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問合せ
( ^ω^)ブーンたちが戦場を駆け巡るようです
( ゚∀゚)ジョルジュは祈り続けるようです
16
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 20:58:57.13 ID:q+bxXFBq0
――本土から遠く離れた、国境近くの小島の海岸沿い、その小高い丘に一軒の教会が建っていた。
そこは小さいながらも多くの人が訪れ、平和と恵みに感謝をしていた。
皆が神を信じ、祈りを捧げていた。
だがそれらは全て、数瞬前の事だ。
今、丘の上に教会はなく、祈りを捧げる人々もいない。
あるのはただ、業火を上げ燃え盛る木片と、同じく業火に巻かれ絶命した躯だけだ。
( ∀ )「う……」
そんな中、一人の男が倒れていた。
神父服に身を包んでいる所を見ると、この教会の神父のようだ。
( ゚∀゚)「一体……何が?」
激痛に朦朧とする頭を必死で稼働させ、彼は記憶を探る。
思い出せるのは、本当にいつも通りの教会。
そして――突然の轟音と衝撃。
教会が音を立てて崩れ落ちて、
( ゚∀゚)「そうだ……皆は?」
そこまで思い出すと、彼はハッと気づき辺りを見回す。
目に映るのは、見るも無残な教会の跡と、死屍累々の惨状。
教会を支えていた秀麗な柱は、無力な老婆の頭を粉砕し、
崩れ落ちた天井は無垢な少女を下敷きにして、
陽光を受け、神々しく輝いていたステンドガラスは、恰幅のいい男性の腹部に突き刺さっている。
19
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:00:50.38 ID:q+bxXFBq0
( ∀ )「う……あ……」
彼は惨劇を目の当たりにして――それでも尚希望を探し、ふと心の拠り所、祭壇へと目をやった。
無論、そこにあったのは希望などではない。
皆が祈りを捧げた希望の十字架は、修道女を串刺しにしていた。
絶望のあまり、彼は天を仰ぐ。
そして遥か遠方の空、轟音を上げ飛び去る緑の鳥を見た。
――数日後彼は、教会を襲った事件が、やはりVIPの戦闘機によるものだと知る事になる。
同時に、落とされた爆弾で被害を出したのは、彼の教会が受けたもの1つ、それだけだったと言う事も。
( ∀ )「何故だ……。何故彼女が……、何故俺達なんだ!」
当然、彼は憤る。
あそこにいた者全員が、神を信じていた。
誰よりも、何よりも神を敬愛し、安寧を祈っていた。
あの修道女にしても、とても厚い信仰心を持っていたのだ。
( ∀ )「その代償があれかよ……?」
修道女の顔が、彼の脳裏に浮かび上がる。
彼女の死に様は、まるで悪魔が杭を穿たれたように、凄惨なものだった。
それを思い出し、運び込まれた病院のベッドの上、彼は1つの決心をした。
23
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:02:48.00 ID:q+bxXFBq0
――それから2年後。
件の爆撃以来、VIPとラウンジの国交関係は悪化の一途を辿り、ついに二国は戦争状態へと突入した。
国全体で徴兵が為され、彼はそれに志願した。
神父とは言え、ラウンジ北端近く、ドが付くような田舎育ちだったジョルジュは、何の問題も無く入軍を果たす事が出来た。
( ゚д゚) 「……新兵か。俺はミルナだ。よろしく頼むぞ。……ジョルジュと言うのか」
今、彼の前には、名簿を手にした一人の兵士がいた。
ミルナと名乗るその男は、ジョルジュが配属された部隊の隊長らしい。
軍務に長く就いてきたせいなのか、顔には凶相が宿っている。
( ゚д゚) 「……ん?」
ふとミルナの目が、ジョルジュの胸元、首から吊るされた十字架に向けられる。
それを見ると、彼は少しだけその表情を顰めた。
( ゚д゚ )「名前と言い十字架と言い……、もしかして、聖職者か?」
( ゚∀゚)「……その通りですが?」
( ゚д゚) 「人……殺せるんだろうな?」
訝しんだ表情で、ミルナが問う。
ジョルジュはそれを一笑に付すと、
( ゚∀゚)「俺が聖職者だからって、機関銃を乱射しないと思ったら大間違いだ」
そう言い捨てた。
25
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:04:35.05 ID:q+bxXFBq0
ミルナが、呆れと感心の入り混じった笑いを浮かべる。
船内を歩いていると、ふとジョルジュの視界に、彼自身の頭髪が映り込んだ。
心労のせいか、白く染まってしまったそれに、ジョルジュは顔を顰める。
自分の弱さの象徴でもある、その白髪に。
不意に、汽笛が鳴り響いた。
出向の合図、もう後戻りは出来ない。
国家の為、家族や友人の為、名誉の為。
様々な感情が渦巻く部屋で、ジョルジュは呟く。
( ゚∀゚)「俺は、皆を傷付ける奴は、何だって殺してやる。
……たとえ神の教えに背こうと、祈る者がいなければ、教えもクソもねぇんだ。
俺は……間違っちゃいないよな?」
最後の問いに、答える者は誰もいない。
ガクンと足元が揺れ、何人かの兵士がふらついた。
船が動き出す。
向かう先は、決戦の地、鮫島。
( ゚∀゚)ジョルジュは祈り続けるようです
27
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:06:18.09 ID:q+bxXFBq0
―― 一体何時間、船に揺られていただろうか。
一際大きな揺れを最後に、船は動く事をやめた。
それは、彼らが戦場へと辿りついた事を示している。
上陸用のボートに乗り移り、次々に兵達が上陸する。
そして上官からの命令を受けて、戦場へと駆けていく。
その背中には、微塵の迷いも無い。
( ゚д゚) 「ダイオード、オサム。それにジョルジュ。俺達は森のルートを進む。行くぞ」
ミルナの言葉に応じて、4人は森の中へと消えていった。
進む家庭で、幾度かVIP兵との戦闘にもなった。
それでもジョルジュが、直前になって恐怖や躊躇を感じる事は無かった。
信心のベクトルが、そのまま戦闘に向けられたのだろう。
密林ゆえの暑さだけが不快だったが、彼はこのまま滞りなく、戦場を進み続ける筈だった。
死に掛けたVIP兵から偶然、とある話を聞かなければ。
――ある日の深夜、ジョルジュとダイオードは、隊の見張りをしていた。
だがジョルジュの脳裏では、昼に聞いたVIP兵の言葉が、ひたすら繰り返されていた。
「『この島で作られている』新型戦闘機。それさえ完成すれば、てめぇらラウンジなんざ……」
29
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:08:16.23 ID:q+bxXFBq0
自分の教会を襲った爆撃機。
その新型が、この島で製作されている。
もし、それが本当ならば、こんな所で見張りをしている場合ではない。
すぐにでもそこを探り当て、叩き潰す必要があると、ジョルジュは考えていた。
しかし、そのような不確かな情報では、ミルナが動きを見せる事はないだろうとも、また考えていた。
だがジョルジュにとって、「不確かだからやめる」などという選択肢が存在しない事は、言うまでも無いだろう。
彼は、自分のような存在がこれ以上増えないようにと入軍し、戦場に降り立った。
そして今、自分の時と全く同じ、いや、それ以上の惨劇が繰り返されようとしている。
ジョルジュの考えは既に、隊を抜け出す事に至っていた。
だが、そこで問題となるのが、
/ ゚、。 /「……」
ジョルジュと一緒に見張りに立っている、ダイオードだった。
どうした事か、ダイオードは先程から、やけにジョルジュを意識していた。
まるで、彼を見る事もまた、見張りの一環であるかのように。
大方、ミルナに何か言われているのだろうが、厄介な事には違いなかった。
ジョルジュは今間違いなく、見張られている。
ならば、どうするのか。
――簡単な事だ。
31
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:10:00.83 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「ちょっと……、用を足してきます」
/ ゚、。 /「あぁ……」
( ゚∀゚)「すぐ、戻ります」
