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LOYAL STRAIT FLASH ♪

三十二章前

3 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:04:50.22 ID:PMpe1joZ0


三十二章 真実


あの後、ブーン達はショボンのジープで逃走した。
そのジープで行く先は、“削除人”の所有するホテルだ。

フサやツン、しぃなどの動けぬ者を送り届ける為。
そして―――クーが、「話がある」とブーン達を招いたのだ。

最初はブーン達もその提案を疑っていたが、『「これから」を考える為には仕方ない』とその提案を承諾した。


そして―――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



4 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:08:12.87 ID:PMpe1joZ0


( ^ω^)「……お?」

茶色と黒を基調として造られた、落ち着くデザインの一室。
そのベッドの上で、ブーンは目覚めた。

(;^ω^)「おっ!? こ、ここどこだお!?」

上半身を起こして、一瞬、状況が把握出来ずに困惑する。
そこで足にじわりと広がった鈍い痛みに、昨日自分が何をしたのか思い出した。

( ^ω^)「……そうだお。僕は“管理人”の研究所に乗り込んで、逃げて……そして……?」

「お前はジープの中で眠ってしまったんだ」

(;^ω^)「おっ!?」

どこからか聞こえてきた声に、ブーンは周りを見まわす。
それに一瞬遅れて、シックな茶色のドアが開かれた。


そこから現われたのは―――

川 ゚ -゚)「……起きたか」

“削除人”リーダー、クーだった。


6 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:12:07.20 ID:PMpe1joZ0

(;^ω^)「ク、クー? ここは? いや、それよりも何で僕は……」

川 ゚ -゚)「ここは“削除人”の所有するホテルだ。
      何でここにいるのか……少し考えれば思い出せるだろう?」

( ^ω^)「お……」

自分が置かれてる状況を把握すると、少しずつ経緯を思い出した。
それと同時に、他の疑問が浮かんでくる。

( ^ω^)「……みんなは?」

川 ゚ -゚)「お前と同じく、どこかの部屋で眠っている。身体的にも体力的にも、限界だったのだろう。
     だが、命に別状はない。せいぜい強い痛みがある程度だろう。
     治療出来る状態の人間がいない為、傷はそのままだが―――異能者の再生能力がある。大丈夫だろう」

( ^ω^)「そうかお……」

ホッと一息つく。
三人が無事であると分かって、心底安心した。

特に、ギコだ。
傷の位置が悪かったのか、彼の出血量は半端じゃなかった。
死を、嫌でも想像してしまうほどに。

だからこそ、無事だと分かった時に訪れた安心は大きい。



9 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:17:24.20 ID:PMpe1joZ0

( ^ω^)「じゃあ、もう一つ質問良いかお?」

川 ゚ -゚)「何故私がここに来たのか、か?」

その言葉に、こくりとブーンは頷く。
クーは「ふむ」と頷くと、部屋に備え付けてあった椅子へと腰を下ろした。

川 ゚ -゚)「お前に、話がある」

( ^ω^)「お?」

川 ゚ -゚)「一つ目。お前に礼を言う。ありがとう。
     逃走する際、お前がいなければ……しぃもツンもフサも、死んでいた。
     私一人じゃ、三人を抱えて逃げられなかった。お前が二人を抱えてくれたから、私達は生き残れた」

(;^ω^)「おっ? 僕、何か特別な事したっけかお?」

川 ゚ -゚)「……覚えてないのか? お前がツンとフサを抱えて逃げてくれた事を。
     自分の身体を省みず、しかも敵である私達を躊躇なく助けてくれたじゃないか」

(;^ω^)「お、確かにそんな事もしたけど……そんな感謝される事かお?
      死にそうな人を助けるのは、人間として当たり前の事じゃないかお」

川 ゚ -゚)「しかし、相手は敵だ。何度も命を狙ってくるような、紛れもない敵だ。
     そんな者が死にそうだったからと言って助ける者は少ない。罵倒して放置する者がほとんどだろう」



11 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:20:27.18 ID:PMpe1joZ0

(;^ω^)「ちょ、そんな事ないお。敵だ敵だなんて言っても、同じ人間だお。誰でも手くらい貸すお。
       それにモララーを前にして、何度もお互いに助け合ったお。そんな相手を助けない方がどうかしてるお」

川 ゚ -゚)「む……だが……」

(;^ω^)「あー! もう良いじゃないかお! 助けたかったから助けたんだお! それで良いじゃないかお!
       無駄に気負う事ないお。僕の好きでやった事だお。それよりもキリがなさそうだから、次の話を頼むお」

川 ゚ -゚)「……うむ。ありがとう。では、二つ目。
     お前への礼として、しばらくの間“削除人”はお前達に牙を剥かない事を約束しよう。
     このホテルも、自由に使ってくれて構わない」

