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LOYAL STRAIT FLASH ♪

第六話

2 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 21:56:30.02 ID:XAMO4Drr0
第六話

予想はできていたはずだ。
しかし、私の衝撃は計り知れないものがある。
もしかしたら、このことについて考えようとしていなかったのかもしれない。

あの日以降、私は行方不明者として扱われたのだろう。
二十年も消失していれば、おそらく私と彼女は離婚したものとして処理されている。

彼女とて、私のことは早く忘れたかったに違いない。
この場所を引き払い、新天地を求めるのはおよそ当たり前の行動だ。
そして、住み手のいなくなった居住空間はある種当然の末路を辿った。

道行く人は、不審な目で眺めているだろうか。

駐車場となった土地の前で佇んでいる私を。

3 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 21:57:15.07 ID:XAMO4Drr0
住宅地の一画は、二十年前の面影を全く残していない。
父から譲り受けた、それなりに広い家は完全に取り壊され、
今では自動で運営される駐車場に成り変わっている。

あのあたりは風呂場だったろうか。
その上には確か私の部屋があったはずだ。
そこは父が生前使っていた場所で……。
二階には一つ空き部屋があった。
「この子が大きくなったらここに配置しよう」としぃが娘を抱きながら、目を輝かせていた光景が脳裏をよぎった。

しぃの部屋は一階にあったはずだ。
リビングから廊下に出て、右手にある畳の部屋が彼女の寝室だった。

……どうやら自分は、思っていたよりも彼女たちのことを覚えているようだ。

途方もない脱力が私を襲う。
目の前に広がる狭苦しい景色がまるで幻想であるような感触さえ覚えた。

4 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 21:58:27.38 ID:XAMO4Drr0
おそらく私は救いを求めていたのだろう。
ここに来ることで、自分の内面的な変化が生じることに期待していたのだ。
そうすることで解決の糸口が見出せる……そう、信じ込んでいる部分があった。

だが、私は何も見ることができなかった。
今になって後悔する。
自宅の写真の一枚ぐらい、持ってくればよかった。

……だが、自分に対する別の見方も浮かんでいた。
もしや自分は懐古したかっただけではないか。
あの頃、当たり前のように得ていた日常を取り戻したかったのではないか。

私は単純な事に、今更気づいたようだ。
結局、自分は受け入れてくれる場所を求めていたのだ。
そのためにタイムマシンを作り、あまつさえ未来に飛んだ。
そこにはもしや、楽園が広がっているのではないかと想望していた。

そしてそれは、しょぼんさんとバーボンハウスによって少しばかり叶えられた。

5 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 21:59:01.43 ID:XAMO4Drr0
彼は私に安らぎを与えてくれた。
私は甘え、あまつさえ虚言を吐いてまですがろうとしている。

そしてそのうち、娘が殺されていることを知った。
葬式に出たわけでもない、彼女の墓がどこにあるのかも知らない。
それを、贖罪という大義名分を振りかざして横やりを入れようとしているわけだ。

なんと情けないことだろう。
それをしたところで誰も喜ばない、むしろ嘲られるのではないか。

しぃはどこにいるのだろう。
そんな疑問が浮かんだ。

彼女に謝罪したかった。
自らの行いを悔い、許しを請いたかった。

しかし彼女がどこにいるのか、見当も付かない。
それに、彼女は今の私の姿を見てどう思うだろう。
受け入れてくれるとは思えない。
老いてもいない私は、彼女の目にはゾンビのように映るのではないだろうか。

6 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 21:59:54.10 ID:XAMO4Drr0
( ,,゚Д゚)「ん、お前はモララーじゃないのか」

