四十一章二ギコとしぃはショボンの脇を抜け、ドアを抜けていく。 ショボンは先へ進む二人に、何のアクションも取らなかった。 ただそこに立ち竦み、フサを見詰めているだけ。 (´・ω・`)「こんな別れ方で良いのかい?」 一度振り返り、二人が言ったことを確認すると、つまらなそうに言った。 ミ ゚Д゚彡「これ以上は必要がない。どうせ、すぐに会う」 (´・ω・`)「まぁね。そこは天国だろうけど。或いは、地獄か」 ミ ゚Д゚彡「言っていろ。そこへ行くのは貴様だけだ。 貴様はここで、俺が殺す」 一つ深呼吸をして、腕に力を込めた。 呼応するように、快感とも疼痛とも言えぬ熱い感覚が腕に拡がる。 続いて、全身に“力”が湧いてくる。全能感が訪れ、脳に痺れたような快感が染み出した。 だがそこで呻きが漏れた。 腕に鋭く、痺れるような痛みが走ったのだ。 嫌な汗がこめかみに浮かぶ。 ギコとしぃはショボンの脇を抜け、ドアを抜けていく。 ショボンは先へ進む二人に、何のアクションも取らなかった。 ただそこに立ち竦み、フサを見詰めているだけ。 (´・ω・`)「こんな別れ方で良いのかい?」 一度振り返り、二人が言ったことを確認すると、つまらなそうに言った。 ミ ゚Д゚彡「これ以上は必要がない。どうせ、すぐに会う」 (´・ω・`)「まぁね。そこは天国だろうけど。或いは、地獄か」 ミ ゚Д゚彡「言っていろ。そこへ行くのは貴様だけだ。 貴様はここで、俺が殺す」 一つ深呼吸をして、腕に力を込めた。 呼応するように、快感とも疼痛とも言えぬ熱い感覚が腕に拡がる。 続いて、全身に“力”が湧いてくる。全能感が訪れ、脳に痺れたような快感が染み出した。 だがそこで呻きが漏れた。 腕に鋭く、痺れるような痛みが走ったのだ。 嫌な汗がこめかみに浮かぶ。 ミ; Д 彡(……そろそろ、“力”の浸食が厳しいか。 構わん、もうすぐだ。もうすぐ、終わる。終わらせる) 痛みを無視して、今度は脚に力を込め、そして全身に力を込めた。 異音。両腕の異形が肩まで拡がり、同様に両脚の異形も付け根まで昇る。 爪は更に鋭く伸び、四肢を覆う茶色の毛は、その量と硬さを増した。 血と肉への衝動が強まり、鼓動が強く激しく打ち鳴らされる。 伸びて鋭くなった犬歯をがちがちと噛み鳴らし、 紅の色を深めた瞳でショボンを睨みつけると、彼は咆哮を上げた。 ミ#゚Д゚彡「ガァァァアアアアァァアアアアァアアァアァァッ!!」 空気がびりびりと震える。 ただの人間であれば、ここで尻をつくか、耳を押さえて逃げ出していただろう。 しかしショボンは、静かに頷くだけだった。 (´・ω・`)「……なるほど」 ミ#゚Д゚彡「グルルルルルルル……!!」 (´・ω・`)「獣化、ね。こうしているだけで分かる。素晴らしい“力”だ、期待以上だよ。 思考も少しだけ読み辛くなった。楽しめそうだ」 ミ#゚Д゚彡「その減らず口、利けなくしてやる!!」 飛び出して爪を横薙ぎにした。 風切り音を鳴らして迫る魔獣の爪は、しかし寸前で体勢を低くされ躱される。 ショボンはそこから思いきり立ち上がる動きを利用して、隙の出来たフサの脇腹に肘を叩き込んだ。 呻き声と共にフサの身体がぐらつく。 ショボンは間髪置かず彼の脚を払い、同時にナイフを引き抜いて、腕に斬りつけた。 鋭く研がれたナイフの刃は、しかし腕を覆う茶色の硬い毛に阻まれる。 刻まれた傷はごく薄く、出血は少ない。 (´・ω・`)「流石、魔獣の毛。普通の毛よりもずっと硬い。良い具合に邪魔をしてくれる」 ミ#゚Д゚彡「ォ―――ァァァアッ!!」 フサは床に手を付き、脚を蹴り折らんと、凄まじい勢いで足払いをかけた。 だが寸前でショボンは跳び上がり、彼の脚は空を切る。 ショボンは軸となったフサの手に思いきり踵を振り下ろして着地し、更に動きの止まった太ももにナイフを思い切り突き立てた。 ミ#゚Д゚彡「ガッ!!」 (´・ω・`)「金属質化はしてないものの、やはり異能者の肌だね。 一応刺さりはするけど、全然刃が通らない。 毛の硬さも相まって、耐久力としてはかなりのものがありそうだね」 引き抜く。