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( ^ω^)ブーンは駆逐するようです


第15話

377 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:36:18.70 ID:Q20amxjg0
第十五話「君み影」


トンネルに着いた私達は私達はそこを守っていた青年兵をジープに乗せることも兼ね、一旦ジープを降りて、
生存者の確認と何とかして全員ジープに乗り込むための工夫をしていた。

( ^ω^)「武器は捨ておけお!! どうせトンネル内で戦闘になったら勝ち目はないお!
      とにかく一人でも多く生き残るんだお!」

从 ゚∀从「ジープに乗る隊員が決まり次第すぐに出発しろ!! 急げ! 時間がないぞ!!」
  _
(;゚∀゚)「慌てるなー、とにかくちゃっちゃと終わらせるぞ」

ブーンさん達が檄を飛ばす中、一人所在無さ気にしている私にライフルをもった男が近づいてきた。
どこか見覚えのある暗赤の瞳。だけど、明らかに会ったことはない男だった。

('A`)「なぁ、あんた。聞きたい事があるんだが」

ξ゚听)ξ「え? あ、はい。何ですか?」

('A`)「The Ark を知ってるか?」

ξ゚听)ξ「!!」

379 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:39:26.26 ID:Q20amxjg0
('A`)「知ってるか?」

ξ゚听)ξ「……ええ。でも何であなたが――」

('A`)「俺もアークの関係者だ。察しはついてると思うが、内藤もな」

ξ゚听)ξ「……」

('A`)「一つ。頼まれて欲しいことがある」

ξ゚听)ξ「何ですか?」

('A`)「全てが終わった後、内藤を殺してくれ」

ξ゚听)ξ「そんなことできるわけが――」

('A`)「分かってる。無理は承知の上だ。だけど、頼む。これはあいつが望んだことなんだ」

ξ゚听)ξ「意味が分かりませんし、内藤さんが言ったかどうかも分かりません」

('A`)「内藤がそう言った根拠はある。あんたはアークの計画の内容を知ってるはずだ。アレが単なる蟲の駆逐計画じゃないってことを」

ξ゚听)ξ「……なんでそんなことまであなたが知っているんですか?」

('A`)「内藤が言っていた。アークの情報を知らせた女がいるって」

ξ゚听)ξ「それは違います。だって私は内緒で見ていたんですから」

('A`)「違う。あんたは意図的にその情報を知らされていたんだ」

380 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:40:20.30 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ「どうしてそんなことをする必要があるんですか? おかしいですよ、私みたいな一般人に教えるなんて!」

('A`)「あんたは一般人なんかじゃないだろう。蟲に関する知識を多く持ってる。大学で研究していたはずだ。内藤は知っているぞ」

ξ゚听)ξ「それが何の関係があるんですか!?」

('A`)「おおありだ。他の軍の奴らならアークの資料を見たって何も分からない。だけどあんたになら分かったはずだ。
    情報を伝える人間を限定できる。内藤はあんたにだけ、それもあんたに気付かれないようにアークの情報をリークできる」

ξ゚听)ξ「それは……」

('A`)「俺にも理由は分からない。だけど内藤はあんたにアークの情報を意図的にリークしたんだ」

ξ゚听)ξ「でも、だからって何で私がブーンさんを殺すことになるんですか?」

('A`)「内藤がそう俺に頼んだからだ」

ξ゚听)ξ「じゃああなたが――」

('A`)「出来るならやっている。だけど、あいつは全てが終わったらって言ったんだ。今はまだ全部終わっていない。
    まだ、おそらくは大丈夫だが、蟲が全て死なない可能性がある。その時に、内藤がいないとまずい」

ξ゚听)ξ「全部終わった後であなたがそうすればいいでしょう。もちろんその時は全力で止めさせてもらいます」

('A`)「出来るならやっている!! できないからあんたに無茶なことを頼んでるんだ。
    常識的に人を殺せなんてことそうやすやす頼めるわけがないだろう!!」

ξ゚听)ξ「なんで出来ないって決めつけるんですか!?」

('A`)「……あんた今どういう状況か、わかって言ってるのか?」

382 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:41:06.18 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ「どういうって……あと少しで逃げ切れる――」

('A`)「ワームの最高速度はジープなんかよりずっと早いぞ。トンネルを抜けるには最低でも2時間。
    本当に逃げ切れると思っているのか? 
    スカラベを喰らって、万全な状態のワームから、それもトンネル内の密閉空間の中を」

