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LOYAL STRAIT FLASH ♪

四十章五

67 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 00:39:05.48 ID:GxIgnv3j0

 
モナーは、薙刀を左手だけで振り下ろしていたのだ。
恐らくは、振り下ろす途中で右腕を外したのだろう。
そしてその右腕は今、小太刀を握っていた。

全部、この為に―――!

それを知覚した時にはもう、踏み込まれている。
避けられない。ナイフは振るってしまっていて、受ける事も、往なす事も出来ない。
どうにか、致命傷を避けるくらいしか―――!

(#´∀`)「もなァ!!」

衝撃。彼女の腹部に、深く、何かが侵入する感覚が生まれた。
直後、熱感が生まれ、傷の範囲を広げながら引き抜かれる。
一瞬を置いて、どっと血液が噴き出した。

(*゚∀゚)「かッ……!!」

つーは表情を歪めると、跳び退り、そのまま一気に数歩を後退した。
腹部の傷に当てた手から、血が止め処なく溢れている。

距離を取ると、彼女は深く息を吐いた。
ゆらり、と身体を揺らし、モナー達を上目遣いに睨みつける。
だがその口は笑っていた。

(*゚∀゚)「はぁん。なるほど、なるほどね。そう言うことか」

( ゚∀゚)「何がだよ」


69 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 00:43:34.67 ID:GxIgnv3j0

 
(*゚∀゚)「完全に、チームとして動くようにしたわけ?
    個々でバラバラに攻撃するんじゃなく、繋いで、確実に仕留めようって?」

軽く首を傾げ、ハインを見やる。

从 ゚∀从「まぁ、そうだな。悔しいが、一人でやってても、話にならないからよ。
     三人で一つとして、お前をどうにかするって決めた」

(*゚∀゚)「各々が味方を護り、囮になり、出来た隙を狩る……とか?
    うっふっふー、悪くないんじゃない? ほら見て、これ。結構深くやられちゃったよ」

傷口から手を離し、血塗れの手と傷口とを見せ付ける。
手を濡らす血の量から分かるよう、出血は多い。傷口は深かった。
鼓動のリズムに合わせて溢れる赤の下に、脂肪だろうか、白が見える。

(*゚∀゚)「たださ、これ以降、それが通じると思う? 同じ作戦は、二度―――」

( ´∀`)「通じるもな」

楽しげに告げられるつーの言葉を、モナーが短く遮った。
「何?」と、つーが片目で睨みつける。

( ´∀`)「脳やら運動神経はともかく、君の身体は異能者のそれよりも、人間のそれに近いもな。
      だから、君にはかなりの疲労が蓄積してる筈。身体が重くて、思うように動かない筈だもな。
      例え、君がそう意識していなかったとしても」

( ´∀`)「見えていても、君は追いつけなくなってくる。だから、通じるもな。
      僕達は、三人で互いの隙を補える。
      だけど君は一人。生まれた隙は埋められない。君は、僕達を止められないもな」


71 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 00:47:42.31 ID:GxIgnv3j0

 
モナーが静かに告げると、途端に沈黙が訪れた。
誰も言葉を発しない。静寂だ。

小さい筈の音がやけに大きく響く。血の滴る音、筋肉の軋み。
荒い息がうるさい。間もなく、それが自分のものだと気付く。

数秒の無言の後、しかし返ってきたのは、乾いた笑い声だった。

(*゚∀゚)「……っはは。は、はははは! あっははははははははは!! ひゃはははは!!
    良いねぇ、面白いよ! 作戦が通じる!? 私には止められない!? やってみろってんだ!!
    それに、それがどうしたのさ!? 素直に降伏しろって!? 無駄に血を流しちゃいけませんってか!?」

( ゚∀゚)「……あぁ。お前が、従ってくれるなら」

(*゚∀゚)「従う筈がないじゃん! クソみたいな事言ってさ、脳味噌に蛆でも湧いてんじゃねぇの!!
    こんな楽しいことないんだよ! 踏み潰されそうな虫が必死に抗って、噛みついてきやがった!!
    あぁ、歓迎だ! 大歓迎だよ!! 私を止めて、いや、いっそ殺してみてよ! 出来るもんならな!!」

