( ^ω^)特殊戦闘部隊VIPPERS!のようです


1 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:19:34.76 ID:czOMY3fy0
 
 荒れ果てた地。乾き、小さな草すらも見当たらぬひび割れた大地。
 その中を、砂塵を巻き上げ突き進む一台の巨大な黒い箱。
 地を舐めるいくつもの大きなタイヤが、それが車両であることを教えてくれた。
 
 舗装された道などない。
 巨大車両はそれでも、意に介さず直進を続ける。
 
 『全隊員へ。もうすぐ着くわ』
 
 車両内。意外な事に大きな揺れも、騒音もない。
 振動や音に対して、特殊な対処がされているようだ。
 そう言った女性の声も掻き消される事無く、車内の者達へと伝わった。
 
 インカムから聞こえた女性の声に、口端を吊り上げ男が笑う。
 
 『腕が鳴るぜ』
 
 その一言から誰もが感じ得た、自信の色。
 釣られ、拳を鳴らし奮い立つ者。対照的に腕を組み、目を閉じる者と様々だ。
 
 『油断するなお』
 
 次にインカムから聞こえたのは、叱咤の声。
 そう言った彼も、男の実力はよくわかっている。
 だが、これから彼らが赴く先は戦場なのだ。
 
 油断の先には、死が待っている。
 



3 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:24:01.53 ID:czOMY3fy0
 
 『……確認するわ』
 
 叱咤の声から数秒置き、最初に聞こえた女性の声が流れ出す。
 彼女の声はインカムを通じ、全隊員の耳へと届けられていた。
 
 『目標、ニューソク市近辺に出没する盗賊団、“ブラックダガー”
  これの掃討、及び村人の安全の確保……』
 
 『よーするにだ、暴れりゃいいんだろ?』
 
 『……はぁ。相変わらずね』
 
 どうやら彼には、叱咤の効果などなかったようだ。
 女性も呆れた溜息の後、しかしどこか笑みを含んだ声色でそう言った。
 
 『村人は当然のこと、盗賊団にも極力死傷者は出さないこと。良いわね?』
 
 『わかってるって!』
 
 『まったく……ほどほどにしとけお』
 
 『さぁ、ニューソク州での初任務よ。大丈夫だとは思うけど、気を抜かずに……』
 
 『かてーよ。気楽に行こうぜ?』
 
 今まで茶々をいれていた別の男からも、野次が飛ぶ。
 全隊員の耳に、彼女の小さな溜息が聞こえた気がした。
 

4 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:26:22.55 ID:czOMY3fy0
 
 
 『わかったわよ』
 
 
 諦め、言い放った後に、
 
 
 『みんな……暴れてらっしゃい!』
 
 
 一転、弾むような声で飛んだ、檄。

 一瞬の静寂をはさみ……。
 
 
 
 『 応 ッ ッ ! ! 』
 
 
 
 音声が割れるほどの猛々しい声が、響いた。
 
───────────────────────────
 
 ─── act.0
 
                      ≪VIPPERS≫.Start───
 
───────────────────────────

5 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:28:52.76 ID:czOMY3fy0
 
 
 「きゃあぁぁぁぁあああ!」
 
 
 ───時は西暦2099年。
 
 十五年前に起きた、両国の消滅という皮肉な結果で幕を閉じた核戦争。
 しかし、核が残した傷痕はあまりに深く、世を、人を、乱していた。
 
 絶望のどん底から、それでも人々は助け合い、生きる為に尽力していた。
 都市部近辺は最低限の生活ができる程度に復旧してきてはいる、が……。
 
 
( ^Д^)「さぁ! 野郎共! 奪え!」
 
 
 各国の政府も自国を復旧させる為動いてはいるものの、治安維持が追いつかないのが現状だ。
 国が十分に機能しない今、法から逃れた荒くれ者達は略奪行為を繰り返していた。
 
 核戦争を起こした二つの国が消滅した今、事実上の最先進国と言えるヴィップですら、例外ではない。
 中心都市ヴィップから離れたここニューソク州のある村では、今まさに略奪行為が行われようとしていた。
 国に守られる事は愚か、自衛する術すら持たない辺境の村々など、ひとたまりもない。
 
 戦争が終わっても、恐怖と共に毎日を過ごす人々は、未だ多くいた。
 

6 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:31:08.29 ID:czOMY3fy0
 
( ^Д^)「逆らう奴は殺せ! 女は殺すなよ!」
 
 「頼む! 妻と息子だけは助けてくれ!」
 
 強い者が生き、弱い者が死ぬ。それは自然の摂理、単純な話だ。
 知らず内に名が消えていく村の数は、加速していた。
 
 今まさにこの村の名も、今日を以て消えようとしていた、その時───
 
 
 『待てお!』
 
 
( ^Д^)「あ?!」
 
 
 堂々と、威圧的な声で賊の頭領に待ったをかける声が。
 
(# ^ω^)「お前らの好き勝手にはさせないお!」
 
 村の入り口に陣取った賊達の、更に後方。
 十メートル以上はあろう黒い巨大特殊車両を背に立ちはだかる一人の男。
 特徴的な顔をしており笑っているように見えるが、胸の内は正反対だ。
 
