四十章七つーが着地し、体勢を崩した。 ほぼ同時、モナーが彼女に辿り着く。薙刀を振り上げ、全力で振り下ろした。 飛び込んで行くハインは、思考しなかった。 焦燥の感情だけが自身の中で爆発し、身体は勝手に動いていた。 全ての音が止み、しかし一つの声が聞こえる。音にはならない、自分の声だ。 殺させない―――約束したんだ。 気付けば、ハインは二人の間に身を滑り込ませていた。 モナーに正対し、両手を大きく広げた体勢で。 息を止め、眼を見開き、全身に力を込める。 (;´∀`)「!?」 モナーは、直前まで彼女の接近に気付かなかった。 慌てて薙刀を止めようとするが、振るってしまった刃の軌道は簡単には変えられない。 銀の刃は若干の減速はしたものの、無情にも流れる。 音。彼女の肩から下腹部横まで、長く紅い線が走り。 次の一瞬、堰を切ったように血が噴いた。 漏れる呻きを、彼女は歯を食い縛って耐える。声を上げたのは、他の三人だった。 (;´∀`)「ハイン……!」 (;゚∀゚)「何を!?」 二人の声に、ハインは下唇を噛み締めつつ、くぐもった声で応える。 呼吸が荒い。 从; ∀从「……すま、ねぇな」 (* ∀ )「―――アら、あら、あラァ?」 ハインの背後、つーは首を傾げる。 唐突にがくん、と傾いた為に、酷く不気味だった。 (* ∀ )「何こレ、庇ッちャッたの? 私、を?」 目の前で激しく上下する彼女の肩を、暗い瞳で見詰める。 そして俯くと、彼女もまた、その小さな肩を震わせた。 堪え切れない、忍び笑いで。 (* ∀ )「―――本ッ当に、救イよウのねェ馬鹿だヨなァ!! せッカくのチャンスをブッ潰して、『敵』に背中マで向けルなんテさァ!?」 そう叫ぶと、つーはナイフを引き抜き、目の前のハインの背に向けて振るった。 切っ先はハインの背に浅く牙を突き立て、そして紅い線を生みながら肌を走る。 ナイフが振り抜かれてから一瞬遅れて、線が血を吐き出し、斑点を床に散らした。 ハインはそれすらも堪えた。歯を噛み縛り、呻きを漏らす。 (* ∀ )「ヤッぱリ殺セないンだネェ、オ・ネ・エ・チャ・ン!? 手を下サなイどころカ、庇ッちャウンだカらさ!!」 腕に付いた返り血を舐め取ると、ハインの背を蹴りつけて後退する。 その動きと同時に、ジョルジュとモナーが飛び出した。 ジョルジュは右腕を長槍に変化させ、踏み込みながら突き出す。 つーはそれを横に回避し、しかしその方向にモナーが上手く回った。 (#´∀`)「どちらにせよ―――これで終わりだもな!!」 (* ∀ )「マだまだ終わラせナいよォ!!」 モナーが振り下ろした薙刀に、つーがナイフをぶつける。 しかし、均衡は一瞬だった。 全力を込められた薙刀に、彼女のナイフは耐えられず、砕けたのだ。 (* ∀ )「ッ!!」 つーは驚愕に眼を見開き、しかし上より迫る銀の刃に即座に横へと跳ぶ。 そこでモナーはすかさず、薙刀の軌道を変更。回転させて横薙ぎにした。 そのまま振り下ろされるものだと決めつけて横に跳んだつーは、自らそれに飛び込む形になる。 薙刀の柄は脚を打ち、彼女は痛みと痺れで一瞬、動きを止めた。 その一瞬の隙を、跳びかかったジョルジュのショートブレードが襲う。 そして振り下ろされた橙の刃もまた、飛び込んだハインの腹に吸い込まれた。 从; ∀从「ぐっ……ぅぅぅ!!」 (;゚∀゚)「……ハイン……!!」 表情を歪め、ブレードを引き抜くと、目の前のハインの顔を見詰める。 彼女は弱々しい吐息と共に、小さく「ごめん」と漏らした。 悲痛なその表情は、肉体の痛みの為だけではないだろう。 (* ∀ )「はッ! ひャはハハはハッ!! ハハはハはは!!」 目の前で腹部を抑えるハインに、つーはとうとう嗤いだした。 そしてやはり彼女の背を切り刻んで、蹴り飛ばす。 自分達の方に蹴り飛ばされたハインを、ジョルジュ達は受け止めた。 触れた手が水音と共に赤く染まる。全身、血塗れだった。 (* ∀ )「帰ッてコない妹ノ為に死のウッての!? 妹が死ぬクらいなラ自分ガッて!? 反吐ガ出そウなくらいに綺麗ナお姉ちャんだ事! 殺しガいがアるね!! 自己満足モ甚だしいンだよ、馬ァ鹿! まァ、そのおカげで? あなたノ嫌いな私は生キてるんダけどサ!!」 甲高い、不気味に音を外した声で、嗤う。 从; ∀从「うる……っせんだよ、クソが」 (;゚∀゚)「喋んな、ハイン! ここで休んでろ。後は……俺達がやるから」 荒い息を吐くハインを床に横たえて、ジョルジュは言葉を落とした。 ジョルジュには、彼女の意図がようやく分かってきていた。 