( ^ω^)「ブラッドソード!」


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:37:23.27 ID:jvyZ7I030

原作:ゲームブック ブラッドソードシリーズ

#1『勝利の証しを掴め!』

Cap.1領主達の静かな戦争

 
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:39:13.67 ID:jvyZ7I030

( ^ω^)「…」


君の目の前には、クラースの平原が広がっている。
季節は晩秋から冬に移ろうとする頃。
空は深い青の色に透き通って広がる。
ひんやりとした風がときおり吹いて、水たまりの表面にさざ波をつくってゆく。

明日、クラース砦の地下迷宮で年に一度の競技が開催される。

迷宮に隠された『勝利の紋章』を探し出して戻った者には、莫大な報酬が与えられるという。
そのためクラースの領主『マグス』の中から誰かをスポンサーにつけなければいけない。


( ^ω^)「…」


思惑を抱いて道を行く旅の男の目の前に、いまクラースの領主達の砦が空にそびえる様子がボンヤリと見えてきた…



 
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:41:02.78 ID:jvyZ7I030

*    *    *    *


旅の男は、荷馬車や人でごった返す通りをぬけて、祭り騒ぎの中心となっている巨大な石垣造りの門へたどり着いた。
目の前の通りには領主達の旗が立ち並び、その中に明日の競技の参加者の受付をしている小屋があった。

参加者はスポンサーのペナントを迷宮に携帯しなければならない。
見たところ、小屋の外には1つのペナントしか残っていないようだった。


( ^ω^)「…」


赤のペナント。
旅人は記憶をたぐって、真紅のペナントの持ち主マグス・バラザールに関するいくつかの事を思い出してみた。
彼はここ数年競技に負け続けている。
もし今年も負けるようなことがあれば、領土のうちから数千エーカーに及ぶ森を手放さなければならなくなるだろう。

 
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:43:04.28 ID:jvyZ7I030

旅人が小屋の前でそんなことを考えているそのとき、真紅のマントをはおった背の高い男が中から姿を現した。


( ФωФ)「!?」


堂々としたいでたちの男は、旅人の姿を見てピンと伸びた口髭を一度撫で付けて落ち着かせた。
そして深みのある声で問いかけた。


( ФωФ)「君、つかぬ事を聞くが…もしや明日の競技の参加希望者かね?」


旅人はそうであると返答した。


( ФωФ)「ふむ、名と職業は?」

( ^ω^)「名は内藤。大きな声で言えたことではないが、盗賊を生業としているお」

(; ФωФ)「うむ、いや…うん、平時ならともかくこの競技に関してはそれもまあ。…あまり正直なのも考えものだが」

 
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:45:21.98 ID:jvyZ7I030

真紅のマントの男はしきりに口髭を撫でながら言葉を続ける。


( ФωФ)「わしはマグス・バラザールである」

( ФωФ)「そちらが明日の競技でわしのために戦う気があるならば歓迎する」


旅人は何か言いかけたが、バラザールがさえぎって言った。


( ФωФ)「しかしその前に、雇うに相応しいかどうか試させてもらわねばならん」

( ФωФ)「この競技は力や度胸だけでどうかなるものではない。候補者はこれまで何人か居たのだが、任せるに足る者がついに現れず、不採用としていたのだ」

( ФωФ)「くれぐれも、人気がなくて売れ残ってたとは思わないことだ。くれぐれも」

( ^ω^)「それは別に言わなくても」

( ФωФ)「時間も無いことであるし、これからわしの館へ来るがよい。そうすればどんな試験か分かるだろう」


一方的にそう告げるとバラザールは控えていた召使いに合図をして、マントをひるがえし歩み去った。

 
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:48:04.12 ID:jvyZ7I030

召使いに連れられるまま、旅人はバラザールの館へ案内された。
流麗な彫刻の灯籠と真紅の旗が並ぶ杉の並木の通路が大理石の玄関までつづいている。
衛兵が行き来する様子をいささか気にしながら旅人が玄関をくぐるとき、どこかの教会の鐘がながく鳴り、夕刻を知らせるのが聞こえた。

