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LOYAL STRAIT FLASH ♪

二十一章

4 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:03:36.96 ID:53FEKIkk0



二十一章 悪


( ・∀・)

“管理人”リーダー、モララー。
空間操作の“力”を行使する、歪んだ思想の持ち主。


彼が歪んだのには、それなりの理由がある。

彼はとても幼い頃に、“力”に目覚めた。
もちろんそれを抑える術など知らず、ある日、彼は数人の人間の前で“力”を行使してしまう。

その、わずか一週間後の事だ。
モララーの両親が、残酷極まりない方法で殺されたのは。


これから語られるのは、モララーが歪んだ歴史。
彼の生きた、彼の物語。


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7 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:04:50.37 ID:53FEKIkk0


(,,・∀・)「ふん♪ ふふん♪」

長く降り続いていた雨が上がり、数多の水溜りの出来上がった道。
そこをご機嫌に鼻歌を歌いながら歩くのは、幼き頃のモララー。
当時、十三歳。

運動、頭脳、性格、容姿。全てにおいて、欠落のない人間だった。
誰からも愛され、誰をも愛する人間だった。

『天才』だった。

(,,・∀・)「テストで良い点取っちゃった……誉めてもらえるぞー!」

その日の彼は、いつにも増して家に帰る足取りが軽い。
両親に誉めてもらえるというのは、彼にとって最も嬉しい事だからだ。


『あの角を曲がれば、すぐ家だ。
 あの角を曲がれば、家の前で自分を待ってくれている母親がいる。
 家の中に入れば、父親が笑顔で迎えてくれる。

 あの角を曲がれば、僕の幸せが待っている!』


自然と溢れ出てくる笑みを抑える事もせず、彼は角を曲がった。




8 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:06:22.84 ID:53FEKIkk0

だが次の瞬間に彼の視界に広がった物は、無数の肉片と真紅に染まる地面。
そして、その真紅の地面の中心に位置していたのは―――紛れもなく、己の母親の頭だった。

(,,・∀・)「……え?」

悪趣味なオブジェのように見えるそれを前にして、足が止まる。思考が止まる。
呼吸すらも、まばたきすらも止まった。

しかし。

(,,・∀・)「お母……さん?」

彼の思考回路は優秀だった。
理解したくない事でも、すぐに理解してしまう。

ゆっくりと、彼は停まっていた歩みを再開させた。
血の海に足を踏み入れ、血を跳ねさせながら歩く。

そして、母親の頭を自分の頭の高さまで持ち上げると、語りかけた。

(,,・∀・)「お母さん」

白目を剥いた眼。憤怒と悲愴に歪んだ顔。へし折られた歯。血を失くして色を失った肌。
それでもまだ中身はあったのか、首の断面からおかしな液体と個体が垂れ落ちた。




9 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:09:13.04 ID:53FEKIkk0

(,,・∀・)「テストで良い点取れたんだよ。五教科で487点だよ。前よりも15点も上がったんだよ。
      すごいでしょ。頑張ったんだよ。誉めてよ。ねぇ、お母さん?」

