2 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:09:38.71 ID:h2UyRCd20
-
──エコー市郊外・元海軍基地周辺── なんだ。 (#
ФωФ)「おおおおおぉぉぉぉぉおおおおッッ!」 なんなんだ。 (#
ФωФ)「止められるものなら、止めてみよッ!」 (;´−`)「なんなんだ?! こいつは?!」
俺達は半数以上が元軍人だ。そこらの盗賊とは違う。 海軍の、それも“本部”にいたのだ。
それが。 それが……!
- 3 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:11:10.02 ID:h2UyRCd20
-
あの男が名を叫んだ直後、前線が集中砲火を浴びせた。 蜂の巣、だったはずだ。普通であれば。
だがあの男は引き金を引くよりも早く、こちらの最左翼に駆け出した。
右翼は銃撃を中断するしかなかった。同士討ちの危険があるからだ。 男が何をしているのか、こちらからは見えない。
しかし、確実にわかるのは。 (#
ФωФ)「その身に刻め! 吾輩の槍撃をッッ!!」 男の怒号と、その度に転がる兵達だった。
─────────────────────────── ─── act.4
≪crash-α.latter≫.Start───
───────────────────────────
- 4 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:13:34.39 ID:h2UyRCd20
-
特殊戦闘部隊VIPPERS。 そうあの男は言っていた。
初耳だ。そんな機関、軍人時代から聞いた事がない。 (# ´−`)「……俺達を放っておいて……あんな奴等を……!」
やってくれる。政府の犬が。 今更のこのこやってきて、俺達の邪魔をすると言うのか。 (#
´−`)「隊を分けろッ! 囲もうとするな! 同士討ちするぞッ!」 こちらの動きは、決して悪くはない。
しかし。 (# ФωФ)「貴様等如きに捉えられる吾輩ではないッ!」
初撃から一方的に左翼を削られている。 三メートルはある長ものを振り回す男。 ロマネスク。確か、そう言っていた。
あの棒が当たる瞬間、蒼白い光が奔る。 電気警棒か何かか……しかし、なんという動きの速さか。
(# ФωФ)「むんッ!」
- 6 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:16:26.42 ID:h2UyRCd20
-
構え、狙いを定め、引き金を引く。 一連の動作が終わる前に、同胞達は警棒の一撃に身を震わせ、倒れていく。
その全てが、一撃の下に。 他の者が引き金を引く頃には、もうその場にはいないのだ。
長警棒が蒼白い尾を引き、こちらの隊を掻き回している。 それはさながら、稲妻のような。 (#
ФωФ)「“迅雷の槍”、それが吾輩の異名よ!」 一撃を放つ度に、言葉を刻んでいた。 (#
´−`)「冥土の土産とでも言いたいのか……舐めるなよ!」 まだまだこちらには人数がいる。
あの動きを、いつまでも保てるわけがない。 (# ´−`)「あいつを囲め! 武器を変えろ! 銃では不利だ!」
同士討ちの危険性、距離、そしてあの動きを考えると、とても銃では対応できない。
相手の獲物は、長ものだ。こちらは小回りの利く獲物で、懐に入りさえすればいい。
多少犠牲があろうが、知った事か。奴等を片付けられれば、それでいい。 (#
ФωФ)「接近戦を挑むとは……なめられたものである」 吠えていろ。 最後に勝つのは、俺だ。
- 7 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:19:57.73 ID:h2UyRCd20
-
(# ´−`)「後方援護しろ! 出てきたところを叩け!」
近接隊で囲み、後方は狙い撃てるように待機させておく。 盤石だ。いくら強かろうが、所詮は一人…… (#
´−`)「……? 何をしている?! 早くあいつを囲め! 右翼!」 最初に、隊を分けた。
