2007/03/12(月)21:00
( ・∀・)二十年後、モララーはしょぼんと出会うようです(´・ω・`) (第二話下)
59 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:13:43.60 ID:KaUUj71H0
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私はおそらくバカだ。
彼の申し出を受けるなど、あってはならなかった。
(´・ω・`)「今夜、うちに泊まっていきませんか?」
その言葉を聞いたとき、私はまず耳を疑った。
だがどうやら幻聴でないと悟り、しばし沈黙。
ともかく眠かった、そして疲れていた。
だから私は数度のやりとりの末、彼の親切に甘んじることとなった。
二階の一室に案内された。
どうやらこの建物は、一階が店舗、二階と三階が生活用スペースとなっているらしい。
途中で彼からいろいろ聞かれたので、矛盾がないよう注意しながら過去を捏造した。
それに納得すると、彼は巷で発生している連続殺人について話してくれた。
若干の違和感を覚えたものの、それは私にとってどうでもいいことだった。
それ以降の記憶はあまりない。
どうやら、布団を借りた後すぐに眠ってしまったようだ。
60 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:14:02.32 ID:KaUUj71H0
起きたとき、時間を把握することは容易でなかった。
その部屋は使われていないらしく、一切の家具がおかれていない畳の部屋だ。
もちろん、時計もない。
窓はあるが、そのすぐ向こうに雑居ビルの壁が立ちはだかっているため、陽光もほとんど注いでこない。
半分寝たまま布団を部屋の隅にたたんでおく。
ついでに着替えを済ませる。溜まる一方であろう洗濯物はどう処理すればいいのだろう。
いや、そもそもこれからどうやって生活していけばいいのか。自慢にもならないが現在無一文である。
と、カバンに突っ込んだ手の先に、何か硬いものが触れた。
直方体の小さな物体を取り上げる。
それは一本の黒いテープだった。いかにも昭和的な、二十年前でも廃れかけていた産物である。
しかし……一つ疑問がある。
私はこんなものを入れた覚えがない。そもそも、テープなど持っていない。
ではいったい誰が。皆目見当が付かない。
廊下を適当に歩いていると、質素なダイニングルームに出ることができた。
左手にキッチンが見える。そして食卓に……
「よければ」
と簡潔なメモが添えられた、すでに冷えきったトーストが皿の上に鎮座していた。
辺りを見回し時計を探す。
壁時計が、11時30分を示していた。
いくらなんでも寝過ぎた。安堵していられる状況でもないというのに。
硬くなってしまったトーストを囓りつつ、これからについて考える。
まず、タイムマシンの状態を検証しにいきたい。
あの時は、希望が頭を占めていたため、その場の状況確認すら怠っていたから。
61 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:14:34.93 ID:KaUUj71H0
それから……どうするべきか。
損傷具合を確認して修理する。それから……。
別の時間に飛んでも今と同じような状態になるかもしれない。
或いは、悪化するかもしれない。
だが私には後ろに道がない。結局修理し、別の時代に飛ぶことは運命的な必然だ。
立ち止まるときは、死ぬときだろう。
その時、階段を上る音が聞こえた。
振り返ると、ちょうど彼がダイニングルームに入ってくるところだった。
(´・ω・`)「今、お目覚めですか。ああ、冷蔵庫にバターが入っていますよ」
( ・∀・)「親切にどうも。しかし、いつまでも好意に甘えるわけにもいきません」
存外普通の文句を並べる。それは心にもない言葉だった。
ただ、頭に出てきた最善と思われるフレーズを口にしたのみである。
(´・ω・`)「何を言ってるんですか。あなたは記憶喪失なんでしょう?」
そういえば、そんな嘘をついた。
69 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:20:56.16 ID:KaUUj71H0
(´・ω・`)「行く当てがあるとしてもそれがどこかわからない。
記憶を取り戻せるまで、ここでゆっくりしてもらって構わないんですよ?
