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LOYAL STRAIT FLASH ♪

八章

5 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:11:51.96 ID:cElWjP+u0



八章 再開


彼はブーン達と別れると、すぐさまに足を速めた。
そのスピードはすでに小走りと大差ない。
その理由は―――予感。彼は、嫌な予感を感じていた。少なくとも、彼の人生の内では最大の嫌な予感を。
早く家に帰りたい。安全を確保したい。その思いが、彼の足を更に速める。

だが、足を速める中でも、彼はどこか諦めに近い想いを胸に抱いていた。
どれだけ足を速めても逃げられないんだろうな―――という想い。

足を一段と速めた。
その時に右腕に違和感を感じた彼は仕方なさそうに、そして自虐的に微笑む。


さっきから右腕がビリビリするんだよ。
それも、段々と強くなってきやがる。
はん―――あの時と、同じ、か。


そう思考し、自虐的な微笑みを顔から消す。
そして、その代わりに軽い笑顔を顔に張り付ける。いつもの、軽い笑顔を。


6 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:14:30.61 ID:cElWjP+u0

痺れが一層強くなって来て、彼は足を止める。
そして、右腕の“力”を解放させながら振り向いた。

そして、少しだけ驚いた。

( ゚∀゚)「おっと……また会ったね」

ジョルジュは道化のように、おどけたようにそう言って、驚きを表すジェスチャーを大袈裟に取る。

彼の目の前。
そこには―――つーがいた。

だが、昨日のジョルジュが見たつーとは様子が違った。
服装は同じ。ラフなシャツに、同じくラフな上着。そして少し短めのハーフパンツ。

昨日とは違うのは、ここから。
ベルトに、幾本ものナイフがずらりと垂れ下がっている。
それに、両のふとももにもベルトが巻かれており、そこにはナイフのホルスターが固定されている。
要するに、かなりの戦闘体勢。

つーは昨日の、この時間に、この場所でジョルジュと出会った者。
やけに明るくて、本当に楽しそうに笑う、ちょっと不思議な女の子。

そして、ジョルジュに「ついてきてほしい」と言った、異能者で構成される組織の一員。



7 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:15:02.48 ID:cElWjP+u0

どうやら、今日は戦闘するかもしれないな。
今度こそはついてこなければ武力行使でもって事か……。


そう思って、ジョルジュはそれとなく一歩下がる。

(*゚∀゚)「……………………」

( ゚∀゚)「今日は何の用かな?もしかして昨日と同じ話だったら、答えはノーだよ。
    何回頼まれても俺っちは行かないよ?」

(*゚∀゚)「……………………」

つーは、何も言葉を発しない。
と言うよりも、動きをまったく見せない。

ん……?
何か、おかしい。

こいつ、こんな無口じゃなかったよな。

それに、何より。
こいつ、こんなに気持ち悪くなかったよな。

ジョルジュはそう感じて、更に一歩下がる。



8 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:17:34.92 ID:cElWjP+u0

ジョルジュの感じた不気味さは、本物だった。
つーの雰囲気や、目付き。そんな風な物が全て、不気味な物へと変わっていた。
不気味で、邪悪で、醜くて、血生臭い何かが、つーの全てを埋め尽くしている。
少なくとも、昨日ジョルジュが見たものはほとんどが消え去っていた。

