('A`)と歯車の都のようです


191以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 19:56:10.77 ID:Xq8Tr1Vn0
この階層で降りたとなれば、自ずとこちらの行きそうな場所は見当がつく。
百円均一の店にツンが寄る筈も無く、となれば必然的に武器になるような物が置いてある店に足を運ぶ筈。
少し考えればすぐに分かる話だった。
その少しの間で、ツンは出来る限りの装備を調達しなければならなかった。

天井まで届く金属製の商品棚にズラリと飾ってある最新式の武器には目もくれず、ツンはショットガンが飾ってある棚に急ぐ。
こう言った店の場合、弾倉にあらかじめ弾丸を込めて販売されている事はない。
購入したその場で乱射でもされたら堪ったものではない為、当然と言える。
弾は店の奥にしまい、注文に応じてケース単位で売っているはず。

アサルトライフルや拳銃の弾を弾倉に一発ずつ込めていたら、それが終わる頃には捕まっているだろう。
そこで、ツンは一発だけでも広範囲に弾をばら撒ける種類の銃を選ぶことにした。
散弾を撃てる銃は、自ずと種類が限られてくる。
ツンが選んだのは、レミントンのポンプアクション式散弾銃。

邪魔になるタグをナイフで切り外し、後は弾を調達するだけだ。
弾はカウンターの奥の部屋にあると見て、間違いないだろう。
耳を済ませ、神経を尖らせたままツンはカウンターの奥へと進む。
カウンターを乗り越え、奥にあった扉を権藤からもらったマスターキーで開くと、その先は真っ暗だった。

流石にここにまで外の明かりが入る事は無く、強いて言えば天井付近にある小窓から入っているおぼろげな明かりだけだ。
それを頼りに時間を掛ければ弾を探せるだろうが、そんな事をしているだけの余裕は持ち合わせがない。
予想とは裏腹に、膨大な種類の弾の中から目的の散弾を探すのは、分かりやすく整理されていたおかげで思いのほか容易だった。
棚に積み上げられていた12ゲージの弾が入ったケースを手に取り、開ける。

レミントンの銃身下から弾を素早く入れ、最後にポンプアクションで装填。
スチェッキンをホルスターに戻し、レミントンを構える。
その時、タイミング良く店の近くに敵が来たのが分かった。

「……俺達は後、ここと向こうを見るだけだよな」


194以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:00:03.10 ID:Xq8Tr1Vn0
「あぁ、でも油断はするなよ。
相手は"あの"クールノーの娘だ。
何をしてくるか分からん」

徐々に跫音と声が近づいてくる。
跫音は、カウンターの近くにまで来た。
装備が擦れ合う音が、すぐそこに聞こえる。
相手の呼吸を見計らい、ツンは動いた。

ξ゚听)ξ「まったく、その通りね」

カウンターの奥から音も無く登場したツンに、二人の敵は度肝抜かれた表情を浮かべる。
そして、ツンが腰だめに構えているショットガンを見て、二人の男は悲鳴にも似た声を上げた。

(;^Д^)「いぃっ!?」

(; ゚∀゚ )「げぇっ!?」

好き放題言われたお返しとばかりに銃爪を引き絞り、ツンは男の顔を吹き飛ばした。
ポンプアクションで排莢、次弾を装填。
隣にいた男の顔は既に半分程削れているが、それでも構わずもう一撃。
排莢、装填。

二つの銃声がフロア全体に響き渡り、どこからか、怒号が聞こえて来た。
ツンは冷静にレミントンをカウンターの上に置くと、カウンターを乗り越え、死体となった二人からアサルトライフルと弾倉を奪い取る。
都の軍が正式採用している、ダットサイトとライトを装着したM4A1だ。
銃身内と弾倉に弾が入っている事を素早く確認して、ツンはカウンターに戻ってそれを肩付けに構える。

(; ,,^Д^)「ど、どうした!
      ……でえっ!?」

195以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:04:12.58 ID:Xq8Tr1Vn0
ξ゚听)ξ「……」

二発の弾丸は、男の眼球を貫通して脳髄を破壊。
銃口を素早く横に動かし。商品棚の奥に見えた陰に狙いを定める。
フルオートで射撃。
弾倉内の弾丸全てを撃ち尽くし、弾倉を取り外すのと同時に、それまで銃声で掻き消えていた悲鳴が耳に届いた。

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ひぴ、ぴぃぃ!?」

ξ゚听)ξ「喧しい!」

装填を終え、床に転がって喚く男に向けて再度フルオート射撃。
男は、口からこの世の元とは思えない声を発して絶命した。
反響する跫音が、敵が続々とこの場所目掛けて迫って来るのをツンに教えた。
他の場所で探索していた連中だろう。

ツンはアサルトライフルの弾倉を交換して、カウンターの上に置いていたレミントンに持ち替えた。

( ̄二二)
゙-'´ノハノ))
li イ;゚ -゚ノl|「いたぞるぶぁっ!?」

勢い余って遮蔽物から身を出した女の体を、散弾が吹き飛ばす。
派手に吹き飛びはしたものの、距離があった為に致命傷には至っていない。
だが、戦闘に参加する事は叶わない代わりに、女は絶叫を上げてのた打ち回る。
ツンはレミントンを連射して制圧射撃を加えると、急いでアサルトライフルと持ち替えた。

196以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:08:07.90 ID:Xq8Tr1Vn0
新たな武器を調達する為に、ツンは姿勢を低くしてカウンターを飛び出る。
そして、あらかじめ目を付けていた銃器の飾られているショウウィンドウの前に滑り込む。
それを一応の遮蔽物にして、アサルトライフルで牽制射撃。
返ってきた銃弾が、ショウウィンドウをこれでもかと叩く。

しかし、ショウウィンドウは細かいヒビが蜘蛛の巣状に走っただけで割れてはない。
高級デパートに出店するだけの事はあり、防弾仕様なのは当然と言えた。
だからこそ、ツンはこれを壁代わりにしたのだ。
もう一つ、狙いがある。

こうして相手が弾を撃ってくれれば、苦もなく防弾ガラスを破壊できるため、ツンの目論見通りショウウィンドウの中身が取れる。
応射し、相手をその場に釘付けにする。
相手も馬鹿ではない。
ツンが集中している方の反対側に、数人が息を顰めて待機しているのが分かった。

徐々に距離を詰めてはいるが、気配から容易に見つけられた。
遂に、ショウウィンドウが真っ白になるぐらいにヒビが入る。
応射して、ツンはショウウィンドウを銃床で殴り壊した。
そして、タイミングを狂わせた牽制射撃。

アサルトライフルを片手に持ち替えて一発ずつ撃ち、左手でショウウィンドウの中身を取る。
後は弾を調達する為に、先程の部屋に戻ればいい。
それまでとは逆の方向、つまり息を顰めて距離を詰めていた連中に銃口を向け、残った弾を全部撃つ。
弾倉を落とし、それを床に捨てる。

カウンターの裏に逃げ込み、カウンターの上に置いておいたレミントンを手に取る。
最後の一発を撃ち、ツンは弾の置かれている部屋へと逃げ込んだ。
ツンがショウウィンドウから取ってきた銃は、世にも珍しいサプレッサー付きの機関銃。
この銃の存在を知る者は、そういない。


 
199以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:12:04.10 ID:Xq8Tr1Vn0
五年前の抗争時に、この機関銃が大いに活躍した事は今でも記憶に新しい。
AEK-999"バースク"。
距離がなければこのサプレッサーは、フラッシュハイダー程度の役割しか果たさない。
それでも、この銃をツンが選んだのには理にかなった理由がある。

この場を切り抜け、屋上に出た際。
これが大変役に立つ。
一旦、バースクを冷たい床に置いて、スチェッキンをホルスターから抜く。
左手で構え、入口の扉の向こうに銃口を向ける。

右手で棚を探り、バースクの弾を探す。
左目で前を見据え、右目で棚を見る。
種類別に分類され、更に口径別に並べ変えられている棚からバースクの弾を探すのはそう難しくない。
目の前のカウンターの裏に、何かが投げ込まれたのをツンの眼が捉えた。

目を瞑る。
直後、瞼越しにも分かる強烈な光が生まれた。
事前に瞼を閉じていたツンは、光が収まるのと同時に目を細く開く。
影が、カウンターを越えてこちらに向かって来ようとしているのが見え、ツンは迷いなく照準を合わせ、銃爪を引き絞る。

一発目は肩。
二発目は頭。

(゜д゜;@「みぼるぁっん!?」

もう一人いる。
一人目の後ろから姿を現した影に向かって、一発。
僅かに狙いが逸れてしまい、喉に当たった。

ヽiリ;,,゚ヮ゚ノi「ごふぁ!」



 
201以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:16:02.92 ID:Xq8Tr1Vn0
籠城戦は好ましくない。
ツンは遂に見つけた弾を棚から二ケース落とし、それを素早く拾う。
ロングコートのポケットにそれを強引にしまい、床に落ちているバースクの銃身の下に、つま先を潜り込ませる。
リフティングの要領でそれを蹴り上げ、開いた右手で掴んだ。

スチェッキンをホルスターに戻し、ヴィントレスに持ち替える。

ξ゚听)ξ「ったく」

空いた肩に、バースクを提げる。
これで装備は整った。
ようやく、スタートラインに並び直す事が出来た。
ヴィントレスの弾は、少なくとも今スチェッキンの弾倉内の弾よりかは予備がある。

