- 89 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:09:44 ID:IO2UyPh6O
- ***
第四話 「貧しくとも人」
***
( ;ω;)「オ゙ゥエッ!!ゲホッ!」
(´・ω・`)「しっかりするんだ、もう奴らも追っては来ない」
( ;ω;)「ハ、ハイ……」
夜襲に遭った二子堂城を逃げ切り、暗い山の中を、二子厨の庄の反対側に駆け下りた二人。
その山道の途中で、二人は少し休憩を取ることにした。
そこでブーンは強烈な嘔吐感にみまわれた。先ほど見た光景が、あまりにも衝撃的だったのだ。
道の傍らで胃の中味を戻すと、一気に鼻水と涙も流れてきた。
- 90 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:10:04 ID:IO2UyPh6O
-
何もかもが、強烈な出来事だった。
赤黒い人間の中味。強く籠もる鉄の臭い。
そして、いとも簡単に失われる命と、いとも簡単に出来上がる人間の死体。
平和な時代の平和な国で育ったブーンには、とても耐えられない体験だった。
( ;ω;)「けふっ、ヒック…」
(´・ω・`)「…悪かったなブーン」
ブーンの背中をさする渚本介が、ぽつりと呟いた。
予想外の台詞に、ブーンは思わず振り返った。
( ;ω;)「渚本介さん…?」
(´・ω・`)「その様子じゃ、人間が斬られるサマを見るのは初めてなのだろう?」
( ;ω;)「は、はい…」
(´・ω・`)「奴が現れた時に逃げるべきだった。しかし俺は至らん欲にかられて、あろうことか奴に刃向かってしまった」
- 91 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:11:28 ID:IO2UyPh6O
-
(´・ω・`)「その結に、お前に嫌なものを見せてしまった。申し訳ない」
そこまで言うと、渚本介はブーンに頭を下げた。
ブーンが慌てて顔を拭き、渚本介に声をかける。
(;^ω^)「ちょ、顔を上げてくださいお渚本介さん!渚本介さんは何も悪くないですお」
(´・ω・`)「申し訳ない…」
(;^ω^)「……」
ブーンは渚本介が悪いなどとは全く思っていなかった。むしろ情けない姿を見せた自分を恥じていた。
しかし、確かに渚本介に対して様々な疑問はあった。
渚本介が"戦魔"と呼ばれていること。復讐の為に旅をしていること。そして何より、先程の天野擬古成に対する怒りのような憎しみのような顔。
- 93 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:13:31 ID:IO2UyPh6O
-
だから、躊躇いなくこんなことが言えたのかもしれない。
( ^ω^)「僕、実は天野擬古成という名前には聞き覚えがあるんですお」
(´・ω・`)「?」
( ^ω^)「日本史で習ったんですお。確か、天下統一を目指して数々の国を攻め落としていた…って」
(´・ω・`)「ああ、その通りだ」
( ^ω^)「渚本介さん、聞かせてくださいお。渚本介さんは、もしかしてあの擬古成に何かされたんですかお?だから復讐に走っているのでは?」
(´・ω・`)「……」
渚本介が擬古成に対する復讐心で旅をしている。
ここまで想像するのは容易かった。
だから、真実を知りたかった。
渚本介に何があったのか、ということを。
- 94 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:14:36 ID:IO2UyPh6O
-
(´・ω・`)「…それを聞いてどうするつもりだ?」
無表情で渚本介が尋ねる。
ブーンは溢れ出てくる本心を渚本介に伝えた。
( ^ω^)「僕は渚本介ともっと仲良くなりたいんですお。でも、僕はまだ渚本介さんのことを何も知らないんですお」
( ^ω^)「絆を深めるには、やっぱり互いを知ることなんですお」
( ^ω^)「だから、聞かせて欲しいんですお。渚本介の過去を」
(´・ω・`)「……」
相変わらず無表情を続ける渚本介。
しばらくブーンの表情を見つめると、小さく笑った。
(´・ω・`)「お前は優しい人間なんだな」
( ^ω^)「…え?」
- 95 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:15:32 ID:IO2UyPh6O
-
(´・ω・`)「お前の言う通りさ。互いを知ることが、絆を深める初手だ」
