(-_-)「2・14 狂犬事件」のようです


237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 14:20:32.75 ID:QB5uku530
 うちの高校は頭の悪いとこがあってさ。
 三年の大学受験ギリギリの時期でも行事を開くんだ。

 その年度、っていうか先月か。

 ちょうどバレンタインデーの日に、イベントが開催される予定があった。
 生徒会がリア充の集まりで、そういうの大好きらしくてね。

 当然僕はその日、病気になる予定を入れておくつもりだった。
 でも、そうは問屋が卸さないってのが高校生活。

(-_-)「あれ?」

 体育館でステージに立って色々な出し物をやろう、なんて張り紙があった。
 演劇部、吹奏楽部、合唱部。

 大小さまざまなグループが名前を連ねられているポスターだ。
 偶然目を通したのが幸か不幸か。

(;-_-)「あれっえええ!?」

 僕はバンド演奏の欄に名前をぶちこまれていた。
 
 
 
 


 
239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 14:27:19.22 ID:QB5uku530
 詳細キボンヌ。
 懐かしい響きを頭に響かせながら生徒会室に飛び込んだのは、三日後だった。

 何故三日もタイムラグがあるかを訊く奴はいないよな。
 リア充の巣窟に単身突撃する勇気を溜めるのは、かなりカロリーを要求されるんだ。

(-_-)「え?」

「ああ、だから、ジョーンズ君が登録してくれたバンドだよね? 期待してるよ」

「君、ギター弾くんだ。すごーい、どんなのをやるの? レミオロメン聴きたーい」

「ラッドだよ、やっぱラッド」

 知らねーよなんだよそのバンド。

「ドクオがボーカルなら大丈夫でしょ。あいつ顔に似合わず歌上手いから」

 さっぱり状況が掴めなかった。 
 
 
 
 
 

241 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 14:30:45.25 ID:QB5uku530
(’e’)「いやぁ〜、たまにはそういう青春的なのをさぁ〜」

(;-_-)「か、勝手に名前使ってそういうこと!」

(’e’)「サプラーイズっていうかぁ〜?」

 青あざが引いて久しいジョーンズは、すっとぼけやがった。
 まあ、そのおかげで理由は分かったよ。

(,,゚Д゚)( ・∀・)

 あいつらに目をつけられたんだろ、って。

('A`)「仕方ねーな。ちょっとくらいやってやるよ。引っ込みつかないんだろ?」

( ´∀`)「死ねジョーンズ」

(’e’)「悪かったよぉ〜ww」

 ああ、モナーに同意だ。
 死ね、ジョーンズ。
 
 
 
 


 
244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 14:36:16.69 ID:QB5uku530
 幸いなことに練習スペースはドクオの口利きで確保できた。
 週2で軽音部の隅と、電子ドラム?を借りられた。

 僕は父親のアコースティックギターを多少弾けたし、ジョーンズも何故かエレキギターを持っていた。
 ベース不在でも仕方ないか、とドクオがまとめる横で僕は舌打ちを隠せなかった。

(-_-)「ジョーンズ、ギターはどれくらい?」

(’e’)「これがCだろ? これがD? F、Fは練習中かなぁ〜ww」

( ´∀`)「かっこつけだろ、死ねジョーンズ」

 ここに来てモナーの毒舌が花開いた。
 安寧を破壊せしめんとする対象には容赦ないのが露呈した一瞬だ。

 ドクオだけが安定感抜群に日々をすごした。

('A`)「あと一月と半分だ。やるしかないだろ。曲を決めよう」
 
 
 
 


 
245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 14:40:30.75 ID:QB5uku530
 正直練習なんてしたくなかったよ。
 当日、何か理由をつけて休んでしまえばいいじゃないか。

