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LOYAL STRAIT FLASH ♪

三十八章一

2 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:06:42.10 ID:GmLdXcG/0
 
三十八章 人 < 前編 >


兄者の言葉を聞いたクーの瞳が、混乱と動揺に揺れる。
それを見て、兄者はその邪悪な笑みを更に深くした。

川;゚ -゚)「どういう事だ……まさか……」

('A`)「なるほど、な。俺達は、嵌められたわけだ」

( ´,_ゝ`)「そういう事だ。しかし、こうまでもこちらの思い通りになるとは。
      『それらしい扉を作っておけば、そちらは勝手に勢力を分散させて攻めてくる』
      ―――ははは。実にお前達は愚図だな。滑稽だ」

(´<_` )「お前達が一挙に攻めてくれば、この戦いは苦しいものになっていただろう。
      お前達は決して弱くない上、それが手を組んだとなれば、尚更な」
      
(´<_` )「だから、裏の裏を突かせてもらった。屈強な人間―――お前やフサを分散させる為に。
      すると、この通り。お前達は、自らの勝利の可能性を削ってくれた」

川;゚ -゚)「……貴様ら……!!」

( ゚д゚ )「今頃は、お前達の仲間もこういう状況になってるだろうさ。
    さて、彼らはどのような反応をするのかn―――」

('A`)「関係ねぇよ」

感情の含まれない、ただただ冷酷な一言。
それにミンナは言いかけた言葉を呑み、兄者は楽しげな笑みを消す。


4 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:09:42.97 ID:GmLdXcG/0
   
( ゚д゚ )「……関係ないとは、何だ? ドクオ。
    虚勢でも張ってるつもりか?」

('A`)「言ってんだろ。何も関係ねぇんだよ、ミンナ。
   こちらの勢力を分散されようが、関係ない。問題もない。
   要するに、それぞれがそれぞれ、自分に襲いかかってきた奴を潰せば良いって事だ」

('A`)「こちらの最初の予定と、結果的には何も変わらない。
   それを、そこの白っちいのは何を勝ち誇ったような口振りで吠えてんだ?
   アッタマ悪ぃんじゃねぇの? 使わねぇ頭なら、吹き飛ばしてやろうか」

( ゚д゚ )「口を慎む事だな、ドクオ。
    お前達の不利は変わらない。それに―――」

('A`)「不利? 今、不利っつったのか、ミンナ?
   はん。お前こそ口を慎めよ。てめぇ、今目の前に誰がいるのか分かってんのか?」

ドクオの左手に、白銀の銃―――ギンが握られた。
そして右手のクロはミンナに、ギンは弟者の頭蓋にポイントされる。

傍らのクーは、抜いた『氷華』を兄者に向けた。
異形の青い右手は握り締められ、いつでも“力”を発動出来るように構えられている。

('A`)「“削除人”リーダー、クー。そしてこのドクオ様だぞ。
   俺達に、テメェらが勝てるとでも? テメェらが出来る事なんざ、せいぜい時間稼ぎ程度だ。
   夢見んなら、もう少し現実的な夢を見ることだな。遠すぎる夢は、夢から覚めた時に辛くなるぜ?」


7 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:12:23.17 ID:GmLdXcG/0
   
( ´_ゝ`)「夢かどうか。その身を以て確かめてみるか?」

('A`)「黙ってろ腐れもやし。っつーかテメェ死んだんじゃねぇのかよ。
   大人しく死んでろ。目障りだ。雑魚め」

吐き捨てるようなドクオの言葉に、兄者は口を閉ざす。
それから細い眼を更に細めると、抑揚のない声で言った。

( ´_ゝ`)「……なるほど、クソ忌々しい男だな。君は」

('A`)「どうも」

川 ゚ -゚)「……お前達はそれぞれ分かれて、私達の相手をしているのだな?」

( ゚д゚ )「あぁ」

(´<_` )「それぞれの入口に、それぞれメンバーを置いてある。“当たり”はない。言うなれば、全てがハズレだ。
      勝てると思わない方が……いや、生き残れると思わない方が良い。
      お前達が思っているような我々じゃない」

