三十五章三( ´∀`)「……………」 モナーは自室で、一枚の写真を見詰めていた。 相当古いものらしく、その写真の裏側は少し黄ばみ始めている。 しかし写真に写されているものは、鮮やかな色を保っていた。 抜けるような青い空。写真から溢れんばかりに降り注いでいる日光。 その日光に歓喜しているかの如く輝いて、咲き乱れるカドミウムイエローのヒマワリ。 そしてそれらに負けぬほどの笑みを浮かべた、幼い少年。 少しだけ伸びた黒髪を風になびかせて、カメラに向かって手を振っている。 ( ´∀`)「……モララー」 溜め息混じりに呟いた。 写真に写っている少年は、モララーなのだ。 歪んでいない、ただただ真っ直ぐだった頃の、弟。 この写真を見るたびに、モナーは自分を責める。 自分が傍に居てやれば、彼はこのまま真っ直ぐに成長出来たのではないかと。 自分がもっと上手くやれば、ここまで歪んでしまう前にどうにか出来たのではないかと。 それと同時に、だからこそ止めねば、という想いが固まる。 VIPPERであった自分が、歪んでしまった異能者としてのモララーを始末せねばならない。 兄である自分が、歪んでしまった弟としてのモララーを始末せねばならない。 “削除人”という、心強い仲間達とともに。 今は亡きVIPの仲間達の想いをこの胸に抱いて。 ( ´∀`)「ロマネスク」 かつての同僚の名を呼んだ。 勿論の事、返って来る声はない。 しかし心のどこかで、期待してしまってる自分がいた。 呼んだ瞬間に、「何、暗ぇ顔してんだよ」と笑いながらどついて来てくれないかと。 朗らかに笑いながら、くだらない話をふっかけて来てくれないかと。 十年以上の月日が経っているというのに、ふっとよぎる笑顔は寂しさを喚起させる。 悲しみは時が薄めてくれたが、この寂しさはいつ消えるのだろう。 悲しみが薄れた分だけ、寂しさは濃くなってしまうのだろうか。 彼への寂しさと共に、かつての仲間達の顔が浮かんで消える。 捉えどころのない、しかしどこか頼れるリーダーだったフォックス。 頬と手の甲に彫られた狐の刺青と、時折浮かべるシニカルな笑みが印象的だった。 典雅な女性というイメージにぴったりだった、ダイオード。 いつもふらふらとして、そのくせ肝心なところでは格好良く決めて行くのが得意だったエクスト。 良く分からない発言の多い、空気を癒してくれる存在だったシュール。 他にもたくさんの仲間達がいた。 懐かしさに口元が綻び、寂しさに目尻が下がる。 そして胸に残る、忘失感。 気になるけれども思い出せない、厭な気持ち。 誰か、忘れてはいけない存在を忘れているような―――。 思い出そうとして、しかし思い出せず、歯痒さを抱いたまま思考を停止させる。 これも、いつもの事だった。 ( ´∀`)「そっちは、どうもな?」 かつての仲間達に、問うた。 返ってこない返事に、しかしモナーは応じる。 ( ´∀`)「心配しなくても良いもな。 僕はこっちで、もうちょっと頑張ってからそっちに行くもな。 僕には、心強い仲間達もいる。問題はないもな」 そして、今の仲間達に想いを馳せた。 “削除人”は仲間であり、恩人でもある。 仲間を作り出したモララーに対抗出来る術をくれたのだから。 天敵の兄である自分を受け入れてくれた彼らには、礼を言っても言い足りない。 だからこそ、結果で返す。 彼らの天敵。己の弟は、この手で始末をつける。 ―――こんな事を考えていると、ツンに怒られてしまいそうだ。 ふと、そんな事を想って、口元が緩んだ。 『何、辛気臭い顔してるのよ。 そんな顔してると、楽しい事が逃げていっちゃうわよ?』 何度そう言われただろうか。 何度、彼女に笑わせてもらっただろうか。 彼女の輝くような笑みは、人を元気にする力がある。 彼女は、もはや自分には不可欠な存在だ。 クーも、しぃも、フサも。みんな。 クーは頼れるリーダーだ。 仲間の為に常に冷たい仮面を被り、だからこそたまに見せる人間臭さが心地良い。 強く暖かい彼女に任せていれば、どんな事さえ成功しそうな気がする。 しぃは心の優しい娘だ。優し過ぎるほどに。 誰かが傷付く事に心を痛め、誰かを傷付ける事に心を痛める。 それがいかなる理由であろうと。