三十九章五一瞬だった。 プギャーの目の前を白銀の風が抜けていき、そして彼の鎌は空を斬る。 眼の前からツンは消えており、彼の鎌は何も捉えられてはいない。 ( ^Д^)「……あ?」 眉根を寄せる。 ( ^Д^)「何が起こった?」 ふと、視線を横に飛ばした。 そして彼の瞳が、大きく見開かれる。 そこに、ブーンがいた。 その腕に、ツンを抱えて。 ( ^Д^)「……どういう事だ。何で生きてやがる。 何でそこにツンがいる。もしかして、こりゃ」 表情が、苦々しいものに変わる。 そして彼の頬を、一筋の汗が流れていった。 (;^Д^)「この一瞬で、ツンを連れ出したってのか? あれだけの毒を流し込まれて?」 あり得ねぇだろ、と乾ききった苦笑を漏らす。 一方、ブーンに抱かれたツンは、表情を驚愕に染めていた。 目の前に、仲間の顔がある。 毒で動けなかった筈の―――死んでしまう筈だった仲間の顔が。 ξ;゚△゚)ξ「……ブーン?」 ( ゚ω゚)「お」 ξ;゚△゚)ξ「何故……」 ( ゚ω゚)「“力”が、目覚めたんだお」 言って、ブーンはツンを床に降ろす。 彼女は床に立つと、すぐさま彼の身を心配の眼で観察し始めた。 ξ;゚△゚)ξ「何を言ってるか分からないけど……大丈夫なの? あれだけ苦しんでいて、もう動いて―――」 そこで彼女は視線を止め、続く言葉を失った。 視線が止まった箇所は、ブーンの脚だ。 白銀の異形は、その異形具合を濃くし、そして範囲を広げていた。 膝までであった異形の範囲は脚の付け根まで伸び。 脚を覆う筋肉は更に分厚くなり、爪はその太さと鋭さ、長さを増している。 そしてその表皮は、まるで禍々しい鎧を纏ったような形状をしていた。 白銀の輝きは光を増し、内側に秘めた力を主張している。 ξ;゚△゚)ξ「何、これ……。これが姉さんの言ってた、“力”の完全解放?」 ( ゚ω゚)「多分、そうだお」 ξ;゚△゚)ξ「毒は? 身体は、大丈夫なの?」 ( ゚ω゚)「完璧じゃないお。まだちょっと苦しいけど……」 そこで、ブーンは振り返る。 振り返った先には苦笑を顔に張り付けたプギャーだ。 ( ゚ω゚)「僕は、戦える」 ( ^Д^)「……更なる解放だと。ふざけんな。 ここまで来て、何だそりゃ。 毒はどうした、毒は」 ( ゚ω゚)「知らないお」 ( ^Д^)「は。知らないのかよ。素敵に滑稽だな、クソが。 まぁ、解放された“力”の作用なんだろうな。 要するに、異能者の特性全てが強化されてるわけだ―――そりゃ、毒も駆逐されるか」 ( ゚ω゚)「そんな事はどうでも良いお。 プギャー。僕はお前を倒して、先へ進むお」 ( ゚ω゚)「お前達には、絶対に何も奪わせないお。 僕の命も、ツンも、仲間も、日常も。 僕はこの“力”にかけて、僕の大切なモノを護ってみせるお」 ( ^Д^)「そうかい。なら、来いよ。その“力”、叩き潰してやる。 お前がお前の大切なモノを護るなら、俺は俺の大切な人を護る。 その為に戦うさ。俺の全てを……存在をかけて、な」 (#゚ω゚)「あぁ―――じゃあ、行くお」 言葉と同時、轟音。 床が爆ぜて砂煙が舞い、そしてブーンの姿が掻き消えた。 (;^Д^)「はっ!?」 一瞬眼を見開き、身体を硬直させる。 しかしそこに何かを感じて、プギャーは脚を跳ね上げた。 枯葉色は、そこで金属音と共に白銀を捉える。 (;^Д^)「はっはぁ……予想以上に速くなってやがんな、ド畜生が」 呟き、プギャーはブーンの脚を弾き飛ばす。 そして一歩を大きく引いてから、手招きをした。 ( ^Д^)「だが、どうにか出来ない事もないな。 いくら速かろうが、テメェの“力”は両脚だけだ。速さにも限りがある。 さぁ、来い。もう一度テメェを正面から打破して、今度こそテメェの無力を痛感させてやるよ」 (#゚ω゚)「望むところだお―――出来るものなら」 短く返し、開いた距離を駆ける。 