( ^ω^)ナイトウスーツのようです
- 2014/03/18
- 09:00
- 短編
1 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:15:25 ID:oRlV1SEE0
2 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:17:54 ID:oRlV1SEE0
~前口上~
ねぇ、人と動物の境界線ってどこだかわかる?
おっと、いきなりすぎたかな。
でもさ、これが意外とわからないものだったりするんだよね。
たぶん、君たちも首を捻っているだろうと思う。
ほら、君たちがいつも身に付けているものが答えだよ。そう、衣服だ。
動物から人へと進化した時、私たち人類は一つの区切りとして衣服を纏うようになった。
植物で秘所だけ隠す、つたない衣服の祖先だね。
人と人の繋がりによって社会が形成された時でも、私たちは様々な衣服によって、一目でわかるように位を分けていた。
西洋文化が次々と入ってきた明治維新においても、もちろん衣服文化だって大きな変化を迎えているのさ。
これから私はとある物語を記す。
その物語だって、これらの現象の一例にすぎないだろう。
過去形ではなく仮定形なのは、その物語が君たちにとって過去のものではなく、これから先の未来に起こるであろう物語だからさ。
3 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:19:26 ID:oRlV1SEE0
4 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:21:27 ID:oRlV1SEE0
一 車は路上を走るもの
『車は路上を走るもの』
その概念がついに崩された。
五十年前にはすでにエコブームが始まり、車の歴史が動き始めていた。
CO2削減を掲げ、日本の車メーカーは必死に排気量を減らす努力を続けた。
二酸化炭素を多量に排出する従来の車は次々と街中から姿を消し、代わりに排気ガスの出ない電気自動車が主流となった。
でも、そうなってしまうと、何万台という電気自動車を動かすために大量の電気が必要になるんだよね。これが四十年前の話。
日本列島にたくさんの発電所が立つようになった。
その多くは火力発電だった。ごぉごぉと音を立て、煙を上げ続ける火力発電所は決してCO2削減に協力的であるとは言えなかった。
本末転倒じゃないかと次々に各国からクレームが入るようになった。これが三十年前の話。
日本の技術者たちは協力し合い、車の軽量化に着手した。
次々と部品を小型化、もしくは排他していった。軽ければ軽いほど、動かすために費やすエネルギーは少なくなるんだ。
やがて国内に普及された自動車の八割ほどが単三電池で走り出せるほど軽いものへと変わっていった。これが二十年前の話。
6 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:24:10 ID:oRlV1SEE0
7 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:25:39 ID:oRlV1SEE0
9 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:28:57 ID:oRlV1SEE0
10 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:30:40 ID:oRlV1SEE0
11 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:32:24 ID:oRlV1SEE0
12 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:34:04 ID:oRlV1SEE0
13 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:38:14 ID:oRlV1SEE0
14 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:40:02 ID:oRlV1SEE0
15 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:41:21 ID:oRlV1SEE0
16 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:43:38 ID:oRlV1SEE0
17 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:45:18 ID:oRlV1SEE0
18 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:47:25 ID:oRlV1SEE0
19 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:49:18 ID:oRlV1SEE0
20 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:51:42 ID:oRlV1SEE0
23 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:22:09 ID:oRlV1SEE0
24 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:23:07 ID:oRlV1SEE0
25 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:28:11 ID:oRlV1SEE0
26 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:30:18 ID:oRlV1SEE0
27 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:33:49 ID:oRlV1SEE0
28 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:35:32 ID:oRlV1SEE0
29 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:37:48 ID:oRlV1SEE0
30 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:39:06 ID:oRlV1SEE0
31 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:42:17 ID:oRlV1SEE0
32 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:43:42 ID:oRlV1SEE0
33 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:45:19 ID:oRlV1SEE0
さぁ、ここからが内藤の冒険の始まりさ。
まずは調べること。
何も知らない状態で冒険に出るだなんて、素っ裸でアマゾンを駆け抜けるようなものなのさ。
つまり、知識は身を守る防具にもなるし、無いならばそれだけで致命傷にもなる。
だから内藤は調べたのさ。
これから向かう先のこと。
指輪のこと。
ナイトウスーツのこと。
(;^ω^)
向かう先のこと。
これは内藤にとって驚きの情報が手に入った。
マネキンは、コンパスの指し示す北へと向かい、地球の北端である北極にたどり着いていると考えていたんだけど、
厳密に言えばコンパスの針は北でも北極でもなく、北磁極という地球自体のN極を指し示していたんだ。
マネキンが飛び去る機能を考えた際に、ここまで調べなかった内藤は驚いたね。
だって、彼は北極にマネキンの破片が集まって新たな島となった時に、そこに新たな人間の居住区が生まれるものだと考えていたんだから。
でもね、今現在の北磁極はなんとシベリア。
既に人が住んでいる場所へと、次々に世界中からマネキンを飛ばし続けていたんだ。
もちろん、シベリア付近の住人は怒り狂って日本に大クレームを入れたよ。
だけどね、情報なんてものは上が下へと送らないようにすれば、水滴をさっと拭き去るように消し去ってしまえるものなんだよね。
さらに言ってしまえば、内藤は発明の時以外はぼけっとした蜂蜜の中の住人さ。
世間には滅法疎いんだ。内藤が知らなかったのも仕方ないんじゃないかな。
34 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:46:32 ID:oRlV1SEE0
35 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:48:28 ID:oRlV1SEE0
36 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:51:34 ID:oRlV1SEE0
37 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:54:12 ID:oRlV1SEE0
38 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:55:57 ID:oRlV1SEE0
39 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:57:52 ID:oRlV1SEE0
40 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:59:50 ID:oRlV1SEE0
41 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:03:59 ID:oRlV1SEE0
42 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:05:27 ID:oRlV1SEE0
43 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:07:14 ID:oRlV1SEE0
44 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:09:08 ID:oRlV1SEE0
45 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:10:49 ID:oRlV1SEE0
もちろん興奮状態の内藤が、そんな速度でうまくナイトウスーツを操作できるはずもなかったさ。
(; ω )「……!」
シベリア山脈に生える針葉樹にはぶつかり、そのたびに勢いに任せて根っこごと吹き飛ばす。
ナイトウスーツに守られていない部分は傷だらけ。
だけど内藤は、そんなことお構いなしだった。
考えの浅かった自分のせいで生み出された罪の姿かたちを、すぐにでも近くで確認したかったんだ。
何本もの木を吹き飛ばし、何十メートルも山壁を転げ落ち、
何百匹もの動物を驚かし、数え切れないほどの生傷を作って、ようやく内藤は山を駆け下りた。
(; ω )「ハァ……ハァ……」
山麓に流れていた川は綺麗だったよ。
水温が低いためか、透明度も高くて、裸眼で川底まで見えるんじゃないかってくらい。
でもさ、目を凝らして見ちゃうともう駄目だね。
水面が薄っすらと上空に広がる光景を反射しちゃうんだ。
内藤の顔。
曇っていて灰色の空。
そして、その空の中を我が物顔で飛び交うマネキンの破片に、空へ今にも届きそうな育ち続けるマネキンの塊。
対岸には、マネキンの山に押し迫られて川辺ぎりぎりに建てられたバラックの家。
シベリアはやっぱり寒い。
それなのに、もともと住んでいた家をマネキンによって追い出されて、
ろくに寒さを防げないバラック小屋に住民を追いやってしまった責任を、内藤は確かに感じていたよ。
46 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:13:42 ID:oRlV1SEE0
47 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:15:41 ID:oRlV1SEE0
48 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:17:00 ID:oRlV1SEE0
49 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:18:51 ID:oRlV1SEE0
50 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:20:15 ID:oRlV1SEE0
51 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:22:08 ID:oRlV1SEE0
52 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:24:01 ID:oRlV1SEE0
53 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:25:53 ID:oRlV1SEE0
54 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:28:37 ID:oRlV1SEE0
55 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:29:30 ID:oRlV1SEE0
56 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:30:58 ID:oRlV1SEE0
57 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:33:06 ID:oRlV1SEE0
58 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:36:04 ID:oRlV1SEE0
59 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:37:19 ID:oRlV1SEE0
60 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:39:53 ID:oRlV1SEE0
( ω )
運転している最中も、
/ ,' 3
帰国して父親に迎えに来てもらっている最中にも、
ζ(゚ー゚*ζ
婚約者が必死に新生活について話している最中にも、
( ω )
内藤は考えていたね。
他の事なんか頭に入りやしない。
今の自分にできること。
これからの世界にできること。
でも、まったく考え付かなかった。
今やナイトウスーツは世界中で第一線に立って働いているんだ。
そして、ナイトウスーツが働けば働くほど、被害者の数も増える。
そんな現状を、内藤がたった一人で無かったことにするだなんて、どう考えても無理なんだ。
61 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:41:05 ID:oRlV1SEE0
62 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:43:15 ID:oRlV1SEE0
63 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:45:10 ID:oRlV1SEE0
64 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:46:14 ID:oRlV1SEE0
なかなかできない経験だったよ。
ナイトウスーツを着た旦那に担がれてシベリア山脈を高速で越えていく新婚旅行だなんてね。
もちろん、この物語を送った後に、やっと普通の新婚旅行が待っているんだけどさ。
うん、とても楽しみだよ。
とにかく、内藤の警告改め、内藤夫婦の警告を受け取ってくれた君へ。
人類は確かに衣服と共に成長してきた。
でも、成長の行き着く先は腐敗さ。
育ちきった木は枯れるし、人も死に向かって育っている。いつか来る死は、受け入れるしかないよね。
なのに、私たちは気が付かなかったんだ。
成長には終わりがないと信じ、不可避な死すらも見えていなかった。
そのために、ナイトウスーツという成長をありえない速度で促がしてしまう起爆剤を、嬉々として作ってしまったんだ。
65 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:47:38 ID:oRlV1SEE0
だからこそ、何度でも君に、そして君の時代に伝えるよ。
君から見て十年後。電気自動車が主流になった時。
君から見て二十年後。火力発電所が日本中に蔓延しはじめた時。
君から見て三十年後。ついに車が単三電池で動きはじめた時。
君から見て四十年後。ナガオ・カーボートによって車が海を走りはじめた時。
君から見て五十年後。ナイトウスーツが世界に受け入れられた時。
66 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:48:57 ID:oRlV1SEE0
67 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 20:02:51 ID:/WATA.D60
68 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 20:05:18 ID:vFUFsd.M0
69 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 20:05:28 ID:bmBtNDrU0
70 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 20:15:17 ID:oRlV1SEE0
72 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 21:44:34 ID:koHvn3sc0
73 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 21:50:19 ID:2GfJ1Xyc0
77 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 22:14:13 ID:Dn084ShEO
79 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 23:32:16 ID:oYzWyOQE0
80 :名も無きAAのようです:2013/05/31(金) 02:44:05 ID:Lbhmv2eEO
転載元
( ^ω^)ナイトウスーツのようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369901725/
久々のブーン系。
初の創作板。
股間は膨張。
地の文多めというか、ほぼ地の文です。
初の創作板。
股間は膨張。
地の文多めというか、ほぼ地の文です。
2 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:17:54 ID:oRlV1SEE0
~前口上~
ねぇ、人と動物の境界線ってどこだかわかる?
おっと、いきなりすぎたかな。
でもさ、これが意外とわからないものだったりするんだよね。
たぶん、君たちも首を捻っているだろうと思う。
ほら、君たちがいつも身に付けているものが答えだよ。そう、衣服だ。
動物から人へと進化した時、私たち人類は一つの区切りとして衣服を纏うようになった。
植物で秘所だけ隠す、つたない衣服の祖先だね。
人と人の繋がりによって社会が形成された時でも、私たちは様々な衣服によって、一目でわかるように位を分けていた。
西洋文化が次々と入ってきた明治維新においても、もちろん衣服文化だって大きな変化を迎えているのさ。
これから私はとある物語を記す。
その物語だって、これらの現象の一例にすぎないだろう。
過去形ではなく仮定形なのは、その物語が君たちにとって過去のものではなく、これから先の未来に起こるであろう物語だからさ。
3 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:19:26 ID:oRlV1SEE0
おっと、そんな顔はよせよ。
未来の話を記すとなると、やっぱり皆は私を笑い、罵り、
一通りの感情を発散してから、噴出した鼻水をティッシュでぬぐい、私にぶつけ、そして去っていくんだろうね。
仕方のないことだと思う。
来年の話をしただけで、この世の終わりをも連想させる恐怖をそのまま形容したような存在の鬼が、声を張り上げながら笑い転げるんだもの。
来年ですらこの有様なのに、私が今から記すのは五十年後の話だ。
鬼でもない人間が、笑い、怒り、嘆き悲しむのも、むしろ当然のことなんじゃないかな。
それでもこれから記す物語を読んでくれる物好きには覚えておいてもらいたい。
果てしない時間の中で私たちは必ず衣服と進化を共にしてきた。
もちろん、今現在も、何百、何千年前という気の遠くなるような過去も、遥か何百、何千年先の未来も、
そして、僅か五十年先の世界でさえも、その概念は崩れることのない確かな規律なんだ。
くれぐれも、このことを忘れることなく、五十年後の世界へと目を向けてくれ。
さぁ。まさに近未来の不思議な衣服が引き起こす、ちょっと滑稽な物語。
たった一つ、さっきの約束を守れば、どんな目で見ても良い。どんな思いで読んでも良い。
最後にどんな顔をするのだって自由。全ては君たち読者次第。
前口上はここいらでお終い。未来から過去へと向けた物語。はじまり、はじまり。
未来の話を記すとなると、やっぱり皆は私を笑い、罵り、
一通りの感情を発散してから、噴出した鼻水をティッシュでぬぐい、私にぶつけ、そして去っていくんだろうね。
仕方のないことだと思う。
来年の話をしただけで、この世の終わりをも連想させる恐怖をそのまま形容したような存在の鬼が、声を張り上げながら笑い転げるんだもの。
来年ですらこの有様なのに、私が今から記すのは五十年後の話だ。
鬼でもない人間が、笑い、怒り、嘆き悲しむのも、むしろ当然のことなんじゃないかな。
それでもこれから記す物語を読んでくれる物好きには覚えておいてもらいたい。
果てしない時間の中で私たちは必ず衣服と進化を共にしてきた。
もちろん、今現在も、何百、何千年前という気の遠くなるような過去も、遥か何百、何千年先の未来も、
そして、僅か五十年先の世界でさえも、その概念は崩れることのない確かな規律なんだ。
くれぐれも、このことを忘れることなく、五十年後の世界へと目を向けてくれ。
さぁ。まさに近未来の不思議な衣服が引き起こす、ちょっと滑稽な物語。
たった一つ、さっきの約束を守れば、どんな目で見ても良い。どんな思いで読んでも良い。
最後にどんな顔をするのだって自由。全ては君たち読者次第。
前口上はここいらでお終い。未来から過去へと向けた物語。はじまり、はじまり。
4 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:21:27 ID:oRlV1SEE0
一 車は路上を走るもの
『車は路上を走るもの』
その概念がついに崩された。
五十年前にはすでにエコブームが始まり、車の歴史が動き始めていた。
CO2削減を掲げ、日本の車メーカーは必死に排気量を減らす努力を続けた。
二酸化炭素を多量に排出する従来の車は次々と街中から姿を消し、代わりに排気ガスの出ない電気自動車が主流となった。
でも、そうなってしまうと、何万台という電気自動車を動かすために大量の電気が必要になるんだよね。これが四十年前の話。
日本列島にたくさんの発電所が立つようになった。
その多くは火力発電だった。ごぉごぉと音を立て、煙を上げ続ける火力発電所は決してCO2削減に協力的であるとは言えなかった。
本末転倒じゃないかと次々に各国からクレームが入るようになった。これが三十年前の話。
日本の技術者たちは協力し合い、車の軽量化に着手した。
次々と部品を小型化、もしくは排他していった。軽ければ軽いほど、動かすために費やすエネルギーは少なくなるんだ。
やがて国内に普及された自動車の八割ほどが単三電池で走り出せるほど軽いものへと変わっていった。これが二十年前の話。
6 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:24:10 ID:oRlV1SEE0
そして十年前、ある一人の技術者が革新的な発明をした。
長方形のそれは蒲団より二周りほど広く、成人男性の肩とほぼ同じ高さの鉄板で、周囲はベンチほどの幅で縁取られ、中は少しへこんでいる。
浴槽を上へと高く引き伸ばし、底を厚くすればこのような形になるんじゃないかな。
へこみの中にも、それぞれ四つの隅にさらに鉄板と同じ向きで長方形の窪みができている。
裏には鰭が中心を縦断していて、それを間に挟んだ両端には川の字のように、提灯を白く塗りつぶしたような浮きが縦に複数個並んでいた。
開発者はこれを、彼自身の名をとってこう名付けたんだ。『ナガオ・カーボート』と。
絶望的なネーミングセンスの欠落とは裏腹に、ナガオ・カーボートは急速に世界中へと広がっていった。
使い方は簡単さ。海へと面した道にナガオ・カーボートを置き、車で乗り上げ、四つの窪みにタイヤをはめれば良い。それだけ。
そしてそのままアクセルを踏み込めば、窪みの中にあるローターがタイヤの回転と連動して動き出す。
海上に出ればタイヤの回転がローターを通し、そのままモーターの回転となって、ナガオ・カーボートに内蔵されたスクリューが回り、海を走り出すことになるんだ。
前輪と窪みが共に動き、簡単に舵も取れる。
ブレーキもバックも、タイヤとスクリューが繋がっているために自由自在だ。
つまり、ナガオ・カーボートは自家用車を水陸両用に変えることのできる発明品だったんだ。
従来の車では沈んでしまうこのボートも、自動車の極端な軽量化によって重量に耐えられるようになった。
さらに燃料は電気自動車の単三電池によって動くので、環境の破壊もなければ、燃料の確保もとても簡単だ。
そのうえ、前述したように車と連動しているから、いってしまえば車と同じ感覚で運転することが可能なのさ。
長方形のそれは蒲団より二周りほど広く、成人男性の肩とほぼ同じ高さの鉄板で、周囲はベンチほどの幅で縁取られ、中は少しへこんでいる。
浴槽を上へと高く引き伸ばし、底を厚くすればこのような形になるんじゃないかな。
へこみの中にも、それぞれ四つの隅にさらに鉄板と同じ向きで長方形の窪みができている。
裏には鰭が中心を縦断していて、それを間に挟んだ両端には川の字のように、提灯を白く塗りつぶしたような浮きが縦に複数個並んでいた。
開発者はこれを、彼自身の名をとってこう名付けたんだ。『ナガオ・カーボート』と。
絶望的なネーミングセンスの欠落とは裏腹に、ナガオ・カーボートは急速に世界中へと広がっていった。
使い方は簡単さ。海へと面した道にナガオ・カーボートを置き、車で乗り上げ、四つの窪みにタイヤをはめれば良い。それだけ。
そしてそのままアクセルを踏み込めば、窪みの中にあるローターがタイヤの回転と連動して動き出す。
海上に出ればタイヤの回転がローターを通し、そのままモーターの回転となって、ナガオ・カーボートに内蔵されたスクリューが回り、海を走り出すことになるんだ。
前輪と窪みが共に動き、簡単に舵も取れる。
ブレーキもバックも、タイヤとスクリューが繋がっているために自由自在だ。
つまり、ナガオ・カーボートは自家用車を水陸両用に変えることのできる発明品だったんだ。
従来の車では沈んでしまうこのボートも、自動車の極端な軽量化によって重量に耐えられるようになった。
さらに燃料は電気自動車の単三電池によって動くので、環境の破壊もなければ、燃料の確保もとても簡単だ。
そのうえ、前述したように車と連動しているから、いってしまえば車と同じ感覚で運転することが可能なのさ。
7 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:25:39 ID:oRlV1SEE0
ナガオ・カーボートはとても革新的な発明品だったね。
この発明品が公開された時、世間は驚きの声で満ち溢れていたよ。
もちろん、私だってその世間の一部だったけどね。
だって、想像してみてよ。
今まで車で走ることができた面積は陸地のみだったのが、ナガオ・カーボートの発明によって、格段に範囲が広がった。
車さえあれば、簡単に海を渡れる。
鰭の左右にある浮きがしっかりと計算してバランスをとってくれるから、相当無茶な運転をしない限り、転覆の心配だっていらない。
海の上の交通量だってどんどんと増えていったから、交通事故、というか海難事故などのトラブルを避けるために、信号や交通標識が浮かぶようになった。
これらにも個別にエンジンが詰まれていて、GPSによって決められた位置に、ソーラー電池で動かすモーターによってひたすらに留まり続けている。
つまり、地上の感覚で一般ドライバーが安心して走ることのできるように、海上にも簡易的な道路が作られたんだ。
海の上なんて、普通のドライバーは走ったことないもんね。
それはもう船の領域をナガオ・カーボートはずいずいと侵していったさ。
もちろん、一定数の需要は残ったけれど、船の役割がだいぶ減ったのも事実だ。
交通法だって大きく動いたよ。
『運転中、夜間のライトに向かって集まったイカを勝手に取ってはいけない』とかね。
とにもかくにも、この長岡という男の発明一つで、世界の様々な規律が変えられてしまったんだ。
たった一人の男の、たった一つの発明品でね。
この発明品が公開された時、世間は驚きの声で満ち溢れていたよ。
もちろん、私だってその世間の一部だったけどね。
だって、想像してみてよ。
今まで車で走ることができた面積は陸地のみだったのが、ナガオ・カーボートの発明によって、格段に範囲が広がった。
車さえあれば、簡単に海を渡れる。
鰭の左右にある浮きがしっかりと計算してバランスをとってくれるから、相当無茶な運転をしない限り、転覆の心配だっていらない。
海の上の交通量だってどんどんと増えていったから、交通事故、というか海難事故などのトラブルを避けるために、信号や交通標識が浮かぶようになった。
これらにも個別にエンジンが詰まれていて、GPSによって決められた位置に、ソーラー電池で動かすモーターによってひたすらに留まり続けている。
つまり、地上の感覚で一般ドライバーが安心して走ることのできるように、海上にも簡易的な道路が作られたんだ。
海の上なんて、普通のドライバーは走ったことないもんね。
それはもう船の領域をナガオ・カーボートはずいずいと侵していったさ。
もちろん、一定数の需要は残ったけれど、船の役割がだいぶ減ったのも事実だ。
交通法だって大きく動いたよ。
『運転中、夜間のライトに向かって集まったイカを勝手に取ってはいけない』とかね。
とにもかくにも、この長岡という男の発明一つで、世界の様々な規律が変えられてしまったんだ。
たった一人の男の、たった一つの発明品でね。
9 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:28:57 ID:oRlV1SEE0
このナガオ・カーボートの発明により、発明者の長岡はたくさんの賞を受け、たくさんの富を得て、たくさんの人の憧れとなり、たくさんの著書を出した。
そして、長岡はたくさんの旅客船関係者に恨まれた。
それでもこの長岡という男は、純粋に自分の発明品が世に認められたことを喜び、誇ったね。
講演に呼ばれた時は必ずこんな言葉を残すくらい、もう本当に長岡は舞い上がっていたのさ。
( ゚∀゚)「もうこの世界に、車が走ることのできない場所は空と海の底だけとなりました。
でも、問題ありません。空の底である地面はもとより、海の頂上である海面は私の発明したナガオ・カーボートによって走ることができるのですから」
この挨拶に始まって、数時間延々とナガオ・カーボートの自慢をするだけの講演さ。
私も一度だけ長岡の講演に行ってみたことがあったけど、はっきりいって、つまらない以外の言葉が見つからないほどつまらない。
それでも長岡は、ほぼ毎日のように講演に呼ばれたり、政府のお偉いさんと座談会を開いたり、いろんなところからインタビューを受けたり、大忙しさ。
たった一つの発明品でも、それが世に認められれば、産みの親だって世界中で必要とされる。それこそが、発明品の力なんだよね。
そして、長岡はたくさんの旅客船関係者に恨まれた。
それでもこの長岡という男は、純粋に自分の発明品が世に認められたことを喜び、誇ったね。
講演に呼ばれた時は必ずこんな言葉を残すくらい、もう本当に長岡は舞い上がっていたのさ。
( ゚∀゚)「もうこの世界に、車が走ることのできない場所は空と海の底だけとなりました。
でも、問題ありません。空の底である地面はもとより、海の頂上である海面は私の発明したナガオ・カーボートによって走ることができるのですから」
この挨拶に始まって、数時間延々とナガオ・カーボートの自慢をするだけの講演さ。
私も一度だけ長岡の講演に行ってみたことがあったけど、はっきりいって、つまらない以外の言葉が見つからないほどつまらない。
それでも長岡は、ほぼ毎日のように講演に呼ばれたり、政府のお偉いさんと座談会を開いたり、いろんなところからインタビューを受けたり、大忙しさ。
たった一つの発明品でも、それが世に認められれば、産みの親だって世界中で必要とされる。それこそが、発明品の力なんだよね。
10 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:30:40 ID:oRlV1SEE0
二 素晴らしい医療機器
自然の摂理に逆らわず、うねうねと伸ばしきった髪。
常に重そうな瞼。垂れ下がった眉毛。
ぺちゃんこの鼻。半開きのままの口。
下町のあまり冴えないブティックで、作りだけはしっかりとしている服をずらっと並べ、
蜂蜜の中にいるようにぼけっとしている内藤という男も、長岡の活躍を聞いてそれはそれは焦ったね。
ん? なんで世界的な発明家と冴えないブティックの店員が関係あるのかって?
