( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです


4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 17:56:49.95 ID:ot5p3W1U0
 ep1. 薄幸の少女 

    「きゃああああああ!」

女性の、それもまだ幼げな悲鳴。
声はこの広くはない村を突き抜けるように響き、日の落ちた暗い空を駆ける。

( `ハ´)「フヒヒ、観念するアルwwwwwwwwwwwwww」

<ヽ`∀´>「ニダニダ、おとなしくするくニダwwwwwwwwwwww」

(*;−;)「いや、いや、」

ぼろぼろの布に身を包んだ男二人は、悲鳴の元である少女を囲んでいた。
少女の背後は彼らの拠点で、逃げ場も到底見られない。
彼らは自身の考案した思い通りの流れに、思わず黄色い歯まで覗かせて。

<ヽ`∀´>「ほら、もう諦めるニダ!」

エラの張った一人の男がその小さな肩を勢いよく掴んだ。
少女は咄嗟に、ひっ、と声を漏らすが、それは男たちの興奮剤にしかならない。

( *`ハ´)=3「フヒ、ちっちゃい声でしか鳴かなくなったアルwwwwwwwwwww」

<*ヽ`∀´>=3「はやく家に連れてくニダwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

少女の様子に鼻息を荒げる男たち。
しかしそれを阻むものが背後から飛んできたのを、その興奮が理由により、全く気付くことができなかった。

=三( ゚ ω゚)「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃいいぃぃぃ!!!!!!!」

 

 

5以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 17:59:06.07 ID:ot5p3W1U0
   「エラが刺さるお」

=三( 。ω<;ヽ`∀> 「ニダッ!?」
     デュクシッ

(*;−;)「え……?」

転がるように地面を滑り、エラの男は背後の壁に激突。
凄まじい勢いで飛んだ来たものと一緒に頭を打ち付けた。

(;`ハ´)「ニダァアァァァァァ!!!!!!!!!!」

ξ#゚听)ξ「あんたもぶっ潰す!」

仲間の安否を気遣う最中、もう一人の小柄な男にも小さな影が声を発して迫る。
声は若い女のもので、そこには張りつめた糸のような繊細さがあった。

(`ハ´;)「誰アルか!」

ξ#゚听)ξΞ⊃「めり込めッ! 我が鉄拳!」

Ξ⊃)ハ´;)「なびッ!」

発言の通り拳はめり込み、女は拳を男の顔ごと、地面に向けて叩き下ろした。
小柄の男は仰向けに潰れるように倒れ昏倒し、瞬く間もなく、意識を飛ばす。

ξ゚听)ξ「っし! あなた、大丈夫?」

(;゚−゚)「あ、はい……大丈夫です……」

 

7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:03:02.40 ID:ot5p3W1U0
「なんだ? ニダー! どうした!」

「野犬にでも噛まれたのか?」

(;゚−゚)「……あ! あの! こっちに逃げてください!」

ξ゚听)ξ「へ?」

少女は女の手を引き、誰もいない方向を指差した。
家の方から声がしたのを恐れ、逃げ道へと走り出したのだ。

ξ゚听)ξ「ブーン! 荷物持って走る!」

( ^ω#)「おk……」

そのへんの壁でぶっ倒れていた男も立ちあがり、女性の横に置いてあった大きな袋を拾うと、その後を追い駆ける。

(*゚−゚)「はやく来てください!」

ξ゚听)ξ「ちょっと! おそいよ!」

( −ω−)「ツンがその子抱えて走ってるからだおー、僕さっきので足外れたんだおー」

走る方向は今居た小さな塊村を抜けた山の斜面。
どうやら目的地は茂みの向こうのようで、少女は枝葉を押しのけながら突き進む。

(*゚−゚)「あ! ここです、ここに入ってください!」

山の茂みを抜け出た先は僅かにひらけた場所と、木造の小屋があった。
斜面に不格好に立てられており、若干曲がっていて、隠れ家のようにひっそりと佇んでいる。

 

9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:06:52.72 ID:ot5p3W1U0
( ゚ω゚)「あぁ、しんどかった……」

ξ゚听)ξ「嘘つけ、体力バカのくせに」

到着し中に入ると一息、さっそく軽口をたたく二人。
その姿を眺めながら戸棚の缶箱を取り、少女は小屋の明かりである蝋燭を取り出す。

(;゚ー゚)「先程は本当にありがとうございました……」

ξ゚听)ξ「いいのいいの、旅は道連れ世は情け?」

明かりのもとに現れたのは、美しいブロンドの女性。
癖なのかくるくるとした髪質らしく、その金色を強調するかのようにふわりと巻かれた髪だ。
真っ黒い装束のようなもので全身を多い、色を変えれば旅の修道女に見えそうな。

( ^ω^)「それなんか違うお」

男の方はあまり長くないちくちくとしていそうな黒髪の、冴えない男。
ぼろぼろでこの国の旅人がよく着込む茶色の防寒ローブを纏い、中のくすんだ茶色の服がちらりと覗く。

(;゚−゚)「あの、旅のお方なんですか? 私はシィと言います、まずはこちらに座ってください」

シィは部屋の隅に重ねてあった丸椅子を引っ張り出し、二人の手前に置いて手を伸べた。
椅子は二つしかないのか、シィだけはその場で片腕を握り、窺うように立ちつくす。

ξ゚听)ξ「……ブーン、」

( ^ω^)「了解だお。シィ、君は座るお」

ブーンと呼ばれた彼は席をシィの前に置きなおし、先の彼女のように促した。

 

 

10以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:10:54.08 ID:ot5p3W1U0
(;゚−゚)「え、でも……」

( ^ω^)「ぬふふ、じゃあ僕の上に座るかお?」

ξ--)ξ「おい耳ちぎるぞー」

( -ω-)「いやそれはちょっとやだお……」

(;゚−゚)「え、え、あの」

ξ゚听)ξ「いいのよ、そいつは疲れを知らない男だから」

( ^ω^)「だおだお。君、足震えてるし」

男が指を向けた先の足はまるで枝、そしてそれは確かに、極寒の大地に立ったかのように震えていた。
忘れようと追いやった襲われかけた恐怖が、形となって表れていたのを彼女自身が示していたのだ。

(;゚−゚)「きゃっ」

それに気付いたことで、シィは木の床に、膝を折って崩れ落ちた。

( ^ω^)「まあ、僕らがいればもう大丈夫だお」

にこやかな男は自らシィに触れることはせず、諭すような声と、大きな手を差し伸べる。

(*゚−゚)「………」

先程の、『男』に対しての怖さは彼には存在しない、そう言いきれるほどの柔らかい笑顔。
まるで人とは思えないほどに不純な色が見えず、何か造られた像のような印象すら受ける。
やがてシィは少量の息をゆっくりと吐き出し、その彼の手を握ると、立ち上がった。

 

 

11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:14:01.19 ID:ot5p3W1U0
(*゚−゚)「――あの、急いでこの村周辺からは離れた方がいいです」

