十章3 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/10(土) 22:34:53.16 ID:fpBPvHR+0十章 運命 あー、みなさんお久しぶりです。ギコです。 いやぁ、今日はまったく意味が分かりません。 僕は異能者で、もしかしたら戦うかもしれないぞとか言われちゃって。 頭バグっちゃいそうですよ。ははは。 挙句の果てには、帰り道に二人の異能者らしき人達と出会っちゃったんですから。 (*゚ー゚)「ねぇ。どこ見てるの?」 その声に、現実逃避していたギコの意識は無理矢理戻された。 現状整理。 彼は帰ろうとしてる時に、共振を感じた。 嫌な予感を感じながらも、見れば前後に一人ずつ、異能者と思わしき人物。 一人は可愛らしい女性で、もう一人は茶色いコートと帽子を被った男。 その状況から彼は二人を異能者だと断定。現実逃避した。 現状整理、終了。 4 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/10(土) 22:37:46.49 ID:fpBPvHR+0 ギコはまだその二人が異能者だと確定していないのにも関わらず、敵意を剥き出しにする。 ギコは思い込みの激しい男だった。 彼は声のトーンを低くし、悪い目付きを更に悪くする。 口を開けば鋭い八重歯が覗いた。 (,,゚Д゚)「……で?何の用だ?」 (*゚ー゚)「まぁまぁ、落ち着いてよ。ギコ君?」 (;゚Д゚)「……何で俺の名前を知ってんだ」 彼女はポケットから小さな紙を出す。 そしてそれを見ながら言葉を紡ぎ始めた。 (*゚ー゚)「名前だけじゃなくて、色々と知ってるんだよね。 ……ギコ、ニューソク高校の二年ν組。良く言えば熱血、悪く言えば単純な人間。 他人想いで運動神経抜群と、まるで少年漫画の主人公のような男。血液型はO。それで獅子座で……」 (;゚Д゚)「……はぁ?」 (*゚ー゚)「もっと聞きたい?」 5 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 22:41:05.53 ID:fpBPvHR+0 (;゚Д゚)「いや、いらねぇ。俺の情報だし、聞く必要ない。だが……一体どこでそんな事を……」 (*゚ー゚)「姉さんが調べたの」 (,,゚Д゚)「はぁ?誰だよ姉さんって」 (*゚ー゚)「知らなくて良いでしょ?どうせあなたはここで死ぬんだから」 やっぱり異能者か、と、ギコはうなる。 「あなたはここで死ぬ」という発言からすると、“異能者を消そうとする組織”か。 めんどくさい、と彼は眼を細める。 彼は戦闘になった時の事を思考する。 自分は未だ自分の“力”を知らない、戦った事もない異能者。 元空手部。とは言っても一ヶ月で辞め、あとは本を読みながらの我流。 相手はおそらくベテランの異能者。それも二人。 勝てるわけがない、と彼は判断。 逃げるのは嫌いなんて言ってる暇じゃねぇな、と彼は思考。 6 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 22:44:15.25 ID:fpBPvHR+0 (;゚Д゚)「馬鹿な事を言ってんじゃねぇぞ。俺がここで死ぬ?んな事良いから帰らせろよ」 (*゚ー゚)「帰らせろ、だって?……何言ってるのさ。君に選択権なんてないんだよ?」 そう言い終えるのと、同時。 彼女のその左腕が変化を始めた。 異能者が身体を異形の物へと変化させる時に、決まって響く音。例えジョークでも良いとは言えない音。 だがその音とは対照的に、彼女の左腕は美しいものへと変化する。 黄金色の、光り輝く、美しいフォルムをした腕へ。 その腕を見ても、ギコは驚かない。 むしろ綺麗だと思ってしまう。 慣れてしまったのか。反吐が出るほどに嫌な慣れだ。 自己嫌悪し、ギコは一つ舌打ち。 女は、その変化した左腕を広げて言う。 (*゚ー゚)「今すぐにでも私はあなたを殺せるんだよ。 逆に言えば、あなたは私にその命を握られてるって事だけどね」 7 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 22:48:17.12 ID:fpBPvHR+0 彼女の言葉に、ギコの目付きが一変する。 彼女の変化を見ている内にいつのまにか大きく開かれていた瞳が、また細くなる。 だがそれは怒りや警戒と言った類ではなく―――汚い物でも見るような、そんな目付き。 ……ちっ。 こういう、慢心に満ちた言葉は大っ嫌いだ。 