( ・∀・)死者想出代弁サービスのようです
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:05:46.19 ID:zGE/xaHF0
五月雨が肌を冷すような日に、僕の親友は死んだ。
その知らせはあまりに突然で、僕はただその話をどこか遠いところで、まるで他人事のように聞いているしかなかった。
元々彼女は体が弱く、体調を崩しがちだった。そう考えると、ある意味彼女の死は不思議ではないのかもしれない。
しかし、だからといって親より早く死ぬなんてあまりにも不孝者だと、葬式場で泣き崩れる彼女の両親を見て僕は胸を締め付けられた。
上京して以来、休みらしい休みも取れず、予定も合わずで会う事のなかった彼女。その彼女の寝顔は、驚くほど綺麗だった。
あの双子の野球漫画じゃないけど、その安らかな顔は本当に死んでいるのかと疑いたくなるほどだった。
意味のわからないお経も終わり、ほどなくして霊柩車は無機質な音を立てて葬式場を後にする。僕たちもそれに続いて、まるで蟻の行列のように火葬場に向かう。
小さな窓の中で、棺桶ごと真っ赤に燃え上がる彼女を見て、僕はようやく涙を流した。
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:06:36.02 ID:zGE/xaHF0
('A`)
「本日は皆様、誠にありがとうございます。きっとお嬢さんの魂は安らかに眠りについた事でしょう」
火葬場の職員の、マニュアルのような言葉に耳を傾ける気がしなかった僕は一服しようと外に出た。
彼女と同じように空に昇る煙草の煙に、何か言葉でものせようか、なんて事を考えていた時、
('、`*川「モララーさん……ですよね?」
不意に声をかけられた事に少しびっくりして、僕はあわてて振り返る。そこにいたのは彼女と同じくらいの年齢の、喪服の似合う綺麗な女性だった。
('、`*川「私、キュートの上司のペニサスと申します」
深く下げられた頭に、僕は一瞬反応が遅れて会釈を返した。
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:07:18.11 ID:zGE/xaHF0
('、`*川「貴方の話はあの子から聞いていました……。幼馴染だったそうですね?」
( ・∀・)「はい、まぁそうですね、小さい頃からほとんど一緒に過ごしてました」
僕は煙草の煙をペニサスさんに当てないように振り返って煙を吐いた。今にも泣き出しそうな空に、白い煙が吸い込まれていった。
('、`*川「……あの子……貴方にずっと会いたがってました。私がお見舞いに行くたびに貴方の事を気遣ってましたし……」
( ・∀・)「はは……昔っから変わらないんですよ。自分が一つ年上だからっていっつもお節介ばっかりして……」
('、`*川「貴方は……会いたくなかったんですか?」
吸い終わった煙草を携帯灰皿に入れて、僕はもう一度空を見る。彼女が死んだ日もこんな悲しい色の空だったのかと想像して、僕は振り返る。
( ・∀・)「仕事が忙しいんでね、そんな暇ありませんよ」
- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:08:08.04 ID:zGE/xaHF0
(
,,゚Д゚)「本日は皆様、誠にお疲れ様でした。駅や停留所までの送迎バスがございますので、ご利用の方はこちらまでお願いします」
あたりが暗さを増す頃、彼女の遺骨の埋葬も終わって、僕は疲れた体に鞭を打ってバスに乗り込んだ。最後尾の座席をゆったり使って体を沈める。
('、`*川
窓の外に目を向けると、ペニサスさんがいた。気付くかわからなかったけどとりあえず会釈をする。とたんに彼女と目が合い、会釈を返してくれた。
十分ぐらいして、ようやくバスが動き出した。ほとんど満員状態で、立っている人もいるバスなのに驚くほど静かだった。
見慣れた地元の景色を覆う、妙な暗さがそれをさらに不気味にさせた。
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:08:51.45 ID:zGE/xaHF0
彼女との出会いは平凡だった。
小さい頃、近所の公園で知り合った。一緒の遊びをした。一緒の学校に通った。一緒の道を歩いた。一緒の空を見た。
どこにでもあるような、まさに平凡と呼ぶにふさわしい、そんな僕たちだった。
ただ、ただ一つ、平凡とかけ離れていたのは彼女の病弱体質だった。
(;・∀・)「きゅーちゃん、だいじょうぶ?」
o川*;ー;)o「う……ん……だい…じょぶ……」
小学生の頃、いつもと同じ帰り道、彼女が急に胸を押さえて苦しみだした。
本人は顔をくしゃくしゃにして泣きながらも、僕に心配をかけまいと、あるいは弱みを見せまいと大丈夫と言い張り続けた。
普段の強気な態度と違い、今にも消えてしまいそうな呼吸を繰り返す彼女を見て、僕は子供ながらにも一大事だと思った。
僕は必死に、彼女をおぶって病院まで全力で走り続けた。
(;・∀・)「だいじょうぶだよきゅーちゃん、僕がたすけてあげるから!」
僕の背中で苦しむ彼女を、そう励ましながら。
