( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです 10話~11話
カテゴリ: ブーン系
( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです 目次
323 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:06:50 ID:vluT4a/oO ***
第十話 「戦の道は死境の道」
***
根十城城門付近。
天野勢はもう全隊が根十城に進入してしまった為、ここには無数の死体が転がっているのみだ。
しかし、その奥からは大勢の怒号と刃を交える音が聞こえる。
内部がやけに明るく見えるのは、城内の所々に火の手が上がっている為だろう。
堂土狗久流を倒し、城門まで走り戻った渚本介。
馬でもあれば、と辺りを見渡すが、生きてる者の姿は無い。
(;´・ω・`)(地下牢か…)
とりあえず、ブーンがいる可能性が高いのは地下牢だ。
天野勢に捕まる前に、地下牢からブーンを助け出す必要がある。
第十話 「戦の道は死境の道」
***
根十城城門付近。
天野勢はもう全隊が根十城に進入してしまった為、ここには無数の死体が転がっているのみだ。
しかし、その奥からは大勢の怒号と刃を交える音が聞こえる。
内部がやけに明るく見えるのは、城内の所々に火の手が上がっている為だろう。
堂土狗久流を倒し、城門まで走り戻った渚本介。
馬でもあれば、と辺りを見渡すが、生きてる者の姿は無い。
(;´・ω・`)(地下牢か…)
とりあえず、ブーンがいる可能性が高いのは地下牢だ。
天野勢に捕まる前に、地下牢からブーンを助け出す必要がある。
自殺した貧乏アイドル上原美優さんのブログのコメント欄が怖いと話題に
324 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:08:11 ID:vluT4a/oO
地下牢の場所はあやふやだが、とりあえず建物内にあるのは確かだ。
誰か味方に遭遇すれば、そいつに聞けばいい。
渚本介は疲れを訴える足に鞭を打ち、根十城内部へと走り出した。
(;´・ω・`)(待ってろブーン…)
ブーンを必ず助け出す。願わくば、ブーンが元の時代へ戻る為、尾付出麗と共に。
擬古成を逃してしまった先程の失態を、悔やんでいないわけではない。
しかし、擬古成を討つのは後でもいい。
肺が痛い。足が重い。
それでも渚本介は走り続ける。
乱戦となった、根十城の中心へと。
──
325 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:10:04 ID:vluT4a/oO ──
(;^ω^)「出麗さん、僕の後ろに隠れるお!」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はい!」
( ゚д゚ )「……」
根十城大広間。
ブーンは絶望感に浸りそうになるのを堪え、出麗を庇うように立ちはだかった。
そのすぐ傍らで、既に負けを覚悟している男、城主の巳留那がじっと座っている。
あっさりと彼らを追い詰めた擬古成は、三人に向かって悠々と歩き出した。
三人が三人とも無力だと確信したからか。斬馬刀の峰を肩に乗せ、余裕を見せながら近付いてくる。
326 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:12:04 ID:vluT4a/oO
(,,゚Д゚)「二茶根瑠領領主、二茶根瑠巳留那よ。俺は今よりお前を殺し、この城と領をまるまる頂く」
(,,゚Д゚)「だから最後に聞かせてくれ。この二茶根瑠領、お前にとってどういう国なんだ」
(;^ω^)「……」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
巳留那には悪いが、ブーンはほんの少しだけ安堵感を得た。
恐らく、擬古成は最初に巳留那を討ち、そのついでに自分達を殺すつもりなのだろう。
上手く行けば、隙を見て逃げ出すこともできるかもしれない。
擬古成の問いに、少し考えるように黙る巳留那。
暫く黙ると、威厳の保った低い声で、ゆっくりと返した。
( ゚д゚ )「…この国は余の全て、そのものだ。貴様如きに渡すのが惜しいほどに、余はこの国を愛しておる」
(,,゚Д゚)「ハッ、言うじゃねえか」
327 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:13:18 ID:vluT4a/oO
(,,゚Д゚)「なれば、俺は貴様の全てを剥ぎ取り、蹴落とし、この国を奪う」
巳留那のすぐ手前まで歩み寄った擬古成が、斬馬刀を構える。
それでも巳留那は動じる事なく、じっと擬古成を見据える。
近くに居てはいけないと感じたブーンが、出麗と共に後退った。
(,,゚Д゚)「二茶根瑠巳留那。その首、頂戴致す」
(#ー_ー)「させるかァ!!」
(,,゚Д゚)「!」
斬馬刀を振り下ろそうとする擬古成の腕が止まった。
その一瞬後、擬古成が振り向くと同時に、小さな懐刀がその胸部目掛けて飛んできた。
反射的に斬馬刀を下向きに構え、盾のようにその懐刀を防ぐ。
328 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:14:08 ID:vluT4a/oO
一つ舌打ちをし、懐刀を投げてきたその男を睨む。
(,,゚Д゚)「…貴様、誰だ」
(ー_ー)「二茶根瑠家近習頭、尾付比岐」
鞘から刀を抜き、擬古成を睨み返す。
途端、ブーンの後ろで、出麗が声をあげた。
ζ(゚ー゚;ζ「父上!」
(;^ω^)「!?」
(;ー_ー)「なっ…!?」
重くなりつつあった空気が、一気に別の緊迫へと変わった。
尾付家は二茶根瑠家の近習を務めている。
出麗も尾付家の一員であり、近習頭の比岐の実の娘なのだ。
何故お前が此処にいる。そう言いたげに出麗を見るが、すぐに別の言葉を投げた。
329 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:15:09 ID:vluT4a/oO
(;ー_ー)「早く此処から去ね!そこの南蛮人は出麗と共に殿をお守りしろ!」
ζ(゚ー゚;ζ「で、できません!父上を見捨てるなど、私にはとても…」
(#ー_ー)「去ねと言っているのが聞こえぬか!!」
比岐の怒声が大広間に響く。
押し黙った出麗に、更に続ける。
(#ー_ー)「殿をお守りするのが、我ら近習の定め!命などとうに捨て置いている!!」
(#ー_ー)「お前は女子だ!戦に慣れぬ、琴を嗜む女子!しかし、まごうことなく近習一族!」
(#ー_ー)「殿を連れ、守り抜いてみせよ!早く此処から去ね!!」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
擬古成に刀を向けながら、巳留那を連れて逃げるよう出麗に命じる。
目に涙を浮かべながら、出麗が小さく頷いた。
330 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:16:51 ID:vluT4a/oO
巳留那を立ち上がらせ、ブーンに託し、自らは先導の位置に着いた出麗。
擬古成に背を向け、比岐が入ってきた入り口とは反対側の外回路へと進み出す。
外に出る間際、出麗が少しだけ振り向いた。
ζ(゚ー゚*ζ「御達者で、父上」
(ー_ー)「……」
恐らくはこれが今生の別れとなる。
しかし、その別れを惜しむ間など在りはしない。
比岐は改めて擬古成に目を向けた。
(,,゚Д゚)「ハッ、良いじゃねえか。涙のお別れってか」
(ー_ー)「ぬかせ」
331 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:18:02 ID:vluT4a/oO
刀を握る手に力が入る。
巳留那を一時的に逃がすことに成功した。娘と顔を合わせて別れることも出来た。
もう、怖いものは何もない。
(ー_ー)「天野擬古成。根十城に気安く攻め入った下賤者を、いざ討たん」
(,,゚Д゚)「…やってみろ」
静かに睨み合っていた状態が、一瞬で変わった。
刀を構えた比岐が、一気に擬古成に飛び込んだのだ。
思わず防御の姿勢をとった擬古成に、小刻みな突きの攻撃を繰り返す。
(,,゚Д゚)(チッ…)
332 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:20:11 ID:vluT4a/oO
あまりにも小刻みに、正確に繰り出される突きに、擬古成は反撃の手が出ない。
実は、これこそが斬馬刀の弱点だった。
刃同士を合わせる攻防なら、間違いなく厚みも重みも格段に違う斬馬刀の勝利だ。相手の体ごと刀を弾き飛ばし、その隙に斬り伏せることも出来る。
しかし、相手の攻撃が小刻みな突きだったら、反撃する隙がない。
一度防御に入ってしまえば、相手の攻撃を喰らい続ける他無いのだ。
(#ー_ー)「ハッ!!」
(,;゚Д゚)「クソッ…」
頭、手、足。
斬馬刀では隠せきれない箇所を、徹底的に突いてくる。
333 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:21:36 ID:vluT4a/oO
(,#゚Д゚)「…図に乗んじゃねえ!!」
(;ー_ー)「!!」
慣れない防御戦に痺れを切らし、擬古成が斬馬刀ごと比岐に飛び込んだ。
タックルのような攻撃を受け、比岐の体が倒される。
(,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
その体に、斬馬刀の上段からの一撃が迫る。
咄嗟に体を回し、斬馬刀を避けながら立ち上がる。
(;ー_ー)「ハァ…ハァ……ッ」
危ないところだった。
擬古成と距離を取り、刀を構え直す。
しかし、何故か刀をうまく構えられない。
不思議に思いながら、比岐は自らの腕へと視線を落とした。
334 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:22:59 ID:vluT4a/oO
(ー_ー)「あ……?」
比岐が刀を構えられないのは当然だった。
視線を擬古成へ戻すことも忘れ、比岐はそのまま固まった。
比岐が目にして、思わず固まってしまうほどの光景。
自らの左肘から先が、無くなっていた。
(;ー_ー)「う、あ、あ゙あ゙あ゙あ゙ああああ!!」
(,,゚Д゚)「一介の近習にしては、なかなかの腕前だったぞ」
(;ー_ー)「腕が!!ああああ!畜生!畜生!」
片膝をつき、左腕を押さえて悶える比岐。
もはや反撃の兆しすら感じられないその姿に、擬古成が迫る。
335 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:24:07 ID:vluT4a/oO
