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( ^ω^)ブーンは駆逐するようです


最終話

403 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:04:26.85 ID:Q20amxjg0
第十六話「得し夢」


彼の者は最も人に近く、それ故、最も人から遠かった。

彼の者は哀しみにくれている。
彼の者は知ってしまった。
知るべき真実と知らずにありたかった事実を。

笑ってしまう。誰にでもなく。
それは自分のためですらなく。
彼の者は未だに知らない。

絶望を前にどんな表情をすればよいのかを。

与えられた物は望んだ真実と浮き上がる事実。

人はカの者を賞賛する。

彼の者は「与えられし」者だと。



405 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:05:23.58 ID:Q20amxjg0


司令室にかけられた4枚の絵画の3番目。

絵画の男は卑屈そうに笑う。
されど、その者は何故笑うのか。

彼は真実を知ったから笑うのだ。
彼は天賦の才与えられたから笑うのだ。
彼はその表情を知らないから笑ってしまったのだ。
彼は自身の無力さを打開する術を与えられないから笑ってしまったのだ。


その絵画は「Gifted(天才)」と銘打たれた。

今はなきその絵画の裏には手で歪に刻まれた一綴りの英文があった。

God gifts the ability.
Demon gifts the ark.



406 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:06:10.24 ID:Q20amxjg0


チッチッチッと確かに一秒ごとを刻む時計の針は私を眠らせてくれない。
私一人しかいない小さな部屋に微かに、響く秒針の音が神経を逆なでする。
逃げ込んだショボン司令が管理する宿舎、その一室で私はまだ見慣れぬ天井とにらめっこしていた。

もう世界に蟲はいない。数日前に全て死に絶えてしまった。
いや、まだ正確なところはわからないが、いずれにせよ人間を駆逐する力は最早残っていない。

生き残ったのだ。あの地獄のような場所から。

ショボン司令領では、蟲の壊滅によって活気づいて、多くの人が日に日に笑顔を取り戻している。

私だってうれしい――はずなのに。
気分は依然として晴れはしない。
知ってしまった真実があり、知らなくても良かった事実が、ある。

ブーンさんとは此方に来て以来、部屋が別になったこともあって事務的な会話以外はしていない。

もし、このまま私が何も知らないフリしたままでいたら?
それは、それで一つの方法だ。
でも、同時に私の中から内藤ホライズンは消えてなくなる。
彼自身も、彼が犯した罪も、ある意味では私の両親を殺したって事実も。

407 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:07:45.00 ID:Q20amxjg0
だけど、もし私が真実を打ち明けてしまったら?
当然彼は非難され、そしておそらくは殺されるだろう。
それが本来の正しい道かもしれない。
罪を犯した人間は裁かれるべきだ。

だけど――それは本当に罪?

そもそも彼の、この『方舟』の目的はなんだったのか。
人間に侵食された世界を元に戻すこと?

それは違う。だったら人間を滅ぼす寿命を蟲に与えれば良かった。

では、アメリカの独裁を許すため?
今国家としてまともに機能しているのはアメリカだけ。
そして、このアークと言う計画はアメリカで発案されたものだ。

けど、何故内藤ホライズンがそんなことをする必要がある?
それに何故わざわざ日本に戻ってきた?

答えが出ない。

彼に直接聞いてみようか?
しかし、もしそれで彼がその何らかの理由はあれどその大罪を認めてしまったら。

やっぱり私の記憶の中の優しかった内藤ホライズンは消えてしまう。
どうなっても、私の中から内藤ホライズンは消えてしまうのだ。

408 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:10:11.84 ID:Q20amxjg0
私はおそらく内藤ホライズンに、そして多分彼すらも無意識のうちに、親愛のような感情を刷り込まされている。
同じような家柄と言う拘束に縛られながらそれを振りほどいてしまう彼に、私は無意識に憧れていた。

理屈では私はずっと七瀬の女であることを受け入れながら、しかしやはりどこかでそれに反抗していた。
教養などと適当な理由付けをして、その反抗が形となったものが海外留学だ。
絶対に会えないことを分かっていても、私が進む道の延長線上に彼がいることが
私の運命を決め付けた七瀬へのささやかな反抗になっている。