それには大して深くないわけがあるんだ。
内藤と長岡は同じ大学の同じ学部で、同じ教授から同じように技術を学んでいた。
成績だって似たようなもんさ。
そんな二人は、目標さえも同じだった。
自分の発明で世界を変えてやる、だって。
だけど、卒業してから二人は違ってきてしまったんだなぁ。
長岡は寝る時間すらもひらめきの邪魔だと言わんばかりに、一心不乱に発明に取り掛かったよ。
数え切れないほど、様々な発明をした。
それは絶対に熱を通さないフライパンや、加熱式冷蔵庫とかいうよくわからないものから、今回のナガオ・カーボートみたいな革新的なものまでさ。
対して内藤は、父親に無理やり小さなブティックの跡継ぎにさせられてしまった。
仕方ないよな。
内藤は勉強した後はちゃんと店を継ぐと約束した上で、無理にわがままを聞いてもらって大学に入ったんだから。
自然の摂理に逆らわず、うねうねと伸ばしきった髪。
常に重そうな瞼。垂れ下がった眉毛。
ぺちゃんこの鼻。半開きのままの口。
下町のあまり冴えないブティックで、作りだけはしっかりとしている服をずらっと並べ、
蜂蜜の中にいるようにぼけっとしている内藤という男も、長岡の活躍を聞いてそれはそれは焦ったね。
ん? なんで世界的な発明家と冴えないブティックの店員が関係あるのかって?
それには大して深くないわけがあるんだ。
内藤と長岡は同じ大学の同じ学部で、同じ教授から同じように技術を学んでいた。
成績だって似たようなもんさ。
そんな二人は、目標さえも同じだった。
自分の発明で世界を変えてやる、だって。
だけど、卒業してから二人は違ってきてしまったんだなぁ。
長岡は寝る時間すらもひらめきの邪魔だと言わんばかりに、一心不乱に発明に取り掛かったよ。
数え切れないほど、様々な発明をした。
それは絶対に熱を通さないフライパンや、加熱式冷蔵庫とかいうよくわからないものから、今回のナガオ・カーボートみたいな革新的なものまでさ。
対して内藤は、父親に無理やり小さなブティックの跡継ぎにさせられてしまった。
仕方ないよな。
内藤は勉強した後はちゃんと店を継ぐと約束した上で、無理にわがままを聞いてもらって大学に入ったんだから。
11 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:32:24 ID:oRlV1SEE0
( ^ω^)「すごい発明しちゃったおね。おめでとう」
( ゚∀゚)「まぁな。内藤は何か発明していないのか?」
( ^ω^)「相変わらず服を売ってるよ」
( ゚∀゚)「このまま服を売ってたらいつまでも世界を変えることはできないな。まぁ、がんばれよ」
うん、じゃあねと電話を切り、内藤は唸った。
(;^ω^)「いてててて」
それが長岡に対する劣等感からか、自分の現状に対するストレスからかはわからない。
それでも強い痛みが内藤の胃を襲いだしたんだ。
(;^ω^)「なんか最近体調がよくないお。ちょうど良い機会だし、健康診断でも行こうかお」
健康は大事さ。
なんていったって、内藤にはちゃんと婚約者だっているんだ。
ちょっと強気で、それでもぼやぼやしている内藤をしっかりと引っ張ってくれる、
一目見ればひまわりのような笑顔で、よく見れば飴細工のような繊細さも見え隠れする女の子。
そんな娘との結婚を控えて、万が一のことが起きたら大変だもんね。
( ゚∀゚)「まぁな。内藤は何か発明していないのか?」
( ^ω^)「相変わらず服を売ってるよ」
( ゚∀゚)「このまま服を売ってたらいつまでも世界を変えることはできないな。まぁ、がんばれよ」
うん、じゃあねと電話を切り、内藤は唸った。
(;^ω^)「いてててて」
それが長岡に対する劣等感からか、自分の現状に対するストレスからかはわからない。
それでも強い痛みが内藤の胃を襲いだしたんだ。
(;^ω^)「なんか最近体調がよくないお。ちょうど良い機会だし、健康診断でも行こうかお」
健康は大事さ。
なんていったって、内藤にはちゃんと婚約者だっているんだ。
ちょっと強気で、それでもぼやぼやしている内藤をしっかりと引っ張ってくれる、
一目見ればひまわりのような笑顔で、よく見れば飴細工のような繊細さも見え隠れする女の子。
そんな娘との結婚を控えて、万が一のことが起きたら大変だもんね。
12 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:34:04 ID:oRlV1SEE0
そして内藤は健康診断を受けに病院へ向かった。
今この物語を読んでいる君からすると、四十年後の話だ。
それはもう、病院だってある程度の進化は遂げているのさ。
極限まで患者への負担を減らし、なおかつお爺ちゃんの先生でも簡単に操作できる機器がたくさん開発されたんだ。
レントゲンだって、お医者さんが眼鏡をかければ自然に体が透けるように見えるし、それを映し出す機械だってある。
もちろん、ふしだらな使い方を避けるために透過度は抜群で、どんなに頑張っても服の下をピンポイントで見ることは出来ないから、患者だって安心さ。
だって、お医者さんの目には骨と内臓しか見えないんだもの。
さらに言えば、実際にリアルタイムで体の中を見ることができるのだから、あのまずいバリウムを飲んで、連続でX線を浴びる必要もなくなる。
体から出てくる僅かな蒸気から色々な症状を調べることができるようになったから、血液検査や尿検査もなくなった。
蒸気だって体から出るってことはもちろん、出身地である体の情報を持っているに決まっているのさ。
気体を作りだすとても小さな水分を取って、あっという間に調べ上げちゃうんだから凄いものだよね。
ただ、心電図検査とか脳波の測定とかだけは、調べる器官が器官なだけに入念な検査を続けているらしいんだけど。
だってさ、考えてみてよ。
心臓だよ? 適当に眼鏡かけて体見られただけとか、周りの空気を採取しただけで終わりってなって、安心できる?
もちろん、他の器官だって重要だけどさ、心臓やら脳やらの検査だけは特にあっさり終わってほしくないなって、私は思うんだよね。
どうやら私と同意見の人が世の中の大多数を占めていたらしくて、そんなわけで特に重要な器官の検査だけは、
昔からある手段を用いてしっかりとやっているんだ。
もちろん、昔と比べて遥かに検査に使う機械の性能は良くなっているけどね。
今この物語を読んでいる君からすると、四十年後の話だ。
それはもう、病院だってある程度の進化は遂げているのさ。
極限まで患者への負担を減らし、なおかつお爺ちゃんの先生でも簡単に操作できる機器がたくさん開発されたんだ。
レントゲンだって、お医者さんが眼鏡をかければ自然に体が透けるように見えるし、それを映し出す機械だってある。
もちろん、ふしだらな使い方を避けるために透過度は抜群で、どんなに頑張っても服の下をピンポイントで見ることは出来ないから、患者だって安心さ。
だって、お医者さんの目には骨と内臓しか見えないんだもの。
さらに言えば、実際にリアルタイムで体の中を見ることができるのだから、あのまずいバリウムを飲んで、連続でX線を浴びる必要もなくなる。
体から出てくる僅かな蒸気から色々な症状を調べることができるようになったから、血液検査や尿検査もなくなった。
蒸気だって体から出るってことはもちろん、出身地である体の情報を持っているに決まっているのさ。
気体を作りだすとても小さな水分を取って、あっという間に調べ上げちゃうんだから凄いものだよね。
ただ、心電図検査とか脳波の測定とかだけは、調べる器官が器官なだけに入念な検査を続けているらしいんだけど。
だってさ、考えてみてよ。
心臓だよ? 適当に眼鏡かけて体見られただけとか、周りの空気を採取しただけで終わりってなって、安心できる?
もちろん、他の器官だって重要だけどさ、心臓やら脳やらの検査だけは特にあっさり終わってほしくないなって、私は思うんだよね。
どうやら私と同意見の人が世の中の大多数を占めていたらしくて、そんなわけで特に重要な器官の検査だけは、
昔からある手段を用いてしっかりとやっているんだ。
もちろん、昔と比べて遥かに検査に使う機械の性能は良くなっているけどね。
13 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:38:14 ID:oRlV1SEE0
話を戻そうか。
内藤はあっという間に健康診断を終えた。
結果は至って良好。何一つ問題のない健康体だった。
だけど内藤は病院の機器に興味を持ってしまったみたいなんだ。
(*^ω^)「素晴らしい医療機器を発明すれば世界を変えられるお!」
内藤は町中の図書館や本屋を巡って古書を探し回ったね。
電子書籍化されていない化石のような本にこそ、内藤の求める情報が載っていると、何故か彼は確信していたんだ。
発明家の勘って内藤は私に言ってきたけどね。
そして、その確信は見事に的中した。
(*^ω^)「これだお!」
内藤の手には、四十年前の医学について記された本が握られていた。
そんなものをどうするつもりなんだと内藤に尋ねるも、彼は寝惚けたようにニヒヒと笑うばかりなんだ。
(*^ω^)「四十年前の技術にも見習うところはあったのだお」
とか言っちゃってさ。
そして、内藤は五年かけてこの物語の重要なアイテムである『ナイトウスーツ』を開発したんだ。
あのひまわりのような笑顔を持つ美しい婚約者を五年も待たせてね。
内藤はあっという間に健康診断を終えた。
結果は至って良好。何一つ問題のない健康体だった。
だけど内藤は病院の機器に興味を持ってしまったみたいなんだ。
(*^ω^)「素晴らしい医療機器を発明すれば世界を変えられるお!」
内藤は町中の図書館や本屋を巡って古書を探し回ったね。
電子書籍化されていない化石のような本にこそ、内藤の求める情報が載っていると、何故か彼は確信していたんだ。
発明家の勘って内藤は私に言ってきたけどね。
そして、その確信は見事に的中した。
(*^ω^)「これだお!」
内藤の手には、四十年前の医学について記された本が握られていた。
そんなものをどうするつもりなんだと内藤に尋ねるも、彼は寝惚けたようにニヒヒと笑うばかりなんだ。
(*^ω^)「四十年前の技術にも見習うところはあったのだお」
とか言っちゃってさ。
そして、内藤は五年かけてこの物語の重要なアイテムである『ナイトウスーツ』を開発したんだ。
あのひまわりのような笑顔を持つ美しい婚約者を五年も待たせてね。
14 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:40:02 ID:oRlV1SEE0
三 ナイトウスーツ
ナイトウスーツ。
それはとても画期的な発明だった。
見た目はどこにでもある黒のスーツ。
しかも名前は内藤自身の名前をつかったナイトウスーツ。
これを初めて見た時は私自身も呆れを通り越して大笑いしたなぁ。
こんなもののために五年間も注いだのかって。
でも、内藤の説明を聞いて、このスーツの機能を知って、私は目の前の何の変哲もないこのスーツこそが、世界を変えるスーツだと確信したんだ。
今より五十年も前。
すでにそこそこの発展を見せていた医療機器の中の一つに、軟性鏡というものがあったのを知っているかな。
そうそう、胃カメラとかに使われる、あのくねくねと曲がるファイバースコープね。
五十年前には既にある程度の開発が進んでいて、使用者が操作することによって自由自在に軟性鏡自体を動かすことができていたんだ。
まぁ、レントゲンの技術が発展したおかげで、胃カメラを飲むなんていう原始的な行為はなくなり、
軟性鏡自体も姿を消していったんだけれども、内藤はその軟性鏡に目をつけたのさ。
五十年前の技術だ。
もちろん今では需要がなくなったとはいえ、そこそこの発展はしてる。
今の技術なら、軟性鏡の機能はそのままで、限りなく細く、繊維状に作り上げることだって可能なのさ。
ナイトウスーツ。
それはとても画期的な発明だった。
見た目はどこにでもある黒のスーツ。
しかも名前は内藤自身の名前をつかったナイトウスーツ。
これを初めて見た時は私自身も呆れを通り越して大笑いしたなぁ。
こんなもののために五年間も注いだのかって。
でも、内藤の説明を聞いて、このスーツの機能を知って、私は目の前の何の変哲もないこのスーツこそが、世界を変えるスーツだと確信したんだ。
今より五十年も前。
すでにそこそこの発展を見せていた医療機器の中の一つに、軟性鏡というものがあったのを知っているかな。
そうそう、胃カメラとかに使われる、あのくねくねと曲がるファイバースコープね。
五十年前には既にある程度の開発が進んでいて、使用者が操作することによって自由自在に軟性鏡自体を動かすことができていたんだ。
まぁ、レントゲンの技術が発展したおかげで、胃カメラを飲むなんていう原始的な行為はなくなり、
軟性鏡自体も姿を消していったんだけれども、内藤はその軟性鏡に目をつけたのさ。
五十年前の技術だ。
もちろん今では需要がなくなったとはいえ、そこそこの発展はしてる。
今の技術なら、軟性鏡の機能はそのままで、限りなく細く、繊維状に作り上げることだって可能なのさ。
15 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:41:21 ID:oRlV1SEE0
そんなわけで内藤は、ブティックで鍛えた持ち前の裁縫の腕と、大学で学んだ技術力と、
世界を変えるという情熱と、美しい婚約者の結婚を何年も延期にしているという罪悪感を全て駆使して、
繊維状の軟性鏡によって編み上げられた『ナイトウスーツ』を開発したんだ。
さっき、軟性鏡は五十年前の時点である程度操作することができると書いたね。
もちろん、ナイトウスーツもその機能は残っているし、それこそがナイトウスーツの一番の特徴でもあるんだ。
というか、軟性鏡自体の機能自体はほとんど使わず、その操作できる点だけを使ったわけで、当初の予定であった医療機器とはまったく関係のない発明品なんだよね。
簡単に言えば、ナイトウスーツは操作できるスーツなのさ。
おっと、拍子抜けしたかな?
でも、この後の説明を聞けばナイトウスーツの凄さがわかると思う。
まず、このスーツを着た人は、とんでもない力を手に入れる。
もちろん動きをインプットしたり、昔の(とは言っても、君らの世代の)ゲームのそれみたいなデザインのコントローラーで操作してもらわなければただのスーツなんだけれど、
五十年前の世界に生きる読者にわかりやすく言おうとするならば、介護用ロボットの超凄い版。
世界を変えるという情熱と、美しい婚約者の結婚を何年も延期にしているという罪悪感を全て駆使して、
繊維状の軟性鏡によって編み上げられた『ナイトウスーツ』を開発したんだ。
さっき、軟性鏡は五十年前の時点である程度操作することができると書いたね。
もちろん、ナイトウスーツもその機能は残っているし、それこそがナイトウスーツの一番の特徴でもあるんだ。
というか、軟性鏡自体の機能自体はほとんど使わず、その操作できる点だけを使ったわけで、当初の予定であった医療機器とはまったく関係のない発明品なんだよね。
簡単に言えば、ナイトウスーツは操作できるスーツなのさ。
おっと、拍子抜けしたかな?
でも、この後の説明を聞けばナイトウスーツの凄さがわかると思う。
まず、このスーツを着た人は、とんでもない力を手に入れる。
もちろん動きをインプットしたり、昔の(とは言っても、君らの世代の)ゲームのそれみたいなデザインのコントローラーで操作してもらわなければただのスーツなんだけれど、
五十年前の世界に生きる読者にわかりやすく言おうとするならば、介護用ロボットの超凄い版。
16 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:43:38 ID:oRlV1SEE0
これでもわからない人のためにさらに説明すると、介護士に非力な女性が多かった頃、
人の力をサポートするための目的で作られたのが介護用ロボットってやつ。
人の動きに合わせて機械が働くことで、その力を何倍にもしてあげたロボットさ。
でもそれはどうしても使用者を包み込むために大きくなってしまうし、持ち運びには向かなかったから、
どんどんと日常の使用ではなく介護方面に特化してしまった。
ナイトウスーツはそれを日常使用に特化したものだと思ってくれれば良い。
スーツ型だから持ち運びも何も着るだけで良いし、色々な仕事に応用が可能だった。
さらには五十年前とは比べ物にならないほど技術が進歩したために、
機械がサポートする力も何倍にも大きくなったし、
とても頑丈なために、着ているだけで防災の役割を果たすことだってできた。
いくつか例を挙げよう。
建築ではナイトウスーツにある程度の動作をインプットさせ、細かい動きは現場監督が簡単な操作で動かすことによって、
作業がものすごい速度で進んであっという間に家が建ったし、
救命では崩れ落ちる瓦礫や、荒立つ波もまったく気にすることなく人を助けることができるようになった。
ナイトウスーツの発明により、内藤は見事に世界を変えるほどの発明家となった。
言ってしまえば人間を力持ちのロボットに変えてしまう発明をしたようなもんだからね。
人の力をサポートするための目的で作られたのが介護用ロボットってやつ。
人の動きに合わせて機械が働くことで、その力を何倍にもしてあげたロボットさ。
でもそれはどうしても使用者を包み込むために大きくなってしまうし、持ち運びには向かなかったから、
どんどんと日常の使用ではなく介護方面に特化してしまった。
ナイトウスーツはそれを日常使用に特化したものだと思ってくれれば良い。
スーツ型だから持ち運びも何も着るだけで良いし、色々な仕事に応用が可能だった。
さらには五十年前とは比べ物にならないほど技術が進歩したために、
機械がサポートする力も何倍にも大きくなったし、
とても頑丈なために、着ているだけで防災の役割を果たすことだってできた。
いくつか例を挙げよう。
建築ではナイトウスーツにある程度の動作をインプットさせ、細かい動きは現場監督が簡単な操作で動かすことによって、
作業がものすごい速度で進んであっという間に家が建ったし、
救命では崩れ落ちる瓦礫や、荒立つ波もまったく気にすることなく人を助けることができるようになった。
ナイトウスーツの発明により、内藤は見事に世界を変えるほどの発明家となった。
言ってしまえば人間を力持ちのロボットに変えてしまう発明をしたようなもんだからね。
17 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:45:18 ID:oRlV1SEE0
え? これがロボットだなんて、想像していたのと違うって?