(;ー_ー)「ああ、ハァ、ハァ…!!」
目の前の擬古成が斬馬刀を振り上げる。
途端、比岐は時間が止まったかのように感じた。
もはや擬古成を倒すことはほとんど叶わない。
しかし比岐は考える。
娘の出麗と例の南蛮人は、巳留那を連れてまだそう遠くまで逃げきれていないはず。
ここで自分があっさりと負けてしまえば、すぐに擬古成は三人を追い、捕まえてしまうだろう。
それだけは何としても避けたい。
無事に逃がす為には、まだ時間を稼ぐ必要がある。
此方を見据え、斬馬刀を振り上げている擬古成。
世界が、動き出した。
(,,゚Д゚)「楽に送ってやる。尾付比岐よ」
336 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:25:50 ID:vluT4a/oO
足に力を入れ、笑う膝を抑える。
擬古成が斬馬刀を振り下ろそうとした瞬間、比岐は擬古成に飛びかかった。
(,;゚Д゚)「なっ…!?」
(#ー_ー)「うおおおおお!!」
強引に肩から懐に飛び込み、擬古成を仰向けに倒した。
そのまま馬乗りの体制で擬古成を押さえ、顔面に向かって何度も拳を打ち込む。
あまりにも想定外な反撃に、為す術無く殴られる擬古成。
その顔面が、赤く染まっていく。
(#ー_ー)「おおおおおおおおお!!!」
337 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:27:07 ID:vluT4a/oO
激しい運動を続けているせいで、おびただしく出血する左腕。
必死に殴り続けるも、やがて力が入らなくなってきた。
(;ー_ー)「ハァ…クソ……クソッ…」
血が足りないせいで、筋肉が言うことを聞いてくれない。
比岐の最後の一発。渾身の拳は、ぺちんという音を擬古成の頬に鳴らしただけだった。
(;ー_ー)「ハァ……ハァ……」
(; _ )「ハ………」
もう、全身に力が入らない。
思考すら叶わない。
擬古成の横に転がるように、比岐は倒れ込んだ。
暗くなる視界で、ゆっくりと起き上がる擬古成の姿が、最後に映った。
──
338 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:28:08 ID:vluT4a/oO ──
(;^ω^)「ま、まだ下につかないのかお…」
ζ(゚ー゚;ζ「そろそろ次の階段に着くわ!そこから下に降りられる!」
( ゚д゚ )「……」
大広間から外回路へと抜け、そのまま下へと進んでいく三人。
既に多くの天野の兵が建物内へ進入したのだろう。
城内のあちこちから、大勢の怒号が聞こえる。
(;^ω^)「それにしても、敵兵に見つかりはしないかお?」
ζ(゚ー゚;ζ「わからないわ。なるべく難しい道を使ってるけど…運次第ね」
339 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:29:17 ID:vluT4a/oO
ブーンが最も懸念し、恐れていること。
それは、今のこの状況で敵に出くわしてしまえば、あっさりやられてしまうだろうということだ。
ブーンも出麗も武器を持っていないし、巳留那は刀を持っているものの、何か不安だった。
ζ(゚ー゚;ζ「よし、もうすぐ階段よ!」
(;^ω^)「了解だお!さ、急ぎますお」
( ゚д゚ )「ああ」
先導する出麗の背中を追い、巳留那を連れて走り続けるブーン。
広い廊下の奥に、とうとう下へと続く階段が見えてきた。
足を速め、階段へと急ぐ三人。
しかし、その足はすぐに止まった。
340 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:30:25 ID:vluT4a/oO
ζ(゚ー゚;ζ「あ……」
(;^ω^)「……」
足を止め、肩で息をしながら、前方に視線を向ける。
三人が目を向ける先。
廊下の奥の階段から、十数人の敵兵達が現れた。
ζ(゚ー゚;ζ「そんな…」
(;^ω^)「…最悪だお……」
恐れていた事態になってしまった。
どうする。引き返して逃げるか。
いや、それでは体力が持たない。
冷静に回らない頭で、必死に考えるブーン。
敵兵達が、三人に気付いた。
341 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:31:44 ID:vluT4a/oO
何かを叫びながら、三人へと迫る敵兵達。
もう考える暇などない。
ブーンは出麗の腕を掴み、巳留那を庇いながら、元来た道を走り出そうと振り返った。
しかし、その敵兵から聞こえてきたある言葉に、ブーンは思わず足を止めた。
「旦那様…?」
(;^ω^)「……え?」
聞き覚えのある声。聞き覚えのある呼び名。
ブーンはゆっくりと振り向き、目を見開いた。
(;゚∀゚)「旦那様…ですよね…?どうして…」
342 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:33:38 ID:vluT4a/oO
(;^ω^)「ご、ご主人!?」
敵兵の格好をした男は、紛れもなくブーンの知り合いだった。
天野勢に焼き討ちをされた二子厨の庄、そこで宿屋を営んでいた男。
かつてブーンを殺そうとし、改心した男が、そこにいた。
(;^ω^)「ど、どうして天野勢の格好なんかしてるんだお!」
(;゚∀゚)「旦那様こそ、どうして根十城なんかにいるんですかい!?」
根十城の城主を連れて逃げているブーン、根十城を攻める天野勢の一員になっている宿屋の主人。
理由はわからないが、間違いなく二人は敵対する立場にあった。
あってはならない形で、二人は再会してしまった。
343 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:34:42 ID:vluT4a/oO
実のところ、天野勢が二子厨の庄を襲った際、宿屋の主人は捕虜として天野勢に捕まっていたのだ。
すぐに処刑はせず、捕虜は戦力にしてしまうのが擬古成のやり方だ。
主人も天野勢に加わらされ、訓練を受けさせられ、この根十城攻めに参戦させられていた。
(;゚∀゚)「……」
(;^ω^)「……」
ブーンも、主人も、兵達ですら、この奇妙な状況に固まっていた。
しかし、この均衡は長くは続かなかった。
構うことない、殺せ、といきり立った兵が、刀を抜いて走り出したのだ。
その直後。
構えていた槍で、主人がその兵の背中を貫いた。
344 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:35:37 ID:vluT4a/oO
走り出していた兵が、静かに崩れ落ちた。
(;^ω^)「ご主人!?」
(;゚∀゚)「あ……」
やってしまった、という顔を自らの槍に向ける。
その後ろで、十人ほどの兵が一気に騒ぎ出した。
(;゚∀゚)「う、うおおっ!!」
その兵達に向かって、今度は槍を横に払った。
数人の兵が倒れ込み、それに押されて更に何人かが転ぶ。
(;゚∀゚)「旦那様!!今のうちに降りてくだせェ!」
(;^ω^)「な、何言ってんだお!」
(;゚∀゚)「いいから早く!!」
345 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:37:13 ID:vluT4a/oO
(;^ω^)「ご主人…」
(;゚∀゚)「…あん時、旦那様はもう後悔はしないでくれって言ってくれやした」
(;゚∀゚)「約束通り、俺ぁ後悔なんてしません!これが俺の選んだ道なんだ!さあ、早く逃げてくだせェ!!」
(;^ω^)「…わかったお!」
主人が槍で兵達をどかした隙間を、出麗て巳留那を連れて走り行くブーン。
三人の姿が見えなくなると同時に、主人の横腹を、槍が貫いた。
「謀反者を殺せ」という誰かの掛け声と共に、兵達が刃を向けてきたのだ。
腹に、胸に、肩に、容赦なく槍が突き刺さっていく。
346 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:38:08 ID:vluT4a/oO
(; ∀ )「う……あ…」
(; ∀ )「…だ、旦那…様……」
力無く倒れ込みながら、主人は力を振り絞って手を動かした。
右手を懐に入れ、中をまさぐる。
…良かった。無事だったか。
言葉にならない言葉を吐き、主人は目を閉じた。
その右手には、かつてブーンから貰った品、ボールペンが握られていた。
無二の宝物が無事だったことに、安堵の表情を浮かべる主人。
直後、その首と胴が、兵が振り下ろした刀によって分かれていった。
──
347 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:39:10 ID:vluT4a/oO ──
(;^ω^)「ようやく下に着いたお…」
ζ(゚ー゚;ζ「あとは馬を取って逃げるだけね」
近くに人の気の無い、根十城大手門付近。
この大手門を抜けると兵士宿舎がある。そこに隣接する馬小屋に行けば、逃げきる為の馬も確保できるはずだ。
いざ門を抜けようと三人が進み出す。
途端、何やら鉄同士がぶつかるような、重い轟音が門の向こうから聞こえてきた。
(;^ω^)「この音は…?」
まさかの事態が脳裏をよぎる。
音のした方、大手門の向こうへと、ブーンは急に走り出した。
348 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:40:30 ID:vluT4a/oO
ζ(゚ー゚;ζ「あ、ちょ、待ちなさいよ!」
出麗の制止も聞かず、ブーンは躊躇いなく門をくぐっていく。
門を抜け、目前に広がる光景に、ブーンは思わず立ち尽くした。
結論から言うと、例の音の正体は、ブーンの予想通りだった。
鉄同士がぶつかるような轟音の正体は、かつてブーンが二子堂城で聞いた、虎恍丸と斬馬刀が刃を合わせる音。
そして、その音から連想できる通り、そこには渚本介と擬古成の姿があった。
(;゚ω゚)「え…あ……?」
(,,゚Д゚)「ハッ、生きていたか南蛮人」
擬古成が静かにブーンに目を向ける。
しかし、ブーンの視線は別のものを捕らえていた。
349 : ◆vVv3HGufzo:2011/03/27(日) 23:41:21 ID:vluT4a/oO
(;゚ω゚)「そんな……嘘だお…」
信じられない光景だった。
冷や汗が全身を流れ、気が遠くなるのを弱々しく堪えながら、ブーンは小さく声を洩らした。
(;゚ω゚)「…渚本介さん……?」
(;´メω `)「……」
震えた声が辺りに響く。
ブーンの目線の先で、頭部から血を流した渚本介が、ゆっくりと膝をついた。
第十話 終
353 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/28(月) 13:35:23 ID:PrtONK/E0 うわあああああああああああああああ!