応接室に通され、きれいなスリッパを履かされたあと、大ホールへと案内される。
中ではパーティが開かれていた。
パーティの客はすべて仮面をしていた。
仮面の人達は思い思いに食事や音楽を楽しんでいた。

召使いが、旅人にもカクテルグラスの載った盆を差し出して、取るように勧める。


( ^ω^)「言ってくれれば仮面の一つや二つ用意したのだがね」

||‘‐‘||レ「大丈夫ですよそのままでも」

( ^ω^)「なんだと?」


||‘‐‘||レ「いっいえそういう意味ではなく」

||‘‐‘||レ「ごほん、んっん、御主人様はあなた様に仕事をお任せになります、…この中からあの方を見つけることができればの話ですが」

( ^ω^)「なるほど、もう始まっているのかね」

 
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:50:15.44 ID:jvyZ7I030

旅人は仮面の客たちを見た。
小憎たらしい余興を思い付いた御主人様はどこにいるのか。

客は皆、思い思いの扮装に身を包んでいた。
衣服の色…背格好…、注目すべきところはいろいろあるだろうが…


( ^ω^)「…」

( ^ω^)「!」


旅人はホールを見渡すうち、あるものを見つけて目をパチクリさせた。
向こうの方で、口髭を生やした猫が長椅子に掛けて若い女性と談笑していた。

正確にいうとそれは猫のかぶりものをした中年の男性だった。
どうにも見間違えようがない。

旅人は静かに近付いた。


( ^ω^)「閣下、何というか、もう少しその…」

( ФωФ)「この試験に合格した者はそなたがはじめてだ」

( ^ω^)「マジで」


 
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:52:49.84 ID:jvyZ7I030

それではナゾナゾ遊びはこれくらいで、とマグス・バラザールが片手で払う仕草をすると、パーティの客は消え失せた。
大広間は空っぽになった。
すべてはマグスの作り出した幻だったのだ。
クラースの領主であるマグスは、皆強力な魔術師なのである。


( ФωФ)「文句なく試験は合格だ、君を我が戦士として雇…」

( ФωФ)「!?」


バラザールは突然ハッとして周囲を見た。
旅人も同じく鋭く視線を飛ばす。
二人は同時に、柱の陰に青いマントの人影が潜んでいるのに気が付いた。


( ФωФ)「刺客だ!」


気付かれたのを知ると、刺客は突進してきた。
とっさに旅人はスポンサーをかばって前に出て、暗殺者の行く手をさえぎる。

 
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:54:22.82 ID:jvyZ7I030

すると刺客は身をかわし、呪文の準備に気を取られていたバラザールめがけて短剣を投げつけた!


(; ФωФ)「あっ!痛い!」


凶器は空を切ってバラザールの肩へ突き刺さった。
彼はすぐさまそれを引き抜いたが、刃の先が毒でギラギラ光っているのが見えた。
バラザールは大きくゆらめいて、床に倒れた。


