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LOYAL STRAIT FLASH ♪

四十章三

29 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 19:21:18.35 ID:zBV4RgJO0
  
なるほど、とジョルジュは頷いた。
ハインがおかしかった理由は、あいつだったんだな、と。
どういうわけか分からないけど、とにかくあいつを原因に、ハインがどうにかなったのだ、と。

( ゚∀゚)(それにしても、あいつが―――?)

彼の視線の先。華奢な矮躯がある。
白い身体にはホットパンツとラフなシャツを纏い、黒のブーツを履いている。手には指抜きの黒い革手袋だ。
普通に見えるその服装は、しかし身に付けているアイテムによって異常のそれになっていた。

腰には二本のベルトを巻き、そこからは幾種ものナイフホルスターが無数に固定されている。
それだけに留まらない。太ももに巻いたベルトや、二の腕に巻いたバンドのような物にもホルスターがあった。
ブーツにも数本のナイフが見える。つまり彼女はその全身に、ナイフを装備していた。

一際目立つのは、腰に下げられた二つの鞘だ。
ベルトとパンツによって腰の両側に固定されているそれは、他とは一線を画すサイズをしていた。

物騒な装備を小柄な身体に纏った彼女の名は、つー。
人格を奪われ、殺人狂と化した少女。
ハインが心を乱し、救おうと躍起になっている存在。

彼女はしばらくその場に停止し―――

(*゚∀゚)「……ははっ」

笑った。
背筋がぞくりとする、厭な笑いだった。


31 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 19:24:12.84 ID:zBV4RgJO0
 
「は」という音は連続し、静寂となった室内に響く。
やがてそれが収まると、彼女は笑みを浮かべたまま、

(*゚∀゚)「何これ。初っ端からデザート? 良いのこれ?」

と呟いた。

ハインは依然、混乱に身を揺らし、
だが次の一瞬。戦慄に、身を硬くした。
鋏を構え、歯を剥く。鋭く細めた眼には、しかし混乱が浮かんでいた。

从#゚∀从「……よぉ、つー」

(*゚∀゚)「ははっ。やっぽー」

从#゚∀从「テメェが返事するんじゃねぇ。テメェはつーじゃねぇだろうが。
      ……テメェ、どうしてこっちに来やがった? テメェの担当は北側だろうが」

(*゚∀゚)「あー、ちょっとね。おっさんに、こっちは良いからあっちに行けって。
     こっちには私の好きなモノがいっぱいあるぞって、ね」

つーの意味不明な言葉に、ハインは眉根を寄せる。

从#゚∀从「あ? 何だそりゃ。誰だ、そのおっさんってのは」


33 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 19:27:10.96 ID:zBV4RgJO0
  
(*゚∀゚)「あー……何つったっけ。あの眉毛が垂れ下った、どうもいけすかない奴。
    ほら、テレパシーみたいな"力"を持った、元"管理人"の異能者」

眉の上辺りを指先で叩いて、名前を思い出そうと唸るつー。
一方、ハインの口は、思考するまでもなく、勝手に言葉を漏らしていた。

从 ゚∀从「―――ショボン、か?」

(*゚∀゚)「あー、そうそう。ショボン。そんな感じ。
    奴には私を『表』に出してもらったっていう借りもあったし、私もこっちには来たかったからね。
    どうせなら楽しみたかったし、あいつに場所を預けて、こっちに来ちゃいましたー」

いえーい、と笑う彼女に対し、ハインの顔から表情が消える。

从 ゚∀从「……おい、待て。テメェ、今何つった?」

(*゚∀゚)「へ?」

从#゚∀从「お前を『表』に出した……そう言ったか?
      ショボンが、つーを『内側』に閉じ込めて、テメェを『こっち側』に出したのか?」

徐々に表面に出てきた感情の名は、怒りと、希望だった。

(*゚∀゚)「そうだよ? この物語を面白くする為だとか何だとかのたまってね。言わなかったっけ?
    あいつがあんたの大切なつーちゃんを殻に閉じ込めて、私を自由にしてくれた。感謝だよね」

从#゚∀从「つまり」


34 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 19:30:09.94 ID:zBV4RgJO0
  
(*゚∀゚)「そうだね。あいつを殺せば、つーちゃんを覆う殻は壊れる―――っつーか、なくなるだろうね」

从#゚∀从「――――――ッ!!」

息を呑むと、ハインは歩き始めた。
それは一歩ごとに速くなり、やがて走りへと変わる。

必死だった。
つーを助け出せる方法がある。ならば、一刻でも早く、彼女を解放してやらねば。

だがその脚は、止まる。止められる。
つーの形をした化け物の姿が、目の前にあった。
その右手は持ち上げられ、握られたナイフがハインの喉に突き付けられている。

どのように動いたのか、まったく分からなかった。
ただ、銀の輝きが途轍もなく眩しくて、途轍もなく憎々しかった。

从#゚∀从「テメェ……」

(*゚∀゚)「行かせるかよ、馬ぁぁぁぁ鹿。そんな簡単に、せっかく作ってもらった殻を壊させるわけがないでしょうが。
    それに、私がこっちに来た理由、言ったろ? 楽しむ為。
    どういう意味か、分からないあんたじゃないでしょ?」

