ブーン系小説をまとめて紹介しているサイトです
HOME | 問合せ

( ^ω^)ブーンは駆逐するようです


第10話

244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:59:18.98 ID:Q20amxjg0
第十話「逆織り」


明け方・ビル屋上

下には昨日の夜についた、防衛本部の兵士が朝からせわしなく働いていた。
彼は黙ってその様子を見下ろしている。
今日はその喧騒もあって起きた私はまだ少し眠い。

川 ゚ -゚)「蟲との戦いか?」

('A`)「ああ、今回は酷いことになりそうだ」

川 ゚ -゚)「そうか、辛いな」

('A`)「そうでもないさ」

川 ゚ -゚)「……私がつらい」

('A`)「心配してくれるのか?」

川 ゚ -゚)「何故笑う? 当然だろう?」

('A`)「いや、そうか。うん、まぁ、ありがとう」

246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:00:18.83 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚)「……行くな」

('A`)「……無茶言うな」

川 ゚ -゚)「そうだな。すまん、忘れてくれ」

('A`)「気が向いたらな」

川 ゚ -゚)「また今日は一段と素直じゃないな」

('A`)「俺だからな」

川 ゚ -゚)「全く……」

('A`)「そうだ、北部の人間は早めに避難するんだった。先に南の海底トンネルを通って
    対岸のショボン司令の地区まで逃げ込むらしい」

川 ゚ -゚)「む……、もう避難が始まってるな。行って来る」

下では避難民も含めたこの地区の住人達が列を作って兵士の指示に従っていた。

('A`)「クー、ちょっと」

247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:00:48.22 ID:Q20amxjg0
支度しようと小屋にかけたところで、彼はためらいがちにこっちに近づく。

川 ゚ -゚)「どうした?」

彼は黙って後ろに回りこんで、私に銀鎖をかけた。
何の装飾もない、ただの銀の鎖。

('A`)「お守り代わりだ、大事にしろよ」

川 ゚ -゚)「ああ。でもいいのかこんな戦時の時にこんなものもらって」

('A`)「気にすんな。じゃあ、俺も行ってくる。召集かかってるからな」

川 ゚ -゚)「待て」

('A`)「ん?」

川 ゚ -゚)「……ありがとう。大切にする」

('A`)「おう」

振り返らない背中は、なんだかいつもより大きく見えた。


248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:01:26.34 ID:Q20amxjg0
それから約1時間後

北部戦線臨時基地

( ^ω^)「住民の避難は完了したかお?」

( ,,゚Д゚)y ̄~「はい。日没までには全地区の住民の避難も開始できるでしょう」

( ^ω^)「分かったお。ハイン、蟲はどうかお?」

从 ゚∀从「どんどん数が増えてますね。おそらく予定通り10倍くらいの兵力になると思いますが」

( ^ω^)「よてーどうり、よてーどうり。そうてーのはんいないデスオー」

从 ゚∀从「司令、おそらくこのままでは全滅しますよ」

( ^ω^)「……何とかするお。ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「はっ!」

( ^ω^)「避難住民の中から40代以上の人たちを集めて欲しいお」
  _
( ゚∀゚)「はっ。了解しました」

250 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:02:16.69 ID:Q20amxjg0
( ,,゚Д゚)y ̄~「そんな中途半端な戦力集めてどうする気ですか?」

( ^ω^)「……死んでもらうお」

从 ゚∀从「!!」

( ,,゚Д゚)y ̄~「……」
  _
( ゚∀゚)「……それが、最善なんですよね?」

( ^ω^)「最善かどうかはわからないお。ただ最終的に生き残る人数は最大になるお」

( ,,゚Д゚)y ̄~「それで、その方々は納得するんですか?」

( ^ω^)「強制はしないお。彼らには僕が直接言うお」

( ,,゚Д゚)y ̄~「……」
  _
( ゚∀゚)「……手配してきます」

( ^ω^)「ハイン。明日、明朝から蟲の攻撃が始まると予想されるお」

从 ゚∀从「はい。おそらく防衛ラインは2時間も持ちません」

( ^ω^)「戦線を徐々に後退させながら南進するお。その際後退の際に先ほどの戦力を当てるお」

252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:02:58.41 ID:Q20amxjg0
从 ゚∀从「フライはどうします? 制空権は一方的に向こうにあるんですよ」

