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LOYAL STRAIT FLASH ♪

三十九章四

63 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:13:36.85 ID:d2Z7Cz330
  
床からプギャーに跳ぶよりも、壁から跳んだ方が勢いと速さが残る。
それに下から攻めてしまっては、叩き落とせない。だが横からの攻撃であれば、叩き落とせる。
速さを武器にする他ないブーンは、僅かでも勝てる可能性が大きい道を取った。

( ^Д^)「懲りない野郎だ……!」

空中という優位なポジションを取ったプギャーは、先ほどまでの表情を一転、笑みに変える。
そして、ブーンに真正面からぶつかっていった。

(#゚ω゚)「はぁっ!!」

勢いを乗せたブーンの回し蹴りを、プギャーは左腕で受ける。
そして即座に下方から跳ね上がった左脚を、今度は右腕で叩き落とした。

そこでブーンの右脚が左腕を蹴りつけて回転。
器用にも、空中で後ろ回し蹴りをやって見せて―――しかし、それもプギャーに容易く弾かれる。
空中では、どうしても地上の時のような速度が出せないのだ。

( ^Д^)「おいおい、速度が落ちてんぞ! どうしt」

だがそこで、プギャーの言葉が詰まる。
ブーンの手が、いつの間にかプギャーの肩にかけられていたのだ。

(;^Д^)「なっ!? てめ……!」

プギャーが振り払う間もなく、ブーンはその手に力を込めて身を持ち上げる。
そして身を捩じらせて、翅に向けて脚を振るった。

彼はまだ、プギャーを飛ばせぬ事を諦めたわけじゃなかったのだ。


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/04(月) 23:16:31.50 ID:d2Z7Cz330
  
(;^Д^)「―――っざけんな!!」

対するプギャーは、その翅を全力で羽ばたかせる。
前進の羽ばたき。更にそこで後方に脚を振るい、身を上下に回転させた。

ブーンの身はバランスを失い、振るった脚は翅を捉えられない。
そして、上下逆さまになったまま落下する。

(#゚ω゚)「ちぃっ!!」

落ち行く中、脚を振るって体勢を直し、着地。
間髪置かず、再度跳躍した。

動きは先ほどと同じだ。
壁に跳び、そして壁を足場にしてプギャーへと跳ぶ。
違いは、先ほどよりも格段に速くなっている速度だけだ。

プギャーは体勢を整えるのに精一杯で、回避行動も取れない。
優劣の立場は不変のままだが、しかしブーンは確実にプギャーとの差を縮めていた。

(;^Д^)「ちっ……キリがねぇな」

疲労を表情に浮かべつつ、舌打ちする。
思い通りに事が進まない事と、ブーンから受けた苦痛が、彼を苛立たせていた。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/04(月) 23:18:21.46 ID:d2Z7Cz330
   

ここで敗けるわけにはいかない。
奴らをさっさと消して、モララーさんを護りに戻らねばならない。
なのに、何だこの様は。与えられた“力”は何の為だ。

思考は、しかし答えが出ぬまま中断される。


まもなく迫り、振り下ろされるブーンの脚を、プギャーは右腕で受けた。
すぐさま叩きつけられるもう片方の脚は左腕で弾き飛ばす。
しかしそこで反撃を加える前に、ブーンはプギャーの右腕を足場にして跳躍。プギャーの鎌は虚しく空を切った。

プギャーの苛立ちは、募る。

跳躍したブーンの身は天井へと向かい、そこで身を反転。
やはり、天井を蹴りつけてプギャーへと向かった。

(#゚ω゚)「おぉおおぉおぉおおぉおぉっ!!」

落下と共に繰り出される大威力の蹴りを、プギャーは両腕で受ける。
しかしそれによって体勢が崩れ―――そこで彼の頬を、振るわれたブーンの爪先が掠っていった。


血が踊り。
そして、プギャーの中で抑えていた何かが切れた。


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/04(月) 23:20:20.53 ID:d2Z7Cz330
  
(#゚ω゚)「ぐ……!!」

対するブーンは悔しさに歯を噛みながら、しかしその悔しさを速さに変える。
もう少しだった。そう、もう少しだったんだ。
勝てる。決して、勝てない相手じゃなかった。

湧いた希望に、力を身に漲らせ。
そして、体勢を崩しているプギャーに脚を振るった。

(#゚ω゚)「墜ちろお!!」

咆哮と共に、全力で振り下ろした脚は

( ^Д^)「いい加減、うぜぇよ」

崩れつつある体勢の中で跳ね上げられた枯葉色の脚に、受け止められた。
そして、弾き飛ばされる。

そこでプギャーは、体勢を整える事もなくその翅によって宙を後退。
そして右腕を前に構えて

( ^Д^)「そろそろ死ね」

そのくすんだワインレッドの右腕から、細長い何かが大量に発射された。


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/04(月) 23:22:30.63 ID:d2Z7Cz330
  