その言葉に対して、ブーンは唖然とする。
イマイチ、現実性を帯びない話だった。

(;^ω^)「ほ、本当かお?」

川 ゚ -゚)「あぁ。嘘を言うメリットなどないし、そもそも恩人に嘘は吐かん」

(;^ω^)「何でそんな……」

川 ゚ -゚)「それが、最後の話だ」

そこで一度、クーは呼吸を入れる。
まるで、自分を落ち着かせようとするかのように。


12 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:25:49.42 ID:PMpe1joZ0

川 ゚ -゚)「その話をする前に、ちょっとお前に言いたい事がある。
     ……『ホーム』の話は、知っているか?」

( ^ω^)「『ホーム』? 何だお、それ。知らないお」

川 ゚ -゚)「む。ならば、説明しよう。
     『ホーム』というのは、『ファーザー』という異能者が創り上げた異能者保護施設だ。
     私としぃ、そしてツンはその『ホーム』で育った」

( ^ω^)「そんな施設があったのかお? ……でも、僕はそんな話を聞いた事がないお。
      異能者の事件が大きく報道されてる今、そんな施設の情報がテレビで流れないって……」

川 ゚ -゚)「『ホーム』は報道されなくて当たり前だ。何せ、『ホーム』は既にこの世にないのだから。
     人々に知られないように規模を大きくしていき、人々に知られない内にこの世から抹消された。
     ……あの悪魔、モララーの手によって」

(;^ω^)「モララーに……!?」

川 ゚ -゚)「当時あいつは幼いにも関わらず、“力”を使いこなしてホームを襲撃した。
     ほとんどの異能者は殺害され、ファーザーでさえもあいつに殺された」

( ^ω^)「……君達は、何で生き残れたんだお?
      何で君達が生き残れたのに、ファーザーは生き残れなかったんだお?
      誰かを逃がす事が出来たのなら、自分が逃げる事も出来たはずだお」

川 ゚ -゚)「ファーザーが必死に私達を護ってくれたから、私達は生き残った。
     他の異能者達も助けようとはしたのだろうが……その頃には、モララーが眼前に迫っていたんだ。
     そしてファーザーは……自分から、モララーに向かって行った。『奴と、話をしたい』とな」


15 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:30:59.40 ID:PMpe1joZ0

そこで一息入れて、クーは更に続ける。

川 ゚ -゚)「ファーザーは私達に少し話をすると、私達に別れを告げた。
     それからモララーを挑発して誘導し、そしてある部屋に奴を閉じ込めたんだ。自分もろとも、な。
     私達はその部屋の閉ざされてしまった扉を必死に壊そうとした。
     しかし扉は頑丈で、壊すのに時間がかかってしまい……扉が開いた頃には、ファーザーは死に、モララーは消えていた」

そこでブーンは、いつのまにかクーの話に深く聞き入っていた自分に少し驚いた。

何故だろうか。この話が、脳にすごく染み渡ってくる。
『ファーザー』という知らない人物の思考が、手に取るように分かる。

きっと『ファーザー』は、モララーを止めてやろうと思ったのだろう。
幼い少年が“力”を使って、己と同じ境遇の者達を殺戮する―――そんなの、悲しすぎる。
そんな事をする理由を聞こうと。そして、出来ればモララーを『ホーム』に招こうと思っていたのだろう。

自分で考えた『ファーザー』の思惑。
そこには、何故か確信に近い物があった。

何故だろうか。
『ファーザー』が、どうしても遠い存在に想えないのだ。
それどころか、とてもとても近い存在……そう、それはまるで―――

川 ゚ -゚)「……そのファーザーに、お前は似ているんだ」

クーの言葉に、ドクンと心臓が強く打った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


17 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:35:35.35 ID:PMpe1joZ0

('A`)「…………………」

ドクオは部屋の椅子の上で一人、虚ろな眼をしていた。
その両手には、親友から預けられた黒と銀の二挺の銃。

美しきそのバレルには、しかし無骨な斧によって付けられた醜い傷。
それはバレルの半ば以上にまで届いており、最早、二挺は咆哮をあげる事は出来ない。

ドクオの頭の中にあるのは、自責と自嘲と後悔。


親友から預けられた二挺を、こんな姿にしてしまった。
偉そうな事を言っていた割には、ちっとも仲間を護れなかった。
モララーを、討ち取れなかった。


―――自分の無力さが、ショボンを殺してしまった。


舌打ちする。
自分は、何もしていないじゃないか。

何が、『仲間を護る』だ。
自分の身すら満足に護れずに、何をほざく。

自分の身すら護れなかったから、ショボンが代わりに死んだんだ。
もっと自分が強ければ。人を護れるほどの強さがあれば……!


