第三話――――――――現実―――――――― ξ//△//)ξ「…………」 ( ゚ ω゚)「…………」 現実世界では沈黙が続いている。 クーが「大事な話がある」と切り出した後、一つも会話はない。 ξ//△//)ξ(大事な話があるって言ってから結構経つけどどうしたのかしら。 やっぱり緊張して何も言えなかったり?どうしよう、私から何かしゃべったほうがいいのかな?) ツンもやはりこの状況を察していたようだった。 ξ//△//)ξ(でもそんなことしたら私が早く告白してもらいたいって思ってたみたいにとられそうだし…… かといって、この状況ももう我慢の限界だし……ああもう!!!早く告白しなさいよこのバカ!!!) そして、その実現を強く望んでいた。 ( ゚ ω゚)「…………」 一方、クーはというと ( ゚ ω゚)(昨日必死に考えた告白のセリフを忘れてしまった……どうしよう) こっちはこっちで大変なことになっていたらしい。 僕はトラックに轢かれても死なない丈夫な体を持ち雨ニモマケズ風ニモマケズ ……これも違う!!ダメだ、ますます頭の中がこんがらがってきたぞ……) ( ゚ ω゚)(しょうがない……これ以上待たせるのもまずいからな。 不本意だが一番オーソドックスな方法で告白するとしよう) ( ゚ ω゚)「ツン」 ξ//△//)ξ「!?……はい」 とうとう待ち焦がれたその時がやってきた。 いつものツンからは想像もつかないしおらしい声で返事をする。 ( ゚ ω゚)「僕は……」 緩やかに、鮮明に、言葉はその形を成していく。 ( ゚ ω゚)「君のことが……」 そして、最後の言葉が (*゚ー゚)「はー、スッキリした!」 (;゚ ω゚)「!?」 予期せぬ訪問者に驚く二人。一斉にドアの方へと視線をやる。 (*゚ー゚)「あれ?もしかして私に用事だった? ごめんねー、三日ぶりのお通じだったもんだから時間かかっちゃって」 (*゚ー゚)「ん?それとも私はお呼びでなかった……かなー?」 二人の置かれていた状況を軽く察したのか、教師は茶化すように言った。 ξ;゚△゚)ξ「いえ、違います!しぃ先生を待ってたんです! ドクオ君が倒れちゃって、それで一緒に運んできただけで別にそんな告白とか」 言いかけて気づく。とんでもない自分の失言に。 ξ//△//)ξ「あーーーーー!!!違います!! 何でもないです!!本当に!!本当になんでもないんです!!!!」 (*゚ー゚)「ふーん?別になんでもないんならいいんだけど。 とりあえず、そのドクオ君がどこにいるのか教えてもらいたいな」 微笑みながらそう尋ねる。 その笑みは既に何もかもお見通しと言わんばかりの笑みだった。 ベッドに横たわったドクオを見ながらしぃは尋ねる。 ξ゚△゚)ξ「はい、よくは見てなかったですけど多分そんな感じです」 (*゚ー゚)「貧血かしらねー? とりあえず目が覚めるまでここで寝かせておくわ。 あなた達はもう教室に戻っていいわよ。ご苦労様」 ξ゚△゚)ξ「あ、はい。じゃあよろしくお願いします」 (*゚ー゚)「あ!あともう一つ」 (*゚ー゚)「あなた達まだ高校生なんだから 雰囲気に飲まれて性行為に及ぶ、なんてことのないように気をつけなさいよ!」 途端にツンの顔がこれまでにないほどの赤みを帯びていく。 ξ//△//)ξ「ななななな何を言ってるんですか先生!!」 思いもよらない言葉に動揺を隠せないツン。 そして、クーはというと ( ゚ ω゚)「先生、『セイコウイ』ってなんですかお?」 しかし、その何気ない一言が一瞬のうちにこの部屋の空気をガラリと変えた。 そして、その結果生じた自らの身の危険に、クーは全く気づいていなかった。 