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( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです 5話~6話 

カテゴリ: ブーン系


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( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです 目次


141 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 11:59:53 ID:Vx0gVzAYO
***
第五話 「愛と幸福は大きく違う」

***
 

(;´∀`)「…こ、ここまで来れば大丈夫だモナ」

(゚、゚;トソン「本当ですか?」

(;´∀`)「とにかく中に入るモナ」
 
 
 白昼にも関わらず、森の中は異様に薄暗かった。
 森には古い廃寺があり、薄暗い森の陰気な空気を更に助長している。

 その廃寺に、武士の格好をした男と、遊女のような格好をした女が駆け込んできた。
 

(;´∀`)「追っ手は…見当たらないモナ」

(゚、゚;トソン「良かった…」

→『figma 侵略! イカ娘 イカ娘


yahoo知恵袋の自演が酷い件


142 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:00:44 ID:Vx0gVzAYO
 
 武士の格好をした男、模那(もな)が本堂の扉を閉めた。

( ´∀`)「これで暫くは安心できるモナ」

(゚、゚トソン「……」
 

 笑顔をこぼす模那に対し、遊女の格好をした女──十遜(とそん)は、暗い顔を下に向けたままだ。

 どうした?と聞くまでも無かった。
 十遜が心配していることなど、模那はとっくにわかっているからだ。
 
 
( ´∀`)「…拙者は、何も後悔しておらんモナ」

(゚、゚トソン「私もです」

( ´∀`)「なれば顔を上げるモナ。他に何の心配があるんだモナ」

(゚、゚トソン「……怖いのです」


143 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:01:35 ID:Vx0gVzAYO
 
 顔を下に向けたまま、十遜がぽつぽつと呟いた。
 

(゚、゚トソン「これからの生活が、果たしてまともにいくのか…貴方様が無事に生きていけるか」

(゚、゚トソン「そう考えると、怖くなってしまうのです」

( ´∀`)「……」
 

 なんて優しい、なんて人思いな女なんだ。
 そうとわかっているのに、何も答えられない。口が開かない。

 模那は十遜のもとに歩み寄り、そっと抱き締めた。
 

(゚、゚トソン「……」

( ´∀`)「お前が心配することなんて何もないモナ。拙者の傍らで、今を生きていてほしいモナ」

(゚、゚*トソン「…はい」

 
 甘い空気が二人を包む。
 このまま時間が止まればいい。甘美な時を二人だけで味わえていれば、それでいい。
 そう感じていた矢先、本堂の外から何か音が聞こえた。


144 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:02:38 ID:Vx0gVzAYO
 
( ´∀`)(゚、゚トソン「!」
 

 一気に体を離し、刀に手をかける模那。
 その後ろで、怯えた目を音の方に向ける十遜。

 音の正体は、人間の話し声であることがわかった。
 男の声だ。恐らく二人の男が此方に向かってきている。
 

(;´∀`)「……」

(゚、゚;トソン「……」
 
 
 刀を握る手に力が入る。
 模那の真剣な眼差しの先で、本堂の扉が勢いよく開いた。
 
 
( ^ω^)「でも渚本介さん、こんな廃寺も意外と未来には残っているもんですお。復興修r」

(;´∀`)「でやァァァ!!」

(;^ω^)「うおおおお!!?」


145 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:03:31 ID:Vx0gVzAYO
 
 扉が開いた途端、模那は刀を振り上げてきた。
 腰を抜かすブーンの横で、渚本介が素早く虎恍丸を抜き、模那の刀を止めた。

 力を込めて刃で押し合いを続けるなか、模那が口を開く。
 

(;´∀`)「き、貴様ら誰だモナ!!」

(´・ω・`)「こっちの台詞だ。見たところ武士のようだが、何故このような廃寺にいるのだ」

(;´∀`)「うるさいモナ!さっさと立ち去れモナ!!」

(´・ω・`)「…まあ、それは構わぬが」
 
 
 突然、渚本介が体を上手く使いながら刀を持つ手の力を極端に緩めた。
 刀に体重をかけていた模那が、一気に前へよろける。


146 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:04:35 ID:Vx0gVzAYO
 
 その後ろ首に、渚本介が虎恍丸の刃を当てた。
 

(゚、゚;トソン「模那様!!」

(;^ω^)(女…?)

(´・ω・`)「その前にわけを聞かせてくれないか。…と言っても、あの遊女を見れば大方想像はつくがな」

(;´∀`)「……」
 

 観念したかのように、模那が刀を鞘にしまった。
 渚本介も虎恍丸をしまい、ブーンと渚本介は模那に付いて本堂の中へと入っていった。
 
 
 
──


147 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:05:32 ID:Vx0gVzAYO
──
 

( ^ω^)「駆け落ち、ですかお」

( ´∀`)「……」

(゚、゚トソン「……」

(´・ω・`)「武士と遊女…どちらも厳しい世界だ。覚悟はあるのか」

( ´∀`)「覚悟なしに、此処まで逃げはせんモナ」

(´・ω・`)「それもそうだな」
 
 
 模那と十遜の二人がこの廃寺まで逃げてきた経緯はこうだ。

 模那が何気なしに寄った夜の店に、十遜が遊女として働いていた。
 模那は十遜に惚れたが、互いに身分が大きく違う。
 そこで模那は十遜に相談し、この駆け落ちを決行したというのだ。