/ ゚、。 /「交代までの時間も無いから、さっさと済ませろよ」
その言葉を聞くと、ジョルジュは隊に背を向け、木々の茂みへと姿を消した。
数秒後、小さな水音が聞こえ始める。
そして十数秒が経過して、
/ ゚、。;/「……妙だな」
音は、まだ途絶える事無く続いていた。
/ ゚、。;/「いつまで出してんだ……?」
業を煮やしたように、ダイオードが呟く。
慌しく木々を掻き分け、茂みを覗き見て――そこには、小さな穴を空けられた水筒が1つ。
枝や蔓に括り付けられ、水を垂れ流していた。
見張られているのならば、それを出し抜けばいい。
今のジョルジュにとって見張りなど、ただそれだけの事でしか無かった。
/ ゚、。;/「これは……!? あの野郎……」
ダイオードが焦りながら、ミルナとオサムを起こしていた。
34
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:11:41.15 ID:q+bxXFBq0
――ミルナの隊から遠く離れた、密林の中の開けた土地。
そこには、走り続けた為に息を絶え絶えにしたジョルジュが、近くの木にもたれ掛かっていた。
とは言え、
(;゚∀゚)「……よし……行くか」
いつまでも休んでいる訳にはいかない。
ミルナ達が彼を追って来るような事は、おそらく無いだろう。
たった1人の為に全体の進行を崩すなど、ありえない事だからだ。
だが、こうしている間にもあの鉄の鳥が、祖国を、そこに住む罪無き者達を屠り去るかもしれない。
それを思うと、いつまでも休んでいるような事は出来ない。
ジョルジュだけなのだ。
ミルナ達は、あれが何かを理解していなかった。
2年前、爆撃をその身に受けたジョルジュだけが、あれの脅威を直感的に悟られたのだ。
( ゚∀゚)「俺が、ぶっ壊してやる。もう二度と、あんな事は起こさせねぇ」
VIP領のどこかにある研究所。
たったそれだけしか分かっていない物を探すべく、彼は走りだした。
木々の隙間を掻い潜り、最低限の警戒をしながら、自分の定めた道を突き進む。
だが不意に、ジョルジュが足を止めた。
素早く身を翻すと、一番近くにあった木の影に飛び込む。
二三回の呼吸を置いてから、慎重に木から顔を覗かせた。
36
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:13:39.82 ID:q+bxXFBq0
( ´∀`)「……気のせいだったモナね」
リーダーらしき人間が彼の方を見ていたが、やがて勘違いと割り切ったのか、視線を元に戻した。
そう割り切ってしまう辺り、大して能の無い人間なのだろう。
ジョルジュが小さく息を吐いた。
改め、て彼が敵の方を見やると、そこには短機関銃を携えたVIP軍の兵士がいた。
それも、3人や4人ではない。
ジョルジュが視認出来る者だけでも、10人近くはいる。
(;゚∀゚)「チクショウ……、ベースキャンプか」
戦線の確保や休息の為、あちこちに設けられたベースキャンプ。
その1つが、ジョルジュの進む道を塞いでいた。
(;゚∀゚)「どうする……? 回り道するか?」
ジョルジュが自問し――数瞬もしない内にかぶりを振った。
研究所はおそらく、VIP領の奥深くに存在する。
それはほぼ間違いないだろうと、ジョルジュは踏んでいた。
ならば、回り道をしている時間など、ある筈が無い。
己の命など、とうに神に捧げ、今は護るために燃やすと決めていた。
故に、突っ切る。
それが、ジョルジュの出した結論だった。
38
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:15:18.05 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
叫びながら、ジョルジュがベースキャンプ目掛け、突撃する。
それは、あまりにも愚かな選択。
普通ならば、銃弾を受け、無様な小踊りと共に死に逝く運命だろう。
案の定、見張りに当たっていた兵士達は銃を構え、ジョルジュに向けて発砲する。
だが、
(;´∀`)「ア、アイツ馬鹿かモナ!? 1人で突っ込んでくるって……! さ、さっさと撃ち殺すモナ!」
明らかに異質な単騎突撃は、動揺を呼び、
本来あるまじき叫び声は、彼らに怯みを植え付け、発砲のタイミングを狂わせ、
結果、VIPの銃弾は、ジョルジュを避け地面や木を穿つに終わる。
ジョルジュが構えた短機関銃の引き金を引き、弾丸が解き放たれた。
それはVIPの物とは違い、着実に、彼の行く手を阻む者を地に沈めていく。
(;´∀`)「た、弾切れモナ! 早くリロードを……」
唯一弾丸が外れた兵士が、急いでマガジンを取り出した。
ジョルジュもまた、弾切れを起こしていたが、彼は今、全力で走っている。
そのためマガジンを取り出すにしても、時間を要し、また体勢を崩しかねない。
まだ、ジョルジュと兵士の間には、結構な距離がある。
リロードをして、構えなおし、ジョルジュに全弾を叩き込むには十分すぎる距離が。
41
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:17:10.83 ID:q+bxXFBq0
しかし、
(;´∀`)「は、填まんないモナ! いそ、急ぐモナ!」
たった一人に大勢の仲間を殺された恐怖心が、
迫り来る敵に対する焦りが、
兵士のリロードを極端に遅らせた。
そして、
( ゚∀゚)「俺は決めた……! 俺は、ここを突っ切って、あのクソったれな兵器をぶち壊す。ここだ……、ここが俺の進むべき道なんだ!」
ジョルジュが叫び、彼は敵兵の眼前へと辿り着いた。
その手には、水筒に穴を開ける際に使った、アーミーナイフが。
敵兵の手には、弾倉の抜け落ちた短機関銃と、それに差し込まれる筈だった、新品のマガジンが。
(;´∀`)「う、嘘モナ……ありえないモナ……」
そう敵兵が零すのも無理はない。
単騎突撃、そして成功――ありえない事だ。
だがそれは、幾多もの偶然が重なり、実現された。
動揺、怯み、恐怖、そして焦り。
あまりにも不確定な要素によって織り成されたそれは、しかし、必然とも言えるものだった。
43
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:18:57.62 ID:q+bxXFBq0
本来、VIPの銃は精巧で、高い命中精度を誇る。
だが、材料の輸出が止められた事で、その品質は劣悪なものへと落ちていた。
( ゚∀゚)「嘘じゃねぇし、ありえなくもねぇ」
偶然と必然が織り成すそれを、人々は、
( ゚∀゚)「全て神の思召しだ」
神の奇跡と呼ぶ。
ジョルジュは口早に言うと、敵兵の喉に、白刃を突き立てた。
( ゚∀゚)「……ハハ、どうやら神様がツンデレってのは、どうやらマジみたいだな。護ってくれないから俺が護る。そう決めた矢先にこれだ」
嘲笑気味にジョルジュが呟き、それから空を見上げた。
木々の隙間から漏れ降り注ぐ陽光が、彼の進むべき道を示している。
彼は大きく息を吸い込み、それからまた走り出した。
人を殺し、教えに背き、尚も神の奇跡を得た。
彼は最早、疑う事はないだろう。
神の存在も、自分の行為も。
44
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:20:38.25 ID:q+bxXFBq0
――自信を持つ事、それは何事においても重要な事だ。
しかしながら過剰な自信は、時に判断力を鈍らせる一因にもなり得る。
高揚した彼の心は、確実に蓄積されていく疲労を、覆い隠してしまっていた。
それでも、ジョルジュの足は止まらない。
ただでさえ慣れない、それこそ茹だるような湿気と暑さの中、連日連夜、ろくに睡眠も取らず走り続け、
彼の体が限界を迎えるのは、あまりに必然的だった。
(;゚∀゚)「……あれ?」
それは丁度、ジョルジュが廃墟となった村落に足を踏み入れた直後の事だった。
視界が歪み、強烈な眩暈が彼を襲う。
足が意思とは裏腹に崩れ落ち、全身の細胞が警鐘を鳴らしていた。
(;-∀-)「俺には……まだ……」
ジョルジュが必死で抗うも、それは叶わない。
身体が抱いた叛意に、彼の意識は刈り取られた。
視界が、暗転する。
そしてその様子を、
「……」
幾つかの影が、ボロボロに家屋の窓から覗いていた。
