lw´‐ _‐ノvは起きないようです
75 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:38:41
ID:zfn31xY6O

猫が鳴いている。
私を起こそうと必死のようだ。
その鳴き声を聞いていると目覚まし時計よりも立派に務めを果たしているだろう。
私の頭上をぐるぐる動いていたが、止まり、耳もとに顔を寄せた。
( ФωФ)「なあーん」
耳もとで確かに感じる猫の声に、けれど私のまぶたは震えない。
( ФωФ)「なあーん。なあ、なあーん」
猫が諦め悪く、私を呼ぶ。
その声を聞いていても動かない私は意地が悪いのか、寝ぎたないのか。
目覚めてやればいいのにな。
他人事のような気持ちでいた私は、ようやく思い出す。
猫と目をつぶっている青白い女の顔を見下ろしていることに。
lw´‐
_‐ノv「そういえば、死んだんだっけ」
そんな事実を消すように私の忠猫は鳴き続ける。
76 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:41:18
ID:zfn31xY6O
- ※
とにかくその日は暑かった。
天気予報のキャスターがにこやかな笑みを浮かべて「今日は暑いです」と他人事のように言い放つその瞬間から暑くてたまらなかった。
外に出るなんて冗談じゃない。死にいくだけだと私は企業戦士たちの後ろ姿を見送りながら思った。
lw´‐
_‐ノv「なあ、ロマ」
( ФωФ)「なあ?」
私の足にすり寄る暑苦しい猫は首を傾げて私を見上げる。
lw´‐
_‐ノv「……お前の毛、刈っていい?」
(;ФωФ)「なあっ!」
慌てて私の足から離れる。
本当に人間くさい猫だ。まあ、猫は空気を読むっていうから、私の不穏な空気にびびったんだろうけど。
lw´‐
_‐ノv「嘘だよ」
離れたけど数歩先から伺っている猫に私は言う。本当は半分本気だった。
(;ФωФ)「……なあ?」
lw´‐
_‐ノv「……ごめん。ちょっと考えただけ。うちにバリカンはないよ」
( ФωФ)「なあ」
77 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:43:19
ID:zfn31xY6O
私の言葉に納得したのか近づく。けど、今度は私の足には触れない。
ただ、期待を込めたような眼差しで見上げるだけ。
脅したお詫びもかねてしゃがみこんだ。猫は一層私を見つめる。
ああ、あついな。
lw´‐
_‐ノv「ほら、ごろごろ」
気持ちよさそうに目を細め、喉を鳴らす。
急所をあっさりと晒すこの猫はもう自然の中には生きていけないだろう。そして死ぬまでこの家から出られない。
衣食住は調えられているがそれだけで幸せなのかな。
lw´‐
_‐ノv「私もお前の言葉がわかればいいのにな」
呟くと猫が笑った。
78 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:45:22
ID:zfn31xY6O
- ( ФωФ)「そりゃ、無理だろ。人間辞める気なのか?」
lw´‐
_‐ノv「でもロマは私の言葉がわかるじゃないか。独り言を聞かれるの、恥ずかしいんだぞ」
( ФωФ)「聞いていても誰にも話さなきゃ意味ないだろう?」
lw´‐
_‐ノv「でもロマは知っているじゃないか」
( ФωФ)「ふむ。じゃあ、何が聞きたい? 今なら教えてやるぞ」
喉をごろごろ鳴らしながら、偉そうに猫は私に問いかけた。
だからさ、お前の言葉は私にはわからないんだって。
( ФωФ)「馬鹿だな。お前には私の言葉がわからなくても私はわかるんだぞ?」
lw´‐
_‐ノv「ん?」
首を傾げる。あれ、これってどういう意味だ?
「何を独り言を言ってるの?」
( ФωФ)「なあーん」
79 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:47:35
ID:zfn31xY6O
- lw´‐
_‐ノv「……別に」
背後から掛けられた声に顔が強張るのを感じた。
この家に今いるのは私だけじゃなかったようだ。よりによって狂人とは。
川
゚ 々゚)「え? シューちゃんなに言ってるの。独り言を喋ってたよね」
lw´‐
_‐ノv「だからなんだ」
私は適当に相づちを打ちながらさっさっと逃げる準備をする。
この前、妹のヒートがこの狂人の相手をして五針縫う怪我を負っていた。
加害者曰わく、「ヒーちゃんが可愛くてつい」と笑っていた。ああ、全く狂った姉だ。
その姉は抵抗するより先に私の腕を掴み、爪を立てる。生肉に感じる硬質な感触は痛みを増幅させる。
川
゚
々゚)「シューちゃんったらどうしてそんなに恥ずかしがり屋さんなのかなあ? 口数少ないし、顔見えないし」
そりゃ、背後にいるんだから顔は見えないだろう。
姉はまだブツブツ呟いている。
さっきの私もあんなんだったと思うと少し反省した。
80 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:49:24
ID:zfn31xY6O
- 川 ゚ 々゚)「まあいいか。私の可愛いシューちゃんなんだし」
鳥肌が立つほど綺麗な声だ。そして、私は嬉しくない。
川 ゚
々゚)「殺しちゃいたいくらい、可愛い」
うっとりとしたその響きは私の体を引き裂く妄想でもしているのだろう。
姉の爪は私の皮膚を破ろうとしていた。
( ФωФ)「なあっ!」
川
゚ 々゚)「痛いっ!」
姉の叫びと共に痛みが和らぐ。
