二十九章二十九章 兄弟 从 ゚∀从「いぃぃやっはぁぁぁ!!」 黒銀の巨大な鋏を構え、ハインは侵入者へと走る。 彼女と彼の距離は一瞬にして埋まったが、しかし凄まじい勢いで振り下ろされた鋏は彼を捉えられない。 鋏は、彼の掲げた青い槍によって危なげなく止められていた。 ハインの渾身の一撃を軽く受け止めて見せた侵入者に向かって、モララーは凄惨な笑みで呼びかける。 ( ・∀・)「何をしにきた、クソ兄貴?」 ( ´∀`)「お前を殺しに来たもな、バカ弟」 言い返しつつ、鋏を弾き飛ばす。 それと同時に旋回し、ハインの横腹に叩きつける様に槍を振るった。 从 ゚∀从「ヒュゥ! 流石、武器の扱いに関しちゃ半端ねぇな!!」 しかしハインはバックステップでそれを回避。 そして距離を取ったまま、楽しそうに口を開いた。 从 ゚∀从「そういや、アンタからもらったコイツ、役立ってるぜ」 言って、黒と銀で構成された鋏を掲げる。 モナーはそれを見ると、眉根を寄せた。 ( ´∀`)「『闇夜と彗星』か、もな」 从 ゚∀从「おぅ、アンタからもらい受けて良かったよ」 ( ´∀`)「奪い取っただけじゃないかもな」 从 ゚∀从「細かい事はどうでも良いさ! さ、始めようぜ!!」 ( ´∀`)「もな!」 ハインは笑いながら、鋏を両手で持って大きく開く。 すると限界以上に開かれた鋏は分解し、二本の歪な刃へと姿を変えた。 右手に握るは黒の刃、左手に握るもう一本は銀の刃だ。 从 ゚∀从「行くぜ!!」 声に乗って、飛び出す。 対するモナーは、ハインの剣撃の軌跡を捉えようと眼を細めた。 ハインの握る剣は、元の形はハサミだ。よって、剣としての形状は歪んでいる。 その為、剣撃を捉えるのは普通の剣以上に難しい事になる。 それに加え、その歪な剣は二本。双剣だ。 剣撃の軌道を読み辛い双剣。それを扱う者はハイン。受ける側としては最悪だ。 しかし。 連続して、二度の金属音が響いた。 見ればハインの右腕は弾かれ、左腕の銀は槍で止められている。 ハインの眼は驚愕に見開かれている。 一本の槍で双剣を防がれるとは思っていなかったのだろう。 ひるがえる蒼槍。 銀の歪剣を弾いて一回転した槍の穂先が、ハインの頬を斜めに切り裂いた。 ハインは舌打ちをしつつバックステップ。 モナーは追う事をせず、ただ槍を構える。 从 ゚∀从「……流石。やってくれんじゃねぇか」 ( ´∀`)「本当は首を掻っ切るつもりだったもな」 从 ゚∀从「っつー事はあれだ。お前の力じゃあたしを殺せねぇって事だな」 ( ´∀`)「そうじゃないもな。答えはもっと単純だもな」 モナーは威嚇するように槍を振り回す。 光を弾いて青く輝く槍は残像を残し、モナーの周囲に青い空間を生み出した。 ( ´∀`)「弟を止める邪魔をするならば、君は死ぬ。 僕の邪魔をしなければ、君は死なない。それだけもな」 从 ゚∀从「言ってくれんじゃねぇか!!」 再度、飛び出す。 しかし今度は力任せに双剣を叩きつけるのではない。 双剣ならではの連撃の早さを生かした乱れ斬りだ。 四方八方からの高速の斬撃。 右が弾かれれば左が迫り、上方を防御しようものなら下方から迫る。 しかもハインの両腕は異能者として解放されている状態だ。 よって、一撃の早さと重さは尋常ではない。 しかし。 響くのはひたすらに金属音。肉を裂く音は、響かない。 モナーは二本の剣から繰り出される全ての斬撃を、一本の槍で受けきっていた。 从;゚∀从「てめぇっ……!?」 ( ´∀`)「武器の扱いで僕に勝てるとでも思ったもな?」 ハインは歯軋りして、更に剣撃の速度を速めた。 しかしモナーの表情は揺るがない。細い眼を更に細めて、淡々と剣撃を弾くだけだ。 (;゚ω゚)「な、何が起きてるんだお……!?」 ブーン達の眼には、もはやその戦闘は視覚出来なかった。 見えるのは、色だけ。 ハインが黒と銀の無数の線を撃ち出し、モナーが青を纏っているようにしか見えない。 从;゚∀从「何で一撃も入らない……ッ!?」 ( ´∀`)「相手が、僕だからもな」 从;゚∀从「ふざけんなっ……! あたしは―――」 ( ´∀`)「天才、もな?」 