( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです


423以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:15:08.88 ID:WznWHEl+0






        ('、`*川 「私が、枯木の魔女だから」





        紫の布が、現れたその体を覆った、
 
        栗色の長い髪が、布と同時に舞った、

        透き通るその声が、鼓膜を貫くように叩いた、





        数百年の時を経ても、その姿はあまりに美しいままであった、

        それは同時に吐き気がするほど壊し尽くしてしまいたくなるものであり、

        しかしその全てを、気が狂うまで欲してしまいそうになる、この世界にただ一人の、





 
425以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:20:11.83 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「雨か……」

霧は完全に晴れ、空からはいつの間にか無数の雫が落ちてきていた。

川 ゚ -゚)「……いつまでそうしているんだ」

クーは足もとに転がる二人、もっとも、今は一人ともいえる彼に声をかけた。

('A`)「渋沢さんはなあ……騎士を死ぬほど恨んでたんだぞ……」

彼は雨を気にすることはなく、腹から大量の血を流す男の体を抱えていた。

川 ゚ -゚)「それがどうした」

('A`)「ふざけんじゃねえよ、てめえ」

彼は見降ろすクーの視線に対して、怒りを露わにした。
それは静かな炎で、降りだした雨には負けてしまいそうなほど小さなものであったが。

('A`)「あんな嘘でも、衣装にまで手を伸ばした渋沢さんが信じないわけにはいかなかったんだ」

川 ゚ -゚)「お前が怒る理由には遠い気がするが」

('A`)「商人と癒着していた騎士は大勢いたのに、渋沢さんは商人側の失敗のせいで、一人だけ、吊るし上げになったんだ」

川 ゚ -゚)「そんなもの、私の知ったことではない」

('A`)「騎士ってもんは、どうあっても信用できないってことだよ。だから些細な言葉でも騎士に関係していれば、渋沢さんは動く」

川 ゚ -゚)「知ったことではないと言っているだろう。お前は自分が殺したその男の想いを代弁してるつもりにでもなっているのか」

 

 

426以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:25:17.26 ID:WznWHEl+0
('A`)「……違う。俺は、噛み締めているだけだ」

川 ゚ -゚)「人殺しの感覚を?」

('A`)「殺してしまったこの人が何を抱えていたか、どう生きて、どう考えて、どうして、こんなことになったのか」

彼の口は冷たく言葉を吐き続けていた。
しかしクーにはどう見ても、それは現実逃避にしか見えないものだ。
無理矢理に頭を冷静にさせて、思いつく限りの言葉をうって、溢れそうになる器から、なんとか自制心を保つために吐き出して。

川 ゚ -゚)「なんだそれは、それをお前が噛み締めてどうなる」

('A`)「俺が犯した罪だから」

クーには全く意味が解らなかった。
人を殺すことが、どうして罪となるのか。
ならば自分が抱えた罪は、どれほどのものなのか。

川 ゚ -゚)「お前の言う『罪』とは、なんだ。コソ泥のお前が、そんな顔をする意味のあるものなのか」

('A`)「宗教なんてもんは信じていないが、人にとって、絶対に必要なものだ」

川 ゚ -゚)「ほう、では私には関係がないな。人が必要だと言うものは大抵、本来は必要のない無駄なものなのだから」

('A`)「……本当になんなんだよ、お前……、完全に、狂ってやがる…………」

川 ゚ -゚)「……もう話すことは無いか。ではまた会おう、ドクオ」

クーは死体を抱えた男の首を掴んだ。
まるで彼の全てを否定するように、あっさりと。



 
429以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:30:25.00 ID:WznWHEl+0
('A`)「……あー、悪い、一つだけいいか」

しかし、彼は口を開いた。
その顔はついさっきまでのように、自分の命の保全や現実逃避に走る男とは、少し違っていた。

川 ゚ -゚)「構わんぞ」

('A`)「お前に……背負えるのか……?」

川 ゚ -゚)「何をだ」

( A )「ぐっ、…………命だよ、」

川 ゚ -゚)「……誰の」

        『『『『『『俺達の――』』』』』』

クーの掴んでいた首が潰れた。正確に言うならば、「潰してしまった」。
あと数瞬は殺すつもりなどなかったのに、手は彼の首を握り潰した。

彼の血にまみれた手は震え、クーはしかめた顔でそれを見つめる。
筋肉の痙攣か、または別の要因か、クーが理解しようと思えないところで、それは言うことを聞かなかった。

殺した彼を見下ろした。やはりいつもの、『ドクオ』の死体がそこにあった。

    「………幾らだって、背負ってやるさ」

雨が顔を濡らしていた。突然強くなった雨は、視界の全てを奪っていた。
こんな感情が自分の中に未だあったことを呪い、この濁流のような雨でそれを消してくれるよう願った。
それでも流れ落ちていかないその想いは、クーの手を温かく、赤く染め、そこに生があったことを、確かに示していた。



