- 1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 00:45:15.60 ID:pHe88znz0
- 朝は終わり、そろそろ、昼間である。
布団の中に包まり、もう、何もしたくない気分の、冬。
一人暮らしの部屋。窓は薄い。
昨日の夜から、ずっと空は不機嫌。雨だれの音が聞こえてくる。
しとしとぴっちゃん、しとしとぴっちゃん。 と。
それをつんざくように、枕元で無機質で文明的な音が鳴った。
りんりんりんりんりん、りんりんりんりんりん。 と。
俺はだいぶ不機嫌そうに携帯電話を取る。
まだ意識は半分夢の中。
('A`)「あいもしもし」
ドクオと雨の土曜日のようです
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 00:49:30.21 ID:pHe88znz0
- 「あ、もしかして寝てたんかー?」
この陽気そうで呑気そうで何も考えていなさそうな声は、ショボンだ。
ハンズフリーにしていないのに、必要以上に声が大きくて、耳が痛い。
('A`)「うん。めっちゃ眠いねん」
('A`)「起こさんといてや」
('A`)「じゃあ」
「待ってや! 切らんといてや」
('A`)「なんやねん君」
「暇なんやろ?」
('A`)「暇やあらへん」
「なんでや」
('A`)「寝るもん」
「それって暇やがな。こんな土曜の昼間っから寝るなんてキング・オブ・ヒマジンや。
そのうちヘソの下からぎょーさんカビ生えるで」
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 00:55:02.69 ID:pHe88znz0
- しょうもないやり取りをしていると、確実に目が覚めていくのが、少し悔しい。
俺は上半身を20度ほど起こした。そして、肘を立ててもう少し大きな声で話し始める。
('A`)「君な。よくそんなくだらないことポンポン思いつきますな」
「雨の日はなぜか冴えとるねん僕」
('A`)「人の体からカビなんか生えへんわ。ボケ」
「いや、それがな。あるんや前例が」
('A`)「へえ。言ってみいや」
「アフリカ中南米のある国でな」
('A`)「いや、アフリカ中南米ってつまりどこやねん」
「まあええわ。でな、僕ごっつ暇やねん。遊びきぃひん?」
ようやくショボンが本題を呟いたとき、時計の針をぼんやり見ていた。
もうすぐ正午になる頃だった。
- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 00:58:30.94 ID:pHe88znz0
- 「実はな。今日僕講義あるねん」
('A`)「ほんなら行かなあかんで」
「でもな。雨降ってるから行く気せん」
('A`)「ダメやん。キング・オブ・ダメ大学生や」
('A`)「そのうち単位落とすで」
「ぶっw」
(;'A`)「いや、今の笑うとこちゃう。絶対にちゃう。当たり前のこと言っただけや」
「とにかく、僕は雨降ってる日はどうも外に出る気がしないんや」
('A`)「頭冴えるのに?」
「そうや ふふん」
('A`)「いやなんでそこで自信満々に答えるねん」
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:02:38.87 ID:pHe88znz0
- 「というわけで、メシ食べたら僕の部屋来てな」
('A`)「嫌や」
「なんでや」
('A`)「俺も同じ。雨の日は外に出る気がまったく起きへん」
('A`)「雨だれをBGMにしながら、のんびりゲームでもするのに限るわ」
「うん。その通りや。ほんとにその通りだと思うわ!」
('A`)「そうやろ。ほんならバイバ……」
「じゃ、待っとるからね」
そこで音声はぷつりと切れた。
('A`)「ぜーんぜん人の話聞いとらんわ」
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:09:11.25 ID:pHe88znz0
- 俺は窓の外を見つめた。
昨夜や、朝よりも少しは雨脚は穏やかになってきたみたいだ。
('A`)「あーだるい。何もする気おきひんわ」
再び目を閉じる。眠ろうとする。
('A`)「……」
眠れない。
('A`)(ほんとにカビ生えてきたらおそろしなぁ)
というわけで、体の中心に思い切り力を込めた。
一度ぐわっと身を立てれば、あとはみるみるうちに目覚めていく。
('A`)「ふあぁぁあぁぁあ〜あ」
大きな伸びをして、俺の一日が世間よりも少し出遅れてスタートした。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:14:02.14 ID:pHe88znz0
- 玄関。 誰に言うでもなく呟いた。
('A`)「行ってきまぁす」
ドアを開ける。迎えたのは、勿論さわやかな朝日ではない。
重々しい灰色の雲と、雨に包まれて濡れた町並みだ。
('A`)「……」
('A`)「うぅむ」
ここで俺は重要なことに気付いた。
('A`)「傘、ないやん」
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:18:25.24 ID:pHe88znz0
- しばらくアパートの廊下で立ち往生。
腕を組んで立ち往生。 若者が土曜日の昼間に仁王立ちでただ雨の街を眺めている。何故だ。
井上陽水の「傘がない」が頭の中で再生された。
だけど、会いに行くの、友達やし、最近は自殺する若者より、ニートになる若者のほうが多いみたいだから、
('A`)(別に無理せんでもええかなぁ)
と、ぼんやり思っていたその時だ。
お隣さんのドアががちゃりと開いた。
そこから、そろーりと伸びてきた人影。
川д川「……」
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:23:58.13 ID:pHe88znz0
- 川д川「……」
('A`)「……」
ぼそっ
('A`)「真昼の幽霊や」
川д川「…え?」
('A`)「なんでもないです」
久しぶりにお隣さんを見た。相変らず某映画の某さんにそっくりだ。