彼はそう思って、気付けば彼の口からは勝手に言葉が出ていた。 思った事はすぐに口に出してしまう、彼の悪い癖だった。 (,,゚Д゚)「……じゃあさっさと殺せよ。殺れるもんならな」 そして彼はすぐに言った事を後悔する。 それはそうだ。相手は本当に彼の存在を一瞬で抹消出来てしまうであろう存在なのだから。 だが、彼女は彼に怒りなど抱かなかった。 それどころか、俯いてしまう。 その時、ギコには―――ほんの少しだが、彼女の辛そうにする顔が見えた。 目を閉じて、何かを考えてるとも、何かを耐えてるとも取れる表情が。 だが、そんな顔はすぐに消えて、彼女は顔を上げる。 その眼に、光はなかった。 9 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 22:50:46.71 ID:fpBPvHR+0 (*゚ー゚)「……うん、分かった。君の存在、削除させてもらうね」 そう言うと、彼女は黄金色の左手を彼に向ける。 そして。 (*゚ー゚)「私は……しぃ。光を操る“力”を使って、異能者を削除してるよ」 そう言い終えるのと、同時。 その左手から一本の光の筋が発射された。 その光は一直線に―――異様な速度を持って、ギコの額目掛けて飛び行く。 (;゚Д゚)「――――――ッ!?」 嫌な予感がして、彼は直感的に左に飛びのく。 瞬間。彼のすぐ右からは、異様な音が響いた。 まるで、何かが溶けたような、弾けたようなジャッという音。 そんな異様な音の正体を確かめようと、ギコは自分の頭があった場所を見る。 10 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 22:51:07.32 ID:fpBPvHR+0 その壁にはビー玉サイズの穴が開いて、そこからは灰色の煙が立ち昇っていた。 (;゚Д゚) ポカーン (*゚ー゚)「あれ?「さっさと殺せ」じゃなかったのかな?」 (;゚Д゚)「るっせ!馬鹿かお前!あんなんお前……ねぇよ馬鹿!死ね!」 (#゚ー゚)「…………」 (;゚Д゚)「あ、すいません。何でもないっす」 (*゚ー゚)「……じゃ、今度こそとどめを刺させてもらおうかな」 (,,゚Д゚)「……その前に、ちょっと聞いて良いか?」 (*゚ー゚)「……まぁ、質問くらい答えてあげるよ。何?」 (,,゚Д゚)「何であんた達は異能者を殺してるんだ?別に殺す必要性なんざないと思うんだが。 つーかそもそも、あんた達自身異能者なのに、何で異能者を殺す?」 それは、ギコの最も聞きたい事だった。 それこそ、ショボンの話を聞いたその時から。 11 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 22:54:25.57 ID:fpBPvHR+0 彼は、他人を殺すという行為を理解出来ない。 “殺してしまった”というのは分かるが、“殺す” “殺そうとする”という行為を何故するのか。それが分からない。 それどころか彼は“傷付ける”という行為ですら何故するのかと思うほどだ。 もちろん、その“傷付ける”は肉体的・精神的両方の物だ。 何故他人を殺せるのか、傷付けられるのかが分からない。 それは悲しみや憎しみ、怒り等を産み出し、更なる殺意と混沌を招くだけだと言うのに。 誰かを殺した所で、傷付けた所で。その悲しみ等を背負う事は出来るのか? 他人の悲しみはどうやろうと他人の悲しみでしかなく、己ではその悲しみを背負えないと言うのに。 そう言った難しいうんぬんを抜きにした所で、何故人を害せるのか。 傷付ける事は、とてもとても悲しい事なのに。 (*゚ー゚)「……その理由は、人それぞれだよ」 (,,゚Д゚)「あんたの理由を聞いてるんだ」 そこで、しぃと名乗る女性は少し黙った。 そして、搾り出す様に、次の言葉を紡ぐ。 12 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 22:57:11.35 ID:fpBPvHR+0 (*゚ー゚)「人が、みんなみんな幸せになれたら良いよね。 でもね、異能者―――私達がいると、幸せになれない人が出ちゃうんだよ」 その言葉を吐き終えると、しぃの左腕が輝く。それはそれは、黄金色に。 (*゚ー゚)「異能者を殺したくて殺してると思う?……そんなわけないよ。 殺す事が、傷付ける事がどれだけ辛い事なのか―――分かる?」 そして。 (*゚ー゚)「みんなが笑って過ごせれば良いけど……それは、贅沢みたいなんだ」 さっき俯いた時に見せた悲しい顔で、彼女はそんな事を言った。 