从 ゚∀从「…………………」

ハインはつーを見て、痛ましげに眼を細めた。

あのクソ野郎、狂いきってやがる。
つーの―――理性の制約がなくなって、あいつの狂気そのものまでもが増大してる。
時間と共に冷静さが消えつつあって、感情を抑えられなくなっている。

今だって、そうだ。
奴は、上手く余裕を見せつけられなかった。
モナーの言葉に焦りを感じて、それを隠しきれなかったから、狂気で覆った。


72 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 00:51:24.04 ID:GxIgnv3j0

 
このままでは、危険だ。
奴が狂気に呑み込まれてしまう。

奴自身は、どうなっても良かった。
狂気に呑まれようが、死のうが、どうだって良い。むしろその方が良い。

だが、奴の内側にはつーが居る。
奴がブチギレて、自身の命を顧みる事もなく、狂気に従って戦闘を行えば、彼女が危ない。
奴の死は、つーの死だ。それだけは何としても止めなければならない。

こうしてみると、何とも不利な状況だ。
いつ逆上するとも分からない凶悪犯に、人質を取られているようなものだ。

時間は少ない。
一刻も早く奴をぶちのめして拘束し、ショボンを殺さねばならない。

从 ゚∀从「あぁ―――やってやるよ。気狂いが」

焦りを言葉と共に吐き捨てて、床を蹴った。言葉もなしに、二人が続く。
応じるように、つーも駆けだした。乾いた笑い声が疾走する。
間もなく連続して鳴り響いた金属音に、笑い声は呑み込まれた。


モナーの言葉は、真実となった。
隙を埋め合いながら戦う三人に、つーは有効打のチャンスを見出せない。
そして彼女が作った僅かな隙を、三人は見逃さずに突いた。


73 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 00:55:49.36 ID:GxIgnv3j0

 
初めは勝負は拮抗していたし、つーに与えられた傷も小さなものだった。
だがやがて戦闘がハイン達に傾くと、つーの隙も大きくなり、応じて彼女の身に刻まれる傷も大きくなった。
ゆっくりと、だが確実に、彼女の身には浅くない傷が増えていく。

危機が一歩一歩と迫り、だが彼女の身体能力は、それでも徐々に衰退していく。
脳の指示に身体は遅れ、脳が捉えた情報に瞬時に対応出来ない。
刃が届くまでの時間は短くなり、彼女の攻撃の手数も徐々に減っていった。

やがて、個々の攻撃ですら、通り始めるようになる。


(*゚∀゚)「チィィィィッ!!」

後退しつつ、ベルトからスローナイフを引き抜いた。両手に四本ずつ、計八本。
間髪置かず、放つ。
単純な腕の振りに反して、八本のナイフは意志を持ったように、それぞれ違う軌道を走った。

金属音が五つ。確認せずとも分かる。弾かれたのだ。
残りの三本は音がしなかったが、避けられたのだろう。血の音はしない。

(*゚∀゚)「クソ、クソ、クソッ……!!」

噛み締めた歯を軋ませながら、再度ベルトに手を伸ばした。
ちらりとナイフの場所と残数を確認し、愕然とする。
あれだけあったナイフが、もうここまで減っているだと。

私が押されているとでも言うのか。ふざけやがって。
己の内で膨れ上がる怒気を噛み殺し、つーは再度、八本のナイフを引き抜く。
ちょうどそこで、追ってくる三人の中から、モナーが前に走り出た。


74 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:00:04.93 ID:GxIgnv3j0

 
(*゚∀゚)「おやおや、目立ちたくなっちゃった!? 手柄を立てたくなっちゃったか!?
    でも残念! くだらない虚栄心のおかげで、ここでお休みだよ! ゲームオーバーだ!!」

叫びつつ、放つ。八本の銀の流線が、様々な角度からモナーに襲いかかった。
つーの顔に、僅かの笑みが戻る。
如何にこちらが劣勢だと言えど、一人であの八本のナイフをどうにか出来る筈はない。

