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LOYAL STRAIT FLASH ♪

四十章八

140 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 03:48:04.05 ID:epRM+H9B0

 
深く、息を吐いた。
 
( ゚∀゚)「どうすれば良い」

从 ゚∀从「右腕で―――いや、薙刀で刺し貫いてくれ、私ごと。
      そんで、そのままにして行ってくれ。
      この腕が離れるといけねぇから。薙刀で私達を繋ぎ止めるんだ」

短く返事を返し、ジョルジュは後ろを振り返る。

( ゚∀゚)「モナー、薙刀を貸してくれ」

( ´∀`)「返ってこないんだから、『貸してくれ』っていうのは間違ってるもな」

言いながらも、彼は手の中の薙刀を軽く投げた。
ジョルジュは感謝の言葉を告げてそれを受け取ると、再度ハインに向き直す。
手の中の薙刀が、酷く重かった。

从 ゚∀从「頼んだぞ」

( ゚∀゚)「OK、分かった。……歯ぁ、食い縛れ。
     一気に楽にするつもりでやるが、多少苦しくても諦めてくれ。俺は素人だ」

从 ゚∀从「気にすんな。苦しんでも、一緒に行けりゃ良い。
     その代わり、しっかりと急所行けよ。変に手ェ抜いたら祟るぞ」

彼女の言葉に、ジョルジュは苦笑を漏らして首を振る。
口は笑っていたが、その眼は今にも泣き出しそうだった。


141 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 03:53:21.82 ID:epRM+H9B0

 
(  ∀ )「へっ……冗談にもならねぇな。じゃあ……」

从 ゚∀从「あぁ―――やれ」

ジョルジュは薙刀を握る右腕に力を込めると、狙いを定める。
つーとハインに身長差がある為、二人の心臓をピンポイントで貫くのは難しそうだった。

薙刀に角度を付け、一歩を踏み込むと、右腕の全力を込めて、突き出した。

鋭い刃は驚くほど容易にハインの背に入り込み、つーの背から顔を出す。
つーの身体がびくんと震え、顔が天井を向いた。かっと開かれた口から、声にならない、掠れた息を吐き出す。
ハインは眉根を寄せ、片眼を瞑っただけだった。つーを抱く腕に、力が込められる。

気付けばジョルジュは右腕を放していた。
全身が震えている。息が荒くなっていた。早く打ち鳴らされる心臓が痛い。
目の前が赤い。腕が赤い。ハインの背が赤い。鼓動のリズムで、広がっていく。

从 ∀从「―――よくやってくれた」

彼女の声は掠れ、若干不明瞭になっていた。

从 ゚∀从「さんきゅ、ジョルジュ。あんた、最後まで良い男だったぜ」

( ゚∀゚)「……うるせぇよ」

从 ゚∀从「は、照れちゃってよ。……じゃ、行ってくれ。最期は二人で、静かに逝きたいんだ。
      あんた達は、自分達の目的の為に進め。止まってる暇なんか、ないだろ?
      行け。死ぬなよ。勝って、終わらせて来い」


143 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 03:58:02.22 ID:epRM+H9B0

 
ジョルジュは頷き、唇を噛み締める。訳も分からず、涙が零れそうだった。
言いたい言葉があった。何か、彼女に伝えたかった。
だがそれらは形にならず、自身の中で霧散していく。

( ゚∀゚)「ハイン……」

从 ゚∀从「最期の言葉なんて、良いさ。行ってくれ」

( ´∀`)「ジョルジュ君。彼女の言う通りだもな。行かなきゃ、だもな。
      もう、僕達がここに居る理由はない。
      ……二人の時間を邪魔するのは、無粋だもな」

