- 1 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 18:50:28 ID:EEbbDZ160
- ほら、この世界ってどこにでも繋がってるよね?
どこへ逃げたって、敵はその足でどこまでも追いかけてくるんだ。
だから歩き疲れた彼は、どこにも繋がっていない世界を求めていた。
そんな願いが通じて、いま彼はとても優しい国で一冊の冒険譚を読んでいた――
これは"たとえば"の話だけど。
僕が君に語るのは、たとえばそんなメルヘン。
- 2 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 18:52:10 ID:EEbbDZ160
- 第7章『バロンの英雄』
ここはオビディエント家が代々統治しているバロン王国の居城。
王国は突如出現した新興勢力のオズマン帝国との戦いで連戦の度に敗走を重ね、その国力は衰退の一途をたどっていた。
そしてついに、帝国軍の魔の手は王国の首都へ刻一刻と迫ってくることになる……
(;’e’)「お、おい、聞いたかよ!アルジャーノン砦が陥落したって噂!」
(;^Д^)「う、嘘を申せッ!!我らバロンが誇る最大の要塞がそう易々と落ちるはずが無い!!」
(;・∀ ・)「いや、あながち見当はずれでもないかもしれないぜ?火の無いところに煙は立たないって言うしな」
(;^Д^)「そ、そんな馬鹿な!姫、嘘だとおっしゃってください!!」
兵の一人が必死の形相でツン・オビディエントに向き直る。
だが――
- 3 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 18:54:27 ID:EEbbDZ160
- ξ )ξ「…………」
ξ )ξ「……いいえ、残念ながらそれは事実です」
(; Д )「なッ!?」
無情にもその言葉は放たれた。
そして、周囲には冷たい沈黙が訪れる……
ξ )ξ「もう一度はっきりと言います。アルジャーノン砦は陥落しました。そして我が軍は敗走し、今もなおオズマン帝国軍によって追い立てられています」
ξ )ξ「同盟国に援軍要請の使いを送ってから早1ヶ月が過ぎていますが、未だに音沙汰はありません……」
包み隠すことなく告げられた真実。
(; e )「終わり、だ……」
(; e )「……もう何もかもおしまいだッ!!」
それは兵たちの動揺を煽るには十分すぎる材料だった……
- 4 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 18:56:19 ID:EEbbDZ160
- (;・∀ ・)「お、落ち着け!仮にも姫の御前だ!そのような無礼な物言いh
ξ )ξ「構いません。兵から不平不満が上がることは重々承知の上です。これも私の不徳の致すところです」
仲間の失言を諌めようとした兵の言葉をツンが途中で遮る。
(;・∀ ・)「ひ、姫……決してそのようなことは……」
ξ )ξ「それに私には上に立つ者としての責任があります。だれか!馬の用意をしなさい!」
そして、ツンは居住まいを整え玉座を勢いよく立ち上がった。
そのただならぬ光景に周囲には一筋の動揺が走る……!
(;^Д^)「……姫?何をなさるおつもりですか?」
ξ )ξ「私の命と引き換えにあなたたち愛する民の身柄を保障してもらいます。今からその交渉に向かうのです」
そしてその足を前へと進めた。
その時だった――
- 5 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 18:58:55 ID:EEbbDZ160
- (;’e’)「ひ、姫!それだけはどうかお止め下さい!あなたがいなければこの国の命運は無いのです!!」
ツンを前に立ちはだかったのは彼女に絶対の忠誠を誓う数多くの兵たちだった……
( ^Д^)「そうです!姫のため、この国のためとあれば私はこの命尽きるまで戦います!」
( ^Д^)「それに、降伏などをしては代々この国を守ってきた先祖たちに対して我々は顔向けが出来るでしょうか?いいえ、出来ません!!
我らには命よりも気高い誇りがあるのです!!この命を今この時に燃やさずに、いつ燃やすと言うのですか!?」
(・∀ ・)「その通りです!我々は誇り高きバロンの兵!!この国で生まれ、そしてこの国で育ちました!ならば最期もこの国の土で眠るというのは本望であります!!」
ξ )ξ「みな、さん……」
自分たちの故郷を守るためにはその命を投げ出すことすら厭わない忠義の士たち。
彼らの決して見返りを求めることのない誠意ある行動に彼女の心は大きく打たれた……
そんな時――
<おいおい、暗いねえ……見るからに敗戦ムード一色じゃねえか。ここはお通夜会場か?