……そこが彼女の、最高の優しさだった。 フサは不器用な男だ。自分に、似ている。 弟の為だけに頑張り続け、今、弟の為に悩んでいる。 上手く悩みを解く事も出来ない、弟想いの男。 これだけの人員が揃っている“削除人”は、とても居心地が良かった。 VIPと同じくらいに。 ( ´∀`)「それも、もう終わりだもな」 呟き。 そしてどこか仕方なさそうに、笑った。 ( ´∀`)「明日で、終わらせるもな。全てを。 もう躊躇もしないもな。僕は僕がすべき事をするだけだもな。 ―――今更、覚悟も何もないけれど」 そして、手元の写真に眼をやる。 写り込んだ少年の笑顔は、相も変わらず輝いていた。 ( ´∀`)「VIPPERとして、“削除人”として―――兄として、お前を止めてやるもな。 そうしたら……そうだもな。また、一緒に暮らそうもな。 ロマネスクやクックル達がいる、あの場所で」 ( ´∀`)「待ってろもな。モララー。ロマネスク」 そして彼は、写真にキスをした。 それはモララーが死んだ両親にしたキスに、少しだけ似ていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 冷たくなってきた夕日色の風が、頬を撫でて行った。 加えた煙草の煙が、風に流されて散っていく。 いつも、その光景に儚さや寂しさを覚える。 今日はそれが顕著だった。 心を握り締められているかのように、胸が苦しい。 チクチクと喉を刺す煙草の煙は、苦く重く、口内と肺に溜まる。 それを吐き出すと、赤く輝く夕日に視線を飛ばした。 いつも通り、綺麗な橙だった。 それが何だか違うものに見えてしまうのは、この心のせいなのだろうか。 ミ,,゚Д゚彡「痛ッ……」 腕を走った痛みに、顔をしかめた。 それによって、口に咥えていた煙草が落下した。 強い痺れのような痛みが、断続的に腕を走る。 関節が曲がりづらくなったような感覚を覚え、舌打ち。 これは最近、俺を襲うようになった痛みだ。 理由は、分かっている。 “力”の解放のし過ぎだ。 “力”を解放すればするほど、俺の中の魔獣は表へ出ようとする。 そいつを抑え込んでいるのだから、俺の身体が負担を受けるのは当然だ。 しかしこの痛みも、すぐに収まる。 そう思って、新しい煙草を取り出した。 そしてそれを咥え、火を付けようとして―――愕然とする。 手が震えて、どうしても火がつけられない。 震えを止める為に、腕に力を込めようとするが……それすらも適わない。 ミ,,゚Д゚彡「……糞が」 再度舌打ちして、ライターを仕舞った。 ―――ここまで進行しているとは、思ってもいなかった。 煙草を二つに折り曲げ、空に投げた。 茶色の細かい葉は、風に乗って彼方へと飛んで行く。 腕に走り続ける痛みに、一抹の不安を覚えた。 その不安を、すぐに打ち消す。 決戦は明日だ。 身体が持たない、という事はない。 まだ戦える。まだ、『喰われる』事はない。 明日が終われば、もう戦う必要はない。 大丈夫だ。“力”に喰われ、呑まれる可能性は限りなく低い。 大丈夫だ。 ―――やがて収まった痛みに、俺は溜め息を吐いた。 すぐに煙草を取り出し、火を付ける。 間もなく胸に広がった重い煙に、眼を細めた。 その時、ふっと頭を掠めたのは弟の顔だ。 同時、口元が綻び、口から煙が漏れ出していく。 それは、安心からだろうか。 愛しさからだろうか。 分からない。とにかく、悪くない心持ちだった。 順調に、ギコは強くなっていってくれている。 そうそう、簡単に死ぬ事はないだろう。 それに、決戦の時は俺と同じチームだ。 護ってやれる。 ミ,,゚Д゚彡「ギコ、か……」 戦いが終わったら、自分は一体、どうするのだろうか。 どこでどのように、残った人生を消費するのだろうか。 ギコと一緒には、居られないだろうか。 ふと思って、無理だろうな、と煙を吐き出した。 ミ,,゚Д゚彡「―――生きる理由が、ねぇなぁ」 絶望するでもなく、淡々と言った。 その時には、ギコも戦う必要がなくなっている。 自分が護ってやる必要もなくなっている。 戦うべき敵も、護るべき存在もない。 したい事も、しなければならない事もない。 何もない。 