そして、光の筋を、放つ。 ギコは足を動かさない。動かせない。 頭の中がしぃの言葉でいっぱいになっていて、避けるという行為を忘れていた。 光はすぐに、ほぼゼロ距離まで接近。 彼はふっと―――無意識に、右腕を顔の前に出していた。 右腕は既に、異形の腕に変化していた。 いつの間に変化したのか。それを考える時間はなかった。 瞬間、空気いっぱいの風船が割れたような、軽い音。 光の筋は、彼の右腕で弾け、四方八方に飛び散っていった。 それこそ本当に、風船が弾けたかのように。 14 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 22:59:34.71 ID:fpBPvHR+0 (*゚ー゚)「……“力”を、発動したんだね」 (,,゚Д゚)「……出したっつーか勝手に出てきやがったっつーか」 (*゚ー゚)「あれ?それにしてもおかしいな。 私の“力”のレーザーは、ただの異能者の腕なんかだったら貫通出来るはずなのに……」 その言葉を聞いて、ギコは自分の手を見る。 そう言えば、俺の“力”とやらは何なんだ? ショボンは「燃えろ」だとか「凍れ」って念じればそうなるつってたけども……。 試してみるか。 そう思って、彼は道に落ちていた枯れ葉に手を向ける。 そして――― “燃えろ” ―――そう念じた。 15 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:01:57.73 ID:fpBPvHR+0 それから、一瞬。 低くて勢いのあるゴウっと言う音。 それと共に、その一枚の枯れ葉から三メートルほどの火柱が上がった。 その枯れ葉は一瞬で灰になり、媒介を失った炎はその姿を消す。 ギコはその様子を、眼をまんまるにして見ていた。 (;゚Д゚) ポカーン (;゚ー゚)「……何、もしかして今自分の“力”を知ったの?」 (,,゚Д゚)b 17 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:05:07.15 ID:fpBPvHR+0 ここで彼は、ふと気付く。 さっきから、コートの男が不動・不言な事に。 不振に思い、少しそちらに気を向けてみた。 帽子のせいで目は伺えないが、何か他とは違う雰囲気を出している。 何か―――殺意や怒気などではない、それでもどこか感じる物がある雰囲気。 (,,゚Д゚)「……あんたは、何だ?」 またも、言葉が思考よりも先に出た。 男はびくりと肩を震わせると、「あ、あぁ……」と言って帽子を外す。 そこから現れたのは、ギコよりも十歳ほど年上の男だった。 ……どこか、懐かしいような顔をしている、と、ギコは想う。 ミ,,゚Д゚彡「……俺はフサ。しぃに同じく、異能者を殺す為に動いている」 (,,゚Д゚)「あんたにも理由を聞いてみようか。あんたは何故異能者を殺す?」 ミ,,゚Д゚彡「……俺は……」 そこで、男……フサは、言葉を止めた。 そして。 18 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:08:01.28 ID:fpBPvHR+0 ミ,,゚Д゚彡「……いや、良い。言わないでおこう。そもそも、理由なんてもうないのかもしれないからな」 そう言って、フサと名乗る男は帽子を被り直した。 さっきよりも深く被ったせいで、彼の眼は完全に見えなくなった。 そして、彼は体の向きを変えて言う。 ミ,,゚Д゚彡「しぃ、後はお前だけで頼む。俺は……少し、休みたい」 しぃはあからさまに不振な顔をする。 (*゚ー゚)「えっ……?何でですか、フサさん?」 その言葉に、フサの声色が変わった。 ミ,,゚Д゚彡「……その理由は、君が知らなくても良い事だ」 その声色は、もう何も問うな、という声色だった。 乾ききっている、低い声。ただそれだけなのに、しぃはフサへの質問を止める事にした。 (*゚ー゚)「……分かりました。すいません、でしゃばってしまって」 ミ,,゚Д゚彡「…………」 その会話を終えると、フサはどこかへ歩いていった。 19 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:10:38.77 ID:fpBPvHR+0 何だ?アイツは、何かが違う。 何が違う?分からない。 去っていく彼の背中を見ながら、ギコは疑問を持つ。 あいつは……フサは、何か周りと違う。でもその何かがわからない。 腹の底に何かが溜まる感じがして、ものすごくもどかしい。 