(;゚∀゚)「……なぁ、何か喋ってよ。一人で喋ってるって、俺が馬鹿みたいじゃん」

(*゚∀゚)「ふふふ……はは、ははは……」

( ゚∀゚)「むん?」

(*゚∀゚)「……くくくっ……ははは……!あはははははは!!あーっはははは!ははははは!!」

いきなりつーは笑い出す。
狂ってしまったかのように。壊れてしまったかのように。
ダムでせき止めてたかのように、狂って壊れた笑いが一気に溢れ出す。

ジョルジュは今度は一気に五歩下がった。
表情は変化させないながらも、その眼には恐怖に似たものが浮かんでいる。

(;゚∀゚)「な、何だよいきなり!」



9 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:20:07.93 ID:cElWjP+u0

(*゚∀゚)「くく……あんた、昨日の“私”に会ったんだぁ……」

……おかしい。

(*゚∀゚)「会ったんだ、会ったんだぁ……昨日の“私”にねぇ……あーっはっははっはははっは!!」

やっぱり、おかしいぞ。

(*゚∀゚)「愉快だね愉快だね愉快だね!昨日の“私”に会って、今の“私”にも会ったと!」

こいつは……。

(*゚∀゚)「昨日の“私”は今の“私”―――でもね、今の“私”は昨日の“私”じゃないよぉ!?」

つーじゃない。

苦笑いを浮かべ、ジョルジュは途切れ途切れに言葉を発する。

(;゚∀゚)「……お前、つー、だよな……?」

(*゚∀゚)「あぁ、つーちゃんだよぉ!?ひゃははっ!!あっははははははは!」

腹を抱えて、本当におかしそうに笑う。
確かに、見た目はまるっきりつーだ。
だが中身は……昨日のつーと同じ点を探す事の方が難しい。


10 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:24:27.79 ID:cElWjP+u0

(;゚∀゚)「……何しに来たの?」

(*゚∀゚)「捕らえて来いって言われてる……んだけどね!」


    「今の“私”は殺しちゃうぜぇっ!?ひゃははははっ!!」


そう叫んで、つーは地面を蹴る。
腰からナイフを引き抜いて、ジョルジュに向かって。

(;゚∀゚)「はぁっ!?いきなり何だよ、意味分かんねぇ!」

そう叫びながらも、ジョルジュは右手首の形状を盾に変化させる。
変化し終えるのとほぼ同時。つーはジョルジュに斬りかかった。

(;゚∀゚)「……っぐぅ!」

金属音が響いて、ジョルジュの右腕に重さがかかる。

(*゚∀゚)「へぇー!?防御間に合ったんだ!」

(;゚∀゚)「うるせぇ!さっさとどけっつーの!!」

彼はその攻撃をつーごと弾き飛ばす。



11 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:27:43.80 ID:cElWjP+u0

そして、つーから距離を取ろうとバックステップ。
だが、その時。

(*゚∀゚)「甘い甘い甘い甘い!甘い物の摂り過ぎは糖尿病になっちゃうよぉ!?」

つーはそう叫びながら、ナイフを三本、ベルトから引き抜く。
両手に二本ずつ持って、上半身を弓のように大きく反らす。そしてそれを戻しながら思いきり投擲。


やっべ……!!
後ろに下がるのに必死で、そこまでは予測していなかった。

右腕の防御は間に合わない。
どうにか避けるしかないか……!

ジョルジュがそう思考を終えるのと同時に、ナイフが彼を捕らえんと牙を向いた。

一本目のナイフを、右に避ける。

二本目のナイフは、頭だけ左にずらして避ける。
頬が少し切れたのを感じた。

三本目、四本目のナイフ……。
ダメだ、避けられないっ……!


12 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:30:17.73 ID:cElWjP+u0


二度続けて、鈍い音が響く。
それからすぐにジョルジュに襲いかかる痛覚。そして熱感。


(;゚∀゚)「ぁぐっ……ぅ!?」

叫びそうになって、無理矢理にこらえる。

投擲された二本のナイフは、ジョルジュの右ももと左肩にその牙を突き立てた。
随分と嫌な所に刺さったもんだな、と、ジョルジュは舌打ちを打つ。

不幸中の幸いか、ジョルジュの出血量は大した事はない。
丁度、ナイフが栓になっている形だ。
しかも左肩に右ももと稼動する回数が多い箇所に刺さったものの、筋は切れてないから稼動する事も可能。

