四十章八深く、息を吐いた。 ( ゚∀゚)「どうすれば良い」 从 ゚∀从「右腕で―――いや、薙刀で刺し貫いてくれ、私ごと。 そんで、そのままにして行ってくれ。 この腕が離れるといけねぇから。薙刀で私達を繋ぎ止めるんだ」 短く返事を返し、ジョルジュは後ろを振り返る。 ( ゚∀゚)「モナー、薙刀を貸してくれ」 ( ´∀`)「返ってこないんだから、『貸してくれ』っていうのは間違ってるもな」 言いながらも、彼は手の中の薙刀を軽く投げた。 ジョルジュは感謝の言葉を告げてそれを受け取ると、再度ハインに向き直す。 手の中の薙刀が、酷く重かった。 从 ゚∀从「頼んだぞ」 ( ゚∀゚)「OK、分かった。……歯ぁ、食い縛れ。 一気に楽にするつもりでやるが、多少苦しくても諦めてくれ。俺は素人だ」 从 ゚∀从「気にすんな。苦しんでも、一緒に行けりゃ良い。 その代わり、しっかりと急所行けよ。変に手ェ抜いたら祟るぞ」 彼女の言葉に、ジョルジュは苦笑を漏らして首を振る。 口は笑っていたが、その眼は今にも泣き出しそうだった。 ( ∀ )「へっ……冗談にもならねぇな。じゃあ……」 从 ゚∀从「あぁ―――やれ」 ジョルジュは薙刀を握る右腕に力を込めると、狙いを定める。 つーとハインに身長差がある為、二人の心臓をピンポイントで貫くのは難しそうだった。 薙刀に角度を付け、一歩を踏み込むと、右腕の全力を込めて、突き出した。 鋭い刃は驚くほど容易にハインの背に入り込み、つーの背から顔を出す。 つーの身体がびくんと震え、顔が天井を向いた。かっと開かれた口から、声にならない、掠れた息を吐き出す。 ハインは眉根を寄せ、片眼を瞑っただけだった。つーを抱く腕に、力が込められる。 気付けばジョルジュは右腕を放していた。 全身が震えている。息が荒くなっていた。早く打ち鳴らされる心臓が痛い。 目の前が赤い。腕が赤い。ハインの背が赤い。鼓動のリズムで、広がっていく。 从 ∀从「―――よくやってくれた」 彼女の声は掠れ、若干不明瞭になっていた。 从 ゚∀从「さんきゅ、ジョルジュ。あんた、最後まで良い男だったぜ」 ( ゚∀゚)「……うるせぇよ」 从 ゚∀从「は、照れちゃってよ。……じゃ、行ってくれ。最期は二人で、静かに逝きたいんだ。 あんた達は、自分達の目的の為に進め。止まってる暇なんか、ないだろ? 行け。死ぬなよ。勝って、終わらせて来い」 ジョルジュは頷き、唇を噛み締める。訳も分からず、涙が零れそうだった。 言いたい言葉があった。何か、彼女に伝えたかった。 だがそれらは形にならず、自身の中で霧散していく。 ( ゚∀゚)「ハイン……」 从 ゚∀从「最期の言葉なんて、良いさ。行ってくれ」 ( ´∀`)「ジョルジュ君。彼女の言う通りだもな。行かなきゃ、だもな。 もう、僕達がここに居る理由はない。 ……二人の時間を邪魔するのは、無粋だもな」 床に落ちている鉈ナイフと大鋏を拾い上げつつ、モナーが言った。 ( ゚∀゚)「……そうだな、行こう」 彼は頷くと、モナーの隣に立った。 共に足を進め、しかし部屋を出る直前、振り返る。 ( ゚∀゚)「ハイン、ごめん。―――ありがとう」 そう残して、ジョルジュは部屋を歩み出て行った。 部屋には二人と沈黙のみが残る。 ハインはしばらく、二人が出て行ったドアを見詰めていたが、やがてぽつりと呟いた。 从 ゚ー从「へへっ……俺のセリフだっつの。馬ぁ鹿」 そして、視線を腕の中のつーに落とす。 茶色の柔らかな髪に片手を乗せ、優しく撫でながら、囁いた。 从 ゚∀从「ごめんな。閉じ込められてたあんたを助け出す事も出来ない、ダメな姉で」 (* ∀ )「ううん」 从;゚∀从「……!?」 