ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです 第16話
- 2014/07/09
- 14:03
- ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
298 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:19:09 ID:qTz0cvPY0
◆第16話◆
XX24年 T月
予定調和で、仕事に身が入らない日が続いた。
ξ゚⊿゚)ξ「………」
もともと本腰入れるほどのモチベーションで仕事してなかったので、あまり人に気づかれることはないのだが
( ゚∀゚)「………」
.
XX24年 T月
予定調和で、仕事に身が入らない日が続いた。
ξ゚⊿゚)ξ「………」
もともと本腰入れるほどのモチベーションで仕事してなかったので、あまり人に気づかれることはないのだが
( ゚∀゚)「………」
.
299 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:20:38 ID:qTz0cvPY0
夢にうなされ、終いには泣き出したツンを目の当たりにしたジョルジュだけは、なんとなくその士気のなさに気づいたらしく、落ち着いてから改めて理由を尋ねてみたことがあるが
言及しようとすればするほど押し黙るツンをいい加減見限って、最近は目に余る勤務態度を咎めることさえある。
そういうツンの頑なな態度は、時に男性の英気に一点の曇りを齎す。
要するに、自分じゃ頼りにならないのか。そんな風に思わせてしまうことがあるのだ。
.
300 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:21:38 ID:qTz0cvPY0
もとより、やや女々しい性格のジョルジュにしてみたら、なんだか隠し事をされてるように見える時さえある。
人間、隠し事をされたと思うと俄然裏切られたと錯覚するもの。
もしそれが勘違いなのであれば、普段のツンなら毅然と否定し納得のいく弁明をくれるはずだと思ってたが、今はただただ黙秘を決め込んでいる。
結局ジョルジュになんの説明も相談もできてなく、だんだんコミュニケーションを取らなくなってきた二人の関係は、今はあまり芳しくなかった。
301 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:23:42 ID:qTz0cvPY0
从 ゚∀从「ツンじゃん。相変わらず暇そうだな」
無駄に壮麗な美術館にはそぐわない、底抜けに明るい声がした。
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?何してんの?」
まさかの珍客に少々出し抜けられたが、その締まらない声の返事は、とても仕事中とは思えない。
从 ゚∀从「今展示してるのってミセリの絵だろ?ちょっと気になってたんだよね」
.
302 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:25:29 ID:qTz0cvPY0
ミセリ。今20代を中心に人気のあるイラストレーターだ。
オブジェなどの立体的な作品がなく、ちょっとファンシーなポストカードのようなイラストがひたすら展示されている。
その目玉のなさを補うように、期間限定で本人に似顔絵を描いてもらえる小さな特設会場なんかもあり、それなりに反響を呼んでいるようだ。
はっきり言って、この一切関心が持てない展示物もツンの士気を下げる一つの要因といっても過言ではない。
デジタルには頼らず、100%手描きのアナログ手法を謡ってるが、それが何だと言うのだろう。
ミセリ自身の若さと容姿、そしてストリートを経たというちょっとした付加価値がつけば簡単に話題になる浅はかさが、ツンには理解できなかった。
現にこうやって、普段なら現れないような珍客まで呼び寄せる、ミセリのネームバリューも馬鹿にできないから尚、不可解の一途である。
303 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:27:26 ID:qTz0cvPY0
304 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:28:22 ID:qTz0cvPY0
ハインはふらふらとフロア内を歩き回り、あまり満足に鑑賞したようには見えなかったが早々と一周してツンのもとへ戻ってきた。
从 ゚∀从「まぁ、実物ってこんなもんだよね」
ハインが期待したほどのクオリティではなかったようだ。
現れた時は一瞬彼女の価値観を疑ったが、あながちそれは歪んだものでもなかったらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「実際鑑賞もそこそこに、本人に会いに行く人ばっかりだよ」
从 ゚∀从「まぁ、それぐらいしか目玉ないもんな…」
ξ゚⊿゚)ξ「行ってみれば?」
从 ゚∀从「そうだなー…似顔絵待ち時間長いかなー…」
ξ゚⊿゚)ξ「そうそう。みんな似顔絵目的だから待ち時間潰しの鑑賞と化してる」
从 ゚∀从「…わからんでもないが、趣旨ズレてねぇか?」
305 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:30:15 ID:qTz0cvPY0
だからこそ不本意なのだ。とツンも思う。
企画にミセリ案を採用したことにより、美術館がただのミーハー向けのイベント会場と化している。
ただでさえ気分が沈んでる時に、この仕打ちはつらい。
何もかも、納得のいかないことばかりだ。
.
