ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです 第18話
- 2014/07/10
- 13:09
- ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
362 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:35:20 ID:bIh5c29w0
363 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:36:59 ID:bIh5c29w0
向かった先はダイニングバーだった。
初めて来るはずなのだが、店の名前にはなんだか見覚えがある。
从 ゚∀从「ちょっと前にバイト先の先輩に連れてきてもらったんだ。飯もうまいけど酒も充実してんぞ」
そう言って扉を開けるとすぐ、『おーハインさん!』という声が飛び込んできた。
.
364 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:38:21 ID:bIh5c29w0
('A`)「お疲れっす。また寄ってくれたんすね」
長い一枚板のカウンターの向こうに立つ、背の高い青年がハインを見かけるなり挨拶してきた。
細身で貧相な体つきはやや不健康そうにも見えるが、決して愛想がないわけでもない。
気怠そうに見えるのは地顔だろうか、そんな彼にもツンは見覚えがあった。
('A`)「あ、ツンさんですよね。お久しぶりですー。覚えてます?」
いつだか、ブーンにも同じことを聞かれた気がする。
紛れもなく、そのブーンと初めて出会った現場にもいた、あの冴えない印象の青年だった。
365 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:40:04 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「……うん。久しぶり。名前は覚えてないけど」
(;'A`)「いやちょっとひどいっすよー。ドクオです、欝田ドクオ!」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん」
(;-A-)「興味なしっすかそーですか」
なんだかんだ言い合いながら、二人はカウンター席に座った。
.
366 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:47:09 ID:bIh5c29w0
ハインが以前、バイト先の先輩に連れて来られたというこの店で、彼に再会したのはほんとに偶然だったそうだ。
このドクオという青年は、この店のバーテンダーらしいのだが、オーセンティックな印象のそれとはまた違った、カジュアルなスタッフである。
はっきり言って、彼はあまり垢抜けてるようには見えない。
バーテンダーという職種も、単にモテたいからという邪な動機さえ孕んでるような気がする。
しかし、カウンター席に座る客と時々馬鹿笑いしながらも、作業してる様は決して手を抜いてるようには見えず
客に囃し立てられている姿も、いわゆる『弄られキャラ』として認知され、確立されてるものなのだろう。あながち向いてない職種でもないらしい。
367 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:49:09 ID:bIh5c29w0
('A`)「お二方、何飲みます?」
ドクオはツンとハインの前に立って聞いた。
その繰り返されてきたであろう何気ない所作が、いかにもバーテンダーらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「ラフロイグ。ロックで」
('A`)「渋いなぁ…ハインさんは?」
从 ゚∀从「んー…じゃあモスコミュールで」
('A`)「了解っす。……あ、そうだ」
何か思い出したように、ドクオは自分の背にある厨房に顔を向けた。
.
368 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:51:14 ID:bIh5c29w0
('A`)「ブーン!ツンさんとハインさん来てんぞー」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」
ツンは驚いて顔を上げた。
.
369 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:52:34 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)
そうだ。店の名前に見覚えがあったのも、ブーンにもらった名刺に記載されていたそれだった。
( ^ω^)「……おー。二人ともいらっしゃいだお」
(;'A`)(…………あれ?)
从 ゚∀从「そうそう。こいつも飲み会で会ったの覚えてるか?内藤っていって何故かみんなからはブーンって呼ばれ………」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
从;゚∀从(…………あれ?)
.
370 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:55:09 ID:bIh5c29w0
ドクオはドクオで、珍しくブーンがなんとなく言葉を詰まらせたことに気づき、ハインはハインでツンのその硬直した表情に気づいて、なんだか気まずい空気が流れた。
それはもはや、あれ?お二人知り合いだったの?などと聞くのも、なんだか無粋だと思わせるほどだった。
いや、もちろんブーンとツン、お互いに面識ぐらいはあることは知っているのだが
初めて会ったあの場所での、会話らしい会話をしてない間柄としか、ドクオもハインも認識してなかったので、よもやそれ以上の交流があるとなどまるで思ってなかったのだ。
371 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:58:53 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「…久しぶり」
意外にも、沈黙を破ったのはツンだった。
( ^ω^)「…久しぶりだおツンさん」
そしてブーンもまた、ツンがそうであるように、なんだか見てはいけないものを見てしまったような表情のドクオとハインに気づいていた。
.