きっと職場(あるいは学校)でもそのように呼ばれているのだろう。
('A`)「……あの、下の名前なんでしたっけ」
川д川「貞子です」
('A`)「まんまやん」
川д川「…え?」
('A`)「なんでもないです」
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:29:13.74 ID:pHe88znz0
- 貞子さんは俺を怪訝そうに見つめ、それから向き直って20メートル歩く。
俺はなんとなくそれをずっと目で追っていた。
貞子さんがふと後ろを振り向く。勿論、目が合う。
貞子さんは再び俺の方へ15メートルほど近寄ってきた。
('A`)(最近は目で追うだけでストーカーになるんかな)
川д川「あの…。さっきからそこで何してはるんですか?」
('A`)「あ、それはね。そのね」
('A`)「友達の家に行こうとおもって、勇んで外に出てみたら」
('A`)「傘がないことに気付いたんですわ」
川д川「あぁ、そうなんですか」
('A`)「そうなんです」
川д川「……」
川д川「……」
('A`)(なんやねんこの沈黙)
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:33:28.39 ID:pHe88znz0
- しばらく続く沈黙。
ところで、
貞子さんがそれを切り裂いたとき、雨が一気に強くなったのは気のせいだろうか。
川д川「あの、傘かしましょうか」
('A`)「え、いいんですか?」
川д川「ええ。いいですよ。はい」
俺は貞子さんからドット柄の可愛い傘を受け取る。
('A`)「ほんまに? ありがとさん」
川д川「……」
('A`)「……」
貞子さんがそこから一歩も動けないでいる理由に気付く俺。
('A`)「貞子さん。傘これしかないの?」
川д川「……ええ」
駄目やん。
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:38:49.66 ID:pHe88znz0
- ('A`)「傘、一本しかないならぁ、俺、友達の家、いけるけどぉ」
('A`)「貞子さん、行けへんやん。駄目やん。分かる?」
川д川「ああ…… 分かりました」
('A`)「返すわ。友達にやっぱ無理て電話します」
川д川「ええ!? 駄目ですわ。友達は大事にせなあかん」
川д川「きっと大事な用があって電話したんですやろ?」
('A`)「そんなことない。交番に10円玉届けにいくくらい大したことない」
川д川「10円玉でも拾った子供は偉いですやん!!」
('A`)「ええ? ああ、そうね」
('A`)「……」
川д川「……」
だから、この沈黙はなんやねん。
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:42:48.27 ID:pHe88znz0
- ('A`)「貞子さんにも用事あるんやろ。はいっ、返すわ」
川д川「……」
しかし、貞子さんはなぜか傘を受け取ろうとしない。
川д川「あの、それじゃ一緒にさして歩きましょうよ」
雨は、ますます強くなった。
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:46:39.88 ID:pHe88znz0
- 豪雨降りしきる街の中。
うだつのあがらない三流大生と、貞子に似ている貞子さんが二人で一つの傘をさして行く。
街のショウウィンドウに映る姿は少し恋人みたい。
だけど、俺はもうちょっと明るめの顔のほうが好みだ。
川д川「あ、あの。誕生日はいつですか?」
('A`)「3月3日や」
川д川「お、女の子の日じゃないですか……」
('A`)「子供のころさんざん馬鹿にされましたわ」
川д川「け、血液型は……?」
('A`)「日本人のうち一番割合が高いAですいまへん」
川д川「好きな食べ物は…」
('A`)「……もずく」
('A`)(この”なんでも質問してみよう☆”のコーナーはなんやねん)
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:50:58.41 ID:pHe88znz0
- 女の子にあれこれ聞かれるのは初めてやけど、
この人は女の子っていうより怨霊やん。 とか思いながら街を歩く。
肩が冷たい。
雨が当たって服に染みこんでくる。
貞子さんの傘は滅茶苦茶小さい。明らかに一人用。
そして柄を持っているのは貞子さん。まあレディファーストって言うし、別にええけど、
いや、良くない。 さっぱり意味ないやんこれ。
('A`)「ぶえっくし」
「だ、大丈夫ですか?」
('A`)「ちょっと冷たいです」
川д川「わ、私の態度ですかっ!? すいません…」
思わず遠い目。
('A`)(そんなこと一言も言っとらんわ)
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 01:55:53.94 ID:pHe88znz0
- ふと立ち止まる。過剰にびっくりする貞子さん。
('A`)「あ、友達のアパートこの角左に曲がってすぐですわ」
川д川「そ、そうですか…」
('A`)「ほんまおおきに。それじゃ、また」
川д川「あのっ」
('A`)「なんですか?」
川д川「……なんでもないです」
('A`)(なんやねんもう)
T字路で俺は貞子さんと別れた。
傘によって多少は守られていた体が、露になる。急がなければ。
俺は走り始めた。
ずっと眠っていたからか、体のあちこちがぎしぎしと音を立てているように思えた。
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:03:09.13 ID:pHe88znz0
- ショボンのアパートの階段をカンカンカンと上り、ドアをドンドンドンと叩く。
ボロアパートで、呼び鈴なんかはない。
数秒して、平和そうな丸顔がドアの隙間からそれを覗かせた。
(´・ω・`) 「来てくれたんや」
('A`)「さ、さささむい。はははやくいれろや」
(´・ω・`) 「おいでやすー」
('A`)「なんでそこだけ京都になるねん。ってクサァー! ごっつくさいわ君の玄関!」
(´・ω・`) 「ああこれな。多分、ウサギのジミー君のうんこやわ」
