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LOYAL STRAIT FLASH ♪

三十三章二

82 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/25(火) 23:49:05.62 ID:3pF9/92u0

(*゚∀゚)「……はぁ」

部屋に戻った彼女は、憂鬱そうに溜息を吐いた。

(*゚∀゚)「戦いなんて、したくないなぁ……」

呟いて、ベッドに腰を降ろす。

傷付く事は嫌だ。
誰かを傷付ける事はもっと嫌だ。

(*゚∀゚)「でも……」

彼女は、自分の胸に手を当てた。

己の内側に存在する彼女は、そんな事は想わない。
喜々として人を傷付け、殺めるだろう。躊躇なんて、そこには欠片もない。

そして彼女は、段々と自分の領域を広げてきている。
最近では、気を抜けばすぐにでも乗っ取られてしまうほどに。

そして乗っ取られてから戻って来る事も、最近では困難になってきている。
最初は軽く祈るだけで戻れたのに、今となっては、彼女の中で暴れないと戻れない。

何故彼女が領域を広げてきているのかは分かっている。
自分が彼女である時間―――戦ってる時間が長引けば長引くほど、彼女は自分の領域を広げられるのだ。

それに気付いたのは最近―――危なくなってからだ。


84 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/25(火) 23:52:04.36 ID:3pF9/92u0

(*゚∀゚)「嫌。嫌だよ。怖いよ。
    ……戦いなんて嫌。私が私じゃなくなるなんて、嫌だよ」

つーは、戦う事に―――もう一人の自分に恐怖していた。

戦えば、自分はおろか、誰かが傷付く。殺してしまうかもしれない。
戦えば、彼女は更に自分の領域を広げる。戻れなくなってしまうかもしれない。
戦えば、どんどんと大切なものを失ってしまう。

……戦いたくなんて、ない。

(*゚∀゚)「どうすれば……」

どうすれば、戦わずに済むのだろう?
答えは、深い霧に包まれたかのように見えない。

ハインに止めてもらう事は、出来ない。
彼女は姉のような存在であるが、“管理人”でもあるのだ。

いざ戦いとなれば、彼女は私を止めるわけにはいかない。
むしろ彼女に戦わせて、一刻も早く戦いを終わらせようとするだろう。

戦いが終われば、確かに私はそれ以上戦う必要はないかもしれない。
でも、私はもう戦いたくない。もう、誰かを傷付けたくない。

ましてや、ブーン達四人を含む“管理人”を倒したところで、戦わなくなるという保証はない。
いや、むしろ以前以上に戦う事になるだろう。

邪魔者が消えたら、人間達と戦わねばならない。


86 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/25(火) 23:55:00.70 ID:3pF9/92u0

いや、『戦う』というのは違う。
そんな甘いものではない。
言葉にするのならば、『虐殺』だ。


では、戦わずに済む方法は?
―――答えは、浮かばなかった。

(*゚∀゚)「……逃げちゃおうかな」

せめて、“管理人”の戦いが終わるまで。

今のままなら、まだ彼女を抑え続けられる。
今のまま、戦わなければ。
ずっと彼女に警戒しながらなら、普通に生活も出来る。

逃げるなら、今しかない。

今までは、こんな危機感を持っていなかった。
それに、どうにかなるだろうという根拠のない余裕もあった。

でも今、そんなものはない。
どうすべきか、決心しなければならない。

(*゚∀゚)「……逃げよう」

誰にも―――ハインにも言わず、静かに身を隠そう。


88 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/25(火) 23:58:04.89 ID:3pF9/92u0

急に自分が消えたら、ハインは怒るだろうか。
それとも、悲しむだろうか。

いや、彼女の性格だ。
きっと、私を探そうとするだろう。

でも、せめて“削除人”との戦いが終わるまでは、私は逃げなくてはならない。
一か月……いや、二か月ほどしたら、何とかハインにだけ接触しよう。

自分勝手な考えだと思うが、それしかない。
私は最初から、望んで“管理人”にいるわけではないのだ。

(*゚∀゚)「行こう」

呟いて、腰を上げた。
その時。


 『させないよ』


彼女の頭の中に、声が響いた。

(;*゚∀゚)「なっ―――!?」

一瞬、“彼女”かと思ったが、違う。
彼女の声とは、違うものだ。


91 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:01:11.56 ID:e8ECLFRD0

つーの混乱をよそに、声は続けた。


 『逃げちゃダメだよ。ここで君が消えたら、つまらない。
  君の中の化け物は、この物語をよっぽど面白くしてくれるんだ。
  それに君は、もう既にこの喜劇の立派なピエロなんだよ』


その声と、同時。
身体の中で何かが、ぞわり、と蠢いた。

(;*゚∀゚)「ぁぐっ……ッ!!」

うめいて、つーは全身を硬直させた。

彼女だ。
彼女が突然、ものすごい勢いで自分を乗っ取ろうとしている。

乗っ取られまいと、つーは彼女の浸食に耐える。
拳を固く握り締め、下唇を噛み締め、苦痛に涙を浮かべながらも眼を剥く。

だが、それでも彼女の勢いは止まらなかった。

妙だ。
まだ彼女に、ここまでする力はないはず―――!

