2007/01/11(木)22:12
( ^ω^)が料理人になるようです(第五章下)
237 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2006/12/30(土) 18:08:50.48 ID:psNSxvjO0
単刀直入に結果から言おう。
うん。何も変わらなかった。
牛刀以上に重みを持ち握りの高さがある独特の形をした中華包丁は僕に扱える代物ではなく、
指を切らないようにするのが精一杯。
普段オナヌーで鍛え上げていた筈の手首も悲鳴をあげ始めていた。
半ば無理矢理交換してもらった手前、ドクオに再交換を申し出るのも気が引ける。
そのドクオも丁寧な仕事振りは健在とはいえ
切れ味が悪い包丁のせいか、久々に握った様子の牛刀のせいか見るからにペースが落ちていた。
( #^ω^)『くそ・・・なんで僕がこんな目に・・・』
僕は料理をしたいからここに入社したんだ。葱を切る為に入社したわけじゃない。
右も左も分からない僕に無理難題を押し付けても出来る訳ない。考えればすぐに分かることじゃないか。
第一僕はもう勤務時間外なんだ。労働基準法違反で訴えてやる。
それにしてもムカつくのはあの金髪DQNだ。
・・・くそっ。
・・・くそっ。・・・くそっ。
・・・くそっ。・・・くそっ。・・・くそっ。
( ,,゚Д゚)『いつまでタラタラやってんだ!! じじいのファックの方がまだ気合入ってるぞ!!』
プチン
僕の中で何かが切れる音。
( #°ω°)『うるさいお!! 今やってr』
僕の右手に何かがぶつかった感覚がした。
え・・・?
まな板に置いた筈のそれはすいこまれる様に床に落下していく・・・。
249 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2006/12/30(土) 18:16:11.68 ID:psNSxvjO0
重力に引かれ落下したそれは衝突の後1回・2回と床に弾み、まるで余韻を楽しむかのように数度コンクリートの床上で踊った。
妙にゆっくり目に映っていたはずなのに僕はそれを呆然と見つめるだけ。
そう。それはドクオの中華包丁。
( ;°ω°)『あ・・・あ・・・』
水浸しの床に膝を付き自らの宝物と言っていたそれを拾い上げるドクオ。ここから見ても刃先が大きく欠けているのが分かる。
( ,,゚Д゚)『・・・内藤・・・てめぇ・・・』
( ;°ω°)『僕が・・・僕が悪いんじゃないお』
ドクオは俯き包丁を見つめたまま顔を上げる気配もない。
('A`)『・・・黙れ』
( ;°ω°)『べ、弁償するお・・・だから・・・』
('A`)『黙れって言ってるだろ!!!!!』
空気が震えた。その大声に何事かとホールから覗き込まれる。
( ,,゚Д゚)『・・・内藤。お前今日は帰れ。明日までに頭冷やして来い』
僕が・・・僕が悪いのか? 僕は・・・僕は何も・・・
( ;°ω°)『う・・・う・・・う・・・うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』
僕は叫び誰かを弾き飛ばし厨房を逃げ出た。
もう嫌だ・・・こんなバカな事やってられない・・・辞めてやる・・・辞めてやる・・・。
252 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2006/12/30(土) 18:17:15.25 ID:psNSxvjO0
僕が翌日部屋から出る事はなかった。
何度も何度も携帯が鳴っていたけど全て無視した。
床に吸い込まれていく包丁。
初めて聞いたドクオの大声。
それが延々とフラッシュバックする。
怖くて怖くて一日中布団の中で膝を抱え震えて過ごした。
255 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2006/12/30(土) 18:18:51.30 ID:psNSxvjO0
全ての営業を終え客席の明かりも全て消えたバーボンハウス。
厨房の片隅だけ明かりを灯し、なにやら一心不乱に作業する細身の男がいた。
(*゚∀゚)『ドクオ君・・・もう帰ろう』
無言。
(*゚∀゚)『言いたくないけどさ・・・ステンレスでそんなに大きく欠けたら個人じゃ治せないよ・・・』
返答はない。