たぶん君たちが想像しているようなロボットは今から数えてさらに五十、いや、百年ぐらいしないと出てこないんじゃないかな。
そりゃあ、私だってどこにでも行けるドアとか、時間を移動できる機械とか、人を乗せた巨大なロボが戦うとか。
憧れていないわけではないけれど、まずは車が空を飛ぶことから始めないとさ。
ナガオ・カーボートのおかげで、もう陸と海は走ることができるんだし。
ただ、そんなナイトウスーツにだって欠点はあったんだ。
それは、強力すぎたこと。どんな便利な物だって使うのはいつも人間だからね。
モラル的な面でも、安全面でも問題は出てしまったのさ。
例えば、一番に浮き彫りになった問題はナイトウスーツを利用した犯罪の多発。
それはそうさ。なんていったってどんな一般人でも簡単にものすごい力を手に入れられる時代なんだからね。
もちろんそんな時は警察官もナイトウスーツを着用して対応するんだけど、これが凄いんだ。
スーパーマン対スーパーマン。
片方がアスファルトを剥がして投げつければ、もう片方が手近な街路樹をぶっこ抜いて打ち返す。
犯罪者が捕まる頃には、辺り一帯が大災害にあったかのような荒れ模様さ。
次に安全面の問題。
もちろん人の手で動かすのだからどんな物にも絶対はない。
だからこそ、なんだって最大限の努力をして失敗に対する保険をかけたり、予防をしたりするんだけれど、ナイトウスーツは失敗のリスクが大きすぎたんだ。
ナイトウスーツは、操作ミス一つで命取りになる性質を持っていた。
もちろん、インプットできる程度の簡単な動きならば、よっぽどのことがない限り誰が使っても安全な物なんだけれど、
操作しないとできないような細かい動きの場合は、ある程度の覚悟は必要になってくるのさ。
だって、強力な力を持つ機械に包まれている状態なんだよ?
例えば、ちょっとした操作ミスで首を半回転させてしまうようなことだって、ナイトウスーツにかかれば簡単なことなんだ。
実際に、そのような死亡事故もいくらかは起きたし。
たぶん君たちが想像しているようなロボットは今から数えてさらに五十、いや、百年ぐらいしないと出てこないんじゃないかな。
そりゃあ、私だってどこにでも行けるドアとか、時間を移動できる機械とか、人を乗せた巨大なロボが戦うとか。
憧れていないわけではないけれど、まずは車が空を飛ぶことから始めないとさ。
ナガオ・カーボートのおかげで、もう陸と海は走ることができるんだし。
ただ、そんなナイトウスーツにだって欠点はあったんだ。
それは、強力すぎたこと。どんな便利な物だって使うのはいつも人間だからね。
モラル的な面でも、安全面でも問題は出てしまったのさ。
例えば、一番に浮き彫りになった問題はナイトウスーツを利用した犯罪の多発。
それはそうさ。なんていったってどんな一般人でも簡単にものすごい力を手に入れられる時代なんだからね。
もちろんそんな時は警察官もナイトウスーツを着用して対応するんだけど、これが凄いんだ。
スーパーマン対スーパーマン。
片方がアスファルトを剥がして投げつければ、もう片方が手近な街路樹をぶっこ抜いて打ち返す。
犯罪者が捕まる頃には、辺り一帯が大災害にあったかのような荒れ模様さ。
次に安全面の問題。
もちろん人の手で動かすのだからどんな物にも絶対はない。
だからこそ、なんだって最大限の努力をして失敗に対する保険をかけたり、予防をしたりするんだけれど、ナイトウスーツは失敗のリスクが大きすぎたんだ。
ナイトウスーツは、操作ミス一つで命取りになる性質を持っていた。
もちろん、インプットできる程度の簡単な動きならば、よっぽどのことがない限り誰が使っても安全な物なんだけれど、
操作しないとできないような細かい動きの場合は、ある程度の覚悟は必要になってくるのさ。
だって、強力な力を持つ機械に包まれている状態なんだよ?
例えば、ちょっとした操作ミスで首を半回転させてしまうようなことだって、ナイトウスーツにかかれば簡単なことなんだ。
実際に、そのような死亡事故もいくらかは起きたし。
18 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:47:25 ID:oRlV1SEE0
(;^ω^)「おー……」
さすがにこういったことからナイトウスーツの着用に疑問が持たれはじめた。
もちろん、内藤だって自分の発明品、いわば自分の子供が犯罪の手伝いをしたり、人を殺してしまったりして、落ち込まないはずがない。
それはもう、内藤は頑張ったさ。
( ゚ω゚)「おぉー!」
そしてさらに二年の月日を経て、内藤はナイトウスーツ専用のマネキンを作り上げた。
操作ミスに対応し、人間よりも何倍も柔らかな関節を持ち、
間違えて人にぶつかっても大丈夫なように全体をどんな環境にも耐え、衝撃を吸収する素材で覆ったマネキンさ。
このマネキンの発明に合わせて、全世界でマネキン以外によるナイトウスーツの着用が法的に禁止された。
力仕事とかはなんだって、ナイトウスーツを着用したマネキンがやってくれるからね。
もちろん、すぐに全世界でのナイトウスーツを利用した犯罪がなくなるわけではなかった。
だけど大丈夫。内藤は警察にだけは特別なマネキンを寄付したんだ。
全身を覆う柔らかな素材を全て取り去り、とても硬い素材で代わりにコーティングされたマネキンをね。
さすがにナイトウスーツを着用した犯人も、マネキンには勝てなかった。
いくらナイトウスーツの力があったって、自分の命を捨てたくない人間と、壊れてもかまわないマネキンじゃ、マネキンのほうが何十倍も激しい動き方ができたんだから。
こうして、ナイトウスーツによる問題はなくなったかのように見えた。
さすがにこういったことからナイトウスーツの着用に疑問が持たれはじめた。
もちろん、内藤だって自分の発明品、いわば自分の子供が犯罪の手伝いをしたり、人を殺してしまったりして、落ち込まないはずがない。
それはもう、内藤は頑張ったさ。
( ゚ω゚)「おぉー!」
そしてさらに二年の月日を経て、内藤はナイトウスーツ専用のマネキンを作り上げた。
操作ミスに対応し、人間よりも何倍も柔らかな関節を持ち、
間違えて人にぶつかっても大丈夫なように全体をどんな環境にも耐え、衝撃を吸収する素材で覆ったマネキンさ。
このマネキンの発明に合わせて、全世界でマネキン以外によるナイトウスーツの着用が法的に禁止された。
力仕事とかはなんだって、ナイトウスーツを着用したマネキンがやってくれるからね。
もちろん、すぐに全世界でのナイトウスーツを利用した犯罪がなくなるわけではなかった。
だけど大丈夫。内藤は警察にだけは特別なマネキンを寄付したんだ。
全身を覆う柔らかな素材を全て取り去り、とても硬い素材で代わりにコーティングされたマネキンをね。
さすがにナイトウスーツを着用した犯人も、マネキンには勝てなかった。
いくらナイトウスーツの力があったって、自分の命を捨てたくない人間と、壊れてもかまわないマネキンじゃ、マネキンのほうが何十倍も激しい動き方ができたんだから。
こうして、ナイトウスーツによる問題はなくなったかのように見えた。
19 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:49:18 ID:oRlV1SEE0
だけど、そう簡単にうまくいくものではないんだよね。
次に出てきた問題はゴミの問題。
やっぱり、いくらナイトウスーツに対応したマネキンだって無茶な動かし方をしたら壊れてしまう。
ましてや、まだまだ発展途上の技術さ。
意外と脆い面もあったりして、力の加え方によってはすぐに崩れてしまって、瞬く間に町はマネキンの破片で埋もれてしまったんだ。
これが普通のマネキンだったら集めて燃やしてはい終わり、で済んだんだろうけど、これは内藤の開発したマネキンだ。
どんな環境下でも働けるように特別な素材でコーティングされているために、燃やしてもなかなか燃えないし、潰してもなかなか細かくならない。
これの対策に、内藤はまた三年をかけた。
どんなに考えても対策が見つからなかった内藤は、苦肉の策でゴミを飛ばすことにしたのさ。
ヒントはコンパスだった。どこに置いても北を指すあの磁石。
それを内藤は参考にしたのさ。
(*^ω^)「そうだお! どうせなら誰もいないところに飛ばしちゃえば良いんだお!」ってね。
内藤はマネキンの中に特殊な磁石を練りこんだ。
北極の磁力に引かれて、誰もいない北極にマネキンの破片を飛ばしてしまえばいいんだと考えたんだ。
ついでにマネキンのゴミが集まって小さな島になれば、人の住む領域も増えて一石二鳥だなんてね。
表面の素材には、磁力をカットするように改良を加えた。
こうして、北極まで飛ばしてしまうような強力な磁力も壊れるまではまったく機能しないし、
壊れてからも、全体を柔らかな素材で覆っているので、万が一、人にぶつかっても問題のないように作りあげたんだ。
さらに地球の磁力に反発して、空高く舞い上がるようにしたために、地上の交通を乱すこともない。
そんな都合の良い流れがあるかって?
あるんだよ。君らの想像も及ばないような都合の良い磁石が五十年後にはね。
次に出てきた問題はゴミの問題。
やっぱり、いくらナイトウスーツに対応したマネキンだって無茶な動かし方をしたら壊れてしまう。
ましてや、まだまだ発展途上の技術さ。
意外と脆い面もあったりして、力の加え方によってはすぐに崩れてしまって、瞬く間に町はマネキンの破片で埋もれてしまったんだ。
これが普通のマネキンだったら集めて燃やしてはい終わり、で済んだんだろうけど、これは内藤の開発したマネキンだ。
どんな環境下でも働けるように特別な素材でコーティングされているために、燃やしてもなかなか燃えないし、潰してもなかなか細かくならない。
これの対策に、内藤はまた三年をかけた。
どんなに考えても対策が見つからなかった内藤は、苦肉の策でゴミを飛ばすことにしたのさ。
ヒントはコンパスだった。どこに置いても北を指すあの磁石。
それを内藤は参考にしたのさ。
(*^ω^)「そうだお! どうせなら誰もいないところに飛ばしちゃえば良いんだお!」ってね。
内藤はマネキンの中に特殊な磁石を練りこんだ。
北極の磁力に引かれて、誰もいない北極にマネキンの破片を飛ばしてしまえばいいんだと考えたんだ。
ついでにマネキンのゴミが集まって小さな島になれば、人の住む領域も増えて一石二鳥だなんてね。
表面の素材には、磁力をカットするように改良を加えた。
こうして、北極まで飛ばしてしまうような強力な磁力も壊れるまではまったく機能しないし、
壊れてからも、全体を柔らかな素材で覆っているので、万が一、人にぶつかっても問題のないように作りあげたんだ。
さらに地球の磁力に反発して、空高く舞い上がるようにしたために、地上の交通を乱すこともない。
そんな都合の良い流れがあるかって?
あるんだよ。君らの想像も及ばないような都合の良い磁石が五十年後にはね。
20 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 17:51:42 ID:oRlV1SEE0
そんなこんなで、非常に都合良く作られたマネキンが完成し、
ナイトウスーツがやっと全世界で認められて広く流通するようになったのさ。
(*^ω^)「おっおっお」
発明家の内藤も鼻高々。
そんな彼の元に一本の電話が着たんだ。
( ゚∀゚)「おい、ついにやったな。お前が俺に追いつくのに十年も待ったぞ」
( ^ω^)「なんだ長岡かお。うん、ありがとう。嬉しいお」
( ゚∀゚)「お前の特製マネキンのおかげで航空関係のやつらがカンカンだぜ。そこまで俺に追いつきやがって」
(;^ω^)「……え?」
ナイトウスーツの登場により、飛行機の運行はマネキンが飛び交うために危険度が増し、どんどんと便数が減っていったんだ。
世界が飛行機よりもナイトウスーツの方が必要だと認めたんだろうね。
こうしてこのナイトウスーツの発明により、発明者の内藤はたくさんの賞を受け、
たくさんの富を得て、たくさんの人の憧れとなり、たくさんの著書を出した。
そして、内藤はたくさんの航空関係者に恨まれたんだ。
ナイトウスーツがやっと全世界で認められて広く流通するようになったのさ。
(*^ω^)「おっおっお」
発明家の内藤も鼻高々。
そんな彼の元に一本の電話が着たんだ。
( ゚∀゚)「おい、ついにやったな。お前が俺に追いつくのに十年も待ったぞ」
( ^ω^)「なんだ長岡かお。うん、ありがとう。嬉しいお」
( ゚∀゚)「お前の特製マネキンのおかげで航空関係のやつらがカンカンだぜ。そこまで俺に追いつきやがって」
(;^ω^)「……え?」
ナイトウスーツの登場により、飛行機の運行はマネキンが飛び交うために危険度が増し、どんどんと便数が減っていったんだ。
世界が飛行機よりもナイトウスーツの方が必要だと認めたんだろうね。
こうしてこのナイトウスーツの発明により、発明者の内藤はたくさんの賞を受け、
たくさんの富を得て、たくさんの人の憧れとなり、たくさんの著書を出した。
そして、内藤はたくさんの航空関係者に恨まれたんだ。
23 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:22:09 ID:oRlV1SEE0
四 レバガチャ
内藤は著名な発明家となり、たくさんのお金も手に入った。
内藤自身もそれで満足はしていたし、そろそろ父親の思いも知らんぷりできなくなってきたんだ。
一度は継いだブティックも、ナイトウスーツ発明のために父親に返上してからもう十年。
父親だって立派なお爺さんだし、ひまわりのような婚約者だって十年待たせれば完全な行き遅れさ。
さすがに世界を変えた発明家の内藤でも、周囲の状況を放置し続けることなんてしなかったね。
( ^ω^)「お金も入ったし、そろそろ店を継いで、嫁をもらって、身を固めようかお」
それを聞いた内藤の父親と婚約者は泣いて喜んだね。
むしろ二人で抱き合ったね。
それを見て内藤がちょっとだけ拗ねていたのがまた面白くて、二人は大きな声で笑いあったね。
くたびれたお爺さんとひまわりのような行き遅れの笑顔を見て、拗ねていた内藤もだんだん楽しくなってきた。
そしてその日は一晩中、笑い声がブティックから響いていたんだ。
(*^ω^)
内藤は幸せだった。
内藤の父親も、婚約者も幸せだった。
皆が皆、幸せだった。
幸せだから、笑いが止まらないんだ。はっはっは、はっはっは、ってね。
内藤は著名な発明家となり、たくさんのお金も手に入った。
内藤自身もそれで満足はしていたし、そろそろ父親の思いも知らんぷりできなくなってきたんだ。
一度は継いだブティックも、ナイトウスーツ発明のために父親に返上してからもう十年。
父親だって立派なお爺さんだし、ひまわりのような婚約者だって十年待たせれば完全な行き遅れさ。
さすがに世界を変えた発明家の内藤でも、周囲の状況を放置し続けることなんてしなかったね。
( ^ω^)「お金も入ったし、そろそろ店を継いで、嫁をもらって、身を固めようかお」
それを聞いた内藤の父親と婚約者は泣いて喜んだね。
むしろ二人で抱き合ったね。
それを見て内藤がちょっとだけ拗ねていたのがまた面白くて、二人は大きな声で笑いあったね。
くたびれたお爺さんとひまわりのような行き遅れの笑顔を見て、拗ねていた内藤もだんだん楽しくなってきた。
そしてその日は一晩中、笑い声がブティックから響いていたんだ。
(*^ω^)
内藤は幸せだった。
内藤の父親も、婚約者も幸せだった。
皆が皆、幸せだった。
幸せだから、笑いが止まらないんだ。はっはっは、はっはっは、ってね。
24 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:23:07 ID:oRlV1SEE0
そんなわけで、内藤はさんざん待たせてしまった婚約者に改めて結婚を申し込もうと考えた。
ナイトウスーツの開発によって得た多大な財力に物を言わせ、小さいけれど確かな仕事をするという、
町の片隅の宝石店に最高の結婚指輪を用意してもらうことにしたんだ。
世界に一つだけの最高の結婚指輪さ。
どのくらい最高かというと、値段はこれを読んでくれている君らの生涯収入のだいたい二倍。
太陽をそのまま凝縮したかのような美しいオレンジの輝きを放ち、
宇宙のように、眺めていると吸い込まれてしまいそうな怪しさも秘めていて、それはそれは大層な指輪を用意させたものさ。
もちろん結婚指輪なんだから、内藤の分だってある。
こちらは太陽とは対照的の月をイメージした神秘的な指輪。
透き通るような銀色のそれは、まるで本物の月のように見るたびに受ける印象が変わるのさ。
ある時は優しく、ある時は冷たく。
それでいて、太陽をモチーフとした指輪と並べるとよく似合っていたんだ。
そして、隣り合わせの指輪はまるで、自ら光を放っているかのようにとても輝いて見えたものだよ。
ナイトウスーツの開発によって得た多大な財力に物を言わせ、小さいけれど確かな仕事をするという、
町の片隅の宝石店に最高の結婚指輪を用意してもらうことにしたんだ。
世界に一つだけの最高の結婚指輪さ。
どのくらい最高かというと、値段はこれを読んでくれている君らの生涯収入のだいたい二倍。
太陽をそのまま凝縮したかのような美しいオレンジの輝きを放ち、
宇宙のように、眺めていると吸い込まれてしまいそうな怪しさも秘めていて、それはそれは大層な指輪を用意させたものさ。
もちろん結婚指輪なんだから、内藤の分だってある。
こちらは太陽とは対照的の月をイメージした神秘的な指輪。
透き通るような銀色のそれは、まるで本物の月のように見るたびに受ける印象が変わるのさ。
ある時は優しく、ある時は冷たく。
それでいて、太陽をモチーフとした指輪と並べるとよく似合っていたんだ。
そして、隣り合わせの指輪はまるで、自ら光を放っているかのようにとても輝いて見えたものだよ。
25 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:28:11 ID:oRlV1SEE0
さて、月日は流れてついに二人の結婚式の日がやってきた。
夫婦共にたくさんの友人を招待し、最高のホテルを貸し切って、最高の料理を用意して、最高の結婚式を開いたんだ。
そして、その最高な結婚式の中でも、さらにずば抜けて最高な指輪を贈る時間がやってきた。
( ^ω^)「今までさんざん待たせてごめんお」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、今、凄い幸せだから」
婚約者はとても幸せそうに微笑んでいたね。
二人が軽く言葉を交わすと、式場にけたたましいほどの音量で音楽が流れ始めた。
いきなりの爆音に新郎新婦は目をぱちくり。そこに響く司会者の声。
( ><)「本日は世界的発明家の内藤氏と、その奥方の結婚披露宴にお越しくださり、誠にありがとうございますなんです! お二人とも、ご結婚おめでとうございますなんです!
ここで、当ホテルより世界的発明家の内藤様に敬意を表して特別な趣が用意されてあるんです! どうぞご覧ください!」
驚く内藤を傍目に、結婚式の司会者はにやにやとほくそ笑み、ナイトウスーツのコントローラーを取り出した。
かちかち、と司会者が操作を始めると、式場の奥の扉から内藤の発明したマネキンが現れたんだ。
月をモチーフとした指輪を嵌めた、ナイトウスーツの上にタキシードを纏ったマネキンがね。
しかも、驚いたことにマネキンには化粧が施してあって、内藤自身の顔と瓜二つだったよ。
それはゆっくりと内藤のもとへと歩み寄り、目の前で片膝をついて、指輪を嵌めた手を差し出した。
純白の指に、冷ややかな光を秘めた指輪がとてもよく似合ったものさ。
発明以外に無頓着な内藤もこれには度肝を抜かれたね。
夫婦共にたくさんの友人を招待し、最高のホテルを貸し切って、最高の料理を用意して、最高の結婚式を開いたんだ。
そして、その最高な結婚式の中でも、さらにずば抜けて最高な指輪を贈る時間がやってきた。
( ^ω^)「今までさんざん待たせてごめんお」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、今、凄い幸せだから」
婚約者はとても幸せそうに微笑んでいたね。
二人が軽く言葉を交わすと、式場にけたたましいほどの音量で音楽が流れ始めた。
いきなりの爆音に新郎新婦は目をぱちくり。そこに響く司会者の声。
( ><)「本日は世界的発明家の内藤氏と、その奥方の結婚披露宴にお越しくださり、誠にありがとうございますなんです! お二人とも、ご結婚おめでとうございますなんです!
