( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです


84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:00:36.18 ID:ot5p3W1U0
 ep2. 一族最後の女

商業都市ニュー速。
あまりに人の多いこの街では、様々な思惑を携えた人間が回る。

たとえば、一つの目的を持って旅商に手を伸ばし、各地の街の商工会に参入する足掛かりとしてここを選んだ向う見ず。
たとえば、新たな歌の下地に、誰かとの有意な繋がりや、自分とは違った視点での言葉を求める、旅の吟遊詩人。
たとえば、初めて街にやってきたそんな彼らを狙って、自らの至福を肥やそうとする、愚かしい悪人。

   「どこだ………どこに居る……」

たとえば、人の多いこの街に、誰かを探してやってきた、女。
女は人混みを全く避けようともせず、その長い黒の髪と、全身を覆えるほどの、艶のある黒の繊維のローブを纏って歩く。
街を歩き、正面から男がぶつかってこようが、小さな子供が膝に当たろうが、無視。女の眼はその中のどこにも向いていない。

「おい、どこ見て歩いてんだ?」

人の多いこの街、ぶつかってしまった際の反応は、十人十色。
そのまま歩いていってしまうものもいれば、その逆だって、当然いるのだ。

川 ゚ -゚)「貴様は……誰だ?」

肩を掴まれ、振り返ったその姿。
長い睫毛と白い肌。振り返りざまの黒髪は、甘い香りをふわりと生んだ。
真っ黒の瞳はどこを見ているのか、肩を掴んだ男の、顔の裏側を見ているような。
そんな彼女の質問は、男にとってはあまりに腹立たしいもので。

「……んだとこのアマ、舐めてんのか」


85以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:04:28.87 ID:ot5p3W1U0
肩を掴んだ手と、開いていたもう一方の手は握られた。
それにより片方はその怒りの大本を掴み、片方は石のような固さを得た。

振りかぶった拳は大振り。
女の顔面に向けて勢いよく振るう、が、

('A`)「やめとけよ、おっさん」

それを止めたのは、骨ばった顔の痩せた男だった。
憤る中年が持ちあげていた腕に彼は自分の腕をすばやく絡め、力づくで固定していたのだ。

川 ゚ -゚)「貴様は……ドクオか……!」

('A`)「え? 違――」

「邪魔だガキが!」

(゚A(#)「ブエッ!!」

中年は女を掴んでいた手を離し、男の頬を打ち抜いた。
あまり屈強とはいえないその男の体は、人混みをどこかの逸話のように割って、倒れ込む。

(;A;)「いってえなチクショウ……ウツダ……」

川 - )「やはり、貴様も情けないか………」

そして肩の手を解かれた女は、倒れた男の目前まで歩いてきた。
中年は無視されたことにさらに憤るが、女は完全にそれを無視し、

涙目で地面に倒れる男の顔を真横から、それもかなりの勢いを持って薙ぐように蹴り飛ばした。



88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:08:32.55 ID:ot5p3W1U0
(; A )「ハ……ァ?」

転がりながら野次馬の中に突っ込み、男は固い白の破片を口からこぼした。
同時に滴るのは鮮血、震える手で掬ってみるが、どろりと流れ出している。

川 ゚ -゚)「殺してやる」

ひっ、という短い悲鳴は、視線を向けられたその男のものだけではなかった。
周囲の人間も、男を蹴った段階で彼女がかなりの使い手であると察することができ、
何より、その瞳の暗さが本当に深遠なもので、『殺害』に対する説得力が余りあるものだったからである。

「お、おい、ちょっとやめとけよ……」

先程の中年も、殴る気はあっても殺す気など毛頭ない。
女の肩をまたも掴むが、今の意味合いは全く違う。
彼も殺しの立会人にはなりたくないのだ。

川 ゚ -゚)「どけ」

しかし彼女は止まらない。
手を掴み、中年を引き寄せ、その片目に親指を挿し入れる。
瞳の水がぺちゃりと飛び、同時に真っ赤な血が噴き出し、野次馬は絶叫、人の流れが、彼女を中心として一気に離れていった。

「っぁ、っ、ぁぁ、ぁっ、」

声にならない声を漏らし、中年男は片目を押さえてその場にうずくまった。
先程まで見えていた世界の一部を、一瞬にして奪われてしまった衝撃に震えながら。

川 ゚ -゚)「邪魔する人間は、皆殺しだ」


89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:12:39.54 ID:ot5p3W1U0
( ^,ω^)「やっぱ金持ってると違うお」モシャモシャ

ξ--)ξ「はっ、私の財力を舐めちゃいけないわ」

ブーンが食べているのはウサギの肉、しかも首から尻にかけて棒を貫通させた丸焼きだ。
切り分けて買うのが面倒だ、というツンの言葉から、いっそ一羽を買えばいい、となってしまった結果である。

ツンは一応『騎士』という存在なので、街それぞれの商工会や金貸しに話を通し、教会付けで金を幾らか借りることができる。
なので実質的に、ある程度大きな街ならばどこに行っても、余計な出費をしない限りは彼らが金に困ることはない。

ξ゚听)ξ「ね、ちょっとちょうだい?」

( ^,ω^)「いいお、ほら食うお」

半分をむしゃむしゃ食べながらまだ無傷の半分を、首を曲げた妙な体勢で差し出すブーン。

ξ;゚听)ξ「食べづらい……」

ウサギ越しに顔を突き合わせて歩く体勢は、あまりに不自然なものだ。

     o
  :3兎◇:  ←こんな感じ。
     o

ξ#゚听)ξ「ああもう丸ごと寄こしなさいよ! 首がだるいわ!」

棒を奪い取り、ツンもちびちびと食べ始めた。
なかなか胡椒が利いていて香ばしく、焼き立てということもあり、噛めば肉汁が噴き出してくる。

( ´ω`)「うー、あー、はー、らー、減っ、たー、せっかくだし海産物とかもなんか………お?」



 
92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:16:54.98 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「なんぞ」

ブーンは市場の食べものを探す頭を道の先に向けた。
そこは突きあたりで直角二股に道が分かれているのだが、
「逃げろ!」「きゃあああ!」「殺される!」なんて悲鳴が、その道の右から、左へ駆けていく。
顔面蒼白で二人の方に曲がってくる者達も居て、道の先で何か事件が起こっているらしい。

ξ゚听)ξ「さーね。私達には関係なさそう」

手に持つ兎を人を避けるため頭上でくるくるさせて、ツンはつまらなそうに言った。
彼女が感じる『魔導具』の感覚がしないということはその表情が示していた。

そのまま人の波に逆らって今日の宿への道を歩く二人。
まっすぐ歩くと、今述べた突きあたりに到達するのだが。

(;'A`)「やべえ、本気で、やべえ」

ちょうどそこで顔を貼らした男がブーンの足元に抱きついてきた。
息も絶え絶えに、宛てのない、誰かの助けを求めた腕をたまたまブーンに絡めてしまったようだ。

( ^ω^)「そうかお」

(;'A`)「おいあんた旅の人間か? なあ、礼は弾むから助けてくれ!」

その表情はまさに必死であった。あたかも、死神に追われているような余裕の無さ。

川 ゚ -゚)「それは……貴様の仲間か?」

ブーンが声のした方、すなわち右方向には、見るに美しい黒と白の女性が首を捻って立っていた。
足元の男の震えが大きくなったところ、おそらく彼女が、彼の死神なのだろう。



 
94以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:20:48.80 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「どーせくだらない痴話喧嘩よ。ブーン、無視しましょ」

( ^ω^)「お」

(;'A`)「待てよ俺の相棒! 絶対俺を守るって約束じゃねえかよ!」

なぁ、なぁ、とブーンの靴に噛みついてきそうな剣幕で男は吠えた。
もちろんこんな男はブーンは知らないし、最近では誰ともそんな約束はしていない。

( ^ω^)「何を、そんなの知らな、」

川 ゚ -゚)「どけ、デカブツが」

声はブーンの真横に居た。それはまるで氷槍のような鋭利さを弾き出しながら。
動きは時間を感じさせない本当に瞬間的なもので、しかし彼女は確かにそこに居た。

ξ;゚听)ξ「うそ、」

ばちん、と生肉を叩き落としたような音が街の石畳に大きく響く。
ツンのあまり高くない位置にある白い顔に、下から飛んできた血飛沫がかかった。

(;'A`)「うわぁぁぁぁあっ!」

男はごきぶりのようにそこから離れた。かさかさ、という音を鳴らしていそうな、そんな四肢の動きだ。
そしてブーンはその男がいなくなった足元に、眩暈を起こしたかのように倒れ込んだ。