(;゚ω゚)「!?」

予想外の飛来物に、ブーンは両腕で身を護る。
が、両腕で覆いきれない箇所―――肩や二の腕、腿などに、“それ”は容赦なく突き立った。

くすんだワインレッドの、大針。

(;゚ω゚)「な―――」

何だこれは、と言いかけたところで。
針が刺さった箇所に、燃えるような猛烈な痛みが走った。

(;`ω゚)「痛ッ!?」

尋常でない痛みは、じわじわと強くなり広がっていく。
身体に震えが起き、思わず呻きが漏れた。

想定外の苦痛に体勢が崩れ、その中で身体は落下していく。
ブーンは痛みを堪えて体勢を直し、危ないところで着地した。

しかし直後、そこに膝を着く。

(;゚ω゚)「なっ!?」

愕然と、ブーンは己の脚を見やった。
白銀の輝きを放つ彼の脚は、しかし彼の意志に応えてくれない。

そこに、立てない。


74 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:24:22.98 ID:d2Z7Cz330
  
脚に力が入らないのだ。
力を込めても、どこからか抜けていく。
まるで、立ち方を忘れてしまったかのように。

いや、脚だけではない。
腕、肩、身体―――内側までもが、彼の思うようにいかない。
力が、抜けていく。

そしてその部位もまた、痛みと同じように強くなり、広がっていった。

(;゚ω゚)「か、はっ……!」

やがて彼は、床に身を横たえた。

その息は荒く、体温は異様に上がり、しかし彼自身は強い寒気を感じている。
意識は茫と薄れ、視界には薄く白がかかりつつあった。
身体は無意識に震え、徐々に強張っていく。

(;゚ω゚)「これ、は……」

( ^Д^)「毒だよ」

間もなく降りてきたプギャーは、無感情にそう告げた。

ブーンと一定の距離を開けた位置に立ち、しかし追撃をかけることもなく、ただそこでブーンを見下ろす。


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/04(月) 23:26:26.41 ID:d2Z7Cz330
  
( ^Д^)「言ったろ、毒虫の毒毛の性質をこの突起は持ってるってよ。
     この毒はまぁ、相当に強い上に、厭な癖があるものでな。
     刺さった箇所・量によって、筋肉やら内臓やら気管やら―――下手すりゃ精神すら冒す」

言葉に、ブーンは己の二の腕を見た。
針が刺さった箇所は黒く変色し、そこを中心に放射状に青紫色が広がっている。

その付近の血管は不気味なほどに隆起し、異常なほどに強い鼓動を刻んでいた。

( ^Д^)「卑怯だと思ったから、この手はあまり使いたくなかったんだがな。
     勝つ為には、仕方ないよな。俺はまだ、死ぬわけにゃいかないもんでよ。
     俺が生きてモララーさんを護る為に、手段なんて選んじゃいられなかった」

抑揚無く、倒れ伏すブーンに話すプギャー。
その表情はやはり無表情で―――しかし、その眉が寄せられた。

( ^Д^)「んで、お前は間違いなく致死量超過の毒針を受けた筈なんだが……どうも、おかしいな。
     毒の影響こそあれど、死ぬ気配がまったくない。やっぱり、異能者だからかね。しぶとい。
     やっぱり、この手で始末を付けるしかないのかね」

左腕の鎌で空を一薙ぎ。
そして観察するようにブーンを見ながら、試すようにゆっくりと歩みを始めた。

(;`ω゚)「…………ッ!!」

ブーンは彼の動きに、僅かに身じろぐ。
身じろぐことくらいしか、出来なかった。


79 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:28:23.51 ID:d2Z7Cz330
  
それでも必死に、ブーンは動こうと、立ち上がろうと試みる。
その度に全身に苦痛が走り、しかし身体は床から離れない。

やがてプギャーが数歩を詰めきった。

(;゚ω゚)「くっ……!」

( ^Д^)「お前はよく頑張ったよ。俺との小さくない力量差を、速さと根性で見事にカバーした。
     正直、使いたくもなかった毒を使う羽目になるとは思わなかったぜ。
     だが、こんなもんだ。努力やら何やら、そんなもんじゃどうにもならないものもあるって事で、諦めろ」

戦慄に眼を剥くブーンを見下ろし、そしてプギャーは鎌を振り上げて

( ^Д^)「死ね」

言葉と共に、振り下ろした。

草色の鎌は風切り音をあげて、ブーンの心臓へと奔り

(;゚ω゚)「がっ―――ぁぁあぁああぁぁあぁ!!」

咆哮と同時。ブーンの身が、横に動いた。
鎌の刃は狙いを大きく外し、彼の肩に深く切り込みを入れるに終わる。

ブーンの身は数度転がって、そこでまた床に倒れ込んだ。


81 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:30:33.13 ID:d2Z7Cz330
  
( ^Д^)「あ……?」

首を傾げ、ブーンを見やる。
毒で動けぬ筈ではなかったのか、と。
現に刃から逃れた彼は、その先で苦痛に呻いていた。

そう。あれだけの毒を受けて、動ける筈はないのだ。

( ^Д^)「偶然、かね? はっ、それとも、諦めない心が生んだ奇跡ってか」

笑いもせずにそう言って、プギャーは再度ブーンとの距離を埋める。
そして今度は、ブーンに何も言う事無く、鎌を振り下ろした。

だが

(;゚ω゚)「――――――ッ!!」

ブーンの身は再度転がり、プギャーの鎌は床に突き刺さる。
プギャーは尚更、眼を疑問に細めて……その後、目の前に広がった光景に眼を見開いた。

ブーンは数度転がった後―――ゆっくりと、立ち上がったのだ。
余りにも頼りない、今にも倒れそうに震えた足取りではあったが、しかし確実に。

( ^Д^)「……? どういうことだ?」

眉根を寄せつつ、一歩を詰める。
それに対しブーンは、後ろへ跳躍した。
距離は短く、速度も格段に遅かったが、それを見てもはやプギャーは苦笑する。


82 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:33:30.96 ID:d2Z7Cz330
  
( ^Д^)「はっ、この短時間で回復しつつあるってのか? あれだけの毒をぶち込まれて? ふざけてんな。
     異能者の体質、か? まぁ異能者ってのは傷も早く治癒しちまうし、分からなくもないが。
     それにしても不自然だな。あんだけ苦しんでて、こんだけ動ける筈もないんだが。どういうことだ?」

