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問合せ
【合作】( ^ω^)ブーンが世界を巡るようです
第7世界 ピアノ◆HGGslycgr6
361
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:00:35.68
ID:GFGpUJzm0
ぼんやりと、先の見えないぬかるみの中を歩いていた。
近付くほどにその量は増し、やがては口の中には汚泥が入り込んで、体の芯までもが暗闇に
侵食されていくような感覚。
僕はどうしてこんな所に居るのか。そして何故口の中がこんなにもドロドロなのだろうか。
しかし答えを見つける前に僕は頭の天辺までをもその泥に囚われ、やがて五感を失った。
( ^ω^)ブーンが世界を巡るようです
『 IN ( ^ω^)ブーンはピアノを弾かされるようです 』
365
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:02:35.64
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「へぶっ!」
顔面に鈍痛が走った。
何事かと反射的に首を後ろに反ると、どうやら僕は着地に失敗して床に突っ伏しているようだった。
(主;^ω^)「うわ、なんか髪の毛みたいなの口に入ったお! 汚い!」
口の中に異物感を感じながら強か打ち付けた下唇を摩り僕は起き上がる。
慌てて辺りの状況を確認してみるが、屋内と言うこと以外は蛍光灯の光が眩しいばかりで
予想がつかなかった。
(主^ω^)「え〜と……?」
ただ長い廊下が続くばかりで、何を見ても手掛かりになりそうなものは無いのだ。
リノリウムの床は天井さえも映してしまうほどに綺麗に磨かれ、真っ白なペンキを塗られた壁は
指紋1つ付いていないかのような白さを保っていた。
368
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:04:13.89
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「もしかして僕1人とかだったりして……」
あまりに無機質な空間なものだから、僕はSF映画に出てくるようなロボットだけの研究所に
来てしまったのではないかと1人不安になった。
(主^ω^)「でもそれならそれでいいお! とにかくDAT探すお!」
自分を奮い立たせるために大声を出したは良いものの、状況は変わらず何も無い長い廊下であり
DATの気配すら感じられない。
(主^ω^)「……まぁ、簡単に見つかったら苦労しないっていう話なんだお」
「おい!」
そこへ突然聞こえてきた大声に僕は驚き、身を縮めた。
見ると、白い制服姿の男が眉を顰めてこちらを睨んでいた。
どうやら人の様で、ロボットには見えなかったので僕は少し安心する。
369
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:06:18.01
ID:GFGpUJzm0
男「お前か、今日入ってきた新人は」
(主;^ω^)「……お?」
男「たく、ウロチョロするなよ。さっさと着替えて持ち場に行け! 誰だよこいつの担当……」
男は一頻りがなりたてるなり、踵を返してまたどこかへ行ってしまった。
いきなりで何が起きたのかさっぱり理解は出来なかったが、とにかくここにのんびりしていられる
状況ではないと言うことはわかった。
急かされるように僕は早足で歩き出したものの、どこに行ったらいいかは全く分からなかった。
歩いていると色々な部屋の扉が目に入った。
それらは皆同じデザインの鉄の扉で、重厚な造りからはその頑丈さが窺われた。
中には猛獣でも居るのだろうか。そんなことを考えながら僕は半ば見物気分で歩いていた。
あちこちに自分のDATを掲げてみるものの、全く反応が無いものだからすっかりやる気が
なくなっていたのだ。
374
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:08:05.77
ID:GFGpUJzm0
そんな中、どこからか微かにBGMのようなものが聞こえてきて、僕は立ち止まる。
ホテルのロビーを想起させるその音楽は、どうやらクラシックのようだった。
何か時間を知らせるためのものなのだろうか。
しかしいきなり曲の途中で止まったり、何度も同じところが再生されたりしているのを聞くと、
それはどうやら今どこかで誰かが弾いているらしい。
当ても無い僕は、ふらふらとその音色に誘われるようにまた歩き出した。
程なくして到着した場所は、あの見飽きたデザインの重々しい扉の前だった。
特別な部屋と言うわけでもなく、音楽が無くなってしまえば二度と辿り着けなさそうなその扉を
まじまじと観察して僕はあることに気が付いた。
(主^ω^)「V……085?」
扉の上、枠の外に部屋番号らしきものの書かれているプレートがあるのを見つけたのだ。
( ゚∀゚)「はい、どしたどした〜」
(主;^ω^)「お!」
ぼーっと立ち尽くしていた僕の脇から、突然陽気そうな男の顔が現れた。
初対面とは思えぬほどに顔を近付けられ、僕は思わず一歩後ろに下がった。
377
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:10:03.16
ID:GFGpUJzm0
( ゚∀゚)「ん、お前誰だ? 見ない顔だと思ったら本当に知らない奴だな」
(主;^ω^)「ぼ、ぼくはその……新人……というか……」
僕は咄嗟に先ほどの情報を利用し、身分を偽った。
( ゚∀゚)「あぁ、そういやそんな話があったような、無かったような。……あったかな?」
(主^ω^)「失礼ですが、お名前は?」
我ながら機転の利いた質問だと思った。
( ゚∀゚)「あぁ、ショボンの方なのか。どうりで知らないはずだ。俺はジョルジュ、よろしくな新人!」
自己紹介をすると、ジョルジュは肩を組んでぐっと僕を引き寄せ笑った。
随分とフランクな人だと思いながらも僕は釣られて笑ってしまった。
382
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:12:05.53
ID:GFGpUJzm0
( ゚∀゚)「ところでショボンのとこはもう行ったのか? 早めに行かないとアイツは神経質だからな」
(主^ω^)「え〜と……そうだお、道に迷ったんだお」
( ゚∀゚)「迷ったぁ? ん〜まぁ、ここはややこしいからなぁ。よし、ちょっとここで待ってろ」
そうジョルジュは言うと鍵の束を取り出し、どこからか現れたやはり同じ白い制服の男3人に
目配せをしてV085と書かれた部屋の扉の鍵を開けた。
程なくして開かれた鋼鉄の扉の、油が足りてなさそうな音の向こうから、今しがた聞いたばかりの
滑らかなピアノの音色が聞こえてきた。
演奏はすぐに止み、その音色は僕の耳先をくすぐっただけだったが、きっと中には燕尾服を着た
ピアニストが真っ白な指を巧みに動かしていたに違いないと想像をした。
そしてジョルジュ以外の男3人はと言うと、中に入るわけでもなくただ中を険しい顔で覗いている
ばかりであった。
( ゚∀゚)「おまたせ。じゃあ行くか」
ここは一体何処なのだろうか。
改めて考えながらも、僕は黙って彼について行くことにした。
384
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:14:06.87
ID:GFGpUJzm0
同じ景色ばかりが流れる中で、よくこの人は迷わないものだと僕は思った。
建物だから『使い勝手が悪い』とは言わないのかも知れないが、デザイナーは相当悪趣味だと思った。
こんなデザイン、人を迷わせるためのものだとしか思えなかった。
( ゚∀゚)「ほい、着いたぞ」
指された先の扉は何枚目か分からなかったが、唯一の目印としてプレートにA480と書いてあった。
アルファベットからするに区分が違うのだろうか。しかし相変わらず扉は重厚なままだった。
じろじろと扉の観察する僕を尻込みしているのと勘違いしたのか、ジョルジュは軽く僕の背中を
叩くとにこやかに笑って見せた。
その笑顔に促され僕は扉を開けた。
部屋の中は至ってシンプルな造りだった。
目立つ物といえば簡素なデスクのみで、その上には小型のノートパソコンと何枚かの書類、
それに暖色のライトがあるだけだった。
例えるなら、人の居なくなった社屋に残された事務室のような、そんな寂しい印象だ。
少し肌寒い室温もそれに一役買っている気がしたが、それ以上にデスクに座っている男から
温度を感じなかった。ジョルジュとはまるで正反対の男だった。
(´・ω・`)「ん? ……君か。ちょっとごめん、今話中なんだ。」
小型の携帯電話のような物を耳に当てた男が、キィ、と回転椅子の背もたれから錆付いた音を出し、
顔だけをこちらに向けた。
柔和な顔つきだとは思ったが、やはり僕は緊張したままであった。
388
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:16:12.81
ID:GFGpUJzm0
(´・ω・`)「あぁ、なんでもない。それで、侵入者はどうした?」
侵入者と言う単語を聞き、僕は俄に汗が吹き出るのを感じた。
大丈夫だ。僕じゃないはず。
(´・ω・`)「そうか……いや、そのまま処分してくれ。……ああ」
終話をし、耳に当てていた物を仕舞うと、男は体ごとこちらに向けて言葉を待っているようだった。
とにかくここでは余所者であることが命の危機に繋がるとわかった。
どうにもDAT回収の協力は仰げなさそうだ。
果たして僕1人で目的を達成することは出来るだろうか。
フォックスの手先だっていつ現れるのか分からないのに。
( ゚∀゚)「ほれ、お前んとこの新人だ。迷子ってたぞ」
(´・ω・`)「新人?」
話の雲行きが怪しくなりそうだと感じ、僕はすかさず言葉を挟む。
(主^ω^)「お、おねがいしますお」
(´・ω・`)「あ、よろしく。まぁそこら辺に座っててよ、今これ片付けちゃうから」
手元の書類を僕に見せると彼はまた机に向かい、ペンを走らせ始めた。
どうしたらいいものかと僕はジョルジュの方を見たが、既に彼はそこに居なかった。
390
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:18:10.40
ID:GFGpUJzm0
椅子の軋む音に目をやると、大きく伸びをしている彼が目に入った。
どうやら書類は片付いたようだった。
(´・ω・`)「さて、君さ……」
(主^ω^)「お?」
(´・ω・`)「誰だ?」
掌からじわ、と汗が滲むのを感じた。
(主;^ω^)「ぼ、ぼくは今日からここでお世話になる……」
(´・ω・`)「……居ないなぁ」
(主;^ω^)「?」
(´・ω・`)「居ないんだよ。今日、僕のとこに入ってくる新人なんて」
心臓が跳ね上がったような錯覚を起こした。
一体この男は何を企んでいるのだろうか。
何故さっき僕をこの部屋に入れたのだろうか。
こんなことならば最初から身分を明かせばよかったのか。
尽きぬ思考にうろたえる僕は、ただ彼の顔を見つめることしか出来ずにいた。
(´・ω・`)「……まぁいいさ、どこかで手違いがあったんだろう。よし、地理に慣れる意味も含めて
僕についてきて。丁度人手が足りなかったんだ」
(主;^ω^)「えっと……」
(´・ω・`)「僕は、ショボンでいい」
(主^ω^)「……」
(´・ω・`)「しかし……やれやれ、仕事がまた増えそうだ。とりあえず着替えなよ」
計れない男だ。そう僕は思った。
396
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:19:58.71
ID:GFGpUJzm0
白い制服に着替えた僕はショボンに連れられて廊下を歩いていた。
話題なんてあるわけが無かったが、新人らしくここの建物の構造なんかを質問したりしていた。
特徴が無い建物だと思っていたが、どうやら色々と仕掛けもあるらしかった。
まるで自分が何か釘を刺されているようで怖い気持ちもあった。
(´・ω・`)「まぁ、そんなわけで他にも色々な仕掛けがあるんだ。逃げるのも捕まえるのもお手の物さ」
(主^ω^)「全部覚えきれるのかお?」
(´・ω・`)「それは自分に言ってるのかい?」
そうして暫く当たり障りの無い会話をしていると、ショボンが思い出したように1室の前で立ち止まった。
(´・ω・`)「ここは僕が担当している部屋の1つだ。ただ、鍵は僕が持ってるから君が1人で
来ても入れないけどね」
そう言ってジャラジャラと音を出して鍵の束を取り出すと、それを鍵穴に挿した。