ここで、当ホテルより世界的発明家の内藤様に敬意を表して特別な趣が用意されてあるんです! どうぞご覧ください!」
驚く内藤を傍目に、結婚式の司会者はにやにやとほくそ笑み、ナイトウスーツのコントローラーを取り出した。
かちかち、と司会者が操作を始めると、式場の奥の扉から内藤の発明したマネキンが現れたんだ。
月をモチーフとした指輪を嵌めた、ナイトウスーツの上にタキシードを纏ったマネキンがね。
しかも、驚いたことにマネキンには化粧が施してあって、内藤自身の顔と瓜二つだったよ。
それはゆっくりと内藤のもとへと歩み寄り、目の前で片膝をついて、指輪を嵌めた手を差し出した。
純白の指に、冷ややかな光を秘めた指輪がとてもよく似合ったものさ。
発明以外に無頓着な内藤もこれには度肝を抜かれたね。
26 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:30:18 ID:oRlV1SEE0
(*^ω^)「うわあ、これは凄いお!」
(*><)「喜んでいただき、なによりなんです!」
内藤は満面の笑み。
司会者もにやにや。
内藤は最高のシチュエーションを用意してもらえて嬉しいし、司会者もホテルなりの最高の演出が気に入ってもらえて嬉しかったんだね。
二人ともその場で小躍りさ。
たったら、たったら。ステップなんか踏んだりして。
( ><)「どうぞ、お受け取りください」
(*^ω^)「おぉ、ありがとうございますお」
内藤は喜んで、そのマネキンから自分の指輪を受け取った。
冷たくて、それでも暖かい。
不思議な優しさを感じる指輪が、内藤の手に握られたんだ。
そして司会者がまた別のコントローラーを操作し、今度はナイトウスーツの上に純白のドレスを纏ったマネキンが現れた。
こちらも内藤のマネキンと同じように、いや、それ以上に気合いの入ったマネキンだったよ。
なんせ内藤の目には婚約者よりも、婚約者をかたどったマネキンの方が綺麗に映ったんだから。
その無機質な指にはやっぱりこちらも内藤の頼んだ指輪が輝いていたんだ。
真っ白な血の通ってない指に、太陽を閉じ込めたような情熱的な輝きという組み合わせが、
まるで上品な陶磁の上に飾られた最高の料理のようにも見えて、内藤も内藤の婚約者も、二人揃って思わずうっとり。
(*><)「喜んでいただき、なによりなんです!」
内藤は満面の笑み。
司会者もにやにや。
内藤は最高のシチュエーションを用意してもらえて嬉しいし、司会者もホテルなりの最高の演出が気に入ってもらえて嬉しかったんだね。
二人ともその場で小躍りさ。
たったら、たったら。ステップなんか踏んだりして。
( ><)「どうぞ、お受け取りください」
(*^ω^)「おぉ、ありがとうございますお」
内藤は喜んで、そのマネキンから自分の指輪を受け取った。
冷たくて、それでも暖かい。
不思議な優しさを感じる指輪が、内藤の手に握られたんだ。
そして司会者がまた別のコントローラーを操作し、今度はナイトウスーツの上に純白のドレスを纏ったマネキンが現れた。
こちらも内藤のマネキンと同じように、いや、それ以上に気合いの入ったマネキンだったよ。
なんせ内藤の目には婚約者よりも、婚約者をかたどったマネキンの方が綺麗に映ったんだから。
その無機質な指にはやっぱりこちらも内藤の頼んだ指輪が輝いていたんだ。
真っ白な血の通ってない指に、太陽を閉じ込めたような情熱的な輝きという組み合わせが、
まるで上品な陶磁の上に飾られた最高の料理のようにも見えて、内藤も内藤の婚約者も、二人揃って思わずうっとり。
27 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:33:49 ID:oRlV1SEE0
( ><)「それでは奥様の指輪も是非お受け取りください」
ζ(^ー^*ζ「ありがとう」
司会者がコントローラーを操作する。
男性側のマネキンを下げて、女性側のマネキンを新婦へと向かわせたんだ。
でもね、いくらナイトウスーツの操作が簡単だからって、二つ同時に操作するのは難しいに決まっているじゃないか。
しかも司会者はこの演出をするためだけに最近ナイトウスーツを手に入れて操作の練習を始めたばかりの、いわば若葉マークなんだ。
さらに言ってしまえば、二体は反対の動きをしている。
片方は司会者のもとへと戻り、もう片方は新婦のもとへと歩いていて、
その上テーブルだのたくさんの友人だのがごった返していてそこまで広くない通路なんだ。
(;><)「あっ」
(;^ω^)ζ(゚ー゚;ζ「「えっ」」
少しの操作ミスでマネキン同士がぶつかる環境で、さすがに初心者が二体同時に操作するのは難しかったんじゃないかな。
ウェディングドレスを纏ったマネキンが、自らの裾を踏んづけて転び、
まるでドミノ倒しのように戻ってきたタキシードのマネキンを巻き込んで、たくさんの料理が並ぶテーブルへと倒れこんだ。
肉やら魚やら野菜やらが宙に舞い上がって、ワインの滴がきらきらと輝く様はとても美しかったし、
正装をしたマネキン同士が絡み合って倒れていたのも、内藤からして見れば滑稽で面白かったんだけれども、
司会者はそうでもなかったみたい。
それはまぁ、仕方ないよね。
お客の前での大失態。しかも開発者の目の前でナイトウスーツを使った失敗をしてしまった。
さらには高価な料理が飛び散り大慌て。
驚きとか焦りとか後悔とか絶望とか、そこらへんの感情を大雑把な分量でごちゃ混ぜにしたような、
とんでもない顔色と、とんでもない表情をしていたよ。
(;><)「あばばばばばばばばばばば」
ζ(^ー^*ζ「ありがとう」
司会者がコントローラーを操作する。
男性側のマネキンを下げて、女性側のマネキンを新婦へと向かわせたんだ。
でもね、いくらナイトウスーツの操作が簡単だからって、二つ同時に操作するのは難しいに決まっているじゃないか。
しかも司会者はこの演出をするためだけに最近ナイトウスーツを手に入れて操作の練習を始めたばかりの、いわば若葉マークなんだ。
さらに言ってしまえば、二体は反対の動きをしている。
片方は司会者のもとへと戻り、もう片方は新婦のもとへと歩いていて、
その上テーブルだのたくさんの友人だのがごった返していてそこまで広くない通路なんだ。
(;><)「あっ」
(;^ω^)ζ(゚ー゚;ζ「「えっ」」
少しの操作ミスでマネキン同士がぶつかる環境で、さすがに初心者が二体同時に操作するのは難しかったんじゃないかな。
ウェディングドレスを纏ったマネキンが、自らの裾を踏んづけて転び、
まるでドミノ倒しのように戻ってきたタキシードのマネキンを巻き込んで、たくさんの料理が並ぶテーブルへと倒れこんだ。
肉やら魚やら野菜やらが宙に舞い上がって、ワインの滴がきらきらと輝く様はとても美しかったし、
正装をしたマネキン同士が絡み合って倒れていたのも、内藤からして見れば滑稽で面白かったんだけれども、
司会者はそうでもなかったみたい。
それはまぁ、仕方ないよね。
お客の前での大失態。しかも開発者の目の前でナイトウスーツを使った失敗をしてしまった。
さらには高価な料理が飛び散り大慌て。
驚きとか焦りとか後悔とか絶望とか、そこらへんの感情を大雑把な分量でごちゃ混ぜにしたような、
とんでもない顔色と、とんでもない表情をしていたよ。
(;><)「あばばばばばばばばばばば」
28 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:35:32 ID:oRlV1SEE0
いきなりで悪いんだけれども、ちょっと話を変えよう。
ちょっとした休憩さ。
いや、大丈夫。ちゃんと本編に関係のある話なんだから。
さて、君らの時代はまだコントローラーでゲームをやっていた頃だと思う。
あの様々なボタンやらスティックやらがついたあれね。
え? 今のゲームはどうなっているんだって?
それは決まっているだろ。
自分自身がゲームの登場人物になるんだ。
格闘ゲームなんかはプレイヤーの体格、筋肉の質や密度、さらには性格まで正確に測って瓜二つの分身を作り上げて戦わせるし、
RPGやアクションゲームなんかはプレイヤー自身を特製の機械で覆い、ホログラムの世界で冒険を疑似体験するような時代さ。
だから、今の子供たちの運動能力や、動体視力なんかは君らの世代より何倍も優れているんだよね。
おっと、話がずれたね。君らの時代の、コントローラーの話。
ゲームをはじめて間もない子供を想像してみてよ。
ジャンルは格闘ゲーム。
相手の隙を突き、様々なコマンドを駆使して必殺技を当てたいんだけれども、初心者だからコマンドはもちろん、基本的な動き方も完全には把握していない。
そんな時、初心者はどうする?
そう、レバガチャだ。
ありったけの速さで十字キーだのボタンだのを、一心不乱にがちゃがちゃと押すことで、
運に身を任せながらも、時にはベテランプレイヤーも驚きのスーパープレイが飛び出すことだってある。
だから、初心者にとってレバガチャは、まさに溺れる者はなんとやら、ってやつなんだ。
ちょっとした休憩さ。
いや、大丈夫。ちゃんと本編に関係のある話なんだから。
さて、君らの時代はまだコントローラーでゲームをやっていた頃だと思う。
あの様々なボタンやらスティックやらがついたあれね。
え? 今のゲームはどうなっているんだって?
それは決まっているだろ。
自分自身がゲームの登場人物になるんだ。
格闘ゲームなんかはプレイヤーの体格、筋肉の質や密度、さらには性格まで正確に測って瓜二つの分身を作り上げて戦わせるし、
RPGやアクションゲームなんかはプレイヤー自身を特製の機械で覆い、ホログラムの世界で冒険を疑似体験するような時代さ。
だから、今の子供たちの運動能力や、動体視力なんかは君らの世代より何倍も優れているんだよね。
おっと、話がずれたね。君らの時代の、コントローラーの話。
ゲームをはじめて間もない子供を想像してみてよ。
ジャンルは格闘ゲーム。
相手の隙を突き、様々なコマンドを駆使して必殺技を当てたいんだけれども、初心者だからコマンドはもちろん、基本的な動き方も完全には把握していない。
そんな時、初心者はどうする?
そう、レバガチャだ。
ありったけの速さで十字キーだのボタンだのを、一心不乱にがちゃがちゃと押すことで、
運に身を任せながらも、時にはベテランプレイヤーも驚きのスーパープレイが飛び出すことだってある。
だから、初心者にとってレバガチャは、まさに溺れる者はなんとやら、ってやつなんだ。
29 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:37:48 ID:oRlV1SEE0
(;><)「あばばばばばばばばばばば」
だけど、これが許されるのはゲームの話。
式場で司会者がナイトウスーツのコントローラーをレバガチャしたらどうなると思う?
まさに新郎新婦って風貌のマネキン二体が、腕を?拙み、足を振り回し、
ワイングラスを手裏剣のように放ち合い、時にはサンバだのタンゴだのルンバだのを踊っちゃったりなんかして。
そして二体が光の散らばる星空のようなステージで一通り踊り終えた後に、ボン、と二つ音を立てて仲良く崩れ落ちたのさ。
さすがのマネキンも、やっぱりナイトウスーツの無茶な動きにはついてこれなかったね。
さて、問題はここからさ。
マネキンはゴミ問題の解決のために、壊れたら高く飛び上がってそのまま北へと一直線に飛んでいってしまうんだ。
もちろん、どのマネキンにも例外はない。
壊れたら、北。引き止める暇もなく、寄り道することもなく、北。
例えそれがどんな高級な指輪を身につけて、どんな綺麗に着飾った特別なマネキンだったとしてもね。
(;^ω^)「あぁ……」
内藤の情けない声など置いて、二体のバラバラになったマネキンは礼儀良く式場の扉から出て、
宙へと舞い上がり、そして眼にも止まらぬ速さで北へと飛んでいったのさ。
そう、最高の指輪と一緒にね。
だけど、これが許されるのはゲームの話。
式場で司会者がナイトウスーツのコントローラーをレバガチャしたらどうなると思う?
まさに新郎新婦って風貌のマネキン二体が、腕を?拙み、足を振り回し、
ワイングラスを手裏剣のように放ち合い、時にはサンバだのタンゴだのルンバだのを踊っちゃったりなんかして。
そして二体が光の散らばる星空のようなステージで一通り踊り終えた後に、ボン、と二つ音を立てて仲良く崩れ落ちたのさ。
さすがのマネキンも、やっぱりナイトウスーツの無茶な動きにはついてこれなかったね。
さて、問題はここからさ。
マネキンはゴミ問題の解決のために、壊れたら高く飛び上がってそのまま北へと一直線に飛んでいってしまうんだ。
もちろん、どのマネキンにも例外はない。
壊れたら、北。引き止める暇もなく、寄り道することもなく、北。
例えそれがどんな高級な指輪を身につけて、どんな綺麗に着飾った特別なマネキンだったとしてもね。
(;^ω^)「あぁ……」
内藤の情けない声など置いて、二体のバラバラになったマネキンは礼儀良く式場の扉から出て、
宙へと舞い上がり、そして眼にも止まらぬ速さで北へと飛んでいったのさ。
そう、最高の指輪と一緒にね。
30 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:39:06 ID:oRlV1SEE0
(;><)「あばばばばばばばばばばば」
さて、内藤はもちろんのこと、式場の司会者もそれはもう焦ったね。
だって、眼も飛び出すような巨額のお金を出して内藤が用意した最高の指輪が、自分のミスで文字通り吹っ飛んでしまったんだから。
もちろん弁償するお金も用意できるはずはないし、あの指輪は世界で一つだけの特別な指輪さ。
代わりの品すらもない。
もう、どうすることもできない。
それでもなんとかしなければならない。
司会者は考えたよ。どうしたものか。
さて、君たちはこの哀れな司会者がどうしたと思う?
混乱した司会者は、誰もが予想のつかないとんでもない言葉を、呆然としている内藤夫婦や、新郎新婦の友人たちに放ったのさ。
(;><)「さ、さぁ次の催しは、世界的発明家の内藤氏による、指輪を巡る冒険なんです!」
(;゚ω゚)「え……?」
内藤も声を失ったね。
だって、最高のシチュエーションで指輪を受け取ったかと思えば、一転、いきなり自分の開発したマネキンと一緒に空の旅さ。
さらには司会者に全てを丸投げされて、さぁ、内藤はどうしたと思う?
(;゚ω゚)「あ、はい」
怒るでも嘆くでもなく、驚きで低下した思考力のもと、ありのままを受け入れちゃったんだ。
婚約者なんかあまりのショックで気を失っちゃったりして。
あーあ、これで内藤の新婚生活は先送りだね。
さて、内藤はもちろんのこと、式場の司会者もそれはもう焦ったね。
だって、眼も飛び出すような巨額のお金を出して内藤が用意した最高の指輪が、自分のミスで文字通り吹っ飛んでしまったんだから。
もちろん弁償するお金も用意できるはずはないし、あの指輪は世界で一つだけの特別な指輪さ。
代わりの品すらもない。
もう、どうすることもできない。
それでもなんとかしなければならない。
司会者は考えたよ。どうしたものか。
さて、君たちはこの哀れな司会者がどうしたと思う?
混乱した司会者は、誰もが予想のつかないとんでもない言葉を、呆然としている内藤夫婦や、新郎新婦の友人たちに放ったのさ。
(;><)「さ、さぁ次の催しは、世界的発明家の内藤氏による、指輪を巡る冒険なんです!」
(;゚ω゚)「え……?」
内藤も声を失ったね。
だって、最高のシチュエーションで指輪を受け取ったかと思えば、一転、いきなり自分の開発したマネキンと一緒に空の旅さ。
さらには司会者に全てを丸投げされて、さぁ、内藤はどうしたと思う?
(;゚ω゚)「あ、はい」
怒るでも嘆くでもなく、驚きで低下した思考力のもと、ありのままを受け入れちゃったんだ。
婚約者なんかあまりのショックで気を失っちゃったりして。
あーあ、これで内藤の新婚生活は先送りだね。
31 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:42:17 ID:oRlV1SEE0
五 さぁ、出航だ
内藤がのこのこと帰宅してから気を取り戻した婚約者ときたら、それはそれは凄かったね。
ひまわりだって燃え盛る太陽になることだってあるんだ。
怒りの炎ってやつ。
ζ( ‐ #ζ
(;^ω^)
婚約者の顔の恐ろしさが脳裏に焼きついて、しばらく内藤はまともに眠れなかったらしいよ。
まぁ、怒るのも仕方ないさ。
結婚を十年も待ちぼうけくらって、やっと時期が来たかと思えば幸福の象徴である結婚指輪がはるか北へと飛ばされてしまったんだもの。
しかも、ちゃっかり内藤の分だけは持って帰ってきてね。
片割れをなくした指輪は、どこか色あせたかのように輝きを失っていたよ。
もしかしたら、君たちの中には内藤だって被害者なのに、
これじゃあまりにも内藤がかわいそうなんじゃないかなんて思っている人もいるかもしれないね。
だけどさ、十年だよ。十年。
婚約した頃に生まれた子供が、今ではすっかり分数の計算だってこなせちゃうほどの時間が流れているんだ。
それだけ待たされた結果がこれじゃ、納得いくはずもないよね。
そして、婚約者は内藤に言ったんだ。
ζ( ‐ #ζ「指輪がなかったら私たちの結婚は失敗になる!」
なんてね。
内藤がのこのこと帰宅してから気を取り戻した婚約者ときたら、それはそれは凄かったね。
ひまわりだって燃え盛る太陽になることだってあるんだ。
怒りの炎ってやつ。
ζ( ‐ #ζ
(;^ω^)
婚約者の顔の恐ろしさが脳裏に焼きついて、しばらく内藤はまともに眠れなかったらしいよ。
まぁ、怒るのも仕方ないさ。
結婚を十年も待ちぼうけくらって、やっと時期が来たかと思えば幸福の象徴である結婚指輪がはるか北へと飛ばされてしまったんだもの。
しかも、ちゃっかり内藤の分だけは持って帰ってきてね。
片割れをなくした指輪は、どこか色あせたかのように輝きを失っていたよ。
もしかしたら、君たちの中には内藤だって被害者なのに、
これじゃあまりにも内藤がかわいそうなんじゃないかなんて思っている人もいるかもしれないね。
だけどさ、十年だよ。十年。
婚約した頃に生まれた子供が、今ではすっかり分数の計算だってこなせちゃうほどの時間が流れているんだ。
それだけ待たされた結果がこれじゃ、納得いくはずもないよね。
そして、婚約者は内藤に言ったんだ。
ζ( ‐ #ζ「指輪がなかったら私たちの結婚は失敗になる!」
なんてね。
32 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:43:42 ID:oRlV1SEE0
(;^ω^)「おー……」
さて、この言葉に内藤は焦った。
さすがに十年も待たせた引け目だって内藤にはあるし、
その分、絶対に婚約者を幸せにしてみせようと息巻いていたんだから。
だからこそ、あんな高価な指輪だって用意できたんだしね。
そんな矢先にこんな発言。
内藤はもう、婚約者のために何が何でも北極まで指輪を取りに行く決意を固めるしかなかったんだ。
あ、結婚式の司会者に何が何でも責任を取らせれば良いと考えた人もいると思う。
だけど、それは残念ながら無理なんだ。
司会者は内藤が呆然と式場を出て行ったその日のうちに、急いでたくさんの退職金と共に町を出て行ったんだから。
正気に戻った内藤が司会者を問い詰めたとしても、とてもじゃないけど責任を取れるはずもないしね。
だけど、司会者だって悪意があって指輪を飛ばしたわけじゃないからね。
あまり責めないであげて欲しい。
操作ミス以外の仕事は完璧だったわけだし、マネキンを使ったのだって完全なる善意からの行動なんだから。
まぁ、私としては大きな罪悪感を背負いながら、どこか小さな町で、
小さな幸せを後ろめたさを感じながら少しずつ拾いあげていけば良いと思うよ。
完全な幸せだけは個人的に与えたくはないね。
本当、個人的な考えなんだけど。
さて、この言葉に内藤は焦った。
さすがに十年も待たせた引け目だって内藤にはあるし、
その分、絶対に婚約者を幸せにしてみせようと息巻いていたんだから。
だからこそ、あんな高価な指輪だって用意できたんだしね。
そんな矢先にこんな発言。
内藤はもう、婚約者のために何が何でも北極まで指輪を取りに行く決意を固めるしかなかったんだ。
あ、結婚式の司会者に何が何でも責任を取らせれば良いと考えた人もいると思う。
だけど、それは残念ながら無理なんだ。
司会者は内藤が呆然と式場を出て行ったその日のうちに、急いでたくさんの退職金と共に町を出て行ったんだから。
正気に戻った内藤が司会者を問い詰めたとしても、とてもじゃないけど責任を取れるはずもないしね。
だけど、司会者だって悪意があって指輪を飛ばしたわけじゃないからね。
あまり責めないであげて欲しい。
操作ミス以外の仕事は完璧だったわけだし、マネキンを使ったのだって完全なる善意からの行動なんだから。
まぁ、私としては大きな罪悪感を背負いながら、どこか小さな町で、
小さな幸せを後ろめたさを感じながら少しずつ拾いあげていけば良いと思うよ。
完全な幸せだけは個人的に与えたくはないね。
本当、個人的な考えなんだけど。
33 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:45:19 ID:oRlV1SEE0
さぁ、ここからが内藤の冒険の始まりさ。
まずは調べること。
何も知らない状態で冒険に出るだなんて、素っ裸でアマゾンを駆け抜けるようなものなのさ。
つまり、知識は身を守る防具にもなるし、無いならばそれだけで致命傷にもなる。
だから内藤は調べたのさ。
これから向かう先のこと。
指輪のこと。
ナイトウスーツのこと。
(;^ω^)
向かう先のこと。
これは内藤にとって驚きの情報が手に入った。
マネキンは、コンパスの指し示す北へと向かい、地球の北端である北極にたどり着いていると考えていたんだけど、
厳密に言えばコンパスの針は北でも北極でもなく、北磁極という地球自体のN極を指し示していたんだ。
マネキンが飛び去る機能を考えた際に、ここまで調べなかった内藤は驚いたね。
だって、彼は北極にマネキンの破片が集まって新たな島となった時に、そこに新たな人間の居住区が生まれるものだと考えていたんだから。
でもね、今現在の北磁極はなんとシベリア。
既に人が住んでいる場所へと、次々に世界中からマネキンを飛ばし続けていたんだ。
もちろん、シベリア付近の住人は怒り狂って日本に大クレームを入れたよ。
だけどね、情報なんてものは上が下へと送らないようにすれば、水滴をさっと拭き去るように消し去ってしまえるものなんだよね。
さらに言ってしまえば、内藤は発明の時以外はぼけっとした蜂蜜の中の住人さ。
世間には滅法疎いんだ。内藤が知らなかったのも仕方ないんじゃないかな。
34 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:46:32 ID:oRlV1SEE0
あ、誤解を招かないように言っておくと、これを読んでいる君らの時代は北磁極は限りなく北極に近いから、
コンパスだって限りなく北極に近い場所を指しているんだ。
そう、北磁極はじわじわと移動し続けることも、調べた結果わかったよ。
じわじわと長い年月をかけて移動し続けるマネキンの破片たち。
しかも、それは世界中でナイトウスーツが使われれば使われるほど大きくなっていく。
まさかこんな大きな問題が残っているなんてと、内藤は頭を抱えたね。
(;^ω^)
そして次に指輪のこと。
といっても、これはたいした情報が見つからなかった。
やたらと似たような宝石が過去の文献に載っているということくらい。
それも伝説といっていいほど不可思議な現象についてね。
それ以外はてんでわからなかったさ。
最後にナイトウスーツ。
これは内藤が開発者だから、ほとんどの機能は知っているし、誰よりもうまく使いこなせる自信はあった。
だから何を今更調べるんだって君たちは思っただろ?