从;゚∀从「ッ!?」 ( ´∀`)「天才かどうかなんて、関係ないもな。 ただの凡人でも、頑張れば―――天才にだって勝てるもな」 そこで速く大きくひるがえる、青き槍。 それは一瞬でハインの右手の黒の歪剣を弾き飛ばし、更に左手の銀の歪剣すらも弾き飛ばす。 从;゚∀从「―――チィィッ!!」 咄嗟に、橙の拳を突き出した。 しかしそれは青の槍に軽く受け流され――― そして、モナーの姿が彼女の視界から消える。 从;゚∀从「なっ!? どこn」 言葉は、唐突に途切れる。 ハインの首の後ろに、モナーの手刀がぶつけられた為だ。 从; ∀从「がっ―――」 倒れ込むハイン。 その身体を受け止めて、モナーは一つ溜め息を吐いた。 (;゚ω゚)「な、何が……!?」 ( ´∀`)「攻撃を受け流された瞬間、ハインは僕の槍ばかり見ていたもな。きっと槍で攻撃されるとでも思ったんだもな。 意識が槍に向けられていれば、気付かせないで背後に移動する事は難しくないもな。武器は、傷付けるだけのものじゃないもな」 軽く槍を振り回すと、モナーは周りを見回す。 クーは苦しげな表情で腹部をおさえ、フサは白目を剥いて倒れている。 しぃは槍で壁に縫い止められ、ツンは背中の翼を無惨に切り飛ばされ戦闘不可能。 ( ´∀`)「クックルは―――」 彼はとある一点で眼を止めた。 瓦礫の山。その下には、紅が広がっている。 ( ´∀`)「……クー。クックルはどこだもな? ……あの、不自然な瓦礫の山は?」 川;゚ -゚)「…………………」 モナーの問いに、クーはただ首を横に振った。 モナーは何かを呟いて、瓦礫の山から眼を背ける。 その視線はゆっくりと移動し―――そして、モララーで停止した。 ( ・∀・)「よぅ、クソ兄貴。随分と来るのが遅かったじゃないか。 それにしても……ハインをあそこまで圧倒するとは。あんたも強くなってるようじゃないか」 ( ´∀`)「うるさいもな」 ( ・∀・)「ククッ。釣れないじゃないか。 久しぶりの感動の出会いだ。少しくらいお喋りしてみようじゃないか?」 ( ´∀`)「捕獲対象とのお喋りなんて必要ないもな?」 ( ・∀・)「そんなに私を捕まえたいか? 今ではこんな風だが、昔はとても仲の良い兄弟だったじゃないか」 ( ´∀`)「兄弟だからこそ、もな。僕はお前の兄で、VIPPERで、“削除人”だもな。 お前を絶対に止めなきゃいけない理由が、僕には無数にある。だから」 ( ・∀・)「だから私を止めると。何度も聞いた話だね。 あんたが私を止めると言うのなら、私はあんたを踏み潰して先に行くだけだ」 見せつけるように右腕を広げる。 空間が歪み―――一瞬の後、そこには細身の長剣が現われていた。 対するモナーは槍を構えつつ、近くでうめいているクーに声をかける。 ( ´∀`)「クー」 川;゚ -゚)「うっ……な、何だ?」 ( ´∀`)「遅れて、すまないもな」 そこでいよいよ、モナーの眼が鋭くなる。 槍を握る腕に力が込められ、ぎゅっと言う音を鳴らした。 ( ´∀`)「戦闘が―――いや、行動が可能になるのにどれくらいかかるもな?」 川;゚ -゚)「……正直、分からない。ふとももの損傷と内臓の損傷が治るのに、思った以上に時間がかかっている」 ( ´∀`)「そうか、もな。なら、それはそれで良いもな」 川;゚ -゚)「なっ……?」 ( ´∀`)「……こいつとの戦闘に、邪魔は入ってほしくないんだもな」 「だから」と、モナーは声の方向を変える。 声の矛先は、ブーン達だ。 ( ´∀`)「君達も、邪魔はしないでほしいもな」 ('A`)「……随分と身勝手な理由で、俺達にこいつを殺させないってのか?」 ( ´∀`)「そうだもな」 ( ゚ω゚)「ふざけんなお。僕達は……ショボンの想いを遂げてやらなきゃならないんだお」 その言葉で、少しだけモナーが揺れた。 だが、揺れたのは一瞬。モナーはすぐに、戦闘をする為の体勢へと戻る。 ( ´∀`)「それはこっちのセリフだもな。僕は何百の―――何千の人の想いを背負ってるんだもな。 君達とでは、背負ってる物が違い過ぎるもな。