『……ひゃははは。苦しそうじゃないか、つーちゃん?』

彼女の声が、聞こえる。


93 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:04:36.18 ID:e8ECLFRD0

(;* ∀ )「はぁ……はっ……。な、何故……?
     何故こんなにも……」

『それがどうやら、誰かが私の手助けしてくれてるみたいでね。
 何でそんな事をしてるのか、誰がそんな事してるのかは分からないが……ま、そういう事だ。
 あんたの身体、もらうよ。つー』

(;* ∀ )「い、嫌だ……」

強く握り過ぎた拳が、ミシミシと軋んだ。
噛み締めた唇からは血が溢れ、眼からの涙は滝のように流れる。

とうとう立っていられなくなり、彼女は再度、ベッドに倒れ込んだ。

(;* ∀ )「もう、誰も殺したクないのニ……私ハ、私のまマでいたイのに……!」

『おやすみ。そしてさようなら、つー』

声までもが不明瞭なものになったつーの頭に“彼女”とは違う、もう一つの声が響いて―――つーは、自分の意識が遠のくのを感じた。

(;* ∀ )「私を……もウ一人の私ヲ止めテ……ハイン。ジョ……ジュ、君……!!」

その声を吐き終えると、彼女の体は大きく痙攣して跳ねた。

痙攣は数秒続き、それがやがて収まると、彼女は何もなかったかのように立ち上がる。
しばらくぼうっとし、それから軽く頭を振ると―――彼女は、禍々しく笑った。


96 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:07:07.23 ID:e8ECLFRD0

(*゚∀゚)「……っは。ようやく自由になったよ」

首の骨を鳴らし、口元の血を拭う。
さきほど噛み裂いた筈の唇の傷は、痕もなく消えていた。

(*゚∀゚)「さて……いつもより調子が良いんだけど、どういう事かな?」

空に向かって呟いた彼女。
まもなく、彼女の頭の中に声が響いた。

『つー自身の意識を出来るだけ抑えて、君の“領域”を最大まで広げたからね』

(*゚∀゚)「ふーん……まぁ確かに、いつもはある抵抗がまったくないね。
    気を抜いても、私のままでいられる。こりゃあ、良いね」

『その状態なら―――』

(*゚∀゚)「うん。今まで以上の、私の本来の力を発揮出来るね。
    ……ひゃははっ。自由に殺しまわれるってわけだ。ひゃははっ。ははははっ!!」

『……好きなだけ、楽しむと良い』

(*゚∀゚)「そうさせてもらうよぉ! ひゃはははっ!! 敵はみなごろしだ!!」

叫び、笑いながら、つーは部屋のドアを蹴破って外に出る。
そしてゆっくりと、笑みを浮かべたまま、他のメンバー達の元へ向かった。


100 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:09:10.90 ID:e8ECLFRD0

彼女の中では、本来のつーが絶望していた。
今までは、暴れていればやがて彼女を抑え込む事が出来た。

それが、出来ない。
彼女の中で暴れようとしても、叫んでも、何も意味はない。

勿論の事、『戻れ』『身体を返せ』と祈っても願っても、無駄だ。

見えない殻に閉じ込められてしまったかのように、彼女は何も出来なくなっていた。
あるのは五感と、心だけ。

『君はそこで、全てが殺されるのを見ているが良い』

最後に聞こえた声。

その声には、聞き覚えがあった。
それはよく分からない、でもとても怖かった人の声だった。

「ショボン」

彼女が吐いた声は、どこにも響かずに音を失った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


102 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:11:05.60 ID:e8ECLFRD0

从#゚∀从「うっるぁああぁぁあぁっ!!」

全力で振るった腕は、橙の残像を残してモララーに迫る。
しかしそれはふわりと避けられ、カウンターに足払いをかけられた。

从;゚∀从「くっ……!」

バランスを崩して倒れるハインは、両腕を目の前で交差させる。
一瞬の後、その腕にモララーの鋭い蹴りが叩き込まれ、ハインは軽く宙を舞った。

しかし彼女はこれも華麗に着地。
頬を伝う汗を拭うと、楽しそうに笑った。

从;゚∀从「はん。あんた、“力”を使わなくてもそんだけ戦えるんだな。
      正直、驚いたよ。“力”を解放したあたしに、ここまでやれるとは思ってなかった」

(;・∀・)「ふん、これまで私が何もしていなかったとでも思っていたか。
      フサとモナーに相対出来るように、“力”を使わない戦い方も訓練してきたんだ」

从;゚∀从「なるほどな、天才が努力したわけだ。そりゃあ、ここまで強くもなるわな。
      だがな、あたしも昔はそう呼ばれてたんでな。負けるわけにはいかないね」

