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LOYAL STRAIT FLASH ♪

三十六章二

81 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/21(木) 23:46:23.69 ID:1QNzQ3On0

(´<_` )「ハインに、こっぴどくやられたな。
      大丈夫か、兄者?」

( ´_ゝ`)「問題ない。全身の骨は、既に完全に修復されている。
      それよりもお前だ、弟者。
      お前は―――」

(´<_` )「こちらも問題ない。心配の必要はないぞ、兄者。
      傷は深かったが、再生能力は十全に機能してくれた」

( ´_ゝ`)「そうか。なら、良かった」

部屋で、彼らは向かい合って話をしていた。
兄者は椅子に腰掛け、弟者はベッドに腰掛けている。

彼らの病的なほど白い肌は、ともすれば部屋の色に溶け込んでしまいそうだった。

(´<_` )「して、兄者。
      ここ数日のハインの荒れようは何だ?」

( ´_ゝ`)「つーを失った事から、精神が不安定になっているようだ。
      彼女を取り戻そうと、躍起になっているらしい」

(´<_` )「? 兄者、つーはいるじゃないか」

( ´_ゝ`)「アレは『殺人鬼側』のつーだ。
      どうも、『殺人鬼側』がつーを内側に押し込んでいるらしい」

(´<_` )「なるほど。しかし、何故ハインはああも荒れているのだ?
      つーは死んだわけでもないのだろう?」


84 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/21(木) 23:48:09.78 ID:1QNzQ3On0

( ´_ゝ`)「つーに会えなくなるのが、つーと喋れなくなるのが辛いという事だろう。
      だから必死で助け出そうとしているのだろうさ。
      毎日血眼になって、自分にも他人にも容赦しないで」

(´<_` )「……理解出来ない。
      会えなくなったところで、喋れなくなったところで、彼女自身には何の問題もないじゃないか。
      何をそんなに必死になっているのか、理解に苦しむ」

( ´_ゝ`)「人間の感情というのは、つまりそういうものなのだよ。脆いんだ。
      何か一つを失っただけで崩れかねない。どんな強い人間でも。
      その何かが、自分の生死にまるで関係のない、小さな一つでも」

(´<_` )「……感情、か。私には理解出来ない分野だ」

( ´_ゝ`)「生物として強いのは、きっと弟者のような存在なのだろうな。
      私にだって、脆弱なそれとはいえ感情というものはある。
      だから私は、弟者を失った時、きっと脆く崩れ去ってしまうだろうよ」

(´<_` )「兄者が、か?」

( ´_ゝ`)「あぁ。弟者を失ってしまえば、私はきっと生きていられない。
      自分でも弱い生物だと思うよ。人間というのは、つくづく欠陥生命だ。
      感情という、邪魔でしかないものを排除しきれない」

(´<_` )「そういうものなのか。
      ……兄者を失った時に、果たして私は崩れるのだろうか。
      感情というものがない私には、それは分からない」

( ´_ゝ`)「そうだろうな。
      まぁ兄としては、少し悲しむくらいの事はしてほしいものだが」


87 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/21(木) 23:50:24.74 ID:1QNzQ3On0

(´<_` )「私も、そう思う。
      弟として、兄を失った時には自身にそれなりの変動があってほしい。
      それこそ、崩れてしまいかねないくらいの変動は」

( ´_ゝ`)「あぁ。……いや、そんなものは必要ない」

(´<_` )「む?」

( ´_ゝ`)「すまない、さっきの言葉は取り消しだ。
      私が死んでも、弟者は生き続けてくれ。
      悲しむ必要もない。ただ、生きてくれ」

( ´_ゝ`)「弟者を失った時、きっと私は崩れてしまうだろう。
      きっと生きていられない。後を追うと思う。
      しかし弟者は、私が死んでも、生き続けてくれ」

(´<_` )「……それは、何故だ?」

( ´_ゝ`)「これも、人の感情だよ。
     兄としては、弟には生き続けてほしいものさ」

(´<_` )「自分は死んでいるというのに?」

( ´_ゝ`)「あぁ。私は死んでも、弟者には生きてほしい」

(´<_` )「何故だ? そんな事、意味がないじゃないか。
     自身が死んでいるというのに、他人が生き続けて何の得があるというのだ?」

( ´_ゝ`)「得は、ないだろうな。強いて言うなら自己満足さ。
      こんなくだらない事を考えるのも、感情のせいだ」


91 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/21(木) 23:52:22.82 ID:1QNzQ3On0