('A`)「なんでアパートでウサギ飼っとるねん! ええわ。とにかく入るで ってウワァー! 踏んだ! なんか踏んだ!」
(´・ω・`) 「それがうんこやねん」
('A`)「もうええわ!!! 帰るわ!!!」
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:06:15.84 ID:pHe88znz0
- 俺はショボンに背中を向け、雨の街を見た。
相変らず、ざぁざぁとその勢いは止まらない。
(´・ω・`) 「…」
('A`)「…」
(´・ω・`) 「ごっつ降ってるわ」
再び向き直る。
('A`)「ちっ。おい、タオルかせや。タオル」
('A`)「色んなもん拭かなあかん」
(´・ω・`) 「色んなもんなぁ」
('A`)「色んなもんや! はよ持ってこいや!」
(´・ω・`) 「あいよ」
こんな玄関先のひと悶着があったりして、
俺はアパートに辿り着いて15分経過して初めて部屋の中に入ることができた。
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:10:42.25 ID:pHe88znz0
- (´・ω・`) 「…」
('A`)「…」
('A`)<ぎゅるる〜
(´・ω・`) 「なんや。下痢か」
(#'A`)「ボケ! 違うわ! 腹が減っとるんや」
(´・ω・`) 「そか」
十分経過。
(´・ω・`) 「…」
('A`)「…」
('A`)<ぎゅろりろりるる〜
(´・ω・`) 「なんやなんや? 臭くてもファブリーズするから遠慮なくトイレ使ってや。
それともなんや、羞恥心のせいでアウト・オブ・ウンコ? そしたらジミー君となんら変わらんなぁw」
(#'A`)「だから腹が減ってんねん!!!」
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:15:10.81 ID:pHe88znz0
- 半強制的にショボンを台所に立たせ、俺は手元にあったジャンプでも読むことにした。
('A`)「最近のジャンプは何が連載してるかすら把握しとらんわ」
「なードクオ。 何作ればいい?」
('A`)「ああ、ええよええよ。適当で。腹が膨れれば」
「把握や。じゃあ、ショボンスペシャルでええか?」
('A`)「ええよ! なんや、ごっつ美味しそうやん…… 楽しみや」
「楽しみにしといてや。ほんとに腹も膨れるし味も絶品やで」
('A`)「分かったわ! なんでそんなに自信あるん? リピーターが沢山おるんか?」
「いや… 一人だけだけど… いつも美味しい美味しいって食べてくれるヤツがおるんや…」
(;'A`)(なっ! こいつもしかして俺より先に彼女を……)
俺はふとスイーツ雑誌の見出しに書いてあった 「料理できる男はモテる!」という一行を思い出していた。
(;'A`)「だ、誰やそれ……?」
「ジミー君や」
(#'A`)「ウサギのえさ人に食わすなや」
- 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:19:14.70 ID:pHe88znz0
- 冗談だか本気だか分からない紆余曲折を経て、美味しそうな匂いとともにチャーハンが俺の目の前に現れた。
だがしかし予防線を張る。
('A`)「……これ、うさぎのエサ…」
(´・ω・`) 「入ってるわけないやんww」
('A`)「だよなwww」
('A`)「いただきまーす♪」
(´・ω・`) 「実は少しだけ入れてしまったん」
('A`)「どぶくぶっぶふぉっ!!!!」
('A`)「嘘やん……」
(´・ω・`) 「嘘」
ショボンは唾液のついた米粒が散乱するテーブルを見て、少しブルーな表情になっていた。
まさかここまで噴出すとは思っていなかったらしい。
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:24:19.05 ID:pHe88znz0
- ('A`)「ふぅ〜 食べた食べた」
(´・ω・`) 「っていうかな、うさぎのエサって、ないねんで。雑食やから」
('A`)「もうその話はやめにしてや」
(´・ω・`) 「……はい」
(´・ω・`) 「ゲームやる?」
('A`)「いいね」
(´・ω・`) 「人生ゲームやろ」
('A`)「盤ゲームやるんか? あるんか? ってか、二人でぇ?」
(´・ω・`) 「いや、プレステで出てる人生ゲームや」
('A`)「あったわそういや」
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:28:44.62 ID:pHe88znz0
- 部屋の中にテレビゲームの楽しげな音楽が流れる。
やはり雨だれにゲームの音はミスマッチしていて心地が良い。
俺はコタツに肩まで浸かりながらコントローラを握っていた。
('A`)「まずはキャラメイキングやな」
(´・ω・`) 「うん」
('A`)「あ、動かん。1Pやっぱりお前か。絡まっとるから気付かんかったわ」
(´・ω・`) 「まずは名前やな」
('A`)「おう」
画面を目で追う。
('A`)「キ、ム、タ、ク……」
('A`)「待てや」
(´・ω・`) 「何よ」
('A`)「何かがおかしいで」
- 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:32:45.22 ID:pHe88znz0
- ('A`)「君、それはあれか」
('A`)「せめてゲームの中でくらいイケメンでいたいっていうアレか」
(;´・ω・`) 「い、いや、違うねん」
('A`)「じゃあなんや」
(´・ω・`) 「キムタクって名前にすると、最初からパラメータがいいっていう裏技や」
('A`)「そんな人生あってたまるかい」
(´・ω・`) 「そ、それにな、最初から色々カード持ってるんや」
('A`)「ほう。それはいいな。例えばどんなカードや?」
(´・ω・`) 「えーと。リニアカード」
('A`)「ゲームからして違う」
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:35:58.54 ID:pHe88znz0