丸椅子に座り直すと、はっきりと言い切ったシィ。

ξ゚听)ξ「どうして? 私、この辺にちょっと調べものがあるんだけど」

(*゚−゚)「先程の男たちとまた出くわすようなことがあれば、きっと大変なことに……」

ξ゚听)ξ「あー、大丈夫よあんなやつら、何人いようが血祭りよ」

(*゚−゚)「違うんです、彼らの親玉が……すごく強いんです」

( ^ω^)「僕らは多分、それ以上に強いお?」

(*゚−゚)「違うんです。本当に、彼はすごく強いんです……人とは思えない力を振りかざして……」

ξ゚听)ξ「ふんふん」

(* − )「村にやってきた山賊も、皆殺しにするくらい、強くて……」

ξ゚听)ξ「うんうん」

(* − )「本当は優しい人なのに、昔とは全然違くて……」

ξ><)ξニア「びっ!」

(;゚−゚)そ 「!!」

ξ゚听)ξ「そこんとこ、詳しくお願いできる?」

 

13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:18:05.02 ID:ot5p3W1U0
(;゚−゚)「え、え、っと……彼が変わってしまったのは、村の事件がきっかけで……」

( ^ω^)「彼? 仲、良かったのかお?」

(*゚−゚)「はい、私の幼馴染で、おにいちゃんみたいな人でした……」

椅子から垂れた足を、確かめるように床に押し付ける。

(*゚−゚)「村が昔、山賊に襲われた時から……彼は……」


 最初に山賊がやってきたのは四年前、村の米の収穫祭の日。

 (,,゚Д゚)「シィ! 来年からは俺が祭りの主催だ!」

 (*゚ー゚)「うん、頑張ってね!」

 祭事は次代の村長が仕切る手筈で、その時は彼の父が担当していました。

 ミ( ,,^Д^)彡「祭りじゃ祭りじゃー! 収穫祭じゃー!」

 彼の父は健康的で、それはもう村人の度肝を抜くような凄まじい舞いを踊っていたんです。
 悲鳴が起こったのは、その踊りの最高潮、片足で側宙をする大技の時でした。

 ( ,, Д )「はぐっ」

 側宙二回目の着地の時、その額に回転する手斧が突き刺さったんです。 
 噴き出す血は不謹慎ながら祭りの収穫を祝う花弁のようで、皆は揃って息を止めました。

  (#゚д゚ )「祭りは終わりダァァァ! わしらがこの村を乗っ取るんじゃアァァァァァ!!!」

 

15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:22:05.82 ID:ot5p3W1U0
 そこからはまさに、地獄でした。見た分だけですら、私の口からは、とても。
 すぐに私達子供は村の人に鍵のかかる納屋に避難させられ、その悲鳴に怯えていました。
 でもギコ……彼だけは、違ったんです。

 (,#゚Д゚)「あの野郎共……ふざけんなよ……!」

 (;゚ー゚)「だめだよ! 殺されちゃう!」

 (,#゚Д゚)「親父が殺されたのに……黙ってろってのか!」

 怖かった。あの時の彼は、まるで山にはびこる猛獣のような顔でした。

 (*;−;)「ギコ君まで、殺されちゃう……そんなの、やだ……」

 (,#゚Д゚)「だからってなぁ……!」

 でもその時は、子供たちみんなで彼を止めたんです。
 彼まで居なくなったら、もしも最悪の場合になった時、村をまとめられる人が誰もいなくなるのがわかってたから。

 そして騒ぎが小さくなった頃、私達の納屋が開けられました。

 ( ゚д゚ )「出て来い、ガキ共」

 顔を出したのは、山賊の一人で。
 逃げ出したい衝動を、泣きだしたい情動を、噛み殺して。

 山賊は労働力となる男の人をごく少数、耕作の知識がある者を中心に残して、屈強な人達は皆殺しにました。
 私の父も、みんなのほとんどのお父さんも、その中に含まれていて。 
 あとの女性は山賊が連れ去り、おばあさんと私達子供しか残されませんでした。


16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:26:06.35 ID:ot5p3W1U0
 それから山賊は、その何人かを定常的に村に置いて、村を支配することにしたんです。
 毎日が彼らに見張られる生活で、あの時は本当に、一番辛かった。

( ^ω^)「……」

 転機はその一年後、ある商人が村にやってきてからです。
   _
 ( ゚∀゚)「どもー! 旅する恋する少年商人、ジョルジュ君でーっす!」

 その人は小さな馬車から降りてきた、くたびれた青年でした。
 彼は見張りの山賊を無視して、いきなり私達に向かって話を始めたんです。
   _
 ( ゚∀゚)「……君達、助かりたいかい?」

 (,,゚Д゚)「なんだと……?」

 それを不審がった山賊も、その人が渡した小さな袋を見ておとなしくなったりして。

ξ゚听)ξ「むー……?」
   _
 ( ゚∀゚)「助かりたいならこいつを首にかけて、願うんだ。『あの憎い山賊達を、殺してやる』って」

 (;゚−゚)「ギコ君……こわいよ……」

 (,,゚Д゚)「うさんくせえ野郎だな……」

 私達も疑ってかかったのですが、山賊をおとなしくさせたその人の道具は本物なんじゃないかって。 
 そこでみんなで相談して、すがれるものにはすがる、たとえそれが妙な首飾りでも、という結論に至ったんです。

 (,,゚Д゚)「――じゃあ、俺がそいつを使ってやる」

17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:30:00.16 ID:ot5p3W1U0
 首飾りを受け取った彼の顔を見て、商人は馬車に戻り、満足そうに去ってゆきました。
 物々交換もせず、本当に救世主なのかも、なんてみんなで思ったりして。

 でも、その夜は、本当に恐ろしいことになりました。

 (,, Д )「ウゥゥゥゥゥウウゥゥウゥ……」

 急に彼が、私達子供の詰められている小屋を飛び出して、見張りの山賊に襲いかかったんです。
 耳は伸び、狐のように白い毛に覆われた姿で、二人の山賊の首を噛み千切っていました。
 
 (;゚−゚)「どうしちゃったの!」

 (,, Д )「シィか……?」

 (;゚ー゚)「そうだよ、わたし! 落ち着いてギコ君!」

 (,, Д )「ダメだ……奴らを……殺さなきゃ……」

 (;゚−゚)「それは……! でも、ギコ君が無理してやらなくていいの! お願いだから、落ち着いて!」

 そこで止まってくれることを望んだ私の声は、彼には届きませんでした。
 彼はその毛むくじゃらの姿で、山に向かって走り出してしまいました。

 その夜は、本当にとても寒い夜で。彼までいなくなったら、村はどうなるんだろう、って。

 (,,゚Д゚)「シィ!」

 (*゚ー゚)「ギコ君!」

 でも、朝には彼も、お母さんたちも帰ってきて、本当に、その日は、嬉しくて………。

19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:33:56.75 ID:ot5p3W1U0
(*゚−゚)「この先は、あまり話したくありません……」

ξ゚听)ξ「いいわ、かいつまんで説明して。今の状況になった理由は?」

(*゚−゚)「きっとその山賊がもっとも大きな勢力だったんでしょう。
    それからは次々と、村を別の山賊が襲い、彼はそれを一人で撃退し続けました」

聞きながら、小声で囁き合う二人。

( ^ω^)「確かにその彼むちゃくちゃ強いお」

ξ゚听)ξ「商人の話からして、あまりにも臭いわね」

(*゚−゚)「そこで山賊の一部が彼に屈して、子分となることを望んだんです」

ξ--)ξ「あー……大体理解したわ。大方、その彼が子分に力のおいしい使い方を吹きこまれたんでしょ?」

( ^ω^)「それで夜はあんなに静かなのかお? さっき初めて来たのに、君らの声しかしなかったお」

(*゚−゚)「一応、実質的な防衛も兼ねてはいるんです。けれど、かなり彼は横暴な態度を取るようになって……」

ξ゚听)ξ「女の子が総出でヤられちゃったり?」

(;゚−゚)「え」

( ^ω^)「……配慮が無さ過ぎるお。お前アホかお」

ξ゚听)ξ「別にいーじゃん、シィちゃんの目はまだちゃんとしてるし。ね、ね、ムリヤリされちゃったクチ?」

(*∩−∩)「そんな……でも私、彼以外はずっと逃げてきましたよ……!」

20以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:38:14.01 ID:ot5p3W1U0
ξ*゚听)ξ「だったらいいじゃない! 知ってる人間なら全然マシよー! 私なんか」

