三十二章前三十二章 真実 あの後、ブーン達はショボンのジープで逃走した。 そのジープで行く先は、“削除人”の所有するホテルだ。 フサやツン、しぃなどの動けぬ者を送り届ける為。 そして―――クーが、「話がある」とブーン達を招いたのだ。 最初はブーン達もその提案を疑っていたが、『「これから」を考える為には仕方ない』とその提案を承諾した。 そして――― ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ( ^ω^)「……お?」 茶色と黒を基調として造られた、落ち着くデザインの一室。 そのベッドの上で、ブーンは目覚めた。 (;^ω^)「おっ!? こ、ここどこだお!?」 上半身を起こして、一瞬、状況が把握出来ずに困惑する。 そこで足にじわりと広がった鈍い痛みに、昨日自分が何をしたのか思い出した。 ( ^ω^)「……そうだお。僕は“管理人”の研究所に乗り込んで、逃げて……そして……?」 「お前はジープの中で眠ってしまったんだ」 (;^ω^)「おっ!?」 どこからか聞こえてきた声に、ブーンは周りを見まわす。 それに一瞬遅れて、シックな茶色のドアが開かれた。 そこから現われたのは――― 川 ゚ -゚)「……起きたか」 “削除人”リーダー、クーだった。 (;^ω^)「ク、クー? ここは? いや、それよりも何で僕は……」 川 ゚ -゚)「ここは“削除人”の所有するホテルだ。 何でここにいるのか……少し考えれば思い出せるだろう?」 ( ^ω^)「お……」 自分が置かれてる状況を把握すると、少しずつ経緯を思い出した。 それと同時に、他の疑問が浮かんでくる。 ( ^ω^)「……みんなは?」 川 ゚ -゚)「お前と同じく、どこかの部屋で眠っている。身体的にも体力的にも、限界だったのだろう。 だが、命に別状はない。せいぜい強い痛みがある程度だろう。 治療出来る状態の人間がいない為、傷はそのままだが―――異能者の再生能力がある。大丈夫だろう」 ( ^ω^)「そうかお……」 ホッと一息つく。 三人が無事であると分かって、心底安心した。 特に、ギコだ。 傷の位置が悪かったのか、彼の出血量は半端じゃなかった。 死を、嫌でも想像してしまうほどに。 だからこそ、無事だと分かった時に訪れた安心は大きい。 ( ^ω^)「じゃあ、もう一つ質問良いかお?」 川 ゚ -゚)「何故私がここに来たのか、か?」 その言葉に、こくりとブーンは頷く。 クーは「ふむ」と頷くと、部屋に備え付けてあった椅子へと腰を下ろした。 川 ゚ -゚)「お前に、話がある」 ( ^ω^)「お?」 川 ゚ -゚)「一つ目。お前に礼を言う。ありがとう。 逃走する際、お前がいなければ……しぃもツンもフサも、死んでいた。 私一人じゃ、三人を抱えて逃げられなかった。お前が二人を抱えてくれたから、私達は生き残れた」 (;^ω^)「おっ? 僕、何か特別な事したっけかお?」 川 ゚ -゚)「……覚えてないのか? お前がツンとフサを抱えて逃げてくれた事を。 自分の身体を省みず、しかも敵である私達を躊躇なく助けてくれたじゃないか」 (;^ω^)「お、確かにそんな事もしたけど……そんな感謝される事かお? 死にそうな人を助けるのは、人間として当たり前の事じゃないかお」 川 ゚ -゚)「しかし、相手は敵だ。何度も命を狙ってくるような、紛れもない敵だ。 そんな者が死にそうだったからと言って助ける者は少ない。罵倒して放置する者がほとんどだろう」 (;^ω^)「ちょ、そんな事ないお。敵だ敵だなんて言っても、同じ人間だお。誰でも手くらい貸すお。 それにモララーを前にして、何度もお互いに助け合ったお。そんな相手を助けない方がどうかしてるお」 川 ゚ -゚)「む……だが……」 (;^ω^)「あー! もう良いじゃないかお! 助けたかったから助けたんだお! それで良いじゃないかお! 無駄に気負う事ないお。僕の好きでやった事だお。それよりもキリがなさそうだから、次の話を頼むお」 川 ゚ -゚)「……うむ。ありがとう。では、二つ目。 お前への礼として、しばらくの間“削除人”はお前達に牙を剥かない事を約束しよう。 