パーフェクト・ブルーのようです
- 2014/04/12
- 18:51
- ( ^ω^)ブーン系小説ラノベ祭り2014・春のようです
185 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:27:07 ID:BnPNMriM
背後から、きい、と金属が擦れる音がしました。
振り返ると、ところどころ青い塗装が剥がれた扉が、風に合わせて揺れていました。
どうやら、来た時にちゃんと閉めてなかったみたいです。
ここは空きビルだから、普通は人が来たりなんかしません。
恐いお兄さんとか、幽霊だったらどうしよう、とか思っちゃいました。
とはいっても、忍び込んでるわたしはごく普通の女子高生なんですけど。
正面に顔を戻すと、空を覆う薄灰色の雲の塊が、ひっきりなしに形を変えていました。
生ぬるい初夏の風が、わたしの体を撫でては通り過ぎていきます。
これだけ風が強ければ、ドアもひとりでに動くってもんですよね。
気を取り直して、わたしは遠くをじっと見つめます。
見ていると憂鬱な気分になってくる色をした空の向こう。
空と同じ色のビルがびっしりと敷き詰められた陸の向こう。
きっとあなたがいるであろう方角です。
そうそう、今日もあなたに聞いてほしいことがあるんです。
一緒にいた頃のように、うんうんと頷きながら、です。
ここでどれだけ話しても、あなたに届くことはないでしょうけど。
186 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:28:59 ID:BnPNMriM
それでもわたしはいつも通り、ひとりで好き勝手に喋ります。
三年前、あなたと過ごせた短い日々を思い出しながら。
.
187 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:30:14 ID:BnPNMriM
188 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:31:39 ID:BnPNMriM
わたしたちが出会ったのは、中学二年生に進級したばかりのとき。
一丁前に色気づいて、グループ交際みたいなことを始めたんですよね。
わたしを含めた女子のグループと、あなたを含めた男子のグループで。
わたしの友達のしぃちゃんが、あなたの友達のギコくんと付き合っていたのがきっかけでしたね。
まあ、あのふたりはすぐに別れちゃったけど、あのときだけでも付き合ってくれていたことに感謝です。
言いだしっぺが誰だったかはもう覚えてないけど、たぶん女子の誰かです。
なんてったって、背伸びしたがる年頃ですし。
で、最初のデート。
わたしはあんまり興味ないとは言えずに、とりあえずついていきました。
付き合いっていうのもありますし、なにより、断れば今後の立場が心配でしたし。
わたしだけおしゃれに気合入ってないとか、ガツガツこられたらやだなあ、とか。
いろんな不安で胸がいっぱいのまま、待ち合わせ場所に着いてしまったとき。
わたしとそっくりな雰囲気をかもし出ているあなたに出会ったわけです。
後ろの方でぼーっとしているあなたは、ダメな意味で目立ってましたよ。
でも、あなたを見つけたとき、わたしは本当に安心したんです。
ああ、同じような人がいる、って。
あのときのあなたは、後光が差して見えましたね。
189 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:33:28 ID:BnPNMriM
当然、わたしはあなたのそばをがっちりキープすることにしました。
こうすれば、あたかもあなたを狙ってるように見えますしね。
すごい失礼だけど、あなたが特別かっこよくなくて、よかったと思っています。
おかげで、他の子はかっこいい男子のところにいってくれましたから。
これ、あなたの前じゃ絶対に言えないですね。
もちろん、言ったら落ち込んじゃうから言う気もないですけど。
何はともあれ、余りものというかやる気のない同士でくっつけたのは幸いでした。
でも、あなたは最初、ちょっと嫌な顔をしてましたね。
やる気もないのに絡まれてめんどくさかったんでしょうね。
だけど、事情をこっそり耳打ちしたら、固く結んでた口元を緩めて笑ってくれましたっけ。
あの笑顔、ちょっとかわいいなって思いましたよ。
そんな気はなかったけど、振り返ってみると互いの第一印象、最高ですね。
まるで、恋人とのなれ初めみたいです。なんだか照れくさいです。
190 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:34:36 ID:BnPNMriM
それから、何回かグループでデートをしましたね。
あぶれちゃった人が何人か出てしまって人数が減っても、よく続けたもんです。
まあ、残った人たちはもう半分カップルみたいなものでしたけど。
グループの方は付き合う前のお試し期間、とでも言えばいいんでしょうかね。