(*゚∀゚)『ドクオ君まで体壊しちゃうよ・・・昨日も徹夜でそれやってたんでしょ』
沈黙。
(*゚∀゚)『今度のお休みに業者さんに頼もう? ね?』
('A`)『・・・ツー。悪いけど放っておいてくれないか?』
その言葉からは自らの考えを曲げようとしない強い意志が感じ取れる。
(*゚∀゚)『わ・・・わかったよっ!! バースペースで待ってるから帰る時呼んでねっ!!』
それだけ言い残してツーは厨房を飛び出た。
ドクオの耳にその言葉が入ったかは分からない。
ただ、彼はひたすらに包丁を研ぎ続けた。
ごめんな・・・ごめんな・・・と呟きながら。
260 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2006/12/30(土) 18:21:48.47 ID:psNSxvjO0
バーボンハウスの売り物の1つが一流ホテルにも引けを取らないバースペースだ。
世界各国から取り寄せた酒類・特にバーボンの品揃えには自信があったし、
物静かにシェイカーを振るう女性バーテンダーの技量はバー経営者ならどんな手段を使ってでも引き抜きたい、
そう思わせるに十分なものであった。
このバースペースは一日の仕事を終えたスタッフの溜まり場としても有効利用されているようで、
宝石の輝きをした瞳のバーテンダーを前に、カウンターテーブルに並んで座る男が2人。
彼らの後ろでは1人用のソファに体をうずめた女性が不機嫌そうに爪を噛んでいる。
(´・ω・`)『結局彼は電話にも出てくれなかったよ』
横に座る男は『そうか』とだけ呟いてグラスに口をつけた。
( ,,゚Д゚)『ドクオには悪い事しちまったかな・・・』
(´・ω・`)『それは君が気にかけなくてもいいだろう』
それよりも
(´・ω・`)『スタッフの心情にはもっと気を使ってくれ。昔のように鉄拳制裁で育成する時代じゃない』
君の苛立ちも分かる。だけどその結果があのどんよりした厨房の空気だ。これじゃ貧乏神しか寄り付かないよ。
( ,,゚Д゚)『・・・すまねぇ』
(´・ω・`)『過ぎてしまった事は仕方ない。あとはなるようにしかならないさ』
雨降って地固まるといけば良いのだが、どう考えても雨の勢いが強すぎて堤防決壊寸前と言った所だ。
人材育成計画を練り直さないといけないね。そう考えながらショボンはグラスに注がれたテキーラを一息に飲み干した。
264 名前:料理 ◆RDnvhIU7bw [] 投稿日:2006/12/30(土) 18:24:55.85 ID:psNSxvjO0
(*゚∀゚)『にょろ~ん!! お待たせぇ!!』
片手にぶら下げたハンドバッグを振り回しながら元気娘が登場した。
いやぁ!! 参ったよ!! ホント頑固でさっ!! あ、あたしモスコーミュールねっ!!
そんな風に叫びながら親指の爪を噛み続けるツンの前に腰を下ろす。
(*゚∀゚)『こりゃ長期戦だねっ!! 今夜もここに泊まりになりそうだ!! あ、ツンは帰っていいからね!!
あたし? あたしはドクオ君待ってるさ!! 戦友だし、お師匠様だし、約束しちゃったしね!!
やっぱりこの優しいツー様としては見て見ぬフリもできないんだよねっ!!
ドクオ君はあたしの目標だから、その目標が落ち込んでるのは我慢できないんだよっ!!
あ、ブーちゃんを恨んだりはしないよっ!! それとこれとは話が別さっ!! 本人どおしで話つけるのが筋ってもんだよ!!
でもね!! あたしはブーちゃん嫌いじゃないよっ!! 異性としてとかじゃなくてさ!!
ほら! あたし・・・ずっと追い回・・・しやってきたじゃん!! だから・・・後輩・・・来・・・ずっと楽しみでさ!!
・・・さんにん・・・で仕事して・・・嬉・・・くて・・・!! ドク・・・も・・・あんなだけど・・・楽しそ・・・で・・・あたし・・・』
一言も口を開かず話を聴いていたツンは静かに立ち上がり、その成長の止まった胸にツーの顔を抱きかかえた。
ξ゚△゚)ξ『・・・こういう時は無理しなくていいのよ』
無理・・・なん・・・してないにょろ・・・泣い・・・・・ない・・・嫌だ・・・嫌だよ・・・
知らず知らずのうちにツーはツンの背に腕を回ししがみついていた。
ξ゚△゚)ξ『・・・大丈夫だよ。大丈夫』
(´・ω・`)『・・・・・・雨が降ってきたみたいだね』
耳を澄ますと雨の音。それからは誰も口を開かず、ただ雨音と小さな嗚咽だけが店内に響いた。