- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 00:44:35.20 ID:heK8QbeNO
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ダイ13ワ ハナ ハ サキ セカイ ハ イロヅキ ヤマ ハ ユレル
ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ
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山に近付くに連れ、草原しかなかった風景に、いくつかの白い花が見られる様になった。
殺風景だった世界も、文字通り華やいだ感じがする。
しかし、パッと見は私が知る花に酷似しているが、実際はどうなのかわからない。
近付いても襲ってくる等の害はなさそうだが、毒があったりかぶれたりしないとも限らないのだ。
川 ゚ -゚) 「綺麗なバラにはなんとやら……か」
花の事は後でツンやワタナベに聞いてもいいだろう。
わざわざ近付いて踏み荒らす必要もあるまい。
そう結論付け、私は山へ向かいマシンを走らせた。
雨に洗い流されたばかりの空気は、とても澄んでいて心地良い。
何も考えずこうやって走っていられたら楽しいかもしれない。
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 00:46:08.71 ID:heK8QbeNO
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川 ゚ -゚) 「とは言え、車で走るには向かないよな」
ほんの少し大学時代を思い出していた。
昔はよく、夜な夜な車を走らせていたものだった。
そんなにスピード狂ではないと思っていたのだが、回りの反応を見る限りでは自己分析の方が間違っていたかもしれない。
窓を開け、吹き込む風を感じるのが好きだった。
対向車も何もない草原を走るのは本当に気持ちがいい。
しかし、ホバー式のマシンだからこそ快適に走れてはいるが、元の世界の車輪の付いた車だとこうは行かないだろう。
川 ゚ -゚) 「掃除機、掃除機と最初はバカにしていたが、こいつは結構優秀だよな」
見た目以外は。
川 ゚ -゚) 「しかし……変な形だな」
ずっと視界に入っていた山が、ようやく生えている木の形が判別出来る程度には近付いてきた。
裾野の広さの割には高さがかなりあり、山と言うには少々アンバランスな形だが、細部は意外に普通の様だ。
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 00:48:11.63 ID:heK8QbeNO
-
川 ゚ -゚) 「あれが雨の木なのかな?」
ただの広葉樹にしか見えないが、あの辺りはその木しか生えていないので恐らくそうなのだろう。
この山には雨の木以外も生えているのか聞くのを忘れていた。
川 ゚ -゚) 「いや、ツンは木の実とか食べてると言ってたからな」
他の木も生えてはいるのだろう。
割合的には、AA界全土に雨を降らせるという雨の木が大半を占めていそうだが。
私はマシンを止め、草原に横倒した。
無用心な気もするが、文明の利器を好んでいないらしいこの星の者達の興味は惹かないだろう。
私は、山へ足を踏み入れた。
川 ゚ -゚) 「普通だな」
間近で見た雨の木は、私が知っている普通の木と何ら変わらないものだった。
根があり、幹があり、枝があり、葉がある。
何の変哲もない、ただの木だ。
川 ゚ -゚) 「実がなる過程が特殊なだけなのか」
- 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 00:51:18.15 ID:heK8QbeNO
-
ツンの話だと花は咲かず枝に実がなり、約1日で大きくなり、雨を降らせるという。
見た所、今は実が1つもなっていないので、しばらく雨は降らないのだろう。
実がなり出しても1日は確実に猶予があるわけだから、便利といえば便利ではある。
川 ゚ -゚) 「天気予報が楽な世界だな」
晴れか雨、雲のない世界だから、曇りはない。
この木を見ていれば天気は確実にわかるのだから、天気予報は外し様もない。
外すとしたら寒くなって雨が雪に変わった時ぐらいではないだろうか。
私は木の観察を終え、山の奥へ向かう。
当然登る事になるのだが、舗装された道などもちろんない。
道なき道を進む事になるだろう。
川 ゚ -゚) 「ツンがいれば話を聞きたい所だが……」
前もって約束しておくべきだったかもしれない。
どこに誰がいるかまではよくわからないという話だったが、当てもなくうろつくよりは効率は良かっただろう。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 00:53:30.75 ID:heK8QbeNO