眼も、言葉の一つ一つも、雰囲気も、全てがギコに驚きに近い物を与えた。 その原因が、何なのかは分からない。ただ、彼の鼓動だけが早まっていた。 (,,゚Д゚)「……何だ、アイツは」 気付けば、彼はそう呟いていた。 気を抜けば口からの言葉は止まらなくなる。 (*゚ー゚)「そっちに気を向けてる暇なんてないんじゃないの?」 しぃの声が、ボーっとしていた彼の意識を無理矢理に戻す。もう二回目だ。 (;゚Д゚)「あー……見逃してくんない?」 (*゚ー゚)「……馬鹿じゃないの」 そう言って、またしぃは左手を輝かせる。 20 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:13:28.38 ID:fpBPvHR+0 ギコは、思考。 ……どうするか。 逃げても、隙丸出しの背中を撃ち抜かれる。 かと言って、ずっとこのままでいるわけにはいかない。もしかしたらこいつの仲間が来るかもしれない。 だが防御するにしても、この腕がいつまで持つかは分からない。 それに、あの光の筋は高速だ。防御するにも反応しきれないかもしれない。 戦うしかないわけか、これは。 あーあ。 女相手にってのはどうもなぁ……。 だが、仕方ない。 どうする。 接近戦を仕掛けるか? いや、そうしたら防御が出来なくなる。 ……“光”を溜めてる内に、殺すか? いや、そんな事は、俺には出来ない。 そもそも、異能者を殺す立場であんな事を考えてるような奴を殺せるか。 我ながら甘々だと思うが、せいぜい気を失わせる事くらいしか出来ない。 (;゚Д゚)「あー、くっそ。どうすっかな」 21 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:16:08.85 ID:fpBPvHR+0 (*゚ー゚)「何考えてるか分からないけど……じゃあね」 それから飛んで来る光線を、ギコはぎりぎりの所で右腕で拡散させる。 あるのはやはり、ちょっとした熱感程度だけ。 憎々しいその腕に助けられるというのも、複雑だった。 ギコは思考を再開する。普段あまり使わない頭が熱かった。 今のは防御出来た……が、いつまでも防御出来るとは限らない。 俺から仕掛けないと、この戦いは終わらない。 どうするか。 今、俺に何が出来る? 俺の“力”はこの腕と、炎。 これらを使って出来る、こいつを傷付けない方法は……。 やがて、その方法が一つ、彼の頭に浮かぶ。 それはひどく粗々しい方法だった。 ……ちょっと、試してみようか。 そう思考し、彼は制服の上着を脱ぐ。それを右手に持った。 しぃは彼の事を眉を寄せて見詰めている。 22 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:18:44.42 ID:fpBPvHR+0 (*゚ー゚)「……?何してんの?」 彼はその声に構わずに、考えた事を実行しようと、その上着を掌の上で丸めた。 そして――― (,,゚Д゚)「せぇ……のぉっ!!」 ―――そう叫んで、彼は制服の上着に一気に強めの火を付ける。 それと同時に、それをしぃに投げ付けた。 そして彼も、その動作の直後に走り出す。 まるで飛び行く制服の後ろをついていくように。 (;゚ー゚)「―――ッ!?」 丸めて投げた制服はある程度一直線にしぃに向かい、やがて空中で開く。 彼の予想が当たれば――― (;゚ー゚)「きゃっ!?」 ―――しぃは、その燃えた上着をしゃがんで避ける。 ギコの、予想通りだった。 23 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:21:08.36 ID:fpBPvHR+0 彼は、しぃがしゃがんで隙だらけになっている所を、彼女の後ろに回り込む。 そして、立ち上がろうとするしぃの首の後ろに、右手の爪を突き付けた。 (,,゚Д゚)「ゲームセット。試合終了だ」 彼の考えた策―――策と呼べるかも疑わしいような予定は、ひどく粗々しいものだ。 制服によって、しぃから彼の動きは見えなくなる。 彼は更にそれに火を付ける事で、しぃの意識を制服に釘付けにした。 運良く、その方法は上手くいった。 (,,゚Д゚)「動くな。……動けば、この首を跳ね飛ばす。左手の変化を解け。両手を上に挙げろ」 (;゚ー゚)「…………………」 そして、しぃは左手の変化を解いた。 彼の指示に従って両手も挙げる。 彼はしぃの前に回る。 そして、爪を当てる場所を首から額に移した。 