ここの部屋番号は何番だろうか。そう思い僕は扉に近付いた。
(´・ω・`)「そうだ、君。危ないからそこから――」
途端に扉が勝手に開き、ショボンの言葉に反応する前に顔面を途轍もない衝撃が襲って、
世界が真っ暗になった。
399
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:21:54.16
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「へぶっ!」
たまらず床に転がったが鼻の奥がツーンとして前歯がジンジンと痛む。
勝手にくしゃみが2,3回出た。今日1日で大分顔面が歪んだんじゃないだろうか。
軽いデジャヴを覚えつつも、僕は何が起こったのかを把握するためにゆっくりと目を開いた。
そこには開け放された分厚い扉と、その横で少女を抱きながら僕に哀れみの視線を向けている
ショボンが居た。
(*゚ー゚)「おかえり!」
(´・ω・`)「あぁ、今日も扉の前で待っていたのか?」
(*゚ー゚)「うん!」
あの少女がこんな重そうな扉を一気に開けたのだろうか。
顔を擦りながら考えていると、指先に滑りを感じた。
見ればやはり鼻血が出ていた。
(主;^ω^)「あうあう……鼻血が……」
(*゚ー゚)「……変態?」
(´・ω・`)「あぁ、変態だ」
(主;^ω^)「……」
疎外感を覚えつつも、僕は少女の愛らしい笑顔に結局何も言えなかった。
401
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:24:00.74
ID:GFGpUJzm0
少女の部屋を目にして、まずは白すぎると思った。
所々に少女らしい小物が置いてあるが、それさえも塗りつぶしてしまうほどに真っ白だったのだ。
そして次に何故少女がここに居るのかと疑問に思った。
鍵を別な人に管理されている、それはまるで監禁のようではないか。
しかしながら少女の顔に苦痛の色は無い。
ますます僕はここが何処なのかが分からなくなっていた。
(*゚ー゚)「ねぇ、今日は何して遊ぼうか」
(´・ω・`)「だから遊びに来てるんじゃないんだって。……そうだ、新人くん」
(主^ω^)「お?」
(´・ω・`)「この子と遊んでてよ。僕はこれからまだ用事があるんだ」
(主;^ω^)「え、でも……」
(´・ω・`)「頼んだよ」
一方的に世話を押し付け、ショボンはどこかへと行ってしまった。
知らない女の子の面倒なんて見れるはずも無い。それなら僕もいっそ抜け出してDAT探しをしようか。
そんなことを考えていた。
(*゚ー゚)「ねぇ、変態さん」
(主;^ω^)「な、変態とは失礼な!」
(*゚ー゚)「また鼻血出てるよ」
(主;^ω^)「お?」
僕は慌てて鼻の辺りに掌を当てた。
407
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:26:13.63
ID:GFGpUJzm0
(*゚ー゚)「なんちゃって。焦った?」
(主^ω^)「……変態を怒らせたらどうなるか、その体に教えてやるお」
(*゚ー゚)「キャー」
そうして結局僕は少女とドタバタと戯れあった。
勿論いやらしい事は何ひとつとしてしなかったが、第一印象に比べ随分と彼女は大人びていた。
体つきも少女と言うよりは殆んど女性のそれだったし、会話の端々に出るどこか憂慮を込めた
言い回しには知性を感じた。
そしてこんな自分は確かに変態に違いないと心の中で笑った。
(*゚ー゚)「変態さんはいつからここに居るの?」
(主^ω^)「今日からだお」
すっかり僕の名前は変態さんで定着していた。
(*゚ー゚)「そっか。じゃあまだよくここは分からないんだね」
(主^ω^)「さっぱりだお」
(*゚ー゚)「……」
そこで少しの間、少女が沈黙した。
宝石のような瞳がキョロキョロと行ったり来たりして、やがてそれらが僕の瞳と向き合うと
少女は再び口を開いた。
409
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:27:57.81
ID:GFGpUJzm0
(*゚ー゚)「あのね、私のお兄ちゃん絵描きさんなの」
(主^ω^)「絵描きさん?」
(*゚ー゚)「うん。すっごい綺麗な絵をね、いっぱい描くの」
(主^ω^)「有名なのかお?」
(*゚ー゚)「ううん、全然。でもね、お兄ちゃん言ってた」
(主^ω^)「?」
(*゚ー゚)「たとえ貧乏でそのまま餓死しても、死ぬまで俺は絵を描き続けるんだ〜って」
(主^ω^)「……すごい決意だお」
(*゚ー゚)「いや、馬鹿なだけかもよ」
その時少女が見せた横顔に、僕はやはり憂いの色を覚えるのだった。
(*゚ー゚)「でもね、だから私も待ってるんだ。私待ってるくらいしか出来ないし」
(主^ω^)「待ってるって?」
その先を聞こうとした時、扉の軋む音に会話が途切れた。
(´・ω・`)「お待たせ。それじゃあ戻ろうか」
(*゚ー゚)「え〜もうおしまい?」
(´・ω・`)「あぁ、随分仲良くなったみたいだね。でもまだ彼にはやってもらいたいこともあるんだ」
(*゚ー゚)「あ、ねぇショボン。アレは?」
(´・ω・`)「あぁ、ゴメン。忘れた」
(*゚ー゚)「また? もう、部屋中滅茶苦茶になっても知らないんだから!」
僕は膨れる少女に一瞥を投げると、彼女の名残を惜しむ台詞に幾許かの喜びを感じながら、
ショボンに従って部屋を後にした。
415
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:29:56.94
ID:GFGpUJzm0
帰り道の途中に僕は質問を投げかけた。
(主^ω^)「ショボン、あの女の子は……」
(´・ω・`)「君は新人だからここのシステムもよく把握してないのかな」
(主^ω^)「……お」
僕の返事にショボンは深く溜息を吐き、短く唸ると、歩きながら喋り始めた。
(´・ω・`)「ここは素晴らしい芸術を生むための施設なんだ」
ト、ト、と靴が床を叩く音が響く真っ白な廊下は、確かにその言葉に重みを感じさせた。
(´・ω・`)「芸術には何が必要だと思う?」
(主^ω^)「必要……」
先ほどの少女との会話からか僕の頭には真っ先に筆や絵の具などの画材が浮かび上がった。
しかしどれもがショボンの質問の意図に合っていない気がして、僕は口を開かなかった。
(´・ω・`)「簡単さ。人とエネルギーだ」
(主^ω^)「でも、人だけ居てもどうしようもないお」
(´・ω・`)「揚げ足を取らないでよ。……でも、そうだな。確かに才能のある人じゃなきゃ駄目だ」
やはり道具は論外だったらしい。エネルギーと言う言葉からして抽象的な話のようだった。
421
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:32:01.49
ID:GFGpUJzm0
(´・ω・`)「彼女はエネルギーの元だった。今言えるのはそれくらいかな」
(主^ω^)「……だった? 空になったってことかお?」
(´・ω・`)「いや、必要が無くなったってことさ」
(主^ω^)「?」
ますます話がややこしくなってまるで理解できなかった。
彼女がエネルギーとは一体どういうことだろうか。必要が無くなったとはどういうことなのだろうか。
どうしてもはっきりさせたくて僕はショボンに食いついた。
(主^ω^)「必要がなくなったってどういうことだお」
(´・ω・`)「……もう画家は居ないってことさ」
(主^ω^)「?」
何故唐突に画家の話なのか。エネルギーと画家の接点が見つからない。
少女、エネルギー、画家、必要、人。宙ぶらりの単語が頭の中を漂う。
そしてその中に1つの可能性を見出した。
(主;^ω^)「まさかそれって……」
(´・ω・`)「喋りすぎた。忘れてくれ」
(主:^ω^)「でも居ないってどうして……」
(´・ω・`)「……」
その時にはもう僕の中に部屋を出たときの喜びは、残っていなかった。
423
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:34:01.00
ID:GFGpUJzm0
暫く嫌な気持ちで廊下を歩いていた。
あの子の思いが踏みにじられた気がして、僕はショボンに嫌悪感を覚えていたのだ。
勿論ショボンにとってみればいい迷惑なのだろうけれども、僕は歩きながら彼の背中を睨みつけていた。
と、その時唐突に僕の持っていたDATが強い反応を示した。
(主;^ω^)「!」
立ち止まり、うろたえた様子で辺りを見回す僕に気付きショボンが振り返った。
(´・ω・`)「どうした?」
(主;^ω^)「え、いや、その……」
誤魔化しつつも僕はどこに反応しているのかを突き止めようと必死になった。
なし崩し的にここの一員になってしまったけれども、それだって永久にと言うわけじゃない。
僕の目的はDATを集めることであって、ここで感傷に浸ることではないのだ。
やがて僕はDATの在り処を1室の中に確信した。
(´・ω・`)「そこがどうかしたのかい?」
(主^ω^)「ここは何の部屋だお?」
プレートを見るとV103とあった。どうもVの付く部屋が多い。
(´・ω・`)「ここは差し詰め謁見室と言ったところかな」
(主^ω^)「?」
(´・ω・`)「いやいや、中に居るのは猛獣かもしれないな。まぁ、君には関係ないさ。行こう」
僕は歩きだすショボンに急かされながらも、もう一度プレートの文字を目に焼きつけ、
その後を追った。
430
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:36:10.25
ID:GFGpUJzm0
ショボンと共に部屋に戻った僕は、あれこれと規則を教わっていた。
勿論真面目に聞いていたわけではないが、郷に入っては郷に従えと言う言葉もあるし、
帰るまでの間スムーズに事を運ぶには必要だろうと頭には入れておいた。
(´・ω・`)「じゃあちょっと見張りの奴らにも色々指導してくるけど、勝手にパソコンは弄らないように」
(主^ω^)「わかってるお」
そう言ってショボンは大きな鞄を抱えて部屋を出て行った。
薄々感じてはいたけれども、やはりここは社会から隔離されている施設のようだった。
監禁に見張りと来て芸術だなんて言っている時点で常軌を逸しているのだ。
でも未だに監禁については確信が持てないのも事実だった。
(主^ω^)「……まぁ、関係無いお。今の内にDATを回収しに行くお」
関係無いと独りごちた傍から浮かんだ少女の笑顔を、僕は振り切るようにして部屋から出た。
434
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:38:05.32
ID:GFGpUJzm0
目印の無い廊下だと思っていたが部屋番の並びにはちゃんと規則性があって、先ほどの
部屋には難なく着くことが出来た。V103と書かれたプレートを確認すると、僕は取っ手を握り
扉を開けようとして、はたと鍵を持っていなかったことに気が付いた。
(主;^ω^)「あっちゃー……そう言えばさっきショボンがジャラジャラ鍵持ってたお」
ここにも錠前がついている以上、鍵が掛かっているに違いなかった。
僕は腹いせに取っ手をガチャガチャと煩く鳴らそうと手に力を込めた。
(主^ω^)「お?」
するとどう言うことか扉は何の抵抗も受けずに開き始めたのだ。
偶然なのか壊れているのか、どちらにしても幸運なことには変わりなく、僕は期待に胸を
膨らませて鉄の扉を開けた。
ξ゚听)ξ「ショボ……え?」
(主;^ω^)「お?」
これも予想外だった。いや、予想は出来た筈だったけれども全く考えて居なかった。
中には可愛らしい女の子がいたのだ。年の頃は僕と同じか、もしくは少し若いようにも見えた。
438
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:40:04.89
ID:GFGpUJzm0
ξ゚听)ξ「……ブーン?」
(主;^ω^)「ブーン?」
いきなりブーンとは一体その擬音はどういう意図なのだろうか。
僕にはすぐに理解できなかったが、女の子はどうやら酷く驚いているようだった。
丸々と見開かれた瞳と僅かに開いた唇が、1度微かに震えるのが見えた。
しかしそれで平静を取り戻したのかそれらが一旦閉じられると、溜息と共に女の子は
しっかりとした目つきで僕を見つめてきた。
ξ゚听)ξ「誰?」
(主^ω^)「えーと……ちょっとこの部屋に危険物の反応が出たから調べに来たお」
僕は咄嗟にこの施設の一員になりきって話を展開し始めた。
そんな僕の言葉を聞いた彼女は口をへの字に曲げ、不愉快そうな顔をした。
ξ゚听)ξ「無いです。お帰り下さい」
