('A`)俺の生きる道のようです


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 03:25:58.58 ID:05RwI7qo0

 中学校からの親友がかつあげで退学になっていたとき、
 俺は俺で、警察にやっかいになっていた。

 彼がだるいから学校に行きたくないと言った理由も、ようやくわかってきた。
 制服がだるい。等間隔に並んだ机がだるい。チャイムがだるい。校舎がだるい。
 日常のあらゆるものが「だる」かった。

 破壊的な衝動にかられた夜もあった。
 頭がぐちゃぐちゃして、気持ちが落ち着かなかった。

 母親のことを「クソババア」と罵った夜、俺は初めて、父親のこぶしの重さを知った。


 
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 03:26:42.63 ID:05RwI7qo0


('A`)俺の生きる道


 【高校生編】



 
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 03:31:52.82 ID:05RwI7qo0

 高校生になると、俺はテニス部に入った。
 部活は自由参加だったが、誰一人として知り合いのいない高校で、いち早く友達を作りたかったのだ。

 部活は実に楽しかった。
 なんとなく楽そうだからという理由で入ったテニス部は、思った通りゆるい部活で、
 乱打と呼ばれる練習が部活時間の半分以上を占めているのでほとんどお遊びだ。
 (乱打とはコート内で適当に打つだけの手慣らしである)


 カルチャーショックというか、少し驚いたのが、授業中に寝たり、教室を抜け出したりする者が
 全くいないということだった。
 おまけにほぼ全員がしっかりとノートを取っている。

 中学生の頃には考えられないような授業風景だった。
 俺は中学生のとき、授業中に鬼ごっこをしていたこともあるのだ。




 
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 03:38:00.63 ID:05RwI7qo0

(´・_ゝ・`)「やべえ、予習忘れたw」

('A`)「予習?wしたことねーしそんなのw」

( ^Д^)「英語は予習しねえとやべえだろwあと古典も」

('A`)「えーだりぃー……マジで?」

 俺の名前は鬱田ドクオ。あ、い、う、の「う」だから出席番号が早い。
 最初は席替えが無く、出席番号で並ぶので、俺の机は教室の前側にあった。

 今でもはっきりと覚えている、世界史の時間のことだ。
 ノートを広げるだけ広げて、ペンを手に挟み、頬杖をついて先生の話を聞き流していたとき、
 何気なく後ろを向いた。

 クラス中のやつら全員が必死にノートにペンを走らせる姿を見て、
 俺は訳の分からない恐怖を感じ、戦慄した。
 俺の周りだけ空気が違うような疎外感を覚えたのだ。



 
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 03:43:30.57 ID:05RwI7qo0

 中学生の頃は上の下くらいの成績だったが、高校生になると下の下になった。
 教科は難しくなったというのに、受験が終わったという安堵で呆けたまま授業に挑んでいたので、
 テストで点が取れないのは当たり前のことだった。

 授業についていけなくなったら、余計にやる気がなくなってきた。
 そういうこともあって、授業よりも部活だと考え、テニスに精を出していた。


( ・3・)「ドクオー。今日俺とペアね」

('A`)「いいよ」

 例え勉強ができなくとも、テニスさえできれば楽しかった。
 そんなある日、部活の休憩中に、友達が妙なことを口走っているのを聞いた。


 
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 03:47:18.56 ID:kSQzxhet0

( ^Д^)「かぁいこくしてくぅださいよぉ〜」

(  ゚∀゚ )「あひゃひゃひゃひゃwwwwwwwwww」


(;'A`)「???」

 最初は芸人のネタかと思ったが、妙なことを口走る友人、プギャーは
 俺の聞いたことの無いネタを次々と言い放った。

 周りの者たちは元ネタを知っているようだ。
 でなければ、ただの頭のおかしい人にしか見えない。俺のように。

('A`)「それなんー?」

( ^Д^)「ググレwww」

(;'A`)「ぐぐれ?」


 
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 03:52:06.55 ID:kSQzxhet0

 聞くところによると、彼のネタは「フラッシュ倉庫」というホームページで
 公開されている「フラッシュ」というものらしい。

 そういえば、中学生のとき、教室に置いてあったパソコンでそういうものを見た気がする。
 「チバ!シガ!サガ!」と叫ぶ意味のわからないもので、あまり面白くなかっが記憶があるが、
 周りの者がみんな知っていて、自分だけ知らないというのは、いささか気にくわない。