148 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:06:35 ID:Vx0gVzAYO
 
( ´∀`)「……仕方無かったんだモナ」
 
 
 武士らしく姿勢良く座っているものの、模那の顔は下を向いていた。
 隣で心配そうに十遜が見つめるなか、模那は続けた。
 

( ´∀`)「十遜には一目で惚れたモナ。その途端、今まで拙者や先代らが築いてきた地位や栄光なんてどうでもよくなったんだモナ」

( ´∀`)「武家の魂と血を引き換えにしても、この女が欲しかったモナ。それほどまでに、拙者はこの女に惚れたモナ」

(゚、゚トソン「模那様……」
 
 
 人は、どうしようもないほどに人を愛してしまう時がある。
 何もかもを捨ててでも、愛した人だけを求めてしまう時がある。

 愛の亡者だ。愛してしまったばかりに、盲目になってしまった男が、目の前にいる。
 ブーンはこの二人がかなり哀れに思えた。


149 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:08:04 ID:Vx0gVzAYO
 
 自由にできず、幸せになれない恋愛なんて、ただ虚しいだけだ。
 この二人は愛し合っている。しかし、身分という理由だけで、幸せとは言えない愛を育んでいる。
 
 
(´・ω・`)「…ブーン、一つ聞いてみたいのだが」

(;^ω^)「あ、はい」

 急に話しかけられ、少し驚いたブーン。
 渚本介は気にすることなくブーンに尋ねてみた。

 
(´・ω・`)「お前のいた時代に、身分による結婚の禁止はあるのか」

( ´∀`)(゚、゚トソン「?」

( ^ω^)「…たぶん無いですお。基本的に、誰でも自由に恋愛ができますお」

(´・ω・`)「ならば、お前はこの二人をどう思う」

(;^ω^)「!」


150 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:09:00 ID:Vx0gVzAYO
 
 珍しく、やけに答えづらい質問をする渚本介。

 はっきり言って、哀れな二人だと思う。
 しかし、恋愛とはそう簡単に崩れるものではないと信じている。
 だって。


( ^ω^)「僕童貞だし…」

(´・ω・`)「え?」

(;^ω^)「いや何でもないです…とりあえず、僕は二人にはこのまま愛し合っていてほしいですお」

(゚、゚トソン「……」

( ´∀`)「何故?」
 

 今の言葉が嬉しかったのか。
 十遜は少し顔を上げ、模那は身を乗り出した。


151 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:09:57 ID:Vx0gVzAYO
 
( ^ω^)「愛というものはどこにでも生まれ、何にでも育てられるもんですお。たとえ武士と遊女の間でも」

( ^ω^)「だから二人には頑張ってほしいんですお。社会に打ち勝つ愛の形を示してほしいんですお!」

(#^ω^)「駆け落ちだってきっと上手くいきますお!!だから頑張って愛し合っていてくださいお!!」

(#^ω^)「かくいう私は童貞ですけどね!!!」

(;´・ω・`)「おい落ち着け、何を怒ってるんだ」

(;^ω^)「あ、すみませんお…」

(゚、゚トソン「……プッ」

( ´∀`)「アッハハ!そうかそうか、ありがとうブーン殿!」

(;^ω^)「え、はい、どうも…」


152 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:11:18 ID:Vx0gVzAYO
 
 十遜が可愛らしく小さく笑い、模那が大きく笑った。
 思えば、この二人は暫く笑っていないのかもしれない。
 心なしか、二人の顔が少し明るくなった気がする。

 
(´・ω・`)「まあ、俺も駆け落ち自体は否定しない」

 
 今度は渚本介が二人に意見し始めた。
 先ほどとは随分違った、軽い雰囲気が4人の間を流れていく。

(´・ω・`)「しかしお前ら二人が世から追い出されるべき状況にあるのも確かだ」

(´・ω・`)「だから二人は──」
 

 途端、渚本介は話を切り、本堂の壁をキョロキョロと見渡し始めた。

( ^ω^)「?」

( ´∀`)「どうなされた?」


153 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:11:59 ID:Vx0gVzAYO
 
 そのうち、渚本介はある一点を見つめて動かなくなった。
 その視線の先には、本堂の入り口が佇んでいる。
 渚本介が小さく呟いた。
 
 
(´・ω・`)「…誰か来る」

(;´∀`)(゚、゚;トソン「!?」

(;^ω^)「なんでわかるんですかお?」

(´・ω・`)「殺気だ。お前ら、ずっと追っ手に追われていたのか」

(;´∀`)「ああ…」

 
 渚本介が静かに立ち上がり、虎恍丸に手をかけた。
 その後ろで、三人が小さく固まる。

(´・ω・`)「………」


155 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:13:10 ID:Vx0gVzAYO
 
 向こうもこの廃寺の本堂に人がいるのはわかったようだ。
 扉の向こうで、明らかに気配が変わった。

 
(´・ω・`)(……来る!)

(#∂A∂)「行けい!!」
(<#`θ´)「おおおおお!!」
 
 
 大柄な二人の男が、本堂の扉を蹴破ってきた。
 あっという間に中に入り、虎恍丸を抜いた渚本介と対峙する。
 しかし、二人の視線は別の人間を捕らえていた。
 

(#∂A∂)「やはりここに居たか…濱田模那よ」

(<#`θ´)「武士の心を排し、遊女なんかと駆け落ちするなど、大層な御身分だな!」

(;´∀`)「う、うるさいモナ!貴様らには関係ないモナ!」


156 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:13:57 ID:Vx0gVzAYO
 
(#∂A∂)「その上、見知らぬ刀持ちに用心棒をさせるのか?つくづく武士の恥曝しだな」

(<#`θ´)「…なれば、この用心棒を斬るのみ」

 二人の目が、渚本介を向いた。
 既に刀は渚本介の方に構えられている。
 

(´・ω・`)「…やってみろ」

 
 渚本介が挑発をかけた途端。
 二人が、動いた。
 

(#∂A∂)「ハァッ!」
(<#`θ´)「オラァッ!」

 一人の男が斜めから小さく刀を振り下ろし、そのまま渚本介の胸を目掛けて突いてきた。
 それを紙一重でかわし、そのまま虎恍丸を払う。
 しかし、その払いの一手はもう一方の男の刀に阻まれた。