彼らはしばらくの間沈黙して、しかし、やがて一斉にジョルジュに群がりだした。
48
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:22:23.25 ID:q+bxXFBq0
――目が覚めて、まず始めに彼が感じたのは、倦怠感だった。
相当長い間、ジョルジュは眠っていたらしいが、どれ位かまでは分からなかった。
思わず、小さな呻き声を上げて、
( ゚∀゚)「……ここはっ!?」
現状を把握すべく、自分を覆う何かを払い退け、身を起こした。
目には、崩れ落ちた茶色い土壁が映り込む。
少し視線を下げると、今度は小麦色の畳があった。
おかしい、とジョルジュは思う。
確かに彼は、屋外で意識を失った。
にも関わらず、彼は今、屋内にいる。
どういう事なのか。
それを考えると、不意に、ジョルジュは得体の知れない焦燥感に襲われ、周りを慌しく見渡した。
そこでようやく、彼は気付く。
自分の周りを、数人の子供が取り巻いている事に。
一目見て、VIPの子供だと分かる。
何があったのか、皆沈痛な面持ちをしている。
服が湿っている事も、嫌に気になった。
51
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:24:16.08 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「えっと……」
彼が何を言えばいいかと戸惑っていると、子供達がはジョルジュに器を手渡した。
それが何なのかは分からなかったが、とりあえず食事である事は、匂い等で何となく分かる。
そして、ジョルジュがそれを食べ終わると同時に子供達は立ち上がり、
彼に背を向けてどこかへ歩き出した。
次々に子供達は家から出て行き、最後の一人が、一度だけジョルジュを顧みた。
着いて来いと、その目が語っていた。
ふらつきながらも立ち上がり、ジョルジュは子供達に着いて行く。
しばらく歩いて、1つの家にたどり着いた。
この村落の中でも、最も崩壊の度合いが低い物だった。
子供達に導かれ、ジョルジュはその家の敷居を跨いだ。
そして、見る事になる。
衣服と畳を紅に染めた、今にも死にそうな、子供達を。
戦慄するジョルジュに、1人の男の子が告げた。
縋るように、今にも泣き出しそうな顔をして。
「皆を、天国に行けるようにしてあげて欲しい」
胸元から零れ出ていた十字架が、嫌に軽快な金属音を奏でた。
53
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:26:04.79 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「……何を、しろって言うんだ?」
ジョルジュの問いに男の子は、彼の胸の十字架を指差した。
いまいち意味が察せられず、ジョルジュが戸惑っていると、
「お祈り……。兵隊さん、神様にお願いできるんでしょ?」
今度は女の子の1人が、ぽつりと呟いた。
それで、ようやくジョルジュは子供達の言わんとする事を理解する。
それから一歩、彼が踏み出した。
それに伴って、子供達が道を開ける。
寝込んでいる子供達の前に立って、ジョルジュは自分に1つ、問い掛けた。
今の自分に、本当にその権利があるのかどうか。
目を瞑り、暫くの間考え込んだが、
「……念仏は? ラウンジには、ないの?」
傍らの男の子に話しかけられ、それは終わりを迎えた。
それと同時に、答えも出る。
権利があるか無いかではなかった。
最初から、祈らないなどと言う選択肢は、存在しなかった。
( ゚∀゚)「あるさ。念仏とは、ちょっと違うけどな」
男の子の頭をくしゃくしゃと撫でながら、彼は答えた。
そして、思い描く。
天から降り注ぎ、己を包み込む神の御光を。
55
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:27:46.48 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「……主よ、彼らに永遠の安息を与え給え」
ゆっくりと、祈りを紡ぎ上げるジョルジュ。
時々子供達を見つめて、微笑みかけながら、彼は祈り続けた。
祈りが中盤の差し掛かった頃だろうか。
子供の1人が、そっと、呼吸する事をやめた。
友達に囲まれながら、そっと目を瞑って、
最後に「ありがとう」と言い残して、死んでいった。
誰に対してかは分からない。
小さな家の中に、嗚咽を漏らす声が広がっていく。
それでも、ジョルジュは祈りを続けた。
( ゚∀゚)「……主よ、彼らを絶えざる光もて照らし給え」
やがて、彼は全ての祈りを終える。
だが、1つだけ腑に落ちない事があった。
まだラウンジ軍は、ここまで進攻してきてはいない。
ならば何故、彼らは死に至るほどの傷を負っているのか。
それも、明らかな銃創を。
一体何があったのか。
58
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:30:42.78 ID:q+bxXFBq0
それは、心の中だけに留めておくには、あまりに膨らみすぎていた。
ジョルジュがそれを問い掛け、
「……本土行きの船が、沈められたんだ」
男の子が、ぽつりと答える。
ジョルジュが、沈痛な面持ちになり、
しかしその次の言葉は、彼に大きな衝撃を与えた。
「爆撃のせいで、港も飛行場も壊されちゃった。もう、僕達はこの島から出られないんだ」
一瞬、ジョルジュは耳を疑った。
思わず聞きなおしてしまうが、
「嘘じゃないよ。皆、見てたんだ」
帰ってくる言葉に変わりは無かった。
『飛行場』が壊された。
戦闘機は、飛べなくなった。
少なくともこの戦争中に、あの化け物が人を殺す事は、最早ありえない事だった。
不謹慎かも知れないが、ジョルジュの心に余裕が生まれた。
少なくとも、残りの分からない砂時計に迫られ、倒れるまでに走る必要がなくなる位には。
もちろん、ジョルジュがそれを見つけなければならない事は変わらない。
ラウンジとVIP、そのいずれが持っていようと、あれは人を殺す事しか出来ない兵器なのだから。
60
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:32:31.38 ID:q+bxXFBq0
だからこそ、いつまでもここにはいられなかった。
絶え間なく続く啜り泣きを背に、ジョルジュは村落を後にする。
一度だけ天を仰ぎ、再び森の中へと消えていった。
しばらく走り、それからもう一度、視線を上に向ける。
もう、空は見えなくなっていた。
馬鹿らしいといわんばかりにかぶりを振って、ジョルジュはまた走り出した。
――やがて、夜が訪れる。
木々に遮られ、月明かりの届かない森の中で、彼はあまりの静寂さに、戸惑っていた。
この静けさならば、頬を撫でる微風の音さえも、聞こえてしまうだろう。
図らずして、ジョルジュは呼吸と足音を殺していた。
慎重に、慎重に、ゆっくりと足を進めていく。
だがそれにも関わらず、
( ゚∀゚)「……っ!?」
不意に木の陰から、VIPの兵が姿を現した。
よほど優れた兵士なのだろうか、
警戒を強めていたにも拘らず、ジョルジュは敵兵の接近に、また自分が気付かれた事にさえ、気が付けなかった。
(;゚∀゚)「くそっ……!」
両者が悪態を吐き、銃に手を伸ばして――
その銃口が相手を捕らえたのは、完全に同時だった。
61
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:34:11.19 ID:q+bxXFBq0
そして、打破しようの無い拮抗が訪れた。
その重みに図らずも、ジョルジュの頬を1筋の冷や汗が伝う。
見れば、彼の対峙する兵士もまた、険しい表情をしていた。
途方も無い時間が、両者間に流れる。
それは一時間にも二時間にも感じられたが、もしかしたら、一分にも満たない物なのかもしれない。
しかし、このまま終わりが来ないかのように思えた拮抗は、意外な外要素によって、終わりを迎えた。
リ;゚ -゚)|「プ、プギャー……? 大丈夫……?」
(;^Д^)「バッ……!」
木の陰から、一人の少女が姿を現した。
目の前で起こっていることに対する、不安と恐怖に耐えられなかったのだろうか。
一瞬、プギャーと呼ばれた男の意識が少女に逸れて、
( ゚∀゚)「喰らえっ!」