母親は、何も答えない。 死者は、何も答えない。

(,,・∀・)「……死んじゃったんだね。おやすみ、お母さん」

裂けた唇にキスをして、ことり、と頭を地面に置く。

涙は流れなかった。
悲しさよりも、他の何か妙な感情が湧きあがっていた。

憎しみ。怒り。殺意。全て正解で、全て間違いだ。
マイナスの感情がない混ぜになった、妙な感情。

誰が母親を殺したのだろう。
母親は何で殺されたのだろう。
どこかぼんやりした、靄のかかったような頭で思考する。

(,,・∀・)「お父さんは……」

母親の海から歩み出て、ドアへと向かう。
ドアを開けたその先には―――


(,,・∀・)「あ、お父さんだ」


家の壁に、幾本もの剣で磔にされた父親がいた。


13 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:12:53.68 ID:53FEKIkk0

口。喉。眼。腹。手。もも。足。
各箇所を無数の剣が貫き、身体を壁に磔にしている。

まるで人形か、昆虫の標本の様だった。

(,,・∀・)「ねぇ、お父さん。僕、テストで良い点取ったんだよ。
      すごく良い点なんだよ。僕、頑張ったんだよ。誉めてよ。ねぇ……お父さん」

言いつつ、喉に刺さった剣を抜き、捨てる。
眼に刺さった剣を。腹に刺さった剣を。父親の身体を磔にしている剣を、抜き捨てる。

(,,・∀・)「んしょ、んしょ」

最後の剣―――口の中に刺さっていた剣を、抜き捨てる。
それと同時に、父親はモララーに向かって倒れこんできた。

(,,・∀・)「おっと!」

既に硬くなってしまった身体を受け止める。
その頭を抱き締めながら、モララーは呟いた。

(,,・∀・)「お父さんも……死んじゃったんだ。殺されちゃったんだね」

ゆっくりと、父親の身体を寝かせる。
剣の形に裂けた唇に軽くキスをして、モララーは微笑んだ。

(,,・∀・)「おやすみ、お父さん」


15 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:13:41.75 ID:53FEKIkk0



彼の両親は、優しかった。
モララーに溢れんばかりの愛情を注ぎ、叱るべき時はしっかりと叱る。理想の両親であった。
もちろんモララーも両親の事が大好きで、両親の為に全てを努力してきた。

