五章下54 名前:1[] 投稿日:2007/01/17(水) 23:45:18.96 ID:oMSo4Qgq0――――俺はおかしな色になった腕を見て、唖然としていた。 気付けば、身体の痛みは全て消え去っていた。 腕を触ってみる。 変わってるのは色だけかと思ったが、皮膚が硬質化していた。 それはまるで金属のように。 手を開閉してみたり、つねってみたりする。 それから分かった事は、痛覚がほとんどないと言う事と、動きには何も変化がないという事。 分からなかった事は、何故俺の腕がこんな事になっているのか、という事くらいだ。 (;゚∀゚)「な……な?」 (*゚∀゚)「何が起こってるか、理解出来ないかな?」 その言葉に、俺は頷いた。 正直な所、理解は、出来てる。 いや、理解というよりは憶測だが。 確信のある憶測。確実ともいえる憶測。確信。 でも、それを信じたくなかった。 56 名前:1[] 投稿日:2007/01/17(水) 23:48:20.25 ID:oMSo4Qgq0 女の唇が、動き出す。 (*゚∀゚)「……あなたはね」 その言葉の先なんて、聞きたくない。 (*゚∀゚)「……異能者なの」 ……やっぱり、そう来たか。 仕方ない、か。 そう取るしかない。 時間は戻せないし、戻せたとしても同じ事の繰り返しだ。 運命は無情だなんてよく言ったもんだ。 よって、ここで取るべき態度は困惑じゃない。 怒りでもない。 ここで出すべきなのは、いつもの自分。 (;゚∀゚)「マジッすか」 (*゚∀゚)「アレ?取り乱さないの?」 57 名前:1[] 投稿日:2007/01/17(水) 23:50:43.10 ID:oMSo4Qgq0 ( ゚∀゚)「取り乱して何かが変わるなら取り乱させてもらうけどねー。どうしようも出来ないじゃんよ」 (*゚∀゚)「……諦めが、良いんだね」 ( ゚∀゚)「引き際が良い男はモテるんだぜ?」 ま、内心パニックなんだけどな。 ( ゚∀゚)「さ、て、と。ねぇねぇ、これどうやって戻すのさ?」 俺はそう言って、右腕を壁にぶつけてみる。 その壁には俺の手の大きさの穴が開いた。 (;゚∀゚)「おぉっ!?」 (*゚∀゚)「どうやって戻すって言われても……穴の開いた壁はセメントか何かで埋めるしかないんじゃない?」 (;゚∀゚)「あ、そっちじゃない。腕の方だよ」 (*゚∀゚)「あ、何だ腕の事なの?」 女はそう言うと、少し笑って見せた。 可愛らしい、ころころとした笑い方だった。 60 名前:1[] 投稿日:2007/01/17(水) 23:53:05.60 ID:oMSo4Qgq0 (*゚∀゚)「簡単な事だよ。“戻れ”って念じるだけ」 ( ゚∀゚)「お、簡単だねぇ」 簡単すぎて疑わしいが、この女はさっきから嘘は言っていない。 本当の事なんだろう。 さっきの“覚醒”だって本当だったしな。 “戻れ” そう念じてからまもなく、俺の腕の色はすぅっと元に戻った。 念の為、触ってみる。 普通の人肌の手触りだし、つねれば痛覚もある。 少しだけ安心した。 (*゚∀゚)「ね?」 ( ゚∀゚)「おぉ、さんくー」 (*゚∀゚)「でさ、ちょっと話、良い?」 ……話? 何だかめんどくさそうな雰囲気だが……。 61 名前:1[] 投稿日:2007/01/17(水) 23:55:40.04 ID:oMSo4Qgq0 ( ゚∀゚)「あー……まぁ良いよん。助けてもらったし」 (*゚∀゚)「わぁー、良かった!」 その女はそう言うと、ぱっと笑顔を浮かべる。 それから、そっと胸を撫で下ろした。 (*゚∀゚)「私はつーっていうんだ!ちょっとね、協力してもらいたい事があるの!」 ( ゚∀゚)「めんどくさくなけりゃ良いさ。楽しい事だったら大歓迎なんだぜ」 (*゚∀゚)「……楽しくなんかないし、めんどくさいし、辛い事だよ。それでも良いなら、ついて来てほしいの」 (;゚∀゚)「それじゃあちょっと無理だよ。助けてもらったとは言え、流石に全部アウトは。それはちょっと……」 (*゚∀゚)「……ううん。良いよ。むしろ、そうであって欲しかったから」 (;゚∀゚)「あぁん?」 ついて来てほしいっつったり、そうじゃなかったり……何なんだ? (*゚∀゚)「汚れるのは私……ううん。彼女だけで十分だから」 (;゚∀゚)「あ、あぁん?」 