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( ^ω^)ブーンは駆逐するようです


第4話

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:11:36.35 ID:Q20amxjg0
第四話「落ち影」

ツンが眠りに付く約6時間ほど前、ちょうど夕焼けがあたりを赤く染め始める頃。
街の北部の避難民キャンプから少し離れたところ、普段から『外』も近く人通りのない路地だった。

男1「おいおい、そんなに急ぐなよ」

川 ゚ -゚)「離せ」

髪の長い若い女を3人組の男が取り囲んでいた。

男2「つれねぇな〜」

男3「全くだ。もうちょっと楽しくやろうぜ」

川 ゚ -゚) (しまったな、逃げられそうもない……)

女はその長い黒の艶やかな髪に男の一人が手をかけた。

男1「おお、いい髪してんじゃん!こういうの見ると、なんかさ思うんだよね――」

男は見る者を不愉快にさせる醜い笑い方をしながら女に近づいていく。

男1「――どろどろに汚してみたくなるってね」

女は本気で不快な顔をしたあと、すぐに恐怖でその端整な顔を歪めた。

62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:12:08.50 ID:Q20amxjg0
男2「はい、捕まえた!」

男3「どっから剥ぎ取って欲しい?特別にリクエストを聞いてやるよ」

ナイフを突きつけ、楽しそうに嘲笑する。


それは別に珍しいことではない。
いつ終わるとも知れない、しかも蟲という未知の生物との抗争は全ての者に多大なストレスと不安を与えていた。
そんな環境のなかだと、治安の決して悪くないこの街でもそういうことは起こるのだ。

まして、それがこの街に不慣れな避難民の女であれば、なお”行為”をするには都合が良い。

逃げ切られることは少ないし、助けを呼ばれることもある程度防げる。
いなくなっても、気に留める者は少ない。


男2「おお!かなりいい体してんじゃん!」

川 ゚ -゚)「くそっ、やめろっ! ……はなせ!!」

男の手は女の体をまさぐる。女は不快に身をよじらせた

男1「おいおい、暴れんなよ。痛い目みたいか、ああ!!?」

喉元につきつけられらたナイフは、皮膚を薄く刻んで紅い血を滴らせる。


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:13:05.18 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚)「……っん……っく……」

彼女の目には涙が滲んでいた。


なんで自分はこんな目にあわなければならないのだろう?
蟲に追われて街を棄て、逃げてきた土地ではこの様だ。

悔しい。

自分はこんなにも無力だ。
涙で霞んだ視界、この憎むべき男達の顔もまともに捕らえられない。
この霞む視界みたいにこいつらも消えていなくなってしまえば良いのに。

そんな虚ろの視界に何故目に入るものがあった。
ただはっきりと、その顔が網膜に焼きついた。


('A`)「……」

通行人のそいつと一瞬目があって、その肩に背負ったライフルを見つける。

川 ゚ -゚)「助け――」

私がそう叫ぼうとするのと、男達が第三者の存在を認めるのと、
そいつが何の感慨もなさそうにライフルを構えるのはほとんど同時だった。


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:14:00.22 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚) (まずい、今のままじゃ私は足手まといの人質に――)

そうならないように逃げ出そうした時、――パンパンパン――何だがおもちゃみたいに可笑しな乾いた銃声が通り過ぎていく。

顔の横を何かが掠めた気がした。
数瞬の間をおいて男達の悲痛な叫びがあがる。

男1・2・3「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

私は服にかかった温かい液体を気にする間もなく男の拘束から逃れてその通行人の許へ駆けた。

男1「てんめぇーーー!!」

ナイフを持っていた方の手を打ちぬかれたらしい男は、もう一方の手で通行人に殴りかかろうとして、

男1「あがッ!!」

その男の手に持つライフルで殴り飛ばされた。
残りの男は既に逃げ出していて殴られた男は悪態をつきながらそれに続いた。

('A`)「大丈夫か?」

そいつは手にしたライフルを下ろすとそれだけ聞いた。

川 ゚ -゚)「ああ……。助かった。ありがとう、礼を言う」

('A`)「避難民だな?キャンプで大人しくしていろ。行動する時は複数人で動け」

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:14:46.29 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚)「あ……ああ、わかった」

