三十七章一<作者コメント>ちょっと事情がありまして…… 今のVIPは長文規制がかかっておりまして、22行以上のレスが弾かれてしまいます。 これは最初の一行を詰める事で解決出来る(30行使って投下出来る)のですが、 しかしそうすると、まとめサイトさまがまとめてくださった際に、一行目がズレてしまうのです。 その理由は分かりません。 なので、文の最初に点を入れました。 すると、30行使って投下出来る上に、まとめてもらった際にもズレるのはその点だけなので、 この投下スタイルがベストなんじゃないかと、そう思いまして。 <終了> 三十七章 開戦 ようやく、始まった。 長い年月と、血の滲む様な苦労をかけて作り上げた、最高の喜劇が。 何人もの哀れなピエロが、舞台を跳ねまわってくれるだろう。 誰が死に、誰が泣いて、誰が嗤うのだろうか。 怒りと憎しみと悲しみ、そして死が編み出す舞台は、考えるだけでも笑いが込み上げてくる。 死にたくなるくらい長かったこの人生で、最大の楽しみだ。 幼い頃から、この世界は死ぬほどつまらなかった。 周りの人間は殺したくなるほど愚鈍で、汚穢していたように思う。 少なくとも、人の“内側”を視る事が出来る自分にとっては、それは紛れもない事実だった。 だから、この世界を面白くする為に『物語』を書いた。 人の感情が複雑に絡み合う、悲しくも滑稽な物語を。 人の血と死と涙をインクに、どこまでも際限なく巨大な物語を。 犠牲は厭わなかった。 それがどんな物であっても、どんな者であろうとも。 心苦しさなんて感じなかったし、人生を面白くする為には、そんな小さな事には構ってられなかった。 だから無数の人を利用したし、必要であれば殺した。 一般人も、異能者も。 聖人も、罪人も。 敵も、味方も。 実の兄でさえも、僕にとっては駒の一つでしかなかった。 おかげで、この通り。 理想以上の、本当に面白い物語が出来上がってくれた。 人が死に、誰かがそれに涙し、そして怒りと憎しみに従って、また誰かを殺す―――。 反吐が出そうなほどにくだらない、転落の運命の螺旋。 そして、腹を抱えて笑い転げてしまいたくなるほどに面白い、人の感情が作り出す物語。 さぁ、始めよう。 その命を燃やして、全力で僕を楽しませておくれ。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ( ^ω^)「あれっ……?」 気付くと、僕は真っ白な部屋に立っていた。 上にも下にも前後左右にも、汚れ一つない。 というか、白以外の色というものが存在しなかった。 視界は明瞭だが、どこに明かりがあるのかは分からない。 それどころか壁や天井がどこにあるのかが分からない。 だから実際、そこは部屋というよりかは、空間という方が正しいのかもしれない。 ただただ不気味なほど真っ白な空間で、僕はただ立ち尽くしていた。 ( ^ω^)「? ここ、どこだお?」 勿論のこと、僕はこんなところは知らない。 ここがどこであるかも、どうやってここに来たのかも分からない。 とりあえず、足を進めてみた。 しかしどこまで行けども、果ては見えてこない。 どこもかしこも真っ白であるから、景色も変わらない。 ……何時間歩いたのだろうか。 それとも数分しか歩いてないのだろうか。 どちらにせよ、僕はいつしかこの風景に心底うんざりしていた。 しかし不思議と、疲れはない。 それどころか、どこか心地良いような感覚さえある。 何でだろうか、と考えたところで、気付いた。 ( ^ω^)「ここは……夢、かお?」 「ようやく気付いたかお」 背後からのその声は、余りにも突然だった。 驚愕に包まれながら振り返る。 