あの男が左翼に切り込んできたからだ。 右翼の前衛で後ろを塞ぎ、残りと後方で援護を……。 (#
´−`)「右翼! なにをして───」 ( <●><●>)「死にましたよ」
(;´−`)「───ッ!」 こちらを見つめ、不気味に佇む男。 その足元に横たわる、いくつもの死体。
男の両手には、闇と同じ色をしたサブマシンガンが握られていた。 (
<●><●>)「元軍人が、聞いて呆れますね」 そんな、あの人数を、もう。
(;´−`)「なんだ……なんなんだよてめえらはッ?!」
- 8 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:23:23.95 ID:h2UyRCd20
-
(# ФωФ)「言ったであろう」 (
<●><●>)『VIPPERSと』(ФωФ #)
(;´−`)「……クソが! やれ! やれッッ!」 再び吼える発砲音。
同時に、サブマシンガンの男が地を蹴った。 警棒の男に劣らぬ速さだ。 男が立っていた地面を銃弾が空しく通過した。
避けた先は、瓦礫の陰。 逃げ先は、読んでいた。
(;´ー`)「へ、へへ……これでも、食らえッ!」 すぐさま瓦礫の向こう、男が隠れている場所へ手榴弾を投げる。
吹き飛べ、全部、吹き飛んじまえ。 ( <●><●>)
瓦礫から、男の頭だけが現れる。
- 9 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:27:31.81 ID:h2UyRCd20
-
そのすぐ後に、サブマシンガンの銃口が現れ、 ( <●><●>)
一発。 一発だけ、発砲した。 (;´−`)「なんだとォッ?!」
発砲の直後、空中で手榴弾が爆ぜた。 この暗闇の中、放られた手榴弾を狙い撃ちにしたのだ。
あり得ない。拳銃で狙いを定めたわけでもなく、重い自動小銃で……。 (# ФωФ)「ぬんッ!」
(;´−`)「!」 爆発の隙を突き、気を取られていた近接隊が一薙ぎで三人倒れる。
続け様に返しの一閃で、二人。警棒の下側での突きで、一人。 実力が、違いすぎる。 一騎当千。
そんな言葉が、頭を過ぎった───
- 11 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:30:48.48 ID:h2UyRCd20
-
──エコー市郊外・元海軍基地周辺── (; ゚¥゚)「な……」
言葉が、出なかった。 かつて私もいた元海軍部隊が、次々に地に伏していく。
自警団総出でも、とても敵わぬあいつらが、まるで紙の如く。 ( ><)「大丈夫なんです。隠れていて下さい」
(; ゚¥゚)「あ、あなた達は……一体……」 ( ><)「“VIPPERS”、ですよ」
(; ゚¥゚)「VIPPERS……」 特殊戦闘部隊、VIPPERS。
軍が壊滅した首都から、VIPPERSの数名が派遣される。 それは以前から、聞いていた。
たった数名で何ができるというのか、甚だ疑問だった。 実力を見てみれば、あまりの人間離れした強さに、驚嘆するしかなかった。
既にシラネの部隊は、半数以上が戦闘不能に陥っている。 ワカッテマスの正確無比な銃撃と。
ロマネスクの目で捉えきれぬ警棒……いや、槍の一撃によって。
- 12 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:33:50.53 ID:h2UyRCd20
-
(# ФωФ)「ハァッ!」 一撃が、強靱。 (
<●><●>) 一発が、的確。
武装した元軍人を、この暗闇の中、あの人数を。 怯みもせずに立ち向かい、蹂躙と言って良い程に圧倒している。
(; ゚¥゚)「……これほどとは……」 ( ><)「言ったんです。あなた達を守るって」
(; ゚¥゚)「ビロードさん……」 ( ><)「ビロードでいいんです。流れ弾に気をつけて下さい」
(; ゚¥゚)「あ、ああ」
-
-
-
-
- 14 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:35:46.79 ID:h2UyRCd20