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川 ゚ -゚) 「ツン、いるか?」
一応辺りに声をかけてみたが、残念ながらツンからの返事はなかった。
雨の日はブーンの所へ行ってるはずだから、まだ戻って来ていないのかもしれない。
川 ゚ -゚) 「仕方ない、適当に探索してみるか……」
・・・・
・・・
歪な見た目の割には、それほど勾配はきつくもなく、軽いハイキング気分で山を登る。
足場も一面藪という具合でもなく、せいぜい木の根が目立つ程度だ。
思ったよりは開けた場所だと感じられた。
川 ゚ -゚) 「雨の木の所為か?」
実の爆発ないし、降り注ぐ大量の雨が何かしら影響を与えているのかもしれない。
何にせよ、私にとっては助かる話ではある。
それからしばらく歩き続けていると、更に開けた場所に出た。
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 00:56:01.74 ID:heK8QbeNO
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ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ
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3方を木々に囲まれ、1方からは広がる空が見えるその場所に色とりどりの花が咲き乱れ、風に揺れる。
川 ゚ -゚) 「これはまた……」
どちらかと言えば殺風景と言わざるを得なかった山中にこんな場所があるとは思わなかった。
自然発生的なのか人為的なのかはわからないが、この広場内は木は立っていない。
雨の木がないお陰で他の植物が育っているのかもしれない。
私は、広場の中ほどへ向かい歩く。
よく見ると奥の方にある木は、雨の木とは少し違う葉の形をしたものも見て取れる。
いくつかある木の中には実がなっているもある。
緑色の、熟しているようには見えない楕円形の木の実だが、一見食べられそうな雰囲気もある。
川 ゚ -゚) 「ひょっとしたらツンは普段はこの辺りに住んでいるのかな?」
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 00:58:08.32 ID:heK8QbeNO
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以前に話した時に、食料が手に入れやすい辺りに住んでいるという様な話は聞いた覚えがある。
あれがツンの言っていた食料なら、どこかにツンの居住スペースがあるのかもしれない。
ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ
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川 ゚ -゚) 「似た様な花が多いな……」
危険を避けるために加え、ある種の植物愛護的な観点から花を踏まない様に奥へ進む。
草原の草は普通に踏んでいたのに、花が咲いている草は踏まないように気をつけるというのも不思議な話だ。
両者に本質的な差はないはずなのに。
川 ゚ -゚) 「見た目は重要という事か……」
私が俗なだけなのかもしれない。
木の実がなった木にたどり着きはしたが、これを取るべきなのかは少々悩む。
まずこの実の危険性。触っても大丈夫かなのかは全くわからない。
次に必要性。私は食料は持参しているし、この実が食べられたとしても取る必要性はない。
さらに言えば、この実が食べられる状態なのか判断付かないし、取った所で無駄にする可能性もあるのだ。
この実の希少性もわからないし、誰かが必要としてる場合も考慮しなければ。
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:00:17.53 ID:heK8QbeNO
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川 ゚ -゚) 「結論、見てるだけだな」
この実の事も後でツンに聞いてみよう。
そう決めると、私は今度は空が広がる方へ向かう。
そちらは切り立った崖になっている様で、下を覗いてみたが結構危険な場所かもしれない。
柔らかな風が頬を撫でる。
眼下には草原が広がり、少し先には川も見える。
多分、これが兄者達がいる湖に繋がる川だろう。
川 ゚ -゚) 「なかなか気持ちの良い場所ではあるが」
緑と青しか見えない、単調といえば単調な景色ではあるが、遮蔽物もなく、広がる空と地平線は
自然の雄大さを存分に感じさせてくれる。