しかしそこには、誰もいない。 ( ^ω^)「今のは……?」 眉根を寄せる。 今の声、今の喋り方は――― 「そう、君が考えている通りだお」 驚愕に眼が見開き、息が詰まった。 眼の前に、男が『現われていた』。 まさに、瞬きの間を狙ったとしか思えないほど、唐突に。 しかし僕が驚いた本当の理由はそこではなく――― ( ^ω^)「……僕?」 眼の前に立っていた男が、僕と『同じ』だからだった。 背丈に、目付きに、口元……ほとんど、寸分違わない。 鏡を見ているような気分さえする。 違うところと言えば、男の頬に醜い傷痕があるところくらいだ。 (メ^ω^)「そう、君だお。……厳密に言えば、違うけれど」 優しい瞳で僕を見つめて、男は言う。 彼の言葉の意味が分からず、僕はただ眉根を寄せた。 (;^ω^)「……どういう事だお? 誰だお、君は」 (メ^ω^)「僕はブーンだお」 (;^ω^)「ブーンは僕だお」 (メ^ω^)「僕もブーンなんだお。 ただし、君とは違う未来を歩いたブーンだけど」 ( ^ω^)「おっ―――?」 (メ^ω^)「僕は、誰も救えなかったお。 救おうと、出来得る限り頑張ったのだけど」 (メ^ω^)「……ドクオもギコもジョルジュも、クーもツンもしぃも、モララーも、誰も。 本当に、誰も救えなかったんだお。 みんなみんなこの手をすり抜けて、悲しい運命の中に呑み込まれてしまった」 優しい表情を浮かべつつ、彼は言う。 一瞬、その瞳にふっと走った感情は、一体何だったのであろうか。 (;^ω^)「君は……何を……」 (メ^ω^)「いくつもの未来があるって事だお。 例えば、君がよく知っている、こんな未来も」 その声も、そしてそれから起こる出来事も、唐突だった。 周囲の空間がぐにゃりと歪曲し、この不思議な空間が変化していく。 空間の歪みがなくなると、僕は廊下に居た。 夢の中での研究所―――“管理人”が基地として利用するあの白い建物の、白い廊下に。 壁を這う色とりどりのコードを見て、ぞくり、と背筋が寒くなった。 最近はずっと見ていない『あの夢』と、まったく同じ情景だったからだ。 (;^ω^)「この世界は……この、夢は」 (メ^ω^)「そう。君の見るあの夢は、『僕の未来』。 何も救えなかった僕の事を、君は夢で見ているんだお」 ( ^ω^)「夢、で……?」 呟く僕の脳裏に浮かぶのは、あの光景。 視界に入るのは、惨殺という惨殺。 飛び散る血飛沫、跳ねる首、破裂する頭蓋。 耳に入ってくるのは、気が狂いそうになる叫喚。 逃げ惑う人々。追う狩人。築かれる死体の山。 そして起こる爆発。 視界を覆う煙。炎の中で笑う、人々を惨殺した狩人――― そうだ。 人ならざる力を持ったあの狩人は、どこか見たことがあるような顔をしていた。 そう、とても近いところで。 (;^ω^)「……もしかして」 呟く声は、掠れていた。 それに応える男の声は明瞭で、その眼は、やはりどこまでも優しげなそれだった。 (メ^ω^)「そうだお。それが、僕だお」 (;^ω^)「何であんな事……ッ!」 (メ^ω^)「仕方なかったんだお。あの時の僕は、僕だけれど僕じゃない」 (;^ω^)「……さっきからあんたが言ってる事は意味が分からないお。 何なんだお、あんたは。僕に何をしたいんだお?」 (;^ω^)「昔っから何度も夢に出て来て僕を苦しめて、今もこうして僕を困らせてる。 何がしたいんだお? 何を伝えたいんだお? お前は誰なんだお? 僕には、お前が言ってる事の意味がまったく分からないお」 (メ^ω^)「僕は、ブーン。 君とは違う未来を歩き、多くの者をこの『物語』に巻き込んでしまった存在だお」 (;^ω^)「まずその意味が分からないっつってんだお! いいかげんにしろお!」 (メ^ω^)「今は分からなくて良いお。きっと、後で分かるようになる」 (;^ω^)「……ああ、もう。じゃあ、それについてはもう良いお。 それじゃ、お前は僕に何を伝えたいんだお? 何がしたいんだお?」 (メ^ω^)「お願いしに来たんだお」 ( ^ω^)「おっ? 何を、だお?」 (メ^ω^)「今度こそ、救ってほしいんだお。ドクオを、ギコを、ジョルジュを。 クーを、ツンを、しぃを。そして、モララーを。 彼らを、悲しい物語の渦から救い出して欲しいんだお」 (;^ω^)「……やっぱり、あんたの言ってる意味はよく分からないお。 つまりは、この戦いに勝てっていう事じゃないのかお? それに、何で僕がモララーを救わなきゃいけないんだお?」 (メ^ω^)「それも、いずれ分かるお。 君にはただ、僕のお願いを覚えておいてほしいだけだお」 ふいに、男の両手が持ち上がった。 それは僕の肩を堅く掴み、軽い痛みを伝えてくる。 何なのか、と訊こうとして、息を呑んだ。 僕のと同じ高さにある男の瞳―――先程まではただ優しげだったその瞳が、炯々と輝いていた。 その輝きは、凄絶なものだった。 そこにあるのは、溢れんばかりの悲しみ。 (メ^ω^)「君は、僕と同じ道を歩まないでくれお。 今度こそ、救って欲しい。これ以上の悲しみの連鎖は、ごめんだお」 (メ^ω^)「君に全てを託す形になって、ごめんお。 何も出来なかった僕を許してほしいお。 ……お願いだお。今度こそ、今度こそ―――みんなを救ってくれお」 言葉が終わるのと同時、肩から指が離れる。 そして彼は僕に背を向け、廊下の奥に向かって歩き出した。 ( ^ω^)「……待ってくれお」 しかし彼は振り返らない。 それでも僕は、言葉を止めない。 ( ^ω^)「やっぱりあんたの言う事は意味が分からないお。 でもいずれ分かるって言うなら、それについてはまぁ良いお」 ( ^ω^)「でも、これだけは教えてくれお。 あんたは、誰だお?」 応える声は、ない。 ( ^ω^)「あんた、もしかして―――」 「ブーン」 男は足を止め、しかし背中を向けたまま呟いた。 僕と同じ声だというのに、その声は押し潰されそうになるほど重い。 「君はきっと、苦しくて悲しい想いを味わう事になると思うお。 でも、諦めないで頑張って欲しいお。きっと、希望はある筈だから」 変化は、またも唐突だった。 僕の周囲の空間が、眩いほどに光輝き始めたのだ。 床や壁、天井が光に呑まれ、辺りは白銀色の光に染まる。 全身を浮遊感が包み、僕はただ混乱した。 前を歩いていた男も光に呑まれ、その姿は見えない。 しかし、彼の声だけが、どこからともなく聴こえてきた。 「……僕が誰であるか。 その質問には、次に会った時に答えるとするお。 もう、起きる時間だお。今日のところは、さよならだお」 「さようなら。 また、会おうお」 その言葉が、最後だった。 眩かった光が急速に膨らみ、僕の全てを包み込む。 音すらも遠ざかる中、僕は彼の事を考えていた。 彼は誰なのだろう。 もしかして、“彼”だとしたら――― そこまで考えたところで、突然、視界が暗転した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 耳を劈くベルの音が、部屋の空気を震わせた。 凄まじい音を発しているのは、大型の目覚まし時計だ。 それが頭のすぐ横に置いてあるとなると、睡眠中のブーンはさぞかしうるさいだろう。 実際、彼の眉根はぎゅっと寄せられ、表情は凄まじく迷惑そうに歪んだ。 _, ,_ (;^ω^)「うーん……」 呻きつつ、ブーンはその目覚まし時計を止める。 