 
432以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:36:09.67 ID:WznWHEl+0
止んでいた霧、降り出した雨をすり抜けるように、二人は走った。

ξ;゚听)ξ「うわ、」

从;'ー'从「なにこれ……どうなっちゃってるの?」

南門からヴィップを出ると、外壁の前で兵士が整列をしていた。
その数は百や二百という数ではなく、五千にも届きそうな数だ。

ζ(゚ー゚*ζ「では、都市の掃討に向けて、各自道具の確認を」

その最前列、指揮官としての『眼』を持つラウンジ正教の騎士が声をあげていた。

ξ;゚听)ξ「あの! あの! すいません! いいですか!」

雨が降る中、そこに大声で話しかける。

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、そちらのメイドの方は保護しますよ」

ξ;゚听)ξ「違います、どうしてこれだけの兵士を? 今の状態なら都市内の兵士だけで十分だと思うのですが」

ツンらがヴィップを走る間、ほとんどの暴動は収まりつつあった。
やはり商人や狂信者が束になったところで、訓練された街の兵士達にはかなわないのだ。

しかし、そこで今の光景。これは素人目に見ても不必要なほど兵を動員しているように見える。

ζ(゚ー゚*ζ「街の掃除にはどうしても人員が必要なの。ヴィップ近郊の駐屯地からも人を割り出してもらったわ」

ξ;゚听)ξ「………今回の暴動は、皆殺しで片を付けるというわけですか?」


433以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:40:38.32 ID:WznWHEl+0
ζ(゚ー゚*ζ「違うわ。首領以外を皆殺しにして、死体と血の掃除もまとめて行うだけよ」

ξ゚听)ξ「……引き金は魔女ですよ?」

ζ(^ー^*ζ「へえ、丁度いいじゃない。もしもここに魔女が居るなら、これであなた達の『魔女狩り』は終わりを見せるかもね」

ξ゚听)ξ「彼らは魔女に操られているだけだと思うのですが」

ζ(゚ー゚*ζ「だから?」

ξ゚听)ξ「……は?」

ζ(゚ー゚*ζ「だから、何?」

ξ;゚听)ξ「……ですから、魔女さえ押さえれば彼らは、」

ζ(゚ー゚*ζ「それができるの? 未だに捕まったことなんて一度もない、あの魔女を」

ξ゚听)ξ「それは、」

ζ(゚ー゚*ζ「首領を捕らえることに失敗しても、追従するゴミさえ排除すれば、後腐れは間違いなく減るけど?」

ξ゚听)ξ「…………」

ζ(-、-*ζ「はぁ……掃討まであと半刻。私には準備があるから、失礼するわね」

ξ゚听)ξ「……わかりました」

ツンの背後では光とともに、街の中への巨大な稲妻がいくつも落ちていた。
それはまるで誰かの居場所を示しているかのように、まるで、誰かの雄たけびのように。

 

 

434以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:43:20.80 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「……」

('、`*川「ねぇ、何か言ってよ、ホライゾン」

ブーンは雨の降る街の中心、黒十字があった場所の上で、魔女に抱きつかれていた。
絡みつくようなかたちで、魔女は雨の中、ブーンに体を委ねていた。

('、`*川「あなたも、私の名前、覚えてるよね?」

魔女はゆっくりと、確かめるように。
不安そうな声で、ブーンの耳元に質問を一つ。

( ^ω^)「ペニサス、」

('、`*川「んっふふふ、そんな最低な名前でも、覚えてくれていて嬉しい」

( ^ω^)「離れろ」

言って、ブーンは魔女の肩を突き飛ばした。

('、`*川「恥ずかしがらなくていいわ、大丈夫」

( ^ω^)「ここまで人間に介入するとは、気でも触れたか?」

六百年の間、魔女が人間社会に直接攻撃を仕掛けることなど一度もなかった。
それは魔女の気がそれ以外に向いていたか、そもそも人間には興味がなかったものだと、ブーンは思っていた。
ここまでするきっかけが、今更魔女には存在しないはずだったのだ。

('、`*川「んっふふ、それはねぇ……全部、あなたのせい」




 
438以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:48:10.00 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「お前とは吸血鬼を創って以来会っていないだろう」