(´・ω・`)「でも、世の中にはわからなくていいこともある。わからないほうがいいことがある。そうだろ?」
上手くはぐらかされたな、と思った。
しかし、ブーンは何の不快感も、疑念も起こらなかった。
それは、過去を教えてくれない渚本介を無意識に受け入れてしまったせいか。
それとも。
( ^ω^)「…その通りですお渚本介さん」
(´・ω・`)「ははは、すまないな。ほら、お前の荷物だ」
この屈託のない優しい笑顔を見てしまったからか。
ギターを背負い、食料の半分を持ち、ブーンは渚本介と共に歩き出した。
──
- 96 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:16:37 ID:IO2UyPh6O
- ──
島川領三久紫井(みくしい)。
二子堂城を挟んで、二子厨の庄とは反対側に位置する大きな国である。
島川荒巻が治めるこの国では、交易面が弱腰であった分、貧困に悩まされている。
その為、民衆の荒巻に対する態度は冷たくなっているのが現状だ。
民の心が廃れてきている三久紫井に、ブーンと渚本介はたどり着いた。
まだ昼を回った頃だ。陽気が包んでいるはずなのに、その町は目に見えてわかるほど白けていた。
(;^ω^)「…こんなことってあるんですかお」
(´・ω・`)「ん?」
(;^ω^)「だって島川荒巻と言えば、おおらかな人間で人々に好かれていて、治めた国は賑やかだったって…」
(´・ω・`)「…人は変わるもんさ。行こう」
- 97 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:17:57 ID:IO2UyPh6O
-
人は変わる。良くも悪くも、一つのきっかけで人は変わっていく。
三久紫井の町は、実に凄惨なものだった。
活気のない店が並ぶ表通り。何か諦めきっているような、失望に満ちた人々の顔。ずっと遠くに見える、威厳の無い城。
二人は前のように宿屋を探すことにした。
案外すぐに宿屋は見つかったが、二子厨の庄にいたあの主人のような明るさも人の良さもなく、二人はぶっきらぼうに部屋に通された。
( ^ω^)「…酷いとこですお」
(´・ω・`)「はは、未来の日本はよっぽど平和なんだな。このくらい陰気な地なんて腐るほどあるぞ」
( ^ω^)「同じ日本に住んでるのに、どうしてこうなるんですかお」
(´・ω・`)「大地を同じくしても、国が違えば人が違う。人が違えば食う飯の味が違う」
- 98 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:19:26 ID:IO2UyPh6O
-
つまり、と渚本介が続ける。
(´・ω・`)「人によって物の価値が違うもんなんだ。だから仲良くもなるし、争いもする」
(´・ω・`)「島川荒巻は他の領主と仲良くもなれず争いもできなかった。それが民衆の心を廃らす理由となったんだ」
( ^ω^)「そうなんですかお…」
現代の日本と何も変わらない、とブーンは感じた。
仲良くなる国もあれば、争いを起こす国もある。
渚本介が未来の日本をどう想像しているかは知らないが、間違いなく渚本介は真実を知れば落胆するだろう。
そして悟るはずだ。平和な時代なんて無いのだ、と。
それならば、こうやって平和な未来を描きながら、争いの中を生きるほうが幸せなのかもしれない。
ブーンはため息と共に窓の外に目をやった。
- 100 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:20:47 ID:IO2UyPh6O
-
その時だった。
(#・∀・)「ふざけんなコラァ!!」
(;´・_ゝ・`)「うっ…!」
途端、向かいの酒屋から一人の若い男が転げ出てきた。
その後から、鬼のような形相をした男がずんずんと姿を現した。
喧嘩だ、喧嘩だぞ。と周りが騒ぎ立てる。
少し歳のいった、怒っている方の男が声を上げた。
(#・∀・)「てめえ今何て言いやがった!?俺らを馬鹿にしてんのか!!」
(;´・_ゝ・`)「馬鹿になどしておりません!でも、こんなことは絶対間違ってる!」
(#・∀・)「てめえ!いい加減にしやがれ!!」
若い男の方も負けじと声を張る。
しかし、怒り狂った男に問答無用に殴られてしまった。
- 101 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:21:51 ID:IO2UyPh6O
-
(;^ω^)「あわ、わわわ、喧嘩ですお渚本介さん!」
(´・ω・`)「そうか」