川 ゚ -゚)「そうか。ならば―――」

ふいに、クーがその右腕を振り上げた。
同時。その右腕の周りに、纏うように浮遊する無数の氷塊が発生。

そして彼女は、まるで裁きの鉄槌を下すかのように―――右腕を振り下ろした。
それによって、右腕の周囲に発生した氷塊は“発射”される。

無数の氷塊は、まるで銃弾のような速度を持って、三人に襲いかかった。


9 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:15:32.97 ID:GmLdXcG/0
   
( ゚д゚ )「ぬっ!?」

( ´_ゝ`)「……ふん」

兄者が両足を無造作に振るった。
それによって旋風が巻き起こり、氷の銃弾の軌道が大きくズラされる。

命中する筈だった氷塊のいくつかは床や壁に叩きつけられ、
 かつ同時に発生した風の刃で、多くの氷の銃弾が粉砕された。

ミンナは自らに襲い来る氷塊を睨みつけると、両腕を振るう。
すると金属製のサイコロとカードが、縦横無尽に彼の周囲を飛び回り、彼に襲いかかる氷塊を破砕した。

弟者はというと、氷塊を完全に回避しきっていた。
見切れぬ筈の速度の氷塊を見切り、かつそれを避けきってしまう。

( ゚д゚ )「貴様……」

結果的に、三人に重大なダメージは与えられていない。
しかし、それは先制としては良い攻撃だった。

川 ゚ -゚)「―――ならば、さっさとお前達を“削除”して、仲間を救助しに行かねばな」

('A`)「そういう事だ。じゃあ、クー」

川 ゚ -゚)「あぁ。踊ろうか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


12 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:18:28.85 ID:GmLdXcG/0
 
床を強く叩く、弾けたような音。
それと同時。クーが突如、視界から消えた。

その姿が現れるのは―――兄者の背後。

(´<_` )「! 兄者!!」

(;´_ゝ`)「!?」

驚愕に息を呑み、しかし兄者に振り返る時間は与えられない。

川 ゚ -゚)「遅い」

『氷華』が翻る。
それは兄者のうなじを深く斬りつけようとして―――

(´<_` )「……させん!」

間に入った弟者の右腕に、止められた。
一瞬遅れて、その腕から大量の血飛沫が迸る。

噴き上がる血液に、一瞬、視界が遮られた。
弟者とクーの顔が、べっとりと血に濡れる。


15 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:21:29.54 ID:GmLdXcG/0
 
川 ゚ -゚)「クソッ……!」

舌打ちして、刀を引こうとした。
しかし、刀は動かない。離れる事が、出来ない。

刀の刃を、弟者が握っていた。

(´<_` )「逃がさないさ。お返しをせねば、な」

刃を握る手と腕から噴き出す血液を無視して、弟者は言う。
そして右手で刀を抑えつつ、左腕を引き絞り―――

響く銃声。
同時。刀を握る弟者の右手に、血の華が咲いた。

(´<_` )「ッ!」

衝撃に、思わず刀を放してしまう。
それとほぼ同時に刀が翻り、弟者を両断せんと横薙ぎにされた。

しかし寸前、弟者は素早くバックステップ。
刃先は弟者の腹の皮を薄く裂いて、逆側に抜ける。

川 ゚ -゚)「―――逃がすか!!」

踏み込み、更に袈裟掛けに斬りつけた。
しかしそこで響くのは肉が裂ける音ではなく、金属音だ。


19 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:24:46.82 ID:GmLdXcG/0
  
草色の異形の足が、横から二人の間に捩じ込まれていた。
『氷華』は血飛沫の代わりに、眩い火花を噴き上げて止まる。

川;゚ -゚)「兄者っ……!」

( ´,_ゝ`)「風に引き裂かれてみるか?」

思い切り、刀を蹴り弾かれる。
同時にバックステップを踏んで離れようとするが―――しかしそれによって、小さくない隙が生まれてしまった。

( ´_ゝ`)「ふんっ!」

そして、虚空に向けて振るわれる異形の足。
