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( ^ω^)ブーンは駆逐するようです


第7話

154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:42:45.58 ID:Q20amxjg0
第七話「霞遥か」


夕暮れ・ビル屋上

川 ゚ -゚)「おいしいか?」

('A`)「……ああ」

川 ゚ -゚)「ふふふ、作った側としてはもう少し良いリアクションを期待していたのだがな」

('A`)「お前の飯がうまいのはもう分かりきってる」

川 ゚ -゚)「そうかそうか。君も素直でないな」

('A`)「……知ってるよ」

ちょうど日が暮れた時間帯、彼はいつもこの時刻に仕事を一旦休息する。
その時を見越して私が料理を用意しておくのが日課になっていた。

川 ゚ -゚)「しかし勤勉だな君は。ずっと休むことなく警戒にあたっているじゃないか」

('A`)「いつ蟲が襲ってくるとも限らんしな。最近は特に活動が活発になって来てる」

私は彼が休んでいるのを見たことがなかった。この2週間たった一度だって。

156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:43:26.90 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚)「いつ襲ってくる、か……。そんなことよりもいつこの状態が終わるのかの方がよほど興味がわくな」

どことなくトゲのある言い方になってしまったかもしれない。
別に彼に当たってもしょうがないのは分かりきっているのに。

私の不安は私を彼に甘えさせてしまうようだ。

('A`)「……クー、ちょっといいか」

川 ゚ -゚)「? かまわないが」

('A`)「お前最近、夜に空見上げたことあるか?」

川 ゚ -゚)「そう言えばないな」

('A`)「見上げてみろ」

彼の言われた通りに上を向く。そこには満天とはいかないまでも十分に美しい星空がっていた。
煌く星々を見ていると空の大きさが良く分かる。

いつからだろう?こんな美しい夜空を見上げなくなったのは。

川 ゚ -゚)「綺麗だな」

('A`)「……もともと、ここから見える星空はこんな澄んではいなかったんだ」

川 ゚ -゚)「そういえばそうだな。私の小さな頃より大分綺麗に見える」

('A`)「蟲って何なんだと思う?」

159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:44:28.66 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚)「? なぜ突然そんなことを聞く?」

('A`)「クー、人間は地球にとって癌のような存在だと考えたことはないか?」

川 ゚ -゚)「癌? 環境問題のことか?」

('A`)「いや、それに限ったことじゃない」

川 ゚ -゚)「まぁ確かに増えすぎてはいたな、人類は。現在ではもう1割程度しか残っていないようだが」

('A`)「そう、ちょうど今から5年くらい前の蟲が現れる直前のことだ。
     あまりにも増えすぎて人間は環境をどうこう言ってられなくなった」

川 ゚ -゚)「中国やアフリカを中心にした人口増加に伴う食料問題も過激化してたからな」

('A`)「ああ。初めて蟲が出現した中国はもう食糧問題で戦争を起こしそうな状態だった」

川 ゚ -゚)「第三次世界大戦、核の戦争の火種か? あんなものは所詮外交上の話で――」

160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:45:07.56 ID:Q20amxjg0
('A`)「そう、そのはずだった。アメリカがあの政策を打ち出すまではな」

川 ゚ -゚)「政策?」

('A`)「アメリカの遺伝子工学技術が異常に発展しているのは知っているだろう?」

川 ゚ -゚)「ああ」

('A`)「アメリカは開発しちまったのさ、夢みたいな技術をな」

川 ゚ -゚)「夢のような技術? 生産性と栄養価が高い作物かなにかか?」

('A`)「いや、ほとんどの作物の生産性を上げる技術そのものだ」

川 ゚ -゚)「それの何がいけないんだ?」

('A`)「それ自体は問題ない。だけどアメリカはその技術を金で世界に売ろうとした」

川 ゚ -゚)「なるほど、もしそんな作物があれば外交上有利に話を進められるしな」

('A`)「そうだ。だけど中国はそれを良しとしなかった。世界的な危機を前に金を要求するのかってな」

川 ゚ -゚)「そして中国とアメリカがあんなにもこじれていたのか」

('A`)「まぁ、他にも様々な問題があったんだろう。下手したら本当にそんな戦争が始まるかも知れないって時だった」

川 ゚ -゚)「そこにちょうど蟲が現れたのか」

162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:45:52.06 ID:Q20amxjg0
('A`)「蟲にしてみれば中国は餌の宝庫だからな。中国の人口が半分になるのに5日とかからなかった」

