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問合せ
ドクオが生きるという事について考えるようです
第2話
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2006/11/15(水) 01:07:59.94 ID:JNA4AI+U0
日常は個人の感傷などおかまいなしに回っていく。
翌日、俺はいつもと同じように会社に出社した。
「おや、ドクオ君。
今日は何だか顔色が悪いねぇ。」
朝礼の後、仕事の報告書を持って行くと上司は
俺の顔を見るや否やそう言った。
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2006/11/15(水) 01:08:32.29 ID:JNA4AI+U0
「そ、そんな事はないっすよ。」
「ふーん、まぁいいけど。
仕事、遅れが出てるみたいだけど
頑張ってね。」
上司との会話はそれで終わり、自分の席につく。
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2006/11/15(水) 01:09:16.45 ID:JNA4AI+U0
そんなに昨日の事が顔に出てるのか?
―プライドの高いブーンの事だから色んな意味で
後輩である君に慰められるのは耐えられないと
思ったんだろう。
だから、ツンは君を止めたんだ。
クーに言われた言葉が頭の中に反芻する。
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2006/11/15(水) 01:10:34.83 ID:JNA4AI+U0
「よーう、ドクオ。
上司に何か言われたんか?」
パーティションで区切られた隣の席の同僚ジョルジュが
ニヤニヤと笑いながら声を掛けてきた。
「俺の顔が疲れてるように見えるってさ。」
「ははは、ドクオは疲れてるように見えるのがデフォルトなのにな!
上司も分かってねーぜ!」
ジョルジュはそう言ってカラカラと笑う。
俺もぎこちなく笑い返す。
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2006/11/15(水) 01:11:15.38 ID:JNA4AI+U0
「ふーん、本当に疲れてるみたいだな。
そんなに疲れてるんならこれ、やってみるか?」
机の引き出しから18と書かれたシールの張られたパッケージを取り出す。
いわゆる肌色の多いゲーム、ぶっちゃけエロゲーだ。
「これはいいぞー。
やったらマジで元気出るって!おっぱいおっぱい!」
片手をぶんぶんと振りながら、俺の手に無理やりエロゲを持たせる。
「まぁ何か嫌な事があっても、エロゲやってメシ食って寝れば俺は
忘れられるからな。お前もやってみろって。」
ジョルジュなりに心配してくれているのだろうか。
さり気無い気遣いが嬉しかった。
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2006/11/15(水) 01:11:56.14 ID:JNA4AI+U0
昨日の事は確実に響いているようだった。
プライベートの悩みを仕事に出すわけにはいかないと思いつつ、
作業に望むが、仕事の効率は全く上がらない。
集中しようとすると次々と嫌な事を思い出し、
考えが阻害されるような澱みを感じる。
結局、定時を過ぎて日が変わっても一日の目標を達成出来なかった。
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2006/11/15(水) 01:13:18.20 ID:JNA4AI+U0
「くそッ!」
ついつい苛立ってキーボードを強く叩く。
思いの外音が大きかったが既にフロアには俺しか居ない。
音を気にする必要はなかった。
人気のないフロアで俺はため息を漏らす。
苛立ちと不安が次々と心を駆り立てて
目から一つ、涙が零れた。
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2006/11/15(水) 01:14:09.82 ID:JNA4AI+U0
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深夜2時を過ぎて家に帰り着く。
シャワーを浴びて遅めの軽い夕食を取り、布団に入る。
明日、取り戻さなければならない作業量を布団の中で考えて眩暈がした。
―まぁ、それでもブーンの仕事に比べたら屁みたいなもんだよな。
そう考えると、安心出来た。
………何故安心出来たのかは、よく分からなかったが…。
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2006/11/15(水) 01:15:09.61 ID:JNA4AI+U0
うとうととし始めた深夜3時過ぎ。
不意に携帯が鳴り出した。
迷惑電話か、と心の中で悪態を突きながら携帯のディスプレイを見る。
ディスプレイにはブーンの名前が表示されていた。
慌てて通話ボタンを押す。
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2006/11/15(水) 01:16:04.02 ID:JNA4AI+U0
「ドクオ、夜分遅くにすまないお。」
ブーンの声は昨日より、いくらか明るくて少し、ホッとした。
「あ、あぁ。どうしたんだよ?」
「ちょっと相談があるんだけど、いいかお?」
「え?」
ブーンの急な申し出を脳が理解するのには数瞬かかった。
そして、脳がそれを理解した時、心が激しく躍り、
俺は深夜にも関わらず近所迷惑なほど明るく大きな声で返事を返した。
「お、おう!
何でも相談に乗るぜ!」
「ありがとうだお。」
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2006/11/15(水) 01:17:02.77 ID:JNA4AI+U0
ブーンが次の言葉を発するまでには少し、間があった。
そして、わずかな間の後、突然、こう切り出した。
「これから死のうと思うんだお。」
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2006/11/15(水) 01:18:01.91 ID:JNA4AI+U0
背筋に悪寒が走る。
こいつ、何を言ってるんだ?