(主^ω^)「でも放っておくと大変なことになるお。すぐに終わるから頼むお」
ここで引き下がっては目的が果たせなくなってしまう。
出来るならやはり事は静かに運びたいと思っていた僕は、更に丁寧に頼み込んだ。
そんな僕の顔をチラチラと見ながら、彼女は更に不機嫌さを増しているようだった。
442
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:42:07.13
ID:GFGpUJzm0
ξ゚听)ξ「帰って。今忙しいの」
(主;^ω^)「でも……」
しつこく食い下がる僕の声を大音量のピアノの音が掻き消した。
部屋に入ったときにピアノなど無かった筈だと音のほうに視線を向けると、そこには小さな
ラジカセがあった。
そしてそのラジカセは、目を釘付けにするほどの異様な光を放っていた。
それも全体からではなく、液晶ディスプレイの下部、恐らくはメディアが挿入されているであろう
部分だけが異彩を放っていたのだ。
(主;^ω^)「せめて話を聞いてくれお!」
ξ#゚听)ξ「いや! 近づかないで!」
騒音とも言える音楽の中、必死に僕は訴えかけたが彼女は嫌の一点張りだった。
しかし僕だってこれが無いと世界を元に戻せないのだ。
僕はラジカセを奪い取るような勢いで手を伸ばした。
が、それと同時に伸びてきた彼女の手が僕の腕に触れたかと思うと、そこを裂くような痛みが走った。
(主;^ω^)「ひっう!」
反射的に腕を庇い床に転がった僕は、何が起こったのかと軽いパニックを起す。
顔を上げた先にあったのは、彼女の白い手に握られたスタンガンだった。
ξ#゚听)ξ「帰って!」
痛みに加えその一言で、僕は情けないことに這いずるようにして部屋を後にしてしまった。
450
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:44:09.40
ID:GFGpUJzm0
やっとの思いで廊下に出た僕は、四つんばいのまま移動して壁にもたれ掛かると深呼吸をした。
腕は未だにヒリヒリしているし、DATを手に入れようにもあんな見張りが居るとは思いもしなかった。
フォックスの手先だろうか。
しかしそれならば僕を知っていてもおかしくないし、もうDATを持ち去っていてもおかしくない。
何と言うか、考えたくないことだけれども、ただ単に僕が嫌われているだけのように思えた。
( ゚∀゚)「おいーっす」
(主;^ω^)「お!」
突然ジョルジュが目の前に現れ僕は短く声を上げた。
近づく気配を全く感じなかったが、それほどに考え込んでいたと言うことだろうか。
( ゚∀゚)「こんなとこに座ってどうした?」
(主^ω^)「……ちょっと疲れただけだお」
説明しようかとも思ったが、どこか後ろめたい気持ちがあり僕は適当にはぐらかした。
( ゚∀゚)「そういやお前アイツに似てるな」
(主^ω^)「アイツ?」
( ゚∀゚)「あぁ、俺の担当にブーンって奴が居てな、そいつにそっくりだわ。うわ、そっくりだ。気持ち悪い」
ブーンとは名前だったのかと僕はここで初めて気が付いた。
そう言えば今までにもそんな名前の人に出会った。
とすると彼女はブーンの知り合いなのだろうか。
だとしたら何故僕は避けられたのだろうか。
その意味も知りたかったが、それ以上にDATを手に入れる上でこれに関しては知っておいて
損は無いと思い、僕はジョルジュに色々と尋ねることにした。
452
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:46:13.97
ID:GFGpUJzm0
(主^ω^)「その、ブーンって人は何をしているんだお?」
( ゚∀゚)「ブーンはピアノだな。楽器系は沢山居たけどピアノは初めてなんだよなぁ」
(主^ω^)「楽器系ってどういうことだお?」
( ゚∀゚)「ん? 芸術って言っても色々区分があるだろ? 絵画だったり、造形だったり」
なるほど、と相槌を打って僕は続きを促した。
(主^ω^)「えーと、ブーンって人の知り合いもここには来てるのかお?」
僕のその一言にジョルジュは顔の筋肉を緩め、肘で小突いてきた。
( ゚∀゚)「おいおい、なんだなんだ。お前もあの子が気になるのか?」
(主;^ω^)「え? あ、気になると言うか……」
( ゚∀゚)「まぁ、あの子は可愛いからなぁ。でもブーンの彼女なんだから手は出すなよ?」
(主^ω^)「彼女?」
( ゚∀゚)「あぁ、そうだ。残念だったな、諦めろ」
(主^ω^)「その彼女は何をしてるんだお?」
( ゚∀゚)「さぁ、そんな毎日張り付いて見てたら変態だしな」
(主;^ω^)「違うお。楽器をやってるとか絵を描いてるとか……」
( ゚∀゚)「ん? あぁ、そっちか。でもブーンがピアノ弾いてるんだから何もしてないんじゃないか?」
(主^ω^)「どういうことだお?」
( ゚∀゚)「どういうことって聞かれてもなぁ……大体2人1組でここに来るんだよな。俺は、担当外だから
知らないけど、片方は本人にやる気を出させるために来てるらしいぜ」
(主^ω^)「応援とかをするのかお?」
( ゚∀゚)「さてなぁ……」
と言うことはあの少女も兄弟で1セットだったと言うことなのだろうか。
そこで僕はずっと引っかかっていた疑問をジョルジュにぶつけた。
454
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:48:02.84
ID:GFGpUJzm0
(主^ω^)「皆、自分からここに来たのかお?」
( ゚∀゚)「……そう言う奴も居ないわけではないってとこだな」
(主^ω^)「……わかったお」
やはり拉致されてきていたのだなと、ここで確信が持てた。
( ゚∀゚)「悪いとは思ってる。だけどすごい芸術が出来たらさ、そいつだって嬉しい筈なんだよ」
(主^ω^)「……」
この人は良い人なんだろうなと僕は思った。
そしてそれと同時に良い人足る程度しか知っていないのだなとも思った。
良い人が出来ることには限度があるのだ。
( ゚∀゚)「さて、と話が長くなったな。そうだ、ついでだからブーンに会ってくか?」
(主^ω^)「僕が?」
( ゚∀゚)「あぁ、つっても見るだけだけどな。中にいれたら俺怒られちまうから」
別段断る理由も無かったので僕は軽く頷いてジョルジュの後に付いて行った。
体が回復していたのに気付いたのはブーンの部屋に着いてからであった。
部屋の前には僕の他にも3人男が居た。あの時見た男達だ。
1人は背が低く長髪、他の2人は僕と同じくらいの背で、片方は眼鏡をかけていた。
3人に共通しているのが、体つきがしっかりしていると言うことだった。
ジョルジュは男達に軽く挨拶を済ませると部屋の前にあったコンテナから、トレーに乗った
食事を取り出した。
( ゚∀゚)「んじゃま行って来るわ」
背の低い男が扉を開けたのを確認して、ジョルジュはそう言うと部屋の中へと入っていった。
僕はそれを見届けた後、男達の様子を気にしつつも、ゆっくりと部屋の中を覗いた。
456
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:50:07.16
ID:GFGpUJzm0
歌うようなピアノの旋律が流れている部屋の中はやはり真っ白で、ピアノさえも真っ白
だったものだから何か映画のワンシーンを見ているような気分だった。
白い部屋に差し込む陽光がまるでスポットライトのように部屋に佇む2人を照らしていた。
その片方、ピアノを弾いている人物は確かに僕に似ているような気がした。
( ゚∀゚)「おーい、ブーン、飯だぞー」
ジョルジュがトレーをテーブルに置きながら話しかけたが、ブーンは聞こえていないのか
ピアノを止めようとはしない。随分無愛想な男だなと僕は思った。
( ゚∀゚)「腹減ってないのか? 今日のは結構旨そうだぞ?」
(#^ω^)「うるさい!」
全力で鍵盤に五指を叩きつけながらブーンが立ち上がるのが見えた。
部屋中に不協和音が響き渡り、僕は思わず息を飲んだ。
( ^ω^)「……ごめん」
( ゚∀゚)「……」
ジョルジュも何かを感じたのか、そこから一言も喋ることなく部屋に置いてある食事を済ませた食器を
持ち、そのまま部屋から出てきた。
( ゚∀゚)「さ、行くか」
なんでもない風にそう言って歩き出すジョルジュを見て、僕は何も言い出すことが出来なかった。
462
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:52:12.83
ID:GFGpUJzm0
部屋に戻ると僕は一人考え込んでいた。
勿論DATをどうやって手に入れようかと言うことについてだ。
この世界は僕にとっては例えるなら夢のようなものだ。現実とは非常に細い糸でしか繋がりを持ち得ない。
だから薄情なようだけれども、この世界がどうなろうと僕にはなんら影響は無いのだ。
彼らが彼らの世界で必死に生きようとするように、僕も自分の世界に必死になればいいのだ。
そうだ、彼女を殴ったっていい。果てには殺してしまったとしても僕は次の瞬間には全く関係ないのだ。
それならば僕は――
(´・ω・`)「ただいま」
(主^ω^)「……え? あ……お、おかえりだお」
呟き始めた途端ショボンが部屋に帰ってきた。そこで僕の考え事も霧散してしまった。
部屋に帰ってくるなりショボンは大きな鞄を置いて溜息を吐くと、デスクの椅子に座った。
僕は床にそのまま座っているのだが、未だに気遣うような言葉は1つも無い。
すると、ぼーっとPCの画面を見たままのショボンが、そのまま視線を僕へ向けずに小さく呟いた。
(´・ω・`)「悪いけど頼まれごとをしてくれるかな」
独り言かとも思えたが、僕は一応曖昧に返事をした。
するとやはり問いかけだったのかショボンがまたゆっくりと呟いた。
(´・ω・`)「あの子をV103に連れて行ってくれ」
(主^ω^)「あの子って……僕を変態呼ばわりした?」
(´・ω・`)「……あぁ、頼む」
少しは笑ってくれるかとも思ったのだが、ショボンは自分の脇に鍵を1つ置いただけで、
こちらを向きもしなかった。
僕はそんな空気に耐えかねて、立ち上がると静かにV154と彫られていたその鍵を取り
そそくさと部屋を出て行った。
468
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:53:57.78
ID:GFGpUJzm0
ショボンの様子は気になったが、僕は深く考えることは止め真っ直ぐ部屋に向かっていた。
そう言えば彼女のお兄さんは一体どうなったのだろうか。
もう居ない。その言葉にどれだけの意味が潜んでいるのか、今の僕には計り兼ねた。
(主^ω^)「152……153……154」
迷うことなく部屋の前に辿り着いた僕は、右手の鍵を暫く見つめてから、ゆっくりとそれを鍵穴に
押し込んだ。
そして、開錠し終え扉の取っ手に手を掛け、僕は違和感を覚えた。
その違和感の形もよく分からぬままに扉を開けると、少女は壁に向かって座ったままで、どうやら
僕には気付いていないようだった。
(*゚ー゚)「ら〜ららら〜る〜う〜」
何かのメロディを口ずさんでいるが、壁に向かって歌う癖でもあるのだろうか。
(*゚ー゚)「え? わ!」
僕の存在にようやく気付いたのか少女はこちらを見ると、驚いたような声と共に近くの台を
無理矢理引っ張って自分と壁の間に引き寄せた。
そうだ、僕が違和感を抱いたのは彼女が飛び出して来なかった所為だ。
471
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:56:25.43
ID:GFGpUJzm0
(*゚ー゚)「ちょっと! いつから居たの?」
(主;^ω^)「え? あ、えーと……ついさっき……」
つい罪悪感から僕は言葉を濁してしまった。やはりノック位はするべきだったのだろうか。
(*゚ー゚)「も〜……本当に変態だね」
(主;^ω^)「いや、その……」
(*゚ー゚)「ところで用事は、なぁに?」
僕が言い訳を始めるより先に少女は話題を変えてしまった。
思考が追いつかない僕はとりあえず質問に答えた。
(主^ω^)「えっと、なんかショボンがV103に連れてけって」
(*゚ー゚)「V103って?」
(主^ω^)「お? ……あ、えーと違う部屋だお」
(*゚ー゚)「ふ〜ん。なんだろ」
話しながらも僕は変態の汚名は返上できないものかと、話題とは別なことを考えていた。
(主^ω^)「ところで何をしていたんだお?」
(*゚ー゚)「え? 何が?」
(主;^ω^)「何がじゃないお。明らかに僕が来た時、そこに何か隠したお」
(*゚ー゚)「あはは、バレちゃったか」
少女はそう言って軽く苦笑いをすると、目を伏せながらもじもじとし始めた。
478
