(-_-)「2・14 狂犬事件」のようです


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 22:43:58.74 ID:rPqnFgpP0
「8・4 学び舎門外の乱」

(゚、゚トソン「さって。食べるわよ」

 姉は僕の属性を逆転させた存在といっていい。
 恨めしいことに、僕に持たされなかったものを全部持っていた。

 その中でも、一番どうでもいい能力のひとつが大食いであることだった。

(゚、゚トソン「もりもりいくわよ。あんたはアンズ飴買ってきて。わたしは焼きそば買ってくる」

(-_-)「二本しかない腕はもういっぱいいっぱいなんだけど」

(゚、゚トソン「いや、だからこう持って、こう! で、こうして、ここにスペースできるでしょ!」

 とにかく器用だってことが伝わったら、動きを描写する必要はないかな。
 どう? っていうか僕には再現できないんだけどさ。


 
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 22:49:40.56 ID:rPqnFgpP0
 花火大会当日、多くの露天が軒を連ね、人ごみに僕はうんざりしていた。
 世界で一番苦手なものを一つ挙げろっていわれたら、人ごみだよ。

(;-_-)(熱い、だるい)

 まだまだ夜は蒸し暑く、「納涼花火大会」の看板にはクレームが殺到しそうな気温だった。
 湿度と人の熱気で息は詰まるし、帯で腹も締まってた。

(;-_-)(帰りたいな)

 汗で肌じっとり、伸びた髪のが目に入る。
 帰ってクーラーの下、グレンラガンのDVD見てるのが正しい熱がり方だと今でも思う。

('A`)「金魚すくいでもやるか?」

( ´∀`)「勝負モナか?」

(’e’)「うわぁ〜、賭け事はやめようぜ〜」

 そこでおなじみの連中に遭遇した。


 
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 22:52:59.01 ID:rPqnFgpP0
(-_-)「あ」

('A`)「お」

(-_-)「来てたんだ」

 見ろよ、この態度。
 どれだけ砕けてるか。

 成長したもんだろ。

('A`)「ヒッキーもか。一人?」

(-_-)「いや、あ、うん」

 姉には即メールで「先に帰る」とウソをついておいた。

 
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 22:57:09.57 ID:rPqnFgpP0
(’e’)「アンズ飴二刀流とかどんだけぇ〜w」

(-_-)「じゃ、じゃんけんで買ったら三本も貰えたんだよ」

 胡散臭い屋台のあんちゃんは気前がいいのか悪いのか分からないよね。

('A`)「まだいるなら一緒に回らないか?」

 足はだるく、頭皮がかゆくて仕方なかったので、僕は首を横に振りながら、

(-_-)「うん、いいね」

 快諾するという器用な真似をしてみせた。
 どうやら僕も姉とちゃんと血が繋がっていたらしい。

 あれ?
 でも身体が自分のいうことを聞いてないから、やっぱり不器用なんだろうか?

( ´∀`)「とりあえず、金魚すくいモナ」


 
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:02:34.40 ID:rPqnFgpP0
 モナーが金魚を10匹もすくったところで、僕は腰が痛くなって挑戦を止めた。
 ドクオは確か2匹で満足、ジョーンズはゼロのまま三回、ポイを破った。

('A`)「ま、こんなもんか」

( ´∀`)「最下位がラムネおごりモナw」

(’e’)「うわぁ〜だから勝負嫌だっていったんだよぉ〜」

 ジョーンズはどうもせこく、ねちっこい奴だった。
 いつまでも引っ張ってうるさかったので、この辺りは編集でカットしよう。

 花火まであと10分というところで、僕はやっぱり帰りたくなった。
 ドクオに導かれた先が、かなり嫌な場所だったからだ。

( ・∀・)「あれっ……」

 はい、はい。


 
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:06:19.17 ID:rPqnFgpP0
 神社の境内には10人強の同年代が集まっていた。
 クラスで見たことのない連中の中で、僕がどうしたか。