ξ#゚△゚)ξ「何てこと聞いてんのよこの変態やろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」 ツンの放った渾身の右アッパーは地面スレスレから急上昇し、クーの鳩尾へとクリーンヒットした。 (;゚ ω゚)「ぐほぉぉぉっっぅ!!」 生々しい悲鳴と共にクーの体が少しだけ浮き上がる。 (;゚ ω゚)(な……何だ今のは!?は、腹は!?私の……) (;゚ ω゚)(――ある!抉り取られたかと思った……) クーが生きてきた17年間の中でこれほどのパンチを持った者は未だかつて存在しなかったであろう。 というか、腹を殴られたことすら初めてだったに違いない。 (;゚ー゚)「ちょっとちょっと!! 保健室で怪我人増やしてどうするのよ!!」 ξ#゚△゚)ξ「大丈夫です。いつものことなので」 怒りを表情に出しながらも、その口調は実に淡々としたものであった。 「お……ブー…………」 ( -ω-)「スピースピー」 「ブー……起き…………」 ( -ω-)「グースカグースカ」 「いつま……早く起……」 ( -ω-)「フンゴーフンゴー」 「頼むか……起…………豚……」 ( -ω-)「……ブフッ!!ゴフェ!!」 (;^ω^)「ゲェェ!!グフェ!!」 (;'A`)「お……おい!大丈夫かよ!?」 (;^ω^)「タ、タンが……から……グホッ!!」 (;'A`)「ベロがどうしたって!?噛んだのか!?」 (;^ω^)「そっちじゃないお!!タンが喉の奥で絡んで窒息しかけてたんだお!!」 ('A`)「お、直った」 落ち着いた頭でゆっくりと記憶を辿る。 (;^ω^)「……あ!!そういえば告白は!?どうなって――」 ('A`)「失敗に終わったぜ」 ブーンの質問を遮るようにドクオは答えた。 (;^ω^)「え!?本当かお!?嘘だったらマジでドクオとは絶交だお!?」 ('A`)「まぁとりあえずそれを見ろよ。大体の状況は把握できるだろ」 テレビに目をやりながら言う。 そこには怒りの表情でこちらを見るツンと何やら焦っているしぃの姿が映っていた。 ('A`)「それはな、斯く斯く然然なことがあってだな」 ( ^ω^)「あざむくあざむくぜんぜん?」 ('A`)「ああ、ミスった。それはな、かくかくしかじかなことがあってだな」 ( ^ω^)「なるほど!嘘みたいに簡単に把握できたお!」 ('A`)「本当便利だね」 (#^ω^)「しかし、今回は先生がナイスタイミングで来たからよかったものの やっぱりドクオの放置プレーは許せないお!!謝罪を要求するお!!」 ( ∀ )「……俺が何の考えもなしにそんなことしたと思ってるのか?」 ブーンの怒声に不敵な笑みで返すドクオ。 (#^ω^)「!?!?どういうことだお!?」 ('∀`)「俺は……この展開を予測していたと言うことだ!!」 が、その時俺の頭の中で一つのパズルが完成したんだ」 まるで探偵にでもなったかのような口調。 それにしてもこのドクオ、ノr(ry ('∀`)「先生不在の保健室、二人きりの告白、そして、それを止められるか微妙な時間設定 これらのピースが互いに引き合うかのように組み合わさっていったんだ。 そしてそのパズルは、これが告白寸止めフラグだと言う結論を俺に示した!!!」 まるで「お前が犯人だ!」と言うかのように、ドクオはブーンを指差した。 ('∀`)「どうだ!俺の名推理!」 ( ω )「ドクオ……」 俯いたまま呟くブーン。その体は微かに震えている。 ( ω )「お前って奴は……」 (*^ω^)「すごすぎるお!名探偵ドクオがここに誕生だお!」 (*'∀`)「ははは、そうだろそうだろ。崇めろ讃えろ奉れ!!」 それにして(ry コツコツ、と二つの足音だけが響く廊下。 保健室は一階。教室がある階はその上なのでそれ以外の音は何も聞こえない。 ( ゚ ω゚)「…………」 ξ゚△゚)ξ「…………」 もちろん、二人の声さえも。 ξ゚△゚)ξ(はぁ、もうちょっとだったのに…… 先生ったらタイミング悪すぎよ。今更こっちからは切り出せないし) ξ//△//)ξ(ハッ!でも一応今も二人きり この機を逃したらもうあっちから言ってくるなんてことないかも…… やっぱりここは私から……) 後ろで歩いているツンの表情の変化に全く気づかないクー。 その顔は心なしか歪んで見える。 (;゚ ω゚)(うっ……まだ腹に痛みが残ってるな あんなパンチを打つ女だったとは……これでは到底恋など……) 「ねぇ!」 背後から呼びかける声。 ξ//△//)ξ「さっきの……話なんだけど……」 ジリリリリリリ! 黒電話特有の騒がしい音が響く。 (*'∀`)「あひゃひゃひゃ……ん?電話か」 ご機嫌な蝶になってドクオは受話器を取る。 (*'∀`)「告白失敗して残念だったなぁ?クー。 いやぁ偶然って怖いよな。まぁ俺にはわかってたけど」 「……もう戻る。記憶消去の方頼んだぞ」 (*'∀`)「あれ、もう諦めるのか?意外と根性ないんだな。 こっちとしてはそっちのが助かるからいいけど、はははは」 「……ダンベル」 そう一言残すと電話が切れた。 たった四文字だがその言葉からはとてつもない憎悪が感じられた。 (*'∀`)「ざまぁwwwwww言いたいこと言えてスッキリしたー」 が、今のドクオにそれを感じ取ることは出来なかったようだ。 (*^ω^)「お!名探偵!何の電話だったんだお?」 (*^ω^)「本当かお!?さすが名探偵!! 全ての流れがいい方向へ向かってるお!最早ドクオは新世界の神だお!!」 (*'∀`)「はっはっは、それではその新世界の神が君に救いの手を差し伸べよう」 そう言いながら台所へ向かうドクオ。 棚に隠しておいた薬瓶と冷蔵庫から水を取り戻ってくる。 (*'∀`)「これを一粒飲めばあっという間にもとの世界へ!」 (*^ω^)「あっという間にもとの世界へ!」 もうこの二人のテンションは最高潮に達したようだ。 ブーンは薬瓶がどこから出てきたのかも疑わず、言われるがままに水を口に含み一気に薬を流し込んだ。 (*'∀`)「いい飲みっぷりだ!!」 (*^ω^)「こんなん楽勝だお!! 今の僕にかかれば青汁だろうが灯油だろうが一息に飲み――」 ちなみにこの薬、飲んでから3秒で効き目を発揮するとてつもない即効性を持つ。 (;^ω^)「は……腹が……あ……ああ……」 今正にブーンの体内は、大嵐に見舞われた夜の海のように荒れ狂い始めていた。 (;゚ ω゚ )「あおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 ('∀`)「こちらがトイレでございます」 その顔は笑っていたが、先程までの純粋な笑みではなかった。 どちらかと言えば人を嘲り笑う嘲笑に近いと言える。 (;゚ ω゚ )「どどどどどどくお!!!ははははかったなあああああああ!!!!」 怒りを上手く表情に表せないブーン。それほどまでに余裕がなかった。 (;゚ ω゚ )「糞おおおおおおおおおおおおおおおお!!」 その言葉は悔しさの表れだったのか、はたまた自らの欲求を素直に述べたまでだったのか。 今となっては知る由もない。 ('A`)「任務完了」 大したこともしていないのに誇らしげな顔で呟くドクオ。 その耳には、言葉では到底表現できない記憶の放出音が哀しく響いていた。 ('A`)「……俺まで腹痛くなってきた」 ―― 先程までの喧騒が嘘だったかのように、部屋は静寂に包まれる。 それから間もなく、行為の終焉を告げるかのように水流の音が流れ始めた。 ('A`)(そういえば、クーはどこから戻ってくるんだろう) それ程重要な事とは思えなかったのでドクオはそれを聞いていなかった。 そして、その疑問はトイレのドアが開く音と共に解決された。 川 - )「…………」 無言で部屋に入ってくるクー。そのまま部屋の隅へと歩き出す。 ('A`)「???」 その光景を不思議そうに見つめるドクオ。 そして、気づく。あの四文字の意味に。 (;'A`)「あ……ああ……」 目的地に着き、クーが手にしたもの。それは―― (;'A`)「……ダン……ベル」 右手にダンベルを持ったクーがゆっくりと近づいてくる。 相変わらず一言も話さず、無表情を保ちながら。 恐怖に耐え切れずトイレへと逃げ込むドクオ。震える手を必死に制御して鍵を閉める。 途端にドアノブが激しく捻られる。 川 - )「どうした?開けてくれ、ドクオ」 声を聞いた瞬間鳥肌が立つ。心臓の鼓動が早くなっていくのが分かる。 (;'A`)「い、嫌だ!」 川 - )「どうしてだ?」 (;'A`)「どうしてって……お前の手にある凶器のせいだよ!」 川 - )「凶器?このダンベルのことか?」 (;'A`)「そうだ!」 川 - )「……おかしいな……」 そう呟くのが聞こえた瞬間、扉がドクオの上へと勢いよくのしかかった。 そして、その上には―― 川 ゚ -゚)「私が聞いた話では、これは確か快適な目覚めをもたらす物だったはずだが」 (;゚A゚)「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」 ドクオの悲鳴が響き渡り、そして、途絶えた。 ξ//△//)ξ「続き、聞かせてくれない?」 問いかけるツン。だが返事はない。 ξ//△//)ξ「あ!ここじゃ出来ないって言うんなら別にいいのよ? ただ、ちょっと気になっただけだし……」 背を向けたまま立ち尽くすブーン。未だに口は閉じられたままだ。 ξ//△//)ξ「き、気になったって言ってもホント微々たる物よ!? あんたの話なんかより、明日の天気の方がよっぽど気になるんだから!!」 やはり、反応はない。 ξ゚△゚)ξ「……ちょっと……何とか言いなさいよ」 何も言わないブーンに苛立ち始めるツン。その口調にトゲトゲしさが戻り始める。 ξ゚△゚)ξ「聞こえてるの!?無視すんじゃないわよ!!」 とうとう大声で叫びだすツン。それでもブーンは前を向いたまま動かない。 ξ △ )ξ「いい加減に……しないと……」 ツンのいかりのボルテージがあがっていく! ξ#゚△゚)ξ「ぶん殴るわよ!!!!!!!」 ( ´ω`)「あれ?なんでこんなとこに?」 いろいろと考えを巡らす間もなく、後ろから強く肩を引かれる。 ( ´ω`)「え?なんだ――」 ξ#゚△゚)ξ「消え失せろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」 何か叫んでいる。 それしかブーンには分からなかった。 ( ゚ ω゚ )「ふんぎゃあああああああああ!!!!」 気づけば宙に浮いている自分の体。 何が何だか分からないまま、ブーンの意識はまたしても闇の奥深くへと沈んでいった。 ―― ― キンコン 全ての授業の終了を告げるチャイムが鳴る。 生徒たちは部活に行く者、そのまま帰宅する者、残って勉強する者 それぞれの予定に従って行動を始めた。 ('A`)「…………」 とぼとぼと部室へ向かうドクオ。 周りの生徒は練習開始の時間に遅刻しないよう慌てて走っている。 陸上部には顧問の先生がいない。 正確に言えばいることにはいるのだが、その役目を果たしていないと言うべきか。 つまり、形だけの『顧問』と言うことである。 それのおかげでこの部活は時間に束縛されることがあまりない。 