第二十三話第二十三話 「砕かれた彼女の心」 ハ-△-)ハ 一定のリズムで刻まれる電子音。それ以外は無音の室内。 年齢の割に豊かな毛髪を持った老人が一人、ベッドの上に横たわっている。 傍らに座る者は誰もいない。 備え付けられたテーブルにはお見舞いの品である果物や花が置かれている。 ハ-△-)ハ 老人が目覚める気配はない。 ともすれば、このまま永遠の眠りに落ちてしまうのではないかと思われるほどの危うささえ感じられる。 だが、彼はまだ生きている。 目を開かなくとも、声を発さずとも、それは間違いのない確固たる事実だった。 彼女は昨日も一昨日も、面会時間の初めから最後までここにいた。 今日は流石に疲れたのだろう。ここへと来るのは少し遅れそうだ。 それはドクオ達にとって幸いなことであり、また彼女にとっても幸いなことであった。 ('□`) つい先日来たばかりだというのに、やはり病院の持つ独特の匂いというのは慣れないものだ。 そんなことを考えながら、ドクオは幽霊のような彼女の姿を見かけた廊下の辺りを歩いていた。 初めは受付で目的の病室はどこにあるのか聞こうと思っていたのだが、いざ聞いてみようとしてみると 何となくの気恥ずかしさからか、結局行動に踏み切れなかったため、ドクオは自分の足で病室を探すことにしていた。 ('□`)(えーっと、確かあいつの苗字って『素直』だったよな?) ヒートの祖父であるのだから、きっと苗字も同じだろう。 母方の祖父である可能性や父親が婿入りした可能性など考えもせず、彼はそう高をくくっていた。 ('□`)(やっぱ集中治療室かな) 度々通りすがる看護士に聞けばいいものを、彼はそれをせずに自らの推測を頼りに病室を探し続ける。 昨日、クーも述べたように彼の立てた計画が酷く杜撰なものであることは、最早言うまでもない。 しかし、運命は彼に現実の厳しさを教えることなく、都合の良い方向へと事を運んでいく。 ('□`)「あ」 ('□`) ('□`)「素直ビート……」 ('□`) ('□`)「ここかな」 ('□` )キョロ ( '□`)キョロ 一応、周りに看護士がいないかどうかを確認する。 よしんばいたとしても親族の者だと言えば問題ないとは思うのだが、 やはりどこか後ろめたいものを感じているせいか、慎重になってしまうようだ。 ('□`)(長椅子は……) 集中治療室の前には革製の黒い長椅子が置かれていた。 クーのおでかけ時は、ここによりかかって眠ることになるだろう。 ('□`) ('□`)フー ('□`) ('□`)「よっし」 若干緊張した身体を解し、恐る恐る扉に手をかけ、ゆっくりと押していく。 徐々に中の様子が覗けるようになり、そして ハ-△-)ハ 死んだように眠る老人の姿がドクオの視界に入った。 ('□`) ドクオは初め、彼が本当に死んでいるように見えた。 身体中には何やら良くわからない管が取り付けられ、硬く目を瞑ったまま身じろぎ一つしない。 脇で規則的に無機質な音を奏でている心電図がなかったら、彼を生きた人間と認めることは難しかったかもしれない。 ('□`)「っ……何考えてんだ、俺は」 ヒートの祖父の意識を呼び戻す。それを目的としてここまでやってきた自分が、 一瞬ではあれどその当人である彼を死人として見てしまった。本末転倒も甚だしいというものだ。 ハ-△-)ハ そんな自己嫌悪に陥るドクオになど気づく様子もなく、ヒートの祖父、ビートは眠り続ける。 いつ醒めるかも、いや、本当に醒めるのかどうかすらも分からない夢の中を彷徨い続けている。 ('□`) 夢の中に踏み込めるのは、同じく夢の中を彷徨い渡り歩くクー以外には誰もいない。 そして、その存在を唯一知っているドクオ以外に、彼女の力を借りる術を持つ者は誰一人としていない。 ('□`) 俺がやらなきゃ誰がやる。 自分の性に全く合わない、燃え滾るような熱い言葉を噛み締めながら、彼は思い出す。 