距離は一瞬で詰まり――― (#゚ω゚)「おおおおぉぉおぉおおぉぉおおぉぉおおぉっ!!」 そして、ブーンの脚が増えてプギャーへと襲いかかった。 ―――否、それは決して増えたわけではない。 あまりにも速すぎる脚の動きが濃い残像を生み、それが脚を多く見せるだけだ。 『輪郭が歪む』なんて生易しい速度じゃあ、ない。 先程の攻防で見せた速度を、遥かに凌駕している速度であった。 プギャーはそれを、両腕両脚をフルに活用して受ける。 ―――両腕両脚をフルで使わなければ、受ける事すら出来なかった。 いや。 “力”を全開で使っていても、少しずつ追い付けなくなっている。 全力での防御に、穴が生まれ始めている。 (;^Д^)「くっ! ……っぐぅ!!」 圧倒的なブーンの速度に遅れまいと、プギャーは必死で動き回った。 両腕両脚のみを動かすのではなく、身体全体を動かしてブーンの脚を受ける。 それでも、辛うじて受けられているという状態だ。長くは持たない。 気を限界まで集中させ、歯を噛み締めつつ、プギャーは想う。 戦いの初めに言った言葉は取り消しだ。 こいつはあの時、仲間にしておくべきだったんじゃない。 こいつは、殺しておくべきだったんだ、と。 内側に、自分でも嫌悪するような化け物の“力”を飼っていても、受けるのが精一杯だと? どこまでもふざけている。こいつこそ化け物だ。 (;^Д^)「チィィッ!!」 もう耐えられない。遅れが、取り返せないところまで行ってしまう。 悟ったプギャーは、ブーンの攻撃を受けると同時に後方に跳躍した。 衝撃を利用した後退は、二人の距離を大きく離して――― 直後、プギャーの目の前から轟音。 床が弾け飛び、砂埃が柱を作る。 振り下ろされたブーンの脚が、床に破壊を刻んでいた。 退いていなければ、あれを直に喰らっていたのか。 考えたプギャーの背筋に、厭な寒気が走る。 (;^Д^)「化け物はどっちだってんだ、畜生……!!」 言いつつ、後退で距離を稼いだプギャーは、すぐさま全力で上方に跳躍した。 加えて翅を小刻みに羽ばたかせ、一気に上昇する。 ブーンはプギャーを追うが、しかしあと少しの所で届かない。 プギャーは上昇を続けていく。 やがてある程度の高さに達すると、プギャーは上昇を辞めてブーンを見下ろした。 (;^Д^)「完全開放……尋常じゃねぇな。クソ忌々しい」 だが、認めざるを得ない“力”だ。 現にこうして、自分は圧倒的に押されている。 死ぬ直前まで追い詰めたというのに。 ( ^Д^)「……くそっ。何がきっかけで―――」 言いかけて、プギャーは気付く。 ツンを護る時に、あいつは力を発していた。 更なる解放をした時。そしてその前、ツンを落下から救い出した時。 奴は限界以上の力を発し、見事にツンを救ってみせた。 ( ^Д^)「何かを護る時に、力を発する……か。 護る為ならどんな事でも、ってか? っは。あいつらしい。クソ甘くて、死にやすい考えだな」 嗤って、しかしプギャーはぼそりと呟く。 「反吐が出そうなくらい、俺と似てやがんな」と。 上空へ逃げたプギャーに、ブーンは言葉を吐き捨てる。 (#゚ω゚)「正面から打破するんじゃなかったのかお?」 ( ^Д^)「取り消しだ。俺の予想より、お前はずっと速かったからな。 変な意地を張って敗けるわけにゃいかない。 ここなら、いくらお前が速くても優位なのは俺だ」 (#゚ω゚)「それはどうかお? 今なら、それも分からないお」 ( ^Д^)「ならここまで来いよ。教えてやる」 (#゚ω゚)「おっ!!」 言葉に応え、ブーンは跳躍した。 やはりその速度は、今までのそれを遥かに凌駕している。 だが、それでも。 空中の戦闘においての立ち位置は、変わらなかった。 ( ^Д^)「おらっ!!」 跳ね上げたブーンの脚は、しかし受けられる。 そして一瞬の停滞の後、叩き落とされた。 (#゚ω゚)「チィッ!!」 着地し、すぐさま跳んだ。 今度は軌道を変えて、脚を叩きつける。 