三十三章二(*゚∀゚)「……はぁ」 部屋に戻った彼女は、憂鬱そうに溜息を吐いた。 (*゚∀゚)「戦いなんて、したくないなぁ……」 呟いて、ベッドに腰を降ろす。 傷付く事は嫌だ。 誰かを傷付ける事はもっと嫌だ。 (*゚∀゚)「でも……」 彼女は、自分の胸に手を当てた。 己の内側に存在する彼女は、そんな事は想わない。 喜々として人を傷付け、殺めるだろう。躊躇なんて、そこには欠片もない。 そして彼女は、段々と自分の領域を広げてきている。 最近では、気を抜けばすぐにでも乗っ取られてしまうほどに。 そして乗っ取られてから戻って来る事も、最近では困難になってきている。 最初は軽く祈るだけで戻れたのに、今となっては、彼女の中で暴れないと戻れない。 何故彼女が領域を広げてきているのかは分かっている。 自分が彼女である時間―――戦ってる時間が長引けば長引くほど、彼女は自分の領域を広げられるのだ。 それに気付いたのは最近―――危なくなってからだ。 (*゚∀゚)「嫌。嫌だよ。怖いよ。 ……戦いなんて嫌。私が私じゃなくなるなんて、嫌だよ」 つーは、戦う事に―――もう一人の自分に恐怖していた。 戦えば、自分はおろか、誰かが傷付く。殺してしまうかもしれない。 戦えば、彼女は更に自分の領域を広げる。戻れなくなってしまうかもしれない。 戦えば、どんどんと大切なものを失ってしまう。 ……戦いたくなんて、ない。 (*゚∀゚)「どうすれば……」 どうすれば、戦わずに済むのだろう? 答えは、深い霧に包まれたかのように見えない。 ハインに止めてもらう事は、出来ない。 彼女は姉のような存在であるが、“管理人”でもあるのだ。 いざ戦いとなれば、彼女は私を止めるわけにはいかない。 むしろ彼女に戦わせて、一刻も早く戦いを終わらせようとするだろう。 戦いが終われば、確かに私はそれ以上戦う必要はないかもしれない。 でも、私はもう戦いたくない。もう、誰かを傷付けたくない。 ましてや、ブーン達四人を含む“管理人”を倒したところで、戦わなくなるという保証はない。 いや、むしろ以前以上に戦う事になるだろう。 邪魔者が消えたら、人間達と戦わねばならない。 いや、『戦う』というのは違う。 そんな甘いものではない。 言葉にするのならば、『虐殺』だ。 では、戦わずに済む方法は? ―――答えは、浮かばなかった。 (*゚∀゚)「……逃げちゃおうかな」 せめて、“管理人”の戦いが終わるまで。 今のままなら、まだ彼女を抑え続けられる。 今のまま、戦わなければ。 ずっと彼女に警戒しながらなら、普通に生活も出来る。 逃げるなら、今しかない。 今までは、こんな危機感を持っていなかった。 それに、どうにかなるだろうという根拠のない余裕もあった。 でも今、そんなものはない。 どうすべきか、決心しなければならない。 (*゚∀゚)「……逃げよう」 誰にも―――ハインにも言わず、静かに身を隠そう。 急に自分が消えたら、ハインは怒るだろうか。 それとも、悲しむだろうか。 いや、彼女の性格だ。 きっと、私を探そうとするだろう。 でも、せめて“削除人”との戦いが終わるまでは、私は逃げなくてはならない。 一か月……いや、二か月ほどしたら、何とかハインにだけ接触しよう。 自分勝手な考えだと思うが、それしかない。 私は最初から、望んで“管理人”にいるわけではないのだ。 (*゚∀゚)「行こう」 呟いて、腰を上げた。 その時。 『させないよ』 彼女の頭の中に、声が響いた。 (;*゚∀゚)「なっ―――!?」 一瞬、“彼女”かと思ったが、違う。 彼女の声とは、違うものだ。 つーの混乱をよそに、声は続けた。 『逃げちゃダメだよ。ここで君が消えたら、つまらない。 君の中の化け物は、この物語をよっぽど面白くしてくれるんだ。 それに君は、もう既にこの喜劇の立派なピエロなんだよ』 その声と、同時。 身体の中で何かが、ぞわり、と蠢いた。 (;*゚∀゚)「ぁぐっ……ッ!!」 うめいて、つーは全身を硬直させた。 彼女だ。 彼女が突然、ものすごい勢いで自分を乗っ取ろうとしている。 