921 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 01:19:53 ID:zkSXS8IA0
■6    - 初代モナーとの約束 -


ショボンが携えていた "隕鉄の刀" 。
彼がこれを所持し始めたのは赤い森での軍事侵攻時。


原材料となる隕鉄は、三日月島を発ってから
(アサウルス戦でブーンを助けるために海に散らしてしまった)蟻を捜しては殺し、
かき集めたもの。



隕鉄を加工した初代モナー(以下モナー)は、
かつて三日月島から大陸に移住した家系の生まれである。


彼らが初めて出会ったのは大陸戦争最初期。

モナーにとってのショボン。
祖父母、両親から言い伝えられていたとはいえ、
不老不死の存在を間近でみた驚きは大きかった。

それと同時――軍に所属しているという事実に対しても。

922 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 01:21:58 ID:zkSXS8IA0
そんな彼が請けたショボンの依頼、
それが "刀の製造" 。


死なない人間が、殺し合いの避けられない戦争に関わっている。
死なない人間が、人殺しの道具を欲している。

たかだか一振りの刃であろうと、どれだけ生殺与奪を握れるのか…
モナーでなくとも理解できよう。



そして当時、大陸におけるモナーの人間関係は徐々に崩れていた。

とりわけ依頼に関して想定外の使い方をしてしまうケースが後を絶たず、
その内容もよりによって軍事利用に傾きつつある状況に、
いいかげん辟易としていた。

ともすれば不老不死が求めるほどの刃など、
当時、精神的に疲れていたモナーにとっては畏怖の対象そのものでしかない。


『ショボンは…その刀でどれだけの命を奪うつもりモナか?』

(´・ω・`) 『誰かを殺すためじゃあない。
普通の人たちでは太刀打ちできないであろう存在に立ち向かうに、
もっと適した力が欲しいだけさ』


依頼受理を渋るモナーに、ショボンはゆっくり諭すように話し始める。

923 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 01:22:53 ID:zkSXS8IA0
(´・ω・`) 『モナー、君のこれまでの話は聞いているよ。
自分の意思とは裏腹に他人を傷付けたり死なせてしまう……
どうしようもなくて、やるせない気持ちならば僕にも理解できる』

(´-ω-`) 『だからせめて僕は、製造者となる君に誠意をもって応えたい。
僕の望む力を与えてくれるならば、君の望まない力は決して持たない。
…これを等価交換条件とでもいおうか』

(´・ω・`) 『この戦争には必ず裏がある。
人と人、国と国の単純な争いではない気がする…。
恐らくは、僕の捜しているものが関わっているような――』


二人きりの部屋。
やがてテーブルに置かれたショボンの手の中に一つのガラス瓶。

中にはぎっしりと黒い塊…いや、黒い虫の群れが詰められている。


(´・ω・`) 『僕からの条件はただひとつ、これを練り込んだ得物を頼めないか?
形状は問わないが…とりわけ扱いには注意がいる。
作業時には念のため僕も同席するよ』

924 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 01:23:37 ID:zkSXS8IA0
…こうして二人はしばらくの時間を共に過ごす。

黒い虫の特性上、鍛練作業には困難極まる部分もあったが、
ショボンの手助けによってひとまずは無事に得物が出来上がった。

鈍色に、しかして刃の奥に潜ませる輝きは、反して光を発している。


「この世のものとは思えないモナ」

(´・ω・`) 「はは、なんだかそれ、自画自賛してるみたいだね」

「あの虫は一体なんだったモナ?
しかもそれがこんな刃になるとは夢にも……」

(´・ω・`) 「…」


"空から降ってきたのさ" ――。
このときショボンには、そう形容するのが限界だった。

それでもモナーはどこか満足げに頷き、
「ならこれは、天からの贈り物ってことモナね」
と納得した。
そしてショボンに向けて、刀を差し出す腕を途中で止める。


「……このあいだ話してくれたこと、覚えているモナ?」

925 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 01:25:38 ID:zkSXS8IA0
等価交換条件。
そしてショボン自ら語った、刀の使い道。


「そのままそっくり約束して欲しいモナ」


…誰かを殺すのではなく、普通の人には立ち向かえない存在のためにこの刀を使う。


(´・ω・`) 「…わかった」

「約束なんて曖昧なもの…期待しているわけじゃないけど。
それでもこの刀はショボンのために造られたモナ」


人にも物にも、存在理由が必ずある。
鳥の翼は空を飛ぶために…人の足は歩くためにある。

レゾンデートルを否定してしまうのをモナーはなにより嫌がった。
だから――モナーは戦争が嫌いだ。


(´・ω・`) 「同感だね」


軽い口調。
しかし、刀を受け取ったショボンの腕から伝わる力強い返答をモナーは確かに感じとる。


その双肩に人の意志を背負い、若き不死者は礼を陳べて城へと戻っていった。

再びモナーを引き連れて、赤い森に旅立つのはこのあとの話。



そして10年…100年と月日が流れても、
ショボンはモナーとの約束を守り続けていた。



<了>


戻る




inserted by FC2 system