5 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:34:53
- 特設ステージなんて言われていたけど、結局は体育館の壇上だ。
そこにアンプって呼ばれるスピーカーセットと配線をしただけ。
リア充共は、体育館に並べられたテーブルの上に乗った料理をぱくつきながら、それを眺める。 アメリカのダンスパーティーのノリを想像してくれ。
あれからなんとなくエロい雰囲気を取っ払って、みんな醤油顔にしたら完成だ。 多少なり、ショボさも残しているのがミソだ。
「ブラックドッグ」の面々は、生徒達の前に並び立った。 もちろん、マスクを被った珍妙なスタイルでだ。
「何あれ、ウケ狙い? 寒いんだけど」
「あれで演奏したらかなり凄いんじゃねーの?」
「超リアルww ブラックドッグだってさw」
機材の調整をそこそこに、土佐犬のマスクを着けた大柄な男が電子ドラムを叩く。 音は、しっかり鳴ってた。
モナーは準備OKだ。 黒いラブラドールのマスクのドクオも右手を上げた。
-
9 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:39:10
- ステージ向かって右手の男子も、エレキをぽろぽろ鳴らした。
犬のモデルはチワワ。
小さいからこそよく鳴く犬種だ。 中身はもちろん、チワワ……じゃなかったジョーンズ。
そして、遅れてステージ裾からアコースティックギターを抱えて出てきた生徒がいる。 僕だ。
会場は沸いたよ。 凄い大勢が一気に声を上げた。
どっ、と盛り上がる。 マスクのモデルはアメコミの人気作「IN
CITY」のヒーロー「black
dog」なんだから当然だよ。
デザインがとんでもなくクールだからね。 その点、ギコには感謝しなくちゃならない。
「すげええ!! なんだアレ!」
-
14 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:42:54
- 「あれは! あれは!」
男子達が畏れを抱いた瞳で僕を見つめた。 隣の女子もはっとして声を張る。
「アレでしょ!? 知ってる!」
ィ'ト―-イ、 以`゚益゚以
「「ブチギレた市松人形!!」」
そろいもそろっててめえらアメコミ読まないのか。
そういうわけで、僕はライブ後、必ず「IN
CITY」の布教活動しなければならないと思ったね。
まあ、それはどうでもいいんだよ。
15 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:43:47
イトーイwwwwww
16 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:46:52
- 両手がぶるぶる震えたよ。
緊張からってのはもちろんあった。
でも、君らは知ってるよね。 ついさっき、僕は両手の人差し指を折ってるんだ。
少なくとも脱臼はしてた。 まだ両手と脳味噌の芯がじんじんしてたよ。
後で調べたところ、腱が痛められると筋肉の動きがまともに伝わらないんだ。 そこに無理に活動するための電気を通す。
すると、消耗した部品は軋むばかりで動きゃしない。
僕は、奥歯を噛み締めて会場を睨んだよ。 どこかにいるはずのギコやモララー、他の連中を探したんだ。
17 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:47:31
もうイトーイのことは許してやれよwwwwwwwwwwww
18 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:50:17
ここにきてネタかよwwwww
20 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:52:06
- 会場には400人以上が集まってて、しかも薄暗くされてた。
暇な奴、飯を食いに来た奴、まともにバレンタインデーを恋人同士のイベントとして取る奴。
手を繋いだ男女の隙間を縫って、僕みたいな冴えない人間がぽつりぽつり。 そして、見つけたんだ。
(;゚Д゚)
取り巻きと一緒にいるギコを、ステージからわずか10m前に。 いや、違うか。
「両手を使えなくしたはずの人間が現れたことに驚愕したクズ」を僕は発見した。
いいぞ、お前は完璧におあつらえ向きの場所に立ってる。 そのポジション取りは、本来お前にとって最高の位置だった。
でも、今は真逆だ。
僕らの成功を目の当たりにするしかない立ち位置なんだよ……!
