三十三章四从;゚∀从「てめぇッ……殺人鬼側のつーか!」 (*゚∀゚)「うん、そうなるね」 ハインは肩を掴んでいた手を放すと、胸倉を掴み上げる。 しかしそうしても、つーの笑いは止まらない。 从#゚∀从「何がおかしいってんだ、てめぇ」 (*゚∀゚)「全てがおかしくて。面白くて仕方ないんですねぇー。く、くく」 从#゚∀从「おいてめぇ。何、勝手に『外』に出て来てんだ? 誰が出て来て良いっつったんだよ? あぁ?」 (*゚∀゚)「仕方ないじゃん。もう一人の私は、私の中の厚い厚い殻の奥で眠っちゃってるんだから。 おっと、誤解しないでよ。殻の中に入れたのも眠らせたのも、私じゃないからね」 从#゚∀从「なら、誰がやったってんだ」 (*゚∀゚)「私が知るはずないとは思わないの? まず、私はそいつを知ろうとも思わないしね。 私はこの通り、自由になれれば良いのさ」 从#゚∀从「あたしは良くないねぇ。とても不快だよ。 ……さっさと『中』に潜って、つーと交代してこい。 そして出てくるな」 (*゚∀゚)「ははははははっ!! ははははっ!!ひゃははははははっ!!」 突然、狂ったかのように笑い出すつー。 しかしその笑いも突然収まり――― (*゚∀゚)「交代? 誰がするかってーの。馬鹿なんじゃないの?」 禍々しい微笑を浮かべると、つーはハインに向かって中指を立てた。 从#゚∀从「ふざけてんじゃねぇぞコラァ!! 調子に乗るのもいい加減にしやがれ!! 終いにゃぶっ殺すぞ、てめぇ!!」 (*゚∀゚)「殺れるものなら?」 くくく、と笑いを漏らして、つーは続ける。 (*゚∀゚)「私を殺せば、あなたの大切なつーちゃんも死んじゃうよぅ? ま、どちらにせよ、今の私をあなたは殺せないけどね」 从#゚∀从「あぁ?」 (*゚∀゚)「言ったでしょ? 彼女は、厚い厚い殻に閉じ込められて眠らされているって。 それはつまり、私は完全に開放されたって事になるんだよ? 彼女の抵抗も何もない。戦い放題の殺し放題。私は、最強だよ」 从#゚∀从「戦ってみるか? その調子乗った口、二度と叩けないようにしてやるよ」 (*゚∀゚)「戦ってあげても良いけど……あなたに得はないよ? 私に敗けて精神も身体もボロボロになるだけ。 それに、運良く私の意識を落とす事が出来ても、彼女は起きないしね」 从#゚∀从「……どういう事だ」 (*゚∀゚)「あーもー。同じ事、何回も言わせないでよ。馬鹿なの? だから、彼女は殻の中で眠らされてるって言ってんじゃん。 私が意識を失ったところで、彼女が起きるわけじゃないんだよ」 从#゚∀从「……どうすれば起きる」 (*゚∀゚)「知ったこっちゃないね。知ってても教えないけどw」 从#゚∀从「じゃあ、そうだな。お前『中』に潜って、殻とやらを破壊してこい。 そんでつーを起こして、交代してこい。痛い目ェ見たくないならな」 (*゚∀゚)「痛い目? 見せられるもんなら見せてみなよ、ばーか」 一瞬だった。 つーが手に持っていたベルトからナイフを引き抜き、その切っ先をハインに振るったのは。 その速さに、ハインは反応出来ない。 ナイフはつーの胸倉を掴んでいた彼女の右手の甲に、深々と突き立てられた。 血が噴き出し、続いて襲ってくる痛みにハインは胸倉を放してしまう。 彼女は低く呻くと、つーに向けて蹴りを放った。 長い彼女の足は、しかしつーを捉えられない。 つーは一瞬の内に、彼女の攻撃範囲から逃れていた。 (*゚∀゚)「あれあれあれあれー? 痛い目見せてくれるんじゃなかったのかな?」 从;゚∀从「ぐッ……」 呻いて、彼女は右手に突き立てられたナイフを抜き、投げ捨てた。 その右手は、血塗れだ。傷の割には出血量が尋常でない。 ナイフが刺さった場所が悪かったのかもしれない しかも小指と人差し指がへし折られている。 おそらくは、つーが胸倉を掴む手を外した時に折ったのだろう。 それは、つまり。 彼女は、ナイフを刺し指をへし折るという行動を、ほぼ同時に行ったという事だ。 