- 1 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 09:57:04 ID:TgOuEkqc0
始まりは、一本の電話だった。
携帯画面を見ると、荒巻スカルチノフという名前と、その人の携帯番号が表示されている。
男は緩やかに車を止め、通話ボタンを押した。
それは、平和な日常から10秒の距離。
「元気かい?内藤君」
その声は出張中の上司の声で、いつもと違う冷たい声に冷やりとした何かを感じたのを覚えている。
( ^ω^)「元気ですお」
- 2 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 09:57:44 ID:TgOuEkqc0
( ^ω^)は役人のようです
第一話「異動」
- 3 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 09:57:59 ID:TgOuEkqc0
嫌な予感を感じながらも、内藤は上司に明るい声で答えた。
返ってきたのは、静寂。
「……」
余程言いにくい事なのだろうか?
しかし、いつまでもこの状態が続くのも辛いので、内藤は上司の言葉を進めた。
( ^ω^)「どうしたんですかお?」
「移動じゃ」
移動。
確かにそんな時期ではある。
しかし、一体どこへ?
その疑問は、すぐに解消した。
- 4 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 09:58:13 ID:TgOuEkqc0
「急な話で悪いが、明日から、群馬に行ってもらう」
一瞬、目の前が真っ白になった。
何故、群馬なのか?
いや、それは想像がつく。
また死者が出たのだろう。あの辺りは治安が悪い。
なんで僕が……そんな感情が流れるが、上司にそれを言うわけにもいかない
( ^ω^)「……」
無言でいる内藤に、上司はすまんのぅ、すまんのぅと続けた。
異動命令が出たということは、これはもう決まった話なのだ。
断るには、やめるしかない。
( ^ω^)「……わかりましたお」
こうして、内藤は異動の運びになった。
- 5 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 09:58:29 ID:TgOuEkqc0
この国で最も欲望の集まる場所、新宿。
内藤の姿はそこにあった。
二人用の小さなテーブルを囲む椅子に腰をかけ、眉間に皺を寄せる。
そして、意を決したように、口を動かした。
( ^ω^)「ツン、話があるお」
内藤の見つめる先にいるのは、綺麗な金髪の女がいた。
ξ゚听)ξ「へ?どうしたの?」
内藤の幼馴染で、最近結婚したばかりだ。
その女、ツンは缶ジュース片手にキッチンから顔を出した。
その姿を見て、内藤は先ほどの言葉を繰り返す。
- 6 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 09:58:39 ID:TgOuEkqc0
( ^ω^)「ツン、話があるお」
普段あまり見せない夫の真面目な顔に、ツンも思わず表情を硬くした。
ξ゚听)ξ「……どうしたの?」
( ^ω^)「異動になったお」
短く、事実だけを伝える。
ブーンの表情から察したのだろう、ツンも深刻な表情に変わっていった。
ξ;゚听)ξ「……まさか、香川?」
( ^ω^)「違うお」
- 7 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 09:59:58 ID:TgOuEkqc0
ξ;゚听)ξ「と、」
うまく言葉が繋げないのだろう、二、三回つっかえて、ツンはようやく言った。
ξ;゚听)ξ「鳥取、じゃないわよね」
( ^ω^)「……違うお」
ツンはパクパクと口を動かし、何かを言おうとしている
( ^ω^)「群馬だお」
ξ;
)ξ「そんな」
また、静寂が訪れる。
それを打ち消すように、内藤は早口で続けた。
- 8 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 10:00:10 ID:TgOuEkqc0
( ^ω^)「明日からだから、もう準備をしなきゃならないお」
立ち上がり、ため息をつく。
( ^ω^)「ツンはここに残れお
あそこはやばいお」
特に女の子は、足を踏み入れるべき場所じゃない。
そう言って、内藤はツンに背中を向けた。
ξ;゚听)ξ「な、なんでブーンなのよ!」
ξ;゚听)ξ「真面目にやってきたじゃない
