二十一章二十一章 悪 ( ・∀・) “管理人”リーダー、モララー。 空間操作の“力”を行使する、歪んだ思想の持ち主。 彼が歪んだのには、それなりの理由がある。 彼はとても幼い頃に、“力”に目覚めた。 もちろんそれを抑える術など知らず、ある日、彼は数人の人間の前で“力”を行使してしまう。 その、わずか一週間後の事だ。 モララーの両親が、残酷極まりない方法で殺されたのは。 これから語られるのは、モララーが歪んだ歴史。 彼の生きた、彼の物語。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (,,・∀・)「ふん♪ ふふん♪」 長く降り続いていた雨が上がり、数多の水溜りの出来上がった道。 そこをご機嫌に鼻歌を歌いながら歩くのは、幼き頃のモララー。 当時、十三歳。 運動、頭脳、性格、容姿。全てにおいて、欠落のない人間だった。 誰からも愛され、誰をも愛する人間だった。 『天才』だった。 (,,・∀・)「テストで良い点取っちゃった……誉めてもらえるぞー!」 その日の彼は、いつにも増して家に帰る足取りが軽い。 両親に誉めてもらえるというのは、彼にとって最も嬉しい事だからだ。 『あの角を曲がれば、すぐ家だ。 あの角を曲がれば、家の前で自分を待ってくれている母親がいる。 家の中に入れば、父親が笑顔で迎えてくれる。 あの角を曲がれば、僕の幸せが待っている!』 自然と溢れ出てくる笑みを抑える事もせず、彼は角を曲がった。 だが次の瞬間に彼の視界に広がった物は、無数の肉片と真紅に染まる地面。 そして、その真紅の地面の中心に位置していたのは―――紛れもなく、己の母親の頭だった。 (,,・∀・)「……え?」 悪趣味なオブジェのように見えるそれを前にして、足が止まる。思考が止まる。 呼吸すらも、まばたきすらも止まった。 しかし。 (,,・∀・)「お母……さん?」 彼の思考回路は優秀だった。 理解したくない事でも、すぐに理解してしまう。 ゆっくりと、彼は停まっていた歩みを再開させた。 血の海に足を踏み入れ、血を跳ねさせながら歩く。 そして、母親の頭を自分の頭の高さまで持ち上げると、語りかけた。 (,,・∀・)「お母さん」 白目を剥いた眼。憤怒と悲愴に歪んだ顔。へし折られた歯。血を失くして色を失った肌。 それでもまだ中身はあったのか、首の断面からおかしな液体と個体が垂れ落ちた。 (,,・∀・)「テストで良い点取れたんだよ。五教科で487点だよ。前よりも15点も上がったんだよ。 すごいでしょ。頑張ったんだよ。誉めてよ。ねぇ、お母さん?」 母親は、何も答えない。 死者は、何も答えない。 (,,・∀・)「……死んじゃったんだね。おやすみ、お母さん」 裂けた唇にキスをして、ことり、と頭を地面に置く。 涙は流れなかった。 悲しさよりも、他の何か妙な感情が湧きあがっていた。 憎しみ。怒り。殺意。全て正解で、全て間違いだ。 マイナスの感情がない混ぜになった、妙な感情。 誰が母親を殺したのだろう。 母親は何で殺されたのだろう。 どこかぼんやりした、靄のかかったような頭で思考する。 (,,・∀・)「お父さんは……」 母親の海から歩み出て、ドアへと向かう。 ドアを開けたその先には――― (,,・∀・)「あ、お父さんだ」 家の壁に、幾本もの剣で磔にされた父親がいた。 口。喉。眼。腹。手。もも。足。 各箇所を無数の剣が貫き、身体を壁に磔にしている。 まるで人形か、昆虫の標本の様だった。 (,,・∀・)「ねぇ、お父さん。僕、テストで良い点取ったんだよ。 すごく良い点なんだよ。僕、頑張ったんだよ。誉めてよ。ねぇ……お父さん」 言いつつ、喉に刺さった剣を抜き、捨てる。 眼に刺さった剣を。腹に刺さった剣を。父親の身体を磔にしている剣を、抜き捨てる。 (,,・∀・)「んしょ、んしょ」 最後の剣―――口の中に刺さっていた剣を、抜き捨てる。 それと同時に、父親はモララーに向かって倒れこんできた。 (,,・∀・)「おっと!」 既に硬くなってしまった身体を受け止める。 その頭を抱き締めながら、モララーは呟いた。 (,,・∀・)「お父さんも……死んじゃったんだ。殺されちゃったんだね」 ゆっくりと、父親の身体を寝かせる。 剣の形に裂けた唇に軽くキスをして、モララーは微笑んだ。 (,,・∀・)「おやすみ、お父さん」 彼の両親は、優しかった。 モララーに溢れんばかりの愛情を注ぎ、叱るべき時はしっかりと叱る。理想の両親であった。 もちろんモララーも両親の事が大好きで、両親の為に全てを努力してきた。 彼の天才性に最高の磨きをかけていたのが、彼の両親だったのだ。 (,,・∀・)「僕のお母さんを……お父さんを殺したのは……」 そんな両親が殺されて、彼は普通でいられるだろうか。 今まで通りの、純真で明るい、ただの神童としていられるだろうか。 その答えは―――否。 ゆっくりと彼は振り返る。 いつのまにかドアの外に居たのは、数十人の濁った眼をした男達。 見れば、それぞれ手に物騒な得物を握っている。 モララーの足元に転がる、父親の血に塗れた剣。 それと同じ種の剣を握る者もいた。 (,,・∀・)「殺しちゃったのは……君達、だね?」 モララーの表情が、歪む。 それは笑み。あまりにも皮肉過ぎる―――歪んだ笑み。 彼が歪み始めた瞬間だった。 彼は悲しみや怒り、憎しみから―――歪むしかなかったのだ。 優秀な思考回路を持っていなければ、回路をパンクさせて狂う事も出来たろう。 強靭な心を持っていなければ、壊れる事も出来たろう。 優秀であって、強靭であったからこそ、狂う事も壊れる事も出来ない。 彼は、“歪む”という道しか選べなかったのだ。 (,,・∀・)「最近、君達はよくウチに来ていたよね。 来る度に僕のお母さんやお父さんに追い返されていたよね」 皮肉に笑う一方と、濁った眼で睨む一方は、動かない。 それぞれに溢れ出さんほどの殺意を相手に向けているだけ。 (,,・∀・)「……反異能者組織、って人達だよね? 確か異能者を殺す為だけに行動してる、っていう」 モララーは、男の内の一人を指差す。 男は濁った瞳を細め、答える。 「その通りだ。我々は貴様だけを殺そうとしていたのだが、な」 (,,・∀・)「なるほど、そこでお母さんやお父さんは君達に反抗しちゃったんだね。 だから、仕方なく君達は殺してしまったと。……こんなに残酷な方法で」 「その通りd」 (,,・∀・)「死ねよ」 男を指していた手を、開いて、閉じる。 それと同時に、男の頭は勢い良く、音を経てて弾け飛んだ。 「な!? ……な、何が……」 「こいつが“力”を使ったに決まってんだろ! 殺せ! 殺せ!!」 その声が響き終わるまでに、新たに二人の頭が弾け飛んでいた。 モララーは家の中へと逃げ込む。男達も、モララーを捕まえんと家の中へと侵入した。 だが、子供と大人。足の速さの違いは歴然。 数人の男はすぐにモララーに追いつき、得物を振り上げた。 「死ねぇえぇっ!!」 振り下ろされる得物に対して、モララーは軽く腕を持ち上げただけ。 まるで、前腕で得物を受け止めてやるとでも言わんばかりに。 だが、ただそれだけの事で――― (,,・∀・)「死なないよ」 男達の振り下ろした得物は、障害があるかのように空中で停止。 そのままモララーが腕を振るうと、得物は弾き飛ばされた。 (,,・∀・)「その程度じゃ僕は死なないよ」 再度逃亡。今度は二階へと登る。 すぐに男達も追いかけて階段を登るが――― (,,・∀・)「えいっ」 その手にいつのまにか握っていた剣を、階段の上から、先頭にいる者に投擲。 剣は男の喉を捕捉。先頭の男は階段を下り落ち、その後ろにいる者達も共に落ちていった。 「ふ……ふざけやがってぇえぇえぇ!!」 二階の部屋に逃げ込んだモララーを追うように、激昂した男達は階段を登る。 彼等はここで気付けば良かった。 モララーは、覚醒した自分の“力”をいきなり使いこなせるほどの天才だという事に。 そして彼は今―――自分の力全てを、生きる事だけに使っているという事を。 だが激昂しきっている今、そんな事を想うはずもない。 彼等はモララーのいる部屋のドアを叩き壊し、中に入り込んだ。 (,,・∀・)「えいっ」 彼が伸ばした手を握り込むと、その瞬間に先頭にいた男の頭が弾ける。 その後ろにいた男がモララーに走り寄るが、モララーはその手にいつのまにか握った剣で男の喉を貫通。 「な、何でありもしなかった剣が……」 (,,・∀・)「僕の“力”は空間操作だよ」 剣を放し、空いた両手で虚空を掴み、握り潰す。 新たに二人の頭が弾け、脳漿のシャワーが降り注いだ。 生暖かいシャワーに多くの者が眼を塞いでいる内に、モララーは剣を振り回す。 狙う場所は一撃の場所。眼に、喉に、心臓。 (,,・∀・)「ありゃ。この剣、折れちゃったよ」 彼がそう言って剣を投げ捨てる時には、既に十人の人間しか立っていなかった。 (,,・∀・)「ひぃ、ふぅ、みぃ……うん。ちょうど十人かぁ……。まぁ、これくらいで良いかな」 「な、何を……」 その言葉が終わる前に、男の足が砕けた。 その隣の男の足も、その隣の男の足も。全ての足が、砕かれた。 (,,・∀・)「君達がした事を、君達にしてあげるんだよぉ」 いつのまにかモララーの両手には剣。 