127 kskするバイク1 sage New! 2006/08/09(水) 00:20:45.51 ID:adgjJOXY0
ヴァァァァァァ!!!

真夜中の峠に2台のバイクが唸りを上げる。
カーブで抜かれ、ストレートで抜き去る。
共に一歩たりとも譲らない、そんな気迫が見てとれる勝負をしていた。

('A`)「チッ、相変わらずブーンは走るのだけははえーぜ」

( ^ω^)「先に100勝いただくお!」

幾度と無くこの峠で勝負を繰り返し、お互いに99勝99敗。
この勝負も今までと変わらない戦い。だが今までの結果とは違った意味を持つであろうその100勝。
激しい攻防を繰り返し、ゴールまであと1km。二人の勝負をゴールで今か今かと待つ仲間。

( ^ω^)「あのL字を抜ければ・・・!」
('A`)「L字で勝負・・・!」

ゴール直前のコーナーでブーンが一歩リードしていた。
強烈なカーブはほぼ直角になっている。そのL字コーナーが最後のチャンス、そこで巻き返すか
逃げ切るか、それで勝負は決まる。その筈であった。

129 kskするバイク2 sage New! 2006/08/09(水) 00:21:29.45 ID:adgjJOXY0
(;^ω^)「うっ!?」

100勝のプレッシャーは思いもよらぬ所で表れた。いつもと変わらない勝負なのに。
ブーンがハンドル操作を誤り―――――

(;^ω^)「ぶつかっ」

バァァン!!

――――――――――そこでブーンの意識は途絶えた。

( ^ω^)「ドクオー、バイクの免許とったお!」

('A`)「お、やっと取ったかぁ、よし!二人でツーリングいこうぜ」

( ^ω^)「3人だお!後ろにツンを乗せるお」

('A`)「はいはいワロスワロス、こうですか!わかりません!」

( ^ω^)「嫉妬は見苦しいお、ドクオにもいい彼女きっとできるお」

―――――――――夢を見た、懐かしい免許を取ったばかりの頃の。

あの部屋特有の「におい」で僅かに意識が戻る。

( -ω-)「うーん・・・」

頭がぼうっとする、体が重い・・・・夢を見た、懐かしい感じだった、ここはどこだろう、僕は・・・―――
そして再び暗転。

130 kskするバイク3 sage New! 2006/08/09(水) 00:22:40.85 ID:adgjJOXY0
カーテンの開ける音が聞こえ、光が差し込む。朝日だろうか、それを顔に浴び目が覚める。
ベッドに横たわり、動こうとすると全身が軋む。そうか、100勝前で事故ったんだ。ブーンが事態をやっと飲み込み辺りを見回す。
石膏で足が固められていた。麻酔のせいかそれほど痛みは感じないが、足を動かすことはできなさそうだ。

( ^ω^)「負けた・・・お」

ぽそりと呟く。ゆっくりと息を吐くと共に力が抜けていく感じがした。
しかも相手の技術に負けたのではない。自らのミスが引き起こした自分自身の「負け」であった。
たった一瞬の出来事が、たった少しの手先のミスが・・・・

('A`)「今日も今日とて見舞いみm・・・ブーン!」

病室の入り口で止まり、起き上がったブーンを見て驚きの声を上げるドクオ。
その声に気づきブーンもドクオの方を見る。

( ^ω^)「おはようだお」

('A`)「おま・・・おはようって軽く挨拶してんじゃね・・・」

ふるふると体を震わせ、それにあわせて声まで震えるドクオ。目じりが少し湿っている。

(;A;)「バッキャロー・・・・やっと目ぇ覚ましやがって・・・うっ」

131 kskするバイク4 sage New! 2006/08/09(水) 00:23:11.26 ID:adgjJOXY0
声を上げて無くまではしないが、余程の心配をしたんだろう、堰を切ったように涙を流す。

