ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです 第22話
- 2014/07/13
- 06:37
- ξ゚⊿゚)ξは夢を見るようです
465 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:13:09 ID:rwN06UWc0
466 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:15:02 ID:rwN06UWc0
467 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:16:15 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「えっと…こちらハインリッヒ高岡。見た目通りの元ヤンだけど取って食われはしないから安心して」
(゚、゚;トソン「元ヤン……」
从 ゚∀从「おい、初めて会う子にそういう洗脳はやめなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「で、こちらが職場の後輩で都村トソンちゃん。美大生でシルクの道具貸してくれたの」
从 ゚∀从「スルーが軽快すぎるだろ」
そういう荒っぽい言葉遣いもさることながら、ハインのその見た目の派手さに気圧される人は少なくない。
赤みがかった髪色や、鼻筋の通ったハーフのような顔つきは、決して下品な印象を与える派手さではないのだが
スレンダーだが女性にしては高い身長も、小柄なトソンには威圧感を与えてしまうだろう。
468 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:17:47 ID:rwN06UWc0
キュートが一見親しみやすい愛玩動物に例えられるなら、ハインは雌豹なのだ。
遠くから見てる分には美しいのだが、その猛威を孕んだような鋭い目に見られてしまうと、あまり近づきたいとは思えない。
美人なわりにこうも見た目で損をしてるタイプも、ハインの他に類を見ないだろう。
ちなみに昔、それを本人に言ったところ『それを言うならツンは雌鹿だな』と言われたことがある。
それがどういう理屈なのかは、いまだにわからない。
从 ゚∀从「トソンちゃんか。よろしくね。このたびはツンがお世話になったようで」
しかし、相手が引き気味なことにも気づいていながら、構わず気さくに話し掛けることができるのが、ハインの救いでもあった。
469 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:19:11 ID:rwN06UWc0
470 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:20:44 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、この子がシルクの道具貸してくれたの」
(゚、゚トソン「都村です。初めまして…」
(*^ω^)「お!君がトソンちゃんかお!おかげで良い記念品が作れたおー!」
そう言ってるブーンは既に、完成されたTシャツを着ていた。
今日のスタッフは全員記念Tシャツ着用が義務付けられているのだろうか、一日限りのユニフォームと化している。
来客も既に何人か記念Tシャツを着てる人がちらほらいて、売れ行きは好調なようだった。
471 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:21:49 ID:rwN06UWc0
(゚、゚*トソン「素敵なデザインですね。これはツン先輩が?」
ξ゚⊿゚)ξ「いえ、デザインしたのはそこのコックのお兄さんよ。あたしはただシルクの手伝いしただけ」
(*^ω^)「でもおかげで本当に助かったんだお!未経験の野郎だけじゃ何人いても確実に終わらなかったお!」
(゚、゚*トソン「そういうことだったんですね」
芸術家魂が疼いたのか、トソンはTシャツのデザインを食い入るように見つめる。
ひたすらに胸元を見つめ続けられたブーンは、ちょっと困惑しながらもそうそう、とまだビニールのフィルムに梱包されたままのTシャツを三人に渡した。
472 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:22:51 ID:rwN06UWc0
(*^ω^)「よかったら、持って帰ってくれお!なんだったら今すぐ着替えてくれてもいいお!」
それを受け取ったトソンは、ツンとハインに一着ずつ配った。
(゚、゚*トソン「ありがとうございます!」
そのデザインがお気に召したのか、トソンの目は心底嬉しそうに輝いていた。
.
473 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:23:52 ID:rwN06UWc0
从;゚∀从「今にも着替え出しそうな勢いだねトソンちゃん。なんか意外…」
トソンのそんな姿にタジタジになるハインのほうが、よほど意外である。
(゚、゚*トソン「そうですねーどうしましょう?お二方、どうします?」
もはやその『どうします?』は、『一緒に着替えましょう!』と言われてるようにしか聞こえなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…まぁ、記念品なんてその日一日しかありがたみがないんだから、パジャマにする前に着てあげるのもいいかもね」
一人は半ば道連れにして、無理矢理満場一致にした一行は、ノリに身を任せる運びとなり交代でトイレに篭る羽目となった。
.