28 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:00:36
- MCを挟むのは一曲目と二曲目の間だ。
ドクオは両手を上げて、観客の注目を集めた。
小柄も小柄な男の、堂々たるスタンディングパフォーマンス。 黒い犬が、合図を出した。
『一曲目「スカイハイ・フライハイ」』
かったるそうな声が、マイクを通して会場に響く。 飛べ、空高く行け、壁はそこにはない、という歌詞。
青臭すぎて僕は苦手だった。 僕のチョイスは二曲目だ。
それは後で話すよ。 今はギコの驚いた顔を思い出して笑いそうなのこらえるのが大変なんだ。
土佐犬がスティックを打って、リズムを取り始めた。
1,2 1,2,3,4
30 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:05:40
- 曲の進行を、歌詞になぞらえて説明しよう。
主人公は閉塞感にあえいでた。 (ここは結構ゆっくりで、しっとりと聴かせるパートだ)
ある日、荒野で転べば、そこには青空が広がっていた。 (まだ、曲のテンションは変わらない)
そして気付くんだ。はなっから自分が下ばかり向いていたことに。 (ドラムが盛り上げて、リードギターが気合を入れていく)
飛ぶための翼はすでに持ってたことを、ようやく知る。 (ハイテンポな細かいビートで一気に盛り上げていく)
こんな感じだ。
-
-
34 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:10:15
- 結論から言えば、演った側からすれば微妙だが、なかなかウケた。
選曲が流行り曲に詳しいドクオのものだったからだろう。
ノリが良い部分では、観客の手拍子も合わさった。 ドクオのパフォーマンスの賜物だ。
正直、僕はほとんどまともにギターを弾けなかったね。 それでも省略形のコードで誤魔化し、リズムを守ってバックに徹した。
ジョーンズはなんだかんだ緊張で、やっぱりミスったし、ドクオは一度ハイトーンを外す。 モナーだけがミスをせずに、最後のドラムロールまでを完遂したよ。
『ありがとう、ブラックドッグです』
MCが始まる。 僕の両手は限界を超えてびくびくと痙攣していた。
38 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:14:04
- マスクの下で僕は笑っていたよ。
多分、邪悪にね。
(;゚Д゚)(;・∀・)
从;゚∀从ζ(゚ー゚;ζ
だって、こんな痛快なことないだろ? 馬鹿にするつもりが、そこそこ形になっちゃってるんだから。
しかも、野次を飛ばそうにも盛り上がりは上々。 前のバンドや演劇部がどんなオナニーを公開したのかは知らない。
でも、結構イイカンジだったのは間違いない。 くくく、とマスクの内側にくぐもった声を漏らした。
本当はもっと快活に笑いたかったけど、そんなことできなかった。 何よりそんな笑い方、小学生の頃に忘れてるからね。
41 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:20:13
- 『ブラックドッグは高校生らしいことをやりたいと思い結成した、即席バンドです。どうでしたでしょうか』
ドクオはどんどんと喋っていった。 見た目にそぐわぬコミュニケーション能力だ。
『俺らのメンバーを紹介します。俺が、黒のラブラドール、ドクオ』
さて、君らは思っただろ? 「マスクが奪われたっていったろ?」ってね。
『ドラム、土佐犬モナー』
慌てるなよ。 ここからが重要なところなんだ。
『リードギター、チワワのジョーンズ』
もしかして、好きな食べ物は先に食べてしまう派? 僕は最後まで取っておく方なんだ。
『そして、もう一人のギター、black
dogの――』
44 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:23:25
- ぶつんと音声が途絶えた。
どころか、体育館は真っ暗になった。
電気という電気が消えた。
停電だ。
その日、空は重たい曇天で、夕方にもなればかなり暗い。
加えて、暗幕で窓を覆った体育館は、本当に何も見えなくなる。
――これが、合図だった。
47 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:26:49
- 会場がざわめくのは計算の上だった。
誰のって?
分かってるだろ。
「彼」だよ。
電力が戻った時、僕は「僕」になっていた。
50 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:32:02
- 僕は「僕」を遠くから眺めていた。
体育館の全貌が見渡せる位置だ。
具体的には、ステージ対面の壁際。 皆が皆、僕に背を向けている。
完璧だった。
『ちょっと俺達が騒ぎすぎて、ブレーカーもぶっ飛んじゃったかな。えっと、どこまで言ったっけ』
ドクオがMCを続けようとすると、ステージ裾から係りの生徒が「時間がない」という合図をした。 申請したのは15分だけだったんだ。
停電だけで、半分以上が食われてた。
『分かった分かった。用意してたのは二曲だけなんだけど、後半戦行くよ。聴いてください』
52 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:35:38
- 二曲目「ブラックアウト」。
少し古いイギリスバンドのロックだ。 ドクオには無理を言って英詞のまま歌ってもらうことにした。
これは一曲目に似た、ダウナーとアッパーな部分を併せ持つ曲だった。 僕の貧弱な英語力でも理解できるくらい、単語は簡単な方。
ただ、ダブルミーニングや比喩が秀逸で、中学生の僕を癒した内容だ。 まあ、父親のコレクションから偶然取り出した一枚だったんだけどね。
55 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:40:01
- 歌詞はこんな感じだ。
息をする、ガスに囲まれて。 毒だらけなのを皆が知ってる。
ハイになれるか、無理してくたばるか。 決めるのは自分か? 本当に?