両親を失い、家を失い、そしてある意味で敵役として私を支えていた七瀬を失って、私は虚ろだった。
でもまだあの記憶の中の優しかった内藤ホライズンに会えるかもしれないという希望が、
かりそめの柱として私を支えている。

絶対に会えるはずなんてないということが、逆に私には好都合だった。
その希望に私は絶対に裏切られることはないのだから。



409 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:10:51.80 ID:Q20amxjg0
まだ、私はブーンさんに会っていても、内藤ホライズンには会っていない。

選択権は私の手の中にある。

何も知らないふりをして、内藤ホライズンを消してしまうこと。
おそらく誰も傷つかず、一番安全で簡単な道。

全てを全ての人に知らしめて、内藤ホライズンも、ブーンさんも、社会的に、あるいは物理的に殺してしまうこと。
これが、多分きっと一番多くの人が納得する。

内藤ホライズンに会い、そして私の中からブーンさんを消してしまうこと。
結果、記憶の中の優しかったはずの内藤ホライズンも消えてしまうかもしれない。


南中していた満月はいつの間にか傾き、窓から月光が私の瞳に入り込んだ。
眩しくて翳した手に落ちる青みがかった光は澄んでいる。

眺めた夜空には蒼月と満天の星。
蟲が再生した、青き本来の地球の夜空。

彼の望んだ世界。美しい――

――けれど、その下には、信じられないほどの人間の犠牲が。

410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:11:57.44 ID:Q20amxjg0
でも人間だってそうかもしれない。
かつて栄華を極めた人間という種族はその下に信じられないほどの犠牲を積み上げてその地位を獲得した。

それもわかっている。でも、だからって彼の方法は正しくなんかっ……!
……正しくなんかないはず、なのに。


ξ ー )ξ「だめだ……考えても全然分からない」

どうせ、私の中のブーンさんか内藤ホライズンは死んでしまう。
ならば覚悟を決めよう。


ポーカーと同じだ。
カード切る者だけが、次のカードを得ることが出来る。



411 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:13:59.23 ID:Q20amxjg0
ちょうど今なら人もいないだろう。
ベッド抜け出した私は、なるべく音を立てないように扉を開けて忍び足で彼が寝る部屋に向かった。
心臓の鼓動が少しだけ早くなる。夏の夜、少しだけ肌寒い空気が心地いい。

彼の扉の前にたって躊躇なくノックしてから、私はようやく彼が寝ているかもしれないという可能性を思いついた。
何故か何の疑いもなくそこへ行けばいつでも会えると思い込んでいた。
しまったと思って引き返そうとしたのと部屋から「誰ですかお?」とちょっと驚い声が聞こえるのはほとんど同時だった。

ξ゚听)ξ「あ、えと……」

( ^ω^)「ツンかお? こんな時間にどうしたんだお?」

がちゃりと開いたドアからブーンさんが声をひそめて問いかける。

ξ゚听)ξ「あの、話があるんですけどいいですか?」

( ^ω^)「構わないおw じゃあ中に――」

ξ゚ー゚)ξ「いえ。外へ行きませんか? 夏の夜はなかなか素敵ですし、少し長くなるかもしれませんから」

( ^ω^)「わかったお」

二人で宿舎を出て、北の方角へ進んでいく。
私達が脱出した海底トンネルの方角だ。

413 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:14:49.87 ID:Q20amxjg0
ξ ー )ξ「月、綺麗ですね」

( ^ω^)「綺麗だお。昔はこんな綺麗な月は都会だったこの辺りじゃみれなかったお」

歩きながら、二人は上を見上げて進んでいく。
ビルもこの辺りはほとんどなくて視界は開けていて、
窓からみるのとは比べ物にならないくらい大きな夜空が広がっている。

ξ − )ξ「これって蟲が生まれたから、こんなに綺麗なんですよね?」

( ^ω^)「そうだお。フライが空気中の化学物質を分解して、自分の酸に変えているんだお。
      他にも全部の蟲が様々な形でこの星の緑化を急進しているらしいお」