川 ゚ -゚)「なるほど、それからは良く知っている。もう蟲が世界のあらゆるところで目撃されていたからな」

('A`)「そうか? お前はその後の中国の様子を知っているか?」

川 ゚ -゚)「……いや。なにかあるのか?」

('A`)「蟲が中国を喰い尽くしたあと、そこに何が残ったと思う?」

川 ゚ -゚)「……? わからない。何が残っていたんだ。」

('A`)「単純だ。人間を喰いっぱぐれて飢え死にした蟲と喰い散らかされた人の死体と使用者のいない人工の建造物だ」

川 ゚ -゚)「だからどうしたって言うんだ?」

('A`)「ところがだ、衛星写真に移った中国のその後の様子にはあるものが決定的に欠けていた」

川 ゚ -゚)「あるもの?」

('A`)「そう。何だと思う?」

川 ゚ -゚)「……わからんな。なんだ?」

('A`)「建造物さ。あるはずだろ。たった十数日前までは人が住んでいたんだから」

川 ゚ -゚)「なくなっていたのか?」

('A`)「きれいさっぱりな。都市部でもほとんど荒野になっていた」

164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:46:53.46 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚)「そんなことが……しかし何故?」

('A`)「……蟲が喰ったんだ。コンクリートも、金属も、科学樹脂も何もかもな」

川 ゚ -゚)「それって……」

('A`)「見方によっては一種の浄化かもしれない。人間の存在に侵されたこの世界の全て無に返す」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「さらに数ヵ月後にはどうなっていたと思う?」

川 ゚ -゚)「森……か?」

('A`)「察しがいいな。森とまでは行かなくても急速な緑化が進んでいた。
     人間に蟲の死骸、それに急速に自然分解された様々な物質が溶け込んだ肥沃な土壌が作られているからな」

川 ゚ -゚)「じゃあ、蟲の存在は……」

('A`)「あまりに増えすぎた人類への粛清だったのかもな。なんで俺が星空のこと言い出したか分かるだろう?」

川 ゚ -゚)「世界の浄化、それが蟲の存在意義ってこと? あまりに救いがないな……」

('A`)「だろう? 世界はこんなにも平等だ。一種の生物の隆盛を許さない」

165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:47:34.22 ID:Q20amxjg0
彼はなんだか自嘲的に笑ってその哀しい暗赤色の瞳を夜空に向ける。
私も再び空を見上げる。雲のない大きな空は星を大量に映し出していた。
確かに、しばらく前はこんな綺麗な星空は目に出来なかった。

世界は人を葬って確実に美しくなっている。
そんなことをこんなにも美しい星空が実感させてくれるなんて。

('A`)「だからな……」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「いや、やっぱりいいわ」

川 ゚ -゚)「……ふふ」

('A`)「何がおかしい?」

川 ゚ -゚)「いや、君は本当はそんなに良くしゃべるんだなと思ってな」

('A`)「お前が来ちまったからな、変わったのかも知れない」

川 ゚ -゚)「ほほぅ。今日はやけに素直じゃないか。酒でも飲んでるのか?」

('A`)「飲んでねぇよ。ちょっとしゃべりすぎはしたがな」

川 ゚ -゚)「ふふ、そうか」

167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:48:12.80 ID:Q20amxjg0
('A`)「クー」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

('A`)「なんでお前はここにいてくれるんだ?」

川 ゚ -゚)「他に行くところもないからな。迷惑か?」

('A`)「それはない、いやむしろ感謝してる」

川 ゚ -゚)「今日は本当に素直だな」

('A`)「なぁ、クー」

川 ゚ -゚)「なに?」

('A`)「……いや、やっぱいい」

川 ゚ -゚)「言いかけてやめるなよ、気になる」

('A`)「何でもない。もう寝ろ」

川 ゚ -゚)「寝るにはまだ早いな」

まだ夕食を終えて一時間程しかたってはいない。
しかし、特にやることもない、そんな中途半端な時間。
ここに来てからはいつも彼と他愛ないことを話していた時間なのに、今日はなんだか様子がおかしい。

169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:48:55.79 ID:Q20amxjg0
('A`)「……ちくしょう」

川 ゚ -゚)「何が?」

('A`)「何でもねぇよ。あれだ。風呂入って来い」

川 ゚ -゚)「ああ、そうするつもりだ。見張り、頼んでいいか?」

('A`)「おう」

川 ゚ -゚)「覗いてもいいぞ」

('A`)「の、のぞかねーよ」

川 ゚ -゚)「ふふ、やはり君は面白いな」

本当に覗いていないのに動揺するところが、特に。

('A`)「くそ。もう早くいけ。こっちは夜も見張ってなきゃいけないんだからな」

川 ゚ -゚)「ご苦労様。おかげで私は銃声の中でも安心して眠れるよ」

('A`)「悪かったな、銃声がうるさくて」

171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:49:32.10 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚)「気にするな、最近は安心するようになってきた」

('A`)「それもどうかと――」

川 ゚ -゚)「いや、今日も真面目に仕事をしてるみたいだから襲われる心配はないなと」

('A`)「ああそうかよ! 俺は理性的なんだよ畜生!!!」

川 ゚ -゚)「意気地がないだけじゃないのか?」

('A`)「うるせぇよ!」

川 ゚ -゚)「さてそれでは見張り頼んだぞ。君意外にはあまり覘かれたくないからな」

('A`)「どういう意味で言ってやがる……」

川 ゚ -゚)「そのままの意味さ、じゃあ風呂に行きますか」

その後彼は「……糞っ」だけ小さく呟いていつものように私の後についてきた。


きっと私は幸せな人間だ。


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