三十八章一三十八章 人 < 前編 > 兄者の言葉を聞いたクーの瞳が、混乱と動揺に揺れる。 それを見て、兄者はその邪悪な笑みを更に深くした。 川;゚ -゚)「どういう事だ……まさか……」 ('A`)「なるほど、な。俺達は、嵌められたわけだ」 ( ´,_ゝ`)「そういう事だ。しかし、こうまでもこちらの思い通りになるとは。 『それらしい扉を作っておけば、そちらは勝手に勢力を分散させて攻めてくる』 ―――ははは。実にお前達は愚図だな。滑稽だ」 (´<_` )「お前達が一挙に攻めてくれば、この戦いは苦しいものになっていただろう。 お前達は決して弱くない上、それが手を組んだとなれば、尚更な」 (´<_` )「だから、裏の裏を突かせてもらった。屈強な人間―――お前やフサを分散させる為に。 すると、この通り。お前達は、自らの勝利の可能性を削ってくれた」 川;゚ -゚)「……貴様ら……!!」 ( ゚д゚ )「今頃は、お前達の仲間もこういう状況になってるだろうさ。 さて、彼らはどのような反応をするのかn―――」 ('A`)「関係ねぇよ」 感情の含まれない、ただただ冷酷な一言。 それにミンナは言いかけた言葉を呑み、兄者は楽しげな笑みを消す。 ( ゚д゚ )「……関係ないとは、何だ? ドクオ。 虚勢でも張ってるつもりか?」 ('A`)「言ってんだろ。何も関係ねぇんだよ、ミンナ。 こちらの勢力を分散されようが、関係ない。問題もない。 要するに、それぞれがそれぞれ、自分に襲いかかってきた奴を潰せば良いって事だ」 ('A`)「こちらの最初の予定と、結果的には何も変わらない。 それを、そこの白っちいのは何を勝ち誇ったような口振りで吠えてんだ? アッタマ悪ぃんじゃねぇの? 使わねぇ頭なら、吹き飛ばしてやろうか」 ( ゚д゚ )「口を慎む事だな、ドクオ。 お前達の不利は変わらない。それに―――」 ('A`)「不利? 今、不利っつったのか、ミンナ? はん。お前こそ口を慎めよ。てめぇ、今目の前に誰がいるのか分かってんのか?」 ドクオの左手に、白銀の銃―――ギンが握られた。 そして右手のクロはミンナに、ギンは弟者の頭蓋にポイントされる。 傍らのクーは、抜いた『氷華』を兄者に向けた。 異形の青い右手は握り締められ、いつでも“力”を発動出来るように構えられている。 ('A`)「“削除人”リーダー、クー。そしてこのドクオ様だぞ。 俺達に、テメェらが勝てるとでも? テメェらが出来る事なんざ、せいぜい時間稼ぎ程度だ。 夢見んなら、もう少し現実的な夢を見ることだな。遠すぎる夢は、夢から覚めた時に辛くなるぜ?」 ( ´_ゝ`)「夢かどうか。その身を以て確かめてみるか?」 ('A`)「黙ってろ腐れもやし。っつーかテメェ死んだんじゃねぇのかよ。 大人しく死んでろ。目障りだ。雑魚め」 吐き捨てるようなドクオの言葉に、兄者は口を閉ざす。 それから細い眼を更に細めると、抑揚のない声で言った。 ( ´_ゝ`)「……なるほど、クソ忌々しい男だな。君は」 ('A`)「どうも」 川 ゚ -゚)「……お前達はそれぞれ分かれて、私達の相手をしているのだな?」 ( ゚д゚ )「あぁ」 (´<_` )「それぞれの入口に、それぞれメンバーを置いてある。“当たり”はない。言うなれば、全てがハズレだ。 勝てると思わない方が……いや、生き残れると思わない方が良い。 お前達が思っているような我々じゃない」 川 ゚ -゚)「そうか。ならば―――」 ふいに、クーがその右腕を振り上げた。 