(# ^Д^)「なんだてめぇは?!」
 

7 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:33:45.99 ID:czOMY3fy0
 
 今までに逆らう者など滅多におらず、いたとしても即座に殺害した。
 待ての一言は、易々と頭領の神経を逆撫でするに至った。
 
( ^Д^)「俺達がこの辺を仕切る大盗賊団、“ブラックダガー”って知ってんのか?!」
 
 
 盗賊団の彼らは、知らない。
 
 
( ^ω^)「知ってるお。約三百人から成る荒くれ者の下品な集団だおね」
 
 
 強い者が勝ち、弱い者が負ける。
 
 
( ^Д^)「……死にてぇらしいな」
 
 
 今、この瞬間からその自然の摂理に。
 
 
( ^ω^)「僕達の名を、教えてやるお」
 
 
 自分達が、弱い者に分類されていたことを。
 

8 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:36:00.94 ID:czOMY3fy0
 
( ^ω^)「特殊戦闘部隊! VIPPERS!」
 
 男の声と共に、特殊車両から次々に躍り出る戦闘部隊隊員達。
 黒のアンダーウェアにベストを着用し、迷彩柄のトラウザと恰好は地味だ。
 銃器類を装備している者は少なく、意外なことに、その中には女性の姿もあった。
 
 
(;^Д^)「なっ!? お、お前らが?!」
 
 
 治安維持特殊戦闘部隊“VIPPERS”。
 ヴィップ政府によって集められた、数十名から成る局地戦に特化した戦闘精鋭部隊。
 法で断ぜぬのならば鉄槌を下すまでと、文字通り実力行使に出たのである。
 
 その中で、先頭に立つ男。
 
( ^ω^)「戦闘準備!」
 
 VIPPERSリーダー、内藤ホライゾン。コードネーム、“ブーン”。
 彼の合図に、ある者は銃を構え、ある者は腰を落とし、臨戦態勢へと移行する。
 その数、ブーンを含めて十余名。
 
( ^Д^)「……へっ! 噂は聞いてるが、こっちゃ五十人いるんだぜ?!」
 
 VIPPERSの人数を見て、利はこちらと踏んだ頭領は当初の威勢を取り戻した。
 片手を挙げ、部下達に銃を構えるよう促す。
 VIPPERS十余名に、五十一の銃口が向けられた。
 

9 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:38:11.50 ID:czOMY3fy0
 
 互いの間はおよそ四十メートル。
 盗賊団の後方にいる村人達の顔からは、絶望の色は消えていない。
 数を見れば一目瞭然、盗賊団の圧倒的有利とわかるからだ。
 
 しかし、VIPPERSの誰もが自信に満ちた表情で、鋭い視線を“敵”へと飛ばす。
 
 
 確たる勝利を、信じているからだ。
 
 
( `ω´)「いくおおおおおおおおおおお!!」
 
 
 ブーンの叫び声は、すぐに大量の発砲音で掻き消された。
 五十一の拳銃、小銃、様々な銃器からの一斉射撃に、村人達は思わず目を閉じる。
 しかし、そのどの銃弾にも、VIPPERS隊員達が倒れることはなかった。
 
 銃弾が彼らの位置に届いた時には、既に彼らはそこにいなかったのだから。
 
 
(;^Д^)「な、なぁぁぁぁああああ?!」
 
 
 頭領が見た光景は、普通の人間では考えられない程の跳躍。
 ブーンの声と共に、蜘蛛の子を散らすように彼らは飛んだのだ。
 ある者は即座に着地し、留まらずに横へ跳び、ある者は前方へと駆けた。
 

10 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:41:01.28 ID:czOMY3fy0
 
 “ブラックダガー”は、運がなかった。
 精鋭が集められたVIPPERSの中で、この十余名はその中でも更に腕の立つ者達。
 今回のVIPPERSは、そんな精鋭の中の精鋭達で編成されていた。
  _
( ゚∀゚)「容赦しねぇぞ! 悪党共!」
 
 銃器に向かい無謀にも前方へ駆ける無鉄砲な男は、ジョルジュ長岡。
 コードネーム“ジョルジュ”。印象的な眉を吊り上げ声を張り上げながら直進する。
 
 「ば、馬鹿が! 狙い撃ちだぜ!」
 
 その通りである。
 恰好の獲物を見つけた数名の盗賊団員が、ジョルジュを狙い撃つ。
 
 『ジョルジュ! 無茶すんなお!』
 
 彼の行動にすかさずインカムから無線音声が走る、が、
 
 『ま、ジョルジュなら大丈夫でしょ』
 
 間髪入れず、別の者が反対に楽観の声を。
  _
( ゚∀゚)「へっ! わかってんじゃねーか! ツン!」
 
 VIPPERSの無線は局地戦に赴いた全隊員と繋がっている。
 ジョルジュなら大丈夫と、太鼓判を押した女性の名を気持ちよく口にした後に、右腕を前へ。
 彼の右腕には、他の隊員達とは異質を放った装備が施されていた。
 

11 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:43:58.22 ID:czOMY3fy0
  _
( ゚∀゚)「“アーマーアーム”、起動だぜ!」
 
