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名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[30レスくらいになった] 投稿日:2010/10/09(土) 22:51:14.77 ID:fS2fwyX20 [4/32]
気持ちよく晴れた日曜日の午前中だった。
僕は娘と外食した帰りに、飲み物でも買おうとその近所のコンビニに入った。
自動ドアをくぐるとエアコンからの温風が、
冷気にさらされて冷えた体を、包み込むようにして出迎えてくれる。
…そうだな、あたたかい缶コーヒーなんかいいな。
そう思い缶ウォーマーのあたりに視線を送りつつ娘に聞いた。
( ^ω^)「ふ~、デレはなに飲むの?」
ζ(゚ー゚*ζ「ピルクルがいいな~…お菓子も見たいんだけどいい?」
( ^ω^)「いいお、じゃあ僕はあそこの缶コーヒーのとこにいるから選んできちゃいな」
ζ(>ー<*ζ「やった!パパありがと!」
( ^ω^)「おっお、ママにも何か買ってあげると喜ぶお。
この前の買ったイチゴ味のポッキーみたいなやつってなんだっけ?
あれ気に入ってたと思ったお、たしか」
ζ(゚ー゚*ζ「あーフランかな?じゃあ見てくるね~」
デレは置いてあった小さめのカゴをもって、たたたと小走りにお菓子コーナーに向かった。
12歳のわが子は周りの子が親離れしていく中、一緒に出かけようと誘っても嫌な顔ひとつしない。
僕はそうした子を持つ世間の親バカの例に漏れず、思わずまなじりが下がってしまう。
( ^ω^)(さて…)
ウォーマーの前に立った僕は、がんばった自分へのご褒美(笑)としてよく買う
ちょっと高めのコーヒー(バリスタ…ドルチェ…インチキなイタリア語まみれの代物)
を買うことにして棚の前で品定めを始めた。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 22:52:11.22 ID:fS2fwyX20 [5/32]
(;^ω^)(おーん…見つからない…)
僕はその商品のカードをようやく見つけ出したが、
結局そこに別の商品が詰め込まれているのを発見したのみに終わった。
(;^ω^)(品切れかお…)
しばらくして、長いことウォーマーの前から動かない僕のところに、
不審に思ったのか店員さんが近寄ってくる。
顔には、非の打ち所のないパーフェクトな接客笑顔が浮かんでいた。
(*^ー^)「いらっしゃいませ、なにかお探しでしょうか?」
( ^ω^)「ああ、すみませんこの商品って品切れですかお?」
(*゚ー゚)「はい少々…ああ、この商品ですね?」
(*゚ー゚)「ただいまこちらは新パッケージの物と入れ替える途中でして…。
もしよろしければそちらをお持ちいたしますがいかがなさいますか?」
目当てのコーヒーは倉庫か何かのなかにあるらしい。
多少手間だろうが、お願いすることにした。
(;^ω^)「忙しいとこすいませんね、お願いしますお」
(*゚ー゚)「いえいえ、…それで何本お持ちしましょうか?」
( ^ω^)「一本でダイジョブですお」
(*゚ー゚)「はい、かしこまりました」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 22:54:19.10 ID:fS2fwyX20 [6/32]
そういうと店員さんはカウンターの裏に消え、
店内には僕とデレを含めて数人の客だけになった。
それにしてもなかなか接客のいい店だな、また来てもいいかもしれない。
僕がそう思っていると、レジ=カウンターに女の客が一人やってきた。
('、`*川「ねえ、だれかー?早く来なさいよ!」
(;^ω^)(おーう…ケバっ)
態度の悪い、派手な格好の女だった。
今の時間帯からすると水商売の女が夜勤明けで…という感じか。
レジの近くにいる僕のところに、生暖かい空調に乗って濃厚な香水の香りが漂ってくる。
正直ちょっと酔ってしまいそうだった…船酔いとか車酔い的な意味で。
すぐ「はい、少々お待ちください」とよく通る声がして、
さきほどの女性店員がカウンターにやってくる。
手にはさきほど僕がお願いしたコーヒーが握られている。
店員はそれをカウンターの端に置くと、
僕にちょっと待ってねという風に目配せしてから水商売の女の対応を始めた。
(*^ー^)「こんにちは!いらっしゃいませ!バーボンマートへようこそ!」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 22:56:19.40 ID:fS2fwyX20 [7/32]
(*゚ー゚)「大変おまたせをいたしm(ry」
('、`*川「タバコ」
女は店員さんの言葉を遮って極めて簡潔に注文した。
横目で見ていた僕は、この時点で親切な店員さんにかなり肩入れしていたこともあって、
正直言ってかなりカチンときていたのだが…。
それでも店員さんのパーフェクトな笑顔は崩れる予兆はない。
(*゚ー゚)「はい、銘柄はなにになさいますか?」
('、`*川「マイセンのメンソール、それをね3カートン」
(*^ー^)「はい、かしこまりました少々お待ちください」
店員さんは再び倉庫に入ったと思ったらすぐにカウンターに戻ってきた。
だがその手にはカートンが二つしかない。
(*゚ー゚)「お客様、申し訳ございません。
カートンでは二つまでしか用意できませんでした。
バラでならあと十個ご用意出来ますが…」
('ー`#川「ハァ?…そういうのちょっと困るな~」
水商売の女はカウンターにもたれ掛かり、
背の低い女が背の高い店員さんを下から睨めつける。
傍から見ていると滑稽でしかなかったが、女は真剣そのものだった。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 22:57:52.80 ID:fS2fwyX20 [8/32]
(*゚ー゚)「申し訳ありません、ではどうなさいましょうか?」
('、`#川「どうなさいますかじゃねーよ!!
こっちは『カートンで』って旦那から頼まれてんだよ!!
あたしが亭主に殴られたっていいの!!?ねえ!」
女の大声に店内の客全員がカウンターに顔を向ける。
僕は心の中でおおきくため息をついた。
このままだと僕のコーヒーがどんどんぬるくなっていく。
(*゚ー゚)「ですから…大変申し訳ありませんがどのようにすれb(ry」
('、`#川「そんなの知らないわよ!買ってくればいいでしょ!!」
(*゚ー゚)「他の店舗からということですか?
すみませんがいま私が離れると、
店がお客様を除いて無人になってしまうもので…」
('、`*川「あーもう分かったわよ、バラでちょうだい」
(*゚ー゚)「おそれいります…では3000円が…」
('ー`*川「ちがう、ぜんぶバラでちょうだい」
店員さんがカートンのままタバコをレジに通そうとすると女がそれを止めた。
(*^ー^)「崩されますか、かしこまりました」
店員さんはカートンを崩すとレジにパッと何かを打ち込んだ。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 22:59:07.56 ID:fS2fwyX20 [9/32]
(*^ー^)「ではこちら9000円になります。
ライターは…」
('、`;川「えっちょっと待って、今ので打ち込めたの?」
(*^ー^)「はい、大丈夫ですよ」
('、`*川「チッ…」
女は露骨に頭の悪そうな舌打ちをした。
その瞬間、僕はなるほど、と女の舌打ちの意味を理解すると同時に顔をしかめた。
( ^ω^)(低脳め…)
水商売の女は30個はあるタバコを一つ一つスキャンさせようとしていたのだ。
その意図は…いわずもがなだ。
(*゚ー゚)「では…ライターはご利用でしょうか?」
('、`*川「二、三個ちょうだい」
店員さんがライターを取りにレジの奥にある引き戸の向こうにいくと、
女はグリグリとひとしきり頭をかきむしってから、携帯をいじり始める。
そんな中、デレがカゴ一杯にジュースとお菓子を入れて僕のところに戻ってきた。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:01:38.71 ID:fS2fwyX20 [10/32]
( ^ω^)「だいぶ時間かかったみたいだけど どうしたんだお?」
ζ(゚ー゚*ζ「フランのイチゴ味のやつ、探したんだけど無くって…。
代わりにポッキーのイチゴ味持ってきたよ」
( ^ω^)「まあ、それで大丈夫だと思うお…。
…そういや昔、ママとそれで盛り上がったもんだお」
ζ(゚ー゚*ζ「…ポッキーで?」
( ^ω^)「うん、ポッキーゲームってやつだお」
ζ(゚ー゚;ζ「うわ…」
両親ののろけ話を聞かされたデレはあからさまに引いていた。
悪かったな、当時はふたりとも若かったんだよ。
ζ(゚ー゚*ζ「それはいいんだけど店員さんは?」
(;^ω^)「ああ…もうすぐ来るんじゃないかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「わかった、じゃあパパはカゴ持ってて!
ちょっとトイレ行ってくる」
( ^ω^)「はいはい、先に会計終わってたら雑誌のところにいるお~」
ζ(゚ー゚*ζ「はーい」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:04:03.31 ID:fS2fwyX20 [11/32]
デレがトイレに行くとすぐ、僕に水商売風の女が急に声をかけてきた。
('、`*川「かわいいお嬢さんですね」
(;^ω^)「う…どうも」
よりによってこいつに話しかけられるなんて…。
あまりに急なことで次の言葉がとっさに出てこない。
('、`*川「何年生なんですか?」
( ^ω^)「一年生ですお」
('、`*川「へ~しっかりしてますね~。
うちの子もタメなんですけど、まだ箸もうまく使えなくて…」
母親だったのか…と僕は意外だった。
見かけから言うと子供は水子しかいなさそうなのに。
('、`*川「あれっ?もしかしてビップ小ですか?」
(;^ω^)「えっそうですけど…」
('、`*川「あーやっぱり!お父さんの顔…なんかどこかで見たような気がすると思ったんですよ。
たぶん入学式の時に見たんだな~、もしかして四組?」
(;^ω^)「あ~たぶんそうでしたね」
('ー`*川「じゃあ、子供同士はクラスメイトだ~。
また子ども会かなんかでお会いするかもしれないですね」
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:05:06.81 ID:fS2fwyX20 [12/32]
( ^ω^)「…その時はよろしくお願いしますお」
('ー`*川「ええ、ところで…」
…そう悪い人でもないのかな。
そう僕が思い始めたところで、店員さんがレジに戻ってきた。
さっきまでつけていなかったエプロンをしている。
('、`*川「あっ、すいません…」
( ^ω^)「いや、お気になさらないでくださいお」
水商売風の女がそう言ってレジに向き直ると、
つい今と打って変わって、また陰険な雰囲気を周囲に振りまきはじめた。
(*^ー^)「それでは大変お待たせしました。
こちらの中から好きなお色をお選びください」
店員さんはそう言って、ライターの入った箱をカウンターの上に置く。
('、`#川「それにしてもちょっとおそいんじゃないの?
ライター一つで、どんだけ待たせるのよこの店は!」
(*^ー^)「いやー、申し訳ございません…」
('、`*川「…ふん」
ぶつくさ言いながらも、女はちょっと身をかがめてライターを選び始めた。
赤いやつ、青いやつ、ガス式のやつ…。
僕は、その時三つ目までは女の選んだライターを見ていた。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:06:45.86 ID:fS2fwyX20 [13/32]
だが、急に店員さんが大きな動きをしたのでそちらに気をとられてしまった。
だから僕は四つ目に女が手に取ったライターを見なかった。
('、`*川「ねえ、ちょっと…」
女が顔をカウンターの上に向けたまま何か店員さんに言おうとした。
しかし、女はそれ以上まとまった意味のある言葉を喋ることはできなかった。
(*^ー^)「しゃーっとあっぷ!」
店員さんは背中に手を回したかと思うと、
包丁を取り出し―――おそらくエプロンの紐に引っ掛けてあったのだ。
その先端を女の頭頂部に叩き込んだ。
(゚、゚*川「ばあああああっ!!!!」
包丁の種類については、僕は専門じゃないからよく分からない。
だが柳葉包丁みたいに刃の部分が細くて長いものだった。
その包丁の20センチほどの刃渡りの三分の一程度の部分が女の頭に埋まっていた。
(゚、゚;川「ぬいて!ぬいて!あああああ!」
女は僕に助けを求めていた。
でもその時、全部見ていたはずなのに、
僕には何をしていいか分からなかった。
(;゚ω゚)「え…あんた、なにしてるんだお!!!」
(*^ー^)「なにを?見ての通りです」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:08:25.37 ID:fS2fwyX20 [14/32]
店員さんは女の後頭部を掴むと顔面をカウンターに叩きつける。
女の鼻が折れ曲がり、カウンターと顔の間から窮屈そうにその頭を覗かせている。
(*^ー^)「さあ…伊藤さん…お望みどおりにして差し上げますよ…。
もうすぐ抜いてあげますからね~」
(゚、゚;川「や"め"で…な"ん"でな"ん"で」
(*^ー^)「まだ、話せますか…。
安心してください、死ぬことは怖くない。
死んでしまえば、生きていない。
意味がわかりますか?」
店員さんはそう言い終わると、
女の顔をちょっと持ち上げてまともに話せるようにしてやった。
(゚、゚;川「わがんない…わがんないよそんなの」
(*^ー^)「…つまり生きている、という地点を通過してしまえば
死んでいるわけだから苦痛を感じることはない。
従ってそれを恐れることはない…ああ…これ以上の説明するのは面倒だな」
(*^ー^)「つまりこういう事だ伊藤くん」
店員さんは暴れる女の頭をがっちり押え付け、頭に刺さった包丁をさらに押し込む。
そしてなんの躊躇も無くグイと横にひねり、勢い良く包丁を頭から引き抜いた。
血はそんなに出ていなかった。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:09:53.96 ID:fS2fwyX20 [15/32]
(゚、゚ 川「ぎ」
女の四肢がピンと真っ直ぐに伸び、クタクタとうつ伏せに崩れ落ちた。
僕は駆け寄ろうとしたが、ポンッという破裂音を耳にして立ち止まった。
女が大便を漏らしていた、程なく小便もちょろちょろと垂れ流しはじめた。
いや、女の死体から大小便が漏れていたというべきか。
店内に異臭が満ちる。
だが、店内の人間は誰も動こうとしない。
おざなりな、悲鳴にもならない声が立ち読み客の方から聞こえただけ…。
なぜ誰も逃げないのだろうか?
(*^ー^)「ふん、なかなかあなたにしては芳しい香りじゃない」
店員さんがカウンターから出て女の体に歩み寄り、その脇腹を足先で軽く小突いた。
( ^ω^)「おい、動くな」
僕は静かに言った。
(*^ー^)「ん?ああ失礼コーヒーのお客様ですか…。
あれはもう温くなっていてとてもお出しできま…」
( ゚ω゚)「動くなと言ったのが聞こえなかったのかお!」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:12:06.72 ID:fS2fwyX20 [16/32]
僕は言ったこともない、だがお決まりの文句を言った。
(#゚ω゚)「警察だ!傷害の現行犯で逮捕する!刃物を床に置け!!」
(*゚ー゚)「あああ、そうことでしたか…」
店員さんはにこやかにそう言うと、はたとそこで立ち止まった。
しかし、包丁を手から離そうとしない。
( ゚ω゚)「いますぐそこに跪いて包丁をこちらに滑らせろ」
(*^ー^)「申し訳ない、それは出来ませんね。
監視カメラ映像でしたらDVDに焼いてお渡し出来ますが」
(;゚ω゚)「…」
相手はまったく聞く耳を持たなかった。
だが、相手は女だ。恐らく僕一人でも取り押さえることが出来るだろう。
(*゚ー゚) 「私はあなたみたいな人を殺したいわけじゃない。
さっきみたいな人間のクズを殺してやりたいんですよ」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:13:10.72 ID:fS2fwyX20 [17/32]
ゆらっとした動きでカウンターの中に戻ると、
棚などの一部に使うのだろう角張った鉄パイプを片手に戻ってくる。
そして床に倒れた女の頭部めがけて鉄パイプを叩き付けはじめた。
(#^ー^)「こんな!生きる価値もない!クソ女を!
ずっと!ぶっ殺して!みたかったんですよ!」
((( *川)))
一発ごとに女の顔が大きく歪んだ。
顎のあたりに当たった一撃は、女の口を大きく裂いた。
その次の一発は半端に当たり、額から頭にかけての皮膚を大きく削りとる。
吹き飛ばされた皮膚と髪の毛の塊が、
ビシャッっと水っぽい音を立てて並べられていたキャベツの上に着地する。
そうして陵辱された女の顔は、口が裂けてしまったせいで
((( ∀ *川)))
笑っているように見えた
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:14:51.48 ID:fS2fwyX20 [18/32]
(#゚∀゚)「ふぅー…ふぅー…」
(;^ω^)「う…これ以上やったら…」
(#^ー^)「あ"あ?どうするってんですか?」
(;^ω^)「…」
これ以上、時間をかけてはいられなかった。
このまま長引けば、デレはトイレから出てきてしまう。
丸腰の状態で、彼女を守り切る自信など僕にはない。
(;^ω^)「なあ、とにかく話し合わないかお?
この人でなしもぶっころしたところだし、
おとなしく投降すれば、君の身の安全は…」
早いうちに取り押さえなければならなかった。
間合いを詰めるべく、僕はゆっくりと店員さんに近寄る。
48 名前:うつ…いやハッピーエンド[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:27:31.81 ID:fS2fwyX20 [19/32]
(#^ー^)「うるさい!うごくな!」
だめだ、完全に興奮しきっている。
店員さんは包丁をこちらに向け、じりじりとこちらに向かってきた。
(;^ω^)「わかったお…」
とにかく、落ち着かせてその隙に…。
だが、そんな僕の思惑は大きく外れることになった。
「パパ~?どこなの~?」
(;^ω^)(デレ…!)
間に、合わなかった。
(*^ー^)「あれ…あなたの娘?