372 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:00:20 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「二人ともお腹空いてるかお?もし食べれるようなら"ブーンのオススメ"作ってくるお!」
ブーンは、いつもの柔和な笑顔で聞いた。
そんな人の緊張を解す笑顔が、10年先も変わらないことを、ツンは知っている。
从;゚∀从「お、おぅそうだな!特にツンは最近ろくなもの食べてなさそうだから頼むわ!」
おっおっ、合点承知だおー!と、あの一瞬張り詰めた空気はなんだったのかと思わせる、底抜けに明るい返事で厨房に引っ込んでいった。
.
373 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:02:13 ID:bIh5c29w0
ブーンが提供したオススメは、牛ほほ肉を使った料理だった。
赤ワインとハーブに漬け込み、真空保存して一晩寝かせた肉を、赤ワイン、ポートワイン、マルサラ酒などで四時間ほど煮込み、それを更に蒸して仕上げたというなかなか手の込んだ一皿だ。
ツンとハイン、一人に一皿ずつ少なめのポーションで盛られたそれは、もともと一皿だった料理をわざわざ取り分けてくれた様が窺えた。
お通しで出されたほうれん草のキッシュも美味しかったのだが、それはドクオが趣味半分で作ったものらしい。
とはいえ、店の全料理を取り仕切るブーンの手が回らないときは、手がかからなくても大量生産が求められるお通しなんかの仕込みを時々手伝うことがあるというドクオの意外な手腕も馬鹿にはできないと思ったが
その後に出された牛ほほ肉は、さすがプロフェッショナルと言わざるを得ない。
.
374 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:04:20 ID:bIh5c29w0
从*゚∀从「んまい!すげぇなブーン!」
ξ*゚⊿゚)ξ「本当だ!肉やらかーい!」
普段滅多なことでは声のトーンも上げない女性二人も、この時ばかりは感嘆した。
( ^ω^)「おっおっ。喜んでもらえて何よりだお!」
そう言ってブーンは、呼ばれた客のもとへ向かった。
このブーンの腕もあってか、店はなかなか繁盛しているようだ。
375 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:05:41 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「ちょっとは元気になったか?」
ひとしきり食べると、ハインはツンを覗き込んだ。
前回会った時の、ツンのあまりの覇気のなさを気にかけたのも、今日この場に誘った理由の一つだった。
ξ゚⊿゚)ξ「まぁね」
いつも通りの口調のようだが、美味しい料理と好きな酒を堪能しながらのその一言は、満足感を含んだような色づきがされてるように聞こえた。
376 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:06:51 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「仕事、つまんねぇのか?」
ツンがかつて切望してた仕事から追放され、今の職務に位置づけされた経緯も知っていたし、それが本人にとって本意ではないこともわかってるつもりだが
所詮、違う職種の自分には理解しきれない世界だとも思っていた。
そんなハインが仕事の話に切り込んでいくなど、珍しいことだった。
しかしそうせずにはいられないほど、あの時見たツンの生気抜かれたような姿もまた、腐れ縁のハインさえなかなか見る姿ではなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…それもあるけど、いろいろうまくいかなくてさ…」
从 ゚∀从「そっか…彼氏とか?」
ξ゚⊿゚)ξ「あー……うん、別れた」
.
377 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:08:17 ID:bIh5c29w0
人に初めて漏らした。
そうやってピンポイントで聞かれないと、自分からはいつまでも切り出さなかっただろう。
できれば、回避したかった。
でもそれは、本当に意味のある抵抗だったのだろうか?
ジョルジュとの別れを回避することは、本当に自分の死の回避に繋がったのだろうか?
最近、そう思い始めてた。
同じ理由で、ブーンを突き放したことにも意味はあったのだろうかとも思う。
.
378 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:09:32 ID:bIh5c29w0
なんて浅はかだったのだろう。
自分に来るべき障害をいくら避けようとしても、人の人生は自分の知らないところで廻り続けてるのだ。
ジョルジュだってそうだ。
ツンの知らないところでは、他の女性と親密になるきっかけがあり、それに至る相応の縁があった。
そこにいくらアンチテーゼを主張しても、覆りようがないのだ。
簡単に誰かが割って入れるものじゃない。人と人が繋がるということが、得てしてそういうものなのだとしたら
あんな理不尽な理由で突き放したにも関わらず、こうも巡り合わされる機会に恵まれた、ブーンの方がよほど縁があるように思える。
.