無邪気で、何よりも残酷な笑みを浮かべた。

(*゚∀゚)「殺しに来たんだよ。バラバラに、心行くまで。
    つーちゃんの大切なお姉ちゃんと、つーちゃんに頼りにされてるジョルジュ君をね。
    さぞやつーちゃんは悲しむだろうねぇ。私は、それが楽しいんだ」


36 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 19:33:12.76 ID:zBV4RgJO0
  
自分の中の何かが、沸々と滾る。
今すぐにでも、目の前の化け物に殴りかかりたい。つーの姿がそれを抑制していた。

殺しに来ただとか、そういうことはどうでも良かった。
つーを悲しませようという意志が、どこまでも彼女を苛つかせた。

(*゚∀゚)「それに、どちらにせよ邪魔者は消すつもりだった。あんたみたいな何て事無い雑魚でもね。
    そんであんたを消すには、今は絶好のチャンスだ。
    私はあんたを消して、ジョルジュクンを消して、ついでにそこのおっさんも殺して、外に出る。自由になる」

(*゚∀゚)「自由に殺す。殺して回る。殺し尽くす。私が生きる限り殺す。
    我慢させられてた分を放散してやる。……はは、考えただけでゾクゾクするね。イッちゃいそうだ」

从# ∀从「…………!!」

噛み締めた唇が血を噴き、握り締めた拳が血の色を失くす。
つーの口で、姿で、そんな事を言う事が許せなかった。

力づくでもその言葉を止められない自分の無力さが、もっと許せなかった。

(;゚∀゚)「……おい、待て。お前、今の話どういう事だ。
    つーが、どうしたって?」

(*゚∀゚)「っはは。会いたかったよ、ジョルジュ君。
    君への想いで私の胸は張り裂けそうでした。
    なので私はあなたの胸を引き裂いてあげようと思います。心の底から感謝してください」

(#゚∀゚)「っるせぇ! 答えろ!!」


38 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 19:36:11.53 ID:zBV4RgJO0
  
怒声に、つーは「はっ」と笑ってみせる。

(*゚∀゚)「うるさいのはあんただよ。誰が喋って良いって言ったよ?
    何なら、喋れなくしたげよっか? その白い綺麗な喉、掻っ捌いてさ?」

(#゚∀゚)「テメェ……!」

(*゚∀゚)「……く、くくく。その顔。あんたも、悔しいんだ? あは、はははははは! ひゃっはははははは!!」

(#゚∀゚)「何が楽しいんだ、コラ」

ジョルジュの中でも、ハインと同じように怒りが渦を巻いていた。
何かが、無性に気に食わなかった。それはきっと、過去の自身にあった何かだった。
仮面。もう一つの人格。それに塗り潰される『自分』。何かがだぶって、とにかく気に入らなかった。

それを知ってか知らずか、つーはより一層声を高くした。

(*゚∀゚)「全てだよ! 楽しくて楽しくて、嬉しくて仕方がないよ!! 今日は多分、最高に良い日だ!
    姉貴面したうざってぇ女と、ずっとずっと殺したかった野郎を同時にぶっ殺せるなんてねぇ!!
    どうやって殺そうか、どうやって痛めつけようか! 出来るだけ苦しませたいねー。何てったって、久々の御褒美だもんな。楽しまないと!!」

(*゚∀゚)「何てったって、大好きな彼と大切なお姉ちゃんだもんなぁ。特別だよ、ト・ク・ベ・ツ!
    じっくりじっくり殺して、しっかり頭に焼き付けてやるよ! 内側のつーちゃんの為にもね!
    その顔が苦痛と悔しさにぶっ壊れるまで、その喉が絶叫で枯れ果てるまで、その輪郭が影もなくなるまで、じっくりと調理してあげるよ!!」

从#゚∀从「いい加減にしろよ、コラァアァァッ!!」(゚∀゚#)

ハインが首元のナイフを掴み、握り砕く。ジョルジュが一気に距離を詰め、その右腕を巨大な拳に変えて振るう。
二人が起こした行動は、一切の同時だった。


39 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 19:39:17.96 ID:zBV4RgJO0
  
それに対し、つーの動きは滑らかだった。
舞うように軽やかなステップで後退して、ジョルジュの拳を回避。
無駄のない動作でベルトから二本のスローイング・ナイフを抜き、投擲。

二つの銀の輝きは正確に二人の喉笛へと飛び、そしてそれぞれ、弾け飛ぶ。
二つの橙の異形が、振るわれていた。
片や、型のない特異の右腕。片や、力に充ち溢れた両腕。共に、橙。

三人の動作が、一瞬、止まる。
その中で、停滞を切り裂いて行く影があった。
銀の牙と青い尾を従えた影は、つーに一直線に迫る。

尾が上がり、牙が振り下ろされた。
速さと音から、矮躯の少女はその一撃を危険と判断。
すぐさま退き、回避すると同時にスローイング・ナイフを投げる。

牙は床を抉り、スローイング・ナイフはいとも簡単に受け取られた。

(#´∀`)「返すもなッ!」

(*゚∀゚)「ッ!」

言葉通り、返される。
空を駆けていく銀の輝きは、つーのそれ以上の正確さと速さを持ち合わせていた。
横に一歩動いて回避する。背後の壁に、ナイフが突き立つ音が聞こえた。