ちょうどいい…こっちに来てもらいましょうね」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:30:13.99 ID:fS2fwyX20 [20/32]
店員さんが声のした方に向かって走る。
包丁と鉄パイプを手にしたまま。
僕はもう、後先を考えずに突っ込むしか無かった。
(;゚ω゚)「やめるお!」
僕はこちらを振り向いた店員さんに肩から突っ込んだ。
僕の頭が彼女の腹に強く食い込むのを感じると同時、
左肩に鋭い痛みが走った。
見ると、さっきの包丁が柄のところまで深々と突き刺さっていた。
包丁のひんやりした感触が体の中からも感じられて、全身に怖気が走る。
(; - )「ぐおっ!」
(;メ゚ω゚)「ああああああぁああああ!!」
膝を付いた店員さんの腰に抱きつき動きを封じた。
そしてそのまま引倒そうとしたがうまく行かず、
店員さんは中腰のまま、落とした鉄パイプを拾おうとする。
(#^ー^)「くっ…おまえ!」
ζ(゚-゚;ζ「パパ!」
デレは叫び声を聞きつけて、女の目の前に走り寄った。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:31:28.27 ID:fS2fwyX20 [21/32]
(;メ゚ω゚)「デレ!こっちにくるな!店の外へ逃げるんだお!」
(*^ー^)「逃がさない」
店員さんは僕につかまりながらも、
体をひねって手を伸ばし、とうとう鉄パイプを手にした。
(#゚ 皿゚)「んああっ!」
ζ(゚-゚;ζ「きゃぁ!」
振るわれた鉄パイプはデレの服の裾を捉え、デレはその場ですっ転ぶ。
慌てた僕は、店員さんをデレから離そうと引きずろうとした。
だが、右肩を刺されたとき腱か何かが傷つけられたのか、
腕に力が入らずうまく行かない。
(#^ー^)「おらぁ!」
(;メ゚ω゚)「があっ!」
もたもたしているうちに顎に肘を食らった。
店員さんが腕の間を抜ける。
まもなく鉄パイプが僕の頭に叩きつけられた。
(メ; ω )「うっ…」
視界が揺れ、頭がグラグラする。
意識を保っているのがやっとだった。
そして店員さんを再度捕らえようとして、僕はうつ伏せに崩れ落ちた。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:32:42.54 ID:fS2fwyX20 [22/32]
(*゚ ∀゚)「あははははははは!ざまぁねえなぁ!おっさん!」
ζ( - ζ「…」
店員さんは動けなくなった僕を尻目に、
頭を打ったのか、たおれているデレの方に歩み寄った。
(*゚∀゚)「そうだな…まず足からたたき折って…。
ああもう面倒だし頭ぶち割ってやる。
おい…みてるかぁ…パパ?」
(メ#;ω;)「ぢぐしょお"…おまえ…」
殺してやる。そんな言葉が頭をグルグルと回っていた。
デレの顔を見ると、いつも眺めている寝顔と変わらない安らかな顔をしている。
店員さんはそこめがけて、まるでスイカ割りのようにパイプを頭上にかざす。
(*゚∀゚)「しね」
ぶうんと空気を切る音がして、そして…。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:37:50.67 ID:fS2fwyX20 [23/32]
ζ(゚ー゚;ζ「…パパ!」
(;゚ー゚)「!?」
(;゚ω゚)「デレッ!?」
カン、という甲高い音がした。
なにが起こったのか一瞬わからなかった。
見ると、デレは寸でのところで鉄パイプをかわし、店員さんの足に抱きついていた。
形勢をひっくり返せるのは今しか無かった。
(#゚ω゚)「おおおぉおおお!」
(; - )「…むぐ…くっ」
僕は後ろから店員さんの首を、まだ自由のきく右手で締め上げた。
こいつはデレを殺そうとした。許さない。このまま殺してやる。
(#゚ω゚)「しねぇぇぇえぇえええ!!」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:39:02.64 ID:fS2fwyX20 [24/32]
(; - )「か…ぐが」
ものの数十秒で店員さんの手から鉄パイプが離れ、
耳障りな音を立てて硬いタイルの上に転がる。
もう抵抗する力もないのだ。
そう感じたとき、僕の全身を歓喜が包み込んだ。
ある種の憎しみが心に満ちているときにもたらされる喜び。
ζ(゚-゚;ζ「パパもういいでしょ!離してあげて!」
( - )「…」
店員さんは完全に意識を失い、だらりと両手を垂らしていた。
だが、それで本当に安心と言えるだろうか?
当然駄目だ。完全に息を止めなくては。
デレ、心配するな。
君を殺させはしない。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:40:30.29 ID:fS2fwyX20 [25/32]
( ゚ω゚)「だめだお」
ζ(゚-゚;ζ「…パパ――なんで」
(* ー )
次の瞬間、僕の腕が女の細い気管を完全に押しつぶした。
―――――――――
―――――
――
…
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:42:57.67 ID:fS2fwyX20 [26/32]
結局、この事件の死亡者は三人だった。水商売風の女、店員、そして店のオーナー。
オーナーは事務所内に腹部をめった刺しにされた状態で転がっていたのだという。
それから、例の店員さんはあのコンビニの近くに住む大学生だった。
前々から、家族や親しい友人には「客ですごく嫌な女がいる」
「オーナーはよくあることだ、言ってとりあってくれない」
とこぼしていたらしい。
毎日毎日、積もり積もった憎しみを爆発させた結果があの事件だった。
まったく迷惑な話だった。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:45:42.95 ID:fS2fwyX20 [27/32]
これらは見舞いに来てくれた、後輩のドクオから教えてもらったことだ。
('A`)「しかし、またエラい事件に巻き込まれましたね…」
( ^ω^)「ほんと大変だったお…」
('A`)「で…ご家族は?」
( ^ω^)「いやーそれがまだ来ないんだお。
娘も相当ショックだったみたいで」
('A`)「そりゃそうですよね…あんなことがあったんじゃあ」
( ^ω^)「ま、ゆっくり待つおw」
('A`)「お元気そうで何よりです。
では傷に障ると思いますので、この辺で」
( ^ω^)「おっお、何をこれしき
すぐカムバックするおww」
僕が笑ってそういうと、ドクオは怪訝な顔をした。
(;'A`)「ほんとダイジョブですか先輩、テンションおかしいですよ?
あたま強く打ったって聞きましたし…」
( ^ω^)「ほんとに大丈夫だお。検査も全部正常だったお!」
それどころか、人生で最高に気分がいいくらいだった。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:49:39.72 ID:fS2fwyX20 [28/32]
そうですか、ドクオはそれだけ言うとさっさと引き上げていった。
なんだったんだろうか、様子がおかしかったが…。
それにデレや、ツン、近所に住む両親が一週間経ったいまも、
いまだ姿を見せないのは解せなかった。
( ^ω^)「なんなんだお?いったい」
そう思っていると携帯にに電話が入った。
ツンの携帯からの着信だった。
( ^ω^)(ようやくかお)
通話ボタンを押し、携帯を耳に当てる。
だが、相手は無言のままだった。
(;^ω^)「おーいもしもし?」
「なんでころしたの?」
(;^ω^)「おっ?いやなんでって」
デレを助けるためだお。そう言ったのだが、
電話は途中で切れた。いや、切られたのだ。
今のは、どうやらデレのようだ。
( ω )「…」
プーッ、プーッという信号音を聞いていると
次第に怒りが湧いてきた。
一体なんだというんだ。
67 名前:( ^ω^)にとっては…ハッピーかも[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:52:05.11 ID:fS2fwyX20 [29/32]
僕はお前を助けるためにあの店員を…それなのに。
( ω )「恩知らずめ…せっかく助けたのに」
僕はいつしか掛け布団を纏めて、腕でぎゅっと締めている。
それに気がつくと僕の腕に、いや僕の全身に
店員の喉を潰したときの感覚が鮮やかに蘇ってきた。
( ω )「ふふ…なんだってんだお…。
ふひww…やってらんないおぉ…くwwくくww」
これからの人生で、あと何回あの感覚を味わえる機会があるのだろう?
だが僕にはそんな事を自問しなくとも、その回数がぼんやりと分かっていた。
そして、次はそれがだいたいいつなのかも。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:53:37.62 ID:fS2fwyX20 [30/32]
(*^ω^)「おっおっおwwww」
鏡を見ると僕の顔には笑みが浮かんでいる。
そういえば、こんなふうに笑うのも久しぶりだった。
店員さんもこんなふうに笑ってたっけ。
(*^ω^)「うふ…ふ…」
それに気がついた僕の頭の中で、この前聞いたばかりの、あの店員さんの哄笑がはじけた。
それだけじゃない。水商売の女、デレ…。
いままで出会ったすべての女の笑いが僕の中に充満していた。
(*^∀^)「アハハハハハハハハハハハハハハハハwwwww」
(。∀。*川「アヒャヒャヒャヒャヒャハヒャハヒャヒャハwwwww」
ζ(゚∀゚*ζ「アハハハハハハハハハハハハハハハハwwwww」
(*^ω^)「ぐふ…ふふふ…」
(*゚ω゚)「たのしいなぁ」
みんなぶっ殺してやる。じゃあまずは…。
僕は、やおら身を起こすとナースコールを押した。
(*゚ω゚)「アヒュ…ふひひ…」
彼女はもうすぐ来るはずだった。
僕は布団を喉元までかけ、しっかりと目を閉じた。
クリスマスのプレゼントを置きに来る両親を待つ子供のように。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:55:44.90 ID:fS2fwyX20 [31/32]
そうだ、靴下を使おう。
僕は興奮で湿った靴下を両手に握り締め、
やってくるナースを待ち受けた。
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 23:57:56.66 ID:fS2fwyX20 [32/32]
終わり
もう時間も経ったし、ブログ見てる人もいないから はいおれーしておこうかな。
グロの練習に書いていたものが、ちょうどこの釣りスレにタイトルが合致していたので
ついつい見切り投下してしまった。自分で立てちゃった物は自分で消化しなきゃってのもありますしね。
完成当初、実はバイオレンスな店員さんは川 ゚ -゚)だったり、
( ^ω^)は別に精神的におかしくならなかったりしましたが、投下に際して変更を加えました。
元ネタはスティーブン・キング『ゴーサムカフェで昼食を』
もともとは総合短編として書いたものです。
何のひねりもなく元ネタをなぞるだけになってしまったので、あえなくお蔵入りとなりました。
しかし結局このような形で陽の目を見ることに…。
- 2010年11月24日 02:33 |
- 自作品まとめ
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3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:34:02.70 ID:a+tJhl500 [2/8]
ブーンと円のようです
第五話「のみこまれる」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:37:56.44 ID:a+tJhl500 [3/8]
丹生束県教育委員会 中学生用教材「美府南海地震の記憶」
1.その津波は地震後、10分も間を置かずにやってきた。
震源を和歌山県串本沖とするこの地震による被害は、近畿~関西地方沿岸の大部分におよんだ。
その被害は、午後6時24分に起きた本震で発生した津波によるものがほとんどであった。
特に被害の大きかったのは丹生束(ニュウソク)県の美府町だ。
この津波で民家は138件が全壊し、海に近かった派出所が流されてしまった。
他に美府灯台(現 丹生束県有形文化財)が倒壊している。※1972年に再建
人的被害も極めて大きく四県にまたがって推定200人が死亡、行方不明者500人以上を出した。
―ミセ*゚ー゚)リフィールドワークコーナーv(‐_ ‐`wl―
この地震についてインターネットなどをつかって…(省略)
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:39:38.78 ID:a+tJhl500 [4/8]
丹生束新聞朝刊1947年1月14日抜粋
先の地震とそれにともなって発生した津波で猛烈な↓
→被害を受けた丹生束県美府町では、順調に復興活動が進んでいる。
しかしながら死者の数は今後も増えるものと思われ、住民は未だ不安に包まれている。
そんな中、落ち着きを取り戻した被害者たちから、
津波発生当時の貴重な話が聞けるようになってきた。
以下は、偶然にも船に乗っていて助かったF.Mさんの話だ。
「あの時、私はたまたま小船にのって釣りに出ていました。
結局何も釣れず、帰ろうとしたときはすでに辺りは真っ暗でした。
ですが、懐中電灯を当てて分かったんです。海の色がおかしい。
なんというんでしょうか…とにかく真っ茶色なんですよ。
なんだなんだ、と思っていると船の舵が急に言う事を聞かなくなって…。
気がついたら町の方へどんどん流されてしまっておりました。
どうでしょうね…結局、小学校の辺りまで流されたと思います」
小学校は美府町のほぼ中心に位置していて、浜からは75mほど離れている。
このときF.Mさんは湾の真ん中のあたりにいたというから
実に200mは流されたことになる。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:43:47.29 ID:a+tJhl500 [5/8]
目の前の緑一色の景色がどんどん後ろにすっ飛んでいく。
築山を隙間なく覆う木々の合間を縫って、僕は年甲斐も無く全力で走っていた。
「いますぐ、海を見なくては、間に合わないかもしれない」
その思いだけが頭の中を駆け巡り、足が何度ももつれそうになる。
そうやって築山とは名ばかりの雑木林からまろび出ると、目の前が一気にひらけた。
それを認めると同時に、足がくるぶし辺りまでずぶりと地面にめり込むのを感じる。
気がつけば、僕は赤い畑土が剥き出しの農地に立っていた。
(; ω )「クソッ!」
これじゃ走るどころか、歩くのもままならない。
そう思った僕は、それでもどうすることもできずに、
ジリジリと畑を横断して向こう岸の農道へとたどり着いた。
そして、僕は一心地つく間もなく海の方へ猛然と駆け出していた。
この先には消防用の火の見櫓がある、そこまで行けば、海が見える。
(;゚ω゚)「ハァ…ハア…ゲホッゲホ…あ゙ー畜生おおお!!」
櫓までたどり着いた僕は、あちこちをぶつけながらハシゴをむちゃくちゃに駆け上がる。
最後はよじ登るようにして櫓の上に立った。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:47:03.25 ID:a+tJhl500 [6/8]
(;゚ω゚)「…」
僕は櫓の上からぐるりと周囲を見渡した。
すでに夕闇の帳が、瓦葺きの屋根の上に降りている。
そんな事はどうでもいい、海は…海は…。
(;^ω^)「…あれ?」
そこにあったのは、僕もよく知っているいつもの海だった。
浜には白い波が打ち寄せ、そのちょっと右側には八頭岩とイチノ岩の夫婦岩。
遠くには、湾の対岸にある布羅須(ぷらす)の街並みが広がっている。
(;^ω^)「どういうことだお…」
心臓発作寸前の心臓を左手で押さえつけ、
僕は海の向こうの水平線のあたりに目を凝らした。
だがときおり波頭が彼方で砕けるのが見えるだけで、津波の影も形もない。
(;^ω^)(でも確かに揺れみたいなものを感じて…。
あれがあの地震なら津波がとっくに…いや)
(;^ω^)「もしかして…気のせいかお?」
そう言ってから、僕は鈍い痛みを脛のあたりに感じてその場に座り込んだ。
ズボンの裾をめくってみると紫色のアザがいくつもできている。
どうもハシゴを登るとき、知らぬ間にぶつけていたようだ。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:54:57.28 ID:a+tJhl500 [7/8]
( ^ω^)(あー…これは何日か取れないおね…)
そう思い、天を仰ごうとした僕の後頭部に櫓の柱の一部がガツンと当たった。
(;^ω^)「いでっ!」
「あーーーっ!そこにいるのかあああああ!?」
(;^ω^)(げっ…あの子のこと忘れてたお)
下から無駄に大きな声がして、僕は櫓の下をひょいと覗き込んだ。
いつの間に追いついたのか、ヒートちゃんがこちらを見上げていた。
そして彼女はサルみたいな身軽さで、あっという間に櫓の上にまで上がってきた。
ノハ*゚⊿゚)「おいいい!!いきなり走りだすからビックリしたじゃないかあああ!!1!」
彼女が何の脈絡もなく馬鹿でかい声でどなると、
吊られていた鐘に反響してくおーんと大きな子犬みたいな音を立てた。
まったくとんでもない子だ。
(;^ω^)「声デカすぎるだろ!ちょっと自重しろお!!」
ノハ*゚⊿゚)「わかったあ!じじゅうするううう!!」
(;^ω^)(全然分かってないだろこの子…まあいいか)
とりあえず、ここにいれば安全だ。
この櫓は現代の美府町につい最近まで残っていた。子供の頃はよく忍び込んだものだ。
首を吊りでもしない限りは死ぬことはできないだろう。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/08(金) 23:59:38.62 ID:a+tJhl500 [8/8]
( ^ω^)「…」
死ぬ…。ツナギ女の言うことを鵜呑みにするのならば、
僕がここでどんな目に会おうと現実の僕は安全なはずだ。
でも、本当に?
僕は、立ち上がって櫓の手すりの部分に寄りかかった。
そこから見える海は、相変わらず湾内独特の静けさを湛えている。
ノハ*゚⊿゚)「ねぇー!どうしてこんなところに来たの?」
女の子が何も言わない僕に背後から質問を浴びせてくる。
(;^ω^)「ああ、久しぶりに帰って来たから風景がいろいろ変わっててね。
上のほうから見てみたいな~なんて思ったんだお」
ノハ*゚⊿゚)「へぇぇー!そんなにここ変わってるの?」
( ^ω^)「まあ、全体的に僕の知ってる美府町とは違うおね…」
ノハ*゚⊿゚)「ふうん…そうなんだぁ…」
女の子は一人でうんうんとうなずいて見せる。
まあ僕の言った意味は、この子の考えている事のまったく逆なのだが。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:06:46.86 ID:fS2fwyX20 [1/38]
(;^ω^)(しかし…これからどうするんだお?)
僕は、この子の記憶の中に新たな登場人物として出現したわけだ。
それはいいが、これから何をすればいいのか僕にはさっぱり分からなかった。
( ^ω^)(登場人物としてこの子の記憶に潜り込む…。
この子と一緒にいて様子を見てればいいってことかお?)
僕は目の前にいる女の子を見やった。
年の頃は七、八才くらい。きれいな顔立ちの子だ。
ドラマなら、主人公の娘の友達役の一人くらいにキャストされるような…。
( ^ω^)(そういえばこの子はなんで一人で築山なんかに…)
僕がここに来たとき、この女の子は人気の無い雑木林の中に一人でいたのだ。
しかももう暗くなりかけている。ただ遊んでいたわけじゃあるまい。
( ^ω^)「ところで、どうして君は一人であそこにいたんだお?」
ノハ*゚⊿゚)「お姉ちゃんが勉強してて…邪魔になるといけないから…」
(;^ω^)「でも…流石にあんな所にいることはないんじゃ…」
僕の学生時代、あの築山には霊が出るという噂だった。
それが本当かどうかは知らないが、日が落ちると本当に薄気味の悪いところだ。
そんなところに一人でいるなんて、今の僕にだって耐えられない。
ノハ*゚⊿゚)「へーきさっ!この時間だといつもなんだぁ~。
お姉ちゃんは大学に行って…先生になるんだ!