(-_-)「……」

 もちろん、場の空気に徹したよ。
 空気を読みて、空気と成す。

 ギコ、モララーの牽制のような視線もさることながら、知らない人々の「誰あいつ」が効いたね。
 僕だって「誰自分」だったさ。

 間違いない。

 場違いの鑑がそこにあった。
 浴衣を着た、冴えない顔の人間っていう形でね。


 
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:09:39.02 ID:rPqnFgpP0
 人間観察していると色々なことが分かる。

( ・∀・)ζ(゚ー゚*ζ

(,,゚Д゚)(*゚ー゚)

('A`)(’e’)( ´∀`)

从 ゚∀从爪'ー`)

 グループの中で細分化された人間関係だ。

 ドクオはどうやらほぼ全員と面識があるらしく、三人組と他の面子の仲介役を担っていた。
 時々聞こえる話から分かったのは、小学校か中学校が同じ面々らしい。

 そりゃ僕は浮くわけだ。
 ……いや、中学が同じでもどうなったかは分からないけど。

 
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:15:24.89 ID:rPqnFgpP0
 一発目の花火が打ち上げられた。

ドン

 腹に響く音を聴きながら、僕は浴衣姿の女子の尻を盗み見ていた。
 視姦くらいするさ、若いんだから。

 ギコが馬鹿っぽく叫ぶ。
 たまやもかぎやもお前の知ったところじゃないだろう。

バラバラバラ

 分散する火花の灯りに照らされて、男女がアクションを起こしてた。
 例えば、モララーがデレの腰に手を回すとかね。

 余談だけど、彼らはその後木陰でヤッたらしい。
 嘘か真かは知らないけど。

(-_-)(帰ろうかな)

 

 


 

120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:19:17.59 ID:rPqnFgpP0
('A`)「悪いな。内輪で盛り上がってて」

 気だるげな声でドクオが言った。
 僕は気にしていない旨を適当に伝えて、トイレに行こうとした。

('A`)「俺も行くよ」

(-_-)「……そう」

 トイレに行った→道に迷った、というふりをするプランが潰された。

('A`)「俺がなんでギコとかと仲良くしてるかわかんないよな」

 小便器に並ぶと、ドクオが口を開いた。
 なんだか、ためにためて、ようやくいえましたって感じだったよ。

 深刻なことを告白する、的な。

 
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:23:03.76 ID:rPqnFgpP0
('A`)「中学が一緒だったんだけど、ギコもモララーもヤンキーでさ」

(-_-)「へえ」

 茶髪で眉毛が細ければそんなことは分かるよ。

('A`)「ジョーンズがいじめられてたんだよ」

(-_-)(ウザイからな)

('A`)「俺もジョーンズと仲良かったから、つい関わっちゃって」

 なんだろう、この目は、と僕は思ってた。
 細い目が小便器の上の窓から、ずっと遠くを眺めてるんだ。

 思い出すぜ、みたいな。


 
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:30:02.78 ID:rPqnFgpP0
('A`)「度が過ぎてたけど、誰も口出しできなかった。先生も黙認してたよ」

 どうやら、僕がその場にいたらジョーンズの代わりになっていたかもしれない。

('A`)「そんな時さ、ギコとモララーが夜遊びしてるとき、『誰か』に襲われたんだ」

 「誰か」の部分が強調されていたのもあったが、思わず聞き返してた。

(-_-)「襲われた?」

('A`)「その『誰か』が二人をボコボコにして、書置きを残したんだ。『目障りだ』ってね」

 ドクオが僕の方に顔を向けた。
 何か含みのある、笑いを噛み殺したような顔だった。

('A`)「『誰か』は背の低い、細身の、男だったんだよ。真っ黒で、犬みたいに素早い……」

 ドクオは、ニッと尖った八重歯を覗かせたのが、印象的だったね。

(-_-)「……え?」


 
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:37:56.44 ID:rPqnFgpP0
 もやっとした気持ちを抱えて境内に戻ると、揉め事が起こっていた。

(#゚Д゚)「おい、ゴルァ! てめえ誰の女に手ェ出してんだよ!」

 見ればヤンキーVSチャラ男の図ができあがっていた。
 しかし数は、後者の方が倍以上多かった。

 僕は頭数に入れられたくなくて、即座に気配を消したよ。
 相手は地元の大学生だったんじゃないか?

