1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:00:41.91 ID:30N2mbfW0 これはメタフィクションである。 物語はまだ、どこに向かうかわからない。 この時点では、未だ一つとしてストーリーの要素は登場していない。 今、存在しているのはまったく間違いのない文章と、一人の人物のみである。 そのほかには何もない。 男の名前はブーンである。 ( ^ω^)「……」 今のところ、彼はまだ何もしていない。 ただ待っている。 誤字を。 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:04:58.26 ID:30N2mbfW0 ルールは極めて単純だ。 この小説において、誤字・誤変換を削除するという行為は許されない。 つまり、おおよそ全ての小説のバックグラウンドで行われているであろう、 『書き直し』という行為を、この小説においては認めない。 ちなみに、この小説はパソコンのキーボードで書かれている。 日本語入力システムにはMicrosoft IMEと、ATOKを用いている。 それら入力システムのせいで誤変換をしてしまっても、エンターキーを押して確定してしまえばそれまでだ。 訂正は許されない。 また、これには書き手のタイピング能力も少なからず進展に関わってくる。 書き手のタイピング能力はおおよそ普通。なので、人並み以上の精密さはない。 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:08:26.45 ID:30N2mbfW0 ちなみに、この小説はながら投下である。 そのため、後から書き加えたりすることは、元々不可能な話だ。 ……以上で、説明はしまい。 まったく、ここまで誤字がなかったのは幸いとしか言いようがない。 このまま、最後まで誤字がなければ、この小説は意外と早く完結するだろう。 たぶん、そう、10レスにも満たない。 ……そう、そのとおりだ。この小説は、どのような道を歩むにせよ、いずれ破綻する。 過剰な誤字、或いは、誤字がなさ過ぎることによって。 そしてその破綻は、全て登場人物が引き受けることになる。 はじめに言っておくなら、この小説はバッドエンドだ。 また、もし途中で書き手が誤字を見逃した場合は……どうなるかわからない。 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:13:55.67 ID:30N2mbfW0 では、気長に誤字を待とう。 ……ところで、読者は一つ懸念するかもしれない。 代弁させれば、 ( ^ω^)「誤字を打つかどうかなんて作者の匙加減じゃねーかおwwwwwwwwww」 と。 無論その通り。作者はどのような形ででも読者を裏切ることが出来る。 逃亡にせよ、第一部完にせよ、唐突なホモ展開にせよ。 しかし、そのへんは作者の矜持にかかっている。 すなわち、誤字をテーマにした小説において、作者が自ら誤字を操作するかどうか。 ……結局、言えることは「トラスト・ミー」それだけだ。 日本の首相よりは信頼されるだろうか? 勿論、こちらとしてもある程度、読者に譲歩はしているつもりだ。 それが、ながら投下という形式であり、時間的束縛である。 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:18:33.31 ID:30N2mbfW0 さて、未だ何も無い。 ( ^ω^)「……」 主人公さえ、まだ何を喋るのも許されていない。 当然だ。この小説は、誤字によってのみにしか前へ進むことを許されていない。 しかし、何も無いということは、逆に言えば、何でも生み出せるということである。 舞台装置は完璧だ。どのような登場人物でも出すことができる。 何より、主人公はまだ、パーソナルデータを明かしていない。 それらは全て、誤字の行方によって決定される。 少々たちの悪い、安価小説のようなものだ。 後は誤字を待つだけだ! ……無論、何も無ければこれで終わる。そろそろ続けるのがつらくなってきた。 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:20:54.19 ID:30N2mbfW0 ところで、フロイトによると、言い間違いには真実が隠されている層である。 では、書き間( ^ω^)「お?」 ------誤字『そう→層』------ 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:25:37.35 ID:30N2mbfW0 気がつくと、ブーンは夢の中にいた。 彼にはなんとなく、自分が夢の中にいることを理解できていた。 ( ^ω^)「……」 目の前に高い壁があり、それは数種類の色で塗り分けられている。 ちょうど、地層のようだ。中学校ぐらいのころ、理科の教科書で見た断層図によく似ている。 ( ^ω^)「なんだお? これ」 夢の中でつぶやいてみる。明晰夢のようだ。自分の意思で動くことができる。 しかし、目の前の地層の招待は分からなかった。 ------誤字『正体→招待』------ 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:31:26.97 ID:30N2mbfW0 突然、地層の一部からグイ、と腕が突き出した。 モンスターのようなごつい腕ではなく、いささか細い感じ。 なんとなく、ブーン自身の腕にも似ている。 腕は、手の中に一枚の紙片を握っていた。どうやら、それをブーンに渡したい風だ。 ( ^ω^)「……?」 くしゃくしゃの紙面の一番上には、脅迫状のような、新聞の見出しを切り貼りした字句でこう書かれている。 『招待状』 ブーンは地層を見た。すでに腕は引っ込んでいる。 地層全体が、腸のひだのように、ぐにゃりとうごめいた。 ( ^ω^)「しょうたい、じょう……」 その下にある字面を追いかけようとしたとき、突然視界が崩れた。 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:36:10.79 ID:30N2mbfW0 ( ^ω^)「……」 気づくともう、いつもの寝床にいた。 ( ^ω^)「変な夢」 ブーンは素直な感想を述べた。実際、これほど抽象的な夢を見るのは初めてではないだろうか? しばらく布団の上を寝転がり、彼は枕もとの時計を見た。6時。まだ、もう少し眠れそうだった。 彼はもう一度目を閉じようとしたが、再びあの夢を見てしまうような気がして恐怖に襲われた。 なんだかよくわからないが、あの夢は長いこと見てはいけないような気がする。 不気味な眠気に苛みながらも、彼は起き上がった。頭がくらくらする。窓の外にはまだ、薄暗さが残っていた。 ( ^ω^)「……えっと、どうしようかお……こんなに早く起きたことないし、やることも……」 朝ごはんはいつも食べないようにしていた。食べるとよく、腹を壊すからだ。 とすると適当に顔を洗って出かける準備、といおうところなのだが ------誤字『いう→いおう』------ 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:43:18.91 ID:30N2mbfW0 ------誤字『苛み→苛まれ』------ これはむしろ誤字ではなく書き手の国語能力の問題であると付随します。 つまり、反省してまーす。 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:48:55.16 ID:30N2mbfW0 ネム・-・ケ「全く、こんなことで俺を出さないで欲しいんだがね」 ブーンから分離した眠気が、ブーンを苛みだした。 (;^ω^)「申し訳ないと思っているお……」 ネム・-・ケ「ええ、どういう了見なんだ。あれは誤字じゃなくて書き手の能力不足じゃないか」 そう言いながら、眠気はブーンを足蹴にする。 しかしどれだけブーンがいたぶられようが、書き手はちっとも痛くない。 楽なものである。 ネム・-・ケ「ともかく、もう二度とこんな真似をしないでくれ。『すべからく』とか使うんじゃないぞ」 (ヽ´ω`)「お……」 それだけ言って、眠気は出て行った。 まだ『いう→いおう』を消化していない。 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 20:56:02.33 ID:30N2mbfW0 (;^ω^)「……くさいお」 ブーンは鼻をつまんで見せた。どこからか硫黄のようなにおいがしたからだ。 硫黄……正しくは硫化水素のにおいだが、すなわち腐卵臭である。 ブーンはあたりを見回した。そこは自分の部屋のはずなのに、いつの間にか随分と朽ちている。 よく見れば、布団も、何年も洗っていないかのように黄みがかっていた。 ( ^ω^)「……」 彼は即座に立ち上がった。床に、表面の黒ずんでいる卵の欠片が大量に落ちている。 してみれば、これが腐卵臭の原因だろうか。 ( ^ω^)「なんだお、これ」 いつもと同じ寝床のはずだった。その証拠に、部屋そのものは変わっていない。 ただ、全てのものが古びている。黒ずんでいる。 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:03:25.93 ID:30N2mbfW0 いつの間にか何百年と眠ってしまい、いまや自分は浦島太郎状態なのか? いやいや、そんなはずはない。現に自身の外見は変わっていない。声もそのままだ。 では、どうして……。 ( ^ω^)「電話……」 なぜだか、彼が最初に思い当たった救済の手段は電話だった。 携帯電話。いつもは時計の隣においておく。しかし今日は無い。どこにもない。 救済されることができない。 ( ^ω^)「……部屋を、出るお」 彼はそういって、布団から一歩踏み出した。なぜこんなに独りごちているのか、彼自身分からない。 布団の一歩外は床だ。その床は、湿っぽく、踏みつけると足の裏に生ぬるい水分がはりつく。 とりあえず気にしないことにして、彼は寝巻きのまま、歩き続けた。 途中、背の高い家具があったので触れてみると、触れた先からボロリと崩れた。 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:06:26.21 ID:30N2mbfW0 彼は部屋を出たが、部屋の先には何も無かった。 ( ^ω^)「……そうか、誤字……」 彼はこの小説のルールを思い出し、立ち往生した。 次の五時がでてくるまで、 ------誤字『誤字→五時』------ 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:10:34.53 ID:30N2mbfW0 突然床が震動した。ガラガラと、不自然な躍動を見せた。 気がつくと、彼は自室に舞い戻っていた。 (;^ω^)「……!?」 彼は、布団の上にいる人物を発見して思わず声を上げそうになった。 そこで、ブーンが眠っていた。 ( ^ω^)「僕が……いるお……」 今、同じ部屋に同じ人物が二人いる。 なぜこんなことになったのだろう。 ( ^ω^)「……時計!」 彼は枕もとの時計を取り上げた。5時。 (ヽ´ω`)「……」 ブーンは、疲弊しきったように首を軽く振って、独りごちた。 (ヽ´ω`)「時間が、戻ったのかお……」 61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:17:36.43 ID:30N2mbfW0 すでに部屋は朽ちてしまっている。昨日寝入るときは普通だったのだ。 では、いつ部屋は変化してしまったのだろう? ( ^ω^)「六時になれば、こいつが起きるはずだお……そしたらなんか、相談できるかもしれないお。 独りより、二人のほうが……」 ブーンは待つことにした。 部屋の片隅に座り込み、ひたすら一時間が経過するのを待ちわびた。 しかし、こういうときに限って、時間は極めて緩慢に進む。 いつまでたっても、ちっとも時が経たない。 ( ^ω^)「……」 だが、彼には何もすることができなかった。 そもそも、この小説において、ブーンは完全に受身でなければならなかった。 自分から行動することは、ほとんど許されていないのである。 誤字という、不可解で偶発的な引き金が、誰かによって引かれない限りは……。 目の前の自分自身は、すやすやと眠っている。 腹立たしいほどにすやすやと、安らかな寝顔で眠り続けている。 起きているブーンは、ただそれを眺めて、ぼんやりとしていることしかできなかった。 