部屋も空いていますし」
( ・∀・)「……あなたは、なぜそこまで私に手をかけてくれるんですか?
昨日出会ったばかりの、見ず知らずの他人同士じゃないですか」
私がそう言うと、彼は押し黙り、キッチンに向かった。
冷凍ピザを取り出し、袋を破り始める。
どうやらこれから昼食の時間らしい。
(´・ω・`)「……特に、理由はないですよ。
単純に、見捨てられないだけなのです」
嘘だ、と思った。
二十年ごときで、人間の心がそれほど温かくなるとは思えない。
何か理由があるのだろうが、追及するのはやめておいた。
それは特に、私に利益をもたらしそうにないからだ。
昼食の誘いを断って、私は彼に出かけると申し出た。
70 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:21:19.31 ID:KaUUj71H0
わかりました。気をつけてください。
必要ない荷物は置いておいて結構です。
夜までに帰ってきていただけると助かります。
それらの親切味溢れる言葉に作り笑いを浮かべる。
そして一つだけ質問した。
( ・∀・)「テープを再生する機械はありますか?」
(´・ω・`)「昔、父が持っていたのですが処分しました。
父はもう、亡くなってしまったので」
なぜか悲痛に思えるつぶやき方だった。
私はそうですか、と言って何も持たずに外に出た。
71 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:21:38.21 ID:KaUUj71H0
陽光が燦々と降ってくる。
このあたりの路地は昼間でも閑散としているようだ。
人通りもまばらで、車の騒音もあまり聞こえない。
私は無事、小屋までたどり着けるだろうか……。
そんな、一抹の不安を抱きながら私は小山の方に足を向けた。
途中、昨日と同じコンビニに立ち寄った。
新聞を読むためだ。買うお金がないので、立ち読みで勘弁してもらおう。
数分読んでわかったことは少なかった。
しかし、この世界の現状が少しばかり理解できた。
目立った革命はすでに終焉を迎えたらしい。
これ以上の発展は見込めないということだろうか。
……新聞に記述されていたことに基づく私の推測だが。まぁ、予測されていた未来の一つのパターンだ。
不思議なことに、それ以上深く知ろうという気も起きない。
所詮外見に左右されているということだろうか。
新聞にはしょぼんさんが言っていた連続殺人犯のことも載っているようだった。
だが特に興味もないので、その部分は読まなかった。
72 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:22:13.12 ID:KaUUj71H0
小屋周辺は木々が日光を遮っているため、普段は薄暗い。
だが冬で、その葉がほとんど地に伏しているため、いくらかの明るさは保たれていた。
肩で息をしながら、私は小屋の扉を開けた。
よく誰にも見つからなかったものだ。
やはり、この場所を研究所にして正解だった。
開いたままの卵形タイムマシンが残されている。
近寄って外見からチェックを始める。
いくつか傷ついているが深刻なものではない。
では、内部の故障なのだろう。
制御のためのノートパソコンは叩いても動作しない。問題はこちらにあるのだろうか。
そう考えて、自分が今、何も計画を持っていないことに気づく。
漠然と感じていたがまず絶望的に資金が足りない。というか無い。
次に時間的な問題。この装置をつくりあげるまでに五年以上がかかった。
修理とはいえ、独力でするとなると一年ぐらいは優にかかってしまうのではないか。
それまで自分はどう生活すればいいのだろう。
しょぼんさんの世話になるのは避けたかった。
好意でしてくれているのならばそれを受け入れるのも一手だとは思う。
しかし彼からは、見逃せない影が感じられるのだ。
それがなんなのか。詳細は不明である。
74 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:22:39.09 ID:KaUUj71H0
(´・ω・`)「父はもう、亡くなってしまったので」
そういった彼の顔は沈痛に浸されていた。
