( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです
483 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 20:17:16.20 ID:WznWHEl+0
epilogue. 彼女と世界のプロローグ。
484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 20:18:53.22 ID:WznWHEl+0
ゆっくりと、または急速に、世界は変わる。
何かが働きかけをしたものや、自然に変わっていったもの、
これらが混ざり合い、新たに世界を創りあげていく。
それは完成されたものではなく、誰かが手を加える余地のあるもの。
誰も手を加えず、自然のままに生きることも、
誰かの手が加えられ、されるがままに流れていくことも、
誰もが手を加え、ひとりひとりが思いのままに歩んでいくことも、
誰かがそのどれかを拒み、それを変えようとしても、
示される世界は未完成であるため、その全てに応じていく。
しかし不完全であるからこそ、人は生きていられる。
だからこそそこに生きる人々は手を取り合い、進んでいくことができる。
そして、その人々たちによって、物語は綴られる。
486 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 20:24:38.51 ID:WznWHEl+0
- (´・ω・`)「ツン、今日は休みじゃないか」
ξ゚听)ξ「すみません、何かをしていないと落ち着かなくて」
教会の陥落により、権威を地に落とした騎士は行き場をなくしていた。
ニュー速の酒場で暴れる人間の大半は、いまや騎士や兵士に関係する者だというのが通説となっている。
もっとも、一部の口利きが生きていた者達は、すぐさま自分を新たな生き方へと捻じ曲げていったのだが。
(´・ω・`)「あれから二年だ。この国は既に、君が忙しなく動いていた頃とは違っている」
ξ゚听)ξ「しかしいまだに、騎士だ騎士だと道を大股で歩く者達もいます」
(´・ω・`)「街であまりに酷い者は、保安隊が処理しているだろう? 治安は以前のニュー速に戻しているところさ」
市長室の窓を横目に眺めながら、ショボンは子供を諭すように言う。
ツンは聖地の事件の後、ショボンに秘書として雇われることになった。
メイドに連れられこの街に再度やって来た時、彼女はかなり混乱した様子だった。
自分の腕を握りつぶすような力で掴み、ずっと歯を食いしばっていた。
ショボンはそれがどういうことか、なんとなく察した。
彼女には何も言わずに、家で保護するようメイドに言うと、すぐに教会側からの対応に備えた。
二日後、馬に跨りやってきたボロボロの騎士の群れは、「魔女を狩りに来た」と言った。
ショボンは答えた。
「この街には、『魔女』も『騎士』も、『魔王』だって存在しない。それは君達が、一番よくわかっているじゃないか」。
街においては市長が常に最大の権威を持つ。対して後ろ暗いものを持つ騎士たちは、瞬く間に腰を引いた。
この時ショボンが手に持っていた大量の紙束は、騎士たちの戦意を叩き潰したのだ。
487 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 20:29:57.16 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「以前の、ですか……しかし国全体としては……」
ショボンの隣に立ち、窓を眺めるツン。
目は外を向いているが、その先にあるものを捉えていないように見える。
(´・ω・`)「そう。だからここから直していく。みんなが大声で自分の利益を求める、以前の商業都市をまずは取り戻す」
現在は治安の乱れが激しい為、単に大きいだけの静かな市場でしかない。
道を歩きながら詩を歌う者もいなければ、夜に酒場で飲み比べをする者も居なくなった。
都市の住人は自分の保身に精一杯で、そんな余裕など、今は存在しないのだ。
(´・ω・`)「そのための一つとして、僕から街へ向けてのちょっとした遊びを提案しようと思っている」
デスクに歩いてゆき、引き出しから細長い筒を取り出した。
先端のふたを抜いて、かさりと。丸められた紙がショボンの手に落ちる。
なかなか大きな紙で、ショボンは部屋中心のソファにわざわざ移動し、手前の低いテーブルに広げた。
ξ゚听)ξ「……電飾………祭り?」
(´・ω・`)「二年前に起きた、国中を揺らした凄まじい雷の被害があっただろう? 確か、君が来た少し前の日だ」
