177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
10:34:50.18 ID:QB5uku530
- そういえばもうひとつ、二月十四日に向けて変化があったことも伝えなきゃならないな。
ギコがどうやら、ヤンキーの本能を思い出したことだ。
どうも件の喧嘩で停学処分を受けて以来、尖った部分を露にしたらしいんだ。
(,,゚Д゚)「うざってぇな。どけよクズ」
廊下の端にいる僕を、わざわざ蹴りに来るようにまでなった。
何かを投げつけて笑う声が、ますます嘲るような調子になったんだよ。
今までの「いじり」とは路線を変えたんだ。
分かりやすいだろ。
残虐性だよ。
手頃な相手を見つけては、笑えない痛みを与える。
狂犬の名を冠するなら、本来こういう奴だったんじゃないかな。
178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
10:38:59.26 ID:QB5uku530
- モララーはどうしたかって?
ああいう手合いが、仲間の変化にどう対応するか知ってるだろ?
馬鹿だな、ここまで話を聞いていた君らなら経験があるはずだよ。
いじめっ子の一人が「いじり」を苦々しげに眺めていたのを見たことが。
「これだけやっちゃっていいのかな」って思ってる目。 戸惑い躊躇しながら、彼らがどうするか。
( ・∀・)「イェーイ! 死ねよカス!」
同調だよ。 朱っていうのは交わってこそさ。
混ざって溶けて、赤になるんだ。 あるいは、
(;-_-)「いっ、つ」
赤い血を流させるんだよ。
181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
10:45:17.73 ID:QB5uku530
- 奴らは他のクラスの連中とつるむようになった。
人脈こそ力なりっていうの?
マンパワー、まあ、どうでもいいけどさ。 詰まるところ、暴力は肥大、拡散していったのさ。
コミュニケーション力に秀でた連中っていうのは、どの分野にも有利なのが証明されたね。
お調子者レベルの一般生徒だって引き込んだ。
僕らみたいな弱点属性だらけの生徒はなりを潜めるばかり。
言葉は飲み込み視線は下げ下げ。
僕にとっては中学時代再来の幕開けだったのかもしれない。
ただ一つだけ違うのは、完全なひきこもりにならなかったことだ。
僕の対抗手段が守勢一辺倒にならなかったのは、ドクオのおかげだった。
182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
10:51:20.44 ID:QB5uku530
- あ、いや、だからといってカウンター手段になったわけじゃないよ。
でも、彼は学校内を移動するシェルターだった。
(#゚Д゚)「逃げんじゃねぇよゴルァア!」
(;-_-)「ひっ……ひっ……うあっ!」
ズダン
曲がり角で盛大に転んだ僕に、ギコが蹴りをくれようとした瞬間、暢気な声が降ってきた。
('A`)「あ、ギコ。何してんの」
(#゚Д゚)「あっ!?」
ドクオはこういう時、決まって首をこりこりと回しながら、冷めた目で走る僕らを見つめるんだ。
わずかに唇を歪めて、八重歯を覗かせながら。
(,,゚Д゚)「……いや、なんでもねえよ」
すると、ギコは必ず忌々しげに怒りを押し込めるんだ。
184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
10:57:20.80 ID:QB5uku530
- ( ・∀・)「おっ、いたじゃねえかゲロお、と、こ……ドクオか」
駆けた勢いを殺しながら、モララーもならう。