(;^ω^)「そうかって…」
他人の争いごとには興味を持たない性格なのか。
とにかく、ブーンは窓枠にしがみついて喧嘩の様子をもう一度見た。
怒り狂った男は既に殴るのを止めさせられていた。周りの屈強な男達に抑えられていたのだ。
体にしがみつかれながらも、這いつくばる若い男を睨みつける。
(#・∀・)「今度あんなこと言ってみやがれ、次はぶっ殺してやらぁ!」
怒りに満ちた言葉を吐き捨てると、男は周りの手を乱暴にほどき、店の中に戻っていった。
野次馬達はあっという間に去り、膝をつきながら顔をさする男が、一人取り残された。
- 102 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:23:16 ID:IO2UyPh6O
-
(;^ω^)「…ちょっとあの人連れてきますお!」
(´・ω・`)「えっ」
(;^ω^)「渚本介さんは待っててくださいお」
渚本介が反応する前に、ブーンは部屋を飛び出した。
ちょうど入り口の辺りにいた男に、慌てながら話しかける。
(;^ω^)「大丈夫ですかお!?」
(メ´・_ゝ・`)「ありがとうございます。俺は無事……って南蛮人か?」
(;^ω^)「違いますけど、とにかく部屋に上がってくださいお!手当てしなきゃ!」
(メ´・_ゝ・`)「俺の心配なら無用ですよ」
(;^ω^)「いいから来てくださいお!」
(メ´・_ゝ・`)「強引なお方だ…では御言葉に甘えさせていただきます」
──
- 103 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:24:24 ID:IO2UyPh6O
- ──
傷の治療をするつもりで部屋に上がらせたが、ブーンは手当てのできるものを持っていないことに気づいた。
しかし、財布の中に絆創膏を入れていたのを思い出し、それを男の顔に貼った。
男は何やら不思議そうに顔に貼られた絆創膏を触ったが、すぐに目の前のブーンと渚本介に頭を下げた。
(´・_ゝ・`)「御世話頂きありがとうございます、ブーン殿、渚本介殿」
(´・_ゝ・`)「俺は出見足(でみたす)といいます。よろしくお願い致します」
( ^ω^)「よろしくだお出見足。そう堅くならなくてもいいお」
(´・ω・`)「ふむ」
改めて出見足の顔を見ると、随分と若い青年であることに気付いた。
ブーンよりも年下に見えるが、性格はかなりしっかりとしている。
- 104 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:25:53 ID:IO2UyPh6O
-
堅くならなくてもいいと言ったのにも関わらず、出見足は姿勢を崩そうとしない。
そんな出見足に、ブーンは喧嘩の原因を尋ねてみた。
出見足はバツが悪そうに目を背け、少し置いて語り出した。
(´・_ゝ・`)「ブーン殿は、この国が荒巻様のせいで貧しくなっているのは御存知でしょうか」
( ^ω^)「知ってるお。それがどうかしたのかお?」
(´・_ゝ・`)「……明日の朝なんです」
( ^ω^)「え?」
(´・ω・`)「……」
何のことかさっぱりわからないブーン。その後ろで、渚本介が頭を掻いた。
(´・_ゝ・`)「今夜にも三久紫井中から農民らがここに集まって、明日の朝、向こうに見える枚未九城を攻めるつもりなんです」
- 105 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:27:01 ID:IO2UyPh6O
-
(;^ω^)「……まじかお…」
枚未九城といえば、三久紫井を治めた島川荒巻の居城だ。
ということは。
(;^ω^)「…一揆を起こすつもりなのかお!」
(´・_ゝ・`)「そういうことです」
(´・ω・`)「やはりな」
渚本介がようやく声を出した。
何がやはりなのか、とブーンが振り向く。
(´・ω・`)「民衆が妙に気が立っている様子だったから、まさかとは思っていた。恐らくお前に殴りかかったあの男が民衆をまとめ、一揆の案を出したのだろう」
(´・_ゝ・`)「…はい、その通りでございます」
- 106 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:28:47 ID:IO2UyPh6O
-
少し意表を突かれたような顔で、丁寧に答える出見足。
渚本介は更に続けた。
(´・ω・`)「お前は一揆を止めさせるべく、酒屋にいたあの男に話をしに行った。その結果がこれなんだな」
(´・_ゝ・`)「はい…」