(´<_` )「……理解出来ないぞ、兄者」

( ´_ゝ`)「あぁ、理解なんぞしなくて良い。
      生物を弱くしてしまう『感情』なんてものは、まったく必要のないものさ。
      まったく。お前が羨ましいよ、弟者。」

(´<_` )「……だが、兄者。感情がないというのは、どこか寂しい物があるものだ」

( ´_ゝ`)「そうなのか。難しい物だな」

それから静かに訪れる沈黙。
呼吸の音だけが微かに響く。

二人の瞳は互いだけを捉えていた。
互いに逸らす事もなく、しかし何かを伝えようとしているわけでもない。
二人の空虚な視線は、ただ交差するだけ。

(´<_` )「明日だな」

突然の呟きに、しかし兄者は「あぁ」と頷く。

( ´_ゝ`)「とうとう明日、邪魔な“削除人”どもを殺せる。
      そうすれば、下賤な人間どもを蹂躙出来る。
      楽しみだ。感情が昂ぶる」

(´<_` )「明日を終えれば、より良い世界を迎えられるわけだ」

( ´_ゝ`)「あぁ。素晴らしい力を持つ異能者という存在が造る、素晴らしい世界が誕生する。
      “管理人”の思想を理解出来ない凡愚共が消え、
        更には異能者の素晴らしさを理解出来ない人間共が、我らに服従せざるを得なくなる」


95 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/21(木) 23:54:23.61 ID:1QNzQ3On0

( ´,_ゝ`)「最高じゃないか。これ以上の事象が見付からんよ。
      “削除人”共は、“管理人”に付き従っていれば良かったものを。
      人間共も、異能者を排除しようとせずに、静かにしていれば良かったのだ」

(´<_` )「…………………」

( ´_ゝ`)「……む? どうした、弟者。
      浮かない表情をしているが、何か不安要素でもあるのか?」

(´<_` )「いや。“削除人”と人間達は、何を想っているのかと、な」

( ´_ゝ`)「む?」

(´<_` )「“削除人”は、何故こうも他人の為に戦えるのか。
      人間は、何故異能者を受け入れられないのか」

(´<_` )「何故彼らは、こうも感情に振り回されているのか。
      そして彼らは今、何を想っているのか。
      それが気になっただけさ」

( ´_ゝ`)「彼らは、愚かなだけなのさ。
      きっと考えている事も、愚かなことに決まっている」

(´<_` )「しかし彼らは時々、凄まじい力を発する。
      おそらくは、その感情の力によって。
      私は、その力の源を知りたい」

( ´_ゝ`)「いや、そんな事はないぞ、弟者。
      感情というのは邪魔なものでしかない。
      感情のおかげで強くなっているというのは、間違った考えだ」


100 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/21(木) 23:56:25.47 ID:1QNzQ3On0

(´<_` )「しかし彼ら―――ブーン達は、ショボンが殺された瞬間に凄まじい力を見せた。
      感情の爆発が、力を呼び起こしたのだとしか思えない。非科学的だが」

( ´_ゝ`)「弟者、それは」

(´<_` )「そこまでの凄まじい力を見せる感情を持つ彼らは、今何を想っているのか。
      それは、とても気になるところだ。
      ……私が『感情』というものに興味があるから、というだけかもしれないが」

(´<_` )「私にはない感情というものを、色濃く心に持つ彼ら。
      彼らは何を想って戦い、何の為に生きて死んでいくのか。
      純粋に、知りたいんだ。感情という大きな欠陥を抱えた彼らを」

( ´_ゝ`)「……弟者。感情については、考える必要などない。
      さっきも言ったように、感情というのは生物にとって邪魔なものでしかないんだ。
      彼らはそれに振り回される、弱い愚者だ」

(´<_` )「しかし」

( ´_ゝ`)「弟者。もう考えるな。不毛な事だ。
      感情というものは、考えても答えは出ない。
      他の事を考えるんだ。良いか?」


101 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/21(木) 23:56:42.31 ID:1QNzQ3On0

