ブーン系小説をまとめて紹介しているサイトです
HOME | 問合せ
('A`)ドクオは通過するようです
563 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(山梨県):2008/09/12(金) 21:30:42.17 ID:/ZQMkLPk0
 景色が構築されていく。

それは見たことのないものであった。
 しかしどこか懐かしい気もする。
古びた木製の家屋の、畳敷の小さな部屋。
その中に勉強机と本棚が押し込まれていて、
余った狭い空間には布団が息苦しそうに横たわっていた。
聞こえる音と言えば、虫の音と風の抜ける音くらいか。

 何時の間にか、俺は勉強机に向かっていた。
小さな虫がうようよ寄りついている朧気な裸電球を頼りに、手帳のようなものになにやら書いているらしい。

 それは日記のようにも思える。
使い込まれた万年筆が文字を吐き出していく。
文面を確認する前に、俺は筆を置き手帳を閉じた。
書かれていた内容は分からなかったが、閉じた手帳の隅にかかれた記名は見てとることができた。

 『土井國男』

それは紛れもなく、俺の名前であった。

564 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(山梨県):2008/09/12(金) 21:31:37.60 ID:/ZQMkLPk0
「‥‥ぃ、‥‥‥きろ‥‥‥」

まどろみの向こう側から声がする。

「‥ぉい、‥‥お‥‥ろ‥‥」

ん? お‥き‥‥‥ろ?

 起きろ!?


(;'A`)「おうッ!」

( ´∀`)「ようやく起きたかモナ。
      良い夢でも見れたかモナ?」

(;'A`)「え? あ、はい‥‥」

( ´∀`)「それは良かったモナ。
      では、授業を再開するモナ」

そう言うと先生はゆっくり教卓へ戻っていった。

566 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(山梨県):2008/09/12(金) 21:32:58.51 ID:/ZQMkLPk0
 教室がざわめく。
気がつくと教室中のほとんどの視線が俺に集まっていた。
幸いにも前の席の誰かが窓の外を眺めたのが目に入ったので、
俺もそれにならい頬杖をして窓の外に視線を逃がすことで動揺を隠した。

( ´∀`)「えーそんなわけで『欧州の天地は複雑怪奇』という声明を出して平沼内閣は総辞職を―‥‥」

そんな俺を知ってか知らずか先生は再び話を始めた。
起きてみればこの日本史の授業も終わりに近づいていた。

――授業、いや厳密にいうなら補修授業というやつか。
日本史Aの履修漏れを秘密裏に補うため、麗しき高二の夏休みを返上してまで学校に来ているのだ。
授業進度については大分問題があるのだが、必要最低限の時間は取ってあるから大丈夫とのことらしい。
 その時間を有意義に使い、俺は教科書の肖像のほとんどを昇華させたものだった。

567 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(山梨県):2008/09/12(金) 21:34:21.48 ID:/ZQMkLPk0
――――キーン コーン カーン コーン‥‥

 チャイムと同時に机に突っ伏す。
昨晩オールでオンゲをやったのがマズかったか、
それとも先生の催眠術にかかってしまったのか。
クラスの女子数人が先生を囲んで、大方内容の察しがつく話をしている。
というのも、先生は戦線離脱者がでると「ボクの催眠術にかかったモナ」と言って笑いをとるのがお約束なのだ。


('A`)「はぁぁぁ」

いちおう授業中に寝ることをよくは思ってはないんだがなぁ。
最近徹夜しても眠くならないと高をくくっていたが、今になって怒涛のしっぺ返しがきた。

 しかしまあ無理のないことなのしれない。
冷静に振り返ってみると、ここ3日の睡眠時間が二桁を越えていない。
そうはいってもマズい、このままでは眠ってしまう。確か次は生物で、移動教室だったはずだ。

 辺りを見渡す。
人が少しずつ抜けてきて良い感じだ。
クラスの他のボッチ君達も動き出すようだ。


569 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(山梨県):2008/09/12(金) 21:36:23.90 ID:/ZQMkLPk0
 早々に準備をして席を立つ。
誘う相手がいなければ、もちろん誘ってくれる人もいない。
熟練の目が見極めたこの絶好のタイミングである人の流れにのって、出来るだけ自分を殺して廊下を歩いた。

 今日の天気は悪くない。
日差しもそこそこあるし、雲も良い感じに出ている。
 俺はたびたびこんなことを考える。
俺みたいに空を眺めているヤツなんてほかにどれほどいるんだろうか、と。
多くは仲の良い友達を、ある人は携帯を、床と睨めっこしている人だっているのに。
確かに俺には話す友達なんていないし、携帯を見る用事がなければ床を見つめる趣味もないんだが。
とはいえこれほど綺麗で、素晴らしいものをちらりとも見ないなんて俺には理解できない。

――そうして俺はひそかな優越感と独占欲に包まれるのだ。
空が俺なんてものを見ているのか、それ以前に空が俺なんてものに気付いているかですらわからないのに――


 そんなつまらない考えに耽っている内に生物室へ着いた。

良い感じに席が後ろな俺は、初老の先生の目を盗んでは再び眠りに落ちるのであった。


 季節は秋へと移ろうとしている。
いまだ太陽が燦々と大地を照らしていた。


571 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(山梨県):2008/09/12(金) 21:37:46.36 ID:/ZQMkLPk0
 荒野。

陽炎のなか、白いワイシャツ姿の俺と、薄汚れた茶色の服を着た俺が向かい合っていた。


 これは夢か。

太陽の中に立つ茶色い俺は逆光になっていて、白い俺は彼の表情を察することができない。


 白い俺が彼へと伸ばしたその右腕は、陽炎に呑まれてぐにゃりと歪んだ。



2008年9月前半TOPへ
総合TOPへ


HOMEに戻る ニュー速VIPのブーン系小説まとめ
Copyright © 2008 Boon Novel. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system