( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです
362 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:07:25.77 ID:WznWHEl+0
- ep5. 枯木の魔女
ξ゚听)ξ「ありがとうございましたー」
「おう、俺達はここまでだから、そっちは頼むぜ!」
川 ゚ -゚)b「まかされた!」
聖地ヴィップの手前、都市全体を囲う外壁の前で、馬車を降りる三人。
この都市への入り口は限られており、そこでの確認を馬車の男は避けたのだろう。
ここの管理体制は万全なのだ。
実質的な国の政権を握る教皇を守るため、宗教を盾としてこの都市丸ごと強固な要塞となっており、
政治機構もその地力の利用に丸ごと置かれ、首都として扱われているほど。
つまり、この国『チャンネル』は、教皇を君主とした宗教国だ、と言うことができる。
国境を越えて栄えるラウンジ正教、その聖地でありながら一国の首都を担い、更に『騎士』の軍事力をも構える宗教都市、ヴィップ。
船を中心とした渡航手段の増加に乗り、圧倒的に有意な立地をもって造られた、世界最大の市場である商業都市、ニュー速。
二つの大都市を手中に入れている国『チャンネル』はそれにより、宗教国を謳いながら多方面での大きな影響力をもっている。
ξ゚听)ξ「やっぱり怪しすぎるわ……」
( ^ω^)「馬車の数がやばいお、本当に祭りでもあるんじゃないのかお?」
見上げると首を痛めそうなほど高い黒色の岩の外壁の周辺には、それを監視するように並んだ馬車の群れがあった。
それぞれ全てにブーン達が乗ってきたものと同じ物が積まれているなら、騎士への公式な運送のようにも思える。
しかしどれも周辺で止まり、都市内部に向かおうとしていない以上、別の理由でここまで来ていると考えられる。
川 ゚
-゚)「なんか物々しい顔してる奴居るし、それは無さそうだがな」
364 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:12:42.14 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「ラウンジ正教、ツン・デ・レイ・シュトックハウゼンです。どけ」
都市の巨大な正門まで歩いていき、さっそくツンが名乗ると、門番は怪訝な眼で見返した。
馬車も楽々通れるほどに大きな門なので、労力を使うのが嫌そうな表情だ。
|;;━◎┥「……あんた、本当に修道女か?」
ξ゚听)ξ「ええ、そんなとこよ」
|;;━◎┥「でも今、あれから降りてきたじゃないか」
槍を持っていない方の手で、全身鎧をがちゃがちゃ鳴らしながら、門番は馬車の群れに向かって指を差した。
そこには確かにツン達が乗ってきた馬車も含まれているようだ。
ξ゚听)ξ「何か問題でも?」
|;;━◎┥「大有りだよ。今明らかに不穏な動きがある。そのうえ、俺ら下っ端ですらここ数日は警戒するよう言われているんだぞ」
ξ゚听)ξ「警戒ねえ……どうせ大したアレでもないでしょ」
|::━◎┥「お前……下っ端とはいえ一応俺も騎士の端くれなんだが……?」
ξ゚听)ξ「何? 修道女より偉いって? 兵士でもない門番が。騎士になれるのは私みたいな人間と、九十五人の才ある者だけよ」
|;;━◎┥「……なんだと?」
ξ--)ξ「だからー、いい? わー、たー、しー、はー、あんたと違ってお偉いさんの騎士様なんですけど? 大丈夫?」
|;;━◎┥「んな馬鹿なことを……まったく、やっぱり警戒強化は怠らない方がいいな……」
365 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:17:23.81 ID:WznWHEl+0
- |;;━●┥「すみませんでした……」
ξ゚听)ξ「教育がなってないわねー……」
|::━◎┥「これは失礼を。なにぶんこちらの男は、門番として未だ日が浅いので」
ツンが門番Aを睨みつけていると、門番Aは後ろに立っていた門番Bに肩を掴まれてしまったのだ。
門番Bはツンの顔を知っていたようで、門番Aに肩を組んで説教をし始めた。
ちなみにその間ふんぞり返っていたツンは、元気に鼻をふくらませていた。
|::━◎┥「それでは騎士様、お通りください」
|;;━◎┥「本当に失礼しました! 騎士様ー!」
|;:━◎┥「騎士様ー」
|:;━◎┥「騎士様ー」
と、石造のように立っていた残りの門番が奇声をあげて動き出した。
彼らはこぞって門の手前、その端にある大きな直立柱に歩いてゆく。
柱には四本の棒が垂直に伸びており、四人は手に持つ槍を置き、それぞれ棒を掴んだ。
|::━◎┥「「「「騎士様ー、騎士様ー」」」」
柱の周囲でゆっくり歩き、周り始める。
掴んだ棒も共に回転し、大きな門は徐々に、音をたてて上がっていった。
川 ゚
-゚)「なんか宗教じみた掛け声で開けるんだな」
ξ゚听)ξ「いや、これ宗教だしね。騎士様ー、ってのはホンっトにやめて欲しいけど」
367 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:22:43.07 ID:WznWHEl+0
- 宗教都市とは言っても、景観に宗教的なシンボルやらが少し多いだけで、その辺の道端を神父が歩きまわっているわけではない。
軍部と政府が置かれているためニュー速に比べれば厳粛な雰囲気があるが、住んでいる人間はそれぞれ思い思いに暮らしているのだ。
それは宗教の権威を振りかざす街でありながら、実態は宗教に縛られた生活を送っていない、という奇妙な背景を示していたりするが。
川 ゚
-゚)「まずはどこ行くんだ?」
ξ゚听)ξ「教政府御所、の前に、宿に荷物とあなたたちを置いていくわ」
外壁は生活に閉塞感を与えそうなものだが、街並みはそれを気にさせない。
それは外壁と同様に高さのある建物が、見上げた空に伸びるからだ。
世界に点在する宗教の中でも最も住みやすい聖地とされるヴィップは、信者の数に比例するように人の流入が多い。
しかし人がやって来ようにも都市は外壁をもってかたちをつくられているため、安易に拡大することはできない。
そのため、人々の住む場所は縦へ縦へと伸び、できる限り住居空間を横に取らないような措置をとられている。
そして、その「上に長い」都市の中でも一際大きな建物がある。ツンの言った『教政府御所』だ。
もともとは、聖地とされる所以、古の聖人が磔にされたとされる黒十字が紀元当時のまま残され、それを守るように建てられた聖堂。
現在は宗教と政府が同時に存在するこの街を体現しており、その見た目は馬鹿でかい、多様な趣向の入り混じる城といえる。
川 ゚
-゚)「なんと、私を置いていくのか? さみしいなぁ」
ξ゚听)ξ「いろいろ一人の方が楽だしねぇ……」
川 ゚
-゚)「ということは、このわけわかんないのと二人か……地獄だな……」