対するモナーは僅かに眼を細めると、薙刀を眼前に縦に構えた。
高速で回転させる。青の直線は、次の一瞬に壁となった。
間もなく、幾つかの金属音が響く。弾かれたナイフが床に転がった。

だが全てを弾けたわけではない。
回転する薙刀の隙間を縫ったり、薙刀の範囲の外から迫ったナイフは、依然モナーに迫っている。
つーは笑みを深め、だが直後に表情を硬直させた。

モナーは一歩を飛び退りつつ、薙刀を背に掛ける。
そして着地と同時、彼の身がゆらりと揺れた。
まるで自身の周りに円を描くようにして上半身が大きく振るわれ、両手が無造作に投げ出される。

不可解な動きはその一度で終わり、そして直後に、その動きの意味が思い知らされる。
掲げられた彼の両手には、二本ずつナイフが握られている。
それは正真正銘、つーのナイフだった。


77 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:04:42.34 ID:GxIgnv3j0

 
(*゚∀゚)「な……」

( ´∀`)「ナイフっていうのは、こう扱うんだもな!」

掲げた腕を、振り下ろす。彼の手から、二本のナイフが放たれた。
尋常じゃなく、速い。つーは反応しようとするが、身体が思うように動かない。
必死で身を捩る。直後、彼女の眼の下と首を、ナイフが掠めていった。血が噴く。

だがそれに構っている暇はない。即座にナイフを抜いた。
体勢を直す間もなく、振るう。固い衝撃、金属音。
ナイフは間一髪のところで、振るわれたナイフを捉えた。

(*゚∀゚)「くっ!」

弾き、後退した。だがモナーはぴたりと付いてくる。
そして連続で、縦横無尽にモナーの握るナイフが駆けた。
つーは必死に、振るわれるナイフに刃を叩き付ける。

(*゚∀゚)「しつこいんだよ!!」

一度、攻撃を大きく弾いて隙を作り、飛び退った。
体勢が崩れつつあるその中で、両手のナイフを投擲する。
まるで同時、応じるように、モナーもナイフを投擲した。

二と二、計四つのナイフは空中でぶつかる
それらは互いに耐久性が限界に迫っていたのか、弾け飛んだ。
鋭い煌めきを放つ金属片が散り広がり、銀色の粉のような物がふわりと浮かぶ。


78 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:08:05.05 ID:GxIgnv3j0

 
(#´∀`)「もなぁぁぁあぁああぁっ!!」

モナーは薙刀を抜くと、開けられた距離を一瞬で踏破。
速度と体重を乗せて、叩き付ける。

体勢を満足に立て直してすらいないつーは、それを避けられない。
しかし受けきれないことなど、とうに知っている。

だから、往なした。
とんでもない威力を内包する薙刀はそのまま流れ、衝撃を床に発散する。
彼女の脚から数センチの位置だ。床は弾け飛び、その破片が彼女の白い脚を叩いた。

そこでモナーに生まれた僅かな隙に、つーは膝を跳ね上げる。
前傾姿勢になっている彼の顔面に、膝は吸い込まれるように伸びて、
しかし突き出された掌底でいとも簡単に止められた。

(*゚∀゚)「くそが……!」

膝を引こうとする。が、それより先に掌底で膝を押された。
身体のバランスが崩れる。

( ´∀`)「さっき、言ったもなね。それをそのまま返すもな」

呟くと、小さく半身を引き

( ´∀`)「蹴りってのは、こうやってやるもんだもな」

回し蹴りを、叩き込んだ。
脚はつーの胸辺りを捉え、吹き飛ばす。


80 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:11:42.50 ID:GxIgnv3j0

 
(*゚∀゚)「……ふざけんじゃないよ!!」

だがつーは、その状況から反撃を試みた。
吹き飛び、倒れ込みながらも、中空で身を捩り、顔目掛けて踵をかち上げる。
モナーはそれを、顎を上げて咄嗟に回避。顎先をブーツが掠る。

