423:15◆p7NLwd/q.6
10/19(金) 00:57 d6qWnnriO

 
三十六重 『重さ』
 
外見は黄色がかったクリーム色の電車。
車内の最後尾から乗り込む。
車内は案外広い。
というよりは外見より遥かに。
車内には荷物置きなど気の利いた物が無く、座席と質素な吊り革がぶら下がっているだけ。
気付くと電車は既に、駅を後にして線路を走っていた。
 
( ゚∀゚)「ん? 駅なんてあったかな」
 
独り言を呟く。
本当ならありえない返事が聞こえた。
 
( ><)「駅は向こうから見えなくなってるんです」
 
(;゚∀゚)「うおっ!?」
 
小柄な少年が真後ろに立っていた。
 
( ゚∀゚)「誰だ?」
 
( ><)「僕はビロード トレインマンなんです」
 
( ゚∀゚)「トレイン…マン?」
 
( ><)「僕は月へと旅人を導くんです!! 乗車券はアルカナ……あなたはあるんです!! 月が望んだ資格を持った旅人を送るのが僕の仕事なんです!!」
 
少年が興奮気味に喋る。

424:名無しさん
10/19(金) 00:58 d6qWnnriO

 
( ゚∀゚)「へぇ」
 
( ><)「いつもだったらすぐに着くんですが今回は違うんです」
 
( ゚∀゚)「違うって何が?」
 
( ><)「最後の人だったら駅が見えるはずなんです 乗り込まれても困るのでいつもは見えないはずなんですが」
 
( ゚∀゚)「どういうことだ?」
 
( ><)「つまりあなたの他に人がいるってことなんです」
 
(;゚∀゚)「は?」
 
( ><)「最後の旅人さんに…健闘を祈るんです!!」
 
少年が敬礼するとともに姿が消えた。

425:名無しさん
10/19(金) 00:59 d6qWnnriO

 
( ゚∀゚)「他に人がいるってどういう…」
 
殺気を飛ばされたのがわかる。
先頭車両からか。
勘も頭も冴える。
最初とは比べものにならない程に体も動く。
居たのは大柄な猫目の男。
今までの戦いとは段違いな緊張感は男の威圧感によるものか。
 
( ΦωΦ)「……貴様が最後の旅人か」
 
男が口を開く。
 
( ゚∀゚)「そうみたいだな」
 
血湧き、肉踊る。
心臓の高鳴りが心地よい。
男は戦いに慣れ、楽しいと感じることを否定できなかった。
血によって手足が痺れるが、逆に自らを高める。
脳が霞んだように錯覚しつつ、どこまでも澄んで見えた。