だが、それでもジョルジュへの痛みは半端じゃない。

(;゚∀゚)「っぐ……はぁ……は、ぁあっ……」

痛みをこらえるのと、叫びをこらえるのとで変な声が吐き出される。



13 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:33:14.16 ID:cElWjP+u0

ジョルジュはそのまま、壁に背中を預けた。
まともに立っているのも辛かった。

(*゚∀゚)「へぇー……アンタ、叫ばないんだ。ちぇっ。叫び声とか好きなんだけどな」

“つー”はそんな事を言いながら、軽い足取りでジョルジュに寄ってくる。

ジョルジュはそれに、「はん」と自虐的に笑う。
笑えるような状況下でないにも関わらず、だ。
笑ってないとやってられなかったのかもしれない。

(;゚∀゚)「……叫んでも、意味ないしな」

(*゚∀゚)「そうだけどさ」

そう言って、つーはくるくると手の中で器用にナイフを回す。
三回ほど回転した時に、そのナイフでジョルジュをびしっと差した。

そして、驚くジョルジュを見て、にやぁっと嫌らしく笑って言った。

(*゚∀゚)「それだけじゃないでしょ、叫ばない理由」

その言葉に、ジョルジュの眉毛がぴくりと動く。


14 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:36:36.23 ID:cElWjP+u0

(;゚∀゚)「……何で?」

(*゚∀゚)「んーん、何となく、直感でね。で、何で?」

ジョルジュは拒否の意志として口を閉じる。
だがすぐにつーにナイフを突き付けられる。それは「言わねば殺す」と言っているのと同義だった。

仕方なく、彼は口を開く。


(;゚∀゚)「……俺は、笑っていなくちゃいけないんだよ」


少しだけ呆然として。
それからつーは、笑い出した。

(*゚∀゚)「ぷっ……ははは!何言ってんの!?狂っちまってんの!?ひゃはははっ!!」

(;゚∀゚)「……お前は、何だ?」

(*゚∀゚)「つーだよ、つーだよぉ、つーちゃんだよぉぉ?ひゃははっ!!」

(;゚∀゚)「いや、つーじゃないだろ……常識的に考えて」

とりあえず喋って時間を稼ぎつつ、ジョルジュは変化したつーについて思考する。



15 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:39:06.65 ID:cElWjP+u0

……何だ、こいつは。
つーの双子か?
いや、でも「アタシはつー」とか言ってるし。
こいつがそんな嘘吐く必要なんざねぇし、本当か?
いやそれはないか。

……もしや。

あまりにも馬鹿げた答え。
しかし、それが正解であれば疑問が解ける答えが、ジョルジュの脳内に閃いた。

( ゚∀゚)「……確認。お前、異能者だよな?」

(*゚∀゚)「あぁ、そうだよぉ?それが何さ!」

( ゚∀゚)「どんな“力”だ?」

(*゚∀゚)「…………」

そこで、“つー”は黙り込んだ。
ジョルジュの脳内では、浮かべた仮定が確信に変わる。


16 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:41:35.85 ID:cElWjP+u0

( ゚∀゚)「俺の予想が正しければ」

(*゚∀゚)「…………」

( ゚∀゚)「お前の“力”は、もう一つの意識……人格を創り出す事じゃないか?」

その仮定であれば、つーのこの変化、そしてつーの発言にも頷ける。
そして、その仮定は―――

(*゚∀゚)「……ごめーいとーう♪」

―――正解だった。

(*゚∀゚)「何で分かったの?」

( ゚∀゚)「昨日と今日のお前の違い。及びお前の発言。
     それと昨日つーが「私……ううん、彼女」とか、おかしな事を言ってたからな。
     不自然だと思っていたが、そう考えると納得がいく。」