同時。その右腕の周りに、纏うように浮遊する無数の氷塊が発生。 そして彼女は、まるで裁きの鉄槌を下すかのように―――右腕を振り下ろした。 それによって、右腕の周囲に発生した氷塊は“発射”される。 無数の氷塊は、まるで銃弾のような速度を持って、三人に襲いかかった。 ( ゚д゚ )「ぬっ!?」 ( ´_ゝ`)「……ふん」 兄者が両足を無造作に振るった。 それによって旋風が巻き起こり、氷の銃弾の軌道が大きくズラされる。 命中する筈だった氷塊のいくつかは床や壁に叩きつけられ、 かつ同時に発生した風の刃で、多くの氷の銃弾が粉砕された。 ミンナは自らに襲い来る氷塊を睨みつけると、両腕を振るう。 すると金属製のサイコロとカードが、縦横無尽に彼の周囲を飛び回り、彼に襲いかかる氷塊を破砕した。 弟者はというと、氷塊を完全に回避しきっていた。 見切れぬ筈の速度の氷塊を見切り、かつそれを避けきってしまう。 ( ゚д゚ )「貴様……」 結果的に、三人に重大なダメージは与えられていない。 しかし、それは先制としては良い攻撃だった。 川 ゚ -゚)「―――ならば、さっさとお前達を“削除”して、仲間を救助しに行かねばな」 ('A`)「そういう事だ。じゃあ、クー」 川 ゚ -゚)「あぁ。踊ろうか」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 床を強く叩く、弾けたような音。 それと同時。クーが突如、視界から消えた。 その姿が現れるのは―――兄者の背後。 (´<_` )「! 兄者!!」 (;´_ゝ`)「!?」 驚愕に息を呑み、しかし兄者に振り返る時間は与えられない。 川 ゚ -゚)「遅い」 『氷華』が翻る。 それは兄者のうなじを深く斬りつけようとして――― (´<_` )「……させん!」 間に入った弟者の右腕に、止められた。 一瞬遅れて、その腕から大量の血飛沫が迸る。 噴き上がる血液に、一瞬、視界が遮られた。 弟者とクーの顔が、べっとりと血に濡れる。 川 ゚ -゚)「クソッ……!」 舌打ちして、刀を引こうとした。 しかし、刀は動かない。離れる事が、出来ない。 刀の刃を、弟者が握っていた。 (´<_` )「逃がさないさ。お返しをせねば、な」 刃を握る手と腕から噴き出す血液を無視して、弟者は言う。 そして右手で刀を抑えつつ、左腕を引き絞り――― 響く銃声。 同時。刀を握る弟者の右手に、血の華が咲いた。 (´<_` )「ッ!」 衝撃に、思わず刀を放してしまう。 それとほぼ同時に刀が翻り、弟者を両断せんと横薙ぎにされた。 しかし寸前、弟者は素早くバックステップ。 刃先は弟者の腹の皮を薄く裂いて、逆側に抜ける。 川 ゚ -゚)「―――逃がすか!!」 踏み込み、更に袈裟掛けに斬りつけた。 しかしそこで響くのは肉が裂ける音ではなく、金属音だ。 草色の異形の足が、横から二人の間に捩じ込まれていた。 『氷華』は血飛沫の代わりに、眩い火花を噴き上げて止まる。 川;゚ -゚)「兄者っ……!」 ( ´,_ゝ`)「風に引き裂かれてみるか?」 思い切り、刀を蹴り弾かれる。 同時にバックステップを踏んで離れようとするが―――しかしそれによって、小さくない隙が生まれてしまった。 ( ´_ゝ`)「ふんっ!」 そして、虚空に向けて振るわれる異形の足。 その動きに一瞬遅れて風の刃が生まれ、クーの身体に迫った。 川;゚ -゚)「ちっ―――!」 右腕を振るう。即座に響く、軽い音。 