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LOYAL STRAIT FLASH ♪

三十七章二

101 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:55:41.97 ID:O0YNWcPZ0
                                              .
木と木の間を縫うように走る、二つの影がある。
その瞳は横手の雪色の壁を見詰め、何かを見つけ出そうと揺らいでいた。

( ^ω^)「っ! ここだお!」

その壁に何を見付けたのか、ブーンはその場で急停止した。
彼の後ろの影―――ツンも、たたらを踏みつつ止まる。

ξ゚△゚)ξ「……あったの?」

( ^ω^)「ほら、あそこ」

鉄柵の向こうの、雪色の壁を指差す。
一見、そこには何もないように見えるが―――僅かに盛り上がっている箇所があった。

それこそが、モナーが発見した扉だった。

( ^ω^)「時間になったら、この柵を越えてあの扉から進入するお。
      ツン、残り何分で突入だお?」

ξ゚△゚)ξ「……残り二十分よ」

( ^ω^)「おっ。まだ意外と時間あるみたいだおね」

ξ゚△゚)ξ「そんな事ないわ。二十分なんて、すぐよ。
      特にこういう時は、時間の流れは早く感じてしまうものよ?」

( ^ω^)「戦いへの覚悟が出来てるなら、二十分は長いくらいだお。
      ツンも、覚悟は決めてきたお?」


102 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:58:10.35 ID:O0YNWcPZ0
                                         .
ξ゚△゚)ξ「そりゃあ、そうだけど」

( ^ω^)「だったら、やっぱり時間は十分にあるお。
      そうだお?」

ξ゚△゚)ξ「……むぅ」

どこか納得がいかないように唸るツン。
それを横目に、ブーンは傍にあった大木に寄りかかった。
そして、腰を下ろす。

( ^ω^)「ふぅ」

ξ゚△゚)ξ「……随分とリラックスぶっこいてんじゃない」

( ^ω^)「二十分も気ぃ張ってたら、無駄に疲れちゃうお。
      それに、慣れないバイクに乗って、疲れちゃったお。
      休まなきゃ」

ξ゚△゚)ξ「…………………」

( ^ω^)「ツンも、バイクに乗って疲れたお?
      休むべきだお。ほら」

自分の隣を指して、ブーンは微笑んだ。
ツンは呆れたように溜め息を吐き、しかしブーンの誘いに乗った。
大木まで歩み寄って、ブーンの隣に腰を下ろす。

その頬は、心なしか僅かに紅潮していた。


108 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:00:43.79 ID:O0YNWcPZ0
                         .
( ^ω^)「ふぃー」

ξ゚ -゚)ξ「……ようやく、始まるのね」

( ^ω^)「そうだおね」

ξ゚△゚)ξ「戦うの、怖くないの?」

( ^ω^)「もう、覚悟したから。
      まったく怖くないと言えば嘘になるけど、でもあまり怖くはないお。
      今の僕にとって本当に怖いのは、敗けて全てを失ってしまう事だけだお」

ξ゚ -゚)ξ「……そう」

( ^ω^)「ツンは、怖いのかお?」

ξ゚△゚)ξ「ちょっぴり、ね。
      いざ戦いとなれば平気なんだけど、戦う前は、やっぱり」

( ^ω^)「じゃあ、深呼吸すると良いお!」

ξ;゚△゚)ξ「え?」

( ^ω^)「深呼吸だお! 怖い時とか緊張する時は、深呼吸するのが良いんだお!
      深呼吸すると、心が落ち着いて怖くなくなるお!」

ξ;゚△゚)ξ「そんな単純な……」

( ^ω^)「良いから!」


109 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:03:35.05 ID:O0YNWcPZ0
                               .
ξ゚ー゚)ξ「……プッ。
      分かったわよ。するわよ」