そのためだったら、ちょっと家から出てるくらいは…」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:09:05.99 ID:fS2fwyX20 [2/38]
( ^ω^)「…そうか、君はお姉ちゃん思いだおね」
ノハ*゚⊿゚)「うん!そうやってよく言われる!」
( ^ω^)「…そうか」
ノハ*゚⊿゚)「どうしたの?」
(;^ω^)「あ、いや…何でもないお。それはいいけど、
もう暗いし家まで送っていくお。遠いし、一人じゃ危ないお?」
ノハ*゚⊿゚)「ありがとう!もうそろそろいい頃だし…。
…実はいつもちょっと怖いから たすかる!」
僕は…娘、デレのことを思い出していた。
そのときは店の源泉徴収票などの書類整理に追われいて、
話がしたくてまとわりついてきたデレを構ってやれなかった。
いや、正確に言えば気を引こうとしてふざけはじめた彼女を怒鳴ってしまったのだ。
しばらくして作業が一段落したとき、家の中にデレを探したがどこにも姿がなかった。
まさかと思って外に出ると、あの子はおもちゃを持って玄関の外にいて…。
「どうしてこんなところにいるんだ」と言おうとした僕に、あの子はこう言った。
『ここならパパの邪魔にならないでしょ。
終わるまでここで遊んでるから…おしごと頑張ってね』
捉え方によっては、イヤミにも聞こえるかもしれない。
確かにあの年頃の子供というものは、
そういう事をどこからか覚えてきてたまらなく憎たらしい時がある。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:10:25.09 ID:fS2fwyX20 [3/38]
だが、デレは間違ってもそんなことを言う子ではない。
デレの、その澄んだ目には少しの負の感情も感じられなかった。
そこにあったのは強い意志と、ただ一分のさみしさだけだった。
あれはたしかデレとツンが死ぬほんの二ヶ月ほど前のことだ。
( ^ω^)(………デレ)
娘にしたことで、あんなに後悔したことはない。
きっとこの子もさみしい思いをしているに違いなかった。
…そして、そんな自分を誰にも見られたくなかったのだろう。
だからこの子は林の奥に人目を避けるようにして、一人で…。
ノハ*゚⊿゚)「ねえねえ!先に行くよぉ!」
(;^ω^)「…あ、ああ分かったおっ!
ちょっと待ってくれお…」
ついつい女の子につられて、僕も大きな声で返事をする。
小さな子と触れ合うのは久しぶりで、さっぱり要領がわからなくなっていた。
たとえ、その子が記憶のなかの存在でしかなかったとしてもだ。
( ^ω^)(困ったもんだお…)
…とにかく、ここで風景を眺めている場合ではない。
僕は先に降りていった女の子を見失う前に追いかけようと、
さっきの猛ダッシュでガタガタになってしまった足腰に鞭打って、
僕は調子の悪い野良犬みたいな格好でハシゴを降りていった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:13:41.18 ID:fS2fwyX20 [4/38]
―――――――――
―――――
――
…
lw´‐ _‐ノv「…」
あの人が食べた後の汚れた食器を片付けると自室へと帰った。
と言っても、私の仕事は部屋に戻ったあともまだまだ残っている。
あの人の監視である。
私は、仕事用のラップトップPCを部屋の隅にあるズタ袋
(昔ここで働いていた人の袋で、 ラップトップのほかは、
年代物の玩具と大量のお菓子が詰まっている)から取り出す。
それから電源を入れ、「めもりぃ☆ぶらうざ」を起ち上げる。
星を入れたのは私の趣味ではない、あくまで前任者のセンスだ。
lw´‐ _‐ノv(さてと…)
まずはあの人がどの書庫の何番目の記憶を選んだかを特定し、
監視カメラで彼の様子を確認する。
00176番書庫、彼はその前で仰向けにぶっ倒れていた。
そして、その胸に大事そうに「記憶」を抱えている。
( ×ω×)
lw´‐ _‐ノv「あらあらうふふ」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:15:07.87 ID:fS2fwyX20 [5/38]
とりあえず、私はカメラの映像に写った彼の頭をダブルクリックして中の様子を確認する。
うん、悪くない。全体の稼働率は現在77~82%で推移している。
脳細胞の一つ一つが通常より大きく息をすって実に活き活きしていた。
それから、今度は彼のパーソナルデータをダウンロードしておく。
lw´‐ _‐ノv(…)
元コンビニ経営者。
それを数年前に辞めてこっちに里帰りしてきたらしい。
聖ザツニ病院精神科への通院歴からすると、やめた理由は妻子の夭死と見て間違いない。
昨夜荒巻とモニターしていたあの悪夢が脳裏に蘇ってきそうだった。
私は鼻からふーっと息を吐いて、不快感を追い出そうとする。
それでも効果が無かったので、目を閉じて眉間を手首で押さえる。
質の悪いコーヒーをがぶ飲みしたあとのように胸がムカムカした。
まったく…こういうハードな過去を持った人間を連れてこられると困るなぁ。
こっちの気が滅入っちまう。
/ ,' 3「ええまったくですね、お疲れ様です」
lw´‐ _‐ノv「…いきなり背後に現れるのやめてって言ってるよね」
/ ,' 3「はい?いまなんて…」
いつの間にか荒巻が背後に立ってディスプレイをのぞき込んでいた。
今朝はブラウンのスリーピース=スーツ…。
しかも、ご丁寧にもアリスのウサギみたいに時計鎖まで垂らしている。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:16:40.33 ID:fS2fwyX20 [6/38]
lw´‐ _‐ノv「都合のイイ時だけ老人ぶるのはやめろチンポ野郎」
/ ,' 3「あふぁはあふぃふぁふぃあふ」
lw´‐ _‐ノv「なにそれ?」
/ ,' 3「入れ歯の外れた老人語で“あなたが何を言ってるのか分かりかねます”」
lw´‐ _‐ノv「まったく、マイノリティ言語が堪能な上司がいて助かりますよ…」
/ ,' 3「どうも…ところで彼はどういう状況ですか?」
lw´‐ _‐ノv「脳の稼働率は平均80%程度、中の様子を見る?」
/ ,' 3「ええ、お願いします」
私は「現在までの視覚・聴覚のダウンロード」を選択した。
するとカメラの向こうの彼がカッと目を開き、ガタガタと震え始める。
『((((( ゚ω゚))))』
/ ,' 3「くやしい…でも記憶、抜き出されちゃう!ビクッビクッ」
lw´‐ _‐ノv「興奮すると血圧上がるよ」
ダウンロードの間、私はヒマだったのでズタ袋からポン菓子を取り出して食べた。
じつに美味しい。きっと米はいつか世界を救うだろう。
だが、半分も食わないうちに「デュン!」という警告音が鳴る。
ダウンロード完了である。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:18:20.41 ID:fS2fwyX20 [7/38]
lw´‐ _‐ノv「終わった、三十分程度だね」
/ ,' 3「どうも…そういえば彼の案内に時間がかかっていたようですが…?」
lw´‐ _‐ノv「…ちょっとね、どうでもいいけどここで見るの?」
/ ,' 3「いえ、持ち帰って私の部屋で見てきます。
ありがとうございました、失礼します」
と、私から映像の入ったフロッピーディスク(笑)を受け取るだけ受け取って、
さっさと部屋を出ていこうとする荒巻を私は呼び止めた。
lw´‐ _‐ノv「ねぇ荒巻、彼は本当に大丈夫なの?
つまり…精神的に今回の仕事に耐えられるの?」
/ ,' 3「なぜそんなことを?」
lw´‐ _‐ノv「いや調べたら精神科に通院歴があって…」
おずおずと質問すると荒巻は顔に意外そうな表情を浮かべて見せる。
わかっている癖に、イヤミなやつだ。
/ ,' 3「やはり気になりますか…?」
lw´‐ _‐ノv「いいから…彼をこまかく分析したあなたなら、
親よりも彼のことが分かるはず…どうなの」
言いにくいのか、彼は立ち止まってこちらをチラッと見るとすぐ足元に視線を移す。
lw;´‐ _‐ノv「まさか、厳しいの?」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:23:09.26 ID:fS2fwyX20 [8/38]
では、と彼は近くの壁に寄りかかってこちらを見ずに話しだす。
深刻な話をするときの彼のおきまりだ。
/ ,' 3「シュー…あなたは子供の頃大怪我をしましたよね」
lw´‐ _‐ノv「六歳の頃に両手首と肋骨数本、それに首の骨を同時に折った。
母と買い物に出たときに自動車事故にあって…」
/ ,' 3「…しばらく動けなかったでしょう?」
lw´‐ _‐ノv「身じろぎさえできなかったわよ、そりゃあね。
何度も話したでしょ?この話。
これが何の関係があるの?」
/ ,' 3「あなたはそのケガをしてベッドに横になっているとき、辛かったでしょうね?」
lw´‐ _‐ノv「そんなもんじゃない、誰も見舞いに来ないし看護婦はみーんなイヤな奴だった。
長いこと耐えて耐えて耐えぬいて…」
今でもたまに病院の真っ白い天井が夢に出てくる。
シャツやシーツの白さじゃない、ホルマリン漬けにされて脱色した生物標本の白だ。
私はいつの間にか天井を見上げている。
だが、そこにあるのはしっかりした木目と親しみ深いいくつかの染みだ。
ホルマリンの瓶もなし、なかに入っている青ざめたカエルもなし。
私はフッと無理矢理に笑って、今も自分のなかに残るわだかまりを誤魔化した。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:25:53.58 ID:fS2fwyX20 [9/38]
lw´‐ _‐ノv「治ったら真っ先にナースステーションに駆け込んだよ。
そいでもって、私の担当だった看護婦のスカートを降ろしてやった。
そしたら…彼女ったら何も履いてなくて、しかも…」
私は言い終わる前までに、取っておき笑顔を浮かべての荒巻の方を見る。
でも…荒巻を見ると彼は笑っていなかった。
/ ,' 3「内藤さんは、あなたがその時受けたのと同等のストレスを受けていました」
lw´‐ _‐ノv「…」
/ ,' 3「彼はやはりあなたのように、一人でその負荷に耐え続けました。
仕事の引継ぎの関係で、すぐに職場を辞めることができずにいたんです。
彼は、しばらくの間働き続けなくてはなりませんでした。
それまで、家族のために必死で働いてきた彼がどういう気持ちで職場に立ち続けたか。
………あなたに理解できますか?」
lw´‐ _‐ノv「…いいえ」
/ ,' 3「そして時間が経った今、彼の受けたダメージは多少回復してはいます。
しかし彼は、あなたのように傷が治った時のようなカタルシスを味わっていません。」
唸るようにそういった彼は、ちょっと間を置いてからあとを続ける。
/ ,' 3「もしかすると一生、彼の精神は浄化されないままかもしれません。
それどころか今回私たちは、彼のトラウマを刺激してしまいました。
我々が取り扱いを誤ればここにいる間に“爆発”してしまうかもしれない」
lw´‐ _‐ノv「…巻き込まれたくはないわね、その爆発に」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:30:48.73 ID:fS2fwyX20 [10/38]
/ ,' 3「…ではそろそろ失礼します」
lw´‐ _‐ノv「ええ、お疲れ様です」
/ ,' 3「ああ、そうそう。
終わったら私に声をかけてくださいね。
彼を出迎えますので」
lw´‐ _‐ノv「了解」
荒巻が出て行くと部屋はとても静かだ。
ちょっと画面の中の彼を見る気にもなれず、窓の外を見る。
外の緑は夏の頃と比べると、その色合いはくすんでいて…
その微妙な色の変化は私の心に小さな波紋をつくる。
lw´‐ _‐ノv「ふぅ…」
私はポン菓子の袋をズタ袋に押し込むと、
背筋を伸ばしてラップトップに向き直る。
とにかく彼の爆発を防げるのは私だけなのだ。
だってわたしはかれの…。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:33:59.79 ID:fS2fwyX20 [11/38]
( ^ω^)「君のお姉ちゃんってどんな人なんだお?」
ノハ*゚⊿゚)「すごおく綺麗で頭が良くって…お裁縫もとくいなんだよぉ!」
( ^ω^)「ほー、いいお嫁さんになれるおね~」
ノハ;゚⊿゚)「…!!おっ、お前のとこにはいかせないぞおおお!!」
(;^ω^)「いや、そんなことは一切言ってないお」
僕と女の子は、女の子の暮らしている羅宇字集落の田んぼ道を歩いていた。
女の子は踊るような足取りで僕の前を飛んだり跳ねたりして進む。
( ^ω^)(まるで現実そのものだお…。
ここって本当にこの子の記憶の中なのかお…?)
僕はさりげなく道の端の方に歩み寄って、段々畑の石組みに指を這わせてみた。
そこに生えていた乾いたコケが、僕の指と石組みの間を茶色いゴミとなってパラパラ落ちる。
指についたコケのかけらが手にかいた汗で水気を取り戻し、たちまち人差し指がぬめってきた。
少年時代に田んぼで遊んだころ、幾度となく体験した感覚がそこにある。
(;^ω^)(臭いは…まあ確かめなくてもいいおね…?)
…本当はこんな事をしなくても、僕は分かっていた。
僕が体験しているこの世界は、本物か、それに限りなく近いものだ。
触覚や視覚だけではない、いまこうして女の子と歩いていて、
自然に耳に入る木のざわめきや鳥の声などにも不自然さはまったく無い。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:39:38.33 ID:fS2fwyX20 [12/38]
( ^ω^)(他人の記憶に入り込んで、景色を眺めながらその人と並んで歩く…。
今更だけど、僕はとんでもないことしてるんだおね…)
感慨にひたっていると、急に女の子が立ち止まった。
どうやら、いつの間にか目的地についていたらしい。
「あれだよ!」と指さした方を見ると、
昔ながらの土壁と藁葺屋根の農家が見えてきた。
( ^ω^)「おっお、いいおうちだおね」
ノハ*゚⊿゚)ノシ「じゃあここでっ!」
( ^ω^)「…お」
女の子はペコッと頭を下げると足早に玄関に駆けていく。
とっぷりと暮れた夕日、その最後のきらめきが女の子の背中に降りかかった。
その一瞬だけ、女の子の髪が赤く燃え上がる。
…その輝きが目に入った瞬間、僕はなかば反射的に彼女を呼び止めていた。
( ^ω^)「なあ!ヒートちゃん!」
ノハ*゚⊿゚)「なんだ!」
( ^ω^)「うまく言えないけど…。
お姉ちゃんの勉強の時間の度に家から出る必要はないお!」
ノハ;゚⊿゚)「え…?」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:41:23.94 ID:fS2fwyX20 [13/38]
(;^ω^)「なんというか…お姉ちゃんだって、本当は君がいないと寂しいはずだお。
僕にも同じぐらいの娘がいるんだ、だから分かるんだお!」
ノハ;゚⊿゚)「でも…」
( ^ω^)「…君たちは子供なんだお。
兄弟姉妹が一緒にいられるのは今だけなんだお」
ノハ;゚⊿゚)「…」
女の子は何も言わず、僕の顔を見つめている。
この年の子供には難しい話だろうか…。
だが、これだけは言っておきたかった。
(;^ω^)「だから一緒にいられるうちに…いつでも言いたいことをいうんだお。
言わなきゃいけないことがあったら、さっきの君みたいに叫んだっていい。
それがたとえ、お姉さんの邪魔になったとしても!」
それだけいうと、僕は女の子の目をじっと見つめた。
彼女の澄んだ瞳の底には、僕には読み取れない複雑な何かが渦巻いている。
(;^ω^)「じゃあ、それだけ…急にすまなかったおね」
ノハ ⊿ )「…」
僕は、そういうと踵を返して山の方へと歩き出した。
なんだか急にこっぱずかしくなってきた。
会ったばかりの幼女に何を言っているんだ僕は…。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:45:13.77 ID:fS2fwyX20 [14/38]
ノパ⊿゚)「…ありがとう」
( ^ω^)「いや、気にしないでくれお!
送ったぐらいのことで…」
ノハ*゚⊿゚)「いや…えっと」
( ^ω^)「?」
その時、海からひゅうと風が吹いた。
12月の冷たい浜風だ。二ヶ月も早く味わうことになろうとは…。
(;^ω^)「う~寒いお…じゃあそろそろ僕もおじさんの家に挨拶してくるお」
ノハ*゚⊿゚)「…わかった、じゃあねおじさん!」
( ^ω^)ノシ「うん…また、だお!」
僕は上着の前をあわせて、小走りに山の上にある実家の方へ向かった。
そんな僕を女の子は玄関の前に立って僕を見送ってくれる。
ノハ*゚⊿゚)「気をつけてねー!」
…でも、僕はなんとなく釈然としなかった。
( ^ω^)(こんなんでよかったのかな…)
時間はかなり過ぎたが、一向に現実に帰れる気配がない。
…いつの間にか、太陽はもう山の向こう側にその姿を隠していた。
その山の彼方に見える空には、早々と夜がやってきている。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:47:59.82 ID:fS2fwyX20 [15/38]
坂を登っていると、湾と山の全景が見渡せた。
隣県の三重県から丹生束県にかけてはありふれたリアス式海岸の風景だ。
( ^ω^)「…?」
今まで気がつかなかったが湾の向こうに見える山の上に、巨大なドーム状の建物があった。
昔はあんなところに、あんなものが建っていたのか。
そう思った僕は、その建物がどういう用途のものか見極めようとしたが、
逆光のせいで何が何だか分からない。
目の錯覚か、表面が大きく波打っているようにも見える。
それに…徐々に大きく…。
( ^ω^)「おお?」
おおきくなる…いや、あれは…。
(;^ω^)(近づいてるのかお?いやそんな…あほな)
そんな、ばかな。
(;゚ω゚)「なんだおあれは!?」
その球体は、山の上に建っていたのではなかった。
いまや山の上を通り越しこちらに目がけて、ゆっくりと飛んできているのがはっきり分かる。
…球体が近くに来るにつれて、奇妙な凹凸のある輪郭が遠くからでも明瞭に浮かび上がってきていた。
僕が見ている間に球体の真下、山の中腹あたりにその一部が崩れて落ちていく。
その塊は、荒れた黒い岩肌にぶつかって粉々になり、その周囲に白く塗装された部品達がばらまかれる。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:49:12.27 ID:fS2fwyX20 [16/38]
僕にはそれがなんであるか分からなかった。
一瞬で見てとるには、あまりに遠くにあったからだ。
しかし目を凝らしてじっと見ていると、大きな赤い烏賊の甲のようなものが、
その岩の下のほうに引っかかっているのが見えた。
それを見つけた僕は確信した。
あれは漁船の船底だ。
でも、なぜ?
なんでそんなものが?
そんなものがなんであそこから落ちてくるんだ?
(;゚ω゚)(やばい…なんかやばいお)
立ちすくむ僕に向かって、球体は今も着実に前進を続けていた。
自転車より気持ち早いくらいの速度だ。今の僕の足では逃げ切れるとは思えない。
いや…そもそもあれは僕のところに向かっているのか?
僕は脇役、主役は…。
しまった。
(;゚ω゚)(まさか…ヒートちゃんのところに…!?)
足の痛みも忘れて半ばまで登りかけた坂を駆け下りる。
なぜ、こんな簡単なことに気がつかなかったのか。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:55:50.50 ID:fS2fwyX20 [17/38]
( ゚ω゚)(これはヒートちゃんの記憶だお…。
家の中にいて、津波の瞬間を見ていないとしたら?