ミ,,゚Д゚彡「まぁ、その時はその時か」 正直に言えば、未来には相当な不安がある。 しかし今はそれを考えるべきではない。 考えるべきは――― ミ,,゚Д゚彡「明日の決戦。悪いが、勝たせてもらうぞ。 誰でもかかってこい。モララーでも、ハインでもな。 この手で粉砕し、この爪で引き裂き、この牙で噛みちぎってやろう」 ミ,,゚Д゚彡「弟の命の為に、弟の未来の為に、お前達には死んでもらう。 あいつの道を遮る存在は、俺が許さん」 ミ,,゚Д゚彡「弟には触れさせない。仲間には、触れさせない。 そうだ、俺が全てに片を付けてやる。この戦いに、この因縁に。 ―――特にモララー、お前はな。俺の恩師の仇だ」 自然に、笑みが浮かんだ。 精神も、獣と化しているのかもしれない。 自然と頭に思い浮かべた事は、恐怖だった。 しかし、それでも……決戦の時に『喰われて』しまっても、良いかもしれない。 ギコが護れるのならば、そんな些細な事はどうでも良い。 どうせ、決戦の後の人生なんて必要ない。 あいつの未来さえ護れれば、俺は――― ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 人の気配のないカフェの中、紙をめくる音が響く。 よく見てみると、カフェの奥には一人の小柄な女性が座っていた。 ショートカットの茶髪が、よく似合っている。 手元。テーブルの上にはハニーミルクティと、一冊の小説だ。 彼女の大きな瞳は暗欝とした色を浮かべながら、その小説に注がれていた。 しかしその内容は、彼女の頭には入ってこない。 洗練された文、美しい物語は、哀しいほどに早く読み流されていく。 ―――他の大きな事が、彼女の頭を支配していた。 おもむろにミルクティを手にし、一口、口内に流し込んだ。 ミルクと砂糖の甘みが舌を撫で、紅茶と蜂蜜の香りが鼻から抜けて行く。 その甘美な感覚をじっくりと味わってから、彼女はそれを嚥下した。 まもなく身体が内側から暖まり、彼女は息の塊を吐く。 それはしかし、充足や安らぎからの溜息ではなかった。 (*゚ -゚)「……はぁ」 もう一度、溜息。 そしてとうとう、彼女は小説を閉じてしまった。 (*゚ -゚)「戦いたく、ないなぁ」 ぼそりと呟いて、俯いた。 自然と瞳は、ミルクティのカップの中身を映す。 白とバーリーウッドの織りなす複雑な色合いは、美しくも混沌としていた。 まるで、彼女の心のように。 彼女はそれをもう一度口に運ぶと、息と共に言葉を吐いた。 溜めた息と同じように、溜めた気持ちを吐いた。 (*゚ -゚)「戦いたくないよ。 傷付けたくない。傷付きたくない。 殺したくないよ。殺されたくないよ」 (*゚ -゚)「みんなの笑顔が見たい。でも異能者が居たら、誰かが笑わなくなる。 でも私は死にたくない。殺したくない。でもそうしたら誰かが笑わなくなる。 みんなが笑って過ごせれば良い。でも異能者と人間達は分かり合ってくれない」 (*゚ -゚)「何で分かり合えないの? 同じ人間なのに。 些細な一つの事を分かり合えれば、誰も悲しまないで済むのに。 誰も命を落とさず、みんなが笑顔でいれるのに」 (*゚ -゚)「何でわざわざ、傷付けようとするの? 傷付こうとするの? 何でわざわざ、悲しみを増やすの? 命を減らすの? ―――みんなが笑って過ごせる世界を願うのは、贅沢な事なの?」 淡々と呟いて、彼女は首を振った。 その眼は、声と同じく暗欝としたものだ。 (*゚ -゚)「……何で私は、強くなれないの?」 「強くあらねばならないのに」と彼女は続けた。 そしてミルクティを一口。 彼女の求める強さとは、肉体的なものではない。 精神的な強さ。心の強さだ。 戦いは戦い、やるべき事はやると割り切れる強さ。 己の求める事の為に、他の物を犠牲に出来る強さ。 己の甘さを殺せる強さ。 (*゚ -゚)「私は、弱いなぁ。 ……強く、なりたいなぁ」 呟く彼女の頭の中には、一人の青年が浮かんでいた。 強い身体と心を持っていて、己の正義の為に戦える彼。 だけれど優しさも持っていて、正義と優しさとの間で苦悩する彼。 彼のような強さが欲しい、と彼女は零した。 ちらり、と壁にかけてある時計に眼をやった。 そろそろ夕暮れも終わる時刻だ。 