だがそれも受けられた。 (#゚ω゚)「……ッ!?」 脚を受けたプギャーの腕を蹴り飛ばして、空中で身を旋回させる。 そして旋回を加速させるように脚を振るって、そのまま回し蹴り。 脚は、やはり受けられる。 ( ^Д^)「無駄なんだよ!!」 そして脚を弾かれ、開いた身に右腕が放たれた。 咄嗟にもう片方の脚で防御したが、しかし衝撃は脚を超えて内臓を殴りつける。 鈍痛と混乱の中で、ブーンの身は落下を始めた。 (;`ω゚)「何で、まだ届かないんだお……!?」 ブーンが幾ら速くとも、しかし移動には時間がかかる。 そして二人の位置関係は地上と上空。 小さくないその距離を、ブーンは否応なく跳躍せねばならない。 そうなると、ブーンのその速度も衰えてしまう。 距離に比例して時間はかかり、時間に比例して速度は落ちる。 そしてその間、プギャーは迫るブーンを見て、待ち構えているのだ。 それだけの距離があれば、防御くらいは出来てしまう。 例え、二人の間に圧倒的な速度の差があろうと。 そして空中であれば、地上のようにはブーンも動けない。 有り余る力があったとて、それは思うようには活かせない。 (#゚ω゚)「ならっ!!」 着地すると、ブーンは床を一直線に駆け抜けた。 そして、壁に跳躍する。先程の戦法を、再度試そうというのだ。 (#゚ω゚)「これで、どうだお!?」 壁を全力で蹴りつける。 足場にしていた壁はその威力に砕け、そして身は一気に加速した。 圧倒的な速度は、落ちる事無くプギャーへと迫って――― ( ^Д^)「あぁ、これを受けるのはキツいかもな。だが」 ブーンの脚がプギャーを捉えようとした瞬間、プギャーの身が斜め後方へ動く。 横薙ぎにしたブーンの脚は空を切り、ブーンは慣性のままに空を飛んだ。 ( ^Д^)「避けりゃどうって事はねぇ。 やっぱりだ。ここじゃあお前は勝てねぇよ」 言いつつ、プギャーは翅で身を飛ばしてブーンを追う。 (#゚ω゚)「くっ!!」 背に迫るプギャーに、ブーンは宙で脚を振るって旋回。 その回転のままに、回し蹴りの要領で脚を叩き付けた。 ( ^Д^)「遅ぇっ!!」 だがその脚は右腕で受けられる。 空中での動きはやはり遅くなり、かつ威力も消失してしまうようだ。 (#゚ω゚)「それなら……!!」 ( ^Д^)「させるかよ。堕ちろ」 ブーンが更に動きを見せようとした瞬間。 プギャーの右腕が、ブーンの足首を握った。 そして振り解く間もなく、床に向けて投げ飛ばされる。 (#゚ω゚)「!! クソッ……!」 このままでは頭から床に叩き付けられてしまう。 だからブーンは脚を振るって、身を回転させようとした。 ( ^Д^)「ここで終わりにしてやるよ!!」 しかしプギャーはブーンを追う―――ブーンに、体勢を立て直す時間を与えない。 今のブーンに、プギャーに対する術はない。 プギャーに対して防御行動を取れば、着地が間に合わない。 かと言ってこのままでは、プギャーに殺されるだろう。 どうすれば良い。どうすればこの状況を打破出来る。 ……どうしようもない、のだろうか? ブーンの口から、思わず呻きが漏れた。 ―――同時に、プギャーの口からも。 (;^Д^)「かっ……!?」 声と同時、プギャーの速度が目に見えて遅くなる。 それを見たブーンは、脚を振るって一瞬で体勢を立て直した。 そして、着地する。 (#゚ω゚)「何が―――」 顔を上げたブーンは、プギャーの背に何かが生えているのを視認した。 白銀に輝く、細長いそれは (#゚ω゚)「ツンの、羽根?」 その言葉に続いて、ブーンの視界に新たな影が生まれる。 プギャーの背後。 軽やかに飛び上がり、白銀の輝きを落とす金髪の人影。 天使を思わせるそれは、紛れもなくツンであった。 プギャーは首だけで後ろを向き、そこで己を見下ろしているツンを睨みつける。 (;^Д^)「テ、メェ……!」 ξ゚△゚)ξ「あら、どうしたの? 