426:名無しさん
10/19(金) 01:00 d6qWnnriO

 
( ΦωΦ)「話など必要ないだろう 我輩が貴様にとっての最後の敵 陽のロマネスク」
 
( ゚∀゚)「ロマネスク…?」
 
( ΦωΦ)「今までほぼ全ての旅人を仕留めてきた どうやら貴様が月の最高傑作のようだ」
 
( ゚∀゚)「最高傑作ってどういうことだよ!?」
 
( ΦωΦ)「貴様はここで消える…聞く必要などないだろう 冥王の審判は近い そして地球を喰らった貴様を倒せば月の動きは止まる」
 
( ゚∀゚)「地球を喰らった!? 崩壊したんじゃないのか!?」
 
( ΦωΦ)「疑問は全て棄て置け!! 戦いに雑念は不要!!」
 
猫目が構える。

427:名無しさん
10/19(金) 01:01 d6qWnnriO

 
( ゚∀゚)「だったらお前を倒して神に聞いてやるよ!!」
 
目の前には10:BLOSSOMの文字が一瞬映り、消える。
そしてその後には走馬灯のように蘇る、記憶。
思い出すのは出会った人達の笑顔。
 
死ぬ前に助けた少女の表情。
 
なんだよ…泣くなよ。
 
折角俺が助けた命なんだ。
 
笑ってくれたほうが俺は幸せなんだ。
 
消え入る声で伝えると涙を流しながら微笑んだ。
 
名前も知らないし、顔も覚えてないけど俺は嬉しかった。
 
頭に浮かぶのはアルカナ。
 
( ゚∀゚)「THE JUSTICE」
 
両手の文字が金色に輝く。

428:名無しさん
10/19(金) 01:03 d6qWnnriO

 
( ΦωΦ)「正義など人によって形を変える!! 我輩のアルカナはTHE AEON!!」
 
猫目の周囲が潰れる。
車両の底が凹んでいく。
 
( ΦωΦ)「永劫に包まれしは過去、現在!! 貴様が行く道程は未来ではなく、死という結果!!」
 
猫目が手を両側へと開くと窓ガラスが割れる。
 
( ゚∀゚)「おまえを乗り越えれば未来に行けるってことだろ?」
 
( ΦωΦ)「我輩を乗り越える!? 易すいことではないぞ!! 悩むか!? 苦しむか!?」
 
( ゚∀゚)「苦しむのも結構だ あがいて越える 約束を守るためならなんだってするさ」
 
光が手と足を包む。
そして幾つかの光の球が男の周りに浮かぶ。

429:名無しさん
10/19(金) 01:04 d6qWnnriO

 
( ΦωΦ)「ならば越えるがよい!! だが楽とは程遠く、死と隣合わせだということをゆめゆめ忘れるな!!」
 
( ゚∀゚)「約束を果たさないで死ねるかよ!!」
 
光の球が高速で移動し、猫目にぶつかる。
猫目が拳を当て、弾き飛ばす。
 
( ΦωΦ)「今までの旅人に無かったのはその覚悟だ!! 楽しませてもらうぞ!!」
 
猫目の蹴りを拳で受け流す。
手を纏っていた光が床へと落ちる。
 
(;゚∀゚)「!?」
 
身の危険を感じ、距離をとる。
離れた刹那秒、男の拳があった場所が潰れ、床を凹ませる。
 
( ΦωΦ)「我輩が折るは勇心の心情!! 潰すは貴様の悠然なる肉体!!」
 
猫目の周囲を飛んでいた光球は床へと落ち、消える。
 
( ゚∀゚)「そんな簡単にはいかないさ!!」
 
男が光球を飛ばし、猫目がそれを潰し消す。
消える寸前に強い光を放つ。

430:名無しさん
10/19(金) 01:05 d6qWnnriO

 
( ΦωΦ)「む!?」
 
光で目が眩んだ瞬間を狙い、男が猫目の脇に蹴りを入れる。
 
( ΦωΦ)「我輩が得るは真と理!!」
 
猫目が足を掴み、蹴りを止める。
足の光が潰し消される。
 
( ゚∀゚)「なめんな!!」
 
足を掴まれたまま、男は体を捩り、逆の足で蹴りを入れる。
 
( ΦωΦ)「ぐっ…!!」
 
猫目は足を手放し、蹴りを避ける。
蹴りで出来た隙に猫目が拳で腹を殴る。
 
(;゚∀゚)「うぇ……」
 
ただ殴られただけだが、車内の壁に勢いよく体がめり込む。

431:名無しさん
10/19(金) 01:06 d6qWnnriO

 
( ΦωΦ)「まだまだ!!」
 
猫目が男の腹へ蹴りを加える。
壁に穴が空き、男が車外へと投げ出される。
なおも進む電車。
 
(;゚∀゚)「うおりゃあぁ!!」
 
光を足場にし、空中を走る。
 
(;゚∀゚)「E.T.も真っ青!!」
 
最後の光球を踏み台にし、電車の屋根にしがみつく。
 
( ΦωΦ)「ぶるあぁぁぁぁぁ!!」
 
電車の天井を破壊し、猫目が屋根に昇る。
再び対峙する二人。
 
( ゚∀゚)「手数で勝負!!」
 
光球が猫目に向けて幾つも放たれる。
 
( ΦωΦ)「この程度で我輩を超えるなど笑止!!」
 
猫目は光球を避けつつ、男へと迫る。
 
(;゚∀゚)「ちっ……」
 
猫目の蹴りに合わせ、男は光球を残し車内へ下りる。
 
( ΦωΦ)「むっ…」
 
光球が破裂する。
それに構わず猫目も男の後を追い、車内へと下りる。

432:名無しさん
10/19(金) 01:08 d6qWnnriO

 
( ゚∀゚)「俺のターン!! ドロー!! モンス( ΦωΦ)「モンスターなんぞ使ってんじゃねぇ!!」
 
周囲に予め張り巡らせておいた光球を床へと全て潰しながら、猫目は男に拳を振る。
 