( ^ω^)「ツン、もういいから」

ξ--)ξ「おっとすまねえ、言い訳はしないぜ」

(*゚ー゚)「もう、やめてくださいよ、えっ、と?」

ξ゚听)ξ「あ! ちゃんと自己紹介してなかったね」

( ^ω^)「そういえばなんて呼んでもらうかも言ってなかったお」

(*゚ー゚)「ツンさん、で大丈夫ですか?」

ξ゚听)ξ「呼び捨てでもいいけど? こっちはブーン・ホルスタイン。ブーンでいいわよ」

( ^ω^)「何と勘違いしたんだお」

ξ゚听)ξ「家畜」

( ^ω^)「ごめん家畜」

(*゚ー゚)「ふふっ、仲良いんですね。お二人の旅のお話も聞かせてもらいたいです」

ξ゚听)ξ「ほんと? 超つまんないからやめたほうがいいよ?」

(*゚ー゚)「じゃあ、ここに来た理由だけでもお伺いしたいですよ」

ξ゚听)ξ「ああ、さっきの話に関わることになっちゃったんだけどね、
       ここらの山賊を殲滅した者の正体が知りたかったのよ」

21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:42:23.08 ID:ot5p3W1U0
(*゚−゚)「……」

少しだけほころんでいた口をまたも閉ざすシィ。
彼女はこの意味を瞬時に、なんとなくではあるが理解した。
先程のツンの強さと、昔話をしている時の二人の目を思い出して。

(*゚−゚)「もしかして、その元凶を? 彼、を……?」

その先は彼女には言えなかった。
それを言ってしまうと、この二人が自分の考えたくはない方向に行ってしまいそうな気がした。

ξ゚听)ξ「ま、そういうことかな? ホントはそっちの商人のが気になるけど、首飾りも確認しといたほうがよさげ」

シィにはツンらの事情はわからない。
けれど、それはどうしても避けたい、という気持ちが先走る。
次いで口をつくのは自分が最も悲しまない線への問答で、彼女はそれしか望んでいなかった。

(;゚−゚)「だめですよ! 彼は本当に強いんです! あなた達でも敵わないかもしれない!」

( ^ω^)「ツンの使命は、相手の強さなんて関係ないお」

(;゚−゚)「そんなの知りませんよ! あなた達のような人が傷つくのは嫌です! 彼と争うのなんて見たくない!」

ξ゚听)ξ「じゃあ、あなたはこのままでいいの?」

(;゚−゚)「かまいませんよ! 私が少し辛くたって、今は、誰もいなくなったりはしないんですから!」

ξ゚听)ξ「あなた以外の人達は、彼を恨んでいるのかもしれないのに?」

(;゚−゚)「それ、は……」

22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:46:37.00 ID:ot5p3W1U0
シィも確かに、他の村人からの不満は聞いていた。
寝ている間に家を燃やそうだとか、そんな物騒な話をしている人もいた。
しかし、それは今の親玉がギコであり、奴隷のように扱われていないからこその口だ。

本当に圧制されていれば、そんな発言すら出ない。それこそ、いつかのように。
ギコは現在、理由ははっきりわからないが、中途半端な形で村を拘束している。
それはある程度の自由、つまり反逆を企てられるだけのゆとりを持たせてしまっていることになる。

実際に彼らの拠点を焼いたりしないのは、ギコだから、という側面もあるのだが、
このままの状況が続けば、身内だから、なんて理由は取り払われるかもしれない。

ξ゚听)ξ「私達みたいな部外者が戦うのを止めたとして、その先は?」

(;゚−゚)「……」

開けないシィの口。

ξ゚听)ξ「もしもあなた達同士で争った結果が、本当に最悪な、救いの無いものとなるのかも知れないのに?」

(*;−;)「それは……」

結局何も言い返せず、涙をこぼしてしまう。

( ^ω^)「やめるお、ツン。ここでこの子をいじめて何になるんだお」

ξ゚听)ξ「現実を見て欲しいのよ。ここ、あまり大きくない集落だし」

( ^ω^)「ったくもう……シィ、僕らの読みが正しければ君達村人は、きっと大きな怪我は負わなくて済むお」

(*;−;)「え……っ?」

23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:51:04.37 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「そうね、おそらく彼が商人から受け取った首飾りは『魔導具』だから」

(*゚−゚)「まどうぐ?」

聞き慣れない単語に、シィは首をかしげた。

( ^ω^)「だお。僕らはそれを作りだしたヤツを追ってて、ここの山賊を殲滅したのもそれ関係かなぁ、と」

(*゚−゚)「それって、どういったものなんですか?」

ξ゚听)ξ「使用者の負の感情を喰って、人に強大な力を与える道具」

(;゚−゚)「それって危険なんですか? いま彼は、」

ξ゚听)ξ「まあ、私が即座に感知できないレベルの魔導具みたいだし、大したことないと思うけど」

( ^ω^)「んで、魔導具には様々な種類があって、中には使った人の体を変化させたりするものもあるんだお」

(;゚−゚)「ギコ君の体が、獣になったように?」

( ^ω^)「だお。っていうかギコ君っていうのかお」

ξ゚听)ξ「こんな田舎まで浸透してるなんて、やっぱり流通を押さえるべきなのに」

ツンは椅子から両足を投げるように振り、イラついたような声を出す。

(*゚−゚)「あの、それでギコ君はどうしたら怪我をしないで済むんですか?」

ξ゚听)ξ「簡単な話よ。私がそいつをぶっ壊せばいい」


24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:55:12.97 ID:ot5p3W1U0
(*゚−゚)「それってやっぱり危険なんじゃ……」

ξ--)ξ「だーいじょーぶよ、私達を誰だと思ってるの?」

(;゚−゚)「え、ごめんなさい、わかりません……」

ξ゚听)ξ「私はラウンジ正教、魔女狩りの騎士の第四翼よ?」

(;゚−゚)「ラウンジ、正教……騎士……さま?」

片田舎のシィですら、その名は知っていた。
過去には村にも修道士がやってきて、村の広場で難しい話をしていたこともあったのだ。
それはこの土地を含む国々を覆う世界最大の宗教団体勢力であり、諸国に多大な影響力を持つという。
その支部教会は今や旅の宿として一般の旅人にも広がりを見せ、現在もその教えは多くの人間の支えであった。

そして、その力の証明ともいえる絶対的な武力を備えた者たち。彼らを『騎士』と呼ぶ。
『魔女狩り』のほうは今や過去の歴史、というのがシィら一般人の通説ではあるので、ツンの言葉は微妙に引っ掛かるのだが。

