ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです 第20話
- 2014/07/12
- 13:36
- ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
416 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:09:23 ID:qVbHiMQ20
◆第20話◆
XX24年 T月
食事を終えた三人は、再び作業に取り掛かった。
皿を洗い、煙草を吸い終えたドクオがツンの作業を手伝い、その間は必要な指示や返事以外はほとんど無言だったが、それを気まずいと思う隙さえないほどの集中力だった。
( ^ω^)「ツンさーん!こっちは仕込み終わったお!なんか手伝うことはあるかお?」
ξ#゚⊿゚)ξ「「あ"ーーーっ!!だぁかぁらぁぁぁ!!!」」('A`#)
(;^ω^)そ「お…ごめんだお」
自分の仕事を終え、手が空いたブーンが途中で加わると、張り詰めていた空気が俄然緩和するようだった。
XX24年 T月
食事を終えた三人は、再び作業に取り掛かった。
皿を洗い、煙草を吸い終えたドクオがツンの作業を手伝い、その間は必要な指示や返事以外はほとんど無言だったが、それを気まずいと思う隙さえないほどの集中力だった。
( ^ω^)「ツンさーん!こっちは仕込み終わったお!なんか手伝うことはあるかお?」
ξ#゚⊿゚)ξ「「あ"ーーーっ!!だぁかぁらぁぁぁ!!!」」('A`#)
(;^ω^)そ「お…ごめんだお」
自分の仕事を終え、手が空いたブーンが途中で加わると、張り詰めていた空気が俄然緩和するようだった。
417 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:11:37 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばツンさん、仕事は大丈夫なのかお?」
ブーンが作業に加わり、自分の視野に入ってる分には話し掛けられても驚きはしない。
黙ってないと集中できないドクオを除いて、二人はだんだんたわいもない話に花を咲かせ始めていた。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。一週間ぐらい有休にしたの」
( ^ω^)「それはまた随分思い切ったおね…わざわざすまないお」
ξ゚⊿゚)ξ「べつにこれだけのためってわけじゃないし。パーティー当日も呼んでくれるんでしょ?」
( ^ω^)「もちろんだお!ツンさんの好きなウィスキーもたらふくサービスするお!」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あと後輩も呼んでいい?シルクの道具貸してくれた子なんだけど」
( ^ω^)「おー…ほんと何から何までありがたいお」
(;'A`)(なんでこいつら手動かしながらそんなに喋れるんだ…?)
418 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:13:55 ID:qVbHiMQ20
人知れずひぃこら言ってるドクオをよそに、二人の会話は止まらない。
気がつけば、陽が傾き始めていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「やっと……あと印刷するだけなのね…」
(;^ω^)「ふぃー…長かったおー…」
(;'A`)「って言っても200枚だろ?それはそれで長期戦だな」
いよいよ本番。というところまで来ていた。あとはTシャツ一枚一枚に、デザイン画を印刷するだけである。
シルクスクリーンの工程自体は一日かかるほどの作業ではないのだが、200枚という数字が、ついて回るネックだった。
419 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:16:53 ID:qVbHiMQ20
(;'A`)「その前に一服していいか?すぐ戻ってくるわ」
そう言ってドクオは外に出て行った。
店内でも煙草は吸えるのだが、非喫煙者の女性であるツンに気を遣ったのだろか、さすが普段人にサービスしてるだけのことはある。
( ^ω^)「コーヒーでも飲むかお?僕らも一息つこうお」
同じく非喫煙者のブーンも残り、カウンター内に入って言った。
ξ゚⊿゚)ξ「そうね」
そう言ってツンも、軽く伸びをしてカウンター席に座った。
.