 右腕、甲の側に装着された赤い手甲、その両サイドから同じく赤く厚いゴムの様な物が伸び、
 ジョルジュの右腕を覆い、包み込み、腕全体が真紅に染まる。
 これが、超接近戦を得意とするジョルジュの、戦闘スタイルだ。
 
 眼前にまで迫った銃弾に、ジョルジュは怯みもせず右腕を胸に引き寄せ、
  _
(# ゚∀゚)「オラァッッ!」
 
 渾身を込め、真一文字に腕を振るった。
 ジョルジュに迫っていた銃弾は赤い腕に触れた瞬間に弾かれ、四方へと飛び散る。
 
 「なっ?! 腕で弾いた?!」
 
 「んなの有りかよ!」
  _
( ゚∀゚)「正義の味方にはなんでもアリなんだよッッ!」
 
 銃弾を弾いた後も勢いは衰えず、むしろ更に強く駆けた。
 敵陣へ突進する赤い一番槍の姿は、最早VIPPERSの名物だ。
 
 “真紅の弾丸”。それが彼の、異名だった。
 
 「ぶへェァ!」
  _
( ゚∀゚)「さァッ! 次にぶっ飛ばされたい奴は前に出ろッッ!!」
 

12 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:46:33.23 ID:czOMY3fy0
 
 『僕はアームの修理代の心配をしたんだお……』
 
 『ふふっ、相変わらずね』
 
( <●><●>)「全く、野蛮です」
 
 インカムから流れる音声に、厳しい一言を言い放った青年。
 呆れた様な口調だったが、大きく見開かれた眼光は鋭く、盗賊団を見据えている。
 彼が着地した場所は、弾丸を避けるに足る大きな岩陰だ。
 
 岩陰から腕を伸ばし、その腕にしっかりと握られているのは、一丁の拳銃。
 
( <●><●>)「行きますよ。ベレッタM92」
 
 主人が呟いたと同時、ベレッタは咆哮を上げ応えた。
 初動から数瞬で発射されたにも関わらず、弾丸は一直線に盗賊へと向かい。
 
( <●><●>)「この距離なら……」
 
 「がっ?!」
 
( <●><●>)「弾丸は体内で停止。全エネルギーを体の中で放出し……」
 
 「あああああああ!! あがってええぇぇぇええ!」
 
( <●><●>)「敵に激痛をもたらすことはわかってます」
 

13 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:49:10.56 ID:czOMY3fy0
 
 『このっ……ドS!』
 
( <●><●>)「失礼な。悪党には罰を与えないといけないのです。ふ、フフフ……」
 
 『おまっ! おい! ワカッテマス! 今俺に当たりそうだったぞ?!』
 
( <●><●>)「それは残念」
 
 『てめっ……おわっ! おらァッ!』
 
 銃の扱いはVIPPERS一のドS、コードネーム“ワカッテマス”。
 本名は、誰も知らない。謎が多い、不気味な青年だった。
 
ξ゚听)ξ「相変わらずなんだから……っと!」
 
 戦闘開始からジョルジュ、そしてワカッテマスのやり取りが終わるまで、約二十秒。
 二人よりも後方に着地した彼女は、状況を整理していた。
 
ξ゚听)ξ「戦闘開始から約三十秒……目標討伐数五十二名中、十名」
 
 彼らにとっては、辺境の盗賊団など紙のような物だった。
 二十数秒たらずで盗賊団の数は五分の一近くにまで減少していた。
 
ξ゚听)ξ「状況を理解していないようね……一心不乱に乱射してる」
 
 『まるで猿だな』
 
ξ゚听)ξ「その通りね」
 

15 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:51:53.29 ID:czOMY3fy0
 
 後方で戦況を確認し、即座に全体へ情報を伝える女性、ツン=デレ=シャノワール。
 その表情は凛としており、ブロンドのツインテールも相俟って美しい。
 コードネーム、“ツン”。見た物を瞬時に記憶する瞬間記憶能力の持ち主だ。
 
