ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです 第23話
- 2014/07/13
- 14:39
- ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
498 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:40:11 ID:OQGiP19M0
499 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:41:21 ID:OQGiP19M0
出会った人。別れた人。
傍にいてくれる人。先立ってしまった人。
そういうものすべてが、ある程度決定的なもので
それを知らなかったから、その都度一喜一憂してただけだったなんて
そんな当たり前のことに、どうして気づきたくなかったんだろう。
.
500 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:42:27 ID:OQGiP19M0
母が亡くなった。
ハインと親友になった。
キュートも放っとけなかった。
学生時代もそれなりの恋愛をして
ある意味物心ついてから、ジョルジュと付き合って
ミセリという恋敵に敗れて別れ
ドクオらと出会って
ブーンと心通わせた
.
501 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:43:21 ID:OQGiP19M0
そうやって、みんな生きてる。生かされてる。
そして一歩一歩、進んで行ったら
行き着く先の終焉は、誰もが同じ。
あたし一人だけが、避けられないわけじゃない。
だから――――
.
502 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:45:03 ID:OQGiP19M0
XX28年 X月
( ^ω^)「これがいわゆるテラシュールwwwってやつかお…僕が知ってる画家もいそうだお」
ξ゚⊿゚)ξ「最近あんま聞かないけどね。ちなみにこのフロアはルネ・マグリットね。ベルギーの画家」
見物客とスタッフ。
何故かマンツーマンでガイドしながら絵画を見て回るその姿は、芸術嗜好者同士のカップルの、プライベートな空間にしか見えない。
( ^ω^)「おー…空の絵ばっかりだお」
ξ゚⊿゚)ξσ「特にこれなんか不思議よ」
( ^ω^)「…"光の帝国"?どういうことだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「空は明るいのに、それ以外の風景が陰ってるなんておかしいと思わない?」
( ^ω^)「おー…確かにだお…」
ξ゚⊿゚)ξ「つまりこれは、昼と夜が同居した一枚なの。そんな堅真面目なスーツ姿でよく思いつくわよね」
.
503 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:46:20 ID:OQGiP19M0
いつからかよく見かける見物客。
数年経ってもよく通うものだなと感心する。
彼は彼なりに、芸術品や絵画、さらにはそれらに付随する歴史背景なんかにも頗る関心があるのだろう。
女性スタッフによる渾身のガイドにも、何度も頷いている。
しかし
ξ゚⊿゚)ξ「あ、今日の夕飯焼き肉が食べたい」
( ^ω^)「そうかお?じゃあ早めに帰って準備しとくお」
ξ゚⊿゚)ξ「いいじゃん、たまには外で食べようよ。あたし今日給料日だしさ」
たまに話題が思いっきりプライベートなのは、いただけないと思う。
一応、周りの見物客には気を遣ってるようだが。
506 : 名も無きAAのようです :2013/08/25(日) 14:02:53 ID:bFOpOKw.0
509 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:19:33 ID:TIV7lN6Y0
待ち合わせ場所が決まったのか、見物客の男性は軽く手を振って去って行った。
その背中に向かって女性スタッフも、思いっきり手を振る。
わかってはいるだろうが、他に見物客がいる時は是非控えていただきたいポーズだ。
.
510 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:20:45 ID:TIV7lN6Y0
「公私混同するなって言っただろうが」
背後から投げ掛けられた声に、ツンは振り向いた。
思ったより近くにいたが全く気付かず、そのステルス能力者さながらの気配の消し方はあっぱれだった。
ξ゚⊿゚)ξ「あらお疲れ様。ここで会うのも久しぶりね」
( ゚∀゚)「…他に何か言うことはないのか?」
今し方自分が注意されたことには一切触れず、何事もなかったかのように挨拶だけするツンに、ジョルジュも呆れ返った。
.
511 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:40:49 ID:TIV7lN6Y0
二人が別れてから数年が経ったが、彼らは今でも同じ職場にいた。
職種が違い、同じ現場で仕事する機会も少なくなったためか、同じ職場とはいえどちらも居心地が悪くなるということもなかった。
たまにこうして館内で顔を合わせることがあっても、挨拶程度ですれ違うことがほとんどなので、会話らしい会話なんて本当に久しぶりだった。
.
