( ^ω^)「ブラッドソード!」


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:18:49.22 ID:/6T3eYYd0


Cap.2伝説を抱いて眠る揺籃
──────────────────────────────

( ^ω^)「…」


東の空がやがて白く染まりはじめて、夜が明けてゆく。
心の準備は整っている。
召使いが迎えにきたが、客がすっかり起きているのに驚いた様子だった。


||‘‐‘||レ「出発前に御主人様がありがたいお言葉をかけてくださいます」


裾がふくらんだスカートのうしろにフライパンとおたまを隠して召使いは告げた。
あれを使って起こされなかっただけでも早起きの価値はあった。

謁見はバラザールの寝室で行われた。


( ФωФ)「むに…うん、あれだ、がんばってね」

( ^ω^)「…」


領主様は朝が弱い御様子だった。
召使いが、男に宝石をひとつあしらったピアスを渡す。

 
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:20:55.47 ID:/6T3eYYd0

( ^ω^)「?」

||‘‐‘||レ「これを身に付けていれば、地下迷宮のどこにいてもこちらで追跡できます」

||‘‐‘||レ「じゃなかった、いつでも魔法の力や助言によって手助けできます」

||‘‐‘||レ「念のためにちょっと試しておきますね」

||‘‐‘||レ『スネーク、聞こえるかスネーク!』

( ^ω^)「いやまだ目の前にいるからね」


バラザールに別れを告げて、館を出発する。
表通りは競技の開幕を一目見ようとする人達であふれ返っていた。
歩を進め、選手達の行進に加わろうとすると、そこへ一台のカーテンを降ろした馬車がやってきた。
窓を細く開けて、そこから二つ青白い顔が覗く。
マグス・ヴァイルとその兄だ。


( ´_ゝ`)「べ、別に心配で見送りにきたんじゃないんだからねっ」

(´<_` )「貴様は、運に恵まれたとはいえ仮にも我々を打ち負かしたのだ。無事に戻ってこなければ許さんぞ」


男はマグスの祝福に深い一礼で応えて、行進の列に加わった。

 
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:23:02.59 ID:/6T3eYYd0

町の門のそばを通るとき、朝日にきらめく二本の刀を手にした背の高い男が列に加わった。


( ・∀・)「…」


冷たい目と張りつめた緊張感を漂わせた様子は周囲を威圧してその者の存在を際立たせていた。


( ФωФ)『あれは、神を恐れぬと異名をもつ魔法剣士イコンだ。マグス・ウルに雇われたと聞く』


耳元から声がする。


( ^ω^)「お目覚めかね、マグス」

( ФωФ)『うむ、いまカフェオレを飲みながら、召使いの膝枕で耳掃除をされながら話している』

( ^ω^)「器用だな。というかそんな報告は別に聞きたくもないが」

 
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:26:05.52 ID:/6T3eYYd0

ピアスを付けた耳元から聞こえてくる声にいちいちイライラしながら、男は歩みを進める。
さらに進むと、大きな戦斧を振り回す毛むくじゃらのバーバリアンの一行が加わった。


( ФωФ)『彼奴らはマグス・トールに雇われた者共だ。雇い主同様にゴリ押ししかできぬような連中だ。そなたなら容易に出し抜くことができるだろう。そう信じてる』

( ^ω^)「妙なフラグというか、今後の難易度が上がるような発言はひかえてくれるかな」


一行は町を過ぎてツンドラの中を進む。
やがて丘の中腹に大きく口を開ける洞窟にたどり着く。
そこから入るよう指示された。

バラザールの真紅のペナントを手にしてダンジョンに踏み込む。

選手達がすべて入るのを見届けて、衛兵達は重い金属の扉を閉ざした。
地上の光が細くなり、そして迷宮は扉の閉ざされる大きな音とともに外界から隔絶された。

さあ、生涯最大の冒険がはじまった!

 
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:29:27.16 ID:/6T3eYYd0

*    *    *    *


キャラクターノート:

( ^ω^)

クラス/盗賊ランク6
性格/抜け目ない
筋力/そこそこ
機転/きくほう
根気/なし
集中力/それなり
耐久力/ちょっと疲れぎみ

所持品/
狩猟鞭
投擲用ナイフx2
煙草
輝く多面体
復活の首飾り
||‘‐‘||レの手作りおべんとう


*    *    *    *

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:32:17.36 ID:/6T3eYYd0

他の戦士達が次々とダンジョンの奥へ進んでいく中、男は部屋の一隅に何気なく奥まった空間があるのに気付いた。
調べると意外に奥行きがあって、その先は松明の明かりできらめくモザイク模様のタイルが敷き詰められた通路が続いている。

足を踏み入れてみると、モザイクのまぶしい輝きで一瞬だけ目が眩む。
部屋全体がグルグル回っているような感覚におそわれる中で、転送の魔法にかけられたことに気付いた。

目眩がおさまるとそこは、みずみずしい植物と宝石が入り交じった美しい庭園の中だった。
清涼な音をたててたたずむ噴水のほとりに、淡い緑色のドレスを身に付けた少女が腰掛けていた。


( ^ω^)「失礼、無断で立ち入るつもりはなかったのだが」

 
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:35:08.79 ID:/6T3eYYd0

男は内心戸惑いつつも、態度だけは堂々と少女に声をかけた。
こういったものに気の弱さをさらすのは危険なことだ。
ここはダンジョンの中であり、害の無いふつうの少女はこんなところには居ないものだ。