血がフサの太ももを伝って、滴となって床へと落ちた。 フサは床を蹴ると、一旦大きく距離を取り、そこで唸りを上げる。 ミ#゚Д゚彡(……この男、想像以上に、やる。 動きが読まれているとは言え、こうまでも完璧に避けられるとは) フサが浮かべた思考を読んだのか、ショボンが口を開いた。 (´・ω・`)「道を歩く自分に、時速二百キロで走っているダンプカーが迫っていたとしても、 その事自体を十秒前に知っていれば何て事はない。躱せる。だろ? それと同じさ。君がいくら速くて強くても、動きが分かってしまう以上、僕がそれを躱す事の難易度は低い」 荒れた息を一つ入れる。 どうやら、興奮しているようだった。 (´・ω・`)「僕が言いたいのは、要求しているのは、その先だよ。 こんな僕と、君はどうやって戦うのか見せてくれ。何なら殺してくれ、出来るものなら。 僕の想像を超えてみせてくれ。僕を、わくわくさせてくれよ」 フサの中で、憎悪が増大していく。 ショボンの言葉の一つ一つが、音の粒の一つ一つが癪に障った。 生きたまま引き裂いてやりたい。殺戮の欲求が抑えられない。 力の籠った四肢から、異音が小さく鳴る。 ミ#゚Д゚彡「後悔するなよ!!」 (´・ω・`)「するもんか」 咆哮と共に飛び出し、踏み込みつつ拳を突き出した。 凄まじい破壊力を持ったそれをショボンは身を横にズラして躱し、 ミ#゚Д゚彡「そう来るだろうな!! 分かっているさ!!」 フサは即座に身を旋回させ、回し蹴りを放つ。 回避の直後、体勢の整っていないショボンにそれは躱せまいと彼は確信したが (´・ω・`)「そう来るだろうね。分かっているよ」 寸前、ショボンは不自然なほど身を低くしてそれを躱した。 呆気に取られ、一瞬だが動きを止めたフサの顎に、全身のバネを使ったアッパーが叩き込まれる。 身が浮くほどの衝撃に、フサの視界がぐらりと揺れた。 (´・ω・`)「いやぁ、本当に硬い。でも、効くようだね。 君の腕や脚は“力”のおかげで随分と硬くなっている。ナイフの刃が通らないくらいだ。 でも、逆に言えば、“力”の及んでいない箇所は弱い筈なんだよね」 更に裏拳で、もう一度顎に拳をぶち込む。 ミ#゚Д゚彡「ガ……ッ!!」 (´・ω・`)「こうすれば視界だって揺れるし―――」 数歩を後退ったフサに対して、ショボンは同じ歩数を踏み込んだ。 そしてその速度を殺さぬまま、フサの腹に、腰の回転を全開に加えた拳を捻じ込む。 フサが掠れた息と共に、血液を吐き出した。 (´・ω・`)「こうすれば内側にダメージを入れることだって出来るし―――」 ミ#゚Д゚彡「クソが!!」 フサは霞む視界のまま、後退する。 腹に重い痛みがあった。脳の中心が痺れたように、思考が纏まらない。 脚は止めぬまま一度眼を瞑り、頭を振った。深く呼吸し、それから眼を開ける。 目の前にショボンの顔があった。 息が詰まり、身体が一瞬 硬直する。 その隙に、彼の手が首に掛かり、脚が自分の脚の後ろに入る。 ダメだ、と思った時には、自分の背が床を叩いていた。 そしてその次の瞬間には、腹部に大型のナイフが突き立てられていた。 ミ#゚Д゚彡「――――――ッ!!」 腹部に、耐え難い熱い感覚が拡がる。 大型のナイフの刃の、半分ほどが腹に埋まっていた。 喉が、声にならない絶叫を上げる。 (´・ω・`)「体重をかければ、ほら。ナイフだって突き刺さるし」 その声の中で、ショボンは何でもない事のようにそう呟いた。 それからナイフの柄を握ると、勢い良く引き抜く。 刃によって留められていた血液が、一気に噴き出た。 (´・ω・`)「こうして、血だって勢い良く溢れ出る」 ミ#゚Д゚彡「ガッ……! き、貴様ァァアッ!!」 ショボンはナイフに付着した血を振って払うと、フサと数歩の距離を開けて、手招きをする。 (´・ω・`)「立ちな、来なよ。君に何が出来るのか、見せてくれ」 フサは咆哮と共に立ち上がると、同時に床を蹴りつける。 一瞬でショボンの目の前に立つと、猛攻を開始した。 