頭も顔も顔色も悪いわよ? 結構深い所まで刺さったでしょ、私の羽根。疲れとか取れたんじゃない? スキ丸出しだったから、サービスでいっぱい刺しといたんだけど」 (#^Д^)「……あぁ、効いたよ。効きすぎて、思わずぶっ殺したくなるくらいにな!!」 歯を噛み縛り、背に刺さった羽根を次々と引き抜いていった。 血の流れが羽根の数だけ生まれ、垂れ落ちた血液は雨のように床を叩く。 そしてプギャーは咆哮をあげ、一気にツンへと接近した。 ξ゚△゚)ξ「ハッ!!」 ツンは接近するプギャーに数十の羽根を放ち、そして身を翻して飛翔する。 プギャーは翅を両腕で殴り散らし、一瞬たりとも停滞せずにツンを追った。 だが、今回はツンの方が僅かに速い。 羽根で背中を穿たれた為だろうか。先ほどよりも、プギャーの速度が遅くなっている。 二人の距離は、少しずつ離れていく。 (#^Д^)「……待ちやがれ!!」 ξ゚△゚)ξ「待てって言われて待つくらいなら、初めから逃げないわよ。 いよいよ本当に馬鹿なのかしら?」 (#^Д^)「―――この!!」 プギャーは更に、翅を早く羽ばたかせる。 翅があげる耳障りな唸りは、耳が痛くなるほどに大きくなっていた。 彼の身は加速し、ツンとの距離を狭めていく。 だが無理な加速だ。動きは一直線になり、自由な動きは出来なくなる。 その事に、彼は気付いていない。 ツンに挑発された彼は怒りに浸りつつあり、彼女に追いつく事だけが彼の思考だった。 それがツンの狙いだとは、気付かない。 ξ゚△゚)ξ「ふッ!!」 鋭い呼気と共に、彼女は翼をこれまでとは逆に羽ばたかせる。 生んだ速度を一気に、停止直前まで殺したのだ。 そして、脚を前に伸ばした。 そこで彼女の足裏は、柔らかく壁を捉える。 (#^Д^)「何を……!!」 ξ゚△゚)ξ「知らなくて良いわ。 あなたはただ、これで堕とされれば良い」 呟き、彼女は壁を蹴った。 そして、全力を込めた羽ばたき。 速度を失った身は、一瞬にして再加速。 一気に速度を得た身は、次の一瞬で形状を銃弾に変える。 そして銃弾の軌道は、飛ぶプギャーに正面からぶつかる形だ。 (;^Д^)「なっ!?」 彼女の作戦に気付いた時には、もう遅い。 無理な加速をしていた彼に、急な方向転換は出来ない。 プギャーから、避けるという選択肢は既に奪われていた。 残る選択肢は――― (;^Д^)「受けるしかないってか、クソッタレ!!」 咆哮をあげて、両腕と両脚を振るう。 直後、彼と銃弾が接触して、激しい火花が散った。 同時に凄まじい衝撃が全身を襲う。 (;^Д^)「っぐぅぅうぅううぅぅぅうぅぅっ!!」 加速が付いていた為、力ではツンの銃弾とほぼ対等に渡り合えている。 だが加速が付いていた分、身にかかる負担は増加した。 歯を噛み締め、絶叫をあげて銃弾を跳ね返さんと力を込める。 力を込めただけ、衝撃と負担が身を襲う。 全身の骨が軋みをあげ、内臓が厭な痛みを訴え、鼓動がやけにうるさく聞こえた。 (#^Д^)「ぅぅうぅぅううぅ―――がぁぁああぁぁぁあぁあぁあぁぁあぁっ!!」 だが、プギャーは更に翅を羽ばたかせ、身を前方に押す。 その分だけ苦痛が増し―――しかし、プギャーの力も増していった。 そして、やがて (#^Д^)「っらぁ!!」 銃弾の動きが停止し、そして声と共にプギャーに全力で殴り飛ばされた。 銃弾は、相当な速度で落下していく。 ξ;゚△゚)ξ「くぅ……!」 すぐさまツンは翼を展開。はためかせた。 だが、それでも間に合わない。 ツンの身は速度を殺しきる事も出来ず、轟音と共に床に落下した。 床が爆ぜ、埃が舞う。 プギャーはすぐに、そこへ降りようとしたが――― (#^Д^)「……あ?」 そこで何かを感じ、そして一瞬。 (;^Д^)「……ッ!!」 表情を焦燥に変え、そして背後に腕を飛ばした。 腕はそこで、圧倒的な速さを纏った白銀の脚を捉える。 (#^Д^)「また、テメェか!! どこまで俺の邪魔をすれば……!!」 (#゚ω゚)「勝つまで、だお!!」 叫び、そしてブーンはプギャーの腕を蹴りつける。 プギャーは耐えようとしたが―――無理。 “力”を解放し、加速を纏ったブーンの脚は、疲労しきったプギャーの腕では止められない。 プギャーの腕は弾き飛ばされ、ブーンはもう片方の脚を叩きつける。 (#^Д^)「甘ぇんだよ!!」 その脚を、枯葉色の脚で受け――― しかし直後、もう片方の足が再度跳ね上げられた。 (;^Д^)「なッ……!?」 何故、こんなにも動く。 告げようとした言葉は、しかし食い縛った歯によって留まった。 咄嗟に、腕で受ける。 伝わってくるのは、思った以上に軽い衝撃。 不審に思った、直後。 (#゚ω゚)「おおぉおぉおおぉっ!!」 受けた腕を、ブーンは足場にして蹴りつけた。 衝撃に防御は弾かれ、ブーンの身は旋回する。 そこでプギャーは気付く。 今の蹴りは、弱まった勢いを加速する為の――― 四発目の為の一撃だったのだ、と。 だが、防御は間に合わない。 腕は悉く弾かれてしまっている。 咄嗟に彼が取れた行動は、翅で後方へ全力で飛ぶ事だけであった。 しかしそれでも避けられない。 ブーンの横薙ぎの脚は、プギャーの腹部へと叩きつけられた。 (;^Д^)「がっ……は、ぁ……!?」 内臓が全て口から出てきてしまいそうな、そんな嘔吐感。 一瞬の後に、それは内臓を握り潰されたかのような苦痛に変わる。 口からは内臓の代わりに、血液が溢れ出た。 だが、それはまだ幸運だったのだ。 実際、内臓が破裂していてもおかしくなかった。 プギャーの腹部が殻に覆われていて、 プギャーは翅で後退していて、 なおかつブーンの速度が大幅に落ちていたから、その程度で済んだ。 ……その程度と言っても、その苦痛はプギャーにとって耐え難いものであるのは確かだが。 (;^Д^)「ふざ、けやがって……!! こ、の……!!」 血を吐き散らしながら、プギャーはそれでもブーンを睨みつけた。 宙を落下していくブーンは、今なら完全に無防備。 殺りたい放題―――殺すなら、これが最後のチャンスだろう。 思考し、プギャーは翅を唸らせようとして――― (;^Д^)「あ?」 直後。 プギャーは背に……いや、翅に軽い衝撃を受けた。 そして、それに引っ張られる。 (;^Д^)「は―――!?」 瞳を混乱に染めて、その直後に背が壁に叩き付けられた。 何事かと翅を見れば (;^Д^)「!? クソが……!!」 二対の翅。 その内、一対。左右一枚ずつが、白銀の羽根に貫かれている。 翅を貫いた羽根が、プギャーを壁に磔にしていた。 ξ゚△゚)ξ「あら、良い格好ね。 虫の標本みたいで格好良いじゃない。 まぁ、あながちそれも間違いじゃないんだけど」 声の方向に視線を飛ばせば、そこには抉れ削れた床に立つツンがいた。 その翼はひどく損傷している。先程の落下の際、翼で身を護った為だろう。 だがやはり、ツンにもダメージは行っているようだ。 彼女は苦痛に表情を顰め、両腕で身を抱いている。 その肩に、手が置かれた。 やや拉げた白銀のガントレットに包まれた、力強い手。 そしてツンの前に歩み出た手の主は、ブーンだ。 (#゚ω゚)「終わりだお、プギャー」 ブーンはそのまま、脚を止める事無くプギャーに歩み寄っていく。 (;^Д^)「くっ……」 プギャーは呻きを漏らし、歩み寄るブーンを見つめた。 どうする。どうする。どうすれば良い。 翅は半分を失った。速度では、もうツンにも劣るだろう。 そうなると、ブーンへの優位な立場も消える。例え、空中でも。 勝機はあるか? ―――この状況において、それはない。 ブーンは毒を受けているとは言え、それでもアレだ。 ツンは翼を損傷しているが、しかしあの様子じゃまだ動けるだろう。 対して、自分は? ひどく疲労し、二対の翅の内一対を失った。 ならば自分はどうすべきだ? 