川 ゚ -゚)「何ならお前も、死ぬか?」

やはり冷たい圧力を持った視線を、女は地面の、ブーンの足に向ける。
そこには無残にも火薬で吹き飛ばしたかのように破れた靴と、肉が裂け飛んだ足があった。



 
99以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:24:59.56 ID:ot5p3W1U0
ξ;゚听)ξ「生身で、あの速さ?」

ツンは驚きを顔に浮かせる。飛び散ったブーンの血を拭う余裕すらない。

今までに見たことがなかったのだ。
魔導具を用いない純粋な肉体のみの力で、自分でも追い切れるかわからないほどの身のこなしをする人間を。
それもツン自身、普通の人間とは言い難い力を体にもっているのにも関わらず。
これはどう考えても、ツンの知識世界においては明らかな異常といえる。

だのにこの女は、無表情に、無造作に、それが当然のように、
ブーンの足を踏み潰しても、その作りものじみた顔は歪めずに、

川 ゚ -゚)「ドクオ、逃がさんぞ」

たった一瞥を経て、自分の目標のみに向かっていく。

(  ω )「待て」

川 ゚ -゚)「………」

だが、ここで黙っているような男はツンの相棒とは言えない。
足を破壊され倒れていたはずのブーンは、女の足を握っていた。

川 ゚ -゚)「……貴様、何だその足は」

(  ω )「……お前こそ、何だその匂いは」

砕かれた足は地をしっかりと踏みしめ、立ち上がると同時に女とブーンの頭の位置を逆転させた。
足から片手で持ちあげ、先の兎の丸焼きのごとくぐるりと振り回し、ブーンの血が未だ残る地面に、今度は女の頭が、
通行人の息を飲む空気、石畳の亀裂、叩いた点での振動打音を殊更に無視するかのように、激突した。

100以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:29:33.22 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「……」

川  - )

女は気を失ったようだ。
しかし出血は一滴すらなく、隣にあるブーンの足だけが未だ血を流す。
とは言っても、すでにブーンの足も白い泡に包まれ、見かけではほとんど元の状態に戻っていたが。

ξ゚听)ξ「この女、何者?」

( ^ω^)「多分、」

言葉の直前に街の向こうから笛の音が響いた。
この街ニュー速では、『保安隊』という組織がその治安の維持に努める。
二人が聞いたこの笛の音は、その保安隊の意志疎通を図るものであるのだ。

( ^ω^)「……ちっ、こいつ連れてくお」

ξ゚听)ξ「わかった。、こっちよ」

ブーンは倒れた女を肩に抱え、先に走り出したツンの後を追いかける。
目的地は決まっている。金を借りた商工会から案内されたちょっとした宿だ。
人混みを上手く避けながら、二人は保安隊の目に止まることなくその場を去っていった。

(;'A`)「なんなんだよあいつら……報告、しとくか……?」

男は震え、周囲の目を気にするようにそそくさと逃げ出した。

結局その場には割れた石畳と血だけが残り、ようやくやってきた保安隊は首を傾げることになるのだった。




 
102以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:33:41.47 ID:ot5p3W1U0
目を覚ますと、触れたことのないような、何時ぶりかを忘れてしまった心地よさに包まれていた。
背中にあたる柔らかさ、体にかかる温かさ、鼻孔をくすぐるのは、何かスープの匂いだろうか。

ξ゚听)ξ「こんにちは」

寝床の横には、椅子に座った金髪の女が片手を軽くふらふら振っていた。
こうして寝起きに声を掛けられたのも、何年ぶりのことだろうか。

     「誰、だ……?」

まだ少し痛む額を押さえながら、上体を起こす。
部屋は温かみのある茶色の丸い木テーブル、丸い化粧棚などが置かれ、丸い窓枠の前には男が一人。

ξ゚听)ξ「私はツンよ。あっちに居るのがブーンっていうの」

はい、といって金髪の女、ツンは手元のスープの容器をさし出す。

川 ゚ -゚)「む、……私は………クー。クー・……いや、クーだ」

クーは受け取りながら、その中を眺めた。
黄色の粒が浮き、見たことのない妙な物体だが、あまい匂いやどろりとした液面が、とても興味深かった。

ξ゚ー゚)ξ「何その表情。コーンスープよ? おいしいから飲みなさいなー」

川 ゚ -゚)「ずず、………君らは、誰だ?」

言われるがままにスープを飲む。やはりあまい。

誰だ、という今の質問は、最初のものとは別の意味があった。
窓の男を襲ったはずなのにも関わらず、今の状況に置かれていることがクーには理解できなかったのだ。


 
105以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:38:06.35 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「お前に質問がある。知っている匂いだ」

窓の外を眺めていた男がクーの寝るベッドの前に歩いてきた。
先程、地面にクーを叩きつけた男だ。
クーが問答無用で踏み潰したはずの足で、いとも簡単に立ち上がった、妙な男。

川 ゚ -゚)「貴様、人間か?」

( ^ω^)「先ずはこちらからの質問をさせて欲しい。ツン、外してくれ」

ξ゚听)ξ「え?」

( ^ω^)「嫌だというなら、構わない」

ξ゚听)ξ「……じゃあいる」

むす、といった顔で、金髪は椅子に座りなおした。
どうも少女のような雰囲気を醸しており、かわいらしいとクーは思った。

( ^ω^)「お前はなぜ生きている」

そして、かなりふざけたことを抜かす男。
クーにとってその質問は愚問であるといえるものであるのだ。

川 ゚ -゚)「私はドクオを殺すために生きている」

( ^ω^)「違う、そんなことは聞いていない」

川 ゚ -゚)「私の………一族の話を聞いているのか?」




 
108以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:42:11.30 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「?」

ツンは不思議そうな顔をしていた。
もう、今を生きる世代では、そんな表情が出るのは当然ともいえる。

( ^ω^)「そうだ。お前たちは『枯木の魔女』を筆頭とした魔術連合に滅ぼされたはずだ」

川 ゚ -゚)「ふん、細々と生き残っていた者達も居たさ。だが、彼らには理由がなかった。だから彼らは消えた」

( ^ω^)「お前には生きる理由があった? そのお前以外は、理由がない為に皆死んだというのか?」

川 ゚ -゚)「そうだ、だから私達一族は、私を残して全員消え、現在も私しかいない」

ξ;゚听)ξ「なに? え?」

( ^ω^)「……荒巻はどうした? 奴も魔女に殺されたか? それとも、生き残った奴には理由がなかったとでも?」

川 ゚ -゚)「おじい様は私達を連れ、魔女を上手く避けて逃げた。が、その後すぐに私が殺し」

( ^ω^)「お前如きが荒巻を殺せるはずが無い」

川 ゚ -゚)「……私のために、おじい様は命を通して力をくださった。私の宿命を果たすための、糧となったのだ」

( ^ω^)「………………そう、か…………」

男、ブーンは窓の方へ歩いてゆくと、そこでまたクーに向き直った。
少し悲しそうな目をしているように見えたのは、頭を打ち付けた彼女の、不安定な主観を通したものだ。

( ^ω^)「――さて、そちらの質問を聞くお。『吸血鬼』」




 
110以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:46:24.87 ID:ot5p3W1U0
ξ;゚听)ξ「……置いてけぼり!」

部屋で最も先に動いたのはツンだった。
彼女だけがこの空間で完全に取り残され、ブーンの発言により余計に混乱してしまったのだ。

ξ;゚听)ξ「吸血鬼? え? いや、」

川 ゚ -゚)「どうした?」

ξ;゚听)ξ「あなた、血ぃ吸うの? 人とか襲うの? あのすごい力って天然?」

川 ゚ -゚)「まぁ、頻繁には吸わんが」

ξ;゚听)ξ「えぇぇぇぇぇぇぇ!」

川 ゚ -゚)「なんだ」

ξ;゚听)ξ「吸血鬼って、頭のおかしな狂人団体じゃなかったの? 人を喰らっていたことで魔女と対立して滅ぼされたって」

川 ゚ -゚)「む、心外だな。私は正気だぞ」

ξ;゚听)ξ「なんか話が噛み合ってないよ……」

( ^ω^)「じゃあ僕から説明でも?」

ξ゚听)ξ「あんたの口からは聞きたくない」

( ´ω`)「ぇぇ………? それはまた……」

川;゚ -゚)「んんん、なんだかよくわからない娘だな……」



 
112以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:49:45.50 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「私、ラウンジ正教!」

