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LOYAL STRAIT FLASH ♪

第一話

1 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:38:06.54 ID:KaUUj71H0
プロローグ

闇夜の下で男は人生の終焉を悟った。
最早望むことも、願うことも何もないような気がしていた。
それでいて生きながらえる、そういう自分の醜さに、ついに耐えられなくなったのだ。

歩んできたのは悲劇だろうか。
男は考える。
いや、悲劇ではなく、むしろ喜劇だ。

一人の男が転落していく、ブラックコメディだ。
聴衆の涙など誘わない、ただ嘲笑をいただければそれでいい。

少し大きな木の太い枝にロープを輪状にして取り付ける。
それに首を通して……後は、台の上から足を外せば全てが終了する。

「ごめんなさい」

かつて愛した対象に向けて呟き、男は目を閉じた。

最期に台の倒れる音を聞いた男の命の灯火は、やがて混濁の海の中で消え果てた。

公園に広がる暗澹は、深く呻いているようでもあった。



( ・∀・)二十年後、モララーはしょぼんに出会うようです(´・ω・`)

2 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:38:58.11 ID:KaUUj71H0
第一話

父はどうやら十年以上前から僕に個人経営のカフェバーを引き継がせることに決めていたらしい。
だから僕は中学生になった頃からマスターとしての技術を教え込まれていたのだろう。
そもそも酒を扱う仕事なのによかったのだろうか、と今では思う。
でもその時の僕は父が作る種々のカクテルに興味津々だったのだ。

すでに死語だが、父が子供の時、カフェバーは全国的な流行を見せていたらしい。
今でもそのような、喫茶店と居酒屋を組み合わせた形態のお店はあると思うが、
臆面もなくカフェバーと称している店はそうそう無いんじゃないだろうか。

父はいつも口を酸っぱくして僕に言い聞かせていた。

「マスターは、常に黙していなければならない」

と。
実際、父はカウンターの中ではほとんど喋らず、ただ無言で注文された料理を出すだけだった。
それが好かれていた理由なのかもしれない。父には常連がたくさんついていた。
当時はその理由がよくわからなかったが、今はなんとなく理解できる。
なぜなら、今は僕がマスターとしてカウンターに立っているからだ。

カレンダーで日付を確認する。
一月六日 火曜日。
父が亡くなって、四ヶ月が経過した。

4 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:39:26.63 ID:KaUUj71H0
今日が「バーボンハウス」、新年初の開店日だ。
午後三時から十一時まで。定休日は基本的に水曜日のみ。
個人でかつ怠惰な経営をしているのになんとかやっていけるのは父の時代からの常連様がたくさんいるからだろう。
新規のお客さんがあまりいないのは少々問題かもしれない。

時折友人が訪ねてくる。
彼らはほとんど必ず「お前、何か違うな」と言って帰る。
それはそうだ、僕は普段と違い、無口を貫き通すのだから。
そんな僕がつまらないのだろう、二度来る友人は滅多にいない。
まぁプライベートではよく会ったり話したりするから僕も特に気にしていない。

朝早くからまったりと準備する。
ひいきにしているお店から材料やお酒を仕入れたり……父がやっているのを横で見ていたはずなのに、未だに慣れない。
そうやっているうちに開店時間が来る。
昼間、午後六時までは普通の喫茶店、それから二時間準備期間をおいた後、閉店時刻まではバーとして機能する。
今日は平日だから、昼間はあまり人がこない。
三人グループのOLと、高校生カップルが二組来店しただけだった。
正直、カップルを目にすると鬱屈とした気分になってしまう。

夕刻からがかき入れ時だった。
会社帰りのサラリーマンが数人、ふらふらと訪れてくれた。
それに火曜日は五人ばかり、常連さんが来ることになっていて、今日も予定通りみんな顔を出してくれた。
彼らはいつも同僚らしい人を連れてきてくれるからこちらとしては助かる。

6 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:39:50.80 ID:KaUUj71H0
時々、自分はちゃんとマスターとしての仕事がしっかりこなせているのかと不安になる。
それは考えても仕方のないことだ。僕が半人前にも満たないのは自覚しているし、お客さんを満足させることができているとも思わない。
でも時々父を知っている人から投げかけられる「しょぼんくんの酒も美味いよ」「お父さんに追いつける日も近いだろうね」などといった言葉は全て元気に変換されていた。
最近僕に悩みを打ち明けてくれる人も増えたし(前述通り、僕が返事することはないのだけれど)、一時落ち込んでいた客数も徐々に回復し始めている。
それを、僕が経営する「バーボンハウス」が波に乗り始めたのだと解釈している。
とても嬉しく、また自信の根源にもなっていた。