彼女はつーを殺さずに、何とか元に戻そうとしているのだろう、と。 だからこそ、彼女を殺せなかった。そして、庇った。 考えてみれば、すぐに分かった筈だったのだ。 あれだけつーを愛していたハインが、つーを殺せるわけがないのだ。 つーがこの部屋に訪れる前の戦闘だって、つーの為に戦っていたのではないか。 彼女に、つーは殺せない。それは確実で、強要するのは酷だ。 ジョルジュは、つーは自分が止めてやろうと思った。 自分も、つーを手に掛けるのは辛い。かつての彼女の表情を思い出す度に、心が痛む。 だがハインはこれ以上に苦しいのだ。ならば自分達がやってやるべきだ、と思った。 元に戻そうとは、思わなかった。 元に戻せるとは、考え付きもしなかったのだ。 立ち上がろうとするジョルジュの右腕を、ハインの手が掴んだ。 橙色の腕は、震えていた。 顎も噛み合わないようで、がちがちと歯が鳴っている。 血が抜けた為に、寒いのだろうか。或いは、怖いのか。 从; ∀从「ダメ……だ。つーは、私が……! 言ったんだよ、止めて、やるって。それに……」 ( ゚∀゚)「………………」 彼女の懇願に、ジョルジュは首を横に振る。 そして一本ずつ彼女の指を剥がしていくと、立ち上がり、振り向いた。 視線の先、つーが顔の半分を手で覆って、嗤い続けている。 手の間から覗く眼はかっと見開かれ、口は血の混じった涎を垂らしていた。 後退した際に拾ったのか、腰のホルスターには鉈ナイフがある。 横に眼をやる。薙刀を構えたモナーと眼が合った。 小さく頷きかけてくる。 頷き返すと、ジョルジュは床を蹴った。 ブレードで床を削り、火花を飛ばしながら駆ける。 つーは嗤いを止めぬまま、両手にナイフを握った。 叩き付けられるブレードに、ナイフをクロスさせるようにして応じる。火花が眩しく散った。 (#゚∀゚)「調子に乗るのもいい加減にしておけよ、テメェ!! 誰かを護りたいって気持ちも分からないくせに、その気持ちを嗤うんじゃねぇ!!」 (* ∀ )「分カッてるカら楽しいンじャないカ!!」 (#゚∀゚)「黙りやがれ!!」 受け止められたブレードを、横に力任せに振るう。 受けていたナイフは弾け、そこでつーは即座に脚を跳ね上げた。 頭蓋を狙った速い蹴撃は、しかしジョルジュの反射神経の前に呆気なく回避される。 ジョルジュは左腕を突き出した。途中から砕けた『尖鋭』の爪が、つーの顔面へと伸びる。 彼女はそれを、身を旋回させて流した。 僅かに掠ったのか、頬から新たな朱が噴く。 朱を周囲に散らしながら、彼女はナイフを引き抜いた。振り上げる。 ジョルジュは左腕を全力で振るった直後だった為、補い切れない隙があった。 回避は出来ない。右腕も間に合わない。 だが彼の表情は揺るがなかった。 ただただ、純粋な怒りに染まっている。 (* ∀ )「気に入ラない顔だ―――アンタの悲鳴ガ聞キたイね!!」 叫び、ナイフを振り下ろそうと力を込める。が (#´∀`)「自分の悲鳴でも聞いてろもな!!」 横から駆け寄ってきたモナーの回し蹴りが彼女の手を打ち、 その衝撃でナイフは飛ばされて宙を舞った。 彼はそのままもう一度身を回転させ、更に威力を高めた回し蹴りを放つ。 頭蓋に迫ったその蹴りに、つーは咄嗟に身を引いた。 それでも彼の靴先が彼女の顎を掠る。彼女の身が、一瞬だがぐらりと揺らいだ。 (#゚∀゚)「これで……!」 (#´∀`)「終わりだもな!!」 モナーとジョルジュは一斉に得物を振り上げた。 橙のブレードと銀の薙刀が、輝きを軌跡として振り下ろされ――― しかし、高く響き渡ったのは金属音だ。 振り下ろした刃は、止められていた。 勿論つーがそれらを受け止められるわけもなく、彼らの攻撃を止めたのは、やはり橙色だった。 从; ∀从「…………!!」 ハインが、分離させた歪剣を構えていた。 血液を背や腹から止め処なく噴き出させ、苦痛に表情を歪めながらも、そこに脚を突き立てる。 そこを動かない、と、その力強い足取りが叫んでいた。 二人に熱く、彼女の荒い息がかかる。呻きを伴っていた。 動く事が、相当な苦痛の筈だ。 (#´∀`)「ハイン……!」 モナーの顔が怒りに引き歪む。 その怒りも当然だろう。彼は、早く終わらせねばならないのだ。余裕はない。 だと言うのに、ハインは戦闘を終わらせるチャンスを幾度も奪っているのだから。 彼女がつーの命を延ばす度に、彼の命が縮まっていく。 从; ∀从「……すまねぇ。だけど」 (#´∀`)「邪魔をするなら離れていろ! どいてくれもな!!」 (;゚∀゚)「ハイン! 俺達がやるから、あんたはどいていてくれ!!」 