悪く言えばだらしない、とも言えるだろうが練習をサボるようなことはしなかった。 しかしその分練習メニューは自分で考えなくてはならない。 雑誌やネット、先輩から教わった練習などから情報を得て自分で構築していく。 そんなメリットとデメリットを抱えた部活にドクオは所属していた。 相変わらず無言のままアップを始めるドクオ。 ( ´ω`)「…………」 同じく無言のまま並んで走るブーン。 言い忘れていたが彼も陸上部の一員である。種目は短距離。 見かけによらず足は滅法速く、県でもなかなかの成績を残していた。 ( ´ω`)「……ねぇ……ドクオ」 ('A`)「……ん?」 ( ´ω`)「……何でツンは僕のこと怒ってるのかお?」 そう言われ後ろを振り返る。 ξ#゚△゚)ξ これも言っていなかったがツンも陸上部のマネージャーであった。 いつもは選手のサポートとしてタイムを計ったり事務的な仕事をこなしている。 だが、今はるか後方に見えるツンからは、そんな献身的な姿勢は微塵も感じられなかった。 ('A`)「……さぁなぁ」 もしかしたらそれが関係してるのかお?」 ('A`)「……どうだろうなぁ」 ドクオに精神的余裕があればもう少し気の利いたことも言えただろう。 しかし、今のドクオにそんな余裕はなかった。 ( ´ω`)「……はぁ」 ('A`)「……はぁ」 二人してため息をつく。 その後は一言も話さなかった。 憂鬱そうな顔を二つ並べたまま、ただただゆっくりと走り続けるのであった。 J( 'ー`)し「おかえり」 部活を終えたドクオは重い足取りで帰路に着いた。 帰りはいつもと同じようにブーンと一緒だったが会話はあまりなかった。 それぞれ抱える問題に頭を悩ませ、どこか呆けた面でいる内にいつのまにかブーンが降りる駅に着いていた。 ('A`)「いただきます」 J( 'ー`)し「いただきます」 ブーンと別れてから家に着くまでドクオはずっと今夜の夢のことを考えていた。 そして、今も。 ('A`)(あんなことするくらいだからクー相当怒ってるだろうなぁ 気まずい……だろうな。あー、最初の第一声はどうしよう) 箸が進まないドクオ。口は半開きのまま動いていない。 (;'A`)(いやいや!よくよく考えてみるとあいつが勝手に俺に押し付けただけだし! どこに俺が悩む必要があると言うんだ。うん、ここは強気な態度でいこう) 結論を出したドクオは一気にご飯を口の中へとかきこむ。 一時停止していた時間が再び動き出す。 これは間違いなく悩み事。妊娠、いじめ、包茎、痔、童貞(ry どれで悩んでるのかしら!!ししししし心配だわ!!!!) ('A`)「ごちそうさん!」 J(;'ー`)し「は、はい、お粗末くんでした」 勢いのいい声で挨拶するドクオ。 食器を台所へと持っていくと、そのまま二階へと駆け上がっていった。 J( 'ー`)し「…………」 食卓に一人残されたカーチャン。 部屋にはテレビから漏れる笑い声だけが響く。 J( 'ー`)し「……ドクオ……イキロ」 小さく呟かれたささやかな応援は、テレビの音量に空しくかき消された。 まだ9時半だと言うのに既にベッドの中へと入っていた。 ('A`)(よしこい!俺は男だ!やれる!俺はやれる!) こんなに気合を入れて眠りにつこうとしたことなど今まであっただろうか。 まだ時間も早いことも相まってドクオの目はギンギンに冴えていた。 何となく分かってはいたがやはり眠れない。何度も寝返りを打ってみるが状況は変わらない。 そんな状況を見かねてか、突如もたらされる不自然な眠気。 ('A`)(また……これか……) 通常の眠気とは例えるならパラシュート付きのスカイダイビングのようなものである。 ゆっくりと降下していき、最終的には眠りと言う地上へと降り立つ。 だが、今ドクオが味わっているそれは全くの別物。 