ξ゚听)ξ「………あれって、ヴィップだけじゃなかったんですね」
(´・ω・`)「その時、こっちの女性研究者が外に飛び出したんだ。降り続ける雷を見て、命を賭して思いつく限りの実験をしたんだよ」
ξ;゚听)ξ「え? その人、大丈夫だったんですか?」
(´・ω・`)「ああ。そしてその実験結果をもとに、雷、いや電気についての理解を深めた。特に、性質の部分でね」
ξ゚听)ξ「はあ……それから二年経った今、街の祭りに利用できる程にまでなった、ということですか」
489 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 20:35:01.67 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「でも、」
広げられた紙を見つめながら、ツンは次いで口を開いた。
ξ゚听)ξ「祭り、なんて……開いている場合ではないと思うのですが」
実際、今の『チャンネル』は、政府を失ったことで国全体が未だ混乱に溺れている。
ニュー速のような大きな都市は、もともとがほぼ自治で動いていたようなものなので被害は少ない方なのだ。
なので田舎ともなれば、混乱はその比ではない。
ニュー速に入ってくる情報ですら、一つの村が消えたという話が出るほどだ。
届いていない状況は、おそらくそれどころではないというのが大半だろう。
(´・ω・`)「……悪いけど僕はね、魔法使いでもないし、特別頭の回る魔王でもない」
ツンの言葉に、ショボンは低い声で言った。
それは自分に対する言葉でもあり、ツンに伝えるにはそう言うしかないと、考えていたのだ。
(´・ω・`)「『この混乱を乗り切るためだ』と言って今ある力を分散させると、僕はその全てを把握しなければならなくなる」
ξ゚听)ξ「ですが、今は」
(´・ω・`)「僕は……いいや、僕らは無力なんだ。そんなこと、前例もないのに出来るはずがない」
ξ゚听)ξ「………」
(´・ω・`)「だからこそ、誰かの手を借りなければならない、誰かに手伝ってもらわなければならない。
教会政府が潰れた現在、実質的に一番大きな力を持つことになるのは僕というより、この市庁舎だ。
しかし市庁舎は今、都市内外周辺の対応に手一杯で、それ以上の仕事を求められても絶対に出来ない。
そのうえ今取り組むべき仕事にすら、追われ潰れていく人間だっていたんだ。君だってそれは見てきたじゃないか」
490 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 20:40:13.36 ID:WznWHEl+0
- (´・ω・`)「今の僕達に必要なのは、みんなとの結束なんだよ」
ξ゚听)ξ「……この祭りは、それを強めると?」
(´・ω・`)「ある程度簡単なことなら、とは言っても都市全域で行うのだから決して簡単ではないが、外からの助力も求められる。
それを上手く練って昇華できれば、新たに街の規模を広げ、僕の手を回せる部分も増えるかもしれない。
みんなにできないことを強いるよりも、できることを着実にこなしていく方が建設的だと僕は思うんだよ」
それでも、ショボンは悩んだ。
外の多勢を切り捨て、手が届く範囲のものだけを充実させていくとどうなるか。
そもそも彼自身が言った、『可能か不可能か』の判断基準は、今の状況ではかなり不鮮明なのだ。
これを理解した人間の批判が出るのは、確実であるだろう。
しかし事態を長期的に捉えるなら、それに対応できるだけの中核をしっかりと固めていかなければいけない。
今回の祭りはその基盤。これはニュー速の新たな技術を披露する機会で、その技術に目をつける人間は少なくはないはず。
それを利用できるならしてもらって構わないのだ、利用されることは、同様に利用することへのきっかけとなる。
祭りによって様々な能力を持った人間を集め、新たな共同体、言わば新政府のさきがけを、今ここで造り上げようという考えがあるのだ。
焼け落ちてしまった以前の自宅も、主人の自分が怪我もせずしっかりと生きていたからこそ、建て直せた。
国を立て直すということも、そういうことなのではないだろうか、と。
ξ゚听)ξ「そうですか……」
ツンは納得したのかしていないのか、口に手を当てながら静かに息をつく。
(´・ω・`)「意義があるなら何を言ってくれても構わない。でも、この選択を曲げるつもりは僕にはないよ」
腕を組んで背もたれに倒れこみ、わざとらしく構えたショボン。それをツンは無言で眺めると、やがて観念したように笑った。