口元に笑みを浮かべつつ、大きく息を吸った。
鼻孔を草木の香りが満たす。

吸った息を吐いてみると、少しだけ、恐怖は薄れているように感じた。

勿論、深呼吸のおかげではない。
ブーンの明るさが、彼女の緊張を解かしたのだ。

( ^ω^)「どうだお?」

ξ゚ー゚)ξ「少しだけ楽になった……かもねw」

( ^ω^)「おっ! それは良かったお!」

ξ゚△゚)ξ「……そういえば、ブーン。一つ、訊いて良い?」

( ^ω^)「おっ、何だお?」

ξ゚△゚)ξ「私達が初めて会った時―――私があなたを殺そうとした時。
      何であなたは、私を殺そうとしなかったの? 何で私を敵として憎まなかったの?
      何で私を助けたの? 放っておけば、死んだのに」

( ^ω^)「戦ってる時、ツンが哀しそうな顔をしてたからだお」

ξ゚△゚)ξ「え?」


111 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:06:28.74 ID:O0YNWcPZ0
                                    .
( ^ω^)「そもそも、人は殺したくないお。殺さないでいられるなら、殺したくない。
      あの時、僕は殺さないで良い状況にあったから殺さなかった。
      君が哀しそうな顔をしたから、何だか助けたくなった。それだけだお」

(;^ω^)「……実際、僕もよく分かっていないし、覚えてないんだお。
      あの時は無我夢中で、気付いたらああしていただけだから」

ξ゚△゚)ξ「……そう。でも、あの時はごめんね」

( ^ω^)「良いお。いや良くないけど。でももう、気にするなお。
      君にとっては、やりたくなくてもやらなきゃいけない事だったんだから」

ξ゚ー゚)ξ「……何か、ごめんね。ありがと」

( ^ω^)「いえいえ」

ξ゚△゚)ξ「……ねぇ、ブーン。あなたは、この戦いに勝ったらどうするの?」

( ^ω^)「お? そりゃあ、あの日常に戻るだけだお。
      異能者としての自分は忘れて、あの楽しい毎日に戻るんだお」

ξ゚△゚)ξ「あ、そっか」

( ^ω^)「ツンは?」

ξ゚△゚)ξ「……分からないなぁ。私、『こういう世界』しか知らないから。
      生きる事と戦う事、殺す事に必死で。『そちらの世界』は、何も知らないの。
      何をしようとか考えた事もないし、どうしたいとも思わなかった」


113 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:09:21.05 ID:O0YNWcPZ0
                                          .
   _, ,_
( ^ω^)「うーん……そうかお」

腕を組み、眉根を寄せて唸る。
そして何かに気付いたかのように声を漏らすと、笑顔で頷いた。

( ^ω^)「じゃあ、戦いが終わったら考えると良いお!」

ξ゚△゚)ξ「え?」

( ^ω^)「この平和な世界での、自分の未来を!
      何かやりたい仕事を考えるでも良し、知らなかった世界を歩き回ってみるのも良し!
      過去の事なんか全て忘れて、『この世界』で新しい自分の道を歩めば良いお!」

( ^ω^)「……そうだ、僕達の学校に来てみればどうだお?」

ξ;゚△゚)ξ「な、何を……」

( ^ω^)「みんな癖があるけど、良い奴ばっかりなんだお!
      きっと気に入ると思うお! 来てみると良いお!
      きっとツンだったら、すぐに友達が出来るお! 人気者になれるお!」

ξ;゚△゚)ξ「…………………」

あまりにも突然な提案に、絶句。
そして。


115 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:12:24.10 ID:O0YNWcPZ0
                                   .
ξ゚ー゚)ξ「……プッ。
      そうね、それも、考えておくわ」

おかしさに、笑ってしまった。

( ^ω^)「おっ! それが良いお!」

ブーンの笑顔を見て、ツンは少しだけ、自分の未来について考えてみる。

あちら側の世界は、何だか楽しそうだ。
あの世界に、私は行けるのだろうか。
行けるとするなら、私はあちらの世界で何をするのだろうか。

学校とやらに行ってみるのも、楽しいかもしれない、と。

( ^ω^)「……さて、ツン。残り何分で突入だお?」

ξ゚△゚)ξ「えっと……あっ。あと五分ってところよ。
      思った以上に時間経ってるわね」

( ^ω^)「んじゃ、準備するかお」

ξ゚△゚)ξ「えぇ」

立ち上がる。
それからブーンは、声を漏らしつつ大きく伸びをした。


116 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:14:45.71 ID:O0YNWcPZ0
                                       .
( ^ω^)「うー……ん。さて!」

