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( ^ω^)ブーンは駆逐するようです


第8話

172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:50:25.56 ID:Q20amxjg0
第八話「陽無し」




男は何気ない街の風景を描いた。一つは生活のため。一つはそれが本当に好きだったから。
いつしか男の作品は世界中の誰もが知るような有名なものになった。

しかし男は決してそんな風景画以外を描くことはなかった。
男にとって、他の題材は全て無価値だった。

市街風景の中に人が描かれることはあっても、それはあくまで風景として捉えられていた。
だから彼が生涯で描いた4枚の人物画は酷く歪んでいた。
いや、絵としてはそれは確かな技術の伴う素晴らしいものだったと言えるだろう。
だが鑑賞者はすべからくそれに歪みを感じたのだった。

四枚絵画の題材は「Sight-Alterers(改景者達)」と銘打たれた。

精悍な青年が旗を掲げ、遥か彼方の空を見やるその絵画の名は「Hero(英雄)」
壮年の男が敵兵に囲まれながら爛々と瞳を輝かせるその絵画の名は「Monster(怪物)」
卑屈そうな中年の男が暗い部屋で不適に笑うその絵画の名は「Gifted(天才)」
人の良さそうな老人が穏やかな微笑みを浮かべるその絵画の名は「Demon(悪魔)」

173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:51:05.60 ID:Q20amxjg0
「何故急に人を題材にした絵を描こうと思ったのですか?」というある記者の言葉に男はやや戸惑ってこう答えたそうだ。
「わからない。でもきっと僕は彼らを人間とは思わずに描いたと思う」と。

男は続ける。

「彼らは僕が見てきた『景色』という世界に干渉してきた『モノ』なんだ。
 彼らだけが僕の世界に影響する。彼らだけが僕の見ている『景色』を変えていく。
 彼らの作る歴史は人を変える。
 彼らが変える歴史は多くの人間に影響を与える。
 彼らに影響された人間はやがて僕の見ているこの『景色』を作った。
 だから彼らは『景を変えゆくもの達』なんだ」

記者は言葉を続けられなかった。この男が見ているものが理解できなかった。
いや、そこに居合わせたほとんど人間も彼の世界を共有出来なかった。

男は最後に告げた。

「おそらく僕の伝えたいことは言葉じゃ伝わらない。だから僕はこの絵を描いた。あとはこの絵が語ってくれる」

男が描いた最後の絵は酷く歪んだ4人の人間だった。

175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:52:05.16 ID:Q20amxjg0


夜・ブーンの部屋


( ^ω^)「なんでツンちゃんは生命工学を専攻したんだお?」

私があの奇妙な資料を見かけた日から2日後の夜、突然彼はそんなことを聞いた。

ξ゚听)ξ「理由……ですか?」

最近では私と彼の間には初めてあった時のような緊張感はほとんど消えていた。
彼の親しみやすい性格とまめな気配りのおかげだろう。

( ^ω^)「普通はなかなか女の子が目指すような科ではないと思うお」

ξ゚听)ξ「そうですね。私も12歳のその時まで夢にも思いませんでしたから」

私はこの人に興味がある。惹かれているといっても良いかもしれない。
追い続けてきた人の影にどことなく似ているからだろうか。

( ^ω^)「12歳? そんな時に決めたのかお?」

ξ゚听)ξ「ええ。まぁ、私の家柄では12歳って時はほとんど人生が決まる時なんですけどね」

( ^ω^)「?」

176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:52:57.58 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ「”七瀬の女”って言えば分かりますか?」

( ^ω^)「……聞いたことがあるお」

ξ゚听)ξ「じゃあ話が早いですね。私は12歳の時、七瀬のしきたりで許婚の人挨拶しに行ったんです」

( ^ω^)「七瀬でってことは、それはつまり……政略結婚ということかお?」

ξ゚听)ξ「そうでしょうね、七瀬はそうやって生き延びてきたんですから」

当時はそんなことは知らなかったが、私の家はそういう正当ではない結びつきが多い家として有名だったそうだ。

ξ゚听)ξ「私の家ではその時に結婚する人が決まっているのは当たり前と教えられていたから、なんとも思わなかったんです」

彼は黙って話を聞いている。

ξ゚听)ξ「だけど、私が会いに行ったその許婚はわたしとの婚約を断ったんです」

徐々にその時のことを思い出す。

ξ゚听)ξ「私の顔も見る前に先方がそう言って来たから、お母さんは少し不満そうでした。
      でも相手方の話を聞いて納得したようで、両親はもう帰ろうとしてました。
      だけど私はわけがわかんなくて、泣き出しちゃって。
      両親が困ってると許婚の人が話をしたいって言ってきたんです」

ずっと追ってきたあの人の影。

ξ゚听)ξ「和風の部屋に連れて行かれて障子の向こうにその許婚がいました」

その時から気付かないうちにもう6年が経ってしまった。

178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:53:59.11 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ「障子はあけてくれませんでした。心残りが出来てしまうからって」