ξ゚听)ξ「でもブーンさんなら……」

('A`)「出来ん。あいつなら今頃もう全滅することをとっくに承知している。
    だからこんなところでこんなことやっているんじゃないか!?」

ξ゚听)ξ「……」

('A`)「一刻も早く安全圏に逃げ込みたい時に、わざわざ何故ここで留まる必要がある。
    本当に最大限の人間を救いたいなら、青年兵を諦めて、ここは通り過ぎるべきだった。
    でも、そうしない。どうせ死ぬことは分かってるから、最後に混乱の中醜く死ぬことを避けたんだ」

ξ゚听)ξ「そんなこと……」

('A`)「……」

言葉が続かない。

確かに、この男の言うことは筋が通っている。
ブーンさんは壮年の人はどうせ助からないと言って、特攻させたこともある。

最大限の人間を助けるために、彼は犠牲を払うことを厭わない。

ξ − )ξ「でも……じゃあ、どうせ死んじゃうなら私が殺さなくたって」

383 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:42:13.86 ID:Q20amxjg0
('A`)「俺がお前らを生かしてやる。必ずだ。あんたはあのアークってのがどれだけ悲惨な計画か知っているはずだ。
    俺もアークに関わった。こんなことで罪滅ぼしできるなんざ思ってない。
    だけど、俺に出来ることがある。まだあんたらを救える」

ξ゚听)ξ「だったら……! だったらなんでアークなんてっ!!」

('A`)「仕方がなかった。時間がないから詳しくは説明できないがあの時はそうするしかなかった。
    あんたは内藤がアークの立案と実行をしたときの苦悩を知らないだろうがな、
    俺はずっとそばで見てきた。それで あいつがアークを実行に移す時、あの馬鹿は俺に頼みやがった。
    全部が終わった後で、自分を殺してくれって」

ξ゚听)ξ「なんで!? 罪を償うつもりなら生きて償うべきです。それで死ぬなんて卑怯じゃないですか!」

('A`)「分かってる。俺だって最初は断った。あんたと同じように説得した。
    ……でも、ダメだった。あいつは全部分かった上で自分の殺してくれって頼んでた。
    あんただってあいつが馬鹿じゃないこと知ってるはずだ。
    俺にはあいつが責任を投げ出して死ぬような人間には思えない」

ξ − )ξ「……でも、どうして……?」

('A`)「分からん。あいつは最後まで俺達アークのプロジェクトメンバーにも隠してることがあるみたいだった。
    それが、あるいはあいつを殺す要因なのかもしれん」

ξ゚听)ξ「じゃあ、それが分かれば……!!」

('A`)「もしかしたら、内藤は生きるかも知れない。……だが分かるのか、あんたに?」

ξ゚听)ξ「今の時点では、まだ……。でもアークに関することに間違いはないはずです。
      それでアークにいくつか疑問があるんですが、聞いていいですか?
      それが彼を生かすかもしれない」

385 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:47:19.15 ID:Q20amxjg0
('A`)「ああ。俺が知っていることなら。どうせあんたはもう関わっちまったしな。
    ただ時間がない。もうすぐブーン達が最後のジープに乗る。あんたもそれに乗るんだろ。手短にしてくれ」

ξ゚听)ξ「分かりました。じゃあ2つだけ。エレはあれは本当は別の何かを作るために生まれたのではないですか?
      いくらなんでも、生体構造がめちゃくちゃ過ぎます。それか、やたら創造に時間がかかったとか。」

('A`)「すまんがわからん。アレは内藤が独自に研究してたものだからな。
    エレを創造したことで内藤の功績が認められたわけだし、だからこそアーク計画が実現された」

ξ゚听)ξ「ブーンさんが独自に研究……ですか。分かりました
      あと、最後、ブーンさんは普段からあんまり悩まない方でしたか?」

('A`)「いや、なんかある時はいつもグジグジ悩んでたな……そんな質問でいいのか?」

ξ − )ξ「……そうですか、ええ結構です。ありがとう」
  _
( ゚∀゚)「北部防衛隊長、例の爆弾仕込んできたが役に立つのか?
      あんなに大量に爆発させたらトンネルが崩落しちまって俺達まで巻き込まれるぞ」

('A`)「ありがとうございます。司令官殿。アレは最後の時に使います。なるべくなら使わないでおきたいですが」
  _
( ゚∀゚)「……ああ、そういうことか。なるほど、使わないことを祈るばかりだな」

386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:47:57.40 ID:Q20amxjg0
('A`)「ええ、『何か』が蟲を30分位足止めしてくれると使わなくて良さそうなんですけどね」
  _
( ゚∀゚)「ははw お前今の状況よくわかってんじゃねーかw」

