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LOYAL STRAIT FLASH ♪

第四話

3 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:12:47.76 ID:tepVhUWG0
第四話

ペニサスが出て行って数分後、再度鈴が鳴った。
振り向くと、そこにコートを身につけた壮年の男……年齢はドクオと同い年ぐらいか……が片手をあげて立っていた。

( ,,゚Д゚)「よう、久しぶりだな」

極めて友好的な笑みを、男はしょぼんさんに向ける。
しかし、しょぼんさんは明らかな嫌悪を醸した。
それを気にせず、カウンターに座る男。会釈されたので、私も同じことをする。

( ,,゚Д゚)「アルバイト、雇ったのか」

しょぼんさんは口を利かない。
それは普段通りであるように思えた。しかし、すぐにそれとは違うことに気づく。
手が、軽く震えていた。
それでも、男がコーヒーを注文すると、無言のまま作りにかかる。

手持ち無沙汰となった私は階上へ行こうかと悩んだ。
しかし、男としょぼんさんの会話をしばらく聞きたいと思い、店内にとどまることにする。

4 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:13:25.26 ID:tepVhUWG0
やがて運ばれてきたコーヒーを、男は手に取ろうとしない。
ただ笑顔で、肘をカウンターにつけた。

( ,,゚Д゚)「ここに通うようになってもう一ヶ月以上になるなあ。
      なあアンタ、そろそろ喋ってくれてもいいんじゃねえのか」

男が言っていることを、私はただ推測することしかできない。
ただ、一つ思い当たる節がある。
一昔前のドラマに出てくる刑事の服装と、男の着込んでいる服がほとんど同じようなものなのだ。

( ,,゚Д゚)「何度も言うけど、俺はアンタが犯人だなんて思っちゃいねえんだ。
      犯行があった全ての時刻において、お前がここで働いていたことなんて容易に裏がとれるだろうよ」

(´・ω・`)「なんのことを、言ってるんですか」

たまらなくなったように、しょぼんさんは口を開いた。
やはりこの男、刑事だったらしい。
男はより一層深いくぼみを顔につくって、コーヒーを手に取った。

( ,,゚Д゚)「お前の反応はいつも通りだな。
      また、最初から説明しようか?」

5 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:15:14.88 ID:tepVhUWG0
(´・ω・`)「いえ、あなたが何のことについて話しているかぐらい、僕にもわかります」

( ,,゚Д゚)「そりゃよかった。進歩したな」

(´・ω・`)「でも、何度も言いますが、僕は連続殺人事件と少しも関わっていません」

言い張るねえ、と男は苦笑した。
このやりとりにも飽きた、といった表情だ。

連続殺人は夜中に発生していたと聞く。
とすれば、しょぼんさんが関与していないことは明白だろう。
しかし、私はしょぼんさんから事件の話を聞かされたときに覚えた、奇妙な違和感を思い出していた。

それは些細なことだ。
だがなぜか、見逃せなかった。
しょぼんさんは、最初に発生した事件だけをやけに詳しく覚えていたのだ。
事件が起きた日時も、被害者が即死であるということも。
他の事件よりも過去に発生したというのに。
偶然かもしれない、ただ一番最初だからという理由で強く記憶に焼き付いただけかもしれない。

6 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:16:06.66 ID:tepVhUWG0
( ,,゚Д゚)「関係ないとは言わせない。
      最初の被害者、あんたと交際していただろ」

私は少し驚いた表情でしょぼんさんを見た。
彼は微動だにしない。ただ視線を男に向けて佇んでいた。
グラスを磨く手は止まっている。

( ,,゚Д゚)「これについては、アンタの知り合いからの情報で明らかなんだよ」

(´・ω・`)「だから、知らないと言ってるじゃないですか。何度も」

がしがしと、男は自分の白髪交じりの髪をかき回した。
そんな男に、しょぼんさんは帰ってください、と告げる。

( ,,゚Д゚)「何があったかしらねえけどな。自分の彼女ぐらい覚えておいてやれよ」

私にはどちらが正しいのかわからない。
だが、なんとなく男の方が正常であるように思えた。
理由は特にない。
ただ男が堂々としていて、しょぼんさんが普段より萎縮しているように見える。
それだけだ。

