二十二章上二十二章 帰還 (;´∀`)「ふぅ……疲れたもな……」 陽光を受けて熱くなったレンガの壁。 そこに背中を預けて、男―――モナーは溜め息を吐いた。 その右手には、異能者についてのあらゆる事件が細かく記載された書類の束。 そして左手には、黒と銀の刃で構成された巨大な鋏だ。 (;´∀`)「収入は良いと言っても、さすがにこれは……」 右手の書類に眼を落とし、辟易として、続く言葉を呑み込む。 言葉を吐けば、更に疲れが増すと思った。 書類から眼を離し、夏空を見上げる。 自分の心を嘲っているかのような、抜けるような青空だった。 ( ´∀`)「……アイツは、元気にしてるもな?」 空に向かって呟く。 それから書類で身体を仰ぐと、誰にともなく言った。 ( ´∀`)「これらの仕事が終わったら、一回、実家に帰ってみるかもな」 そう決心すると、不思議と身体に力が満ちた。 レンガの壁から身を離し、歩き出す。 蒸し暑い空気も爽やかに蹴り飛ばして、彼は空に向かって叫んだ。 ( ´∀`)「兄ちゃんはもうちょっとで帰るから、少しだけ待ってるもなよ! モララー!!」 彼―――モナーは、とある組織に属していた。 異能者に関する事件に携わる仕事をこなす組織―――VIP。 そして、その組織の構成員はVIPPERと呼ばれた。 VIPは異能者が起こした事件を処理し、時には人に害を為す異能者に対応する事もある。 もちろんその異能者に関する人々も調査し、場合によってはその者を逮捕する、という事もあった。 警察では処理しきれない異能者の事件のほとんどを処理する、危険で厄介な仕事だ。 年々VIPPERは相当数の死亡者が出る。 死亡者は異能者との戦闘で命を落とす者と、過労死する者がほとんどだ。 死亡者数は増加する事しかしない。しかし、VIPPERへの志願者数も減少する事をしなかった。 VIPPERは危険な分、かなり儲ける事が可能な仕事だったので、金が必要な者が次々と志願するのだ。 モナーもその中の一人。彼も、仕方なくそこに就いていた。 それは一重に、両親と弟の為だった。 自分を育ててくれた両親に――― そして、最愛とも言える弟の為に、彼は辛い仕事を続けているのだ。 弟は自分の事をあまり覚えていないだろうが、それでも弟を想う気持ちは変わらない。 弟の事を思えば、どんな事でもやれる気がした。 数日後。 束となっていた書類の最後の一枚に判子を押して、彼はVIP本社のデスクでうなだれた。 ようやく、全ての仕事が片付いたのだ。 (;´∀`)「やっ、やっと終わったもな……!!」 (;ФωФ)「おいおい、何かグロッキーだな。大丈夫か?」 (;´∀`)「大丈夫じゃないもな……」 (;ФωФ)「あんだけの仕事をこんだけの期間で終わらせりゃ……そりゃ疲れるだろうな。 まだ若いってのに、そんだけ無理してちゃいつかぶっ壊れちまうぞ?」 (;´∀`)「でも、これでもうすぐ久しぶりに家族に会えるもな。頑張ったかいもあるもなー」 ( ФωФ)「家族に、ねぇ。ん? お前、実家どこ?」 ( ´∀`)「オオカミ都の南端の方だもなー」 ( ФωФ)「お、じゃあちょうど良かった」 ごそごそと、モナーの同僚―――ロマネスクは懐を探る。 そこから取り出した物は、一枚の書類だった。 ( ФωФ)「ちょうどその辺で、不運な異能者と反異能者組織の馬鹿共が殺り合ったらしいんだわ。 その戦闘の現場処理の仕事、お前に譲ってやるよ」 (;´∀`)「はぁ? ロマネスク、気でも触れたもな?」 ( ФωФ)「説明は最後まで聞け、な? これな、現場処理なんて簡単な仕事にしてはずば抜けて報酬が良いんだ。 