157 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:18:53 ID:Vx0gVzAYO
 
(´・ω・`)(チッ…)

 仕方なく、渚本介は阻んできた男の手首を蹴り上げた。
 隙のできた男の腹に虎恍丸を伸ばす。
 しかし、今度はもう一方の刀に弾かれた。
 そのまま刀の届かない所に回りこみ、渚本介は二人と距離を取った。

 息の荒くなった二人と、涼しい顔の渚本介が、静かに睨み合う。

 
(<;`θ´)「我ら二人を相手にここまでとは…」

(;∂A∂)「お主、何奴」

 
 予想外の強さに焦る二人。
 虎恍丸をゆっくりと構え直しながら、渚本介が答える。

 
(´・ω・`)「…太田渚本介」

(;∂A∂)「!!貴様、あの"戦魔"か!?」

(<;`θ´)「死んだはずでは…」


158 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:19:54 ID:Vx0gVzAYO
 
(´・ω・`)「そう簡単に死ねるものではない。さあ、行くぞ」

(;∂A∂)(<;`θ´)「っ…!」

 
 渚本介の名を聞いて、明らかに動揺した二人。
 集中力の欠けた二人に、渚本介が一気に攻めこむ。

 
(;∂A∂)「く…うおおおお!!」

 真正面から踏み込んできた渚本介に、刀を横に薙ぎ払う。
 しかし、渚本介は瞬時に膝を90度近くまで曲げて上体を逸らし、刀をかわした。
 渚本介のあまりにも無茶な体制に、一瞬の隙が生まれた男。
 その喉を、虎恍丸が貫いた。
 

(<;`θ´)「クソッ…死ねェ!!」

 もう一方の男が、渚本介の正中線を目掛けて小刻みに突いてきた。
 かわしにくく、殺傷力の高いその攻撃を、回るように避ける。
 そのまま渚本介は男の首を斬った。


159 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:20:54 ID:Vx0gVzAYO
 
(´・ω・`)「ふん」

 大きく痙攣しながら、ゆっくりと崩れ落ちる二人。
 渚本介は虎恍丸を鞘に戻し、三人の方を向いた。
 

(;^ω^)(つ、強ぇぇぇ!!)