ノハ △ ) いつもの熱気をどこかへと置き忘れ、悲しげに冷めてしまった彼女の姿を。 ('□`)(いいぞ、クー) ようやく覚悟の決まったドクオは、打ち合わせ通りに合図を送る。 クーからの反応はとても素早いもので、それから数秒も経たぬ内に、彼は強烈な睡魔に襲われ始めた。 (-□-;)「くっ……」 次第にぼやける視界の中、何とか病室を抜け出す。 手探りで壁を伝い、長椅子の上へと座り込む。 (-□-;)「はぁ……」 大きく息をつき、目を閉じる。 マスクに覆われた空間が、熱い吐息に満たされる。 (-□-;)(後は頼むぞ……何とかうまくいってくれ) 意識が寸断される寸前、ドクオは祈った。 自らの計画の成功を、ビートの容態の回復を、純粋な気持ちでただただ祈った。 『全ては――』 眠りに就く瞬間、聞き慣れた声が脳裏を掠める。 しかし、その言葉を最後まで聞き終えることなく、彼は深い眠りの中へと落ちていってしまった。 ―――― ―― ノパ△゚) 今と比べ背丈が低く、顔つきも幼いヒートが立っている。 その手には可愛らしい装飾の施されたケースに入った、ままごとセットが握られている。 パ△゚)ハ その向いには豊かな白髪を蓄えたビートが立っている。 彼女は見上げるほどに背丈の高い彼に向かってこう叫んだ。 ノパ△゚)「じーちゃん!ままごとやろっ!ままごと!!」 パ△゚)ハ「む」 ビートはまだ幼く小さな彼女の目線に合わせるため、腰を下ろす。 そして、彼女の肩を優しく握り、一言こう言った。 パ△゚)ハ「嫌じゃ!!!!」 ノハ#゚△゚)「なんでー!?なーんーでー!?やろーよやろーよ!!」 ハ#゚△゚)ハ「嫌じゃと言ったら嫌じゃ!!ままごとなんかよりも面白い遊びはいくらでもあろうが!!」 ノハ#>△<)「やーだー!やーだー!!ままごとじゃなきゃやなのー!!」 ハ#゚△゚)ハ「ったく……世話の焼ける孫じゃのう」 手に持ったケースを振り回しながら喚き立てるヒートをその場へ置き、ビートは家の中へと戻っていく。 ヒートは全身を使っての抗議に夢中になっており、そのことには気づかない。 それからしばらくの間、ヒートは一人になっても先程と同じ調子でわーわーがーがー騒ぎ立てていた。 そして、数分が経った後 パ△゚)ハ「ほれ」 ビートは丸めて棒状にした新聞紙を二本持って、再び姿を現した。 ノパ△゚)「……なにこれ」 目の前に差し出された丸めた新聞紙を目に留めた瞬間、ヒートの喚きはぴたっと止まった。 こちらへ向かって真っ直ぐ伸びてくる新聞紙を見つめたまま、彼女は不思議そうに尋ねる。 パ△゚)ハ「剣じゃ」 差し出した新聞紙を二、三度振り回しながら、ビートは一言そう言った。 ノパ△゚)「けん?」 パ△゚)ハ「そうじゃ。強い者だけが持つことを許される、強さの象徴じゃ」 ノパ△゚)「しょーちょー?」 ビートの言葉を理解できず、ヒートは首を傾げる。 お前にはまだ分からないか、と小さく呟き、ビートは再び彼女の前に新聞紙の剣を差し出した。 パ△゚)ハ「遊ぶなら、これを使って遊ぼうじゃないか」 ノハ#゚△゚)「やーだー!ままごとがいいのー!!」 『遊ぶ』と言う言葉を聞き、本来の目的を思い出してしまったヒートが再度喚き始める。 パ△゚)ハ「それじゃ、この新聞紙でワシの身体に一度でも触れることが出来たら一緒にままごとをしてやろう。それでどうじゃ?」 ノパ△゚)「ふれる?」 パ△゚)ハ「そうじゃ。ワシも新聞紙は使わせてもらうが、お前に攻撃したりはせん。 お前はただひたすらワシの身体にこの新聞紙の剣を打ち込むことだけを考えておればよい」 長い話になると理解するのに時間がかかるようで、ヒートは眉間に皺を寄せながら思索に耽り始める。 ノパ△゚)「かすったりするだけでもいーの?」 パ△゚)ハ「かまわん。顔だろうが服だろうが、ワシのこの豊かな白髪であろうが、掠りさえすればお前の勝ちじゃ」 ノパ△゚)「かったらままごとしてくれるんだよね?」 