( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです
205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 00:31:35.74 ID:WznWHEl+0
- ep3. 傷だらけの修道女
ξ゚听)ξ「今日はここでお世話になりましょう。あっちに教会が見えたわ」
ニュー速を発った二人は連れを一人増やし、教会本部、いわゆる聖地への道を往く。
それは商業的に大きな都市から、宗教的に大きな都市への大移動だ。
二つは本来的に、相容れない。
金を集めて自由に生きる者達と、神を崇めて規律に生きる者達。
それは天秤のようなもので、どちらかが栄えると、どちらかは必ず衰える。
人の流れもそのどちらかに偏り、いつしか二つは互いに干渉されない程度の距離を置いて、それぞれの発展を遂げた。
三人はそのどちらともいえない、言うなら少し商業都市寄りの小さな村に辿りついた。
昨日から降り続けている雨はぬかるみを発生させ、足取りを重くしていたのだが、
ツンの見つけた目的、教会を目指すことで、多少は気持ちを軽くしていた。
ミセ*゚ワ゚)リ「あ! あ! トソン! 見て!」
(゚、゚トソン「なんです?」
村の縦に伸びる民家を横目に過ぎ、,村の風景から浮いた教会の前に辿りつくと、そこには二人の女児がいた。
水溜りで遊んでいたのか髪はべしゃべしゃに濡れ、土に塗れた洋服は多色のつぎはぎだらけ。
ミセ*^ー^)リ「旅のお方、ぜひぜひこちらへ!」
女児らは飛びつくように三人の元へと駆けてくると、ツンとクーの手を掴み、引っ張った。
教会のほうへ案内をしてくれるらしく、てけてけと走ってゆく。
防雨の布を全身に被っていたのだが、女児の土塗れの手により袖が汚れる二人。
しかしその汚れをべたべた移されるほどに、彼女たちの柔らかな笑みは大きくなっていった。
208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 00:36:09.05 ID:WznWHEl+0
- ぎぃ、と教会の扉を押しあける、活発そうな茶髪の娘。
ミセ*゚ー゚)リ「シスター! お客様です!」
暗い雨の日、教会堂の内部、正面奥に座す十字と、その手前には無骨な壇。
そこから入り口まで横長の席が置かれており、一番前に、一つ影が座っていた。
「あぁ…………」
影は立ち上がり、小さな息を吐き出した。片手には何か小さめの厚い本が持たれている。
ξ゚听)ξ「ラウンジ派の教会だと見受けられたので、こちらに失礼させていただきたいのですが」
茶髪の娘と手を繋ぎながら、ツンがその横まで歩いていく。どうやら手の本は聖書のようだ。
ツンはばさりと雨具を脱ぎ、教会の人間だ、というように白の修道服を見せつけた。
「大丈夫です……そちらから空き部屋へと繋がっておりますので、どうぞお使いください」
シスターと呼ばれていた女性は愛想の一つも見せず、教会堂内の右奥、小さな戸を指差した。
旅の修道女に支給される、ぼろぼろの修道服を纏い、頭にフードを被って、その顔を見せもせずに。
ξ゚听)ξ「わかりました。では、」
と、ツンは後ろに居た連れ二人をこまねき、指された方へと歩き出した。
女児二人はシスターの横に残り、彼らに向けて期待の色が入った眼を向けていた。
ミセ*゚ー゚)リ「シスター、あの人たちはこれからここに住むんですか? あの綺麗な人、シスターと同じ服でしたよ」
(#゚;;-゚)「さぁ……どうなのでしょうね。私には、わからないわ」
211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 00:40:43.77 ID:WznWHEl+0
- (;^ω^)「やっぱり三人分となると重いお」
部屋に着くなり、投げるように荷物を下ろしたブーン。
滴る水滴が床をじわりと濡らし、木の床の色を変えてゆく。
教会の旅人を受け入れる体制はどこへ行っても同じでありながら、その広さはなかなかのものを誇っていた。
ベッドは一部屋に六つが基本で、荷物置き、衣紋掛け、部屋の隅には燭台つきの小さな丸テーブルが置かれる余裕がある。
埃も立たないところ、ここはなかなか真面目に掃除もなされているようだ。
ξ゚听)ξ「ここ、神父が居ないのね」
濡れた雨具を吊るしつつ、ツンはこぼす。
普通、最低でも神父とシスターの二人以上が入るはずなのだが、どうやらここではあのシスターと、おそらく子供二人。
ラウンジ正教とは宗祖が同じで、流れは違っているのかもしれない。少しの違いは、大きな結果を作るものだ。
その違いがあの態度のシスターなのかと思うと、ツンは少し複雑な気持ちになるが。
川 ゚
-゚)「居ない方がいい。神父というと、問答無用で堅苦しい話を聞かされそうな印象だ」
ξ゚听)ξ「そういう人も多いけど、基本的に旅人には空気読むわよ?」
川 ゚
-゚)「まあ確かにお前がいるし、いきなり教えを説かれるような心配は無さそうだが」
ξ--)ξ「むー? 私は所属が教会なだけで、そんななんたらーの神様とか大して興味ないわよ」
川 ゚
-゚)「そうなのか、『騎士』なのだからてっきり、聖書を丸呑みしたような人間だと思っていたぞ」
ξ゚听)ξ「批判的な無神論者みたいに、ばかばかしい、とは言わないけど。私が信じるのはもっと形のあるものよ」
川 ゚
-゚)「……ふむ。そう言われてみると、私の生きている意味もなにか宗教じみているのかもしれないな」
214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 00:45:07.17 ID:WznWHEl+0
- ふいに、とんとん、と軽く戸をたたく音が鳴った。
ツンが会話を切りあげてそれに応えると、ゆっくりと開く。
ミセ;゚−゚)リ「あの、あの、」
(゚、゚トソン「どうして今更緊張しているのですか……?」
先程の娘たちだった。
着替えたのか、汚れてはいない茶色の、服というよりは布をすっぽり被り、二人並んでそこに居た。
一人は茶髪で、顔の横から飛び出すように髪が跳ね、先程とは転じてどもっていた。
もう一人は黒髪で、肩に届かない程度に揃えられ、どもる娘に向かって首を捻っている。
ξ*゚听)ξ「あらー、どうしたの? こっちに来て話しましょう?」
彼女たちを見たツンは途端に笑顔になり、ベッドに座りながらそこをぽんぽん叩く。
ミセ*゚ー゚)リ「いいんですか! 失礼します!」
跳ねっ毛の娘も対抗するように表情に花を開き、ツンの元に飛び込んだ。
一方ではそれを眺めながら、やれやれといった顔で憮然として部屋の前に立ちつくす娘が腰に両手を当てていた。
川 ゚
-゚)「そうだな、君は私のところに来るか? 懐が空いてしまっているんだが」
(゚、゚*トソン「え、……う……はい……」
よしよし、とクーはすぐさまやってきた娘の黒髪を撫でる。
くすぐったそうに笑うのは、やはり歳相応のものである。
( ´ω`)「チッ……んじゃ、僕は寝るかお。蚊帳の外はさみしいお……」
217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 00:49:48.32 ID:WznWHEl+0
- ミセ*゚−゚)リ「あの、あの、あなたがたは旅をされているのですか?」
ξ*゚听)ξ「そうよー、色んなところに行って、ちょっとした調べ物をしているの」
ミセ*゚−゚)リ「あの、ここにずっと住んだりはしないんですか?」
ξ*゚听)ξ「どうかしら? あなた達、なにか困っている事でもあるの?」
ミセ*゚−゚)リ「シスターがずっと寂しそうなんです、だからきっと、同じお歳の話し相手が欲しいんです」
ξ*゚听)ξ「確かにあの人ちょっと暗いわねぇ。あなた達は仲良しじゃないのかしら?」
ミセ*゚−゚)リ「シスターはまじめで、私達をすごく大切にしてくれます。だから、お母さんみたいな人なんです」
ξ゚听)ξ「あー、なるほど……ね。お母さんかあ」
大体の理解としては、彼女達は孤児で、あの修道女はこの教会で二人の世話をして、といったところで正しいだろう。
ミセ*゚ー゚)リ「そうだ自己紹介! 私の名前はミセリで、あっちの子がトソ……」
(-、-*トソン「柔らかいです……気持ちいいです……」
川*゚ -゚)「ああ、私も素直な娘は好きだぞ」
さっそく女児を胸に抱きしめるとろけた眼の女は、ツンから見ても、というか同性から見たからこそ変態に見えた。
ミセ;゚Д゚)リ
アワワξ--)ξ⊃「ちょっとクーさん何やってんの……いきなりくっつきすぎだよ……」