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 20:58:02.23
ID:GFGpUJzm0
(*゚ー゚)「誰にも言わない? 特にショボン」
(主^ω^)「言わないお」
(*゚ー゚)「あのね……落書きしちゃった」
(主;^ω^)「……お?」
それがここまで人に隠匿を頼む事実なのかと僕は拍子抜けした。
それと同時に急に彼女が幼い子供のように見えてきて、僕は噴出しそうになった。
(主^ω^)「別にそれ位大したことじゃないと思うお」
(*゚ー゚)「甘いよ。ショボンにこれが知られたら……今度は、お説教5時間だよ〜」
まだバレたわけでも無いのに急に涙目になりながらふにゃふにゃと崩れる少女を見て、僕は
勝手にネチネチと説教をするショボンを想像した。
それは想像するだけでとても粘っこくてイヤなものだった。
(主;^ω^)「……わかったお。僕は何も見て無いし何も聞いて無いお。だから安心するお」
(*゚ー゚)「ホント? やった!」
喜び、僕に飛び掛ってきた彼女が満面の笑みを見せた。
僕は照れながらも、なんだか釣られて一緒に笑ってしまった。
482
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:00:05.78
ID:GFGpUJzm0
(*゚ー゚)「えへへ、キョウハンシャだね」
(主^ω^)「キョウ……なんだお?」
(*゚ー゚)「んっふ〜。さ、行こ行こ」
話題を完結させるまで喋らないのは、この子の癖なんだろうか。
そう考える僕の腕を引っ張って少女は部屋の外へ飛び出した。
しかし、何を思ったのか少女は廊下に出ると先ほどまでの勢いを失い、立ち止まってしまった。
(主^ω^)「……どうしんだお?」
(*゚ー゚)「どこに行けばいいのかわかんないや」
なるほど、と笑って僕は少女の手を握りV103に向かって歩き出した。
少女の手は想像よりもずっと小さくて、薄っぺらく感じた。
それでも伝わってくる暖かさは、たしかに少女がそこに息づいていることを感じさせた。
僕は吐息と足音しか聞こえない現状を打開しようと、少女に話を振った。
(主^ω^)「なんでまた落書きしようと思ったんだお?」
(*゚ー゚)「あ、落書きだなんてひどーい!」
(主;^ω^)「お、お? さっき自分で言ってなかったかお?」
(*゚ー゚)「あれ? そだっけ」
おどけた様子でそう言うと少女はケラケラと笑い出した。
(*゚ー゚)「これでも絵描きの妹ですから。そうそう、この前だってショボンに絵を描いてあげたら
結構褒められたんだよ!」
そう言って余っている手を腰に当て胸を張る少女を見て、僕は上手く笑えなかった。
僕はそれを誤魔化すために更に質問を加えた。
486
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:02:09.25
ID:GFGpUJzm0
(主^ω^)「ショボンが? なんか冷たく一蹴される気がするお」
(*゚ー゚)「イッシュウ?」
(主^ω^)「お。僕は、あんまりショボンが好きじゃないお」
(*゚ー゚)「そう? 私はショボン大好きだよ。ワガママも結構聞いてくれるし……いや、ちょっとかな。
それにいっぱい面白い話知ってるんだよ」
(主^ω^)「そうなのかお」
(*゚ー゚)「そうなのだお」
僕の口調を真似してまた少女はケラケラと笑い出した。
それを聞いて僕はと言えば、照れ笑いのようなものをするばかりだったが。
(*゚ー゚)「ショボンが画用紙持ってきてくれないからこうなるんだよ。あと3日もあればあの部屋は
メルヘンワールドになるよ」
メルヘンワールドだなんて一体どんな落書きをしていたのだろうか。
そう思いながら何気なく僕は要らぬ気遣いをしてしまう。
(主^ω^)「そうしたらお兄さんに見てもらうといいお」
(*゚ー゚)「……うん、そうだね」
そのせいで会話は霞み、消えてしまった。
490
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:04:18.57
ID:GFGpUJzm0
V103はどうやら無人のようだった。
微かに部屋に残る廊下とは違う暖かな匂いに、僕はヒステリックな彼女を思い出していた。
そう言えば彼女はブーンのガールフレンドだったか。
2人揃ってイライラしていたのは、会えないストレスからだったのだろうかと僕は憶測をした。
(*゚ー゚)「誰も居ないね」
(主^ω^)「お」
ショボンには連れて行けと言われただけで、その後の行動は指定されていなかった。
一体この先は何をしたらいいんだろうか。
そう言えばこの部屋にはDATがあったんだ。今なら持ち出すチャンスかもしれない。
(*゚ー゚)「ねぇ、変態さんのお名前は?」
(主^ω^)「僕かお?」
突然名前を聞かれて答えようと開いた僕の口は、しかし名前を紡ぎ出せずに硬直してしまった。
名前が思い出せなかったのだ。
いや、思い出せないと言うよりは空白。名前があった場所にぽっかりと穴が開いているのだ。
495
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:05:58.88
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「う……あ……」
(*゚ー゚)「まさか、すっごい恥ずかしい名前とか?」
(主;^ω^)「その……」
(*゚ー゚)「わかった! 実は女の子みたいな名前だったとか!」
盛り上がる少女をよそに、僕は突発的なアイデンティティクライシスに陥っていた。
思春期に感じるようなものではなく、本当に自分と言う存在がバラバラに砕け散って、
いつの間にか無くなってしまうかの様な危機感。
僕は本当にここに居るのだろうか。
(*゚ー゚)「ねぇ、どうしたの? そんなに名前を言うのがイヤなの?」
(主^ω^)「僕は……」
DATを取り返さなければいけない。世界の為と言うよりは寧ろ自分自身の為に。
改めて僕は決意を固めた。話が一段落したらあれを持って行こう。
(*゚ー゚)「ねぇ、聞いてる?」
(主^ω^)「聞いてるお」
(*゚ー゚)「もう……。あ、そういえば私の名前知ってる?」
僕は首を横に振った。
501
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:08:12.52
ID:GFGpUJzm0
(*゚ー゚)「私は、しぃ。お兄ちゃんは、よく『しぃのすけ〜』とか『しぃたけ〜』とか変な呼び方するけど
間違えないでね」
その言葉だけで僕は容易に仲の良い兄妹を想像することが出来た。
兄思いの妹に、妹思いの兄。この2人には出来るなら幸せになって欲しいと、僕は思った。
(主^ω^)「わかったお。しぃちゃん」
(*゚ー゚)「しぃちゃんはなんか子供っぽくてヤだよ。それになんか、気持ちわるい」
(主;^ω^)「きも……」
確かにちょっと照れはあったけれども気持ち悪いと言われるのはショックだった。
自分では気付いていないだけで、僕はそんなにも挙動が変態染みているのだろうか。
(*゚ー゚)「いつになったら会えるんだろ……」
唐突に、ぽつりとしぃが呟いた。
それを聞いた僕は途端に切ない気持ちになってしまう。
(主^ω^)「……」
しかし思い浮かぶ慰めの言葉全てが今のしぃには軽すぎるような気がして、僕は何も言えなかった。
507
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:10:08.68
ID:GFGpUJzm0
(*゚ー゚)「あ、忘れ物した!」
澱んだ空気の中、弾ける様な声でしぃが大きめの独り言を発した。
(主^ω^)「忘れ物?」
(*゚ー゚)「うん、お兄ちゃんとの写真。あの台の引き出しの中に入れっ放しだった」
(主^ω^)「別に無くなったりはしないと思うお」
(*゚ー゚)「でも不安だよ〜。あれ1枚しかないし。お願い! 持ってきて!」
(主;^ω^)「ぼ、僕が?」
(*゚ー゚)「だって私はここに居なきゃショボンが困っちゃうでしょ」
けれども僕はそこにあるDATを早く手に入れたい。
写真なんて引き出しに入れておいて先ず無くなるわけがない。
そうだ、このままDATを取って僕は帰るべきだ。
だってあのDATには世界が掛かっているんだから。
(*゚ー゚)「どうしたの?」
(主;^ω^)「……お? い、いやなんでもないお」
僕はチラチラとラジカセの方を見ながらも、結局はしぃに言われたとおりに写真を取りに
行くことにした。
この世界なんて僕には関係ないとあんなに思っていたのに、僕は何をしているのだろうか。
でも、それにしても少し自分勝手な考えをしていたかもしれない。
513
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:12:05.00
ID:GFGpUJzm0
しぃの部屋に戻り言われたとおり引き出しを開けると、確かにそこには1枚の写真があった。
兄がしぃを抱えているのか2人の顔の高さはほぼ同じで、しぃはそんな兄の肩にしがみ付いていた。
2人は互いの頬を寄せながら、こちらに笑顔を向けピースサインをしている。満面の笑みだ。
頭にリボンを結ぶしぃは今よりもまだ少し幼いようだった。
照りつける日差しは夏のものなのだろうか。2人の服装も薄着で背景には真っ青な空が
ずっと広がっていた。
その写真には間違いなく幸せが写っていた。
(主^ω^)「……」
僕は写真を胸ポケットにそっと仕舞うと、夏の匂いを思い出しながら部屋を後にした。
夏の匂いは思い出すだけで僕の心を暖めてくれた。
518
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:13:55.25
ID:GFGpUJzm0
再び戻ったV103の扉の前には、どう言うことか大きなベッドがあった。
V103にあったものだろうか。事態は把握できなかったが、僕はベッドの脇に佇んでいた
ショボンを見つけると挨拶の意を込めて手を上げた。
(´・ω・`)「何処に行ってたんだ」
ショボンの表情はいつもの通りだったが、どうにもその声色がワントーン低いように感じられ、
僕は多少尻込みした。
(主;^ω^)「その、忘れ物を……」
(´・ω・`)「忘れ物? ……まぁ、いい。このベッドをV154まで運んでくれ。あとこのラジカセもな」
そう言ってベッドの上に置かれたのは間違いなくDATの入っているあのラジカセだった。
思わぬ形で転がり込んできたチャンスに、僕は嬉しさを表に出すまいと我慢しつつ頷いた。
(´・ω・`)「わかったら行ってくれ。僕はまだまだやらなきゃいけないことがあるんだ」
(主^ω^)「わかったお」
多少の冷たい言い草も今の僕には関係なかった。
今すぐDATを持ってこの世界とさよならをしてもいいのだが、最後に一仕事するくらいは
良いだろうと、僕はベッドを引き摺りながらV154を目指して歩き出した。
524
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:16:19.44
ID:GFGpUJzm0
部屋の適当な場所にベッドを置いてそれに腰掛けると、僕は早速反対側にあるラジカセに
手を掛けようと体を伸ばした。
すると自分のポケットから何かがヒラヒラと掛け布団の上へ落ちるのが見え、視線を移した。
それはついさっきしぃに頼まれて持ち出した写真だった。
(主^ω^)「……」
関係ない。僕はここでDATを取って帰るだけだ。
写真なんてここに置いておけばきっと後で戻ってきた時に気付くはずだ。
何か悪いことをしているだろうか。僕はたまたまこの世界に来ただけで関係者ではない。
世界を救うDATと写真、そのどちらが僕にとって重要かなんて考えるまでも無い。
だが僕の腕はそれきり全くラジカセに近づくことは無く、ただ視線は写真の笑顔に釘付けに
なっていた。
(主^ω^)「……ふう」
焦ることは無い。写真を持って行くくらい良いじゃないか。どうせすぐそこだ。
そう思い僕はベッドから勢いよく飛び降りると、早足でしぃの居る部屋に向かった。
滑稽だ。行ったり来たり、僕は本当に何をしているのだろうか。心が、落ち着かない。
529
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:18:03.19
ID:GFGpUJzm0
それを聞いたのは丁度道のりの半分位に差し掛かったときだった。
ここの制服を着た男が2人、何かを話しながら向こうから歩いてきていた。
そして擦れ違い様に聞こえてきた話が妙に僕の心に引っかかったのだ。
「で、もうバラしちゃったわけ」
「いや、ヌいたただけ。あとは今日中にバラして各家庭へ……ってな」
(主^ω^)(……?)