- 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:10:21.13 ID:zGE/xaHF0
(;・∀・)「きゅーちゃんもういたくない?」
病院のベッドの上で背中を丸めている彼女に僕は詰め寄った。
普段威張っているのにあんな所を見られて恥ずかしがっているのだと今になれば分かるけど、幼い僕にはそれがわからなかった。
o川#゚ー゚)o「もう大丈夫!」
そういつものように強気に怒鳴る彼女に僕は一安心する。
それでも彼女はご機嫌斜めだったけど。
ほどなくして先生と彼女の母親が病室に入ってきたが、彼女と二、三言話すとすぐに病室から出て行ってしまった。
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:11:08.18 ID:zGE/xaHF0
o川*゚ー゚)o「何あれ?もうちょっといたわりなさいよ」
(;・∀・)「だめだよきゅーちゃん!まだねてないと」
抗議に行こうとしたのか、立ち上がろうとする彼女を僕は必死に押さえつける。
それが気に入らなかった彼女はさっきよりも大きな声を上げた。
o川#゚ー゚)o「うるさいわね!私が何しようと勝手でしょ?」
(;・∀・)「そんなことないよ、だめだよ」
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:12:29.44 ID:zGE/xaHF0
o川#゚ー゚)o「何よ偉そうに!ちょっと私が弱いところ見せたからって!」
( ;∀;)「ちがうもん!このままじゃきゅーちゃん死んじゃうもん!」
o川*゚ー゚)o「……もら?」
( ;∀;)「きゅーちゃん死んじゃったらヤダ!僕ヤダ!うわあああああああん!」
僕の涙に反応した彼女は、困ったような、悲しいような、そんな顔をしていた。その顔を見て、僕の頬は一層涙にぬれた。
o川*゚ー゚)o「……いい、もら?」
ようやく泣きやんだ僕の頭をなでながら彼女は優しくささやいた。
o川*^ー^)o「私はそんな簡単に死なないのよ?」
そうやって天使みたいに笑った彼女は、あっけなく僕の前から消えてしまった。あまりにも早い、二十数年の生涯だった。
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:13:48.56 ID:zGE/xaHF0
( ・∀-)「ん……?」
視界が光でぼやける。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。体を伸ばして、両目をこする。
頬には涙の跡がくっきり付いていた。夢の中の彼女を思い出すと、もう一粒おまけの涙が頬を伝った。
( ・∀・)「……?」
そこで僕は異変に気付く。あれだけ人であふれていたはずのバスに、今は僕一人しかいない。
おまけにあたりは全く見覚えのない場所。寝ボケが一瞬で覚めるほどの恐怖を感じる。
( )「お客さん、ようやくお目覚めかい?」
バスの運転手がこっちを見る事なく話しかけてくる。しかし、それに反応する事はとてもできず、僕は完全に恐怖に凍りついていた。
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:14:40.23 ID:zGE/xaHF0
( )「そんなに恐がらなくていいよ、ちょっといい話をしようってだけだからさ」
「ここら辺でいいかな?」と小声でつぶやくと、運転手は道路の脇に車を止める。
僕は運転手から目を離さずちらっと携帯をのぞく。圏外と表示されたその画面に助けを望む事は出来なかった。
( )「今うちの会社で、とあるサービスを始めようとしてるんだ。まぁ、まだ社外の人には喋れないような事なんだけどね」
バスは停車しているのに振り返ろうとしない運転手。元々僕の反応を待つ気がないのか、警戒を続ける僕を気にする事なく淡々と話し続ける。
( )「でもそのサービス、結構面白くてね、一回やってみたいんだ。黙秘にできるなら、今回だけタダにしとくけどどう?」
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:15:27.59 ID:zGE/xaHF0
完全な沈黙。どうやら今回は僕の返答を待っているらしい。
( ・∀・)「そんな事言ったってどんなサービスか教えてくれなきゃ決められないです」
( )「ん〜、これは聞かない方が楽しめるんだがなぁ……」
そしてまた沈黙。しかし、そんな正体のわからない怪しいものを受けたいとは思わなかった。
( ・∀・)「遠慮します。そんな得体の知れないものなんてどうでもいいので早く帰してください」
( )「わかった!どんな内容か教える。だからとりあえず話だけでも聞いてくれ。」
やたらと粘る運転手。僕の事を考えているわけでなく、純粋にそれがやりたいのだろう。
その姿勢に折れた僕は、とりあえず話だけでも聞く事にした。
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:16:11.52 ID:zGE/xaHF0
( )「お客さん、交霊術って知ってるか?」
交霊術。あの世の霊を現世に呼び寄せ、媒体に憑依させる。それがなんだというのだろうか?
