2007/03/18(日)13:46
( ・∀・)二十年後、モララーはしょぼんと出会うようです(´・ω・`) (第五話下)
29 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:37:39.59 ID:tepVhUWG0
線路を渡ってコンビニの前に通りかかった頃には、もうすっかり涙は乾いていた。
顔の紅潮も少しはましになっただろう。
またコンビニで立ち読みしようかと思案していたとき、店から出てきた男と鉢合わせた。
どこかで見たことのある顔だ。
そう思い凝視すると相手は少々たじろいだ。
そこで気づく。あの日、私を拾ったジョルジュだ。
( ゚∀゚)「おう、元気か?」
仕事は……と問おうとして、今日が日曜日であることを悟った。
彼は片手にビニール袋をぶら下げていた。
ビールや各種つまみやらが隙間からのぞいている。
( ゚∀゚)「どうよ最近。記憶は戻ったか?」
( ・∀・)「いえ、まだ……」
( ゚∀゚)「そうか。まぁそのうちなんとかなるって。
アルツハイマーとかじゃねえんだから、な!」
私の背中を強く叩く。
不器用というか、無粋な男だと思った。
30 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:38:28.33 ID:tepVhUWG0
( ゚∀゚)「ま、俺たちの夫婦関係じゃねえんだしな」
( ・∀・)「はい?」
そういえば、奥さんに逃げられた、というようなことを言っていたな。
( ゚∀゚)「ああ、そうだ。どっかで話しないか?
マスターにしてもいいんだが、たまには別の人間とも腹割って話がしたい」
奥さんにすればよかったのに。
そう考えて、すぐに心の中で苦笑した。
そんなことをいう資格が、自分のどこにあるというのだろう。
私が承諾すると、ジョルジュは近くのスーパーに歩を進めた。
そのスーパーの隅に、狭い休憩室があった。
自販機と血圧測定器、そしていくつかのテーブルと椅子が設置されているだけの簡素なものだ。
その中の一つに腰を下ろすと、ジョルジュは袋をテーブルに無造作に置いた。
はずみで、中に入っているものがテーブルに広がる。
31 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:39:20.62 ID:tepVhUWG0
( ゚∀゚)「お前、嫁さんはいたのか?」
( ・∀・)「いや、いませんよ」
反射的にそう答えると、ジョルジュは若干不機嫌な顔になった。
( ゚∀゚)「そんなことわからねえだろう。
もしかしたら今も、どこかで帰りを待っている嫁さんがいるかもしれねえよ」
何か、ざらりとした感触が身体の中で蠢いたような気がした。
この男が私のことを知ったうえで口にしていないことはわかっている。
ただ、愚痴を吐露したいだけのことだろう。
それでも、心の闇が落ちたようだ。
( ゚∀゚)「いいか、若者。結婚ってのは難しいんだ」
ジョルジュは散らばったつまみの中からサラミソーセージを取り上げた。
袋を破って裸にすると、それを二つに割った。
32 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:39:51.13 ID:tepVhUWG0
当然ながら裂けた部分には凹凸ができている。
( ゚∀゚)「仮に右手のサラミを夫、左のサラミを嫁としようか。
結婚ってのはこういうふうにピッタリ、何もかもを互いが受け入れられるようじゃないとしちゃいけないんだ
独身時代とは違う。この二つの間には甘酸っぱい思い出もクソも挟まっちゃいねえ
補正が効かないんだ」
当然ながら、二つの部品は凹凸までもが合致している。
( ゚∀゚)「そうでもない二人が無理矢理結婚生活を続けようとすると……」
ジョルジュは両の手に力を込めた。
サラミの接着部分が潰れ、破片がテーブルに落ちた。
( ゚∀゚)「こういう風に破綻しちまうんだよなあ。
ま、失敗した俺が言うのもなんだが
だがこれは結構大切だと思うぜ」
感慨深げにそう呟いたあと、おもむろに囓り始めるジョルジュ。
私は、こういう人生哲学を持っているからこの男は妻に嫌われたんだな、と思った。
33 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:40:23.02 ID:tepVhUWG0
( ゚∀゚)「はあ。できることなら過去に戻ってやり直してみたいもんだ」
私はある考えを巡らせていた。
この男はバーボンハウスの常連だと聞く。