(;゚−゚)「でも、魔女って今も実在するものなのですか?」

ξ゚听)ξ「ええ。もっとも、今は世界にたった一人しかいないけど」

(;゚−゚)「はぁ……」

( ^ω^)「そいつがクソやっかいで、ツンとかがこっそり動いてパッと始末しようってところなんだお」

ξ゚听)ξ「『騎士』くらい知ってるでしょ? まあ要するに、私超強いから」

(;゚ー゚)「ええと、よくわかりませんけど……すごいですね……」


25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 18:59:17.64 ID:ot5p3W1U0
誰でも知っている巨大な団体の、おそらく中核を担う人間がここにいる、という現実感の無さ。
シィは思わず、自分の頬を引っ張った。

(*゚−;>「ふびびびびび」

ξ;゚听)ξ「ちょ、何してるの?」

(*゚−;>「いえ、こんなことってあるんだな、って」

ξ゚听)ξ「最近じゃ珍しいことじゃないわ」

(*゚−゚)「そうなんですか……」

( ^ω^)「……ま、とりあえずギコ君は死なないお! 不安にならなくていいお!」

心強いブーンの言葉を、鵜呑みにするようにして安堵する。
実際、彼らの話が全て本当ならば、心配するようなことは何も無いはずなのだ。

ξ--)ξ「………ん?」

そうしてシィが膝を握る手に力をぐっ、と込めていると、ツンが急にきょろきょろし始めた。

(*゚−゚)「どうしたんです?」

ξ゚听)ξ「この感じ……魔導具が発動してる……? 弱くてはっきりわからないけど……」

(;゚−゚)「えと、それって、もしかしてギコ君が?」

ξ゚听)ξ「わからない。けど、さっきのあなたの悲鳴を聞いた村人が発起したなら、『そうなる』流れもありえなくは……」


26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:03:09.90 ID:ot5p3W1U0
(;^ω^)「ちょ、シィ!」

シィは小屋を飛び出した。
ツンの言っていた、自分達の破滅を招くような、そんな愚かな争いを止めたいがために。
もちろん、自身の力がそれを止めるに足るものだとは思っていない。
考えなどなく、ただ感情だけが足を前へと向かわせる。

途中、山の茂みで肌を切るが、関係が無かった。
ただその場所へ、ただ、自分が生まれ育った、心から愛する村へ。

しかし、

( ^ω^)「待って欲しいお」

それは上からの、肩に落ちてきた圧力によって止められた。
大きな男の手で無理矢理、シィの意志に反して。

(* ― )「離してください」

口の奥で顎をぎりぎりと締める。
どうして止めるのか、今のシィには理解できない。
シィは純粋に村のために、起きてしまっているかもしれない事故を止めたいだけなのに、
この今日初めて会った男は、人の気も察さずに止めようというのか、と。

( ^ω^)「僕が見てくるから、ツンとさっきの小屋で待っていて欲しいんだお」

(* ― )「これはあなたたちには関係のないことじゃないですか……」

ξ゚听)ξ「ねえ、さっきの話聞いてた? そう言うなら、あなたの事情だって私達には関係が無いわ」

28以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:08:08.19 ID:ot5p3W1U0
(# ― )「……!」

ξ゚听)ξ「今回の魔導具に人を食らって強くなる特性があるとしたら、最低限、人を近付けたくないのよ」

(# ― )「だからなんだっていうんですか……さっきあなただって、村人同士で争うのは最悪だって……」

ξ゚听)ξ「ええ、最悪。魔導具は人の負の感情を喰うのよ? 身内で殺し合うことで、どれだけの感情が捲くと思っているの?」

(# ― )「私はそれを止めるために今……!」

ξ゚听)ξ「無理よ。あなたには何もできない」

(# ― )「みんな本当は話せばわかる……優しい人たちなんです」

ξ゚听)ξ「現実は本当にそんなに甘いものかしら。だったら、どうしてあなたは泣いているんでしょうね?」

     「…………………………」

自分の非力さ、無力さを、目の前の彼女は白刃のように突きつけてくる。
事実、シィも理解はしていたのだ。もし一度暴動が起きたら、まともに止まることはあり得るはずが無いことを。
自身の中にも微かに渦巻いている、過去から積んできた腐った感情も、枷が外れたらどうなるか想像がつかない。

しかし、ここで生きてきた村人の一人として、どうしてそれを黙って見過ごさなければいけないのか。
指をくわえて皆が死ぬのを見ていろというのならば、その中に飛び込んで喚く方がましだ。

意味がないからなんなのだ、それがどうしたというのだ。
ここから円満な結果なんて望んでいないし、望めない。何もできない自分がそれを望むなど、おこがましい。
ただ、自分が納得できる最期が欲しい、それだけのこと。なのに、

     「ぅ……ぅっ………くっ……」


34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:12:25.75 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「小屋に戻りましょう」

嗚咽は止まらず、引きずられる。
シィは枯れ木のように縮んだ心と、枯れ枝のような細い体を、ツンに預けた。
枯れていないのは涙だけで、それはシィの内部をも枯らす意志を持ったかのように、ただただ流れ出していた。

小屋に帰っても、何も感じなかった。
部屋の隅でツンが自分を抱きかかえているのだと知るのは、少し間を置いてからのことだ。
全てを亡くしたような自分を、そのぬくもりの中で、締め殺して欲しくなった。

     「私は、どうしたらいいんですか……」

それでも、そんなことを頼むこともできず、汚い自分は未だ助けを求めようとしていた。
あまりに醜く愚かだと、開き直ることすら怖くて、ただ無心に手を伸ばし、すがりつこうとした。

ξ゚听)ξ「一般論は知らないから、個人的な見方で答えるけど、」

低い声の彼女に、返事ができなかった。
この短時間ですら、彼女は強い人間だと窺い知ることができるほどだったのに。
その彼女の言葉は、自分にとってどれだけの重みがあるか、全くの未知。単純な恐怖とも言えた。

ξ゚听)ξ「私としては、どんなに辛いことがあってもしっかり生きていて欲しいな」

     「え………」

ξ゚听)ξ「私ね、三年間の旅でいろいろな世界を見てきたんだけど、逃げる為に死ぬ人が一番嫌いなの」

シィはそれを考えていた。終着点の見えない負の連鎖ならば、どんなに最悪でも、自分が納得した結果で、と終わりを迎えようとした。

ξ゚听)ξ「自由にできる命を、たった一度の、いいえ数千度の失敗でも、逃げて終わらせるなんて絶対に許せない」


36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:16:21.71 ID:ot5p3W1U0
言葉に反して、怒気は含まれていないように感じた。
それは彼女が本心からその言葉を言っているのか、シィの判断を惑わせる。

ξ゚听)ξ「たとえば、『人を殺して自分も死ぬ』なんて、全く理解に苦しむわね、殺したいなら殺して、ずっと笑っていればいい」

     「よく、わかりません………」

ξ゚听)ξ「あー、例えが悪かったわね。要するに、好きなことやって本能的に生きれば最高なのに、なんで死ぬわけ? って」

人はそんなに単純なものではないことも、彼女は理解しているはずなのに。
こんな『好きなように生きればいい』なんて、子供のような考え方を持っているとは意外であった。

ξ゚听)ξ「失敗したから? 何かを失ったから? それがどうしたっていうのよ」

「どうした」というその度合いは、人それぞれ違うはずなのに、

ξ゚听)ξ「生から逃げずに、全うな現実をぶっ壊して泥水すすっててもね、生きていることは楽しいのよ」

言いきる彼女の表情は何故か誇らしげだ。
この表情で、彼女がどうやって生きているのか、垣間見られた気もした。

ξ゚听)ξ「ま、泥水をすすっても楽しいってのは、ブーンの受け売りなんだけどね。私は泥水はイヤ、だったらスリでもするわ」

ふふっ、と鼻で笑う息がシィの髪にかかる。
そしてツンはシィをゆっくりと、まるで細く伸びた氷柱を労わるように、再度抱きしめた。

ξ--)ξ「要するにね、シィ。あなたが今どれだけ辛くても、へらへらしていればいつかはなんとかなるの。
       それは……私の相方が、形を持って証明してるんだから」

