十七章上十七章 過去 ( ^Д^)「……っと、ようやく休めるな」 ハインとの会話を終え、ようやく自室に戻る事が出来た彼はベッドに腰掛ける。 プギャーの部屋はシンプルだ。 何せ、元々部屋に付いていたベッドとテーブルしか置いていないのだから。 ( ^Д^)「はぁ……っと、本当に疲れが溜まってるな。身体が軋んでやがる。 そういや、ここんとこまったく休んでねぇもんな。……身体も軋んで当然か」 首を鳴らす。 そしてまた一つ溜め息。 (;^Д^)「っち。次の戦闘までに全快出来れば良いんだが……」 不安げにそう呟いた、その時。 何者かがプギャーの部屋のドアをノックした。 ( ^Д^)「ん? 誰です?」 「私だ、プギャー」 ( ^Д^)「お、ミンナか。入って良いぞ」 「む、失礼する」 その声と同時に、扉が開く。 それから細いスーツに身を包んだミンナが現われた。 ( ゚д゚ )「……相変わらずこの部屋は何もないな」 ( ^Д^)「休む時にしか使ってないから、何もいらねぇんだよ」 ( ゚д゚ )「なるほどな。……む? もしかして休もうとしていたか?」 ( ^Д^)「まぁな」 ( ゚д゚ )「日を改めた方が良いか?」 ( ^Д^)「いや、別に良いさ」 ( ゚д゚ )「む。すまないな」 頷いて、後ろ手にミンナはドアを閉める。 ( ^Д^)「とりあえず座れよ」 顎でテーブルの横の椅子を差す。 ミンナはちらりとそちらを見ると、すぐにプギャーに視線を戻した。 ( ゚д゚ )「あぁ、座らせてもらおう」 椅子に歩み寄り、座る。 ( ^Д^)「お前が俺の部屋に来るなんて珍しいな。どうした?」 ( ゚д゚ )「いや、何だかお前と話したくなってな」 ( ^Д^)「何を?」 ( ゚д゚ )「色々と、だよ」 ( ^Д^)「色々って何だよw まぁ良いや。話せよ」 ( ゚д゚ )「では早速。……プギャー、お前は何故“管理人”に入った?」 ( ^Д^)「ん? 何でいきなりそんな質問なんだ?」 ( ゚д゚ )「“管理人”の中で、お前だけ戦う理由を聞いた事がないからだ。それと―――」 ( ^Д^)「あん?」 ( ゚д゚ )「お前の人間に対する憎しみが、“管理人”のメンバーとしてはあまりにも薄いからだよ。 他の“管理人”メンバーは……お前とハイン様以外は憎しみで動いているが、お前は何か違う物を糧に動いている」 ( ^Д^)「……なるほどな」 ( ゚д゚ )「さぁ、答えろ。何故お前は“管理人”に入ったんだ?」 (;^Д^)「何か高圧的じゃないか?」 ( ゚д゚ )「気のせいだ。さぁ、答えてくれ」 ゆっくりとプギャーは眼を閉じる。 考えている時の彼の癖だ。 ( ^Д^)「“管理人”に入った理由。そんで俺が戦う理由、ねぇ……」 少し間を空けて、彼はゆっくりと眼を開く。 ( ゚д゚ )「して、答えは?」 ( ^Д^)「モララーさんの為、だな」 ( ゚д゚ )「モララー様の為?」 ( ^Д^)「あぁ。俺はあの人の役に立つ為にここにいるんだ。 何せ、あの人は俺の命の恩人だからな」 ( ゚д゚ )「……では、お前とモララー様の間に何があったのか聞こうか」 (;^Д^)「やだよめんどくせぇ」 ( ゚д゚ )「…………………」 ゴソゴソと懐を探り、角が研ぎ澄まされた金属製のサイコロを取り出す。 二人の間にはその動作だけで想いが通じた。 (;^Д^)「分かった、話す。だからその物騒な物を仕舞え」 ( ゚д゚ )「む。それで良い」 言って、仕舞う。 ( ゚д゚ )「さぁ、聞こうか」 ( ^Д^)「俺とあの人の間に何があったか、ねぇ」 再度、眼を閉じる。 そして、そのままに言葉を吐いた。 ( ^Д^)「……あの人と出会ったのは、十一年前だったかな……」 それから、ゆっくりとプギャーは過去を語り始めた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (,,^Д^)「……寒いなぁ」 暗い路地裏の風が来ない一角で、プギャーは手を擦りながら呟いた。 当時、十一歳。 