彼の天才性に最高の磨きをかけていたのが、彼の両親だったのだ。


(,,・∀・)「僕のお母さんを……お父さんを殺したのは……」

そんな両親が殺されて、彼は普通でいられるだろうか。
今まで通りの、純真で明るい、ただの神童としていられるだろうか。


その答えは―――否。





18 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:15:09.76 ID:53FEKIkk0

ゆっくりと彼は振り返る。
いつのまにかドアの外に居たのは、数十人の濁った眼をした男達。
見れば、それぞれ手に物騒な得物を握っている。

モララーの足元に転がる、父親の血に塗れた剣。
それと同じ種の剣を握る者もいた。

(,,・∀・)「殺しちゃったのは……君達、だね?」

モララーの表情が、歪む。
それは笑み。あまりにも皮肉過ぎる―――歪んだ笑み。


彼が歪み始めた瞬間だった。


彼は悲しみや怒り、憎しみから―――歪むしかなかったのだ。

優秀な思考回路を持っていなければ、回路をパンクさせて狂う事も出来たろう。
強靭な心を持っていなければ、壊れる事も出来たろう。

優秀であって、強靭であったからこそ、狂う事も壊れる事も出来ない。
彼は、“歪む”という道しか選べなかったのだ。



19 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:16:27.48 ID:53FEKIkk0

(,,・∀・)「最近、君達はよくウチに来ていたよね。
      来る度に僕のお母さんやお父さんに追い返されていたよね」

皮肉に笑う一方と、濁った眼で睨む一方は、動かない。
それぞれに溢れ出さんほどの殺意を相手に向けているだけ。

(,,・∀・)「……反異能者組織、って人達だよね?
      確か異能者を殺す為だけに行動してる、っていう」

モララーは、男の内の一人を指差す。
男は濁った瞳を細め、答える。

「その通りだ。我々は貴様だけを殺そうとしていたのだが、な」

(,,・∀・)「なるほど、そこでお母さんやお父さんは君達に反抗しちゃったんだね。
      だから、仕方なく君達は殺してしまったと。……こんなに残酷な方法で」

「その通りd」
(,,・∀・)「死ねよ」

男を指していた手を、開いて、閉じる。
それと同時に、男の頭は勢い良く、音を経てて弾け飛んだ。



22 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:17:53.91 ID:53FEKIkk0

「な!? ……な、何が……」

「こいつが“力”を使ったに決まってんだろ! 殺せ! 殺せ!!」

その声が響き終わるまでに、新たに二人の頭が弾け飛んでいた。
モララーは家の中へと逃げ込む。男達も、モララーを捕まえんと家の中へと侵入した。

だが、子供と大人。足の速さの違いは歴然。
数人の男はすぐにモララーに追いつき、得物を振り上げた。

「死ねぇえぇっ!!」

振り下ろされる得物に対して、モララーは軽く腕を持ち上げただけ。
まるで、前腕で得物を受け止めてやるとでも言わんばかりに。

だが、ただそれだけの事で―――

(,,・∀・)「死なないよ」

男達の振り下ろした得物は、障害があるかのように空中で停止。
そのままモララーが腕を振るうと、得物は弾き飛ばされた。




24 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:19:32.91 ID:53FEKIkk0

(,,・∀・)「その程度じゃ僕は死なないよ」

再度逃亡。今度は二階へと登る。
すぐに男達も追いかけて階段を登るが―――

(,,・∀・)「えいっ」

その手にいつのまにか握っていた剣を、階段の上から、先頭にいる者に投擲。
剣は男の喉を捕捉。先頭の男は階段を下り落ち、その後ろにいる者達も共に落ちていった。

「ふ……ふざけやがってぇえぇえぇ!!」

二階の部屋に逃げ込んだモララーを追うように、激昂した男達は階段を登る。

彼等はここで気付けば良かった。
モララーは、覚醒した自分の“力”をいきなり使いこなせるほどの天才だという事に。
そして彼は今―――自分の力全てを、生きる事だけに使っているという事を。

