2006/12/24(日)17:30
( ^ω^)ブーンはユメクイのようです(第三話四)
101 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:44:29.41 ID:YgJwQrnO0
そして次に気づいた時にはまた、違うところに居た。
壁は白く、床は薄緑色のフローリング。そして天井には、チカチカと点滅する蛍光灯。
そして空間のその中心には、その輝きを剥き出しにした、質素なパイプベットがあった。
部屋の中に存在する人影は僕を除いて4つ。
まず一つは、白い衣を身に纏った初老の男性。
そしてその横には同じく白を纏った女性。
次に、僕が先程見つめていた男性。何やら、ベットにすがり付いているようだ。
そして最後に、さきほどその彼と食事をしていた女性がベッドに横たわっていた。
102 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:45:08.72 ID:YgJwQrnO0
/ ,' 3 「我々としては、最善を尽くしました。
しかし、救急隊が駆けつけた時には車が大破して、既に手遅れで…」
/ ,' 3 「辛うじて意識があるのが幸いといいますか、奇跡です。
佐藤さん。最後まで見守ってあげて下さい」
初老の男性は表情を変えずに、静かに、こう言った。
しかし、彼の表情は何かを押さえているように感じた。
その隣では、辛そうに白衣の女性が顔をそむけている。
そして、その後には悲痛な、叫び声とも、泣き声とも付かない音がその部屋でこだまするだけだった。
103 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:45:49.93 ID:YgJwQrnO0
(; )「おいっ!!しっかりするんだ!!…おいっ!!…おいっ!!!!」
(; )「さっきまで、あんなに元気に…僕に皮肉ってたじゃあないか!!!!」
(; )「おいっ!!嘘だろ!!…なあっ!!」
彼の表情は、ひどく歪んでいた。涙や鼻水。そして顔中に浮かんだ皺がすべてをくしゃくしゃにする。
川 - )「騒ぐな…しっかり…聞こえている」
元々、その声は大きくは無かったが、今の彼女から滑り落ちる言葉は、一層、弱々しく感じられる。
104 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:46:33.43 ID:YgJwQrnO0
川;´-`)「…ほら、泣くんじゃない。…いつもの冷静な君はどこへ行った」
(; )「ッ!!…クー!?ク~~~ッ!!」
川;´-`)「…ようやく…名前で…呼んでくれたな。
君は…いつまで経っても…恥ずかしがって…呼んでくれなかった」
それでも、彼は叫び続ける。しかし彼女は続けた。
川;´-`)「…もういいんだ。…彼らは…頑張って私を救おうとした。
ただ…偶々…私は数千分の一の確立に…引っかかったようだ…」
川;´-`)「…心配するな。私はただの…ただの蛋白質で構成された物質に…
…も、戻る…だけ…ヴッ!!」
105 名前:VIP皇帝[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:47:02.67 ID:YgJwQrnO0
その言葉の後に、彼女は、これまでに見たことが無いような量の、赤色を吐き出す。
『…心拍数低下!!…駄目です戻りません!!!』
それとともに、また別の悲痛な叫びが響く。
106 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:47:36.75 ID:YgJwQrnO0
川;´-`)「…ハァ…ハァ…だから…君は…気にする必要…がない。
君自身には何の影響は無いんだから…」
(; )「もういい!!喋るんじゃない!!」
川;´-`)「…ハァ…ハァ…思えば君と出会ってからが…私の人生の…
始まりだったんだ…」
川;´-`)「…君と一緒にいる時は…こういう抽象的な言葉は…好きではないが…
『幸せ』だったんだろうな…」
川;´-`)「そして…最後に…君に言いたい事があるんだ…思えば…こんなこと…
言った事無かったな……こういう時は…便利な…言葉だ…」
(; )「もういいんだ!!クー!!ク~~~ッ!!!」
川;´-`)「…いままで…そばに居て…くれて………
ありがとう…」
川;´-`)「……そして
107 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:48:10.15 ID:YgJwQrnO0
……君が……『好き』だよ」
(; )「ク~~~~~~~~~ッ!!!
うあああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ!!」
108 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:48:50.98 ID:YgJwQrnO0
そして最後に残ったのは、彼の、悲痛な、慟哭だけであった。
僕は、力なく崩れる、彼の背中を直視することはできなかった。
(´・ω・`)「…これで、彼の物語は終わりだ。
…湿っぽい話をしてしまって、すまなかった」
(;^ω^)「………」
そして気が付けば、僕はまた、酒場のカウンターに座っていた。
109 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:49:31.13 ID:YgJwQrnO0
( ^ω^)「…因みに、その彼は…どうなったんですかお?」
(´・ω・`)「…聞きたいかい?」
僕は、返事に困ってしまったが、しばらくして、ゆっくりと、首を縦に振った。
(´・ω・`)「…彼は、彼女の死を忘れようとして、家に篭って本を読んだんだ。
悲しみを忘れるためにはどうすればいいかってね」
(´・ω・`)「…しかし、どの科学者の本にも、どの心理学者の本にも、
その方法は記されていなかった」
(´・ω・`)「そして、彼は会社を辞め、自分の家から出ることはなかったんだ。
ついには、精神は異常をきたし、彼は廃人同然になってしまう」
110 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:50:29.01 ID:YgJwQrnO0
( ^ω^)「…で…彼は…どうしたんですか?」
僕は、恐る恐る聞いた。目の前の彼は無言で、食器を布で磨いているようだった。
その左手の薬指にはキラリ、と光るものが見えたような気がした。
(´・ω・`)「……さあ?」
(;^ω^)「さあって?知ってるんじゃないんですか?」
(´・ω・`)「いや、まだ、分からないよ」
また、本当の意味での答えは返ってこなかった。でも、なぜかそれが仕方ないように思えた。
111 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:51:14.17 ID:YgJwQrnO0
(;^ω^)「…じゃあ、どうして僕にこんな話を?」
(´・ω・`)「…何でかな?偶々来たから。といえばそうなんだけど、
なぜか君に話しておかなきゃいけないと思ってね」
(;^ω^)「…なんとなく…ですかお?」
(´・ω・`)「…ああ、『なんとなく』だろうね」
そう言うや否や、再び酒場の中は柱時計の、ボーン、ボーン、という音で満たされる。
(´・ω・`)「おや?もう12時だ。閉店の時間だね」
その音は心なしか歪んだような、まるで音痴なものに聞こえた。
112 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:51:54.35 ID:YgJwQrnO0
(´・ω・`)「……いや、今度は、この店を終えなきゃいけないみたいだ
……やっぱり思っていた通りだね」
その言葉と同時に、再びブーンは前に感じた不穏な空気を感じる。
いきなり柱時計の文字盤が、ぴきっ、と音を立てて崩れる。
時計だけではない。棚に並ぶどの色の瓶も、亀裂を生じ始める。
ふと、後ろを振り返ると、
ガラスのテーブルや、グランドピアノも音を立てて崩れ始めていた。
それ破片は、一つの点を中心に渦巻き始めていた。
113 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:52:31.76 ID:YgJwQrnO0
彼のほうを見てみると彼の姿は、瓶の破片と混ざり合っているように見える。
その表情は何処か寂しそうに微笑んでいるようだった。
そして、それを含む全てのものは、そのまま溶けてしまい、ついには僕の背後の渦へと吸い込まれていった。
最後に、あの青年がこう言った気がした。
114 名前:猪(進化系)[] 投稿日:2006/12/21(木) 21:52:57.43 ID:YgJwQrnO0
「君は僕とは違う。僕と同じ過ちを繰り返さないで欲しい」
そして残ったのは一つの儚い小さな光。それはまた、僕の胸に飛び込んできた。
気がつけば、また、僕は最初の白い部屋に居た。