼女といれることが、素敵なことだった。
話もだいぶ盛り上がってきたところで、ふと彼女がこう切り出してきた。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、ちょっとミステリアスかつホラーな話を仕入れてきたんだけど」
( ・∀・) 「どんな話だい?」
ζ(゚ー゚*ζ 「これ、本当にあった話なんだけどね……」
どうして怖い話なんかは、必ず最初に「本当にあった話だけど……」というくだりをつけるのだろう。
そのくだりがあったら、更に信憑性が下がるというのに。
しかし、そこだけで判断するのはいささか勿体ない。
僕は彼女の言葉に、耳を傾けることにした。
5 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:07:26.52 ID:QKSHiEFPP
ζ(゚ー゚*ζ「ある目的で、四人の男女がもう使われていない屋敷に行くの」
ζ(゚ー゚*ζ「そしたらそこで、彼らは不思議な本と出会う」
ζ(゚ー゚*ζ「その本には、彼らが屋敷に入ってからしてきた行動が記されていたの」
ζ(゚ー゚*ζ 「そして、これからの彼らの行動も……」
( ・∀・) 「その本の主人公は、まさにその本を読んでいる彼らってわけか」
さわりだけ聞いて、僕の好奇心が少し疼いた。
ここからベターな展開が繰り広げられていくとしたら、それは確かにミステリアスである。
僕は彼女に、続きを促した。
7 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:10:04.98 ID:QKSHiEFPP
ζ(゚ー゚*ζ 「その本を見た彼らは不気味がるんだけど……」
彼女が、一瞬のためをつくる。
ζ(゚ー゚*ζ 「何故か、彼らの行動は自然とその本に書かれている通りになってしまう」
ζ(゚ー゚*ζ「まるで、彼らの行動が誰かに操られているかのように」
ζ(゚ー゚*ζ 「まるで、その本は彼らの未来を知っているかのように」
ほうら、来た。
ありふれた、それでいてゾクゾクするようなミステリーだ。
僕の好奇心は、もう収まりきらなくなっていた。
( ・∀・) 「その話、もう少し詳しく聞かせてもらおうか」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、いいわよ」
恐らく、彼女も僕が食いついてくると踏んだのだろう。
彼女の余裕たっぷりの笑みを見ていると、どれほどの自信があるのだろうかと思ってしまう。
11 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:12:44.87 ID:QKSHiEFPP
しかし、そこでふと僕は嬉しくなる。
彼女がこんな風に笑顔を見せるなど、久しぶりだったから。
( ・∀・) (ここまで立ち直るまで、長かったな……)
以前の彼女はひどかった。
当時、僕と彼女は付き合いだしてから一年程度で、まだまだ初心な関係だった。
これから仲が発展していくだろうと僕は思っていた。しかし、それは叶わなかった。
彼女が壊れてしまったのだ。度重なる、不幸に襲われて。
両親が事故で死に、そしてそれを追うように兄が死んだ。
そのときの彼女はもう、崩壊寸前だったといえる。
それからの僕と彼女の日々は、言うまでもないだろう。
13 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:14:38.73 ID:QKSHiEFPP
( ・∀・) (しかし……)
彼女は、以前からこういったミステリーや怖い話が大好きだった。
そういった話題を切り出してくるということは、やはり本来の彼女に戻りつつあるということなのだろう。
( ・∀・) (この状態ならそろそろ……)
僕も彼女ももう今年で三十歳だ。いい加減身を固めたい歳でもある。
僕はポケットに忍ばせた、四角い指輪ケースを指先で確認する。
この話を聞き終えたら、彼女にプロポーズしよう。
ミステリーの雰囲気の後にプロポーズするなんて、少々タイミングが悪い気もするが。
15 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:17:40.51 ID:QKSHiEFPP
( ・∀・) (まあ、でも……)
( ・∀・) 「とりあえず、今は君の話に聞き入ることにしよう」