421 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:20:07 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「なんか、学生時代の文化祭を思い出すお」
ブーンはコーヒーを出しながら言う。
昔のツンがいた、みんなで一つの空間を作り上げるという仕事の中、そこで一緒に働いた仲間なんかもよく『文化祭をやり直してるようだ』なんて言ってた気がする。
学生時代のツンは、そうやってみんなで寄り集まった作業に協力した記憶がないので、社会人になってからそんな仕事に従事して初めて、そんなことなら学生の頃も少しはその輪に入ればよかったと後悔したものだった。
422 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:22:42 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「文化祭か…あたしは特に思い出ないなぁ」
( ^ω^)「お?」
ξ゚⊿゚)ξ「クラスでやる模擬店とかはほったらかしで、部活の作品作ることしか頭になかったから」
ξ゚⊿゚)ξ「今考えると、そういう個人プレーよりもっと団体プレーに加わればちょっとは違ったのかなぁって…思ったりもするけど」
( ^ω^)「ツンさん…まさかの元ヤンかお?w」
それは、ハインと付き合いのあることも加味した結論だろう。
酒が入ると多少ガサツにはなるが、あれで素面じゃ思慮深いんだぜ。とツンは思った。
423 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:24:42 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「…まぁ、見る人が見ればそうなのかな。決して真面目ではなかったから」
( ^ω^)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは?学生時代楽しかった?」
( ^ω^)「お…まぁそれなりだお。高校入るまでは彼女もできなかったし薄虚しい感じだったけど」
( ^ω^)「それより明確な夢を持ってる今のほうが、よっぽど楽しいお」
そう言ってブーンは、コーヒーを一口飲んだ。
.
424 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:26:22 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「夢って?」
(;^ω^)「あ、いや…そんな大層なもんじゃなくて、リアリティがある分つまんないかもしれないけど」
( ^ω^)「…自分のお店を持ちたいんだお。人が作った土台じゃなくて、自分が作った土台で勝負したいんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
.
425 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:27:15 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「今でも料理長っていう肩書きがあって、ある程度自由にやらせてはもらってるけど」
( ^ω^)「人に与えられた自由ってのはやっぱり限界があるお」
( ^ω^)「もっといろいろ試してみたいし、作ってみたいものもあるし」
( ^ω^)「それに合わせて、お酒も幅をきかせたい」
( ^ω^)「…そういうの全部、自分でやりたいんだお」
ブーンの柔和な顔つきが、この時ばかりは気勢を孕んでいた。
それは一点の迷いもない、まっすぐな目だった。
.
426 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:30:39 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「………」
自分はどうだろうか。
夢とか目標と言えるほどの志はなく、むしろ気分には少々ムラがあり、いつも通りの仕事さえ集中できない時がある。
ブーンの料理の腕や、ドクオの気の遣い方。
そんな仕事由来の確かなスキルを当たり前のように身につけた同年代を目の当たりにすると、下がった士気を隠そうともしなかった自分が情けなくなる。
.
427 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:32:56 ID:qVbHiMQ20
ξ゚ー゚)ξ「ブーンならできるよ」
何が、とは言わなかった。
たぶん、それは全部本人が秘めてるはずだから。
ブーンがやりたいこと、やりたいようにできる日が来ることを、ツンは知ってるから。
( ^ω^)「…ありがとうお」
そのタイミングでドクオも戻って来たので、三人は再び作業に着手した。
.
428 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:35:58 ID:qVbHiMQ20
ξ;゚⊿゚)ξ
(;^ω^)
(;'A`)
依然として、三人とも無言だった。
最初は集中力によるものだったかもしれないが、それも切れて今は疲労による無言と化している。
(;'A`)「あと…何枚だ……?」
ξ;゚⊿゚)ξ「あと10枚…ラストスパートよ……」
.
429 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:37:56 ID:qVbHiMQ20
最初の何枚かこそ、その仕上がりには感動すら覚えたが、あとはひたすらメリハリのない作業だ。
そのくせ失敗しないように神経使うだけ、集中力の消耗も激しかった。
しかし長かった道程も終わりが見えてくると、安堵の息が漏れる。
気合いを入れ直して再び手を進めようとした。
気がつけば、日付も変わりそうな時間であった。
.