(´・ω・`)「いいか、この乱世に国一揆の一つや二つは珍しくない。一揆というのは絶対無二の民意だ。止める必要はない」
(;^ω^)「渚本介さん…!」
渚本介が一揆を肯定したのは意外だった。
しかし、ブーンは何も反論の言葉が出てこなかった。
日本史で習った限り、渚本介の言う通りなのだ。
一揆は唯一の行動的な民意であり、良くも悪くも、必ず現状を変えることができる。
ブーンが口を結んでいると、今度は出見足が口を開いた。
- 108 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:29:57 ID:IO2UyPh6O
-
(´・_ゝ・`)「…俺は、そうは思いません」
( ^ω^)「!」
(´・ω・`)「……」
(´・_ゝ・`)「一揆なんて、人が死ぬだけです。泣きを見る人が増えるだけです。こんなのが民意だなんて、思いたくもありません」
(´・_ゝ・`)「それと…荒巻様は心優しいお方です。この国が貧しくなったのは、他に何か原因があるはずなのです」
(´・_ゝ・`)「荒巻様には御健在でいらして欲しい。荒巻様の治めるこの三久紫井で、争いなど見たくない」
出見足の拳はいつの間にか握り締められ、少し震えていた。
三人を包む空気が、着実に重くなっていく。
- 110 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:32:54 ID:IO2UyPh6O
-
(´・_ゝ・`)「今回の一揆の長…あの男、名を茂羅(もら)といいます」
(´・_ゝ・`)「茂羅殿は昔、幼き息子を山賊に殺されているのです」
(;^ω^)「……」
(´・_ゝ・`)「それなのに、争い事をやめようとしないのです。結局はまた誰かが泣くだけなのに」
意外だった。
一揆というものは民衆全員の意志であるというイメージを、ブーンは持っていたからだ。
しかし、この戦国の世に、争い事を嫌う青年がいる。
一揆を止めようとする男がいる。
どう反応していいのかわからず固まるブーンの後ろで、渚本介が立ち上がった。
(´・ω・`)「お前の気持ちはわかる。しかし一揆というものは激情の塊だ。容易く止められるものじゃない」
(´・_ゝ・`)「……」
- 111 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:35:13 ID:IO2UyPh6O
-
渚本介の台詞に、ブーンは少し違和感を覚えた。
しかし、そんなことはお構いなしに渚本介が続ける。
(´・ω・`)「だが、島川荒巻は確かに心優しい領主だ。戦乱を好まない交易なら得意であるはずなのだが……何か引っかかるものがあるな」
(´・ω・`)「おい、今晩に一揆の面々が集まると言ったな。場所はどこだ」
(´・_ゝ・`)「はい。場所は山のふもとにある枚里州寺でございます」
(´・ω・`)「…わかった。ブーン、今晩には宿を出るぞ」
( ^ω^)「え?いいですけど…」
(´・ω・`)「それでは出見足。今晩枚里州寺にて会おう」
(´・_ゝ・`)「?…わかりました。失礼致しました」
- 112 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:36:16 ID:IO2UyPh6O
-
丁寧に頭を下げ、部屋を出ていく出見足。
その背中を見送ったあと、ブーンは渚本介に向き直った。
( ^ω^)「渚本介さん、一体どうしたんですかお?」
(´・ω・`)「何がだ」
( ^ω^)「この一揆や出見足のことなんてまるで興味ない様子だったのに、いきなり一揆を止めようと動くなんて」
ブーンが渚本介の話に違和感を覚えたのは、まさにそこだった。
喧嘩の時も、他人の争いに興味を持たずといった様子だった。
しかし、渚本介と何の関係もないこの国一揆の話には、妙に積極的だ。
渚本介は少しだけ声のトーンを落とし、話し出した。
(´・ω・`)「実は、茂羅という名には聞き覚えがあるのだ」
- 113 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:37:56 ID:IO2UyPh6O
-
目を丸くするブーンに、渚本介は更に話を進める。
(´・ω・`)「俺の記憶が正しければ、あの擬古成の家臣の一人に、腕っぷしの強い茂羅という男がいた」
(´・ω・`)「出見足が茂羅の名を口にしたとき、俺はある疑念を浮かべた。もしやこの三久紫井の地は、あの擬古成が奪い取らんとしているのではないかと。それも、直接手を下さず、戦略的にな」