379 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:10:52 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「…そっか」
ツンの一言で、ハインは彼女が生気ない理由を理解した気になった。
今現在はそれも要因の一つではあるが、肝心要のあの夢の話までは、できるわけがないのでそれを肯定するかのように黙り込んだ。
それ以上、尤もらしい原因が説明できなかったに過ぎないのが本音ではあるが。
.
380 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:12:09 ID:bIh5c29w0
从#゚∀从「おいブーン!男紹介してやれよ男!」
多少酔いもあるのか、ハインにしてはデリカシーに欠ける声だった。
伊達にバールのようなものを振り回してた学生時代を過ごしてない女の、本気の凄みだった。
(;^ω^)「え!?唐突に僕!?」
脈絡なく怒鳴られたブーンも、その剣幕に怖じけづく。
かと思えば、急に何かを思い出したようにブーンは二人の前に近づいた。
.
381 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:14:35 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「時にツンさん。絵を描くのは得意かお?」
唐突だが、今更な質問のように思えてツンはキョトンとした。
ξ゚⊿゚)ξ「…どうかな。一応美術部だったけど人並みじゃ…」
从 ゚∀从「そうだな。こいつは彫刻専門だから絵心に関してはミセリ以上ブーン未満ってとこじゃね?」
何故ミセリを引け合いに出すのだろうか。
空気が読めるのか読めないのか、よくわからない友人である。
382 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:16:26 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン未満って?」
从 ゚∀从「あれ?気がつかなかったか?」
ハインに指さされた壁には、あまり主張しないサイズの絵が飾られていた。
薄暗い店内では気づかなかったが、店の外観が描かれたその絵は一見写真と見間違えるほどのリアリティなタッチで
セピアを思わせる色彩は、限られた色しか使ってないはずなのにちゃんと被写体一つ一つの色が伝わる、スキルなしでは描けない一枚だった。
よく見ると、それだけでなくカウンターの所々に並べられたフォトスタンドに入ってるのは、料理の絵だった。
全体的に暖色ベースのそれらは、料理の湯気まで伝わるようで、写真よりも食欲が刺激されるようだった。
.
383 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:19:20 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「…本当だ。すごい」
その一言しか出なかった。
本当はもっと、ツンしか気づかないような目敏さでディテールを誉めてあげたいのに。
( ^ω^)「この前見せてもらった風景画に、ちょっと触発されたんだお」
いつか一緒に見た、あの絵画。
あれがあったからこそ、セピアの店の絵ができたのだとブーンは言う。
.
384 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:20:56 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「…それはともかく、美術部にいたならそれはそれで都合が良いお」
二人の間に、一体何が起きたんだと不思議そうな顔をするハインに気がついて、ブーンは話を戻した。
( ^ω^)「ツンさん、折り入ってお願いがあるんだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「お願い?」
怪訝そうな顔をするツンに、何事か説明しようとした刹那、料理のオーダーが入ったというドクオの声がブーンに飛び込んできた。
385 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:22:08 ID:bIh5c29w0
(;^ω^)「…あー、もう、しょうがないお」
説明する時間が奪われたブーンは、手元にあるメモ用紙にサラサラと何か書き込んでツンに渡した。
(;^ω^)「僕の連絡先だお。詳しく説明したいからそこにツンさんの連絡先送っておいてほしいお!」
それだけ言うと、慌てて厨房に戻って行った。
386 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:24:04 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ブーンの連絡先を受け取ったツンは、一瞬どうするべきか迷ったが
突き放しても結局こうやって繋がりが出来てしまう縁に、抗えないことを確信した。
ξ゚ー゚)ξ「………」
しかし何故か、それに心弛している自分にも気がついた。
.
388 : 名も無きAAのようです :2013/08/21(水) 19:27:38 ID:7zKoUzsY0
391 : 名も無きAAのようです :2013/08/22(木) 16:02:41 ID:0xtdkcbk0
◆第18話◆
XX24年 T月
从 ゚∀从「…なんかまた脱魂してねぇか?」
待ち合わせ場所に到着したハインの、開口一番がそれだった。
ξ゚⊿゚)ξ「そうかな」
从 ゚∀从「明らかにそうだろ。とりあえずなんか食えって」
そう言ってハインはツンの腕を引いて歩き出した。
.