('A`)「内藤とは昔からの知り合いですから」
  _
( ゚∀゚)「さて、行こうかツンちゃん、大丈夫だ。必ず俺達は生き残るぞ。司令がいるからなw」

彼が陽気に笑って、私の手を引っ張ってブーンさんの乗るジープに私を乗せる。

運転席に乗っていたハインさんはあの男を見つけて、

从 ゚∀从「おい! お前何やってる? 早く乗り込まないと――」

('A`)「起爆係りがいるでしょう? その役を仰せ使ったので」

从 ゚∀从「お前……」
  _
( ゚∀゚)「ハイン行こう。あいつは俺達と同じ程度かそれ以上に状況を飲み込めてる奴だった」

从 ゚∀从「……」

( ^ω^)「……」

押し黙った車内、ブーンさんとあの男は一瞬だけ目を合わせた後、ジープは走り出した。

387 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:48:31.67 ID:Q20amxjg0
从 ゚∀从「糞……ちくしょう。……せめて……半分だけでも……」

私は車内にこだまするハインさんの嗚咽をぼんやり聞きながら、単調なトンネルの暗闇を見つめていた。

その視界に十字に組まれた木が映る。

ξ゚听)ξ (お墓……?)

もう過ぎ去ってしまったそれには、一部黒ずんだ銀鎖がかけられていた。
だからこそ、こんな不自然な場所にあるあの木を墓だと思ったのだ。


なぜ、そんな場所に真新しいお墓があるのか、私は考えたくなかった。



388 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:49:17.79 ID:Q20amxjg0


もう他に誰もいなくなったトンネルの入り口にたった一人、男が立っていた。
暗赤の瞳は、しかしやはり澄んだまま。

大型の狙撃銃を構えて、数百メートル前方の森林の様子をずっとスコープ越しに見つめる。

友軍は数分前にこのトンネルをくぐっていった。

そろそろ蟲がここに押し寄せる頃だろう。
人を喰らい、人が創りし物を溶かし、人のために生まれ、そして人のために死ぬ哀れな蟲が。

ワームの最高速度はジープを上回る。
銃撃を受けず、さらにスカラベを喰って十分に栄養を補給すれば、やがて一時間ほどで味方の部隊に追いつくだろう。

トンネルをジープで抜けるには2時間はかかる。
つまりこのまま行けば逃げ場のない細いトンネル内での戦闘に突入する。

その時点で全滅がほぼ確定する。トンネルの天井を這って移動し、進行妨害するワームをどうしようもないからだ。

('A`)「さて、本日最後の一仕事とまいりますか」

森の奥、僅かにスコープの視界に入った蟲、それを認知した直後引き金が引かれる。

390 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:49:58.09 ID:Q20amxjg0
ズウゥゥゥン

独特の間延びする銃声が響いて、小さなキィという奇声が彼の耳に届いた。

――ッカキン

薬莢を排出、その間に刻々と蟲の軍勢が押し寄せる。

ズウゥゥンッキン――ズウゥゥゥン――ッカキン――ズウゥゥン――

淀みなく機械的に射撃する彼の体に、狙撃用のライフルの凄まじい衝撃が襲う。
それでも照準はぶれることなく、直進するワームの頭蓋を確実に砕いていった。

頭部を打ちぬかれて悶えうつワームから吹き出た酸が他の蟲の外殻を侵していく。

ッカキンと軽やかな音を立てて最後の狙撃銃の薬莢が排出された。
既にその生命活動を停止したワームが十体を越えている。

('A`)「勲章もんの働きだよな、これだけで」

誰もみてねぇのが残念だ、と彼は少し大げさにため息をついてトンネルに中へと向かった。

392 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:51:10.66 ID:Q20amxjg0


暗いトンネルの中には50mくらい進んだところに場違いな木の棒が立っていた。
二つの長さの異なる木の棒は紐によって括り付けられ、十字を結んでいる。

そこに乾いた血がこびり付いて、一部変色してしまった銀の鎖がまるで首飾りのようにかけられている。
もとは首飾りとして存在していたそれは、今はその血のせいでただの鎖になってしまっていた。