('、`*川「あー、それもあるかもね。でも、会えてこんなに嬉しい今があるから、それはいいかなぁ」

ふふ、と笑った魔女は、やはり美しかった。

( ^ω^)「どうしてラウンジ教に手を出す必要がある」

('、`*川「だから、あなたのせいだってば」

頬を膨らませた魔女は、やはり美しかった。

( ^ω^)「理由は、」

('、`*川「『魔王』」

( ^ω^)「…………」

('、`*川「ちょっと前にね、いろんなところであなたの名前を聞くようになったのよ」

( ^ω^)「それはお前が、」

世間の流通をせき止める、人では持てあますほどの大きな力を世界に撒いたせいだ。

一度手にしてしまえばある程度の地位が商人の間で約束され、それは人々の競争を停滞させる。
人々の発展には魔導具は不要なものだったのだ。自らの力でしのぎを削り合うことによって、人間は成長していくのに。

('、`*川「邪魔だったから? でも、あなたが表舞台に上がるなんて思わなかった」

( ^ω^)「…………ある一人の学者が、僕に嘆きをぶつけてきたんだ」



 
440以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:54:19.79 ID:WznWHEl+0
彼とは様々な交流を続けてきた。

不死である、ということをたまたま彼に見つかったのがきっかけで始まった関係だ。
彼はいつもわけのわからない研究に身を注ぎ、ブーンも体を張ってそれに付き合わされることがよくあった。

しかし、それは人の発展には不可欠であるという。
そして彼は一部の実験結果を持ち出し、ブーンの知らない世界を見せつけた。
そこには、過去を生き続けてきたブーンでは知り得ない、未来への道が見えた。

( ^ω^)「物流が滞り、他の国の論文も見られない、実験に必要な道具も届かない、怠惰な人間が増えた、
      今の時代の生活で皆が満足してしまっているのが気に食わないなど、彼のその嘆きを今言うには、きりがない」

だから、ブーンはそれを変えようと思った。彼のために未来を切り開こうと思った。
培ってきた経験から、人の心の流れならば掴める。そこでブーンは、その頃新たに市長の座についた、無能の彼を手玉に取った。

('、`*川「それで?」

( ^ω^)「それで、僕がきっかけをつくった」

今やその市長の彼も、見た目は若々しくあるが、刻まれた細かな皺には威厳を持ち、ブーンのような冷静な頭を手に入れた。
過去その成長の片鱗が見えた時、ブーンは彼に商業の中心を委ね、予想通り、二十年の期間をもって世界は変化を見せ始めたのだ。

('、`*川「……私は、そんなのいや」

( ^ω^)「……」

('、`*川「あなたは私のもので、私はあなたのもの。他の誰にも知られないで、世界で二人だけが、互いを知っていて欲しかった」

( ^ω^)「……『魔女』のお前が、何を馬鹿なことを言っている」



 
442以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 17:59:32.54 ID:WznWHEl+0
('、`*川「だって、私の名前はあなたしか知らない。私の体も、あなたしか知らない。
     私達は唯一で、二人だけ。なのにあなたはいとも簡単に、世間に名前を出して現れた」

( ^ω^)「それはお前が居たからだ。お前さえいなければ、あそこまで大きく動かなかった」

('、`*川「私がいなければ、今まで生きていられないじゃない」

( ^ω^)「本来、生きている必要などない。お前の作り上げた魔術も秘蹟も、人には必要ない」

('、`*川「私はあなたを愛していたじゃない」

( ^ω^)「聞け、」

('、`*川「どうしてあなたは、私を見てくれないの」

( ^ω^)「おい、」

('、`*川「捨てられて、辛かった」

( ^ω^)「………」

('、`*川「……だからね。私は全世界の人間に愛されようと思ったの。素晴らしいでしょう?」

言って、魔女は足元をぐりぐりと踏みつけた。
そこは世界でもっとも愛されている者の一部ともいえる、黒十字があった場所だ。

('、`*川「あなたなんて比較するにも及ばない、世界そのものに愛してもらうの」

( ^ω^)「……その程度のきっかけで、物事の分別もつかなくなったか」

 

 

443以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:03:19.96 ID:WznWHEl+0
('、`*川「だから私は『神』になった。いいえ、気付けば私は『神』になっていた」