40 : ◆tAdHw/rYVY :2008/09/27(土) 19:42:15.50 ID:zBV4RgJO0
  
(*゚∀゚)「へぇ……」

後退しつつ、感心したように、つーは大きな眼を見開く。
そこにあった感情は、喜びだった。

(*゚∀゚)「おまけ的な奴かと思ってたら、予想よりずっと面白そうな奴だね。
    モナー、つったっけ? 人間のおっさんのくせに、やるじゃん」

( ´∀`)「君はまず、口の利き方を勉強するもな。
      そして、人間に対する思考回路を修理すべきだもな。
      人間は、異能者に敗けないもな。上から見下ろしてると、その脚、叩っ斬られるもなよ?」

(*゚∀゚)「はは、そいつぁ良い。望むところだ」

笑って、彼女はその視線を平行にズラしていく。
モナーから、ジョルジュを通って、ハインへ。
それが済むと、頷いた。「楽しめそうだ」と。

(*゚∀゚)「じゃあ、初めようか? どう? 準備運動は良い?
    私に切り刻まれる覚悟は? 命請いのセリフ、考えてある?」

首を傾げる。
そして笑みを強めると、彼女は手を軽く広げた。

(*゚∀゚)「よし、始めよっか!」



2 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/05(月) 23:29:06.47 ID:/Lv00uZ90

 
事態は停滞する。
つーに対して扇形に広がる三人は警戒から動かず、つーもまた動かない。
笑って、ただ三人を眺めている。どう来るか、楽しみに待っている。そう見えた。

(*゚∀゚)「さぁ、さぁ。どう来るのかな? 楽しみだよ」

手招きすらする彼女に、しかし誰も応じない。

ジョルジュがハインに視線を飛ばす。
彼女は俯き、唇を噛んでいた。僅かに見える表情は暗い。

( ゚∀゚)「……あれはどういう事だ、ハイン。つーは、どうなっちまったんだ?」

从 ∀从「…………」

(#゚∀゚)「答えろ、ハイン!!」

怒鳴りつけてから、彼は脳内に疑問符を浮かべる。
何故自分がこんなにも怒っているのか、分からなかった。

怒りの種、つまり原因は分かる。
目の前のつーの事がとにかく気に食わなくて、それだけじゃなく、憐れだった。
まるで歪んだ鏡で自分を見ているかのような、そんな不快感と苛立ちがあった。

だが、だからと言って、何故彼女の事でここまで怒ったのだろうか。
怒りの原因はあるが、それが理由と結び付かない。
憐れでも、無視すれば良いだけのことじゃないか。自分には関係ない筈だ。


4 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/05(月) 23:34:22.04 ID:/Lv00uZ90

 
ジョルジュの声から数秒を置いて、ハインは顔を上げる。

从 ゚∀从「……奴が言った通りさ。つーは今、奴に―――“力”に完全に乗っ取られてる。
     替わってる、なんてもんじゃない。つーが内側に、完全に抑え込まれてるんだ。
     奴が言うには、内側の“殻”とやらに、つーは閉じ込められてるらしい」

( ゚∀゚)「殻?」

从 ゚∀从「奴が言ってた通り、ショボンの糞野郎がつーの精神に作ったって殻さ。
      それも、物語を面白くする為とかいうふざけた理由でな」

先程の会話からも聞き取れた内容だった。
聞き間違いでないことを確信し、ジョルジュは笑う。
ショボンは自分達を騙していた。やはり間違っていなかった、と。

( ゚∀゚)「……はん。あの野郎、やっぱ敵だったか。
    そんで、死んだ筈が生きてると来やがった。
    どういうわけか分からないけど、こりゃあぶちのめさなきゃ、だねぇ」

(*゚∀゚)「させると思う? っていうか、そこに辿り着けると思う?
    ここであなた達は死ぬんだよ? ……あ、首だけだったら連れてってあげるけど」

(#゚∀゚)「……チ」

睨みつけた。つーはそれを見て、怯えるどころか笑い出す。

楽しくて、面白くて仕方がないのだろう。
圧倒的な力量差を感じているというのに、それでも自分に抵抗しようとする彼等が。
そしてその希望を、これから踏み躙れるという事が。


9 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/05(月) 23:39:11.17 ID:/Lv00uZ90

 
(*゚∀゚)「そんなに行きたきゃ、行けば良いよ。私をどうにか出来たら、の話だけどね」

ハインは彼女の強さを、身体を以て知っていた。
だがジョルジュやモナーも、それを感じている。捉えている。
先程から首の後ろがちりちりと熱い。それでいて背筋は寒く、鼓動は早鐘を打ち鳴らしている。

やらねばならない、と無理矢理昂ぶらせられる感情に対し、身体は正直だ。
どうしようもない物、圧倒的な何かの存在に、こうまでも震えてしまう。

だからこそ、この停滞なのだ。
無闇に突っ込める相手じゃないと、そう身体が教えてくれる。

从 ゚∀从「……おい、ジョルジュ。頼みがある」

ややあって、ハインが細く漏らした。その声には、何かの決意が含まれている。

( ゚∀゚)「あ?」

从 ゚∀从「手ェ、貸せ。互いの為だ」
  _, ,_
( ゚∀゚)「……何言ってんだ、あんた」

眉根を寄せた。
彼女の言葉の内容に関してもそうだが、彼女の状態が不振だった。

先程までよりも、ずっと安定している。
この状況下に置いて、何故だ?