乗っ取られまいと、つーは彼女の浸食に耐える。 拳を固く握り締め、下唇を噛み締め、苦痛に涙を浮かべながらも眼を剥く。 だが、それでも彼女の勢いは止まらなかった。 妙だ。 まだ彼女に、ここまでする力はないはず―――! 『……ひゃははは。苦しそうじゃないか、つーちゃん?』 彼女の声が、聞こえる。 (;* ∀ )「はぁ……はっ……。な、何故……? 何故こんなにも……」 『それがどうやら、誰かが私の手助けしてくれてるみたいでね。 何でそんな事をしてるのか、誰がそんな事してるのかは分からないが……ま、そういう事だ。 あんたの身体、もらうよ。つー』 (;* ∀ )「い、嫌だ……」 強く握り過ぎた拳が、ミシミシと軋んだ。 噛み締めた唇からは血が溢れ、眼からの涙は滝のように流れる。 とうとう立っていられなくなり、彼女は再度、ベッドに倒れ込んだ。 (;* ∀ )「もう、誰も殺したクないのニ……私ハ、私のまマでいたイのに……!」 『おやすみ。そしてさようなら、つー』 声までもが不明瞭なものになったつーの頭に“彼女”とは違う、もう一つの声が響いて―――つーは、自分の意識が遠のくのを感じた。 (;* ∀ )「私を……もウ一人の私ヲ止めテ……ハイン。ジョ……ジュ、君……!!」 その声を吐き終えると、彼女の体は大きく痙攣して跳ねた。 痙攣は数秒続き、それがやがて収まると、彼女は何もなかったかのように立ち上がる。 しばらくぼうっとし、それから軽く頭を振ると―――彼女は、禍々しく笑った。 (*゚∀゚)「……っは。ようやく自由になったよ」 首の骨を鳴らし、口元の血を拭う。 さきほど噛み裂いた筈の唇の傷は、痕もなく消えていた。 (*゚∀゚)「さて……いつもより調子が良いんだけど、どういう事かな?」 空に向かって呟いた彼女。 まもなく、彼女の頭の中に声が響いた。 『つー自身の意識を出来るだけ抑えて、君の“領域”を最大まで広げたからね』 (*゚∀゚)「ふーん……まぁ確かに、いつもはある抵抗がまったくないね。 気を抜いても、私のままでいられる。こりゃあ、良いね」 『その状態なら―――』 (*゚∀゚)「うん。今まで以上の、私の本来の力を発揮出来るね。 ……ひゃははっ。自由に殺しまわれるってわけだ。ひゃははっ。ははははっ!!」 『……好きなだけ、楽しむと良い』 (*゚∀゚)「そうさせてもらうよぉ! ひゃはははっ!! 敵はみなごろしだ!!」 叫び、笑いながら、つーは部屋のドアを蹴破って外に出る。 そしてゆっくりと、笑みを浮かべたまま、他のメンバー達の元へ向かった。 彼女の中では、本来のつーが絶望していた。 今までは、暴れていればやがて彼女を抑え込む事が出来た。 それが、出来ない。 彼女の中で暴れようとしても、叫んでも、何も意味はない。 勿論の事、『戻れ』『身体を返せ』と祈っても願っても、無駄だ。 見えない殻に閉じ込められてしまったかのように、彼女は何も出来なくなっていた。 あるのは五感と、心だけ。 『君はそこで、全てが殺されるのを見ているが良い』 最後に聞こえた声。 その声には、聞き覚えがあった。 それはよく分からない、でもとても怖かった人の声だった。 「ショボン」 彼女が吐いた声は、どこにも響かずに音を失った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 从#゚∀从「うっるぁああぁぁあぁっ!!」 全力で振るった腕は、橙の残像を残してモララーに迫る。 しかしそれはふわりと避けられ、カウンターに足払いをかけられた。 从;゚∀从「くっ……!」 バランスを崩して倒れるハインは、両腕を目の前で交差させる。 一瞬の後、その腕にモララーの鋭い蹴りが叩き込まれ、ハインは軽く宙を舞った。 しかし彼女はこれも華麗に着地。 頬を伝う汗を拭うと、楽しそうに笑った。 从;゚∀从「はん。あんた、“力”を使わなくてもそんだけ戦えるんだな。 正直、驚いたよ。“力”を解放したあたしに、ここまでやれるとは思ってなかった」 (;・∀・)「ふん、これまで私が何もしていなかったとでも思っていたか。 