女だからと言って、見下されるのは気に食わない。
が、女軍人とは苦労の差が違う。
戦争に行く事も無く、ただ日々をだらだらと過ごしているだけの都の軍人など、裏社会の人間に比べたら素人同然。
実戦では、"経験した実戦の数が物を言う"。

右手に持つヴィントレスを肩付けに構え、ツンは部屋から飛び出した。
瞬時に相手の位置を探る。
棚の裏に待ち構えているのが、二人。
他はいない。

それは、まだ来ていないと言うだけの事だ。
これだけ広いフロアの端から端までを完全装備の状態で走れば、最低でも三分は要する。
後少し経ったら、相手が全員この場に揃うだろう。
その前に、ケリをつける。



 
203以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:20:10.76 ID:Xq8Tr1Vn0
一躍でカウンターを飛び越え、相手が壁にしている商品棚に向かってツンは飛び蹴りを放った。
倒れこそしないが、衝撃と音で相手が動揺するには十分。
呼吸音から正確な位置を割り出し、ツンはヴィントレスで棚越しに二人を撃つ。

<(' _';<人ノ「みりゅ?!」

リ;´−´ル「めぴゃ!」

上半身の、比較的高い位置を狙った為、二人はもう助からないだろう。
ツンは全力でエスカレーターに向かって駆け、到達すると同時に一気に駆け上る。
遅れて、それまでツンがいた店に向かって複数の影が向かうのが見えた。
その頃にはもう、ツンは六階に到着している。

彡 l v lミ「ちぃ! 逃がすな!
       逃がすと俺達がヤベぇ!」

( l v l)「分かってるよ、いちいち指図するんじゃねぇ、グズ野郎が!」

彡 l v lミ「んだと?!
       手前にグズ呼ばわりされたかねぇや!」

追手との差は、丁度一階分。
屋上に着くのはツンの方が早い。
連携力の無い軍人程情けない物も無かった。
追手の数も大分減らしたことだし、次に降りた場所で一気に終わらせる事にしよう。

ξ;゚听)ξ「くぬっ……!」



 
205以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:24:04.77 ID:Xq8Tr1Vn0
機関銃と、その予備の弾。
更には狙撃銃、拳銃とその弾。
それらの合計重量は、女であるツンには辛い物があった。
気合いでどうにかできる問題ではない。

先程よりも駆ける速度が落ちてしまうのは、致し方なかった。
体力的に、そろそろキツイ。
が、先はまだまだ長い。
ここから先は、長距離ランナーの精神で走るしかない。

ξ;゚听)ξ「っ……こな糞っ!」

自らを激励する事は無く。
目標を明確に定める。
そこに到着すれば楽になれると、自らに言い聞かせる。
走る速度を上げ、階段を駆け上る。

【時刻――03:20/"ゴング・オブ・グローリー"十九階】

呼吸を整える暇も無い。
ゴング・オブ・グローリーの十九階は、ゲームコーナー。
最新式の設備の整った、都でも屈指のゲームセンターと言い換えてもいい。
そこに着いたツンは、ここを迎撃の為の最後の場所と決めた。

深く息を吐き出す。
そして深く息を吸う。
今度は、平地を駆ける。
このフロアは、アーケードゲームの装置が規則正しく、かつ密接に置かれている。



 
207以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:28:03.61 ID:Xq8Tr1Vn0
つまり、遮蔽物には困らないと言うことだ。
問題なのは、相手も自分も、この迷路の様に入り組んだフロアで上手く立ちまわれるかと言う事。
このような場所での立ち振舞いは、ツンはあまり経験したことがない。
何せ、ツンの得意分野は狙撃。

主に相手の姿が見え、そして自分と相手の位置は圧倒的に離れている状況が主だったからだ。
遠距離、中距離は平気だが、遮蔽物を上手く使っての戦闘は正直苦手だった。
だが、この場で好き嫌いを言っていられる程の余裕はない。
エスカレーターの降り口が見える適当な機械の裏に陣取り、ツンはヴィントレスを構えた。

流石に、相手も馬鹿ではないらしい。
光学照準器の向こうに、何かが放られた。
煙を噴き出しながら回転し始めたそれは、スモークグレネード。
ツンの視界を奪ったのだ。

デレデレであれば当てられるだろうが、あの煙の中に向かって正確に当てられる技量は今のツンには無い。
闇雲に撃っても意味がない。
ツンは場所を変える事を素早く決定し、卵型のゲーム機の内部に隠れた。
プレイヤーの姿が見えないこの機械は、絶好の潜伏場所だ。

絶好故に見破られそうだが、見破られる前に移動すればいい。
店で頂戴した弾を取り出し、機関銃の上部に弾を挟み、余った弾帯を体に巻きつける。
ヴィントレスを肩に掛け、バースクを構えた。
キャリングハンドルを掴み、銃把を握る手に力を込める。

残った敵の数はそう多くない。

ξ゚听)ξ(……見つけた!)

208以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:32:09.67 ID:Xq8Tr1Vn0
ツンの視線の先、スロットマシンの陰に隠れる影を見つけた。
静かにゲーム機の扉を開け、ツンは跫音を殺して静かに忍び寄る。

ξ゚听)ξ(……むっ!)

声が聞こえ、咄嗟に近くのゲーム機の陰に隠れる。

彡 l v lミ「……おい、いたか?」

( l v l)「いいや、だがこの場所にいるのは確かだ。
     それと、あまり喋るんじゃない。
     聞かれているかもしれないぞ」

彡 l v lミ「まさか、だが用心しておくか」

それ以降、相手の会話は止んだ。
後はハンドサインで会話しているのだろう。
とは言っても、ハンドサインにも限界はある。
現在相手二人は、ツンの前方約15メートルの場所にいる。

しかし、まだ他の敵はいるだろう。
こうしている間に、反対側に廻られているかもしれない。
移動しようと思った矢先、目の前の二人が動いた。
跫音が近づく。

仕方がないと諦め、棹桿操作をした。
先手必勝。
見敵必殺。

彡 l v lミ「いひっい!?」



 
210以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:36:02.80 ID:Xq8Tr1Vn0
( l v l)「たぁありほぉう!?」

サプレッサーに押さえられているとは言っても、ここは室内。
おまけに近距離。
ツンの手元のバースクから、盛大な銃声が鳴り響く。
全身くまなくハチの巣にされた男二人が、仰け反って吹き飛ぶ。

ξ゚听)ξ「ちっ! もう来やがった!」

振り返り、そちらに銃口を向け、撃ちまくる。

||;‘‐‘||レ「フーバー!」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル『なち、ビビんじゃないわよ!』

  /⌒)
⊆==卍|_
ハソ ゚−゚リ『ヤー!』

即座に遮蔽物に身を隠したのは、声から察するに三人の女。
あれで追跡者は最後だ。
ツンは遮蔽物などお構いなしにバースクを乱射する。
グレネードなど投げさせない。

当然、援護などさせはしない。
弾を撃ち尽くし、ツンはバースクを手放した。
そして、素早くヴィントレスを構える。
光学照準器を覗き込んで、一発。

援護射撃をしようとしていた女の右脳を撃ち抜く。



 
213以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:39:03.13 ID:Xq8Tr1Vn0
||‘‐‘||レ「うぶっ」

遮蔽物から、頭の一部を失った体が崩れ落ちる。

i!iiリ;゚ ヮ゚ノル「あぁ、カウ!
       何てこと……何てこと!
       あぁ……!」

相手の位置を声から想定。
貫通狙撃。
仲間が目の前で死んだ事に動揺した女が、脳漿を撒き散らしてその死体の上に折り重なった。
あっという間に死体が二つ出来上がる。

ゲーム機程度の遮蔽物なら、こちらの弾は貫通できる。
それを見せつけられた最後の一人が、我慢の限界とばかりに叫んだ。

  /⌒)
⊆==卍|_
ハソ;゚−゚リ『くそっ!
      ……おい、頼むからちょっと話を聞いてくれ!』

ξ゚听)ξ『あぁん?』

光学照準器を覗き込んだまま、ツンは答える。
女が話しているのは、この都の公用語ではない。
が、小さい頃にデレデレが多くの言語を話しているのを聞いていた為、少しぐらいなら分かる。
確か、ビール好きの住人が集まる都の言語だったと記憶している。



 
215以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:42:02.66 ID:Xq8Tr1Vn0
 /⌒)
⊆==卍|_
ハソ;゚−゚リ『私にはもう、戦う意思がない。
      降伏する、私の負けだ
      ほら、銃も捨てる。
      ……どうだ?』

宣言通り、女は手にしていた銃の弾倉と、本体を別々に放り捨てた。
降伏するのが早すぎるとも思うが、所詮は都の軍隊。
都の軍隊は、こういう連中の集まりなのだ。
根性無しや、役立たず、そして屑の掃き溜め。

味方の仇を討とうなどとは、考えもしないのだろう。
そんな事を、この都の軍人に期待するのは無駄である。

ξ゚听)ξ『あんたが降伏しようが何しようが、私には1セントの得にもならないのだけど。
      と言うより、何言ってるのかよく分からないのよ。
      簡単な言葉で喋れなければ、公用語で喋りなさい。
      とりあえず分かったら、大きな声で"ジークハイル"って言ってくれないかしら?』