今度は私っつったり彼女っつったり……え、もしかしてこの子電波? 62 名前:1[] 投稿日:2007/01/17(水) 23:58:35.33 ID:oMSo4Qgq0 (*゚∀゚)「……分かった。じゃあね……」 女……つーは、そう言うと俺に背中を見せた。 やっと解放の様だ。 ( ゚∀゚)「あぁ、じゃあn」 (*゚∀゚)「あ、そうだ!」 俺が別れを告げようとした時、つーはクルッとこちらに向き直した。 ( ゚∀゚)「今度は何すか?」 (*゚∀゚)「出会った記念って言ったら何だけど……名前、教えて!」 ……ま、名前くらいなら良いか。 ( ゚∀゚)「……ジョルジュだよ。ジョルジュ長岡」 63 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:01:05.83 ID:goeFCxK80 (*゚∀゚)ノシ「おっけー、ジョルジュ君ね。じゃあ、今度こそさようなら、ジョルジュ君!」 つーは、俺に手を振りながら心底嬉しそうにそう言った。 それに、俺も応じてやる。 ( ゚∀゚)ノシ「あぁ、また会えると良いな!」 俺がそう言うと、何故かつーは一瞬悲しそうな顔をした。 出会わない方が良い、と言わんばかりの顔。 だが、それも一瞬の事だった。 (*゚∀゚)「……うん、そうだね!」 その言葉を最後に、つーはどこかに去って行った。 気付けばもう夕方で、つーの背中を夕陽がどこか寂しく照らしていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 64 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:01:44.43 ID:goeFCxK80 ( ゚∀゚)「―――と、言うお話でした」 ( ^ω^)「お?ついてこないのなら……みたいな事は?」 ( ゚∀゚)「ブーンもあったのか?俺っちの方はそれはなかったよ。ドクオはあったみたいだけどな」 ('A`)「……あぁ、俺は色々あったよ。ほとんどジョルジュと同じなんだけどな……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 65 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:04:16.40 ID:goeFCxK80 俺はブーン達と別れ次第、MDウォークマンを耳に取り付けた。 あの十字路から家までは少し歩く。 ブーン達がいない状態でその距離を歩くのは退屈で仕方がないからだ。 音楽という物は、良い。 精神が安定するし、その歌詞によっては考えさせられる事もある。 何より最高の暇潰しだ。 俺は早過ぎず遅過ぎずといったスピードで歩みを続ける。 いや、ちょっと遅いくらいかもしれない。 ブーン達は「歩くのが遅い」と言うが、俺は決して遅くはないはずだ。 俺がマイペースだなんて事はありえない。 と、そこで。 俺のあまり好きでない曲が始まった。 アルバムの中のハズレ曲、といった所か。 いつも通り、リモコンの早送りボタンを押す。 その時。 ビリッ……と、左腕に痺れが走った。 ちょっと強い痛み。 血が圧迫された時のような痺れが少し強くなった感じ。 67 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:07:31.21 ID:goeFCxK80 ('A`)「何だ?……虫にでも刺されたかな」 そう呟きながら見るが、刺されたような跡は見えないし、肌の色にだって変化はない。 痒みも熱感も何もない……が。 疼くような、腕を破って何かが出てきそうな感覚。 妙で、歯がゆくて、びりびりと。 ('A`)「あー……めんどくせぇ事になってなきゃ良いg―――」 と、俺が最後まで言い終えない内に、視界がぐらりと揺れた。 それは何の前置きもなく、いきなり大きくぐらりと。 (;'A`)「な……!?」 それから間もなく、頭の中が一回転したような感覚がして、俺はその場にくず折れる。 そして、高熱を出した時のような熱感が全身を襲った。 (;'A`)「……あ……あぁ……!?」 喉の奥から呻き声が溢れ出してくる。 痛い。 痺れるんじゃなく、左腕が痛い。 痛い?痛いのは全身そうだ。 頭痛がひどい。 