床に落ちている鉈ナイフと大鋏を拾い上げつつ、モナーが言った。

( ゚∀゚)「……そうだな、行こう」

彼は頷くと、モナーの隣に立った。
共に足を進め、しかし部屋を出る直前、振り返る。

( ゚∀゚)「ハイン、ごめん。―――ありがとう」

そう残して、ジョルジュは部屋を歩み出て行った。


部屋には二人と沈黙のみが残る。
ハインはしばらく、二人が出て行ったドアを見詰めていたが、やがてぽつりと呟いた。

从 ゚ー从「へへっ……俺のセリフだっつの。馬ぁ鹿」


146 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:03:06.80 ID:epRM+H9B0

 
そして、視線を腕の中のつーに落とす。
茶色の柔らかな髪に片手を乗せ、優しく撫でながら、囁いた。

从 ゚∀从「ごめんな。閉じ込められてたあんたを助け出す事も出来ない、ダメな姉で」

(* ∀ )「ううん」

从;゚∀从「……!?」

ハインはぴたりと、手を止める。
返事が返ってくるとは思わなかった。

手の下の感触が動く。
少しくすぐったそうに眼を細めたつーが、顔を上げた。

(*゚∀゚)「中からしっかり見てたよ。ありがとう、ハイン」

从 ゚∀从「つー……あの野郎は?」

(*゚∀゚)「今は“内側”で大人しくしてるよ。
    死が確定したから、もう諦めたんじゃない?
    “内側”なら、少なくとも外からの痛みはないから、わざわざ出る事もないって思ってるみたい」

ハインは溜息を吐く。少し、うんざりしていた。

从;゚∀从「ったく……チキン野郎め。結局、最後の最後までクズのまんまか、あいつは」

(*゚∀゚)「でもそのおかげで、最期は一緒に居れるんだよ?」


149 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:06:55.90 ID:epRM+H9B0

 
从 ゚∀从「ん……そうか。なら前言撤回。あいつには、ほんーのちょびっとだけ、感謝しないとな」

そう言って、笑った。遅れて、つーも笑う。
穏やかで、満ちている笑いだった。

しばらく笑い合った後、つーはハインを強く抱き締めた。
胸に顔を埋め、小さく息を吐く。

(*゚∀゚)「……もうすぐだね」

从 ゚∀从「怖いか?」

つーは顔を上げ、横に振る。

(*゚∀゚)「ううん。何でだろ、全然怖くない」

从 ゚ー从「そっか。私もだ」

(*゚∀゚)「ふふっ……」

ハインは微笑んだまま、首を傾げた。

从 ゚ー从「何がそんなにおかしいんだ?」

(*゚∀゚)「ううん、おかしくて笑ってるんじゃないの。
    何だか、嬉しくて……変だよね、もう、死んじゃうっていうのに。
    きっと、独りじゃないから。ハインが一緒だからだよね」


151 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:10:11.73 ID:epRM+H9B0

 
从 ゚∀从「は……。なぁ、私で良かったのかい?
     姉貴面した、やたら面倒臭い女で」

つーは一段と笑みを深めて、大きく頷く。

(*゚∀゚)「うん。ハインは、私の大切な人だから。
    私をいつも見守ってくれる、私の自慢のお姉ちゃんだから。
    ありがとう、ハイン。ハインのおかげで、私は今、こうして笑っていられるんだよ」