(*゚∀゚)「あれー?つーは私の存在を教えるのは嫌がる筈だけどなー?嫌われ者のア・タ・シ!きゃはははっ!!」

そこで、ジョルジュは密かに右腕に力を込めた。
ブレードは出していないが、未だジョルジュの腕は橙色―――戦闘体勢だ。
いつでも、ブレードを出す事が出来る。



17 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:45:01.60 ID:cElWjP+u0

ジョルジュはつーの笑い声を耳に感じながら、思考を始める。

もうこの足では走れない。少なくとも、今は。
走ったとしてもすぐに追いつかれる。何せつーは無傷だ。
要するにこの状況では逃げられない。

質問。ではこの状況を打破するにはどうすれば良いか?
回答。反撃して相手の動きを止め、それから逃げるべき。

殺すのは無理だ。こいつを殺すのは良いが、“つー”を殺してしまう事になる。
それにこいつは組織の人間だ。殺せば後々面倒くさいかもしれない。

そこまで思考して、ジョルジュはブレードの狙いを定める。
つーはジョルジュの至近距離にいる。それも、ジョルジュがブレードを出せば貫けるような至近距離に。
油断―――している。それが戦闘の勝敗における最大のキーポイントであると知っておりながら。

ジョルジュはそれを見逃さない。
つーの足―――ふとももの中央辺りにターゲットを絞り、更に右腕に力を込める。
銃のように爆発的にブレードを突き出し、避けられないようにするつもりなのだ。

( ゚∀゚)「その“力”はどんなもんだ?「狂人で強靭、そして凶刃のような人格を創り出す」ってところか」

(*゚∀゚)「半分正解、半分不正解」

( ゚∀゚)「残りの半分って?」



18 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:47:54.59 ID:cElWjP+u0

(*゚∀゚)「私は反射神経も強化されてるんだよ」


    「だから―――さぁっ!!」


そう叫んで、つーはとんっと横に跳ねる。
一瞬。彼女の足があった空間をジョルジュのブレードが貫く。

そして、それだけ。
ジョルジュのブレードは空間を貫くに終わり、彼は絶望した。

ブレードの刃でない所を握り、つーは微笑む。
まるでジョルジュのその表情が面白いとでも言わんばかりに。

(*゚∀゚)「ずるい事はしちゃダメだよぉー?きゃははっ!!」

つーの笑い声に、ジョルジュの精神が揺さぶられる。

ダメだったのかと、ようやく彼は理解。
嫌々ながらもそれを脳内で咀嚼し、次はどうすべきかと思考する。

しかし、彼の脳内の片隅では「こんな化け物を相手に勝てるのか?生き残れるのか?」という思いが蠢いていた。



19 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:50:54.01 ID:cElWjP+u0

(;゚∀゚)「……ッチ。マジかよ」

(*゚∀゚)「さって、短い勝負だったし……まぁつまらなかったけど、じゃあね、ジョルジュ君?」

そう言って、彼女は自分の腰に手を回す。
金属が擦れ合う音。まもなくそこから抜き出された物は、ナイフ。
ただし、そのサイズはさきほどまでのナイフやジョルジュに刺さっているナイフとは格が違う。

全長が肘から指先辺りまでありそうな、巨大なナイフ。もはや鉈に近い。
一般人が見れば、その用途は“大規模な破壊” “大規模な傷害”そして“大量殺人”くらいしか思い浮かばないだろう。
そしてつーの考えるそのナイフの用途は、それらそのまま。

つーはその巨大なナイフを大きく振りかぶり―――

(*゚∀゚)「ばいばーい!!」


振り子のように遠心力を付けて、ジョルジュの頭蓋に向けて振り下ろした。




20 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:53:06.78 ID:cElWjP+u0


だが、そのナイフがジョルジュの頭蓋を捕らえる事はなかった。

ナイフは止まっていた。
防御として振り上げられたジョルジュの左腕によって。

もちろん、その左腕は生身の腕だ。異能者特有の硬質な腕ではない。
しかも左肩にはナイフが刺さったままであり、それら二つを総合した痛みは尋常でない。

(*゚∀゚)「―――っ!?」

つーは驚愕していた。
それもそのはず。彼女の持つナイフは、腕で受けきるようなものではない。受けきって良いようなものではないのだ。

そのナイフは鋭器であり、鈍器のようでもある。
力を込めて振るえば、腕を粉砕―――少なくともその骨に重傷のヒビを負わせる事は簡単なのだ。
それを振るう者が女性であっても、扱う事さえ出来れば。
しかも彼女はそのナイフを振り子のように振るって、遠心力を味方に付けていた。