吐き気が、めまいがして、意識が飛びそうになる。 68 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:09:53.33 ID:goeFCxK80 何が。 何が、起こっている。 俺よ、思考しろ。 物事を理解し、的確な処置を取れ。 この痛みは何だ? 熱にも似たこの症状はどこから来た? だめだ、思考出来ない。 理解不能。 処置なんてどうしようもない。 (;'A`)「……誰か……誰かッ……!!」 気付けば、俺はそううめいていた。 うめかずにはいられなかったのだ。 無様だな、ドクオ。 立ち上がる事も出来ないのか? やっぱりお前は弱いんだな。 弱くないってんなら立ち上がってみろよ。 自分にそう言ってみても、立ち上がれそうもない。 まず、力が湧いてこない。 70 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:12:00.40 ID:goeFCxK80 (;'A`)「誰かっ……たすけ……!」 「助けて欲しいか?」 その声に、俺は顔を上げた。 おそらく、それはひどい顔だったろう。 そこには、俺をまっすぐに見つめてくる男がいた。 ( ゚д゚ )「その痛みをなくして欲しいか?」 (;'A`)「あっ……あぁ!今すぐにでもな!」 ( ゚д゚ )「……良いんだな?後悔するなよ?」 こいつは何を言っているんだ? 痛みが消えて、何を後悔する事がある!? 71 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:14:23.18 ID:goeFCxK80 (;'A`)「あぁ!良いさどんなんでも!さっさと痛みを消してくれ!!」 ( ゚д゚ )「……“解放”と、念じてみろ……」 (;'A`)「はぁ?何だよそれ……ふざけてるのか……?」 ( ゚д゚ )「念じれば分かる」 その言葉に、俺は従う事にした。 従うと言うよりも、勝手に脳が反応しただけなのだが。 “解放” ゴキゴキッ……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 72 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:16:40.19 ID:goeFCxK80 ('A`)「で、これが俺の力だ」 そう言うと、ドクオは左腕を解放させる。 忌々しいあのゴキゴキという音を響かせながら、その腕は形状を変えていく。 ドクオは無感情な表情でそれを見つめていた。 数秒後、ドクオの左腕は悪魔のような腕になった。 骨ばった外見を飾る、大きく隆起する筋肉。 その色は、深い藍色……まるで闇のような色。 手の甲の辺りには黄色く輝く眼のような物が浮き出ている。 正直……綺麗な物ではない。つーか普通にきめぇ。 僕のそんな想いを感じ取ったのか、ドクオは左腕を掲げ、言う。 ('A`)「ギコとかブーンのそれは色的に綺麗だけどさ……黒ってどうよ、黒って」 ( ゚∀゚)「まぁ羨ましくはないなー」 ('A`)「お前の腕も十分どうかと思うがな」 ( ゚∀゚)「良いじゃんオレンジ!綺麗じゃん!」 73 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:18:48.05 ID:goeFCxK80 (;^ω^)「色うんぬんはどうでも良いお……」 (;゚Д゚)「それに綺麗うんぬんの話じゃねぇだろ。俺はまずこの腕が嫌だ」 (;^ω^)「僕もあんま嬉しくないお……」 ('A`)「あぁーん?そんな嫌か?別に、他の奴にばれなきゃ問題ないだろ」 ( ゚∀゚)「そうそう、悪い事はなくね?周りの奴には隠しときゃ良いじゃーん」 (;゚Д゚)「どう隠せってんだ、こんなもん!」 ( ゚∀゚)「戻れって念じてみ、ギコちゃん」 (;゚Д゚)「あん?そんな簡単なのか?」 ( ゚∀゚)b「いえー」 それからすぐに、ギコは己の右腕の掌を見る。 それから、ギコの口が動く。声は聞こえなかったが、「戻れ」とでも呟いたのだろう。 まもなく、ギコの真紅の腕はあの音を響かせながら、普通の腕に戻る。 ギコは自分の腕を一分ほどじろじろと見て、ほっと溜め息をついた。 (;゚Д゚)「良かった……」 74 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:20:51.51 ID:goeFCxK80 ('A`)「……らしくねぇな、ギコ。お前はいつも馬鹿やってるが、もっと肝デカいだろ」 (;゚Д゚)「……るっせ」 ('A`)「異能者がそこまで嫌か?ちょっと力があるだけで、他の奴と同じ人間なんだぜ?」 (;゚Д゚)「……だが、それでも異能者は異能者だろ?逆に、お前は何でそこまで冷静でいられるんだ?」 ('A`)「別に……。異能者であろうとなかろうと、俺は俺、お前はお前だろ。 異能者である事が周りに知られなければ、何も変わらない」 (;゚Д゚)「だけどなぁ……!」 ('A`)「まだ何か?」 (;^ω^)「ちょ、二人ともこんな時に口喧嘩するなお!」 と、二人の言い争いが始まりそうな時。 ジョルジュがその間に割って入った。 ( ゚∀゚)「はーい、待て待てお二人さん。良いじゃんよ、人には人の意見があんだからさー? 人の意見は人の意見。わざわざ否定はしなくて良いっしょー? つーかドクオ、お前のその後はどうなったのさ」 ('A`)「あぁん?あぁ、そういや話してなかったっけか。あの後はだな……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 75 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:22:43.73 ID:goeFCxK80 ゴキゴキゴキゴキ、と、妙な音を響かせながら俺の腕は形を変化させる。 その音は、中学の頃俺に喧嘩を売ってきたDQNの、折ってやった骨の音に似ていた。 鈍く重い音が続き、それに続いて軽い音が聞こえる。 痛みはなかった。 形状を変化させる左手にも、気付けば体のどこにも。 そして数秒後。 俺の左腕は、闇色になっていた。 そのフォルムは……何つーか、悪魔。 やけに骨ばっていて、それでも筋肉は浮き出て太くなって硬くなって。 爪ですらも悪魔のような細く鋭い爪になって、手の甲には黄色い眼のような物が浮き出ている。 まさに悪魔。 体を起こし、尻をはたく。 そして、左腕を見る。 ('A`)「あー……」 ( ゚д゚ )「……どうだ」 ('A`)「いや……何が?」 (;゚д゚ )「……は?」 76 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:24:41.71 ID:goeFCxK80 ('A`)「あ、これの事か?別に、何ともないが」 (:゚д゚ )「い、いや……」 ('A`)「俺は異能者だったんだろ?……それがどうしたんだ?」 (;゚д゚ )「だ、だが……自分が異能者だったという事にショックはないのか?」 ('A`)「別に。左腕を隠して生きりゃ良いだけの話だし、異能者であろうがなかろうが、俺は俺だ」 ( ゚д゚ )「………ぷっ………」 ('A`)「何だよ」 ( ゚∀゚ )「あはは!あははははは!ははははははははは!ははは!あっはははははははは!」 と、男はそこでいきなり爆笑しだした。 意味が分からない。気でも狂ってんのか? ('A`)「何だよ……」 ( ゚∀゚ )「あはは……いや、な。面白い男もいたもんだな、とな」 ('A`)「面白い?」 77 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:26:04.57 ID:goeFCxK80 ( ゚д゚ )「自分は異能者だった……そんな事を知って、普通で居られる奴なんてほとんどいない。 普通はパニックになる。よっぽど精神が強い奴でなきゃ、気が気でなくなるだろう。 ところが、お前は気にもしないと来た。面白い面白い。面白すぎる。ククク……」 ('A`)「……どうでも良いが、帰らせてもらって良いか?」 ( ゚д゚ )「……いや、ダメだな。ちょっとついてきてもらう」 ('A`)「……は?何でよ。意味分かんね」 ( ゚д゚ )「助けてやったろう?」 ('A`)「いや……俺は恩は返さないスタイルを貫いてるんで」 ( ゚д゚ )「ふざけているのか?」 ('A`)「大真面目でっす」 ( ゚д゚ )「……だったら無理矢理にでも連れて行かせてもらう」 78 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:27:24.53 ID:goeFCxK80 男はそう言うと、右腕を腰の後ろに回す。 そこから取り出した物は四個のサイコロ。 親指から小指までの指の間に、一つずつ挟んで持っている。 ただ……普通のサイコロじゃないな。 角が尖って、研いである金属製のサイコロだ。 何故手が切れないのかと思って、すぐに納得する。 何て事はない。男はいつのまにか黒い革の手袋を装着していた。 男は金属サイコロを上に軽く放り上げる。それからすぐに、右腕をクイッと持ち上げた。 四個のサイコロは重力によって落ちる事をせず、空中にふわふわと浮き上がる。 ('A`)「はぁ……アンタも異能者か?」 ( ゚д゚ )「言わなかったかな?私はミンナ。サイコキネシスの“力”を操る異能者だ」 ('A`)「はぁ、そうですか」 ( ゚д゚ )「……私はお前がついて来ないのならば、お前と戦りあわなきゃいけない。それでも、ついて来ないか?」 ('A`)「何だかアンタ怪しいんで」 79 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:28:32.55 ID:goeFCxK80 ( ゚д゚ )「そうか。……お前、名前は?」 ('A`)「何で?」 ( ゚д゚ )「戦う相手の名前くらい知っておきたいだろう」 ('A`)「……ドクオ」 ( ゚д゚ )「そうか。では、ドクオ。お前を死なない程度に痛めつけるとしよう」 男……ミンナはそう言うと、上げていた右腕を俺に向けて振るった。 それと同時に、浮いていた四個のサイコロは俺に向かって飛んでくる。 それは相当な速度で。 (;'A`)「ぉおっ!?」 80 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:30:00.62 ID:goeFCxK80 (;'A`)「ぉおっ!?」 俺はそう驚きながらも、一個目のサイコロを避ける。 そして二個目、三個目とギリギリで、軌道を読んで避ける。 だが、四個目だけは避けられそうもない。 どうすんのよ俺!? と、気付けば俺は左腕をサイコロに向けて思いきり振るっていた。 あの、悪魔のような腕だ。 そのサイコロはぱぁんと砕け散った。 後ろを見る。 俺が避けたサイコロは、壁にめり込んでいた。 (;'A`)「ぅおっ……やべぇなこりゃ」 ( ゚д゚ )「ほう、ますます驚きだ。四個の鉄サイコロの内三個を避けたか」 ('A`)「危なかったがな。……あー、めんどくせぇ。逃げさせてもらうぞ」 そう言って、俺は向きを家の方に向けて歩き出した。 ( ゚д゚ )「逃げさせてもらうだと?……ふざけるな」 81 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:31:22.64 ID:goeFCxK80 そう言ってミンナは俺に向けて走り出した。 ちらりと背後を確認すると、いつのまにかミンナの手にはナイフだ。 すぐにミンナは俺に追いついて来た。 そりゃそうだ。俺は歩いてるわけだし。 そしてナイフを思いきり振りかぶり――――――。 ( ゚д゚ )「動けない程度で済ましてあげよう」 ナイフを、俺の右肩に向けて振り下ろした。 だが、そこには俺はいない。 俺はしゃがんでいるのだから。 ミンナのナイフは空を斬るだけに終わる。 (;゚д゚ )「は……?」 ('A`)「逃げるフェイクだ」 82 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:32:33.76 ID:goeFCxK80 ミンナは勢いを殺せずにバランスを崩す。 俺はしゃがんだその体制のまま、そのミンナの足に足払いをかけた。 バランスを取ろうとしていたミンナは更にバランスを崩す。 その眼は驚いた様に俺を見ていた。 そして、前に倒れ行くミンナの後頭部に手を当て――――――。 ('A`)「お……らっ!」 地面に向けて投げる様に、ミンナの頭を押した。 すぐに響き渡る、重く鈍い音。 ミンナは地面にキスしたまま動かなくなった。 ('A`)「手加減したから死にはしないだろうさ。