( )「今日葬式をした彼女に会いたくないかい?」
その言葉に心臓が大きな音をたてる。しかし、すぐに冷静な自分がそれを否定する。
( ・∀・)「そんな事言ったって誰に憑依させるんですか?このバスには僕とあなたしかいないのに」
( )「もちろん、自分だよ?口寄せとか聞いた事ないか?」
( ・∀・)「憑依を解く時は?」
( )「それも大丈夫だよ。こっちは訓練積んでんだよ?それに悪霊じゃないんだから、話せばわかるって」
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:17:52.13 ID:zGE/xaHF0
話だけ聞けばある程度納得ができる。でも、そんな話をすぐ鵜のみにできるほど僕の頭は柔軟じゃない。
( )「で、どうするのお客さん?」
催促を始める運転手。僕は悩んだ。でも、その必要はないとすぐに悟った。
( ・∀・)「わかりましたよ。じゃあ、お願いします」
ダメ元がデフォなんだ。それに、承諾しないときっとこの運転手は帰してくれないだろう。
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:18:42.93 ID:zGE/xaHF0
( )「よし来た!じゃあ少し待ってろよ!」
運転手はうれしそうに声を上げたかと思うと、とたんに静かになり、精神を集中をさせているのかぶつぶつとなにかを呟いていた。
( ・∀・)「運転手さん……?」
その不気味な光景に、僕は恐がりながらも運転手に近づく。それでも、何をしゃべっているのか一切聞き取れなかった。
( )「う……あ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
瞬間、悲鳴のような甲高い声をあげながら運転手がけいれんを始めた。異常な光景に、僕は思わず尻もちをついた。
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:19:27.63 ID:zGE/xaHF0
( )「あ……あ……ぁ…………」
(;・∀・)「うん………てんしゅさん……?」
がっくりうなだれ、ハンドルに体を預ける運転手。まるで死んでしまったかのようにピクリとも動かない。
(;・∀・)「大丈夫ですか!?」
僕は震える膝を押さえてなんとか立ちあがって、運転手にゆっくり近づいてその様子をうかがう。
o川*-ー゚)o「う……ん……、何よ、うるさいわね……」
( ・∀・)「え……?」
まぎれもなく、彼女がそこにいた。
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:20:13.63 ID:zGE/xaHF0
そう、まぎれもなくそこにいるのだ。運転手の横で宙に舞う彼女。体が微妙に透けているけど、まぎれもなくそこに彼女はいた。
o川*゚ー゚)o「あれ、どこココ?」
彼女は口を動かしているが、その声は運転手から聞こえてくる。
なのに運転手の声ではなく、まぎれもなく彼女の声。非現実的な光景に、僕も同じように口をパクパク動かしていた。
o川;゚ー゚)o「え、もら?なんで?え?」
どうやら、彼女自身も状況がわかっていないらしい。僕の顔とバスの車内、いまだうなだれたままの運転手を変わりばんこに見て動揺している。
ガクンッ
すると急に運転手が起きだしてバスを動かし始めた。その衝撃に僕は転倒。浮いている彼女もなぜかバランスを崩している。
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:22:02.85 ID:zGE/xaHF0
(;・∀・)「え、ちょッ、なんで動いてるの?」
彼女の姿が運転手の横にいようと、今運転手は憑依されているはず。というとこれは彼女の意志なのか?