( ^ω^)「黙れ、『魔女』」

('、`*川「ちょっと遊んでいただけなのに信仰する人間が居てね。崇められる瞬間は快感だった」

魔女は紫の布から、素肌の両腕を広げ、天を仰いだ。
真っ白な肌は降ってきた雨を弾き、その瑞々しさを強調する。

('、`*川「この信仰が世界に広がれば、私は死をも越えるほどの絶頂に逝ける」

すると雨が強くなった。

('、`*川「だから、妨げになる『虚像の神』は全て殺す」

やがて風が強くなった。

('、`*川「だから、否定する人間は全て殺す」

光が拡散し、神鳴りが轟音を鳴らして落ちた。

('、`*川「そしてその全ての最後に、私に嫉妬してしまうであろうあなたを、殺せばいい」

( ^ω^)「……悪いが僕らは今から、変わりつつある世界の最後の枷となるお前を、消す」

('、`*川「あなたにできるかしら。いいえ、できないわね。あなたは私が誰だか知っているのだから」

( ^ω^)「ああ、僕にはできない。だから僕は三年前、『希望』をつかまえた。そして―――」

息を吸い、ブーンは確信をもって振り返る。嵐の中でも、落雷の中でも、こちらに向かって真っ直ぐに走ってくる、その足音に。



 
445以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:08:21.85 ID:WznWHEl+0








    ξ#゚听)ξ「ブーン!! 時間がないからさっさと終わらせるわよ!!」






     そして―――僕の信じる『彼女』と、今までこうして歩いてきたんだ。










446以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:11:33.94 ID:WznWHEl+0
ツンは魔術の香を頼りに走っていた。

現在ほとんど落ち着きを見せていた街に、多大な量を放出するものが、未だ一つあったのだ。

その先、御所の跡には、『彼』が居た。

さらに、こちらへ振り返った彼の前には、紫色の布から素肌を見せる、髪の長い女が居た。

ここから導き出せる答えは一つ。

あの女が、魔女なのだ。

ξ#゚听)ξ「ブーン!! 時間がないからさっさと終わらせるわよ!!」

駆ける腿をさらに持ち上げた。
とりあえずぶん殴れば、なんとかなると思ったのだ。

('、`*川「…………また、あの子ね……忌々しい……」

( ^ω^)「逃がすか」

ブーンは魔女の体に絡みついた。
抱きしめるようにして、逃避を許さない。

('、`*川「やだ、」

しかし魔女の足元まであった布の端が刃のように蠢き、ブーンの腹を左右から突き破る。
布は鎌のようにゆらゆらと揺れ、次にはブーンの両腕を躊躇いなく切り落とした。

('、`*川「放してよ、ホライゾン」



 
448以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:16:28.11 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「……」

それでも両腕を切り落とされる寸前、魔女の首に噛みついていたブーン。
その隙、ツンは距離を詰める。

ξ#゚听)ξ「間に合え!」

拳を握ったまま二人に、瓦礫を破壊しながら走り込んだ。
体型から見るに、一発入れるだけでも話は変わってくるはずだ。

('、`*川「間に合わないわ」

沈んだブーンの陰から魔女の頭を狙ったツンの拳は空を切る。
魔女はブーンを蹴る反動で、足元の聖堂の床の名残を削りながらかなりの距離をとってしまったのだ。

ξ#゚听)ξ「ちっ! 腕!」

ツンは空ぶった勢いのまま、落ちた二本の腕を滑り込むように拾い、蹴り飛ばされたブーンに投げつけた。

( ^ω^)「必要ないお」

そんなことを言うブーンの腕には既に真っ赤に染まったものが生えており、投げた腕は地面に転がった。
大きさは普段と変わらないようだが、今まで彼が腕を生やすようなことは一度もなかった。

ξ゚听)ξ「なにそれ」

( ^ω^)「切り札」

二言交わし、細かい理由は掃き捨てる。
切り札。その意味は、今ここで魔女を狩ると彼も決めているということだ。



 
452以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:22:37.23 ID:WznWHEl+0
ξ#゚听)ξ「じゃあ、一瞬で行く」

('、`*川「できないわよ」

( ^ω^)「僕がさせるお」

ブーンが地面を吹き飛ばし、爆発的な初速で飛び出した。
ツンの言葉通り、それは一瞬を駆けてゆく。

赤の腕はその瞬間で魔女の腹を突き破り、雨とともに魔女の口から、濁流のような血を垂れ流させた。

ξ#゚听)ξ「そのまま!」

ツンも後に続く。
今日喰らった魔術の香は彼女を強くするには十分すぎた。
ツンの細い脚は速攻を極め、魔女に向かう。

('、`;川「く、、、これは……鬱陶しいわね」

貫かれた穴と小さな口から血を垂らしつつも、魔女は牽制か、その背中から羽のような無数の黒い鞭を飛び出させた。

ξ#゚听)ξ「どっちが!」

走りながら鞭を拳で、頭突きで砕く。この程度、瞬間で破壊できる。
黒は即座に白へと変わり、ツンの手からは同時に、発光する爪が生じ、伸びてゆく。
置かれた状況は単純だ。至近距離で鞭に貫かれたブーンとその腕に貫かれた魔女、二人は簡単には動けない。