ξ゚听)ξ「そうですね、私も研究していましたから多少は知識はありますよ。蟲の生態について」

( ^ω^)「知ってるお。ツンは生命工学科って言ってたお」

ξ ー )ξ「ブーンさんも生命工学科ですよね。蟲専門の」

( ^ω^)「僕の頃は蟲がまだいなかったから蟲を専門的に研究してはいなかったおw
      なんで蟲専門って思ったんだお?」

ξ − )ξ「『The Ark』 聞いたことありますよね?」

( ^ω^)「あるお。 Seventh Riffle はもうみたかお?」

415 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:15:28.38 ID:Q20amxjg0
ξ − )ξ「見ましたよ。”内藤ホライズン”さん」

( ^ω^)「黙っていて悪かったお。だけど僕はもう内藤ホライズンを棄てたから」

ξ − )ξ「……そうですか。
      でもじゃあなんで最後まで忘れさせたままでおいてくれなかったんですか? そうすれば……私だって」

( ^ω^)「内藤ホライズンがかつてそう望んだから。それでは満足できませんかお?」

ξ − )ξ「……まるであなたと内藤ホライズンは全くの別人みたいな言い方するんですね」

( ^ω^)「僕はもう既に内藤ホライズンではないのだお」

ξ − )ξ「……そうでしたね」

( ^ω^)「アークの話だったお。それがどうかしたのかお?」

ξ − )ξ「公式発表では蟲の駆逐計画がアークとなっていますが、事実と違いますよね? 」

( ^ω^)「……」

ξ − )ξ「答えてください」

416 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:16:01.60 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「どうしてそう思ったんだお?」

ξ − )ξ「失礼とは思ったんですが、あなたのPCのファイルを見させてもらいました。
      そこで The Ark というファイルを見つけたんです」

( ^ω^)「アークプランに関する資料だおw 僕は一応アメリカ軍の研究所に勤めていたんだお」

ξ − )ξ「ええ、知っています。でも、おかしくないですか? あなたが日本に来たのは6年前。
      蟲の研究が本格始動したのは4年前。あなたがあの資料を手に入れられるはずがありません」

( ^ω^)「インターネットを経由して手に入れたんだお」

ξ − )ξ「いいえ。あんな資料がまとまる頃にはネット回線は蟲に食い尽くされていました」

( ^ω^)「軍関係の特別なルートで――」

ξ − )ξ「それもないでしょう。もう自衛隊に所属していたあなたに米国がそんな情報も流すとは思えません」

( ^ω^)「……」

ξ − )ξ「それに、他にもあの資料には不審な点が多すぎます。蟲の第二の寿命の取得率が100.0%になってからの
      不必要に長い一年間。過去のものにしては詳しすぎる資料。
      そして決定的なのが『方舟』ファイル、あるべきないはずのエレに関する研究資料」

( ^ω^)「『方舟』ファイル……中を見れたのかお?」

ξ − )ξ「ええ」

417 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:16:52.12 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「The Ark から疑問点の炙り出し、考察、情報収集……君は随分勘が鋭いお」

ξ − )ξ「……絵ですよ」

( ^ω^)「絵?」

ξ − )ξ「私が最初にあの資料を疑いの目で見るようになった要因です」

( ^ω^)「……どういうことだお?」

ξ − )ξ「ブーンさん、あなたはいつでも常に微笑んでいること、自覚していますか?」

( ^ω^)「していますおw 笑う角には福来るって昔から言うお」

ξ − )ξ「命が危ない時、仲間が無蟲に喰われていくのを眼前で見るとき、 
      戦場で号令をかける時、いつもですよ? それって異常じゃないですか?」

( ^ω^)「……」

ξ − )ξ「今、私と話している時もです。人って悲しいときは悲しい顔をするものじゃないですか?
      辛い時には辛い顔に、うれしい時には笑顔になるものでしょう?
      ……でもあなたには一切それがない。いつでもあなたは今みたいに微笑んだまま。
      だから、あの司令室に絵画の一枚があなたに重なるんです」

( ^ω^)「『Demon』、かお?」

ξ − )ξ「ええ。それで私は無意識にあなたのことを悪魔かもしれないと刷り込ませれていたのかもしれません。
      だから、あの資料から漂う悪意に敏感になっていたんだと思います」