  /⌒)
⊆==卍|_      勝 利 万 歳     !
ハソ;゚−゚リ『じ、ジィィィィィクハァァァァァイル!』

そのまま頭を吹き飛ばされ、女はその場に崩れ落ちた。
あまりにもお粗末な結果に、ツンは小さく溜息を吐く。
すっかり呼吸は元通りになり、準備は整った。
ヴィントレスをスリングベルトに預け、床のバースクを拾い上げる。

ξ゚听)ξ「っしょっと」


 
217以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:45:09.32 ID:Xq8Tr1Vn0
大分体力を消費しているのが、バースクを持ち上げる時に分かった。
それでもツンは、バースクの弾を交換しながらも歩き続ける。
これで、バースクの弾は最後。
棹桿操作で弾を装填して、それを肩に掛ける。

ズシリとした重みが、途端にツンの体から活力を奪う。
つい先まではアドレナリンが過剰に放出されていたから、そこまで重みを感じることなく戦えた。
代わりにヴィントレスを構え、可能な限り早く走る。
エスカレーターを一段上る毎に、体力が削れるのが分かる。

ξ゚听)ξ「まだ、なのかしら……」

何も、体力が削れているのは何も重い装備で駆けまわったからだけではない。
相棒の安否が未だに分からない事が、ツンの心労の原因となっていた。
その事を、もはや否定する気は起きない。
ふと、その時思い出した。

インカムがあるではないか。
折角なので、ここでようやく使うことにした。

ξ゚听)ξ「聞こえる?」

ぶっきらぼうに、インカムにそう話しかける。
だが、返答はない。
誰かと通信中なのか、それとも壊れて通じていないのか、砂嵐の音がただ空しく聞こえるだけだ。
インカムから期待した声が返ってこない事に、ツンは舌打ちをした。

ξ゚听)ξ「……ッ」

218以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:48:02.16 ID:Xq8Tr1Vn0
ツンの脳裏に、一瞬だけ最悪の可能性の片鱗が浮かんだが、それは直ぐに消えた。
一階層上の二十階に到着し、周囲を見渡す。
この階層は、不動産を取り扱っているフロアだ。
フロア全体に建っている白い円柱以外には、これと言って何もない。

しかし一度ここに電源が入れば、あの円柱にびっしりと不動産の細かい情報が映し出される。
客はそれを指と声で操作し、知りたい情報を的確に知ることが出来る。
ここから先は、これまでとは経路が異なる。
屋上へは、エスカレーターもエレベータも、非常階段でさえも繋がっていない。

不動産フロアの四隅、その四ヶ所に設置された階段を使う必要がある。
その階段は、鍵の付いた堅牢な扉によって非常時とイベント時以外は常に閉ざされている。
何せ、この高さを物珍しがって遊びに来た子供が屋上の柵を乗り越え、紐なしバンジーを決行。
その責任を白木財閥に取れと裁判を起こされたのだから、当然の対処と言えた。

判決は白木財閥の勝訴。
裁判を起こした両親は、翌日謎の不審死を遂げたそうだ。
両親が殺された事は、言うまでも無い。
何せ、その仕事を請け負ったのは他ならぬクールノーファミリーだったからだ。

権藤の借りもあると言う事で、デレデレがその依頼を快く引き受けたのを、ツンは今でも覚えていた。
ツンは駆け足で部屋の隅に設置された階段を閉ざす扉の前まで来て、ポケットに手を入れる。
そこから取り出した屋上用の鍵を鍵口に差し込み、三秒程待つ。
小さな音が鳴り、電気を用いない第一ロックが解除される。

後は錠を回し、第二ロックを解除。
開いてすぐ右手にあった鉄製の階段を、ツンは上り始めた。

【時刻――03:30/"ゴング・オブ・グローリー"屋上】



 
221以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:52:06.71 ID:Xq8Tr1Vn0
屋上へと続く扉を開けた時、ツンの顔に強烈な風が吹き付けた。
豪奢な金髪が風に靡く。
都の夜空と同じ色をしたロングコートもまた、バタバタと風に靡いた。
目を手で庇い、ツンは走った。

コンクリートが剥き出しの屋上の中央には、貯水タンクの他にもう一つ大きな装置が置かれている。
その装置こそが、ツンの狙い。
だが、今は使わない。
屋上の縁の柵の前に膝立ちになり、大通りをヴィントレスの上に装着した光学照準器で覗く。

間に合った。
多少遅れはしたものの、まだ裏社会の部隊は健在である。
それどころか、何やら大逆転劇が起きている始末だ。
照準器の中に映し出されているそれを見咎めた時に、ツンは目を見開いた。

( ∵)

あの仮面男達は、見紛うことなく歯車王の私兵部隊。
ラウンジタワーで大分苦戦させられた記憶が鮮明に蘇る。
しかし、今彼等はどう見ても裏社会の援護に廻っていた。
今回は敵ではないのか。

というか、何故援護しているのだ。
考えてみれば、歯車王も迷惑しているのだから共通の敵を持つ者同士、今回は共闘しようと言いだしても何ら不思議ではない。
今はそう考える事にして、ツンは一先ず的の様に立ちつくして混乱している者を狙い定めた。
銃爪を引き絞り、数拍遅れて仮面が砕ける。

222以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 20:56:05.51 ID:Xq8Tr1Vn0
そのすぐ近くで銃を乱射している男の頭に照準を合わせ、銃爪を引く。
結果を見ることなく手応えだけで成否を判断し、その隣。
ほとんど間を開けずに、続けてもう一発。
そして、少し離れた位置の敵を連続して撃ち殺す。

これだけ慌てていれば、ツンの狙撃はこの上ない混乱の材料になるだろう。
案の定スコープの向こうに、仮面を被った敵兵が無様に慌てふためいている様子が窺える。
ツンは立ち上がりつつ弾倉を交換し、ヴィントレスを肩に提げた。
振り返り、屋上の中央に設置されている特殊な装置の元まで駆ける。

その装置は、高さ、奥行き共に一メートル弱の正方形に、丸いバルブが付いていた。
この装置こそが、歯車の都で生み出された独自の進化の一つだ。
水密扉に付いているような大きなバルブを回し、扉を開ける。
中から巨大な銛を発射する銃の様な物を引っ張り出し、それを肩に乗せて構えた。

狙いは、隣のビルの屋上に付いている同様の装置。
銃本体が装置に固定されており、更に最初から狙いが付いている為、素人でも簡単に撃つ事が出来る。
銃爪を引き、圧縮空気で発射された"アンカー"がワイヤーの尾を引いて飛んで行く。
設定通りに飛んで行ったアンカーは、その先にある装置の背に突き刺さり、強力な磁石によって完全に固定される。

しっかりと突き刺さったアンカーが外れない事を確認して、ツンは開かれた扉から別の物を取り出す。
一見してそれはゴツイ握力計を連想させる把手だった。
取り出した二つをピンと張ったワイヤーに引っ掛け、ツンはそれをしっかりと握る。
助走を付け、一気に走りだした。

ξ゚听)ξ「せっ!」



 
225以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:00:01.68 ID:Xq8Tr1Vn0
屋上の縁を飛び越えたツンの体が、一瞬だけ宙に浮く。
だが、それはすぐに終わる。
重力によってツンの体が、地面に向かおうとする。
それに抗うべく、ツンは掴んだ装置を強く握る。

遠目に見れば、ビル間をツンが飛んでいるようにも見えた。
ワイヤーを伝って滑り、飛ぶようにして隣のビルの屋上へと着地。
この間、僅か数秒。
その間にツンの姿を見た者は、誰一人としていない。

―――"ワイヤー・エスケープシステム"
ビル火災や、何かしらの原因でビルに閉じ込められた場合に使用される、緊急用の装置。
背の高いビルから避難する場合、最上階と地階では避難する時間と危険度に大きな差が生まれる。
特に、高層ビルで起きる火災の場合は最上階の生存確率は極めて低い。

火の手から逃れる為に屋上まで進んでも、結局は助からない場合が多い。
焼け死ぬぐらいならせめて、と飛び降りる者は少なくない。
一瞬だけ空を飛んだ者達の末路は、例外なく即死。
そこで求められたのが、災害に見舞われたビルの屋上、もしくは高階層からの脱出の手段だ。

多くの建築家やその手の装置を考える者達は、非常に難儀した。
何せ、高所から安全に脱出する方法などそうない。
一度考えられたのが、大量のパラシュートを設置すると言うもの。
だが、都のビルの密集度を考えれば、パラシュート降下が可能なビルは大通りに面している建物に限定される上に、下手をすれば自殺行為になる。

何より、パラシュートが無くなってしまえばそれまでだ。
消耗は少なく、救える人数は多く、何より実用的でスペースを取らないもの。
その構想を実現させたのが、他ならぬ歯車の都の業者だった。
隣に並ぶビルとの距離が150メートル以内の場合でのみ、使用が可能な装置。



 
227以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:04:04.79 ID:Xq8Tr1Vn0
危険なビルから、何もいきなり地上に逃げる必要はない。
要は、危険地域から逃げ出せればいいのだ。
そうすれば、後はヘリコプターを使うなり、何をするなり好きにすればいい。
その一番手っ取り早い方法が、ビル同士を一時的に直接繋ぐ事だった。