川*゚ -゚)「ぬっふ、これも必要な交流なんでな」
219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 00:54:31.60 ID:WznWHEl+0
- 結局ツンが止めると、クーはしかめっ面でベッドに寝そべった。
それを見て納得し、ミセリに向き直る。
ξ゚听)ξ「シスターは普段、どういう人なの?」
ミセ;゚ー゚)リ「えっと、毎日朝と夜、十字架に祈りをささげて、えっと、私達に朝ご飯をつくってくださって……トソン〜!」
説明は苦手なのか、両手をふらふら中に浮かせながら、困ったような顔で黒髪を見た。
(゚、゚トソン「はい、本を読んでいただいたり、シスターの過去のお話を聞かせていただいたり、です。
シスターはやさしいです。昼間は村長の家にお手伝いまで行かれて、疲れて帰っても、私達のお世話を、」
ξ゚听)ξ「……村長のお手伝い?」
ちょっと変だな、と首を捻るツン。
現時点で聞くところでは普通の、いや、真面目な修道女。ならばその意義も、どういったものかを把握しているはずだ。
望まない教えは驕りだと考える体制なのにも関わらず、修道女がわざわざ村長の村へと行くというのは不自然なのだ。
確かに規模が小さいとはいえ、村への干渉もあくまで教会内に限ったものである、はずなのだが。
(゚、゚トソン「ええ、シスターは人手の少ないこの村の村長の家で、家政婦としても雇われているのです」
ξ゚听)ξ「あ、そういうことなの……うーん……?」
(゚、゚トソン「そこで得た報酬を私達の暮らしにあててくださって、私達が生活で困ったことは一度もございません」
川 ゚
-゚)「なかなか慈愛に満ちた感心な女性だな」
ξ゚听)ξ「ええ、変態のあなたとは似ても似つかないわ」
働きづくめで、報酬を得る。それは正しい修道女の姿なのかと、細かい規律に興味を持たないツンには疑問があった。
220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 00:59:04.49 ID:WznWHEl+0
- (#゚;;-゚)「おはようございます」
教会堂内で朝から十字架へ膝を折って祈りを捧げていた修道女。
長椅子にならんで座っていた三人に振り返ると、昨日とは違い顔を出したまま、ゆっくりと礼をする。
顔にはいくつか切り傷のような火傷のような痕が多々あり、なかなか痛々しい。
ξ゚听)ξ「どうも。私はラウンジ正教のツンと申します」
(#゚;;-゚)「私は………ディ、です」
彼女は考え込むように、じっくりとツンを見ていた。
ξ゚听)ξ「そちら、宗派はどちらで?」
(#゚;;-゚)「……え?」
ξ゚听)ξ「あー……私は一応正教派なのですが、そういうところに疎いんです。
少なくとも私達とは違うようなので、後学のために伺いたいのですが」
不作法なツンに対し、顔を引き締めつつ、手元の聖書を握りしめる。
(#゚;;-゚)「私は…………きゅ、」
ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます!」
と、奥の戸からミセリが勢いよくやってきた。
朝から元気なもので、癖毛と寝癖の区別が全くつかない。
そこに焦った様子で走ってきたトソンが、慌てて何度も頭を下げる。
(゚、゚;トソン「あの、すみません、止められなくて、ごめんなさい……」
221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:04:07.73 ID:WznWHEl+0
- ふぅ、と息を吐き出しながら、ディは強張っていた顔を緩めた。
そのままミセリの前に歩いてゆき、トソンも手招くと二つの小さな頭を撫でる。
(#゚;;-゚)「大丈夫よ、ちょっとだけ驚いただけだから。それじゃあ、今日は濡れた服を干しましょうね」
そしてディはツンらの方に振り返り、首を傾げながら軽くうなずく。
ツンもそれに対して、しっかり頷いて返した。
二人を連れ、ぱたん、と戸が閉まる。
そういえば昨日、彼らの居住スペースは、ツン達が使う部屋の隣で、全く同じつくりらしい。
おそらくは濡れた服を取りに行ったのだろう。
( ^ω^)「うーん、なんか……」
ξ゚听)ξ「しっくりこないの?」
( ^ω^)「お」
ξ゚听)ξ「きゅ、って旧教のほうかしら? そういうところに来るのは初めてなの?」
( ^ω^)「いやそんなことじゃないお。ていうか宗派がどうとか全く興味がないし、知らないお」
ξ゚听)ξ「じゃあなによ」
( ^ω^)「あの修道女、なんで緊張してたんだお」
ξ゚听)ξ「はぁ? そんなの簡単よ、あんたがでかいからてしょ」
(;^ω^)「えぇ……別に取って喰ったりしないお……」
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:09:10.08 ID:WznWHEl+0
- ミセ*゚ー゚)リ「今日は天気がいいですね!」
(#゚;;-゚)「そうね、太陽が眩しい」
(゚、゚トソン「今日も、村長の家に行くのですか?」
(#゚;;-゚)「ええ。最近、少し荒いのだけど……」
ミセ*゚−゚)リ「大丈夫ですか? それなのに私達のお世話まで……無理、しないでください……」
(#゚;;-゚)「ええ、辛くは無いから大丈夫よ」
(゚、゚トソン「シスター……」
ミセ*゚ー゚)リ「手伝えることがあれば、なんでも言ってください!」
(#゚;;ー゚)「ふふ、じゃあもうすこしあなたたちが大きくなったら、私は楽をさせてもらうわね」
ミセ*゚ー゚)リ「頑張ります!」
(゚、゚トソン「肉体労働はミセリが中心でおねがいします」
ミセ*゚З゚)リ「それはずるいよ! トソンは口げんか強いだけじゃん! 頭いいわけじゃないもん!」
(#゚;;-゚)「大丈夫よ。村長の家政婦なんて体を遣うだけ。トソンもいっぱい働くといいわ」
(゚、゚;トソン「はぁ……やっぱりそうですか……」
ミセ*^ー^)リ「ほら〜! いつか一緒に頑張ろうね、トソン!」
226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:13:55.64 ID:WznWHEl+0
- 昨日濡れた服はミセリ達がまとめて処理するということになり、やることがなくなったブーン達。
クーが率先して暇そうにすると、ツンも対抗するように暇そうな顔をした。
( ω )「あ、ほんとうに、なにも、することが、ない、お」
ξ--)ξ「たまにはいいかな〜」
川 ゚ -゚)「私はずっとこんな感じだな……」
ξ゚听)ξ「ていうかクーさん、ドクオ? はどうやって見つけるのよ」
川 ゚ -゚)「さぁ」
ξ--)ξ「さぁ……」
川 ゚ -゚)「いや、全力を出せば追いかけることも不可能ではないが……今はいいだろう」
( ^ω^)「さすが吸血鬼、追跡できるなんか技みたいなのでも使えるのかお?」
川 ゚ -゚)「勘だ」
( −ω−)「勘……」
ξ゚听)ξ「今はいいって、どうして?」
川 ゚
-゚)「お前達と居るのはなかなか興味深いからな」
ξ*゚听)ξ「ん〜? ……楽しい、でしょ?」
川 ゚
-゚)「……それを言ったら負けな気がするから、絶対に言わんからな」
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:19:15.55 ID:WznWHEl+0
- (#゚;;-゚)「それじゃ、私は出掛けるわね」
ミセ*゚ー゚)リ「はい!」
(゚、゚トソン「頑張ってください」
正午になると、ディは二人に読んでいた聖書を閉じ、教会堂を立とうとする。が、
ξ゚听)ξ「あ、ディさんすいません」
(#゚;;-゚)「……なんでしょうか」
ξ゚听)ξ「この二人を運ぶの、手伝ってもらえます?」
( −ω−)川 - -)
長椅子に沿うように、大男と細身の女が倒れていた。
ツンに指示を受け、手に持った聖書をその辺りに置くと、女の方の脇に手を伸ばした。
( −ω−)⊂ξ--)ξ「すいません……こいつらいきなり寝てしまって……」
(#゚;;-゚)「お気になさらず。仕事を奪ってしまったのが原因でしょう」
部屋に着くとすぐに二人をベッドに寝かせる。
ツンが感謝の言葉を告げると、ディは軽く会釈をして、部屋を後にした。
(#゚;;-゚)「では、今度こそ行ってきます」
ミセ*゚ー゚)リ「はい。シスターに、神の御加護がありますように」(゚、゚トソン
231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:24:17.60 ID:WznWHEl+0