絶望した
355 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/28(月) 15:15:32 ID:tv8EY642O 乙
比岐に宿屋の主人…あれぞ漢の生き様だな
360 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:30:11 ID:.21OI1/oO ***
第十一話 「復讐と野望の果て」
***
時は少し前後する。
ブーン達が宿屋の主人と出くわした頃。
渚本介は地下牢から上がり、搦手門のあたりに居た。
搦手門とは、簡単に言えば城の裏口のようなものだ。
地下牢にブーンがいなかった為、もう逃げるのに成功したか、もしくは敵に捕まったかの二択しかない。
まずは前者であることを考え、一旦は正門を見て、それからの搦手門を確認に来た。
しかし、搦手門は厳重に鍵が閉められていた。
(;´・ω・`)(城外にいることは考えにくいな…)
となると、ブーンは城内を隠れるか逃げ回っている、もしくは既に捕まっているかだ。
361 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:31:13 ID:.21OI1/oO
いずれにしても、このままだと最悪な結末をブーンは迎えることになる。
(;´・ω・`)(休む暇は無いな)
乱れた息を整え、疲労を訴える足を押さえる。
早く行かなければ、と力無く走り出す渚本介。
その直後だった。
(;´・ω・`)(擬古成か…?)
渚本介の位置から五十メートルほど離れた、大手門近くの天守の下。
あの擬古成が、フラフラと歩いているのが見えた。
362 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:32:12 ID:.21OI1/oO
遠くてよく見えないが、何やら顔から血を流しているようだ。
無二の好機だ、と虎恍丸を抜く。
鞘から刀を抜く音が聞こえたのか、それともその殺気に感づいたのか。
擬古成が、此方に気付いた。
(,;゚Д゚)「戦魔…!」
擬古成が大手門近くまで降りていた理由。
それは、比岐と戦っている間に逃げていった巳留那達を追う為だった。
ところが下に巳留那達の姿は無い。
代わりに、あの太田渚本介の姿がそこに在った。
(,;゚Д゚)「フ……」
363 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:33:20 ID:.21OI1/oO
思わず、口元が緩んだ。
面白いじゃないか、この巡り合わせ。
これが、この天野擬古成と太田渚本介の、恐らく最後の戦いになるのだろう。
ふらつく頭を押さえ、虎恍丸を構える渚本介を睨みながら、斬馬刀を抜いた。
(´・ω・`)「……」
その擬古成に向かって、虎恍丸を手にしたまま歩き出す渚本介。
二人の間の距離が、着実に縮まっていく。
(,,゚Д゚)「戦魔よ!」
(´・ω・`)「!」
その距離が十メートル程に狭まった頃。
突如、擬古成が口を開いた。
364 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:33:37 ID:.21OI1/oO
突然の事に、渚本介の足が止まった。
根十城にて漸く、落ち着いて対峙する二人。
斬馬刀を持ったまま、擬古成が続ける。
(,,゚Д゚)「お前との長き戦いも、恐らくこれが最後。お前は今容易く逃げられる立場に無いからだ。勿論、それは俺もなのだが」
(´・ω・`)「……」
(,,゚Д゚)「故に、俺とお前は今より命の決着をつける。こうしてまともに話すのも、恐らく何れかの今生の最後だ」
(´・ω・`)「…そうだな」
(,,゚Д゚)「言い残すことは?」
情けや慈悲ではなく、純粋に渚本介の言葉を聞こうとする擬古成。
それを察し、渚本介も素直に言葉を並べていく。
365 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:34:38 ID:.21OI1/oO
(´・ω・`)「今の俺は復讐心のみで生きていると言っても過言ではない。貴様の顔を見る度、声を聞く度、憎悪と殺意が我が体躯を啄む」
(´・ω・`)「そして、今ここで貴様の首を取ったとして、その後の俺は生きていけまい」
(,,゚Д゚)「……」
(´・ω・`)「どうせ死に行くなら、貴様を地獄に送ってからだ。…最後に、貴様に率直な心の内を述べよう」
虎恍丸を構え直し、一呼吸置いた渚本介。
対する擬古成も、斬馬刀を静かに構えた。
(´・ω・`)「……殺してやる」
366 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:35:37 ID:.21OI1/oO
一瞬後。二つの刃が、轟音をあげて交わった。
(#´・ω・`)「ハァッ!!」
(,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
斬馬刀の重みに勝てず、虎恍丸はやはり弾かれた。
そこに擬古成の素早い返し手が迫るが、渚本介はそれを潜り込んで避ける。
がら空きの腹に虎恍丸を伸ばすも、擬古成がそれを飛び上がってかわした。
(;´・ω・`)「!?」
(,#゚Д゚)「フンッ!!」
そのまま空中で回転しながら斬馬刀を払う。
その攻撃をなんとか虎恍丸で受け流し、擬古成の首へと刃を伸ばす。
しかし、今度は擬古成がそれを潜り込んでかわした。
367 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:36:45 ID:.21OI1/oO
地面についた斬馬刀を、持ち上げるように渚本介に向ける。
途端、渚本介がその刃に足を乗せた。
(,;゚Д゚)「ム…!?」
(#´・ω・`)「ハッ!!」
予想外だった渚本介の動きに反応できず、そのまま斬馬刀を振り上げた擬古成。
斬馬刀の刃に乗った渚本介が、その頭上を越え、擬古成の背後に着地した。
勝ちを確信し、その背中に虎恍丸を突き伸ばす。
しかし、その視界から擬古成が消えた。
渚本介の攻撃が当たる前に、地面スレスレまで一瞬で伏せたのだ。
そのまま仰向けになりながら、渚本介の脇腹に蹴りを喰らわす。
それをまともに受け、渚本介は数メートル吹っ飛ばされた。
368 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:37:46 ID:.21OI1/oO
(;´・ω・`)「く…はっ……!」
(,;゚Д゚)「ハァ…ハァ…ッ」
脇腹を押さえて立ち上がる渚本介。呼吸を整えながら起き上がる擬古成。
睨み合いながら、再度武器を構え直す。
二人の力は、確実に拮抗していた。
(;´・ω・`)「……」
(,;゚Д゚)「……」
長くは戦えないと悟った二人。
短時間で勝負をつける為、次の動きを目で探り合う。
いざかかろうと渚本介が一歩踏み出した。
その途端、渚本介のすぐ横に兵が落ちてきた。
(;´・ω・`)「!」
その兵に一瞬気を取られ、動きを止めてしまった渚本介。
その首に、斬馬刀が勢い良く迫る。
369 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:38:39 ID:.21OI1/oO
(;´・ω・`)(しまっ…!!)
咄嗟に虎恍丸を向け、直撃を避ける。
しかし、斬馬刀の力に押され、そのまま体ごと飛ばされた。
大手門の方に飛ばされ、運良く壁にぶつかることなく門をくぐり抜けた渚本介。
どうにか体を起こし、顔を上げる。
(;´・ω・`)「くっ…」
(,#゚Д゚)「ゴルァッッ!!」
(;´・ω・`)「!!」
擬古成も門を抜け、そのまま飛び込むように斬馬刀を振り下ろす。
今度はまともに虎恍丸で攻撃を止めるも、渚本介の体はそのまま後ろへ流れた。
休む暇なく、またも渚本介に斬馬刀が横から迫る。
370 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:39:50 ID:.21OI1/oO
(;´・ω・`)(間に合わない…)
流れた体のバランスを保つのに必死で、手が空いていた渚本介。
体を反らしてその攻撃を避けようとするも、斬馬刀は渚本介の顔面を捕らえた。
(,,゚Д゚)「…勝負あった」
(;´メω `)「……」
渚本介の右頬から額に向けて、斬馬刀は深い爪痕を刻み込んだ。
右目を失い、顔から大量の血を流しながら、よろよろと数歩歩み。
渚本介はゆっくりと膝をついた。
ブーン達が大手門の方へ飛び出してきたのは、ちょうどその時だった。
──
371 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:40:11 ID:.21OI1/oO ──
(;゚ω゚)「…渚本介さん……?」
何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。
ただ目の前の現実に、ブーンは固まるしかなかった。
(;´メω `)「……」
(;゚ω゚)「そ…んな…」
(,,゚Д゚)「哀れな男よ」
斬馬刀の峰を肩に乗せながら、擬古成が口を開く。
膝をついた渚本介の背中を見下ろすその目は、異様なほどに冷たい。
372 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:41:25 ID:.21OI1/oO
(,,゚Д゚)「たかが復讐の為だけに、俺を追う為だけに、当て所ない旅を続けてきた」
(,,゚Д゚)「それがこのザマだ。殺す為だけに刀を振り回し、闇雲に走り回り、この男は生涯を終える」
(;´メω `)「……」
擬古成の言葉に、渚本介は何の反応も示さない。
攻撃の兆しのないその後ろ姿へと近付き、擬古成は斬馬刀を振り上げた。
(;゚ω゚)「……やめろお…」
(,,゚Д゚)「さらばだ。太田渚本介」
(;゚ω゚)「やめ………!」
ブーンにはその瞬間が異様なほどゆっくりと見えた。
斬馬刀が、渚本介の首を目掛けて振り下ろされた。
──
373 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:44:18 ID:.21OI1/oO ──
応仁元年。
十一年もの間継続し、その規模は全国にまで広がった、所謂応仁の乱の始まった年。
戦国時代と呼ばれる始まりの年に、太田渚本介は武家として生を受けた。
応仁の内戦が広がっていくなか、渚本介の住む国も、否が応に争いに巻き込まれた。
これは、渚本介が十歳になった時のことだ。
(`・ω・´)「渚本介、もう日が暮れるぞ。稽古ならまた明日にしろ」
(´・ω・`)「待ってください兄上、もう少し…」
374 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:45:17 ID:.21OI1/oO
幼くして、刀に強い興味を持っていた渚本介。
武家に生まれたことに感謝しながら、家の庭で刀を振る。それが日課であり、幼心なりの生きがいであった。
渚本介より六つ離れた兄の紗衿丈(しゃきんのじょう)はそんな渚本介を微笑ましく眺めていた。
その剣術が讃えられ、若くして仕官の職が決まった紗衿丈。
愛しい弟が一生懸命に刀を振る姿も、もう沢山は見れない。
そう踏んでいた紗衿丈は、なるべく渚本介の傍にいるよう努めた。
戦に出向かった父親の代わりになれればと、紗衿丈なりの配慮であった。
(`・ω・´)「うむ、振りが鋭くなったな」
(*´・ω・`)「本当ですか!?」
(`・ω・´)「ああ、しかし体の回転が遅いな。回転が遅いと刀が速く届かない上に、視界も格段に狭くなる」
(`・ω・´)「もっと腰を落として、足を速く動かせるようにしろ。そうすれば自然と腰が回り、体も速く回る」
(´・ω・`)「なるほど…ありがとうございます」
375 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:46:05 ID:.21OI1/oO
(`・ω・´)「さ、今日はもう終わりだ。飯が待ってるぞ」
(*´・ω・`)「はい!」
男子は剣の達人に育つと言われるほど、太田家は武家として達者な存在だった。
父親が特別席で戦場に出向くのも当然であり、長男の紗衿丈が仕官に決まるのも当然。
そして。
(´・ω・`)「?」
(`・ω・´)「この音は…」
他勢に狙われるのも、当然であった。
(;`・ω・´)「……逃げろ渚本介!!」
376 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:47:06 ID:.21OI1/oO
空気を裂く音が二人を振り向かせ、その正体が二人の背筋を凍らせた。
夕焼けに染まる空には、数えられぬ程の赤い流星。
火矢が、此方に向かってきていた。