あの人の顔はまともに見たことはほとんどない。

ξ゚听)ξ「だけどその人が色々話をしてくれて私をなだめてくれたんです」

その声は覚えている。そういえばブーンさんに似た優しそうな声だった気がする。

ξ゚听)ξ「その時に彼がアメリカで生命工学を研究してるって言ってたんです。
      本当かどうか分からないけど、夜眠らなくていいから一晩中勉強してて
      その人はすごく頭が良いって自分で言ってました」

( ^ω^)「……それでアメリカまで行って研究したのかお?」

ξ゚听)ξ「いや、途中からはちゃんと自分なりに目標があって目指したんですけど、
      目指したきっかけはその人への憧れみたいなモノですね」

( ^ω^)「なるほどだお」

179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:54:27.21 ID:Q20amxjg0
その時の帰り際に一瞬あの人の顔を見ることが出来た。
暗がりにいたからほとんど分からなかったが、一つだけ印象的だったのはその瞳の色。
ほんの少し紅い瞳が妙にその暗がりの中で光っていた。

ξ゚ー゚)ξ「その人が最後に言ってたんです。『自分はこの家を捨てる。
      だからもし私に七瀬の家とか政治とか関係なく会えたらまた二人で話をしよう』って」

( ^ω^)「じゃあまだ会えるかも知れないお」

ξ゚听)ξ「そうですね、今はもうどこにいるのかも分からないし、あっても分かんないでしょうけど」

結局なんでその人が家を捨てるのか、なんで私との婚約を破棄したのか等の疑問は全く分からなかった。
けれど、私にも七瀬の家の拘束があったようにその人にとってもその家の拘束が疎ましかったのだろう。

( ^ω^)「む……すこし長く話し過ぎたみたいだお。今日はもう寝るお。ツンおやすみ」

ξ゚听)ξ「そうですね、そろそろ寝ないと。おやすみなさい」

そうして私はいつものようにまどろみへ落ちていく。


182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:55:38.26 ID:Q20amxjg0


深夜、3時。ドクオは珍しく小屋の通信室に居た。
ほこりを僅かにかぶっていた通信機器を慎重に持ち出す。

途中小屋の中に眠るクーを起こさないように慎重に運んだ。

野外には夏の夜独特の心地よい風が吹いている。

『外』を見据えながら、久しく使っていない通信機の電源を入れた。
ジージーと、あの独特の機械音が数回こだました後、無線の応対が聞こえた。

('A`)「よう、久しぶりだな」

『そっちから無線なんて珍しいおwwwwwどうしたお?www』

('A`)「もうすぐ終わりだな、と思ってな」

『もう一波乱ありそうだおw』

('A`)「所詮ここの地域の話だろ。俺が言いたい『あの計画』のことだ」

『……アークかお?』

('A`)「ああ。……なぁ、俺達は本当に正しかったのか?」

『それは誰にもわからんお』

184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:56:30.22 ID:Q20amxjg0
('A`)「そうだったな。すまん、昔の蒸し返しだった」

『アメリカの大学出てすぐ軍に入ったぐらいの時かお?』

('A`)「ああ。そこで初めてお前と会ったんだ」

『懐かしいおwwあの時はお互いビックリしたもんだおwwwwww』

('A`)「お互いに変な遺伝子持ってるからな」

『そういえば、最初は僕は自分の遺伝子の研究したくて生命工学の道を選んだったおwwwwwwwww』

('A`)「俺もだ。それでお互いあんなもん創りだす道に入っちまったのは”血を分けた……”ってところだな」

『全くだおwwww』

('A`)「話は変わるが、近々また蟲と戦うのか?」

『……撤退戦だお』

('A`)「……!! この街を棄てるのか!?」

『こっちの10倍くらいの戦力があるお。生き残れるかどうかもわからんお』

('A`)「……最後の最後でか。」

187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:57:18.86 ID:Q20amxjg0
『今まで良くもった方だお』

('A`)「そうか。いや、そうだな……」

『嫌そうだおww女でもできたかお?ww』

('A`)「……ああ」

『らしくないおww』

('A`)「うっせーよ。そっちこそどうなんだよ?」

『結構前から狙ってる子がいるおwwww』

('A`)「まだ何もしてないのか?」

『もったいなくて迷ってるおwww』

('A`)「? どういうことだ?」

『秘密を持ってるとどうしてもばらしたくならないかお?』

189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:57:56.66 ID:Q20amxjg0
('A`)「一般人にアークを伝える気か!?」

『もっと面白いことだおwwwwwwwwww』

('A`)「……何を教えようとしてやがる?」

『秘密だおwwwだけどその子は真実を見つけられるかもしれないおwwwww』

('A`)「どういうことだ?」

『知らない方が良いおw』

('A`)「……お前がそういう時は本当に知らない方が良い時だろうな」

『そこで引けるのはドクオの美点だおww』

('A`)「付き合い長いからな」

『ああじゃあ、この辺で。仕事がたまってるおwww』

('A`)「相変わらず勤勉なことだ」

192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 07:59:37.63 ID:Q20amxjg0
『お互い様だおwww』

('A`)「うるせーよ」

プツリと気持ちよく無線は切られた。
夜はまだ明けていない。

('A`)「俺達は正しかった……それで良いんだよな? 俺『達』で、いいんだよな?」

ひたすらに空が白み始めるのを待っていた。


夜が明ける前の夏の朝。風が少しだけ冷たい。






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