僕は立ち止まり耳を澄ませた。
「哀れと言うか何と言うか」
「わざわざ戻ってくるなんて頭おかしいよな」
「D221は通り道なのによぉ、なんか不気味で仕方ないわ」
「よく言うぜ。出荷前のスパイスだとか言って鉢合わせさせたことあるくせに。あいつも確か妹居たよな」
その会話に僕は更に興味と不安を覚え、2人の男の跡をゆっくりとつけ始めた。
「そうそう、こんなちびっ子な。もう買い手付いたんだっけ?」
「あぁ、もう何件かには絞ってるってさ。面白いことに兄貴の肉を予約した奴も要るぜ」
「胃袋で感動のご対面ってか! ははは! でもずっと生き地獄よりは良いだろうな」
「兄貴の肉が豚のエサじゃなけりゃあな」
「ははは!」
そこまで聞いて次の瞬間には既に、僕はD221を目指していた。
ただの偶然に決まっていると心の中で呟きながら。
537
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:20:50.85
ID:GFGpUJzm0
Dなんて付く場所には行ったことは無かったが、それでも迷うことなく着くことが出来た。
空気が澱んでいるのを肌で感じるほどに嫌な場所だった。
見た目には他と変わらないにもかかわらず、だ。
(主^ω^)「……D221」
程なくして目的の部屋に辿り着くと、僕は声に出してその部屋番を確認した。
気味の悪さから肌寒く感じているのかと思っていたが、握った取っ手がひんやりと冷たかった。
躊躇うことも無く、考え込むことも無く、僕はただ扉を開けた。
中からは一層冷たい空気が溢れてきて、それと同時に僕の目にはこちらに足を向けて
大の字に寝る裸の人が見えた。
言い知れぬ不安を感じながらも、僕の胸には既に確信めいたものが湧いてきていた。
しかし僕はそれを否定して欲しくて部屋の中へ踏み入った。
(主;^ω^)「……」
予想はしていてもショックは抑えられなかった。
眠っているかのようなその顔は、写真で見た優しそうなしぃのお兄さんのものだった。
そして、やはり既に事切れていた。
(主^ω^)「……」
恥ずかしいことではあるけれども、僕はこの時頭の中では既に帰るまでの手順を考えていた。
しぃに会いたくなかった。会ってしまったら僕はきっとしぃに勘繰られてこの事実を関節的に伝えてしまう。
そんな気がしていた。
だから早足にその部屋を出て、僕はV154を目指した。
心の赴くままに。早くDATを回収するために。
もう、全てから逃げ出したかった。
541
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:22:11.84
ID:GFGpUJzm0
V154の扉をなんら躊躇うことなく開けると、僕は一目散にDATに向かおうとして、見えた光景の
予想との相違に面食らった。
部屋の中にはブーンの彼女が居たのである。
(主;^ω^)「な、何で居るんだお」
ξ;゚听)ξ「あんたこそなんで入ってきてんのよ」
(主^ω^)「お?」
前回に比べ数段柔らかい彼女の物腰に、僕は軽い親近感を覚えた。
(主^ω^)「怒らないのかお?」
ξ゚听)ξ「……あんたに怒っても仕方ないもの。似てるけど、やっぱり全然違う。この前は
ちょっとびっくりしただけ」
(主^ω^)「それは良かったお。ところで……」
僕はチラリと視線をラジカセの方へ向けると、彼女の様子を窺いながら言った。
(主^ω^)「あの中に入ってるメディアが欲しいお」
ξ゚听)ξ「絶対ダメ」
(主;^ω^)「あぁ……」
即答だった。
OKを貰える自信なんて無かったが、ここまで即座に拒否されるとは思っていなかった。
546
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:23:55.31
ID:GFGpUJzm0
(主^ω^)「どうしてもかお?」
ξ゚听)ξ「どうしても」
(主;^ω^)「……なんでそんなに大事にしてるんだお?」
ξ゚听)ξ「だって、今の私にはこれしかブーンを感じることが出来るものが無いんだもの。
絶対に渡せない」
(主^ω^)「そんなにブーンが好きなのかお?」
ξ゚听)ξ「……当たり前じゃない。止めてよ、改めて言うまでも無いわ。どうしてブーン以外を
好きになれるのよ」
いまいち回答としてずれていると思ったが、話の中身は掴めてきた。
つまり彼女にはメディアじゃなくて、中身が重要なのだ。
(主^ω^)「そうだ、じゃあダビングをするとか」
ξ゚听)ξ「私にコピーを聴けって言うの? イヤよ。これは私だけの物なの」
(主;^ω^)「えー……」
名案だと思ったのに簡単に一蹴され、僕は唸りながら床に座り込み頭を抱えた。
さっき取っておけば良かったと、今更ながらに後悔せずには居られなかった。
そう思いながら先ほどの無人の部屋を回想していると、ふと写真の事を思い出した。
そしてこちらもさっき渡しておけば良かったと、やはり後悔せずには居られなかったのだ。
(主;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
苦悩の表情で見つめてみたが、やはり駄目だった。
こんなにも僕が困っているのに意地悪をして何が楽しいのだろうか。
僕は段々と腹が立ってきて思考が定まらなくなってきた。
頭の中にDATが欲しいという思いだけが、ぐるぐると渦巻いている。
555
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:26:13.62
ID:GFGpUJzm0
ξ゚听)ξ「なに?」
(主^ω^)「……」
そう、大丈夫だ。何も怖いことなんて無い。
この世界には、もうこれきり来ることなんて無い。
躊躇うな、僕。今手に入れなければまたややこしいことになる。
ξ;゚听)ξ「ねぇ、ちょっと……」
(主^ω^)「……」
気付けば僕は彼女のすぐ目の前まで歩み寄っていた。
頭の芯がふわふわとアルコールに浮かんでいるような感覚。
僕はそのまま彼女の首筋に手を伸ばして――突然しぃの顔が目の前に浮かんだ。
(主;^ω^)「!」
ξ;゚听)ξ「……」
(主;^ω^)「……また来るお」
走り去るようにして、僕はその場を後にした。
何を考えている。あり得ない。一時の感情に流されそうになった。何故、どうして。
夜まで待とう。夜まで待って寝静まった頃にこっそり取ってしまおう。その方が良い。
混乱する頭を整理しながら、僕は胸の辺りを手で押さえて廊下を早足で歩いていた。
その途中ショボンと擦れ違ったが、酷く疲れた顔をしていて、どうやら僕にも気付いていない
様子だった。仕事が忙しいのだろうか。
しかしながら僕も人の心配をする余裕が無かったので、話し掛けずにそのまま部屋へと戻り、
まだ陽は落ちていなかったが夜に備えてそのまま寝ることにした。
563
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:28:54.56
ID:GFGpUJzm0
僕は何て馬鹿なんだろうと燦々と窓から降り注ぐ陽に涙した。
寝過ごしてしまったのだ。
慣れない場所で疲れていたとは言え、まさかこんなに馬鹿みたいに
眠ってしまうとは思わなかった。
(主;^ω^)「……参ったお。これじゃあ台無しだお」
(´・ω・`)「何が台無しなんだい?」
僕の独り言を聞いていたのか、ショボンが質問をしてきた。
こうなったら駄目元でショボンに相談をしてみようと思い、僕は口を開いた。
(主^ω^)「実はV154にあるメディアをちょっと借りれないかと思ってて……」
(´・ω・`)「……V154? ……君、彼女に会ったのかい?」
(主^ω^)「お? 会ったお」
(´・ω・`)「そうか」
そう言うとショボンは引き出しを開け、中を探り始めた。
何か役立ちそうなアイテムでもあるのだろうかと、俄に僕の期待が膨らむ。
そうして程なくして出てきたのは金属で出来た足錠だった。
566
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:29:51.54
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「いや、幾らなんでもそれは……」
しかしその足錠は手渡されること無く、そのままあろうことか僕の足にかけられた。
(主;^ω^)「……お?」
(´・ω・`)「あの子に感謝しなよ、本当なら殺した方が早いんだ。……いや、あの子なんて居ない」
(主;^ω^)「……」
僕を見ているのかよく分からない虚ろな視線のショボンに、それ以上何を言うことも出来なかった。
そしてここから数日間、僕は足錠を部屋の隅の杭と鎖で繋がれ、この部屋に監禁された。
食事は与えられたしトイレにも行けた。
無駄に時間を過ごすイライラが募るだけで、一般的な監禁のイメージに比べれば大したことは無かった。
そんな僕よりも寧ろショボン本人の方が、日に日に磨耗していっているような、そんな印象を受けた。
578
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:32:02.07
ID:GFGpUJzm0
何日経っただろうか。恐らく5日から7日程度だと思うのだが、確信は持てない。
この日は朝から天気が悪かった。
蛍光灯の点く部屋から眺める暗い空は、日常からの軽い離脱感を覚えた。
(´・ω・`)「……」
そんな窓の外を眺めていた僕の元にショボンが近寄り、何も言わないまま僕の足錠を外した。
僕は何事かと戸惑いショボンに問いかける。
(主;^ω^)「ショボン、一体これは……」
(´・ω・`)「今日で終りだ」
(主^ω^)「?」
(´・ω・`)「今日で何もかも終りなんだ。君は僕の勝手な罪滅ぼしの対象だ。何処にでも行ってくれ」
(主^ω^)「……ショボン?」
しかしショボンは僕の呼びかけに応じることは無く、そのまま僕に背中を向け部屋を出て行ってしまった。
恐ろしいほどに静まり返った部屋で1人、僕は言い知れぬ予感を覚えていた。
594
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:34:13.71