まるで言葉にしてはき出すことで、父という存在を消したいと思っているかのように。
そうでもなければ、わざわざ「父が死んだ」などというネガティブな発言をするだろうか。
私は彼の家族関係を聞いたのではない。そんなものに興味はない。
ただラジカセがあるかどうかを聞いただけだ。
一通りの確認を終えて私は立ち上がった。
部品がいくつか破損している。まずはそれを修理しなければならない。
そう考えて、何かもの悲しい気分になった。
唐突に妻……しぃのことを思い出した。
彼女が家を出て行ったのは、私が時間跳躍する二日前のことだった。
79 名前:愛のVIP戦士[sage] 投稿日:2007/02/17(土) 12:30:10.45 ID:KaUUj71H0
とにかく不思議な女性だった。
大学時代に知り合って、私のような人間に懐いていた。
ある日、交際を迫られた。
(*゚ー゚)「危なげだから、私がそばにいたげよう」
そんなことを言っていた。
その時の答えをいまいち覚えていないが、その後のことから考えれば、私はおそらく承諾したのだろう。
その後しばらくして、私は初めて彼女の名前が「しぃ」だということ、三歳年下であることを知った。
誕生日も教えられた。
プレゼントを要求されたので花を贈った。爆笑された。
私は彼女に小屋の場所を教えていなかった。
普段は彼女に対し、特に主張をしなかったが、彼女が小屋までついてこようとするのは断固として拒否した。
タイムマシンを完成させる一年ほど前、「とりあえず一緒にいようか」とプロポーズされたので頷いた。
その時私は二十四で、彼女は二十一だった。
相思相愛だったといえば嘘になる。私は彼女のことを微塵も想っていなかった。
それでも彼女は私と共にいた。いつしか、その空間は私にとって安らぎとなっていた。
愛していた対象があるとすれば、それは空間であって彼女ではない。
80 名前:愛のVIP戦士[sage] 投稿日:2007/02/17(土) 12:30:52.77 ID:KaUUj71H0
(´・ω・`)「お帰りなさい」
「バーボンハウス」に戻ると、しょぼんさんが一人で掃除をしていた。
時計を見上げる。まだ、夕方にもなりきっていない。
私に気づくと、彼は掃除機を止めて振り向いた。
(´・ω・`)「成果はありましたか?」
一瞬心が震えた。
タイムマシンについて気取られたのではないとはわかっている。
ただ私が外へ自分自身の手がかりを探しに行っていたと思ったのだろう。
私は無念を顔にはりつけて首を横に振った。
(´・ω・`)「そうですか……いや、でもいつか何かが見つかるはずです。
それまでうちでゆっくりしていただいて結構ですよ」
ほほえむ彼が、何か狡猾な天使のように見えてならない。
私の猜疑心は罪だろうか。
ともかく、私は言いたいことを言うためにあのう、と声をかける。
81 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:31:08.77 ID:KaUUj71H0
( ・∀・)「私に何か手伝うことはありませんか?」
(´・ω・`)「と、いいますと?」
( ・∀・)「どうやら私はこの家にしばらくお世話になってしまうようです。
ですが何もせずただのうのうと居座るつもりは毛頭無いのです。
掃除でも他の雑用でもいいですから」
初め、彼は断っていた。
それには及びません、この店は小さいですから、私一人で十分やっていけます、と。
しかし私が無理矢理のように懇願すると、
わかりました。それでは、明日から開店前の掃除をお願いします、と妥協してくれた。
単なる良心ではない。
後々、問題を残しておきたくないが故の発言である。
生き延びる……或いは彼の保護を受けなくて住む算段がつくまで、せめて奉仕活動でも行っておかなければ。
このような考えを持っている限り、私と彼の間にある隔たりは解消されそうにない。
そして、同様のことをおそらく彼も思っているはずだ。
再び耳に入り始めた掃除機の音の中、ふと、そんなことを感じた。
だがそれでいいとも思った。
他人行儀とは、すばらしい言葉だ。
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