彼らの声は、懇願にも聞こえた。 彼も、そしてモナーも、無駄に彼女を傷付けたくはないのだ。 だが、彼女は首を僅かに横に振った。 从; ∀从「これだけは、ダメ……なんだ。約束、したんだ。つーは、つーは……」 一度、眼を瞑り、下唇を噛み締める。 苦しげな表情は、苦痛の為だけではない。自責や困惑も含んでいた。 瞼が上がり、強い意志の光を宿した瞳が現れると、同時に言葉が震えた。 从;゚∀从「私が護るって、言ったんだよ……!!」 ハインの背後から、く、と音が漏れた。 その短い音は徐々に高くなり、断続的に響く。 やがて、膨れ上がった風船が割れるように、甲高い笑い声が響いた。 (* ∀ )「ヒャッはハハは!! 最高、最高だよアンタ!! 最ッ高ニ馬鹿げてる! 私よリ狂ッてンじャないの!? クッだラない、しかモもウ意味を失クした約束の為に傷付いテ、何のツもリさ! 自分の慰めのつもリ!? アンタガ護る相手は死ンだンダよ! さッさと絶望シて、泣キ喚いてみてヨ! ほラ! ほらホラ!!」 両手にナイフを握り、わざと浅くハインの背を切り刻んでいく。 銀の輝きが彼女の背を撫でる度、彼女は苦しげに喉から音を漏らした。 しかし眼の輝きは翳らない。諦めては、いない。 (* ∀ )「苦しいカい? 苦しイよねェ。じャあ、もウそロそろ楽にしテあげよウ。 消えた妹ノ幻想に抱カれたマま、妹ノ身体に殺サれると良イ! 本望でしョ!? サァ、血を頂戴! アンタの血を浴ビて、私は笑ッてアげるカラさァァァアア!? ヒャッハハハハ!!」 腰のホルスターから鉈ナイフを抜き、振り上げる。 だがそこでハインは、ジョルジュとモナーの得物を弾きながら、前に飛び込んでナイフを回避した。 床に手を着いて身を回転させ、立ち上がる。が、すぐにぐらりと体勢を崩した。 血が足りない。失血と痛みで、意識と視界が朦朧としていた。 (* ∀ )「おヤ、まダ動けたノ? ゴキブリも真ッ青ノしぶとさだネ」 首を傾げる彼女は、言葉に反して楽しげだ。 床に突き立った鉈ナイフを引き抜くと、がくがくと不気味に動きながら声を上げる。 (* ∀ )「逃げテごラんよウサギちゃん、ホーラ、捕まえちャウぞ! ハンターさんノ脚は速いゾ、ドコまで逃げラれるカナァァァア!? ヒャハ、アハハ!! ギャッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」 手の中でくるくるとナイフを回しながら、駆け寄ってくる。 出遅れたジョルジュとモナーは、彼女に追い付けない。 ハインは混濁する意識の中、それでもつーの名を呼び続けていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ つーはあれから、ずっと内側の“殻”を殴り続けていた。 『内側』だからか、眠気は感じなかった。 だからずっと、休む事も無く、殻を叩き続けていた。 痛みはあった。殴り続けても殻には傷一つ付かなかった。でも止めなかった。 拳の骨にヒビが入り、内出血によって肌の色が青黒く変わり、痛々しく腫れ上がっても、彼女は殻を壊そうとしていた。 眼には涙を浮かべ、痛みによって額に汗を浮かべ、殴りつける度に苦痛の呻きを漏らしつつも。 彼女には全てが見えていた。全てが聞こえていた。 ハインの姿を見るたびに、拳から伝わってくるそれの何倍も痛い苦痛が来て、だから彼女は諦めない。 彼女を助けなきゃ、頑張らなきゃと拳を振るう。 ハインがつーを庇い始めた時、そしてそれを『つー』が攻撃し始めた時に、彼女は涙を溢して絶叫した。 もう辞めて。ハインに言ったのか、自分に言ったのか。両方に言ったのか、誰にでもなく口を突いて出ただけの言葉なのか。 分からないが、彼女は殻を殴りつける力を強めた。拳からは厭な音が響き、蹴りつけ、頭突きすら叩き込む。 拳が、硬質な音の中に粘着質な音を伴い始めた。 血を噴き、殻に拳の形の紅い跡を付けていく。 殻を蹴り付けていた脚に血液が垂れ、赤く染まった。頭突きを繰り返した為に、酷い頭痛までする。 それでもびくともしない殻に、やがて彼女は額を預け、力なく殴りつけつつ涙を零す。 自分は何と無力だと。自分は何と、有害な存在なのだと。 大切な人を、一人として護れずに、殺してしまう。 こんな辛い思いをするのだったら、ハインに逢わなければ良かった。 自分があそこで死んでいれば、自分も彼女も、こんな辛い思いをしなかったのに。 出逢わなければ、こんな気持ちなんて知らなかったのに。知らなければ、ここまで辛くもなかったろうに。 (* ∀ )「ハイン……」 だが、その時。 額の辺りで音がした。 硬質の何かが割れる音。見上げる。涙で歪む世界の中、そこには細く、ヒビが入っていた。 茫然とした中、殴りつける。ヒビが広がる。 無心になって、殴りつけた。ヒビがどんどんと広がり、ほんの少しずつ、殻が崩れ落ちていく。 何故ヒビが入ったのか。そんな事はどうでも良かった。 ただただ無心で、力の限り、殻を殴りつけていく。 そこで一発、自身の頬を殴りつけた。 砕け始めてる拳と頬、一度で二度痛かった。それくらいでちょうど良い。 自分は馬鹿だ。とんでもない、馬鹿だ。 ハインに逢わなければ良かっただと? そんなこと、絶望していても、冗談でも考えちゃいけない。 お前はハインからどれだけの物を貰ったのか忘れたのか。絶望の世界から救い上げてくれた存在を忘れたのか。 命をくれたのはハインだ。人生をくれたのも、暖かさをくれたのも、そしてこんな気持ちをくれたのも、全部ハインなんだ。 逢わなければ、確かに辛い思いをしなかったかもしれない。でも、こんな気持ちも知れなかった。 無力でも良い。護りたい。無力だと分かっていても、諦めたくない。諦められない。生きていたい。そんな感情をくれたのは彼女じゃないか。 有害な存在だと自覚していても、傍にいたい。そんな気持ちをくれたのは、ハインじゃないか。 諦め続けた人生。もう、諦める事は良いだろう。十分、諦めてきた。 だから、今度こそ。これだけは、護るんだ。大切な人を、この手で護るんだ。 どうにか出来るのは私だけなんだ。私以外は誰にも出来ない。 誰にも頼れない―――構わない。私は、私を、止めてみせる。 殴りつける。びりびりと脳に響く痛みが、なくなっていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (* ∀ )「―――ホラ、捕マえた」 膝立ちの体勢のまま立ち上がれないハインの前に立つと、つーは口角を吊り上げた。 鉈ナイフを逆手に持ち、彼女の喉に重厚な刃を押し当てる。 ジョルジュとモナーは、一定の位置から、動けずにいた。 どうすれば良いのか、分からないのだ。 つーは止めなければならない。ハインを助けねばならない。 だがつーを止めようと攻撃を仕掛けても、ハインが止めてしまうだろう。 それに彼女が止めなかったとしても、喉に押し当てられたナイフは、つーの微々たる動きで喉を裂く。 (;´∀`)「……どうする、もなか」 この状況、ハインを救おうと動けば、不利になる。 どれほど上手く事が運んだとしても、彼女の命は絶望的だ。先手もつーに奪われる。 そして奇跡的に彼女を救ったところで、状況は何も変わらない。 どころか、悪化しかしないだろう。 彼女がいる限り、恐らくはつーを止められない。彼女がつーの盾となる。 この場で彼女が生きれば、 やがて自分達の手で彼女を手に掛けねばならない。 ならば人格がどうであれ、“妹”として愛する者の手に掛けられた方が、彼女にとって幸せなのではないか――― (;゚∀゚)「出来るかよ……ッ!」 しかし彼女を見殺しにする事も出来ない。二人はじりじりと動き始めた。 モナーは投げナイフを握り、ジョルジュは右腕を伸ばす。 が、例え助けたところで、それからどうするべきかは考え付いていなかった。 (* ∀ )「サァ、調理ノ時間だ……待ち侘びタヨ」 从; ∀从「つー……」 (* ∀ )「ン? 何? 命請イ? 良いンじャナイ、聞いてアげルよ。聞クだけで、助ケてはアげなイけどネ」 目の前で床に膝を着いたまま、血を滴らせるハインに、つーは楽しそうに言葉を落とした。 実際、楽しいのだろう。彼女にとって、今のハインの状態は最高の物だ。 苦しげに息をし、苦痛に呻きを漏らし、血を流して満足に立つ事も出来ない。風前の灯だ。 壊れた笑みを浮かべる彼女に、しかしハインは予想外の言葉を呟いた。 从; ∀从「助けられなくて、護れなくて……悪い」 その言葉に、つーが不快を露わにする。 彼女が待っていた言葉は命請いであり、苦し紛れの罵りだ。 それが実際に吐かれたのは、ここまで来て他人を、それも敵を案じる言葉だというのが、彼女を怒らせた。 (* ∀ )「気ニ入らない。気持ちガ悪イ! 虫唾ガ走る!! 反吐ガ出そウだ!! とンでもナく生温クて臭ェ! ゲロの海で泳イでるみタいに気色ガ悪いンダヨ!! もう良イ! 死ネ、死ンでしマえ!! 詰まラナイ玩具に用ハ無いンだよ!!」 そう言って間もなく、鉈ナイフを振り上げる。 ハインが力なく大鋏を持ち上げ、モナー達が行為を止める為に床を蹴った。 音がした。 