( ^ω^)「あらまあ。天国すら生ぬるいぬるさの僕になんてことを言うんだお」
川 ゚
-゚)「うるさいな。ぬるぬる言うなこのぬるぬる野郎が、うぬぬるぬるだ、ぼけ」
( ´ω`)「うわぁ、このわけわかんないのと二人か……地獄だお……」
368 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:27:41.48 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「そんじゃ、喧嘩しちゃだめよ」
と言って、街で一際大きな宿を取ったツンは二人に手を振って宿の部屋から出て行ってしまった。
( ^ω^)「飼ってる猫じゃないんだから……」
川 ゚ -゚)「猫か、……どこかに居ないかな」
残された二人は、とりあえず窓を眺めた。
上に大きなこの街、宿も例に漏れずかなりの高さがある。
そしてその最上階である十三階にわざわざ部屋を取ったため、その風景はなかなか見られないものとなっていた。
( ^ω^)「見えるのかお?」
川 ゚ -゚)「猫は見えんぞ」
人は見える。
待っていればツンの金髪が出てくるのも見えるはずだ。
それにしても高い場所で、歩行者の顔はまともに見えないほど。景色はまるで山の上、いいや、雲の上のようだ。
これで街の中なのだというのだから、人の建築技術はかなりの進歩を見せていると言っていいだろう。
川
- -)「むー、めまいを起こしそうだ」
( ^ω^)「落ちたら大変だお、あんまり乗り出しちゃだめだお」
川 ゚
-゚)「さすがにそれくらいは言われんでもわかって、……」
( ^ω^)「なんだお?」
川 ゚
-゚)「、おっと………、危ない……本気でめまいを起こしそうになった」
369 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:32:57.87 ID:WznWHEl+0
- ふらり、とベッドに転がるように倒れ込んだクー。
まるで自分が高い所に居たことを忘れていたような顔をしていた。
( ^ω^)「大丈夫かお? 高所恐怖症の吸血鬼ってなんか新しくないかお?」
川 ゚
-゚)「新しいか? 探せばそういう話もありそうなものだが」
( ^ω^)「いや、なきにしもあらざるをうむがやすしだお」
川
゚ -゚)「意味がわからん。ところで私もちょっと出てきていいか? 観光気分で」
( ^ω^)「じゃあ僕もいくお、暇だお」
川
゚ -゚)「お前はおとなしく留守番してろ、邪魔すぎて片足を切り落としたくなる」
( ^ω^)「落とされたら切れた足を杖にして追いかけるお、地の果てまでついていくお」
川 ゚ -゚)「くんなばか」
( ´ω`)「……」
川 ゚ -゚)「ツンにも言っておけ。『飼い猫がどっかいったぞ』、とな」
( ^ω^)「そしたらツン泣いちゃうお、一晩中泣いちゃうお、わんわん泣いちゃうお」
川 ゚
-゚)「む、……じゃあ、きっと戻るとも言っておけ」
(*^ω^)「ぬふふぅ、やっぱり飼い主にはかなわないかお?」
川 ゚
-゚)「笑うな。それはお前に言える口ではない」
370 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:38:11.34 ID:WznWHEl+0
- クーが部屋を後にすると、ブーンには絶望的に怠惰な空気感が襲ってきた。
いっそ窓から飛び降りて市民を驚かせてみようか、などとも考えるが、どう転んでも不審者なのでやめた。
( `ω´)「ふーぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
窓から顔を出してみる。
吹きあげてくる風が強烈だが、ここで瞬きをするのは、負けだ。
( ゚ω゚)「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ―――」
干乾びた眼球は痛みを産むだろう、しかしこれは戦いだ。
ここで負けてどうする、勝たなければ、目を開かなければ。
( うω;)「あれ、あの姿……ジョルジュ?」
顔面がびしゃびしゃに濡れたところで、通行人に見覚えのある者が見えた気がした。
( ;ω;)「んー、違ったお……」
どうしてジョルジュと勘違いをしたのだろうか。
よく眺めてみるが、特に体格も、微妙に見える顔も似ているわけではない。
( ;ω;)「あ……そうだ、」
商人のジョルジュは、商売道具を入れた大きな黒の袋を背負っていた。
あまりに大きいその袋が印象的で、なんとなくジョルジュの特徴もそうなってしまっていたのだ。
似たような袋を眼下の市民は持っていて、彼がここ逃げていたということからも、なんとなくそう思ったらしい。
少しその姿が目立つような気もするのは、おそらく一度、気にしてしまったからだ。
371 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:43:34.48 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「ただいまー」
(つ;ω;)つ「ツンー!」
ξ゚听)ξ「抱き付くな鬱陶しい。ていうかなんで泣いてんの? 新しい病気?」
( ;ω;)「自然の力には勝てないんだお」
ξ゚听)ξ「あっそ。クーさんは?」
( ;ω;)「ツンに嫌気がさして出ていったお、あーあツンのせいだお」
ξ--)ξ「あのさぁ……喧嘩すんなって言ったじゃん………あんた歳幾つ?」
( ^ω^)「いや喧嘩はしてないお。ちょっと観光してくるって」
ξ゚听)ξ「くっそクーさんめ、私も連れてってくれればいいのに……」
( −ω−)「あ、そーだ。ツンの方はどうなったんだおー?」
ξ゚听)ξ「新しい手形の発行に五日かかるってさ。遅いわよね」
( −ω−)「ふーん、修道服はー?」
ξ゚听)ξ「寸法合わせたから、明日取りに行く。なんか装飾変わっててそっちは丁度良かったわね」
( −ω−)「ふーん、そうなの。」
ξ;゚听)ξ「あのさ、別に興味ないなら無理して聞かなくていいよ? 私達会話なくても気まずくないよ?」
373 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:48:34.71 ID:WznWHEl+0
- 詰められた建物と建物の間には、誰の目も届かない空間が多々できる。
それは、事前準備が万全でない状態で無秩序に居住空間を作りあげたためだ。
空いた間は、基本的にその後自然に誰かが埋める。
不自然な空間は街の景観を損なう場合もあるため、小さな店舗が埋めたり、
住人達が有効利用しようと、子供たちの遊び場となっていたりするのだ。
もちろんそれは表向きの部分の話で、一般に見えることすらない場所にもひそかに空間はできている。
そこに巣食うのは同様に表には出ないような人種であり、聖地だ首都だと言っても、そういう輩はどこにでも居るものである。
_、_
(
,_ノ` )「――成程、それには賛同できるな」
