( ・∀・)モララーは家電製品を武器に戦うようです
55 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:00:27
ID:VL0c.mtU0
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(´・ω・`)「……来たか」
人の手を離れ、どれ程の年月が経ったのだろうか。
しかしそんな事は、呟いた男にはどうでも良い事だ。
人に造られ、人に捨てられ荒れ果てた廃工場。
暗闇の中で、彼は訪れた待ち人へ視線を投げる。
( ・∀・)「決着の場が、まさかこんな閑散とした場所だとはね」
現れた男が開口一番、皮肉を放つ。
それを受けて、先に居た男が口端を吊り上げた。
(´・ω・`)「そう言うな。人の規格を外れた者同士、人に見捨てられたここが相応しいじゃないか」
(´・ω・`)「なぁ? モララー」
( ・∀・)「失礼な事を言うね。私は……人間さ」
言いながら、モララーと呼ばれた男が扉を閉めた。
重い扉が重なり、大きな音が闇に溶け、消えていく。
( ・∀・)「さぁ、長く続いた戦いの決着をつけようじゃないか、ショボン」
(´・ω・`)「……そうだな」
56 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:01:10
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(´・ω・`)「実に、長かった。あまりにも、長すぎた」
相対する二人には、長く続く因縁があったのだ。
黒いスーツを身に纏う二人の手にあるのは、これから戦うとは思えない物が握られていた。
モララーが持つは、周囲の闇と同化する程の、漆黒の扇風機(床置き用)
ショボンが持つは、真紅に燃ゆるマイナスイオン照射機能付きドライヤー(業務用)
しかしそれらは、二人にとっては紛う事無き武器であった。
( ・∀・)「多くの仲間がお前の手によって、殺された。仇は討たせてもらうぞ」
(´・ω・`)「その言葉、そっくりとお前に返そう」
長い戦いの中で、遂にこうして戦える者は二人だけになっていた。
そう。彼らこそが、あの、伝説の────
( ・∀・)モララーは家電製品を武器に戦うようです
57 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:02:21
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家電製品。常識的に考えて、鈍器である。
だがそんな常識を、二人は持ち得ていない。
勿論、電化製品にアルファ成分が含まれているわけでもない。
( ・∀・)「内藤も、ジョルジュも、良い友だった」
(´・ω・`)「冷蔵庫【パンドラブリザード】の内藤と、電子レンジ【スパークホイッスル】のジョルジュ、か。
あいつらも強かった。しかし、己の力を過信しすぎていた」
かつての激闘を思い、ショボンは淡々と語り出す。
モララーの扇風機が、悲しげにきしりと首を曲げた。
(´・ω・`)「生活必需品という慢心が、敗北を呼んだのだ。
戦いにより酷使しすぎた冷蔵庫の扉にガタがきていた。だが内藤は無理に扱った。
修理保障期限も切れていたのに……馬鹿な奴だ」
家電製品のメンテナンスは彼らにとって非常に重要である。
内藤は、実力こそショボンに届く男だったのだが、B型が災いしたのだった。
(´・ω・`)「ジョルジュもそうだ。調子に乗って電子レンジの戸を開閉し続け、
あまつさえチーン!をキッチンタイマー代わりに使うという暴挙。
コンセントを抜いても鳴るというのに、あれでは命とブレーカーがいくつあっても足りん」
( ・∀・)「……言ってくれるな、ショボンよ。お前の仲間にも同じ事が言えるか?」
(´・ω・`)「……」
58 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:04:20
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( ・∀・)「お前の右腕だった、電話【モシモシry】のギコ……。
家電使いの使命も忘れ、利便性を求め携帯電話に浮気するなど……滑稽だ。
コイツ(家電製品)らは嫉妬深いからな。アイツの最期は、電話線に足を絡め崖から落ちた」
(´・ω・`)「……ッ!」
( ・∀・)「側近がそれだ。お前の部下は、実際大したことがなかったよ」
(´・ω・`)「甘やかしすぎた、か」
( ・∀・)「そうだな」
(´・ω・`)「だが、俺の実力は知っているだろう」
( ・∀・)「勿論だ。さぁ、昔話はもういいだろう? 決着を、つけよう」
(´・ω・`)「かかってこい。扇風機如き、一瞬で乾かしてやる」
( ・∀・)「言ってくれるな。お前のドライヤーなど、十円式にしてやるよ」
十円式ドライヤーとは、銭湯に備え付けられたドライヤーである。
相場は三分二十円程で、お金をいれると使う事が出来る。(無料の場所もある)
銭湯によって持ち込み拒否をしている場所もあるので、注意が必要だ。
持ち込み可でも、備え付けより料金(電気代)を要求される場合があるので、素人にはお勧めできない。
これは余談だが、銭湯と戦闘をかけている。
59 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:07:04
ID:VL0c.mtU0
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( ・∀・)(正直……勝てるかはわからない)
仲間が殺された事実が、ショボンの実力の証明だ。
どれほど強がりを吐こうとも、心にはやはり、弱音が隠れていた。
しかし、戦わなければならぬのだ。
( ・∀・)(仲間達の、仇を……)
その為に、彼は戦い続け、扇風機のメンテナンスも完璧にこなしてきたのだから。
( ・∀・)(頼むぞ……相棒、旋風輝【センプウキ】ッ!)