474 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:25:18 ID:rwN06UWc0
黒地に赤色でデザイン画が印刷されたTシャツは、着る人を選ばず無難な配色だったようだ。
クラッシュ加工されたデニムのショートパンツが似合うハインはもちろん、シフォン生地で花柄のミニスカートで決めてきたトソンの奥床しさを、極端に損なうこともなかった。
たまにスタッフと間違えられるのには困ったが、それもご愛嬌ということで特に迷惑がってもいないらしいトソンやハインの姿には、微笑ましささえ感じる。
475 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:26:10 ID:rwN06UWc0
多少お酒も入ったことだし、もう二人の間に入らなくても気まずくなることはないだろうと踏んだツンは、二人に断って外の風に当たりに行った。
ξ;゚⊿゚)ξ==3フゥ
盛り上がりも好調なパーティーは確かに楽しいが、店内に詰め込まれたキャパオーバーな人出と熱気が少々窮屈になってきた頃だった。
多少酔いもあり、体も火照ってきたところで澄んだ夜風に当たると、気持ちが洗われるようだ。
476 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:27:34 ID:rwN06UWc0
久しぶりに、一つの空間を作り上げる現場に立ち会った。
自分がしたことは本当に微々たるものかもしれないが、小さな要素が一つ欠けただけで、その空間の仕上がりにどれだけ反映されるかを、ツンは知っている。
だからこそ、今回は胸を張れる仕事ができたと素直に思えるし
ただちょっと器用なだけで、昔美術部にいただけで、何も持っていない自分をそれでも必要としてくれたブーンやドクオには、感謝しなければと思ってる。
.
477 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:29:34 ID:rwN06UWc0
( ^ω^)「お、飲み過ぎちゃったかお?」
背後から、ブーンの声がした。
ξ゚⊿゚)ξ「ううん。でもちょっと外に出たい気分だったの」
ツンは振り向きもせず、夜空を仰いだまま答える。
.
478 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:30:21 ID:rwN06UWc0
( ^ω^)「そうかお。でもさすがにTシャツ一枚じゃ寒いお」
そう言って、自身が来てるTシャツの上に羽織ってた厚手のワイシャツを、ツンの肩に乗せた。
(;^ω^)「あ、いや…外出てくる前に羽織ったばっかりだから、べつに汗とかはかいてないから心配しなくていいお」
何も言ってないのに勝手にあたふたし始めたブーンに、ツンも吹き出す。
その『何も言ってない』時間が、彼にとってはそんなに長い時間に思えたのだろうか。
ξ゚ー゚)ξ「べつに心配してないよ。ありがと」
そう言ってツンは、その長すぎる袖に腕を通した。
479 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:31:49 ID:rwN06UWc0
思えば『あの時』以来、まともに二人きりになったことなどなかった。
ハインにこの店に連れてきてもらった時、気まずさを顔に出さずにいてくれたのは、仕事中だったからなのかと思っていたが
しかしこうして個人的に頼み事をされ、惰性で何事もなかったかのような、ぬるま湯に浸かった雰囲気に委ねてしまったので
あの時はなんて理不尽なことを言ってしまったのだろうと、悔やむ気持ちはあってもそれをなかなか言い出せずにいた。
480 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:32:56 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、あのね…」
今がその時だ。と何かに煽られてる気がした。
しかし同時に、それを口に出したらもう後戻りはできない。そんな終局での決断を迫られてるような気分だった。
.
