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問合せ
ドクオが生きるという事について考えるようです
第3話
201
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2006/11/15(水) 23:11:33.29 ID:JNA4AI+U0
「次の土曜、日曜は休みます。」
朝礼後、上司に土日を休む旨を伝える。
「なんだって!?」
いささか大げさに驚く上司だったが、それも無理はない。
土日をフルに休むなんてこの会社のこの部署では相当な事なのだから。
「お、おい!ドクオ!
マジで何かあったんか!?」
202
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2006/11/15(水) 23:12:03.06 ID:JNA4AI+U0
少し離れた席にいたジョルジュにも聞こえたらしく
ひどく心配そうな顔で俺を気遣ってくれた。
しかし…よくよく考えてみると変な話だ。
土日休むって言っただけでここまで心配されるのも
どうだろうと思う。
204
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2006/11/15(水) 23:13:03.96 ID:JNA4AI+U0
”変わった仕事だから、身体には気を遣わないといけないお。”
いつだったか、ブーンに言われた警告が脳裏を過ぎった。
全くだ。
でも、それを言った本人が俺より先に身体を壊したんじゃ世話ないぜ。
205
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2006/11/15(水) 23:13:38.78 ID:JNA4AI+U0
空回り気味に猛然と平日は仕事に取り組み、瞬く間に休日の朝を迎えた。
いつもなら昼過ぎまで休んでいられる休日にも関わらず
朝5時に起きて身支度を整える。
206
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2006/11/15(水) 23:14:25.59 ID:JNA4AI+U0
ローカル線の始発に乗って、少し発展した街で新幹線に乗り継ぐ。
滑り込むように乗り込んだ新幹線に乗っている客はまばらで
適当に空いている席を見つけて、煙草の匂いが染み付いたシートに身を委ねて
安っぽい駅弁を食べて腹ごしらえする。
”しかし…一週間足らずでこうも頻繁に新幹線に乗る事になるとは思わなかったな。”
目まぐるしく通り過ぎる景色を窓越しに見送りながら、ふと思った。
208
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2006/11/15(水) 23:17:08.18 ID:JNA4AI+U0
予定通り朝の8時過ぎにはツンとブーンの住む都内へ辿りついた。
駅弁の箱をホームのゴミ箱に投げ入れて携帯を開く。
ここからツンからのメールに書かれた待ち合わせ場所へ
向かわなければならない。
携帯ディスプレイに映るメール内容を何度も確認して都内の電車を乗り継ぐ。
209
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2006/11/15(水) 23:20:48.02 ID:JNA4AI+U0
程なくして指定された駅へたどり着く。
休日の朝早くだと言うのに異常に人の多い車内を抜け出して
改札口の機械に切符を入れて駅の外へ出る。
人でごった返す繁華街。
ここがツンが待ち合わせに指定した場所だった。
以前、ブーンの見舞いに来た時も思ったが、今住んでいる場所が
田舎なだけにこれだけの人が目まぐるしく歩いている様を見ると
人の波に酔いそうになる。
210
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2006/11/15(水) 23:24:19.24 ID:JNA4AI+U0
空がやけに狭い都会の街並みを見て思った。
ブーンはこんなにもたくさんの人がいる都市で働いていたんだと。
誰もが誰も、みな距離を取って接しているように見える
無機質な都会で、一人劣悪の仕事を押し付けられて働いていたんだと。
211
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2006/11/15(水) 23:25:57.92 ID:JNA4AI+U0
駅前でアンケートを求める女性がいた。
誰も話を聞こうともしない。
外国人らしい風貌の男がアクセサリーを売りつけようと
通りかかる人に話しかける。
ほとんどの人が相手をしない。
笑顔を顔に貼り付けて話しかける人と話しかけられる人。
そんな彼らの物理的な距離はとても近く見えたけれど
その心は遠く離れている。そんな気がした。
213