だが、そこで終わらなかった。
落下する中、つーは床に片手を付くと、それを軸に脚を振るった。
床を払うようなその脚は、モナーの脚を捉え、バランスを崩させる。

(*゚∀゚)「かかった!」

彼女自身もひどい体勢だというのに、彼女はそこでナイフを抜き、放った。
刃の銀の光は、正確にモナーの喉へと尾を引いていく。
モナーは動作を取れない。避ける事も、受ける事も、自ら体勢を崩す事すら、もう遅い。

だが、朱が撒き散らされようというその瞬間。
放たれたナイフは、突如そこに現れた橙の網に絡め取られた。

何が起こったのか。悩む必要もない。

( ゚∀゚)「残念! こっちは三人なんだよ、忘れちゃ困るねぇ!!」

(*゚∀゚)「チィィ……! ゴミが!」

そこで背後より殺気を感じて、つーは鉈ナイフを抜き、振り返りつつ跳ね上げた。
金属音。振り下ろされた大鋏が、目の前にあった。

そしてその向こう側にあった瞳と眼が合い、肌に粒が立つ。


82 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:15:09.72 ID:GxIgnv3j0

 
从#゚∀从「チッ!」

大鋏が限界以上まで開かれ、小気味良い金属音と共に分離する。
黒と銀の二本の歪剣は、次の瞬間に明確な輪郭を失った。

高速の猛攻だ。

(*゚∀゚)「くっ! ぐぅ……!」

余りにも速い剣戟に、つーは受けながら、呻きを漏らす。
気を抜けば、すぐにでも全身を切り刻まれる。予感ではなく確信だった。
気を引き締めきっている今でさえ、少しずつ身を刻まれている。

(*゚∀゚)「どいつもこいつも……イラつかせてくれるね!!」

鉈ナイフを跳ね上げた。
それはちょうど振り下ろされた黒の歪剣に正面からぶつかり、それを勢い良く弾き上げ、飛ばす。

これでハインの得物は一本だ。連撃の速度も落ちる―――彼女がそう考えた時。

弾き上げられた歪剣の柄を、高く跳び上がって掴む手があった。
モナーだ。


83 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:19:15.20 ID:GxIgnv3j0

 
(*゚∀゚)「……!!」

( ´∀`)「返すもなっ!」

モナーは上空から、歪剣をハインに向けて投擲する。
ハインはそれを、旋回しつつ受け取った。
そしてその中で二本の歪剣を結合させ、旋回の勢いを乗せて横薙ぎに叩き付ける。

同時。モナーが上空で背中より薙刀を抜き、振り上げた。
落下しつつ、それを振り下ろす。
ハインとモナーの、縦と横からの攻撃が、つーに迫った。

背筋を寒気が滑り下り、思わず息が止まる。
とんでもない。こんな威力の攻撃を同時に喰らったら、ばらばらになってしまう。

つーは弾かれたかのように、大きく後退する。
一瞬。凄まじい衝撃によって、目の前の空間が斬り散らされたのを感じた。
斬撃が起こした風すらも鋭く、彼女の髪を掻き乱していく。

その時。
二人の影から、ジョルジュが飛び出したのが見えた。
驚愕に一瞬、身が固まる。もう、遅かった。

( ゚∀゚)「ゲッチュー!!」

巨大な手と化している右腕が伸ばされ、彼女の矮躯を無造作に掴む。
そして軽く持ち上げると、拘束したまま容赦なく床に叩き付けた。
鈍く重い音が、響く。


84 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:23:05.88 ID:GxIgnv3j0

 
(* ∀ )「…………………」

( ゚∀゚)「……飛んだ、かね?」

数秒。数十秒。静かになったつーを見て、そう首を傾げた。
右腕を元の形状に戻す。
床には彼の手の形が残り、その中心につーが横たわっていた。

やりすぎたか? と片目を歪める。
しかし容赦なんて出来なかった。肉体的にも、精神的にも。
そこでようやく、予想以上に息を切らしている自分を自覚した。

( ´∀`)「ようやく、静かになったもな?」

从 ゚∀从「……手こずらせやがって。ったく」

ジョルジュの様子を見、ハインとモナーも歩み寄ってきて―――


その時、右腕に弾けるように痺れが走った。
顔を歪めて、視線を落とす。痙攣にも似た震えが、右腕に広がっていた。
使い過ぎたのか? と首を傾げる。何か、妙な胸騒ぎがした。