ξ゚听)ξ「敵頭目、ゆっくりと西へ移動しているわ」
 
 『西ってどっちだ?! 左か?!』
 
 『その原理だと北は上になるな』
 
ξ#゚听)ξ「馬鹿眉毛! 雑魚はほどほどにして頭目を狙いなさい!」
 
 叱咤するのも彼女の役目。しかしその間も、戦況を確実に分析している。
 皆が散った初動を、彼女は誰がどの方向に飛んだかを全て記憶していたのだ。
 
ξ゚听)ξ「ショボン! アンタが一番近いわよ!」
 
 『了解』
 
 頭領に最も近いと指名された男は、短く返事をする。
 ジョルジュよりも一歩半遅れ敵陣に飛び込んでいたのは、
 
(´・ω・`)「ふふ、イキのいい奴らだ」
 
 身長二メートルに達する超筋肉質の大男、ショボン=ローダー。
 コードネーム、“ショボン”。VIPPERS随一の肉体派である。
 
 彼はその怪力で敵の全てを粉砕し、蹂躙する。
 何故か相手に抱き付く鯖折りが多いのだが、隊員の誰もその理由を聞くことはなかった。


 
18 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:54:33.87 ID:czOMY3fy0
 
 しょぼくれた顔と正反対の屈強な体は、それだけで容易に驚異を与える。
 おまけに、その体でジョルジュ並に鋭敏な動きをする。
 
(´・ω・`)「お前か」
 
(;^Д^)「?!」
 
(´・ω・`)「坊や。遊ぼうじゃないか」
 
(;^Д^)「な、なんだてめぇ! し、死ねッ!」
 
 咄嗟にショボン目掛けマシンガンを乱射する頭領。
 だがショボンは、頭領が銃口を己に向ける前に動き出していた。
 
 
(;^Д^)「なっ?!」
 
 
 発砲した時、既に前方にショボンの姿は無く……。
 
 
Σ(^Д^;)ω・`)「危ないじゃないか」
 
 
 頭領のすぐ後ろに、彼はいた。
 すかさず羽交い締めにされた頭領に、彼の怪力から逃れる術などはない。
 
「は、放せええええ!!」(^Д^;)ω・`)「さて……どうしてやろうか」
 


 
20 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 21:57:44.25 ID:czOMY3fy0
 ξ;゚听)ξ「あちょ、ブーン! ショボン止めて! またやりそう!」
 
 『了解だお!』
 
 焦り、すぐさまショボンの近くにいるブーンへ指示を飛ばす。
 ショボンの手によって沈められた者は、再起不能に陥る場合が多い。
 雑兵はともかく、頭領は生け捕りにするという事は常識だ。
 
 それはショボンも理解しているのだが、『やりすぎてしまう』時があるのだ。
 どうやら、今回の彼がそれだとツンは確信したようだ。
 
 
(^Д^;)ω・`)「ブツブツブツブツブツ……」
 
 
 インカムを通さない小声で、ショボンは何かを呟いていた。
 頭領は暴れることも忘れて、羽交い締めにされたまま棒立ちだ。
 
 『あーあ、だめかもな』
 
 ショボンの様子を見た誰かがポツリと。
 しかし、そうはさせまいとリーダー、ブーンが到着する。
 
( ^ω^)「ほっ」
 
 頭領のみぞおちにめり込むブーンの拳。
 
(;^Д^)「おごっ……」
 
 短い呻き声を上げ、頭領は意識を失った。

21 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:01:47.03 ID:czOMY3fy0
 
ξ゚听)ξ「敵頭目、沈黙。掃討戦に移行せよ」
 
 『了解!』
 
 そう指示を出したツンだったが、既に盗賊団の半数以上が地に伏せていた。
 その様子に、村人達は何が起こっているのかも理解できず、ただ見つめるだけだった。

 戦闘開始から最後の五十二人目が沈黙するまで、凡そ三分の出来事であった。
 
( ^ω^)「こちらVIPPERSブーン。盗賊団“ブラックダガー”一派沈黙、回収班に連絡を。
      住民の安全を確認した後、ニューソク市へ帰還するお」
 
ξ゚ー゚)ξ「お疲れ様」
 
( ^ω^)「お疲れ様だお、ツン」
 
ξ゚听)ξ「何人か死亡者がでちゃったみたいね」
 
 死亡者とは盗賊団の事だ。VIPPERSの面々は既に武装解除をし、談笑していた。
 ツンの言葉も、『こちら側』ではない事を、ブーンは考えずとも理解していた。
 
 盗賊団の死亡者の過半数が、自分達の流れ弾によるものだ。
 VIPPERSは極力死亡者を出さぬようにとされているが、こればかりは仕方がない。
 武力行使には避けられぬことなのだ。
 
ξ゚听)ξ「VIPPERS、“トリケラント”内で待機せよ」
 
 巨大特殊車両、“トリケラント”。主に任務中の移動に使われる輸送車両だ。
 最大三十名の乗車を可能とし、水陸両用のVIPPERS専用車両である。

22 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:04:17.81 ID:czOMY3fy0
 
 ツンの指示にぞろぞろと隊員達が戻って行く。
 その中で、ブーンは皆と逆方向へ向かっていた。ツンもその背に追従している。
 二人が立ち止まったのは、怯える村人達の前だった。
 
( ^ω^)「村長……代表者はいるかお?」
 
 村人達は顔を見合わせると、一斉に一人の老人へと顔を向けた。
 老人は怯えた様子で一歩前へ出て、
 
(;´ハ`)「わ、私ですが……」
 
 垂れた眉をさらに垂らし、見るからに不安そうな表情で答えた。
 それは当然、ブーン達の事など知る由もないのだから、仕方のない事だ。
 その不安を払拭しようと、ブーンは笑顔で老人に言った。
 
( ^ω^)「僕達はヴィップ政府の者ですお。荒くれ者を退治する、正義の味方だお」
 
ξ゚ー゚)ξ「秘密裏に結成された特殊部隊、VIPPERSと申します」
 
( ^ω^)「と言っても、結構大規模に活動してるから、知ってる人は知ってるお。
      それはさておき、皆さんご無事そうで何よりでしたお」
 
(;´ハ`)「政府の……では、私達は……」
 
( ^ω^)「もう、大丈夫だお」
 

23 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:06:31.69 ID:czOMY3fy0
 
 事情を飲み込んだのか、村人達の表情が一斉に安堵のものへと変わる。
 声を上げ、全身で喜びを表す者。家族を抱きしめ、泣き出す者。
 
( ^ω^)「……」
 
ξ゚ー゚)ξ「……」
 
 その笑顔達が、ブーン達に何よりの達成感をもたらせていた。
 村人達の様子を見、一つ頷いた後にまた正面を向き直す村長。
 垂れた眉は、最初と比べると幾分か起き上がっていた。
 