从 ー从「……馬鹿」

つーを強く抱き締めた。
彼女も嬉しそうに笑って、強く抱き締めてくる。

(*゚∀゚)「へへへ、温かい。……ねぇハイン。いっぱいいっぱい、言いたい事があるんだ」

从 ゚∀从「あぁ、聞いてやるよ。いくらでも話せ。
     その代わり、私の話も聞けよ。私だって、お前に負けないくらい話したいことがあるんだ」
 
(*゚∀゚)「うん。でも……もう、時間が」

眉を下げたつーに、ハインを首を振る。

从 ゚∀从「幾らでもあるだろうよ。私達は、ずっと一緒だ。
      例え、あっちでもな」

そう微笑んだハインに、つーも微笑み返し、頷いた。


152 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:14:43.54 ID:epRM+H9B0

 
(*゚∀゚)「……うん! じゃあ、一言だけ」

从 ゚∀从「うん?」

(*゚∀゚)「大好きだよ、ハイン」

微笑んだまま、細く吐息を漏らして、彼女の身体から力が抜ける。
ハインは彼女の身を抱き締めたまま、その顔を見詰めて、

从 ゚∀从「私もだよ、つー」

言葉と同時に、ハインの身体からも力が抜けた。

二人の身体は同時に倒れ、その床の上に身を横たわらせた。
二人の血が混じる、赤い海の中で。
二人は微笑み、抱き締め合ったまま、動かなくなった。

血の中に落ちていく滴の音だけが、部屋の空気を震わせる。
滴の色は赤ではなく、透明。
流れるのは血ではなく、涙だった。

悲しみの涙ではなく、嬉しさの涙だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


155 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:18:57.20 ID:epRM+H9B0

 
(;´∀`)「やっぱり悪化してるもな、ね」

モナーは辟易として、溜息と共に呟いた。

見詰めているのは、脇腹から下腹部に掛けて出来た傷。
ジョルジュを庇った時に出来た傷だ。

血で真っ赤に染まった包帯を剥がしてみると、その下からは、生々しい傷口が顔を出した。
激しい動きで傷は開き、施していた簡単な応急処置はほとんど意味を失っていた。

( ´∀`)「ここが見付かって良かったもな」

そう言って、モナーは目の前の白い箱から消毒液を出す。


質素なベッドが並ぶ、天井も壁も真っ白な部屋だった。
病院特有の消毒液の臭いがするその部屋は、もしかしたら医務室なのかもしれない。
棚の中から見付けた白い箱にも、基本的な医療用具一式が詰め込まれていた。

モナーは幾つかのベッドの内の一つに腰掛け、傷の手当てをしていた。
何本もの止血剤と麻酔を打った上で縫合を行い、
軟膏と強力な液体絆創膏を塗り、ガーゼを張った上でテープなどで固め、包帯をキツく巻き付ける。

彼に対してジョルジュは、全身の傷に簡単な処置をするのみだ。
異能者の肉体は、既に傷の幾つかを塞いでいる。
残る小さくない傷も、じきに消えるだろう。しっかりとした処置は必要ない。

脇腹に二つ、やや大きな傷がある。
しかし彼は、それに手を付けようとはしなかった。


156 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:22:55.93 ID:epRM+H9B0

 
モナーの隣のベッドに座る彼は、口数が少なかった。
表情は若干固い。瞳は暗く、どこか茫としている。

だがモナーが話しかけると、普通に応じるのだ。
いや、普通に応じているように振舞っている、というのが正しいのだが。
彼は少なからずショックを受けているが、それをモナーに悟られまいとしていた。

それは意地だろうか。
或いはモナーを心配させぬ為の配慮なのか、自身の脚を止めぬ為に我慢しているのか。
何にせよ、しかしジョルジュの異変にモナーは気付いている。それでいて触れずにいた。

そういうものは、他人から喋らせる物ではない、と。

( ´∀`)「ま、こんなもんもなか」

包帯を巻き終えて、呟く。
そして一つ溜息を吐いた。

( ´∀`)「ようやく、ここまで来た。とうとう、最後だもなね」

( ゚∀゚)「……あぁ」

( ´∀`)「返事が浮かないもなね。心配もな?」

ジョルジュは俯き、違うんだ、と首を振る。
それきり黙り込んだ。

モナーは何も言わない。ただジョルジュの顔を見詰め、静かに待つ。


158 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:26:19.31 ID:epRM+H9B0

 
やがて、ジョルジュは俯いたまま、ぽつりと漏らした。

( ゚∀゚)「俺、殺しちまったよ」

( ´∀`)「君は、あの二人を楽にしてあげたんだもな」

モナーは、優しくそう告げる。
人を殺す辛さを知っていたから、彼にはジョルジュの気持ちの一部が理解出来た。

だが理解しきれてはいない。
初めての殺人が二人、しかもその両者と浅くない関わりがあったのだ。
彼のその苦しみは、モナーの想像する物よりも遥かに大きいだろう。

( ゚∀゚)「殺しちまったんだぜ、ハインをさ。つーも。この手で」

彼の言葉が聞こえなかったかのように呟くと、ジョルジュは目の前に手を持ってきた。
肘から先が、赤く染まっている。それは彼自身やモナーの血もあるが、大部分はハインとつーのものだ。

モナーはその手を握り、静かに言う。

( ´∀`)「敵だったし、そうする他なかったんだもな。
      いつ命を落とすか分からないこの世界だ、仕方ないもな」

( ゚∀゚)「分かってる、分かってるけど、さ―――」

そこで、ジョルジュの中で張り詰めていた何かが切れた。
眼から一筋の涙が零れ落ちる。
涙は静かに、しかし止まる事無く流れ続けた。


160 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:30:25.91 ID:epRM+H9B0

 
(  ∀ )「あいつ、俺に言ったんだぜ。ありがとうって、生きろってさ。
     自分は死んじまう、俺に殺されちまうってのにさ、その俺にこう言ったんだぜ?
     俺はどんな顔をすりゃ良いんだよ。どう振舞って、どんな風な言葉を吐けば良いんだよ」