从;゚∀从「なるほど、確かに今までとは別人のようだわな」 (*゚∀゚)「彼女の抵抗は、かなり私の力を抑えてたからね。 それがなくなって、今はすっごく動きやすいんだ」 从;゚∀从「そうかい、だけどなァ……」 異音が、響く。 彼女の両腕が橙色に染まり、右手の傷がたちまち消えていった。 从#゚∀从「てめぇを調子に乗らせるわけにはいかねぇな!!」 皮膚が硬質化し、骨格が変形し、異形となる。 もはや右手の傷は痕も見えなくなり、うっすらと腕に紅の線を残すのみだ。 ハインは左手で右手を―――折れた人差し指を握ると、力を込める。 すると鈍く痛々しい音が響いて、その人差し指は戻された。 続けて、小指も同じく。 (*゚∀゚)「うひゃー、痛そう」 从#゚∀从「あぁ、痛いねぇ。でも、これでてめぇを叩きのめせる」 (*゚∀゚)「ひゃはは。寝ぼけた事言っちゃいけないね。 あなたは私には勝てないよ。あなたが相当に強いとは言え、ね」 从#゚∀从「私を倒してから言いな。口だけなら、誰でも最強になれる」 (*゚∀゚)「じゃあ、そうさせてもらおうかな。 自分だけのものになった身体の準備運動って事で、ね」 从#゚∀从「言ってろよ。後でその言葉が、どうなるかね」 ( ・∀・)「……ハイン」 从#゚∀从「分かってる。油断も手加減もする気はねぇよ。 そんな事が出来る相手じゃない」 ( ・∀・)「分かってるなら良い。 ……どうする。私の助けはいるか?」 从#゚∀从「いらねぇ。こいつはあたしだけでどうにかする。 それに、これはあたしの問題だ。あたしがつーと約束したんだ。『護る』ってよ。 あたしがこいつを倒して、あたしがつーを救わなきゃならない」 ( ・∀・)「ならば、私は蚊帳の外だな。 行ってこい。約束を果たしてこい」 从 ゚∀从「おうよッ!!」 叫んで、駈け出した。 あっというまに二人の距離は縮まり、そしてハインの腕が横薙ぎに振るわれる。 (*゚∀゚)「ひゃはははははっ!!」 しかし、つーはそれを楽々と避けた。 それは下にではなく、上に。攻撃を跳んで避けたのだ。 そして、空中でナイフを放つ。 空気を切り裂いてハインに放たれたそれは、しかし到達する前に粉砕された。 从#゚∀从「っるぁああぁああぁあぁっ!!」 更に一歩踏み込んで、ハイキックを飛ばす。 それはつーを捉えた―――が、苦痛を得たのはハインだった。 从;゚∀从「痛ッ―――!?」 彼女のふとももには、鋭く走る紅い線。 一瞬の後に、その紅い線からは紅の液体が噴き出した。 从;゚∀从「何が……!」 (*゚∀゚)「こういう事だよ」 着地。すぐさまバックステップして、ハインから距離を取った。 その手には、ぬらりと紅く濡れたナイフだ。 (*゚∀゚)「蹴られた瞬間に、切りつけただけ。 ……あれあれぇ? もしかして、見えなかったのかなぁ?」 从#゚∀从「てめぇ……!!」 (*゚∀゚)「良いからさっさとかかっておいでよ。遊んであげるからさ」 禍々しい笑みを浮かべて、彼女は手招きした。 そしていつの間に巻いたのか、いくつものホルスターがぶら下がった腰のベルトから、ナイフを抜き出す。 从#゚∀从「がぁああぁぁああぁあぁあぁっ!!」 怒りも露わに、つーに突進した。 姿勢は、限界まで傾けた前傾。 引き絞られた足からは、だくだくと血が溢れ出した。 そして腕が、振るわれる。 速度を味方にした腕は残像を残してつーに振り下ろされた。 (*゚∀゚)「ひゅぅ♪」 だが、つーはそれも間一髪で避ける。 ―――わざと、危ない避け方をした。 そして振るわれるナイフ。 ハインはそれに反応し―――避けようとして、しかし避けきれなかった。 从#゚∀从「ッ!?」 頬が裂け、血が踊る。 ハインはそれを無視して、更に腕を振るった。 今度は単発の攻撃ではなく、連続。 眼では捉えきれぬ速度で振るわれる異形の腕。 しかし――― (*゚∀゚)「はははっ! ひゃはははっ!! 良いよ良いよ、良い感じッ!!」 その腕は、彼女を捉えられない。 腕は全て避けられ、ナイフでいなされ、受け流された。 