街の端、家々の隅、小さな空間に住む男、シブサワはやってきた訪問者を受け入れていた。
('A`)「でしょう? 俺も半身半疑だったんですが、こちらの男は見事にこの都市までやってきまして」
貧相な男は汚い歯を覗かせながら渋沢の前に座り、隣の黒の袋を背負った男を小さく指差している。
_、_
( ,_ノ`
)「増援にも期待でき、そいつらは武器を持って来る、それは確実なんだな?」
「はい、あとは俺達が内部で陽動をかけ、外の馬車群をなだれこませることができればヴィップは落ちるはずです」
('A`)「シブサワさん、やはりここは乗るべきでは? 教皇さえ押さえればこっちのものですよ」
_、_
( ,_ノ`
)「お前……何を言ってるんだ? まさか俺が新たに権威を得ようとしているとでも思ってんのか」
(;'A`)「え? じゃあどうするんです? これはまたとない復讐のチャンスではないんですか?」
_、_
( ,_ノ`
)「俺から全てを奪った奴らをどうして生かしておく必要がある。俺は胡散臭えこいつらの騎士狩りに、甘んじて便乗するだけだ」
374 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 14:53:31.78 ID:WznWHEl+0
- 川 ゚ -゚)「ほー、『騎士狩り』か」
静かに心に火を灯していたシブサワの前に、突然女が現れた。全身が黒づくめで、影に吸い込まれてしまいそうな。
いつの間にか横の縦長住居の壁を背にしていたその女は腕を組み、シブサワを呆れたように見つめていた。
川 ゚
-゚)「本当に、穏やかじゃない輩はどこにでもいるものだな。これが人の性というものか」
_、_
( ,_ノ`
)y━・~「誰だ? 随分ここには似合わん女だが」
言いながらマッチを取り出し、心の次にはパイプに火を点けたシブサワ。
この場所、建物の隙間であるため風が強く、パイプの先の煙が異様に舞う。
川 ゚ -゚)「ふん、貴様のような汚物に用は無い、」
言葉を吐き捨て、髪をさらりと流しながら、女はゆっくりと首を傾けた。
その視線は渋沢から、黒の袋を携えた男を過ぎ、
(;'A`)「……」
地面に這いつくばり、小さくなっていた者へと向けられた。
_、_
( ,_ノ`
)y━・~「ん? 『髑髏』、知り合いか?」
髑髏。それは、やせ過ぎて骨ばった顔を指してつけられた、蔑みの証となるあだ名。
川
゚ -゚)「さて、殺しに来たぞ……『ドクオ』」
それは女が呼んだ名前とは似ているようで、おそらく全く意味の違う、彼のあだ名だった。
375 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:02:05.56 ID:WznWHEl+0
- 黒の修道服に身を包み街を闊歩するツンは、行く先々で市民に頭を下げられた。
彼女の着る修道服は『騎士』の証であり、それを知る彼らは、形式的に。
ξ;゚听)ξ「やっぱりなんか慣れないし、あんまりいい気分しないわね……」
( ^ω^)「この前の門番にはえらく調子づいてたように見えたけど」
ξ゚听)ξ「あれは同業者じゃん? つまり私は直接の上司に当たるじゃん?」
( ^ω^)「基準が適当過ぎだお、それ全力で見下してるだけだお」
ξ--)ξ「それは仕方ないよー、仕方ないんだよぉ……」
( −ω−)「いやー、そんな納得したような顔されてもぉ……」
丸三日間こんな調子で過ごしていた二人は、ようやくクーの捜索に出た。
ついさっきまでクーが全く音沙汰無しなのにも関わらず、手形の発行を待つ二人は毎日街を回りながら死ぬほどだらけていた。
しかし天啓なのか、突然ツンが「やっべえこれ流石にクーさんキレてるわ」とか言い始めたので、さあ探そう、と。
ξ゚听)ξ「そういえばさ、結局祭りとか無いみたいだね。ちょっと仕立て屋に聞いたけど知らないってさ」
( ^ω^)「それは残念だお。僕祭り大好きなのに、はしゃぎ回って知らないおっさんにぶん殴られるくらいの童心持ってるのに」
ξ;゚听)ξ「あんたがはしゃぎ回る姿、雀のクソの欠片程度にしか想像つかないんだけど……この辺で祭りないかなぁ……?」
( ^ω^)「ツンは汚い言葉使っちゃだめだお。ツンの綺麗な巻き毛がきったねえクソ毛に見えるお」
ξ#゚听)ξ「やだもうそんなに褒めないで? ぶっ殺すぞ?」
( ^ω^)「じゃあ次の祭りまでは生きてみるから、ぶっ殺すならその後ひと思いに頼むお」
377 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:07:51.51 ID:WznWHEl+0
- 軽口を叩き合い、頭を下げる市民を横目に流す。
そうして街を歩いてみるが、クーの影は欠片も見えず。
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……」
やがて日も落ちかけてきたころ、遂に無言になる二人。
クーのもともとの素性の関係もあり、居ないならば居ない、で本来片付くはずの話ではある。
だが、ここまで共に過ごしてきた二人に対し、何も言わずに去るような彼女ではない、とも考えているのだ。
それでも彼女が二人の前に姿を現さないというのは、このことを否定する材料となりえるものなのに。
ξ゚听)ξ「どうしたんだろ、」
( ^ω^)「本来の目的を思い出したんじゃないかお?」
ξ゚听)ξ「でもさ、あんたはともかく私に一言くらいあってもいいじゃない」
ツンは相応に衝撃を受けているようだ。
短期間でありながらも姉のように慕っていたクーが突然居なくなったのを自覚すると、やはり堪えるものがあるらしい。
( ^ω^)「ツン、別れは生きている以上、必然的に訪れるものだお?」
誰しもが理解していることをわざわざ口に出して言うのは、それが必要な確認であるとも、理解しているから。
受け入れられない現実でもそれは間違いなく現実であり、遠回しな言い方で、それを受け止めろ、と言いつけるように。
ξ--)ξ「馬鹿ねぇ、そういうことじゃないの。………あんたのその言葉、重すぎるわよ」
対して、隣を歩いていたツンがブーンから目を背け、ゆったりと動く街を眺めながら呟くようにこぼした言葉。
この状況で皮肉のようなそれを言ってきた理由が、ブーンにはさっぱり理解できなかった。
380 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:13:18.05 ID:WznWHEl+0
- その日も結局宿に戻り、休むことになった。
一人の人間が居ないとその分の空白が部屋に生まれ、丁度ツンの内面を写しているようであった。
そんな静かながらんとした夜に、ブーンは立ったまま窓を見つめた。
ツンが既に寝てしまっているので、部屋も外も、完全な静寂と月明かりだけ。
ブーンはこの闇の中で、適当に考えを巡らせる。
クーが何故居なくなったか。理由はおそらく、『ドクオ』をここで見つけたからだろう。
彼女の生きる理由は彼にあるという話をしていたのだ、急な行動理由はこれしかない。