その幼い身体に纏うのはボロボロの黒い衣服。靴すらもボロボロだ。 傍らにはところどころが破けた皮の袋。 彼は薄いボロ布に包まっている。 寒さにガチガチと歯を鳴らし、空腹に腹を鳴らせながら。 見れば、眼の下には深いくま。身体中は傷やあざで埋まっていた。 何故彼はこんな事になっているのか? その答えは簡単。彼が異能者である事が、周囲に知れ渡ってしまったからだ。 彼は多くの人の前で“力”を解放してしまった。 その為に「反異能者組織」に追われ、逃げながら浮浪者同様の生活をしていたのだ。 ―――十一歳という若さで。 『異能者である』ただそれだけの理由で。 (,,^Д^)「もう、パンもこれだけかぁ……」 ゴソゴソと、懐からカビの生えた一欠片のパンを取り出す。 再度腹が大きく鳴るが、彼は食欲を無理矢理抑えて、パンを再度懐に仕舞った。 (,,^Д^)「これを食べたら、明日の分のパンがなくなっちゃうもんね。 ……オオカミストリートのパン屋さんがゴミを出すのは明後日の朝のはずだから、それまで我慢だ」 自分に言い聞かせるように呟いて、彼はくしゃみをする。 それからちょっと困ったような眼で、身を覆う薄布を見詰めた。 (,,^Д^)「やっぱり、これだけじゃ寒いなぁ。どこかに布を探しに行こうかな……?」 上を見上げる。 その先にある空は、寂しげな赤に染まっていた。 まもなくその赤も闇に呑まれるだろう。 (,,^Д^)「うん、そうだな……。夜になって暗くなったら、布を探しに行こう。ついでに寝場所も。 ここに居たってどうせ寒くて眠れないし、そろそろこの辺にも組織の人が来そうだからね」 すぐに彼は移動する準備をする。 皮袋から、闇に身を隠す為のフード付きの黒いマントを出す。それもボロボロであった。 身体を覆っていた薄布を皮袋に詰め、何度も使い古した汚いペットボトルから水を飲む。 そして皮袋から―――小さくも鋭い、美しい銅色の短剣を取り出して、懐に隠す。 (,,^Д^)「んしょっ……」 皮の袋を担ぎ、顔を隠す為にマントのフードを被って上を見上げる。 予想通り、空の赤は既に弱まり、黒の闇が空を侵食し始めていた。 (,,^Д^)「やっぱり、布なんてないなぁ」 夜の闇の中、街灯の光を避けるように移動。音は極力経てない。 笑っているようなその眼は常に周囲を警戒し、己の役に立ちそうなものがないかを探索する。 (,,^Д^)「……ま、布はなくても仕方ないかな。 でも、寝場所だけは確保しないと」 そう呟いた時だった。 何者かが、複数で石畳を踏みしだく後ろからの音。 それは間違いなくプギャーに向かってきている音だった。 (;^Д^)「――――――ッ!!」 プギャーは駆け出す。 それと同時に、後ろの複数の人影も駆け出す。 『反異能者組織の人間だ』 思考。確認せずとも確信して、プギャーは走りつつ歯軋りした。 (;^Д^)「くそっ……! もう見付かっちゃったか……!!」 ちらりと後ろを確認して、更に細い横道へと入る。 細い道の方が、逃げるにしても戦うにしても有利だと思ったからだ。 だが――― (;^Д^)「あっ……!?」 足を止める。 前からも組織の人間が複数来ていた。 無理だと知りつつも、後ろを見る。 組織の人間は濁った眼をしながら、ジリジリとプギャーとの距離を詰め始めていた。 彼は挟み撃ちにされたのだ。 (;^Д^)「う、ぅ……」 逃げられないか思考するが、どうする事も出来ずに、うなる。 細い道に逃げ込んだのが仇となった。 やがてプギャーは壁に背を着けた。いつのまにか壁際へと追い込まれていた。 もう、どの向きにも動けない。 オレンジの街灯がプギャーを明るく照らした。 「異能者。異能者だ。疫病神だ。不幸を運ぶ悪魔だ」 「この顔は……プギャーだかって異能者だな」 「殺せ。悪魔は殺せ。異能者は殺せ」 プギャーを囲んだ複数の組織の人間は、口々に言葉を発する。 それはまるで呪いを吐く亡霊のように。 (;^Д^)「な、何だよ! 俺は何もしてないじゃないか! 誰も殺してなんかないし、誰にも迷惑なんてかけてない!」 