どうも、厭な気分だ。不安さが募る。
試しに、右腕を軽く開閉してみた。振ってみる。違和感はない。
しかし腕の震えは止まらない。胸騒ぎは、高まる一方だ。


86 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:27:09.02 ID:GxIgnv3j0

 
……何だ、この胸騒ぎは?
腕は震えこそ止まらないものの、何の支障もなかったじゃないか。
ここまで心配がる必要はないじゃないか。

それとも俺のこの不安は、腕じゃなく、何か他の事に対してなのだろうか?

从 ゚∀从「? どうしたジョルジュ、怯えた顔してるが」

(;゚∀゚)「あ、あぁ。どうも、右腕の痺れが止まらなくて―――」

言いかけて、言葉を呑み込んだ。

俺は今、何と言った?
右腕の痺れが、止まらない?

思い出す。
以前もこんな事があった。つーと初めて出会った時だ。
そして俺は、この事象を何と教えられたんだったか? 共振だ。

認識していない異能者の敵意を察知するセンサーみたいなものだと、そう教えられたんだ。

ならば、この胸騒ぎは腕に対しての物じゃなく―――
そう気付くと同時に、背筋に厭な寒気が走った。
これは、つまり。

目の前で床に横たわる矮躯に視線を飛ばす。
何かプレッシャーのような物を感じ、途端、右腕の痺れが治まった。


87 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:31:08.43 ID:GxIgnv3j0

 
(;゚∀゚)「!? ダメだ、二人とも! 退け!!」

从;゚∀从「っ!?」(´∀`;)

その声に、二人は近付いた分を後退する。
直後、ジョルジュも飛び退る。が

(;`∀゚)「痛ッ!!」

鈍い音。ジョルジュの喉から呻きが漏れる。

痛みと熱感に眼をやれば、ジョルジュの左肩から、ナイフが生えていた。
歯を噛み縛り、それを引き抜く。血が噴き、シャツを濡らして滴り落ちた。

床に視線をやれば、そこに張り付いていたつーが消えていた。

ふと聞こえた音に、視線を横に向ける。
そこに、狂気を宿した目つきをしたつーが居た。

(;゚∀゚)「なっ……」

(* ∀ )「調子に乗るんじゃないよ、蟲が……!」

その姿が、帯を引いた。
ジョルジュは脳に響く何かを感じて、咄嗟に身を横に飛ばす。
その次の瞬間には、直前まで立っていた床が斬り砕かれていた。

鉈ナイフを振るった体勢でそこに居たつーの眼が、彼の姿をぬるりと追う。


88 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:35:20.11 ID:GxIgnv3j0

 
(;゚∀゚)「おいおいおいおい……」

彼女の視線に顔を顰め、ジョルジュは床を蹴った。後退だ。

一瞬遅れて、彼女が動く。
重く一歩を踏み出し、二歩、三歩と加速していく。
不気味なほど姿勢を前傾にし、鉈ナイフを床に引き摺りながら、彼を追った。

がりがりという床を削る音が、不吉に響き渡る。

(;゚∀゚)「ふざけんなよ……!!」

後退のステップを、次の一歩で横へ。
直後、斜めに振り下ろされた鉈ナイフが肩を掠った。
血が飛沫き、鉈ナイフはそのまま床を捉え、それを叩き砕く。

(* ∀ )「もう良い―――もう、良いさ。遊びは終わりだ」

(;゚∀゚)「大人しく寝てやがれよ!!」

床にナイフを叩き付けた体勢のまま固まり、暗く呟くつーに、ジョルジュは踏み込んだ。
ブレードに変えた右腕で、首へと容赦なく斬りつける。
だが橙の刃は、寸前に軽々と持ち上げられた鉈ナイフで止められた。