491 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 20:43:07.19 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「あら、祭りの準備? でもなんでここまで?」
从'ー'从「景気づけ〜! ていうか開催は明日なんだから、ツンちゃんもお仕事あるでしょ?」
ξ--)ξ「そうねー。めんどくさいけど」
从*'ー'从「とか言いつつ四か月も準備に走り回ってたツンちゃん可愛いよ〜」
ξ゚听)ξ「うるさいわねー、逝き地獄に連れてくわよ?」
从; −
从「ごめんなさい……死にますのでほんと………すいません……」
ぱたり。
市長室にまでやってくるメイドはメイド的にありえるのかといえば、やはりあり得ないと思う。
さっそく私は手に持った資料を広げ、相変わらずびかびかにテカってる市庁舎を降りた。
それにしても、下準備が必要だ、なんて言って五階にまで増築しなくてもいいんじゃないのかな。
そのあたり、市長はちょっと変わってる。面白いからいいんだけど。
「いってらっしゃいませ」
ξ゚听)ξ「どもー」
セバスチャンさんはなぜか市庁舎に常駐してるし。
いつも思うけど、私が来たせいで部屋を奪われたのなら土下座を、
まあ、いいか。
ξ#゚听)ξ「今日も一日、頑張りまっせーこんちくしょー!」
494 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:01:31.00 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「えっと? まずはクソの役にも立たない民芸品店からね〜」
ニュー速は祭りに向けて着々と活気を取り戻していた。
確かに外部からの人も少なからず参加すると言う話も来ていて、二年程前の事件以来の大きな祭りだといえる。
そんな記念すべき祭りに参加できない人たちには、正直、何と言っていいかわからない。
ξ゚听)ξ「ん、」
街の中、生活用品を売る店が目立つ通りで、何か荷車持った奴らがトラブルを起こしているらしくやかましかった。
「うちの村の米はめっちゃくちゃ美味いニダ! 買わなきゃお前の家族が死ぬニダ!」
「さっきからなんだてめえ、やんのか? あぁ?」
「すみませんアル! こいつ商売下手でつい悪口いっちゃうタチアル! ツンデレアル!」
「何言ってんだよ……ったく、そこで一生売れねえ商売でもしてろ!」
ξ゚听)ξ「……」
なんだか彼らに見覚えがあるような気がしたけれど、米を売っているところ、どこかで買ったのだろうか。
いままであまり人の顔を覚える習慣が無かったので思わず首を捻ってしまう。
( ゚∋゚)「なるほど! あの村の米か! 昔はよく買ってたが、試しにいただこうか!」
こいつは覚えてる。っつーか、結構商人としての手腕はあるから、今は街の筆頭。多分その内、また話すことになりそう。
こういう奴とか、裏で変なことやらなくてもいい人って結構世の中には多くて、やっぱり、そういうのはわけわかんない。
『裏』って、モテるのかな? 私にはもう、一生関係なさそうだけど。
「変なおっさん毎度ニダ! 今後ともごひいきにお願いするニダ!」
495 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:06:04.83 ID:WznWHEl+0
- ξ゚听)ξ「つっぎは〜、っと」
街の広場を通った。普段は子供とか、大道芸人とかが居る場所。ここは祭りの中心になって、大きな壇とかがちょうど今組まれてる。
広場の中心の大きな、魔王とかいう奴の石造が微妙に邪魔だけど、そこには電飾をくくりつけるらしい。
像の下に刻まれたこいつの名前は「フォレスト・N・ホライゾン」というそうだ。確かに魔王っぽく、大仰な気がする。
それにしても、魔王ってニュー速では偉大な人物らしいのに、電飾が爆発でもしたら誰か怒るんじゃないかな。
市長はそれを言ってもニヤニヤして取り合ってくれないし、絶対悪意あるよね、実は嫌われてたのかな。
「〜〜〜〜♪」
広場には今日はうたを歌う人が来ていたようだ。
周りの人たちがたくさん立ち止まっているので、結構上手い人なんだろう。
私もついでに、一曲聞いてみる。
「〜〜♪ ……っと。ありがとうございましたー!」
……なぜだろう。
歌われている人は、私の知っている人と印象が被る。
なんだか、懐かしい気分にさせられてしまう。
確か私があの人に初めて会った時も、そんな印象だった。
やはり、上手い詩人は誰もが共感できるものを書く、ということか。
周りで起こっていた拍手に、私も例に漏れず精いっぱいのものを向けて、袖で顔を拭う。