最後のお客さんが「ごちそうさまでした」と店を出て行く。
ふと壁にかかっている時計を見ると、閉店時間まであと十分ほどだった。
開放感から、一つ溜息が床に落ちた。これから来るお客さんもいないだろう、後片付けでも始めないと。
そう思い立った矢先だった。
クラシックのBGMの中、入り口のドアが開いたことを示す鈴の音が僕の耳に流れ込んだ。

振り返ると、そこに見慣れた顔ともう一つ、見慣れない顔が立っていた。

(´・ω・`)「……いらっしゃい」

( ゚∀゚)「おう、しょぼん。五日ぶりぐらいだな」

ショルジュさんはそういって、陽気に手をあげた。
顔が紅潮しているところをみると、すでにずいぶん飲んでいるらしい。
彼もまた、父の時代からの常連さんだ。確か最近五十代になったばかりのサラリーマン(自称窓際族)。
そして何より、無類のお酒好き。

7 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:40:37.78 ID:KaUUj71H0
そんなジョルジュさんの後ろで、旅行カバンみたいなものを持ってボーッと突っ立っているのは僕の知らない人だった。
年齢は……僕と同じぐらい……二十五歳周辺だと思う。地味なコートを着込んでいて、一見浮浪者に見えなくもない。
そして何か、近寄りがたいオーラを全方向に放っている。

ジョルジュさんは大抵一人でやってくる。だから誰かを連れて、というのは珍しいことだった。
腕時計を確認しながら、ジョルジュさんはカウンターの一席に座った。
隣に立ったままのコートの人も、ジョルジュさんに促されて座る。
視線が宙を彷徨っている……放心しているんじゃないだろうか。

( ゚∀゚)「ちょっと聞いてくれよ、しょぼん……ああ、閉店間際だってことはわかっている。
     すぐに帰るさ」

そういって、彼が三十分以内に出て行ったことがない。

( ゚∀゚)「ついにこの前の日曜日、家内に逃げられちまったよ。しかも子供たちまで連れてな
     ……いや、そりゃ俺も悪いとは思うぜ?
     毎日毎日飲んだくれてよ、でもそいつは性分だから仕方ねえよな。それに金はちゃんと家に入れてるってんだ。
     ……ったく、家事なんて俺、生まれてこの方やったことねえんだ。これからどう生きろって言うのかね。
     あ、適当に酒をくれ」

8 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:40:54.77 ID:KaUUj71H0
愚痴だけで終わるかと思っていたけどそう甘くはないようだ。
後片付けの手を止めて、僕は背後の棚からグラスを一つ取り出す。
その途中、横目でコートの人を観察してみた。気のせいか、さっきより表情が強張ったようだ。

( ゚∀゚)「いやあ、しかしここまで落ちぶれても酒飲みだけはやめられねえな。
     今日も今まで駅前で飲んでたんだよ。アル中ってのは大変だぜ、なあ?」

ガハハ、と笑うジョルジュさんに黙って水割りを差し出す。
それを一息であおったところで、ジョルジュさんは隣の人の存在に気づいたらしい。

( ゚∀゚)「ああ、そうだ。今日は酒を飲みに来たんじゃねえんだよ。
     こいつなんだが……近くの路上で拾ったんだ」

(´・ω・`)「拾った?」

僕は思わず聞き返していた。
ジョルジュさんは頷いて、僕に水割りのおかわりを要求する。

10 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:41:24.97 ID:KaUUj71H0
( ゚∀゚)「近くのビルの近くに座り込んでやがったんだ。
     最初はホームレスの類だと思ったんだが……見ろよ、知的な顔をしてるだろ?」

とりあえず判断基準がおかしいと思う。
でも言われてみればその通りで、コートの人からは年齢に不相応な何かが感じられた。
ただ押し黙ったままの男の人をしばらく見つめていると、ジョルジュさんは突如身を乗り出した。