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:20:22.19 ID:30N2mbfW0 ……もしもこのまま誤字が無かったら。彼は考える。 この物語も、途中で終了することがありえるのだ。 それは誰の都合でもなく、強いて言えば、紙の振ったさいころの都合 ------誤字『神→紙』------ 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:26:53.08 ID:30N2mbfW0 突然、部屋に誰かが入ってきた。 人物の正体は明らかではない、誤字による指示が無いから、まだ明かされない。 男か女か、少年が老人か、何も分からない。 ただ確かなのは、その人が右手に紙を持っていることだけである。 その人物は、真っ直ぐに眠っている方のブーンへ歩いた。 起きて、部屋の隅で縮こまっているブーンには気づいているのかいないのか、目もくれない。 人物は眠っているブーンのそばまでたどり着くと、枕元へしゃがみこんだ。 そして、右手に持っている紙片を、枕の下に差し込んだ。 その瞬間、紙片の一番上に書いてある言葉が、起きているブーンには見えた。 『招待状』 66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:29:00.66 ID:30N2mbfW0 招待状。それはすなわち、夢の中で見たそれと同一である。 それを撫ぜ ------誤字『何故→撫ぜ』------ 67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:35:14.05 ID:30N2mbfW0 人物が眠っている方のブーンの頭を撫でた。 なぜか、起きているほうのブーンの背筋に寒気が走った。 奴は一体誰なのだろう? 妙になれなれしいが、ブーンの知っている人物だろうか。 可能性を考えるなら、例えば、親――父か母かは分からないが――というのはどうだろう。 或いは、兄弟。あの撫で方からして、兄か、姉だろう。 だが、そういう近しい関係の人間が、わざわざ『招待状』なるものを枕の下に忍ばせるだろうか? 不気味だった。人物は今なお、眠っている方のブーンの頭を撫で続けている。 いとしいのだろうか? それとも、人物もまた、護持の制限を ------誤字『誤字→護持』------ 69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:41:38.22 ID:30N2mbfW0 「護っているのさ」 不意に人物が呟いた。 やはり男声か女声かわからない、合成された機械音声のようだ。 ( ^ω^)「護っている?」 「そう、護っている」 ( ^ω^)「何を護っているんだお?」 「分からない。ただ、護っているんだ」 人物の表情は分からないが、その声は何故だか泣き出しそうな者だった。 ------誤字『もの→者』------ 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:48:10.48 ID:30N2mbfW0 その途端、人物の吐いた声がヒョコリと立ち上がった。 声はそのまま脚を生やし、トットと部屋を出て行った。 「……。……!」 声に出て行かれた人物はオシになっていた。 彼は何事か言いたそうに身体を動かしながらヨロヨロと立ち上がった。 ( ^ω^)「出て行ったら、護れなくなるお?」 僕は意地悪く、そう言ってみた。 人物はいっそう身体をくねらせ、また、じたばたさせた。 しかし人物は、泣き声を上げることも出来ないのだ。 人物はよろめき、足もとの腐った卵を踏みつぶしながら部屋を出て行った。 75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:53:09.43 ID:30N2mbfW0 出来ることは一つだ。 ブーンはこっそりと、眠っている自分自身のそばへ寄った。 そして、人物が先ほど差し入れた『招待状』を静かに抜き取った。 ( ^ω^)「……」 夢の中で見たそれと全く同じだ。 唯一違うのは、くしゃくしゃでないところぐらいだろうか。 未だ、布団の上のブーンは安から ------誤字『安らか→安から』------ 78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 21:58:28.84 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「安からず、高からず、と言ったところじゃない?」 不意にそんな台詞が思い出された。 今回は顔も思い出せる。確かその顔は……。 ( ^ω^)「しょぼん……友達だお」 ところで、ブーンは自分が何歳なのかをよく分かっていない。 中学生以上であることは以前の描写で理解しているが、高校生か、大学生か、 もしくは社会人であるかもしれない。そのへんのところがよくわからない。 ( ^ω^)「僕は、何かを飼ったのか ------誤字『買った→飼った』------ 80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:04:13.89 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「安からず、高からず、じゃないかな。その値段は」 しょぼんが入ってきた。何故か四つん這いで、全裸だ。しかも首輪をつけている。 (;^ω^)「いやいやいやいやいやいや」 (´・ω・`)「さあ、僕はどうすればいいんだい?」 (;^ω^)「は?」 (´・ω・`)「だって僕は君に飼われたんだよ。安からず、高からずのお値段で……」 こちらへ歩み寄り、潤んだ瞳で見上げてくるしょぼんに、ブーンはただ、たじろぐばかり。 (;^ω^)「唐突なホモ展開は読者を裏切るんじゃなかったのかお!?」 (´・ω・`)「何をわけのわからないことを言ってるんだい?」 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:09:29.39 ID:30N2mbfW0 誤字よ来たれ! とブーンは願った。 