フサとモナーに相対出来るように、“力”を使わない戦い方も訓練してきたんだ」 从;゚∀从「なるほどな、天才が努力したわけだ。そりゃあ、ここまで強くもなるわな。 だがな、あたしも昔はそう呼ばれてたんでな。負けるわけにはいかないね」 彼女は走り出そうと足に力を込める。 だがそれを、モララーは腕をあげて制した。 从 ゚∀从「あぁ? んだよ」 (;・∀・)「まぁ、待て。……さすがにそろそろ、休ませてくれ。これでも私は怪我人だ。 お前は容赦がないから、一撃喰らえばもう私は戦えなくなる。死ぬかもしれん。 そろそろお互い、バトンタッチしようじゃないか」 从 ゚∀从「あぁん? 甘えた事言ってんじゃねぇぞ」 (;・∀・)「私は戦闘力の上昇と体力の回復を同時にやらねばならないんだ。分かれ。 レモンティでも奢ってやるから、ここばかりは言う事を聞け」 从*゚∀从「レモンティ奢ってくれんのか。よし、良いぞ」 あっさりと認めると、嬉しそうに笑って、ハインは両腕を戻す。 そして先ほどまでの壮絶な戦いなどなかったかのように、軽い足取りで部屋の隅へと移動した。 ( ・∀・)「……一か月、お前のレモンティ代だけで一万円以上使っている」 ぼそりと呟いて、モララーも下がった。 ( ・∀・)「さぁ、次はプギャーとミンナだ」 (;^Д^)「え?」 ( ゚д゚ )「……私とプギャーで戦え、と?」 ( ・∀・)「あぁ。一人ずつ順番にハインと戦う、というのも良いが」 从 ゚∀从「おっ、そりゃ良いな」 ( ^Д^)「よし、ミンナ。戦おう」 ( ゚д゚ )「あぁ、そうしよう」 从#゚∀从「おい待て貴様ら。どういう意味だそれは」 ハインの拳骨を後頭部に喰らいながら、二人は前に出る。 ( ^Д^)「……お前と戦うのは、初めてか」 ( ゚д゚ )「初めてだな。今まで、“管理人”のメンバー同士で戦うという機会はなかったからな」 ( ^Д^)「……正直言えば、俺はお前と戦ってみたかったんだよ」 口元に笑みを浮かべ、プギャーは左腕を軽く上げた。 まもなくそれは異音を発し、草色の鎌へと変化する。 ( ^Д^)「特に共通点とか、そんなんは何もないんだけど、気付けばいつもお前と喋ってた。 任務も、いつもお前とこなす事が多かった。いつからか、そんなお前と戦ってみたくなってた」 ( ゚д゚ )「ふむ。そういえば、そうだな。私はお前といる時間が長かったと認識しているよ」 ミンナが、両腕を軽く広げた。 それと同時に、彼の服の至る所から金属製のサイコロが顔を出し、浮かび上がった。 ( ゚д゚ )「なるほど、言われてみれば、私もお前と戦ってみたいのかもしれない。 不思議と気分が高揚している」 ( ^Д^)「そりゃあ良かった。俺だけ盛り上がってると、冷めちまうからな ( ゚д゚ )「では―――」 ( ^Д^)「あぁ。戦おう」 プギャーが鎌を腰高に構え、走り出す。 それに対してミンナは、サイコロを射出する為に腕に力を込めた。 从 ゚∀从「おーおー、始めたね」 ( ・∀・)「どうなると思う」 从 ゚∀从「あたし達ほどの戦闘にはならないだろうが……面白いんじゃねぇの?」 ( ・∀・)「ミンナが圧勝するとは思わないのか? “力”の質で言えば、プギャーがミンナに勝てる道理はないぞ」 从 ゚∀从「はっ。“力”の質だけで全てが決まるってわけじゃねぇだろうがよ。 プギャーには、純粋な格闘の能力もある。色々な邪魔者を潰してきたからな。 それに、だ。奴はお前の秘蔵っ子だ。それなりにやれるだろうよ」 ( ・∀・)「なるほど」 从 ゚∀从「だけども、ミンナもやすやすとは負けないだろうな。 あいつの“力”は、使い方しだいでいくらでも強くなる。 そんでもってあいつは頭が良い。鍛えれば、いくらでも強くなるだろうな」 ( ・∀・)「うむ、そうだろうな」 呟いて、モララーは笑う。 ( ・∀・)「実は今回の訓練のメインはな、あいつらだと考えてるんだよ。 私やお前、流石兄弟も強化はするが……爆発的な成長を見せるのは、きっとあの二人だ」 从 ゚∀从「あぁ。