三十九章四床からプギャーに跳ぶよりも、壁から跳んだ方が勢いと速さが残る。 それに下から攻めてしまっては、叩き落とせない。だが横からの攻撃であれば、叩き落とせる。 速さを武器にする他ないブーンは、僅かでも勝てる可能性が大きい道を取った。 ( ^Д^)「懲りない野郎だ……!」 空中という優位なポジションを取ったプギャーは、先ほどまでの表情を一転、笑みに変える。 そして、ブーンに真正面からぶつかっていった。 (#゚ω゚)「はぁっ!!」 勢いを乗せたブーンの回し蹴りを、プギャーは左腕で受ける。 そして即座に下方から跳ね上がった左脚を、今度は右腕で叩き落とした。 そこでブーンの右脚が左腕を蹴りつけて回転。 器用にも、空中で後ろ回し蹴りをやって見せて―――しかし、それもプギャーに容易く弾かれる。 空中では、どうしても地上の時のような速度が出せないのだ。 ( ^Д^)「おいおい、速度が落ちてんぞ! どうしt」 だがそこで、プギャーの言葉が詰まる。 ブーンの手が、いつの間にかプギャーの肩にかけられていたのだ。 (;^Д^)「なっ!? てめ……!」 プギャーが振り払う間もなく、ブーンはその手に力を込めて身を持ち上げる。 そして身を捩じらせて、翅に向けて脚を振るった。 彼はまだ、プギャーを飛ばせぬ事を諦めたわけじゃなかったのだ。 (;^Д^)「―――っざけんな!!」 対するプギャーは、その翅を全力で羽ばたかせる。 前進の羽ばたき。更にそこで後方に脚を振るい、身を上下に回転させた。 ブーンの身はバランスを失い、振るった脚は翅を捉えられない。 そして、上下逆さまになったまま落下する。 (#゚ω゚)「ちぃっ!!」 落ち行く中、脚を振るって体勢を直し、着地。 間髪置かず、再度跳躍した。 動きは先ほどと同じだ。 壁に跳び、そして壁を足場にしてプギャーへと跳ぶ。 違いは、先ほどよりも格段に速くなっている速度だけだ。 プギャーは体勢を整えるのに精一杯で、回避行動も取れない。 優劣の立場は不変のままだが、しかしブーンは確実にプギャーとの差を縮めていた。 (;^Д^)「ちっ……キリがねぇな」 疲労を表情に浮かべつつ、舌打ちする。 思い通りに事が進まない事と、ブーンから受けた苦痛が、彼を苛立たせていた。 ここで敗けるわけにはいかない。 奴らをさっさと消して、モララーさんを護りに戻らねばならない。 なのに、何だこの様は。与えられた“力”は何の為だ。 思考は、しかし答えが出ぬまま中断される。 まもなく迫り、振り下ろされるブーンの脚を、プギャーは右腕で受けた。 すぐさま叩きつけられるもう片方の脚は左腕で弾き飛ばす。 しかしそこで反撃を加える前に、ブーンはプギャーの右腕を足場にして跳躍。プギャーの鎌は虚しく空を切った。 プギャーの苛立ちは、募る。 跳躍したブーンの身は天井へと向かい、そこで身を反転。 やはり、天井を蹴りつけてプギャーへと向かった。 (#゚ω゚)「おぉおおぉおぉおおぉおぉっ!!」 落下と共に繰り出される大威力の蹴りを、プギャーは両腕で受ける。 しかしそれによって体勢が崩れ―――そこで彼の頬を、振るわれたブーンの爪先が掠っていった。 血が踊り。 そして、プギャーの中で抑えていた何かが切れた。 (#゚ω゚)「ぐ……!!」 対するブーンは悔しさに歯を噛みながら、しかしその悔しさを速さに変える。 もう少しだった。そう、もう少しだったんだ。 勝てる。決して、勝てない相手じゃなかった。 湧いた希望に、力を身に漲らせ。 そして、体勢を崩しているプギャーに脚を振るった。 (#゚ω゚)「墜ちろお!!」 咆哮と共に、全力で振り下ろした脚は ( ^Д^)「いい加減、うぜぇよ」 崩れつつある体勢の中で跳ね上げられた枯葉色の脚に、受け止められた。 そして、弾き飛ばされる。 そこでプギャーは、体勢を整える事もなくその翅によって宙を後退。 そして右腕を前に構えて ( ^Д^)「そろそろ死ね」 そのくすんだワインレッドの右腕から、細長い何かが大量に発射された。 (;゚ω゚)「!?」 予想外の飛来物に、ブーンは両腕で身を護る。 が、両腕で覆いきれない箇所―――肩や二の腕、腿などに、“それ”は容赦なく突き立った。 くすんだワインレッドの、大針。 (;゚ω゚)「な―――」 何だこれは、と言いかけたところで。 針が刺さった箇所に、燃えるような猛烈な痛みが走った。 (;`ω゚)「痛ッ!?」 尋常でない痛みは、じわじわと強くなり広がっていく。 身体に震えが起き、思わず呻きが漏れた。 想定外の苦痛に体勢が崩れ、その中で身体は落下していく。 