ζ(゚ー゚*ζは卵を割るようです
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:43:23.98 ID:C7vYBgTo0
不意に後ろから拍手が響いて来た。
( ^ω^)
内藤君が笑顔で拍手をしている。
私の歌を褒めてくれるが、私は少し照れくさかった。
何で急に歌いたくなったのかを考えると、たぶん内藤君の言葉が嬉しかったからだと納得して、その拍手を受け取る事にした。
ζ(゚ー゚*ζ「さて、そろそろ戻らないと授業始まっちゃうよ?」
( ^ω^)「お?」
少々屋上に長居しすぎた。
もうすぐ昼休みの終わりのチャイムが鳴る頃だ。
腕時計は付けていないが、そのくらいの時間は感覚的に察せられる。
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとそこ、離れてもらえるかな?」
(;^ω^)「ひょっとして飛び降りるつもりですかお?」
内藤君はすぐ私の意図を察してくれたが、それは危険だから止めるようにと言い出した。
別にこの程度の高さから飛び降りるくらい、私にとっては何でもないのだが、内藤君は頑として言う事を聞かない。
この短い時間で自分の主張を簡単に曲げないようになったのは喜ばしい事かもしれないが、あんまりのんびりしてると授業に遅れてしまう。
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- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:44:46.00 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚、゚*ζ「いいからそこ、ちょっと下がってってば」
(;^ω^)「危ないですお!」
もう、頑固だな。
まあ、元々心のやさしい子なんだろうね。
自分の事は言えなくても、他人の事には親身になれるような。
ζ(゚、゚*ζ(まあ、そこにいても飛び降りは出来るんだけどね)
それなりに広い屋上だ。
内藤君がそこにいても飛び降りる場所には事欠かない。
事欠かないのだが、内藤君にそこにいられると少しばかり問題があるのだ。
ζ(゚、゚*ζ「私は、内藤君が何と言おうと飛び降りるよ?」
相応に鍛えてるし、これくらいでどうにかなるようなやわな身体じゃない。
ζ(-、-*ζ「でもねー……内藤君にそこにいられると、ちょっと困るんだよねー……」
(;^ω^)「お?」
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- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:46:22.15 ID:C7vYBgTo0
ζ(-、-*ζ「……主にスカート的な話で」
(;^ω^)「お……お!?」
どうやら内藤君は私が言わんとせん事の意味がわかったらしい。
顔を紅潮させに、しきりに頷いている。
ζ(゚ー゚*ζ「というわけで、ちょっと下がって向こう向いててもらえるかな?」
(;^ω^)「そ、それは出来ませんお!」
ζ(゚、゚;ζ「お? 何でよ? 私の話し聞いてた?」
聞き返した私に返って来た内藤君の声は、万が一着地の際に転んだりした場合などすぐに助けなければ危険だと主張する
言葉だった。
いや、流石にその言い分には無理があるというか、そもそもこのぐらいの高さは全然平気だと言ってるのに。
ζ(-、-;ζ(そんなに見たいのか……)
男はケダモノよ、と言ってたショボ子ちゃんの言葉が思い出される。
うん、本当にどうしようもないね、男の子って。
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- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:47:40.59 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚、゚*ζ「あのね、もし見たら明日から1ヶ月間毎日お昼にアンパンおごらせるよ?」
(;^ω^)「はい、3千円ぐらいでパン──デレさんの安全が確認出来るなら安いもんですお!」
_,
ζ(゚ー゚*ζ「パン……?」
私は眉根を寄せ、大きくため息を吐く。
この子、別に私のアドバイスなんかなくてもたくましく生きていけたんじゃないかと今更ながら思う。
ζ(-、-;ζ(男の子って馬鹿なんだなぁ……)
私はそう思い、色々とめんどくさくなって前置きなく、ひょいっとフェンスから飛び降りた。
ζ(゚、゚*ζ「いよっと」
(;^ω^)「おお!?」
内藤君の上を目掛けて。
(;゚ω゚)「グファッ!?」
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- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:49:13.30 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚ー゚*ζ「着地成功」
私はうつ伏せに潰れた内藤君の上に両手を広げて立ち、問い掛ける。
ζ(゚、゚*ζ「見えた?」
;;(;゚ω゚);;「……」
ζ(゚、゚*ζ「?」
;;(;゚ω゚);;「……────」
_,
ζ(゚ー゚*ζ「……」