川 ゚ -゚)「ほう」

ξ゚听)ξ「私達魔女狩り!」

川 ゚ -゚)「ふむ」

ξ゚听)ξ「枯木の魔女!」

川 ゚ -゚)「わりと憎い」

ξ*゚听)ξ「おおおおお!」

( ^ω^)「なーに盛り上がってんだお」

ξ*゚听)ξ「すごいすごい! 歴史書の一族が実在してるよ!」

( ^ω^)「歴史書と今のやりとり絶対関係無いお……」

ξ゚听)ξ「でも本当に吸血鬼なのかぁ……単なる脚色、物語の存在だと思ってたのに……」

川 ゚ -゚)「君は魔女狩りなのか……妙な縁だな」

ξ゚听)ξ「はい、ニンニク好きですか?」

川 ゚ -゚)「風味は好きだぞ」

ξ;゚听)ξ「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええ! 雑食!?」 



115以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:54:00.30 ID:ot5p3W1U0
川 ゚ -゚)「やかましいなぁ……」

( ^ω^)「ごめんお、普段はこんなんじゃないんだお」

川 ゚ -゚)「それより貴様が何者なのか聞きたいんだが……」

ξ*゚听)ξ「ねえねえ、あなたの話が聞きたい!」

川 ゚ -゚)「私には話すようなことは何もないが」

ツンは遠慮をなくしたのか、ベッドに座ってきた。

ξ*゚听)ξ「昔の魔女がどんな存在だったかとか、聞かせて欲しいです!」

(;^ω^)「おま……歴史書読んでるなら質問考えて……」

川 ゚ -゚)「クズだ」

ξ*゚听)ξ「吸血鬼って死なないんですか?」

川 ゚ -゚)「滅多なことでは死なん」

ξ*゚听)ξ「なる! 銀の十字架!」

川 ゚ -゚)「宗教に興味はない」

ξ;゚听)ξ「えぇぇえぇぇぇぇえぇええ!」

川 ゚ -゚)「そろそろちょっと黙れ。ブーンといったか? 貴様に聞きたいことがある」




 
117以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 21:58:19.68 ID:ot5p3W1U0
ツンを軽く突き飛ばし、覆い重なるようにベッドに押し倒したクー。
その今にも襲ってしまいそうな体勢のまま、窓際で腕を組むブーンに向かって声をかけた。

( ^ω^)「この体のことかお」

川 ゚ -゚)「ああ。貴様の治癒力、明らかに人間のそれではないだろう」

( ^ω^)「ま、僕にも事情ってもんがあって」

川 ゚ -゚)「治癒の様子、速さもおじい様と酷似していた。それに貴様はおじい様と知り合いらしいが、何者だ」

( ^ω^)「治癒のかたちが荒巻と似ているのは、仕方のないことだお」

川 ゚ -゚)「どうして」

( ^ω^)「これは、君達の起源に関わることだから」

川 ゚ -゚)「……なんだと?」

( ^ω^)「今や齢六百を越えた枯木の魔女の最初の秘蹟。それは、乱用すれば生態系を破壊する呪い」

川 ゚ -゚)「いきなり何を言って、」

( ^ω^)「僕に刻まれたその秘蹟は、『不滅不老不壊不死』。それは、人が背負うにはあまりにも大きな枷」

川 ゚ -゚)「???」

( ^ω^)「そして、その呪いを持った者が君達吸血鬼の基盤、要するに君達の原初が、僕と枯木の魔女だお」

川;゚ -゚)「あう、……やべー、さすがの私もついてけねー……魔女が、なに? え?」


 
120以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:02:37.56 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「まあ、話半分で聞いててくれればいいお。ていうか、ここまでの話はその子には――」

ξ* )ξ「ハァ……はぁ……っ………!」

川 ゚ -゚)「私の香りでやられているようだ。よかったな」

( ^ω^)「なるほど、吸血鬼の匂いのほかに、新たな特性を備えているようだお」

川 ゚ -゚)「まあ、それを私から使う相手はこの世にただ一人だが」

( ^ω^)「ドクオ、ってやつかお?」

川 ゚ -゚)「そうだ、そして彼を殺すことが、私の生きる理由」

( ^ω^)「……ん、」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

( ^ω^)「……あいつは人間だお」

川 ゚ -゚)「そうだが……何だ?」

( ^ω^)「ずっと、あいつを追っていた? お前一人で、仲間を増やそうともせずに?」

川 ゚ -゚)「そうだ」

( ^ω^)「……その意味が、僕には全く理解できない」

川 ゚ -゚)「それはそれ、だ。貴様には理解する必要も、する意味も、してもらう気も、無い」




 
123以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:06:54.05 ID:ot5p3W1U0
商業都市の夜は長い。
日が落ちようと灯りは消えず、人々はこぞって、明日への活力を蓄える。
騒ぐ者、食べる者、昏倒するまで飲み続ける者、どれも人々の楽しみで、
三人の泊まる宿の一階でも、それは漏れることはなく。

    ξ*゚听)ξ⊃Π「フハハハハハハハッ! 我こそはラウンジの騎士ぞー!」

 「いいぞねーちゃん!」「もっと飲めー!」「お、街最強の腕輪のおっさんが出てきたぞー!」  サァサァ(゚∈゚*)))))
       「あの金髪、すげえ大酒飲みだな!」「よっしゃ、俺は女に賭けるぜー!」

( ^,ω^)クッチャクッチャ

川*゚ -゚)「まともな食い物は久しぶりだ! 大大おじ様!」

( ^,ω^)「いや、まじでおおおおおじさま言うな」クッチャクッチャ

=川*゚ -゚)「よいではないかよいではないかぁ! 嫌なら何て呼んでやろう!」

ジョッキを持ったツンがお立ち台に上り叫んでいたり、ワイングラスを持ったクーがブーンに抱きついたり。
周囲の人間も一人残らず飲み食い騒ぎ、ある意味新たな地獄絵図。

( ^,ω^)つクッチャクッチャ(ひいひい孫くらいなの………? わかんね………)

川*゚ -゚)「パパー! それ食べたいぞ!」

( ^,ω^)「おう食え食え、クーはかわいいなあ」

ξ*゚听)ξノ「あ! ブーン! 私にもおつまみ!」

( ^,ω^)つミ皿 


125以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:10:45.92 ID:ot5p3W1U0
ぱたん。

ξ* )ξ「ふー………」

温かい息を吐きだした、ニュー速最強の酒豪を破ったツン。
飲んだ量を総合すれば彼女が溺れてしまうほどの量で、彼女から噴き出す熱気が、それを分解していた。

川*゚ -゚)「酒はうまいなぁ……」

うっとり顔のクーが、そのツンの肩を背負う。
なんやかんやでこの二人、酒の席を共にしてちゃっかり意気投合をしてしまっていた。
ちなみにブーンはといえば、ツンが新たに部屋を取らせ、そこに隔離という形で放置している。

ξ*--)ξ「くーさぁぁぁん……」

川*゚ -゚)「ん、どうしたぁー?」

間延びした声を通し合い、一緒のベッドに倒れ込む。

ξ*--)ξ「ねむい」

川*゚ -゚)「ああ、私もだ、な」

ぐったり。
体の力はどこにも入っていない。
二人は波にさらわれた人形のような不自然な体勢で目を閉じた。

ξ*--)ξ「あ、そだ。くーさんにききたいことがあった」

川*- -)「なんだ? 今ならなんでもこたえるぞ?」



 
127以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:14:26.24 ID:ot5p3W1U0
ξ*--)ξ「くーさんはぁ……吸血鬼一族で最後の一人なんでしょぉ?」

川*゚ -゚)「ああ、そーだな」

ξ*--)ξ「じゃあさぁ、子供とか、欲しくならない?」

川*゚ -゚)「子供、かぁ……」

子供。
一族最後の吸血鬼、そして最後の女性であるクーが、子供を作る。
それを実現したとしたら、彼女の血族は新しい歴史を刻むことになるだろう。

今まで常に吸血鬼は、親等が遠い者と交わり、その子を増やしてきた。
つまり、一度も吸血鬼以外のものと子を生したことはないのだ。

そこで、クーが誰かと交わる。相手で可能性が高いのは、人間だろうか。
そこで、生まれてくる子供がいたとする。だがその子は世界にとって、どういう存在になるのだろうか。