いや、今のは俺の聞き間違いかも知れない。
しかし、そんな哀れな希望的観測はブーンの言葉によって打ち砕かれた。
「懲戒免職を食らった今、ブーンには生きる意味がないお。
だから、死のうと思うんだお。
ドクオ、何か死に方知らないかお?」
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2006/11/15(水) 01:18:47.43 ID:JNA4AI+U0
それから二時間余り。
ブーンの恨みつらみを聞かされた。
会社がどうのと、プロジェクトがどうのと。
分かってるよ。
お前の会社が悪いって事も、そのプロジェクトが最悪だったって事も。
別にその愚痴を聞くくらい全然構わないさ。
むしろ、今まで俺がお前に愚痴聞いてもらってたくらいだもんな。
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2006/11/15(水) 01:22:05.24 ID:JNA4AI+U0
だけど一つ分からない。
どうして、お前が”死ぬ”なんて俺に言い出したのか。
死に方について相談に乗ってくれなんて言ったのか………。
昨日、ツンから話を聞いていた時には心のどこかで
ブーンが自殺未遂をしたという事を信じていなかった。
もしかしたらそんな事もあったかも知れないが、それでも
ブーンはすぐに立ち直って、俺はブーンが死のうとした事なんて
微塵も感じないで済むと思ってた。
だから、信じたくなかった現実を急に突きつけられて
俺はただ、心の中でのた打ち回るしかなかった。
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2006/11/15(水) 01:24:29.43 ID:JNA4AI+U0
どうにかブーンをなだめて、死ぬな、死ぬなと繰り返す。
壊れたテープレコーダーのように、俺はただその言葉を
繰り返すしかなかった。
「まだ今は死なないお」
曖昧な約束一つを取り付けて二時間に及んだ”相談”は終わりを迎えた。
新聞配達のバイクの音が耳に入り、時計を見る。
時刻は午前4時。
窓の外から見えた空が白みがかっていた。
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2006/11/15(水) 01:27:04.04 ID:JNA4AI+U0
ここで一旦投下終了します。
一時間ちょっとで続きの文の修正が終わりそうなので
終わり次第、続き投下します。
ブツ切り失礼。
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2006/11/15(水) 02:38:44.47 ID:JNA4AI+U0
ある程度、覚悟はしていたが仕事は驚くほど進まなかった。
心にダメージがあるとこれほどに作業効率が落ちるものなんだと
思い知らされた。
「おいおい、ドクオ。
マジで顔悪いぜ。大丈夫か?
エロゲやったか?」
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2006/11/15(水) 02:39:33.86 ID:JNA4AI+U0
昨日よりいくらか心配そうな表情でジョルジュが俺の身を気遣ってくれた。
一言、大丈夫と返事をする。
ジョルジュは納得した様子ではなかったが、これ以上追及する事もしなかった。
お互いの深いところに踏み込まないのが俺たちの暗黙のルールだった。
だからこそ、俺とジョルジュはそれなりにうまくやっていけてると思うし
俺もジョルジュのそういう所を好ましく思っている。
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2006/11/15(水) 02:40:18.37 ID:JNA4AI+U0
その日一日の仕事の進みはとにかく最悪の一言だった。
上司には疲れが溜まってるなら早く帰りなさい、と言われる始末で
俺はお言葉に甘えていつもより早めに帰宅する事にした。
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2006/11/15(水) 02:40:52.61 ID:JNA4AI+U0
帰宅後、暇をもてあまし洗濯を始めたり風呂の掃除をして
気を紛らわせようとしたが、何故か落ち着かない。
散々迷って躊躇したが、俺はクーに電話をかける事にした。
昨日のブーンの事について、少し話を聞いて欲しかった。
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2006/11/15(水) 02:41:41.29 ID:JNA4AI+U0
「クー?今、電話大丈夫か?」
「何かあったのか?」
「あぁ、昨日な…ブーンから電話があったんだ。」
どこからどこまで話すべきか悩んだ。
だが………包み隠さず、全部を話すことにした。
ブーンが悩み、死にたいと言い出したこと、
自殺方法について相談を持ち掛けてきたことを全て。
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2006/11/15(水) 02:42:26.73 ID:JNA4AI+U0
俺が話し終えると小さなうめき声が聞こえてきた。
困ったときにクーがよく発する声だ。
きっとクーは電話の向こうで神妙そうな顔をして
この小さなうめき声を出しているのだろう。
クーに申し訳ないと思う気持ちを感じた。
「話は、分かったよ。
大変だったな。」
僅かな沈黙の後、明らかに狼狽した口調でクーは慰めの言葉をくれた。
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2006/11/15(水) 02:43:00.56 ID:JNA4AI+U0
「こっちこそ、悪かったな。
身内の事で話せる相手が他に居なくてさ。」
「別に構わないよ。」
そしてまた僅かな沈黙。
ここまでクーと会話が続かないのも珍しかった。
それもそうだ。
話題があまりにも重過ぎる。
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2006/11/15(水) 02:43:52.28 ID:JNA4AI+U0
「ツンには連絡したか?」
沈黙を破ってくれたのはさっきと同じくクーだった。
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2006/11/15(水) 02:44:42.11 ID:JNA4AI+U0
「ツンに?