その動きに一瞬遅れて風の刃が生まれ、クーの身体に迫った。

川;゚ -゚)「ちっ―――!」

右腕を振るう。即座に響く、軽い音。
放たれた風の刃は砕かれた。

しかし息を吐く暇はない。
兄者の攻撃は、まだ終わっていない。

( ´_ゝ`)「おおおぉおぉぉおおぉっ!!」

連続で、容赦なく足が振るわれる。
その軌道は縦に。横に。斜めに。


20 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:27:22.22 ID:GmLdXcG/0
  
そして足が振るわれた数だけ―――つまりは無数に。
不可視の風の刃が、クーに襲いかかった。

川;゚ -゚)「くっ……!」

右腕で身体を護りつつ、全力で右へと跳ぶ。
ほぼ同時。彼女の立っていた地面が、ずたずたに引き裂かれた。

直撃は免れたが、しかし無傷ではない。
左半身―――主に肩の周辺には、浅くはない傷が付けられてしまっている。

だが、傷に構っている暇すら、そこには存在しない。
兄者は既に、次の風の刃を放とうとしている。

川;゚ -゚)「―――させるか!!」

彼女は瞬時に複数の氷塊を生み出すと、投擲する。
兄者は舌打ちすると、風の刃の作成を中止し、氷塊を横に跳んで回避した。

その隙にクーは二人から距離を取り、ドクオに並ぶ。
視界の隅に見えた彼は、自分と同じく、険しい瞳をしていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


22 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:30:32.28 ID:GmLdXcG/0
   
「踊ろうか」―――クーの声を受けて、ドクオの身体がふらりと揺れる。
ふいにその両腕が跳ね上がると、握られた二挺が六度、間髪置かずに火を噴いた。

( ゚д゚ )「ふんっ!」

片手を前に突き出す。
すると彼の服の中から金属サイコロが飛び出し、ドクオの銃弾にぶつかって行った。

火花が飛び散り、互いの得物は互いの得物を撃ち落として床で跳ねる。
ドクオは舌打ち。
対するミンナは、口端を僅かに釣り上げた。

( ゚д゚ )「なるほど、な。こんなものか」

('A`)「何だ、それは。馬鹿にしてんのか?」

( ゚д゚ )「まぁな。もう少し、楽しめるようになってるかと思ったのだが」

('A`)「……ま、お前がどう思おうと勝手だがよ」

その時。ドクオの右手の中で、黒の銃がくるりと回転した。
銃口はミンナから外され―――そして、見当違いの方向へと撃ち放たれる。

( ゚д゚ )「どこに撃っている」

嘲弄を言葉に乗せながら、銃弾の行き先に視線を飛ばした。
その眼が見開かれ、浮かんでいた笑みが消える。


24 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:33:20.63 ID:GmLdXcG/0
   
銃弾を撃ち込まれた先―――。
クーと戦闘を繰り広げていた弟者の手が、爆ぜるように血を噴いたのだ。
やや押されていたらしいクーは、その隙を突いて反撃を始める。

(;゚д゚ )「何だと……っ!?」

驚愕しつつ、視線を戻す。
そして焦燥に瞳を歪ませると、すぐさま“力”を働かせた。

二挺の拳銃の銃口がミンナにポイントされ、その引き金が発砲寸前まで引き絞られていたからだ。

('A`)「よそみはいけねぇな」

そして、連続で放たれる銃弾。
空気を突き破って襲いかかる無数の銃弾は、しかし着弾寸前に、金属サイコロに阻まれる。

(#゚д゚ )「―――小癪!!」

腕を振るった。
その袖の中から、金属のカードが発射される。

それは空気を切り裂いてドクオに迫るが、ドクオは軽く横に跳んで回避。

そしてドクオは、壁に沿ってそのまま横に走った。
その背後、ドクオの影を縫いつけるようにして壁に突き刺さっていくのは、巨大なダーツだ。


27 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:36:45.05 ID:GmLdXcG/0
   
('A`)(っち……速くなってやがんな)