25 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:23:46.80 ID:fpBPvHR+0 (*゚ー゚)「何で前に来たの?」 (;゚Д゚)「後ろからってーのは嫌いなんだよ。卑怯な気がする。 つーかそもそも女にこういう事するってーのは好きじゃないんだがな」 (*゚ー゚)「じゃあやめてよ」 (;゚Д゚)「やめたら俺死ぬじゃんよ」 (*゚ー゚)「あ、分かってんだ」 そう言って、しぃは状況を考えずにふふっと笑う。 ギコはその笑顔をかわいらしいと感じた。 もったいねぇなぁ、と呟きそうになって、慌てて口を閉じた。 (,,゚Д゚)「……なぁ。お前、異能者を殺して、心は痛まないのか?」 ギコは自分の発言に驚く。 俺は、何を聞いている。 散々異能者を殺してきた奴に、何を? まだ改心出来ると、そんな事を思っているのか? ドクオがギコに言いそうな言葉を、彼は自分の中だけで思考する。 26 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:26:44.15 ID:fpBPvHR+0 (*゚ー゚)「……痛まないわけ……ないでしょ」 (,,゚Д゚)「なら何故―――」 こいつを本当に改心出来ると、思っているのか? 自分自身にしたその質問の答えを、ギコは必死で思考する。 ドクオであれば、思考しないだろう。それがジョルジュであっても。 改心出来るかどうか、なんて感情は敵に抱く物ではない。 改心させる必要なんて、どこにある?敵を改心させる事に、何の意味がある? 彼の答えは、未だ出ない。 (*゚ー゚)「殺さないで良いなら殺さないよ……馬鹿じゃないの……」 (,,゚Д゚)「………………」 (*゚ー゚)「苦しいよ。殺して苦しくないわけないじゃん。でもね、殺さなきゃいけないの。 あなたにこの苦しみが分かる?今までのうのうと生きてきたあなたに、この苦しみが」 (,,゚Д゚)「……どうやっても、異能者を殺さないでいる事は、出来ないのか?」 ―――何故、俺はこんなに粘る? 敵に、何を望んでいるんだ? 27 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:29:38.60 ID:fpBPvHR+0 (*゚ー゚)「……言ったでしょ。異能者がいる事で悲しむ人が出るから、それは無理だよ。 より多くの人が笑える様にするには、私達が消えなきゃいけないの」 “異能者”と言わず、“私達”と言った。 自分もいつかは消えなければならないと、自覚していたのか。 他人が笑う為だけに自分が消えると、そう想ってきたのか。 それで、こんな言葉を吐いていたのか。 ……この苦しさは、半端じゃない。 自分を否定して生きているのは、そんなに楽じゃないはずだ。 ―――あぁ、何で俺がこんなに粘ってんのか分かった。 俺は、こいつをどうにかしてやりたいんだ。 こいつの考え方が、あまりにも優しすぎるから。 俺は優しい奴には弱いから。 ……改心させて、楽にしてやりたいんだ。幸せにしてやりたいんだ。 その想いが、またも彼の口から勝手に言葉を引き出す。 28 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:32:04.92 ID:fpBPvHR+0 (,,゚Д゚)「……そんな、もんじゃねぇと思うがな」 (*゚ー゚)「……何さ」 (,,゚Д゚)「異能者だって、人間だろ?人間同士で、何故笑い合えない?」 それは、ドクオが言っていた事を、彼なりに噛み砕いて言葉にした物。 反論はしていたものの、彼はドクオの言葉でかなり精神的に救われていた。 彼はそれを、今度は彼女にしてやろうとしていた。 (*゚ー゚)「人間だって言っても、全然違うじゃない!」 (,,゚Д゚)「どこが違うんだ?」 (*゚ー゚)「この“力”に決まってるでしょ!」 彼女は左腕を掲げた。 解放すれば黄金色に輝き、光線を撃ち放つ左腕を。 ギコは、その左手を、自身の変化した右手で握る。 優しく、包み込むように。人の温度ではない異能者の肌でも、人の温度を感じれるような優しさで。 (,,゚Д゚)「……別に、良いんじゃねぇか?」 (*゚ー゚)「……え?」 29 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:35:37.46 ID:fpBPvHR+0 (,,゚Д゚)「ちょっと頭が良い奴とか、ちょっと力が強い奴と、どこも違わねぇだろ。 しかも、俺達は力を意識して隠せる。それなのに、何故わざわざ消えなければならない?」 (*゚ー゚)「……でもっ!」 (,,゚Д゚)「異能者で悲しむ人がいるっつったがな……普通の奴でも、それは同じだろ。 誰かのせいで誰かが悲しむなんてのは、当たり前の事だ。それにな」 (*゚ー゚)「……?」 (,,゚Д゚)「俺達はこの力を隠して生きて、普通の人間として生きる事が出来る。 それで、俺達が生きる事で笑える奴だって出てくるだろうがよ。 その可能性をわざわざ潰す事なんてないだろ? 「笑える奴を増やしたい」そこに異能者かどうかなんて、関係ないんじゃねぇの?」 ゆっくりと、彼はしぃの手を放して、彼女から離れる。 そして、右腕の変化を解いた。 (,,゚Д゚)「……「苦しいよ」つったな。その苦しみは、お前が自分で招いた苦しみだ。 お前は、自分で自分を束縛してるんだよ。 無理矢理な理由で嫌な事を無理矢理に納得して、それ故に苦しんでる。 お前は、人を殺したくなんかないんだろ?……だったら殺さなきゃ良いじゃんよ。 分かってんだろ?自分の気持ちに素直になっても、それは許されるって事にさ」 口を閉じる。ギコは吐き出したい事を全て吐き出した。 30 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:38:16.73 ID:fpBPvHR+0 ここまで言って、こいつの気持ちが変わらなきゃ、もう無理だ。 こいつの気持ちは、俺と少なからず似ているのだから。 今のは、俺の気持ちを隠した上での綺麗事な言葉だ。 これ以上の言葉は、俺には言えない。 本心は、こいつと変わらないのだから。 これ以上の嘘は吐けない。 自分にも、こいつにも。 そこまで思考して、ギコはしぃにわざと背を向ける。 (,,゚Д゚)「ここまで言っても殺したいなら、殺せよ。俺はお前の気持ちが分からないでもない」 死にたくはない。 だが、これでこいつの気が晴れるのならば、とも思う。 彼は、自分自身があまり好きでなくなってきていた。 だから―――こいつには殺されても良いか、と、そう思っていた。 どんな言葉をかけられようとも、俺は異能者。異能者は、異能者として生きるしかない。 虐げられ、隠れ、逃げなければならない生活をするくらいならば、ここでこいつの役に立って死ぬのも良いだろう。 そう、思っていた。 (,,゚Д゚)「…………さ、どうなんだ?」 31 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:40:25.41 ID:fpBPvHR+0 それから、彼女は沈黙。 そして訪れた物は静寂。 どれくらい経ったか。 ギコの背後の地面。そこから、地面をこする音。 しぃが、立ち上がった。 まもなく、異能者が“力”を解放する時の音。いつからか聞きなれてしまった音。 続いて、彼女の“力”―――黄金色の光を、彼は背中に感じる。 彼女を救えなかった残念な気持ちと、死への少しの恐怖。 それを無視し、ギコはいつか来るであろう死に、目を閉じる。 33 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:45:37.32 ID:fpBPvHR+0 だが、衝撃はいつまで経っても訪れなかった。 その代わりに音が響く。しぃが崩れ落ちた音だった。 ギコはゆっくりと振り向く。 しぃは地面に膝をついて、下を向いていた。下の地面には、水滴の落ちた跡。 (,,゚Д゚)「……どうした?殺したいんじゃ、なかったのか?」 「……そこまで言われて……殺せるわけっ……ないでしょ……!」 俯いたしぃは、搾り出すように声を紡ぐ。 その声は短く震えていた。 (,,゚Д゚)「………………………」 「殺さなきゃいけないのにっ……何で……」 そう言うしぃに、彼は歩み寄った。 そして、腰を落とす。 (,,゚Д゚)「……しぃ」 しぃは反応しない。 ただただ、ぐずっているだけ。 34 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:48:58.14 ID:fpBPvHR+0 (;゚Д゚)「……………」 彼は、こういう空気が苦手だ。 何を言えば良いのか分からなくなる。 しかも、こんな時には「泣くなよ」とも言えない。 彼が泣かしたのと変わらないからだ。 殺されなかった喜びは、あまり感じなかった。 かと言って、生きていたのが残念ってわけじゃない。 彼の心は、そこよりも、目の前の女性。しぃに向いていた。 泣かしちまったなぁ……と、そう思っていた。 ふと思い出して、彼は制服のズボンからハンカチを取り出す。 