- 35 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:01:50 ID:mhlmM5TE0
2.二枚の皿
- 36 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:03:47 ID:mBvTjBSM0
- 【寝室】
( う_ゝ`)「……」
暫く目が覚めたのも分からないくらい、頭に靄がかかっていた。
それをはらうようにカーテンを勢いよく開ける。
まだ空は暗い。早く起きすぎたようだ。
体がべたべたして気持ち悪い。昨日シャワーも浴びずに寝てしまったからだろう。
小さく舌打ちして、電気もつけずに浴室に向かった。
かなり足元が覚束なかった。
- 37 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:05:26 ID:LsLeUuFU0
- 【浴室】
( ´_ゝ`)
…ひどい顔だ。目は充血して腫れている。真っ青な生気の感じれない顔色。
自嘲気味に笑うと、鏡の中の人物は口元をぎこちなく歪ました。
なぜ今になってこんな夢を見てしまったのか。
俺の幸せな記憶。
俺のトラウマ。
俺の罪。
- 38 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:07:37 ID:Sht7iIvI0
- ぐるぐる混ざって雑然と並べられた。
…妹が、この手に戻ってきたような気がしていたのだ。
シャワーの蛇口を全開にし、服も脱がないで水を浴びる。伸びっぱなしの髪が、服が肌にはりついて気持ち悪い。
あぁ、そう言えばあの日も雨が降っていた。
バケツをひっくり返したような大雨が。
少しずつだが確実に体温が下がっていく。指先が小さく震えた。
自分の体をかき抱くと死人のように体温を感じれない。
- 39 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:10:58 ID:mhlmM5TE0
- あぁ、あぁ、思い出してしまう。
思い出したくない。記憶の箱に蓋をした。
思考がだんだん回らなくなっていく。目の前が暗くなる。
自然と剃刀に手を伸ばす。と、同時に温かいものが伸ばした腕を握った。
じわじわと腕に暖かさが移っていき心地よい。
捕まれた腕を辿るとしかめっ面をした先生がいる。
ζ(゚ー゚*ζ「…ちゃんと薬は飲んだの?」
○ ○ ○ ○
- 40 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:13:56 ID:ZNE0H5HU0
- 【診療所】
昨晩、ドクオから兄者のところに行くように、と言われた。
…彼と会うのも久しぶりだったので薬やメモ、筆記用具などを小さなキャリーバッグにつめる。
そう言えば、朝に弱い彼はご飯を食べないことが多々あった。
ついでに早く図書館に行き、ご飯を作っておこう。
少し、庭で採れた野菜も持つと準備は完了だ。
外はまだ薄暗い。
日はまだ昇っておらず、遠くの山の縁を白くなぞるだけである。
ドアを開けると冷たい空気が、体をつつんだ。
- 41 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:15:33 ID:ZNE0H5HU0
- 【舗装された道】
早朝なので誰もいない。バッグのタイヤの音が大きく聞こえる。
もう春とは言え、夜明け前はまだ寒い。コートを着てきても良かっただろう。
ζ(゚ー゚*ζ「寒い…」
ストールに顔をうずめながら呟く。
まぁ、呟いたからといって状況が好転するわけではないのだが、言ってみても損はないだろう。
それにしても今日は冷える。図書館に着いたら温かいスープを作ろう。
何のスープにしようか。
兄者に振る舞おう。
彼とご飯を食べるなんて久しぶりだ。
最近はずっと忙しく、一人でご飯を食べていたから余計に楽しみなのだ。
- 42 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:17:42 ID:Sht7iIvI0
- ζ(゚―゚*ζ「…�♪」
自然と口許がゆるむ。
慣れた道を進み、図書館の前へたどり着く。
やたら豪奢な門を開けて、先に進む。
窓から明かりは見えないので、彼は起きていないらしい。
じゃらじゃらと音を鳴らしつつ鍵束から玄関のそれを探す。
アンティークのような古い鍵が玄関のものだ。
ドクオが「こんな鍵じゃすぐに泥棒に入られるぞ!」と再三言っているのだが、変える気配はない。
しかし、この寂れた村で泥棒に入られるようなこともないはずなので、大丈夫だろう。
ζ(゚ー゚*ζ「お邪魔しまーす」
- 43 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:19:42 ID:mBvTjBSM0
- 【図書館】
出来るだけ物音をたてないよう心掛けるが、ドアは古いためギィギィと音を立ててしまった。
まぁ、これだけで起きてくるほど兄者は繊細じゃないので気にしないでおく。
ふと、この間彼が新しい本が増えたと聞いたことを思い出す。
持っていたペンライトを使ってめぼしい本がないか探してみた。が、読んだことのあるものばかりで少し落胆した。
本棚の間をくぐって彼の生活している2階へと足を向ける、と同時に感じる違和感。
- 44 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:21:50 ID:p2SSvRek0
- …水を流すような音。
水が流れているのは良いのだ。ああ、たまには早起きしてシャワーでも浴びているのかしら、と考えることができる。
しかし、人が動く気配が全くしないのだ。
あの几帳面な兄者が蛇口を閉め忘れることはないだろう。
ドクオの言う通りに鍵を変えていた方が良かったのかもしれない。
ζ(゚ー゚*ζ「…一応、ね」
筆箱の中からカッターナイフを出し、逆手に持っておく。
ペンライトの明かりも消した。
かなり視界は悪いが慣れているので問題はないだろう。