君達じゃこいつを止める事は許されないし、止められないもな」 そこで、モナーは槍を背後に向けて振るう。 響く金属音。見れば、長剣を振り下ろしたモララーがそこにいた。 ( ・∀・)「ハ。全部お見通しか」 ( ´∀`)「諦めろもな。もう、逃がさないもな」 ( ・∀・)「逃げないさ。あんたをここで殺す」 ひるがえる長剣。 横薙ぎに振るわれた長剣は、しかし槍の柄でいとも簡単に止められた。 モナーの足が跳ね上がる。 セーフティブーツに包まれたそれは確実にモララーの顎を砕く角度と速度を持っていたが、しかし彼の直前で止まる。 空間の壁だ。 彼はその好機を逃さない。 移動出来ない状態のモナーに対して、連続で鋭い突きを繰り出した。 だが。 モナーはその突きを全て槍で受け流してみせる。 そして何発目かの突きの際、モララーの手の中の長剣を弾き飛ばした。 モナーの動きに、モララーは眼を見開く。 片足が上がったバランスが悪い状態での動きにしては、それは滑らか過ぎた。 まるで、最初からそれを狙っていたかのように。 いや。 モナーは確かに、最初からそれを狙っていたのだ。 モナーの槍がひるがえる。 それは縦横無尽に、連続でモララーに叩き込まれた。 槍はモララーに届かない。空間の壁で止められているのだ。 しかし槍が叩き込まれるのと同時に、ガラスの砕けるような音が連続で鳴り響く。 空間の壁が、槍の一撃ごとに破壊されているのだ。 モララーは破壊された壁をすぐに造り直すが、すぐにまた破壊される。 しかも、モナーの槍は一撃毎に速度を上げている。 少しずつだが、しかし確実に、モララーは押されていた。 (;・∀・)「……チィィッ!!」 ( ´∀`)「お前の“力”は強いもな。異常なほどに。 でも、その“力”にも、穴があるもな。それは―――」 振るわれる槍。 一際大きく鳴り響く、軽い破砕音。 槍は一回転し、その石突がモララーの腹に向かって振るわれる。 石突は何にも止められず、真っ直ぐにモララーの脇腹を捕らえた。 (;・∀・)「がっ……!!」 吹き飛ぶモララー。 モナーはすぐに追撃するが、槍が振るわれた先にモララーはいない。 テレポートで逃げたようだ。 モナーは足を止めて、部屋の奥を見やる。 そこに、モララーはいた。モナーとの距離は大体15m。 (;・∀・)「げっ……ぐ……!!」 苦鳴。 それからまもなく彼は身体をくの字に折り曲げ、血液混じりの胃の内容物を吐き出した。 そして、膝を折る。 彼は四つんばいのような姿勢で、荒い呼吸を繰り返していた。 ( ´∀`)「お前の“力”は、『攻め』か『守り』のどちらかにしか働かないもな。 空間の壁を張っている間は、“力”を使っての移動や攻撃は出来ない。その逆も同じ。 だから、突け込めるもな」 モララーとの距離を縮める事もせず、ただ淡々と言葉を紡ぐ。 その眼には、ある決意の光だけが輝いていた。 ( ´∀`)「そしてお前の“力”は強力であるが故に脳の疲労も早いもな。 空間操作の“力”は、普段は寝ている脳の深部を無理矢理起こしているようなもんだもな。 だから“力”を連続で、または長時間使えばお前の脳は疲労しきる。“力”の効果も、薄まるもな」 ゆっくりと、歩み出す。 モララーは、まだ動きを見せない。 ( ´∀`)「……みんなのおかげで、お前の“力”は少しずつ弱まりつつあるもな。 本来、僕の槍でも一撃で空間の壁を破壊する事は出来ないはずもな。 みんなが戦ってくれたおかげで、僕の力がお前に通用するもな」 ちらり、とクックルが埋まっている瓦礫の山を見やる。 そして、その山に対して軽く礼を告げた。 ( ´∀`)「さぁ、覚悟しろもな。終わりだもな、モララー」 言いつつ、更に距離を詰める。 構えられた青い槍が、餌を待ち焦がれたように鋭く輝いた。 しかし。 そこで響くは、押し殺したような笑い声。 モララーが、笑っていた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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