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問合せ
ドクオが生きるという事について考えるようです
第9話
200 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:14:30.33 ID:yBAdpMrj0
----------------
広く長い回廊に俺は立っていた。
床に敷かれた絨毯の色が赤なのか、青なのか
そもそも色があるのか、無いのか………
それすらも分からない不思議な状態だった。
視覚や聴覚、嗅覚は切り取られたかのように無くなっていて
それでも自分の事や自分を取り巻いていた状況だけは
嫌にはっきりと理解できていた。
201 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:15:36.48 ID:yBAdpMrj0
回廊の壁を見ると額縁が掛けられていて
その中には”動く絵”が描かれていた。
物心付いた頃の光景が映った絵。
幼稚園の頃の光景が映った絵。
小学生の頃の光景が映った絵。
202 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:16:23.89 ID:yBAdpMrj0
なるほど、今生の終わりに俺の年代記展示会開催って事か?
弱い脳みそが用意してくれた走馬灯の代用品か何かだと
認識して俺は回廊を歩き始めた。
回廊の先はぼやけていて、どこまで続いているのかは分からない。
204 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:20:42.77 ID:yBAdpMrj0
生まれた頃から小学生の頃までの絵を
淡々と流すように見ながら歩いていたが
中学生の頃の絵を見て足が止まった。
こいつはそうだ。
夢を見つけた頃の思い出だ。
205 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:23:38.31 ID:yBAdpMrj0
俺は小さな頃から、話を考えると言う事が好きだった。
「カーチャン、絵本を書いたんだ。」
「あらあら、ドクオはお話を考えるのが好きねえ。」
「僕、将来はお話を考える人になりたい!」
「おやおや、ドクオったらまだこんなに小さいのに
将来なりたいものを見つけられたんだね。
えらいねぇ。」
207 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:24:39.66 ID:yBAdpMrj0
それ以前からあった”何となく”で構成されていた気持ちが
始めて心を突き動かすほどの力を持ったのはちょうどこの頃からだ。
多感な中学生期に自己表現の方法として、俺はこれを選んだ。
”物語を作る”
それを、夢と定めた。
208 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:25:13.51 ID:yBAdpMrj0
若い身で夢を見つけるのは立派だと人は言う。
友人や家族も直向に夢を持ち続けて語れるという事は
素晴らしいと褒めてくれた。
だけど、心の内では違った。
俺は努力を怠って、その夢を手にしたのだ。
210 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:25:41.93 ID:yBAdpMrj0
”学力”という誰が見ても分かるもので競争する事から逃げただけなんだ。
”自分の夢”という限りなく競争率の低いもので競争を避けて自己を確立しようとした。
他の人の夢のきっかけがどういうものなのかは分からない。
だけど、俺の場合は少なくとも”逃げる”事を正当化する事から始まった。
競争相手の無い漠然とした自己確立を遂げて俺は中学時代を過ごした。
212 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:32:41.39 ID:yBAdpMrj0
そして次に高校時代の絵。
ブーンとツンと、そしてクーと出会った頃の思い出だ。
連中も、俺と同じような”物語を作る”という夢を持っていて
俺達は自然と夢を語り合う間柄になっていた。
時には意見の不一致から口論に発展して、
絶交だ!といって数日口を利かなかったり…
そうそう。ブーンとツンの洒落にならないケンカもこの時期が一番多かった。
クーと一緒に冷や冷やさせられたもんだ。
夢が少しずつ具体性を持ち始めた時期の思い出で一番盲目的で楽しかった時期だ。
214 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 01:34:25.02 ID:yBAdpMrj0
短大時代の絵。
就職という現実を前にしてブーンが夢を捨てて
夢を叶える為に副次的に身につけた技術を活かせる仕事に就いて、
俺は夢をあきらめたブーンの分まで夢を追うと言ってのけて
夢だった仕事が出来る会社への就職が決まった。
程なくしてブーンとツンが結婚するという話を聞かされて……
そうこうしている間に10代が終わった。
とても動きの激しい時期だった。
219 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:00:08.66 ID:yBAdpMrj0
さる食らいました
続き行きます!