- ξ*゚听)ξ「うんうん、それでブーンがゲロを……」
ミセ*゚ワ゚)リ「あははは! ブーンさんって、世界中のゲロを吐きかけられてきたんですね!」
(゚、゚;トソン「うぅ……それ、最悪ですね……」
ディが出ていった後、必然的に話相手はこうなった。
ツンは昔の旅の話をしながら、二人はツンにべったりくっついて目を輝かせながら頭を突き出す。
二人は今までこの村を出たことがなく、村、街、国をまたにかけるツンの話は楽しくて仕方がないらしい。
ξ*゚听)ξ「ゲロはあいつの運命そのものよ」
ミセ*^ー^)リ「ぷっ、それは言い過ぎだと思いますよ〜!」
(゚、゚;トソン「すごい匂いがしそうです……ブーンさんには近づかない方が賢明ですね……」
ξ*゚听)ξ「いいねいいね、あなた達に避けられたら、さすがにあいつも落ち込むわよー!」
三人でははは、と顔をほころばせて。純粋な子供たちの声と、いやらしく笑うツンの距離は、昨日よりもさらに近付いてた。
そこでふと、思い出し顔で勢いよくミセリが椅子を立った。
ミセ*゚ー゚)リ「そうだ、そろそろ夕飯の準備を……っとと?」
ツンに向かって立ち上がった向こう、何かを見つけた様子のミセリ。
ミセ*゚−゚)リ「あれ? シスター、聖書を忘れてる?」
彼女が見ていたのは、長椅子に放置された普段からディが抱える分厚い聖書。
今日に限って、というより、どうして忘れたことに気付かなかったのだろうか。
ミセリはそこまで歩いてゆくと、それを手に取り眺める。やはり、ディのものだ。
233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:29:25.75 ID:WznWHEl+0
- ミセ*゚ー゚)リ「トソン! これ!」
振り返るとトソンは不審そうな顔をしていた。
それに弁解するように、ミセリはディの聖書を両手で掲げるようにして見せる。
(゚、゚トソン「それは……」
ミセ*゚ー゚)リ「届けた方がいいよね?」
(゚、゚トソン「でも、食事の準備もあるし、シスターも迷惑なんじゃ……」
ξ゚听)ξ「いいんじゃない? 夕飯の準備は、物のある場所を教えてくれれば私がやるわよ?」
(゚、゚トソン「でも……」
ミセ*゚ー゚)リ「あ! じゃあお願いしてもよろしいですか!」
ミセリには純粋に聖書を届けたいという意志もあったが、先を往くのはディの仕事を見ておきたいという好奇心だ。
近い将来村長の家の家政婦として働くのではないか、という認識でいた彼女は、そのための準備もしておきたいのだ。
トソンは不安そうにツンとミセリを見るが、こういう時の主導権は、大抵の場合ミセリが握る。
ξ゚ー゚)ξ「ええ。じゃあ調理場の場所と注意点でもあれば、教えてね」
ミセ*^ー^)リ「はい、こっちです!」
ツンの手を引き、旅人の部屋、彼女達の部屋を過ぎると広めのキッチンに辿りつく。
そこで必要な道具と材料の位置を伝え、ここでの火の扱いを伝えると、すぐさまミセリは駆けだした。
ミセ*゚ー゚)リ「では、大事なお仕事、こなしてきます!」
234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:35:31.57 ID:WznWHEl+0
- いってらっしゃい、と手を振るツンに二人は深く頭を下げ、身を翻す。
教会周辺からあまり離れない彼女達には、村への道はなかなか新鮮だった。
ミセ*゚ー゚)リ「村長さまの家はどこかな?」
(゚、゚トソン「うーん、まずは村の中心に行きましょう」
この村の中心とは井戸のことを指す。
二人もまれに、そこへの水汲みに行くディの手伝いで来る場所だ。
しかしそこから先は、全くの未知なのだが。
ミセ*゚ー゚)リ「あの、あの!」
「ん……、なんだい?」
ミセリは井戸に辿りつくとさっそく、水を汲みにやってきたのであろう中年の女性に声をかけた。
女性は一瞬眉間にしわを寄せて二人を眺めたが、ややあって返事をした。
ミセ*゚ー゚)リ「村長さまのお家を教えていただきたいのですが……」
「うん? あなた達が村長さんのとこになんの用だい?」
(゚、゚;トソン「そちらの家政婦の方に、急ぎの届けものがあるんです……」
咄嗟に返したトソン。
「家政婦、ねぇ………? ええと……村長さんの家は、ここから見える山があるだろう?」
一応は納得してくれたようで、女性は道を彼女達に伝えた。
井戸から山に向けて真っ直ぐ、村の道なりに歩いていって、一番大きい家がそうだという。
236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:42:03.24 ID:WznWHEl+0
- ミセ*゚ー゚)リ「ここかな?」
言われた通り道なりに、昨日で少しぬかるんだ中を踏みしめていくと、村の外れに大きな家が見えた。
真っ黒な屋根が特徴的で、ミセリ達には、他にはない厳粛な雰囲気が漂っているように感じる。
(゚、゚トソン「わぁ……確かに大きいですね……」
ミセ*゚ー゚)リ「私達がお手伝いすることになったら、すごく大変そうだね」
道を少し外れてその家の敷地があるのだが、二人は今のような会話をしながらなかなか動こうとしない。
実際に目の当たりにして無意識に委縮してしまっているのだ。
物心ついてから育ってきた環境は、教会の中とその周辺に限られた外のみ。
ましてや初めて訪問する家はこの村の村長の家。
未だ十にも満たない年の少女たちの体には、妙な力が入る。
(゚、゚トソン「ミセリ?」
ミセ;゚д゚)リ「はいっ!」
(゚、゚;トソン「緊張するのはわかりますが、そろそろ、行きましょう、よ……」
言葉とは裏腹に、声がどんどん尻すぼみになるトソン。
彼女が驚かせてしまったミセリと同様に、トソンにも緊張が見られる。
ミセ;゚ー゚)リ「でもさ、どうやっていけばいいの?」
(゚、゚;トソン「確か……扉のあたりに呼び鈴? があるはずですよ……」
ミセ*゚−゚)リ「探してみよう……」
237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:47:40.56 ID:WznWHEl+0
- 遠くから伺うように、徐々に戸へと近づいていく。
そこでミセリが発見したのは、白い戸の横にある花のつぼみのような装飾。
こそこそとトソンに手を振り、それに指を向けた。
(゚、゚トソン「……」
ミセ*゚ー゚)リ「あれってさ、途中の家にもあったものだよね?」
(゚、゚トソン「ですね。伏せたコップのかたちの金属で、中にぶら下がる棒と、何か紐がついています」
ミセ*゚ー゚)リ「引っ張れってこと?」
(゚、゚;トソン「えぇぇぇ……でも違ったらどうするんです……? 防災用だったりでもしたら……」
ミセ*>Д<)リつ|彡「ごめんもう引っ張った!」
(゚、゚;トソン「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
小声で行われる二人のやり取りに、からん、からん、と鐘のような音が響く。
二人は思わず戸の前で小さく縮こまり、しっかりと手を握って歯を食いしばった。
ミセ*>―<)リ「……!」
(>、<;トソン「……っ!」
けれど。
ミセ;゚−゚)リ「…………誰も出てこないよ……?」
(゚、゚;トソン「これは…………安心するところ、なのですかね?」
240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:53:55.40 ID:WznWHEl+0
- 実際は、呼び鈴を鳴らしている中で人の気配、物音までした。
しかし二人がじっと待ってみても、誰も出てくる様子はなく。
ミセ*゚−゚)リ「おかしいなぁ……」
(゚、゚トソン「お留守なのでしょうか……」
きょろ、とミセリが目をつけたのは、家の大きな窓。
カーテンが敷かれてるが、探せばなんとか覗ける空間が見つかりそうだ。
ミセ*゚ー゚)リ「トソンこっち!」
戸を離れたミセリが軽く跳び、窓の周囲につくと、トソンに手を小さく振った。
トソンは戸とミセリを何度かちらちら確認するが、ミセリの近くへ行くほうに気持ちが優先されてしまう。
(゚、゚;トソン「覗きはだめですよ!」
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫だよ、大きい窓なんだし、近くで見ても一緒だよ!」
(゚、゚;トソン「でも………」
既にミセリは白い窓枠に手をかけて、今すぐにでも飛びついてしまいそうだ。
トソンはそこで何も言えなくなり、黙ってミセリを見つめる。
ミセ*゚ー゚)リ「ほら、トソンも!」