現在ではほとんど非現実として認知される吸血鬼と人との混血児。
かつてないだけあって、どういうものとなるかは想像もつかない。

あるいは、吸血鬼以外とでは子を生せないかもしれない。

それは、彼女がどれだけ子が欲しがったとしても。
吸血鬼という異形の生物の体は、明確なものを示さない可能性がある。
言うにそれほど簡単な話では、ないのかもしれないのだ。

川*゚ -゚)「私は欲しいなぁ、元気な子だと嬉しいぞ」

ξ*゚听)ξ「くーさんの子なら、きっと元気でかわいい子だねー!」

128以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:19:08.08 ID:ot5p3W1U0
川*゚ -゚)「ま、私は子供は苦手なんだが」

ξ*゚听)ξ「えー? かわいいじゃん子供ー」

川*゚ -゚)「それよりツンはどうなんだ? 子供欲しいか子供」

ξ*゚听)ξ「すっごいほしい! けどー、私には無理かな―」

川*゚ -゚)「ん? どうして?」

ξ*゚听)ξ「私さー、こどもつくるとこ壊れちゃってるからねー」

川 ゚ -゚)「な…………んだ、と?」

クーの頭は、彼女自身が意外に思うほど、瞬間で覚めた。
これほど自分が単純なものであったのかと自覚させられるほどの早さで、あっという間に、だ。

ξ*--)ξ「えへー、それがねー、私が騎士になるためのねー、」

へらへらとしている彼女は、それが当然のことだと、そしてそれをやたらに語りたげな顔で。
クーにはわからないその価値観は、クーの背筋まで、冷ましてゆく。

川 - )「騎士、か………、……………」

ξ*--)ξ「うんうん、私超頑張ったんだよー? お父様の研究の時にね……あのねー、」

川 - )「ああ……、うん、……ああ……、」

過去、『吸血鬼』は『魔女』に狩られ、『魔女』は『騎士』に狩られ。
『騎士』である彼女の心もおそらく、また『誰か』、『何か』に狩り取られているに違いない。そう、クーは思った。



 
130以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:23:33.05 ID:ot5p3W1U0
(;^ω^)「いやいやいや、なんでこうなってんだお」

朝から全裸で抱き合っていたクーは、ブーンの声によって眼を覚ました。

川 ゚ -゚)「ああ、ちょっとな」

あの後、ツンは泣き出した。
酔いもあったのだろうが、自分の過去をクーに垂れ流すように語り、やがて崩れた。
彼女が今まで積んできた感情は、旅の間、どこにも打ちつけられないものであったのだという。

相棒のブーンには全く理解をしてもらえない、女としての彼女の想い。
自分がどうあるべきか、彼に対してどう接していけばいいのか、彼女には未だによくわからないらしい。
騎士としてではない個人の、一人の人間としての彼女を受け止めることが彼にできるのかもわからず、どうしたらいいのか。

そこでクーが思いつきで、無理矢理彼女を慰めにかかった結果、きゃあきゃあ叫びながら服を脱ぎ散らかしてしまったのだ。

( ^ω^)「ま、別にいいかお。それで、君はどうするお?」

川 ゚ -゚)「もうすこしこの街に居る。ドクオはまだ居るような気がするんだ」

( ^ω^)「ふーん。じゃあこの街に居る間は一緒に行動するかお?」

川 ゚ -゚)「ふーむ、」

クーは少し考えてみる。
昨夜のツンの件と、彼女が今日、どう動くか。
彼女が本質的に弱い人間ならば、このまま一緒に居ては依存されてしまうかもしれない。
旅をしている彼女がそうなるのはあまり良いこととはいえないかなあ、といった具合で。

川 ゚ -゚)「一旦、保留で頼む。必ずしも私はこの街に留まるとは言えんしな」



 
133以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:28:16.70 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「おk。あと、ツンからは聞いたかお?」

改めた表情で、ブーンはまたクーに語りかけた。
クーが昨夜ツンから聞いたことを彼は読んでいるのだろうか。
不老不死という鎖に繋がれ続けた人間ならば、人の心など手に取るように把握しているのかもしれない。

川 ゚ -゚)「何をだ」

( ^ω^)「僕らはドクオの仲間じゃないお」

予想外の言葉に拍子抜けをした。クーはこの男の性格が、この発言でほんの少しわかったような気がした。

川 ゚ ー゚)「ふん、………そんなこと、昨日でわかっていたよ。悪かったな」

( ^ω^)「ならいいお。それじゃ、君の目的が果たせることを祈ってるお」

川 ゚ ー゚)「くくっ。祈りなど、貴様のような者には縁遠い言葉だと思うんだが?」

( ^ω^)「まぁ、連れの事情も考えて。こういうのは気持ちの問題だお」

川 ゚ ー゚)「いいだろう。我が先祖の言葉、有難く受け取っておく。私達一族の仇、とってくれれば嬉しいぞ」

そして黒のローブを背負い、全裸のクーは部屋を出ていった。

     「……ああ。僕の贖罪は、必ず」

ブーンは呟きを、もう閉じた戸に言い放つ。
過去のあやまちの結果とめぐりあい、今を共に過ごした奇妙な縁。
不思議と抵抗なく受け入れることができたのは、狂えるほどの時間がそうさせたのだろうか。
しかしそれが去ったことで、その感覚も消え去った。やがて彼に残った想いは、未だかたちを保っていた罪への、後悔。


 
135以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:32:24.21 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「ほら、市長に挨拶に行くわよ」

正午を過ぎたころ、ようやく起きたツン。
着替えを適当に済ませ遅い朝食を食べると、ブーンの腕を引っ張った。

( ´ω`)「別に僕は行く必要ないお……」

ξ゚听)ξ「いいから、行くの」

クーが去っていたことには特別反応せず、「ああ、行ったのね」程度の言葉を落としたのみ。
それよりも今は、市長への挨拶が優先らしい。

騎士としてこの街に世話になっているということは、街が少なからず教会側の干渉を受けるということだ。
騎士の影響力は、街によっては市長の支配力を上回り、その運営に支障が出ることがある。
そんなことにはならないように、街それぞれの長が定めている『特別法規』の確認をしに行かなければならない。

もっとも、これは形式的なものである。
これには『街という団体においては、騎士よりも市長が上位にある』という認識をはっきりさせる意味合いがあるだけだ。
わざわざ行われる理由は、過去にある場所で起きた、騎士が発端となった都市内での利権、商取引問題を反省としてのもの。

( ^ω^)「絶対嫌だお」

ξ--)ξ「ねえ……なんでそんなに嫌がるわけ?」

( ^ω^)「ここの市長が苦手っていうか……」

ξ#゚听)ξニア)「知ーらーなーいーわよ、そんなの、」

不服そうなツンの表情。彼女は寝そべるブーンの頬を力を込めた指で突き刺し始める。
このままの調子で話しているならば、どちらが折れるかはもう決まっているようなものだ。



 
138以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:38:01.75 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「あらあらあらあら! 久しぶりじゃな〜い!」

えんじ色の市庁舎の前でツンが警備に手形を見せていると、屋上から声が掛けられた。
昼間から庁舎の上で余裕で手を振っているところ、少なくとも低い立場の人間ではないようだ。

ξ;゚听)ξ「うわぁ……」

ツンは引いた。残念な貴婦人のような口調のおっさんを、ここで初めて目撃してしまったからだ。
結構遠くから見ているにも関わらず、顎の青いカビ髭が確認できたのも引きどころである。

「はっ! こちらの男性はショボンちゃんの客人でしたか! これは失礼しました!」

警備がブーンに向き直った。
そうなのだ。丁度これから、ブーンの素性について問われるところだったのに、

(*´・ω・`)「そうよ〜! 早く上げちゃって!」

「了解しました!」

敬礼を勢いよく、それも鞭打ちになりそうなほどの振りで天に向かって叫ぶ下っ端。
死ねばいい。そう二人は思った。

ξ;゚听)ξ「ショボンちゃん、って……」

正門から市庁舎に入り、案内通りに正面階段を昇らされる。
手すりもなにかベタベタしているような気がしたので、触った手を裾で拭いた。

踊り場にはきらびやかな油絵とショボンちゃんの肖像画があり、三階まで素直に上がったところ、それを立体化した像があった。
そして階段を上がってすぐ右に、市長室の茶色の大きな扉、その端々には瘴気が出ていそうな薔薇の装飾。
しかもその中から妙な歌声が聞こえたので、ツンは無意識に、歯を食いしばった。



 
141以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:42:27.40 ID:ot5p3W1U0
ξ;゚听)ξつ「……」

( ´ω`)「……」

躊躇う。

この扉は、自分が開けてしまっていいのだろうか、と。
この扉は、魔獣を封印する、抜くことは許されない杭なのではないか、と。

未熟者がその杭を抜けば、その恐怖に呑まれてしまうのではないだろうか、と、ツンは、

「ショボンちゃん市長、ご客人が一名と、教会から騎士様が参られたそうです!」

ξ;゚听)ξ  !?