481 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:34:09 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ずっと謝ろうと思ってたんだけど…この前、美術館に来てくれた時のこと」
( ^ω^)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしあの時、自分のことしか考えてなくて…本当に浅はかだった」
ξ゚⊿゚)ξ「ひどいこと言って、ごめんなさい…」
( ^ω^)「…もういいお。気にしてないお」
普段飄々としてるツンが、僅かながらも自分の胸のうちを打ち明けることなんて、あまりない。
ジョルジュと付き合ってた頃でさえ、彼に寂しいとか心細いとか、何をどうしてほしいかなんて滅多に言わなかった。
そんなツンが、人に『ごめんなさい』などと言ったことなど、いつぶりだっただろうか。
.
482 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:35:47 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「あたし、ブーンが来てくれて、迷惑だと思ったことなんて一度もないよ」
ξ゚⊿゚)ξ「なのにあの時は、そうしなきゃって…それが正しいんだって片意地張ってて…」
ξ゚⊿゚)ξ「なのにこういう場に呼んでくれて…あたしを頼ってくれて…」
ξ゚⊿゚)ξ「…あたしももう、どうしていいかわかんなくて…」
( ^ω^)「………?」
.
483 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:37:59 ID:rwN06UWc0
馬鹿正直で直情そうに見えて、人が言ったことはちゃんと受け止める寛容さは持っていて
不器用そうに見えて、内に秘めた芯はしっかりしていて
話してるといつも調子が狂わされて、いつの間にか彼のペースに嵌まってしまって
( ^ω^)
そんな彼に、たまらなく惹かれてしまうこの情動を、一度自ら手放しておきながら、今更なんと言えばいいのだろうか。
.
484 : 名も無きAAのようです :2013/08/24(土) 14:51:31 ID:wV7J6c2.0
485 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:00:02 ID:U3e.BJL60
ξ゚⊿゚)ξ「…このままじゃ、ダメだと思ってたの」
ξ゚⊿゚)ξ「うまく説明できないけど、とにかく流されちゃダメだって思ってたの」
ξ゚⊿゚)ξ「……でも、うまくいかなかった」
ξ⊿)ξ「どうしても、抑えられないの…あたし一体、どうすればいいか…」
.
486 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:01:32 ID:U3e.BJL60
ξ⊿)ξ「あたし…やっぱりブーンのことが……」
( ^ω^)「ツン」
大事そうにその名をそっと囁き、ブーンはツンの言葉を遮った。
.
487 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:03:11 ID:U3e.BJL60
( ^ω^)「…僕は、ツンが一緒にいてくれれば、それでいいお」
( ^ω^)「…もしツンも、同じ気持ちでいてくれるなら」
( ^ω^)「あんまり、そんな辛そうな顔はしてほしくないお」
ξ⊿)ξ「………」
.
488 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:05:28 ID:U3e.BJL60
( ^ω^)「…率直に聞くけど」
( ^ω^)「僕はツンが好きだお。一緒にいてほしいお」
( ^ω^)「ツンは、応えてくれるかお…?」
ξ⊿)ξ「………」
ξ⊿)ξ「……あたしは………」
.
489 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:07:17 ID:U3e.BJL60
―――わかってる未来に向かって歩いてくより、よっぽど可能性はあると思うお―――
愛情。恵愛。寵愛。傾慕。
―――わかってるからこそ…それを回避するために少しくらい抗ってみてもいいと思うんだお―――
恋。刹那。永劫。星霜。烏兎。
.
490 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:08:32 ID:U3e.BJL60
―――数分前まであった日常が、急になくなってしまったんだお―――
そして、終焉。
.
491 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:10:03 ID:U3e.BJL60
逃げるとか、回避するとか、何が必要で、何がいらないとか
( ^ω^)
そんなことより、ツンが欲しかったのは
.
492 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:11:29 ID:U3e.BJL60
―――ツン。僕は、君に出会えて――――
ξ*ー)ξ「……ありがとう、ブーン……」
欲しいものに手を伸ばす勇気を出した代わりに得られる、貴いほどの至福だった。
.