||‘‐‘||レ「キャーッ!御主人様ー!?」

( ^ω^)「大変!だれか!男の人呼んで!」


すぐさま駆けつけた衛兵とともに旅人は逃げる刺客を追ったが、刺客は手裏剣を投げて彼らをひるませると、バルコニーから身をおどらせて夜の闇の中へ消えてしまった。


 
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:56:17.01 ID:jvyZ7I030

彼らは仕方なく雇い主のそばへ戻った。


(; ФωФ)「ハフッ、ハフッ…どうやらわしの魔法ではこの毒を取り除くことはできないとみえる」


バラザールの声は弱々しかった。


( ФωФ)「あの暗殺者は我が宿敵マグス・ヴァイルの手の者に違いなかろう。…あの忌々しい吸血鬼め!」

(; ФωФ)「ゲッホゲッホ!」

( ФωФ)「わしが死ねばそなたは雇い主を失い、失格となる。すまないが来年また別口をさがして挑戦してくれるかね」

 
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 21:58:01.65 ID:jvyZ7I030

見守っている間にもマグス・バラザールの容態は悪化しているようだった。
彼は苦しい息の合間に、無理に笑ってみせようとした。


( ^ω^)「こちらはいわれの通りの雇われの身だが、その申し出はうけることはできないお」

( ^ω^)「あんたはまだ死んでない。まだできることがあるはずだお」

( ФωФ)「…うれしいことを言ってくれる。唯一の望みは───」

( ФωФ)「マグス・ヴァイルの青の塔へ行き、解毒剤を見つけることだ。毒をつかう者は、解毒の方法も必ず用意しているものだ」

( ФωФ)「そなたを頼りにしている…」


バラザールはそれだけ言うと昏睡に陥った。
召使いが衛兵の手をかりて、主人を寝室に運ばせる。
彼の命は明日の朝までもたないだろう。
それまでに解毒剤を手に入れなければならない。
男は荷物の中からいくつか武器になりそうなものを携えると、先を急いだ。


 
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:00:48.41 ID:jvyZ7I030

*    *    *    *


キャラクターノート:

( ^ω^)

クラス/盗賊ランク6
性格/抜け目ない
筋力/そこそこ
機転/きくほう
根気/なし
集中力/いざというときは
耐久力/人並み

所持品/
狩猟鞭
投擲用ナイフx3
煙草


*    *    *    *

 
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:02:23.99 ID:jvyZ7I030

祭り騒ぎの熱気がただよう夜のなか、召使いから聞いた青の塔への道を急ぐ。
空はすっかり暗い。
浮かれ騒ぐ人々を追い越して駆け抜け、祭りの喧噪が遠ざかってゆく。
川にかかる狭い橋を渡り、砂利を敷き詰めた小路を過ぎて、沈黙とともに夜にそびえる青の塔の下へとたどり着いた。


( ^ω^)「…」


塔の入り口の近くには、不吉な動物の群を彫刻した石壷があった。
そこから鼻をツンと刺すような不快な臭いが漂っていた。
のぞいてみると、異臭の元は黒こげの骨であることが分かった。
燃え残りの大きさから察するに人骨のようである。
意図までは分からないにしろ、ここが不吉な場所であることには違いなかった。

月は黒い雲間に隠れている。
遠くになった大通りのざわめきが今では亡霊たちのうめき声のように聞こえ、不安を大きくさせる。


( ^ω^)「…」


男は足音を忍ばせて青の塔の入り口に近付いた。

 
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:03:59.47 ID:jvyZ7I030

ガサガサッ、

( ^ω^)「!?」


突如、辺りの藪の中から音がしたと思うと、青いマントの刺客が姿をあらわした。

不意を突かれはしたが、男はすぐ戸口に飛び込んで扉を閉めてかんぬきを下ろした。
それと同時に、カツン!カツン!と刃物が二つほど木の扉に突き刺さる音が聞こえた。

男は耳をそば立ててみる。
外からはそれきり何の音も聞こえない。
しかし余裕は無い。
こちらの潜入を感付かれてしまった。


( ^ω^)「…」


男は周囲を見回す。
塔を上へのぼる螺旋階段があった。
待ち伏せに用心して、男は階段を上って行く。


 
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:06:20.68 ID:jvyZ7I030

( ^ω^)「?」


途中に戸口を見つけて、男はそっと開けてみた。

そこはクラースの伝説に出てくる悪魔のひとつを祀った礼拝堂のようだった。
煤汚れのひどい祭壇の上には、まだ生乾きの動物の皮が広げられていた。
その両側には青白い火を燃やす金属の鉢が配置されている。
部屋には不快な煙が立ち込めていた。

祭壇の後ろをのぞくと、マグス・ヴァイルの紋章と、もうひとつ見慣れない紋章が刻まれた板金が掛けられていた。
男はすこし考えを巡らして、それに思い当たる。


( ^ω^)「…吸血鬼の秘密結社の紋章だお」

( ^ω^)「マグス・バラザールの言葉は、ただの揶揄ではなかったと。…いささかめんどうな事ではあるが」


さらに祭壇の後ろには隣の部屋へ通じる扉があって、わずかに開いて中の様子を見せていた。
長身に黒いマントを羽織った顔色の悪い男がいて、男は気怠げに長椅子もたれかかっていた。