(#
・∀・)「はぁぁぁぁぁぁッッ!!」
(´・ω・`)「ッ!?」
強く、強く扇風機を握り締めると、扇風機はそれに応えるように輝きだした。
コンセントはさされていない。だが、そんなことは関係なかった。

『やや微風』から『強風』まで五段階に設置されたランプが激しく点灯する。
それと同時に、四枚の翼が猛回転し、周囲の埃を巻き上げた。
旋風輝────その名に、相応しい。
60 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:09:29
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(´・ω・`)(あれでは……指や布が巻き込まれたら大惨事だぞ……!)
彼の懸念も首はしっかりとロックされている事に加え、
通常よりも網の目が細くなっているので、安全だ。
漆黒の扇風機は一転して、金色の旋風輝へと変貌を遂げた。
(´・ω・`)「なるほど……では俺も、本気を出さねばなるまい」
(#´・ω・`)「はぁぁぁぁああああッッ!!」
(;・∀・)「ッ!」
銃の引き金を引くように、ショボンが力をこめドライヤーのスイッチをいれる。
かちり、と小気味よい音がした後に、扇風機に劣らぬ熱風が生まれた。
当然のようにコンセントは繋がれていないが、そんな事は関係ない。
(;・∀・)(なんという馬力だ……あれでは、髪を乾かす時間が惜しい女性に大人気だぞ……。
いやしかし、相応の電力が必要のはず……家庭では使えないのでは……!?)
(´・ω・`)「ククク……どうした? 顔色が悪いぞ」
(´・ω・`)「お前の迷い、俺が飛ばしてやろう。
このドライヤーはな、業務用なんだよ」
(;・∀・)「なん……だと……?」
62 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:13:10
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(;・∀・)「バカな! それでは、家電とは認めないぞ!」
(´・ω・`)「しかし、セレブ御用達なのさ」
(;・∀・)「セレブだと!? 庶民に優しいのが家電のコンセプトではないのか!」
(´・ω・`)「ふん。貧乏人など、俺は知らん」
(#
・∀・)「貴様ァァァァァァァ!」
激昂したモララーが、扇風機をショボンに向ける。
空気を切り裂く強烈な風がショボンを捉えようと────
(´・ω・`)「させんッ!」
同じく、ドライヤーをモララーに向け、風を射出させる。
冷風と温風が二人の中間でぶつかり合い、力の押し合いが始まった。
( ・∀・)「うおおおおぉぉぉぉッッ!」
(´・ω・`)「はぁぁぁぁあああッッ!」
風量は、拮抗していた。
63 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:15:19
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小さなドライヤーでありながら、扇風機と互角に渡り合えているのは、
やはりショボンが凄まじい力を持っているという事だろう。
(;´・ω・`)「くッ!?」
(;-∀-)「……ッ」
扇風機が巻き上げた埃が、ショボンの目を襲った。
対するモララーは、ドライヤーがもたらす乾燥に目が乾き、まばたきが増えていた。
だがそこは選ばれし家電使い。そんな程度の事は、我慢できるようである。
暫くそれが続くと思われた矢先。
(´・ω・`)「……モララーよ」
(;・∀・)「……?」
(´・ω・`)「教えてやろう。俺はまだ、『強』を押していない」
(;・∀・)「なん……だと……?」
モララーは放っているのは、規格外である超風。
それで互角なのだ。しかしショボンはその上を更に越えられると言う。
(´・ω・`)「くらえ! モララー! これが……強風だ!」
(;・∀・)「ぐ、ぐああぁぁぁぁぁああッ!」
65 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:18:25
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ハッタリではなかった。
強風を押されたショボンのドライヤーは見る間にモララーの風を押し返していく。
モララーの体が風に押され、じりじりと後退していった。
(;・∀・)「く、くそ……なんという圧力と、乾燥力……! 加えてこれは……!」
(´・ω・`)「気付いたか。マイナスイオンさ」
(;・∀・)「ドライヤーのくせに……!」
(´・ω・`)「家電製品の世界は常に進化している。風を生むだけの扇風機如き、敵ではない」
(;・∀・)「扇風機だって……マイナスイオンを生むものもある!」
(´・ω・`)「クーラーには勝てんさ。何もかもが、中途半端なんだよ」
(;・∀・)「クソッ!」
(´・ω・`)「さぁ、そろそろ、フィナーレといこう」
風を放出し続け、一歩、二歩とモララーに近づいていく。
それに押され、モララーは更に後退をし続け……壁に背がついた。
(´・ω・`)「ククク……ドライヤーに押し潰されろ!」
(;・∀・)「うわああああぁぁぁぁぁぁ!」
66 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:20:12
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(;・∀・)(私は……私は……ここまでなのか……)
(;・∀・)(アイツには、勝てないのか……仇を、討てないのか……!)