土産代わりに札束でも持って帰れよ」 ( ´∀`)「……もなー」 書類に簡単に眼を通すと、確かに、仕事の割に破格の値段が付けられている。 悪い話では、ない。 だが何故か、悪い予感がする。 何の根拠もないただの勘だが、良くない事が待っていそうな気がした。 だが、悩んだのも一瞬。 書類に書かれた額は、勘だのといったもので一蹴出来るほどの額ではなかった。 ( ´∀`)「……把握したもな」 ( ФωФ)「それで良し」 ( ´∀`)「あ、ロマネスク」 ( ФωФ)「お?」 (;´∀`)「何でこんな美味しい仕事を僕に?」 ( ФωФ)「ちょっとしたプレゼントだよ」 (;´∀`)「ちょっとしたプレゼントにしては高すぎる報酬じゃないかもな?」 ( ФωФ)「…………………」 ロマネスクは、ごそごそと懐を探る。 まもなくそこから顔を出したのは、どうやって収納されていたのか分からないほどの書類の束だ。 ( ФωФ)「これ、ちょっと見てみ」 ( ´∀`)「もな?」 渡された束に眼を通して、そこでモナーは眉根を寄せる。 彼が持っていた書類は全て、簡単な割に報酬が高い仕事の書類だったのだ。 ( ФωФ)「な? つまりこういう事だ。俺にはこんだけ美味しい仕事がある。 だからそれは、俺からお前への、ちょっとしたプレゼントってなわけだ。だろ?」 モナーから書類を受け取り、懐へ仕舞う。 (;´∀`)「何でそんな美味しい仕事ばっかり……」 ( ФωФ)「ちょっとした方法があってな」 ( ´∀`)「教えt」 ( ФωФ)「誰が教えるか」 (#´∀`)「…………………」 ( ФωФ)「いや……じゃあ、そうだな。 今度、お前特製の武器を俺に造ってくれたら、その方法を教えてやんよ」 ( ´∀`)「もな……」 ( ФωФ)「んじゃ、とりあえずお前はさっさと家族に顔見せて来いよ。 有給取ったっつっても、少ない休みだ。仕事の事なんか全部忘れて楽しんできな」 どこか猫を連想させる笑みを浮かべて、ロマネスクは歩み去っていく。 モナーは受け取った書類の細部まで眼を通す事もなく、デスクから腰を上げて自分の部屋へと向かった。 ( ´∀`)「この調子なら、四日―――いや、三日後にはオオカミに行けるもなね。 んー、何だかわくわくだもな」 言いつつ、与えられた自室に入ってベッドに身を横たえる。 この後しっかりと疲れを取って、それからオオカミに向かうのだ。 ベッドの横には、既にいくらか準備された荷物。 そしてその荷物の上には、天使を思わせる笑みを浮かべた少年―――弟の写真だ。 ( ´∀`)「……モララーはどれくらい大きくなってるか、楽しみもな。 あいつには、何をプレゼントしようか……うーん……悩む、もな……」 呟きの最後は、ベッドに落ちて響きを失った。 瞳を閉じたモナーは、どこまでも安らかな笑みを浮かべていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ロマネスクに空港まで送ってもらい、飛行機と電車を使ってオオカミへ。 何時間も電車に揺られて、実家から最寄りの駅『オオカミ南駅』に降り立ったモナーは、大きく伸びをした。 ( ´∀`)「うーん……この空気、懐かしいもな」 左肩に大きなドラムバッグを掛け、右手には例の書類。 そして背中には特異な形のケースを背負っていた。 もちろんそのケースには、愛用の巨大で特異な鋏が収納されている。 ( ´∀`)「家に帰る前に、ちょちょいとこれを済ませとくかもな」 歩きつつ呟いて、書類に眼を通す。 まだ細かい所までは眼を通していなかった。 今回の書類は、珍しい事に現場の住所が表記されていなかった。 その代わりに小さな地図が張っており、それを使って現場に行けるようになっているようだ。 ( ´∀`)「何かウチからかなり近いところみたいだもなね」 ふんふんと頷いて、事件の内容の欄に眼をやる。 “力”に目覚めた異能者の少年を拉致しようと、「反異能者組織」の下位の者達が少年の家に押しかけた。 しかし両親がそれに抵抗し、組織の人間に見るも無残に惨殺される。 その後、家に帰って来た少年に、関わった組織の人間は一人残らず虐殺された。 少年は事を終えた後、行方不明。「反異能者組織」を手当たり次第に潰していると言う話もある。 仕事は、虐殺が行われた現場の調査だ。 組織の死者の正確な人数調査と、死体の状態から少年の“力”の具合を計るのだ。 ( ´∀`)「……反異能者組織か、もな」 呟いて、彼は眉根を寄せた。 あの組織のせいで、異能者に関する事件は止まる事を知らない。 異能者を怖れ憎む理由も分からなくないが、いささかやりすぎなのだ。 今の社会の異能者を指弾するような風潮は、あの組織のせいに他ならない。 ( ´∀`)「どちらが悪い、って断定出来れば楽なんだけど、もな」 そもそも結成当時のあの組織は、異能者の“力”による被害者が集まって作った組織だったのだ。 大切な人を奪った異能者を始末する為に、と。 だがその組織は少し道を踏み外した。 罪を犯した異能者を始末する組織は、全ての異能者を始末する組織へと変わってしまったのだ。 哀しみと憎しみから生まれた組織は、やはり悲しみと憎しみしか生み出せなかった。 (;´∀`)「おっと、そんな事を考えてる場合じゃないもな」 地図に眼をやれば、もうすぐ着くはずだ。 ちょうど、あの角を曲がった辺り―――本当に家の近くのようだ。 そして、角を曲がると。 ( ´∀`)「……あれ?」 もう一度、地図を見やる。 間違いない、ここだ。 いや、間違いだ。間違いのはずだ。 間違いでなくてはならない。間違いじゃないなんて、ありえない。 現場が実家なんて、間違い以外の何物でもないだろう。 (;´∀`)「……どういう事だもな?」 地図を見て、家を見上げる。 やはり、地図には間違いはない。 (;´∀`)「まさか……モララー……」 まさか、とは言ってみたものの、それ以外の答えは頭に浮かばない。 だがそれでも、それを信じたくない自分がいた。 ( ´∀`)「……入ってみれば分かるもな」 足を踏み出し、ドアを開ける。 それと同時に、濃すぎる血臭と腐臭が鼻を突いた。 (;´∀`)「……こんな、事って」 ドアの先の壁は、血塗れで穴だらけだった。 そして、その壁の前には、うつ伏せに倒れる見知った背中。 疑念は、確信へと変わる。 しかし、頭を空にして、奥へと進む。 後ろに退く事は、既に許されない。 足を進めれば、凄まじい数の死体と血液が家を支配していた。 二階へと上がれば、すぐにそこが虐殺の場であると分かった。 壁、床、天井。全てが紅で覆われ、空気までもが腐り死んでいる。 ( ´∀`)「…………………」 無言で弟―――モララーの部屋を開ける。 そして、思わず眼を伏せた。 無数に転がる死体。 バラバラであったり、首が転がっていたり、頭が弾けていたり。 壁に縫い止められている死体もあった。 撒き散らされた血で紅く染まった部屋。 数日をおいて腐敗を始めた死体。 あまりにも、酷すぎた。 (;´∀`)「死因は……」 バラバラの死体は、傷口から、刃物によるそれと分かる。 しかし、頭が破裂したかのような死体はよく分からない。 (;´∀`)「書類によれば、モララーは異能者。 そしてこの死体。……対象を爆発させる“力”かもな……?」 いや、それだったら敵対する者全てを爆砕したはず。 死体の中には、『対象を爆発させる“力”』で殺されたとは思えない物も多々あった。 