しかし、どうしてあの男がこちらに来ているのか、そこに疑問があった。
様々な商売人の元で小さな働きをしているのならば、ヴィップよりも利用できる人間が多い街はあるはずなのに。
わざわざ、管理というものが形だけでも明確に存在しているこの街を、どうして選んだか。
そこで乗ってきた馬車を思う。武器を積み、妙な発言をしていた馬車の男。しかも、中身を見ていないが似たような馬車も多数居た。
しかも同じく商人関係の者、旅の宿から突然居なくなったジョルジュもここに来ているはずなのだ。
先日見下ろした街では、ジョルジュが持っていた袋に似たものを持つ人間まで見た記憶があるのに。
これを偶然と言うには、『商人』という共通点が目立ち過ぎている。
門番は言っていた。『今明らかに不穏な動きがある。そのうえ、俺ら下っ端ですらここ数日は警戒するよう言われているんだぞ』。
今の不穏な動き、とは馬車の群れを指しているはずだ。ならば、数日前からの警戒の要因もそれに関連しているだろう。
ヴィップに何かが起きようとしているのは間違いがない。
それも、『商人がこぞって街に何かを起こそうとしている』。ここまでは、確実だと言える。
この国の中心、ある宗教の中心、強大な武力の中心のこの街で、商売人が働きかけをする必要のある部分は――。
( ^ω^)「………もしかして『騎士』を? いや、そこまで商人どもが馬鹿だとは思えないが……」
382 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:18:33.53 ID:WznWHEl+0
- 不死者が何かに気付いたように、呟いた夜。
「んっふふふ、ふふ、ふふふ、」
『それ』は、いつの間にかそこに居た。
『それ』は、全身をすっぽりと覆う毒々しい紫色の布の中で、抑えきれないと言いたげな笑い声をあげていた。
『それ』は、ずる、ずる、と布を引きずり、ヴィップの大通りを、真っ直ぐに歩いていた。
「これだけ人に侵食された場所が、聖地? んっふふふ、ふふふふ、」
声は震えていた。
まるで、歓喜の表情で鞭打たれる狂信者のような震えだった。
「んっふふふふふ、本当に、馬鹿げてるわ」
通りの果て、大きな門を開いた。一切の抵抗はない。
この場所はたとえ何者であっても訪問を受け入れるという程度の度量があるのだ。
広さは入り口正面から堂を眺めても左右の壁を捉えられないほどで、整然と並ぶ長椅子もかなりの大きさをもっていた。
だが、並べられている椅子が全て埋まることは珍しくはなく、ヴィップに住む者ならば週に一度はそこに座るはずだ。
『それ』が「馬鹿げている」と言ったのは、その椅子の群れが向いている先にある。
過去に本当に存在したかもわからない、聖人を崇める象徴を指したもの、
人が磔にされていたにしてはあまりにも大きすぎる、黒十字だ。
「……私が居るじゃない」
『それ』は黒十字の五重に囲われた細い鉄柵、木柵を音も無く曲げ、十字の手前に張り巡らされた目には見えない絹糸を破る。
『それ』は穴を開けるように曲げた柵を通り、破れて床に落ちた絹糸を踏みつけると、またも笑った。
「んっふふふふ………どうしてこんなものを崇めて……私を見てくれないのかしら。ね、ホライゾン」
384 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:23:38.30 ID:WznWHEl+0
- ξ;゚听)ξ「うーわ、なにこれ……」
翌朝、二人が何気なく窓を眺めるとヴィップは深い霧に覆われていた。
その濃さは尋常ではなく、地面など全く見えないほどだ。
( ^ω^)「これって、」
ξ゚听)ξ「うん、そうだね」
ブーンの言葉を遮り、すぐに部屋を出る準備をし始めたツン。
彼女が慌ただしく動くところ、やはりこの発生源は魔導具であるということだ。
ξ゚听)ξ「でもここが高すぎるせいかな? 大元がわからないわ」
( ^ω^)「さっさと降りて確かめるお」
ξ゚听)ξ「ええ、先行ってて」
数秒の間を皮膚でなぞり、二人は飛び出す。
もっとも、ブーンは窓から、ツンは部屋から、だ。
( ^ω^)「さて」
即座に窓を開け、足を上げ、窓枠を蹴る。と、風を切り、風を切り、風を裂き、霧を裂きながら落ちてゆく体。
やがて迫るであろう地面への痛みに、ブーンは自ら意識を一瞬飛ばし―――
―――た瞬間は過ぎており、大木を無理矢理なぎ倒したような音が全身に響いたまま、体が言うことを聞かなくなっていた。
そのまま頭を覆う死の痛みと、痛みを全くの無に帰す泡にまみれながら、ブーンはゆっくりと転がり、立ち上がる。
多数の不可解に魔導具まで飛びこんできた、ならば自分が動かないでどうするのだと、自分の目を覚まさせるように。
386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:28:44.94 ID:WznWHEl+0
- ( ゚ω゚)「ほっぐ!」
血まみれのブーンの体に駄目押しをするように、さらに重く固いものが背中を打った。
大きさもそれなりのものらしく、思わずうつ伏せに倒れ込んでしまう。
|;;━◎┥「ああっ! もうしわけありません! 大丈夫ですか!」
背中に抱きつくように乗ったものは大声をあげて謝罪をし、すぐにブーンの背を降りた。
正面に立つと、ブーンよりも少し背の低い、門番と同じ鎧をまとった男だった。
深い霧だが、近くの人間は一応見える程度のものだったらしい。
( ^ω^)「何があったんだお」
|;;━◎┥「わかりません! 深い霧が周りに発生し、妙な音がしたと思ったらものすごい勢いで馬車が突っ込んできて……」
わからないなりに状況はわかっていたようだ。
そこで怯んだ門番達は馬車内に潜んでいた族に討たれ、彼は深い霧と死んだふりでやり過ごしたという。
こうなると少なくとも門を破られたのは一つではないということが、先ほど上から見た霧の深さから考えられる。
( ^ω^)「よく生きていたお、連れの騎士が今来るから少し待っていてくれお」
|;;━◎┥「……はい、」
がら、と鎧を鳴らして背を曲げていく様子は、見るからに落ち込んでいる。
声からして彼はかなり若い。そういえば、街に入る時に出会った門番Aと同じ声かもしれない。
死んだふりという本来的には騎士の端くれが取るにありえない行動をとって、気が重くなっているのだろう。
それも上司を置いて一心不乱に走ってきたのだ。そんな状態でもまともに会話できるところ、彼は強い人間だといえるのに。
|;;━◎┥「ああ、忌々しい……………」
387 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土)
15:34:03.85 ID:WznWHEl+0
- ξ;゚听)ξ「ブーン……」
十三の階層を駆け降り、汗を散らしながらツンがやってきた。
彼女の体力的にはさほど問題ないはずの距離だったのだが、何故かその足取りは重く見えた。
( ^ω^)「ツン、どうしたんだお。こいつを連れて早く街の騎士でも捕まえに行くお」