すると男の頭のなかに、音楽のように美しい声が響き渡った。


lw´‐ _‐ノv『べつに』


声は美しいが言ってることは素っ気なかった。
そして目の前の少女はやはり人外のものに違いなかった。
この声の主は、ひとつも口を動かしていない。


lw´‐ _‐ノv『ここは私の庭。そして私は贈り物の精霊』

lw´‐ _‐ノv『この庭に来た以上、ただで帰すわけにはいかない』

( ^ω^)ゴクリ、

 
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:37:32.09 ID:/6T3eYYd0

少女は湧き立つ噴水のなかに片手を入れて、銀色に輝く短剣を取り出した。


lw´‐ _‐ノv『これは盗賊王ビスレットの、魔法の短剣』


つづけてもう片方の手で、大きな緑の宝石を取り出した。


lw´‐ _‐ノv『これは偉大なドラゴンロード、アスタランドルの最期のブレスを閉じ込めた宝珠』

lw´‐ _‐ノv『どっちが欲しい?』

( ^ω^)「命だけは助けてください」



lw´‐ _‐ノv『えっ』

( ^ω^)「えっ」

 
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:39:47.37 ID:/6T3eYYd0

ビスレットは全世界に名を轟かせた盗賊の中の盗賊。英雄だ。
男は躊躇なく短剣が欲しいと告げた。
少女は、ほっそりした手を男に差し伸べて贈り物を渡した。

男が礼を言おうとすると少女はそれをさえぎる。


lw´‐ _‐ノv『それには及ばない。仕事だから』

lw´‐ _‐ノv『ここに座って、来たやつ全員に贈り物するのが私の仕事だから』

( ^ω^)「美しい娘さんがこんな所に閉じこもっているのも、もったいない話だが」

lw´‐ _‐ノv『!』

lw´‐ _‐ノv『こっちの宝珠も持ってく?』

lw´‐ _‐ノv『あとお昼ごはんのおにぎり。焼きタラコ』

( ^ω^)「人様のごはんまで頂くのはさすがに気が引けるお」


 
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:41:57.16 ID:/6T3eYYd0

lw´‐ _‐ノv『冷静に考えたら、ごはんをあげたら後でちょっと困る。晩ごはんまでの空腹に耐えられない』

lw´‐ _‐ノv『…』

lw´‐ _‐ノv『手にぎるくらいならしていいよ?』


拒否する理由はひとつもないので、好意で差し出されたものはすべて受け取った。
少女の手はほっそりして柔らかかった。


lw´‐ _‐ノv『ビスレットの短剣は投擲用。そのうえ投げたら手元に戻ってくる。トマホークブーメランみたいな感じで』

lw´‐ _‐ノv『宝石は強力な呪文でドラゴンロードのブレスを封印してる。もし封印を解いたら、とんでもないのが出てくる。要注意』


少女はそれぞれについて注意すべき点を告げる。
そして噴水の傍らから立ち上がり、もういちど男に手を差し伸べた。


lw´‐ _‐ノv『さ、そろそろマグス達の迷路に戻るのがいいと思うよ』

lw´‐ _‐ノv『こうしてる間に結構時間経ってるから。浦島太郎的な感じで』

( ^ω^)「大変!」

 
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:43:47.98 ID:/6T3eYYd0

色と音が入り乱れて、辺りの景色がグルグルと回り始めた。
宙に浮くような感覚に包まれるなかで、男は最後に少女の声を聞いた気がした。


lw´‐ _‐ノv『だいじょうぶ、あなたは死なないわ』

lw´‐ _‐ノv『私がある程度までなら守るから』


心強いのかどうなのかよく分からないモヤモヤした気持ちのまま、しばらく宙に浮いた感覚が続いていたが、やがて気が付くと男は元の部屋にいた。


*    *    *    *


イベント:秘密の部屋と贈り物の精霊

lw´‐ _‐ノvの好感度が上昇(経験値120)

入手アイテム/
ビスレットの短剣(投擲用)
竜王の吐息の宝珠


*    *    *    *


 
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:45:45.65 ID:/6T3eYYd0

気が付けば、しきりに耳元から声が聞こえていた。


||‘‐‘||レ『スネーク!返事をしてスネーク!!』

( ^ω^)「うるさいなもう、何だお」

||‘‐‘||レ『あ!やっとつながった!迷宮に入った途端に連絡がつかなくなるなんて、今まで何してたんですか!?』


男は秘密の部屋での顛末を説明しながら、赤い絨毯を敷きつめた廊下の先へ、迷宮を進んでゆく。
通廊は北の方角へ向かっているようだった。
一面続く壁には金縁の鏡がならび、松明をかかげて進む男の様子が映りこんでいる。
絨毯のおかげで足音は立たないが、長い年月のあいだに積もった埃が舞い上がっていた。


||‘‐‘||レ『贈り物の精霊ですか。そんなものがあの迷宮に居るとは初耳ですが…、まあ得したと思っておけばそれはそれで?』

( ^ω^)「いま適当にあしらわれた感がすごいけど。いいのかそれで」


 
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:47:54.41 ID:/6T3eYYd0

耳元がにぎやかなおかげで不慣れな迷宮にも不安を感じずにいられるのはありがたかった。
通廊の先は大きなブロンズの扉で終わっていた。
男は足をとめて、ナビゲーターに指示を問う。