現に、実際に付き合い始めたカップルは顔出さなくなりましたし。
そんな中、わたしたちの浮きっぷりったらすごかったですね。
ボディータッチもないし、手を繋いだりもしない。話題は当たり障りのないものばかり。
心も体も、相手との距離が他のカップルたちの三倍はあったように思います。
だからなのか、はやし立てられることが多々あった記憶があります。
ボウリングでストライクを取って、ハイタッチをしたとき。
カラオケでラブソングをデュエットをしたとき。
少しでも親しげにしたら、付き合ってるみたい、って言われてましたね。
言われるたびに、そんなわけない、ってふたりで笑い飛ばしてましたね。
そんなわけないのに、デートにずっと顔を出していた理由も、いまなら分かりますけど。
191 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:35:35 ID:BnPNMriM
そうそう、デートで一番記憶に残ってることがあります。
夏休みも終わりに近づいた頃、肝試しで夜の学校に忍び込みましたよね。
うちの学校、防犯大丈夫なのかなって心配になるくらい、簡単に入れた記憶があります。
目的は一応、七不思議を調べるってことになってましたね。
まあ、雰囲気に乗じていちゃいちゃするための口実だったんですけど。
だから、あなたがこっそり抜け出そうって言い出したとき、幽霊を見たってくらいびっくりしました。
だって、そんなことをするのは、なんだかいい雰囲気のふたりだって相場は決まってましたし。
驚きもしたけど、結構ショックだったんですよ。
そのときのわたしは、あなたをそんな風に見ていなかったつもりだったので。
下心が見えた気がしたというか、幻滅したというか。
いま考えれば、幻滅なんてしてる時点で、自分の気持ちに気付くべきでしたね。
うろたえつつも、わたしはその提案を断りはせず。
みんなが廊下を曲がった瞬間を狙って、ふたりで姿をくらませましたっけ。
わたしたちの定位置は最後尾だったから、あっさり成功しましたよね。
あれにはさすがに拍子抜けしたもんです。
192 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:36:42 ID:BnPNMriM
そのあとは、どこに行くかもわからないまま、あなたの背中を追いかけた記憶があります。
静かだし、暗いし、これからどうなるかって考えると、とても怖かったです。
そんなわたしの気持ちも知らないで、あなたは言ってましたね。
これでまたみんなに冷やかされる、って。
言いながら、どこか嬉しそうに笑っていましたっけ。
三年経っても、あなたが本当に嬉しかったのかどうかはわからないままです。
いまさらわかったところで、どうこうなるものじゃないですけどね。
結局、あなたの行き先は最初に見たプールでしたね。
24時ちょうどにプールの水が血の色に染まる、っていう七不思議だった気がします。
まあ、水は真っ黒なままで、真ん中にはお月様が浮かんでるだけでしたけど。
深夜のプールに忍び込みたかった、ってあなたは言ってましたっけ。
夢がかなったのに見て終わり、じゃつまらなかったんでしょうね。
プールサイドに腰かけて、水遊び始めたときにそう思いましたよ。
あのときのあなた、子供みたいでしたね。
14歳だったから、実際に子供なんですけど。
193 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:38:14 ID:BnPNMriM
でも、そう感じたわたしも子供なわけです。
あなたを見ているうちに、だんだんと水遊びって楽しい気がしてきて。
気が付いたら、服着たままプールに飛び込んでましたっけ。
こうして振り返ってみると、我ながらバカですね。
あなたもそう思ったに違いありません。
だって、わたしが水面から顔出してあなたを見たとき、すごい顔してましたし。
はしゃぎすぎだって気付いたときは、恥ずかしくて顔から火が出るかと思いました。
でも、わたしがヤケになって誘ったら、あなたも飛び込んでくれましたね。
飛び込んだときの波が、お月様の光を反射して、とても綺麗だったのを覚えています。
浮かび上がってきたあなたと目が合って、なぜか笑ってしまって。
それに釣られたのか、なぜかあなたも笑い出して。
しばらくの間、笑いながら遊び倒してましたね。
楽しかったけど、足を引っ張って溺れさせようとしたのは、いまだに許してないです。
あなたが離れたところにいて、どう考えてもそんなことできなくても、です。
あなたのせいにしておかないと、怖くて泳げなくなりますから。
思えば、あなたとの楽しかった記憶って、これが最後ですね。
194 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:40:25 ID:BnPNMriM
あなたとの思い出でちゃんと覚えているのは、もう別れの記憶だけしかないです。