ハインはぴたりと、手を止める。 返事が返ってくるとは思わなかった。 手の下の感触が動く。 少しくすぐったそうに眼を細めたつーが、顔を上げた。 (*゚∀゚)「中からしっかり見てたよ。ありがとう、ハイン」 从 ゚∀从「つー……あの野郎は?」 (*゚∀゚)「今は“内側”で大人しくしてるよ。 死が確定したから、もう諦めたんじゃない? “内側”なら、少なくとも外からの痛みはないから、わざわざ出る事もないって思ってるみたい」 ハインは溜息を吐く。少し、うんざりしていた。 从;゚∀从「ったく……チキン野郎め。結局、最後の最後までクズのまんまか、あいつは」 (*゚∀゚)「でもそのおかげで、最期は一緒に居れるんだよ?」 从 ゚∀从「ん……そうか。なら前言撤回。あいつには、ほんーのちょびっとだけ、感謝しないとな」 そう言って、笑った。遅れて、つーも笑う。 穏やかで、満ちている笑いだった。 しばらく笑い合った後、つーはハインを強く抱き締めた。 胸に顔を埋め、小さく息を吐く。 (*゚∀゚)「……もうすぐだね」 从 ゚∀从「怖いか?」 つーは顔を上げ、横に振る。 (*゚∀゚)「ううん。何でだろ、全然怖くない」 从 ゚ー从「そっか。私もだ」 (*゚∀゚)「ふふっ……」 ハインは微笑んだまま、首を傾げた。 从 ゚ー从「何がそんなにおかしいんだ?」 (*゚∀゚)「ううん、おかしくて笑ってるんじゃないの。 何だか、嬉しくて……変だよね、もう、死んじゃうっていうのに。 きっと、独りじゃないから。ハインが一緒だからだよね」 从 ゚∀从「は……。なぁ、私で良かったのかい? 姉貴面した、やたら面倒臭い女で」 つーは一段と笑みを深めて、大きく頷く。 (*゚∀゚)「うん。ハインは、私の大切な人だから。 私をいつも見守ってくれる、私の自慢のお姉ちゃんだから。 ありがとう、ハイン。ハインのおかげで、私は今、こうして笑っていられるんだよ」 从 ー从「……馬鹿」 つーを強く抱き締めた。 彼女も嬉しそうに笑って、強く抱き締めてくる。 (*゚∀゚)「へへへ、温かい。……ねぇハイン。いっぱいいっぱい、言いたい事があるんだ」 从 ゚∀从「あぁ、聞いてやるよ。いくらでも話せ。 その代わり、私の話も聞けよ。私だって、お前に負けないくらい話したいことがあるんだ」 (*゚∀゚)「うん。でも……もう、時間が」 眉を下げたつーに、ハインを首を振る。 从 ゚∀从「幾らでもあるだろうよ。私達は、ずっと一緒だ。 例え、あっちでもな」 そう微笑んだハインに、つーも微笑み返し、頷いた。 (*゚∀゚)「……うん! じゃあ、一言だけ」 从 ゚∀从「うん?」 (*゚∀゚)「大好きだよ、ハイン」 微笑んだまま、細く吐息を漏らして、彼女の身体から力が抜ける。 ハインは彼女の身を抱き締めたまま、その顔を見詰めて、 从 ゚∀从「私もだよ、つー」 言葉と同時に、ハインの身体からも力が抜けた。 二人の身体は同時に倒れ、その床の上に身を横たわらせた。 二人の血が混じる、赤い海の中で。 二人は微笑み、抱き締め合ったまま、動かなくなった。 血の中に落ちていく滴の音だけが、部屋の空気を震わせる。 滴の色は赤ではなく、透明。 流れるのは血ではなく、涙だった。 悲しみの涙ではなく、嬉しさの涙だった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (;´∀`)「やっぱり悪化してるもな、ね」 モナーは辟易として、溜息と共に呟いた。 見詰めているのは、脇腹から下腹部に掛けて出来た傷。 ジョルジュを庇った時に出来た傷だ。 血で真っ赤に染まった包帯を剥がしてみると、その下からは、生々しい傷口が顔を出した。 