 がちゃり。 すんなり案内人が開けた。

 ――しかし、中には誰も居ない。
    聞こえていたはずの歌声も止まっており、思わず、首を回してしまいそうに、なった、

£;゚听)ξそ  !!!!!!

が、

,ω・*`)「むふっ、君が彼の友達ね……かわいいじゃないの……」ムシャムシャ

奴は、魔獣は、ツンの右後方。
彼女の巻き毛に顔面を突っ込みはみはみしながら、耳に、鼻息を吹きかけて、そこに、居た。

£; )ξ「があぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁっ!!!!!」



 
144以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:47:19.64 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「あら、気絶しちゃったのね」

( ^ω^)「なんで前より女装癖が酷くなってんだお」

(*´・ω・`)「つれないわねえ……二十年ぶりの再会だっていうのに。っていうかそっちはなんで騎士と居るのよ」

ブーンがツンを支え、ショボンちゃんは部屋のソファに促した。
二人を連れてきた案内人は敬礼をし、ぱたりと扉を閉め、残ったのは三人のみ。

( ^ω^)「いや別に。……うーん、それにしてもほんとに変わってないお」

部屋を見回し、天井を見上げ、最後にショボンちゃんを見やる。
二十年という時間は人にとっては決して短くないものであるのに、それらは何も変わっていない。

ショボンちゃんは大きなデスクに座り、後ろに置いてあった植物に座ったまま手を伸ばすと、ひときわ大きな葉をむしった。
それをぎゅっ、と握り潰し、くしゃくしゃの葉で顔を拭うと、ゴテゴテした化粧は取れ、カビ髭も何故か消えていた。

(´・ω・`)「見た目も中身も話し方も、変わるだけの余裕は僕にはなかったんだよ……『魔王』の君とは、違ってね」

ξ;><)ξそ がっはす!

ショボンが言いきったと同時に、ソファにブーンを枕として寝かされていたツンが口から何かを噴き出しながら目を覚ました。

ξ;゚听)ξ「あ、あれ? 怪物市長は?」

(´・ω・`)「すまない、それは僕だ。あれはちょっとした遊び心だよ、騎士さん」

ξ;゚听)ξ  !!!

ξ゚听)ξ「……これは失礼を致しました。私はラウンジ正教第四翼『破』、ツン・デ・レイ・シュトックハウゼンと申します」



 
147以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:51:37.96 ID:ot5p3W1U0
(´・ω・`)「ふーん、聞かない名だね」

ξ゚听)ξ「つい四年程前、我らの名誉を崩した愚か者の後詰めとしてあてがわれたので……」

(´・ω・`)「でも、称号をもらっているんだろう? 不思議なものだ」

ξ゚听)ξ「それは、父上達の研究成果が教会に認められたためです」

(´-ω-`)「んー………待てよ……シュトックハウゼン、か」

(^ω^ )「……〜……」

(´・ω・`)「……そうか、君は錬金術師の? それはそれは随分異色な人事だ」

ξ゚听)ξ「はい。教会としてもこちらはかなり異例の扱いとなっているので、あまり公にはなっておりません」

(´・ω・`)「なるほど、それで。確かに教会と錬金術師が手を組むなんて、教会側としては面子が立たないね」

ξ゚听)ξ「あの……失礼ながらそろそろ『特別法規』の確認を……」

(´・ω・`)「ああ、すまない。君があまりに魅力的な女性だったもので、余計な詮索が過ぎたようだ」

椅子に座りなおし、デスクの引き出しをまさぐるショボン。
そこから一枚の薄い紙を取り出し、ツンをこまねき、手渡した。

ξ゚听)ξ「この紙……変わった手触りですね」

(´・ω・`)「それも確か錬金術の成果だろう? 確認事項はそこにあるから、質問があれば言ってくれ」

一枚に収まる程度の文字量、目を走らせるのにそれほど時間は掛からない。

151以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:55:28.95 ID:ot5p3W1U0
ξ゚听)ξ「いえ、特には無さそうです」

(´・ω・`)「それは、よかった」

ふぅ、と一息つくショボン。
その表情には、細かな皺と、本当に微かな安堵の色があった。
彼の知っているところ、騎士には傲慢な人間も多く、『特別法規』に口を挟むことが少なくないという。
それが無かったことに、今の安堵。吐き出しそうになる、深い溜め息。

ツンが見た『ショボンちゃん』と、今のショボンの姿は若々しく、それほど歳を召してはいないように見える。
しかしそれは見た目だけのもので、彼の積年の精神は、ツンには気取られない程度の慎重さを隠し持っている。

ξ゚听)ξ「ですが、それとは別に、」

(´・ω・`)「?」

ξ゚听)ξ「少し、この都市の流通を調べさせていただきたい、と私は考えております」

(´・ω・`)「……」

返事に窮し、自慢の下がり眉をひそめてしまいそうになる。
これは、この意図はどう取るべきか、と。
流通はこの都市の要。生命線で、問題があると摘発されれば、街の運営に関わる。

余計なことをされるわけにはいかない。しかし理由もなく拒むのも、それはまた別に、市長の対応として問題がある。
彼女がどういう考えを持っているのか、新米だという情報しかない現状では、想像ができない。
騎士という役、教会の犬として動いているならば、この大きな商業都市をどうにか手中に入れようとするのも不自然ではないのだ。

だが逆に、彼女が自分の目的、例えば流通の穴を見つけてそこに巣食うつもりなら、どうだろうか。
適当な餌を撒いて、適当な得をさせてやれば、切り抜けられるのではないか。


 
154以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 22:59:22.20 ID:ot5p3W1U0
( ´ω`)「ショボン……」

(´・ω・`)「なんだい?」

思考はショボンの旧友が遮った。
そういえば彼女は旧友の相棒だ、ならば?

( ´ω`)「ツンは純粋に仕事をこなしたいだけだお」

(´・ω・`)「あ、ああ……」

曖昧な返事をしてしまう。騎士の純粋な仕事とは、一体なんだろうか。
武力を行使し、信者を掴み、新たに大きな力を振るう、腐った人種ではないのか。

ξ゚听)ξ「魔導具の流通がなかなか収まりを見せないようなので、この都市にも関わりがあると考えているのです」

(´・ω・`)「なるほど、ね」

彼女の言葉を聞いてショボンは、本当に忘れていたことを、思い出した。

――ああ、そういえば『破』の騎士は、居るんだかいないんだかわからない『魔女』を狩る者だったっけ。

思わず鼻で笑いそうになった。
そんなわけのわからないものに向かって、この美しい娘は馬鹿正直に突き進もうというのか。
本当にくだらない。今の教会勢力が信じるものは、誰も触れることの許されぬ神ではなく、誰もが手を伸ばす汚い金だろう。

ならば二十年前の都市の頭脳、人心掌握を生業とした『魔王』も、一体何を考えているのか。
かつてこの都市、いやこの国の流通を思いのままに支配する卓越した商戦術をもって、なぜ今更金にならない方の『騎士』と。

まさかこの娘に熱を帯び、馬鹿げた幻想に噛みつかれてしまったまま、彼もまた信者と化してしまったのだろうか。


 
158以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:03:43.40 ID:ot5p3W1U0
(´・ω・`)「わかった、うちの職員に調べさせる。魔導具なんていうものだ、正規の流通路で流れているはずがない」

簡単に済ませてしまおう。
どうせ、悪寒が走るような気持ちの悪い偶像に違いないのだから。
ショボンは手元に置かれた鈴を、部屋の後部に設置されたパイプに向けて鳴らし、役人を呼びつける。

ξ゚听)ξ「ありがとうございます」

頭を下げる騎士。
やはり、美しい。そうショボンは思う。
確かに『魔王』が呆けるのも、仕方が無いかもしれない。

彼女の纏う、騎士が着る質素な黒の修道服でさえ、映えているのだ。

(´・ω・`)「結果が出るまでは暇になるだろう。少し、うちの方に来ないかい?」

そこに少し手を加えてみたくなるのは、ショボンの美意識が強いため。

ξ゚听)ξ「よろしいのですか?」

(´・ω・`)「ああ。宿よりも良い部屋を、個人的に持っているのでね」

「市長、お呼びですか」

丁度役人が部屋に入ってきたので、ブーンとツンは部屋の退出を求められた。


ぱたり、と締め出される二人。先に口を開いたのはブーンであった。

( ^ω^)「じゃ、宿に荷物を取りに行くお」



 
161以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:08:00.16 ID:ot5p3W1U0
川 ゚ -゚)「なに、もう去っただと?」