 と、思った自分が甘かった。

 練習後、吐く息が真っ白な夜のことだ。
 校門を出た僕は、ギコに捕まった。

(,,^Д^)「おう。練習ご苦労じゃねーかww」

 いやに上機嫌な分、こちらのテンションはがた落ちだった。
 ただでさえ、ジョーンズのミスにいらだっていたんだから。

(-_-)「な、なに?」

(,,゚Д゚)「なんだよその声、喧嘩売ってんの?」

(;-_-)「いやっ、そんなこと!」
 
 
 
 

 
246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 14:44:59.81 ID:QB5uku530
(,,^Д^)「お前、今回バンド頑張ってるんだよな?」

 にやついた顔を作って、ギコが訊いた。
 僕は正直なので、答えに窮してしまったんだ。

(;-_-)「いや、それは……」

(,,^Д^)「お前、今回バンド頑張ってるんだよな!?」

 威圧的な声色で、ギコが被せてきた。

(,,゚Д゚)「逃げんなよ」

(-_-)「!」

(,,゚Д゚)「万が一、そんなことになったら三年間たっぷり楽しい目にあわせてやるよ」

 こんな、感じだったよ。
 十二月、歳末脅迫フェアは。
 
 
 
 
 


 
248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 14:52:24.26 ID:QB5uku530
 フォークソング用のギターってのは、あんまり大きな音が出ないんだ。
 マイクで音を拾って、増幅機械を通して、スピーカーから鳴らす。

 この機材を揃えるのに、僕は初めてブルーレイディスク購入を我慢した。
 身を切る想いで化け物語の初回限定版を見逃した。

 その間もジョーンズはミスを連発し、適当な演奏をした。
 最も意外だったのが、モナーのドラムセンスだ。

 というよりは、リズム感か。
 とにかく、派手さはないが堅実に正確なビートを刻んでくれた。

 保身的な人間でも、二通りのあり方があるんだと初めて知ったね。
 口は悪かったけど練習に遅刻はしなかったし。

('A`)「ジョーンズ、また繰り返すところ間違ってるぞ」

(’e’)「短いアレンジっていうかぁ〜? ダメかねぇ?」

( ´∀`)「死ね」

(-_-)「うん」

(’e’)「あ?」
 
 
 
 
 


 
250 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:06:58.15 ID:QB5uku530
 ジョーンズは卑怯を体現してたね。
 僕以外にはにやにやとしてるんだ。

 僕が加害者以外に殺意を抱くのは珍しいことなんだよ。

 同族嫌悪っていうの?
 特に、一番うじうじしてる時の自分を見てるみたいで最悪だ。

 そのくせ、僕に弦の張替えを居丈高に依頼するんだ。

 殺伐とした空気になるのも仕方なかったと思うよ。
 ドクオがまとめ役としていてくれなければ、空中分解してたはずだ。

 バンド名は「ブラックドッグ」。
 僕が皮肉めいた気持ちで提案したら、すんなり通った。

 僕らは飼い犬さ。
 
 
 
 
 


 
252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:12:30.57 ID:QB5uku530
 年が明けて、二週間が経った。
 超低温の寒空、僕ら高校生は登校日を迎えていた。

ギィ

(-_-)(やっぱり誰もいないか)

 雪が降りそうな昼休み、屋上に人影はなかった。
 キンキンに冷え切った大気に、あえて体をさらしたい生徒なんか少ないわけだ。

 バンドをやるからといって、誰かに気をかけられるわけでもない。
 昼食は一人で手早く食べてしまうに限る。

 ギコ達の目を逃れる意味でも、苛立ちを覚えない意味でも。
 マフラーをして軍手をはめれば真冬日も凌げる。

 モナーくらい脂肪があればよかっただろうけど、高望みはしなかったね。

(-_-)(風除け風除け)


「ィッッキシ!! ぶわっ、さむっ!!」
 
 
 
 


 
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:17:12.20 ID:QB5uku530
(-_-)(あ、いるんだ)