入り口の扉の方向から一人の男の呆れ声が伝わってきた。
- 6 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:00:29 ID:EEbbDZ160
- (’e’)「こ、この声は!!」
そして、兵たちが一斉にその声の方向に振り返った――
_
( ゚∀゚)
透き通るような金色の長髪が特徴的な男が玉座の前に向かってゆっくりと歩いてくる。
プラチナの装備で全身を覆い尽くしており、太陽の光がその体に反射してまるで後光が差したかのように光り輝いている。
この男の名は――
( ^Д^)「我らバロンが誇る"白銀の騎士"ジョルジュ将軍!!」
ジョルジュ・ロングヒル……
数ヶ月前に北方の異民族討伐のためにバロンの地を離れていた男の姿がそこにはあった。
_
( ゚∀゚)「それだけじゃねえ!俺の隣をよーく見てみろ!」
そう言いながら彼は自分の隣にいる男を指し示す……
- 7 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:02:15 ID:EEbbDZ160
- ( ^ω^)
ダイヤの鎧でその姿を身に包んだ長身の男……
その腰元には金色に光り輝く宝剣が携えられている。
ξ )ξ「!!」
(;・∀ ・)「ブーン卿!!」
彼の名前はブーン・ウィジンマウント……
バロン王国の次期王位継承者、まさにその人だった。
( ^ω^)「皆の者、待たせてすまなかったお。我が祖国の一大事と聞きつけて、遅れながらもこの場に馳せ参じた次第だお。
だからこの戦い、必ずやバロンを勝利に導いてみせるお!そのためにも皆の力を貸してほしいお!」
_
( ゚∀゚)「そうだ!俺たちにはまだ"バロンの英雄"ブーン卿がついている!!一体何を恐れることがあろうか!!」
ジョルジュが天井に向かって腕をグッと突き上げて、兵たちを鼓舞した。
- 8 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:04:16 ID:EEbbDZ160
- (*’e’)「おおおおおおおおお!!ブーン卿が帰ってきたとあらば帝国軍など何するものぞ!!」
(*^Д^)「このお二方の名前を耳にするだけで帝国軍の兵どもは恐れおののき震えあがるのでしょうな!!」
(*・∀ ・)「ブーン!ブーン!サー・ブーン!ロイヒテン・バロン!バロン王国に栄光あれ!!」
絶望の黒色で染まっていた状況が一変して、辺りは歓声に包まれていた。
予想外をしていなかった英雄の帰還が彼らの士気を大幅に高めたのだ。
_
( ゚∀゚)「おい、ブーン!」
( ^ω^)「ジョルジュ!」
_
( -∀゚)「……ったく、思わず妬いちまうじゃねえか!お前が人望に篤いというのは兼ねてから聞き及んではいたが、まさかこれほどまでだったとはな……」
ジョルジュは呆れたような顔で大きく溜息をついた。
- 9 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:06:17 ID:EEbbDZ160
- ( ^ω^)「僕はそんなに立派な人間じゃないお。ただ自分のやるべきことをやっているだけだお」
( ^ω^)「それに僕だけでは兵を動かすことは到底無理だお。"白銀の騎士"の流れるような采配と類まれなる統率力、アテにさせてもらうお」
_
( -∀゚)「……自然と口からついて出るその謙虚さが人気の秘訣か」
( ^ω^)「……お?」
_
( -∀-)「なんでもねえよ」
_
( ゚∀゚)「……それよりもだ!お前はまだ姫に挨拶を済ませていないだろ?ほら、とっとと行って来いっ!」
(;^ω^)「わわわ、だお!」
ブーンはジョルジュの腕によって思いっきり前へと押し出され、足を絡ませながらも姫の目の前までその足を踏み込んだ。
(;^ω^)「あ」
ξ )ξ「ブーン……」
- 10 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:09:42 ID:EEbbDZ160
- ξ 凵G)ξ「よく……本当に、よく帰って来てくれましたね」
ツンはしみじみと言った様子で言葉を繰り返した。
その声は心なしか震えているように感じられる。
ξ;凵G)ξ「ありがとう、ブーン……!」
(;^ω^)「おっ!」
そして、彼女は泣き顔のままその場から崩れ落ちた。
体を包んでいた緊張感が一気に解け、思わず力が抜けてしまったのだろう……
ブーンは咄嗟に反応してそんな彼女の体を優しく抱き留めた。
(#^ω^)(ツンをこんな風になるまでに痛めつけるとは!帝国軍め!絶対に許さないお!!)
