十六本目 かくれんぼのようです
- 2014/10/21
- 10:34
- ( ^ω^)百物語のようです2014( ω )
435 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:45:29 ID:W.S0rctk0
十六本目 かくれんぼのようです
.,、
(i,)
|_|
436 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:46:57 ID:W.S0rctk0
あれは、私が九歳の夏休みだった。
私の住んでいたS町は古い家が多く、私の祖母の家もその一つだった。
当時の流行であったというトタン張りの壁で、屋根には立派な鬼瓦が乗っていた。
普請好きの祖父が自ら間取りを決め、柱を伐ってきて建てたのだという。
もっとも祖母は「台所が動きにくい」と度々こぼしていたが。
437 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:49:05 ID:W.S0rctk0
私は放課後や休日になるとよく友達を連れて祖母の家に遊びに行った。
私の家がある住宅地からほど近い場所にあり、それでいて周りに自然が多く残っていたため、
遊びの種には事欠かなかったのである。
なにより、広くて部屋数も多いその家は、かくれんぼをするのに最適だった。
438 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:51:05 ID:W.S0rctk0
その日、私はプールの帰りに友達を誘って祖母の家に行った。
玄関で私達を迎えた祖母は、型の古い、小さな冷蔵庫からアイスキャンデーを出してくれた。
アイスキャンデーを舐めていると、祖母は
( ,'3 ) 「隣の畑行ってくるすけ、ちっと留守番しててくれや」
と言って、かごを持って家を出ていった。
私と友達は家の中だけで遊ぶということで、お気に入りのかくれんぼをすることにした。
同じ場所で何回も、よく飽きもせずやったものだと思う。
439 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:53:16 ID:W.S0rctk0
(゚、゚トソン 「じゃ、三十数えたらさがしてね」
友達が柱に額をつけて数え始めるのを見てから、私は廊下に出て足音をたてて台所に行く。
わざと足音を出して鬼を迷わせるのが、家の中でのかくれんぼの基本だ。
台所につくと、今度は足音を忍ばせて廊下に戻る。そのまま二階へ続く階段へ向かった。
本当は二階によその人を入れてはいけないのだが、祖母が留守にしている時などは
内緒で友達を二階に上げたりしていた。お転婆な子供だった。
440 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:55:06 ID:W.S0rctk0
階段をのぼりきると、暖かい空気がむわ、と体をつつむ。
二階にある部屋は三つ。母が使っていた部屋と叔父が使っていた部屋、つきあたりに物置がある。
私は全ての部屋の扉を開けた後、階段から一番近い母の部屋に入った。
この家で唯一床が板張りになっている部屋だ。扉を開けておいて、そのかげに座り込む。
友達はもう探し始める頃だろう。
しばらくぼんやりとしていた。雨戸が閉められた部屋は暗く、少し湿っぽい空気がこもっていた。
下からどたどたと廊下を歩き回る音がしている。
441 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:56:59 ID:W.S0rctk0
思うに私達は、長い廊下や広い座敷を好きなだけ走り回れる事が気に入っていたのだろう。
親に怒られることもない。木目の浮き出た床板、うす黄色に焼けた畳の目ははだしの足に心地よかった。
442 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:59:12 ID:W.S0rctk0
なんだかいつもより遅いな、と思った。
もう何回もかくれんぼをしているから、大抵の隠れ場所はわかっているはずなのに。
相変わらず足音はどたどたと家の中を探し回っている。
どたどた、どたどたどた。
(゚、゚トソン 「………?」
そこで私はおかしなことに気付いた。
443 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:01:15 ID:W.S0rctk0
足音の動きが妙に早い。部屋をちらりとのぞく程度の速さで家中を動き回っている。
それに、廊下でなければそんなに大きな音は出ないはずだ。
動き回る足音は私の右下から手前へ通り抜け、家の裏手、風呂場の方に大回りする。
どたどたどた。
そこは、
そこは家の外だ。
444 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:03:14 ID:W.S0rctk0
背中がざくざくと粟立った。
友達はあれに気付いていないのだろうか。いや、そもそも友達が下にいるのかどうかもわからない。
祖母はまだ帰ってこない。
どたどたどた、どたどたどたどた
445 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:05:52 ID:W.S0rctk0
足音は今や家中を止まることなく動き続けている。
音の調子が早い。叩きつける様な大きな足音。
私を探している。
⊂( 、 ;トソン
私はとうとう耐え切れなくなり、せめて開けたままの扉を閉めようと手を伸ばした。
扉に腕が触れる。
その時。
446 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:08:12 ID:W.S0rctk0
どがどがどがどがどがどがっ!!
