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( ^ω^)ブーンは駆逐するようです


第11話

271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:13:34.11 ID:Q20amxjg0
第11話「咎喰い」

時は3時間ほど遡る。
廃ビルに設置された臨時北部戦線基地にあわただしく兵士が入っていった。

兵士「緊急報告!! 蟲が侵攻を開始しました!!!」

切羽つまった兵士の声が北部戦線臨時基地の中に響き渡る。
なにやらこれからの相談をしていたらしい幹部は即座にその表情を変えた。

从 ゚∀从「何だと!?」

兵士「海岸線から突如出現したフライの軍勢が北西方向から侵攻!
    それにあわせて集結した蟲たちが侵攻を開始したようです!!」

( ^ω^)「フライの遊撃の群がこんな時にwなかなか素敵なことになってるおwww」

从 ゚∀从「司令、指示を。」

( ^ω^)「撤退……違った、ハイペースで戦線を下げるお。至急各部署へ伝達!!」

兵士「はっ!!」

兵士はこわばった表情のまま走り出す。

( ^ω^)「ハイン、敵の密度が最大になる時間と位置の測定。今から3分でやってお」


272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:14:33.99 ID:Q20amxjg0
从 ゚∀从「最大? 最小ではなくてですか?」

彼女がわざわざ聞き返したのは、通常は攻撃というものは最も敵が薄い所を狙うからだ。

( ^ω^)「どうせ最小でもあの数に反撃したらこちらの被害の方が大きいお」

从 ゚∀从「分かりました、今調べます。」

ハインは愛用のPCに向かっていった。こんな時でもすぐに冷静さを取り戻して
与えられた仕事を的確にこなせるのは彼女の優秀さ故だろう。

( ^ω^)「ジョルジュ、集めろって言った人材はどうなってるお?」
  _
( ゚∀゚)「予定通り南部地域に集めていますが今からじゃとても援軍は間に合いません」

( ^ω^)「いやちょうど良い位置かもしれないお。もう武器の支給はできてるかお?」
  _
( ゚∀゚)「はい! なんとか間に合いました」

( ^ω^)「良くやったお。ギコ、北部地域に居る兵士を若年兵を集めるんだお」

( ,,゚Д゚)y ̄~「分かった。30分ほどかかるぞ」

274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:15:28.23 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「ギリギリだお。それから集まった若年兵にはそのまま南部のトンネルまで行ってそこを死守するように!」

( ,,゚Д゚)y ̄~「了解!指揮は誰に任せますか?」

( ^ω^)「北部防衛隊長のドクオという男に任せるんだお。腕はたつお」

( ,,゚Д゚)y ̄~「分かりました」

PCを操作しているハインの方へ向き直る。

( ^ω^)「ハイン、結果は出たかお?」

从 ゚∀从「はい、かなり大まかな見積もりですが。おそらく街に侵攻してきてた時に増援のフライの
      侵攻が一旦とまって、地上のスカラベとワームと合流を図る北部と中央との間辺りかと。
      時間はこちらの抵抗関係なく今から2時間半後あたりです」
  _
( ゚∀゚)「こちらの抵抗に関係なくって、それつまりwwww」

( ^ω^)「それ以上は言うなおwwww」

从 ゚∀从「なにか作戦があるんですか?」

( ^ω^)「まぁ、作戦というか……どちらかって言うと賭けの類だおw」

275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:16:20.22 ID:Q20amxjg0
  _
( ゚∀゚)「大丈夫ですか?w」

( ^ω^)「まぁ、何とかなるおw」

('A`)「良く言う」

( ^ω^)「お? ギコに呼ばれたかお?」

('A`)「お前が呼んだだろ。俺が指揮を執れって」

( ^ω^)「頼りにしてるおww」
  _
( ゚∀゚)「誰ですか?」

( ^ω^)「さっき言ってたドクオという男だお」
  _
( ゚∀゚)「全然司令に敬語使ってないですけど親しいんですか?」

( ^ω^)「アメリカ軍に所属していた時に共同研究者だったお」

('A`)「しかし賭け事とはな。謀り事の間違いだろう?」

( ^ω^)「何のことかわかりませんおww」

('A`)「アークはまだ知らせてないのか?」

( ^ω^)「知らせてないお。ただ一人は勝手に知ってるかもしれないおw」

276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:17:15.58 ID:Q20amxjg0
('A`)「勝手に知ってる? 冗談はよせよ。知らせてるんだろう?」