11 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/05(月) 23:44:11.37 ID:/Lv00uZ90

 
……あるいは。
この状況下だからこそ―――どんな形であれ、つーが目の前にいるからこその、安定なのだろうか。
ジョルジュには、分からなかった。

从 ゚∀从「聞けよ。今は、とにかく奴を止めなきゃならない。
     でも私一人じゃ止められない。お前達二人がかりでも、多分無理だ。
     だが奴を止めないことには、私達はここで仲良くお陀仏だ。そういうわけにはいかないだろ?」

一つ息を置いて、声を強める。

从 ゚∀从「だから共闘しろ。あいつをどうにか出来たら、ここを通してやっても良い」

( ゚∀゚)「……お前が止められない?
    冗談だろ。お前、あいつの事軽々と止めてたじゃん」

从 ゚∀从「残念ながら、マジだ。“殻”のおかげで、奴はつーの制約から完全に解放された。
      つまり、抑えられていた力が解放されたわけだ。
      その結果あいつは、私でも止められない化け物になった。正確には、化け物だった、か」

ジョルジュは首を軽く傾げた。信じられないが、本当なのだろう。
嘘を吐く必要性は今はないし、声に虚構の色もない。
何より、相対しているつーが発する雰囲気が、ハインの言葉を裏付けていた。

( ゚∀゚)「なるほどな。じゃあ聞くが、止める方法は?」

从 ゚∀从「今は叩きのめす、しかない。何とか動きを止めたら、ショボンをぶちのめしてつーを解放する」

頷く。理屈は分かった。だが


14 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/05(月) 23:49:16.14 ID:/Lv00uZ90

 
( ゚∀゚)「出来るのかよ?」

从 ゚∀从「この三人なら、きっと。それに、やるしかねぇんだよ。
     奴はお前達を通す気はないし、私を逃がす気もない。やれなかったら、死ぬだけだ」

( ゚∀゚)「はぁん。まぁ、良いけどy」

( ´∀`)「ちょっと待つもな」

承諾しようとした声を、モナーの言葉が遮った。
これまで沈黙を重く保っていた彼の言葉は、やはりどこか重々しい。

从 ゚∀从「あ?」

( ´∀`)「ハイン。君はつーを、どう止める気だもな?」

从 ゚∀从「……今、言ったろ。気絶させるか、動けないようにして」

ハインは怪訝そうに眉を寄せる。
そんな彼女に、モナーは息を吐きつつ首を横に振った。「無理だもな」と。

( ´∀`)「つまり、殺さないように手加減しろ、と? それなら、君の要求は飲めないもな。
      君でも止められない程の手練に手加減したら、命がいくつあっても足りないもな」

( ゚∀゚)「……確かに、そうだ」

思わず肯定の声を漏らした。ハインが慌てて声を上げる。


15 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/05(月) 23:54:27.92 ID:/Lv00uZ90

 
从;゚∀从「そ、そんな事は!」

( ´∀`)「ない、と言い切れるもな?
      共闘しないと倒せないような相手に、手加減していて勝てるもな?」

从;゚∀从「ぐ……!」

言葉が詰まる。モナーはトドメを刺すように、冷酷に告げた。

( ´∀`)「共闘するのは良い。むしろ歓迎だもな。
      でもその場合、容赦はしない。全力で、殺すつもりで戦うもな。
      それがダメだと言うのなら、共闘は出来ない。僕達は君も標的に含めるもな」

言うモナーも、どこか辛そうだった。
言葉は遠回しではあったが、内容を要約するとこうだ。「同胞を手にかけろ」
それは想像するだけで、十二分に怖気がする。だが、そうせざるを得ない、現実だった。

対するつーは、モナー達の表情と相対するかのように、笑みを深める。

(*゚∀゚)「何でも良いんじゃないのー? どうせ三人共死ぬんだからさ!
    仲良く頑張って死ぬか、それぞればらばらに死ぬかの違いだよ」

( ´∀`)「……一対一対二にするか、一対三にするか。君が決めるもな」

ハインは短く呻きを漏らすと、再度俯いた。
葛藤。思考が頭の中で絡まっていく。どうすれば良いのか、どれが最善か。
考えれば考えるほど、答えは思考に埋もれていく。

しかも、長く考える時間は与えられそうになかった。


19 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/06(火) 00:00:11.27 ID:fxj+grDB0