( ゚∀゚)「まぁそういうわけだから、しばらく預かってくれ」

(´・ω・`)「はい?」

本日二度目の聞き返し。
コートの人もびっくりした表情でジョルジュさんを見た。
この人はいきなり何を言い出すのだろう。
まぁ、基本的に自分勝手であるとはうすうす感づいてはいたけれど。

( ゚∀゚)「いいじゃねえか、歳も同じぐらいだし話も合うだろ。
     ……大丈夫、俺を信じろ。」

無理だ。ともかく断ろうとして口を開きかける。
しかしその頃には、ジョルジュさんは「帰るわ」と宣言し、財布からお札を一枚、カウンターにおいていた。
再び鈴の音色が響く。
僕は新しくつくったばかりのカクテルを手に、呆然と立ちつくしてしまった。

□□□□□□□□□

11 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:41:47.00 ID:KaUUj71H0
タイムスリップ及び未来というものに憧れたのはいつ頃からだったろうか。
おそらく、小学校時代だったと思われる。
特に急ぐ必要もなかっただろうに。あの頃、未来は絶対にやってくるものだったはずだ。
その頃の私はとかく漫画を読むことが好きで、特に「ドラえもん」が大好きだった。
未来からやってきた青狸は、私のような落ち零れ少年を手助けし、成長させる。
とはいえ、当時の私にとってドラえもんはただの便利屋としか映っていなかったのかもしれない。

夢を実現させようと本気で思いはじめたのは大学に入学したての頃、両親が交通事故で死んだ直後のはずだ。
裕福な家庭だったため、遺産は十分すぎるほど相続できた。親族と呼べる人間がいなかったことも幸いした。
近くの静かな小山の中に無断で小屋を建て、そこを研究所と称して引きこもった。

タイムマシンなどできるわけがない……そんな当然すぎる意見が周囲を席巻していた。
だが私には関係なかった。ひたすら夢……いや、むしろ確実に到来するとわかっている先の時代に突き進んだ。
そして、完成させた。
まるでカプセルホテルの個室のような空間は独自の理論上時空を超えることができる。

過程にはいろいろあったような気がする。
まず、結婚したのは確定的な事実だ。

それを完成させたとき、私はほとんどのものを失っていた。
妻も、娘も、財産も。最早後ろに道はなかった。
ひたすら前に進むほか、生きることは難しくなっていた。

13 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:42:15.74 ID:KaUUj71H0
三メートル四方の小屋は夏の熱気で充満している。
中には卵のような形状の物体が一つと、様々な工具類、それにコードで繋がれたパソコンが数種。
卵には人一人が入れるよう設計されている。殻の中は殊更暑いことだろう。
この場に空調を設けなかったのはミスだったか、などと今更考えてみる。

汗を拭い、最後のキーを押した。
途端。卵の殻は真ん中で割れ、空間が露わになる。
そこにはあらかじめ、札束を一つと必要な衣類を詰めたカバンを入れておいた。
さながら、旅行気分である。
蝉のけたたましい叫び声が、木製の壁の向こう側から耳を刺した。

年代を2100年と設定する。
それから、遠隔操作用のリモコンを掴んで卵の中に足を踏み入れた。
毛布一枚だけ敷かれた卵の底に横たわる。リモコンを操作し、卵の殻を閉じた。

全ての音が遮断された。無音の空間で目を閉じ、これでいいのかとしばらく黙考する。
だが、すぐさま考えることなど何もないことに気づいた。
もう後悔するべき事項は残っていないのだ。
妻は物心つかぬ娘を抱き、二日前に家を出た。それで、私と繋がりのある親族はいなくなった。
定職に就いていたわけでもない。誰かが、私がいなくなったと気づいても行方不明と処理され、それまでだろう。

リモコンの、一際大きな赤いボタンを押し、再び目を閉じた。
今度目覚めたときには約百年後に時間跳躍……もとい、タイムスリップしていることだろう。
静かな電子音が、私の体を包んだ。

14 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:42:37.59 ID:KaUUj71H0
気がつくと、電子音は途切れていた。
果たして成功したのだろうか……殻の中からでは判断できない。
頭の上にあるスイッチを押そうとしてしばし思い悩む。

目の前に、どのような世界が広がっているだろうかと。
核兵器で破壊された街の風景だろうか。或いは、漫画で見るような近未来都市だろうか。
地球温暖化の影響で水浸しになった街かもしれない。