( ゚∀゚)「喰らえ!! クロスカウンター!!」
 
猫目の拳に自分の拳を交わらせる。
相手の軌道を変え、自分の一撃を頬に喰らわせる。
猫目の体が重力を無視し、吹き飛ぶ。
 
( ΦωΦ)「ぐう…!!」
 
( ゚∀゚)「俺のターン!!」
 
まばゆいばかりの輝きを放つ光球が男の前に現れる。
 
(;ΦωΦ)「む!?」
 
( ゚∀゚)「ティウンティウンしやがれ!!」
 
光球から放射される光線。
空間を貫くように、猫目に降り注ぐ光。
文字通り、まさに光の線。

433:名無しさん
10/19(金) 01:09 d6qWnnriO

 
( ΦωΦ)「この程度じゃ我輩の永劫は貴様をも輪廻に取り込む!!」
 
猫目が降り注ぐ光を消しながら立ち上がる。
 
(;゚∀゚)「(不死身か? こいつは)その輪廻とやらを断ち切ってやんよ!!」
 
光球を二つ程猫目に飛ばすが、難無く回避される。
 
( ΦωΦ)「口だけにならんように気をつけるがよい!!」
 
猫目が跳躍し、距離を潰す。
 
(;゚∀゚)「言われなくてもわかってる」
 
男が猫目を迎え撃つ。
自ずと組んだような型になる。
 
( ΦωΦ)「真とは道程!! 理とは集約された結果!! 我輩が得るは全ての答え!!」
 
男の蹴りを軽くいなされる。
そしてそのまま弾かれる。
それを可能にするのは技術と単純な力。

434:名無しさん
10/19(金) 01:10 d6qWnnriO


(;゚∀゚)「(馬鹿力が!!)ぬぁ!?」
 
( ΦωΦ)「死ぬがよい!!」
 
体が浮く。
そして瞬く間に猫目が男の顔を掴み床へと後頭部から叩き込む。
床が砕け散り、車両が悲鳴を挙げ。
 
(;゚∀゚)「こん畜生が!!」
 
男が無防備な猫目の頭に光球をぶつけ、体躯が崩れる。
男はそれを見逃さずにすかさず猫目を蹴り飛ばす。
猫目は吹き飛びながら体を反転させ、車両の壁を蹴る。
自らがクッションの役割を果たし、衝撃を相殺させ床に立つ。
 
( ΦωΦ)「まだ生きるのか!!」
 
( ゚∀゚)「俺が死ぬときは心が折られたとき以外にはありえないさ!!」
 
男の両手足がさらに輝く。
 
( ΦωΦ)「貴様のアルカナは精神と肉体の同調か!!」
 
拳と拳がぶつかり合う。

435:名無しさん
10/19(金) 01:12 d6qWnnriO

  
( ゚∀゚)「言っただろ 心が折れない限り俺は死なない」
 
輝きが増す。
 
( ΦωΦ)「ならばへし折ってみせる!! 我輩の力で!!」
 
猫目の力が急激に上がり、男が押される。
 
( ΦωΦ)「ヒトと人の心が折れるのは絶望と恐怖を感じたとき!! 圧倒的な力は純粋な凶器と化す!!」
 
猫目の周囲が潰れ、床が凹む。
男の手の光が落ちて消える。
 
(#゚∀゚)「俺の素の力をなめるな!!」
 
輝きのない拳で猫目を殴り飛ばす。
ひざまずく猫目。
 
(#ΦωΦ)「ぐっ…貴様!!」
 
(#゚∀゚)「いちいち恐怖を感じてたら生きて行けねぇだろうが!!」
 
猫目が立ち上がり、直ぐさま殴り掛かる。
拳の軌道を光球で変え、腹部へ拳の連打。
猫目も一瞬怯むが足に力を入れて踏ん張り、男へと拳の応酬。

436:名無しさん
10/19(金) 01:14 d6qWnnriO

 
(;ΦωΦ)「ぐぁ……」
 
猫目が腹部を抑えて、距離をとるために下がる。
 
( ゚∀゚)「逃がすかよ!!」
 
猫目の四方と頭上を囲むように光球が現れる。
光球が他の光球と線で繋がり、三角錐の図形のようになる。
三角錐から光線が放たれる。
 
(;ΦωΦ)「うぐおぉぉぉ…」
 
猫目が光に潰される。
なおも猫目は立ち上がる。
電車の床は砕け散っている。
 
(;ΦωΦ)「まだだ!! まだ負けたわけでは……っ!?」
 
三角錐が回転を始め、猫目をさらに潰す。
 
( ゚∀゚)「俺の勝ちだな」
 
( ΦωΦ)「……」
 
三角錐が消える。
猫目は立ったまま気絶していた。

437:名無しさん
10/19(金) 01:16 d6qWnnriO

 
( ><)「崩壊が真後ろまで迫ってるんです!!」
 
少年が目の前に現れる。
 
( ゚∀゚)「そうか」
 
男が座席に座り休憩している。
 
( <●><●>)「どっちが負けたかわかってます もちろん消えるべきほうも」
 
( ゚∀゚)「は?」
 
男が?を頭の上に浮かべた。
そして異変に気付く。
猫目が移動している。
いや、
 
(;゚∀゚)「俺が前の車両に」
 
( <●><●>)「切り離します」
 
猫目が乗っている車両が切り離され、闇に飲まれる。
 
( ><)「そろそろ終点なんです」
 
(;゚∀゚)「おまえ…」
 
男が言葉を口にだそうとする。
そして周囲は光に包まれた。
結局言葉は紡がれなかった。
光は真っ白へと変わる。
そして白は自分をも見えなくしていた。
感覚が消える。
そして男は意識を手放した。
手放す寸前に「到着!! 月面なんです!!」という声が微かに頭に残った。

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