404:名無しさん
10/10(水) 18:04 6jJ6SjwJO

 
三十五重 『60番』
 
俺は笑顔が見たかった。
しかたなく、精一杯。
しかたなく?
そんなこじつけなわけ、ないだろう?
俺が望んでいたのは、笑顔。
あの娘が教えてくれた、安心。
 
( ゚∀゚)「……」
 
戦いの最中に考え事。
自殺行為のはずだ。
でも何故か今だけは戦いを冷静に見極めつつ、自問自答できた。
自問自答とは少し意味の違いが生じる。
凍ってしまった記憶と自分の本心を溶かしだす。
簡単そうで、とても難しい。
ぃょぅを光で破壊する。

405:名無しさん
10/10(水) 18:06 6jJ6SjwJO

 
(∵)「真実とは隠された扉 そこにあって遠くにある」
 
男がぃょぅとペニサスを手から次から次へと生み出す。
頭が冷静なおかげでぃょぅもペニサスも見える。
死角から攻撃されても何となくわかる。
自分はこんなにも動けたのか、こんなにも考えることができたのか…と。
 
( ゚∀゚)「……」
 
記憶が少しずつ、気持ちが少しずつ溶けているような錯覚を覚える。
男がずっとこちらを見ている。
あの男のアルカナは悟り。
男の力で思い出しているのだろうか。
そんなことは、どうでもよかった。
今は、どうでも。

406:名無しさん
10/10(水) 18:07 6jJ6SjwJO

 
( ゚∀゚)「……」
 
ある日、笑顔は消えた。
違う。
そこにあった。
掴めなくなっただけ。
あの娘は突然、いなくなった。
突然、引っ越した。
残ったのは後悔。
あの娘をいつものように家に送り、別れた。
名前を呼べなかった。
それだけだが、大きなこと。
それを忘れようと、精一杯。
次こそ名前を呼べるようにと、精一杯。
 
(∵)「……思い出せるかな」

407:名無しさん
10/10(水) 18:11 6jJ6SjwJO

 
仲間がいた。
このいかれた世界にも。
仲間がいたから頑張った。
仲間いたから、狂わず……いや、順応できた。
仲間のために精一杯。
今はいない。
手から零れ落ちるような錯覚を覚えた。
だが、約束のために負けられない。
この精一杯でここまで来た。
死んだら終わりなのにか?
そこまで考える必要はない。
自分を信頼して仲間は約束したんだ。
だったら精一杯やればいい。
矛盾?
 
( ゚∀゚)「何それ? うまいの?」

408:15◆p7NLwd/q.6
10/10(水) 18:12 6jJ6SjwJO

 
男が喋りだす。
予想外だったのは能面のような顔をした男。
飛ばされた記憶の補修は完全とは言えない。
だが、幼稚で陳腐な自己完結により自我を取り戻した。
やはりヒトのデータは素晴らしい。
封印したはずの、自分の顔を変えた忌ま忌ましい記憶が蘇る。
 
( ゚∀゚)「約束を果たした後が大事なんだ」

409:名無しさん
10/10(水) 18:14 6jJ6SjwJO

 
アルカナが効かなくなった。
男は戦いの答えを導き出した。
これは戦いであって、自己を見出だすものではない。
男は迷いながら前向きに進んでいた。
悟りきれなかったのは自分が愚かだったか、このデータではこれが限界だったのかは男にはわからなかった。
 
( ゚∀゚)「大切なのは結果」
 
約束を果たすのは、笑顔が見たいから。
約束を果たすために精一杯。
約束は信頼の証。
果たすことが前提。
笑顔が見れなくても約束を守ろう。
最後に名前を呼ぶことができなかったから。
仲間に、あの娘に信頼のされたから。
だったら守ろう。
精一杯。
約束を。

410:名無しさん
10/10(水) 18:15 6jJ6SjwJO

 
(;∵)「…なっ」
 
破られるとは思わなかった。
相手を甘く見た証拠。
ぃょぅとペニサスの正体は途中で拾った人形。
能力で人形を元に殖やす。
本体が砕かれた。
コピーが壊れるのは必然。
予め本体は隠した。
意識の死角に。
初めから隠してあるのがばれなければ無いのと同じだから。
 