ここで時間を取られてる場合じゃなかった。
499 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:12:29.36 ID:WznWHEl+0
- 電飾を外に付ける宿をまわる。
外壁の保障手続きとかがあって大変だったが、今日はちょっとした位置の確認だけ。
「こら、あんまり走っちゃだめよ」
「すみません、つい乗せられてしまって………」
「うわーいい子ちゃんぶってる! ずるいよー!」
「もう……あとちょっとであなたもお姉さんになるのよ? もういい歳なんだから、しっかりしてね」
「はーい……」
四人連れの家族がこれから宿をとるようだ。祭りを聞きつけてやってきたのだろう。
お父さんはニコニコと笑っているけど、寡黙な人っぽい。優しそうだ。
お母さんは結構若そう、でもなんか化粧が濃いなあ。つくりは良さそうだから薄くていいのに。
あの二人は姉妹、かな? 髪の黒いおとなしそうな子がお父さんの血で、癖毛のうるさい子がお母さんの血を引き継いでそう。
いいなあ、子供。
それにあのお母さん、妊娠してる。
元気な子だといいですねえ。
ξ--)ξ「あーあ、いい男落ちてないかなぁ」
本当に落ちてたら、全力で蹴り飛ばすか踏みつぶすかの二択しかないけど。
私の好きな系統はどんな人だろう。えーっと、強くてまじめでー、律儀で馬鹿でー、私と空気が似ててー、
不死? なんて、ね。
501 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:15:52.31 ID:WznWHEl+0
- さあ、今日の最後。
正確に言うなら、「最後にした」。
そこは友達少ない私の、数少ない居場所だから。
ξ゚听)ξノ「おいっすー」
从 ゚∀从「おー。いよいよ明日だな」
ノハ;
)「ねえハインもういいかなもう私死ぬよ限界だよ足吹っ飛んでくよ地の果てまで」
ハインの家。
電飾祭りのきっかけも、ハインだ。私に黙って市長達と話を進めていたのは感心できないけど。
聞けば彼女の父も、彼女の祖父も研究者で、祖父のほうは例の魔王と個人的な交流があったらしい。
要するに、いい学者の家系の更にデキた子供、それがハイン。才能っていうものは受け継がれるんですね。
ヒートは今変な自転車に乗せられてひぃひぃ言ってる、ほぼ無限の体力を持ってる楽しい子。
多分、朝からずっと自転車をこいでいたに違いない。ちなみに今夕方ね。おなかすいた。
从
-∀从「お前はタフだからモルモットも兼ねてんだよ。粘れー」
ノハ#゚听)「くっそおおおおおおお! こうなりゃやけだあああああっ!」
ξ;゚听)ξ「あ! なるほど! 電気ってこうしても点くんだ!」
本当に見てて飽きない二人だ。
まあ、それくらいじゃないと、
見てて飽きない別の二人を、私はまだ引きずってるから。
505 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:19:09.90 ID:WznWHEl+0
- 从 ゚∀从「さて、たらふく食え我が助手よ」
ノハ*゚听)「おー! だから愛してるんだよハイーン!」
ξ*゚听)ξ「いただきまーす!」
お金は研究資金とかと一緒に、結構もらっているらしい。
私は人のそういうところは見たくないから、細かいところはわからない。
とにかくお金をいっぱいもらっているということは、市長たちに期待されているということ。
いやーまったく鼻が高い。私はなにもしてないけどね。
从 ゚∀从ノo「ほら、もっと食え」
ノハ#゚听)「これは食いもんじゃない! ヒートさんの学習能力なめんな!」
ξ゚听)ξ「それ、昨日まで笑顔で食べてたよね?」
ノハ;゚听)「なに? ってことはこれは食えるのか?」
ξ゚听)ξ「判断は任せるわ」
从*^∀从「食欲に負けてしまえよいたいけな少女」
ノハ--)「……じゃあ、甘んじて食う」
ξ;゚听)ξ「まってまってまって! 甘んじちゃだめだよ冗談だからそれ食べないで! 金属!」
从
゚∀从「まあ食える金属もあるし、どうせヒートだしいけるだろ」
507 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:22:37.84 ID:WznWHEl+0
- 从'ー'从「おつかれさま〜」
ξ゚听)ξ「うん」
市長の屋敷に帰ってきた。
火事からも内装は変わらず、けどバーが少し大きくなっていた。バーが燃えたからああなったのに、懲りてない。
右側にはやはり衣裳部屋。もう手に入らないものがあったらしくて、少し数が減っていた。