ξ#゚听)ξ「さっさと、失せろっての!!」

ツンは横から飛び込んだ。そして伸ばした爪、その先の光が狩り殺すのは、宿命の根源。



 
455以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:28:02.13 ID:WznWHEl+0
しかし裂くことが叶ったのは魔女の脇腹まで。
とは言っても、なんとか引き裂いた魔女、ふらつきながら後退する姿には、多量の黒い出血が見られる。

('、`*川「あら、こっちの傷、もう治らないわね……」

ブーンを力ずくで振り回しツンに衝突させた魔女は、胸の穴が泡によって塞がるのと、脇腹の出血を見て小さく笑っていた。
ツンはブーンの体を押しのけぐりぐりと立ち上がり、短い光の爪を軽く振る。

いける。

そう、思った。

(  ω )「あ、ぐ、く、あ、あ、」

なのに、苦しそうな彼の声がした。
ツンの爪が裂いたのは魔女だけではなかった。
魔女によって薙ぎ払われたブーンとツンの爪が交錯して、その腹に、突き刺さっていたらしい。

ξ゚听)ξ「……え?」

ツンは一瞬、それを見て頭が真っ白になった。鞭の傷は戻っているのに、腹の傷が戻っていない。
まさかこの力が彼をも傷つけてしまうものだったとは。いいやある程度予想はしていたが、これほどまでに深刻なものだったとは。

彼の傷口の周辺は底の見えない穴のように真っ黒に染まり、傷からは泥状の血がゆっくりと流れ出していたのだ。

(  ω )「大丈夫だお。これは僕らの傷。だから。魔女もきっと同じ苦しみを。受けているはず。だお」

六百年など死体ですらほとんど存在していないのに、その楔を破壊することでこんなにもおぞましい傷を作ってしまった。
これ以上戦いを続けては危険かもしれない。そもそも、一か所でもこんな傷が出来てしまっては、まずいのではないか。
もしかしてブーンは自分のせいで、取り返しのつかないことになってしまったのではないか。



 
457以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:35:10.22 ID:WznWHEl+0
ξ゚听)ξ「やだ……」

悪寒がする。
こんなことを考えている場合ではないとわかっているのに、考えてしまう自分に。
雑念を捨てなければならない。時間は無い上に、相手は魔女なのだから。

(  ω )「落ち着け、大丈夫だから」

しかし、腹の傷はこの世のものではないと思えるほどの黒。妙な、本当に血かどうか疑いたくなるものも溢れている。
だめだ、これを見ると、死なないで欲しい。彼には居なくならないで欲しい。そればかり、考えてしまう。

(  ω )「いいから聞け、ツン。大丈夫だ」

ξ--)ξ「……うん、大丈夫。聞く」

無意識に細かく息を吸っていて気持ちが悪くなったが、彼がそう言うなら、大丈夫。
さあ、魔女を倒す術を聞かせて欲しい。目標は、魔女狩りだ。



      「魔女ごとやれ」



そう言ってすぐさま、彼は魔女の元に行ってしまう。
聞こえなかった振りをする時間も、彼は与えてはくれなかった。

ぐっ、とツンの拳に妙な力が入り、爪が手に食い込んでいく。
そのあまりにも簡潔な言葉を、体に刻みこむように。

 

 

458以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:40:55.81 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「………」

ぱた、ぱた、

('、`*川「………」


( ^ω^)「…………」

('、`*川「ねぇ…………」

ぼたぼた、ぼたぼた、


('、`*川「……どうして笑みを浮かべているの、」

( ^ω^)「目的を果たすことができたから」

('、`*川「……どうしてそんな顔ができるの、」

( ^ω^)「信じているから」

('、`*川「……あなたはそんな人じゃなかったのに、どうして………」

( ^ω^)「僕の、償いだから」

('、`*川「嘘ばかりつかないで。それで説明ができていないことくらい、自分でわかっているくせに……」

( ^ω^)「………………、……………、………、」



 
461以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 18:47:06.74 ID:WznWHEl+0
振り続ける雨に打たれ、お互いの手の届く距離で相対する二人。
魔女はゆっくりと、確かめるように互いの傷を見て、そこに今の彼の姿を見てしまった。