波にならない、頭にだけ響く音。 何か硬い物が落ちて砕ける、乾いた音。 そして一瞬。 突如、つーの全ての動きが停止した。 鉈ナイフを振り上げたその体勢のまま、口を笑みの形に裂いて、固まっていた。 三人が怪訝な表情を浮かべると、その手から鉈ナイフが落ちる。 ナイフを失った手は、そのまま頭を押さえる。身体がぐらりと揺れた。 口から苦しげな呻きが漏れ、眼は白眼を剥き、身体に大きく痙攣が走る。 何事かと三人が動きを止め、やがてつーの動きも止まる。 三人が身構えるが、しかし開いたつーの口は思わぬ言葉を発した。 (* ∀ )「―――今よ。私を止めて」 その声は、狂気を含んではいなかった。 从 ゚∀从「……へ?」 (*゚∀゚)「私が、この子の動きを抑えてる。今の内に、終わらせて」 強い意志を持った、しかし優しい声。 それはハインが何よりも待ち望んでいた声だ。 从;゚∀从「お前、何を」 彼女は、眼を困惑に揺らがせた。呟く声も、震える。 从;゚∀从「……つー、なのか?」 (;* ∀ )「そう。今は、私。早くこの子を……私を止めて!」 从;゚∀从「止めろって、つー……お前は何を言ってるんだ? 一対、何をすれば、良いって……」 返ってくる答えは、分かっている。 しかし聞かずにはいられなかった。 抱いた僅かな希望は、しかし悲痛な叫び声によって打ち砕かれる。 (;* ∀ )「私を、殺して!!」 頭を抑え、あらん限りの声で叫ぶ。 悲痛な響きの奥底には、不気味なノイズが混じっていた。 从;゚∀从「つー……!」 (;* ∀ )「もう、持たないの! 早く! 私が止められる内に―――!!」 そして彼女は絶叫を上げつつ、身を痙攣させた。 内側で、『もう一人』との激しい拮抗があるのだろう。 从;゚∀从「つー!!」 拘束する。ロープを―――いや、間に合わない。 この様子じゃ今すぐにでも、奴はつーをまた乗っ取るだろう。 拘束具なんて物はない。誰かがその身を以て、拘束しなければならない。 ( ゚∀゚)「……どうすんだ、ハイン」 从; ‐从「……私、は」 どうするんだ。この身体で拘束なんて、絶対に身が持たないだろう。 それとも―――つーの言う通り、楽にしてやるのが、姉として果たすべき最後の役目なのだろうか? つーもそれを望んでいる。やるなら、この手で終わらせてやるのが、彼女にとっての最良なのだろうか? 首を振る。……出来る筈がない。殺せるわけがない。 それに―――違う。彼女だって、死にたい筈はないのだ。 それを選ぶ以外に、道がなかっただけだ。生きたい筈だ。 拘束出来れば! 悔しさに歯を噛む。 ―――あの二人なら、或いは拘束出来るかもしれない。 しかし…… ( ´∀`)「君が動けないなら、仕方ないもな。 彼女の意識が戻る直前に、僕が首を獲るもな。そうするしかないもな。 どうするんだもな、ハイン。君が決めるもな。君が殺すか、僕が殺すか」 やはり、モナーとジョルジュはダメだ。殺してしまう。 なら私しかいないじゃないか。私が拘束して、その間に二人にショボンをぶち殺してもらう。 ……だが立ち上がる事すら困難なこの身体で、それが出来るとは思えない。そんな時間、持ちはしない。 ならば、どうする。 从; Д从「私はッ……!」 どうするんだ、ハイン。 何もしないのが最悪だ。このチャンスを逃してしまったら、もう打つ手なんかない。 殺す事は出来ない。例えつーがそれを望んでいても、彼女を失っては、私は生きられない。 (;* ∀ )「もう……ダメ……! 早く……!! もう、殺したクないノ。失イたくナいの!! 私を殺シて……姉さん!!」 音を外し、ノイズを混じらせ始めた妹の声に、ハインは唇を噛み締めた。 私、私は―――!! 彼女と過ごした日々が蘇る。 木漏れ日の射す深い森の中で、彼女と出会った。 血に―――返り血に塗れた彼女は涙を浮かべ、自身の中の存在と追手に怯えていた。 その儚げな表情が、失われた妹と重なった。 連れ帰り、“管理人”で保護した。今度こそ護ってやろうと思った。 “力”という物を教え、訓練し、戦わせた。 自分で自分を護れるように、そしてその“力”を従わせ、強くなれるようにと。 傍には常に自分が居た。 彼女も、自分で変わろうとしているのがよく分かった。 優しさ故、だろう。もう誰も傷付けたくないのだ。 本当の孤独と恐怖、悲しみを知っているからこそ、彼女は二度と過ちを繰り返さないと決心していた。 つーは何度も葛藤し、挫折し、また立ち上がり、迷った。それを繰り返し、何度も泣いた。 その度に彼女は自分に抱き付いてきた。自分は彼女の頭を撫で、慰め、時には叱った。 