しかも、それだけに終わらない。 ハインの傷が、次第に増えていた。 勿論その傷はナイフによるものだ。 つーは異常なほどの速度の攻撃を全て喰らわずに、しかも反撃までしているのだ。 驚くべきは、彼女のナイフにヒビ一つ走らないというところだ。 ハインの攻撃は速く、そしてそれ以上に重い。 その攻撃につーはナイフで相対しているというのに、ナイフは折れる気配を見せない。 ―――それは彼女が凄まじい技術の持ち主だという事を示していた。 しかしハインもやられてばかりではいられない。 彼女も、凄まじい戦闘能力を有している人間なのだ。 从#゚∀从「ずぁぁっ!!」 叫んで、思い切り腕を振り下ろした。 勿論、そんな単純な攻撃はつーには避けられる。 間を置かず、つーは反撃に出た。 从#゚∀从「やっぱり来やがったか!!」 叫んで、彼女は笑った。 先ほどの単純な攻撃は、カウンターを誘う為のものだったようだ。 足が二度、振るわれる。 一度目で右のナイフを蹴り飛ばし、返る二度目で左のナイフを蹴り飛ばした。 从#゚∀从「これでナイフは使えねぇな! てめぇは戦いのスキルはあるとしても、肉体は生身だ!! もうお前に勝ち目は―――」 言葉は、最後まで続かなかった。 つーのサマーソルトキックが、彼女の顎を打ち捉えたからだ。 吹き飛んで、やはり彼女は華麗に着地した。 しかしその口からは一筋の血液。口の中を切ったらしい。 从;゚∀从「……てめぇ」 (*゚∀゚)「生身だからって何さ。武器がなければ戦えないとでも思ってたの?」 从;゚∀从「―――クッ!」 つーの言葉に嫌な予感を感じて、ハインは大きく後ろに跳ぶ。 しかしその腹部に、鈍い衝撃が走った。 从;゚∀从「ぁが……ッ!?」 (*゚∀゚)「舐めんのもいいかげんにすれば?」 いつのまにか、つーが目の前にいた。 その右手は、ハインの腹部にねじ込まれている。 左腕が引かれ、発射される。 単純な攻撃であるその拳は、しかし驚くべき速度でハインの頬を打ちすえた。 しかもそこで、つーの攻撃は終わらない。 ハインの反撃は、許されない。 膝を蹴りつけ、ハインがバランスを崩した次の瞬間には、その側頭部を足が蹴り飛ばしている。 ハインはそこで、素直に倒れる事すら出来ない。頭を掴まれ、地面に向かって投げつけられた。 ギリギリで頭の直撃だけは避けたが、それに安堵する間もなく脇腹を蹴りつけられ、吹き跳ぶ。 ごろごろと床を転がり、ハインは血反吐を吐いた。 (*゚∀゚)「……何だ、激弱じゃん」 溜息と共に呟いた。 そして、後ろに跳ぶ。 その眼前の空間を、橙の腕が豪速で切り裂いた。 つーの前髪の数本が舞い落ち、そして彼女は笑う。 (*゚∀゚)「そうそう、最初からそうやってやってれば良かったんだよ」 まるで獣のような、咆哮。 そして横薙ぎに振るわれるのは、橙の右腕だ。 当たれば間違いなく身体が上下に千切れるであろうそ腕を、つーは大きく後ろに跳んで回避。 しかしその足が地面に着地する前に、彼女の腹にハインの足が突き刺さった。 小さく呻いて、吹き飛ぶつー。 その眼は喜びと、少々の驚きに満ちていた。 彼女はしっかりと着地し、しかし踏み出そうとしたところで足を薙ぎ払われた。 倒れ、脇腹を蹴り飛ばされる。更に仰向けになったところで、腹に踵落としをお見舞いされた。 低く呻いて、つーは笑う。 それから一瞬で立ち上がると、繰り出された蹴りをいなし、ハインの背後に回った。 そして眼にも止まらぬ速度でベルトからナイフを引き抜き、振り下ろす。 しかしハインは振り返りもせず、そのナイフを裏拳で粉砕した。 一瞬。 その腕が、掴まれる。 (*゚∀゚)「引っかかった」 呟いて、彼女はハインを投げた。 しっかりと腕を掴んでいる上、着地も出来ない投げ方。 故にハインは、強く地面に背中を打ちつけた。 一瞬息が出来なくなり、目の前が真っ白になる。 その一瞬で十分。 つーはナイフを引き抜き、それを逆手で構えると、ハインの喉目掛けて――― ( ・∀・)「そこまでだ」 振り下ろそうとした腕は、モララーに止められた。 (*゚∀゚)「……関係ないのが、横から手ェ出さないでくれない?」 ( ・∀・)「関係? 大ありだね。私は君達のリーダーだ。 勝手に戦力を削られては困るのだよ」 (*゚∀゚)「あー? あぁ、そういえばあなたはリーダーだったね」 ( ・∀・)「あぁ。だから殺させるわけにはいかない」 そこで、二人の足元―――ハインの口から、呻きが漏れる。 その呻きは怒りを含んでいた。 从# ∀从「て……めぇ……!!」 そして立ち上がろうとするが―――しかしそれは踏みつけられて遮られる。 つーにではなく、モララーにだ。 ( ・∀・)「落ち着け。今は諦めろ。今のお前では、こいつには勝てない」 从# ∀从「ぐっ……」 (*゚∀゚)「へぇ、あなたは分かっているんd」 ( ・∀・)「喋るな」 (*゚∀゚)「ッ―――!」 声を詰まらせたつーの喉に突き付けられているのは、ナイフ。 それはつーのナイフだ。 モララーは本人に気付かれる事なく、彼女のベルトからナイフを引き抜いたのだ。 ( ・∀・)「ハインにお前を倒す事は出来ないが、私は出来ないわけではない。 ……ハインがお前を倒すと言うから、私は手を出さなかったがね」 (*゚∀゚)「あなたに私が倒せる? はっ、やってごらんy」 ( ・∀・)「喋るなと言っているのが分からないのか」 ナイフが翻る。 鋭い切っ先はつーの頬を浅く切りつけ、血を噴き出させた。 つーは後ろに退こうとするも、出来ない。 見れば、足がモララーに踏まれていた。 ( ・∀・)「私はその気になれば、お前を殺せるんだ。ハインと違って、な。 元々、つーという戦力はないものと考えていたし―――命令に従わない者は邪魔でしかない」 ( ・∀・)「よって、だ―――ここで選んでもらおう。 今この場で喉を切り裂かれて死ぬか、それとも私に従うか」 喉にぴたりとナイフを当てて、問う。 それは形式上は選択だが―――事実上、命令だ。 (*゚∀゚)「選ばせる気なんてないんじゃないの?」 ( ・∀・)「“死”という選択肢もあるぞ。自由に選べば良い」 (*゚∀゚)「……OK、分かった。従うよ。あなたに従う」 ( ・∀・)「そうか」 それだけ呟いて、モララーはナイフを逆手に構えなおした。 そして―――振るう。 ナイフの柄がつーの顎を強打し、彼女の脳を揺さぶった。 (* ∀ )「あ―――」 ( ・∀・)「一応、意識を失わせてもらう」 呟いて、腕を広げる。 そこにちょうど、意識を失ったつーが倒れ込んだ。 ( ・∀・)「……良いぞ。立て、ハイン」 その言葉には無言を返し、ハインは立ち上がる。 彼女は俯き、下唇を噛み締めていた。 既に異形から戻っている拳は強く握り締められて血色を失い、肩はぷるぷると震えている。 从 ∀从「ちくしょうッ……!!」 ( ・∀・)「悔しいのか?」 言葉を返そうとして開かれた彼女の口は、しかし何も吐かずに閉じられた。 言葉を出せば、一緒に涙も出てしまいそうだったのだ。 ( ・∀・)「悔しいだろうな。大切な者が、こうなってしまえば」 一瞬、腕の中にいるつーに視線を送る。 その表情は安らかで―――いつものつーと何一つ変わらないように見えた。 眼を覚ませば、また明るい笑顔を見せてくれそうに見えた。 ( ・∀・)「……異能者として混乱していたこいつに、失った妹の面影を重ねた。 追っ手と“内側の恐るべき存在”に怯えたこいつは、本当に妹にそっくりだった」 ( ・∀・)「護れなかった妹を、今度は護りたくて、強くなった。 そして絶対的な自信を得られるほど強くなった―――だがその自信はたった今、本人に崩された」 かつてハインから聞いた言葉を、淡々と述べるモララー。 その言葉一つ一つが力を持ち、ハインの涙腺を刺激する。 ( ・∀・)「……あぁ、悔しいだろうな。 昔よりずっとずっと強くなったはずなのに、敗けた。 つーを―――妹を護りたかったのに、護れなかった」 その言葉が、とどめになった。 