ならば、事件当時の状況やしょぼんの恋人について知っているかもしれない。
( ・∀・)「少し聞きたいことがあるのです」
若干陶酔に浸っていたジョルジュを現実に戻し、尋ねる。
( ・∀・)「連続殺人の被害者について、何か知っていますか?」
ジョルジュは眉を潜めて黙する。
やがて、ああ、と軽く呟いて頷いた。
( ゚∀゚)「あの子のことか。
マスターの彼女だった」
私は、不安と好奇心の混ぜながらジョルジュを追及する。
彼は逡巡した後、ぽつりぽつりと語り始めた。
34 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:41:03.12 ID:tepVhUWG0
あの子を初めて見たのは、一年ぐらい前だったかなあ。
その頃はまだしょぼんと深い付き合いをしていたって感じじゃなかった。
ただお仲間数人と飲みに来てたみたいだな。
……いや、別に観察していたわけじゃねえんだ。
可愛かったから目に付いただけだよ、多分な。
それから一ヶ月ぐらい経った頃に、また俺はあの子と鉢合わせたよ。
驚いたね。あの子は一人で、しょぼんに向かってしきりに話しかけているんだ。
それに、しょぼんは言葉を発することはなかったが、反応を見せていた。
頷いたり、微笑んだりな。
マスター失格じゃねえかと思ったよ。
他の客も、不審そうな目つきで二人を見ていたのを覚えている。
それからも何度か彼女を見たよ。
そのうち気づいた。ああ、こいつら恋人同士かよ、ってな。
35 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:41:35.25 ID:tepVhUWG0
一息ついたジョルジュが立ち上がり、自販機でコーヒーを二本購入した。
私の前に一本置かれたので、ひとまず礼を述べておく。
( ゚∀゚)「それにしても、なんであの子のことが知りたいんだ?
別に知っている奴ってわけでもないんだろう?」
問われて私は惑った。
( ・∀・)「少し気になったんですよ。彼は恋人について一言も口にしませんから。
それに、この前連続殺人を調べているという刑事が訪れたのですが、
その時はその存在すらも否定していたので」
私は素直に真実を吐いた。
ただ、核心に触れることなく。
そいつはおかしいなあ、とジョルジュは缶コーヒーを傾けながら器用に首を傾げる。
( ゚∀゚)「一言も口にしないのはいいとして、存在を否定か……。
嫌がっている風には見えなかったがな。
むしろ、ああ、今時のカップルだなあと感じたよ」
この時代における今時とはどこまで進んでいるのだろう。
ともかく、私は続きを催促した。
36 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:42:16.53 ID:tepVhUWG0
しょぼんはよく頑張っていたと思うよ。
できるだけ店内の空気を壊さないように、な。
だから彼らが言葉を交わすことはなかったと思う。
それで……十二月の初めかな、俺はいつも通りバーボンハウスに入った。
俺の推測じゃあその日は彼女が来る日だった。
いや、別に計算していたわけじゃねえのよ、なんつーか、パターン?
ともかく、二人を見て和もうとか親父なことを考えていたわけじゃない。
でも、その日結局あの子は来なかった。
俺はあまり新聞とか読まないタチなんだよ。
それで、彼女が死んだのを知ったのは少し後のことだった。
でも、しょぼんは全く普通に振る舞っていたな。
まるで恋人が死んだ、なんて事実は無いみたいにさ。
だから俺も、その話を掘り起こすのはやめておいたんだよ。
あいつは忘れようと気丈に努めている……それぐらいに思っていたな。
37 名前: ◆A4U6gCcMs2 [sage] 投稿日:2007/02/25(日) 18:43:04.14 ID:tepVhUWG0
スーパーを出たところで、私はジョルジュと別れた。
正直なところ、途方に暮れていた。
記憶喪失の身元不明者という身分である以上、あまり大胆な行動を取ることはできない。
だからといってしょぼんが何かを話してくれるわけでもなさそうだ。
一歩でも先に進みたい。
なぜかそう思っていた。おかしな話だ、自分は娘や、妻を捨てた男だというのに。
私の中で何か変化が生じているようだった。
過去と向き合う……といえば高尚過ぎる言いぐさかもしれない。
しかしそれに準ずる何か……。
いつしか、私の足の方向はバーボンハウスとは別の場所を向いていた。
これまでその存在すらも忘れようとしていた場所……。
住宅街を抜け、見慣れた郵便ポストの角を曲がる。
もうすぐ、長年住んでいた自宅が見えるはずだ。