放たれた風の刃は砕かれた。 しかし息を吐く暇はない。 兄者の攻撃は、まだ終わっていない。 ( ´_ゝ`)「おおおぉおぉぉおおぉっ!!」 連続で、容赦なく足が振るわれる。 その軌道は縦に。横に。斜めに。 そして足が振るわれた数だけ―――つまりは無数に。 不可視の風の刃が、クーに襲いかかった。 川;゚ -゚)「くっ……!」 右腕で身体を護りつつ、全力で右へと跳ぶ。 ほぼ同時。彼女の立っていた地面が、ずたずたに引き裂かれた。 直撃は免れたが、しかし無傷ではない。 左半身―――主に肩の周辺には、浅くはない傷が付けられてしまっている。 だが、傷に構っている暇すら、そこには存在しない。 兄者は既に、次の風の刃を放とうとしている。 川;゚ -゚)「―――させるか!!」 彼女は瞬時に複数の氷塊を生み出すと、投擲する。 兄者は舌打ちすると、風の刃の作成を中止し、氷塊を横に跳んで回避した。 その隙にクーは二人から距離を取り、ドクオに並ぶ。 視界の隅に見えた彼は、自分と同じく、険しい瞳をしていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「踊ろうか」―――クーの声を受けて、ドクオの身体がふらりと揺れる。 ふいにその両腕が跳ね上がると、握られた二挺が六度、間髪置かずに火を噴いた。 ( ゚д゚ )「ふんっ!」 片手を前に突き出す。 すると彼の服の中から金属サイコロが飛び出し、ドクオの銃弾にぶつかって行った。 火花が飛び散り、互いの得物は互いの得物を撃ち落として床で跳ねる。 ドクオは舌打ち。 対するミンナは、口端を僅かに釣り上げた。 ( ゚д゚ )「なるほど、な。こんなものか」 ('A`)「何だ、それは。馬鹿にしてんのか?」 ( ゚д゚ )「まぁな。もう少し、楽しめるようになってるかと思ったのだが」 ('A`)「……ま、お前がどう思おうと勝手だがよ」 その時。ドクオの右手の中で、黒の銃がくるりと回転した。 銃口はミンナから外され―――そして、見当違いの方向へと撃ち放たれる。 ( ゚д゚ )「どこに撃っている」 嘲弄を言葉に乗せながら、銃弾の行き先に視線を飛ばした。 その眼が見開かれ、浮かんでいた笑みが消える。 銃弾を撃ち込まれた先―――。 クーと戦闘を繰り広げていた弟者の手が、爆ぜるように血を噴いたのだ。 やや押されていたらしいクーは、その隙を突いて反撃を始める。 (;゚д゚ )「何だと……っ!?」 驚愕しつつ、視線を戻す。 そして焦燥に瞳を歪ませると、すぐさま“力”を働かせた。 二挺の拳銃の銃口がミンナにポイントされ、その引き金が発砲寸前まで引き絞られていたからだ。 ('A`)「よそみはいけねぇな」 そして、連続で放たれる銃弾。 空気を突き破って襲いかかる無数の銃弾は、しかし着弾寸前に、金属サイコロに阻まれる。 (#゚д゚ )「―――小癪!!」 腕を振るった。 その袖の中から、金属のカードが発射される。 それは空気を切り裂いてドクオに迫るが、ドクオは軽く横に跳んで回避。 そしてドクオは、壁に沿ってそのまま横に走った。 その背後、ドクオの影を縫いつけるようにして壁に突き刺さっていくのは、巨大なダーツだ。 ('A`)(っち……速くなってやがんな) 迫りくるダーツから逃げながら、ドクオは二挺の銃を連射する。 しかし銃弾は、やはりミンナを捉える前に撃ち落とされた。 舌打ちをする暇などない。 少しでも足を止めてしまえば、すぐにでもダーツの餌になる。 