ξ゚听)ξハイビスカスが見せた夢。のようです


302以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:30:49 ID:fAAJgpbU0
 
 真っ暗な世界の中に、私は立っていた。
 
 電気はない。ここは外だから。
 
 じゃあ夜なのか、それもわからない。
 
 何故なら私は、目が見えないからだ。
 
 風と、覚えのある花のにおいが、ここが外で、ここがどこなのかを教えてくれた。
 
  「よう」
 
 そしてそれも、聞き覚えのある声。
 背にかかった声に振り向くと、ああ、目が見えないんだった。
 
  「元気か」
 
 見えなくても、声で笑顔だとすぐにわかる。
 
ξ )ξ「げんきよ」
 
  「はは、そうか」
 
 そう言って、声の主は私の頭を優しく撫でた。

303以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:31:33 ID:fAAJgpbU0
 
  「元気なら、俺は何も言わないさ」
 
ξ )ξ「……うん」
 
  「俺がお前にしてやれるのは、これくらいだ」
 
ξ )ξ「……」
 
  「さぁ、もう朝がくる」
 
ξ )ξ「……」
 
  「帰りなさい。元の世界へ」
 
ξ )ξ「……」
 
 
 
 ────────────…………
 
 
 
 ξ゚听)ξハイビスカスが見せた夢。のようです

304以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:32:42 ID:fAAJgpbU0
 

 
ξ--)ξ「ん……」
 
 
ξ--)ξ「…………」
 
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 
 夢から覚めて、目を開ける。
 わかっているけれど、現実のような夢の後だったから、
 本当に目が見えなくなってしまっていたらと思うと、少し怖かった。
 
 しかしなんてことはなく、いつもの白い天井が見えていた。
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 小さな時からずっと、ずっと見てきた夢。
 夢の中で、私は目が見えないから、現れる男の人が誰なのかは知らない。
 だけどとても優しい声で、温かい手で私の頭を撫でてくれる。
 
 気が落ち込んでいる時に、あの人が夢にいつも現れて、そうしてくれた。

305以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:35:26 ID:fAAJgpbU0
 
 頬を撫でる風に誘われて、ベットの上で上体を起こし窓の外を見る。
 広い中庭の真ん中には噴水があり、その周りを囲むのは白のハイビスカス達。
 いつの間にか、あんなにも見事に咲いている。風は涼しかったけれど、夏はもう間近だった。
 
 幼い頃からあれをここから見下ろして、花の香りと共に育った。
 だからこそ、目が見えない夢の中で感じたあの香りで、そこがどこだかがわかったのだ。
 
 でも、一つだけ。どうしても、わからないこと。
 
ξ゚听)ξ(あの人は……)
 
 夢の中で、あの人は最初からそこにいた。
 言葉で、温もりで、私に活力を与えてくれたあの人が。
 
 瞼を閉じていても、ハイビスカスは香りだけで情景を浮かばせてくれるのに。
 あの人だけは、その姿を見る事はできなかった。
 
 不思議な、不思議な夢だ。
 
 不意に、戸を叩く音が聞こえた。
 いつも私が目覚めて少ししたら現れてくれる。
 長年の経験がそうさせるのか、まさかどこかから監視しているのではないかと疑う程に。
 
ξ゚听)ξ「どうぞ」
 
 戸を開き、現れたのは一人の執事。
 
/ ゚、。 /「おはようございます、お嬢様」

306以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:37:19 ID:fAAJgpbU0
 
 ダイオード。
 幼い頃から私の身辺の世話をしてくれている執事だ。
 
 中性的な顔立ちは昔から変わっておらず、加えて黒のタキシードという正装。
 見慣れた私でも、男か女か時々わからなくなる程だ。
 しかし彼女は、歴とした女性である。
 
/ ゚、。 /「朝食ができております」
 
ξ゚听)ξ「ありがとう。着替えてすぐに行くわ」
 
/ ゚、。 /「お手伝い致しましょうか?」
 
ξ゚听)ξ「大丈夫よ。下がって頂戴」
 
/ ゚、。 /「では」
 
 いつもと変わらぬやり取りとした後に、ダイオードは部屋を後にした。
 流石にもう十八になったのだから、着替えを手伝ってもらうのは恥ずかしい。
 ドレスなど、公の場へ赴く際の正装となると話は別だけれど。
 