495 : 名も無きAAのようです :2013/08/24(土) 20:26:02 ID:XEFpbhg20
496 : 名も無きAAのようです :2013/08/24(土) 22:55:12 ID:UzUEkJeU0
◆第22話◆
XX24年 U月
陽が短くなり、そろそろ肌寒くなってきたが、さすがに今日の店内は絵に描いたようなお祭り騒ぎだった。
開店五周年。
流行るまでに少々時間がかかったため、盛り上がりが見込めなかったというこの店は、今までパーティーらしいパーティーなどしたことなかったそうだ。
ところが今では、店内は満席どころか座りきれなかった客が立食するという有様で、今日は少しでも場所を確保するため、普段カウンター席に置かれている足の長い椅子は全部撤去されていた。
ただでさえ、こんな祭の日は店側から客に対して、限られた範囲内ではあるが破格の値段で酒やら料理やらを大盤振る舞いする日だが
記念品作りに助勢したツンや彼女が呼んだ客は、招待客として扱われ、申し訳程度の祝儀のみでほぼフリードリンクで良いとの優遇ぶりだった。
XX24年 U月
陽が短くなり、そろそろ肌寒くなってきたが、さすがに今日の店内は絵に描いたようなお祭り騒ぎだった。
開店五周年。
流行るまでに少々時間がかかったため、盛り上がりが見込めなかったというこの店は、今までパーティーらしいパーティーなどしたことなかったそうだ。
ところが今では、店内は満席どころか座りきれなかった客が立食するという有様で、今日は少しでも場所を確保するため、普段カウンター席に置かれている足の長い椅子は全部撤去されていた。
ただでさえ、こんな祭の日は店側から客に対して、限られた範囲内ではあるが破格の値段で酒やら料理やらを大盤振る舞いする日だが
記念品作りに助勢したツンや彼女が呼んだ客は、招待客として扱われ、申し訳程度の祝儀のみでほぼフリードリンクで良いとの優遇ぶりだった。
466 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:15:02 ID:rwN06UWc0
ツンは、ハインとトソンに声をかけて参加した。
ブーンやドクオは、案の定忙しそうでなかなか話し掛けられる雰囲気ではない。
(゚、゚;トソン「………」
気品漂う淑やかなお嬢様は、あまりこういう騒がしい場には来ないらしく、ソワソワと落ち着かない様子でいる。
从 ゚∀从「………」
しかも、住む世界が違いすぎてまず巡り合わされることはなかったであろう耐性がない人種に対しても、どう扱っていいかわからないのか、人見知りも度を超えて少々尻込みしてるようである。
ブーンやドクオは、案の定忙しそうでなかなか話し掛けられる雰囲気ではない。
(゚、゚;トソン「………」
気品漂う淑やかなお嬢様は、あまりこういう騒がしい場には来ないらしく、ソワソワと落ち着かない様子でいる。
从 ゚∀从「………」
しかも、住む世界が違いすぎてまず巡り合わされることはなかったであろう耐性がない人種に対しても、どう扱っていいかわからないのか、人見知りも度を超えて少々尻込みしてるようである。
467 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:16:15 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「えっと…こちらハインリッヒ高岡。見た目通りの元ヤンだけど取って食われはしないから安心して」
(゚、゚;トソン「元ヤン……」
从 ゚∀从「おい、初めて会う子にそういう洗脳はやめなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「で、こちらが職場の後輩で都村トソンちゃん。美大生でシルクの道具貸してくれたの」
从 ゚∀从「スルーが軽快すぎるだろ」
そういう荒っぽい言葉遣いもさることながら、ハインのその見た目の派手さに気圧される人は少なくない。
赤みがかった髪色や、鼻筋の通ったハーフのような顔つきは、決して下品な印象を与える派手さではないのだが
スレンダーだが女性にしては高い身長も、小柄なトソンには威圧感を与えてしまうだろう。
468 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:17:47 ID:rwN06UWc0
キュートが一見親しみやすい愛玩動物に例えられるなら、ハインは雌豹なのだ。
遠くから見てる分には美しいのだが、その猛威を孕んだような鋭い目に見られてしまうと、あまり近づきたいとは思えない。
美人なわりにこうも見た目で損をしてるタイプも、ハインの他に類を見ないだろう。
ちなみに昔、それを本人に言ったところ『それを言うならツンは雌鹿だな』と言われたことがある。
それがどういう理屈なのかは、いまだにわからない。
从 ゚∀从「トソンちゃんか。よろしくね。このたびはツンがお世話になったようで」
しかし、相手が引き気味なことにも気づいていながら、構わず気さくに話し掛けることができるのが、ハインの救いでもあった。
469 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:19:11 ID:rwN06UWc0
(゚、゚トソン「あ、いえ…こちらこそツン先輩にはいつもお世話になってます…」
物腰柔らかく、丁寧に挨拶するには役不足な相手かもしれないが、それがトソンの色だ。