どんな展開でも、今よりはマシだろう。 だが、こういう時に限って誤字をしない。気にしすぎるから、逆にしないのであろう。 それはブーンにとっても、作者にとっても残念極まりないことである。 (;^ω^)「僕、ここで掘られるのかお!?」 ブーンは必死で思い出した。 そうだ、『ショー・シャンクの空に』の主人公だって掘られたじゃないか。 でも、あの映画はサワヤカ系だったじゃないか。全米が泣いたじゃないか。 まさか尻の痛みに泣いたわけじゃないだろう。 だから僕も、まだサワヤカ系でいられるはずだ! ……しかし、結局掘られることに変わりはないんじゃないか? (´・ω・`)「さあ、ブーン。いっぱい僕を……」 86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:16:26.02 ID:30N2mbfW0 執拗に腕を絡まされながら、ブーンは何とかしょぼんを避けつつ、何故こうなったのかを考えた。 (;^ω^)(僕がしょぼんを飼った……? なんでそんなことを? 僕にそんな気は無いはずだお……) 元より、ブーンにはこの物語が始まる前の記憶がない。 なので、それまでどのような性的嗜好を持っていたかは知りようもないのだ。 だが、自分がかつてホモだったとはなかなか認めたくない。 世界中の同性愛団体に糾弾されようと、それは仕方ないことである。 しかし、本当にこれでいいのだろうか。 なんだかミステリっぽい展開だったのに、本当にこれでいいのだろうか。 今やBLはブームなのだろうか。本当にこれでいいのだろうか。 こうやって打っている間に誤字は出ないだろうか。本当にこれでいいのだろうか。 出ない。しかし出ない。これが現実。 89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:23:05.31 ID:30N2mbfW0 ( ^ω^)「そうだ、招待状……」 彼は先ほど手に入れた招待状のことを思い出した。 これを見る権利は、今のブーンにもあるはずである。 だが、『招待状』と書かれた下には、こう書かれているのみだった。 『真実を知りたければ』 後に続く文字がない。 ( ^ω^)(まだ、誤字の指示が足りないのかお?) いい加減、風呂敷にも限界がある。そろそろたたみ始めなければ話にならないのだ。 そして、このまま誤字が出なければ、中途終了と言うことも十分に考えられる。 (´・ω・`)「その場合は、つまり、そういう終わり方になるだろうけどね」 そんな陳腐なエンディングだけは迎えたくない。 ( ^ω^)(招待状ってことは、どこかの場所に答えがあるはずだお……。 だから僕は歩き回らないといけないんだけど、そうすることもできないし、 いかんせん、この体勢じゃあ……) 91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:27:44.00 ID:30N2mbfW0 腐乱した卵。古びた部屋。そして飼われているしょぼん。飼っているブーン。 招待状。真実はそこにあるらしい。だがそこがどこなのか、真実とは何なのか、まったくわからない。 そして結局、あの人物とは誰だったのだろう? 招待状を差し向けたのはその人物だった。 『彼』とも『彼女』とも言い難い、あの人物……。 (´・ω・`)「残鉛だけど、 ------誤字『残念→残鉛』------ 94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:33:50.86 ID:30N2mbfW0 カタリ、と何かが落ちる音がした。 振り向くと、腐った家具の上から何かが落ちたらしかった。 コロコロと転がり、やがて動きを止めたそれは、鉛の弾。つまり、銃弾だ。 ( ^ω^)「なんで、こんなものがここに……?」 (´・ω・`)「ああ……それは、残りじゃないか」 ( ^ω^)「え?」 (´・ω・`)「さんざ使っただろう、銃弾を。その、残りなんじゃないのか」 ( ^ω^)「……僕が、銃を?」 僕は立ち上がり、家具のなかを引っかき回した。 中から薄汚れた拳銃が現れた。 ( ^ω^)「……これを? 僕が?」 (´・ω・`)「そうだよ……そうか、君は忘れてしまっているんだね、何もかも」 ( ^ω^)「どういうことだお!? お前、何かしってんのかお!?」 (´・ω・`)「もちろん……。ああ、でもごめんね、僕は何も言えないんだ。そう、何も……」 95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:36:08.90 ID:30N2mbfW0 戦慄が走った。どうやら、真実はこの拳銃に関わっているらしい。 それが分かっただけでもよかったといえる。 しかし、どうやら、ハッピーエンドにはならなさそうだ。 ( ^ω^)「使った……こえ」 ------誤字『これ→こえ』------ 98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:39:15.05 ID:30N2mbfW0 「幸せだよね、ブーンは」 不意に、そんな声がどこかから響いた。 ( ^ω^)「!?」 「幸せだよ」 「うん」 「普通の家庭で育って」 「両親ともご健在だし」 「そうそう」 「不幸じゃないね」 「本当に」 (;^ω^)「だ、誰だお!?」 101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:45:20.16 ID:30N2mbfW0 何故こんな声が響いてくるのか、分からない。 だが、隣でしょぼんは、文字通りショボンとした風に佇んでいる。 やはり、彼は、何かを知っているのだ。 (;^ω^)「しょぼん……」 (´・ω・`)「僕は指示をされていない」 悲しそうに、彼は言った。 だが、真実はまだ、誰にも分からない。 ブーンにも、そして、書き手にさえ。誤字と、そこから広がる発想及び展開のみが、 彼の真実、そしてその過去を指摘できるのだ。 だからまだ、無限の可能性が残っている。 ( ^ω^)(そう、ハッピーエンドだって、まだ、ありえるお……) しょぼんが、まるで飼われている犬のような声で鳴いた。 しかし、ここまで来たのなら、いちいちインターバルなど設けず、 さっさと先へ進んで欲しいものだ。