ミ#゚Д゚彡「上等だ! 今ここで、貴様を滅してやる!!」 両腕両脚で間断なく仕掛ける猛攻。 出来る限りの速度と力を込めた、秒間十撃を超える暴力の嵐。 モーションは小さくし、隙を極限まで小さくした、逃げ場のない連撃。 動きの一つ一つはもはや視認出来ず、絶えぬ風切り音が音の全てとなる。 しかしそれらのどれ一つとしてショボンには届かず、どころか、フサの身体に刻まれる傷が増えていった。 顔や胴体のみでなく、魔獣の毛に護られた腕や脚からも。 切られた茶色の太い毛が風に舞い、赤い霧が広がる。 ショボンとフサの周囲の空間にだけ、色が付いたようだった。 ミ#゚Д゚彡「何故だ……!」 猛攻の中、動きは止めぬまま叫ぶ。 ミ#゚Д゚彡「何故、届かん!?」 (´・ω・`)「さっき言った通りさ」 フサの攻撃を回避しながら、ショボンの腕の先で金属が煌めいた。 血に濡れたナイフだ。酷い刃こぼれを起こしている。 (´・ω・`)「動きが全部読めちゃうんだよ。いくら速くとも、ね。 それに、獣化した事によって君の思考は読み取り辛くはなったものの、 思考自体は単純になってる。だから、この通りさ」 ミ#゚Д゚彡「―――クッ!!」 そこでフサは、間違った賭けに出た。 突然、飛びかかったのだ。 小さな攻撃からいきなり大きな攻撃をすれば躱せないのでは、という思考からだった。 しかしそのような単純な動きで、ショボンを捉えられる訳もない。 ショボンには簡単に回避され、それどころか腹部に膝を叩き込まれ、吹き飛ばされた。 フサは床で転がり、しかしすぐさま立ち上がる。 床に血が滴った。一つ一つは小さいが、全身から出血している。 しかし彼に、止まろうという気配は皆無だ。ショボンを睨みつけ、唸り声を上げる。 ショボンは肩を竦めると、苦笑を浮かべて首を振った。 (´・ω・`)「……参ったね。確かに耐久力はあるみたいだけど、このままじゃ酷くつまらない。 僕は無傷のままで、君が倒れるまで無駄な時間だけが過ぎていく。それはよろしくない。 そんなのは全然面白くない。見ていて楽しくもない。無様なだけだ」 ミ#゚Д゚彡「何だと、貴様……!」 飛びかかろうと体勢を低くするフサに、ショボンは一つ頷き、首を傾げる。 (´・ω・`)「うん、そうだね。 このまま嬲り殺すのも別に良いけど、ちょっと趣向を変えてみようか」 ミ#゚Д゚彡「何を―――」 そこで、激しい耳鳴りがフサを襲った。 鈍い頭痛が脳を揺らし、そして内側から“声”が響く。 『君は弟の事を大切に思っているね?』 『彼の為だったら、どんな奴でも、何人でも叩き伏せてやろうと思っているね?』 『ここで僕を殺していきたいとも』 頭痛が強まり、それに合わせて視界が引き歪む。 目の前に居るショボンの姿が二重、三重と増えていき――― 『示してみせてよ』 ぴたり、と耳鳴りが止み、頭痛が止んだ。 視界がクリアになり、そして増えたショボンの姿は消えなかった。 ミ#゚Д゚彡「……何だ、これは」 (´・ω・`)「早々だけどネタバラししようか。 幻覚だよ。酷く、リアルに近い、ね」 フサは周囲を見渡す。 視界には八人のショボンの姿があった。 一人一人の違いが分からない。どれが本物か、全く分からない。 (´・ω・`)「君の認識の領域を弄らせてもらってるよ。 神経系がどうとか、まぁ色々と難しい話はあるんだけど、そんな話は良いよね。 結局のところ、ゲームだよ。当ててごらん」 ミ#゚Д゚彡「……何人、幻を用意しようと変わらん」 そう言うと、彼は最も近くに居たショボンに飛びかかった。 間髪置かず、爪を横薙ぎにする。ショボンは避けようとしたが、しかし間に合わない。 フサの爪の先端が首に引っかかった。フサは容赦なく、腕を振り抜く。 鈍い音がした。余りの衝撃に、首がへし折れたのだ。 一瞬遅れて、彼の首の半分ほどまでの皮膚が裂け、筋肉が弾け飛んだ。 白い首の骨が剥き出しにされ、丸見えになる。 その次の瞬間には、凄まじい勢いで噴き出した血の噴水によって見えなくなった。 