その隙を突いて、ジョルジュが銃のストックを振り上げる。
それは彼に突きつけられた銃口を叩き、そして跳ね上げた。
虚脱気味だったプギャーの腕は、その衝撃に耐え切れずに、銃は回転しながら夜空に舞い上がる。
そして、ジョルジュが銃口を、大きく仰け反ったプギャーへと戻し――それもまた、彼の手を離れ、宙を踊った。
一瞬、ジョルジュは訳が分からなくなる。
64
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:36:14.15 ID:q+bxXFBq0
( ^Д^) 「テメェ、新兵だな……? 度胸はあるみてーだが……、今の状況で銃はねーよ」
だが隙を作るまいと、今のプギャーの体勢を見ると同時に、彼は何が起こったのかを理解した。
プギャーは、仰け反らされた勢いを、そのまま蹴り上げる力に変えたのだ。
その蹴りは酷く強烈で、ジョルジュの手には、まだ痺れが残っている。
( ^Д^) 「リオン……、下がってろ」
左手で少女を押しのけると、プギャーは、腿に括り付けた鞘からナイフを抜く。
( ゚∀゚)「……ちっ」
軽く舌打ちすると、ジョルジュもまたアーミーナイフを抜き、握り締めた。
やりたくはなかった。殺しも、戦いも、彼の望むところではない。
それでも彼は、ここで立ち止まる訳にはいかない。当然、引き下がる訳にも。
どうしても、やるしかないと言うのなら――
( ゚∀゚)「らあぁぁぁぁぁ!!」
密林の中。幾度と無く白刃が交差する。
火花が飛び散り、二合、三合と打ち合いは続く。
五合打ち合った所で、二人が同時にバックステップを踏んだ。
67
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:38:01.67 ID:q+bxXFBq0
仕切り直し。そして、
(#゚∀゚)「ふんっ!」
ジョルジュが力任せに、強引な横薙ぎを放つ。
しかし、
(#^Д^) 「くぉっ!」
プギャーは右足を引きながら左にナイフを振るい、ジョルジュの一撃を、引き寄せるように往なした。
殺される事無く受け流された力に、ジョルジュの体勢が前に大きく崩れ、
その隙だらけの首筋目掛け、すれ違いさまにプギャーが、返す手で突きを繰り出した。
( ゚∀゚)「……っ!」
ジョルジュがそれに気付き、体を横に逸らす。
二人の体が交差し、背を向け合って――再び対峙した。
避け切れなかったのか、彼の頬からは、鮮血が滴っている。
それを左手の甲で拭いながらジョルジュは、自分の不利を悟っていた。
身体能力で劣るとは、思っていない。
だが、ジョルジュとプギャーでは、兵士としての経験に差がありすぎる。
先程のやり取りにしても、大振りのジョルジュに比べて、
プギャーの一撃は研ぎ澄まされた、無駄のない物だった。
70
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:39:38.83 ID:q+bxXFBq0
まともに戦っては勝ち目が無い。
ならばどうするか。
不意に、ジョルジュが2つ、バックステップを踏んだ。
( ゚∀゚)「悪いな……」
そう呟くと、ジョルジュは足を後ろに振り上げ、
( ゚∀゚)「グダグダと相手をしてる暇はねぇんだ!」
思い切り、地面を蹴り上げた。
密林の、適度に湿り気を帯びた土壌は、幾つかの塊を成して飛び、
(;^Д^) 「ぐっ……!」
プギャーの視界を、黒く塗り潰す。
ジョルジュはそれと同時に、プギャーには目もくれずに背を向けて、走り出した。
出来る事なら、殺し合いはしたくない。
どんな事が起ころうと、その考えは変わらなかった。
しかし、ジョルジュの走る方向には、リオンがいた。
一般人目掛けて走る、敵国の兵。
その様を見てプギャーが何を想像したかは、言うまでもない。
71
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:41:34.11 ID:q+bxXFBq0
(#^Д^) 「……っ! させるか!」
声を荒げて叫びを上げた。
激昂し、目を血走らせ、瞬く間にジョルジュに駆け寄ると、
(#^Д^) 「畜生!」
その無防備な背に、逆手に持ち直したナイフを振り下ろした。
ジョルジュが気付き、振り返るも、既に遅い。
腕を動かし、ナイフを防ぐだけの時間は無く――しかし再び、何かがプギャーの顔面を叩いた。
( ^Д^) 「なっ……!?」
反射的にプギャーが身を退いてしまい、ナイフはジョルジュを掠めるに終わる。
( ^Д^) 「一体……何が……!」
滲む視界の中、プギャーの目が捉えた物。
それは、振り向きざま、ジョルジュの胸から飛び出した、
( ^Д^) 「……十字架?」
ほんの少し歪んだ、ロザリオだった。
それを見て、
( ^Д^) 「神父なのか。……だったら、人質なんか取ろうとせずに、正々堂々と来いよ」
半ばけしかけるように、プギャーが言い放った。
72
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:43:15.03 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「人質? ……何の事だ?」
その言葉に、ジョルジュは訳が分からないといった様子で、言葉を返す。
プギャーを見つめるその目つきは、少しだけ鋭い物になっていた。
( ^Д^)「とぼけんなよ。……さっき、リオンを狙ってただろ?」
(#゚∀゚)「……馬鹿言うな。俺は、一般人を狙うような真似はしない。……絶対にな!」
最後、感情の昂りを顕にしたジョルジュに、プギャーが一瞬たじろいだ。
たしかに心外だったかも知れない。
だが、それだけではない何かが、今の言葉には込められていた。
( ゚∀゚)「それに、正々堂々も何も……、悪いが俺はもう、アンタを相手にするつもりは無いぜ」
ジョルジュとプギャー。
この2人の戦いが始まってから、何が変わったかと言うと、殆ど無いのが現実だ。
あるのはホンの些細な変化だけ。
銃が手から離れ、服が裂け、目に泥が入り、そしてお互いの位置が入れ替わった程度だ。
しかし、その事によって今、
( ゚∀゚)「道は開けたんだ。もう、殺し合う必要は無いんでね」
彼が進むべき道は、彼の背に広がっており、
立ち塞がるものは、彼の前に佇んでいる。
( ゚∀゚)「それにこの状況。お互い、戦いは好しとしないんじゃないのか?」
75
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:44:56.30 ID:q+bxXFBq0
ジョルジュは、不意を突く事でこの状況に収まったが、このまま戦い続ければ無事では済まないだろう。
そしてプギャーには、リオンがいる。
出来る事ならリオンには、吹き出る鮮血も、おかしな角度に首が裂けずり落ちる光景も、見せたくはない。
彼は、そう思っていた。
それ故に、先程のプギャーの反撃には、躊躇が見られた。
それが、ジョルジュには見抜けたのだろう。
元々神父には、人々の悩みを聞き、導く仕事がある。
ジョルジュが持つ人の心を察する力は、決して低くは無かった。
( ^Д^) 「……1つ、聞かせてくれ」
ずっと押し黙っていたプギャーが、ゆっくりと口を開いた。
( ^Д^) 「戦う事が目的じゃないなら、何でお前はここにいるんだ? 戦場に、それも、敵軍の領地の真っ只中に」
今度は、ジョルジュが少し俯いて黙り込む。
しかし、それは答えを探しているというよりは、どう言葉にすればいいのかを迷っている、と言った様子だった。
数秒の間を置いて、ジョルジュは顔を上げて、プギャーを見据えた。
( ゚∀゚)「そこの子供……、リオンって言ったか? 俺の教会にな、あの子そっくりのシスターがいたんだ。
あの子と同じ、善良な一般人だったけど……死んだよ。爆撃にあってな。
俺はもう二度と、あんな事は御免だ。そう思って、戦場に立った。
……もしかしたら、ただ単に、復讐がしたいだけなのかも、知れないけどな」
そして、と言葉を繋ぎ、ジョルジュは更に続ける。
77
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:46:37.17 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「今、俺には探している物がある。放っておいたら、また多くの罪の無い人々が殺される物をだ。