ベルの音はピタリと止み、残響は殷々と残って、徐々に消えた。 上半身を起こす。 時計が指しているのは、午前二時半。 尋常でなく早い起床だが、寝たのが早かった為、睡眠時間は十分だ。 ( ^ω^)「……妙な夢だったお」 呟いて、頭を振った。 夢のせいか、眠気はほぼ完全に晴れていた。 目覚めは、間違っても良くはなかったが。 テーブルの上に置いておいた、水の注がれたグラスに手を伸ばす。 それを一気に飲み干すと、幾分か気分が良くなった。 ( ^ω^)「ん、しょっ……」 立ち上がる。 それから一つ、溜息を吐くと、胸に触れた。 鼓動は少しだけ強く、早い。 緊張―――そして少しだけ、興奮していた。 言うなればその心持ちは、部活での試合前のようなそれだ。 ( ^ω^)「とうとう、今日だお」 今日で、決着が付く。 勝っても敗けても、終わる。 勝てば望む結果が手に入るし、敗ければ全てが奪われる。命さえも。 ―――敗けるわけにはいかない。 心中で呟くと、自然と心が引き締まった。 ( ^ω^)「……頑張るお。 あの日常に、戻るんだお」 呟き、時計を見やる。 そして頷くと、ブーンは戦いに向けての準備を始めた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 川 ゚ -゚)「よし、集まったな」 その呟きは、凛とホールに響き渡った。 応える声はない―――が、全員が静かに頷いた。 それぞれの眼に輝くのは決心と覚悟だ。 川 ゚ -゚)「一応聞いておこう。準備は良いだろうな? 得物は持ったか? 出来得る限りの装備は?」 ( ^ω^)「分かりきったことを聞くなお」 応えるブーンの手には、白いバッグだ。 中からは金属同士が擦れる音―――ガントレットが奏でる声が聞こえていた。 ギコやジョルジュにドクオ、クーとモナーも、それぞれの得物をしっかりと持っている。 川 ゚ -゚)「ふむ、忘れ物はないようだな。 ……気合いは入ってるだろうな?」 ミ,,゚Д゚彡「ふん。今更、だな。 気合いなんざ、とっくの昔っから入れっぱなしだ」 (,,゚Д゚)「あぁ。十分過ぎるぐらいに、気合い入ってんよ。 今日は、絶対に敗けるわけにいかねぇからな」 川 ゚ -゚)「よろしい。じゃあ、行くぞ」 ('A`)「どうやって?」 川 ゚ -゚)「そりゃあ、車やらバイクやらでだろう」 ('A`)「んなもん、どこにあるってんだ?」 川 ゚ -゚)「ここの地下には、駐車場がある。 そこに、バイクも車もあるぞ」 ('A`)「……ほぅ。準備がよろしいな」 川 ゚ -゚)「行くぞ」 言い残し、彼女はエレベータに乗り込んだ。 続いて他のメンバーも乗り込み、彼らは地下へ。 エレベータの扉が開いて最初に感じたのは、驚くほどの冷たい空気だった。 口からの吐息は白く、ふわりと空気に流れ、溶けて行く。 エレベータの前は、細い通路だった。 少し先に、曲がり角がある。 通路には最低限の灯りしかなく、かなり薄暗い。 足音を冷えた壁に反響させながら、彼らはその中を歩む。 (;゚∀゚)「寒ッ!」 川 ゚ -゚)「そうか?」 (;゚ー゚)「いやいや、姉さん。これは普通に寒いよ」 ミ,,゚Д゚彡「どうでも良いな。それよりも、クー」 川 ゚ -゚)「分かってるさ」 その声と同時、通路の角を曲がった。 そこにあった光景に、ブーン達は思わず息を漏らした。 (;゚Д゚)「……多いな、おい」 川 ゚ -゚)「まぁな」 そこにあったのは、相当な数の車とバイク。 種類も豊富だ。 (;゚∀゚)「こんなに揃えて、どうする気さ。 こんだけあっても使わないっしょー?」 ( ´∀`)「一応置いてある、という事だもな。