それでなくとも、迫るダーツとドクオとの距離は、少しずつ詰められているのだから。 ( ゚д゚ )「いつまで持つか、だな」 ('A`)「言ってな」 突如、方向転換。 壁を蹴るようにして、真っ直ぐミンナに向かった。 その左腕を、盾にして。 ( ゚д゚ )「むっ!?」 複数、ダーツを放つ。 鋭く巨大な針を持つそれらはしかし、異能者の腕の前では無力なようだ。 ダーツは腕に弾かれ、ドクオは見る見るうちにミンナとの距離を詰める。 しかし――― ( ゚д゚ )「かかったな」 言葉と、同時。 (;'A`)「がっ!?」 ドクオの右肩に、強く鋭い痛みが走った。 続いて、両足や右腕、背中にも。 (;'A`)「な、に……?」 痛みに表情が歪み、ぐらり、と身体が揺らぐ。 しかし倒れる直前、腕を使って何とか体勢を立て直すと、ミンナから距離を取った。 その間、余裕を見せつけているつもりなのか、幸いにもミンナは攻撃を仕掛けてはこなかった。 そして右肩や足に眼をやって、舌打ちする。 そこに突き刺さっていたのは、避けた筈のダーツだった。 ( ゚д゚ )「無闇に突進を仕掛けない事だな。 お前が避けたダーツも、死んだわけではない。 背後からの攻撃にも気を付けるべきだ」 ('A`)「ご忠告ありがとよ……!」 ダーツを乱暴に引き抜くと、血が勢い良く噴き出す。 喉から這い出てくる呻きは、歯を食い縛って飲み込んだ。 そしてすぐさま、右手のクロを連射する。 身体の急所を狙って放った銃弾は、やはり悉くサイコロに弾かれてしまった。 ( ゚д゚ )「無駄だ。お前の弾は私には届かん。 お前は、今の私には勝てないよ。先ほども言ったように、どこまで持つかだ」 ('A`)「言うじゃねぇか、ミンナ。何やら、自信たっぷりによ。 俺に敗けた事、忘れちまったか?」 言うが、しかし気付いている。 ミンナは変わっていた。以前よりも圧倒的に、強くなっている。 自分に余裕はない。 ( ゚д゚ )「忘れたな。覚えていても、意味はないさ。 お前はどうせ、ここで敗ける」 ('A`)「前もそんな事言ってたよな。それで、敗けたけどよ。 さて、今回はどうなんだろうな?」 そして、地面を蹴った。 クロを構えつつ、再度、突進。 左腕はやはり、盾のように構えながら。 ( ゚д゚ )「無駄だと言っているだろう。気でも振れたか」 ミンナはサイコロを撃ち放ちながら、ドクオの背後からダーツを飛ばす。 しかし――― ドクオの手の中のクロが翻り、背後に向けられる。 背後に向けて撃ち放たれたそれは―――迫っていたダーツの一本を撃ち落とした。 それだけに留まらない。 クロの銃口は、連続で火を噴いた。 それは正確に、迫りくるダーツを撃ち落としていく。 極度まで集中を注がれたドクオの聴覚は、飛び来るダーツの位置をほとんど補足していた。 しかしやはり、全てを聴覚だけで捉えるのは不可能だったようだ。 身体の各所にダーツが突き刺さり、針が頬を掠めて血が噴き出した。 しかし、ドクオの足は止まらない。 頬から血を流しつつ、その口が凶笑に歪む。 ('A`)「よぉ。気違いが来ましたよっと」 (;゚д゚ )「……ぬぅっ!!」 咄嗟。金属サイコロで壁を作る。 しかしそれは、振り抜かれたドクオの左腕で脆くも粉砕された。 そして ('A`)「おらっ!!」 (;゚д゚ )「がっ……!」 跳ね上がったドクオの足が、ミンナの顔を打ち捉えた。 ミンナは呻きを漏らしつつ、旋回して吹き飛ぶ。 