ハインの瞳から、つぅっと涙が溢れる。 溢れ出した涙は、もう止まってはくれない。 彼女の足元に雫が落ちて、染みが出来上がる。 いくつも、いくつも。 「あたしは……どうすれば良いんだ」 声は震えていた。 それは悲しさからの涙声だろうか。それとも、己への耐えがたい怒りだろうか。 ( ・∀・)「どうするもこうするも、つーを取り戻すには方法は一つしかないだろう? この殺人狂に、つーを起こしてもらうしかないんだ。 お前はまず、こいつに勝てるようにならねばならない」 「……勝てるようになって、それからどうすれば良いんだ? こいつが自分からつーを起こそうと思うようにならないと、つーは―――」 ( ・∀・)「そこは自分で考えろ。悔しくて悲しいからって、甘えるな。 言っておくが、お前がこいつをどうにか出来なければ―――私は躊躇なくこいつを殺すぞ。 本人にも言った通り、私にこいつを殺してはいけない理由はない。お前と違ってな」 ( ・∀・)「強くても扱えない駒は邪魔でしかない。 邪魔者は殺す。敵だろうと、かつての仲間だろうとな。 殺されたくないと言うのなら突破口を開け。お前が諦めるまでは待ってやる」 そう告げて、モララーはつーをハインに向けて軽く投げた。 ハインは一瞬躊躇したものの、つーを受け止める。 そしてモララーは二人から視線を外すと、プギャーとミンナの戦いに眼をやった。 まるで、もう二人には興味がないと言いたそうな素振り。 ―――しかし紡がれた言葉は ( ・∀・)「お前は強いよ」 ハインを案じた言葉だった。 ( ・∀・)「お前は強い。私とやりあえるくらいにな。 お前は強い。私がこうして認めるくらいにな。 ……そんなお前に、出来ない事があるのか?」 ( ・∀・)「少なくとも私は、ないと思うがな。 そこまで強いお前であれば、いかなる壁でも打ち砕ける。 そこに苦悩や挫折はあるかもそれんが、お前ならそれすらも跳ね飛ばせるだろう」 ( ・∀・)「今は勝てない相手でも―――今は為せない事でも、やがてお前はやってのける。 いつも言ってるだろう? 『あたしがナンバーワンだ』と。その通りだ。 自分の言った言葉には責任を持て。ナンバーワンの意地を見せてみろ」 その言葉が、最後だった。 今度こそモララーはプギャー達の戦闘に意識を向ける。 それからしばらく、ハインは何もせずに俯いていた。 モララーの言葉を自分の中で反復しているのか、何度か頷くような仕草を見せる。 そして一度咳払いをすると、ハインは涙を拭った。 もう、涙は出ない。 腕の中のつーに、視線を向ける。 そしてその頭を優しく撫で、強く抱き締めた。 「……OK」 呟き。 それからゆっくりと、ハインは顔を上げた。 そして彼女は、笑った。 眼に涙はない。 そこにあるのは、強い光―――決心の光のみだ。 从 ゚∀从「こいつの事は、任せろ。あたしがどうにかしてみせる。 強くなって、叩き伏せて―――従わせる。 つーを、取り戻してやんよ」 モララーから、反応は返ってこない。 ハインも、それ以上言葉を発さなかった。 ハインはモララーに背を向けると、つーを背負った。 そして部屋に向かうべく、足を進める。 しかし少し進んだ辺りで、また足を止めた。 从 ゚∀从「あぁ、言い忘れた事があった」 モララーに背を向けたまま、呟いた。 「ありがとよ」 言葉は、少し恥ずかしそうな笑みを含んでいた。 そしてやや足早に、ハインは部屋に向かう。 モララーはその背をちらりと見やると、口元に笑みを浮かべた。 ( ・∀・)「……まったく、不器用なものだな」 「まぁ、私も言えた事ではないか」と続けて、彼はプギャー達に視線を戻した。 モララー達が思っていた通り、二人の戦闘能力は拮抗していた。 ミンナがサイコロを飛ばせば、プギャーはそれを回避・防御しつつ距離を詰めた。 しかしそこですかさず、ミンナはプギャーの目の前にサイコロを無数に降らせる。 そこでプギャーが左腕で防御すれば、開いた脇腹をサイコロが襲う。 