306 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:31:49 ID:qTz0cvPY0
从 ゚∀从「そういえば彼氏は?館内にいるの?」
ξ゚⊿゚)ξ「んー今は似顔絵の会場でこき使われてるんじゃない?」
从 ゚∀从「まじか。後で見に行ってみよっかな」
ξ゚⊿゚)ξ「ピンクのワイシャツだからすぐわかると思うよ」
そう言ってツンは、話し掛けられた見物客に簡単な案内をし始めた。
その声のトーンが、自分のような気心知れてる友達と話してるトーンとまるで変化がなく、そのあまり抑揚のない喋り方に緊張感なさすぎだろ…とハインは内心ちょっと呆れながら、ミセリがいる特設会場に向かって行った。
.
307 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:33:17 ID:qTz0cvPY0
会場には、長蛇というほどでもないがそこそこ列ができていた。
でも、一人分の似顔絵を描くのに10分や15分で終わるとも思えないので、そう考えると待ち時間はかなりありそうだ。
並ぶミーハー客に配慮して、会場にはプロジェクターが設置されており、『ミセリヒストリー』という軽いドキュメンタリーが放映されている。
『若く才能に溢れた美人イラストレーター』とたらし込まれた、製作側のセンスを疑う無限ループの映像に飽きた客はもう、何人か見向きもしてないようだが
从 ゚∀从(凝れば凝るほど、ただのイベント会場だな…)
なるほど根っから芸術オタクのツンが面白くなさそうなのも合点がいく。
尤もそれも狙いの一つなのか、美術館という敷居の高そうな威厳が覆されたようだ。
.
308 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:35:12 ID:qTz0cvPY0
( ゚∀゚)「こんにちはー。似顔絵お待ちの方ですか?」
ハインが突っ立ってると、爽やかそうな青年に声をかけられた。
首から名刺サイズの社員証らしきIDカードをぶら下げた、例のピンクのワイシャツだ。
それに寒色系のネクタイを合わせた姿が、凛々しく決まっている。
それでいて活力に溢れたような逞しさを体現したような、肉厚でがっしりした体格によく合っていて、顔も彫りが深く秀麗といえる。
从 ゚∀从「あ、いえ…結構待ちそうですし」
( ゚∀゚)「そうですねー。今からですと約1時間半ってとこですかね」
从 ゚∀从「そうですか…じゃあまた今度」
( ゚∀゚)「はい!お待ちしてまーす!」
.
309 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:36:59 ID:qTz0cvPY0
ハキハキとそう告げながら、青年は去って行った。
そうだよこれが仕事中の喋り方だよ。と、ハインは内心突っ込んだ。
まさかあの不精な喋り方をするツンが見習うべき模範が、あの彼氏とは。
从 ゚∀从(しかし……)
と、ハインが次にジョルジュを見遣った瞬間にはもう、似顔絵が仕上がった客とミセリのツーショット写真を撮っている。それもファンサービスの一環なのだろう。
310 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:39:44 ID:qTz0cvPY0
311 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:41:12 ID:qTz0cvPY0
( ゚∀゚)「―――――」
ミセ*゚ヮ゚)リ「――――――!」
ミセ*>ヮ<)リノシ(゚∀゚*)
( ゚∀゚)「―――!」
ミセ*^ー^)リ「――――!」
从 ゚∀从(…まぁこんな職場だから、か)
今更ながら、あまり人の彼氏を注視しすぎるのも無骨な気がしてきたハインは、聞こえてもいない会話は気にしないことにしてその場を後にした。
.