それなのに。

(#゚∀゚)「危ねぇなぁ……」

それなのに、ジョルジュの左腕の骨は折れていない。ヒビすらも入っていない。
ナイフとの接触部から血液が少しこぼれ出ているだけだ。


22 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:56:56.75 ID:cElWjP+u0

その理由は簡単。
ジョルジュはその攻撃を軽く受けた瞬間、軽く腕を引いて接触の際のダメージを軽減した。
それは考えてやった事ではなく、彼の直感が彼を動かした結果だった。

つーはぶつけるように―――それこそ鈍器を扱うようにナイフを振るった為に、鋭器としてのダメージはほぼゼロ。

結果、ジョルジュのダメージは極小まで小さくなっていたのだった。


つーは驚愕を出来るだけ悟られないようにと、声を上げる。

(*゚∀゚)「おぉ!?左腕まだ動かせたか!!」

(#゚∀゚)「あぁんっ!?動かせたんじゃなくて、無理矢理に動かしてんだ馬鹿が!!」

ジョルジュはそう叫んで、つーの腹を思いきり蹴り飛ばす。
彼女の身体はジョルジュの予想よりずっと軽く、彼女の身体は大きく吹っ飛んだ。

そっか。いくら中身が変わろうと、外は小柄なまんまなのか、とジョルジュは気付く。
もしかして、この化け物相手に戦えるかもしれない、とジョルジュの絶望は薄れる。

吹っ飛んだつーは猫の様に身体を上手く使って、良い体勢で着地。
戦闘を楽しんでいるかのように微笑んでジョルジュを見た。


23 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 00:59:42.73 ID:cElWjP+u0

(*゚∀゚)「やってくれちゃったねぇーっ!?」

(#゚∀゚)「あぁやったさ!だからどうしたよ!来るなら来いこのクソがぁ!!」

ジョルジュは既にやけくそだった。

(*゚∀゚)「それじゃあ……お言葉に甘えさせていただいちゃいまーすっ!!」

叫んで、つーはジョルジュに向かって走り寄る。
両手にはナイフ。右にはさきほどまでの巨大なナイフで、左には投擲用の細いナイフだ。

そして、接触。つーは両手のナイフをフルに使い、上下左右からジョルジュを襲った。
ジョルジュはブレードと高質化している右腕だけで挑む。

(*゚∀゚)「ほらほらほらほら!」

金属音、金属音、金属音。
止まない金属音に入り込むように声が入る。

(#゚∀゚)「ほらほらじゃねぇぞ!余裕ぶっこいてっと殺すぞ!?あぁん!?」

つーが鉈ナイフを振り下ろし、ジョルジュはそれを回避。カウンターとして右手首のブレードを振るう。
彼女はそれをもう片方のナイフでガード。退く事もなくまたナイフを振るう。
彼はそれを避け、ブレードで斬り上げる。が、それも簡単に避けられた。



25 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:02:08.87 ID:cElWjP+u0

再度、つーは両のナイフを四方八方から乱雑に叩き付けてくる。
ジョルジュはブレードだけでは受けきれないと判断。
左肩からナイフを引き抜き、痛みに耐えながらもそれを全て弾き、いなし、避け、受ける。

一瞬の隙を見付け、ジョルジュはブレードを横一文字に全力で斬り抜く。風を斬る音が大きく鳴った。
つーはそれをしゃがんで避け、切り上げるようにナイフを扱う。
彼は靴底でそれを何とかナイフをガード。そのままナイフを蹴り飛ばす。
つーはすぐに逆側のナイフで斬りかかる。彼はそれをブレードでガード。反撃。

つーは一瞬だけ後ろに下がって回避。ふともものホルスターからナイフを引き抜き、瞬間、投擲。
ジョルジュはブレードでそれを弾きつつ、つーが次のナイフを手に取る前に接近、袈裟懸けに斬り付ける。
彼女はそれを笑いながら更に後ろに下がって回避、そして逆に彼の懐に入ろうと、足を踏み込んでくる。
彼は前後に大きく動く彼女の動作に戸惑いながらも、接近をナイフで阻止。警戒しつつ距離を取った。