('、`*川「……最低ね、あなた。私にあなたの心が読めないとでも思っているの?」

( ^ω^)「違う……どうしようと、僕達はこうなる運命なんだ」

('、`*川「運命なんて本当に最低な言い方。あなただって、納得できていないくせに」

( ^ω^)「……お前こそ、なんだその腑抜けた態度は。あの一瞬で全てが決まって拍子抜けしたか」

('、`*川「なにが拍子抜け。切り札だっけ? あの瞬間で何百回死んだと思ってるの? あれだけ逝かされて、腰砕けよ」

( ^ω^)「お前がつくった魔術と似たようなものだ。これには四百年の時間を費やした」

('、`*川「……足止めの為だけに? あれじゃ私の頭を麻痺させられても、殺せはしないでしょう、」

( ^ω^)「本当は僕がお前を殺すつもりだったが、途中で辞めただけだ」

('、`*川「………あら、私への情熱が冷めたってことかしら。残念ね、」

( ^ω^)「それは少し違うな。自分の限界に気付いて、世界を回り始めた」

('、`*川「…………はぁ、なるほどね。そこから、『今のあなた』が始まったわけ、」

( ^ω^)「そう、だな。僕は世界を回って多くを知り、大切なものを、いくつも見てきた」

     「……………………酷い話ね、本当に…………最低よ……」

( ^ω^)「どうした魔女。お前にもまだ、そんな顔ができるのか」


 
463以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:01:00.84 ID:WznWHEl+0
     「『大切なもの』だなんて、私が最後に殺そうとしたあなたは……どこに行ってしまったの……?」

( ^ω^)「人は変わるものだ。お互いにもう、あの頃とは違う」

     「いえ、うん、そう。そうよ、ね。騙され続けてきた人間を、あなたが信じているだなんて……おかしいもの、」

( ^ω^)「それは……」

     「……愛していたから。」

     「……やめろ、」

     「あの子は、あなたの、」

     「やめろ、」

     「世界を変える希望で、」

     「やめろ、」

     「生きる理由の大きな支えで、」

     「やめろ……」

     「私の知らないそんな顔まで持たせることができた、『今のあなた』の、全てだから。……でしょう?」

     「……ペニサス、頼むから、もう………やめてくれ…………」

     「んっふふふ……、だったら私の心は、一体どこに寄せればいいのかしら。ね、…………『ブーン』……」




 
465以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:06:12.37 ID:WznWHEl+0
魔女は涙を流して、笑った。
自分の知らない彼の名前を呼びながら、自分の知らない心を噛み潰して。
それは死を前にした諦めや絶望の裏返しというよりは、もっと前を向いた笑顔だった。

なぜなら無限の時を受け入れていた自分が間違っていたことに気付いたから。
彼も自分と同じく、六百年をただ漫然と、思いつくがままに過ごしていたのだと、今まで勝手に思っていたことに気付けたから。
自分自身が既に彼を愛すこともできず、一方で彼は、人としての心を持っていた、生を全うしていたことに、気付いてしまったから。

魔女はそれがとても悲しく、とても嬉しかった。

同じ時間を過ごした筈だった今の彼によって、自分の存在全てが根本から完全に否定されてしまっているということ。
自分の愛を理由に巻きこんでしまった彼は、しかし愛そのものを疑わず、この瞬間の為に、世界を変える道を選び取ったこと。

魔女は傷の熱を感じながら、思った。

ここに付けられた傷は人がつくりあげたものだ。少なくとも彼がつくったものではないということは、彼の言葉から読み取れる。
誰がつくりあげたかは全く見当がつかない。どんな理由でつくりあげたのかも、さっぱりわからない。
それに該当しそうな人物、一族、組織、国家は、考えればきりがない。

しかし、実際にこれだけのものを完成させられる者が本当に居ることを、未だに信じられない。

それだけの労力、それだけの時間、それだけの執念、それだけの野望があったのかと、首を捻りたい。
際限の無い闇を投げやりに過ごしていた自分がそれだけ人に影響を与えてしまっていたのならば、なにもかも戻してしまいたい。
彼らはこんな狂ってしまった化け物を、どうしてこんな形で助けてしまったのか、理解を、させて欲しい。

そして魔女は雨の中、立ちつくす人の子を見て想う。
暗がりの六百年の果て、彼が愛した希望の光を見て、彼女は、想う。

     「…………んっふふふ、本当に私も……最低よね」


466以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:11:17.52 ID:WznWHEl+0

  あなたがその全ての結晶なら。

  あなたがこの負の連鎖を、ここで断ち切るというのなら。


  私は最後に、

  知らない名前の彼と、

  名前も知らないあなたと、

  無数の誰かに拒まれた、

  私が壊したこの世界を、愛してあげる。
     

  「でも、これくらい……いいでしょう?」


  だから。

  ほんの僅か、ただの一瞬、あなたが瞬くその間だけでもいい。

  おねがい、彼の胸を、彼の腕を、あなたと刻んだ温もりを、感じさせて。


  そうすればきっと私の心も希望に満たされるから。

  そうすればきっと、「枯木の魔女」の罪も、受け入れることができるから。……ね?