でも、相変わらず着せ替え人形にされて、遊ばれてる。
結構楽しいからいいけど、市長の露出多いやつだけは本当に勘弁して欲しい。
从'ー'从「すぐ寝る?」
ξ゚听)ξ「うん……」
从'ー'从「どしたの?」
ξ゚听)ξ「ごめん……」
未だに私は弱いままで、クソメイドにたまに添い寝してもらわないと、寝られない。
誰かが近くにいないとどうしようもなく寂しくなって、泣きたくなるから。
今日は少し寂しくなることが多くて、私も二十の前半行ってるところなのに、醜態をみせるはめに。
从* ー 从「ぬふふふ、ツンちゃ〜ん!」
ちなみにいかがわしい関係は無い。
以前にちょっと、窒息、蘇生、窒息、蘇生、で畳みかけて泣かしたらそういうのはやめてくれた。
今はけっこう抱き合って寝たりするけど、それはペットとの触れあいのようなものだ。
抱き締められるのとかが好きだから、これはしょうがない。
509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:25:46.01 ID:WznWHEl+0
- こんな夜はたまに、本当にたまにだけれど、自分がなぜこうしているのかわからなくなる。
生まれた意味だとか、与えられた役割だとか、そういうことを考えなくていいから、そこに甘えているだけなのかもしれないな。
考えなくていいから考えない、というのは間違っている気がするのに、考える頭はくたびれてしまっているのだろう。
あれから、二年と、五カ月と、少し。
私はとにかく、頭を切り替えるきっかけを望んで、市長に仕事を求めた。
それ、確か街にやってきてから一カ月が経ってからなんだけど、私はその一ケ月間の記憶がほとんどない。
どうせ子供みたいにずっと泣いて、在りもしないことを考えて現実から逃げていたんだと思う。
今だってこうしてクソメイドに抱きついて深く呼吸しなきゃ落ち着けないんだから、もっと酷かったに違いない。
でも、こんな私なのにクソメイドは笑ってくれて、何を言っても本当には見捨てないでいてくれる。
市長だってそう。セバスチャンさんだってそう。他のメイドさん達だってそう。ハインだって、ヒートだって、あのアホ商人だって。
見返りなんて絶対に存在しないのに、みんな私を色んな形で助けてくれる。それでも私は、何もできないのに。
だけどみんなが居るから、今も少しだけ変われている。
これからも、絶対に変わってみせる、って思える。
市長の言う通り、祭りはいいきっかけになっていた。
私は一人で街を回って、いろいろな話を取りつけたり、打ち合わせたりできるようになったし、街の人たちも協力的だ。
きっと街の人たちもきっかけが欲しくて、市長や私達の本気が見えたからこんなにスムーズに行えているのだろう。
ゆっくりでもいいから確実に進もうとしているのは、街も個人も、一緒なのだ。
明日はその集大成。
人も、街も、それの土台となる技術も、みんなが一緒になって成功させることができれば、また、変われる。
あの人のように、変わらない過去を、変われる今の結論にはできない。
あの人のように、消すべきとした過去を、今のために自分ごと焼き尽くすこともできない。
だから、あの二人のようにできないからこそ、私は過去を受け止めて、今に、つなげたい。
512 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:28:46.35 ID:WznWHEl+0
- (*´・ω・`)「さぁ、ついにやってきたわよ!」
太陽はとっくに沈んでいた。
真っ暗になるまで色んな人と最終確認をして、準備を万端にして迎えたこの日。
広場に組んだ壇の上で、小さな蝋燭を持った市長が叫んだ。
(*´・ω・`)「今日という日は、私達にとっての記念の日になるわ!」
わぁ、と大きくなる歓声。同時に、ぱちぱち、と拍手も。
(*´・ω・`)「ん〜! 前置きはかったるいわね! ではでは、この祭りの立役者の、ハインリッヒちゃーん!」
\ハインリッヒちゃ〜ん!/
街中が「ハインリッヒちゃん」だった。
从*>∀从「えぇ? ハインリッヒ恥ずかしいよぉ……」
すると、真っ暗な闇から、市長が蝋燭を渡したハインが気持ち悪い感じに来た。
実際大声でわざわざ引き気味の声を出すというかなり器用なことをやっている。
\引っ込めー!/ \そうじゃねえだろー!/
そして、ハインは有名人な人気者なので、こういう声援もあったり。
从#゚∀从「おーおーわかってんじゃねえかカス共! んじゃ、始めっかぁ!? あ!?」
すると間もなく、広場を中心として怒涛のような声が響く。これがみんなの待っていた彼女の声らしい。
そして、ハインは手元の蝋燭を勢いよく吹き消した。