きっと突然、水に飲み込まれたようにしか感じないお。
そして今、あのデカイ塊があらわれた…だとしたら!)
(;゚ω゚)(あれは大きな水の塊だお!!)
そして、それはヒートちゃんの家の真上に落ちるだろう。
彼女の記憶の中の大津波を再現するために。
いまや水塊は美府湾とは名ばかりの小さな入江の、その真ん中にまで飛んできていた。
今はその途方もない巨大さがはっきり分かる。
周囲の山と比べると直径が100メートルほどはあるだろう。
( ゚ω゚)(冗談じゃない、あんなのが落ちてきたらただじゃ済まないお!!)
足が、激しく回転しているのを他人事のようにかんじる。
なんどもつんのめってぶっ倒れそうになる。
(;゚ω゚)(くそぉ!!間に合うかお!?)
走っている間、僕の中ではとりとめのない事を考えることしかできなかった。
(;^ω^)(ヒートちゃんを助けることができても、それに何の意味があるんだお?
そもそも、彼女はもうとっくに死んでるんだお。
ほっといて逃げたほうが…いや…でも僕には…)
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 00:59:13.74 ID:fS2fwyX20 [18/38]
(;^ω^)(ここに来る前に見た泥だらけのワンピースあれを着て死んだ…?)
(;^ω^)(いや、この時期にそんなものを着るもんかお。
それに彼女はさっきまでモンペみたいのものを着ていたじゃないかお。
きっと、きっとヒートちゃんは助かるんだお!僕が助けて見せるお!)
そんな事を考えていた時だった。
(; ω )「ぶべらっ!」
僕はその場でつんのめって、コンクリートに顔をしたたか打ち付けた。
手をついたが間に合わなかった…指が痛い…骨が折れてるかもしれない。
だが、立ち止まっている猶予は無い。水塊はもう眼と鼻の先にまで迫っていた。
曲がり角を一つ過ぎると、ようやく彼女の家が見えてくる。
(;メ^ω^)「だれか!出てきてくれお!」
家の窓に見える人影に向かって叫んだ。
だが、反応はない。
…人影は机に向かって黙々と何かを続けている。
きっと毎日ヒートに耳元で叫ばれてつんぼになっているのだ。
いくら声をかけても埒があかないので、僕は玄関に向かった。
鍵がかかっていたとしても流石に扉をガタガタさせれば気がつくはずだ。
家の正面にまわった僕は、すぐさま玄関のガラス戸に手をかけた。
(;メ^ω^)「ヒートちゃん!僕だお!出てきてくれお!!」
鍵が、かかっている。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:02:18.73 ID:fS2fwyX20 [19/38]
昔はこんな糞田舎にも鍵を掛ける習慣があったのか?
バカな。
(;メ^ω^)「ここを開けてくれお!津波が!」
水塊が無慈悲にも夕日を遮り、影が集落にのしかかる。
とても暗い。もう、なにも見えない。
(;メ゚ω゚)「お…あ…」
水塊がぶるんと揺れ、辺りに水煙がただよう。
水はそのおざなりな球形を、せっかちにも崩し始めていた。
(;メ゚ω゚)「出てこい!早くここから出ろぉ!!」
僕はもう遠慮しなかった。
引き戸を前足で思い切り蹴りつけ、ぶち破ろうとした。
…まるで映画のワンシーンのようだ。
頭の隅でそんな事を考えている自分を僕は信じられなかった。
一発、二発、三発。
蹴りを入れる度にガラス戸が、
滝壷に放り込んだトタン板みたいに耳障りな音を立てる。
(;メ゚ω゚)(割れろ、クソッ!なんで割れないんだお!)
ガラス戸はあくまで強情だった。
体重80キロを超える大の男の蹴りを跳ね返してなお、ヒビ一つ入らない。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:04:40.77 ID:fS2fwyX20 [20/38]
僕は、攻撃をタックルに切り替える。
(;メ゚ω゚)「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
体を繰り返し、繰り返し、戸に叩きつける。
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン。
そのとき不意に肩から力が抜けて行った。
安心からではない…情けないことに、肩が外れたのだ。
(;メ゚ω゚)「うああああああああぁぁ!!」
痛切な痛みだった。
体がこれ以上動くことを拒絶する。
(;メ゚ω゚)(ここまできて負けてたまるかお!)
諦めるわけにはいかない、なんとしてでもここを開けるのだ。
外れた肩とは反対側の肩を、全力を以て戸に叩きつけることにした。
(;メ゚ω゚)「うおおぉおおおおおぉお!!!!」
数歩の助走をつけ、たたらを踏みながらも、僕は引き戸に突進した。
インパクトの瞬間、ごっつい衝撃が肩を中心にして体中に伝わる。
足が勝手に二、三歩下がって…僕は思わず後ろ向きに尻餅をついた。
目がかすみ、目の前の状況さえうまく飲み込めない。
ガラス戸は破れたのか?
(;メ゚ω゚)「お…おお…」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:07:45.99 ID:fS2fwyX20 [21/38]
ガラス戸はビクともしていなかった。
薄汚れたガラスに、僕の汗とも唾ともつかない液体が点々と付着しているのみだ。
(;メ゚ω゚)「……うく…ぐ…」
立ち上がろうとしたそばから、
ヘナヘナと膝から体が崩れ落ちていく。
だめだ、体がうごかない。
(;メ゚ω゚)(まさか…こ、今度は腰が…ぬけたのかお…?)
何度も立ち上がろうと試みたが、すべて不首尾に終わった。
きっと最高に間抜けに見えたことだろう。
仰向けざまにぶっ倒れ、女の子の家の軒下で空を眺める僕の姿は。
(;メ゚ω゚)「ああ…」
空といっても、そこには濁った水の黒さしか無かった。
脱力感が、全身の感覚を濃い霧の向こうへと連れ去っていく。
間に合わなかったのだ。
(;メ^ω^)「……だめかお」
空がグニャリと変形するのを見た僕は、踏み石の一つに頭を預ける。
石の、冷たくそっけない感触がして寒気がした。
ギロチンにかけられた人たちもこんな感じだったのだろうか?
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:12:00.02 ID:fS2fwyX20 [22/38]
また、助けられなかった。
僕は静かに目を閉じると次に来るものを待った。
(;メ-ω-)「…」
ああ、僕はどこかに運び去られていくんだ。
僕は訳も無く、そう思った。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:16:20.61 ID:fS2fwyX20 [23/38]
体がどこかに流されて行く視界など無い
辺りは真っ暗だ水が来たときにはもう六時を過ぎていた無理もない
痛いなんだこれは?尖ったものが体に当たった
木片か何かだろうか体に突き刺さっている
きっと自分はここで死んでしまうのだろう
残してきた親は大丈夫だろうか
でもまああの人ならきっと大丈夫だろう
でもお姉ちゃんは
その時私の頭に何か大きなものが当たって私は意識を失った
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:19:30.53 ID:fS2fwyX20 [24/38]
…波の音がする。
それに合わせてカチャカチャと言う硬質な音が…。
僕は生きてるのか?
(;メ-ω-)「うう…」
目を開けるとそこには空があった。
くものない空だ。綺麗に晴れ上がっている。
どうやら僕は仰向けに横たわっているらしい。
それに気づいた僕は、今まで置かれていた状態を思い出して、
ガバっと体を起こして自分の周囲を見回した。
ノパ⊿゚)「…」
彼女は、僕のすぐとなりに立っていた。
淡い黄色い花柄のワンピースを着て、海の方を向いている。
その視線は斜め上5°ぐらいで固定されていた。
ノパ⊿゚)「こんにちは、インド人のおじさん」
( メ^ω^)「…僕はインド人じゃないお」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:21:49.01 ID:fS2fwyX20 [25/38]
周囲は、すべて泥水に覆われていた。
さっきまでどこでも見えた美府の海岸線は消え、
山も、よく遊んだ浅く澄んだ川も、水底に沈んでいる。
どこまでもどこまでも、泥とも潮ともつかない奇妙な臭いのする茶色い海が広がっていた。
僕たちの立っている屋根だけが、そして用途の分からないネジのように、
居心地が悪そうにポツンと浮かんでいる。
たまに打ち寄せる小さな波が、瓦にぶつかりカタカタと音を立てた。
ただ夕日のみが、海と空の間にあって鮮やかな橙色の光をそこに投げかけている。
(;メ^ω^)「ここはどこなんだお?」
ノパ⊿゚)「…」
女の子はなにも言わなかった。
しかし、とにかく現実に戻ってきてはいないことは分かった。
なんなのだ?ここは…。
この女の子が体験した出来事とは思えない。
津波は町内を引っ掻き回しはしたが、完全に沈めてしまったわけではない。
だがこの状態を見る限り、見渡せる限りのところは泥の海に沈んでしまっている。
(;メ^ω^)「たのむから答えてくれお、ここは…?」
女の子は、黙ったままなにも言わなかった。
まるで、僕がいないかのようにただ海を見ていた。
僕も女の子が眺めている方を見る。
そうして、しばらく茶色い水平線を見ていると虚無的な気分になってきた。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:26:05.31 ID:fS2fwyX20 [26/38]
( メ^ω^)「まるで、僕の人生だおね…ここは」
何もかもなくして、実家に帰って家業を手伝う。
そういうくだらない男の人生。
濁った、ただっぴろい海そのものだ。
単純にそう思った。
ノパ⊿゚)「ちがう」
(;メ^ω^)「え?」
いきなり女の子は口を開いた。
そして、余所事のようにつぶやく。
ノパ⊿゚)「ここは…私の人生。
私の記憶の核、私の終着点なの」
女の子は、茫洋とした口調でそういったきり黙り込んだ。
僕もそれ以上、なにも言わなかった。
ただ黙って、ふたりで海をみていた。
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:31:20.68 ID:fS2fwyX20 [27/38]
ドクオはまだ半信半疑だった。白黒グレーで言えばグレー。
だがたった今、ドクオは自分はからかわれているのだと明確に悟った。
('A`;)「おじさん…これがその…ナニですか」
( ФωФ)「そう…ナニだ」
ロマネスクがドクオを仏間に呼び、座布団に座らせるまでは、
ドクオにも「まさかもしかして」というのがあった。
だが、次の瞬間ロマネスクが仏壇と壁の隙間から、
夢のネズミ王国の菓子缶を引っ張り出した瞬間に期待は幻滅に変じた。
…あの「チョコクランチ」が入っているあの缶だった。
('A`;)(oh...)
( ФωФ)「…」
ちゃぶ台の上におごそかに置かれた缶は、
切れかけた蛍光灯の光を受け、ホコリを被ったように白茶けてみえる。
('A`)(…まあこんなもんか)
ドクオの中の「まさかもしかして」は「HAHAHA!…FUCK」にとって変わられ、
ドクオはそれと同時に笑いがこみ上げてくるのを感じた。
ロマネスクの前でなければドクオは思わずにやついていただろう。
ドクオが笑いを堪えているところに、
ロマネスクがちゃぶ台越しに身を乗り出してきた。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:32:20.83 ID:fS2fwyX20 [28/38]
( ФωФ)「いいかドクオくん」
そういうとロマネスクは囁くような声で言った。
( ФωФ)「ここで見たことはなるべく内密にしてくれ。
そしてあまり深く考えないで欲しい」
('A`;)「…はい」
('A`;)(ふかくかんがえるな?それだけのものがこのチープな缶の中にあるのか?)
ドクオは笑いを通り越して当惑していた。
こんなロマネスクは見たことが無かった。
何かに怯えるような、何かをそこなうのを恐れるような…。
(;ФωФ)「あけるぞ」
一瞬の間をおいて、缶の中身がちゃぶ台の上にあけられた。
(;ФωФ)「…」
(;'A`)「…」
ドクオは息を呑んだ。
鈴、さびた鉄釘、ボロボロの黒い棒、古い百円硬貨。
そして小さなフォールディングナイフが一本と、茶色いゴミのようなもの。
ガラクタばかりだった。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:35:10.28 ID:fS2fwyX20 [29/38]
居心地の悪い沈黙が仏間にのしかかる。
それからしばらくして鈴が転がってチリンと間抜けな音を立てた。
(;'A`)(釘とナイフと鈴、あと百円はまあ何かは分かる。
だがあの棒と茶色いフンみたいなのは完全な…)
( ФωФ)「きっと君は今思っているだろうな、
『なんだよガラクタとゴミだけじゃないか』と」
ロマネスクがのんびりとした声で、沈黙を破る。
('A`;)「う…」
図星を突かれて思わずドクオの目が泳ぐ。
そこにロマネスクは追い打ちをかけた。
( ФωФ)「じゃあ試しにその釘を持ってみなさい」
( ФωФ)「…面白いものが見られるぞ」
('A`;)「え?ええ…」
ドクオは言われるがまま、鉄釘を手の平にのせ軽く握った。
鉄釘はひどく錆びていた。手の中で転がしていると、
あっという間に赤錆で手は真っ茶色になる。
ただそれだけだった。
('A`)(…なにも見えないじゃないか)
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:38:39.21 ID:fS2fwyX20 [30/38]
ぐるりと部屋を見渡しても、まさかと思って上を見てみても、
なにも変化がなかった。
錆の臭いが、ムッと鼻をつくだけだ。
('A`)「おじさん、これはなんかの…」
「ね~え?あなた~?どこにいるの~?」
その時だった、廊下から女性の声がした。
「あなた」を探す女性の声は玄関の方から足音とともに近づいてくる。
('A`)(…?)
なんだなんだ、親戚でも来たのか?
ドクオはそう思ったがすぐ思い直した。
誰か来るなら、昨日のうちにロマネスクが何か言うはずだ。
そのうち開いていた食堂側の引き戸から、その人が入ってきた。
「あなた、食器が出しっぱなしよ?食べたらお茶碗は水に漬けなきゃ…」
(;'A`)「え…」
ドクオが久しぶりに見る顔だった。
その顔を最後に見たのは、大きな木箱についた覗き窓を通してだった。
「あら…」
うれしそうな顔をして、彼女はロマネスクの後ろに腰を下ろした。
周囲の人達が今まで散々見てきたように。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/09(土) 01:41:12.51 ID:fS2fwyX20 [31/38]
J( 'ー`)し「どっくん来てたのね~お久しぶり。元気だった?」
(;'A`)「ええ…げ、元気です」
初めて幽霊を目にしたドクオが最初に口にしたのは、
気の抜けた普通の挨拶だった。
(;ФωФ)「おいおまえ、ドクオくんはこういうの初めてだから」
J( 'ー`)し「ああ…ごめんなさいねぇ、びっくりした?」
(;'A`)「ええ、まあ…」
J( 'ー`)し「こんな状態だからお茶も出せないけど…。
久しぶりにゆっくり話しましょうよ。
いいでしょう?あなた」
( ФωФ)「ん」
(;'A`)「あー…」
おばさん、元気そうだな。
血色はすこぶるいいし、前にあった時より太ってる。
そうおもったドクオは盛大に頭を振って思い直した。
彼女は数年前にすでに肝臓がんで亡くなっているのだ。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:46:49.05 ID:fS2fwyX20 [32/38]
(;'A`)「どういう事なんですか…?」
J( 'ー`)し「どうもこうもねぇ…。
うまく説明できないけど幽霊っぽいわね。
ほんと最初は自分でもびっくりしたわよ」
そう言うと彼女は手を前で垂らしてみせた。
笑えない冗談だった。
J( 'ー`)し「ひとつ言えるのは、死んでからも私はずっとこの家にいたし、
もうしばらくはこうしてここにいるってことね。
これも、さっきこの人があなたに話した特別な場所のおかげね」
そういうと、彼女は前に落ちた髪を指先で耳の後ろに戻す。
その彼女を見て、ロマネスクは小さく微笑んだ。
( ФωФ)「これでドクオ君の前で、
お前に話しかけても不審がられん」
そういった深く頷いたロマネスクに補足するように、ドクオに彼女はささやいた。
J( 'ー`)し「私が見えない、聞こえない人がいる時、
特に二人で料理してる時ってほんとに一苦労なの。
このまえホライゾンが台所にいたときもそうなんだけど、
この人ったら私が指で2ってサインだしたら、
小さじ二杯入れるところを大さじ二杯も入れちゃって…」
(;ФωФ)「あんまりそれを言わんでくれ」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:48:13.06 ID:fS2fwyX20 [33/38]
(;'A`)「でも、おじさんしか聞こえないんでしょ?
だったら口で言えば…」
J(*'ー`)し「だめなのよ~。
この人私が話しかけたらどうしても口で返事しちゃうの」
(;ФωФ)「だって、しょうがないだろう!
だいたい私は何か言われて返事しない奴が大嫌いなんだよ!」
(;'∀`)「ははは…」
ドクオはあまりのことに力なく笑うしかなかった。
ちゃぶ台のうえに目を落とすと、
否応なく先程までゴミだと思っていたものが目に入る。
まだこんなのがいくつもあるというのだろうか。
まったくとんでもないことになった。
そんな気の利かないセリフが、ドクオの中を右往左往していた。
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/09(土) 01:49:20.53 ID:fS2fwyX20 [34/38]
第五話 終わり
- 2010年11月09日 00:32 |
- 自作品まとめ
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( ^ω^)ブーンと円のようです
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:09:11.15 ID:50t3h0GW0
「ブーンと円のようです」
第三話「夢の門」
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:13:08.49 ID:50t3h0GW0
内藤は座っていたソファを離れて北側の廊下の窓の方へと近寄った。
いま、内藤のいるロッジは南北に長く、中央にあるホールを中心に廊下がやはり南北に伸びている。
廊下の西側の壁には扉が並び、東側はガラスサッシがならんでいて、そのまま外のデッキに出られるようになっている。
( ^ω^)「……。」
外には、月明かりに照らされてぼんやりとセイタカアワダチソウの姿が浮かび上がっていた。
この季節多くの人にアレルギーを起こさせる、その黄色い花も貧弱な光の下では薄汚れた埃の塊のように見えた。
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:16:35.94 ID:50t3h0GW0
内藤はしばらく、なにか変化するのではないかと期待して窓の外に目を凝らしていたが、成果はなにもなかった。
それどころか猿や鹿、狐、犬の鳴き声もなし、カエルも鳴かなければ、虫の音さえない。
ただ、ガラスを挟んで外には根源的な静寂のみがあった。
人間が生まれる前、無から有に意識のチャンネルが切り替わる直前に耳にする音だ。
しばらくそうして窓の近くに立って外を見ていると、内藤は尿意を催しそうな気がした。
こんなところで、尿意など催したくはなかった。
第一、内藤はここのトイレの位置さえ知らない。
たとえトイレの位置を知っていても、内藤はそこで用たしなどしなかっただろう。
トイレに閉じ込められたら、こうして歩きまわることすら出来なくなってしまう。
内藤はとっととホールに戻ることにした。
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:25:42.53 ID:50t3h0GW0
相変わらず、ドクオとは連絡が取れなかった。約束の時間から、もう二時間も経っている。
その後も内藤は、ドクオの携帯電話に掛け続け、きっちり十回留守番電話サービスセンターの女性を呼び出した。
いらいらしてきた内藤はそのまま携帯電話をポケットにねじ込み、ソファの背にもたれてぐっ、と伸びをした。
( ^ω^)「ん~~~~~~~~~っ!」
慌てても仕方がないこと、慌てれば慌てるほどに解決は遠くなる。急がば回れだ。
内藤はもう一度携帯を取り出して、今度は自宅にかけてみることにした。
ロマネスクに余計な心配をかけたくなかったので今まで避けていたが、もう午後九時になっている。
可能性は低いが、ドクオになにかあったのかもしれない。
腰がだいぶ悪いとはいえロマネスクがいるのだから、ドクオが来たかどうかぐらいは確認できるはずだ。
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:30:20.50 ID:50t3h0GW0
5回のコールでロマネスクは電話に出た、もうすでに床に入っていたようだった。
妙だな、と内藤は思う、父はいつもなら十時までは起きているはずなんだけど。
( ФωФ)「ホライゾン…今何時だと思ってるんだ…」
(;^ω^)「いや、トーチャンそれどころじゃないんだお!