(;^ω^)「ど、どういうことですかお?」
(´・ω・`)「まず擬古成が何らかの圧力をかけて、三久紫井の交易を鈍らせて国を貧しくさせる。次に家臣の擬古成を町に繰り出し、民衆に対して一揆を企てる」
(´・ω・`)「するとどうだ。広大な土地を誇る国は廃れ、城は図らずも城主のいない状態になる。その城に天野勢が立ち入れば、三久紫井は天野領となる」
つまり、擬古成が圧力をかけてある三久紫井にスパイを送り、国内で争わせ、後から擬古成が知らん顔で国の統率を図る。という筋書きだ。
そのスパイが先ほど出見足と喧嘩をしていた男、茂羅であるというのだ。
- 114 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:38:55 ID:IO2UyPh6O
-
完璧な戦略だ。擬古成も渚本介も、相当頭が切れるらしい。
ブーンがやけに納得していると、渚本介は一息ついて話を続けた。
(´・ω・`)「だから、この一揆は阻止するべきだ。今晩にどうにかしないと、擬古成は天下統一をまた進めてしまうはめになる」
( ^ω^)「…わかりましたお。僕もできることは協力しますお」
(´・ω・`)「うむ」
固い顔をしていた渚本介が、軽く笑った。
(´・ω・`)「ま、昼寝でもするか。あまり寝てないからな」
( ^ω^)「はいですお」
──
- 116 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:39:48 ID:IO2UyPh6O
- ──
夜。
月が雲間に見え隠れする夜空の下、渚本介は窓の外を眺めていた。
(´・ω・`)(そろそろだな)
町の遠くで、何やらざわめきが聞こえる。
一揆に備えた男達が、続々と集まってきているのだろう。
(´・ω・`)「ブーン起きろ。そろそろ行くぞ」
( ^ωー)「うーんあと5マイル…」
(;´・ω・`)「何を言ってるんだ。さあ荷物を持つんだ」
( ^ω^)「……あ、了解ですお」
眠い目をこすり、ブーンは荷物を持った。
宿屋にはもう誰も残っている様子はなく、町の中もやけに静かだった。
- 117 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:41:59 ID:IO2UyPh6O
-
(´・ω・`)「もう集まってるらしいな」
( ^ω^)「僕らも遅れちゃいけませんお」
(´・_ゝ・`)「ブーン殿、渚本介殿!」
( ^ω^)「おっ?」
急に声をかけられ、後ろを振り向く。
そこには、何やら複雑そうな顔する出見足が走ってくる姿があった。
(´・_ゝ・`)「お二方は、枚里州寺に行くつもりですか?」
(´・ω・`)「ああ」
( ^ω^)「その通りだお」
(´・_ゝ・`)「…俺もお供させてください。この一揆は、あってはならないことです」
( ^ω^)「もちろんだお。一緒に行くお!」
(´・_ゝ・`)「ありがとうございます」
- 118 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:43:11 ID:IO2UyPh6O
-
枚未九城が佇む山のふもとに、その枚里州寺はある。
境内はかなり広く、大人数が集まるには都合のいい場所だ。
寺の前まで着くと、三人の目に飛び込んできたのは、想像していたそれよりも大人数の民衆。
数にして五百ほどが、既に集まっていた。
(;´・_ゝ・`)「こんなにいるのか…」
(;^ω^)「……」
(´・ω・`)「茂羅が出てきたぞ。裏へ回ろう」
広場に集まった民衆の前に、茂羅が現れた。
本堂の少し高い位置にいるため、その姿はやけに目立っている。
自然と、民衆が静まり返った。
( ・∀・)「…よくぞ集まってくれた。三久紫井の強き魂が、今、この目の前に広がっとる」
- 119 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:44:10 ID:IO2UyPh6O
-
民衆は静かに、しかし力強く、茂羅を見つめる。
( ・∀・)「今回、我々が起こすのは戦ではない。伝言だ。至らん政を続けた、島川荒巻に対する伝言なのだ」
( ・∀・)「国の在り方を決めるのは上の連中じゃねえ、俺ら民衆だってな」
( ・∀・)「三久紫井の強き魂をもつ同志達よ、今こそ立ち上がるときだ!これ以上、あの腑抜けの荒巻に国を任せるわけにはいかん!」
(´・_ゝ・`)「やめるんだ茂羅殿!!」
茂羅が、民衆が、一気に固まった。