- ('A`)「自分の名前に直せや。こういうゲームはそうしないとつまらん」
(´・ω・`) 「分かった。」
('A`)「も、こ、み、ち」
('A`)「妥協か」
(´・ω・`) 「いや、本名がな……」
('A`)「もうええわ」
ジャンプを読んでいたら、いつのまにかショボンのキャラメイキングが終了していた。
('A`)「よーし。俺の番や」
('A`)「ドクオ、男、誕生日、血液型」
('A`)「次は?」
('A`)「おお、色々服とか目とか髪型とか組んで、自分の分身作るんやろ」
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:41:14.04 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「よし、そんならめっちゃイケメンに作るでww」
ここでショボンのそこはかとなく冷たい視線に気付く。
('A`)「あ、いや。はい。現実に忠実に再現します」
(´・ω・`) 「ええよ? 僕はええよ。全然かまへん」
(´・ω・`) 「どうぞ好きにしたってや。イケメンパラダイスや」
('A`)「いや別にパラダイスじゃなくていいけど」
というわけで俺は選択できるパーツのうち、限りなく自分に近いだろうと思われるそれを寄せ集め、
ゲームの中での分身。アバターってやつか? 最近の言葉でいえば、それを作った。
設定における最後の確認場面。俺は驚愕した。
('A`)「お、お前、女になっとる! 名前はサマンサってww」
(´・ω・`) 「あかんか」
('A`)「もうどうでもええわ。アメリカンドリームやな。ぽちっとな」
人生ゲームはじまりはじまり。
- 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:44:55.07 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
('A`)「なあ」
(´・ω・`) 「なに」
('A`)「設定なんぼにしたん 長さ」
(´・ω・`) 「マップ5つ挟んだ。 時間7時間くらいかかるて」
('A`)(どうりで……)
('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
('A`)「淡々と進んでいくな」
(´・ω・`) 「そらそうや。赤ん坊からエキセントリックなこと起きたらかなわんで」
(*'A`)「あ、ベイビードクオが庭で遊んでたら金塊掘り当てた!」
(#´・ω・`)「……」
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:48:24.25 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
('A`)「小学校入学や」
(´・ω・`) 「性の目覚めやな…」
('A`)「いやちょっとそれは早い。あまりにも早いで」
('A`)「お前だけや小学校入学で性に目覚めたの」
('A`)「クラス選ぶんか」
('A`)「三組やな。俺六年間三組だったし」
(´・ω・`) 「さわやか三組か」
('A`)「そんなんあったな」
(´・ω・`) 「あれが僕の性の目覚めや」
('A`)「だから早いって」
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:52:41.81 ID:yWZ++QbJ0
- (´・ω・`) 「中学校入学や! ついに部活選択やな」
('A`)「俺ら卓球部で地味に活動してたよな」
(´・ω・`) 「もしかしたらあれが性倒錯の始まりだったかもしれん」
('A`)「今度は倒錯したか」
('A`)「ってかなんでピンポン玉打ち合うことに性倒錯を見出すねん」
(´・ω・`) 「あのな、女卓の石井さんいたやん」
('A`)「ごっつかわいい子だったわ」
(´・ω・`) 「その子の体育着をな」
('A`)「言うな!」
('A`)「言わんでええ」
(´・ω・`) 「…そっか」
(´・ω・`) 「でも石井さんのおっぱいってすごく柔らかいねんで」
('A`)「妄想のはなしはええわ」
- 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:57:22.29 ID:yWZ++QbJ0
('A`)「いやぁ中学のときって色々あったな」
(´・ω・`) 「ありすぎて逆によく思いだせんわ」
('A`)「俺はよく覚えてるで。夏祭りの日に女の子とかと花火したよな」
(´・ω・`) 「そんとき僕田舎帰ってたわ」
('A`)「そうだっけ? ごめんw」
(´・ω・`) 「だけど田舎のごっつ可愛い子と遊んだんや」
('A`)「だから妄想はええって」
- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 02:59:29.86 ID:yWZ++QbJ0
- (´・ω・`) 「本当。見てやこれ。写メ」
('A`)「……三次元やん」
(´・ω・`) 「うらやましい?」
('A`)「でも、歯出てるやん」
(´・ω・`) 「うらやましい?」
('A`)「歯ぁ出とる」
(´・ω・`) 「うらやましい?」
('A`)「歯ぁ」
(´・ω・`) 「ねえねえ」
('A`)「やかまし」
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:06:10.93 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「やっと高校入学や…… 長すぎやで」
(´・ω・`) 「こんなもんやろ。人生」
('A`)「こんなもんか」
('A`)「リアルじゃずっとバイトバイトで青春のかけらもなかったから、バスケ部にでも入るか」
(´・ω・`) 「バスケ部って輝いてるよな」
('A`)「ああ。リアみつるの巣窟って感じや」
(´・ω・`) 「僕もバスケやりたかった」
('A`)「無理や。お前にあんなアクティブなスポーツできひん」
('A`)「お前の得意なスポーツって何よ?」
(´・ω・`) 「跳び箱や」
('A`)「言うに事欠いて跳び箱かいな。小学校以来やったことないわ」