 立ち上がり、クローゼットを開く。
 その中から白いワンピースを取り、手早く着替える。
 夢の中、そういえば私はワンピースを着ていたような気がする。
 
 勿論、目が見えない夢だったから、肌に感じた質感でそう思っただけだ。
 
 なにも、なにも変わらない日常が、今日も始まる。

307以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:39:19 ID:fAAJgpbU0
 
 そのはずなのに。
 
 
 何故私は、あの夢を見たのだろう。
 
 
 その理由は食卓についた時に、はっきりとわからされた。
 
 
 

 
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
 向かいに座るお父様が発した言葉が、よく理解できなかった。
 食器を動かす手も忘れ、呆然とお父様を見つめる。
 
(´・ω・`)「……すまない、ツン」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
 謝り、お父様は申し訳なさそうに眉を垂らしていた。
 まだ少し頭に残っていた眠気が、急激に頭から飛んでいく。
 もっともそれだけで、思考をするという余裕は一切ありはしない。

308以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:43:06 ID:fAAJgpbU0
 
(´・ω・`)「この地の領主、モナー様のご子息モララー様と、結婚してくれ」
 
 同じ内容だった気がするが、今度はしっかりと聞き取る事が出来た。
 でも頭は、やはりついていけるわけもなく。
 
ξ゚听)ξ「……どういう、ことですか、お父様」
 
 そんな無茶苦茶な事を、理由も無しに言うはずがない。
 なんとなくは察しがついているのだけれど、確認をすることは大切だ。
 
(´・ω・`)「……すまないと思っている」
 
 それは顔を見ればわかる。
 お父様を責めているわけでもない。
 けれど、気が強い性格と口調が、責めていると勘違いさせてしまったのだろうか。
 
(´・ω・`)「どうもモナー様とモララー様は、お前のことがたいそうお気に入りのようなのだ。
       父としてはお前の気持ちを尊重したい。しかし、私の立場がそうさせてくれない」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 私達家族は、いわゆる貴族という位置にいる。
 そのお蔭で不自由のない生活を送れてはいたのだけれど、来るべき時がきた、と言う事らしい。
 聞かなくともこれは決定事項で、私に拒否権などないのだろう。

309以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:45:00 ID:fAAJgpbU0
 
ξ゚听)ξ「お断りします、とは言わせてもらえないのですね?」
 
(´・ω・`)「それも含め、すまないと思っている」
 
 清々しい朝に似つかわしくない爆弾を落とされてしまった。
 言葉こそ淡々と述べたものの、胸の内は動揺が駆け巡っている。
 
 モララー様は、何度かパーティーでお話をした事がある。
 礼儀作法も、ルックスも完璧と言って良い程の素敵な御方だ。
 でも個人的な食事に誘われたことはなく、私を気に入っているような素振りを見せた事もない。
 
 普通であれば、諸手を挙げて今すぐお嫁に! となるのだろうか。
 しかし私は、そう簡単に受け入れる事は出来なかった。
 
 
 何故なら私には、幼い頃から好きな人がいるのだから。
 
 
ξ゚听)ξ「……」
 
 でもこれは、この家に生まれた私の運命なのだろう。
 運命という言葉で飾らなくても、この家の利益やお父様の立場を見れば考えなくても答えは出る。
 
 結婚を、しなくてはいけない。
 答えが定められていたことも、気に食わなかった。

310以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:49:05 ID:fAAJgpbU0
 
(´・ω・`)「明日、モナー様のお屋敷へ行こう」
 
ξ゚听)ξ「……わかりました」
 
 当然のように、私の意思に関係無く物事は進むようだ。
 一番大事な結婚の部分が勝手に決まっていたようなのだから、
 後の事などとんとん拍子に進めていくつもりなのだろうか。
 