(;^ω^)「ちょ、オーバーだお、確かに体はちょっと痛いけど大丈夫だお!」

(;A;)「三日も寝ておいて大丈夫なワケあるかよこの野郎・・・」

そしてその泣き顔のままブーンに近寄りがしっと脇にブーンを固める

(;A;)「心配させやがって・・・!この!この!」

(;^ω^)「ちょ、ドクオ痛いお、あだだだ」

そうしてもがいてるうちにドクオもようやっと落ち着き、その後どうなったのかを聞いてみると
どうやらL字で事故った直後、ドクオが即座に止まりバイクの下敷きになった足を引き抜いたとか。
どうやら足の石膏はバイクの下敷きによるものらしい。
ブーンの彼女、ツンもその日ゴールで待ち構えていたが、寸前で見えたブーンの事故でショックのあまり気を失ってしまったらしい。

(;^ω^)「ツンにはリアル衝撃映像見せちゃって悪かったかも・・・」

('A`)「他の連中も相当心配してたぜ」

(;^ω^)「それは申し訳ないお、見舞いにきてくれたら謝るお」

132 kskするバイク5 sage New! 2006/08/09(水) 00:23:42.59 ID:adgjJOXY0
('A`)「ツンも毎日見舞いに来てくれてたから、今日もそろそろ―――」

カラララ・・・

ξ||゚听)ξ「・・・・・」

静かに扉が開きツンが入ってくる、その顔は憔悴しきっており俯いた目は腫れ上がり、普段の彼女からは想像もつかないような顔つきに・・・

( ^ω^)「ツン、おはようだお」

ξ゚听)ξ「!!」

ブーンの声を聞き顔を上げるツン。手にもった果物が落ち、ドサリと音を立てる。
その音が聞こえないといった風にぴくりとも動かないツン。そして

ξ;凵G)ξ「あ、あんたねえ・・・・ふぇっ・・・うぅ・・ひっく」

突然大粒の涙を零し始め言葉にならない言葉を発する。

ξ;凵G)ξ「ぅぅゎーーーーん!!」

ついにはその場にへたり込み声を上げて泣き出す。良かった、ブーンが起きた。
今までもう目が覚めないんじゃないかと悲しさで一杯だったのを、ブーンの笑顔が全て吹き飛ばした。
感情のタガが外れ嗚咽をあげる。

('A`)「・・・・ツン、こっち来な」

そっとドクオが手を取りゆっくりと立ち上がらせる。泣きながらも促され立ち上がるツン。
ドクオが今まで座っていたベッドの隣にある椅子へと座らされる。がまだ泣き止まない。

134 kskするバイク6 sage New! 2006/08/09(水) 00:25:17.56 ID:adgjJOXY0
ξ;凵G)ξ「えぐっ・・・・ブーン・・・」

( ^ω^)「心配かけてごめんお、ブーンは元気になったお」

ぼろぼろと涙を流すツンの頭を優しく撫で、流れる涙を指ですくう。
ドクオはそっと音を立てずに部屋を出る。

('A`)「ま、ゆっくりしてけや・・・・」

別に誰に語りかけるでもなく一人呟いて病室の廊下をあとにする。

ξ;凵G)ξ「ブーンのばかぁ・・・あんたなんか嫌いよ・・・」

言葉とは裏腹にブーンにしがみつき、強く、強く抱きつく。
それに合わせブーンもツンを包み込む。

( ;ω;)「ごめんお、ごめんお、ブーンが心配かけちゃったお」

ついにはブーンまでもらい泣きし、二人でわんわん泣き出す。
幸い病室は他に誰も居ない為全く邪魔が入ってこない。

その日は面会終了寸前まで泣き腫らした顔でブーンにしがみつくツンであった。

――――――医者に聞かされたのだが、全身打撲、内臓破裂という重大な損傷を受けながらも奇跡的に助かったのは
病院への搬送がとても早かったからだとか。
ドクオが仲間の車を借り、信号まで無視して病院へカッ飛ばしてきたとか。そこで事故らなかった事のほうがよっぽど奇跡では・・・と後になって身震いするブーン。

