第一話3 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:16:01.60 ID:BhbTGWmH0その男はコンピューターに向かい、キーボードを叩いていた。 黒い背景に映し出される白い文字は、徐々にその量を増やしていく。 狭い部屋。照明と呼べるものはない。 ???「ここでヒロインが死ぬんだよな。それで主人公が覚醒して……」 独り言を呟く。不気味に笑う。 ???「いや。待てよ……主人公がヒロイン諸共敵を倒すってのもありだな……フヒ、ッフヒヒヒヒ」 ???「ここはフリーにして……」 完成は、間もなく。 ???「……ありゃ……これは」 ???「しまったな……」 ・・・ ・・ ・ 4 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:17:04.54 ID:BhbTGWmH0 第1話 ぼくのせいじゃないお。 ーーー朝 ブーンの家ーーー ( ^ω^)「……お?」 どんよりとした朝。 スズメがさえずる五月の中旬。 ベッドから起き上がり、ふと自分の手を見たブーンは数秒のタイムラグのあと、奇妙な声をだした。 ( ^ω^)「なんだお? これ」 右手の甲に赤い何かが輝いている。 ( ^ω^)「……」 紋章だった。 奇妙な文字が刻まれた円形の紋章。 左手でこすってみる。変化はない。どうやら、ペンで描かれたものではないようだ。 6 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:17:37.48 ID:BhbTGWmH0 ( ^ω^)「えーっと」 とりあえず、ブーンは困惑した。 それもそのはずである。 その紋章はどう考えてもそこに存在すべきものではない。 ゲームや映画、あるいはマンガの中の登場人物が持っているべきものである。 それも、コテコテのファンタジーモノの主人公が。 ( ^ω^)「うは……なんだお……気持ち悪いお……」 高校二年生のブーン。 幻想的な世界に興味を持たなくなり、むしろ嫌悪感を抱くようになるお年頃である。 そんなブーンが自らの紋章を気持ち悪がるのも当然のことだ。 J( 'ー`)し「ブーン! 起きたんならさっさとメシ食って学校行きなさいよ!」 階下から母の声が聞こえてくる。 ( ^ω^)「わかったお!」 若干イラついた声色で、ブーンは叫び返した。 7 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:18:38.71 ID:BhbTGWmH0 ーーー学校ーーー ( ゚∀゚)「なんだ、その手袋は」 通学路では知り合いに遭遇せずに済んだのだが、教室ではそういうわけにもいかない。 席についた途端、知り合いで、尚且つ不良気味のジョルジュが話しかけてきた。 ( ^ω^)「いや……えーっと」 緊急策として片方だけ手袋をしてきたブーン。 不自然にもほどがある。 ( ^ω^)「け、ケガしてるんだお……」 ( ゚∀゚)「ケガ?」 ( ^ω^)「イエス」 ( ゚∀゚)「……へーぇ……って」 ( ゚∀゚)「てめぇ、何見てんだよ」 ('A`)「え……」 9 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:19:24.35 ID:BhbTGWmH0 ジョルジュが席に座っている一人の男を睨みつける。 その男は若干身体を震わせ、口をモゴモゴと動かした。 彼はドクオ。 一年の頃から、不条理にもいじめの標的にされた男である。 ( ゚∀゚)「うぜえんだよ、見てんじゃねえよ!」 ドクオに近づき、机を蹴飛ばす。 周囲の人間はまた始まったか、とばかりに一度向けた視線を元に戻した。 ブーンも同様である。 ('A`)「あ、ご、ごめ……」 ( ゚∀゚)「……んん? これは」 ('A`)「あ……」 ジョルジュがドクオの机にあるものに目を留めた。 そしてそれを、何のためらいもなく取り上げる。 ( ゚∀゚)「なんだこりゃ……電子辞書?」 最近流行の電子辞書だった。 おそらく、3万円程度の代物だ。 10 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:20:24.39 ID:BhbTGWmH0 ('A`)「そ、それ……か、カーチャンがか、買ってくれ、た……」 ( ゚∀゚)「しゃべり方がきめえんだよ!」 いちいちどもるドクオに、ジョルジュがすごむ。 ( ゚∀゚)「ッ……イライラするなあ、おい……そうだ」 何かを思いついたらしく、ジョルジュは愉悦の表情を浮かべた。 ( ゚∀゚)「これも逆パカできるんじゃね?」 ('A`)「……」 ( ゚∀゚)「お前頭いいもんな? こんなもん必要ねーよな?」 ('A`)「いや……」 ( ゚∀゚)「よいしょっと」 最初から答えを聞くつもりなどない。 開かれた電子辞書の両端を持ち、ジョルジュが力をこめた。 11 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:21:05.99 ID:BhbTGWmH0 バキッと、乾いた音が響く。 細かいプラスチックの破片が床に散らばった。 ('A`)「……」 ( ゚∀゚)「あーあ、壊れちった」 真っ二つに分裂した電子辞書をジョルジュはドクオの机の上に放り投げた。 ('A`)「……」 ( ゚∀゚)「……ッ!」 ( ゚∀゚)「だから見るなってんだろうが! クズが!」 今度はドクオの足を蹴る。 13 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:22:25.75 ID:BhbTGWmH0 そんな光景を、ブーンは他のギャラリー同様、目を向けることもなく音だけを聞いていた。 ( ^ω^)(ドクオも不幸な奴だお) そんなことを思ってはいるが、哀れみの気持ちなど欠片も持っていない。 所謂、偽善だ。 ちょうどよくチャイムが鳴った。 破片をかき集めるドクオを尻目に、ジョルジュは自分の席に戻っていく。 ( ^ω^)(それにしても……) ( ^ω^)(このマーク……どうやったら治るんだお?) 外科にでもいけば治るのだろうか。 14 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:23:21.59 ID:BhbTGWmH0 ーーー放課後 路上ーーー チラ、と手袋の中を覗き込んでみる。 変わらず、紋章はそこで輝いていた。 ( ^ω^)「あーあ……鬱陶しいお……」 手袋でごまかせるのも短期間だろう。 とはいえ、対処法が見つかっているわけでもない。 ブーンのテンションは右肩下がりだ。 ( ^ω^)「……あ」 ( ^ω^)「弁当箱忘れてきたお……」 不安によるものだろうか。 ブーンは自分の弁当箱が机に引っ掛けたままであることを思い出した。 振り返った先にある学校を見る。 まだそれほど距離は歩いていない。 ( ^ω^)「……取りに行くお」 15 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:24:22.60 ID:BhbTGWmH0 ーーー教室付近 廊下ーーー すでに生徒はクラブ等で引き払っていた。 ちなみに、ブーンは帰宅部である。 ( ^ω^)「相変わらず階段はキツいお……」 そんな愚痴をこぼしつつ。 ブーンは5階の端にある自分のクラス、2年5組に向かう。 放課後、あまり時間も経っていないのに5階のフロアは閑散としていた。 あまり居残ることのないブーンは少々の驚きを覚える。 薄暗い廊下は、恐怖心を煽る。 ( ^ω^)「……さっさと帰るお」 無意識に、そんなことを呟いていた。 16 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:25:17.79 ID:BhbTGWmH0 小走りで教室に向かい……扉を開いた。 そこでブーンは、軽く硬直した。 一つの人影がそこにある。 それは窓の外に半身を乗り出していた。 正体は明らかだ。 ( ^ω^)「ドクオ……」 ところどころほころびている制服。 いじめの痕跡でもある。 まだドクオはブーンに気がついていないようだ。 元々薄い存在感が今や皆無に近い。 なんとなく気付かれてはいけないような気がして、ブーンはそろり、そろりと自分の机に歩いていく。 だが、そんなときに限って。 17 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:26:37.61 ID:BhbTGWmH0 教室内に高い音が響いた。 ブーンが机を蹴飛ばしたのである。 瞬時の動きでドクオが振り向く。 ('A`)「あ……」 ( ^ω^)「ど、ドクオ……」 そもそもブーンとドクオが会話を交わすことはほとんどない。 あるとしてもそれは必要最小限の、事務的なものだけだ。 加えて現状を漂う雰囲気の重さ。気まずいことこの上ない。 ('A`)「な、なんだよ……」 ドクオが震えた声を出す。 ( ^ω^)「いや、別に。忘れ物を取りにきただけだお」 ブーンは正直に答えたのだが、それでもドクオは緊張を解こうとはしない。 ( ^ω^)「何をそんなにビビッてんだお……? ここにジョルジュはいないお」 ('A`)「な、う、うるせえよ!」 ドクオの声は台詞の途中で裏返ってしまった。 しかし彼にしては珍しい、反抗の台詞だった。 