ヴィップには少なからず常駐する騎士や兵士が居るはずだ。
商人達の狙いが騎士だろうがなんだろうが、出来る限り急いだ方がいい。
視界を確保できない状態のままバラけたままでは、相手の思う壺だろう。
|;;━◎┥「よろしくお願いします! 街の地形は把握しているので、私の後に!」
門番は深い礼をするとすぐさま走り出した。
後に続くようにブーンが手を振り、ツンもようやく動き出す。
( ^ω^)「おい、」
見えない中で魔導具が利用されている。目的がどうあれ、それはどう転んでも危険だろう。
あまり味方に気を遣うよりも見づらい街に意識を向けたい、そう思い、ブーンはツンを急かす。
ξ;゚听)ξ「市民は今、どうなってるかしら」
( ^ω^)「妙に深い霧だから普通は外に出ないお。それより、何か異常でも?」
ξ;゚听)ξ「異常なんてもんじゃない、街中全体で魔術の香がするの。それが霧のせいなのかはわからないけど、複数は確実に居る」
( ^ω^)「………」
ならば、尚更速く。
389 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:39:58.75 ID:WznWHEl+0
- |;;━◎┥「誰か! 誰か居ないか!」
「おい! こっちにも居るぞ! 今度こそ!」
一般兵士の詰められた建物に到達したところで門番が吠えるが、返事は見えない向きからの荒い声で返された。
すぐさま声の方、霧の向こうからこちらに向かってくる足音が聞こえ、それも一つではないらしい。
( ^ω^)「この街の騎士は普段何処に?」
ξ゚听)ξ「ここから北、っていうかこの詰所の壁に沿ってけば着く、御所の横の騎士堂。でも、今居る騎士はもう全員動いているはず」
( ^ω^)「……無駄足だったのかお。どうして言わなかったんだお」
ξ゚听)ξ「いえ、兵士はどうかわからなかったし、とにかく御所を見ておきたかったから」
|;;━◎┥「じゃあ私は……」
ξ゚听)ξ「もうあんたは邪魔よ、道案内ありがとね。詰所に居る奴が居たらそっちと霧や街への対処でも考えてて」
|;;━◎┥「はぁ、…………わかりました」
と、詰所の一際大きな、物品倉庫への入り口に向かって門番は歩いていった。
( ^ω^)「なら、ツンは御所に、」
ξ゚听)ξ「は? こっちに来る奴は潰してくわ。今の街の状況なら、私は誰よりも早く動けるんだから余裕よ」
( ^ω^)「だからだお。状況が見えない、目的もわからない、なら御所の様子を最優先で見た方がいいお」
ξ--)ξ「ちっ、わかったわよ」
391 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:45:28.76 ID:WznWHEl+0
- ツンが霧の向こうへと走ってゆくと、入れ替わるように霧の中から人影が現れた。
数は大小三つで、どれも大きな凶器を手に持っているようだ。
「死ね!」
その中の小さな一人、子供のような声が駆けてきた。
手に持っていたのは大きな板のような剣で、鎧ごと殴り殺すための大振りなもの。
彼はその扱い方をまるでわかっていない。頭の上で垂直に不格好に構え、殺意だけを飛ばして走ってくる。
( ^ω^)「待て」
ブーンはそれを振られる前に正面から駆け込み、その剣の柄を片手で突っぱねるように押さえた。
重さも相当なこの剣だ、影の走った勢いは後方にのけぞるような姿勢になり、ブーンの胸でぶつかり止まる。
( ^ω^)「目的は?」
そのまま、少年であったその影の細い首を掴むと、見開いていた眼をブーンの眼と無理矢理合わせた。
年端もいかない子供だ。脅しには簡単に屈するはず、
( ω )「っ……」
だった。
後ろからゆっくりと確かめるようにやってきたもう二つの影、二つの大槍は、少年とブーンの胴体を、迷うことなく貫いていた。
「これで地上を枯らす人間をまた一人狩ったぞ!」 「ええ、私の息子は豊穣の大地へと向かうのね……!」
( ω )「………?」
二人の男女の噛み合わない会話に、枯らす、という言葉。それは、ブーンの頭にはどうしても引っ掛かるものがある。
392 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 15:50:31.14 ID:WznWHEl+0
- ξ;゚听)ξ「なに、これ、」
ツンが駆けてきたその場所、教政府御所は吹き飛ばされていた。
黒十字が祀られていたはずの大聖堂は床の名残が見えるのみで、その上に置かれていたはずの議会層も、まるごと消えていた。
さらにその上と、それらを覆うようにあった教皇の住む宮まで、完全に消滅させられている。
足元に見える残骸は、それが本当に政府の中核を担っていたものなのかと、眼を背けたくなった。
ζ(゚ー゚*ζ「あら。ツンだったかしら? 久々に見るわね」
それを茫然と眺めていると、結われた長い金髪を腰まで垂らした女性がツンの名を呼んだ。
ツンと同様に黒の修道服を纏っており、両手にはそれに似合わない、無骨な金属の大きな筒が二本抱えられていた。
ξ゚听)ξ「『眼』の……」
彼女は『騎士』としての最高位、『第一翼』であり、特に軍隊としての性格が最も強い称号を持つ女だ。
本来大規模な集団を指揮する彼女が単独で動いているということは、現状はそれだけの事態であるということになる。
ζ(゚ー゚*ζ「逃げられちゃったわ」
ξ゚听)ξ「えっ?」
ζ(゚ー゚*ζ「アレは魔導具かしら? ガキ共が腕から赤い光を撃って御所を壊してたのよ。
で、私達が発見したからそいつらをブッ殺したんだけど、一部には逃げられた」
ξ;゚听)ξ「そんな、じゃあ教皇や周辺の人間は……」
ζ(゚ー゚*ζ「私達が動く前から逝ってたでしょうね。聖堂から上まで、全部丸ごと削られていたのだから」
ゆっくりとそう言いながら彼女はツンを舐めるように見た。
言葉は軽く、落ち着いていたが、ツンなどが排除に掛かっていた魔術の被害であるとなると、責任の所在は決まっているのだ。
393 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:02:14.82 ID:WznWHEl+0
- ζ(゚ー゚*ζ「他の奴らもこの襲撃の沈静化に回ってるわ。あんたもさっさと動きなさい」
ξ゚听)ξ「申し訳ありません……」
ζ(゚ー゚*ζ「謝罪は要らない。市民を守るわよ」
そう言って、彼女は霧の中に消えてゆく。
気付けば街の喧騒は増えていた。
どこかの悲鳴も少なからず聞こえる。
これも全て霧の中だというのに、的確に動くにはどうすべきか。
『眼』の話から、推測だがヒートのような人間がいる。ということは、どういうことか。
おそらくその『魔女の剣』がこの街で振られ、教政府御所を潰したとは、どういうことか。
ξ゚听)ξ「『魔女』………」
この長い人の歴史の中で、『魔女』がそれほど表だった事件を起こしたことなどないはずだ。
歴史の片隅に在る吸血鬼狩りも、『ある部族』と『ある団体』との、という不明瞭な規模のものだった。
