- 83 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 21:59:02 ID:jyX4DfO60
泣いている女。
その手に抱かれているのは、愛しき我が子。
周囲には、女のすすり泣く声だけが響いていた。
ξ゚听)ξ「なぜ、あの人は泣いてるの?」
呟くように言うツンの言葉に、ドクオは目を伏せた。
('A`)「後でな」
( ^ω^)は役人のようです
第五話「開戦」
- 84 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:00:37 ID:jyX4DfO60
ここは 群馬ではない。
栃木県鹿沼市。
群馬から逃げる者が、金網を乗り越えてようやくたどり着く平和の地。
しかし、そこは真の平和の地ではない。
平和の街という表の顔の中に覗ける裏の顔。
それは名産物として表れている。
その名産物を人は、鹿沼線香と呼ぶ。
ξ゚听)ξ「それで、何故あの人は泣いてたの?」
('A`)「抱いてた子供、よく見たか?」
ドクオの問いに、ツンは怯えたように喉を鳴らした。
涙の意味がわかったのだろう。
- 85 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:04:07 ID:jyX4DfO60
そして、それを確認するとうに、恐る恐る聞く。
ξil゚听)ξ「……死んでたの?」
再度目を伏せたドクオの代わりに、内藤は短く答える。
( ^ω^)「首……なかったお」
あの女性は、雪原に子供を埋めるため、あそこにいたのだろう。
内藤の答えを聞くと、ツンは声にならない声をあげた。
('A`)「恐らく、横根山を越えてきたのだろうな」
横根山、恐らく山賊の仕業だろう。
- 87 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:08:42 ID:jyX4DfO60
沈み行く空気を打ち消すように、内藤はドクオに尋ねた。
( ^ω^)「車を降りてずいぶんたつけど、いつ着くんだお?」
('A`)「もうそこだよ」
ドクオがそう言うと、森の中から一軒の旧家が見えてきた。
平屋建てのため、あまり高さもなく、周辺の木々にすっぽり隠れている。
( ^ω^)「実家かお?」
内藤の質問に、ドクオは短く否定の意を示した。
短く返す時は、あまり聞かれたくないことなのだろう。
そう思い、内藤は続く言葉を胸にしまう。
- 88 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:14:35 ID:jyX4DfO60
('A`)「入れよ」
ドクオに言われ、二人はその旧家に入った。
( ^ω^)「失礼するお」
ξ゚听)ξ「おじゃましまーす」
家の中は思ったより片付いていて、内藤の一人暮らし時代の部屋の惨状を知るツンは無邪気に喜んでいた。
一方、内藤は不気味な雰囲気を感じ、その感情を隠そうと躍起になっていた。
そして、できるだけ表情を消し、尋ねる。
( ^ω^)「いつもこんなに綺麗なのかお?」
- 89 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:17:58 ID:jyX4DfO60
- 内藤はわかっていた。
男の一人暮らしで、部屋を綺麗にする――それはほぼ不可能だ。
綺麗にできるのは、友人が多く尋ねてくる場合や、彼女がいる場合、それだけだ。
そして、あの職場にこの旧家へ案内する人はいないだろう。
更に、彼女がいるのなら、事前にそれをほのめかしてもいいはずだし、二人を招待するのに許可が必要なはずだ。
つまり、生活感がないは生活していないに直結する。
('A`)「ああ、だいたいこんな感じだ」
ξ゚听)ξ「ブーンの一人暮らしの時とは大違いね」
答えながら携帯を弄るドクオに、内藤は表情を強張らせる。
そして、ドクオは衝撃の告白をはじめた。
('A`)「ああ、俺一人暮らしじゃないからな」
- 90 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:24:11 ID:jyX4DfO60
- ξ;゚听)ξ「えええええええええええええええええええええええ」
驚くツンとは対照的に、内藤は周囲に睨みを利かせた。
そして、いきなり感じる人の気配。
咄嗟に内藤は、ツンをかばう様に一歩踏み出した。
そして、ドアがゆっくり、しかし確実に動いていく。
('A`)「紹介するよ」
そう言って、ドクオは開きつつあるドアを軽く触った。
ゆっくり開いたドアから飛び出したのは、中年の親父だった。
(´・ω・`)「やぁ、はじめましてをしなくちゃね」
- 91 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:29:35 ID:jyX4DfO60
- ( ^ω^)「どなた、ですかお?」
殺気を纏った視線を放ち、言う。
垂れた眉毛が特徴の中年の親父は、その様子に頭を掻いた。
(´・ω・`)「やれやれ、すごい殺気だね」
そう言って、真っ直ぐに内藤を見つめた。
(´・ω・`)「流石は、大阪で阪神の悪口を言った男だ」
ξ;゚听)ξ「え?」
垂れ眉の中年の言葉に、驚きを隠せない妻を後ろにして、
大阪で阪神の悪口を言った男、内藤は唇を動かした。
( ^ω^)「あなたは何者ですかお?」