だが、それだって神のさいころの目次第である。 105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:50:56.35 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「もしもこの物語が終わらなかったら」 不意に訪れた沈黙へ、しょぼんが言葉を投げ入れた。 (´・ω・`)「それはもしかしたら幸せなことかもしれない。 終わらない物語は、そのまま、永遠に終わらないのだから」 ( ^ω^)「……しょぼんは、それでいいのかお?」 (´・ω・`)「いいよ。だって僕は、今の地位に満足しているからね」 ( ^ω^)「……」 (´・ω・`)「永遠の命、欲しいじゃないか。死ねないことを苦痛に感じるまで、生きていることに、 悦びを感じられるんじゃないか。この地位で、ペットのままで……」 ( ^ω^)「僕は、いやだお……ちゃんと終わらないと、後味が……」 (´・ω・`)「後味なんて、僕らが味わうものじゃないさ。 それに、その拳銃は、決して良い方向へ君を導かないよ」 ( ^ω^)「『決して』なんて、どうしてお前に言えるんだお?」 106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:54:56.18 ID:30N2mbfW0 やや苛ついた調子でブーンは言った。実際、いらだっているのだ。 誤字は発生しても、しなくてもブーンを攻撃した。 こうした待機の時間が、あまりにも惜しい。 (´・ω・`)「……言えないかも、しれないけどね、でも、どうやったって……」 ( ^ω^)「なんだお?」 (´・ω・`)「いや……なんでもない。君に話すべき事じゃない」 ( ^ω^)「何を……知ってるんだお!?」 (´・ω・`)「言えたら僕だって言いたいさ!」 再び、沈黙。ブーンはふと、手の中の拳銃に目を落とした。 ……脅迫してもいいかもしれない。しょぼんを。 (´・ω・`)「脅迫するつもり懐 ------誤字『つもりかい→つもり懐』------ 107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:59:16.68 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「……指示だ」 ( ^ω^)「お?」 (´・ω・`)「さっきの声、覚えているかい? あれは、君がまだ、中学生の頃にかけられた言葉だ」 ( ^ω^)「……中学生」 (´・ω・`)「僕ら友達同士の会話さ。思い出さないかい? 懐かしいだろう……。 あの頃流行っていたじゃないか、自分の不幸を話すことが差 ------誤字『ことがさ→ことが差』------ 110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:03:26.46 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「君は他の友達に差をつけられていたね。不幸具合に。 みんな一つぐらい、不幸な話を持っていた。 やれ、父親が死んだ、だの、母親が自殺した、だの……」 ( ^ω^)「……」 (´・ω・`)「ところが君には何も無かった。不幸話が。 君はあまりにも幸せに育ってきていたんだ。その結果が、あの子えさ」 ------誤字『あの声さ→あの子えさ』------ 112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:08:22.32 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「……そう言えば、ブーン。あの子はどうしたんだ?」 ( ^ω^)「あの子?」 (´・ω・`)「あの……子だよ」 しょぼんが、真摯な瞳で僕を見つめてくる。 僕にはさっぱり思い出せなかった。 が、次の瞬間、口が勝手に動き出した。 ( ^ω^)「……えさにしたお」 (´・ω・`)「えさ? なんの?」 ( ^ω^)「決まってるじゃないかお……ペットに……お前に……」 114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:15:46.88 ID:30N2mbfW0 (;^ω^)「僕は何を言ったんだお!?」 言い切った瞬間に、ブーンは叫んだ。 しょぼんが哀れっぽそうな目で彼を見つめる。 (´・ω・`)「……そうか。あの子は、僕が食べたのか……」 (;^ω^)「そんなこと……今のは勝手に喋らされて!」 (´・ω・`)「この世界では、誤字が真実なんだよ。分かるだろう? 今更何も驚くことはない、君に罪があれば、勝手に誤字が告発してくれる」 (;^ω^)「お前に何がわかるんだお!? ペットの分際で……」 (´・ω・`)「そうだよ。だとしたらどうする? 残りの弾でも使うかい?」 ブーンは沈黙せざるを得なかった。どうすることもできないのだ。 ただ、川に流される笹舟のように、それが泥水にせよ、急流にせよ、翻弄されるしかない。 (ヽ´ω`)「僕は……何も知らない……」 (´・ω・`)「でも、罪さ。誤字は正しいよ。正確な誤字さ」 115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:21:28.77 ID:30N2mbfW0 (ヽ´ω`)「……あの子って、誰だお?」 (´・ω・`)「さあ、それはまだ指示がない。でも、あの子さ」 (ヽ´ω`)「……僕はそれを、君に食べさせた?」 (´・ω・`)「ああ。そうらしいね」 (ヽ´ω`)「食べさせたって事は……殺した……」 (´・ω・`)「だろうね」 (ヽ´ω`)「……何故」 (´・ω・`)「さあ。それはまだ、誰にも分からない」 ( ゜ω゜)「そうじゃないお! なんでこんな展開なんだお! 誤字、誤字なんて、もっと使い道があるだろうがお! ギャグとか、コメディとかそういう……なんでこうなんだお!? 僕が誰かを殺すなんて、そんな、そんな使い方って……!」 116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:23:36.91 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「それは……多分、土台があるからじゃないか?」 ( ゜ω゜)「はヵ…… ------誤字『はぁ→はヵ』------ 118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:31:49.17 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「はか……か」 しょぼんはそう言うと、ブーンから離れ、部屋を徘徊した。 そして、先ほどの人物が踏みつぶさなかった卵を拾い上げ、彼に見せた。 (´・ω・`)「ご覧よ、ブーン」 (ヽ´ω`)「……」 (´・ω・`)「ほら、もうほとんど消えかかっているけど、名前が書いてあるだろう?」 (ヽ´ω`)「名前……?」 (´・ω・`)「これは……ジョルジュ、か。こっちはツンだな。こっちは多分デレ……。 ほら、よくご覧よ、一つ一つに名前が書いてある。見える?」 (ヽ´ω`)「しょぼん、さっきお前が言った、土台って……」 (´・ω・`)「もうその話は出来ないな。だって、もう次の展開に入っちゃったから。 さあ、見なよ。全部に見覚えがあるはずだ。 そりゃそうだよね。だってこれ、君が殺した人たちの名前なんだから」 122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:37:30.83 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「卵って、まだ生まれてない命じゃないか。 君はそれと、殺した人たちを重ね合わせたんだよね。 一つ一つ、マジックで丁寧に、書いていたよね」 (ヽ´ω`)「……」 (´・ω・`)「『死んだのと生まれてないのとで、プラマイゼロだお!』って言ってたね」 (ヽ´ω`)「もういいお……」 (´・ω・`)「え?」 (ヽ´ω`)「もういいお、もう十分だお。裁くならはやく裁いてくれお。 もう十分じゃないかお。だってもう、証拠はあるじゃないかお……」 (´・ω・`)「駄目だよ、まだ終わらないよ。このまま終わっちゃうだなんて、寂しいじゃないか……」 (ヽ´ω`)「なんでそんなにお前は、続けたいんだお?」 (´・ω・`)「だって僕は、君のペットだもの……」 しょぼんはそう言って殊更執拗に卵を踏みつぶしはじめた。 123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:44:13.64 ID:30N2mbfW0 (´・ω・`)「それにしても、何でこの部屋、こんなに朽ち果てているんだろうね」 (ヽ´ω`)「しょぼんにも、分からないのかお?」 (´・ω・`)「幾つか可能性は考えられるけど……どうだろうな。 誤字が示してくれるのを待つしかないな」 (ヽ´ω`)「……結局、誤字ってなんなんだお?」 (´・ω・`)「……フロイトによると、言い間違いには本心が隠れているそうだ。 その人の本当に言いたいことが、つい漏れ出してしまうんだって。 同じように考えると、書き間違いも、本心が隠れていると言うことに暗ル」 ------誤字『になる→に暗ル』------ 126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:51:44.77 ID:30N2mbfW0 突然、『招待状』に文字が浮かび上がった。 『真実を知りたければ、暗い部屋へ』 (´・ω・`)「暗い部屋、だって」 (ヽ´ω`)「どこだお……」 (´・ω・`)「君ならどこを連想する? 暗い部屋……例えば?」 (ヽ´ω`)「……何で僕がそんな連想しないといけないんだお?」 (´・ω・`)「したくなかったら、しなくてもいいけど……」 しかしどうしようもなかった。しなければ、どうなる? そのうちまた誤字によって、妙な展開をされるだけなのだ。 それも決してブーンにとって利益でない、不幸な展開を……。 そう、毎回そうだ。ちょっとぐらい救いを与えてくれてもいいじゃないか。 なのに毎度毎度、与えられるのは不幸。恐怖。狂気。その他ネガティヴなものばかりだ。 自分から動けば、少しは良い方向へ修正できるかもしれない。 128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 23:58:51.96 ID:30N2mbfW0 (ヽ´ω`)「例えば……地下室」 だが、言ってからすぐに、しまった、と思った。 地下室! なんと恐怖に充ち満ちた言葉だろう! (´・ω・`)「そうか、地下室か」 だがもう遅かった。誤字による連想を止めることは出来ないのだ。 僕は最早、自分で言ったことばに縛り付けられるよりほか、ないようである。 (´・ω・`)「じゃあ、行こうか」 (ヽ´ω`)「……どこへ?」 (´・ω・`)「決まってるじゃないか、地下室へ、だよ」 そう言ってしょぼんは歩き出した。 ……そしてブーンは、その、全裸で首輪の男について歩くしかなかった。 とりあえず銃は携帯しておいたが、今の自分に使いこなせる自信は無かった。 129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:07:02.60 ID:tTfzre+I0 結局、何をしようが自分は受け身でしかないのだ。 (´・ω・`)「ところで、知ってるかい、欲求にもいくつかの層があるんだよ。 一番下が自身の安全。その次が食欲や性欲。 次が社会的賞賛や金銭、知的好奇心。最後が自分自身の完成」 それを聞きながら、言うまでもなくブーンは、最初に見た夢を思い出していた。 (´・ω・`)「そうやって段階を経ることで、初めて自己達成するんだ。 分かるかい? その層の中で、君の罪はどのあたりに配置されるだろう?」 (ヽ´ω`)「……多分、全部じゃないかお」 (´・ω・`)「全部?」 (ヽ´ω`)「夢の中で僕は、たくさんの層を見たお……」 ブーンたちは道無き道を歩いていた。 どこを歩いているのかさえもう分からないが、目的地……つまり地下室へと、 真っ直ぐに歩いていることだけは理解できた。 131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:11:11.66 ID:tTfzre+I0 そう言えば、もう久しく誤字が見あたらない。 