 
(*゚∀゚)「どーでも良いんだけどさ、もう待ちくたびれてるんだけど。
    お預けはそろそろ勘弁して欲しいな。速くしないと噛み付いちゃうよー? わんわん!」

馬鹿にするように吠えると、腰に手をやった。
腰からぶらさがる巨大なホルスター、そこから伸びる黒い柄を握り、引き抜く。
金属の擦れる鋭い音と共に姿を見せたのは、鞘に恥じない巨大さを持ったナイフだった。

それは果たして、ナイフと呼んで良いのだろうか。
銀色に輝き、僅かに反りを持ったその全長は、50センチ近い。
鉈を思わせる重厚さを持ち、しかし刃は鋭く研ぎ澄まされている。

重さもかなりあるらしく、彼女はそれを、だらんと力無く垂らした。

刃を抜いた、という事は、もう時間は長く残されていない。
獣は牙を剥いた。後は脚が床を蹴ってしまえば、自分達は狂獣に立ち向かう事になる。
ハインは必死で、思考を巡らせた。


どうすれば良い。
つーは止めなければならない。
しかしその方法が見付からない。

止める、と言っても、独りじゃあ止められない。止める方法も、力もない。
しかし三人で戦っても、つーを殺してしまっては意味がない。
まずそんな仮定の前に、つーを殺す事なんて出来ない。

……止められれば、どうにかなる。
ショボンをぶっ殺して『殻』を壊し、つーを解放する。


23 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/06(火) 00:17:52.89 ID:fxj+grDB0

 
だが―――、そうして思考はループする。
止めなければならない。止められない。殺せない。止められれば。でも。
数秒の間に、この繰り返しが無数に繰り返された。

三人なら。この三人なら、殺す事もなく止められるかもしれないんだ。
しかしモナーは、つーを殺しにかかる。
あっちからすれば当然だろう。敵の為に、命がかかっている戦いで力を抜く訳にはいかない。

共闘は、出来ない。つーは護らねばならない。
―――そして現実、選択権なんて最初から与えられていない。

共闘の手段を採らねば、自分は三人を相手に戦う事になる。
しかも、ジョルジュとモナーの攻撃からつーを護りつつ、だ。
そんな事、出来る筈がない。


ならば

从 ゚∀从「……分かった。モナー、共闘だ。
      私もこんなところで死ぬわけにはいかない。つーには悪いが、死んでもらおう」

( ´∀`)「分かったもな。……すまないもな。仲間を手に掛けるのは、辛いもな?」

ハインは首を横に振った。橙の髪がふわりと広がる。

从 ゚∀从「良いんだよ、気にすんな。自分が第一だ。
      そりゃあやっぱ辛くない事はないが……所詮、仕事の同期みたいなもんだ。
      仕方ねぇんだ。命にゃ代えられないだろ」


24 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/06(火) 00:21:53.25 ID:fxj+grDB0

  
( ´∀`)「……もな」

モナーは頷く。声も眼も、同情に塗れたそれだった。


これで良い。
モナーは自分とつーの関係を知らない。
今の演技で、納得した筈だ。

モナー達には、殺すつもりで戦ってもらう。
そうする他なかったし―――考えてみれば、その手段も悪くないのだ。
今のつーは、例えモナー達が本気でかかっても、そうそう殺せないだろうから。

モナー達には悪いが、彼らの本気を利用させてもらう。

三人で戦って、つーを動けない程度まで消耗させれば良い。
そうしたら、後は簡単だ。
つーをモナー達から護り、拘束した上で、ショボンをぶちのめしに行けば良い。

問題は一つ。
果たして、この三人ならば、本当につーを止められるのか。
相手の力を見縊ってはいないか。こちらの戦力を過大評価してはいないか。

モナー並みの武器捌きを誇り、
ジョルジュ並みの反射神経を持ち、
ハインを凌駕する運動神経と戦闘能力を兼ね揃えるつーを、止められるのか。


25 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/06(火) 00:26:05.16 ID:fxj+grDB0

  
从 ゚∀从「出来るのか、じゃなくて……やるしかねぇんだよな、クソッタレ!」

咆哮を上げると、彼女は床を蹴った。
続いてモナーとジョルジュが飛び出し、つーが表情を喜々としたものに変える。

从#゚∀从「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」

ハインの大鋏が斜めに空を斬る。
重く速い切っ先は、しかし軽く突き出されたナイフによって容易く軌道を変えられ、受け流された。
刃はそのまま床を捉え、破片を跳ね上げつつ突き刺さる。

間髪置かず、巻き上がった床の破片を突き破って、横から薙刀が突き出された。
銀の煌めきはつーの喉へと一直線に伸び、しかし横へのごく小さな動きで躱される。
すぐさま突撃の動きを横薙ぎに変えるが、若干遅い。つーは身体を傾がせ、刃は彼女を掠って横へ抜けた。

(*゚∀゚)「残念でした!」

声は、身体と共に旋回する。
そして背後へと振るわれた重厚なナイフは、そこで橙の槍を捉えた。
重い金属音が空気を震わせる。

それは、いつのまにか彼女の背後に回ったジョルジュが伸ばした槍だ。
背後、つまり死角からの奇襲攻撃は、しかしこうも簡単に受けられてしまった。
ジョルジュの顔が驚愕と悔しさに歪み、対するつーは笑みを深くする。