(´<_` )「……あぁ」

( ´_ゝ`)「分かってくれて良かった。
      じゃあ、明日の件だが―――」

明日の戦闘について語り始めた兄者をよそに、弟者は思考していた。
己に足りないもの―――感情に関して。

兄に言われた通り、それに関しての答えは出ない。
しかし、考える事を辞める事は出来なかった。

戦う理由を作る感情とは何か。
戦う力を呼び起こす感情とは何か。
自身の死を省みずにでも誰かを護ろうとする、生物としてはあってはいけない行動を起こさせる感情とは、何か。

答えはやはり模糊としか浮かばず、気持ちの悪い感覚だけが残った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


105 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/21(木) 23:58:31.27 ID:1QNzQ3On0

冥々とした暗闇の中で、その少女は泣いていた。
己の無力さに泣いていた。

手を伸ばしても、何を掴む事は出来ない。
走っても走っても、辿り着くのは不可視の冷たい壁だけ。
叫んでも声は誰にも届かず―――声は虚しく反響するだけ。

『悔しいかい?』

笑いを含んだ声が、少女の耳に届いた。
少女は顔を上げると、涙眼で中空をきっと睨みつける。

(* ∀ )「当たり前でしょ、馬鹿ッ!!」

『ひゃはは、ざまぁだねぇ』

(* ∀ )「……出してよ!!」

『出すわけないでしょ、ばーか』

そして声は笑う。
何度も繰り返した、しかし結果は変わらないやりとりに、つーの瞳からはまた涙が零れ落ちる。

『また泣いてるの? 本ッ当に弱いねぇ、あんたは』

(* ∀ )「ッ……・うるさい!」

『ひゃはは。だっせぇな、あんた達はよ』

(* ∀ )「……達?」


107 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:00:26.95 ID:Q5lOZqp/0

『あんたの姉さんも、だよ。
 救えないって分かってんのにさ、しつこく食い下がりやがんだ』

(* ∀ )「…………………」

『知ってんでしょ? 外の情報は視えるし、聴こえる筈だし』

(* ∀ )「……知ってるよ。ねぇ、出してよ。
    ハインを悲しませたくないんだよ」

『嫌だっつってんじゃん。しつこいね、あんたも』

(# ∀ )「あんたねぇっ……!!」

『……おっと、お喋りは終わりみたいだ』

(* ∀ )「え?」

『またあいつが来たようだ。じゃあな。
 あいつの無力さを見て、自分の無力さを噛み締めな』

その言葉が終わるのと同時、つーを包む壁の一部が明るくなる。
まるで巨大なスクリーンが現れたかのように。

(*゚∀゚)「あっ……!」

そこに写されたのは、白い部屋。
そしてその部屋のドアを開けて入ってきたのは―――ハインだった。


109 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:03:21.50 ID:Q5lOZqp/0

いつもと同じくつーに……殺人鬼に交渉しにきたのだろう。
その瞳には強い決意と、溢れんばかりの不安が満ちている。

つーを解放しろと、いつものように言う。
拒否されて、尚も食い下がるが―――しかし、今日もダメだった。
いつもと同じく、何も出来ずに帰されていく。

やはりダメだったか、と肩を落とした。
その次の瞬間。


 从 ∀从「諦めねぇぞ。
       すぐに、てめぇを打ち負かしてやる。
       絶対に、だ。首洗って待ってやがれ」

 从 ∀从「じゃあな。また来るぜ、つー。
       ……待ってろよ。絶対に、救い出してやるから」
                                    』

ハインの言葉に、つーは顔を上げた。

(* ∀ )「ハインは……諦めて、ない」

呟き、そして―――彼女は涙を拭いた。
歯を食い縛って溢れ出ようとする涙を堪え、そして甘い思考をしていた自分を殴りつける。

(*゚∀゚)「ハインが、頑張ってるんだ。私がこんなんでどうするのよ。
    諦めるのはまだ早い。まだ希望は途切れていない!」


111 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:06:28.84 ID:Q5lOZqp/0

(*゚∀゚)「私が諦めてたら、何も始まらないんだ!
    終わらせない為には、勝つ為には諦めて待ってるだけじゃいけない―――私が動かないと!!
     ……そうだよね、ハイン!!」

