ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです 第19話
- 2014/07/10
- 20:09
- ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
392 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:06:40 ID:qVbHiMQ20
393 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:09:02 ID:qVbHiMQ20
仕事は、一週間ほど休暇をもらった。有休を消化するタイミングも計りあぐねてたから丁度良かった。
休日に仕事先の人間と会うということも滅多にないので、あまり目にしないトソンのフェミニンな私服姿も、なんだか新鮮で可愛らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよ。わざわざごめんね、こんな大荷物」
(゚、゚トソン「いいんです。なんだか楽しそうだし」
.
394 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:10:16 ID:qVbHiMQ20
ツンがジョルジュと別れたことは、風の噂で知っていた。
そんな矢先の一週間の休暇となると、何事かとトソンも思ったが、思いの外元気そうなツンの姿になんだか安堵した表情を浮かべていた。
ξ゚⊿゚)ξ「おー元気元気。べつに失恋旅行とかはしないから安心して」
(゚、゚;トソン「ちょ…人が聞くまいと気を遣ってたことを自らサラッと……」
トソンの突っ込みを受け流し、ツンは彼女の手から『大荷物』を受け取った。
.
395 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:11:25 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう。助かったわ。経験はあるけどさすがに道具までは持ち合わせてなかったからさ」
(゚、゚トソン「きょうび自宅でも簡単にできるキットもあるそうですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「んー…でも家でまでやる?」
(゚、゚トソン「…やんないです。w」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよね…まぁ学校に道具があればどのみち買いはしないでしょうけど」
さすが美大生。と微笑んでツンは荷物を肩にかけた。
396 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:12:35 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「これからバイト?」
(゚、゚トソン「そうなんです。できればツン先輩のお手伝いもしたいところなんですが…」
ξ゚⊿゚)ξ「それには及ばんよ。人手はあるから」
(゚、゚トソン「そうですか…?」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、お借りするね。返す時また連絡するから」
そう言って、ツンは振り向いた。
その飄々とした背中は、心配するまでもなくいつも通りだと安心したトソンも、職場へ向かって歩き出した。
.
397 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:14:04 ID:qVbHiMQ20
ツンは、ブーンやドクオの職場であるダイニングバーに向かった。
といっても、今日は店自体は定休日らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよー」
( ^ω^)「おっ!おはよーだおツンさん!ほんと助かるお!」
前回連絡先を受け取って、ツンはその日のうちに自分の連絡先を送信した。
そして彼から連絡が来たのは、その次の日のことだった。よほど切羽詰まった用件だったらしい。
そのことで訪れたのが、今日の話というわけだ。
.
398 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:15:03 ID:qVbHiMQ20
('A`)「お、ツンさんおはよっす。わざわざすいません」
そう言ってドクオが運んできたのは、中身の詰まった大きな段ボール箱だった。細身の彼が持ち運ぶには、少々危なっかしい。
もちろん客もおらず閑散とした店内には、ブーンとドクオしかいなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。こう見えてもシルクは得意だったから」
美術部出身のツンだからこそと頼まれたのが、シルクスクリーンだった。
.
399 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:16:07 ID:qVbHiMQ20
近々、ブーンらの職場であるこの店は、開店五周年を迎えるそうで
ぼちぼち客足もついてきた今日この頃、切りも良い周年ということで今年はちょっと盛大にパーティーを催すとのこと。
その記念品として、店のオリジナルTシャツを販売する運びとなった。それが先ほどドクオが運んできた段ボール箱の中身だ。
しかし、パーティーともなると食材やお酒を主体に奮発するためあまり羽振り良く経費をかけることもできず、自分らで手をかけようとしたまでは良かったが
週に一度の定休日だけを使っても終わる見通しが立たず、店を営業しながらだとブーンも仕込みに追われるなどでなかなか手がつけられなかった。
しかも、いかんせん未経験の作業だ。
あれやこれや調べてはみたがなかなかうまくいかず、家庭用シルクスクリーンキットのちゃちな仕上がりにもなんだか納得がいかず、頓挫しかかっていたのだ。
.