最終的に、より実用的なものとして強靭なワイヤーが挙げられた。
ワイヤーの素材に特殊な金属を混ぜ、把手に仕込んだ装置が電磁誘導。
移動が完了したら、把手は自動的に元のビルへと戻る。
この装置が、ツンの見出した活路だった。

ビル間を素早く、そして確実に移動するのにこれを利用しない手はない。
着地してすぐ、ツンはその屋上の端まで駆け、バースクのバイポットを開いて屋上の縁に置く。
簡素な作りの金属照準器をうつ伏せになって覗き込み、弾を地表に向けてばら撒く。
この位置からなら、いくら五月蠅いバースクとは言っても位置を把握されない。

全弾必中とはいかず、弾帯を三分の一程消費し、立ち上がって例の装置に向かって走る。
中央部に置かれた装置の扉を、同じ手順で開く。
隣のビル目掛けてアンカーを放ち、把手を装着。
だが、ツンはまだ行かない。

再び屋上の縁へと戻り、バースクのバイポットを畳む。
縁に銃身を乗せ、盲撃ちとも言える適当な乱射。
撃ち尽くしたバースクをその場に放棄し、ツンは装置まで戻った。
把手を掴み、移動、そして着地。

今度のビルは、これまでの建物よりも高く、身を隠せる物が多くあった。
この装置の強みは、より高所の位置にまで容易に移動できる点にある。
ゴング・オブ・グローリーと比べれば低いが、それでもこの高度。
珍しく屋上にフェンスも策も無い為、狙撃には最適な場所だった。

228以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:07:09.14 ID:Xq8Tr1Vn0
先程バースクを撃ちまくって投棄したのは、ここに移動する速度を上げる為だ。
電磁誘導とは言っても、軽い方が早く移動できる。
機関銃を持ったままでは、移動が遅くなってしまう上に腕にかかる負担が大きい。
軽くなった体を堪能する間もなく、ツンは屋上の縁の上にヴィントレスを乗せる。

光学照準器を覗き込み、手頃な獲物を探す。
大分、大通りの敵が減っているのが分かった。
歯車王の私兵部隊の損害は皆無で、暇を持て余しているのか、破壊した敵の兵士の残骸を律儀に積み上げている者までいる。
ツンの出番は、もう必要ないのかもしれない。

とりあえず、生存している者を片端から撃ち殺す事にした。

――――――――――――――――――――

システムの中枢をハッキングされ、戦術データをフォーマットされたゼアフォー達の中には、生前の記憶を取り戻した者が僅かにだが存在していた。
彼等に共通しているのは、海馬を損傷していない状態で改造手術を受けたと言う事。
そして、その者達の中には"生きている時"に自ら進んで改造を申し出た者もいる。
大破した戦車の陰にうずくまる男、スクイー・ノン・グラータもその内の一人であった。

スクイーは元々、表通りの出身者だった。
両親が大企業の重役を務める、表社会でも裕福な家庭に生まれ、何一つ不自由なく育った。
彼が欲しいと強請った物は、何でも買い与えられた。
玩具、犬、車。

成長するにつれ、彼が欲する物は次第に常識から逸脱し始めていた。
だが、それまで子宝に恵まれなかった両親が、一人息子であるスクイーを溺愛するのは仕方のない事だった。
故に、どれだけ高額な物でも強請られるがままに買い与え続けた。
その中でも最も常軌を逸した買い物の例が、女だった。

229以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:10:19.91 ID:Xq8Tr1Vn0
売春という意味合いの買い物ではなく、性奴隷としての意味で女を強請ったのだ。
しかも、スクイーが指定した女は、彼が一方的な想いを寄せる学校の同級生。
当然、両親はそれを躊躇った。
いきなり自分の娘を売れと言われて、本当に売る両親がこの世の中にどれほど少ないか。

世界中を探しても、特定の地域の限られた条件を満たす家族でない限り、スクイーの要求は通らない。
ましてや、この界隈でも屈指の名門校に通う女生徒ともなれば、それは不可能である。
彼の両親は問題の娘の両親が頼み込んだが、当り前の事ながら門前払いをされ、更には警察を呼ばれた。
保釈金を山のように積んで釈放された両親は、スクイーの望みをどうすれば叶えられるのかを考えた。

正攻法は不可能。
で、あるならば、道は一つ。
非合法な方法で、その娘を手に入れるしかない。
両親は裏社会の人身売買専門の組織に、目的の娘の誘拐を依頼した。

準備期間僅か一週間と言う早さで、両親はまんまと娘を手に入れる事に成功した。
そしてスクイーは、その娘に昼夜を問わず性的な暴行を嬉々として繰り返した。
最終的にスクイーが娘の体に飽き、縊り殺しにするまで、この事件は公にならなかった。
では、何故公になったのか。

それは、死体処理の際に"掃除屋"を雇わなかったからだ。
その辺りの事情に疎いスクイーの両親は、事が露見しないようにと自分達の手で死体を処理してしまったのだ。
裏社会の掃除屋に任せておけば、その辺りの情報が漏れる事はまずない。
こうなってしまったのは、単に両親が他人を信頼する事を知らなかった為に他ならない。

素人が考える様なお粗末な死体遺棄をした結果、その日の内に裏通りの乞食によって発見されてしまった。
事件の情報提供による報酬制度を知っている乞食は、それを警察に報告。
スクイーの両親から見たら端金でしかない報酬を受け取り、あっけなく事件が発覚。
初代歯車王の作った"DNA登録式犯罪抑止法"のおかげで、スクイーの犯行である事も当日の内に分かった。

230以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:13:31.31 ID:Xq8Tr1Vn0
娘の体内に、スクイーの体液が残されていたのだ。
一切の証拠を消し去って死体を遺棄しなければ、この都では髪の毛一本、指紋一つから誰の物かすぐに判別できる。
それを理解していなかったのだから、当然の結果と言えた。
警察はスクイーとその両親を逮捕。

裁判の結果、両親は銃殺刑。
残るスクイーに対しては、懲役1年。
最後に彼の両親が買い与えたのは、減刑と言う名の自由であった。
裁判に関わる者達へ賄賂を渡し、凄腕の弁護士を雇った事で、スクイーの刑は信じられない程軽い物となった。

それまで寄生虫の様に両親の金で生きていたスクイーは釈放され、一人で生きて行く事になる。
一応、両親の蓄えていた金の存在を知っていた為、刑務所から出てきても最初の二ヶ月はこれまで通りに過ごせた。
が、金遣いの荒さと我儘さは微塵も直っておらず、出所三ヶ月目に入ってから、その生活は早々に終わりを告げた。
僅か三日で、残りの金を全て使い果たしてしまったのだ。

その原因が自分にあるとは考えず、スクイーはサラ金に手を出そうか考えたが、彼の矜持がそれを拒んだ。
搾りカス程度の矜持を捨てる事が出来なかったスクイーは、住み慣れた我が家を売った。
もう一ヵ月ほど遊んで暮らせるだけの金を得て、今度こそは計画的に、と決意。
不服ではあったが、その金を持って大通りに繰り出した。

繰り出した初日、太陽が沈みかけ、ただでさえ暗い都がより一層の闇に包まれてゆく中。
スクイーが道に迷って、細い路地に入った時のことであった。

爪'ー`)y‐『僕と一緒に、何もかもを変えてみないかい?』

背後から、中年の女に声を掛けられた。
妖艶という言葉がしっくりくる姿の女はスクイーの趣味ではないが、中々そそる物がある。
これが、熟し切った女の持つ魔性の魅力と言う奴なのか。
18歳にも満たないスクイーがその女に惹かれたのは、単に異性に関して無知だったからだ。

231以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:16:04.15 ID:Xq8Tr1Vn0
彼は、"想像"の中でしか異性を知らない。
本来なら、幼少期に漫画やアニメ、ゲームや小説を介して異性が如何なるものかと言う片鱗を知る。
スクイーの両親は、18歳になるまで彼には健全な本。
例えば、経済学や哲学の本や、有名な知事が書いた小説だけを読ませ、漫画やゲームは一切与えなかった。

歪みに歪んだ彼の異性に対する知識の中には、このような熟し切った女は存在しない。

『変える?』

ひょっとしたら、自分の持つ大金を目当てに声を掛けて来たかもしれないと考え、胡散臭げに聞き返す。
すると、その女は気味が悪いくらいの笑みを浮かべて、こう言った。

爪'ー`)y‐『そうだ、変えるんだ。
      この都にある、何もかもを、だ。
      君は、今に満足してるかい?
      僕にはとてもそうは見えないね、スクイー君、そうだろう』

『どうして、俺の事を知っている』

爪'ー`)y‐『ふふふ、僕に知らない事はない。
      僕は何でも知っている。
      だが、僕は知り過ぎた』

疑いの目を向ける。

『何を?
どうして、俺なんだ。
俺以外にも優秀な人間はいる。
それとも、あの会社の情報が欲しいのか?』

232以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:20:04.61 ID:Xq8Tr1Vn0
もし、目の前の女の目的が彼の両親が務めていた会社の機密情報であるならば。
それ相応の金を要求できる。
そうしたらまた、何でもできる。
情けない話だが、その期待が声に出ていたのかもしれない。

爪'ー`)y‐『ふふふ、そう興奮しなくても良い。
      あの程度の会社、僕がその気になればいつでも潰せる。
      僕が欲しいのは、数だ、力だ、知だ、質だ。
      力は僕が与えよう。