そのような期待を胸に抱きつつ、私は卵から外界に踏み出した。
途端、寒風が私の肌を突き刺した。
そういえば、季節について全く考慮していなかった……いや、考慮していない事項は他にも山ほどあるが。
とりあえず旅行カバンから手頃なコートを取り出して身に纏う。

小屋を出ると、葉を落とした森林が闇の中に鬱蒼と生い茂っていた。
今が何時頃なのか……知る術は無い。ただ、夜であることは明らかだ。
そのまま草地を歩いて近くの道に出ようとする。
妙な不安が私を襲っていた。
視界を流れる光景が、一つも変わっていないからだ。

15 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:42:53.96 ID:KaUUj71H0
一時間ほどかけて街まで下りて、私は更に驚愕した。同時に絶望した。
夜景を見下ろしているときから嫌な予感はしていたのだが、それは的中してしまっていた。
街はほとんど変わっていない。
ところどころ、道路が舗装されている。古い一軒家の代わりに、新しい三階建ての家が建っている。
それだけだ。目新しい変化は何も無い。
住宅街を歩けば時折犬の遠吠えが聞こえる。
国道に出れば、ヘッドライトを輝かせながら車がいくつも目の前を通過していく。
車種に詳しくないのでよくわからないが、それらが目立った進化を遂げたようにも思えない。

そういえば、行き交う人々の服装もあまり変わっていない。
むしろ、私の知る時代より少し遡っているような気もする。

失敗の二文字が頭をよぎって、私は早足になってコンビニを探した。
とりあえず、今が西暦何年なのか、確認したい。

行きつけのコンビニは潰れてしまって新地と化していた。
駅前まで歩いてやっとコンビニを発見した。
旅行カバンを持ち歩いていることもあり、私はすでに満身創痍だ。

店内に入ってすぐ隣にあった新聞コーナーから売れ残った新聞を一つ抜き取った。
暖風が降ってくるなか、私はスポーツ新聞の上端に目を走らせた。

そこに書いてあったのは、私がタイムマシンを作動させて、ちょうど二十年後の四桁だった。

16 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:43:15.98 ID:KaUUj71H0
夜風が顔に突き刺さる。
私はおぼつかない足取りでどこかに向かっていた。
とりあえず暗いところへ……と思っていた。

私の行動は二割ばかり成功していた。
未来に行くには行けたが、2100年からはあまりにもかけ離れている。
これから普通に人生を送ったとしても22世紀を迎えることはできないようだ。
ドラえもんにも会えない。

おそらくタイムマシンの故障が原因だろう。
約百年跳躍しなければならないところを、途中の二十年で停止してしまった。
だとしたら、未来に行けただけでも幸運なことなのかもしれない。

しかしこれでは意味がない。
私はもっと、遠い時代が見たかったのだ。
そこにあるのがたとえ絶望でも……である。

ふと立ち止まる。
そもそも、未来に来て自分はどうするつもりだったのだろう。
旅行カバンに目を落とす。
そこに入っているのは何日分かの衣類と、少しの小物だけ。
とても未知の世界で生き抜ける装備ではない。

17 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:43:36.53 ID:KaUUj71H0
いや、そんなことはどうでもよかったのだろう。
私はともかく前へ進みたかったのだ、長年の夢を、叶えたかったのだ。
そして逃げたかったのだ。
ただそれだけのために未来にやってきた。
その後のことなど知ったことか、のたれ死にするならそれも運命でしかない。

古びたビルの入り口に座り込む。
そこは街灯もほとんどない、延々と暗闇が広がる場所だった。
二十年前、何度か通ったことがあるような気がする。
あまり変貌したわけでもない、捨て去られたような裏路地だ。

しばらく思考に沈む。
これからどうするべきかを真剣に考えてみる。
最善はおそらく、タイムマシンを修繕して更に先の時代へ飛ぶか、元の世界に帰ることだろう。
しかしそれにはリスクがまとわりつく。
またも失敗したらどうなるだろう。今度こそ、助からないやもしれない。

それを恐れているというわけでもないのだが、ともかく今は疲れている。
何をする気にもなれないのだ。
旅行カバンに顔を埋め、眠るつもりもないが目を閉じた。

18 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:44:06.01 ID:KaUUj71H0
( ゚∀゚)「……おおう?」