私は、なおも小刻みに震え、悶絶する内藤君を踏み台に屋上の入り口に向かって飛び跳ねる。
ζ(-、-*ζ(やれやれ、男の子ってのは……)
潰れたカエルのようなうめき声が聞こえたが、あの様子だとどこもケガはしていないだろう。
私はまたね、と振り向かずに声を掛け、屋上の窓からその身を校舎に滑り込ませた。
その瞬間、昼休みの終わりを告げる間の伸びたチャイムの音が響いた。
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- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:50:34.94 ID:C7vYBgTo0
- ・・・・
・・・
いくつもの殻を割って来たつもりだったけど、私は割ったその殻を、そのままかぶっていたのかもしれない。
守るものは私自身。
弱い私自身を守る為。
繰り返す毎日。
繰り返す出来事。
強くなろうと決めた自分の考えが間違ってたとは思わない。
でも、暴力じゃ何も解決しないっていうのもよくある話。
じゃあどうすればよかったのかも、誰も教えてくれない。
私が我慢すればいいってのも、何だか理不尽な話である。
結局、私はまだ卵の中に閉じこもっていたのかなと思う。
答えなんてわからない。
でも、1つだけわかってた事がある。
私は私が嫌いだった。
私が卵でなければ、私は私を好きでいられただろうか。
-
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- 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:52:11.62 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚、゚*ζ「寒ぅ……」
三寒四温とはよく言ったものだ。
昨日までは暖かかったのに、今日は急に冷え込んできた。
こんな日に集会なんてやらなくてもいいのにと思うものも、流石に今日ばかりはそんなことも言ってられないのだろう。
爪#'−`)「逃げずに来たことだけは褒めてやんよ」
从#゚∀从「あ? 言ってろ、ボケが。何でアタシらが手前如きから逃げなきゃなんねーんだよ?」
ζ(゚、゚*ζ「おーおー、寒いのに元気だねー」
既に一触即発のお二人さん。
片方は説明するまでもなく、うちの総長のハイン。
そしてもう1人は、うちの抗争相手である、火夜弧倶楽部の総長のフォックスちゃん。
爪#'−`)「あ? 何だとこの蛇女が!」
从#゚∀从「うるせー、狐野郎!」
ζ(゚、゚*ζ「どっちもどっちだよねー」
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- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:54:47.01 ID:C7vYBgTo0
二人とも切れ長の目で鋭い目付きをしているので、その喩えはあんまり外れてもいない気がする。
野郎じゃないけど。
二人は幼馴染だったとか何とかで、昔っから色々やらかしてきたらしい。
味方によっては、子供のケンカの延長線上みたいでかわいらしいものなのかもしれない。
使ってる言葉はあんまりかわいらしくもないけども。
ノレ´^ω^`)「姐さん、寒くないっスか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと寒いけど平気だよ。ショボ子ちゃんは大丈夫?」
特攻服自体が冬使用なので暖かいので、下がTシャツでもそんなに寒くはない。
流石にサラシ1枚は厳しいものがあるのでTシャツだ。
皆もその方が良いと勧めてくれた。
特にハインが苦々しげな顔をしていたのはあまり触れないでおくのがやさしさかもしれない。
ノレ´^ω^`)「自分は全然平気っすよ」
冬場なのに上半身サラシのみという姿で力こぶを作ってみせるショボ子ちゃん。
見てるこっちの方が寒く感じるぐらいだが、無理してるようには見えないので頷いておいた。
ζ(゚、゚*ζ「しかし、早いとこ初めて欲しいかなーって感じだよね」
私は少し大きめに、にらみ合ってる二人に聞こえるぐらいの声で呟いた。
ハインはちょっと笑ってたが、フォックスちゃんはこちらをきっと睨んだ。
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- 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:57:04.35 ID:C7vYBgTo0
爪#'−`)「随分余裕じゃねーか」
从 -∀从「実際、余裕なんだろうな、アイツは」
憤るフォックスちゃんとは対照的に、ハインは呆れたような笑みを浮かべていた。
まあ、実際余裕なんだけどね。
フォックスちゃんはハインに譲るとしても、残りは私一人でも別に問題ない。
ζ(^ー^*ζ「というわけで、こっちはこっちで片付けるから、あとはよろしくね」
そう宣言し、笑顔で前に出る。
両方のチームがざわめき出すが、明らかに向こうはちょっとビビってる感じだ。
これまでの抗争で私の事は文字通り身を持って知ってるだろうから、それも無理はないだろう。
川,,゚Д゚)「姐さん」
ギコ子ちゃんやショボ子ちゃん達がすぐに私の前に出ようとするが、私はそれを止める。
ζ(゚、゚*ζ「んー? 私一人でいいよ? 寒いし、さっさと終わらせたいし」