激しい動きで傷は開き、施していた簡単な応急処置はほとんど意味を失っていた。 ( ´∀`)「ここが見付かって良かったもな」 そう言って、モナーは目の前の白い箱から消毒液を出す。 質素なベッドが並ぶ、天井も壁も真っ白な部屋だった。 病院特有の消毒液の臭いがするその部屋は、もしかしたら医務室なのかもしれない。 棚の中から見付けた白い箱にも、基本的な医療用具一式が詰め込まれていた。 モナーは幾つかのベッドの内の一つに腰掛け、傷の手当てをしていた。 何本もの止血剤と麻酔を打った上で縫合を行い、 軟膏と強力な液体絆創膏を塗り、ガーゼを張った上でテープなどで固め、包帯をキツく巻き付ける。 彼に対してジョルジュは、全身の傷に簡単な処置をするのみだ。 異能者の肉体は、既に傷の幾つかを塞いでいる。 残る小さくない傷も、じきに消えるだろう。しっかりとした処置は必要ない。 脇腹に二つ、やや大きな傷がある。 しかし彼は、それに手を付けようとはしなかった。 モナーの隣のベッドに座る彼は、口数が少なかった。 表情は若干固い。瞳は暗く、どこか茫としている。 だがモナーが話しかけると、普通に応じるのだ。 いや、普通に応じているように振舞っている、というのが正しいのだが。 彼は少なからずショックを受けているが、それをモナーに悟られまいとしていた。 それは意地だろうか。 或いはモナーを心配させぬ為の配慮なのか、自身の脚を止めぬ為に我慢しているのか。 何にせよ、しかしジョルジュの異変にモナーは気付いている。それでいて触れずにいた。 そういうものは、他人から喋らせる物ではない、と。 ( ´∀`)「ま、こんなもんもなか」 包帯を巻き終えて、呟く。 そして一つ溜息を吐いた。 ( ´∀`)「ようやく、ここまで来た。とうとう、最後だもなね」 ( ゚∀゚)「……あぁ」 ( ´∀`)「返事が浮かないもなね。心配もな?」 ジョルジュは俯き、違うんだ、と首を振る。 それきり黙り込んだ。 モナーは何も言わない。ただジョルジュの顔を見詰め、静かに待つ。 やがて、ジョルジュは俯いたまま、ぽつりと漏らした。 ( ゚∀゚)「俺、殺しちまったよ」 ( ´∀`)「君は、あの二人を楽にしてあげたんだもな」 モナーは、優しくそう告げる。 人を殺す辛さを知っていたから、彼にはジョルジュの気持ちの一部が理解出来た。 だが理解しきれてはいない。 初めての殺人が二人、しかもその両者と浅くない関わりがあったのだ。 彼のその苦しみは、モナーの想像する物よりも遥かに大きいだろう。 ( ゚∀゚)「殺しちまったんだぜ、ハインをさ。つーも。この手で」 彼の言葉が聞こえなかったかのように呟くと、ジョルジュは目の前に手を持ってきた。 肘から先が、赤く染まっている。それは彼自身やモナーの血もあるが、大部分はハインとつーのものだ。 モナーはその手を握り、静かに言う。 ( ´∀`)「敵だったし、そうする他なかったんだもな。 いつ命を落とすか分からないこの世界だ、仕方ないもな」 ( ゚∀゚)「分かってる、分かってるけど、さ―――」 そこで、ジョルジュの中で張り詰めていた何かが切れた。 眼から一筋の涙が零れ落ちる。 涙は静かに、しかし止まる事無く流れ続けた。 ( ∀ )「あいつ、俺に言ったんだぜ。ありがとうって、生きろってさ。 自分は死んじまう、俺に殺されちまうってのにさ、その俺にこう言ったんだぜ? 俺はどんな顔をすりゃ良いんだよ。どう振舞って、どんな風な言葉を吐けば良いんだよ」 溜息を吐いて、赤い手の中に顔を埋める。 手を伝った涙が、朱色を交えて床へと落ちた。 ( ∀ )「こんな時はどんな俺になれば良いんだよ。