('A`)「父さん、ネットしたいんだけど…」

( ФωФ)「……いいぞ、部屋に繋げてやる」

 うちの父さんはパソコン関係にもの凄く詳しい。
 「えくせる」の?「ぶいびーえー」で?「ぼきソフト」?を自分で作ったり…。

 まあとにかく、パソコンにすごく詳しかったので、ネットを見られる環境はすぐに整った。
 (ちなみに俺の家にはパソコンが七、八台ある)


 
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 03:57:40.10 ID:kSQzxhet0

('A`)「……」

(*'A`)「………」

(*'∀`)「wwwwwwwwwww」


 俺がフラッシュ倉庫のリンクを赤く染めるのに、あまり時間はかからなかった。

 少少系列、流石兄弟、ペリー、紅白フラッシュ合戦、etc、etc…。
 テレビでは見られないシュールな世界が、インターネットに広がっていた。

(*'A`)「ちょwwwうぇっうぇっwwwwwwww」

( ^Д^)「ありえなすwwwwwwwww」

 教えてもらったサイトはフラッシュ倉庫だけではない。
 「アサメグラフ」、「2ちゃんねる」、そして2ちゃんの中にある板の一つ、「ニュー速VIP」もそうだ。


 
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:03:17.98 ID:kSQzxhet0

 勉強がつまらなかったので、家に帰ってからかなり暇な時間があった。
 俺はパソコンの前に釘付けになり、毎晩遅くまでフラッシュやVIPの纏めサイトを見ていた。

 この頃、私立高校にいったブーンやあさぴーとはあまり遊んでおらず、
 連絡も取っていなかったので、彼らがどのような高校生活を営んでいるのか、全く知らなかった。

 彼らに会おうと思い立ったのは、俺に前科がついてからである。



 部活を除き、学校は本当につまらなかった。
 制服を着るのが苦痛で、電車通学が苦痛で、教科書を開くと頭が痛くなり、
 せっかく母さんに作ってもらったお弁当は、食欲が無い日はトイレに流すときもあった。

 俺は勝手に自分を追い詰め、落第者のレッテルを貼り付け、一人でふさぎ込んでいたのだ。



 
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:08:14.25 ID:kSQzxhet0

 俺は学校を休みがちになった。

 親に頼んで休む連絡を入れるときもあれば、校門まで行ったが結局来た道を引き返し、
 勝手に学校をサボった日もしょっちゅうあった。

 しかし不良仲間というものはいなかったので、一人でゲームセンターやジャスコをうろつき、
 コンビニで昼食を取ってから家に帰るという、なんとも無意味な平日を過ごしていた。


 その内、学校をサボったとき、わざわざ電車を使って遠い場所までいき、
 なにをするでもなくうろついていたりした。

 毎日生きる意味について考え、哲学書を読んだり、聖書をなぞったりしていた。
 俺は完全に頭がおかしかった。



 
81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:11:40.50 ID:kSQzxhet0

 頭に渦巻くもやもやの正体がわからないまま、冬になった。

 学校をサボったある日、俺は普段行かないような服屋に寄った。
 服を買うつもりは無かった。


 ださいニット帽を見つけた。
 買うつもりは無かった。


 手に取った。
 別に欲しくは無かった。


 周りを見渡した。
 俺は頭がおかしかった。


 気がつけば俺は、ニット帽を学ランの下に隠し、店を出ていた。
 ニット帽には万引き帽子装置がついていて、出口を通ったとき、当然装置が作動し、警報が鳴った。




 
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:14:08.37 ID:kSQzxhet0

 頭のおかしい俺は走った。

 昨晩降った雪が積もっていて、とても走りづらかった。

 後ろから叫びながら追いかけて来る人がいる。

 俺は恐怖と寒さでがちがちに顔を強ばらせながら、力の限り走った。



 捕まったとき、俺は「ごめんなさい」をずっと繰り返していた。
 この辺りが、俺が不良になりきれないところだと思う。

 警察を呼ばれ、パトカーに乗せられた。
 体中の感覚がふわふわして、胸の動悸がおさまらなかった。
 とにかく大変なことをしでかしてしまったんだという感覚だけはあった。