ミセリが手を引っ張り、二人並んで背伸びをして、窓枠に頭を乗せた。
見つけた位置はちょうどカーテンが微かに空いていた場所で、ぐっ、と近付くと中が良く見えた。
薄暗いが、まだ昼間の明かりでなんとか見える。
そして、中に居たのは、二人。
242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 01:59:49.17 ID:WznWHEl+0
- 「ん……?」
人がいる。
それも、男女だとすぐにわかった。
一人は体中が毛むくじゃらの、腹の部分がたるんだ中年男性。
一人は体中が傷だらけの、おそらくまだ若い、すらりとした体の女性。
男の方は、広い部屋の真ん中で仰向けに寝そべり、醜い腹を揺らしていた。
女の方は、その上に跨り、背中に油を塗ったかのように小さな光を多分に反射していた。
どうして男の腹が揺れていたか。
それは、女性が男性の上に跨ったまま、狂ったようにがくりがくりと揺れていたから。
どうして男女の、体中の様子が、わかったか。
それは、二人の姿が一糸まとわぬものだったから。
「ぁっ……!」
思わず、少女達は息を深く吸い込んだ。
これは見てはいけないものを見てしまっている、そう思わされた。
なぜなら、体を揺らす男の表情が、今まで見たこともないようなものだったから。
そして、薄暗い中見えた女性の後ろ髪、甲高い声が、二人の良く知る、二人にとって唯一の人に、思えたから。
小さな悲鳴に対し、男が揺れる女を止めようというのか、手を挙げた。
やがてその手はゆっくりとかたちを作り、ミセリ達の方へと指を向け
「トソン、走ろうっ」
245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:05:15.26 ID:WznWHEl+0
- 一心不乱に走った。
彼女達の胸は恐怖心だけで満たされようとしていた。
ただ知らないことに触れただけなのに、彼女達の小さな心臓は早鐘を打った。
何が心臓を鳴らせているのか、どうして鳴っているのか。
それは本能が告げている、彼女達の日常とはいえないもの。
ふと、ミセリは走る手に聖書を持っていなかったことに気付いた。
隣のトソンが持っているのかと思ったが、手を繋いで走っている上に、もう片手は無心で、全力で振っている。
どうしよう。
一瞬思ったが、どうしようもない。
幼い心は不安を持って、幼い顔は涙をもって。
崩れる。みるみるうちに、崩れる。いとも容易く、あっという間に、崩れる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、
どうすればいいのかわからない、どうしたらいいのか、なにもわかっていない。
無知を自覚することで、逃げ道がなくなっていくような錯覚にとらわれる心。
やがていつの間にか、泣きじゃくったまま教会に飛び込んでいたことに、気付く。
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:11:16.72 ID:WznWHEl+0
- ξ;゚听)ξ「ちょっと! どうしたの!」
扉への体当たりは教会を大きく揺らし、彼女達の呻くような声はツンを呼びつけた。
「違うんです、違うんです」
「私達は、何も見ていないんです」
「私が聖書をなくしてしまったんです」
「違います、私がいつのまにか、落としてしまったんです」
ξ゚听)ξ「落ち着いて。何も言わなくていいから。深呼吸をして」
ツンは切れ切れの、はっきりとした声をかけて二人の背中をさする。
震える少女達は息を引きながら、尚も涙を流す。
本当に大したことではないはずなのに、涙が出る。
ツンにさすられる背中、言葉を思うと、怖い夢を見てしまった時の、あの人を思い出す。
優しく、ゆっくりと言葉をかけて、安心させてくれる、そんな優しい、あの人を。
しかし、
「っ、っ、あっ、あっ、……うっ、っ、」
あの女性がもし、あの人だったら? 紛れもなくそうだったとしたら?
自分達に見せない、知らない彼女があそこにいたとしたら? 動物のような姿で揺れる女性が、あの人だとしたら?
怖い。言い知れない不安がよぎる。だったら、普段のあの人は本当の姿ではないのかもしれない。
ずっと嘘の姿を見せられて、そこにずっとだまされて、ずっと甘えてきてしまったのかもしれない、そんな怖さ。
248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:16:42.29 ID:WznWHEl+0
- 二人が次に目を覚ましたのは太陽が沈んでから。
気付けばベッドに寝かされており、二人の手を、ディが握っていた。
(#゚;;-゚)「あなたたち……」
「「いや………」」
二人は彼女を見ると、同時に声をあげた。
それはディの二の句を潰し、完全に言葉を失わせた。
(#゚;;-゚)「………」
ディの膝には、土に汚れた聖書があった。
その汚れは確かに、あの場所周辺で落としたものだろう。
「……!」
それを見て、トソンは確信した。
ああ、あの女性はやはりこの人なんだ、と。
途端に頭が昨日の雨のように冷たくなり、気持ちが悪くなる。
あんな醜い男に跨っていた裸の女性が目の前で自分の手を握っていることが、認められなかったのだ。
信じられない。汚らわしい。この人は、どうかしている。
握られた手を、トソンは無理矢理振り払った。
手を布団の中に隠すと、懸命に、流水で手を洗うように、擦った。
それからの長い沈黙の後、ディは座っていた椅子を立ち、部屋を出ていった。
250 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:22:58.06 ID:WznWHEl+0
- (#゚;;-゚)「……」
( ^ω^)「昼間に何か、あったんですかお?」
部屋のすぐ外には、ブーンが立っていた。
ξ゚听)ξ「………」
出てきた戸の反対側には、ツンが。
無表情のようだが、ディの額を貫くような視線をもっていた。
川 ゚ -゚)「………」
その隣には、腕を組んだクーが。
彼女の目はディを見ておらず、ディの足元、戸の入り口を見つめている。
(#゚;;-゚)「私は、別になにも……」
ぴくり。その言葉にツンが動いた。
ξ#゚听)ξ「だったらあの子たちの様子は何……? 二人はあなたのところに向かってたのよ……?」
( ^ω^)「ツン、」
ξ#゚听)ξ「止めるな、あんたには関係無い」
( ^ω^)「本来的にはこの件自体、お前にも関係が無いお。それに頭から怒っても、いいことないお」
川 ゚
-゚)「ふむ。私は少し、あの子たちと話がしたいな」
252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:29:23.73 ID:WznWHEl+0
- ξ#゚听)ξ「ちっ、」
それでもあからさまに舌打ちを向け、怒りを露わに。
( ^ω^)「ディさん、こっちに」
(#゚;;-゚)「はい……」
そんなツンの視線をブーンが体で遮り、いつもディらが過ごす部屋へと押していった。
ξ#゚听)ξ「なんなのよ、あの女……」
川 ゚ -゚)「さて失礼する」
少女らの寝る部屋にはツンとクーが入る。
一番奥のベッドはそれぞれ小さくふくらみ、布団を頭からすっぽり被ってしまって顔を見られない。
川 ゚ -゚)「私だ、クーだぞ」
片方に座ると、クーがそこに手を乗せた。
「いや、」
しかし、拒否する声。
川 ゚
-゚)「何があった?」
「何もありません、」
ξ;゚听)ξ「無理に話してもらわなくていいのよ? うーん、と……」
253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:35:15.19 ID:WznWHEl+0
- ツンは動揺した。
なかなかどうして、子供というのは扱いが難しい。
子供は純粋すぎるが故に、頑固である。
その頑固さは、『あれが欲しい』と思うと、どんな無茶をしても手に入れようとすることなどによく現れている。
目的の、例えば花を手に入れた後で、体にたくさんの切り傷を作っていたことに気付いたりする、など。
要するにこれは、周りを見て行動をしていない、できない、ということだ。
今回のこの状態も、きっかけは大したことではない、勘違いのようなものかもしれない。
冷静な判断に欠ける子供だからこそ、今のような状況になっている可能性もある。
自分が見た情報を自分の中で集約させ、視野の狭い世界で一つの答えを出している。
それはある意味危険なもので、子供だけでなく、大人もそんな状態に陥ることすらある。