完全に相手を馬鹿にした挑発とも取れる言葉だが何も言い返して来ない。
私が視線を向けると、慌てて視線をそらしてしまう。
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- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
21:58:44.25 ID:C7vYBgTo0
ζ(-、-*ζ(ビビり過ぎ。でも、こんなんで良く争う気になったね……)
今日、この場所に出向いたのは向こうの呼び出しがあったからだ。
決着をつけるとかそんな感じの果たし状みたいなやつが。
その割にこの様子はいささか不自然な気はする。
何かしら手は打っていると思ったのだが……。
ζ(゚ー゚*ζ「引き伸ばし?」
爪;'−`)「!?」
私の大きめな呟きに、露骨に表情を変えるフォックスちゃん。
なるほどね、話ばかりで一向にやり合おうとしないのは何かを待っているってわけね。
从
゚∀从「なるほどな……。何かは仕掛けてるだろうと思ったが、やはりそうか」
納得したように頷くハイン。
ミセ*゚∀゚)リ「ハッ、手前らの小細工なんてお見通しなんだよ!」
それに追従するように怒鳴るミセリ子ちゃんだが、何かを仕掛けてるのを予想はしてても別に対策はしてこなかったんだから、
そんなに偉そうな顔出来る立場じゃないんだけどね。
面倒くさいからいいやってレベルでそのまま来ちゃったし。
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- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:00:33.62 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚ー゚*ζ「どうする? さっさと終わらせる?」
しかし、仕掛けがあるのをわかってるのなら待つ必要もない。
また一歩踏み出した私に、向こうは露骨に後退る。
从 ゚∀从「……だな」
ハインも同じ様に一歩前に、フォックスちゃんの方に踏み出す。
他の皆もそれに呼応するように前進し掛けた時、不意にフォックスちゃんが笑い出した。
爪'ー`)「……間に合ったようだ」
その言葉の意味を察するよりも早く、いくつもの轟音がこちらに向かっている。
耳障りな音を響かせ走り来るバイクの集団。
それがどういう事か、容易に察する事は出来る。
ζ(゚、゚*ζ「なるほどね」
私の呟きはセンスの悪い馬鹿みたいな轟音でかき消される。
向けられるライトに手をかざして遮り、20台ほどのバイクが止まるのを確認した。
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- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:01:59.93 ID:C7vYBgTo0
(=゚д゚)「待たせたラギね」
先頭のバイクから少し小柄な金髪の男の子が私の前を通り、フォックスちゃんの元に歩み寄る。
爪'ー`)「いや、ベストなタイミングだったよ」
从
゚−从「……チッ、まさか野郎共に助力を願うたあ、落ちたもんだな、フォックスよぉ?」
吐き捨てるように言うハインに、またフォックスちゃんは下品な高笑いで答える。
そしておもむろにタバコを取り出した。
爪'ー`)y-「ハッ、卑怯とでも喚くのかい? これも人望さ。勝てばいいんだよ」
何とも陳腐な三下紛いの台詞を吐き、タバコをくわえて仲間に火を点けさせた。
やれやれ、タバコは身体に悪いと思うけどな。
ζ(゚、゚*ζ「だから肌荒れとかひどいんじゃないかなー」
またも大きめに呟いた私を、フォックスちゃんがきっと睨む。
しかし、タバコを捨てたところを見ると少しは気にしてたらしい。
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- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:03:44.85 ID:C7vYBgTo0
爪#'−`)「この状況で随分と余裕じゃねーか」
(=゚д゚)「なるほど、噂通りの大した度胸ラギね」
憤るフォックスちゃんを制し、さっきの男の子がこっちを見る。
どっちかと言えばかわいい顔立ちのように見えるが、なかなか強そうな雰囲気でもある
(=゚д゚)「自己紹介しておくラギかね。虎都誇倶楽部総長トラギコ、よろしくという言葉も変ラギが、故あってお前らを潰すラギよ」
从 ゚∀从「ハッ、アタシらを潰す? 笑わせてくれる」
トラギコ君の言葉に、今度はハインが心底おかしそうに笑った。
私もちょっと微笑んで見せたが、正直寒いので早くして欲しいという位しか考えてなかった。
爪#'−`)「手前、この状況がわかってんのか?」
そんなハインの様子が気に入らないのか、フォックスちゃんはハインを睨みつける。
もう少し私達にビビって欲しいのだろう。
皆緊張した表情はしているものの、あたふたしてるのはミセリ子ちゃんぐらいだ。
爪#'−`)「倍だぞ倍? お前らの倍以上の人数集めて、なおかつ男手も借りたんだ!」
見ればわかることをがなり立てるフォックスちゃん。
しかし、ハインはなおも笑顔のままだ。