だが今回は全く違う。
一つの『国』を、それも他国に大きな影響を与えかねない国を潰しに来ている。
稲妻のような襲撃で、ヴィップ側の戦力を整えさせる前に、寸分の容赦もなく、無慈悲に。
そこには倫理など全く存在しない、まるで自然災害のような勢いで。
利益を全く求めていないのだろうか、そもそも魔女が国を潰してどうなるのだ。
ただの酔狂で人を集め、まさか「気に入らない」というような理由で、か。
もしかして、実在していた非現実的存在が確固たる現実に飛び込んでいくのを見て魔女は楽しんでいるのか。
395 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:07:44.23 ID:WznWHEl+0
- そんな頭の間に、割り込むように高い声が入ってきた。
从;'ー'从「ツンちゃん! ツンちゃんってば!」
ξ;゚听)ξ「はぁ!? クソメイド!? なんで?!」
いつか見たメイドがツンの服を引っ張っている。
从;'ー'从「調査結果届けに来たの〜! でもツンちゃん昨日見つからなかったから〜!」
昨日ということは、ちょうどツンらがクーの捜索で夜までふらついていたところだ。
しかし、直接ツンに会う必要もないような用事のはずである。
ξ゚听)ξ「だったら昨日までにうちの統制管理室通せば良かったじゃ、」
从*'ー'从「昨日はツンちゃん舐めたくて朝方まで探してたのー! でも諦めて、地図見てわざわざ来たんだよ〜?」
と、言いかけてやめたのに、理由をわざわざ言われてしまう。
実際問題、情報をまとめるその場所はすでに半壊して意味を為していないので、丁度いいと言えばいいかもしれない。
しかしこの状況、いきなりどこかの女の砲弾が飛んでくる可能性すらあるのにメイドが笑っているというのは、どうなのだろう。
ξ;゚听)ξ「うわっ。で、ニュー速の調べはついたの?」
从'ー'从「うん。なんかね〜、悪い人たちと悪い宗教が組んでるみたいなの〜」
ξ゚听)ξ「悪い宗教って? くっだらないのじゃないわけ?」
从'ー'从「えっとね、『豊穣の芽』っていう母体を組んで、商人と提携してその団体の偶像とかお守りを売ってたの〜。で、それが〜、」
ξ゚听)ξ「あー……魔導具、ってことね。時間がないからもういいわ………ありがと」
396 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:12:44.36 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「じゃあ、あなたを連れて安全なところまで逃げます」
从;'ー'从「わかるの?」
ξ゚听)ξ「私にはわかる。っていうかまあ、うん、私について走って!」
まずは香が少ないところまでメイドを連れて行かなければならない。
同時にそれほど声のしない方に向かって走れば、多少はマシな場所にいけるだろう。
それよりも、
『豊穣の芽』という団体に魔女が関係しているのは間違いがない。
そして今現在ヴィップを襲っているのも、その『豊穣の芽』だろう。
だが、やはり動機が弱い。
たとえ宗教団体が魔女の手にあろうと、他の宗教を排斥するような動きにどうしてなるのか。
しかも世界最大規模、最大勢力のラウンジ教を、何故選んだのか。
わからない。
そこには理由など、本当に無いのかもしれない。
聖地を潰し、教皇を殺しても、宗教というものはそこを絶対的な基盤としていない方が多いのではないか。
『魔女』を頭目としたその団体は、そんな程度のことも考えられないのか、それとも、他に目的があるのか。
从;'ー'从「あ、足、はっ、早いよ〜!」
後ろで叫ぶメイドの、霧に消えそうな影に振り向きながらツンは考える。
宗教などにあまり触れることの無い錬金術師の家だったため、考えられる可能性に限界があるのがもどかしい。
ξ;゚听)ξ「あー、もう!」
397 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:17:49.79 ID:WznWHEl+0
- 川 ゚ -゚)「まったくくだらんな、反吐が出る」
_、_
( ,_ノ`
)y━・~「おい……なんで邪魔しやがった……」
(;'A`)「う、わ、あ、あ、」
咥えたパイプから濃霧のような煙を漂わせるシブサワは、目の前の血に塗れた肉塊にしゃがみ込んで苛立った声を出した。
『ドクオ』はその肉塊を見て腰を抜かしたようで、その場に尻と手をついて震えていた。
川 ゚
-゚)「……そのまま醜態を見せ続けるなら殺すぞ」
クーはドクオのために、シブサワを狙って襲いかかった鎧の男達を殺した。
このドクオは現在、シブサワの為に働いているので、それまでは死ねない、シブサワも死なせられないというのだ。
ならば、とクーは彼を殺さずにその目的を果たすまで様子見をすることにしたのだが、やはり、彼は情けなかった。
(;'A`)「ぅぅ……」
顔色の悪いその表情、クーにとっては殺さずにはいられないものだ。
思わず頭を蹴り飛ばしてしまいたい衝動に駆られるが、理性で持ちこたえた。
_、_
( ,_ノ`
)y━・~「無視かよ。ったく、案内の野郎も死んじまうし、どこ行きゃいいんだ? 騎士は何処だよ、騎士は」
シブサワの言う案内の野郎、というのはクーが二人に会った際に同席していた黒い袋を背負った男。
シブサワが深い霧を生み、その男が外の馬車に火薬での合図をしたところ、爆薬とともに突っ込んできた馬車の下敷きになった。
川 ゚
-゚)「むー、……お前は騎士を探しているのか? だったら、さっさと殺せばいいだろう」
_、_
( ,_ノ`
)y━・~「ああ? そいつは一体……どういう意味だ?」
片手に持った刃物を構えると、シブサワは眉を吊り上げた。
398 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:23:50.55 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「霧が薄くなった……?」
奇声をあげて槍を振り回していた男女は無視し、御所に向かって一人歩いていたブーン。
途中で似たような人間にめぐり会うが、同様に体に剣でも刺させれば、全員が納得したように発狂していった。
歩いている最中、いつの間にか霧は僅かに遠くまでの視界を確保できる程度の薄さになっていた。
それによって、大通りでは騎士でない者が武器を担いでいたり、それを制圧する者がいたりするのを確認できる。
街の騎士は既に動き出していたようで、詰所の兵士は彼らに駆り出されていたらしい。
( ^ω^)「ツンは……」
ブーンの元にツンが戻って来ないところ、この混乱の中で何か問題が発生したのは確実だ。
確かにブーンを殺そうとした人間の中には、胸から飛び出した骨を突き刺してきた者も居るほどに、狂った事態。