「お前は異能者。異能者じゃないか。異能者は存在するだけで害悪だ。ゴキブリよりもタチが悪い」 (;^Д^)「タチが悪いのはどっちだよ!」 「……こちらへ来い」 亡霊が、プギャーの腕を掴もうと手を伸ばした。 (;^Д^)「や、やめろっ! 俺に触るな!」 伸び来る手を弾く。 それと同時に、男の顔が豹変した。 「ならば殺してやるっ!!」 叫び声。 同時に手斧が振り上げられ―――振り下ろされた。 だが、そこで響いたのは痛々しい破砕音ではなく、金属音。 プギャーの左腕が草色の異形となり、斧を防御していた。 (#^Д^)「やめろって言ってるだろ!」 「ひぃぃ! あ、悪魔が! 悪魔が“力”を解放したぞぉ!!」 (#^Д^)「!?」 「殺れ! 害悪を振り撒く悪魔を殺せ!!」 再度、斧が振り上げられる。 プギャーはそれが振り下ろされる前に、その柄を左腕で殴り折った。 休む間もなく剣が突き出される。幾本も、幾本も。 最初の五本はどうにか出来た。左腕でへし折ったり、避けたり、いなしたりで。 だが残念ながら―――突き出された剣は五本を軽く越える数だった。 (;^Д^)「あっ……つ、ぅ……!」 プギャーのふとももに、剣が突き立てられる。 痛みに一瞬動きを止めた彼の身体には、瞬く間に剣が次々と突き立てられた。 肩に。ももに。足に。右腕に、幾本もの剣。 辛うじて致命傷となる箇所は避けられていたが、それらを総合したダメージは半端な物ではない。 (; Д )「――――――ッ」 その場にプギャーは倒れる。 ただでさえ体力を失っていた彼の幼い体は、ダメージの大きさに耐えられなかった。 「はぁ、はぁ……は、はははは。はははははは! どうだ糞異能者! 抵抗なんてするからこんな痛い想いをするんだぜ!?」 濁った声を響かせながら、太った男が倒れたプギャーに手を伸ばす。 だが、その腕はプギャーに触れようとした瞬間―――二の腕から先が消え、宙を舞った。 男は、何が起こったか分からない、といった表情で虚空を見詰める。 ゴトリ。地面に肉付きの良い腕が落ちて、ようやく男は叫び声をあげた。 「う、うぁ……うあぁぁ!? 腕が! お、俺の腕がぁぁあぁっ!?」 二の腕の断面から噴き出す血に、男は我を失う。 その男の後ろには、スッと立ち上がるプギャー。 その左腕は先程までの『ただの異形』の腕ではなく―――三日月のような鎌。 (,,^Д^)「……邪魔だよ、おじさん」 音もなく、鎌が袈裟懸けに振るわれる。 次の瞬間には、男は腰の辺りから二つに分かれて地面を転がっていた。 「うっ……うわぁああぁあぁっ!?」 「きっ……貴様ぁあぁっ!!」 「おい! ロマネスクが殺されたぞ! この糞異能者にだ!!」 「殺せ! 捕らえなくて良いから、もう殺しちまえ!!」 男達の怒声と共に、一斉に武器が振り上げられる。 (,,^Д^)「……はぁ」 ゆらり。プギャーの体が揺れた。 その瞬間。振り上げられた武器が、一斉に砕け散った。 驚愕に眼を見開く男達をよそに、プギャーは再度身体を揺らす。 同時、プギャーの鎌の攻撃範囲内にいた男達の上半身が宙を舞った。 「ひ……!!」 恐怖に、男達の口から息が漏れる。 それが叫び声に変わる頃には、すでに何人かの首が新たに飛んでいた。 「悪魔! 異能者が……死神が暴れ出したぞ!!」 闇に浮かぶ街頭の光。 その中で黒いボロボロのマントを翻して鎌を振り上げるその姿は―――まさに断罪の死神。 首が飛ぶ。上半身が飛ぶ。右腕が、左腕が飛んで、血がシャワーのように降り注ぐ。 足元には血溜まり。その量は時間に比例して増えた。 (,,^Д^)「おぉおおぉっ!!」 マントを翻しつつ、鎌を大きく振るう。 血溜まりが更に量を増し、マントが紅く染まった。 プギャーに罪悪感はない。生きるのに必死だった。 「ひ、ひるむな、かかれ! 相手はガキだ! 休みを与えずに攻撃を続けろ!!」 誰かが叫ぶ。それからすぐに、眼に見えて攻撃が激しくなった。 (;^Д^)「はぁ、はぁっ……!!」 プギャーも休みなく鎌を振るうが、その攻撃の速度はどんどんと遅くなっていく。 