背後から肩を叩く者が一人。
そこにギコが、創痍した表情で佇立していた。

( ,,゚Д゚)「何をやってんだ、こんなところで。
      駐車場なんかを眺めてよ」

( ・∀・)「いえ、別に」

( ,,゚Д゚)「ふうん……ああ、そうだ、一つ二つ聞きたいことがある。
      あれから、しょぼんは何か喋ってくれたか?」

私が首を振ると、彼は肩を落とした。
予想通りだったのだろう。
そうかい、と呟くがあまり落胆したようには見えない。

( ,,゚Д゚)「もうすぐ二ヶ月になるが……
      このまま永遠にだんまりを続けるんだろうな」

私は一つ、画策する。
この男から、何か情報を引き出すことはできないか、と。

7 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:00:25.66 ID:XAMO4Drr0
そこに最早贖罪は関係ない。
ただ好奇心による追究。その方が気分的に楽である。
開き直り、と誰もが言うだろうが、それでもいいと思った。

( ・∀・)「あの、よければ事件についての情報を教えてくれませんか?
     いえ、特に意味はないのです。ただ、知っていることが多いほど彼からも聞き出しやすいと思いまして」

するとギコは、特に怪しむこともなく口を開いた。
彼も、情報に枯渇しているのかもしれない。

( ,,゚Д゚)「まぁ大体は報道されてるだろ。
      本来ならすぐに解決できそうなんだが、発生時刻や場所が悪い。
      目撃者がいないんだよな。
      一度目の女は然り、ホームレスにしてもわざわざすみかに近づく奴もいないだろう?」

彼の言葉に適当に相づちを打つ。
頭の中は、情報を整理する作業で必死なのだ。
ギコが歩き始めたので、私も歩調を合わせた。

8 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:00:56.35 ID:XAMO4Drr0
( ,,゚Д゚)「それに証拠も乏しいんだよな。
      現場に凶器が落ちていたわけでもない。
      返り血を浴びた可能性は高そうだが……
      何せ闇夜だ、通りすがっても気づかれない可能性が高い」

聞いているうち、私は言いようのない空気に怖じ気づき始めていた。
なぜ、この男はここまで私に語ってくれるのだろう。
最初は、単純に情報が欲しいのだと解釈していた。

しかしどうもそれだけではないようだ。
私は、古き時代に見たサスペンスドラマを思い出す。
大抵、そこには警察と関係のない人物が登場し、事件のことを聞き出す。

そういうとき、刑事は何を意図して情報を明かすのか。
一つは探偵などを信頼している場合。
一つはコメディチックに脅されている場合。
もう一つは、刑事自体が情報に枯渇している場合……今のギコのように。
そしてそういう場合、刑事はすべからく事件に異常な前に固執しているのだ。

( ,,゚Д゚)「だがな……一つだけ、犯人の落とし物があったんだよ」

9 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:01:44.79 ID:XAMO4Drr0
ギコは私に、一枚の写真を差し出した。
そこに、小さなストラップが映し出されている。
デフォルメされたクマのついた、かわいげのあるものだ。

( ,,゚Д゚)「二度目の殺人現場で発見された。
      ま、残念ながら犯人の痕跡を見つけることはできなかったが。
      ただ、少しばかり年齢層を絞り込むことができる」

( ・∀・)「そんなもんですかね」

興味なさげに返すと、彼はそれを大事そうにポケットにしまいこんだ。

( ・∀・)「しかし……そんな大切そうな証拠を、刑事個人が勝手に持ち歩いていいのですか?」

( ,,゚Д゚)「厳しいことを言うね」

ギコはただ苦笑し、答えるということをしなかった。
いよいよ私が抑えきれぬ疑問を抱いたところで、彼は「さてと」と呟いた。

( ,,゚Д゚)「そろそろ、署の方に戻る。
      あんまり勝手な行動をしていると、うるさく言われるからな」

10 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:02:17.83 ID:XAMO4Drr0
( ・∀・)「待ってください!」

