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( ^ω^)ブーンは駆逐するようです


第9話

223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:44:26.00 ID:Q20amxjg0
第九話「問い鏡」

――夜・司令室

从 ゚∀从「司令」

( ^ω^)「お?」

从 ゚∀从「蟲が集結し始めています。おそらく2日後には攻撃が開始されるでしょう」

( ^ω^)「準備は?」

从 ゚∀从「万端……とはいえません。必要最低限をギリギリで上回るくらいです」

( ^ω^)「十分だお。この短い期間に良くやってくれたお」

从 ゚∀从「ギコが相当苦心したようです。今回は彼の手柄が大きいでしょう」

( ^ω^)「この戦いが終わったら酒をたっぷり振舞舞わないといけないみたいだおw」

从 ゚∀从「そうですね。……司令、その……」

( ^ω^)「なんだお?」

从 ゚∀从「この戦い、本当に終わりがあるんですか?」

226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:45:25.09 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「あるお」

从 ゚∀从「それは……?」

( ^ω^)「どちらかの種が死に絶えればそれで終わりだお」

从 ゚∀从「……私達は生き残れますか?」

( ^ω^)「わからんおwそれは誰にも分からんことだお」

从 ゚∀从「そうですね。……その、子供っぽい話かも知れませんが、我々は何のために生きている? とか考えませんか?」

( ^ω^)「それは人が何故生まれたか、とか何故理性を持つのかとかそういうことかお?」

从 ゚∀从「いえ、……いや、そうかもしれません。司令はそういうことを考えたことはありませんか?」

( ^ω^)「何故理性を持つか、を極論すればそれは生存競争のために帰結するだろうお」

从 ゚∀从「そうですか……じゃあ、司令個人としてはなんのために生きてるんですか?」

( ^ω^)「……僕が生きる理由かお?」

从 ゚∀从「はい。そういうのありませんか?」

( ^ω^)「君は英雄の存在を信じるかお?」

从 ゚∀从「英雄、ですか?」

( ^ω^)「僕は英雄になれたら良い、と思うお」

227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:46:39.56 ID:Q20amxjg0
从 ゚∀从「それが司令に生きる理由ですか?」

( ^ω^)「まぁ、それに近いものかもしれないお」

从 ゚∀从「司令は、もしかたら既に英雄かもしれません。私にとっては、いえ、この街に住む人はみな
      あなたがいなければもうとっくに死んでしまっていたかも知れない。
      あなたはもう十分に我々にとっては英雄ですよ」

( ω )「     」

从 ゚∀从「え?」

( ^ω^)「いや何でもないお。無駄お話はここらで終わりだお。緊急会議だお、すぐに皆をあつめるお!」

从 ゚∀从「了解!!」


228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:47:17.15 ID:Q20amxjg0


――通信室

ξ゚听)ξ「……じゃあ、今夜はいないんですか?」
  _
( ゚∀゚)「そうだな。今回は撤退戦になるからな。一旦北部地域で戦線を展開してくる」

ξ゚听)ξ「撤退戦!?」
  _
( ゚∀゚)「ああ。しょうがねぇさ、なんせ敵さんはこっちの10倍の兵力だからな」

ξ゚听)ξ「10倍って……」

(  ∀ )「全滅も有り得るぞ、覚悟はしとけ。」

ξ゚听)ξ「そんな」
  _
( ゚∀゚)「ま!なんとかなるだろ。じゃあ、司令からの伝令は伝えたからな」

ξ゚听)ξ「はい、確かに。それじゃあお気をつけて。みんなの無事をお祈りしておきます」
  _
( ゚∀゚)「そいつは頼もしいな! さて、また遅れるとハインにどやされる。じゃあな」

ξ゚听)ξ「はい」
  _
( ゚∀゚)「っと、忘れるところだった。司令から『seventh riffleはもう見たか?』だそうだ」

ξ゚听)ξ「なんですか? それ?」

229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:47:53.52 ID:Q20amxjg0
  _
( ゚∀゚)「俺にもわからん。伝えてくれとだけ言われた。心当たりはないのか?」

ξ゚听)ξ「ええ。一応心に留めておきます。ありがとうございました」
  _
( ゚∀゚)「おう!」

戦況はどうやら最悪のようだったが、戦場に立たない私にはいまいち実感がわかない。
それよりも、私にはこの前に見た資料のことが気にかかっていた。
ブーンさんは普段司令室にいる上に、夜は早く寝なければいけなかったのでなかなか見直す機会が得られなかったのだ。

ξ゚听)ξ (あの資料、詳しく見てみればもっと色んなことが分かるかも知れない)



夜になって通信兵が仮眠に入る時間をまって司令室に入った。
もう、ばれたらただの規律違反じゃすまないだろう。

ξ゚听)ξ (ま、どうせ乗りかかった船だしね……)


231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:49:08.07 ID:Q20amxjg0
PCの電源をいれ、The Arkのファイルを開いた。
この前と同じ資料が現れる。
しかし今度は誰も邪魔が入らないとわかっている分だけ、より細部まで目を通すことが出来る。
この前は表面的なことしか見ていなかったが、今なら私が研究していた生命工学の見地から詳しく分析できる。