ブーンは痛みを堪えて体勢を直し、危ないところで着地した。 しかし直後、そこに膝を着く。 (;゚ω゚)「なっ!?」 愕然と、ブーンは己の脚を見やった。 白銀の輝きを放つ彼の脚は、しかし彼の意志に応えてくれない。 そこに、立てない。 脚に力が入らないのだ。 力を込めても、どこからか抜けていく。 まるで、立ち方を忘れてしまったかのように。 いや、脚だけではない。 腕、肩、身体―――内側までもが、彼の思うようにいかない。 力が、抜けていく。 そしてその部位もまた、痛みと同じように強くなり、広がっていった。 (;゚ω゚)「か、はっ……!」 やがて彼は、床に身を横たえた。 その息は荒く、体温は異様に上がり、しかし彼自身は強い寒気を感じている。 意識は茫と薄れ、視界には薄く白がかかりつつあった。 身体は無意識に震え、徐々に強張っていく。 (;゚ω゚)「これ、は……」 ( ^Д^)「毒だよ」 間もなく降りてきたプギャーは、無感情にそう告げた。 ブーンと一定の距離を開けた位置に立ち、しかし追撃をかけることもなく、ただそこでブーンを見下ろす。 ( ^Д^)「言ったろ、毒虫の毒毛の性質をこの突起は持ってるってよ。 この毒はまぁ、相当に強い上に、厭な癖があるものでな。 刺さった箇所・量によって、筋肉やら内臓やら気管やら―――下手すりゃ精神すら冒す」 言葉に、ブーンは己の二の腕を見た。 針が刺さった箇所は黒く変色し、そこを中心に放射状に青紫色が広がっている。 その付近の血管は不気味なほどに隆起し、異常なほどに強い鼓動を刻んでいた。 ( ^Д^)「卑怯だと思ったから、この手はあまり使いたくなかったんだがな。 勝つ為には、仕方ないよな。俺はまだ、死ぬわけにゃいかないもんでよ。 俺が生きてモララーさんを護る為に、手段なんて選んじゃいられなかった」 抑揚無く、倒れ伏すブーンに話すプギャー。 その表情はやはり無表情で―――しかし、その眉が寄せられた。 ( ^Д^)「んで、お前は間違いなく致死量超過の毒針を受けた筈なんだが……どうも、おかしいな。 毒の影響こそあれど、死ぬ気配がまったくない。やっぱり、異能者だからかね。しぶとい。 やっぱり、この手で始末を付けるしかないのかね」 左腕の鎌で空を一薙ぎ。 そして観察するようにブーンを見ながら、試すようにゆっくりと歩みを始めた。 (;`ω゚)「…………ッ!!」 ブーンは彼の動きに、僅かに身じろぐ。 身じろぐことくらいしか、出来なかった。 それでも必死に、ブーンは動こうと、立ち上がろうと試みる。 その度に全身に苦痛が走り、しかし身体は床から離れない。 やがてプギャーが数歩を詰めきった。 (;゚ω゚)「くっ……!」 ( ^Д^)「お前はよく頑張ったよ。俺との小さくない力量差を、速さと根性で見事にカバーした。 正直、使いたくもなかった毒を使う羽目になるとは思わなかったぜ。 だが、こんなもんだ。努力やら何やら、そんなもんじゃどうにもならないものもあるって事で、諦めろ」 戦慄に眼を剥くブーンを見下ろし、そしてプギャーは鎌を振り上げて ( ^Д^)「死ね」 言葉と共に、振り下ろした。 草色の鎌は風切り音をあげて、ブーンの心臓へと奔り (;゚ω゚)「がっ―――ぁぁあぁああぁぁあぁ!!」 咆哮と同時。ブーンの身が、横に動いた。 鎌の刃は狙いを大きく外し、彼の肩に深く切り込みを入れるに終わる。 ブーンの身は数度転がって、そこでまた床に倒れ込んだ。 ( ^Д^)「あ……?」 首を傾げ、ブーンを見やる。 毒で動けぬ筈ではなかったのか、と。 現に刃から逃れた彼は、その先で苦痛に呻いていた。 そう。あれだけの毒を受けて、動ける筈はないのだ。 ( ^Д^)「偶然、かね? はっ、それとも、諦めない心が生んだ奇跡ってか」 笑いもせずにそう言って、プギャーは再度ブーンとの距離を埋める。 そして今度は、ブーンに何も言う事無く、鎌を振り下ろした。 だが (;゚ω゚)「――――――ッ!!」 ブーンの身は再度転がり、プギャーの鎌は床に突き刺さる。 プギャーは尚更、眼を疑問に細めて……その後、目の前に広がった光景に眼を見開いた。 ブーンは数度転がった後―――ゆっくりと、立ち上がったのだ。 余りにも頼りない、今にも倒れそうに震えた足取りではあったが、しかし確実に。 ( ^Д^)「……? どういうことだ?」 眉根を寄せつつ、一歩を詰める。 それに対しブーンは、後ろへ跳躍した。 距離は短く、速度も格段に遅かったが、それを見てもはやプギャーは苦笑する。 ( ^Д^)「はっ、この短時間で回復しつつあるってのか? あれだけの毒をぶち込まれて? ふざけてんな。 