 

 

467以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:16:23.07 ID:WznWHEl+0
優しく抱きしめ合う二人の姿を見て、躊躇いが生まれそうになった。
彼らはまるで恋人のような、血を分けた家族のような表情で、
全てを知って、二人だけの時間を通じ合っているようで、その全てを受け入れて、それでも、二人は、

ξ゚听)ξ「ブーン、」

彼の名を呟いた。先程の彼の言葉の意味を、咀嚼しながら。
呼びかけが届くかどうか、そんなことはどうだっていいのだ。
彼の名前を呼ばないと、その意味を否定してしまいそうになる。

ξ# )ξ「あああああああああ!」

頷くことがうまくできない、だから呼ばなくてはいけない、ここで彼が自分の中に居たことを、噛み締めなければ。
そうしなければ自分はきっと弱いままで、きっと子供のままで、先に進めないから、名前を、呼ぶ。
今も見えない彼の表情だって、きっと崩れていない。彼と組んだ理由は今、目の前に在るのだ。

さあ、あと一回、息を吸って。

      「ブーン!!」

これで呼ばなくていい。
もう自分から呼ぶことはない。
この瞬間をもって、呼ぶ必要が無くなる。

なぜならこれから魔女を狩るから。

彼の姿、言葉、仕草、口癖、その何もかもを信じて、掌を開く。

そうだ。私はこの場所で、この旅の終止符を打つ。




 
470以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:21:46.20 ID:WznWHEl+0

 全力で。それこそ、全身全霊で。

 父達のつくった、この力で。


 「大丈夫」。

 これで終わりだ。

 これで最後だ。

 逃げるためではなく、これは前に進むため。


 誰かの呟きも、すすり泣く声も、雨で遮られて聞こえないのだ。

 力を込めろ、喰らった魔術を、全てここに捧げろ。

 手の先に滾るこの力は、破壊の光でしかない。


 この、天を裂く雷のような大きな爪で、


 与えられた使命を果たすために、


 彼らを、


471以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:25:33.35 ID:WznWHEl+0

      「うっ………うっ……」

痛い。
震える体が、雨に負けてしまって、痛い。
最後の爪をつくった手が、焼かれるように、痛い。

      「あら、ツン。魔女を殺せたの? なんか真っ黒いけど、これでしょ?」

誰の声も、聞きたくない。

      「まあでも、掃討は全部終わらせちゃったし、だったら誰が責任を取るの、って話になるのよね」

      「………っ…………………」

      「この意味、あなたにわかるかしら? わからなくてもいいんだけど」

      「……うっ…………………」

      「あなたは私の権威のために人柱になってもらわなきゃいけないわけ。突然帰ってきた異色の騎士だし、丁度いいでしょ?」

      「うっ……………………あっ、…………」

      「わかったらさっさと、私に拘束されてね」

      「…………かっ…………」

      「………さ、行きましょうか。『魔女』」



 
473以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:30:31.29 ID:WznWHEl+0
がしゃり。

真っ暗。

突き飛ばされてしまった。

外の音は聞こえる。

雨は止んできているようだ。

ああ。

「教皇どころか政府まで落ちたって、国はこれからどうなるんです?」

「さあな。とりあえず『眼』の意向は生き残っている議員を黙らせる方向でいくだろう」

「確かに明日は魔女を晒し、騎士の実力を見せつけるという話ですが、それでは問題の解決には……」

「まあ、その魔女も、魔女ではない」

「え? それは一体どういう……」

「魔女は捕らえられなかったそうだ。なんでもその証明ができず、示しがつかないだとかなんとか」

「じゃあ、今捕らえられている女性は……?」

「『魔女狩り』だよ。魔女に攻められる前に討ち取ることができなかった罪だと言って、『眼』が他の騎士を黙らせていたのを見た」

「……なんとも、皮肉な話ですね。捕まった彼女、かなり衰弱しているようですし…………」


474以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:34:47.49 ID:WznWHEl+0
手枷はあまりにも軽かった。
昨日蹴られた胸は、未だにとても重かった。
今も蹴られる背中は、少しの痛みもなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「さっさと歩きなさいよ、魔女。やっと出てきたお日様にも、あなたの顔を見せてあげて?」

彼女に連れられ、街を歩かされた。
どこに行くつもりなのか、ずっとふらふらと、さまよった。

たまに聞こえる罵声は、私に向けられていた。
どうやら私は、今回の事件を引き起こした魔女だったみたいだ。

確かに、魔術を喰らう私はある意味で魔女だったのかもしれない。
本当はあの魔女も、戦う相手さえいなければこんなことをしなかったのかもしれない。
あれだけの慈愛に満ちた表情は、彼女にしかできないものだから。