夏休みから秋の終わりまで、一気に時間が飛んでしまっています。
その間にも楽しかったことはたくさんあったはずなのに、どうしてでしょうね。
親の仕事の都合で引っ越すことになったんですよね。
結局、何の仕事をしているのかは知らないままでしたけど。
当時のわたし、引っ越しするなんて、ろくな仕事じゃないって思ってました。ごめんなさい。
要するに、そんなことを思ってしまうくらいショックだったんです。
どうしてって、この頃にはすでに、わたしはあなたのことが好きだったからです。
いつ、どうして好きになったのかは、よく覚えてないです。
思い返しても、好きになった瞬間の記憶が思い出せません。
肝試しのときには自覚していなくても、好きだったのは確かなんですけど。
まあ、過程はともかく、いつの間にかあなたのことばかり考えるようになっていたわけですね。
自分の気持ちを自覚してしまってからは、とにかく大変でしたよ。
だって、お互いに色恋沙汰とは無縁だから、わたしたちは仲良くなれたんじゃないですか。
だから、もしも、わたしがあなたのことを好きだって知られてしまったら。
いまの関係が壊れてしまう、ってわたしは考えていたわけです。
195 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:41:56 ID:BnPNMriM
でも、言っても言わなくても、このままじゃあなたとは離れ離れでしたし。
離れても友達でいられる自信は、正直ありませんでしたし。
だから、あなたが引っ越す前に告白しようと思っていたんです。
それを話したら、しぃちゃんたちが大盛り上がりしてましたよ。
どれくらい盛り上がってたかというと、わたしそっちのけで告白プラン建て始めるくらいです。
危うく閉園間際の遊園地で、観覧車の頂上にふたりきりにされるところでした。
アドバイスをほどほどに取り入れた結果、あなたに手紙を渡すことにしました。
たぶん、わたしの気持ちを全部話そうとしたら、時間も使える言葉も足りなかったからです。
シンプルに好きだと伝えて、細かいことは手紙で、という作戦でした。
最悪、手紙だけ渡して逃げ出すという退路もばっちり確保してありました。
こんなこと、あなたは何ひとつ知らないでしょうけどね。
だって、好きだと伝えることも、手紙を渡すことも、結局できませんでしたからね。
196 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:42:42 ID:BnPNMriM
あなたの最後の登校日、放課後に呼び出すまではうまくいってたんですけどね。
でも、伝えられたのは当たり障りのない言葉ばかりでした。
好きのす、までは言えたのに、そこからすごい楽しかった、になるんですもん。
わたしったら、何てことやらかしちゃってるんでしょうね。
でも、しょうがないじゃないですか。
恐かったんですよ。あなたとの関係が壊れることが、最後の最後まで。
あのとき、いろんな想いが、頭の中をぐるぐると渦巻いてました。
あなたがいなくなるから、わたしは告白しないといけなくなった、とか。
だから逆に、わたしが告白しなきゃ、あなたはいなくならないような気がした、とか。
でも、絶対にそんなことはないから、やっぱり言わなくちゃ、とか。
成功するのかな、とか。
失敗するのかな、とか。
言わない方がきれいな思い出になるのかな、とか。
それで結局、わたしはきれいな思い出になることに決めたんです。
どうなるかもわからない未来より、すぐに消えてしまう現在を選んだんです。
それでよかったのかどうかは、いまもよくわからないです。
手紙は鞄に入れたままにしておきました。
触れたら、張り詰めていた何かが切れてしまいそうだったから。
家に帰って、教科書を詰め込んで、鞄の底に沈めてしまいました。
ちなみにその鞄は、いまも手紙を入れたまま、押し入れのすみっこで眠っています。
だいぶくたびれていたけど、捨てようとは思いませんでした。
197 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:43:47 ID:BnPNMriM
こうしてあなたとの思い出を振り返ると、心があったかくなります。
きっと、それだけ楽しかったんでしょうね。
でも、最近はちょっと悲しくもなります。
もう、あなたの声が思い出せなくなってしまいました。
人のことを忘れるときは、声から忘れていくって、どこかで聞きました。
三年も経つから、しょうがないのかもしれないけど、やっぱりいい気分じゃないです。
そういえば、写真に映っているあなたと、記憶の中のあなたも、一致しなくなってきました。
いまのあなたとすれ違っても、わたしはあなたに気付けないと思います。
で、こんな流れで言うのもなんですけど。
告白されたんですよ、わたし。
相手は同じクラスの男子です。
わたしのこと、密かにいいなって思ってたんだそうです。
あなたとは似ても似つかないけど、素敵な人ですよ。