135 kskするバイク7 sage New! 2006/08/09(水) 00:26:19.40 ID:adgjJOXY0
ξ゚听)ξ「ほら、果物食べなさい」

(;^ω^)「ミカンはちょっと苦手だお」

ξ#゚听)ξ「栄養少しでもつけて早く治しなさい?」

(;^ω^)「わ、わかったお」

あれからというもの、ツンは非常に怖い。なんでも「心配させたんだから当たり前」と・・・
多少理不尽に思いながらもツンに逆らうと後で何されるかわかったもんじゃないので素直に従う事にする。

そして退院をし、石膏で固めていたギプスも外れ、普段どおりの生活に戻り始めたブーン。

だが今までとちょっと違う事が一つ・・・・

ブロロロォォォ・・・・

( ^ω^)「久しぶりのバイクは気持ちいいお」

('A`)「おおよ、やっと回復したしよ、リベンジするか?」

( ^ω^)「望む所だお!」

そして再び峠のスタート位置に着くが・・・・

136 kskするバイク8 sage New! 2006/08/09(水) 00:26:41.73 ID:adgjJOXY0
(;゚ω゚)「う、うう・・・」

視界が歪む、あの場所、あの時の事を思い出す。スロットルを開けることができない。

('A`)「ブーン・・・・」

スタート位置からクラッチを繋げることができない・・・・!

体の傷は治っても、「心」の傷はそう簡単には治らない。
普通にバイクへ乗る事ができても、あの峠で身を焦がす戦いをすることができない。

('A`)「やめだやめだ、シラケちまったぜ」

ドクオが落胆するように息を吐く。ブーンは青い顔をしながらもドクオに謝る。

(||;ω;)「うぐっ・・ごめんお、ドクオ・・・」

('A`)「勝負はやる気おきねえな、いっちょツーリングでもしねえ?ここをよ、少しづつよ」

そして彼なりに「リハビリ」を提案してきた。少しづつ、それを克服せんが為。

―――――「リハビリ」が始まった。スタート位置から少しづつ、ゆっくりとしたスピードで
峠をゆっくり、ゆっくりと2台が進む。
怖さのあまりブーンがバイクを倒してしまうこともあった。その時はドクオが起こすのを手伝ってくれた。

雨が降っている日もリハビリをした。いつもより更にゆっくりと。それは殆ど自転車にも近い速度で。
最初のうちは1kmもバイクを進める前にギブアップしていたブーンがその距離を少しづつ伸ばしていった。
ツンも時折リハビリの様子を眺めている。複雑な表情ではあるが決して邪魔をしない。

137 kskするバイク9 sage New! 2006/08/09(水) 00:27:52.78 ID:adgjJOXY0
そしてついにあのL字をクリアできた。あの日辿りつく事ができなかったゴール位置を通り過ぎる。

('A`)「ツーリング、できたな・・・・」

( ^ω^)「うんお・・・ドクオのおかげだお」

二人の男は握手を交わし、その成果を称え合う。

それからも同じコースをゆっくりと走り続け。昔と変わらぬ動きを取り戻す事ができた。

('A`)「・・・・・仕上げ、やるか。前の勝負はノーカンな」

( ^ω^)「・・・・わかったお」

それは「あの日」の続きを意味していた。その意味を受け取ったブーンも静かに頷く。
あの時と同じ、夜中。2台のバイクが唸りを上げる。
そしてスタート位置につき・・・・―――――――――


数年後――――――
峠のカーブに1束の花が添えられている。
一人の男がその花束にもう一つ花束を加え、ライターで着けた線香も置く。
手を合わせ静かにその冥福を祈る男は・・・

139 kskするバイクEND sage New! 2006/08/09(水) 00:29:28.37 ID:adgjJOXY0
( -ω-)「・・・・・・」

ξ--)ξ「・・・・・」

後ろでツンも手を合わせ目をつむる。

( ^ω^)「さ、そろそろいくお」

ξ゚听)ξ「うん」

あの日の勝負の続き。あの悪夢のような出来事から復活することができたブーンに待っていたのは2度目の悪夢。
あのL字で今度は親友を失った。支え励ましてくれた、勝負ではライバルのドクオ。

( ^ω^)「ドクオ、ちょっとまだ先になっちゃうけど、絶対勝負するお、100勝をかけて」

男たちの加速は止まらない―――――

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