('A`)「何段くらい飛べるん」
- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:10:13.42 ID:yWZ++QbJ0
(´・ω・`) 「ろ、六段くらい」
('A`)「そら普通や」
(´・ω・`) 「で、でもあれや。回れる」
('A`)「回れる?なんやそれ」
(´・ω・`) 「回るんや。跳び箱の上で」
('A`)「くるくるか?」
(´・ω・`) 「いや、そんなに回らん」
('A`)「横回転か?」
(´・ω・`) 「横は駄目や! 危険が伴う…」
('A`)「危険か…」
(´・ω・`) 「跳び箱もああ見えてシビアなんや」
('A`)「分かるよ。テレビとか見るとアスリートがぴょーーんって飛ぶもんな。えらい高いやつ」
- 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:13:12.44 ID:yWZ++QbJ0
- (´・ω・`) 「高さは重要じゃないんや!」
('A`)「そ、そうなんや。 へえ。やっぱりあれか」
('A`)「回転なのか」
(´・ω・`) 「そうや…。跳び箱は回転が命や」
('A`)「縦で回れば安全なんやろ」
(´・ω・`) 「いや…。それでもまだ補助がいる」
('A`)「ほんまか。なら本番の大会はどうするんや」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「素人が口出しする問題やないんや…… 黙ってはやくボタン押せや」
('A`)「お、おう…」
- 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:18:16.05 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「高校生活か」
(´・ω・`) 「性の大成や」
('A`)「本居宣長みたいやな君。倒錯をへてとうとう大成したか」
(´・ω・`) 「クラスのな」
('A`)「うん」
(´・ω・`) 「女子がさ…… みんな各々の男とギシアンしてるって妄想すると、辛らない?」
('A`)「そら辛いわ。もうどうしようもなく下半身きゅいんきゅいんするわ」
('A`)「でもな」
('A`)「俺ら通ってたの男子校や」
(´・ω・`) 「ベタやな」
('A`)「自分から振っといてなんやねん」
(´・ω・`) 「女子高の先生になりたいなーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
('A`)「あかんわこいつ」
- 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:21:42.71 ID:yWZ++QbJ0
- 気がつくと早三時間が経過していた。
画面の中の俺たちは、高校生活を謳歌している。
('A`)「本音で言いたいことがある」
(´・ω・`) 「それはなんや。僕等の友情にひびでも入りそうか」
('A`)「ひょっとしたら入るかもわからん」
(´・ω・`) 「じゃ、じゃあ耳打ちでそっと話して…」
('A`)ひそひそ
('A`)もう飽きたわ
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「奇遇やな。僕もそう思ってた」
三秒後にテレビは黒くなり、
画面を見続けるのに疲れた二人の顔を映し出した。
- 53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:24:31.86 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
再び沈黙が二人を包んだ。ちなみに雨は依然止む気配はない。
沈黙が訪れてもさっぱり気まずくないのが、仲の良い証拠。
さっぱり辛くない。超リラックス。
しかしリラックスしすぎてもいけない。
('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
ぶびばっ
('A`)「屁ぇこいてもうた」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「ごっつ臭いんやけど。何食べたん」
('A`)「君のチャーハンや」
- 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:28:48.55 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
――ぴちょん、ぴちょん
('A`)「なんや」
(´・ω・`) 「雨漏りや。ちょうどコップの中に落ちてきたんやね」
('A`)「ぴちょ、ぴちょって、うっとおしいけど、目ぇ閉じてみるとどうや。情緒的やね」
(´・ω・`) 「そやなあ。平安チックにいうと、いとわろしってやつやな」
(;'A`)「なあ文学部、それ良くないって意味やで」
――ぴちゃ
('A`)「ちょっ! 俺の頭の上にも落ちてきたで!」
- 55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:32:04.81 ID:yWZ++QbJ0
- (´・ω・`) 「…」
('A`)「あ、どこ行くねん!?」
ショボンは台所へ向かい、金桶にコップやら何やらを入れて持ってきた。
(´・ω・`) 「雨漏り戦隊アマリリスや!」
('A`)「なんかごっつ可憐やな」
(´・ω・`) 「さあ時間は待っちゃくれないで! さっさとAポイント、Bポイントにコップを配置するんや!」
そう言ってショボンは俺にコップを手渡す。
('A`)「Aポイントってどこや! えーと、ここらへんか?」
(´・ω・`) 「ばかーー!! そこは最後の砦や! 簡単に諦めたらあかん!」
('A`)「わけ分からんわもう!」
- 56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:35:43.98 ID:yWZ++QbJ0
- (´・ω・`) 「自分でするわ! お前雨漏り戦隊くび!」