('A`)「粗末な墓ですまんな」

誰に言うでもなく、真っ直ぐ前をみてドクオは呟いた。
彼が『墓』と呼んだその場所の周りには、友軍が置いていったライフルが大量に残されている。

どうせ、ライフルを使うほどに追いつかれたら死ぬしかない。
最早こんなものはゴミだとうち棄てられた銃だ。
中にはグレネードなどもある。

ないものといえばドクオが本来乗って逃げるべきジープくらいのものだった。

彼の体が少しずつ大きくなる振動を捕らえ、数百を越えるワームが目前にまで迫ってきていることを知らせる。
毒をライフルを引き絞ってトンネルの入り口へと狙いを定めた。

弓を射る者のように体を縦に構えて、暗赤の瞳で真っ直ぐ見据える。

393 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:53:05.45 ID:Q20amxjg0
やがて砂塵舞うのが微かに視界に映る。ワームの姿もある程度視認できたがまだ引き金には手がかかったままで動かない。
ワームがトンネル内の入り口に差し掛かった時、あの独特得の重なる銃声がトンネル内に断続的にこだまする。

('A`)「はい、いらっしゃい糞蟲ども。せっかくここに墓場があるからお前らも一緒に埋まっていけよ。供養はしながな」

地上とトンネルの側壁、天井を縦横に這うワームがドクオが引き金を引くたびにもんどりうって停止していく。
30発の弾丸を打ち切ると同時にさらに入り口付近に殺到するワームに向かってグレネード4つまとめて投げつけ、
即座にマガジンを入れ替えて近づいてくるワームを迎撃していく。

一発も急所を外せばそれが命取りになる。一瞬でも反応が遅れれば地獄までの最短ルートが目の前に広がる。
その中で、彼は相も変わらず機械的に射撃と爆撃を繰り返していた。

入り口から彼までの50mにワームの死骸が満遍なく敷き詰められ始めた頃、弾薬がちょうど半分ほどに減っていた。
約三十分間、ひたすらワームを掃討続けた結果、流石の蟲も押し通ることは不可能と判断したのか、一時的にその侵攻を止めていた。

束の間の休憩が彼に与える静寂、それが彼に空気の変質を悟らせる。

('A`)「ああ、やっぱ来てたか。どうも無線の調子がおかしいと思ったわ」

警戒して銃を構えながらトンネルの入り口付近まで進んだドクオは北の空に浮かぶ巨大な一匹の蟲を視界に入れた。
蜉蝣のような薄い九対の羽を蠢かせて、不恰好な巨躯を浮かす人類最高の敵ともなった蟲、エレ。

時折その体から青い電気の迸りが生じて、危なげにその大きな体を傾かせる。

394 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:54:41.18 ID:Q20amxjg0
('A`)「そろそろ限界か――」

と言いかけたところで、エレは躯から大量の電気を放出して、青い閃光とともに傾くとそのまま地上へと墜落した。
突如の撃沈。
今まで悪夢のように人類の上に君臨してきた蟲は、奇しくもその最後まで夢の終わりのように突然だった。

('A`)「アーク、ここで完成するか……」

特に何の感慨もない。つまらない終わり方だ。浸る余韻すらありはしない。
しかし現実とはいつでもそのようなものかもしれない。

そしてドクオが耳障りな金属が擦れ合う不快な音を聞くのと、『それ』が視界に入るのはほぼ同時だった。

銀白色に輝く外殻が陽光を反射しながらそれはだんだん近づいてくる。
幾百の足を蠢かして、約百匹のワームの群れ。
しかしワームにあって、それはそれの原型とも言うべき暗緑色の外殻とは異なった様相だ。

('A`)「やっかいだな」

喰らい尽くした金属を外殻の組織に融合させて機動力の変わりに圧倒的な耐久性を備えた蟲、メタル。
国家の主要戦力を滅ぼした後、世界中で民間人を徹底的に殲滅する際に登場するワームの亜種だ。

迷うことなく密集しているメタルに残り一発の対戦車砲を放つ。
メタルの群れはそれをよけることもなく、
一定の速度を保ったままトンネルの入り口まで一直線に進む途中でその弾頭にぶつかった。

395 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:55:17.30 ID:Q20amxjg0
直撃を受けた一体だけはばらばらに飛び散るが、残りは依然その進行速度を落とさず突き進む。

('A`)「蟲らしく五、六匹はまとめて死ねよな」

彼の悪態など気にせず、徐々にその不快な金属音は大きくなって耳に入ってくる。
紛れもなく其れは死の気配を伴って。


震えない。体も。心も。
もうそんな死なんてものに怯えるほど、まともな神経を持ち合わせていない。

通信機を引き抜いた。
エレが堕ちた今、それを阻害するものは存在し得ない。

周波数は元のまま。
ドクオは、ブーンですお、と電子音を出して答えたそれに

('A`)「約束守れんなくてすまん。じゃあな」

とだけ告げて放り投げた。
迫り来るメタルの集団に適当にグレネードをばら撒いて、あの墓まで一息に駆ける。

396 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:56:22.16 ID:Q20amxjg0
そこに戻って銃口を構えなおす時にはメタルとワームの混成がトンネルの入り口に殺到していた。