ξ゚听)ξ (何だろうこの違和感……この前と同じ)

どこかおかしい。それははっきりと分かるのに、何がおかしいのか理解できない。



調べ始めてから2時間ほど経った時、意外なところから『それ』は姿を見せ始めた。

ξ゚听)ξ (あれ……? なんで蟲がこんな長い寿命を)

やはり私が見つけられた異常は遺伝子に関するものだった。
蟲の本来の寿命は約3ヶ月ほど。だけど私が見つけたデータのその寿命は――

ξ゚听)ξ「5年も……いや、あれ?」

そこには確かに約5年にもなる蟲の寿命が存在していた。

233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:50:14.21 ID:Q20amxjg0
寿命というのは、つまるところ細胞の更新限度である。
細胞というのは常に体の中で更新され続けている。
そのサイクルがゆっくりになっていくことこそが、つまり老いである。

そして細胞の更新限界数は個々の個体によって決まっている。
これは30年以上前に研究されていたクローン技術によって判明している。
例えば30歳の人間からクローンを作ったとしよう。

そのクローンは当然胎児の状態から成長し、やがて成人になった。
このクローンオリジナルの20歳の時は全く異なった個体となる。
仮にそれが育った環境が全て同じ条件であったとしてもだ。

なぜならそれは『細胞の更新限界数は個々の個体によって決まっている』からである。

さて、オリジナルの30歳の人間の寿命は後40年あると仮定しよう。
この人間の細胞には遺伝子の中に後40年分の細胞の更新限度回数が設定されている。

当然オリジナルから作られたクローンには後40年分の細胞の更新回数しか遺伝子に記録されていない。
そう、20歳になったクローンはその実、細胞の更新が緩やかになった50歳のような状態なのである。

これはあくまでで分かりやすくした例えであるため、実際は他に様々な要素が絡まりあい複雑にはなるのだが、
こと寿命に限ってはこれがほぼ同じ結果が得られる。

実際クローンであるあらゆる個体はその肉体が若さを十分に保っているにもかかわらず、
オリジナルの寿命が近付くと急激に老化し、ほとんど同時期に死んでしまうのだ。

では逆に言えばその更新回数さえ増やしてしまえば人間も不老不死は夢ではないのだが、
それは様々な問題(それは必ずしも倫理的なものだけではない)を抱えるために研究はあまり行われていない。

234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:51:03.05 ID:Q20amxjg0
話を戻そう。蟲の遺伝子には何故か『二つ目の寿命』が存在していた。
紛れもなく本来の寿命である3ヶ月程のものもある。
つまり、蟲はその身のうちに3ヶ月と5年という二つの寿命を内包していることになる。

ξ゚听)ξ (こんなの私の研究データにはなかった……けど別にあってもなくても3ヶ月で死ぬことにかわりはないか)

再び私はデータに目を通すと、どうやら全ての個体が2つの寿命を持つ訳ではないらしいことが分かった。
蟲発見当初では0.001000%だったそれは
そのデータの最新では4年前の時点で全体の約2.200%。それがちょうど2年半後に90.00%を越え、
3年後、つまり昨年の時点で100.00%になっている。

ξ゚听)ξ (だけどなんでこんなデータが? 別に関係のない寿命のデータなんてなんの役にも立ちはしないのに)

どうやら、また行き詰ってしまったようだ。
わけの分からないデータが多すぎる。
今みている場所は生命工学の分野だから理解はできるが、他の分野では英文の読解自体に
神経を使わなければいけないために、なかなか思うようにはいかない。

仕方なく再び昨年からのデータの統計を見る。
やはり、この奇妙な寿命に関する記述はない。


235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:51:39.47 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ (……記述がない?)

あまりに明確な違和感であったために、私は気が付かなかった。
今にして思うと自分にあきれ返ってしまう。

ここまで年度別と予想のデータまで統計されていて、それに関する『記述がない』のである。
研究していた私には分からなくて、しかもそれに関する記述が一切ないデータ。
記述が一切ないということは、逆に言えばこのデータの管理者は『記述する必要がなかった』
なぜならばそれ自体が『この管理者が記述する必要もないくらいに』そのデータの内容を把握していたから。

ξ゚听)ξ (じゃあこれがこの研究資料のメイン……ってこと?)

実際私がそれを確信するまでそんなに時間はかからなかった。
だってそれはとても単純だった。

ξ゚听)ξ「嘘……」

それでも思わず、声が漏れる。
蟲は私達には無い物を遺伝していた。遺伝させられていた。


――――寿命を



236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:52:43.95 ID:Q20amxjg0
無理矢理付け加えられたこの5年の寿命を、蟲は遺伝していた。
いや、それは正確な記述ではない。
『付け加えられた当時5年だった寿命』を遺伝していた。

それが付け加えられてから、もう後1週間ほどで5年を迎えようとしていた。
そして、その遺伝率は100.00%。

ξ゚听)ξ「これって……じゃあ、蟲はもう……」

確かに害虫を駆逐する際に、遺伝子を組み替えて生殖活動を出来なくする方法が取られたことはある。
それは国単位などの大規模な被害が出たときなどで使われる方法だ。
但し莫大な予算と多大な時間がかかる上にいつ終わるかも知れないからあまり一般的ではない。
今回のはその方法に酷似している。

そういえばブーンさんは言っていた「あと少しだったのに……」と。

それはこれのことを言っていたんだろうか?
これを知っていたから、彼は希望をもって戦い続けて来れたのだろうか?
そういえば、初めて彼にあった戦場で余裕の表情で戦っていなかったか?
いや、いつだって彼は余裕の表情でそこにいなかっただろうか?
それは全部このことを知っていたから……?

