219 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:10:22 ID:R5lNItlc0
もう、明確な生きる意味すら失っていた。
 
 
 
(´<_` )ラブソングのようです
 
 
 
もう随分と長いこと、笑っていない。
街を歩いても、乾いた風しか吹いていないだろう。立ち並ぶ家々にはもう人気が無く、うっすら埃を被ってすらいる。

これがきっと、俗に言うゴーストタウンの一歩手前なのだろうと思う。
ただ、俺がまだ居ることによってそれになるには至っていない。

220 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:11:23 ID:R5lNItlc0
(´<_` )「……誰もいない、か」

きっと、俺以外の人が出て行ったのは、一か月くらい前が最後だろう。
この街はもう、終わり過ぎた。

油田が掘り起こされたことによって、観光都市になって街が活気を取り戻すのでは無いかと期待した。
だが、そんなひとときの夢は一瞬で奪われ――むしろ、悪化した。

世界が、崩壊するのだと言われた。
国から政府の遣いやらなんとやら、俺にはよく分からなかったが、そんなのが来て油田の権利をごっそり持っていかれてしまったらしい。
おかげで昼夜を問わない採掘に、街の住人は皆眉を顰めた。
更に火災や、天然ガスの突出事故が相次いで、貧しかったこの街はますます貧困に喘ぐようになってしまった。

妹者は火災の時に煙を吸い、喉を火傷して死んだ。
じわりじわりと、喉を熱で焼かれていくのはどんなに苦しかっただろう。
どうにかして喉を冷やそうと、水を、氷をと手を尽くしても、妹者はか細くなる呼吸で苦しそうに笑って――死んだ。

221 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:12:59 ID:R5lNItlc0
妹者の遺体を埋めた後ろで、周りの人はどうせ死ぬのだから金を遣っても無駄だったろうに、と笑った。
遺体を埋めたその土だらけの手で人を殴って、気が付いたら体を後ろから押さえつけられて。

辛かったよな、と。
他人を殴り、殴られた俺の頭を撫でて、兄者は泣きながらそう言った。
その兄者も、申し訳程度に配給される食料や物資を受け取りに行って、暴動に巻き込まれて死体になって帰って来た。
そこで全てを失って、涙も枯れた。

気が付けば、世界の崩壊を前に安全な場所に逃げるのだと、街から人が消えて行った。
一体どこに逃げるというのか。崩壊するならどこでも同じだろうに。

『――お買い…めは、…急…を――』

以前に力いっぱい殴ったテレビは、どこか壊れてしまったらしい。
もうずっと前から、同じフレーズを繰り返して喋っている。

222 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:14:37 ID:R5lNItlc0
(´<_` )「お買い求めはお急ぎを、か」

一体どこに買いに行けばいいのだろう。第一、何を買うのかも分からない。
テレビと自分の呼吸以外音が無くて、それが胸にぽっかり空いた穴を余計に広げていくようで、吐き気がして部屋を出た。
 
 
 
雨が降っている。
ざあざあと、雨が降っている。

遠い空の向こう、雨が降っているのにも関わらず不自然に赤い空が目についた。
どうやら、世界が崩壊するだのなんだの言っていたのは本当だったらしい。可笑しくて、でも乾いた笑いしか出なかった。
この街にはもう誰もいない。

223 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:15:49 ID:R5lNItlc0
ならばせめて、死ぬ時には兄者と妹者の墓の傍で死にたい。
僅かに残った繋がりだけでも、縋りたかった。

いつ世界が崩壊するのかも分からないが、とにかく善は急げだと、墓地に赴いた。
ついこの間訪れたそこは、やっぱり廃れていて、辺りは手入れをされず枯れた花と土に塗れた墓石ばかりだった。
死者を悼む気持ちは無いのかと思ったが、まず今は自分の身しか見えないだろうということにも気が付いた。

(´<_` )「あんたら、捨てられたんだってよ」

誰もいない墓地でそう呟いた。でも、ざあざあと降りしきる雨で声は小さくなった。
この墓石の下で眠る者達は何を思っただろう。捨てて行った者達に怒っただろうか。それでもいいと笑っただろうか。途中まで考えたが、どうでもいいと思った。
兄者と妹者を埋めた墓にまで辿り着く。この間供えた花が、少し枯れかかっていた。
その花をどかして、墓石に寄りかかると、雨で少し体が震えた。

224 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:17:26 ID:R5lNItlc0
一体これは何が原因で死ぬことになるのだろう。
餓死だろうか。
それとも、世界の崩壊による事故死だろうか。
ここまで大きい事故なんて、笑えるな、とそう思った。
笑い声は出なかった。
 
 

 
 
(  ゚∀゚ )「おい、聞こえてるか」

ゆさゆさと乱雑に肩を揺さぶられて起きた。
男が居た。黄土色の中折れ帽を被った、赤い目の男だ。
少し時代遅れに見えるくたびれた格好で、男は俺の肩を無遠慮に揺さぶっていた。