思ったよりも長く、ここにいたらしい。 という事はつまり、思ったよりもここで悩んでいたという事だ。 一人の方が考えやすいと思ってここに来たが、どうやら意味はなかったようだ。 来た直後と、今と。何も、考えている事に進歩はなかった。 (*゚ -゚)「……はぁ。考えてても、仕方ないか。 それよりも、明日の準備しなきゃ……」 呟いて、残りのミルクティを飲み込んだ。 底に少しだけ溜まっていた蜂蜜が、甘く喉を滑り落ちる。 甘いなぁ。私みたいだ。 声に出すでもなく呟くと、彼女は小説を手に取った。 そして空になったカップを片付けると、カフェから歩み出て行く。 (*゚ -゚)「……はぁ」 最後に、カフェの中に溜め息を残して。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (*゚ -゚)「あ」 (,,゚Д゚)「あ」 ホテルの広いホール。 そこに同時に足を踏み入れた二人は、思わず足を止めた。 (*゚ー゚)「……ちゃお」 (,,゚Д゚)「おう」 (*゚ー゚)「どこに行ってたの?」 (,,゚Д゚)「ちょっと買い物にな」 言って、彼は手に持っていた大きな袋を掲げて見せた。 中に何が入っているのかは分からないが、相当な重さがありそうだ。 (*゚ー゚)「何? それ」 (,,゚Д゚)「ちょっと、な。まぁ大したものじゃないさ。 それよりもお前はどこに?」 (*゚ー゚)「あ、答えをはぐらかしたね」 悪戯っぽく笑って、しぃは親指を立てる。 そしてそれを、ホテルの出口へと向けた。 (*゚ー゚)「ちょっと外に、散歩にでも行こうかなって。 外の空気を吸いたくなっちゃってさ」 (,,゚Д゚)「そうか」 頷く。 それからギコは―――しぃを射抜くような眼つきで見詰めた。 突然のその眼光に、しぃは戸惑うかのように眉根を寄せる。 (*゚ -゚)「ん? 何?」 (,,゚Д゚)「……で、お前は何を悩んでいるんだ?」 (;゚ -゚)「―――ッ!?」 表情が一気に強張った。 何故気付かれたのか、と頭が真っ白になった。 (,,゚Д゚)「俺に会った時、やけに暗い顔をしてたよな。 何を悩んでいたんだ? 何かあったのか?」 (*゚ -゚)「……何もないよ」 (,,゚Д゚)「何もない筈がない。現に今のお前は、暗い顔をしてるじゃないか」 どさり、と床に袋を置いて、ギコはしぃに歩み寄る。 しぃは僅かに後ずさったが、それだけだった。 (,,゚Д゚)「話せよ。どうした」 (*゚ -゚)「……あなたには、関係のない事だもの」 (,,゚Д゚)「関係ある。お前がそんなじゃ、明日の決戦で勝てない。 話せば、楽になるかもしれないぞ」 (*゚ -゚)「…………………」 口を閉ざして俯いてしまったしぃに、ギコは困ったように眉根を寄せる。 そして後頭部を掻くと、少し恥ずかしそうに口を開いた。 (,,゚Д゚)「……お前がそんな顔してると、みんな悲しくなるぜ? 姉ちゃんたちは勿論、俺もな」 (*゚ -゚)「へっ?」 驚いたように顔を上げたしぃの視線から逃げるように、ギコは明後日の方向を見る。 そしてそのまま、言葉を続けた。 (,,゚Д゚)「お前に、そんなしょぼくれた顔は似合わねぇよ。 笑った顔が、お前にはよく似合ってる」 (,,゚Д゚)「だからさ、話してみてくれよ。 何があったか、何を悩んでるのかは知らないが……。 もしかしたら、少しだけでも気を晴らせる事が出来るかもしれないだろ?」 (*゚ -゚)「…………………」 もう一度俯き、しぃは暗い目で足元を見つめる。 一つ、溜息。 そして、ゆっくりと顔を上げた。 (*゚ -゚)「何でみんな、傷付かなきゃいけないんだろうって」 短い呟き。 それから間を置かずに、言葉は続いていく。 (*゚ -゚)「何でみんなで笑う事が出来ないんだろうって。 小さな事を理解するだけで、誰も傷付かず、みんなが笑える世界になるっていうのに。 何で人間達は、異能者を指弾するの?」 (*゚ -゚)「人間達が異能者の存在を許容出来てたら、こんな悲しい戦いなんて起きていなかったのに。 誰も傷付かなかった―――クックルさんやショボンさん達も死ななかった。 