このホテルも、自由に使ってくれて構わない」 その言葉に対して、ブーンは唖然とする。 イマイチ、現実性を帯びない話だった。 (;^ω^)「ほ、本当かお?」 川 ゚ -゚)「あぁ。嘘を言うメリットなどないし、そもそも恩人に嘘は吐かん」 (;^ω^)「何でそんな……」 川 ゚ -゚)「それが、最後の話だ」 そこで一度、クーは呼吸を入れる。 まるで、自分を落ち着かせようとするかのように。 川 ゚ -゚)「その話をする前に、ちょっとお前に言いたい事がある。 ……『ホーム』の話は、知っているか?」 ( ^ω^)「『ホーム』? 何だお、それ。知らないお」 川 ゚ -゚)「む。ならば、説明しよう。 『ホーム』というのは、『ファーザー』という異能者が創り上げた異能者保護施設だ。 私としぃ、そしてツンはその『ホーム』で育った」 ( ^ω^)「そんな施設があったのかお? ……でも、僕はそんな話を聞いた事がないお。 異能者の事件が大きく報道されてる今、そんな施設の情報がテレビで流れないって……」 川 ゚ -゚)「『ホーム』は報道されなくて当たり前だ。何せ、『ホーム』は既にこの世にないのだから。 人々に知られないように規模を大きくしていき、人々に知られない内にこの世から抹消された。 ……あの悪魔、モララーの手によって」 (;^ω^)「モララーに……!?」 川 ゚ -゚)「当時あいつは幼いにも関わらず、“力”を使いこなしてホームを襲撃した。 ほとんどの異能者は殺害され、ファーザーでさえもあいつに殺された」 ( ^ω^)「……君達は、何で生き残れたんだお? 何で君達が生き残れたのに、ファーザーは生き残れなかったんだお? 誰かを逃がす事が出来たのなら、自分が逃げる事も出来たはずだお」 川 ゚ -゚)「ファーザーが必死に私達を護ってくれたから、私達は生き残った。 他の異能者達も助けようとはしたのだろうが……その頃には、モララーが眼前に迫っていたんだ。 そしてファーザーは……自分から、モララーに向かって行った。『奴と、話をしたい』とな」 そこで一息入れて、クーは更に続ける。 川 ゚ -゚)「ファーザーは私達に少し話をすると、私達に別れを告げた。 それからモララーを挑発して誘導し、そしてある部屋に奴を閉じ込めたんだ。自分もろとも、な。 私達はその部屋の閉ざされてしまった扉を必死に壊そうとした。 しかし扉は頑丈で、壊すのに時間がかかってしまい……扉が開いた頃には、ファーザーは死に、モララーは消えていた」 そこでブーンは、いつのまにかクーの話に深く聞き入っていた自分に少し驚いた。 何故だろうか。この話が、脳にすごく染み渡ってくる。 『ファーザー』という知らない人物の思考が、手に取るように分かる。 きっと『ファーザー』は、モララーを止めてやろうと思ったのだろう。 幼い少年が“力”を使って、己と同じ境遇の者達を殺戮する―――そんなの、悲しすぎる。 そんな事をする理由を聞こうと。そして、出来ればモララーを『ホーム』に招こうと思っていたのだろう。 自分で考えた『ファーザー』の思惑。 そこには、何故か確信に近い物があった。 何故だろうか。 『ファーザー』が、どうしても遠い存在に想えないのだ。 それどころか、とてもとても近い存在……そう、それはまるで――― 川 ゚ -゚)「……そのファーザーに、お前は似ているんだ」 クーの言葉に、ドクンと心臓が強く打った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ('A`)「…………………」 ドクオは部屋の椅子の上で一人、虚ろな眼をしていた。 その両手には、親友から預けられた黒と銀の二挺の銃。 美しきそのバレルには、しかし無骨な斧によって付けられた醜い傷。 それはバレルの半ば以上にまで届いており、最早、二挺は咆哮をあげる事は出来ない。 ドクオの頭の中にあるのは、自責と自嘲と後悔。 親友から預けられた二挺を、こんな姿にしてしまった。 偉そうな事を言っていた割には、ちっとも仲間を護れなかった。 モララーを、討ち取れなかった。 ―――自分の無力さが、ショボンを殺してしまった。 舌打ちする。 自分は、何もしていないじゃないか。 何が、『仲間を護る』だ。 