(;´・ω・`)「あ、兄上!」
(;`・ω・´)「フンッ!!」
歯を食いしばり、家の中へと渚本介を突き飛ばす。
そのまま紗衿丈も屋根の下へと飛び込んだ。
直後、屋根と庭が勢いよく燃え上がった。
(;´・ω・`)「あ、兄上…」
(;`・ω・´)「いいから隠れるんだ!!」
紗衿丈が声をあげた。
一瞬体をビクッと浮かし、渚本介は奥の棚の中に転がり込んだ。
377 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:48:14 ID:.21OI1/oO
先程渚本介が振っていた刀を拾い、庭の柵の向こうを睨む。
その目線の先で、鎧を纏った兵達が、柵を破壊しながら庭に飛び込んできた。
(;`・ω・´)(多いな…)
何が起こっているかなど、すぐに理解できた。
この太田家を、何者かが急襲してきたのだ。
戦の為、家には紗衿丈と渚本介、そして母親と何人かの召使がいるだけだ。
相手にできるのは自分しかいない。
刀を構え、庭とその向こうにいる兵達を睨む。
その数、およそ百人強。
378 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:49:21 ID:.21OI1/oO
敵からしてみれば、相手はまだ十代の子供一人だ。
様子見の必要もない、と前列の兵が縁側に乗り込んできた。
(´・ω・`)「ハッ!」
向かってきた刀をかわし、その腹部に蹴りを喰らわす。
蹴られた兵はそのまま庭へと飛ばされ、何人かの兵を巻き添えに転んだ。
今だ、と刀を持って飛びかかろうとする紗衿丈。
その動きが、突如、ピタリと止まった。
それは、ある男の声が紗衿丈の耳に届いたからだ。
「待て」
(;`・ω・´)「!!」
379 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:50:04 ID:.21OI1/oO
その声に聞き覚えがあるわけではない。
ただ、その声の冷たさに体が固まってしまったのだ。
兵達の間から、声の主である一人の男が姿を現した。
(,,゚Д゚)「太田紗衿丈。今日は貴様に用があって来た」
この戦乱にあやかって、戦を続ける武将。
天野擬古成の姿が、そこにあった
(;`・ω・´)「……用とは?」
何故か、自らの声が震えてしまう。
それほどまでに、目の前の男の威圧感は凄まじかった。
(,,゚Д゚)「簡単だ。我が配下に加われ」
380 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:51:18 ID:.21OI1/oO
(;`・ω・´)「!?」
予想外の台詞だった。
しかし、擬古成が無言の条件を出していることはすぐにわかった。
まずはこの家に火矢を浴びせたのがその証拠だ。
恐らく擬古成はこういう条件を出している。
「断るなら、太田家を潰してやる」と。
(,,゚Д゚)「太田家の実力には一目置いている。我が臣下に考えてもいいほどにな」
(,,゚Д゚)「大人しく加わるがいい。さもなくば、貴様ら太田家を壊滅させん」
(;`・ω・´)「……」
どうする。どうすればいい。
天野は太田家とは敵対の仲。天野に寝返ることは死んでもしたくない。
しかし、そうしなければ太田家は滅んでしまうかもしれない。
381 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:52:09 ID:.21OI1/oO
(;`・ω・´)「……」
(,,゚Д゚)「…答えよ」
少し苛立った様子で、擬古成が返事を促す。
紗衿丈が、ゆっくりと顔を上げた。
なんだ、考えるまでもないじゃないか。
紗衿丈は口角を上げ、刀を逆手に持った。
(,,゚Д゚)「!?」
(`・ω・´)「貴様ら下賤共に、太田家が惑わされることはない!他をあたれ!!」
怒声とともに、刀を振り上げる。
途端、紗衿丈は擬古成に向かって刀を投げた。
(,;゚Д゚)「く……」
紙一重でその攻撃をよけ、少しよろけた擬古成。
その額に、青筋が浮かぶ。
382 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:53:18 ID:.21OI1/oO
(,#゚Д゚)「……」
そのまま振り返り、兵達の後ろへと戻り出す擬古成。
その去り際、小さく呟くように、兵達に命令を下した。
(,#゚Д゚)「……殺せ」
怒号。刀を振る音。刀を合わせる音。
それらが一気に、まるで爆音のように、辺りに鳴り響いた。
(;´・ω・`)(兄上……)
じっと棚の中に隠れているのに耐えられず、渚本介は棚の扉に手をかけた。
しかし、勇気が出ない。
もし敵に見つかってしまえば命はない。
それでも兄の様子が気になって仕方がない。
ゆっくりと、ほんの少し、渚本介は扉を開けた。
383 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:54:30 ID:.21OI1/oO
これほど現実味の無い光景を、渚本介は見たことがなかった。
扉の隙間から、はっきりと見えたその瞬間。
(;` ω ´)「───!!」
血まみれの兄の紗衿丈。
その首が、あっけなく落ちる瞬間だった。
(;´・ω・`)「…あ…?」
自らが隠れていることも忘れ、渚本介は声を洩らした。
有り得ない光景だったのだ。
強く、たくましく、面倒見のいい兄の紗衿丈が、命を失うなど。
現実を理解するのに、かなりの時間がかかった。
兄が殺された。その現実が理解できた途端、渚本介は棚を飛び出していた。
384 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:55:57 ID:.21OI1/oO
(#´;ω;`)「うわあああああああ!!!」
棚を飛び出し、落ちていた刀を拾い、渚本介は撤退しかけていた兵達に向かって走り出した。
驚いて振り向いた手前の兵に、まずは刀を刺し込んだ。
(#´;ω;`)「うわあああああ!!!ああああああああ!!」
すぐに状況を理解し、刀を持って暴れまわる子供を押さえようと兵達が飛びかかる。
しかしその兵達は、次々と渚本介に斬り伏せられていく。
(,,゚Д゚)「あれは…」
事態を察し、擬古成は目を細めてその姿を視認しようとした。
しかし、その幼い姿に見覚えはない。
強いて言うなら、紗衿丈に似たその容姿に、恐らく当てはまる名前があった。
385 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:57:15 ID:.21OI1/oO
太田紗衿丈の弟、太田渚本介。
まだ十に達したかどうかの子供が、この太田家にいるはずだった。
もし、今暴れまわっているあの子供がそうだとしたら。
兄を殺された天野に対する復讐に燃え、そのまま剣豪として成長してしまうならば。
間違いなく、太田渚本介は天野家の驚異となってしまうだろう。
出る杭は打たねばならない。
擬古成は慌てふためく兵達に向かって声を上げた。
(,,゚Д゚)「その童を殺せ!!首を取り、丹生捉城へ持ってくるのだ!!」
そう言い放つと、擬古成は数人の家臣と共に、自らが居城する丹生捉へと馬で駈けていった。
残るは、まだ幼き太田渚本介。
そして、対する天野勢百弱。
結果は明らかに目に見えていた。
386 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:58:21 ID:.21OI1/oO
…はずだった。
(#´;ω;`)「うわああああああああああ!!!!」
怒り狂った渚本介が、大勢の兵に対し、臆することなく刀を振るう。
我を忘れながらも、全身に刀傷を負いながらも、渚本介は兵達を問答無用に襲い続けた。
(#´;ω;`)「ああああああ!!!うわあああああああああああああ!!」
対する兵達も、この小さな相手の恐ろしさに、ようやく気づき始めた。
大の男よりも速く、低く、鋭く、刀が繰り出されていく。
引け、引くんだ、という誰かの怒号が辺りに響いた。
それでも、逃げようとする兵達を更に襲い、渚本介は暴れ続ける。
天野勢が渚本介から逃げ切った頃には、兵の数は五十ほどにまで減っていた。
387 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 22:59:17 ID:.21OI1/oO
(#´;ω;`)「殺してやる…殺してやる……」
兵達の背中が見えなくなるまで、渚本介は刀を離さなかった。
今生の全て賭しても構わないほどの復讐心。ただそれだけを胸に、渚本介は意識を失った。
百人の兵を、十歳にして追い返した渚本介。
この事件こそ、彼が「戦魔」と唱われるきっかけであり、天野家に対する復讐を誓った由縁でもある。
──
388 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:00:12 ID:.21OI1/oO ──
根十城大手門付近。
背を向けて膝をつく渚本介と、斬馬刀を振り上げた擬古成。
(;゚ω゚)「やめ……」
やめろ。やめてくれ。
掠れた声が、ブーンの意志の一部だけを拾い、擬古成に浴びせようとする。
しかし、擬古成はブーンの訴えに耳を傾けず、無表情で渚本介を見下ろしている。
長い戦いだった、と擬古成は思いふけていた。
幼き渚本介に目をつけられてから、もう二十年弱。
擬古成の予想通り、渚本介は天野家の驚異となり、天下統一への道を何度も防いできた。
389 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:01:08 ID:.21OI1/oO
その戦いも、これで終わる。
ようやく天下統一へ大きく踏み出せる。
(,,゚Д゚)「さらばだ、太田渚本介」
敵ながら見事な男だった。
だからこそ、一刀のもとに終わらせてやる。
上段に構えた斬馬刀を、渚本介の首を目掛けて、一気に振り下ろした。
(;゚ω゚)「──!!」
ざくり。
斬馬刀から、物を斬る音が鳴った。
390 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:02:06 ID:.21OI1/oO
(,,゚Д゚)「……」
(;゚ω゚)「渚本介…さ……」
斬馬刀が斬ったのは、固く踏みならされた地面──
(´メω・`)「心配は無用だ」
──それだけだった。
( ;ω;)「渚本介ざぁん……」
渚本介が無事であることに安堵し、へなへなと座り込むブーン。
その先で、今度は擬古成が膝をついた。
391 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:03:13 ID:.21OI1/oO
(,;゚Д゚)「きさ…ま……!」
(´メω・`)「長きに渡ったこの戦いも、これで終わりだ」
擬古成が斬馬刀を振り下ろす瞬間、渚本介は横に回るように避け、そのまま擬古成の腹に虎恍丸を刺したのだ。
腹から血を流し、膝をつく擬古成。
その目の前に立ち、虎恍丸を上段に構えながら、渚本介が静かに言葉を向ける。
(´メω・`)「貴様の首を取る為だけに今日まで生き長らえてきた。貴様の野望も、その魂も、これで終わりだ」
(,; Д )「く……は…」
392 : ◆vVv3HGufzo:2011/04/04(月) 23:06:09 ID:.21OI1/oO
本丸の建物のほうから、何やら大声が聞こえてきた。
見ると、兵達が此方を指差しながら、慌てふためいている様だった。
渚本介はそこには目を触れず、躊躇いなく虎恍丸を振り下ろした。
(´メω・`)「──さらばだ」
この瞬間を、どれほど待ちわびただろうか。
生きる上での最大の目的を、渚本介は確かに果たした。
胴から離れた擬古成の首を掲げ、本丸を向く。
肺いっぱいに空気をため、渾身の大声を、本丸の兵達に向けた。
(#´メω・`)「天野擬古成が首!!ここにィッッ!!!」
この瞬間を、どれほど夢見ただろうか。
渚本介の声は、根十城中に鳴り響いた。
(#´メω・`)「取ったぞォォォォッッ!!!!」
明応五年。
天野擬古成、根十城にて散る。
第十一話 終
395 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 23:15:00 ID:2//4ARl60 乙ー。
それにしてもすっかりショボンが主人公になってきているwww
396 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/05(火) 09:29:07 ID:5GbpevVw0 ショボンさんカッコよすぎる
そろそろブーンもギター弾かないとなwwwww
397 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/05(火) 10:36:38 ID:puRvrTzgO 乙!
