756 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:22:43.40 ID:L3vLqctzO
その少年の居る部屋は、ただ暗かった。
牢屋というにはあまりに清潔な殺風景さのなかに、少年は居た。
立ち上がってみたり、しゃがみこんでみたり、うろうろ歩いてみたり。
ただ時間を持て余しながら、少年はひとりでそこに居た。
時々思い出したように黒い瞳を細めて、忘れかけた喋り方を思い出して呟いた。
('A`)「寂しくはないさ」
758 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:26:10.55 ID:L3vLqctzO
その少年はそのまっくろい部屋を気に入っていた。
余計な音や光などありはしないその部屋を、どうしようもなく気に入っていた。
眩しくもない、煩くもないその部屋で、少年は膝を抱えた。
('A`)「なにが美しい絵だ、なにが美しい歌声だ。そんなものに僕は興味はない」
759 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:28:58.34 ID:L3vLqctzO
その部屋には小さなドアがついていた。
窓のないその部屋の隅にぽつんと、アルミで出来たドアにひんやりしたドアノブがしがみついていた。
その少年はいつだって、アルミのドアに目を向けることはない。
('A`)「なんで扉を開く必要が?」
口の中で呟きながら、薄く微笑んで、相変わらず少年は膝を抱えている。
('A`)「僕はここが大好きさ。なんで出る必要があるの?」
760 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:32:54.77 ID:L3vLqctzO
その部屋には小さなドアがついていた。
窓のないその部屋の隅にぽつんと、アルミで出来たドアにひんやりしたドアノブがしがみついていた。
必死で叩かれたように少しへこんだアルミのドアと、必死で引っ掻かれたように傷だらけのドアノブだった。
761 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:35:51.83 ID:L3vLqctzO
開かないはずの扉から、口笛が聞こえた気がした。
少年は顔を上げ黒い瞳を見開いて、溜息をひとつおとしてから、緩慢な動作でドアに近づいた。
す、と息を肺に満たしてから、少年はドアに耳をぴったりくっつけた。
ひんやりして、少しへこんだアルミのドアだった。
開かないはずの扉から、口笛が聞こえた。
回らないはずのドアノブが、軋んだ音を立てて回った。
内開きのドアは少年の体重で一度開き損ねて、少年はその場から飛びのいた。
今度こそ、開かないはずのドアはゆっくりと開いた。
762 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:40:43.81 ID:L3vLqctzO
ドアの向こうから現れたのは、とても美しい生き物だった。
あまりに美しかったものだから、少年は眩しくて目を閉じた。
川 ゚ -゚)「やあこんにちは。私は×××。君の為に来たんだよ」
美しい生き物は、歌うような声で喋った。
それは美しい声だった。
あまりに美しかったものだから、少年はその名前を聞き損ねてしまった。
美しい生き物は喋り続ける。
川 ゚ -゚)「私は君の望みを叶えよう。君の求めることならなんだってできるからね。私は君の為に来たんだ」
美しい生き物は、美しく微笑んだ。
その少年は恐る恐る閉じていた瞳を開いて、その微笑を見た。
やっぱり美しい生き物は美しくて、目を細めながら少年は言う。
('A`)「なんで君はここに来たの?なんで僕の願いを叶えるの?」
763 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:45:35.55 ID:L3vLqctzO
美しい生き物は微笑んだまま答える。
川 ゚ -゚)「君の為に来たんだよ。私はただ寂しいだけさ」
その少年が言えなくなっていた、寂しいという言葉をあっさりと言いながら、美しい生き物は話し続ける。
川 ゚ -゚)「私はただ名前を呼んで欲しいんだ。私の名前を。そうしたら、君の望みを叶えるよ」
それはあまりに美しい声だったから、少年はその生き物の名前を知らない。
('A`)「君の名前を教えてよ。もう一度、言ってくれたらいくらでも呼んであげる。ねえ、教えてよ。僕はここから出たいんだ。お願いだ、教えてよ」
少年は黒い瞳を大きく開いて、ほとんど叫ぶように言ったのだけど、美しい生き物は悲しそうに首を振った。
765 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:49:43.85 ID:L3vLqctzO
川 ゚ -゚)「だめだよ、私の名前はもう言ったんだ。それが呼べないんなら、君の望みは叶えられない」
美しい生き物はとても悲しそうに言った。
それよりもっと悲しそうなその少年は美しい生き物に縋り付こうとして、自分の掌があまり綺麗ではなかったのを思い出して、やっぱり止めて呟いた。
('A`)「ごめんね、君の名前はわかんないや」
美しい生き物は、もう一度薄く微笑んで言う。
川 ゚ -゚)「それなら私はもういかなくちゃ。こっちのほうこそごめんなさい」
少年は泣きそうな顔をしたものだから、少し困った顔をして
川 ゚ -゚)「ああ、せめてここに美しい音楽を置いていこう。とっびっきり綺麗なやつを。君、それで寂しくないだろう?」
美しい生き物は優しい声で言った。
766 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 02:53:20.76 ID:L3vLqctzO
その少年はなにか喋るともう涙が零れそうだったので、黙って一度だけ頷いた。
美しい生き物は深く息を吸って、吐き出す息を全て音楽に変えた。
それはあまりに美しい音楽だったので、少年はとうとう我慢が出来ずに、少しだけ涙を零した。
川 ゚ -゚)「さあもういい加減私はいくよ。せいぜい元気でいたらいいよ」
美しい生き物は、アルミのドアを開いた。
置いていかれた音楽は、置いていかれた少年と一緒に暗い部屋に停滞していた。
川 ゚ -゚)「じゃ、ばいばい」
一度だけ振り返って美しい生き物は言ったので、少年は黙って手を振った。とても大きく手を振った。
767 :('A`)は暗い部屋に居るようです:2008/12/26(金) 03:07:09.56 ID:L3vLqctzO
アルミのドアは音を立てて閉じて、部屋には少年と音楽が残された。
その少年は音楽を見つめて、薄く微笑んで呟いた。
('A`)「淋しくはないさ」
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- 2008/12/26(金) 04:53:45|
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