あたしもそれは思うな」 ( ・∀・)「……つーの中にも、強力な戦闘能力は眠っているのだがな」 从 ゚∀从「……それは諦めろ」 彼女の顔から、いつのまにか楽しげな笑みは消えていた。 代わりに浮かんでいるのは、苦々しげな表情。 从 ゚∀从「“あっち側”のつーが完全開放されりゃ、そりゃ強いだろうな。 つーが内側から抑え込んでいても、ジョルジュに勝てるくらいの“力”を奴は持ってる。 それが完璧に開放されちまえば……その壮絶な力に、本来のつーは戻ってこれなくなる」 ( ・∀・)「だろうな」 顎に手を当てて、「ふむ」と考え込むような動作。 ( ・∀・)「……どうすべきなのだろうな」 从 ゚∀从「今まで通りでやるしかねぇよ、つーはな。 戦いの時だけ“あっち側”に顔を出させて、戦闘が終わったら戻す。 戦闘時以外にあいつが顔を出そうとしたら、力ずくにでも戻す」 ( ・∀・)「それしか、ないだろうな」 丁度、その時。 ホールに、かつん、と足音が響いた。 そちらに二人が眼を向けてみれば、そこにいるのは、小柄な女性。 年相応の可愛らしい格好。 しかし手に握るのは、物騒なナイフを収納したホルスターをいくつも固定させた三本のベルトだ。 彼女はプギャーとミンナの戦いを、その大きな瞳で見つめていた。 その瞳に光はなかったが。 ( ・∀・)「具合は良くなったのか、つー」 モララーの声に、つーは彼等の方を見る。 それから「はい」と返事すると、ゆっくりとモララー達に歩み寄った。 ( ・∀・)「……その装備。訓練に参加するのか?」 またもや、「はい」とだけ答えるつー。 その顔に表情はない。 いつもは不安定に揺らいでいるか、輝かしく笑っている表情が、皆無だ。 そんな彼女に、ハインは眉根を寄せた。 从 ゚∀从「戦う事をあんだけ嫌がってたお前がか? 絶対に必要な戦いでさえ避けようとするお前が、自分から戦うってのか?」 答える声は、ない。 つーは無表情で、やや俯いているだけだ。 从 ゚∀从「何があった? 何が、お前にそう考えさせた? ―――お前、本当につーか?」 焦りに似た感情が湧き上がって、ハインはつーの肩を掴む。 いつもと同じ感触。いつもと同じ暖かさ。 だが、どうしても拭えない違和感が彼女の手を這った。 从;゚∀从「答えろ!」 彼女の声に、ようやくつーは顔を上げる。 そして彼女は―――笑った。 (*゚∀゚)「ははは。ははははっ! そうだよ。私は、つー。 “管理人”のメンバーの一人。戦闘に最適な人格を創り出す“力”を持つ異能者」 くくくっ、と笑いを漏らして、つーは己の頭を親指で指す。 (*゚∀゚)「さて、問題」 「今の私は―――『どちら』でしょう?」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 鈍い音が、響いた。 しかしそれは、柔らかなものを殴ったような音ではない。 力と力がぶつかった音だ。 ミ;゚Д゚彡「……危なかった」 呟く彼の両足は、魔獣を彷彿とさせる異形。 そしてそれは、白銀の足から頭を防御していた。 ブーンからの攻撃を、フサは防御してみせたのだ。 封じていた足を、一瞬にして解放して。 (;゚ω゚)「おっ……!?」 防御されるとは思っていなかったのか、ブーンは焦りを表情に浮かべる。 反撃は、その一瞬の隙があれば十分だった。 ミ,,゚Д゚彡「おぉあっ!!」 咆哮とともに、ブーンの足が弾かれる。 開いた身体の中心に打ち込まれたのは、重い掌底だ。 (;゚ω゚)「ぉぶっ!!」 軽く吹き飛んで、ブーンは身を地に横たえる。 それから掌底が入った場所が悪かったのか、激しく咳込んだ。 ミ,,゚Д゚彡「終わり、だな」 両手を軽く払って、フサは呟く。 ミ,,゚Д゚彡「俺に“力”を解放させたのは評価してやっても良いが……それにしても弱すぎるな、お前達。 四人だぞ、四人。何故四人がかりで、俺一人に勝てない」 (#゚Д゚)「俺達はまだ敗けてねぇ。まだ戦える」 怒気を纏わせながら、ギコが立ち上がった。 その右腕から漏れる炎は主の心を代弁するかのように、一層炎の勢いを強めていた。 ミ,,゚Д゚彡「いいや、敗けだ。