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LOYAL STRAIT FLASH ♪

第一章

7 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:18:10.04 ID:T5DMejVm0
今日、ついに電気まで止まった。

( ;^ω^)『おっおっおっ・・・』

僕の名前は内藤ホライゾン。
就職活動の為にこのVIP市に越してきて早くも1年半が過ぎようとしていた。
僕だってこの約500日の間、何もしてこなかったわけじゃない。
ただ、冬は寒かったし。春は持病の花粉症に苦しめられた。夏は暑かったし、秋は・・・うん、色々やる事があったんだよ。
そんなこんなで思うような就職活動が出来なかった。
決して僕のせいじゃない。

でも実家に住む両親の考えは違っていた。
アルバイトでもいい。なにかしらの結果を出すまでの仕送り削減を宣言されてしまったのだ。
愛する息子が一人頑張っているのにそりゃないぜ、と思うだろ?
食費や気分転換の為の漫画、ゲームに費やすお金は削れない。
当然光熱費に回すお金は足りなくなる。
そして、ガスに続いてついに電気まで止められてしまったと言う訳だ。
まぁ、当たり前。コーラを飲んだらゲップが出るくらい当たり前のことなんだけどね。

今僕は湿気で潰れた布団に埋もれて携帯電話が鳴り出すのを待っている。
電話の向こうには両親がいてこう言うのだ。
『ホライゾン。苦しい思いをさせてすまなかったね。仕送り振り込んでおいたからね』・・・と。






しかし、僕の携帯電話が鳴り出す事はやっぱり無かった。
やれやれ。

8 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:19:22.38 ID:T5DMejVm0
 はっきり言ってしまえばガスが止まってもそれほど苦には感じなかった。
だがしかし、電気は困る。
夜になっても真っ暗だし、携帯電話の充電も出来ない。
これから暑くなるのに冷房もかけられない。ゲームも出来ない。
なによりも僕の心の支えであるブログ‐( ^ω^)が就職活動をするようです‐の更新が出来ないではないか。
モニターの向こうには僕と同じく【就職】というモンスターと戦う仲間がいる。
面接で断られたり、就職情報誌にろくな応募が無かったりしてメランコリーな時に励ましあった仲間たちだ。

『内藤君には内藤君だけの道があると思う』

『俺が社長だったら絶対内藤君を採用するぜ』

『自分を安売りするなよ』

そんな励ましを受ける度に僕は元気になった。

( ^ω^)『自分の可能性をどこまでも追求したいお。諦めたら負けだお』

可能性は誰にでも平等にある。
それを見逃さない為にもくだらない仕事に飛びつきたくない。
心の底からそう思っていた。




9 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:20:09.76 ID:T5DMejVm0
 思えば一人暮らしを始めた頃の僕は憧れの大都会VIP市に出てきた喜びで
ちょっと無駄に脂肪がついた胸をはちきれんばかりにしていた筈だった。

( ^ω^)『今はこんなボロアパートだけどいつかはあのVIPヒルズに住めるくらいに成功したいお』

心の底からそう思っていた。
自分の成功を信じて疑わなかった。
3ピースの高級スーツ。大人が5人寝れるようなベッド。よく分からないけど凄い外車。
それがデフォだった。

溜息を1つ。住み慣れた部屋を見渡す。
中学の体育で着ていたエンジ色のジャージ。菌類の培養に最適そうな万年床。チェーンが切れた自転車。
それが僕の現実だった。

( ;^ω^)『こんな筈じゃなかっただろ~♪』

無意識のうちに昔から好きな歌のサビを口づさんでいた。
とっくに解散してしまったバンドだけど、僕は彼らから何度も元気をもらった。
・・・生活に困ってCDはとっくにBook onに売ってしまったけど。

( ^ω^)『僕がこんなに困ってるのにトーチャンもカーチャンもひどいお』

そう考えながらも不思議と両親を恨む気にはなれなかった。
心のどこかで自分の甘えに気付いていたのかもしれない。
・・・もしこの時両親が僕を突き放してくれていなかったら。考えるだけでぞっとする。

( ^ω^)『・・・やる事もないし寝るお』

全然眠くなかったけど僕に出来る現実逃避は寝る事だけだった。
潰れた布団からは汗と埃の臭いがしてなかなか寝れなかった。

11 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:21:07.79 ID:T5DMejVm0
次の日。早い時間から目を覚ました僕が最初にしたのは部屋中を漁って全財産を計算する事だった。
3612円。
これが僕の全財産。

( ;^ω^)『マ、マジかお?』

ゲーセン行ってコンビニでご飯買ったら一日で使い切ってしまうじゃないか。
こうなれば日雇いのバイトでも何でもいいからやらないと生活どころか生きていく事すら難しい。
両親が送ってくれたお米はあったけど、水道もガスも電気も止まっている状態ではどうにもならない。