異能者の体質、か? まぁ異能者ってのは傷も早く治癒しちまうし、分からなくもないが。 それにしても不自然だな。あんだけ苦しんでて、こんだけ動ける筈もないんだが。どういうことだ?」 (#゚ω゚)「知るかお。諦めない心が生んだ奇跡ってところじゃないかお?」 ( ^Д^)「そりゃあ良いな。だが奇跡にしちゃ随分とヘボくねぇか? お前、まだ全然動けねぇんだろ? 無理矢理に身体を動かしてる……って感じだよなぁ?」 (#゚ω゚)「でも、戦えるお。ごたごた言ってる暇があるなら、かかって来いお」 言い放って、ブーンは身に刺さった毒の大針を引き抜いていった。 その間にも彼は苦痛に表情を歪ませ、時折身体を不安定に揺らす。 プギャーはそれを見て、苦笑を濃くした。 ( ^Д^)「……別に、俺ぁ構わねぇんだけどよ」 仕方なさそうに、後頭部を掻く。 その瞳が突然、鋭く細められた。 ( ^Д^)「てめぇ、自分の状況を考えてねぇな?」 そして身が動く。 一瞬。それだけの時間を以てしてプギャーは一歩を跳躍した。 そして勢いのまま、脚を横薙ぎに叩きつける。 (;゚ω゚)「くっ!」 対するブーンも遅れて後退したが、圧倒的に遅い。 後退する事も出来ず、プギャーの攻撃を受けてしまう。 咄嗟に上げた脚でプギャーの蹴りは防御したが―――そこで、堪えられない。 ブーンの身は吹き飛び、床を跳ねた後に転がって止まった。 ( ^Д^)「ロクに動かねぇ身体で、俺に勝てると思ってやがんのか? 馬鹿にすんのもいい加減にしろよ」 プギャーの言葉に、床を這うブーンはしかし力強く応える。 (#゚ω゚)「あぁ、勝ってやるお」 立ち上がり、身体をぐらりと揺らしながらも、構えた。 全身を苦痛に蝕まれ、呼吸すらもまともにままならない中で。 軽くなりつつあるとはいえ、猛毒に身を冒されながらも、それでも。 ( ^Д^)「…………………」 何故だろうか、とプギャーは想う。 何故この男は、こんなにも戦えるのだろうかと。 自らの平和や日常を崩してまでも。 自らの身の損傷も厭うことなく。 何故、己が為ではなく、他人の為に戦えるのか。 ( ^Д^)「なぁ、ブーン。一つ聞かせろ。 何でテメェは戦うんだ?」 (#゚ω゚)「お前達のせいで悲しむ人を、一人でも減らす為だお」 ( ^Д^)「自分を……日常を捨ててでも?」 (#゚ω゚)「言ったお。誰かを犠牲にして得る何かなんていらない。 異能者の全てを無視して……人々の泣き顔を見て見ぬふりして平和に生きたって、僕はきっと嬉しくない。 僕の力でなら止められる―――僕達でしか止められない悲しさを、無視することなんて出来ないお」 (#゚ω゚)「僕はきっと、お前達を放置して得た平和の中じゃ生きられない。 後悔に塗れた人生なんて、死ぬより御免だお。例えそれが平和な人生であろうと、それは死んでるのと変わりないお。 僕は生きる為に―――自分の人生を生きる為に、戦うんだお」 その言葉で、プギャーは悟る。 それこそが、ブーンにとっての譲れないものなのだと。 言うなれば、存在理由にも近しいものだ。 プギャーにとってモララーの存在が絶対であるように、 ブーンにとってはそれが絶対なのだろう。 それならば―――分かる。 ここまで、戦い続けようとする意思が。 ならば、叩きのめすしかないだろう。 その理由と意志をへし折り、砕かないことには、ブーンはきっと止まらない。 自分がそうであるように。 ( ^Д^)「そうか。なら、戦うしかないわな」 呟き、プギャーも構える。 ( ^Д^)「俺はお前を、お前の理由を殺しにかかろう。 お前の譲れない理由が、俺の譲れない理由と真正面からぶつかるからな。 敗けた理由が、意志が、死ぬことになるだろうよ」 (#゚ω゚)「そうかお。じゃあ―――」 ( ^Д^)「あぁ、来い」 言葉に、返す事もなくブーンが動いた。 (#゚ω゚)「おおおぉぉぉぉぉぉっ!!」 咆哮をあげつつの疾駆。そして横薙ぎの蹴り。 だがその動きは、先ほどまでとは比べ物にならないほどに遅い。 回復に向かっているとは言え、毒は未だ濃くブーンの中に残留しているようだった。 蹴りは易々とプギャーに受け止められ、そして弾き飛ばされる。 ブーンはその衝撃に堪える事も出来ずに、脚だけでなく身体ごと吹き飛んだ。 (#゚ω゚)「ぐぅっ……!!」 吹き飛ぶ先、脚の爪をスパイク代わりにして身を止める。 そして再度、プギャーに対して駆けた。 ( ^Д^)「遅ぇな。そんなんで俺に勝てるわけが―――」 突き出された右脚での前蹴りを、プギャーは右腕で殴り落とす。 