400 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:17:39 ID:qVbHiMQ20
そこへ現れた美術部出身。
ならばやり方ぐらいは知ってるだろうと、活動の一環として経験のあったツンにお呼びがかかった。
なんとか知恵を貸してもらえないかと打診した末、こうして手伝いに来てもらえることとなったのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「乾かせるものは何かある?」
('A`)「一応、ドライヤーとヒーターなら」
美大生であるトソンから借りた道具をカウンターに並べ、準備に取り掛かった。
.
401 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:18:59 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「図柄は?」
( ^ω^)「これだお!こっちが表でこっちが裏で…」
そう言って、プリンターから印刷した絵をツンに渡した。
店のロゴと、ロックグラスに注がれた酒と五輪の花の絵が融合された、シンプルながらどこか遊び心のあるデザインだった。
ξ゚⊿゚)ξ「これもブーンが描いたの?」
( ^ω^)「そうだお!本当はツンさんに頼みたかったんだけど…」
ξ゚⊿゚)ξ「それはさすがに荷が重いわ」
.
402 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:20:15 ID:qVbHiMQ20
そう言いながら、ツンは木版に感光乳液を塗り始めている。
簡単そうに見える作業だが、まっすぐに塗らなきゃいけない、神経使う作業なのだ。喋りながらできるとは思えない。
にも関わらず、ツンの手先は軽やかだ。一応手元を注視してはいるが、覚束ないようには見えない。
さすが周知の器用さは伊達じゃないようだ。あまり話し掛けない方がいいのかとも思ったが、少しくらいなら大丈夫そうだ。
( ^ω^)「おー…ただでさえギャラも出ないのに申し訳ないお…賄いは作るからそれで勘弁してほしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「マジで?やった。どうせあたしの収入なんてほとんどエンゲル係数だしね」
手を止めることなく、しかしいつも通りに答える。
.
403 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:21:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「ツンさーん!コーヒー置いとくんでよかったら…」
ξ;゚⊿゚)ξそ「ちょ、急に話し掛けないでよ!手元狂うじゃない!」
(;'A`)そ「え!?気利かしたつもりが怒られた!でもすいません!」
(;^ω^)「……」
ドクオの二の舞にならないように…いや、ツンが集中できるように、ブーンは自分の城である厨房の中へ避難した。
.
404 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:23:37 ID:qVbHiMQ20
さすがにTシャツ200枚の印刷は骨が折れる作業だった。
しかし手慣れたツンのペースで作業は順調に進み、ちょっと時間をかければ今日中には終わりそうな見通しである。
ξ゚⊿゚)ξ「…そうそう。ゆっくりね。ドクオ君、案外丁寧なのね」
(;'A`)「いや…また怒らせたら作業が滞ると思って慎重にやってるだけですよ」
ツンの指導でドクオに補佐をさせ、作業の能率が上がってることもスピードアップに繋がっている。
意外と、ドクオの飲み込みが早いのは助かった。
( ^ω^)「お、捗ってるかおー?」
ブーンが厨房から顔を出した。
仕込みをしてたのか、熱気が伝わってくる。
405 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:25:04 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「手空けられるようなら賄い作っちゃうおー」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、じゃああとこれだけ塗っちゃうわー」
ライトボックスに乗せて光を当てたデザイン画を洗い流す作業は終わっていた。
これで光が反応した部分が流されて、切り絵のように浮かび上がるのだ。
その濡れた絵をドライヤーで乾燥させた後、必要な部分を流して絵が歪んだり欠けたりしてないかどうかを入念にチェックし、欠けてる部分があれば修正する。
ドクオも手伝って、今はその修正作業に着手していた。
修正した絵はまた乾燥させて光を当てる工程に移すので、そういうちょっと時間をかけてもいい作業に移れば手が空く。
そういえば、ぼちぼち昼時だ。
ツンは大きく伸びをした。
.