彼女は走り出そうと足に力を込める。
だがそれを、モララーは腕をあげて制した。


104 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:13:09.48 ID:e8ECLFRD0

从 ゚∀从「あぁ? んだよ」

(;・∀・)「まぁ、待て。……さすがにそろそろ、休ませてくれ。これでも私は怪我人だ。
      お前は容赦がないから、一撃喰らえばもう私は戦えなくなる。死ぬかもしれん。
      そろそろお互い、バトンタッチしようじゃないか」

从 ゚∀从「あぁん? 甘えた事言ってんじゃねぇぞ」

(;・∀・)「私は戦闘力の上昇と体力の回復を同時にやらねばならないんだ。分かれ。
      レモンティでも奢ってやるから、ここばかりは言う事を聞け」

从*゚∀从「レモンティ奢ってくれんのか。よし、良いぞ」

あっさりと認めると、嬉しそうに笑って、ハインは両腕を戻す。
そして先ほどまでの壮絶な戦いなどなかったかのように、軽い足取りで部屋の隅へと移動した。

( ・∀・)「……一か月、お前のレモンティ代だけで一万円以上使っている」

ぼそりと呟いて、モララーも下がった。

( ・∀・)「さぁ、次はプギャーとミンナだ」

(;^Д^)「え?」

( ゚д゚ )「……私とプギャーで戦え、と?」


106 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:16:11.34 ID:e8ECLFRD0

( ・∀・)「あぁ。一人ずつ順番にハインと戦う、というのも良いが」

从 ゚∀从「おっ、そりゃ良いな」

( ^Д^)「よし、ミンナ。戦おう」

( ゚д゚ )「あぁ、そうしよう」

从#゚∀从「おい待て貴様ら。どういう意味だそれは」

ハインの拳骨を後頭部に喰らいながら、二人は前に出る。

( ^Д^)「……お前と戦うのは、初めてか」

( ゚д゚ )「初めてだな。今まで、“管理人”のメンバー同士で戦うという機会はなかったからな」

( ^Д^)「……正直言えば、俺はお前と戦ってみたかったんだよ」

口元に笑みを浮かべ、プギャーは左腕を軽く上げた。
まもなくそれは異音を発し、草色の鎌へと変化する。

( ^Д^)「特に共通点とか、そんなんは何もないんだけど、気付けばいつもお前と喋ってた。
      任務も、いつもお前とこなす事が多かった。いつからか、そんなお前と戦ってみたくなってた」

( ゚д゚ )「ふむ。そういえば、そうだな。私はお前といる時間が長かったと認識しているよ」

ミンナが、両腕を軽く広げた。
それと同時に、彼の服の至る所から金属製のサイコロが顔を出し、浮かび上がった。


108 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:18:03.01 ID:e8ECLFRD0

( ゚д゚ )「なるほど、言われてみれば、私もお前と戦ってみたいのかもしれない。
     不思議と気分が高揚している」

( ^Д^)「そりゃあ良かった。俺だけ盛り上がってると、冷めちまうからな

( ゚д゚ )「では―――」

( ^Д^)「あぁ。戦おう」

プギャーが鎌を腰高に構え、走り出す。
それに対してミンナは、サイコロを射出する為に腕に力を込めた。


从 ゚∀从「おーおー、始めたね」

( ・∀・)「どうなると思う」

从 ゚∀从「あたし達ほどの戦闘にはならないだろうが……面白いんじゃねぇの?」

( ・∀・)「ミンナが圧勝するとは思わないのか?
      “力”の質で言えば、プギャーがミンナに勝てる道理はないぞ」

从 ゚∀从「はっ。“力”の質だけで全てが決まるってわけじゃねぇだろうがよ。
     プギャーには、純粋な格闘の能力もある。色々な邪魔者を潰してきたからな。
     それに、だ。奴はお前の秘蔵っ子だ。それなりにやれるだろうよ」

( ・∀・)「なるほど」


110 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:20:01.72 ID:e8ECLFRD0

从 ゚∀从「だけども、ミンナもやすやすとは負けないだろうな。
     あいつの“力”は、使い方しだいでいくらでも強くなる。
     そんでもってあいつは頭が良い。鍛えれば、いくらでも強くなるだろうな」

( ・∀・)「うむ、そうだろうな」

呟いて、モララーは笑う。

( ・∀・)「実は今回の訓練のメインはな、あいつらだと考えてるんだよ。
      私やお前、流石兄弟も強化はするが……爆発的な成長を見せるのは、きっとあの二人だ」