水面は遠い。 もがいても体は重いばかりなんだ。
ああ、目が、もう見えない。 助かろうとすればするほど、周りは闇に包まれる。
57 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:43:50
- どうしようもない状況だ。
生まれながらにして、不平等なんだ。
僕が痛感して、自宅にこもった時、これを聴いた。 中二病まっさかりで、僕は没頭したよ。
深読みなのかもしれないけど、ブラックアウトは僕にも起きてた。
潜水病のひとつで、深い潜水から急速に浮上すると意識を失ってしまう症状だ。 僕はいつまでも潜り続けていた。
人間に埋もれて、望んでもないストレスに飲まれて。 もがけばもがくほど、人々は僕を哀れんだ。
何も見えなかった。 息ができなかったんだ。
今は、違う。
59 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:47:32
- 体育館の上に立つ「僕」が、ギターを勝手に激しくかきならす。
めちゃくちゃだ、あの馬鹿。
でも、不思議とそれは他のメンバーと調和していく。 譜面どおりにしか弾いていないはずのチワワが引き立つ瞬間すらあった。
突然、不安になるほど急に音を小さくする。 そういう時は決まって、黒いラブラドールの泣くようなメロを際立たせたい瞬間だった。
アコースティックギターなのに、こんな表現ができるのだと驚いたね。 ぞくぞくしたよ。
跳んで、跳ねて、なのに、手元は狂わない。 凄いんだ。
とにかく、パワフルなんだよ。
60 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:51:10
- black
dogを、「僕」を、僕は見つめた。
そこにいる鏡の向こうの「僕」は、会場全員にとって僕だ。
意味が分からない?
悪いけど、僕だってよくわからないんだ。
あの瞬間、即席で作った最悪のバンドが、世界最高のバンドに見えたんだから。
ナチュラルハイは怖いね。
(メ
_ )「ははは」
(メ;_;)「すげーや」
涙まで出るんだから。
63 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:54:54
- ステージに近い観客の多くが、メロに合わせて拳を突き上げてた。
惜しむらくは、そこにいるはずのギコの顔が見られないことだ。
あいつは気付いただろうか? それとも、まだ理解に苦しんでいるだろうか?
どっちでもいいか。 停電の混乱に乗じて、僕らが入れ替わったことなんか。
だって、「僕」はまだステージに立ってたんだ。 それだけであいつらは泡を食ったはずさ。
68 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:01:38
- できることなら拳でギコに同じだけの痛みを与えたかった。
手の指を逆折りされたんだから、僕は足の指を責めたかった。
正直なとこは、目には目を、で行きたいよ。 人間だから、直接的にね。
で、まっとうなカウンターは何がどうなるって、どうにもならないんだ。 堂々巡りだよ。
またいつか同じことをやられて、こっちも復讐してさ。 指を一回ずつ折り合うなんて、気持ち悪いおまじないだよ。
『blaaaaaaaaaaaaaaack―――――――-』
だったら、爽やかな青春カウンターしてやればいい。 「味方を増やす」っていう、素晴らしい抑止力でね。
『out!』
「僕」が、ガッと弦を弾いて、曲は終わった。 同時に、僕の中の、「いじけっぱなしの僕」は死んだ。
彼が、助けてくれたおかげでね。
71 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:05:25
- ***
僕の手から、マスクが奪われた。
(
<●><●>)「マスクにちょっと細工しますよ。二分待っててください」
(メ;-_-)「ちょっ! 時間が!」
(
<●><●>)「よっし、これでおっけい」
(メ;-_-)「早いな!」
何か黄緑のものがちょんちょんと塗られただけだった。
(
<●><●>)「何故か分からないけど、多分、一曲目が終わったら電気が落ちます」
(メ-_-)「はぁ?」
マスクを被されながら、僕は先を促された。
75 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:09:59
- (
<●><●>)「何故か分かりませんが、電気が落ちると、偶然付着した塗料が光ります。
それも、少ししか光を蓄えてないので、薄くぼんやりとだけ」
「ちょ、足元見えない!」
(
<●><●>)「すると、君が『誰か』に背中を突かれた時、何故かマスクとギターをその『誰か』に渡したくなります。 どうしてかは分かりませんが、そういう気がしますね。どうなるかも分かりませんが」
