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問合せ
ドクオが生きるという事について考えるようです
第6話
6 :
(・へ・)
:2006/11/18(土) 23:59:02.38 ID:GKPhgpaA0
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何日かが過ぎた。
毎夜、ブーンのネガティブな独り言を聞かされて
ツンの感触と匂いを思い出しながら一服して睡眠薬を飲んで寝て、
朝起きて会社に行く。
一件繰り返しにしか見えない日常だが
時間と共に、そこに息づく闇の濃さは確実に増していった。
8 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:00:38.09 ID:U1lZZU7A0
ブーンの独り言は会社批判と自己否定から矛先を変え、
ツンや聞き手の俺、クーへと移り変わり、昔の事を蒸し返すように
不満を吐き出すようになった。
その他にも二、三度、自殺をするといって行為に踏み切ったそうだが
だが、そのどれもが見事に失敗している事から俺は
ブーンはただ死にたいと言って心配して欲しいだけなんじゃないかと
勘ぐるようになっていた。
俺も日に日に煙草と薬の量が多くなり、いつしか
薬の服用量はツンから聞かされた適量を超えていた。
10 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:02:06.50 ID:U1lZZU7A0
そんなある日、クーから電話があった。
「ドクオ君、少し話があるんだがいいか?」
ツンを抱いたことがばれたのだろうか、と思って胸がざわついたが
俺は出来る限り平静を装う。
「あぁ、ちょうど晩飯食いに出た所だから大丈夫だぜ。」
12 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:04:06.30 ID:U1lZZU7A0
クーはそうか、と一言返事をして僅かな間を置いた。
そして、やけに鋭い声で言った。
「ツンに何かしたか?」
瞬間、その言葉の鋭さと、あの夜のことがばれたのかという恐怖が走った。
13 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:04:53.97 ID:U1lZZU7A0
「いや、別に。」
そんな言葉が口から出た。
無意識のうちに、やけに落ち着いた様子で、口から出た。
普段なら、問い詰められた時にはまず間違いなく狼狽する俺の
性格を理解しているクーはその返事を俺が望んだ通りに解釈したのか
「そうか、だったらいいんだ。
私の思い違いだろう。」
と一言、返す。
15 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:05:54.28 ID:U1lZZU7A0
「何かあったのか?」
クーの予想だにしなかった問いかけの真意が理解出来ず
思わずそう尋ねた。
「どうもな、ツンに君の話をした時、
ツンの声が上ずっていたような気がしてな。
君と何かあったのかと思ったんだ。」
………相変わらず良い勘をしている。
「まぁ、気のせいだったならそれでいいんだ。」
17 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:07:19.12 ID:U1lZZU7A0
それから、軽くお互いの近況報告をして、
ツンとこまめに連絡を取り合うクーがツンから
毎晩ブーンから暴力を受けているという話を聞いた事、
俺は俺で毎晩ブーンから呪いの電話を受けている事を
それぞれ話し合う。
それによって何か解決策や打開策が見出されるとは
微塵も思っていなかった。
クーの方は分からないが、少なくとも俺は愚痴のつもりで
今の状況を説明したぐらいの気持ちだった。
19 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:08:18.82 ID:U1lZZU7A0
ひとしきり報告を終えて、話す事も尽きた頃
「ドクオ君。
私には、隠し事は無しにして欲しい。」
クーは、そう漏らして電話を切った。
その言葉が何を指すのかこの時の俺には理解出来なかったし、
理解しようとすら思わなかった。
20 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:09:06.46 ID:U1lZZU7A0
「いい死に方はないかお?」
夜が来て、電話がかかってきて、そしてブーンの独演会が始まった。
「ヨハネスブルグにでも行ったらどうだ?