クーは結局、この日には何も得られるものはなかった。
行く場所行く場所で奇異の目を向けられ、ほとんどの人間に無視された。
構ってくれた人はといえば、旅の吟遊詩人だけ。その彼の話だと、彼女は危険な女だと言われているそうだ。

商業都市として動くこの街は、互いの情報交換に余念が無い。
主にそれは商売に関してのことだが、人をいきなり殺しに掛かる人間と関わりたい者は多くはない、とのこと。

その吟遊詩人も今日は、旅人であるという理由でなかなか取り合ってもらえなかったのだ。
腹が立って店の前で唄を歌い始めたところでようやく、ぶん殴られて理由を説明されたということらしい。

「は、はい……市長の家でお世話になるため、すぐに荷物を運んでくれ、という話を受けまして」

とりあえず、無理矢理詰め寄れば会話をしてくれる。ので、クーもそれに倣った。

川 ゚ -゚)「市長……そうか、そこなら場所はわかる」

「ひっ」

掴んでいた主人の胸倉を離し、カウンターの上に軽く突き飛ばす。
彼女の強行手段は、単純な暴力による脅しであった。

川 ゚ -゚)「ふむ、……」

そういえば、自分は二人の目的をあまりよくわかっていないなあ、などと考えつつ。

ドクオの居場所の相談のため、市長の家への道を歩く。
途中で視界の横、街の本道の向こうで火災が発生していたようだが、クーはチラ見で流す。
ツンの様子も少し気にかかっていたので、ついでに、といったように、ふらふらと足を運んでいった。



 
163以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:13:13.64 ID:ot5p3W1U0
都市ニュー速には闇の市場が存在する。
そこでは違法な品、例えば騎士が持つ刀剣類などの凶器や、一般の所持は許されていない、火薬などの道具が捌かれる。
この街ではそんな『許されない所持』をし、それを商業的な力の証明として扱う者が居る。

(;'A`)「商長、今日とんでもない奴らに出くわしまして……」

( ゚∋゚)「あぁ?」

暗がりに、小さな明かり。
その奥に座る、酒樽を小脇に抱えた大男。
彼はこの都市においてはなかなか有名な酒豪である。

しかしつい昨日、小柄な金髪女に飲みで敗北し、その牙城は崩れ去った。
彼の誇りは切りきざまれる。たかだか女などに負けたことは、無敗の五年間で築いた地位を、至極簡単にかき消した。

そしてそれは、怒りを生んだ。
許されない所持を大量に抱える彼は、その上に座ったまま、憤りを抱えた。

( ゚∋゚)「……黒髪と、長身の男と、金髪?」

そして報告を聞くと、彼の嵌める右腕の輪は、炎を生んだ。
子分を弄られ、その同日、当然のように酒を飲んでいたという事実に対する感情が、滾った。

(;'A`)「あぁ商長! 落ち着いてください! 衣装が燃えてます!」

彼女に負けた際は、彼には理由が足りなかった。
この憤りと共に揺れる力を振るい、全てを焼き尽くすための。

だが、今はある。それも至極正当な理由、仇討ちだ。
ならばその力存分に、肉の一片も残さぬよう、放たなくてはならないだろう。



 
165以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:17:35.27 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「かわいいわぁ〜! 食べちゃいたくなっちゃうわよ〜!」

从*'ー'从「あらら〜、嫉妬しちゃいますよ〜」

ξ; )ξ「な、な、な、なんなんなななん、なんなんなん?」

( ^ω^)「ほー、確かにかわいいお!」

夜。市長の家。衣裳部屋。

暖色に彩られた部屋には様々な国の着衣が用意され、今まさにその一着を被せられる一人。
それを見つめて両手を挙げて喜ぶ青カビヒゲと、白と黒の水かきのようなヒレのついた服を着るメイド。
そしていやらしく、バカにしたような顔で嗤う、背の高い男。

ξ;゚听)ξ「どうして!」

大きな姿見の前にツンは立っており、訪問するなりメイドに修道服を脱がされたと思えば、この有り様である。
ピンク色に染められた絹でかたちを作られた、足まで伸びる傘のようなスカート。
胸元には多種類の宝石が縫い込まれ、そこからやはりピンク色に伸びる、ふわふわの袖。
頭には撒かれた金髪に応じるように、きらきらと輝く銀のティアラ。

ξ*><)ξ「どうして〜?」

二度目の疑問の声は腑抜けたもので、にこやかに軽やかに、その場をくるりと回転した。

从*'ー'从「市長〜、この子私が食べちゃっていいですかぁ〜?」

(*´・ω・`)「ぬふふ、任せるわ! 事後報告はいつもの手記でお願いっ!」

ラジャーハァハァ从'ー'*从⊃ξ*><)ξ≡「なんぞなんぞぉ〜、メイドさんなんぞ〜! ブーン! もっと私を見てー!」


169以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:22:13.48 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「ていうか、ほんとになんでだお?」

残ったのはむさくるしい男達。
そのうえ一人は完全な変態である。

(*´・ω・`)「あら、いいじゃないの! かわいかったからちょっかいだしたくなったのよ〜!」

変態である。

( ^ω^)「ま、妙な誘いじゃなかったし、ツンも楽しそうだからいいお」

(*´・ω・`)「でしょぉ〜? あなたもムラムラしちゃったんじゃなぁい?」

( ^ω^)「ぬふふっ、まさか。僕が人に欲情するわけないお」

(*´・ω・`)「またまたぁ〜、あんなに可愛い子は十年に一人の逸材よ?」

( ^ω^)「それを言うなら、六百年に一人の価値を持った子だお」

(*´・ω・`)「うーんさすが『魔王』は了見が違うわぁ〜! あだ名まで呼ばせてるし、そんな女今まで一人も居なかったじゃない!」

( ^ω^)「いやぁ、あれは黒歴史だお。いろいろ商業に手を伸ばし過ぎて脳汁出しまくってたし、女遊びを忘れてて」

(*´・ω・`)「じゃあ戻ってきなさいよ! 今もまた新しい革命が起きそうなのよ? 時代は技術をもって、また変わろうとしてるから」

( ^ω^)「その、これから迎えるはずの新しい時代を守るための、僕。そしてそのための鍵となるツンが居るんだお」

(*´・ω・`)「……あらあら? これまた随分遠くを見越しているのね、あなたは」

( ^ω^)「人の未来は、人が作る。だから人が生んでしまった前時代の負の遺産は、全て排除しなければならないんだお」


 
173以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:27:12.91 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「はいはいかっこいいわね〜! じゃ、私達は飲みましょうか!」

衣裳部屋を軽い足取りで抜け、ブーンもその後についてゆく。
出た先は大きなホールで、天井にはシャンデリア。高い壁面には、花の蕾のような形の蝋燭棚が点いて輝いていた。

まるでダンスホールのような様相のこの場所には、衣裳部屋の反対側の壁に、おそらくショボンの趣味で作ったバーまで。
そこに腰掛けるようブーンに促したショボンは、カウンターの向こう側へと歩いていった。

( ^ω^)「あれ? お前が作るのかお?」

声を聞いていないのか、ショボンは棚をいじっている。
そこから透明な緑色の瓶を取り、その瓶にかけてあった布に、そこからの液体を染み込ませた。
液体によって濡れた布をぱしりと広げ、自分の顔に当て、擦る。

化粧を落としたショボンは咳払いを一度すると、その辺にあったグラスに背後の棚から引っ張り出した酒を勢いよく入れた。

(´・ω・`)「やぁ、ようこそバーボンハウスへ。このブランデーはサービスだから、まずは飲んで落ち着いて欲しい」

とん、とブーンの手前にグラスを置いたと思えば、今のセリフをゆっくりと言い、どや顔である。

( ^ω^)「……いやこれブランデーじゃねえお、っていうかドバドバ入れ過ぎだお」

(;´・ω・`)「なんだって!?」

ショボンはカウンターに手をついて頭を垂れた。
ブーンに振舞ったグラスに注がれていたのは、何故かウイスキーである。

(;´・ω・`)「くそぉ……せっかくカッコつけたのに! うおお誰か! 僕に酒を作ってくれ!」

知識は一切ないらしい。呼ばれてすぐにやってきたショボンの使いも、微妙な顔をするブーンに苦笑いを向けていた。

174以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:31:10.25 ID:ot5p3W1U0
川 ゚ -゚)「む、……また貴様か」