いや違う。
長椅子に見えたのは石の棺だった。

背の高い男は人の気配に気付いて、顔を上げた。

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:07:59.58 ID:jvyZ7I030

(´<_` )「誰か…そこにいるのか」

( ^ω^)「…」


考えを巡らす。
いまさら逃げようとしたところで逃げきれる保証は無い。
相手はすでにこちらの存在に気付いているうえに、人間を越えた力を持つ吸血鬼なのだ。

吸血鬼の居城に忍び込んだ盗賊は、扉の陰で姿が隠れる位置を保ちつつ、発する言葉を用心深く選んだ。


( ^ω^)「閣下…仰せの通り、まぬけを一人片付けてきた。次は誰を?」

(´<_` )「…よい、これで十分だ」


吸血鬼は片手に持つ杯をかたむけて、ドロリとした液体をすすった。

 
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:09:49.40 ID:jvyZ7I030

(´<_` )「ふたたび呼ぶまで、いつもの場所に戻っているがいい」

( ^ω^)「御意…」


盗賊はもっともらしく頭を下げて、恐るべき塔の主に背を向けた。
歩きだそうとしたところで、不穏に空気がゆらめくのを感じて、盗賊は踏み留まって身を沈めた。

ほんの一瞬前まで頭のあった場所の空気を切り裂いて、刃物が戸口に突き刺さった!


(´<_` )「いつもの場所とは、それはすなわち…地獄だ!」

(´<_` )「人間ごときの浅知恵で、この俺をたばかれると思ったか!忌々しいバラザールの犬め!生かしては帰さんぞ!」

( ´_ゝ`)「というか俺が教えなきゃすっかり騙されてたところだよね」


盗賊の企みなどどうやらお見通しだった様子の吸血鬼の隣には、件の刺客まで姿をあらわした。

 
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:11:20.10 ID:jvyZ7I030

(´<_` )「ええい、うるさいぞ兄者!さっさと片付けるぞ!」

( ´_ゝ`)「勘だけどたぶんこいつ腕立つよ?さっき俺、睨まれただけでビビって腰抜けそうだったもん」

(´<_` )「そういうことを相手に聞こえるように言うなよ!?戦う前からナメられるだろ!このバカ!!」

( ´_ゝ`)「バカって言うなよ!お前のバカには愛がこもってないんだよ!ばかぁ!!」



( ^ω^)「…」


盗賊はその様子を黙って見ていたわけではない。
呼吸を整えていた。
そして心を研ぎ澄ましていた。
いささか緊張感に欠くやりとりを見るかぎり、刺客の方も吸血鬼である可能性が高い。

それはつまり吸血鬼の攻撃を二度だけやり過ごす必要があるということだ。

 
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:13:00.91 ID:jvyZ7I030

( ^ω^)「ひとついいかね」

( ^ω^)「これから一戦を交えるにあたり、公平を期すため言っておく」


準備は整った。
盗賊は、二人の吸血鬼の言い争いに口を挟んだ。


( ´_ゝ`)「おう、何だ。こちらの役に立つことなら聞いてやる」

(´<_` )「どうせ先の短い命だ、何を言うのも勝手だが手短にな」


( ^ω^)「不死者を狩るのはこれが初めてではない」

( ´_ゝ`)「!?」(´<_` )


言葉と同時に盗賊の手から短刀が放たれた。
それは吸血鬼の目には、恐るべき山吹色の輝きを発しているように見えたはずだ。
短刀は、左に立つ吸血鬼の胸に吸い込まれるように正確に突き刺さった。