一礼して立ち去ろうとするギコを慌てて呼び止める。
彼は柔和な笑顔で振り返った。

( ,,゚Д゚)「何か、問題でもあるかい?」

( ・∀・)「いえ。ただ、気になるのです。
     あなたの、この事件に対する固執のしかたが、少し異常に思えて」

くだらない。
そう言いたげに、ギコは再び私に背を向けた。
そして、今度は止まらずに歩き出す。

( ,,゚Д゚)「その理由は、気づいているはずだ。
      お前の眼が、そう言ってるよ」

数秒後、我に返った私が彼にその意味を問いただそうとしたとき。
すでに、彼の姿は曲がり角の向こうに消えかかっていた。

□□□□□□□□□

11 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:02:52.88 ID:XAMO4Drr0
「ねえ、キミは私のことが好きなのかな?」

今となっては最早遠い日、カウンターに座った彼女が唐突にそう呟いた。
グラスを傾け、どこか寂しそうに。

(´・ω・`)「どうしてそんなこと、今更聞くんだ?」

僕はできるだけ小声で囁く。
便宜上、カウンター内で喋ることは許されないのだ。
でも、そのルールを僕は自ら壊していた。

仕方がない。その時の僕はそう考えていた。

「なんていったらいいんだろう。ほら、私が一方的に好きになって今の関係になってるじゃん」

(´・ω・`)「……」

彼女の言葉に黙するほかない。それは事実なのだ。
今思えば、反論すべきだったのかも知れない。

数秒後、彼女はハッとしたような顔になって、努めて明るい声を出した。

「あ、ごめんごめん。なんか夜中にすんごい暗い雰囲気にしちゃったね。
 忘れて忘れて」

12 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:03:28.49 ID:XAMO4Drr0
その後、しばらく会話は途切れていた。
そのうち、みるみるお客が減っていって、遂に彼女一人だけという状態になった。
もっとも、その頃にはもう閉店間際になっていたけれど。

(´・ω・`)「もう時間だよ」

卓上にうつ伏せになっている彼女に告げる。
のろのろと顔を上げた彼女は、不安そうに周囲を見回した。
そして、自分がどこにいるのかやっと思い出したかのように手を打つ。
どうやら、少し眠っていたらしい。

「今日は泊まってく」

(´・ω・`)「ダメだよ。親が心配するだろ?」

すると、彼女は顔をしかめた。
いつものやりとりだ。ここに来ると、大抵彼女は駄々をこねていた。
僕も、そのうちに軽くあしらうようになっていた。

「わかったよ……それじゃ、いつものとこまで送ってくれる?」

13 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:04:03.73 ID:XAMO4Drr0
(´・ω・`)「……ごめん、今日はムリなんだ」

「え?」

僕の答えは、彼女にとって意外だったはずだ。
目を見ることができなかった。それどころか、僕は彼女を視界の端に入れることすら拒んでいた。
彼女の視線は痛いほど感じていた。まるで見透かされているかのように。

おそらく目を丸くしていただろう。
そして、何らかの疑いを持っただろう。

案の定、彼女は言った。

「今日のしょぼんくん、なんか変だね」

(´・ω・`)「そんなこと、ないよ」

僕は彼女を見ていない。彼女は僕を見ている。
なんともいえない矛盾を感じた。

「まったく。隠してもダメだよ? しょぼんくんのことぐらい、すぐにわかっちゃうし」

14 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:04:38.58 ID:XAMO4Drr0
(´・ω・`)「そうなのか?」

僕は心底驚いて彼女に尋ねた。
そんな反応が意外だったのか、彼女もまた驚いているようだった。

「その反応はないよー。
 だって、私からキミを好きになったんだから。
 好きになるって言うことは、それだけ相手を知っているってコトだよ?」

彼女の、演説にも似た長い台詞を僕はぼうっと聞き入っていた。
逡巡し、やがてそれが正論であると納得する。

同時に、奇妙な新鮮味を感じていた。
人を好きになるとはつまり、そういうことなのだろうか。
相手を知ること。

でも、僕は。
相手、そして相手の環境を知らなかったから、彼女を裏切ることになりそうだ。
ここにきて指先が小刻みに震え始めた。

僕は、単純に恐れていたのだ。
これから、彼女が死んでいくのを遠い場所から見守る自分を。

「それじゃ、帰るね。また、明日来るよ」

15 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:05:25.28 ID:XAMO4Drr0
僕は、店からの出入りを告げる鈴の音が鳴るその瞬間まで、彼女の姿を直視できなかった。
グラスを磨く手を止めてガラス越しに彼女を見やる。