それに、もしもそんな“力”であるのなら、部屋に撒き散らされた剣に説明がいかない。 床に転がっている剣の残骸は、どう見ても死体の数より多いのだ。 となると、剣は男達が持ってきたものとは別の物も混じっている事になる。 モララーの“力”が物を呼び寄せるというものでなければ、その剣はどこから? (;´∀`)「……一人じゃ答えが出そうもないもな」 携帯を取り出す。 ロマネスクに電話をかけると、すぐに出てくれた。 『おー? どうしたー?』 ( ´∀`)「ロマネスク。君からもらった仕事、これは僕だけじゃ無理だもな。 ビコーズさんと、セントジョーンズさんを寄越してほしいもな。……出来れば、君も」 『……分かった』 モナーの声に何かを感じたのか、ロマネスクはすぐに了承した。 礼を告げて電話を切ったモナーは、部屋の壁にもたれかかる。 すぐ横に死体があったが、そんな事は気にもならなかった。 ( ´∀`)「……母さん。父さん……モララー……」 彼の頭にあるのは、家族の事だけだった。 優しい、最高の両親だった。 書類の内容が真実ならば、まさに息子を護る為に命を投げ出すような、そんな両親だった。 だが、もう彼らはこの世界にいない。 あるのは彼らの抜け殻だけだ。 失う悲しさは十分に知っていたが、これほど胸を締め付けられるのは初めてだった。 そして、モララー。 非の打ち所のない、最高の弟だった。 自分より劣っている兄を慕ってくれた、可愛い弟だった。 異能者だとは、思わなかった。 いや、例え異能者でも、自分は弟を愛している。 彼は生きているだろう。 だが、どこにいるかも分からない。 この広い世界で、彼に会うのは万が一の可能性もない。 「反異能者組織」。 あの狂った組織が、自分の大切な物を奪っていったのか。 許せない。 壁から背中を離し、モナーは歩き出す。 その顔はまったくの無表情だ。 しかし、その双眸だけが彼の意志を代弁するかのようにぎらぎらと輝いている。 「どこに行くんだい?」 背後から、声が響く。 振り向いてみれば、ついさっきまでは死体しかなかった部屋に、三人の人影があった。 しかし立っているのは一人だけで、残る二人は頭を抑えて蹲っている。 ( ´∀`)「……ビコーズ、さん?」 ( ∵) 「あぁ」 ( ´∀`)「何でここに?」 ( ∵) 「私は空間移動の“力”を扱える異能者だからね。テレポートしてきた」 ( ´∀`)「……そんな事は知りませんでしたもな」 ( ∵) 「言ってなかったからね」 ( ´∀`)「…………………」 ( ∵) 「驚かないのだね」 ( ´∀`)「正直、今の僕にはどうでも良い事ですもな」 ( ∵) 「そうか。それもそうかもしれないね」 ( ´∀`)「……その二人は?」 ( ∵) 「私の“力”はどうも出来損ないのようでね、自分以外の人間を運ぶと、その者をかなりの頭痛が襲うんだ」 その言葉に反応したかのように、頭を抑えていた二人はゆっくりと立ち上がる。 その二人は、ロマネスクとセントジョーンズだった。 (’e’)「うわぁ~~、頭がすんごく痛いよ」 (;ФωФ)「よぅ、モナー。お待たせ」 ( ´∀`)「……もな」 二人が復帰したのを視覚して、ビコーズは頷く。 ( ∵) 「さて」 ( ´∀`)「もな?」 ( ∵) 「君は今、どこに、何をしに行こうとしていた?」 ( ´∀`)「……反異能者組織を、手当たり次第に潰しに行こうとしていたもな」 ( ∵) 「なるほど」 (;ФωФ)「なるほどじゃねぇだろおっさん」 ( ∵) 「そうだね」 ( ´∀`)「止めるもな?」 ( ∵) 「止めないよ。でもね」 言いつつ、ビコーズはセントジョーンズに手を差し出す。 (’e’)「はい」 ( ∵) 「違う。こっちじゃない」 (’e’)「あ、こっちか。はい」 ( ∵) 「そう、こっち」 セントジョーンズから一枚の書類を受け取ったビコーズは、それをモナーに見せつける。 ( ´∀`)「これは……?」 ( ∵) 「君の弟、モララーがヴァンクで発見された。つい二時間前の事だ。 これはその報告書」 (;´∀`)「ッ!?」 ( ∵) 「彼は不可解な“力”を使って、反異能者組織を狩っていたそうだ」 言って、書類を再度セントジョーンズに手渡す。 ( ∵) 「さて、どうする?」 (;´∀`)「ど、どうする……?」 ( ∵) 「一般人として不毛な反異能者組織狩りをするか、それともVIPPERとして弟に会いに行くか」 (;´∀`)「で、でも……ここからヴァンクに行くには相当な時間がかかるもな。 ニ時間前にヴァンクにいたといっても、僕が着く頃にはもうモララーはどこかへ行ってしまってるもな」 ( ∵) 「私の“力”は空間移動。ヴァンクまで三十秒もかからない。そして私は君を連れて移動する事も出来る」 淡々としたビコーズの受け答えに、モナーは思わず口を閉じる。 そんな時、その肩を大きな拳が軽く殴った。 ( ФωФ)「悩む事なんてねぇだろ? お前は家に帰りたかったのか? 違うだろ? お前は『家族に、弟に会える』って大騒ぎしてたんだろうが。お?」 拳を引いて、先程よりも強く振るう。 だがその拳は、音を弾けさせながらモナーの掌で止まった。 ロマネスクは猫を思わせる笑みを浮かべ、言う。 ( ФωФ)「だーったら、よ? さっさと会いに行って来いや。 それから深い話をするでも何でも良いけどよ。な?」 ( ´∀`)「……確かに、そうだもなね」 ロマネスクの拳を放して、モナーはビコーズに向き直す。 ( ´∀`)「ヴァンクに―――弟のいる所に、連れてってくれもな」 ( ∵) 「分かった。では、舌を噛まないように歯を食いしばってくれ」 頷いて、歯を食いしばる。 それとほぼ同時に、ロマネスクが再度、口を開いた。 ( ФωФ)「モナー。……悪かったな、こんな仕事を任せちまって」 首だけでそちらを向いて、そして、モナーは微笑む。 ロマネスクは眉根を寄せ、怪訝な顔を作った。 ( ´∀`)「何も知らないでいるよりも、真実を知っている方が良いもな。 それに、知らなければ手遅れになってたけど―――今からなら、まだ手を打てる。 僕は君に感謝してるもな。真実を知らせてくれてありがとうだもな、ロマネスク」 その言葉に一瞬驚いたような顔をして、それから、ロマネスクも微笑む。 そして彼は、モナーに向かって手を振った。 ( ФωФ)「さっさと弟見付けて、説教の一つでもかまして、戻って来いよ。 失った物を、取り戻せるだけ取り戻して来い。今なら、きっとまだ間に合うから」 (’e’)「こっちは任せておいて。弟さんを見付けるまで帰って来なくて良いよ。 君の分まで、きっとロマネスク君とシラネーヨ君が働いてくれると思うから」 (;ФωФ)「はぁ!? ちょっと待てよおっさん!!」 その声を最後に、モナーの視界が歪んだ。 世界が急激に暗くなり、声が遠ざかる。 足元すらも闇に包まれ、ポツポツと人工的な光が生まれ始める。 (;´∀`)「も、もな!?」 次に彼の視界が安定した時。 そこは、ありえない空間だった。 周囲は、全てを埋め尽くす深い闇。 その中で、パソコンのディスプレイのような灯りがいくつも光っている。 遠くにある灯りや、近くにある灯り。 高い位置にある灯りや足元にある灯りまで、バラバラに配置されていた。 映画などで見た宇宙の中に立っているような、そんな不思議な感覚。 