198 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:44:50 ID:BnPNMriM
でも、断っちゃいました。
理由というか、原因はあなたです。
もしもわたしが、あなたと似ていない人を好きになったら。
それは、あなたへの想いを吹っ切った、ということになると思うんです。
実はわたし、そこまで吹っ切れてはいません。
あなたのことを忘れたくないです。
そして、それ以上に、忘れられないです。
それなのに、こうして少しずつ忘れてしまっているんですよね。変な話です。
いまでこそ普通に過ごしてますけど、一時期は大変だったんですよ。
抱いている思いとは裏腹に忘れていく自分が、大嫌いでした。
布団の中で悶々としているうちに朝になってた、なんてことがしょっちゅうありました。
だけど、いまはそんな自分を、少しだけ許してあげられています。
ここを見つけたばかりの頃は、いつもビルの縁に腰かけてました。
いまは少し下がって、落下防止のフェンスの上です。
だから、特に根拠はないけど、わたしは大丈夫なんだと思います。
199 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:46:21 ID:BnPNMriM
強く生きていく、というのはまだ難しいと思います。
それはきっと、あなたを忘れてしまうのを受け入れる、ってことですから。
というわけで、いまの目標はとりあえず生きていく、です。
いつか強く生きれるようになるために、少しずつハードルを越えていくつもりです。
なんか、17歳の女子高生にしては、涸れ気味の発想ですかね。
でも、涸れたってしょうがないと思います。
わたしの青春は、もう終わってしまったんですから。
気付いちゃったんですよね、最近。
あなたと過ごした時間の輝き、というものに。
別に、いまが楽しくないわけじゃないですよ。
いまだって楽しいです。普通の女子高生ライフを満喫しています。
でも、ふと感じるんです。
あの頃は、あなたといた頃は、楽しかったなあ、って。
好きな人と過ごす時間には敵わないなあ、って。
だから、比べられたらどんな時間でもかすんでしまう、あの日々が。
あの日々だけが、わたしにとっての青春なんです。
強く生きていけるようになったら、また何か変わるのかもしれないですけどね。
200 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:47:34 ID:BnPNMriM
話に一区切りついたところで、携帯が震え始めました。
結構長いこと震えています。電話がかかってきたようです。
出てみると、友達からでした。
いまからカラオケに行くそうです。
いいなー、って思ってたら、わたしも誘ってくれました。持つべきものは友達ですね。
いま話してるの、あの男子のグループにいた人の知り合いなんですよ。
あなたの友達の友達、ってわけです。あなたがいなければ出会えなかった人です。
さて、遊びに行くとなったら、いったん家に帰らないといけませんね。
ちょっと汗かいちゃったから、シャワー浴びて、着替えてこないと。
そしてなにより、お財布の中身が空っぽです。
フェンスから軽やかに飛び降りて、いざ帰宅です。
置きっぱなしにしていた、中身が全然入ってない鞄も忘れてはいけません。
教科書はともかくとして、お財布が入ってますからね。
入ってきた扉を見やると、半端に開いたまま小さく揺れてました。
あの向こうには、楽しいけどあなたのいない世界が待っています。
ここから帰るときは、いつもちょっとだけためらっちゃいます。
201 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:48:47 ID:BnPNMriM
だから、わたしはまた来る約束をしてから帰ることにしています。
きっとわたしは、いつか強く生きていけるようになるまで、ここに来るんでしょうね。
いつになるかはわからないけど、あなたにはそれまで付き合ってもらいますから。
まあ、全部、いまのあなたには関係ない話ですけどね。
o川*^ー^)o「……また、きますね」
変なことしてるなあ、と思って、つい笑ってから。
振り返って、記憶の中のあなたと約束してから。
わたしはまた、とりあえず生きていくために、青い扉に手を伸ばしました。
202 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:49:58 ID:BnPNMriM
パーフェクト・ブルーのようです
おわり
.
203 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:50:51 ID:BnPNMriM
204 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:01:40 ID:???