 
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:18:07.25 ID:ZDMdXJHF0

|(●),  、(●)、|「なんで盗ったんや、ああ?」

(;'A`)「ごめんなさい…」

|(●),  、(●)、|「ごめんちゃうやろうが泥棒野郎」


 警察は恐ろしい。今でもトラウマだ。

 俺が連れて行かれたのは狭い取調室だった。
 単なる万引き小僧相手でも取調室を使うのだと知った。

 ドラマでよくあるようなマジックミラーなどは無く、小さな机とパイプ椅子が二つあるだけの小部屋だった。
 取調の最中、ドアが開きっぱなしになっていたのが唯一の救いだった。
 もしもあの狭い空間の中、あの体格のいい警官と二人きりで閉じ込められたら、それだけで発狂しそうだ。


 
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:21:59.61 ID:ZDMdXJHF0

 開かれたドアから、署内の様子が少し見えた。
 机が連なり、その上には乱雑に書類が置かれている。

 パソコンのモニタは使用しているもの以外、全てスクリーンセイバーになっていて、
 警察の標語みたいな文字列が右から左に泳いでいた。


|(●),  、(●)、|「何時に店に入った?」

(;'A`)「い…一時…?あ…十二時…かも…」

|(●),  、(●)、|「まだ嘘つく気かこそ泥があ!おまえ万引きは窃盗なんやぞ?
            泥棒なんや。わかっとんのか?」

(;'A`)「ごめんなさい…」

|(●),  、(●)、|「携帯出せや」

 取り調べの最中、俺は何度も死にたいと願った。
 それから、目の前の相手に死んでほしいと願った。




 
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:27:31.81 ID:/S/lTGge0

 警官は優しいとか、正義感に溢れる人だとか、
 そういう評価は一般人が下すものであって、犯罪者を相手にしたときの警官は、
 ただただ恐ろしい存在になるのだと、俺は思い知った。


 二時間にわたる取り調べが終わり、指紋と数枚の写真を撮られたあと、俺は解放された。
 俺を迎えてくれたのは、仕事中のはずである母親だった。

J( 'ー`)し「…………………」

(;'A`)「…………………」

 俺は警官に、あることを言われていた。
 母親の職業が何か訊かれ、俺が答えたあと、警官は「親の顔に泥を塗ったな」と言ったのだ。

 本当にその通りだ。母親の職業は伏せるが、クソ万引き犯を産むような職種の人ではないことは確かだ。
 俺は鬱田家の恥さらしであり、超絶劣化遺伝子の生きた汚物なのだ。



 
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:30:07.39 ID:/S/lTGge0

 帰りの車の中、母親は無言だった。
 助手席に乗った俺は、ずっとあさっての方向を見ながら、景色よりも遠い場所を見続けていた。


 その日の夜、俺は両親と正座で向かい合っていた。

J( '−`)し「…なんでこんなことしたんよ」

 母親の声に怒りは含まれていなかった。
 ひしひしと感じたのは、「落胆」という感情だった。

J( '−`)し「あの帽子がそんなに欲しかったの…?」

('A`)「……いや…別に…」

J( #'−`)し「ならなんで盗んだりした!?」

(;゚A゚)「…っ!」




 
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:33:35.26 ID:/S/lTGge0

J( ;ー;)し「信じられん!信じられんよほんと……なんでなん?ねえ、なんで?」

(;'A`)「………………………」

 死にたかった。
 というか、最初から俺の存在を無かったことにして欲しかった。

 俺の両親はとてつもなく出来がいい。
 それはもう、非の打ち所が無い「親」だ。
 そんな両親を悲しませてしまった自分が情けなく、恥ずかしかった。

 しかし俺は同時に、ふつふつと怒りが沸いてくるのを感じた。
 俺だって苦しかったのだ。

 行きたくもない学校に無理矢理行かされ、魂をすり減らしながら日々を終えることが、辛かったのだ。
 そう、死ぬよりも辛かったのだ。

 今一度繰り返すが、上記のことを思うほど、俺は頭がおかしかった。



 
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:37:55.80 ID:X+jyYHIq0

(#'A`)「はいはい!ごめんよ!マジ悪かった悪うございました!クズだよ俺は!ああ!?」

J( ;ー;)し「なんでよ!私たちが悪かったの?気付いてあげんかったから?」

(#'A`)「うるせえよ!あんたになにがわかんだよ!
    あんたみたいなやつに俺の気持ちがわかっかよ!
    泣くんじゃねえよ!いまさらいい親ヅラすんじゃねえよクソババア!!」



   ;:*;