406 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:27:17 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばツンさん、なんか嫌いな食べ物とかあるかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「特にないわ。何でも平気」
( ^ω^)「それはよかったお!そこのドクオは好き嫌いが多いから賄いに苦労するんだおw」
('A`)「うっせーな味覚がデリケートなんだよ」
はいはいお、とあからさまに適当な返事をして厨房に戻ると、ドクオはドクオでカウンターに入る。
('A`)「ツンさん、ビールでいいっすか?」
ξ゚⊿゚)ξ「え、大丈夫なの?」
('∀`)「大丈夫大丈夫!ノーギャラで手伝ってもらってるんだからそれぐらいは」
そう言いながら既に、人数分のビールを注ぎ始めている。
407 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:29:36 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「お、昼間からビールなんてやっぱり休日はこうでなくちゃだお!」
そう言いながらブーンがカウンターに置いたのは、オムライスだった。
キノコをたっぷり使ったソースからは、バターやチーズの香りが鼻を擽り、クミンやガラムマサラなどカレーの風味を思わせるスパイス香が空腹感を刺激した。ビールとの相性も良さそうだ。
そんなこってりした料理だったからか、野郎二人の分よりツンの分は気持ち少なめに盛ってくれてるのもプロである所以の気遣いだった。
三人はカウンターに並んで座り、ビールの入ったグラスを合わせて食べ始めた。
.
408 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:30:48 ID:qVbHiMQ20
一言で言えば、絶品だった。
どんな料理でも、カレー風味なアレンジは邪道でジャンクになりがちな印象はあったが、やっぱりカレーが嫌いな人は少ない。
もともとが卵と米を使った素朴な料理である。カレーが合わない訳がない。
ξ*゚⊿゚)ξ「すごい!ソース美味しい!」
美味しいものを食べてる時の女の子は、本当に幸せそうな顔をする。
ツンのように、普段気丈で凛とした印象の女性でも顔を綻ばせてしまうほどだ。
.
409 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:32:09 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「よかったお。あくまで余り食材だからそれを使うのも申し訳ないとは思ったんだけど…」
ξ*゚⊿゚)ξ「何言ってんのよ。ただでこんなの食べさせてもらえるなら充分よ!」
オムライス一つで、年甲斐もないほどテンションを上げるツンに、そんな食事にもう慣れているドクオは少々気圧されているようだ。
.
410 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:33:23 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばシルクの方はどうだお?まだかかりそうかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん…でもドクオ君も手伝ってくれてるし今日中にはあがると思うけど」
('A`)「ブーンはどうだ?手空かないのか?」
( ^ω^)「もうちょっとだお!終わったら僕も手伝うお!」
そう言って三人は、Tシャツ完成への道程を急ぐように食事のピッチも上げ始めた。
.
412 : 名も無きAAのようです :2013/08/22(木) 17:34:38 ID:bDiP/Jpo0
413 : 名も無きAAのようです :2013/08/22(木) 18:28:09 ID:gxDJg0ug0
414 : 名も無きAAのようです :2013/08/22(木) 19:43:44 ID:J6pBsOT.0
◆第19話◆
XX24年 T月
ヾ(゚、゚トソン「あ、ツン先輩ー」
待ち合わせ場所にいたのは、小柄で細身の学生だった。
昔一緒に仕事をした、ツンの後輩である。
いかにもという育ちの良さそうな外見通り、美大生ということもあってか何かとコネクションもある彼女が
滅多に求人情報など出さない美術館でアルバイトしてて、且つ広告関係の仕事に捩込んでもらえるあたり、有能な芸術家の卵なのかもしれない。
しかしそこに驕った様子はなく、仕事先の目上の人間に対しても『先輩』呼ばわりする学生気質の抜けてなさが、飾らなくあどけない印象を受ける。
そうやって人を悪い気にさせないコケットが、トソンの良さでもあった。
XX24年 T月
ヾ(゚、゚トソン「あ、ツン先輩ー」
待ち合わせ場所にいたのは、小柄で細身の学生だった。
昔一緒に仕事をした、ツンの後輩である。