XX24年 T月
从 ゚∀从「…なんかまた脱魂してねぇか?」
待ち合わせ場所に到着したハインの、開口一番がそれだった。
ξ゚⊿゚)ξ「そうかな」
从 ゚∀从「明らかにそうだろ。とりあえずなんか食えって」
そう言ってハインはツンの腕を引いて歩き出した。
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363 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:36:59 ID:bIh5c29w0
向かった先はダイニングバーだった。
初めて来るはずなのだが、店の名前にはなんだか見覚えがある。
从 ゚∀从「ちょっと前にバイト先の先輩に連れてきてもらったんだ。飯もうまいけど酒も充実してんぞ」
そう言って扉を開けるとすぐ、『おーハインさん!』という声が飛び込んできた。
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364 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:38:21 ID:bIh5c29w0
('A`)「お疲れっす。また寄ってくれたんすね」
長い一枚板のカウンターの向こうに立つ、背の高い青年がハインを見かけるなり挨拶してきた。
細身で貧相な体つきはやや不健康そうにも見えるが、決して愛想がないわけでもない。
気怠そうに見えるのは地顔だろうか、そんな彼にもツンは見覚えがあった。
('A`)「あ、ツンさんですよね。お久しぶりですー。覚えてます?」
いつだか、ブーンにも同じことを聞かれた気がする。
紛れもなく、そのブーンと初めて出会った現場にもいた、あの冴えない印象の青年だった。
365 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:40:04 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「……うん。久しぶり。名前は覚えてないけど」
(;'A`)「いやちょっとひどいっすよー。ドクオです、欝田ドクオ!」
ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん」
(;-A-)「興味なしっすかそーですか」
なんだかんだ言い合いながら、二人はカウンター席に座った。
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366 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:47:09 ID:bIh5c29w0
ハインが以前、バイト先の先輩に連れて来られたというこの店で、彼に再会したのはほんとに偶然だったそうだ。
このドクオという青年は、この店のバーテンダーらしいのだが、オーセンティックな印象のそれとはまた違った、カジュアルなスタッフである。
はっきり言って、彼はあまり垢抜けてるようには見えない。
バーテンダーという職種も、単にモテたいからという邪な動機さえ孕んでるような気がする。
しかし、カウンター席に座る客と時々馬鹿笑いしながらも、作業してる様は決して手を抜いてるようには見えず
客に囃し立てられている姿も、いわゆる『弄られキャラ』として認知され、確立されてるものなのだろう。あながち向いてない職種でもないらしい。
367 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:49:09 ID:bIh5c29w0
('A`)「お二方、何飲みます?」
ドクオはツンとハインの前に立って聞いた。
その繰り返されてきたであろう何気ない所作が、いかにもバーテンダーらしい。
ξ゚⊿゚)ξ「ラフロイグ。ロックで」
('A`)「渋いなぁ…ハインさんは?」
从 ゚∀从「んー…じゃあモスコミュールで」
('A`)「了解っす。……あ、そうだ」
何か思い出したように、ドクオは自分の背にある厨房に顔を向けた。
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368 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:51:14 ID:bIh5c29w0
('A`)「ブーン!ツンさんとハインさん来てんぞー」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」
ツンは驚いて顔を上げた。
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369 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:52:34 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)
そうだ。店の名前に見覚えがあったのも、ブーンにもらった名刺に記載されていたそれだった。
( ^ω^)「……おー。二人ともいらっしゃいだお」
(;'A`)(…………あれ?)
从 ゚∀从「そうそう。こいつも飲み会で会ったの覚えてるか?内藤っていって何故かみんなからはブーンって呼ばれ………」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
从;゚∀从(…………あれ?)