(;・∀・)「おい、運転するなよ!危ないだろ!」
o川#゚ー゚)o「何よ!私知らないわよ!」
だとするとこれは一体何なんだ?無意識の人が運転する車なんてとても恐くて乗ってられない。
(;・∀・)「おい、ちょっと運転手と変われ!」
o川#゚ー゚)o「何なのよ!訳わかんない事言わないで!」
おいおい、話せばわかるんじゃないのかよ。このままじゃいつ事故を起こすかわからないじゃないか。
- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:22:51.36 ID:zGE/xaHF0
( )「二人とも、少し落ち着いて」
すると、今度は正真正銘、運転手の声がバスに響いた。
(;・∀・)「お、落ち着くも何もまず状況を説明しろよ!」
( )「わかったから、そんな大きな声出すなよ」
焦ってまともに呂律の回らない僕とは違い、異常なほど冷静な運転手。
今、口は運転手が使っているからなのか、彼女は口を動かしているだけで声は聞こえない。
( )「お嬢さんも落ち着いて、今からちゃんと話すから」
運転手に促されて、僕たちは互いに顔を見合わせる。生前と変わらない、彼女の整った顔に僕は何とか冷静さを取り戻せた。
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:23:36.10 ID:zGE/xaHF0
( )「今自分はまぎれもなくそこのお嬢さんに憑依されている。けど、体の全部を渡してるわけじゃない。お嬢さんには、自分の口と、耳を貸してやってるだけなんだ」
「これでわかったろ?」そう付け足す運転手だったが、とてもじゃないけど信じられない。
(;・∀・)「あんたの声帯を使ってるのに、なんで声は全然違うんだよ!」
( )「そりゃあ、生前のその人に近づけるために決まってるじゃないか。訓練を積んで、どんな声色でも出せるようにしてるんだよ」
(;・∀・)「じゃあなんで僕にも幽霊が見えるんだよ!僕は霊感なんてないのに!」
( )「お客さん、そいつは違うな。人ってのはみんな第六感をもってるんだ」
( )「それにそれは訓練でどうとでもなるし、たがいに影響されあう。今自分が近くにいる事で、そのセンスをお客さんにも分けてやれてるんだ」
聞けば聞くほど頭が痛くなってくる。まるで夢でも見ているかのような錯覚に陥る。ただ、それは決して悪夢というわけではなかった。
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:24:23.15 ID:zGE/xaHF0
o川*゚ー゚)o「ちょっと、これからどこに行く気なの?」
今まで口をパクパクさせていた彼女の声が聞こえた。さっき僕のたてた仮設はすでに崩壊寸前のようだ。
( )「お嬢さん、今自分と貴方は一心同体なんです。行きたいところ、いっぱいあるでしょ?」
それを聞いた彼女の顔に晴れ晴れとした笑顔が咲いた。と次の瞬間、僕の顔を見て微妙にうつむいた。
( )「兄さん、あんたの時間が許す限り、お嬢さんにつきあってやりな」
彼女の悲しそうな顔を見たくなかった僕は、「終電までなら」と、か細く答えて彼女から目線を戻した。
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:25:08.91 ID:zGE/xaHF0
( )「了解了解、ここから先は口も耳も全部お嬢さんに使わせてあげるから、プライバシーなんてのは気にしないで大丈夫だよ」
そう言って運転手は黙ってしまった。訓練を積んでるとか言ってたけど、本当にそんな事が出来るのかとそれを目の前にしても思ってしまう。
o川*゚ー゚)o「……久しぶりだね、モララー」
僕の隣に座った(?)彼女が口をひらく。といっても声がするのは運転席からだけど。
( ・∀・)「うん……もう……数年ぶりだね……」
そこで会話が途絶えた。どうしてだろう、話したい事はいっぱいあったはずなのに、何を喋ればいいのかわからない。彼女も同じように言葉を紡ごうと、必死に口だけを動かしている。
o川*゚ー゚)o「……ごめんね、お仕事忙しいのにわざわざお葬式になんて呼んで」
( ・∀・)「い、いや……別に……」
こんな他愛ない会話なのに、どうしてもうまく言葉が出ない。僕たちの間にあった、とても深い溝を今さらのように深く感じた。
- 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:25:59.51 ID:zGE/xaHF0