転載元
( ^ω^)ブーン系小説ラノベ祭り2014・春のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16567/1392380300/
背後から、きい、と金属が擦れる音がしました。
振り返ると、ところどころ青い塗装が剥がれた扉が、風に合わせて揺れていました。
どうやら、来た時にちゃんと閉めてなかったみたいです。
ここは空きビルだから、普通は人が来たりなんかしません。
恐いお兄さんとか、幽霊だったらどうしよう、とか思っちゃいました。
とはいっても、忍び込んでるわたしはごく普通の女子高生なんですけど。
正面に顔を戻すと、空を覆う薄灰色の雲の塊が、ひっきりなしに形を変えていました。
生ぬるい初夏の風が、わたしの体を撫でては通り過ぎていきます。
これだけ風が強ければ、ドアもひとりでに動くってもんですよね。
気を取り直して、わたしは遠くをじっと見つめます。
見ていると憂鬱な気分になってくる色をした空の向こう。
空と同じ色のビルがびっしりと敷き詰められた陸の向こう。
きっとあなたがいるであろう方角です。
そうそう、今日もあなたに聞いてほしいことがあるんです。
一緒にいた頃のように、うんうんと頷きながら、です。
ここでどれだけ話しても、あなたに届くことはないでしょうけど。
186 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:28:59 ID:BnPNMriM
それでもわたしはいつも通り、ひとりで好き勝手に喋ります。
三年前、あなたと過ごせた短い日々を思い出しながら。
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187 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:30:14 ID:BnPNMriM
188 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:31:39 ID:BnPNMriM
わたしたちが出会ったのは、中学二年生に進級したばかりのとき。
一丁前に色気づいて、グループ交際みたいなことを始めたんですよね。
わたしを含めた女子のグループと、あなたを含めた男子のグループで。
わたしの友達のしぃちゃんが、あなたの友達のギコくんと付き合っていたのがきっかけでしたね。
まあ、あのふたりはすぐに別れちゃったけど、あのときだけでも付き合ってくれていたことに感謝です。
言いだしっぺが誰だったかはもう覚えてないけど、たぶん女子の誰かです。
なんてったって、背伸びしたがる年頃ですし。
で、最初のデート。
わたしはあんまり興味ないとは言えずに、とりあえずついていきました。
付き合いっていうのもありますし、なにより、断れば今後の立場が心配でしたし。
わたしだけおしゃれに気合入ってないとか、ガツガツこられたらやだなあ、とか。
いろんな不安で胸がいっぱいのまま、待ち合わせ場所に着いてしまったとき。
わたしとそっくりな雰囲気をかもし出ているあなたに出会ったわけです。
後ろの方でぼーっとしているあなたは、ダメな意味で目立ってましたよ。
でも、あなたを見つけたとき、わたしは本当に安心したんです。
ああ、同じような人がいる、って。
あのときのあなたは、後光が差して見えましたね。
189 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:33:28 ID:BnPNMriM
当然、わたしはあなたのそばをがっちりキープすることにしました。
こうすれば、あたかもあなたを狙ってるように見えますしね。
すごい失礼だけど、あなたが特別かっこよくなくて、よかったと思っています。
おかげで、他の子はかっこいい男子のところにいってくれましたから。
これ、あなたの前じゃ絶対に言えないですね。
もちろん、言ったら落ち込んじゃうから言う気もないですけど。
何はともあれ、余りものというかやる気のない同士でくっつけたのは幸いでした。
でも、あなたは最初、ちょっと嫌な顔をしてましたね。
やる気もないのに絡まれてめんどくさかったんでしょうね。
だけど、事情をこっそり耳打ちしたら、固く結んでた口元を緩めて笑ってくれましたっけ。
あの笑顔、ちょっとかわいいなって思いましたよ。
そんな気はなかったけど、振り返ってみると互いの第一印象、最高ですね。
まるで、恋人とのなれ初めみたいです。なんだか照れくさいです。
190 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:34:36 ID:BnPNMriM
それから、何回かグループでデートをしましたね。
あぶれちゃった人が何人か出てしまって人数が減っても、よく続けたもんです。
まあ、残った人たちはもう半分カップルみたいなものでしたけど。
グループの方は付き合う前のお試し期間、とでも言えばいいんでしょうかね。