いつかの宗教戦争も、自分の信じるものだけを見ていた結果の、悲惨な事故だといえる。
もっとゆとりのある心、ゆとりのある精神さえあれば、間違いは最小限で済むはずだったのだ。
川 ゚ -゚)「ツン、どうした」
ξ;゚听)ξそ「あっ、いや少し考え事。どうしよっかなー、って」
頭を掻きながら、ようやくそこを落ち着かせる。
好意的に考えればこれは『勘違い』で済んでくれる。
ディさえしっかり話して、誤解を解くことができればそれで終わりの話だ。
だが、ディの側に非が無い、とは言い切れない。
本当になにか衝撃を受けるようなものを見てこうなっているならば、ツンは彼女達を放ってはおけない。
それは今まで『魔導具』の処理をし続けてきたツンの、他人に対する自己満足でしかないのだが。
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:41:32.05 ID:WznWHEl+0
- いつのまにか夜が明けていた。
ミセリとトソンは、ツンとクーが寝てしまったのを確認して、一緒の布団に滑り込んだ。
「ねえトソン……」
「なんです……?」
「今日、シスターと話してみよう?」
「嫌です」
「どうして?」
「あんなに汚らわしい人、嫌いです」
「……きっとシスターも理由があったんだよ」
「ありません」
「そんなの、わからないじゃない……」
「あんな、野犬のような人と、あんな……」
「私には、わからないよ……」
「じゃああなたは、あれと同じことができるのですか?」
「わからないよ……」
「毛むくじゃらの、気持ちの悪い男と、服を脱いで、」
「わからない……」
「あんな獣のような顔の男と、あんなに近付いて……」
「わからない……」
「私は、絶対に嫌です。ミセリにもできるなら、私は……ミセリも、嫌いです」
ミセ#゚−゚)リ「だから……わからないって言ってるでしょ!! いい加減にしてよ!!」
二人で一緒に被っていた布団は取り払われた。
取り払った一人は、目を見開いて大声をあげていた。
未だベッドにうずくまるもう一人は、小さくなったまま、爪を噛んでいた。
(;、;トソン「怖いんです……私は、わからないから、こわいんです……」
255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:49:23.08 ID:WznWHEl+0
- ミセ#゚−゚)リ「もうトソンは本当にシスターが嫌いになっちゃったの?
あんなに優しいわたしたちのシスターなのに、嫌いになったの?」
(;、;トソン「私は、あんなことをしていたあの人が……」
ミセ#゚−゚)リ「『あんなこと』って何? 私達には何をしてたかなんてわかってないじゃない!
なんでそんな簡単にそんなことが言えるの!? トソンはシスターを信じてないの!?」
(;、;トソン「だって……だってミセリだって……!」
ミセ#゚−゚)リ「もうしらない! だったらもういい! 私がシスターに聞いてくる!」
ベッドを飛び降り、駆けだそうとしたミセリ。
しかし、すぐにミセリは柔らかい何かに衝突してしまう。
ξ゚听)ξ「ミセリ、落ち着いて……」
ミセ#゚−゚)リ「ツンさん、どいてください」
ξ゚听)ξ「トソンと仲直りするまで、どかない」
ミセ#゚−゚)リ「いいんです、もうトソンと私はなんでもないです」
ξ゚听)ξ「やめなさい。そういうことを言ってはだめ」
ミセ#゚−゚)リ「もうトソンとは関係ないんです、シスターのところに行かせてください」
ξ゚听)ξ「……ブーンがもう聞いてるから、もう少し落ち着いてから聞きましょう」
ミセ#゚−゚)リ「あなたたち………寝てたんじゃ、なかったんですか…………」
257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 02:57:01.25 ID:WznWHEl+0
- それでも絶対仲直りはしない、というミセリは、必死に隣の部屋へ連れていくよう懇願し、見かねたクーが連れて行ってしまう。
部屋に残るトソンは小さくなったまま、鼻をすすっていたのに。
(;、;トソン「うぅ……ぅぅ……ミセリ……ミセリ……」
ξ゚听)ξ「……」
ツンは彼女が泣き止むまで一緒に居ることにした。
この状態の彼女は、放ってはおけない。
唯一の親友と違えてしまった気持ちは、そう簡単には取り戻せないはずだ。
彼女はベッドにまるまり、泣きべそをかき続けている。
その涙は何に対してのものか、おそらく彼女にもわかっていない。
しかし原因は確実に、村長の家に行ったことに関係しているのだ。
ならば考えうる可能性、彼女の様子でどうにか想像がつかないものか、
ξ )ξ「……ぅっ………」
そこで、彼女の爪を噛む姿、小刻みに震える小さな体に、なぜだか気持ちが悪くなった。
妙な既視感がふいに、よぎった。
彼女のような姿を、ツンは過去に知っていたのだ。
それはツンにとって大きな痛みだと、頭が訴えていて。
259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 03:04:03.10 ID:WznWHEl+0
- (#゚;;-゚)「ミセリ……トソンは……?」
部屋では椅子がディを中心に囲むように並べられていた。
ブーンは仏頂面で、目を閉じたまま腕を組んで待っていた。
川 ゚ -゚)「取り込み中だ。あとで話せばいいだろう」
(#゚;;-゚)「そうですか……」
( ^ω^)「じゃあ、話すかお?」
ミセ*゚−゚)リ「……はい………」
( ^ω^)「落ち着いて聞けば、きっとわかってくれると思うお」
ブーンの語るディの『理由』は、今の不安定な彼女にはあまり理解ができないものであった。
余計な考えを巡らせる彼女に聞こえたのは、『奴隷』、『無理矢理』、『教会』、『村長』、『報酬』、『盗賊』。
そこから総合して考えうること、ミセリが、この場に居て感じたこと。
(# ;;- )
「ごめんなさい………ミセリ……嘘を、吐いていて……」
話が終わると、母のような存在の彼女が泣いている、それを含めて考えた結果。
言葉をしっかりと捉えられたかは、もう考える余裕すらなく。
「全部、村長が悪いのだ」。ミセリはそう確信して、部屋を飛び出した。
川 ゚ -゚)「おいミセリ!」
クーが出ていった戸に手をかけて大声を出すが、そんな言葉は、ミセリには届いていなかった。
(;^ω^)「僕の説明、そんな深刻に聞こえたのかお……?」
260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 03:10:28.69 ID:WznWHEl+0
- ミセ#゚−゚)リ「トソン!!」
(゚、゚;トソン「ひっ……!」
戸を勢いよく開け、ミセリはトソンの元に駆けてきた。
ξ;゚听)ξ「ミセリ?」
ミセ#゚−゚)リ「行くよっ!!」
(゚、゚;トソン「えっ」
ミセ#゚−゚)リ「村長の家! シスターを助けてあげなきゃ!!」
(゚、゚;トソン「え? え? きゃあっ!」
腕を無理矢理に引っ張り、教会を飛び出してゆく。
途中、クーやブーンの静止の声があったが、彼女達は、ミセリは止まらない。
ξ )ξ「ああ、そう、やっぱりそういうことだったの……そうよね、本当に、汚らわしい……」
ツンは一人、納得したようにその場に座り込む。
震えるトソンの様子は、彼女自身に覚えがあった。
それは過去、小さかったころの自分だ。
錬金術を刻んだ幼少期、彼女の体には刻印とは別の、消えない傷をつけられた。
彼女に起きたことは、父の指示とは全く関係の無い、「ある実験」。
顔をちらりとしか見たことのない、汚らわしい男に無理矢理剥かれた、消したい過去。
ミセリとトソンの様子を見る限り、身を斬るような過去を持つツンに彼女達を止めることはできなかった。
261 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 03:16:09.60 ID:WznWHEl+0
- ミセ#゚−゚)リ「あぁ、もう、うぅ……」
走っていた、村の中を真っ直ぐ。
どうすればいいかは何もわからない。
しかし何かを言わなければならない。
シスターを助けて欲しい、シスターを返して欲しい。
それくらいしか思いつかない、でもそれを言わなければ納得がいかない。
だから走った。必死に走った。
村の人が怪訝な顔でこちらを見るが、無視した。
人にぶつかりそうになるが、なんとか避けていった。
けれど、やはりぶつかった。
(>、<;トソン「ごめんなさいっ……!」
手を引いていたトソンだ。少し急ぎ過ぎたのかもしれない。