それをしぃの目の前に無言で差し出した。 しぃが、そのハンカチを取る。 よほど今までが苦しかったのか、彼女は当分泣き続けていた。 35 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:52:07.66 ID:fpBPvHR+0 ……それから、数分後。 ようやくしぃは泣き止んだ。 彼女は立ち上がり、紅く染まった空を見ている。 (*゚ー゚)「………………」 (;゚Д゚)「………………」 この時間も、彼は好きじゃない。 かける言葉が見付からないのだ。 (*゚ー゚)「…………るよ」 (,,゚Д゚)「……え?」 (*゚ー゚)「今日は見逃してあげるよ。だけど、次に会った時には絶対に殺すからね」 (;゚Д゚)「……マジかよ。まだ言うか」 ギコがそう言い終えない内に、しぃはもう歩き出していた。 彼はその背が見えなくなるまで、それを眼で追い続ける。 37 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:54:51.68 ID:fpBPvHR+0 その背中が丁度見えなくなった時、彼はある事にハッと気が付いた。 慌ててその方向に視線を向ける。そして、絶望した。 (;゚Д゚)「制服……」 そう呟く彼の眼には、未だ音を立てて火を上げる制服。 まだ存在はするもののほとんど形は残しておらず、制服としての使用は不可能だ。 貯金、おろさねぇと……。 ちくしょう、燃やさなきゃ良かった。 苦々しく、そして悲しそうにギコが呟いたのは、それからすぐの事だった。 彼は制服の件を諦めると、家路に着いた。 彼の思考を占めているものは、自分の在り方と、自分のこれからについて。 彼はいつか離れてみたいと願った平和な日常から、少しずつ離れてしまっている事を感じていた。 彼は溜め息を一つ、紅く染まった空に吐く。 空は彼の事など知らないといった調子でその溜め息を飲み込んで、なお紅く輝いた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 39 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/10(土) 23:57:59.43 ID:fpBPvHR+0 ミ,,゚Д゚彡「……ふぅ」 夕焼けの紅い光が差し込む、小さな公園。 無人で、やけに寂しげな雰囲気が滲み出ている。 そこの小さなベンチで煙草に火を付けた俺は、煙と共に溜め息を吐いた。 煙は紅い空に吸い込まれていく。 胸の中にあるもやもやも、吸い込まれてしまえば良いのに、と感じた。 ミ,,゚Д゚彡「……まさか、あいつが……」 そうしようとは思わずとも、自然に言葉が口を出る。 誰もいないから良かったが、昔はよくこの独り言をからかわれたものだ。 ……俺は、今、何の為に戦うのだろうか。 少し前まで確立していた戦う理由が消えかけていた俺は、それについて考えていた。 今、俺は何の為に戦えば良い? むしろ、何をすれば良い? 異能者を狩るのを辞めて、あいつを護るか? いや、俺はそんな軽い気持ちで戦っていたんじゃないはずだ。 俺のような人の為? ……やはり、戦うしか、狩っていくしかないのか? 絶対に狩らなくちゃいけない、という理由はもう消えたのに? 40 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/11(日) 00:00:57.55 ID:JUxf0EV70 重い考えを消したくなって、もう一度煙を吐く。 その白い煙は紅い空に少しだけ残って―――ふわりと、その姿形を消す。 その時、ふと。 背後に人の気配を感じた。 俺は気付かない振りをする。 右手の人差し指と、中指だけを解放。もちろん、近付く人影には気付かれない程度に。 こんな無人の公園で、俺に接触しようとする人間。 そんなのは、きっと異能者だ。 一般人は、俺に声をかけようとしない。近寄らせない雰囲気を、わざと創り出している。 だから、俺に接触しようとする者は―――異能者、だ。 ゆっくりと、だが確実に気配は俺に向かって接近する。 そして、その影が俺に接触しようとした。 瞬間。俺は煙草をくわえたままに振り返る。 そして人物を確認しないままに、右手の指を人物の首に突き付けた。 41 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/11(日) 00:03:22.81 ID:JUxf0EV70 ミ,,゚Д゚彡「誰だ、貴様……っと?」 