      知も質も、僕が与えよう。
      だが、数だけはどうにもならない』

『……どういうことだ?』

爪'ー`)y‐『何かを変えるには、何かを壊さなければならない。
      法律、機械、人間関係、そして常識も例外ではない。
      そして、僕はこの都の"全て"を変えたいんだ。
      常識や倫理、これからは、欲望が全てになる。

      その為には、あぁ、どうしても必要なんだよ。
      数が、そう。
      数だけが足りないんだ。
      協力してはくれないかな、スクイー君。

      無論、君が協力してくれれば、僕の言葉は狂言ではなくなる。
      狂言が実現すれば、それは名言になるんだ』

甘い匂いのする紫煙を、女はゆっくりと吐き出す。
気がつけば、スクイーは女の言葉に耳を傾けていた。

233以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:23:10.37 ID:Xq8Tr1Vn0
爪'ー`)y‐「もし、僕の計画が実現したとしたら、今後、君は何ができると思う?
       奪えるんだ。
       そう、奪えるんだよ。
       金を、地位を、信頼を、女を、貞操を、何もかもを。

       君の生き方を認めなかった者達から、全てを奪い取ってもいいんだよ。
       僕に協力すれば、それは認められる行為になる。
       逆に君は、何も奪われることはない。
       どうだい、奪い、壊し、穢し、欲望のままに生きてみたいとは思わないかね?」

『お、俺に、何が出来るっていうんだ?』

その言葉に、女は妖艶に笑む。

爪'ー`)y‐『なぁに、君は何も考えなくていい。
      ただ、壊す事だけを考えてくれていれば、それだけでいいんだ。
      必要な物は全て、僕が与えよう。
      力も、知も、質も、武器も女も!

      だから、僕に手を貸してくれないかい?』

女の眼が怪しく輝く。
もう、スクイーは女が何者だろうと構わなかった。
この女なら。
この女の言う事に従えば、全てが手に入る。

それまで渇望していたものが。
羨望でしかなかったものが。
全てが、現実の物となり、我が物となる。
これだ。



 
235以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:26:11.75 ID:Xq8Tr1Vn0
これを、求めていた。
自分が何をしようが、誰も咎める者はいない。
それが実現するのであれば、この女が何者であろうと関係ない。

『……その話、詳しく聞かせてくれ』

そう言って、手を差し出したのである。

―――それが、今から約三ヶ月前の事。

今は、その事を心底後悔していた。
それもこれも、あの女のせいだ。
自分は悪くない。
頭の中に残された生存本能に従い、スクイーは背にしていた戦車の車体の下に移動する。

冗談ではない。
自分に責任がない以上、この場から逃げても咎められないだろう。
いつものように、きっと誰かが助けてくれる。
今、この場で生き延びる事が出来れば。

車体の下から見える光景は、地獄絵図に他ならなかった。
上半身は見えないが、下半身の動きだけでどちらがどうなっているのかぐらいは分かる。
前進せず、情けなく後退しているのがスクイーの仲間のそれだ。
残りは当然、それらを狩る者の足である。

視線の先で次々と体を切り裂かれ、仲間だった者達が血溜まりに沈む。
首を切り落とされたのか、視線のすぐ先で力なく膝から崩れ落ちる者が居た。
僅かに遅れて、刎ねられたと思わしき首が落下した。
落下した首の正面が、ゆっくりとこちらを向く。

236以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:29:06.93 ID:Xq8Tr1Vn0
その虚ろな眼が、スクイーを静かに反射していた。

スクイー「……ひ、ひぃっ!」

虚ろな眼に見つめられ、スクイーは情けなくも悲鳴を上げてしまった。
咄嗟に口を押さえる。
聞こえなかっただろうか。

( ∵)「……」

謎の敵は、ゴミを拾うような気軽さで落ちた首と胴体を引き摺り始める。
そのまま敵は、どこかへ行ってしまった。
スクイーは、自らの傍らに置いてあるアサルトライフルの存在を思い出した。
それを縋る様に掴み、胸元まで運ぶ。

今は、この鉄の冷たさがありがたい。
冷静になる為の、唯一の道具だった。
今、スクイーに与えられた選択肢は一つ。
こうして、銃を抱きかかえて震え、隠れているだけ。

余計な事は決して口にせず、余計なことは一切しない。
ガチガチと、歯が鳴る。
その音を聞き咎めたのか、跫音と共に敵の足が戦車に近付いて来るのが見えた。
下唇を強く噛み、歯が鳴るのを押さえる。

それでも、呼吸が荒くなるのは押さえられなかった。

( ∵)「……」



 
238以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:33:01.27 ID:Xq8Tr1Vn0
ゆっくりと男は腰を落とし、戦車の下を覗き込んだ。
眼が合う。

( ∵)「……」

呆気なく髪を掴まれ、外に引き摺り出されてしまった。

スクイー「た、た、たすけてっ……くだ、くださ……」

鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔で、スクイーは命乞いをした。
が、その言葉が届いていないのか、それとも聞く気がないのか、おそらく両者であろう。
男はスクイーの髪を掴んだまま、ズルズルと引き摺り歩く。

スクイー「ひ、ひいいいい!」

逃れようと抵抗するも、全く効果がない。

スクイー「ごめんなさい、ごめんなさいいいい!」

謝って許してもらえるとは思わなかった。
それでも、何もしないよりかはいいと判断した。

( ∵)「……」

男は無言で、スクイーを一瞥した。
仮面に空いた穴の奥には、何も窺えない。
そこにある穴は、ただ、夜の闇が人を見るかのように冷たくスクイーを見つめているだけだ。

スクイー「許してくれぇ…… 頼むよぉ……」

239以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:36:13.77 ID:Xq8Tr1Vn0
遂に、スクイーは子供の様に泣き出してしまう。
泣いて懇願する姿は、哀れを通り越して無様であった。

( ∵)「……」

何も聞こえていない筈なのに、仮面の下で溜息を吐かれた気がした。
そして、大通りの真ん中辺りまで来た所で、スクイーは唐突に解放される。

スクイー「ひ、ひぃっ!」

あまりにも唐突過ぎ、スクイーは何が起きたのか咄嗟に理解できなかった。
が、背を向けてその場を悠然と去る仮面の男に、これ以上スクイーに攻撃を加える気配はない。
つまり、見逃してもらえたのだ。
わざわざ道路の真ん中にまで連れて来てくれたおかげで、後は適当な場所まで走って逃げれば助かる。

スクイー「ありがとう、ありがとうございばすっ!」

去ってゆく男の背に上辺だけの感謝の言葉を送る。
助かったとなれば、もう用済みだ。
余計なことは考えずに走って逃げよう。

スクイー「へ、へへへっ!」

どうやら、まだ悪運は尽きていないらしい。
立ち上がり、即座に駆け出そうとした。
その時だった。
体が上手く持ち上がらない。

安心したせいで腰でも抜かしたのか。
―――もう少しだけ理性が働けば、スクイーは自らの体が機械である事を思い出しただろう。

240以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:39:05.08 ID:Xq8Tr1Vn0
スクイー「い、いけねぇ……へへっ、なにやってんだよ俺は」

苦笑して、もう一度。
しかし、やはり立ち上がれない。
上半身だけは上がるが、下半身が言う事を聞かなかった。
何度か挑戦し、やっとのことでスクイーは立ち上がる事が出来た。

スクイー「あ、あれ?」

視界がおかしかった。
何か、異様に低い。
そう。
この視線はまるで、膝立ちをしているように低い。

急に身長が縮んだのか。
そんな馬鹿な話があるか。
異常の正体を知ろうと、足元に目を向ける。

スクイー「あ、あははっ!
      ……なんだよ、こりゃあ」

震える声で笑うスクイーの脚は、膝から下が無くなっていた。
膝から溢れ出る赤黒い皮下循環剤が足元に溜まりを作り始め、スクイーはそれに触れる。
温かかった。

スクイー「なんだよ、せっかく……
      せっかく助かったと思ったのによぉ……」

241以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:42:37.37 ID:Xq8Tr1Vn0
一瞬で希望を消されたスクイーは、笑うしかなかった。
せめて最期に、乾いた笑い声を上げようと空を仰ぎ見る。
そこには、分厚い雲に覆われた真っ暗な空があるだけ。

スクイー「あha―――」

笑い声は、最初の一言だけしか上がらない。
声帯を撃ち抜かれたスクイーは、自ら作り上げた溜まりに仰向けに倒れる。
倒れ行く中で、スクイーは大通りの中央にある建物の上で、何かが一瞬だけ光ったのを見た気がした。
勢いよく倒れ込んだ影響で、溜まっていた皮下循環剤が周囲に飛散した。

それでも、スクイーはまだ生きていた。
ただし、恐怖を伴って。
頑丈な作りが、彼に簡単な死を与えないのだ。
自らの長所が、こんな所で仇になるとは。
回線の一部が壊れてしまい、口がパクパクと開いては閉じてを繰り返す。

瀕死のスクイーの眼に映るのは、絶望の色をした黒い空だけ。
スクイーは予備電源が落ちるまで、そうして死の恐怖に怯えたままだった。

【時刻――03:40】

弾倉を三つ程使い切った辺りで、ツンは腕時計を見た。
作戦開始から一時間以上が経過している。
一時間弱で形勢を逆転して見せたのは、正直驚きだ。
幾らか犠牲が出ているだろうが、それでもこの結果は上出来。

