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問合せ
ドクオが生きるという事について考えるようです
第5話
52 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:40:28.76 ID:9+3zsdgJ0
仕事で遅くなりました、ただいま。
なんなんだよ、あれ!物作れるってレベルじゃねーぞ!と
愚痴りつつも今夜も投下します。
もう少ししたら開始しますので支援キボンヌです。
よろしくおねがいしまつ
54 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:45:07.29 ID:9+3zsdgJ0
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ガタンと風が窓を叩く音で我に返った。
見渡すとそこはクーと煙草の匂いが混じったホテルの一室。
クーはシャワーを浴びに行ったまま、まだ戻って来ていない。
バスルームからは先ほどと変わらずシャワーの音が絶え間なく聞こえてくる。
まだまだ一人考えに耽る時間があると把握する。
程よく燃え尽きて短くなった煙草の先を灰皿にこすりつける。
細く白い煙を上げて煙草の火は消えた。
56 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:47:02.61 ID:9+3zsdgJ0
もう一本、箱から煙草を取り出す。
最初はしどろもどろだった煙草の吸い方も今はだいぶと慣れたものだ。
煙草を吸い始めてから………いやツンを抱いてから
煙草の吸い方と女の抱き方は多少巧くなった。
一度限りの関係だったが、それでもあの濃厚な一夜は
俺に少なくない経験を与えてくれた。
………なんて思うのは自惚れだろう。
だけど、クーを抱く”今”に、あの夜の経験は確かに生きている。
そう思う。
だけど、その代償に色んな感覚が狂いはじめているような気がする。
そう。
色んな、感覚が。
57 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:51:38.31 ID:9+3zsdgJ0
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「おや、ドクオ君、煙草吸うんだ?」
給湯室で煙草を吸っている俺の姿を見て
上司とジョルジュは驚いた顔をしていた。
仕事はずぼらながら、品行方正で通っていた俺が
急に煙草を吸いだしたのは、よほど奇異に映ったらしい。
「いや、ちょっとした気分転換に吸い始めたんですよ。」
背伸びしたい年頃なんだろう、と思っているかのような目で俺を見る
上司と違ってジョルジュだけはやけに心配そうな顔をしていた。
58 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:52:49.48 ID:9+3zsdgJ0
仕事は相変わらず進まない。
正しくは著しく集中力に欠けると言うべきか。
考えようとすればするほどに頭の中につかえがあるかのように
考えが阻害され、苛立ちから煙草を吸う。
そんなサイクルがここ数日で俺の中で定着していた。
59 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:53:39.97 ID:9+3zsdgJ0
―傍から見て悪循環と思える仕事サイクルが確立して
さらに数日が経ったある日
「よーう、ドクオ。」
定時後、給湯室で煙草を吸いながら進まない作業と残りの仕事に
頭を抱えていると慌しく片手を振り回しながらジョルジュが声を掛けてきた。
「今から一緒にメシ行かね?」
「おう、別にいいぜ。」
61 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:54:50.88 ID:9+3zsdgJ0
普段は俺から誘うのだが、その日は珍しく俺がジョルジュに誘われる形で
一緒に夕食に出かけた。
田舎で車を交通手段として持っていなかった俺達は歩いていける
近場の和食チェーン店に入る。
値段はさておき、その距離の近さから普段から重宝している店の一つだ。
64 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:56:19.43 ID:9+3zsdgJ0
店員に案内されて二人、向かい合う形で席に座る。
見慣れたメニューから適当に食指を動かされたものを頼み
料理が出てくるまでの間、ジョルジュと他愛もない話を交わす。
会社の事。
上司の事。
後輩達の様子、お互いの仕事の状態………。
とても自然な話題の流れ方だったが不意にジョルジュが
俺が煙草を吸いだした事についての話題を振ってきた。
そして、一言、
「何か悩みがあるんなら話聞くぜ?」
そう言ってくれた。
67 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:57:45.63 ID:9+3zsdgJ0
さすがに色んな意味で共に励ましあいながら戦場と呼んで
差し支えのないプロジェクトの末期を乗り越えてきただけに
ジョルジュには俺の素行の変わり方(と言っても煙草を吸うようになったぐらいだが)に
何か疑問を抱いたらしい。
よく気付くもんだ。
上司からもよく気がつくと影ながら褒められるのも納得出来る。
「何か、悩みあるんだろ?」
ジョルジュはおしぼりを手で弄びながら、それでも真剣な表情で