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2006/11/15(水) 23:31:00.08 ID:JNA4AI+U0
そんな事を考えている俺の肩に誰かの手が触れた。
振り返ると見慣れた微笑みを湛えた優しい顔があった。
「ツン……。」
「急に呼び出しちゃってごめんね。」
216
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2006/11/16(木) 00:00:15.86 ID:MtY97iY70
一週間ぶりに見たツンは、疲れているように見えた。
表情は至って穏やかだが、その声に疲れを持っているように感じた。
無理もないか………。
「あぁ、別にいいよ。
で、今日はどうするんだ?」
俺は無理に明るく振舞う。
ツンも察してくれたのか、さっきよりも明るい声で答えてくれた。
217
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2006/11/16(木) 00:03:58.72 ID:MtY97iY70
1です。
途中で、さる食らいました。
引き続き投下を続けますが急に音沙汰を絶ったら、
さる食らったんだなと思ってくださいませ。
途中で逃げたりはしませんよ。
218
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2006/11/16(木) 00:05:20.84 ID:MtY97iY70
喫茶店で他愛もない話をして、
繁華街でツンの服選びに付き合わされて
ちょっと洒落たつくりの店で昼食を食べて
また、ツンの買い物に付き合わされて………
嫌なことから逃げ出すように、二人で学生の頃のように楽しく過ごした。
ブーンの事は一切話題に出さずに、ただ今目の前にある二人だけの時間を満喫した。
ツンの屈託のない笑顔を見る度に、嬉しくなったが
それと同時に横たわっている現実問題を放置している事に気付かされて心が濁る。
221
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2006/11/16(木) 00:10:05.19 ID:MtY97iY70
日中を楽しく過ごした後、俺達はツンの家の近くのスーパーで
夕食の材料を買い込んだ。
俺のようなずぼらな人間の一人暮らしではお目にかかれない
ちょっとした凝った食材を袋に入れて店を出る。
店を出て信号待ちをしているとツンが呟いた。
「今日は、久しぶりに楽しかった。」
夕焼け色に染まるツンの横顔はどこか寂しげだった。
―――陽は既に落ちかけていた。
222
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2006/11/16(木) 00:13:05.72 ID:MtY97iY70
案内されるままにツンの家に招かれ、
始めて見る三人で暮らすのにも問題のない手広い部屋に
ツンとブーンの生活の匂いを感じた。
「いい部屋だな。」
正直な意見を述べる。
そこでいくつかおかしな所を見つけた。
所々の壁に何かがぶつかった、あるいは何かをぶつけた跡があった。
これが何かを頭が理解するより先にツンが別の話題を持ち出して遮る。
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2006/11/16(木) 00:13:41.84 ID:MtY97iY70
「ブーンもね、この部屋を見つけた時には褒めてくれたんだ。」
「あぁ、じゃあこの部屋はツンが見つけたんだ?」
「ブーンってさ、生活の事には無頓着じゃない。
だから、家探すのも全部私に任せっきりで困ったわよ。」
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2006/11/16(木) 00:14:16.06 ID:MtY97iY70
生活のことには無頓着…か。
仕事にのみ生きて、技術を高める事に異常なまでの執着心を持つが
そのくせ、食生活を始めとした生活的な事には興味を示さない。
忙しい時期に躊躇なく会社の床で寝るブーンにこれ以上なくしっくりくる言葉だ。
かく言う俺も、ブーンから床で寝るという事とそのコツを伝授されたわけだが…。
「ブーンらしいな。」
「そうでしょ。本当に、困った人なんだから。」
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2006/11/16(木) 00:19:13.55 ID:MtY97iY70
適当に会話を交わした後、俺はツンと一緒に夕食を作り始めた。
といっても、俺は適当に食材を切るとか洗ったりするくらいで
手伝いと呼べるかも怪しいくらいしか活躍できなかったが。
それでも、キッチンに二人並んで曲りなりにも一緒に料理を
作るというのはどこか不思議な感じがした。
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2006/11/16(木) 00:23:01.19 ID:MtY97iY70