もしそうなれば、また、俺みたいな奴が生まれる」
一瞬、言葉が途切れた。
ジョルジュが深く俯き、息を深く吸い込む。
再び上げられたその顔は、悲哀に満ちた物だった。
( ∀ )「俺は……、こんな事になりたくなかった。
でも、無理なんだ。もう俺は、何も持ってない」
ジョルジュが手を握り、それは虚しく虚空を掴むのみだった。
( ∀ )「教会も、俺を慕ってくれた人々も、全てなくなっちまった。
あるのは、教えだけだ。……『常に、利他的であれ』『隣人の為に働け』ってな。
俺は、今の俺の状況が、大ッ嫌いだ。……だからこそ俺は、俺と同じ奴を出しちゃいけないんだよ」
ジョルジュの表情が、笑みに変わる。
それは、己への嘲笑のようでもあり、
また、他者への自愛に満ちた笑顔でもあった。
( ^Д^) 「……それが、お前がここにいる、ここで戦ってる理由なのか?」
全てを聞き終えて、プギャーが小さく零した。
そしてそれから、
( ^Д^) 「……互いに、百歩。それまでは絶対に振り向かない。それで、いいか?」
79
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:48:29.78 ID:q+bxXFBq0
小さく、ジョルジュに問い掛けた。
ジョルジュが頷いて、それを見たプギャーが、リオンを無言で手招きする。
互いが銃を拾い上げると、
(^Д^ ) 「……」( ゚∀゚)
やはり、互いに無言で歩き出した。
頭の中で100を数え、ジョルジュが一度立ち止まる。
そして、振り返る事無く走り出した。
――それからは誰とも出会う事無く、ジョルジュは森の中を進んでいた。
どれ位走ったのかと考えて、おそらく、もう相当深くまで潜り込んでいるであろうと結論を出す。
しかし、ここに来るまでに、不審な建物や何かを隠していそうな場所は、見当たらなかった。
やはり、闇雲に走り回るしかないかと、そうジョルジュが考えている時の事だった。
音を立てて、茂みが揺れ動いた。
瞬間、ジョルジュの脳裏に、鮮明な既視感が浮かび上がる。
そう、プギャーと、敵兵と遭遇した時の事が。
( ゚∀゚)「動くな!」
咄嗟に肩に掛けた銃を手に取り、音の方へ向ける。
見開かれたジョルジュの目が捉えたものは、
81
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:50:27.21 ID:q+bxXFBq0
(;^ω^)「ちょ……撃たないで欲しいお! ブーンは一般人だお!」
みすぼらしい服装をした、一般人だった。
( ゚∀゚)「一般人が、何でこんな所に……?」
(;^ω^)「いやいやいや、ラウンジ兵こそ、何でこんな所にいるんだお?」
何気ない呟きに質問を返され、ジョルジュが言葉を詰まらせるが、
(;゚∀゚)「それは……、そうだ! えっと、ブーンって言ったよな? この辺に、普通じゃない建物がなかったか?」
突然、思い出したようにジョルジュがブーンに問うた。
それに対しブーンは、
(#^ω^)「おっと、会話の成り立たないアホが一人登場ォォオオ!!
質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか? マヌケ」
(#゚∀゚)「……あ?」
殆ど無言で、ジョルジュが銃を構える。
無論、撃つつもりは無かったが、
(;^ω^)「ブヒィ! スイマセンでしたお!」
それは十分な効果を示した。
83
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:52:12.85 ID:q+bxXFBq0
( ^ω^)「……でも、普通じゃない建物ってだけじゃ、わかんないですお」
( ゚∀゚)「そうだな。……例えば、一見何も無いような所に隠されていたり、
中に、こんな島じゃ不自然な機械が多々あったり……」
(;^ω^)「……ッッ!!」
( ゚∀゚)「……で、知ってるのか?」
(;^ω^)「……┣¨┣¨┣¨┣¨」
(#゚∀゚)「いい加減にしとけよ? 質問は既に、拷問に変わっているんだぜ」
再度、今度は意図的に操作音を鳴らして、ジョルジュが銃を突きつけた。
(;^ω^)「……し、知りませんお」
(#゚∀゚)「……」
(;^ω^)「……」
(;^ω^)「む、向こうの方に何かにありましたお!」
ブーンが、自分が出てきた茂みのほうを指し示す。
ジョルジュが、そちらに向き直る。
86
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:53:31.57 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「助かった。悪かったな」
そう言って歩き出そうとし、
( ^ω^)「……ラウンジの人達は、恩知らずだおー」
ブーンの呟きに、思わず足を止めた。
( ^ω^)「脅しておいて、聞き出す事だけ聞き出したらすぐに立ち去る。
こ れ は 酷 い」
釘を打ち込まれたように、ジョルジュはそこから動かなかった。
(;゚∀゚)「……えっと、ブーン」
( ゜ω゜)「内藤ホライゾンだ! 二度と間違えるな!
私の名前は内藤ホライゾンと言うのだ! ベーンでもビーンでもない!」
(;゚∀゚)「わ、悪かった。えっと、内藤……」
( ^ω^)「ブーン、僕の名前は……。僕の名前は……ブーンです……」
( ゚∀゚)「どっちなんだよ!」
長年神父をやってきたジョルジュだが、ブーンのような人間には、これまで一度も会った事が無かった。
その事が、ジョルジュに動揺を植えつける。
87
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:54:58.07 ID:q+bxXFBq0
(;゚∀゚)「落ちつくんだ……。『素数』を数えて落ちつくんだ……」
( ^ω^)「で、謝礼マダー?」
( ゚∀゚)「ちょっと待てって……。まいったな、なんもねぇぞ」
( ゜ω゜)「嘘だッ!!」
(;゚∀゚)「お前はちょっと黙ってろ! んな胡散臭い神様、俺は信じてないからな!」
( ^ω^)「ハイハイL5フラグL5フラグ」
(;゚∀゚)「……何なんだ? コイツ……」
さっきから、ジョルジュは何かを出し渋っている訳ではない。
何をしてやれるかと考えたはいいが、何も思いつかないのが、現実だったのだ。
とは言え、いつまでもこうしている訳にもいかないのもまた現実だ。
結局、彼は考えに考え抜いて、
(;゚∀゚)「じゃ、じゃぁ……これ、やるよ」
してやれる事がないのなら、せめて物を。
そう言う結論に至った。
手持ちの物を1つ、慌しく手に取ると、ブーンに手渡した。
(;^ω^)「ちょ……こんなモン使えないお」
( ゚∀゚)「悪いな。今の俺にゃ、それ位しかやれる物が無いんだよ」
91
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:56:29.67 ID:q+bxXFBq0
身を翻しながら、ジョルジュはそう言い残すと、軽く手を振って茂みの向こうへと消えていった。
ようやく、見つけた。
走りながら、彼は小さく、そう呟いた。
今、彼の心の中は、歓喜に打ち震えている。
まだ終わりでは無いとは分かっていたが、それでも、ゴールが見えた事は大きかった。
数日に渡って鞭を打ってきた足も、自然と軽くなっていた。
風になったような錯覚を覚えるほどに、
今や、木々さえもが、自分の往く道を開けているとのだと感じられるほどに、
彼は走り続けた。
やがて、ジョルジュはその足を止める。
そして僅かに顔を顰めながら、近くの木の陰に身を隠した。
2人の見張りが立てられている事を、豆粒ほどの大きさだったが、彼は視認していた。
やはり、一筋縄ではいかない。
しかし、これはある意味で、好都合とも言える。
火の無い所に煙が立たないように、何も無い所には、見張りは立てられないのである。
( ゚∀゚)「もし説得力が足りないと感じる人は、アルファベットの46話を読んでくれればいいと思うよ」
94
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 21:58:18.44 ID:q+bxXFBq0
見てみれば2人の奥には、枝葉や蔓に隠されてはいるが、