憂惧せずに会話できるようになれば、それでいいのだとツンは思った。
(*^ω^)「おっおー。お三方わざわざありがとうだおー」
こちらから声をかけに行くのを自重してると、向こうから寄ってきてくれた。
既に何杯か飲んでるようで、顔にも火照りが浮かんでいる。
物腰柔らかく、丁寧に挨拶するには役不足な相手かもしれないが、それがトソンの色だ。
憂惧せずに会話できるようになれば、それでいいのだとツンは思った。
(*^ω^)「おっおー。お三方わざわざありがとうだおー」
こちらから声をかけに行くのを自重してると、向こうから寄ってきてくれた。
既に何杯か飲んでるようで、顔にも火照りが浮かんでいる。
470 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:20:44 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、この子がシルクの道具貸してくれたの」
(゚、゚トソン「都村です。初めまして…」
(*^ω^)「お!君がトソンちゃんかお!おかげで良い記念品が作れたおー!」
そう言ってるブーンは既に、完成されたTシャツを着ていた。
今日のスタッフは全員記念Tシャツ着用が義務付けられているのだろうか、一日限りのユニフォームと化している。
来客も既に何人か記念Tシャツを着てる人がちらほらいて、売れ行きは好調なようだった。
471 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:21:49 ID:rwN06UWc0
(゚、゚*トソン「素敵なデザインですね。これはツン先輩が?」
ξ゚⊿゚)ξ「いえ、デザインしたのはそこのコックのお兄さんよ。あたしはただシルクの手伝いしただけ」
(*^ω^)「でもおかげで本当に助かったんだお!未経験の野郎だけじゃ何人いても確実に終わらなかったお!」
(゚、゚*トソン「そういうことだったんですね」
芸術家魂が疼いたのか、トソンはTシャツのデザインを食い入るように見つめる。
ひたすらに胸元を見つめ続けられたブーンは、ちょっと困惑しながらもそうそう、とまだビニールのフィルムに梱包されたままのTシャツを三人に渡した。
472 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:22:51 ID:rwN06UWc0
(*^ω^)「よかったら、持って帰ってくれお!なんだったら今すぐ着替えてくれてもいいお!」
それを受け取ったトソンは、ツンとハインに一着ずつ配った。
(゚、゚*トソン「ありがとうございます!」
そのデザインがお気に召したのか、トソンの目は心底嬉しそうに輝いていた。
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473 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:23:52 ID:rwN06UWc0
从;゚∀从「今にも着替え出しそうな勢いだねトソンちゃん。なんか意外…」
トソンのそんな姿にタジタジになるハインのほうが、よほど意外である。
(゚、゚*トソン「そうですねーどうしましょう?お二方、どうします?」
もはやその『どうします?』は、『一緒に着替えましょう!』と言われてるようにしか聞こえなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「…まぁ、記念品なんてその日一日しかありがたみがないんだから、パジャマにする前に着てあげるのもいいかもね」
一人は半ば道連れにして、無理矢理満場一致にした一行は、ノリに身を任せる運びとなり交代でトイレに篭る羽目となった。
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474 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:25:18 ID:rwN06UWc0
黒地に赤色でデザイン画が印刷されたTシャツは、着る人を選ばず無難な配色だったようだ。
クラッシュ加工されたデニムのショートパンツが似合うハインはもちろん、シフォン生地で花柄のミニスカートで決めてきたトソンの奥床しさを、極端に損なうこともなかった。
たまにスタッフと間違えられるのには困ったが、それもご愛嬌ということで特に迷惑がってもいないらしいトソンやハインの姿には、微笑ましささえ感じる。
475 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:26:10 ID:rwN06UWc0
多少お酒も入ったことだし、もう二人の間に入らなくても気まずくなることはないだろうと踏んだツンは、二人に断って外の風に当たりに行った。
ξ;゚⊿゚)ξ==3フゥ
盛り上がりも好調なパーティーは確かに楽しいが、店内に詰め込まれたキャパオーバーな人出と熱気が少々窮屈になってきた頃だった。
多少酔いもあり、体も火照ってきたところで澄んだ夜風に当たると、気持ちが洗われるようだ。
476 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:27:34 ID:rwN06UWc0
久しぶりに、一つの空間を作り上げる現場に立ち会った。