('A`)「最初からそうせえや!」
そう言いつつも、雨漏り戦隊のリーダーはさすがに動きが早い。
きっと完璧に記憶しているのだろう。てきぱきと各ポイントに入れ物を置き、満足そうな顔をする。
(´・ω・`) 「どや」
('A`)「完璧や」
(´・ω・`) 「問題はな」
(´・ω・`) 「迂闊に歩けんくらい配置場所が多すぎることや」
('A`)「確かに〜 よっこいしょ」
(´・ω・`) 「あああ! 倒すなって!」
('A`)「うわー。まだ置いたばっかりで水溜まってなくて良かった …って額に今水落ちてきたで」
('A`)「やっぱり適当やん!」
- 58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:40:14.38 ID:yWZ++QbJ0
- 20分ほどの試行錯誤の末、雨漏り戦隊アマリリスは、ついに全てのポイントを網羅した。多分。
('A`)「ついにやったぜ…」
(´・ω・`) 「これでクニのおかんに顔向けできるわ」
('A`)「できるか?」
('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
――ぴちょん、ぽちょん、ぴちょ、ぴちょ、ぽちょぽちょぽちょん。
ぴちょ、ぴちょ、ぴちょちょ、ぽちょちょ、ぽちょん。
(´・ω・`) 「あ、なんかええわ! 雨が落ちる音がメロディーになっとる!」
('A`)「そやな。こらおもろいわ」
- 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:43:23.28 ID:yWZ++QbJ0
- ぴちょちょん、ぴちょん、ぽちょちょ、ぽちょん。
(´・ω・`) 「ロックやな。フレディの息吹感じる」
('A`)「あほか。なんだか、オルゴールみたいや」
ぽちょん、ぽちょん、ぴちゃ、ぴちゃちゃちゃ、ぴちゃっ。
(´・ω・`) 「コルトレーンの継承者やろこれ」
('A`)「もうええわ。ゆっくり聞かせてくれ」
ぴちゃん、ぴちゃん。ぽちょ、ぽちょ、ぴちゃんぴちゃん。
(´・ω・`) 「これはどっちかというと古典派…」
('A`)「殴るでほんまに!」
しばらく雨音の合唱を聞いていた。 これは凄い。
だが、雨に歌を歌わせるこの部屋のぼろさも凄い。
- 61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:48:23.78 ID:yWZ++QbJ0
- (´・ω・`) 「いやぁ。いい音色」
そう言いつつ、ショボンは立ち上がり窓辺に腰掛けた。
俺は尋ねる。
('A`)「雨どう?」
(´・ω・`) 「相変らずふってるわ」
('A`)「あかんな… 帰るときどうしたらいいんや」
(´・ω・`) 「泊まってけや」
('A`)「なんか朝起きたら顔にジミー君のうんこ付いてそうだから遠慮するわ」
(´・ω・`) 「ジミー君、そんなにしつけわるないで?」
('A`)「じゃあ玄関のうんこはなんやねん」
(´・ω・`) 「ひきずるなあ君」
(´・ω・`) 「…あ!」
- 62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:52:22.19 ID:yWZ++QbJ0
- ショボンは目を丸くして俺を手招く。
俺はコップを倒さないように、そろりと窓辺へ向かった。
('A`)「なんや。可愛い子でもおったか」
(´・ω・`) 「かわええ。むっちゃかわええ」
('A`)「どれどれ!」
('A`)「…どこにもおらへんがな」
(´・ω・`) 「ん」
ショボンの指の先を辿って俺の目玉はぎょろりと動いた。
そこに映ったのは、雨に濡れたアスファルトに伏せる弱弱しい雀。
('A`)「鳥や」
(´・ω・`) 「かわええ」
('A`)「でも、怪我しとるみたいや」
(´・ω・`) 「うん」
- 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 03:55:35.17 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
雀は、飛ぼうとするが、それはただのジャンプで、数センチ跳ねるとすぐ地に落ちてしまう。
雨に濡れているので、尚更かわいそうに見えた。
(´・ω・`) 「ん」
ショボンは顎で窓の外を指す。
('A`)「もしかして助けてこいと!?」
(´・ω・`) 「それ以外に何があんのや」
(#'A`)「お前が見つけて、お前がかわいいかわいいいうとんのや! お前が行ってこいや!」
(´・ω・`) 「ぼ、僕は〜 雨に濡れると溶けちゃうんだな〜」
妙に山下清に似ていて俺は実に苛立った。
(´・ω・`) 「マジレスすると、僕は鳥を触ったことがないので怖いんや」
- 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:01:04.63 ID:yWZ++QbJ0
('A`)「ウサギは触れるのに?」
(´・ω・`) 「ジミー君はペットショップで買ってきたから綺麗や」
(´・ω・`) 「でも、ほら… あの子は野生やろ? 野生のポッポやろ?」
('A`)「ポッポ言うなや」
(´・ω・`) 「傷口から… 血とか、虫つくのめっちゃ嫌やねん。なんか」
('A`)「ったく君はふぬけとるわ。生き物飼う資格ない。玄関にうんこあるし」
(´・ω・`) 「ほら… 鳥インフルエンザとか、怖いやろ」
('A`)「タミフル飲めばええねん」
('A`)「ええか。俺は絶対外行かんぞ。傘ないし。寒いし」
('A`)「お前が助けたいって思うならお前が行けや!」
(´・ω・`) 「うう…」
- 66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:03:58.66 ID:yWZ++QbJ0
- ショボンは重たい腰を上げる。
そして、俺の方を向いた。真剣な顔をしている。何だ。決意表明か。
('A`)「な… なんや」
(´・ω・`) 「さいしょはグー」
('A`)「ちょまて」
(´・ω・`) 「ださなきゃ負けよ」
('A`)「ありえん」
(´・ω・`) 「じゃんけん」
('A`)「なあおm」
ぽん!