ID:GFGpUJzm0
監禁されている間に僕はいろいろなことを考えていた。
DATのことは勿論だけど、しぃの事をよく考えていた。
お兄さんがあんな事になって、この写真を僕が持っていってしまったらきっとしぃは辛いだろう。
だから僕は、やはりこの写真だけは渡さなくてはいけないのだ。
そう思い、今僕はV103を目指し歩いていた。
けれども、しぃに会った時僕はなんて言ったら良いのだろうか。
写真を取ってくるのにこんなに時間が掛かったんじゃ何かを問われるに決まっている。
でもきっとしぃなら、笑って冗談の1つでも言えば終りのような気もした。
暗い顔をしていては駄目だ、楽観的に行こう。
僕はそう心に決めて辿り着いたV103の扉をゆっくりと開けた。
そして、それを見た。
(主;^ω^)「……」
言葉が出なかった。
目の前に横たわっていたのは、いや、転がっていたのは、人形の出来損ないのようなもの。
人間か作り物かの判断が一瞬では付かないほど現実離れしたそれは、人間足るべきならば
腕と足が一本ずつ少なかった。
しかし微塵も動かないそれは、まるで本当に作りかけの人形の様でもあった。
605
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:36:03.09
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「……うぐっ……」
目眩と同時に吐き気を催した。
だが僕の足は近づこうとしていた。僕の目は確かめようとしていた。
僕の手が目隠しをゆっくりとずらし、僕の口は呼吸を忘れた。
そして僕の頭はそれがしぃであることを認識して、心はそれを否定しようとした。
更に猿轡を外すも、だらしなく開いたその口は、確信を高めさせるばかりだった。
目隠しをされ、猿轡をかまされ、服も着させてもらえずに、しぃは床に放置されていたのだ。
こんな姿にまでされてこの子は独り、辱めを受けていたのだ。
その事実は僕の心には入りきらずに、形を変えて目から溢れ出た。
(主;ω;)「……」
大きな喪失感は、僕から言葉をも奪った。
そしてぽっかりと空いた空虚を埋めるように、心の奥から怒りが湧いてきた。
しぃをこんな目に合わせた奴は一体何を考えているんだ。絶対に頭がおかしい。
未だに、しぃの瞳はこちらを見ることなく何処か虚を眺めている。
しぃはこんな顔だっただろうか。
『(*゚ー゚)』
あの笑顔は、何処だ。
617
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:39:01.71
ID:GFGpUJzm0
不意に扉の開く音がして、僕はただそのまま後ろを振り返った。
そこに居たのは白いポリタンクをぶら下げたショボンだった。
(´・ω・`)「……君、見たんだね」
(主;ω;)「……」
何故ショボンはあんなに落ち着いているんだろうか。
その時突然、僕の頭の中で全てが繋がった。
(主^ω^)「ショボン……なのかお」
(´・ω・`)「……仕事の邪魔だ。出て行け」
(主^ω^)「イヤだお」
(´・ω・`)「……」
今はっきりと自分の意思の様なものを感じた。僕は確かにここに居た。
(主^ω^)「しぃをこれ以上傷つけることは許さないお」
(´・ω・`)「……しぃ? 誰だいそれは」
(主^ω^)「とぼけるなお。目が見えないのかお?」
(´・ω・`)「煩いな。しぃなんて居ないんだよ。そんな子は居ない。僕はただ人形をバラしただけなんだ」
(主#^ω^)「いい加減に……」
(´・ω・`)「このままにしろと? このままが幸せだとでも?」
(主#^ω^)「何を言ってるんだお……こんな目に遭わせたのはショボン自身だお!」
怒りは静まるどころか、ますますその勢いを激しくしていた。
奥歯がガタガタと熱に震え、背筋を粘っこい嫌悪の念が這い回る。
もう少し近ければ僕は間違いなく怒りに任せてショボンを殴っていたに違いない。
628
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:40:39.85
ID:GFGpUJzm0
(´・ω・`)「教えてあげるよ新人。この人形は予約済みだったんだ」
(主^ω^)「?」
(´・ω・`)「もう用が無いと判断されると、色々な人達に買ってもらうんだ。僕達の活動もお金が要るからね」
(主^ω^)「だからなんだお」
(´・ω・`)「なに、お手伝いさんにするなんてものじゃないこと位は予想が付くだろうに」
(主^ω^)「……?」
(´・ω・`)「例えば昨日、先月引き渡した子の左中指が手紙と一緒に届いたよ。
『こんなに大きくなりました。自慢の娘です』だそうだ」
(主^ω^)「……」
(´・ω・`)「勿論自分を正当化するつもりは無い。僕は悪人だ。でもどうせ買われた先で酷いことを
されるなら役に立ってもらった方が良いじゃないか」
(主^ω^)「……本気で言ってるのかお? 命を天秤にかけられるとでも思ってるのかお?」
(´・ω・`)「逆さ。この世に天秤に掛けられるものなんて、ごく僅かしかないんだ。『自分』が圧倒的で」
いつの間にか僕の怒りは半ば呆れへと変わっていた。
つまずいた石に怒ることをしないように、僕はこの怒りが徒労に終わってしまうことを感じていた。
しかし、だからと言ってこの怒りが消えるわけではなかった。
(主^ω^)「それ以上近付かせないお」
(´・ω・`)「……」
戦う術だとかそんなものは全く考えていなかったが、とにかくしぃを守りたい一心で僕はショボンを
睨みつけていた。
636
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:42:12.80
ID:GFGpUJzm0
(´・ω・`)「世の中が全て君の思い通りに行くと思うなよ」
(主^ω^)「その言葉そのままそっくり返してやるお」
(´・ω・`)「違うね。これは当然だったんだ。より確率の高い事象になるのは当然だ」
(主^ω^)「僕はここを退かないお」
(´・ω・`)「自惚れるなよ。1人の人間が書き換えられるのは本の世界までだ。君が出来ることなんて
せいぜい僕を回り道させることくらいだ」
(主^ω^)「でも!」
反論しようとしたその時、後ろからか細い声が聞こえてきて、思わず僕は震え上がった。
(*゚−゚)「……ショボン……何処」
振り向くと、相変わらず何処を見ているか分からないしぃが、間違いなくショボンの名を呼んでいたのだ。
僕はあまりの衝撃に、一切の事を忘れその場に立ち尽くしてしまった。
そんな僕の横をすり抜けショボンがポリタンク片手にしぃの脇にしゃがみ込んだ。
それでも僕は何故しぃがショボンの名を呼ぶのかが理解できず、ただ見ていることしか出来なかった。
644
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:44:00.22
ID:GFGpUJzm0
(´・ω・`)「……」
(*゚−゚)「……あ……う」
ショボンがしぃの上半身を支えて起こしてあげると、彼女はしばらくショボンの顔を見つめた後、
脇のポリタンクに視線を移した。
(*゚−゚)「がようし……」
(´・ω・`)「……それは、画用紙じゃない」
訂正する言葉には全くの熱がこもっておらず、まるであの時見た2人とはかけ離れていた。
だが、しぃは笑ったのだ。ショボンに抱えられながらゆっくりと眉尻を下げ、口元をほころばせて。
(*゚ー゚)「がようし……ショボン、ありがとう」
(´・ω・`)「……」
その頃には、僕の心に怒りなんて少しも残ってはいなかった。
ただ、悲しかった。
656
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:45:53.59
ID:GFGpUJzm0
(´・ω・`)「……昔担当していた女の子が居た。あぁ、今となっては昔の話だ」
(主^ω^)「?」
しぃを床に横たえると、ゆっくりと呟きながらショボンは立ち上がった。
(´・ω・`)「彼女には絵描きの兄が居てな、そのおまけと言うわけさ」
ショボンがポリタンクの蓋を開け、ゆっくりと中を覗きこんだ。
薄らと透けて見える桃色は、僕に容易に中身を連想させた。
(´・ω・`)「だが兄はここを逃げ出した。妹は取り残され、その価値を失った」
ポケットをまさぐり、取り出したのはブックマッチ。
おもむろに1本をちぎって点火させると、ショボンはふっと息を吹きかけそれを消した。
(´・ω・`)「僕はその子に全てを話したよ。逃げ出した兄の事も、売られていくことも。そうしたら
その子は言ったんだ。待ちくたびれたって」
(主;^ω^)「ショボン、それは……」
(´・ω・`)「もう少し黙っていてくれ」
ショボンはもう一度しゃがむとしぃの頬をそっと撫で、目を瞑った。
667
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:48:02.70
ID:GFGpUJzm0
(´・ω・`)「確かに逃げ出した兄を待つなんて正気で出来ることじゃない。僕ならその場で
発狂しているだろうさ」
違う。それは間違いだ。
立ち上がりこちらを見るショボンの悟ったような表情に、僕は反論した。
(主^ω^)「違う! 僕は見たお!」
(´・ω・`)「止めろ」
間髪入れずにショボンの静止が入った。だが僕は止めない。
(主^ω^)「戻ってきたんだお! 会いに来たんだお! しぃのお兄さんはここに帰って来たんだお!」
(´・ω・`)「……何を考えているんだ。君は、僕より残酷だ」
伏し目がちに呟いたショボンの言葉に僕はドキリとした。
何故妹を思う兄の心が残酷なのかが分からない。
(主;^ω^)「何が残酷なんだお?」
(´・ω・`)「……戻ってきて無事で居られるか? ……もし無事なら何故会いに来ない」
消え入りそうな小さな声で、ショボンは呟いた。
そして僕は自分の犯した行為の重さに戦慄した。
(*゚ー゚)「……やっぱり……死んで……たんだ……」
(主;^ω^)「……あ、ちが……」
(*゚ー゚)「……ありがとう」
ありがとう? どうして?