それと同時にブーンの逆の脚が跳ね上がり、プギャーの側頭部に伸びた。 僅かな隙を狙った良い蹴りではあったが―――やはりそれも、遅過ぎる。 (#^Д^)「ないだろうが!!」 叫び、振り上げた左腕の鎌で、その脚を弾き飛ばした。 ブーンはその衝撃に身を旋回させて (#゚ω゚)「お、ぉっ!!」 旋回を利用して、回し蹴りを放つ。 プギャーの力と遠心力を利用した蹴りは速く―――だが、それも苦する事無く弾き飛ばされた。 ブーンの身は再度、吹き飛びそうになって――― そこで伸ばされたプギャーの右手に、胸倉を掴まれて強制的に停止する。 (;゚ω゚)「……くっ!」 その状態からでも、ブーンは脚を跳ね上げようと試みた。 だが直前に、脚はプギャーの脚で踏まれて固定され、動かせなくなる。 足掻くように両腕のガントレットを振るったりもするが、その悉くをプギャーは左腕のみで捌いた。 プギャーは、ブーンに無力を悟らせるように、わざとその応酬を続け ( ^Д^)「テメェの意志なんて、こんなもんだ。……じゃあな」 やがて彼の腕をプギャーは弾き飛ばし、そして翻る刃をブーンの首に伸ばして――― ( ^Д^)「ッ!!」 突然、ブーンを放して後方へ大きく跳躍する。 直後。何事かと眼を開いたブーンの眼前―――プギャーの立っていた空間を、何かが貫き抜けていった。 その物体の色は白銀、形状は巨大な銃弾。 そして ξ゚△゚)ξ「間に合った……!!」 数メートル先で展開した銃弾。その内側から現れた少女は、ツンだ。 ( ^Д^)「チッ、来やがったか」 舌打ちを漏らしつつ、プギャーはツンに相対する。 そして表情を笑みに変えて、「来い」とでも言うような動きを見せた。 対するツンは、翼を展開した先から動く事もなく、翼を引く。 限界まで引き絞り、上半身までもを反らす事で、可能な限り全ての力を溜めて ξ#゚△゚)ξ「なら、行ってやろうじゃないの」 ――― 一気に、解放する! 上半身を戻す動きと同時に、翼を全力ではためかせる。 そしてそのまま動きを止める事無く、連続で羽ばたきを続けた。 その動きから繰り出される物は、超高速・超威力の無数の白銀の羽根だ。 プギャーはそれに対し、一瞬の判断を下した。 逃げろ。受けてはならない、と。 あれだけの高速・高威力の羽根であれば、一発一発が尋常でない威力を内包しているはずだ。 そして一発を身に受ければ、身体が制御を失う―――他の羽根による攻撃も、受けざるを得ない。 そうなれば、どうなる? 答えは明白。敗北で、死だ。 一瞬の思考、続く一瞬で上空へと跳躍する。 そして彼の脚を掠るように、彼の下を白銀の烈風が抜けて行った。 (;^Д^)「うおっ……何だありゃ。半端じゃねぇな」 予想以上の壮絶さに、プギャーは一瞬、下方に眼を取られた。 その一瞬の隙が、後に彼の回避を不可能にする。 プギャーの視界の隅に、飛来する白銀が映った。 それをしっかりと認識した瞬間、彼の表情が引き攣る。 そしてその瞬間には、“それ”を彼が回避する事は不可能であった。 高速と螺旋の動きを纏った、白銀の巨大銃弾。 その威力は、数度受けた事によって彼自身が深く知っていた。 それが故に、彼は戦慄し―――回避は出来ないだろうかと思考する。 不可能だ、と彼も一瞬で答えを出したが、しかしその一瞬で銃弾が迫りきった。 その一瞬を以てして、彼は思考すべきではなく、防御の体勢を完成させるべきだったのだ。 結果、彼は満足に防御の体勢を作り終える事無く、銃弾による襲撃を受ける事になる。 (;^Д^)「チィィィィィッ!!」 咄嗟に粗い防御の体勢を作ったが―――無意味。 構えた腕や脚を超えて衝撃が身に達し、プギャーは呻きと共に激しく吐血した。 そして吹き飛び、背の翅で飛ぶ事も出来ず、床に叩きつけられる。 続いた衝撃で呼吸が詰まり、意識に靄がかかる。 だが、それどころではない。ここでそんな事にモタついているわけにはいかない。 音で分かる。次の攻撃はもう来ているのだ。 プギャーは胸を叩いて、無理矢理に体内に酸素を送り込んだ。 そしてすぐさま、上空からの攻撃に対応する。 視界いっぱいに降り注ぐ、白銀の雨。 ただし普通の雨よりもずっと速く、ずっと強い。 そしてそれがもたらす物は水ではなく、血液と死だ。 (;^Д^)「くっ……!!」 すぐさまプギャーは防御の体勢を作り出した。 放たれた羽根は速いが、しかし先ほどまでの威力はなさそうであったし―――何より、回避する余裕なぞなかった。 そして間を置かず白銀が到達する。 凄まじい音と共に襲いかかったそれを、プギャーはその両腕で防いだ。 