( ´ハ`)「本当に……ありがとうございます……」
 
( ^ω^)「とんでもありませんお。これが僕達の役目ですから」
 
ξ゚听)ξ「何か不穏な動きがあれば、これを使って下さい」
 
 そう言ってツンが手渡したのは、小型の無線機だった。
 本部へ危機を報せる事の出来る物だ。VIPPERSが救助した村々に必ず支給される物だった。
 
( ^ω^)「不安を煽ってしまいますが……警戒をしてくださいお。
      あの盗賊団、“ブラックダガー”自体はまだ壊滅していませんから」
 
(;´ハ`)「……注意しておきます」
 
( ^ω^)「僕達の方でも、奴らの掃討に全力を注ぎますお」
 



24 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:08:54.70 ID:czOMY3fy0
 
 今回、ブーン達が掃討した中に頭領はいたものの、手下はまだ多く残っている。
 荒くれ者の集団など、頭を失おうが団自体の壊滅には至らないだろう。
 それを理解しているが故に、ブーンは敢えて注意を促した。
 
( ^ω^)「ツン、念のために二人ほど監視に派遣しておいてくれお」
 
ξ゚听)ξ「わかったわ」
 
( ^ω^)「滞在期間は一週間……もあれば上等だと思うお」
 
(;´ハ`)「何から何まで……本当に……」
 
( ^ω^)「気にしないでくださいお!」
 
 村長が曲がった腰を更に曲げ、ブーンに礼を言っていると、
 その後ろから一人の少年が現れ、目を輝かせながらブーンを見つめていた。
 
( ^ω^)「お?」
 
 「おじちゃんすっげぇ! 正義の味方なの?!」
 
:ξ )ξ:「ぷっ……」
 
(;^ω^)「お……お兄ちゃん達はね!」
 


26 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:09:50.20 ID:czOMY3fy0
 
 
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)「正義の味方、VIPPERSだお!」
 
 
 
 
 
 
 
─────────────────────────
 
 
 ──( ^ω^)特殊戦闘部隊VIPPERS!のようです──
 
 
─────────────────────────
 
 
 
 

27 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:12:56.73 ID:czOMY3fy0
 
 ──トリケラント内・移動中──

( ^ω^)「……というわけで、任務完了しましたお」
 
( ・∀・)『ご苦労、ブーンチームはニューソク市にて待機、連絡を待て』
 
 “トリケラント”内、運転席の通信パネルに向かい任務の終了を告げる。
 パネルに映っているスーツ姿の男は、VIPPERS司令官、モララー指令だ。
 
( ・∀・)『ああ、ブーン君』
 
( ^ω^)「はいですお」
 
( ・∀・)『村の監視役は君がチーム内から選定してくれ。こちらは少し人手不足でね……すまないが』
 
( ^ω^)「了解しましたお」
 
 VIPPERSは総員三十九名しかいない。
 大がかりな、逆に極端に小さな任務でもない限り、一班十三名の三班に分かれ、行動している。
 班の名称にはリーダーのコードネームが付けられており、今回は僕の名で呼ばれていた。
 
 他の二班、ギコチームとハインチームは、ヴィップの北側に位置するシベリア州を担当している。
 こちらは南側で、正反対だ。こちらよりも、治安が悪化していると聞いていた。
 
( ^ω^)「モララー指令」
 
( ・∀・)『なんだね?』
 
( ^ω^)「ギコ達は……大丈夫ですかお?」

28 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:15:52.58 ID:czOMY3fy0
 
( ・∀・)『愚問だね。彼らは、よくやってくれているよ』
 
( ^ω^)「そう……ですかお」
 
 ギコ達の力を知らないわけじゃない。
 ヴィップ市近郊では共に行動していたのだ。それはよくわかっている。
 だけど少し、『人手不足』と聞いて、不安が過ぎった。
 
( ・∀・)『ギコチーム及びハインチームは既に二つの大規模危険因子を殲滅している。
      今は、その事後処理に追われている状態だ』
 
 流石だ。
 ニューソク市が少し遠かったため、彼らより行動が遅れていたとはいえ、もう……。
 
( ・∀・)『心配する事はないよ』
 
( ^ω^)「……杞憂でしたお。申し訳ないですお」
 
( ・∀・)『構わんよ。それでは、これで通信を終了する』
 
( ^ω^)「了解ですお」
 
 一瞬画像が乱れ、その次にパネルは暗闇に包まれた。
 一息ついて、運転席に深く腰を預ける。上司との会話は、やはり息苦しくなる物がある。
 “トリケラント”はオート操縦の為、後は楽にしていられることが、助かった。
 