川 ゚ -゚) 「今日はここで昼食かな」
まだ時間は少々早めなので、もう少しこの辺りを探索してからの話だが、我ながら悪くない思い付きだ。
既にこの辺りの地面は乾いているし、座るのにも問題ないだろう。
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:02:49.61 ID:heK8QbeNO
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私は、しばらくこの広場を歩き回ってみた。
ツンから聞いていたこの山に住む者、岩猫とツンは言っていたが、その人物ないし、他に誰も見つける事は出来なかった。
川 ゚ -゚) 「……まあ、そう簡単に見付かるとは思ってなかったが」
せめてこの世界の人口の絶対数ぐらいは知っておきたいと改めて思う。
探すべき人数は後3人だが、10人の中の3人を探すのと、1000人の中の3人を探すのでは大きな違いがある。
ただ、この世界に住む者はかなり少ないのではないかと予想はしている。
遭遇率にしろ、ツンの話にしろ、あがる人数が少なすぎる。
生き物自体が少ない世界の様だ。
しかし、植物まで捜索対象に含まれるのならかなり難航しそうだが。
どちらにしろ、出会えない事には意味がないのだから、ほとんど運任せの探索しか出来ていない今なら大差ない気もする。
川 ゚ -゚) 「少し休憩にするか」
疲れるほど歩き回ったわけでもないが、時間的には昼時だ。
この辺りで昼食を取っておく。
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:05:11.91 ID:heK8QbeNO
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ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ
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川 ゚ -゚) 「……長閑だな」
そよぐ風に吹かれ、揺れる花を眺めながらの昼食。
ハイキングを満喫してる様にしか見えないが、流石に心から楽しむというわけには行かない。
お役目があるし、おまけにタイムリミット付きと来た。
現状、いい様に情報を操作されている以上、焦った所で仕方がないのはわかっているが、
そうそう割り切れるほど人間は出来ていない。
何とかして自分の手で答えの切片を掴みたいという気持ちが先行する。
川 - -) 「やれやれ……」
何度となく自問自答を繰り返した問題だ。
これ以上考えても答えが見えて来ないのも重々承知している。
私は、気を落ち着かせるために草原に寝転がった。
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:07:55.79 ID:heK8QbeNO
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ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ (*ー*) ミミ( 井 )リリ
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視界には色とりどりの花がいくつも飛び込んでくる。
花は何の悩みもない様に、吹く風に揺れている。
川 ゚ -゚) 「……優雅なもんだ」
日の光を浴び、雨の恵みを受け、花は育つ。
どちらも十分に得られ、刈り取る人もいないこの場所なら、存分に育つ事が出来るのだろう。
増えるためには虫も必要だった気はするが、この辺りでは見かけない。
川 ゚ -゚) 「……ん?」
よく見ると、1つだけ咲いていない花があった。
まだつぼみの状態なのか、丸い形で、花びらなどは一切ついてない。
つぼみがあったとしても別段不思議はないのだが、他の花が満開な分、妙に目立つ。
私は何となくそれが気になり、手を伸ばしてみた。
川 ゚ -゚)つ 「一応手袋はしておくか」
- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:09:46.72 ID:heK8QbeNO
- パチッ
ミミ( 井 )リリ ミミ( 井 )リリ (*゚ー゚) ミミ( 井 )リリ
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川 ゚ -゚)つ (*゚ー゚)
クルッ
川;゚ -゚)つ (゚ー゚*)
(*゚ー゚) 「こんにちは」
川;゚ -゚) 「こ、こんにちは」
毎度毎度、我ながら迂闊な事だ。
少しはその可能性も考えなくはなかったが、やはり突然出て来られると驚きはする。
私は、震えそうになる声を抑えて、努めて冷静を装い未知との遭遇に相対した。