312 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:42:47 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「………」
相変わらず暇だった。
売れ線に目を向けた恩恵でいつもよりは人出はあるが、やはり絵に触れようとする人などいなければ、壊されたら困るような展示物もない。
さらに、ガイドというガイドを必要としないジャンルの絵なので、案内したことと言えばトイレの場所くらいなものである。
その人出も、ミセリ本人と会えるというイベントが終わればなくなるだろう。
わざわざ足を運んで鑑賞だけしに来るほどの絵じゃないとはツンも思ってるし、その面白みも歴史背景もない作品を、美術館側も推してるわけではないのだ。
313 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:44:46 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「お。ツンさんこんにちはだお」
また、その男は音もなく現れた。
あの夢を見てから数日が経っていたが、それでもなおしこりが残っているツンは、彼は何も知らないとわかってはいながらも一瞬顔を強張らせてしまう。
(;^ω^)「……お?」
ブーンもその、ツンの表情の鋭さに気づいたようだ。
.
314 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:45:56 ID:qTz0cvPY0
いつか、こういう日が来ることはツンも予感してた。
将来結婚を約束するほど縁のある人だ。今現在は連絡先さえ知らないが、どこかで絶対に会う。そんな気はしてた。
それも、ツンの行動範囲が自宅と職場の往復のみなら、その狭い道すがらでしかありえないのだ。
ブーンは絵を描くのが趣味だという。ならば美術館で遭遇するのもなんら不思議ではない。
ツンの職場であり、逃げ場のないこの美術館は、二人が交流するにはうってつけの『出会いの場』なのだ。
.
315 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:47:11 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「…ごめん、なんでもないの。それより、こういう絵にも興味あるの?」
ブーンの価値観を測るための、ある意味誘導尋問だった。
出会うべくして出会ってしまった今、どこかでブーンに失望しないと、決められた未来への一途だ。
すなわちそれは、避けようのない、死。
.
316 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:49:16 ID:qTz0cvPY0
――僕が生きてる現実とは違う生き方を、これからしてみるといいお。―――
そうだ。抗ってみないと。
何が変わるかはわからないけど、何もしなければ何も変わらないことだけはわかる。
.
317 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:50:21 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「おー…ろくに調べもしないで来ちゃったお。前回ツンさんに勉強させてもらったこともあって、今度から休みの日はたまに美術館覗いてみるっていう習慣もいいかなーって思ったんだけど…」
ξ゚ー゚)ξ「当たり外れあるからね」
(;^ω^)「あ…いやそんなことは…」
ツンは意地悪く笑って言った。
純粋なミセリ目的の見物客を気にしてか、はっきりと『興味ない』と言い出せないでオブラートに包むような言い方をするのが、いかにもブーンらしい。
そんな風に言われてしまうと、ついからかってみたくなるのだ。
318 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:52:04 ID:qTz0cvPY0
思えば、いつもそうだった。
素直で愚鈍そうに見えながら、自分の言ったことはちゃんと受け止めてくれてる。それでいて誰にでも気を遣えて、底抜けに優しい。
そんなブーンと喋ってると、いつの間にか専心してしまう。
そのやり取りが、なんだか心地良いのだ。
現に今も、ブーンの価値観に相違のない返事に安心してしまってる自分がいる。
.
319 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:53:15 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇブーン」
その安寧は、つまり好意に値する。
今すぐ芽生えなかったとしても、時間の問題だろう。
そしてそれは現実世界において、ジョルジュに対する背徳感情。
否定してもいいはずだ。とツンは思い直した。
.