自分の身すら満足に護れずに、何をほざく。 自分の身すら護れなかったから、ショボンが代わりに死んだんだ。 もっと自分が強ければ。人を護れるほどの強さがあれば……! 過去を悔やんでも仕方ない。 いくら悔やんだところで死者は生き返らないし、自分は強くはなれない。 そう分かっていても、彼の頭の中の暗雲は晴れなかった。 ('A`)「……ショボン」 思い呟きが彼の口から漏れた、丁度その時。 コン、コン、コン……と、三回のノック。 そして続く、「ドクオ君、いるかもな?」というのんびりとした声。 深い溜め息。 “削除人”とは、あまり関わりたくなかった。 だが、頭の中の暗雲を少しでも忘れられるなら……。 そう思って、ドクオは口を開く。 ('A`)「いるぞ。……誰だ? 名前と、自分の特徴を言え」 「僕はモナー、だもな。特徴としては……昨日青い槍を持って登場した、異能者じゃないおじちゃんだもな」 ('A`)「……あぁ。お前、か。オーケー。入れよ」 「もな」 言葉に一瞬遅れてドアが開き、そしてのどかな表情の男が部屋に入ってきた。 その容姿を見て、ドクオは眼を細める。 一瞬、新手のミイラ男が来たのかと思った。 モナーはほぼ全身が包帯に包まれていた。 上半身に至っては、一瞬、包帯が白い服に見えたほどだ。 そして、腕に握るは杖。 顔には無数のガーゼ。 ('A`)「何だその格好は」 (;´∀`)「いや……。モララーにかなり深い傷負わされた上に、ミンナに色々されちゃって、だもな」 ('A`)「あ? いや……あぁ、そうか。お前は異能者じゃないんだったな。 つまり再生能力―――っつうか身体能力は人間並だもんな」 ( ´∀`)「そうだもな」 言い終えて、ゆっくりとドアを閉める。 ドクオはモナーに向けて、顎でベッドを指した。 『椅子は俺が使ってるから、お前はベッドにでも座れ』という意志表示だろう。 モナーは一つ頷くと、ベッドに腰を降ろした。 座る瞬間には少しだけ顔を苦しそうにして、「いたたた……」と笑う。 (;´∀`)「助かったもな。正直、ずっと立たされたままだったらキツかったもな」 ('A`)「……で? 用は、何だ?」 ( ´∀`)「もな」 そこでモナーは眼を閉じ、一つ息を吐いた。 そして眼が開く。しかしその眼は、さきほどまでの穏やかさの中に鋭さも兼ねていた。 ( ´∀`)「まずは、礼を言わせてほしいもな。君のおかげでフサ君……いや、みんなが助かったもな。 敵だと言うのに、戦闘中も何度も僕達を救ってくれた。戦闘不能になったフサ君を運んでくれた。 本当にありがとう、だもな。クーに代わって、僕が礼を言っておくもな」 ('A`)「……で?」 (;´∀`)「もな?」 ('A`)「まずは、って事は続きがあんだろ。そっちを話してくれ」 ( ´∀`)「……そうだ、もな。僕個人としては、こっちが本題になるもな」 ('A`)「勿体振った話し方をするな。さっさと話してくれ」 ( ´∀`)「君への礼として、モララーとの戦闘で破損した君のその二挺拳銃―――それを、僕に直させてほしいもな」 ドクオの眉根が寄せられる。 意味が分からない、とでも言いたげな表情だ。 ('A`)「……何言ってんだ、お前」 ( ´∀`)「自分で言うのも何だけど、僕は武器に関してはプロフェッショナルだもな。 だからその二挺を直すのも―――勿論パワーアップさせるのも、僕にとっては簡単な事だもな」 ('A`)「…………………」 ドクオの疑いの表情は、晴れない。 ( ´∀`)「ハインの振りまわしてたあのハサミ。 そして僕が持っていたあの槍が僕の作品だと言えば、信じてくれるもな?」 ('A`)「証拠がない」 ( ´∀`)「……なら、証拠を見せれば良いもな?」 ぐっ、とモナーはベッドから立ち上がる。 そしてドアの所まで歩いて行くと、ドアを開けつつドクオに言う。 ( ´∀`)「証拠を、見せてあげるもな。ついて来て欲しいもな」 ('A`)「な……」 ( ´∀`)「ほら。行かないもな?」 ('A`)「何でそんなにしてくれんだ? 俺達は、敵だぞ」 ( ´∀`)「―――多分だけど。次に“管理人”の所に攻め入る時、僕達は一時的に共同戦線を張ると思うもな。 多分、クーがそう提案するはず。