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370 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:55:09 ID:bIh5c29w0
ドクオはドクオで、珍しくブーンがなんとなく言葉を詰まらせたことに気づき、ハインはハインでツンのその硬直した表情に気づいて、なんだか気まずい空気が流れた。
それはもはや、あれ?お二人知り合いだったの?などと聞くのも、なんだか無粋だと思わせるほどだった。
いや、もちろんブーンとツン、お互いに面識ぐらいはあることは知っているのだが
初めて会ったあの場所での、会話らしい会話をしてない間柄としか、ドクオもハインも認識してなかったので、よもやそれ以上の交流があるとなどまるで思ってなかったのだ。
371 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 13:58:53 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「…久しぶり」
意外にも、沈黙を破ったのはツンだった。
( ^ω^)「…久しぶりだおツンさん」
そしてブーンもまた、ツンがそうであるように、なんだか見てはいけないものを見てしまったような表情のドクオとハインに気づいていた。
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372 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:00:20 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「二人ともお腹空いてるかお?もし食べれるようなら"ブーンのオススメ"作ってくるお!」
ブーンは、いつもの柔和な笑顔で聞いた。
そんな人の緊張を解す笑顔が、10年先も変わらないことを、ツンは知っている。
从;゚∀从「お、おぅそうだな!特にツンは最近ろくなもの食べてなさそうだから頼むわ!」
おっおっ、合点承知だおー!と、あの一瞬張り詰めた空気はなんだったのかと思わせる、底抜けに明るい返事で厨房に引っ込んでいった。
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373 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:02:13 ID:bIh5c29w0
ブーンが提供したオススメは、牛ほほ肉を使った料理だった。
赤ワインとハーブに漬け込み、真空保存して一晩寝かせた肉を、赤ワイン、ポートワイン、マルサラ酒などで四時間ほど煮込み、それを更に蒸して仕上げたというなかなか手の込んだ一皿だ。
ツンとハイン、一人に一皿ずつ少なめのポーションで盛られたそれは、もともと一皿だった料理をわざわざ取り分けてくれた様が窺えた。
お通しで出されたほうれん草のキッシュも美味しかったのだが、それはドクオが趣味半分で作ったものらしい。
とはいえ、店の全料理を取り仕切るブーンの手が回らないときは、手がかからなくても大量生産が求められるお通しなんかの仕込みを時々手伝うことがあるというドクオの意外な手腕も馬鹿にはできないと思ったが
その後に出された牛ほほ肉は、さすがプロフェッショナルと言わざるを得ない。
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374 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:04:20 ID:bIh5c29w0
从*゚∀从「んまい!すげぇなブーン!」
ξ*゚⊿゚)ξ「本当だ!肉やらかーい!」
普段滅多なことでは声のトーンも上げない女性二人も、この時ばかりは感嘆した。
( ^ω^)「おっおっ。喜んでもらえて何よりだお!」
そう言ってブーンは、呼ばれた客のもとへ向かった。
このブーンの腕もあってか、店はなかなか繁盛しているようだ。
375 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:05:41 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「ちょっとは元気になったか?」
ひとしきり食べると、ハインはツンを覗き込んだ。
前回会った時の、ツンのあまりの覇気のなさを気にかけたのも、今日この場に誘った理由の一つだった。
ξ゚⊿゚)ξ「まぁね」
いつも通りの口調のようだが、美味しい料理と好きな酒を堪能しながらのその一言は、満足感を含んだような色づきがされてるように聞こえた。
376 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:06:51 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「仕事、つまんねぇのか?」
ツンがかつて切望してた仕事から追放され、今の職務に位置づけされた経緯も知っていたし、それが本人にとって本意ではないこともわかってるつもりだが
所詮、違う職種の自分には理解しきれない世界だとも思っていた。
そんなハインが仕事の話に切り込んでいくなど、珍しいことだった。
しかしそうせずにはいられないほど、あの時見たツンの生気抜かれたような姿もまた、腐れ縁のハインさえなかなか見る姿ではなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…それもあるけど、いろいろうまくいかなくてさ…」
从 ゚∀从「そっか…彼氏とか?」
ξ゚⊿゚)ξ「あー……うん、別れた」
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377 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:08:17 ID:bIh5c29w0
人に初めて漏らした。
そうやってピンポイントで聞かれないと、自分からはいつまでも切り出さなかっただろう。
できれば、回避したかった。
でもそれは、本当に意味のある抵抗だったのだろうか?
ジョルジュとの別れを回避することは、本当に自分の死の回避に繋がったのだろうか?