俺が敵だったら、完膚なきまでの敗けだ」 (#゚Д゚)「本当にそうなるか、確かめてやろうか!?」 ミ,,゚Д゚彡「っは、自分の力量すら推し量れないか。それじゃあ、敗けて当然だな。 俺にも、モララーにも、な」 (#゚Д゚)「んだとゴルァッ!! 上等だ、ぶち殺してやr」 ('A`)「落ち着け脳なし」 ドクオは呟いて、走り出そうとしたギコの服の後ろ襟を掴む。 それはつまり、急激にギコの首が絞まる事となり――― (;゚Д゚)「ぅぐぇあっ!?」 おかしな声を漏らして、ギコはその場に倒れた。 (;゚Д゚)「てめ、何を―――」 ('A`)「頭冷やせ馬鹿。お前は馬鹿か。あぁ、馬鹿だったな。 闇雲に突っ込んでっても勝てるはずがねぇってのは、ついさっきお前自身が体感したはずだろ馬鹿」 (;゚Д゚)「ぐっ……!」 ('A`)「ちょっと黙って見てな」 呟いて、ドクオは前に出る。 光のないその瞳は、まっすぐにフサを睨みつけている。 ミ,,゚Д゚彡「何だ」 ('A`)「ちょっと相手してくれ」 交わされた言葉は、それだけだった。 ドクオの一歩が、早く長く伸びる。 それなりにあった距離を僅かな歩数で埋め、彼は左腕を跳ね上げた。 ミ;゚Д゚彡「なっ―――」 一瞬混乱したが、フサはそれしきで攻撃を喰らうような異能者ではなかった。 攻撃を滑らかに横にいなし、逆側の腕の肘を突き出す。 しかしその肘も、ドクオを捉える事は出来ない。 ドクオは既に、フサの足元でしゃがんでいた。 そこから繰り出されるのは、地面と水平に振り抜かれる足。 それはフサのバランスを崩す事に成功する。 すぐさまドクオは立ち上がると、その左腕を振り上げ――― ('A`)「……倒れたフェイクだな」 しかし振り下ろさず、倒れつつあったフサの背中を蹴り上げた。 低く呻いて軽く吹き飛んだフサ。 しかしその口元には、獰猛な笑みが浮かんでいた。 すかさず追撃しようと、ドクオはフサの頭部目掛けてハイキックを繰り出す。 それは鈍い音を経てて頭部を捉えた―――が、しかしその足は掴まれる。 ミ,,゚Д゚彡「うっるぅぁあああぁっ!!」 そして足ごとドクオを振るい上げると、まるで得物を振り下ろすかのように、地面に向かって振り下ろした。 ('A`)「ふん」 しかしドクオは慌てない。 左腕で地面を押すようにして、ほとんどの衝撃を殺す。 そして、体を旋回。フサの手を、足から外した。 すかさず距離を取って、フサの様子を伺う。 対するフサは、笑っていた。 ミ,,゚Д゚彡「ほぅ……ここまで動きを見切るか」 ('A`)「これでも、眼と耳は“力”が及ぶ範囲内なんでな」 ミ,,゚Д゚彡「それでも、いくつかの動きは読めない筈だ。 急な動きや、予期しない動きには反応出来ない筈。 だがお前は今、俺のバランスを崩したフェイクを見切った」 ('A`)「ある程度冷静で、ある程度の動きの予測が立ってれば、な」 ミ,,゚Д゚彡「ふん、面白い」 呟いて、フサは戦闘態勢を取る。 その両腕は、魔獣のそれだ。 ミ,,゚Д゚彡「続けよう」 ('A`)「……この“力”はかなり便利でな。例えば、こんな事も出来る」 呟き。次の一瞬には、ドクオはしゃがみこんでいた。 その次の一瞬。 ドクオの背後から放たれるのは、炎の龍。 ミ;゚Д゚彡「なっ……!?」 ('A`)「ギコが腕を構えた音も、聞こえるわけだ」 その言葉と共に、フサが炎に包まれた。 ('A`)「さて……勝利とやらを得させてもらおうか」 (,,゚Д゚)「あぁ」 ギコは右腕を、ドクオは左腕を構えながら、それぞれ炎の元へと歩み行く。 しかし攻撃範囲まで後一歩というところで―――炎が、切り裂かれた。 ('A`)「! 退けっ!!」 言葉と共に、二人はフサから距離を取る。 彼らの視線の先―――切り裂かれた炎の中に立っていたのは、両腕両足を解放させたフサだった。 眼は紅みを帯び、元々大きめだった犬歯は更に伸びている。 ミ ゚Д゚彡「……なるほどな。お前達は、調子に乗らせてはいけないようだな」 呟きが終わる頃には、炎の中からフサは消えていた。 そこに残されたのは、蹴り散らされた炎と、四人の視線だけ。 (;'A`)「!? 何だこれは。速過ぎr」 ドクオの呟きは、最後まで響かなかった。 彼の腹に深々と突き刺さっているのは、フサの拳。 ドクオの表情は一瞬、唖然としたものとなり―――次の瞬間には、白眼を向いて意識を失った。 (;゚Д゚)「ドクオ!!」 ミ ゚Д゚彡「他人を心配している暇などないぞ。 こいつの意識が戻る前に、終わらせてもらう」 (;゚Д゚)「! ぐっ……!!」 倒れたドクオに当たらないように、右腕から炎を発射する。 しかし、炎の中に人影は、ない。 ミ ゚Д゚彡「どこに打っている」 声は、背後からだった。 瞬間、背筋に凄まじい寒気が走る。 それからまもなくだ。風切り音が、後ろから迫るのを聞いたのは。 勿論それは、フサの拳だ。見ずともそれは分かる。 そしてギコは、覚悟した。 だが、その拳はギコを捉えなかった。 拳は、化け物のように長い腕に抑えられている。 化け物の腕は、フサからかなり距離がある場所から伸ばされていた。 その腕は、橙色。腕の宿主は、ジョルジュだ。 ( ゚∀゚)「ここは二人に任せて傍観してようと思ったんだけどね」 呟いて、ジョルジュは口角を持ち上げた。 しかしその額には、汗。 彼も感じていたのだ。 解放範囲を広げたフサの、圧倒的なまでの“力”を。 ( ゚∀゚)「そうもいかないみたいだ……ねッ!!」 伸ばした腕の先を、斧の刃のようなものに変化させる。 そしてそれを振り上げ、振り下ろした。 勿論そんな攻撃を喰らうフサではない。 身を軽く引いて回避し、今度は眼光をジョルジュへと飛ばす。 そして彼は、伸ばされたジョルジュの腕の上を駆けた。 (;゚∀゚)「はぁっ!? ちょ、馬鹿じゃねぇの……ッ!!」 腕を振って落とそうとするが、その時にはフサは床に着地し、また駈けている。 腕を戻す時間はない。フサの接近が、速過ぎた。 ( ゚ω゚)「やらせないおっ!!」 ブーンがフサに向かって駈け、中段蹴りを飛ばす。 しかしそれは殴り落とされ、ブーンは続けて蹴撃を繰り出した。 様々な角度から、様々な軌跡を描く蹴り。 しかしそれは、フサの身体を捉えられない。 ミ ゚Д゚彡「鬱陶しい」 やがて足はフサに掴まれ、ブーンはギコに向かって投げつけられる。 ただ投げつけただけ。しかし両腕も解放されている状態でのそれは、凄まじい速度でブーンを飛ばした。 (;゚Д゚)「なッ―――」 今まさに炎を発射しようとしていたギコは、眼を見開いてうめきを漏らす。 (;゚ω゚)「ギコッ! そのまま、右腕で防御してくれお!!」 その言葉に、慌ててギコは右腕を構えた。 一瞬。構えられたギコの右腕にブーンの足が激突。 凄まじい速度での接触だったが、解放箇所同士だった為に、二人に深刻なダメージはない。 しかし現状、戦えるのは――― ミ ゚Д゚彡「今度こそ、お前だけだ」 (;゚∀゚)「……参ったね」 ジョルジュだけとなった。 ミ ゚Д゚彡「さて、お前はどれだけ持つかな」 ( ゚∀゚)「持つ? 持つ、ねぇ」 ミ ゚Д゚彡「何だ」 ( ゚∀゚)「悪いが、もう敗けるつもりはないんだ」 呟いて、ジョルジュは右腕を巨大な鉤爪に変える。 その甲からブレードを生やすと、鋭く空気を一閃。 そして切っ先をフサに向けて、にやりと笑った。 ( ゚∀゚)「あんたにも、誰にもな」 言葉は、その場に置き去りだ。 駆けだしたジョルジュはフサを攻撃範囲に入れると、ブレードで切り上げた。 しかしフサはそれに少しも動ずる事なく、軽く回避。 ブレードを振り抜いたジョルジュの脇腹目掛けて、その爪を振るう。 ( ゚∀゚)「おぉうっ! 流石、早いねぇ!」 笑いながら叫んで、ジョルジュはフサの爪を回避。 フサは一瞬唖然としたが、すぐさま追撃に移った。 その攻撃は速く、途切れない。 両の爪で横薙ぎに切り裂き、間を置かず足が跳ね上がる。 その次の瞬間には跳ね上がった足は軌道を変えて振り下ろされ、続けて爪が袈裟掛けに振るわれた。 しかし、そのどれもが、ジョルジュを傷付けられなかった。 全ての攻撃が、避けられてしまっていた。 ミ ゚Д゚彡「……何故だ」 呟きながらも、爪を突き出す。 