( ^ω^)「大丈夫だお。所詮おっきなハエは叩き落されるのが宿命だお」

从 ゚∀从「? どういうことですか?」

( ^ω^)「秘密だおwとにかく君たちは地上戦線の維持を第一目標としてもらうお」

从 ゚∀从「はっ!」

( ^ω^)「じゃあ各部署への伝達も含めた最終ミーティングを始めるお」

( ,,゚Д゚)y ̄~「了解。集合をかけてきます」


晴れた空。夏の日差しがあたりを照らす。
その北、ちょうど彼らから霞んでギリギリ見える位置。
群れを成す蟲が暗雲のように集まりつつあった。



253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:03:38.23 ID:Q20amxjg0
中央本部・司令室

あれから、ずっと憧れて追ってきたあの人がブーンさんだと知ってから、
私はなんだかぼうっとして、意識も定かではないうちに部屋に戻って寝てしまった。

朝、起きてみると本部に残った通信兵の人たちは急がしそうにせっせと対応していた。
通信関係の仕事は手伝えることはないので、彼らに簡単な朝食を作ってあげた。
やけにうれしそうに食べるから、見ていたこっちがちょっと可笑しくなってしまった。

とりあえず、彼らは仕事に囚われているようなので私の行動には気を払う余裕はなさそうだ。

ξ゚听)ξ (蟲は、もうすぐ死に絶える……)

それは、まだ確定ではないにしても確かな希望だった。
いや、そのはずだ。実際それを知った時の驚きと喜びは大きかった。
だけど、時間が立つにつれてだんだん心にもやもやした何かが巣食いだした。

漠然とした未来への希望に対する不安ではない。

何かが、噛み合わない。
歯車はかみ合っているのに、それはどこか奇怪な感じがする。

255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:04:28.33 ID:Q20amxjg0
あの資料を見たときに一番初めに感じた違和感がぬぐえていない。
蟲の遺伝に関することばかりに気が集中して、あの資料自体が持つ違和感を忘れていた。

ξ゚听)ξ (もう一度、良く整理してみよう……)

私は周りに人が居ない事を確認して再び司令室に忍び込んだ。
自然と壁にかけられた4枚の絵画に目が移る。

どれも酷く歪んでいる。

その中の一枚を見つめて、すぐに目を離す。
その絵を見た刹那、歯車が噛み合ったような錯覚。

そんなはずはない。それはただの絵でしかない。

蟲とは何も関係がないはずの一枚の絵画。
何故そんな感覚があったのか。
答えは出ないまま、私は立ち上がったPCから「The Ark」のファイルを開いた。

ξ゚听)ξ「……」

やはり、あの違和感の正体はつかめない。
だけど、昨日はほとんど気にかからなかった些細な違和感を思い出す。
あの寿命のデータだ。

256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:05:13.03 ID:Q20amxjg0
そのデータでは研究した当時から3年後、つまり昨年の時点であの遺伝率は100.00%になっている。
昨日見たときは何気なく見過ごしていた。

自分の中では、その一年は単なる予備期間だと思っていた。

いかに数値の上では100.00%とは言っても、実際にそうなることはなかなかない。
蟲は少しでも数が残れば、その繁殖力で再び一気に再興する可能性がある。
だから確実に全ての蟲を駆逐するための予備期間だと考えた。

しかし、その予備期間はあまりに長すぎる。

一年という時間はとてつもない被害を生み出した。
ちょうど各国の物資が途絶え始めたのだ。
この一年で蟲に呑まれた国はかなり多い。

ユーラシアの最後の砦だったフランスを失い、続けて加速度的に侵攻が早まったイギリスも陥落した。
南半球では抵抗を続けていた最大勢力のオーストラリアがエレ3体を擁する大勢力に為すすべなく敗北を喫したらしい。
これで南半球は完全に蟲に制圧されたことになった。

日本もが陥落したのはちょうどそんな時だった。
アメリカで蟲の研究を続けていた私は、同盟国である日本への物資支給航空軍に同行して日本に帰国した。

257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:06:06.78 ID:Q20amxjg0
アメリカに居ても安全だという保障は当時どこにもなかったし、
どうせ死ぬなら、最後の時は生まれた国で家族と死にたかった。