(;´∀`)「なんとお礼を申し上げたらいいのやら…面目ない」

(゚、゚;トソン「……」

(´・ω・`)「おい」

 
 安堵の声を上げる模那に、渚本介は早足で近づいた。
 その表情は少しだけ怒りに染まっている。
 渚本介は模那の目の前まで来ると、胸元を掴んで持ち上げた。
 

(;^ω^)「ちょ、何してんすか渚本介さん!」

(゚、゚;トソン「や…やめてください!」

(;´∀`)「何するんだ…離せモナ!」

(´・ω・`)「……」


160 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:21:57 ID:Vx0gVzAYO
 
 ブーンと十遜の制止を聞かず、模那を締め上げ続ける渚本介。
 渚本介にしては少し大きな声が、本堂に響いた。

 
(´・ω・`)「武士の心を拝するも結構。武家の血を切ってでも女を愛するも結構」

(´・ω・`)「だがな、その愛した女を守ろうとせず、刀を抜くこともしないとは何事だ。最初にブーンを斬ろうとした威勢と覚悟はどうした!」

(;´∀`)「……」

(´・ω・`)「駆け落ちなんてそんなものだ。愛に溺れてしまえば、人は野兎の如く落ちぶれる。半端な覚悟ならやめてしまえ」
 

 締め上げていた手を離し、模那を落とした渚本介。
 尻餅をついて咳き込む模那に、まるで関係ないかのように背を向ける。


161 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:23:06 ID:Vx0gVzAYO
 
(´・ω・`)「ブーン、行くぞ」

(;^ω^)「は、はい…」
 

 背を向けて普通に歩き行く渚本介と、何度か振り返ってぺこぺこと頭を下げるブーン。
 渚本介が本堂の扉に手をかけた途端、廃寺が揺れそうなほどの怒声が本堂に響いた。

 
(#´∀`)「太田渚本介ェェェ!!!!」

(;^ω^)「うおっ!?」

(゚、゚;トソン「!?」

(´・ω・`)「……」
 
 
 声の方を振り向く。
 そこには、刀を抜いた模那が此方を睨んでいる姿があった。


162 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:24:21 ID:Vx0gVzAYO
 
(´・ω・`)「なんだ」

 あくまで冷静にいる渚本介。
 しかし、心なしかその目は少し嬉しそうだった。

 
(#´∀`)「貴様の言う通りだ!!拙者は心の弱い、もとより武士失格の男!!」

(#´∀`)「だからこそ強くなる!十遜を守れる男になってみせん!!」

(#´∀`)「勝負だ渚本介!!刀を抜け!」

(´・ω・`)「…いいだろう」

 
 刀を向ける模那。
 その模那を見つめながら、虎恍丸を抜いて歩み寄る渚本介。

 止めることはできなかった。
 いや、止めてはいけないと感じた。


163 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:25:23 ID:Vx0gVzAYO
 
 愛した女を守る為に、強くなると決心した男。そして、それに応える男。
 刀を構え、静かに睨み合う。
 
 
(#´∀`)「う…」

(´・ω・`)「……」

(#´∀`)「うわあああああ!!」
 

 勝負が始まった。

 刀を振り上げて走ってくる模那と、攻撃を待つ渚本介。
 決着は、一瞬で決まった。
 

 
(;´∀`)「がはっ…!」

(´・ω・`)「……」
 
 
 渚本介の峰打ちが、模那の腹を捕らえたのだ。

 片膝をつき、腹を押さえる模那。
 両手を添えながら、その様子を心配そうに見つめる十遜。


164 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:26:52 ID:Vx0gVzAYO
 
 虎恍丸を鞘にしまい、渚本介は模那の前に行ってしゃがみこんだ。
 その目は、先程とは違って優しさに染まっている。
 

(´・ω・`)「確かに、お前は刀術に優れているわけではない。しかし、その精神と愛さえあれば、女一人は守りきれる」

( ´∀`)「……」

(´・ω・`)「いい攻撃だった」

( ´∀`)「…感謝致す…渚本介殿……」

(゚、゚トソン「……」

 
 愛する女を守るのに、喧嘩の強さなんて要らない。
 愛する女を幸せにするのに、刀術なんて必要ない。
 気持ち次第で、男は女を幸せにできるものだ。

 渚本介はそのまま座り込むと、今度はブーンの方を向いた。


166 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:27:58 ID:Vx0gVzAYO
 
(´・ω・`)「ブーン、ぎたーを弾いてくれ。曲は任せる」

( ^ω^)「了解ですお」
 
 
 背負っていた荷袋からギターを取り出し、三人の前に座って構えるブーン。
 模那と十遜が不思議そうに見つめるなか、ブーンは演奏を始めた。

 曲は福山雅治の「you」のソロギター。
 純情な愛の旋律が、廃寺の本堂に響き渡る。
 
 
( ´∀`)「……」

(゚、゚トソン「……」
 

 愛してしまったのなら、その愛に従えばいい。
 身分の差なんて、二人の生活の中で忘れてしまえばいい。

 ブーンのギターの音色を、二人はずっと、静かに聴き入っていた。
 
 
 
──


167 ◆vVv3HGufzo:2011/03/02(水) 12:29:16 ID:Vx0gVzAYO
──
 

 模那と十遜がいつまでも手を振るのを背に、ブーンと渚本介は廃寺から歩き出した。

 駆け落ちの現場を見ること自体ブーンは初めてだったが、そういう愛も悪くないな、と思った。
 あの二人には幸せになってほしい。
 いつまでも一緒にいてほしい。
 ブーンは久しぶりに清々しい気持ちになっていた。
 
 
(´・ω・`)「なんだ、妙に清々しい顔だな」

( ^ω^)「だって久々に良いものが見れたんですお」

(´・ω・`)「はは、そうだな」
 

 良い二人だったな、と渚本介が呟いた。

 十遜を守り、幸せにする為に頑張っていた模那。
 しかし、この二人が今でも充分幸せそうに見えたのは、果たしてブーンの勘違いなのか。
 
 
 
第五話 終


177 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:01:39 ID:IMU23ugAO
***
第六話 「人の子は人」

***

 
 もう随分と根十城へと歩いていたが、ブーンはまったく進んでいる気がしなかった。
 理由はわかっている。歩けど歩けど森や山が広がっているばかりで、変わらない景色の中を延々と進んでいるからだ。
 渚本介曰く、根十城はもう少し歩けば着くそうだが、その「もう少し」が遠い。

 しかし、山を降りて久しぶりに町が見えた頃、ブーンの疲れきった気持ちは一気吹っ飛んだ。
 何故ならそこは。
 

(*^ω^)「海だお!!」

(´・ω・`)「ああ。ここは村田領の港町だ」


178 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:01:58 ID:IMU23ugAO
 
 村田領須貝付(すかいふ)。
 それほど大きくはない国だが、漁業の発達した景気の良い地域だ。
 その漁業の中心となる地が、今回ブーン達が訪れた須貝付という港町である。

 
(*^ω^)「海!海だお!!」

(;´・ω・`)「魚かお前は…」

 
 町に降りるなり、ブーンは浜辺に向かった。
 久しぶりの海。ブーンは荷物を置き、パンツ一枚の姿になって狂ったように海に飛び込んだ。
 近くにいた町の人達は、海で泳ぎ回る奇妙な人間に見入っていた。
 

(;´・ω・`)「おいブーン、頭がおかしくなったのか」

(*^ω^)「あっすいません、久しぶりの海なもんで!テンション上昇!今夜はパーリナィッ!」

(;´・ω・`)(ダメだこいつ…)


179 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:03:19 ID:IMU23ugAO
 
 ブーンが泳ぎ回り、渚本介が見守る。
 その後ろで、ブーンの荷物にコソコソと近づく少年が二人。

 
( ´_ゝ`)(行くぞ弟者)

(´<_` )(ああ)

 
 渚本介はまだこっちに気づいていない。
 少年はゆっくりとブーンのギターを掴むと、一目散に走り出した。

(;´・ω・`)「!!」

(;^ω^)「あっ!?」

(*´_ゝ`)「よっしゃあ走れ!!」
(´<_`* )「流石だよな俺ら!ひゃっほう!」

(;´・ω・`)「おい待t(#^ω^)「待ちやがれごらあああああ!!!!」


180 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:03:34 ID:IMU23ugAO
 
(;´_ゝ`)「うわ、なんか来るぞ!」

(´<_`; )「走れ兄者!!」

(#^ω^)「待てやクソガキ共ォォォォ!!!!」

 すばしっこい二人の少年と、必死に追いかけるパンツ一枚のブーン。
 重いギターを担いでいるのにも関わらず、少年達はとんでもない速さでブーンとの距離を離していく。

 家や店の間。魚の干乾し場の柵。それらをスイスイと飛び越えていく二人。

 
(;^ω^)「待てや!!」

(;^ω^)「待……ハァ…!!」

 
 やがて、少年二人の姿は完全に見えなくなった。

 