いかにもという育ちの良さそうな外見通り、美大生ということもあってか何かとコネクションもある彼女が
滅多に求人情報など出さない美術館でアルバイトしてて、且つ広告関係の仕事に捩込んでもらえるあたり、有能な芸術家の卵なのかもしれない。
しかしそこに驕った様子はなく、仕事先の目上の人間に対しても『先輩』呼ばわりする学生気質の抜けてなさが、飾らなくあどけない印象を受ける。
そうやって人を悪い気にさせないコケットが、トソンの良さでもあった。
393 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:09:02 ID:qVbHiMQ20
仕事は、一週間ほど休暇をもらった。有休を消化するタイミングも計りあぐねてたから丁度良かった。
休日に仕事先の人間と会うということも滅多にないので、あまり目にしないトソンのフェミニンな私服姿も、なんだか新鮮で可愛らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよ。わざわざごめんね、こんな大荷物」
(゚、゚トソン「いいんです。なんだか楽しそうだし」
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394 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:10:16 ID:qVbHiMQ20
ツンがジョルジュと別れたことは、風の噂で知っていた。
そんな矢先の一週間の休暇となると、何事かとトソンも思ったが、思いの外元気そうなツンの姿になんだか安堵した表情を浮かべていた。
ξ゚⊿゚)ξ「おー元気元気。べつに失恋旅行とかはしないから安心して」
(゚、゚;トソン「ちょ…人が聞くまいと気を遣ってたことを自らサラッと……」
トソンの突っ込みを受け流し、ツンは彼女の手から『大荷物』を受け取った。
.
395 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:11:25 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう。助かったわ。経験はあるけどさすがに道具までは持ち合わせてなかったからさ」
(゚、゚トソン「きょうび自宅でも簡単にできるキットもあるそうですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「んー…でも家でまでやる?」
(゚、゚トソン「…やんないです。w」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよね…まぁ学校に道具があればどのみち買いはしないでしょうけど」
さすが美大生。と微笑んでツンは荷物を肩にかけた。
396 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:12:35 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「これからバイト?」
(゚、゚トソン「そうなんです。できればツン先輩のお手伝いもしたいところなんですが…」
ξ゚⊿゚)ξ「それには及ばんよ。人手はあるから」
(゚、゚トソン「そうですか…?」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、お借りするね。返す時また連絡するから」
そう言って、ツンは振り向いた。
その飄々とした背中は、心配するまでもなくいつも通りだと安心したトソンも、職場へ向かって歩き出した。
.
397 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:14:04 ID:qVbHiMQ20
ツンは、ブーンやドクオの職場であるダイニングバーに向かった。
といっても、今日は店自体は定休日らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「おはよー」
( ^ω^)「おっ!おはよーだおツンさん!ほんと助かるお!」
前回連絡先を受け取って、ツンはその日のうちに自分の連絡先を送信した。
そして彼から連絡が来たのは、その次の日のことだった。よほど切羽詰まった用件だったらしい。
そのことで訪れたのが、今日の話というわけだ。
.
398 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:15:03 ID:qVbHiMQ20
('A`)「お、ツンさんおはよっす。わざわざすいません」
そう言ってドクオが運んできたのは、中身の詰まった大きな段ボール箱だった。細身の彼が持ち運ぶには、少々危なっかしい。
もちろん客もおらず閑散とした店内には、ブーンとドクオしかいなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。こう見えてもシルクは得意だったから」
美術部出身のツンだからこそと頼まれたのが、シルクスクリーンだった。
.