肩や腕に受けたダメージによって体力の消耗は激しくなる。 しかし足にもダメージを受けているので逃げる事すら出来ない。 男達の攻撃は加速するが、プギャーの攻撃は減速する。 「っらぁ!!」 やがて、突き出された拳がプギャーの腹を捉えた。 (;^Д^)「がっ……!」 プギャーはうめいてその場に倒れる。 間髪入れず、倒れたプギャーに無数の剣が向けられた。 彼は死を覚悟し、眼を閉じた。 だが、いつまで経っても、男達の得物が彼の身体を傷付ける事はなかった。 不審に思い、プギャーは眼を開く。 そこには、どこか皮肉な笑みをその顔にたたえた男。 ( ・∀・)「……良い歳をした男達が、痩せ細った一人の子供に何をしている?」 男は両手を腰の後ろで組んだままだ。 だが、男達は得物を振り下ろそうとした体勢のまま、得物を振り下ろせないでいた。 まるで、得物を振り下ろす軌道に障害があるかのように。 「な……何だ? 何がどうなっている?」 「!? こいつ、モララーだ!!」 「なっ……!? モララーって、あのモララーか!?」 ( ・∀・)「ほぅ、私を知っているか。では答えろ。私の“力”は何だ?」 「く、空間操s―――」 言おうとした男の頭が盛大に弾け飛ぶ。 男に対していつのまにか手を伸ばしていたモララーは笑みを崩さない。 ( ・∀・)「正解。空間操作だよ。正解した君には、永遠に苦痛を感じない肉体をプレゼントしよう」 パチンと指を鳴らす。 それと同時に、頭をなくした男の身体は鈍い音を響かせて倒れた。 ( ・∀・)「……正確には、『苦痛も快楽も感じられない肉体』だけれどね」 モララーは頭欠死体から眼を上げる。 そこでは、未だにどうにか得物を振り下ろそうとしている男達。 ( ・∀・)「既知の事だが、本当に君達は頭が悪い。 固められた―――停止された空間を、そんな得物が切り裂けるとでも?」 嘲るような、挑発するような溜め息を吐く。 ( ・∀・)「反異能者組織―――異能者を粛清しようとする組織。そして、そこに加入する君達。 君達は、自分がどんな事を他人にしようとしているのか知った方が良いな」 言って、まるで何かを押すかのような動作で虚空を突く。 すると、男達の握っていた得物が反乱を起こした。 斧が。剣が。鎌が。ナイフが。 無理矢理主の手を離れて、更には主の首へ驚くべき速度で飛び行く。 当然、そんな事を避けられる者などほとんど居ない。 首から血の噴水を噴き出しながら、男達はその場に倒れた。 ( ・∀・)「異能者を……人を殺すという事が、どういう事なのか。 それを、君達のその身体を以って教えてあげよう」 「ちぃぃっ!!」 残った男達が顔を歪ませ、慌てて戦闘体勢に入ろうとする。 しかし――― ( ・∀・)「ほぅ、逃げないのか。この組織は昔に比べて随分とねちっこくなったものだな」 次の瞬間には、モララーが二人の男の首を捉えていた。 両手に握るナイフで、一人一本。 ( ・∀・)「ならば、良かろう。逃げる事も追う事も……生きる事すらも出来ない体にしてやる」 粘着音を響かせつつ、首からナイフを引き抜く。 地面に倒れた二人の男は、既に身じろぎもしなかった。 モララーは生き残っている男達にすっとナイフを向ける。それはまるで死の宣告をするように。 そして皮肉な笑みを崩さぬままに、口を開いた。 ( ・∀・)「君達に出来る事は―――死ぬ事のみだ」 同時。 モララーが一瞬で移動し、またも他の二人の首にナイフを突き立てる。 「がっ……はぁ……」 ヒューヒューと喉から空気を漏らしながら、うめく。 モララーはすぐにナイフを引き抜き、次の瞬間には新たな二人の首に牙を突き立てた。 「はっ……速過ぎr―――」 言葉が途切れる。 男の声帯をナイフが捉えていた。 ( ・∀・)「速過ぎる? 空間移動に速いも何もあるか」 言いつつ、どんどんとその二対の牙で人数を削っていく。 (,,^Д^)「うわぁ……」 プギャーはその光景を、驚きに眼を見開きながら見ていた。 己の傷の痛みなど、忘れてしまったかのように。 (,,^Д^)「すごい……」 死体がまた二つ増える。 皮肉な笑みを浮かべた彼は、ゆっくりと振り返った。 ( ・∀・)「さて、君が最後のようだ」 「やっ……やめろ! やめてくれ!!」 男は少しずつ後ろに下がっていく。しかし、すぐに壁にぶつかってしまった。 「お、俺には妻と子供がいるんだ! 俺の帰りを待っているんだよ!!」 ( ・∀・)「ほぅ。ならば問おうか。君のしている事を、妻と子供は知っているのか?」 「な、何がだ?」 ( ・∀・)「君が、一人の腹を空かせた幼い異能者を殺そうとしているという事を、妻と子供は知っているのか?」 「知るわけがないだろう!」 ( ・∀・)「ならば……ダメだな」 「は?」 ( ・∀・)「妻と子供もそれを知っているというのなら、三人で仲良く一緒に殺してやろうとも思ったが……。 君は妻と子供に話せないような事を、平気でしていたわけだ。 血に染まったその手で、何事もなかったかのように妻や子供を抱こうとしていたわけだ」 男に向かって、手を伸ばす。 そして、虚空を掴むように手に力を込める。 みしり、と男の頭蓋が音を立てて軋む。 「は……あ、あぁ……」 ( ・∀・)「そんな君を、妻や子供が待っていると思うか? あぁ、待っていないだろうね。 真実を話さず、己の歪んだ思想から悪事を犯し、手を紅に染めている男など、誰も待ちはしない。 君を待っているのは、そう―――“死”だけだよ。君は“死”に向かって、一人で死んでいけ」 虚空を握り潰す。 それと同時に男の頭部が弾け飛んだ。 ( ・∀・)「……これで、あと少し」 呟いて、モララーはプギャーを振り返る。 その身体には、一滴すらも血液は付いていなかった。 ( ・∀・)「こんな素敵な夜に初めまして。今日はどんな罪人の首を狩りに来たのかな、死神君?」 (,,^Д^)「……俺の事ですか?」 ( ・∀・)「そのボロボロのマントと鎌が死神を彷彿とさせたのだが……。 む、だったら蝶を捕捉しようとしているカマキリかな? 中々にお洒落じゃないか」 (;^Д^)「いえ、そうでなくて……」 ( ・∀・)「分かってる分かってる。ジョークだよ、プギャー君」 (,,^Д^)「……え? 何で俺の名前を?」 ( ・∀・)「君のナイフに、名前があったんでね」 くいっと右手のナイフを掲げる。 それはさきほどプギャーが懐に仕舞ったはずの銅色のナイフであった。 (;^Д^)「!? い、いつのまに?」 ( ・∀・)「私の“力”は空間操作。このような芸当は簡単に出来るさ」 言って、モララーはナイフをプギャーに差し出す。 ( ・∀・)「勝手に借りて悪かったね。大切な物なのだろう?」 (,,^Д^)「……えぇ、はい。ありがとうございます」 ( ・∀・)「いやいや、礼を言うのはこちらだろう」 (,,^Д^)「こちらですよ。……あなたがいなければ、僕は死んでいた」 言って、少し慌てたように「俺は死んでいた」と言い直す。 ( ・∀・)「困っている人がいれば、助けるのは当たり前だろう」 (,,^Д^)「……そんな事は、ありませんでした」 ( ・∀・)「ぬ?」 (,,^Д^)「俺が腹を空かせていても、寒さに震えていても、誰も助けてくれませんでした。 それどころか、殺意を抱いて追ってくるだけでした。……助けてくれる人なんて、誰もいませんでした」 ( ・∀・)「であれば、私がその最初の一人になろう」 すっと、手を差し伸ばす。 (,,^Д^)「……?」 ( ・∀・)「君が人の優しさに触れていないのなら、私が君に優しさを教えてあげよう」 (,,^Д^)「え……?」 ( ・∀・)「……ついてくるかい? そうすれば、少し何かを食わせてあげられる」 (,,^Д^)「――――――ッ!」 目頭が少し熱くなって、必死で堪えるプギャー。 まだ幼いのにも関わらず、プギャーは人からの“優しさ”から切り離された。 その心に、モララーの優しい声と暖かい心は深く染み込んだ。 ぐ、と伸ばされた手を握る。 その手は柔らかく、とても暖かだった。 ( ・∀・)「さ、行こうか」 手を引いて、歩き出す。 