( ^ω^)「さて、どうだかわからんおw」

('A`)「まぁいい。本題をがある。なんでトンネルなんか守らせる? あそこは安全圏だぞ。」

( ^ω^)「ところが蟲に奇襲されたお」

('A`)「……なんだと?」

( ^ω^)「奇襲されたお。先行した避難民の一部が亡くなったお」

('A`)「詳しい被害者の情報は!?」

( ^ω^)「落ち着けお。まだ分からないお。早く確認するために行って欲しいんだお。
      ドクオが例の女のこと考えられながら戦場にいてもらっては迷惑だおw」

('A`)「わざわざ確認させるためにそこへ行かせるってか?」

( ^ω^)「助かってることを願うおw」

('A`)「……すまん、恩に着る」

( ^ω^)「気にすんなおw」

('A`)「ギコ隊長と集合を手伝ってくる。……生き残れよ」

( ^ω^)「了解。そっちもだお」

ドクオは軽く頷いてやはり駆け出して出て行く。

278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:17:52.98 ID:Q20amxjg0
从 ゚∀从「司令、おそらく一時間後には蟲の先行部隊が到着します。迎撃準備どうしますか?」

( ^ω^)「侵攻が一日早くなってるからフライの攻勢を初めに片付けなければならんお。
      地上の蟲は人類の生み出した偉大な『悪魔の兵器』で足止めを食らってもらうおw
      とにかくフライだけに意識を集中して中央まで逃げ切るお」
  _
( ゚∀゚)「『悪魔の兵器』って地雷ですか!?そんなものどこから?」

設置は容易、生産コストは安価で、その殺傷能力は保障済み。
20世紀に大量にばら撒かれ、以降その解除の難解さと厄介な殺傷能力、あまりの数の多さから
それは『悪魔の兵器』と呼ばれるようになった。
そして蟲の登場後も蟲と人間、区別無くその歯牙にかけ、皮肉にも人類は自ら呼称する『悪魔』を使い続けることになった。

( ^ω^)「米軍から昔のコネで無理矢理通してきたおwwじゃあ二人で若年兵の召集と平行して隊を整えてくれお」
  _
( ゚∀゚)从 ゚∀从「はっ!」

283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:20:44.69 ID:Q20amxjg0
装備を確認して外で待機している各兵長を呼びに二人は出て行った。
北部戦線基地には彼一人だけが残る。
ブーンはドクオが上からわざわざ運んできてくれた無線をに手をかけ
手馴れた様子で周波数をあわせて対応を待つ。
しばらくして聞こえたのは戦場にはまるで似つかわしくない穏やかな声だった。

『やぁ。どちら様かな? 僕のところにわざわざ繋げてくるのは?』

( ^ω^)「ブーンですお」

『ああ、君かい? 本部から繋げていないってことは緊急事態かい?』

( ^ω^)「蟲の侵攻にフライの遊撃が重なりましたおwww」

『援護を早めろ、ということかな?』

( ^ω^)「はい。時刻は今からちょうど3時間後。場所はこの街の中央地区と北部地区の境界でお願いしますお」

『……自分の街を焼き払う気かい?』

( ^ω^)「本当は街じゃないところで今すぐにやってもらいたいですお。しかしそっちも準備時間がかかりますお」

『ま、それもそうなんだがね』


284 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:21:49.57 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「何かを守るために、犠牲がつかないことは……ないですお」

『前に言ったろう?それをするのが”英雄”なんだよ』

( ^ω^)「僕は英雄にはなれそうにないですお」

『今回は随分弱気だねぇ』

( ^ω^)「先が見通せてしまうのも考え物ですお」

『誰かを失うのが怖いかい?』

( ^ω^)「そのようですおw……っと無駄話が過ぎましたお、それではですお」

『ああ、無事を祈ってるよ』

( ^ω^)「対岸で会いましょう、ショボン司令」

『了解』

ブーンは静かに無線を置いた。外ではあわただしく兵士が行きかっている。
ブーンはもの思いに沈むように一瞬視線を落としたが、すぐに置いてあったライフルを手に持って外に出かけた。
予想外の早さで若年兵の召集を終えたドクオがブーンを見かけて声をかける。

('A`)「準備が完了した。一足先に行ってくる」

( ^ω^)「頼んだお。脱出経路の確保は士気に影響するお」

('A`)「まかせとけ」

286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:22:26.76 ID:Q20amxjg0
ドクオは若年兵をまとめたジープ数台を先導しながら、南のトンネルに向かった。
ハインとジョルジュはそれぞれ隊をまとめて『外』に地雷を設置しに行った様だ。
臨時基地の周辺には通信兵と衛生兵、そして控えの兵士が十数人居るだけだ。