だがまぁ起きる事は出来ないだろうし、俺は帰らせてもらうよ」 誰に言うでもなく俺はそう呟くと、今度こそ家路についた。 もう夕方だった。 83 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:33:48.77 ID:goeFCxK80 家に着いた俺は、ジョルジュから携帯に着信があった事を知る。 用件は何かとメールで聞く。 すぐに返信は帰って来た。 「今日の帰り、いきなり身体がヤバイ事になってさ、お前に助けてもらおうと思ってたのさ」 俺はこう返した。 「俺はそれどころじゃなかった。俺もお前と同じく、身体に異変が起きてた。しかも変な男に出会うしな」 返信はさっきより早く帰って来た。 「お前、その男に何て言われたんだ?」 異能者だって事がばれない程度に返す事にした。 「“解放”と念じてみろってさ。そしたら痛みが消えるだなんて言われたよ」 今度の返信は、帰ってくるのが遅かった。 帰って来た文面は、おかしな物だった。 84 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:34:27.24 ID:goeFCxK80 「お前、異能者だったのか」 驚いた。 だが、こんな返信が出来るという事は……。 「お前もなんだな?」 返信は、すぐに来た。 「あぁ」 それから俺達は明日の朝に学校で会う事を決めた。 朝の学校なら誰もいないし、互いの詳しい話も聞けるからだ。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 86 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:35:43.54 ID:goeFCxK80 ('A`)「で、今に至ると」 (,,゚Д゚)「はぁ……お前等、大変だったのな」 ('A`)「あぁ。お前の方は何もなかったのか、ギコ?」 (,,゚Д゚)「俺はまったく何もなかったな。痺れとやらも、何も。 さっさと家に帰って、ぐだぐだして、寝た」 ( ゚∀゚)「良いなー」 ( ^ω^)「ギコだけ何もなかったのかお……」 (,,゚Д゚)「そうなるな。そういえばお前はどうだったんだ、ブーン?」 (;^ω^)「うぇ?僕かお?」 ('A`)「あぁ、そうだな。お前の話だけまだ聞いてねぇや」 ( ゚∀゚)「ブーンも何かあったんだしょー?」 (,,゚Д゚)「……聞かせてもらおうか」 ( ^ω^)「……僕も二人と同じだお。途中までは」 (,,゚Д゚)「途中まで?」 ( ^ω^)「お。僕はみんなと別れた後…………」 87 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:36:53.60 ID:goeFCxK80 それから僕は、みんなに昨日の全てを話した。 足が痛くなった事、不審者に襲われそうになった事、意識を失って、起きたらその不審者を殺してしまっていた事。 プギャーという男に出会った事、逃げられなくなった事、戦った事、勝てなかった事。 ショボンという異能者に助けてもらった事、その後、ショボンに色々と教えてもらった事。 ショボンから聞いた異能者の話の内容は話さなかった。 僕が話しても分かりにくくなるだけだし、ショボンとみんなを会わせたかったからだ。 ( ^ω^)「…………と、いう訳だお」 ('A`)「……ほぉ」 ( ゚∀゚)「何かお前、一番大変だったんじゃね?」 (;^ω^)「本当に大変だったお……」 (,,゚Д゚)「良かったな、そいつが来てくれて」 88 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:38:03.59 ID:goeFCxK80 ( ^ω^)「本当にその通りだお。ショボンがいなかったら、僕は連れて行かれてたお。 みんなも後でショボンの所に行くお。異能者についての話を聞くべきだお」 ( ゚∀゚)「……んー……」 ('A`)「……ブーン。黙っていたが、そいつ、信じれるのか?」 ( ^ω^)「お?何でだお?」 ('A`)「そいつは何故お前を助けたんだ?」 (;^ω^)「……お?」 ('A`)「……いや、助けたのは良いとしよう。 この世界に残っている、数少ない素晴らしき善人だったらありえなくもない。 