次の展開は最早必要無いのかもしれなかった。 何故なら、もう、物語は、自然に進むほか無いだろう……。 だが、一つ懸念がある。 在る続ける ------誤字『歩き続ける→在る続ける』------ 133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:17:17.25 ID:tTfzre+I0 (ヽ´ω`)「あの頃、みんな厨二病だったお」 ブーンはぼつぼつと話し始めた。 それが自分自身の意思によって話しているのか、 それとも、先ほどと同じように、誤字の強制によって喋らされているのか、自分でも分からなくなっていた。 (ヽ´ω`)「不幸を話すみんなが羨ましかったんだお。 みんな悲しそうなふりして、そのくせ、どこか嬉しそうだったお。 それが羨ましかった……でも、僕にはなんにもないんだお」 (´・ω・`)「……」 (ヽ´ω`)「それだけでもう、存在を否定されてる気分になれたお。厨二病、恐いお……」 (´・ω・`)「それで、殺しを?」 (ヽ´ω`)「……とにかく、みんなと違うことをしないとって」 (´・ω・`)「だから、異常者のように人を殺した。 だから、同性愛者のように僕をペットにした。存在し続けるために?」 ブーンは沈黙した。いつまでたっても地下室には辿り着けなかった。 地下室、ということは下らなければならなさそうだが、その道が見あたらなかった。 目的地へと邁進している感覚も、いつしか遠のいていった。 134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:24:27.96 ID:tTfzre+I0 結局、二人は元の部屋に戻ってきていた。 (´・ω・`)「……駄目だってさ、自分たちで行動するのは」 (ヽ´ω`)「……」 (´・ω・`)「誤字を待つしかないんだろうね。それにしても、意地悪なことだよ。 もう終わったっていい……僕でさえ、そう思えるようになってきたって言うのに」 不意にブーンは、そこに眠っているもう一人のブーンについて考えた。 そうだ、今は何時だろう? (ヽ´ω`)「時計……」 彼は時計を取り上げ、眺めた。 (ヽ´ω`)「……もう、六時を十五分も過ぎているお。 なんでこいつは目覚めないんだお?」 135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:30:42.90 ID:tTfzre+I0 (´・ω・`)「どうして?」 (ヽ´ω`)「どうしてって……だって、時間が戻ったんだから、僕は六時に目覚めたんだから」 (´・ω・`)「どうして、時間が戻ったなんて言えるんだい?」 (ヽ´ω`)「え、だって……」 (´・ω・`)「確かめたの?」 (ヽ´ω`)「……そんなこと言ったらもう、僕には何も分からなくなるお」 (´・ω・`)「そうだよ、その通りさ。ここには誤字という真実がある。 裏を返せば、誤字以外に真実は何も無い」 分かっている。それは十分に分かっているつもりだ。 しかし、納得できたかというと、話は別だ。納得は出来ない。 (ヽ´ω`)「……中途終了」 (´・ω・`)「え?」 ( ゜ω゜)「そうだお! 躊躇 ------誤字『中途→躊躇』------ 137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:35:31.93 ID:tTfzre+I0 (´・ω・`)「……さっき、君に言おうとして止めたことがあったろう?」 ( ゜ω゜)「?」 (´・ω・`)「君は僕に、『決して』なんて言えない。と言った。 でも僕には分かるんだ。どうやったって、ハッピーエンドにはならない」 ( ゜ω゜)「どうしてだお!?」 (´・ω・`)「土台がある、と言っただろう? その言葉の通りさ。 この物語には土台がある。確かに誤字は真実を導くよ。偶発的にね。 でも、それにだって限界がある。いいかい?」 ( ゜ω゜)「……」 (´・ω・`)「一つの誤字が中心点にあれば、そこから360°に道が広がっている。 さて、じゃあ、『どうやって誤字から真実へ、正しい線を結ぶだろう?』」 ( ゜ω゜)「……どういうことだお?」 (´・ω・`)「誤字にだって無数の取り方がある。常に正しい方へ取れるのは何故だと思う?」 138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:42:23.66 ID:tTfzre+I0 ( ゜ω゜)「……それが、土台?」 (´・ω・`)「そう」 ( ゜ω゜)「じゃあ、そのど地」 ------誤字『土台→ど地』------ 139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:48:05.58 ID:tTfzre+I0 (´・ω・`)「君は、ここまでで一つドジを踏んだ。気付いていないかもしれないけど」 ( ゜ω゜)「……?」 (´・ω・`)「よくよく見返してみるといい。ここまでの足取りを。そして、その全ての文章を」 ( ゜ω゜)「何を言ってるんだお?」 (´・ω・`)「君は全て認識できるはずだ。今までの文章。台詞。その細部に至るまでの全部をね」 ( ゜ω゜)「まわりくどいお! はっきり言えばいいお!」 (´・ω・`)「……君の一人称、『僕』だよね」 ( ゜ω゜)「……そうだお」 (´・ω・`)「……うん。ところで、地の文の中にもいくつか、『僕』って入ってるね。 心情描写でも無いところに。僕って視点から書かれてるところがあるね。 一体、どうしてだい?」 143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 00:57:24.88 ID:tTfzre+I0 ( ゜ω゜)「……それは……」 (´・ω・`)「『僕は立ち上がり、家具のなかを引っかき回した。』……これは、確かに君の行動だ。 だけど、何故『僕』なんだろう? 書き手は、別人のはずなのに」 ( ゜ω゜)「……」 (´・ω・`)「他にもあるけど、回りくどくなるからやめておこう。 そしてはっきり言うよ。全て、君が書いているんだろう?」 ( ゜ω゜)「そんなッ」 (´・ω・`)「いい加減認めればいいじゃないか。 