(*゚ー゚) 「あなたは誰?」
川 ゚ -゚) 「私はクーという。ここではない別の世界から来た」
(*゚ー゚) 「別の世界?」
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:12:34.53 ID:heK8QbeNO
-
川 ゚ -゚) 「ああ、話せば少し長くなるが、出来ればその前に君の名前を聞かせて欲しい」
(*゚ー゚) 「名前?」
川 ゚ -゚) 「君も固有の名前を持たない口かな?」
花は軽く首を傾げるような仕草をした。
風に揺れたわけではなく、多少は自分の意思で動かせる様だ。
地面から根っこを引き抜いて歩き出したりするのかもしれない。
(*゚ー゚) 「花」
川 ゚ -゚) 「うん、広義には君は花に見えるね」
また翻訳機の所為か、彼女が名乗った名前は花としか認識できなかった。
今の所、同じ様に話しかけてくる花はこの花だけみたいなので、会話に困る事はない。
ならばひとまずこのまま話を続ける事にする。
川 ゚ -゚) 「君は次元の裂け目の事を知っているかな?」
(*゚ー゚) 「次元の裂け目?」
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:14:55.09 ID:heK8QbeNO
-
川 ゚ -゚) 「……その様子では知らないかな」
一応、こちらの言葉は通じているようだが、どうにも反応が芳しくない。
こちらの言葉をオウム返しにするだけだ。
話を急がず、まずはこの子のペースで話させるべきだろうか。
川 ゚ -゚) 「えっと……君はここで何をしてるのかな?」
(*゚ー゚) 「私? 私、ずっとここにいる」
いくつか質問を重ね、自身の事を聞いてみるも、返事としては花として当たり前のものしか得られなかった。
やはりこの子は花、植物の様で、知能もあまり高くない。
次元の裂け目の情報を得る相手としては厳しいものがある。
だが、この子が生きて意志を持っている以上、原因である可能性はないわけではない。
原因である可能性、つまりは何かしら悩みを持っている可能性がある。
川 ゚ -゚) 「君は他の花とは違うみたいだけど、どうしてかな?」
(*゚ー゚) 「わからない。私、わからない」
- 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:17:26.00 ID:heK8QbeNO
-
川 ゚ -゚) 「他の花とは話せないのかな?」
(*゚ー゚) 「話せない。私、1人」
いつからなのか、原因が何なのかはわからないが、この子だけが突然変異的に意思を持ち、
話せる様になったのだろうか。
確かに、この辺りをざっと見渡してみても他に似たような姿の花はない。
この子だけが明らかに異質だ。
元から全く別の生物だった可能性もある。
さて、どうしたものか。
一見して悩みもなさそうな雰囲気だが、聞くだけ聞いてみるべきか。
川 ゚ -゚) 「最近何か困った事はないかな?」
(*゚ー゚) 「困った事?」
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:19:44.48 ID:heK8QbeNO
-
(*゚ー゚) 「……」
考え込んでいるのか、沈黙を保つ花を見ながら、私は色々なケースを想定していた。
生育環境としてはここは何の問題はなさそうに見える。
日の光も、水も潤沢に得られる。
長い乾季があるという話は聞いていないから、干上がる事もないだろう。
この辺りの花や植物の育ち具合から見るに、他の捕食者の存在があるとも考え難い。
草食動物はもとより、昆虫すら見かけない。
(*゚ー゚) 「花、咲かない。花火、綺麗」
_,
川 ゚ -゚) 「え? 何?」
沈黙を破り答えを口にした花だが、私はその意味が理解出来ず、聞き返してしまっていた。
私の言葉に花はもう1度同じ台詞を繰り返す。
最初に感じた様に、この子はまだ咲いていない花の様だ。
その理由まではわからないが。
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:22:14.65 ID:heK8QbeNO
-
しかし前者は何となくわかるが、後者の意味がよくわからない。
川 ゚ -゚) 「花火?」
確かにこの子は花火と言った。
また翻訳機が曖昧に訳したのか、恐らくこの子が花火と言うものが私の知っている花火に類似しているのだろう。
これまでのAA界でのやり取りを考慮すると、翻訳機自体は優秀で、故障もしてないはずだ。
(*゚ー゚) 「花火、綺麗。私も、咲きたい」
川 ゚ -゚) 「ああ、確かに花火は綺麗だな」
自分が咲けないでいる事から、空に咲く花火に憧れているという事だろうか。
わからない話ではない。
しかし、ここで見逃せない、重要な点がある。