 いつもの昇降口の横に、脚立が立っていた。
 あの日と同じに、耳を澄ませばシャカシャカと音が聴こえる。

「ううぅうおお。さ、ィクシュン! おおおお」

 ヘッドホンで難聴になってるに違いない。
 僕はワカッテマスの元へ、無意識に登って行った。

( <●><●>)「だ、だんぼ、暖房」

 いつの間にこいつは燃料ストーブを持ち込んだんだろう。
 というか、毛布まで。

(-_-)「やあ」

 誰だ、という風に首を横に向けるワカッテマス。

( <●><●>)「……ああ」

 僕を確認すると、すぐに彼はストーブ点火に意識を戻した。
 
 
 
 


 
256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:20:53.92 ID:QB5uku530
(( <●><●>))「きゃた、きゃたた、きゃた!!」

 声がすごいデカイ。

(-_-)「ん。うん」

 ずるずると脚立を上げると、いつぞやのブルーシートを被せるように言われた。

(-_-)「これでいい?」

 ストーブの上にテントを張り、毛布に包まったワカッテマスに尋ねる。

(( <●><●>)) コクンコクン

(-_-)「って、ことはそろそろ雪が」

 やっぱり降った。
 
 
 
 
 


 
257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:24:43.32 ID:QB5uku530
 僕は頭にはらはらと落ちる雪を払って、貯水タンクの横で弁当を広げた。
 雨に比べたらこんなもんあってないようなもんだ。

(-_-)(保温弁当箱にすればよかったな)

 早速唐揚げに箸を突き立てたところで、僕の横に毛布のカタマリが現れた。

( <●><●>)「なに、何やってんですか、こっちこっち」

(-_-)「え?」

 いつの間にかヘッドホンを首元に落としたワカッテマスが、僕をストーブの方に招いた。

( <●><●>)「さむっ、寒いから、体温、体温わけてください」

(-_-)「え? え?」

 予想外だった。
 
 


 
260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:28:23.21 ID:QB5uku530
 二十秒後、大判のブルーシートの屋根の下、僕らはホームレスみたいに縮こまっていた。
 なんと気持ちの悪いことに男二人で一枚の毛布にだ。

( <●><●>)「ごごご、げ、限界か」

(-_-)「……」

 どうやらこの気温でも空を睨み続けていたらしい。
 制服越しでも体の冷えが伝わった。

(-_-)(なんだ、馬鹿なんだ)

 そういう結論に落ち着いた。
 彼の手元には、とろけるマンゴー(冷たいの)が握られている。

( <●><●>)「そそ、そそ、そ、そういえいえいえば、ギター」
 
 
 
 
 


 
261 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:32:25.45 ID:QB5uku530
( <●><●>)「しぶっ、渋いですね、アコギの、君の?」

 意味が分からなかった。

( <●><●>)「選曲、選曲が、渋い。うん。渋いです」

 歯をカチカチ鳴らしながら、ワカッテマスは続けた。

( <●><●>)「ナイス」

 それっきり、とろけるマンゴーをすすって彼は黙った。
 僕も黙った。

 雪が強く降り始めて、屋上が白く染まった。
 ストーブが赤々と燃えている。

(*-_-)

 だから僕の顔が熱いのも、その熱のせいだということにしておこう。
 
 
 
 

 
263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:36:38.40 ID:QB5uku530
「2・14 狂犬事件」

 Xデーはやってきた。
 ストレスはいつも時間経過で好き勝手に向かってくる。

 僕の胃はやっぱり絶賛嘔吐準備万端。
 震える指先がびっくりするほどnotユートピアだった。

 それでも馬鹿正直に会場の控え室に行けたのは、ギコの電話があったからだ。
 高校でドクオ達以外に携帯の番号を知っているのはあいつらだけだ。

 ご丁寧に一週間前から電話は鳴り止まなかったね。
 出るとこうだ。

 「休むなよ」

 以上。
 応答はいらないから行動で示せってことだろう。
 
 
 


 
264 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:40:18.28 ID:QB5uku530
 バンドメンバーの面々の紹介をしておこう。

 ボーカル、ドクオ。
 気だるげにイヤホンで曲の最終確認をしている。

 ギター、ジョーンズ。
 青ざめた唇を今にも吐きそうにわなわな震わせている。

 ドラム、モナー。
 頭でリズムを刻みながらきのこの山を食べている。

 僕?