誰かが誰かを傷付ける必要も、誰かを殺す必要もなかった」 (*゚ -゚)「……みんなが笑える世界を願うのは、贅沢な事なのかな?」 (,,゚Д゚)「…………………」 ギコは無言で、しぃの言葉を聞いていた。 険しい瞳は、しかし奥底に柔らかな何かを持っている。 (*゚ -゚)「こんな事、決戦の前日に考えてるべき事じゃないって事は分かってる。 ずっと昔、戦うって決めたその時に決心しておくべきだって事は分かってる。 でもどうしても、この想いが消えてくれないの」 (*゚ -゚)「結局は、割り切れない弱い私がいけないのだけど。 犠牲にすべき事を犠牲にしきれない、覚悟の足りない私がいけないのだけど。 こんな弱い私が―――」 (,,゚Д゚)「弱くねぇよ、お前は」 唐突に、しぃの言葉を遮った。 しぃは息を呑んで唇を引き結び、ギコを見据える。 (,,゚Д゚)「関係のない他人の為に深く心を痛められるのは、強い奴だけだ。 ずっとずっとその想いを殺せなかったのは、お前の優しさだ。弱さじゃない。 お前のその優しさは、殺しちゃいけない」 (,,゚Д゚)「……人間はな、怖いだけなんだよ。異能者がな。 隣にいる人間は自分を一瞬で殺せる存在―――それは怖いだろう? 憎むでもなく、怖いから異能者を遠ざけてるんだ」 (*゚ -゚)「……その感情が、何人もの異能者の命を奪った。 その感情が“管理人”を生んで……。 その感情が、異能者と人間達を離してる」 (,,゚Д゚)「だからお前が変えてやれば良い。 異能者と人間が共に手を取り合って生きていける世界を作ってやれば良い。 それは簡単な事じゃないが、お前の強さがあれば出来る筈だ」 (,,゚Д゚)「だがその為には“管理人”はいちゃいけないし、明日の戦闘に勝たなきゃいけない。 護る為に、傷付ける覚悟をしなくちゃいけない。 人々の命を護る為に、異能者の未来を創っていくために、傷付ける覚悟をしなくちゃいけない」 (*゚ -゚)「護る為に……傷付ける覚悟」 (,,゚Д゚)「―――みんなが笑える世界を願うのは、贅沢な事じゃない。 願えば、行動すれば、現実に出来る」 そしてギコは、しぃの瞳を真正面から見据えた。 彼の瞳に爛と輝くのは炎―――彼女の瞳に映るのは炎が生み出した光。 (,,゚Д゚)「全ては明日だ。明日、勝てなければ、全てが終わる。 人々と異能者は更に離れ、無数の命が奪われる。 みんなが笑える世界は、訪れなくなる」 (*゚ -゚)「……そんなの」 (,,゚Д゚)「そんなのは嫌、だろう? だから俺達は、嫌でも戦って、勝たなきゃいけない。 全ての人々の為に、な」 (,,゚Д゚)「それが答えだ。つまり、お前次第。 異能者の未来を作りたいのなら、お前は戦うしかない。 誰も死なず、傷付かず、誰もが笑える世界を作る為には……」 (*゚ -゚)「戦うしか、ないんだね。 戦いたくなくても」 (,,゚Д゚)「つまりは、そういう事だ」 (*゚ -゚)「……そっか」 そしてしぃは数度、頷く。 まるで自分に何かを呑み込ませるかのように。 そして口の中で何かを呟くと、一際大きく頷いた。 それから顔に浮かべるのは、少しだけ硬い微笑だ。 (*゚ー゚)「ん。ありがとう、ギコ君。話、聞いてくれて」 (,,゚Д゚)「気にするな。……もう、大丈夫なのか?」 (*゚ -゚)「まだ完全には割り切れてないけど……」 (*゚ー゚)「でも、もう大丈夫。どうにか、やって行けそう」 (,,゚Д゚)「そうか、良かった」 (*゚ー゚)「本当に、ありがとうね。 ……ギコ君は、強いんだね」 (,,゚Д゚)「……そんな事は、ない。 俺は弱い。お前よりも、ずっと。 仲間がいないと何も出来ない。覚悟すらも、自分一人じゃ出来なかった」 (*゚ー゚)「自分の弱さを認められて、それでも前を見続けられるっていうのは強さだと思うけど? 少なくとも私は、自分の弱さに気付いた時、真っ直ぐに前を見ているのが辛くなったよ」 (,,゚Д゚)「今は?」 (*゚ー゚)「少しだけ、前を見ているのが楽になったよ。 ギコ君、君のおかげでね」 (*゚Д゚)「……へっ」 恥ずかしそうに笑って、ギコは後頭部を掻いた。 丁度、その時。 ポーン、という電子音が鳴った。 その音の元は、エレベーターだ。 