419 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:17:28.63 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「悪意?w」

ξ − )ξ「ええ。そうでしょう? アークは蟲を駆逐する計画なんかじゃない……『人間を駆逐する計画』
      そう考えれば、エレの存在意義も、あの一年の余分な期間も、6年前に蟲に関する資料が存在することも
      全て納得出来ます」

パチパチパチ、と。唐突に冷ややかな夏の夜の空気に無感動な拍手の音が響いた。

( ^ω^)「ツン、君は素晴らしいお。ほとんど正解だお」

ξ − )ξ「……うれしそうですね」

( ^ω^)「うれしいに決まってるお! 君はアークをほとんど僕のヒントなしに見破った。
      アークが人間駆逐計画であることまでだお!」

ξ − )ξ「なぜ…… 人を駆逐したんですか?」

( ^ω^)「決まってるお。地球に人間が増えすぎていたせいだお。過剰分は削除しなければいけないんだお」

ξ − )ξ「それだけ?」

( ^ω^)「十分過ぎる理由だおw」

ξ − )ξ「私の両親は蟲に殺されました。……あなたに殺されました、そういっても過言ではないですよね?」

( ^ω^)「違うおw 僕は世界を救済したんだお。世界を救うのに犠牲はつきものだお。
      君の両親のことは不運な事故と同じだお」

420 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:18:02.54 ID:Q20amxjg0
ξ − )ξ「……」

( ^ω^)「もし仮にあのまま僕が何もしなかったら、どうせアメリカと中国の核戦争で世界はダメになっていたおw
      だから僕はそれを阻止するために、このアーク計画を実行したんだお」

ξ − )ξ「……そう、ですか……」

( ^ω^)「君はエレの違和感に気がついたかお?」

ξ − )ξ「違和感? エレの構造がぐちゃぐちゃなことですか?」

( ^ω^)「そうだお。だけどそうなのはエレが副産物みたいなもんだからだおw
      君はアレが元は神経系を侵す寄生虫だってこと知ってるはずだお」

ξ − )ξ「それは電磁気を操るために――」

( ^ω^)「違うお、逆だお。神経系を侵すから電磁気系統に干渉できる蟲を開発できたんだお。
      エレはもともと、神経を侵す寄生虫用につくられたんだお」

ξ゚听)ξ「何……ですって?」
      
( ^ω^)「アークはとても国の方針としてまともに受け入れられる計画じゃなかったお。
      だけど、僕が創ったその寄生虫はそれを可能にしたんだお。
      脳の神経を侵すその寄生虫。効果は簡単だお。
      人間を賢くするんだお。みんな、どうすれば一番いいか分かるんだおw
      だからアークが実行できたんだお」

421 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:18:54.53 ID:Q20amxjg0
ξ゚听)ξ「人を賢くする?」

( ^ω^)「そうだお。皆が合理的な判断が出来るようになるんだお。
      迷ったりしないお。これで誰も苦しまないお」

ξ ー )ξ「……そっか。そういうことか」

( ^ω^)「納得してくれたかお? アークは素晴らしい計画だおw」

ξ ー )ξ「ええ。多分そうなんでしょうね」

( ^ω^)「ツン。君はやっぱり見込み通りの娘だお! 
      すんなりこの計画の素晴らしさを寄生虫なしで理解した人間は他にいないお!!」

ξ ー )ξ「そうですか。ところで、私あなたの友人にあなたを殺してくれって頼まれたんです。
      それでそう頼んだのは内藤ホライズンさん、あなた自身らしいんです。記憶にありますか?」

( ^ω^)「そんなこと僕が言うわけないおwww」

ξ ー )ξ「そう聞いて安心しました。これで――」





               「――あなたを殺すことが出来る」





423 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:22:36.12 ID:Q20amxjg0
真っ直ぐにブーンさんに銃口を向ける。
私がブーンさんにあったその日にもらった拳銃だ。