「え……?」
(
<●><●>)「そんな感じで分からないことだらけですが、僕にはひとつだけ分かってます」
「まさか、ワカッテマス、くん」
(
<●><●>)「きっと、『君』がライブを成功させることを、です」
***
77 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:14:35
- 僕は会場の人間が決してこちらを振り向かないことを知りながら、こそこそと体育館を出た。
まだまだ事後処理が残ってる。
バンドの面子が戻る控え室は第二学棟の一階だ。 体育館からダッシュで一分かからなかった。
でも、一般人でそれくらいだろうから、僕は一分半はかかる。 急がなきゃならなかった。
(メ;-_-)「と、とととと、と!!」
なのに、タイミング悪く、奴らは現れる。 僕は曲がり角でたたらを踏んで、なんとか身を隠せた。
(;゚Д゚)「どうなってんだアイツ……信じられねえ……」
ζ(゚ー゚;ζ「フツーに、上手かった、よね」
从;゚∀从「ああ、フツーに」
79 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:18:08
- (;・∀・)「お前ホントに指折ってやったのか?」
(;゚Д゚)「ああ……って馬鹿野郎、聞かれるだろ」
二人は、デレ、ハインと分かれて何かを企んでいるようだった。 どうしようもない奴らだ。
(,,゚Д゚)「あいつらが出てくるのはこっちで合ってるよな」
どうやら、「僕」らの出待ちらしい。 嬉しくないファンもあったもんさ。
(メ;-_-)(まずい)
何がまずいって、僕が「僕」と入れ替わるタイミングがないってことだよ。 これ以上、ワカッテマスに迷惑はかけたくなかったんだ。
81 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:21:38
- でも、希望は希望で終わる。
どうやってもそのルートで待ち伏せされたら、出くわすしかないんだ。
('A`)「あれ、ギコ。どうしたんだよ、まだパーティ終わってないのに」
(,,゚Д゚)「お前に用はない」
(’e’) ギクッ
身を固めたジョーンズが、目を逸らして口笛を吹いた。 掠れた音しかしておらず、最高に気持ち悪い様子だった。
モナーと「僕」だけがマスクを取ってなかった。 多分、モナーは土佐犬ヘッドが気に入ったんだろう。
だけど、「僕」は取るわけにはいかなかった。 それどころか、喋ってもまずい。
84 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:25:57
- (,,゚Д゚)「ヒッキーだよな、お前」
アコースティックギターを片手に歩いていく「僕」は、シカトをかました。 そりゃそうだよ、突然他人の名前で呼ばれてもピンと来ないだろ?
( ・∀・)「おい、聞こえてねーのか」
('A`)「なあ、お前らいい加減にしろよ」
絡むのを咎めたのは、ドクオだけだ。 モナーは聞こえないふり、ジョーンズは完全に聞いてなかった。
('A`)「知ってるぞ。ギコ、お前がジョーンズ脅迫してバンド名簿出させたんだろ?」
(,,゚Д゚)「お前はすっこんでてくれ」
('A`)「おおかた、わざと下手な演奏するようにジョーンズに言ったんだろうな」
いよいよもってジョーンズの表情がキモかった。
86 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:29:04
- とことんバレてないと思ってたことが露見して、奴は戦々恐々としてたね。
保身に走ってばかりいるからこうなるんだ。
(メ;-_-)(と、考える僕はひきこもりという最終手段を取っていたわけだ)
('A`)「なあ、もう止めようぜ。こう言わないと分からないか?」
( ・∀・)「あ?」
('A`)「『目障り』なんだよ」
例の、細すぎる堪忍袋の緒が切れる音を聴いたような気がしたね。
(,,゚Д゚)「いまなんつった」
( ・∀・)「……おい、お前、ふざけてんのか」
90 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:34:38
- ('A`)「……」
完全にドクオが言い過ぎたと思った。 もしも、万一僕の想像通りなら、それもあり得る展開だったかもしれない。
(#゚Д゚)「……おい、俺がずっとお前を見逃してたのは、なんでだと思う」
('A`)「さあ?」
(#・∀・)「ギコ、マジでこいつなのか? 本当に、コイツだったのか?」
(#゚Д゚)「別にこいつでも、こいつじゃなくても構わねえ。もう我慢できねえ」
馬鹿が何言ってるか分からない人がいるかい? 言葉足らずだからね。
説明しようか?