ぶつかった男は「いいよ」と、トソンの頭を撫でた。すると、
_
( ゚∀゚)「ん………? ねぇ君達、何か悩みでもあるのかい?」
その男は笑って、背負っていた真っ黒の袋をゆっくりと地に降ろした。
263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 03:23:15.96 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「どこ行ったんだお?」
川 ゚ -゚)「子供の足だが、もう見失ったというのか」
(#゚;;-゚)「きっと村長の家です! こちらへ!」
ディが二人の先を走る。
服装通りの修道女とは思えない、しっかりとした足取りだ。
川 ゚ -゚)「遠いのか?」
(#゚;;-゚)「あまり遠くはありません! とにかく急ぎましょう!」
( ^ω^)「だお。子供とはいえ、あんまり迷惑かけられないし」
続くように、二人は走った。
もっともブーンとクーはそれほど急ぎ足というわけでもない。
焦っているディの背中を、漫然と追っていた。
川 ゚
-゚)「そういえばツンはどうしたんだ」
( ^ω^)「あ、トソンと一緒に居たはずなのに、確かに見てないお」
川 ゚
-゚)「……なんで来ないんだ? あいつの性格ならすぐに止めそうなものだが」
( ^ω^)「さぁ……ていうかツンは、ディの話聞いてたのかお?」
川 ゚ -゚)「いや聞いていないはずだが」
( ^ω^)「ああ、そっか……だから来ないのかもしれないお。きっとなんか、早とちりみたいな」
265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 03:30:13.83 ID:WznWHEl+0
- ぶつかった男が袋から取り出したのは、小さな分銅が端に付いた鎖だった。
「君達の事情は知らない。でもこれを握れば、きっと悩みは吹き飛んでしまうよ」
ミセリは言われた通り、分銅を握った。
トソンにも握るようすすめ、もう片方を握らせた。
そのまま、二人はそれを繋いだ手のようにして、一緒に走った。
握れば握るほど、拳に力が入る。
これは、きっとあの村長への恐怖を孕んだもの。
男のくれたこの分銅は、それを補うように、誤魔化すように、力を与えてくれている気がする。
自分達の悩みを、どこかに飛ばしてくれそうな気がする。
隣のトソンの顔がどんどん強張っていくのが見えるが、きっと自分も同じなのだろう。
なぜだか理由はわからないけれど、自分の中の恐怖がどこかに行ってしまいそうになってきていた。
その奇妙な感覚に、トソンも驚いているに違いない。
ミセ*゚−゚)リ「そうだトソン、あの村長を懲らしめなきゃいけないんだよ」
(゚、゚トソン「ええ、そうですね。ミセリの様子でなんとなく、村長が悪いと思っていました」
冷静になっていた頭でトソンに話しかけると、同じく冷静になっているトソンがいる。
表情は硬い、しかしこれは、彼女も自分と同じように確信しているから。
「「シスター………」」
今なら何かを為せる力を、持っているのだ、と。
266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 03:37:29.23 ID:WznWHEl+0
- ミセ*゚−゚)リ「着いたね」
(゚、゚トソン「ええ」
二人は鎖を介して繋がっていた。
鎖を通じて湧き立つ二つの感情は、底の見え無い泥沼に投げ込んでしまった。
そこで彼女達の想いは泥と混ざり合い、一つのかたちを作ってしまった。
握る鎖が、きり、きり、と揺れる。
それは空気を切断しているような音で、断続的に鳴り続ける。
僅かにそれが黒く濁って見えたのは、おそらく底知れない恐怖から。
分銅を握るトソンはこれは危険なものだと悟っていた。
しかしそれでも今は、必要な力であると理解していた。
トソンの冷静な頭からの判断は、鎖を通じてミセリにも伝わっているだろう。
トソンはそれに恐怖し、また泥の中に恐怖心を投げる。
一方、ミセリは暗い想いで埋められかけていた。
トソンから伝わった恐怖心、それはこの鎖の凶悪さを理解させた。
だがこれを振るえば、シスターを助けられる、そう考えて、その想いを泥の中に投げた。
じゃあ……………
言葉は必要とされない、伝わっている。それを示すかのように、鎖の音は強くなる。
きり、きり、と鳴る音は、ぎり、ぎり、と重さを増して、二人に力を見せつけた。
少しの間の後、二人は無言で、飛ぶ人の居ない縄跳びを始めるかのように、鎖を回した。
267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 03:44:49.64 ID:WznWHEl+0
- 川 ゚ -゚)「む……」
(;^ω^)「……」
(#゚;;-゚)「今、ものすごい音が………」
後僅か、というところで、村に地鳴りのような音が響いた。
それは山の方から聞こえ、火山でも噴火したかと思わされるような大きな音だ。
活火山ではない山、ここから見ればどうにもなっていないのは一目瞭然だが、
三人の視界の端を過ぎる村人達も、何があったのかと空を見上げた。
(;^ω^)「んな馬鹿な………」
着いた先では、未だ渇いていない泥が抉れ飛び散っていた。
泥を吹き飛ばしていたのは黒の木の固まりで、表面が剥がれ突風を受けたような傷が残る。
その黒は落下していたのだ。ある程度の高さから無理矢理落とされた。
そして、その『ある程度の高さ』は、大きな刃のようなもので破壊されているようであった。
(#゚;;-゚)「村長は……村長は!?」
切断面はおそらく一枚、村長の家を貫通、どこかに過ぎ去っている。
家を形作っていた木はその面が過ぎ去った勢いに釣られたのだろう、一方向にへし折れていた。
「あぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
その向こう側で大きな声がする。
ここからではばらばらの家越しでもよく見えないが、悲鳴のようなその声には、未だ幼さが抜けていなかった。
(#゚;;-゚)「あの子たち……が?」
270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 03:54:37.67 ID:WznWHEl+0
- 「ああああ!!」
「こいつが悪いのに!! どうして!!」
「わからない、」
「そんなのわからない、でも、それは、駄目」
二つの想いが反発する。直前までは、揃っていたのに。
どうして、片方は止めようとする、諸悪の根源は目の前に居るのに。
どうして、片方は動こうとする、それがいけないことであるのはわかっているのに。
二人のうちどちらかが止めようとしているならば、片方の分銅を離して鎖を振るえばいい。
しかし、泥に投げつけた意識が叫んでいるのは、もはやどちらのものかわからない。
「いいのよ、そいつが嫌なら、殺してしまえばいい」
「「えっ、?」」
耳に、背後からの言葉が突き刺さった。
誰のものか、女性のものだということはわかる。
―――ああ、そうか、もしかして。
「「シスター……!!」」
救われた気がした。
彼女が、それを認めた。
だったらなにを迷うことがある。
そうだ、そうだ、そうだ、
もう一度鎖を振って、目の前のこの男を、殺せばいい。
271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 04:04:02.06 ID:WznWHEl+0
- (# ;;- )「やめて!!」
鎖を後ろに持ち上げた。
あとは、前に向けて、さっきと同じように、
黒い刃が、振られた鎖からふつふつと湧いた。
細切れの世界がゆっくりと、虫の糞のような色をした飛ぶ斬撃が弾け出していくの映す。
その先に居たのが、二人の母であったのに。
ミセ;゚Д゚)リ「「シスター!!」」(゚、゚;トソン
すぐさま二人は鎖を投げ捨てた。が、もう遅すぎた、斬撃は完全に生まれてしまっていた。
それ切り裂く対象は、醜く這いつくばるこの村の村長、だった。
何を思ったか、ディが両手を広げ、その目前に飛び出してしまっている。
止まらない、迫る、宙を飛ぶ刃は殺意を持ったまま、止まらない。
( ω )「はぁ、」
男が現れた。
割り込んできたディの腹に迫っていた刃が、ほんの少し彼女に食い込んでから。
男はディの肩を無理矢理に蹴り飛ばし、飛んできた黒の斬撃を受けた。
家の半分を吹き飛ばすだけの力、人が盾となったところで防げるものではない。
しかしその男は斬撃を体で受け止め、ほんの一瞬だけ、拮抗したように見えた。
どさり。