山の中から出れなくなっちゃってて…。
ドクオは来てないかお?来てくれるように頼んだんだけど…」
( ФωФ)「ドクオくん?ああ、おれの隣で寝てるよ」
( ゚ω゚)「」
( ФωФ)「いやいや、そういう意味でなくて。
まぁとにかく、今日はもう遅いからドクオくんには泊まってってもらう。
お前の方もなんていうか、がんばれよ」
(;゚ω゚)「え…、僕はどうするんだお」
( ФωФ)「だから頑張れって、あ、寝る所か?
どっかにベッドか布団のある部屋があるからそこで寝るといい」
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:32:36.17 ID:50t3h0GW0
(;゚ω゚)「えっ!僕ここに泊るのかお?
っていうかなんで僕がログハウスにいるのを知ってるんだお!?」
( ФωФ)「老人の勘じゃよ、まあそんなに悪いところじゃないぞ?そこは。
三食飯つき、帰りには土産まで持たせてくれる」
(;゚ω゚)「なんでもいいお!とにかくドクオをはやくここに寄こしてくれお!」
( ФωФ)「無理だ」
とロマネスクはきっぱりと言った。
そして内藤が疑問をさしはさむ合間を与えずになぜか突然、電話口で怒鳴った。
(#ФωФ)「ホライゾン、お前で一人で何とかするしかないのだ!
なんとかできなきゃ、一生そこからは出られん!
とにかくお前一人の力でそこからでてこい!わかったな!」
そして、唐突に電話は切られた。
そのあとも、なんども自宅にかけなおしたがロマネスクが電話に出ることはなかった。
父は何を知っているのか、なぜ自分一人で解決しなくてはいけないのか。
内藤の抱いた数々の疑問は、風の日の雲のように、ちぎれてどこまでもどこまでも吹き流されていった。
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:42:01.80 ID:50t3h0GW0
(;-ω-)「はぁ~もう何が何だか…どいつもこいつもおかしくなったのかお…?」
それからしばらくは内藤は動く気もせず、正面に見えているサイドボードを眺めていた。
きれいに掃除されていたし、サイドボード自体の作りも悪くなかった。
そのガラス扉のなかには内藤の知らない銘柄の、古めかしいデザインのウイスキーボトルが並べられている。
そこだけ見ればそのあたりの小金持ちの家にあるサイドボードと何ら変わりない。
いろいろな物がその上に無秩序に置いてある、というほかは
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:45:10.07 ID:50t3h0GW0
ガラス製のブイ…花瓶…蓄音器…状差し…何かの角か骨でできた縦笛…黒光りするタイプライター…
とにかく雑多に、色々な物があまり大きくもないサイドボードの天板の上に散乱していた。
よく見ると状差しは最近の物だし、花瓶もガラス張り合わせの安物のようだった。
蓄音器はプレーヤーとも言えないような原始的な物だったし、縦笛は相当使い込まれているのか、手垢を吸って黄色く変色していた。
そんなガラクタの中で、内藤の興味を惹いたのはタイプライターだった。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:47:31.14 ID:50t3h0GW0
( ^ω^)「…本物かお?」
内藤はサイドボードに近付いてタイプライターをよく見て見ることにした。
そしてそれは、用紙までちゃんとついているところからして、たしかに本物のようだった。
試しにwキーを押してみると、キーは案外重く、押し切ると若干かすれていたが「w」がしっかり印字された。
(*^ω^)「すげえお、なんか感動するおね…」
(*^ω^)「うはwwwwセーブポイントktkrwwww」
おもちゃを得た内藤は完全に調子にのっていた。
この男、子供のころから面白そうなものを見つけると片っぱしからいじる癖があった。
小学校に上がる前にはよく警報器などを鳴らしまくって、近所のデパートからは出入り禁止までくらった。
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:51:55.01 ID:50t3h0GW0
(*^ω^)「超連打だお!」
ガガガガガガガ チーン
(;^ω^)「あれっ、これ以上打てないお…」
「ほら、そこで改行しないと、手前のレバーを引いてごらん」
(*^ω^)「あ、どうもだお!…っていうか引くってどうすれば」
(;^ω^)「って…え…」
いつのまにか内藤の後ろには、女性が一人立っていた。
内藤はまったくその接近に気がつかなかった。
女はなぜか紺のツナギを着ていた。
lw´‐ _‐ノv 「いやー、いささか古いタイプのものだからね、操作が込み入ってるんだ。
…それはもともとある有名作家の持ち物だったものなんだ」
lw´‐ _‐ノv「もっとも、彼は鉛筆派だったからほとんど使われていなかったんだけどね」
lw´‐ _‐ノv「あなたは鉛筆派?それともお米派?」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:55:31.08 ID:50t3h0GW0
女がなにか言っている間、内藤は不自然でない程度に後ずさりをしていた。
見たところ女は丸腰だったが、何があるか分からない。
突然、手刀で腹を突き刺されるなんてことはないだろうが、こんなところだ、用心に越したことはない。
(;^ω^)「すみませんお、勝手に触ったりして…」
lw´‐ _‐ノv「あぁ?別に私はかまわないよ、それは私のものじゃない」
(;^ω^)「ここの方ではないんですかお?」
lw´‐ _‐ノv「確かにここに住んではいる。でもこの土地を所有しているわけでもないし
誰かに許可を得て、ここにいるわけでもない」
lw´‐ _‐ノv「そういう点では君と同じだ。安心してくれたまえ」
ここまで聞いて内藤は若干、警戒を解いた。
とりあえず、事情を話しても大丈夫だろう。
この人、もしかするとここからの脱出方法をしってるかもしれないし。
そう思ったのが運のつきだった。
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:58:25.94 ID:50t3h0GW0
(;^ω^)「黙って上がり込んでおいて、しかもいきなりでまったく申し訳ないんですが
ちょっとお伺いしたいことがありますお…どうもこの山からでられなk」
lw´‐ _‐ノv「あーわかってるわかってる、もーぜんっぶわかってるから。
とにかく、わたしについてきなよ
…実を言うと、今来たのも君を迎えにきたんだ。あんまり遅いもんでね」
(;^ω^)「ほぇ?」
内藤は耳を疑った。
わかっている…そして、迎えにきた?
内藤はすぐこの場から逃げなかったことを後悔した。
女は、どうやらこのロッジに関わりがあるようだ。
どうやら、自分の判断力はかなりまずいレベルまで落ちてきているらしい、と内藤は思った。
じゃなきゃ、普通こんな怪しげな現れ方をする人間を、たとえ一時的にでも信用しようとしたりはしない。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:00:27.12 ID:fyez78HA0
lw´‐ _‐ノv「ほえ、とか今時の萌キャラでもいわねぇよ
いいからわたしと一緒に納屋まで来なさい」
といって、女は内藤の手を掴んだ。
有無をいわせないしっかりとしたグリップだった。
なにか、スポーツでもしていたのかもしれない、と内藤は想像したが何かしっくりこなかった。
もしかすると、女がツナギを着ていたせいかもしれない。
(;^ω^)「え、ちょ…」
lw´‐ _‐ノv「…いいから照れなくても」
(;^ω^)「そうじゃなくて!
あ~もういったい何なんだお…」
そのまま内藤は、保健所に連れてこられた雑種の犬のように、無遠慮に外へと引きずられていった。
質問する暇さえなかった。
今日は、きっと質問に答えてもらえない日なのだと内藤は思うことにした。
きっとみんなが示し合わせて、僕の話を遮り、話の腰をへし折ることにしたのだ。
こうやって、自分の中で物事を歪曲して済ましてしまうのは、まったくストレスのたまることだった。
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:05:28.82 ID:fyez78HA0
そして、ロッジに入ったときと同様、内藤は自分の腰のあたりまで伸びた雑草を踏みながら納屋まで歩いた。
だが、真っ暗だったせいで非常に歩きにくかったのと、
女がたびたび立ち止まろうとする内藤を無理に引きずったせいで何度か内藤は転びかけた。
そうしながらも、なんとか納屋の扉の前までやってきた。
( ^ω^)「勘弁してくれお…」
lw´‐ _‐ノv「勘弁してくれ?本当につらいのはここからだよ…」
(;^ω^)「へい?」
lw´‐ _‐ノv「いいからはいって、さっさとしないと蚊にくわれるよ」
そう言いながら、女は内藤を納屋のほうに押しやった。
内藤には、もうなにがなんだかわからなくなっていた。
なぜ、僕はこんな山の中で女と歩いているのだろうか?
なぜ、夜の八時にすきっ腹をかかえて、よくわからない納屋に押し込まれなければならないのか?
だが、内藤は質問しなかった。どうせ答えなど帰ってこない。
内藤は黙って納屋の中に入った。
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:10:18.92 ID:fyez78HA0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
納屋のなかには、芝刈り機やクワ、鎌などの農具がおかれていた。
床はむき出しの地面だが、固く引き締まっているせいか、外にあれだけ生えていた雑草の影も形もない。
そしていくつか部屋の中に並んでいる粗末な棚には、燃料か、溶剤の一斗缶がぎっしり詰まっている。
…特に何ということはないごく普通の納屋だった。
だが、ここはただの納屋ではないはずだと内藤は思った。
ここに、あの女を迎えに来させた人がいるのだろう。
じゃなければ、どうしてあの女は僕をこんな所に引っ張ってきたんだ?
いろいろと想像しようとしたが、内藤は頭が痛くなりそうだったのでやめた。
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:11:12.63 ID:fyez78HA0
棚の陰から、ぬうっと一人の老人が現れたのはそのすぐ後だった。
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:14:37.61 ID:fyez78HA0
/ ,' 3「こんばんは、内藤ホライゾンさん、お待ちしておりました」
老人は車イスに乗って内藤の前にすすみ、かちっと正確に、内藤の正面を向いた。
老人が着ているバスローブから、なんとなく病的な感じがする痩せた胸と白い胸毛が見えていた。
内藤にはそれがたまらなく嫌だった、どうしてだかは説明できない。
人間には、何だかよくわからないが嫌な物があるものだ。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:18:48.02 ID:fyez78HA0
( ^ω^)「なんで僕の名前をしってるんだお?」
/ ,' 3 「知っていますとも、あなたは『円の紡ぎ手』に選ばれたのですからね
知らないわけにはいきません…」
_, ,_
(;^ω^)「はあ?」
内藤はだんだん腹が立ってきた。
なにもかもよく分からない中で今まで耐えてきたが、
また新しく出てきた意味不明な単語を『』まで使って強調された。
もうそろそろ怒ってもいい頃合いだった。
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:22:48.26 ID:fyez78HA0
(#^ω^)「いい加減にしてほしいお、さっきからなんなんだお!
熊だの、結界だの、変な小道具とかおかしな専門用語で、僕をどうにかしようとしてもそうはいかないお!
お前らの言い分は聞かない!さっさとここから帰してくれお!
いますぐ通報することだって出来るお。足を折って動けなくなったとでもいえばいつだって人が来るお!
しかもそれで国有林にこんなでっかい違法建築を建てているのがバレれば、間をおかずここは取り壊されるお!
それがいやなら…」
そこで老人が突然口をはさんだ。
/ ,' 3 「…あなたはここと外の区別がまだつかないのですか?」
(#^ω^)「…?」
/ ,' 3 「あなたのいう『結界』が現在の技術でつくれますか?
熊を完璧に手なずけて、あなたの番をさせられるような人間がここにいるように見えますか?
そして本当に…」
老人は死にかけの鳥のように背をそらせて息継ぎをした。
きっと長台詞に慣れていないのだ。
ちかちかと白熱灯が点滅し、そんな老人に奇妙な陰影をあたえる。
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:28:55.58 ID:fyez78HA0
/ ,' 3 「呼べば人がここに来る。そうお思いですか?」
(#^ω^)「来ないとでも?」
/ ,' 3 「来ませんとも」
(#^ω^)「でたらめを、いうなお」
/ ,' 3 「でたらめではありません、ここでは外で通用しているルールは通用しません」
(#^ω^)「じゃあこの素晴らしい『内』っていうのはあれかお?
その中でなにしたって平気ってわけかお?」
/ ,' 3 「『内』ではなく『円』です」
と老人は訂正した。
( ^ω^)「はぁ…そうですか…」
内藤はこの気の抜けたしゃべり方をする老人のせいで、がっくりと疲れていた。
気に障る訂正に反応する気力さえ、もうなかった。
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:35:06.83 ID:fyez78HA0
( ^ω^)「そんなことはどうでもいいお。
どうしたらここから解放してくれるんだお?」
/ ,' 3 「よくぞ聞いて下さった。
先ほどまで多少、本題からずれておったのをよく修正してくださった。」
( ^ω^)「いいからはなしてくださいお」
/ ,' 3 「もちろんいいですとも…まずはおとなしくここで円を紡ぐことです。
まずはこちらの指示に従っていただき、少しの間簡単な作業を行ってもらいます。
そののちにあなたはしかるべき手順を踏んで、ここから出る」
(#^ω^)「だから、僕にはその言葉の意味がまったく理解できないんだお。
円って言うのはここのことかお?それを紡ぐとはどういうことだお?
もっと筋道立てて、物事をはなしてくれお」
/ ,' 3 「私の言う円とは、人間の記憶です。
ここも円形をしていますが、それはここが『基本的に円としての性質をもつ』人間の記憶にあわせてのことです。
そして円を紡ぐとは、人の記憶と記憶を撚(よ)り合わせること…」
(;^ω^)「はぁ?」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:43:26.11 ID:fyez78HA0
/ ,' 3 「…生き物の記憶というのは撚り合わせれば、自然に一つの循環を成すのです。
親と子…愛し合う恋人同士…人と人とが心通わせたとき、そこに循環が生まれます。
そうした循環が、よりおおきな循環に取り込まれてもっと大きな循環の輪ができる。
親子の循環が家庭の循環に取り込まれる、そして家庭の循環が地域社会のもつ循環作用に呑まれる…。
そしてゆくゆくは、人々の記憶は個人個人の間にありながらも世界の循環に巻き込まれてゆくのですよ…」
/ ,' 3 「…あるデザインやメロディを、はじめて見たり聞いたりするのになんだか懐かしい…。
これまでの人生でそんなことがあったでしょう?そうしたデジャヴュは、先ほどの記憶の循環がもたらすものなのです。
このデジャヴュは今のデザインやメロディの例だけでなく、人間の知的活動のすべてに影響をあたえておるのです」
/ ,' 3 「 そういう意味ではこの世は、巨大な記憶の集合体であり
その記憶の一つ一つの震えが生む力がこの世界を動かしていると言えましょう。
だがしかし、継承されない記憶、失われてしまったものは記憶の循環に加わることができません。
だれとも心通わすことなく、孤独のうちに消えていった人の記憶…。
非業の最期を遂げた人…母の胎の中で失われた命の記憶…。
その全てが中空に消えるとしたら、この世はなんと残酷な世界なのでしょうか…」
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:51:57.35 ID:fyez78HA0
/ ,' 3 「ここは、そうした孤独な記憶が集まるところ…。
つまり、記憶の循環の輪に生じたよどみなのです…」
/ ,' 3 「そしてあなたには、ここに集う記憶の一部を継承してもらいます。
ただ継承するだけでなく、親和性のある記憶同士をつなぎ合わせてもらう。
そのようにして、ただの完結した円でしかない記憶をあなたの中で循環させるのです。
そうして本来失われた記憶が、あなたのという生きている人間の中に巡ることで
そして、あなたのいる世界の循環に加わることで、消えていった者たちは本当の意味で救われるのです。
あらゆるごまかしや嘘と、離れたところで…」
(;^ω^)「いったい何の話をしてるんだお…あんたはデムパだお…いったい…なにを…」
内藤はこの老人に完全に気圧されていた。
老人はいつのまにか内藤の目を、ぐっとみすえている。
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:58:29.77 ID:fyez78HA0
/ ;' 3 「ではもう一度言います。
あなたには、このよどみを少しでも解消するという役割があたえられた。
あなたにはこれから少しの間ここで働いてもらいます。」
(;^ω^)「…。」
/ ,' 3 「まあ、ここで四の五のいっておっても仕方がない。
説明はこのぐらいにして、お食事にしましょうか。
あとは明日に…」
(;^ω^)「ちょっと待てお」
内藤は慌てていた。
何だかよくわからないうちに妙な宗教に入信させられようとしている。
まあ食事でもしようじゃないか、と言ってどこかに自分を連れて行こうとする。
これは宗教の勧誘係が、本格的にこちらをあちら側に引き込もうとするとき使う常套手段だ。
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:03:09.15 ID:fyez78HA0
(;^ω^)「いまのが全部ほんとだとして、なにか具体的に何か僕にそれを証明できるものはあるのかお?」
/ ,' 3 「ほう?」
まったくの苦し紛れだった。相手が何を言っているのか全く分からなかったが
とにかく話を引き伸ばすことで、内藤は至急、態勢を整えなくてはならなかった。
正直、さっきの電波ゆんゆんの、一方的なまくし立てのせいで内藤の調子は完全に狂ってしまった。
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:07:18.26 ID:fyez78HA0
/ ,' 3 「信じておられないか…。まあ無理もないが」
老人は内藤の言葉を聞き、無表情にそういった。
内藤は不穏な印象を抱いて身を固めたがその時すでに老人は動いていた。
/ 。゚ 3 「…では、あなたに証拠をお目にかけよう!」
と老人はいうが早いか、老人は突然立ち上がって内藤に駆け寄ると
内藤の右の眼窩に中指をつきさした。
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:14:51.68 ID:fyez78HA0
回避どころか、動くこともできなかった。
なにが起こったか分析しようとする内藤の脳に、老人の指先が遠慮なく侵入した。
内藤はグラリと周囲の様子が揺れるのを感じた。そしてしばらくして内藤を奇妙な脱力感が包んだ。
内藤は、その感覚がが小学生のころ体験した失神によく似ていることに気がついた。
そうだ、僕は気絶するのだ。
僕は
気絶気絶き絶気ぜき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ
気絶気絶き絶気ぜき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ
気絶気絶き絶気ぜき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ
気絶気絶き絶気ぜき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:17:55.95 ID:fyez78HA0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕はいつしか、自宅の前にいる。
今日は妻と娘が「どうしても早く帰ってきてほしい」というので、今日はさっさと仕事を終わらせて夕方五時に店をでたのだ。
店には優秀な社員の人もいたし、オーナーの自分が離れても問題はないはずだった。
家の前に立ったが、中は真っ暗で物音一つしない、内心で娘の出迎えを期待していた僕は心底がっかりした。
娘は幼稚園からまだ帰って来ていないようだった。妻もこの時間だと、そのお迎えに行ったのだろう。
僕はこういう、誰もいない家に帰るのは嫌いだ。
小さなころから、今日あったことを帰ってきてすぐ家族に報告しないと気が済まない性格なのだ。
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:21:29.86 ID:fyez78HA0
( 'ω`)「タダイマダオ…」
郷里で役場勤めをしている友人のように、力の抜けた顔をして家に入った。
この顔をすると娘はとても楽しそうに笑う。というか笑い転げる。
( ^ω^)「おや…?」
夏の盛りだったが、誰もいないはずの家は妙に涼しかった。
まあ、ついさっき出て行ったのだろう。
とにかくほてった体にはありがたいことだった。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:24:11.70 ID:fyez78HA0
リビングに入った僕は、なにやら破裂音がしたので反射的に目を閉じた。
目をあけると色とりどりの紙ひもが僕の顔にかかっていた。
そしてその向こうには、妻が娘と二人でクラッカーを手にして立っていた。
ξ*゚⊿゚)ξ「おかえりなさい、パパ!おたんじょうびおめでとう!」ζ(゚ー゚*ζ
サプライズ、まったくのサプライズだった。
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:28:20.31 ID:fyez78HA0
( ^ω^)
ζ(゚ー゚;ζ「あれ、パパ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、固まらないでよ!