何も分からねぇよ」 ( ´∀`)「君は君だもな。どんな君でも、君だもな。 ありのままの君を、素直に出せば良いもな。 ……今の君は、どんな気持ちだもな?」 ( ∀ )「悲しいよ」 呼吸が荒くなった。その背中をモナーは軽く叩いてやる。 ( ´∀`)「落ち着いて。焦らずに喋って良いもな」 ( ∀ )「寂しくて、苦しくて、辛い。訳も分からないのに苛々して、もやもやする。 ……あいつらは敵だった。確かに、敵だったさ。“管理人”とかいう、ふざけた組織の一人だった。 でも人間だった。生きていたんだよ」 声は息が荒くなるのと共に、大きくなっていく。 ( ∀ )「つーは内の自分を恐れる、ただの可哀想な女の子だった。 ハインはつーの事が大好きな、ただの勝ち気で男勝りな女だった……! 他の奴と違うのは、ただ異能者だっただけなんだ! それなのに、何であんな二人が死ななきゃいけなかったんだよ!!」 モナーは、何も言えなかった。 何を言ったところでジョルジュの慰めにはならないし、 彼の言葉は、人間と異能者の間にずっと存在し、今もまだ答えの出ない問題だったからだ。 異能者というだけで、何故……。 全ての異能者はその事を考え、ほとんどの人間は何も考えず、ただ無条件に異能者は忌避される。 だから戦いが起こり、血が流れ、悲しみが生まれる。そして繰り返すのだ。 ( ´∀`)「…………………」 ( ∀ )「なぁ、モナー。俺、ここまで来てようやく分かったよ。……“管理人”なんて、潰さなきゃいけない。 それに、“削除人”も。こんな理不尽で悲し過ぎる戦いなんて、もうまっぴらだ! 戦い続ける理由が、やっと見付かったよ。―――戦いを終わらせる為に、戦うんだ」 一つ、深呼吸する。 涙を拭って、瞳を閉じた。 呼吸はまだ、落ち着かない。 しかし深呼吸を繰り返し、何とかして落ち着こうとしていた。 やがて平静を取り戻すと、彼は静かに口を開く。 ( ∀ )「ショボンを止めて、戦いを終わらせて、みんなで生きて帰るんだ」 自分に言い聞かせるようにそう呟くと、眼を開ける。 若干潤んでいる瞳には、しかし力強い光が宿っていた。 ( ゚∀゚)「そうだ、生きようぜ、モナー。あんたも死んじゃいけない。絶対に、生き残るんだ。 俺はあの二人の分まで、生きなきゃいけない。俺に託してくれた二人を、失望させるわけにはいかない。 あんただって、そうだろうが。これまでに、あんたの為に失われた命の為に、あんたは生き残るべきなんだよ」 ( ´∀`)「……それは」 ( ゚∀゚)「死ぬ事は簡単だ。生きる事はこんなにも辛い。だから、生きるんだよ。 これは罰だ。俺達の為に死んだ人達からの罰なんだよ。生きなきゃいけない。 多くを死なせたから、生きる価値がないなんて、絶対にダメだ。だからこそ、生きて何かを為さなきゃいけない」 モナーの脳裏には、失われた同胞達の顔が浮かんでいた。 ロマネスクやビコーズ、フォックス。そして、クックル。 彼等は、今の自分を見たら、何と言うのだろうか。 少なくとも、死なせてはくれまい、と思う。 彼らに責められている自分が思い浮かび、思わず苦笑が出た。 だが、もう遅いかもしれない。 ( ´∀`)「……あぁ、そうかもしれないもな」 ( ゚∀゚)「だろう? さぁ、行こう。生を勝ち取るんだ」 ( ´∀`)「もな」 頷いて立ち上がり、力強く歩むジョルジュの後ろを歩く。 彼が座っていたベッドには、べっとりと、血の跡が残っていた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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