溜息を吐いて、赤い手の中に顔を埋める。
手を伝った涙が、朱色を交えて床へと落ちた。

(  ∀ )「こんな時はどんな俺になれば良いんだよ。何も分からねぇよ」

( ´∀`)「君は君だもな。どんな君でも、君だもな。
      ありのままの君を、素直に出せば良いもな。
      ……今の君は、どんな気持ちだもな?」

(  ∀ )「悲しいよ」

呼吸が荒くなった。その背中をモナーは軽く叩いてやる。

( ´∀`)「落ち着いて。焦らずに喋って良いもな」

(  ∀ )「寂しくて、苦しくて、辛い。訳も分からないのに苛々して、もやもやする。
     ……あいつらは敵だった。確かに、敵だったさ。“管理人”とかいう、ふざけた組織の一人だった。
     でも人間だった。生きていたんだよ」

声は息が荒くなるのと共に、大きくなっていく。

(  ∀ )「つーは内の自分を恐れる、ただの可哀想な女の子だった。
    ハインはつーの事が大好きな、ただの勝ち気で男勝りな女だった……!
    他の奴と違うのは、ただ異能者だっただけなんだ! それなのに、何であんな二人が死ななきゃいけなかったんだよ!!」


161 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:34:17.84 ID:epRM+H9B0

 
モナーは、何も言えなかった。
何を言ったところでジョルジュの慰めにはならないし、
彼の言葉は、人間と異能者の間にずっと存在し、今もまだ答えの出ない問題だったからだ。

異能者というだけで、何故……。
全ての異能者はその事を考え、ほとんどの人間は何も考えず、ただ無条件に異能者は忌避される。
だから戦いが起こり、血が流れ、悲しみが生まれる。そして繰り返すのだ。

( ´∀`)「…………………」

(  ∀ )「なぁ、モナー。俺、ここまで来てようやく分かったよ。……“管理人”なんて、潰さなきゃいけない。
     それに、“削除人”も。こんな理不尽で悲し過ぎる戦いなんて、もうまっぴらだ!
     戦い続ける理由が、やっと見付かったよ。―――戦いを終わらせる為に、戦うんだ」

一つ、深呼吸する。
涙を拭って、瞳を閉じた。

呼吸はまだ、落ち着かない。
しかし深呼吸を繰り返し、何とかして落ち着こうとしていた。

やがて平静を取り戻すと、彼は静かに口を開く。

(  ∀ )「ショボンを止めて、戦いを終わらせて、みんなで生きて帰るんだ」

自分に言い聞かせるようにそう呟くと、眼を開ける。
若干潤んでいる瞳には、しかし力強い光が宿っていた。


163 名前: ◆tAdHw/rYVY :2009/01/18(日) 04:36:53.97 ID:epRM+H9B0

 
( ゚∀゚)「そうだ、生きようぜ、モナー。あんたも死んじゃいけない。絶対に、生き残るんだ。
    俺はあの二人の分まで、生きなきゃいけない。俺に託してくれた二人を、失望させるわけにはいかない。
    あんただって、そうだろうが。これまでに、あんたの為に失われた命の為に、あんたは生き残るべきなんだよ」

( ´∀`)「……それは」

( ゚∀゚)「死ぬ事は簡単だ。生きる事はこんなにも辛い。だから、生きるんだよ。
    これは罰だ。俺達の為に死んだ人達からの罰なんだよ。生きなきゃいけない。
    多くを死なせたから、生きる価値がないなんて、絶対にダメだ。だからこそ、生きて何かを為さなきゃいけない」

モナーの脳裏には、失われた同胞達の顔が浮かんでいた。
ロマネスクやビコーズ、フォックス。そして、クックル。
彼等は、今の自分を見たら、何と言うのだろうか。

少なくとも、死なせてはくれまい、と思う。
彼らに責められている自分が思い浮かび、思わず苦笑が出た。

だが、もう遅いかもしれない。

( ´∀`)「……あぁ、そうかもしれないもな」

( ゚∀゚)「だろう? さぁ、行こう。生を勝ち取るんだ」

( ´∀`)「もな」

頷いて立ち上がり、力強く歩むジョルジュの後ろを歩く。

彼が座っていたベッドには、べっとりと、血の跡が残っていた。







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