( ・∀・)「〜〜〜♪ あっと、またあなたですか」

川 ゚ -゚)「市長の家は遠いな、まったく面倒だ」

( ・∀・)「ええ、この街の市長はそれはそれは素晴らしいお方だと風の噂で聞いております
      おそらくその力量がゆえ、世俗とは離れた優雅な暮らしをされているのでしょうね」

川 ゚ -゚)「それで遠くに置いていると。むー、仕方ないからそれで納得してやるか」

( ・∀・)「いやぁ……それにしても……」

川 ゚ -゚)「何だ」

(;・∀・)「一曲通して聞いてくれる方が誰も居ない……人が多いならいけると思っていたのに」

川 ゚ -゚)「それは貴様の歌に心惹かれないからだろう」

(;・∀・)「……なかなか非道い。やはり走り始めた初心というものは、人の目にも映るものなのでしょうか?」

川 ゚ -゚)「私も一応聴いてはいるが、詞はつまらない、声も奏もいまいちと、見どころを挙げられんほどだからな」

( ・∀・)「でしたらぜひ、あなたの意見をお聞かせ願いたい。その為に始めたこの旅ですからね」

川 ゚ -゚)「ふむ、……ならば魅力的な女性への愛を詩えばいいだろう。人は単純で共感ができるものを受け容れ易い」

( ・∀・)「魅力的な女性……なるほど。では、本日暴れた貴女に捧げる詩を、今ここに書いてみせましょう」

川 ゚ ー゚)「くくっ、………それだけ柔軟な頭があるなら、貴様が歌で悩むことはなさそうだ」



 
177以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:35:36.83 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「あぁ〜酔った、完全に酔ったよホライゾンちゃんよぉ!」

( ´ω`)「わかったから、わかったからもう寝室行けお」

ブーンの肩を組んで瓶を咥えるショボンは完全に泥酔していた。
家の者たちも主人の泥酔っぷりに困惑しているようで、このような彼はあまり見られないらしい。

(*´・ω・`)「ふへへへ、吐きそう」

(;^ω^)つ「まって! それだけはだめ!」

ゲロを吐きかけられるのは慣れないものだ。
ブーンは全力で、先程から様子を見にやってきていたショボンの執事に彼を押しつける。

「おやめください! おやめください!」

執事はショボンをブーンに押し返す。

(;つ^ω^)つ「おまっセバスチャン! こいつ主人だお執事失格だお!」

「セバスチャンでは御座いませんっ! ニュー速の魔王どの! どうか、どうかご慈悲を!」

押し合い圧し合い、十数人のメイド達と執事の間で、ショボンは揺さぶられる。
そしてそんな小競り合いの中、ひそかに屋敷に侵入する影が二つ。

('A`)「商長、奴らなんか騒いでいます、チャンスですよ」

(;゚∋゚)「くっ、なるほど。俺達が情報収集をしてここへ来たことも、同様に情報として流れていたか! なんという!」

勝手に勘違いしていた。


 
179以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:39:28.69 ID:ot5p3W1U0
(´゚ω゚`)「やめ、やめ、やめ、」

一方、全力で彼らの輪の中をまわされるショボンの限界は近い。

(つ゚ω゚)つ「お前ら狂ってるお! 僕は客人だお!」

「「「「「「「どうかっ、どうかぁぁっ!」」」」」」」

総勢十六対一、ブーンの限界も、近い。

(´゚ω゚`)「おおおおおおおおっ! いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

⊂(;゚ω゚)⊃「なっ、昨日のしゅごおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

≡(♯゚∋゚)「さ、せ、る、かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「「「「「「「「「「「「きゃああああああああああああ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」

準備万端なショボン、
そのショボンを受け取り、焦った勢いと同時に侵入者に叫ぶブーン、
叫ぶ市長と、ついでに叫ぶブーンを見て、何かの秘策と勘違いした大男は腕輪から怒りの炎を巻き上げ、
ゲロの恐怖とブーンの声と、背後に迫る炎の渦に、それぞれ悲鳴をあげるメイド達。

ξ#゚听)ξ「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! そいつぁぁぁぁ魔導具だろぉぉぉぉぉぉっ!!!」

ホールにとっての四面楚歌には、さらにホールの階段上から飛び降りる主に胸元が乱れたピンクのドレスの金髪女が増え、

(;'A`)「なんだこれ……なんだこれ……!」

それを玄関口から遠巻きに眺める貧相な男は、状況の整理に必死だった。


 
184以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:44:15.90 ID:ot5p3W1U0
ξ#゚听)ξ「うおらぁっ! 来いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」

転がり着地。膝を立て、すぐさま燃え盛る炎に、腕を伸ばした掌を向けた。

(#゚∋゚)「貴様! 昨日の女かっ!! 探したぞ!!」

ξ#゚听)ξ「あんたっ! 魔導具を持ってたのね! ああくそっ、酔ってたからかなぁちくしょうっ!!」

ツンの出現で、炎は加速する。
男の魔導具の糧は憤怒。対象を捉えたことで、焼き尽くすそれは広がりを見せる。

(#゚∋゚)「子分の仇ィィィっ! 俺の誇りぃぃぃぃぃっ!」

ξ#゚听)ξ「んなもん知るかァァァァァァっ! この小物がぁぁぁっ!」

だが彼女の掌で、腕輪から迫るとぐろのような炎は留まった。
それは蛇腹を縮めるように圧縮され、小さな火の玉へと変化していった。

(;'A`)「うおお、なんだありゃ! 商長の衣装が!」

(#゚∋゚)「まだだ!」

男は腕輪に手を添えた。彼の炎は怒りの権化であり、止められることで、なお噴き上がる。

ξ#゚听)ξ「はっ! 舐めんな! 我が父上の錬金術の粋、クソメイドへの怒りとともにあんたにブチ込んでやる!」

掌の先の火球は男の炎を飲みこむことでさらに巨大化した。
そして叫んだツンは、その火球を両手で上下から支え、圧し、潰す。
潰された炎の塊は左右に弾け、赤から白の炎へと、まるで彼女の翼のように広がっていく。
白炎は瞬く間に彼女の肩を覆い、腕を巻き付くように駆け抜け、爪の先に到達すると刃のような様相へと姿を変えた。



 
187以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:48:40.22 ID:ot5p3W1U0
(#゚∋゚)「な、る、ほ、どぉぉぉぉぉぉっ!」

男は怯まず、頼みの腕輪に力を込め、消えぬよう祈るよう、ひり出す火炎がまたも走る。

ξ#゚听)ξ「んなもんっ! 効くか!」

床を弾くように走り出したツンの発光する両腕、爪の先を点とした光が真横に振られ、それを打ち砕いた。

彼女の父の開発した錬金術、それは魔術を変換し、自らの力へと変換する技術。
魔術を操る基本構造を解読し、破壊、再構築する技巧を、錬金術の分解粗製に絡め、ツンの体に刻み込んだ。

それは消えない呪い。
全ての魔術を粉砕し、全ての魔術を狩り殺すため、定められた彼女の宿命。
望んだものではなく、願ったものではなく、強制的に与えられた役割。

しかし、このことをを恨んだことは、怒りに震えたことは、彼女には無い。重たい枷となることは、ごく僅か。
彼女はそれをなによりも誇っている。それが絶対的な力であると信じている、信じられる。
その証明こそが、人の感情を喰う魔導具よりも、その光が、ツンの想いが、勝っているということ。

ツンの誇り、父の誇り。光は、魔術である炎を喰らう。
振るった腕は炎を裂き、裂かれた魔術は形を崩し、崩した男の憤怒は、爪が取り込む。

そして、光は強くなる。

ξ#゚听)ξ「ぶっ壊れろ!!」

二人の距離はもう無い。爪が襲うものも、極僅かすぐ近く。
すれ違うように駆け抜け、光の爪は男の腕を突き抜けた。

光を纏うツンの力が貫いたのは男の誇り。商業的物理的力の証明であった『許されない所持』、火炎を生む、腕輪。



 
189以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:52:43.29 ID:ot5p3W1U0
(;'A`)「あぁぁぁぁぁっ、商長の腕がっ!」