結局戻ってみたそこにはもう既に朽ち果てた自分の家しかなかったが。
家族の行方は知れなかった。
近所の人の話によるとおそらくは……。

その悲しみを噛み締めたり後悔する暇はほとんどなかった。
度重なる蟲の襲撃で、生き残ることに必死だった。

おそらく、世界のほとんどがそんな状態なのだろう。
もはや国としての存続を保ち続けているのはアメリカくらいのものだ。
当然といえば当然だ。あらゆる最新技術を備えているアメリカの防衛体制に蟲は戦線を上げられるはずもなく、
エレによる電磁防衛体制も超長距離からの爆撃にかろうじて被害を減少させる程度だった。

それにもかかわらず、アメリカは蟲に押されていた。
蟲が際限なく増殖するのを防ぐ手段がない限り、いつかはアメリカも
その命運を他国と同じようにするだろう。

それで、アメリカが撃って出たのがこの「The Ark」という蟲駆逐作戦なんだろう。
そこで最初の疑問が頭をよぎる。何故この予備期間が1年もあるのか。

258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:06:44.00 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ (予備期間……じゃないの?)

一瞬とんでもない想像が思考に入り込む。
いや、それはもうほとんど妄想の域だった。
しかし足りないジグソーパズルの一ピースがすっぽりと収まるようにカチリと図面に、はまった。
刹那、歯車が噛み合ってその全貌を描き出す。
戦慄すると同時に自分でも笑い飛ばしたくなるような奇妙な感覚が襲った。

だけどそれなら、その一年の意味も、あの最初の違和感も、なぜ彼がこれを隠していたのかも説明できる。
なんで、こんなことになったのかも。

ξ゚听)ξ「全部……逆だったの?」

だとしたら、そうだとしたら――

ξ゚听)ξ (――無ければいけないデータがある。)

逆なのだ。

ここまでの思考が反転していく。
あるはずのないデータが無ければいけないデータになる。
意味の無いはずの期間が途端にその意味を導きだす。

ξ゚听)ξ「だからThe Ark……『方舟』!!」

方舟によって救われる人間には限りがある。

261 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:07:33.78 ID:Q20amxjg0
検索をかける。文字列は「Ark」

検索結果にめぼしいものは現れない。


再検索「方舟」


検索結果、1件該当。

ξ゚听)ξ (やっぱりあるんだ)

もう、後戻りはできない。これの中身は確認しなくても予想はつく。
ファイルを開くこうするとまたパスワードの提示が要求された。

「Ark」「The Ark」「七瀬」「内藤ホライズン」「sevnth riffle」etc…

どれもパスを通過できない。彼の一つ目のパスワードが「七瀬」だったことから考えて、
今回のパスも似たようなものだろう。

ξ゚听)ξ (しまったな……。全然検討もつかない)

不意に思いついたものを入れてみる。
「ツン」と。

262 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:08:04.24 ID:Q20amxjg0
あっけなくそのファイルは開いた。開いてしまった。

ξ゚听)ξ「……」

開かれたファイルには、やはりずっしりと英文に注釈されたある蟲の図とそれに関する様々な研究結果だった。
これで決まりだ。そこには本来ならあるはず無いデータが、いや最早無ければいけないデータがあった。

人類駆逐の最前線に存在しながら何一つ分からなかった怪物、エレのデータ。
詳細を頭の中にインプットしていく。

ξ゚听)ξ「……愚かね」

何故エレのデータが出回らなかったのか良く分かる。
こんなもの見つかってしまえば一発で不審に思われる。



263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:08:40.95 ID:Q20amxjg0


生物って言うのはその構造にある程度完成された美しさがある。
それは昆虫であっても哺乳類であっても同じことだ。
長い生存競争の中で洗練されている生物には、人が手にできない完成美がある。

だけど、エレにはそんなものは一切無かった。
その生物のベースは神経を犯す寄生虫のようなものだったんだろう。
そうでなければ体に電気を流す機関なんか『創れない』

無理矢理巨大化されて、それは外見だけではなく中身から醜かった。
生体として生きているのが不思議なほどのバランスだった。

こんなものあの寿命なんか与えなくてもそのうち死に絶えるだろう。
まるでつぎはぎだらけのぼろ人形のようだった。
当たり前だ。だってそれはあるべき本来の洗練過程は何一つ無いのだから。

エレは――『人工物』なのだから。


265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:09:32.83 ID:Q20amxjg0

ξ゚听)ξ「方舟ね。良く言ったものだわ」

だけどもしこれが私の予想した通りの計画なら、果たしてそれは本当に国単位でやってのけれるものだろうか。
こんな計画、たとえそれが結果的に人類を救済するものだとしても、どう考えても独走している気がする。

ξ゚听)ξ (ブーンさん……、まだ何か隠してるの?)