(* ∀ )「手加減して遊んでやってれば、調子に乗りやがって。ムカつくねェ。
    良いさ。あんた達が本気だってのは分かった。
    私を殺れない訳じゃないっていうのも、よーく分かった」


89 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 01:39:45.83 ID:GxIgnv3j0

 
虚ろな、しかし熱くどろどろとした感情を孕んだ瞳がジョルジュを向く。
息が詰まった。吐き気を催しそうな程の敵意と殺意、そして狂気が容赦なくぶつけられる。

(* ∀ )「なら私も本気を出してあげる。そう、遊びは終わり。
    蹂躙して、絶望させて、惨殺してあげるよ。
    残酷な子供が蟲にそうするように、ね。そう―――」

次の瞬間、ジョルジュの身がバランスを崩した。
おもむろに伸ばされたつーの手が、ジョルジュのブレードの先端を引っ張ったのだ。
刃を握った彼女の手からは血が噴き、しかしそれに関心を寄せる様子もない。

(* ∀ )「脚や触覚をもいで」

ブレードを受けていた鉈ナイフを引き、

(* ∀ )「無様に転がる姿を見て嗤って」

思いきり振り被って、

(* ∀ )「そして、殺してやる」

動けないジョルジュへ、躊躇なく振り下ろした。
重厚な刃は、彼の首を易々と跳ね飛ばせる威力を以ってして迫り―――

(* ∀ )「!!」

その瞬間。鉈ナイフを握る彼女の腕に、三本のナイフが突き立った。
前腕、二の腕、肩。
それらは一瞬、鉈ナイフに伝えられる力を遮断する。


97 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:18:44.79 ID:GxIgnv3j0

 
だが既に鉈ナイフは振り下ろされている。止まらない。
変化は、若干ナイフの速度が落ちただけだ。
数秒、ジョルジュの首にナイフが到達するまでが遅くなっただけ。

その数秒のラグの間に、事態は変わる。

从;゚∀从「殺らせるかよ!!」

横から跳び込んだハインが、ジョルジュの身体へとタックルした。
ジョルジュのブレードを握っていたつーの手が血を噴き、
鉈ナイフが掠ったハインの脇腹にも、同じく朱が広がる。

ハインとジョルジュは床に叩きつけられ、呻きをあげた。
掠ったナイフが内臓に重い衝撃を与えたのか、ハインは僅かに吐血する。

(;´∀`)「大丈夫もな!?」

モナーはナイフを投げた体勢のまま、倒れ込んだ二人に叫んだ。
そしてつーに視線を戻し、唖然とする。

彼女は痛がる素振りすら見せていなかったのだ。
腕と手から血を滴らせ、しかしまったく反応を示さない。
痛覚がない筈はない。ならば、何故だ。

何か、不振だ。何が起きている。
彼女の先程の動きも、あの虚ろな瞳も、先ほどまでの彼女と何かが違う。


100 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:24:32.00 ID:GxIgnv3j0

 
疲れきっている筈なのに、先ほどのあの速度は何だ。
あの腕力は何だ。何故痛みに反応を示さない。何故、この状況で笑わない。
そこで彼は、一つの仮定を打ち立てる。

タガが外れてしまったのか?

―――その思考と同時。
虚ろに眼の前を見詰めていた彼女の瞳が、モナーへと向いた。

(;´∀`)「ッ…………!!」

彼はその視線に、全身を貫かれたような感覚を覚えて後退り、

(;´∀`)「も、もなぁあぁぁあぁあぁぁああぁッ!!」

次の瞬間、しかし、駆けた。

厭な予感はあった。近付いてはいけないと、本能が叫んでいた。
しかしもう戻れない。ここまで来て、退く訳にはいかなかったし、そもそも退けるわけがなかった。
ならば、せめて先手を取るべきだ。

背から薙刀を抜き、下から斜めに斬り上げる。
だがつーは姿勢を低くし、更に身を傾げてそれを回避。
不自然な体勢になるも、無理矢理踏みだした次の一歩で彼女は身が倒れるのを阻止。