余所者は一発で殺されるらしいぜ?」
ブーンへの嫌悪感が罪悪感に勝るようになってからは
俺も積極的にブーンに死ねる方法を提案するようになってきた。
「それは夢のある話だお。」
「だろ?」
「そういう所で死んだら消息不明とかになるのかお?」
「どうだろうな。
その辺りは運に左右されそうな気はするぜ?」
22 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:09:45.16 ID:U1lZZU7A0
ブーンの提案に俺が答え、ブーンがその提案に返事をして
俺もまた返事を返す。
いくらか相談としての体裁を保っているが、話している内容と言えば
この世で一・ニを争える程に、本当に不毛な話し合いだと思う。
24 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:13:06.12 ID:U1lZZU7A0
無駄な話し合いで時間を無為に潰して、
時刻が2時を過ぎた頃、互いに沈黙が生まれた。
いや、正しくはブーンが喋るのを止めたのだ。
会話がなくなっておよそ3分。
ブーンは今までと声のトーンを変え静かに切り出した。
「ところで、ドクオ。
ツンに何かしたかお?」
26 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:14:06.53 ID:U1lZZU7A0
「何のことだ?」
「心当たりはないかお?
どうもツンの様子がおかしいんだお。」
「おかしい?」
「ドクオの話をすると、どんな事をしてる時でも
ほんの一瞬だけど表情が変わるんだお。」
クーといいブーンといい、どうしてこうも勘が鋭いのだろう。
27 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:15:40.20 ID:U1lZZU7A0
「ちょうどあの日から、ずっとそういう状態なんだお。」
へぇ、と流しそうになったが気付いた。
ブーンが「あの日」と言った事に。
「あの日?何かあったのか?」
危なかった。
俺はブーンから直接、本社に泊りがけで出掛けた日の話は聞いていない。
意図は不明だが、今の一言はブーンの罠だ。
「………いや、わかったお。
それなら、ツンに聞くまでだお。」
28 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:17:00.94 ID:U1lZZU7A0
言い終わりでブーンの声が遠くなる。
しばらくの間を置いてガシャンガシャンとガラスの割れる音が電話の向こうで響き、
ブーンの怒声と遠くにツンの悲鳴のようなものを電話が拾い、そこで電話は切れた。
時間は朝の四時過ぎ。
俺も携帯の電源を切って、睡眠薬を多めに飲んで布団に入った。
いつもの通り、1時間後に切れるようにクーラーのタイマーを設定する。
そして、眠りについた。
31 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:20:03.00 ID:U1lZZU7A0
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おかしな場所に立っていた。
空も大地も何もかも、あたり一面がセピア色に染まった世界。
周りを見渡すとポツンとツンとブーンの住むマンションのミニチュアがあった。
意識してそのミニチュアを見ていると屋根と思しき部分が透けて
ちょうど二人が住んでいる部屋の中が覗き込めるようになった。
その中にはツンがあの時見せた壊れた表情で壁にもたれながら
三角座りをしていた。
笑っているような泣いているような、全てに嫌気がさしているかのような………
たくさんの感情を一つに混ぜ込んだ表情。
33 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:22:11.12 ID:U1lZZU7A0
「ツン」と呼びかける。
声に気付くとツンは俺の顔を見つめて今まで見せていた壊れた笑いから、
いつもの笑顔を見せて口を動かし始めた。
何かを伝えたいようだ。
声としては何も聞こえない。
笑顔を直視せず、口だけに注視する。
”…ょに………な……?”
35 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:24:36.28 ID:U1lZZU7A0
なんだって?
”い………にし………い?”
少しずつ、その答えが頭に届いていく。
何十回、何百回とツンの口元だけを注視して
ようやく、理解出来た。
36 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:26:27.16 ID:U1lZZU7A0
”一緒に死なない?”