パ△゚)ハ「ああ、してやるとも。何十回でも何百回でもお前の好きなだけ付き合ってやるぞ」 ノパ△゚) パ△゚)ハ ノハ*゚△゚)「じゃー、やる!!」 ―― ―――― ノハ △ ) 見慣れた室内。窓から差し込む朝日。 目覚めはあまり良くはなかった。 ノハ-△-)「く……」 朝日の眩しさに目を細め、先程の祖父とのやり取りが夢であったことを改めて実感する。 今となっては懐かしい、十年程前の祖父との思い出。 彼女が剣を握ることとなったそもそもの発端であり、ビートの強さを初めて目の当たりにした瞬間でもあった。 ノパ△゚)「……あ」 時計を見れば、既に病院の面会時間が始まっている頃合だった。 本来なら学校に遅刻してしまうと慌てるべき場面なのだが、彼女はそんなこと気にも留めなかった。 あるのは病院に行かなければならない、と言う半ば強迫観念化してしまった考えだけ。 ノパ△゚)「……行かなきゃ」 彼女はベッドから立ち上がり、部屋から出て行く。 リビングに行くと母親が心配そうに話しかけてきたが、具合が悪いから学校を休むと伝え、うまくその場をやり過ごした。 昨日は普段通り学校に行く振りをして、そのまま病院へと向かった。 無断欠席をしたにも関わらず、学校の方から連絡がなかったのは運が良かったとしか言いようがない。 今日はその危険を考慮し、学校に欠席することを伝えようと彼女は思ったのだった。 ノパ△゚) 具合が悪いと言っておいたため、母親から病院に行くのを止められなどはしなかった。 一緒についていこうか、とも言われたがヒートはそれを断った。別に母親を邪魔に思ったわけではない。ただ、一人でいたかったのだ。 病院へと向かう道すがら、彼女はビートとの思い出を記憶の中から掘り返していた。 初めて剣を握ったあの日、無茶苦茶に新聞紙を振り回す自分を見てビートが浮かべた笑顔。 ヒートの攻撃をその身に一度も掠らせることなく、自らの強さを誇示した彼が垣間見せた無邪気な一面だった。 ノハ*゚△゚) パー゚)ハ 彼女が本格的に剣の道を志し、剣道を習うようになってからは度々ビートが彼女の稽古相手となってくれた。 時には厳しく、時には優しく、剣とは何たるかをその身をもって示す彼の教えを彼女は見る見る内に吸収していった。 ノハ;゚△゚) ハ#゚△゚)ハ そして、高校生になりショボンと出会ってからは、ビートの顔が前にも増して生き生きとするようになる。 たまにヒートがショボンを家へと強引に連れて来て、共にビートの指導を受けるようになった。 ノハ*゚△゚) (;´∨ω・`) ハ*゚△゚)ハ 彼との鍛錬の日々は辛く厳しいものもあったが、ヒートはそのどれもを苦に感じたことはなかった。 純粋に剣が好きだったということも原因にはあったかもしれない。 しかし、それより何よりビートの持つ完璧なまでの強さに対する尊敬の念が、彼女の原動力となっていた。 ビートのちょっとした遊びによって引きずり込まれた剣の道。 彼の強さをまざまざと見せ付けられたからこそ、ヒートはこの道を志そうと思った。 彼女にとっての強さの象徴は剣ではなく、ビート自身だったのだ。 ノパ△゚) だからこそ、彼女の心はこうも呆気なく弱りきってしまった。 ハ-△-)ハ 遥か頂上に君臨しているはずの絶対強者。 何があっても負けることはなく、その身から漂うは他者を威圧する程の強靭な覇気。 そんなビートの、今にも生命が途絶えてしまいそうな弱りきった姿を見たせいで、彼女の熱は消え失せてしまった。 最初、ビートが倒れたとの連絡を受けたとき、ヒートにはそれが信じられなかった。 実際にベッドに横たわった彼の姿を見るまで、彼女はそれが何かの間違いだと信じて疑わなかった。 人はあり得ないと思っていたことが起きた時、計り知れないほどの衝撃を受ける。 ビートの姿が与えた衝撃は、彼女の芯を破壊するに十分すぎるほどの威力を持っていた。 