237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:53:48.32 ID:Q20amxjg0
誰もが終わりの見えていなかった、この人類駆逐戦線で彼だけはいつも未来を見据えていると。
兵士のみんなはそう楽しそうに言っていた。
まるで、彼が物語に出てくる『英雄』であるように。

司令室にかけられた4枚の絵画を見る。
「Hero(英雄)」と名づけられたその絵画の青年は遥かを見つめて、皆を導くように旗を掲げている。
この旗の元が彼らがいるべき場所だと、その瞳で語りかける。

その表情は険しい。

その理由はちょっと前に彼が言っていた。
未来に幾重に重なる苦難があることを知ってなおも、その未来に進む決意のためだと。
そこに確かに見据える未来があるから、英雄はどれほど傷ついても進むのだと。

その時彼の顔は少し哀しそうだった。
何故だかは分からない。
まるで遠い昔に諦めた何かを懐かしむような、そんな表情は確かに哀しそうだった。
だけど顔にはいつものように微笑みを浮かべていた。

だから、私はむしろ彼は英雄ではなく……。

239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:55:44.09 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ (……そんなわけないか)


わかったことは二つ。
蟲はどうやら、あと数週間のうちに『寿命』よって死ぬということ。
そして、どうやらこのThe Arkというファイルは蟲の駆逐に関する計画であることだ。
しかし彼がこの事実を知っていたなら、何故それを皆に告知しなかったのか?

一応自分の中で答えは出ている。

これを発案したのはアメリカで間違いないだろう。
彼は向こうの軍で研究していた経歴からその守秘義務を守っているかもしれないし、
もしくは成果が上がる前にこれを告知してしまった場合の蟲の一部が残った時に発生する精神的なダメージが
出ることを避けているためかもしれない。

だけど、どれも違うような気がした。
なんの根拠もない、ただの勘だ。

ξ゚听)ξ「考えても分からないこと、か」

これ以上、蟲に関する情報は出てこないだろう。
一旦資料のファイルを閉じる。

ξ゚听)ξ (そういえばsventh riffleはもう見たか、ってどういう意味なんだろ?)

240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:56:45.68 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ (……そんなわけないか)


わかったことは二つ。
蟲はどうやら、あと数週間のうちに『寿命』よって死ぬということ。
そして、どうやらこのThe Arkというファイルは蟲の駆逐に関する計画であることだ。
しかし彼がこの事実を知っていたなら、何故それを皆に告知しなかったのか?

一応自分の中で答えは出ている。

これを発案したのはアメリカで間違いないだろう。
彼は向こうの軍で研究していた経歴からその守秘義務を守っているかもしれないし、
もしくは成果が上がる前にこれを告知してしまった場合の蟲の一部が残った時に発生する精神的なダメージが
出ることを避けているためかもしれない。

だけど、どれも違うような気がした。
なんの根拠もない、ただの勘だ。

ξ゚听)ξ「考えても分からないこと、か」

これ以上、蟲に関する情報は出てこないだろう。
一旦資料のファイルを閉じる。

ξ゚听)ξ (そういえばsventh riffleはもう見たか、ってどういう意味なんだろ?)

242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:58:06.92 ID:Q20amxjg0
ジョルジュさんが去り際に言っていたブーンさんからの伝言だ。
seventh riffleを直訳すると<七番目の早瀬>になる。
彼が『七瀬』のことを暗示していることは間違いないだろう。
だけど『七瀬をもう見たか?』ってのは意味が分からない。

ためしにPCから「sevnth riffle」を含む文字列を検索してみる。

ξ゚听)ξ「……あった!」

ファイルを開こうとするとパスワードが要求された。
試しに「七瀬」と打ち込んでみるとファイルは驚くほどあっさり開いた。

そこに現れたのは、たった一枚の写真だった。
私にも見覚えがある、随分懐かしい写真。

蟲に襲われた私の家には、もうその写真は残っていなかった。

ξ゚听)ξ「嘘……でしょ……?」

声が震える。当然だ、私は泣きそうになっていた。

243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 10:58:48.86 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ「もう、会ってたんだ……」

まだ僅かに声は震えている。
画面には一枚の写真。一綴りの文字列。

ξ゚听)ξ「あなたが、内藤ホライズンだったんですね……!」

写真に写されているのは幼い頃の自分、ちょうどあの許婚の家に行った時の。
そして、写真の下にひとことだけタイプされていた。

「久しぶりだお」





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