その視線の先には、本堂の裏からでてきた一人の若い男、出見足が立っていた。
- 120 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:45:01 ID:IO2UyPh6O
-
唖然としていた茂羅。
しかし、すぐにその額に青筋が浮かび上がってきた。
(#・∀・)「てめえ…殺されにきたのか?」
(´・_ゝ・`)「皆の衆、聞くがいい!!荒巻様は心優しい領主!国が貧しくなっていったのには、何かわけがあるのだ!!」
(#・∀・)「いい加減にしやがれ!」
途端、茂羅は刀を抜いて出見足の首にあてがった。
出見足は固まり、民衆が少しだけざわめき始める。
(#・∀・)「どうやら本当に殺されてェらしいな。童が、根も葉もないことを!」
(´・ω・`)「待て」
- 121 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:46:35 ID:IO2UyPh6O
-
本堂の裏から、今度は二人の男が現れた。
渚本介とブーンが民衆の前に出てきたのだ。
混乱がますます大きくなった。
(#・∀・)「誰だてめえら!!」
(´・ω・`)「何故貴様に名乗る必要がある?民衆にずっと正体を隠していた貴様に」
(#・∀・)「んだと…!?」
(´・ω・`)「とぼけなくてもいい。思い出したよ。貴様の顔と名は覚えている」
(#・∀・)「何言ってやがる!!」
(´・ω・`)「久しいな。天野家家臣、柴原茂羅よ」
ざわめいていた民衆が、一気に静まり返った。
信じられない言葉が、急に耳に飛び込んできたからだ。
- 122 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:47:32 ID:IO2UyPh6O
-
(;・∀・)「な、何言ってやがる!俺は…」
(´・ω・`)「貴様は三久紫井の民などではない。恐らく擬古成の命で、町人になりすましていたのだろう?」
(;・∀・)「うるせェ!!クソッ!」
明らかに狼狽した茂羅。突然、茂羅は刀を振りかざして渚本介に向かってきた。
しかし渚本介は刀を軽くかわし、茂羅を床に押さえつけた。
(;・∀・)「クソったれ!!離しやがれ!!」
(;・∀・)「なんで…なんでこうなるんだよ畜生!!」
(´・ω・`)「言え。貴様はなぜ、三久紫井に来たのだ」
- 123 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:48:57 ID:IO2UyPh6O
-
茂羅は暫く口をつぐんでいたが、やがて観念したかのようにポツポツと語り出した。
(; ∀ )「…復讐さ」
(´・ω・`)「復讐?」
渚本介が聞き返すと、茂羅は小さく頷いた。
ブーンも出見足も、大勢の民意も、静かに茂羅の声に耳を傾けた。
(; ∀ )「俺ぁ昔、一人息子を殺されてるんだ。俺がまだ擬古成様の家臣として丹生捉城にいた頃の話だ」
(; ∀ )「その日、俺は擬古成様の命で町を回っていたんだ。せっかくだから擬古成に頼んで、息子も一緒に町を歩き回った」
(; ∀ )「楽しかったさ。息子は町に下りるのは初めてで、ずっとはしゃぎ回っていた。ところが家臣である俺の息子に目をつけた山賊が、息子をさらって…」
(´・_ゝ・`)「……」
- 124 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:50:06 ID:IO2UyPh6O
-
(; ∀ )「……冷たくなった息子の横には、山賊の荷袋が忘れてあった。それに縫われていた印が、この三久紫井のものだったんだ」
(; ∀ )「当時から擬古成様はこの三久紫井を取るつもりで、島川荒巻に圧力をかけていた。だから俺は協力させてくれと頼み込んだ」
(; ∀ )「……息子を殺したこの国に、復讐を果たす為にな」
静まり返る境内。
抵抗もせず、押さえつけられたままの茂羅に、出見足が歩み寄った。
(´・_ゝ・`)「茂羅殿…」
( ∀ )「……息子が生きてりゃ、てめえくらいの歳だった」
顔を伏せたまま茂羅が口を開く。
心なしか、茂羅は震えているようだった。
( ∀ )「…だから、てめえくらいの若僧が憎たらしかったんだ」
(´・_ゝ・`)「……」
- 125 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:51:21 ID:IO2UyPh6O
-
(´・ω・`)「…それで」
押さえつけたまま、渚本介が声をかける。