430 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:39:39 ID:qVbHiMQ20
从 ゚∀从「うーす。やってるかー?」
そこに何故か、ハインが入ってきた。
すっかり疲弊した三人との温度差が激しい、安穏な声だった。
ξ゚⊿゚)ξ「ハインじゃん。今日はやってないよ」
さながら店のスタッフのように、今日は定休日であることを主張するツンに、いやそういう意味じゃないんだけど…と苦笑いしながら、ハインはカウンター席に座った。
なんだか荷物が多く、重そうだ。
431 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:41:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「お、ハインさんちっす。ようやく終わりが見えてきましたよ」
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?ハインこのこと知ってたの?」
从 ゚∀从「一応な。バイトが休めなくて手伝えなかったけど」
そう言い合いながらも、作業する手は止まらない。
繰り返されてきたその手順を、手先が覚えたかのようだった。
432 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:44:03 ID:qVbHiMQ20
ξ*゚⊿゚)ξ「できたー!あたしのノルマ完成!」
珍しく、ツンから歓喜の声があがった。
(*'A`)「俺も終わったっす!いやー長かった!」
从 ゚∀从「おぅ、やっと終わったか!お疲れだったな」
(;^ω^)「本当だおー…こんな根気のいる作業、慣れてる人一人いないと気が遠くなるお…」
从 ゚∀从「まぁそこはツンに感謝だな。…おっと、もう日付変わるか?」
そう言って時計を見遣ると、日付が変わる一分前を指していた。
ブーンは厨房に引っ込み、ドクオも飲み物の用意でもするのか、カウンターに入った。
.
433 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:46:12 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「本当だ。もうそんな時間か。終電って何時―――」
バツン!!!
突然、店内の照明が全て消えた。
次の瞬間仄かに見えた灯が照らしたのは、
「「「ハッピーバースデー(だお)!!!ツン(さん)!!!」」」
ブーンが運んできた、バースデーケーキだった。
.
434 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:48:01 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「………えっ?」
照明が点いてから改めて見たそれは、やっぱりホールケーキだ。
ベイクドチーズケーキにベリーのソースがあしらわれたそれは、いかにもツンの好みど真ん中だった。
ケーキが乗っている皿には、チョコペンで書かれたであろう『HAPPY BIRTHDAY ツン』の文字。
小洒落た筆記体が、さながら一つのアートのようだった。
.
435 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:50:24 ID:qVbHiMQ20
从 ゚∀从「ちょwwびっくりしすぎでノーリアクションですかwww」
このサプライズを企てた首謀者であろうハインは、瞳孔が開ききったツンの正気を戻させるかのように軽く肩を叩いた。
ξ゚⊿゚)ξ「あ……いや、うん。本当にびっくりしすぎちゃって…」
主役の締まらない一言に、満足そうに笑うハイン。
.
436 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:52:13 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「おめでとうだおツンさん!これ、焼きたてのホヤホヤだお!」
確かに、おかしいとは思ってた。
休みの日に、いつまで何の仕込みをしてるのだろうと。
それも有り得ない話ではないのだろうから特に気には留めなかったが
まさか自分のためだとは、ミリ単位も思わなかった。
.
437 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:53:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「ハインさんから聞きました。日付変わったら今日が当日だって。おめでとうございます!」
いつの間にか、23歳になった。
祝ってくれるであろうと踏んでたジョルジュとも別れ、母も亡くしてからはあまり盛大に祝われたことがなかった誕生日。
昔は、苦い思い出さえ刻まれたはずの誕生日だったが
ξ゚⊿゚)ξ「…また死に一歩近づいたのね……」
(;'A`)「え!?そんな感想なの!?」
ξ゚⊿゚)ξ「…嘘だよ。嬉しいに決まってるじゃない」
.