それにそわそわしているモナーの隣では、ビコーズが「無事に着いたね」と呟いていた。 (;´∀`)「こ、これは……?」 ( ∵) 「空間の隙間、かな。僕にもよく分からない」 (;´∀`)「……これからどうするもな?」 ( ∵) 「ついてきて」 短く呟いて、ビコーズは闇の中を歩き出す。 モナーも慌ててそれに続いた。 ( ∵) 「あ、いっぱいある光にはくれぐれも触れないでね。 どっか知らないところに飛んでっちゃうから」 その言葉に、モナーは硬直する。 彼の右足が光に触れかけていた。 (;´∀`)「もっと早く言ってほしかったもな……」 ( ∵) 「ごめんごめん」 さして気にした様子もなく、ビコーズはすいすいと前に進んでいく。 モナーは光に触れないように気を付けながらも、必死でその背に追いすがる。 (;´∀`)「何でそんな早く歩けるんだもな……」 ( ∵) 「慣れだよ、慣れ」 そして、それからまもなく。 ビコーズの足が、一つの光の前で止まった。 ( ∵) 「これがヴァンクへ通じる光だよ」 ( ´∀`)「この光が?」 ( ∵) 「ちょっと、見てごらん」 ( ´∀`)「……もな?」 ビコーズに促され、光を覗いて見る。 最初は何も見えなかったが、光に眼が慣れてくると、画面に何かが見えた。 それは、無数の死体だった。 (;´∀`)「もな……!?」 ( ∵) 「眼を逸らさないで。考えて」 意味深なビコーズの言葉。 それからまもなく、モナーは気付く。 ( ´∀`)「この傷跡……殺され方……」 ( ∵) 「そう。これらの死体の状態は、君の家にあった死体とほぼ同じだ。 これがどういう事か、言わずとも分かるね?」 ( ´∀`)「……モララーの、手口だもな」 ( ∵) 「正解」 そこで、ビコーズは画面の死体を空虚な眼で見詰める。 ( ∵) 「……記録を見てきた限り、彼の“力”は空間操作だと思う」 ( ´∀`)「空間……操作?」 ( ∵) 「そう。空間を固めたり、切り取ったり、越えたり。私の“力”も、これに含まれるね。 ただ、彼の“力”はどうも攻撃的なんだ。空間ごと人を押し潰すなんて……普通は、出来るはずない」 そこで、モナーは気付く。 あの、頭が破裂したような死体を。 あれが、弟の“力”―――空間操作の、一部か。 ビコーズは、ディスプレイを顎で示す。 ( ∵) 「―――この死体が出来上がったのが、およそ二時間前。 そして死体を作り上げた後、君の弟はシベリア方面へ向かった。恐らく、ガイドラインに行くつもりなんだろう」 ( ´∀`)「ガイドラインに?」 ( ∵) 「人が多いところであるほど、反異能者組織員の数も増える。 組織構成員を出来るだけ多く殺そうと考えているんじゃないか?」 ( ´∀`)「……止めないと、もな」 ( ∵) 「その通りだね」 ビコーズは、促すように光を指差す。 ( ∵) 「ここは現実世界と時の流れが違う。現実の方では二十秒ほどしか経ってないはずだ。 今からすぐに光に飛び込んで、あちらに着いたらシベリア方面へ向かうんだ。分かったね?」 ( ´∀`)「把握、もな」 呟いて、光に腕を突っ込む。 光に引っ張られるような感覚を一瞬だけ感じて、また視界が歪んだ。 「頑張って」 最後に聞こえた声が遠ざかって、そして視界が一瞬途絶えた。 最初に感じたのは、壮絶な頭痛と血臭だった。 あまりの痛みに、モナーは頭を抱えて蹲ってしまう。 そして頭痛が治まって顔をあげれば、そこには見るも無惨な惨殺死体。 腹からこみ上げてくる物を無理矢理飲み込んで、彼は立ち上がった。 そこはどうやら、ちょっと広めの裏路地の一角なようだ。 周りには野次馬と、それを抑えている警官。 