気にするなもな」 ( ゚∀゚)「……ま、良いんだけどさー」 川 ゚ -゚)「さて、ここでブーン達に質問だ。 “管理人”の基地までは、出来るだけ小回りの利くバイクで行きたいのだが……。 君達はバイクに乗れるか?」 ( ^ω^)「乗れないお」 ('A`)「同じく。っつーか、乗れちゃいけないわけだが」 ミ,,゚Д゚彡「お前達は?」 (,,゚Д゚)「……乗れるぞ」 ( ゚∀゚)「同じく」 _, ,_ ( ^ω^)「……何でだお」 (,,゚Д゚)「……趣味というか、何と言うか」 ( ゚∀゚)「ほら、ね? 乗れると便利だし」 ('A`)「DQNめ」 (;゚Д゚)「違う! それは断じて違うぞ!!」 (;゚∀゚)「バイクに乗れるってだけでDQN扱いは酷いなー」 ('A`)「うるせ。DQNが反論すんな」 ミ,,゚Д゚彡「やかましいぞ、お前達。 とにかく、ギコとジョルジュは乗れるんだな?」 (,,゚Д゚)「あぁ」 ( ゚∀゚)「いぇす」 ミ,,゚Д゚彡「じゃあ、ギコの後ろにブーンが、ジョルジュの後ろにドクオが乗れ」 ( ^ω^)「把握だお」 ('A`)「おk」 ( ゚∀゚)「そっちはどうするんだい?」 川 ゚ -゚)「私とモナーとフサが運転出来る。 だから私の後ろにしぃが乗って、フサの後ろにツンが乗る」 (,,゚Д゚)「ほぅ」 ミ,,゚Д゚彡「よし。じゃあ各々、乗る機体を選べ。 好きなものを選んで構わんぞ」 (,,゚Д゚)「あいよ」 各々、バイクの元に足を運ぶ。 結局、誰も特に選ぶ事もなく、眼に付いたバイクを運んできた。 ミ,,゚Д゚彡「乗れ。エンジンをかけろ」 短い指示に、全員がすぐさま従った。 まもなく五つのエンジン音が唸りを上げ、地下の冷えた空気を焦がす。 川 ゚ -゚)「ギコ達は、私達の後について来てくれ」 (,,゚Д゚)「OK。先導は頼んだ」 川 ゚ -゚)「あぁ。それじゃ―――行くぞ!」 その声に応じるかのように、クーの駆る銀のバイクが咆哮をあげた。 そして、出口らしき一角に向け、急発進。 それにフサとモナーのバイクが続き、どこか追いすがるようにしてギコとジョルジュのバイクが続く。 エンジン音の荒々しい響きだけが、地下に残された。 誰もいなくなり、その駐車場は再び沈黙に閉ざされる。 冷えきった空気の中、忍び笑いの響き。 誰が発しているのか―――それどころか、どこから発されているのかも分からない。 しかしその音は明確に、どこまでも邪悪に、無人の地下駐車場の空気を震わせていた。 笑い声は唐突に止み、そして空気よりも冷えきった言葉が紡がれる。 「始まりだ」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 東の空が薄らと白んできた時間。 舗装されたアスファルトの上を、銀のバイクが凄まじい速さで駆け抜けた。 ほとんど並ぶようにして続くのは、黒いバイクとメタリックブルーのバイク。 三つの機体にやや遅れて駆ける機体は二台。 赤いバイクと、白いバイク。 つまり、ギコとジョルジュの車体だった。 (;^ω^)「ちょっ、ギコ!! 飛ばし過ぎだお!!」 (;゚Д゚)「俺に言うな! あいつらが速過ぎるんだよ!!」 (;゚∀゚)「確かにあの速さは尋常じゃないねー! この時間だから良かったけど、車の通りが激しかったら絶対事故るよこれ!!」 ('A`)「……喋る余裕があんなら、追いつけ。 離されたら、もうどうしようもねぇぞ」 (;゚∀゚)「わーってらい!」 (,,゚Д゚)「…………っ!」 アクセルを更に強く捻り込み、加速する。 風が容赦なく身体を殴りつけ、運転手の二人は軽く呻いた。 (;゚ω゚)「ちょおおおおっ! 速いお! 