ギコが舌打ちをして僕らから遠ざかると、奴も同じようにした。
('A`)「大丈夫か?」
小柄なはずのドクオが、そういう風に言うと、何故か大きく見えた。
(;-_-)「だ、大丈夫」
ドクオの効力を知っていた生徒は、あまりいなかったと思う。
ジョーンズ、そして巨体のモナーはここぞとばかりにそれを利用していたけどね。
('A`)「怪我がないならよかった。じゃ、そろそろ俺は行くよ」
部活に入っているはずの二人は、先に帰宅するドクオにぴったり付いて放課後まで生き抜いてた。
185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:05:57.44 ID:QB5uku530
- 「10・23 杏仁の乱」
(’e’)「うわぁ〜、そうだ忘れ物しちまったよ〜。筆箱机の中だわぁ〜」
冬服になってから少しして、階段でジョーンズが間抜けに溜息をついた。
この頃の僕はドクオ達と行動することが珍しくなくなってた。
そりゃ、前述の通り、助かるっていう気持ちはあった。
けど、仲間意識を持つのも悪くはないかな、思ったのも確かだ。
(-_-)「どうすんの?」
僕が会話に参加すると、ジョーンズはやや渋い顔をしたけどね。
こいつは僕が同じステージに立ってるのが気に食わないタチらしかった。
(’e’)「……今戻ったらギコ達がたむろしてんべ〜」
それでも、ドクオが僕に普通に接しているという理由からか、返答はした。 まあ、目は合わせてくれなかったけど。
( ´∀`)「じゃんけんで負けた奴がダッシュで取りに行くモナ」
186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:10:12.08 ID:QB5uku530
- モナーはよく、何にも考えていないのを丸出しに発言したね。
心の支えが一つでもあれば生きられるタイプだ。
ある意味、最強の存在だともいえる。 こういう馬鹿は強い。
( ´∀`)「さーいしょーはグー」
(’e’)「うわぁ〜俺勝負弱いからやだよぉ〜」
お前の不備だろう、とは思っても言わないのが僕だ。
( ´∀`)「じゃーんけーん」
そして、自然、じゃんけんに参加してしまうのも。
(-_-)「あ」
('A`)「お」
パーが二人、チョキが二人。 僕らは前者だった。
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:15:11.05 ID:QB5uku530
- 最後の一人まで。
バトルロイヤルみたいにいったら、重さが伝わるかな。
事実、放課後にたむろする不良グループ(ヤンキーから格上げだ)の中に飛び込むわけだし。 生贄立候補することになる。
(-_-)「じゃ、じゃん、けん」
素直に喜ぶジョーンズとモナーがけたけたと笑う横で、僕は右手を出した。
('A`)「いいよ、二人で行こう」
でも、ドクオはすぐにそう言って踵を返した。
やっぱり、その背中は小さくて大きく感じたね。
(-_-)「う、うん」
188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:23:17.55 ID:QB5uku530
- ('A`)「最近、ギコ達がまた調子付いてるな」
歩きながら夕焼けに染まる空を眺めていると、ドクオがそんなことを言った。
どこか深刻そうな顔つきだ。
('A`)「まあ、俺達もむざむざやられたくないよな、ヒッキー」
(-_-)「……そうだね」
返答する瞬間、少しだけ迷った。 「俺達」って響きが、こそばゆかったんだ。
中学生、小学生、幼稚園。
思い出される限り、二人一組どころか五人一組にすら歓迎されたことがない。
そんな僕を入れて「俺達」?