──


181 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:05:00 ID:IMU23ugAO
──
 

( ;ω;)「どうずりゃいいんだお゙お゙おおおじょぼんのずげざああああん゙!!!」

(;´・ω・`)「落ちつけ、とりあえず一緒に探しに行くぞ」

( ;ω;)「は、はいですお…」

 
 ギターが盗まれた。ギターが友達と言っても過言ではないブーンにとって、これは大事件であった。

 しかし、犯人がはっきりとわかっているのが不幸中の幸いだ。
 薄い顔の、双子のようによく似た二人。恐らくまだ十歳を過ぎた辺りでは無いだろうか。
 近くにいた町の漁師に聞くと、その二人はいとも簡単に特定できた。


183 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:05:22 ID:IMU23ugAO
 
 話によると、二人はやはり双子であり、町では有名ないたずらっ子ということだった。
 互いを兄者弟者と呼び合い、完璧なコンビプレイでいたずらを遂行する、町では完全にブラックリスト入りの二人であるらしい。
 町の人間にはよくいたずらをするが、人の物を盗むのは何故か今回が初めてかもしれない、とその漁師は話してくれた。

 ついでに二人の家の場所を聞くと、あっさりと答えてくれた。
 しかし、一つ問題があった。

 
(=`Δ´)「あんたら、あの家族に会いに行くつもりか」

(´・ω・`)「そうだが、何かあるのか?」

(=`Δ´)「そうか…いや、何でもない」

 
 言いづらそうに顔を伏せる漁師。
 気になったので別の人間にも聞き回ってみたが、皆同じように口を閉ざす状態だった。


184 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:06:41 ID:IMU23ugAO
 
(´・ω・`)(何か変だな…)

( ;ω;)「しょ、渚本介さん、どうしたんでずがお?」

(;´・ω・`)「いや、例の二人のことが…ってまだ泣いてたのか」

( ;ω;)「すんませんそろそろ泣き止むので…」

 
 何か変だ。
 町の人間が、まるであの二人を、というよりあの二人の家族を極端に避けている様子だ。
 いたずら好きな少年ならどこにでもいる。忌み嫌ったり、避けてしまう理由になんてなるはずがない。
 なのに、この町の人間達の態度はどこかおかしい。


185 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:07:23 ID:IMU23ugAO
 
 とにかく、まずは例の二人の家に行ってみるべきかもしれない。
 先ほどの漁師が教えてくれた場所は、この町から少し離れた山の中だった。
 

(´・ω・`)「ブーン、あの二人の家に行こう。きっとそこにぎたーもあるはずだ」

( ^ω;)「はいですお!」

(;´・ω・`)「なんだその妙な顔は」
 
 
 念のために町の商人達に話しかけて、ギターが売られていないかの確認をしながら、渚本介とブーンは双子の家に向かった。
 
 

──


186 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:08:07 ID:IMU23ugAO
──
 

 夕方。
 この場所から須貝付を見下ろすと、夕陽に照らされた町並みが綺麗に映えていた。
 きっと、海側から上る朝陽に照らされた光景は、もっと美しいのだろう。

 ブーンと渚本介の二人は少し傾斜の強い山を登り、例の双子の家に辿り着いた。
 
 
(;^ω^)「ああ疲れた…こんなところに家建てるとかドMだろ…」

(´・ω・`)「どえむ?」

(;^ω^)「あっ、いや何でもないですお」

(´・ω・`)「そうか、とにかく入るぞ」
 

 その家はかなり老朽化した状態で佇んでいた。
 家を支える木柱はところどころ虫に食われ、建築物としてはかなり危ない状態だ。

 渚本介もそれを察してか、玄関の戸を優しく叩いた。


187 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:09:31 ID:IMU23ugAO
 
 途端、家の中から二人分の足音が聞こえてきた。
 こんな夕方の来客に何も怪しむことなく、相手は勢いよく戸を開けた。
 

(;´_ゝ`)「はい!……ってうわああああ!!」

(´<_`; )「ぎゃあああ!!さっきのキチガイ南蛮人だ!」

 戸を開けるなり、何やら叫んで家の中へ駆け戻った双子。
 ブーンの顔に再び怒りが浮き出る。

 
( ^ω^)「……誰が…」

(#^ω^)「誰がチキン南蛮じゃごらあああ!!」

(;´・ω・`)「待てブーン。お前今何か変なこと言ってたぞ」

(#^ω^)「渚本介さん!早くあいつら追いましょう!!急がないと逃げられて──」
('、`*川「あの…」


188 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:10:47 ID:IMU23ugAO
 
 突然の女性の声に、暴れる寸前だったブーンはピタリと止まった。
 見ると、玄関のすぐ手前にか細い女性が一人立っている。
 歳は30代の半ばくらいだろうか。あの双子の母親だと予想できるその女性は、玄関先まで苦しそうに歩きつくと、ゆっくりと両膝をついた。
 

('、`*川「先ほどの楽器の持ち主でしょうか…息子達が迷惑をかけてしまい、申し訳ございませんでした」

(;^ω^)「あ、ハイ…」

('、`*川「どうぞお上がりください。私、あの双子の母親で、辺尼指(ペニサス)と申します」

(;^ω^)「あっ…その…」

(´・ω・`)「失礼致す」
 

 あまりにも礼儀正しい辺尼指に、逆に申し訳なさを感じてしまったブーン。
 しかし、渚本介が遠慮することなく家に上がったので、ブーンもその後に続いた。


189 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:12:00 ID:IMU23ugAO
 
 囲炉裏のある部屋に通されると、すぐに辺尼指が茶を持ってきた。
 足が悪いのか、その丁寧な仕草の一つ一つが危なっかしい。
 辺尼指は二人に茶を淹れると、改めて深く頭を下げた。
 