26 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:04:55.94 ID:cElWjP+u0

(*゚∀゚)「へぇ!結構やるじゃん、あんた!」

つーはそう言って、ナイフを手の中で器用にくるくると回す。

彼女は内心、ジョルジュに驚いていた。鉈のようなナイフを止められた時から今まで、ずっと。
驚愕を抑えられずにいた。

彼は素人で、自分のように戦いの最中で生き残ってきた者達とは違う。
それなのに、彼は私とそれなりに戦えている。そりゃあ私が手加減してるってのもあるけど。
……中々、面白い男じゃん。

そう思考し、つーは笑う。

現にジョルジュはつーの攻撃のほとんどをいなし、かわし、受け、弾いている。
それは彼のずば抜けた反射神経のおかげであった。
もちろん、それは彼の異能者としての“力”ではない。彼の天性の“力”―――才能だ。

異能者としてはかなり特殊な“力”を持ち、異能者並の反射神経を内に備える男。
それが、ジョルジュだった。

(#゚∀゚)「笑ってんじゃねぇぞ!!」

ジョルジュが駆け出し、そしてまた連続した金属音。
金属音が響く間隔は段々と短くなる。いつしかそれは途切れない金属音になった。


27 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:07:47.91 ID:cElWjP+u0

戦闘の高速化に連れて、ジョルジュの体は少しずつ傷で埋まっていく。それに痛みによって動作が辛くなってきていた。
対してつーの身体にはあまりにも浅すぎる線が何本かあるのみ。
だが、つーの動きも確実に遅くはなっている。それにはジョルジュも気付いていた。

一撃。大きな一撃さえ加えれば、あの小さな体だ。すぐに優勢に立てる。
ジョルジュはそう思考し、ブレードを振るう。


つーの右のナイフがジョルジュの腹をかすめる。
それをぎりぎりで避け、反撃としてブレードを思いきり振り下ろす。
だが、それをつーは両のナイフをクロスさせてガード。受けきったと同時に左手のナイフを投擲。
彼はそれをブレードで弾き返す。
運が良かったのか―――ナイフはくるくると回りながら一直線に飛び、つーの頬に一筋の傷を付けた。

そして、その瞬間―――わずかだが、つーの意識が逸れた。

(*゚∀゚)「っ!!」

(#゚∀゚)「ずぁあっ!!」

叫んでブレードを袈裟懸けに斬り抜く。
しかしつーはずば抜けた反射神経でそれを察知。バックステップで彼から距離を取った。
ジョルジュは追いかけない。


28 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:10:30.32 ID:cElWjP+u0

戦闘が少しの間、止まる。
つーは頬から流れ出る血液を指にすくい、舐める。
それから少し笑った後に、口笛を吹いた。

(*゚∀゚)「ひゅう……やるじゃん。あのナイフ、ちょっとズレてたら死んでたね」

(#゚∀゚)「死にたくなきゃさっさとどっかに行け!消えろ!」

(*゚∀゚)「やーだよ。もう殺る気まんまんになっちゃったもん」

その言葉をエンジンに、また戦闘は動き出した。

一瞬。つーはまたベルトからナイフを引き抜く。
ジョルジュはそのナイフの多さに呆れながらも、その戦闘の波に乗り込んだ。

(#゚∀゚)「そっからどうするつもりだよ!真っ二つにしてやらぁ!!」

ジョルジュは大きく一歩踏み込み、ブレードを横一文字に切り抜く。
が、つーはそれをしゃがんで回避。そのままアッパーするようにナイフで切り上げる。
彼は瞬時にガードは無理だと判断。それを体を反らして避けた。