399 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:16:07 ID:qVbHiMQ20
近々、ブーンらの職場であるこの店は、開店五周年を迎えるそうで
ぼちぼち客足もついてきた今日この頃、切りも良い周年ということで今年はちょっと盛大にパーティーを催すとのこと。
その記念品として、店のオリジナルTシャツを販売する運びとなった。それが先ほどドクオが運んできた段ボール箱の中身だ。
しかし、パーティーともなると食材やお酒を主体に奮発するためあまり羽振り良く経費をかけることもできず、自分らで手をかけようとしたまでは良かったが
週に一度の定休日だけを使っても終わる見通しが立たず、店を営業しながらだとブーンも仕込みに追われるなどでなかなか手がつけられなかった。
しかも、いかんせん未経験の作業だ。
あれやこれや調べてはみたがなかなかうまくいかず、家庭用シルクスクリーンキットのちゃちな仕上がりにもなんだか納得がいかず、頓挫しかかっていたのだ。
.
400 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:17:39 ID:qVbHiMQ20
そこへ現れた美術部出身。
ならばやり方ぐらいは知ってるだろうと、活動の一環として経験のあったツンにお呼びがかかった。
なんとか知恵を貸してもらえないかと打診した末、こうして手伝いに来てもらえることとなったのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「乾かせるものは何かある?」
('A`)「一応、ドライヤーとヒーターなら」
美大生であるトソンから借りた道具をカウンターに並べ、準備に取り掛かった。
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401 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:18:59 ID:qVbHiMQ20
ξ゚⊿゚)ξ「図柄は?」
( ^ω^)「これだお!こっちが表でこっちが裏で…」
そう言って、プリンターから印刷した絵をツンに渡した。
店のロゴと、ロックグラスに注がれた酒と五輪の花の絵が融合された、シンプルながらどこか遊び心のあるデザインだった。
ξ゚⊿゚)ξ「これもブーンが描いたの?」
( ^ω^)「そうだお!本当はツンさんに頼みたかったんだけど…」
ξ゚⊿゚)ξ「それはさすがに荷が重いわ」
.
402 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:20:15 ID:qVbHiMQ20
そう言いながら、ツンは木版に感光乳液を塗り始めている。
簡単そうに見える作業だが、まっすぐに塗らなきゃいけない、神経使う作業なのだ。喋りながらできるとは思えない。
にも関わらず、ツンの手先は軽やかだ。一応手元を注視してはいるが、覚束ないようには見えない。
さすが周知の器用さは伊達じゃないようだ。あまり話し掛けない方がいいのかとも思ったが、少しくらいなら大丈夫そうだ。
( ^ω^)「おー…ただでさえギャラも出ないのに申し訳ないお…賄いは作るからそれで勘弁してほしいお」
ξ゚⊿゚)ξ「マジで?やった。どうせあたしの収入なんてほとんどエンゲル係数だしね」
手を止めることなく、しかしいつも通りに答える。
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403 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:21:44 ID:qVbHiMQ20
('A`)「ツンさーん!コーヒー置いとくんでよかったら…」
ξ;゚⊿゚)ξそ「ちょ、急に話し掛けないでよ!手元狂うじゃない!」
(;'A`)そ「え!?気利かしたつもりが怒られた!でもすいません!」
(;^ω^)「……」
ドクオの二の舞にならないように…いや、ツンが集中できるように、ブーンは自分の城である厨房の中へ避難した。
.
