1 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:35:15.05 ID:IHywousQ0


 私は、途切れたガードレールの前で、立ちつくしていた。
 ついさっき、ここに車が飛び込んだ。
 そして、私は、死んだはずだった。





¢奈落の鍵¢


2 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:36:35.48 ID:IHywousQ0

−1−


 展望台の駐車場には、私たちが乗ってきたワゴン以外、一台も止まっていなかった。
 平日に展望台に来る人間なんて、そうそういないのだろう。
 いるとしたら、街を離れてロマンチックな夜景に酔いたいカップルくらいだ。
 この特別な日に、そんな人間たちに出くわす事が無いのが幸いだった。

 ワゴンの横で、バーベキューコンロがじりじりと肉を焦がしている。
 バーベキューなんて、中学校の臨海学校以来だった。
 目の前で焦げ茶色に変色していく肉を見て、唾が溜まる。
 立ち上る白い煙が、一つしかない街灯の光を帯びて、風に散っていく。


3 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:38:22.77 ID:IHywousQ0

(´・_ゝ・`) ビールありますよ

 おろしたてのようなスーツを着たデミタスさんが、ワゴンの後ろからクーラーボックスを出してきた。
 真っ先に飛びついたのは、ジャンヌさんだった。

ノリ, ^ー^)li 飲む飲む! 飲みまーす!

 デミタスさんが地面に降ろしたクーラーボックスに、玩具を与えられた子供のように飛びつく。
 痛んだ彼女の金髪が、上下に激しく揺れた。ジャンヌさんは、おせじにも綺麗とは言えない。
 皺の寄った目元に、大きなシミがある。丸々と太った体は、水風船を連想させた。

 年齢は知らないが、おそらく三十目前といったところだろう。
 しかし年に似合わない猫なで声を出す。私はその甘ったるい声が、嫌いだった。


5 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:41:12.92 ID:IHywousQ0

('A`) 俺も、いいかな

 ジャンヌさんに比べて、幾分も控えめにやってきたのは、ドクオさんだ。
 くたびれたポロシャツと、安っぽいジーンズが、彼らしく、ダサかった。
 今日集まった五人の中で、いちばん年長者、だと思う。年を聞いてないから、確かな事は言えないけれど。

(´・_ゝ・`) チューハイもありますけど

('A`) ……ビールで

 ドクオさんは、ニキビだらけの顔を掻きながら、少し間を置いて返事をした。
 それを聞いたデミタスさんは、赤いラベルのビールを取って、ドクオさんに手渡す。
 もう一方の手で、同じビールを持っていた。


7 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:44:01.98 ID:IHywousQ0

ノリ, ^ー^)li デミさん、飲むんですかあ? 運転手なのにい?

(´・_ゝ・`) 少しだけしか飲みませんよ。それに、今日くらいいいじゃないですか

 ジャンヌさんは、人をあだ名で呼ぶのが好きらしい。デミタスさんはデミさん。
 ドクオさんはドクさん。私は、

ノリ, ^ー^)li ルーちゃん。ビール飲むう?

 こう呼ばれている。

ルカ*゚ーノリ 私、お酒飲めませんから

 私は自分の名前を気に入っている。だからあだ名で呼ばれるのが嫌だった。
 でも彼女の猫なで声で本名を呼ばれるのも嫌だったので、気にしない事にしていた。


8 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:46:20.37 ID:IHywousQ0

('A`) これどうぞ

 ドクオさんが、乾杯用の紙コップを運んできてくれた。
 すぐ横で、デミタスさんが即席のテーブルを作ってくれている。
 私は車から、組み立て式の椅子を5つ持ってきた。
 ドクオさんは、肉が焦げないように箸を動かしている。
 ジャンヌさんだけは、呆けた顔で夜空を見上げていた。