どうやら、上の階から誰かが降りてきたようだ。 間もなく扉が開く。 まずそこから出てきたのは、多量の煙だ。 続いて、そこから長身の影が歩み出る。 (;゚ー゚)「……エレベーターの中で煙草は吸わないでくださいよ、フサさん。 エレベーターが煙草臭くなるでしょ」 ミ,,゚Д゚彡「知らん」 短く返し、煙を吐き出した。 しぃは眉根を寄せ、非難の眼でフサを見つめる。 その視線を無視して、フサはギコを見やった。 口元には、笑みが浮かんだ。 ミ,,゚Д゚彡「よぉ」 (,,゚Д゚)「……何だ、その笑みは」 ミ,,゚Д゚彡「いや、な。決戦前日に、いちゃいちゃと楽しそうだな、とな」 (;゚Д゚)「なっ……!」 (;゚ー゚)「はぇっ?」 ギコの表情は驚愕に、しぃの表情は困惑に、それぞれ染まる。 そして一瞬の後。 その表情は、まったくの同時に朱に染まった。 (;*゚Д゚)「てめぇは何を言ってやがんだ!?」 (;///)「ごごご、誤解です!! 私達はただ話をしてただけで―――!!」 ミ,,゚Д゚彡「はっはっは。照れるな。お前達の年代ならおかしくない」 豪快に笑って、フサは二人の頭を軽く叩く。 ギコはその手を殴ろうと、しぃはその手を引っ掻こうとそれぞれ手を伸ばすが、 それらは結局フサの手を捉えられない。 ミ,,゚Д゚彡「お前達、する事まで同じだぞ。同調している」 (;*゚Д゚)「してないわっ!!」 (;///)「してないですっ!!」 (;*゚Д゚)「あ」(///;) ミ,,゚Д゚彡「な?」 一際大きく笑い声をあげると、フサは煙草を吸い込んだ。 そして、屈辱に震える二人の頭上に煙を吐き出す。 (;゚ー゚)「なッ!? 臭ッ! 煙草臭ッ!! あなた何を―――」 ミ,,゚Д゚彡「わざとだ」 言いつつ、フサは再度、二人の頭に手を伸ばした。 そしてくしゃくしゃと、頭を乱暴に撫でる。 ミ,,゚Д゚彡「仲良き事は美しきかな。 そのままいちゃいちゃしてろ。 そうしていられる時間は少ないぞ」 (;*゚Д゚)「だからなぁッ……!」 ミ,,゚Д゚彡「いや……明日の決戦に勝てば、またそうしていられるな。 ははは。これは、いかにしても勝たなくてはな」 (;*゚Д゚)「人の話を聞けぇッ!!」 ギコの言葉を、フサは背中で受けた。 つまり、聞いていない。 ギコは呆れたような溜め息を吐き出した。 同時に、しぃも。 重なった二つの音を聞いて、フサは含み笑いを漏らす。 ミ,,゚Д゚彡「邪魔して悪かったな。じゃあ、また」 (*゚ー゚)「あっ……フサさん、どこへ?」 ミ,,゚Д゚彡「ちょっと散歩にな」 (*゚ー゚)「どれくらいで帰ってくるんですか?」 ミ,,゚Д゚彡「そうだな……早くもなく、遅くもなくといったところだ。 何、心配するな。いちゃいちゃしている時間くらいは、十分にある」 (;///)「だーかーらーっ!!」 ミ,,゚Д゚彡「はっはっは。じゃあな」 言葉を残して、フサは颯爽と歩み出した。 表情は、彼には珍しく、軽やかな笑み。 勝たないと、な。 弟を。仲間を、護ってやらねばな。 あいつらがまた、あの笑みを浮かべられるように。 そうだ。この命を、投げ打ってでも。 脳裏に浮かべた想いは、何故だか、彼の足取りを軽くしていた。 煙草の煙を、肺いっぱいに吸い込む。 舌を撫でる苦味、喉を刺激する痛み、脳を駆ける痺れ、全てが心地良い。 こんなにも煙草を美味いと感じたのは、初めてかもしれない。 腕を走った鋭い痛みすら、どこか心地良かった。 ミ,,゚Д゚彡「勝たないとな」 煙と共に吐き出した言葉は、足取りと同じく、ふわりと空気で舞った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ラウンジに、一つの足音が響いた。 それを待っていたかのように、ブーンはすっと立ち上がる。 足音は止まり、代わりに声が、冷えた室内の空気を震わせた。 (,,゚Д゚)「そっちはどうだ?」 ( ^ω^)「とりあえず、最低限の覚悟は出来たお」 (,,゚Д゚)「そうか」 その時。 声に合わせたかのように、再度、高い足音が床を叩いた。 足音は、二つ。 ( ゚∀゚)「そういうギコちゃんはどうなのさ?」 (,,゚Д゚)「あ? 分かってんだろ?」 ( ゚∀゚)「まぁ、ね。でもほら、ギコちゃんだし。 もしかしたら悩みっぱなしかなーってさ」 ('A`)「一番疑わしいのはお前なんだがな。 大丈夫なんだろうな?」 ( ゚∀゚)「無粋な事を聞かないでよ。バッチリだよ」 ('A`)「お前は?」 (,,゚Д゚)「任せろ。存分に戦ってやる」 ('A`)「お前は?」 ( ^ω^)「大丈夫だお。心置きなく、戦いに臨めるお」 (,,゚Д゚)「そういうお前は大丈夫なんだろうな」 ('A`)「てめぇにそれを言われるとはな。 万全に決まってんだろうがよ。馬鹿か」 (#゚Д゚)「……いちいちイラつく野郎だ」 ('A`)「はん。なら、ぶっ飛ばせば良いだろ。 ―――明日の戦いの後、学校辺りでな」 鼻を鳴らして、ドクオはギコを見詰めた。 細く鋭い瞳は、その奥底に滾るほどの生気を含んでいた。 ('A`)「俺をぶっ飛ばす為に、生き残ってみせろ。 俺はお前をぶっ飛ばし返す為に、生き残ってやる」 (,,゚Д゚)「おう、覚悟してやがれ」 ( ゚∀゚)「ん、んー。何かドックン、雰囲気変わったねぇ。 『死人』っていう感じがなくなったよ」 ('A`)「そりゃあ、な。そろそろ、俺も生き始めなきゃならねぇ。 その為にはまず、明日を生き延びねぇとな」 ( ^ω^)「おっ。絶対に、あの平凡な毎日を取り返すお。 失う覚悟もしたんだから、あとは失わないようにするだけだお」 (,,゚Д゚)「あぁ。最高の結果を、この手にしよう」 ( ゚∀゚)「うーし。お兄さん、久々に頑張っちゃうよー」 各々が声をあげる中、すっ、と拳が伸ばされる。 少し細く、白い腕は、ドクオのものだ。 無言で伸ばされたその拳を見て、ギコの口角が釣り上がる。 そして彼もまた、拳を伸ばした。 ドクオの拳にくっつけるようにして。 それに遅れて、ジョルジュも楽しそうな笑みを浮かべて拳を伸ばした。 最後にブーンが微笑みを浮かべて、拳を伸ばす。 言葉を必要とせずに組まれた粗雑な円陣は、しかしがっちりと四人を結束させた。 ('A`)「もう一度聞く。 戦う覚悟に、生きる覚悟。出来てんだろうな?」 三人の返事が、重なった。 ドクオはそれに頷くと、声を低くして言う。 ('A`)「生き残るぞ。“管理人”をぶっ潰して、あの日常に戻るぞ。 死ぬ事は許さない。死ぬ気で生きてみせろ。 ―――良いか」 再度、三人の返事が重なった。 そして四つの拳が、打ちつけられる。 鈍い骨の響きは、力強くラウンジの空気を震わせた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 川 ゚ -゚)「ここに居たか」 ロビー。 しぃとフサの姿を捉えて、クーは抑揚もなく呟いた。 彼女の後ろには、モナーとツンがついて来ている。 ミ,,゚Д゚彡「何だ? わざわざ全員集めて、何かあるのか?」 川 ゚ -゚)「何、ちょっと士気でも上げておこうかとな。 何せ、明日は最後の戦いだからな」 ミ,,゚Д゚彡「ほぅ?」 どこか楽しそうに笑って、フサは首を傾げた。 ミ,,゚Д゚彡「やけに殊勝じゃないか」 川 ゚ -゚)「まぁな。だがそんなのも、悪くないじゃないか」 ミ,,゚Д゚彡「あぁ。で? どんな事を話すんだ?」 川 ゚ -゚)「まぁ待て。そろそろ、彼らが来る。 どうせだ。一緒に、士気を上げておこうじゃないか」 ミ,,゚Д゚彡「……あ?」 彼が胡乱気に眉根を寄せた、その時だった。 エレベータが、ロビーに止まる音が響く。 間もなくそこから現れたのは――― 川 ゚ー゚)「来たな」 ( ^ω^)「来たお」 ブーン達、四人だった。 川 ゚ -゚)「これで、全員集合だ」 フサは少し驚いたかのように、ブーン達を見やる。 ミ,,゚Д゚彡「ほぅ……全員集合、だな。確かに」 呟いて、すぐさま視線をクーに戻した。 ミ,,゚Д゚彡「それで? 士気を上げる為に、何をするんだ?」 川 ゚ -゚)「そうだな……一人ずつ、明日の戦いへの想いを言っていってみようか。 各々の戦う理由と、それに対する志・決意を」 (,,゚Д゚)「ほぅ? 面白そうだな」 川 ゚ -゚)「じゃあ、誰から言っていこうか?」 (*゚ー゚)「姉さん姉さん。