-
このビロードも、あの二人と同じ様な実力なのだろうか。
とてもそうは見えないが、同じ部隊ならそれなりの力を持っているのだろう。 (; ゚¥゚)「あなた達は……」
戦況を見つめながら、言葉を続けた。 (; ゚¥゚)「一体どうして、ここまで」
( ><)「十五年、です」 (; ゚¥゚)「……?」
( ><)「十五年、僕達は訓練を続けてきたんです。小さな時から」 (; ゚¥゚)「……」
最初に三人を見た時は、正直に言って驚いた。 外見でわかる程の、三人の若さにだ。
こんな若者に何ができるというのか。そう、思っていた。 あの時怒りをぶつけてしまったのは、少なからずそれもあったからだ。
だが軍歴を聞いてみれば、私よりも長い。 誤解を、していた。
- 15 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:37:46.66 ID:h2UyRCd20
-
( ¥ )「……すまなかった」 ( ><)「え?」
( ゚¥゚)「いや、なんでもない。あなた達の実力、よくわかりました」
( ><)「僕は何もしてないんです。でも、あの二人に任せておけば大丈夫なんです!」
時折走る蒼白い光に、目を細める。 “迅雷の槍”とは、よく言ったものだ。
その捉えきれぬ動きは、正に稲妻の如き疾さだ。 (# ФωФ) (
<●><●>) 私に─── ( ゚¥゚)「私に……」
( ><)「……?」
- 16 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:40:20.61 ID:h2UyRCd20
-
( ゚¥゚)「私に、あそこまで力があれば、住民達は人を食わずに済んだのでしょうか」 ( ><)「……」
( ゚¥゚)「力があれば、友が道を誤らずに、済んだでしょうか」 ( ><)「……」
もっと、もっともっと、私が強ければ、別の道もきっとあったに違いないはずだ。 ( ><)「フォルスさん」
( ゚¥゚)「……?」 ( ><)「あなたは、強いんです」
( ゚¥゚)「……私が……強い……?」 ……馬鹿にしているのか。 それなら、それならば。
こんな未来は、こんな『今』は、きっとなかったはず……。
( ><)「十五年も、あなたは自分の正義を貫いてきたんです!
だから、あなたは強いんです! きっとみんな、そう言うんです!」 ( ゚¥゚)「私の……正義……」
- 17 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:44:33.22 ID:h2UyRCd20
-
( ><)「あの男に言い放った、フォルスさんの正義。しっかりと胸に届いたんです!
だからどうか、迷わないで、後悔をしないでほしいんです!」 ( ゚¥゚)「……」
後悔。 私は、後悔をしていたのか。 “力”を羨み、嫉妬をして、己の無力さを盾にして。
( ¥ )「……」 何度も迷った。 シラネに誘惑をされる度に、私の心は揺れ動いた。
ああなっても、あいつは私の友なのだ。 友を裏切ってまで、私は自分の正義を貫いて良いものなのか。
それははたして、罪ではないのか。悩み、苦しんだ。 そして今日、シラネの手を取らなかったあの瞬間から。
私は、自分の正義を選んだ。 未だそれが正解なのかはわからない。
だがビロードは、私を強いと言ってくれた。
- 18 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:47:39.56 ID:h2UyRCd20
-
後悔をしない。 それが一体どういうことなのか、わからない。
友よりも、正義を選んだ事の意味は─── ( ><)「終わるんです」
( ゚¥゚)「───ッ!」 気が付けば、立っているのはVIPPERSと、シラネだけだった。
( ><)「行きましょう」 ( ゚¥゚)「……」 瓦礫の陰から出て、駆け寄る。
シラネは観念をしたように、両手を挙げていた。 (;´−`)「バケモンどもが……」 (