 今朝方一回吐いたのでそれなりに落ち着いてたよ。
 マーライオンは再現しそうではなかったね。

(,,゚Д゚)「おう、お前らにプレゼントだよ」

 訂正、吐き気復活。
 
 
 
 
 

 
265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:45:13.58 ID:QB5uku530
 差し出されたのは、マスクだった。

(,,゚Д゚)「これ着けて登場したらかっこいいべww」

( ・∀・)「天www才wwww」

 前日の奴らの会話が思い出されるよ。

(,,゚Д゚)「お前のはこれなwww」

 僕に渡されたのは、とあるアメリカンコミックのヒーローを再現したものだった。
 バイクが変形して、それを装着したヒーローは犬に似た姿になるんだ。

 それをこいつらが知ってるかは分からない。
 でも、おあつらえ向きに、そのマスクのモデルは「black dog」といった。

(,,゚Д゚)「最後に俺らの前で見せてみろよwwww」

 強制されるがままに、僕らは演奏を開始した。
 
 
 
 
 


 
269 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:54:33.41 ID:QB5uku530
 マスクを着けての演奏は、馴れるまで面倒だった。
 ジョーンズはせっかく特訓(やつなりのだけど)した成果があまり出せていなかった。

(,,゚Д゚)

 なんせほとんど手元をみないで演奏するのなんて、好き好んで練習しないだろ?
 B級映画だって車の目隠し運転する局面なんかないよ。

(,,゚Д゚)

 だが、結果的に僕はむしろ、周りが見えなかったことで安定したプレイを果たすことができた。
 ドクオの声もよく伸びたし、モナーは視野が狭くても大して問題なかったらしい。

(,,゚Д゚)「おい……ゲロ男、ちょっとこっちこい」

 それが、何かギコの気に食わなかったようだった。
 
 
 
 
 

 
270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 15:58:41.31 ID:QB5uku530
 控え室を離れ、僕は学棟の隅に連れて行かれた。

(,,゚Д゚)「手、出せ」

(-_-)「え」

(,,゚Д゚)「おい、早く出せっつってんだよ」

 渋々僕が両手を差し出すと、次の瞬間、思い切り引き倒された。
 そのまま背中に乗られ、耳元で囁かれる。

(,,゚Д゚)「右と左、どっちが潰れると困る?」

 ぞっとした。
 ここまでやるか、と。

(;-_-)「やめ、やめて!」

(,,゚Д゚)「静かにしろよ」
 
 
 
 
 


 
272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:01:55.43 ID:QB5uku530

 抵抗する前に、右手の人差し指が根元から逆に折られた。


 目の奥に、盛大に火花が散った。

 暴れて自分から頭を床にぶつけた。

 そちらの痛みの方がマシだった。

 一度やられてみるといい。

 言葉じゃないもんが走るから。
 
 
 
 
 

 
276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:06:56.15 ID:QB5uku530
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 次は、左手の人差し指だ。
 ギコが片手で手首を、もう片方で爪の先を固定。

 今度は、じっくりと捻られていく。
 わざとだ。

(,,゚Д゚)「なんでお前らまともな演奏してんの? 特にお前」

 ぎりぎりといってくれたらいいんだけど、指だととりあえず痛いだけなんだ。
 限界だ、限界、というところで、ギコは一旦動きを止めた。

(,,゚Д゚)「面白くねーだろ。お前らがヘッタクソなのをやって笑いもんになんなきゃ、やる意味がねー」

「〜〜〜〜〜!!」

(,,゚Д゚)「なぁっ!?」

 ポグリとなって、激痛が左腕にも走った。
 単純計算、倍の苦痛だ。
 
 
 