回避して突っ込もうとすれば、後ろからサイコロの嵐だ。 結果、プギャーは回避して、詰めた距離をまた離す事となる。 しかしミンナもミンナで、決定打を与えられずにいた。 互いに浅い傷は付けられるが、しかしそれは勝利からは随分と遠い。 プギャーは攻撃手段があまりにも少なく、ミンナは防御が薄すぎた。 ( ・∀・)「……そこまでだ。二人とも、ちょっと来い」 およそ二十回目の相対。 そこで、モララーは二人の戦いを止めた。 二人は肩で呼吸しながらも、駆け足でモララーへと寄って来る。 ( ・∀・)「二人にそれぞれ、話がある」 (;^Д^)「は……話、ですか?」 ( ・∀・)「あぁ。重要な話だ。だからまずは、呼吸を整えてくれ」 言った瞬間、二人は膝に手を着いた。 運動量と緊張から、疲労は限界に達していた。 ややプギャーの方が疲労が激しい。 己の“力”のなさをカバーする為に、動き回らねばならなかったからだろう。 数分後。 ようやく二人は落ち着き、モララーは再度口を開いた。 ( ・∀・)「率直に言わせてもらう。 次の“削除人”との戦いでの鍵は、お前達だ」 (;゚д゚ )「……え?」 ( ・∀・)「聞こえなかったか?」 (;゚д゚ )「いや、聞こえましたが……」 (;^Д^)「どういう事ですか?」 ( ・∀・)「次の戦闘までに、お前達の戦闘能力は格段に伸ばせるんだ。 私やハイン、流石兄弟などの“力”は、もうある意味出来上がってしまっている。 これ以上の強い“力”を得るには、“力”の完全開放しかない」 ( ・∀・)「しかし、お前達の“力”はまだいくらでも伸ばせるんだ。 お前達が今扱っているのは、“力”であって“力”ではない。“力”の片鱗の片鱗に過ぎん。 “力”出し方と扱い方を覚えれば、真の“力”を扱えるようになる」 ( ^Д^)「真の―――“力”?」 ( ・∀・)「あぁ、そうだ。今からお前達に、真の“力”の扱い方を教える」 ( ゚д゚ )「嬉しいのですが……何故、今まで黙っていたのですか?」 ( ・∀・)「必要ないと思っていたし、何よりお前達がそれを扱えるような力を持っていなかったからだ。 眠っている“力”を起こす事は、身体にとてつもない負担をかける」 ( ゚д゚ )「……分かりました。では、どうすれば?」 ( ・∀・)「イメージするんだ」 ( ゚д゚ )「……イメージ?」 ( ・∀・)「そう。イメージ。 例えばミンナ。お前はいつも、攻撃する時はどうしている?」 ( ゚д゚ )「念じています。浮け、降り注げ―――等と」 ( ・∀・)「ならば、それをまず変えてみようか。 ……プギャー。左腕を解放しろ。 解放したら、自分の身を護るように、左腕を前に出せ」 ( ^Д^)「はい」 異音が響き、プギャーの腕が異形へと変化する。 そして、左腕を胸の前で構えた。 ( ・∀・)「では、ミンナ。プギャーの左腕に、サイコロを撃ち込んでみてくれ。 ただし、念じるな。イメージしろ」 ( ・∀・)「己の手からサイコロが浮き上がる様を。 そのサイコロが、プギャーの左腕に撃ち込まれる様を。 出来る限り鮮明に、そこに意識を注ぎ込んでだ」 ( ゚д゚ )「…………………」 頷いて、ミンナはサイコロを一つ取り出す。 そして掌を前に突き出すと、眼の前の虚空を睨みつけるように凝視した。 サイコロは、ぴくりとも動かない。 ( ・∀・)「まだダメだ。気を抜いてはいけない。 もっと鮮明にイメージしろ。自分の意識の全てを、イメージに費やせ」 言葉に頷いて、ミンナは更に空間を凝視する。 そこにサイコロが浮かび上がる様をイメージしているのだ。 出来る限り、鮮明に。 やがて額の血管が浮かび上がり――― (#゚д゚ )「ぐっ……!」 サイコロが、浮かび上がった。 しかしそれは今までのように、ふわりとは上がってくれない。 それはぐぐぐ……と、徐々に徐々に、ミンナがイメージした箇所に上がった。 ミンナの視線が、虚空からプギャーの左腕へと移動する。 そして今度は、彼はそこを凝視した。 