上司だって仲良くしてたし、サビ残だって」
( ω )「そんなの、ブーンが聞きたいお」
そう呟く内藤の頬には、熱い液体が輝いていた。
- 9 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 10:07:05 ID:TgOuEkqc0
- 19時、そこには、全ての支度を終えた内藤の姿があった。
高級なスーツに身を包み、最低限の普段着や私用品を詰めたケースを持って、玄関に佇む。
( ^ω^)「行ってきますお」
名残惜しそうに、我が家にお別れを告げる。
最後にもう一度、ツンの顔を見たかったなぁ、そう思いながら
内藤は追われるように家を後にした。
( ^ω^)「駅まで、お願いしますお」
役員用の宿舎にいつもいる、無料のタクシーにおっさんに声をかけ、乗り込んだ。
( ^Д^)「おや、出張かい?」
( ^ω^)「いや、異動ですお」
名前は知らないが、顔なじみの運転手が、いつものように陽気に声をかけてくる。
群馬に行ったら、会話なんてあるのだろうか?そんな不安が内藤の顔を自然と暗くしていた。
- 10 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 10:12:20 ID:TgOuEkqc0
- ( ^Д^)「一体どこへ?」
( ^ω^)「……群馬ですお」
できるだけ、明るく言った。
しかし、運転手はかなり動揺したようだ。
( ^Д^)「そう……ですか」
それから、運転手は無言になった。
最後の会話かもしれないんだから、もうちょっと話してたいなぁ。
そんなことを考える自分が少しおかしくなり、内藤は笑った。
一人笑う内藤を、運転手が悲しそうな瞳で見つめていた。
やがて、内藤を乗せた車は駅に着き、顔なじみの運転手ともお別れになる。
緑の窓口へ行き、切符を買う。
- 12 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 10:14:32 ID:TgOuEkqc0
- ( ^ω^)「……群馬へ行きたいんですお」
(; ‘∀‘)「はい?」
( ^ω^)「群馬へ行きたいんですお」
(; '∀')「お客様、余計なお世話かもしれませんが
群馬はおすすめしません」
緊張で、駅員の額から冷や汗が流れた。
( ^ω^)「仕事、なんですお」
そう言うと、駅員は涙ながらに発券をしてくれた。
(; ;∀;)「がんばってください、がんばってください」
私にできるのは、このくらいですが、と無料で切符をわたし、駅員は内藤の背中を見送った。
( ^ω^)「気が、重くなるお」
- 13 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 10:18:56 ID:TgOuEkqc0
- 予想通り、所々破壊されたその列車は無人だった。
そりゃそうだろう、法律により列車は通ってるが、誰が好き好んで行くというのだ。
逆に、群馬から来る列車は満員だと言うのだから、面白いものだ。
( ^ω^)「……さて、小説でも読むかお」
もう何度読んだかわからないお気に入りの文庫本を開き、意識をそこに預ける。
しかし、幾ばくかの時間が流れ、内藤は現実に引き戻される。
「お隣、いいですか?」
女性の声だ。
ガラガラの車内、わざわざ自分の隣に座ることはないだとうと思ったが、どうぞと返した。
この列車は群馬行き、きっと怖いのだろう。
- 14 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/02/27(日) 10:24:59 ID:TgOuEkqc0
( ^ω^)「……何故、群馬へ行くのですかお?」
仕事だろうか?自分以外にも群馬へ行く人間がいるという事実に、内藤は僅かに興味を持った。
言って、女性のほうへ視線を向ける。
ξ゚听)ξ「大好きな人が群馬に行くからよ」
女性は、そう言ってにこりと笑った。
( ゚ω゚)「ツン!」
( ゚ω゚)「だめだお、群馬は危険だお!」
なんてことだ。
ツンまで巻き込んでしまうとは、群馬では自分の身すら護れる保障はないというのに――
必死で説得する内藤に、ツンははっきりと宣言した。
ξ゚听)ξ「大丈夫よ」
そして、笑う。
ξ゚ー゚)ξ「いざとなったら私の旦那が命がけで護ってくれるから」
内藤は、困った顔をする一方、ツンと一緒ならなんとかなるかもしれないと希望が芽生えていた。
第一話「異動」
終
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