どの兵士もその表情が硬い。

これから起こる戦闘を考えれば当然のことだ。
たださえ10倍という圧倒的兵力差にさらに増援がついたのだ。
敗戦は確定。被害の最小限を祈るだけだろう。

しかし極度の緊張に晒される彼らの表情を見てもブーンは顔色一つ変えなかった。
上が少しでも揺らぎを見せれば、それはすぐに下まで伝染することを彼は熟知していた。
逆に上さえ気丈に振舞えば、その分下の兵士達が勇敢になることも。


「それをするのが英雄なんだよ」

そう告げた人を思い出す。

( ^ω^) (……英雄にはなれそうにありませんお)

かつて「俺達は正しかったのか?」という言葉を、それは誰にも分からないと返した。
自分だって分からなかった。それが正しいことなのか、そんなことは知らなかった。

291 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:26:33.48 ID:Q20amxjg0
内藤ホライズンは弱者だった。彼は自身の明晰さゆえ、彼がいかに無力であるかもう十分知っていた。
だから犠牲を払わなければならない。救うものの対価に等しい犠牲を。

その犠牲の第一番は自分でなければならないはずだ。
                       、、、、、、、、、
ただそれで救えるものがあるなら、いや、それで失わなくて良いものができるなら、
自分なりに最善を尽くそうと決めたのだ。

仮面をはめた。自分を偽るためでも、他人を偽るためでもない微笑の仮面。
どれほど罪悪であろうとも、そこにある自分が描いた理想を実現させようと思った。

そのために、彼は自分の感情をかき消した。
やるからには、中途半端ではいけない。それはさらなる罪だ。

そんな罪悪感に身を悶えさせるなんて余分なことはいらない。
それが人間らしくないと思われてもかまわない。
もうすで自分は人間かどうか分からなかった。

だから、仮面をはめた。

自分の心も、他人の心も見ない枷、微笑の仮面。
一心に、描いた理想を顕現させるための狂気の仮面。

憤怒も、憎悪も、悦楽も、哀愁も、ない。

293 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:27:11.34 ID:Q20amxjg0
その笑顔は穏やかだった。
ただ一つ、たった一つの自分の理想のためにある仮面は、
その純粋さゆえに美しく、穏やかだった。

だけどそれは英雄とは呼ばれない。
分かっている。自分は英雄とは程遠い存在だった。


英雄は、何も失わせない存在だと思った。
違った。何も失いたくないと願った、その人間がどれほど自分が傷つくことかなど考えもせずに、
一心に見つめた未来に進むその姿を人は英雄と呼ぶのだ

その英雄は魅力的だった。


一つ決意を固める。

振り返れば全ての行動が打算だったような気さえしていた。
だから願った。どうせ最後の時くらいは、自分が追い求めて追い求めて
それでもやはり打算で諦めた幻想を抱いてみるのも、悪くはない気がした。

294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:27:57.32 ID:Q20amxjg0
時は彼が思ったよりも早く流れたようだ。
防壁の門から、ジョルジュとハインが兵を率つらねながらブーンに近づくのを気付いた彼は慌てて顔を上げた。

从 ゚∀从「準備完了しました」

( ^ω^)「ご苦労様だお」
  _
( ゚∀゚)「もうフライの一部が肉眼で確認できます! 迎撃体制を!!」

ジョルジュは興奮気味に叫んだ。
あたりの兵士も興奮と緊張が入り混じった表情だ。
ブーンはジープの運転席の上に上がって、それを黙って見上げる千数百人の兵士をを見下ろした。

その中に30歳以下の兵士は居ない。死線になるここでの攻防からできるだけ遠ざけるために
あらかじめ南の脱出経路の守りを固めるように命じておいた。

最悪、ここにいる人間が全滅してもその先攻部隊は生き残るだろうという算段だ。

( ^ω^) (この状況を作ったのは自分なのにとんだ傲慢だお……)

統率された兵士はブーンを見上げた。
曲がりなりにもブーンはここの街を4年間守り通してきた。
彼らにとって間違いなくブーンはその統率者だった。


295 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:28:28.70 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「おそらく、これが最後の戦闘になるお」