ノリ, ^ー^)li 綺麗ねえ

ルカ*゚ーノリ そうですね

 椅子を組み立てながら、適当な返事を返した。


9 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:49:10.71 ID:IHywousQ0

ノリ, ^ー^)li 良かったねえ。晴れて。雨だったらげんなりだったねえ

 本当に、晴れて良かった。
 夜空に散らばる幾千の星は、心の底から綺麗だと思えるものだったから。

 人と離れている場所ほど、美しい景色があるのだろうか。
 都会にオーロラが無いのは、そういう事かもしれない。

「水道、向こうにありましたお」


10 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:51:16.02 ID:IHywousQ0

 みんなの視線が、私の背後に集まる。
 振り向くと、全てを見透かしたような微笑みをした男が立っていた。

( ^ω^) もう飲んでるんですね

 彼はブーンと名乗った。私と一番年が近い、と思う。
 たぶん二十歳前後くらい。

(´・_ゝ・`) ブーン君。ビールとチューハイ、どっちがいい?

( ^ω^) ビールをお願いします

 年下の私が言うのもなんだけど、彼は年の割に、凄く落ち着いた感じがした。
 一つ一つの動作が滑らかで、優雅とさえ思える。顔も、結構イケてる。


11 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:54:15.56 ID:IHywousQ0

ノリ, ^ー^)li はあいどうぞ

 ジャンヌさんが紙コップと、蓋の開いたビールを差し出す。
 ブーンさんの前では、猫なで声に磨きがかかるようだ。
 彼は軽く会釈してから、紙コップを受け取り、ビールを注いでもらった。
 その間、ジャンヌさんはずっと熱っぽい視線を彼に送っていた。

(´・_ゝ・`) それでは乾杯といきましょうか

 いつの間にか、テーブルは完成していて、肉の乗った紙皿が五つ置かれていた。
 私たちはテーブルの周りに集まった。ジュースの入った紙コップが一つあり、自分のだとわかった。
 私がそれを手に取ると、みんなは示し合わせていたかのように紙コップをかざした。


12 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 00:57:11.14 ID:IHywousQ0

ノリ, ^ー^)li 何に乾杯するんですかあ?

(´・_ゝ・`) あ……と

 デミタスさんは言いよどんだ。
 そもそも、私たちに乾杯するような出来事なんて何一つ無いはずだ。
 だって私たちは、これから死ぬんだから。

( ^ω^) この夜空に、でいいんじゃないんですか?

 ブーンさんの提案に、私たちは無言で頷いた。
 少しキザっぽかったけど、悪い気はしなかった。


13 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:01:16.79 ID:IHywousQ0

−2−


(*´・_ゝ・`) マジで?

ノリ,*^ー^)li うんうん、そうなの。キモくない?

(*´・_ゝ・`) やばいでしょ。それ

 デミタスさんとジャンヌさんは、すっかり出来上がっているようだ。
 真面目な社会人風だったデミタスさんが、拙い日本語で稚拙な会話を交わしているのを見て、何だか面白かった。

(*'A`) 俺もさ、昔は昇進目指して頑張っちゃった時があったんだよ

( ^ω^) そうなんですか

(#'A`) で、リストラ。ふざけんじゃねーって思ったよ。最悪。サーイーアーク


14 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:03:15.30 ID:IHywousQ0

 無口だったドクオさんも、顔が赤みを帯びる頃には、随分と饒舌になっていた。
 詮索することはやめましょう、とデミタスさんは出発する前言っていた。
 しかしデミタスさんを始め、みんなは詮索する暇も無く、一人で勝手に喋っている。
 今までため込んでいた毒を、酒臭い息と一緒に吐き出しているみたいだった。

ノリ,*^ー^)li 男は猿よね。みんな体目当て

(*´・_ゝ・`) 人間なんだからセックスしたいのは当たり前でしょ。ねえルカちゃん?

ルカ*゚ーノリ え?

ノリ,*^ー^)li きゃはははは! ルーちゃんにはまだ早いって

 二人はゲラゲラと笑った。何が面白いのかわからなかったが、私も一応笑いかえしておいた。


15 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:06:05.96 ID:IHywousQ0

(*´・_ゝ・`) ルカちゃん、彼氏とかいる?