7 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:17:09.40 ID:tepVhUWG0
自分以外の刑事がここに来ないのは誰もアンタが関与していないと思っているからだ。
もちろん俺も同じ意見だ。
でも、それならなぜ自分の恋人の存在を否定するのか。
それが気がかりで仕方ない。だから俺は何度も足を運ぶんだ。

そのようなことを、男はしょぼんさんに淡々と語った。
それでも彼は口を割らない。いや、本当に知らないのかもしれないが。

(´・ω・`)「とにかく、迷惑なんです。
       いくら刑事相手だからとはいえ、僕はこの店であまり口を開きたくないんですよ」

( ,,゚Д゚)「そりゃ、お前が街で声をかけても無視するからだろう。
      それに、人がいない時間帯を見計らっているじゃないか」

その時だ。
ベルが鳴り、一人の客が店に入ってきた。
いらっしゃい、としょぼんさんは解放感に満ちた顔で声をかけ、男はただ溜息をついた。

( ,,゚Д゚)「こりゃもう、今日は話してくれそうにないな」

8 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:18:00.00 ID:tepVhUWG0
( ,,゚Д゚)「全く、そんな態度じゃ天国の彼女が泣くぞ」

そういわれてもしょぼんさんは知らないふりを決め込む。
男は湯気の消えたコーヒーを飲み干して立ち上がり、銭をカウンターに置く。
それから、立ちすくんだままの私を見つけて近寄ってきた。
警察手帳を出して、名前を名乗る。
ギコ、と言うらしい。

( ,,゚Д゚)「アンタは何か知らないか? しょぼんくんのことについて」

私は黙って首を振る。
そもそも連続殺人のことすらあまり知らないというのだ。
ましてやしょぼんさんの恋人が被害者だったなど、今まで聞いたことがない。

( ,,゚Д゚)「そうか……じゃあ、彼女の方は?」

彼女?
私は聞き返した。そこで初めて、ギコは私にしょぼんさんの恋人の名を告げた。

9 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:18:35.96 ID:tepVhUWG0
店内に大きな音が響いた。
よろめいてしまった私が、近くにあった椅子を倒してしまったのだ。
お客としょぼんさんに詫びて、慌てて椅子を元に戻す。

どうかしたか? とギコに尋ねられるが何も答えられなかった。
ただ、狂ったように首を振る。
今日、いったい何度首の筋肉を使ったことか。

( ,,゚Д゚)「まぁ、いいや。何かあったら連絡してくれよ」

そういって名刺を手渡された。
刑事の名前と連絡先が記載されている。

じゃあな。
来たときと同じく、ぶらりと片手をあげながらギコは店外に消えていこうとした。

( ・∀・)「ああ、すいません」

声を振り絞り、私はギコを呼び止めた。

10 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:20:01.50 ID:tepVhUWG0
( ,,゚Д゚)「どうかしたか?」

( ・∀・)「いえ、もしよろしければ、その被害者の年齢を教えていただきたいのですが」

ギコは一瞬私を訝しげに眺めたが、やがて二十歳ぐらいだったかな、と教えてくれた。
私が礼を言うと、ギコは今度こそ扉を開き、消えていく。

しばらく佇んでいたが、やがて私は階上に向かうことにした。
しょぼんさんに合図を送り、カウンターから厨房にある階段を上る。

ギコが告げた名前。
私の記憶に間違いがなければ、それはしぃの娘の名だ。
年齢も、住んでいる場所も合致している。

そんなはずはないという疑念が心の隅にある。
しかし、悪い意味での確信が私の中で強く渦巻いていた。

□□□□□□□□□

11 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:20:33.41 ID:tepVhUWG0
彼は、何を言っているのだろう。

最後の客が帰り、一旦閉店した薄暗いバーボンハウスで僕は考える。
今日は久しぶりにあの男がやってきた。
もうこないと思っていたのに。

彼はここにくるたび僕に妄言を吐く。
僕に恋人がいただとか、その恋人は連続殺人の被害者だとか。
そんなもの全て嘘っぱちだ。僕には、まぁ悲しい事実ではあるが恋人がいたことなど一度もない。
それなのに、彼は何度も何度も問いかけてくるのだ。
答えも、何もかも決まっているというのに。
本当にそっとしておいて欲しい。