438 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:55:27 ID:qVbHiMQ20
从*゚∀从
(*^ω^)
(;'A`)「………」
祝ってくれる人達の笑顔に囲まれて
ξ*゚ー゚)ξ「ありがとう。最高の誕生日になった」
.
440 : 名も無きAAのようです :2013/08/23(金) 00:09:24 ID:qDm1VgCg0
441 : 名も無きAAのようです :2013/08/23(金) 00:16:43 ID:LbI5/vaw0
442 : 名も無きAAのようです :2013/08/23(金) 02:42:12 ID:o1BK5jVMO
443 : 名も無きAAのようです :2013/08/23(金) 14:58:07 ID:Do4KT3us0
( ^ω^)「そういえばツンさん、仕事は大丈夫なのかお?」
ブーンが作業に加わり、自分の視野に入ってる分には話し掛けられても驚きはしない。
黙ってないと集中できないドクオを除いて、二人はだんだんたわいもない話に花を咲かせ始めていた。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。一週間ぐらい有休にしたの」
( ^ω^)「それはまた随分思い切ったおね…わざわざすまないお」
ξ゚⊿゚)ξ「べつにこれだけのためってわけじゃないし。パーティー当日も呼んでくれるんでしょ?」
( ^ω^)「もちろんだお!ツンさんの好きなウィスキーもたらふくサービスするお!」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あと後輩も呼んでいい?シルクの道具貸してくれた子なんだけど」
( ^ω^)「おー…ほんと何から何までありがたいお」
(;'A`)(なんでこいつら手動かしながらそんなに喋れるんだ…?)
418 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:13:55 ID:qVbHiMQ20
人知れずひぃこら言ってるドクオをよそに、二人の会話は止まらない。
気がつけば、陽が傾き始めていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「やっと……あと印刷するだけなのね…」
(;^ω^)「ふぃー…長かったおー…」
(;'A`)「って言っても200枚だろ?それはそれで長期戦だな」
いよいよ本番。というところまで来ていた。あとはTシャツ一枚一枚に、デザイン画を印刷するだけである。
シルクスクリーンの工程自体は一日かかるほどの作業ではないのだが、200枚という数字が、ついて回るネックだった。
419 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:16:53 ID:qVbHiMQ20
(;'A`)「その前に一服していいか?すぐ戻ってくるわ」
そう言ってドクオは外に出て行った。
店内でも煙草は吸えるのだが、非喫煙者の女性であるツンに気を遣ったのだろか、さすが普段人にサービスしてるだけのことはある。
( ^ω^)「コーヒーでも飲むかお?僕らも一息つこうお」
同じく非喫煙者のブーンも残り、カウンター内に入って言った。
ξ゚⊿゚)ξ「そうね」
そう言ってツンも、軽く伸びをしてカウンター席に座った。
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421 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:20:07 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「なんか、学生時代の文化祭を思い出すお」
ブーンはコーヒーを出しながら言う。
昔のツンがいた、みんなで一つの空間を作り上げるという仕事の中、そこで一緒に働いた仲間なんかもよく『文化祭をやり直してるようだ』なんて言ってた気がする。
学生時代のツンは、そうやってみんなで寄り集まった作業に協力した記憶がないので、社会人になってからそんな仕事に従事して初めて、そんなことなら学生の頃も少しはその輪に入ればよかったと後悔したものだった。
422 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:22:42 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「文化祭か…あたしは特に思い出ないなぁ」
( ^ω^)「お?」
ξ゚⊿゚)ξ「クラスでやる模擬店とかはほったらかしで、部活の作品作ることしか頭になかったから」
ξ゚⊿゚)ξ「今考えると、そういう個人プレーよりもっと団体プレーに加わればちょっとは違ったのかなぁって…思ったりもするけど」
( ^ω^)「ツンさん…まさかの元ヤンかお?w」
それは、ハインと付き合いのあることも加味した結論だろう。
酒が入ると多少ガサツにはなるが、あれで素面じゃ思慮深いんだぜ。とツンは思った。
423 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:24:42 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「…まぁ、見る人が見ればそうなのかな。決して真面目ではなかったから」
( ^ω^)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは?学生時代楽しかった?」
( ^ω^)「お…まぁそれなりだお。高校入るまでは彼女もできなかったし薄虚しい感じだったけど」
( ^ω^)「それより明確な夢を持ってる今のほうが、よっぽど楽しいお」
そう言ってブーンは、コーヒーを一口飲んだ。
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424 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:26:22 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「夢って?」
(;^ω^)「あ、いや…そんな大層なもんじゃなくて、リアリティがある分つまんないかもしれないけど」