空を引き裂いたそれは、やはりジョルジュにかわされる。 ミ ゚Д゚彡「何故、当たらない!!」 叫んで、回し蹴りを放つ。 しかしそれは、ジョルジュの右腕に掴まれた。 ( ゚∀゚)「昔から、反射神経だけは良くてね」 そしてフサは、宙を舞った。 ジョルジュが、掴んだ足を投げ飛ばしたのだ。 ミ ゚Д゚彡「くッ―――」 呻き、空中で体勢を立て直そうとして―――彼は眼を見開いた。 彼の目の前には、巨大な化け物の手があったのだ。 それは、伸ばされたジョルジュの腕。 そしてそれはまもなく、空中のフサに振り下ろされた。 ミ ゚Д゚彡「がっ!」 接触の瞬間、両腕をクロスさせて防御する。 しかし攻撃の衝撃は殺しきれず、フサは吹っ飛び、床に激突した。 ( ゚∀゚)「勝たせてもらうよッ!!」 倒れたフサに敗北を突き付ける為に、駆ける。 そして腕をブレードに戻すと、振り下ろした。 だが。 (;゚∀゚)「……は?」 ブレードが伝えてくるのは、硬い感覚だけだ。 つまりブレードが捉えているのは石の床―――フサではない。 フサは、と混乱する必要はなかった。 気付けば、首の後ろに爪が突き付けられていた。 いつのまにそこに移動したのかなど、分からない。 (;゚∀゚)「……敗けちったねぇ」 呟くとジョルジュは右手を戻し、両手を上に上げた。 そのアクションに応じて、首に突き付けられていた爪も引かれる。 ミ ゚Д゚彡「あぁ。お前達の敗けだ」 呟きながら、フサは前に回ってきた。 紅く輝く瞳に睨まれると、まるで獣に睨まれてるかのような圧力を感じる。 しかしその瞳は、一瞬の後には本来の色を取り戻していた。 瞳に続けて、腕も、足も。 ミ,,゚Д゚彡「……よくやった方だとは思うが、これじゃあまだ勝てないな。 モララーやハインは、俺と同等――― いや、モララーに限っては俺を遙かに上回る戦闘能力を有している」 (;゚∀゚)「そんな強いのか? ハインもモララーも」 ミ,,゚Д゚彡「あぁ。化け物クラスだ」 ( ゚∀゚)「……勝つには?」 ミ,,゚Д゚彡「訓練して、強くなるしかあるまい。 決戦までの決して長くない期間で、いかに自分の戦い方を掴み、強くなれるか。 また、どんな精神状態で挑むべきなのかを掴めるかが、鍵だ」 そこでフサは、周囲を見回す。 眼に入ったのは、ようやく意識を取り戻したドクオと、痛みに顔をしかめるブーンとギコだった。 一つ溜息を吐いて、フサは言葉を続ける。 ミ,,゚Д゚彡「お前達は、戦闘能力は低くない。流石、ショボンの訓練を受けていただけある。 しかし、調子が上がってくるのが遅い。四人ともにスロースターターでは、実戦で苦しむぞ」 (;゚∀゚)「スロースターター? ……あぁ、確かにそうかも」 ミ,,゚Д゚彡「では個人個人の戦闘の感想を言うぞ。 一度しか言わないからな、しっかり聞けよ」 ( ゚∀゚)「ん、頼む」 ミ,,゚Д゚彡「今のところ、一番死にやすいのはギコだ。激情に火が付くのが早過ぎる。 激情を操作出来るようになれば強いが、操作出来ぬようなら、それは自爆でしかない。 “力”は威力もあるし、応用も利く。つまり唯一の、しかし最大の弱点は精神のみだ」 ミ,,゚Д゚彡「ドクオはおそらく一番強いのだろうが、その性格と“力”故に油断しがちだ。 冷静になり、本気になれば奴は相当戦える。その状態まで、いかに早く持っていけるかだな」 ミ,,゚Д゚彡「ブーンとお前は、トリッキーな戦い方が出来るな。 違いと言えば、ブーンはあの足でトリッキーで高速かつ攻撃的な戦い方をすべきだが、 お前はその反射神経で攻撃を避けながら、間にトリッキーな攻撃を挟むという戦い方をすべきだ」 ミ,,゚Д゚彡「……以上だ。今の話を、奴ら三人にも伝えておけ」 (;゚∀゚)「…………………」 ミ,,゚Д゚彡「どうした? よもや、聞いていなかったとは言いださないだろうな」 (;゚∀゚)「いや、聞いてたけどさ。……あんたしっかりと俺達の戦い方見てたのな」 ミ,,゚Д゚彡「? 当り前だろう。何の為に戦ったと思っている」 呟くと、フサはクーの方を見やる。 