19 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:40:40.39 ID:PMpe1joZ0

過去を悔やんでも仕方ない。
いくら悔やんだところで死者は生き返らないし、自分は強くはなれない。

そう分かっていても、彼の頭の中の暗雲は晴れなかった。

('A`)「……ショボン」

思い呟きが彼の口から漏れた、丁度その時。


コン、コン、コン……と、三回のノック。
そして続く、「ドクオ君、いるかもな?」というのんびりとした声。


深い溜め息。
“削除人”とは、あまり関わりたくなかった。

だが、頭の中の暗雲を少しでも忘れられるなら……。
そう思って、ドクオは口を開く。

('A`)「いるぞ。……誰だ? 名前と、自分の特徴を言え」

「僕はモナー、だもな。特徴としては……昨日青い槍を持って登場した、異能者じゃないおじちゃんだもな」

('A`)「……あぁ。お前、か。オーケー。入れよ」

「もな」


20 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:43:44.93 ID:PMpe1joZ0

言葉に一瞬遅れてドアが開き、そしてのどかな表情の男が部屋に入ってきた。
その容姿を見て、ドクオは眼を細める。

一瞬、新手のミイラ男が来たのかと思った。

モナーはほぼ全身が包帯に包まれていた。
上半身に至っては、一瞬、包帯が白い服に見えたほどだ。

そして、腕に握るは杖。
顔には無数のガーゼ。

('A`)「何だその格好は」

(;´∀`)「いや……。モララーにかなり深い傷負わされた上に、ミンナに色々されちゃって、だもな」

('A`)「あ? いや……あぁ、そうか。お前は異能者じゃないんだったな。
    つまり再生能力―――っつうか身体能力は人間並だもんな」

( ´∀`)「そうだもな」

言い終えて、ゆっくりとドアを閉める。

ドクオはモナーに向けて、顎でベッドを指した。
『椅子は俺が使ってるから、お前はベッドにでも座れ』という意志表示だろう。

モナーは一つ頷くと、ベッドに腰を降ろした。
座る瞬間には少しだけ顔を苦しそうにして、「いたたた……」と笑う。


22 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:48:13.05 ID:PMpe1joZ0

(;´∀`)「助かったもな。正直、ずっと立たされたままだったらキツかったもな」

('A`)「……で? 用は、何だ?」

( ´∀`)「もな」

そこでモナーは眼を閉じ、一つ息を吐いた。
そして眼が開く。しかしその眼は、さきほどまでの穏やかさの中に鋭さも兼ねていた。

( ´∀`)「まずは、礼を言わせてほしいもな。君のおかげでフサ君……いや、みんなが助かったもな。
      敵だと言うのに、戦闘中も何度も僕達を救ってくれた。戦闘不能になったフサ君を運んでくれた。
      本当にありがとう、だもな。クーに代わって、僕が礼を言っておくもな」

('A`)「……で?」

(;´∀`)「もな?」

('A`)「まずは、って事は続きがあんだろ。そっちを話してくれ」

( ´∀`)「……そうだ、もな。僕個人としては、こっちが本題になるもな」

('A`)「勿体振った話し方をするな。さっさと話してくれ」

( ´∀`)「君への礼として、モララーとの戦闘で破損した君のその二挺拳銃―――それを、僕に直させてほしいもな」

ドクオの眉根が寄せられる。
意味が分からない、とでも言いたげな表情だ。


24 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:52:19.59 ID:PMpe1joZ0

('A`)「……何言ってんだ、お前」

( ´∀`)「自分で言うのも何だけど、僕は武器に関してはプロフェッショナルだもな。
      だからその二挺を直すのも―――勿論パワーアップさせるのも、僕にとっては簡単な事だもな」

('A`)「…………………」

ドクオの疑いの表情は、晴れない。

( ´∀`)「ハインの振りまわしてたあのハサミ。
      そして僕が持っていたあの槍が僕の作品だと言えば、信じてくれるもな?」

('A`)「証拠がない」

( ´∀`)「……なら、証拠を見せれば良いもな?」

ぐっ、とモナーはベッドから立ち上がる。
そしてドアの所まで歩いて行くと、ドアを開けつつドクオに言う。

( ´∀`)「証拠を、見せてあげるもな。ついて来て欲しいもな」

('A`)「な……」

( ´∀`)「ほら。行かないもな?」

('A`)「何でそんなにしてくれんだ? 俺達は、敵だぞ」



26 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:55:26.58 ID:PMpe1joZ0

( ´∀`)「―――多分だけど。次に“管理人”の所に攻め入る時、僕達は一時的に共同戦線を張ると思うもな。
     多分、クーがそう提案するはず。そして、ブーン君を始めとした君達はそれを受け入れてくれるはず。
     ……今度モララーと戦うなら、絶対に敗けたくないんだもな。だから、君達にも強くなっていてほしい」