29 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:19:24.23 ID:czOMY3fy0
 
ξ゚ー゚)ξ「お疲れ様」
 
 声に振り向けば、湯気の昇るマグカップを持ったツンが居た。
 頃合いを見計らい、運転室前で待機していたのだろうか。
 なんにせよ、有り難かった。
 
( ^ω^)「ありがとうだお」
 
 ツンの手からマグカップを受け取る。
 口を付けた。僕好みの、濃い目のコーヒーだ。
 彼女の瞬間記憶はこんな些細な所でも、発揮されていた。
 
ξ゚听)ξ「思いの外、楽だったわね」
 
 楽だった、というのは、“ブラックダガー”の事だろう。
 頭領プギャーも一度目の接触で捕まえることが出来た。
 後はアジトを吐かせ、近い内に一網打尽にすればいいことだ。
 
 だが。
 
( ^ω^)「最後まで、気は抜けないお」
 
ξ゚听)ξ「そう、ね」
 
 僕の言葉に相槌を打ちながら、隣のシートへ腰掛けた。
 特徴的な髪型の、二房のブロンドがふわりと弾む。相変わらず、綺麗だった。
 

30 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:24:34.88 ID:czOMY3fy0
 
ξ゚听)ξ「?」
 
 僕の視線に気付いたのか、目が合った。
 首を傾げ、不思議そうな表情をしている。
 気恥ずかしくなって、僕はすぐに顔を背けた。
 
(;^ω^)「プ、プギャーは?」
 
ξ゚听)ξ「……? プギャーは荷物室に閉じ込めてあるわ。監視には兄者と弟者をつけてる」
 
( ^ω^)「そう……かお」
 
 僕の班には血の気の多い連中が多い。八割方がそうだ。
 だけどあの二人なら、先走った真似もしないだろう。
 
ξ゚听)ξ「でも、ね、ブーン」
 
( ^ω^)「お?」
 
ξ゚听)ξ「なんか、はっきりしないのよね。違和感、ていうのかな」
 
( ^ω^)「どういうことだお?」
 
ξ゚听)ξ「プギャーよ」
 
( ^ω^)「……?」
 



 
32 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:29:41.51 ID:czOMY3fy0
 
ξ゚听)ξ「どうも……資料の写真とはどこかが違うような気がするのよ」
 
( ^ω^)「……」
 
 珍しいことだった。
 彼女は自分の能力に絶対的な自信を持っている。
 迷いのない彼女の指示は、一瞬の遅れが命取りとなる戦場では、非常に助けられている。
 
 その彼女が、確信を持てずにいるのだ。
 恐らくこれは、杞憂ではない。
 
( ^ω^)「一度詳しく……プギャーを調べてみる必要がありそうだお」
 
ξ゚听)ξ「ごめんなさい。なんか変に惑わせちゃって……」
 
( ^ω^)「いや、ツンの記憶力はみんなよく知ってるお。
      ツンがそう思ったのなら、きっと何か裏があるはずだお」
 
ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう」
 
( ^ω^)「気にするなお」
 
 その表情から、不安は払拭された事が窺えた。
 僕も普段から彼女に助けられている。勿論、それは全隊員に言えることだったが。
 こういう時くらい、逆に僕が支えなければ。
 
 それに。
 

33 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:33:52.67 ID:czOMY3fy0
 
( ^ω^)「あの子達が……」
 
ξ゚听)ξ「?」
 
( ^ω^)「村のあの子達が、笑って暮らせるように、頑張らないといけないお」
 
ξ゚ー゚)ξ「……うん」
 
 子ども達が、笑顔で暮らせる世界を作る為に。
 あの戦争で生まれた不幸な子ども達は、もう二度と生み出してはならないのだ。
 
 そう。
 
 僕達のような子ども達は、もう二度と───
 
  _
( ゚∀゚)「ブーン! 入ったぜ!」
 
 がくりと、頭を前に突き出した。
 『入る』ではなく過去形で入室を告げたのは、ジョルジュだった。
 
( ^ω^)「ジョルジュ……なんだお?」
  _
( ゚∀゚)「お、ツンもいるのか。イチャコラの最中だったか?wwwwwww」
 
ξ#゚听)ξ「やめなさい!」
 

34 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:38:56.93 ID:czOMY3fy0
  _
( ゚∀゚)「おおこええこええ。えっとな、ブーン」
 
( ^ω^)「?」
  _
( ゚∀゚)「次の出撃はいつだ? なーんか、不完全燃焼でよ……」
 
( ^ω^)「ジョルジュ……」
 
 ジョルジュは身体能力の高い非常に優秀な男だ。
 だが戦い好きな面があり、度々頭を悩まされていた。
 何かあれば出撃は、戦いはまだかと、そんな任務を求めてくるのだ。
 
 僕自身、彼の実力には一目置いているし、信頼もしている。
 だけど、いつかそんな彼の性格が仇にならないか、不安もあった。
 
ξ゚听)ξ「……まぁ、荒くれ者五十人に、VIPPERS十三名は当てすぎだったけど……」
  _
( ゚∀゚)「だろ? 俺一人でもよかったくらいだぜ」
 
(;^ω^)「無茶言うなお。いくらなんでも一人はきついし、危ないお」
  _
( ゚∀゚)「ということでよ、なんかねぇ? この燻る熱を爆発させてくれるような任務は……!」
 