そのまま僕たちは無言でバスに揺られ続けた。車内を照らすオレンジ色の光に映える彼女がとても綺麗だった。
o川*゚ー゚)o
彼女と目が合う。それでも互いに何を話せばいいのか分からず、すぐに顔をそむける。心臓の音が、高鳴っていた。
o川*゚ー゚)o「あれ……ここは……?」
少し揺れて止まったバス。真っ暗な窓を彼女と覗く。それがなんなのか、わかるまで少し時間がかかった。
o川*゚ー゚)o「中学校だね、私たちの母校」
( ・∀・)「懐かしいな、何も変わってないんだな」
暗さに目が慣れてきて、校舎がくっきりと見えてきた。それに比例して、僕の胸に懐かしさがこみあげてくる。
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:27:11.88 ID:zGE/xaHF0
o川*゚ー゚)o「中学時代って言ったらやっぱり部活だったな〜」
( ・∀・)「あ、そうなの?休みがちだったくせに」
窓の外の景色に思いを寄せる彼女に、僕は少し意地悪く言ってみた。
o川*゚ー゚)o「うるさいわね、それはそれで楽しかったの」
( ・∀・)「へ〜、まぁ、僕にとっては嫌な思い出でしかないけど」
o川*゚ー゚)o「え、なんで?」
( ・∀・)「なんでって……誰かさんに無理やりマネージャーにされて……ねぇ?」
- 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:28:03.11 ID:zGE/xaHF0
o川*゚ー゚)o「う……それは……」
彼女の困る顔が可愛くて僕は思わず笑ってしまった。その笑顔に彼女は少し不貞腐れたけど、すぐに僕と同じように笑い出した。
o川*゚ー゚)o「結局私が卒業した後もずっとマネージャーやってたんでしょ?」
( ・∀・)「そうだよ、なんで3年間も雑用やんなきゃいけなかったんだって感じだったよ」
そう言って僕たちはまた笑いあった。今は、自然と口が動いてくれた。
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:28:49.90 ID:zGE/xaHF0
ほどなくしてバスが動き出す。何となく慣れてきている自分が怖かったけど、深く考えない事にした。
( ・∀・)「でもホントひどかったな〜、朝も放課後もずっと誰かさんにコキ使われて」
o川*゚ー゚)o「なによ〜、マネージャーの仕事なんてそんなもんでしょ?」
( ・∀・)「いや〜、だからって練習終わった後も毎日自転車の後ろに乗るのは仕事範囲外じゃないんですか?」
o川*゚ー゚)o「いいじゃんいいじゃん、家近いんだから」
そう言って彼女は頬を膨らませる。そのあどけない一挙一動に、僕は心を奪われていた。
二人乗りだって、僕は嫌じゃなかった。むしろ、それを楽しみにして毎日部活に行っていた。
けど、結局彼女はそんな事には気付いてくれなかった。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:29:35.80 ID:zGE/xaHF0
o川*゚ー゚)o「あ、今度は高校!」
彼女の視線の先には、またも懐かしの母校。目の前で止まったその変わり映えしない姿に、僕も思わず興奮する。
( ・∀・)「ここでも結局誰かさんのせいで学校生活台無しだったな〜」
o川*゚ー゚)o「また〜、いいじゃない。色々面倒見てやったでしょ?」
ここでも僕と彼女の関係は変わらなかった。先輩と後輩。部員とマネージャー。親友。幼馴染。それ以上、男女の境界線を越える事はなかった。
o川*゚ー゚)o「でもモララー、途中で来なくなったじゃん。私がどんなに誘っても」
( ・∀・)「もういい加減バカバカしくなったからね、雑用なんて」
少し突き放すような口調。それでも、鈍感な彼女は気付く事はないだろう。ずっとそうだったから。
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:30:21.95 ID:zGE/xaHF0
o川*゚ー゚)o「……その頃から変わったよね」
悲しそうな声を絞り出す彼女。僕は不貞腐れながら彼女から視線を離した。
o川*゚ー゚)o「私がどんなに声掛けても昔みたいに笑ってくれなくなった。さっきもそう、昔みたいに笑ってなかった」
そう僕に言いよってくる彼女。生きていれば吐息を感じる事が出来るだろう程の距離まで詰め寄る。
o川*゚ー゚)o「それにその頃私の事避けてたよね?どうして?」
無言のままの僕に彼女はなおも問い詰める。どうして?どうして?どうして?どうして?