それでも僅かに、白いコンクリートか金属か――つまり人工物が覗いていた。
( ゚∀゚)「さて、どうしたものか……」
ベースキャンプの時のように、突っ切る訳にはいかない。
そもそも兵数が段違いな上に、下手に騒ぎを起こせば、戦闘機そのものが隠匿されてしまう可能性さえあるのだ。
( ゚∀゚)「よっ……と」
抑えた掛声と共に、ジョルジュが空のマガジンを向かいの茂みに投げ込んだ。
それは静寂に包まれた森に、一欠片の雑音を生じさせる。
「おい、今何か音がしなかったか?」
「あぁ、俺、ちょっと見てくるよ」
それは、見張りを本来の持ち場から引き離す。
その意識は、音を発した茂みへと向けられていて、
( ゚∀゚)「悪いけど、暫くおねんねしててもらうぜ」
そんな隙だらけの背後を取る事は、さほど難しい物ではなかった。
慌てて振り向いた顎を、拳銃のグリップで殴り抜く。
決して低くは無い呻き声と共に、見張りの片割れは昏倒に陥る。
96
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:00:16.46 ID:q+bxXFBq0
まずは一人。
そして残りの一人もまた、
「オイ、どうかしたの…… 」
芋蔓式におびき寄せ、殴り倒した。
倒れこんでいる2人を茂みに隠し、更に手足を縛り上げ、ついでに即席の猿轡を噛ませる。
服を奪おうとも考えたが、どっちにしろ髪と肌の色でバレてまうだろうと思い、やめる事にした。
あくまで警戒しながら、ジョルジュは見張りが立っていた所に駆け寄る。
生い茂る植物を払い、やはりそこには、金属製の分厚い扉が隠されていた。
一瞬、ジョルジュが逡巡して、それからゆっくりと、扉を押し開ける。
半開きにして暫く待ってみたが、中からの反応は無い。
素早く入り込み、ドアを閉じる。
それから、ゆっくりと歩き出す。
幸いな事に、今の所、通路は殆ど一本道なため、迷う事は無かった。
だが、それは同時に、
――不意に、カツンカツンと足音が、曲がり角の向こうから響いた。
98
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:01:50.92 ID:q+bxXFBq0
咄嗟に身を隠す事が、困難だと言う事だ。
慌ててジョルジュが周りを見渡すも、目に入る物と言えば、せいぜい山積みにされた物資位だ。
足音は段々と大きくなり、
「……」
やがてジョルジュを無視して、遠ざかっていった。
それが完全に聞こえなくなった頃、物資が入っていた段ボールに、突如として足が生え出た。
【 みかん】「やれやれ……、危なかったな」
段ボールからジョルジュの声が零れ出て――そのまま廊下を進んでいった。
【 みかん】「……何と言うかこの体勢、擦れて……性欲を持て余す」
奇妙な呟きを残して、段ボールのよちよちとした行進は続いていく。
だが不意に、廊下の先から話し声が聞こえた。
一瞬のうちに足が引っ込み、段ボールは背景と化する。
「渡辺博士、こちらには出口しかありませんよ」
从'ー'从「あれれ〜? そうだったっけ〜?」
聞くに、研究員と兵士が立ち話をしているらしい。
100
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:03:22.28 ID:q+bxXFBq0
「そうですよ。研究室はここを右に曲がって、突き当たりを更に右の所です」
从'ー'从「そうだったね〜。ごめんごめん〜」
「まったく、あなたは本当に天然ですね」
思いがけない情報に少し体が反応をしてしまったが、どうやら2人は気づかなかったらしい。
依然として立ち話を続けていた。
从'ー'从「ふえぇ〜、私天然じゃありませんよぉ。頭だっていいんですよ〜?」
わたわたと小さく足踏みをして、必死そうに研究員が反論するが、兵士はそのまま笑って去っていってしまったらしい。
研究員はその場に一人取り残され、
从#'ー'从「……ウザってぇなぁ! あのド腐れ変態野郎!」
急にその態度と言動を豹変させた。
言葉は低く重々しく、顔は醜悪なまでに歪められている。
从#'ー'从「なぁ〜にが『天然ですね』だ気持ち悪ぃ! リアルで属性を口に出すんじゃねぇよ駄愚図が!
そもそもよぉ!? 痴呆でもない限りこんな狭くてウザ苦しい場所の道順なんか忘れねぇっつーの!」
そう叫ぶと、渡辺と呼ばれた女は近くにあった箱、ジョルジュの入った段ボールを思いっきり踏みつけた。
ジョルジュがバレないかと冷や汗を浮かべたが、酷く興奮しているせいか、彼女が彼の存在に気付くことはなかった。
从'ー'从「……まぁいっか。どうせ、今日でここともお別れだしな」
そう呟くと、渡辺は歩き出し――出口の方向へと向かい、外に出て行った。
104
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:05:12.43 ID:q+bxXFBq0
【メメみかん】「……何なんだ? あの女」
ジンジンと痛む背中を上手く擦りながら、段ボールは呟いた。
それから、聞いたとおりの道順を歩き出す。
これまでと同じ要領でいけば、見つかる事は無い。
そう思っていた、矢先の事だった。
「何だぁ? この箱?」
ジョルジュの心拍数が、一瞬にして跳ね上がった。
何故、どうして気づかれたのか。
それを考え、そこでようやく彼は気付く。
自分が身を隠しているこの箱は、先程の蹴りで、不自然に歪んでいると言う事に。
段ボールの穴から兵士が近づいてくる事が分かる。
だが、どうする事も出来ない。
そのまま、兵士が両手で段ボールを掴み上げ、
( ゚∀゚)「……動くな」
それはつまり、完全な丸腰状態だと言う事だ。
予め握っておいた拳銃を、睨みあげる形で突きつける。
敵兵が怯み、その隙を突いて、
「ガッ……!」
敵兵のこめかみに、瞬時に持ち替えた拳銃のグリップを叩き込んだ。
糸の切れた操り人形のように、敵兵が崩れ落ちる。
106
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:06:42.67 ID:q+bxXFBq0
使えなくなった段ボールを通路端に放り捨て、ジョルジュが研究室に向かって歩き出した。
気を失った敵兵は、近場にあったロッカーに閉じ込めてある。
見つかる心配はないだろう。
十数歩歩いて、ジョルジュは最後の曲がり角に辿り着いた。
だが、油断は出来ない。
壁に張り付き、慎重に顔だけを覗かせる。
人影は、見当たらない。
代わりに目に入ったのは、廊下の奥の大きな扉だった。
ジョルジュが急いでそこまで駆け寄り、短機関銃を手に取る。
それから扉に足を掛けて、力強く押し開けた。
同時に銃口を室内へと向けて、
J( 'ー`)し「……どちらさまですか? 乱暴ですね」
そこにはたった一人、悲壮感に溢れた表情を浮かべた、女性の科学者がいた。
その女性はゆっくりと、首だけをジョルジュに向けて、
J( 'ー`)し「あぁ、ラウンジの兵士ですか。もうこんな所まで、ラウンジは攻め込んできているのですか?」
何の興味も無さそうに、そう尋ねた。
( ゚∀゚)「……だったら、どうする?」
扉を閉じながら、ジョルジュが聞き返す。
だが女性は、
J( 'ー`)し「別に、どうもしませんよ。最早、私には関係のない事です」
107
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/08/30(木) 22:08:27.13 ID:q+bxXFBq0
やはり何の感慨も無さそうに、虚ろな目と口調で言葉を返すのみだった。
その様子を、ジョルジュは不審に思う。
もし本当にラウンジ軍がここまで来ていたのなら、彼女の命だって脅かされるというのに。
J( 'ー`)し「そうだ。少し、お話しませんか? 心配しなくても、ただの兵卒は、ここに入る事を許可されていませんよ」
自分の置かれている状況が分かっていないのではないか。
そう疑ってしまうほどの言動と微笑みを浮かべ、彼女はジョルジュを手招きした。
疑心を抱きながらも、ジョルジュはその誘いを受ける。
扉を一度だけ顧みて、それから女性の方へと歩み寄った。
空調装置があるのか、身を撫でる空気はとても涼しげだ。
しかし、近づいてみたものの、ジョルジュは未だに戸惑いを見せている。
J( 'ー`)し「さて、何からお話しましょうか……。あぁ、私のくだらないお話、アナタは聞いてくれますか?