その全てが、突然現われたモナーに眼を丸くしていた。 <;ヽ`∀´>「お、お前は何だニダ!?」 ( ´∀`)「VIPPERですもな」 言いつつ、懐から証明書を取り出す。 するとその警官は慌てて帽子を取って、一度頭を下げた。 <;ヽ`∀´>「VIPPERでしたか……失礼しましたニダ。 ここに来たのは、この死体についての調査の為ですかニダ?」 ( ´∀`)「残念ながら、違うもな。この死体を作り上げた張本人を探しに来たんだもな」 そこで一瞬、警官は残念そうな表情を見せる。 一刻も早く、この野次馬をどうにかしたかったのだろう。 ( ´∀`)「では、失礼しますもな」 警官に一礼して、野次馬の輪を抜ける。 そしてそこで、足を止めた。 ( ´∀`)「あ、すいませんもな。警官さん」 <ヽ`∀´>「ウェ!? ウリの事ですかニダ!?」 ( ´∀`)「もな。このバイク、君のもな?」 彼が指差す先には、白バイだ。 <ヽ`∀´>「そうですがニダ……」 ( ´∀`)「じゃあちょっと貸して欲しいもな」 <;ヽ`∀´>「ニダ!?」 ( ´∀`)「死者を減らす為もな。お願いもな」 その言葉に、警官は苦虫を噛み潰したような顔をしながらもバイクのキーをモナーに手渡した。 ( ´∀`)「ありがとうもな」 短く礼を言って、バイクを起動させる。 エンジン音が響き、それに満足そうに頷いて、モナーはメットを被った。 ( ´∀`)「GO!」 叫んで、グリップを捻る。 呼応するように咆哮をあげたバイクは嬉々として地面を蹴り、高速で走り抜けた。 <#ヽ`∀´>「あーっ! めんどくさいニダ!!」 警官の怒声だけが、微かにモナーの鼓膜を打った。 ( ´∀`)「モララーが発見されたのが、二時間前……。 あいつは徒歩だから、ほとんど時間はかからないはずもな」 バイクを駆けながら、モナーは呟く。 既に十分ほど駆けているが、その間には一つ、死体の山があった。 モララーはたった二時間程度の間に、また殺戮を行ったのだ。 酷い有様の死体を見て、モナーは眉根を寄せる。 だがその死体の山は、殺戮を行った時間の分だけ、モララーに確実に近付いている事を表していた。 ( ´∀`)「途中、殺戮に当てた時間を考えれば……あと五分前後もな?」 そう呟いたところで、二つめの人だかりと紅い山を見つけた。 まだその人だかりが少ない事から、山が出来てから時があまり経ってない事が伺える。 ( ´∀`)「……もうすぐ、もな……!」 呟いて、モナーは更にスピードを上げた。 それから、数分後。 怒号と叫び声を聞いて、モナーは急ブレーキをかけた。 (;´∀`)「もしかして、今のは……!?」 耳を澄ます。 どうやら声は、路地裏からのものらしい。 たまらず、モナーはバイクから降りて走り出す。 その右手は、背中に背負ったケースへと伸びていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (,,・∀・)「見ぃ付けた」 陽も当たらない、湿った空気が支配する路地裏の深部。 苔生した石畳を擦り減った靴裏で叩いて、モララーは呟いた。 彼の目の前には、濁った眼をした男達と、その中心で横たわっている少女だ。 茶髪のツインテールが可愛らしい、大きな瞳を持った少女。 その少女の眼に、既に光はない。 顔の下半分はぐしゃぐしゃに潰され、首は半ばほどまで千切れている。 右手と両足は砕かれ、左腕は肩口から切断されていた。 その左手は、男の一人が持っていた。 その手は水色の異形であったが。 男達のブーツは、少女から漏れた紅で濡れている。 だが男達は苦い表情など浮かべない。笑みを浮かべる者はいたが。 ぴちゃり。