青いマントを身につけた方の吸血鬼は糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちた。


 
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:15:35.22 ID:jvyZ7I030

(´<_` )「あ、兄者っ!兄者が!!きっ貴様ぁーっ!!」


黒いマントの吸血鬼は驚きと怒りに形相をゆがめ、指で複雑な印を作った。
次に吸血鬼は魔法の詠唱をはじめるだろう。


( ^ω^)「…」


問題は、何の魔法を選ぶかだ。
『ネメシスの電光』も『火竜の吐息』も吸血鬼が使うとは思えない。
夜の住人は、まぶしかったり熱かったりするものは嫌うものだ。

『盲目的服従』だろうか。
いや相手は頭に血が昇っている。
もっと直接的な方法で息の根を止めにくるだろう。


( ^ω^)「そう、答えは『死の雲』だ」


 
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:17:51.38 ID:jvyZ7I030

盗賊は壁を蹴って空中に身を踊らせた。
と同時に、いままで盗賊が立っていた所の床から黒く渦巻く雲が染み出して、木の扉を腐らせた。

盗賊は片手をのばし据え付けられた蝋燭の燭台を握ると、もう片方の手で吸血鬼めがけて鞭を振り下ろした。
吸血鬼にはそれが稲妻をまとった一撃のように見えたはずだ。


(´<_` )「グハアッ!?」


鞭で打たれた吸血鬼は、まるで雷にでも打たれたかのように弾き飛ばされた。
不完全な詠唱によって呼び出された危険な雲は、すぐに消えた。
危険が無くなったことを確認して、盗賊はふたたび部屋の床に降り立った。


( ^ω^)「さて、聞こえているかね、ええと…弟の方かな?」

 
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:19:55.62 ID:jvyZ7I030

打たれた衝撃で部屋の隅まで飛ばされた吸血鬼(弟)は、小馬鹿にしたような声を聞いて怒りをあらわにした。


(´<_` )「ぐぬっ、…キサマ人間の分際で!許さんぞ!」

( ^ω^)「息巻くのは構わないが、大切な兄の運命がこちらの手の中にあることを知るべきだお」

(´<_` )「なんだと!」

( ^ω^)「この手から…向こうの胸に刺さる短刀に糸がのびているのが分かるかね」

( ^ω^)「こちらの思いひとつで、あれを破裂させることもできる」

(´<_` )「!!」

( ^ω^)「不死者ならば、あれに込めた力が生命の輝きとして見えたはずだお」

( ^ω^)「さすがの吸血鬼といえど、心臓が破裂してしまってはマズいことになるだろう?」

(´<_` )「さきほどの妙に派手な鞭の一撃といい、まさかキサマ噂に聞く波紋能力者とやらか!」

( ^ω^)「嘘やハッタリなどではないことが分かれば、呼び名はどうでもいいお」

 
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:21:59.80 ID:jvyZ7I030

吸血鬼はまだ怒りの色をやどらせた目で盗賊をにらみつけた。


(´<_` )「キサマの望みは何だ…」

( ^ω^)「マグス・バラザールの解毒剤を所望する。至急」

(´<_` )「解毒も何もアレは」


するとそのとき入り口から、誰かが騒々しく部屋へ入ってきた。


( ФωФ)「ハイ合格ー!ここまでが試験でしたー!」

( ФωФ)「内藤君オメデトウ!採用決定です!」

||‘‐‘||レ「ぱーん!」

 
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:23:49.57 ID:jvyZ7I030

ちょっと信じられないことだが、それはマグス・バラザールだった。
召使いは楽しそうにクラッカーを鳴らした。
それでも凍り付いたその場の空気は払拭できなかった。


(´<_` )「ただの痺れ…薬で…バルザール貴様ここで何をしている」

( ФωФ)「説明をご所望かね。それでは召使いクン、解説してあげて」

||‘‐‘||レ「はい!解説します!」

||‘‐‘||レ「すべては、昨日カードでボロクソに負けたマグス・ヴァイルが腹いせに嫌がらせをしに来るのを、御主人様があらかじめ魔法で予知して、仕組んだことなのです」

||‘‐‘||レ「嫌がらせ返しもできるし出場選手の度胸も試せるしで、まさに一石二鳥というわけです!まいったか!」



( ^ω^)「…」


盗賊は、黙ってマグス・バルザールと召使いのところまで行くと、二人の耳をつかんだ。




 
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:26:04.51 ID:jvyZ7I030

( ^ω^)「マグス・ヴァイル、少々失礼するお。こちらの二人と話がある」

(´<_` )「ああ…うん」

(; ФωФ)「痛い痛い!乱暴にしないで!」

||‘‐‘||レ「つよくしちゃらめぇ!」


三人の招かれざる客が話し合いの場を隣の部屋に移すと、床にうずくまっていた青いマントの吸血鬼がようやく起き上がった。
吸血鬼(兄)は自分の胸に刺さる短剣を抜いて、興味深そうにそれを眺めた。
元々青白い顔は、こころなしか更に青白くなっているようだった。


