2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:31:09.15 ID:mTLXToo80
【March 8】


部屋の前に、一つの人影があった。
音を立てないようにドアを開け、中を覗く。


川 ゚ -゚)「よし、誰もいないな」


いかにも怪しげなこの少女の名はクー。
消しゴムだ。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:33:36.12 ID:mTLXToo80
彼女はすっかり住み慣れた部屋を見渡す。
誰もいないのを確認すると、彼女はスルリと忍び込んだ。
改めてみると意外と広い部屋だったことに気づく。


川 ゚ -゚)「そして案外少ない私の荷物」


手早く私物をかき集める彼女。
洋服に教科書に制服と、大事な宝物。
それらを一つにまとめるまでにそう時間はかからなかった。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:35:42.31 ID:mTLXToo80
未練はある。
少しどころではなく沢山、沢山。
もっとはしゃいで、バカみたいなことをして笑ってそして、

彼の傍にいたかった。


目にかかった前髪を掻き揚げ、部屋を出ようとする。
ふと目にとまった写真の中で、彼が笑っていた。
彼にそっくりな人形を、大切な宝物をそっと抱きしめた。

再び静かにドアが閉まる。
このドアが彼女によって開かれることはもうないかもしれない。





6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:39:14.40 ID:mTLXToo80
夕暮れに染まる街へと歩き出す。
思い出のある場所を一つ一つ、回っている。

カラオケボックス、ゲームセンター、いつもの通学路。
一つ一つ丁寧に。

あの日以来のUFOキャッチャーは相変わらず上手くいかなかった。
通学路まで来る頃にはすっかり日も暮れていたので、知り合いに会うことは無い。
街を包み込んだ暗闇に少し感謝した。

最後にほんの1週間ほど前にベンチを消してしまった公園へとやってくる。
ここが私の最後の目的地だ。
いつの間にか設置されていたベンチに腰掛けながら空を見上げる。
星は見えない――――神様も、見えない。




7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:40:59.14 ID:mTLXToo80

川 - )「なんだよ、もし見つけたら殴ってやりたかったのにな」

N| "゚'` {"゚`lリ「なんだ、嫌なことでもあったのか?」


ふと気づくと、横にはいつかのイイ男が座っていた。


川 ゚ -゚)「なんでもないさ」

N| "゚'` {"゚`lリ「なんだ、釣れないな」


そう言うと男はタバコを取り出し、火をつけた。
煙をふかして、同じように空を見上げる。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:44:09.46 ID:mTLXToo80

N| "゚'` {"゚`lリ「ところで嬢ちゃん、ここは俺の指定席なんだが」

川 ゚ -゚)「そうか、では私は他にいくとしよう」


腰を浮かせようとすると、男の手に遮られる。


N| "゚'` {"゚`lリ「いや、今日は俺が消えるよ。」

川 ゚ -゚)「どうして?」

N| "゚'` {"゚`lリ「考え事をするときは、星を見るのが一番なんだ」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/07(金) 20:46:55.80 ID:mTLXToo80
再び空を見上げる。
やはり星なんて見えない。


N| "゚'` {"゚`lリ「こいつは最後の魔法だ――――つらい思いをさせてすまなかったな」


男が指を鳴らす。
刹那、空に光が生まれた。


川;゚ -゚)「――――!」


急いで振り向くと、もう男はいなかった。
冷たい風が頬をなでる。


川 ゚ -゚)「殴っておけばよかったな」


夜は更けていく。




続く


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