正しく言えば、ナイトウスーツ自体を調べたんじゃなくて、うまくナイトウスーツを使うための下調べをしたんだ。
ナイトウスーツ管理局なんてのが日本政府にできちゃったからね。
そこの局長の好みなんかを調べたりして。
コンパスだって限りなく北極に近い場所を指しているんだ。
そう、北磁極はじわじわと移動し続けることも、調べた結果わかったよ。
じわじわと長い年月をかけて移動し続けるマネキンの破片たち。
しかも、それは世界中でナイトウスーツが使われれば使われるほど大きくなっていく。
まさかこんな大きな問題が残っているなんてと、内藤は頭を抱えたね。
(;^ω^)
そして次に指輪のこと。
といっても、これはたいした情報が見つからなかった。
やたらと似たような宝石が過去の文献に載っているということくらい。
それも伝説といっていいほど不可思議な現象についてね。
それ以外はてんでわからなかったさ。
最後にナイトウスーツ。
これは内藤が開発者だから、ほとんどの機能は知っているし、誰よりもうまく使いこなせる自信はあった。
だから何を今更調べるんだって君たちは思っただろ?
正しく言えば、ナイトウスーツ自体を調べたんじゃなくて、うまくナイトウスーツを使うための下調べをしたんだ。
ナイトウスーツ管理局なんてのが日本政府にできちゃったからね。
そこの局長の好みなんかを調べたりして。
35 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:48:28 ID:oRlV1SEE0
さて、これで内藤の冒険の準備はだいたい整ったんだけれども、他にも色々とね。
例えば。
(;^ω^)「ごめん、いきなりで悪いんだけど、ナガオ・カーボート貸してくれお!」
(;゚∀゚)「本当にいきなりだな」
( ゚∀゚)b「まぁ、世界的発明家の俺が世界的発明家のお前に貸し渋りするはずもないけど」
長岡から借りたナガオ・カーボート。
だって遠くの地、シベリアまで行くんだからね。
飛行機に乗っていけば良い?
ナイトウスーツのせいで航空関係者から恨まれている内藤が、そんなものに乗せてもらえるわけないじゃないか。
なら船がある?
それも残念ながらナガオ・カーボートのせいで絶滅危惧種なのさ。
次に日本から船が出るのは、なんと五年後。
映画タイタニックの公開から七十年経った記念に船を出すんだと。
さすがにそこまでは待っていられないよね。
そして、ナイトウスーツ管理局局長から極上のエクレアと引き換えに発行してもらったナイトウスーツ人体使用許可証と、
自分が着るためのナイトウスーツさ。
これから長い旅に出るんだ。
絶対の強度を持ったナイトウスーツと、開発者なりにナイトウスーツの操作に絶対の自信を持った内藤だよ?
そりゃ、もちろんマネキンに着せるよりも自分自身で着た方が、旅をするには安全だよね。
例えば。
(;^ω^)「ごめん、いきなりで悪いんだけど、ナガオ・カーボート貸してくれお!」
(;゚∀゚)「本当にいきなりだな」
( ゚∀゚)b「まぁ、世界的発明家の俺が世界的発明家のお前に貸し渋りするはずもないけど」
長岡から借りたナガオ・カーボート。
だって遠くの地、シベリアまで行くんだからね。
飛行機に乗っていけば良い?
ナイトウスーツのせいで航空関係者から恨まれている内藤が、そんなものに乗せてもらえるわけないじゃないか。
なら船がある?
それも残念ながらナガオ・カーボートのせいで絶滅危惧種なのさ。
次に日本から船が出るのは、なんと五年後。
映画タイタニックの公開から七十年経った記念に船を出すんだと。
さすがにそこまでは待っていられないよね。
そして、ナイトウスーツ管理局局長から極上のエクレアと引き換えに発行してもらったナイトウスーツ人体使用許可証と、
自分が着るためのナイトウスーツさ。
これから長い旅に出るんだ。
絶対の強度を持ったナイトウスーツと、開発者なりにナイトウスーツの操作に絶対の自信を持った内藤だよ?
そりゃ、もちろんマネキンに着せるよりも自分自身で着た方が、旅をするには安全だよね。
36 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:51:34 ID:oRlV1SEE0
さぁ、準備万端。
ついに内藤が旅立つ日が来た。
皮肉にもその旅立ちの日はもともと新婚旅行に行く予定だった日さ。
(;^ω^)
ζ(゚‐゚#ζ
/ ,' 3
申し訳なさそうな内藤と、不服そうな婚約者。
そして心配そうな内藤の父が見送りに来ていた。
内藤は、精一杯のお詫びのつもりか一人だけ指輪をつけていたよ。
それが逆に婚約者の感情を逆撫でしてしまったんだけど、詳しくはまた別の機会に。
三人を迎えた港は、まるで駄々をこねるように荒くれていたね。
波打ち際ではナガオ・カーボートと、その上に旅のためにわざわざこしらえた内藤の新車が乗っていた。
内藤はこれに乗って、オホーツク海を縦断してシベリアへと向かうんだ。
( ^ω^)「じゃあ、行ってくるお」
ζ(゚‐゚#ζ「本当は楽しい一般的な新婚旅行だったはずだったのにな」
(;^ω^)「それは本当にすまんかった」
頬を膨らます婚約者に、内藤はたじたじ。
それを見た内藤の父が、やっぱり内藤の親らしいのんびりとした口調で宥めたんだ。
/ ,' 3「まぁまぁ。これはこれでなかなか出来ない経験なんだし、な」
ついに内藤が旅立つ日が来た。
皮肉にもその旅立ちの日はもともと新婚旅行に行く予定だった日さ。
(;^ω^)
ζ(゚‐゚#ζ
/ ,' 3
申し訳なさそうな内藤と、不服そうな婚約者。
そして心配そうな内藤の父が見送りに来ていた。
内藤は、精一杯のお詫びのつもりか一人だけ指輪をつけていたよ。
それが逆に婚約者の感情を逆撫でしてしまったんだけど、詳しくはまた別の機会に。
三人を迎えた港は、まるで駄々をこねるように荒くれていたね。
波打ち際ではナガオ・カーボートと、その上に旅のためにわざわざこしらえた内藤の新車が乗っていた。
内藤はこれに乗って、オホーツク海を縦断してシベリアへと向かうんだ。
( ^ω^)「じゃあ、行ってくるお」
ζ(゚‐゚#ζ「本当は楽しい一般的な新婚旅行だったはずだったのにな」
(;^ω^)「それは本当にすまんかった」
頬を膨らます婚約者に、内藤はたじたじ。
それを見た内藤の父が、やっぱり内藤の親らしいのんびりとした口調で宥めたんだ。
/ ,' 3「まぁまぁ。これはこれでなかなか出来ない経験なんだし、な」
37 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:54:12 ID:oRlV1SEE0
さすがに舅の前で、これ以上責めることもできないのか、婚約者も一つため息をついて、内藤に向きなおした。
ζ(゚ー゚;ζ「まったく、絶対に帰ってきたら埋め合わせしてもらうからね」
(;^ω^)「うん、わかったお。それじゃ行くとしようかお」
車に乗り込んだ内藤は、ゆっくりと深呼吸をして、それからアクセルを踏み込んだ。
単三電池の力によって動き出したエンジンは、最大限に軽量化されたタイヤを思いっきり回しながら、
それでも静かな駆動音を立て始める。
タイヤにつられてナガオ・カーボートの四隅の窪みにあるローターも一緒に回る。
( ^ω^)「さぁ、出航だお!」
ナガオ・カーボートのスクリューがだんだんと激しく回りだす。
やがてその風圧で、単三電池で動くほどに軽量化された車と、それを乗せたナガオ・カーボートが少しずつ海へと近づいていくんだ。
そう、出航の時さ。
海鳥は気の抜けた声を出し、波は暴れながらも内藤を迎えてくれている。
港の埃から波の飛沫へ、ナガオ・カーボートのスクリューが吐き出すものを変えた。
車窓から見える光景も、少しだけ普段より低く感じたね。
やっぱりナガオ・カーボートの操作感自体は車と案外変わらなかったようで、
余裕のできた内藤は早くも流行の歌なんかを口ずさんじゃったりして。
目指すは遥か北の地、シベリア。
目的は最高の指輪。
婚約者の憤りに後押しされて、内藤は進みだす。
港から離れるにつれて、だんだんと内藤の父の姿が小さくなっていく。
それでも、父はいつまでも手を振り続けていたんだ。
ζ(゚ー゚;ζ「まったく、絶対に帰ってきたら埋め合わせしてもらうからね」
(;^ω^)「うん、わかったお。それじゃ行くとしようかお」
車に乗り込んだ内藤は、ゆっくりと深呼吸をして、それからアクセルを踏み込んだ。
単三電池の力によって動き出したエンジンは、最大限に軽量化されたタイヤを思いっきり回しながら、
それでも静かな駆動音を立て始める。
タイヤにつられてナガオ・カーボートの四隅の窪みにあるローターも一緒に回る。
( ^ω^)「さぁ、出航だお!」
ナガオ・カーボートのスクリューがだんだんと激しく回りだす。
やがてその風圧で、単三電池で動くほどに軽量化された車と、それを乗せたナガオ・カーボートが少しずつ海へと近づいていくんだ。
そう、出航の時さ。
海鳥は気の抜けた声を出し、波は暴れながらも内藤を迎えてくれている。
港の埃から波の飛沫へ、ナガオ・カーボートのスクリューが吐き出すものを変えた。
車窓から見える光景も、少しだけ普段より低く感じたね。
やっぱりナガオ・カーボートの操作感自体は車と案外変わらなかったようで、
余裕のできた内藤は早くも流行の歌なんかを口ずさんじゃったりして。
目指すは遥か北の地、シベリア。
目的は最高の指輪。
婚約者の憤りに後押しされて、内藤は進みだす。
港から離れるにつれて、だんだんと内藤の父の姿が小さくなっていく。
それでも、父はいつまでも手を振り続けていたんだ。
38 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:55:57 ID:oRlV1SEE0
六 手紙を届ける夢
フロントガラスに襲い掛かる水飛沫を、鼻歌交じりにワイパーを動かして跳ね除ける。
すでに港を出てから数時間が経っていた。
太陽はだいぶ前に、遥か彼方に見える水平線のそのまた向こうへと行ってしまったし、
海面だって、そこらに走る車のたくさんの前照灯が、波の動きに合わせて乱反射して、まるで星が満点の夜空のようだったよ。
上にも下にも星空。
宇宙にいるようにも錯覚しかねないその光景を見て、内藤はただただ、旅の目的も忘れてため息をつくばかりさ。
(*^ω^)「綺麗だおぉ……」
ライトの光に寄せ集められた魚たちが、何台も海に浮かぶナガオ・カーボートの周りを、
それぞれ数匹ずつぐるぐると遊泳していて、まるで遊園地の乗り物みたいだったね。
この時になって、やっと内藤はこう思ったんだ。
こんな夢みたいな美しい時間を作り出す乗り物を発明するなんて、やっぱり長岡はすごい発明家だった、ってね。
初日はここで車内泊さ。
海の上はものすごく広い。
これはわざわざ書かなくたってわかるよね。
だから、路上駐車も地上よりは認められていて、その場で車を停めていても、さほど咎められない。
この場合は海上駐車って言うのかな。
まぁ、それはともかく。
内藤もしっかりとエンジンを切って、サイドブレーキをかけて、そして寝る準備をしたのさ。
サイドブレーキは大事だよ。
陸地でサイドブレーキをかけ忘れたら、せいぜい坂を下っていってしまう程度。
でもここは大海原さ。
ナガオ・カーボートは車のサイドブレーキと連動して、自動で現在地に留まり続けるように操作されるんだけど、それがなければあっという間に漂流確定だもの。
まぁ今のカーナビには基本的に海上ナビなんて機能もついているんだけど、それでも怖いもんは怖いもんね。
フロントガラスに襲い掛かる水飛沫を、鼻歌交じりにワイパーを動かして跳ね除ける。
すでに港を出てから数時間が経っていた。
太陽はだいぶ前に、遥か彼方に見える水平線のそのまた向こうへと行ってしまったし、
海面だって、そこらに走る車のたくさんの前照灯が、波の動きに合わせて乱反射して、まるで星が満点の夜空のようだったよ。
上にも下にも星空。
宇宙にいるようにも錯覚しかねないその光景を見て、内藤はただただ、旅の目的も忘れてため息をつくばかりさ。
(*^ω^)「綺麗だおぉ……」
ライトの光に寄せ集められた魚たちが、何台も海に浮かぶナガオ・カーボートの周りを、
それぞれ数匹ずつぐるぐると遊泳していて、まるで遊園地の乗り物みたいだったね。
この時になって、やっと内藤はこう思ったんだ。
こんな夢みたいな美しい時間を作り出す乗り物を発明するなんて、やっぱり長岡はすごい発明家だった、ってね。
初日はここで車内泊さ。
海の上はものすごく広い。
これはわざわざ書かなくたってわかるよね。
だから、路上駐車も地上よりは認められていて、その場で車を停めていても、さほど咎められない。
この場合は海上駐車って言うのかな。
まぁ、それはともかく。
内藤もしっかりとエンジンを切って、サイドブレーキをかけて、そして寝る準備をしたのさ。
サイドブレーキは大事だよ。
陸地でサイドブレーキをかけ忘れたら、せいぜい坂を下っていってしまう程度。
でもここは大海原さ。
ナガオ・カーボートは車のサイドブレーキと連動して、自動で現在地に留まり続けるように操作されるんだけど、それがなければあっという間に漂流確定だもの。
まぁ今のカーナビには基本的に海上ナビなんて機能もついているんだけど、それでも怖いもんは怖いもんね。
39 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:57:52 ID:oRlV1SEE0
( ‐ω‐)zzz
そして、内藤は夢を見たらしい。
内容は時間の波を揺られながら手紙を届ける夢。
たぶん海の波に揺られたからこんな夢を見たんだろうけれど、これだけ聞くとまったく意味がわからないよね。
私だってよくわからなかった。
だけど、内藤にとってはなんだかとてつもない悪夢だったらしくて、それはもうひどくうなされていたんだ。
( ぅω‐)「……ふにゃ?」
ウミネコの鳴き声と、波によって拡散されてぼやけた朝日。
ずっと続く波の音と潮の匂いに、内藤は眠りの世界から現実へと引き戻された。
さぁ、冒険二日目の始まりさ。
一日目でだいたい、五十年前で言う樺太の近くまでは来られた。
ん? 五十年前で言うってことは、今は違うのかって?
そうさ。日本は樺太を取り戻せなかったんだ。今では立派にサハリンって名前でロシア領をやっているよ。
さて、サハリン付近まできたらあとはもう一息さ。
内藤は、単三電池で動くエンジンを始動させた。
オホーツク海の海面に潮の轍を残しながら、内藤は今日も指輪へと向かうんだ。
そして、内藤は夢を見たらしい。
内容は時間の波を揺られながら手紙を届ける夢。
たぶん海の波に揺られたからこんな夢を見たんだろうけれど、これだけ聞くとまったく意味がわからないよね。
私だってよくわからなかった。
だけど、内藤にとってはなんだかとてつもない悪夢だったらしくて、それはもうひどくうなされていたんだ。
( ぅω‐)「……ふにゃ?」
ウミネコの鳴き声と、波によって拡散されてぼやけた朝日。
ずっと続く波の音と潮の匂いに、内藤は眠りの世界から現実へと引き戻された。
さぁ、冒険二日目の始まりさ。
一日目でだいたい、五十年前で言う樺太の近くまでは来られた。
ん? 五十年前で言うってことは、今は違うのかって?