ルカ*゚ーノリ ……いません。いたこと無いです

(*´・_ゝ・`) へえ、そうなんだ

 デミタスさんの視線が、私を足下からなめ回す。
 風に揺れるスカートを、そっと手で押さえた。

(*´・_ゝ・`) モテそうなのに勿体ないね

 勿体ないという意味がわからない。無理して男と付き合って、何が得られるというんだろう。
 ただしたいように生きて、したいように死ぬだけだ。
 そこに勿体ない、なんて言われるような無駄は無いはずなのに。


16 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:09:29.41 ID:IHywousQ0

ノリ,*^ー^)li じゃあセックスした事も無いの?

ルカ*゚−ノリ ……あ、はい、まあ

 当たり前だろ、と言ってやりたかった。
 でもそういえば、付き合っていない男の子とエッチする子は、私の周りにもいたな。

ノリ,*^ー^)li じゃあさ、デミタスさんと寝てみたら?

 その場の時が止まった。

(*´・_ゝ・`) ……

ルカ;゚−ノリ い……いや、それは……


17 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:15:29.02 ID:IHywousQ0

 みんなの視線が集まるのを感じた。
 とりわけ、デミタスさんがじっと私を、私の体を見つめている。

 心の奥から濁った感情がわき上がるのを感じた。
 とにかく、気持ち悪かった。

(*´・_ゝ・`) 何言っているんですか、ジャンヌさん。馬鹿な事言わないで下さい

 私の体から視線を外して、デミタスさんがとり繕った笑顔で言う。
 さっきまで、頭の中で何を考えていたか、容易に想像がついた。
 高校生というブランドは、男にとってどれくらいの価値があるんだろう。
 私には、わからない。

( ^ω^) ジュース、どうぞ

ルカ*゚ーノリ あ、はい


18 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:20:59.07 ID:IHywousQ0

 固まっている私を助けるように、ブーンさんがオレンジジュースのペットボトルを持ってきた。
 私は素直に紙コップを差し出し、注いでもらった。

(*'A`) あんたさ、不思議な人だよな

 一瞬私に向かって言っているのかと思ったが、どうやらブーンさんの事らしい。

( ^ω^) どこがですか

(*'A`) いや、雰囲気という、か

 言葉が躓いたように聞こえた。
 ドクオさんは口べたっぽいから、上手く言葉で表せないでいるようだ。


20 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:26:15.03 ID:IHywousQ0

(*´・_ゝ・`) ですよね。何だか、影が無いっていうか……

ノリ,*^ー^)li これから死ぬ人とは思えない感じ

( ^ω^) そうですか。自分では、死ぬ気満々ですお

 死ぬ気満々、という言い方が可愛くて、自然に笑みがこぼれた。
 『それと』ブーンさんは続けて、

( ^ω^) 影が無いっていうのは、存在自体が無いからだと思いますお

 と言った。
 その場で笑いが起こったが、酒の力を借りて、訳のわからない彼の言葉を笑い飛ばしただけに思えた。


21 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:30:46.56 ID:IHywousQ0

−3−


 ‘ヴィヴィッド’という自殺専門のサイトがある。
 コンテンツのほとんどにパスワードロックがかけられていて、会員にならないと見られない。
 簡単なアンケートフォームに答えるだけで会員になれるので、大した手間では無いが。

 自殺OFF会の告知があったのは、会員パスとは別の閲覧パスワードがついた掲示板の中だった。
 私はホームページの管理人にメールをして、パスを教えてもらっていたので、その告知を知る事が出来た。

 告知の内容は、自殺をしたいものは、同じスレッドにメールアドレスをかき込め、という単純なものだった。
 警察などが嗅ぎつけるのを恐れてか、そのスレッドは一週間ほどで消えた。
 私が最後にそのスレッドを見たとき、メールアドレスが書かれた書き込みは、たぶん数十個あったと思う。


 書き込みが消えてから一週間後、OFF会の出欠確認のメールが届いた。
 私は迷わず、はいと送った。そのさらに一週間後、日時と場所がメールで送られてきた。
 家からそんなに離れていない、ファミリーレストランが待ち合わせ場所だった。