つーは大きく跳躍して距離を取ると、己を睨みつける三つの視線に手招きをした。


26 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/06(火) 00:31:18.32 ID:fxj+grDB0

  
(*゚∀゚)「ほらほら、何を固まってるのさ! おいで! お姉さんが遊んであげよう!
    三人も居るんだ、傷の一つくらい付けてみせてよ? どんな手を使っても良いから、ね?
    しっかり楽しませてよ? 失望させないでよ? ほんの少ーしは、期待してるんだからさ!」

応じる言葉はなかった。言葉にならない、咆哮として返ってくる。
三つの咆哮が上がり、高い足音が迫る。その中で、彼女はぞくぞくと身体を震わせた。
興奮しているようだった。堪えられない、とでも言うように、声を上げる。

(*゚∀゚)「おいで!! 私を楽しませてよ!!」

つーへと迫る三人の動きは、即興の隊にしては整ったそれだった。
まずハインが攻め入り、モナーが彼女に続き、ジョルジュが不意を打つ。
ハインは速かったし、モナーの薙刀は高威力だった。ジョルジュはありとあらゆる方法で不意を突いた。

だが届かない。
つーはハインよりも速く、モナーの力は流し、まるで見ているかのようにジョルジュの攻撃を躱した。
様々な角度から迫る刃をありえない動きで避ける彼女は、楽しげに顔を歪める。

(*゚∀゚)「良いね良いね! でもまだ足りないかな!?
    もっと頑張れるよね!? こんなもんじゃないよね!?」

从#゚∀从「うるせぇんだよ! ちょっとは黙れねぇのか!!」

一歩でハインが距離を詰め、大鋏を振り下ろした。
つーを両断する軌跡を刻んだ大鋏は、しかし横への跳躍で躱される。


28 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/06(火) 00:36:38.08 ID:fxj+grDB0

  
(#゚∀゚)「はい来ましたァ!!」

その動きに合わせるかのように、橙が横に一閃した。肋骨から身体を二分するラインだ。
だがつーは、身体を無理矢理に傾げ、それを躱す。
橙は抜けた。だがつーの身体は無理な回避行動によって、そのままぐらりと傾く。

(#´∀`)「もなぁぁぁぁぁぁあッ!!」

歪な体勢の彼女に向けて、青の薙刀が突撃を開始する。
その速さとリーチは距離を一瞬でゼロにした。彼女には傾いた身体を立て直す時間も、そのまま倒れさせる時間もない。
当然のことながら、その体勢では横へ回避する事も出来ず、彼女に薙刀をどうにかする術は皆無だった。

―――その筈、だった。

青の薙刀がつーに到達する。同時に音が二つ鳴った。
風切り音と、床を蹴る高い足音だ。

一瞬。果たして、青の薙刀は、空を斬った。

(;´∀`)「―――もな!?」

突撃の勢いを殺しきれなかったモナーは踏鞴を踏む。
眼の前からつーが消えていた。
あの一瞬、回避出来る筈のないあの体勢から。

どこに、と首を動かそうとしたその瞬間。
突然、握る薙刀に重さが来た。
思わず手から薙刀を取り落としそうになるが、寸でのところで握り締める。


29 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/06(火) 00:41:11.81 ID:fxj+grDB0

 
何の重さだ―――その問いの答えは目の前にあった。

つーが、居た。
薙刀の柄の上、まるで曲芸のように立っている。
思考が一瞬、停止した。唖然としたモナーの顔を見て、つーが笑う。

(*゚∀゚)「あーのさ、一般人と同じような尺度で私を見てもらっちゃ困るよ?
    私の“力”は純粋な戦闘の“力”だ。異能者らしい、と言っても良いかもね。
    つまりは人間じゃない、化け物の“力”だ。あんた達が『出来ない』と思ってることが、私には『出来る』んだよ?」

たっぷり嘲りの意を込めて言うと、彼女は跳んだ。
薙刀を握るモナーの手に衝撃が加わり、思わず彼は薙刀から片手を放してしまう。

不安定な場所から跳んだとは思えぬ位置に着地すると、つーは振り返りつつ言い捨てる。

(*゚∀゚)「避けられないと思ってる事でも避けられるし、届かないと思ってる事でも届かせられる。
    あんた達の常識は通用しない。それを踏まえた上で、来なよ。
    『ただの』強者を相手にしてるつもりだと、あんた達、一瞬でバラバラにしちゃうよー?」

語尾が上がり、そのまま嗤いに繋がる。嘲笑だった。
完全に、嘗めきっている風だった。

ハイン達は、怒りと悔しさに歯を噛み縛る。
しかしそれぞれ、飛び出さない。飛び出せない。
感情によって我武者羅に動いて、それでどうにかなる相手ではないと、直感と経験が告げていた。

相手は確実に格上だ。しかも、とんでもないレベルの。
ならば下手に動くべきではない。嘗められているからと、激昂すべきではない。
むしろ、その油断を活かすべきなのだ。嘗められていることを、むしろ喜ぶべきなのだ。