おびただしい量の人の血液が、二人が歩くたびに跳ねた。 やがて、二人の姿は闇に消えていった。 (,,^Д^)「……はぁ、お腹いっぱい」 ( ・∀・)「それだけ食べればそうだろう。本当に腹が減っていたのだな」 (,,^Д^)「はい。色々と、本当にありがとうございます。モララーさん」 ( ・∀・)「気にするな」 とあるホテルの一室。 そこで、プギャーとモララーは会話していた。 二人の間にあるテーブルには、多くの空の皿。 全てプギャーが食べた物だ。 彼の身体は、栄養という栄養全てを渇望していた。 成長期の子供がろくに物も食べていないのだ。当然の事だ。 ( ・∀・)「……さて、と」 立ち上がり、椅子にかけておいた灰色のコートを手に取る。 (,,^Д^)「どこへ?」 ( ・∀・)「組織の人間を駆逐しに行こうとね。 彼等は自分が与えている痛みが何たるかも知らず、異能者に苦痛を与えている」 言って、「くくっ」と皮肉な笑みを強める。 ( ・∀・)「であれば苦痛を教えるしかあるまい?」 手を掲げる。 その手の中には、白銀に輝く長いナイフ。 (,,^Д^)「……行くんですか?」 ( ・∀・)「あぁ。君はもう少しここで休んでから行くと良い」 (,,^Д^)「……嫌、です」 ( ・∀・)「む?」 プギャーは立ち上がり、モララーに駆け寄る。 そして慌てるような手付きで懐を探り、銅色のナイフを取り出した。 (,,^Д^)「俺も行かせてください。あなたについて行きたいんです」 言って、その手に握る銅色のナイフを差し出した。 (,,^Д^)「このナイフを、あなたに差し上げます。いや、受け取ってください。 きっとこのナイフも、あなたに使われる事を望んでいる」 ( ・∀・)「……私についてくれば、戦いにその身を投じる事になるぞ?」 (,,^Д^)「あなたと共であれば、それすらも俺は望みます」 ( ・∀・)「本当に良いのか? 後悔はないのか?」 (,,^Д^)「えぇ。ないです」 きっぱりと答えたプギャーに、モララーは笑みをこぼす。 それは皮肉な笑みなどではなく、人間的な優しい笑顔だった。 プギャーの手から、ナイフを受け取る。 そして、自分の手に握っていた灰色のコートをプギャーにかけた。 (,,^Д^)「……これは?」 ( ・∀・)「私だけ何かをもらう、というわけにはいかない。それはこのナイフのお礼だ」 言って、モララーは出口の方へと向き直す。 そして、そのままで口を開いた。 ( ・∀・)「ついてこい、プギャー。どこまでも」 (,,^Д^)「はいっ!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ( ^Д^)「―――とまぁ、こんな感じ、かなぁ」 そこまで語って、プギャーは眼を開いた。 ( ゚д゚ )「その後、モララー様にずっとついていって今に至る、と?」 ( ^Д^)「ついていっている途中にも色々とあったが、まぁそんなもんさ」 ( ゚д゚ )「なるほど……分かった。ありがとう」 言って、椅子から立ち上がろうとするミンナ。 ( ^Д^)「ちょい待てミンナ。お前の話も聞かせろよ」 ( ゚д゚ )「ぬ? 何を?」 ( ^Д^)「とぼけるなよ。お前が何で“管理人”になったか、だよ」 ( ゚д゚ )「それはつまり?」 ( ^Д^)「お前の過去を話せ、つってんだよ」 ( ゚д゚ )「……むぅ」 少し乱暴に椅子に座り直すミンナ。あまり語りたくはなさそうだった。 彼はプギャーの眼をじっと見詰めて、言葉を紡ぐ。 ( ゚д゚ )「私が何でここに入ったか。そして、そのきっかけとなった事?」 ( ^Д^)「そうそう、その通り」 ( ゚д゚ )「……お前と同じく、私もモララー様がきっかけとなってここに入ったんだ。 というよりか、“管理人”メンバーは流石兄弟以外みんなそうだが」 (;^Д^)「それだけかよ」 ( ゚д゚ )「これ以上何を話せと」 ( ^Д^)「俺が話したみたいに、モララーさんと何があったかまで話してくれよ」 ( ゚д゚ )「……むぅ。