……
('A`)「負けた」
- 68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:06:45.10 ID:yWZ++QbJ0
- (´・ω・`) 「じゃんけんは絶対や」
('A`)「絶対なんてこの世にあらへん」
(´・ω・`) 「ナポレオンもいうとる」
(´・ω・`) 「”じゃんけんは絶対や” ナポレオン 1453~1500」
(;'A`)「文学部史学科、なんでナポレオンが15Cの人間なんや」
('A`)「まあええ。俺もあの姿見て心苦しいしな」
なんとか俺は鉛の足を引きずり、玄関までたどり着いた。
勿論、うんこを踏まないように注意しながら。
('A`)「傘は」
(´・ω・`) 「ない」
('A`)「レインコート」
(´・ω・`) 「ない」
('A`)「…おまえ何文明の人や」
(´・ω・`) 「ミノア文明や」
('A`)「城壁を持たない神殿の開放的な民族か… 合ってるかもしれんわ。じゃあ行ってくるで…」
- 69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:08:48.43 ID:yWZ++QbJ0
- 外。何故か昼間出たときよりも、風が鋭い気がした。
せめてもう少し防寒対策をして部屋を出るべきだったと後悔。
しかし、行くしかない。小さな命を救うために。
('A`)「待ってろやチュン太郎!」
とにかくダッシュ。やるせないほど疾走。
とにかく早く暖かいところへ戻りたいのと、とにかく雨に濡れたくない。
その二つの気持ちがエンジン。
(´・ω・`) ノシ 「おーい」
二階の窓からショボンが顔を覗かせる。
完全に傍観者、観察者、第三者の視点。表情的にも、地理的にも。
友の顔というのは、こういうときが一番憎たらしく見える。
- 70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:11:46.82 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「なに手ぇ振ってんやー!」
って、おい、足がもつれて……
(´・ω・`) 「ぎゃはははwwww」
今日のめざましテレビ、占いで何位だ?
急にそれが気になった。
ジーパンと顔に泥を被り、友の爆笑に煽られず、今度は悠然と歩いて雀へ近づいていく。
雨とかもうどうでもいい。
('A`)(あー 早く帰りたい)
雀との距離は着実に縮まっていく。
- 71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:14:38.04 ID:yWZ++QbJ0
- 弱弱しく何度も跳ねる雀。
近くで見て分かったのだが、翼を怪我しているようだ。
('A`)「おうおう、可愛そうに」
('A`)「泥だらけになってやってきたぜハニー」
('A`)「さあおいで…」
俺がしゃがむと、雀は猛烈なスピードでちゅんちゅんと跳ね進みだした。
(;'A`)「…ちょっ! ま、待たんかワレぇーー!!!」
飛ぶつもりではなく、走るつもりで筋肉を使っているからか、本当に速度が速く、中々追いつけない。
追いかけて〜♪ 追いかけて〜♪ ちーかづく〜ほど〜 などと、先日解散騒動を起こしたチャゲアスの歌の一節が再生される。
(;'A`)「まてぇえーい!!!!!」
- 72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:15:50.97 ID:yWZ++QbJ0
- 必死になって雨の中を走りながら、ちらっとアパートのほうを見る。
ショボンが携帯で動画を撮っていやがった。あいつ部屋に戻ったらシメる。
川д川(あっ、ドクオさんや)
川д川(何してはるんやろ…… すずめ?)
(;'A`)「立ち止まった!」
(;'A`)「そーっと、そーっと」
――ちゅんちゅん
泥と汗と涙と雨を全身に帯びつつも、なんとか怪我の雀は手中に収まった。
さて、あとはショボンの部屋に持ち帰るだけだ。
- 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:17:15.96 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
「ちゅんちゅん」
(´・ω・`) 「どーすんねん」
(#'A`)「どーすんねんって 君が助けなあかんて言ったから俺雨ん中行ってきたんや」
(´・ω・`) 「翼、怪我しとる」
('A`)「そやねん。どーしたらいいやろ」
('A`)「とりあえず、マキロンや」
(´・ω・`) 「あかん!」
('A`)「…なんで」
(´・ω・`) 「しみる。がまんできへん」
('A`)「そら君のことやろ」
- 74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:18:51.37 ID:yWZ++QbJ0
- 俺はガーゼにマキロンを数滴垂らし、雀の負傷した部位にあてていく。
「ちゅん」
('A`)「やっぱり鳥でも染みるとかあるんか? でも血ぃ出とるんや。我慢せぇや」
('A`)「一応こういうのはあるんやな」
(´・ω・`) 「まぁね。”家庭の医学”もあるし」
('A`)「え? そらすごいやんか。どこにあるん」
(´・ω・`) 「鍋敷きに使っとるわ」
('A`)「果てしなく駄目やん」
一応、まんべんなく消毒はした。
さて。ここからが問題だ。
('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
- 75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:20:08.05 ID:yWZ++QbJ0
- 俺は雀のつぶらな瞳をじっと見つめる。
あかん、可愛い。 ちゃんと治してあげなあかん。 という気持ちが募ってくる。
しかし、どうすりゃいい。
(´・ω・`) 「ほっときゃいい」
('A`)「ここにきてまたそういうこと言う君」
(´・ω・`) 「自然の流れに任せるのが生き物や」
(#'A`)「最初に助けなあかんって言ったの誰や」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「獣医でもおったらいいのにね」
('A`)「おったら完璧やな。専門家やし」
(´・ω・`) 「君の知り合いに獣医おらんの?」
('A`)「いやー。さっぱり思いつかん」
('A`)「君は?」
- 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:22:07.74 ID:yWZ++QbJ0