(#゚ω゚)「知るかお。諦めない心が生んだ奇跡ってところじゃないかお?」

( ^Д^)「そりゃあ良いな。だが奇跡にしちゃ随分とヘボくねぇか?
     お前、まだ全然動けねぇんだろ? 無理矢理に身体を動かしてる……って感じだよなぁ?」

(#゚ω゚)「でも、戦えるお。ごたごた言ってる暇があるなら、かかって来いお」

言い放って、ブーンは身に刺さった毒の大針を引き抜いていった。
その間にも彼は苦痛に表情を歪ませ、時折身体を不安定に揺らす。

プギャーはそれを見て、苦笑を濃くした。

( ^Д^)「……別に、俺ぁ構わねぇんだけどよ」

仕方なさそうに、後頭部を掻く。
その瞳が突然、鋭く細められた。

( ^Д^)「てめぇ、自分の状況を考えてねぇな?」

そして身が動く。
一瞬。それだけの時間を以てしてプギャーは一歩を跳躍した。
そして勢いのまま、脚を横薙ぎに叩きつける。


86 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:36:40.38 ID:d2Z7Cz330
  
(;゚ω゚)「くっ!」

対するブーンも遅れて後退したが、圧倒的に遅い。
後退する事も出来ず、プギャーの攻撃を受けてしまう。
咄嗟に上げた脚でプギャーの蹴りは防御したが―――そこで、堪えられない。

ブーンの身は吹き飛び、床を跳ねた後に転がって止まった。

( ^Д^)「ロクに動かねぇ身体で、俺に勝てると思ってやがんのか?
     馬鹿にすんのもいい加減にしろよ」

プギャーの言葉に、床を這うブーンはしかし力強く応える。

(#゚ω゚)「あぁ、勝ってやるお」

立ち上がり、身体をぐらりと揺らしながらも、構えた。

全身を苦痛に蝕まれ、呼吸すらもまともにままならない中で。
軽くなりつつあるとはいえ、猛毒に身を冒されながらも、それでも。

( ^Д^)「…………………」

何故だろうか、とプギャーは想う。
何故この男は、こんなにも戦えるのだろうかと。

自らの平和や日常を崩してまでも。
自らの身の損傷も厭うことなく。
何故、己が為ではなく、他人の為に戦えるのか。


88 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:38:18.16 ID:d2Z7Cz330
  
( ^Д^)「なぁ、ブーン。一つ聞かせろ。
     何でテメェは戦うんだ?」

(#゚ω゚)「お前達のせいで悲しむ人を、一人でも減らす為だお」

( ^Д^)「自分を……日常を捨ててでも?」

(#゚ω゚)「言ったお。誰かを犠牲にして得る何かなんていらない。
     異能者の全てを無視して……人々の泣き顔を見て見ぬふりして平和に生きたって、僕はきっと嬉しくない。
     僕の力でなら止められる―――僕達でしか止められない悲しさを、無視することなんて出来ないお」
     
(#゚ω゚)「僕はきっと、お前達を放置して得た平和の中じゃ生きられない。
     後悔に塗れた人生なんて、死ぬより御免だお。例えそれが平和な人生であろうと、それは死んでるのと変わりないお。
     僕は生きる為に―――自分の人生を生きる為に、戦うんだお」

その言葉で、プギャーは悟る。
それこそが、ブーンにとっての譲れないものなのだと。

言うなれば、存在理由にも近しいものだ。

プギャーにとってモララーの存在が絶対であるように、
 ブーンにとってはそれが絶対なのだろう。

それならば―――分かる。
ここまで、戦い続けようとする意思が。


90 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:40:53.21 ID:d2Z7Cz330

ならば、叩きのめすしかないだろう。
その理由と意志をへし折り、砕かないことには、ブーンはきっと止まらない。

自分がそうであるように。

( ^Д^)「そうか。なら、戦うしかないわな」

呟き、プギャーも構える。

( ^Д^)「俺はお前を、お前の理由を殺しにかかろう。
     お前の譲れない理由が、俺の譲れない理由と真正面からぶつかるからな。
     敗けた理由が、意志が、死ぬことになるだろうよ」

(#゚ω゚)「そうかお。じゃあ―――」

( ^Д^)「あぁ、来い」

言葉に、返す事もなくブーンが動いた。

(#゚ω゚)「おおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

咆哮をあげつつの疾駆。そして横薙ぎの蹴り。
だがその動きは、先ほどまでとは比べ物にならないほどに遅い。
回復に向かっているとは言え、毒は未だ濃くブーンの中に残留しているようだった。

蹴りは易々とプギャーに受け止められ、そして弾き飛ばされる。
ブーンはその衝撃に堪える事も出来ずに、脚だけでなく身体ごと吹き飛んだ。


91 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/04(月) 23:43:20.83 ID:d2Z7Cz330
  