ブーンが疑問を覚えた、次の瞬間である 20 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:28:01.52 ID:BhbTGWmH0 ('A`)「へ、ヘヘ……フヒハエヘヘエエヘヘぇぇ」 突如、ドクオが奇怪な声で笑い始めた。 ( ^ω^)「な、なんだお?」 ('A`)「ブーン……お、俺は……おれはしぬぞお……」 ( ^ω^)「は?」 一瞬、理解できなかった。 ('A`)「死ぬつってんだよ……お、お前らのせいだからな!」 ( ^ω^)「ぼ、ぼくかお?」 流石にその言葉は予想外だった。 ブーンは、彼には極力関わらなかったつもりである。 ('A`)「い、遺書にお前の名前書いてやった……お前と、ジョルジュ! これでお前の人生おしまいさぁ……!」 ( ^ω^)「!」 実際問題、一通の遺書ごときにそれほどの効果はないと思われる。 しかし現在のブーンは、冷静に判断する能力を失っていた。 とにかく、焦った。 22 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:28:46.14 ID:BhbTGWmH0 ( ^ω^)「死ぬなお! ドクオ!」 ('A`)「う、うるせぇよ! こ、こっから飛び降りたら死ねる! 頭がぐしゃってなって終わり、終わりだ!」 両者共に半狂乱。 ブーンは急いでドクオに接近する。 ('A`)「く、来るんじゃねえ!」 ドクオは怒鳴りつつ、足をかけて外に飛び出そうとした。 直下にあるのはあまり手入れされていない中庭。この時間、人通りはない。 ( ゜ω゜)「ドクオ!」 雰囲気に飲まれたのか、ブーンは必死だった。 そのときである。 手袋の下の、紋章が。 紅く、輝いた。 24 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:30:10.49 ID:BhbTGWmH0 ('A`)「!?」 その輝きを目撃したドクオの動きが止まる。 しかしブーン自身は全く気付いていない。 ブーンの手がドクオの肩を掴む。 ('A`)「!」 ( ゜ω゜)「うわああぁぁあぁああ」 瞬間、ブーンの右手は炎に包まれた。 炎は手袋を焼き尽くし、紋章を露出させた。 通常ではありえないスピードである。 炎はその後。 ドクオを食うように、包み始めたのだ。 ('A`)「グェぇえええああああぁああああぁぁぁぁァァァ」 ドクオが消化物の全てを吐瀉するような悲鳴をあげた。 26 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:31:06.94 ID:BhbTGWmH0 ( ゜ω゜)「え……?」 一方のブーンは目の前の状況が理解できない。 炎はドクオの皮膚を溶かす。だが、ブーンには一切危害を加えない。 焼かれたはずの右手も全くの無傷である。 自失するブーン。 だが、目の前でドクオが焼かれている……それを理解すると同時に、ブーンがドクオから飛び退いた。 ('A`)「ゴブッ……」 ( ゜ω゜)「ぼ、ぼくは……」 最初に出てきたのは言い訳の言葉だった。 ( ゜ω゜)「ぼ、ぼくは何も知らないお……こ、この手が勝手に……」 ドクオが燃える。 すでに口も焼かれたのか、声もあげない。 ブーンは自分の右手を見た。 紅く輝く紋章…… 29 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:32:41.83 ID:BhbTGWmH0 ( ゜ω゜)「うわあああああぁあああああ!!!!」 ブーンは叫んだ。 そして紋章を掻き毟った。必死に掻き毟った。 皮膚が破れ、血が滲む。だが紋章は消えない。ひたすら、紅く輝いている。 ごとり、と音がした。 見ると、すでに黒い肉の塊となったドクオが床に転がっていた。 木製の床も、若干焼け焦げている。 ( ゜ω゜)「な、なんだお。なんなんだお!」 目の前に遺体が一つ。 それは、ブーンの日常が瓦解した証拠でもあった。 31 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします[sage] 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/25(佐賀県職員) 20:34:36.66 ID:BhbTGWmH0 ( ゜ω゜)「ぼくのせいじゃないお、ぼくのせいじゃないお!」 普段は観衆でしかなかったブーンは叫ぶ。 誰かに向かって弁解の台詞を叫ぶ。 当然、誰も聞いてくれない。 そう、心の中で感じていた。 しかし。 ???「……うるさい」 聞いていた人物は、背後にいた。 いつの間にか、背後にいた。 |