||‘‐‘||レ『では次の間に入っちゃってください。鏡を気にしてたらかえって大変なことになります』

( ^ω^)「大変なのは御免被りたいところだ」


中は細長い広間になっていた。
足を踏み入れた途端、強烈な香りが鼻孔をくすぐる。
見ると天井から東洋風の巨大な香炉が下がって揺れていた。


||‘‐‘||レ『えっ、待ってください、香が焚かれてるんですか?』

||‘‐‘||レ『あちゃー』

 
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:49:52.75 ID:/6T3eYYd0

( ^ω^)「えっ、何?何なの?すごい気になるんだけど。本当に入ってよかったの?」

||‘‐‘||レ『前に入った人が召還しちゃったみたいです。おつかれさまでした』

( ^ω^)「何なの!?召還とか何なの!?さっきからすっごい不安になるニュアンスばっかりだけど!?」


そのとき香炉の石炭の暗い明かりで照らされた広間の床に、形容のしようのない奇怪な影が延びてくるのが見えた。
それは人の形をしているような気がするのだが、どう考えても腕が四本あるように見える。
影はさらに近付いてくる。

そしてついにそれは広間の向こうに狂気じみた姿をあらわした…!


 
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:52:13.55 ID:/6T3eYYd0

||‘‐‘||レ『そこはネビュラロンの祭壇の広間です』

||‘‐‘||レ『ネビュラロンはクラースの神話に出てく悪魔の一人で、真っ黒な体で青く光る目をしています。あと、手が四本あります』

||‘‐‘||レ『言い伝えでは魔法を刈り取る悪魔といわれていて、ありとあらゆる魔法を無効化しちゃう困った存在です』


耳元で言うその言葉通りのものが、目の前にあらわれていた。
夜から染み出したような姿の四つの腕を持つものは、喉を震わせて恐るべき声を放った。


「ここは命と魔法を刈り取るネビュラロンの広間だ…!」


奇っ怪な化け物が人語を口にしたことは、その場に立ち合う者をかえって冷静にさせた。
人語を解するということはつけ込む隙があるということだ。


( ^ω^)「…」

( ^ω^)「何ということだお。そんなとんでもない悪魔が相手では手も足も出ないお」

( ^ω^)「冒険がここで終わるのも仕方がない。だがひとつ心残りがある」


 
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:54:11.78 ID:/6T3eYYd0

( ^ω^)「ここに…強力な魔法で封印された宝珠がある」

( ^ω^)「封印を解くことができないままでは死んでも死にきれるものではない」

( ^ω^)「冥土の土産に、得意の無効化とやらでひとつこれの封印をといてみせてくれないかね」


化け物ネビュラロンは話を聞くと、興味深そうに男の手の緑色の宝石を取り上げた。
小首をかしげて宝石をのぞき込む。
石の中で、小さな光がゆらめいて弾けそうになるのが見えた。

それをみると男は脱兎のごとく駆けて広間を出るとブロンズの扉を全力で閉めた。

閉めた扉の隙間から目もくらむような閃光がほとばしる。
次の瞬間おそってきた熱気と衝撃波は、あまりのことに目の前が真っ暗になるほどのものだった。
解き放たれたドラゴンロードのブレスが火山の噴火のように爆発を起こしたのだった。
それは悪魔の断末魔の叫びをかき消してしまうほどの凄まじさだった。


( ^ω^)「気に入ったかどうか今となっては知る術もないが」

( ^ω^)「せめて冥土の土産に持って行くがいい」

||‘‐‘;||レ『ここにも悪魔がいた!この人怖い!』

 
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:55:59.39 ID:/6T3eYYd0

たちこめる熱気がおさまるのを待ち、物陰から出てきて広間を見回す。
部屋は壁も天井も無惨な様子に大きくえぐれていた。
崩れて閉じ込められる前に、この部屋を出たほうがいいだろう。

クラースの伝説の悪魔を滅ぼすという大手柄をあげたわけだが、勝利の紋章を手にするという目的には残念ながら何の関係もなかった。


*    *    *    *


イベント:悪魔のささやきに耳を貸すな

ネビュラロン討伐(経験値500)

入手アイテム/
なし
強いて言えばちょっと疲れたくらい


*    *    *    *


 
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:57:07.39 ID:/6T3eYYd0

広間の反対側の扉を出るとその先は広い回廊になっていた。
さらに進んで行くとふたたび広間に出る。
広間の中央には壁面に並ぶ松明の明かりで黄金色にかがやくプールがあった。


( ^ω^)「…」


のんきに水浴びをする気にもなれないので素通りして広間を抜ける。
その先は大理石の廊下だった。
つきあたりにはブロンズの扉があり、鍵がしっかり掛けられていた。
さらに左右に廊下は延びている。

左は、しばらく行くと扉があり、それは開いていた。
中を覗くとオレンジ色の大理石の祭壇があり、その上に何か黒いものがじっと横たわっていた。


( ^ω^)「祭壇だお」

||‘‐‘||レ『祭壇ですね』

( ^ω^)「どうせ関わるとロクな事にならない気がするお」

||‘‐‘||レ『また都合よく生け贄も供えられてるみたいですしね』


 
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 21:58:53.66 ID:/6T3eYYd0

きた道を戻り、今度は右の廊下を進む。
その先は曲がりくねったトンネルになっていて、やがて自然の岩肌がむき出しとなった洞穴に出た。
足元から続く砂利の岸辺に、陽の当たらない黒い波が打ちつけている。