自分がしたことは本当に微々たるものかもしれないが、小さな要素が一つ欠けただけで、その空間の仕上がりにどれだけ反映されるかを、ツンは知っている。
だからこそ、今回は胸を張れる仕事ができたと素直に思えるし
ただちょっと器用なだけで、昔美術部にいただけで、何も持っていない自分をそれでも必要としてくれたブーンやドクオには、感謝しなければと思ってる。
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477 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:29:34 ID:rwN06UWc0
( ^ω^)「お、飲み過ぎちゃったかお?」
背後から、ブーンの声がした。
ξ゚⊿゚)ξ「ううん。でもちょっと外に出たい気分だったの」
ツンは振り向きもせず、夜空を仰いだまま答える。
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478 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:30:21 ID:rwN06UWc0
( ^ω^)「そうかお。でもさすがにTシャツ一枚じゃ寒いお」
そう言って、自身が来てるTシャツの上に羽織ってた厚手のワイシャツを、ツンの肩に乗せた。
(;^ω^)「あ、いや…外出てくる前に羽織ったばっかりだから、べつに汗とかはかいてないから心配しなくていいお」
何も言ってないのに勝手にあたふたし始めたブーンに、ツンも吹き出す。
その『何も言ってない』時間が、彼にとってはそんなに長い時間に思えたのだろうか。
ξ゚ー゚)ξ「べつに心配してないよ。ありがと」
そう言ってツンは、その長すぎる袖に腕を通した。
479 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:31:49 ID:rwN06UWc0
思えば『あの時』以来、まともに二人きりになったことなどなかった。
ハインにこの店に連れてきてもらった時、気まずさを顔に出さずにいてくれたのは、仕事中だったからなのかと思っていたが
しかしこうして個人的に頼み事をされ、惰性で何事もなかったかのような、ぬるま湯に浸かった雰囲気に委ねてしまったので
あの時はなんて理不尽なことを言ってしまったのだろうと、悔やむ気持ちはあってもそれをなかなか言い出せずにいた。
480 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:32:56 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、あのね…」
今がその時だ。と何かに煽られてる気がした。
しかし同時に、それを口に出したらもう後戻りはできない。そんな終局での決断を迫られてるような気分だった。
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481 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:34:09 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「ずっと謝ろうと思ってたんだけど…この前、美術館に来てくれた時のこと」
( ^ω^)「………」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしあの時、自分のことしか考えてなくて…本当に浅はかだった」
ξ゚⊿゚)ξ「ひどいこと言って、ごめんなさい…」
( ^ω^)「…もういいお。気にしてないお」
普段飄々としてるツンが、僅かながらも自分の胸のうちを打ち明けることなんて、あまりない。
ジョルジュと付き合ってた頃でさえ、彼に寂しいとか心細いとか、何をどうしてほしいかなんて滅多に言わなかった。
そんなツンが、人に『ごめんなさい』などと言ったことなど、いつぶりだっただろうか。
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482 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:35:47 ID:rwN06UWc0
ξ゚⊿゚)ξ「あたし、ブーンが来てくれて、迷惑だと思ったことなんて一度もないよ」
ξ゚⊿゚)ξ「なのにあの時は、そうしなきゃって…それが正しいんだって片意地張ってて…」
ξ゚⊿゚)ξ「なのにこういう場に呼んでくれて…あたしを頼ってくれて…」
ξ゚⊿゚)ξ「…あたしももう、どうしていいかわかんなくて…」
( ^ω^)「………?」
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483 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 14:37:59 ID:rwN06UWc0
馬鹿正直で直情そうに見えて、人が言ったことはちゃんと受け止める寛容さは持っていて
不器用そうに見えて、内に秘めた芯はしっかりしていて
話してるといつも調子が狂わされて、いつの間にか彼のペースに嵌まってしまって
( ^ω^)
そんな彼に、たまらなく惹かれてしまうこの情動を、一度自ら手放しておきながら、今更なんと言えばいいのだろうか。
.