22 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:34:45.41 ID:IHywousQ0

 他県だったが、電車を乗り継げばすぐに行ける場所だ。
 冗談半分で送ったメールだったので、あまりの近さに少しだけ怖くなった。
 しかしよく考えれば、タネは単純なものだった。

 要は、書き込みの中で、近くに住んでいる者にだけメールを送ればいいのだ。
 掲示板の管理人なら、ホストが特定出来る。ホストが分かれば、大ざっぱな住所が特定出来るはずだ。
 そうして自分の近くに住んでいる者にだけメールを送ったのだろう。


 もしくはこうかもしれない。特定の地域を選んで、その付近にいる者にメールを送る。
 待ち合わせ場所をそれぞれの人物の中間地点にしておけば、メールを送られた者はみんなが近いと感じる。

 どちらを選んだのか、管理人であるデミタスさんに聞かないと、わからない事だ。
 大して興味も無いので、私は聞いていない。


23 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:39:24.00 ID:IHywousQ0

 初めて彼らと出会った時、言いようのない雰囲気にのまれた。
 影を帯びた顔に、どんよりと湿った空気が彼らを包み込んでいた。


 ファミリーレストランで軽い食事と自己紹介をした後、目的地に行く為にデミタスさんのワゴンに乗った。
 車中、会話はあまりはかどらなかった。みんな緊張していた。
 表面上は良くても、どこかけん制し合っているように感じた。
 それも、バーベキューが始まるまでの話だったが。

ノリ,*^ー^)li やばー。ちょっと暑いねえ

 手で顔を仰ぎながら、ジャンヌさんが怠そうに呟く。

(*´・_ゝ・`) ビールまだあるよ。冷えてるから。飲む?


24 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:44:03.63 ID:IHywousQ0

 『飲む!』子供みたいなはしゃいだ声が飛んでくる。
 私は冷めた目で、ビールを注がれる彼女の嬉しそうな顔を眺めていた。

( ^ω^) お酒、飲めないんだ

 空になった紙コップを持ったブーンさんが、私の横であらぬ方向を見て言った。


ルカ*゚ーノリ 飲んだ事はあります。不味かったです

( ^ω^) 酔うのを楽しむ飲み方もあるお

ルカ*゚ーノリ 気持ち悪いだけなので、いいです


 酔うのを楽しむ、と言っている割に、ブーンさんに酔っている様子は無い。
 盗み見していた限りでは、もう何杯も飲んでいるはずだけど……。
 お酒に強いのがいいかわからないけど、酔って人に絡むような人じゃないのは、良い事だと思えた。


25 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:47:43.89 ID:IHywousQ0

ノリ,*^ー^)li 何かさ

 言った矢先に、紙コップを傾ける。
 飲むか、喋るか、どちらかにしたらいいのに。

ノリ,*^ー^)li 死ぬのがわかってからさ、人生楽しくね?って思えてきたんだよね

(*'A`) あー

 同意するようにドクオさんが唸った。

(*'A`) 俺もそうなんだよね。死のうって決めたらさ、肩の荷が降りたって感じで

ノリ,*^ー^)li あーやっぱり!? そうだよね。私こんなに笑ったのは久しぶりだもん

(*´・_ゝ・`) 私もです


26 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:50:12.57 ID:IHywousQ0

 三人は顔を見合わせて笑った。私も、笑っておいた。

( ^ω^) 死ぬのが決まってから、ですかお

 ブーンさんは、遠くで光る街の光を見つめている。


( ^ω^) 死ぬのが決まっていない人間なんて、いるんですかね

 そう言って、彼は紙コップにジュースを注いだ。


 『お肉まだある? お腹空いたー』。ジャンヌさんがとぼけた調子で言った。
 デミタスさんは笑いながら、パックに入っている肉の余りを焼き始めた。


27 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 01:56:12.82 ID:IHywousQ0

−4−


 ジャンヌさんが気分が悪くなったと言ったので、デミタスさんがトイレに連れて行った。
 ドクオさんは、『展望台に行ってくる』と言って、ふらふらした足取りで一人離れていった。
 残された私とブーンさんは、野菜を炙りながら会話をしていた。