( ;^ω^)『・・・え~と・・・とりあえず1週間これで生活するとして・・・』

1日約500円。ジュース代として100円使ったら、あとは1食につき130円しか使えない計算になる。

( ;^ω^)『おにぎり1個しか買えないお』

ヤバイ。これは本格的にヤバイ。ホラー映画の冒頭でセクロスしてるカップル並にヤバイ。

( ^ω^)『・・・背に腹は変えられないお。なんでもいいから仕事探すお』

仕事さえ見つかれば仕送りもまたしてもらえるだろう。
僕は自らを奮いたたせるように立ち上がり、約半年振りに部屋のカーテンを開けた。
まだ5月だというのに真夏のような太陽が見える。
ゴミだらけの部屋に日光が差し込む。舞い上がった埃に光が反射してきらきらと綺麗だった。

( ^ω^)『・・・外は暑いし仕事探しは明日からにするお』

こんな汚い部屋は自分の新しいスタートにふさわしくない。そんな事を考えながらのたのたと部屋を掃除した。
食事は買い置きのポテチやパンで済ませ、掃除を頑張った自分へのご褒美にコンビニでいちごミルクを買って飲んだ。
残金3507円。

12 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:23:00.46 ID:T5DMejVm0
 そしてまた次の日。
僕は空っぽでしわくちゃに潰れたトートバッグを肩にかけ不思議探索・・・仕事探しに出た。
昨日ほどではないがお日様は今日もはりきって地表に太陽光線を降り注いでいる。
正直暑くて嫌だったけど、一日でも早く仕事を見つけないと
【20歳無職男性アパートの一室で孤独に餓死】なんて新聞記事がリアル本当になってしまう。

どこからかカブトムシの臭いがして、

( ^ω^)『こうも暑いとカブトムシも早く活動を始めるのかお?』

なんて考えていたら臭いの発生源は僕だった。
不愉快極まりない。

3つの私鉄の乗換駅であるVIP駅は周辺にちょっと名の知れたデパートやおしゃれ服を扱う古着屋、
ファーストフードや英会話スクールなどがひしめき合っていて、ここに来れば自分がほしい物は何でも見つかる・・・そんな気がしてくる。
そう思っているのは僕だけではないようで老若男女それぞれの表情でビルに出たり入ったりしている。

僕はとっくに充電が切れているi podのイヤホンを耳にさし駅前を歩いた。
堕ちる所まで堕ちた自分を見られるのが嫌でどことなく余裕があるところを見せたかったのか・・・
今でもなんでそんな行動をしたのか自分でも意味がわからない。

( ^ω^)『お、ここにもあったおw』

ちょっと大きな駅の周辺をぶらりと歩くとスチール製のラックにフリーペーパーがささっているのをよく見かける。
それは運転免許所のパンフだったりクーポンマガジンだったりするのだが、僕の目的は無料の就職情報誌。片っ端からそれらをトートバッグに放り込む。
帰り道スーパーに寄って2000円近く食糧を買い込んだ。

( ^ω^)『・・・明日またBook onに漫画やエロゲ売れば何とかなるお』

そう考えながら。

15 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:25:28.56 ID:T5DMejVm0
 家に帰った僕を待っていたのは、もわっとむさ苦しい部屋の空気だった。

( ^ω^)『窓開けて出かければよかったお』

そう考えながら窓を全開にして折りたたみ式テーブルに今日の【就職活動】の成果を放り出す。
昨日掃除中に発掘した赤ペンを握り締め、まずはコーラを一気飲みした。
何日かぶりのよく冷えた炭酸が心地よかった。

誰に聞かせるわけでもなく思い切り大きなゲップをして僕は就職情報誌を開く。

( ^ω^)『さて、やるお』

一人気合を入れた。

さて。
これは当時の僕の考えなんだけど、人には適材適所があると思う。
1流大学出身のフリーターやアニメーション学院出身の政治家がいてもおかしくないけど、
それはあくまで少数派であるべきであって。
やっぱり政治家は1流大学出身が多数派だし、アニメーション学院の出身者はそっちの仕事に就くべきなのだ。

それではこの僕。
内藤ホライゾンにふさわしい仕事とはなんだろう。
僕はそう考えながら、就職情報誌の『僕にふさわしくないと思われる仕事』に片っ端からバツをつけていった。
食糧は大量に買い込んだし、明日Book onに漫画やゲームを売れば当座の生活資金はもう少し何とかなるだろう。

( ^ω^)『自分に向かない仕事なんかついたら3日で逃亡する自信があるお』

甘い。
スピードワゴンなみに甘い考えだった。


16 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:26:02.47 ID:T5DMejVm0
 ( ^ω^)『運転免許持ってないお』

まず、トラック運転手やタクシードライバー募集の欄などにバツがつけられた。

( ^ω^)『自給安すぎるお』

廃棄食材は魅力だったが、コンビニやファーストフードもバツ。
この僕が働くのにこんなに安い時給はありえないだろ。常識で考えて。

( ^ω^)『ガテン系は眼中にないお』

給料面は魅力だが肉体労働が僕に勤まるとは思えない。

( ^ω^)『おしゃれじゃないお』

そんなふざけた理由で工場作業員や警備員の募集欄まで犠牲になった。

     ~3時間後~

( ^ω^)『あー。なかなか自分にピッタリの仕事って見つからないものだお』

僕は万年床にたおれこんだ。そのまま赤いバツだらけのフリーペーパーをパラパラとめくりだす。
数少ない生存者もなんとなく僕の心に訴えかける仕事ではなかった。

こりゃ今日の成果はゼロかもしれんね。
そう思った時。

( °ω°)『・・・・・・!!!!!!』

見つけた。

18 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:27:28.01 ID:T5DMejVm0




     新感覚中華ダイニング・バーボンハウス
     厨房新スタッフ募集
     おしゃれなダイニングで一緒に働きませんか?