立ち上がる。
そして彼女は、目の前の壁を思い切り殴りつけた。

勿論のこと、その壁はびくともしない。
ものを殴り慣れていない拳はすぐに激しく痛み、腕を通じて硬い感触を伝えてくる。

壊れそうな気配はない。
しかし彼女は、そんな事など気にせずに拳を振るった。

『何してんのー?』

(*゚∀゚)「壁を壊してんのよっ!!」

『は?』

一瞬の沈黙が訪れ―――

『ひゃっははははははははははっ!! つーちゃん、とうとう壊れちゃったの!?
 何も出来てないじゃない! 無駄だよ、無駄!! 馬鹿じゃないの!?
 壁を壊そうだなんて、愚の骨頂だね! キチガイレベルだよ!! ひゃはははっ!!』

(*゚∀゚)「無駄かどうかなんて、分からないじゃないっ!!
    私は諦めないよ! ハインも諦めてないんだ、私だって諦めない!!
    やれるだけの事はやってやるんだ!!」


113 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:09:26.32 ID:Q5lOZqp/0

『辞めた方が良いんじゃないのー? 無駄だし、拳を痛めるだけだよ?
 あんたは静かに、全てが終わって行くのを見ていれば良いんだよ』

(*゚∀゚)「ふふん、やめさせようと思ったって無駄だよ!
    私は諦めない! すぐにこの壁を壊して、あんたを押し籠めてやる!!
    首を洗って待ってなさい!!」

『ッ……上等だよ。良いよ、好き勝手に暴れて、身体をボロボロにすれば良い。
 どうせ無駄さ! 意味なんてないんだよ!! 
 ハインの行動にも、あんたの行動にもさ!!』

(*゚∀゚)「へんっ!」

鼻を鳴らして、壁を蹴りつけた。
返ってくる硬い感触に、しかし諦めずに攻撃を続ける。

可能性が高くない事は分かっている。
無駄かもしれないという事も。

しかし、諦めない。
ハインが諦めないのだから、自分も諦めているわけにはいかない。



115 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:09:43.77 ID:Q5lOZqp/0

ハインの想いが、自分の心を強くしてくれていた。

(*゚∀゚)「ハインに笑われないように、頑張るんだ!
    護ってもらってるばかりじゃ……ダメなんだッ!」

壁を殴り続けた拳が、苦痛の叫びをあげはじめた。
痺れるような耐えがたい痛みが腕を這い、脳が『辞めろ』と囁く。

しかし、辞めなかった。
辞めるわけにはいかなかった。

(*゚∀゚)「っ……待っててね、ハインッ!!」

虚しく響いた声には、しかし、力強い響きがあった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


118 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:12:21.86 ID:Q5lOZqp/0

( ・∀・)「…………………」

微かに薬品の香りが漂う部屋で、モララーは自分の身体を見詰めていた。
彼の身体には未だに多くの包帯が絡み付き、ガーゼが貼り付けられている。

彼はその内、一つのガーゼに手を伸ばすと、おもむろに引き剥がした。
そして、頷く。

( ・∀・)「……よし」

続けて、他のガーゼや包帯も剥がしていく。
最後の包帯が取られて、現れた彼の身体は―――傷一つないそれだった。

( ・∀・)「完全に復活……とまではいかないが、再生能力までは回復してくれたようだ。
      間に合って良かった。完璧ではないが、まぁ喜べる早さだろう」

言うが、しかし彼は笑わない。
それは、仲間を想ったが故にだ。
自分の身体の事よりも、今は仲間の事の方が頭を占めていた。

つーは大丈夫なのだろうか。
そして、ハインは大丈夫なのだろうか。
ミンナの瞳がどこか虚ろだったのにも気がかかる。

彼らを救ってやれないのが、心苦しい。
仲間だというのに。リーダーだというのに。

無力だ。


123 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:14:31.26 ID:Q5lOZqp/0

( ・∀・)「あの兄やクーも、こんな気持ちだったのだろうか」

皮肉だな、と嗤う。
歪んだ笑みは、しかしどこか哀愁を漂わせていた。

眼を閉じれば、思い出してしまう。
兄の、のどかで暖かな、どこまでも柔和な笑みを。

耳を塞げば、思い出してしまう。
ファーザーが、最期に自分に投げかけたあの言葉を。

それらを想って彼が浮かべるのは、ただただ歪みきった笑みだけだった。

( ・∀・)「……明日は、敗けるわけにはいかないな。
      全てに決着を付けてやらねばならない。
      クー達にも、ブーン達にも、モナーにも―――ファーザー、あなたにもね」