流石ショボン
しかしこの後大丈夫だろうか
ブータン国王の国会演説がマジで感動する件
ハンターハンターで凄い発見したったwwwwwwwwwwwwwww
【速報】笑っていいとも3月打ち切り 後番組に高島彩のワイドショー
地下牢の場所はあやふやだが、とりあえず建物内にあるのは確かだ。
誰か味方に遭遇すれば、そいつに聞けばいい。
渚本介は疲れを訴える足に鞭を打ち、根十城内部へと走り出した。
(;´・ω・`)(待ってろブーン…)
ブーンを必ず助け出す。願わくば、ブーンが元の時代へ戻る為、尾付出麗と共に。
擬古成を逃してしまった先程の失態を、悔やんでいないわけではない。
しかし、擬古成を討つのは後でもいい。
肺が痛い。足が重い。
それでも渚本介は走り続ける。
乱戦となった、根十城の中心へと。
──
(;^ω^)「出麗さん、僕の後ろに隠れるお!」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はい!」
( ゚д゚ )「……」
根十城大広間。
ブーンは絶望感に浸りそうになるのを堪え、出麗を庇うように立ちはだかった。
そのすぐ傍らで、既に負けを覚悟している男、城主の巳留那がじっと座っている。
あっさりと彼らを追い詰めた擬古成は、三人に向かって悠々と歩き出した。
三人が三人とも無力だと確信したからか。斬馬刀の峰を肩に乗せ、余裕を見せながら近付いてくる。
(,,゚Д゚)「二茶根瑠領領主、二茶根瑠巳留那よ。俺は今よりお前を殺し、この城と領をまるまる頂く」
(,,゚Д゚)「だから最後に聞かせてくれ。この二茶根瑠領、お前にとってどういう国なんだ」
(;^ω^)「……」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
巳留那には悪いが、ブーンはほんの少しだけ安堵感を得た。
恐らく、擬古成は最初に巳留那を討ち、そのついでに自分達を殺すつもりなのだろう。
上手く行けば、隙を見て逃げ出すこともできるかもしれない。
擬古成の問いに、少し考えるように黙る巳留那。
暫く黙ると、威厳の保った低い声で、ゆっくりと返した。
( ゚д゚ )「…この国は余の全て、そのものだ。貴様如きに渡すのが惜しいほどに、余はこの国を愛しておる」
(,,゚Д゚)「ハッ、言うじゃねえか」
(,,゚Д゚)「なれば、俺は貴様の全てを剥ぎ取り、蹴落とし、この国を奪う」
巳留那のすぐ手前まで歩み寄った擬古成が、斬馬刀を構える。
それでも巳留那は動じる事なく、じっと擬古成を見据える。
近くに居てはいけないと感じたブーンが、出麗と共に後退った。
(,,゚Д゚)「二茶根瑠巳留那。その首、頂戴致す」
(#ー_ー)「させるかァ!!」
(,,゚Д゚)「!」
斬馬刀を振り下ろそうとする擬古成の腕が止まった。
その一瞬後、擬古成が振り向くと同時に、小さな懐刀がその胸部目掛けて飛んできた。
反射的に斬馬刀を下向きに構え、盾のようにその懐刀を防ぐ。
一つ舌打ちをし、懐刀を投げてきたその男を睨む。
(,,゚Д゚)「…貴様、誰だ」
(ー_ー)「二茶根瑠家近習頭、尾付比岐」
鞘から刀を抜き、擬古成を睨み返す。
途端、ブーンの後ろで、出麗が声をあげた。
ζ(゚ー゚;ζ「父上!」
(;^ω^)「!?」
(;ー_ー)「なっ…!?」
重くなりつつあった空気が、一気に別の緊迫へと変わった。
尾付家は二茶根瑠家の近習を務めている。
出麗も尾付家の一員であり、近習頭の比岐の実の娘なのだ。
何故お前が此処にいる。そう言いたげに出麗を見るが、すぐに別の言葉を投げた。
(;ー_ー)「早く此処から去ね!そこの南蛮人は出麗と共に殿をお守りしろ!」
ζ(゚ー゚;ζ「で、できません!父上を見捨てるなど、私にはとても…」
(#ー_ー)「去ねと言っているのが聞こえぬか!!」
比岐の怒声が大広間に響く。
押し黙った出麗に、更に続ける。
(#ー_ー)「殿をお守りするのが、我ら近習の定め!命などとうに捨て置いている!!」
(#ー_ー)「お前は女子だ!戦に慣れぬ、琴を嗜む女子!しかし、まごうことなく近習一族!」
(#ー_ー)「殿を連れ、守り抜いてみせよ!早く此処から去ね!!」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
擬古成に刀を向けながら、巳留那を連れて逃げるよう出麗に命じる。
目に涙を浮かべながら、出麗が小さく頷いた。
巳留那を立ち上がらせ、ブーンに託し、自らは先導の位置に着いた出麗。
擬古成に背を向け、比岐が入ってきた入り口とは反対側の外回路へと進み出す。
外に出る間際、出麗が少しだけ振り向いた。
ζ(゚ー゚*ζ「御達者で、父上」
(ー_ー)「……」
恐らくはこれが今生の別れとなる。
しかし、その別れを惜しむ間など在りはしない。
比岐は改めて擬古成に目を向けた。
(,,゚Д゚)「ハッ、良いじゃねえか。涙のお別れってか」
(ー_ー)「ぬかせ」
刀を握る手に力が入る。
巳留那を一時的に逃がすことに成功した。娘と顔を合わせて別れることも出来た。
もう、怖いものは何もない。
(ー_ー)「天野擬古成。根十城に気安く攻め入った下賤者を、いざ討たん」
(,,゚Д゚)「…やってみろ」
静かに睨み合っていた状態が、一瞬で変わった。
刀を構えた比岐が、一気に擬古成に飛び込んだのだ。
思わず防御の姿勢をとった擬古成に、小刻みな突きの攻撃を繰り返す。
(,,゚Д゚)(チッ…)
あまりにも小刻みに、正確に繰り出される突きに、擬古成は反撃の手が出ない。
実は、これこそが斬馬刀の弱点だった。
刃同士を合わせる攻防なら、間違いなく厚みも重みも格段に違う斬馬刀の勝利だ。相手の体ごと刀を弾き飛ばし、その隙に斬り伏せることも出来る。
しかし、相手の攻撃が小刻みな突きだったら、反撃する隙がない。
一度防御に入ってしまえば、相手の攻撃を喰らい続ける他無いのだ。
(#ー_ー)「ハッ!!」
(,;゚Д゚)「クソッ…」
頭、手、足。
斬馬刀では隠せきれない箇所を、徹底的に突いてくる。
(,#゚Д゚)「…図に乗んじゃねえ!!」
(;ー_ー)「!!」
慣れない防御戦に痺れを切らし、擬古成が斬馬刀ごと比岐に飛び込んだ。
タックルのような攻撃を受け、比岐の体が倒される。
(,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
その体に、斬馬刀の上段からの一撃が迫る。
咄嗟に体を回し、斬馬刀を避けながら立ち上がる。
(;ー_ー)「ハァ…ハァ……ッ」
危ないところだった。
擬古成と距離を取り、刀を構え直す。
しかし、何故か刀をうまく構えられない。
不思議に思いながら、比岐は自らの腕へと視線を落とした。
(ー_ー)「あ……?」
比岐が刀を構えられないのは当然だった。
視線を擬古成へ戻すことも忘れ、比岐はそのまま固まった。
比岐が目にして、思わず固まってしまうほどの光景。
自らの左肘から先が、無くなっていた。
(;ー_ー)「う、あ、あ゙あ゙あ゙あ゙ああああ!!」
(,,゚Д゚)「一介の近習にしては、なかなかの腕前だったぞ」
(;ー_ー)「腕が!!ああああ!畜生!畜生!」
片膝をつき、左腕を押さえて悶える比岐。
もはや反撃の兆しすら感じられないその姿に、擬古成が迫る。
(;ー_ー)「ああ、ハァ、ハァ…!!」
目の前の擬古成が斬馬刀を振り上げる。
途端、比岐は時間が止まったかのように感じた。
もはや擬古成を倒すことはほとんど叶わない。
しかし比岐は考える。
娘の出麗と例の南蛮人は、巳留那を連れてまだそう遠くまで逃げきれていないはず。
ここで自分があっさりと負けてしまえば、すぐに擬古成は三人を追い、捕まえてしまうだろう。
それだけは何としても避けたい。
無事に逃がす為には、まだ時間を稼ぐ必要がある。
此方を見据え、斬馬刀を振り上げている擬古成。
世界が、動き出した。
(,,゚Д゚)「楽に送ってやる。尾付比岐よ」
足に力を入れ、笑う膝を抑える。
擬古成が斬馬刀を振り下ろそうとした瞬間、比岐は擬古成に飛びかかった。
(,;゚Д゚)「なっ…!?」
(#ー_ー)「うおおおおお!!」
強引に肩から懐に飛び込み、擬古成を仰向けに倒した。
そのまま馬乗りの体制で擬古成を押さえ、顔面に向かって何度も拳を打ち込む。