ツンの視界の中に動く敵の姿がほとんどいなくなり、ツンは溜息を吐く。
油断はまだできない。
ツンの考えが正しければ―――



 
243以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:45:43.15 ID:Xq8Tr1Vn0
ξ゚听)ξ「……っ?!」

―――その考えは、直後に聞こえた爆音が肯定した。
爆音の位置は、背後にあるここへと通じる扉から。
爆発の衝撃で吹き飛んだ扉がツンの横を通り抜け、屋上から大通りへと転がり落ちた。
振り向きざまにヴィントレスを構え、銃口が扉のあった場所を向いた時、ツンは自らの失態に気付く。

まだ、弾倉を交換していない。
弾倉内には、確か残り三発程度しか残されていない。
突入してくる腹積もりなら、三人までは殺せる。
肩付けして右手で構えつつ、左手で新品の弾倉を取り出す。

視線の先には、あれから変化がない。
弾倉を交換しても大丈夫だろうか。
決断は早急に。
二発撃ち込み、相手の動きを制する。

そして、弾倉を交換。
その直後、ツンの視界を強烈な閃光が襲った。
やられた、と思ってももう遅い。
視界が真っ白に漂白され、目を瞑ってもまだ明るい。

ヴィントレスを持つ右手はそのままに、左手で思わず目を覆ってしまう。
恐れていたと言うか、事前に予期していた事態が遂に始まってしまった。
身を低くして、耳を済ませる。
階段を上る跫音が、三つ。

244以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:48:12.53 ID:Xq8Tr1Vn0
音を頼りに撃とうにも、相手の動きが予想よりもずっと早い。
屋上の床を踏みしめた音を聞き、駄目元で数発撃つ。
跫音が聞こえなくなり、ツンの視界が徐々に戻り始めた。
未だ完全に戻っていない視力ではなく、鮮明な記憶を頼りに、遮蔽物になりそうな物の陰へと滑り込む。

遮蔽物は記憶していた位置と寸分違わず、ツンはそれに背を預け、ゆっくりと目を開く。
一瞬だけゼロになった視力は、この時には元に戻り始めていた。
どうやら、今ツンが遮蔽物にしているのは、ツンの腰の高さ程のコンクリートで覆われたエアコンの排気孔のようだ。
そこにヴィントレスを立てかけ、ホルスターからスチェッキンを取り出し、弾倉を交換する。

他にも、今ツンが持っている弾薬全てを足元の地面に置いた。
状況を整理する。
敵の数は三人。
手際の良さから、都の軍人ではない事が分かる。

装備、性別、体格共に不明。
唯一相手の事で分かるのは、その目的だけ。
ツンの捕縛。
もう一つ、確認しておくことがある。

今、ツンが身を隠している場所は屋上の端、大通りに面した東の方向。
端から数メートル離れた場所にある、コンクリートで囲われた排気孔を壁にしている。
相手の位置はツンの背後、屋上へと繋がる扉の近くにあった背の高い貯水槽と脱出用の装置を陰にしている。
ツンは試しに、空になったスチェッキンの弾倉を陰から出してみる。

銃声と共に、それはツンの手から文字通り弾け飛んだ。
そのまま弾け飛んだ弾倉は、屋上から大通りの空へと舞う。
それは重力に逆らうことなく、ツンの視界から消え失せた。

ξ゚听)ξ(ちっ……!)

245以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:51:18.85 ID:Xq8Tr1Vn0
相手の射撃の技量から、ツンがこの場に釘付けになるのは必至だった。
行動を制限されたツンに出来る事は、多くない。
ヴィントレスで狙い撃とうにも、それよりも先に向こうが撃ってくる。
頭を吹き飛ばされることはないだろうが、腕の一、二本は持って行かれるだろう。

盲撃ちをしても、相手は遮蔽物を楯にして、更に"身を隠している"から大して意味がない。
一見して、所謂詰みの状態とも言える。
だからどうした。
鉄をも貫く弾がある。

命がある。
揺るがぬ意志がある。
まだ、何も失っていない。
ならば、まだやれる事がある。

いつものように目の前に立ち塞がる壁は、撃ち抜けばいい。
これは、"予期していた事態"だ。 今は、考えろ。
相手は貯水槽、そして脱出装置を壁にしているのが容易に分かる。
そして、そこから狙い撃っている。

先に潰しておいた方がいいのは、貯水槽。
貯水槽はツンから見て左手方向にある。
盲撃ちでも、まだ出来る事があった。

ξ゚听)ξ「その腐った頭でも冷やしてなさい!」

人に当てるのは難しくても、貯水槽に当てるのはツンにとって造作もない。
貯水槽の厚みの鉄板など、こちらの弾の前には意味を成さない。
ツンは貯水槽の上部を狙い、三発撃った。
蓄えられていた水が、穴の開いた個所から漏れ出る。

246以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:55:07.07 ID:Xq8Tr1Vn0
そして、それを遮蔽物にしていた者の頭上に蓄えられていた水が容赦なく降り注いだ。
この時期だからそれ程冷たくはないが、突然水を浴びせかけられたら誰だって驚く。

「うおわっ! って、み、水かよ……」

驚きのあまり、声を出した者がいる。
貯水槽の裏に一人。
聞こえて来た低い声に、ツンは聞き覚えがあった。

ξ゚听)ξ「……え?」

随分と昔。
少なくとも、五年前には聞いた事のある声だ。
最後に聞いたのは、五年前の抗争時。
まさか、生きていたのか。

ξ゚听)ξ「"追放者"?」

"追放者"、スキジック・ギコタイガー。

<゚Д゚=>「おや、覚えていたトラァ?
     へへへっ、こいつぁ光栄トラァ!」

数多くの組織を転々として、最終的に荒くれ者の集まる水平線会へと流れ着いた生粋の糞野郎。
裏切りと寝返りに関して、こいつ程上手くやる奴はいない。
この男は、かつての水平線会で第五位の地位にあった。
だが、五年前の抗争中、この男は突然消息を絶った。

247以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 21:58:11.35 ID:Xq8Tr1Vn0
てっきり死んだものだと思っていたのだが、ゴキブリの類は等しくしぶといらしい。
五年前から全く変わらない卑屈な笑い声に、ツンは聞えよがしに舌打ちをした。
"追放者"が生きていると言う事は、当然。

「よかったなぁ、後でその声をオカズにマス掻けよ!
でひひはぁっ!
久しぶりだなぁ、えぇ?
クールノー!」

ξ゚听)ξ「……"パララックス"!」

「クールノー……の……ムス……メ……
グ……フ……ひさし……ぶり!」

ξ゚听)ξ「おまけに"ビヒモス"までいるの……
      なに? ここで同窓会でもするつもり?
      ……最悪、あぁ、本当に最悪ね」

声だけで、残りの二人の正体を把握するのは容易だった。
かつて水平線会が誇った"五本指"が、ここに集結している。
道理で、ここまで場馴れしている筈だ。

<_プー゚)フ「でひひ! こりゃあたまらねぇな!
        あの時よりもイイ声になってるじゃねぇか!
        でもよぉ、泣き叫んで命乞いする時はもっとイイ声なんだろうなぁ!」

真性のサディストである、"パララックス"エクスト・プラズマン。
人を嬲り殺しにするのが何よりの楽しみとし、そこに美しさを追求する性格破綻者。
荒巻が水平線会の会長をしていた時代の、事実上の第四位。
ギコタイガーと同様に、抗争中に消えた男だ。



 
249以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:02:20.79 ID:Xq8Tr1Vn0
(・(エ)・)「グフ……フ!」

精神障害者、"ビヒモス"クマー・デルレイッチ。
精神を病んでいる代わりに、その腕力は旧水平線会でも屈指の物。
女子供を好んで縊り殺す事で知られていたこの男は、旧水平線会の第三位。
抗争の半ばで瓦礫の下敷きになり、死んだはずの男。

ξ゚听)ξ「同窓会なら、ここよりもいい場所を知ってるわ。
      下水処理場か火葬場、好きな方を選んでここから消え失せてくれないかしら?
      二次会は地獄でカラオケでもやって、好きなだけシャウトすればいいわ」

<_プー゚)フ「久しぶりだっていうのに、相変わらずつれねぇなぁ。
        それに、まず一次会は女を喰ってからって決めてるんでよぉ。
        丁度、目の前に初物がいるんでねぇ。
        美味しくいただかせてもらうぜ」

(・(エ)・)「お前……犯す……」

エクストとクマーは装置の裏。
ヴィントレスで必殺の距離にいる。
ただ、問題なのは狙う時間がないと言う事。

ξ゚听)ξ「竹輪かブタでも犯してたら?
      あんたらのポークビッツには、それが一番お似合いよ」

<゚Д゚=>「随分な言い草トラァ。
     でもまぁ、気丈な態度がたまんねぇトラァ」


251以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:05:40.30 ID:Xq8Tr1Vn0
膠着状態で、なお且つ人数的にはこちらが不利。
どう動く。
とりあえず、ツンはスチェッキンの銃口を水平にして、排気孔の上から出す。
これだけ小さな標的なら、見つかる事も無いし撃たれる事も無い。