だが激昂しきっている今、そんな事を想うはずもない。
彼等はモララーのいる部屋のドアを叩き壊し、中に入り込んだ。

(,,・∀・)「えいっ」

彼が伸ばした手を握り込むと、その瞬間に先頭にいた男の頭が弾ける。
その後ろにいた男がモララーに走り寄るが、モララーはその手にいつのまにか握った剣で男の喉を貫通。



25 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:21:01.32 ID:53FEKIkk0

「な、何でありもしなかった剣が……」

(,,・∀・)「僕の“力”は空間操作だよ」

剣を放し、空いた両手で虚空を掴み、握り潰す。
新たに二人の頭が弾け、脳漿のシャワーが降り注いだ。

生暖かいシャワーに多くの者が眼を塞いでいる内に、モララーは剣を振り回す。
狙う場所は一撃の場所。眼に、喉に、心臓。

(,,・∀・)「ありゃ。この剣、折れちゃったよ」

彼がそう言って剣を投げ捨てる時には、既に十人の人間しか立っていなかった。

(,,・∀・)「ひぃ、ふぅ、みぃ……うん。ちょうど十人かぁ……。まぁ、これくらいで良いかな」

「な、何を……」

その言葉が終わる前に、男の足が砕けた。
その隣の男の足も、その隣の男の足も。全ての足が、砕かれた。

(,,・∀・)「君達がした事を、君達にしてあげるんだよぉ」

いつのまにかモララーの両手には剣。
血がこびり付いていたり、刃が欠けたりしている。

だがその鋭さは、人を害するには十分過ぎるほどだ。



27 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:23:31.39 ID:53FEKIkk0

(,,・∀・)「五人はバラバラに。もう五人は磔に、ね?
      足があったら逃げられちゃうから、足は最初に砕かせてもらったよ」

「や、やめろ……」

(,,・∀・)「じゃあ最初は君からバラバラだね」

「や、やめ。やめて……やめて、くれ! なぁ、やめ―――」

(,,・∀・)「んしょ!」

言う男の右足首が、バツンと飛んだ。

「ああぁあぁあぁあぁあぁあぁぁあぁぁ!?」

(,,・∀・)「んしょ!」

左足首が飛ぶ。
続いて、右足首も。

「んしょ!」右手首が。左手首が。
「んしょ!」両膝から先が。
「んしょ!」両肘から先が。

身体の端からどんどんと切り飛ばされていく。
いつしか男の叫び声は、死にもがく亡霊のようになっていた。




28 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:24:51.76 ID:53FEKIkk0

「お゛お゛お゛お゛! お゛お゛お゛お゛お゛……!!」

(,,・∀・)「まだ死んじゃダメだよ、お母さんはもっとバラバラだったもん」

バラバラに、細切れに。
やがて胴体と頭を切り落として、モララーは顔を上げた。

(,,・∀・)「ふぅ……じゃあ次は、君だね」

「い、嫌だぁあぁぁぁあぁ! ああぁあぁぁぁあぁ!!」


処刑を続けるモララー。
その行為が終わったのは、夕方を少し過ぎた辺りだった。



30 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:26:16.17 ID:53FEKIkk0

(,,・∀・)「……それじゃあ、じゃあね。お母さん。お父さん」

夜。
少しの荷物を持って、モララーは紅と死に染まった家を出た。

行く先はない。
ただ歩き回って、反異能者組織を潰した。

両親の仇。
己の人生を狂わせた悪。

彼の行動の賜物か、反異能者組織はどんどんと少なくなっていった。


そして、それからいくらかの時が過ぎた時。

モララーは、『ホーム』の存在を耳にした。


『ホーム』
異能者を集めた施設で、『ファーザー』という人物が造った施設。
そして、その『ホーム』は異能者と人間の共存を目指している。

その話を聞いた時、彼は皮肉に笑った。





33 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:30:24.94 ID:53FEKIkk0

(,,・∀・)「異能者と人間の共存、ねぇ」

彼がこの時、純真であったなら。
明るい元気な昔通りの「モララー」であるなら、『ホーム』に向かい、異能者と人間の共存に手を貸しただろう。
そうすれば―――彼の天才ぶりを発揮すれば、そう長くない期間で、異能者と人間は共存の道を選んだろう。

だが、残念ながら。
彼はこの時、既に十分過ぎるほどに歪んでしまっていた。

(,,・∀・)「出来るわけないでしょ、常識的に考えて。
      というか、あんなにも汚い人間達と仲良くしようっていう人達は―――」

表情が歪む。
皮肉な笑みが、また一つ、皮肉になった。

(,,・∀・)「殺してあげなきゃ」





36 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:31:49.14 ID:53FEKIkk0

それから二週間と経たぬ内に、モララーは『ホーム』を襲撃した。
『ホーム』の中にいたほとんどの異能者は惨殺。『ファーザー』ですら、彼は殺した。

襲撃の際、数人の異能者を逃がしてしまい、『ファーザー』にかなり抵抗されたが、ただそれだけだった。

『ホーム』を潰したその時、モララーは完全な物となった。
『ファーザー』との戦闘の時、『ファーザー』にかけられた言葉。
そして、その出来事自体が、彼を完全な物とした。

ただ歪んでいるだけではなく、意志と方向のある完全な歪み。
それが、モララーだった。


その後の彼の行動は、至極単純。
反異能者組織を潰して回り、人間に憎悪を抱く異能者を集めて仲間とする。

プギャーをついてこさせ、ミンナを仲間とし、ハインを救ったのも、彼のその後の行動だ。
流石兄弟は自分達から『仲間にしてくれ』と言い出し、つーはハインが連れて来た。

当然の事、彼等に敵対する個人や組織もあった。
だがそれらは全て、“管理人”だけの手によって抹殺・壊滅させられた。


ある時モララーは、打ち捨てられた、廃墟とも取れそうな研究所を発見。
そして何を思ったか、その研究所を修復し、己達の住処とした。




38 : ◆tAdHw/rYVY :2007/07/13(金) 22:32:27.51 ID:53FEKIkk0

いつしかモララー達は自分達の事を“管理人”と呼ぶようになった。

異能者に酷薄にしてきた人間達を。
自分達の人生を狂わせてきた人間達を、今度は異能者の下に。

自分達の味わった苦しみを、人間にも味わわせてやる。

それが、“管理人”。


仲間を作り、力をも手にしたモララーは何を想うのだろうか。
それは残念ながら、本人以外には分からない。
いや、本人ですらも分かっていないのかもしれない。

ただ彼は突き進む。
己の目標に向かって。その進路に立つ者は、全て踏み潰して。







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