<●><●>) ( ФωФ)「ワカッテマス。落ち着くのである」 (
<●><●>)「…………」
- 19 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:49:59.61 ID:h2UyRCd20
-
(;´ー`)「殺せよ。どうせ俺は、重罪で死刑だろう?」 ( ФωФ)「それは政府が決める事である。
……これだけお前の仲間を片付けておいて、それはないとは言えないが」 (# ´−`)「……クソが」
( <●><●>)「望みなら今すぐ殺してあげます」
( ゚¥゚)「待って下さい」 ( <●><●>)「……」
(;´ー`)「ようフォルス。よかったじゃねえか。つええ助っ人が現れてよ」 ( ゚¥゚)「……シラネ」
( ´−`)「……なんだよ」 ( ¥ )「……すまなかった。お前を、裏切ってしまった。
こうなっても、お前は友だ。そのことには……」 (#
´−`)「あぁ? フォルスてめえ……ふざけてんのか?」 ( ¥ )「……?」
- 20 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:52:32.52 ID:h2UyRCd20
-
(# ´−`)「相変わらず、甘い奴だな。お前は」 (#
´−`)「何が友だ。てめえは何だ? 自警団のリーダーだろ? お前を誘ってたのは、そういうことだ」
( ゚¥゚)「どういう……ことだ」 (# ´−`)「自警団のリーダーが動けば、下の連中もついてくるだろ。
そういうことだよ。何が友だ。虫唾が走るぜ」 ( ゚¥゚)「シラネ……お前……!」
( ´ー`)「俺の部隊が拡大したら、こんな街に用はねえ。 皆殺しにした後、他の街へ行き、また仲間を増やす。
最終的にはヴィップに攻め込み、放置された恨みを晴らすのが俺の目的だ」 (# ゚¥゚)「シラネ……!」
( ´ー`)「馬鹿が。お人好しにもほど───」 (; − )「がッ?!」 (
<●><●>)「やはりお前は、ここで死ぬべきです」 (#
ФωФ)「情状酌量の余地も、更正の見込みもないのである」 (# ><)「……久しぶりにカチンときたんです」
- 22 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:55:33.05 ID:h2UyRCd20
-
( ¥ )「───待ってくれ!」 ( <●><●>)「ッ」
( ¥ )「……私が」 (# ゚¥゚)「私がこいつに、引導を渡す」
( ФωФ)「フォルス殿……」 (# ゚¥゚)「立て、シラネ。私の手で、お前を屠る」 (#
´−`)「馬鹿が……名ばかりの自警団で腰を下ろしてただけのお前が、俺に勝てるかよ」 (# ゚¥゚)「黙れ!」
ゆっくりと立ち上がったシラネを、強く睨み付ける。 もう、友などとは、思わない。
(# ゚¥゚)「……手は出さないで頂きたい」 ( ФωФ)「心得た」 (
<●><●>) ワカッテマスが、私に銃を差し伸べた。 それをロマネスクが、静かに制する。
気持ちを汲んでくれたのが、有り難かった。
- 23 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 21:57:35.70 ID:h2UyRCd20
-
実力で、拳で、戦いたい気分だったからだ。 ( ゚¥゚)「……シラネ、最後にもう一度だけ聞く」
( ´ー`)「なんだよ」 ( ゚¥゚)「さっき言った事は……本当なのか」
( ´ー`)「嘘言ってどうすんだよ。本当だ。俺はお前を利用しようとしてたんだよ」 ( ¥ )「…………」
そうか。 本当に、そうだったか。
ありがとう。 さよならだ。
(# ゚¥゚)「おおおおおおぉぉぉぉぉおおおおッ!」 一歩を強く踏み込み、全力を込めて右の拳を叩き込まんと。
その癖のある笑みを、いますぐに止めてやる。
- 24 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:01:02.71 ID:h2UyRCd20
-
