2007/03/29(木)01:06
( ・∀・)二十年後、モララーはしょぼんと出会うようです(´・ω・`) (第六話下)
11 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:02:52.88 ID:XAMO4Drr0
「ねえ、キミは私のことが好きなのかな?」
今となっては最早遠い日、カウンターに座った彼女が唐突にそう呟いた。
グラスを傾け、どこか寂しそうに。
(´・ω・`)「どうしてそんなこと、今更聞くんだ?」
僕はできるだけ小声で囁く。
便宜上、カウンター内で喋ることは許されないのだ。
でも、そのルールを僕は自ら壊していた。
仕方がない。その時の僕はそう考えていた。
「なんていったらいいんだろう。ほら、私が一方的に好きになって今の関係になってるじゃん」
(´・ω・`)「……」
彼女の言葉に黙するほかない。それは事実なのだ。
今思えば、反論すべきだったのかも知れない。
数秒後、彼女はハッとしたような顔になって、努めて明るい声を出した。
「あ、ごめんごめん。なんか夜中にすんごい暗い雰囲気にしちゃったね。
忘れて忘れて」
12 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:03:28.49 ID:XAMO4Drr0
その後、しばらく会話は途切れていた。
そのうち、みるみるお客が減っていって、遂に彼女一人だけという状態になった。
もっとも、その頃にはもう閉店間際になっていたけれど。
(´・ω・`)「もう時間だよ」
卓上にうつ伏せになっている彼女に告げる。
のろのろと顔を上げた彼女は、不安そうに周囲を見回した。
そして、自分がどこにいるのかやっと思い出したかのように手を打つ。
どうやら、少し眠っていたらしい。
「今日は泊まってく」
(´・ω・`)「ダメだよ。親が心配するだろ?」
すると、彼女は顔をしかめた。
いつものやりとりだ。ここに来ると、大抵彼女は駄々をこねていた。
僕も、そのうちに軽くあしらうようになっていた。
「わかったよ……それじゃ、いつものとこまで送ってくれる?」
13 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:04:03.73 ID:XAMO4Drr0
(´・ω・`)「……ごめん、今日はムリなんだ」
「え?」
僕の答えは、彼女にとって意外だったはずだ。
目を見ることができなかった。それどころか、僕は彼女を視界の端に入れることすら拒んでいた。
彼女の視線は痛いほど感じていた。まるで見透かされているかのように。
おそらく目を丸くしていただろう。
そして、何らかの疑いを持っただろう。
案の定、彼女は言った。
「今日のしょぼんくん、なんか変だね」
(´・ω・`)「そんなこと、ないよ」
僕は彼女を見ていない。彼女は僕を見ている。
なんともいえない矛盾を感じた。
「まったく。隠してもダメだよ? しょぼんくんのことぐらい、すぐにわかっちゃうし」
14 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:04:38.58 ID:XAMO4Drr0
(´・ω・`)「そうなのか?」
僕は心底驚いて彼女に尋ねた。
そんな反応が意外だったのか、彼女もまた驚いているようだった。
「その反応はないよー。
だって、私からキミを好きになったんだから。
好きになるって言うことは、それだけ相手を知っているってコトだよ?」
彼女の、演説にも似た長い台詞を僕はぼうっと聞き入っていた。
逡巡し、やがてそれが正論であると納得する。
同時に、奇妙な新鮮味を感じていた。
人を好きになるとはつまり、そういうことなのだろうか。
相手を知ること。
でも、僕は。
相手、そして相手の環境を知らなかったから、彼女を裏切ることになりそうだ。
ここにきて指先が小刻みに震え始めた。
僕は、単純に恐れていたのだ。
これから、彼女が死んでいくのを遠い場所から見守る自分を。
「それじゃ、帰るね。また、明日来るよ」
15 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:05:25.28 ID:XAMO4Drr0
僕は、店からの出入りを告げる鈴の音が鳴るその瞬間まで、彼女の姿を直視できなかった。
グラスを磨く手を止めてガラス越しに彼女を見やる。
(´・ω・`)「……ごめん」
いつの間にか僕はそう呟いて……
いつも通り、店の片付けを徐々に始めていた。
心の中で決意していた。
彼女のことは一切忘れ、これからを生きていこうと。
それは、自分の精神を保護するための、愚劣な手段に過ぎなかった
――
「……さん、しょぼんさん!」
至近距離からの呼び声に、僕はふと顔を上げた。
( ・∀・)「……そろそろ、お店の準備をしなければならないのでは?」
言われてやっと、まどろみの世界から帰還する。
時計を見ると、開店時間一時間前をさしていた。
16 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:06:20.52 ID:XAMO4Drr0
(´・ω・`)「あ、ありがとうございます……つい、眠ってしまったようで」
僕は慌てて、食卓の椅子から立ち上がる。
季節にそぐわぬ汗で背中や掌がぐっしょり濡れていて、異常に気持ち悪い。
( ・∀・)「顔色が悪いですよ。
風邪でもひいたんじゃないですか?」
訝しむモララーさんに恐怖を覚える。
今見た夢など言えるはずがない。
(´・ω・`)「大丈夫、大丈夫ですから……気にしなくて結構です」
言ってから、しまった、と思った。
自分でもわかるほど、自信に似合わぬ口調で物言いしてしまった。
まるで相手を突き放すような、怒気を露わにした言葉。
( ・∀・)「……そうですか、わかりました。
では、部屋に戻りますね」
モララーさんはそう言い残して廊下の向こうに消えていった。
しばらく立ち尽くす。
すぐに引き下がったのはおそらく、僕の感情を察したからなのだろう。
17 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:07:01.62 ID:XAMO4Drr0
彼女を忘れるなど不可能なのだ。
いよいよ僕は悟っていた。
これからもあの刑事は頻繁にやってくるだろう。
それに、今のような悪夢を見ることも段階的に増えていくことが予想される。
そうなった場合に、僕は耐えられるのか。答えは否、だろう。
でも、今の生活を維持していく以外、僕には道がないのだ。
なぜなら、自身でそう決めたから。
……一ヶ月と少し前の過去に思いを馳せる。
あの時、僕の友人は確かにこう言ったのだ。
「僕からあの女を奪ったのは、確かにお前なんだ」
と。
知らなかったんだ、だから仕方ないだろう。
それに、彼女の方から僕に……。
ふと、我に返る。
そこは誰もいない孤独なリビング。
僕は、いったい誰に言い訳しているのだろう……
18 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:07:38.19 ID:XAMO4Drr0
階下に向かって開店準備を始める。
しかし、今日は細かなミスが多い。笑ってしまうほど、挙動不審だ。
挙げ句の果てにはグラスを一つ、落として割ってしまうほどである。
やがて、開店時間を迎える。
僕は初めて、カウンター内に立つことに沈鬱の念を覚えていた。
でも、休むなんて選択肢はないのである。
早速やってきた客の応対をしながらも、僕はどこか虚ろだ。
白昼夢のような光景が見えていた。
目の前に座ったお客の顔に焦点が合わない。
そのお客が何かを告げた。
飲み物かな。今日は暑いし。
振り返って棚にあるグラスを一つ手に取ろうとして……
唐突に響いた鋭い音。
瞬間、世界がくっきりと見え始めた。
後ろからお客が、「大丈夫か?」と声をかけてくる。
それに適当に相づちを打つと、僕はガラスの破片を無視して、注文を聞き返した。
しっかり、しないと……。