 といっても、喋っているのはもっぱら私の方だけだ。
 彼はほとんど相づちしかしないから、必然的にそうなってしまった。
 しかし絶妙のタイミングで質問が飛んできたり、自然に話を促すような相づちを打つので、喋っているのは苦にならなかった。


 私は生まれてから今までの、全ての出来事を話し尽くしたような感覚を覚えた。
 言葉で表現できる限りの私の人生を、彼に教えた気になっていたのだ。

 実際には、記憶に残っている事を時系列順に話しているに過ぎない。
 私の箇条書きの人生が、ほんの数十分で話し終えてしまう事だったのが、少しもの悲しかった。


29 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:00:25.02 ID:IHywousQ0

( ^ω^) 君は素直な子だね

ルカ*゚ーノリ ……素直

 言葉の端を捉えて、言い返しただけになってしまった。
 私だって口べただ。ウィットに富んだ返事なんて自分自身期待していない。

( ^ω^) 全てを受け入れて、全てを受け流している。そう見えるお

ルカ*゚ーノリ ……


 『どういう意味ですか?』。
 そう聞く前に、彼の声が被さった。

( ^ω^) どうして死のうと思ったんだお?


30 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:02:30.84 ID:IHywousQ0

ルカ*゚ーノリ ……

( ^ω^) ……

 幾度となく自問自答した質問だった。

ルカ*゚ーノリ じゃあどうして生きるんですか?

 ブーンさんだけでは無い。
 私は全人類に、この質問の答えを聞きたい。

( ^ω^) 生きる……

ルカ*゚ーノリ 生きる事に意味が無いんだったら、死ぬ事にも意味はありません


32 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:07:02.37 ID:IHywousQ0

( ^ω^) ……

ルカ*゚ーノリ 産まれた事にも、意味なんか無いんです

( ^ω^) どうして死を選んだんだお

 自分が饒舌になってきたのがわかった。
 気持ちが高揚している。酔ったのかな。オレンジジュースで。

ルカ*゚ーノリ 朝は卵焼きをつくって、毎日食べているんです

( ^ω^) へえ

ルカ*゚ーノリ 卵を割るのが下手で、よく失敗します


33 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:10:20.40 ID:IHywousQ0

ルカ*゚ーノリ 五日連続で卵を割るのを失敗した時、死のうって決めました

( ^ω^) 卵割りを失敗しただけで?

ルカ*゚ーノリ だから、意味なんて無いんですよ。みんなそうでしょう?

( ^ω^) みんなって?

ルカ*゚ーノリ みんな意味無く生きてるじゃないですか。意味なく生を選んでる

( ^ω^) ……

ルカ*゚ーノリ 私は意味無く死を選んだ。それだけなんです


36 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:13:24.79 ID:IHywousQ0

 喉が渇いたから、ジュースを一気飲みした。
 口の端からオレンジジュースが垂れたけど、気にならなかった。

( ^ω^) 親が悲しむお

 飲み終えたのを確認してから、彼は言った。


ルカ*゚ーノリ 親は、私じゃない。私の人生の一部ですから、関係ありません

( ^ω^) 見方次第だお

ルカ*゚ーノリ 親の‘子供を失った人生’と、私の‘死を選んだ人生’は、全く別物です

( ^ω^) ……

 『そうかもしれないお』彼はそう言って、私と同じようにジュースを飲み干した。
 私のように、口からだらしなくジュースが垂れる事なんて無かった。


37 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:16:47.98 ID:IHywousQ0

 『でも』彼はゆっくりと、味わうように言葉を紡いでいく。

( ^ω^) 先の事なんて、どうなるかわからないお


ルカ*゚ーノリ ……

( ^ω^) 考えが変わるかもしれないお

ルカ*゚ーノリ 本当にそう思ってます?