その動作だけで何かが伝わったのか、クーは「うむ」と頷いた。 川 ゚ -゚)「見事だった」 ミ,,゚Д゚彡「お世事は良い。お前達の番だ」 川 ゚ -゚)「あぁ」 呟いて、クーは前に出た。 それに、しぃとツンが続く。 ミ,,゚Д゚彡「今度は俺達は傍観組だ。しっかり見て、吸収出来るところは吸収しろ」 ( ゚∀゚)「あーいよ」 隅に移動するフサ。 それに対してジョルジュは三人を集めて、先ほどのフサの話を伝えた。 それらを横目に、歩み出た三人は向かい合う。 勿論、ツンとしぃが組んでクーと戦うという形式だ。 川 ゚ -゚)「お前達とこうして戦うのは、初めてか」 (*゚ー゚)「そりゃあ、ね。訓練なんて、個人個人でやってたわけだし」 川 ゚ -゚)「……訓練だからといって、手加減はいらんぞ。 むしろ訓練だからこそ全力でかかってこい」 ξ゚△゚)ξ「分かってるわよ。行くよ?」 川 ゚ -゚)「あぁ。かかってこい」 言葉と同時、三つの異音が重なった。 ツンの背中からは光輝く翼が生え、 しぃの左腕は黄金色に輝く異形に変形し、 クーの右腕は青い異形へと変化する。 最初に動いたのは、黄金色だった。 彼女が左腕をクーに向けると、その掌に光が集束する。 そして、一筋のレーザーとなって放たれた。 クーは身体を軽く横にずらして光線を避けると、駈け出す。 その右手には、いつのまに生成されたのか、氷の刀が握られていた。 彼女の突進は、速い。 それは、しぃの二発目の光線発射を許さぬほどに。 しかしあと一歩で攻撃出来るという位置で、彼女は突進の勢いを殺し、後ろに跳んだ。 その一瞬の後、しぃの眼の前に光の雨が降り注いだ。 否、それは光の雨などではない。 異常に鋭い、光り輝く無数の羽根だ。 ξ゚△゚)ξ「流石、速いわね」 呟くツンは空中で、その光輝く翼で羽ばたいた。 きらきらと落ちる輝きは、彼女の翼から抜け落ちた羽根だ。 ツンの言葉に反応を示さず、クーはその右腕を掲げる。 まもなくその右腕の周囲には無数の氷塊が発生した。 そして右腕が、振るわれる。 氷塊はその右腕の動きに合わせて、まるで弾丸のように発射された。 速度も弾丸並の氷塊は、容赦なくしぃとツンに降りかかる。 しかしそれらは、彼女らに触れる事なく爆裂した。 眼を凝らせば、彼女らの目の前に、薄く光る幕のようなものが見えた。 それはしぃの“力”によって作成された、光の防御壁だ。 川 ゚ -゚)「ふむ、容赦する必要はないようだな」 (*゚ー゚)「訓練っていうくらいなんだから、容赦も手加減もしなくて良いけど?」 川 ゚ -゚)「ならば、全力で行かせてもらおう」 呟いた彼女は、左腕を掲げる。 するとまもなくその左腕は、氷に包まれた。 しかしただ包まれただけではない。 そのフォルムは、右腕と酷似している異形だ。 川 ゚ -゚)「少しだけハインを想定して戦ってみようか」 呟くと、右腕に握っていた氷の刀にも変化が起きる。 びきびきと音を経てながら変形し―――そしてそれは、巨大な鋏となった。 川 ゚ -゚)「む……使いづらいが、まぁ良いだろう。行くぞ」 そして、駆けた。 だがその速度は、さきほどまでの比ではない。 駆けたと思ったその次の瞬間には、彼女はしぃ達の目の前で鋏を振り上げている。 (;゚ー゚)「なッ―――!」 咄嗟に掲げた左腕で受けた。 しかし次の瞬間には、脇腹に鈍い痛みが走る。 振り抜かれた足を見て、それからようやく蹴られたのだと認識した。 ξ゚△゚)ξ「しぃ姉さん、退いてッ!」 叫んで、ツンは大きく翼をはためかせた。 翼からは無数の輝きが発射され、クーを狙う。 川 ゚ -゚)「む」 クーは防御しながら後ろに退くと、鋏を握る右腕に力を込めた。 そして空中のツンに向けて、鋏を投擲。 ξ;゚△゚)ξ「ッ!?」 その予想外の攻撃に、しかしツンは反応してみせた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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