迫りくるダーツから逃げながら、ドクオは二挺の銃を連射する。
しかし銃弾は、やはりミンナを捉える前に撃ち落とされた。

舌打ちをする暇などない。
少しでも足を止めてしまえば、すぐにでもダーツの餌になる。

それでなくとも、迫るダーツとドクオとの距離は、少しずつ詰められているのだから。

( ゚д゚ )「いつまで持つか、だな」

('A`)「言ってな」

突如、方向転換。
壁を蹴るようにして、真っ直ぐミンナに向かった。

その左腕を、盾にして。

( ゚д゚ )「むっ!?」

複数、ダーツを放つ。
鋭く巨大な針を持つそれらはしかし、異能者の腕の前では無力なようだ。
ダーツは腕に弾かれ、ドクオは見る見るうちにミンナとの距離を詰める。


30 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:39:21.66 ID:GmLdXcG/0
     
しかし―――

( ゚д゚ )「かかったな」

言葉と、同時。

(;'A`)「がっ!?」

ドクオの右肩に、強く鋭い痛みが走った。
続いて、両足や右腕、背中にも。

(;'A`)「な、に……?」

痛みに表情が歪み、ぐらり、と身体が揺らぐ。
しかし倒れる直前、腕を使って何とか体勢を立て直すと、ミンナから距離を取った。
その間、余裕を見せつけているつもりなのか、幸いにもミンナは攻撃を仕掛けてはこなかった。