('、`*川「息子達が盗みという悪行を働いたことを、まことに反省しております」

('、`*川「例の品は無事に預かっております。ですから、願わくば命だけはお許しを…」

(;^ω^)「いやいや命なんか取りませんお!僕はギターさえ無事に戻ってきてくれれば、それで良いんですお」

('、`*川「有り難き幸せ…感謝致します」

(´・ω・`)「……」

('、`*川「あんた達、アレを返しなさい」

( ´_ゝ`)(´<_` )「……はーい」


 いつの間にいたのか。例の双子が此方を覗いたまま、元気の無い返事をした。
 双子はすぐにギターを持って、ブーン達のもとに帰ってきた。


190 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:13:10 ID:IMU23ugAO
 
 双子が持ってきたそれは、間違いなくブーンのギターだった。
 無事でいたことにホッと息をつく。
 辺尼指が双子を連れて奥で説教を始めたので、ブーンはギターを抱えながら渚本介に尋ねた。

 
( ^ω^)「それにしても、さっきの"命だけは"ってどういうことですかお?」

(´・ω・`)「え?」

( ^ω^)「さっき辺尼指さんが言ったことですお。盗んだくらいで命乞いなんて、昔よっぽど酷い経験でもしたんですかおね」

(´・ω・`)「何言ってるんだ。普通、盗っ人は即晒し首だぞ」

( ^ω^)「へえー……」

(;^ω^)「…え!?なんで?」

(´・ω・`)「なんでって、罪に罰を与えて公然に晒すのは当然だろう。これは平和というものに必要な、ある意味正当な犠牲だ」


191 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:14:39 ID:IMU23ugAO
 
(´・ω・`)「それが新しい罪への抑止になる。未来の日本にはこの制度はないのか?」

(;^ω^)「いやありますけど、死刑なんてよっぽどの罪じゃないとならないですお!盗みくらいじゃ、せいぜい罰金か短い懲役…幽閉ですお」

(´・ω・`)「何故だ?罪人は生きてる限り新たな罪を起こしやすいもんだろう」

(;^ω^)「そりゃそうですけど…」

 
 この時代に飛ばされて、ブーンは現代とのギャップに度肝を抜かされることがしばしばあった。
 今回もそうだ。現代との秩序観、罰則の違いに、ブーンは驚かされていた。

 
( ^ω^)「…こんな話がありますお。人々を殺していた悪魔を、罰として神様が殺した。では神様はその殺した罪に問われないのか。ってやつですお」

(´・ω・`)「ふむ…」


192 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:16:00 ID:IMU23ugAO
 
( ^ω^)「その神様が殺しの罪を働いたとなると、その神様も罰として殺されてしまうんですお」

( ^ω^)「つまり、罪を殺しで解決していくと、延々と殺しの螺旋が続いてくだけなんですお。盗っ人を罰として殺したとしても、殺したほうが間違いなく罪が重いんですお」

( ^ω^)「だから、日常的な晒し首とか死刑なんて、それこそ罪なんですお。罪には殺し以外の相応の罰があるんですお」

 
 罪人を平気で消していくのは、正当な罰とは言えない。正しい秩序ではない。
 もちろん、命を以て償われるべき罪もある。しかし、それは頻繁に起こり得る罪ではない。

 いくら罪人と言えど、その命を無駄に切っていくべきではない。
 それが秩序であり、命の在り方なのだ。
 

(´・ω・`)「……なるほどな」


193 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:17:12 ID:IMU23ugAO
 
(´・ω・`)「かなり勉強になったよ。そうか、未来とはやはり考え方が違うもんだな…」

 
 渚本介はやけに納得した様子で、何度も頷いている。
 奥でもちょうど説教が終わったらしく、双子がしょんぼりと部屋を出て行くところだった。

 辺尼指はブーンと渚本介の所に戻ると、またも深々と頭を下げた。
 

('、`*川「いくらお二方がお許しになられても、此方は罪を働いた身。食事と寝床の用意をさせていただけますでしょうか」

( ^ω^)「おっ、それなら遠慮なく泊まっていきたいお。大丈夫ですおね渚本介さん」

(´・ω・`)「ああ。宿屋代が浮くと思えばありがたいものだ」

('、`*川「わかりました。どうぞおくつろぎ下さい。食事が済んでから、風呂と寝床の案内をさせていただきます」

 

──


194 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:18:23 ID:IMU23ugAO
──
 

 あまり豪華とは言えない食事をたいらげ、風呂を上がったところで、ブーンと渚本介は先ほどの囲炉裏のある部屋でコソコソと話をしていた。
 須貝付の人間達がこの家族を避けている様子だったのを、渚本介が話題に出してみたからだ。

 正直、この家族を避ける理由など全く思い当たらない。
 むしろヘタな町人よりも礼儀正しく、好感の持てる女性が一家を担っているのだ。

 不可解な状況下にあるこの家族に興味を持ったのか、渚本介はいつも以上に真剣に考えていた。

 
(´・ω・`)「ブーン、何かこの家族に違和感はあるか?」

( ^ω^)「…僕は無いと思いますお。どこにでもいる普通の家族だとしか…」

(´・ω・`)「ううむ…」


195 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:19:23 ID:IMU23ugAO
 
 二人が黙って考えているところに、寝床の準備を終えた辺尼指が戻ってきた。
 やはり本人に聞くしかない。あまり大きな声で言えない事かもと考えた渚本介が、少し身を乗り出した。