言葉も、肌も、息も、全てが暖かくて。それはシィを一瞬、先の見えない深い闇から解放したかのような。


39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:20:38.68 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「うん、昨日の夜は別に何もなかったっぽいお」

翌朝シィが目を覚ますと、ブーンとツンが朝食を食べていた。
二人は床に座ったまま、なにやら丸いパンをだるそうにかじっていたのだ。

(*゚−゚)「えっ? じゃあ……」

( ^ω^)「それから一応今朝まで見張ってたけど、村の人は普通に耕作を始めていたし」

(*゚ー゚)「それは……よかったです! 嬉しいです!」

ξ゚听)ξ「やっぱりねぇ。騒ぎがまったく聞こえなかったから変だとは思ってたけど、一体何だったのかしら」

( ^ω^)「練習?」

ξ゚听)ξ「でも、魔導具は不安定なのよ? 練習もなにも……」

( ^ω^)「そんなの普通知らないお」

ξ゚听)ξ「それに感情が昂らないと発動すらしないのよ? おっかしいわねー」

頭を悩ませる二人を見て、シィは小屋を出、その裏手に回る。
裏には小川が通っており、そこに突っ込むように置きっぱなしになっているシィの腰ほどの太さと高さの、金属の器を持ち出した。

(*゚ー゚)「だいじょぶかな? たぶんまだいけると思うんだけど……」

( ^ω^)「……なんだおそれ」

彼女が部屋に持ち出してきた大きめの物体に二人は目を丸くした。
ツンが不審そうに眺めて爪先で蹴ったりするが、乾いた金属音が響くだけだ。

40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:24:34.65 ID:ot5p3W1U0
(*゚ー゚)「昔私達が適当に作ったヤギのチーズです。ずっと前に食べた時はおいしかったので」

言いながら、器の天頂、取っ手の付いた丸いふたを取る。
と、

( ゚ω゚)「おぶ……」

ξ; )ξ「ひ……っ」

(* Д )「ぁ………」

死肉を貪る肉食獣の吐瀉物を鼻の中に詰められたような、全ての絶望を内包した悪臭が漂った。
死神のその臭いは一瞬で部屋を蹂躙し、ツンはたまらず戸を蹴破って飛び出していく。
死を生み出す容器の至近距離にいたシィを助けようと、ブーンはふらふらと彼女を担ぐのだが、

(* Дオボロロロロロドボボボッボロロロ゚ω゚)「ぬわあああああああっ!」

そこへ後頭部への、さながら艦隊の接近のような波が彼を襲った。
たまらず外に向かって倒れこむと、さらにべしゃりべしゃりと、シィの胃にダメ押しが入る。

ゲロω゚)「びっ、あっ、くっ、せっ………おっ……神は、死んだ……っ………!」

ξ;゚听)ξ「胃酸で髪も死にそうね……」

ゲロω-)「うまく、ない……お……」

ξ; )ξ「ブゥゥゥゥゥッゥウゥゥンッ!!!」

(;゚−゚)そ「はっ……一体何が………ああっ! ブーンさんがなんか大変なことに!」


41以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:28:54.78 ID:ot5p3W1U0
ゲロを小屋に立てかけてあった箒と、適当な雑巾で処理をした二人。
その間ブーンは一人、小川で必死に体を流していた。

( ^ω^)「寝不足だったけど目が覚めたお」

(;゚−゚)「ごめんなさい……」

( ^ω^)「いやいや。シィは僕らをもてなそうとしてくれたんだから、構わないお」

(*゚−゚)「本当なら、もっとおいしいものを用意したいんです……村の中ならもっと何かあったんですが……」

ξ゚听)ξ「あ、村の中といえば、そろそろ村はシィが居ないことに気付くはずよね?」

( ^ω^)「ていうか、ギコ君達が探し始めてないのが不思議だお。昨日ちょっとあったのに」

(*゚−゚)「彼らは基本的に村から出ないんですよ。山菜獲りに村人を駆りだしていくことはありますが」

ξ゚听)ξ「出ないの? 見張りとかは?」

(*゚−゚)「一人、だと思います。だいたいはずっと村の中に閉じこもって、たまに女の人を家に連れ込んで、という、」

ξ゚听)ξ「……なんかどっかの成金みたいね、適当っぷりとか」

(*゚−゚)「そんな中では、やはり村の人たちの不満は多いです。けれど危害を加えることは多くありません。だから、」

と、無表情に情報を流していた口をつぐんだ。

( ^ω^)「うーん……」

ξ゚听)ξ「あ、その顔、『しっくりこない』でしょ?」

42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:34:05.64 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「山賊の入れ知恵があるなら、その強い力で勢力の拡大とかに動くのが一般的だお」

ξ゚听)ξ「うん。魔導具を持っているなら、その辺の地域一帯を支配しに動いたって不自然じゃないわね」

(*゚−゚)「持っているなら? どういうことです?」

ξ゚听)ξ「あのね、昨日、魔導具は負の感情を喰うって言ったじゃない?」

(*゚−゚)「はい。それを使って力を振るうんですよね」

ξ゚听)ξ「そ、理解が早くて助かるわ。ところで、シィは骨折とかしたことある?」

(*゚−゚)「え? 私はありませんが、友人が腕を折ったことなら」

ξ゚听)ξ「骨って折れると、その部分が太くなったりするでしょ? 人間の自然回復ってやつ」

(*゚−゚)「ああ、……はい」

ξ゚听)ξ「それ、魔導具に対する負の感情も同じなのよ」

(*゚−゚)「ん、っと?」

ξ゚听)ξ「アレよ、『誰かを殺したい』って感情で使われた力は、
       その感情を負の方向にさらに拡大した形で、新たに力を強めるの。『人を殺し尽くしたい』って感じに」

(;゚−゚)「えっと、食べられた負の感情を補うように、さらに大きな感情が生まれる、ってことですか?」

ξ゚听)ξ「あ、そう言った方がいいわね。そう、だから魔導具は使えば使うほど、喰われる感情が増えて、力が強くなる」

(;゚−゚)「それを使っているギコ君も、どんどん怖い人に変わっていくんですか……?」

43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:38:46.49 ID:ot5p3W1U0
つまり、彼はもうシィの知っている彼でなくなっている可能性が高い。
三年前から彼は村にやってきた山賊達を撃退し続けていたのだ。
そこで負の感情を糧にして戦っていたのなら、既にかなり大きなものが彼の中で渦巻いているかもしれない。