92 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:36:29
- つまり、あいつらは恐れてたんだよ。
僕が見た、あの「黒犬」が、
('A`)「もうさ、本当に夏以来、また『目障り』になってきたよ」
ドクオだったんじゃないかって。
自分らを昔シメた奴なんじゃないか、ってね。
-
-
-
93 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:40:10
- (#゚Д゚)「もう言うことはねえな?」
(#・∀・)「花火の時には助けられたらしいけどよ、それとこれとは話は別だよな」
('A`)「鬱陶しいんだよ。いい加減、今回で手打ちにしろって」
(#゚Д゚)「あ゛あ゛あ゛あ゛、そうかよ!!」
ギコがヤンキー特有の耳ざわりな怒声とともに、拳を振り上げた。 ジョーンズは小さな女の子みたいな悲鳴を上げてたよ。
僕?
僕は、見てた。
「僕」が僕の父親のギターでギコを殴ろうとしてたのを。
96 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:41:40
ゴォンベギシャ ビィィン
(メ-_-)
(メ;゚_゚)
(メ; _ ) ゚ ゚
100 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:46:10
- 話に聞いていた当時28万のギターは、ネックとボディの部分でぼっきりいった。
多分、今の価値にして4、50万はいくだろう。
「僕」は野球で言うところのフルスイングの格好で静止した。
(メ;゚_゚)(ばかああああああ!!)
(,,
Д
)「かっ、はっ、てめっ! ひっき、い!!」
致命打にはならなかった。 というかなってもらっても困る。
(#・∀・)「てめえ!」
ィ'ト―-イ、 以`゚益゚以
ブチギレた市松人形は、応えない。
102 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:49:18
- 代わりに、様子を伺っていた僕を発見したのか、一瞬こちらを見た。
(・∀・#))「あっ!?」 クルッ
即、僕は身を隠したよ。
でも、モララーにとってはそれが命取りだった。
余所見につられて余所見。
こんなの、古いアクション映画の常套手段だろ?
ガン
( ∀ #)「ぐあっ」
あとは、ギターの部品を凶器に使わなければ完璧だったんだけどね。
104 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:52:51
- よろめいた二人の間から、「僕」は逃げ出した。
こちらに向かって。
ギコもモララーも的確に脳味噌を揺らされたようで、真っ直ぐ走れないらしい。 長距離を走る僕よりチンタラやっていた。
僕の隠れる曲がり角を、「black
dog」が駆けてきた。
ズポッ
そして、マスクを脱ぐと肩に手が置かれた。
(
<●><●>)「あとはよろしく」
(メ;-_-)「え」
そのまま走り去ろうとするワカッテマスを、後ろから捕まえた。
(メ;゚_゚)「ちょっと!」
108 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:55:53
- (
<●><●>)「なんです」
(メ;゚_゚)「あ、え、そのあああっと!」
言いたいことがたくさんあっても、舌が回らない。
「ヒッキィイ!! 待てやゴルァアアア!!」
(メ;゚_゚)「あれどうすんの!」
(
<●><●>)「ああ、あの『目障り』ボーイズ。……んー、そうですね」
汗に濡れたクセ毛をかき上げると、ワカッテマスは僕に一言だけ耳打ちした。
(メ;-_-)「ちょっと、ちょっと待って!」
(
<●><●>)「じゃ、あとで保健室で」
111 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:59:14
- (,,゚ Д
゚)「ふざけんなやゴルァア!」
わずかに右往左往するギコ。 目の焦点合わず。
( ・∀・)「ごのやろう、でめてがだだ」
喋りづらそうなモララー。 舌噛み済み。
それでも僕よりは確実に戦闘力が高い。 僕は猟銃を抱えても戦闘力が2行かないような民族だ。
その上、両手がほとんど使えないと来てる。 無茶して三分もギターを弾いたから、余計にだ。
(メ;-_-)「あわわわわ」
112 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:03:14
- ワカッテマスが言ったとおりにするしか、僕には手がなかった。
(メ;-_-)「ぎぎぎ、ギコ! くん!」
こんなときでも弱気な発言なのを許して欲しいね。 すり込みってのは根強いんだよ。