 
(´・ω・`)「少し答え難いことかもしれぬが…」

('、`*川「なんでしょう」

(´・ω・`)「須貝付の人間はこの家族に対して妙な態度をとっていたのだが、理由を教えてくれないか」

('、`;川「!……」

 
 顔を伏せて黙り込む辺尼指。
 マズい質問だったか、と少し後悔していると、辺尼指はぽつぽつと語り出した。

 
('、`*川「……私のせいなのです」


196 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:21:26 ID:IMU23ugAO
 
('、`*川「畜生腹、というものを御存知でしょうか」

(´・ω・`)「!」

(;^ω^)「あっ…」


 聞いたことはあった。
 昔の日本では、双子を産んだ女性のことを「畜生腹」と称し、忌み嫌う風習があったのだ。
 それを避ける為に、双子の一方を捨てていた、なんて話も珍しくない。
 「畜生腹」の風習は現代でも一部で存在しているらしい。

 となると、辺尼指に何が起こったのかはある程度想像できる。

 
('、`*川「私はお産で足を悪くし、町の人間からはその畜生腹が原因で蔑まされてきました」

('、`*川「しかし、私の夫はそんな町の人間達にいつも反発しておりました。子を二人産んだくらいで何が悪いんだ、と」


197 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:22:50 ID:IMU23ugAO
 
('、`*川「しかし、夫が海難事故で死んでから、私達に対する町の人間達の扱いは更に酷くなっていきました。畜生の夫だから、海にも飲まれるんだ、って…」

('、`*川「それから私達家族は村八分にあいました。須貝付を追い出され、行くあてのなかった私達は、この廃屋に住まうことにしたのです」

 
(;^ω^)「……」

(´・ω・`)「……」

 
 かける言葉が見つからなかった。
 町の人間達は間違っている。いや、この習わし自体が間違っている。

 しかし、どうすればいいのだろうか。
 間違っているとしても、これからも町の人間達のこの家族に対する態度は、きっと変わりない。

 二人が黙りこくっていると、辺尼指は笑顔を残して去っていった。

 
( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「……」
 

 これほどまでに寂しい笑顔を、ブーンは見たことがなかった。
 

 
──


198 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:24:25 ID:IMU23ugAO
──
 

 夜も更けた頃。ブーンと渚本介は寝室にいながら、眠れない夜を過ごしていた。
 二人共起きているのに、特に話をするわけでもない。
 ただ眠れずに、この家族に起こっていることをひたすら考えていた。

 この家族の為に、自分に何かできないことはないのか。
 ただ天井をぼーっと眺めていると、その視界に急に双子が現れた。
 

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「…おい南蛮人、起きてるか?」

(;^ω^)「うわっ、なんだお急に」

(´・ω・`)「こんな夜中にまだ起きていたのか…」

( ´_ゝ`)「武士様も起きてたのか、ちょうどいいや」

(´<_` )「なあ、頼みがあるんだ」


199 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:25:34 ID:IMU23ugAO
 
 突然現れたかと思うと、何やら頼み事を言おうとする双子。
 とりあえず、黙って聞いてみることにした。
 

( ´_ゝ`)「南蛮人の持ってるそれ、琴っていう楽器なんだろ?琴を母ちゃんの前で弾いてほしいんだよ」

(´<_` )「母ちゃんは俺らが生まれる前から琴に憧れてたらしいんだ。だから是非弾いてくれよ」

( ^ω^)「……」

 
 心優しい少年達だ、とブーンは思った。
 ということは、昼間の双子の行動は、母親の為に刑を受ける覚悟で盗みを働いたのだろう。
 疲れきった母親に、琴を聞いて元気になってもらう為に。

 ただのいたずらっ子なんかじゃない。本当は、常に母親を想っている優しい子供達なのだ。
 しかし、彼らは一つ大きな間違いをおかしていた。

( ^ω^)「これ琴じゃねーお」


200 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:26:53 ID:IMU23ugAO
 
( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「……」

(;´_ゝ`)「……えっ」

(´<_`; )「なん…だと…?」

 
 そう、これは琴ではなく、ギターなのだ。
 琴を見たことのない双子にとっては当たり前の間違いかもしれないが、それにしても痛い。これは痛い。
 

(;´_ゝ`)「…じゃ、じゃあさ、これを琴だと言って母ちゃんに聴かせてやってくれよ!」

(´<_`; )「そうだよ!嘘でもいいから弾いてくれ!」

(;^ω^)「うんまあ…いいけど…」

('、`*川「こんな夜中にどうしたんだい」

(;´_ゝ`)(´<_`; )「!!」

('、`;川「…ってあんた達何してるの!!申し訳ございません、息子がまたも非礼を…」

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってくださいお!」


201 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:28:16 ID:IMU23ugAO
 
 急いで双子を連れ戻そうとする辺尼指を、ブーンが呼び止める。
 少し驚いたように辺尼指が振り向いた。

 
( ^ω^)「僕は子供達に頼まれたんですお。僕の持ってるギ…琴を、辺尼指さんに聴かせてやってくれって」

('、`*川「!」

 
 目を丸くした辺尼指が、双子の方を向いた。
 双子は嬉しそうにニヤニヤしている。

 
('、`*川「あんた達…」

( ^ω^)「ではいきますお」

 
 いつものように渚本介がブーンの見える位置に座り、ブーンがギターを構える。
 相変わらず目を丸くしている辺尼指と、わくわくした顔を向ける双子。その真正面で、ブーンは演奏を始めた。

 曲は久石譲の「summer」のギターアレンジバージョン。
 ゆったりと流れる時間や思い出、そして人の優しい感情を、ギターの音色に乗せて響かせていく。


205以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 00:32:20 ID:DNPBHqZE0

今日の一曲、波の音も丁度よく


202 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:29:03 ID:IMU23ugAO
 
('、`*川「……」

( ´_ゝ`)(´<_` )「……」

 
 うっすらと涙を浮かべる辺尼指。
 その両手には、双子の手がしっかりと握られていた。

 子が何人いようと、子供達は間違いなく親を愛している。
 それさえ親がわかれば、これ以上の幸せなんてないものだ。

 
 町の人間にいくら蔑まれようと、忌み嫌われようとも構わない。
 自分にはこの子達さえいればいい。
 と、そう思っているに違いない。
 辺尼指の頬をつたう雫が、それの何よりの証明になっていた。