||‘‐‘||レ『地底湖に出たみたいですね、順調に進んでるみたいです』


おびただしい数の鍾乳石が生える地底湖のほとりには、墓のように石を積み上げた山がいくつもある。
おそらくそれはここでに命を落とした者達の墓なのだろう。

不自然な大きさの氷の塊もある。
向こうには簡素な祭壇があり、儀式の火が燃えていた。
入ってきたのとは別の大きなトンネルがあり、さらに先へと続いていた。


||‘‐‘||レ『あっ!』

( ^ω^)「どうしたお」

||‘‐‘||レ『お昼ごはんの時間なので!わたしはこれで!』

( ^ω^)「…」

 
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:00:57.06 ID:/6T3eYYd0

魔法のピアスの向こうからパタパタと走り去る音が聞こえて、物音がしなくなる。
あとには地下世界の果てしない沈黙があるだけだった。

出口に向かって氷の塊に近付いたとき、それの中に誰か閉じ込められていることに気付いた。


( ^ω^)「これは確か…」

( ^ω^)「神を恐れぬイコン…だったか」


それは早朝の出立のときに見かけた魔法剣士だった。
塊は削られた痕跡があって、籠手をつけた両手がはみ出していた。
誰かが武器を盗んでいった後だろうか。


( ^ω^)「調子にのってそんなこと言ってるとえらい目に遭うという、いい教訓か」


祭壇は、調べてみると豊穣の女神フレイヤを祀ったものだった。
となりでお弁当をひろげても罰を当てたりしないだろうと判断して、男は篝火のそばに腰を落ち着けた。

出発前にマグスの召使いが渡してくれた食事の包みをひろげる。
男は玉子焼きを一切れ祭壇にお供えして、自分も箸をつけた。

 
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:02:43.21 ID:/6T3eYYd0

( ^ω^)モグ、

( ・∀・)「あの」

( ^ω^)

( ・∀・)「おいしそうですね」

( ^ω^)ゴックン

( ^ω^)「しゃべれるんだ」

( ・∀・)「氷漬けになってるだけですから」


氷の中の男はよほど退屈しているらしかった。
聞いてもないのに今に至る自分の冒険を語りはじめた。
聞き手はおべんとうを食べ続けた。


 
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:04:28.68 ID:/6T3eYYd0

( ・∀・)「何かネビュラロンって名前の悪魔を呼び出しちゃって、逃げてたらこんな所に迷い込んで」

( ・∀・)「走ってお腹が空いたからお供えの果物を食べたら、足元からカチカチって固まって」

( ・∀・)「動けないでいるのをいいことに、通りかかったバーバリアン達に武器を持って行かれて」

( ・∀・)「そうかと思ったら、今度来た人はなんか目の前でおいしそうにごはん食べはじめるし」

( ・∀・)「お腹も空いたし、心細いし、もう泣きそうです」

( ^ω^)「いろいろあったのは分かったが、たぶん全部罰が当たったんだよ」


話は一段落したようだった。
聞き役に徹していた男はひとつ大きく煙をはきだして、食後の一服につけた煙草をもみ消した。

 
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:06:15.85 ID:/6T3eYYd0

( ^ω^)「じゃ、これで失礼するお」

( ・∀・)「あ、待って、僕を助けていくのを忘れてますよ」

( ^ω^)「正直あまり気が進まないうえに、助けるといってもどうすれば」

( ・∀・)「お供えを食べてこうなったから、何か代わりにお供えすればいいんじゃないかなと思うんですが」

( ^ω^)「…」

( ^ω^)「それならさっき玉子焼きを」


するとパリーン!と音を立てて塊の氷が砕けた。
男は、すこし前の自分の行動を後悔した。
やはり不用意に祭壇とかそういうのに関わるとロクな事が起きない。

 
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:07:09.91 ID:/6T3eYYd0

( ^ω^)「じゃ、これで失礼するお」

( ・∀・)「あ、待って、僕を助けていくのを忘れてますよ」

( ^ω^)「正直あまり気が進まないうえに、助けるといってもどうすれば」

( ・∀・)「お供えを食べてこうなったから、何か代わりにお供えすればいいんじゃないかなと思うんですが」

( ^ω^)「…」

( ^ω^)「それならさっき玉子焼きを」


するとパリーン!と音を立てて塊の氷が砕けた。
男は、すこし前の自分の行動を後悔した。
やはり不用意に祭壇とかそういうのに関わるとロクな事が起きない。

 
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:09:15.89 ID:/6T3eYYd0

( ・∀・)「!」

( ・∀・)「フハハハ!動けるぞ!自由になったぞ!」

( ・∀・)「ずいぶん好き勝手にしてくれたな、まずは貴様から血祭りにあげてやろうか!」


神を恐れぬイコンは邪悪な笑みを満面にうかべて、男の方を向く。
男は銀色に輝く短刀をいつでも投げられるように狙いを定めていた。
イコンは丸腰だった。
自分でも話していたが、彼の武器は通りすがりのバーバリアンに奪われている。


( ・∀・)「修羅場をいくつもくぐり抜けてきた戦士の勘が告げている。一歩でも動くと確実にナイフが刺さる!」

( ・∀・)「そしてビックリするくらい確実に死ぬ!」

( ^ω^)「勘もまさかそんな不本意な使われ方してビックリしてると思うよ」

( ・∀・)「今日のところは見逃してやろう!命拾いしたな!」

( ・∀・)「…」

( ・∀・)「見逃してください。お願いです」

 
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:10:44.84 ID:/6T3eYYd0

*    *    *    *


キャラクターノート:

( ・∀・)

クラス/魔法剣士ランク5
性格/計算高いバカ
筋力/あるほう
機転/人並み
根気/ない
集中力/ない
耐久力/じょうぶ

魔法/
眠りの雲
報復の炎
緊急脱出

所持品/
おさいふ(金貨8枚)
安全祈願のお守り


*    *    *    *


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:14:47.66 ID:/6T3eYYd0

来たのとは別のトンネルを、先に見える明かり目指して進む。
目印としてきたそれにたどり着いてみると、明るく輝いていたものは床に置かれたランタンだった。


( ^ω^)「…」


道はそこで二手に分かれている。
とるべき行動についてしばし思案する。


( ・∀・)「先生先生、どっち行く?」


連れが男に訊く。
問題はそういうことではない。
男はランタンの火を静かに吹き消した。


( ・∀・)「あ!消したら暗くなっちゃうよ!真っ暗だよ!」

( ^ω^)「シッ!」

 
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:16:25.40 ID:/6T3eYYd0


 オイ相棒、向こうに誰かいるぞ?話し声が聞こえたぞ?

 マジで?おまえ耳いいな!ホレちゃいそうだぜ!



男は急いで連れの口をふさいだが、どうやらランタンの持ち主に感付かれてしまったようだ。
声は左の方向から聞こえた。
鎧をガチガチいわせて走る物音が近付いてくる。
急いで右の通路へと逃げ込む。



 ところで相棒、どうだい氷漬けのマヌケから分捕ったカタナの切れ味は

 すごいよ!岩が豆腐みたいにスパスパ切れちゃうよ!



追いかけてくるのはバーバリアン達のようだった。
話し声と足音から察すると人数は二人。
振り返ると、薄暗がりのなかに確かに二人の毛むくじゃらのバーバリアンの姿が見えた。

向こうも逃げる者たちの姿を見つけたようで、雄叫びをあげて突進してきた。

 
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:17:55.70 ID:/6T3eYYd0

( ・∀・)「あっ!こいつら、僕から刀盗んでった泥棒!」

( ・∀・)「ちゃんと謝ったうえで返さないと許さないぞ!」


連れが足を止めてしまったので、仕方なく男も立ち止まる。
仕方ない理由は他にもあって、そこは通路が行き止まりとなった袋小路だった。
奥の壁際には一対の戦士の彫像が、片方は宝飾の施された剣を持ち、また片方は槍を携えて立っていた。


( ^ω^)「…!」


男は一瞬だけ罠の存在を気にしたが、思い切って左の彫像から剣を抜くと、連れに投げて渡した。


( ^ω^)「魔法剣士の名が、ただの飾りでないところを見せてもらおうか」

( ・∀・)「!」

( ・∀・)パアァ!

( ・∀・)「なんかすごい剣きた!先生だいすき!」

 
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:20:02.77 ID:/6T3eYYd0



振り向くと、バーバリアン達が袋小路の入り口をふさいで立つのが見えた。
後ろは壁。
追いつめられた形ではあるが、なぜか余裕たっぷりに魔法剣士は相対した敵に見栄を切った。


( ・∀・)「フハハハ!まんまと誘い出されおって!」

( ・∀・)「この神を恐れぬイコンが、貴様等ごときに遅れをとると思ったのか!?」

( ^ω^)「…」


何にせよ、バーバリアン達との死闘がはじまった!


 
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:25:24.84 ID:/6T3eYYd0

予想を裏切って、魔法剣士は意外と強かった。
二人のバーバリアンを相手にして一歩も引けをとらずに渡り合っている。


( ・∀・)「どうした!威勢がいいのは図体だけか!」


両手持ちの剣を振りかぶり、片方に斬りかかる。
これみよがしな攻撃は鉄製の丸盾に遮られるが、強引に力で押し勝って、大柄な相手をなぎ倒した。

そこへもう一人が横から切りかかるが、魔法剣士は危なげなく身をひるがえして避ける。
隙のできた相手の横っ腹に剣の柄で一撃を叩き込み、怯んだところへ容赦なく追撃を加える。


( ^ω^)「…」


あちらは放っておいてもよさそうなので、男はこの間に部屋の様子を観察することにした。


 
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:27:27.31 ID:/6T3eYYd0
二叉に別れた通路の反対側からバーバリアン達はこちらに来た。
ということは向こう側からは先へ進めなかったということだ。
するとこの行き止まりに何らかの仕掛けがあると考えるのが妥当だろう。


( ^ω^)「…」


あやしげなものといえば、と男は戦士の彫像の前に立つ。

剣を取ったが何も起きなかった。
では槍を取ったらどうなるだろうか。


( ^ω^)ゴトッ、

( ^ω^)

( ^ω^)「…!!」


変化はすぐに現れた。
通路の床に、突如として真っ黒な穴が口を開けた。


 
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:30:09.72 ID:/6T3eYYd0

(; ・∀・)「わあ!?危ない!ビックリした!!」

ドンッ、

「あっ」

「あ!相棒!?相棒ーっ!!」


とっさに飛び退いた魔法剣士にぶつかって、バーバリアンの片方が穴に飲み込まれた。

全員あつまって穴をのぞき込む。
そこにはもはや物音ひとつない黒い開口部があるばかりだった。
底も知れず光も届かない暗闇が広がっていた。
耳をすましてみても何も聞こえない。