ブーンの足元から、異音が響く。
まもなくその両足は異形のそれへと変化し、白銀の光を放った。

同時、ツンの背中から巨大な翼が広がる。
柔らかに風を撫ぜたその翼はブーンの“力”をコピーし、その翼もまた、白銀に輝いた。

ξ゚△゚)ξ「気、引き締めてよね」

( ^ω^)「分かってるお」

答えつつ、ブーンはガントレットをもう一度しっかりと装着し直す。
そして足を軽く動かすと、「よし」と笑った。

ξ゚△゚)ξ「今頃は姉さん達が突入してる頃ね。
      ……大丈夫かしら」

( ^ω^)「心配ないお。クーと、ドクオが組んでるんだから。
      あの二人のタッグに勝てる奴なんてそうそういないお」

( ^ω^)「それよりも、僕達だお。
      逃げ出してきた奴らの始末……僕らの動きは重要だお。
      一人でも逃がしてしまえば、戦いはここで終わらなくなってしまう」

ξ゚△゚)ξ「……頑張らないとね」

( ^ω^)「だお」


119 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:17:23.69 ID:O0YNWcPZ0
                                   .
ツンは手首の時計に、ちらりと眼をやる。
そして、頷いた。

ξ゚△゚)ξ「ブーン」

( ^ω^)「行くかお」

ξ゚△゚)ξ「えぇ」

言葉と同時、二人の姿が地上から姿を消した。

二人の姿は、上空。
背の高い鉄柵の、更に上。

( ^ω^)「おぉっ!」

上空から、凄まじい勢いで着地する。
土煙が舞い上がり、着地したところの地面が少し陥没した。

ξ゚△゚)ξ「気を抜かないでね。
      今この瞬間に、そこから現れるかもしれないんだから」


121 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:19:30.27 ID:O0YNWcPZ0
                                    .
ふわりと着地しながら、ツンは言う。
地面には、彼女の翼から抜け落ちた羽根が突き刺さっていた。

( ^ω^)「OKだお」

ξ゚△゚)ξ「……突入、三十秒前」

二人の瞳が細められ、身体に力が込められる。
その姿は、さきほどまでの二人とはまったく違うものだった。

ξ゚△゚)ξ「……突入っ!!」

( ^ω^)「おっ!!」

地を蹴り、扉に一瞬で接近。
そして、思い切り蹴り飛ばした。
扉はあちら側にひしゃげ、吹き飛んで行く。

ブーンはその勢いに乗ったまま、中へと突入していった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


122 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:22:21.39 ID:O0YNWcPZ0
                                    .
基地の西側、鉄柵に沿って歩く二人。
その足取りは急ぐでもなく、その表情もまた、焦りなどは感じていないように見える。

( ´∀`)「ここだもな」

言って、唐突に足を止めた。
彼の後ろにいるジョルジュは、胡乱気に眉根を寄せる。

( ゚∀゚)「ここ? は? どこにあるってのさ」

( ´∀`)「あそこあそこ」

鉄柵の向こう側、雪色の壁を指差す。
そこにあるのはやはり、扉の形に薄らと盛り上がりのある壁だ。

( ゚∀゚)「おっ、あったあった。
    それにしても、巧妙に隠したね。
    ズルい事を考えるもんだねぇ、“管理人”も」

笑う。
その笑みは、既に鋭い。

驚くほどの鬼気が、その笑みには込められていた。

( ゚∀゚)「さて、モナーさん。あと何分で突入だい?」

( ´∀`)「あと十分だもな」


124 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:24:59.61 ID:O0YNWcPZ0
                 .
(;゚∀゚)「俺達、ゆっくりしすぎたんじゃね?
    残り十分で突入とか、心の準備が!」