ζ(゚ー゚*ζ 「ええ、きっとあなたを満足させられるような話だと思うわ」
彼女はおどけた笑顔を見せてから、神妙な表情を作り雰囲気造りをする。
彼女の切り出し口は、よくあるミステリー小説のような変哲もないものだった。
( ・∀・) 観 察 者 のようです ζ(゚ー゚*ζ
16 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:19:47.88 ID:QKSHiEFPP
その日は、とても蒸し暑い日だった。
人々は避暑地の別荘へと移住し、暑さをしのごうとする。
たった今車から降りてきた若者たちも、その類のような雰囲気を醸し出していた。
( ^ω^) 「いやー、ここも久しぶりだお」
川 ゚ -゚) 「やはりここは都心と違って、涼しいな」
(´・ω・`) 「ほら、早くおいでよ」
ξ゚?゚)ξ 「……うん」
しかし、彼らの前に聳え立つ、恐らく誰かの別荘であろう建物は、異様な雰囲気に包まれていた。
蔦は絡み放題となっていて、窓は埃で白く曇っている。長年、使われていない屋敷のようだ。
崖の上に立っている姿は荘厳だが、とてもバカンスを楽しみにきた若者が利用するような建物には見えなかった。
17 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:22:37.46 ID:QKSHiEFPP
( ^ω^) 「ここも随分寂びれたお……」
少々丸顔の内藤ホライゾンが、屋敷の外壁を撫でながら言う。
彼は仲間内ではブーンと呼ばれることがほとんどで、それが本名であるかのようになっている。
川 ゚ -゚) 「ここ数年、人の出入りもなければ、自然とそうなるだろうな」
艶やかな長い黒髪を風に靡かせたクーが、論理に従った返事をする。
(´・ω・`) 「……自然と、かぁ。それにしては、緩やか過ぎる気がしないわけでもないよね」
眉尻の下がった、地味な風貌をしたショボンが言う。
彼は少々弱気なところがあるが、頭はよく切れると仲間内で認識されていた。
ξ゚?゚)ξ 「ねぇ、本当に入るの?」
色の抜けた栗色の髪を丁寧に巻いているツンが、語調に若干の怯えを含みながら言う。
彼ら四人は同じ大学のサークル仲間であった。
18 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:24:30.53 ID:QKSHiEFPP
屋敷に入ることに、ツンが若干の抵抗を示しているのには、理由があった。
それは、今回彼らが夏休みを利用してわざわざこのような寂れた屋敷を訪れた目的と関わってくる。
彼らは以前、ここを利用していた経緯がある。
それというのも、この屋敷は実家が金持ちであるショボンの所有物であり、
大学の夏休みが訪れるたびに、ショボンが一番仲の良い彼らをここへ誘っていたからだ。
( ^ω^) 「まさか、今年もここへ来ることになるとは思ってもみなかったお」
川 ゚ -゚) 「……私もだ」
しかし、その恒例行事は大学三回生の夏まで続き、そこで終わった。
理由は至って簡単である。
大学三回生の夏、この屋敷で仲間の内の一人が死んだのだ。
当時、彼らのグループは六人で構成されていた。
今いる四人に加え、ドクオという青年と、しぃという女性がいた。
20 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:27:35.92 ID:QKSHiEFPP
死んだのは、ドクオのほうだった。
ドクオは屋敷の二階から飛び降り、崖の下の荒波に飲まれ死んだ。
残りの五人は、友人を失ったというショックから立ち直れないまま、警察から厳しい事情聴取を受けた。
結局、自殺と断定されたのだが。
ξ゚?゚)ξ 「あんな悲しいことがあったのに、普通は来ようと思わないわ」
( ^ω^) 「ドクオは自殺するようなやつでは無かったお。今でも、そう思うお」
川 ゚ -゚) 「……そうだな。しかしあの出来事以来、私たちの関係はギクシャクしたままだ」
(´・ω・`) 「それはきっと、誰もが思っただろうからね。……誰かが、ドクオを殺したんじゃないかって」
そしてショボンは小さな声でつけくわえる。
「僕は今でもそう思っているよ」、と。
21 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:30:02.19 ID:QKSHiEFPP