513 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:31:33.04 ID:WznWHEl+0
- 暗闇。
静寂。
そして、
从#゚∀从「俺様の祭りぃぃぃっ!! 盛り上がっていこうぜぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ハインの声、みんなの声。
光が、壇を中心に。
ξ*゚听)ξ「うわぁ………」
ぱぁ、と広がった。
街のどこもかしこも、電飾が光らせて。
まるで世界に花が開いたように、大通りの外壁も、ちょっとした道の端も。
暗くて見えなかった街のみんなの顔も、どれもきっと、私と同じ表情だ。
从#゚∀从「ちなみにぃぃぃぃぃっ!! 短時間しか持たねえから見たいとこは急いで回れぇェェェェェェ!!」
515 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:34:17.59 ID:WznWHEl+0
- その声に、無責任だな、と笑う人もいれば、感動して棒立ちのままの人も居て、
ノハ*゚听)「ツン! なんか食おう!」
みんなが動き出したことで、それに漏れずはしゃぎ回る女の子も居て、
ξ*゚听)ξ「食べることばっかりねー! ちょっとはこれに感動しておきなさいよ!」
从*'ー'从「じゃーヒートちゃんは私が預かるねー! 電気が消えた時が狙い目だよ!」
メイドが妙なことを言って女の子を凄まじい勢いで連れて行ってしまったり、まあ、それはそれで、
(*´・ω・`)「あー! ツンちゃん! こっち来なさいよー! この酒豪と戦って!」
ξ*^ー^)ξ「結構です!」
いつの間にかデキ上がってる市長と商人が居たり、
从#゚∀从「はぁ? 滑ってねえから! お前ら乗ってたじゃん!」
壇上で市民を煽る研究者が居たり、
「ニダーさん、シナーさん、どこいっちゃったんですかー?」
迷子を捜す笑顔の女性も居たり、
そのみんなが、すごく楽しそうで、
なんとなく私は、電飾まみれの『魔王』の像を見上げたりして、
520 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:38:13.09 ID:WznWHEl+0
- 見上げたその電飾の輝きは、目に刺さるほどのもので、
「あ、れ……?」
光が強いのか、いつの間にか顔がびしゃびしゃになっていた。
それほどにまで大きな光を人が作り出せるのは、やはり素晴らしいものだ。
天を覆う夜の闇すら吹き飛ばす、人工の光。なぜだか自分にはもう扱えない、あの白い光と重ねてしまう。
うん、ハインは誇っていい。これだけ希望にまみれた、大きな一歩を踏み出したのだから。
「おーいツーン! こっちのが綺麗に見えるぞー! 身内にのみ許された特等席!」
「すごい……ね、」
呼ばれたその場所は祭りの中心、最初にハインが叫んでいた壇。
そこから見渡せば、事前の準備通り、どこもかしこも光を放っているのが見え、老若男女を問わず人々が笑っている。
これが未来への標となる日は、そう遠くないだろう。
いつか技術が今以上に進歩していけば、魔女と一緒に消えた魔導具だって、だれも必要としなくなる。
そこにきっと隔てはない、『狩り』なんてない。誰もが個人として、人間として歩いていけるものだって、信じられる。
あの人の見られなかった、あの人達の居なくなった、私達の新しい時代が待っているんだ。
「……なーなー、しけた面をこれ以上見せたら怒るからな? これは俺達の祭りなんだからよ!」
「ん、…………よっし! だったら勝負といきましょう、ヒートに異物を食わせたほうが勝ちね!」
ひっでえな、と叫びながら壇を飛び降りたハイン。ここで遅れを取るわけにはいかない。
負けた方への罰を考えつつ、光の溢れる街へと駆けだした足は、珍しく力強かった。
きっと私もこの瞬間、新たな一歩を踏み出すことができたのだろう。
まあ、その理由なんて我ながらすごく単純だ。だってそれは、この街が証明しているんだもの。
522 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2010/04/17(土) 21:41:38.18 ID:WznWHEl+0
「彼と歩いた道の先が、これだけ眩しくて、輝いているから。」
ただ、それだけのこと。
( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです
おしまい。
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