だが。

(*゚∀゚)「切り上げはフェイクだよ」

気付けば、つーのもう一つのナイフが彼の腹に迫っていた。
切り上げたナイフは―――めくらまし。


29 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:13:27.13 ID:cElWjP+u0

(;゚∀゚)「――――っ!?」

ジョルジュは慌てて後ろに飛びのく。
だが、その時にはもう遅かった。

妙な違和感を感じて、彼は自分の腹を見る。

彼の腹には、すでにナイフが刺さっていた。

見ると、ナイフの刃の半分ほどが彼の腹に刺さっている。
早めに反応出来たから、あまり深くは刺さっていなかった。

彼のシャツは少しずつ紅く染まっていく。
彼はそれを目視し、認識。その途端、彼の身体を耐えがたい痛みが支配した。

(;゚∀゚)「あっ……は、ぁ……!?」

(*゚∀゚)「中々楽しかったけど……終わりかなー」

ジョルジュはよろよろと後ろに下がると、再度、壁に体を預けた。

腹と、肩と、もも。それに、全身に浅い切り傷。
ナイフが栓になってるっつっても、肩のナイフは抜いちまったし……。流石に、出血多量かな……。
頭がくらくらする。視界が、ぼやける。
こりゃもうダメかね、と彼は思考。



30 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:16:17.78 ID:cElWjP+u0

少し呼吸が苦しくなっている事に気付きながらも、それを隠して彼は呟く。

(;゚∀゚)「……終わり、か」

(*゚∀゚)「ん……?諦めが良いね。もっとこう、「助けてくれ!」とか「死にたくない!」とかないの?」

(;゚∀゚)「引き際が良い男はもてるんだって……昨日言ったぜ?」

(*゚∀゚)「あそ。じゃ、さようなら」

その言葉に、彼は目を閉じた。

……中身の薄い人生だったな。
いっつも人を笑わせる事だけ考えて、自分が笑えてなかったり。
それで無理に笑ってたら、笑わない事が出来なくなって。
無理に自分を作り上げた、本物じゃねぇ人生だったなぁ……。

ま、良いさ。
死ねば、そんな事は無意味になってくれるだろうから。

苦しみは少ない方が良い。
頼むから、頚動脈でも切ってくれよ……?

そう思って、「っは。俺はこの時に何て事を考えているんだ」と自虐気味に彼は笑う。
乾ききった笑い声もすぐにやみ、ジョルジュは覚悟を決めた。



31 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:19:17.68 ID:cElWjP+u0

十秒、経過。
まだジョルジュは存命。

十五秒。
まだ、彼は生きている。
じらすなよ、と、ぼそりと呟いて、また覚悟。


だが。
その時、不意に。

ジョルジュはでこピンされた。

「眼ぇ、開けて良いよ」

そんな声が彼の鼓膜を叩く。

反射的に眼を開けると、そこにはつーの他にもう一人、ジョルジュの知らない人物がいた。
オレンジの髪で、片目が隠れている女。
ジーンズに白いティーシャツ、赤いバンダナを頭に巻いた、かっこいい女だった。