320 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:55:43 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ本人に似顔絵描いてもらえるっていう、イベントコーナーは見た?」
( ^ω^)「おー…さっきチラッと見た気がするけど、並ぶ気にはならなかったおw」
ξ゚⊿゚)ξ「…そこのスタッフがね」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしの彼氏なの」
( ^ω^)「…お、そうだったのかお!ちゃんと見に行ってみれば良k―――」
ξ゚⊿゚)ξ「だからね」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまりそういう時に何度も来られると、正直困るの」
.
321 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:57:50 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「………」
( ^ω^)「…そういうことかお」
あの優しいブーンからは聞いたことなかった、重々しい声だった。
.
322 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:58:56 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「…まぁ最初会った飲み会でもあんまり乗り気だったようには見えなかったし、なんとなく予想はしてたお!」
( ^ω^)「まさか同じ職場だったとは、考えが及ばなかったお!」
今度は殊更に明るい声だ。
気にしてない素振りの下手さに、心乱されそうになる。
323 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 19:00:14 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「…迷惑かけて、ごめんだお」
そう言って去って行くブーンを、追い掛けたくなる足を必死に我慢しながらツンはその背中を見送った。
.
325 : 名も無きAAのようです :2013/08/19(月) 19:13:23 ID:mwikmeAY0
326 : 名も無きAAのようです :2013/08/19(月) 20:38:49 ID:kvTNQZZI0
329 : 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 01:07:43 ID:fKkTYZhY0
夢にうなされ、終いには泣き出したツンを目の当たりにしたジョルジュだけは、なんとなくその士気のなさに気づいたらしく、落ち着いてから改めて理由を尋ねてみたことがあるが
言及しようとすればするほど押し黙るツンをいい加減見限って、最近は目に余る勤務態度を咎めることさえある。
そういうツンの頑なな態度は、時に男性の英気に一点の曇りを齎す。
要するに、自分じゃ頼りにならないのか。そんな風に思わせてしまうことがあるのだ。
.
300 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:21:38 ID:qTz0cvPY0
もとより、やや女々しい性格のジョルジュにしてみたら、なんだか隠し事をされてるように見える時さえある。
人間、隠し事をされたと思うと俄然裏切られたと錯覚するもの。
もしそれが勘違いなのであれば、普段のツンなら毅然と否定し納得のいく弁明をくれるはずだと思ってたが、今はただただ黙秘を決め込んでいる。
結局ジョルジュになんの説明も相談もできてなく、だんだんコミュニケーションを取らなくなってきた二人の関係は、今はあまり芳しくなかった。
301 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:23:42 ID:qTz0cvPY0
从 ゚∀从「ツンじゃん。相変わらず暇そうだな」
無駄に壮麗な美術館にはそぐわない、底抜けに明るい声がした。
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?何してんの?」
まさかの珍客に少々出し抜けられたが、その締まらない声の返事は、とても仕事中とは思えない。
从 ゚∀从「今展示してるのってミセリの絵だろ?ちょっと気になってたんだよね」
.