- 92 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:34:31 ID:jyX4DfO60
(´・ω・`)「私の名前はショボン。
田中に喧嘩を売り、教室を追われた男だ」
そして、空気が凍る。
少しして、ようやく、と言った感じで口を開いたのは、やはり内藤だった。
( ^ω^)「田中、ですかお?」
必死に考えるが、内藤の知ってる人物に該当しそうな田中はいない。
しかし、これほど自信満々に言われたのだ。
有名な人物なのだろう。
(´・ω・`)「ああ、クラスの中心人物だった田中君、さ」
( ^ω^)「教室を追われたと言っていましたおね?」
内藤の質問に、ショボンはああと返す。
( ^ω^)「では、あなたは教師だったのですか?」
- 93 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:38:28 ID:jyX4DfO60
- その質問に、ショボンは気が狂ったのかのように笑い声をあげた。
('A`)「俺から説明するよ」
ドクオはそう前置きし、話を進めた。
('A`)「まず、内藤の質問の答えはノーだ
ショボンは教師じゃない。ニートだ」
( ^ω^)「ニート、ですかお?」
('A`)「ああ、ヒキニートって言うのかな?そういう類で間違いない。
そして、田中とは、ショボンの高校時代のクラスメイトだ」
ドクオは、まるで自分のことを語るかのように悲しそうな瞳をした。
('A`)「みんなから嫌われていたのになぜかクラスの中心人物だった田中に喧嘩を売り、ショボンは引きこもったのさ」
- 95 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:42:57 ID:jyX4DfO60
- ショボンの背中をさすり、ドクオは何かを言付けした。
すると、ショボンは笑うのをやめ、どこかへ向かっていく。
('A`)「あいつも、群馬の犠牲者なのさ」
ドクオの言葉に、ツンはそうね、と同意を表した。
('A`)「腹減ったろ?今ショボンが作ってくれてるから」
( ^ω^)「ありがとうだお」
ξ゚听)ξ「ありがとう」
ドクオの泣いたような笑顔が、二人にはすごく寂しく写った。
- 96 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:50:16 ID:jyX4DfO60
(´・ω・`)「はい、できましたよ」
そう言ってショボンが出したのは炒飯と小さなとんかつだった。
両方とも冷凍食品だ。
ツンの得意料理でもある。
(´・ω・`)「たいしたもの作れなくてごめんね」
ξ゚ー゚)ξ「そんなことないわ」
( ^ω^)「いつもの味だお」
二人のやり取りにショボンははにかむような笑顔を浮かべた。
今日の疲れもあるのか、夕飯は一気に胃袋に消化されていった。
- 97 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:52:14 ID:jyX4DfO60
(´・ω・`)「片付けはやっておくよ」
ξ゚ー゚)ξ「そんな、悪いわよ」
そう言って自然と手伝おうとするツンに、ショボンはなぜか嫌な顔をした。
('A`)「ツンさん」
声をかけ、続ける。
('A`)「ショボンの仕事、とらないでやってくれ」
ツンは一瞬びっくりしたように目を丸くし、しかしわかったわと返した。
ξ゚听)ξ「じゃあ、お願いするわね」
ショボンはツンの言葉に満面の笑みを浮かべた。
- 98 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 22:57:12 ID:jyX4DfO60
やがて、夜が更け、辺りを漆黒の闇が包んだ。
内藤とツンの二人は、ドクオに案内された狭い客室にいる。
わざわざ鍵付きの部屋まで与えてくれたドクオの配慮が、内藤はすごく嬉しかった。
( ^ω^)「ツン」
ξ゚听)ξ「何?」
( ^ω^)「ドクオは、群馬が好きなんだおね?」
ξ゚听)ξ「……わからないわ」
( ^ω^)「おっお、わからないかお?」
そう言って、内藤は一人笑う。
ξ゚听)ξ「……多分、ドクオは今の群馬は好きじゃない」
( ^ω^)「それは、そうだお」
- 99 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 23:00:15 ID:jyX4DfO60
- ξ--)ξ「ま、好きだったかもしれないけどね」
そう言って、息をつく。
( ^ω^)「……ドクオの好きだった群馬に、戻してやりたいお」
ξ--)ξ「……」
( ^ω^)「……」
ξ--)ξ「……」
( ^ω^)「……」
ξ--)ξ「……できるんじゃない?」
言って、ツンはわざとらしく内藤に背中を向けた。
- 100 :◆Ymtt.Y6YOc:2011/03/05(土) 23:03:02 ID:jyX4DfO60
( ^ω^)「……お?」
内藤の声に、小さく呆れたといい、ツンはため息をつく。
そして、目を開き、言う。
ξ゚听)ξ「……あんたは役人なんだから?」
少し置いて、内藤はがんばるか、と一人呟いた。
ツンは、その言葉に無言で頷いた。
木々に囲まれた旧家の中に、月明かりは決して入ってこない。
代わりに、月明かりは役所を照らしていた。
( ^ω^)は役人のようです
第五話「開戦」終
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