兵士は意味を図りかねているのか対応しかねている。

( ^ω^)「蟲はもうあと数日のうちに全滅するお」

今度はあからさまに動揺が広がった。ハインやジョルジュ、ギコも驚いて見上げている。

( ^ω^)「蟲の体に欠陥的な遺伝子が発見されたらしいお。アメリカで公式声明が発表されているお」

ブーンの体に虚偽を吐き出す痛みは貫かなかった。いつしかかき消した痛み。
その声明は数ヶ月前に作られ、発表されたものだ。なにせ、蟲を野に放ったのは他でもないアメリカ軍上層部の決定なのだから。
発表を遅らしたのはアメリカよりも情報が遅れている日本にも、その情報が浸透し始めているからだ。

それをまるで、最近の研究で分かったように見せかけるのだ。
いずれ真実は全て露見するだろう。全てが終わった後で。

( ^ω^)「これが最後の戦いだお。みんな生き残るお! 死んではならんお!!」

うおおおぉぉぉと低い歓声が響いた。
兵士の士気の高さを確認したブーンは北方を見た。数千匹のフライが空を黒く染めかけていた。
その下にフライに追従するするようにして五百以上のワームが、さらに後方には数千のスカラベが続く。

その群れに飲まれれば、人など数十分で跡形もなくなるだろう。

296 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:29:06.79 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「まともにやっても勝てる数じゃないお。迎撃と戦線離脱を繰り返して
      中央まで全力で戦線を後退させながら維持するお!!」

それまで、幾戦と蟲の侵攻を妨げてきた幹部クラスも胸に動揺を押し隠した。

( ,,゚Д゚)y ̄~ (なんだあの数……こっちの十倍どころじゃねぇぞ。逃げ切れるのか……)

ギコはブーンを不審そうに見上げる。
本来、人間千数百人でまともに戦えるのはせいぜいワーム、フライが各100体、スカラベ千匹前後だ。
正式な軍隊並みの装備でさえ相手にできる数ではなかった。

それでも、ブーンは焦る様子はどこにもない。
ギコの目に映るブーンはいつもの穏やかな笑顔を浮かべたままだ。

( ,,゚Д゚)y ̄~ (この人に……恐怖心はないのか?)

( ^ω^)「ギコどうしたお?」

( ,,゚Д゚)y ̄~「いえ。何でもありません!」

( ^ω^)「気を張らなくていいお。さぁ!! 行くお!!!」

再び兵士がおおおおぉぉと声を荒げる。
ブーンがそこに居るだけで兵士は陽気ささえ感じるような顔を見せる。
誰もが盲目にブーンに従っていた。

297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:30:32.77 ID:Q20amxjg0
やがてあたりにかすかに地響きが響き始める。
蟲が近づいているのだ。

ムカデが巨大化したような巨大な体躯で、深い毒々しい緑色の甲殻をもつワームは
気色の悪い数百本もの態足をうごめかして高速で移動する。
その進行速度は人の全力疾走にも劣るスカラベの比ではない。

体長は5〜6mに達しようか。防壁などまるで見えていないかの様に一直線突進する。
空からはフライが突出した数百のフライが襲いかかる。

3mの巨大な黒甲殻が迫るその突撃は、しかし統率された兵士を一遍も乱すことはなかった。
ジープの上からからブーンが叫ぶ。

( ^ω^)「構えーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

普段これを行うジョルジュの指示などとは比べ物にならない声量。
その咆哮にあたりの空気は激震する。

兵士が対空武器を一斉に構えた。
千を越える銃口、砲塔の先端が黒の群れに狙いを定める。
ライフル、バズーカ、機関銃。物資のすくない中、短い期間にありったけ集めた火力の結晶だ。
フライが防壁を飛び越して瞬間、そこに居た兵士すら蟲が戦慄したのを感じ取っただろう。
ブーンの手は振り上げられたまま、『外』で轟音が響き渡る。

防壁に突っ込もうとしたワームが仕掛けられた小型対戦車用地雷に吹き飛ばされたのだ。

298 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:31:21.59 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「っ っ っ 撃 っ っ え え え え え え ! ! ! ! ! 」

ブーンが勢い良く腕を振り下げると同時に放たれる千の砲撃。
群れからはなれ突撃をかけた数百のフライは、一匹残らず地上に落下して、自らの重みで醜く潰れた。

外ではワームが更なる爆撃で100匹以上が原型をとどめず爆死している。
兵士の歓声が上がった。しかしその歓喜も長くは続かない。

まるで何事もなかったかのように残ったワームの半数は突っ込み、いともたやすく防壁は破壊された。
  _
( ゚∀゚)「退避ーーーー!!!!! 急げ!!!! 死にてぇのか!!!!!!」