( ´∀`)「もう出来てるんだから、良いじゃないかもな」

( ゚∀゚)「うん、まぁ、確かにねー」

( ´∀`)「心の方の準備が出来てるんだから、後は装備の確認だけ。
      実際は五分もあれば十分だったんだもな」

( ゚∀゚)「あ、そういえばさ、今回はどんな武器持ってきたの?」

( ´∀`)「メインは薙刀だもな」

( ゚∀゚)「あ、背負ってるその長いやつね。
    ……ん? メインはって?」

( ´∀`)「近接専用に、小太刀を二本。
      それにナイフをいっぱいと、あと手榴弾とか」

(;゚∀゚)「……そんな物騒なもん、どこに隠し持ってんだか」

( ´∀`)「秘密だもなー」

( ゚∀゚)「む。……ま、良いや。それよりも、今日は頼むよー?
     相棒として、頼りにしてんだかんねー?」


130 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:41:14.01 ID:O0YNWcPZ0
                                         .
( ´∀`)「勘弁してほしいもな。
      人間のおっさんである僕をこき使うのは良くないもな。
      異能者であり若者である、君こそが働くべきだもな」

( ゚∀゚)「おっさんは物騒な武器を振り回したりしません。
     それに、あんたに限っては人間も異能者もないでしょw
     異能者相手に互角以上に戦う人間なんて、あんたくらいなもんだwww」

( ´∀`)「そんなことないもな! 探せば、きっともっといる筈だもな!」

( ゚∀゚)「はーいはい。ところで、さ。おっちゃん。
    おっちゃんはさ、この戦いが終わったらどうすんだい?」

( ´∀`)「昔馴染みの友人のところに行くもな」

( ゚∀゚)「へぇ、良いじゃん! どこに住んでるんだい?」

( ´∀`)「大都会シベリアの、高ーい高ーいところにいるもな」

( ゚∀゚)「え? 何々? 偉い人なの?」

( ´∀`)「ふふーん。秘密だもな。
      ジョルジュ君は?」

( ゚∀゚)「ん? そりゃ、前と同じく学校生活さ。
     ただ……そうだね。以前よりも、素直に生きてみようかな」

( ´∀`)「それが良いもな。君は確かに、ちょっと自分を作り過ぎてたもな。
      今は作ってないようだけど、あんな生き方だといつか息が詰まるもな」


133 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:45:15.93 ID:O0YNWcPZ0
                                      .
(;゚∀゚)「……待って。作ってた事、気付いてたの?」

( ´∀`)「そりゃあね。世の中の兄貴舐めちゃいけないもな」

(;゚∀゚)「っちぃー……こりゃあ予想外だ」

( ´∀`)「もなもな。素直に生きるのが良いもな」

( ゚∀゚)「そうさせてもらうよ。……さて、そろそろ突入かな?」

( ´∀`)「えーっと……おおう。あと三分だもな」

( ゚∀゚)「よし、突入準備だね」

鉄柵に向かって、足を進める。
その右手は異音を発し―――まもなく橙色に色が変わった。
同時、その手は巨大な鉤爪を備えた異形の腕に変化。

鉄柵に辿り着くや否や、それは大きく振り抜かれた。

( ゚∀゚)「おりゃっ!!」

その腕に喰らいつかれた鉄柵は、耳障りな音を立てながら湾曲する。
鉄柵の一部はへし折れ、そこにはちょうど、人が一人通れるくらいの空間が出来上がった。


134 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:47:36.03 ID:O0YNWcPZ0
                                     .
( ´∀`)「グレイト」

( ゚∀゚)「よーっし! 行こうか!」

発見した扉の前まで、のっしのっしと歩む。
モナーは薙刀を構え、ジョルジュは左手に装備した『尖鋭』を軽く一振り。

( ゚∀゚)「突入まであと何秒だい?」

( ´∀`)「あと十秒だもな」

( ゚∀゚)「よーっしゃ! 行くぞ!!」

( ´∀`)「もな!」

ジョルジュが走り出した。
まもなく扉に到達し、右腕を振るう。

硬い素材であるはずの扉はいとも簡単に引き裂かれ、そして蹴破られた。
扉の残骸を足蹴に、二人は基地の中へと突入していった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


137 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:50:46.10 ID:O0YNWcPZ0
                                      .
ミ,,゚Д゚彡「残り時間は?」