額の血管は大きく浮かび上がり、どくどくと脈打っている。 限界まで見開かれた眼には、プギャーの左腕しか映っていない。 否。 その眼に映っているのは、己が描いたイメージだ。 (#゚д゚ )「……がぁああぁあぁッ!!」 咆哮。 それに応じたかのように、サイコロは撃ち放たれた。 その速度は、今までのそれとは桁違いだ。 同じく、威力も。 甲高い音が響く。 ミンナの放ったサイコロはプギャーの腕で跳ね返り、床に食い込んだ。 プギャーは、驚愕の表情を浮かべていた。 (;^Д^)「……何だ、今の威力は」 ( ・∀・)「どうだった」 (;^Д^)「マグナムによる銃撃を防御した時のような―――いや、それ以上の衝撃でした」 ( ・∀・)「こういう事だ、ミンナ」 ミンナに視線をやる。 彼は左手で頭を押さえて、荒い息をついていた。 ( ・∀・)「どうだった」 (;゚д゚ )「……とてつもなく、疲れました。 今のやり方は、尋常でない集中力が必要です」 ( ・∀・)「しかし、今のサイコロの威力は聞いた通りだ。 いつもの威力の比ではない」 ( ・∀・)「これから、ずっとだ。 イメージで“力”を扱うような訓練をしろ」 ( ・∀・)「やがて自然にイメージで“力”を扱えるようになるはずだ。 そうなれば、“力”の限界も広がる。攻め方が増える。 多種多様な攻撃手段を持ち、その一つ一つが高威力……訓練次第では、そうなれる」 ( ・∀・)「そうなった時、お前は『鍵』になる。 期待しているぞ」 ( ゚д゚ )「……精進させていただきます」 ( ・∀・)「あぁ。そうしてくれ。頼んだぞ。 ……さて、プギャー」 (;^Д^)「は、はい!」 ( ・∀・)「今度はお前の番だ。胸の前で、左腕を右手で掴め」 言われた通りに、構える。 その姿はまるで、右手で草色の鎌を握っているかのようだ。 ( ・∀・)「眼を閉じろ」 ( ^Д^)「はい」 ( ・∀・)「何が見える」 ( ^Д^)「? ……何も見えません」 ( ・∀・)「では、お前にも“力”をイメージしてもらおう」 ( ^Д^)「……イメージ」 ( ・∀・)「あぁ、そうだ。異能者の“力”には、精神面が大きく関与する。 だからこそ、イメージするという行動が重要なのだよ」 ( ^Д^)「なるほど」 ( ・∀・)「だから、イメージしろ。プギャー。 お前の身体の中心―――心臓の辺りには、魔物がいる。 その魔物は今は眠っていて、右腕と両足を折り畳んでいる」 ( ・∀・)「しかし左腕だけは伸ばされていて―――それはお前の左腕となっている。 お前のその左腕が、体内の魔物に繋がっているとイメージしてくれ。 そうしたら、左腕に“力”を注げ」 ( ^Д^)「“力”を?」 ( ・∀・)「あぁ。いつも腕を解放する時は、そこに“力”を込めているだろう? その量を、限界まで増やせ。全身に満ちている“力”を、そこに注げ。 ……この作業には、集中力が必要だぞ」 ( ^Д^)「はい」 意識を、左腕に集中させる。 右腕から伝わる硬い手触りが、ミシリと音を経てた。 ( ^Д^)(呼応……しているのか?) 左腕の異形と生身の間―――肘の辺りが、熱くなる。 集中すればするほど、イメージすればするほど、その熱さは高まっていった。 その熱さは、何故か心地良かった。 ( ^Д^)(全身の“力”を……左腕へ) イメージする。 右足、左足から“力”が昇り、左腕に注ぐ様を。 左腕に触れる右の掌から、直に“力”が注ぎ込まれる様を。 そこで、プギャーは気付く。 左腕が、熱くなっていた。 右腕から伝わる左腕の感触は、硬い表皮の中に脈動するものを見付けた。 ( ^Д^)(俺の中にいる……魔物。 この左腕は、そいつの左腕。 つまりこれは……魔物が、起きようとしている?) その思考が為された時には、左肘の熱さは最高潮になっていた。 左腕の脈動は速く、強くなっている。 その時だった。 ( ^Д^)(あ……?) 彼の内側―――中心辺りで、何かが蠢いた。 とてつもなく強大で、とてつもなく恐ろしい何かが。 