現に、実際に付き合い始めたカップルは顔出さなくなりましたし。
そんな中、わたしたちの浮きっぷりったらすごかったですね。
ボディータッチもないし、手を繋いだりもしない。話題は当たり障りのないものばかり。
心も体も、相手との距離が他のカップルたちの三倍はあったように思います。
だからなのか、はやし立てられることが多々あった記憶があります。
ボウリングでストライクを取って、ハイタッチをしたとき。
カラオケでラブソングをデュエットをしたとき。
少しでも親しげにしたら、付き合ってるみたい、って言われてましたね。
言われるたびに、そんなわけない、ってふたりで笑い飛ばしてましたね。
そんなわけないのに、デートにずっと顔を出していた理由も、いまなら分かりますけど。
191 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:35:35 ID:BnPNMriM
そうそう、デートで一番記憶に残ってることがあります。
夏休みも終わりに近づいた頃、肝試しで夜の学校に忍び込みましたよね。
うちの学校、防犯大丈夫なのかなって心配になるくらい、簡単に入れた記憶があります。
目的は一応、七不思議を調べるってことになってましたね。
まあ、雰囲気に乗じていちゃいちゃするための口実だったんですけど。
だから、あなたがこっそり抜け出そうって言い出したとき、幽霊を見たってくらいびっくりしました。
だって、そんなことをするのは、なんだかいい雰囲気のふたりだって相場は決まってましたし。
驚きもしたけど、結構ショックだったんですよ。
そのときのわたしは、あなたをそんな風に見ていなかったつもりだったので。
下心が見えた気がしたというか、幻滅したというか。
いま考えれば、幻滅なんてしてる時点で、自分の気持ちに気付くべきでしたね。
うろたえつつも、わたしはその提案を断りはせず。
みんなが廊下を曲がった瞬間を狙って、ふたりで姿をくらませましたっけ。
わたしたちの定位置は最後尾だったから、あっさり成功しましたよね。
あれにはさすがに拍子抜けしたもんです。
192 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:36:42 ID:BnPNMriM
そのあとは、どこに行くかもわからないまま、あなたの背中を追いかけた記憶があります。
静かだし、暗いし、これからどうなるかって考えると、とても怖かったです。
そんなわたしの気持ちも知らないで、あなたは言ってましたね。
これでまたみんなに冷やかされる、って。
言いながら、どこか嬉しそうに笑っていましたっけ。
三年経っても、あなたが本当に嬉しかったのかどうかはわからないままです。
いまさらわかったところで、どうこうなるものじゃないですけどね。
結局、あなたの行き先は最初に見たプールでしたね。
24時ちょうどにプールの水が血の色に染まる、っていう七不思議だった気がします。
まあ、水は真っ黒なままで、真ん中にはお月様が浮かんでるだけでしたけど。
深夜のプールに忍び込みたかった、ってあなたは言ってましたっけ。
夢がかなったのに見て終わり、じゃつまらなかったんでしょうね。
プールサイドに腰かけて、水遊び始めたときにそう思いましたよ。
あのときのあなた、子供みたいでしたね。
14歳だったから、実際に子供なんですけど。
193 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:38:14 ID:BnPNMriM
でも、そう感じたわたしも子供なわけです。
あなたを見ているうちに、だんだんと水遊びって楽しい気がしてきて。
気が付いたら、服着たままプールに飛び込んでましたっけ。
こうして振り返ってみると、我ながらバカですね。
あなたもそう思ったに違いありません。
だって、わたしが水面から顔出してあなたを見たとき、すごい顔してましたし。
はしゃぎすぎだって気付いたときは、恥ずかしくて顔から火が出るかと思いました。
でも、わたしがヤケになって誘ったら、あなたも飛び込んでくれましたね。
飛び込んだときの波が、お月様の光を反射して、とても綺麗だったのを覚えています。
浮かび上がってきたあなたと目が合って、なぜか笑ってしまって。
それに釣られたのか、なぜかあなたも笑い出して。
しばらくの間、笑いながら遊び倒してましたね。
楽しかったけど、足を引っ張って溺れさせようとしたのは、いまだに許してないです。
あなたが離れたところにいて、どう考えてもそんなことできなくても、です。
あなたのせいにしておかないと、怖くて泳げなくなりますから。
思えば、あなたとの楽しかった記憶って、これが最後ですね。
194 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:40:25 ID:BnPNMriM
あなたとの思い出でちゃんと覚えているのは、もう別れの記憶だけしかないです。
夏休みから秋の終わりまで、一気に時間が飛んでしまっています。
その間にも楽しかったことはたくさんあったはずなのに、どうしてでしょうね。