(,,゚Д゚)「あ゛!?」
(メ;-_-)「み、『右の尻の肉だけじゃ飽き足らず、もう片方も噛まれたいのか』!?」
びた、とギコが動きを止めた。
こうかは、ばつぐんだった。
(メ;-_-)「モララー! 『体に女以外の歯型増やしたいならいくらでもやってやるよ』!」
こちらも、同様。
116 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:05:54
- 頭の中で、ワカッテマスが無表情にカチカチと歯を鳴らした。
すると、急に僕に何かが降りてきたね。
(メ-_-)「やってやるよ」
汗は引いて、声の震えもなくなった。
(,,゚Д゚)「てめ、なんでそれ知って」
(メ-_-)「うるさい!」
僕は頭から二人に突っ込んで行った。 まさしく特攻。
……結果的に、僕は、手も足も出なかった。
117 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:06:50
使えない手の代わりに
自由奔放な「黒犬」の代わりに
噛み付きまくってやったんでね。
119 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:09:30
- ('A`)「先生、こっちです!」
_ (#゚∀゚)「こらぁあああ、またギコお前かあああああああ」
_ ( ゚∀゚)「あ?」
(メメ-_-)「ハァハァハァ」
_ ( ゚∀゚)「あいつらは?」
(メメ-_-)「ハァハァハァ」
_ (;゚∀゚)「お前、腕折れてるぞ大丈夫か!」
(メメ-_-)「歯も、一本折れました」
('A`)「ヒッキ、おま……」
(メメ-_-)「勝ちました」
123 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:13:01
- どうみても僕はずたぼろで、お世辞にも喧嘩に勝ったとはいえない状況だった。
でも、こういうのは逃げた方が負けさ。
僕は退かなかった。 逆に、前進してやった。
ストレスってのは向こうからやってくるって言ったよね? それも、最初の方にさ。
で、今度はこっちから迎撃してやったんだ。 結果は、見ての通り。
骨を折られて、肉を噛む。 ……馬鹿みたいだよね。
とりあえず、体中がバラバラになりそうだった。
124 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:17:12
- 前歯が抜けて恥ずかしいことになってた。
右腕は、当分自分のチンコをいじれないぐらい。
保健室を経由しないで、病院に直行だったよ。 救急車の中って意外に狭いってのも、その時初めて知った。
(゚、゚トソン「バカタレ」
姉の拳の方が痛いぞ、不良ども。
(゚、゚トソン「で、どうだったわけ」
僕は、言ってやった。
(//_-)「楽しかった、かな」
もうひとつ拳が降ってきた。
126 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:20:55
- これが事件の顛末。
いやあ、長々と悪い。
この事件の名前なんだけど、僕が勝手につけたんだ。 退院したら、ドクオがこっそり教えてくれたんだよ。
「お前、狂犬ってあだ名付いてるぞ」って。
ジョーンズが僕を少し避けるようになったのが、その証拠だった。 クラスメイトの一部は依然、僕に無関心だったけど。
バンド演奏を見た人が話しかけてくることもあったよ。 「僕」のスーパープレイに感動したギター小僧とか、バンドファン。
正直、困った。
130 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:24:23
- 期末考査の結果はさんざんだった。
だって、右腕も指も使えないんだ。
書けなきゃ解けないのと一緒だろ? みみずがのたくったような字は、赤点しか生まなかったね。
ふと、終業式の日に屋上へ登ってみた。 超綺麗な青空で、スカイハイ・フライハイが頭に流れた。
壁はない、ね。
いいんじゃない、たまにはそういうのも。
「ィキシッ! 杉か!」
(//_-)「花粉症?」
132 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:27:34
- 脚立を登ると、やっぱりそこにはワカッテマスがいた。
ツン先生が裸で寝てたら、と一瞬期待したが、そんなことはなかった。
(
<●><●>)「あ、君か」
(//_-)「こないだはありがとう」
ぐじぐじと鼻をすすりながら、彼はマックスコーヒーを傾けた。 甘党すぎるよね。
(
<●><●>)「なにが」
首を傾けてUNKO座りをする彼は、犬みたいだ。 ティッシュを詰めて鼻栓にしてる馬鹿さ加減も凄い。
(//_-)「……まあいいや」