そして、ブーン君を始めとした君達はそれを受け入れてくれるはず。 ……今度モララーと戦うなら、絶対に敗けたくないんだもな。だから、君達にも強くなっていてほしい」 「それに」と、モナーは続ける。 ( ´∀`)「こんなに良い二挺を壊したまんまにしておくのは勿体ないもな。 その子達はきっと、もっと輝ける。輝かせてあげたいんだもな」 それだけ言って、モナーはゆっくりと部屋から出て行った。 ドクオは一瞬だけ逡巡したものの、すぐに舌打ちしてモナーを追い駆けた。 長い廊下を歩き、エレベータで何階分か上に上がる。 上がった先ではまたも長い廊下を歩き、やがて一つのドアの前に辿り着いた。 ( ´∀`)「ここだもな」 呟いて、ドアを開ける。 その先には――― (;'A`)「――――――ッ!?」 眼を見開いたドクオの目の前にあるのは、台に乗せられた日本刀。 薄く青を帯びたその刃は恐ろしく鋭く、そして恐ろしく美しい。 よく見れば、刃にはとても繊細な華の装飾が刻み込まれていた。 (;'A`)「これは……」 ( ´∀`)「それは今作成中の、クーの使う刀だもな」 それだけ言って、モナーは部屋の奥へと歩んでいく。 その部屋は、他の部屋とはかなり異なっていた。 まず広さがかなりあり、設備も異常だ。 数多くの換気扇が取りつけられ、巨大な炉や異質な道具が揃ったその部屋は―――まさに鍛冶場、だった。 ドクオはゆっくりと、モナーの背を追ってみる。 そしてふと備え付けられた棚に眼をやって、驚愕にぽかんと口を開けた。 ここを『武器庫』とも称せるような量の多種に渡る武器、武器、武器。 剣、刀、鎌、槍、斧、薙刀、弓、手甲、鎚、鋏、銃……。 色もサイズも形状も全然違う、多種の武器が無数に棚に並んでいた。 中には何と呼ぶのかも分からない―――武器としてはまったく新しい形状の武器まである。 そしてそういった物を含む、棚に並べられた全ての武器は……身震いするほど鋭く、そして美しかった。 ( ´∀`)「ドクオ君」 歩みを止めずに、モナーが背後のドクオへと声をかける。 ドクオは棚から眼を離し、モナーへと向けた。 ( ´∀`)「信用して、くれたもな?」 ('A`)「……一応聞いておく。これらを、お前が?」 ( ´∀`)「そうだもな」 モナーは少しだけ、楽しそうに笑う。 ( ´∀`)「ここにある全てが最高傑作で、全てが僕の作品だもな」 ('A`)「そう……か」 ( ´∀`)「どうだもな?」 言って、モナーはゆっくりと足を止めて振り返った。 その両手は軽く前に突き出されている。まるで、何かを受け取ろうとしているかのように。 ( ´∀`)「その二挺、僕に預けてみないかもな?」 ('A`)「…………………」 ゆっくりと、ドクオは二挺を目の前に持ってくる。 バレルに深く刻まれた醜い傷。 もはや使い物にならなくなってしまった二挺は、しかし「まだ戦える」とでも言いたそうに美しく輝いていた。 輝きは、語る。 「まだ戦える。戦いたい。戦わせてくれ」 「あんたの力になりたい。敵を、撃ち抜きたい」 「あんたが望むのならば、大切な者を護ってやろう。だから、だから―――」 「 もう一度、俺達に力を! 」 気のせいかもしれない。 しかし自分のこの耳には、確かに彼等の声が届いた。 ('A`)「でも、こいつらは……」 ( ´∀`)「大丈夫。安心して良いもな。悪いようには絶対にしない。 ……見た所、それらは誰かが心を込めて造った二挺だもな? 輝きが強くて、美しいもな。 そんな美しい物を、悪く出来る訳がないもな。僕の命に賭けて、僕の人生の最高傑作にしてみせるもな」 その言葉に、ドクオはゆっくりと眼を閉じる。 浮かぶのは、親友への想い。戦ってくれた、相棒への想い。 ごめんな、クロ。ギン。 俺の脆弱さのせいで、お前達を戦えなくしちまった。 お前達はいつでも戦いたがっていたのに。いつでも、俺を護っていてくれたのに。 ……正直、もうお前達を扱う権利なんて俺にはないと思う。 でも、お前達が戦ってくれるというならば。俺にチャンスをくれるというならば、俺は―――。 俺は、お前達と共に戦いたい。今度こそ、最期まで。 ごめんな、ぃょぅ。お前が預けてくれた二挺を、こんなにしてしまった。 