それは……
川 ゚ -゚) 「その花火は誰か上げているのかな?」
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:25:07.42 ID:heK8QbeNO
-
(*゚ー゚) 「花火、走る、飛ぶ」
_,
川 ゚ -゚) 「走る? 飛ぶ?」
私は、その言葉の意味が理解出来ずに再度聞き直すが、花からの答えは変わらない。
飛ぶというのはまだわかる。
花火は空に打ち上げられるものもある。
だが、走るというのは……
川 ゚ -゚) 「ねずみ花火みたいなやつか?」
それなら多少は納得いくが、あれは咲いている様には見えないと思う。
回転して、最後に打ち上げ花火の様に弾けるならあるいは、とも思うが、それは危険極まりない花火だ。
そんなものが近場で爆発したら、この辺りの花達に被害が及ぶだろう。
川 ゚ -゚) 「その花火はどこで見れるのかな?」
(*゚ー゚) 「ここ、花火、見れる」
- 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:27:35.64 ID:heK8QbeNO
-
川 ゚ -゚) 「そうか。では、いつ見れるのかはわかるかな?」
花火というぐらいだ、やはり夜だろうか。
しかし、今の所、夜のAA界を出歩いた事はない。
最初は話を聞く必要があったから、夜はワタナベの家にいたが、その必要がなくなった今なら出歩いてもいいのだが、
星の明かりしか差さない真っ暗な世界を1人出歩くのは少し躊躇ってしまう。
AA界には地球で言う所の月はない。
当然、街灯何かもないから、単純に危険度は増すだろう。
ワタナベに聞いても、夜は寝ているから知らないという答えしか返ってこなかったが、ツン達が言うには、昼間と大して変わらない
という話ではあった。
彼らも皆、昼型の生活らしいからそう詳しいわけでもないとの事だが、これといって危険な事に遭遇した事はないと言っていた。
もし花火が夜にしか見えないのなら、この場に夜来る事も考えなければならないだろう。
花火を打ち上げている人物に会う為に。
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:30:10.99 ID:heK8QbeNO
-
(*゚ー゚) 「いつ、花火、今、花火」
川 ゚ -゚) 「ん? 今? 今って……」
考え込んでいて言葉の意味を把握し損ねた私は、再度花にその意味を確かめ様とした。
しかしそれは、背後からした草を掻き分ける音によって中断される。
川;゚ -゚) 「何だ? ……ツン?」
ひょっとしたら見知った顔が来たのかと思い声をかけてみたが返事はない。
代わりに、草むらの中から何かが飛び出して来た。
スタッ
┏(^o^ )┓
┃┃
川;゚ -゚) 「え?」
それは小さな丸い玉の様な顔に、手足がついた不思議な生き物だった。
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:32:09.40 ID:heK8QbeNO
-
川;゚ -゚) 「な、何?」
(*゚ー゚) 「花火、花火、来た」
川;゚ -゚) 「は、花火? あれが?」
┏(^o^ )┓
┃┃
花に花火と称された生き物(?)は、着地したその場にじっと立ち尽している。
混乱しつつも観察してみるが、どう見ても花火には見えない。
と言うか、生き物の時点で花火ではない気がする。
川;゚ -゚) 「おい……」
意を決して話しかけてみたが返事はなく、ぴくりともしない。
見様によっては笑ったようなその表情も、まばたき1つなく、ただまっすぐに前を見詰めている。
前、すなわち崖の方を。
- 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:35:50.21 ID:heK8QbeNO
- スチャッ
┗(^o^ )┓
┏┗
川;゚ -゚) 「!?」
突然、花火が体勢を変えた。
右手を前にあげ左手を後ろに下げる。
左足は前、右足は後ろといわゆる、スタンディングスタートの体勢に見える。
川;゚ -゚) 「えーっと……何だか嫌な予感がするんだが、こちらに敵意はないぞ、おk?」
こちらの声にはやはり反応を見せず、花火は走り出した。
まっすぐに、私と花の横を通過し、崖の方へ走る。
┗(^o^ )┓三
┏┗ 三
(*゚ー゚) 「花火、走る、花火、飛ぶ」
花が先程よりは少し上ずった調子の声で言う。
人に置き換えれば興奮した口調とでも言うべきか。
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:38:01.77 ID:heK8QbeNO
-
川;゚ -゚) 「む……」
そうこうしている内に、花火は崖っぷちまでたどり着き、そのまま躊躇うことなく空へ飛んだ。
┗(^o^ )┛ ポイーン!