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- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:05:54.17 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚、゚*ζ「まあ、そうだねー。数多いと面倒なんだよね」
私は1人呟き、虎都誇倶楽部の人達の方へスタスタと歩み寄る。
慌ててギコ子ちゃん達も走って来るが、その前に先頭の残念な頭を主張した男の子の前で足を止めた。
((((((((((@))
(´・_ゝ・`)「んだ、てめぇはよぉ? やんのか、あぁん?」
外見に則した残念な語彙で威嚇する男の子。
この子の親がこれ見たら悲しむだろうなと思うも、こんなのにも悲しむ親がいるのにと考えると何だか遣る瀬無い。
ζ(゚、゚*ζ(まあ、いないかもだけど……)
だとしても私よりはマシな人生を送って来たはずだろうに、どこでこうも間違っちゃったんだろうね。
私は無造作に手を伸ばし、男の子が抱えていた鉄パイプを奪い取る。
あまりに自然な動きだったからか、男の子は特に抵抗することもなく鉄パイプから手を放していた。
((((((((((@))
(#´・_ゝ・`)「て、てめぇ──」
ζ(゚、゚*ζ「いよっと……」
私はその鉄パイプを両手で軽々と曲げて見せた。
屋上のフェンスに比べれば柔らか過ぎる。
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- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:07:50.57 ID:C7vYBgTo0
- ((((((((((@))
(;´・_ゝ・`)「お……お前……」
さらに鉄パイプを折り曲げ、八つ折に畳んだ辺りで男の子にそれを手渡した。
男の子は呆然とした面持ちで、それを素直に受け取る。
ζ(^ー^*ζ「さて、それじゃやろっか?」
私がにこやかにそう宣言すると、騒然とした空気と共に虎都誇倶楽部の人達は数歩後退る。
ζ(゚、゚*ζ「お?」
爪;'−`)「バ、化け物め……」
(;=゚д゚)「聞きしに勝るラギね……」
忌々しげにこちらを睨むフォックスちゃんと、少し焦った表情でこちらを見るトラギコ君の方に顔を向ける。
ハインはまだ大笑いしている。
いい加減さっさと終わらせて欲しいんだけどな。
ζ(゚、゚*ζ「化け物はないんじゃないかな?」
私は少し真顔でフォックスちゃんを睨みつける。
フォックスちゃんは少し怯んだように見えたけど、総長の意地かその場から後退る事はしなかった。
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- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:09:50.81 ID:C7vYBgTo0
爪;'ー`)「……フッ」
ζ(゚、゚*ζ「?」
強張った表情をしながらも、フォックスちゃんは口元を緩める。
どこにそんな余裕があるのかわからなかったけど、その笑みの理由に私が気付くのにさほどの時間はいらなかった。
爪;'ー`)「正真正銘の化け物じゃねーか、手前はよ?」
ζ(゚−゚*ζ「!?」
从;゚∀从「!?」
爪;'ー`)「調べたぜ、手前の事はよ?」
押し潰されて無機質になったようなフォックスちゃんの言葉が頭の中に響く。
また私を黒い何かが包む。
爪;'ー`)「まさか本当に化け物だったとはな、笑わせてくれる」
ζ( − *ζ「……」
何度も何度も殻を割り、前に進んだつもりでいたけれど、私はまた囚われる。
たった一言の言葉で。
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- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:11:06.82 ID:C7vYBgTo0
从;゚∀从「止めろ、馬鹿野郎!」
爪'∀`)「こいつは卵から生まれた化け物だ、人間じゃねえんだよ!」
ζ( ζ
全ての音が消えたと思ったのは気のせいだろう。
この耳に届く哄笑が何よりもの証拠だ。
全ての光が消えたと思ったのも気のせいだ。
この目に映る嘲るような笑い顔、私を指す指が何よりもの証拠だ。
ああ、やはり私は人間ではないのだ。
数多くの目が、口がその事を私に告げる。
ああ、やはり私は卵なのだ。
ああ、悲しい。
とても悲しい。
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-
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- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:12:41.05 ID:C7vYBgTo0
ζ( ζ
爪'ー`)「クックック、戦意喪失したか……噂通りだったな」
(=゚д゚)「噂?」
爪'ー`)「ああ、こいつはその事がトラウマになってるらしくってな、その話をされると勝手に潰れちまうって話さ」
(=゚д゚)「……なるほどな」
爪'∀`)「ま、それも無理なかろう。化け物なのは本当の事だ。アタシなら、生きてられんよ」
从;゚−从「馬鹿が……」
爪'−`)「……あ?」
从;゚−从「どこで聞いた噂か知らねえがな、そいつは大きく間違ってる」
爪'ー`)「ハッ、今更何だ? 見てみろアイツの様子を? ピクリとも動かねえじゃねえか?」
从 ゚−从「……一つ言っておくぞ」