だが、何故その後に家に連れて行ってまでお前に知識を与える? 何故まったく無関係な奴が、お前が危険だからと自分の命を危険に晒す? 何故まったく無関係な奴が、お前が無知だからと自分の家に連れて行ってまで知識を与える? 不自然にもほどがあるだろ」 ( ゚∀゚)「正直、俺ッちもそう思うよん。普通、異能者とは関わりたくないと思うっしょ」 (;^ω^)「……そ、それは……」 (,,゚Д゚)「考えてみれば、命かかってるからな。普通は助けるどころか、まず自分が逃げ出すだろうな」 89 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:39:01.48 ID:goeFCxK80 考えてみると、確かに不自然だ。 何故ショボンは僕にここまで親切にしてくれる? いや、もう親切なんてレベルじゃない。 異能者同士の争いに割り込むなんて、それが例え異能者でも「親切」なんてものじゃない。 (;^ω^)「……確かに、そうだお」 ('A`)「ま、本当の所はどうか知らないし、そいつが何を考えてるのか知らないけどな。 そいつと会って話して、そいつの事を解析しない限りはどうしようもない。 とりあえず、お前の話を聞いた限りじゃ、俺はそいつの事を信用する事は出来そうに……」 と、そこでドクオは言葉を止めた。 僕が「どうしたんだお?」と聞こうとすると、口に指を当てて「喋るな」と言われた。 ('A`)「誰かが……屋上への階段を昇ってる……」 そう言われて、僕は耳を澄ました。 風が耳に当たる音以外、何も聞こえない。 見ると、ドクオは目を階段の方へと向けていた。 おかしいぞ。 屋上へは誰も上がって来ないはずだ。 屋上の鍵はいつも閉められているから、誰も上がろうとすら思わないはずだ。 上がったって意味はない事なのだから。 90 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:40:50.29 ID:goeFCxK80 その十秒後、僕にも誰かが階段を上る音が聞こえた。 トン、トン、トン、トン、と、規則的に進む足音。 それからまもなく、ドアがあった場所に人影が見えた。 そこに現れたのは、どこか呑気そうな、感情を読み取れない顔。 それはショボンだった。 (´・ω・`)「やぁ、みなさん始めまして。例のショボンです」 ショボンはみんなを見るや否や、そう言って頭を下げた。 ギコはショボンを睨む様に見て、ジョルジュはにやにやとショボンを見ている。 ただ一人、ドクオだけが無表情にショボンを見つめていた。 ('A`)「……どうも」 (´・ω・`)「お、挨拶し返してくれたか。嬉しいね」 ('A`)「あくまでも形式的な物ですがね」 ドクオはそう会話を続ける。 ギコとジョルジュは何も喋らない。 ただ二人、ショボンとドクオだけが距離を置いて対峙していた。 二人とも、感情を顔に込めない。 よって、何を考えているのかが分からない。 91 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:41:49.02 ID:goeFCxK80 二分を越す沈黙。 それを破ったのは、ショボンの方だった。 (´・ω・`)「……ふぅん。本当にドクオ君は僕の事を信用してくれない……と、言うよりも。僕を信用する気がないみたいだね」 ('A`)「……基本、人間には疑ってかかるようにしてるんで。 それよりも……アンタが異能者だとは聞いてましたが、もしかして、テレパシーか何かの“力”ですか? 今のは俺の名前と、精神状態を“読んだ”って事ですよね?」 (´・ω・`)「正解。すごいね」 ('A`)「異能者には前々から興味がありましてね。異能者は肉体が変化するタイプだけじゃないって事くらいは知ってましたので」 (´・ω・`)「普通はまずそんな事も知らないよ。すごいね」 ('A`)「すごいすごいって……実際思ってないでしょう?まず俺の中を読んだ時点で、それくらいは分かってるはずだ」 (´・ω・`)「うん、まぁね」 ショボンはさらりとそう言ってのけた。 ドクオは「フン」と鼻を鳴らす。 