(#゚ω゚)「ぐぅっ……!!」

吹き飛ぶ先、脚の爪をスパイク代わりにして身を止める。
そして再度、プギャーに対して駆けた。

( ^Д^)「遅ぇな。そんなんで俺に勝てるわけが―――」

突き出された右脚での前蹴りを、プギャーは右腕で殴り落とす。
それと同時にブーンの逆の脚が跳ね上がり、プギャーの側頭部に伸びた。

僅かな隙を狙った良い蹴りではあったが―――やはりそれも、遅過ぎる。

(#^Д^)「ないだろうが!!」

叫び、振り上げた左腕の鎌で、その脚を弾き飛ばした。
ブーンはその衝撃に身を旋回させて

(#゚ω゚)「お、ぉっ!!」

旋回を利用して、回し蹴りを放つ。
プギャーの力と遠心力を利用した蹴りは速く―――だが、それも苦する事無く弾き飛ばされた。

ブーンの身は再度、吹き飛びそうになって―――
そこで伸ばされたプギャーの右手に、胸倉を掴まれて強制的に停止する。

(;゚ω゚)「……くっ!」

その状態からでも、ブーンは脚を跳ね上げようと試みた。
だが直前に、脚はプギャーの脚で踏まれて固定され、動かせなくなる。


100 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:00:11.97 ID:LiPlWtMj0
  
足掻くように両腕のガントレットを振るったりもするが、その悉くをプギャーは左腕のみで捌いた。
プギャーは、ブーンに無力を悟らせるように、わざとその応酬を続け

( ^Д^)「テメェの意志なんて、こんなもんだ。……じゃあな」

やがて彼の腕をプギャーは弾き飛ばし、そして翻る刃をブーンの首に伸ばして―――

( ^Д^)「ッ!!」

突然、ブーンを放して後方へ大きく跳躍する。

直後。何事かと眼を開いたブーンの眼前―――プギャーの立っていた空間を、何かが貫き抜けていった。
その物体の色は白銀、形状は巨大な銃弾。
そして

ξ゚△゚)ξ「間に合った……!!」

数メートル先で展開した銃弾。その内側から現れた少女は、ツンだ。

( ^Д^)「チッ、来やがったか」

舌打ちを漏らしつつ、プギャーはツンに相対する。
そして表情を笑みに変えて、「来い」とでも言うような動きを見せた。


103 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:03:20.74 ID:LiPlWtMj0
   
対するツンは、翼を展開した先から動く事もなく、翼を引く。
限界まで引き絞り、上半身までもを反らす事で、可能な限り全ての力を溜めて

ξ#゚△゚)ξ「なら、行ってやろうじゃないの」

――― 一気に、解放する!

上半身を戻す動きと同時に、翼を全力ではためかせる。
そしてそのまま動きを止める事無く、連続で羽ばたきを続けた。
その動きから繰り出される物は、超高速・超威力の無数の白銀の羽根だ。

プギャーはそれに対し、一瞬の判断を下した。
逃げろ。受けてはならない、と。

あれだけの高速・高威力の羽根であれば、一発一発が尋常でない威力を内包しているはずだ。
そして一発を身に受ければ、身体が制御を失う―――他の羽根による攻撃も、受けざるを得ない。
そうなれば、どうなる? 答えは明白。敗北で、死だ。

一瞬の思考、続く一瞬で上空へと跳躍する。
そして彼の脚を掠るように、彼の下を白銀の烈風が抜けて行った。

(;^Д^)「うおっ……何だありゃ。半端じゃねぇな」

予想以上の壮絶さに、プギャーは一瞬、下方に眼を取られた。

その一瞬の隙が、後に彼の回避を不可能にする。


106 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:06:21.88 ID:LiPlWtMj0
  
プギャーの視界の隅に、飛来する白銀が映った。
それをしっかりと認識した瞬間、彼の表情が引き攣る。
そしてその瞬間には、“それ”を彼が回避する事は不可能であった。

高速と螺旋の動きを纏った、白銀の巨大銃弾。

その威力は、数度受けた事によって彼自身が深く知っていた。
それが故に、彼は戦慄し―――回避は出来ないだろうかと思考する。
不可能だ、と彼も一瞬で答えを出したが、しかしその一瞬で銃弾が迫りきった。

その一瞬を以てして、彼は思考すべきではなく、防御の体勢を完成させるべきだったのだ。

結果、彼は満足に防御の体勢を作り終える事無く、銃弾による襲撃を受ける事になる。

(;^Д^)「チィィィィィッ!!」

咄嗟に粗い防御の体勢を作ったが―――無意味。
構えた腕や脚を超えて衝撃が身に達し、プギャーは呻きと共に激しく吐血した。

そして吹き飛び、背の翅で飛ぶ事も出来ず、床に叩きつけられる。
続いた衝撃で呼吸が詰まり、意識に靄がかかる。

だが、それどころではない。ここでそんな事にモタついているわけにはいかない。
音で分かる。次の攻撃はもう来ているのだ。

プギャーは胸を叩いて、無理矢理に体内に酸素を送り込んだ。
そしてすぐさま、上空からの攻撃に対応する。


109 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:09:22.77 ID:LiPlWtMj0
  
視界いっぱいに降り注ぐ、白銀の雨。

ただし普通の雨よりもずっと速く、ずっと強い。
そしてそれがもたらす物は水ではなく、血液と死だ。

(;^Д^)「くっ……!!」

すぐさまプギャーは防御の体勢を作り出した。
放たれた羽根は速いが、しかし先ほどまでの威力はなさそうであったし―――何より、回避する余裕なぞなかった。

そして間を置かず白銀が到達する。
凄まじい音と共に襲いかかったそれを、プギャーはその両腕で防いだ。

しばらく白銀の雨による洗礼は続き―――やがて、止む。
プギャーは不審げに顔を上げ、しかしそこで新たな白銀の雨を視認した。

( ^Д^)「……? 時間差攻撃って奴か?
     油断して防御を解いた所に羽根がぐさぐさっ、てか?」

「甘ぇな」と言いつつ、彼は再度、防御の体勢を作り上げる。

しかし、彼のその考えは間違いであった。
確かに時間差であり、油断したところに攻撃、というのは正解ではあったが―――
ツンが仕掛けた攻撃の種類、という面で、彼は致命的な間違いを犯していた。