「それに」と、モナーは続ける。

( ´∀`)「こんなに良い二挺を壊したまんまにしておくのは勿体ないもな。
      その子達はきっと、もっと輝ける。輝かせてあげたいんだもな」

それだけ言って、モナーはゆっくりと部屋から出て行った。
ドクオは一瞬だけ逡巡したものの、すぐに舌打ちしてモナーを追い駆けた。

長い廊下を歩き、エレベータで何階分か上に上がる。
上がった先ではまたも長い廊下を歩き、やがて一つのドアの前に辿り着いた。

( ´∀`)「ここだもな」

呟いて、ドアを開ける。
その先には―――

(;'A`)「――――――ッ!?」

眼を見開いたドクオの目の前にあるのは、台に乗せられた日本刀。
薄く青を帯びたその刃は恐ろしく鋭く、そして恐ろしく美しい。
よく見れば、刃にはとても繊細な華の装飾が刻み込まれていた。

(;'A`)「これは……」


31 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 22:58:42.17 ID:PMpe1joZ0

( ´∀`)「それは今作成中の、クーの使う刀だもな」

それだけ言って、モナーは部屋の奥へと歩んでいく。

その部屋は、他の部屋とはかなり異なっていた。
まず広さがかなりあり、設備も異常だ。
数多くの換気扇が取りつけられ、巨大な炉や異質な道具が揃ったその部屋は―――まさに鍛冶場、だった。

ドクオはゆっくりと、モナーの背を追ってみる。
そしてふと備え付けられた棚に眼をやって、驚愕にぽかんと口を開けた。

ここを『武器庫』とも称せるような量の多種に渡る武器、武器、武器。
剣、刀、鎌、槍、斧、薙刀、弓、手甲、鎚、鋏、銃……。
色もサイズも形状も全然違う、多種の武器が無数に棚に並んでいた。

中には何と呼ぶのかも分からない―――武器としてはまったく新しい形状の武器まである。
そしてそういった物を含む、棚に並べられた全ての武器は……身震いするほど鋭く、そして美しかった。

( ´∀`)「ドクオ君」

歩みを止めずに、モナーが背後のドクオへと声をかける。
ドクオは棚から眼を離し、モナーへと向けた。

( ´∀`)「信用して、くれたもな?」

('A`)「……一応聞いておく。これらを、お前が?」

( ´∀`)「そうだもな」


32 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:01:21.94 ID:PMpe1joZ0

モナーは少しだけ、楽しそうに笑う。

( ´∀`)「ここにある全てが最高傑作で、全てが僕の作品だもな」

('A`)「そう……か」

( ´∀`)「どうだもな?」

言って、モナーはゆっくりと足を止めて振り返った。
その両手は軽く前に突き出されている。まるで、何かを受け取ろうとしているかのように。

( ´∀`)「その二挺、僕に預けてみないかもな?」

('A`)「…………………」

ゆっくりと、ドクオは二挺を目の前に持ってくる。


33 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:01:42.52 ID:PMpe1joZ0

バレルに深く刻まれた醜い傷。
もはや使い物にならなくなってしまった二挺は、しかし「まだ戦える」とでも言いたそうに美しく輝いていた。

輝きは、語る。
「まだ戦える。戦いたい。戦わせてくれ」
「あんたの力になりたい。敵を、撃ち抜きたい」
「あんたが望むのならば、大切な者を護ってやろう。だから、だから―――」


      「 もう一度、俺達に力を! 」


気のせいかもしれない。
しかし自分のこの耳には、確かに彼等の声が届いた。

('A`)「でも、こいつらは……」

( ´∀`)「大丈夫。安心して良いもな。悪いようには絶対にしない。
      ……見た所、それらは誰かが心を込めて造った二挺だもな? 輝きが強くて、美しいもな。
      そんな美しい物を、悪く出来る訳がないもな。僕の命に賭けて、僕の人生の最高傑作にしてみせるもな」