512 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:42:31 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「今の彼が…例の?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、まぁ」
そんなことには、とっくに気づいていた。
ここ数年で、たまにしか館内に現れないジョルジュが何度も目にしている見物客なのだ。
実際には月に一、二回ぐらいの頻度らしいが、それが数年続いてるのだから足しげく通ってると言って差し支えはないだろう。
美術館には、いわゆる固定客や常連客のようなリピーターは少ない。
それだけの頻度で通われたら、嫌でも顔を覚えてしまいそうだが
そうなる前から知っているブーンの顔を、ジョルジュは忘れるわけがなかった。
(*^ω^)
ξ*゚ー゚)ξ
そして、ブーンが来るたびにあの日見たままの穏やかな雰囲気で話してる二人を目にすると、二人の関係の深さに気付かないわけがなかった。
.
513 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:43:46 ID:TIV7lN6Y0
ブーンと付き合い始めてから、その幸せそうな顔が顕著なツンに、何の気無しにでも彼の話を聞こうとすればするほど、ツンと別れた当時の自分の器の小ささが卑下されるような気がして今まで突っ込んだ話はできなかったが
いざ気まぐれで話し掛けてしまって初めて、特に用件も見当たらないことに気がついてつい口を滑らせてしまった。
しかしツンも気にした様子はないし、今となっては昔の話。
ほとぼりも覚めて落ち着いているのだろう。
514 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:45:10 ID:TIV7lN6Y0
ξ゚⊿゚)ξ「…そうだ。聞いてるかどうかわからないけど、あたし今月いっぱいであがるから」
不意に、ツンが口を開いた。
今この場で初めて聞いたジョルジュは少々面食らっている。
( ゚∀゚)「そうなんだ。知らなかったな」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。ちょっと引っ越すことになったからさ」
ブーンと同棲し始めてからは、一人で住んでた部屋は引き払ったが職場を変えるほどの移動ではなかった。
それが今度は、通いづらくなる距離まで広がるのだそうだ。
それが何を意味するのか、ジョルジュは薄々理解した。
.
515 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:46:07 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…式は挙げるのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、来月」
自分が知らなかっただけかもしれないが、それもまた随時近々な気がする。
( ゚∀゚)「ってことは来月もスケジュールキツそうだな…」
誰かが式に呼ばれてシフトに穴が空くと、自分の比重に負担がかかるという懸念を殊更に漏らす。なんだか悪戯そうに嫌味を含んだ言い方だった。
516 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:47:03 ID:TIV7lN6Y0
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。職場からは一人しか呼ばないから」
しかし、それを物ともせずに突き返す。
そんな一皮剥けた姿が、なんだか晴れ晴れとしていた。
あれから年月を重ねて身についた余裕なのか、彼との安定した付き合いでツンが磨かれたのかは、わからない。
517 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:48:17 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…そうか。ならいいや」
ジョルジュもまた、あの頃のようにテンションにだけ任せたノリ至上ではいられなくなっている。
落ち着いたと言えば聞こえはいいが、昔よりも責務が大きいだけ余裕がないのが本音だ。
ツンのように、仕事だけでなく広義的な意味で前に進んだ同僚を目にすると、ちょっとした焦燥感に駆られるが
518 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:49:40 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…ツン、幸せになれよ」
その祝福は、偽りない気持ちで伝えられた。
ξ゚ー゚)ξ「…ありがと。ジョルジュもね」
できれば付き合ってる間に、そうやって笑ってほしかった。
でもその笑顔が拝めたことには満足して、ジョルジュはその場を後にした。
.
519 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:50:58 ID:TIV7lN6Y0
(*^ω^)ノシ「ツンお疲れだおー!さっき本屋でジョルジョ・デ・キノコの画集買っちゃったおー!」
ξ;゚⊿゚)ξ「キノコじゃなくてキリコだってばよ。っていうかシュルレアリスムの画集ならあたしもいろいろ持ってるのに…」
自分が与えた学殖に、関心持って吸収してくれるのは教え甲斐もあって結構なことなのだが、考えなしの出費にはさすがに苦言を呈したくもなる。
画集の衝動買いで痛い目見た経験なら、ツンの方が豊富なのだからなおさらだ。
.
520 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:52:07 ID:TIV7lN6Y0
よりにもよってハードカバーらしく、既にそんな重そうな荷物を抱えてるにもかかわらず、空いた手を差し出してツンの荷物を寄越すようにと促す。
もちろん最初の頃は遠慮してたのだが、付き合いが長くなっていくにつれてそんな譲り合い精神もだんだんこそばゆくなってきて、最近はお言葉に甘えてみることにしている。
(;^ω^)「相変わらず重たっ!!カンペ詰め込みすぎだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「資料よ資料。読みあさって損はないんだから」
ツンの仕事用トートバッグには、コロコロ変わる展示物に関する資料が主に詰め込まれている。
ガイドするための予習という建前のそれは、仕事中あまりにも動きがない時持て余した時間を潰してくれるのだそうだ。
そんな荷物を毎日持ち歩くのも、女性の力ではさすがに骨が折れるという本音もあり、持ってくれるなら助かるのも事実である。
521 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:53:14 ID:TIV7lN6Y0
身軽になったツンは、手が塞がってるブーンの腕に掴まる。これも、ツンのいつもの定位置だ。
今まで、欲しいものがなかなか手に入らない環境にいたせいか、こうやって好きな人に触れて歩いてるだけで、四年間飽きもせず簡単に満たされてしまう。
あと何年こうして一緒に歩いていられるかはわからないし、今現在何が起きてもいいと言えるほどの覚悟もできてない。
今死んだら成仏できないだろうな…とは常に思ってる。
.