何とか容態が安定し、後は意識が戻るかどうかだ、と医者や両親が彼女に告げても、何の効果もなかった。 彼女の弱りきった心は根拠もなく彼の死を確信し、最早それを受け入れつつあったのだ。 ノパ△゚)(早く……早く行かなくちゃ……) 彼女が病院へと向かっているのは、ビートの回復を心待ちにしているからではない。 ノパ△゚)(じーちゃんが……じーちゃんが……) もう生きることが出来ないのなら、二度と共に剣を振るうことが出来ないのなら、 ノパ△゚)「……死んじゃう」 せめて、死に目にだけでもあいたい。 彼女を突き動かしているのは唯一つ、それのみだった。 ――――――――夢―――――――― ('A`) 口元を覆っていたマスクを外し、辺りを窺う。 ハ-△-)ハ 傍らに眠るビートの姿を認め、ドクオはひとまずの成功に安堵の息を漏らした。 ('A`)「よし」 だが、重要なのはこれからだ。 いくらおでかけが成功しても、クーがビートの身体を動かせないことには計画自体が成功したとはいえない。 ドクオはゆっくりと腰をあげ、黒電話の方へと向かう。 ('A`) 受話器を握り、しばらく間を空ける。 これを持ち上げ耳に当てれば、すぐに結果が分かる。 これでビートの生死が全て決まってしまうわけではないと言うのに、ドクオは異常なまでの緊張を感じていた。 ここでもし失敗したとしても、ビートが二度と目を覚まさないと決まるわけではない。 そう必死に言い聞かせても、やはり暴れだした鼓動は治まりそうになかった。 ('A`) 意を決し、受話器を上げる。 耳に聞こえてくるのは、掠れた空気音。 ('A`)「どうだ」 短く呼びかけ、反応を待つ。 ('A`)「おーい」 続けてもう一度呼びかける。 それでもなかなか返答は返ってこない。 堪らずもう一度呼びかけようとした瞬間、とうとう受話器がクーの声をドクオの耳へと運んだ。 「……」 「……」 「……すまん」 その一言でドクオは全てを悟った。 「何とか、夢の中に入ることは出来たのだがな……」 ('A`)「……ダメだったか」 受話器越しに聞こえるクーの声は重い。 何とか押し隠そうとしていた落胆の思いが、それにつられて声に出てしまう。 「どうやら、当事者の身体が正常に動ける状態にない限り、 おでかけすることは出来ても、そこから身体を操作することは不可能のようだ」 ('A`)「そうか……悔しいなぁ」 「しょうがない。この結果はお前が招いたものではないのだ。そう気に病むな」 ('A`)「……あぁ」 自分のせいではないと言われても、ドクオの調子が戻ることはない。 そんな彼の声を聞いて、クーは更に言葉を重ねる。 「それに、落ち込んでいる場合でもないだろう」 ('A`)「え?」 「最良の状況でなくとも、その場面においての最良の選択肢はいつだって用意されているものだ」 彼女の言葉を聞き、ドクオは受話器を耳に当てたまま後ろを振り返る。 ハ-△-)ハ そこに横たわっているビートの姿を認め、彼は考える。 今自分が選ぶべき、最良の選択肢について。 「私の言いたいことは、理解できたか?」 ('A`)「あぁ、大丈夫だ」 「そうか」 安心したように、クーは息を吐く。 「ならば、後は君に任せる。頃合を見て、また私に連絡してくれ」 ('A`)「わかった」 「じゃあ」 ('A`)「あ、クー」 「ん、何だ?」 電話が切れる直前、ドクオは彼女を呼び止める。 そして、一拍の間を置いた後、一言こう言った。 ('A`)「ありがとな」 「ふふ、別に私は何もしていないのだがな」 ('A`)「いやまぁ、なんとなく……な」 「そうか。それじゃ、また後でな」 ('A`)「ああ、また」 会話が終わり、室内に静寂が戻る。 ビートが目覚める気配は未だにない。 ハ-△-)ハ ('A`) 彼の傍らへと腰を下ろし、寝顔を覗く。 同じ寝顔でも、先程ベッドの上に見た彼の顔よりは若干生気が感じられる。 