30 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/06(火) 00:45:06.45 ID:fxj+grDB0

 
強者にとって、油断は最も忌避すべきもの。
逆に言ってしまえば、弱者にとって、強者の油断は最も突け込める箇所だ。

彼等はそれを分かっていて、だからこそ考える。
嘗められている内に、終わらせる、と。

遊んでいるつもりなのか、相手は避けるばかりで攻め来る様子を見せない。
これは絶好のチャンスだ。逃すわけにはいかない。

三人はそれぞれ、目配せをすると、言葉もなしに動き出した。
ハインはつーの目の前に、モナーは左後方、ジョルジュは右後方。
丁度、三角形の中心につーを据えるような形だ。

つーはそれを見て、慌てる素振りを見せる事もなく、ただ「ははぁん?」と首を傾げた。

(*゚∀゚)「数に物を言わせようって戦法? 良いんじゃない、来なよ。
    実際、悪い手じゃあないと思うよ。何たって、三対一だ。この数の差を利用しない訳にはいかないよね。
    ただ、相手は私だよー? それを踏まえた上で、精々頑張ってみてよ」

(#゚∀゚)「……本当に、やかましい野郎だな」

ジョルジュが右腕を構える。
左手の爪、『尖鋭』が半ばからへし折られた今、頼みの綱は右腕だけだった。

彼が構えるのと同時に、モナーが薙刀を握り直し、ハインが大鋏を分解して二本の歪剣に変える。
橙のブレード、青の薙刀、黒と銀の歪剣。計四本の刃がつーに向けられた。
対するつーは、鉈のように巨大なナイフをぶらりとぶら下げたまま、動かない。


4 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/10(土) 22:09:50.98 ID:mE06q9Pu0

 
(*゚∀゚)「あぁ、私はやかましいよ。静かにする気なんて毛頭ない。
    それがイヤだったら―――」

从#゚∀从「あぁ、力ずくで黙らせてやるよ!」

(*゚∀゚)「はっは! 威勢だけは極上だね! 心の底からウェルカムだよ!!」

声を上げ、直後に床を蹴った。
全くの同時に、ジョルジュとモナーも床を蹴る。三角形がぎゅっと狭まった。

四本の刃が同時につーへと迫る。
唐突に矮躯が沈んだ。刃は彼女の頭上でそれぞれ空を切り、あるいは金属音を経てて止まる。
そして次の瞬間に、跳ね上げられた巨大なナイフによって弾かれた。

四本は、間髪置かずに再度振るわれる。
しかも今度は、示し合わせたかのように、振るう高さを変えていた。
しゃがむだけでは回避は出来ない。

それに対し、つーの身体は旋回の動きを持つ。
動きの中で、巨大なナイフが横薙ぎにされた。
四つの連続した金属音が響く。つーの重厚な刃は、振るわれた刃を悉く弾き飛ばした。

(#´∀`)「この……ッ!!」

弾かれた薙刀を手の中で回転させて握り直すと、モナーは腰を深く落とし、突撃の姿勢を取る。
踏み出す一歩で一気に加速。つーに回避させる暇を与えない。
伸びる銀の煌めきは、眼にも止まらぬ速度でつーの喉元へと向かい―――


6 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/10(土) 22:13:13.93 ID:mE06q9Pu0

 
(*゚∀゚)「速いね。それに、凄く良い線走ってる。
    それに当たったらさぞかし痛いだろうねぇ。でもね」

のんびりとした声は、唐突に速くなる。横に動いた。
そして一瞬。突き出された薙刀の刃は、空を貫いている。

(*゚∀゚)「直線的な動きは避けやすいよ。特に、突きはね。
    如何に速くとも、攻撃範囲が『点』じゃん。ま、薙いだとしても私には当たらないけどさ」

その声は、背後から聞こえていた。
「いつのまに」―――その言葉は音にならない。唇が僅かに動くだけだった。

声は横に流れた筈だ。それが何故、今、背後にいる。
この一瞬で、そんな動きをしたと言うのか? 馬鹿な。

(#゚∀゚)「呑気に喋ってんじゃねぇぞ!!」

つーはモナーに背を合わせるようにして、首だけを彼に向けて喋っていた。
いつのまにか両手は空いている。巨大なナイフはホルスターに仕舞われていた。
ジョルジュは彼女の正面から一気に距離を詰め、その勢いに乗ったまま、巨大な爪へと変化させた右腕を振るう。

彼女がジョルジュに眼を向けたのは、あと二歩で爪が届く、という距離だった。
つまりは数秒、あるいはそれ以下の時間しかない。

その状況の中で、彼女はなおも笑う。


8 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/10(土) 22:17:07.53 ID:mE06q9Pu0

 
(*゚∀゚)「じゃあ慌てさせてごらんよ!」

そして彼女は上半身をやや仰け反らせると、腕を上から背後に回した。
ブリッジをするような体勢の中、彼女の手は、背後で硬直していたモナーの肩に乗せられる。
それが支点となる。彼女の脚が跳ね上がった。ジョルジュの目の前から、つーの姿が消える。