そうさ。日本は樺太を取り戻せなかったんだ。今では立派にサハリンって名前でロシア領をやっているよ。
さて、サハリン付近まできたらあとはもう一息さ。
内藤は、単三電池で動くエンジンを始動させた。
オホーツク海の海面に潮の轍を残しながら、内藤は今日も指輪へと向かうんだ。
40 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 18:59:50 ID:oRlV1SEE0
そうそう、この海の上で、内藤がどのように食料を得ているか気になる人もいると思うんだけど、そこは心配いらないよ。
ここでナイトウスーツが活躍するのさ。
内藤はナイトウスーツに、出発前に生きるのに役立つある程度の動きをインプットしておいた。
例えば、海水から飲料水を作り出す方法とか、魚類のさばき方とか、ね。
だから、今朝だって運転しながらナガオ・カーボートに設置された釣竿から糸を垂らして、魚がかかるのを待ってるのさ。
魚がかかれば、ボタン一つで釣り上げてくれる。
たくさん魚を釣ってしまえば漁師さんの生活に関わるけど、少しなら別に問題はないよね、
なんて考えながら、内藤は運転を続けるのさ。
( ^ω^)「おっ」
さて、そんなことを頭に浮かべている間にも、微かに釣竿が反応しはじめた。
釣竿と対応するボタンを内藤が押すと、釣竿は魚の動きに合わせて適度にリールを巻き取りはじめる。
ちなみに、釣り好きの人はナガオ・カーボートから釣竿を取り外して、自力で釣ったりして楽しんでいるらしいよ。
やっぱりコンピューターで計算されつくされた動きに魚は完敗だったね。
いとも簡単に釣り上げられた魚は、全体が鈍い銀色の光を放っていて、背中が盛り上がった不思議な体と、
上向きにとがった不思議な口を持つ、内藤にとって見たことも無いような魚だったけれど、車を停めて、
生きる知識の詰め込まれたナイトウスーツを半信半疑で着てみれば、腕が自動で動き出して、ものすごい速度で鱗をはがし始めたから内藤は一安心。
なんていったってナイトウスーツが「この魚は食べられる」って判断して、
その魚に適した調理も既に始めちゃっているわけだからね。
ここでナイトウスーツが活躍するのさ。
内藤はナイトウスーツに、出発前に生きるのに役立つある程度の動きをインプットしておいた。
例えば、海水から飲料水を作り出す方法とか、魚類のさばき方とか、ね。
だから、今朝だって運転しながらナガオ・カーボートに設置された釣竿から糸を垂らして、魚がかかるのを待ってるのさ。
魚がかかれば、ボタン一つで釣り上げてくれる。
たくさん魚を釣ってしまえば漁師さんの生活に関わるけど、少しなら別に問題はないよね、
なんて考えながら、内藤は運転を続けるのさ。
( ^ω^)「おっ」
さて、そんなことを頭に浮かべている間にも、微かに釣竿が反応しはじめた。
釣竿と対応するボタンを内藤が押すと、釣竿は魚の動きに合わせて適度にリールを巻き取りはじめる。
ちなみに、釣り好きの人はナガオ・カーボートから釣竿を取り外して、自力で釣ったりして楽しんでいるらしいよ。
やっぱりコンピューターで計算されつくされた動きに魚は完敗だったね。
いとも簡単に釣り上げられた魚は、全体が鈍い銀色の光を放っていて、背中が盛り上がった不思議な体と、
上向きにとがった不思議な口を持つ、内藤にとって見たことも無いような魚だったけれど、車を停めて、
生きる知識の詰め込まれたナイトウスーツを半信半疑で着てみれば、腕が自動で動き出して、ものすごい速度で鱗をはがし始めたから内藤は一安心。
なんていったってナイトウスーツが「この魚は食べられる」って判断して、
その魚に適した調理も既に始めちゃっているわけだからね。
41 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:03:59 ID:oRlV1SEE0
ただ、ナイトウスーツに覆われてない手のひらだけは、鱗をはがしたり、
魚をさばいたりする作業に追いつけなくてボロボロになっちゃっているけど。
(;^ω^)「これはナイトウスーツにもまだまだ改良の余地があるお」
そんなことを痛めた手のひらに息を吹きかけつつも、苦笑いで内藤は言ったものさ。
そうは言いながらも、持ってきた調味料もナイトウスーツはすぐさま荷物の中から見つけだして、それは見事な料理を作り出したよ。
今日の朝食は魚の焼き漬け。
醤油、酒、みりんを適量ずつ混ぜて沸騰させたものに、三枚に下ろした魚を漬け込んだだけの簡単な料理。
これをナイトウスーツは眼にも止まらない速度で作り上げたんだ。
ちなみに魚は後で調べたところ、五十年前にカラフトマスって呼ばれてた魚らしいね。
今ではサハリンマスだけれども。
(;゚ω゚)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
出来立ての朝食をほふほふ、と貪りながら、内藤は再度車を進めだす。
さて、しばらく波に揺られながら走っていると、遠くには薄っすらと大地が、そして山の連なりが見えてきた。
あれこそが、目的地であるロシア領のシベリアと、それを縁取る東シベリア山脈さ。
( ^ω^)「意外と早く着きそうだお」
にやりと笑って、内藤は呟いた。
でも、まだ内藤は気付いていないんだよね。
車が目的地に近づくにつれて、海鳥の声がまったく聞こえなくなって、魚の姿が明らかに見られなくなってきたことに。
魚をさばいたりする作業に追いつけなくてボロボロになっちゃっているけど。
(;^ω^)「これはナイトウスーツにもまだまだ改良の余地があるお」
そんなことを痛めた手のひらに息を吹きかけつつも、苦笑いで内藤は言ったものさ。
そうは言いながらも、持ってきた調味料もナイトウスーツはすぐさま荷物の中から見つけだして、それは見事な料理を作り出したよ。
今日の朝食は魚の焼き漬け。
醤油、酒、みりんを適量ずつ混ぜて沸騰させたものに、三枚に下ろした魚を漬け込んだだけの簡単な料理。
これをナイトウスーツは眼にも止まらない速度で作り上げたんだ。
ちなみに魚は後で調べたところ、五十年前にカラフトマスって呼ばれてた魚らしいね。
今ではサハリンマスだけれども。
(;゚ω゚)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
出来立ての朝食をほふほふ、と貪りながら、内藤は再度車を進めだす。
さて、しばらく波に揺られながら走っていると、遠くには薄っすらと大地が、そして山の連なりが見えてきた。
あれこそが、目的地であるロシア領のシベリアと、それを縁取る東シベリア山脈さ。
( ^ω^)「意外と早く着きそうだお」
にやりと笑って、内藤は呟いた。
でも、まだ内藤は気付いていないんだよね。
車が目的地に近づくにつれて、海鳥の声がまったく聞こえなくなって、魚の姿が明らかに見られなくなってきたことに。
42 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:05:27 ID:oRlV1SEE0
七 死の大地
港に着くと、内藤は車をナガオ・カーボートから下ろして、
余分な荷物をナガオ・カーボートの収納スペースに残しつつ、しっかりと鍵をかけておいた。
ナガオ・カーボートの管理は基本的には車と同じなんだ。
ただ、陸地での移動には難があるから、船のように海上においておかなければならない。
だけど、ナガオ・カーボートは船以上に優れているのさ。
どんなに離れたところからでも、持ち主が指定された機種からナガオ・カーボートの固体識別番号に電話をかけることで、
GPSを頼りにどんな海辺にでも迎えに来てくれるんだよね。
そりゃあ、ある程度の時間はかかるけどさ。
日本に比べると、やっぱり厳しさを感じるほど冷たい風が内藤の体を舐めていったね。
目の前には壮大な山々が、まるで行く手を阻む壁のように内藤の前に立ちはだかっている。
でも、内藤はそんなことまったく気にする必要なんか無いのさ。
彼にはナイトウスーツがあるんだからね。
ナイトウスーツを手動に変えて、内藤の手はしっかりとコントローラーを握り締める。
( ^ω^)「よし、行くお」
その一言で内藤は走り出したのさ。
製作者の内藤にかかれば、ナイトウスーツの操作なんかお茶の子さいさいなんだよね。
手元も見ずに、禿げかけている針葉樹の合間をものすごい速度で潜り抜けていくのさ。
途中には牙の生えた鹿やら、角の生えた馬やらとすれ違ったりして、
内藤は案外シベリアの自然を楽しみながら山を登っていったね。
切り立った山壁も、ナイトウスーツの力でぴょん、と飛び越えちゃったりして。
港に着くと、内藤は車をナガオ・カーボートから下ろして、
余分な荷物をナガオ・カーボートの収納スペースに残しつつ、しっかりと鍵をかけておいた。
ナガオ・カーボートの管理は基本的には車と同じなんだ。
ただ、陸地での移動には難があるから、船のように海上においておかなければならない。
だけど、ナガオ・カーボートは船以上に優れているのさ。
どんなに離れたところからでも、持ち主が指定された機種からナガオ・カーボートの固体識別番号に電話をかけることで、
GPSを頼りにどんな海辺にでも迎えに来てくれるんだよね。
そりゃあ、ある程度の時間はかかるけどさ。
日本に比べると、やっぱり厳しさを感じるほど冷たい風が内藤の体を舐めていったね。
目の前には壮大な山々が、まるで行く手を阻む壁のように内藤の前に立ちはだかっている。
でも、内藤はそんなことまったく気にする必要なんか無いのさ。
彼にはナイトウスーツがあるんだからね。
ナイトウスーツを手動に変えて、内藤の手はしっかりとコントローラーを握り締める。
( ^ω^)「よし、行くお」
その一言で内藤は走り出したのさ。
製作者の内藤にかかれば、ナイトウスーツの操作なんかお茶の子さいさいなんだよね。
手元も見ずに、禿げかけている針葉樹の合間をものすごい速度で潜り抜けていくのさ。
途中には牙の生えた鹿やら、角の生えた馬やらとすれ違ったりして、
内藤は案外シベリアの自然を楽しみながら山を登っていったね。
切り立った山壁も、ナイトウスーツの力でぴょん、と飛び越えちゃったりして。
43 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:07:14 ID:oRlV1SEE0
(;^ω^)「……お」
山頂について、全てを見下ろした時、すぐさま内藤はどこに北磁極があるかがわかったんだ。
山麓には私たちの人生をそのまま象形化されたかのようにゆっくりと大きな川が流れていて、
その奥に目を見やると東シベリア海に向けて扇状に広がる大地がある。
その土地の所有権を主張するように、それはあったんだ。
(;^ω^)「これが……僕の作ったマネキン?」
黄土色の塊が複雑に絡み合って、異常に膨れ上がった山さ。
とても大きく、汚い山。
マネキンの破片一つ一つが作り出す影が、まるで腐った血管のように黄土色の山を駆け抜けていて、
それこそ腐敗した血液を全身に送られているかのように、
その汚い山は内藤が駆け抜けてきたシベリアの山脈とはひどく対照的に死の香りを放っていたんだ。
呆然と内藤がマネキンでできた死の山をシベリア山脈の頂から眺めている間にも、
世界中から北磁極の磁力に引き寄せられてマネキンの破片が飛んでくる。
その光景は、いつまでも空腹が満たされない怪物が、わがままに食料を貪り続けているようにも見えたんだ。
(;^ω^)「……」
死の山からだいぶ距離を開けて、仮設住宅のようなものがちらほらと建てられているのが見える。
押し寄せるマネキンに居場所を奪われたんだろうね。
マネキンの山を中心に、避けるように建てられている。
汚い山の麓と、平野を輪郭づける川の僅かに見える隙間に申し訳程度に建っているそれは、
刻一刻と成長を続ける山にやがて仮初めの居場所すら奪われてしまうことが運命付けられていたよ。
山頂について、全てを見下ろした時、すぐさま内藤はどこに北磁極があるかがわかったんだ。
山麓には私たちの人生をそのまま象形化されたかのようにゆっくりと大きな川が流れていて、
その奥に目を見やると東シベリア海に向けて扇状に広がる大地がある。
その土地の所有権を主張するように、それはあったんだ。
(;^ω^)「これが……僕の作ったマネキン?」
黄土色の塊が複雑に絡み合って、異常に膨れ上がった山さ。
とても大きく、汚い山。
マネキンの破片一つ一つが作り出す影が、まるで腐った血管のように黄土色の山を駆け抜けていて、
それこそ腐敗した血液を全身に送られているかのように、
その汚い山は内藤が駆け抜けてきたシベリアの山脈とはひどく対照的に死の香りを放っていたんだ。
呆然と内藤がマネキンでできた死の山をシベリア山脈の頂から眺めている間にも、
世界中から北磁極の磁力に引き寄せられてマネキンの破片が飛んでくる。
その光景は、いつまでも空腹が満たされない怪物が、わがままに食料を貪り続けているようにも見えたんだ。
(;^ω^)「……」
死の山からだいぶ距離を開けて、仮設住宅のようなものがちらほらと建てられているのが見える。
押し寄せるマネキンに居場所を奪われたんだろうね。
マネキンの山を中心に、避けるように建てられている。
汚い山の麓と、平野を輪郭づける川の僅かに見える隙間に申し訳程度に建っているそれは、
刻一刻と成長を続ける山にやがて仮初めの居場所すら奪われてしまうことが運命付けられていたよ。
44 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:09:08 ID:oRlV1SEE0
(; ω )「……」
内藤は驚いたね。
驚きだけじゃない。同時に深い絶望を感じていたよ。
今まで大切にしていた宝物が、地球にとって害悪でしかなかった。
そんな気分だったのかな。
ごめんね。
私は内藤自身じゃないから、そんなに的確に内藤の気持ちをここに書き残すことはできない。
だけど、今まで見たことのないような内藤の顔と、震える体。
小さく風が吹いて、僅かに揺れるナイトウスーツ。
そして、我を取り戻したかのように駆け出す内藤。
(; ω )「……」
これら一つ一つが連続写真のように、切り取られた一瞬として私の中に強く印象付けられたんだ。
(; ω )「何が新しい居住区ができるだお……。何が世界を変えるだお……。僕は馬鹿だ!」
うわ言のように、過去の自分の安楽的な考えに呪詛の言葉を吐き捨てながら、
ナイトウスーツの力を借りてものすごい速度で駆け下りる。
さっきまでは登り、今は降り。
さらには自責の念すらも内藤の背中を押しているんだ。
今までとは比べ物にならないほどの速度だったよ。
内藤は驚いたね。
驚きだけじゃない。同時に深い絶望を感じていたよ。
今まで大切にしていた宝物が、地球にとって害悪でしかなかった。
そんな気分だったのかな。
ごめんね。
私は内藤自身じゃないから、そんなに的確に内藤の気持ちをここに書き残すことはできない。
だけど、今まで見たことのないような内藤の顔と、震える体。
小さく風が吹いて、僅かに揺れるナイトウスーツ。
そして、我を取り戻したかのように駆け出す内藤。
(; ω )「……」
これら一つ一つが連続写真のように、切り取られた一瞬として私の中に強く印象付けられたんだ。
(; ω )「何が新しい居住区ができるだお……。何が世界を変えるだお……。僕は馬鹿だ!」
うわ言のように、過去の自分の安楽的な考えに呪詛の言葉を吐き捨てながら、
ナイトウスーツの力を借りてものすごい速度で駆け下りる。
さっきまでは登り、今は降り。
さらには自責の念すらも内藤の背中を押しているんだ。
今までとは比べ物にならないほどの速度だったよ。
45 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:10:49 ID:oRlV1SEE0
もちろん興奮状態の内藤が、そんな速度でうまくナイトウスーツを操作できるはずもなかったさ。
(; ω )「……!」
シベリア山脈に生える針葉樹にはぶつかり、そのたびに勢いに任せて根っこごと吹き飛ばす。
ナイトウスーツに守られていない部分は傷だらけ。
だけど内藤は、そんなことお構いなしだった。
考えの浅かった自分のせいで生み出された罪の姿かたちを、すぐにでも近くで確認したかったんだ。
何本もの木を吹き飛ばし、何十メートルも山壁を転げ落ち、
何百匹もの動物を驚かし、数え切れないほどの生傷を作って、ようやく内藤は山を駆け下りた。
(; ω )「ハァ……ハァ……」
山麓に流れていた川は綺麗だったよ。
水温が低いためか、透明度も高くて、裸眼で川底まで見えるんじゃないかってくらい。
でもさ、目を凝らして見ちゃうともう駄目だね。
水面が薄っすらと上空に広がる光景を反射しちゃうんだ。
内藤の顔。
曇っていて灰色の空。
そして、その空の中を我が物顔で飛び交うマネキンの破片に、空へ今にも届きそうな育ち続けるマネキンの塊。
対岸には、マネキンの山に押し迫られて川辺ぎりぎりに建てられたバラックの家。
シベリアはやっぱり寒い。
それなのに、もともと住んでいた家をマネキンによって追い出されて、
ろくに寒さを防げないバラック小屋に住民を追いやってしまった責任を、内藤は確かに感じていたよ。
46 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:13:42 ID:oRlV1SEE0
(; ω )「行くぞ」
いち、にの、さん。
ナイトウスーツの力によって、生の山と死の山を隔てる大きな川をひとっ飛び。
その光景はまるで昔の有名な映画の、夜空に浮かぶ月を背景に、
自転車のカゴに宇宙人を入れたまま空を飛ぶシーンみたいだったね。
ナイトウスーツがうまくバランスをとって、対岸に静かに着地した。
するとどうだろう。
内藤の耳に、聞きなれないイントネーションの言葉が入ってきたんだ。
(´・ω・`)「今日は愉快だ。本当に愉快だ。愉快すぎてスーツ着たアジアンが空を飛びやがった」
(;^ω^)「あ、あぁ、どうもですお」
バラック小屋から、顔を真っ赤に染めたエスキモーが無表情のままに現れた。
ナイトウスーツの着用は全世界で禁止されているし、ナイトウスーツ人体使用許可証を持ってはいるものの、
そのナイトウスーツのせいで住み場を追われた住民に諸悪の根源を使用しているところを見られた内藤はどきりとしたね。
さらに内藤はナイトウスーツの製作者だ。
自分の愚かさ、自分の罪、自分の発明品。
それらへの絶望に興奮していた脳みそが、被害者であるエスキモーの顔を見ることで、申し訳なさから少し静まり返ったのさ。
いち、にの、さん。
ナイトウスーツの力によって、生の山と死の山を隔てる大きな川をひとっ飛び。
その光景はまるで昔の有名な映画の、夜空に浮かぶ月を背景に、
自転車のカゴに宇宙人を入れたまま空を飛ぶシーンみたいだったね。
ナイトウスーツがうまくバランスをとって、対岸に静かに着地した。
するとどうだろう。
内藤の耳に、聞きなれないイントネーションの言葉が入ってきたんだ。
(´・ω・`)「今日は愉快だ。本当に愉快だ。愉快すぎてスーツ着たアジアンが空を飛びやがった」
(;^ω^)「あ、あぁ、どうもですお」
バラック小屋から、顔を真っ赤に染めたエスキモーが無表情のままに現れた。
ナイトウスーツの着用は全世界で禁止されているし、ナイトウスーツ人体使用許可証を持ってはいるものの、
そのナイトウスーツのせいで住み場を追われた住民に諸悪の根源を使用しているところを見られた内藤はどきりとしたね。
さらに内藤はナイトウスーツの製作者だ。
自分の愚かさ、自分の罪、自分の発明品。
それらへの絶望に興奮していた脳みそが、被害者であるエスキモーの顔を見ることで、申し訳なさから少し静まり返ったのさ。
47 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:15:41 ID:oRlV1SEE0
(´・ω・`)「ところでなんでこんな土地にお客さんがくるのかね。今や俺たちの住処は死の麓。
わざわざ死臭がぷんぷんと匂うゴミ溜りに来るだなんて、アジアンは本当に愉快だぜ」
あまりにも酔っていて、内藤が脅威の跳躍を見せたことにもたいして驚いていないのか、饒舌に彼は語ったね。
だけど、愉快愉快と言うわりにはニコリともしないまま。
砂鉄が引き寄せられたかのような髭から垣間見える口に、内藤は強烈な酒臭さを感じていたよ。
(´・ω・`)「本当に愉快だ。ただ毎日酒を飲んでいるだけで、世界中から悪魔のようなマネキンが降り注ぎやがる。
鳥が落ちる。魚が降り注ぐ。愉快すぎて生きてられないぜ」
ひたすらに言葉を垂れ流して、笑わないままに笑う。
意味のわからない表現かもしれないけれど、彼の浮かべる表情にはこの言葉しか見つからなかったんだ。
(; ω )「……」
内藤は自分の気持ちが、脊椎を通り、椎間板をすり抜け、そして足首の辺りまで落ちていくようにも感じていた。
エスキモーは無意識だったのかもしれないけど、自然と彼の言葉は内藤の後悔の念をちくちくと突っつきまわしたからね。
(´・ω・`)「おいおい、俺がこんなに愉快なのにアジアンは本当に無口だな。まったく、不愉快だぜ」
一通り喋りつくしたら、後はもう内藤に興味を失ったようで、
彼は防寒具を纏った体を静かに揺らしながらバラック小屋に戻っていったよ。
(´・ω・`)「そうさ、ここは死の大地。コンパスですら指差し笑う。『あそこは命を奪う場所だ』ってな」
こんな捨て台詞を吐いてね。
わざわざ死臭がぷんぷんと匂うゴミ溜りに来るだなんて、アジアンは本当に愉快だぜ」
あまりにも酔っていて、内藤が脅威の跳躍を見せたことにもたいして驚いていないのか、饒舌に彼は語ったね。
だけど、愉快愉快と言うわりにはニコリともしないまま。
砂鉄が引き寄せられたかのような髭から垣間見える口に、内藤は強烈な酒臭さを感じていたよ。
(´・ω・`)「本当に愉快だ。ただ毎日酒を飲んでいるだけで、世界中から悪魔のようなマネキンが降り注ぎやがる。
鳥が落ちる。魚が降り注ぐ。愉快すぎて生きてられないぜ」
ひたすらに言葉を垂れ流して、笑わないままに笑う。
意味のわからない表現かもしれないけれど、彼の浮かべる表情にはこの言葉しか見つからなかったんだ。
(; ω )「……」
内藤は自分の気持ちが、脊椎を通り、椎間板をすり抜け、そして足首の辺りまで落ちていくようにも感じていた。
エスキモーは無意識だったのかもしれないけど、自然と彼の言葉は内藤の後悔の念をちくちくと突っつきまわしたからね。
(´・ω・`)「おいおい、俺がこんなに愉快なのにアジアンは本当に無口だな。まったく、不愉快だぜ」
一通り喋りつくしたら、後はもう内藤に興味を失ったようで、
彼は防寒具を纏った体を静かに揺らしながらバラック小屋に戻っていったよ。
(´・ω・`)「そうさ、ここは死の大地。コンパスですら指差し笑う。『あそこは命を奪う場所だ』ってな」
こんな捨て台詞を吐いてね。
48 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:17:00 ID:oRlV1SEE0
(; ω )「とにかく、行かなくちゃ!」
しばらくは呆然と立ちつくしながら、皮膚に突き刺さるほど冷たいシベリアの風を甘んじて受け入れていた内藤だったけれど、
立っているだけじゃ何も変わらない。
マネキンの問題。
居場所を奪われたエスキモーの問題。
指輪の問題。
色々と頭を抱えたくなる問題は泣き出したくなるほどにあるけれど、
まずは動かなければ何も解決なんかしないもんね。
(; ω )
内藤はもう、泣きたい気持ちでいっぱいだったろうけどね。
しばらくは呆然と立ちつくしながら、皮膚に突き刺さるほど冷たいシベリアの風を甘んじて受け入れていた内藤だったけれど、
立っているだけじゃ何も変わらない。
マネキンの問題。
居場所を奪われたエスキモーの問題。
指輪の問題。
色々と頭を抱えたくなる問題は泣き出したくなるほどにあるけれど、
まずは動かなければ何も解決なんかしないもんね。
(; ω )
内藤はもう、泣きたい気持ちでいっぱいだったろうけどね。
49 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:18:51 ID:oRlV1SEE0
八 太陽と月
マネキンで作られた巨大な山は、驚くほど大きかったよ。
エスキモーの家から徒歩数分ってレベル。
しかも、空には世界中から集められたマネキンがいろんな方角から飛び回っているんだ。
もう、それだけで死の大地を名乗れるほどの光景さ。
でもね、それだけじゃない。
さらに山の麓から見上げてみれば、なるほどたくさんの鳥や魚の死骸がいたるところに見えるんだ。
いや、山の中だけじゃない。山の周りにも無造作に置かれているように、死骸が落ちている。
エスキモーの言っていた鳥が落ちる、魚が降り注ぐ、って言葉は冗談ではなくて、まさに真実らしい。
腐った肉の匂いが、内藤の鼻を責め立てたよ。
(; ω )
後で調べてわかったんだけど、この鳥や魚は実際のところマネキンとはなんら関係はないんだ。
ポールシフトっていう、地球の磁極が移動する現象の際によく見られる光景なんだって。
渡り鳥とか魚とか、体内の磁石に従って遠距離を移動する動物がポールシフトによって狂わされた結果らしい。
なんで魚が陸地に降り注ぐのかは未だによくわかってないけどね。
だけど、動物の死骸はマネキンの塊を死の山にする演出としては完璧だったよ。
世界中のゴミと化したマネキンと、動物の腐った肉が合わさって、一つの意思を持つ穢れた生命体として内藤には見えたんだから。
(; ω )「そうだ、指輪を……」
問題は山積みだけど、まずは今解決するための問題に取り組まなければならない。
当然のことだけど、内藤は本来の目的を忘れてはいなかったさ。
でもね、目の前には大きな山。
そして探すのは道端に転がる石ほどの大きさの指輪。
さぁ、どうしたものか。
マネキンで作られた巨大な山は、驚くほど大きかったよ。
エスキモーの家から徒歩数分ってレベル。
しかも、空には世界中から集められたマネキンがいろんな方角から飛び回っているんだ。
もう、それだけで死の大地を名乗れるほどの光景さ。
でもね、それだけじゃない。
さらに山の麓から見上げてみれば、なるほどたくさんの鳥や魚の死骸がいたるところに見えるんだ。
いや、山の中だけじゃない。山の周りにも無造作に置かれているように、死骸が落ちている。
エスキモーの言っていた鳥が落ちる、魚が降り注ぐ、って言葉は冗談ではなくて、まさに真実らしい。
腐った肉の匂いが、内藤の鼻を責め立てたよ。
(; ω )
後で調べてわかったんだけど、この鳥や魚は実際のところマネキンとはなんら関係はないんだ。
ポールシフトっていう、地球の磁極が移動する現象の際によく見られる光景なんだって。
渡り鳥とか魚とか、体内の磁石に従って遠距離を移動する動物がポールシフトによって狂わされた結果らしい。
なんで魚が陸地に降り注ぐのかは未だによくわかってないけどね。
だけど、動物の死骸はマネキンの塊を死の山にする演出としては完璧だったよ。
世界中のゴミと化したマネキンと、動物の腐った肉が合わさって、一つの意思を持つ穢れた生命体として内藤には見えたんだから。
(; ω )「そうだ、指輪を……」
問題は山積みだけど、まずは今解決するための問題に取り組まなければならない。
当然のことだけど、内藤は本来の目的を忘れてはいなかったさ。
でもね、目の前には大きな山。
そして探すのは道端に転がる石ほどの大きさの指輪。
さぁ、どうしたものか。
50 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:20:15 ID:oRlV1SEE0
まず内藤は計算した。
だいたい一時間にどの程度のマネキンの破片が飛んできて、山が分厚くなるのか。
その値が出たら、今度は結婚式の日付から逆算さ。
だいたい、地表何メートル付近に指輪は埋まっているのか。
そして最後に、方角的に日本から飛んできたらどの辺りに着地するのか。
これらの計算によって、大雑把だけれども、だいたいの予測はついた。
でも、ここからが大変。
だって、ここまでは頭脳だけで探しているけど、ここからは体の作業も始まるんだからね。
とりあえずマネキンの破片やら、鳥や魚の死肉やらをナイトウスーツの力を借りてひたすらに山から引っぺがしていくんだけど、
やっぱり予測で出た範囲は広かったね。
日本だってそれなりの広さを持つし、ナイトウスーツ発祥の地だけあって、マネキンの使用率も他国と比べるとやっぱり高かった。
計算で出た日本から飛んできたであろうマネキンの範囲は、当然のことながら広大なのさ。
しかも、結婚式からそれなりに時間も経っている。
さらにはシベリアの冷たい風がどんどんと内藤の体力も奪っていく。
さて、どうしたものか。
内藤が悩んでいる間にも、マネキンの山は大きくなるばかりさ。
思わず内藤は頭を抱え込んだね。
そして、その時に気付くんだ。
( ^ω^)「お?」
左手の薬指にはめられた指輪が、微かに光っていることに。
月をモチーフにした指輪の放つ光は弱々しくて、それでも優しさに満ち溢れた光だったよ。
だいたい一時間にどの程度のマネキンの破片が飛んできて、山が分厚くなるのか。
その値が出たら、今度は結婚式の日付から逆算さ。
だいたい、地表何メートル付近に指輪は埋まっているのか。
そして最後に、方角的に日本から飛んできたらどの辺りに着地するのか。
これらの計算によって、大雑把だけれども、だいたいの予測はついた。
でも、ここからが大変。
だって、ここまでは頭脳だけで探しているけど、ここからは体の作業も始まるんだからね。
とりあえずマネキンの破片やら、鳥や魚の死肉やらをナイトウスーツの力を借りてひたすらに山から引っぺがしていくんだけど、
やっぱり予測で出た範囲は広かったね。
日本だってそれなりの広さを持つし、ナイトウスーツ発祥の地だけあって、マネキンの使用率も他国と比べるとやっぱり高かった。
計算で出た日本から飛んできたであろうマネキンの範囲は、当然のことながら広大なのさ。
しかも、結婚式からそれなりに時間も経っている。
さらにはシベリアの冷たい風がどんどんと内藤の体力も奪っていく。
さて、どうしたものか。
内藤が悩んでいる間にも、マネキンの山は大きくなるばかりさ。
思わず内藤は頭を抱え込んだね。
そして、その時に気付くんだ。
( ^ω^)「お?」
左手の薬指にはめられた指輪が、微かに光っていることに。
月をモチーフにした指輪の放つ光は弱々しくて、それでも優しさに満ち溢れた光だったよ。
51 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:22:08 ID:oRlV1SEE0
( ^ω^)「なんだお、これ?」
空に手を掲げて、色々な角度から指輪を見渡した。
上に下に、右に左に、時には捻ったりして。
すると、内藤はまた一つ発見をした。
( ^ω^)「場所によって光が強くなったり弱くなったりするお……」
(;^ω^)「まさか!」
内藤は仮説を立てた。発明家らしいとんでもない仮説をね。
月は太陽の光によって照らされている。
だから、その太陽と月をモチーフにした指輪だって同じことが言えるんじゃないのかって。
実際に、隣り合わせで指輪を並べた時はとても輝いて見えたし、
一つだけになった時から、極端に輝きが失われたようにも見えたんだから。
とんでもない仮説に基づいて、内藤は指輪の探索を再開したよ。
指輪の輝きを目安に、マネキンや死肉をかきわけてね。
そして、指輪が結婚式で見た時のような輝きを取り戻したと同時に、やっと片割れの指輪を見つけたんだ。
( ^ω^)「あ、あった! あったお! 指輪があった!」
ここにきてファンタジーすぎるだろと、これを読んでいる人はそう感じたかな?