時間がかかる時もあったが、やがて彼女は笑った。そしてまた頑張った。 色々なところに連れて行った。楽しいものや美しい物を教えた。 桜の舞う公園、夏の光に輝くひまわり畑に海。紅葉の山に、雪とクリスマスに煌びやかに彩られた街並み。 その全てに彼女は感動し、それらに負けないくらいに明るい笑顔を見せた。 最初は『妹の代わり』だった彼女が、いつの間にかもっと大きな存在になっていた。 代わりではなく、妹。血の繋がりはなく、しかしもっと強い絆で結ばれた妹だった。 彼女もまた、自分の事を姉として扱ってくれているのが分かった。 そして、私は約束したんだ。 護ってやる、救ってやるって。 そして―――私は言ったんだ。 从; д从「つーの傍に、居てやるって……」 言いかけて、息を呑んだ。 ようやく気付いた。 思わず口を吐いて出た言葉こそ、答えだ。 あぁ、そうだ。傍に居てやる、護ってやるって、そう言った。 何だ、悩む事なんて、なかったんだ。 自分がどうするか、どうすべきか。自然と頭に浮かんだ。 ハインは大鋏をしっかりと握ると、袈裟掛けに空を切った。 視界が揺らぐが、思考は明瞭としていた。やる事は分かっていた。 やってやろう。そう約束したのだから。 静かに、つーに歩み寄る。 一歩ごとに倒れそうになるが、根性で耐えた。 どうせ、これで最後だ。終わらせるまでは、耐えてやる。 (* ∀ )「ハイン……」 从 ゚∀从「あぁ、分かってる。思い出したから」 目の前に立つ。 見上げてくる彼女の瞳は、涙で輝いていた。 まるで、出会った時のようだ。 あの時の彼女の瞳は、助けてくれと、そう訴えていた。 だが今となっては、訴えは間逆だ。早く、やってくれ。そう、声無く叫んでいた。 ハインは頷くと、大鋏を振り上げ――― (* ∀ )「ありがとう……」 从 ゚∀从「約束したからな」 そしてハインは、そのまま大鋏を放り投げる。 黒と銀の輝きは空中で数度回転して、背後の床に突き立った。 つーの瞳が大きく見開かれ、そしてハインの腕が、彼女を強く抱き締めた。 (*゚∀゚)「姉さ……何を……」 从 ゚∀从「なんてな……殺せるわけねぇだろ、馬鹿。馬鹿つー。 私を独りにしないでくれよ。私はいつまでも、お前と一緒にいるつもりなんだぜ? 約束したろ? 護るし、救うし、一緒に居るってさ」 (;* ∀ )「……ありがとう。でも……! ダメ、止めて―――!!」 一度は落ち着いていたつーの身が、再度激しい痙攣を起こし始めた。 ハインは慌てる事もなく、腕に力を込める。 从 ゚∀从「止めるさ。それも、約束したからね。安心しなよ」 暴れるつーの耳元で、囁く。 凄まじい。全力で抱き締めているというのに、それでも抑えきれない。腕が離れそうになる。 だがハインは放さなかった。むしろ、腕に力を込める。抱き締める。 从 ゚∀从「……もう、絶対に放さないよ」 その眼は、腕は、力に満ちていた。 まるで、つーの声を聞いて元気が出たとでも言うように。 ―――その瞳に輝くのは、そして彼女の身体を支えている物は、ある覚悟だ。 やがて、つーの痙攣がぴたりと止んだ。 表情が一変する。喉の奥で、獣が鳴くような唸り声が低く鳴った。 牙を剥き、叫んだ。声は嗄れて音を外し、ノイズを混じらせている。怒りに染まった声だ。 (#* ∀ )「放セ! 放しヤガれ、クソッタレガ!!」 从 ゚∀从「ダメだね、放さないよ。もう、離さない。 何があったって放すもんか。もう、あんたを独りにはしない」 彼女の腕の中で、つーは激しく暴れまわった。 身をうねらせ、よじり、床を蹴り、ハインを蹴りつける。 しかしハインは動じなかった。堅くつーを抱き締めて、放さない。 (#* ∀ )「ア゛ァ!? 何言ッてンだアンタ! 勝手に妹ト重ねチャッてサ!? 馬鹿ジャねェノ!? 迷惑なンだよ!! 私はアンタの妹なンカジャないンだ!! アンタの妹ハ死ンでるンダよ!! 分カッてンだろ!? 諦めガ悪イね!! そレとモ、酔ッてヤガンのかネェ!? 『妹を失クした私ハ可哀想だ』『今度コそ助けてヤる』とカ言ッてる自分に―――」 从 ゚∀从「違う」 つーの怒声に、ハインは不自然なほどに冷静に応える。 从 ゚∀从「妹は、死んでなんかいない。 あたしの中にいて―――目の前にいる」 (#* ∀ )「戯言を―――!!」 彼女は更に罵声を浴びせようとするが、ハインに更にきつく抱き締められて止められた。 口を胸に押しつけられてしまって声が出せない。 その耳元に口を寄せて、ハインは小さく囁く。 从 ゚∀从「あんたは、私の、妹だよ―――つー」 そうして、耳に小さくキスをした。 