(´・ω・`)「お前はこれからどうしたいんだ」
( ∀ )「殺してくれ。一揆は失敗だ。なれば俺に生きる道はない」
( ^ω^)「それは違いますお!」
今まで黙っていたブーンが、声を上げた。
その奇妙な人間に、全員の注目が集まる。
( ^ω^)「復讐なんかやめて、茂羅さんはこれから真っ当に生きるべきですお!息子さんの分も!」
( ∀ )「……」
( ^ω^)「死んだ人間の為だけに生きるなんて、そんなの間違ってますお!茂羅さんは自分の為に、真っ当に生きるべきなんですお」
(´・_ゝ・`)「ブーン殿…」
( ∀ )「………」
(´・ω・`)「……」
- 126 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:52:26 ID:IO2UyPh6O
-
( ^ω^)「親の復讐を望む子が、一体どの世界にいるんですかお。わかってくださいお」
相変わらず静寂が続く。
しかし、茂羅の体は目に見えてわかるほどに震えていた。
( ;∀;)「…ああ、わかってる」
( ;∀;)「わかってるよ……畜生…」
(´・_ゝ・`)「……」
(´・ω・`)「…ブーンの言う通りだ。好きにしろ」
( ;∀;)「ああ…」
渚本介が茂羅の体を離した。
しかし、茂羅はその場に倒れたまま動こうとしなかった。
- 127 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:53:31 ID:IO2UyPh6O
-
誰もが声を出さずに茂羅を見つめるなか、渚本介はブーンにギターを渡した。
少し驚いたが、ブーンは素直に受け取った。
(´・ω・`)「ブーン、ぎたーを弾いてくれ。曲は任せる」
( ^ω^)「はいですお」
(´・_ゝ・`)「ぎたー?」
何が起こるんだ。と民衆が見つめるなか、ブーンはギターを構え、演奏を始めた。
曲はエリック・クラプトンの「Tears
in
Heaven」のソロギターバージョン。
悲しみ。愛しさ。後悔。哀願。全ての感情を、優しい音色に乗せて、境内に響かせていく。
(´・_ゝ・`)「……」
( ;∀;)「……」
(´・ω・`)「……」
誰一人、一切の声も出さないまま、ブーンの奏でるギターを聞いていた。
その日の夜はやけに静かで、やけに悲しかった。
──
- 128 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:54:50 ID:IO2UyPh6O
- ──
翌朝。
一揆の話なんてまるで無かったかのように、いつもの朝が三久紫井を迎えた。
昨日までと違うのは、なんとなく町の人達の顔が、少し落ち着いたことくらいか。
結局、昨日はそのまま解散となり、茂羅は一人一人に頭を下げて回った。
後悔しながら、反省しながら、涙を流しながら。
人は変わる。良くも悪くも、一つのきっかけで人は変わってしまう。
旅の支度を終えたブーンと渚本介は、最後に出見足と会って話をした。
- 130 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:56:06 ID:IO2UyPh6O
-
(´・ω・`)「…これでこの町は暫く安泰だろう。一揆が失敗したと聞けば、擬古成の圧力もそのうち無くなる」
(´・_ゝ・`)「お二方には何と感謝すればいいのやら…本当にありがとうございました」
( ^ω^)「いいんだお、用事のついでなんだから。ねえ渚本介さん」
(´・ω・`)「はは、そうだな」
相変わらず丁寧に頭を下げる出見足に、笑顔を送る二人。
出見足はふと何かに気付くように顔を上げると、手に下げていた小さな荷物を二人に手渡した。
( ^ω^)「これは…?」
(´・_ゝ・`)「ウチで作ったおにぎりと漬け物です。これくらいしかお礼ができなくて…」
(´・ω・`)「はは、いいじゃないか。ちょうど腹が減ってたんだ」
( ^ω^)「ありがとう出見足。また会えるといいお」
(´・_ゝ・`)「はい!」
- 131 : ◆vVv3HGufzo:2011/02/26(土) 23:57:22 ID:IO2UyPh6O
-
ブーンと渚本介は出見足に背を向け、町を後にした。
出見足がくれたおにぎりは、コンビニで買っていたそれよりも、格段に美味しかった。
人は変わる。
良くも悪くも、一つのきっかけで人はこれまでの自分を忘れることができる。
一揆に失敗した茂羅が擬古成の使いに殺されたことを二人が知るのは、それから少し後の話になる。
第四話 終
次へ/
戻る