2007/03/12(月)21:03
( ・∀・)二十年後、モララーはしょぼんと出会うようです(´・ω・`)(第三話下)
101 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/17(土) 13:12:11.62 ID:KaUUj71H0
彼は、典型的で、最低な転落をしてしまったようだ。
何もかもを失い、遂には芋虫のように食い尽くされて死ぬ。
他人にしてみれば自業自得でしかないだろう。私もそう思う。
しかし、それでも妙な悲しさ、侘びしさのようなものは心から抜けきらない。
私も、もしタイムマシンを開発していなければあのような末路を辿っていたかもしれない。
その点、私は彼より優位であると豪語できるのだろうか。
いや、これから彼と同じ道を進むことになるかもしれない。
そうなれば、舌でも噛みきって死んだ方が楽だろうか。
後を追う気にはなれなかった。しかし、すぐに立ち去る気にもなれなかった。
結局、我に返って帰路についた時にはちょうどいい時間帯になっていた。
地面の芋虫は、もはや残骸だけの存在になっていた。
これからも、ドクオのような古い知り合いと出会うことがあるのだろうか。
もしあるとして、そいつらはいったいどのような暮らしを送っているのだろうか。
不意に、彼女の顔が明滅した。
そうだ、彼女たちに会う可能性も、零ではない。
102 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/17(土) 13:13:57.03 ID:KaUUj71H0
バーボンハウスはすでに喫茶店として開店していた。
だが基本的に客が多いのは夕方から夜にかけてのようだ。
私はためらいもなく正面の扉から店内に入る。
が、先客がいた。
セーラー服を身につけている彼女は明らかに女子高生だ。
背中まで伸びた黒髪がやけに目に映る。
彼女はカウンターで、穏やかな表情を伴いながらオレンジジュースを飲んでいた。
('、`*川「この人が、アルバイト?」
その問いにしょぼんさんは小さく頷いた。
へぇ、と私を観察する少女。
両の瞳は、奥底まで見通せそうなほど澄んでいる。
('、`*川「ああ、自己紹介します。
私はペニサス、ここの常連さんですよ。えっと、あなたは?」
( ・∀・)「……モララー」
('、`*川「よろしくおねがいしますね」
108 名前:さるさんばっかり ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/17(土) 14:03:38.26 ID:KaUUj71H0
その後、いくつかの話を聞かされた。
彼女が17歳でもうすぐ受験生になるということ。
一週間に一度ぐらい、勉強したりしにバーボンハウスにやってくること。
兄がいて、その兄もまたバーボンハウスの常連であること。
('、`*川「ここ、静かだから落ち着きますよね」
彼女の前には数学の問題集と大学ノートが広げられている。
隣に置かれているミルクティーからは湯気が立ち上っていた。
難しい数式……ある種、懐かしいものを感じる。
('、`*川「ただ欠点は、マスターさんが何も答えてくれないことです。
たまにわからない問題とか聞きたいんですけど」
その間、しょぼんさんは口を開こうとしない。
彼の三猿精神は揺らぐことを知らない。
('、`*川「今も一つ、わからない問題が……そうだ、えっと、モララーさん。
教えてくれませんか?」
突如、矛先が私に向けられた。
彼女の指先は、微分の応用問題を示している。
109 名前:さるさんばっかり ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/17(土) 14:07:35.97 ID:KaUUj71H0
私はつっかえながらも、なんとかそれを解くことができた。
他にお客がいなくてよかったと思う。
('、`*川「なるほど、なるほど。教え方上手いですね」
何度も頷きながら彼女は言う。
お世辞と見抜きやすい台詞だった。
('、`*川「よければ、これからも時々教えてくれませんか?」
( ・∀・)「え、私が?」
('、`*川「はい」
苦慮するにも値しない。
七面倒なことをわざわざ引き受ける気にはなれない。
柔らかく断ろうとしたところで、しょぼんさんから追い打ちがかけられた。
(´・ω・`)「いいんじゃないですか? 僕なんかよりずっと賢そうです」
そしてまたグラスを磨く作業に戻る。
こちらの反論には耳を傾けない、そういうシステムだ。
渋々、私は頼まれることにした。
まぁ一ヶ月に一度ぐらいなら大した不安にならないだろう。
それに……私はもうすぐ、この家を出て行くつもりだ。
二度と顔を合わせない可能性の方が高い。
110 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/17(土) 14:08:33.30 ID:KaUUj71H0
('、`*川「あ、もうこんな時間だ。兄さんが心配する」
それほど遅い時間でもない。
しかし彼女は急いで荷物をまとめはじめ、すっかり冷めてしまったミルクティーを一気に飲み干した。
('、`*川「それじゃ、ありがとうございました」
金を置くことを忘れずに、彼女は足早に店から出て行った。
鈴の音が響く。
(´・ω・`)「彼女、お兄さん子らしいです」
二人残された店内でしょぼんさんはボソリと呟いた。
そういえば、と聞きたいことがあったのを思い出す。
( ・∀・)「ドクオ……という人物をご存じですか?」
ああ、知っていますよ、と彼は磨き終えたグラスを棚に戻しながら答えた。
話によると、ドクオは硬派なサラリーマンに見えたそうだ。
時折口を開くと、出てくるのは会社の愚痴が多く、娯楽的な話をすることはほとんどなかったという。
私は、ドクオが最後にやってきたのはいつかを尋ねる。
彼は、一ヶ月ほど前だと答えた。
111 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/17(土) 14:10:41.35 ID:KaUUj71H0
ドクオは見栄を張っていた。
解雇されたのは半年前だと言っていた。
つまり、五ヶ月間嘘をつき通していたということになる。
その間、奴はどのような心境だったのだろう。
心苦しかったに違いない。しかし全くの他人で、三猿精神の持ち主であるしょぼんさんに事実を隠してどうなるというのだろう。
(´・ω・`)「ドクオさんが……どうかしたんですが?」
しょぼんさんの問いに、私は黙って首を振った。
他人行儀というシステムはすばらしいと思う。
つまり、相手を一定以上親しくしなければいつでも表面的な親切を受けることができるのだ。
今の、しょぼんさんと私の関係のように。
しかし、ドクオと付き合っていたときはそんなことを考えてすらいなかった。
だから、彼との友人という深い関係が、私に悲しさを与えているのだろう。
あれ以降、誰に対しても友情の類を見せずによかったと思う。
112 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/17(土) 14:11:05.66 ID:KaUUj71H0
しぃに対してもそうだった。
彼女が愛しいとか、好きであるとは思わなかった。
そうすることで、以後面倒になると気づいていたからだ。
そもそも、彼女と会った時点ですでに私はタイムマシン制作を始めており、そしてそれが必ず成功すると確信していた。
結婚してからも、彼女に「好きだ」というような言葉を発したことはない。
ある時、彼女は子供を欲しがった。
理由を聞くと、「これで離れられないだろ」と狡猾な笑みを向けられた。
どうでもよかった。彼女の考えは甘すぎるとも思っていた。
私は彼女の望みを叶えてやることにした。
それはきわめて、事務的な作業だった。
十ヶ月後、彼女は娘を出産した。
嬉々として名前を考えている彼女の顔が、今でもなぜか脳裏に焼き付いている。