『……頑張るんだお! モララー!』
(;・∀・)(!? 内藤!?)
(´・ω・`)「……?」
(;・∀・)(内藤の声が……聞こえたような……)
『モララーなら勝てるお! 自分を信じるんだお!』
(;・∀・)(内藤……内藤なのか!?)
『僕の意思は、この扇風機に引き継がれてるんだお』
(;・∀・)(……まさか! 扇風機!)
『モララーの扇風機は、僕の冷蔵庫の部品が使われてるんだお。そして……』
『俺の電子レンジもな!』
(;・∀・)(ジョルジュ!?)
68 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:23:10
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『俺達の想いが、お前の扇風機に込められているんだぜ!』
(;・∀・)(……山○電機の修理人が言っていた……家電の力は、受け継がれると……!
こういうことだったのか!)
『ちなみに、首のロックレバーを押す度にチーン!って鳴るんだぜ!』
(;・∀・)(それは要らない……!)
『さぁ! 頑張るんだお! 僕達がついてるお!』
(;・∀・)「……!」
(´・ω・`)(ん? なんだ? 急に風が……)
(#
・∀・)「はああああぁぁぁぁぁっぁあッッ!!」
(´・ω・`)「!?」
友の声を確かに聴いたモララーが、横へと飛んだ。
(´・ω・`)「くッ!」
すかさずモララーにまたドライヤーを向ける。
いくら強化されていようが、扇風機である。素早い動きは、不可能であった。
69 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:26:57
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しかしそこに。
( ・∀・)「こらショボン! ブレーカー飛ぶでしょ!」
(;´・ω・`)「ッ!」
モララーが上げた声に一瞬身を震わせ、ショボンはなんとドライヤーを切ってしまった。
悲しくも庶民の条件反射がもたらした結果であった。
セレブセレブとのたまっていた彼だったが、幼い頃は貧しい家で育っていたのだ。
母の真似をし、格好つけてドライヤーで髪を乾かしていた時にブレーカーが落ち、
突如暗闇に包まれたトラウマが蘇っていた。
(´・ω・`)「電気! 電気はどこ!?」
(#
・∀・)「今だ!」
隙をつき、ショボンに近づく。
眼前に扇風機が現れ、正気に戻った時には、もう遅い。
最後の力を込められた、閃光の旋風輝が吼える────
(#
・∀・)「俺が! 俺達が! 扇風機だぁぁぁぁぁぁッッ!!」
70 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:28:27
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(´・ω・`)「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
(#
・∀・)「思い出せ! 家電を愛したあの頃を! 庶民の味方の家電達を!」
(´・ω・`)「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
(#
・∀・)「お前にも、そんな時が確かに! あったはずだ!」
(´;ω;`)「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
(#
・∀・)「思い出せええええぇぇぇぇぇッッ!!」
(´;ω;`)「ヷレ゙ヷレ゙バヴヂュ゙ヴジン゙ダ────!!」
────────────…………
71 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 05:29:19
ID:VL0c.mtU0
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────────────…………
かくして、家電使い達の戦争は幕を閉じた。
彼らの戦いは、決して忘れてはならない。
私達は、彼らから多くの事を学ばされた。
家電製品は、用法を守って使用しなければならないということを────
終わり。
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