(*゚ー゚)「あと十分」

ミ,,゚Д゚彡「妥当な時間だな。丁度一服出来る」

傍らに生える木に、寄りかかった。

そしてコートの中に手を差し込み、煙草を取り出す。
慣れた仕草で口に咥え、そして火をつけた。

(,,゚Д゚)「煙草、辞めろよ。身体に悪い」

ミ,,゚Д゚彡「うるせぇ。人の決めた生き方に口出すな」

(#゚Д゚)「……人が心配してやってるというのに」

ミ,,゚Д゚彡「無用な心配だ。大体な、煙草ってのは吸い始めたらもう遅ぇんだよ。
     吸わせたくないってんなら、そうだな。
     ずーっと昔にタイムスリップでもして、煙草を吸い始めようとしてる時の俺をどうにかしてこい」

(#゚Д゚)「出来るか!」

ミ,,゚Д゚彡「そりゃあな。出来たらバケモンだ」

(#゚Д゚)「こんの野郎……ッ!!」

(;゚ー゚)「こらこら、戦闘前から戦ってんじゃありません。
    落ち着いて」


138 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:53:23.33 ID:O0YNWcPZ0
                                     .
(,,゚Д゚)「……ちっ」

舌打ちして、ギコは左手に握った赤い刃『ロマネスク』を振るった。
風は鋭く切り裂かれ、ギコはその感触に満足げに頷く。

そしてもう一度振るおうとして―――

ミ,,゚Д゚彡「辞めておけ」

フサが、煙と共に言葉を吐き出した。

(,,゚Д゚)「お?」

ミ,,゚Д゚彡「無駄に体力を浪費するな。
     この後、どれだけ戦うか分からないんだからな。
     この十分で、出来得る限り体力を回復させておけ」

ミ,,゚Д゚彡「エンジンをかけるのは、もっと後で良い。
     今はただ休んで、戦る気だけを練っていろ。
     ―――死にたくないなら、な」

口に咥えたままの煙草から立ち上る煙。
それをぼんやりとした眼で見詰めながら、彼は言った。

ミ,,゚Д゚彡「休憩は取れるところで取っとかないといけねぇもんだ。
      十分……いや、一分程度の休憩が、後々大きく響く。
      だから、休め。この後はずっと、殺し合いだ。休む事は出来なくなる」


139 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:56:32.73 ID:O0YNWcPZ0
                 .
それは、経験だ。

放浪していた時期、反異能者組織から逃亡していた時期に学習した、経験。
敵ばかりの世界で生き抜くために学習した、生存の為の知識。

対するギコは一瞬、きょとんとした顔で立ち竦む。
そして数秒後

(,,゚Д゚)「……あ、あぁ。分かった」

頷いて、ロマネスクを腰に下げた。
フサは「ふん」と鼻を鳴らし、煙草を大きく吸う。

しぃはそれを見て、笑った。

(*゚ー゚)「相変わらずだね、フサさんw」

ミ,,゚Д゚彡「…………………」

煙を吐きつつ、フサは顔を背ける。
その様子を見て、ギコは首を傾げた。

(,,゚Д゚)「何だ? 相変わらずって」

(*゚ー゚)「あぁ。あのね、フサさんはいつも……」

ミ,,゚Д゚彡「余計な事を言うんじゃないぞ」

(*゚ー゚)「……だってさ。ダメだって」


141 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 23:59:24.13 ID:O0YNWcPZ0
                .
(,,゚Д゚)「いつも、何なんだよ」

ミ,,゚Д゚彡「うるせぇ。黙って休んでろ」

(,,゚Д゚)「あーん? ……意味分からねぇな。畜生」

ミ,,゚Д゚彡「分からなくて良い。休んでろ。
     ―――いや」

そこで、一際大きく煙草を吸い込んだ。

そして、指先で短くなった煙草を弾き飛ばす。

ミ,,゚Д゚彡「残り三分。突入の準備をしろ」

煙を吐きつつ、言った。
ぼんやりとしていた筈のその瞳は、鋭い獣の眼へと変化していた。

(,,゚Д゚)「残り三分? ……何故分かる」

ミ,,゚Д゚彡「煙草一本、七分だ。不安なら、しぃに聞いてみろ」

(,,゚Д゚)「……どうなんだ?」

(*゚ー゚)「確かに、残り三分だよ」

ミ,,゚Д゚彡「という事だ。準備をしろ」


142 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:02:28.09 ID:syk5CFIh0
               .
寄りかかっていた木から、背を離す。
そして、異音が三つ、重なった。