最近、そう思い始めてた。
同じ理由で、ブーンを突き放したことにも意味はあったのだろうかとも思う。
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378 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:09:32 ID:bIh5c29w0
なんて浅はかだったのだろう。
自分に来るべき障害をいくら避けようとしても、人の人生は自分の知らないところで廻り続けてるのだ。
ジョルジュだってそうだ。
ツンの知らないところでは、他の女性と親密になるきっかけがあり、それに至る相応の縁があった。
そこにいくらアンチテーゼを主張しても、覆りようがないのだ。
簡単に誰かが割って入れるものじゃない。人と人が繋がるということが、得てしてそういうものなのだとしたら
あんな理不尽な理由で突き放したにも関わらず、こうも巡り合わされる機会に恵まれた、ブーンの方がよほど縁があるように思える。
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379 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:10:52 ID:bIh5c29w0
从 ゚∀从「…そっか」
ツンの一言で、ハインは彼女が生気ない理由を理解した気になった。
今現在はそれも要因の一つではあるが、肝心要のあの夢の話までは、できるわけがないのでそれを肯定するかのように黙り込んだ。
それ以上、尤もらしい原因が説明できなかったに過ぎないのが本音ではあるが。
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380 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:12:09 ID:bIh5c29w0
从#゚∀从「おいブーン!男紹介してやれよ男!」
多少酔いもあるのか、ハインにしてはデリカシーに欠ける声だった。
伊達にバールのようなものを振り回してた学生時代を過ごしてない女の、本気の凄みだった。
(;^ω^)「え!?唐突に僕!?」
脈絡なく怒鳴られたブーンも、その剣幕に怖じけづく。
かと思えば、急に何かを思い出したようにブーンは二人の前に近づいた。
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381 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:14:35 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「時にツンさん。絵を描くのは得意かお?」
唐突だが、今更な質問のように思えてツンはキョトンとした。
ξ゚⊿゚)ξ「…どうかな。一応美術部だったけど人並みじゃ…」
从 ゚∀从「そうだな。こいつは彫刻専門だから絵心に関してはミセリ以上ブーン未満ってとこじゃね?」
何故ミセリを引け合いに出すのだろうか。
空気が読めるのか読めないのか、よくわからない友人である。
382 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:16:26 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン未満って?」
从 ゚∀从「あれ?気がつかなかったか?」
ハインに指さされた壁には、あまり主張しないサイズの絵が飾られていた。
薄暗い店内では気づかなかったが、店の外観が描かれたその絵は一見写真と見間違えるほどのリアリティなタッチで
セピアを思わせる色彩は、限られた色しか使ってないはずなのにちゃんと被写体一つ一つの色が伝わる、スキルなしでは描けない一枚だった。
よく見ると、それだけでなくカウンターの所々に並べられたフォトスタンドに入ってるのは、料理の絵だった。
全体的に暖色ベースのそれらは、料理の湯気まで伝わるようで、写真よりも食欲が刺激されるようだった。
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383 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:19:20 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「…本当だ。すごい」
その一言しか出なかった。
本当はもっと、ツンしか気づかないような目敏さでディテールを誉めてあげたいのに。
( ^ω^)「この前見せてもらった風景画に、ちょっと触発されたんだお」
いつか一緒に見た、あの絵画。
あれがあったからこそ、セピアの店の絵ができたのだとブーンは言う。
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384 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:20:56 ID:bIh5c29w0
( ^ω^)「…それはともかく、美術部にいたならそれはそれで都合が良いお」
二人の間に、一体何が起きたんだと不思議そうな顔をするハインに気がついて、ブーンは話を戻した。
( ^ω^)「ツンさん、折り入ってお願いがあるんだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「お願い?」
怪訝そうな顔をするツンに、何事か説明しようとした刹那、料理のオーダーが入ったというドクオの声がブーンに飛び込んできた。
385 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:22:08 ID:bIh5c29w0
(;^ω^)「…あー、もう、しょうがないお」
説明する時間が奪われたブーンは、手元にあるメモ用紙にサラサラと何か書き込んでツンに渡した。
(;^ω^)「僕の連絡先だお。詳しく説明したいからそこにツンさんの連絡先送っておいてほしいお!」
それだけ言うと、慌てて厨房に戻って行った。
386 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/21(水) 14:24:04 ID:bIh5c29w0
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ブーンの連絡先を受け取ったツンは、一瞬どうするべきか迷ったが
突き放しても結局こうやって繋がりが出来てしまう縁に、抗えないことを確信した。
ξ゚ー゚)ξ「………」
しかし何故か、それに心弛している自分にも気がついた。
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388 : 名も無きAAのようです :2013/08/21(水) 19:27:38 ID:7zKoUzsY0
乙
過去のツンと同じで未来は変わらないのかな
過去のツンと同じで未来は変わらないのかな
391 : 名も無きAAのようです :2013/08/22(木) 16:02:41 ID:0xtdkcbk0
これを見るのが最近の楽しみ