从 ゚∀从「あぁ。あたしもそれは思うな」

( ・∀・)「……つーの中にも、強力な戦闘能力は眠っているのだがな」

从 ゚∀从「……それは諦めろ」

彼女の顔から、いつのまにか楽しげな笑みは消えていた。
代わりに浮かんでいるのは、苦々しげな表情。

从 ゚∀从「“あっち側”のつーが完全開放されりゃ、そりゃ強いだろうな。
     つーが内側から抑え込んでいても、ジョルジュに勝てるくらいの“力”を奴は持ってる。
     それが完璧に開放されちまえば……その壮絶な力に、本来のつーは戻ってこれなくなる」

( ・∀・)「だろうな」

顎に手を当てて、「ふむ」と考え込むような動作。

( ・∀・)「……どうすべきなのだろうな」


112 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:23:01.60 ID:e8ECLFRD0

从 ゚∀从「今まで通りでやるしかねぇよ、つーはな。
     戦いの時だけ“あっち側”に顔を出させて、戦闘が終わったら戻す。 
     戦闘時以外にあいつが顔を出そうとしたら、力ずくにでも戻す」

( ・∀・)「それしか、ないだろうな」

丁度、その時。
ホールに、かつん、と足音が響いた。

そちらに二人が眼を向けてみれば、そこにいるのは、小柄な女性。
年相応の可愛らしい格好。
しかし手に握るのは、物騒なナイフを収納したホルスターをいくつも固定させた三本のベルトだ。

彼女はプギャーとミンナの戦いを、その大きな瞳で見つめていた。
その瞳に光はなかったが。

( ・∀・)「具合は良くなったのか、つー」

モララーの声に、つーは彼等の方を見る。
それから「はい」と返事すると、ゆっくりとモララー達に歩み寄った。

( ・∀・)「……その装備。訓練に参加するのか?」

またもや、「はい」とだけ答えるつー。

その顔に表情はない。
いつもは不安定に揺らいでいるか、輝かしく笑っている表情が、皆無だ。

そんな彼女に、ハインは眉根を寄せた。


114 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:26:08.14 ID:e8ECLFRD0

从 ゚∀从「戦う事をあんだけ嫌がってたお前がか?
     絶対に必要な戦いでさえ避けようとするお前が、自分から戦うってのか?」

答える声は、ない。
つーは無表情で、やや俯いているだけだ。

从 ゚∀从「何があった? 何が、お前にそう考えさせた?
     ―――お前、本当につーか?」

焦りに似た感情が湧き上がって、ハインはつーの肩を掴む。
いつもと同じ感触。いつもと同じ暖かさ。

だが、どうしても拭えない違和感が彼女の手を這った。



116 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:26:53.62 ID:e8ECLFRD0

从;゚∀从「答えろ!」

彼女の声に、ようやくつーは顔を上げる。


そして彼女は―――笑った。


(*゚∀゚)「ははは。ははははっ! そうだよ。私は、つー。
    “管理人”のメンバーの一人。戦闘に最適な人格を創り出す“力”を持つ異能者」

くくくっ、と笑いを漏らして、つーは己の頭を親指で指す。

(*゚∀゚)「さて、問題」


   「今の私は―――『どちら』でしょう?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


119 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:29:23.42 ID:e8ECLFRD0

鈍い音が、響いた。
しかしそれは、柔らかなものを殴ったような音ではない。

力と力がぶつかった音だ。

ミ;゚Д゚彡「……危なかった」

呟く彼の両足は、魔獣を彷彿とさせる異形。
そしてそれは、白銀の足から頭を防御していた。

ブーンからの攻撃を、フサは防御してみせたのだ。
封じていた足を、一瞬にして解放して。

(;゚ω゚)「おっ……!?」

防御されるとは思っていなかったのか、ブーンは焦りを表情に浮かべる。

反撃は、その一瞬の隙があれば十分だった。

ミ,,゚Д゚彡「おぉあっ!!」

咆哮とともに、ブーンの足が弾かれる。
開いた身体の中心に打ち込まれたのは、重い掌底だ。

(;゚ω゚)「ぉぶっ!!」

軽く吹き飛んで、ブーンは身を地に横たえる。
それから掌底が入った場所が悪かったのか、激しく咳込んだ。


121 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:31:05.22 ID:e8ECLFRD0

ミ,,゚Д゚彡「終わり、だな」

両手を軽く払って、フサは呟く。

ミ,,゚Д゚彡「俺に“力”を解放させたのは評価してやっても良いが……それにしても弱すぎるな、お前達。
      四人だぞ、四人。何故四人がかりで、俺一人に勝てない」