しばらく白銀の雨による洗礼は続き―――やがて、止む。 プギャーは不審げに顔を上げ、しかしそこで新たな白銀の雨を視認した。 ( ^Д^)「……? 時間差攻撃って奴か? 油断して防御を解いた所に羽根がぐさぐさっ、てか?」 「甘ぇな」と言いつつ、彼は再度、防御の体勢を作り上げる。 しかし、彼のその考えは間違いであった。 確かに時間差であり、油断したところに攻撃、というのは正解ではあったが――― ツンが仕掛けた攻撃の種類、という面で、彼は致命的な間違いを犯していた。 防御の体勢を作った、彼の視線の先。 一部の雨が突然、弾け散った。 そして白銀の雨の層を貫いて現れたのは―――同じく白銀色の、巨大な銃弾だ。 (;^Д^)「なっ……!!」 予想外の出来事に、彼は思わず声を漏らす。 そう、彼の予想は間違っていた。 時間差ではあったし、油断させたところに攻撃だろうという予想も合っていた。 が、しかしそれは『雨が途切れた空白の時』を対象としたものではなく、空白の後の雨を対象としたものであったのだ。 その雨が本命である、と思わせるフェイク。 現にプギャーは自身の予想に酔い、雨に対して油断していた。 そしてそこに時間差で現れた白銀の銃弾に、今こうして狼狽している。 またも、回避は出来ない。受けざるを得ない。 (;^Д^)「クソがァァ!!」 今度は思考する事無く、プギャーは防御を堅める。 まもなくそこに銃弾が到達し (;^Д^)「ぐぅっ―――あぁあぁぁあああああああぁあぁぁあぁっ!!」 全身を駆け巡った衝撃と、銃弾を跳ね返そうという意志に、叫び声をあげた。 絶叫と咆哮が入り混じった声は、大音量の金属音に呑まれる事無く響く。 火花が弾け飛び、プギャーの脚が床を削って徐々に後方へと押され――― (#^Д^)「っらぁぁ!!」 しかし、彼は銃弾を弾き飛ばした。 銃弾は方向を変え、しかし内側に残した力で数メートルを進んで、床で跳ねる。 そしてまもなく銃弾が展開し、内からツンが姿を現した。 ξ゚△゚)ξ「しぶといわね」 (#^Д^)「それはお前じゃないか? さっき、素直に死んでりゃ良かったのによ。 あんだけ死ぬギリギリまで行ってて、何を偉そうに」 ξ゚△゚)ξ「でもこうして生きてるわ。死にそうになってたとしてもね。 死んでなきゃ、どうあったとしても結果は同じよ。 私が生きているのが悔しかったら、しっかりと殺しなさいな」 (#^Д^)「は、戯言を」 ξ゚△゚)ξ「それに、死ぬギリギリっていうなら―――今のあなたもそうだったんじゃないかしら? 私、結構、良い所まで行ったと思うのだけど?」 (#^Д^)「あぁ、確かに際どいところまで行ったかもな。 だが、こうして生きてるんだなぁ、俺も。死んでなきゃ、結果は同じってな。 俺が生きてるのが悔しかったら、しっかりと殺してみろってんだ」 ξ゚△゚)ξ「人の言葉を真似して返すのは馬鹿に見えるわよ」 (#^Д^)「それが? この場において、そんな事ぁ関係ない。 どんな天才でも馬鹿でも、どんな英雄でも悪漢でも―――異能者でも一般人でも、死体になりゃみんな同じだろうが」 ξ゚△゚)ξ「死体になればね。でも私達は生きてるんだから、同じじゃないわよ。 私は私で、あなたは馬鹿。愚かな論を吐き散らして、馬鹿を露呈させるべきじゃないと思うわよ?」 (#^Д^)「……テメェ」 その時。 床を踏み、蹴る音が響いた。 プギャーはそちらを振り返り――― そこで、彼に飛びかかろうとしているブーンを見た。 (#゚ω゚)「おおおおぉおおぉおおぉおぉっ!!」 (#^Д^)「はん、来たな。隙を見て、襲いかかったってところか? だが、随分と遅い。遅過ぎるぜ、ブーン」 そう、遅い。ブーンの身には、まだ毒が廻っている。 本来ならば、プギャーが振り返る前に一撃を加えられていた筈なのだから。 しかしプギャーはブーンに気付き、そして構えてしまう。 それでもブーンは躊躇する事もなく飛びかかって――― ξ;゚△゚)ξ「ダメ! 退いて、ブーン!!」 ツンの叫びが、甲高く響いた。 ξ;゚△゚)ξ「今のあなたじゃ、まともに戦えない!! 退いて! 毒が抜けるまで、私に任せて!!」 ツンのプギャーへの攻撃は、勿論プギャーを倒す目的もあったが、本来の狙いは違うものであった。 即ち、ブーンからプギャーを遠ざける事。 毒を喰らって、まともに動く事も出来ないブーンが、プギャーに勝てる筈はないのだ。 プギャーの言う通り、努力や根性ではどうにもならない物というのはある。 戦闘において、諦めない事は重要で力にもなり得るが―――ブーンのような盲信は、逆に危険だ。 