 そしてやはり、私に拒否権は無く。
 
 私はさっさと朝食を平らげて、自室へと戻った。
 
 
 

 
 
ξ゚听)ξ「はぁ……」
 
 ハイビスカスが彩る白い絨毯を窓から見つめ、何度目かの溜息を吐いた。
 今日の分の溜息を全て吸い込めば、きっと五分は息を止めていられるだろう。
 そんな意味の無いことを考えてはまた溜息を吐き、結局同じ事を繰り返す。
 
 明日はきっと、ただの顔見せになるのだろう。
 直ぐに結婚、とまでは流石にありはしないと思うけれど、それも遠くないはずだ。

311以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:52:52 ID:fAAJgpbU0
 
ξ゚听)ξ「……だから今日、あなたは夢に現れたの?」
 
 ハイビスカスを見つめながら、窓から呟きを落とした。
 私の言葉は地面を跳ねて、ハイビスカスの中へと潜り、夢の中の彼に届いただろうか。
 
 勿論、返事などなく。
 
ξ゚听)ξ「……あなたは、誰なの?」
 
 答えの得られない問いかけを、繰り返し、繰り返し。
 思い人へは届かない。何故なら彼は、私の夢に現れるのだから。
 
ξ゚听)ξ「夢に出る人に恋してるなんて、ね……」
 
 物語のヒロインにでもなれば、夢の中の王子が現実に現れて、私をさらってくれるのだろうか。
 そんなことになるのなら、私は喜んで本の中へと飛び込みたい。
 
 蝶よ花よと育てられ、お父様以外の男性とは数える程しか顔を合わせた事がない。
 その数回で、モララー様の御眼鏡にかなったのならば、喜ばしく、誇らしいことだ。
 しかし私には、何十、何百回も会った人がいて、その人を思っている。
 
 実在しない、男性なのに。
 
 それどころか顔も知らない。
 知っているのはとても温かい手と、優しい声だけだ。

312以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:56:14 ID:fAAJgpbU0
 
 
ξ゚听)ξ「はぁ……」
 
 重なるものは、溜息ばかり。
 とさりとベットに横になり、天井を見つめた。
 
 もう、この天井を見つめることも無くなるのだろう。
 そして、あの人に会う事は……無くなるのだろうか。
 そんな、そんな予感が、なんとなくした。
 
 この家に居なければ、あの人が現れてくれないと、そんな予感が。
 その予感はきっと、夢に感じたハイビスカスの香りが告げている。
 夢の中では見えずとも、間違いなくあの場所はこの家の庭で……。
 
 言うなれば夢の人は、ハイビスカスの精、とでも。
 
ξ ー )ξ「……バカみたい」
 
 呟いて、私は目を閉じた。
 
 
 ────────────…………

313以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:58:55 ID:fAAJgpbU0
 
 
 ふわりと、地に足がついているのに、浮遊感を体が包む。
 その独特の感覚に、私はこれが夢であることを自覚した。
 
 となれば、やはり瞳は見えなくて。
 暗い世界の中を、私は一人立っていた。
 
 けれど不安は一切ない。
 鼻腔をくすぐる香りがあるからこそ。
 
 それが香った直後に、
 
  「よう」
 
 この声が聞こえる事が、わかっていたから。
 
 
ξ )ξ「……」
 
 声の方を向く。視界は変わらずとも、声の方を向く。
 少しでも、あなたを感じていたいから。
 
  「…………」
 
  「…………」

314以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 07:59:50 ID:fAAJgpbU0
 
  「そうか、結婚するんだな」
 
ξ )ξ「どうして、しってるの?」
 
  「お前の心は、全部わかるさ」
 
ξ )ξ「なら、わたしのきもちも、しってるよね?」
 
  「…………」
 
ξ )ξ「わたし、あなたとはなれたくない」
 
  「…………」
 
 
 