(#゚Д゚)「俺達はまだ敗けてねぇ。まだ戦える」

怒気を纏わせながら、ギコが立ち上がった。
その右腕から漏れる炎は主の心を代弁するかのように、一層炎の勢いを強めていた。

ミ,,゚Д゚彡「いいや、敗けだ。俺が敵だったら、完膚なきまでの敗けだ」

(#゚Д゚)「本当にそうなるか、確かめてやろうか!?」

ミ,,゚Д゚彡「っは、自分の力量すら推し量れないか。それじゃあ、敗けて当然だな。
     俺にも、モララーにも、な」

(#゚Д゚)「んだとゴルァッ!! 上等だ、ぶち殺してやr」
('A`)「落ち着け脳なし」

ドクオは呟いて、走り出そうとしたギコの服の後ろ襟を掴む。
それはつまり、急激にギコの首が絞まる事となり―――

(;゚Д゚)「ぅぐぇあっ!?」

おかしな声を漏らして、ギコはその場に倒れた。


123 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:33:02.73 ID:e8ECLFRD0

(;゚Д゚)「てめ、何を―――」

('A`)「頭冷やせ馬鹿。お前は馬鹿か。あぁ、馬鹿だったな。
   闇雲に突っ込んでっても勝てるはずがねぇってのは、ついさっきお前自身が体感したはずだろ馬鹿」

(;゚Д゚)「ぐっ……!」

('A`)「ちょっと黙って見てな」

呟いて、ドクオは前に出る。
光のないその瞳は、まっすぐにフサを睨みつけている。

ミ,,゚Д゚彡「何だ」

('A`)「ちょっと相手してくれ」

交わされた言葉は、それだけだった。

ドクオの一歩が、早く長く伸びる。
それなりにあった距離を僅かな歩数で埋め、彼は左腕を跳ね上げた。

ミ;゚Д゚彡「なっ―――」

一瞬混乱したが、フサはそれしきで攻撃を喰らうような異能者ではなかった。

攻撃を滑らかに横にいなし、逆側の腕の肘を突き出す。
しかしその肘も、ドクオを捉える事は出来ない。


124 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:35:05.03 ID:e8ECLFRD0

ドクオは既に、フサの足元でしゃがんでいた。
そこから繰り出されるのは、地面と水平に振り抜かれる足。

それはフサのバランスを崩す事に成功する。

すぐさまドクオは立ち上がると、その左腕を振り上げ―――

('A`)「……倒れたフェイクだな」

しかし振り下ろさず、倒れつつあったフサの背中を蹴り上げた。

低く呻いて軽く吹き飛んだフサ。
しかしその口元には、獰猛な笑みが浮かんでいた。

すかさず追撃しようと、ドクオはフサの頭部目掛けてハイキックを繰り出す。
それは鈍い音を経てて頭部を捉えた―――が、しかしその足は掴まれる。

ミ,,゚Д゚彡「うっるぅぁあああぁっ!!」

そして足ごとドクオを振るい上げると、まるで得物を振り下ろすかのように、地面に向かって振り下ろした。

('A`)「ふん」

しかしドクオは慌てない。
左腕で地面を押すようにして、ほとんどの衝撃を殺す。

そして、体を旋回。フサの手を、足から外した。


128 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:38:04.34 ID:e8ECLFRD0

すかさず距離を取って、フサの様子を伺う。
対するフサは、笑っていた。

ミ,,゚Д゚彡「ほぅ……ここまで動きを見切るか」

('A`)「これでも、眼と耳は“力”が及ぶ範囲内なんでな」

ミ,,゚Д゚彡「それでも、いくつかの動きは読めない筈だ。
     急な動きや、予期しない動きには反応出来ない筈。
     だがお前は今、俺のバランスを崩したフェイクを見切った」