(;^ω^)「そうはいっても……」
 
 と言った後、一つ思い浮かぶ任務があった。
 それはつい先程、モララー指令に与えられた物。
 



 
36 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:42:21.53 ID:czOMY3fy0
 
( ^ω^)「じゃあジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「おっ! あんのか?!」
 
( ^ω^)「今日安全を確保した村の監視役に抜擢するお」
  _
( ゚∀゚)「え」
 
( ^ω^)「期間は一週間。他に後一、二名つけるお」
  _
(;゚∀゚)「えちょ、監視って……?」
 
( ^ω^)「大丈夫だお。十中八九数日以内に“ブラックダガー”残党が現れるはずだお」
  _
(;゚∀゚)「ちょ、ちょっと待てよ。頭目は捕まえたから……もしアジト吐かせたら……?」
 
( ^ω^)「即座に本体は出発。ジョルジュ達は万が一の為に待機」
  _
(;゚∀゚)「いやおい! 待ってくれよ! それじゃ待ちぼうけじゃんか!」
 
( ^ω^)「でも、多分残党くるから大丈夫だお」
  _
(;゚∀゚)「確信はねぇだろ?!」
 
( ^ω^)「村をやられたら本末転倒。これは大事な任務だお」
  _
(;゚∀゚)「で、でも」


38 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:45:27.11 ID:czOMY3fy0
 
( ^ω^)「ということで、ニューソク市に戻ったら荷物を整えて、即出発してくれお」
  _
(;゚∀゚)「……」
 
ξ゚ー゚)ξ「ジョールジュ。返事は?」
  _
(;゚∀゚)「りょ……了解だぜ」
 
( ^ω^)「ジョルジュ」
  _
(;゚∀゚)「なんだよ……」
 
( ^ω^)「これは大事な任務だお。冗談じゃなく、確実に残党は現れるお。
      現れてから本体を呼ぶんじゃ遅すぎるから、ジョルジュが必要なんだお」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
( ^ω^)「僕らが到着する間、賊を食い止めなければいけない。
      単体でそれができるのは、ジョルジュしか考えられないお」
  _
( ゚∀゚)「ブーン……!」
 
( ^ω^)「だから、頼んだお!」
  _
( ゚∀゚)「へっ! しゃーねーな! 任せとけよ!」
 
( ^ω^)「うんうん」
 


40 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:48:39.84 ID:czOMY3fy0
 
 そうして、ジョルジュは上機嫌で運転室から出て行った。
 うまく乗せた、ように見えるかもしれないが、嘘は言っていない。
 “ブラックダガー”は確実に現れるだろう。
 
 待つ間は退屈だろうが、動ける者が実力者であれば不安も少ない。
 恐らくはモララー指令も、それを考え僕に任せたのだろう。
 ヴィップ市、ニューソク市に滞在する兵でVIPPERSに匹敵する者がいるとも考えにくい。
 
 ましてやシベリアからVIPPERSを派遣していては、後手に回ってしまう。
 これが最善であると、僕は考えたわけだった。
 
ξ゚ー゚)ξ「都合良く、現れてくれたわね」
 
 僕が考えていたことに察しがついたのか、ツンがそんなことを言う。
 
( ^ω^)「ちゃんと考えた結果だお」
 
ξ゚ー゚)ξ「わかってるわよ」
 
 ジョルジュも、ああ見えて任務には忠実だ。
 危なっかしい面もあるが、予想の範疇を超えた行動には出ない。
 自分で責任の取れる範囲で、彼なりに『暴れて』いるのだ。
 
 それはジョルジュ以外、VIPPERS全員がそうだ。
 個性の強い面々が揃ってはいるが、僕を含めて、皆同じ志の下行動している。
 
 即ち、悪を打ちのめすこと。
 
 悪とは、僕達の定義での悪だ。

41 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:51:36.98 ID:czOMY3fy0
 
 
 一般民衆に危害を加える者達。
 戦争で傷ついた人々の傷を、更に抉ろうとする下劣な輩。
 そんな者達を、僕らは決して許さない。
 
 これ以上、戦争の被害者は生み出さない。
 
 僕らのような人間は、少しでも……。
 
 
(  ω )「必ず、だお」
 
 
ξ゚听)ξ「……?」
 
 
 思わず、口をついた。
 不思議そうな顔をしたツンに、『なんでもない』とだけ言い、コーヒーを啜った。
 
 少し温くなっていたコーヒーは、なぜか一口目よりも、苦い味がした。
 
 
 
 ────────────………
 

42 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:55:11.33 ID:czOMY3fy0
 
 ───数時間後・ニューソク市郊外───
 
  _
( ゚∀゚)「おっし……ふー……」
 
 最後の荷物をジープの荷台へ積み上げて、煙草に火をつける。
 軽い作業でも力仕事の後の一服は、非常にうまい。
 
(´<_` )「ジョルジュ、火を貸してくれ」
  _
( ゚∀゚)「ほいよっと」
 
 火を寄越せと言った弟者に、ZIPPOを放り投げる。
 慣れた手つきで煙草に火をつけると、同じ様に俺に投げ返した。
 
( ´_ゝ`)「弟者、煙草なんてやめなさい」
 
(´<_` )「お前は俺のカーチャンか。兄者も吸ってみろ。やめられなくなるぞ」
 
( ´_ゝ`)「やめられなくなったら末期だろう……」
 
 そんなやり取りをしているのは、俺と同じく監視役を命じられた流石兄弟だ。
 俺から見て左に立ち、右を向いているのがコードネーム“兄者”で、その逆が“弟者”だ。
 そっくりな顔をしているから、俺達にはそれで区別がついて、有り難かった。
 