その言葉に、ドクオはゆっくりと眼を閉じる。



35 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:05:48.63 ID:PMpe1joZ0

浮かぶのは、親友への想い。戦ってくれた、相棒への想い。


ごめんな、クロ。ギン。

俺の脆弱さのせいで、お前達を戦えなくしちまった。

お前達はいつでも戦いたがっていたのに。いつでも、俺を護っていてくれたのに。

……正直、もうお前達を扱う権利なんて俺にはないと思う。

でも、お前達が戦ってくれるというならば。俺にチャンスをくれるというならば、俺は―――。

俺は、お前達と共に戦いたい。今度こそ、最期まで。




ごめんな、ぃょぅ。お前が預けてくれた二挺を、こんなにしてしまった。

お前はこんな俺を信用して、子供とも言えるこいつらを俺に預けてくれたのに。

俺はこのままじゃ、お前に顔向けも出来ない。―――だから。

だから俺は、名誉挽回する。お前が望む以上に、この二挺を輝かせる。

頼む。またこいつらを、俺に撃たせてくれ。俺と、戦わせてくれ。

今度はお前への想いを。そしてこいつ等の想いを、弾に乗せてみせるから。


36 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:08:40.36 ID:PMpe1joZ0

眼を、開く。
そしてゆっくりと、二挺をモナーへと手渡した。

('A`)「頼んだぞ」

短い言葉。
しかしそれだけで想いは伝わったようだ。

( ´∀`)「頼まれたもな」

力強く、モナーは頷く。

('A`)「……変な事したら、全力でお前を殺すぞ」

( ´∀`)「安心して良いもな」

呟いて、モナーはその二挺を傍らのテーブルに置いた。
そして、ぐぐっと眼を細めて二挺を観察し始める。

( ´∀`)「……さて、ドクオ君。君の要望を聞きたいもな。
     この二挺に、君は何を望む。何を強化して、何を抑えたい?」

呟く彼の眼は、既に職人の眼だった。

その眼を見て、ドクオは思う。
あぁ、こいつなら―――きっと大丈夫だ、と。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


39 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:11:18.28 ID:PMpe1joZ0

(;゚Д゚)「こ、ここは……?」

ブーンやドクオのものと同じような部屋。
そのベッドの上で、ようやくギコは意識を取り戻す。

(;゚Д゚)「ぐっ……!」

しかし彼は唐突に、苦しげに腹を抑えた。
あの傷で逃亡の最後に暴れたのが、今になって響いたのかもしれない。

もう決して暑くはない季節だというのに、体中から汗が噴き出る。
傷口が、燃えるように熱い。無意識に、息が熱く荒くなっていた。

今まで眠っていられたのが不思議なくらいの苦痛だった。

「……大丈夫?」

苦痛にうめく彼の耳にそんな声が聞こえた。
彼は即座にそちらの方向に眼をやり―――そして、眼を見開いた。

ベッドの傍らに置かれた椅子。
そこに座っていたのは、しぃだった。

(;゚Д゚)「お前は―――ッ!!」

八重歯を剥き出しにし、半ば反射的に右腕を持ち上げようとする。
しかし思ったように上がってくれない。右腕が、酷く重く感じられるのだ。


41 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:15:19.99 ID:PMpe1joZ0

(;゚Д゚)「がっ……あぁっ……!?」

必死に力を込めて、ようやく持ち上がった右腕。
しかしその右腕は解放されない。

いくら力を込めても、いくら想いを注いでも。
彼の右腕は今、ほぼ完全に沈黙していた。

(;゚Д゚)「くそッ……何なんだよ……ッ! 反応しろよッ!」

震えながら握り絞められる右拳。
しかしその拳は―――しぃの左手に優しく抑えられた。

(;゚Д゚)「!? お前、何してんだ!? 放せ! 放せぇえぇっ!!」

(*゚ー゚)「安心して。……今の私は、もう敵じゃないよ」

しぃの言葉を聞いても、ギコに落ち着く気配はない。
傷からの苦痛が、彼の混乱に拍車をかけていた。

彼は必死で、しぃの左手を跳ね除けようとする。

しかしそれも出来ない。
小柄な少女の力でも簡単に抑えられてしまうほどに、右腕は沈黙していた。


42 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:18:27.47 ID:PMpe1joZ0

(;゚Д゚)「何で動かない!? 何で……!?」

(;゚ー゚)「……とりあえず、落ち着いてくれないかな? 
     君の右腕が動かない理由も説明しなきゃいけない。
     でも君がこのままじゃ、まともに話も出来ないよ?」

言って、彼女はギコの右腕を降ろさせた。
そこでようやく少し落ち着いたのか、ギコはしぃに混乱混じりの視線を向ける。

(;゚Д゚)「……これは一体、どうなってんだ? 教えてくれ」

(*゚ー゚)「お。落ち着いたね。よしよし。教えてあげようじゃないか」

満足そうに頷いて、彼女は言葉を続けた。

(*゚ー゚)「君の右腕は今、ほぼ全ての“力”を『戦い』とか『稼働』でなく『回復』に回してるんだよ。
    ほら。君、お腹に深ーい傷を付けられちゃったでしょ? その傷が相当深かったんだと思うよ。
    そんな状態で、また戦っちゃったらしいじゃん。そりゃあ、こうもなるでしょ」

(;゚Д゚)「ぐっ……」

(*゚ー゚)「ちなみに、今傷口が熱いのは君の細胞が大急ぎで再生してるからだよ。
    でも眼を覚ますまでに回復出来てるなら、すぐに痛みは薄れる。まぁ、二時間くらいの我慢だね。
    ほら。痛み止め。速効性がある奴だから、これでかなりマシになると思う」