身体を揺すり、無理矢理に起こそうかとも考えたが、夢の中とは言え病人に対しそのようなことをするのは流石に気が引けた。 今までここへと訪れた者達と同じように、彼の意識が目覚めることの出来る状態にあるのなら、きっと自然に目を覚ますはずだ。 身体は確かに目を覚ます状況にはないかもしれない。しかし、肉体と精神は別個のものだと一般的には言われている。 それならば パ△゚)ハ ('A`) ここで彼が目覚めたとしても、そこには何の不思議もないのだ。 ('A`)「あ」 パ△゚)ハ「む……ここは……?」 永い眠りから醒めたような顔つきで起き上がるビート。 室内を軽く見回した後、隣に座るドクオの姿に視線を止める。 パ△゚)ハ「君は……誰じゃ?何故ワシはこんなところに……」 ('A`)「それについては、話すと長くなるのですが……」 ハ;-△-)ハ「ぬ、ちょいと待て……頭が痛い」 (;'A`)「あ、はい。あまり無理はしないでくださいね」 ビートはこめかみを押さえながら、不意に襲い掛かってきた頭痛に耐える。 そして、その最中、彼は一つの事実に気づいた。 ハ;-△-)ハ「ワシは先程まで……剣を振るっていたはずじゃ。 なのに何故、こんなところに?それにそこからの記憶がないぞ……?」 彼の苦悩する姿を見て、ドクオは落ち着いた声で言葉を紡いだ。 ('A`)「……それについても、恐らくは自分の方から説明することが出来ます。 ですから、ちょっとだけでもいいんです。俺の話を聞いてもらえないでしょうか」 パ△゚)ハ「――ワシがくも膜下出血で倒れた?」 ('A`)「はい、俺も人伝に聞いただけなので詳しいことまでは分かりませんが」 ドクオはショボンから聞いた話をそっくりそのままビートに聞かせた。 彼の先程の発言と照らし合わせて考えてみるに、剣の鍛錬中に倒れそのまま意識を失ってしまったらしい。 パ△゚)ハ「そんな馬鹿な。ならば何故ワシがここにいる? 驚異的な回復力を見せ、意識を取り戻す前にこうも身体の調子が良くなってしまったとでも言いたいのか?」 自らの掌を強く握り締め、彼は言う。 ここでの身体の調子は、平常時のそれとほぼ変わらないようだ。 ('A`)「そうではないんです。ここは夢の中だから、あなたはこうして話をすることが出来るんです。 現実のあなたは未だに意識を失ったまま、ベッドの上で治療を受けています」 パ△゚)ハ「は、夢の中?」 ドクオの言葉に、ビートは大きく口を開いたまま固まる。 そして、数秒間を置いた後 ハ*゚△゚)ハ「はっはっは、なるほど!なるほどのう!! それなら確かに道理に合う!夢の中か!はっはっは!!」 さも可笑しそうに大笑いを始めた。 (;'A`)「いや、でも笑い事ではないんですよ? 今もあなたはいつ死ぬかも分からない危険に晒されているわけですから」 パ△゚)ハ「分かっておる。分かっておる。 俗に言う『生死の境を彷徨っている』とかいう奴じゃろ?」 自らの生死に関わる話だと言うのに、ビートの口調からは悲壮感などこれっぽっちも漂ってはいない。 それどころか、彼の声の調子からはある種の好奇心のようなものすら感じ取れる。 この場において好奇心と言う言葉が似つかわしくないことは分かっていたが、ドクオは自分が感じたものを表現するにそれ以外の言葉が見当たらなかった。 パ△゚)ハ「しかし、死の淵に立たされた者が訪れる場所としては少々普通すぎるような気もするがのう」 (;'A`)「まぁ、ここは三途の川でも花畑でもありませんからね。 と言うか正確に言えば生死の境を彷徨っているからここに来られたわけでもありませんし」 パ△゚)ハ「ふん、まぁよい。それより一つ聞きたいのじゃがここには剣はないのか?」 (;'A`)「はい?剣?」 パ△゚)ハ「そうじゃ。素材は何でも良い。それが剣の形さえしていればワシは戦えるからの」 (;'A`)「戦うって……何と戦う気ですか?」 パ△゚)ハ「何と?」 ビートは心底不思議そうな顔をして、ドクオの問いに答える。 