302 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:25:29 ID:qTz0cvPY0
ミセリ。今20代を中心に人気のあるイラストレーターだ。
オブジェなどの立体的な作品がなく、ちょっとファンシーなポストカードのようなイラストがひたすら展示されている。
その目玉のなさを補うように、期間限定で本人に似顔絵を描いてもらえる小さな特設会場なんかもあり、それなりに反響を呼んでいるようだ。
はっきり言って、この一切関心が持てない展示物もツンの士気を下げる一つの要因といっても過言ではない。
デジタルには頼らず、100%手描きのアナログ手法を謡ってるが、それが何だと言うのだろう。
ミセリ自身の若さと容姿、そしてストリートを経たというちょっとした付加価値がつけば簡単に話題になる浅はかさが、ツンには理解できなかった。
現にこうやって、普段なら現れないような珍客まで呼び寄せる、ミセリのネームバリューも馬鹿にできないから尚、不可解の一途である。
303 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:27:26 ID:qTz0cvPY0
そういえば、ジョルジュも言ってた気がする。次の企画はあのイラストレーターだと。
なるほど自分がその企画案が出た現場にいたら、素直に賛成できた自信はない。
でも結果がこれだから、差し詰めまた自分の意見を正直に主張したところで、場を白けさせるのが関の山だったのだろう。
なるほど自分がその企画案が出た現場にいたら、素直に賛成できた自信はない。
でも結果がこれだから、差し詰めまた自分の意見を正直に主張したところで、場を白けさせるのが関の山だったのだろう。
304 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:28:22 ID:qTz0cvPY0
ハインはふらふらとフロア内を歩き回り、あまり満足に鑑賞したようには見えなかったが早々と一周してツンのもとへ戻ってきた。
从 ゚∀从「まぁ、実物ってこんなもんだよね」
ハインが期待したほどのクオリティではなかったようだ。
現れた時は一瞬彼女の価値観を疑ったが、あながちそれは歪んだものでもなかったらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「実際鑑賞もそこそこに、本人に会いに行く人ばっかりだよ」
从 ゚∀从「まぁ、それぐらいしか目玉ないもんな…」
ξ゚⊿゚)ξ「行ってみれば?」
从 ゚∀从「そうだなー…似顔絵待ち時間長いかなー…」
ξ゚⊿゚)ξ「そうそう。みんな似顔絵目的だから待ち時間潰しの鑑賞と化してる」
从 ゚∀从「…わからんでもないが、趣旨ズレてねぇか?」
305 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:30:15 ID:qTz0cvPY0
だからこそ不本意なのだ。とツンも思う。
企画にミセリ案を採用したことにより、美術館がただのミーハー向けのイベント会場と化している。
ただでさえ気分が沈んでる時に、この仕打ちはつらい。
何もかも、納得のいかないことばかりだ。
.
306 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:31:49 ID:qTz0cvPY0
从 ゚∀从「そういえば彼氏は?館内にいるの?」
ξ゚⊿゚)ξ「んー今は似顔絵の会場でこき使われてるんじゃない?」
从 ゚∀从「まじか。後で見に行ってみよっかな」
ξ゚⊿゚)ξ「ピンクのワイシャツだからすぐわかると思うよ」
そう言ってツンは、話し掛けられた見物客に簡単な案内をし始めた。
その声のトーンが、自分のような気心知れてる友達と話してるトーンとまるで変化がなく、そのあまり抑揚のない喋り方に緊張感なさすぎだろ…とハインは内心ちょっと呆れながら、ミセリがいる特設会場に向かって行った。
.
307 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:33:17 ID:qTz0cvPY0
会場には、長蛇というほどでもないがそこそこ列ができていた。
でも、一人分の似顔絵を描くのに10分や15分で終わるとも思えないので、そう考えると待ち時間はかなりありそうだ。
並ぶミーハー客に配慮して、会場にはプロジェクターが設置されており、『ミセリヒストリー』という軽いドキュメンタリーが放映されている。
『若く才能に溢れた美人イラストレーター』とたらし込まれた、製作側のセンスを疑う無限ループの映像に飽きた客はもう、何人か見向きもしてないようだが
从 ゚∀从(凝れば凝るほど、ただのイベント会場だな…)
なるほど根っから芸術オタクのツンが面白くなさそうなのも合点がいく。
尤もそれも狙いの一つなのか、美術館という敷居の高そうな威厳が覆されたようだ。
.