あまりにも想定外な反撃に、為す術無く殴られる擬古成。
その顔面が、赤く染まっていく。
(#ー_ー)「おおおおおおおおお!!!」
激しい運動を続けているせいで、おびただしく出血する左腕。
必死に殴り続けるも、やがて力が入らなくなってきた。
(;ー_ー)「ハァ…クソ……クソッ…」
血が足りないせいで、筋肉が言うことを聞いてくれない。
比岐の最後の一発。渾身の拳は、ぺちんという音を擬古成の頬に鳴らしただけだった。
(;ー_ー)「ハァ……ハァ……」
(; _ )「ハ………」
もう、全身に力が入らない。
思考すら叶わない。
擬古成の横に転がるように、比岐は倒れ込んだ。
暗くなる視界で、ゆっくりと起き上がる擬古成の姿が、最後に映った。
──
(;^ω^)「ま、まだ下につかないのかお…」
ζ(゚ー゚;ζ「そろそろ次の階段に着くわ!そこから下に降りられる!」
( ゚д゚ )「……」
大広間から外回路へと抜け、そのまま下へと進んでいく三人。
既に多くの天野の兵が建物内へ進入したのだろう。
城内のあちこちから、大勢の怒号が聞こえる。
(;^ω^)「それにしても、敵兵に見つかりはしないかお?」
ζ(゚ー゚;ζ「わからないわ。なるべく難しい道を使ってるけど…運次第ね」
ブーンが最も懸念し、恐れていること。
それは、今のこの状況で敵に出くわしてしまえば、あっさりやられてしまうだろうということだ。
ブーンも出麗も武器を持っていないし、巳留那は刀を持っているものの、何か不安だった。
ζ(゚ー゚;ζ「よし、もうすぐ階段よ!」
(;^ω^)「了解だお!さ、急ぎますお」
( ゚д゚ )「ああ」
先導する出麗の背中を追い、巳留那を連れて走り続けるブーン。
広い廊下の奥に、とうとう下へと続く階段が見えてきた。
足を速め、階段へと急ぐ三人。
しかし、その足はすぐに止まった。
ζ(゚ー゚;ζ「あ……」
(;^ω^)「……」
足を止め、肩で息をしながら、前方に視線を向ける。
三人が目を向ける先。
廊下の奥の階段から、十数人の敵兵達が現れた。
ζ(゚ー゚;ζ「そんな…」
(;^ω^)「…最悪だお……」
恐れていた事態になってしまった。
どうする。引き返して逃げるか。
いや、それでは体力が持たない。
冷静に回らない頭で、必死に考えるブーン。
敵兵達が、三人に気付いた。
何かを叫びながら、三人へと迫る敵兵達。
もう考える暇などない。
ブーンは出麗の腕を掴み、巳留那を庇いながら、元来た道を走り出そうと振り返った。
しかし、その敵兵から聞こえてきたある言葉に、ブーンは思わず足を止めた。
「旦那様…?」
(;^ω^)「……え?」
聞き覚えのある声。聞き覚えのある呼び名。
ブーンはゆっくりと振り向き、目を見開いた。
(;゚∀゚)「旦那様…ですよね…?どうして…」
(;^ω^)「ご、ご主人!?」
敵兵の格好をした男は、紛れもなくブーンの知り合いだった。
天野勢に焼き討ちをされた二子厨の庄、そこで宿屋を営んでいた男。
かつてブーンを殺そうとし、改心した男が、そこにいた。
(;^ω^)「ど、どうして天野勢の格好なんかしてるんだお!」
(;゚∀゚)「旦那様こそ、どうして根十城なんかにいるんですかい!?」
根十城の城主を連れて逃げているブーン、根十城を攻める天野勢の一員になっている宿屋の主人。
理由はわからないが、間違いなく二人は敵対する立場にあった。
あってはならない形で、二人は再会してしまった。
実のところ、天野勢が二子厨の庄を襲った際、宿屋の主人は捕虜として天野勢に捕まっていたのだ。
すぐに処刑はせず、捕虜は戦力にしてしまうのが擬古成のやり方だ。
主人も天野勢に加わらされ、訓練を受けさせられ、この根十城攻めに参戦させられていた。
(;゚∀゚)「……」
(;^ω^)「……」
ブーンも、主人も、兵達ですら、この奇妙な状況に固まっていた。
しかし、この均衡は長くは続かなかった。
構うことない、殺せ、といきり立った兵が、刀を抜いて走り出したのだ。
その直後。
構えていた槍で、主人がその兵の背中を貫いた。
走り出していた兵が、静かに崩れ落ちた。
(;^ω^)「ご主人!?」
(;゚∀゚)「あ……」
やってしまった、という顔を自らの槍に向ける。
その後ろで、十人ほどの兵が一気に騒ぎ出した。
(;゚∀゚)「う、うおおっ!!」
その兵達に向かって、今度は槍を横に払った。
数人の兵が倒れ込み、それに押されて更に何人かが転ぶ。
(;゚∀゚)「旦那様!!今のうちに降りてくだせェ!」
(;^ω^)「な、何言ってんだお!」
(;゚∀゚)「いいから早く!!」
(;^ω^)「ご主人…」
(;゚∀゚)「…あん時、旦那様はもう後悔はしないでくれって言ってくれやした」
(;゚∀゚)「約束通り、俺ぁ後悔なんてしません!これが俺の選んだ道なんだ!さあ、早く逃げてくだせェ!!」
(;^ω^)「…わかったお!」
主人が槍で兵達をどかした隙間を、出麗て巳留那を連れて走り行くブーン。
三人の姿が見えなくなると同時に、主人の横腹を、槍が貫いた。
「謀反者を殺せ」という誰かの掛け声と共に、兵達が刃を向けてきたのだ。
腹に、胸に、肩に、容赦なく槍が突き刺さっていく。
(; ∀ )「う……あ…」
(; ∀ )「…だ、旦那…様……」
力無く倒れ込みながら、主人は力を振り絞って手を動かした。
右手を懐に入れ、中をまさぐる。
…良かった。無事だったか。
言葉にならない言葉を吐き、主人は目を閉じた。
その右手には、かつてブーンから貰った品、ボールペンが握られていた。
無二の宝物が無事だったことに、安堵の表情を浮かべる主人。
直後、その首と胴が、兵が振り下ろした刀によって分かれていった。
──
(;^ω^)「ようやく下に着いたお…」
ζ(゚ー゚;ζ「あとは馬を取って逃げるだけね」
近くに人の気の無い、根十城大手門付近。
この大手門を抜けると兵士宿舎がある。そこに隣接する馬小屋に行けば、逃げきる為の馬も確保できるはずだ。
いざ門を抜けようと三人が進み出す。
途端、何やら鉄同士がぶつかるような、重い轟音が門の向こうから聞こえてきた。
(;^ω^)「この音は…?」
まさかの事態が脳裏をよぎる。
音のした方、大手門の向こうへと、ブーンは急に走り出した。
ζ(゚ー゚;ζ「あ、ちょ、待ちなさいよ!」
出麗の制止も聞かず、ブーンは躊躇いなく門をくぐっていく。
門を抜け、目前に広がる光景に、ブーンは思わず立ち尽くした。
結論から言うと、例の音の正体は、ブーンの予想通りだった。
鉄同士がぶつかるような轟音の正体は、かつてブーンが二子堂城で聞いた、虎恍丸と斬馬刀が刃を合わせる音。
そして、その音から連想できる通り、そこには渚本介と擬古成の姿があった。
(;゚ω゚)「え…あ……?」
(,,゚Д゚)「ハッ、生きていたか南蛮人」
擬古成が静かにブーンに目を向ける。
しかし、ブーンの視線は別のものを捕らえていた。
(;゚ω゚)「そんな……嘘だお…」
信じられない光景だった。
冷や汗が全身を流れ、気が遠くなるのを弱々しく堪えながら、ブーンは小さく声を洩らした。
(;゚ω゚)「…渚本介さん……?」
(;´メω `)「……」
震えた声が辺りに響く。
ブーンの目線の先で、頭部から血を流した渚本介が、ゆっくりと膝をついた。
第十話 終
絶望した
比岐に宿屋の主人…あれぞ漢の生き様だな
第十一話 「復讐と野望の果て」
***
時は少し前後する。
ブーン達が宿屋の主人と出くわした頃。
渚本介は地下牢から上がり、搦手門のあたりに居た。
搦手門とは、簡単に言えば城の裏口のようなものだ。
地下牢にブーンがいなかった為、もう逃げるのに成功したか、もしくは敵に捕まったかの二択しかない。
まずは前者であることを考え、一旦は正門を見て、それからの搦手門を確認に来た。
しかし、搦手門は厳重に鍵が閉められていた。
(;´・ω・`)(城外にいることは考えにくいな…)
となると、ブーンは城内を隠れるか逃げ回っている、もしくは既に捕まっているかだ。
いずれにしても、このままだと最悪な結末をブーンは迎えることになる。
(;´・ω・`)(休む暇は無いな)
乱れた息を整え、疲労を訴える足を押さえる。
早く行かなければ、と力無く走り出す渚本介。
その直後だった。
(;´・ω・`)(擬古成か…?)