今日はモララーさんにも何やら話していたらしい。
モララーさんはさっき、思い詰めた表情で二階に上がっていった。
彼に何を言われたのだろう。
いてもたってもいられなくなり、僕は片付けを中断して二階に向かった。

12 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:21:07.34 ID:tepVhUWG0
彼は父の部屋で、特に何をするわけでもなく座り込んでいた。
表情がうつろで覇気がない。
やはり、先ほどあの刑事に言われたことを気にしているのだろうか。

声をかけると、彼は今気づいたという風に視線をこちらに移した。

(´・ω・`)「気にしなくていいですから。
       あの男の言ってることなんて、全部デタラメですよ」

モララーさんは憔悴気味に頷いた。
それ以上話しかけても無駄に思える。
だから、僕は彼に背を向け、夕飯を作るためにキッチンに向かおうとした。

( ・∀・)「あの」

その声に、なぜか焦りを覚えて立ち止まる。
振り返ると、彼は音も無く立ち上がった。
そして僕を見据え、悲壮な感情を隠しているような、複雑な表情を作った。

13 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:21:46.40 ID:tepVhUWG0
( ・∀・)「もう少し、ここにいてもいいでしょうか」

申し訳なさそうに言うので、思わず聞き返す。
しかし彼の発する文言は同じだった。

(´・ω・`)「そんなこと、今更言わなくても。
       大体、記憶喪失が治るまで出て行っちゃダメですよ」

( ・∀・)「いやあ、まあ。そうですね。
     申し訳ないです。これからもう少しだけ、よろしくお願いします」

僕は言葉を返さないまま部屋を出た。
突拍子もないことを言い出す人だ。
もし何か心理的な変化が起きたとすれば、それが記憶を呼び戻す引き金になってくれれば……。

リビングに通りかかったとき、ちょうど電話が目についた。
液晶画面が不在着信があったことを知らせている。
家の電話が使われることなど滅多にない。
大抵は携帯電話で事足りるからだ。

再生すると、聞き慣れた声が流れ始めた。

14 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:23:49.32 ID:tepVhUWG0
――――――

……ああ、俺だよ。そういえば今は営業中だったな。申し訳ない。
いや、この方がよかったかもしれないな。
おまえの声を聞きながらだとまともに喋れそうにない。
勝手だが、伝えたいことだけ伝えさせてもらう。

おまえはまだ、あの女のことを否定しているのか?
だとしたら即刻、やめてくれ。
逆に怪しまれてしまうことぐらい、わかるだろ?

いや、本当に利己的だと思うさ。
俺がおまえに、何か頼み事をする資格なんてないよな。

でも、あの時俺に希望を与えたのは紛れもなく、おまえなんだよ。
おまえがあの時……って、責任転嫁はみっともないな。

とにかく、これ以上疑いをかけられたり、詮索されることはお互いのためにならないだろう?
だから、お願いだ。

15 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:25:27.82 ID:tepVhUWG0
あの刑事がまた現れたら言ってやってくれ。
「確かに彼女は知っている。でも、あの事件については何も知らない」
って。

……近いうち、またお邪魔するよ。もうすぐ月末だからな。

ああ、もう俺は動かない。何もしないさ。
連続殺人も、ここで幕を下ろす……ここまでは俺の計画通りだ。
だか、尚更おまえには慎んでいてほしい。

今でも、どうしてあんな行動をとったのかがわからない。
……なんて、殺人犯の台詞じゃないよな。
それから俺は、目くらましのために二人……。

……よく、悪夢に魘されるんだ。
いつも同じ光景だよ。あの夜の闇と、街灯に浮かぶ彼女の姿だ。
血の臭いとか、鈍い感触すらも思い出してしまうんだ。

最期、彼女は………………

――――――

16 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:26:06.08 ID:tepVhUWG0
その後も、嗚咽の混じった記録は続いているようだった。
でも、僕は咄嗟に停止ボタンを押していた。