防御の体勢を作った、彼の視線の先。
一部の雨が突然、弾け散った。
そして白銀の雨の層を貫いて現れたのは―――同じく白銀色の、巨大な銃弾だ。


111 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:12:21.77 ID:LiPlWtMj0
  
(;^Д^)「なっ……!!」

予想外の出来事に、彼は思わず声を漏らす。

そう、彼の予想は間違っていた。
時間差ではあったし、油断させたところに攻撃だろうという予想も合っていた。
が、しかしそれは『雨が途切れた空白の時』を対象としたものではなく、空白の後の雨を対象としたものであったのだ。

その雨が本命である、と思わせるフェイク。

現にプギャーは自身の予想に酔い、雨に対して油断していた。
そしてそこに時間差で現れた白銀の銃弾に、今こうして狼狽している。
またも、回避は出来ない。受けざるを得ない。

(;^Д^)「クソがァァ!!」

今度は思考する事無く、プギャーは防御を堅める。
まもなくそこに銃弾が到達し

(;^Д^)「ぐぅっ―――あぁあぁぁあああああああぁあぁぁあぁっ!!」

全身を駆け巡った衝撃と、銃弾を跳ね返そうという意志に、叫び声をあげた。
絶叫と咆哮が入り混じった声は、大音量の金属音に呑まれる事無く響く。

火花が弾け飛び、プギャーの脚が床を削って徐々に後方へと押され―――


114 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:15:35.83 ID:LiPlWtMj0
  
(#^Д^)「っらぁぁ!!」

しかし、彼は銃弾を弾き飛ばした。
銃弾は方向を変え、しかし内側に残した力で数メートルを進んで、床で跳ねる。

そしてまもなく銃弾が展開し、内からツンが姿を現した。

ξ゚△゚)ξ「しぶといわね」

(#^Д^)「それはお前じゃないか? さっき、素直に死んでりゃ良かったのによ。
     あんだけ死ぬギリギリまで行ってて、何を偉そうに」

ξ゚△゚)ξ「でもこうして生きてるわ。死にそうになってたとしてもね。
      死んでなきゃ、どうあったとしても結果は同じよ。
      私が生きているのが悔しかったら、しっかりと殺しなさいな」

(#^Д^)「は、戯言を」

ξ゚△゚)ξ「それに、死ぬギリギリっていうなら―――今のあなたもそうだったんじゃないかしら?
      私、結構、良い所まで行ったと思うのだけど?」

(#^Д^)「あぁ、確かに際どいところまで行ったかもな。
     だが、こうして生きてるんだなぁ、俺も。死んでなきゃ、結果は同じってな。
     俺が生きてるのが悔しかったら、しっかりと殺してみろってんだ」

ξ゚△゚)ξ「人の言葉を真似して返すのは馬鹿に見えるわよ」

(#^Д^)「それが? この場において、そんな事ぁ関係ない。
     どんな天才でも馬鹿でも、どんな英雄でも悪漢でも―――異能者でも一般人でも、死体になりゃみんな同じだろうが」


116 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:18:30.32 ID:LiPlWtMj0
  
ξ゚△゚)ξ「死体になればね。でも私達は生きてるんだから、同じじゃないわよ。
      私は私で、あなたは馬鹿。愚かな論を吐き散らして、馬鹿を露呈させるべきじゃないと思うわよ?」

(#^Д^)「……テメェ」

その時。
床を踏み、蹴る音が響いた。

プギャーはそちらを振り返り―――
そこで、彼に飛びかかろうとしているブーンを見た。

(#゚ω゚)「おおおおぉおおぉおおぉおぉっ!!」

(#^Д^)「はん、来たな。隙を見て、襲いかかったってところか?
     だが、随分と遅い。遅過ぎるぜ、ブーン」

そう、遅い。ブーンの身には、まだ毒が廻っている。
本来ならば、プギャーが振り返る前に一撃を加えられていた筈なのだから。

しかしプギャーはブーンに気付き、そして構えてしまう。
それでもブーンは躊躇する事もなく飛びかかって―――

ξ;゚△゚)ξ「ダメ! 退いて、ブーン!!」

ツンの叫びが、甲高く響いた。

ξ;゚△゚)ξ「今のあなたじゃ、まともに戦えない!!
       退いて! 毒が抜けるまで、私に任せて!!」


121 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:21:21.62 ID:LiPlWtMj0
  
ツンのプギャーへの攻撃は、勿論プギャーを倒す目的もあったが、本来の狙いは違うものであった。
即ち、ブーンからプギャーを遠ざける事。

毒を喰らって、まともに動く事も出来ないブーンが、プギャーに勝てる筈はないのだ。
プギャーの言う通り、努力や根性ではどうにもならない物というのはある。
戦闘において、諦めない事は重要で力にもなり得るが―――ブーンのような盲信は、逆に危険だ。

幸いにも、ブーンの毒は徐々に抜けてきているらしい。
ならば、ブーンは一度戦線から抜けて、しっかりと身体から毒を抜いてから戦うべきなのだ。
その為にツンはプギャーに突進し、途切れぬ攻撃と挑発で意識をツンに向けさせた。