 声は、聞こえなくなった。
 風が吹き、ハイビスカスの香りを運ぶ。
 鼻を通り、体中がその香りで満たされる。
 
 それがとても、心地良い。
 まるでこの人に、抱きしめられているような、そんな気がして。

315以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:01:21 ID:fAAJgpbU0
 
ξ )ξ「わたし、あなたのことなにもしらない」
 
 
ξ )ξ「かおもしらない。なまえもしらない」
 
 
ξ )ξ「でも、いつもわたしをげんきづけてくれた」
 
 
ξ )ξ「だから、あなたがすき。だいすき」
 
 
ξ )ξ「はなれたくない。あなたといられるなら、ずっとゆめのなかにいたい」
 
 
  「…………」
 
 
ξ )ξ「…………」
 
 
  「ツン、君は、前へ進まなくてはだめだ」
 
 
ξ )ξ「どうして?」

316以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:03:06 ID:fAAJgpbU0
 
  「君は、生きているから」
 
 
ξ )ξ「いきてる……でも、あなただって」
 
 
  「俺は、生きていないさ」
 
 
ξ )ξ「どういう、ことなの?」
 
 
  「俺は、ただ君の夢の中にいるだけだ」
 
 
ξ )ξ「…………」
 
 
  「現実では、もう会えない」
 
 
ξ )ξ「……なん、で」
 
 
  「君は、前へ進まないといけないんだよ、ツン」

317以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:05:16 ID:fAAJgpbU0
 
 熱いものが、瞳に溢れた。
 瞼のダムを壊そうと、次々に、滲み湧いた。
 
 あつい、あつい、あつい。
 今すぐに目をあけて、これを流してしまいたい。
 
 でも瞼は、開かなかった。
 
 
ξ )ξ「……っぅ……っく……」
 
 
  「泣くな、ツン」
 
 
 温かい手が、私の手に触れた。
 その手を運び、彼の頬に触れた。
 
 
 初めて、彼の手以外に、触れた。
 
 
ξ )ξ「つめたい、つめたいよ……?」
 
 
  「そうさ。だから俺は、君の世界へはもう戻れない」

318以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:08:10 ID:fAAJgpbU0
 
ξ )ξ「なんで……どうして」
 
 導かれた右手だけでなく、左手も伸ばして触れた。
 彼の頬を、頭を、鼻を、唇を、見えないから手でたしかめるように。
 
 夢の中だから、だろうか。
 
 彼の顔が、手を伝って見る事ができた。
 
 
(  _ゝ )「なぁ、ツン」
 
ξ )ξ「…………」
 
(  _ゝ )「ずっと、ずっとお前を見守ってきた」
 
(  _ゝ )「俺は、本当は、すぐに夢からも去らなければいけないのに」
 
(  _ゝ )「それがお前の枷となってしまっていたんだな」
 
ξ )ξ「かせなんて、わたしは、あなたを……」
 
(  _ゝ )「それじゃ、だめなんだ」
 
(  _ゝ )「お前は、生きている。だからもう、俺から離れるんだ」

319以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:11:52 ID:fAAJgpbU0
 
ξ )ξ「いや……いやだよ……」
 

 
 ついに瞳から、涙がこぼれ落ちた。
 瞼は閉じているのに、一度流れ出した涙はもう、止まらなかった。
 
 暗闇の中で、必死に彼の顔に触れる。
 少し、彼の頬が動いた気がした。
 
 
(  _ゝ )「夢の時間は、これで終わりだ」
 
 
(  _ゝ )「ツン、お前は前へ進め。幸せに、生きてくれ」
 
 
 
(  _ゝ )「じゃあな」
 
 
 
 
 
(  _ゝ )「さよならだ」
 
 
 
 ────────────…………

320以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:15:34 ID:fAAJgpbU0
 
 

 
 
