11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:50:10.28 ID:mTLXToo80
【March 9】


夢を見た少女がいた。
普通に学校に通って、友達を作って、恋をして、

そんな普通を夢見た少女がいた。


夢を見た少女がいた。
彼女の夢は叶うはずのないものだった。
だけど、神様は少女に魔法をかけた。

けれど神様が叶えたのは、彼女の夢ではなかった。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:52:07.00 ID:mTLXToo80
12畳ほどの室内に、2人の影があった。
白衣を着た中年の男と、巻き髪のやさしそうな女の子。
男の表情が暗く、どことなく硬いのに対して女の子のほうはにこにこと笑みすら浮かべている。


医者「検査の結果ですが・・・・・・デレさん」


明るい室内に似合わない重々しい声が響く。
その声に反応して女の子の目が男の目をしっかりと見据える。


ζ(゚ー゚*ζ「はい」


初めて発せられた声には恐怖の色も期待の色もない。
その表情と状況からはとても想像できないほどに普通の声だった。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:54:52.82 ID:mTLXToo80
その声に、医者は一瞬言葉を発するのを躊躇う。
しかし、すぐに彼女に向き直る。


医者「あなたの病気が、また進行しています。」


反応は無い。
それどころかデレの表情に変化はない。


医者「このままでは危険です。早急に大学病院に転院したほうがいいでしょう。」

ζ(゚ー゚*ζ「そう・・・・・・ですか・・・・・・・・・・・・」


覚えているのはそこまでだった。
その後、医者の説明を受けたのだが、彼女はそれにただ頷くだけだった。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:59:35.89 ID:mTLXToo80
別にこうなるだろうなとは予測できていた。
もともと完治していたわけでもないし、いつかこうなるだろうとは言われていた。
だから驚きもしないし、今更うろたえもしない。

ただ頭の中にあったのは、明日の卒業式のことだけだった。


彼女は今病室のベッドにいる。
恐らく、このままでは出席することなど許されるはずがないだろう。
まだ体は動くのに、だけど医者も両親もそれを許しはしない。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:59:53.72 ID:mTLXToo80
しょぼくれ眉毛の少年は、自分のために曲を直してくれた。
ひねくれた顔の少年と気の強そうな少女は、バカをやって自分を笑わせてくれた。
クールな、けれどちょっとどこか抜けている少女は、自分の初めてのライバルだった。

にやけ顔の、人懐っこい少年は――――


ζ( - *ζ「―――――っ!」


ζ( - *ζ「やっと会えたのに・・・・・・友達になれたのに・・・・・・」

ζ( - *ζ「神様は、酷いな」


初めて、涙が零れ落ちた。
そして彼女は決意した。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:02:38.33 ID:mTLXToo80
抗ってみせると。
自分の大切な人のためになら、どんな犠牲も厭わないと。
その瞳には、強い光が宿っていた。

急いで制服に着替え、財布と携帯電話を持ち靴を履く。
幸い病室は2階にあったので、割と簡単に降りることが出来た。
しかし、行く当ては無い。
それでも、彼女は歩き出す。

だってこのまま明日になれば、皆に会えるのだから。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:05:48.35 ID:mTLXToo80
――――――彼女はベンチの上で覚醒する。
夜が明けた。

この青空も、彼がプレゼントしてくれたものなのだろうか。
ゆっくり身を起こすと、水洗い場で顔を洗う。
なんだ、まるでホームレスみたいじゃないかと、彼女は苦笑する。

でも、それも今日限り。
彼女は本来の役目に戻る。


川 ゚ -゚)「さーて、どこから当たるか・・・・・・」


時間は今日1日沢山ある、ゆっくり探せばいい。
彼女は力強く、踏み出した――――――。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:08:35.59 ID:mTLXToo80
もう太陽が一番高く上った頃、自宅の玄関先に現れた少女に
ツンデレことツンは、酷く驚いていた。

彼氏が自宅にいるのを見られることすら恥ずかしくて仕方が無い。
恥ずかしすぎて後ろにいたドクオを殴ってしまった位だ。
しかしそれ以上に驚いたのは、入院しているはずのデレがそこに立っていることだった。