 衝撃が走った瞬間、俺は正座したまま一回転し、畳に顔をこすりつけた。
 閉じたまぶたに残っていたのは、父さんの怒張した顔と、巨大化したこぶしだった。


(#ФωФ)「ふざけんじゃねえぞコラ!」




 
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:41:42.51 ID:fxZFnhSK0

 叱られるときは、いつも母さんからだった。
 父さんは怒るのが下手だった。
 元々口べただからというのもあるが、一番の理由は、子供に―――俺に優しすぎたんだ。

(#ФωФ)「家をナメるな!」

(#)A;)「……………」

 痛かった。腫れあがった目元に痛みは感じなかった。
 畳にこすりつけた額や頬にも、痛みなんて無かった。
 胸のずっと奥に響いた怒鳴り声が、本当に本当に痛かったのだ。


 頭のおかしい俺は二階の自分の部屋に駆け込み、
 頭のおかしい俺はハサミを取り出し、
 頭のおかしい俺は自分の顔めがけてはさみの刃を走らせ、
 血がボロボロと床に垂れて、血の水模様を作った。




 
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:47:19.74 ID:9xE14F3S0

 頭がおかしい俺はさらなる痛みを求め、利き手にはさみを持ち、もう片方の腕を切りつけた。
 皮膚の上を刃が通ると、その部分だけ真っ白になり、数瞬遅れて血が垂れだした。

 何度も何度も体を傷つけ、痛みを求めた。
 胸の痛みが消えるほどの痛みが欲しかったが、最後には結局はさみは取り上げられ、
 今度は両親にぎゅっと体を抱かれた。

 痛みで覆おうとしていた胸の痛みは、父さんの広い胸と、母さんの細い腕に散っていき、
 自分で傷つけた痛みだけが、後に残った。


 頭のもやもやも、そのときはかき消えていた。

102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 04:53:37.82 ID:9xE14F3S0
  父は強かった。
 母も強かった。

 次の日、父は職場を半日だけ休み、俺を連れて学校に向かった。
 学年指導の教師と担任教師から、停学を言い渡され、停学中に書かなければならない
 反省文の用紙を二週間分もらい、家に戻った。

( ФωФ)b「飯はチンして食えよー」

(#)A`)b「オッケー」


 頭がおかしいのがようやく直ってきたので、停学中は安らかな気分で過ごした。
 暇すぎてアサメグラフの漫画を全て読んでしまった。
 アガサクリスティの小説を読了し、NHKのつまらない番組を見て、いいともを見て、ドラマの再放送を見る。

 しかしやはり暇すぎる。
 あまりにも暇すぎる日中のこと、誰かにメールをしてみようと思い立った。




 
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:02:30.20 ID:GZ5aWx6J0

 学校の連中にメールをしてもつまらない(そもそも授業中だろうし)。
 ということで、授業中でもメールを返してくれそうな、あいつらにメールをすることにした。

 私立の高校に行った、あさぴーたちである。

 あさぴーとブーンが行った高校は、県内でも有数の不良高だ。
 特進科、普通科と、もう一つ、最もアレな人たちが集まる科がある。
 ブーンは普通科で、あさぴーが行ったのはアレな科である。


 あさぴーにメールをするとき、もしも向こうがメルアドを変えていたらどうしようかと不安になった。
 しかしメイラーデーモンが仕事をする間もなく、向こうから返事が来て、安堵に息が漏れる。

 俺が送ったのは、こういう文だった。
 「やべえ、停学くらった(笑)」

 もしかしたら、不良だと思われて一目置かれるかもしれない。
 そんなしょうもない算段が含まれているメールである。



 
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:05:52.82 ID:GZ5aWx6J0

 普通なら久しぶり、とか元気?とか入れるべきだったのだが、
 何だか照れくさく、それに中学生の頃は毎日遊んだ仲なのだから、そういう定型句は省略すべきだと思い、
 このようなメールになった。