四人の間には、不穏な空気が流れていた。
それは恐らく、ショボン以外にも同じ考えをもっている人間がいるからだろう。
( ^ω^) 「ドクオはみんなから好かれていたお。だから、僕らの内の誰かが殺すなんてありえないお」
ドクオは普段から本ばかり読んでいて、あまり明るい性格ではなかった。
しかし、誰に対しても優しく接し、相談事などもすすんで受け入れる。
我が強い面々の中で、ドクオのような性格の人間が好まれるのは自然なことである。
川 ゚ -゚) 「しかし、やはり自殺も納得いかない。彼は常々、小説家になりたいと夢を語っていたからな」
(´・ω・`) 「ああ、彼女ともうまくいっていたのに……」
そこでショボンが「しまった」というような表情をして、言葉を切った。
ショボンが言おうとしていたことは、今彼らの間ではタブーであった。
ドクオの彼女、しぃの話は。
22 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:32:37.38 ID:QKSHiEFPP
しぃは、あまり気丈な女性では無い。
体の面というよりは、心の面で度々不安定になることが多かった。
そんな彼女がドクオが死んだ直後、大量の睡眠薬を飲んだ。
命に別状は無かったものの、精神的に問題があるとして彼女は入院した。
彼らの内、そんなしぃをケアできるものはいない。
だからこそ、しぃの話題が出ると空気が重くなる。
川 ゚ -゚) 「それら全てを含め、今回の旅で整理するんじゃなかったのか?」
沈黙を破ったのは、クーだった。
( ^ω^) 「……そうだお」
ブーンもそれに相槌を打つ。
そう、クーの言った通り、今回の旅の目的は、今までの出来事に対する気持ちの整理をすることであった。
23 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:34:22.92 ID:QKSHiEFPP
それは、言うならば「御払い」のような儀式的なものだろうか。
ドクオの死、しぃの病気。
それらを経て、なにも解決しないまま一年を過ごしてしまった彼らなりのけじめ。
せめて、大学を卒業してバラバラになる前に。
(´・ω・`) 「そろそろ、入らないかい?」
ショボンが少し眉を吊り上げる。彼なりの決心の表れなのだろう。
ξ゚?゚)ξ 「……そうね」
ツンがそれに続くと、後の二人も黙ってうなずいた。
そして彼らは、屋敷の中へと足を踏み入れていった。
24 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:36:39.39 ID:QKSHiEFPP
屋敷の中は、真っ暗だった。
今日の空は雲に覆われているということもあるのだろうが、それにしても暗い。
入るとまず、赤絨毯の敷かれた長い廊下を進んでいく。
廊下には一定間隔で火の灯っていない燭台が設置されていて、その周囲には蜘蛛の巣が張り巡らされ、それとなしに陰気な印象を受ける。
(´・ω・`) 「思ったより暗いね。良かった、懐中電灯を持ってきておいて」
そう言うと、ショボンは腰のポーチから大きな懐中電灯を取り出した。
試しにそれを付けてみるが、視界はだいぶ良くなっている。
川 ゚ -゚) 「少々、不気味だな」
ξ゚?゚)ξ 「怖い……」
懐中電灯を持ったショボンを先頭に、クー、ツン、ブーンと一直線に並んで歩く。
彼らは充分この屋敷の構造を理解しているのだが、あまりの不気味さに単独行動しようとするものはいないようだった。
25 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:38:46.84 ID:QKSHiEFPP
やがて大広間に出ると、まるで彼らを待っていたかのように、縦に長い木製テーブルと、それを囲むように設置された六つの椅子があった。
以前から設置されていたものとはいえ、不気味であることには違いない。
クーが自然と椅子に腰をおろす。後の三人もそれに従う。
テーブルの中央にはやはり燭台があり、ショボンがポケットから取り出したライターでそれに明かりを灯した。
(´・ω・`) 「雰囲気作りだよ、雰囲気作り。ふふ」
(;^ω^) 「なんでちょっと楽しんでるんだお……」
ξ゚?゚)ξ 「……悪趣味」
川 ゚ -゚) 「いや、ドクオがここにいたらきっと同じことをしていだろう」