522 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:54:51 ID:TIV7lN6Y0
でも例によって、ブーンと話してると気が迷う暇もなく彼のペースに巻き込まれるし、常にのほほんとした柔らかい笑顔が隣にいたら、何かに怖がる方が難しい。
( ^ω^)「時にツンさん。今日はイチボはありかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいけど、上ハラミはあたしのだからね!」
そんなやり取りだけで充足されてしまうのだから、仕方ない。
それを自分から求めて、相手も応えてくれてるのだから、悔やむことなど何もないのだ。
.
523 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:55:49 ID:TIV7lN6Y0
――――だからね、ブーン
せめて、あたしが生きてるうちに
最後の最期を迎える瞬間が、貴方と暮らす屋根の下で良かった
そんな縁で巡り会わされたのが、貴方で良かった
そう気づけただけ、人よりちょっと幸せなのでしょう――――
.
525 : 名も無きAAのようです :2013/08/26(月) 01:10:38 ID:AB/gEMd20
526 : 名も無きAAのようです :2013/08/26(月) 01:11:26 ID:WK07fGK60
527 : 名も無きAAのようです :2013/08/26(月) 02:00:12 ID:Y1WyYr7s0
◆第23話◆
――――あんまり人と繋がろうとしてこなかった分、いざ繋がってしまった人との縁は強固よ――――
人との巡り会わせって、自分の意志で取捨選択していくものだと思ってた。
だから極端な話、あたしが周りにいる人すべてを拒絶すれば、一生独りきりで過ごすことも可能なんだと思ってた。
.
――――あんまり人と繋がろうとしてこなかった分、いざ繋がってしまった人との縁は強固よ――――
人との巡り会わせって、自分の意志で取捨選択していくものだと思ってた。
だから極端な話、あたしが周りにいる人すべてを拒絶すれば、一生独りきりで過ごすことも可能なんだと思ってた。
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499 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:41:21 ID:OQGiP19M0
出会った人。別れた人。
傍にいてくれる人。先立ってしまった人。
そういうものすべてが、ある程度決定的なもので
それを知らなかったから、その都度一喜一憂してただけだったなんて
そんな当たり前のことに、どうして気づきたくなかったんだろう。
.
500 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:42:27 ID:OQGiP19M0
母が亡くなった。
ハインと親友になった。
キュートも放っとけなかった。
学生時代もそれなりの恋愛をして
ある意味物心ついてから、ジョルジュと付き合って
ミセリという恋敵に敗れて別れ
ドクオらと出会って
ブーンと心通わせた
.
501 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:43:21 ID:OQGiP19M0
そうやって、みんな生きてる。生かされてる。
そして一歩一歩、進んで行ったら
行き着く先の終焉は、誰もが同じ。
あたし一人だけが、避けられないわけじゃない。
だから――――
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502 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:45:03 ID:OQGiP19M0
XX28年 X月
( ^ω^)「これがいわゆるテラシュールwwwってやつかお…僕が知ってる画家もいそうだお」
ξ゚⊿゚)ξ「最近あんま聞かないけどね。ちなみにこのフロアはルネ・マグリットね。ベルギーの画家」
見物客とスタッフ。
何故かマンツーマンでガイドしながら絵画を見て回るその姿は、芸術嗜好者同士のカップルの、プライベートな空間にしか見えない。
( ^ω^)「おー…空の絵ばっかりだお」
ξ゚⊿゚)ξσ「特にこれなんか不思議よ」
( ^ω^)「…"光の帝国"?どういうことだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「空は明るいのに、それ以外の風景が陰ってるなんておかしいと思わない?」
( ^ω^)「おー…確かにだお…」
ξ゚⊿゚)ξ「つまりこれは、昼と夜が同居した一枚なの。そんな堅真面目なスーツ姿でよく思いつくわよね」
.