なんだと体を捻ると猫が姉の足に噛みついていた。
川 ゚
々゚)「……なに、この畜生。わたしとシューちゃんの家族愛を邪魔する気?」
低い姉の声に私は考えることもせず、腕を振り解き、姉と対峙する猫を抱いた。
そして、走る。
川#
゚ 々゚)「ミンチにして喰ってやるからなあーっ! 畜生がっ! きゃはははははははっ!」
背後から姉の狂った笑い声を聞きながら私は逃げ出した。
81 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:50:50
ID:zfn31xY6O
- 猫が鳴いている。
私を起こそうと必死のようだ。
その鳴き声は救急救命士のように絶えず私を呼び掛けている。
青白い私の耳もとで絶えず鳴いていた。
( ФωФ)「なあーん」
lw´‐
_‐ノv「……どんなに鳴いたって起きないよ」
( ФωФ)「なあーん」
lw´‐
_‐ノv「死んだのにお前とはやっぱり喋れないのか」
こうやって幽霊になれたんだからなにか特典ぐらいあってもいいのにな。
ああ、私の猫はこんなに優秀なのにな。
( ФωФ)「なあーん」
lw´‐
_‐ノv「……ごめんね」
そんな小さな謝罪を消すように私の愛猫は鳴き続ける。
82 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:53:33
ID:zfn31xY6O
- その日はとにかく暑かった。
その上、全力疾走なんてしたものだから全身から汗が滝のように流れる。
lw´‐
_‐ノv「……ここまでくれば大丈夫か」
( ФωФ)「なあ?」
自分の部屋にようやく肩の力を抜く。猫を下ろすと足にすり寄る。
lw´‐
_‐ノv「暑いよ」
少しイライラした。やっぱり、猫は猫なんだな。
( ФωФ)「そりゃそうだ。ところで血が垂れているぞ」
lw´‐
_‐ノv「ああ……。振りほどく時に切れたんだな」
猫が鳴いている。
その声がどこか心配しているように聞こえて頬を緩めた。
lw´‐
_‐ノv「……大丈夫。それよりありがとう」
姉の魔手から逃れられたのは大きい。最悪、骨折を覚悟していただけにこんな切り傷は無傷と同じだ。
しかし、そろそろ本気で姉は病院に入るべきなのだ。
( ФωФ)「でも家族だろ?」
lw´‐
_‐ノv「ロマだって家族だよ」
83 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:54:55
ID:zfn31xY6O
( ФωФ)「……なあーん」
lw´‐
_‐ノv「くるう姉が畜生呼ばわりしようともクー姉がばい菌扱いしようとも、
ヒートがお前を追いかけ回したり、キュートが服に毛が付くと捨てようとしたりしても」
私を見つめる猫を私も見つめた。
lw´‐
_‐ノv「私にはお前は家族なんだよ」
その言葉をお前がどう思うか私は知らないけど。
※
その日は暑かった。
猫が鳴いていた。
畳に横たわる私の側で小さく鳴いた。
毛皮が暑くて、私はお前の頭すら撫でず、目を閉じていた。
( ФωФ)「なあーん」
私は、寝ていた。
いつもなら優秀な猫が私を起こすのに、その日は。
lw´‐
_‐ノv「……ロマ?」
その日はとても暑かったのに、お前はとても冷たくて。
くるう姉に襲われる時より怖くなったのを覚えている。
84 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:57:30
ID:zfn31xY6O
- 猫が鳴いている。
lw´‐
_‐ノv「……ごめんね」
動かない私を猫が必死に起こす。
だから謝る。だって、起きたくない。
それなのに。
(#ФωФ)「いい加減起きるのである。この、ぼけえぇ!」
そして猫パンチ。額を踏まれた。
( ФωФ)「全く……、相変わらず往生際の悪い奴である」
額に乗せた前足をぐりぐりと動かしながら猫はため息をつく。
( ФωФ)「もういいだろう? お前は全く悪くないんだ。我が輩は寿命だったんだよ」
そう言うと猫は私の頬を一舐めした。冷たい。
( ФωФ)「そろそろ……起きるのである」
lw´‐
_‐ノv「やだ」
(#ФωФ)「ああん?」
85 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 07:59:48
ID:zfn31xY6O
- lw´‐
_‐ノv「消えちゃやだよ、ロマ」
( ФωФ)「……馬鹿め。誰が消えるか。我が輩はきちんとお前を見守ってやっとるわ」
そう言うと横たわる私から離れて座る。
( ФωФ)「ほら、さっさっと起きるのである」
大きな声で猫は鳴く。
( ФωФ)「……幸せだったよ。大好きだよ。だから」
猫は鳴く。
( ФωФ)「ずっと側にいるである」
86 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 08:00:37
ID:zfn31xY6O
- ※
私は動かない。
ぼんやりと開いた瞳が辺りをさまよう。
そして、戸惑った。
くるう姉が、クー姉が、ヒートが、キュートが私の両脇に寝ていた。
その寝顔を眺め、くっつく四人に私は動けなかった。
体を横たえたまま、私はずっと側にいてくれた猫を思った。
lw´‐
_‐ノv「あと五分……」
目を閉じる前に聞き慣れた声が一鳴きする。
猫の言葉がわからなくて良かったな、と口許に笑みを浮かべた。
《おわり》
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