まずは、そこから聞くべきでしたね」
そんな彼に代わり、科学者の女性が口を開いた。
その声は、やはりどこか達観した様子で、ジョルジュの戸惑いに拍車を掛ける。
それでも、
( ゚∀゚)「……話してくれ」
聞く必要があると、彼はそう感じていた。
その答えに、彼女は微笑み、
J( 'ー`)し「……あぁ、その前に、やっておくべき事がありましたね」
110
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:10:09.64 ID:q+bxXFBq0
一旦ジョルジュから目を背け、白衣のポケットを弄った。
そこから取り出したのは、安っぽいオイルライター。
彼女はそれに点火すると、
J( 'ー`)し「もう、こんな物は用済みですから」
傍らの机に積んであった書類に、それを近づけた。
当然、火は書類に燃え移り、瞬く間にそれを灰に変えた。
( ゚∀゚)「一体、何を……」
ジョルジュが不思議そうに呟き、
J( 'ー`)し「新型のジェットエンジン搭載戦闘機、通称T-46の設計図、理論、検証データ、それら全ての書類ですが何か?」
さも当然のように、女性は言い放った。
(;゚∀゚)「なっ……! まさか、もう完成してたのか?」
それで、ラウンジ兵に情報を渡さぬように書類を燃やした。
十分、ありえる事だ。
もしそうならば、書類と言う情報が消えた所で、最早何の意味も無い。
しかし、
J( 'ー`)し「いいえ、まだ試作段階でしたよ。その試作機も、おそらく今頃は海の底でしょう。
この島から本土へ逃げるには、少々燃料が足りなかった筈ですから」
淀みの無い口調で、女性はそれを否定する。
ジョルジュはそれに安堵して、だがそれと共に、疑念もより一層深まっていく。
111
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:11:57.67 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「え……? じゃ、じゃぁ何で……」
彼女の言動が真実ならば、それはジョルジュにとって好都合な事は間違いない。
しかし、彼女がそうする理由が無かった。
そして、理由の無い行動や言動を、人間は納得する事が出来ない物だ。
故に、彼はそれに理由を求めた。
J( 'ー`)し「言った通りですよ。私にはもう、こんなもの必要ありません。……もう、死んでいくだけの私にはね」
そう言って彼女は、今度は懐から拳銃を取り出した。
どこからかくすねたのか、その拳銃を握り締めると、彼女はそれを自らの側頭部に押し付ける。
その口から吐き出されるのは、どこか投げやりな口調。
そこで、初めてジョルジュは気付く。
達観しているように見えた彼女は、そうではなく、ただ全てを諦めていただけなのだと。
( ゚∀゚)「どうして、そんな真似を?」
J( 'ー`)し「……そうですね。私も、もう少しお話がしたい気分です」
拳銃を握った腕を下ろし、彼女は様々な事を話し出した。
戦争で死んでいった息子の事。
その復讐として、戦闘機の研究を始めた事。
ついさっき、1人の少年が、自分を殺人鬼と謗り罵った事。
そしてその事で、自分の過ちに気づき、罪の意識から自殺に思い至った事。
112
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:13:40.15 ID:q+bxXFBq0
J( 'ー`)し「すいませんね。私の話ばかりしてしまって」
そう言って、彼女は再度銃を側頭部に押し当て、
( ゚∀゚)「……待てよ」
その引き金が引かれる事は無かった。
ジョルジュの言葉によって、再び彼女は腕を下ろす。
( ゚∀゚)「自分ばかりが喋ってたって分かってるんだろ? だったら、俺にも話をさせてくれたって、いいんじゃないか?」
女性は暫し考え込み、それから話を聞く姿勢を見せた。
死ぬ事位いつだって出来るとでも、思ったのだろう。
ジョルジュが、そう来なくてはと言わんばかりに、2度小刻みに頷いた。
そして、話し出す。
教会の事を。
護る為戦場に立った事を。
新型の戦闘機の事を知り、それ壊す為ここまで辿り着いた事を。
始め、ただ聞くだけと言った様子だった女性は、しかし、次第にジョルジュの話の意図に、気づき始めたようだった。
( ゚∀゚)「気づいたか? アンタと俺はな、行動の原点が同じなんだよ。大事な物を奪われて、戦争と関わる事を余儀なくされた」
J( 'ー`)し「……そうですね。ですが、あなたは目的を果たし、私はもう死ぬしかない。……一体、何が違ったんでしょう?」
114
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:14:19.46 ID:q+bxXFBq0
女性が零し、
( ゚∀゚)「……アンタは、死んでいった息子の事を、考えられなかったんだろ。
だから、感情に任せた復讐に走っちまった」
ジョルジュがキッパリと言い放った。
話に身が入ったのか、説得力を持たせる為か、一歩踏み出しながら。
( ゚∀゚)「アンタの息子は、復讐なんか望んじゃいなかった筈だ。優しい母親であるアンタが好きだった筈なんだ。
それをアンタは蔑ろにしたんだ」
更に一言、ジョルジュは辛辣な言葉を投げかける。
やはり一歩、今度はやや斜めに踏み出して。
何かを思い出したかのように、女性が俯いた。
( ゚∀゚)「……そしてアンタの息子は、アンタの死を望んだ事なんて、一度たりとも無かった。これは間違いないだろ。
それまでをも、蔑ろにするつもりか?」
一瞬、女性が顔を上げ目を見開く。
だが様々な負い目のせいか、すぐに女性は先程よりも深く俯いた。
しかし、それによって2つの条件が揃った。
2歩分詰められた距離、とっさの反応が不可能な俯き方。
J( 'ー`)し「……っ!?」
116
名前:
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/08/30(木) 22:15:39.83 ID:q+bxXFBq0
ジョルジュが一足飛びに距離を詰め、その左手が銃を掴み取るための条件が。
そのまま腕を捻り上げ、銃を取り落とさせる。
それを空中で掴み取り、
( ゚∀゚)「死に逃げるな。生きて償え。科学者なんだろ? ……なにより、息子にもう一度会いたければ、自殺だけはするんじゃねぇ。
それは何よりも重い罪、地獄行きの大罪だ」
一息にそう言うと、女性を殴り倒した。
先刻の兵士同様、女性は意識を失い崩れ落ちるが、それをジョルジュが受け止める。
ゆっくりと床に寝かせると、彼は小さく一息吐いた。
( ゚∀゚)「さて……情報は灰になった。試作品も海の底。……これで、ようやく終わったな」
とは言え、まだ気を緩める事は出来ない。
終わったのは彼の目的だけであり、未だ戦争は終わってはいない。
ここで見つかれば、彼は間違いなく殺されるだろう。
静かに気配を絶って、慎重に逃げるべきだった。
だが彼は、その選択肢を是としなかった。
静寂を粉々に打ち砕いて、連続した破裂音が響き渡り、銃弾が飛び交う。
それは部屋の壁際に設置された機械や、まだ燻っている灰を打ち抜いていく。
どう見ても、ラウンジ兵の仕業にしか見えないように、塗り変えていく。
誰一人として、息子を失い、平和な日々を失った哀れな一般人を、疑う事が無いように。
119
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:17:15.19 ID:q+bxXFBq0
やがて、騒々しく大勢の兵士が駆ける足音が、扉の向こう側から聞こえ始めた。
となれば当然、真正面から出る事は出来ない。
ジョルジュが部屋の中を見渡し、
( ゚∀゚)「……お、あったあった」
部屋の隅に取り付けられた、空調装置に目をやった。
そのすぐ傍のダクトに歩み寄り、手を伸ばす。
少し力を入れてやると、その蓋は簡単に取りはずれた。
( ゚∀゚)「それじゃ、失礼しますかね」
ジョルジュはその穴に体を這い込ませ、やがて闇の中に消えていった。
彼の背後から、様々な喧騒が聞こえてくる。
己に向けられた物であろう罵詈雑言を耳にして、それでもジョルジュは、ほっと安心していた。
――ダクトの迷路を何分か、あるいは何十分か彷徨い、
ジョルジュはようやく、日の光を目にする事が出来た。
見つからない内にと、久しぶりに感じられる森の中へと入り、
( ゚∀゚)「……銃声?」
ジョルジュの耳は、小さな小さな発砲音を捉えた。
狙われているのは、彼ではない。
音の大きさからして、距離が遠すぎる。
120
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:18:51.72 ID:q+bxXFBq0