┗┃ 彡
(*゚ー゚) 「花火、飛んだ」
ティウン ティウン
◎
◎ ◎
◎ ◎ ◎
◎
◎
◎
そして弾けた。
- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:41:17.92 ID:heK8QbeNO
-
川;゚ -゚) 「おい、爆発したぞ? あいつ、大丈夫なのか?」
ある意味予想通りの展開だが、どう考えても大丈夫じゃないだろう。
あの生き物自体が小さかったから、それ程大きな広がり方はしなかったが、確かに私が知っている花火のそれと
酷似していた。
(*^ー^) 「花火、咲いた、花火、綺麗」
川;゚ -゚) 「え、いや、まあ、綺麗っちゃあ綺麗だが……」
花はそんな私の驚愕や心配など全く意に介さずただ喜んでいる。
今のが何だったのか、詳しく教えて欲しいものだが、この子からは聞けそうにもないだろう。
同時に、花火を打ち上げている人に会うと言う目的は果たす事が出来なくなってしまった。
花火自体は、あれ1匹(?)というわけではないのだろうが、あれも話が通じなさそうではある。
その辺りを確かめる為に捕まえてみるだけの価値はあるかもしれないが、爆発されたりしたら厄介だ。
小さいとは言え、間近で花火が爆発したら結構な被害を受けるだろう。
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:44:13.08 ID:heK8QbeNO
-
(*^ー^) 「花火、綺麗、私も、咲きたい」
川;゚ -゚) 「いや、ああいう咲き方はお勧めしないぞ?」
先ほど花が言っていた事は大体理解出来た。
割と見たままの状況だったらしい事に今更ながら気付く。
咲けない花が、綺麗に咲いている(様に見えるらしい)花火に憧れているという事だ。
川 ゚ -゚) 「悩み……か……」
可能性から言えば、この子が次元の裂け目の発生原因である可能性もないわけではない。
本人は花だと言うが、周りの花と比べたら明らかに異質だ。
葉の形などは似ているが、それだけでは同じ種類だと決め付ける事は出来ない。
川 ゚ -゚) 「君は、花を咲かせたいんだね?」
(*゚ー゚) 「私、咲きたい。綺麗に咲きたい」
川 ゚ -゚) 「ふむ……」
- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:45:58.50 ID:heK8QbeNO
-
であるならば、試してみる価値はあるだろう。
原因云々の前に、困っている者を前に、何もしないというのも主義に反する。
ただ、問題は……
川 ゚ -゚) 「何で花を咲かせられないんだ?」
(*゚ー゚) 「何で? 咲かない?」
(*´へ`) 「わからない。咲かない、わからない」
川 ゚ -゚) 「そうか……」
咲かない原因がわからないとなると少し難しくなる。
単純に考えれば、栄養不足とか環境の問題だが、周りの花を見てもわかるように、ここは
だいぶ恵まれた環境の様に思える。
そんな中で何故この子だけが咲けないかがわからないとどうしようもない。
川 ゚ -゚) 「水は足りてるよな? 日光も」
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:49:36.40 ID:heK8QbeNO
-
生憎、園芸の趣味などはないから大したアイデアは思い浮かばない。
一言断って花に触ってみても、健康という言い方が正しいかわからないが、どこもおかしい様には見えない。
瑞々しい葉や茎に、丸く膨らんだつぼみなのか頭なのかがあるだけだ。
川 ゚ -゚) 「何でだろうな……」
(*゚ー゚) 「何でだろうね」
花と私は、お互い顔を見合わせて同時に首を傾げた。
そのかわいらしい仕草に、少し口元が緩んだ。
川 ゚ー゚) 「ちょっと考えてみるよ。何かしら原因が──」
そう言いかけた私の言葉は、突如として空から降ってきた何かによって遮られた。
ζ(。▽。ζ ポヨーン!