( ・∀・)「いい加減にしてくれよ」
ぼそっと、自分だけに聞こえるように呟きたかった。けど、思いはそれを越えて声の大きさに現れた。
本当は彼女に伝えたくなかった。でも、もう伝えなければ心が切れてしまいそうだった。
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:31:13.98 ID:zGE/xaHF0
( ・∀・)「その優しさが、その偽善が、その態度が、どれほど僕を苦しめたと思ってるんだ?」
彼女は眼を丸くして僕を見ている。さっきの運転手と同じで、僕は彼女の返事を待たずに続けた。
( ・∀・)「僕が来なくなった頃、先輩と付き合ってただろ?」
o川*゚ー゚)o「……そんな事ないよ」
否定する彼女の言葉など僕は聞かなかった。聞く気もなかった。
( ・∀・)「抱きしめられてるの見たんだ、体育倉庫で」
o川*゚ー゚)o「ッ!」
彼女の息をのむ音が大きく聞こえた。信じられないといったような彼女の顔に、僕は苛立ちを覚える。
- 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:32:07.21 ID:zGE/xaHF0
いつの間にか動き出したバス。僕たちは喋らない。僕は窓の外をただ眺めるだけで、窓に映る彼女は泣きそうにうつむいていた。
でも、本当に泣きたいのは僕の方なのかもしれない。
こんな時に、どうしてこんな話をしてしまったんだろう、と。彼女の前という事だけが、涙をまぶたにとどめていてくれた。
いつもより少しだけ揺れてバスは止まった。窓の外にある、思い出が詰まったその場所に、こらえきれず僕の頬に一粒の涙が伝った。
o川* ー )o「……はじめて会った公園だね」
こんな顔を彼女に見せるわけにもいかず、僕は黙ったまま、ずっと窓の外を見続けていた。
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:33:06.28 ID:zGE/xaHF0
o川* ー )o「……小学校の時にさ、私がここで胸を押さえて苦しんだの、覚えてないよね?」
僕が反応しないのも気にせず彼女は喋り続ける。さっきの運転手や、僕のように。
o川* ー
)o「あの時私のために必死に走ってくれたモララー、カッコよかった……」
o川* ー
)o「病院について、私が勝手に病室から出ようとして、そしたらモララー、『死んじゃうからダメッ!』って泣きじゃくって……」
さっき見た夢の話を、彼女は淡々と続ける。僕の頬を伝う涙にも気付かずに。
o川* ー
)o「……あの時の約束……私ずっと待ってたのに……」
流れ続ける涙も気にせず、僕は目を見開き振り返った。僕と同じように、彼女も大粒の涙を流していた。
- 38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:34:00.06 ID:zGE/xaHF0
あの夢には続きがあった。
そう簡単には死なない、そう言って無邪気に笑う彼女。
そんな彼女と対照的に、僕は顔をくしゃくしゃにしながら答えた。
( ;∀;)「……でも、もしまた今日みたいになっちゃったら」
o川*゚ー゚)o「だから、大丈夫だって言ってるでしょ?」
(
;∀;)「ぼくがっ、ぼくがまたまもってあげるから!ずっとまもってあげるから!」
彼女の声なんか聞かずに涙を流した。彼女がいなくなる事を考えると、ただただ悲しくて、どうしようもなく悲しくて。でも、そんな僕を見て、
o川*^ー^)o
彼女は笑ってくれた。「お願いされようかな」なんて照れ臭そうに言いながら。その笑顔に、僕はまた、大きな声をあげて泣いた。
- 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:34:59.13 ID:zGE/xaHF0
きっと、その頃から好きだったのかもしれない。
o川*;ー;)o「部活に来ない……。私が話しかけても答えてくれない……。私、嫌われたって思って……」
僕がどうして彼女を嫌いになるのか?