そして右肩や足に眼をやって、舌打ちする。
そこに突き刺さっていたのは、避けた筈のダーツだった。

( ゚д゚ )「無闇に突進を仕掛けない事だな。
    お前が避けたダーツも、死んだわけではない。
    背後からの攻撃にも気を付けるべきだ」

('A`)「ご忠告ありがとよ……!」

ダーツを乱暴に引き抜くと、血が勢い良く噴き出す。
喉から這い出てくる呻きは、歯を食い縛って飲み込んだ。


32 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:42:42.05 ID:GmLdXcG/0
   
そしてすぐさま、右手のクロを連射する。
身体の急所を狙って放った銃弾は、やはり悉くサイコロに弾かれてしまった。

( ゚д゚ )「無駄だ。お前の弾は私には届かん。
    お前は、今の私には勝てないよ。先ほども言ったように、どこまで持つかだ」

('A`)「言うじゃねぇか、ミンナ。何やら、自信たっぷりによ。
    俺に敗けた事、忘れちまったか?」

言うが、しかし気付いている。
ミンナは変わっていた。以前よりも圧倒的に、強くなっている。

自分に余裕はない。

( ゚д゚ )「忘れたな。覚えていても、意味はないさ。
     お前はどうせ、ここで敗ける」

('A`)「前もそんな事言ってたよな。それで、敗けたけどよ。
   さて、今回はどうなんだろうな?」

そして、地面を蹴った。

クロを構えつつ、再度、突進。
左腕はやはり、盾のように構えながら。

( ゚д゚ )「無駄だと言っているだろう。気でも振れたか」

ミンナはサイコロを撃ち放ちながら、ドクオの背後からダーツを飛ばす。
しかし―――


35 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:45:26.68 ID:GmLdXcG/0
   
ドクオの手の中のクロが翻り、背後に向けられる。
背後に向けて撃ち放たれたそれは―――迫っていたダーツの一本を撃ち落とした。

それだけに留まらない。
クロの銃口は、連続で火を噴いた。
それは正確に、迫りくるダーツを撃ち落としていく。

極度まで集中を注がれたドクオの聴覚は、飛び来るダーツの位置をほとんど補足していた。

しかしやはり、全てを聴覚だけで捉えるのは不可能だったようだ。
身体の各所にダーツが突き刺さり、針が頬を掠めて血が噴き出した。

しかし、ドクオの足は止まらない。
頬から血を流しつつ、その口が凶笑に歪む。

('A`)「よぉ。気違いが来ましたよっと」

(;゚д゚ )「……ぬぅっ!!」

咄嗟。金属サイコロで壁を作る。
しかしそれは、振り抜かれたドクオの左腕で脆くも粉砕された。


37 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:48:23.25 ID:GmLdXcG/0
   
そして

('A`)「おらっ!!」

(;゚д゚ )「がっ……!」

跳ね上がったドクオの足が、ミンナの顔を打ち捉えた。
ミンナは呻きを漏らしつつ、旋回して吹き飛ぶ。

しかしドクオは、そこで追撃を加えられなかった。
ダーツやサイコロやカードなど、ミンナの得物が総じてドクオに襲いかかった為だ。

ドクオはそれらを撃ち落とし、薙ぎ払いながら、ミンナから距離を取る。
そこで、背中が何かにぶつかった。

クーだ。


川 ゚ -゚)「……なるほど、これは一筋縄ではいかぬようだな」

('A`)「みたいだな」

応えつつ、身体に刺さったダーツを引き抜く。
鋭い痛みが全身に走り、思わず呻きが漏れそうになった。

川 ゚ -゚)「痛そうだな。どうする。私がミンナの相手をするか?」

('A`)「あー……いや、ダメだ。あいつは俺が片付ける。
   お前は、あのもやし兄弟をぶち殺しててくれ」


39 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:51:22.25 ID:GmLdXcG/0
   
川 ゚ -゚)「分かった。くれぐれも無茶はするなよ。
     危なければ、すぐに呼べ。すぐに助けに行く」

('A`)「いやいやいや。見縊るな。俺は弱くないぞ。
   お前こそ、無茶はするなよ。……残念ながら、助けに行くだけの余裕はないと思うからな」

川 ゚ -゚)「あぁ。分かった。じゃあ、ご武運を」

('A`)「お前もな」

会話は、そこまでだった。
二人はほぼ同時に地面を蹴り、弾けるようにして離れる。

('A`)「行くぞ、ミンナッ!!」

叫びつつ、クロを連続で撃ち放った。
やはりそれらは先ほど通り、サイコロに迎撃される。

しかしドクオは、そこに違和感を覚えた。

眼を細めて、ミンナを見詰める。
浮かび上げられたサイコロの隙間、そこから見えるミンナの表情―――


笑っていた。
顔を蹴られて、口の端から血の線を垂らして、それでも。


不気味なその笑みに、ドクオは戦慄する。


42 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:54:22.85 ID:GmLdXcG/0
   
( ゚∀゚ )「面白いぞ、ドクオ。やはりお前は、面白い」

('A`)「あーあー、どうも」

( ゚д゚ )「ここまで面白いと、捻り潰しがいがある。
    もっと楽しませてくれ。その方が、壊した時の快楽が増す」

両腕が持ち上げられる。
そして―――

( ゚д゚ )「さきほど言った通り、踊って見せろ!!」

サイコロが。カードが。ダーツが。
ミンナの持つ全ての得物が、一斉にドクオに牙を剥いた。

(;'A`)「ッ!?」

凄まじい速度で飛び来る無数の得物を、ドクオは転がるようにして回避。
すぐに立ち上がると、全力で横に走りながら、クロを連射した。

しかしそれでも、ミンナの嵐のような攻撃の手は緩まない。
防御の方に“力”を割いてはくれなかった。

ミンナは得物のほとんどを、ドクオに向けたままだった。
ドクオの銃弾は最低限のサイコロで撃ち落とすか、避けるか。


47 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 19:58:03.85 ID:GmLdXcG/0
   
(;'A`)「めちゃくちゃな攻撃だな……ッ!!」

左手にギンを握り、二挺で連射する。
やはりほとんどの弾は撃ち落とされたが、しかし何発かはミンナを捉えた。

ミンナの腕、そして脇腹が血を吐き出す。

( ゚д゚ )「がっ!!」

呻いて、ミンナは腹を抑えた。
しかし―――

( ゚∀゚ )「っ……ははは! ははははははっ!!」

嗤う。攻撃は、弱まらない。
むしろ……

(;'A`)(速くなりやがった!!)