想えば、色々な事があったのだと思う。


124 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:14:46.62 ID:Q5lOZqp/0

異能者として目覚めた自分。
それによって両親は惨殺され、自分は人間への復讐を決意した。
それから間もなく、モナー―――兄と決別した。

無数の“反異能者組織”を潰し、無数の人間を殺した。
『ホーム』を襲撃し、ファーザーをも殺し、クー達―――今の“削除人”と敵対した。

プギャーやミンナ、ハインとつー、流石兄弟―――そしてショボンと出会った。
様々な出会いがあり、様々な物語が流れ、そして仲間となって“管理人”が成立した。

ショボンは“管理人”から離反し、そしてブーン達と敵対した。
ブーン達は“削除人”と手を組み、そして明日、彼らとの決着がつく。


これらの全ての物語が、明日の戦いで決まる。
自分の判断は正しかったのか、間違っていたのかも。

全ての人間に、兄に背を向けるのは正しかったのだろうか。
将来の障害を消すという目的で『ホーム』を襲撃し、ファーザーを殺したのは正しかったのだろうか。
“管理人”を作り上げたのは、そしてここまで走り抜いてきたのは正しかったのか。

( ・∀・)「運命の女神が、判決を下してくれるだろう」

歪んだ彼の瞳は、しかし真っ直ぐに前だけを見詰めていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


129 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:17:26.21 ID:Q5lOZqp/0

( ^Д^)「お」

ミンナの部屋へ行こうとしていた彼はふと、足を止めた。
探していた本人が、ホールに佇んでいたからだ。

しかし彼は声をかけるのをためらってしまう。
ミンナの瞳があまりにも空虚で、光を失っていたからだ。

( ^Д^)「……ミンナ?」

その声に、ミンナの首が僅かに回転した。
その動きはぎこちなく、どこか人形を連想させる。

( ゚д゚ )「プギャー……か。どうした?」

( ^Д^)「どうしたって……それはこっちのセリフだ。
     どうした? お前、すっげぇ顔してるぞ。
     死体みたいだ」

( ゚д゚ )「……そうか? そりゃあ、いかんな」

おもむろに、眼の間を揉み解すミンナ。
プギャーは彼を見て、舌打ちをして眉根を寄せた。

( ^Д^)「おい、ミンナ。素直に言え。何があった」

( ゚д゚ )「……何を言っているんだ? 何にも、ないさ。
    そうだな。ただ、少し疲れているのかもしれない」


132 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:19:22.19 ID:Q5lOZqp/0

( ^Д^)「嘘を吐け。疲れてるだけじゃそんな眼は出来ない。
     その眼は、何かに絶望しきってる奴の眼だ」

( ゚д゚ )「そんな事は」

( ^Д^)「ミンナ、頼む。何があったのか、話してくれ。
     俺はそんなお前を見たくない」

憐憫に満ちた視線を向けられ、ミンナは俯いた。
その口元は言葉を紡ごうとしては閉じられ、を繰り返している。

まるで、『何か』を言葉に出す事を恐れているかのように。

( ゚д゚ )「私は……人間を、ビロードを、憎んでいるんだ」

自分に言い聞かせるような響きを持ったその言葉は、酷く脆いものだった。
少しの衝撃で、崩れかねないほどに。

プギャーは再度舌打ちすると、ミンナの肩を掴んで揺さぶる。
そして、少し驚いて眼を見開いたミンナに、『起きろ!!』と叫んだ。

( ^Д^)「俺はだな、何でお前がそんなに不安定になってんだって聞いてんだよ!
     お前が言った言葉は、答えになっていない!
     こっちを見ろ、ミンナ! 心で俺と向き合え!!」