 今となっては分からないことだらけだけどね。

爪#'ー`)「間違ってんのそっちッスよねえ? 謝れないんすか?」

(#・∀・)「なあなあ、体触っといて『反省してまーす』とかふざけてんの?」

 正当性を主張するのに感情が先立っていて、どうしようもなく馬鹿じゃないかと思った。
 事実、むなぐら掴んでいたしね。

 
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:43:15.14 ID:rPqnFgpP0
('A`)「……ちょっと待ってて」

 ドクオは一言だけ呟いて、静かに姿を消した。
 で、数秒後。

(#゚Д゚)「っざっけんなよっ!!」

 喧嘩が勃発した。

ζ(゚ー゚;ζ「きゃあああ!!」

 耳がつんざかれるようだったね。

(#・∀・)「オラァ!」

 どうやら大学生らしき人々は酔っていたらしい。
 馬鹿が怒っているだけだと思ったら、相手も馬鹿だった。

 べろんべろんなロン毛など、自分で石灯籠に頭をぶつけて倒れる始末。
 ああはなりたくないと心に誓ったね。



 
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:48:17.16 ID:rPqnFgpP0
 ほんの一、二分で流血は一筋二筋じゃ済まなくなった。

 大学生の一人はTシャツが首元から破れて、前衛的なヘソ出しルックに。

 浴衣が乱れて解けた帯で、首を絞めるモララー。

 ギコは倒れた相手に石を落とそうとして恋人に止められる始末。

 不意打ち気味にそこへとび蹴り。

 修羅場ってのはああいうことを言うのだろうか。

 僕はというと、逃げるに逃げられず、ひたすら立ち尽くしていた。

「お前もあのクソガキ共の仲間かぁ? あぁああん?」

 横合いから首を掴まれた時、実際に心臓が何mか跳ね上がったと思う。


 
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:54:46.17 ID:rPqnFgpP0
 赤ら顔が真横で、アルコール臭い息を吐き出しながら接近していた。
 酔った父親に抱きつかれた時の不快度指数を五割増しにしたみたいだった。

 人生終わったな、と思ったことは何度もあるが、この時もそうだ。
 でも、もう分かってるだろ? 似ていることは何度も言ってるはずだ。

 分かりやすい前振りがあれば、こういう展開が待ち受けてるって。

「シッ!」

 絡み付いていた腕がずるりと落ちた。

「〜〜〜〜」

 ぐにゃぐにゃと言いながら、男は気絶していた。

 その後ろから、駆け抜けていく影。

 黒い、細身のシルエット。


 
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:58:40.89 ID:rPqnFgpP0
 薄暗い境内を黒い影が疾駆した。
 もう自信を持って言い切るよ。

 あの動きは獣のそれだったね。

 信じられる?
 かなり低い姿勢で走り寄って、何か拳法みたいなものを繰り出すんだ。

 喰らい付く。

 その表現がぴったりさ。
 滑るように駆けてはノックアウトしていくんだ。

 僕は思い出してた。
 ドクオの言葉を。

 
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 00:05:08.90 ID:QB5uku530
 正直僕は興奮していたよ。
 アニメでも見てるみたいだった。

 Production I.Gが製作したアクションみたいなさ。
 とにかくぬるぬる動くんだ。

 まだ花火は終わってなかった。
 バラバラと小粒の花火が続いて、流星みたいなアレ。

 二人が倒れて、三人目がよろめいて、踏まれていたギコが助けられた。
 モララーは気絶してたみたいだし、女子は皆固まって泣いてたよ。

 僕だけだ。
 全部を見てたのは。

 そして、超特大の花火が打ちあがる。

 ――ドン!