「随分な挨拶じゃないか、フサ」 その人物が誰かと知ると、俺はすぐに“力”を消す。 手も降ろし、謝罪の意として帽子を外して軽く頭を下げた。 ミ,,゚Д゚彡「……すまなかった。背後から接触されると、どうしても敵だと思ってしまうものでな」 「何、構わないさ」 見ると、彼女の後ろにはツンがいた。 ξ゚△゚)ξ「フサさん……何故ここに?」 ミ,,゚Д゚彡「………………」 「殺せなかったのか?」 そいつは、少し驚きの混じった声でそう言う。 42 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/11(日) 00:05:56.78 ID:JUxf0EV70 「まさか、力だけだったら私を凌駕する男が、素人異能者に負けるはずがないだろう?」 ミ,,゚Д゚彡「……それについては、後で話そう」 「……まぁ、良いだろう」 そいつはそう言うと、くるりと向きを変える。 「お前の事だ。今考えていた事を、まだ考えていくつもりなんだろ? 私達はいつもの場所にいる。考え終わったら、そこに来い」 無言で頷く。 彼女は歩み去っていき、それにツンもついていく。 後に残ったのは、新しい煙草をくわえた俺と、俺の苦悩だけだった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 43 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/11(日) 00:08:24.59 ID:JUxf0EV70 私は夕焼け色に染まった道をあてもなく歩いていた。 彼の言葉と、自分の想いと、そして“約束”に対する想いが、自分の中でぐるぐると回り続けていた。 私は、どうすれば良いのだろう。 もちろん、姉さん達を裏切るわけはない。 何せ、私の唯一の家族だから。 ……例え、血は繋がっていなくとも。 でも、私はこれから、今まで通りに戦えるのだろうか。 私は、戦いたくなんてない。 人を傷付けたり、悲しませたりする事なんて大嫌いだ。 今まで抑え付けて来たそんな想いを、彼が解放してしまった。 止めていた思考を、動かされてしまった。 殺したくなんかない。 彼の言う通り、普通に生きたい。 でも、私はそうする事は出来ない。 もっと、異能者を殺したりしなくても、みんなが笑える方法は……? 44 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/11(日) 00:10:53.66 ID:JUxf0EV70 そう思考していた時。 いきなり肩を叩かれた。 振り返ると、そこには姉さんとツン。 (*゚ー゚)「……姉さん」 「何も言わなくても良いさ。……私が思っていた以上に、あの少年達は強かった様だな。肉体も、精神も」 この言葉から、ツンも失敗したのだな、と分かった。 姉さんはいつも通りの冷めた表情だ。 表情を読み取る事が出来ない。 いつしか、ツンもこの表情に憧れて真似していたっけな。 やっぱりどこか不自然だったけど。 (*゚ー゚)「……姉さん、私……」 「ん?」 (*゚ー゚)「……いや、何でもない」 「むぅ……。あの少年達には、何か心を動かす何かがあったようだな」 私の表情から読み取ったのか、姉さんはいきなりそう言った。 45 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/11(日) 00:13:35.62 ID:JUxf0EV70 「良いだろう。答えが出るまで、考えるが良いさ。ツンも、お前も、フサも」 そう言って、姉さんは体の向きを変える。 ツンも、私も、フサさん、も? みんな悩んでいるのか。 そう思うと、どこか安心した。 ……姉さんも、きっと悩んでいるんだろうな。 本当は優しい人だから。 本当は、私よりもツンよりも、ずーっと、ね。 ……いつものどかに笑っているあの人も、滅多に喋らないあの人も、そうなのかな? 「ひとまず今日は帰るぞ。色々と話さなければならない事もあるしな」 姉さんはそう言って、歩き出した。 私はそれに、無言でついていく。 ツンもそうした。 今までもそうだった。 そして、私達のこれからも、そうだろう。 絶対に私達は姉さんを裏切らない。 夕陽が寂しげに輝いていた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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