ξ゚?゚)ξ 「ちょっと、クー」
26 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:41:32.42 ID:QKSHiEFPP
(´・ω・`) 「いつも言ってたね。物書きになるには、不謹慎なユーモアが大切だって」
( ^ω^) 「実際、ドクオが書いた小説はなかなか面白かったお」
ξ゚?゚)ξ 「……もう」
川 ゚ -゚) 「私も一度読んだが、夢中になった覚えがある」
それからは、ドクオとの思い出話に花が咲いた。
いつも本ばかり読んでいたドクオ、そんな彼の書く小説の出来に驚かされたこと。
実際は悪戯心を持ち合わせていて、よくこの屋敷で彼による悪戯がなされていたこと。
話はしばらく続いた。
27 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:43:44.48 ID:QKSHiEFPP
川 ゚ -゚) 「確かに彼は、いつも笑顔で私たちの会話を聞いていたな」
( ・∀・) 「ああ、例えどんなに意味のない内容でも、決して水を差すような発言はしなかった」
ξ゚?゚)ξ 「……ねぇ」
( ^ω^) 「そういった面からみると、ドクオが一番頭が良かったのかもしれないお!」
川 ゚ -゚) 「待て、それはおかしい。事実、彼は試験の順位に関しては常に下から数えたほうが早かった」
( ・∀・) 「馬鹿、試験だけが全てじゃないんだよ。いわゆる、IQってやつさ」
ξ;゚?゚)ξ 「ねぇってば!」
ツンの悲鳴のような声に、彼らの視線はツンへと集まった。
青ざめた表情の彼女は、二階へと続く階段を指差している。
28 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:46:29.47 ID:QKSHiEFPP
ξ;゚?゚)ξ 「あの階段の上にあるの……なに?」
三人は階段へと視線を移す。
なるほど、確かに階段の一段目になにか白い物体が、うっすらとだが確認できる。
(´・ω・`) 「……なんだろう、あれ」
川 ゚ -゚) 「ここからじゃよくわからないが、板かなんかじゃないか?」
( ^ω^) 「ツンもびびりだおw ちょっと僕が見てくるお」
ツンの怯えを和らげるためか、ブーンがおどけた調子で階段へと向かった。
段々その物体をはっきりと捉えるにつれ、ブーンはそれをなにであるか認識する。
それは――白いカバーで覆われた、薄い本だった。
30 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:49:16.57 ID:QKSHiEFPP
ブーンはそれを手にとると、また再びみんなの下へ戻り、着席する。
そしてその本を机の上に置くと、みんなにもはっきりと見えるように燭台のもとへとずらした。
(´・ω・`) 「なんだ、ただの本じゃないか。それにしても、十ページくらいしかないんじゃないか?」
川 ゚ -゚) 「こっちの面にはなにも書かれてないな。裏には……」
クーが本を手に取り、裏返す。
そして次の瞬間――
ξ;゚?゚)ξ 「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
ツンが大きな悲鳴をあげた。
32 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:52:15.58 ID:QKSHiEFPP
そこに書かれていたのは、至って普通のことだった。
本のタイトル、作者名、完成日。一般書籍としてみれば、なんら問題もないだろう。
しかし、彼らの間には、確実に嫌な空気が流れていた。
『 観 察 者 (上) 』
というタイトルの下に、小さく『DOKUO』と筆記体で記載されている。
そして完成日は――二〇〇五年八月九日となっている。
(;^ω^) 「これって……」
川 ゚ -゚) 「ああ、ドクオが死んだ日付だな。上ということは、中巻・下巻、もしくは下巻のみあるのだろうか」
ξ;?;)ξ 「うっ……うっ……」
(;´・ω・`) 「……」
33 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:54:41.84 ID:QKSHiEFPP
沈黙が流れる。
クーはジッと本を見つめ、ツンは嗚咽を漏らし、ショボンは腕を組んで目を閉じている。
