316 夏の終わりに New! 2006/09/03(日) 02:01:33.04 ID:51BoD9zzO
('A`)「そういやここ、幽霊が出るんだよな」

大学の宿舎、三人で飲んでいた最中、ドクオが不意に口を開いた。
なんでも、宿舎二階、僕達がいる階のトイレで、男子生徒が首を吊ったらしい。
そして、夏の終わりになると宿舎に還ってきて、首吊りを繰り返すとか。
この宿舎はかなり古い為、幽霊の一つや二つ出てもおかしくない。
ただ、僕は幽霊の存在を信じてはいなかった。

('A`)「ほら、聞こえるだろ?
耳を澄ませてみろよ。扉の音だ」

トイレの古い扉独特の開閉音が、確かに聞こえる。

何度も、何度も。

キィー…バタン。 キィー…バタン。キィー…バタン。

318 夏の終わりに New! 2006/09/03(日) 02:02:39.91 ID:51BoD9zzO
だが、それがどうしたというのだろうか。
たかが音だ。不思議だが、怖くはない。
大体、首吊りをするのに何故、扉の開閉をする必要があるのだ。

(;´・ω・`)「あの、僕トイレ行きたいんだけど……」

不意にショボンがモジモジと体をくねらせる。
その様子は見ていてあまり気持ち良いものじゃない。
そういえば、ショボンは怖い話の類は苦手だった。
ドクオは部屋の隅に指を差し、軽く言い放つ。

('A`)「あー、そこのペットボトルにでも」

(;´・ω・`)「いやだよ!
ブーン、一緒に行かないかい?」

生憎僕はトイレに行きたくない。
それに、いつも冷静なショボンが怯えている姿は正直面白い。

320 夏の終わりに New! 2006/09/03(日) 02:03:45.20 ID:51BoD9zzO
( ^ω^)「大丈夫だお、ショボン。自殺したのは二階だお?
三階のトイレに行けばいいお」

ドクオも僕と一緒にショボンを煽る。
こういう事は大好きだ。他人の不幸は蜜の味。
ショボンはしばらくモジモジしていたが、やがて限界がきたのか、焼酎を割らずに一気に飲み干し、立ち上がった。

(´・ω・`)「うし、ちょっと幽霊ブッ倒してくるわ」

足元は定まらず、口調も変わっている。
本気で酔っ払っているショボンには怖いモノなどない。とは本人の弁。

321 夏の終わりに New! 2006/09/03(日) 02:04:33.94 ID:51BoD9zzO
勢い良く襖を開け、薄暗い宿舎の廊下に躍り出た。
しばらくして、階段を上がる音が僕の耳に届く。

('∀`)「あいつ、三階に行きやがった!」

(*^ω^)「何が『ブッ倒す』だお!」

笑い転げる僕達の頭上がミシミシと軋む。
正直、幽霊より床板を踏み抜く事の方が怖かったりする。
いきなり、ドクオが怪訝な表情を僕に向けた。

('A`)「……音が、止んだ?」

依然としてショボンの足音は僕達の頭上から聞こえているのに、何を言っているのだろう。
やがて、その足音も僕達から離れ、宿舎に耳が痛く鳴る程の静寂が……静寂?

( ^ω^)「扉の音が、消えたお……」

323 夏の終わりに New! 2006/09/03(日) 02:05:35.35 ID:51BoD9zzO
キィー…バタン。

なんだ、聞こえるじゃないか。
いや、これは、三階のトイレの音。ショボンだ。

バタン!バタン!バタン!バタン!バタン!バタン!バタン!バタン!バタン!バタン!バタバタバタバタバタバタン!!!!………。

(;'A`)「お、おい、な、なんだよ、なんだよコレ!」

たかが音。僕はそう言った。
――前言撤回。これは、見えない恐怖だ。

心臓が早鐘を打っている。
汗が止まらない。

キィー…バタン。ミシ、ズル、ミシ、ズル。

二階のトイレから、何かが近づいてくる。
何かを引き摺りながら。
――縄だ。
直感的に僕は理解した。

ミシ、ズル。ミシ、ズル。ミシ、ズル。

近づいてくる事は分かっているのに、体がいう事を聞いてくれない。

頼む、通り過ぎてくれ。
神様、仏様。

324 夏の終わりに New! 2006/09/03(日) 02:06:48.51 ID:51BoD9zzO
僕とドクオは部屋の隅に固まり、ガタガタと震える。
男同士だという事も気にならない。

ミシ、ズル、ミシ、ズル、ミシ、ズル、ミ…。カリ、カリ、カリ……。

音が止んだ。
扉を引っ掻いている。

やめろ、やめてくれ。

327 夏の終わりに New! 2006/09/03(日) 02:09:04.92 ID:51BoD9zzO
(´・ω・`)「みいぃたあぁなあぁぁ!!!」

( ;ω;)(;A;)「うわああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

……流れる沈黙。
固まる三人。
ショボンにしても、ここまで驚くとは思ってもいなかったのだろう。

……全く。
どうやらショボンは三階のトイレの扉を開けただけらしい。
そこから非常階段を使い二階に降りヤラセの心霊現象を起こした。
まさしく『酔っ払ったショボンに怖いモノ無し』だ。

(;'A`)「ったく……マジビビったじゃねぇか」

(;^ω^)「縄なんて何処にあったんだお?」

ショボンは自分の持っていた縄を手繰り寄せた。

(´・ω・`)「二階のトイレにあったよ。
あと、こいつを見てくれ。どう思う?
すごく、軽いんだ」

縄の先には、古い学生服を着、目が飛び出し、舌をだらりと伸ばした男。
それは恨めしげに僕とドクオを見ていた。

終わり

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