そこにはチャイナドレスを着た栗色で巻き毛の少女の写真も載っていた。
ちょっと気が強そうだけど、そんな事は気にならない。

いや、それよりも。
僕は目を閉じて妄想する。
華やかなテレビ収録現場。
真っ白いコックコートに身を包んだ僕。
その周りでは鮮やかな衣装を着込んだアイドルたちが僕の料理に舌鼓を打っている。

僕は身を起こしてその募集欄を再度チェックする。
うん。給料面も悪くない。

( ^ω^)『これだお!!』

立ち上がって【我が人生一片の悔いなし】ポーズを決める。頭の中では稲光が僕を照らしている感じだ。

( ^ω^)『これこそ僕にふさわしい仕事だお!!!!』

一人で格好よくポーズを決めたが、全開の窓から誰かに見られている気がして慌ててカーテンを閉めた。

19 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:29:14.17 ID:T5DMejVm0
 まだギリギリ募集電話受付時間に間に合う時間だったので、ぼくはすぐさま応募の電話をした。

(´・ω・`)『やぁ、ようこそバーボンハウスへ』

電話に出た人はちょっと変わった感じのする人だったけど、僕はフリーペーパーを見て面接を希望している旨を伝えた。

(´・ω・`)『把握した。面接は明日で良いかな? 希望の時間はある?』

( ^ω^)『それでは19時にそちらにお伺いいたしますお』

(´・ω・`)『19時か・・・。ゴメン、その時間はちょっと忙しいんだ。15時でもいいかい?』

( ^ω^)(じゃあ最初から聞くなお)

やれやれ。明日はBook onに行って履歴書を書いて・・・やる事が沢山あるのに。
10時には起きないとな。
明日は早起きだ。

(´・ω・`)『じゃ、明日の15時に。言い忘れたけど僕は料理長のショボン。僕宛に来てくれればいいから』

待ってるよ。
そう言って電話を切られた。

僕は明日の面接に備えてジャケットを用意し、銭湯に行く事にした。
久しぶりにゆっくり足を伸ばして湯船に浸かり、ヒリヒリするまで体を洗った。
気合を入れるためにフルーツ牛乳とコーヒー牛乳をダブルで飲んだ。

( ^ω^)『明日は頑張るお』

夜空にそう誓った。

20 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:29:56.09 ID:T5DMejVm0
 結果的に面接は大成功だった。
その場で料理長直々に合格をもらったのだ。

( ^ω^)『来週の月曜日から僕は料理人だおw』

Book onに売った漫画やゲームは予想以上に財布を暖めてくれていたし、
自炊経験もある僕は料理が決して苦手ではなかった。

( ^ω^)『やっぱり神様っているんだおwwwうはwwwおkwww』

つい嬉しくて両手を広げてVIP市のメインストリートを駆け回る。
傍から見ればちょっと頭が可哀相な人って感じだ。

( ^ω^)『おっと、忘れるトコだったお』

僕は携帯を取り出す。
電話先は勿論実家の両親だ。
就職が決まった事を伝えると泣いて喜んでくれた。
初任給までの資金援助も頼み込み、もう銀行が閉まっている時間だったので

( ^ω^)『必ずだお! 必ず明日の朝一番で振り込んでくれだお!!』

約束させてから電話を切った。

それから僕はコンビニで小さなケーキとコーラを買って一人で祝宴を挙げた。






23 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:31:38.85 ID:T5DMejVm0
 翌朝。
銀行口座を確認すると無事仕送りが入金されていた。
そのまま全額出金し、コンビニで滞納していたガス・電気料金を払って帰るとすでに電気は着く様になっていた。
すぐさまPCを起動してブログを更新する。

( ^ω^)『就職決まったおwww僕は料理人になるおwww』

しかし住人の反応は僕の期待とは違ったものだった。

『お前だけは信じていたのに。裏切り者』

『働いたら負けwww負け組み乙www』

『せいぜい社会の歯車になりたまえwww働きアリ君www』

そこにあったのは醜い嫉妬と罵倒。僕は悲しくなってブログを閉じPCの電源を落とし布団に倒れこんだ。
・・・・・・そのまま何時間ぼんやりしていただろう。すでに窓の向こうの太陽は沈もうとしている。

( ^ω^)『・・・よし』

僕は再度PCを立ち上げ新しいブログを作った。
タイトルはどうしよう?タイトル次第で住人の集まりは変わってくる。気は抜けない。

( ^ω^)『決めたお』

タイトルはこうだ。


          ( ^ω^)が料理人になるようです


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