ギコの右腕は、龍のそれを思わす紅き異形へ。
しぃの左腕は、神々しいまでに黄金色に輝く異形へ。
そしてフサの両足は、禍々しい魔獣の両足に。

ギコは持ってきたバッグの中身を確認すると、腰に下げた『ロマネスク』を抜く。
しぃは胸に手を当てると、未来への希望を呟いて頷いた。

そしてフサは、新たな煙草を咥えて、火を付ける。

ミ,,゚Д゚彡「よし。じゃあ、しぃ」

(*゚ー゚)「おっけー」

異形の左腕を、鉄柵に向ける。
同時にその掌に光が集束し―――

(*゚ー゚)「はっ!」

そして甲高い音と共に飛び行ったのは、光線だ。

鉄柵は光線に蹂躙され、焼き切られる。
そしてまもなく、そこにはぽっかりと穴が開いた。

(*゚ー゚)「完了っ!」

ミ,,゚Д゚彡「上出来だ」


143 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:05:43.70 ID:syk5CFIh0

煙をたなびかせて、フサはその穴を通過する。
それにしぃが続き、ギコが続いた。

ミ,,゚Д゚彡「さて、しぃ。時間になったら、この扉にも穴をブチ開けてもらうわけだが……。
     残りどれくらいだ?」

(*゚ー゚)「ん、もう一分ないね。……今、残り四十秒」

ミ,,゚Д゚彡「よし」

満足げに頷くと、フサは眼の前の雪色の施設を睨みつける。
そして、がちがちと歯を噛み合わせた。

僅かに赤い瞳、そして伸びた犬歯は、彼が『獣』であるという事を証明していた。


144 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:08:25.46 ID:syk5CFIh0
           .
ミ,,゚Д゚彡「時間は?」

(*゚ー゚)「あと十秒」

ミ,,゚Д゚彡「準備は?」

(,,゚Д゚)「完璧だ」

ミ,,゚Д゚彡「覚悟は?」

(,,゚Д゚)(*゚ー゚)「「 決まってる 」」


ミ,,゚Д゚彡「よし、じゃあ―――行こうか」


高音。そして発射される光線。
扉はまるで紙のように焼き払われ、そして大穴が開けられる。

三人の戦士が、その穴に飛び込んで行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


145 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:11:21.85 ID:syk5CFIh0
              .
最初に放たれた音は、風が切り裂かれる音。
それに間髪置かずに放たれる、連続した銃声。
そして、「伏せろ!!」というドクオの叫びだった。