('A`)「ある程度冷静で、ある程度の動きの予測が立ってれば、な」

ミ,,゚Д゚彡「ふん、面白い」

呟いて、フサは戦闘態勢を取る。
その両腕は、魔獣のそれだ。

ミ,,゚Д゚彡「続けよう」

('A`)「……この“力”はかなり便利でな。例えば、こんな事も出来る」

呟き。次の一瞬には、ドクオはしゃがみこんでいた。

その次の一瞬。
ドクオの背後から放たれるのは、炎の龍。


130 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:41:02.79 ID:e8ECLFRD0

ミ;゚Д゚彡「なっ……!?」

('A`)「ギコが腕を構えた音も、聞こえるわけだ」

その言葉と共に、フサが炎に包まれた。

('A`)「さて……勝利とやらを得させてもらおうか」

(,,゚Д゚)「あぁ」

ギコは右腕を、ドクオは左腕を構えながら、それぞれ炎の元へと歩み行く。


しかし攻撃範囲まで後一歩というところで―――炎が、切り裂かれた。


('A`)「! 退けっ!!」

言葉と共に、二人はフサから距離を取る。

彼らの視線の先―――切り裂かれた炎の中に立っていたのは、両腕両足を解放させたフサだった。

眼は紅みを帯び、元々大きめだった犬歯は更に伸びている。

ミ ゚Д゚彡「……なるほどな。お前達は、調子に乗らせてはいけないようだな」

呟きが終わる頃には、炎の中からフサは消えていた。
そこに残されたのは、蹴り散らされた炎と、四人の視線だけ。


132 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:44:07.03 ID:e8ECLFRD0

(;'A`)「!? 何だこれは。速過ぎr」

ドクオの呟きは、最後まで響かなかった。

彼の腹に深々と突き刺さっているのは、フサの拳。
ドクオの表情は一瞬、唖然としたものとなり―――次の瞬間には、白眼を向いて意識を失った。

(;゚Д゚)「ドクオ!!」

ミ ゚Д゚彡「他人を心配している暇などないぞ。
      こいつの意識が戻る前に、終わらせてもらう」

(;゚Д゚)「! ぐっ……!!」

倒れたドクオに当たらないように、右腕から炎を発射する。
しかし、炎の中に人影は、ない。

ミ ゚Д゚彡「どこに打っている」

声は、背後からだった。
瞬間、背筋に凄まじい寒気が走る。

それからまもなくだ。風切り音が、後ろから迫るのを聞いたのは。
勿論それは、フサの拳だ。見ずともそれは分かる。
そしてギコは、覚悟した。

だが、その拳はギコを捉えなかった。
拳は、化け物のように長い腕に抑えられている。


134 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:47:05.60 ID:e8ECLFRD0

化け物の腕は、フサからかなり距離がある場所から伸ばされていた。
その腕は、橙色。腕の宿主は、ジョルジュだ。

( ゚∀゚)「ここは二人に任せて傍観してようと思ったんだけどね」

呟いて、ジョルジュは口角を持ち上げた。
しかしその額には、汗。

彼も感じていたのだ。
解放範囲を広げたフサの、圧倒的なまでの“力”を。

( ゚∀゚)「そうもいかないみたいだ……ねッ!!」

伸ばした腕の先を、斧の刃のようなものに変化させる。
そしてそれを振り上げ、振り下ろした。

勿論そんな攻撃を喰らうフサではない。
身を軽く引いて回避し、今度は眼光をジョルジュへと飛ばす。

そして彼は、伸ばされたジョルジュの腕の上を駆けた。

(;゚∀゚)「はぁっ!? ちょ、馬鹿じゃねぇの……ッ!!」

腕を振って落とそうとするが、その時にはフサは床に着地し、また駈けている。
腕を戻す時間はない。フサの接近が、速過ぎた。


136 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:49:05.42 ID:e8ECLFRD0

( ゚ω゚)「やらせないおっ!!」

ブーンがフサに向かって駈け、中段蹴りを飛ばす。
しかしそれは殴り落とされ、ブーンは続けて蹴撃を繰り出した。

様々な角度から、様々な軌跡を描く蹴り。
しかしそれは、フサの身体を捉えられない。

ミ ゚Д゚彡「鬱陶しい」

やがて足はフサに掴まれ、ブーンはギコに向かって投げつけられる。
ただ投げつけただけ。しかし両腕も解放されている状態でのそれは、凄まじい速度でブーンを飛ばした。

(;゚Д゚)「なッ―――」

今まさに炎を発射しようとしていたギコは、眼を見開いてうめきを漏らす。

(;゚ω゚)「ギコッ! そのまま、右腕で防御してくれお!!」

その言葉に、慌ててギコは右腕を構えた。
一瞬。構えられたギコの右腕にブーンの足が激突。


138 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:52:09.81 ID:e8ECLFRD0

凄まじい速度での接触だったが、解放箇所同士だった為に、二人に深刻なダメージはない。


しかし現状、戦えるのは―――

ミ ゚Д゚彡「今度こそ、お前だけだ」

(;゚∀゚)「……参ったね」

ジョルジュだけとなった。

ミ ゚Д゚彡「さて、お前はどれだけ持つかな」

( ゚∀゚)「持つ? 持つ、ねぇ」

ミ ゚Д゚彡「何だ」

( ゚∀゚)「悪いが、もう敗けるつもりはないんだ」

呟いて、ジョルジュは右腕を巨大な鉤爪に変える。
その甲からブレードを生やすと、鋭く空気を一閃。

そして切っ先をフサに向けて、にやりと笑った。

( ゚∀゚)「あんたにも、誰にもな」

言葉は、その場に置き去りだ。


140 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:54:29.74 ID:e8ECLFRD0

駆けだしたジョルジュはフサを攻撃範囲に入れると、ブレードで切り上げた。
しかしフサはそれに少しも動ずる事なく、軽く回避。

ブレードを振り抜いたジョルジュの脇腹目掛けて、その爪を振るう。

( ゚∀゚)「おぉうっ! 流石、早いねぇ!」

笑いながら叫んで、ジョルジュはフサの爪を回避。
フサは一瞬唖然としたが、すぐさま追撃に移った。

その攻撃は速く、途切れない。
両の爪で横薙ぎに切り裂き、間を置かず足が跳ね上がる。
その次の瞬間には跳ね上がった足は軌道を変えて振り下ろされ、続けて爪が袈裟掛けに振るわれた。