503 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/25(日) 11:46:20 ID:OQGiP19M0
いつからかよく見かける見物客。
数年経ってもよく通うものだなと感心する。
彼は彼なりに、芸術品や絵画、さらにはそれらに付随する歴史背景なんかにも頗る関心があるのだろう。
女性スタッフによる渾身のガイドにも、何度も頷いている。
しかし
ξ゚⊿゚)ξ「あ、今日の夕飯焼き肉が食べたい」
( ^ω^)「そうかお?じゃあ早めに帰って準備しとくお」
ξ゚⊿゚)ξ「いいじゃん、たまには外で食べようよ。あたし今日給料日だしさ」
たまに話題が思いっきりプライベートなのは、いただけないと思う。
一応、周りの見物客には気を遣ってるようだが。
506 : 名も無きAAのようです :2013/08/25(日) 14:02:53 ID:bFOpOKw.0
やっぱブーン×ツンは良い意味で王道だなぁ支援
509 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:19:33 ID:TIV7lN6Y0
待ち合わせ場所が決まったのか、見物客の男性は軽く手を振って去って行った。
その背中に向かって女性スタッフも、思いっきり手を振る。
わかってはいるだろうが、他に見物客がいる時は是非控えていただきたいポーズだ。
.
510 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:20:45 ID:TIV7lN6Y0
「公私混同するなって言っただろうが」
背後から投げ掛けられた声に、ツンは振り向いた。
思ったより近くにいたが全く気付かず、そのステルス能力者さながらの気配の消し方はあっぱれだった。
ξ゚⊿゚)ξ「あらお疲れ様。ここで会うのも久しぶりね」
( ゚∀゚)「…他に何か言うことはないのか?」
今し方自分が注意されたことには一切触れず、何事もなかったかのように挨拶だけするツンに、ジョルジュも呆れ返った。
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511 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:40:49 ID:TIV7lN6Y0
二人が別れてから数年が経ったが、彼らは今でも同じ職場にいた。
職種が違い、同じ現場で仕事する機会も少なくなったためか、同じ職場とはいえどちらも居心地が悪くなるということもなかった。
たまにこうして館内で顔を合わせることがあっても、挨拶程度ですれ違うことがほとんどなので、会話らしい会話なんて本当に久しぶりだった。
.
512 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:42:31 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「今の彼が…例の?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、まぁ」
そんなことには、とっくに気づいていた。
ここ数年で、たまにしか館内に現れないジョルジュが何度も目にしている見物客なのだ。
実際には月に一、二回ぐらいの頻度らしいが、それが数年続いてるのだから足しげく通ってると言って差し支えはないだろう。
美術館には、いわゆる固定客や常連客のようなリピーターは少ない。
それだけの頻度で通われたら、嫌でも顔を覚えてしまいそうだが
そうなる前から知っているブーンの顔を、ジョルジュは忘れるわけがなかった。
(*^ω^)
ξ*゚ー゚)ξ
そして、ブーンが来るたびにあの日見たままの穏やかな雰囲気で話してる二人を目にすると、二人の関係の深さに気付かないわけがなかった。
.
513 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:43:46 ID:TIV7lN6Y0
ブーンと付き合い始めてから、その幸せそうな顔が顕著なツンに、何の気無しにでも彼の話を聞こうとすればするほど、ツンと別れた当時の自分の器の小ささが卑下されるような気がして今まで突っ込んだ話はできなかったが
いざ気まぐれで話し掛けてしまって初めて、特に用件も見当たらないことに気がついてつい口を滑らせてしまった。
しかしツンも気にした様子はないし、今となっては昔の話。
ほとぼりも覚めて落ち着いているのだろう。
514 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:45:10 ID:TIV7lN6Y0
ξ゚⊿゚)ξ「…そうだ。聞いてるかどうかわからないけど、あたし今月いっぱいであがるから」
不意に、ツンが口を開いた。
今この場で初めて聞いたジョルジュは少々面食らっている。
( ゚∀゚)「そうなんだ。知らなかったな」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。ちょっと引っ越すことになったからさ」
ブーンと同棲し始めてからは、一人で住んでた部屋は引き払ったが職場を変えるほどの移動ではなかった。
それが今度は、通いづらくなる距離まで広がるのだそうだ。
それが何を意味するのか、ジョルジュは薄々理解した。
.