空腹な時に超すっぱい梅干をかじるのと同じくらい、刺激が強い言葉だったね。
190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:30:14.36 ID:QB5uku530
- 教室にはギコやモララーと、他のクラスにできた取り巻き三人がいた。
そして、最後列窓際で文庫本をめくる男子。
( <●><●>)
不良達の騒音に近い馬鹿笑いの中でも変わらない、ワカッテマスだった。
不良の一人が僕らを認めて、顎をしゃくった。
(,,゚Д゚)「ん」
しん、とした。
何をしなくとも、僕の背中に冷たいモノが流れたのを覚えてるよ。
('A`)「よう」
( ・∀・)「……何か用かよ」
('A`)「忘れ物」
ページがめくれる音だけが響く。
192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:34:23.69 ID:QB5uku530
- (,,゚Д゚)「そうか」
ドクオがジョーンズの席を探りに行く。 ワカッテマスの一つ前の机だった。
( <●><●>) ズビ
全く周囲の様子に構わず、彼は白っぽいパッケージのジュースを飲んでた。
緊張さえしてなかったら、いつかの「違う世界の何か」を感じられたのかもね。
('A`)「あった。悪い、邪魔した」
(,,゚Д゚)「構わねぇよ」
('A`)「行くか……って、おい、ジョーンズ」
振り向くと、出入り口の前でジョーンズとモナーが様子を伺っていた。
194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:38:31.33 ID:QB5uku530
- 表情で分かった。
あれこそが卑怯ってものなんだろうな。
あいつらはビビってたんだ。
ドクオが不在のときに二人が襲われるのを恐れてたんだ。
分かる、分かるよ君の気持ち。
もしもギコ達が教室にいなくて、自分達のところに来たら。 もしも教室にいても、外に出た自分らを見つけたら。
何かされる前に防御体勢取るのは自然なことだよ。 でも、でもな。
(’e’)「えへへへ」
その媚びるような表情は、最悪に気分が逆撫でされるんだよ。
196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:41:46.90 ID:QB5uku530
- ああ、と僕はすぐに理解したよ。
胸がむかつく原因をね。
あいつは僕なんだ。 僕と同じなんだ。
どうしようもなく弱く、脆い。 だから、かなり控えめに訴えてるんだ。
見逃してくださいって。
どうか僕を攻撃しないでくださいって。
始めに言ったよね。 僕の特技は愛想笑いだって。
その「むかつくぐらい惨めな僕自身」にそっくりなんだ。 だから、僕は、余計に腹が立つ。
197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:47:04.30 ID:QB5uku530
- 特別何かを言うわけじゃない。
僕は「自分」をどうやったら変えられるか分からないから。
マイケルジャクソンの「マンインザミラー」の歌詞分かる? 「鏡の中の奴を変えろ、自分じゃなくて」ってくだり。
要は自分を変えろってことなんだけど、本当に「鏡に映った自分」を見たらそんなこと考えられないね。
少なくとも、僕みたいな劣等種として生まれた人間は。
吐き気がするよ。 とめどなくね。
('A`)「なんだよ、結局皆来たんじゃないか」
( ´∀`)「お腹空いたから、たい焼きかたこ焼き食べて帰るモナ」
(’e’)「うわぁ〜ありがてぇ〜ドクオさんきゅー」
なんなんだろう、こいつらは。
199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
11:51:09.44 ID:QB5uku530
- ぺらり、と背後で紙のめくられる音がした。
ワカッテマスだ。
僕は彼にはなれない。
彼が「鏡の中の自分」ではない。
急に絶望が押し寄せたよ。 本当に、どうしようもない。
「早く出てけよ……」
ギコの取り巻きがシビレを切らして言った。
僕は、雷に打たれたように姿勢を正したね。
('A`)「行こう、ヒッキー」
もやもやを払い、僕は教室を出ようとした。
201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
12:27:00.21 ID:QB5uku530
- が、そこで「僕」がふざけた行動に出た。
いや、もう止めてしまおう。
アイツを僕自身と重ねるなんて、ゲロ男の僕でなくても反吐が出る。
(’e’)=3 フッ
こともあろうに、アイツは虎の威を借りながら、ギコ達を鼻で笑った。 大したことねえな、って感じで。
僕は、すぐにまた振り返ったよ。 もちろんね。
202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
12:30:38.68 ID:QB5uku530
- トマトが熟れていくのを早回しで見たような気分だったね。
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)
(#゚Д゚)
それも、五つが同時に。
ガァン
蹴り上げられた机と椅子が教室の床を這ったよ。 激しく周りを押しのけながら。
ゴルァ、っての?