いつも僕の事を年下だからってお節介焼いて、そのくせ頼りない彼女を、そんな愛おしい彼女をどうして嫌いになれるのか?
o川*;ー;)o「先輩には言い寄られただけだけで………私にはモララーしかいなかったんだよ……」
(
;∀;)「……ごめん…………ごめん……約束………覚えてたけど……怖かったんだ……」
その約束を忘れた事なんてなかった。
でも、彼女が覚えているとは思えなくて、怖くて、壊れるのが嫌で、ずっと言いだせなかった。
だからもう、いっそ忘れたかった。こんなに苦しむのならいっその事、と。
でも、どんなに忘れようとしても、彼女の声が、その感触が、あの時の笑顔が、僕の心を締めつけ続けた。
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:36:11.21 ID:zGE/xaHF0
( ;∀;)「大好きだッ!!キュートッ!!」
僕はキュートを抱きしめた。
でも、そこに彼女はいなかった。彼女の体はなかった。
抱きしめた腕はそのまますり抜け、床に倒れこんだ僕は大きく泣いた。悔しさと、後悔に打ちひしがれながら。
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:37:04.24 ID:zGE/xaHF0
o川*;ー;)o「……ごめんね……私も……何もしなくて……」
謝る彼女を、僕は大きく首を振って否定する。
きっと、どっちも悪いんだと思う。怖がって何もしなかった僕。ただ待ってるだけだったキュート。
どんなに後悔したって、もう彼女とは一緒になれない。あれほど近くにいたのに。
o川*;ー;)o「ぁ………」
彼女の半透明だった体が、急に光り始めた。瞬間的に、僕は彼女との別れを悟った。
(
;∀;)「イヤだッ!!行くなよッ!!行かないでよッ!!」
頭では理解できても、そう叫ばずにはいられなかった。でも、あんなにまぶしかった彼女の光は、徐々に薄れていくばかりで。
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:37:52.45 ID:zGE/xaHF0
o川*;ー;)o「最期に……一つだけお願いしても、いいかな?」
(
;∀;)「イヤだッ!!イヤだッ!!最期なんて言うなッ!!」
o川*;ー;)o「いい加減にしなさいッ!ちゃんと私の言う事聞きなさいッ!」
そうやって僕を叱る彼女に、僕は昔の面影を見た。まだ知り合った頃、年上という理由で僕を叱る彼女。
o川*;ー;)o「……また……前みたいに……笑って……欲しいな……」
僕は彼女に重なった面影を思い出して泣きながら笑った。うまく笑えたかわからない。でも、彼女も、面影と同じように笑ってくれた。
o川*^ー^)o「ありがと」
一瞬だけ強く光って、キュートは消えた。あれだけ光ったのに、後には何も残らなかった。
僕はそのまま、膝から折れるように倒れこんだ。
- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:38:51.06 ID:zGE/xaHF0
( ;∀;)「きゅーちゃん!きゅーちゃん!うわあああああああああ!!」
床を殴って、殴って、手をすりむいても殴って。悔しいのか、悲しいのか。もう、どんな感情なのか自分でも分からなかった。
( )「……お客さん、ちなみにこんなサービスもあるんだけど」
キュートの声を出していたとは思えないような声帯で、運転手は言う。いつものように、こっちを見ようともせず。
( )「お嬢さんのところに行きたいなら連れてってやれるよ。……ただ、もうこの世には戻ってこれないけどね」
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:40:22.51 ID:zGE/xaHF0
( ・∀-)「ん………」
目をあけると、いつもの見慣れた天井で視界がうまった。体を起して大きく伸びをする。
( ・∀・)「……ヤバい遅刻だ」
時計を確認した僕は飛び起き、急いで身支度を整える。
結局、僕はあのサービスを受けなかった。正直、本当は彼女といたかった。
けど、きっとそんな事をしてもキュートは喜ばないだろうと僕はわかっていた。
だから、僕は未来を生きる事にした。
満員電車に揺られ、嫌な上司に怒られ、得意先に頭を下げる。
そんな窮屈な日常を送るなら、いっそ送ってもらえばよかった、なんて冗談を思ったりする。
冗談のつもりなのに、たまに本気になる自分を叱りつけて、僕は今日も会社に向かう。
- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/14(水)
23:41:23.71 ID:zGE/xaHF0
( ・∀・)「……今日も疲れた……」
電灯の光る道を僕は歩く。結局あの日の体験はなんだったのだろうと今でもよく思い返す。
不思議な事に、あの日からもうだいぶ時間がたつのにあのサービスの話は一切聞かない。
恐る恐る、あの葬式会社に聞いてみたけど、そんな事はしていないの一点張りだった。
あれはいったい何だったのか、運転手はいったい何者だったのか、解けない謎に頭をひねる。
どこからか、霊柩車の無機質な音が聞こえた気がした。
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