爪'−`)「あ?」
-
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- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:14:23.16 ID:C7vYBgTo0
从 ゚−从「ああなったら、アタシらでも止め切れる保障はねえからな?」
爪'−`)「何言ってんだ?」
从;゚−从「生命が惜しかったらこっからとっと逃げやがれ!」
爪'−`)「だから何の──」
#)=゚д゚)「グハッ!?」
爪;'−`)「!?」
私はまた私を覆った殻を破る作業を行う。
突き出した腕に鈍い感触が走る。
爪;'−`)「な!? て、手前!?」
ζ( ー ζ
私を覆う殻は幾重にも私を取り囲む。
卵の中のはずなのにやけにうるさい。
-
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-
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:16:09.38 ID:C7vYBgTo0
爪;'−`)「チッ……お、お前らこいつを止めろ!」
足を踏み出し、腕を振るう。
私にまとわり付く殻が、悲鳴のような音ともにいくつも空に舞う。
爪;'−`)「な……!?」
私は卵である。
私は人間ではないのだ。
そんな事はずっとわかってたのに。
爪;'−`)「チッ……おい、お前ら私を守れ!」
いくつも殻が折り重なるように私を押し潰す。
私はそれをくぐり抜け、叩き割る。
袖の千切れた特攻服を脱ぎ捨て、私はまた一歩踏み出す。
爪;'−`)「クッ……なんて奴だ……」
-
-
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-
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- 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:18:25.42 ID:C7vYBgTo0
((((((((((@))
(;´・_ゝ・`)「おい、こんなの聞いてねえぞ?」
((((((((((((((@))
(;∵)「総長! 総長! ……駄目だ、白目向いてやがる」
((((((((((@))
(;´・_ゝ・`)「クソッ、退くぞ、お前ら!」
爪;'−`)「待て、お前ら!? 何勝手に……」
飛び交う怒号と悲鳴が私を苛む。
耳を押さえたくなる衝動に耐え、私は目の前の殻に拳を打ち付ける。
((((((((((@))
(;´゚_ゝ゚(#「ゲフゥッ!?」
爪;'−`)「ヒッ……!?」
-
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- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:21:34.85 ID:C7vYBgTo0
黒い、人の形をした殻がまた一枚立ち塞がる。
何事かを喚き立てながら、後ろに倒れるそれに向け、私は足を振り上げる。
目の前の殻を割るために。
得る物は痛みだけ。
失うものは既にない。
悲しい作業。
ζ(^ー^ ζ
ああ、悲しい。
とても悲しい。
どうして私は、人間に生まれなかったのだろう。
-
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- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:23:26.05 ID:C7vYBgTo0
「そのくらいにしとけ!!!」
突然、何かが私の身体を掴む。
また別の殻が私を覆ったようだ。
私はそれを割るのは後回しにする事にして、目の前の殻に足を踏み下ろす。
爪 ;−;)「ひぃ!?」
从;゚∀从「ギコ子! ショボ子!」
また何かが私を抑える。
踏み付けた足は殻を割れなかった。
ああ、まだいっぱいある。
あと何枚、殻を割らなきゃいけないのかな。
从;゚∀从「デレ!」
ζ( ー ζ「……殻を……殻を……」
从;゚∀从「落ち着け、デレ!!!」
ζ(
ー ζ「……割らなきゃ……割らなきゃ……」
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- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:25:10.35 ID:C7vYBgTo0
川;,,゚Д゚)「姐さん!」
ノレ;´゚ω゚`)「姐さん!」
ζ( ー ζ「……私は……私は……私は……」
身体を大きく震わせ、纏わり付く殻を振りほどく。
目の前に落ちている殻に、また足を振り上げようとしたが、まだ一枚殻が纏わり付いたままだった。
从;゚∀从「デレ!」
ζ( ー ζ「……私は……私は……卵だから……私は……」
从;゚∀从「違う!」
ζ(
ー ζ「……私は……卵……」
从;゚∀从「違う! お前はデレだ! 人間だろ!」
ζ( − ζ「……私は……」
-
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-
- 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:27:36.67 ID:C7vYBgTo0
私が人間?