しかしドクオは、そこで追撃を加えられなかった。 ダーツやサイコロやカードなど、ミンナの得物が総じてドクオに襲いかかった為だ。 ドクオはそれらを撃ち落とし、薙ぎ払いながら、ミンナから距離を取る。 そこで、背中が何かにぶつかった。 クーだ。 川 ゚ -゚)「……なるほど、これは一筋縄ではいかぬようだな」 ('A`)「みたいだな」 応えつつ、身体に刺さったダーツを引き抜く。 鋭い痛みが全身に走り、思わず呻きが漏れそうになった。 川 ゚ -゚)「痛そうだな。どうする。私がミンナの相手をするか?」 ('A`)「あー……いや、ダメだ。あいつは俺が片付ける。 お前は、あのもやし兄弟をぶち殺しててくれ」 川 ゚ -゚)「分かった。くれぐれも無茶はするなよ。 危なければ、すぐに呼べ。すぐに助けに行く」 ('A`)「いやいやいや。見縊るな。俺は弱くないぞ。 お前こそ、無茶はするなよ。……残念ながら、助けに行くだけの余裕はないと思うからな」 川 ゚ -゚)「あぁ。分かった。じゃあ、ご武運を」 ('A`)「お前もな」 会話は、そこまでだった。 二人はほぼ同時に地面を蹴り、弾けるようにして離れる。 ('A`)「行くぞ、ミンナッ!!」 叫びつつ、クロを連続で撃ち放った。 やはりそれらは先ほど通り、サイコロに迎撃される。 しかしドクオは、そこに違和感を覚えた。 眼を細めて、ミンナを見詰める。 浮かび上げられたサイコロの隙間、そこから見えるミンナの表情――― 笑っていた。 顔を蹴られて、口の端から血の線を垂らして、それでも。 不気味なその笑みに、ドクオは戦慄する。 ( ゚∀゚ )「面白いぞ、ドクオ。やはりお前は、面白い」 ('A`)「あーあー、どうも」 ( ゚д゚ )「ここまで面白いと、捻り潰しがいがある。 もっと楽しませてくれ。その方が、壊した時の快楽が増す」 両腕が持ち上げられる。 そして――― ( ゚д゚ )「さきほど言った通り、踊って見せろ!!」 サイコロが。カードが。ダーツが。 ミンナの持つ全ての得物が、一斉にドクオに牙を剥いた。 (;'A`)「ッ!?」 凄まじい速度で飛び来る無数の得物を、ドクオは転がるようにして回避。 すぐに立ち上がると、全力で横に走りながら、クロを連射した。 しかしそれでも、ミンナの嵐のような攻撃の手は緩まない。 防御の方に“力”を割いてはくれなかった。 ミンナは得物のほとんどを、ドクオに向けたままだった。 ドクオの銃弾は最低限のサイコロで撃ち落とすか、避けるか。 (;'A`)「めちゃくちゃな攻撃だな……ッ!!」 左手にギンを握り、二挺で連射する。 やはりほとんどの弾は撃ち落とされたが、しかし何発かはミンナを捉えた。 ミンナの腕、そして脇腹が血を吐き出す。 ( ゚д゚ )「がっ!!」 呻いて、ミンナは腹を抑えた。 しかし――― ( ゚∀゚ )「っ……ははは! ははははははっ!!」 嗤う。攻撃は、弱まらない。 むしろ…… (;'A`)(速くなりやがった!!) 眉根を寄せて、鋭い痛みの走る足を更に動かす。 それでも、身体をカードが掠め、血煙が舞った。 ―――おかしい。 怒涛の攻撃を全力で回避しながら、ドクオは想う。 おかしい。 これは、この前までのミンナではない。 『何か』が、ブッ壊れてしまっている。 本来のあいつは、自身を危険に晒してまで攻撃する人間じゃない。 確かにキレた際、冷静さを失って止まらなくなる事はあった。 しかし攻撃を受けるくらいなら、“力”をもっと防御に回す筈だ。 それが、ない。 