134 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:32:17
- (//_-)「それで、ドクオは君を見たの?」
(
<●><●>)「でずがね゛。ブシッ……書置きまで見られたなら、そうなんでしょ」
「黒犬」は興味なさげに見解を述べた。
(
<●><●>)「随分と、せい、せい、正義漢だったですよね」
ドクオは黒犬に憧れていたと考えるのが妥当なところだ。 ワカッテマスは、本当に目障りだった二人を闇討ちしたが、誰にも見られた覚えがないという。
(//_-)「目障りだから闇討ちって」
(
<●><●>)「気まぐれ、ですかね」
おいおい、勘弁してくれよ。
それを見て非力な中学生が妙な正義感に燃えちゃうようになったんだから。
135 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:35:05
- (
<●><●>)「いんじゃないですか。そんなのがあっても」
(//_-)「そう」
ワカッテマスは黙って空を見つめた。 僕も黙った。
温暖な日が続いて、風は穏やかだった。 爽やかな日だったね。
壁のないところだと、こんな気持ちになる。 わくわくとした、抑えるのが難しい気持ち。
僕はどこまで行けるんだろう、って。
(
<●><●>)「あ」
136 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:37:05
- (
<●><●>)「脚立上げてください」
(//_-)「えっ、嘘、晴れてるのに?」
(
<●><●>)「40秒後来ます」
いやいや、嘘だろ。
(//_-)「さすがにそれは」
(
<●><●>)「やばい、これはやばいのが来る気がするんです」
妙にワカッテマスは焦ってた。
(
<●><●>)「脚立……」
カシャーン
が、倒れて手の届かないところに行った。
137 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:38:11
- (//_-)「あーあ」
(
<●><●>)「仕方ない、シートそっち持ってください」
(//_-)「いや、絶対そんな」
ザアアアアアアアアア
(//_゚)「あ」
(
<●><●>)「天気雨ってのが一番困るんです」
139 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:41:03
- 冬服のシャツを濡らしながら、僕は街並みを見下ろした。
遠くはよく晴れていて、虹まで出ていた。
僕の中の「馬鹿な犬」が尻尾を振っていた。
生まれたばかりの「狂犬」が、「黒犬」の横で。
僕は、思いっきり笑った。
彼は、無表情のままだった。
怪我をした部分がしくしくと痛むのが、逆に、今の状況が夢でないこと証明していた……。
140 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:44:09
- ***
(゚、゚トソン「あんた一人でぶつくさ何やってんの?」
(-_-)「あ、いや、ちょっとね」
(゚、゚トソン「昔のアルバム? あんたほとんど写ってないじゃない」
(;-_-)「うるさいな! いいんだよ!」
(゚、゚トソン「ふーん。ま、独り言もほどほどにしなさいよ」
(;-_-)「わかったよ……」
(-_-)「さて、僕の新しい誕生日については、こんなとこだよ」
141 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:46:39
- 僕は、幼稚園、小学校、中学校の頃の僕に向かってそう言う。
正確には、当時の写真に向かってだ。
どれもかなり困った表情で、中学生の頃の奴なんか、クラス写真の右上の方に○で囲まれてる。 絶望した、僕達だ。
(-_-)「安心しなよ」
ひとつひとつ、アルバムを閉じていく。
(-_-)「なんとかなる」
スクラップになったギターを避けて、僕はアルバムを本棚に差した。
(-_-)「なんとかなるんだよ」
143 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:49:10
- (-_-)「だから、せいぜいいじけときなって」
僕は過去の自分に投げかけた。
(-_-)「黒い犬が全部ぶち壊してくれるから」
「2・14 狂犬事件」
僕の第二の誕生日よりも前の僕に、僕は、エールを送る。
――狂犬から、自分をクズだと思ってる僕へ。
144 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:49:50
(-_-)「2・14 狂犬事件」のようです
お し ま い
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