親の仕事の都合で引っ越すことになったんですよね。
結局、何の仕事をしているのかは知らないままでしたけど。
当時のわたし、引っ越しするなんて、ろくな仕事じゃないって思ってました。ごめんなさい。
要するに、そんなことを思ってしまうくらいショックだったんです。
どうしてって、この頃にはすでに、わたしはあなたのことが好きだったからです。
いつ、どうして好きになったのかは、よく覚えてないです。
思い返しても、好きになった瞬間の記憶が思い出せません。
肝試しのときには自覚していなくても、好きだったのは確かなんですけど。
まあ、過程はともかく、いつの間にかあなたのことばかり考えるようになっていたわけですね。
自分の気持ちを自覚してしまってからは、とにかく大変でしたよ。
だって、お互いに色恋沙汰とは無縁だから、わたしたちは仲良くなれたんじゃないですか。
だから、もしも、わたしがあなたのことを好きだって知られてしまったら。
いまの関係が壊れてしまう、ってわたしは考えていたわけです。
195 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:41:56 ID:BnPNMriM
でも、言っても言わなくても、このままじゃあなたとは離れ離れでしたし。
離れても友達でいられる自信は、正直ありませんでしたし。
だから、あなたが引っ越す前に告白しようと思っていたんです。
それを話したら、しぃちゃんたちが大盛り上がりしてましたよ。
どれくらい盛り上がってたかというと、わたしそっちのけで告白プラン建て始めるくらいです。
危うく閉園間際の遊園地で、観覧車の頂上にふたりきりにされるところでした。
アドバイスをほどほどに取り入れた結果、あなたに手紙を渡すことにしました。
たぶん、わたしの気持ちを全部話そうとしたら、時間も使える言葉も足りなかったからです。
シンプルに好きだと伝えて、細かいことは手紙で、という作戦でした。
最悪、手紙だけ渡して逃げ出すという退路もばっちり確保してありました。
こんなこと、あなたは何ひとつ知らないでしょうけどね。
だって、好きだと伝えることも、手紙を渡すことも、結局できませんでしたからね。
196 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:42:42 ID:BnPNMriM
あなたの最後の登校日、放課後に呼び出すまではうまくいってたんですけどね。
でも、伝えられたのは当たり障りのない言葉ばかりでした。
好きのす、までは言えたのに、そこからすごい楽しかった、になるんですもん。
わたしったら、何てことやらかしちゃってるんでしょうね。
でも、しょうがないじゃないですか。
恐かったんですよ。あなたとの関係が壊れることが、最後の最後まで。
あのとき、いろんな想いが、頭の中をぐるぐると渦巻いてました。
あなたがいなくなるから、わたしは告白しないといけなくなった、とか。
だから逆に、わたしが告白しなきゃ、あなたはいなくならないような気がした、とか。
でも、絶対にそんなことはないから、やっぱり言わなくちゃ、とか。
成功するのかな、とか。
失敗するのかな、とか。
言わない方がきれいな思い出になるのかな、とか。
それで結局、わたしはきれいな思い出になることに決めたんです。
どうなるかもわからない未来より、すぐに消えてしまう現在を選んだんです。
それでよかったのかどうかは、いまもよくわからないです。
手紙は鞄に入れたままにしておきました。
触れたら、張り詰めていた何かが切れてしまいそうだったから。
家に帰って、教科書を詰め込んで、鞄の底に沈めてしまいました。
ちなみにその鞄は、いまも手紙を入れたまま、押し入れのすみっこで眠っています。
だいぶくたびれていたけど、捨てようとは思いませんでした。
197 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:43:47 ID:BnPNMriM
こうしてあなたとの思い出を振り返ると、心があったかくなります。
きっと、それだけ楽しかったんでしょうね。
でも、最近はちょっと悲しくもなります。
もう、あなたの声が思い出せなくなってしまいました。
人のことを忘れるときは、声から忘れていくって、どこかで聞きました。
三年も経つから、しょうがないのかもしれないけど、やっぱりいい気分じゃないです。
そういえば、写真に映っているあなたと、記憶の中のあなたも、一致しなくなってきました。
いまのあなたとすれ違っても、わたしはあなたに気付けないと思います。
で、こんな流れで言うのもなんですけど。
告白されたんですよ、わたし。
相手は同じクラスの男子です。
わたしのこと、密かにいいなって思ってたんだそうです。
あなたとは似ても似つかないけど、素敵な人ですよ。
198 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:44:50 ID:BnPNMriM