全てはブーンを護る為。
ブーンに護ってもらったから、今度は彼女がブーンを護ろうと、彼女は奮闘したのだ。

だが、ブーンは動いてしまった。
確かに隙を見付け、そこに付け込んだに過ぎないが―――彼は毒に身を蝕まれたまま、戦線に復帰してしまったのだ。
本当はその隙に、プギャーから離れるべきであったのに。

有り余る不屈の闘志が、今度は裏目に出た。

ツンの働きはほぼ無駄となり―――プギャーは、ブーンへと向いてしまった。


横薙ぎに叩きつけられる脚を、プギャーは軽々と弾き返す。
そこで跳ね上がった脚も、同様に。

そしてプギャーは一歩を踏み、右腕での裏拳を叩き込んだ。


125 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:24:21.21 ID:LiPlWtMj0
  
(;`ω゚)「おっ!!」

辛うじて脚で受け、しかしブーンは吹き飛ばされる。
肩から床に当たって跳ね、しかしその先でやはり立ち上がった。

( ^Д^)「しつっけぇな、テメェは。まともに動けないってのに、戦意だけはビンビンかよ。
     どんだけ猪武者だっての。さっさと死ねよ」

(#゚ω゚)「るっせぇお。お前を倒すまで、僕は止まらないお」

言いつつも、しかし彼の身は安定しない。
時折、ぐらりと身を揺らす。
強く噛み締めた歯は、彼が感じている苦痛を明確に表していた。

( ^Д^)「毒が回ってんなら、無理しねぇ方が良いんじゃねぇか?
     あとはこのお嬢ちゃんが、お前の代わりに戦ってくれるさ」

(#゚ω゚)「この程度の毒が……何だってんだお。
     こんなもんじゃ、僕は止まらない」


( ^Д^)「……へぇ? なら、もっと強い毒なら良いってのか」


130 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:27:24.47 ID:LiPlWtMj0
  
静かに呟かれた言葉。
それに何かを感じたのか―――ツンが戦慄し、そして叫んだ。

ξ;゚△゚)ξ「退いて、ブーン!!」

彼女は必死で翼をはためかせ、羽根を飛ばす。
しかし焦燥に塗れて力の込められていない羽根は、易々と弾き飛ばされた。

そして、プギャーが動く。
膝を沈め、腰を落として、ブーンに向けて一気に解放。
開いた距離を跳躍の二歩で埋め、上方から脚を振り下ろした。

(#`ω゚)「くっ!!」

勿論、ブーンは回避する事も出来ずに受ける。
しかし受けきる事も出来ず、跳ね上げた脚は床に叩きつけられた。

そこでブーンは、プギャーの攻撃が続くと思ったのか、構えつつ後退のステップを踏む。
しかしプギャーは攻撃をせず、ただ前進した。
ブーンに、ピタリとくっつくように。

(;゚ω゚)「!?」

何事かと、ブーンの後退の速度が僅かに緩む。
それでもプギャーは前進し―――彼の顔がブーンの肩に乗るような位置まで、密着した。


134 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:30:31.10 ID:LiPlWtMj0
   
その時だった。

ξ;゚△゚)ξ「ダメッ!! ―――逃げて!!」

彼女の声が響き、しかし

( ^Д^)「もう遅ぇよ」

呟き、プギャーはブーンの両手を拘束し、両脚を己の両脚で踏んで封じた。
ブーンは、逃げられない。

(;゚ω゚)「何を……!?」

( ^Д^)「お前の願い通りにしてやるだけさ」

そして、ブーンは聞いた。
耳元―――プギャーの頭の位置から、異音が響くのを。

(;゚ω゚)「な……なっ!?」

嫌な予感を感じるが、逃げる事は出来ない。
身をよじらせる事しか出来ず―――しかし、そこでブーンは見た。

プギャーの下顎が真ん中で千切れ、粘着音を経てて二つに分かれるのを。
分かれた後、それぞれが伸び、禍々しく変形していくのを。

まもなく現れたその形状は、蜘蛛の顎を思わせるそれだ。


137 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:33:21.73 ID:LiPlWtMj0
  
(;゚ω゚)「何だお……これは」

( ^Д^)「見ての通り、蟲の顎。それも、毒顎だ。
     それじゃあ―――おやすみ」

言葉を終えるや否や。
変形したプギャーの下顎が、ブーンの肩に喰らいついた。

(;`ω゚)「ッ!!」

尋常でない痛みが肩で爆発し、ブーンは歯を食い縛る。
にちにちと、何かを噛み千切るような音が肩から響き―――

(;゚ω゚)「お……!?」

そこで、ブーンは感じた。
厭な気配――― ぞわり、と肩で何かが動いた感覚。

そして、一瞬。
ブーンの心臓が強く打ち、彼の全身を猛烈な寒気が襲った。

寒気に続き、様々な症状が彼に起きる。
全身に尋常でない激痛が走り、筋肉が痙攣してまともに動けなくなった。
目眩が起き、呼吸困難が訪れ、意識すらも遠のき白くなる。

先程の症状と似た―――しかし、比べ物にならないほど強い症状が、彼の身体を喰らい始めていた。


141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/08/05(火) 00:34:53.27 ID:bh2j3T0r0
プギャー人間離れどころじゃなくなったな