嬉しくないの?」
( ^ω^)プルプル
ξ゚⊿゚)ξ「プルプルじゃなくて…ほら、なんとかいいなさいよ」
と、妻が僕にチラッと目くばせした。
デレになんとか言ってやれというのだろう。
でも何と言えっていうのだ、こんなにびっくりすると言葉なんて出ない。
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:31:45.36 ID:fyez78HA0
そんな金縛りにあったような様子の僕を、デレは不安そうに見つめている。
ζ(゚ー゚;ζ「パパ、ごめんねびっくりした?」
( ^ω^)
( ^ω^)「」
( ;ω;)ブワッ
ビクッ∑ζ(゚ー゚;ζ
( ;ω;)「そんなことないお!めちゃくちゃ嬉しいお!」
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:35:12.67 ID:fyez78HA0
僕は床に膝をついてデレを抱きしめた。
鼻腔にデレの髪の香りが入ってくる。
親になったものしか知らない、甘く、独特な子供の香りだ。
僕はその香りがひどく懐かしかった。
なんでだろう?僕は家族で風呂に入る時に毎日その匂いを嗅いでいるのに。
僕はそのままデレの手にひかれてダイニングテーブルの席に着いた。
テーブルの上にはあたたかい料理が並んでいる。
どれも僕の好物ばかりだった…グラタンなんて手のかかるものを、料理下手のツンがよく作れたものだ。
きっと、昼に仕事から帰ってきてからずっと準備を続けていたに違いない。
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:42:51.89 ID:fyez78HA0
それからの食事は間違いなく僕の人生最良のものだった。
食卓には笑顔があふれていた。
最近はいそがしいこともあってあまり一緒に食事をしていなかったから、デレも楽しそうだ。
デレは僕が新しいものに箸をつけるたびにおいしいかどうか聞いて、
僕がおいしいと答えると、それをいちいち隣に座っているいる母親に報告した。
いつもの僕なら、ちょっとうるさく思ったかもしれないが、今日はまったくそう思わなかった。
デレの仕草の一つ一つが愛らしく、愛しかった。
僕とツンが苦労して買った公団住宅のダイニングの物は、すべてがバラ色に輝いていた。
そして、あらかたの皿を空にしてぼーっとしているとツンはケーキの箱を持ってきた。
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:43:51.46 ID:fyez78HA0
ξ゚ー゚)ξ「さーて、食事はすませたな?神様にお祈りは?今からケーキを出すけど心の準備はOK?」
(*^ω^)「「 O K (だお)!」」ζ(゚ー゚*ζ
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:47:10.92 ID:fyez78HA0
そして、手回しよくツンがロウソクを立てて火をつける。
電気が消されると、ダイニングに集まった家族の顔だけがぼんやりと浮かび上がった。
間違いなく、僕は人生のなかでも最高の瞬間を迎えている。
それなのに、僕は違和感を感じていた。
なんだか、変な気分だ…橙色に染まった部屋…そこにいる家族…
どこかでみたような…?
ξ゚ー゚)ξ「どうしたの?また固まっちゃって?」
( ^ω^)「いや…」
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:51:05.89 ID:fyez78HA0
そのとき、ちょうちょが一匹ケーキの上に飛んできた。
僕が驚いてつまみあげると手の中で蝶は崩れた。
それはちょうちょではなかった。
一片の灰だった。
( ゚ω゚)「……!」
僕がぱっと手から灰を払うと、それが合図であったかのように
上の方からたくさんの灰がケーキと僕の上に降り注いだ。
ロウソクの火は、もう僕の目の前で燃えてはいなかった。
公団の六階にある自分の家ごと、…家族もろともに燃えていた。
いつのまにか僕はそれを遠くから眺めていた。
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:54:52.56 ID:fyez78HA0
( ゚ω゚)「あ…あああああ…」
僕はすべてを思い出した。
これは、僕の26歳の誕生日から一週間後の記憶だ。
自宅の公団住宅の一室が焼け、妻と娘が死んだ。後には何も残らなかった。
娘のデレがロウソクをいたずらして、その火がカーペットに燃え移ったのだ。
僕の誕生日にロウソクをつけていた母親にあこがれたのかもしれない。
僕は、燃え上がる自分の部屋に集まった野次馬の人垣の後ろで、その様子をつぶさにみていた。
正面に見える公団のベランダに追い詰められた妻子。
植えられていた木々のせいではしご車が入ることができず、そこで煙を吸い込んで窒息死した娘。
そして、熱さに耐えかねて飛び降りた妻。
目をそらすことは、できなかった。
( ゚ω゚)「やめてくれ…もう……耐えられそうにない…
だれが、いったいこんなことを…」
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:59:48.02 ID:fyez78HA0
こんなことを、おもいだしたくなどなかった。
この僕が数年をかけて、忘れようとしてきた忌まわしい記憶だった。
なのに、なぜこの情景が自分の前に生々しく展開されているのか…。
それに思いあたった僕は、うすぐらいあの納屋でのことをはっきりと思い出した。
このことをきっかけに、それまでぼんやりしていた自分の記憶の輪郭が徐々につかめるようになってきた。
そしてまずよみがえってきた感情は、例えようのない激しい怒りだった。
自分をこんな目にあわせているのは、間違いなくあの老人であると、僕は確信した。
そしてきっと奴は今、物陰からこちらの様子を見てせせら笑っているに違いない。
あの生意気な若造をやっつけてやった。ざまあみろ、と
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 02:00:49.01 ID:fyez78HA0
ややあって、夜空を赤く照らす炎を背に僕は天に叫んだ。
(#゚ω゚)「なぜだお!なんでこんなことをするんだお!
僕がこんなことをされて協力する気になるとでも思ってるのかお!」
(#゚ω゚)「僕があの人たちをどれほど愛していたのかお前に分かるかお!
記憶だとかなんだとかはどうでもいいお!
もうこれ以上、思い出させないでくれお!
この苦しみが、この悲しみがお前にわかるかお!
少しでもわかるなら……………」
( ω) 「これ以上は…」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 02:04:02.64 ID:fyez78HA0
そのあとは、僕は自分で何を言っているのか分からなかった。
たぶん、訳のわからないことを喚き散らしていたと思う。
いつのまにか、僕はその場に崩れ落ちて体を丸め、そのままただあふれるまま涙を流していた。
妻と子を失った、その日そのままに。
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 02:06:54.46 ID:fyez78HA0
第三話 おわり
- 2010年11月09日 00:27 |
- 自作品まとめ
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( ^ω^)ブーンと円のようです
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:09:11.15 ID:50t3h0GW0
「ブーンと円のようです」
第三話「夢の門」
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:13:08.49 ID:50t3h0GW0
内藤は座っていたソファを離れて北側の廊下の窓の方へと近寄った。
いま、内藤のいるロッジは南北に長く、中央にあるホールを中心に廊下がやはり南北に伸びている。
廊下の西側の壁には扉が並び、東側はガラスサッシがならんでいて、そのまま外のデッキに出られるようになっている。
( ^ω^)「……。」
外には、月明かりに照らされてぼんやりとセイタカアワダチソウの姿が浮かび上がっていた。
この季節多くの人にアレルギーを起こさせる、その黄色い花も貧弱な光の下では薄汚れた埃の塊のように見えた。
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:16:35.94 ID:50t3h0GW0
内藤はしばらく、なにか変化するのではないかと期待して窓の外に目を凝らしていたが、成果はなにもなかった。
それどころか猿や鹿、狐、犬の鳴き声もなし、カエルも鳴かなければ、虫の音さえない。
ただ、ガラスを挟んで外には根源的な静寂のみがあった。
人間が生まれる前、無から有に意識のチャンネルが切り替わる直前に耳にする音だ。
しばらくそうして窓の近くに立って外を見ていると、内藤は尿意を催しそうな気がした。
こんなところで、尿意など催したくはなかった。
第一、内藤はここのトイレの位置さえ知らない。
たとえトイレの位置を知っていても、内藤はそこで用たしなどしなかっただろう。
トイレに閉じ込められたら、こうして歩きまわることすら出来なくなってしまう。
内藤はとっととホールに戻ることにした。
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:25:42.53 ID:50t3h0GW0
相変わらず、ドクオとは連絡が取れなかった。約束の時間から、もう二時間も経っている。
その後も内藤は、ドクオの携帯電話に掛け続け、きっちり十回留守番電話サービスセンターの女性を呼び出した。
いらいらしてきた内藤はそのまま携帯電話をポケットにねじ込み、ソファの背にもたれてぐっ、と伸びをした。
( ^ω^)「ん~~~~~~~~~っ!」
慌てても仕方がないこと、慌てれば慌てるほどに解決は遠くなる。急がば回れだ。
内藤はもう一度携帯を取り出して、今度は自宅にかけてみることにした。
ロマネスクに余計な心配をかけたくなかったので今まで避けていたが、もう午後九時になっている。
可能性は低いが、ドクオになにかあったのかもしれない。
腰がだいぶ悪いとはいえロマネスクがいるのだから、ドクオが来たかどうかぐらいは確認できるはずだ。
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:30:20.50 ID:50t3h0GW0
5回のコールでロマネスクは電話に出た、もうすでに床に入っていたようだった。
妙だな、と内藤は思う、父はいつもなら十時までは起きているはずなんだけど。
( ФωФ)「ホライゾン…今何時だと思ってるんだ…」
(;^ω^)「いや、トーチャンそれどころじゃないんだお!
山の中から出れなくなっちゃってて…。
ドクオは来てないかお?来てくれるように頼んだんだけど…」
( ФωФ)「ドクオくん?ああ、おれの隣で寝てるよ」
( ゚ω゚)「」
( ФωФ)「いやいや、そういう意味でなくて。
まぁとにかく、今日はもう遅いからドクオくんには泊まってってもらう。
お前の方もなんていうか、がんばれよ」
(;゚ω゚)「え…、僕はどうするんだお」
( ФωФ)「だから頑張れって、あ、寝る所か?
どっかにベッドか布団のある部屋があるからそこで寝るといい」
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:32:36.17 ID:50t3h0GW0
(;゚ω゚)「えっ!僕ここに泊るのかお?
っていうかなんで僕がログハウスにいるのを知ってるんだお!?」
( ФωФ)「老人の勘じゃよ、まあそんなに悪いところじゃないぞ?そこは。
三食飯つき、帰りには土産まで持たせてくれる」
(;゚ω゚)「なんでもいいお!とにかくドクオをはやくここに寄こしてくれお!」
( ФωФ)「無理だ」
とロマネスクはきっぱりと言った。
そして内藤が疑問をさしはさむ合間を与えずになぜか突然、電話口で怒鳴った。
(#ФωФ)「ホライゾン、お前で一人で何とかするしかないのだ!
なんとかできなきゃ、一生そこからは出られん!
とにかくお前一人の力でそこからでてこい!わかったな!」
そして、唐突に電話は切られた。
そのあとも、なんども自宅にかけなおしたがロマネスクが電話に出ることはなかった。
父は何を知っているのか、なぜ自分一人で解決しなくてはいけないのか。
内藤の抱いた数々の疑問は、風の日の雲のように、ちぎれてどこまでもどこまでも吹き流されていった。
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:42:01.80 ID:50t3h0GW0
(;-ω-)「はぁ~もう何が何だか…どいつもこいつもおかしくなったのかお…?」
それからしばらくは内藤は動く気もせず、正面に見えているサイドボードを眺めていた。
きれいに掃除されていたし、サイドボード自体の作りも悪くなかった。
そのガラス扉のなかには内藤の知らない銘柄の、古めかしいデザインのウイスキーボトルが並べられている。
そこだけ見ればそのあたりの小金持ちの家にあるサイドボードと何ら変わりない。
いろいろな物がその上に無秩序に置いてある、というほかは
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:45:10.07 ID:50t3h0GW0
ガラス製のブイ…花瓶…蓄音器…状差し…何かの角か骨でできた縦笛…黒光りするタイプライター…
とにかく雑多に、色々な物があまり大きくもないサイドボードの天板の上に散乱していた。
よく見ると状差しは最近の物だし、花瓶もガラス張り合わせの安物のようだった。
蓄音器はプレーヤーとも言えないような原始的な物だったし、縦笛は相当使い込まれているのか、手垢を吸って黄色く変色していた。
そんなガラクタの中で、内藤の興味を惹いたのはタイプライターだった。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:47:31.14 ID:50t3h0GW0
( ^ω^)「…本物かお?」
内藤はサイドボードに近付いてタイプライターをよく見て見ることにした。
そしてそれは、用紙までちゃんとついているところからして、たしかに本物のようだった。
試しにwキーを押してみると、キーは案外重く、押し切ると若干かすれていたが「w」がしっかり印字された。
(*^ω^)「すげえお、なんか感動するおね…」
(*^ω^)「うはwwwwセーブポイントktkrwwww」
おもちゃを得た内藤は完全に調子にのっていた。
この男、子供のころから面白そうなものを見つけると片っぱしからいじる癖があった。
小学校に上がる前にはよく警報器などを鳴らしまくって、近所のデパートからは出入り禁止までくらった。
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:51:55.01 ID:50t3h0GW0
(*^ω^)「超連打だお!」
ガガガガガガガ チーン
(;^ω^)「あれっ、これ以上打てないお…」
「ほら、そこで改行しないと、手前のレバーを引いてごらん」
(*^ω^)「あ、どうもだお!…っていうか引くってどうすれば」
(;^ω^)「って…え…」
いつのまにか内藤の後ろには、女性が一人立っていた。
内藤はまったくその接近に気がつかなかった。
女はなぜか紺のツナギを着ていた。
lw´‐ _‐ノv 「いやー、いささか古いタイプのものだからね、操作が込み入ってるんだ。
…それはもともとある有名作家の持ち物だったものなんだ」
lw´‐ _‐ノv「もっとも、彼は鉛筆派だったからほとんど使われていなかったんだけどね」
lw´‐ _‐ノv「あなたは鉛筆派?それともお米派?」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:55:31.08 ID:50t3h0GW0
女がなにか言っている間、内藤は不自然でない程度に後ずさりをしていた。
見たところ女は丸腰だったが、何があるか分からない。
突然、手刀で腹を突き刺されるなんてことはないだろうが、こんなところだ、用心に越したことはない。
(;^ω^)「すみませんお、勝手に触ったりして…」
lw´‐ _‐ノv「あぁ?別に私はかまわないよ、それは私のものじゃない」
(;^ω^)「ここの方ではないんですかお?」
lw´‐ _‐ノv「確かにここに住んではいる。でもこの土地を所有しているわけでもないし
誰かに許可を得て、ここにいるわけでもない」
lw´‐ _‐ノv「そういう点では君と同じだ。安心してくれたまえ」
ここまで聞いて内藤は若干、警戒を解いた。
とりあえず、事情を話しても大丈夫だろう。
この人、もしかするとここからの脱出方法をしってるかもしれないし。
そう思ったのが運のつきだった。
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/12(月) 23:58:25.94 ID:50t3h0GW0
(;^ω^)「黙って上がり込んでおいて、しかもいきなりでまったく申し訳ないんですが
ちょっとお伺いしたいことがありますお…どうもこの山からでられなk」
lw´‐ _‐ノv「あーわかってるわかってる、もーぜんっぶわかってるから。
とにかく、わたしについてきなよ
…実を言うと、今来たのも君を迎えにきたんだ。あんまり遅いもんでね」
(;^ω^)「ほぇ?」
内藤は耳を疑った。
わかっている…そして、迎えにきた?
内藤はすぐこの場から逃げなかったことを後悔した。
女は、どうやらこのロッジに関わりがあるようだ。
どうやら、自分の判断力はかなりまずいレベルまで落ちてきているらしい、と内藤は思った。
じゃなきゃ、普通こんな怪しげな現れ方をする人間を、たとえ一時的にでも信用しようとしたりはしない。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:00:27.12 ID:fyez78HA0
lw´‐ _‐ノv「ほえ、とか今時の萌キャラでもいわねぇよ
いいからわたしと一緒に納屋まで来なさい」
といって、女は内藤の手を掴んだ。
有無をいわせないしっかりとしたグリップだった。
なにか、スポーツでもしていたのかもしれない、と内藤は想像したが何かしっくりこなかった。
もしかすると、女がツナギを着ていたせいかもしれない。
(;^ω^)「え、ちょ…」
lw´‐ _‐ノv「…いいから照れなくても」
(;^ω^)「そうじゃなくて!