重なる銃声が響く。もうほとんどその射撃音に間はない。
索敵、照準、射撃。全ての動作がほとんどノンタイムで行えるほど、蟲の密集率が高い。

メタルの頭部に直撃した弾丸は、しかし、彼らの動きを少々鈍らせる程度の効果しかない。
ライフルの銃弾ではその外殻は貫けない。

最初の二連でそのことが分かると、ドクオの弾丸はメタルよりも僅かに先行するワームに吸い込まれていった。

マガジンを取り替える時間などない。
打ち切った銃はその場で投げ捨て、すぐに次のライフルに持ち帰る。

その間に、サーチをかけた蟲は10m以上進む。

再び、索敵、照準――高速で動くワームの急接近に、僅かにぶれた照準を修正――射撃

しかし、そのロスが更なるワームとメタルの接近を促し続ける。
ワームが近づけば近付くほど、エイミングの幅は広がり、更に蟲が近付くという悪循環。

加えてワームの死骸がつくりだした死角を利用して接近するものもいる。
全ての状況が一気にドクオの不利に傾いていく。

天井を這うワームを打ち落とし、一瞬消えた視界に、次の瞬間メタルの突進が顕現する。

弾がぶれないように銃を腰で固定、照準、トリガーをロックして全弾斉射。

('A`)!!!

397 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 12:57:43.18 ID:Q20amxjg0
吹き飛ばした頭部から吹き出す酸に身を翻した時には既に遅い。
焼けるような痛みとともに、酸が左肩からその腕まで侵す。

('A`)「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

しかし銃撃は止まない。痛みゆえか、それとも自我を保つための咆哮か、誰も、彼自身すらも判断はつかない。

先の回避行動とともに取り替えたライフルを右手だけで持ち、ぶれる照準のまま引き金を引く。
当然頭部に当たらない銃弾では、ワームを止めることも出来ずに無慈悲に彼の眼前に蟲の姿が映し出される。

動かなくなった左手の重みに耐えかねて、彼の体はぐらりと揺れてその背後の粗末な木の十字架にもたれかかった。

('A`)「すまん……最後、お前を守れなかった」

誰に言うでもない。ここには蟲しかいない。

けれど彼の視界に映るのは、蟲の死骸と、最後に別れた時の彼女の顔。

('A`)「すまん……」

聴覚には、狙いが定まらぬまま放たれる炸裂音と、夜明けに口ずさむ彼女の唄。

('A`)「畜生……最後……ここさえ通り抜ければ……」

触覚には、もう全てが麻痺して何も分からないのに、何故か彼女の温度が残っている。
意味もなく、記憶の中の彼女は生きる力を与えてくれる。まだここで死んではいけない――気がして――

目の前に突進してくる蟲に本能的に弾丸を放つ。

401 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:02:01.14 ID:Q20amxjg0
しかし頭部には当たらず、肉の軋む音の後に、ワームが巨大に広げた口で銃ごと腕を飲み込んだ。

('A`)「あ、ああ”ア”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!!!!!!!!」

喰らいつかれた右肩はほとんどなくなり、残った体組織は酸に侵されて悲鳴を上げる。
狂った様に咆哮した彼は、悶え倒れた視界の隅に、彼女の血に染まる銀鎖に上塗りされた自分の紅い血液を捕らえた。

彼女の墓が音を立てて崩れ倒れた。
カチリと微かな音の後、トンネルの奥で爆音が響き、やがてそれは連続して此方に近づいてくる。

これで終わりだ。いかにメタルであろうと、埋まってしまったトンネルは進めない。

('A`)「ああ”、は、あ……はぁ、ク、クー……」

虚ろな視界。されどその暗赤の瞳は彼女を幻視するやも知れぬ。

('A`)「最後……すまん……でも、一つだけ……伝えたく――」

言葉は続かない。メタルの突進が内臓ごと彼を蹂躙し押しつぶしていた。
口から押し出され血液が彼の言葉を殺してしまう。

けれど、その唇は紡ぐべき言葉を表して確かに動いていた。



         「――会えてよかった……」


爆発と土砂が全てを押しつぶす。
誰も知らぬ、二人だけを埋めて。


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