308 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:35:12 ID:qTz0cvPY0
( ゚∀゚)「こんにちはー。似顔絵お待ちの方ですか?」
ハインが突っ立ってると、爽やかそうな青年に声をかけられた。
首から名刺サイズの社員証らしきIDカードをぶら下げた、例のピンクのワイシャツだ。
それに寒色系のネクタイを合わせた姿が、凛々しく決まっている。
それでいて活力に溢れたような逞しさを体現したような、肉厚でがっしりした体格によく合っていて、顔も彫りが深く秀麗といえる。
从 ゚∀从「あ、いえ…結構待ちそうですし」
( ゚∀゚)「そうですねー。今からですと約1時間半ってとこですかね」
从 ゚∀从「そうですか…じゃあまた今度」
( ゚∀゚)「はい!お待ちしてまーす!」
.
309 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:36:59 ID:qTz0cvPY0
ハキハキとそう告げながら、青年は去って行った。
そうだよこれが仕事中の喋り方だよ。と、ハインは内心突っ込んだ。
まさかあの不精な喋り方をするツンが見習うべき模範が、あの彼氏とは。
从 ゚∀从(しかし……)
と、ハインが次にジョルジュを見遣った瞬間にはもう、似顔絵が仕上がった客とミセリのツーショット写真を撮っている。それもファンサービスの一環なのだろう。
310 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:39:44 ID:qTz0cvPY0
ちょっと目を離した次の瞬間にはもう、次の仕事に取り掛かるテキパキとした彼氏に対し、あまり動かなければ覇気もないツン。
二人が一緒にいたら、どんな雰囲気になるのだろう。
ハインにはいまいちビジョンが湧かなかった。
しかしやはりというべきか、人の長所を見抜く才には長けてるツンのことだ。
悪癖はない彼のだろうし、このような職場で出会った人なら、話も合うのかもしれない。
从 ゚∀从(……いや…)
.
二人が一緒にいたら、どんな雰囲気になるのだろう。
ハインにはいまいちビジョンが湧かなかった。
しかしやはりというべきか、人の長所を見抜く才には長けてるツンのことだ。
悪癖はない彼のだろうし、このような職場で出会った人なら、話も合うのかもしれない。
从 ゚∀从(……いや…)
.
311 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:41:12 ID:qTz0cvPY0
( ゚∀゚)「―――――」
ミセ*゚ヮ゚)リ「――――――!」
ミセ*>ヮ<)リノシ(゚∀゚*)
( ゚∀゚)「―――!」
ミセ*^ー^)リ「――――!」
从 ゚∀从(…まぁこんな職場だから、か)
今更ながら、あまり人の彼氏を注視しすぎるのも無骨な気がしてきたハインは、聞こえてもいない会話は気にしないことにしてその場を後にした。
.
312 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:42:47 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「………」
相変わらず暇だった。
売れ線に目を向けた恩恵でいつもよりは人出はあるが、やはり絵に触れようとする人などいなければ、壊されたら困るような展示物もない。
さらに、ガイドというガイドを必要としないジャンルの絵なので、案内したことと言えばトイレの場所くらいなものである。
その人出も、ミセリ本人と会えるというイベントが終わればなくなるだろう。
わざわざ足を運んで鑑賞だけしに来るほどの絵じゃないとはツンも思ってるし、その面白みも歴史背景もない作品を、美術館側も推してるわけではないのだ。
313 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:44:46 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「お。ツンさんこんにちはだお」
また、その男は音もなく現れた。
あの夢を見てから数日が経っていたが、それでもなおしこりが残っているツンは、彼は何も知らないとわかってはいながらも一瞬顔を強張らせてしまう。
(;^ω^)「……お?」
ブーンもその、ツンの表情の鋭さに気づいたようだ。
.
314 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:45:56 ID:qTz0cvPY0
いつか、こういう日が来ることはツンも予感してた。
将来結婚を約束するほど縁のある人だ。今現在は連絡先さえ知らないが、どこかで絶対に会う。そんな気はしてた。
それも、ツンの行動範囲が自宅と職場の往復のみなら、その狭い道すがらでしかありえないのだ。
ブーンは絵を描くのが趣味だという。ならば美術館で遭遇するのもなんら不思議ではない。
ツンの職場であり、逃げ場のないこの美術館は、二人が交流するにはうってつけの『出会いの場』なのだ。
.