しかし、そのどれもが、ジョルジュを傷付けられなかった。
全ての攻撃が、避けられてしまっていた。

ミ ゚Д゚彡「……何故だ」

呟きながらも、爪を突き出す。
空を引き裂いたそれは、やはりジョルジュにかわされる。

ミ ゚Д゚彡「何故、当たらない!!」

叫んで、回し蹴りを放つ。
しかしそれは、ジョルジュの右腕に掴まれた。

( ゚∀゚)「昔から、反射神経だけは良くてね」


143 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:56:17.09 ID:e8ECLFRD0

そしてフサは、宙を舞った。
ジョルジュが、掴んだ足を投げ飛ばしたのだ。

ミ ゚Д゚彡「くッ―――」

呻き、空中で体勢を立て直そうとして―――彼は眼を見開いた。
彼の目の前には、巨大な化け物の手があったのだ。

それは、伸ばされたジョルジュの腕。
そしてそれはまもなく、空中のフサに振り下ろされた。

ミ ゚Д゚彡「がっ!」

接触の瞬間、両腕をクロスさせて防御する。
しかし攻撃の衝撃は殺しきれず、フサは吹っ飛び、床に激突した。

( ゚∀゚)「勝たせてもらうよッ!!」

倒れたフサに敗北を突き付ける為に、駆ける。
そして腕をブレードに戻すと、振り下ろした。

だが。

(;゚∀゚)「……は?」

ブレードが伝えてくるのは、硬い感覚だけだ。
つまりブレードが捉えているのは石の床―――フサではない。

フサは、と混乱する必要はなかった。


146 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 00:58:03.26 ID:e8ECLFRD0

気付けば、首の後ろに爪が突き付けられていた。
いつのまにそこに移動したのかなど、分からない。

(;゚∀゚)「……敗けちったねぇ」

呟くとジョルジュは右手を戻し、両手を上に上げた。
そのアクションに応じて、首に突き付けられていた爪も引かれる。

ミ ゚Д゚彡「あぁ。お前達の敗けだ」

呟きながら、フサは前に回ってきた。
紅く輝く瞳に睨まれると、まるで獣に睨まれてるかのような圧力を感じる。

しかしその瞳は、一瞬の後には本来の色を取り戻していた。
瞳に続けて、腕も、足も。

ミ,,゚Д゚彡「……よくやった方だとは思うが、これじゃあまだ勝てないな。
     モララーやハインは、俺と同等―――
      いや、モララーに限っては俺を遙かに上回る戦闘能力を有している」

(;゚∀゚)「そんな強いのか? ハインもモララーも」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ。化け物クラスだ」

( ゚∀゚)「……勝つには?」


147 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 01:00:15.95 ID:e8ECLFRD0

ミ,,゚Д゚彡「訓練して、強くなるしかあるまい。
     決戦までの決して長くない期間で、いかに自分の戦い方を掴み、強くなれるか。
     また、どんな精神状態で挑むべきなのかを掴めるかが、鍵だ」

そこでフサは、周囲を見回す。
眼に入ったのは、ようやく意識を取り戻したドクオと、痛みに顔をしかめるブーンとギコだった。

一つ溜息を吐いて、フサは言葉を続ける。

ミ,,゚Д゚彡「お前達は、戦闘能力は低くない。流石、ショボンの訓練を受けていただけある。
     しかし、調子が上がってくるのが遅い。四人ともにスロースターターでは、実戦で苦しむぞ」

(;゚∀゚)「スロースターター? ……あぁ、確かにそうかも」

ミ,,゚Д゚彡「では個人個人の戦闘の感想を言うぞ。
     一度しか言わないからな、しっかり聞けよ」

( ゚∀゚)「ん、頼む」


148 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 01:00:59.83 ID:e8ECLFRD0

ミ,,゚Д゚彡「今のところ、一番死にやすいのはギコだ。激情に火が付くのが早過ぎる。
     激情を操作出来るようになれば強いが、操作出来ぬようなら、それは自爆でしかない。
     “力”は威力もあるし、応用も利く。つまり唯一の、しかし最大の弱点は精神のみだ」

ミ,,゚Д゚彡「ドクオはおそらく一番強いのだろうが、その性格と“力”故に油断しがちだ。
     冷静になり、本気になれば奴は相当戦える。その状態まで、いかに早く持っていけるかだな」

ミ,,゚Д゚彡「ブーンとお前は、トリッキーな戦い方が出来るな。
     違いと言えば、ブーンはあの足でトリッキーで高速かつ攻撃的な戦い方をすべきだが、
     お前はその反射神経で攻撃を避けながら、間にトリッキーな攻撃を挟むという戦い方をすべきだ」

