- 63 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 18:58:37 ID:DJTX0c9c0
気がつけば日は暮れていて、いつの間にか役所には人影は見当たらなくなっていた。
( ^ω^)「どうしようか」
ξ゚听)ξ「宿舎まで、歩いていくのは、辛いわよねぇ」
かと言って群馬のタクシーは恐ろしいし、そうツンが言うと、トイレから一人の男が顔を出した。
('A`)「送っていくよ」
( ^ω^)は役人のようです
第四話「群馬の歴史」
- 64 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 18:59:10 ID:DJTX0c9c0
車は整備されていない町並みを危なげなく進んでいく。
途中途中県民がこちらをいぶかしむような視線をよこしたが
車のナンバーを見て、視線を逸らしていった。
ξ゚听)ξ「ドクオは宿舎に住んでないの」
ツンの何気ない問いかけにドクオはぴくりと体を震わせたが、すぐに平静な声でああと返した。
( ^ω^)「どこに住んでるんだお?」
少し、嫌な間をおいて、ドクオは内藤に視線を送った。
('A`)「栃木だ」
( ^ω^)「栃木、ですかお」
- 65 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 18:59:29 ID:DJTX0c9c0
栃木は比較的安全な県だ。
餃子とレモン牛乳のイメージを受けるが、
実際は餃子と夜のお店の街らしい。
レモン牛乳の方は栃木県民でも評価がわかれるんだと
栃木出身の同期の男は熱く語っていた。
群馬との間には金網が張り巡らされ、公的な手続きを踏まなければ行き来することはできない。
( ^ω^)「と、いうことは」
('A`)「なんだ?」
ドクオも質問のないようはわかっているのだろう。
しかし、少し濁すように答えている。
( ^ω^)「なんでもありませんお」
そう、内藤は返した。
ドクオはそれを聞くと満足そうに笑った。が――
- 66 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 18:59:47 ID:DJTX0c9c0
ξ゚听)ξ「ってことは通行書持ってるんだ」
また、時間が止まり、ドクオは引きつった笑みを浮かべた。
(;^ω^)「すまんお」
(;'A`)「いや……」
二人の様子にツンは首を捻り、疑問の意を表した。
('A`)「さて、着いたぞ」
ξ゚听)ξ「ありがとう」
( ^ω^)「助かったお」
('A`)「いやいや」
- 67 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:01:09 ID:DJTX0c9c0
ドクオがつぶやき、宿舎の向こうに視線をやった。
視線の先には、深い森が広がっている。
それを見て、ドクオの表情が一瞬固まった。
二人が不安そうにドクオを見つめると、静かに唇を動かした。
('A`)「待て」
森から強引に視線を外し、車のドアを見て、静かに言う。
('A`)「もう一度、車に乗れ」
ξ゚听)ξ「?」
( ^ω^)「どういうことだお?」
夫婦の疑問にも答えず、ドクオは早く、と言ってドアを開いた。
内藤は、さきのモナーとドクオのやりとりで信用に値すると判断し、ツンを先に車に乗せた。
そして、内藤もそれに乗り込み、ドアを閉める。
車はゆっくりと発射した。
- 68 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:01:26 ID:DJTX0c9c0
('A`)「今日は俺の家に泊まっていけ」
( ^ω^)「どういうことだお?」
先ほど答えてもらえなかった問いを再度したが、ドクオはまた答えず話を進めた。
('A`)「シャーミン松中って知ってるか?」
シャーミン松中。聞いたことのない者などいないだろう、群馬史上最高の市長だ。
犯罪の少ない県にする、という、マニフェストを元に市長を務め、実際に群馬の犯罪率を大幅に低下させた男。
三年にわたり市長を続け、ついには国政に乗り出した大物政治家だ。
そして、彼が国政に出、後の群馬をいとこのゆうたろうに任せた後、犯罪数は大幅に再上昇した。
わずか三ヶ月でシャーミン松中の市長就任前の数倍の犯罪件数になり、
いとこのゆうたろうは責任をとって辞職した。
しかし、その後誰が市長になっても、群馬の犯罪件数は下がることはなかった。
- 69 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:01:40 ID:DJTX0c9c0
ξ゚听)ξ「なのに、群馬県民が何度ラブコールを送っても
国の政治家として責任を取らなければならないと言って群馬に戻らない人よね?」
ツンの回答に、ドクオは苦虫を噛んだように、そうだな、と答えた。
( ^ω^)「違うのかお?」
('A`)「50点だ」
('A`)「まず、シャーミン松中は最高の市長じゃない
最低の市長だ」
短く、根本部分を否定する。
ξ゚听)ξ「え?だって」
ツンの反論に被せるようにドクオは言葉を続けた。
- 70 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:02:26 ID:DJTX0c9c0
('A`)「シャーミン松中は犯罪件数を減らしたわけじゃない
犯罪発覚件数を減らしたんだ」
( ^ω^)「!」
ドクオの言葉に、内藤は何か気づいたかのように表情を強張らせた。
恐らく、シャーミン松中はある不正を行った。それも、得をする本人から見返りを求めずに、だ。
ξ゚听)ξ「どういうこと?ブーン?」
( ^ω^)「多分、警察に手を回し、事件を事件として扱わなかったんだお」
内藤の推測を、ドクオが短く肯定する
ξ;゚听)ξ「そんな」
信じられない、といった表情で左右を見渡すツンを見て、内藤は優しく頭に手をやった。
('A`)「さらに、それだけじゃない」
('A`)「何故、襲われやすいところに役員宿舎があるか、疑問に思わなかったか?」