彼女は、背後のモナーの肩を支えにして、彼の上で倒立をやってみせたのだ。

(;゚∀゚)「あッ……!?」

ジョルジュは慌てて身体を静止させようとするも、膨れきった勢いはそんな簡単には殺せない。
彼の身はモナーに衝突し、二人もろとも大きく体勢を崩した。

(*゚∀゚)「あっはは! 楽しそうだね、何遊んでんの?」

二人の衝突の瞬間に離れたのか、つーは数メートル離れた位置で二人を見て嘲笑する。

その時。彼女の背後、空間に橙が現れた。
音もなく接近し、橙の髪を振り乱し、橙の腕を引き絞ったのはハインだ。
笑い声を止めぬつーは、気付いていない。

次の瞬間には、ハインの腕がはっきりとした輪郭を失う。
同時、つーの身がぴくりと反応し、喉が細い音を経てた。
彼女の表情は焦燥のそれに変わり、大慌てで回避行動を取る。

振るわれる橙。そして、赤が散った。


9 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/10(土) 22:22:58.52 ID:mE06q9Pu0

 
从#゚∀从「ッチィ―――!」

ハインの腕は、惜しい所で届かなかった。
前方へ飛び込んだつーを掠るようにして、服の一部を僅かに切り裂いたのみだ。
振り抜いた爪には、シャツの薄い布が引っかかっている。

だがその布切れの代償は、理不尽過ぎるほど大きい。
ハインの腹部からは、忽然とナイフが生えていた。

(*゚∀゚)「ん、んー。惜しかったねぇ」

つーは、床に膝を付けた体勢で微笑んでいる。
その手は開かれ、ハインに伸ばされていた。

突然の回避行動の中、ハインの腕を避けながら、彼女はナイフを放っていたのだ。

从#゚∀从「惜しかった、だ!? まだ終わってねぇぞ!!」

叫ぶと、彼女は脇腹のナイフを荒々しく引き抜く。
傷は浅くはなかった筈だが、痛がる様子はない。
ナイフが引き抜かれると同時に、彼女の服に赤黒い染みがじわじわと広がり始めた。

左手に握った大鋏を、つーの脚目掛けて投擲した。
空を切り裂き迫る刃は、しかし後方への僅かな跳躍で躱される。
大鋏は床を砕き、破片を巻き上げながら突き立った。

つーは一瞬、足元の大鋏を嘲笑の瞳で見下ろす。
そして眼を上げ―――その瞳に僅かな驚愕が散った。


10 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/10(土) 22:26:43.63 ID:mE06q9Pu0

 
(*゚∀゚)「へ……」

目の前。薄い砂埃の幕のすぐ向こうに、ハインが居た。

从#゚∀从「言ったろ、まだ終わってねぇ!」

言うと同時、床に突き立った大鋏を引き抜き、そして回転を加えて斬り付ける。
つーは咄嗟に後方へ飛び退いたが、無理な体勢であった為か、若干間に合わない。
袈裟掛けにされた刃の切っ先が、つーの腹部を浅く捉えた。

(*゚∀゚)「! ……ふーん」

彼女は一気に後退する。ハインの追撃は届かない。
そしてある程度の距離を空けると、彼女は自分の腹を見た。
斬り裂かれたシャツの下、雪のように白い肌に赤い筋が走っている。傷は長いが、深くない。

そして同時、頬にぬるい何かを感じて手を伸ばした。
頬を拭うと、手は赤い。先程の刃が掠っていたのだろうか。

(*゚∀゚)「……へぇー」

驚いた表情のまま音を漏らす。
そして指に付いた血を舐めると、彼女は笑った。

(*゚∀゚)「私に血を流させた、か。良いね良いね」

独り言のように呟く彼女の前、幾分か距離を開けてハインが立つ。
そして数秒を置いてジョルジュが、続いてモナーが彼女の横に並んだ。


12 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/10(土) 22:30:57.93 ID:mE06q9Pu0

 
(*゚∀゚)「全員しぶとそうだし、個々の戦闘力もチームワークも及第点。
    これなら、本気出しても中々楽しめそうだね」

(#゚∀゚)「何を言ってやがる?」

( ´∀`)「本気を出してなかった、とでも言うつもりもな?」

二人が、怪訝そうに眉を寄せる。

(*゚∀゚)「あぁ、本気を出してないっていうのは語弊があるね。
    防御やら回避やらは、割と真面目にやってたから」

从#゚∀从「…………」

ハインは知っている。つーはまだ、本気ではない。
彼女はこれまでの戦闘で、ほとんど攻撃をしていない。
恐らくはわざと、攻撃の手を伸ばさなかったのだろう。楽しむ為に。

そしてつーの強さは、攻撃を絡めてからが本物だという事も、彼女は知っていた。

つーの笑みが、狂気を纏う。

(*゚∀゚)「そろそろ攻めちゃおうかな、ってね。楽しませてよ?」

そして一瞬。溜めも見極めも何もなく、彼女は飛び出した。
愚直なまでの一直線の疾走。それは逆に、ハイン達の反応を若干遅れさせる。






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