速過ぎるおおおぉぉぉおぉっ!!」 (;゚Д゚)「るっせーな、口閉じてろ! 舌噛むぞ!!」 ('A`)「……事故るなよ? この速さなら、即死だからな?」 (;゚∀゚)「不吉なこと言わないでくれるかなーっ!?」 更に加速して、クー達に追いすがる。 見るとクーの後ろに乗っているしぃ、そしてフサの後ろに乗っているツンも、それぞれ恐怖の表情を浮かべていた。 (;゚∀゚)「クーさん! お願い! もうちょい遅く走って!!」 川 ゚ -゚)「む? 何故だ?」 (;゚Д゚)「速過ぎだっつの! 追いつけるか!!」 ミ,,゚Д゚彡「今こうして追いついてるじゃないか」 (;゚ω゚)「この速さは危険すぎるお! 戦いに臨む前に死んじまうおっ!!」 川 ゚ -゚)「むー……?」 ( ´∀`)「クー。確かに、この速度は一般人にはキツいもな。 時間はある。ちょっと速度を落とすもな」 川 ゚ -゚)「……ふむ、分かった」 言葉と同時、速度がやや緩やかになる。 とは言っても、その速度は一般人からすれば十二分以上に速い。 しかしブーン達の表情は緩み、口からは安堵の溜息が漏れた。 異能者となって身体能力が上がり、かつ訓練によって鍛えられた彼らの能力は、既に一般人のそれではなくなっていた。 覚醒してから、今まで。 この短期間の間に、彼らは立派な『異能者』に成長していた。 戦闘に特化した、超人間に。 しかしそれを聞いても、彼らは心の底から喜びはしないだろう。 彼らは“力”を―――戦闘を望んでいたわけではないのだから。 何かを護る為に、戦わざるを得なかったのだ。 ブーンは日常を護る為。そして、人々の悲しむ顔を見ない為。 ギコは己の正義を護る為。悪の存在に蹂躙される人を失くす為。 ドクオは大切な者を護る為。大切な友の元に戻る為。 ジョルジュは己の存在を護る為。そして、真実を知る為。 護る為に、彼らは奪う力を得た。 護る為の力が、奪う為の力となった。 人は護る物があれば、強くなる。 だから彼らは短期間の間に、これほどまでに強くなった。 (,,゚Д゚)「クー! あとどれくらいだ!」 ( ゚∀゚)「もう結構走ったよねー!? そろそろ着いても良いと思うけどー!?」 川 ゚ -゚)「案ずるな。もうすぐだ」 ミ,,゚Д゚彡「……あれだ。あちらに、黒い影があるだろう。 あれが奴らの森だ」 眼を細めて先を見るフサ。 その方向に眼をやれば、確かに、少し先にぼんやりと黒い塊が見える。 ( ^ω^)「あそこかお!」 ('A`)「……もう、そう時間はかからないな」 川 ゚ -゚)「森の中、基地近くまで行って、そこで一度降りるぞ。 そこからは四チームに分かれて、徒歩で進む」 (,,゚Д゚)「了解!」 ( ゚∀゚)「りょーかーい!」 会話はそこまでだった。 声を置き去りにして、五台のバイクは走り行く。 十数分後。 欝蒼とした森の深くで、五つのエンジン音が響いていた。 先程までの走りに喘ぐように、エンジンの放熱機関は熱い空気を吐いている。 川 ゚ -゚)「……よし、この辺りで降りておこうか」 その声に応じるように、五つあったエンジン音が一つずつ消えて行った。 代わりに、草を踏み締める音が増えて行く。 ( ゚∀゚)「相変わらず、不気味な建物だねぇ」 言いつつ、肩にかけていたバッグを開いた。 そこから顔を出すのは、四本の爪を持つ橙色の奇妙な武器―――『尖鋭』。 (,,゚Д゚)「あぁ。見てて、どうも胸糞悪い。気に入らない」 ( ^ω^)「……でもこの建物を見るのは、今日で最後だお。 僕達は明日から、学校生活にいっぱいいっぱいでこんなところには来れない。 ―――そうだお?」 ('A`)「だな。