それも一瞬。男の上半身は斬撃を粉壊させると同時に、地面に音を立てて転がった。
272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 04:12:05.42 ID:WznWHEl+0
- 「そんな、そんな、ブーン、さん、」
「ああ、ああ、」
切り離された体から血が噴き出した。
それは少女たちの顔にも掛かるほどの勢い、出血量で、混乱するさらに惑わせるほどの衝撃を与える。
ぱた、ぱた、ぱた、と。
(#
;;- )「体が……切れ………」
川 ゚ -゚)つ「こうしたほうがいいのか?」
( ^ω^)「頼むお」
クーは無表情に上半身を拾い、血が溢れるブーンの体を、立ったままの下半身につなげた。
( ゜ω゜)「いってええええええええええええええおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
川 ゚ -゚)「凄まじい光景だな」
二つは白い泡を血液に混ぜ合いながら、切れた体を繋げていく。
不死の体の真価は、こんなところで問われてしまっていた。
(;^ω^)「くっ、あ。ディさん、とりあえず、あなたは村長と非難して、傷の手当てをしていてくださいお……」
(# ;;-
)「え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、」
ミセ;゚Д゚)リ「………」
(゚、゚;トソン「………」
273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 04:22:49.97 ID:WznWHEl+0
- 川 ゚ -゚)「君らは私と教会に帰るぞ」
ミセ;゚−゚)リ「あの、あの、あの、」
(゚、゚;トソン「私達は……」
川 ゚ -゚)「君達には少し話すことが多すぎるが、一旦は落ち着くべきだ」
ディが青ざめた村長の肩を借りて近所の家へと向かって行くのを促しながら、クーは言った。
彼女も茫然としたままのミセリとトソンを手を掴み、有無を言わさずさっさと歩きだした。
( ^ω^)「……」
残ったのは、血まみれの男。
体の泡が取れかかっていたので、彼は身体をぐりぐりまわして、調子を確認する。
やがてひとつ溜め息をついて、顔を振り、
( ^ω^)「……どういうつもりだ」
口を開いた。
それは一人の女に向かって言った言葉。
二人の少女に対し、間違いを肯定するような言葉を投げたことに対しての言葉。
ξ゚听)ξ「……………」
教会に居たはずの女は、崩れた家の横に無言で立っていたのだ。
275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 04:30:56.46 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「どういうつもりだ」
ξ゚听)ξ「……」
二言目。
( ^ω^)「お前は自分が何を言ったか、分かっているのか」
ξ゚听)ξ「……わかってるわy」
三歩ほど空いていた距離を、男は二歩で詰めた。
そして近づいた勢いのまま、女の顔を殴り飛ばした。
女は拳に耐える気もなく、土に転がる。
白の修道服は、黒くなる。
「ふざけるな」
大股で歩き、倒れた女の胸倉を掴む。
「……お前は、子供の魔導具の使用を見過ごし、それを肯定した」
また顔を殴った。今度は平手打ちだった。
ξ# )ξ「それが、何だってのよ…………」
「三年の旅で……お前はまだ理解をしていないのか」
ξ# )ξ「はっ、また説教でも始める気なのね……」
276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 04:37:41.62 ID:WznWHEl+0
- 「魔導具は悪だ」
「わかってる」
「それを使う人間も、いかなる理由があろうと、悪だ」
「わかってる」
「わかっていない」
「じゃああの子たちはどうしたらよかったのよ……」
「ああ。どこで魔導具を手に入れたかは知らないが、確かにそれを使えるだけの負の想いがあった」
「そうよ、あんたでもわかってるんじゃない、」
「まず、それがそもそもの勘違いだ。だがそれは後で話す、今はそこを問題にはしていない」
「は……?」
「魔導具は悪だ。枯木の魔女の作った、人を枯らす負の器」
「……」
「それを純粋な、正と負の淀みすら知らない子供が使えばどうなるか、お前はわかっていない」
「……」
「精神的に未熟な子供がもしも魔導具を用いて目的を果たしたなら、村や町程度など、簡単に消えるぞ」
277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 04:45:19.97 ID:WznWHEl+0
- 「どうして魔導具が負の感情を喰うように造られているか、以前話しただろう」
「そんなの、忘れたわよ」
「人の負の感情には際限が無いからだ。人が生きている以上、必ずそれは生まれ続け、魔導具は使われる」
「……」
「ここまで言ってもわからないか」
「なによ………」
「お前の生きる理由はその根本を殺すこと、際限無き負の連鎖を利用する器を、全て破壊すること」
「……っ、」
「そのお前が一瞬でもそれを肯定することは、絶対にあってはならない」
「……く………っ!」
「ましてや子供などという、感情を雪崩のように吐き出す生き物にその使用を促すなど……」
「―――……こ、、、、の、、、、っ! あんたは…………あんたは、ねぇ……っ!」
「何だ」
「この私が人間なんだってことを……ほんの一欠片も理解してないっ………!」
女は男を殴った。何度も殴った。不老不死の男の体を、人間の女の拳で。
手の皮が裂けても、血が割れ出しても。胸の奥から無限に湧き立つ、負の感情のままに。
278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 04:53:28.24 ID:WznWHEl+0
- ξ# )ξ「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅあああああああああ!!」
ツンは積み上げた感情を、必死に叫んで誤魔化した。
そういう問題ではない、そういうことではない。
人にはどうしたって、届かないものだってある。
どうしたって、変えられないことがある。
それを変える為に自分には無い力に頼って何が悪いというのだ。
周囲から見たそれが悪でも、そのときの自分には必要なものなのではないのか。
手を伸ばしても届かないものを掴むには、どうしても道具が必要になるのだ。
わかっている。
本当はそれが正しくないということも、それを破壊すべきとして自分が存在しているのも。
だが、『これがこうであるから、絶対的にこうでなくてはならない』なんて、認めたくない。
認めてしまえば、自分の自我すらをも否定してしまうのではないかと、怖くなってしまうから。
自らが在り、旅を続けられている理由が、自分の意志によってのものではないと、言っているような気になるから。
今、全力で彼を殴る理由も、本当は怒りからのものではない。
どうして彼はわかってくれないのか。
自分がこうして旅を続けていられるのは、与えられた使命のためなどではなのに。
自分がこうして、縛られた運命に絶望していないのは、自分一人の力などではないのに。
ξ# )ξ「どうして!! あんたは!!」
人は誰しもが強くあるわけではない。
しかし握った拳をぶつける彼は、何も言わずに、ただ無表情で。
強くあるはずの彼は、彼女の拳に、ただ、打たれ続けた。
279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 04:59:37.53 ID:WznWHEl+0
- 川 ゚ -゚)「――さて、こいつの不死身っぷりはそんな感じでいいはずだ。で、次も私か?」
ブーンは疲れ果てたツンを支え、クーらの待つ教会へと。
中で子供たちは長椅子に俯いたまま、黙って手を繋いで座っていた。
( ´ω`)「だって僕じゃ理解できなかったみたいだし……説明してお……」
川 ゚
-゚)「はあ。あー、……ええと、ミセリにトソン。まずお前達のシスターなんだが、彼女は本当のシスターじゃない」
(゚、゚トソン「それって、どういうことですか……?」
ディは以前、盗賊として小さな組織、でいいか? を作り、日々を過ごしてきた。
だが、ある日に些細な失敗で、ディ達は大きな盗賊組織に捕まった。なんかすごいそうだ。
そこから奴隷のように扱われ、嬲られる、簡単にいえば大変な生活だったんだな、うん。