( ´_ゝ`)「ふう、今回ばかりは本気で死ぬかと思った」

(´<_` )「大丈夫なのか、兄者」

( ´_ゝ`)「やっぱり何事も暴力で解決するのはよくないよね」

(´<_` )「まあそれは、うん。場合にもよるが」


 
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:29:10.79 ID:jvyZ7I030

兄弟が落ち着きを取り戻していると、隣の部屋から切羽詰まった悲鳴が聞こえる。



 おひげは!おひげはやめてあげて!



ドタバタと争う物音と悲鳴と、続けざまに魔法の炸裂する音などがする。
いま聞こえたのは『ネメシスの電光』だろうか。
一般に知られる中では最高位の威力の呪文とされている。


( ´_ゝ`)「…」

(´<_` )「…」

( ´_ゝ`)「やっぱり暴力はよくないよね」

(´<_` )「そうだね」


 
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:31:13.00 ID:jvyZ7I030

やがて話し合いが済んだのか、三人がふたたび兄弟の前へやってきた。
どれだけ壮絶な話し合いだったかはそれぞれの様子を見れば察しがついた。

盗賊はあちこち黒コゲで髪がチリチリになっていたし、召使いは服がはだけて下着の肩紐が見えてた。
マグス・バラザールは片目に青あざをつくり、鼻にチリ紙を差し込んでいた。
なにより自慢の口髭が半分取れかけていた。

兄弟はどう声をかけたものか迷っていたが、その末に兄の方がぽつりと言った。


( ´_ゝ`)「あれツケヒゲだったんだ」

( ^ω^)「…まずはこの場を代表して謝罪させていただきたい」

( ^ω^)「とんだ非礼をはたらいてしまって申し訳ない。こちらの雇い主も、このとおり反省して」

(^ω^ )

(# ФωФ)「…」

(# Ф益Ф)「どうもすみませんでした!」

(^ω^ )「なにそれふざけてるの」

 
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:33:10.23 ID:jvyZ7I030

平謝りに謝ってどうにかその場を収めた末、帰ろうとする一行に、吸血鬼の兄弟は「ちょっと待ちたまえ」と声をかけた。


||‘‐‘||レ「ま、まだ何か?」

||‘‐‘||レ「はっ!」

||‘‐‘||レ「これだけでは気がおさまらずに、わたしを性的にどうにかしようと!?」

(´<_` )「そうじゃなくて」

( ´_ゝ`)「用があるのはそちらの盗賊だよ」

(; ^ω^)ビクッ!?

(´<_` )「いや本当にそういうのじゃなくて」


兄弟はそれぞれ部屋に備え付けのキャビネットから大事そうに品物を取り出すと、それを盗賊に手渡した。
弟は象形文字の刻まれたスカラベの首飾りを。
兄は黒くかがやく小さな多面体を盗賊の手に握らせた。


 
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:34:55.35 ID:jvyZ7I030

*    *    *    *


クエスト:吸血鬼の塔

平和的に解決(経験値300)

入手アイテム/
復活の首飾り
輝く多面体


*    *    *    *


 

 

 

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/17(水) 22:37:48.41 ID:jvyZ7I030

賞賛を形として受け取って、吸血鬼の塔を後にする。

バラザールの屋敷に戻り、あてがわれた客室に落ち着くと、一日の疲れがまとめて押し寄せてきた。
盗賊はふかふかしたソファーに体を沈めた。
領主の館の家具だけあって、座り心地はよかった。
煙草を取り出して、静かに火を付けた。

まもなく真夜中の鐘が鳴る。



Cap.1領主達の静かな戦争/ここまで
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