(;゚Д゚)「む。す、すまん」

差し出された三つのカプセルを飲み込む。
三分もすると、痛みはあるものの燃えるような熱感は消えた。


45 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:22:12.98 ID:PMpe1joZ0

(*゚ー゚)「効いたみたいだね。良かった」

呟いて、彼女は安心からか溜息を吐いた。
そしてふと、頭痛がしたかのように頭をおさえる。

(,,゚Д゚)「! ……どうした?」

(*゚ー゚)「え? いや、別に……」

(,,゚Д゚)「別に、って事はねぇだろ。どうしたんだよ。素直に言いなさい」

(;゚ー゚)「何でそんなに高圧的なのさ」

(,,゚Д゚)「良いから。ほら。言え」

(*゚ー゚)「……別に。モララーに思いきり蹴られた場所が痛いなーってさ。
     頭だし、意識飛ぶくらいの勢いで蹴られたらそりゃ痛いよね。ははは」

(,,゚Д゚)「・……大丈夫なのか?」

(*゚ー゚)「え?」

ギコの言葉に、キョトンとするしぃ。


47 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:25:52.07 ID:PMpe1joZ0

(*゚ー゚)「いや……うん。別に、大丈夫だけど。……何で?」

(,,゚Д゚)「怪我してる奴が居たら心配するのは当たり前だろう」

(*゚ー゚)「私達は、敵だったんだよ?」

(,,゚Д゚)「関係ねぇな。それに、少なくとも今は敵じゃないんだろ?
     ……何で敵じゃないってーのかは、分らないがな。教えてくれるか?」

(;゚ー゚)「それを話しに来たんだよ……」

(,,゚Д゚)「……あれ? そうなのか?」

(;゚ー゚)「うん」

一瞬考えるような素振りをした後、「すまん」とギコの頭は下げられた。
しぃからはやはり疲れたような溜め息。それでいて堪えられなかったのか、笑みがこぼれた。

(;゚Д゚)「ぐっ……! で? 話って何だよ」

(*゚ー゚)「そうだそうだ」

そこで、しぃの表情が真面目なそれへと変化する。
視線はやや鋭くなり、口元はきゅっと結ばれた。

(*゚ー゚)「姉さんの言葉を、そのまま伝えるよ。
    『我々“削除人”はしばらくの間、お前達に牙を剥かない事を約束する』ってさ
    このホテルを自由に使う事も許可する、って」


49 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:27:34.55 ID:PMpe1joZ0

(;゚Д゚)「……は?」

(*゚ー゚)「何か分からない事でもあった?」

(;゚Д゚)「……何でいきなり、そんな友好的な」

(*゚ー゚)「君達が私達を助けてくれたから、だよ」

しぃは少しだけ、口元に笑みを浮かべる。
その微笑は、ギコが今までに見たどんな微笑よりも優しいものだった。

(*゚ー゚)「モララーとの戦闘の時、君達がいなければ私達はきっと全滅していた。
     敵だっていうのに、君達は私達をモララーの攻撃から何度も助けてくれた。
     逃げる時もブーン君とドクオ君はツンとフサさんを運んでくれて、ジョルジュ君とあなたは道を開いてくれた」

(,,゚Д゚)「……あぁ、そんな事もしたっけか」

(;゚ー゚)「忘れてたの?」

(,,゚Д゚)「いんや、何つーか……あの時は無我夢中で、頭ん中がぼんやりしてたからさ。記憶が曖昧なのさ。
    ……っつーか、お前あの時、意識失くしてクーに背負われてなかったか? 何で俺の行動を知ってるんだ?」