ほぼ全ての“力”を攻撃に使っていて、それでいて防御には最低限……いや、それ以下の“力”しか割いていない。 利口な戦い方じゃない。まるで捨て身のような戦い方だ。 しかし――― しかし、強い。 “力”の質自体が以前より強力になっている上に、そのほとんどを攻撃に向けて来ているのだ。 つまりは、相当な力量を以てする純粋な力押し。 だからこそ厳しい。 ドクオの『異能者』としての攻撃の“力”は、弱いのだから。 『耳』と『眼』で攻撃を感知しても、それを退ける“力”、または避ける身体能力がなければ意味はない。 ミンナの“力”を正面から押しきれるだけの“力”であれば、正面突破も可能だったろう。 しかし残念ながら、ドクオにそれだけの“力”はない。 彼の攻撃の“力”は、腕だけなのだ。 速く、途切れず、様々な方向から攻撃出来るミンナは―――ドクオにとって天敵だった。 (;'A`)「ぐっ!」 逃げ続けていたドクオの足に、ダーツが刺さる。 生まれる一瞬の停滞。それが、ミンナの得物に絶好のチャンスを与えてしまった。 サイコロが筋肉に食い込み、カードが全身を切り刻み、ダーツが至る所に牙を突き立てる。 血飛沫が盛大に宙にぶちまけられ、ドクオの周囲の床が紅に染まった。 (; A )「かっ……」 致命傷は、辛うじて左腕で防御してある。 しかしその傷は、十分に重傷。出血量も尋常ではない。 ドクオの身体がふらりと揺らぎ、ミンナの口端が歪められる。 だがドクオは、それだけでは終わらなかった。 (# A )「―――ああぁっ!!」 弱々しく浮いていた足が地面を踏み拉き、その足取りを確定させる。 そして両手が跳ね上がると、手の中の二挺が咆哮をあげた。 まるで彼ら自身が、敵を撃ち砕かんと欲するかのように。 ( ゚д゚ )「ッ!!」 ミンナはその顔から笑みを消し、すぐにサイコロで防御しようとした。 しかし、あまりにも遅過ぎる。 パッといくつもの血華が咲き、ミンナの身体が吹き飛んだ。 そして、血風を巻いて硬い床に叩き付けられる。 (; A )「終わりか……?」 息を呑みつつ、呟いた。 銃把を握る手に、血のぬるりという感触を感じて、堅く握り直す。 額から、血混じりの汗が床に流れ落ちた。 そして。 どこか壊れたような忍び笑いが、床を這った。 (; A )「!! ――― チィッ!!」 二挺の引き金を、連続で引き絞る。 しかし銃弾が着弾する直前、ミンナの身体はバネのように跳ね起き、銃弾をかわした。 同時。金属のカードが、空を切り裂いてドクオに飛来する。 カードは首を切りつけるラインを走り―――そしてドクオは避けられる体勢を取っていない。 (; A )「ッ!」 咄嗟に、二挺を首の前でクロスさせた。 一瞬。目の前に火花が咲き、カードは軌道をズラされて壁に突き立つ。 命は永らえた。だが、息を吐く暇もない。 再度、得物の嵐だ。 眼や耳を酷使しても捉えきれぬほどの攻撃が、襲い来る。 (;'A`)「未だにこの攻撃―――バケモノかよ、こいつはっ!!」 必死に回避する。回避に力を注ぎ込む。 しかし、先ほど受けたダメージは大きい。 避ける為に身体を動かすたびに、耐え難い苦痛が全身を襲う。 それでも、動き続けるしかない。 動きを止めてしまえば、それで終わりだ。 しかし、どんどんとダメージは蓄積されていった。 どんなに必死で回避を続けようと、避けきれない攻撃が身体を削っていく。 (;'A`)(いつまで続くんだ、この攻撃はよ!?) 僅かな隙に銃を撃ち込みつつ、ドクオは焦燥に眉根を寄せた。 