あ~もういったい何なんだお…」
そのまま内藤は、保健所に連れてこられた雑種の犬のように、無遠慮に外へと引きずられていった。
質問する暇さえなかった。
今日は、きっと質問に答えてもらえない日なのだと内藤は思うことにした。
きっとみんなが示し合わせて、僕の話を遮り、話の腰をへし折ることにしたのだ。
こうやって、自分の中で物事を歪曲して済ましてしまうのは、まったくストレスのたまることだった。
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:05:28.82 ID:fyez78HA0
そして、ロッジに入ったときと同様、内藤は自分の腰のあたりまで伸びた雑草を踏みながら納屋まで歩いた。
だが、真っ暗だったせいで非常に歩きにくかったのと、
女がたびたび立ち止まろうとする内藤を無理に引きずったせいで何度か内藤は転びかけた。
そうしながらも、なんとか納屋の扉の前までやってきた。
( ^ω^)「勘弁してくれお…」
lw´‐ _‐ノv「勘弁してくれ?本当につらいのはここからだよ…」
(;^ω^)「へい?」
lw´‐ _‐ノv「いいからはいって、さっさとしないと蚊にくわれるよ」
そう言いながら、女は内藤を納屋のほうに押しやった。
内藤には、もうなにがなんだかわからなくなっていた。
なぜ、僕はこんな山の中で女と歩いているのだろうか?
なぜ、夜の八時にすきっ腹をかかえて、よくわからない納屋に押し込まれなければならないのか?
だが、内藤は質問しなかった。どうせ答えなど帰ってこない。
内藤は黙って納屋の中に入った。
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:10:18.92 ID:fyez78HA0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
納屋のなかには、芝刈り機やクワ、鎌などの農具がおかれていた。
床はむき出しの地面だが、固く引き締まっているせいか、外にあれだけ生えていた雑草の影も形もない。
そしていくつか部屋の中に並んでいる粗末な棚には、燃料か、溶剤の一斗缶がぎっしり詰まっている。
…特に何ということはないごく普通の納屋だった。
だが、ここはただの納屋ではないはずだと内藤は思った。
ここに、あの女を迎えに来させた人がいるのだろう。
じゃなければ、どうしてあの女は僕をこんな所に引っ張ってきたんだ?
いろいろと想像しようとしたが、内藤は頭が痛くなりそうだったのでやめた。
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:11:12.63 ID:fyez78HA0
棚の陰から、ぬうっと一人の老人が現れたのはそのすぐ後だった。
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:14:37.61 ID:fyez78HA0
/ ,' 3「こんばんは、内藤ホライゾンさん、お待ちしておりました」
老人は車イスに乗って内藤の前にすすみ、かちっと正確に、内藤の正面を向いた。
老人が着ているバスローブから、なんとなく病的な感じがする痩せた胸と白い胸毛が見えていた。
内藤にはそれがたまらなく嫌だった、どうしてだかは説明できない。
人間には、何だかよくわからないが嫌な物があるものだ。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:18:48.02 ID:fyez78HA0
( ^ω^)「なんで僕の名前をしってるんだお?」
/ ,' 3 「知っていますとも、あなたは『円の紡ぎ手』に選ばれたのですからね
知らないわけにはいきません…」
_, ,_
(;^ω^)「はあ?」
内藤はだんだん腹が立ってきた。
なにもかもよく分からない中で今まで耐えてきたが、
また新しく出てきた意味不明な単語を『』まで使って強調された。
もうそろそろ怒ってもいい頃合いだった。
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:22:48.26 ID:fyez78HA0
(#^ω^)「いい加減にしてほしいお、さっきからなんなんだお!
熊だの、結界だの、変な小道具とかおかしな専門用語で、僕をどうにかしようとしてもそうはいかないお!
お前らの言い分は聞かない!さっさとここから帰してくれお!
いますぐ通報することだって出来るお。足を折って動けなくなったとでもいえばいつだって人が来るお!
しかもそれで国有林にこんなでっかい違法建築を建てているのがバレれば、間をおかずここは取り壊されるお!
それがいやなら…」
そこで老人が突然口をはさんだ。
/ ,' 3 「…あなたはここと外の区別がまだつかないのですか?」
(#^ω^)「…?」
/ ,' 3 「あなたのいう『結界』が現在の技術でつくれますか?
熊を完璧に手なずけて、あなたの番をさせられるような人間がここにいるように見えますか?
そして本当に…」
老人は死にかけの鳥のように背をそらせて息継ぎをした。
きっと長台詞に慣れていないのだ。
ちかちかと白熱灯が点滅し、そんな老人に奇妙な陰影をあたえる。
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:28:55.58 ID:fyez78HA0
/ ,' 3 「呼べば人がここに来る。そうお思いですか?」
(#^ω^)「来ないとでも?」
/ ,' 3 「来ませんとも」
(#^ω^)「でたらめを、いうなお」
/ ,' 3 「でたらめではありません、ここでは外で通用しているルールは通用しません」
(#^ω^)「じゃあこの素晴らしい『内』っていうのはあれかお?
その中でなにしたって平気ってわけかお?」
/ ,' 3 「『内』ではなく『円』です」
と老人は訂正した。
( ^ω^)「はぁ…そうですか…」
内藤はこの気の抜けたしゃべり方をする老人のせいで、がっくりと疲れていた。
気に障る訂正に反応する気力さえ、もうなかった。
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:35:06.83 ID:fyez78HA0
( ^ω^)「そんなことはどうでもいいお。
どうしたらここから解放してくれるんだお?」
/ ,' 3 「よくぞ聞いて下さった。
先ほどまで多少、本題からずれておったのをよく修正してくださった。」
( ^ω^)「いいからはなしてくださいお」
/ ,' 3 「もちろんいいですとも…まずはおとなしくここで円を紡ぐことです。
まずはこちらの指示に従っていただき、少しの間簡単な作業を行ってもらいます。
そののちにあなたはしかるべき手順を踏んで、ここから出る」
(#^ω^)「だから、僕にはその言葉の意味がまったく理解できないんだお。
円って言うのはここのことかお?それを紡ぐとはどういうことだお?
もっと筋道立てて、物事をはなしてくれお」
/ ,' 3 「私の言う円とは、人間の記憶です。
ここも円形をしていますが、それはここが『基本的に円としての性質をもつ』人間の記憶にあわせてのことです。
そして円を紡ぐとは、人の記憶と記憶を撚(よ)り合わせること…」
(;^ω^)「はぁ?」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:43:26.11 ID:fyez78HA0
/ ,' 3 「…生き物の記憶というのは撚り合わせれば、自然に一つの循環を成すのです。
親と子…愛し合う恋人同士…人と人とが心通わせたとき、そこに循環が生まれます。
そうした循環が、よりおおきな循環に取り込まれてもっと大きな循環の輪ができる。
親子の循環が家庭の循環に取り込まれる、そして家庭の循環が地域社会のもつ循環作用に呑まれる…。
そしてゆくゆくは、人々の記憶は個人個人の間にありながらも世界の循環に巻き込まれてゆくのですよ…」
/ ,' 3 「…あるデザインやメロディを、はじめて見たり聞いたりするのになんだか懐かしい…。
これまでの人生でそんなことがあったでしょう?そうしたデジャヴュは、先ほどの記憶の循環がもたらすものなのです。
このデジャヴュは今のデザインやメロディの例だけでなく、人間の知的活動のすべてに影響をあたえておるのです」
/ ,' 3 「 そういう意味ではこの世は、巨大な記憶の集合体であり
その記憶の一つ一つの震えが生む力がこの世界を動かしていると言えましょう。
だがしかし、継承されない記憶、失われてしまったものは記憶の循環に加わることができません。
だれとも心通わすことなく、孤独のうちに消えていった人の記憶…。
非業の最期を遂げた人…母の胎の中で失われた命の記憶…。
その全てが中空に消えるとしたら、この世はなんと残酷な世界なのでしょうか…」
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:51:57.35 ID:fyez78HA0
/ ,' 3 「ここは、そうした孤独な記憶が集まるところ…。
つまり、記憶の循環の輪に生じたよどみなのです…」
/ ,' 3 「そしてあなたには、ここに集う記憶の一部を継承してもらいます。
ただ継承するだけでなく、親和性のある記憶同士をつなぎ合わせてもらう。
そのようにして、ただの完結した円でしかない記憶をあなたの中で循環させるのです。
そうして本来失われた記憶が、あなたのという生きている人間の中に巡ることで
そして、あなたのいる世界の循環に加わることで、消えていった者たちは本当の意味で救われるのです。
あらゆるごまかしや嘘と、離れたところで…」
(;^ω^)「いったい何の話をしてるんだお…あんたはデムパだお…いったい…なにを…」
内藤はこの老人に完全に気圧されていた。
老人はいつのまにか内藤の目を、ぐっとみすえている。
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 00:58:29.77 ID:fyez78HA0
/ ;' 3 「ではもう一度言います。
あなたには、このよどみを少しでも解消するという役割があたえられた。
あなたにはこれから少しの間ここで働いてもらいます。」
(;^ω^)「…。」
/ ,' 3 「まあ、ここで四の五のいっておっても仕方がない。
説明はこのぐらいにして、お食事にしましょうか。
あとは明日に…」
(;^ω^)「ちょっと待てお」
内藤は慌てていた。
何だかよくわからないうちに妙な宗教に入信させられようとしている。
まあ食事でもしようじゃないか、と言ってどこかに自分を連れて行こうとする。
これは宗教の勧誘係が、本格的にこちらをあちら側に引き込もうとするとき使う常套手段だ。
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:03:09.15 ID:fyez78HA0
(;^ω^)「いまのが全部ほんとだとして、なにか具体的に何か僕にそれを証明できるものはあるのかお?」
/ ,' 3 「ほう?」
まったくの苦し紛れだった。相手が何を言っているのか全く分からなかったが
とにかく話を引き伸ばすことで、内藤は至急、態勢を整えなくてはならなかった。
正直、さっきの電波ゆんゆんの、一方的なまくし立てのせいで内藤の調子は完全に狂ってしまった。
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:07:18.26 ID:fyez78HA0
/ ,' 3 「信じておられないか…。まあ無理もないが」
老人は内藤の言葉を聞き、無表情にそういった。
内藤は不穏な印象を抱いて身を固めたがその時すでに老人は動いていた。
/ 。゚ 3 「…では、あなたに証拠をお目にかけよう!」
と老人はいうが早いか、老人は突然立ち上がって内藤に駆け寄ると
内藤の右の眼窩に中指をつきさした。
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:14:51.68 ID:fyez78HA0
回避どころか、動くこともできなかった。
なにが起こったか分析しようとする内藤の脳に、老人の指先が遠慮なく侵入した。
内藤はグラリと周囲の様子が揺れるのを感じた。そしてしばらくして内藤を奇妙な脱力感が包んだ。
内藤は、その感覚がが小学生のころ体験した失神によく似ていることに気がついた。
そうだ、僕は気絶するのだ。
僕は
気絶気絶き絶気ぜき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ
気絶気絶き絶気ぜき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ
気絶気絶き絶気ぜき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ
気絶気絶き絶気ぜき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ気絶気絶き絶気ぜつき、きぜきぜつききぜつ
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:17:55.95 ID:fyez78HA0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕はいつしか、自宅の前にいる。
今日は妻と娘が「どうしても早く帰ってきてほしい」というので、今日はさっさと仕事を終わらせて夕方五時に店をでたのだ。
店には優秀な社員の人もいたし、オーナーの自分が離れても問題はないはずだった。
家の前に立ったが、中は真っ暗で物音一つしない、内心で娘の出迎えを期待していた僕は心底がっかりした。
娘は幼稚園からまだ帰って来ていないようだった。妻もこの時間だと、そのお迎えに行ったのだろう。
僕はこういう、誰もいない家に帰るのは嫌いだ。
小さなころから、今日あったことを帰ってきてすぐ家族に報告しないと気が済まない性格なのだ。
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:21:29.86 ID:fyez78HA0
( 'ω`)「タダイマダオ…」
郷里で役場勤めをしている友人のように、力の抜けた顔をして家に入った。
この顔をすると娘はとても楽しそうに笑う。というか笑い転げる。
( ^ω^)「おや…?」
夏の盛りだったが、誰もいないはずの家は妙に涼しかった。
まあ、ついさっき出て行ったのだろう。
とにかくほてった体にはありがたいことだった。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:24:11.70 ID:fyez78HA0
リビングに入った僕は、なにやら破裂音がしたので反射的に目を閉じた。
目をあけると色とりどりの紙ひもが僕の顔にかかっていた。
そしてその向こうには、妻が娘と二人でクラッカーを手にして立っていた。
ξ*゚⊿゚)ξ「おかえりなさい、パパ!おたんじょうびおめでとう!」ζ(゚ー゚*ζ
サプライズ、まったくのサプライズだった。
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:28:20.31 ID:fyez78HA0
( ^ω^)
ζ(゚ー゚;ζ「あれ、パパ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、固まらないでよ!
嬉しくないの?」
( ^ω^)プルプル
ξ゚⊿゚)ξ「プルプルじゃなくて…ほら、なんとかいいなさいよ」
と、妻が僕にチラッと目くばせした。
デレになんとか言ってやれというのだろう。
でも何と言えっていうのだ、こんなにびっくりすると言葉なんて出ない。
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:31:45.36 ID:fyez78HA0
そんな金縛りにあったような様子の僕を、デレは不安そうに見つめている。
ζ(゚ー゚;ζ「パパ、ごめんねびっくりした?」
( ^ω^)
( ^ω^)「」
( ;ω;)ブワッ
ビクッ∑ζ(゚ー゚;ζ
( ;ω;)「そんなことないお!めちゃくちゃ嬉しいお!」
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:35:12.67 ID:fyez78HA0
僕は床に膝をついてデレを抱きしめた。
鼻腔にデレの髪の香りが入ってくる。
親になったものしか知らない、甘く、独特な子供の香りだ。
僕はその香りがひどく懐かしかった。
なんでだろう?僕は家族で風呂に入る時に毎日その匂いを嗅いでいるのに。
僕はそのままデレの手にひかれてダイニングテーブルの席に着いた。
テーブルの上にはあたたかい料理が並んでいる。
どれも僕の好物ばかりだった…グラタンなんて手のかかるものを、料理下手のツンがよく作れたものだ。
きっと、昼に仕事から帰ってきてからずっと準備を続けていたに違いない。
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:42:51.89 ID:fyez78HA0
それからの食事は間違いなく僕の人生最良のものだった。
食卓には笑顔があふれていた。
最近はいそがしいこともあってあまり一緒に食事をしていなかったから、デレも楽しそうだ。
デレは僕が新しいものに箸をつけるたびにおいしいかどうか聞いて、
僕がおいしいと答えると、それをいちいち隣に座っているいる母親に報告した。
いつもの僕なら、ちょっとうるさく思ったかもしれないが、今日はまったくそう思わなかった。
デレの仕草の一つ一つが愛らしく、愛しかった。
僕とツンが苦労して買った公団住宅のダイニングの物は、すべてがバラ色に輝いていた。
そして、あらかたの皿を空にしてぼーっとしているとツンはケーキの箱を持ってきた。
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:43:51.46 ID:fyez78HA0
ξ゚ー゚)ξ「さーて、食事はすませたな?神様にお祈りは?今からケーキを出すけど心の準備はOK?」
(*^ω^)「「 O K (だお)!」」ζ(゚ー゚*ζ
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:47:10.92 ID:fyez78HA0
そして、手回しよくツンがロウソクを立てて火をつける。
電気が消されると、ダイニングに集まった家族の顔だけがぼんやりと浮かび上がった。
間違いなく、僕は人生のなかでも最高の瞬間を迎えている。
それなのに、僕は違和感を感じていた。
なんだか、変な気分だ…橙色に染まった部屋…そこにいる家族…
どこかでみたような…?
ξ゚ー゚)ξ「どうしたの?また固まっちゃって?」
( ^ω^)「いや…」
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:51:05.89 ID:fyez78HA0
そのとき、ちょうちょが一匹ケーキの上に飛んできた。
僕が驚いてつまみあげると手の中で蝶は崩れた。
それはちょうちょではなかった。
一片の灰だった。
( ゚ω゚)「……!」
僕がぱっと手から灰を払うと、それが合図であったかのように
上の方からたくさんの灰がケーキと僕の上に降り注いだ。
ロウソクの火は、もう僕の目の前で燃えてはいなかった。
公団の六階にある自分の家ごと、…家族もろともに燃えていた。
いつのまにか僕はそれを遠くから眺めていた。
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:54:52.56 ID:fyez78HA0
( ゚ω゚)「あ…あああああ…」
僕はすべてを思い出した。
これは、僕の26歳の誕生日から一週間後の記憶だ。
自宅の公団住宅の一室が焼け、妻と娘が死んだ。後には何も残らなかった。
娘のデレがロウソクをいたずらして、その火がカーペットに燃え移ったのだ。
僕の誕生日にロウソクをつけていた母親にあこがれたのかもしれない。
僕は、燃え上がる自分の部屋に集まった野次馬の人垣の後ろで、その様子をつぶさにみていた。
正面に見える公団のベランダに追い詰められた妻子。
植えられていた木々のせいではしご車が入ることができず、そこで煙を吸い込んで窒息死した娘。
そして、熱さに耐えかねて飛び降りた妻。
目をそらすことは、できなかった。
( ゚ω゚)「やめてくれ…もう……耐えられそうにない…
だれが、いったいこんなことを…」
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 01:59:48.02 ID:fyez78HA0
こんなことを、おもいだしたくなどなかった。
この僕が数年をかけて、忘れようとしてきた忌まわしい記憶だった。
なのに、なぜこの情景が自分の前に生々しく展開されているのか…。
それに思いあたった僕は、うすぐらいあの納屋でのことをはっきりと思い出した。
このことをきっかけに、それまでぼんやりしていた自分の記憶の輪郭が徐々につかめるようになってきた。
そしてまずよみがえってきた感情は、例えようのない激しい怒りだった。
自分をこんな目にあわせているのは、間違いなくあの老人であると、僕は確信した。
そしてきっと奴は今、物陰からこちらの様子を見てせせら笑っているに違いない。
あの生意気な若造をやっつけてやった。ざまあみろ、と
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 02:00:49.01 ID:fyez78HA0
ややあって、夜空を赤く照らす炎を背に僕は天に叫んだ。
(#゚ω゚)「なぜだお!なんでこんなことをするんだお!