それを思うと、穴があいていることに気付いた。
どこに、というものではなく、私そのものに。
暗くて覗くことすら拒んでしまいそうな、そんな穴が。

「おい、待て! 貴様は何を!」

いいやむしろ、そんな闇に溺れてしまえればどんなに楽だっただろう。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、残党も全て殺したつもりだったのだけど」

もう私の生きる意味も、義務も、役割も、任務も、立場も、記憶も、感覚も、全部、

川 ゚ -゚)「すまん。きっと戻ると言っておいたんだが、そういえば伝言係がボケ老人だった」


475以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:41:27.78 ID:WznWHEl+0
ξ;;)ξ「クーさん……?」

あの綺麗な声はクーさんしかいない。ほんの数日会っていないだけなのに、ひどくなつかしい。
でも今帰ってきても、どうしようもないのに。どうしたって、どうにもならないのに。

川 ゚ -゚)「酷い顔だ。あいつに泣かされたのか?」

首を横に振った。力の限り振った。
これは自分の弱さのせいで溢れてくるもの。残像に必死にしがみついているだけ。
決してあの人に泣かされたわけではない。あの人には、ただ、

川 ゚ -゚)「そうか。なら、やはりこいつらだな」

その言葉の後に、男の妙な声がいくつも聞こえた。

ζ(^ー^*ζ「やめなさい。あなたが何を考えているのか知らないけれど、魔女に味方をするなら容赦はしないわよ」

『眼』の声だ。あぶない、絶対。

川 ゚ -゚)「貴様が何を言っているのかわからんが、こいつを泣かせるような輩ならば私も手加減はしない」

だめだよ、争っちゃだめ。なのに、口が少しも動いてくれない。

川 ゚ -゚)「行け」

从;'ー'从「はい! ツンちゃん! 動ける?」

メイドの声が近づいてきた。
私の後ろから息を切らして走ってきたようだった。
でも、どうしてかは、考えたくない。



 
477以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 19:46:19.23 ID:WznWHEl+0
「逃がすな!」

川 ゚ -゚)「行かせると思うか?」

从;'ー'从「ツンちゃん! 今の内に走って!」

ξ;;)ξ「でも、」

从;'ー'从「いいから早く! こっちに逃げれば大丈夫!」

ξ;;)ξ「でも、」

川 ゚ -゚)「…………」

メイドに引っ張られる。足は勝手に進み始める。まだ、私は生きようとしているのか。

川 ゚ -゚)「……ああそうだ。ツン、仕方ないから私の負けを認めてやる」

ようやく動き始めた醜い私を、軽い調子の声が止めた。
でも聞きたくない。それだけはもう、いや。だから、本当にやめて、クーさん、



川 ゚ー゚)「楽しかったぞ」



そんな綺麗な笑顔を、私に見せないで。





 
479以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 20:00:24.58 ID:WznWHEl+0
わざわざ騎士の行列が、街を抜けられる路地裏の横に来るまで彼女に我慢をさせたのだ。
あのメイド、私に手伝えと言った口でもしも逃げ切れなかったら殺してやる。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、どうする気かしら」

それにしてもこの女、なぜこの私に勝ち誇った顔をするのか。
まさかこの程度の数の人間を集めて勝った気でいるのだろうか。

川 ゚ -゚)「どうする、だと? 単純だ。私は禁忌を破る」

一族の禁忌、『血抜き』をする。
吸血鬼は血を吸うことで、力を得る。
それは吸血鬼のものを吸えば尚更だ。

川 ゚ -゚)「今の内に神にでも祈っておけ」

自分の腕に噛みつく。最初で最後だ、こんなもの。
おじい様の力を、壊してやるための力を、ゆっくりと、吸う。

ζ(゚ー゚;ζ「あら……魔女の次は、本物のバケモノ?」

体を駆け巡り全身から噴き出すようなこの高揚は、ただ一つの殺意に変える。
彼女の足枷も、再度生まれてしまったこの心も、根から絶やし、殺し尽くす。
ここでけじめをつける。これからは宿命を果たすためだけに、彼の為だけに生きていく。

     「…………間抜けな先祖のついでだ。貴様らの矮小な命も、私がまとめて背負ってやろう」

私が人の為にここまですることは二度とない。
私が不死者の為にここまですることも二度とない。
こんな面倒事も、こんな心を持つことも、もう、二度と御免だから。

 

 

480以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 20:03:25.61 ID:WznWHEl+0
 


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