(;゚−゚)「そんな……」

ξ゚听)ξ「大丈夫。使用中の魔導具を破壊すれば、少なくとも魔導具によって増えた感情は全て決壊する」

(*゚−゚)「でも、それで本当にギコ君は元に戻るんですか?」

今までのことがあれば、彼は自分を責めてしまうのではないか。それはまともな感情を取り戻したところで解決するものだろうか。
力を失った彼に対して、村人はどんな態度を取るだろうか。彼の『それから』を想像をするのはあまりにも、容易い。

( ^ω^)「それは――」

ξ゚听)ξ「私は……逃げる為に死ぬ人が嫌い」

ツンはブーンの声を遮り、今の言葉を告げて、小屋を出ていった。

(*゚−゚)「………」

( ^ω^)「おい……」

ツンの背中を横目で見て、次にブーンはシィを見つめた。
その彼の眼は少しも揺れておらず、そこから明確な言葉をシィに伝えようとしているようであった。

( ^ω^)「……シィ、そうなったとしたら、できるなら君も、」

(*゚ー゚)「あの、私……頑張ろうと思います。昨日、ツンさんに勇気をもらったんです」



46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:43:34.66 ID:ot5p3W1U0
それ以上の言葉は必要なかった。
シィは、揺れないブーンの瞳をはっきりと見返した。

( ^ω^)「……そうかお」

シィの決して強くはない笑顔。
しかし、彼女自身の不安を打ち消せるほどのものではある。

( ^ω^)「ちょっと、ツンと話してくるお」

振り向いたブーンの背を陰に、小屋の戸は閉じた。

(*゚−゚)「……」

一人。

(*゚−゚)「頑張れると、思うから」

こぼす。

(*゚−゚)「それくらいなら私にも、頑張れるはずだから」

でこぼこの小屋、丸太の壁をさすりながら、シィは自分の言葉を噛み締める。
あの人たちが助けてくれたら、この不格好な家で彼とひっそり暮らしていけばいい。

彼やみんなで一生懸命作った、本当ならみんなの隠れ家。
誰かが泣いて逃げ込んだり、喧嘩したりしたこの家。
バカみたいにはしゃいで、たくさん笑ってきたこの家。

ずっと使われていなかったこの場所を通じて、思い出と一緒に取り戻していけば、いいのだ。


48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:48:41.52 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「お、」

かさり、と茂みに座りこむブーン。
隣には小川に指先を突っ込み、憂鬱そうにそれを見つめる横顔があった。

ξ゚听)ξ「なによ」

( ^ω^)「魔導具の処理にはいつ行くお」

ξ゚听)ξ「今日でいいでしょ? そんな悠長にやってられないわ」

( ^ω^)「シィが、かお?」

ξ゚听)ξ「違う、私達の話」

( ^ω^)「あんまり、ここに居たくないのかお」

ξ゚听)ξ「違う」

( ^ω^)「………ツン。言っておくが、彼女はお前じゃない」

ξ゚听)ξ「何言ってるの? そんなの当たり前よ」

( ^ω^)「魔導具を使ってきた人間と、それにまがりなりにも支配されてきた人間が和解できるはずがない」

ξ゚听)ξ「……なによ。そうだとしたらなんなの? また説教垂れようってわけ?」

( ^ω^)「これから彼女が享受できる筈の平穏を、お前の理由で踏み潰すな」

ξ--)ξ「はっ。頭が風化したバケモノには、こんなのわからないことでしょうね」


 
50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:52:57.10 ID:ot5p3W1U0
その夜。

(;゚−゚)「本当に大丈夫ですよね?」

ξ゚听)ξ「だいじょぶだってば」

小屋の前で、二人とシィが向き合っていた。

( ^ω^)「あとのことは、シィだけじゃなく君達村の人間で、話しあって考えてくれお」

(*゚ー゚)「……はい!」

ξ゚听)ξ「………」

小屋を離れ、村へと向かう茂みへ。
ブーンが先を歩きながら、話しかける。

( ^ω^)「一応下っ端どもも片付けるお」

ξ゚听)ξ「はーい、そうですね」

( ^ω^)「で、着いたらあいつらの拠点に僕をぶん投げてくれお」

ξ゚听)ξ「へいへい」

歩いた先は、やはり静かな村。
家の微かな明かりが見えるのはただ一軒のみで、他はもう寝静まってしまったのだろう。
二人はその家の手前まで歩くと、それぞれで体を鳴らす。

ξ゚听)ξ「さて、行くわよ」



 
52以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 19:58:01.96 ID:ot5p3W1U0
ツンがブーンの両足を脇腹に挟みこみ、その場で彼女を中心にぐるぐると回り出した。
踏ん張る足の回転はブーンの重さをもって、あっというまに加速する。

(;^ω^)「ちょっと速い! ちょっと速い!」

ξ#゚听)ξ「うっさい! さあ、行って来い!」

( ゚ω゚)「ほぐぅぅぅぁああああ!」

ツンは地を深く踏みながら、両腕のブーンの足を放った。
遠心力は既に相当なもので、人を飛ばすにはあまりに十分なもの。
ブーンは飛び立つ。地面と水平方向に、仰向けの上体で。

<ヽ`∀´>「ニダ?」

戸はブーンの後頭部によって木を裂く鈍い音とともにへし折れた。
突き刺さった木片から血を噴き出したブーンが滑り、先日のエラの張った男の足元へと到達した。

(;`ハ´)「はっ! こいつこないだのやつアル!」

(,, Д )「あぁ……?」

ξ゚听)ξ「あら? 随分少ないわね」

中に居たのは三人のみ。
小さな木テーブルを中心に低い椅子を囲み、山菜を煮たような料理が人数分、小皿に取り分けられていた。

(,, Д )「随分久しぶりだなぁ……どこの山の奴らだ……?」

その中、ツンらの知らない一人が椅子をゆっくりと立ち上がった。眼の下のえらく濃い隈が目立つ、虚ろな顔だ。



 
55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:02:25.27 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「あんたの首飾りを破壊しに来たわ」

隈の男の首には、骨のような装飾の首飾りがかけられていた。
そこからは微弱に、ツンの体の感覚にも直接訴えてくる奔流、魔術の香がある。

ξ゚听)ξ「それが魔導具ね、ちっちゃ」

(,, Д )「あぁ……?」

( ^ω^)「いてて……」

<;ヽ`∀´>「うわ起きたニダ! 死ねニダ!」

エラの男が座っていた椅子を持ち上げ、やっと体を起こしたところのブーンに振り下ろした。

(  ω )「なっとく!」

腰で拳を固め踏ん張っていたブーンの頭に直撃する。
椅子が壊れるほどの衝撃により、額の皮膚が割れ血が流れ落ちる、しかしブーンに怯む様子はない。

(#`ハ´)「フィッツ!」

もう一人は追撃に、テーブル下に刺さっていた手斧を横ぶりにブーンに叩きつけた。
鈍い音を立てて左肩に突き刺さり、腕を切り落とすとは言えないが、その半分ほどまでめり込む。

( ^ω^)「効かねえお」

それでも立っていた彼の体、額から肩から多量の血を滴らせる彼の表情。それらには、微かな歪みすら見られない。

(;`ハ´)「ヒッ! こいつバケモノアル!」



 
57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:06:24.65 ID:ot5p3W1U0
(,, Д )「ちっ、こいつの出番か……」

首飾りを握る彼。
だが、

ξ#゚听)ξ「ちょっと面貸せやぁぁぁぁぁぁぁ!」

戸の近くに居るはずだったツンが速攻を決める。
速度は人間のものとは言い難く、床を踏み砕く勢いで駆けた足からの、顔面に向けた小さな拳。
直撃した男の体は頭からきりもみ回転して吹っ飛び、木の家の壁を容易く突き破った。