眉根を寄せて、鋭い痛みの走る足を更に動かす。
それでも、身体をカードが掠め、血煙が舞った。


―――おかしい。
怒涛の攻撃を全力で回避しながら、ドクオは想う。

おかしい。
これは、この前までのミンナではない。
『何か』が、ブッ壊れてしまっている。


50 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:01:22.40 ID:GmLdXcG/0
   
本来のあいつは、自身を危険に晒してまで攻撃する人間じゃない。
確かにキレた際、冷静さを失って止まらなくなる事はあった。
しかし攻撃を受けるくらいなら、“力”をもっと防御に回す筈だ。

それが、ない。

ほぼ全ての“力”を攻撃に使っていて、それでいて防御には最低限……いや、それ以下の“力”しか割いていない。
利口な戦い方じゃない。まるで捨て身のような戦い方だ。
しかし―――

しかし、強い。
“力”の質自体が以前より強力になっている上に、そのほとんどを攻撃に向けて来ているのだ。
つまりは、相当な力量を以てする純粋な力押し。

だからこそ厳しい。
ドクオの『異能者』としての攻撃の“力”は、弱いのだから。
『耳』と『眼』で攻撃を感知しても、それを退ける“力”、または避ける身体能力がなければ意味はない。

ミンナの“力”を正面から押しきれるだけの“力”であれば、正面突破も可能だったろう。
しかし残念ながら、ドクオにそれだけの“力”はない。
彼の攻撃の“力”は、腕だけなのだ。

速く、途切れず、様々な方向から攻撃出来るミンナは―――ドクオにとって天敵だった。


(;'A`)「ぐっ!」

逃げ続けていたドクオの足に、ダーツが刺さる。
生まれる一瞬の停滞。それが、ミンナの得物に絶好のチャンスを与えてしまった。


53 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:04:23.31 ID:GmLdXcG/0
   
サイコロが筋肉に食い込み、カードが全身を切り刻み、ダーツが至る所に牙を突き立てる。
血飛沫が盛大に宙にぶちまけられ、ドクオの周囲の床が紅に染まった。

(; A )「かっ……」

致命傷は、辛うじて左腕で防御してある。
しかしその傷は、十分に重傷。出血量も尋常ではない。

ドクオの身体がふらりと揺らぎ、ミンナの口端が歪められる。


だがドクオは、それだけでは終わらなかった。


(# A )「―――ああぁっ!!」

弱々しく浮いていた足が地面を踏み拉き、その足取りを確定させる。
そして両手が跳ね上がると、手の中の二挺が咆哮をあげた。

まるで彼ら自身が、敵を撃ち砕かんと欲するかのように。

( ゚д゚ )「ッ!!」

ミンナはその顔から笑みを消し、すぐにサイコロで防御しようとした。
しかし、あまりにも遅過ぎる。

パッといくつもの血華が咲き、ミンナの身体が吹き飛んだ。

そして、血風を巻いて硬い床に叩き付けられる。


55 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:07:22.39 ID:GmLdXcG/0
   
(; A )「終わりか……?」

息を呑みつつ、呟いた。
銃把を握る手に、血のぬるりという感触を感じて、堅く握り直す。
額から、血混じりの汗が床に流れ落ちた。

そして。
どこか壊れたような忍び笑いが、床を這った。

(; A )「!! ――― チィッ!!」

二挺の引き金を、連続で引き絞る。
しかし銃弾が着弾する直前、ミンナの身体はバネのように跳ね起き、銃弾をかわした。

同時。金属のカードが、空を切り裂いてドクオに飛来する。
カードは首を切りつけるラインを走り―――そしてドクオは避けられる体勢を取っていない。

(; A )「ッ!」

咄嗟に、二挺を首の前でクロスさせた。
一瞬。目の前に火花が咲き、カードは軌道をズラされて壁に突き立つ。

命は永らえた。だが、息を吐く暇もない。

再度、得物の嵐だ。
眼や耳を酷使しても捉えきれぬほどの攻撃が、襲い来る。


57 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:10:28.31 ID:GmLdXcG/0
   
(;'A`)「未だにこの攻撃―――バケモノかよ、こいつはっ!!」

必死に回避する。回避に力を注ぎ込む。
しかし、先ほど受けたダメージは大きい。
避ける為に身体を動かすたびに、耐え難い苦痛が全身を襲う。

それでも、動き続けるしかない。
動きを止めてしまえば、それで終わりだ。

しかし、どんどんとダメージは蓄積されていった。
どんなに必死で回避を続けようと、避けきれない攻撃が身体を削っていく。

(;'A`)(いつまで続くんだ、この攻撃はよ!?)