奇異な声が至近距離から聞こえてきたので顔を上げてみる。
そこに、だらしなくスーツを着こなしている中年親父の典型みたいな男が立って、こちらをのぞきこんでいた。
息がやたらと酒臭い。

( ゚∀゚)「なんだお前……ホームレスか何かか?
     いや、それにしちゃあ知的な顔してるよな」

驚くほど馴れ馴れしい口調で話しかけてくる男。
一つ訂正したい。私の顔は知的でなく、病的の方が正しい。
どうやら五十過ぎらしい中年男は私に興味を持ったらしく、更に言葉を続けた。

( ゚∀゚)「俺はジュルジュってんだが、お前は?」

( ・∀・)「……モララー」

何も考えずに答えてから、しまったと心の内で呟いた。
ここは二十年後の世界である。
もしかしたらこの男は私のことを知ってしまっているかもしれない。
あまつさえ、知り合いである可能性すら存在するのだ。

20 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:44:50.20 ID:KaUUj71H0
だが、男は私の身分に気づいた様子もなく、ただ知らねえな、と呟いただけだった。
私にも彼に見覚えはない。
安堵している私に、しつこい男の質問は続いた。

( ゚∀゚)「行く場所、ねえのか?」

( ・∀・)「……特に、どこにも」

( ゚∀゚)「ホームレスなのか?」

( ・∀・)「住むべき家はおそらくありません」

あまりのしつこさに立ち去ってやろうかと思う。
しかし体が地面に粘着し、なかなか離れない。
のしかかる疲労の中、だんだん男の言葉が曖昧に聞こえてきた。
だから私も曖昧に返事をし続けた。どうせ、大したことのない問答だと思いこんでいたのだ。
しかし、次の瞬間男は私の腕を引き強引に立ち上がらせた。

( ゚∀゚)「じゃ、行くか」

( ・∀・)「……どこに?」

( ゚∀゚)「言っただろう?
     バーボンハウスだ、すぐそこにある」

22 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:45:06.62 ID:KaUUj71H0
いつの間にか、どこかへ行く案配になっていたらしい。
この歳になって誰かに手を引かれるというのもなかなか味わえないものである。
かといって、決して味わいたくないが。

歩くこと五分。
三階建ての小さなビルのような建造物が目に入った。
一階部分に「バーボンハウス」と英語で記された看板が輝いている。
その前で男は立ち止まった。どうやら、ここが目的地らしい。

鈴の音が扉の上部から響き渡った。
カウンターに立つ若い男が軽くお辞儀をした。

(´・ω・`)「……いらっしゃい」

( ゚∀゚)「おう、しょぼん。五日ぶりぐらいだな」

23 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:45:37.75 ID:KaUUj71H0
それほど広くない店内にはカウンターに椅子が六つ。
そしてテーブルが二つとそれぞれに椅子が四つ。
内装は喫茶店のようで、だが若い従業員の背にある棚はバーのようで。
カフェバーというやつだろうか。
クラシック音楽が流れ、非常に落ち着いた雰囲気が漂っている。

従業員は彼一人なのだろうか。だとすれば、彼が店主か。
私と同程度の若さだということに、少々驚きを覚える。

促されるままカウンター席に座り頬杖をつく。
隣で行われる会話はほとんど耳に入らなかった。
しかし、男が従業員に一方的に話していることはなんとなく感じ取れた。
だが一部分、そこだけ妙に大音量で耳を刺したような気がした。

( ゚∀゚)「ついにこの前の日曜日、家内に逃げられちまったよ。しかも子供たちまで連れてな
     ……いや、そりゃ俺も悪いとは思うぜ?
     毎日毎日飲んだくれてよ、でもそいつは性分だから仕方ねえよな。それに金はちゃんと家に入れてるってんだ。
     ……ったく、家事なんて俺、生まれてこの方やったことねえんだ。これからどう生きろって言うのかね」

24 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:45:55.98 ID:KaUUj71H0
直後、従業員が私の顔を観察していることに気づいた。
気取られただろうか。

以後も会話は続き、私は暇を持てあましていた。
ここにきて眠気が襲ってくる。
そして睡眠の中に落ち込みそうになったとき、男が席を立つ音が聞こえた。

( ゚∀゚)「帰るわ」

閉まる木製の扉。鈴が鳴る。静かな店内に二人取り残された。
店主は私を見やりながら片付けを始めた。
……なんなのだろう、この状況は。


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