(,, Д )「ってえな……」

ぱらりと木屑が落ちる。
貫通した穴から、金髪を掻きあげたツンが不敵に笑った。

ξ゚ー゚)ξ「邪魔が入るのは嫌いなのよねぇ」

(,, Д )「そいつは、同感だぜ……」

倒れたまま彼は、首飾りを再度握りしめた。
握った手から血が飛んだのが見え、痛々しい。

(,, Д )「あ、あ、………ぐぅぅうぅうぅぅうぅぅぅぅぅ……」

徐々に伸びる鼻、尖ってゆく耳、首からは、おそらく全身へと広がる灰色の毛。
唸るような声もさながら狼のような響きへと変わり、空気が冷たくなってゆく。
魔導具を握っていた手の爪は伸び、だらしなく開いた口からは牙が飛び出した。

やがて体中の骨をめきりと鳴らして、四つん這いにツンを睨む姿。それはまさに、人狼と呼べるものであった。



 
59以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:10:38.41 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「あら、聞いてたより随分ケダモノっぽくなっちゃって」

ぐるる、くるる、と唸る顔は横に裂け、ねばねばとした唾液を垂らす。
狼はツンを観察するように目玉を走らせると、首をゆらりと傾けた。
四肢は魔導具により、隆々とした筋肉に覆われて、丸太のような太さとなっていた。
狼はその前足で地面を踏みしめ、今にも噛みついてきそうな姿勢を示し、

     「死ね」

はっきりとした声を飛ばした。
それは、ツンの眼前に迫る顎と同時。

ξ゚听)ξ「嫌よ」

だがツンは怯まない。
彼女の小さな顔を噛み砕きに伸びた狼の頭を、右に回転しながら素早く避ける。
回る勢いはそのまま、拳を狼の脳天に叩き下ろし、狼を這いつくばらせた。
さらに追撃として、穴のあいた家の明かりで浮き上がっていたあばらの隙間を、振りかぶった爪先で蹴り込む。

ξ゚听)ξ「くーびくび、っと」

蹴りにひくつく狼の首をまさぐるツン。
が、首飾りは長い毛に覆われていて、無理矢理にしようにもなかなか引っ張り出せない。

ξ゚听)ξ「ちっ」

もたついていると、狼の震えが止まりかけていることに気付く。
あまり至近距離に居ては、あの大きな体の一撃をもらってしまうだろう。

ξ#゚听)ξ「…………しゃらくせえ」



 
61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:14:30.74 ID:ot5p3W1U0
試しに手を振ってなんとなく挑発をしてみるツン。
すると狼は痛みにようやく立ち上がって、伺うようにツンの周囲を歩きだした。

ξ゚听)ξノシ「こういうタイプ、ほんと合わないわ……」

ツンは肉体を使って戦うのは苦手ではなく、むしろ得意なほうである。
しかし今のように、明らかに物理的な力の差があるとそうはいかない。
どんなに強い武術家でも、馬車の衝突には耐えられないのと同じだ。

ξ゚听)ξ「ブーンまだかな……」

相棒の名をこぼしても、来ていないということはまだなのが当然である。
それに構わず、今度はツンの視界右側から走りこんでくる狼。

脳天への一撃が効いていたのか最初の飛び込みよりも少し遅い。
ツンはそれに向かって低姿勢で滑り込み、先程蹴り込んだあばらの位置を殴り飛ばす。

牙の間から、ぎっ、と短い悲鳴が聞こえ、地面の砂を飛ばしながら横転する姿は情けなく見えた。
そこに、次こそは、とツンが手を伸ばすも、子供がしつけに抵抗するかのように狼は暴れ出した。

ξ゚听)ξ「いったいわね……」

暴れる腕から伸びた爪がツンの手を僅かに引っ掻いた。
狼はそれによって怯んだツンを見ると、すかさず山の方へ。

ξ;゚听)ξ「うっわ、めんどくさ! 待てバカ!」

さすが人狼といったところで、走る足は突風のように凄まじい速度をもっていた。
しかし逃がす訳にもいかず、ツンは今居ないブーンを回収に向かい、魔導具への感覚を頼りに追うことにした。



 
64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:18:09.00 ID:ot5p3W1U0
(;゚−゚)「どうしよ……」

シィは二人を見送ってから小屋の椅子にじっと座っていた。
一旦寝ようと決心していたのに、なかなか寝付けず。

特にすることもなく、できることなど心配程度。
蝋燭片手に座り、二人が戻ってきたらすぐに点けようとか、そんなことを考えていた。

(;゚ー゚)「ん?」

小川の流れ、虫の声、それだけが聞こえるこの小屋内。
普段からこの音しか聞こえないこの辺りでは、それ以外の音がやってくるとそこに耳が向く。

そこでシィが聞いたのは、茂みを割る音。

がさ、がさ、と大きめの動物が歩いているのだろうか。
そういえば、あの男性の背はなかなか高いので、彼らが帰ってきたのかもしれない。

(*゚ー゚)「よしっ」

椅子を立ち、戸を開ける。
二人を迎えて、今日はとにかく、ぐっすり寝よう。

(;゚−゚)「あれ?」

茂みの音はもう聞こえない。だが、小屋の周囲には誰もいない。
勘違いのはずがないのだが、勘違いなのだろうか。
少し戸から出て、暗がりを目で確認する。

が、やはり誰も居ない。



 
67以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:22:26.57 ID:ot5p3W1U0
(*゚−゚)「やっぱり気のせいかな……」

小屋へと戻ろう。
そう思い、身を翻した。

ぐるる、くるる、

(;゚−゚)「えっ」

小屋の前には、何かが居た。

ぐるる、くるる、

これは、獣だ。
昔も何度か見たことがある。
この山にはまれに人里の近くまで降りてくる獣が、狼が、いるのだ。

(;゚−゚)「どうしよう……」

完全に目が合っている。もう逃げることは絶対に許されない。

狼は集団で狩りをするもの。今は一頭だが、おそらくはそこらに居るに違いない。
ならば撃退しなければ、いとも簡単に殺されてしまう。
しかし今のシィにはそんな道具も武器もない。
小さな蝋燭はあるが、火がないと何の意味もない。

そして狼は、シィの小さな体に向かって牙を見せつけた。
腹を空かせているのか涎が垂れ、それは、空から降る月光を存分に照らしていた。

シィが立ったまま縮こまり、その恐怖におののく瞬間には、牙はもう、彼女の目前だった。



 
69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:26:42.94 ID:ot5p3W1U0
そこに突然、シィの真後ろの茂みから一つの影が飛び出してきた。

(;>−<)「いやっ」

尻もちをつくシィ。
その目の前を、灰色の毛で覆われた大きな獣がついた。
理由は不明だが、シィは助けられたらしい。

(;゚−゚)「え、どうしよ、どうしよ、」

シィの動揺をよそに、周囲から狼の遠吠えが響く。
その数はかなりのもので、数える気力を奪われるほど。
声は止み、灰色の大きな獣を、茂みから現れた黒毛の狼達が睨む。
統率されているようで、シィと獣を中心に置くと、狼はそれぞれ円を描き出すように歩き始めた。