32 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:22:17.09 ID:cElWjP+u0

その女は、右腕につーの首を掴んでいた。
その右腕……いや、両腕は、異能者特有の異形。
その腕の色は、ジョルジュと同じ、または彼以上に明るいオレンジ。

从 ゚∀从「悪いね、ウチのつーが迷惑かけちまって」

つーは何も反応しない。
どうやら、気を失わされているようだ。

音も何もしなかったのに、この女はどうやって……。
そんな疑問をジョルジュは抱く。

从 ゚∀从「異能者は連れて来いって言われてんのに殺そうとするって……ったく。馬鹿かコイツは」

(;゚∀゚)「あ、……あんた、は?」

从 ゚∀从「アタシは高岡。ハインリッヒ高岡だよ。ハインと呼んでくれ。アンタは?」

(;゚∀゚)「……ジョルジュ、長岡」

从 ゚∀从「ジョルジュ、か。良い名前だね。じゃあ、ジョルジュ。
      ちょっとついて来て欲しいんだけど……来てくれるかい?」

彼は、その言葉に首を振った。
もう喋りたくなかった。殺すなら殺せよ、とまで考えた。

だが、ハインと名乗った女は軽い口調で言葉を並べる。


33 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:24:40.09 ID:cElWjP+u0

从 ゚∀从「そうか。まぁ許してやるよ。アンタ良い男だしな。
      どうせ、“アレ”が完成しない限りは、やる気がない奴を集めたって意味がないみたいだしな」

ハインはそう言うと、頭に巻いた赤いバンダナをしゅるりと解く。その手は既に異能者の腕ではなくなっていた。
そして、彼女はバンダナを彼に投げつけた。

(;゚∀゚)「……あん?」

从 ゚∀从「右もものナイフを抜いて、それで止血しな。そうすりゃ、筋肉の損傷と出血量を最小限まで減らせるぜ」

(;゚∀゚)「……え……あ?」

从 ゚∀从「あー、んだぁ?血ぃ失くなって、頭動かなくなったか?」

(;゚∀゚)「いや、そうでなくてだな……」

从#゚∀从「あー、とろい!もう良い!右もも出せ!」

その言葉に、彼は従う。
彼女……ハインは、すぐにその止血に取り掛かった。


34 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:28:26.38 ID:cElWjP+u0

从 ゚∀从「あー、あんたナイフ刺さってからかなり動いただろ。傷口が汚ぇ」

(;゚∀゚)「あ……あんた……」

从 ゚∀从「あぁん?」

(;゚∀゚)「何でだ?」

从 ゚∀从「……はぁ?」

(;゚∀゚)「いや、何で俺にここまで……」

从 ゚∀从「あー、気にすんな!つーの馬鹿の罪滅ぼしと、アタシの気まぐれだよ!
      それに、あんた良い顔してっからな。良い男は大好物なんだぜ?」

(;゚∀゚)「……っは。それ、女が言うようなセリフじゃねぇぜ?」

从#゚∀从「あー、うっせぇなぁ。気にすんなよそんな事。男女差別とかマジぶっ殺すぞ」

(;゚∀゚)「あー、悪い。悪かった。俺が悪かったから傷口をつつかないでくれ」

そんな軽い会話を繰り広げながらも、ハインは止血を進めた。

それから、五分後。止血は終わり、ハインは満足そうに微笑んだ。

从 ゚∀从「よーっし!我ながら、良い出来!」

その言葉通り、彼女の止血は、完璧だった。
血管は綺麗に締まっているし、バンダナの巻き方も完璧としか言いようがないほどに美しかった。

35 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:32:02.65 ID:cElWjP+u0

( ゚∀゚)「…………」

从#゚∀从「礼くらい言えよ。礼儀がない奴は存在を抹消するぞ」

(;゚∀゚)「あ、ごめんなさい。ありがとうございます」

从 ゚∀从「うむ、それで良い」

それからハインは未だ意識の戻らないつーを肩に乗せる。

从 ゚∀从「じゃあ、アタシは帰るよ。さっさと帰らないとめんどくさい事になりかねないからさ」

ジョルジュにそう言って、彼女はくるりと彼に背を向けた。
そして、そのまま彼を振り返らずに、手をひらひらと振りながら。

「ばいびー」

そう言って、ハインはどこかへ歩いて行った。


36 名前:作者[] 投稿日:2007/01/28(日) 01:34:25.65 ID:cElWjP+u0

(;゚∀゚)「ひゅう……イカす女じゃん」

ハインが見えなくなった頃、彼はそう呟きながら、携帯を取り出した。
携帯の液晶には

「不在着信 一件」

の文字。

知らない番号だが、何となくそこにかけてみる。
何か、妙な確信があった。
多分……いや、きっとこの番号は……あいつのだ。
かけたくはないが、今のこの状況では仕方がない。

プルル…プルル……。

ガチャリ。

「はい」

……やっぱり。

(;゚∀゚)「……助けてくれ」

「OK。任してよ」

そして、彼は携帯を切る。
出血からかゆっくりと意識が遠のくのを感じながら、彼は眼を閉じた。


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