持つ力全てを使って、決死の攻撃か? それに、どれだけの意味がある? どれだけのダメージを与えられる? 自分がすべきことは、自分が最優先にすべき事は――― ( ^Д^)「……モララーさんを護る事だ」 ならば、と漏らし。 そしてプギャーは壁を蹴りつけた。 翅が引き千切れ、そして身は自由になる。 (#゚ω゚)「!! 逃がすかお!!」 プギャーの行動に、ブーンは即座に跳躍した。 しかしプギャーは、一対の翅で全力で飛翔。 ブーンの脚は空を切り、回避したプギャーは飛翔の方向を下へと向ける。 ( ^Д^)「ここは退かせてもらうぜ! 俺が死ぬべきは―――命を使うべきは、ここじゃない!!」 叫び、そしてプギャーは着地。 遅滞を生じる事無く床を駆け、更にそこに翅での加速を加えた。 全力での疾走は、部屋の出口へと向かう。 (#゚ω゚)「待てお!!」 ブーンも追う姿勢を見せるが、しかし留まった。 ツンを置いていくわけにはいかないし、それにプギャーは速かった。 あのまま追ったところで、追いつけはしなかっただろう。 (#゚ω゚)「クソッ……!」 思わず、漏らす。 その直後に、彼の隣にツンが立った。 ξ゚△゚)ξ「逃がしちゃったね」 ( ゚ω゚)「ツン……」 ξ゚△゚)ξ「怖い顔しないで。 こんな形だけど、私達は勝って、先に進めるんだから」 ( ゚ω゚)「…………」 ξ゚△゚)ξ「決着は、この後で付ければ良いわ。 どちらにせよ、奴とはまた戦うんだから。 だから、気を楽にして? ずっと殺気立ってたら、疲れちゃうよ?」 ( ^ω^)「……お」 ツンの言う通りだ。 とにもかくにも、一応の戦闘は終わったんだ。 焦る必要も、怒りに塗れる必要もない。 そう、気を抜いた。 その瞬間だった。 (;゚ω゚)「うっ……!!」 酷い吐き気が込み上げ、そしてブーンは激しく嘔吐した。 血液と何かが混ざった、どろりと濁った吐瀉物が床にぶちまけられる。 ξ;゚△゚)ξ「ブーン!?」 ツンの声も、しかしブーンには届いていない。 ブーンの耳には、自身の心臓の音しか聞こえていなかった。 嘔吐が終わると、間もなくブーンに次々と症状が現れる。 まず頭痛が起き、そして目眩が襲う。 床に倒れ込んだブーンに訪れたのは寒気と震え。 そして、内と外―――全身に、耐え難い苦痛が来た。 ξ;゚△゚)ξ「まだ毒が……!? ねぇ、ブーン!? ブーン!!」 ブーンの身体には、まだ毒が残留していた。 ブーンはそれを“力”である程度緩和し、更に根性で無理に毒を抑えつけていた。 そしてその状態で、ブーンは戦ったのだ。 “力”を解放した、その状態で。 “力”を完全に解放する事は、決してノーリスクじゃない。 まず溢れ出す“力”に身体が耐えられるかという障害があり、 それによって身体は少なからず疲弊する。 そして大きな“力”を振るう為に、宿主にかかる負担もやはり増大する。 傷や疲労の回復力、毒を殺す力などは強まるが、しかしそれでも負担は増える。 その疲労やダメージすらも、ブーンは精神の力で無理矢理に蓋をしていた。 『ツンを護る』『全てを護る』という想いで、身体を動かしていた。 だから気を抜いた瞬間に、溜めていたモノが溢れた。 殺しきれなかった毒、疲労、肉体へのダメージ。 それが、今のブーンのこの有様だった。 ξ;゚△゚)ξ「ブーン! ねぇ……ねぇ!?」 膝を床に付き、ブーンの上半身を抱くツン。 その耳元に、囁くように―――絞り出すように、ブーンは告げた。 (; ω )「僕は、大丈夫……少し休めば、どうにかなる。 だからちょっとだけ、休ませt―――」 最後の言葉を言い終える前に、ブーンの意識が飛んだ。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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