( ゚∀゚)「ひらめきって大事じゃね?」
 
破壊したのは二人の動かない人形。
隠すことができるなら、大事な物も隠しておくのが人間。
疑うべきは冷静だった己。
冷静のふりをさせられて目の前に置かれていた。
疑うべきは自分以外。
死角は作らない。
全てを疑う。

411:名無しさん
10/10(水) 18:16 6jJ6SjwJO

 
(∵)(こんなにも早く…)
 
月までの道のりで心身ともに大幅に成長することから旅人と呼ばれる。
成長が著し過ぎる。
後ろに浮かんでいた地球が無くなっている。
喰らったのか?
地球をこの小さな個人のデータごときで。
わざわざ自分の寿命を削るほど、月は焦っているようだ。
正常でいられるこの男はおかしい。
凄まじい能力ではあった。
だがここまでとは。
いや、記憶をこじ開けてからこうなってしまった。
嵌められたようだ。

412:名無しさん
10/10(水) 18:19 6jJ6SjwJO

 
(∵)(弄り過ぎた代償が忘却…アルカナは神になりえる者だけの特権 月は記憶の補修に失敗したまま旅人にしたのか…?)
 
( ゚∀゚)「約束は守るためにあるんだよ 悪いが勝たせてもらうぜ」
 
男が手から光を放つ。
 
(∵)(推測など不毛な行いか)「私の本気、見せようか 能力を全て引き出せたほうが勝ちだ」
 
男が自らの顔を両手で掴む。
殖えるのは能面のような男。
 
(∵)(∵)(∵)(∵)(∵)
 
一人が手を当てると両手から一人ずつ、二人現れる。
ネズミ算式に殖える男。

413:名無しさん
10/10(水) 18:22 6jJ6SjwJO

 
(∵)「私の」
 
(∵)「能力は」
 
(∵)「ドッペルゲンガー」
 
(∵)「肉体の乖離が」
 
(∵)「起こらない」
 
(∵)「完全なる」
 
(∵)「自分」
 
男が殖える。
 
(;゚∀゚)(……地獄だな)
 
色んな意味で。
だが、
 
(∵)「(心が少ししか読めない…勝つことへの揺るぐことのない自信か 諦めか)君は勝つことができるか?」
 
( ゚∀゚)「能力を完全に引き出した俺に数なんて意味を成さないんだよ、これが」
 
男が右手を前に出し光を放つ。
直線上にいる能面を仕留める。
 
( ゚∀゚)「俺は倒したやつらの過去を背負って、約束を果たす」
 
(∵)「(葉…広がり? 読み取ったものが少な過ぎる)この数全ての私を倒してから言うべき…だ?」
 
視界が傾く。
そして血が辺り一面を覆い尽くす。
別れたのは全ての自分の上半身と下半身。
消えるコピー。
残る本体。
 
( ゚∀゚)「悪いな」
 
右手に重ねた左手。
右手は真っ直ぐ光が延びる。
左手は二つに別れながら弧を描き、合流する。
それは巨大な葉になる。
二つ合わせれば葉の形。
光が徐々に集まり、広範囲への攻撃が可能になる葉へと変化する。

414:名無しさん
10/10(水) 18:23 6jJ6SjwJO

 
(∵)「…見事」
 
( ゚∀゚)「……」
 
(∵)「そこの電車に乗って辿り着けば月、だ」
 
( ゚∀゚)「ん? YとZ地区は?」
 
(∵)「Yがその電車と線路 Zは月面だ」
 
( ゚∀゚)「終わり、か」
 
男が息を吐く。
 
(∵)「油断は死を招く 忘れるな」
 
(;゚∀゚)「ああ」
 
(∵)「月はしたたかで賢い だが君の信じた先へ行くことだ 君が月へ辿り着いたらまた会おう」
 
男が光となり、消えた。
 
( ゚∀゚)「わからないことだらけなんだが…」
 
男が電車へと歩く。
ドアが開いている。
車内には電気が点いている。
 
どうやら約束は守れそうだ。
 
いつかはわからないが、また今度会ったら……。
 
その時に、笑顔を見せて欲しいんだ。
 
俺はそれまで精一杯頑張って、たくさん苦しむから。

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