ξ;゚听)ξ「あ、あなた病院は?」

ζ(゚ー゚*ζ「なんかもう退院できるみたいです」

ξ゚听)ξ「で、でもおとといは・・・・・・」

ζ(゚ー゚*ζ「なんか検査をしたら大丈夫って言われました。今日はリハビリも兼ねているんです。」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:11:14.08 ID:mTLXToo80
ツンが見る限りは、デレの顔は健康そのものだ。
だからだろう、彼女は一瞬疑いもしたが、すぐにそれを受け入れた。


ξ*゚听)ξ「良かったね!卒業式でれるじゃん!」


そういってドクオのことをバシバシと叩く。


('A`(#)「うん、良かったね」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

ξ゚听)ξ「そういう事なら、上がっていきなさいよ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいんですか?お二人でいたいんじゃ・・・・・・」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:13:38.29 ID:mTLXToo80
上げてもらうつもりできたのだが、ドクオがいることは予想外だったのだ。
しかし二人は笑顔で、デレを迎え入れてくれた。


ζ(^ー^*ζ

ξ*゚听)ξ

(#)'A`(#)


楽しく話して、笑って、馬鹿をやって。
デレはこの時間ををかみ締めた。
このまま時が過ぎなければどんなに楽なのだろうかとも考えた。

それでも、いつかは終わりがやってくる。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:15:43.39 ID:mTLXToo80

ζ(゚ー゚*ζ「ふう・・・・・・もうこんな時間だね」

('A`)「ああ、楽しいと時間が過ぎるのが早いな」


窓の外はもうすっかり暗くなっていた。
街灯の明かりが、静かに道を照らしている。


ξ゚听)ξ「もうすっかり暗くなっちゃったわね・・・・・・」

('A`)「俺が送っていければいいんだけどな、今日は無理そうなんだなこれが」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」


ドクオが申し訳なさそうに、デレを見る。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:18:45.07 ID:mTLXToo80

ζ(゚ー゚*ζ「一人でも大丈夫ですよ」


彼女はこの家を去るしかなかった。
二人は笑顔で私を送り出してくれる。

背中に当たる暖かな光が、少し眩しかった。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:21:55.87 ID:mTLXToo80
ツンの家を出て暫く歩く。
そういえばお昼から何も食べていなかった。
どこかにコンビニかファミレスでもなかっただろうかと思案する。
まだこの辺を歩きなれていないのですぐには浮かんでこない。


そして、1件のお店の場所が頭に浮かんだとき、突然体に異変を感じた。


ζ(゚ー゚;ζ「―――え?」


思わずその場に蹲ってしまう。
長時間歩き回ったのが予想以上に体に負担をかけたらしい。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:26:36.47 ID:mTLXToo80
視界がかすんでくる。
黒が白に染まっていく。

ぼやけた世界の中、彼女は優しい声を聞いた。


「やっと見つけたぞ」

誰・・・・・・?

「まったく苦労をかけて、疲れてしまったじゃないか」

「しかし・・・・・・これで私は役目を果たすことが出来る。」

聞き覚えのある、その声。

「あのにやけ面によろしく頼むよ、じゃあな」


神様に魔法をかけてもらった少女は、神の変わりに今少女の願いをかなえる。
額に暖かい掌が触れて、意識が無くなった。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 21:45:34.29 ID:mTLXToo80

川 ゚ -゚)「魔法の消しゴム、どんなものでも消せるんだ♪」


調子ハズレの歌が響く。
辺りは驚くほど静かで、街灯の明かりが静かに2人を照らしている。


川 ゚ -゚)「君の病気は消えたよ」


深く眠る少女を愛しむような声で語りかけるクー。


川 ゚ -゚)「もしかしたら、と思ったのだがな・・・・・・やっぱり限界か」


ゆっくりと立ち上がる。
黒く美しい髪が舞い、月の光を受けて煌く。

直後、そこに残っているのは眠っている少女と、まだ真新しい消しゴムだけだった。


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