ものすごい勢いで階段をのぼってくる音。全身が凍りつく。
足音はそのまま突き進み私のいる部屋へ――
ばぁん!!!
強烈な破裂音が響き、真っ暗になった。
447 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:10:35 ID:W.S0rctk0
母の部屋で縮こまっていた私を見つけたのは、友達ではなく祖母だった。
从;'ー'从 「とそちゃん全然見つかんないから、お外いっちゃったのかとおもったよ~」
外で私を探そうとしたところで祖母が帰ってきて、二階を見てみることになったらしい。
祖母には、見つからないようにずるをして二階に行き、そのまま寝てしまったと嘘をついた。
心配させてと叱られたが、むくれる気にはなれなかった。
どたどたという音が、床板のおそろしいほどの振動が、しばらく体に残っていた。
448 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:12:41 ID:W.S0rctk0
後で聞いたところ、友達は二階にも探しに行っていたらしい。
しかも、部屋の扉は閉まっていて、どこにも私はいなかったという。
最初は物置の奥の方に隠れていて、後から母の部屋に移ったのだと説明した。
友達は少々いぶかしんだものの納得してくれた。
私は結局、足音のことを誰にも話さなかった。
449 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:15:00 ID:W.S0rctk0
それからも私は祖母の家に行った。
怖くはあったが、同時に、何かを期待する気持ちもあったと思う。
しかし、何度行ってもあの日のようなことは起こらなかった。
もっとも、かくれんぼはできず二階にも行けなかったのだが。
ほどなくして両親が祖母を家に呼び、同居することとなった。
古い家は祖母の意向で貸に出され、玄関のガラス戸には鍵がかけられた。
それきり私はあの家に足を踏み入れていない。
450 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:17:38 ID:W.S0rctk0
そして、祖母が亡くなってから数年後、住宅地拡充のため、その家は取り壊された。
あの日からちょうど十年、私が十九歳の夏のことだった。
451 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:19:33 ID:W.S0rctk0
(
)
i フッ
|_|
452 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:22:16 ID:PuUC34mE0
十六本目 かくれんぼのようです
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(i,)
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436 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:46:57 ID:W.S0rctk0
あれは、私が九歳の夏休みだった。
私の住んでいたS町は古い家が多く、私の祖母の家もその一つだった。
当時の流行であったというトタン張りの壁で、屋根には立派な鬼瓦が乗っていた。
普請好きの祖父が自ら間取りを決め、柱を伐ってきて建てたのだという。
もっとも祖母は「台所が動きにくい」と度々こぼしていたが。
437 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:49:05 ID:W.S0rctk0
私は放課後や休日になるとよく友達を連れて祖母の家に遊びに行った。
私の家がある住宅地からほど近い場所にあり、それでいて周りに自然が多く残っていたため、
遊びの種には事欠かなかったのである。
なにより、広くて部屋数も多いその家は、かくれんぼをするのに最適だった。
438 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:51:05 ID:W.S0rctk0
その日、私はプールの帰りに友達を誘って祖母の家に行った。
玄関で私達を迎えた祖母は、型の古い、小さな冷蔵庫からアイスキャンデーを出してくれた。
アイスキャンデーを舐めていると、祖母は
( ,'3 ) 「隣の畑行ってくるすけ、ちっと留守番しててくれや」
と言って、かごを持って家を出ていった。
私と友達は家の中だけで遊ぶということで、お気に入りのかくれんぼをすることにした。
同じ場所で何回も、よく飽きもせずやったものだと思う。
439 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:53:16 ID:W.S0rctk0
(゚、゚トソン 「じゃ、三十数えたらさがしてね」
友達が柱に額をつけて数え始めるのを見てから、私は廊下に出て足音をたてて台所に行く。
わざと足音を出して鬼を迷わせるのが、家の中でのかくれんぼの基本だ。
台所につくと、今度は足音を忍ばせて廊下に戻る。そのまま二階へ続く階段へ向かった。
本当は二階によその人を入れてはいけないのだが、祖母が留守にしている時などは
内緒で友達を二階に上げたりしていた。お転婆な子供だった。
440 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:55:06 ID:W.S0rctk0
階段をのぼりきると、暖かい空気がむわ、と体をつつむ。
二階にある部屋は三つ。母が使っていた部屋と叔父が使っていた部屋、つきあたりに物置がある。