幸いにも、ブーンの毒は徐々に抜けてきているらしい。 ならば、ブーンは一度戦線から抜けて、しっかりと身体から毒を抜いてから戦うべきなのだ。 その為にツンはプギャーに突進し、途切れぬ攻撃と挑発で意識をツンに向けさせた。 全てはブーンを護る為。 ブーンに護ってもらったから、今度は彼女がブーンを護ろうと、彼女は奮闘したのだ。 だが、ブーンは動いてしまった。 確かに隙を見付け、そこに付け込んだに過ぎないが―――彼は毒に身を蝕まれたまま、戦線に復帰してしまったのだ。 本当はその隙に、プギャーから離れるべきであったのに。 有り余る不屈の闘志が、今度は裏目に出た。 ツンの働きはほぼ無駄となり―――プギャーは、ブーンへと向いてしまった。 横薙ぎに叩きつけられる脚を、プギャーは軽々と弾き返す。 そこで跳ね上がった脚も、同様に。 そしてプギャーは一歩を踏み、右腕での裏拳を叩き込んだ。 (;`ω゚)「おっ!!」 辛うじて脚で受け、しかしブーンは吹き飛ばされる。 肩から床に当たって跳ね、しかしその先でやはり立ち上がった。 ( ^Д^)「しつっけぇな、テメェは。まともに動けないってのに、戦意だけはビンビンかよ。 どんだけ猪武者だっての。さっさと死ねよ」 (#゚ω゚)「るっせぇお。お前を倒すまで、僕は止まらないお」 言いつつも、しかし彼の身は安定しない。 時折、ぐらりと身を揺らす。 強く噛み締めた歯は、彼が感じている苦痛を明確に表していた。 ( ^Д^)「毒が回ってんなら、無理しねぇ方が良いんじゃねぇか? あとはこのお嬢ちゃんが、お前の代わりに戦ってくれるさ」 (#゚ω゚)「この程度の毒が……何だってんだお。 こんなもんじゃ、僕は止まらない」 ( ^Д^)「……へぇ? なら、もっと強い毒なら良いってのか」 静かに呟かれた言葉。 それに何かを感じたのか―――ツンが戦慄し、そして叫んだ。 ξ;゚△゚)ξ「退いて、ブーン!!」 彼女は必死で翼をはためかせ、羽根を飛ばす。 しかし焦燥に塗れて力の込められていない羽根は、易々と弾き飛ばされた。 そして、プギャーが動く。 膝を沈め、腰を落として、ブーンに向けて一気に解放。 開いた距離を跳躍の二歩で埋め、上方から脚を振り下ろした。 (#`ω゚)「くっ!!」 勿論、ブーンは回避する事も出来ずに受ける。 しかし受けきる事も出来ず、跳ね上げた脚は床に叩きつけられた。 そこでブーンは、プギャーの攻撃が続くと思ったのか、構えつつ後退のステップを踏む。 しかしプギャーは攻撃をせず、ただ前進した。 ブーンに、ピタリとくっつくように。 (;゚ω゚)「!?」 何事かと、ブーンの後退の速度が僅かに緩む。 それでもプギャーは前進し―――彼の顔がブーンの肩に乗るような位置まで、密着した。 その時だった。 ξ;゚△゚)ξ「ダメッ!! ―――逃げて!!」 彼女の声が響き、しかし ( ^Д^)「もう遅ぇよ」 呟き、プギャーはブーンの両手を拘束し、両脚を己の両脚で踏んで封じた。 ブーンは、逃げられない。 (;゚ω゚)「何を……!?」 ( ^Д^)「お前の願い通りにしてやるだけさ」 そして、ブーンは聞いた。 耳元―――プギャーの頭の位置から、異音が響くのを。 (;゚ω゚)「な……なっ!?」 嫌な予感を感じるが、逃げる事は出来ない。 身をよじらせる事しか出来ず―――しかし、そこでブーンは見た。 プギャーの下顎が真ん中で千切れ、粘着音を経てて二つに分かれるのを。 分かれた後、それぞれが伸び、禍々しく変形していくのを。 まもなく現れたその形状は、蜘蛛の顎を思わせるそれだ。 (;゚ω゚)「何だお……これは」 ( ^Д^)「見ての通り、蟲の顎。それも、毒顎だ。 それじゃあ―――おやすみ」 言葉を終えるや否や。 変形したプギャーの下顎が、ブーンの肩に喰らいついた。 (;`ω゚)「ッ!!」 尋常でない痛みが肩で爆発し、ブーンは歯を食い縛る。 にちにちと、何かを噛み千切るような音が肩から響き――― (;゚ω゚)「お……!?」 そこで、ブーンは感じた。 厭な気配――― ぞわり、と肩で何かが動いた感覚。 そして、一瞬。 ブーンの心臓が強く打ち、彼の全身を猛烈な寒気が襲った。 寒気に続き、様々な症状が彼に起きる。 全身に尋常でない激痛が走り、筋肉が痙攣してまともに動けなくなった。 目眩が起き、呼吸困難が訪れ、意識すらも遠のき白くなる。 先程の症状と似た―――しかし、比べ物にならないほど強い症状が、彼の身体を喰らい始めていた。 (;゚ω゚)「あ……がっ! が……!?」 ξ;゚△゚)ξ「ブーン!!」 