狙いは頭。この距離ならはずさない。はずせない。

( ^ω^)「……何故だお。どうして分かってくれないだお!!
      僕は世界を救ったんだお!! 何で誰もそれをわかってくれないだお!?」 

ξ ー )ξ「いいえ。違います。アークが救ったものなんて関係ないんです。
      あるのは内藤ホライズンの遺志ですよ」

( ^ω^)「何言ってるんだお!? 僕が内藤ホライズンだお!!」

ξ ー )ξ「あなたが自分でもう内藤ホライズンではないと言ったじゃないですか」

( ^ω^)「そんな言葉遊び――」

ξ ー )ξ「言葉遊び? 違いますよ。事実、あなたは内藤ホライズンじゃないんですから。
      私はあなたを生かしたかったんですよ。生きてあなたの為すべきことをさせようと思っていました。
      だから、私はあなたを生かす鍵を探してた。
      でも見つかったのはあなたを殺す鍵。内藤ホライズンがあなたを殺さなければいけない鍵です」


425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:23:40.71 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「何を言っているんだお!? ツンはやっぱり他の人間と同じように屑だったお!
      どうして僕の正しさが分からないんだお!? わざわざ、君が気付くように間接的に教えてやったのにだお!」

ξ ー )ξ「……私があなたを殺す理由、あなたに分かりますか?」

( ^ω^)「分かるわけがないお! 君はただの狂った殺人者だお! 合理性のカケラもないお!!!」

ξ ー )ξ「じゃあなぜ内藤ホライズンは殺してほしいと頼んだか分かりますか?」

( ^ω^)「だから僕はそんなこと言ってないお!」

ξ ー )ξ「あなたではないです。あなただった内藤ホライズンが言ったんです。未来の自分を殺せって」

( ^ω^)「……」

私の言葉に彼は黙って私を見つめた。
その瞳の奥に微かな戦慄。

426 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:24:43.41 ID:Q20amxjg0
ξ ー )ξ「瞳、黒くしちゃったんですね。昔はもっと綺麗な紅だったのに」

( ^ω^)「……ただのカラーコンタクトだお。僕はこの瞳の色は吸血鬼みたいで嫌いだったんだお」

ξ ー )ξ「そっか。今はなんだかあの時の内藤ホライズンと話してるみたい」

( ^ω^)「おかしいお……なんで君を見ても僕は何も感じないんだお……
      確か、そう。たしか君は僕にとって大切な人だったはずなんだお!」

ξ − )ξ「……」
      
( ^ω^)「なんでだお!? 僕は、それで君は確かに、大事だったはず。僕は君のことが好きで……
      でも、そうだ、家柄とかあって、それで……僕は」

ξ − )ξ「アークはただの人間が実行するにはあまりにも残酷な計画だった。
      世界中の人を殺して、それでも飽くまで実行者は冷静でいなければならなかった。
      その罪科の重みに発狂することも、その責任から逃れることも出来ない。
      でも、内藤ホライズンはそれを実行する必要があった。

      だって内藤ホライズンはおそらく誰よりも世界情勢を読んでいた。
      アメリカが21世紀初頭に構想した相互核防衛理論の崩壊も」

427 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:25:23.74 ID:Q20amxjg0
そもそも相互的な核の防衛は所有国が大国であることを前提をしたものだった。
核ミサイルを保有する潜水艦による報復攻撃がある限り、敵国土を一瞬で焼き払うことに意味はない。

しかし、時間の経過による文明発展は本来ならば持つべくなかったアジアを中心とする小国にも核所有を可能にさせた。

結果、世界は何度地表の生物が滅んでもおかしくない量の核を抱えたまま、
いつ核戦争が勃発してもおかしくない状況が構築される。
世界中で起こっている紛争が、いつ核を誘発するか分からないほどにまで。

結果的に、各地でも戦争は自粛された。
一見良い方向に進む様にみえたこのベクトルは、しかし、確実に破滅への道を進んでいた。

アメリカの軍需産業の停滞と、代わって台頭する科学食物産業が大きな問題となった。

2005年時点で非公式ながらも「次の戦争は食料を媒介とする」とアメリカの国防総庁長官が明言しただけあって、
アメリカの動きは早かった。

各食品、作物の品種にDNAの特許制化、及び、品種改良と各貿易国に対する農地の確保。
軍事産業の衰退を補って余りある利益をアメリカは独占しかけていた。

428 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:25:55.92 ID:Q20amxjg0
一方他国は衰退するばかりだった。
アメリカの寡占に加え、産業革命以来増加し続ける人口が悪循環的に食糧不足を深刻にさせていった。