( ゚д゚ )「プ、ギャー……」

( ^Д^)「……話してくれよ。
     お前が何に対してそんなに揺れてるのか分からねぇけどさ、力になれるかもしれねぇじゃん。
     俺を、『友達も救えないような無力な男』にしないでくれよ」


135 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:21:22.59 ID:Q5lOZqp/0

( ゚д゚ )「…………………」

訪れる沈黙。
ミンナの虚ろな瞳はぼんやりとプギャーを映し、不安定に揺れる。

やがて沈黙を裂いた言葉は、驚くほどに力がなかった。

( ゚д゚ )「……私は、人間を、ビロードを、憎んでいるのだろうか」

はっとして、プギャーは息を呑む。
ミンナの言っている意味が、そして、彼がこうまでも虚ろいでいる理由が分かってしまったからだ。

( ^Д^)「ミンナ、それは……」

( ゚д゚ )「分からなくなってしまった。
    私の在り方も、私の存在理由も、何もかもが」

( ^Д^)「…………………」

今度はプギャーが口を閉ざした。
ミンナの不安定さは、予想以上に深刻なものだった。

ミンナは、根本の部分が揺らいでしまっていた。

( ^Д^)「ミンナ」

( ゚д゚ )「……あぁ」

( ^Д^)「それはつまり、人間を憎んでいるかどうか、
      ビロードを憎んでいるかどうか、分からなくなっちまったって事か?」


136 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:23:24.73 ID:Q5lOZqp/0

力無く、首肯。

( ^Д^)「……ミンナ、お前は」

プギャーが言葉を紡ごうとした、その瞬間。
かつん、とホールの床を靴が叩く音が響いた。

続いて響く、滑らかな声。

「やはり、こうなっていたか」

声の方向に視線を飛ばし、そしてプギャーは声を漏らした。
靴音高く歩み寄ってくるのが、モララーであったからだ。

( ^Д^)「モララー、さん?
     ……やはり、とはどういう事です?」

( ・∀・)「何やらミンナの纏う雰囲気が妙だったからな。
      これは何やら、良からぬ事を考えているなと思っていたんだ」

( ^Д^)「……モララーさん。あの」

( ・∀・)「良い。任せておけ」

プギャーの肩を軽く押すと、モララーはミンナの真正面に立った。

真っ直ぐに見詰めてくる瞳を、これも真っ直ぐ見詰め返す。
しばらくの間、その状態が続き―――眼を逸らしたのは、ミンナだった。

( ・∀・)「どうした? 何故、眼を逸らす」


137 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:25:23.44 ID:Q5lOZqp/0

( ゚д゚ )「……申し訳、ございません」

( ・∀・)「何を謝っている? お前が一体、何をした?」

まるでふざけているかのような喋り方をするモララー。
それに対してプギャーが何も言わないのは、彼の瞳がどこまでも真面目だったからだ。

( ゚д゚ )「戦闘前に考えるべきではない、愚かな事を考えてしまいました」

( ・∀・)「ほぅ? それは一体、どういう事だ?
      私に教えてくれないか?」

( ゚д゚ )「……私は本当に、人間を―――ビロードを憎んでいるのか、と。
    私は―――」

( ・∀・)「忘れろ」

ミンナの言葉を斬り捨てるかのように、鋭く発せられた一言。
それは一瞬、二人の思考を完全に硬直させた。

(;^Д^)「……え?」

( ゚д゚ )「……何を」

( ・∀・)「言葉の通りだ。忘れろ。今の思考、全てをだ。
      そしてその思考を、明日の戦いに向けろ。
      それ以外の事を考えられないくらいに、明日の事を考えろ」

( ゚д゚ )「そんな、事」


138 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:28:23.72 ID:Q5lOZqp/0

( ・∀・)「出来るさ。やれないと思うからやれないだけで。
      お前の集中力なら、そんな事は容易の筈だ」

( ゚д゚ )「…………………」

( ・∀・)「良いか、ミンナ。忘れるんだ。今だけで良い。
      お前のその苦悩は、答えを出すまでにとても長い時間を要するだろう。
      だから、明日の戦闘を終えてから、じっくりと考えるんだ」