ζ .ζ
川;゚ -゚) 「うおっと!?」
降って来たのが見知った顔だと気付いたのは、ツンが4回ほど跳ねた後だった。
- 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:51:25.44 ID:heK8QbeNO
-
ξ゚听)ξ 「あら、クーじゃない。こんなとこで何やってるの?」
川;゚ -゚) 「やあ、ツン、中々心臓に悪い登場の仕方だね」
だんだんと跳ねる高さが低くなり、ツンは私の足元に降り立った。
あの高さから落ちて来るツンに踏まれるのは勘弁願いたい所だ。
ξ゚听)ξ 「大丈夫よ、私は」
川;゚ -゚) 「たぶん大丈夫じゃないな、私は」
ξ゚听)ξ 「それで、何してたの?」
川 ゚ -゚) 「そうだった。いい所に来てくれた」
私はツンの両手を取って、ぶんぶんと上下に振って歓待の意を表す。
ξ;゚听)ξ 「ちょっと、止めなさいよ。痛いってば」
川 ゚ -゚) 「早速この子の事聞きたいんだが」
ξ゚听)ξ 「この子?」
- 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:54:10.27 ID:heK8QbeNO
-
(*゚ー゚) 「こんにちは」
ξ゚听)ξ
川 ゚ -゚)
ξ゚听)ξ 「こんにちは」
そう言ったっ切り、ツンはじっと花を見詰めている。
私はツンの言葉を待つが、ようやく帰って来た言葉は期待からは大きく外れていた。
ξ゚听)ξ 「この子何?」
川 ゚ -゚) 「知り合いじゃないのか?」
ツンが住んでいるのはこの辺りじゃないのかと聞くと、やはり普段はこの広場に住んでいるという。
川 ゚ -゚) 「だったら見かけたりぐらいは……」
ξ--)ξ 「知らないわね」
ξ゚听)ξ 「いつからいるの?」
(*゚ー゚) 「私? 私、ずっとここにいる」
- 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:56:18.88 ID:heK8QbeNO
-
花の返事は先ほどと同じ、しかし、ツンは知らないと言う。
私はツンを促し、花に断りを入れて花から少し離れた場所へ移動した。
川 ゚ -゚) 「あまり難しい話は通じない様だ」
ξ゚听)ξ 「そんな感じはするわね」
花から聞いた話を一通りツンに伝え、意見を伺う。
ツンの見解は“ずっといる”というのは疑わしいという事だ。
ξ゚听)ξ 「でも、ウソじゃないのかもね」
川 ゚ -゚) 「と言うと?」
ξ゚听)ξ 「意識を持ち始めてからずっといる。そしてその期間がまだ短いだけだとしたら」
川 ゚ -゚) 「なるほど……」
ツンもそんな毎日花をじっと見ていたわけでもないが、少なくとも1ヶ月前はこの場所にあんな生き物は
いなかったはずだと主張する。
川 ゚ -゚) 「まあ、何にせよ、あの花を咲かせてあげたいのだが」
ξ゚听)ξ 「花をねぇ……私も専門外だわ」
- 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/18(木) 01:59:03.32 ID:heK8QbeNO
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門外漢同士、いくら悩んでも答えは出ないだろう。
心因の面からも考えてはみるが、咲けない事で悩んでいる以外は他に悩みはなさそうだ。
ξ゚听)ξ 「どうする?」
川 ゚ -゚) 「あ、もう1つ聞きたい事が」
また花の方から草を掻き分ける音が聞こえてきた。
私はそちらを指差し、ツンに問う。
川 ゚ -゚)σ 「あれは何だ?」
ξ゚听)ξ 「あれ……花火? 花火は花火としか言い様がないわね」
ティウン ティウン
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◎ ◎
◎ ◎ ◎
◎ ◎
◎
意外にもあれはこの辺りでは一般的な生き物の様だった……。
第13話 了 〜 彼の花はただそこに咲くことを望んだ 〜
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