(# ´−`)「ッ!」 シラネが小さく身を屈め、避ける。 拳は空しく、奴の頭の上を通過した。
(# ゚¥゚)「はァッ!」 すかさず、避けられた右腕を強く引き、右足を蹴り上げる。
奴はそれを屈んだ状態で、腕を交差させ受け止めた。 (;´−`)「チッ……」
受けられた瞬間、足を掴まれると思った。 腕が痺れているようだ。甘く見てもらっては困る。
私とて、十五年の間戦ってきたのだ。 足を戻す。次に放つのは、左拳。
屈んだままのシラネの顔面に、叩き込んだ。 #); − )「グッ?!」 そのまま、振り抜く。
下から殴り上げられたシラネは身を逸らし、よろめきながら後方へと下がる。
(# ゚¥゚)「どうした! シラネ! お前はこの程度だったのか?!」
- 25 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:02:54.40 ID:h2UyRCd20
-
(# − )「クソが……調子に乗るなよ」 口端に垂れた血を腕ですくい上げる。
その後に、血の混じった唾を吐き捨てた。 過去に何度も、シラネとは手合わせをしている。
徒手でも、武器戦闘でもだ。 私達はそのどれもが、互角だった。
こんな形で決着をつけることになるとは思っていなかった。 だが、もう後戻りはできないのだ。
この戦いに、引き分けはない。 (# ´−`)「オラッ!」 放たれた、右拳。
先の私と同じ、顔面を狙った直線的な突き。 (# ゚¥゚)「ッ!」
それを左腕の甲側で下から押し上げ、軌道を逸らす。 懐に、潜り込んだ。 (# ゚¥゚)「シィッ!」
右拳を固め、腹をめがけ拳を撃ち込む。 (# ´−`)「ッ!」
- 26 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:05:41.80 ID:h2UyRCd20
-
私の拳がシラネのみぞおちにめり込む……ことはなかった。
読まれていた。拳はシラネの左手の中に吸い寄せられるように、止められた。 (; ゚¥゚)「ッ!」
逸らした奴の右腕。それを曲げ、私の後頭部へと巻き付ける。 そのまま頭を、引き寄せられ、 (#
´−`)「食らえッ!」 顔面目掛け、膝蹴りが放たれる。 力の限り首を逸らそうとするが、頭は固定され動かない。
(# ゚¥゚)「おおおおぉぉぉぉ!」 それならば、前へ。 強く、地を蹴った。
(;´−`)「ぐおッ?!」 シラネの懐に私の頭が突き刺さる。
(; ゚¥゚)「ぐッ……!」 同時に、顔面に放たれた膝蹴りが、胸にめり込んだ。
だが、押し切る。更に地を、強く。
- 27 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:09:15.36 ID:h2UyRCd20
-
(; − )「ッ……ぐ……」 そのままシラネを押し倒す形で、馬乗りに倒れ込む。
(; ゚¥)「……ッ」 倒れた衝撃で、シラネの膝が更にめり込んだ。
途端、体を突き抜ける苦痛に顔を歪ませる。 肋骨が折れたか、ヒビが入ったか。 構うものか。
(# ゚¥゚)「……」 拳を握る。爪が手の平に食い込む程に、硬く、固く。
拳は、私自身の意思。 意思とは、即ち───
(# ゚¥゚)「シラネよ! これが私の───正義だッッ!!」
-
- 28 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:15:03.61 ID:h2UyRCd20
-
(; Д )「ごッ……ぐぁ……」 シラネの顔面に、拳を叩きつけた。
呻き声をあげ、シラネはそのまま沈黙する。 ( ФωФ)「……お見事」
(; ゚¥゚)「はッ……はッ……」 ロマネスクが肩を貸してくれる。
痛みが走る肋骨を押さえながら、立ち上がった。 殴った拳にも鈍い痛みを感じる。折れたか。どうでもよかった。
( ФωФ)「ビロード、フォルス殿を」 ( ><)「了解なんです!」
(; ゚¥゚)「……すまない」 ( ФωФ)「お気に召さるな。貴方の正義、しかと見届けたのである」
(; ゚¥゚)「……」