ギコ特有の威嚇なんだけど、そん時は本当に効果てきめんだった。
僕は完全に直立不動になっちゃったんだ。
204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
12:35:40.41 ID:QB5uku530
- ジョーンズ達が逃げていく音を聴きながら、中間地点で棒立ちだよ。
僕ができることと言ったら、やっぱりこれだ。
(;-_-)「あはははは」
死にたい。
おなじみ隕石か大地震でソクホウ高校壊滅の様相を思い描こうとした。
無理だった。
(
<●><●>)「あ……」
( <●><●>)「あっ!?」
そこで、イレギュラーを起こしうる人間といったら、一人しかいなかったね。 彼だよ。
207 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
12:41:27.22 ID:QB5uku530
- それも意に介さず教室を横切っていくギコを他所に、彼は続けた。
( <●><●>)「杏仁!?」
さすがとしか言いようがなかった。 彼は異次元から急に意味不明なことを叫ぶんだ。
(
<●><●>)「ちょっ、え!? はっ!?」
見れば吹っ飛んできた椅子が机を揺らし、ジュースのパックが倒れている。 そして漏れ出している白っぽい液。
( <●><●>)「ちょ、あ、ギコ!?」
今頃何が起きたか理解したらしい。
荒れた教室を出ていく不良達を見咎めて、ワカッテマスは眉間に皺を寄せた。
(
<●><●>)「……杏仁」
210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
12:46:58.05 ID:QB5uku530
- すい、と立ち上がったワカッテマスは、すぐに文庫本を放り投げた(しかもかなりぞんざいにだ)。
そして、整った白い歯並びをむき出しに、走り出す。
(
<●><●>)「おいおいおい、おいおいおいおい」
ゆっくりと小走りだったのが、出入り口に到達する頃には駆け足に。
引き戸に手をかけ、強引なコーナリングを果たすと、ワカッテマスは姿を消した。
(;-_-)「はっ!」
気付けば残されたのは僕だけだ。 教室に漂う杏仁豆腐の香り。
倒れた杏仁ドリンクの掃除をすべきか一瞬考えて、しかし僕は教室を出た。 彼を追いかけなければと思ったんだ。
でも、廊下には足音と怒鳴り声が響くばかりだった。
(;-_-)(いないし!)
211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
12:51:47.71 ID:QB5uku530
- 考えたよ。
なんで僕は走ってるのかって。
バックレたら僕にはなんにも起こらないじゃん。
全部ジョーンズが悪いんだから、あいつがシメられるのは当然なんだ。
なのに、僕は50mを9秒で走る脚を回してる。
すぐに息は上がって、階段を登りながら混乱にあえいだ。
なにやってんだ。
「待てやゴルァアアア!!」
三年の教室がある四階から声がする。 ばたばたと足音が遠ざかっていく。
(;-_-)(死ぬ!)
でも、止まらない、止まれない。
212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
12:54:47.96 ID:QB5uku530
- 渡り廊下の前でワカッテマスが一人を捕まえていた。
威圧感たっぷりに、胸倉を掴んでたよ。
(
<●><●>)「ギコ、どっち行った?」
「うるっせぇな! 離せよ! 関係ねえだろ!」
パン、と音がした。
「う、お?」
頭突きってこんな音がするもんじゃなかったと思うんだけど、どうだろう?
(
<●><●>)「どっち?」
「あ、あっち……」
第二学棟の方に、震える指先が向かった。
214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
12:59:16.25 ID:QB5uku530
- 「おろ、ろろろおおお?」
どさっと倒れ込んだ不良AだかBだかCは、悪態を吐きながら目を回してたね。
僕はその横を駆けながら、彼を追ったよ。
第二学棟は僕らが入学する二年前に建った。
生活臭がまだ馴染んでない中に、杏仁ドリンクの香りを辿った。
(;-_-)(元気すぎるだろみんな!)