腕の中のつーが暴れるが、虚しい程に動かない。 数秒間、その体勢のまま彼女は固まって――― 顔を上げると同時に、口を開いた。 从 ゚∀从「殺せ」 ( ´∀`)「……良いのかもな? さっきまで、あんなに止めていたのに?」 从 ゚∀从「あぁ。だが、つーだけを殺すんじゃダメだ」 その言葉に、ジョルジュは眉根をぎゅっと寄せる。 (;゚∀゚)「……おい。あんた、何を言ってるんだ? まさか」 ハインの言葉の意味が、イマイチ分からなかった。 分かっている事は一つ。猛烈に騒いでいる厭な予感が、外れではないだろうということだ。 从 ゚∀从「こいつは私が抑えてる。私ごと、殺してくれ」 そして見事、ジョルジュの予感は的中するのであった。 息を吸い込む彼の喉が、情けない音を出す。 从 ゚∀从「これしかないんだ。ほら、早く殺れ」 (;゚∀゚)「お前……! 自分で何を言ってんのか分かってるのか!? そんな事―――」 彼の困惑の悲鳴は、しかし途中で怒声によって遮られる。 从#゚∀从「るっせぇ!! 私が殺れって言ってんだ、さっさと殺しやがれ!! 私達は敵だぞ! 舐めてんのか馬鹿野郎! 殺されたくなきゃ、黙って殺しやがれ!!」 ジョルジュは身体をよろめかせた。 何が何だか分からない。彼女の言い分も、今の状況も。 (;゚∀゚)「……はは。笑えねぇよ。狂ってら」 从 ゚∀从「はん。そんなもん、会った瞬間から承知だろうが。 良いから、殺せ。殺してくれ。もう、それしかないんだ。 私が放したら、もうこいつは止められないぞ? 狂いきってるからな。みんな、死ぬ」 すぐ言い返そうとして、しかしジョルジュは言い淀んだ。 良い返しが見付からない。ハインを説得出来る、満足な材料が一つたりとも存在しない。 (;゚∀゚)「……つーだけを攻撃すれば良いじゃないか!! 何もあんたまで死ぬ必要はないだろ!!」 从 ゚∀从「ジョルジュ、テメェは甘過ぎんだよ。 勘違いしてんな、私達は敵だ。わざわざ私を生かしてどうする。 この状況、あんた達にとっちゃ最高だろ? 敵を二人一緒に殺れるんだ。効率的じゃないか」 (;゚∀゚)「そういう問題じゃ―――」 从 ゚∀从「それに……独りで逝かせちゃ、つーが可哀想だろ? 今、あんたも想っただろうけどさ。 こいつはさ、ずっと孤独だったんだぜ? ここまで来て、独りにさせるわけにゃいかねぇだろ」 苦笑する。 从 ゚∀从「そんで私は、つーがいないと生きる意味を失くす。つまりここで死のうが生き延びようが、変わらないんだよ。 だから、良いんだ。私とつーは一緒に逝く。つーは独りじゃない。私はつーと一緒に居る。 それで良いんだよ。それが全てだ。だから、殺せ」 静かな物言いに、ジョルジュは俯いて下唇を噛み締めた。 その時。つーがハインの胸から無理矢理に顔を上げた。 苦しげに一つ息を吸い込み、それから叫ぶ。 (#* ∀ )「冗談ジャなイ! 放セ、放しヤガれ!! アンタは独リで死ンで行ケ!! 私を連レて行くンジャないよ!! コこマで来て! 誰モ殺セずに死ンで行クなンて御免なンだよ!! ふザけるな!! 蟲ノ分際で調子に乗りヤガッて!! 何ガ姉だ、何ガ約束だ、何ガ生キる意味ダ!? クだラないンだよ!! クソ、放セ!! 放セェエェエェェッ!!」 从 ゚∀从「うるさい」 短い一言で、ハインはまた抱き締めるようにして、彼女の顔を胸に押し付けた。 それでも叫び続けようとする彼女の声はくぐもり、形にならずに散っていく。 从 ゚∀从「……あんたとっちゃ糞以下のくだらないもんでもね、 人によっちゃ、それだけで生きる理由にだって為り得るんだよ。 命を投げ捨てるに足るだけの理由にも、ね」 小さく呟いて、彼女は一つ、溜息を吐いた。 かなり苦しげだ。顔は青白くなり、眼には濃い疲労のような物が見える。 もう、余り余裕はなさそうだ。 从 ゚∀从「ジョルジュ。さぁ」 真っ直ぐジョルジュを見やる。 彼は視線を逸らし、俯いて弱々しく呟いた。 (;゚∀゚)「う……そんな、事」 从 ゚∀从「そうか。なら、モナー。頼む」 視線をモナーに変更する。 彼は眼を逸らしはしなかったものの、ゆるりと首を振った。 ( ´∀`)「……共に死ぬ覚悟があるくらいなら、自分でケリを付けてあげるべきだもな。 つーの心境じゃ、愛する人である君に止められるのが、一番の終わり方ってもんだもな。 姉として、その心境は分かる筈だもな。僕が手を下すべきじゃない」 从 ゚∀从「私はつーを殺せないんだって。だからこうして、頼んでいるんじゃないか」 ( ´∀`)「死ぬ覚悟があるなら、出来る筈だもな。