( ・∀・)「お前の問いに応えられるのは、お前だけだ。私でも、プギャーでもない。
      お前が時間をかけて、練り上げて練り上げて出した答えだけが、お前の納得する答えだろう。
      今ここでうじうじ考えていたって、答えなどは出ない」

( ・∀・)「だから、忘れるんだ。そう、今だけで良いから。
      お前が今、答えを求めても、時間の無駄にしかならない。
      明日を終えたら、考えれば良い。独りでじゃなく、誰かに頼りながらでも、な」

( ゚д゚ )「今は、忘れる……」

( ・∀・)「そうだ。自分の為にも、私達の為にも、今だけは忘れてくれ。
      分かったか?」

問いに、ミンナは俯く。
そしてしばしの沈黙の後、顔を上げると―――ほんの少しだけ力強く、頷いた。

( ゚д゚ )「分かりました。努力させていただきます。
    私の問いは、明日を終えるまでは忘れていようと」

( ・∀・)「あぁ。それで良い。頼んだぞ」


139 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:31:26.40 ID:Q5lOZqp/0

プギャーにもしたように軽く肩を押すと、モララーは笑う。
それはやはりどこか歪んだ、しかしどこか暖かな笑みだった。

それから歩み去ろうとしたモララーに、プギャーは走り寄って行く。

( ^Д^)「モララーさん」

( ・∀・)「ん?」

( ^Д^)「その、ありがとうございます。
      俺じゃそんな事、言えませんでした」

( ・∀・)「気にするな。私はリーダーだ。当然の事をしたまでだ」

( ^Д^)「でも俺、一番ミンナの近くにいたのに」

( ・∀・)「人には得手不得手がある。
      私が言葉を扱うのが、少しだけ得意だっただけさ」

言い残して、歩み去ろうと振り返るモララー。
その視界に、橙色の頭髪が映った。

右手にはレモンティのペットボトル、左手には巨大な鋏。
そしてモララーと眼があった瞬間、顔に浮かべたのは笑みだ。

从 ゚∀从「よぅ、何だか、お揃いの様子で」

( ・∀・)「……その様子じゃ、少しはポジティブな考え方をするようになったらしいな」


141 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:33:25.93 ID:Q5lOZqp/0

从 ゚∀从「こいつのおかげでな。
     送り主サマサマには、是非感謝しないとな」

右手のペットボトルを軽く掲げて、軽く笑声をあげた。

从 ゚∀从「ありがとよ、モララー」

( ・∀・)「ふん……・単純な奴だな」

从 ゚∀从「照れんなよ、可愛いぞ」

( ・∀・)「うるさい。捻り潰すぞ」

从 ゚∀从「ひえー、怖い怖い」

( ^Д^)「ハインさんは、何を?」

从 ゚∀从「ん? いや、ちょいと身体を動かしたくなってな。
     ちょびーっとホールで暴れようかと思ってたんだよ」

(;^Д^)「決戦前日に、何やら凶悪にエネルギッシュですね」

从 ゚∀从「おうよ。エネルギッシュじゃなきゃ、やってらんねぇってんだよ」

( ゚д゚ )「……ハイン様、何やら纏う雰囲気が変わりましたね」

从 ゚∀从「おー? 気のせいじゃねぇか?
      私はいつも通りのつもりだが?」


144 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:35:27.32 ID:Q5lOZqp/0

( ゚д゚ )「先程までとは大きく違う上に、『いつも』ともどこか違う……。
    何やら、強くなったというか」

从 ゚∀从「私は元から強いっつーの!
      だが、なぁ……お前の言う事が正しいとすれば、だな。
      もっともっと強くならなきゃならない理由が出来たから、だな」