三分も走ると、体が乳酸だらけになって悲鳴を上げた。 悪いけど、短距離も長距離も苦手なんだ。
無距離移動しか継続してやったことがない。 つまり、ひきこもりさ。
脳味噌なんか、こんなに血流良くなったのは久しぶりと見えて、キンキンに痛んだ。
215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:04:02.34 ID:QB5uku530
- ぜぇはぁ、とよろめくと、ひんやりした壁が僕の顔を冷やした。
(;-_-)「あつ、ハァ……ハァ……」
体力ゲージは残り数ミリ。 スパコンゲージも無し。
どうやら追ってた人々の姿のない。
本格的に何やってんだ、という感じだった。
僕はいつもの自己嫌悪に陥ったね。 何をやってもダメな自分なんだ。
走っても誰かに追いつけた試しがない。 実際の徒競走でも、人生のレースでも。
「黒犬」みたいになんか、とてもとても。
216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:08:08.60 ID:QB5uku530
- 外は夕暮れ、赤い空だ。
窓から臨む中庭の木々は背が高い。
ベンチに腰掛ける男女の生徒。
走っていく野球部。
耳を澄ませば吹奏楽部のヘッタクソなラッパだ。 ああ、青春の香り。
僕のいないところに存在する何かだ。 手で掴もうとしても硝子で遮られる別世界だよ。
(;-_-)(それに追いすがって何をしようってんだ、僕は)
鬱屈とした気持ちが脚の疲労と一緒に腰まで登ってきた。 実体化して首を絞めてくれ。
死にたい。
217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:11:25.41 ID:QB5uku530
- 「おいゴルァア! ぶっ殺すぞてめえ!」
「うわぁあああ〜!! ごめんなさいごめんなさい!!」
(-_-)「!」
いた。
中庭に、やつらが現れた。
上履きのままで、ギコがジョーンズを完全に捕まえる。 そのまま乱暴にジョーンズが地面に叩きつけられる。
おいおい、僕が三階にいるのに、もう君らはそこかよ。 青春の徒は脚が早いな、なんて思った。
そして、僕の体は「彼」の登場を期待して、再び走り出した。
220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:20:57.85 ID:QB5uku530
- (#゚Д゚)「なあ、なあ、きい、てんの、かっ!?」
上から見た位置にはやつらはいなかった。
モララーが後ろから羽交い絞めにして移動しながら、ギコが一言ごとにパンチ。
教師達に見つかりにくい場所へ引き込もうとしているようで、なかなか頭が回るもんだと感心した。
あ、いや、今だからそう思うだけだ。
当時は泣きじゃくるジョーンズが哀れで恐ろしかったよ。
絶対ああはなりたくない。
(#゚Д゚)「ゴルァ! てめえドクオいりゃ何やっても許されると思ってんのか!」
僕は一階の渡り廊下からこっそりとその様子を眺めてた。 ワカッテマスは、いない。
ジョーンズがべろべろに顔を歪ませながら、何かを言ってるだけだ。 ドクオもモナーもはぐれたのか、いない。
221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:25:13.90 ID:QB5uku530
- ギコはどうも人心掌握に馴れてるようだったね。
しかも、ジャンル「恐怖」方面。
普通、不良漫画ってグーで腹を殴るだろ? あいつは一味違った。
頭を平手で打つんだよ。
それで、何度も繰り返して、大げさに振りかぶる。
相手が目を瞑ったら、ようやくみぞおちを殴るんだ。
緩んだ腹筋にめり込む拳や膝は強烈だった。
僕が中学時代に受けた暴力は道具を使ったものだったけど、高校生だからね。
腕力がその時の比じゃないんだ。
とにかく、痛そうだった。
(;-_-)(……)
223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:30:28.71 ID:QB5uku530
- ギコの細すぎる堪忍袋の緒がぶち切れて数分、誰もジョーンズを助けない。
ワカッテマスも現れない。
(;e;)「ずあああぁあ」
( ・∀・)「うるせえなあ」
不良ABも到着して、いよいよもってジョーンズが絶望に呻いた。 僕もこんな風に誰かに傍観されていたんだろうか。
たぶん、僕以外にも誰かがこの様子を見てる。 いや、観てる?
第三者で在り続けてるんだろうな。
無関心を装ってるんだ。
本当は暴力をみて色めき立ってるんだ。 否定できるかい?