43 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 22:59:15.97 ID:czOMY3fy0
  _
( ゚∀゚)「でもよー、どうせ動くなら全員で動いても良いと思わね?」
 
(´<_` )「監視役の事か? そういうわけにはいかないだろう」
  _
( ゚∀゚)「なんでだよ」
 
(´<_` )「もし俺達の事が相手に知られていたら、ニューソク市を直接攻める可能性もある」
 
( ´_ゝ`)「頭目はニューソク市にいるしな。そんな情報を掴めるほどの連中ではないだろうが」
 
(´<_` )「しかし、万が一そうなった場合、相手は二百を超える人数だ。
      ニューソク市の自警団もいるが……市民を守りながらでは、残った十名でもギリだ」
  _
( ゚∀゚)「そう……か」
 
(´<_` )「今回、討伐に全員が動いたのはニューソク市が狙われる可能性が限りなく低かったからだ。
      下手に人数をケチって、初任務を失敗したらそれこそ本末転倒だからな」
 
( ´_ゝ`)「逆にこっちのが大変だぞ? もしかしたら二百人全部を相手せにゃならん。
      “トリケラント”なら一時間もあれば村まで着くだろうが……問題は変わらん」
  _
( ゚∀゚)「なるほどな。よくわかったぜ」
 
(´<_` )「そういうことだ。気を抜くなよ」
 

44 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 23:03:50.96 ID:czOMY3fy0
 
 そんな所まで考えてたのか。
 自分の頭の悪さが嫌になったが、煙草を一気に吸って紛らわせた。
 
 いいんだ。俺は頭はつかえねえ。
 だが俺には、“武器”がある。“力”がある。
 ブーンも、VIPPRESも、俺を必要としてくれている。
 
 それに応え、悪人をブッ飛ばす。
 俺らしくて、いいじゃないか。
 頭を使うことは、任せておけばいい。
 
 だが弟者達の話を聞いて、この任務がどれほど危険で、重要かはよくわかった。
 左の手の平に右の拳をぶつける。
 乾いた良い音が、周囲に響いた。
 
 どうやら、今回は不完全燃焼と言うことはなさそうだ。
 二百人だろうが三百人だろうが、全部俺一人で片付けてやる……!
 
 その為に俺は、俺達は、血の滲む訓練を積み重ねてきたんだから。
 
 弱い者から金や食料を奪い取る連中は、絶対に許すわけにはいかねぇんだ。
  _
(  ∀ )「……」
 
 ……やってやるさ。
 



 
46 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 23:08:48.06 ID:czOMY3fy0
 
( ´_ゝ`)「さて、運転手だが……」
 
(´<_` )「交代でいいじゃないか」
 
( ´_ゝ`)「嫌だ! 俺は荷台に乗りたい!」
 
(´<_`;)「子どもみたいな事を……」
 
(# ´_ゝ`)「トラックの荷台に乗る胸の高鳴りがわからんのか」
 
(´<_`;)「なんとなくはわかるが……そこまで駄々をこねんでもいいだろう……」
 
( ´_ゝ`)「ジョルジュ! お前はどう思う?!」
  _
(;゚∀゚)「あー? の、乗りたきゃいいんでねぇの?」
 
( ´_ゝ`)「おk、荷台ゲット」
 
(´<_`;)「有無を言わさず……流石だな、兄者」
 
 相変わらずこの兄弟は、いまいちペースが掴めなかった。
 というか弟者も、兄者に振り回されてるように見えるが……。
 それはともかく、戦闘では双子ならではのコンビネーションを見せてくれる。
 
 実力は、俺も認めている男達だ。
 というか、VIPPRES全員、認めているわけだが。
 



48 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 23:11:56.56 ID:czOMY3fy0
  _
( ゚∀゚)「じゃあ、俺が運転していくぜ」
 
(´<_` )「疲れたら代わろう」
  _
( ゚∀゚)「すまねぇな」
 
 あの村まで、ここから二時間、と言った所だろう。
 景色もクソもない殺風景な荒野を、ひたすら走り続けるのは疲れるはずだ。
 多分、代わってもらうことになるのだろうが……。
 
(* ´_ゝ`)「いけ! 出発だ!」
 
 コイツは代わっちゃくれねぇんだろうなぁ……。
 
 ジープに乗り込み、エンジンをかける。
 喧しいエンジン音にこの年代物がちゃんと動いてくれるのか、不安になる。
 しかし、アクセルを踏み込んだらちゃんと前へと進んでくれた。
 
(´<_` )「流石に、かなり揺れるな」
  _
( ゚∀゚)「だな。“トリケラント”様様だぜ」
 
 一般車両ではやはり、この舗装されていない荒野はきついのか。
 こういう場所を走る為に設計されたはずのジープは、ひどく揺れた。
 

49 : ◆OJ9SDUGQ8oh9 :2010/03/10(水) 23:14:59.63 ID:czOMY3fy0



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