142 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:36:22.94 ID:LiPlWtMj0
  
(;゚ω゚)「あ……がっ! が……!?」

ξ;゚△゚)ξ「ブーン!!」

天井を見上げ、身体を痙攣させながら苦鳴を漏らすブーン。
彼を見て、ツンはプギャーに対して全力で翼を羽ばたかせた。

( ^Д^)「チッ……」

舌打ちを漏らしながらも、プギャーはブーンから顔を離し、そして後方へ跳躍する。
解放されたブーンの身は、自立する事も出来ずにその場に倒れた。

そして同時、その場に嘔吐する。
吐瀉物は紅く、そしてどろりと濁っていた。

(; ω )「ぐ、ぐぅっ!? げ―――!!」

ブーンは横たわり、己が身を抱き締めて震えだす。
しかし彼の額には玉の汗が浮かび、事実、彼の体温は一気に高まっていた。

嘔吐は未だ止まらず、やがて鼻からも血が溢れ出す。
それが呼吸困難に拍車を掛け、悪化した呼吸困難が更に意識を遠のかせた。

身体には力が籠らず、痙攣のみによって不規則に動く。
身体の内側も外側も―――まさに全身が激痛に蝕まれている。


147 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:39:19.78 ID:LiPlWtMj0
  
( ^Д^)「これでもそれか。普通なら即死してる筈なんだが、馬鹿げてるな」

「まぁ、放っておけばいずれ死ぬだろ」と、プギャーは嗤う。
下顎を千切れさせたまま嗤う彼は、酷く不気味だった。

ξ;゚△゚)ξ「あんた、何を……!?」

( ^Д^)「あん? 大した事じゃない」

応える声は、顎が分離しているからか不明瞭だ。
プギャーは、割れた顎を戻しながら彼女に言う。

( ^Д^)「この右腕にも宿ってる毒の、超絶濃厚なのを流し込んでやっただけさ。
     それも針や云々じゃなく、直接流し込んだからな。さっきの毒なんざ、比べものにならないぜ」

ξ;゚△゚)ξ「……ブーンは?」

( ^Д^)「まぁ、死ぬだろうな。つーか、今生きてるだけでもおかしいんだけどな」

ξ;゚△゚)ξ「――――――!!」

息を呑み、ツンはブーンを見やる。
眼を見開き、喘ぐようにして呼吸する彼に―――彼女は、僅かな絶望を得た。

可能性は……限りなく、少ない。
もはや、ないと言っても良い。

見るだけで明確であった。
症状が症状であったし―――眼に、光が宿っていない。


151 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:42:21.50 ID:LiPlWtMj0
  
ξ;゚△゚)ξ「ブーン……!」

声は届くだろうか。
小さな望みをかけて、名を呼んだ。

反応は、ない。

ξ;゚△゚)ξ「ブーン!!」

( ^Д^)「無駄だ」

完全に顎を元の形状に直して、プギャーはそう呟いた。

( ^Д^)「見れば分かるだろ?
     それに聞こえてたとしても、もう意味はない。
     奴は、もう終わりだ」

( ^Д^)「となれば、分かるな?
     ……お前は、奴を心配してる場合じゃないんだよ」

プギャーが一歩を踏む。
それに応じてツンも一歩を引き

( ^Д^)「次はお前だ。覚悟しやがれ」

ξ;゚△゚)ξ「ッ……!」

言葉に、後退を早くした。
そして再度、ちらりとブーンに視線をやると


156 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:45:22.06 ID:LiPlWtMj0
  
( ^Д^)「よぅ、ブーン。まだ見えて、聞こえてるなら―――お前はそこで、こいつが殺されるのを見てろよ。
     こいつの叫び声を、聞いてろよ。テメェの無力を、死にながら噛み締めてろ」