 
 

 
279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:09:10.18 ID:QB5uku530
 指を折られた僕は、放置された。
 体が冷えて、痛みは余計に酷くなった。

 体力が奪われてどうしようもない。
 死ぬ、死んだ方がマシだ。

 自転車で引きずられた時や、ペニスにタバコを押し付けられた時みたいに。
 惨めだ。

 死ねばいい。
 死にたい。



 と、思ったのは昔のことだ。
 
 
 


 
280 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:11:53.99 ID:QB5uku530
「このままで終われるか……」

 気が付いたら僕は保健室に向かっていた。
 とにかく、ツン先生ならなんとかしてくれるに違いない。

 なんせ彼女はまがいなりにも医者だ。
 指は「手の甲の方に」曲がったまま痛んで動かないが、なんとかしてくれるに違いない。

 なんとかしてくれ。
 あいつらだけは許せない。

 奴らの鼻をあかしてやる。
 絶対に、絶対に許せない。

「暴力がだめでも、僕さえギターが弾ければ……!」
 
 
 
 


 
282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:14:48.81 ID:QB5uku530
 意地だ。
 これだけ手のこんだ、時間をかけたものをぶち壊されて黙ってられない。

 あのニヤけた面を凍りつかせてやる。
 ワカッテマスが褒めてくれたモノを見せ付けてやる。

 悔しいし、痛いし、むかつくし、やっぱり世界人類滅亡しちまえって思ったよ。
 でもまだ僕は死にたくない。

 僕らのステージまで一時間もない。

(メ-_-)「何やってんだ僕は」

 言いながら、依然曲がったままの指で僕は歩く。
 
 
 
 


 
285 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:19:21.45 ID:QB5uku530
 もう子供じゃないんだよ。
 僕だって。

ガラ

(メ-_-)「先生、ツン先生」

 そこには、誰もいなかった。
 だが、ベッドの全てにカーテンが引かれていて、一つのベッドから物音がしていた。

「はいっ!? ちょっと待って!?」

 しゅるしゅると音がして、数分後、カーテンをくぐって先生が現れた。

ξ*゚听)ξ「な、なあに? どうしたの?」

 胸元のボタンがかけ違えられていたのを、追及はしなかった。
 上気した顔を手で扇ぎながら尋ねる先生の視線が、僕の手に留まった。

ξ゚听)ξ「って、その手どうしたの!」
 
 
 
 


 
286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:23:14.51 ID:QB5uku530
( <●><●>)「あ、君は」

 さっきのカーテンの向こうから、もう一人現れた。
 手にひらひらした布を持ったワカッテマスだ。

 痛みで歪んだ僕の視界が確かなら、それは女性モノの黒いパンツだった。
 が、それを気にする余裕はない。

(メ-_-)「動くようにしてください」

ξ;゚听)ξ「馬鹿なこと言わないで! 少なくとも脱臼してるのよ!? 早く病院に!」

(メ-_-)「いいから、なんとか動くようにしてください」

 年上に命令するのは始めてだ。
 しかも先生。

 ヒエラルキー下克上、天上天下。
 脳味噌を訳の分からない単語が並びまくった。

(メ-_-)「あと一時間ないんです」

 
 
 


 
288 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:26:38.57 ID:QB5uku530
( <●><●>)「今日、でしたっけ」

(メ-_-)「うん」

 保健室の鏡をちらりと見たら、僕の目は血走ってた。
 凄い形相だったよ。

 たった数分で思いっきり頬が削げ落ちてた。
 顔なんか真っ白でさ。

( <●><●>)「ふーん……。それ、もしかしてギコが?」

ξ゚听)ξ「あの一年生の?」

(メ-_-)「……それは」

 ここで弱い自分が目を覚ます。
 イジメの事実を肯定することに対する、嫌悪感。

(メ-_-)「なんでもいい、これ、どうにかしてください」

 
 