いや、連絡してないけど。」
「そうか………。
ドクオ君。
ツンに、電話してやってくれないか?」
「なんだよ、いきなり?」
「実を言うとな。
昨日ツンから電話があったんだ。」
「ツンから?
どんな話だったんだ?」
「…いや、話を聞く前に”やっぱりいい”と言ってな。
そのまま電話を切られた。」
多分、と言いながらクーが言葉をつなげる。
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2006/11/15(水) 02:45:13.11 ID:JNA4AI+U0
「ツンにもツンで、私には言いたくない事があるんじゃないかと思うんだ。」
「そういうもんなのか?」
「女には女で色々とあるんだ。」
知らなかった。
…というより信じられなかった。
傍から見てこの上なく仲良く見える二人にも、壁があったという事に。
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2006/11/15(水) 03:03:47.85 ID:JNA4AI+U0
だが、考えてみれば確かにそういうものかもしれない。
ジョルジュと俺との関係だってそうだ。
普段から行動を共にしていて、少なくとも上司達から見て
いい仕事仲間に見える俺達の間にだって、話すことの出来ない悩み事があるように………
仲がいいからこそ、話せない事があったってそれは何もおかしいことじゃない。
だけど……
「お前に話せないような事を、ツンが俺に話してくれるのか?」
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2006/11/15(水) 03:04:22.98 ID:JNA4AI+U0
「………何度も言わせないでくれ。
女には女で色々とあるんだ。
私より、君の方が適任だよ。」
真意を濁した言い方だったが、確かにそこまで言われて
思い当たる事もあった。
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2006/11/15(水) 03:05:54.40 ID:JNA4AI+U0
「分かったよ。電話してみる。」
「ありがとう。
よろしく頼む。」
クーとの電話を切り、すぐにツンの携帯に電話をかける。
「もしもし、ツン?」
「あぁ、ドクオ。
………どうかした?」
「今、話しても大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。」
そのとき、電話の向こうでブーンの声が聞こえた。
電話口を押さえているからか断片的にしか聞こえてこなかったが
二人が言い争っているように聞こえた。
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2006/11/15(水) 03:06:52.31 ID:JNA4AI+U0
「ごめん、ちょっと今は手が空いてなくて…。
また後で電話するから。」
俺の返事を待たずにツンは電話を切り、
ツーツーという無機質な音だけが残された。
いつツンから電話があっても大丈夫なように携帯の前から
目を離さないように心がけていたが、一向にツンからの電話は来ない。
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2006/11/15(水) 03:07:20.67 ID:JNA4AI+U0
深夜2時を過ぎ、さすがに今日は連絡はこないかと思い、
布団を敷き始めた時、携帯がけたたましく鳴った。
携帯のディスプレイには公衆電話の表示。
「もしもしドクオ?
夜遅くにごめんね。」
声の主はツンだった。
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2006/11/15(水) 03:07:59.61 ID:JNA4AI+U0
「あ、あぁ。
なんで公衆電話からかけてるんだ?」
「ブーンに聞かれると、また………殴られるから。」
「は?」
わけがわからなかった。
だが、ここ数日、異常な話を聞かされる事については
耐性が出来てきたのか、その言葉の意味は意外にすぐに飲み込めた。
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2006/11/15(水) 03:08:31.04 ID:JNA4AI+U0
DV…家庭内暴力というやつだ。
それでも、事態は飲みこめても、あのブーンがツンに
暴力を振るうというのが信じられなかった。
「ブーンに、暴力振るわれたのか?」
単刀直入にたずねる。
すぐに、うん。と一言返事が返ってくる。
「怪我とかしてないか?」
「大丈夫。」
力なく、囁くように答えるツンは電話口に聞いても
大丈夫そうではなかった。
身体というよりも、心の方が………とても、大丈夫とは思えなかった。
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2006/11/15(水) 03:09:29.81 ID:JNA4AI+U0
「ねぇ、ドクオ………」
「なんだ?」
「今度の土曜日と日曜日、こっちに来られる?」
「何だ?急用か?」
「ブーンがね、土曜日は家に帰ってこないの。
仕事の後片付けと本社にもっていかないと
いけないものがあるらしくて………。」
「俺に何か用でもあるのか?」
仕事が詰まってるんだが、と言いたかったが
それは言わずに喉の奥にしまいこんだ。
「用ってほどの事じゃないんだけどね………」
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2006/11/15(水) 03:10:03.00 ID:JNA4AI+U0
「………ドクオに、会いたい。」
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