 
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:32:30.26 ID:/6T3eYYd0

「そんな…、何てことだ…」

「あいつは…あいつは、許嫁の弟なんだ。あんなだから誤解されるが、本当はいい奴なんだ」

「この仕事がおわって国に帰ったら俺は結婚するんだ」

「俺は…俺はどんな顔をしてあいつの姉に会えばいい」

「まさかこんな…!」

( ^ω^)「…」


男は巨漢のバーバリアンの肩にそっと手を置いた。


( ^ω^)「…追うかね?」

「…!!」


バーバリアンは瞳に決意の色を宿らせて、その言葉に頷いた。

( ^ω^)「…ならば行くがいい」

( ^ω^)「競技の敵同士とはいえ我々も血の通った人間だ。仲間を欠いた貴様を斬るような卑怯な真似はしないと約束しよう」

「心遣いに感謝する!最終戦の場でまた会おう!」


力強い言葉をのこすとバーバリアンは開口部に身をおどらせた。
すぐにその姿は見えなくなる。

男は槍をそっと元の像に戻した。
穴は消えて元の石造りの通路になった。


( ^ω^)「次に会うのは地獄になるだろうが」



 
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:35:08.00 ID:/6T3eYYd0

*    *    *    *


イベント:悪魔のささやき、ふたたび

トラップをうまく使ってバーバリアンを退治(経験値200)

入手アイテム/
宝剣フレイムタン


*    *    *    *

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:39:03.19 ID:/6T3eYYd0

( ^ω^)「さて」

( ^ω^)「武器が片方だと何も起きない。両方取ると穴が開く。ここまでは分かった」


危険が取り除かれたことに胸をなで下ろして、男はあらためて周囲をみた。


( ^ω^)「宝物も与えて、先にも進めて、と虫の良い話があるはずもない。おそらく片方、もしくは両方置いていくのが正解だろう」

( ^ω^)「だが元に戻してもただの行き止まりであるのに変わりない」

( ^ω^)「…」


男は右の彫像の槍と、魔法剣士の持つ剣を見比べる。
それほど悩まずに結論が出た。


( ^ω^)「剣と槍では重さが違う…」

( ・∀・)「…」

( ^ω^)「槍を左の像へ。そして剣を右の像へ持たせてみると」


 
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:40:43.47 ID:/6T3eYYd0

剣士にそのようにさせて、次に男も槍を左の彫像に持たせた。
すると行き止まりだった壁に奥行きのある空間ができた。
それを見ると男は通路の反対側に全力で槍を投げた。
槍は重い音をたてて入り口の方まで滑っていった。


( ^ω^)「…」

( ・∀・)「…」


二人の男は無言で向き合った。
最初に口を開いたのは剣士の方だった。


( ・∀・)「ちょっとの付き合いしかないけど、あなた性格悪いですね」

( ^ω^)「そのおかげで今まで生き延びてこれたのだ。褒め言葉として受け取らせてもらう」

 
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:43:42.16 ID:/6T3eYYd0

( ・∀・)「ほんのちょっとだけなら、そちらに協力してもいいかなって思ってたんですよ」

( ^ω^)「…」


男は出口へ足を進めた。
もう一人はその場から動こうとしなかった。


( ^ω^)「ではこちらは一足先に行かせてもらうとするお」


通路の先は、見覚えのあるモザイク模様のタイルが敷き詰められた床だった。
足を踏み出すと模様がチカチカと輝きはじめた。
目眩に似た感覚に包まれる。
男は転送の魔法の渦巻く流れに体をまかせた。


 
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:45:20.90 ID:/6T3eYYd0

*    *    *    *


( ^ω^)「…」


体に確かな感覚が戻ったのを感じて、男は目を開けた。
今回はエメラルドの少女はいなかった。

そこはむき出しの自然岩に囲まれた階段の踊り場だった。
階段は遙かに下へ続いていて、その先からは息が詰まるような熱風が吹き上げてきた。

降りていくとまもなく岩棚に出た。
そこから辺りの様子を眺めることができた。


( ^ω^)「…」


男が立っていた場所は巨大な地下洞窟の壁からバルコニーのように突き出した岩棚だった。
洞窟は、奥行きがざっと見渡しても2キロメートルはある。
天井までの高さは場所によっては100メートル以上ありそうだ。

 
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:47:39.11 ID:/6T3eYYd0

眼下に目を移すと火山の巨大な火口が見えた。
あちこちの裂け目から溶岩の赤黒い光が覗いていて、洞窟の内部を照らしている。

この世のものとは思えないパノラマが広がっていた。


( ^ω^)「クラースの北…、カルーゲン砦の地下には地底火山に通じた秘密の回廊があると聞くが」


おそらくこれがそうなのだろうか、と男は声に出してつぶやいた。
悪魔のような鉄の精神を持つ者であっても、これだけの自然の驚異的な光景の前に放り出されては、畏敬の念を抱かずにはいられなかった

岩天井のあちこちの裂け目からしたたり落ちる地下水が集まり激流となって、今いる岩棚のすぐ下を流れている。
下の踊り場から橋が二つ、流れの渦巻く谷間の向こうにのびていた。

 
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:49:10.41 ID:/6T3eYYd0

橋はどちらも、対岸に建つ神殿のような建物のテラスに続いている。
渡るにはどちらかの橋を行くしかない。
一方は何の苦もなく渡れそうな普通の橋だ。
だがもう一方を渡ろうと思ったら、まず岩の天井から噴き出す滝を潜り抜けなければ橋までたどり着けない。