答えにつまったのは彼の妙に落ち着いた様子じゃなくて、その昏い瞳を見たからだった。
夕闇が近づいていて暗くなる空よりも、遥かにその双眸の闇は深くて昏い。

('A`)「なに呆けてる?また襲われたいのか?」

川 ゚ -゚)「いや……そうだな、すまない」

('A`)「早く帰れ。ろくなことがない」

川 ゚ -゚)「と言っても、避難民キャンプも安全ではない。帰るところがない」

('A`)「キャンプが安全じゃない?」

川 ゚ -゚)「君はこの街の兵隊じゃないのか?今の3人組はキャンプの警護兵だぞ?」

一瞬彼は言い淀んだ。どうやら意外な事実だったらしい。

('A`)「そういうことか。そこまで治安が落ちてるとはな」

川 ゚ -゚)「安全な場所を教えてほしいのだが」

('A`)「……」

彼はしばらく考え、やがて落胆したような様子で口を開いた。


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:15:18.95 ID:Q20amxjg0
('A`)「俺のところに来るか? 身の安全と食事は保障してやる」

川 ゚ -゚)「いいのか?」

('A`)「あんたみたいなのいかにも襲われそうな人間を放っておけるほど、まだ俺の感覚は壊れてない」

川 ゚ -゚)「そうか。すまんな、押しかけるみたいで」

('A`)「気にするな。どうせこれも俺の責任が……。まぁいい、あの廃ビルの屋上だ。行くぞ」

彼の責任?
少なくとも今の所彼に責任はないと思うが。
よく分からなかったが、私を全く待たずにビルへ入っていく彼の後を追うことにした。


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:16:08.29 ID:Q20amxjg0


('A`)「……ああ、射撃した。避難民キャンプの警備らしい。シフトの変更を頼む」

彼はビルの屋上でトランシーバーのようなもので連絡を取っている。

('A`)「すまんな、ハインリッヒの部下で有能なのを付けておいてくれ。避難民が落ち着くまででいい」

5階建てビル屋上には、彼の家らしき小屋がぽつんと存在しているだけだった。
小屋の中は銃器に関する装備、連絡設備、それと小さなベッドに僅かな本だけだった。
おおよそ生活感のない部屋。

('A`)「……ああ、こちらは引き続き警戒に当たる」

どうやら連絡が終わったようだ。

川 ゚ -゚)「ここは君一人なのか?4階には他の警備兵もいた様だが」

('A`)「あいつらは俺を気味悪がって近寄らないからな」

川 ゚ -゚)「何故だ?」

('A`)「……そのうち分かる。代えの服には小さめの軍服しかないがいいか?」

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:16:54.19 ID:Q20amxjg0
彼の手には男性用の軍服が握られている。

川 ゚ -゚)「ああ、構わん。むしろ好都合だ」

('A`)「1階に風呂がある。そこで湯に浸かって来い。その時に着替えればいい」

川 ゚ -゚)「風呂?そんなものが使えるのか? 珍しい街だな」

('A`)「うちの司令は優秀だからな」

川 ゚ -゚)「そうか」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「どうした?突然黙り込んで」

('A`)「いや……」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「いいからさっさと行け。風呂の間は俺が見張っておいてやる」

川 ゚ -゚)「覗くなよ」

('A`)「のぞかねーよ」

彼は真っ赤になった顔を背けた。

意外にかわいい一面もあるんだな

81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:17:42.82 ID:Q20amxjg0
それから彼は「早く行け」とだけ言って、後は防壁の外に視線を向けていた。
階段を下りるときには4階の兵士数人とすれ違ったが、彼に何も言うことなく通り過ぎた。
どうも彼らの間には溝があるらしい。
風呂場まで着くと彼は無言で背中を見せて座り、手だけで「入れ」と合図した。
久しぶりの風呂は心底気持ちが良かった。