僕はしぃにこれ以上無い残酷なことをしたのに、どうして彼女は笑っているんだ。
その笑顔が、途轍もなく僕の心を締め付けた。
674
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:49:59.44
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「僕は……」
(´・ω・`)「君は外に出ていたほうが良い」
(主;^ω^)「あ……う……駄目だお……」
外に出たらおしまいだ。
けれども僕は、これ以上ここに居るとさらにしぃを傷付けてしまうのではないかと怯えてもいた。
その2つがせめぎ合い、動けなかった。
(´・ω・`)「君は何も分かってない。誰の心も理解して無い。まるで自分だけが何かに
立ち向かっている気でいるんだ。……僕は腹立たしくて仕方ないよ」
(主;^ω^)「僕は……」
しぃがこれ以上苦しむのを防ぐためには終りにするべきなのか。僕の心に迷いが生まれていた。
そんな棒立ちの僕を尻目にショボンはポケットから取り出した何かをしぃの口元にやった。
そしてショボンはそのままその手をしぃの頬に添え、しばらくの間その顔を見つめ続けた。
僕がようやく事態を把握した頃、しぃは小さく痙攣を始めていた。
(´・ω・`)「さよならだ。すまないが出て行ってくれないか」
(主;^ω^)「……駄目だお。まだしぃは……僕が……」
(´・ω・`)「出て行け」
(主;^ω^)「……」
一喝された僕は頭の中が真っ白になってしまい、ただそれに従って部屋を後にした。
扉を閉めた後しばらくその場に立ち尽くしていたら、中からショボンの叫び声が聞こえた。
悲鳴に近い泣き声のように、僕には聞こえた。
僕はそれを聞いてはいけないような気がして、部屋に戻った。
684
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:52:05.99
ID:GFGpUJzm0
部屋に戻ってから僕はしばらく写真を眺めていた。勿論しぃの写っている写真だ。
写真の中には楽しそうに笑う2人の幸せそうな笑顔がある。
そう、僕は笑顔を見ている。なのに心はどんどんと沈んでいくのだ。
いつか僕はこの世界の事を夢に例えた。
夢の中で何をしようとも、目が覚めた後の現実にはなんら関係が無いと。
けれどもそれはやはり的外れだったのだ。
(主^ω^)「僕は……」
呟いた言葉が次を待たずに消えてなくなるのを感じた後、僕の足は再びV103に向かっていた。
部屋の中は暑く、ガソリンの臭いが立ち込めていた。
そして未だ燃え続けるものがそこにあった。
僕はそこに向かって歩いていく。
(´・ω・`)「……」
ショボンは一度こちらを見たが、すぐに視線を戻した。
僕はおもむろにポケットから写真を取り出すと、一度ショボンの方を窺ってからそれを投げ入れた。
炙られる写真は、炎から2人を守ろうとするかのように内側へ丸まっていく。
僕はそれを見ていられず、目を瞑り黙祷した。
黙祷を終えると僕は無言のままショボンの頬を1回殴った。
しかしショボンはその表情を変えることは無く、また視線をこちらに向けることも無かった。
彼もきっと今は夢を見ているんだろう。しぃは最初から居なかったと言う夢を。
その夢は覚めるのだろうか。もしくはそれがそのまま現実になってしまうのだろうか。
どちらにしろ僕の心の痛みは、夢から覚めてもずっと残りそうだった。
692
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:54:09.38
ID:GFGpUJzm0
部屋を出た僕は、ただ歩いていた。
ぼやけた思考の中でしぃを思い浮かべながら、ろくに前も見ずにぶらぶらと廊下を歩く。
歩いている途中急に胸が苦しくなって涙が出た。
今更になって喪失感を肌に感じたのだ。
ぼやける視界を戻すために涙を拭い顔を上げると、どうにも僕は道を間違えたようだった。
近くのプレートには部屋番ではなく『鑑賞室』と書かれていたのだ。
芸術を扱うと謳うだけあってそういった部屋もあるのだろう。
もしかしたらしぃのお兄さんの絵なんかが無いだろうか。
僕はそう思い、扉を開けた。
最初はその赤に気品を感じた。赤い絨毯が敷いてあるように見えたのだ。
しかしそれは一瞬で吹き飛んだ。
それは全てが血だったのだ。むせ返るような臭気がそれを如実に伝えていた。
そして部屋の中には男が3人。
2人が僕に背中を向けたまま銃を構え、1人が反対側にナイフを片手に立っていた。
僕がそれだけ把握すると、銃を構えていた1人がこちらに振り向き、僕を見て目を見開いた。
男「おい、お前も! こいつをヤれ!」
(主;^ω^)「え……あ」
未だに事態の整理が出来ていない僕は、ろくに返事をすることも出来なかった。
そうやって後ろを振り向いた男に、ナイフの男があっという間に接近するのが見えた。
704
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:55:56.40
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「あ!」
僕はそれを伝えようと言葉を発したが、男が正面を向いた時には既に2人は肉薄しており、
彼はただ悲鳴を上げることしか出来ずに膝から崩れ落ちた。
そして崩れ落ちる男の向こうから現れたのは、血飛沫を浴びたジョルジュだった。
男「うわぁぁぁぁ!」
残っていた1人が叫びながら銃を乱射し始めた。
僕は身の危険を感じ思わず両手を顔の前に出して縮こまる。
1発くらいは当たってしまうのかもしれない。
そんな風に思ったが、気付けば銃声は既に鳴っていなかった。
恐る恐る顔を上げると、男は胸を刺されたまま泣き顔でジョルジュの顔目掛けて何度も弾切れの
銃の引き金を引いていた。
やがて男がぐったりと腕を下ろすと、ジョルジュはナイフを男の胸から抜き、ゆらり、とこちらを見た。
その感情の窺えない表情に僕は恐怖し、竦み上がってしまった。
そんな僕に向かってジョルジュは一歩一歩近づいてきて、ついには手を伸ばせば届くだろう
位置まで来てしまった。
( ゚∀゚)「倒れろ」
(主;^ω^)「……え?」
倒れろとは殺す前の決め台詞か何かなのか、僕は目眩を覚えながらその意味を探る。
711
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 21:57:59.05
ID:GFGpUJzm0
( ゚∀゚)「早く倒れて死んだフリをしろ。誰か来る前に。あと、出来るだけ顔を上げるな」
(主;^ω^)「え、あ……」
訳も分からず言われた通り床に手足を広げてうつ伏せになった。
床は血だらけだったがそんなことを気にしている場合ではなかった。
( ゚∀゚)「俺が居なくなったら自分で判断してこの建物から出ろ。良いな?」
依然死への恐怖はあったが、思いの外優しさのこもっていたジョルジュの声に、僕はなんだか
このまま生きていられるような気がしていた。
うつ伏せになってみるとジョルジュの歩く音が良く聞こえた。
顔を上げるなと言われた僕はそれに従っていたため、ジョルジュが何をしているのかは分からない。
しかし僕から遠ざかっていくジョルジュの足音はどこかで一度止まると、再び引き返してきた。
続いて足音とは違う何か柔らかく重いものが床に落ちる音がした。
そしてそこからしばらくの間、湿った衝突音が繰り返された。
声も無く、ただ断続的に漏れる気息の音と共に聞こえる生々しい音。
何をしているか想像できない訳では無かったが、恐ろしくて僕はそれ以上考えることはしなかった。
720
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:00:09.46
ID:GFGpUJzm0
しばらくして不気味な音が止まった。一体次は何をするのだろうか。
もしかしたら気が変わったジョルジュに僕は殺されてしまうのではないだろうか。
心の中にえも言われぬ不安が渦巻き、僕は床に寝ているのにグラグラと地面が回っているような
錯覚を覚えた。
そうして平衡感覚の失われた世界に身が沈み始めた時、扉の開く音がした。
殺し合いが始まってしまう。息が詰まるような感覚と共に僕はそう思った。
しかし扉を開けた主の第一声は酷く力ないものだった。
(;´・ω・`)「何してるんだ……」
そしてその声はショボンのものだった。
(;´・ω・`)「何してるんだよ、ジョルジュ」
( ゚∀゚)「……ショボン」
冷静に考えればショボンの主張はもっともだった。
何故ジョルジュはこんなところで殺人なんてしているのか。
( ゚∀゚)「ショボン、逃げろ」
(´・ω・`)「あ、あぁ……でも君は」
( ゚∀゚)「あいつらが幸せならそれでいい。俺はこいつらが殺した人数だけ、こいつらを殺した。もう満足だ」
ごと、と重いものが落ちる音がした。僅かに身じろぎしてしまったが、ばれてないだろうか。
726
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:01:59.66
ID:GFGpUJzm0
(´・ω・`)「でも、ジョルジュ……僕は」
( ゚∀゚)「……俺はもう同じ人数の人を殺した。だからショボン、お前はもう誰も殺すな。でないと
俺はお前を殺さなきゃならない」
そこで会話は途切れ、どちらかの足音が遠ざかるのが聞こえた。
顔を上げるべきか上げないべきか。
残っているのがショボンだとして、僕がここに居ることがばれて何か不都合があるだろうか。
あらゆる身の危険を考えているうちに、いつしか今まで立ち込めていた臭いとは別な臭いが
僕の鼻を刺激し始めた。
(;´・ω・`)「……ジョルジュ! あいつ!」
ショボンが何かに気付いたように走り去っていくのが聞こえた。
残っていたのはショボンだったのかと僕はゆっくりと顔を横に向けた。
すると開け放された扉の向こう、白い廊下を灰色の煙が浮かんでいた。
(主;^ω^)「え?」
鼻を突く何かの焼ける臭いに加え、この煙。
僕は人が居ないのをざっと確認すると、立ち上がり廊下に飛び出した。
(主;^ω^)「ゲホッ! おぇ!」
飛び出る際に吸い込んでしまった煙にむせながらも、左右を確認する。
何かを少し焼いただけでこんなにも煙が出るわけが無い。
間違いなく今この建物で火事が起こっていた。
736
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:04:05.80
ID:GFGpUJzm0
煙は天井近くを雲のようにただ浮かんでいるだけで、どちらから流れて来ているのか分からなかった。
一体どっちに逃げたらいいのか。
迷っていた僕は更にDATの存在を思い出す。
このまま建物が焼け焦げてしまったらDATも埋もれてしまう。
最悪駄目になってしまう可能性だってあるのかもしれない。
でも、どうあってもDATの回収だけはしなければいけないのだ。
自分の命惜しさに世界を捨てるなんて、トーチャンの期待を裏切ることは出来ない。
しかしここが何処なのか全く分からず、DATのある部屋へはどう行けばいいのかが分からない。
(主;^ω^)「そうだ! 僕のDAT!」
僕は閃き、仕舞っていた自分のDATを取り出した。
DATはDATに共鳴する。
しかしこれだって万能ではない。条件が良くない場合はほぼ反応が無いといって良い。
だがゼロではない。
(主^ω^)「頼むお……」
微かな反応をも見逃すまいと僕はDATを両手で包み込むように握ると、目を閉じ精神を集中した。
意識は奥深くへと潜り、真っ暗だった世界にぽつりと青白い光が灯る。
光は頼りなくふわふわと空中を漂い、ある1点で僅かにその光度を増した。
(主^ω^)「左だお!」
本当に僅かな共鳴だったが、僕はそれを信じ左へ駆け出した。
744
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:05:54.76
ID:GFGpUJzm0
一体何のためかと思うくらいに道は入り組んでいた。
僕はその分かれ道の度にDATの共鳴を探る。
もしかしたら遠回りをしているのかもしれない。
迫る火事と言う恐怖を感じながらも、しかし段々と強くなる共鳴に僕は励まされるようにひたすら走った。
そうやって走り続け、いくつ目かの曲がり角に差し掛かったとき、僕は急に地理勘を取り戻した。
何度か通ったことのある場所に来たのだ。
プレートを確認してみたが、ここからなら十分DATのある部屋を目指すことが出来る。
そうして喜び、曲がり角を曲がったその先の地面に、誰かが倒れていた。
ここでも何かがあったのだろうかと考えながら通り過ぎようとして、僕は愕然とした。
倒れていたのは先ほどまで元気にいた筈のジョルジュだったのだ。
(主;^ω^)「ジョルジュ!」
僕は思わず立ち止まりジョルジュを抱え上げる。
途端、背中に回した手にぬるりとした感触を覚えた。
目を閉じ青白い顔で微動だにしない彼に、僕は何度も呼びかける。
(主;^ω^)「ジョルジュ! ジョルジュ!」
だが、ぴくりとも反応しない。
嫌な予感に僕は耳を口元に近付け呼吸を確認した。
するとどうだろうか、確かに彼は呼吸をしていたのだ。
僕は一先ず安堵し、溜息を吐いた。
755
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:08:04.95
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「でも……」
しかし、彼を助ける手立てが見つからなかった。
僕には何か医療の心得があるわけでも無いし、その行為を行えるような道具も持っていない。
おまけに今建物は火事で、僕はいち早くDATを探し出さなくてはならない。
これから僕が何かをしたとしても、彼はきっとすぐに死んでしまうだろう。
ならば徒労に終わる人命救助は諦めて、DATを探しに行くのが合理的だと言えた。
でも今の僕はそう思わなかった。
(主^ω^)「トーチャン、ごめんお……僕はもう誰にも死んで欲しくないんだお」
僕はそのままジョルジュを背負い、DATの部屋へと再び走り出した。
何か考えがあるわけでもないし、背中が重くて走るスピードは全く上がらない。
それでも僕にはこれ以外に取るべき行動は存在しなかった。
曖昧な僕は結果として1人の不幸な少女を生んだ。
別に僕が全ての采配を握っていたなんて大それたことを言うつもりは無い。
ただ僕はそれに心残りがあって、今もそれが痛いから、だから僕は僕の為に今走っているのだ。