そんな中アメリカに各国を代表して噛み付いたのが中国である。

発展途上国を中心とする世界諸国に反アメリカの号令をかけた中国とアメリカとの緊張はひび高まっていく。

そんな折、アメリカはついに全食物類に応用可能な総合農学工業の技術を開発する。
それを莫大な資本と引き換えに交換すると言うアメリカに、しかし、中国を中心とする反アメリカは一歩も譲らなかった。
実際問題、アメリカの提示額は他国を国として機能させるのにギリギリを下回る水準であったと言われる。

かくして反アメリカの動きは世界中に広まる。
このままではいつ核戦争が起きても不思議ではなかった。
中国は、既に準備段階をほぼ全て終え、交戦まで最早日は遠くないと思われた。

ξ − )ξ「だけど、たった一人の人間が全てをぶち壊した。
      ううん、でも結局彼自身は出来なかった。
      彼が思いついた計画は精巧で美麗でそれでいてどこまでも残酷だった。
      人ではない何かが、悪魔みたいなものが考えた計画だった」

429 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:26:49.88 ID:Q20amxjg0
( ^ω^)「……」

ξ − )ξ「それはとても人間が実行できるものじゃなかった。
      それなのに、やっぱり内藤ホライズンはどこまでも人間だった。
      彼は迷ってしまう。罪悪を感じてしまう。その重みに耐えかねて狂ってしまうかもしれない。
      でもその悪魔の計画は彼にそんなことを許さない。

      どこまでも冷徹に、合理的に、狂いなく進めなければいけない計画。

      だから、内藤ホライズンは人であることをやめた。
      内藤ホライズンではなくなった。彼はいつの時も微笑む悪魔になった。
      そうせざるを得なかった。そこで滅ぶような愚かな人間ならば滅んでしまえと言い切れなかった」

( ^ω^)「悪魔になったのかお。それが僕……なのかお?」

ξ − )ξ「おそらくそうです。だからあなたは迷わない。罪も感じない。
      あなたは自分が正しいと思うように内藤ホライズンに作り出された、あの人自身の悪魔なんです。
      寄生虫の一番最初の被験者はあなただったんです。
      このアークは悪魔の死で完結する。一度産み落とされた悪魔は何を考えるか分からない。
      蟲よりも遥かに危険な因子になるかもしれない自身の悪魔の行動までは、内藤ホライズンも予測できなかった。
      そして、悪魔になる前に彼は自分の友人に最後に自分を殺すように頼んだんです。
      だから、あなたを殺すのにアークが救ったものなんて関係ありません。あるのは彼の遺志だけ」


431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:27:38.90 ID:Q20amxjg0

( ^ω^)「いやだお!! なんで僕が死なければ――」


自分でも驚くくらい、冷静に引き金を引いた。

痺れるようなリコイルショックの後に銃声が通り過ぎて、
風船が弾けるような鮮血の光景に、小さく水音が残響した。

青い月が照らす夏草が、彼の血液を弾いて揺れる。

ξ ー )ξ「もう、遅いよ……内藤ホライズンはとっくに死んじゃってるんだから……」

ゆっくり彼に近づいて、ぴくりと痙攣する彼の体のそばにしゃがみこんだ。
吐き気なんかしなかった。私も悪魔なのかもしれない。

あはは。私は無機質に笑った。



432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/01(火) 13:28:29.68 ID:Q20amxjg0
見上げると、遮蔽物の何もない満天の夜空。
辺りは緑で生い茂っている。どこからともなく、美しい旋律を奏でる虫の音。

綺麗で優美な、内藤ホライズンが創った世界。

ξ ー )ξ「綺麗だな……」

きっとこの景色を二人で見れたら、私はそれだけで幸せになれるのに。

ξ ー )ξ「もし次会えるときは、幸せにしてね」

穏やかに笑って、拳銃のトリガーを引く。




満天の星空、そこに流れる箒星一つ。

このお願いをあの星は叶えてくれるだろうか。


                             終わり


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