515 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:46:07 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…式は挙げるのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、来月」
自分が知らなかっただけかもしれないが、それもまた随時近々な気がする。
( ゚∀゚)「ってことは来月もスケジュールキツそうだな…」
誰かが式に呼ばれてシフトに穴が空くと、自分の比重に負担がかかるという懸念を殊更に漏らす。なんだか悪戯そうに嫌味を含んだ言い方だった。
516 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:47:03 ID:TIV7lN6Y0
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。職場からは一人しか呼ばないから」
しかし、それを物ともせずに突き返す。
そんな一皮剥けた姿が、なんだか晴れ晴れとしていた。
あれから年月を重ねて身についた余裕なのか、彼との安定した付き合いでツンが磨かれたのかは、わからない。
517 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:48:17 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…そうか。ならいいや」
ジョルジュもまた、あの頃のようにテンションにだけ任せたノリ至上ではいられなくなっている。
落ち着いたと言えば聞こえはいいが、昔よりも責務が大きいだけ余裕がないのが本音だ。
ツンのように、仕事だけでなく広義的な意味で前に進んだ同僚を目にすると、ちょっとした焦燥感に駆られるが
518 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:49:40 ID:TIV7lN6Y0
( ゚∀゚)「…ツン、幸せになれよ」
その祝福は、偽りない気持ちで伝えられた。
ξ゚ー゚)ξ「…ありがと。ジョルジュもね」
できれば付き合ってる間に、そうやって笑ってほしかった。
でもその笑顔が拝めたことには満足して、ジョルジュはその場を後にした。
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519 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:50:58 ID:TIV7lN6Y0
(*^ω^)ノシ「ツンお疲れだおー!さっき本屋でジョルジョ・デ・キノコの画集買っちゃったおー!」
ξ;゚⊿゚)ξ「キノコじゃなくてキリコだってばよ。っていうかシュルレアリスムの画集ならあたしもいろいろ持ってるのに…」
自分が与えた学殖に、関心持って吸収してくれるのは教え甲斐もあって結構なことなのだが、考えなしの出費にはさすがに苦言を呈したくもなる。
画集の衝動買いで痛い目見た経験なら、ツンの方が豊富なのだからなおさらだ。
.
520 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:52:07 ID:TIV7lN6Y0
よりにもよってハードカバーらしく、既にそんな重そうな荷物を抱えてるにもかかわらず、空いた手を差し出してツンの荷物を寄越すようにと促す。
もちろん最初の頃は遠慮してたのだが、付き合いが長くなっていくにつれてそんな譲り合い精神もだんだんこそばゆくなってきて、最近はお言葉に甘えてみることにしている。
(;^ω^)「相変わらず重たっ!!カンペ詰め込みすぎだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「資料よ資料。読みあさって損はないんだから」
ツンの仕事用トートバッグには、コロコロ変わる展示物に関する資料が主に詰め込まれている。
ガイドするための予習という建前のそれは、仕事中あまりにも動きがない時持て余した時間を潰してくれるのだそうだ。
そんな荷物を毎日持ち歩くのも、女性の力ではさすがに骨が折れるという本音もあり、持ってくれるなら助かるのも事実である。
521 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:53:14 ID:TIV7lN6Y0
身軽になったツンは、手が塞がってるブーンの腕に掴まる。これも、ツンのいつもの定位置だ。
今まで、欲しいものがなかなか手に入らない環境にいたせいか、こうやって好きな人に触れて歩いてるだけで、四年間飽きもせず簡単に満たされてしまう。
あと何年こうして一緒に歩いていられるかはわからないし、今現在何が起きてもいいと言えるほどの覚悟もできてない。
今死んだら成仏できないだろうな…とは常に思ってる。
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522 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:54:51 ID:TIV7lN6Y0
でも例によって、ブーンと話してると気が迷う暇もなく彼のペースに巻き込まれるし、常にのほほんとした柔らかい笑顔が隣にいたら、何かに怖がる方が難しい。
( ^ω^)「時にツンさん。今日はイチボはありかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいけど、上ハラミはあたしのだからね!」
そんなやり取りだけで充足されてしまうのだから、仕方ない。
それを自分から求めて、相手も応えてくれてるのだから、悔やむことなど何もないのだ。
.
523 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/26(月) 00:55:49 ID:TIV7lN6Y0
――――だからね、ブーン
せめて、あたしが生きてるうちに
最後の最期を迎える瞬間が、貴方と暮らす屋根の下で良かった
そんな縁で巡り会わされたのが、貴方で良かった
そう気づけただけ、人よりちょっと幸せなのでしょう――――
.
525 : 名も無きAAのようです :2013/08/26(月) 01:10:38 ID:AB/gEMd20
乙
526 : 名も無きAAのようです :2013/08/26(月) 01:11:26 ID:WK07fGK60
乙!素敵だなぁ
感動する
感動する
527 : 名も無きAAのようです :2013/08/26(月) 02:00:12 ID:Y1WyYr7s0
ツンは強い子なんだなぁ