 彼は私の目を見て、薄く笑った。
 私の質問は黙殺された。


40 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:21:29.78 ID:IHywousQ0

−5−


 ドクオさんは、たっぷりと夜景を楽しんだらしい。
 『遠くで見ると、綺麗な街だったな』戻ってくると、感慨深げに私たちに語った。


 デミタスさんたちは戻ってくるのに一時間以上かかった。
 汗まみれになって返ってきた二人に、私は露骨に顔をしかめてしまった。

 トイレで何をしていたか、想像してしまったからだ。
 頭に浮かぶ二人の裸体を打ち消すように、私はそっと自分の頭を小突いた。


(´・_ゝ・`) じゃあ、そろそろ行きましょうか

 もう酔いは大分覚めているらしい。
 デミタスさんが、はっきりとした口調で言った。


41 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:23:41.76 ID:IHywousQ0

 ゴミ袋にゴミを集め、椅子やテーブルを片付ける。
 これから死ぬんだから、そのままにしておいても良いだろうと私は思った。

 でもみんなは律儀に掃除をする。
 死んだ後の事を考えていないのは、私だけなのかもしれない。


 片付けを済ますと、車に乗り込んだ。
 これから峠の頂きにある、一本杉まで行く。
 予定ではそこで首を吊るのだ。

 恋人たちが名前を彫ると、永遠の愛が誓えるというジンクスのある杉だ。
 カップルに対しての嫌がらせだと、デミタスさんは言っていた。


(´・_ゝ・`) ……

 私の横で、デミタスさんは無言で車を走らせている。
 てっきり助手席にはジャンヌさんが座るものだと思っていた。


42 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:25:51.00 ID:IHywousQ0

 しかしジャンヌさんは、後部座席で寝たいと言いだした。
 今後ろでシートを倒して寝息をかいている。
 ドクオさんとブーンさんは、何も言わずに後部座席へ乗り込んでいった。
 必然的に、私が助手席になったという訳だ。


(´・_ゝ・`) あのう

 じっと前を見つめながら、誰に話しかける訳でもなくデミタスさんは言った。


(´・_ゝ・`) 死ぬのやめにしません?

 私は息を呑んだ。


46 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:30:15.69 ID:IHywousQ0

−6−


ルカ*゚−ノリ どうしてですか?

 声を荒げるのは嫌いだった。相手に感情を悟られるからだ。
 でも今は、そんな事を気にしている場合では無かった。


(´・_ゝ・`) ……

 デミタスさんは答えない。
 代わりに、ドクオさんが言った。

('A`) 俺も、何か、死ぬ気無くなった

ルカ;゚−ノリ ……

 意味がわからない。私たちは死ぬ為に集まったのに。
 ついさっきまで、これから死ぬ事を前提に話をしていたのに。


49 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:32:20.27 ID:IHywousQ0

(´・_ゝ・`) もう、駄目かと思ったんだけど

ルカ;゚−ノリ ……

(´・_ゝ・`) その、まだいけるかなって、思って……

 歯切れの悪い言葉に苛立ちを覚える。
 何が駄目で、何がいけるのか、私には何もわからない。

(´・_ゝ・`) 君はまだ死ぬつもりなのかな

ルカ*゚−ノリ 当然です

(´・_ゝ・`) じゃあ悪いけど……一人でやって欲しい


50 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:34:53.53 ID:IHywousQ0

 一人でやる、というのは、もちろん一人で死ねという意味だろう。

ルカ*゚−ノリ 生きてどうするんですか?

(´・_ゝ・`) ……別に、何も

 デミタスさんの声は、暗いというより重い。
 彼の中で、生きるという決断はもう揺るがないように思えた。

('A`) 失業保険とかさ、まだ切れてないし

ルカ#゚−ノリ だから何なんですか

 横から口を出してきたドクオさんに、猛る気持ちをそのままぶつける。
 彼らの中で、何が変わったんだろう。ただ肉を食って、酒を飲んだだけなのに。


52 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:37:04.74 ID:IHywousQ0

(´・_ゝ・`) 彼女が言ったんだ。一人は寂しいって

 彼女とは、ジャンヌさんの事だろう。

(´・_ゝ・`) だから私は、彼女の傍にいたいんだ

 トイレの情事で、気が移ってしまったようだ。
 そんなことで、この人は生きる道を選んだのか。

('A`) 俺は、さ

 ドクオさんが、今度は俺の番だと言わんばかりに、シートから身を乗り出してきた。


55 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:40:45.44 ID:IHywousQ0

('A`) 遠くから街を見て、綺麗だなって思ったんだ。俺の住んでる街とは違う街なんだけどさ

ルカ*゚−ノリ ……はい

('A`) その、思ったより良いかもしれないって思って。街……人の住んでる世界が

 ニキビだらけの頬を緩ませて、黄色い歯を見せてきた。
 私は顔をそむけて、窓から流れる暗い峠道に視線を移した。

ルカ*゚−ノリ ブーンさんは?