 返ってきたのは、この内容だ。

 「俺はもう学校辞めてるよ。二ヶ月に」


(;゚A゚)「…………ええええええ!?」

 メールなのに声が出た。
 俺の停学なんて吹っ飛ばすほどのやんちゃぶりというか、破天荒ぶりだった。
 逆に俺がやつに一目置くことになってしまった。

 俺は「今暇なんよ」と送ってみることにした。
 なんとか会えないかと思った。なんだか仲間を見つけたような気がしたからだ。


 
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:07:18.47 ID:GZ5aWx6J0




  「いいよ。家来いよ」






 停学中は学校から家に電話が来ることがある。
 俺が家にいるかどうかの確認の電話だ。

 しかし来ないこともある。
 俺は今日がその日だと願い、あさぴーの家に行くことにした。


 
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:09:57.58 ID:GZ5aWx6J0


 あさぴーの家に行き、インターホンを押した。
 返事が無かったので、しばらくドアの前で立ち尽くすこととなった。

 すると携帯の方にあさぴーからメールが来た。
 「開いてるから中入って。二階の右の部屋」
 どうやら出迎えてはくれないようだ。

('A`)「…お邪魔しまーす……」

 家の人は他に誰もいないようだ。
 少し段差のきつい階段を上がり、あさぴーの部屋を目指した。

 中学生の頃、あさぴーは自分の部屋が無いことをいつも愚痴っていた。
 彼が今いるのは、元々は既に広島に出て行った彼のお兄さんの部屋である。



 
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:17:27.26 ID:9jIak8Hi0

 部屋のドアにはバンド名らしきステッカーが何枚も貼ってあった。
 中心にはショッキングピンクの巨大なドクロが大きく陣取っている。
 そして中からは、ロックの重低音が漏れていた。



(;'A`)「……おぉー…よう」


爪'ー`)y‐「……おぉ〜……久しぶり」



 以前と変わらない童顔、ニキビ顔、でもめがねは付けていなかった。
 髪は伸ばし放題で、V系のミュージシャンのように金色に染まっていた。
 持っていたたばこはあの日と同じマル金だ。




 
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:20:15.16 ID:9jIak8Hi0

 あさぴーは変わった。
 見た目だけでいえば、完全に不良だ。


(;'A`)「すっげえ変わったなおまえ」

爪'ー`)y‐「そうか?髪の長さと色だけじゃねえの?」

('A`)「まあそうっちゃあそうだけど…」

 彼の背後にはギターが立てかけられてあった。
 部屋の隅には「クローズ」が積み上げられている。

('A`)「学校辞めたとか…全然知らなかった」

爪'ー`)y‐「あー…そうやね。全然会ってなかったし」



 
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:22:41.11 ID:9jIak8Hi0

('A`)「ブーンとは会ってるの?」

爪'ー`)y‐「学校行ってたときは毎朝会ってた。電車だし。
       でも俺夏休み前から行ってなかったしな。最近全然会ってないわ」

('A`)「そ…っかあ……。すげえなおまえ」

爪'ー`)y‐「なにが?」

(;'A`)「いや……ていうかめがねは?」

爪'ー`)y‐「かけてない。だからドクオがよく見えないんだよね」

('A`)「じゃあかけろよwwwww」

爪'ー`)y‐「外出るときだけコンタクト付けてんだよ」

('A`)「ああ…そうなんや」


 
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:25:22.84 ID:9jIak8Hi0
爪'ー`)y‐「なんで停学になったん?先生殴ったりとかしたの?」

(;'A`)「は?…いやあ、万引き万引き」

爪'ー`)y‐「はwだっせえなwwwww」

(;'∀`)「いや…しくったわあ…w」

爪'ー`)y‐「学校辞めないの?」

(;'A`)「俺は…辞めない」

爪'ー`)y‐「ふーん」

 フォックスの目は濁っていた。
 寝癖のついた髪に、上下スウェット、頭をぼりぼりと掻く仕草、気だるそうな表情。
 とっくに昼は過ぎているが、彼は寝起きなのかもしれないと勘ぐった。


 
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:28:46.90 ID:9jIak8Hi0
爪'ー`)y‐「そういやさ、ドクオにも参加してほしいことあんだけどさ」

('A`)「なに?」

爪'ー`)y‐「今さ、エクストをシメようって話になってんだ」

(;'A`)「?え?なんで?」

 シメるというのは、つまりリンチのことだ。
 普通に生きる人にとってはこんな単語、漫画の中でしか見ないだろうが、
 使う人間はやはり使うのである(実家が田舎だからかもしれないけど)。

 ショックだったのは、あさぴーがそんなことを言い出したことと、
 かつての級友だったエクストを相手に言い放ったことである。




 
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 05:33:53.30 ID:9jIak8Hi0

 俺と、あさぴー、そしてブーンといういつもの三人組の中に、たまに混じる存在があった。
 それがエクストだ。

 よく俺の家に来て大富豪をやったり、三好に寄って一緒にゲームをしたりした。
 卒業式の日だって、エクストを入れた四人で遊びながら帰ったのだ。

 疎遠になった今でも、俺はエクストのことを友達だと思っている。
 もちろんあさぴーも友達だ。
 その二人が、どうしてそんな関係になってしまったのか、まるで理解できなかった。