瞬間、目の前が真っ白になり意識が急速に覚醒していくのを感じた。
開いた目。
見知った天井。
家の外で車や人が行きかう音。
今見たのは夢だったようだ。
37 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:27:28.39 ID:U1lZZU7A0
気だるい身体を起こしてカーテンを開く。
いつもと同じはずの光景に違和感を感じた。
普段なら近所の小学校、中学校に通う学生達の姿が見えるはずなのに
今日は、その姿が少しも見えなかった。
見えるのは散歩する老人や清々した顔で自転車に乗っている主婦らしき女性の姿。
今日は日曜日じゃない。
それに、空の色が普段よりもやけに明るい。
時計を見ると時刻は10時を回っていた。
「遅刻かよ………。」
39 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:30:17.44 ID:U1lZZU7A0
「珍しいね、ドクオ君が遅刻っていうのは。
まぁ、仕事で疲れが溜まってるからね。」
出社後、遅刻届を提出した時に上司にそう言われたが、
最近の勤務時間も普段から考えると常軌を逸しているというのもあってか
特にお咎めはなかった。
上司の席から自分の席へ戻る途中、ジョルジュの視線を感じたが
あえてその視線の先は見ずに淡々と仕事の準備を始めた。
仕事を始めてからも隣の席のジョルジュが時折心配そうに
覗き込んできたが気付かないフリをひたすら通した。
ジョルジュには申し訳なかったが今はお互いの暗黙のルールに感謝した。
40 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:31:47.57 ID:U1lZZU7A0
日中、集中出来ない頭を出来る限り働かせて仕事に取り組む。
だが、ここまで遅れが出て、作業もさして進まなくなってくると、
もはやどうでもいいやという気持ちすら芽生えてき始めていた。
どうにかその怠惰な考えを振りほどき、集中して、また振りほどく。
気が付くと同じ所を一人グルグル考えていただけで定時は過ぎていた。
43 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:33:54.48 ID:U1lZZU7A0
日が変わり、帰宅する。
疲れているのかどうかもよく分からない身体をベッドに横たえる。
もうあと少ししたらブーンからの電話がくると思うと
帰宅後の開放感も一気に色褪せていく。
埃まみれになっているプレステ2やテレビを見ながら
一服していると携帯が鳴った。
着信相手は不明。公衆電話からだ。
ハッとして通話ボタンを押す。
「もしもし?ドクオ?」
随分と久しぶりに聞くツンの声だった。
44 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:35:45.05 ID:U1lZZU7A0
「よう、ツンか。久しぶり。」
「そうね、久しぶり。
ちゃんとご飯食べてる?」
母親みたいなことを言ってクスクスと笑う。
少し子ども扱いされてムッとしたが、それでも
俺も笑い返せた。
公衆電話からかけてきている事やブーンの事には触れず
ただ盲目に今、この瞬間を楽しいと思う話をした。
絶えず聞こえるツンの笑い声がたまらなく愛しく思えて、
それと同時に、この時間が楽しいと思う自分がたまらなく醜く思えた。
45 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:36:26.89 ID:U1lZZU7A0
「ところでね、今度の日曜日だけど暇?」
話の流れを打ち切って、ツンがそう切り出した。
「忙しいっちゃあ忙しいけど?
何か用か?」
返事はしばらく返ってこなかった。
「ツン?」
電話が繋がっているかを確認するようにツンの名前を呼ぶ。
それからしばらくして、ようやく言葉が返ってきた。
47 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:37:51.83 ID:U1lZZU7A0
「私ね、決めたの。
………死ぬわ。」
ブーンのそれとは違った一つの決意を感じ取れる言葉だった。
二度はない。
この言葉を二度、口にすることは、ない。
そんな決意。
48 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:39:32.64 ID:U1lZZU7A0
「そうか………いつに、するんだ?」
自然と返事が出来た。
「今度の日曜日にそのまま、か?」
「うん、そのまま。」
「そうか。」
「だからね………最期にもう一度ドクオに逢いたい。
……いいかな?」
49 :
(・へ・)
:2006/11/19(日) 00:40:09.82 ID:U1lZZU7A0
―――あぁ、当たり前だろ。
上九一色村 青木ヶ原。
ツンが最期の逢瀬に求めた場所の名には確かな覚悟が密められていた。
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