――なんか落ち着く。


風呂のことではなく、彼の近くにいることが。
不思議だった。私はどちらかと言うとあまり他人に依存することは少ないほうなのに。
助けられて私の警戒心は麻痺してしまったのだろうか。

それもなんだか違う気がした。


川 ゚ -゚)「ふう。いい湯だった。ありがとう」

軍服に着替えた私は再び彼の小屋がある屋上にいた。
私にはちょっとぶかぶかだったが、それもなんだか楽な気がする。

84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:18:32.04 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚)「しかし、やはり胸の辺りが少しきついな」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「ん? やらしいことを考えるなよ」

('A`)「……考えてねーよ」

川 ゚ -゚)「君は意外と面白いな」

('A`)「言ってろ」

無口だと思っていたが、決してそうではないらしい。
ただ、会話慣れしていないというか、どこか人に対して壁を作る癖があるようだった。

川 ゚ -゚) (む……。親しくない人間をあまり観察するのは良くないか)

彼は北の彼方を警戒して見ている。
手にするのは、先ほどの突撃仕様のライフルではなく、狙撃用の大型のものだ。
あたりはほとんど日が暮れ、まもなく夜が訪れようとしていた。

('A`)「飯にするか。夜になれば蟲も大規模な活動はしない」


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:19:00.37 ID:Q20amxjg0


インスタントラーメンと適当な野菜を炒めて作ったご飯を食べたあと、私は早々に彼の小屋で寝ることにした。
この街に来るので体力を消耗していたのと、ここ数週間蟲による襲撃であまりよく眠れていなかったからだ。
無論彼には「襲うなよ」と言っておいたが、彼は「早く寝ろ」とだけ顔も見ずに返した。

でもなんだかその様子が子供っぽくて可笑しかった。
年齢を聞いてみると28歳で私よりも5歳も年上なのに。

ベッドは男の独特な汗臭さがあったけど、ほとんど気にならなかった。
相当疲れているみたいで、あっという間に眠りへ落ちていった。


こんなに気持ちよく寝れたのは久しぶりだった。


89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:19:42.61 ID:Q20amxjg0


ズウゥゥゥン――!!!

不意のやけに低くて伸びのある轟音で目が覚める。
一瞬見なれぬ小屋の中を見渡して、ここが彼の小屋だと気付くのに10秒くらいかかった。
小屋の時計は午前4時を示している。

――ッカキン

川 ゚ -゚) (薬莢が落ちる音!?)

慌てて扉を開ける。
特に屋上には特に変化はなかった。
ただ月の薄明かりしか届かない屋上で、彼が体を伏せてスナイパーライフルを構えている。

ズウゥゥゥン!!!

再びあの独特な銃声。
しばらくしてドシャッと何かが崩れ落ちたような音が遠方で聞こえた。
彼がコッキングして、薬莢が排出される。

――ッカキン

やたら大きな薬莢。実際に狙撃用の銃弾を見るのは初めてだった。
通常の銃弾とは比べ物にならないほどの大きい。

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:20:27.57 ID:Q20amxjg0
('A`)「…もういないか。すまんな、起こしたか?」

川 ゚ -゚)「いや、気にしないでくれ。それより何を撃っていたんだ?」

('A`)「決まってる。蟲しかない」

川 ゚ -゚)「蟲? 夜には活動しないんじゃ……」

('A`)「ほとんどはな。でも中には偵察か警戒か知らないが夜うろついてるのもいるんだよ」

川 ゚ -゚)「そうなのか。一晩中ずっと見張りしているのか?」

('A`)「ああ。というより、一日中だな」

彼は初めてこちらを真っ直ぐに見つめた。
月明かりの中で彼の双眸は驚くほど爛々と光を湛えていた。

昼間には気が付かなかったが、珍しい暗赤色の瞳。

異様にその瞳に引き込まれたのは、そのせいだったのかもしれない。
決して気持ちのいい色ではないはずなのに、不思議とそれは澄んで見える。
まるで夜の闇が、真っ赤な花を染め上げたような。