そして間を置かず、跳躍した。ナイフを逆手に持ち、アッパー。
モナーの喉を狙ったそれは、しかし咄嗟に突き出された石突きで受けられた。


101 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:28:33.44 ID:GxIgnv3j0

 
(;´∀`)「“仮定”―――どうやら当たりのようだもな……!」

舌打ちを漏らし、後退する。
体勢が崩れていたし、距離を詰められてしまっては不利だと判断したのだ。

しかし彼女は容赦なく、それに追従した。
モナーは眉を寄せ、「馬鹿な」と呟く。

この状況、つーの方こそ一旦退かねばならぬ筈だ。
彼女の方が体勢が崩れている上に、身体は限界の筈だ。
疲労で思うようにならない筋肉をあそこまで酷使するならば、細かく休みを入れねばならない筈だ。

何故ここで追う。不利になるだけではないのか。
精神のタガが外れたところで、筋肉は強化されない。
いくら怒り狂っていても、“戦闘の人格”だ。不利になるような事は―――

(* ∀ )「不思議そうな顔してるねェェ?」

(;´∀`)「……もな」

(* ∀ )「私が何でこんな無茶するかって? 教えてあげようか?」

その口元が釣り上がる。
楽しそうな笑み、ではない。
狂いきっている笑みだ。


103 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:33:01.67 ID:GxIgnv3j0

 
(* ∀ )「もう、どうでも良いんだよォォオッ!!」

大きく床を蹴って、飛びかかるようにしてモナーにナイフを振り下ろす。
彼はそれを薙刀で受け、顔を顰めた。
それは威力に対しても、だが、最大の理由は彼女だ。

彼女は首を限界まで伸ばしてモナーに顔を近付け、
そして不気味に首を傾け、揺らしながら、歪んだ笑みを見せつけたのだ。
まるで、これが狂気だとでも言わんばかりに。

(* ∀ )「もうあんたらを殺せればそれで良いのさ。他の事なんて知らないね。
    どれだけ身体が軋もうと、血が流れようと、筋肉が千切れようと、どうでも良い。
    もう、ここで殺せれば良いんだよ! あんた達を殺す事が第一だ!!」


从;゚∀从「マズい……!!」

モナーの戦闘を見ながら、彼女は歯を噛んだ。

心配していた出来事は本当に起こってしまった。
つーは完全に狂ってしまった―――自身の身の安全を考えない程に。
このままではマズい。最悪の事態になりかねない。

奴は今、私達を殲滅する事だけに執着している。
戦闘に勝つ事ではなく、私達を殺す事だけを。
もはや防御などはほとんど考えないだろう。殺す事が目的なのだから。

これは私達も危険だが、何よりつーが危険だ。
どうする。どう戦う。どう止める。拘束など出来るのだろうか。


104 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:37:22.18 ID:GxIgnv3j0

 
しかしそこで、彼女は首を振る。

―――今は、全力で戦うしかない。
そう、答えを出したのだ。
それしか選択肢はなく、そうしなければ彼女は救えない。

今更、戦い方などを考えたところでどうしようもない。
強いて挙げるなら『速攻』だ。戦闘を長引かせずに拘束出来れば、それが良い。

最高火力で一気に畳みかける。
結局は、両者にとってそれが一番安全だ。

从 ゚∀从「おい、行くぞジョルジュ。あの野郎、止めねぇt……」

言葉を、途中で呑み込む。
横に立っているジョルジュが、苦悶の表情を浮かべていたからだ。

彼は唇を噛み締め、心臓辺りを抑えて呻きを漏らしていた。

从 ゚∀从「おい、どうした」

(;゚∀゚)「……分から、ねぇ。何か、痛ぇ」

从;゚∀从「痛い? 打ったのか?」

問いかけに、ジョルジュは首を横に振る。


106 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:42:30.33 ID:GxIgnv3j0

 
(;゚∀゚)「そういう痛みじゃねぇんだ。何か、こう、内側からというか……。
    そういうのが、あいつを見てると、ズーンと来る」

その言葉で、ハインはすぐに精神から来るものだと気付いた。
彼女自身、その痛みには馴染みが深かったのだ。

しかし、何故ジョルジュがその痛みを患うのかは、イマイチぴんとこなかった。

从 ゚∀从「心から来る痛みだな、そりゃ」

(;゚∀゚)「心から……? 何だそら。どういうことだ」

一瞬考えて、しかし彼女は首を振る。
その痛みの理由を教えることが良いことだとは、思えなかったのだ。

怒りか、嫌悪感か……そういったストレスから来る痛みからだという可能性が高い。
それを教えればどうなる。我を見失いかねない。
気付かない方が良いことだってある。特に、この状況では。