( ゚д゚ )「はぁ……」

从 ゚∀从「何だその薄い反応! つっまんねーの!」

と、その時だった。
更に二つの足音が、ホールの空気を震わせたのは。

モララーは薄く笑って、やれやれと溜め息を吐く。

( ・∀・)「結局、全員が集合したな」

彼の眼が捉えているのは、病的なほど肌の白い、そして驚くほど顔の似ている二人。
流石兄弟だ。

( ´_ゝ`)「騒がしいと思って来てみれば、やはりですか」

(´<_` )「ここで何を?」

( ・∀・)「いや、偶然に集まってしまっただけさ。
      まるで呼んでしまったみたいで悪いね」

(´<_` )「いえ」


147 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:37:27.61 ID:Q5lOZqp/0

从 ゚∀从「モララー。あんた、この後何するんだ?」

( ・∀・)「何をするも何も、明日に備えて休養を取るだけだが」

从 ゚∀从「はーん。プギャー、ミンナ。あんた達は?
      流石兄弟は?」

( ^Д^)「は? いや、俺も休むだけですが」

( ゚д゚ )「同じく」

( ´_ゝ`)「同じく。せいぜい、弟者と話すくらいだ」

(´<_` )「兄者に同じ」

从 ゚∀从「おう、なら、丁度良い。
      モララー。あんた、何か言ってくれよ。宣戦っつーか、そんな感じの」

( ・∀・)「……は?」

眉根を寄せるモララー。
その肩をバンバンと叩いて、ハインは言う。

从 ゚∀从「士気を上げる為に、さー。
      良いじゃん良いじゃん、そういうの!」

( ・∀・)「良くない。そして肩を叩くのを辞めろ。痛いぞ」


153 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:57:28.22 ID:Q5lOZqp/0

从 ゚∀从「良いじゃんかよ!
      明日は最終決戦だぜ!?
      前日の終りが、こんなしょぼっちいので良いのかよ!?」

( ・∀・)「……むぅ」

唸って、周りを見渡した。

まず最初に、プギャーと眼が合った。
半ば逸らすようにして視線をズラすと、ミンナの視線とぶつかる。

舌打ちをしたいような気分で逆を見れば、流石兄弟とそれぞれ視線が交差した。
そして正面を見れば―――明るい笑顔を浮かべたハインと、眼が合ってしまう。

从 ゚∀从「な? 頼むよ、リーダー」

首を傾げるようにして、言った。
モララーは何かを言い返そうとして―――しかし口を閉じる。

溜め息を吐いて、苦笑するだけだった。

( ・∀・)「やれやれ」

短い呟き。
それから大きく息を吸って、澄んだ声で言葉を紡いでいく。

( ・∀・)「……とうとう、ここまで来た。
      “管理人”が誕生してから、随分と歩んできたな。
      まだ歩み続けられるかは、明日、決まる」



155 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 00:59:50.39 ID:Q5lOZqp/0

( ・∀・)「ならば、まだ歩もうじゃないか。
      ここで足を止めてしまえば、勿体ない。
      行けるところまで、行こう」

( ・∀・)「歩む理由は、個人個人にあると思う。
      ちょっと、順番に聞いてみようか。プギャーから、な」

( ^Д^)「……俺は、モララーさんと共に歩む為に」

( ゚д゚ )「私は、人間と友人への復讐の為に」

从 ゚∀从「私は復讐と、楽しむ為に。そして……護る為に、かな」

( ´_ゝ`)「人間を蹂躙し、より良い世界を作る為に」

(´<_` )「兄者と共に在る為に」

( ・∀・)「そして私は、人間への復讐の為に。
      みんな。それぞれの理由の為に戦って、そして勝とうではないか。
      己の理由を、現実にしたまえ」


157 : ◆tAdHw/rYVY :2008/02/22(金) 01:01:53.11 ID:Q5lOZqp/0

そこで一つ置き、そして鋭く言い放つ。

( ・∀・)「勝つぞ! 各々、生きて勝って見せろ!!
      我々、死ぬにはまだ早い! 理想はまだ叶っていないのだから!!
      その手で、生を! 理想を! 未来を掴み取れ!!」

声は凛と響き―――そしてその響きを凌駕する応える声が、ホールに響き渡った。

モララーの顔に、笑みが浮かぶ。
歪みきった、しかし暖かい笑み。

ハインの顔にも、笑みが浮かぶ。
どこまでも楽しそうな、しかし強い決心を内包した笑み。

片や、兄を殺す為に強くなった男。
片や、妹を護る為に強くなった女。
相反するような存在は、しかしどこか良く似た笑みを浮かべていた。





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