そのうえ鎮圧に動く騎士らの表情は青ざめており、やはり単なる暴動とは言い難いものなのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「あなた、ちょっといいかしら? 邪魔なのであちらの兵士と共に避難をしてくださらない?」
突然、正面からブーンに声が掛けられた。
長く美しい金髪を垂らした女が、大通りの一際大きな集団に向けて指を差していた。
妙に火薬の匂いがするのは、彼女の持つ大きな筒のせいだろう。
( ^ω^)「連れがこの先に居るはずなので、失礼しますお」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です。あなたのお連れさんも私達が保護しますので、さっさと方向転換しろ下衆が」
ふんわりとした仕草にはまったく似つかわしくない言葉遣いで、すれ違おうとしたブーンの腕を捕まえる女。
( ^ω^)「大事な連れなんですお。この街が消えるのと引き換えにしてもいいくらいに、大事な」
ζ(^ー^*ζ「あなた……この惨事を見てわざとその口を開いているのならば、この美しい笑顔を土産に召されるべきだと思います」
400 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:29:15.84 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「……」
ζ(^ー^*ζ「三秒さし上げますので、判断はあなたに委ねます」
柔らかな笑顔には無表情での返答で。
三秒待った彼女はもう何も言うつもりはないらしく、兵士たちに大声を上げる。
ζ(゚ー゚*ζ「次、ここから南門へ移動します。保護した市民は外に出しましょう。族の目的は私達だから、目立つ行動は避けてね」
野太い声が返り、数十人でまとまった大きな塊は、ゆっくりと前進してゆく。
( ^ω^)「騎士や兵士が目的……」
火器を持っていた女は黒の修道服だったので、騎士だということはすぐに理解できた。
それにしても彼女はどうやって自分達が狙われていると判断したのだろうか。
あれだけ発狂した人間達の目的を見極めるのは厳しいのでは。
( ^ω^)「………」
その理由を聞いてみようとしたが、薄い霧の向こうにまで彼女達は行ってしまっていた。
仕方がないので、様子見ついでに大通りを歩きながら御所へと向かうことにする。
と、
「はっ、はっはっ、はっ……、はっ、」
倒れた人だ。その両腕は無残にも逆方向にへし折れ、片足は何かに引き千切られたようでありながら断面が焦げていた。
彼の顔色は蒼白で、目は焦点が合っていない。質素な服は破れ、どす黒く変色した胸から絶え絶えな息を吐き続ける。
よく見てみるとそれは、そろそろ死にそうなジョルジュだった。
401 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:34:28.81 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「ジョールジュー」
ブーンは声をかけた。まだ足はだらだらと出血しているので、「今すぐには」死なないと判断したからだ。
「こん、どは、だれだ?」
( ^ω^)「ブーンだおー」
「あ、ブーンさん、ですか、そっか、……その節は、失礼を……」
( ^ω^)「騎士を狙ってるのかお」
「はい。我らが神のために、豊穣のために、騎士は、必要無いんです、」
( ^ω^)「ふーん、どうして騎士なんだお?」
「騎士は、力を持って、民を圧迫します、俺達力の無かった商人は、奴らに搾取されt
( ^ω^)「ふーん。それで、豊穣ってのは?」
「我らが神の、理想の、世界です。そこには差別も、横暴な騎士も、いなくて、俺の、俺の家族も、ヒーt
( ^ω^)「へえ、素晴らしいお」
「でしょう、だから、俺達は、この日、世界を悪に染め、人々を惑わせる騎士を、こr
(^ω^ )「ま、全然意味わかんないけど」
「え、いや、解る筈だろ………なあ、待てよ、行くなよ、俺達の、神は、ぁ、聞け、聞け、聞けっ、っ、聞け!」
403 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:41:56.15 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「、」
血を吐きながらジョルジュはブーンに言葉をかけていた。
それを無視して御所の方に振り返ったブーンは、何も意識せずにまた歩き出した。
「おい、我らが神の、胃袋を踏むな、クズめ、」
( ^ω^)「ん?」
胃袋、と聞いて足元を見ると、ジョルジュと同様に焦げた黒い布がある。
これは彼が背負っていた大きな袋の一部で、こんなものにも彼らは御利益があると思っていたのだろう。
( ^ω^)「うーん。あの女、容赦ないお……」
袋の残骸を拾った。彼女はあの筒で火薬を用い、ジョルジュをあの状態にしたと思っていい。
ジョルジュの体とこの布からは同質の、異様な火薬の匂いがするのだ。
そのうえ、彼女はジョルジュに拷問まがいのことをしたらしい。
「はっ、ぁあ、ご、く、く、あ」
これでも未だジョルジュが生きているのは、彼女の無慈悲な慈悲からだろう。
本当なら止めを刺した方が彼も諦めがつくはずだ。だが、ブーンもそこで、単なる思いつきの「慈悲」を見せることにした。
( ^ω^)「ジョルジュ」
ただ意味もない、人の真似事のような声で。
『君にも、神の御加護がありますように。』
「あ、あ、あ、あっ、あっ……、はぁっ、はっ、く、そ、が、ぁ」
405 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:47:32.51 ID:WznWHEl+0
- 御所に向かうなか、ジョルジュのような姿で呻く者達が大勢居た。
あの女性がまったく同じ方法で得た情報を総合し、やはりジョルジュの言っていた通り、
商人たちが騎士を狙っている、という判断に落ち着いたということだろう。
( ^ω^)「お?」
ようやく御所に到達すると、そこには崩れた残骸しかなかった。
過去ブーンが来て以来のその場所は、再度見ることは叶わなかったようだ。
( ^ω^) ・・・
眺めながら、ここまでやるか、と思った。
霧も既にある程度が晴れ、全体まで見渡せるのだが、過去の名残は欠片も存在していない。
ブーンは大聖堂があった過去しか知らないので、現在あったはずの姿とは少し違うはずだが。
( ^ω^)「ん?」
突然ブーンの耳に、がらがら、という大きな車輪を回す音が聞こえてきた。
その方向を向くと、薄い霧の向こうに大きな火の玉が見える。
|;;━◎┥「あ! 大丈夫ですかー!」
ゆっくりと霧から現れたのは大きな箱のような物体で、上からはあの門番が叫んでいた。
左右にも似たような者が座って、立っている門番は両手にたいまつをもっている。
( ^ω^)「うーわ、なんぞそれ」
ぎっ、と音を鳴らして、それはブーンの手前で止まった。かなり大きい。