違う。
人間は卵から生まれない。
だから私は人間ではない。
誰もがそう言った。
私は卵なのだ。
だから、両親は去っていった。
私が卵だから。
私は一人で──
从;゚∀从「デレ!」
私は……一人?
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- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:29:05.98 ID:C7vYBgTo0
从;゚∀从「デレ!」
デレ、それは私の名前。
人間であろうが卵であろうが変わらぬ私に与えられた名前。
その名を呼ぶのは誰?
川;,,゚Д゚)「姐さん!」
ノレ;´゚ω゚`)「姐さん!」
一人のはずの私の名を呼ぶのは誰?
ミセ;゚д゚)リ「姐さん!」
私の名を呼ぶのは──
从;゚∀从「デレ!!!」
ζ( − ζ「…………ハ……イン?」
-
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- 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:30:47.19 ID:C7vYBgTo0
黒に染まった視界が少し薄れる。
川;,,゚Д゚)「姐さん!」
ノレ;´゚ω゚`)「姐さん!」
ζ( − ζ「……ギコ……子ちゃん?…………ショボ……子ちゃん?」
私を覆う黒い殻がぼんやりと霞んでいく。
ミセ;゚д゚)リ「姐さん!」
ζ( − ζ「…………た……なかさん?」
ミセ;゚д゚)リ「一言一句たりともあってねえ!!! ミセリですよ!?」
从;゚∀从「デレ」
ζ(
− ζ「……ハイン」
真っ暗な世界に光が差す。
開いてはいたが何も映してはいなかった目を声の方へ向ける。
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- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:32:34.69 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚−゚*ζ「ごめんね──」
从 -∀从「……お前は悪くねえよ」
謝罪の言葉を言い終える前に、私はハインの胸に押し付けられるように抱き締められていた。
ζ(゚−゚*ζ「ごめんね」
从 -∀从「デレ……」
ζ(゚−゚*ζ「うん……」
从 -∀从「お前は人間だよ」
ζ(゚−゚*ζ「……人間は卵から生まれないよ」
从 -∀从「……かもしれない」
ζ(゚−゚*ζ「……」
从 -∀从「でも、デレはデレだ……」
ζ(゚−゚*ζ「……私……」
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- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:34:08.85 ID:C7vYBgTo0
从 -∀从「デレはデレで、私達の仲間だ。それでいいだろ?」
ζ(゚−゚*ζ「……私は私……仲間……」
从
-∀从「ごめんな、つまらないこと聞かせちゃってさ。アタシがアイツをさっさとぶっ飛ばしてれば……」
ζ(-ー-*ζ「ううん、大丈夫。ごめんね、私、わかってたはずなのに……」
私は少し強めにハインの胸に顔を押し付け、溢れそうになる涙を抑える。
私が何であれ、ハインやみんなは私の事を認めてくれていたのに、また自分の弱さに負けてしまった。
私は自分自身の衝動を抑え切れなかった。
私は……
从 -∀从「守ってやるって言っただろ?」
ζ(-ー-*ζ「うん……」
私は頷き、腕の力を緩めたハインの胸からそっと抜け出す。
少し名残惜しい気もしたが、あんまり抱き心地が良くはないのでそうでもないかもしれない。
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- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:35:53.31 ID:C7vYBgTo0
- . _,
从 -∀从「……お前、今なんか失礼なこと考えなかったか?」
ζ(゚、゚*ζ「ううん、べっつに〜」
私はくるりと振り向き、辺りの凄惨な様子に目を向ける。
ζ(゚、゚*ζ「死屍累々って感じだね〜」
ひどいもんだと呟くと、お前がやったんだろうがとハインに小突かれた。
ζ(゚、゚*ζ「ごめんね〜? 生きてる?」
当然の如く返事はないが、呻き声やら色々聞こえるところを見れば生きているのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ギコ子ちゃん達もごめんね」
ギコ子ちゃん達は大丈夫と返事をしてくれたが、毎度毎度項も面倒をかけてしまって申し訳ないと思う。
流石に慣れてはいるのか、うちのチームの皆は私の前面には立っていなかったので被害はないようだ。
ζ(゚、゚*ζ「……んで、大丈夫? 皆を連れて帰れる?」