ブーンはというと、そんな三人の様子をキョロキョロと覗っていた。
この空気を打開したのは、クーであった。
川 ゚ -゚) 「それにしても、『観察者』とはどういう意味だろうか」
クーの言葉に、反応したのはショボンだった。
(´・ω・`) 「特に意味のある言葉には思えないんだけど、なんか不気味だね」
また沈黙が流れる。
そして再び静寂を破ったのは、クーだった。
川 ゚ -゚) 「さて、読んでみようか」
35 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/12/29(月) 21:58:14.06 ID:QKSHiEFPP
ξ;?;)ξ 「えっ! ちょ、ちょっとクー!?」
本当なら読みたくない。
死んだ人が、その死んだ日に完成させた本なんて余りに不気味すぎる。
だが人間というのは不思議なもので、ついつい背徳的な行動をしたみたくなるものだ。
( ^ω^) 「僕は是非読んでみたいお」
ξ;?;)ξ 「ブーンまで……」
川 ゚ -゚) 「ふむ、確かにこれは雰囲気作りには申し分ないかもしれない。
死んだ人間が命日に書き終えた本が、まるで私たちに読んでもらいたいがために、
暗闇の奥から、書き手の無念を携えて……」
ξ;?;)ξ 「ちょっと! 不謹慎よ!!」
(;´・ω・`) 「クー、余りに悪ふざけがすぎるよ。ツン、落ち着いて。ね?」
37 : [―{}@{}@{}-] >>36thx >>27訂正:2008/12/29(月) 22:01:18.16 ID:QKSHiEFPP
川 ゚ -゚) 「確かに彼は、いつも笑顔で私たちの会話を聞いていたな」
(´・ω・`) 「ああ、例えどんなに意味のない内容でも、決して水を差すような発言はしなかった」
ξ゚?゚)ξ 「……ねぇ」
( ^ω^) 「そういった面からみると、ドクオが一番頭が良かったのかもしれないお!」
川 ゚ -゚) 「待て、それはおかしい。事実、彼は試験の順位に関しては常に下から数えたほうが早かった」
(´・ω・`) 「馬鹿、試験だけが全てじゃないんだよ。いわゆる、IQってやつさ」
ξ;゚?゚)ξ 「ねぇってば!」
ツンの悲鳴のような声に、彼らの視線はツンへと集まった。
青ざめた表情の彼女は、二階へと続く階段を指差している。
38 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:04:13.64 ID:QKSHiEFPP
本日何度目かの沈黙も、仕方が無いことだった。
空気は悪化し、お互い目もそむけているような状況だ。
( ^ω^) 「……」
川 ゚ -゚) 「……」
(´・ω・`) 「……」
ξ゚?゚)ξ 「……」
だが、確実に彼らの興味はその本にある。
そしてとうとう――その表紙を捲ってしまったのだ。
そこの一ページ目には、こう書いてあった。
40 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:06:57.00 ID:QKSHiEFPP
『 木製の扉が、軋み音を立てながら開いた。
やってきたのは四人の男女で、彼らはかつてここでバカンスを楽しんでいた連中だ。
四人は想定外の暗闇に一旦戸惑いながらも、準備の良い男が懐中電灯を取り出す。
懐中電灯を持った気弱そうな男、二人の女、そして小太りの男、というように彼らは長い廊下を歩いていった。
そして彼らが大広間に出ると、そこには木製の長テーブルと六つの椅子があるのだ。』
41 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:09:31.91 ID:QKSHiEFPP
一ページ目は、それだけであった。
片開きのため、彼らはここで一旦文字を取り込むことをやめる。
(;^ω^) 「これって……」
(;´・ω・`) 「……」
ξ;゚?゚)ξ 「……」
ブーンの額から汗が落ちる。
そんな様子を見越してか、クーが彼を諌めた。
川;゚ -゚) 「ブーン。何事も熟慮が大切だ。必要以上に、怯えさせることはない」
川;゚ -゚) 「とりあえず、続きを読んでみようじゃないか」
クーが気丈な態度で、本の頁を捲る。
しかし、その手も僅かながら震えていた。
次の頁は、見開きとなっていた。
しかし右側は空白で、左側にしか文が書いていなかった。