( ^ω^)「…」


これまでのことを考えて、おそらく一筋縄ではいかないだろうと思案していると、地面に巨大な顔があらわれて地響きのような声でこう告げた。


『最も恐れるものに立ち向かえ!もしくは全然怖くないものと対決せよ!』


( ^ω^)「…?」

( ^ω^)「どういう…?いや、うーん」


とにかくこのタイミングで言われたからには橋に関してのヒントなのだろうと思い、二つの橋を見る。
先ほども見たとおり、手前の橋は何の苦労もなしに渡れそうに見える。
ここまでくるとその普通さ加減さえ悪意に思えてくる。

 
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:51:37.17 ID:/6T3eYYd0

男は滝の下をくぐっていくことに決めた。


( ^ω^)「えい!」

( ^ω^)ザバッ、

( ^ω^)ザハザバ、

( ^ω^)「…?」


思い切って飛び込んだものの、水浸しになった以外は何事もなく橋の上に進むことができて、男はいささか拍子抜けする。
そのとき橋の向こうからも、誰か若い女がやってくるのが見えた。


川 ゚ -゚)「やあやあ、すまないな。おまたせ」


女は近付いてきながら言った。


川 ゚ -゚)「さっそくだが、ここが貴様の墓場だ」


 
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:53:27.28 ID:/6T3eYYd0

川 ゚ -゚)「てやー」


女は両手で抱えた花瓶をふりあげて襲いかかってきた。
トテトテ、といった感じで男の手前まできたところで足をもつれさせて勝手に橋から落ちそうになる。
だがなんとか持ちこたえて、ぺたりと橋の上に座り込んだ。


川 ゚ -゚)「…ふう、あぶないあぶない」

川 ゚ -゚)「まったくもう、落ちたらどうしてくれるんだ。気を付けたまえ君ィ」

( ^ω^)「なるほど、確かに全然こわくない」


向こう側へ渡ろうと男が歩いてゆくと、女を通り越したところでまた声をかけられた。


川 ゚ -゚)「待て」

川 ゚ -゚)「さっきも言ったが素通りできるとは思わないことだ」

( ^ω^)「まだ何か」

川 ゚ -゚)「あのね腰が抜けて」


 
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:55:29.85 ID:/6T3eYYd0

橋を渡り、神殿のテラスに着いた。
ちょうどよい感じに小綺麗な一隅を見つけたので、男は背中に担いでいた女をそこへちょっこりと置いた。


川 ゚ -゚)「ふむ、あらためて言わせてもらうが」

川 ゚ -゚)「ようこそ我が城へ!」

( ^ω^)「さっきと言ってること違うけど」



川 ゚ -゚)「正確には、我が城だった…と言うべきかな。ふふっ」

川 ゚ -゚)「あの化け物が住み着いてからぁー、わしらの暮らしもー、とんと苦しくなってのうー」

川 ゚ -゚)「やつは毎日山から降りてきてー、村中の甘いものを食べていきよるー」

川 ゚ -゚)「おじいちゃんおじいちゃん!ボクお腹がすいたよう(裏声)」



( ^ω^)「甘いものがないならパンでも食べれば。では失礼するお」

川 ゚ -゚)「待って。ふざけないでちゃんと話すから待って」

 
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 22:57:08.04 ID:/6T3eYYd0

女は「エキドナが神殿に住み着いて困っている」と、ぶっちゃけた話をした。


( ^ω^)「エキドナというと、神話の…半人半蛇の?」

川 ゚ -゚)「そう、人心を惑わす魔法をあやつる恐ろしい魔女だが、好きなものはポッキーで趣味はネイルアートという意外と可愛らしい一面も持つ」

( ^ω^)「それは本当にエキドナなのかね。人間の見間違いじゃないのかね」


川 ゚ -゚)「で、誰か腕の立つ者に頼んで退治してもらおうと、ああやって夜な夜な橋のところで客引k…じゃなくてスカウトを」

( ^ω^)「あれスカウトだったんだ」

 
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/19(金) 23:00:00.49 ID:/6T3eYYd0

女の案内で、テラスを離れて階段を上がり神殿の柱廊へと入る。
外の光が届かない真っ暗闇の中へ入れと言われて、男はいささか躊躇しながらも踏み込んだ。
しばらく歩くと、やがて暗闇にも目が慣れてくる。
女は小部屋の前で足を止めた。
そして「待っていろ」と男に告げて、扉の前に立った。


川 ゚ -゚)「あの、キューちゃん…」ボソボソ

川 ゚ -゚)「ちょっといいかな、お話が」ボソボソ

川 ゚ -゚)「…」

川 ゚ -゚)「よし!準備完了だ、突入するぞ!」

( ^ω^)「…」


バァーン!!

女は音がするほど勢いよく扉を開け放った。




 
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:17:45.60 ID:u7n9LRBc0

o川;゚ー゚)oビクゥッ!?