が、しかし料理初心者が出来る手伝いなんてあっという間に無くなった。
手伝えることが無くなるとツンに適当に寛いで待つように促され、
仕方なくテーブルの椅子に腰掛けた。
ツンが料理をする音と良い匂いが俺の食欲を刺激し、盛大に腹の虫が鳴る。
その音にツンは笑いながら、もう少しかかるから待っててと返事を返す。
手持ち無沙汰になった俺はブーンの部屋にお邪魔した。
本棚に並べられた技術書に目を通す。
付箋が随所に貼られ、自分なりの解釈をメモにして本の中に惜しげなく
書き記されていた。
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2006/11/16(木) 00:27:29.64 ID:MtY97iY70
ビッシリとメモが記され、付箋まみれになっている技術書と
似たような状態になっている他の本を見て、一種の”職人”として
仕事をしている俺とブーンの差の一片を感じた。
「ドクオ、晩御飯の用意出来たわよ。」
ツンのよく透る声が聞こえて、またしても腹の虫が盛大に鳴き始めた。
技術書を本棚に返して、ツンと料理の待つダイニングへ向かう。
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2006/11/16(木) 01:00:38.01 ID:MtY97iY70
ツンの料理は昔、何度か食わせてもらった事があったが
あの時よりも遥かに美味いと思った。
昔食べた食べ物には思い出補正がかかるものだが、
それを超えるほどに美味い料理だった。
「美味いな。」
「褒めても何もでないわよ。」
ツンは悪戯っぽく微笑む。
俺もつられて笑った。
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2006/11/16(木) 01:03:01.68 ID:MtY97iY70
食事を終えて後片付けも一段落ついてツンが淹れてくれたコーヒーを飲む。
未だ、ツンの両親に預けられているブーンとツンの娘の事や
ほんの少し込み入ったブーンとツンのこれからの事について話し合った。
と言っても、そこになんら具体性はなくこれからどのようにしていくのが
ベストか、という曖昧な事を決める程度の話し合いに過ぎなかったが
それでも俺は脳をフル活動させて考え得る提案を搾り出すようにツンに伝えた。
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2006/11/16(木) 01:03:36.70 ID:MtY97iY70
話が途切れた所で、壁にかけられた時計がふと視界に入った。
ツンも俺のその視線の先に気付いたのか時計の方に振り返る。
時刻は夜の八時を示していた。
「今日は泊まっていく?」
唐突にツンが切り出した。
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2006/11/16(木) 01:04:47.68 ID:MtY97iY70
「いや、まだ今なら電車、間に合うけど…。」
そう返事をした途端、ツンの表情が暗くなったような気がした。
「ツン?」
ツンは何も言わずに席を立ち、静かに俺に歩み寄ってくる。
表情の読めないツンに少し困惑しながら、俺は何故か身構えた。
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2006/11/16(木) 01:06:18.14 ID:MtY97iY70
「ツン、何を…?」
ツンが俺の両肩にそれぞれ手を置いて、そして唇が重なった。
一瞬の出来事だった。
一度唇が離れて、また触れ合う。
それはとても、濃厚で激しかった。
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2006/11/16(木) 01:07:37.08 ID:MtY97iY70
唇が離れて、お互いに距離が生まれた。
困惑しながら見つめたツンの顔は今にも壊れそうな悲しげな表情をしながら……笑っていた。
どこか自虐的で、湿っぽい見るに耐えない笑顔………
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2006/11/16(木) 01:09:58.76 ID:MtY97iY70
その表情を宿したままにツンは俺の手を静かに取る。
ツンの手に導かれるままに這わせた手がツンの胸の感触を脳に伝えて
俺の中の理性を次々と破壊していく。
その感触に高揚感を感じた。
その表情に恐怖心が芽生えた。
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2006/11/16(木) 01:10:58.97 ID:MtY97iY70
自ら服を脱ぎ始めるツンを止める事も出来ずに、ただ受動的に
事の成り行きを見つめながら待ち続ける。
ふさり、と柔らかい音がしてツンの肌が次々と露になっていく。