言いようのない焦燥に駆られている。
心が奥底から爆ぜているようだった。

僕は何も知らない。
それなのにこいつは何を言っているのだろう。

彼女? そんなものいるはずないじゃないか。
大体、僕は仕事で忙しいんだ。彼女が僕といつ接触したって言うんだ。
それに……そうだ、ここには彼女がいるなんて痕跡が一つもない。
普通、写真の一枚ぐらいあったっておかしくないだろう。

でも、空きが多いアルバムなんかには彼女とやらの写真は一枚も保存されていない。

……剥がされた跡がある。
そんなもの、僕は知らない。

17 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:26:52.69 ID:tepVhUWG0
それから、僕は無心で夕飯作りにとりかかった。
店の都合もあるので、いつも晩ご飯は若干早い時間にとることにしているのだ。

ありあわせの料理を食卓に並べてからモララーさんを呼ぶ。
彼は、何か考えているかのように虚ろだったが、一応呼びかけには応じてくれた。

いつもは僕がモララーさんに何かを話しかける。
すると、彼は言葉少なではあるが必ず返事をしてくれるのだ。

しかし今日は食器を打ち鳴らすもののみが音として存在する。
ただ無言の食事が続いていた。

なぜか、気分が乗らない。
彼に話しかける話題にすら困っていた。
まるで、思考回路が焼き切れてしまったかのようだ。

気まずい雰囲気が流れたので、テレビをつけた。
ちょうど、ニュースが映し出される。

18 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:27:23.13 ID:tepVhUWG0
アナウンサーの、抑揚のないニュースの朗読をBGMにする。
特別興味のあるネタもないので、音は右から左へ通り抜け、消えていく。

モララーさんも興味を示さず、ただテーブルの一点を見つめて食事を続けていた。

そのうち、特集とタイトルづけられたニュースが始まる。

「十一月に始まった連続殺人事件は、未だ解決の糸口を……」

僕とモララーさんは、同時に流れる映像を見ていた。
流れる事件現場の映像。
その前に立ち、沈痛な面持ちで事件の経過を報じるアナウンサー。

咄嗟に僕はリモコンを取り上げ、チャンネルを変えた。
しかし、ニュースなんてものは大体同じ時間帯に放送されているものだ。

変えるチャンネル全てがニュースを報じている。
単純な偶然だろうと頭の隅では冷静に解析している。
しかし、手が順応していない。

遂に、僕はテレビを消してしまった。

19 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:28:16.73 ID:tepVhUWG0
こういうことはこれまでにもよくあった。
たまたま僕がテレビをつける(モララーさんは、遠慮しているからか、自らテレビを見ようとはしない)。
そして事件について流れ始めると僕はおもむろにリモコンを手に取る。

それを、これまではできるだけ自然な素振りで行ってきた。
しかし今日は……疲れていたのだろう、興奮し、まるで狂ったように一連の動作をこなしてしまったのだ。

モララーさんは、真っ黒になったテレビと僕とを交互に眺めた。
何か、物乞いするような表情に一瞬なったが、すぐに食事を再開した。

( ・∀・)「ごちそうさまでした。今日もありがとうございます」

何事もなかったように、彼は席を立った。
言葉をかけたいが、思いつかない。

( ・∀・)「ああ、そうだ」

(´・ω・`)「は、はい?」

20 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:29:00.47 ID:tepVhUWG0
( ・∀・)「何か手伝うことがあれば言ってください。
     今日ぐらい、洗い物しましょうか?」

(´・ω・`)「い、いえ。大丈夫ですよ。
       それぐらい、苦にもなりませんから」

思わず過剰反応してしまっていたようだ。
いつものやりとりじゃないか。何を焦っているんだ。
食器をキッチンに運び、立ち去るモララーさんの背中を、僕はただ見送っていた。

(´・ω・`)「ごちそうさま」

誰もいなくなったダイニングで呟き、僕も席を立った。

何も気にすることはない。
僕には何も気にする事なんてない。
あの留守番電話も、きっと悪戯に違いない。

そう、思いこみでもしないと……。

□□□□□□□□□

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