僅かな隙に銃を撃ち込みつつ、ドクオは焦燥に眉根を寄せた。

これだけの激しい攻撃を続ければ、そろそろ“力”が途切れても良い筈だ。
いつになれば終わる。いつになれば途切れる。

しかしいつになっても、攻撃は弱まる気配を見せない。

('A`)(……途切れるのを待つのは、辞めた方が良いのか)

そうだ。待つのではなく、途切れさせねばならない。
依然弱まらない攻撃を紙一重で回避しながら、ドクオは頷いた。

どうせこのままでは、敗けてしまう。
それも、そう遠くない未来に。
―――身体はもうボロボロで、攻撃を避ける事も辛くなってしまっている。


59 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:13:24.33 ID:GmLdXcG/0
   
本来攻め型じゃない相手が、攻めてきているんだ。
ならばこちらも、攻めてやろうじゃないか。


回避に酷使していた脚を、止める。
そして―――

('A`)「……ずぁっ!!」

左腕を、全力で振り上げた。
無数の得物が悪魔の腕に弾かれ―――目の前が開ける。

腕に弾かれなかった分の得物が複数、身体に突き刺さるが、動きは止めない。
警告の叫びをあげる痛覚は、完全に無視した。

開けた空間に、右腕のクロを連続で撃ち込んだ。
黒の銃弾は宙を貫き、ミンナに襲いかかる。

ミンナはすぐさまサイコロで防御しようとしたが、いささか遅い。
サイコロで阻害出来た銃弾は、ほんの数発。
ほとんどの銃弾はミンナの身体に食い込み、血の華を咲かせた。

ミンナが僅かに、よろめく。
その隙にドクオは、ミンナとの距離を詰めるべく地面を蹴った。

足が―――いや、全身が酷く痛む。傷口が熱くてどうしようもない。
動くたびに、食い込んだ得物が更に筋肉を傷付ける。
しかし、それでも足を止める事はしない。どんどんと、限界まで加速させていく。



62 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:17:13.92 ID:GmLdXcG/0
   
('A`)(これで……決める!!)