221 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:00:54.52 ID:yBAdpMrj0
会社で働く俺の絵。
夢を叶えて就職した後、とにかく盲目的に働いた。
ブーンやツン、クーと何度か酒を飲み交わした思い出。
ジョルジュとの出会い、一緒に凄まじい状態の職場で励ましあってきた思い出。
そして…ブーンが倒れたのに端を発した出来事を思い出し
そこで絵と道は途切れた。
あぁ、そうか。
ここで俺の人生は終わったんだもんな。
何故か無機的で冷たさを感じる時期だった。
223 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:02:01.28 ID:yBAdpMrj0
22年という人生を振り返り、思った。
俺の人生は10代に夢を見つけてそれを叶える為に生きた。
挫けそうになることもあったが、どうにかその夢を叶える事が
出来た。ただ、日々が楽しく刺激的だった。
そして20代。夢を叶えた後の俺はただ日々を会社員として過ごしていた。
ここ数年、あの10代の熱い気持ちと心が日に日に冷めていくような感覚に
陥っていたのは”次の夢”を持てなかったからじゃないだろうか、と。
生きる原動力として”夢”という要素が占めるウェイトは決して小さくない、と。
そんな事を思った。
225 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:02:43.35 ID:yBAdpMrj0
何も”夢”なんていう大層なものでなくてもいい。
当面の目標というものでもよかった。
だが、20代になって俺は目的も目標もなく
手にした仕事と日々の忙しさにかまけて過ごしている内に心が貧しくなって
視野も狭くなってしまった………。
229 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:03:17.00 ID:yBAdpMrj0
ふと前を見ると絨毯敷きの回廊はすっぱりと無くなって、
眼前には遠くに川を映す一面の草原が広がっていた。
三途の川か何かだろうか?
まぁ、何でもいい。
これが死ぬ寸前の脳が見せる妄想でも夢でも、
ここで思い切れば死ねるだろ。
………あの回廊は悪くない、走馬灯だった。
231 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:04:02.62 ID:yBAdpMrj0
草原の上に足を踏み入れる。
音はなく、草を踏んだとき特有の感触もなかった。
川までの距離感は分からなかった。
すぐ近くのような、まだまだ遠いような………
距離感の掴めない川の向こうによく見知った姿があった。
234 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:05:01.22 ID:yBAdpMrj0
俺の脳みそも割りといいサービスしてくれるじゃないか。
最後に、こんなイベントを用意してくれるなんてな。
”よう、迎えに来てくれたのか?”
235 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:05:37.02 ID:yBAdpMrj0
向こうに立つ彼女は何も答えない。
それどころか川の向こうに立つ彼女は顔は見えるのにその表情は
霧がかかっているかのように見えなかった。
笑っているのか、怒っているのか。
どっちだろうか。
駆け足気味に川を目指す。
237 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:06:53.54 ID:yBAdpMrj0
川を目指して歩きながら、考えた。
何故、俺は死のうと思ったのか。
そんな今更ながらな事を考え出してしまった。
ツンからの”想念”を手放したから………
ブーンに返したから。
だから、死のうとした。
俺にはもう”夢”という生きる原動力も生きる理由がなくなったと思って………
”消去法で選んだ末に俺は、今此処にいるんだよな。”
”そうだね。”
239 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:07:51.78 ID:yBAdpMrj0
距離感はつかめないままだったが、確かに彼女の声が俺の頭に届いた。
”お前は、自分で選び取ったのか?
その………死ぬっていう選択を。”
彼女は何も答えない。
それはそうだ。
あそこに立つ彼女は俺の脳が勝手に作り出した
彼女の幻影だ。
彼女のみが知る事を知り得るわけがない。
241 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:09:07.21 ID:yBAdpMrj0
だけど、彼女は答えた。
”自分に自信が持てない?
私が自分で死を選んだかどうかなんて
本当に死のうとしているのなら
知る必要の無い事でしょ?”
242 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:09:41.08 ID:yBAdpMrj0
そして、
”もう少し、生きてみたら?”
彼女の声は 確かに そう言った。
244 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:10:25.73 ID:yBAdpMrj0
”考えなしに、不安を持ったままここで死ぬよりもどこかに区切りを設けて
それまで生きて、そこで駄目だと思ってから死んでもいいんじゃないかな?”
霧が晴れるように、彼女の表情が見えた。
都合のいい脳みそだ。
川の向こうに立つ女性にツンの声で、ツンのあの笑顔で
そう呟かせたに違いない。
248 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:28:10.97 ID:yBAdpMrj0
”だけど、俺はもう死にたい。
だから、これを選んだんだぜ?”