力なくすすり泣いているツンの肩を抱きながら、ブーンは天井を睨みつけた。
そして、いつか必ず帝国軍に雪辱を晴らしてやるとその胸に誓った。
- 11 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:11:34 ID:EEbbDZ160
- ( ^ω^)「姫……いや、ツン」
( ^ω^)「この戦いが終わったら僕と結婚して欲しいお!今その覚悟を決めたお!」
ξ*;凵G)ξ「ぶ、ブーンッ!?」
( ^ω^)「この国とツンを一生を通じて守り抜く!僕は今ここに宣言するお!」
その声と共にブーンは腰の剣を引き抜いて、その刀身を上に掲げた……!
( ^ω^)「……この大聖剣ホライゾルドに誓って!!」
金色の刀身はまばゆい光を放った。
そんなブーンの凛とした立ち姿に全ての将兵の目は釘付けにされた。
それはブーン自身が"バロンの英雄"の名に恥じぬ存在だということの証明にもなるのだろう……
ξ///)ξ「ぶ、ブーン……は、恥ずかしいよ!」
そんなブーンの言葉にツンの頬はトマトのように真っ赤に染まっていく。
結構まんざらでもない様子だ……
- 12 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:14:13 ID:EEbbDZ160
- ( ^Д^)「おい、見てみろよ!先ほどまでは顔色を一切崩していなかった姫が……」
(’e’)「ブーン卿のお言葉一つでいとも簡単に表情をころころと変化させておられるぞ!」
(*・∀ ・)「流石はブーン卿!完璧という言葉が当てはまる御仁など、このお方を除いて最早他にはおりませぬなっ!!」
_
( -∀-)「女の扱い方も一流か……本人にはその自覚は一切ないみてえだけどよ」
ブーンの流れるような一挙一動を目の前にした将兵たちは皆揃って感嘆の声を上げている。
それはまさに一種のカリスマだった。
( ^ω^)「さ、姫!今こそあなたの口から将兵たちにご命令を!」
ξ*゚ー゚)ξ「……はい!」
ツンはブーンに対して軽く微笑んだあと、いつもの凛とした顔つきに戻り将兵たちに向かって言い放った……!
- 13 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:16:22 ID:EEbbDZ160
- ξ゚听)ξ「これより、アルジャーノン砦奪還戦を開始します!全軍最大限の力を尽くして戦いなさい!」
ξ゚听)ξ「そして、必ず生きてこの地に帰ってくることを誓いなさい!」
(#^ω^)「全軍、出陣だおおおおおおお!!この私に続けえええええええええッ!!遅れをとるなおおおおおおおおッ!!」
_
(#゚∀゚)「よっしゃああああああ!!お前らああああああ!!気合入れろおおおおおおおおおおおおおッ!!」
(*’e’)「うおおおおおおおおおおお!!ロイヒテン・バロン!!ブーン卿、万歳ッ!!」
(*・∀ ・)「ブーン!ブーン!サー・ブーン!!」
(*^Д^)「おおおおおおおおお!!バロン王国に栄光あれえええええええッ!!」
城内に男たちの声が響き渡った。
そして、彼らは一斉に駆け出して行く……!
生きてこのバロンの大地をもう一度踏むことをその胸に誓って――
- 14 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:18:08 ID:EEbbDZ160
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ξ )ξ「ブーン、入るわよー」
ξ )ξ「とりあえずお見舞いの果物持ってきたから、ここに置いとくわね」
ξ )ξ「よいしょっと……」
ξ )ξ「さて、今日はなんの話をしようかしら?」
ξ )ξ「うーん……」
ξ )ξ「…………」
ξ )ξ「あ、そういえば!」
ξ )ξ「おばさんがあんたのことものすごく心配してたわよ!ホントしっかりしなさいよねっ!」
- 15 名前:名も無きAAのようです :2013/10/19(土) 19:20:30 ID:EEbbDZ160
- ξ )ξ「わたしだって……」
ξ 凵G)ξ「わたし、だってね……!」
ξ 凵G)ξ「ブーンの……」
ξ;凵G)ξ「ブーンの、バカぁ……!!」
ξ;凵G)ξ「……あ!」
ξ;ー;)ξ「ご、ごめんね?わたし、もうそろそろ帰るから!」
ξ;ー;)ξ「それじゃ、また明日も来るからねっ!」
ξ;ー;)ξ「バイバイ、ブーン!」
【第1話おしまい】
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