でも、断っちゃいました。
理由というか、原因はあなたです。
もしもわたしが、あなたと似ていない人を好きになったら。
それは、あなたへの想いを吹っ切った、ということになると思うんです。
実はわたし、そこまで吹っ切れてはいません。
あなたのことを忘れたくないです。
そして、それ以上に、忘れられないです。
それなのに、こうして少しずつ忘れてしまっているんですよね。変な話です。
いまでこそ普通に過ごしてますけど、一時期は大変だったんですよ。
抱いている思いとは裏腹に忘れていく自分が、大嫌いでした。
布団の中で悶々としているうちに朝になってた、なんてことがしょっちゅうありました。
だけど、いまはそんな自分を、少しだけ許してあげられています。
ここを見つけたばかりの頃は、いつもビルの縁に腰かけてました。
いまは少し下がって、落下防止のフェンスの上です。
だから、特に根拠はないけど、わたしは大丈夫なんだと思います。
199 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:46:21 ID:BnPNMriM
強く生きていく、というのはまだ難しいと思います。
それはきっと、あなたを忘れてしまうのを受け入れる、ってことですから。
というわけで、いまの目標はとりあえず生きていく、です。
いつか強く生きれるようになるために、少しずつハードルを越えていくつもりです。
なんか、17歳の女子高生にしては、涸れ気味の発想ですかね。
でも、涸れたってしょうがないと思います。
わたしの青春は、もう終わってしまったんですから。
気付いちゃったんですよね、最近。
あなたと過ごした時間の輝き、というものに。
別に、いまが楽しくないわけじゃないですよ。
いまだって楽しいです。普通の女子高生ライフを満喫しています。
でも、ふと感じるんです。
あの頃は、あなたといた頃は、楽しかったなあ、って。
好きな人と過ごす時間には敵わないなあ、って。
だから、比べられたらどんな時間でもかすんでしまう、あの日々が。
あの日々だけが、わたしにとっての青春なんです。
強く生きていけるようになったら、また何か変わるのかもしれないですけどね。
200 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:47:34 ID:BnPNMriM
話に一区切りついたところで、携帯が震え始めました。
結構長いこと震えています。電話がかかってきたようです。
出てみると、友達からでした。
いまからカラオケに行くそうです。
いいなー、って思ってたら、わたしも誘ってくれました。持つべきものは友達ですね。
いま話してるの、あの男子のグループにいた人の知り合いなんですよ。
あなたの友達の友達、ってわけです。あなたがいなければ出会えなかった人です。
さて、遊びに行くとなったら、いったん家に帰らないといけませんね。
ちょっと汗かいちゃったから、シャワー浴びて、着替えてこないと。
そしてなにより、お財布の中身が空っぽです。
フェンスから軽やかに飛び降りて、いざ帰宅です。
置きっぱなしにしていた、中身が全然入ってない鞄も忘れてはいけません。
教科書はともかくとして、お財布が入ってますからね。
入ってきた扉を見やると、半端に開いたまま小さく揺れてました。
あの向こうには、楽しいけどあなたのいない世界が待っています。
ここから帰るときは、いつもちょっとだけためらっちゃいます。
201 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:48:47 ID:BnPNMriM
だから、わたしはまた来る約束をしてから帰ることにしています。
きっとわたしは、いつか強く生きていけるようになるまで、ここに来るんでしょうね。
いつになるかはわからないけど、あなたにはそれまで付き合ってもらいますから。
まあ、全部、いまのあなたには関係ない話ですけどね。
o川*^ー^)o「……また、きますね」
変なことしてるなあ、と思って、つい笑ってから。
振り返って、記憶の中のあなたと約束してから。
わたしはまた、とりあえず生きていくために、青い扉に手を伸ばしました。
202 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:49:58 ID:BnPNMriM
パーフェクト・ブルーのようです
おわり
.
203 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 22:50:51 ID:BnPNMriM
投下終わり
204 :ブーン系の名無しさん:2014/03/23(日) 23:01:40 ID:???
乙
こういうしんみりした雰囲気は良いな
こういうしんみりした雰囲気は良いな
転載元
( ^ω^)ブーン系小説ラノベ祭り2014・春のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16567/1392380300/