伏せた二人の頭上、ちょうど首があった位置を『何か』が凄まじい勢いで斬り裂いて行った。
その内いくつかは壁に刺さり、火花をあげて動きを止める。

顔を上げたクーは、壁に刺さったそれを見て驚愕の呻きをあげた。

川;゚ -゚)「カード……だと!?」

('A`)「鉄のカードとか、そういったものだろ。
   それより―――」

川 ゚ -゚)「あぁ、分かってる!」

声と同時、二人は弾かれたように横に転がる。

一瞬。二人が伏せていた位置が粉々に爆ぜた。
床を粉砕したのは不可視の刃。濃密な風で作られた刃だ。

二人は間を置かずに立ち上がる。
そして、クーは右腕を、ドクオは左腕を全力で振り抜いた。

響きは軽いものと、金属質の硬いもの。
クーが砕いた物は風の刃で、ドクオが弾いた物は金属のサイコロだ。


147 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:14:18.39 ID:syk5CFIh0

('A`)「……どうも。やってくれんじゃねぇか。ミンナ」

( ゚д゚ )「今回も殺すつもりでやったのだがな。
     まだ、甘かったか」

('A`)「良いライン行ってたと思うぜ。
    あの時の俺だったら、確実に死んでたからな」

( ゚д゚ )「なるほどな。短期間の内に、余計に厄介になったわけだ」

('A`)「そういう事だ」

クロでミンナに標準を合わせながら、ドクオは相手の人数を確認する。
相手は三人。ミンナに、流石兄弟の二人だ。

厄介な相手だ、と、内心で舌打ちをした。


148 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:16:55.91 ID:syk5CFIh0

( ´_ゝ`)「おや、『こちら側』は二人しかいないのか?」

川 ゚ -゚)「……他の四人はどこにいる」

( ´_ゝ`)「おいおい、私の質問は無視か?
      まぁ、良いが」

川 ゚ -゚)「他の四人はどこだ? 答えろ!」

( ´_ゝ`)「そりゃあ、クー。決まっているだろう?」

兄者の口元が、邪悪に歪む。

( ´,_ゝ`)「お前のお仲間の相手をしているだろうさ」


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149 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:19:35.85 ID:syk5CFIh0
             .
突入した勢いが、停止した。
何故ならば。その理由は簡潔。

そこに敵が存在したからだ。

(;^ω^)「プギャー……!?」

( ^Д^)「……よぅ、ブーン」

廊下の真ん中に佇んで、静かに言うプギャー。
しかしブーンは、彼に尋常でない戦慄を覚えた。

ξ;゚△゚)ξ「……ブーン。あいつ」

(;^ω^)「分かってるお」

違う。
何かが違う。
ついこの前までのプギャーとは、何かが違う。

それは言うなれば、纏う雰囲気だろうか。
これは……以前のように、容易く圧倒出来るプギャーのものではない。
いや―――

人間が纏う雰囲気では、ない。

( ^Д^)「どうした? いつものように、突っ込んでくれば良いじゃないか」

プギャーは眼だけを笑みの形に歪ませて、両腕を広げた。


150 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:22:13.07 ID:syk5CFIh0
                      .
(;^ω^)「お前……何があったお?」

( ^Д^)「……へぇ、気付いたか?」

(;^ω^)「誰でも気付くお」

( ^Д^)「そうか。まぁ、良いや。
     今は気にするなよ。お楽しみって奴さ」

異音が響く。
変化が起きる箇所は―――左腕のみ。

鎌へと変化した左腕を一閃して、プギャーは笑った。

( ^Д^)「まずは、これだけで相手してやるよ。
     遠慮はいらねぇ。二人でかかってこい」

(;^ω^)「プギャー! お前……!」

( ^Д^)「俺に何があったか?
      それは、戦って、俺を圧倒すりゃ分かる事だよ。
      ……否応にでも、な」

そして、プギャーが走り出した。


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152 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:25:28.37 ID:syk5CFIh0
                   .
( ゚∀゚)「……うん、いないね」

気合いを入れて突入したものの、しかしその通路には誰もいなかった。
モナーは胡乱気に眉根を寄せたが、しかし気は抜かないまま言う。

( ´∀`)「もしかしたら、今すぐにでもこの通路に現れるかもしれないもな。
      気は抜かない方が良いもな」

( ゚∀゚)「そりゃ分かってるけどさ。……どうする?」

( ´∀`)「中央に向けて、進入するもな。
      その際に敵が来たら、潰す」

( ゚∀゚)「おっけー」

全身の筋肉を撓めつつ、通路を先へと進む。
やはり敵は現れず、それどころか足音や声すら聞こえない。

( ゚∀゚)「どういう事かな?」

( ´∀`)「……不自然。いや、不可解だもな」

と、その時。
二人は同時に足を止めた。

( ゚∀゚)「……モナーさん」

( ´∀`)「うん。分かるもな」


154 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:29:06.70 ID:syk5CFIh0
                  .
( ゚∀゚)「ピアノの音……?」