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- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:39:59.30 ID:C7vYBgTo0
爪 ;−;)「ヒッ……」
奇跡的に無傷みたいだけど、目に見えて恐慌に陥った様子のフォックスちゃんに私は声を掛ける。
しかし、どうにもまともな答えは返って来ないので、私はハインの方を見やる。
从
゚∀从「ま、見た所病院送りな奴はいなさそうだし、放っておくか」
やった当人が言うのも何だが、流石にそれはひどいと思うので私は取り敢えず手近に倒れてる子から起こそうとしたが、
誰もが私を見ると泣き出してしまうので早々に諦めざるを得なかった。
川;,,゚Д゚)「姐さん、ここは俺らが……」
ζ(゚、゚*ζ「ぶ〜」
自分の後始末ぐらいは自分でやりたかったのだが、たぶんギコ子ちゃん達に任せるべきなのだろう。
私は渋々倒れてる子達から離れた。
川,,゚Д゚)「総長、姐さん連れてお帰り下さい」
从
-∀从「んー……そうすっかな。悪いな、皆」
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- 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:41:53.48 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚、゚*ζ「え〜? 私もせめて何か手伝──」
ノレ´^ω^`)「どうぞ、姐さん、いつものやつっス」
ζ(^ー^*ζ「わー、ショボ子ちゃん、ありがとー」
どこから取り出したのか、ショボ子ちゃんがいつのものアンパンを手渡してくれる。
そんな食べ物に釣られる私ではないのだけど、気付けばハインの単車の後ろに乗せられていた。
ζ(゚、゚*ζ「お? いつの間に?」
从 ゚∀从「んじゃ、あと頼むわ」
川,,゚Д゚)「お気を付けて」
皆に見送られ、ハインと私を乗せた単車は緩やかに走り出す。
やれやれ、結局迷惑かけっぱなしで終わってしまった。
本当に申し訳ないと思う。
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- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:43:34.95 ID:C7vYBgTo0
从 ゚∀从「気にすんな……と言いたいとこだが……」
昔に囚われるなとハインは言う。
幾度となく言われた言葉で、私自身もわかっていたはずの事だが、あの言葉を聞くとどうしても駄目らしい。
从
゚∀从「ま、そう簡単には治らないかな……」
ζ(-、-*ζ「ごめんね……」
从
゚∀从「気にすんな。……言ったろ、守ってやるって」
ζ(゚ー゚*ζ「うん……」
私はハインの背に顔を押し付ける。
ハインはくすぐったそうに身を震わせたが、私はハインの腕に回した腕にさらに力を込めた。
从 ゚∀从「さて、飛ばすぜ」
ζ(^ー^*ζ「うん!」
ハインの単車は速度を上げ、いつものように心地良い風が私達を包む。
私の背で羽織ってただけの特攻服が、白い羽のようにはためいていた。
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- 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:45:25.59 ID:C7vYBgTo0
- ・・・・
・・・
結局私は何なのだろう。
たぶんその答えは、一生出ないものなのかもしれない。
けれど一つわかっている事もある。
私はデレ。
そう呼ばれる、一個の存在。
それでいいのかもしれない。
それだけでいいのかもしれない。
そう呼んでくれる皆がいるだけで。
私はデレ。
私は卵かもしれない。
ひょっとしたら人間かもしれない。
けれど私は、どちらにしろデレなのだ。
それが今の私の答え。
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- 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:47:59.07 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚ー゚*ζ「おっはよー」
いつものように軽い挨拶とともに教室に入る。
相変わらず返事はないが、それもいつものことなので気にしない。
明けて翌日、私の日々はいつも通りの変わらない朝で始まる。
取り立てて特筆すべきこともない、いつもの朝だ。
ζ(゚、゚*ζ「今日も良い天気だね〜」
私は鞄を机に投げ置き、滑り込むように椅子に座る。
何とも騒々しい私の通学風景に、反比例するように周りの空気は静かになる。
私はそれを気にすることなく、投げ置いた鞄の中のアンパンが潰れてないかのチェックを行う。
気にするぐらいなら投げなければいいのだが、何となく勢いでそうしてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ「二個とも無事だね」