315 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:47:11 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「…ごめん、なんでもないの。それより、こういう絵にも興味あるの?」
ブーンの価値観を測るための、ある意味誘導尋問だった。
出会うべくして出会ってしまった今、どこかでブーンに失望しないと、決められた未来への一途だ。
すなわちそれは、避けようのない、死。
.
316 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:49:16 ID:qTz0cvPY0
――僕が生きてる現実とは違う生き方を、これからしてみるといいお。―――
そうだ。抗ってみないと。
何が変わるかはわからないけど、何もしなければ何も変わらないことだけはわかる。
.
317 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:50:21 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「おー…ろくに調べもしないで来ちゃったお。前回ツンさんに勉強させてもらったこともあって、今度から休みの日はたまに美術館覗いてみるっていう習慣もいいかなーって思ったんだけど…」
ξ゚ー゚)ξ「当たり外れあるからね」
(;^ω^)「あ…いやそんなことは…」
ツンは意地悪く笑って言った。
純粋なミセリ目的の見物客を気にしてか、はっきりと『興味ない』と言い出せないでオブラートに包むような言い方をするのが、いかにもブーンらしい。
そんな風に言われてしまうと、ついからかってみたくなるのだ。
318 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:52:04 ID:qTz0cvPY0
思えば、いつもそうだった。
素直で愚鈍そうに見えながら、自分の言ったことはちゃんと受け止めてくれてる。それでいて誰にでも気を遣えて、底抜けに優しい。
そんなブーンと喋ってると、いつの間にか専心してしまう。
そのやり取りが、なんだか心地良いのだ。
現に今も、ブーンの価値観に相違のない返事に安心してしまってる自分がいる。
.
319 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:53:15 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇブーン」
その安寧は、つまり好意に値する。
今すぐ芽生えなかったとしても、時間の問題だろう。
そしてそれは現実世界において、ジョルジュに対する背徳感情。
否定してもいいはずだ。とツンは思い直した。
.
320 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:55:43 ID:qTz0cvPY0
ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ本人に似顔絵描いてもらえるっていう、イベントコーナーは見た?」
( ^ω^)「おー…さっきチラッと見た気がするけど、並ぶ気にはならなかったおw」
ξ゚⊿゚)ξ「…そこのスタッフがね」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしの彼氏なの」
( ^ω^)「…お、そうだったのかお!ちゃんと見に行ってみれば良k―――」
ξ゚⊿゚)ξ「だからね」
ξ゚⊿゚)ξ「あんまりそういう時に何度も来られると、正直困るの」
.
321 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:57:50 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「………」
( ^ω^)「…そういうことかお」
あの優しいブーンからは聞いたことなかった、重々しい声だった。
.
322 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 18:58:56 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「…まぁ最初会った飲み会でもあんまり乗り気だったようには見えなかったし、なんとなく予想はしてたお!」
( ^ω^)「まさか同じ職場だったとは、考えが及ばなかったお!」
今度は殊更に明るい声だ。
気にしてない素振りの下手さに、心乱されそうになる。
323 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/19(月) 19:00:14 ID:qTz0cvPY0
( ^ω^)「…迷惑かけて、ごめんだお」
そう言って去って行くブーンを、追い掛けたくなる足を必死に我慢しながらツンはその背中を見送った。
.
325 : 名も無きAAのようです :2013/08/19(月) 19:13:23 ID:mwikmeAY0
見てるぞ
乙
乙
326 : 名も無きAAのようです :2013/08/19(月) 20:38:49 ID:kvTNQZZI0
うむむ...乙
どうなるんだ...
どうなるんだ...
329 : 名も無きAAのようです :2013/08/20(火) 01:07:43 ID:fKkTYZhY0
続きが気になる小説じゃねーか、乙!