(; ∋ )「ぬおぉぉぉぉぉっ!!! ぐっ………ざばらああああああああああっ!!」

ξ#゚听)ξ「うっさいわね……別に大した傷でもねえだろ!」

ツンは駆け抜けた背後からさらに後頭部に飛び蹴りをかまし、大男を転倒させた。
情けない声を出して腕をさする男、その腕には耳の穴程度のものが一つ空いており、少量の血が流れ出していた。

(;A;)「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

(;゚∋゚)「あれ? 思ったよりはそうでもない傷だな……なんで……?」

外へと逃げていく貧相な男を無視して、ツンは大男の横にしゃがみ込んだ。
はだけたドレスが艶やかで、男は無意識にその胸の中を覗くと、あんまり無い。

ξ#゚听)ξ「ね、あんたの使ってたもの、どういうものかわかってんの?」

しかし目の前の女は美人だ。
あろうが無かろうがそれだけで興奮し、ついついその白い肌を舐めまわすように眺め、
無意識的に、それで満足といったような風で、頷いた。

ξ#゚听)ξΞ⊃「あっそ、死ね。じゃあどこで手に入れたのか言いなさい」

Ξ⊃)∋゚*)「なるほどぉぉっ! もっと打てぇっ!」

ξ# )ξ「なんだコイツ……つかえねー……」

(*´・ω・)=3「あーすっきりした。おっとツンちゃん、そいつは誰だい?」



 
191以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:56:34.63 ID:ot5p3W1U0
ゲロω )「く、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、っ、」

「急げ! 雑巾をお持ちしろ!」

「セバスチャンさん! 雑巾でよろしいのですか!?」

「ゲロの処理だ、客人といえど仕方ないだろう!」


ξ゚听)ξ「いやーこんちくしょう、魔導具を使ってまして……」

(´・ω・`)「ふーん。そうなんだ、大変だね。じゃあ一緒にお酒でも飲まない?」

ξ;゚听)ξ「え? えぇ……(華麗にスルー?)」

Ξ从*'ー'从「あ、ツンちゃ〜ん! 途中で逃げちゃだめでしょう!」

ξ#゚听)ξ「ごめんなさい くんな」


「ああっ! みなさん逃げてください!」


(・ω・`)「ん? メイドちゃーん、どうしたんだーい?」


「先の男の炎のせいで、今にもバーが炎上してしまいそうです!」

(;´・ω・`)「なん……だと……?」


 
194以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/16(金) 23:59:53.63 ID:ot5p3W1U0
川 ゚ -゚)「む……やっと見つけた……」

方向の感が残念なクーはぐるぐると街を周り、ようやく市長の家に辿りついた。
そこは先程の宿から最短距離だと眼と鼻の先にある、大きな屋敷。
家の前で集団が輪を作って何かを話しているが、おそらく彼らの背後で炎上している家に関係があるのだろう。

(;´・ω・`)「――魔術は実在する? そんな馬鹿な……だって存在しないって言ってたのは…………」

(ロ^ω^)「まあ、諸事情で君はそういう風に育ってきたわけだお、残念ながら認めるしかないお」

ξ;゚听)ξ「……ええと、家の様子を見ていただければ、その被害の程が」

(;´・ω・`)「うーん、家は幾らでも建てればいいんだけどね……」

ξ゚听)ξ「?」

(;´・ω・`)「君の修道服まで灰になってしまう。これは申し訳ない、流石に修道服は僕にはどうしようもないよ……」

ξ;゚听)ξそ !!!!

崩れ落ちそうになるツンの体をメイドの一人が首筋を舐めながら支えた。

川 ゚ -゚)「ツン、ここでの首尾はどうだ?」

从*'ξ;゚听)ξ「あ、クーさん……。首尾は、多分最悪だと思う……」

川 ゚ -゚)「ほう、奇遇だな。私もなかなか見つからないんだ。手詰まりだよ」

(ロ ω )「あの、あの、僕は…………僕は、ゲロの臭いが、取れないお………」


195以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 00:03:11.43 ID:WznWHEl+0
事態は市長の家が全焼したことで一段落を迎える。
それぞれは市長の手回しによって宿を取り、今日は一旦休むということとなった。
これは吐いた市長を放っておけない執事の判断であり、特に誰かが抗議することはなかった。

( ´ω`)「ふぃー」

ξ;゚听)ξ「どうしよう……」

川 ゚ -゚)「そういえば、随分な格好だな」

ξ゚听)ξ「うん、ちょっと不幸があってね……」

( ^ω^)「明日にでも、この街の教会に行くかお?」

ξ゚听)ξ「そうね……せめて普通の修道服は借りないと」

川 ゚ -゚)「そのあとはどうするんだ?」

ξ゚听)ξ「一度教会本部に戻る、かな? 手形も焼けちゃったし」

川 ゚ -゚)「なら、私もついていこう」

(;^ω^)「え? ちょ、え、ちょ……え?」

川 ゚ -゚)「……別にいいだろう? あてが無いんだ」

ξ゚听)ξ「そっか。じゃ、とりあえずはよろしくね」

(;^ω^)「確かにそいつが重罪人ならもっと探しようもあるのに、って……ああ、いや、うわぁ……お前来るのかお……」



 
197以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 00:07:13.28 ID:WznWHEl+0
ξ゚听)ξ「あいつはコソ泥らしいから、これからもずっとコソ泥ね」

( ^ω^)「コソ泥?」

ξ゚听)ξ「ああ、あの大男に聞いたのよ。なんでも色んな人の世話になってて、街を跨いでしょぼいことやってるらしいわ」

(;´ω`)「そりゃぁ本当にやっかいだおー、うわぁ……はぁ、」

川 ゚ -゚)「それはやはり、私が殺さなければならんな」

ξ゚听)ξ「コソコソしてて何が楽しいのかしらね。ああいう人種は、きっと生まれ変わってもドブネズミみたいなもんよ」

川 ゚ -゚)「……それは違う」

( ^ω^)「?」

川 ゚ -゚)「生とは常に千変万化、時間とともに変わっていくものだ。
     だからこれから先の未来、あいつがどんな姿でどんな生き方をしていようと。私はあいつを愛し、あいつを殺す」

( ^ω^)「んー……やっぱり意味がわからないお。吸血鬼ってそういうもんなのかお?」

川 ゚ -゚)「これが私の結論だ」

ξ゚听)ξ「もう結論出しちゃってるんだね」

川 ゚ -゚)「私は一つの結果のもとに生きている。過去の結果というものは、永劫変わることはないんでな」

( ´ω`)=3「うーわぁ、なんかこいつ複雑だお……」

ξ--)ξ=3「フクザツねぇ……」

198以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/17(土) 00:08:08.69 ID:ot5p3W1U0

翌日の昼前、宿屋の前で落ち合う面々。
朝っぱらからツンは教会へ行き、新しい白の修道服を無事借りることができた。

( ^ω^)「それじゃまたいつか、世話になるかもしれないお」

(´・ω・`)「聖地にこの街の調査の結果が届くよう、手配しておくよ」

アァ从*'Д(⊂ξ゚听)ξ「ありがとうございます。では、またいずれ」

頭を下げ、三人はショボンと別れる。
魔術の存在を知った彼は、ツンやその周辺に今後どのような影響を与えるだろうか。
何も聞かなかったものとして、今まで通りに商業都市の発展に努めるのだろうか。

本来は『枯木の魔女』以外の人間が使用することのできない魔術。
『魔導具』という器を用いることで、誰もが使える可能性を秘める超常的な力を見て、彼は。

そこで、ツンは考えた。
『負の感情を糧にする』という特性さえ無ければ、魔導具ほど素晴らしい技術はないではないか、と。
ショボンのような大きな力を持った者が優秀な人材を集めてこの研究にかかれば、どんな結果が得られるだろうか。
新たな発展が望めるのではないか、新たな歴史を切り開けるのではないか、これまでの人類史を、塗り替えられるのではないか。

しかし体に刻まれた父達錬金術師の答えは、その可能性を否定し、ツンも気付けば、それを受け入れていた。
クーの言うように人の生が千変万化だというならば、魔術を受け入れ、人類の英知とすることはできなかったのか。
確かに過去の結果は変わらない。しかし、今を生きる者達の『これから』は、どうなのだろう。

自身が体に抱えるのは破壊。だが今、彼女の頭は魔術の可能性を肯定しようとも考えている。
未来へ向けた答えの一つを、誰も掴もうとはしない一つを、『枯木の魔女』は一人で抱えているのかもしれないのに。
そこでふいにブーンらの顔を見るが、よく、わからない。正午へ向け徐々に活気づき始めた街も、それを知らぬ顔で。

 ep2. 一族最後の女 おしまい。


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