|;;━◎┥「霧が濃いから歯車箱車を持ってきたんですけど、なんか必要ない感じですね」
411 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 16:51:41.24 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「手動の乗りものかお」
|;;━◎┥「そうです。本来は市内での物資の輸送に使われるものですね」
車輪のついた箱から、門番の彼が降りてきた。
よく見ると、左右端に乗っていた兵士の足元には歯車の付けられたペダルがあり、これを回すことで動くようだ。
箱は屋根のついていない、まるっきり四角い箱の様相で、後ろにはまだ火の点けられていない大きなたいまつと長槍があった。
( ^ω^)「へぇ、確かにこれで動けばさっきの濃い霧でも目立ったはずだお。槍があれば来る前に迎撃もできそうだし」
|;;━◎┥「はい、それでなんとかここまでやってきたんです」
( ^ω^)「でもアレらの狙いは市民じゃないから、それを引っ張り出さなくてもよかったと思うお」
|;;━◎┥「市民じゃない、とは? やはり教政府御所が酷い有り様なのと関係して?」
( ^ω^)「狙いは騎士らしいお。多分、君達も狙われてるかも」
|;;━◎┥「そんな……どうして騎士を? ならば、そちらの騎士堂が半壊しているのも………」
( ^ω^)「だお。まあ、理由はよくわからな、い、けど………?」
|;;━◎┥「どうしました?」
ふと頭をよぎった何かが、妙に、
( ^ω^)「……今、なんて?」
|;;━◎┥「いえ、どうして騎士を、としか。あの、お疲れなら私が責任を持って安全な場所へお運びしますよ」
414 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 17:00:21.24 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「違う、そのあと」
|;;━◎┥「騎士堂が半壊して、ですか?」
( ^ω^)「……あー、そうそうそうそうそう、」
そこだ。隣にあるという騎士堂が半壊で済んでいるという話はおかしい。
御所は全壊、それどころか粉砕されているほどの被害なのだ。
それなのになぜ、その騎士堂とやらにはその程度の、まるで御所の「巻き添え」のような被害、半壊などで済んでいる。
おかしいだろう。
あの金髪女の発言、族の目的は騎士だ、という。
それはブーンが同じ立場なら同じ行動を取って出された結果からの考察で、間違いはないはずだ。
だがこの場だけを見たならば、誰がそう考えるだろうか。
あったはずのものが跡形も無くなるほどの破壊は、間違いなく大聖堂にぶつけられているではないか。
それでも商人達の思考は完全に騎士に向いているというのが、不自然でひっかかる。
しっくりこないのだ。
そもそも、魔導具が多数動いている時点で不自然なのだ。
魔導具を持てる程度の商人なら、わざわざここまでするほどのことに参加する意味がない。
というより、ジョルジュなどは根っからの商人なのか。普通の商人が、「我らが神」などと言い出すものなのか。
信仰の差はあれど、やはりあり得ないだろう。
ブーンの経験上、商人という生き物が本当に信じるのは金しかない。宿で話したあの時、ジョルジュもそう言っていたはずなのに。
しかし彼は――死の淵を前に神に祈るなら別だが――あの間際でも、妄信的に「我らが神」を崇めているようにしか見えなかった。
そのうえ、ジョルジュの連れであったヒートは、どういう存在だっただろうか。
416 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 17:05:31.71 ID:WznWHEl+0
- ( ^ω^)「……『魔女』か」
秘蹟まで使われている人間、それも確か、『魔女の剣』だとクーは言っていた。
それと同時に介在する不自然性と、異様な数の魔導具。ならばこれは間違いなく、魔女が口火を切ったものだと考えられる。
ジョルジュは、というよりジョルジュ達はおそらく、本来的には商人だとは言い難い、商売向きの人種ではなかったのだ。
個人の力で武器をさばける人間が、わざわざ力を持つ騎士を狙ったり、外に居た馬車ほどの数で集まる理由など存在しない。
魔女がなんらかの方法で彼らを商売人として炊きつけて魔女の剣を預け、「騎士を狙え」というように今回の事件まで誘導したのだろう。
|;;━◎┥「…………………」
( ^ω^)「ツンがどこに居るかわかるかお? ちょっとあいつが必要かも」
|;;━◎┥「知りません」
( ^ω^)「そうかお。じゃあ適当に探してくるお」
|;;━◎┥「いけません」
( ^ω^)「……は?」
「だって、やっとあなたの口からそれを聞けたのだから。ね?」
420 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 17:10:34.13 ID:WznWHEl+0
- ぞくり、と背筋が痛いほど冷たくなった。
鎧の中の彼であるはずのものは、まったくそれに似つかわしくない声をあげたのだ。
( ^ω^)「お前……何を言って………」
よく見れば、箱車に乗っている兵士の様子もおかしい。
先程から誰も全く、ぴくりとも動いていない。
「あの娘が大事なのはわかるわ、だってすごく可愛いし、『私の剣を』無力化できるみたいだし。ね?」
門番は喋る。
やはり、彼のものとは別の声で。
( ^ω^)「………いつから」
「今日あなたにぶつかった時から。気付いて欲しかったなぁ、結局私を自発的に思い出してくれるまで待っちゃったけど」
( ^ω^)「……どうして…………、」
「んっふふふ、何に対する『どうして』なのかわからない。でもどの答えも『構って欲しかったから』、それに尽きるかしら」
( ^ω^)「どうしてお前は、ここに居る……」
鎧に亀裂が走った。それはまるでステンドグラスを破壊したかのように、多色の光が弾け、分散し、割れていく。
「んっふふふふふ、ふふふふ、それは、私が私足り得る理由を強くするため。いいえ、もっと単純な話、」
瞬間で迫ったその衝撃に、空気が揺れ、頭が揺れ、爆ぜるように記憶が掘り起こされると、やがて、体を震わせた。
423 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 17:15:08.88 ID:WznWHEl+0
('、`*川 「私が、枯木の魔女だから」
紫の布が、現れたその体を覆った、
栗色の長い髪が、布と同時に舞った、
透き通るその声が、鼓膜を貫くように叩いた、
数百年の時を経ても、その姿はあまりに美しいままであった、
それは同時に吐き気がするほど壊し尽くしてしまいたくなるものであり、
しかしその全てを、気が狂うまで欲してしまいそうになる、この世界にただ一人の、
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