部屋の中には怯えた表情をしたエキドナがいた。


o川;゚ー゚)o「なっ何?何なのビックリするじゃん、そんな乱暴に戸開けたら!」

o川;゚ー゚)o「もう」

o川;゚ー゚)o「というか、お菓子置いたら出てってよ!あたし今いそがしいんだから」

o川*゚ー゚)oポチポチ、

o川*゚ー゚)o「いきなりドア開いてビビった なう っと」



川 ゚ -゚)「これがエキドナです」

( ^ω^)「なん…だと…?」


 
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:19:29.06 ID:u7n9LRBc0

o川;゚ー゚)o「!?」

o川;゚ー゚)o「えっ、何?誰!?何で男の人居んの!?ちょっと何考えてんの!?」

o川;゚д゚)o「あたし服着てないじゃん!何勝手に入って…ちょっと!出てけ!!」


すごい剣幕で追い立てられて、部屋から閉め出される。
やがてしばらくして、中から扉がガチャリと開いた。
エキドナは服を着ていた。


o川*゚ー゚)o「入っていいよ…、どうせ何か話があってきたんでしょ」

 
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:20:18.54 ID:u7n9LRBc0

( ^ω^)「…」

川 ゚ -゚)「…」


部屋へと通される。
神話の怪物とはいえ年頃の娘の居室というものに落ち着かなさを感じて、客は無言になる。
やがてエキドナが口を開いた。


o川*゚ー゚)o「その人があたらしいパパなんだ」

( ^ω^)「えっ」


( ^ω^)「えっ?」


 
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:21:10.48 ID:u7n9LRBc0

o川*゚ー゚)o「言いたいことがあるのは分かってるよ。あたしだっていつまでも子供じゃないもん」

o川*゚ー゚)o「ママだってこんな大きなエキドナがいつまでも一緒に暮らしてたんじゃ、自分のやりたいこともできないもんね!」

川 ゚ -゚)「キューちゃん、何言って」

( ^ω^)「ママ…だと…?」


 
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:22:26.14 ID:u7n9LRBc0

o川#゚ー゚)o「あたしなんかいなければ良かったのにね!そうすれば好きなことたくさんできたのに!」

o川#゚ー゚)o「もうあたしなんか放っといて勝手に幸せになればいいじゃない!どっかの冒険者と一緒に楽しく夜の冒険でもコンクエストしてればいいじゃない!」

川#゚ -゚)「!!」

パアン!


女はエキドナの頬を平手でぶった。
エキドナは涙まじりの驚いた表情で女を見つめた。


川#゚ -゚)「わざわざ夜のとかつけて卑猥な感じにするなよ!」

( ^ω^)「違うよ?怒るとこ違うよ?それだと台無しだよ?」

 
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:23:35.01 ID:u7n9LRBc0

o川;゚ー゚)o「!!」

o川;゚ー゚)o「ママ…」

o川 >д<)o「うっうわあああん!!」


エキドナは女の胸に顔をうずめて大声をあげて泣いた。


川 ゚ -゚)「よしよし」

川 ゚ -゚)「済まなかったな、私がレベルも足りないのにちょっと調子にのって召還しちゃったばっかりに」

川 ゚ -゚)「元いたところに戻れなくなったりとか、ヒステリックに躾したおかげで極端に人見知りするようになっちゃったりとか。いろいろ迷惑かけて」

o川*゚ー゚)o「ううん、ママは全然悪くないよ。悪いのは世の中の方だよ」

( ^ω^)「そうかな。元凶だと思うけど」


女は抱きしめたエキドナの髪をやさしく撫でた。
そして怪物の背中ごしに男の方を向いて、こっそり言った。


川 ゚ -゚)「さあ、この隙に。サクッと」

( ^ω^)「お前人間のクズだな」



 
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:24:32.15 ID:u7n9LRBc0

その後、腹を割った話し合いの末、
女が冒険に出てエキドナを元いたところに帰せるくらいレベルを上げてくる───ということでこの問題は決着した。
神殿のテラスに見送りに出たエキドナは、寂しげな素振りなどひとつも見せなかった。
エキドナは旅の安全を願う言葉を二人に贈る。


o川*゚ー゚)o「見てのとおり不出来なママですが、どうかよろしくお願いします」

( ^ω^)「うん…何か…これで解決したのか果てしなく釈然としないけど。まあ当事者同士がそれでいいって言うなら」


川*゚ -゚)「食費とかちゃんと仕送りするから!心配すんな!」

川*゚ -゚)「ヒャッホウ!自由っていいよね、フリーダムって感じだよね!」

( ^ω^)「フリでもいいから寂しそうにしろよ。あの娘見てて不憫で仕方なくなるだろ」


 
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:26:32.65 ID:u7n9LRBc0

*    *    *    *


キャラクターノート:

川 ゚ -゚)

クラス/魔女ランク3
性格/実力を伴わない自信家
筋力/まるでない
機転/きかない
根気/まったくない
集中力/すごい
耐久力/もやし

魔法/
静電気タッチ
催涙スプレー
ファルタイン召還
メイクアップ

所持品/
ポーチ的なもの


*    *    *    *

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:27:42.17 ID:u7n9LRBc0

o川*゚ー゚)o「そうだ、これ…冒険の役に立てばいいですけど」


そう言うとエキドナは、重みのある小瓶を差し出した。
液体と、何か固いものが入っているようで、持つと中でタプタプと音がした。


( ^ω^)「これは?」

o川*゚ー゚)o「金属カリウムです」

o川*゚ー゚)o「水と反応すると大爆発します。きっと旅の役にたつと思います」

( ^ω^)「ああ…うん、役に立つよね、きっと。どんな役に立つかは見当も付かないけど」

 
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/20(土) 00:28:22.75 ID:u7n9LRBc0

*    *    *    *


イベント:よくできた娘

親娘の対話に立ち会う(経験値150)

入手アイテム/
ちょっとした後味の悪さ
あと金属カリウムの小瓶


*    *    *    *



Cap.2伝説を抱いて眠る揺籃/ここまで
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