渚本介の位置から五十メートルほど離れた、大手門近くの天守の下。
あの擬古成が、フラフラと歩いているのが見えた。
遠くてよく見えないが、何やら顔から血を流しているようだ。
無二の好機だ、と虎恍丸を抜く。
鞘から刀を抜く音が聞こえたのか、それともその殺気に感づいたのか。
擬古成が、此方に気付いた。
(,;゚Д゚)「戦魔…!」
擬古成が大手門近くまで降りていた理由。
それは、比岐と戦っている間に逃げていった巳留那達を追う為だった。
ところが下に巳留那達の姿は無い。
代わりに、あの太田渚本介の姿がそこに在った。
(,;゚Д゚)「フ……」
思わず、口元が緩んだ。
面白いじゃないか、この巡り合わせ。
これが、この天野擬古成と太田渚本介の、恐らく最後の戦いになるのだろう。
ふらつく頭を押さえ、虎恍丸を構える渚本介を睨みながら、斬馬刀を抜いた。
(´・ω・`)「……」
その擬古成に向かって、虎恍丸を手にしたまま歩き出す渚本介。
二人の間の距離が、着実に縮まっていく。
(,,゚Д゚)「戦魔よ!」
(´・ω・`)「!」
その距離が十メートル程に狭まった頃。
突如、擬古成が口を開いた。
突然の事に、渚本介の足が止まった。
根十城にて漸く、落ち着いて対峙する二人。
斬馬刀を持ったまま、擬古成が続ける。
(,,゚Д゚)「お前との長き戦いも、恐らくこれが最後。お前は今容易く逃げられる立場に無いからだ。勿論、それは俺もなのだが」
(´・ω・`)「……」
(,,゚Д゚)「故に、俺とお前は今より命の決着をつける。こうしてまともに話すのも、恐らく何れかの今生の最後だ」
(´・ω・`)「…そうだな」
(,,゚Д゚)「言い残すことは?」
情けや慈悲ではなく、純粋に渚本介の言葉を聞こうとする擬古成。
それを察し、渚本介も素直に言葉を並べていく。
(´・ω・`)「今の俺は復讐心のみで生きていると言っても過言ではない。貴様の顔を見る度、声を聞く度、憎悪と殺意が我が体躯を啄む」
(´・ω・`)「そして、今ここで貴様の首を取ったとして、その後の俺は生きていけまい」
(,,゚Д゚)「……」
(´・ω・`)「どうせ死に行くなら、貴様を地獄に送ってからだ。…最後に、貴様に率直な心の内を述べよう」
虎恍丸を構え直し、一呼吸置いた渚本介。
対する擬古成も、斬馬刀を静かに構えた。
(´・ω・`)「……殺してやる」
一瞬後。二つの刃が、轟音をあげて交わった。
(#´・ω・`)「ハァッ!!」
(,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
斬馬刀の重みに勝てず、虎恍丸はやはり弾かれた。
そこに擬古成の素早い返し手が迫るが、渚本介はそれを潜り込んで避ける。
がら空きの腹に虎恍丸を伸ばすも、擬古成がそれを飛び上がってかわした。
(;´・ω・`)「!?」
(,#゚Д゚)「フンッ!!」
そのまま空中で回転しながら斬馬刀を払う。
その攻撃をなんとか虎恍丸で受け流し、擬古成の首へと刃を伸ばす。
しかし、今度は擬古成がそれを潜り込んでかわした。
地面についた斬馬刀を、持ち上げるように渚本介に向ける。
途端、渚本介がその刃に足を乗せた。
(,;゚Д゚)「ム…!?」
(#´・ω・`)「ハッ!!」
予想外だった渚本介の動きに反応できず、そのまま斬馬刀を振り上げた擬古成。
斬馬刀の刃に乗った渚本介が、その頭上を越え、擬古成の背後に着地した。
勝ちを確信し、その背中に虎恍丸を突き伸ばす。
しかし、その視界から擬古成が消えた。
渚本介の攻撃が当たる前に、地面スレスレまで一瞬で伏せたのだ。
そのまま仰向けになりながら、渚本介の脇腹に蹴りを喰らわす。
それをまともに受け、渚本介は数メートル吹っ飛ばされた。
(;´・ω・`)「く…はっ……!」
(,;゚Д゚)「ハァ…ハァ…ッ」
脇腹を押さえて立ち上がる渚本介。呼吸を整えながら起き上がる擬古成。
睨み合いながら、再度武器を構え直す。
二人の力は、確実に拮抗していた。
(;´・ω・`)「……」
(,;゚Д゚)「……」
長くは戦えないと悟った二人。
短時間で勝負をつける為、次の動きを目で探り合う。
いざかかろうと渚本介が一歩踏み出した。
その途端、渚本介のすぐ横に兵が落ちてきた。
(;´・ω・`)「!」
その兵に一瞬気を取られ、動きを止めてしまった渚本介。
その首に、斬馬刀が勢い良く迫る。
(;´・ω・`)(しまっ…!!)
咄嗟に虎恍丸を向け、直撃を避ける。
しかし、斬馬刀の力に押され、そのまま体ごと飛ばされた。
大手門の方に飛ばされ、運良く壁にぶつかることなく門をくぐり抜けた渚本介。
どうにか体を起こし、顔を上げる。
(;´・ω・`)「くっ…」
(,#゚Д゚)「ゴルァッッ!!」
(;´・ω・`)「!!」
擬古成も門を抜け、そのまま飛び込むように斬馬刀を振り下ろす。
今度はまともに虎恍丸で攻撃を止めるも、渚本介の体はそのまま後ろへ流れた。
休む暇なく、またも渚本介に斬馬刀が横から迫る。
(;´・ω・`)(間に合わない…)
流れた体のバランスを保つのに必死で、手が空いていた渚本介。
体を反らしてその攻撃を避けようとするも、斬馬刀は渚本介の顔面を捕らえた。
(,,゚Д゚)「…勝負あった」
(;´メω `)「……」
渚本介の右頬から額に向けて、斬馬刀は深い爪痕を刻み込んだ。
右目を失い、顔から大量の血を流しながら、よろよろと数歩歩み。
渚本介はゆっくりと膝をついた。
ブーン達が大手門の方へ飛び出してきたのは、ちょうどその時だった。
──
(;゚ω゚)「…渚本介さん……?」
何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。
ただ目の前の現実に、ブーンは固まるしかなかった。
(;´メω `)「……」
(;゚ω゚)「そ…んな…」
(,,゚Д゚)「哀れな男よ」
斬馬刀の峰を肩に乗せながら、擬古成が口を開く。
膝をついた渚本介の背中を見下ろすその目は、異様なほどに冷たい。
(,,゚Д゚)「たかが復讐の為だけに、俺を追う為だけに、当て所ない旅を続けてきた」
(,,゚Д゚)「それがこのザマだ。殺す為だけに刀を振り回し、闇雲に走り回り、この男は生涯を終える」
(;´メω `)「……」
擬古成の言葉に、渚本介は何の反応も示さない。
攻撃の兆しのないその後ろ姿へと近付き、擬古成は斬馬刀を振り上げた。
(;゚ω゚)「……やめろお…」
(,,゚Д゚)「さらばだ。太田渚本介」
(;゚ω゚)「やめ………!」
ブーンにはその瞬間が異様なほどゆっくりと見えた。
斬馬刀が、渚本介の首を目掛けて振り下ろされた。
──
応仁元年。
十一年もの間継続し、その規模は全国にまで広がった、所謂応仁の乱の始まった年。
戦国時代と呼ばれる始まりの年に、太田渚本介は武家として生を受けた。
応仁の内戦が広がっていくなか、渚本介の住む国も、否が応に争いに巻き込まれた。
これは、渚本介が十歳になった時のことだ。
(`・ω・´)「渚本介、もう日が暮れるぞ。稽古ならまた明日にしろ」
(´・ω・`)「待ってください兄上、もう少し…」
幼くして、刀に強い興味を持っていた渚本介。
武家に生まれたことに感謝しながら、家の庭で刀を振る。それが日課であり、幼心なりの生きがいであった。
渚本介より六つ離れた兄の紗衿丈(しゃきんのじょう)はそんな渚本介を微笑ましく眺めていた。
その剣術が讃えられ、若くして仕官の職が決まった紗衿丈。
愛しい弟が一生懸命に刀を振る姿も、もう沢山は見れない。
そう踏んでいた紗衿丈は、なるべく渚本介の傍にいるよう努めた。
戦に出向かった父親の代わりになれればと、紗衿丈なりの配慮であった。
(`・ω・´)「うむ、振りが鋭くなったな」
(*´・ω・`)「本当ですか!?」
(`・ω・´)「ああ、しかし体の回転が遅いな。回転が遅いと刀が速く届かない上に、視界も格段に狭くなる」
(`・ω・´)「もっと腰を落として、足を速く動かせるようにしろ。そうすれば自然と腰が回り、体も速く回る」
(´・ω・`)「なるほど…ありがとうございます」
(`・ω・´)「さ、今日はもう終わりだ。飯が待ってるぞ」
(*´・ω・`)「はい!」
男子は剣の達人に育つと言われるほど、太田家は武家として達者な存在だった。
父親が特別席で戦場に出向くのも当然であり、長男の紗衿丈が仕官に決まるのも当然。
そして。
(´・ω・`)「?」
(`・ω・´)「この音は…」
他勢に狙われるのも、当然であった。
(;`・ω・´)「……逃げろ渚本介!!」
空気を裂く音が二人を振り向かせ、その正体が二人の背筋を凍らせた。
夕焼けに染まる空には、数えられぬ程の赤い流星。
火矢が、此方に向かってきていた。
(;´・ω・`)「あ、兄上!」
(;`・ω・´)「フンッ!!」
歯を食いしばり、家の中へと渚本介を突き飛ばす。
そのまま紗衿丈も屋根の下へと飛び込んだ。
直後、屋根と庭が勢いよく燃え上がった。
(;´・ω・`)「あ、兄上…」
(;`・ω・´)「いいから隠れるんだ!!」
紗衿丈が声をあげた。
一瞬体をビクッと浮かし、渚本介は奥の棚の中に転がり込んだ。
先程渚本介が振っていた刀を拾い、庭の柵の向こうを睨む。
その目線の先で、鎧を纏った兵達が、柵を破壊しながら庭に飛び込んできた。
(;`・ω・´)(多いな…)
何が起こっているかなど、すぐに理解できた。
この太田家を、何者かが急襲してきたのだ。