(*゚ー゚)「クー姉さんに聞いたんだよー」

(,,゚Д゚)「あぁ、なるほどな」

と、そこで。
コンコン、と二回のノックが部屋に響いた。


50 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:29:20.77 ID:PMpe1joZ0

(,,゚Д゚)「ん? 誰だ?」

「ジョルジュ君だよー」

(,,゚Д゚)「お、お前か。入れ入れ」

「うぃーす」

軽い声の後、扉が開く。
そして、その先にはジュルジュ―――そして、もう一人の影。

( ゚∀゚)ノ「や、ギコちゃん。それと……しぃさん?」

ミ,,゚Д゚彡「……失礼する」

茶色のコートに帽子を被った、長身の男。
もう一人の影は、フサだった。

彼を見て、ギコは眼を細める。

(,,゚Д゚)「あんた……確か」

ミ,,゚Д゚彡「俺はフサ、ってもんだ。よろしく」

(,,゚Д゚)「……あぁ」


51 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:31:13.66 ID:PMpe1joZ0

(*゚ー゚)「フサさん、どうしてこっちに?」

ミ,,゚Д゚彡「いや、ジョルジュがギコに会いたがったんでな。
      部屋案内ついでに、少し寄っただけさ」

(*゚ー゚)「クー姉さんはまだ話してるかな?」

ミ,,゚Д゚彡「まだだろう。あの話は、そんなちゃっちゃと終わる話ではないのだろう?」

(*゚ー゚)「うーん……まぁ、ね」

ミ,,゚Д゚彡「モナーもドクオと話してる頃だ。会議はもう少し時が経ってからだな」

(,,゚Д゚)「会議?」

ミ,,゚Д゚彡「“削除人”とお前達、合同の会議だ。
      これからの事など、色々と話し合わねばならない。そしてお互いに知り合わねばならん」

(,,゚Д゚)「……なるほど、な」

( ゚∀゚)「もう少し後、ね。それまで俺達は何してりゃ良いのさー?」

(*゚ー゚)「部屋でぐだぐだしてるのも良いし、ホテルの中をふらついてても良いよ。必要なら案内もする」



53 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:33:45.03 ID:PMpe1joZ0

( ゚∀゚)「ぬーん。どうするー? ギコちゃん」

(,,゚Д゚)「正直、今歩くのは辛いものがあるわけだが」

( ゚∀゚)「じゃあここにいる?」

(,,゚Д゚)「それも何だか悔しいな」

(;゚∀゚)「どっちなんだよ」

(,,゚Д゚)「むぅ……」

(*゚ー゚)「カフェにでも行ってみる?」

( ゚∀゚)「? カフェ?」

(*゚ー゚)「ここの十階にレストランとかカフェとかがあるんだ」

( ゚∀゚)「ほーっ! すごいな!」

(,,゚Д゚)「他にも何かあるのか?」

(*゚ー゚)「ミーティングルームにトレーニングジムに模擬戦闘の為の小規模体育館や道場。
     モナーさん専用の鍛冶場や医務室もあって、屋上には大庭園。地下には駐車場。他にも……」

(;゚∀゚)「あー、良い良い。もう良いや」

(*゚ー゚)「? そう?」


54 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:36:26.80 ID:PMpe1joZ0

(;゚Д゚)「ここが凄まじい所だってのが分かったからもう良い」

(*゚ー゚)「で? どうするの?」

(,,゚Д゚)「……カフェにでも行くか」

( ゚∀゚)「案内してくれるかなー?」

(*゚ー゚)「ん。任せて」

呟いて、しぃは椅子から立ち上がって廊下へと歩み出た。
ジョルジュは腹部の痛みにうめくギコに肩を貸し、ゆっくりと歩き出す。


55 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:36:45.43 ID:PMpe1joZ0

それをよそに、フサはすっと部屋から出た。
そしてギコの方に一瞬眼をやると、しぃに声をかける。

ミ,,゚Д゚彡「しぃ」

(*゚ー゚)「はい?」

ミ,,゚Д゚彡「俺は少し用がある。……また後で会おう」

それだけ言って、フサは廊下の奥へと消えてしまった。
しぃは一瞬だけ唖然とした後、溜め息と共に呟く。

(;゚ー゚)「本当に、あの人はよく分からない人だなぁ……」

( ゚∀゚)「ねーねー。早く案内してよー」

(*゚ー゚)「っとと。ごめんごめん。じゃ、行くよ」

言葉と同時、歩き出す。
すぐに廊下の先にあるエレベータに辿り着き、そしてその中へと三人は消えた。


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59 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:40:22.40 ID:PMpe1joZ0

ミ,,゚Д゚彡「…………………」

しぃ達から別れたフサは自室で一人、煙草を咥えていた。
その表情は、複雑。

ミ,,゚Д゚彡「あいつは……」

呟きかけて、言葉を飲み込んだ。


彼は、困惑していた。

弟を戦わせたくはない。
しかしこうなってしまえば、もはや弟の戦いを止める事は出来ないだろう。
同じラインに立って共に戦うか―――そうでなければ、最悪、弟と戦う羽目になる可能性もある。

共同戦線を張る、という事になれば弟とは戦わずに済む。
だが、その可能性は高くはない。クーは、「しばらく牙を剥く事はしない」としか言ってないのだから。

そもそも、最善策はこの戦線から弟を外す事なのだが。
その為に自分は弟から離れ、“削除人”に入ったのだ。

弟に害を為しかねない存在―――異能者を全て抹消する為に。
例え弟が異能者だったとしても、戦わずにいられるように。
戦いで大切なものを失くす辛さを知らないでいられるように。



61 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:43:13.90 ID:PMpe1joZ0

だが、それはもう既に叶わない。
弟は―――ギコは、異能者としての運命を受け入れてしまってるだろうから。
運命を受け入れて、そして戦う覚悟さえしているはずだ。だからこそ、“管理人”の基地に突入したのだ。