日常生活の中で、ここに来る事はないだろうから」 喋りながら、彼らも武器を装備する。 ギコの左手には、幅広の紅い刀身を持つ長剣。 ブーンの両手には、白銀に輝くガントレット。 ドクオのベルトに差し込まれたのは、黒と銀の二挺拳銃。 川 ゚ -゚)「……よし。準備は整ったな。 それじゃあ、私が合図したら四つに分かれて、それぞれの仕事場に付け。 私とドクオは、三十分後に突入する。お前達はその五分後に突入しろ」 控え目な、しかし気合いが込められた返事が返ってくる。 クーは眼を閉じ、大きく息を吸った。 軽く握った手は、胸に。 その姿は、何かに祈るかのようだ。 いや、実際に祈っているのだろう。 彼女の口は、音を発さずに『ファーザー』という言葉を紡いでいた。 まもなく、瞳が開かれる。 川 ゚ -゚)「……絶対に、勝とう。誰も死なないでくれ。 また、みんなで言葉を交わそうじゃないか」 川 ゚ -゚)「―――良いか、これは命令だ。己の全てを出しきって、生き残れ。 どのような手を使っても良い。これは戦いだ。勝って生きねば、意味がない。 “削除人”リーダー、クーが命ずる。死ぬ事は許さない。生きろ」 拳が堅く握られ、そして突き出された。 憎き敵の、雪色の基地に向かって。 川 ゚ -゚)「行け! 各々その“力”で、奴らを思う存分に蹂躙しろ! 容赦などはいらない! 己の理想と正義を、現実にするんだ!!」 返事は、なかった。 ある者は笑みを浮かべ、ある者は咆哮をあげて、ただ走る。 残ったのはクーとドクオのみ。 二人とも声は発さず、静寂が訪れた。 二人の視線は突き刺すような鋭さで、“管理人”の白い基地を捉えていた。 動きはない。 川 ゚ -゚)「……外には、いないようだな」 ('A`)「あぁ。姿はないし、音もない。 奴らは中にいる。だが……」 川 ゚ -゚)「そうだな。きっと、気付かれている。 理由はないが、そんな感じがする」 ('A`)「気付かれてるとすれば、舐められてんな。 まぁ、構わないがな。 俺達を舐めるっつーなら、その舌を引き千切ってやるだけだ」 川 ゚ -゚)「……あぁ。その通りだ」 ('A`)「さて、俺達の突入は何分後だ?」 川 ゚ -゚)「む。……あと二十五分後だ」 ('A`)「結構時間あるな。どうするか」 川 ゚ -゚)「今はただ、休むしかあるまい。 変に動いてしまっては、疲れてしまう。 ウォーミングアップは突入五分前からで十分だ」 ('A`)「ん、そうか」 短く答えると、ドクオは服の中に手を差し込んだ。 そこから現れたのは、彼が愛飲する缶コーヒーだ。 それを口に運び、ドクオは美味そうに眼を細める。 クーは、それを眉根を寄せて見詰めた。 川;゚ -゚)(……あんなもの、どこに入れていたんだ) ('A`)「ん? 何だ?」 川;゚ -゚)「ん。あぁ、いや。何でもないんだ」 ('A`)「ん……あぁ、お前も飲みたいのか?」 川;゚ -゚)「いや、そういうわけじゃなくてだな」 ('A`)「遠慮すんな。戦い前に、元気付けとけ」 言って、再度服の中に手を忍ばせた。 まもなく外に出た手には、またも缶コーヒーが握られている。 川;゚ -゚)(二本もどこに入れていた……っ?) ('A`)「ほれ」 クーは多少混乱しながらも、軽く投げられた缶コーヒーをキャッチする。 そしてまた、小さく驚愕した。 川;゚ -゚)(しかもホットだと!?) ('A`)「熱いのはダメだったか?」 川;゚ -゚)「あ、いや。そんな事はない。ありがたくいただこう」 答えつつ缶の蓋を開けると、豊かな香りが鼻をくすぐる。 クーはその香りを少し楽しむと、大きく一口飲み込んだ。 川 ゚ -゚)「……ふむ。