(;゚−゚)「どういうことなの、これ」

    「逃げてきた先までこれなんて、まったくついてねえ……」

その声は、一体どこから聞こえたものか。
知っているのに、その主の姿は見えない。
必死にシィは頭をきょろきょろさせるが、周りには狼と、今飛んできた灰色しかいない。

    「……ああ、これが罪ってやつか? くだらねえ教えでも、納得できる理由にはなりやがる……」

(;゚−゚)「え? え?」

    「……ごめんな」

(*゚−゚)「あなた、ギコ君……なの?」



 
72以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:31:06.54 ID:ot5p3W1U0
シィのたった一つの問いには、肯定の言葉も、否定の言葉もなかった。
それは狼の群れが既に狩りの準備を始めていたからだろうか。
円の中心の獲物の上を飛び交い、一瞬の隙をつく、この狩りを。

(;゚−゚)「ねえ、ギコ君なの? ギコ君なんでしょ? ねえ、応えてよ、あなただって! ねえ!」

                   ぐるる、くるる、    ぐるる、くるる、

こちらを伺ってくる狼達に対し、シィの目の前の獣は、四肢を地面に食い込ませるほどに、力強く構えた。

          ぐるる、くるる、    ぐるる、くるる、

円の開いた間を埋めるよう、一つの影が跳躍する。
黒の毛の一頭が、動きを見せない灰色に向かって飛び込んだのだ。
先鋒をきっかけにして、二頭、三頭、四頭と、噛みつける場所に次から次へと噛みついてゆく。

(;゚−゚)「ギコ君ってば!」

容赦は野生の世界には存在しない。肉食の、腹を空かせた狼なら尚更だ。
その数が九を越えた頃には、先程狼が形作っていた円は消えさり、その中心は、血だまりと、黒の毛。

    「うそ………」

やがて聞こえるのは、

ぽたり、と、獣から流れ落ちる血液が、地面を叩いていく音。

    「やめてよ…………いや……」

数瞬の後、怯えるシィの耳を突くのは、狼の牙が、生きた肉を侵食する音。

74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:35:18.86 ID:ot5p3W1U0
(;^ω^)「ちょっ、」

ξ#゚听)ξ「余程、餌にありつけなかったのかしら!」

突然、茂みを切り裂いてきた二人。
先頭の男の背中を蹴り上がり、女が宙を舞う。
落下の加速を背負う月光に照らされた金髪が、一頭の狼に飛び蹴りを叩きこんだ。
着地と同時、彼女は自分の目につくものから順に蹴飛ばしてゆき、やがて最後の一匹まで、暴れ倒す。

ξ#゚听)ξ「ああ、もうっ!」

そして赤に塗れた灰色の首に、苛立った彼女が手を伸ばした。

ξ#゚听)ξ「この程度なんだったら、無理矢理剥がせばよかった!」

すると、白い発光とともにシィの目の前で突風が起きたような感覚が走った。
何かに体を押されているようなもので、しかし周囲の葉などは影響を受けていないようだ。
ギコの灰色の狼の首から全身に向かって枯葉を粉々にするような亀裂が走り、毛が剥がれ落ちると、
変質していたごつごつとした大きな体もみるみるうちに縮小していく。

    「ギコ君、ギコ君、ギコ君、」

現れた姿に向けて、両手を震わせたシィはその名前を呼び続けた。
無残にも肩の下や太腿から剥き出しになった赤白い線と、小さく連続して穴の開いた肉を、見つめながら。

    「はっ、ぁ……おい、なん、でっ、逃げ……か、っ、」

    「だって……すぐ、目の前に、ギコ君が……いたから……、」

隣に座り込んで、シィはギコの手を握ると、念じるように額を押し付けた。



 
76以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:39:53.20 ID:ot5p3W1U0

    「ば、か。……く、な、みんな、にも、謝って、おい……って、て、かっ、」


    「やだよ、ギコ君はまだ、」


    「く、き、………っ……、」


血液の流出は既に致死量を越えていた。
ギコがシィに僅かな言葉を告げられたのは、魔術による肉体変化のずれ、偶然だ。
大きかった体から、小さな体へと移る際の、微かなずれ。
その偶然の結果が、シィにとってどんな意味をもつのか。


    「ぁ―――――ぁ―――!」


小川の流れと、虫の声と、シィが悲痛に叫んだ声は、夜の闇に。

シィはギコを抱きしめたまま、そこに。

満月は沈み、太陽は昇り。

朝が来ていたことを彼女が知ったのは、涙が枯れてから。

その直前まで一晩中そばに立っていた、もう居ない旅の女に、枯れてしまったシィが気付くことは、なかった。



78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:44:10.89 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「さっきあの子分二人を吐かせたら、一応納得ができたお」

道の途中、行商人を上手く言いくるめ、馬車の荷物置きの上に乗せてもらった二人。

ツンは一応偉いさんであるため、教会お抱えの人間アピール、
つまり検問所などを一発で通れる教皇直々の手形を見せたりしたのだ。
その後は布教のためとかそんな風に言うと、納得してしまう商人だったわけである。

ξ゚听)ξ「何のよ……」

( ^ω^)「この前の夜」

ξ゚听)ξ「ああ……」

( ^ω^)「ギコ君は以前から子分の山賊を食って、徐々に減らしていってたらしいお、もしもの時のために」

ξ゚听)ξ「もしも?」

( ^ω^)「村人が反乱を起こした時、自分の側が押し勝ってしまわないように」

ξ--)ξ「はっ。なにそれ……」

( ^ω^)「察するに、村を支配したギコ君が魔導具に喰われていたのは悲しみだお。あのひどい隈、覚えてるかお?
      きっと自分の壊れた感情に、心が押し潰されそうになってたんだお。で、あの二人はよく相談されてたみたいで」

ξ--)ξ「もう、なんなのよ、ホントに……」

( ^ω^)「何がだお」

ξ゚听)ξ「じゃあ、私達が来たせいで彼らはああなったんじゃないの……」

79以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 20:47:49.45 ID:ot5p3W1U0

( ^ω^)「……それは違うお」

ξ゚听)ξ「は? 何が違うの? そのまま行けばあの村――」

はっとした顔で、ツンが口を閉ざす。
そう。そのまま行けば、あの村は闇討ちでギコらを焼いて、また元の生活に戻っていった、はずなのだ。
しかしそれは二人の訪問によって、結果は似たようなものでも、過程はほんの少しだけ、違えることになった。

ξ#゚听)ξ「チッ、あ〜〜〜〜〜、チッ、チッ、あ〜! 毎回毎回……こんなのばっか!」

( ^ω^)「なんでやたら舌打ち……」

ξ#゚听)ξ「舌噛み切って死ね」

( ^ω^)「死ねない体だってわかってるくせに」

ξ#゚听)ξ「じゃあ川で溺れ死ね」

( ^ω^)「気付いたら水中で呼吸できるようになってたお」

ξ#゚听)ξ「老衰で死ね、平穏につまらない最期を遂げろ」

( ^ω^)「そうなるつもりはないお」

ξ#゚听)ξ「ぬぅぅぅぅううあぁーっ!! ったく……早く出て来いってのよ! 『枯木の魔女』の腐れババアが!」

いつものように悪態をつき続けるツンを尻目に、ブーンは道の先を眺めた。
次の街に到着するまではまだ掛かりそうで、少なくともそれまでは、この不機嫌な彼女といなければならないようだ。

 ep1. 薄幸の少女 おしまい。

 


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