- 30 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:19:18.11 ID:h2UyRCd20
-
(; ¥ )「ロマネスク殿……」 ( ФωФ)「なんであるか?」 (; ¥
)「私は確かに、正義を貫いた。……怒りに任せて、ですが。
……正義とは、はたして友を倒してでも貫かねばならぬものなのでしょうか」 ( ФωФ)「……」
どれほど地に落ちようと、友は友なのだ。 どれほど変わろうと、記憶の中の姿は変わらないのだ。
そんな友を討ってまで、正義とは、貫かなければならないのか。 頭の血が引いていく。冷静になっていくに連れ、そんな思いが過ぎる。
私には、心の底からシラネを拒絶することは、やはりできなかったということなのだ。
( ФωФ)「……正義とは、各々が持っている“志”である」 (; ゚¥゚)「……“志”……」
( ФωФ)「それが違えば、対立するのは必然である。 だから戦争が、人の争いは無くならないのだ」
(; ゚¥゚)「……」 ( ФωФ)「あの男も、最初こそフォルス殿と同じ正義を信じていたのかもしれない。
だが、それは変わってしまった。……正反対の物に。
だから、友としてフォルス殿はあの男を正したのだ」
- 31 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:24:01.79 ID:h2UyRCd20
-
(; ゚¥゚)「……」 ( ФωФ)「ただ倒したのではない。フォルス殿は、役目を果たしたのだ。
正義を貫くと同時に、友としての、役目を」 (; ゚¥゚)「私の……役目……」
( ФωФ)「そうである。決して後悔する事ではない。 だから、胸を張ってほしいのである」
(; ゚¥゚)「…………」 友としての、役目か。 暴走をし始めていた友を、止めたと言う事だろうか。
( ФωФ)「この男が改心するかどうか、それはわからない。
だが、フォルス殿はすべき事は全てした。本当に、見事だった」 ( ><)「僕も見習いたいんです!」
(; ゚¥゚)「……」 ( ФωФ)「……偉そうな事を言って、すまなかった。
しかし吾輩にも、かつて同じ正義を誓った友がいた。 それを貫く……その為に、戦っているのである」
(; ゚¥゚)「そう、か……」
- 32 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:27:30.91 ID:h2UyRCd20
- ( ФωФ)「これからもそれを貫き続ける事が、友への礼儀である。
吾輩は、そう考えている」
( ゚¥゚)「友への……礼儀……」 ワカッテマスに担ぎ上げられていたシラネを見る。
きっともう、会う事はないだろう。 重罪だ。死罪は、免れない。
もうあいつは、己の正義を変える事も、進む事もできないのだ。 その分私が、歩き、貫き続ける事が、あいつへの。
( ゚¥゚)「……ありがとう」 ( ФωФ)「信じるのである。自分の中の、正義を。
自分を信じられなくなったら、己の正義を信じるのである」 ( ゚¥゚)「……覚えておきます」
迷いが生まれたら、自分の正義を信じる。 胸に、深く刻んだ。 道を違えた友の為にも。
私は進まなければならないのだ。 風が、吹きつけた。 十五年間、その風に嫌悪感を抱いていたはずなのに。
なぜか、心地良く感じた。
- 33 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:31:18.42 ID:h2UyRCd20
-
──エコー市郊外・元海軍基地── ビロードとワカッテマスに二人を任せた。
少し、一人になりたい気分だった。 ( ФωФ)「……よく言ったものであるな」
フォルスに向けた言葉の数々。 あれはいつも、吾輩自身へ言い聞かせている言葉だった。
フォルスの姿が、自分と重なったのだ。 友を失った、男の姿が。 ( ФωФ)「……」
暗闇に覆われた海を見る。 世界の全てを吸い込んでしまいそうな、不気味な海だった。
この海に、吾輩の友は飲まれたのだ。 ( ФωФ)「……ヒート」 名を、呟く。