爪'ー`)y‐「あいつさ、今ジョルジュとモメてんだよね。
       てかま、農高のやつらとってことだけど。
       んでジョルジュがタイマンしかけるから、俺もムカついてたし?一緒にボコるべーっつーことで」

 農高(農業高校)とは、ここら一帯で最悪の評判を誇る高校である。
 「クローズ」で例えるとするなら間違いなく「鈴蘭男子高校」に当たる高校だ。
 俺たちの学年で最も悪だったジョルジュは、そこに行っていた。




 
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 06:02:21.97 ID:J7dJoHB+0

 現実世界で「タイマン」を使う人が本当にいるんだ…などと思いながら、
 さらに詳しく訳を聞くことにした。

 どうやらエクストが「ジョルジュなんて怖くねー」と吹いて回っているらしく、
 そこでジョルジュが直々にタイマンの場を組んで、一対一で決闘して…という流れらしい。
 商業(高校)のエクスト派と、あさぴーと農高を含めたジョルジュ派の抗争ともいえる。

 まあ詳しく聞いてもよくわからなかったというのが正直なところだ。
 今思えばあさぴーは、単なるけんかを漫画のように美化して話そうとしていた気がする。


(;'A`)「いやあ…俺はいいや。部外者だし…」

爪'ー`)y‐「俺もじゃん?」

(;'A`)「学校もあるし…」

 数学が得意で、数学教師からも特別に目をかけられてたほどのあさぴーは、
 黄色い歯を覗かせながら俺を笑った。
 「その程度かよ」とでも言いたげな笑い方だった。




 
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 06:05:19.99 ID:J7dJoHB+0

(;'A`)「わりぃ、俺もう帰るわ。学校から電話来るかもしれんし」

爪'ー`)y‐「おう。ばいばい」

('A`)「そうそう、そういやさ、なんで学校辞めたの?」

 ふとテーブルの方を見ると、あさぴーのものらしきサイフが置いてあった。
 大きなロゴが銀色に光っている。
 とても高校生が持つものとは思えないそれは、シャネルのサイフだった。

爪'ー`)y‐「かつあげがばれたんよ。ジョルジュと一緒にやってた」

(;'A`)「……?」

爪'ー`)y‐「つか辞めさせられたって感じかw」

(;'∀`)「…ばいばい」


 部屋に入ったときから、あさぴーは誰かに似ているような気がしたが、ようやくわかった。
 彼は、彼のお兄さんにそっくりになっていたのだ。



 
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 06:09:31.27 ID:J7dJoHB+0

 バイオレンス遺伝子というものがあるらしいが、彼はそれを受け継いでしまったということか。
 彼のお兄さんは、肩の辺りにタトゥーが入っている。
 髪型は、ちょうど今のあさぴーのような感じだった。


 停学があけてから、あさぴーと遊ぶことが多くなった。
 彼と一緒にライブハウスに行ったり、たばこを吸ったりし始めた。
 憧れの不良生活は、何もかもが新鮮で、心躍る出来事の連続だった。

 彼と一緒にナンパをしたりもした。
 勝率ゼロ%だったが、彼いわく、一人のときだと成功するらしい。
 俺は邪魔らしい。


 ジョルジュも混じり、三人で遊ぶこともあった。
  _
( ゚∀゚)「あいつマジしょーもねえけぶち殺そうかと思ったわ」

 ジョルジュも農高を退学になっており、気ままなニート生活を送っていた。
 彼は「極悪武装」というストリートチームを作り、昔でいうところのチーマー的な存在であった。
 (ちなみにこのネーミングセンスは絶対にクローズから来ていると思う)


 
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 06:14:16.01 ID:J7dJoHB+0

 二人は一応定時制の高校に入り直すつもりでいるようだ。

 俺はこのとき、二人といるときに安心感を覚えることを発見した。
 というのは、自分よりも下がいることが嬉しかったというのが本音だ。

 高校だと俺はどん詰まりもいいところだ。
 テストで学年最下位を取るほどの俺は、学校だと居場所が無くて息苦しかったのだ。

 三人で花見に行き、酒とたばこで騒ぎあったり、
 乗り捨ててある自転車を使い、街の汚い場所を巡り、刹那の青春を楽しんだ。


 しかし、そんな怠惰な日常を送る俺に、転機が訪れた。
 高校二年生のときだ。


 

 


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