もううんざりになったある時、ディ達はその組織から逃げようとしたんだ。
でも、死に物狂いでがんばって逃げられたのはディ一人だったそうだ。大変だな。うんうん。
そしてここの教会に辿りついた。ああ、ここは本当はもう使われていないところらしいぞ。
それからディは、ここに勝手に住みこんで暮らしていたらしい。さすが盗賊、といっては失礼か。
で、出会うわけだ、あの熊みたいな村長にな。なんで村長がやって来たかは知らん。なんかあったんだろう。
村長はディを見つけて、ディは見逃してくれるように頼んだんだ。ここに住ませろー、って。
まあ村長は寛大な男でな、だったらこの村の孤児を世話してくれれば、生活は保障する、という話になったそうだ。
そう君達だ、ミセリにトソン。君らはこの時、ディに預けられた。運命の出会いだ運命の出会い。
その後はなんというか、他人のことは言葉にはしにくいというか。
ディはそのお礼に、既に先立たれた、あー、居なくなってしまった村長の妻のかわりに、村長の世話をするようになったんだ。
村長は最初は断っていたらしいが、ディがクソ真面目に毎日来るもんだから、その、あれだ。
川*゚
-゚)「ふむ……ときに君らは、人間の交尾について知識はあるかな? 知らないだろう? ふふふ、」
281 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 05:08:02.52 ID:WznWHEl+0
- (゚、゚トソン「……?」
ミセ*゚−゚)リ「さぁ……」
川 ゚
-゚)「よし、おいちょっといいk」
⊂(;^ω^)⊃「やめれ! 脱ぐな!」
川 ゚
-゚)「別に入れるつもりはないぞ、この変態が」
(;^ω^)「そういう問題じゃねえお! 教育教育ゥ!」
川 ゚
-゚)「んん……? おそらくこれは今、必要な知識じゃないか?」
(゚、゚トソン「ええと、とにかく、シスターはシスターじゃなくて、
仮シスターとして私達のお世話をしていて、村長の妻なんですか?」
( ^ω^)「最後が微妙に違うけど、だいたいそれで問題ないお」
ミセ;゚−゚)リ「え、じゃあ私、とんでもないことを……どうしよう、シスターに謝らなくちゃ……」
そう言ったミセリが自分の腕を握った時、ぎぃ、と彼らの背後から音。
(#゚;;-゚)「いいのよミセリ、私が悪かったのよ……」
そこには、腹に包帯を巻いたディと、不安そうに彼女を支える村長が居た。
(#;゚;;-゚)「誤解を与えるようにコソコソしていたから駄目だったの。
でも、私が盗賊だったことは聞いたでしょう? 私と村長の関係は、村にも内緒で。
そもそもこの教会に人が居ること自体かなり微妙なところでね……ええと、わかるかしら……?」
282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 05:17:23.53 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「……はっ、なにそれ。じゃあ今回のことは全部勘違いだっての?」
(#゚;;-゚)「すみません……それは私達の在り方が、不適切だったためで」
ξ--)ξ「別に謝らなくていいわよ。『騎士』であるわ、た、く、し、め、が、盗賊のあなたにまんまとしてやられただけ」
(#゚;;-゚)「騎、士……? 何を……」
ξ^ー^)ξ「別に信じてくれなくてもいいわよー。あなたもシスターじゃないんだもの」
(#゚;;-゚)「それは………」
ξ゚听)ξ「私はね、そこのクソガキ共が使ってた鎖あったでしょ? ああいうのをぶっ壊して旅してんのよ」
(#゚;;-゚)「……………」
ξ--)ξ「あ〜、ホントイライラするわね……何? その顔、まだ何か隠し事でもあるんですか?」
(#゚;;-゚)「子供たちを悪く言うのは、やめてください」
ξ゚听)ξ「あら今更になって。あぁ、あなたは『シスター』でしたものね、嬲られた盗賊の」
ミセ*゚−゚)リ「ツンさん、いきなりどうしちゃったんですか?」
ξ゚听)ξ「うっさいわね、元はといえばアンタが馬鹿みたいに騒ぐからこうなったんでしょうが」
(#゚;;-゚)「ツンさん……私のことはどう言っていただいても結構ですから、子供たちのことは、」
ξ゚听)ξ「はいはいそういう『ごっこ』、やめてくださらないかしら? 背筋が溶けそうなほど吐き気を催すので」
284 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 05:25:49.55 ID:WznWHEl+0
- ミセ* − )リ「……」
(゚、゚トソン「……ツンさん、軽蔑します」
ξ゚听)ξ「どうぞご自由に。私は痛くもかゆくもないわ」
(#゚;;-゚)「あなたは、」
ξ゚听)ξ「あー、ブーン。荷物持ってきて。この村を出るわよ」
( ^ω^)「わかったお」
ξ゚听)ξ「クーさん、こいつらに言い残すことはない?」
川 ゚ -゚)「特に無いが」
ξ゚听)ξ「そ、じゃあブーンが来たらさっさと行きましょうか。こんなゴミ溜めみたいなところ、さっさと出たいわ」
(#゚;;-゚)「…………」
ミセ* − )リ「………」
( 、 トソン「………」
ξ゚听)ξ「泣くなっての、」
(# ;;- )「あなたは……!」
( ^ω^)「ツン。荷物、持ってきたお」
286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 05:30:40.17 ID:WznWHEl+0
- そうして、三人は村を去った。
ツンを先頭に、逃げるように歩いていった。
教会から出る際も見送りはなく、それは誰にも見られぬ出発で。
ξ )ξ「……」
川 ゚
-゚)「別に、あそこまでしなくてもよかったじゃないか」
ξ
)ξ「だってあれだけのことがあったのよ? あの子たちの意識は、今くらい一点に向けておいた方がいい」
( ^ω^)「どう考えてもやり過ぎだお。あっちにとっても、お前にとっても」
ξ
)ξ「私だってあんたにあれだけ怒られなかったら、あそこまでしなかったもん……」
( ^ω^)「もん、っておま……子供じゃないんだから……」
ξ )ξ「いいえ、私なんて全然子供、今回の一件でよくわかった。思慮が浅すぎるのよ。すぐ、感情的になって」
( −ω−)「あー……それは反省するべきだお」
ξ )ξ「でも、すぐには立ち直れない、」
( ´ω`)=3「はぁ………それはあっちに歩きながら整理していけばいいおー」
ξ )ξ「やだ」
(;^ω^)「え? ちょ、クー、めんどいから助け舟だせお……」
川 ゚
ー゚)「くくくくっ、すまん、これはちょっと面白そうだ」
287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 05:35:43.42 ID:WznWHEl+0
- ξ )ξ「やだ、から、」
後ろでたらたら歩くブーンに、ツンが振り返る。
丁度その時ブーンはクーを見ていて、そのことに寸前まで気付けなかった。
(;^ω^)「っとと、勝手に止まるな、お?」
三人分の荷物を背負ったブーンは思わず後ろに転倒してしまいそうになる。
それは前方から軽く降りてきた圧力のせいで、微かに、雨の匂いがした。
ξ;;)ξ「胸貸せ、バケモノ……」
彼女は彼の胸の中で、今まで見せたことのない弱った姿をぶつけた。
顔を泣き崩して、体を震わせて、心を開いて、彼に全てを委ねた。
彼はその姿を受け入れて、同時に気付いてしまった。
人はどんな役割、どんな力を与えられても、一人の人間でしかないのだ、と。
勘違いをしていたのだ。彼の『希望』は魔術を狩り獲り、世界を在るべき姿に戻す存在である以前に、ただの女性であった。
間違っても自分のような化け物ではなく、か弱い女性であり、うら若き、どこにでもいる人間なのだ。
仲間だから。目的が同じだから。「だから」といって、自分と全く同じ存在であるはずがない、一つしかない命だ。
勝手に踏み躙っていいものでもなければ、弄んでいいものでもない。小さく、弱く、かけがえのない、『彼女』という個。
ぎゅっ、と。彼の胸がきつく締められた。
今、細い声を出した彼女の腕によって。自身が知らず知らずの内に抱えていた、彼女への想いによって。
どうしてここまで気付くことができなかったのか。自分は三年間、一体何に目を向けてきたのか。
ようやく抱き締めかえしたこの腕は、こんなにも温かいのに。
ep3. 傷だらけの修道女 おしまい。
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