( ^ω^)「…自分のお店を持ちたいんだお。人が作った土台じゃなくて、自分が作った土台で勝負したいんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「………」
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425 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:27:15 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「今でも料理長っていう肩書きがあって、ある程度自由にやらせてはもらってるけど」
( ^ω^)「人に与えられた自由ってのはやっぱり限界があるお」
( ^ω^)「もっといろいろ試してみたいし、作ってみたいものもあるし」
( ^ω^)「それに合わせて、お酒も幅をきかせたい」
( ^ω^)「…そういうの全部、自分でやりたいんだお」
ブーンの柔和な顔つきが、この時ばかりは気勢を孕んでいた。
それは一点の迷いもない、まっすぐな目だった。
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426 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:30:39 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「………」
自分はどうだろうか。
夢とか目標と言えるほどの志はなく、むしろ気分には少々ムラがあり、いつも通りの仕事さえ集中できない時がある。
ブーンの料理の腕や、ドクオの気の遣い方。
そんな仕事由来の確かなスキルを当たり前のように身につけた同年代を目の当たりにすると、下がった士気を隠そうともしなかった自分が情けなくなる。
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427 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:32:56 ID:qVbHiMQ20
ξ゚ー゚)ξ「ブーンならできるよ」
何が、とは言わなかった。
たぶん、それは全部本人が秘めてるはずだから。
ブーンがやりたいこと、やりたいようにできる日が来ることを、ツンは知ってるから。
( ^ω^)「…ありがとうお」
そのタイミングでドクオも戻って来たので、三人は再び作業に着手した。
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428 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:35:58 ID:qVbHiMQ20
ξ;゚⊿゚)ξ
(;^ω^)
(;'A`)
依然として、三人とも無言だった。
最初は集中力によるものだったかもしれないが、それも切れて今は疲労による無言と化している。
(;'A`)「あと…何枚だ……?」
ξ;゚⊿゚)ξ「あと10枚…ラストスパートよ……」
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429 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:37:56 ID:qVbHiMQ20
最初の何枚かこそ、その仕上がりには感動すら覚えたが、あとはひたすらメリハリのない作業だ。
そのくせ失敗しないように神経使うだけ、集中力の消耗も激しかった。
しかし長かった道程も終わりが見えてくると、安堵の息が漏れる。
気合いを入れ直して再び手を進めようとした。
気がつけば、日付も変わりそうな時間であった。
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430 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:39:39 ID:qVbHiMQ20
从 ゚∀从「うーす。やってるかー?」
そこに何故か、ハインが入ってきた。
すっかり疲弊した三人との温度差が激しい、安穏な声だった。
ξ゚⊿゚)ξ「ハインじゃん。今日はやってないよ」
さながら店のスタッフのように、今日は定休日であることを主張するツンに、いやそういう意味じゃないんだけど…と苦笑いしながら、ハインはカウンター席に座った。
なんだか荷物が多く、重そうだ。
431 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:41:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「お、ハインさんちっす。ようやく終わりが見えてきましたよ」
ξ゚⊿゚)ξ「あれ?ハインこのこと知ってたの?」
从 ゚∀从「一応な。バイトが休めなくて手伝えなかったけど」
そう言い合いながらも、作業する手は止まらない。
繰り返されてきたその手順を、手先が覚えたかのようだった。
432 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:44:03 ID:qVbHiMQ20
ξ*゚⊿゚)ξ「できたー!あたしのノルマ完成!」
珍しく、ツンから歓喜の声があがった。
(*'A`)「俺も終わったっす!いやー長かった!」
从 ゚∀从「おぅ、やっと終わったか!お疲れだったな」
(;^ω^)「本当だおー…こんな根気のいる作業、慣れてる人一人いないと気が遠くなるお…」
从 ゚∀从「まぁそこはツンに感謝だな。…おっと、もう日付変わるか?」
そう言って時計を見遣ると、日付が変わる一分前を指していた。
ブーンは厨房に引っ込み、ドクオも飲み物の用意でもするのか、カウンターに入った。
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433 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:46:12 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「本当だ。もうそんな時間か。終電って何時―――」
バツン!!!