ξ゚听)ξ「……」

フルオートで、必殺の弾を撃ちまくる。
装弾数二倍は伊達ではない。
あちらこちらから、コンクリートが砕ける音や金属に穴が開く音、弾が跳弾する音が響く。

(・(エ)・)「う、撃った……!
     クールノー、撃った!
     ころ、殺す!」

<_プー゚)フ「こ、このっ馬鹿野郎!
        今出るんじゃねぇ!
        頭吹っ飛ばされて死にてぇのか!」

三つの銃口から、一斉に応射が来る。
ツンはスチェッキンを引っ込め、弾倉を交換。
向こうの射撃が止むのに合わせ、もう一度。

(・(エ)・)「ウガ、ウガアァアア!」

クマーの叫ぶ声が聞こえる。
目の前に獲物がいるのに、襲いかかれない事に苛立っているらしい。
あの男は、我慢や抑制と言うものを知らない。
犯そうと決めていた女に手玉に取られているのが、気に入らないのだろう。

252以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:08:19.15 ID:Xq8Tr1Vn0
見えないから分からないが、向こうは弾痕で凄い光景になっているはずだ。
射撃が止む。

ξ゚听)ξ「そのカタワ野郎に蒟蒻でも買い与えたらどう?」

<゚Д゚=>「……真面目に考えておくトラァ」

下らないやり取りを終え、今度はツンも交えて両方から同時に銃弾が飛び交う。
あっという間に撃ち尽くし、弾倉を交換。
遊底を引いて初弾を装填。
再びフルオートで応射。

(・(エ)・)「グル、グルファアアア!」

<_プー゚)フ「あぁ、くっそ、涎を撒き散らすんじゃねーよ!
        うわっ! 汚ねぇ、手についたじゃねぇか!
        クソッたれ、もう知らねぇ!
        手前一人で勝手にやりやがれ!」

(・(エ)・)「ヒ、ヒヒャッラアアア!」

雄叫びなのか、それとも解放された喜びの咆哮なのか。
どちらにしても、ツンに向かって迫る跫音の主が何を考えていようと、どうでもいい。
銃だけを後ろに向け、ツンは一度だけ銃爪を引いた。

(・(エ)・)「ぶ、ぶふあ!」



 
254以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:12:14.71 ID:Xq8Tr1Vn0
急所こそ狙えなかったが、内臓は潰せたはずだ。
着弾の衝撃で倒れ込み、痛みに苦しむ獣の声が喧しい。
放っておいても、後数分で死ぬだろう。
今は、トドメを刺す為に使う弾と時間でさえ惜しい。

<_プー゚)フ「ほら見ろ、言わんこっちゃねぇ!
        手前はそこで一生そうしてな、このグズが!」

ξ゚听)ξ(連携力ゼロね)

所詮、どれだけ個々人の能力が高くても連携力がこれではあんまりだ。
だが、取り乱して勝手に自滅したクマーは精神障害者。
元から、連携が出来るなど期待していないのかもしれない。
向こうから見れば、足手纏いが一人減っただけだ。

事態は、あまり進展していない。
むしろ、相手の足手纏いが居なくなったここからが厄介と言える。
足元に置いていた残りの弾倉を確認する。

ξ゚听)ξ(……げっ!)

スチェッキンの弾倉は残り一つ。
ヴィントレスの弾倉が残り二つ。
今現在、状況的に使えるのは機関拳銃であるスチェッキンだけ。
その弾を、後先考えずに撃ちすぎた。

最後の一つとなってしまった弾倉に交換して、ツンは考える。
そこまで焦る必要はないが、どうしたものだろうか。
数発撃ち、弾が少ない事を相手に気取られないようにする。
向こうの会話が無くなったことから、どちらかがカバーに回って残りが移動をするつもりなのだろうか。

255以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:15:12.90 ID:Xq8Tr1Vn0
ならばと、ツンは撃つのを止めた。
屋上にある遮蔽物は限られている。
その遮蔽物をどのように利用してくるのか、それを考える。
それを邪魔するかのように、銃声が響く。

ξ゚听)ξ(さて、どうしよう……)

適当に応射しつつ、考えを巡らせる。

ξ゚听)ξ(……でも、それにしては妙ね)

考えてみると、相手の行動は妙だった。
何故、閃光手榴弾で眼を潰した時、早急にこちらを捕縛しなかったのか。
三方向に分散すれば、ツンを捕らえる事など容易だったはず。
まだ、ツンが予想していない事を向こうは企んでいるのだろう。

そこで、ツンは時計の歯車を合わせるように思考を巡らせた。
今先自分が辿り着いた相手の目論みと、現状を照らし合わせる。
導き出されたのは、あまりにも陳腐な目的。
それでいて、性根の腐った荒巻らしい作戦だった。

タネが分かった以上、わざわざそれに付き合っている時間はない。
相手の狙いは、ツンを"その時まで"ここに釘付けにする事だ。
つまり、相手は移動していないし、今の段階でツンに手出しをするつもりはない。
相手が移動していると思わせ、今にもツンを捕らえるかのように演じているだけだ。

この場所、出来ればこの建物から移動したいが、そうはいかない。
脱出用の装置は向こうが盾にしている為、使用は不可能。
大通りを背にツンから見て右手、北にある隣のビルまでの距離は、5メートル弱。
高さは、隣のビルの方10メートル程高い。



 
257以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:18:11.46 ID:Xq8Tr1Vn0
向こうから飛んで渡って来る事は出来るが、こちらからジャンプで渡るにはあまりにも高すぎる。
脚部限定の機械化を施していたとしても、それは不可能に近い。
ヒートならばやりかねないが、ツンはヒートではない。
ありもしない事を考えるのを止めた。

ξ゚听)ξ(……糞っ)

ロープがあれば、ここからそれを利用して下の階に移動出来る。
しかし、ツンの身の回りにロープの代わりになる物が一つもない。
周囲にある物で、何か出来ないかどうかを考える。
二メートル程の高さがあるアンテナが、だが、屋上に通じる唯一の階段の上に設置されているぐらいだ。

他に利用できそうなものはそれ以外になく、唯一利用できそうなアンテナは、相手のすぐ近くにある為、利用は不可能。
考え得る限り、今ある物だけで対処するしかなかった。

<_プー゚)フ「いつまでそうしてるんだ!
        さっさと諦めてよぉ、服脱いでよぉ。
        股おっぴろげておねだりしろよ!
        でひゃひゃひゃ! ひゃっ?!」

声が聞こえる位置を頼りに、ツンは問答無用とばかりに数発撃つ。
その弾は偶然、エクストの近くに着弾したようで、途端にエクストは黙りこんだ。

<゚Д゚=>「おお、おお!
     いいねぇ、強気なだけ犯し甲斐があるトラァ!」

一方、貯水槽を楯にしているギコタイガーは余裕を見せていた。
エクストと違い、こちらの方が場馴れしているのが分かる。
いくらツンが撃った所で、余程運が悪くない限りは当たらない事を知っているのだ。
加えて、姿勢を低くしている為、ギコタイガーには当たらない。

258以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:21:10.30 ID:Xq8Tr1Vn0
<゚Д゚=>「どうしたよ、えぇ?
     早くしないと、怖い人達が来ちまうぜ!」

ξ゚听)ξ「怖い?
      ひょっとして、臭くて気持ち悪いキチガイ連中の言い間違い?」

<゚Д゚=>「はっはぁ!
     今の内に強がれるだけ強がればいいトラァ!」

ギコタイガーの声が、銃弾と共に飛んでくる。
殺す気はないが、牽制して釘付けにする為だ。
これのせいで、移動する事が出来ない。
結局、相手の思惑が分かっていてもどうする事も出来ないのだ。

あまりにも歯痒い。
で、あるならば。
今は、相手の思惑通りに立ち回るのが賢い。
そうしていれば、相手の思考が容易に読めるからだ。

ξ゚听)ξ「あんたこそ、いつもみたいに逃げる準備でもしてたら?
      あぁ、安心して。
      後ろから撃たないなんて、安い台詞は言わないから。
      どこを向いて何をしてようが、関係なく撃ち殺すわ。

      背骨? 心臓?
      あぁ、それともその腐った頭がいいかしら?」

<゚Д゚=>「じゃあその前に、手前のプッシーに俺のビッグマグナムを突っ込んでやるトラァ!
     奥まで突いて、天国までイカせてやるトラァ!」



 
261以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:24:03.24 ID:Xq8Tr1Vn0
ξ゚听)ξ「ビッグマグナム?
      く、く、あははは!!
      冗談は顔と存在だけにしてよ。
      あんたのそれ、デリンジャーの間違いじゃなくて?