お前はこんな俺を信用して、子供とも言えるこいつらを俺に預けてくれたのに。 俺はこのままじゃ、お前に顔向けも出来ない。―――だから。 だから俺は、名誉挽回する。お前が望む以上に、この二挺を輝かせる。 頼む。またこいつらを、俺に撃たせてくれ。俺と、戦わせてくれ。 今度はお前への想いを。そしてこいつ等の想いを、弾に乗せてみせるから。 眼を、開く。 そしてゆっくりと、二挺をモナーへと手渡した。 ('A`)「頼んだぞ」 短い言葉。 しかしそれだけで想いは伝わったようだ。 ( ´∀`)「頼まれたもな」 力強く、モナーは頷く。 ('A`)「……変な事したら、全力でお前を殺すぞ」 ( ´∀`)「安心して良いもな」 呟いて、モナーはその二挺を傍らのテーブルに置いた。 そして、ぐぐっと眼を細めて二挺を観察し始める。 ( ´∀`)「……さて、ドクオ君。君の要望を聞きたいもな。 この二挺に、君は何を望む。何を強化して、何を抑えたい?」 呟く彼の眼は、既に職人の眼だった。 その眼を見て、ドクオは思う。 あぁ、こいつなら―――きっと大丈夫だ、と。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (;゚Д゚)「こ、ここは……?」 ブーンやドクオのものと同じような部屋。 そのベッドの上で、ようやくギコは意識を取り戻す。 (;゚Д゚)「ぐっ……!」 しかし彼は唐突に、苦しげに腹を抑えた。 あの傷で逃亡の最後に暴れたのが、今になって響いたのかもしれない。 もう決して暑くはない季節だというのに、体中から汗が噴き出る。 傷口が、燃えるように熱い。無意識に、息が熱く荒くなっていた。 今まで眠っていられたのが不思議なくらいの苦痛だった。 「……大丈夫?」 苦痛にうめく彼の耳にそんな声が聞こえた。 彼は即座にそちらの方向に眼をやり―――そして、眼を見開いた。 ベッドの傍らに置かれた椅子。 そこに座っていたのは、しぃだった。 (;゚Д゚)「お前は―――ッ!!」 八重歯を剥き出しにし、半ば反射的に右腕を持ち上げようとする。 しかし思ったように上がってくれない。右腕が、酷く重く感じられるのだ。 (;゚Д゚)「がっ……あぁっ……!?」 必死に力を込めて、ようやく持ち上がった右腕。 しかしその右腕は解放されない。 いくら力を込めても、いくら想いを注いでも。 彼の右腕は今、ほぼ完全に沈黙していた。 (;゚Д゚)「くそッ……何なんだよ……ッ! 反応しろよッ!」 震えながら握り絞められる右拳。 しかしその拳は―――しぃの左手に優しく抑えられた。 (;゚Д゚)「!? お前、何してんだ!? 放せ! 放せぇえぇっ!!」 (*゚ー゚)「安心して。……今の私は、もう敵じゃないよ」 しぃの言葉を聞いても、ギコに落ち着く気配はない。 傷からの苦痛が、彼の混乱に拍車をかけていた。 彼は必死で、しぃの左手を跳ね除けようとする。 しかしそれも出来ない。 小柄な少女の力でも簡単に抑えられてしまうほどに、右腕は沈黙していた。 (;゚Д゚)「何で動かない!? 何で……!?」 (;゚ー゚)「……とりあえず、落ち着いてくれないかな? 君の右腕が動かない理由も説明しなきゃいけない。 でも君がこのままじゃ、まともに話も出来ないよ?」 言って、彼女はギコの右腕を降ろさせた。 そこでようやく少し落ち着いたのか、ギコはしぃに混乱混じりの視線を向ける。 (;゚Д゚)「……これは一体、どうなってんだ? 教えてくれ」 (*゚ー゚)「お。落ち着いたね。よしよし。教えてあげようじゃないか」 満足そうに頷いて、彼女は言葉を続けた。 (*゚ー゚)「君の右腕は今、ほぼ全ての“力”を『戦い』とか『稼働』でなく『回復』に回してるんだよ。 ほら。君、お腹に深ーい傷を付けられちゃったでしょ? その傷が相当深かったんだと思うよ。 そんな状態で、また戦っちゃったらしいじゃん。そりゃあ、こうもなるでしょ」 (;゚Д゚)「ぐっ……」 (*゚ー゚)「ちなみに、今傷口が熱いのは君の細胞が大急ぎで再生してるからだよ。 でも眼を覚ますまでに回復出来てるなら、すぐに痛みは薄れる。まぁ、二時間くらいの我慢だね。 ほら。痛み止め。