突然、店内の照明が全て消えた。
次の瞬間仄かに見えた灯が照らしたのは、
「「「ハッピーバースデー(だお)!!!ツン(さん)!!!」」」
ブーンが運んできた、バースデーケーキだった。
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434 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:48:01 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「………えっ?」
照明が点いてから改めて見たそれは、やっぱりホールケーキだ。
ベイクドチーズケーキにベリーのソースがあしらわれたそれは、いかにもツンの好みど真ん中だった。
ケーキが乗っている皿には、チョコペンで書かれたであろう『HAPPY BIRTHDAY ツン』の文字。
小洒落た筆記体が、さながら一つのアートのようだった。
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435 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:50:24 ID:qVbHiMQ20
从 ゚∀从「ちょwwびっくりしすぎでノーリアクションですかwww」
このサプライズを企てた首謀者であろうハインは、瞳孔が開ききったツンの正気を戻させるかのように軽く肩を叩いた。
ξ゚⊿゚)ξ「あ……いや、うん。本当にびっくりしすぎちゃって…」
主役の締まらない一言に、満足そうに笑うハイン。
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436 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:52:13 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「おめでとうだおツンさん!これ、焼きたてのホヤホヤだお!」
確かに、おかしいとは思ってた。
休みの日に、いつまで何の仕込みをしてるのだろうと。
それも有り得ない話ではないのだろうから特に気には留めなかったが
まさか自分のためだとは、ミリ単位も思わなかった。
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437 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:53:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「ハインさんから聞きました。日付変わったら今日が当日だって。おめでとうございます!」
いつの間にか、23歳になった。
祝ってくれるであろうと踏んでたジョルジュとも別れ、母も亡くしてからはあまり盛大に祝われたことがなかった誕生日。
昔は、苦い思い出さえ刻まれたはずの誕生日だったが
ξ゚⊿゚)ξ「…また死に一歩近づいたのね……」
(;'A`)「え!?そんな感想なの!?」
ξ゚⊿゚)ξ「…嘘だよ。嬉しいに決まってるじゃない」
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438 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 23:55:27 ID:qVbHiMQ20
从*゚∀从
(*^ω^)
(;'A`)「………」
祝ってくれる人達の笑顔に囲まれて
ξ*゚ー゚)ξ「ありがとう。最高の誕生日になった」
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440 : 名も無きAAのようです :2013/08/23(金) 00:09:24 ID:qDm1VgCg0
おつ!
441 : 名も無きAAのようです :2013/08/23(金) 00:16:43 ID:LbI5/vaw0
乙、ちょっとずつ進んでいく感じのこの量、なかなかいいな
そしてさらなる料理の描写に期待しているんだぜ?
そしてさらなる料理の描写に期待しているんだぜ?
442 : 名も無きAAのようです :2013/08/23(金) 02:42:12 ID:o1BK5jVMO
…なんというか、ジョルジュと付き合ってるツンって珍しいなと思ったけどやっぱりツンはブーンがいいな。
443 : 名も無きAAのようです :2013/08/23(金) 14:58:07 ID:Do4KT3us0
乙です!ツン可愛い