42 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:13:59.27 ID:QKSHiEFPP
『 真っ先に席に着いたのは、黒髪の真っすぐな女だった。
そしてそれにつられるように、後の三人も席に着く。
テーブルの上に置かれた燭台に、先ほどの準備の良い男が、やはり気を利かせてライターで火を灯した。
若干余裕が出てきたのだろうか。男が冗談を言うと、周囲から咎められた。
それからしばらくは、思い出を語り合っているようだった。
そうとう盛り上がっているようで、なかなか終わる気配を見せない。
すると、その流れを裂くように、巻き毛の女がみんなの注意を階段に引き付ける。』
45 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:17:14.61 ID:QKSHiEFPP
そこでまた、文は一旦区切れた。
さきほどより、更に空気が重くなる。
(;^ω^) 「これ、ドクオの筆跡だお」
川;゚ -゚) 「ああ、間違いないな」
みんな、この本のタイトルがなにを意味するのか、完全に気づき始めていた。
だが、誰もそれを口に出す事はしなかった。
ツンは今にも泣き出しそうな表情をしており、ショボンの眉尻は更に下がっている。
それでも、彼らはまた頁を捲るしかなかった。
そしてそこには、両開きに跨いで一行の文が書いてあった。
49 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:20:38.06 ID:QKSHiEFPP
『
彼 ら は 一 冊 の 本 を 見 つ け た
』
53 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:23:31.25 ID:QKSHiEFPP
ξ;?;)ξ 「いやあああ!!」
(;^ω^) 「……」
(;´・ω・`) 「……これは」
川;゚ -゚) 「はは、なんとも悪趣味な本だな」
泣き叫ぶもの。黙るもの。
動揺を殺そうとするもの。冗談で誤魔化そうとするもの。
反応は、様々だった。
55 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:25:36.09 ID:QKSHiEFPP
ξ;?;)ξ 「なんなのこれ!? さっきから全部、私たちのことじゃない!!」
ツンが泣き叫びながら、席を立つ。
(;´・ω・`) 「ツン、落ち着くんだ」
ショボンが彼女を落ち着かせようとするが、ツンはそれをふりほどく。
ξ;?;)ξ 「こんなところになんかいられないわ!」
(;^ω^) 「ツン!!」
ツンが玄関のほうへと駆け出す。
三人は、暗闇に消えていく彼女を見送ることしかできなかった。
60 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:29:54.65 ID:QKSHiEFPP
川 ゚ -゚) 「……さて、どうしようか」
(´・ω・`) 「もしその本が本物ならば、僕らの今後の動きが書いてあるんじゃないかな」
(;^ω^) 「そうだとして……ショボンは、それに従うつもりなのかお?」
流れる静寂。
ブーンの発言は軽視できないものであり、それでいて避けたいものであった。
仕方なく、三人は続きを読んだ。
そこには、ブーンが本をとってくること、本の表紙を見てツンが取り乱すこと、
四人で本を読み出すこと、戸惑いながらも頁を捲り続けること、そしてツンがいなくなってしまうこと。
――そして残った三人で本を読み進めること。
全て、彼らの行動した通りに記載されていた。
62 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:32:03.23 ID:QKSHiEFPP
(´・ω・`) 「……さて、どうしようか」
三人は、だいぶ落ち着きを取り戻していた。
もちろん、それでも普段の平生に比べたら違和感があるが。
川 ゚ -゚) 「とりあえず、読んでみるべきだと思う」
( ^ω^) 「……本気で言っているのかお?」
川 ゚ -゚) 「私はこの本が、私たちに何を伝えたいのかが知りたい」
クーの意志のこもった言葉の後に、「だから、読み続けるべきだと思う」と小さくつけくわえた。
(´・ω・`) 「ツンのことも心配だけど、僕もクーと同じ気持ちだ」