 それに合わせたのかは分からないけど「黒犬」は掌底で最後の一人の顎を打ち上げた。 




 
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 00:09:20.91 ID:QB5uku530
 警官が到着する音が近付いてきて、「黒犬」は身を屈めたまま駆け出した。
 向かう先は神社横の雑木林で、真っ暗な闇の中だった。

(;-_-)(行っちゃう!)

 でもなんて声をかければいい?

 僕がこれほど口下手、話下手を後悔するのも珍しかったね。
 言葉が全然出ないんだ。

ガサガサッ

 そして、「黒犬」は暗闇にとけてしまったんだ。
 僕は、夢うつつのまま、警官達の笛の音を聴いていた。


 
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 00:14:37.09 ID:QB5uku530
 僕らは身なりが荒れていないということで、すぐに解放されたよ。
 喧嘩両成敗ってことで、ギコやモララー、フォックスとかいう男子は連れて行かれたけどね。

 ドクオが戻ってきたのはそれから少し経ってからだ。

('A`)「ごめん、大丈夫だった?」

ζ(゚ー゚;ζ「ドクオはどこ行ってたのよ!?」

('A`)「ん、ちょっとね」

从 ゚∀从「もしかしておまわり呼んできたのはドクオか?」

('A`)「……まあ、そんなとこ」

 ドクオはいつものように、気だるげに短く応えた。
 そして、僕と目が合うと、少しだけ眉を上げる。

(-_-)「……」

ξ゚听)ξ「ちょっと! あなた達大丈夫!?」

 この日は予想外のことも多々起きた。



 
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 00:20:30.37 ID:QB5uku530
 保健医のツン先生だ。

ξ;゚听)ξ「あらあらあら、随分派手に喧嘩したのね。怪我はない?」

 浴衣姿の先生は、涙で化粧ボロボロのデレやハインを慰め始めた。
 そして、その後ろに小さくなって所在無さげにしてる男が二人。

(;’e’)「うわぁ〜……」

(;´∀`)「モナ」

 こっそりと状況説明を求めたところ、真っ先に逃げたところでツン先生を見つけたのだとか。
 どおりで姿を見なかった訳だ。

 ていうか、もっと他に考えることはなかったのか。

(-_-)(と、考える僕は何もしていない)
 

 
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 00:27:23.34 ID:QB5uku530
 ツン先生の指示で、僕ら無傷な男連中は帰宅を促された。
 屋台のある通りは店じまいを始めていて、いくらかにぎやかさが消えていた。

 だから嫌なんだ、祭りとかっていうのは。
 帰り道に寂しくなるから。

 それでなくても興が削がれるような喧嘩の後だ。
 草食系の人間には刺激が強すぎた。

 嵐の後には、余計沈黙が重いんだ。

  (-_-)   (’e’)

 ( ´∀`)  ('A`)

 特に、こんなメンバーの時は気まずさもひとしおだったね。

 
145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 00:30:34.32 ID:QB5uku530
( <●><●>)「おじさん、ラムネまだ余ってます?」

「おう。そうだな、半額でいいよ」

( <●><●>)「あざっす」

 まだ居残っていた見物客の合間に、ワカッテマスがいた。

(-_-)

 でも、その時ばかりは僕の中の「馬鹿な犬」は尻尾を振らなかった。

 夕立の後のにおいが少し、頭の隅で思い出されたけど。

 
147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/09(火) 00:34:32.31 ID:QB5uku530
 以上が花火大会の日に起きた事件だ。
 これだけは外せなかった。

 僕と黒犬の出会い。
 これだけは、狂犬の誕生日を語る上で欠かせない出来事だったんだ。

 さて、時間をどれだけ飛ばそうか。
 前置きを用意するならいくらでもできる。

 逆に、話を短くするなら一瞬だ。
 君らはどうしたい?


 


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