血がこびり付いていたり、刃が欠けたりしている。 だがその鋭さは、人を害するには十分過ぎるほどだ。 (,,・∀・)「五人はバラバラに。もう五人は磔に、ね? 足があったら逃げられちゃうから、足は最初に砕かせてもらったよ」 「や、やめろ……」 (,,・∀・)「じゃあ最初は君からバラバラだね」 「や、やめ。やめて……やめて、くれ! なぁ、やめ―――」 (,,・∀・)「んしょ!」 言う男の右足首が、バツンと飛んだ。 「ああぁあぁあぁあぁあぁあぁぁあぁぁ!?」 (,,・∀・)「んしょ!」 左足首が飛ぶ。 続いて、右足首も。 「んしょ!」右手首が。左手首が。 「んしょ!」両膝から先が。 「んしょ!」両肘から先が。 身体の端からどんどんと切り飛ばされていく。 いつしか男の叫び声は、死にもがく亡霊のようになっていた。 「お゛お゛お゛お゛! お゛お゛お゛お゛お゛……!!」 (,,・∀・)「まだ死んじゃダメだよ、お母さんはもっとバラバラだったもん」 バラバラに、細切れに。 やがて胴体と頭を切り落として、モララーは顔を上げた。 (,,・∀・)「ふぅ……じゃあ次は、君だね」 「い、嫌だぁあぁぁぁあぁ! ああぁあぁぁぁあぁ!!」 処刑を続けるモララー。 その行為が終わったのは、夕方を少し過ぎた辺りだった。 (,,・∀・)「……それじゃあ、じゃあね。お母さん。お父さん」 夜。 少しの荷物を持って、モララーは紅と死に染まった家を出た。 行く先はない。 ただ歩き回って、反異能者組織を潰した。 両親の仇。 己の人生を狂わせた悪。 彼の行動の賜物か、反異能者組織はどんどんと少なくなっていった。 そして、それからいくらかの時が過ぎた時。 モララーは、『ホーム』の存在を耳にした。 『ホーム』 異能者を集めた施設で、『ファーザー』という人物が造った施設。 そして、その『ホーム』は異能者と人間の共存を目指している。 その話を聞いた時、彼は皮肉に笑った。 (,,・∀・)「異能者と人間の共存、ねぇ」 彼がこの時、純真であったなら。 明るい元気な昔通りの「モララー」であるなら、『ホーム』に向かい、異能者と人間の共存に手を貸しただろう。 そうすれば―――彼の天才ぶりを発揮すれば、そう長くない期間で、異能者と人間は共存の道を選んだろう。 だが、残念ながら。 彼はこの時、既に十分過ぎるほどに歪んでしまっていた。 (,,・∀・)「出来るわけないでしょ、常識的に考えて。 というか、あんなにも汚い人間達と仲良くしようっていう人達は―――」 表情が歪む。 皮肉な笑みが、また一つ、皮肉になった。 (,,・∀・)「殺してあげなきゃ」 それから二週間と経たぬ内に、モララーは『ホーム』を襲撃した。 『ホーム』の中にいたほとんどの異能者は惨殺。『ファーザー』ですら、彼は殺した。 襲撃の際、数人の異能者を逃がしてしまい、『ファーザー』にかなり抵抗されたが、ただそれだけだった。 『ホーム』を潰したその時、モララーは完全な物となった。 『ファーザー』との戦闘の時、『ファーザー』にかけられた言葉。 そして、その出来事自体が、彼を完全な物とした。 ただ歪んでいるだけではなく、意志と方向のある完全な歪み。 それが、モララーだった。 その後の彼の行動は、至極単純。 反異能者組織を潰して回り、人間に憎悪を抱く異能者を集めて仲間とする。 プギャーをついてこさせ、ミンナを仲間とし、ハインを救ったのも、彼のその後の行動だ。 流石兄弟は自分達から『仲間にしてくれ』と言い出し、つーはハインが連れて来た。 当然の事、彼等に敵対する個人や組織もあった。 だがそれらは全て、“管理人”だけの手によって抹殺・壊滅させられた。 ある時モララーは、打ち捨てられた、廃墟とも取れそうな研究所を発見。 そして何を思ったか、その研究所を修復し、己達の住処とした。 いつしかモララー達は自分達の事を“管理人”と呼ぶようになった。 異能者に酷薄にしてきた人間達を。 自分達の人生を狂わせてきた人間達を、今度は異能者の下に。 自分達の味わった苦しみを、人間にも味わわせてやる。 それが、“管理人”。 仲間を作り、力をも手にしたモララーは何を想うのだろうか。 それは残念ながら、本人以外には分からない。 いや、本人ですらも分かっていないのかもしれない。 ただ彼は突き進む。 己の目標に向かって。その進路に立つ者は、全て踏み潰して。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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