でも、本当にこの通り見つけたんだから仕方ないじゃないか。
太陽と月。陽と陰。
気が遠くなるほどの時間の流れを見守ってきた存在をかたどった指輪さ。
これくらいの奇跡は起きてしかるべきなんじゃないの?
なんせさ、古代の伝説にも残っているくらいなんだから。
空に手を掲げて、色々な角度から指輪を見渡した。
上に下に、右に左に、時には捻ったりして。
すると、内藤はまた一つ発見をした。
( ^ω^)「場所によって光が強くなったり弱くなったりするお……」
(;^ω^)「まさか!」
内藤は仮説を立てた。発明家らしいとんでもない仮説をね。
月は太陽の光によって照らされている。
だから、その太陽と月をモチーフにした指輪だって同じことが言えるんじゃないのかって。
実際に、隣り合わせで指輪を並べた時はとても輝いて見えたし、
一つだけになった時から、極端に輝きが失われたようにも見えたんだから。
とんでもない仮説に基づいて、内藤は指輪の探索を再開したよ。
指輪の輝きを目安に、マネキンや死肉をかきわけてね。
そして、指輪が結婚式で見た時のような輝きを取り戻したと同時に、やっと片割れの指輪を見つけたんだ。
( ^ω^)「あ、あった! あったお! 指輪があった!」
ここにきてファンタジーすぎるだろと、これを読んでいる人はそう感じたかな?
でも、本当にこの通り見つけたんだから仕方ないじゃないか。
太陽と月。陽と陰。
気が遠くなるほどの時間の流れを見守ってきた存在をかたどった指輪さ。
これくらいの奇跡は起きてしかるべきなんじゃないの?
なんせさ、古代の伝説にも残っているくらいなんだから。
52 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:24:01 ID:oRlV1SEE0
太陽をモチーフにした指輪を二度と手放さないように、しっかりと握り締めて内藤はマネキンの山を駆け下りていった。
これで冒険の目的は達成されたね。
さぁ、後は故郷の日本に帰るだけ。
( ^ω^)「……」
だけど、麓から死の山を見上げて、川沿いまで追いやられたバラック小屋を見て、
手元の指輪を見て、最後に自分の着ているナイトウスーツを見て、内藤は呟くんだ。
( ^ω^)「ごめん、まだ僕は帰れないお。自分の子供がどのように世界を変えてしまったかを確認するまではね」
( ^ω^)「うん、ちゃんと埋め合わせはするお」
婚約者に向けた言葉を残して、内藤はまた歩き出したよ。
自分の発明したナイトウスーツのせいで変わってしまった世界の姿を、もう少しだけ自分の目で見るためにね。
これで冒険の目的は達成されたね。
さぁ、後は故郷の日本に帰るだけ。
( ^ω^)「……」
だけど、麓から死の山を見上げて、川沿いまで追いやられたバラック小屋を見て、
手元の指輪を見て、最後に自分の着ているナイトウスーツを見て、内藤は呟くんだ。
( ^ω^)「ごめん、まだ僕は帰れないお。自分の子供がどのように世界を変えてしまったかを確認するまではね」
( ^ω^)「うん、ちゃんと埋め合わせはするお」
婚約者に向けた言葉を残して、内藤はまた歩き出したよ。
自分の発明したナイトウスーツのせいで変わってしまった世界の姿を、もう少しだけ自分の目で見るためにね。
53 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:25:53 ID:oRlV1SEE0
九 歩く死体
内藤はシベリアからその足で南下していったよ。
シベリア山脈の中を、越えるんじゃなくて沿っていったんだ。
およそ日本からナガオ・カーボートで渡った海と同じくらいの距離を歩いていったさ。
もちろん、最初に登山した時のような観光気分はまるで無い。
珍しげな動物を見ても、まったく興味を示さないんだ。
何かを思いつめたような顔をして、まるで別人のようだったよ。
( ^ω^)「……」
一心不乱に歩いていたね。
たまの休憩ときたら、安全な木の実や雑草を拾っては食べていたくらいさ。
シベリア山脈を渡りきると、アムール川というロシアと中国の国境線としての役割を持つ川に出る。とてつもなく汚い川さ。
シベリアで見た川とは違って、川底どころか、水面下数センチの眺めさえ見えやしない。
金属をそのまま溶かして流しているかのような汚染具合なんだ。
そこを、内藤はまたナイトウスーツの力で飛び越えた。
今更ながら、国境をこんな簡単に越えていいものかと思う人だっているだろう。
その人のために説明すると、今の時代には昔みたいにパスポートとか入国許可証なんてものはないんだ。
全世界の人間のデータが細かくまとめられた機関があって、一人一人の動きを人体に対応するGPSで測っている。
国境を越えた際に、その人のデータが国に送られて、今までの言動や生い立ちから危険度が判断されるんだ。
基本的に無害だと判断されれば、そのまま入国できる。
もし危険人物と判断されれば、入国した瞬間に国際指名手配犯さ。
だから、よっぽどのことがない限りは国の出入りは自由。
この技術ができてから犯罪者の高飛びは驚くほど失敗するようになったし、第一隠れることすらも難しくさせたんだ。
内藤はシベリアからその足で南下していったよ。
シベリア山脈の中を、越えるんじゃなくて沿っていったんだ。
およそ日本からナガオ・カーボートで渡った海と同じくらいの距離を歩いていったさ。
もちろん、最初に登山した時のような観光気分はまるで無い。
珍しげな動物を見ても、まったく興味を示さないんだ。
何かを思いつめたような顔をして、まるで別人のようだったよ。
( ^ω^)「……」
一心不乱に歩いていたね。
たまの休憩ときたら、安全な木の実や雑草を拾っては食べていたくらいさ。
シベリア山脈を渡りきると、アムール川というロシアと中国の国境線としての役割を持つ川に出る。とてつもなく汚い川さ。
シベリアで見た川とは違って、川底どころか、水面下数センチの眺めさえ見えやしない。
金属をそのまま溶かして流しているかのような汚染具合なんだ。
そこを、内藤はまたナイトウスーツの力で飛び越えた。
今更ながら、国境をこんな簡単に越えていいものかと思う人だっているだろう。
その人のために説明すると、今の時代には昔みたいにパスポートとか入国許可証なんてものはないんだ。
全世界の人間のデータが細かくまとめられた機関があって、一人一人の動きを人体に対応するGPSで測っている。
国境を越えた際に、その人のデータが国に送られて、今までの言動や生い立ちから危険度が判断されるんだ。
基本的に無害だと判断されれば、そのまま入国できる。
もし危険人物と判断されれば、入国した瞬間に国際指名手配犯さ。
だから、よっぽどのことがない限りは国の出入りは自由。
この技術ができてから犯罪者の高飛びは驚くほど失敗するようになったし、第一隠れることすらも難しくさせたんだ。
54 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:28:37 ID:oRlV1SEE0
もちろん内藤は人畜無害で、常にぼけっとしているような人間だから危険度はゼロ。
それどころか世界に大きな発展をもたらせた偉大なる発明家だ。
むしろ歓迎される入国なんだよね。
内藤だって胸を張って入国すべきなんだ。
なんだけど。
(;^ω^)「これは……」
繁華街に入って、内藤は言葉を失った。
一見、とてもにぎやかな街並みだったよ。
大通りには人がたくさんいて、道端には屋台がずらっと並んでいてさ。
だけどね、活気のある声が聞こえないんだ。
大通りの人をよく見れば、皆が皆、例外なく汚らしい姿と、生きているのか死んでいるのかよくわからない表情をしている。
屋台を見れば、働いているのはナイトウスーツを着たマネキンさ。
たまには楽しそうに繁華街を練り歩いている人もいるけれど、そんなのはたったの一握り。
他の大多数は死んだも同然だったよ。
('A`)「……!」
(#'A`)
そんな歩く死体のうちの一人が、内藤をくすんだ目で見つめ、次第に驚きと怒りをごちゃ混ぜにしたかのような表情を顔に貼り付けて、
内藤を指差し、中国内にもかかわらず日本語で声を張り上げて言ったんだ。
(#'A`)「おい! あの内藤がいるぞ!」
(;^ω^)「お?」
内藤が間抜けな声を出すと同時に、繁華街にいるたくさんの人の、たくさんの死んだ目が内藤を睨んだ。
それどころか世界に大きな発展をもたらせた偉大なる発明家だ。
むしろ歓迎される入国なんだよね。
内藤だって胸を張って入国すべきなんだ。
なんだけど。
(;^ω^)「これは……」
繁華街に入って、内藤は言葉を失った。
一見、とてもにぎやかな街並みだったよ。
大通りには人がたくさんいて、道端には屋台がずらっと並んでいてさ。
だけどね、活気のある声が聞こえないんだ。
大通りの人をよく見れば、皆が皆、例外なく汚らしい姿と、生きているのか死んでいるのかよくわからない表情をしている。
屋台を見れば、働いているのはナイトウスーツを着たマネキンさ。
たまには楽しそうに繁華街を練り歩いている人もいるけれど、そんなのはたったの一握り。
他の大多数は死んだも同然だったよ。
('A`)「……!」
(#'A`)
そんな歩く死体のうちの一人が、内藤をくすんだ目で見つめ、次第に驚きと怒りをごちゃ混ぜにしたかのような表情を顔に貼り付けて、
内藤を指差し、中国内にもかかわらず日本語で声を張り上げて言ったんだ。
(#'A`)「おい! あの内藤がいるぞ!」
(;^ω^)「お?」
内藤が間抜けな声を出すと同時に、繁華街にいるたくさんの人の、たくさんの死んだ目が内藤を睨んだ。
55 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:29:30 ID:oRlV1SEE0
皆が示し合わせたかのように怒りに満ち溢れた表情をして、いっせいに内藤へ罵声を浴びせるんだ。
一度にたくさんの人が声を張り上げているものだから、ほとんどの言葉は聞き取れなかったけれど、
断片的に聞こえた言葉に内藤は衝撃を受けたよ。
「お前のせいで」
「ナイトウスーツのせいで」
「仕事が」
「居場所が」
「日本にはない」
「来たくもない中国に」
「ここにもナイトウスーツのせいで」
「仕事がない」
「かえせ」
「全て返せ!」
やがてとめどない罵声と共に、石や瓦礫が飛び交うようになり、棒を持った人が出てくるようになり、
一つの個体のようにその集団は内藤へと襲いかかろうとしたんだ。
一度にたくさんの人が声を張り上げているものだから、ほとんどの言葉は聞き取れなかったけれど、
断片的に聞こえた言葉に内藤は衝撃を受けたよ。
「お前のせいで」
「ナイトウスーツのせいで」
「仕事が」
「居場所が」
「日本にはない」
「来たくもない中国に」
「ここにもナイトウスーツのせいで」
「仕事がない」
「かえせ」
「全て返せ!」
やがてとめどない罵声と共に、石や瓦礫が飛び交うようになり、棒を持った人が出てくるようになり、
一つの個体のようにその集団は内藤へと襲いかかろうとしたんだ。
56 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:30:58 ID:oRlV1SEE0
(; ω )「おぉっ!」
さすがに内藤も急いで逃げたよ。
ナイトウスーツの力にかかれば、職を失ってちゃんとした栄養も取れていない人たちなんかに捕まるはずもない。
あっという間に死んだような人たちから、ナイトウスーツの力を借りて強風のような速度で逃げたさ。
だけどさ、さすがに音を置き去りにすることはできないんだよね。
必死に逃げていく内藤の耳に、内藤を殺すことだけが目的となってしまった巨大な生物の悲しい鳴き声が無情にも届くんだ。
(#'A`)「お前のせいで俺の人生は台無しだ! 返せ!」
(;A;)「返せよ! 俺の人生を!」
多くの労働者の人生を内藤の発明品が奪い去り、
日本から追い出された生きる死体が中国の繁華街すらも殺してしまったんだ。
( ;ω;)「……ッ!」
内藤は、溢れ出る涙に気付くことすらなく走ったよ
。死んでしまった繁華街に背を向けて。
今、自分に何ができるかを必死に考えながらね。
さすがに内藤も急いで逃げたよ。
ナイトウスーツの力にかかれば、職を失ってちゃんとした栄養も取れていない人たちなんかに捕まるはずもない。
あっという間に死んだような人たちから、ナイトウスーツの力を借りて強風のような速度で逃げたさ。
だけどさ、さすがに音を置き去りにすることはできないんだよね。
必死に逃げていく内藤の耳に、内藤を殺すことだけが目的となってしまった巨大な生物の悲しい鳴き声が無情にも届くんだ。
(#'A`)「お前のせいで俺の人生は台無しだ! 返せ!」
(;A;)「返せよ! 俺の人生を!」
多くの労働者の人生を内藤の発明品が奪い去り、
日本から追い出された生きる死体が中国の繁華街すらも殺してしまったんだ。
( ;ω;)「……ッ!」
内藤は、溢れ出る涙に気付くことすらなく走ったよ
。死んでしまった繁華街に背を向けて。
今、自分に何ができるかを必死に考えながらね。
57 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:33:06 ID:oRlV1SEE0
十 軍事利用
五十年前でいう韓国と北朝鮮は、今では統合して朝鮮共和国という一つの国家になっている。
さらにいえば、その国家がまとめて中国の実質的な植民地にもなっているんだけど、それはまた別の話。
内藤は朝鮮共和国の港に立って、ナガオ・カーボートを呼び出した。
だいたいシベリアから海を渡って朝鮮共和国までナガオ・カーボートがやってくるには二日ほどの時間がかかったんだけど、その間にもいろいろな事があったさ。
中国からの支配を逃れるために、朝鮮共和国はナイトウスーツを戦争用に特化したかたちで軍事開発をしていた。
そんな中で、ナイトウスーツの開発者である内藤が入国してきたんだ。
朝鮮共和国がどのような接触を内藤に取ろうとするのか、想像に難しくないよね。
( ω )
今までの出来事を脳内で反芻している内藤のもとに、一枚のカードが風に吹かれてやってきた。
手にとってよく見てみると、それは電子手紙だったよ。
届け先に設定された人物の生体反応が確認できると文字が浮かび上がる機械さ。
第三者が無理に見ようとすると、自然にデータが消されるために、極秘のやりとりをするのに適した道具なんだ。
そして、不思議と内藤に反応してその手紙は文字を浮かべ始めた。
( ;ω;)「オォーッ!」
手紙を読んだ内藤は、大きな涙を流して、嗚咽とも悲鳴とも絶叫ともつかない声で叫んだね。
絶望に絶望を重ねた、どす黒い声だったさ。
五十年前でいう韓国と北朝鮮は、今では統合して朝鮮共和国という一つの国家になっている。
さらにいえば、その国家がまとめて中国の実質的な植民地にもなっているんだけど、それはまた別の話。
内藤は朝鮮共和国の港に立って、ナガオ・カーボートを呼び出した。
だいたいシベリアから海を渡って朝鮮共和国までナガオ・カーボートがやってくるには二日ほどの時間がかかったんだけど、その間にもいろいろな事があったさ。
中国からの支配を逃れるために、朝鮮共和国はナイトウスーツを戦争用に特化したかたちで軍事開発をしていた。
そんな中で、ナイトウスーツの開発者である内藤が入国してきたんだ。
朝鮮共和国がどのような接触を内藤に取ろうとするのか、想像に難しくないよね。
( ω )
今までの出来事を脳内で反芻している内藤のもとに、一枚のカードが風に吹かれてやってきた。
手にとってよく見てみると、それは電子手紙だったよ。
届け先に設定された人物の生体反応が確認できると文字が浮かび上がる機械さ。
第三者が無理に見ようとすると、自然にデータが消されるために、極秘のやりとりをするのに適した道具なんだ。
そして、不思議と内藤に反応してその手紙は文字を浮かべ始めた。
( ;ω;)「オォーッ!」
手紙を読んだ内藤は、大きな涙を流して、嗚咽とも悲鳴とも絶叫ともつかない声で叫んだね。
絶望に絶望を重ねた、どす黒い声だったさ。
58 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:36:04 ID:oRlV1SEE0
手紙にはだいたいこんなことが書いてあった。
ナイトウスーツを軍事利用したい。
開発者にどのようにナイトウスーツに手を加えれば殺傷能力が上がるかを一緒に考えて、そして改造してほしい。
金、家、女、安全。その他諸々は国から褒美として与えられる。
( ;ω;)
内藤には金がある。
家だって、小さなブティックだけどちゃんとある。
女だって、かわいい行き遅れの婚約者がいるし、日本に帰れば安全はある程度保障されている。
だから、褒美なんてどうでもいいし、たったそれだけのものと引き換えに、
自らの発明品をこれ以上害悪なものに染め上げられるはずもなかったんだ。
何より、平然と内藤に人殺しの手伝いをさせようとする朝鮮共和国に腹が立ったし、
見たくもなかったナイトウスーツの汚い面をまじまじと見せつけられて、
内藤はもう、何もかもが嫌になってしまったんだよね。
( ;ω;)
手紙を海へと投げ捨てて、港で内藤はナガオ・カーボートを待つ。
だけど、申し出を反故したうえに、国の秘密を知ってしまった内藤を朝鮮共和国の政府が放っておくわけがなかったよね。
<ヽ`∀´>「ウエハハハ」
殺し屋だって、たった二日間という短い時間の中で何人も送られてきたさ。
( ;ω;)
<ヽ%%∀(#>「アイゴー」
皆が皆、ナイトウスーツの圧倒的な力に返り討ちにあっていたけどね。
ナイトウスーツを軍事利用したい。
開発者にどのようにナイトウスーツに手を加えれば殺傷能力が上がるかを一緒に考えて、そして改造してほしい。
金、家、女、安全。その他諸々は国から褒美として与えられる。
( ;ω;)
内藤には金がある。
家だって、小さなブティックだけどちゃんとある。
女だって、かわいい行き遅れの婚約者がいるし、日本に帰れば安全はある程度保障されている。
だから、褒美なんてどうでもいいし、たったそれだけのものと引き換えに、
自らの発明品をこれ以上害悪なものに染め上げられるはずもなかったんだ。
何より、平然と内藤に人殺しの手伝いをさせようとする朝鮮共和国に腹が立ったし、
見たくもなかったナイトウスーツの汚い面をまじまじと見せつけられて、
内藤はもう、何もかもが嫌になってしまったんだよね。
( ;ω;)
手紙を海へと投げ捨てて、港で内藤はナガオ・カーボートを待つ。
だけど、申し出を反故したうえに、国の秘密を知ってしまった内藤を朝鮮共和国の政府が放っておくわけがなかったよね。
<ヽ`∀´>「ウエハハハ」
殺し屋だって、たった二日間という短い時間の中で何人も送られてきたさ。
( ;ω;)
<ヽ%%∀(#>「アイゴー」
皆が皆、ナイトウスーツの圧倒的な力に返り討ちにあっていたけどね。
59 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:37:19 ID:oRlV1SEE0
<ヽ`∀´>「ウエハハハ」
たまにナイトウスーツを無許可で着てるであろう殺し屋だって襲い掛かってくるんだけど、
内藤と比べると操作技術のレベルが低すぎたんだ。
( ;ω;)
<ヽ%%∀(#>「アイゴー」
一瞬でナイトウスーツごと片付けられていたよ。
内藤の車を乗せたナガオ・カーボートが、気絶している殺し屋が山積みになっている港へと到着した。
内藤は殺し屋たちを一目見て、とても悲しい目をしながらナガオ・カーボートに乗り込んでいったよ。
( ω )
自分がこれから何をするべきか。
何をすれば、ナイトウスーツを開発した責任が取れるのか。
何も答えが見つからないまま、内藤は静かに日本へ向けてナガオ・カーボートを走らせたんだ。
内藤が変えてしまった世界に背を向けて、内藤は惨めに帰路についた。
私にも想像がつかないほどの悲しみを背負ってね。
たまにナイトウスーツを無許可で着てるであろう殺し屋だって襲い掛かってくるんだけど、
内藤と比べると操作技術のレベルが低すぎたんだ。
( ;ω;)
<ヽ%%∀(#>「アイゴー」
一瞬でナイトウスーツごと片付けられていたよ。
内藤の車を乗せたナガオ・カーボートが、気絶している殺し屋が山積みになっている港へと到着した。
内藤は殺し屋たちを一目見て、とても悲しい目をしながらナガオ・カーボートに乗り込んでいったよ。
( ω )
自分がこれから何をするべきか。
何をすれば、ナイトウスーツを開発した責任が取れるのか。
何も答えが見つからないまま、内藤は静かに日本へ向けてナガオ・カーボートを走らせたんだ。
内藤が変えてしまった世界に背を向けて、内藤は惨めに帰路についた。
私にも想像がつかないほどの悲しみを背負ってね。
60 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:39:53 ID:oRlV1SEE0
( ω )
運転している最中も、
/ ,' 3
帰国して父親に迎えに来てもらっている最中にも、
ζ(゚ー゚*ζ
婚約者が必死に新生活について話している最中にも、
( ω )
内藤は考えていたね。
他の事なんか頭に入りやしない。
今の自分にできること。
これからの世界にできること。
でも、まったく考え付かなかった。
今やナイトウスーツは世界中で第一線に立って働いているんだ。
そして、ナイトウスーツが働けば働くほど、被害者の数も増える。
そんな現状を、内藤がたった一人で無かったことにするだなんて、どう考えても無理なんだ。
61 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:41:05 ID:oRlV1SEE0
( ω )「皆を幸せにする発明なんて、そんなものできるわけないじゃないかお……」
世界を変える。
それほど大きな発明に、何の代償も払わなくていいわけがないよね。
はじめは、ただただ自分の発明を世界が受け入れてくれたことに喜んでいたんだ。
内藤は、長岡への憧れや、純粋に人の役に立ちたい思いから、必死にナイトウスーツの発明に明け暮れていたんだよね。
心から、ナイトウスーツはこの世の中に幸せしかもたらさない発明品だと信じていたよ。
でもさ、木に光をあてたら影ができるだろ?