戦の為、家には紗衿丈と渚本介、そして母親と何人かの召使がいるだけだ。
相手にできるのは自分しかいない。
刀を構え、庭とその向こうにいる兵達を睨む。
その数、およそ百人強。
敵からしてみれば、相手はまだ十代の子供一人だ。
様子見の必要もない、と前列の兵が縁側に乗り込んできた。
(´・ω・`)「ハッ!」
向かってきた刀をかわし、その腹部に蹴りを喰らわす。
蹴られた兵はそのまま庭へと飛ばされ、何人かの兵を巻き添えに転んだ。
今だ、と刀を持って飛びかかろうとする紗衿丈。
その動きが、突如、ピタリと止まった。
それは、ある男の声が紗衿丈の耳に届いたからだ。
「待て」
(;`・ω・´)「!!」
その声に聞き覚えがあるわけではない。
ただ、その声の冷たさに体が固まってしまったのだ。
兵達の間から、声の主である一人の男が姿を現した。
(,,゚Д゚)「太田紗衿丈。今日は貴様に用があって来た」
この戦乱にあやかって、戦を続ける武将。
天野擬古成の姿が、そこにあった
(;`・ω・´)「……用とは?」
何故か、自らの声が震えてしまう。
それほどまでに、目の前の男の威圧感は凄まじかった。
(,,゚Д゚)「簡単だ。我が配下に加われ」
(;`・ω・´)「!?」
予想外の台詞だった。
しかし、擬古成が無言の条件を出していることはすぐにわかった。
まずはこの家に火矢を浴びせたのがその証拠だ。
恐らく擬古成はこういう条件を出している。
「断るなら、太田家を潰してやる」と。
(,,゚Д゚)「太田家の実力には一目置いている。我が臣下に考えてもいいほどにな」
(,,゚Д゚)「大人しく加わるがいい。さもなくば、貴様ら太田家を壊滅させん」
(;`・ω・´)「……」
どうする。どうすればいい。
天野は太田家とは敵対の仲。天野に寝返ることは死んでもしたくない。
しかし、そうしなければ太田家は滅んでしまうかもしれない。
(;`・ω・´)「……」
(,,゚Д゚)「…答えよ」
少し苛立った様子で、擬古成が返事を促す。
紗衿丈が、ゆっくりと顔を上げた。
なんだ、考えるまでもないじゃないか。
紗衿丈は口角を上げ、刀を逆手に持った。
(,,゚Д゚)「!?」
(`・ω・´)「貴様ら下賤共に、太田家が惑わされることはない!他をあたれ!!」
怒声とともに、刀を振り上げる。
途端、紗衿丈は擬古成に向かって刀を投げた。
(,;゚Д゚)「く……」
紙一重でその攻撃をよけ、少しよろけた擬古成。
その額に、青筋が浮かぶ。
(,#゚Д゚)「……」
そのまま振り返り、兵達の後ろへと戻り出す擬古成。
その去り際、小さく呟くように、兵達に命令を下した。
(,#゚Д゚)「……殺せ」
怒号。刀を振る音。刀を合わせる音。
それらが一気に、まるで爆音のように、辺りに鳴り響いた。
(;´・ω・`)(兄上……)
じっと棚の中に隠れているのに耐えられず、渚本介は棚の扉に手をかけた。
しかし、勇気が出ない。
もし敵に見つかってしまえば命はない。
それでも兄の様子が気になって仕方がない。
ゆっくりと、ほんの少し、渚本介は扉を開けた。
これほど現実味の無い光景を、渚本介は見たことがなかった。
扉の隙間から、はっきりと見えたその瞬間。
(;` ω ´)「───!!」
血まみれの兄の紗衿丈。
その首が、あっけなく落ちる瞬間だった。
(;´・ω・`)「…あ…?」
自らが隠れていることも忘れ、渚本介は声を洩らした。
有り得ない光景だったのだ。
強く、たくましく、面倒見のいい兄の紗衿丈が、命を失うなど。
現実を理解するのに、かなりの時間がかかった。
兄が殺された。その現実が理解できた途端、渚本介は棚を飛び出していた。
(#´;ω;`)「うわあああああああ!!!」
棚を飛び出し、落ちていた刀を拾い、渚本介は撤退しかけていた兵達に向かって走り出した。
驚いて振り向いた手前の兵に、まずは刀を刺し込んだ。
(#´;ω;`)「うわあああああ!!!ああああああああ!!」
すぐに状況を理解し、刀を持って暴れまわる子供を押さえようと兵達が飛びかかる。
しかしその兵達は、次々と渚本介に斬り伏せられていく。
(,,゚Д゚)「あれは…」
事態を察し、擬古成は目を細めてその姿を視認しようとした。
しかし、その幼い姿に見覚えはない。
強いて言うなら、紗衿丈に似たその容姿に、恐らく当てはまる名前があった。
太田紗衿丈の弟、太田渚本介。
まだ十に達したかどうかの子供が、この太田家にいるはずだった。
もし、今暴れまわっているあの子供がそうだとしたら。
兄を殺された天野に対する復讐に燃え、そのまま剣豪として成長してしまうならば。
間違いなく、太田渚本介は天野家の驚異となってしまうだろう。
出る杭は打たねばならない。
擬古成は慌てふためく兵達に向かって声を上げた。
(,,゚Д゚)「その童を殺せ!!首を取り、丹生捉城へ持ってくるのだ!!」
そう言い放つと、擬古成は数人の家臣と共に、自らが居城する丹生捉へと馬で駈けていった。
残るは、まだ幼き太田渚本介。
そして、対する天野勢百弱。
結果は明らかに目に見えていた。
…はずだった。
(#´;ω;`)「うわああああああああああ!!!!」
怒り狂った渚本介が、大勢の兵に対し、臆することなく刀を振るう。
我を忘れながらも、全身に刀傷を負いながらも、渚本介は兵達を問答無用に襲い続けた。
(#´;ω;`)「ああああああ!!!うわあああああああああああああ!!」
対する兵達も、この小さな相手の恐ろしさに、ようやく気づき始めた。
大の男よりも速く、低く、鋭く、刀が繰り出されていく。
引け、引くんだ、という誰かの怒号が辺りに響いた。
それでも、逃げようとする兵達を更に襲い、渚本介は暴れ続ける。
天野勢が渚本介から逃げ切った頃には、兵の数は五十ほどにまで減っていた。
(#´;ω;`)「殺してやる…殺してやる……」
兵達の背中が見えなくなるまで、渚本介は刀を離さなかった。
今生の全て賭しても構わないほどの復讐心。ただそれだけを胸に、渚本介は意識を失った。
百人の兵を、十歳にして追い返した渚本介。
この事件こそ、彼が「戦魔」と唱われるきっかけであり、天野家に対する復讐を誓った由縁でもある。
──
根十城大手門付近。
背を向けて膝をつく渚本介と、斬馬刀を振り上げた擬古成。
(;゚ω゚)「やめ……」
やめろ。やめてくれ。
掠れた声が、ブーンの意志の一部だけを拾い、擬古成に浴びせようとする。
しかし、擬古成はブーンの訴えに耳を傾けず、無表情で渚本介を見下ろしている。
長い戦いだった、と擬古成は思いふけていた。
幼き渚本介に目をつけられてから、もう二十年弱。
擬古成の予想通り、渚本介は天野家の驚異となり、天下統一への道を何度も防いできた。
その戦いも、これで終わる。
ようやく天下統一へ大きく踏み出せる。
(,,゚Д゚)「さらばだ、太田渚本介」
敵ながら見事な男だった。
だからこそ、一刀のもとに終わらせてやる。
上段に構えた斬馬刀を、渚本介の首を目掛けて、一気に振り下ろした。
(;゚ω゚)「──!!」
ざくり。
斬馬刀から、物を斬る音が鳴った。
(,,゚Д゚)「……」
(;゚ω゚)「渚本介…さ……」
斬馬刀が斬ったのは、固く踏みならされた地面──
(´メω・`)「心配は無用だ」
──それだけだった。
( ;ω;)「渚本介ざぁん……」
渚本介が無事であることに安堵し、へなへなと座り込むブーン。
その先で、今度は擬古成が膝をついた。
(,;゚Д゚)「きさ…ま……!」
(´メω・`)「長きに渡ったこの戦いも、これで終わりだ」
擬古成が斬馬刀を振り下ろす瞬間、渚本介は横に回るように避け、そのまま擬古成の腹に虎恍丸を刺したのだ。
腹から血を流し、膝をつく擬古成。
その目の前に立ち、虎恍丸を上段に構えながら、渚本介が静かに言葉を向ける。
(´メω・`)「貴様の首を取る為だけに今日まで生き長らえてきた。貴様の野望も、その魂も、これで終わりだ」
(,; Д )「く……は…」
本丸の建物のほうから、何やら大声が聞こえてきた。
見ると、兵達が此方を指差しながら、慌てふためいている様だった。
渚本介はそこには目を触れず、躊躇いなく虎恍丸を振り下ろした。
(´メω・`)「──さらばだ」
この瞬間を、どれほど待ちわびただろうか。
生きる上での最大の目的を、渚本介は確かに果たした。
胴から離れた擬古成の首を掲げ、本丸を向く。
肺いっぱいに空気をため、渾身の大声を、本丸の兵達に向けた。
(#´メω・`)「天野擬古成が首!!ここにィッッ!!!」
この瞬間を、どれほど夢見ただろうか。
渚本介の声は、根十城中に鳴り響いた。
(#´メω・`)「取ったぞォォォォッッ!!!!」
明応五年。
天野擬古成、根十城にて散る。
第十一話 終
それにしてもすっかりショボンが主人公になってきているwww
そろそろブーンもギター弾かないとなwwwww
流石ショボン
しかしこの後大丈夫だろうか
ブータン国王の国会演説がマジで感動する件
ハンターハンターで凄い発見したったwwwwwwwwwwwwwww
【速報】笑っていいとも3月打ち切り 後番組に高島彩のワイドショー
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カテゴリ: ブーン系
テーマ: ショート・ストーリー - ジャンル: 小説・文学
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