では誰が。
まず思い浮かぶのは、VIP兵とラウンジ兵の交戦。
だとすれば、それはジョルジュが関わりを持ちたくない物だった。
身勝手かもしれないが、目的を果たした今、お国の為云々で殺し合いをするのは、彼にとって願い下げの事だった。
だが、
( ゚∀゚)「……なーんか、嫌な予感がするんだよなぁ」
そう呟いて、彼は音の方向に向かって、疾駆し始めた。
木々の隙間から波打つ海が目に映るようになった頃、彼は、銃声が止んでいる事に気付く。
森を抜け、ジョルジュの足が海岸の白砂を踏みしめる。
そこには、無数の亡骸が横たわっていた。
ジョルジュがここに来るまでにも、何人かの顔見知りが、無惨に転がっていた。
そしてここにもまた、彼の知る男が1人、倒れていた。
それは、
( ^Д^)「……よぅ……また会ったな」
密林の中で出くわしたVIP兵、プギャーだった。
カーキ色の軍服には赤い大きな染みが見られ、それは今も段々と広がっている。
( ^Д^)「……1つ、頼まれてくれないか? ……あんま、時間ねぇからさ」
血の気の失せた唇を微かに動かして、プギャーが呟いた。
124
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:20:11.71 ID:q+bxXFBq0
ジョルジュはプギャーの傍らに片膝をつき、その言葉に耳を傾ける。
プギャーは、震える腕を必死の形相で持ち上げると、森の方を指差しながら口を開いた。
( ^Д^)「……もし、この戦場でリオンを見つけたら、その時は守ってやって欲しい。
ホラ、アイツ、後先考えないで飛び出したりするからよ。
だから、もし見つけたら、……俺にはもう、出来ないからな」
そこまで言った所で、プギャーが突然咳き込んだ。
吐き出された血反吐が、彼の口の周りを赤く染める。
悪態を吐きながら、プギャーはそれを、半ば気迫だけで腕を動かして拭き取った。
( ゚∀゚)「……なんで、俺なんだ?」
その問いに一瞬だけ、プギャーが考え込む表情を見せて、
( ^Д^)「……お前なら、絶対守ってくれる。そんな気がしたんだよ」
( ゚∀゚)「そりゃ……、光栄なこった」
( ^Д^)「つっても、手は出すんじゃねぇぞ? ありゃ俺の嫁だ」
プギャーが釘を刺して、ジョルジュが小さく笑う。
それに合わせてプギャーが笑おうとして、再び血を吐いた。
( ^Д^)「さて……、そろそろ、行ってくれねーかな。
……俺みたいな奴には、1人で静かにくたばるのがお似合いだろ」
プギャーの言葉を聞いて、ジョルジュが立ち上がる。
125
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:21:57.70 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「……任せとけ」
そう言ってプギャーに背を向け、歩き出した。
――森の中を、静かに歩いていく。
走ろうかともジョルジュは思ったが、もうラウンジ兵が深くまで攻め込んで来ているせいだろうか、
さき程からずっと、あちこちで銃声が響いている。
流石に、走るのは危険すぎた。
( ゚∀゚)「……ん?」
そんな中、ジョルジュは自分の前方に、揺れる白い人影を見た。
ラウンジ兵でも、VIP兵でもない。
となれば、それは一般人しかありえないのだが。
( ゚∀゚)「まさか……」
そのまさかだった。
息を切らせたリオンが、それでも必死に辺りを見回しながら、森の中を彷徨っていた。
何を、誰を探しているのかは、言うまでもない。
リオンが、立ち尽くしているジョルジュを見つけた。
リ*゚ -゚)|「あ……あの時の……! スイマセン、プギャーを知りませんか!?」
リオンは今にも泣き出しそうな顔をして、ジョルジュを問い詰める。
だが、知っているなどと言える訳が無い。
128
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:23:26.08 ID:q+bxXFBq0
( ゚∀゚)「……いいや、知らないな」
目に見えて落ち込むリオンに胸を痛めながらも、ジョルジュはプギャーを探す事を名目に、リオンを傍に置いた。
そして、探し回る振りをしながら、徐々にプギャーのいた海岸から遠ざかり、ラウンジの上陸地点へと近づいていった。
その過程で、様々な可能性や事実を、気休めと一緒に吹き込んでいく。
期待し過ぎないように、だが絶望し過ぎないように。
数日後、鮫島戦は終わりを迎えた。当然、ラウンジの勝利で
リオンは、ラウンジに捕虜として連れて行かれる事になっていた。
結局、プギャーを見つける事無く。
リオンは気落ちしていた。
だが、絶望とまではいかない。
( ゚∀゚)「アイツ強かっただろ? 格好良かっただろ? 安心しろよ。きっと生きてるさ」
ジョルジュの言葉を思い出して、少しだけ、リオンの心が軽くなった。
129
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:24:53.98 ID:q+bxXFBq0
――終戦から2年後。
ジョルジュは、故郷である島の丘の上、以前と全く同じ場所に小さな家を建てていた。
戦後、殆どの捕虜は、ラウンジ本土に着いた後、強制収容所に入れられる。
だがリオンだけは、ジョルジュが引き取り養っていた。
任された義務感からか、騙し続ける負い目からかは、ジョルジュにも分からない。
( ゚∀゚)「……戦争が終わって2年、ようやく国交関係も回復してきた。
明後日から、捕虜をVIPに帰す船が出されるらしい」
リ*゚ -゚)|「そう……ですか」
( ゚∀゚)「ここは田舎だからな。本土まで行かなきゃならない事を考えたら、今日中にはこの島を出なきゃならん。
……やっぱり、行っちまうんだよな」
リ*゚ -゚)|「はい。やっぱり、VIPが私の祖国ですから」
( ゚∀゚)「寂しくなるな」
リ*゚ -゚)|「……お亡くなりになった修道女さんに似てるからですか?」
( ゚∀゚)「いやさ、そのおっぱいが明日から拝めないとなると、……やっぱねぇ」
リ*゚ -゚)|「やっぱねぇって……、やめてくださいよ。……私はプギャーのお嫁さんになるんですから」
132
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:26:17.53 ID:q+bxXFBq0
そう言って、リオンは肌身離さず持っている小石を手に取った。
その石が放つ輝きは、プギャーの彼女への愛を宿しているかのように、綺麗なものだった。
彼女はそれを両手で優しく包み込むと、抱きしめるようにして胸に当てる。
暫くの間リオンはそうしていたが、不意にハッと我に返ると、ジョルジュにはにかんだ笑みを見せた。
( ゚∀゚)「……あぁ、そうだったな」
リオンのその様に、この数年間幾度と無く味わってきた罪悪感が、ジョルジュの胸を刺した。
そして、その日の昼下がり、お慰み程度の私物をまとめてリオンは島を出ていった。
彼女が乗った船が完全に見えなくなるまで、ジョルジュは丘の上からそれを見つめていたが、
「神父さまー。どうしたのー?」
足に抱きつき群がる子供たちの声で、ジョルジュの思索は終わりを迎えた。
今でも島の人達は、彼を神父として接してくれる。
それでも、彼自身が神父を名乗る事は、もう二度と無い。
戦争とはいえ、何人もの命を奪った事はもちろんの事、
彼は何よりも重い罪を背負っているのだから。
134
名前:
( ゚∀゚)
◆P7LJ8EbA6M
:2007/08/30(木) 22:27:41.40 ID:q+bxXFBq0
もはや見えなくなった船の方を見つめながら、ジョルジュは再び考える。
未だプギャーへの愛を忘れていないリオン。
彼女の中では、未だに戦争は終わっていないのだろう。
彼女は戦場で死んでいった男を探しながら、生きていくのだろう。
だから自分は、最後に祝福の言葉が言えなかった。
生きがいの無い、最愛の人に置いていかれた世界でもがき続けるであろう彼女。
それでも生き続ければ、死んでしまっては決して訪れない未来に辿り着ける。
その長い道のりで、彼女の戦争に終止符を打ってくれる人間が、現れるかもしれない。
ならば自分は、それを祈り続けようと思う。
何も変わらない。
これまでは神父として、皆の平穏を祈ってきた。
今度は鮫島の体験者として、鮫島に関わった全ての人の平穏を祈るのだ。
生き延びた人達の人生の平穏と、死んでいった人達の魂の平穏を。
( ゚∀゚)ジョルジュは祈り続けるようです
――fin――
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