もう、永遠に返事はない。
- 34 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:38:10.97 ID:h2UyRCd20
-
八年前。 ヴィップの沿岸部で初めて実戦に近い形で行われた訓練。
その最中に、吾輩達は大規模な賊に襲われた。 初の実戦に、皆が困惑した。
隊を分断され散り散りになった吾輩達は崖まで追い込まれ。 (;ФωФ)「……ッ」
怪我を負った友───ヒートは海に投げ出された。 海は前日の嵐で、荒れていた。
しかし吾輩は、迷わずヒートを追って、飛び込んだ。 夜という暗闇。加えて荒れ狂う海は、別世界のように感じられた。
前も後ろも、右も左も、上下の感覚すら、わからなかった。 (;ФωФ)「……」
結局、ヒートには指がかする事すら叶わずに。 吾輩だけが、浜にうち上げられ助かった。
ヒートは遺体すらも、見つからずに。
救助された後に、VIPPERS五十名の内八名が死亡、三名が行方不明と聞かされた。 やるせなかった。
吾輩に、もっともっと力があれば……と。
- 36 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:44:38.96 ID:h2UyRCd20
-
その後の訓練には、更なる拍車がかかった。 当然それは、全員が自主的にだ。
もう、誰一人欠けさせまいと。 そして、先程フォルスに言ったように、死んだ仲間達の分まで、進み続ける為に。
( ФωФ)「……今日は色々な事を、思い出すであるな」 呟きは、打ち付ける波の音に掻き消された。
戦争の傷跡が色濃く残る地に訪れた所為だろうか。 感情的になることは、戦いにおいてあまり良い事ではない。
それはわかっているはずなのに。 久しく、今日は感情が爆ぜた。
未だヒートの事を引きずり続けている自分に、口元が自虐的につり上がる。 吾輩は、強くなっただろうか。
今の吾輩なら、あの時ヒートを護れただろうか。 ( ФωФ)「……」 答えは、護れない。
過去には戻れないのだから、護れないに決まっている。 そのはずなのに、答えは、わかっているはずなのに。
はたして何度、自問を繰り返した事だろうか。
- 37 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:51:47.74 ID:h2UyRCd20
-
( ФωФ)「……戻るか」 フォルスに申し訳なく思う。
こんなにも迷い、後悔をしている吾輩が説教をしてしまったのだから。 吾輩よりも、フォルスは何倍も強い。
彼ならきっと、普段から吾輩自身に言い聞かせている言葉を、受け止めてくれたはずだ。 吾輩も、早くそうなりたいものだ。
( ФωФ)「……」 死体を踏まぬよう、引き返す。
見下ろす街も暗く、世界には月と星の明かりしか存在していなかった。 ( ФωФ)
ほんの、数瞬前までは。 ( ФωФ)「一応聞く、何者であるか」
正面。月明かりを映す白い人影が、立っていた。 もし幽霊に足がないという話が本当ならば、この者は足があるので人間なのだろう。
- 38 : ◆OJ9SDUGQ8oh9
:2010/04/01(木) 22:54:16.22 ID:h2UyRCd20
-
<ハ:::゚::> やはり答えは、帰ってはこない。
深くかぶった外套のフードによって、その表情は窺い知る事は出来ない。 だが、この者を放っておく事は、できなかった。
( ФωФ)「白い外套を羽織った男……お主の格好、無視はできぬのだが」
タカラが死ぬ前に言っていたという言葉を思い出した。 吾輩の前に立つ者は、白い外套を纏っていたからだ。
( ФωФ)「ご同行、願えるかな?」 <ハ:::゚::>
どうやら素直に応じる気は、ないようだ。 姿が見えるまで感じ得なかった気配が、大きく膨れ上がった。
それは即ち、“殺気” 直後。 月の下、白の外套が、閃いた───
act.4≪crash-α.latter≫──END.
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