君は、今と同じように『現実の世界でも』犯行を否認した。し続けた。たくさん証拠はあるのに。 挙句、『はやく裁け』ときた。反省なんてまったくしていないんだ」 ( ゜ω゜)「……」 (´・ω・`)「だが君にも僅かな良心があったね。それがこの小説を書いた。 だが大部分の君の感情は、受け身になることで自分自身への攻撃を避けようとした。 その結果があの部屋さ。朽ちて、腐って……」 ( ゜ω゜)「卵……」 (´・ω・`)「見事に腐っていた。ご丁寧に、名前まで消そうとしていた」 147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 01:06:36.24 ID:tTfzre+I0 (´・ω・`)「何度でも言う、作者は君だ。他の誰でもない。『彼』じゃないんだ」 ( ゜ω゜)「……」 何とか反論を試みようとしたが、無駄だった。 何にせよ、人称の問題は覆せそうになかった。 そうだ、僕は初歩的なミスを犯していたのだ。絶対にあってはならない、ミスを……。 (´・ω・`)「……そしてきみは、誤字に委ねた。自分自身の罪状をね。 それでもって、自分自身は最後まで足掻こうとしたんだよ」 (ヽ´ω`)「……僕は、そんなに悪い奴だったのかお?」 (´・ω・`)「……そうとも言えない。フロイトの言うとおり言い間違いが本心を表し、 その応用で、誤字もまた、本心をあらわそうとしていたなら……」 (ヽ´ω`)「……」 (´・ω・`)「それに、僕がいる」 (ヽ´ω`)「……そうかお」 相変わらず、記憶はなかった。だが、一度消した記憶が元に戻らないのなら仕方あるまい。 戻らないのは何もかも同じだ。この文章にしたって、すでに晒されているのだ。 後戻りなど、できようはずもない。最初に、それを理解していたはずだったのだが……。 149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 01:16:41.05 ID:tTfzre+I0 一つ謝罪しなければならないと思う。 全てのことに関してそうだが、完全なる偶然など出来ようはずが無い。 それはもはや偶然ではなく、必然になってしまう。 ……誤字は確かに、ある程度偶発的だったかもしれない。 しかし、それいじょうに作者の……つまり僕の、バイアスがかかっていた。 そればかりは、どうしたって否定できまい。道すがらの誤字の解釈をしたのは、 全て僕なのだから。その意味で、心理学だって決して完璧では無いのだと思う。 誤字のみのルールで書ける小説など、書き手が機械でも無い限り、出来ようはずがないのだ。 (´・ω・`)「君はまだ、全ての罪に向き合うことは出来ないかもしれない。 だが、この過程を経て、一歩進めたことは間違いないだろう? その意味では、僕の存在だって、決して無意味じゃなかった」 (ヽ´ω`)「……もう、分かったお。やっぱり、まだ、終わらないのかお」 (´・ω・`)「言っただろう? 終わらないんだよ……それだと、寂しいから。 さあ、そろそろ終いに日誌ようか」 ------誤字『にしようか→日誌ようか』------ 152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 01:26:16.73 ID:tTfzre+I0 そう言ってしょぼんは去っていった。 僕はその姿を見送ってから、周囲の家具を引っかき回す。 ( ^ω^)「あったお」 それは一冊の日記帳だった。 といってもただのノートだが、中学時代、痛い言葉をたくさん記した覚えがある。 (;^ω^)「きたねー字……」 汚い字で痛い言葉が書き連ねられている。その中の一文を抜き出し、僕は読み上げた。 (;^ω^)「タイトル『エディプス・コンプレックス』」 ( ^ω^)「今日もみんなが不幸自慢している。素直に言えば、羨ましい。 だが、僕にだって不幸はあるはずだと思い、記憶の糸をたぐった。 その結果、一つ見つけた。だが、これは恥ずかしくてみんなに言えない」 154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/22(月) 01:31:43.39 ID:tTfzre+I0 ( ^ω^)「それは、『母親に頭を撫でられたことがない』だ。 小さい頃、みんなはどうせ経験しているのだろう。僕にはない。 覚えていないだけかもしれないが、とにかくないんだ! 俺にも不幸あったぞ!」 ( ^ω^)「……虚しい。終わり」 そう言えばそうだった、と思い返す。僕は母親に頭を撫でられたことが無かった。 その時、誰かが部屋に入ってきた。あの人物だ。 声を取り戻したらしく、小さく何かを言いながら、眠っているブーンの枕元に座る。 そしてまた、彼の頭を撫で始めた。 ( ^ω^)「……何をしてるんだお?」 J( 'ー`)し「護っているのさ、この子をね……」 ……母の声は、涙混じりだった。 罪を認めず、否定し続ける我が子の姿を見るのは、 そして、そんな我が子の心を護り続けるのは、どんなに辛かったろう。 僕はその時初めて、全ての罪を思い出した。 そして、初めてまともに、偶発などに頼らず、あらゆる現実と向き合える気になれた。 ( ^ω^)ブーンは誤字を待つようです 終わり
101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/21(日) 22:45:20.16 ID:30N2mbfW0
何故こんな声が響いてくるのか、分からない。 だが、隣でしょぼんは、文字通りショボンとした風に佇んでいる。 やはり、彼は、何かを知っているのだ。 (;^ω^)「しょぼん……」 (´・ω・`)「僕は指示をされていない」 悲しそうに、彼は言った。 だが、真実はまだ、誰にも分からない。 ブーンにも、そして、書き手にさえ。誤字と、そこから広がる発想及び展開のみが、 彼の真実、そしてその過去を指摘できるのだ。 だからまだ、無限の可能性が残っている。 ( ^ω^)(そう、ハッピーエンドだって、まだ、ありえるお……) しょぼんが、まるで飼われている犬のような声で鳴いた。 しかし、ここまで来たのなら、いちいちインターバルなど設けず、 さっさと先へ進んで欲しいものだ。だが、それだって神のさいころの目次第である。
あとがき