天井を見上げ、身体を痙攣させながら苦鳴を漏らすブーン。 彼を見て、ツンはプギャーに対して全力で翼を羽ばたかせた。 ( ^Д^)「チッ……」 舌打ちを漏らしながらも、プギャーはブーンから顔を離し、そして後方へ跳躍する。 解放されたブーンの身は、自立する事も出来ずにその場に倒れた。 そして同時、その場に嘔吐する。 吐瀉物は紅く、そしてどろりと濁っていた。 (; ω )「ぐ、ぐぅっ!? げ―――!!」 ブーンは横たわり、己が身を抱き締めて震えだす。 しかし彼の額には玉の汗が浮かび、事実、彼の体温は一気に高まっていた。 嘔吐は未だ止まらず、やがて鼻からも血が溢れ出す。 それが呼吸困難に拍車を掛け、悪化した呼吸困難が更に意識を遠のかせた。 身体には力が籠らず、痙攣のみによって不規則に動く。 身体の内側も外側も―――まさに全身が激痛に蝕まれている。 ( ^Д^)「これでもそれか。普通なら即死してる筈なんだが、馬鹿げてるな」 「まぁ、放っておけばいずれ死ぬだろ」と、プギャーは嗤う。 下顎を千切れさせたまま嗤う彼は、酷く不気味だった。 ξ;゚△゚)ξ「あんた、何を……!?」 ( ^Д^)「あん? 大した事じゃない」 応える声は、顎が分離しているからか不明瞭だ。 プギャーは、割れた顎を戻しながら彼女に言う。 ( ^Д^)「この右腕にも宿ってる毒の、超絶濃厚なのを流し込んでやっただけさ。 それも針や云々じゃなく、直接流し込んだからな。さっきの毒なんざ、比べものにならないぜ」 ξ;゚△゚)ξ「……ブーンは?」 ( ^Д^)「まぁ、死ぬだろうな。つーか、今生きてるだけでもおかしいんだけどな」 ξ;゚△゚)ξ「――――――!!」 息を呑み、ツンはブーンを見やる。 眼を見開き、喘ぐようにして呼吸する彼に―――彼女は、僅かな絶望を得た。 可能性は……限りなく、少ない。 もはや、ないと言っても良い。 見るだけで明確であった。 症状が症状であったし―――眼に、光が宿っていない。 ξ;゚△゚)ξ「ブーン……!」 声は届くだろうか。 小さな望みをかけて、名を呼んだ。 反応は、ない。 ξ;゚△゚)ξ「ブーン!!」 ( ^Д^)「無駄だ」 完全に顎を元の形状に直して、プギャーはそう呟いた。 ( ^Д^)「見れば分かるだろ? それに聞こえてたとしても、もう意味はない。 奴は、もう終わりだ」 ( ^Д^)「となれば、分かるな? ……お前は、奴を心配してる場合じゃないんだよ」 プギャーが一歩を踏む。 それに応じてツンも一歩を引き ( ^Д^)「次はお前だ。覚悟しやがれ」 ξ;゚△゚)ξ「ッ……!」 言葉に、後退を早くした。 そして再度、ちらりとブーンに視線をやると ( ^Д^)「よぅ、ブーン。まだ見えて、聞こえてるなら―――お前はそこで、こいつが殺されるのを見てろよ。 こいつの叫び声を、聞いてろよ。テメェの無力を、死にながら噛み締めてろ」 ツンの視線を追ったプギャーが、そう呟いた。 そしてその身が、加速する。 ξ;゚△゚)ξ「!!」 気付いたツンが跳躍し、すぐに翼をはためかせる。 しかしプギャーも追って跳躍、背の翅を唸らせた。 ( ^Д^)「らっ!!」 一気に距離を詰め、枯葉色の脚を振るう。 ツンはそれを閉じた翼で受け――― ξ#゚△゚)ξ「ハァッ!!」 勢い良く、翼を開け放った。 プギャーの脚は大きく弾かれ、そしてツンはそのまま連続で翼を羽ばたかせる。 つまりは、開いた身に羽根を打ち込んだ。 ( ^Д^)「チッ、くだらない真似を」 プギャーは放たれた羽根を両腕で打ち払う。 そして翅を唸らせて前進。弾かれた脚とは逆の脚を、上方から力任せに叩きつけた。 ξ;゚△゚)ξ「ッ!!」 咄嗟、翼で受ける。が、弾けない。 彼女はその衝撃のままに吹き飛び、落下していった。 ξ;゚△゚)ξ「……まだっ!」 受けた翼とは逆の翼を強くはためかせ、落下速度を大幅に遅くする。 そして着地。脚にびりびりと衝撃が走ったが、彼女はそれを無視する。 即座に上方を見上げ、そこで降下の体勢を取ろうとしているプギャーを視認した。 彼女はそれに対して、上方に向けて両の翼をはためかせる。 ( ^Д^)「無駄だってんだよ!」 プギャーは両腕で羽根を弾きながら、ツンに向けて高速の降下を始めた。 羽根は彼に穿たれないまま、彼とツンとの距離はすぐに埋まる。 ( ^Д^)「死ねっ!!」 叫びつつ、降下の勢いを乗せた蹴りを振り下ろした。 対するツンは直前で後方へ跳び、彼の脚を躱す。 直後、プギャーの脚が床を捉え、爆音と共に床の破片と埃が舞った。 