そんな感情をさ。
「――ギコ!」
224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:32:33.89 ID:QB5uku530
- ああ。
感嘆詞を何度使ったことか分からないけど、そうなんだ。
ああ。
やっぱり、彼の声は頭上から降ってくる――
( <●><●>)「とうっ!」
しかも、よりにもよって、三階から飛び降りながら。
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:36:18.58 ID:QB5uku530
(゚_゚)「ええええええええ」
落下する細身が夕日に重なって、僕は目を細めた。
なんだこの光景。
( <●><●>)「よ、とお!」
足から着地、そのまま前回り受身。
こともなげに、ワカッテマスは推参した。
(
<●><●>)「ギコ!」
226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:37:13.07 ID:QB5uku530
-
-
-
-
-
-
-
-
そして、
( <●><●>)「とろける杏仁、231円」
弁償を要求しにきただけだった。
-
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
13:42:31.39 ID:QB5uku530
- 時が止まったね。
ギコは唖然としてた。
ジョーンズの嗚咽だけが中庭の隅から聴こえてたよ。
あいつ、そういえば股間が濡れてた。
( <●><●>)「ん」
ワカッテマスは右手を突き出しながら、ずんずん迫った。 ギコに向かって、真っ直ぐ。
どうやら僕以外は上履きのまま土の上を歩くのに抵抗がなかったらしいね。 乾燥した空気に、土ぼこりが小さく立ってた。
( <●><●>)「ん」
ずい、と眼前に掌を突き出されて、ギコは我に返った。
233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
14:02:07.14 ID:QB5uku530
- (,,゚Д゚)「あ゛? わけわかんねえこと言うんじゃねえ!」
ワンテンポ、彼は息をついてから言った。
( <●><●>)「僕もわけわかんないです。まだ半分以上入ってたとろける杏仁がダメにされるなんて。
読書中に飲食ができるから僕は教室にいたのに、それを邪魔されて、ますますわからない。
何をもって君が杏仁を無駄にしたのか分からない。でも、そんな僕も二つだけは分かってます」
驚いたよ。
ここまでどわっと喋るだなんて予想してなかったからね。
そんな風に言い切ってから、彼はギコの肩に手を置いて、右手を出したんだ。
(,,゚Д゚)「うっ」
僕からは表情は見えなかった。 でも、ギコのたじろぎ方から、とんでもなく恐怖を煽られたことは分かったよ。
遠くでもよく聞こえた。 彼は声が大きかったんだ。
「とろける杏仁の値段と、それを請求するべき相手です」
235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
14:06:59.52 ID:QB5uku530
- どうしたと思う?
お笑いなんだ。
(,,゚Д゚)「……」
なんとギコは支払ったんだよ!
しかも、たぶんぴったり一円単位で!
ジョーンズだって口を開けて見上げてたね。 凄かった、本当に。
プレッシャーっていうのかな。 彼は僕の上の上の存在なんだと確定したね。
こいつには敵わない、のさらに上位種。 僕は首を小さく横に振りながら呟いたよ。
わーお、ってね。
-
-
236 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火)
14:13:21.46 ID:QB5uku530
- ( <●><●>)「君が弁償してくれることは分かってました。ありがとう」
(,,゚Д゚)「いや、いい」
(;・∀・)「……」
それで、ワカッテマスは僕のいる渡り廊下まで来たんだ。
ちらっと僕を見て、首を傾げると緑色のマットで上履きの底を擦って、そのまま行ってしまった。
入れ替わりで飛び出してきたのは、厳しいことで有名な体育教師だった。 凄い剣幕だったね。 _
(#゚∀゚)「何やってんだてめぇら!」
すると、腹の底から震え上がる怒声に、不良が蜘蛛の子を散らすように走り去るんだ。
ヒエラルキーってのは怖いよ。
多分社会的にはそこまで高くない地位の体育教師が、高校では絶対の力を持ってるんだから。
権力ってのは相対的なもんだと、とくと思い知らされた。
で、ようやく、二月の事件に話は繋がるんだ。
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