聞こえてきたのは、軽やかなピアノの音だった。

首を傾げつつ、足を進める。
するとやがて、一つの部屋に辿り着いた。

ピアノの音は、そこからのもののようだ。

( ´∀`)「……開けるもなよ」

ジョルジュは頷きで返し、眼を細める。
そしてその眼は、ドアが開かれるのと同時に見開かれた。

眼に入るのは、様々な色だ。

多種のギターの、多種な色。
壁に立てかけられた巨大な鋏の、黒と銀。
ソファとテーブルの、橙。

そして、巨大なグランドピアノの黒と、それを弾く橙の頭髪だ。

ジョルジュ達が部屋に入っても、演奏は止まない。
その曲調はどこか物悲しいそれだ。

しばらくその演奏は続き―――そしてやがて、止んだ。

( ゚∀゚)「……おい、ハイン。どういうつもりだ?」


166 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:55:49.20 ID:syk5CFIh0

从 ゚∀从「はっは。今の曲を、お前達への鎮魂歌にしてやろうかとな」

椅子から離れ、壁に立て掛けた鋏を手にする。
そしてそれを二つの歪剣に分けると、その刃をそれぞれジョルジュとモナーに向けた。

(;゚∀゚)「……やっぱり、戦り合うことになるわけだな。あんたとも」

从 ゚∀从「当り前まえだろ? ジョルジュ。
      お前、何か勘違いしてんな」

嗤う。
それは楽しそうな―――しかしどこかに引っかかりのある笑みだ。

从 ゚∀从「私は“管理人”で、あんたはその敵だ。
      前にあんたと色々あったっつっても、そこは変わらねぇんだよ。
      今から私はあんたを殺しにかかる。あんたは私を殺しにかかる。それだけだ」


169 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 00:59:30.38 ID:syk5CFIh0

(;゚∀゚)「くっ……」

歯を噛み締めて、ハインを睨みつけた。
ハインはそれを無視して、モナーに向かう。

从 ゚∀从「改めて―――ようこそ、“管理人”の家へ。
      そして、さようならだ。あんた達は、ここで終わりだ」

( ´∀`)「終わるのはお前だもな、ハイン」

从 ゚∀从「っは。ほざいてろよ。
      すぐにその目玉抉り出して、脳漿ぶちまけてやる」

そして、三人が同時に動き出した。


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171 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 01:03:59.62 ID:syk5CFIh0
.
ミ,,゚Д゚彡「……いないな」

突入したフサ達は、そこに敵がいない事を確認する。

(,,゚Д゚)「あぁ。どういう事だ?」

ミ,,゚Д゚彡「さぁな。ただ少なくとも、ここの近くに敵はいない。
     鋭敏化したこの嗅覚が、敵の臭いを感じ取ってないからな」

(*゚ー゚)「……姉さん達のところに、敵全員が居るとかって事はないよね?
    大丈夫だよね? ……私達はどうするべきなの?」

ミ,,゚Д゚彡「知らん。何にしても、足を進めるしかないんだ。
      行くぞ。気は緩めるなよ」

(,,゚Д゚)(*゚ー゚)「「 了解 」」

慎重に、しかし迅速に足を進めた。
ややこしい造りをした“管理人”の基地を、しかし迷うことなく進んでいく。

心配からか、しぃの表情に余裕はない。
フサは何か嫌な予感を感じているのか、苦い顔だ。
ギコはといえば、戦る気に瞳を剣呑に輝かせるばかりだ。


173 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 01:07:01.13 ID:syk5CFIh0
                        .
そして、広めの部屋に三人が辿り着いた、その時だ。

「待ってたよ」

聞き覚えのある声が、三人の耳に届いた。

しぃとフサは緊張に身を硬め、どこからの声か特定しようと周囲を見渡す。
対してギコは一瞬、自分の耳を疑い、そして脳を疑った。

その顔から、表情が消える。
瞳の中の光は弱々しく揺らぎ、光を失くした。
全身の筋肉が弛緩し、喉からは掠れた息が漏れる。

( ゚Д゚)「今の声は……」

「やぁ、久し振り。……僕だよ、ギコ君」

果たして、部屋のあちら側に姿を現したのは―――

(´・ω・`)「ショボンだよ」

眼の前で死んだ筈の、あのショボンだった。






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