 

──


203 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:30:34 ID:IMU23ugAO
──
 

 翌朝。
 ブーンと渚本介が寝床を出ると、既に朝食の用意ができていた。
 辺尼指が腫れた目で挨拶をし、そのまま三人で食事を始めた。

 
(´・ω・`)「ん?子供達はどうなされた?」

('、`*川「まだ寝ております。あんな夜中まで起きるもんだから…」

 そう言うと、辺尼指は小さく笑った。
 ブーンと渚本介にも、自然と笑顔がこぼれる。
 

('、`*川「…昨晩は本当にありがとうございました。息子達の嘘にも付き合ってくれて」

(;^ω^)「あれっ、バレてたんですかお?」

('、`*川「ええ。実は、私の父が琴作りの職人だったのです」


204 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:31:48 ID:IMU23ugAO
 
 ほう、と呟く渚本介。
 辺尼指は笑顔のまま続けた。

('、`*川「幼子の頃から、私は父の作る琴に強い興味がありました。しかし、これは偉い人が使うものだから、と絶対に触らせてくれなかったのです」

('、`*川「ですから私は琴に憧れのようなものを抱いておりました。それを息子達に話したのは随分前の事ですが…まさか覚えていたとは」

(´・ω・`)「……」

( ^ω^)「本当に優しい息子達ですお」

 
 気分の良くなる、爽やかな朝。
 三人は温かい雰囲気の中、朝食を食べ終えた。

 しばらくすると、廊下の方から二人分の騒がしい足音が聞こえてきた。


206 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:33:02 ID:IMU23ugAO
 
( ´_ゝ`)「おはよう母ちゃん!!見て見て、弟者とこれ作ったんだ!」

(´<_` )「名付けて"木の実鉄砲"!!兄者!狙いはあのキチガイ南蛮人だ!」

('、`;川「こ、こら…」

( ´_ゝ`)「バアアアン!!」

(;゚ω゚)「ぎゃあああああ!!」

 朝早くにも関わらずテンションの高い双子。
 いつの間に作ったのか。双子は自ら編み出した武器「木の実鉄砲」を構え、たくさんの木の実を放出させた。
 直後、その全てがブーンの顔面に命中した。
 

( ´_ゝ`)「やりい!!」

(´<_` )「流石だよな俺ら!!」

('、`;川「あ、あんた達何やってんの!」


207 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:34:08 ID:IMU23ugAO
 
( ^ω^)「……」
 
 前言撤回。こいつらを優しい子だなんて言った自分がバカだった。
 この双子はまごうことなくクソガキです。本当にありがとうございました。

 
( ^ω^)「てめえら……」

(#゚ω゚)「ちょっとそこ座れやあああああ!!」

(;´_ゝ`)「うわっ!逃げるぞ弟者!!」

(´<_`; )「おう!!」

(#゚ω゚)「待てやごらあああああああ!!!」

('、`;川「ああ、もうあんた達!」

(´・ω・`)「ははは」
 

 爽やかな朝は、一変して騒がしい朝になった。
 小さな双子を追いかけるブーン。オロオロする辺尼指。それを見て楽しそうに笑う渚本介。

 そこは、須貝付の町よりも賑やかな場所だった。
 
 
 
──


208 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:35:53 ID:IMU23ugAO
──

 
(´・ω・`)「随分と世話になった」

('、`*川「いいえ、こちらこそ。またお越しください」

( ´_ゝ`)「じゃあね武士様!あとキチガイ!」

(´<_` )「また来…いやなんでもない」

(#^ω^)「クソガキが…」

('、`;川「ああもう!…申し訳ございません」

(´・ω・`)「ははは、もう行くぞ」

( ^ω^)「わかりましたお。…覚えてろよ」

 
 三人の親子が見送るなか、ブーンと渚本介は歩き出した。
 須貝付の町とは反対側に、山を登っていく。
 ふと振り向くと、水平線から上る朝日に照らされた須貝付の町が、ブーンの目に飛び込んできた。


209 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:37:48 ID:IMU23ugAO
 
( ^ω^)「……」

 
 綺麗な港町だ。町は賑わい、人々は元気に行き交っている。
 しかし、すぐそこに見える辺尼指とその息子達が住むボロボロな家のほうが明るく見えるのは、果たして気のせいなのか。
 

(´・ω・`)「?どうしたブーン」

( ^ω^)「…なんでもないですお。行きましょうお」
 

 活気のある港町だろうと、陰気な山の中だろうと、人が住めば明るくなるものだ。
 そう、「人」が住むのだから。

 相変わらず傾斜の強い山道だったが、ブーンは昨日ほど苦しくなかった。
 白い朝の光が、なんだかやけに眩しかった。

 

第六話 終


211以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 00:40:40 ID:40N/9IxAO


ギターとか触ったことないから分からないけどこのブーン結構ハイスペック?



212 ◆vVv3HGufzo:2011/03/06(日) 00:45:44 ID:IMU23ugAO
>>211
ありがとうございます

このブーンはギターではかなりハイスペックな方です
今回のsummerもアコギではかなり難しい曲ですし…
てゆうか、ぶっちゃけ今まで物語の中で出してきた曲に、僕が弾けるのは一曲もありません
本当にありがとうございました


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カテゴリ: ブーン系

テーマ: ショート・ストーリー - ジャンル: 小説・文学

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Posted on 2011/11/24 Thu. 19:15    TB: 0    CM: 0

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