速効性がある奴だから、これでかなりマシになると思う」 (;゚Д゚)「む。す、すまん」 差し出された三つのカプセルを飲み込む。 三分もすると、痛みはあるものの燃えるような熱感は消えた。 (*゚ー゚)「効いたみたいだね。良かった」 呟いて、彼女は安心からか溜息を吐いた。 そしてふと、頭痛がしたかのように頭をおさえる。 (,,゚Д゚)「! ……どうした?」 (*゚ー゚)「え? いや、別に……」 (,,゚Д゚)「別に、って事はねぇだろ。どうしたんだよ。素直に言いなさい」 (;゚ー゚)「何でそんなに高圧的なのさ」 (,,゚Д゚)「良いから。ほら。言え」 (*゚ー゚)「……別に。モララーに思いきり蹴られた場所が痛いなーってさ。 頭だし、意識飛ぶくらいの勢いで蹴られたらそりゃ痛いよね。ははは」 (,,゚Д゚)「・……大丈夫なのか?」 (*゚ー゚)「え?」 ギコの言葉に、キョトンとするしぃ。 (*゚ー゚)「いや……うん。別に、大丈夫だけど。……何で?」 (,,゚Д゚)「怪我してる奴が居たら心配するのは当たり前だろう」 (*゚ー゚)「私達は、敵だったんだよ?」 (,,゚Д゚)「関係ねぇな。それに、少なくとも今は敵じゃないんだろ? ……何で敵じゃないってーのかは、分らないがな。教えてくれるか?」 (;゚ー゚)「それを話しに来たんだよ……」 (,,゚Д゚)「……あれ? そうなのか?」 (;゚ー゚)「うん」 一瞬考えるような素振りをした後、「すまん」とギコの頭は下げられた。 しぃからはやはり疲れたような溜め息。それでいて堪えられなかったのか、笑みがこぼれた。 (;゚Д゚)「ぐっ……! で? 話って何だよ」 (*゚ー゚)「そうだそうだ」 そこで、しぃの表情が真面目なそれへと変化する。 視線はやや鋭くなり、口元はきゅっと結ばれた。 (*゚ー゚)「姉さんの言葉を、そのまま伝えるよ。 『我々“削除人”はしばらくの間、お前達に牙を剥かない事を約束する』ってさ このホテルを自由に使う事も許可する、って」 (;゚Д゚)「……は?」 (*゚ー゚)「何か分からない事でもあった?」 (;゚Д゚)「……何でいきなり、そんな友好的な」 (*゚ー゚)「君達が私達を助けてくれたから、だよ」 しぃは少しだけ、口元に笑みを浮かべる。 その微笑は、ギコが今までに見たどんな微笑よりも優しいものだった。 (*゚ー゚)「モララーとの戦闘の時、君達がいなければ私達はきっと全滅していた。 敵だっていうのに、君達は私達をモララーの攻撃から何度も助けてくれた。 逃げる時もブーン君とドクオ君はツンとフサさんを運んでくれて、ジョルジュ君とあなたは道を開いてくれた」 (,,゚Д゚)「……あぁ、そんな事もしたっけか」 (;゚ー゚)「忘れてたの?」 (,,゚Д゚)「いんや、何つーか……あの時は無我夢中で、頭ん中がぼんやりしてたからさ。記憶が曖昧なのさ。 ……っつーか、お前あの時、意識失くしてクーに背負われてなかったか? 何で俺の行動を知ってるんだ?」 (*゚ー゚)「クー姉さんに聞いたんだよー」 (,,゚Д゚)「あぁ、なるほどな」 と、そこで。 コンコン、と二回のノックが部屋に響いた。 (,,゚Д゚)「ん? 誰だ?」 「ジョルジュ君だよー」 (,,゚Д゚)「お、お前か。入れ入れ」 「うぃーす」 軽い声の後、扉が開く。 そして、その先にはジュルジュ―――そして、もう一人の影。 ( ゚∀゚)ノ「や、ギコちゃん。それと……しぃさん?」 ミ,,゚Д゚彡「……失礼する」 茶色のコートに帽子を被った、長身の男。 もう一人の影は、フサだった。 彼を見て、ギコは眼を細める。 (,,゚Д゚)「あんた……確か」 ミ,,゚Д゚彡「俺はフサ、ってもんだ。よろしく」 (,,゚Д゚)「……あぁ」 (*゚ー゚)「フサさん、どうしてこっちに?」 ミ,,゚Д゚彡「いや、ジョルジュがギコに会いたがったんでな。 部屋案内ついでに、少し寄っただけさ」 (*゚ー゚)「クー姉さんはまだ話してるかな?」 ミ,,゚Д゚彡「まだだろう。あの話は、そんなちゃっちゃと終わる話ではないのだろう?」 (*゚ー゚)「うーん……まぁ、ね」 ミ,,゚Д゚彡「モナーもドクオと話してる頃だ。会議はもう少し時が経ってからだな」 (,,゚Д゚)「会議?」 