ミ,,゚Д゚彡「……以上だ。今の話を、奴ら三人にも伝えておけ」

(;゚∀゚)「…………………」

ミ,,゚Д゚彡「どうした? よもや、聞いていなかったとは言いださないだろうな」

(;゚∀゚)「いや、聞いてたけどさ。……あんたしっかりと俺達の戦い方見てたのな」

ミ,,゚Д゚彡「? 当り前だろう。何の為に戦ったと思っている」

呟くと、フサはクーの方を見やる。
その動作だけで何かが伝わったのか、クーは「うむ」と頷いた。

川 ゚ -゚)「見事だった」

ミ,,゚Д゚彡「お世事は良い。お前達の番だ」


149 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 01:02:10.19 ID:e8ECLFRD0

川 ゚ -゚)「あぁ」

呟いて、クーは前に出た。
それに、しぃとツンが続く。

ミ,,゚Д゚彡「今度は俺達は傍観組だ。しっかり見て、吸収出来るところは吸収しろ」

( ゚∀゚)「あーいよ」

隅に移動するフサ。
それに対してジョルジュは三人を集めて、先ほどのフサの話を伝えた。


それらを横目に、歩み出た三人は向かい合う。
勿論、ツンとしぃが組んでクーと戦うという形式だ。

川 ゚ -゚)「お前達とこうして戦うのは、初めてか」

(*゚ー゚)「そりゃあ、ね。訓練なんて、個人個人でやってたわけだし」

川 ゚ -゚)「……訓練だからといって、手加減はいらんぞ。
     むしろ訓練だからこそ全力でかかってこい」

ξ゚△゚)ξ「分かってるわよ。行くよ?」


153 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 01:04:02.66 ID:e8ECLFRD0

川 ゚ -゚)「あぁ。かかってこい」

言葉と同時、三つの異音が重なった。

ツンの背中からは光輝く翼が生え、
しぃの左腕は黄金色に輝く異形に変形し、
クーの右腕は青い異形へと変化する。

最初に動いたのは、黄金色だった。

彼女が左腕をクーに向けると、その掌に光が集束する。
そして、一筋のレーザーとなって放たれた。

クーは身体を軽く横にずらして光線を避けると、駈け出す。
その右手には、いつのまに生成されたのか、氷の刀が握られていた。

彼女の突進は、速い。
それは、しぃの二発目の光線発射を許さぬほどに。

しかしあと一歩で攻撃出来るという位置で、彼女は突進の勢いを殺し、後ろに跳んだ。
その一瞬の後、しぃの眼の前に光の雨が降り注いだ。

否、それは光の雨などではない。
異常に鋭い、光り輝く無数の羽根だ。

ξ゚△゚)ξ「流石、速いわね」

呟くツンは空中で、その光輝く翼で羽ばたいた。
きらきらと落ちる輝きは、彼女の翼から抜け落ちた羽根だ。


156 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 01:06:03.14 ID:e8ECLFRD0

ツンの言葉に反応を示さず、クーはその右腕を掲げる。
まもなくその右腕の周囲には無数の氷塊が発生した。

そして右腕が、振るわれる。
氷塊はその右腕の動きに合わせて、まるで弾丸のように発射された。

速度も弾丸並の氷塊は、容赦なくしぃとツンに降りかかる。
しかしそれらは、彼女らに触れる事なく爆裂した。

眼を凝らせば、彼女らの目の前に、薄く光る幕のようなものが見えた。
それはしぃの“力”によって作成された、光の防御壁だ。

川 ゚ -゚)「ふむ、容赦する必要はないようだな」

(*゚ー゚)「訓練っていうくらいなんだから、容赦も手加減もしなくて良いけど?」

川 ゚ -゚)「ならば、全力で行かせてもらおう」

呟いた彼女は、左腕を掲げる。
するとまもなくその左腕は、氷に包まれた。

しかしただ包まれただけではない。
そのフォルムは、右腕と酷似している異形だ。

川 ゚ -゚)「少しだけハインを想定して戦ってみようか」

呟くと、右腕に握っていた氷の刀にも変化が起きる。
びきびきと音を経てながら変形し―――そしてそれは、巨大な鋏となった。


158 : ◆tAdHw/rYVY :2007/12/26(水) 01:08:02.25 ID:e8ECLFRD0

川 ゚ -゚)「む……使いづらいが、まぁ良いだろう。行くぞ」

そして、駆けた。

だがその速度は、さきほどまでの比ではない。
駆けたと思ったその次の瞬間には、彼女はしぃ達の目の前で鋏を振り上げている。

(;゚ー゚)「なッ―――!」

咄嗟に掲げた左腕で受けた。
しかし次の瞬間には、脇腹に鈍い痛みが走る。

振り抜かれた足を見て、それからようやく蹴られたのだと認識した。

ξ゚△゚)ξ「しぃ姉さん、退いてッ!」

叫んで、ツンは大きく翼をはためかせた。
翼からは無数の輝きが発射され、クーを狙う。

川 ゚ -゚)「む」

クーは防御しながら後ろに退くと、鋏を握る右腕に力を込めた。

そして空中のツンに向けて、鋏を投擲。

ξ;゚△゚)ξ「ッ!?」

その予想外の攻撃に、しかしツンは反応してみせた。






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