今更、止められない。
あの性格だ。止まるはずもないだろう。

ならば、自分には何が出来る?
クーに共同戦線を張る事を強く申し出てみるか。

いや、これだけではまだ足りない。
例え敵同士となっても、弟を生かせるような道は―――


弟を、自分が強くしてやるしかないんじゃないか。


出来ない話ではない。
あの性格だ。少し挑発でもすれば、すぐにその気になるだろう。

だがその場合、自分も本気で戦わねばトレーニングにはならない。
自分は、弟相手に本気を出せるのだろうか。

……いや、出さなきゃならないのだろう。
それが出来なければ、弟は死ぬだけだ。
そう思えば、何でも出来る。



64 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:45:14.22 ID:PMpe1joZ0

ミ,,゚Д゚彡「……まぁ、その話は置いておくか。
     クーの決断が出るまでは、俺はどうしようもない」

呟いて、口から紫煙を吐き出した。
塊として浮かび上がった煙はやがて散開し、空気に混じって見えなくなる。


考えなくてはならない事は、色々とある。

共同戦線を張らず対立という形になった時に、クー達はブーン達を殺せるのか。
モナーは「誰も死ななければ良い」と四人の為に武器を作成してるが……果たしてそれは良い事なのか。

しかしそれらの事も、「共同戦線を張るか否か」のクーの答えによって決まる。
それまではやはり、動きようがないのだろうか。


今、個人で考えられる事は、二つ。
“管理人”の事と―――クックルの事だ。

“管理人”はおそらく、闇雲に戦闘力を上げてくるだろう。
モララーやハインは勿論の事、軽くあしらう事の出来たミンナやつー、プギャーなどの戦闘力も強化されるはず。

更にそこに、おそらくは流石兄弟が介入してくるのだ。
死傷クラスのダメージを受けたはずだが、あの二人の回復力だ。死んでくれてはいないはず。

元々のずば抜けた戦闘力を更に上げてくるモララー、ハイン、流石兄弟。
戦闘力はあまり高くないものの、厄介な“力”を持つミンナにつー。
―――そして、『よく分からない存在』プギャー。



68 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:47:45.00 ID:PMpe1joZ0

異能者の“力”というのは、基本的に平等になるはずなのだ。

両腕や両足に“力”が宿れば特殊な“力”は持てなくなるし、
特殊な“力”が扱えるのなら“力”が宿る場所は四肢の内のどこか一箇所になる。

モララーのように特殊な“力”が強力ならば、全身のどこにも“力”は宿らない。

だがプギャーは、そうじゃない。異例なのだ。
変化する箇所は、一箇所。左腕が鎌になるだけだ。
特に何も特殊な“力”などもない。

それが、怖い。
流石兄弟のような例外もあるが、プギャーはその例には当てはまらない。

考えられる嫌な仮定。
それは『秘められた“力”が、まだ彼の中に眠っている』というもの。

それはあくまで仮定―――可能性の高い仮定だが、その仮定が当たってしまえばそれは怖い。
その“力”がどんなものであるのか。どれほど強力な“力”なのか、誰も分からないのだから。

今の“管理人”は、決して弱くない。
弱い者がいれば、もう既に『削除』されている。
……これ以上強化されるとなると、苦しいものがあるかもしれない。

ただでさえ、こちらは心強過ぎる仲間を失ったばかりなのだ。



71 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:49:12.83 ID:PMpe1joZ0

ミ,,゚Д゚彡「……クックル。お前がいれば」

クックル。
“削除人”の中で、間違いなく最強だった男。

不思議と、深い悲しみなどはなかった。
今まで無数に散っていった仲間の中に、そんな感情も落してしまったのかもしれない。

心にあるのは、何とも言えない喪失感。
そして、“管理人”―――モララーに対する怒りのみ。

クックルを失ってしまった。
大き過ぎる戦力を、失くしてしまったのだ。

しかもあの四人の言動からすれば―――あのショボンもこちら側かもしれなかったのだ。
あの男がこちら側に付いていれば、かなりの戦力だった事は間違いない。

しかしあの男でさえも、こうも儚く散ってしまった。


73 : ◆tAdHw/rYVY :2007/11/22(木) 23:51:14.89 ID:PMpe1joZ0

ミ,,゚Д゚彡「しかし、あのショボンが―――ね」

煙を吐いて、ふと眉根を寄せた。
あの男が四人の方に付いて、“管理人”を滅ぼしに行ったのか。

……最期まで、何を考えているのか本当に分からない男だったな。

ミ,,゚Д゚彡「…………………」

一際大きな紫煙の塊を吐き出して、灰皿に煙草を押しつけた。
丁度、その時。

『このホテル内にいる全ての者に連絡する。これより、会議を始めようと思う。
 速やかに、一階・ミーティングルームへ集まってくれ。以上』

部屋に備え付けられていたスピーカーから、凛とした声が響いた。

「やれやれ、やっとか」とフサは立ち上がる。
そしてコートと帽子を手にすると、ゆっくりと部屋から歩み出ていった。


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