私は全ての部屋の扉を開けた後、階段から一番近い母の部屋に入った。
この家で唯一床が板張りになっている部屋だ。扉を開けておいて、そのかげに座り込む。
友達はもう探し始める頃だろう。
しばらくぼんやりとしていた。雨戸が閉められた部屋は暗く、少し湿っぽい空気がこもっていた。
下からどたどたと廊下を歩き回る音がしている。
441 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:56:59 ID:W.S0rctk0
思うに私達は、長い廊下や広い座敷を好きなだけ走り回れる事が気に入っていたのだろう。
親に怒られることもない。木目の浮き出た床板、うす黄色に焼けた畳の目ははだしの足に心地よかった。
442 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 19:59:12 ID:W.S0rctk0
なんだかいつもより遅いな、と思った。
もう何回もかくれんぼをしているから、大抵の隠れ場所はわかっているはずなのに。
相変わらず足音はどたどたと家の中を探し回っている。
どたどた、どたどたどた。
(゚、゚トソン 「………?」
そこで私はおかしなことに気付いた。
443 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:01:15 ID:W.S0rctk0
足音の動きが妙に早い。部屋をちらりとのぞく程度の速さで家中を動き回っている。
それに、廊下でなければそんなに大きな音は出ないはずだ。
動き回る足音は私の右下から手前へ通り抜け、家の裏手、風呂場の方に大回りする。
どたどたどた。
そこは、
そこは家の外だ。
444 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:03:14 ID:W.S0rctk0
背中がざくざくと粟立った。
友達はあれに気付いていないのだろうか。いや、そもそも友達が下にいるのかどうかもわからない。
祖母はまだ帰ってこない。
どたどたどた、どたどたどたどた
445 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:05:52 ID:W.S0rctk0
足音は今や家中を止まることなく動き続けている。
音の調子が早い。叩きつける様な大きな足音。
私を探している。
⊂( 、 ;トソン
私はとうとう耐え切れなくなり、せめて開けたままの扉を閉めようと手を伸ばした。
扉に腕が触れる。
その時。
446 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:08:12 ID:W.S0rctk0
どがどがどがどがどがどがっ!!
ものすごい勢いで階段をのぼってくる音。全身が凍りつく。
足音はそのまま突き進み私のいる部屋へ――
ばぁん!!!
強烈な破裂音が響き、真っ暗になった。
447 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:10:35 ID:W.S0rctk0
母の部屋で縮こまっていた私を見つけたのは、友達ではなく祖母だった。
从;'ー'从 「とそちゃん全然見つかんないから、お外いっちゃったのかとおもったよ~」
外で私を探そうとしたところで祖母が帰ってきて、二階を見てみることになったらしい。
祖母には、見つからないようにずるをして二階に行き、そのまま寝てしまったと嘘をついた。
心配させてと叱られたが、むくれる気にはなれなかった。
どたどたという音が、床板のおそろしいほどの振動が、しばらく体に残っていた。
448 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:12:41 ID:W.S0rctk0
後で聞いたところ、友達は二階にも探しに行っていたらしい。
しかも、部屋の扉は閉まっていて、どこにも私はいなかったという。
最初は物置の奥の方に隠れていて、後から母の部屋に移ったのだと説明した。
友達は少々いぶかしんだものの納得してくれた。
私は結局、足音のことを誰にも話さなかった。
449 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:15:00 ID:W.S0rctk0
それからも私は祖母の家に行った。
怖くはあったが、同時に、何かを期待する気持ちもあったと思う。
しかし、何度行ってもあの日のようなことは起こらなかった。
もっとも、かくれんぼはできず二階にも行けなかったのだが。
ほどなくして両親が祖母を家に呼び、同居することとなった。
古い家は祖母の意向で貸に出され、玄関のガラス戸には鍵がかけられた。
それきり私はあの家に足を踏み入れていない。
450 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:17:38 ID:W.S0rctk0
そして、祖母が亡くなってから数年後、住宅地拡充のため、その家は取り壊された。
あの日からちょうど十年、私が十九歳の夏のことだった。
451 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:19:33 ID:W.S0rctk0
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452 :名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 20:22:16 ID:PuUC34mE0
乙
本怖的な後味だな
本怖的な後味だな