- 45 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:23:34 ID:Sht7iIvI0
- 出来るだけ足音をたてないように浴室まで向かう。
やはり、水音は浴室から聞こえてきた。磨りガラスの向こうには人影が見える。
…しかし、それは、よく見慣れた人影。
ζ(゚ー゚;ζ「兄者!!」
- 46 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:25:12 ID:mBvTjBSM0
- ギリギリ、セーフだ。
手に持っていたカッターナイフを放り投げた。
剃刀に伸ばしている彼の手を掴む。
服が濡れてしまったが今は気にしている暇もない。
不思議そうに彼は緩慢な動きで私を見る。
虚ろな瞳。青白い顔。紫になった唇。冷たい腕。
ぞっとした。暫く見せることの無かった顔。
感情をさとらせないように努めて冷静な声で尋ねる。
ζ(゚ー゚*ζ「…ちゃんと薬は飲んだの?」
○ ○ ○ ○
- 47 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:27:25 ID:mBvTjBSM0
- 【リビング】
薬を飲んだあと、毛布をかぶり、デレに淹れて貰ったココアを飲む。
コーヒーがいい、とねだったが、薬との相性が悪いと一蹴されてしまった。
マグカップを持った彼女はエプロンも外さずに机の向かいに座る。
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとは落ち着いた?」
( ´_ゝ`)「ん、ごめん」
まだ若干ろれつが回っていないのが分かる。子どもみたいだな。
- 48 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:30:32 ID:Sht7iIvI0
- そう言えば、と疑問が頭に浮かぶ。
( ´_ゝ`)「…デレ、何で家に来てたんだ?」
今日は診察日じゃ無かったはずだけど、と付け足す。
まぁ、そのお陰で無駄な怪我をせずに済んだのだが。
ζ(゚ー゚*ζ「あぁ、昨日ドクオに呼ばれたのよ。だからついでに貴方の様子を見に来たの」
( ´_ゝ`)「ドクオに?また、何で?」
ζ(゚ー゚*ζ「知らないわよ。今日兄者の家に行くように言われただけ
早く来たのは朝ごはんも、ついでに作ろうと思って来たから」
- 49 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:33:03 ID:mhlmM5TE0
- ドクオに、確かに彼は昨日家に来た。
その時、俺は他人が見て分かるくらい気が滅入っていただろうか。
…そんなことは無かった筈だ。
昨日はいつも通り本を読んで、ご飯を作って食べた。
ダメな時はこれすら出来ない。
じゃあ何故昨日、風呂も薬も日記も忘れて寝てしまったのだろうか。
何故、唐突に家族の事を思い出したのか。
何故、ドクオがデレを呼んだのか。
ガンガンと頭痛がする。脳が無理やり思い出すのを拒むように。
- 50 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:34:47 ID:p2SSvRek0
- (;´_ゝ`)「あー…うん?」
唸ってみてもなにも思い出せない。
そんな俺の努力を遮るように、ガタンと物音がした。
(;´_ゝ`)「!?」ζ(゚ー゚;ζ
二人で顔を見合わせる。動物でも入ってきたのか。
…否、動物ではない。もっと大きな何か。―――例えば、人間。
音がしたのは恐らく奥の部屋。ここからは遠い。
突然何かに襲われても嫌なのでデレの筆箱からカッターナイフを拝借しようとすると、彼女に阻まれてしまった。
(;´_ゝ`)「で…んむ」
抗議しようとすると唇に彼女の人差し指が添えられる。
ζ(゚ー゚*ζ「貴方が持つより私が持つ方がいいでしょ?」
…なんと心強いことか。
- 51 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:39:02 ID:Ul5QMEDg0
- 【廊下】
少し日も昇ってきたようで、廊下も足元が確認出来るほど明るくなっていた。
情けなくデレの後ろを着いていく。
部屋に近づくにつれて頭痛が増していく。そこに行くなと警告されているようだ。
しかし、そこに行けば俺の昨日の不可解な行動の理由が分かるかもしれない。
向かった先は妹の部屋だった。頭がずくずくと、脈拍にあわせて痛む。
前に立っているデレが小さく息を吸って、吐く。
だん、と音がした。
- 52 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:41:01 ID:BLI5glFk0
- その音を合図に彼女は動き出す。
ドアを押し開けると共に一歩踏み出し、相手の文字通り目の前にナイフを突きつける。
流れる様な動作だったが、後ろ姿だけからでも分かるくらい、彼女は動揺した。
しかし、脅威ではないと判断したのか、ため息をつきカッターナイフを下ろす。
(;´_ゝ`)「どうしたんだ?」
微動だにしない彼女を心配しつつ、その奥に誰がいるのか肩越しに覗こうとすると彼女の手で視界を遮られる。
ζ( ‐ *ζ「…あなたはリビングに居て。この奥は見ないで頂戴。ドクターストップよ」
- 53 名前:名も無きAAのようです :2013/10/15(火) 22:44:31 ID:mBvTjBSM0
- 好奇心はある。デレが滅多に見せない感情を露にさせた相手は誰なのか。
だが、彼女のこんな、弱々しい声を聞いたのは何時ぶりだろう。
俺だって紳士だ。女性の嫌がることは出来ない。
なにより、デレは絶対に俺の悪いようには行動させない。
後ろ髪を引かれる思いだったが、大人しくリビングに戻ることにした。
デレの後ろに一瞬だけ見えた赤色が頭を過った。
○ ○ ○ ○
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