484 : 名も無きAAのようです :2013/08/24(土) 14:51:31 ID:wV7J6c2.0
支援!
485 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:00:02 ID:U3e.BJL60
ξ゚⊿゚)ξ「…このままじゃ、ダメだと思ってたの」
ξ゚⊿゚)ξ「うまく説明できないけど、とにかく流されちゃダメだって思ってたの」
ξ゚⊿゚)ξ「……でも、うまくいかなかった」
ξ⊿)ξ「どうしても、抑えられないの…あたし一体、どうすればいいか…」
.
486 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:01:32 ID:U3e.BJL60
ξ⊿)ξ「あたし…やっぱりブーンのことが……」
( ^ω^)「ツン」
大事そうにその名をそっと囁き、ブーンはツンの言葉を遮った。
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487 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:03:11 ID:U3e.BJL60
( ^ω^)「…僕は、ツンが一緒にいてくれれば、それでいいお」
( ^ω^)「…もしツンも、同じ気持ちでいてくれるなら」
( ^ω^)「あんまり、そんな辛そうな顔はしてほしくないお」
ξ⊿)ξ「………」
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488 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:05:28 ID:U3e.BJL60
( ^ω^)「…率直に聞くけど」
( ^ω^)「僕はツンが好きだお。一緒にいてほしいお」
( ^ω^)「ツンは、応えてくれるかお…?」
ξ⊿)ξ「………」
ξ⊿)ξ「……あたしは………」
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489 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:07:17 ID:U3e.BJL60
―――わかってる未来に向かって歩いてくより、よっぽど可能性はあると思うお―――
愛情。恵愛。寵愛。傾慕。
―――わかってるからこそ…それを回避するために少しくらい抗ってみてもいいと思うんだお―――
恋。刹那。永劫。星霜。烏兎。
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490 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:08:32 ID:U3e.BJL60
―――数分前まであった日常が、急になくなってしまったんだお―――
そして、終焉。
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491 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:10:03 ID:U3e.BJL60
逃げるとか、回避するとか、何が必要で、何がいらないとか
( ^ω^)
そんなことより、ツンが欲しかったのは
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492 : ◆7mt.DZ.sYo :2013/08/24(土) 15:11:29 ID:U3e.BJL60
―――ツン。僕は、君に出会えて――――
ξ*ー)ξ「……ありがとう、ブーン……」
欲しいものに手を伸ばす勇気を出した代わりに得られる、貴いほどの至福だった。
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495 : 名も無きAAのようです :2013/08/24(土) 20:26:02 ID:XEFpbhg20
おツン
さらっと読めるけど引き込まれる感じが好き
さらっと読めるけど引き込まれる感じが好き
496 : 名も無きAAのようです :2013/08/24(土) 22:55:12 ID:UzUEkJeU0
乙