ξ;゚△゚)ξ「危なっ……!」 蹴りの威力に戦慄しながらも、ツンはそのまま後退を続ける。 そして跳躍し、そのまま飛ぼうと翼をはためかせた所で――― ( ^Д^)「逃がさねぇよ」 声と共に、下から足首を掴まれた。 そして反応する間もなく、引き墜とされる。 ツンの身は床に叩きつけられ、息が詰まって呻きが漏れた。 ξ;゚△゚)ξ「くっ!」 咄嗟に、転がってプギャーから距離を取ろうとするツン。 しかし転がる直前、プギャーの脚によってその行為は中断させられる。 プギャーは両脚で彼女の腰を挟み込むようにして、彼女の動きを拘束したのだ。 ( ^Д^)「終わりだな」 静かに呟き、そしてプギャーは無慈悲に鎌を振り下ろす。 鎌の刃は彼女の心臓を貫く軌道を走り ξ;゚△゚)ξ「終わらせるもんですか!!」 しかし、鎌はそこで振り上げられた翼に弾かれた。 ( ^Д^)「はっ、悪足掻きを―――」 彼の言葉は途中で詰まり、代わりに肌が肌を打つ音が響く。 彼の頬を、ツンの平手が捉えていた。 プギャーの身が揺らぎ、僅かに隙が出来る。 そして、ツンの攻撃はそれだけに終わらない。 僅かに出来た隙を利用して、逃げられるだけの隙を作らねばならないからだ。 だから彼女の脚は跳ね上がり、プギャーの股間を蹴り上げた。 (; Д )「がっ……!?」 プギャーの身体の揺らぎが大きくなる―――隙が大きくなる。 その隙にツンはプギャーの脚の間から抜けた。 そのまま止まらず、ツンはプギャーから離れようと身体の向きを変える。 だが一歩を駆けたところで肩を掴まれ、再度身体を反転させられた。 ξ;゚△゚)ξ「ッ!!」 (#^Д^)「もう逃がさねぇよ。ふざけやがって、このクソアマが」 ツンは必死で後退しようと試みるが―――明らかに、間に合わない。 対するプギャーは、容赦なくその左腕を振り上げ――― (; ω )「――――――」 ブーンは、全てを見ていた。 全てを、聞いていた。 動かねば、という意識はあった。 しかし、動けなかった。 動くどころではなかったのだ。 全身を苦痛という苦痛に蝕まれ、呼吸すらも満足にいかない。 視界は曇り―――いや、五感全てが鈍り、意識も白くなっていく。 苦痛に、どこまでも猛っていた戦意すらも削られていた。 代わりに現れた感情は、恐怖だ。 ブーンは気付いていた。自身に、確実に死が近付いているという事に。 やがて死に対する恐怖だけが、彼の感情を支配していく。 身体の震えは、毒だけによるものではなくなっていた。 嫌だ、死にたくない。助けてくれ、助けてくれ。 こんなところで死にたくない。独りで死んでいきたくない。 仲間に会いたい。友達に会いたい。母さんに、会いたい。 やがて瞳からは涙が流れ、呼吸困難による喘ぎは嗚咽を伴う。 不規則で弱まっていく心臓の鼓動が、死の足音に思えた。 恐怖は時と共に肥大し、毒と共に彼の思考を鈍らせていく。 しかし叫び声をあげる事も出来ず、恐怖で精神が壊れそうになった。 だがその時、ブーンの視界を一つの光景が埋める。 (;'゚ω゚)「ツ……ン」 鎌を振り上げたプギャー、後退しようとしているツン。 ツンは必死でその鎌を避けようとしているが、避けられないであろうことは明確だ。 しかし、ツンの表情は諦めていなかった。 眼に強い光を宿し、歯を噛み締め、まだ死に甘えようとしてはいなかった。 だがプギャーは、それでも容赦なく鎌を振り下ろそうとしている。 ツンの意志を折ろうと、命を刈ろうとしている。 瞬間、ブーンの心から恐怖が消えた。 (#'゚ω゚)「ふざ……けんなお」 身体が熱を帯び、姿を消していた戦意が再度、練り上げられていく。 弱かった鼓動が強く打ち、意識にかかっていた靄がさっと晴れていった。 (#'゚ω゚)「失って……溜まるかお……!!」 明瞭になった思考で考える事は一つ。 (#'゚ω゚)「ツンを殺させるわけにはいかないお!!」 動く為、全身に力を込める。 しかし身体は反応する事もなく、力はどこからか抜けていく。 反応したのは全身の激痛だけ。苦痛は、明瞭になった意識を遠慮なく殴りつけた。 しかし、ブーンの心はもう砕けない。 苦痛に屈する事もなく、全身に力を込め続ける。 やはり身体は動いてはくれないが―――しかし、一つだけ反応が返ってきた。 脚。白銀の異形。 そこだけ、力が漏れる事がない。 ―――いや。 脚から、力が溢れていく……!! (#'゚ω゚)「これは……!」 そしてブーンは、自身の脚から異音を聞いた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|