ツンの視線を追ったプギャーが、そう呟いた。

そしてその身が、加速する。

ξ;゚△゚)ξ「!!」

気付いたツンが跳躍し、すぐに翼をはためかせる。
しかしプギャーも追って跳躍、背の翅を唸らせた。

( ^Д^)「らっ!!」

一気に距離を詰め、枯葉色の脚を振るう。
ツンはそれを閉じた翼で受け―――

ξ#゚△゚)ξ「ハァッ!!」

勢い良く、翼を開け放った。
プギャーの脚は大きく弾かれ、そしてツンはそのまま連続で翼を羽ばたかせる。

つまりは、開いた身に羽根を打ち込んだ。

( ^Д^)「チッ、くだらない真似を」

プギャーは放たれた羽根を両腕で打ち払う。
そして翅を唸らせて前進。弾かれた脚とは逆の脚を、上方から力任せに叩きつけた。


158 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:48:25.49 ID:LiPlWtMj0
  
ξ;゚△゚)ξ「ッ!!」

咄嗟、翼で受ける。が、弾けない。
彼女はその衝撃のままに吹き飛び、落下していった。

ξ;゚△゚)ξ「……まだっ!」

受けた翼とは逆の翼を強くはためかせ、落下速度を大幅に遅くする。
そして着地。脚にびりびりと衝撃が走ったが、彼女はそれを無視する。

即座に上方を見上げ、そこで降下の体勢を取ろうとしているプギャーを視認した。
彼女はそれに対して、上方に向けて両の翼をはためかせる。

( ^Д^)「無駄だってんだよ!」

プギャーは両腕で羽根を弾きながら、ツンに向けて高速の降下を始めた。
羽根は彼に穿たれないまま、彼とツンとの距離はすぐに埋まる。

( ^Д^)「死ねっ!!」

叫びつつ、降下の勢いを乗せた蹴りを振り下ろした。
対するツンは直前で後方へ跳び、彼の脚を躱す。
直後、プギャーの脚が床を捉え、爆音と共に床の破片と埃が舞った。

ξ;゚△゚)ξ「危なっ……!」

蹴りの威力に戦慄しながらも、ツンはそのまま後退を続ける。
そして跳躍し、そのまま飛ぼうと翼をはためかせた所で―――


161 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:51:19.73 ID:LiPlWtMj0
  
( ^Д^)「逃がさねぇよ」

声と共に、下から足首を掴まれた。
そして反応する間もなく、引き墜とされる。

ツンの身は床に叩きつけられ、息が詰まって呻きが漏れた。

ξ;゚△゚)ξ「くっ!」

咄嗟に、転がってプギャーから距離を取ろうとするツン。
しかし転がる直前、プギャーの脚によってその行為は中断させられる。
プギャーは両脚で彼女の腰を挟み込むようにして、彼女の動きを拘束したのだ。

( ^Д^)「終わりだな」

静かに呟き、そしてプギャーは無慈悲に鎌を振り下ろす。
鎌の刃は彼女の心臓を貫く軌道を走り

ξ;゚△゚)ξ「終わらせるもんですか!!」

しかし、鎌はそこで振り上げられた翼に弾かれた。

( ^Д^)「はっ、悪足掻きを―――」

彼の言葉は途中で詰まり、代わりに肌が肌を打つ音が響く。
彼の頬を、ツンの平手が捉えていた。
プギャーの身が揺らぎ、僅かに隙が出来る。


164 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:54:20.52 ID:LiPlWtMj0
  
そして、ツンの攻撃はそれだけに終わらない。
僅かに出来た隙を利用して、逃げられるだけの隙を作らねばならないからだ。
だから彼女の脚は跳ね上がり、プギャーの股間を蹴り上げた。

(; Д )「がっ……!?」

プギャーの身体の揺らぎが大きくなる―――隙が大きくなる。
その隙にツンはプギャーの脚の間から抜けた。

そのまま止まらず、ツンはプギャーから離れようと身体の向きを変える。
だが一歩を駆けたところで肩を掴まれ、再度身体を反転させられた。

ξ;゚△゚)ξ「ッ!!」

(#^Д^)「もう逃がさねぇよ。ふざけやがって、このクソアマが」

ツンは必死で後退しようと試みるが―――明らかに、間に合わない。
対するプギャーは、容赦なくその左腕を振り上げ―――


(; ω )「――――――」

ブーンは、全てを見ていた。
全てを、聞いていた。

動かねば、という意識はあった。
しかし、動けなかった。
動くどころではなかったのだ。


167 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 00:57:22.66 ID:LiPlWtMj0
  
全身を苦痛という苦痛に蝕まれ、呼吸すらも満足にいかない。
視界は曇り―――いや、五感全てが鈍り、意識も白くなっていく。
苦痛に、どこまでも猛っていた戦意すらも削られていた。

代わりに現れた感情は、恐怖だ。

ブーンは気付いていた。自身に、確実に死が近付いているという事に。
やがて死に対する恐怖だけが、彼の感情を支配していく。
身体の震えは、毒だけによるものではなくなっていた。

嫌だ、死にたくない。助けてくれ、助けてくれ。
こんなところで死にたくない。独りで死んでいきたくない。
仲間に会いたい。友達に会いたい。母さんに、会いたい。

やがて瞳からは涙が流れ、呼吸困難による喘ぎは嗚咽を伴う。

不規則で弱まっていく心臓の鼓動が、死の足音に思えた。
恐怖は時と共に肥大し、毒と共に彼の思考を鈍らせていく。
しかし叫び声をあげる事も出来ず、恐怖で精神が壊れそうになった。

だがその時、ブーンの視界を一つの光景が埋める。

(;'゚ω゚)「ツ……ン」

鎌を振り上げたプギャー、後退しようとしているツン。
ツンは必死でその鎌を避けようとしているが、避けられないであろうことは明確だ。

しかし、ツンの表情は諦めていなかった。
眼に強い光を宿し、歯を噛み締め、まだ死に甘えようとしてはいなかった。


172 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 01:00:19.84 ID:LiPlWtMj0
   
だがプギャーは、それでも容赦なく鎌を振り下ろそうとしている。
ツンの意志を折ろうと、命を刈ろうとしている。

瞬間、ブーンの心から恐怖が消えた。

(#'゚ω゚)「ふざ……けんなお」

身体が熱を帯び、姿を消していた戦意が再度、練り上げられていく。
弱かった鼓動が強く打ち、意識にかかっていた靄がさっと晴れていった。

(#'゚ω゚)「失って……溜まるかお……!!」

明瞭になった思考で考える事は一つ。

(#'゚ω゚)「ツンを殺させるわけにはいかないお!!」

動く為、全身に力を込める。
しかし身体は反応する事もなく、力はどこからか抜けていく。
反応したのは全身の激痛だけ。苦痛は、明瞭になった意識を遠慮なく殴りつけた。



176 : ◆tAdHw/rYVY :2008/08/05(火) 01:03:45.52 ID:LiPlWtMj0
  
しかし、ブーンの心はもう砕けない。
苦痛に屈する事もなく、全身に力を込め続ける。

やはり身体は動いてはくれないが―――しかし、一つだけ反応が返ってきた。

脚。白銀の異形。
そこだけ、力が漏れる事がない。
―――いや。

脚から、力が溢れていく……!!

(#'゚ω゚)「これは……!」

そしてブーンは、自身の脚から異音を聞いた。





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