川 ゚ -゚)「その眼……」

96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:21:18.38 ID:Q20amxjg0
('A`)「ああ、気付いたか?うちの家系の呪いみたいなもんなんだと」

川 ゚ -゚)「呪い? なにかあるのか?」

('A`)「別に大した事じゃないんだがな、夜眠れない、というより眠る必要がなくなる」

夜眠れない?
どこかで聞いた話だと思って記憶を探る。

川 ゚ -゚)「……君はもしかして”トコヨミ”か?」

('A`)「!」

川 ゚ -゚)「やはりそうか。私の伯母も君の家系の人と結婚したんだ」

('A`)「それで、知っているのか?」

川 ゚ -゚)「ああ。一度聞いたことがある。しかしなんでそんな男がこんなところにいる?
      君の家系随分裕福だろう? その嫡男がしがない兵士をやっているとは思えないが?」

('A`)「いろいろあってな。俺はあの家の人間じゃないんだよ、血は受け継いでいるがな」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「ふん、まさか”常夜見”まで知ってるとはな。伯母さんが俺の家系の人間と結婚したってことはあんたは七瀬の人間か?」

川 ゚ -゚)「もと……な」

('A`)「道理で綺麗なわけだ」

99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:21:58.77 ID:Q20amxjg0
七瀬の人間は政界、財界方面ではある程度名が通っている。
政界や財界の有望な人物の許に七瀬の女達を嫁がせ、その結びつけを強める一族。
その女達は子供頃から良妻賢母を目指して徹底的に教育される。

男は生まれた瞬間から七瀬の人間ではなくなり、その分家に移される。
女も12歳の時に七瀬の女としての素養がないと判断されればその分家に移されるという徹底振りだ。

子孫を安定して残すために、七瀬は国内外をとわず孤児院などから養子に引き取っていた。
それがさらに日本の血と掛け合って、異様ささえ滲む美しさを生み出していた。

つまり言ってしまえば、いい女を渡すからその家の力をよこせというわけだ。
その性質上多く持つコネを最大限生かし、間接的な利益を上げ続ける寄生虫のような一族。

それが七瀬。

そんな酷評が下っても七瀬が繁栄し続けたのはやはりその女達によるところだろう。
七瀬の家筋を支える中核がいかに腐っていようと、そのいわば「商品」である七瀬の女は
どこまでも純粋で理想的な女だったから。


彼が「道理で……」といったのはそういう背景があるためだ。

102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:22:52.88 ID:Q20amxjg0
しかしそんなことは今の世界ではほとんど無意味だった。
何せ、政界も財界もほぼ消滅してしまっているのだから。

川 ゚ -゚)「君は……」

彼が急に視線を別の方向に集めたので、言いかけた言葉を飲み込んだ。

('A`)「見ろよ」

気付かぬうちに白み初めていた空の方向を指さした。
何も遮蔽物のないここからの眺めは格別に美しい夜明けが見れる。

川 ゚ -゚)「綺麗だな……」

('A`)「これが毎朝見れると、夜眠れないって気味の悪い俺の性質も悪くないと思う」

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:23:21.24 ID:Q20amxjg0
川 ゚ -゚) (そうか……)

人は異端なものを狂気的に嫌う時がある。
本来そこまでにならないでも、彼の独特の壁を作る癖が悪く影響してしまった。
実際、寝ないなんてことを私は想像できないが、それだけの時間を与えられるということは
きっと同時に多くのものを失うことなのだろう。

そして私は不意に気が付いた。

朝焼けを見つめる彼の暗赤色の瞳の中に見た哀しさは、私が心に持っているそれと同じなのだということを。
だから落ち着いたんだ。彼の中に自分と同じ欠落を見つけてしまったから。
私の視線に気が付いた彼と視線が交錯する。
闇に溶けた紅の瞳に、引き込まれるような錯覚。
立ち尽くした私に彼は穏やかに微笑んで「綺麗だな……」とやけに小さな声で告げた。






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