404 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:23:37 ID:qVbHiMQ20
さすがにTシャツ200枚の印刷は骨が折れる作業だった。
しかし手慣れたツンのペースで作業は順調に進み、ちょっと時間をかければ今日中には終わりそうな見通しである。
ξ゚⊿゚)ξ「…そうそう。ゆっくりね。ドクオ君、案外丁寧なのね」
(;'A`)「いや…また怒らせたら作業が滞ると思って慎重にやってるだけですよ」
ツンの指導でドクオに補佐をさせ、作業の能率が上がってることもスピードアップに繋がっている。
意外と、ドクオの飲み込みが早いのは助かった。
( ^ω^)「お、捗ってるかおー?」
ブーンが厨房から顔を出した。
仕込みをしてたのか、熱気が伝わってくる。
405 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:25:04 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「手空けられるようなら賄い作っちゃうおー」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、じゃああとこれだけ塗っちゃうわー」
ライトボックスに乗せて光を当てたデザイン画を洗い流す作業は終わっていた。
これで光が反応した部分が流されて、切り絵のように浮かび上がるのだ。
その濡れた絵をドライヤーで乾燥させた後、必要な部分を流して絵が歪んだり欠けたりしてないかどうかを入念にチェックし、欠けてる部分があれば修正する。
ドクオも手伝って、今はその修正作業に着手していた。
修正した絵はまた乾燥させて光を当てる工程に移すので、そういうちょっと時間をかけてもいい作業に移れば手が空く。
そういえば、ぼちぼち昼時だ。
ツンは大きく伸びをした。
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406 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:27:17 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばツンさん、なんか嫌いな食べ物とかあるかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「特にないわ。何でも平気」
( ^ω^)「それはよかったお!そこのドクオは好き嫌いが多いから賄いに苦労するんだおw」
('A`)「うっせーな味覚がデリケートなんだよ」
はいはいお、とあからさまに適当な返事をして厨房に戻ると、ドクオはドクオでカウンターに入る。
('A`)「ツンさん、ビールでいいっすか?」
ξ゚⊿゚)ξ「え、大丈夫なの?」
('∀`)「大丈夫大丈夫!ノーギャラで手伝ってもらってるんだからそれぐらいは」
そう言いながら既に、人数分のビールを注ぎ始めている。
407 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:29:36 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「お、昼間からビールなんてやっぱり休日はこうでなくちゃだお!」
そう言いながらブーンがカウンターに置いたのは、オムライスだった。
キノコをたっぷり使ったソースからは、バターやチーズの香りが鼻を擽り、クミンやガラムマサラなどカレーの風味を思わせるスパイス香が空腹感を刺激した。ビールとの相性も良さそうだ。
そんなこってりした料理だったからか、野郎二人の分よりツンの分は気持ち少なめに盛ってくれてるのもプロである所以の気遣いだった。
三人はカウンターに並んで座り、ビールの入ったグラスを合わせて食べ始めた。
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408 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:30:48 ID:qVbHiMQ20
一言で言えば、絶品だった。
どんな料理でも、カレー風味なアレンジは邪道でジャンクになりがちな印象はあったが、やっぱりカレーが嫌いな人は少ない。
もともとが卵と米を使った素朴な料理である。カレーが合わない訳がない。
ξ*゚⊿゚)ξ「すごい!ソース美味しい!」
美味しいものを食べてる時の女の子は、本当に幸せそうな顔をする。
ツンのように、普段気丈で凛とした印象の女性でも顔を綻ばせてしまうほどだ。
.
409 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:32:09 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「よかったお。あくまで余り食材だからそれを使うのも申し訳ないとは思ったんだけど…」
ξ*゚⊿゚)ξ「何言ってんのよ。ただでこんなの食べさせてもらえるなら充分よ!」
オムライス一つで、年甲斐もないほどテンションを上げるツンに、そんな食事にもう慣れているドクオは少々気圧されているようだ。
.
410 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/22(木) 16:33:23 ID:qVbHiMQ20
( ^ω^)「そういえばシルクの方はどうだお?まだかかりそうかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん…でもドクオ君も手伝ってくれてるし今日中にはあがると思うけど」
('A`)「ブーンはどうだ?手空かないのか?」
( ^ω^)「もうちょっとだお!終わったら僕も手伝うお!」
そう言って三人は、Tシャツ完成への道程を急ぐように食事のピッチも上げ始めた。
.
412 : 名も無きAAのようです :2013/08/22(木) 17:34:38 ID:bDiP/Jpo0
乙!
思わずオムライスが食べたくなったよ…
思わずオムライスが食べたくなったよ…
413 : 名も無きAAのようです :2013/08/22(木) 18:28:09 ID:gxDJg0ug0
乙
オムライス食べたい
オムライス食べたい
414 : 名も無きAAのようです :2013/08/22(木) 19:43:44 ID:J6pBsOT.0
追いついた!おもしろい
乙
乙