”違う。”
一言で俺の言葉を否定する。
そして、彼女はさらに言葉を繋げた。
”あなたは選び取っていない。”
250 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:30:11.22 ID:yBAdpMrj0
投下中失礼します。
ちょっとさるが厳しくなってるみたいです。
夜も遅い事ですし、しばらく音沙汰絶ったら
「あぁ、あのバカ、さる食らったな。」と思ってくださいませ。
255 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:37:48.18 ID:yBAdpMrj0
”あなたがあなたの意志で選び取れないならまだ生きなさい。
消去法での死は私は許さないから。”
口調は険しかったけど、表情はあの時の光を宿した笑顔だった。
ドンドン
何かを叩く音が草原に響き渡る。
聞き覚えのある誰かの声も聞こえた。
258 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:43:31.07 ID:yBAdpMrj0
”それじゃあ、またね。”
ニコリと笑ってツンの幻と川が消え………
そして覚醒は唐突に訪れた。
ドンドン
「ドクオー!!無事か!?」
ドアを激しくノックする音とジョルジュの声だ。
260 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:47:42.00 ID:yBAdpMrj0
見慣れた部屋の壁が視界に飛び込み、
ジョルジュの声とドアを叩く音の他、外を走る車の音や電車の音などの
いつもの部屋の外に聞こえる環境音を聴覚が拾った。
身を起こそうとすると正に「頭が割れる」と言うのはこういう事かと
思わされる激しい頭痛に襲われて、次いで胃に激痛が走った。
口元からはよだれのような、少し粘り気を帯びた液体。
どうやら、飲み込んだ大半の睡眠薬は寝ている間に吐き出したらしい。
その錠剤の数を見るに、よくもまあ寝ゲロで死なずに済んだもんだと思った。
ベッドのシーツの上には倒れた酒瓶があり、その中に入っていた酒が
漏れ出してシーツを薄茶色に染めていた。
寝汗と酒の匂いと胃液と錠剤に彩られたシーツはまるで俺の心の縮小図のような
地獄絵図を描いていた。
264 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:51:34.91 ID:yBAdpMrj0
壁にかけられた時計が示す時刻は午後4時。
窓の外に見える景色は昼と夕方の間のような中途半端な明るさで
近所の学校の生徒達が談笑しながら下校する姿が見えた。
「あ………」
薬のせいか、どうにもうまく声が出ない。
冷蔵庫に入ったペットボトルの水を飲んで一息つける。
266 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:55:32.08 ID:yBAdpMrj0
「ドクオー!!おい!いないのか!?」
「あ、あ…、っと。」
声が出るのを確認してドアを開く。
「ドクオ!お前!なに無断欠勤してんだよ!!
電話にも出ねーし心配したじゃねぇか!!」
268 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 02:57:51.35 ID:yBAdpMrj0
「へへ、すまねぇ。
ってか、まだ勤務時間じゃないか。
何しに来たんだ?」
「上司に言われてお前の様子見に来たんだよ。
ったく、ここの所机の上の私物を全部片付けたりして
様子が変だから、もしかしたらよくない事考えてるのかと
思ったじゃねぇか!」
大当たりだ。
270 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 03:02:27.74 ID:yBAdpMrj0
「………ちょっと、風邪こじらせたみたいでさ。
今まで寝てたんだよ。」
「そうか…。
なんか必要なら薬でもメシでも買ってくるぜ?」
「いいよ。
大丈夫。買い置きがあるから。」
「そうか?なら、いいけどさ。
じゃあ、俺、仕事戻るわ。」
「おう。」
「あ、ジョルジュ。」
「なんだ?」
「心配かけた。」
「過去形にすんなよ。
まだ心配かけてるぜ、お前。」
ニッと笑ってジョルジュは会社へ戻っていった。
272 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 03:07:37.98 ID:yBAdpMrj0
ドアを閉め鍵をかける。
ふと目に入った床に転がっている携帯に「着信あり」と表示されているのを
確認してディスプレイを覗き込んだ。
ジョルジュと上司からの着信履歴が山のように入っていた。
特にジョルジュなんかは午後に入ってからは約10分置きに電話を
入れてくれていた。
275 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 03:10:46.64 ID:yBAdpMrj0
「これから、どうしたもんかな。」
シーツを洗いながら、考えた。
昨日一晩で手に入れたのは薬の後遺症か、激しい胃の痛みと頭痛だけで
これからするべき事が何も分からない。
278 :
(・へ・)
:2006/11/22(水) 03:16:21.63 ID:yBAdpMrj0
蛇口を捻り水を止める。
洗濯機にシーツを放り込む。
「………そうだな。」
ツンが何故死のうとしたのか。
どのようにして死のうと決心するに至ったのか。
それを理解してみようかと思った。
「それまで、生きるか。」
とは言え、その答えを見つけ出すのは相当に困難だろう。
だけど、それでも………
見出してみせる。
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