彼女を思うなら、君が―――」 モナーの言葉は、ハインの大きな溜め息で掻き消される。 从 ゚∀从「もう良いよ、分かった。やってくれないって言うんだね、あんた達は」 彼女の言葉に、二人は小さく頷いた。 ハインは息を吐いた分、大きく吸い込んで――― 从#゚∀从「こんッの―――クソ野郎共が!!」 全力で、怒鳴りつけた。 二人の身体が硬直する。 (;゚∀゚)「……な!?」 从#゚∀从「さっきまで殺し合ってた癖に、こんな状況になったら殺せないだと!? こんな血生臭いところでおセンチちゃんか、コラ! 安い同情してくれちゃってんじゃねぇぞ、ふざけやがって!! 脚の間にぶら下げてるもんは飾りか!? テメェら男ならな、覚悟決めてきっちり終わらせていけ!!」 鋭く睨みつける瞳がジョルジュを向く。 从#゚∀从「『そういう問題じゃない』? 『やれない』だ? 甘えた事抜かしてんじゃねぇぞ。 ここをどこだと思ってやがる! 戦場だぞ!! そういう決意と覚悟を固めてきたんじゃねぇのか!? あぁ!? これは『そういう問題』」だ! 『やれるかどうか』なんて聞いてねぇ!! やれっつってんだよ!!」 ジョルジュの喉が細く音を漏らす。 もう限界が近い筈の彼女の声は、 しかし今までのどの時よりも力強く暴力的で、容赦なくジョルジュを殴りつけた。 从#゚∀从「おい、ジョルジュ!! いつだったか、言ったよな、テメェ!! 『引き際が良い男はモテる』、ってよ!? なら素直に諦めて、さっさと私を殺しやがれ!! 今がその引き際だ! 今しかねぇんだぞ!! 吐いた言葉には責任持ちやがれ!!」 ジョルジュの拳が握り締められ、音が鳴った。 噛み締められた歯が軋む。歯の間からは呻きが漏れた。 从#゚∀从「モナー、テメェもだ!!」 鋭い視線が、ジョルジュからモナーへと動く。 ( ´∀`)「……何だもな」 从#゚∀从「『つーの心境じゃ、愛する人に止められるのが一番』だ!? 私の心境じゃあな、愛する者を殺すのは最低最悪なんだよ!! 兄として、その心境は分かるだろうが!! お前は弟を殺せても、私は妹を殺せない!! 殺せるわけねェだろバカタレ!! イカれた弟を止める覚悟があるんなら、ついでにここで私達も止めて行け!! 出来る筈だろう! 殺れ!!」 そこでハインは激しく咳き込んだ。 苦しげに喘ぐ。もはや、大声を出す事すら辛いのだろう。 だが彼女は更に、そして今までよりも一段と力強く、叫ぶ。 从#゚∀从「テメェらの覚悟とやら、ここで示してみやがれ!!」 彼女の叫びは残響となり、沈黙した部屋の中に長く続いて伸びて――― その響きの中に、靴が一歩を踏み出した音が混ざった。 ( ゚∀゚)「……俺が、やる」 小さく呟いて、更に脚を進めようとする彼の肩に、静かに手が置かれた。 ( ´∀`)「僕がやるもな。君が手を汚す必要は―――」 ( ゚∀゚)「良いんだ。俺がやるんだ。俺がやらなきゃ、いけないんだよ」 ( ´∀`)「……どうしてだもな?」 彼の問いに、ジョルジュは自分の手を見下ろした。 ( ゚∀゚)「思い出しちまったんだ。俺も、つーと約束したことを。 “管理人”を止めてやるって言ったんだ、俺は。心配すんな、任せとけって。 つーも“管理人”だ。なら、俺が止めなきゃ。……吐いた言葉には、責任持たないとさ」 ( ´∀`)「……そうか、もな。大丈夫もな? やれる、もな?」 ( ゚∀゚)「大丈夫じゃない。心臓が痛い。逃げ出したい。 でも、やれるやれないの問題じゃない。やるしかないんだ。 つーは、俺を信じてくれた。応えなきゃ」 頷くと、ジョルジュはモナーの手を優しく肩からどける。 そして彼と一瞬、視線を交差させると、前を向いて歩き出した。 ハインの背後に立つ。こうして見る彼女の背中は、小さかった。 普通の女の子と大して変わりのない、細くて小さな背中だった。 何だか、無性に悔しくなった。何でこんな背中で、ハインはこんなにも重い物を背負わねばならないのだと思った。 降ろしてやらねばならない、と思った。 从 ゚∀从「ありがとう、ジョルジュ」 ( ∀ )「……馬鹿野郎」 从 ゚∀从「私もそう思うよ」 思わず俯いてしまった顔を上げる。眼を逸らすわけにはいかない。 決心したんだ。自分も、彼女も。 自身の決意に正対し、その眼で、彼女の決意を見届けなければならない。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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