仕方ない」 溜め息を吐きつつ、いつのまにか取り出したサイコロを弄びながら言う。 ( ゚д゚ )「俺があの人と出会ったのは、六年前くらいか……」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ( ><)「ミンナ君! 一緒に帰るんです!」 ( ゚д゚ )「む? あぁ、ビロードか」 ( ><)「そうなんです!」 ( ゚д゚ )「いきなりどういう風の吹き回しだ? いつもなら他の奴と一緒に帰っているだろう」 ( ><)「今日はミンナ君と一緒に帰りたい気分なんです! さぁ! 一緒に帰るんです!」 ミンナは特徴的な彼の話し方に、少しだけ笑ってしまう。 当時、ミンナは高校生であった。 既に“力”には覚醒している。しかし、それはまだ周囲には知られていない。 異能者でありながら平穏な日々を過ごせている人間であった。 (;><)「な、何で笑うんです!?」 ( ゚д゚ )「ふふふ……いや、何でもないさ」 ( ><)「……やっぱりミンナ君はよく分からないんです!」 ( ゚д゚ )「私にはお前がよく分からないよw」 (;><)「ひどいんです!」 ( ゚д゚ )「分かった分かったw さ、帰ろう」 この頃のミンナには、感情があった。少なくとも、人並みには。 彼が感情をなくしたのは――― そして、彼が“管理人”へと入るきっかけとなったのは、この後の出来事である。 ( ><)「へぇ! そんな面白いサイトがあるんですか! 知らなかったんです! ミンナ君は噂通りすごい物知りなんです!」 ( ゚д゚ )「ははっw 噂通りって、一体どんな噂が流れてるんだかw」 学校を出てから、二人は至極平凡な会話を繰り広げながら、帰り道を歩く。 彼の住んでいる地域は田舎だ。 空気が澄んでいて、空が眩しいほどに青い。 彼等が歩いている道も、両側は田んぼだ。 遠くに眼をやれば、緑に覆われた山さえ見える。 ( ><)「そういえば、もうすぐテストなんです! ミンナ君は頭も良いから、きっと良い点を取るんです! 羨ましいんです!」 ( ゚д゚ )「そんな事ないさw」 ( ><)「そんな事あるんです! ミンナ君のテストはいっつも学年トップクラスなんです!」 ( ゚д゚ )「いつも、ヤマ張ってる所が運良く出てくるだけだよw」 (;><)「それはそれですごいんです!」 そんなやりとりをした時。 突然、ミンナがその足を止めた。 ( ><)「? ミンナ君、どうしたんですか?」 ( ゚д゚ )「む。なぁ、ビロード。あそこに何が出来るんだ?」 訪ねる彼の目線の先には、工事中の何やら大きな施設。 ( ><)「聞いた所によれば、あそこには大型のショッピングモールが出来上がるみたいなんです!」 ( ゚д゚ )「ほぅ……あそこに出来るとなれば、かなり便利になるな。 ここももうすぐ田舎じゃあなくなるのかもな。妙に寂しいもんだ」 年齢不相応の眼で遠くの工事現場を見詰めるミンナ。 ビロードはそんなミンナを見て、少しだけ笑った。 ( ><)「……そうだ! ミンナ君、ちょっとあそこに行くんです!」 ( ゚д゚ )「何でまたわざわざ? まだ工事は終わってないぞ?」 ( ><)「僕も友達に聞いただけだから、あの建物には興味があるんです! 近くで見て、あの建物がどれくらいの規模なのか見てみたいんです!」 ( ゚д゚ )「……まぁ、構わないが」 ( ><)「じゃあ一緒に行くんです!」 ( ゚д゚ )「あぁ、行こうか」 ここで、ミンナが断っていれば。 見に行こうとする彼を止めていれば―――未来はまた違ったかもしれない。 ( ><)「うわぁ! 本当に大きいんです!」 ( ゚д゚ )「これは確かに大きいな……。 こんな田舎に出来上がるショッピングモールにしては大袈裟じゃないか?」 工事現場に辿り着いた二人は、ショッピングモールとなるであろう建物の外観を見つつ、感嘆の声をあげた。 ( ><)「ついこの前までここが空き地だったとは思えないほど進んでるんです!」 ( ゚д゚ )「異速で工事が進められているな……何かあるのだろうな」 ( ><)「まぁ、ショッピングモールが出来上がるのが速い事は、僕達にとっても嬉しい事なんです!」 ( ゚д゚ )「確かにな。服一着買うにしても満足にいかなかったからな」 呑気に会話を続ける彼らは気付かなかった。 鉄骨を持ち上げているクレーンが、彼らの真上で少し揺れていた事に。 それは神の悪戯か。 それとも、悪魔の見せる悪夢か。 ―――はたまた、異能者の運命か。 まもなく。 そのクレーンから、いくつかの鉄骨が落下した。 それに最も速く気付いたのは、ミンナであった。 (;゚д゚ )「!? ビロード!! 危ない!!」 ( ><)「? 何でs―――」 彼の口から、言葉は最後まで吐かれなかった。 落ち来る鉄骨を呆然と見るのみ。何が起きているのか分からないと言った表情。 (;゚д゚ )(ッチ……! 身体が動かないのか!?) 『ビロードは動けない。 このままでは、自分も彼もまもなく圧死する』 『どうすれば助けられる? どうすれば、彼の命を救える? 私に、何が出来る?』 『……そうだ、私には、まだ出来る事がある。 私には―――“力”があるじゃないか』 一瞬でそう思考したミンナは、無意識の内に両腕を掲げ上げていた。 サイコキネシスの“力”を、行使する為に。 ―――友の命を、護る為に。 (#゚д゚ )「おおぉおぉぉぉおぉっ!!」 叫んで、両腕に全力で“力”を込める。 それによって鉄骨の落下速度は幾分落ちたが、それでも完全に落下を抑える事は出来ない。 (#゚д゚ )「止まれ! 止まれ! 止まれぇえぇえぇぇ!!」 額にも青筋が立つほどに、全身に全力を込める。 更に鉄骨の投下速度が遅くなった。 (;><)「え!? な、何が!?」 (#゚д゚ )「何をしている、ビロード!! さっさと退け!! 私の“力”が持つ内に!!」 (;><)「ミ、ミンナ君!? 一体何g」 (#゚д゚ )「 良 い か ら さ っ さ と 退 け 、 ビ ロ ー ド ! ! お 前 は そ ん な に 死 に た い の か ! ? 」 (;><)「――――――ッ!!」 ビロードが走り出す。 それからまもなく、幾本もの鉄骨が壮絶な音を経てて落下した。 視界が埋まるほどの砂埃が舞い立つ。 ビロードが立っていた地面には、幾本もの鉄骨が落ちていた。中には地面に刺さっている鉄骨もあった。 (;><)「…………………」 (;゚д゚ )「ぶ、無事か? ビロード……」 よろよろと身体を揺らしながらも、己よりも友の身体を案じて紡がれた言葉。 その答えは、あまりにも残酷なものだった。 「近寄らないでください!!」 ( ゚д゚ )「……は?」 (;><)「ミ、ミンナ君。ミンナ君は異能者……異能者!! うわぁああぁぁぁあぁ!!」 叫んで、ビロードはミンナから逃げ出した。 ( ゚д゚ )「……は? おい、何のつもりだよ、ビロード」 一人、小さくなっていくビロードの背中を見詰めつつ呟く。 ( ゚д゚ )「冗談だろ? おい。ビロード。待てよ。何で逃げるんだよ、おい……」 「 ビ ロ ー ド ォ ォ オ ォ オ ォ ォ ! ! 」 彼は、叫んだ。 その眼から、大粒の雫を零しながら。 助けたのに。いや、違う。 ……信じてたのに。 『友達』だと、そう思っていたのに。 すぐに事故の様子を見に、人が集まってくる。 そんな中、ミンナは逃げ出した。 泣き叫びながら。また、その慟哭を止めようともせずに。 後ろから何人かが追いかけてくるのが分かった。 「異能者を殺せ!!」 そう叫びながら。 その後、彼は「反異能者組織」の人間に追われる事となる。 彼は多くの人間を殺しつつ、逃げ続けた。 この時にミンナは感情をなくし、人間に対する憎悪を抱いたのだ。 助けたはずの友に裏切られ、それで追われる身になったとなれば、それも仕方のない事だった。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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