瞬間、凄まじい恐怖と不安に襲われる。 何故かは分からない。 とにかくその何かが、とてつもなく怖かった。 同時。 左腕が、動き出した。 自分で動かしているのではない。勝手に動いているのだ。 右腕の制止を振り切ろうとするかのように。 (;^Д^)「うわ……あぁ……!?」 ( ・∀・)「恐れるな」 (;^Д^)「モ、モララーさん……これは、一体……」 ( ・∀・)「お前の中の魔物が、目覚めようとしているんだ」 ドクン、と心臓が強く打った。 まるで、異能者として覚醒したあの時のように。 呼吸が、荒くなる。 左腕の脈動は、既にはっきりとしたものになっていた。 そしてそれは―――プギャー自身の鼓動と、同じリズムを刻んでいた。 ( ・∀・)「まだだ。まだ気を抜くな。 “力”を、余す事なく注ぎ込め」 頷く。 しかし“力”を送り込むたびに、己の中の魔物の動きは大きくなっていった。 それと同時に、恐怖も大きくなる。 心臓の鼓動はひどく大きく、強くなり、もはや痛みを伴っている。 貧血を起こした時のように体が不安定になり、たまらず床に膝をついた。 (;^Д^)「一体……どうなって……!!」 ぞわり。 内側で魔物が今までになく大きく蠢いて、寒気がした。 そして心臓の痛みがピークに達した時―――直感で感じ取った。 『魔物が、眼を覚ました』 ふっ、と心臓の痛みが消える。 それと同時に、左肘の熱感も、左腕の脈動も―――全てが消え、平常に戻った。 (;^Д^)「くっ……」 呻きながら、立ち上がる。 いつのまにか、左腕は元に戻っていた。 (;^Д^)「今のは……一体……」 左腕を見つめながら、呟く。 さきほどまで異常を起こしていた左腕は、何事もなかったかのように沈黙していた。 ( ・∀・)「おめでとう」 モララーは、笑っていた。 ( ・∀・)「お前の中の魔物は、目覚めたようだな」 (;^Д^)「何故分かったのですか?」 ( ・∀・)「“力”を解放してみれば分かる」 ( ^Д^)「…………………?」 戸惑いながらも、左腕を解放させる。 異音が響き、その形状が変化して――― (;^Д^)「えっ……?」 左腕が、異形へと変わった。 変化する範囲は今までのように肘から先だけではなく―――左腕全体。 ( ・∀・)「眠っていた魔物が起きた。 それはつまり、封じられていた“力”が解放されたという事だ」 ( ・∀・)「これから少しずつ、解放した際に変化する箇所が広がるだろう。 今は左腕全体だが―――やがて、全身が異形へと変化する事になる。 そうなれば、フサやクーにも引けを取らんぞ」 ( ^Д^)「俺が……そこまで強くなれる? ( ・∀・)「お前の“力”次第では、奴らなど足元にも及ばないほど強くなれる。 それはプギャーだけでなく、ミンナもだ」 ( ・∀・)「もう一度言おう。お前達は、『鍵』だ。 お前達次第で、勝つか敗けるかが決まると言っても過言ではない。 ……期待しているぞ。“削除人”を、打ち倒そう」 言って、モララーは二人から視線を外した。 そして、つーの部屋へと歩み行く。 (;^Д^)「……俺達は、どうすれば?」 「あぁ、言うのを忘れていたよ」 そこで首だけを二人に向けて、言った。 ( ・∀・)「それぞれ、自分の“力”の強化に強めてくれ。 ミンナはイメージで“力”を扱う訓練。 プギャーはひたすら解放して、変化範囲を広げろ」 返事を待たずに、彼はまた歩き出す。 その表情は、複雑なものだった。 ( ・∀・)(つー……か) 変わってしまった仲間を想った故の、その表情。 ( ・∀・)(これ以上、仲間を失う事はしたくないな) 大切なものを失う事は、とても悲しい事だ。 それを一番知っているのは―――モララーなのかもしれなかった。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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