初めて見たツンの身体は傷だらけだった。
自傷によるものなのか、ブーンにやられたものなのか。
判断に困るような、それほどに深い傷跡。
241
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2006/11/16(木) 01:11:44.50 ID:MtY97iY70
「嫌な跡がいっぱい残っちゃった。
嫁入り後で、本当に良かったなぁって思ってる。」
22年間の人生の中で、それは見た事のない表情だった。
ケラケラと笑いながら涙を流しがら諦めたような
たくさんの感情がない交ぜになったとても歪で痛ましい顔。
壊れた人が見せる表情、とそれを見て思った。
242
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2006/11/16(木) 01:12:09.62 ID:MtY97iY70
”………それでも……”
一つの言葉が喉に出掛かる。
瞬間、理性が次々と警鐘を鳴らす。
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2006/11/16(木) 02:00:20.24 ID:MtY97iY70
―――それを声にするな。
―――口にするな。
―――言葉にするな。
「………それでも……」
―――戻れなくなるぞ。
「それでも、綺麗だ。」
理性の声は届かなかった。
理性は失われて、代わりに欲望が湧き上がる。
249
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2006/11/16(木) 02:01:28.55 ID:MtY97iY70
ツンは両手を俺に差し向けてこれから来る”何か”を優しく
抱きしめるように微笑んでいた。
若しくは、泣いていたか。
よく覚えていない。
ツンの両手に俺の両手を重ねた時点で、俺の記憶は
飛んだ。全ては本能の任せるままになった。
俺は ただ ツンを 貪った。
250
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2006/11/16(木) 02:02:05.75 ID:MtY97iY70
―
―――
―――――
―――――――
身体と心が急速に冷えていく。
「初めてだった?」
俺の腕を枕にしてツンが囁く。
「あぁ……。」
尊敬していた親友の妻で筆卸し………笑えない話だ。
欲望を一しきり吐き出してから、俺はどうしようもない
罪悪感と虚無感に襲われた。
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2006/11/16(木) 02:03:42.59 ID:MtY97iY70
ツンは本当に巧かった。
初めてでも分かる。
それだけの経験を積んできたのだろう。
そう。ブーンと一緒に………。
253
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2006/11/16(木) 02:04:31.64 ID:MtY97iY70
「そこのライター、取ってくれる?」
ツンの片手には小さな紙の箱があった。
それが煙草の箱だと理解するのには僅かな時間がかかった。
「煙草、吸うようになったんだ?」
ライターを手渡す。
煙草に火をつけてツンはまた自虐的な笑みを見せて言った。
「煙草吸う女は嫌いだったっけ?」
255
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2006/11/16(木) 02:06:39.06 ID:MtY97iY70
さっきよりはいくらか感情の整った様子で悪戯っぽく微笑みながら
ツンは煙草を咥える。
ただ、煙草を吸っているだけなのに、どこかツンが違う人のように見えた。
ツンの吐き出す煙草の煙は昇天するように天井へ吸い込まれるように
昇り消えていく。その独特な匂いを部屋に残しながら………。
「…ドクオも吸う?」
「あぁ、貰うよ。」
ツンは箱から一本煙草を取り出して俺の口に入れてくれた。
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2006/11/16(木) 02:07:20.42 ID:MtY97iY70
何かの映画か何かで見たように、ツンが咥えている煙草の先に
顔を動かして煙草を運ぶ。
「ねぇ、ドクオ。」
煙草越しにキスするように。
「聞いてくれる?」
そして火を点す。
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2006/11/16(木) 02:08:10.93 ID:MtY97iY70
「一緒に死なない?」
口の中に広がる煙。
その銘柄はピース。
この煙の匂いに、俺はツンの感触と匂いを刻み込んだ。
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