      貧相で弾数も少ないから、あんたにはぴったりね。
      それに、自家製の皮ホルスターに入ったままだと、その貧相な銃が暴発するわよ。
      でも豚の尻を掘るには、丁度いいかもしれないわ。
      もっとも、火薬が湿気てて使い物にならないけどね」

ギコタイガーの下品な言葉に対して、ツンは全く怯まない。
ましてや、怒る事も無い。
この辺りの話術は、全てデレデレ仕込みの技だ。
それに、この程度でいちいち反応する程ウブではない。

何せ、身近に"グレートピンクエロス"の渾名を持つ凄腕の娼婦がいるのだから。
ツンよりも年上の彼女からは、様々な知識を教え込まれていた。
男の下品な言葉に対して、どう言い返せば怒るのかは初歩中の初歩だ。
案の定、ギコタイガーは怒りを露わにした。

<゚Д゚=>「手前! この野郎……!」

そうこうしている内に、新たな跫音が続々と聞こえて来た。
階段を駆け足で上って来る跫音の数は、十以上。
瞼を下ろす。
ギコタイガーが何か言っているが、それはもう聞こえない。

<゚Д゚=>「〜〜ッ!」



 
263以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:27:16.72 ID:Xq8Tr1Vn0
静かに呼吸を整え、耳から雑音を消し去る。
鉄を踏んでいた跫音が、コンクリートの地面を踏みしめる音に変わる。
軍人ではない。
跫音がバラバラだ。

それが意味するのは、統率がとれていないと言う事。
しかし、やる気だけは明らかに満ち満ちている。
そして、慌ただしい跫音が消えたかと思うと、最後にゆっくりとした跫音が聞こえて来た。
地面を擦るような跫音の主の正体は、もう分かり切っている。

「いつまでそうして隠れているつもりだ」

この世の全てを呪う為に喉が潰れるまで呪詛を叫んだ者がいるとしたら、このような声をしているのかもしれない。
しわがれ、地を這うように低い声。
その声の主は、紛う事無き水平線会"前"会長。
―――荒巻スカルチノフ。

/ ,' 3「クールノーの娘ならば、正々堂々とこちらを向いたらどうだ?」

ツンはその場から動かず、ゆっくりと瞼を上げる。

ξ゚听)ξ「糞野郎に対しては、正々堂々とする必要はないって教育されてるの。
      特にそれが、耄碌した糞ジジイの場合は相手にしなくていい、ってね」

/ ,' 3「はっ! 強がりか!
   いいぞ、ますますいい!」

確かに、強がりだ。
何せ、人数的な優位性ではこちらが圧倒的に不利。
おまけに、武装でも負けている。



 
266以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:31:36.22 ID:Xq8Tr1Vn0
/ ,' 3「じゃが、無駄な強がりは止めるんじゃな。
   貴様に逃げ道はない」

ξ゚听)ξ「逃げる気はないわ。
      叩き潰す気ならあるけど」

/ ,' 3「えふっ!」

ツンの言葉に反応を示したのは、荒巻だけでは無かった。
荒巻が鼻で笑うと、それに続いて屋上のあちらこちらから冷笑が聞こえて来た。
気にする必要はない。
と、言うより。

逆に、嫌な意味で懐かしかった。
昔の水平線会のメンバーは、こう言った下品な手合いが大勢いた。
ヤンキーはヤンキーらしく、建物の壁に落書きでもしていればいいと言うのに。
下品である事に関してだけ言えば、彼等は一流である。

ξ゚听)ξ「何?
      皆して鼻くそでも詰まってるのかしら?
      それなら耳鼻科よりも、あんたらの場合、まずは脳外科と精神科に行くのね」

/ ,' 3「えふっ、えふっ、えふぁふぁふぁ!
   威勢の良さと口の悪さは母親譲りだのう」

不愉快な笑い声を上げ、荒巻は未だ隠れているツンに向け、声を掛けた。

/ ,' 3「どれ、そろそろ出てきたらどうじゃ?
   貴様とて、あの雌狐の娘だろう?
   それに、貴様もワシに幾らか恨みがあるのならば、尚更じゃ」


 
270以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:35:01.91 ID:Xq8Tr1Vn0
確かに、荒巻の言う通りだ。
荒巻が会長を務めていた時代に生きていた人間は元より、今の水平線会にも奴に恨みを持つ者は多い。
水平線会と最も激しく対立していたクールノーファミリーの幹部であるツンもまた、その内の一人だ。

ξ゚听)ξ「そうね、あの日の事は一瞬でも忘れた事はないわ」

/ ,' 3「えふぁふぁ!
   そうじゃろう、そうじゃろうのう!
   ならば、ワシに一矢報いる為にも姿を晒せい」

ξ゚听)ξ「晒した瞬間に頭を吹っ飛ばされたんじゃ、文句も言えなくなっちゃうわ。
      あんたのようなチキン野郎の言う事をいちいち聞いてたら、命がいくつあっても足りないもの」

あの日の事を、決して忘れはしない。
五年前に起きた、水平線会とクールノーファミリーの抗争。
抗争が終結を迎えた日。
その日に起きた、あの忌まわしい出来事を。

未だ、あの事件の傷跡は消えていない。

ξ゚听)ξ「……でも、私は確かにあんたを殺したいわ。
      えぇ、出来るなら今すぐにでも」

怒りを前面に出した声は、荒巻にだけ向けられている。
そこいらにいる三下程度なら、この声だけで逃げ出しかねない。
しかし、荒巻には臆した様子が無かった。

/ ,' 3「えふぇふぇふぇ!
   ワシとしては、生きたままの状態を犯したいのでな。
   安心せい、殺すのはその後じゃ」



 
273以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:38:13.66 ID:Xq8Tr1Vn0
荒巻の言葉は全く信用できない。
だが、奴の言う事には一理ある。
デレデレへの復讐が荒巻の目的であれば、ツンをすぐに殺したりはしない。
荒巻の理想としては、デレデレの眼の前で殺すのが一番なのだろう。

/ ,' 3「損得勘定が出来ないわけではあるまい?
   強引に貴様を引きずり倒して犯すのもいい。
   が、やはり少しは抵抗してもらわねばこちらとしても犯りがいが無いのでな」

ξ゚听)ξ「あんたら、頭の中にはそれしかないの?
      だったら養鶏場にでも出向くのね。
      チキン野郎には、チキンのケツ穴がお似合いよ」

/ ,' 3「父の無念を晴らすのであれば、口より先に足を動かして立ち上がれ。
   そして、こちらを向くのじゃな。
   それからで遅くはないじゃろう、のぅ……」

荒巻を殺せばツンはようやく、"父"の前に立つ事が出来る。
謝罪と感謝の言葉と共に、眼を見て父を父と呼べるのだ。
それまでは、父が許そうとツンが自分の事を許さない。
未だ、父の体に残る傷跡。

あれを見る度、ツンの心は痛んだ。
自らの浅はかさと、父の愛情の深さを痛感した。
五年前、炎に全身を焼かれた父親。
その名を―――

/ ,' 3「でぃの娘ならば、ワシに一矢報いてみせい!」

ξ゚听)ξ「……蛆虫風情が、その名前を気安く呼ぶなよ」



 
276以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:41:19.88 ID:Xq8Tr1Vn0
―――水平線会現会長、でぃが全身に負った重度の火傷。
あの火傷は、他ならぬツンを庇った際に出来たものだ。
そして、負わせたのは言わずもがな荒巻である。
故に、荒巻は父の仇。

/ ,' 3「えふぇふぇっ!
   まぁ、そう興奮するな。
   ……その様子だと、まだ知らんようじゃの」

ξ゚听)ξ「あんた等の脳みそが交換時だって事なら分かるけど?」

/ ,' 3「ところで貴様は、奴の本名を知っておるか?」

ξ゚听)ξ「……」

唐突に投げかけられた質問に、ツンは答えられない。
答えないのでは無く、答えられない。
これだけは、母親からも、でぃと親しい間柄の者達からも教えてもらっていないのだ。
ただ、知っているのは、でぃ、と言う名前と彼が父親と言う事実だけ。

/ ,' 3「知らぬのならば、教えてやろう。
   奴の名前は―――」

そして、荒巻は僅かの間の後、その名を言った。

/ ,' 3「―――内藤・でぃ・ホライゾン。
   どうじゃ、この名前に少しぐらい聞き覚えがあろう?
   のぅ、クールノーの娘よ」

ξ゚听)ξ「……えぇ」



 
279以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/04(日) 22:44:09.37 ID:Xq8Tr1Vn0
ツンは出来る限り、動揺が声に出ないように努力した。
こんな所で父の名前を知る事になるとは思いもしなかった。
それだけに、ツンの受けた衝撃は計り知れない。
一瞬だけ全身に冷たい物が走ったが、次の瞬間にはいつものツンに戻っている。

ξ゚听)ξ「どうして、あんたがその名前を知ってるのよ?」

/ ,' 3「えふぁふぁふぁ!
   ……なぁに、悔しがる必要はないぞ。
   ワシも、この事を知ったのはあの抗争の後じゃからな」

でぃは、かつて水平線会でNo2の座にいた程の男だ。
その彼の本名を当時の会長であった荒巻が知らなかったのは、正直意外だった。
何か、本名を隠さなければならない事情があったのか。

/ ,' 3「他にも、この名前に聞き覚えがあろう?」

―――ここで、そう繋げて来たか。
堪らず、ツンは冷笑を浮かべる。

ξ゚听)ξ「内藤・ブーン・ホライゾン。
      あいつの事を言いたいんでしょう?」

ツンの動揺を誘う為に、荒巻はわざとでぃの本名を晒したのだろう。
一瞬だけとはいえ、動揺したことは事実だ。
だが、一瞬だけならば、問題はない。
相手の目的分かっていたからこそ、ツンは冷静に対処する事が出来たのだ。

荒巻としては、もっと狼狽えて欲しかったに違いない。
ツンの反応に、荒巻は馬鹿にしたような笑い声を上げた。



 

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