第一話第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:11:23.28 ID:/HxwEU6v0【第1話『赫灼』】 喪名は電話でその連絡を受けたとき、しばらく頭が白くなって、身動きできなかった。 (;´∀`)『擬古が階段から落ちた……!?』 2006年10月2日。 この日、テラワロスヴィッパーズは延長12回まで戦った末、モームスウルフズにサヨナラ勝ち。遂に同率で首位に並んだ。 |;・∀・|『運悪く右肩から落ちてしまったそうです。先ほど連絡を受けました』 (;´∀`)『なんてこった……明日の登板は……』 |;・∀・|『全治二週間……本人は投げると言ってるそうですが、とても無理です』 (;´∀`)『だろうな……』 喪名は時計を見上げた。日付が変わろうとしている。 |;・∀・|『喪名監督は今、どちらに?』 (;´∀`)『自宅さ。しかし、どうしたものかな……』 |;・∀・|『ダブルエースの斉藤と白根は昨日と今日で使い切ってしまいましたからね……』 (;´∀`)『今野が居れば良かったんだが、野手充実のために登録を抹消してしまった……』 |;・∀・|『地園はどうです? 今季は中継ぎとして活躍しましたが、過去には先発経験があります』 (;´∀`)『いや、ダメだ……地園は今日3イニングを投げてる……とても先発はできない』 |;・∀・|『な、ならば旭日は?』 (;´∀`)『昨日ロングリリーフして70球を投げてしまった……あの乱打戦は痛かったな……旭日も無理だ』 喪名は慌てて投手リストを探り始めた。 他にも、投手がいないわけではない。中継ぎ投手を先発に回してもいいし、二軍から上げてくる手もある。しかし、適役となるとどうか。喪名は苦心していた。 4 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:13:18.01 ID:/HxwEU6v0 |;・∀・|『比木は……』 (;´∀`)『それは最初に考えたが……アイツは今季、ロケッターズ相手には0勝3敗、防御率9.45だ……まだルーキーにでも投げさせたほうがマシだよ……』 | ・∀・|『……ルーキー?』 二軍監督の羊羹は携帯電話を握り締めながら、ある一人の名を思い浮かべた。 | ・∀・|("アイツ"は確か、明日二軍戦に登板予定だったな……) | ・∀・|(調整は万全だし……今はかなり調子もいい) (;´∀`)『本当に弱ったな……チームの状態も、ここまではかなり良くなってきていたんだが……』 今季、テラワロスヴィッパーズは序盤に圧倒的な強さを見せ、独走。六月序盤で二位に7ゲーム差をつけており、評論家の多くはこのまま優勝と見ていた。 しかし、タマムシロケッターズは食い下がり、時間をかけて徐々に詰め寄っていく。ヴィッパーズは決して不調になったわけではなかったが、ロケッターズの執念は並々ならぬものがあった。プレイングマネージャーである榊を胴上げしたいという思いがナインに強くあったのだ。 九月に入ってロケッターズは遂に2ゲーム差にまで迫る。危機感に襲われたヴィッパーズは必死に試合を制するも、ロケッターズは離れない。そして九月終盤、遂にヴィッパーズはロケッターズに首位の座を明け渡すこととなった。 そして迎えた今季最終の3試合。ロケッターズとのゲーム差は、2。ヴィッパーズは3位のウルフズとの二連戦に連勝し、そしてロケッターズは最下位のイーフルズにまさかの連敗。互いに88勝56敗1分で同率首位に並び、最終戦の直接対決を迎えた。 喪名監督はロケッターズとの最終戦、今季ロケッターズ相手に4勝0敗、防御率1.56で抜群の相性の良さを見せている擬古の先発を決めていた。そして半分、楽観視していた。 しかし、あまりに唐突な、予期せぬ故障。構想が全て崩れ去り、そして、困惑していた。 5 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:15:12.25 ID:/HxwEU6v0 (;´∀`)『くそっ……運が悪すぎるな……最終戦に向けて、先発投手は全員抹消しちまった……』 野手や中継ぎの充実を考えるなら、当然のことだった。本当は、もしもの事態に備えて臨時先発を確保しておくべきだったのだろうが、喪名はあまりに安心しすぎていた。完全に喪名の失策だった。 (;´∀`)『……一軍には先発に適任な投手がいない……二軍から上げるしかないだろう』 喪名は再び投手リストに眼を通し始めた。無論、適任だと思える投手などいない。しかし、それでも二軍から選ぶより他なかった。 一軍の中継ぎ投手にスクランブル先発はあまりに危険すぎる。継投で1イニングや2イニングずつ投げさせるとしても、駒が足りるとは限らないし、やはり数イニングを投げられる先発を立てるべきだった。 喪名は二軍投手から一人の名を見つけた。実績のあるベテラン、井用。今季は怪我の影響もあって全く好成績を残せていないが、井用なら持ち前の投球術で何とかしてくれるかも知れない。喪名は微かな希望にすがりつくように、その名前を声に出した。 | ・∀・|『井用、ですか……』 (;´∀`)『それしかないだろう……かなり不安ではあるが……』 羊羹は、窓の外に眼をやった。 井用は確かに実績がある。しかし、今季は明らかに衰えが見えた。ストレートは走らなくなり、球のキレにも昔の面影はない。今季は一軍で二度リリーフ登板したが、どちらも失点してしまい、二軍にすぐ逆戻りしていた。 喪名監督の考えは、確かに悪くない。しかし、二軍監督である羊羹は、直に球を見ているのだ。 そして、その羊羹には、もはや一人の名しか考えられなかった。 ( ´∀`)『早速、井用に連絡して』 | ・∀・|『お待ち下さい、監督』 ( ´∀`)『ん?』 7 :第1話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:17:22.83 ID:/HxwEU6v0 | ・∀・|『二軍に、内藤というルーキーが居ます』 羊羹は再び窓の外に眼を向けた。 いくつか星が輝いている。きっと明日は快晴だろう、と羊羹は思った。 第1話 終わり 第二話へ ジャンル別一覧
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