言うなれば20階建てのビルの屋上からいきなり突き落とされるようなものだった。 もちろん無事では ――済まない 目の前に広がるのは闇、いや、光だろうか。 闇が光を反射している。そんな光景が目の前に広がっていた。 ('A`)「髪、か」 だんだん正常になる思考回路で闇の正体を突き止める。 そして、今自分がなすべきことも。 ('A`)(よし。あっちが俺に気づいていない今がチャンスだ。 肩を掴んでこっちむかせて、一発怒鳴ってやればさすがのクーもたじろぐだろ!) 意を決したドクオ。クーの肩を掴み、そして ('A`)「さっきはよくも――」 クーが半身をこちらに向けたところで何も言えなくなる。 その右手にあるものを見て、体全体から血の気が引く。 (;'A`)「おおおおおまえなんでほほっほ包丁なんか持ってんだよ!!!」 クーはその鋭い切っ先をしばらく見つめた後、もう一度こちらを向きなおし答えた。 川 ゚ -゚)「……捌こうと思って」 ('A`)(俺\(^o^)/オワタ) ('A`)「へ?」 何とも間抜けな声を出してしまった。 コタツの上に目をやると、そこには無残な姿で横たわる魚の姿が!! ('A`)「……そういうことっすか」 川 ゚ -゚)「暇だったから料理の勉強でもしてみようかと思ったのだが……これでよかったか?」 ('A`)「これじゃ捌くと言うよりただ切り裂いただけだろ……。 つうかこんなことコタツの上でやるなよ。台所があるんだから」 川 ゚ -゚)「台所は寒いから駄目だ」 ('A`)「……そっすか」 川 ゚ -゚)「それより、さっき何か言いかけてなかったか?」 ('A`)「ん?……ああ、いや、なんでもない。大したことじゃないよ」 川 ゚ -゚)「……そうか」 何ともベタなオチにすっかり拍子抜けしてしまい、文句を言う気もなくなってしまった。 そんなドクオをよそに黙々と作業を再開するクー。 コタツで魚を捌く少女とそれを後ろでじっと見つめる少年。 不思議な光景である。 作業を続けていたクーの動きが止まる。後ろを振り向かずに答える。 川 ゚ -゚)「自分がしたことのない体験を求めるのは当然のことだろ?それだけのことだ」 あっさりと答え作業に戻る。 しかし、作業再開を許さないかのように質問は続く。 ('A`)「じゃあ、今自分の体はどうしてるんだ?」 再び作業は中断される。しかし、返答はない。 ('A`)「今までは無念の内に死んだ女子高生の幽霊とか夢を司る女子高生型の妖精が 俺の頭に出てきたのかと思ってたけど、そんなんじゃないよな? 昨日、今日とほんの短い間だけど話してみて分かったよ。 お前……今も生きてるちゃんとした人間なんだろ?」 川 - )「…………」 ('A`)「…………」 今まで何度も訪れた沈黙。 だがこの沈黙は、今までのそれとは全く別の種類のもののように感じられた。 そう言うとドクオは立ち上がりどこかへ行ってしまった。 川 - )「…………」 ドクオが立ち去った後もクーは身動き一つしなかった。 俯き、目を伏せ、何かを思いつめるかのようにただただじっとしていた。 不意に、視界上部に魚が現れる。 顔を上げ目の前を見ると包丁を持ったドクオ。 川 ゚ -゚)「…………」 そして、コタツの上にはまな板と魚。 川 ゚ -゚)「……台所でやればいいだろう」 ('A`)「台所は寒いから駄目だ」 数分前に自分が吐いた台詞。聞くのと言うのとでは感じ方が全く違うものだ。 川 ー )「……そうか」 一瞬、クーの顔が微笑んだように見えた。 コタツで魚を捌く少女と少年。 それは、実に不思議な光景であった。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|