役員宿舎の後ろには、広大な森が広がっている。
- 71 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:02:42 ID:DJTX0c9c0
自然の象徴ともいえる森だが、この群馬では住民の家の役割をしていることが多いのだ。
だからこそ、住民の目が届くここに宿舎がここに作られた。
不正をしないことを県民に誓うために。
('A`)「だが、本当の理由はそうじゃない」
そしてドクオは、ある悪魔のような男について語りだした。
犯罪率を低下させようとやっきになったシャーミン松中は
当然のようみ群馬の名主達から嫌われた。
ξ゚听)ξ「なぜ、当然のように、なの?」
( ^ω^)「名主が名主である理由は、何にあると思うかお?」
内藤の問いかけに戸惑うツンに、ドクオが助け舟を出した。
- 72 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:02:55 ID:DJTX0c9c0
('A`)「困った時に頼られる
いざという時人を集めらる、それが名主が名主である由縁だ」
一体どうすれば、困った時に頼られて、いざという時人を集めらるのだろう。
( ^ω^)「表から言うお」
そう前置きして、内藤は言葉を続ける。
( ^ω^)「まず、一番は農業だお」
全く予想してなかった言葉に、ツンは素っ頓狂な声をあげた。
凶作になった時に、土地を貸している人が死ぬと困るからという理由で
土地貸しは、土地借り農家にお金を貸す、場合によっては無償であげることも少なくないのだ。
当然、困った時に頼られるし、助けてくれる人の呼びかけには答える人が多いだろう。
もしかしたら、さきの二つの用件は、結局はひとつに落ち着くのかもしれない。
つまり、困った時に頼られる人が、名主としての力があるのだ。
( ^ω^)「次に、金貸しだお」
金貸しも力がある理由は同じ理由だ。
- 73 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:03:15 ID:DJTX0c9c0
( ^ω^)「そして、田舎に多い、非合法な性サービスを提供している人だお」
ツンがむっとした顔で内藤を睨んだが、内藤はそのまま続けた。
未成年に性サービスを行わせている家。
家の力が強いため、警察も介入できない。
また、そういったサービスに依存している人は、その家に頭があがらなくなる。
('A`)「ああ、それが表の理由だ」
ツンが何か言いたそうな顔をしているが、内藤はあえてドクオとの会話を続けた。
( ^ω^)「だお、そういう人はなるべくしてそういう立場になったんだお」
ξ゚听)ξ「どういうこと?」
ようやく口を挟む場所を見つけたようにツンが疑問を挟んだ。
- 74 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:03:39 ID:DJTX0c9c0
( ^ω^)「本当に頼られる人の裏の顔は犯罪をもみ消せる人だお」
('A`)「ああ、そうだ」
('A`)「シャーミン松中はそういった人の力を削ぐ為、もみ消せるような罪を全てもみ消した」
ξ;゚听)ξ「は?」
ツンが意味がわからないと言いたそうに口をパクパクさせる。
どうやら、処理が追いついていないようだ。
とは言っても、内藤も平静な顔をしつつ、内心処理が追いついていないのが実情だ。
次の言葉が見つからず、ドクオをじっと見つめた。
('A`)「狂ってるだろ?」
そう言って乾いた笑い声を出すドクオに内藤は気になったことを聞いた。
( ^ω^)「それで、シャーミン松中は名主の力は削げたのかお?」
('A`)「ああ、だが状況はもっと悪くなった」
- 75 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:03:55 ID:DJTX0c9c0
それはそうだろう。
名主といえど、もみ消す事件なんて100件ある内の1件や2件程度が限度だ。
しかし、シャーミン松中は100件ある内の99件以上の事件をもみ消した。
当然、県内は犯罪で溢れ返る。
ξ;゚听)ξ「それで、力を削いだ後は犯罪を減らそうとしたんじゃないの?」
('A`)「したさ」
信号機のない交差点を徐行で走り抜け、ドクオはバックミラー越しにツンを睨んだ。
('A`)「だが、その頃には捕まえるはずの警察が犯罪を犯していた」
ξ;゚听)ξ「そんな」
('A`)「そんな状況で誰が捕まえる?」
事実、レイプされたと交番に駆け込んだ少女が交番で警察官にレイプされた事件も起きた。
もちろん、その事件も公的には起きたことにはなっていない。
('A`)「ああ、話が逸れたな」
- 76 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:04:11 ID:DJTX0c9c0
('A`)「襲われやすいところに役員宿舎がある理由」
その理由は、普通の人間の考え付く理由ではない。
狂気に狂ったシャーミン松中の保身術。
就任当初の犯罪を全てもみ消すという暴挙で名主達に反感を買ったシャーミン松中の考えた最悪の支持率保護方法。
それは、比較的名主の影響を受けない森の中の住民の票を取り込むことだった。
('A`)「そして、役員宿舎で被害にあった人は被害届けが受理されない」
ξ;゚听)ξ「最悪だわ」
全てを理解し、ツンは顔を真っ青にさせた。
(;^ω^)「何故、ドクオはブーン達を助けてくれたんだお?」
内藤の質問に、ドクオは淡々と返した。
- 77 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/03(木) 19:04:21 ID:DJTX0c9c0
('A`)「クックルの失踪理由も、もしかしたらと思ってな」
男だから大丈夫だろうと思ったんだが……そう言ってハンドルを握るドクオの背中には
深い後悔の念がこめられていた。
( ^ω^)は役人のようです
第四話「群馬の歴史」
終
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