紅を跳ねさせて、男の一人がモララーを見やる。 手斧を持った厳つい男だ。 「何だ、お前は」 (,,・∀・)「モララー。異能者だよ」 何気なく、当たり前の事のようにモララーは言う。 だがその言葉で、男達は一斉に戦闘体勢に入った。 「俺達の事を知っているのか?」 (,,・∀・)「その腕と女の子を見る限り、間違いなく反異能者組織の人だよね?」 「知っているなら、何で寄って来た? 殺されに来たのか?」 (,,・∀・)「逆だよ、逆」 「何?」 (,,・∀・)「殺しに来たんだよ」 濁った空気を弾き飛ばすかのような、甲高い音。 激昂した男の振り下ろした手斧と、モララーの目の前の空間が激突していた。 「この“力”ッ! まさかっ……!?」 (,,・∀・)「そう、そのまさか。僕が、君達の組織を潰してまわってる異能者だよ」 その言葉と同時、男の首が空高く飛ぶ。 まるで、オモチャの『黒ひげ危機一発』のように。 場に似合わない透き通った音を響かせて、モララーは指を鳴らす。 それと同時に首のない男の体が倒れ、続いて頭が落下した。 (,,・∀・)「一番最初に僕の名前を聞いて、気付かなかったのかな? 気付いていれば、まだ逃げられたかもしれないのにね」 驚愕を隠しきれない男達を嘲るかのように、モララーは歳相応の笑い声をあげる。 純粋だが残酷な、容赦を知らない『子供』の笑い声。 その笑い声は唐突に止んだ。 だが口元には笑みが浮かんでいる―――それはあまりにも皮肉な笑みだったが。 (,,・∀・)「でも、もう逃がさないよ。一人残らず、皆殺しにしてあげる」 その言葉を合図としたかのように、三人の男がモララーに襲いかかった。 一人目の男は、メイスをモララー目掛けて振り下ろす。 だがそれをモララーは余裕で回避。メイスは石畳に突き刺さり、石礫を巻き上げた。 (,,・∀・)「ていっ!」 モララーは隙を見せた男の顎に、横から掌底を打ち込む。 その衝撃に男の首はありえない方向に捻じ曲がり、そして石畳に倒れ込んだ。 男の身体は、もう動かない。 モララーはその場にしゃがみ込む。 その次の瞬間に、彼の頭上で刃と刃が交差した。 二人の男の驚愕のうめきの中、モララーは足元のメイスを握り、振り上げた。 二本の刃は上方に弾かれ、驚愕した男達の手からゆっくりと離れる。 だがその刃の柄を、立ち上がったモララーの両手が握る。 一瞬の後に二本の刃が翻れば、男達の首筋から紅の噴水が噴き出していた。 「が……が……!?」 (,,・∀・)「これで、四人」 首を抑えてうめく二人を蹴り倒す。 そして周りを見渡して、そこでようやく彼は現状を掴んだ。 「調子に乗るのもいい加減にしな」 男達が、自分を囲んでいる。 しかもそれぞれが手に得物を持って、じりじりと距離を縮めているのだ。 (,,・∀・)「へぇ……狩り慣れてるね。あの女の子も、こうやって殺したのかな?」 彼の問いに答える声はない。 ただ、彼の隙を伺って、双眸を輝かせている。 (,,・∀・)「まぁ、良いや。さぁ、どうやって殺そうか」 ふふっ、と、含み笑いをこぼす。 そして両手の刃を構えて――― 「モララー!!」 懐かしい声が、彼の鼓膜を打った。 モララーは、反射的に声の方向に首を向ける。 そして、驚いたかのように目を見開いた。 黒と銀の刃で構成された巨大な鋏を握った、のどかな顔付きの青年。 その青年も、彼のことを見て眼を見開いていた。 (,,・∀・)「……兄ちゃん?」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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