それも光が強ければ強いほど影の濃さも深くなる。
ナイトウスーツの光は、あまりにも広範囲を強く照らしすぎてしまっていたんだ。
( ω )「…そうだ!」
( ^ω^)「もしこれがうまく作れれば……」
ならば、その光自体をなくしてしまえば、照らされることもなければ新たな影だって生まれることもない。
人を幸せにすることもなければ、必要以上の不幸を作り出さない発明品を生み出せばいい。
これが、内藤が悩みに悩んでたどり着いた答えさ。
何かを生み出すのではなく、何も生み出させない発明。
現在は変えられないけれど、過去への啓示とすることはできる。
内藤は、人生で最後の、最高の発明をするために必死に取りかかったよ。
私は、ただただそんな彼のそばにいることしかできなかったさ。
世界を変える。
それほど大きな発明に、何の代償も払わなくていいわけがないよね。
はじめは、ただただ自分の発明を世界が受け入れてくれたことに喜んでいたんだ。
内藤は、長岡への憧れや、純粋に人の役に立ちたい思いから、必死にナイトウスーツの発明に明け暮れていたんだよね。
心から、ナイトウスーツはこの世の中に幸せしかもたらさない発明品だと信じていたよ。
でもさ、木に光をあてたら影ができるだろ?
それも光が強ければ強いほど影の濃さも深くなる。
ナイトウスーツの光は、あまりにも広範囲を強く照らしすぎてしまっていたんだ。
( ω )「…そうだ!」
( ^ω^)「もしこれがうまく作れれば……」
ならば、その光自体をなくしてしまえば、照らされることもなければ新たな影だって生まれることもない。
人を幸せにすることもなければ、必要以上の不幸を作り出さない発明品を生み出せばいい。
これが、内藤が悩みに悩んでたどり着いた答えさ。
何かを生み出すのではなく、何も生み出させない発明。
現在は変えられないけれど、過去への啓示とすることはできる。
内藤は、人生で最後の、最高の発明をするために必死に取りかかったよ。
私は、ただただそんな彼のそばにいることしかできなかったさ。
62 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:43:15 ID:oRlV1SEE0
~後口上~
これで、君らからみて五十年後の物語はおしまい。
内藤は、最後の発明をした後にしっかりとブティックを継いで、奥さんと一緒に細々と生活をしているよ。
時おり、ナイトウスーツに関するニュースを見ては、押し寄せる罪悪感に顔を歪めてはいるけどね。
え? 結局内藤の最後の発明はどのようなものなんだって?
おいおい、何を寝惚けたことを言っているのさ。
この物語を君が読めている時点でわかるだろ。
時間軸を越えた転送機さ。
五十年前の世界に、私の書いた物語を送った。ただ、それだけの話。
アインシュタインの相対性理論によると、光の速さに近づき、
それさえも越えることで時間の流れに干渉することができるらしいんだけど、それを内藤は利用したみたいなんだ。
もちろん、相対性理論そのままで考えると未来にしか行けないらしいんだけど、そこは内藤が機転をきかしてうまくやったみたいだよ。
光と電気はだいたい同じ速さだ。
この物語を書いた紙を転送機にセットして、電子化。
後は送信の速度を後押しすることで転送が成り立つらしいんだけど、恥ずかしながら私にも細かくは正直理解できなかったよ。
というか、もうほとんどついていけてないんだけれどもね。
もちろん、先ほど書いたようにどんな発明でも必ず影を作る。
この転送機だって、過去に干渉するわけだから、大きな影を作り出してしまう可能性だってあったさ。
存在する人が消えてしまったり、消えるべきものが現れてしまったり、
そんな昔から言われ続けている危険性があるかもしれない。
でも、送るのはこの物語だけで、決して世間にはこの発明品を公表しないと内藤は強く決めていたし、
内藤によると変わるのは干渉された時間軸の未来で、私たちのいる現在はまったく変わらないらしい。
この説明を聞いた時は驚いたね。結局、私たちの世界は何も変えられないのかってさ。
そんなことを聞く私に、内藤は少し悲しそうな目でこう答えたよ。
( ^ω^)「もうこの時代にはナイトウスーツが根強く蔓延しちゃったんだお。もう僕一人の力じゃ無理だお。
だから、せめて他の時代だけでも、影を作りすぎてしまう光が生み出される可能性を減らしておきたいんだお」
これで、君らからみて五十年後の物語はおしまい。
内藤は、最後の発明をした後にしっかりとブティックを継いで、奥さんと一緒に細々と生活をしているよ。
時おり、ナイトウスーツに関するニュースを見ては、押し寄せる罪悪感に顔を歪めてはいるけどね。
え? 結局内藤の最後の発明はどのようなものなんだって?
おいおい、何を寝惚けたことを言っているのさ。
この物語を君が読めている時点でわかるだろ。
時間軸を越えた転送機さ。
五十年前の世界に、私の書いた物語を送った。ただ、それだけの話。
アインシュタインの相対性理論によると、光の速さに近づき、
それさえも越えることで時間の流れに干渉することができるらしいんだけど、それを内藤は利用したみたいなんだ。
もちろん、相対性理論そのままで考えると未来にしか行けないらしいんだけど、そこは内藤が機転をきかしてうまくやったみたいだよ。
光と電気はだいたい同じ速さだ。
この物語を書いた紙を転送機にセットして、電子化。
後は送信の速度を後押しすることで転送が成り立つらしいんだけど、恥ずかしながら私にも細かくは正直理解できなかったよ。
というか、もうほとんどついていけてないんだけれどもね。
もちろん、先ほど書いたようにどんな発明でも必ず影を作る。
この転送機だって、過去に干渉するわけだから、大きな影を作り出してしまう可能性だってあったさ。
存在する人が消えてしまったり、消えるべきものが現れてしまったり、
そんな昔から言われ続けている危険性があるかもしれない。
でも、送るのはこの物語だけで、決して世間にはこの発明品を公表しないと内藤は強く決めていたし、
内藤によると変わるのは干渉された時間軸の未来で、私たちのいる現在はまったく変わらないらしい。
この説明を聞いた時は驚いたね。結局、私たちの世界は何も変えられないのかってさ。
そんなことを聞く私に、内藤は少し悲しそうな目でこう答えたよ。
( ^ω^)「もうこの時代にはナイトウスーツが根強く蔓延しちゃったんだお。もう僕一人の力じゃ無理だお。
だから、せめて他の時代だけでも、影を作りすぎてしまう光が生み出される可能性を減らしておきたいんだお」
63 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:45:10 ID:oRlV1SEE0
そう、マイナスをプラスにも、プラスをマイナスにもせずに、
現状維持をし続ける一番の手段って、何もしないことなんだよね。
何もせず、何も生み出さず。
私たちの時代は、すでに色々と生み出しすぎてしまった。
例え、何らかの手段をもってナイトウスーツの存在をなくしてしまっても、
それはそれで新たに不幸になる人がでてくるわけだし、この時代においてはどうすることもできないんだ。
だから、別の時代に託す。
私たちの時代の失敗を啓示として、是非とも何も生み出さない時代を歩んで欲しいんだ。
ここまで読めばもうわかるよね?
この一連の物語は、内藤から君たちへあてた警告の手紙でもあるんだ。
時間の波を乗り越えて、君たちへ送り届ける手紙さ。
物語自体を綴ったのは、この私だけどね。
そうそう。
物語も終わったし、そろそろ私が誰なのか教えようか。
よくよく考えれば、すぐ気付くもんだと思うけどね。
だって、考えてみてよ。
なんで私が内藤の冒険を書き示せたのか。
なんで内藤がエスキモーと普通に会話できたのか。
なんで発明以外まったく関心を寄せていなかった内藤が迷うことなく他国を旅することができたのか。
なんで内藤の旅立ちに手を振っていたのが父親だけなのか。
ζ(^ー^*ζ
内藤の婚約者は、下手な文章を書くことが好きで、色々な国の言語を話せて、
地図を読み取るのが得意で、いつでも内藤のそばにいた。
たったそれだけの話なんだよね。
現状維持をし続ける一番の手段って、何もしないことなんだよね。
何もせず、何も生み出さず。
私たちの時代は、すでに色々と生み出しすぎてしまった。
例え、何らかの手段をもってナイトウスーツの存在をなくしてしまっても、
それはそれで新たに不幸になる人がでてくるわけだし、この時代においてはどうすることもできないんだ。
だから、別の時代に託す。
私たちの時代の失敗を啓示として、是非とも何も生み出さない時代を歩んで欲しいんだ。
ここまで読めばもうわかるよね?
この一連の物語は、内藤から君たちへあてた警告の手紙でもあるんだ。
時間の波を乗り越えて、君たちへ送り届ける手紙さ。
物語自体を綴ったのは、この私だけどね。
そうそう。
物語も終わったし、そろそろ私が誰なのか教えようか。
よくよく考えれば、すぐ気付くもんだと思うけどね。
だって、考えてみてよ。
なんで私が内藤の冒険を書き示せたのか。
なんで内藤がエスキモーと普通に会話できたのか。
なんで発明以外まったく関心を寄せていなかった内藤が迷うことなく他国を旅することができたのか。
なんで内藤の旅立ちに手を振っていたのが父親だけなのか。
ζ(^ー^*ζ
内藤の婚約者は、下手な文章を書くことが好きで、色々な国の言語を話せて、
地図を読み取るのが得意で、いつでも内藤のそばにいた。
たったそれだけの話なんだよね。
64 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:46:14 ID:oRlV1SEE0
なかなかできない経験だったよ。
ナイトウスーツを着た旦那に担がれてシベリア山脈を高速で越えていく新婚旅行だなんてね。
もちろん、この物語を送った後に、やっと普通の新婚旅行が待っているんだけどさ。
うん、とても楽しみだよ。
とにかく、内藤の警告改め、内藤夫婦の警告を受け取ってくれた君へ。
人類は確かに衣服と共に成長してきた。
でも、成長の行き着く先は腐敗さ。
育ちきった木は枯れるし、人も死に向かって育っている。いつか来る死は、受け入れるしかないよね。
なのに、私たちは気が付かなかったんだ。
成長には終わりがないと信じ、不可避な死すらも見えていなかった。
そのために、ナイトウスーツという成長をありえない速度で促がしてしまう起爆剤を、嬉々として作ってしまったんだ。
65 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:47:38 ID:oRlV1SEE0
だからこそ、何度でも君に、そして君の時代に伝えるよ。
君から見て十年後。電気自動車が主流になった時。
君から見て二十年後。火力発電所が日本中に蔓延しはじめた時。
君から見て三十年後。ついに車が単三電池で動きはじめた時。
君から見て四十年後。ナガオ・カーボートによって車が海を走りはじめた時。
君から見て五十年後。ナイトウスーツが世界に受け入れられた時。
66 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 19:48:57 ID:oRlV1SEE0
どんなタイミングでも良い。
君がこの物語を読んで、どこで成長を邪魔できれば、ナイトウスーツが生み出されないか。
それは君の判断次第さ。
もちろん、ナイトウスーツが生み出されなくても、
時代の成長を促がす起爆剤は必ず現れると思うよ。
だけどね、少なくともナイトウスーツさえ生まれなければ、
ここまで一気に死へと向かって成長してしまうことも、内藤がこんなに苦しむこともなかったんだ。
利己的かもしれないけれど、婚約者としてそばにいる内藤にはいつでもぼけっとした笑いを浮かべ続けてほしい。
自分勝手でごめんね。
さて、この物語はちゃんと時間の波を乗り越えて、五十年前の君たちへ手紙としてたどりつくんだろうか。
もちろん、私は内藤の発明品を信じているよ。
だからこそ、君たちもこの物語を信じて動いてほしい。
内藤のような悲しい発明家を、ナイトウスーツによって全てを奪われる人たちを、君たちの未来に作り出さないようにね。
これで私たちの時代が君たちの時代に贈るメッセージはおしまい。
後は君たちがどう受け取るかさ。
つたない文章で全てが伝わるとは思わないけど、私たちの思いが少しでも五十年前に届けばいいな。
そんなことを願いつつ、この手紙を締めようと思うよ。
ここまで読んでくれてありがとうね。
さようなら。
〈了〉
君がこの物語を読んで、どこで成長を邪魔できれば、ナイトウスーツが生み出されないか。
それは君の判断次第さ。
もちろん、ナイトウスーツが生み出されなくても、
時代の成長を促がす起爆剤は必ず現れると思うよ。
だけどね、少なくともナイトウスーツさえ生まれなければ、
ここまで一気に死へと向かって成長してしまうことも、内藤がこんなに苦しむこともなかったんだ。
利己的かもしれないけれど、婚約者としてそばにいる内藤にはいつでもぼけっとした笑いを浮かべ続けてほしい。
自分勝手でごめんね。
さて、この物語はちゃんと時間の波を乗り越えて、五十年前の君たちへ手紙としてたどりつくんだろうか。
もちろん、私は内藤の発明品を信じているよ。
だからこそ、君たちもこの物語を信じて動いてほしい。
内藤のような悲しい発明家を、ナイトウスーツによって全てを奪われる人たちを、君たちの未来に作り出さないようにね。
これで私たちの時代が君たちの時代に贈るメッセージはおしまい。
後は君たちがどう受け取るかさ。
つたない文章で全てが伝わるとは思わないけど、私たちの思いが少しでも五十年前に届けばいいな。
そんなことを願いつつ、この手紙を締めようと思うよ。
ここまで読んでくれてありがとうね。
さようなら。
〈了〉
67 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 20:02:51 ID:/WATA.D60
おつ
68 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 20:05:18 ID:vFUFsd.M0
乙
しかし画期的な発明って得てしてそういうもんなんだよな
しかし画期的な発明って得てしてそういうもんなんだよな
69 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 20:05:28 ID:bmBtNDrU0
面白かった
70 : ◆qvQN8eIyTE:2013/05/30(木) 20:15:17 ID:oRlV1SEE0
飯食ってた。
お久しぶりです。村人と呼ばれていたものです。
二年くらい前に一般で書いてたやつを改変して投下したのです。
反省も後悔もしている。
地の文多くてすまんかった。ばーかばーか!
お久しぶりです。村人と呼ばれていたものです。
二年くらい前に一般で書いてたやつを改変して投下したのです。
反省も後悔もしている。
地の文多くてすまんかった。ばーかばーか!
72 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 21:44:34 ID:koHvn3sc0
おつ
すごいおもしろい
発明はいいことばかりじゃないんだよな
すごいおもしろい
発明はいいことばかりじゃないんだよな
73 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 21:50:19 ID:2GfJ1Xyc0
乙
語り部が婚約者なのはうすうす勘付いてたけどずっと一緒にいたのは予想外だった
語り部が婚約者なのはうすうす勘付いてたけどずっと一緒にいたのは予想外だった
77 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 22:14:13 ID:Dn084ShEO
すっきりはしないけどおもしろかった
79 :名も無きAAのようです:2013/05/30(木) 23:32:16 ID:oYzWyOQE0
実話?
80 :名も無きAAのようです:2013/05/31(金) 02:44:05 ID:Lbhmv2eEO
懐かしのが来たなと思ったけど連載じゃないんだ
また、モチベ上がったときに何か書いてくれ
.
また、モチベ上がったときに何か書いてくれ
.
転載元
( ^ω^)ナイトウスーツのようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1369901725/