- (´・ω・`) 「いやあ、おらんな」
(´・ω・`) 「獣姦が好きな人なら知ってるで。呼ぶ?」
(;'A`)「呼ばんでいい。はーどうしよ」
そのとき、転機は訪れた。
雨だれの音に混じり、誰かがドアを叩く音が聞こえたのだ。
(´・ω・`) 「え、エヌエッチケイの集金や!」
('A`)「払ったらええやん」
(´・ω・`) 「ドクオ行ってきて。居留守ですって」
('A`)「居留守ですって言ったら居るってこと分かるんやで」
そう言いつつも玄関へ向かう。
ドアを開けた先に待ち受けていたのは、意外な人物だった。
川д川「…」
- 80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:24:48.13 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「さ、貞子さんやん! どうしたん? とりあえず、入って入って」
川д川「おじゃまします…」
('A`)「あ、ジミー君のうんこに気ぃつけてな」
川д川「え?」
俺は貞子さんをショボンのところへ連れて行く。
雀を取り囲んで、三人畏まって正座になった。
('A`)「…」
(´・ω・`) 「…」
川д川「…」
「ちゅんちゅん」
- 84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:28:51.85 ID:yWZ++QbJ0
- ('A`)「こほん」
(A` )「ショボン、こちらお隣に住んでる貞子さんや」
川д川「どうも」
( 'A)「貞子さん、こいつは俺のガキのころからの友達でショボンっていうんや」
(´・ω・`) 「アイダホ」
('A`)「それは何語や。で、貞子さん、どうしてショボンの部屋に尋ねてきたん? 雀取り行ったときちょっと見かけたけどさ」
川д川「あの… その、雀が気になって」
(´・ω・`) 「も、もしかして貞子さんは医療できる系!? 医療できる系!?」
貞子さんは真っ白な頬を少しだけ赤らめて、こくりと頷いた。
話を聞いてみると彼女は医大の三年生らしい。そうか、隣に住んでいるのにさっぱり分からなかった。
しかし、そんな秀才さんとは思わなかった。
話が終わると、早速貞子さんは雀を診始めた。
- 85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:30:33.02 ID:yWZ++QbJ0
- 川д川「……」
川д川「あっ、この子翼折れてます」
川д川「ショボンさん、布かなんかあります?」
(´・ω・`) 「あ、ありますなんでもありますよ」
ショボンはまるで貞子さんの助手となり、様々なものを手渡していく。
その様子を、俺はただちょこんと正座をして見ていた。
こんなにアクティブな貞子さんを見るのは始めてだと興味深く見ていた。
そして数分後。
川д川「これで応急処置は大丈夫です! 明日、ウチの大学に連れて行きますわ」
('A`)「おおきに。ほんまおおきに」
('A`)「よかったなチュン太郎」
「ちゅん!」
(´・ω・`) 「違うやろドクオ。マイケルや」
('A`)「どっちでもええがな」
- 86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:32:06.73 ID:yWZ++QbJ0
……ふと気がつくと、雨は止んでいた。
嘘のように灰色が抜けた白い雲。空一面を覆って、重なり合っている。
雲の隙間、隙間から、金色の光が差し込む。
その一筋が、ショボンの部屋にも届いた。
眩しいと感じたけれど、なぜかそれが功労を称える光に思えてならなかった。
俺とショボンは貞子さんとチュン太郎を見送るために外へ出た。
- 87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:34:29.52 ID:yWZ++QbJ0
- (´;ω・`)「達者でな、マイケル」
('A`)「君、何もしてへんがな」
川д川「いえいえ、ショボンさんは一生懸命手伝ってくれましたよ」
('A`)「そ、そぉですか」
川д川「いやあ… あ、雨が嘘みたいに晴れましたね」
そう言って、貞子さんは黄金の光に向かって髪をかき上げた。一仕事終えたときの清清しい表情。
露になった素顔は、俺だけが見ていたようだった。
正直、惚れた。
('A`)(医大生だし… 勉強一筋で来てしまったからこんな損な生き方をしてるのかもしれへん。なんや、滅茶苦茶掘り出し物やんか)
俺の中にある、怨霊のイメージはもうすっかり払拭されてしまった。
それより、この一連の事件で、彼女の魅力に嵌ってしまっていた自分がいる。あの逢い合い傘の件も含めてね。
川д川「あ、あの…」
('A`)「はい?」
- 89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/31(土) 04:36:26.05 ID:yWZ++QbJ0
- (さっき言いそびれたんですけど、今度一緒にお食事でも行きませんか?)
すっかり標準語になってしまった貞子さん。
勿論俺も、標準語で答えてしまう。
(え、エエ、ヨロコンデ)
(って、これは標準語なうえにカタコトやないかい)
素晴らしき哉、雨の土曜日。
水溜りに自分の顔が映っていた。
ちょっとにやけて見えたのは、風で水面が揺れてた性やろ。
……きっとそうやな。
(おしまい)
あとがき
- 91 :◆ps3CKPkBXI:2009/01/31(土) 04:48:38.15 ID:jiHJCHW70
- あとがき
まずはじめに。
自分は関西の人間ではないので、ドクオたちの台詞にはかなり怪しいところがあります。
ご了承ください。
ちなみに自分は関西弁に憧れているのでいつかマスターしたいです。
なぜこの作品を書こうと思ったか。
一つは、物書き中毒がこの時期にまた発症したから。おさまれ。
一つは、キャラのやり取りが面白い( ^ω^)小説を書きたかったから。
一つは、しばらくこういうのんびりほんわかしたお話を書いていなかったから。
内容。
・雨っていいですよね。土曜日という響きもいいですね。
・ながら投下だったので結局一晩かけてしまいまんた。目が冴える。
・貞子ちゃんも自分の書く( ^ω^)小説ではメインで初めて登場。遅れてきた貞子企画 みたいな?(笑)
・冬にスズメって街にいるのかなーって思ったけどまあいい。
また新しい戦いに向けて頑張ろうと思います。
質問や>>1へのメッセージ的なものは作品についてのみでお願いします。
ではまたしばらくさようなら。二ヵ月後あたり。
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