ジョルジュが絶叫する。
防壁から新入するワームは即座に獲物を見つけて、本能の赴くくまその凶暴性を発揮しようとしていた。

距離は約300m。ワームなら20秒もかからず追いつき、30体程でここにいる人間を半分以下に殲滅できる。
それだけではない。空からは千を悠に越えるフライが侵攻しようとしていた。

兵士は即座にジープと戦車に乗り込み退避を開始する。

从 ゚∀从「退くぞー!!! 全軍退けえええぇぇぇ!!!!」

ハインの叫びともに兵士は一斉に退く。
機動力のあるジープに乗り込んだ者は全力で南へ向かって走り出す。
初速も遅い戦車に乗り込んだ者達は、砲塔を後ろに向けたままワームに対抗する。

299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:31:55.02 ID:Q20amxjg0
戦車兵1「撃て!! 撃てぇ!!!」

戦車砲が轟いて、ワーム一匹を粉々に粉砕した。
しかし刹那の間もなく十数のワームが追撃をかける。

戦車兵1「くそ野郎がぁ!!!!!!!!!!!!」

砲撃をかいくぐったワームが酸の垂れる大口を広げて戦車に喰らいつく。
戦車の装甲に食い込んだワームの強靭な顎は、さながら地獄の魔手の如く戦車の進行速度を緩めた。
戦車上部にいた兵士がライフルで直接喰いつくワームの頭に鉛玉をぶち込む。

鳴り響く銃声に酔ったその兵士は、頭上から迫るその影に気付かない。

戦車兵1「はははは、死ね死ねs――」

不意にその上半身が消し飛んだ。
進行速度の緩まった戦車は空から奇襲をかけるフライの格好の餌食となっていた。
食い千切られて残った下半身から鮮血が吹き上がる。

戦車兵2「うわああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

なかで操縦していた兵士の悲鳴が耳を劈(つんざ)く。
さらにその戦車に4体のワームが絡み付いて酸を吐きかける。

戦車兵2「あああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”
     熱いいい熱いいいいあづいいい”い”い”い”い”い”い”い”!!!!!!!!!」

300 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:32:39.55 ID:Q20amxjg0
フライが2匹の急降下してへばりつき大量の酸を雨のように振り掛け、
ワームがどろどろに熔けた金属ごと原型すら怪しい中の人間を食い荒らした。
一台だけではない、他の2、3の戦車兵も同じ運命を辿る。

先ほどの僅かな勝利の美酒に酔いしれる暇など片時もありはしない。
兵士の恐怖感が限界まで高まる。

もはやパニック寸前だった。

( ^ω^)「――――撃ってえええええええええ!!!!!!!!」

不意に再びブーンの咆哮が上がる。
ブーンのジープに乗っていた兵士達は対戦車砲を放った。
戦車ごと人間を食らおうと集まっていた蟲達は、その直撃を受け体を無数に引き裂かれ吹き飛んだ。

( ^ω^)「進めええええええ!!!!!!!!!!!!! 銃撃を休めるなお!!!
      撃ちつづけるお!!!!!! 中央地区まで突っ切るんだお!!!!!!!!!」
  _
( ゚∀゚)「恐れるな!!!!!!!! 突き進め!!!!」

二人が必死に叱咤し、ぎりぎりのところで兵士の正気を保つ。
追撃してくる200体以上のワームと数千のフライを、抵抗というにはあまりに微弱な火力で対応する。
それでもかろうじて機動力で勝るブーンたちは、中央まで逃げ切っていった。

301 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:33:30.62 ID:Q20amxjg0
しかし2時間半後、蟲に尻焼かれながら中央にたどり着いたブーンの部隊には
20台以上あった戦車は一つとして残らず、ジープの数も三分の二ほどになっていた。

その総兵士数は当初の半分を割りそうになっている。
ワームは50体まで減りこそしたものの、数百体以上殺したフライはその数が衰えたようには見えず、
荒れ狂う黒の群れはさらにその数を増していた。

再び絶望の色が濃くなり始めた時、2体のワームと十数体のフライを残して蟲が進行方向を反転した。
  _
( ゚∀゚)「なんだ……?」

( ^ω^)「人間と資材を喰い漁ったスカラベと合流するんだお」
  _
( ゚∀゚)「また共食いですか?」

( ^ω^)「ワームの数が多いから栄養補給が必要だったんだろうお。だけどこれだと予定より大分早く――」

ブーンのジープはちょうど本部だった小学校を通りすぎた時だった。

( ^ω^) (今、本部に人影があったお……!!)