(;^ω^) 「……二対一になったら、仕方がないお」
多数決が決まったところで、三人は再び頭を寄せる。
そして新たな頁を捲った。
66 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:34:19.03 ID:QKSHiEFPP
『 やがて三人は立ち上がる。
弱気そうな男が懐中電灯を持って先頭に立ち、黒髪の女がそれに続き、小太りの男が本を持って後ろにつく。
そして三人は、二階へと続く階段を上がった。
階段を上ると道は右手と左手にわかれるが、確認の末、右手へ進み始める。
角を曲がると、そこから四つの客室があるのだが、彼らは手前から一つ目の客室へと入った。
そして部屋の中をしばらく探索したのち、三人はあるものを見つける。』
68 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:37:25.43 ID:QKSHiEFPP
そこで、本は終わっていた。
「この本もういらないんじゃないのかお」とブーンが愚痴りながらも、しっかりとそれを抱え込む。
川 ゚ -゚) 「……では、行こうか」
クーの合図を皮切りに、各々が自分の位置につく。
ショボンが懐中電灯を持って先頭に立ち、クーがそれに続き、ブーンが本を持ち最後尾へとつく。
そしてそのまま、二階へと続く階段を上がっていった。
( ^ω^) 「なんか滑稽だお……」
(´・ω・`) 「そう言わずに……。さて、登りきったわけだが……」
ショボンが右側を照らし、それから左側を照らす。
どちらも廊下の角が見えただけで、なんら変わりはない。
川 ゚ -゚) 「さて、私の記憶に間違いが無ければ……左へ進むと、物置小屋とバスルーム」
(´・ω・`) 「右側へ進むと、僕たちが寝泊りしていた客室だね」
( ^ω^) 「えーと僕らは右へ……」
ブーンが本を覗き、そこで動きを止める。
70 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:40:06.04 ID:QKSHiEFPP
(´・ω・`) 「どうしたんだい?」
(;^ω^) 「いや、ちょっと 『確認の末、右手へ進み始める。』ってところを見て……」
川 ゚ -゚) 「意識していたわけではないのに、私たちがその本の通り確認をしてしまったと?」
(;^ω^) 「いやいや、僕が細かい部分を読み飛ばして、右へ進むってことだけを考えてたから……。
ちょっとドキッとしただけだお。几帳面な二人だから、そこらへんもちゃんと意識してたんだお?」
(;´・ω・`) 「いや、僕もちょっと読み落ちて……いや、なんでもない」
川 ゚ -゚) 「……二人とも、せこい演技はやめてくれ」
そこで会話は止まり、彼らは再び歩き始めた。
71 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:42:33.02 ID:QKSHiEFPP
角を曲がり、懐中電灯で照らしながら一番手前の客間を目指す。
それほどたいした距離もなく、三人はすぐに客間を見つけることができた。
(´・ω・`) 「ここで探索だっけ?」
( ^ω^) 「確かそうだお」
川 ゚ -゚) 「ということは、ここになにかあるんだな。本が終わったところを見ると、続きがあるのかもしれん」
(´・ω・`) 「よし、じゃあ入ろうか」
ショボンが懐中電灯の電源を切り、ドアノブに手をかける。
そして、それを回しゆっくりとドアを引いた。
72 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:44:38.23 ID:QKSHiEFPP
(´・ω・`) 「誰かいませんかーっと」
ショボンが一瞬部屋を覗き、中の確認をする。
そして安全を確認すると、二人に合図した。
部屋の中は真っ暗だった。
基本的に家具しかないシンプルな部屋だが、目が慣れないと安心して歩けない。
( ^ω^) 「ショボン、早く懐中電灯つけるお」
(´・ω・`) 「いや、それより電気のスイッチがあるはず……あった」
ショボンがそう言った瞬間、部屋の電気がつく。
そしてそれと同時に、三人は本が示すと思われるものを見つけた。
76 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:46:45.67 ID:QKSHiEFPP