(´・ω・`)「……ごめん」

いつの間にか僕はそう呟いて……
いつも通り、店の片付けを徐々に始めていた。

心の中で決意していた。
彼女のことは一切忘れ、これからを生きていこうと。
それは、自分の精神を保護するための、愚劣な手段に過ぎなかった

――

「……さん、しょぼんさん!」

至近距離からの呼び声に、僕はふと顔を上げた。

( ・∀・)「……そろそろ、お店の準備をしなければならないのでは?」

言われてやっと、まどろみの世界から帰還する。
時計を見ると、開店時間一時間前をさしていた。

16 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:06:20.52 ID:XAMO4Drr0
(´・ω・`)「あ、ありがとうございます……つい、眠ってしまったようで」

僕は慌てて、食卓の椅子から立ち上がる。
季節にそぐわぬ汗で背中や掌がぐっしょり濡れていて、異常に気持ち悪い。

( ・∀・)「顔色が悪いですよ。
     風邪でもひいたんじゃないですか?」

訝しむモララーさんに恐怖を覚える。
今見た夢など言えるはずがない。

(´・ω・`)「大丈夫、大丈夫ですから……気にしなくて結構です」

言ってから、しまった、と思った。
自分でもわかるほど、自信に似合わぬ口調で物言いしてしまった。
まるで相手を突き放すような、怒気を露わにした言葉。

( ・∀・)「……そうですか、わかりました。
     では、部屋に戻りますね」

モララーさんはそう言い残して廊下の向こうに消えていった。
しばらく立ち尽くす。
すぐに引き下がったのはおそらく、僕の感情を察したからなのだろう。

17 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:07:01.62 ID:XAMO4Drr0
彼女を忘れるなど不可能なのだ。
いよいよ僕は悟っていた。
これからもあの刑事は頻繁にやってくるだろう。
それに、今のような悪夢を見ることも段階的に増えていくことが予想される。

そうなった場合に、僕は耐えられるのか。答えは否、だろう。
でも、今の生活を維持していく以外、僕には道がないのだ。
なぜなら、自身でそう決めたから。

……一ヶ月と少し前の過去に思いを馳せる。

あの時、僕の友人は確かにこう言ったのだ。

「僕からあの女を奪ったのは、確かにお前なんだ」

と。

知らなかったんだ、だから仕方ないだろう。
それに、彼女の方から僕に……。

ふと、我に返る。
そこは誰もいない孤独なリビング。
僕は、いったい誰に言い訳しているのだろう……

18 名前: ◆A4U6gCcMs2 [] 投稿日:2007/03/04(日) 22:07:38.19 ID:XAMO4Drr0
階下に向かって開店準備を始める。
しかし、今日は細かなミスが多い。笑ってしまうほど、挙動不審だ。
挙げ句の果てにはグラスを一つ、落として割ってしまうほどである。

やがて、開店時間を迎える。
僕は初めて、カウンター内に立つことに沈鬱の念を覚えていた。

でも、休むなんて選択肢はないのである。
早速やってきた客の応対をしながらも、僕はどこか虚ろだ。

白昼夢のような光景が見えていた。
目の前に座ったお客の顔に焦点が合わない。

そのお客が何かを告げた。
飲み物かな。今日は暑いし。
振り返って棚にあるグラスを一つ手に取ろうとして……

唐突に響いた鋭い音。
瞬間、世界がくっきりと見え始めた。
後ろからお客が、「大丈夫か?」と声をかけてくる。
それに適当に相づちを打つと、僕はガラスの破片を無視して、注文を聞き返した。

しっかり、しないと……。


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