兵士1「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

ブーンの思考を兵士の絶叫が妨げる。

ブーンの後方30mのところで人が乗りすぎて遅れていたジープがフライの急降下からの奇襲を受けたのだ。
降下したフライが兵士の上半身と隣に居た兵士の肩から腕を根こそぎ食い千切っていた。

302 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:34:27.38 ID:Q20amxjg0
周りの兵は酸を浴びせかけられくぐもった悲鳴を上げる。
顔はただれ皮膚からは焦げたような匂いと共に薄っすらと煙が上がった。
まともな運転能力を失ったジープに2体のワームがすかさず迫ろうとする。

不意にブーンの視界は、本部から飛び出す見覚えの在る後ろ姿をとらえた。
やはりこの世界には不自然なほど綺麗な金髪が揺れる。

その女の子は絶叫の出所を見据えて硬直していた。

その視線、ワームに追随を許した兵の恐怖の様子の先には、
更なる増援で膨れ上がったフライの数万もの群れが完全に空を漆黒へと変貌させている。

ワームに追いつかれた兵士達は為す術無くその体を引きちぎられ、
千の肢をもつ深緑の甲虫を真紅にその血で染め上げた。
彼女は声も上げることができずにそのまま直立している。

( ^ω^)「まずいお!!!助けるお!!!!」

ブーンが手近にあったグレネードを兵を食い物にして群がる蟲に投げるのと、
”それ”が飛来するのはほとんど同時だった。

放物線を描いて真っ直ぐ蟲に向かうグレネードとは対照的に、三本の”それ”は

真っ直ぐ大気に筋を残して超高速でフライの群れの手前へと突き進んでいく。

( ^ω^)「ショボン司令の――!!」

303 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:35:20.65 ID:Q20amxjg0
大型のミサイルは白煙を吐き出しながら突き進む。
しかし、予想より早くスカラベとの合流を図った蟲はその直撃を免れるを免れるだろう。
最後の希望が撃ち崩れかけていた。

皮肉にもそうしたのはブーンたちの奮戦だった。

( ^ω^) (ここまでかお……)

電子統制されたミサイルは正確にその航路を目標地へ向ける。
蟲はその戦力の1割すら失うこと無いだろう。
そしてここの街の人間は一人残らず蟲に食い荒らされ、その生活の跡は一遍も無くなり、
世界のいたるところに急速に増え続ける森林へと変貌する。
内藤ホライズンが夢見た世界になる。

それで、終わりだ。

残ったのはこの星に適した数の人類とかつてのような青と緑の大地。

いつか人間が再び増えすぎ、滅びようとも構わない。
それまでに新しい人の在り方が見つかればそれで良い。
内藤ホライズンは結局のところ、英雄たる理想を描けなかった。
だから、代わりに理想をつなぐ世界を欲した。

それが彼の理想。

内藤ホライズンが示す『方舟』が選定した在り方。
ここで死ぬのならば、それはブーンの願いが選定されなかっただけのこと。
他には何もない。

だから、それはきっとこの物語の終わりだった。

306 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:40:42.20 ID:Q20amxjg0
でも、と
ブーンの本能が告げる。

内藤ホライズンにはまだ果たしていない約束がある。

( ^ω^) (もうちょっと頑張ってみますかお)

その時だった。それまで直進していたミサイルが不意にぐらつきその進行方向を変えた。

( ^ω^)「!!!」

前方ではグレネードが爆発して、人を食い漁っていたワームとフライが吹き飛ぶ。
残りの十数匹のフライはすでに兵士の銃撃によって撃墜され、地を這うだけだ。

ミサイルの2本が蟲の大群へと直撃し、蟲がその火球に呑まれてゴミ屑へと変貌していく。

残りの一本は突如急降下し、予定よりもずっと近くに落ちようとした。

( ^ω^)「伏せるおおぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」

衝撃と爆風に耐えるために兵士が伏せる中、ツンだけが放心状態で突っ立っていた。
突如、瞬間的な轟音の後に視界がホワイトアウトする。

その刹那、ツンが吹き飛ばされるであろうこと予想したブーンがジープを飛び降りた。
真っ白な視界の中、ブーンはその身を吹き飛ばされたツンをしっかりと抱きとめながら
触覚だけが残る体でその凄まじい破壊から逃れようと必死に彼女を守りながら身を小さくする。

全ての感覚が虚ろになりかけたその体に、妙に腕の中の人の温かみが残留した。


第12話へ


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