言い出しっぺの法則」 川 ゚ -゚)「却下」 ξ;゚△゚)ξ「何でよ」 川 ゚ -゚)「恥ずかしいじゃないか」 (;゚Д゚)「よりによって、理由がそんなかよ」 ( ゚∀゚)「こういうのはリーダーから言いだした方が、士気も上がると思うんだけどなぁ」 川 ゚ -゚)「む、そうか? そういう事なら」 大きく息を吸い込んで、一度、眼を閉じる。 数瞬の後、眼を開くのと同時に言葉を吐き出した。 川 ゚ -゚)「私は、仇を討つ為に戦う。 ファーザーの仇を討つ為、今までに散って行った仲間の仇を討つ為。 “削除人”としての役割を果たす為に、私は戦う。そこに如何なる障壁があろうと、打ち砕くのみだ」 川 ゚ -゚)「さて、次はフサに言ってもらおうか」 ミ,,゚Д゚彡「……俺か? 何でだ」 川 ゚ -゚)「私の隣にいるからだ。 ちょうど円形に並んでいるわけだし、時計回りに言っていこうじゃないか」 ミ,,゚Д゚彡「チッ……あいよ」 おもむろに煙草を咥え、火を付けた。 そして大きく一吸いすると、その煙を吐き出しながら言う。 ミ,,゚Д゚彡「俺は……そうだな、護る為と、殺す為。 大切な者を護る為に戦い、俺の恩師の仇を殺す為に戦う。 いざとなれば、この命を捨ててでも、この目標を達成するつもりだ」 川 ゚ -゚)「ふむ。次」 ( ´∀`)「僕だもなね。僕は、モララーを止める為に行くもな。 VIPPERとして、“削除人”として、何よりも兄として、モララーを止めるもな。 モララーを止めるまでは、僕は止まる気はないもな」 (*゚ー゚)「私ね。私は人々の為に、異能者の為に、そして私自身の為に戦うよ。 みんながみんな、笑顔になれる世界を作るんだ。 その為に、“管理人”を消す。そうしないと、私は耐えられない」 ξ゚△゚)ξ「私はファーザーの為、姉さんの為、そしてみんなの為に戦うわ。 ファーザーを殺したモララーは許せないし、奴には何人もの仲間が殺されてる。 その仇打ちの為、そして姉さんの志を補佐する為に、私は戦う」 (,,゚Д゚)「俺はあいつらのクソみてぇな思考回路をぶっ潰す為に。 如何なる理由があろうと、奴らが犯している事は完全な悪だ。 悪は、駆逐されなきゃならねぇ。その役目を、俺が担う」 ( ゚∀゚)「俺は、そうだねー。知りたい事があるのと、純粋に気に入らないから、かな。 みんなみたいに強い理由はないかもしんないけど、殺る気だけはビンビンだよ。 勿論、死ぬ気もない。気に入らない奴をぶっ潰して、平和な世界に戻るつもりだよ」 ('A`)「俺は、護る為に。護る為に殺しに行く。それだけだ。 絶対に生き残る。誰も死なせねぇ。以上だ」 ( ^ω^)「僕は……真実を知る為に。そして、異能者の為に悲しむ人を一人でも減らす為に。 悲しむ人を増やそうとしている“管理人”。それを止める力を持っている僕。 ならば、“管理人”を止める以外にないお。僕はもう、泣いている人を見たくないんだお」 川 ゚ー゚)「ふむ。みんな、良い理由だ」 笑って、クーは全員の顔を見回した。 それに応えるかのように、全員も微笑む。 川 ゚ -゚)「良いか、みんな。勝つぞ。生き残るぞ。 敗ければ、そこにあるのは『死』のみだ。 それはありえちゃいけない。だから勝とう。生き残ろう」 川 ゚ -゚)「敵は強大だ。だが、こちらは更に強い。 各々が抱き締めた覚悟を武器に、それぞれが出した答えを奴らにぶつけてやろう。 私達は“削除人”だ。その名に相応しく、奴らを“削除”してやろうではないか」 川 ゚ -゚)「良いか」 そこで、大きく息を吸い込んだ。 そして、その息を全て吐き出さんとする勢いで言葉を紡ぐ。 川#゚ -゚)「勝つぞ! その胸に抱いた理想を、現実にするんだ!! 敵が強大であろうと、我らは敗けない! 存分に打ち負かしてしまえ!!」 彼女の声に引けを取らない声が、全員から発せられた。 各々の瞳に輝くは、光だ。 川#゚ -゚)「良いか! 全員、生き残れ! 誰も敗ける事なく、勝利を納めてみせろ!!」 もはや叫び声に近い返事。 それを聞いて、クーは眼を細めた。 この仲間達がいれば、勝てる―――と。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|