 


 
290 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:29:52.49 ID:QB5uku530
 両手の人差し指が根元で腫れていた。
 すぐに変色してきて、薄い青紫になっていた。

(メ-_-)「自分じゃ真っ直ぐにもできません。お願いです」

ξ;゚听)ξ「そんなこと言っても」

( <●><●>)「見せて」

(メ-_-)「え」

ポゴ

(メ゚_゚)「―――――ッッ!!」

 片方、骨をはめられただけで絶句した。

ξ#゚听)ξ「馬鹿! 素人が無茶しないで!」

( <●><●>)「もう片方行きますよ」

 

 

293 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:33:59.07 ID:QB5uku530
 細い靭帯っていうか腱?
 ああいうのって、けっこうミキミキなるんだ。

 膝をの靭帯を切ると、程度にもよるけどこんな音がするらしい。
 パキン、みたいな硬質な音。

 それを小規模にして、脱臼をはめなおすと、こんな感じだった。

ペギョ

「〜〜〜〜〜〜!!」

 食いしばった歯の間から血が垂れた。

ξ#゚听)ξ「バカタレ!」

 ツン先生の怒りの形相はすごかったけど、ブラウスの隙間から見えたおっぱいもすごかった。
 まあ、いまだから余裕をもって思い出せるだけだ。

(#)<●><●>)「で、ギター弾けます?」

 先生に頬を張られてもなお、彼は無表情だ。
 
 
 
 

 
296 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:38:27.06 ID:QB5uku530
(メ゚_゚)「ぎ、あぁ、いっ……がん、がんばって、みる」

ξ#゚听)ξ「神経傷付けたらどうするの!」

(#)<●><●>)「ぐー、ぱー」

 言われたとおり指を曲げ伸ばしした。

(メ゚_゚)「ぐ、うう!」

 無理やり指を動かしてみたが、やはり無理だった。
 人差し指だけ、大きなりんごを掴んだぐらいの位置で止まった。

( <●><●>)「無理か」

ξ#゚听)ξ「無理に決まってんでしょ!」

(メ゚_゚)「無理じゃない!」

 僕も頭をはたかれた。
 気合だけじゃなんともならないことを教えられたよ、ありがとう。
 
 
 
 


 
297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:41:35.27 ID:QB5uku530
( <●><●>)「なら、君はここにいてください」

 ワカッテマスは音もなく立ち上がって、保健室を出た。

ξ#゚听)ξ「ちょっ、こらっ! どこいくの!」

「助太刀です」

(メ゚_゚)「ワカ、くん……」

 ここで、僕は目の前に火花を散らしながら、やっぱり後を追った。

(メ゚_゚)「ま、ま……」

 言え、言え、もう少しだ。

 ずっと言えなかった言葉だ。

(メ゚_゚)「待って! 僕も行く!」

 やっと、だ。

( <●><●>)「……タフですね」
 
 
 
 
 

 
300 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 16:49:56.32 ID:QB5uku530
 控え室では青白さを増したジョーンズが待ち構えていた。

(’e’)「なっ、なにやってんだよ! もう出番すぐだぞ!」

 それだけ言って、ジョーンズはステージに向かった。
 どうせ僕がどうされたか知ってたクセに、どこまでも薄情な奴だ。

(メ゚_゚)「わかってる、わかってるよ」

 床に落ちた僕のマスクを拾って、ギターに向かう。
 限界はどこだろう。

 人差し指を使わないでコードを押さえられるだろうか。
 いや、待てよ、コード進行覚えてたっけ?

 ふらふらと歩いていると、僕の手からマスクが奪われた。

(メ゚_゚)「え?」

 ――ライブが始まる。



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