どの傷口よりも、頭が一番熱くなっていた。


それが、良くなかった。


突如、駆けるドクオの前に『壁』が現れる。
ミンナの得物で作成された壁だ。
そしてその壁は、一瞬の停滞の後、ドクオに迫って来る。

舌打ち。その壁を避けようと、横に動こうと地を蹴った。
瞬間。今度はその方向に、壁が現れる。

(;'A`)「!? なっ―――!?」

嫌な予感を感じて、後ろに跳んだ。
背中に何かがぶつかる感覚。

「最悪だ」と、息を漏らした。
見ずとも分かる。そこにあるのは、『壁』だ。

気付けばドクオは、『壁』に囲まれていた。


64 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:20:34.55 ID:GmLdXcG/0
   
( ゚д゚ )「かかったな。突進は自重しろと、言った筈なんだがな」

ドクオが動きを止めると同時、その『壁』が形を変える。
変形に要したのは、僅か数秒。
『壁』は、ドクオを拘束するドームとなっていた。

( ゚д゚ )「懐かしいだろう? 以前も、こんな事をしたなぁ」

口の端に邪悪な笑みを乗せて、ミンナが呟いた。
その眼に光はなく、全身からは銃創からの血液と共に、妙な雰囲気が溢れ出している。

どこまでも不安定で、突けば壊れてしまいそうな。

(;'A`)「くっそ……ッ!!」

左腕を動かそうとして―――ぴたりと、動きを止めた。
止めざるを得なかった。

首にカードが押し当てられれば、そうだろう。
鋭く研がれた金属カードは、押し当てられるだけで皮膚を薄く刻み、細い血の筋を作る。

( ゚д゚ )「動くな。殺すぞ」

(;'A`)「……チッ。何だよ。生かしてどうするつもりだ。
    痛ぶって楽しむつもりか? 飛んだ変態サディストだな」

( ゚д゚ )「殺すさ。勿論、痛ぶり尽くしてな。
    しかしその前に―――お前と話がしたいのだよ」


69 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:23:32.25 ID:GmLdXcG/0
   
不安定に、嗤う。

( ゚д゚ )「―――ドクオ。お前は、何の為に戦うんだ?」

(;'A`)「……は? 今更、何だよ」

( ゚д゚ )「答えろ」

('A`)「……護る為だよ。日常を、仲間を。
   日常を護る為に、仲間を護る。仲間を護る為に、てめぇらを潰す。
   その為に、戦う」

時間を稼ぐ為、わざとゆっくり言った。
脳味噌は、現状を打開する方法を求めてフル回転している。

以前と同じ方法では、抜けられないだろう。
ミンナもその方法に関しては警戒しているだろうし、奴の“力”は以前のそれとは比べ物にならない。

眼の前の得物を打ち払ったところで、横手や背後からの得物が身体を貫くだろう。
以前よりも格段に速く、数も多い得物を、自分は捉えきれない。

そしてそれらの得物に貫かれたら、終わりだ。
もう自分に、余裕はない。肉体が傷付き過ぎて、血液が流れ過ぎている。
これ以上の出血は許されない。


だから、チャンスとしては最後になるかもしれない。




72 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:26:24.39 ID:GmLdXcG/0
   
自分に余裕はないが、しかしそれはミンナも同じだ。
奴は苦痛を表に出さないが、放った銃弾はしっかりと奴を捉えていた。
身体はボロボロである筈だし、出血量も決して少なくない。

だから、これを抜ければ。
この死の半球を抜けて、奴に一撃を加えられれば、自分の勝ちだ。

どこまでも劣勢な事には変わりないが、希望がないわけではない。
むしろ、あちらがどこまでも優勢に立っているからこそ―――そこに、隙が生まれるかもしれない。
奴に隙が生まれるか、自分が打開策を打ち出せれば、大きな希望がそこに生まれる。

( ゚д゚ )「なるほど、な」

('A`)「そういうお前は?
   お前は何で、戦うんだ?」

( ゚д゚ )「私は―――」

声を詰まらせ、ミンナは俯いた。
不安定に揺れ、自らの紅に染まったその身体は、どこか小さく見えた。

( д )「私は……人間が憎いからだ。アイツが憎いからだ。
     異能者を迫害する人間が。私を異能者として弾いたアイツが、憎いからだ。
     人間を、アイツを殺す為に、私は戦っているんだ。その筈なんだ」

('A`)(…………? 何だ?)

自分に言い聞かせるかのような妙な口調に、ドクオは眉根を寄せた。
そして、慄然する。


75 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/29(土) 20:29:22.43 ID:GmLdXcG/0
   
ちらりと見えたミンナの瞳が虚ろを捉えていた為。
彼の呼吸が不自然に荒くなっていた為。
そして、彼が放つ不気味な雰囲気が、どっと強まった為だ。

( д )「私は……奴らを憎んでいる筈なんだ。
     憎まない筈がない。そうだろう? 異能者というだけで、奴らは私を弾いた。
     それなのに、私が憎んでいない筈はないだろう?」

( д )「そうだ。奴らは、私にあれだけの仕打ちをしたじゃないか。
     憎んで当たり前だ。憎まない道理がない。私は奴らを殺したがっているんだ。
     奴らへの感情は憎悪だ。殺意だ。憤怒だ。その筈だ。きっと。そうなんだ」

言葉を吐きつつ、ミンナの身体の揺れが、大きくなる。
纏う雰囲気は不安定というものではなく、もはや瓦解寸前の危険な状態だった。

壊れかけのミンナを見詰めるドクオは、舌打ちして下唇を噛み締める。

とうとう、意味の分からない言葉を喋り出した。崩壊寸前だ。
このままでは危険だ。あいつがいつ、大きな動きに出るか分からない。

まだ打開策は浮かんでいない。
この状態であいつが壊れたら―――動きに出てしまったら。
抗う事も出来ずに殺されてしまう。


どうすれば良い。
どうすればこの場を抜けられる。
どうすれば、どうすれば―――どうすれば!!







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