僕がこんなことをされて協力する気になるとでも思ってるのかお!」
(#゚ω゚)「僕があの人たちをどれほど愛していたのかお前に分かるかお!
記憶だとかなんだとかはどうでもいいお!
もうこれ以上、思い出させないでくれお!
この苦しみが、この悲しみがお前にわかるかお!
少しでもわかるなら……………」
( ω) 「これ以上は…」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 02:04:02.64 ID:fyez78HA0
そのあとは、僕は自分で何を言っているのか分からなかった。
たぶん、訳のわからないことを喚き散らしていたと思う。
いつのまにか、僕はその場に崩れ落ちて体を丸め、そのままただあふれるまま涙を流していた。
妻と子を失った、その日そのままに。
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/13(火) 02:06:54.46 ID:fyez78HA0
第三話 おわり
- 2010年11月09日 00:26 |
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( ^ω^)ブーンと円のようです
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 22:41:54.62 ID:EGyh1K4Z0
「( ^ω^)ブーンと円のようです」
第二話「マヨイガ」
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 22:44:54.50 ID:EGyh1K4Z0
ドクオは山の斜面に寄り添うように建つ家並みを抜け、その一番上のはずれにある内藤の自宅へと向かっていた。
この集落も日本の平均的な山村にありがちな過疎化の道筋を着実に歩んでいる。
高齢化…若者の都市部への流出、それに伴う産業の衰退…。この集落はすでに黄昏を迎えていた。
そしてとどめを刺すように、高速道路建設計画が持ち上がったときも
退去を促された住民はごくあっさりと補償金を受け取り、どこへともなく去って行った。
案外みんな、この集落のことを気に入っていなかったのかもしれない。
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 22:47:40.92 ID:EGyh1K4Z0
('A`)「あー、なんかここまできて騙されてるような気がしてきた」
('A`)「さっきから携帯もつながらんし…。」
そう言って携帯のディスプレイをみると午後六時をまわっている。
内藤がポンプ小屋の修理に出てから、すでに八時間が過ぎていた。
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 22:49:47.19 ID:EGyh1K4Z0
('A`)「…。」
車の外はもうかなり薄暗くなっていた。
内藤の家に向かう曲がりくねった車道は、非常に運転に気を使う。
なんど同じ道を走ってもドクオは緊張する。
ドクオは一度、免許を取りたての頃に運転を誤って車ごと段々畑に突っ込んだことがあった。
そういえば、あのときはセントジョーンズさんの畑に落ちたんだったっけ。
ちょっとボケてたけどいやな顔もせず、車を引っ張り出すのを手伝ってくれたよな…。
とその場所にさしかかった時、そんなことをドクオはぼんやりと思い出していた。
例の高速道路建設で持ち主が立ち退いたいま、件の段々畑は雑草に隙間なく覆われていた。
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 22:53:49.64 ID:EGyh1K4Z0
内藤の家にたどりつくと、すでにドクオから連絡を受けていた内藤の父が
玄関先に設けられた夕涼み台の上に、横になって待っていた。
彼はドクオの車の音に気がつくと、腰の悪い彼は緩慢に上半身をおこしてドクオを迎えた。
('A`)「お久しぶりです。おじさん」
( ФωФ)「ひさしぶりだね、ドクオくん。わざわざすまないな」
('A`)「いえ、お元気でしたか?」
( ФωФ)「腰はあいかわらずだ、だが畑には毎日でとるよ
今日なんかはイモをとって炊いてあるんだが…」
(;'A`)「それよりもブーンのことなんですが…」
( ФωФ)「あぁ、まあだいじょうぶだよ」
(;'A`)「はあ…。」
内藤の父は、息子の置かれた危機的状況にさほど興味を持っていないように口のわきを掻いた。
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 22:57:31.59 ID:EGyh1K4Z0
ドクオはいいかげん、本当にこれが危機的状況なのか疑わしくなってきた。
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:00:36.55 ID:EGyh1K4Z0
内藤との電話の後、すぐに状況を内藤の父に説明したのだが、内藤の父 ロマネスクの反応は不可解なものだった。
はじめこそ、いつまでたっても帰ってこない息子を心配してか、おろおろと落ち着かない様子だった。
しかし、円形の場所と伝えたところ心配そうな声色がふっと穏やかになった。
さらに電話口でロマネスクは、今すぐ行きますというドクオに対して
「まあのんびり来なよ、ところで今日は新鮮なアカイカを刺身にしたんだが…」
と、言い放ったのである。
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:04:00.27 ID:EGyh1K4Z0
ややあって、ドクオは聞いた。
(;'A`)「おじさんはなにか御存じなんですか?」
( ФωФ)「ホライゾンのいるところの話か?
それは…。まあ…とにかく、あいつはだいじょうぶだよ」
ここでロマネスクは押し黙ってしまった。眉にしわが寄っている。
しまった、つっこみすぎたかとドクオは胸中で舌打ちした。
ロマネスクはこうなるとテコでもしゃべらない、ということをドクオは知っていた。
しばらくして、ロマネスクは思い出したように
( ФωФ)「きょうは晩ごはんはどうせまだだろ?うちで食べてきな」
とのんびりと言った。
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:08:38.76 ID:EGyh1K4Z0
ドクオはなんだか、急に気が抜けてしまった。
まったく、呑気にもほどがあるんじゃないか?ブーンは相当びびってたんだぞ…?
ここまで言うのなら、内藤は少なくとも晩飯を食い終わるころまでは無事なんだろう…。
それにおじさん、なにも教えてくれそうにないしなぁ…。
まぁおじさんが事情を知ってるならおれの出る幕もないか?
ここまで考えて、ドクオはついに腹を決めた。
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:12:44.62 ID:EGyh1K4Z0
('ー`)「晩ごはんいただいてきます」
( ФωФ)「ありがとう、わたしもいつもホライゾンとじゃつまらないからな」
('ー`)「俺も誰かと食事するのはひさしぶりです」
( ФωФ)「では今日は淋しいもの同士というわけだ
今日はのむぞ、ドクオくん!」
('ー`)「…アカイカでね」
(*ФωФ)「そうだな!だはははは!」
かくして内藤は、しばらく放置プレイをくらうことになった。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:15:58.14 ID:EGyh1K4Z0
(;-ω-)「うう…。」
その 内藤がようやく気がついたのは、午後7時頃だった。
といっても、内藤には時刻を知る術はなかった。
内藤の携帯電話は内藤が外に置き去りにしたナップサックの中にあった。
時刻を知る方法だけでなく、連絡手段さえ失ってしまったわけである。
…がしかし内藤にとって、それはもはや遠い日常に関わる瑣末な問題にすぎなかった。
この時内藤はもっと直接的な問題に直面していた。
( ゚ω゚)(ええええええええ!!!1!!!)
あの忌まわしい熊が、目覚めた自分の視界内にまだいたのである。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:22:28.71 ID:EGyh1K4Z0
廊下の中ほどに丸くなっている熊は大きさからいっても、出会った場所からしても
夕方に内藤が遭遇したのと同じ熊であることはほぼ間違いなかった。
しかも、ぼんやりと窓からさす月明かりしか明かりがないうえに、熊のまっくろな顔ゆえに判然としなかったが
…おそらく内藤の方を凝視していた。
( ・(ェ)・ )
( ゚ω゚)(こっちみんな、っていうか鍵まで掛けたのになんで入ってきてるんだお!!!)
玄関ドアが開いているのか、内藤の足もとから冷たい風が吹いていた。
しかしうつぶせに倒れたままの内藤には、それを確認することはできなかった。
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:26:53.34 ID:EGyh1K4Z0
( ゚ω゚)(きっとうごくとやられるお)
( ゚ω゚)(あいつが僕に興味をうしなうまでじっと耐えなくちゃだお…)
そして、それからの内藤にとって永遠とも思える数分ののち
熊はゆっくりと内藤の方に向かってきた。
それを視界の端に認めた内藤の心臓は、もはや喉のところにせり上がっていた。
それとは裏腹に、頭の隅では妙に落ち着いている自分がいるのを内藤は感じた。
しかし、その「頭の隅にいる落ち着いた内藤」が何をしているかといえば
情けないことにただ単に辞世の句を練り上げているだけだった。
( -ω-)(ああ、短い人生だったお…トーチャン…カーチャン…親不孝者だった僕を許してくれお…。
そして先立つ不孝をお許しください…。
それと、ドクオが無事でありますように)
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:30:56.66 ID:EGyh1K4Z0
熊の生温かい吐息が首にかかって、それにたて続いてどこかに噛みつかれるのを内藤は覚悟していた。
内藤は何かで読んだことがあった…なにかにかみ殺されるのが殺され方の中で最も苦痛な殺され方だと。
首に来るか、腕に来るか…それとも足だろうか?
いきなり腹に食いつかれたらどんなに苦しいだろう?
鈍い熊の歯に、内臓をすり潰されるのはどんな気分だろうか…。
真っ白な頭で、そんなことを想像しながら一分たち、二分がすぎた。
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:35:23.00 ID:EGyh1K4Z0
熊は静かに内藤のの背後にまわっていた。
野生の熊ながら、相手に反撃されにくい襲い方を心得ているのだ…。
と、内藤は思った。
が、熊は内藤には目もくれずに内藤の後ろでごそごそしている。
そして内藤は急にぎゅっと閉じた瞼の向こうが急に明るくなったのを感じた。
それに続いて、ばたっ、と玄関ドアがしまった。
それと同時に熊の気配は消えていた。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:39:15.40 ID:EGyh1K4Z0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そのあと、内藤は五分ほどそのまま倒れていたが周囲を確認してゆっくり起きあがった。
体は長い間の静止状態のせいで棒のように固くなっていた。
(;^ω^)「助かった…お…」
長い緊張の後のぼーっとした頭の中で、内藤はどうして自分が助かったのかが分からないでいた。
「熊には死んだふり」というのは都市伝説だったはずだ。本来、熊は死体もあさって食う動物なのだ。
あの熊の行動はあまりにも奇妙だった。
それに、どうしていきなり電気がついたのかも分からなかった。
内藤はスイッチを探し、それはすぐみつかった。
電灯スイッチについているパイロットランプの光が、玄関ドアのすぐ横に浮かんでいる。
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:42:47.57 ID:EGyh1K4Z0
だがそれ以前に、内藤は部屋の様子に違和感を覚えていた。
ロッジ外壁とは打って変わって、中は相当新しい時代のものが置かれている。
内藤は放置されてから二十~三十年と見当をつけていたが、その予想は間違っていたようだ。
ハロゲンヒーターは少なくとも80年代にはなかったはずだ。
そのほかにも室内には様々な時代の色々な調度品が置かれ、
このホールに不釣り合いな、大きいシャンデリアから暖かみのある光が…
∑(;^ω^)「あ"ぁっ?なんでだお?」
そう、照明だ。
電線はこの家にひかれていない――――最寄りの電柱までは300mはある。
しかし間違いなく内藤の頭上に輝いているのは白熱電球だ。
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:49:32.65 ID:EGyh1K4Z0
(;^ω^)「…。」
内藤は混乱していた。どうもここに来てから何もかも変だ。
ロッジのホールに置かれたそこに不似合いなシャンデリア(たぶん電気もなしに光っている)。
おかしな結界のようなもの…。
そしてこの奇妙なロッジだ。
(;^ω^)「まったくどうなっちゃったんだお、日本の山奥は。」
そういって内藤は近くに置いてあったソファに腰を下ろした。
内藤が予想していた大量の埃は、一切、舞わなかった。
床には薄く埃が積もっているにもかかわらず。
あたかも毎日誰かが、そこにすわって本を読んでいるソファであるかのように………。
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/03(土) 23:55:15.66 ID:EGyh1K4Z0
( ^ω^)「なんなんだお、ここは…」
内藤は半分は無意識にそういった。
そして、のろのろとロッジの外に出て自分の荷物を取って、ロッジ内のエントランスにおいた。
そのとき内藤は、熊の襲撃を毛ほども警戒しなかった。
なにもかも、もうどうでもいい気分だった。
それにもうあの熊の存在さえ、内藤には現実のものとは思えなかった。
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:01:44.23 ID:lWQiPkyy0
実はあの熊は起きた僕をみて、電気をつけて、ドアを閉め、外にそのまま出て行ったのかもしれない。
何かにそうするように言いつけられてそうしたのだ。
でなければ電気が点いた説明がつかないし、そう考えた方が自然ではないか?
もう内藤にはそうとしか思えなくなっていた。
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:05:14.80 ID:EGyh1K4Z0
内藤はナップサックを取ると同時に、いままでその中に入れておいた携帯をズボンの前ポケットに突っ込んだ。
彼と現実をつないでいるのは、もはやこの小さな機械だけになっていた。
内藤は、ひと時もこれを手放さないと固く心を決めた。
そして、まず内藤はドクオと連絡をとることにした。
外には――夢や幻でなければだが――まだ、あの熊がいるかもしれない。
最初の電話からすぐ、ドクオが内藤の所に向かったとすれば、もうそろそろこの周辺に着く頃だった。
( ^ω^)「顔が若干不自由で、ロリコンなところを除けばドクオは善良な人間だお。」
( ^ω^)「そんな人が熊に食われるなんてあってはいけないお。」
(;^ω^)「山に入る前に電話しとかないと…。」
そうして、ぶつぶついいながら内藤はドクオの携帯に電話した。
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:09:35.11 ID:lWQiPkyy0
しかし、ドクオは電話に出なかった。
ドクオは、壊れた車の時計代わりにしていた携帯をそのまま車内に置き忘れていた。
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:13:34.16 ID:lWQiPkyy0
その頃のドクオといえば、内藤家の外にある物干し場に夕涼み台を臨時の野外テーブルとして酒盛りをしていた。
折しもロマネスクと二人、地元の銘酒の「宇宙」をひと瓶やっつけて二本目の「大魔王」にとりかかるところだった。
(*ФωФ)「ふはははは!ホントにうまいな!お前らというのはっ!」
と用意したアカイカの大半を自分で平らげながら、その刺身に話しかけている様子はとても六十を越した人の様子ではなかった。
(*'A`)「ほんとれすね~、
おれも久しぶりに食いましたよ、いかの刺身なんて…」
普通のイカに比べて濃厚な味のするアカイカには、きりりと冷えた「大魔王」がよく合った。
ドクオもロマネスクに負けじと箸をのばす。
宴もたけなわである。
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:17:48.21 ID:lWQiPkyy0
(*ФωФ)「おうっ!どんどん食ってくれよ~カツオもある!スルメも焼くぞ~」
(*'A`)「うおおおおおっ!スルメイカですか!
七輪だ!おれ車から持ってきますよ!」
(*ФωФ)(なんで七輪が車の中に…?)
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:20:48.41 ID:lWQiPkyy0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そうして酒宴の夜はふけていった。
二人が皿の上をほとんど空にして、ドクオの酔いがあらかた醒めたころ
ドクオはすっかりご機嫌になっているロマネスクにあらためて質問した。
(*'A`)「おじさん、ブーンのいるところにはなにがあるんですか?」
ドクオはこれまで、ロマネスクがいい気分になるのを待っていた。
酒好きのロマネスク、こうなると結構、口が軽くなる。
(*ФωФ)「う~ん?ブーン…?
あぁ、あいつはたぶんマヨイガにいってるんだろう」
(*'A`)「マヨイガ?」
ドクオはその単語がすぐには理解できなかった。
しかし、ドクオは字面を思い浮かべるとある本で読んだ話に思いあたった。
関東、東北に伝わる迷い家伝承である。
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:25:45.98 ID:lWQiPkyy0
だれもいない豪邸に旅人が迷い込む。
そこから不思議なアイテムを持ち帰り
裕福になる。
三行でまとめるとこんな話だ。
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:29:35.62 ID:lWQiPkyy0
(*'A`)「迷い家って東北の方のはなしでしょ?
でもここは、近畿地方じゃないですか」
(*ФωФ)「君の言ってる迷い家というのは私も知ってるよ。
私の言う『ここのマヨイガ』とは、ちょっと違うんだ
大体は同じだがね。」
(*ФωФ)「あそこは、ただの迷い家と違って何かしらの引力みたいなものがある。
ただそれに逆らっちゃ絶対に逃げられない」
( ФωФ)「その引力圏から離れるには、ちょっと工夫がいる」
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:34:26.58 ID:lWQiPkyy0
ロマネスクはここで口を切った。
…二人の間に沈黙が流れる。
どうもドクオに考える時間を与えるための沈黙であるようだった。
だが、ドクオは何と言うべきか分からなくなってしまった。
昔話レベルの存在に内藤が捕らわれているらしいというのはわかった。
だがそんなものに捕まった内藤を、しがない公務員の自分がどう助ければいいというのか。
そもそもロマネスクの口ぶりでは内藤一人でもなんとか脱出できそうじゃないか?
と困惑したドクオに対して、ロマネスクはつづけた。
( ФωФ)「まあ私だって出れたんだからあの子にもできるさ。」
∑('A`;)「はあっ!?おじさんも行ったんですか!?そこに!?」
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:42:00.01 ID:lWQiPkyy0
( ФωФ)「ああ、この集落の人間の男の半数は行くんだ。
一種の通過儀礼のようなものでね。
あるとき、あそこに呼ばれるんだ」
( ФωФ)「たまに帰ってこないものもいるが、そういう人は ち ょ っ と 運 が 悪 い だ け だ
いままでに何人かしかそんなのはいないしね。」
('A`;)「まじかよ…」
( ФωФ)「マジよ、マジ。」
ドクオは茫然として話を聞いていた。
こんな人里に近いところに、そんなものがあるとはにわかには信じられないことだし、
さらにロマネスクは、そこに行くことを少々危険な通過儀礼かなんかとして捉えている。
ドクオにはその事実にそこはかとない不気味さを覚えた。
まるで、目の前にいるロマネスクがその得体のしれないものの一部のように感じられた。
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:46:30.57 ID:lWQiPkyy0
('A`;)「いったいいつからの話なんですか?
この集落はできてからそこまでたってないって聞いてますけど」
( ФωФ)「いや、私にもあそこの成立は聞かされていない。
集落と同時にここにあらわれたのかもしれないし、
そんなことは関係なく、ずーっとそこにあるのかもしれない」
あるいは文明の生まれる前から。
ロマネスクはふーっとため息をつくように言った。
( ФωФ)「ドクオくん、私を酔わせてまで聞きたかった話は満足いく内容だったかね?」
('A`;)「ばれてましたか…」
その時、夜の山から強く冷たい風が吹き下ろしてきた。
ドクオにはそれが、山に住む形のない者たちの呼び声のように聞こえた。
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/04(日) 00:48:32.13 ID:lWQiPkyy0
第二話 おわり
- 2010年11月09日 00:25 |
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