例え万が一、憐れみや辛さを感じてくれていたとしても、それもまた、教えない方が良い。
それを自覚してしまえば、戦えなくなる恐れがあった。
辛さを自覚して、それから戦う決意を固めるまでには時間がかかる。

気付いてしまうと、人はそれから眼を背けられなくなる。
ならば初めからそれを見せぬ方が良い。
怒りだったとしても、憐れみだったとしても、教える必要はない。


107 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:47:11.20 ID:GxIgnv3j0

 
从 ゚∀从「知らねぇよ。お前自身の問題だ。
     何にせよ、この戦いが終わればそれも収まるだろうさ。
     構えろ。準備しやがれ」

ジョルジュは納得の行っていない顔で頷くと、右腕を巨大な手に変形させる。
それを目の隅で捉えると、一つ頷き、ハインは叫んだ。

从#゚∀从「行くぞ!!」

二人はまったくの同時に、床を蹴った。


つーの猛攻の前に、モナーは防戦一方になっていた。
受けても往なしても躱しても、どこまでも攻めの手は追ってくる。
どころか、どうにか攻め返しても、構わず攻撃してくるのだから堪らない。

彼女は言葉通り、自身の身を案ぜず、間断ない攻撃を展開していた。

(* ∀ )「ァァァァァァァァアアアアアアッ!!」

(;´∀`)「くっ……!!」

叩き付けられる鉈ナイフを、薙刀を横にして受ける。
重い衝撃が全身に走り、直後に腹部に痛みが来た。
前蹴りが放たれていた。身体が折れ、力が一瞬、抜ける。


109 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:51:21.16 ID:GxIgnv3j0

 
(;´∀`)「しまっ―――!」

無理矢理上げた視界の上端に、再度振り上げられたナイフが映った。
それは鈍く光を受け、そして尾を引いて振り下ろされる。
歯を噛み縛り、来る苦痛に備えた。

だが寸前で、ナイフの軌道に横から黒が割り込んだ。歪剣だ。
モナーの表情が明るくなる。

(;´∀`)「ようやく来てくれたもな……!」

从 ゚∀从「悪ぃな!!」

ハインは歪剣でナイフを弾き上げつつ、身を旋回。
横から振り抜いた銀の歪剣で、つーの脇腹を切り裂いた。

赤が散り、しかしつーは一切の反応を見せない。

( ゚∀゚)「おら、もっかいおねむの時間だぜ!!」

彼女の背後で橙の巨大な手が振り上げられ、振り下ろされる。
しかしそれは彼女を捉えられない。彼女は前へと床を蹴って、それを回避していた。
―――否、回避したのではない。攻撃の為に、前へ出たのだ。

標的は、後退しようとしているモナーだ。


111 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/11(日) 02:55:17.21 ID:GxIgnv3j0

 
(;´∀`)「またかもな……!!」

モナーは薙刀を前に構え、更に後退しようとして

从#゚∀从「退くな!!」

ハインの声に、脚を踏ん張らせた。

从 ゚∀从「このまま、さっきの戦いをやるぞ!!
      囲め! 互いに補佐し合え! 自らを囮にチャンスを作り、隙を狩れ!!
      相手がぶちギレたからって怯えんな! ここまで来たんだ、勝つぞ!!」

二人は声もなく、小さく頷く。
それからつーを囲む立ち位置を取り、得物を構えた。
つーは尚も抗う意志を見せる彼らに、憎悪を滾らせる。

(* ∀ )「上等だ……やってごらんよォ!!」

ナイフが振り上げられ、応じる三人が同時に動いた。






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