あくまで優しく俺を問いただす。
68 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:58:53.07 ID:9+3zsdgJ0
悩み…。
ない事はない。
ツンを抱いてしまった事も悩みの一つだが何よりも
今、切実に悩んでいるのはブーンからの電話だ。
ツンを抱いた翌日から毎夜のようにブーンからの
電話がかかってきた。
後ろめたさや罪悪感も確かにある。
だが、それより何より俺が悩んでいるのはその電話の内容が
自殺相談だという事だ。
70 :
(・へ・)
:2006/11/17(金) 23:59:22.20 ID:9+3zsdgJ0
「生きているのが辛いお。」
「これから働いていく自信がないお。」
「楽になりたいお。」
そして語尾には必ず「死にたいお。」の一言。
71 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:00:37.72 ID:GKPhgpaA0
最初こそ生きるんだ、と前向きな言葉を並び立てていた。
だが、どこかで俺の許容量は大きく超えてしまって、
そうなってくるといい加減、しつこいと思うようになってくる。
冷たいようではあるが、連日連夜、死にたいと漏らすだけの
相談としての体裁を成していない相談をもちかけられる事や
俺よりも遥かに働いていける………再就職に困らない技術に、
一つだけ汚点はあるかも知れないが、確かな実績を残したという職歴も備えた
”格上の人間”の嘆きはただの泣き言すら劣る言葉にしか
聞こえなくなってきた。
74 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:02:52.93 ID:GKPhgpaA0
だけど、何かを言い返すという事は出来なかった。
心に抱えている後ろめたさが、ブーンの自殺相談を
拒絶する一言を発せさせなかった。
だから、ただ、ブーンの心をえぐる言葉を聞いて相槌を返す。
毎晩のように何時間も呪詛を聞き続けて心にダメージがないわけはなかった。
75 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:03:49.32 ID:GKPhgpaA0
そしてある夜、俺はそれを口に含んだ。
”ドクオも飲んでみる?
よく眠れるよ。”
―――ツンから貰った錠剤。
ツンの言葉に偽りはなかった。
精神安定剤の効果もあるのか、ブーンから受けた心のダメージも
それを飲めば忘れるようにどこか思考の遠くへ追いやることが出来た。
そして、心地よい眠気がすぐに訪れる。
程なくして、俺はツンから貰った錠剤を常用するようになった。
77 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:04:54.72 ID:GKPhgpaA0
そして、日増しに身体の一部に違和感といえばいいのだろうか…
よどみのような、しこりのようなものを感じるようになり
薬がないと眠れない身体になった。
いや、薬がないと眠れない身体になったというのは語弊があるか。
薬を飲まないとブーンの電話の後、眠れなくなったと言うべきか。
78 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:05:25.94 ID:GKPhgpaA0
一人、考えに耽る俺をジョルジュが不思議そうに見つめていた。
そうだ、悩みについて聞かれたんだ。
要約すれば悩みは二つ。
親友が毎晩自殺相談を持ちかけてくること。
親友の妻から貰った睡眠薬を常用して身体がおかしくなってきた事。
たったそれだけの事だ。
80 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:07:14.09 ID:GKPhgpaA0
「特に、悩みはないよ。」
話す必要もないだろう。
「そうかぁ?」
ジョルジュは明らかに納得はしていないという顔をしていた。
だが、かといってずけずけと詮索する事はなかった。
それは俺達の暗黙のルールなのだから………。
「お待たせしましたー。」
タイミングを見計らったかのように店員が注文した料理を運んできた。
83 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:07:56.78 ID:GKPhgpaA0
「何か相談に乗れることがあったら何でも言ってくれよな。」
渋々話を打ち切るといった表情でジョルジュは箸を二つ取り
一つを俺に手渡してくれた。
「ありがとう。」
ジョルジュは本当にいいやつだ。
心からそう思う。
でも、だからこそ、相談できない事もある。
84 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:10:00.58 ID:GKPhgpaA0
ふと見上げた空は煙草を吸い始めた日と同じ曇り空で、
俺はその何気ない空に日常という領域に暗雲が立ち込めてきたかのような…
そんな錯覚に陥った。
「曇ってきたな。」
俺の視線の先を追って空を見たジョルジュが呟く。
88 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 00:10:40.82 ID:GKPhgpaA0
ジョルジュには、それはただの曇り空にしか見えなかったのだろう。
それがたまらなく、羨ましく思えた。
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