 彼は、

( ^ω^) 別に。どちらでもいいお

 と言った。


58 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:42:54.95 ID:IHywousQ0

ルカ*゚−ノリ ……

 良くなかった。
 彼らが生を選んだように、私は死を選んだんだ。


('A`) ジャンヌさんと付き合うの?

(´・_ゝ・`) ええ、まあ

('A`) 良かったな

(´・_ゝ・`) ありがとうございます

 二人が気色悪く微笑み合ったのが、窓に反射して見えた。
 どうして意味の無い生に、曖昧な理由を付け足してまで彼らは生きようとするんだろう。

 生きると決めたなら生き抜けば良かったのに。
 死ぬと決めたなら死にきれば良かったのに。


59 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:45:19.67 ID:IHywousQ0

ルカ*゚−ノリ さようなら

 振り返って、彼らに言った。
 私は腕を伸ばし、横からハンドルを握った。

 全体重を乗せて、勢いよく回す。
 遠心力がかかり、体が飛び出しそうになる。

 ジャンヌさんの叫び声が聞こえた。
 起きていたのか。

 目の端で、フロントガラスの向こうに、ガードレールが一瞬見えた。
 その直後衝撃が車全体を伝わり、私たちに襲いかかる。
 崖の下に広がる闇が、私たちを覆い尽くしていく。

 意識が無くなる直前、『死にたくない』と聞こえた。
 誰が言ったのかは、わからなかった。


61 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:47:08.80 ID:IHywousQ0

−7−


 意識が戻った時、私はアスファルトの上に立っていた。
 目の前には崖と、ちぎれたガードレールがある。

 空いた部分から崖の下を覗くと、遙か下の道路にひしゃげたワゴンが見えた。
 記憶はかなり混乱していたが、どう整理してもあの中に私はいるはずだった。

「どうして殺した」

 背中に投げられた言葉に、感情は感じられなかった。
 振り返ると、いつもの優しい笑顔の彼がいた。


63 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:49:41.67 ID:IHywousQ0

ルカ*゚ーノリ どうして……

( ^ω^) 死ぬなら一人で死ねば良かったんだお。なのに、どうして?

ルカ*゚ーノリ ……わからない

 街灯に照らされた彼の体は、きらきらと輝いていた。

( ^ω^) お前、鍵をかけすぎて自分を見失ったな

 口調がいつもと違う。
 こっちが本当の彼なんだろう。

 彼の言っている事は、普通なら意味不明な事なんだろうが、私にはよく理解出来た。
 鍵。私の心をコールタールのように塗り固めていたものは、そう呼ばれる存在なのか。


64 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:51:40.78 ID:IHywousQ0

ルカ*゚ーノリ 私、死んだの?

( ^ω^) ああ

 街灯が点滅する。
 光と闇が交互に彼を覆った。

( ^ω^) 今から、お前だけの‘死’が始まる

ルカ*゚ーノリ ……


「見つけてみろ。真実を」


 何度目かの闇が彼を覆った時、彼の姿は消えていた。


66 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:54:04.76 ID:IHywousQ0

ルカ*゚ーノリ ……

 意味の無い生は終わった。
 これから、意味の無い死が始まる。

 彼はきっとこういいたかったんだ。
 生きる意味を見つける為に、生きろと。

 しかし、それももう出来ない。
 私はこれから、死んだ意味を探す為に、死を送るのだ。


68 :愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中:2008/06/11(水) 02:54:26.75 ID:IHywousQ0


 さて、探し始めましょうか。

 閉ざされた真実を解く鍵を。



¢終わり¢


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