これだけの激しい攻撃を続ければ、そろそろ“力”が途切れても良い筈だ。 いつになれば終わる。いつになれば途切れる。 しかしいつになっても、攻撃は弱まる気配を見せない。 ('A`)(……途切れるのを待つのは、辞めた方が良いのか) そうだ。待つのではなく、途切れさせねばならない。 依然弱まらない攻撃を紙一重で回避しながら、ドクオは頷いた。 どうせこのままでは、敗けてしまう。 それも、そう遠くない未来に。 ―――身体はもうボロボロで、攻撃を避ける事も辛くなってしまっている。 本来攻め型じゃない相手が、攻めてきているんだ。 ならばこちらも、攻めてやろうじゃないか。 回避に酷使していた脚を、止める。 そして――― ('A`)「……ずぁっ!!」 左腕を、全力で振り上げた。 無数の得物が悪魔の腕に弾かれ―――目の前が開ける。 腕に弾かれなかった分の得物が複数、身体に突き刺さるが、動きは止めない。 警告の叫びをあげる痛覚は、完全に無視した。 開けた空間に、右腕のクロを連続で撃ち込んだ。 黒の銃弾は宙を貫き、ミンナに襲いかかる。 ミンナはすぐさまサイコロで防御しようとしたが、いささか遅い。 サイコロで阻害出来た銃弾は、ほんの数発。 ほとんどの銃弾はミンナの身体に食い込み、血の華を咲かせた。 ミンナが僅かに、よろめく。 その隙にドクオは、ミンナとの距離を詰めるべく地面を蹴った。 足が―――いや、全身が酷く痛む。傷口が熱くてどうしようもない。 動くたびに、食い込んだ得物が更に筋肉を傷付ける。 しかし、それでも足を止める事はしない。どんどんと、限界まで加速させていく。 ('A`)(これで……決める!!) どの傷口よりも、頭が一番熱くなっていた。 それが、良くなかった。 突如、駆けるドクオの前に『壁』が現れる。 ミンナの得物で作成された壁だ。 そしてその壁は、一瞬の停滞の後、ドクオに迫って来る。 舌打ち。その壁を避けようと、横に動こうと地を蹴った。 瞬間。今度はその方向に、壁が現れる。 (;'A`)「!? なっ―――!?」 嫌な予感を感じて、後ろに跳んだ。 背中に何かがぶつかる感覚。 「最悪だ」と、息を漏らした。 見ずとも分かる。そこにあるのは、『壁』だ。 気付けばドクオは、『壁』に囲まれていた。 ( ゚д゚ )「かかったな。突進は自重しろと、言った筈なんだがな」 ドクオが動きを止めると同時、その『壁』が形を変える。 変形に要したのは、僅か数秒。 『壁』は、ドクオを拘束するドームとなっていた。 ( ゚д゚ )「懐かしいだろう? 以前も、こんな事をしたなぁ」 口の端に邪悪な笑みを乗せて、ミンナが呟いた。 その眼に光はなく、全身からは銃創からの血液と共に、妙な雰囲気が溢れ出している。 どこまでも不安定で、突けば壊れてしまいそうな。 (;'A`)「くっそ……ッ!!」 左腕を動かそうとして―――ぴたりと、動きを止めた。 止めざるを得なかった。 首にカードが押し当てられれば、そうだろう。 鋭く研がれた金属カードは、押し当てられるだけで皮膚を薄く刻み、細い血の筋を作る。 ( ゚д゚ )「動くな。殺すぞ」 (;'A`)「……チッ。何だよ。生かしてどうするつもりだ。 痛ぶって楽しむつもりか? 飛んだ変態サディストだな」 ( ゚д゚ )「殺すさ。勿論、痛ぶり尽くしてな。 しかしその前に―――お前と話がしたいのだよ」 不安定に、嗤う。 ( ゚д゚ )「―――ドクオ。お前は、何の為に戦うんだ?」 (;'A`)「……は? 今更、何だよ」 ( ゚д゚ )「答えろ」 ('A`)「……護る為だよ。日常を、仲間を。 日常を護る為に、仲間を護る。仲間を護る為に、てめぇらを潰す。 その為に、戦う」 時間を稼ぐ為、わざとゆっくり言った。 脳味噌は、現状を打開する方法を求めてフル回転している。 以前と同じ方法では、抜けられないだろう。 ミンナもその方法に関しては警戒しているだろうし、奴の“力”は以前のそれとは比べ物にならない。 眼の前の得物を打ち払ったところで、横手や背後からの得物が身体を貫くだろう。 以前よりも格段に速く、数も多い得物を、自分は捉えきれない。 そしてそれらの得物に貫かれたら、終わりだ。 もう自分に、余裕はない。肉体が傷付き過ぎて、血液が流れ過ぎている。 これ以上の出血は許されない。 だから、チャンスとしては最後になるかもしれない。 自分に余裕はないが、しかしそれはミンナも同じだ。 奴は苦痛を表に出さないが、放った銃弾はしっかりと奴を捉えていた。 身体はボロボロである筈だし、出血量も決して少なくない。 だから、これを抜ければ。 この死の半球を抜けて、奴に一撃を加えられれば、自分の勝ちだ。 どこまでも劣勢な事には変わりないが、希望がないわけではない。 むしろ、あちらがどこまでも優勢に立っているからこそ―――そこに、隙が生まれるかもしれない。 奴に隙が生まれるか、自分が打開策を打ち出せれば、大きな希望がそこに生まれる。 ( ゚д゚ )「なるほど、な」 ('A`)「そういうお前は? お前は何で、戦うんだ?」 ( ゚д゚ )「私は―――」 声を詰まらせ、ミンナは俯いた。 不安定に揺れ、自らの紅に染まったその身体は、どこか小さく見えた。 ( д )「私は……人間が憎いからだ。アイツが憎いからだ。 異能者を迫害する人間が。私を異能者として弾いたアイツが、憎いからだ。 人間を、アイツを殺す為に、私は戦っているんだ。その筈なんだ」 ('A`)(…………? 何だ?) 自分に言い聞かせるかのような妙な口調に、ドクオは眉根を寄せた。 そして、慄然する。 ちらりと見えたミンナの瞳が虚ろを捉えていた為。 彼の呼吸が不自然に荒くなっていた為。 そして、彼が放つ不気味な雰囲気が、どっと強まった為だ。 ( д )「私は……奴らを憎んでいる筈なんだ。 憎まない筈がない。そうだろう? 異能者というだけで、奴らは私を弾いた。 それなのに、私が憎んでいない筈はないだろう?」 ( д )「そうだ。奴らは、私にあれだけの仕打ちをしたじゃないか。 憎んで当たり前だ。憎まない道理がない。私は奴らを殺したがっているんだ。 奴らへの感情は憎悪だ。殺意だ。憤怒だ。その筈だ。きっと。そうなんだ」 言葉を吐きつつ、ミンナの身体の揺れが、大きくなる。 纏う雰囲気は不安定というものではなく、もはや瓦解寸前の危険な状態だった。 壊れかけのミンナを見詰めるドクオは、舌打ちして下唇を噛み締める。 とうとう、意味の分からない言葉を喋り出した。崩壊寸前だ。 このままでは危険だ。あいつがいつ、大きな動きに出るか分からない。 まだ打開策は浮かんでいない。 この状態であいつが壊れたら―――動きに出てしまったら。 抗う事も出来ずに殺されてしまう。 どうすれば良い。 どうすればこの場を抜けられる。 どうすれば、どうすれば―――どうすれば!! 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