通信兵「ツーンさーんー!!? どこですかー!?」

ξ゚听)ξ「どうしたの?」

PCの電源を素早く落として、司令室から出る。
ちょうど角を曲がってきた通信兵と出くわす。

ξ゚听)ξ「どうしたの? そんな慌てて?」

通信兵「北部戦線の後退が予定かなり早いんです!! ここもすぐに戦場になります! 早く逃げる準備を!!!」

ξ゚听)ξ「私も戦場に出るわ。けが人の手当てくらいなら――」

通信兵「そんな状態じゃないんですよ!!!!」

ξ゚听)ξ「っごめんなさい」

あまりの剣幕に押されてしまった。相当戦局はよくないようだ。

266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:10:20.32 ID:Q20amxjg0
通信兵「すいません、取り乱してしまって」

ξ゚听)ξ「何か異常事態?」

通信兵「……敵勢力が予想の約2倍になりました。」

聞き間違いかと思った。たださえ、多く見積もっても10倍だって言っていたのに。
その2倍?
可笑しささえ感じてしまうでたらめな数字だ。

通信兵「逃げて下さい!! まだ間に合うかもしれない!」

ξ゚听)ξ「……嫌です」

通信兵「何を言って――」

ξ゚听)ξ「もうここも戦場と変わりません。会いたい人が居るんです。戦場に行かせてください!」

通信兵「あなたがいたって足手まといになるだけです」

ξ゚听)ξ「わかっています。でもブーンさんにッ!」

通信兵「だから生きのこって司令に会うためにここから逃げてくださいと言ってるんです!!」

それは、確かにそうだ。
思考をクリアにして、適当に納得させるような説明の筋道を立てる。


267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:11:11.23 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ「……無理です。こちらの20倍の戦力ならもう完全に包囲されています。おそらくトンネルまで
      たどり着けずに死にます。今行けというのは死ねと告げるのと同じようなものですよ!!」

もちろんその言葉にはなんの根拠もない。案外事実かもしれないが。

通信兵「しかし……」

ξ゚听)ξ「お願いします。」

通信兵「……分かりました。俺が司令にぶっ飛ばされれば良いんですね。分かりましたよ!!」

ξ゚听)ξ「ごめんなさい。ありがとう」

急にあたりがざわめき出す。
轟音が鳴り響いた。続いて人の絶叫、悲鳴。

通信兵「冗談だろ……もうここまで侵攻されてるってのか!?」

ξ゚听)ξ「出ましょう!!本隊に合流できなくなるかもしれない」

二人で駆け出す。
本部の小学校を出るとあたりは兵士が駆けて後退していた。
いや、それは最早後退ではなく逃避だろう。
それもそのはずだ。

ξ゚听)ξ「なにこれ……!!」

北方の空を見て目に映ったのは、黒の嵐だった。
いや、幾万という群れを為して飛ぶ巨大なハエ、フライが空を埋め尽くしていた。

269 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 11:11:42.35 ID:Q20amxjg0
地上はその十倍はあろうかというスカラベが侵攻しているのだろう。
先行したスカラベが兵士を追随し、それを上から急降下したフライが磨り潰す。

自動車と同じような速度で動くワームが、逃げゆく兵士をその巨体で取り囲み肉を食いちぎり、その身を鮮血で紅く染める。

地獄だった。逃げ場なんてあるはずがない。
彼が生きてることなんか考える余裕はなかった。
私はここで死ぬんだという事実だけが思考を奪って私を硬直させていた。

だから、私は気付きもしなかった。

この時私の背後から飛来してきた巨大な『それ』に。

ξ゚听)ξ「――!!」

声は出なかった、爆音がうるさいと思ったがすぐに何も聞こえなくなった。
視界がホワイトアウトする。
直後凄まじい爆風で私はどうにか吹き飛ばされたことは自覚できた。

数瞬の浮遊感の後、私は気を失った。
最後にあの懐かしい声が私を呼んでいるような気がした。




第11話へ


HOMEに戻る ニュー速VIPのブーン系小説まとめ
Copyright © 2008 Boon Novel. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system