92 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:42:44.96 ID:goeFCxK80 (;^ω^)「……ショボン、何でここに来たんだお?」 (´・ω・`)「いや、ブーン君がちゃんと学校に来れたかなと思ってね。ブーン君の思考を追ってきたんだよ」 ( ^ω^)「僕が学校にちゃんと来れるか……?」 あ゛。 そういやコイツ、僕に酒飲ましたんだちくしょう。 (#^ω^)ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキ (´・ω・`)「ごめんごめん。でも朝の君の元気を出すにはそれしかなかったんだよ」 (:^ω^)「う……」 いや、まぁ……。 確かにそうだけどさ! 僕は何も言えなくなった。 93 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:44:01.95 ID:goeFCxK80 ('A`)「……で、何でここ……屋上まで来たんですか?」 (´・ω・`)「異能者が四人いたからさ、もしかしたらブーン君が大変な事になってるんじゃないかと思ってね」 ('A`)「そこだ。……何故アンタはブーンを心配するんです?何故赤の他人を、命を賭けてまで助けたんです?」 (´・ω・`)「助けちゃいけないかい?」 ('A`)「そうは言ってない」 (´・ω・`)「逆に、君は何でそこまで僕を疑う?」 ('A`)「昔ちょっとありましてね。言ったでしょう?人はまず疑ってかかる事にしてる、と」 (´・ω・`)「……別に。理由はないよ。何となく助けたくなったから助けただけかな」 ('A`)「その程度の理由で、わざわざ異能者に喧嘩を売ったんですか?」 (´・ω・`)「だーかーら。そこまで考えてないって。これ以上どう説明すりゃ良いのさ」 ショボンがそう言うと、ドクオは「……フン」と言って目をそらした。 それを待っていたかのように、今度はジョルジュが声をあげる。 94 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:45:09.07 ID:goeFCxK80 ( ゚∀゚)「お二人さん、話は済んだかい?」 ('A`)「……まぁな」 (´・ω・`)「君は……ジョルジュ君ね。何だい?」 ( ゚∀゚)「この後どうすんの?」 (´・ω・`)「どうすんの、とは?」 ( ゚∀゚)「出来れば、俺達もアンタの家に行かせてもらいたいのさ。詳しい話を聞きたいしね」 (´・ω・`)「大歓迎だよ、君達がそうしてくれるのならね」 ショボンはそう言って、僕達を順々に見て行った。 僕、ジョルジュ、ギコ……そして、ドクオの順に。 ('A`)「………………」 ( ゚∀゚)「……ドクオ」 ('A`)「……あぁ、分かった。行くよ」 (´・ω・`)「そうまとまってくれて嬉しいよ」 95 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:46:02.39 ID:goeFCxK80 (,,゚Д゚)「……ショボン」 そこで、今まで口を開いていなかったギコが口を開いた。 (´・ω・`)「……何だい、ギコ君?」 (,,゚Д゚)「この“力”は、消せないのか?」 (´・ω・`)「……“発動”しないでいる事は出来るけど、それでも異能者の“特性”は消えないよ」 (,,゚Д゚)「……要するに?」 (´・ω・`)「無理だ」 (,,゚Д゚)「……そうか」 (´・ω・`)「ごめんね、力になれなくて」 (,,゚Д゚)「いや、仕方ないさ。これも運命だ」 (´・ω・`)「…………………」 96 名前:1[] 投稿日:2007/01/18(木) 00:47:21.54 ID:goeFCxK80 それからショボンはくるりと向きを変える。 そして振り返らないままに呟いた。 (´・ω・`)「家まで案内するよ。ついて来て」 その言葉に、僕達四人は顔を見合わせた。 とりあえず、足や腕などを元の姿に戻す。 そして、無言のままにショボンについていく。 その時、少しだけ、足に痺れを感じた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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