(;^ω^) 「うわぁっ!?」
(;´・ω・`) 「ひ、ひぃっ!!」
川;゚ -゚) 「……悪戯にしては、度が過ぎるな」
三人が見つけたものは、一つの文章だった。
真っ白な壁の側面から角を挟み、また側面へ跨るようにして、書かれた文章。
そう、まるでその壁と書かれた文によって、本の中の一つの見開きのページになっているかのように。
赤く、乱れた字体で、たった一言。
俺 は 殺 さ れ た
78 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:50:35.56 ID:QKSHiEFPP
(;´・ω・`) 「ははっ、ははは。ちょっと人為的すぎるな。誰のイタズラかな?」
(;^ω^) 「……」
川; ゚ -゚) 「……」
ショボンの乾いた笑いが、静かな部屋で浮いていた。
赤い文字は、まるで血であるかのように。
その血は、「俺」のものであるかのように。
川;゚ -゚) 「そう、俺――」
川;゚ -゚) 「ここで指してる、俺って……」
クーが言いかけた、そのときだった。
「キャーッ!!」
どこからか、ツンの叫び声がした。
81 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:52:15.25 ID:QKSHiEFPP
(;^ω^) 「ツン!?」
ブーンが真っ先に部屋を飛び出す。
懐中電灯も持たずに、暗闇の中を駆け抜けていく。
(;^ω^) 「ツンどこだお!? 大丈夫かお!?」
ブーンが階段を下りて、さきほどの大広間へと出る。
両手を前へ伸ばし、暗闇の中を手探りで進む。
(;^ω^) 「ツ―― うわっ!?」
ブーンがなにかに躓き、転ぶ。
体勢を立て直しながら、ブーンは躓いた何かを手で確認した。
83 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:55:30.24 ID:QKSHiEFPP
( ^ω^) 「なんかすべすべで……ふわふわしてる細いものがあるお……まぶしっ!」
突然の眩しさに、ブーンが顔を腕で覆う。
少しの後、若干目が慣れてきたので、腕の間から周囲の様子を見た。
(´・ω・`) 「ブーン!! ツンはいたのかい?」
( ^ω^) 「なんだ……。ショボンかお」
ショボンが階段の上から、ブーンを懐中電灯で照らしている。
(;´・ω・`) 「それと、さっきの部屋で新たな本を――うわっ!!」
突如、ショボンが取り乱す。
ブーンはわけもわからず彼を見ていると、クーもやってきて同様の反応をした。
85 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:57:41.49 ID:QKSHiEFPP
二人の表情が凍っている。
ショボンが口をぱくぱくさせているのだが、ブーンの位置からじゃなにを言っているかわからなかった。
やがて、クーが大きく深呼吸をして言った。
川;゚ -゚) 「……ブーン。君の横に倒れている、それは……」
ブーンは、クーの指差した方向へと顔を向ける。
そこには今さっきブーンが躓いた「原因」があった。
クーが「それ」と形容した、「物体」が横たわっていた。
(;^ω^) 「う――」
ξ゚?゚)ξ
それはさっき逃げ出した、ツンだった。
それはさっきまで動作をしていた、ツンだった。
そしてもはや動くことのない――ツンという、ただの肉の塊りだった。
88 : [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/29(月) 22:59:23.96 ID:QKSHiEFPP
( ;ω;) 「――おうえぇっ!!」
ブーンが嘔吐する。
ブーンの口から出た汚物が、ツンの顔を汚した。
吐いても吐いても止まらない。
(;´・ω・`) 「ブーン、だいじょう……う」
川;゚ -゚) 「これはひどい……」
現場は、ひどい臭いに包まれていた。
ブーンの吐瀉物のせいもあるだろうが、それ以上に――。
「死」の臭いが、充満していた。
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- 2008/12/30(火) 03:54:10|
- ブーン系小説(短編)
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