225 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:18:59 ID:R5lNItlc0
(  ゚∀゚ )「目覚ましたか。道を尋ねてえんだが」

(´<_` )「……よくこんな場所に来たな」

(  ゚∀゚ )「まあな。――――の街ってのは、こっからどっちの方向だ?」

その名前を聞いたのが久しくて、ああそういえばそんな名前だったなあ、と懐かしく思った。

(´<_` )「ここだよ」

(  ゚∀゚ )「ここだと? 随分変わり果てたもんだなァ」

(´<_` )「そりゃこんな世の中なら、変わりもするだろう」

(  ゚∀゚ )「ってことは、俺の仕事が一つパァになったってことだな」

226 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:20:46 ID:R5lNItlc0
面倒臭え、とぼやくその男に、はて、と首を傾げた。
仕事、とは。

(´<_` )「仕事って、なんだ」

(  ゚∀゚ )「坊主、この街にはお前一人か?」

(´<_` )「……ああ」

坊主と言われるような歳ではないが、男より年下であることは間違いないだろう。
そう思って、反論の言葉をぐっと飲み込んだ。

(  ゚∀゚ )「ならいい、お前にやるよ」

(´<_` )「は」

ぽい、と男から無造作に投げ渡されたのは、自動小銃だった。
ずしりと突然重みを増した自分の掌に少しだけ驚いてしまった。

227 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:23:13 ID:R5lNItlc0
(´<_`;)「なんてもん渡すんだ、あんた」

(  ゚∀゚ )「あ? なんだ、知らねえのか、坊主」

それ、愛なんだよ。

至極真面目な顔をして答えた男は、どう頑張っても嘘を言っているようには見えなかった。
尤も、今嘘を吐くタイミングでもないのだが。
思わず怪訝そうな顔をしていたのだろう。男は「あ、疑ってんだろ」と俺に言った。

(  ゚∀゚ )「テレビ見て無かったのか? 愛を売ってるんだよ、俺は」

(´<_` )「……知らない」

(  ゚∀゚ )「そうか。俺はこの街の―――って奴に言われて愛を売りに来たんだが」

228 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:25:02 ID:R5lNItlc0
そいつなら二か月くらい前に出て行った、と言うと、なら安心してそれ使っていいぜ、と返される。

(  ゚∀゚ )「見たところこの街にはお前一人だろ。使っちまえ」

(´<_` )「……どうやって、使うんだ」

(  ゚∀゚ )「銃の使い方は知ってるだろ。ちょっと弾倉開けて見ろ」

言われて弾倉を外して見れば、一つだけ、赤い弾が入っている。
つるりとした光沢を持ったそれを指で突こうとして――すり抜けた。

(  ゚∀゚ )「それが愛だ。愛には触れねえ。それを装填して、自分のこめかみ当てて、バンだ」

(´<_` )「殺す気じゃないだろうな」

229 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:27:25 ID:R5lNItlc0
(  ゚∀゚ )「触れもしないもんが人を殺すかよ」

男は赤い目を閉じてあひゃひゃ、と笑った。笑い方が不思議だな、と思った。
俺が弾倉を装填して、こめかみに当てるのを見て、男はやんわりと制止した。

(  ゚∀゚ )「俺がいなくなってから使いな。野郎の泣き顔なんてもうこりごりだ」

(´<_` )「……?」

(  ゚∀゚ )「じゃあ俺は行くぜ、坊主。達者でな」

そう言って男はこちらに背を向けた。バックパックは長身の男の背にあっても重そうに見える。
それでも、男はしっかりとした足取りで、一歩、また一歩と、俺から離れて行った。
俺はそんな男の後ろ姿を、ぼんやりと見つめていた。

230 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:29:22 ID:R5lNItlc0
男の背中が親指くらいの大きさになった頃、俺はこめかみに銃口を当てた。
引き金を引くと、銃弾が本来発射されるはずの銃は、かしん、と間抜けな音を立てた。
衝撃は来ない。でも、じんわりと、目頭が熱くなるのは感じた。

目の前に、兄者と妹者が立っていた。

身長差が激しい二人は、仲睦まじく手を繋ぎ合って、揃ってはくはくと唇を動かした。
音は聞こえない。
でも、その唇の動きだけで、俺には十分だった。

( ´_ゝ`)『弟者』

l从・∀・ノ!リ人『ちっちゃい兄者』

二人が笑いながら、俺を呼んでくれている。
俺にはもう、その事実だけで、十分だった。

231 名前:名も無きAAのようです :2013/10/24(木) 20:31:19 ID:R5lNItlc0
涙は枯れてしまったから、みっともない嗚咽だけが漏れた。
確かにその瞬間、二人は俺の目の前に在た。
 
 

 
 
『お買い求めはお急ぎを』

やけにテレビが賑やかだったのは、愛を買わないかと喚起していた為だった。

片手に自動小銃と、小さくぼろいバッグだけ持って、さぞ滑稽な姿だっただろう。
その日、俺は街を出た。
 
 
 
(´<_` )ラブソングのようです・終わり


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