私は満足げに頷き、机の横に鞄を引っ掛ける。
相も変らずのアンパン昼食だが、多少の変化はあった。
賭けに負けた、いや、この場合は勝ったのか、内藤君がしばらくは毎日アンパン届けてくれるのでお昼に一個余分に食べられる。
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- 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:50:29.76 ID:C7vYBgTo0
ζ(-、-*ζ「しかし、男の子って……ホント馬鹿だよね……」
聞きしに勝るお馬鹿っぷりに、私は呆れると同時に少し羨ましくも感じていた。
単純で良いなと。
ζ(゚ー゚*ζ「さて、1時間目は……」
私ももっと単純に考えられたら、少しは変るのだろうか。
私を覆う殻に囚われることなく。
叩き割らずとも、あの殻を取り除く事は出来るのだろうか。
ζ(゚、゚*ζ「ああ、数学か〜……って、教科書忘れた」
正しくは、学校に置いておくのを忘れたなのかもしれないが、兎に角数学の教科書がない。
まだちょっと時間はあるので、ミセリ子ちゃんに借りに行っても間に合うだろう。
ζ(゚、゚*ζ「……単純に……か」
単純に考えればもっとも効率の良い方法は……
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、鈴木さん?」
/;゚、。
/「ひゃ!? ひゃい?」
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- 57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:52:36.58 ID:C7vYBgTo0
ζ(゚ー゚*ζ「あのさ……」
/;゚、。 /「は、はい……」
ζ(゚ー゚*ζ「数学の教科書忘れちゃったんで、次の授業の時、見せてもらえないかな」
/;゚、。 /「はい! どうぞ!」
ζ(゚、゚;ζ「いや、そうじゃなくて、一緒に見せてもらえればそれでいいからさ……」
私はものすごい勢いで差し出される教科書をやんわりと突き返し、呆れたように呟く。
うん、まあ、この反応は予想は出来たけどね。
ζ(-、-*ζ(全く……単純な事ってのも、意外と難しいもんだね)
卵な私は、自分を覆う殻を破らなければならない。
でもそれは、別に力ずくじゃなくってもいいはずだ。
そんな簡単な事に気付くのに随分遠回りした気もするけど、それもまあ良い経験だったと思おう。
/;゚、。 /「えっと……」
ζ(゚ー゚*ζ「駄目かな?」
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- 58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:55:22.09 ID:C7vYBgTo0
/ ゚、。 /「い、いえ、その私のでよろしければいくらでも……」
ζ(゚、゚*ζ(硬いなぁ……これだと脅してるみたいだけど……まあ、最初は仕方ないか)
そう、最初は仕方ないのだ。
ゆっくりでもいいからこうやって一つ一つ、私は自分を覆う殻を取り除いていくしかない。
私が私でいるために。
私を、守ってくれる皆が安心していられるように。
ζ(^ー^*ζ「ホント? ありがとね、鈴木さん」
/*゚、。
/「い、いえ……その……」
私の満面の笑みに釣られるように鈴木さんも少し微笑んでくれる。
やっぱりこんな風に、単純なものかもしれない。
私を覆う殻を割る事なんて、本当はもっと簡単なはずだったのだ。
私が自分で、難しくしていただけなのかもしれない。
ζ(゚ー゚*ζ「よっと」
私は机を右側に寄せ、鈴木さんの机にくっつけた。
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- 60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日)
22:58:22.53 ID:C7vYBgTo0
机を動かすのには、ほとんど力はいらなかった。
机は簡単に動き、簡単に繋がった。
結局そんなものなのだ。
私はちょっと力み過ぎてたのだと、改めて思う。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだ、お礼にパンを一つあげよう」
/;゚、。
/「え、いや……お礼とか、その……」
ζ(゚、゚*ζ「ほら、アンパンとアンパン、あとお昼にもう一個アンパン来るけどどれがいい?」
/;゚、。 /「え、いや、どれも同じじゃ……」
ζ(゚、゚*ζ「微妙に大きさ違うよ? ほら、こっちがわずかに大きいし」
/;゚、。 /「えー……変わんないような……」
私はまた殻を割り続ける。
いつか卵から鳥になるために。
私が私でいるために。
ゆっくりと少しずつ、私は私を覆う卵を割るのだ。
ζ(゚ー゚*ζは卵を割るようです おしまい
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