ミ,,゚Д゚彡「“削除人”とお前達、合同の会議だ。 これからの事など、色々と話し合わねばならない。そしてお互いに知り合わねばならん」 (,,゚Д゚)「……なるほど、な」 ( ゚∀゚)「もう少し後、ね。それまで俺達は何してりゃ良いのさー?」 (*゚ー゚)「部屋でぐだぐだしてるのも良いし、ホテルの中をふらついてても良いよ。必要なら案内もする」 ( ゚∀゚)「ぬーん。どうするー? ギコちゃん」 (,,゚Д゚)「正直、今歩くのは辛いものがあるわけだが」 ( ゚∀゚)「じゃあここにいる?」 (,,゚Д゚)「それも何だか悔しいな」 (;゚∀゚)「どっちなんだよ」 (,,゚Д゚)「むぅ……」 (*゚ー゚)「カフェにでも行ってみる?」 ( ゚∀゚)「? カフェ?」 (*゚ー゚)「ここの十階にレストランとかカフェとかがあるんだ」 ( ゚∀゚)「ほーっ! すごいな!」 (,,゚Д゚)「他にも何かあるのか?」 (*゚ー゚)「ミーティングルームにトレーニングジムに模擬戦闘の為の小規模体育館や道場。 モナーさん専用の鍛冶場や医務室もあって、屋上には大庭園。地下には駐車場。他にも……」 (;゚∀゚)「あー、良い良い。もう良いや」 (*゚ー゚)「? そう?」 (;゚Д゚)「ここが凄まじい所だってのが分かったからもう良い」 (*゚ー゚)「で? どうするの?」 (,,゚Д゚)「……カフェにでも行くか」 ( ゚∀゚)「案内してくれるかなー?」 (*゚ー゚)「ん。任せて」 呟いて、しぃは椅子から立ち上がって廊下へと歩み出た。 ジョルジュは腹部の痛みにうめくギコに肩を貸し、ゆっくりと歩き出す。 それをよそに、フサはすっと部屋から出た。 そしてギコの方に一瞬眼をやると、しぃに声をかける。 ミ,,゚Д゚彡「しぃ」 (*゚ー゚)「はい?」 ミ,,゚Д゚彡「俺は少し用がある。……また後で会おう」 それだけ言って、フサは廊下の奥へと消えてしまった。 しぃは一瞬だけ唖然とした後、溜め息と共に呟く。 (;゚ー゚)「本当に、あの人はよく分からない人だなぁ……」 ( ゚∀゚)「ねーねー。早く案内してよー」 (*゚ー゚)「っとと。ごめんごめん。じゃ、行くよ」 言葉と同時、歩き出す。 すぐに廊下の先にあるエレベータに辿り着き、そしてその中へと三人は消えた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ミ,,゚Д゚彡「…………………」 しぃ達から別れたフサは自室で一人、煙草を咥えていた。 その表情は、複雑。 ミ,,゚Д゚彡「あいつは……」 呟きかけて、言葉を飲み込んだ。 彼は、困惑していた。 弟を戦わせたくはない。 しかしこうなってしまえば、もはや弟の戦いを止める事は出来ないだろう。 同じラインに立って共に戦うか―――そうでなければ、最悪、弟と戦う羽目になる可能性もある。 共同戦線を張る、という事になれば弟とは戦わずに済む。 だが、その可能性は高くはない。クーは、「しばらく牙を剥く事はしない」としか言ってないのだから。 そもそも、最善策はこの戦線から弟を外す事なのだが。 その為に自分は弟から離れ、“削除人”に入ったのだ。 弟に害を為しかねない存在―――異能者を全て抹消する為に。 例え弟が異能者だったとしても、戦わずにいられるように。 戦いで大切なものを失くす辛さを知らないでいられるように。 だが、それはもう既に叶わない。 弟は―――ギコは、異能者としての運命を受け入れてしまってるだろうから。 運命を受け入れて、そして戦う覚悟さえしているはずだ。だからこそ、“管理人”の基地に突入したのだ。 今更、止められない。 あの性格だ。止まるはずもないだろう。 ならば、自分には何が出来る? クーに共同戦線を張る事を強く申し出てみるか。 いや、これだけではまだ足りない。 例え敵同士となっても、弟を生かせるような道は――― 弟を、自分が強くしてやるしかないんじゃないか。 出来ない話ではない。 あの性格だ。少し挑発でもすれば、すぐにその気になるだろう。 だがその場合、自分も本気で戦わねばトレーニングにはならない。 自分は、弟相手に本気を出せるのだろうか。 ……いや、出さなきゃならないのだろう。 それが出来なければ、弟は死ぬだけだ。 そう思えば、何でも出来る。 ミ,,゚Д゚彡「……まぁ、その話は置いておくか。 クーの決断が出るまでは、俺はどうしようもない」 呟いて、口から紫煙を吐き出した。 塊として浮かび上がった煙はやがて散開し、空気に混じって見えなくなる。 考えなくてはならない事は、色々とある。 共同戦線を張らず対立という形になった時に、クー達はブーン達を殺せるのか。 モナーは「誰も死ななければ良い」と四人の為に武器を作成してるが……果たしてそれは良い事なのか。 しかしそれらの事も、「共同戦線を張るか否か」のクーの答えによって決まる。 それまではやはり、動きようがないのだろうか。 今、個人で考えられる事は、二つ。 “管理人”の事と―――クックルの事だ。 “管理人”はおそらく、闇雲に戦闘力を上げてくるだろう。 モララーやハインは勿論の事、軽くあしらう事の出来たミンナやつー、プギャーなどの戦闘力も強化されるはず。 更にそこに、おそらくは流石兄弟が介入してくるのだ。 死傷クラスのダメージを受けたはずだが、あの二人の回復力だ。死んでくれてはいないはず。 元々のずば抜けた戦闘力を更に上げてくるモララー、ハイン、流石兄弟。 戦闘力はあまり高くないものの、厄介な“力”を持つミンナにつー。 ―――そして、『よく分からない存在』プギャー。 異能者の“力”というのは、基本的に平等になるはずなのだ。 両腕や両足に“力”が宿れば特殊な“力”は持てなくなるし、 特殊な“力”が扱えるのなら“力”が宿る場所は四肢の内のどこか一箇所になる。 モララーのように特殊な“力”が強力ならば、全身のどこにも“力”は宿らない。 だがプギャーは、そうじゃない。異例なのだ。 変化する箇所は、一箇所。左腕が鎌になるだけだ。 特に何も特殊な“力”などもない。 それが、怖い。 流石兄弟のような例外もあるが、プギャーはその例には当てはまらない。 考えられる嫌な仮定。 それは『秘められた“力”が、まだ彼の中に眠っている』というもの。 それはあくまで仮定―――可能性の高い仮定だが、その仮定が当たってしまえばそれは怖い。 その“力”がどんなものであるのか。どれほど強力な“力”なのか、誰も分からないのだから。 今の“管理人”は、決して弱くない。 弱い者がいれば、もう既に『削除』されている。 ……これ以上強化されるとなると、苦しいものがあるかもしれない。 ただでさえ、こちらは心強過ぎる仲間を失ったばかりなのだ。 ミ,,゚Д゚彡「……クックル。お前がいれば」 クックル。 “削除人”の中で、間違いなく最強だった男。 不思議と、深い悲しみなどはなかった。 今まで無数に散っていった仲間の中に、そんな感情も落してしまったのかもしれない。 心にあるのは、何とも言えない喪失感。 そして、“管理人”―――モララーに対する怒りのみ。 クックルを失ってしまった。 大き過ぎる戦力を、失くしてしまったのだ。 しかもあの四人の言動からすれば―――あのショボンもこちら側かもしれなかったのだ。 あの男がこちら側に付いていれば、かなりの戦力だった事は間違いない。 しかしあの男でさえも、こうも儚く散ってしまった。 ミ,,゚Д゚彡「しかし、あのショボンが―――ね」 煙を吐いて、ふと眉根を寄せた。 あの男が四人の方に付いて、“管理人”を滅ぼしに行ったのか。 ……最期まで、何を考えているのか本当に分からない男だったな。 ミ,,゚Д゚彡「…………………」 一際大きな紫煙の塊を吐き出して、灰皿に煙草を押しつけた。 丁度、その時。 『このホテル内にいる全ての者に連絡する。これより、会議を始めようと思う。 速やかに、一階・ミーティングルームへ集まってくれ。以上』 部屋に備え付けられていたスピーカーから、凛とした声が響いた。 「やれやれ、やっとか」とフサは立ち上がる。 そしてコートと帽子を手にすると、ゆっくりと部屋から歩み出ていった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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