パ△゚)ハ「死に決まっておろうが」 (;'A`)「死って……」 パ△゚)ハ「生死の境の彷徨とは生きるか死ぬかの大勝負とほぼ同義。 つまり、これまで生あるものを悉く喰らってきた死と言う強大な敵に、立ち向かわねばならないということじゃろ?」 次々と捲し立てられるビートの言葉を、ドクオは何も言えぬまま聞いていた。 その姿に先程現実で見た彼の弱弱しい面影は毛ほども残っていない。 余り明るい性格とは言えないドクオが尻込みしてしまうほどのバイタリティが、そこにはあった。 パ△゚)ハ「そのような敵に対し、丸腰では流石に歯が立たんと言う物じゃ。 ワシも自分の強さにそこそこの自信を持ってはいるが、そこまで自惚れているつもりはないぞ」 (;'A`)「つ、つまり、あなたは生きるために今から死と言う概念と戦うつもりだと、そう言うわけですか?」 パ△゚)ハ「その通りじゃ」 孫の性格を鑑みるに、その祖父である彼の性格も多少変わっていることは想像に易かった。 しかし、いざ目の前に対峙してみると、その突拍子もない発言に思わず頭痛を感じずにはいられない。 彼の言葉が全て本心から出たものであることは分かるのだが、どう対応したらいいものか、ドクオは返答に窮していた。 パ△゚)ハ「じゃから、ワシは剣を……っと、何じゃ、あるではないか」 そう言って彼が視線を止めた先。 そこにはクーが時折素振りに使っていた、竹刀が置いてあった。 ('A`)「ああ、そういえば」 ビートは畳の上に置かれた竹刀を手に取り、軽く振り回す。 パー゚)ハ「うむ、素材は何でも良いとは言ったものの、やはりこいつが一番しっくりくるのう」 ここに来て初めての微笑を見せた彼の顔は、しかし、すぐに真剣なものへと変わっていく。 ハ-△-)ハ「……ふぅ」 竹刀を正眼に構え、精神を統一するように深く息を吐く。 束の間の静寂に包まれた室内。 そして パ△゚)ハ「はぁっ!!」 一人の老いた剣士の声により、その静寂は破られることとなる。 (;'A`) ビートの素振りに、ドクオは声を失っていた。 時たまクーが竹刀を振っている姿を見たことはあったのだが、達人と素人にここまでの違いがあったとは。 掛け声から発せられる気迫もさることながら、その振りの速さと流麗さには段違いのものが感じられた。 パ△゚)ハ「ふむ、調子は上々と言ったところか」 手に持った竹刀をしげしげと眺め、ビートは呟く。 パ△゚)ハ「何としてでも生き残らんとな……ヒートにはまだ教え足りんことが山ほどある」 (;'A`)ハッ!! 彼の放った『ヒート』と言う言葉に、ドクオは本来の目的を思い出す。 この状況下において、自分が取ることの出来る最良の行動。 明確な答えは未だ出ていないものの、曖昧ながらその道筋は見えていた。 (;'A`)「そうです!そうなんですよ!!」 パ△゚)ハ「む、なにがじゃ?」 (;'A`)「あなたのお孫さんに当たる素直ヒート、彼女について俺はあなたに話しておきたいことがあったんです!」 パ△゚)ハ「ほう、君はヒートを知っておるのか」 ('A`)「あ、はい。あまり面識はありませんが、彼女とは一応同じクラスなんです」 パ△゚)ハ「ふむ、死の瀬戸際に何故ヒートのクラスメイト、それもワシの知らぬ者が現れたのか理由は分からぬが その様子から察するに君の言うことに嘘偽りはないんじゃろうな」 ('A`)「はい、もうこの際ですから何故俺がここにいるかについては深く考えないでください」 パ△゚)ハ「で、君は今ヒートについてワシに話しておきたいことがあると言っていたようじゃが」 ('A`)「そうなんです。実は――」 生来の気質が変わっていると言うことはおかしな話への順応も早いということだ。 ビートはドクオに対し何の疑いも持たず、彼の話に耳を傾け始めた。 そして、一方その頃、現実世界では ノパ△゚) ドクオ達のいる病院に、ヒートが足を踏み入れようとしていた。 戻る 目次 次へ |