ξ;凵G)ξ「ッ!」
 
 字の如く、飛び起きた。
 私はいつの間にか、眠ってしまっていたようだった。
 それは今見た夢で、わかっていたことだけれど。
 
 夢から帰っても、涙が止まる事はなかった。
 
/ ゚、。 /「お嬢様……」
 
ξ;凵G)ξ「……?」
 
/ ゚、。 /「どうなさいました?」
 
 見ればすぐ傍に、薄いシーツを手に持ったダイオードがいた。
 眠っている私にかけようとしてくれたのだろう。
 普段無表情の彼女が、驚きと心配を合わせたような表情を浮かべていた。
 
ξ;凵G)ξ「夢……夢を……」
 
/ ゚、。 /「夢?」
 
 
 誰でもいい。私の馬鹿な話を、誰かに聴いてほしかった。
 話し出せば、夢で流した涙と同じ様に、言葉が一気に流れ出た。

321以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:18:17 ID:fAAJgpbU0
 
 
 ────────────…………
 
 
/ ゚、。 /「そう、ですか」
 
ξ )ξ「……ごめんなさい、変な話をして」
 
 話し終えた後、ひどいことになっているだろう顔をタオルで隠す。
 ダイオードは聞き終えた後に、窓から外を見つめていた。
 
 多分、ハイビスカスを。
 
/ ゚、。 /「お嬢様」
 
ξ )ξ「……?」
 
/ ゚、。 /「これは旦那様から言うなと言われ続けてきた事ですが」
 
ξ )ξ「なに……?」
 
/ ゚、。 /「実は、お嬢様にはお兄様がいらしたのです」
 
ξ )ξ「おにい……さま……?」
 
/ ゚、。 /「はい。花を愛する、心優しき方でした」

322以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:20:42 ID:fAAJgpbU0
 
/ ゚、。 /「お兄様は、ツン様が生まれる前日に、病で……」
 
ξ )ξ「そんな……」
 
/ ゚、。 /「お嬢様に要らぬ悲しみを背負わせまいと、旦那様のご配慮で今まで隠しておりました」
 
/ ゚、。 /「それがこんな形になるとは……皮肉なものです」
 
ξ )ξ「……」
 
/ ゚、。 /「私も当時、お兄様の身辺のお世話をしておりました。
      そして、最期の時も、そばについておりました」
 
ξ )ξ「……」
 
 
 少しお待ちをと言って、ダイオードは小走りで部屋を後にした。
 踵を返した時に、彼女の目尻に光るものが見えたのは、決して気のせいではないだろう。
 
 
 そしてすぐに、彼女は部屋へと戻ってきた。
 
 一枚の紙を、手にもって。

323以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:21:34 ID:fAAJgpbU0
 
/ ゚、。 /「……お兄様は最期に、こう仰いました。
      『俺が死んだら、亡骸を燃やして、その灰をあのハイビスカスにかけてくれ』、と」
 
 
ξ )ξ「────ッ!」
 
 
/ ゚、。 /「化けて出るつもりはない、と冗談混じりに、本当にいつもの調子で、そう仰いました」
 
 
ξ )ξ「…………」
 
 
/ ゚、。 /「お兄様は……ずっとあそこで、ハイビスカス達と一緒に、貴女を見守っていたのですね」
 
 
/ ゚、。 /「お嬢様の夢の中に現れたその方が、はたしてそうだったのかはわかりません」
 
 
 ダイオードが私に紙を差しだして、それを受け取る。
 それは色褪せた写真だった。静かに、ゆっくりとそれを見る。
 
 
ξ )ξ「……あ…………」
 
 
 その写真に、映る顔────

324以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/05(水) 08:24:16 ID:fAAJgpbU0
     
     
     そう。
     
     
     あなたはずっと、私を励ましていてくれたんですね。
     
     
     自分のぶんまで、私に生きてくれと、元気づけてくれていたのですね。
     
     
     
     
     
     
     
     『( ´_ゝ`)』
     
     
     
     
     
     
     
     ────ありがとう、お兄様。
     
     
     
                                 終わり。


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