そう考えると何だか僕の中から黒い影が消え、心が軽くなった。そんな気がした。
764
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:09:59.58
ID:GFGpUJzm0
幸いなことにV154は無人だった。きっと火事に気付いて逃げ出したのだろう。
僕は一度ジョルジュをベッドに下ろすと、すぐさまラジカセからメディアを取り出した。
眩しく輝くそれはやはりDATに間違いなかった。
これがここにあると言うことは、きっと彼女はブーンに出会えたのだ。
僕はそれに安堵しポケットにDATを入れた。
しかし僕の目的はまだ達成されていない。僕は再びジョルジュを背負って走り出した。
だが廊下に飛び出てはたと気付いてしまった。
僕はこの建物の何処に出口があるのか、それを知らなかったのだ。
けれども立ち止まっている暇は無かった。
ジョルジュの命は勿論、既に廊下は真夏のような熱気で、涙が出るほどの煙が充満している。
走ってきた方向を見ると、何と言うことかゆらゆらと踊る大気の波が見えた。
炎がすぐそこまで来ていたのである。
僕はそれから逃げるように反対へと走り出す。
出来るだけ姿勢を低くしながらも、背負うその重さにあまり足は曲げられない。
(主;^ω^)「はぁ……は! ゲホッ!」
立ち込める煙は更にその色を濃くし、まともに立ち上がると視界が殆んどきかない程になっていた。
煙は勿論の事、その熱気で気管支や肺がチクチクと痛い。
やがて目眩と共に足が震え始めた頃に、僕の目の前に大きな壁が現れた。
つまり僕は行き止まりに掴まってしまったのだ。
773
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:12:15.70
ID:GFGpUJzm0
(主;^ω^)「う……うぇ……ゴホ!」
しかしそれでも僕は立ち止まらない。
行き止まりであることを把握すると僕はすぐに引き返し、近くの扉を手当たり次第で開けにかかった。
どこかに出口のようなものは無いか、出口ではなくても何か役に立ちそうな物は無いか。
だがどれもこれも鍵が掛かっていてまるで開く気配が無い。
(主;´ω`)「……ぐ……う……」
どうにも煙の所為だけでなく、目自体も霞んできたようだ。
全身あちこちが痛い気がするけれども、痛みに憂いている場合ではないのだ。
僕は背中のジョルジュが一層重くなったのを感じつつも、ただ次々と扉を引き続けた。
(主;´ω`)「……ごめんお」
誰に向けたわけでもなく自然と侘びの言葉が口から出た。
朦朧とする意識の中に色々な人の笑顔が浮かんでは消えていく。
僕は結局何1つ守れなかった。
心を蝕んでいく無力感はやがて体の機能をも食んでいく。
(主;´ω`)「……」
突然聞こえた地鳴りのような音と同時に、急に足に力が入らなくなって僕は崩れ落ちそうになった。
しかしジョルジュを傷付けてはいけないと咄嗟に僕は何かに掴まった。
すると掴まった何かが僕にどんどんと近づいてくるではないか。
あぁ、やっと当たりを引いたのか。遅すぎるなぁ。
そんなことを考えながら、僕は暗闇の底へと意識が落ちていくのを感じていた。
落下していく僕の上から、悲しげなピアノの音色が、聞こえてきたような気がした。
778
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:14:11.95
ID:GFGpUJzm0
真っ白だった。
世界が真っ白かと思ったのだが、白いのは天井だった。
白い壁、白いテーブル、白い柵、白い布団。
そこまで確認してここが病室であることに気付いた。
(主;^ω^)「!」
バサ、と音を立てて掛け布団を撥ね除けながら僕は起き上がった。
ベッドに備え付けられた小さなテーブルに両手を付いて辺りを見回してみたが、周りを白い
カーテンに遮られていて良く分からない。
左腕には点滴の針が刺さっていたが、他は目立って怪我をしている様子は無かった。
酷く炎に炙られていた気がしたのだが、あれは夢だったのだろうか。
「カーテン、開けてもいいですか?」
突然柔らかな女の人の声がカーテン越しに聞こえてきた。
僕が短く「はい」とだけ答えると、カーテンの向こうから痩身の看護師が現れた。
('、`*川「気分はどうですか?」
(主^ω^)「あの、僕はどうしてここに……」
質問に答えずに僕は何故自分がここにいるかを尋ねた。
看護師は僕の顔を一度見ると、目を真ん丸に開いて首を捻った。
782
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:16:10.05
ID:GFGpUJzm0
('、`*川「私もその場に居たわけじゃないから分からないんですけど、病院の前に倒れてた
って聞きましたよ」
(主^ω^)「病院の前? ……僕の他には誰か居なかったのかお?」
そう聞くと看護師はまたも首を捻って考える仕草をした。
('、`*川「さぁ……でも服がボロボロになっているのに、こっちは全然何とも無いって皆驚いてましたよ」
(主^ω^)「他には居なかったのかお? 僕と同じくらいの背で、そう、僕と同じ服を着た!」
('、`*川「……さぁ。1人だったって聞いたような気がしますけど……」
(主;^ω^)「……」
看護師が知らないのなら少なくともジョルジュはこの病院には居ないのかもしれない。
となると、ジョルジュはつまり助からなかったと言うことなのか。
僕は結局ジョルジュを助けられなかったのか。
('、`*川「あ、そうだ。今荷物持ってきますね。ポケットとかに入ってたのをこっちで預かってますから」
(主´ω`)「……お願いしますお」
急に体の力が抜けて、全てがどうでも良くなってきた。
世界を救おうと意気込んでいた僕は、結局1人の人さえも救えないのだ。
789
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:17:59.04
ID:GFGpUJzm0
(主´ω`)「はぁ……」
「助かったのに悩み事ですか?」
ふと右手のカーテンの向こうから誰か男の声が聞こえてきた。
いきなり話しかけてくるとは一体なんだろうか。
(主^ω^)「いや、別にそこに不満を持ってるんじゃ無いんですお」
男「そりゃそうだ。体中傷だらけの僕から言わせればあなたは幸せですよ」
(主^ω^)「何かあったんですかお?」
男「……何があったんでしょうね」
(主^ω^)「……?」
男「あなたはこれからどうするんですか?」
(主^ω^)「僕は……僕はまだまだやることがあるから、その続きですお」
男「それはどんな?」
(主^ω^)「……世界を救う旅ですお」
男「……こりゃ参った。まるで僕なんかとはスケールが違う」
そう言ってカーテンの向こうで男が息苦しそうに笑った。
重症なのだろうか。
(主^ω^)「あなたはどうなんですかお?」
男「僕ですか……」
考えているのか言い辛いのか、男はここで少しの間を挟んだ。
797
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:19:57.43
ID:GFGpUJzm0
男「僕は正直なところ死んだ後の事を考えていたので、何をするかはまだ分かりません」
随分とヘビーな話題に僕は思わず息を飲んだ。
男「だからしばらくはこれまでと同じ事をしようかなと。幸い指は完治しそうなので」
(主^ω^)「細かい作業なんですかお?」
男「ええ。その、ピアノをやってたんです」
(主^ω^)「ピアノを? 他には何かすることは無いんですかお?」
少し失礼な言い方だったかと思ったが、時折漏れてくる唸り声に気分を悪くした様子は無かった。
そして、一通り考え終えたのか男はゆっくりと口を開き始める。
男「……なんだかそれじゃないと落ち着かないんです。そう、何かが居るんです」
(主^ω^)「何かが居る?」
男「えぇ。僕自身にはそれが良いものなのか、悪いものなのかは分かりません。
でも、いつの間にか僕の中に巣食ったその何かが、早く弾け、早く弾けと僕を
急き立てては不安にさせるんです」
(主^ω^)「……」
男「そして僕はこれからもきっと、そうやって見えない何かにピアノを弾かされるんです。
ずっと、ずっと……」
それきり僕らは互いに黙ってしまった。
807
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:22:10.36
ID:GFGpUJzm0
('、`*川「はい、一応これで全部です。もし無くなってた物があってもごめんなさいね」
そう言って差し出されたのは僕のDATと、集めたDAT。
それらを眺めながら僕は考える。
僕はこれからもいろいろな世界へ行ってDATを集める旅を続ける。
目的は勿論、僕の世界を元に戻すためだ。
そのためにはDATがどうしても必要だ。DATが一番重要なのだ。
でも、DATよりも大切なものは本当に無いのだろうか。
『この世に天秤に掛けられるものなんて、ごく僅かしかないんだ』
なるほど、悔しいけれど確かに彼の言う通りだったのかもしれない。
僕は僕の世界も、この世界も守りたい。天秤には掛けられない。
なぜならここも既に僕の世界なのだ。
そして次の世界もまた、僕の世界なのだから。
813
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:24:05.08
ID:GFGpUJzm0
(主^ω^)「看護師さん、絆創膏が欲しいお」
('、`*川「絆創膏? えーと……はい」
絆創膏を受け取ると僕はDATを手に取りベッドから降りた。
('、`*川「何処に行くんですか?」
(主^ω^)「ちょっとトイレだお」
('、`*川「あ、ごめんなさい」
僕は笑顔を向けてカーテンの向こうに出た。
窓から差し込む日差しに背中を押されるようにして、点滴架台を押しながら僕は廊下へと歩く。
扉に手を掛けたとき、僕はふと思った。
それにしてもフォックスの手先はこの世界に来なかったのだろうか。
多少は心の黒い人も居たかもしれないけれど、DATに執着していたような人はいなかったような気がする。
(主^ω^)「……あ」
居た。1人居た。
僕はそれに気付いて思わず笑ってしまった。
なんてこった。こんなにも近くに居た。
勿論本当にフォックスの手先が居たのかなんて確かめようは無いし、あれが地だったのかもしれない。
いや、あるいはまだ居るのだろうか。
けれども、それならばこの心の痛みも全てフォックスのせいにしてしまおうか。
そんな冗談さえ浮かんだ。
819
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:26:06.96
ID:GFGpUJzm0
男「世界を救う旅、頑張ってください。あぁ、あと力抜くと痛くないですよ」
カーテンの向こうから掠れた笑い声が聞こえてきた。
何も見ていないのになかなか切れる男だと思った。
彼が看護師だったら僕はベッドに縛り付けられていただろうに。
(主^ω^)「あなたも早く良くなるといいですお」
僕も笑って部屋を後にした。
トイレに入った僕は一度用を足すと、個室へと入った。
テープを剥がして点滴の針を抜き、その上に絆創膏を貼る。
少し腕が張っている感じがするけれども、たいしたことは無い。
(主^ω^)「まだまだ……まだまだだお」
呟きながら僕はDATを握り締める。
本当にまだまだだ。僕も、これからの旅も。
次の世界では1人でも幸せな人が増えるように。
僕はそう願いながら暖かな光に包まれ、そしてこの世界から旅立った。
−続−
835
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:27:59.89
ID:GFGpUJzm0
=======爪'ー`)y‐――● ○――(^ω^主)=======
人人人人人人人
< >
< 次回 予告 >
< >
∨∨∨∨∨∨∨
846
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:29:23.36
ID:GFGpUJzm0
( ゚∀゚)「おいーっす。次回予告の時間だぞー。司会は俺とショボンがさせてもらうぜ」
(´・ω・`)「司会? 僕はただの『傍観者』だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
(;゚∀゚)「影響されんなよ! まだここピアノだぞ! えーと、次の世界は◆y7/jBFQ5SYさんの
『( ^ω^)ブーンが運命に喧嘩を売るようです』だ」
(*゚ー゚)「ショボン何やってんのー?」
(;゚∀゚)「こら入ってくんな! 次回予告くらいちゃんとやらせろ!」
(´・ω・`)「……本当に残念だ。妹を自分の手で殺害しなければいけないとはね」
(;゚∀゚)「微妙に噛みあってて笑えねーよ!」
ξ゚听)ξ「何よ、全然駄目じゃない。やっぱり私と代わりなさいよ。私がワカンナインデスの
魅力について小1時間語るわ」
( ^ω^)「いや、やっぱりここは主人公の僕が……」
(;゚∀゚)「だー! お前ら一堂に会したら話固く作った意味なくなるじゃねーか! ここだけ祭りか!」
(´・ω・`)「それが喧嘩を売るって事だよ」
(;゚∀゚)「あーもういいや。次回、( ^ω^)ブーンが世界を ((((*゚ー゚)ξ゚听)ξ<飽きたわ、帰りましょ。
( ゚∀゚)「……最後の最後まで俺の扱い酷くない?」
(;^ω^)「……えー、と言うわけで、次回の 『( ^ω^)ブーンが世界を巡るようです』 は
第8回 『( ^ω^)ブーンが運命に喧嘩を売るようです』 編です。皆さんお楽しみに」
856
練習生(北海道)
2007/03/16(金) 22:31:00.63
ID:GFGpUJzm0
えー、と言うわけで終りです。
実は今日でこの作品が投下されて丁度1年になります。
この1年間で良くも悪くも変わったなぁ、と感じることが出来ました。
それだけでも本当に合作に参加した意義はあったなと、そう思います。
とりあえず後先何も考えずに好き放題やったから、後続の人たちの罵倒が怖くてもう楽屋に帰れない。
さようなら。大好きでした。
とにかく、読んでくれた方、支援してくれた方、まとめの方、そして他の合作の作者の方々
本当にありがとうございました。
それじゃあ運命喧嘩さん、後は任せました。
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ニュー速VIPのブーン系小説まとめ
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