やや甘いが、美味いな」 ('A`)「百二十円のものにしちゃ、良いものだろ?」 川 ゚ -゚)「あぁ。落ち着く味がする」 そして、沈黙。 二人が発する音は、コーヒーを啜る静かな音だけ。 緩やかに吹く風は森を揺らし、二人の頬を撫でていく。 時折響く鳥の声は美しく、気持ちを落ち着かせた。 頭上に視線をやれば、一本の太い枝の上で二匹のリスが追いかけっこをしていた。 それは戦闘前とは思えないほど、穏やかな空間だった。 二人は喋る事もなく、ただただゆっくりとコーヒーを飲み続ける。 それは、時の流れをまるで気にしないかのように。 ('A`)「ん…………」 缶を大きく傾け、最後の一滴を口に落とす。 そして後味を楽しむかのように大きく息を吐いて――― その手に握られた缶が、凄まじい音を経ててひしゃげた。 缶を握り潰したその左手は、やはり、黒の異形。 ('A`)「さて、クー。突入まで、あと何分だ?」 川 ゚ -゚)「残り……五分だ」 ('A`)「よし」 手の形に潰れた缶を投げ捨て、ドクオは首を鳴らす。 そして調子を確かめるかのように左手を開閉すると、前の白い施設を睨みつけた。 ('A`)「依然、相手側に動きはなし。 気付いてるのかどうか知らんが、少なくとも外には出ていない。 他の三チームは、しっかりと配置に着いたようだ」 川 ゚ -゚)「分かった」 短く応えて、彼女も右腕を解放する。 そして、モナーから受け取った青き刀『氷華』を鞘から抜くと、左手に握った。 川 ゚ -゚)「残り四分。そろそろ、行こうか」 ('A`)「あいよ」 ゆっくりと、歩み出す。 その歩みに、躊躇や恐怖などはない。 どこまでも冷静で、しかし力強い足取りだった。 ('A`)「クー。気付かれてるとすりゃ、扉を破った瞬間に襲撃が来る可能性がある。 気を付けろよ? 流石にそこは、カバー出来ない」 言いつつ、ドクオはベルトからクロを抜き出し、右手に握る。 川 ゚ -゚)「分かってるさ」 ('A`)「なら良いんだ。 さて、どうやって突入する? 二人一緒に? クーから? 俺から?」 川 ゚ -゚)「二人一緒に、だろうな。 正面入り口だ。敵が固まっている可能性が高い」 ('A`)「OK。作戦なんかは?」 川 ゚ -゚)「ない。相手の出方がまったく分からない状況だ。 作戦を組まず、状況に応じて行動するのが一番だろう」 ('A`)「OK」 話す間にも、二人と基地との間はどんどんと狭まって行く。 川 ゚ -゚)「残り二分」 小さな呟き。 速度は、変わらない。 川 ゚ -゚)「残り一分」 背の高い、鉄の柵に到達した。 足下に転がる鉄の残骸は、クックルに壊された巨大な鉄の門の名残だ。 眼の前に広がる巨大な前庭。 そこを割くようにして通る石畳の道を、足音高く歩む。 川 ゚ -゚)「……残り、三十秒」 そして、到達した。 門から数メートルの距離を置いて、二人は足を止める。 立ち位置はドクオを右に、クーを左に。 二人の瞳は鋭く細められ、四肢はすぐにでも動けるように力が込められていた。 クーは刀を握り直し、ドクオはクロを手の中でくるくると回す。 そして、その回転が停まると同時。 ('A`)「さ……行こうか」 川 ゚ -゚)「あぁ」 二人の足が、動いた。 まるで、滑るように。 解放部位を、それぞれ引き絞る。 ドクオは左腕を、クーは右腕を。 そして、振り抜いた。 甲高い音が鳴り響き、扉は凄まじい勢いで開け放たれる。 その音はまるで、開戦の合図のようだった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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