ショボンの身体は、ぐらりと揺れたと思うと床に倒れ、血溜まりを広げ――― (´・ω・`)「ハズレ」 次の瞬間、フサの脇腹にナイフが突き立てられていた。 フサは唸りを上げて、後ろからナイフを突き立ててきたショボンに腕を振るう。 裏拳気味に振った腕はショボンの頭蓋を爆砕し、首なし死体を作って抜けた。 ショボンの頭の残骸を踏み躙り、ナイフを引き抜くと、フサは言い放つ。 ミ#゚Д゚彡「幻を殺していけば、やがてお前に辿り着くのだろう! ならば皆殺しにするまでだ!」 (´・ω・`)「そのやり方でも良いさ。それまで、君の身体が持つかどうかだけどね」 ミ#゚Д゚彡「言っていろ!!」 その声を合図に、ショボン達が一斉に動き出した。 ナイフを手に、四方からフサに襲いかかる。 フサは次々とショボンを殺戮し、周囲に死体の山を築き上げていった。 だが現実、ダメージを受けているのはフサだけだった。 ナイフと殴打による、小さいが確実なダメージ。 前後左右、検討の付かない方向から攻撃が行われる為、回避も出来ない。 それに対しショボン達は、一撃で沈める事は出来ても、本体を叩かねば全くの無意味だ。 つまり、幾ら死体を重ねたところで無傷。無駄な労力だ。 そして彼等は、フサに殺されれば殺されただけ、その数を増やしていた。 先は、見えない。 ミ#゚Д゚彡(キリがないッ……!!) フサに僅かな焦燥が生まれていた。 このままでは嬲り殺しだ。 何とか本体を探す手段を見付けなくては――― (´・ω・`)「何を考えているのさ」 その時、後ろから首を掴まれた。 抵抗する間もなく、引き摺り倒される。 ミ#゚Д゚彡「クッ!!」 開けた視界に、六つの同じ顔が映った。 その全てがナイフを振り被り、倒れたフサに振り下ろさんとしている。 ミ#゚Д゚彡「この程度で殺られると思うか!!」 フサは身を僅かに捩ると、身体ごと脚を大きく旋回させた。 足元を払われたショボン達はバランスを崩し、一瞬、動きを止める。 その隙にフサは床に手を着き、下半身を持ち上げて脚の位置を高めると、更に脚の回転を強めて振るった。 凄まじい衝撃を内包した脚はショボンの脚を砕き、腹を蹴破って、内包物共々吹き飛ばす。 やがて周囲に群がっていたショボンを吹き飛ばしきると、フサは立ち上がった。 その瞬間、背後から左腕を掴まれ、ロックされた。 (´・ω・`)「安心しちゃったようだね。左腕、貰うよ」 言葉と同時、左肩にナイフを深々と突き立てられた。 鋭い激痛が走る。何か、鈍く弾けるような音が聞こえた。 即座にショボンを殴り飛ばそうとして、驚愕する。左腕が動かない。 ミ#゚Д゚彡「――― チィッ!!」 右腕でナイフを奪い取ると、回転して、柄でショボンの頬を殴りつけた。 彼の頬の骨は砕け、眼球が半ば飛び出そうになる。 そしてよろめいたショボンの眉間に、フサはナイフの刃を根元まで突き立てた。ショボンは白眼を剥き、倒れる。 フサは左肩に手を当てて、顔を歪めた。 腱を切られたようだ。動かせない。 一気に不利になってしまった。 (´・ω・`)「さて、その状態でどこまで奮闘出来るものかな」 ミ#゚Д゚彡「この程度、何も変わるものか!」 虚勢である事は明らかだった。 ショボン達による攻勢は衰えず、フサの身に刻まれる傷は数と深さを増す。 フサは退く事無く戦い続けたが、しかしそれもそう長くは続かなかった。 まず、左半身に攻撃が集中した。 左腕での防御が出来ない為、フサは回避するしかなくなるのだが、回避した先で攻撃を浴びてしまう事になった。 溜まらず、右腕で左半身の防御を行うと、今度は右半身に攻撃が集中した。 徐々にフサの攻撃の手は減り、気付けば防戦一方になってしまっていた。 上半身の防御に気を取られ過ぎて、脚を払われた。 立ち上がる間もなく、今度は右脚の付け根にナイフを突き立てられる。 また鈍い音がして、フサは絶叫を上げた。右脚が動かない。 右腕で何とか身体を支え、左脚だけで立ち上がるも、そんな状況で戦える筈もない。 彼は再度床に引き摺り倒され、残された左足の腱も断裂させられた。 もはや立ち上がる事も出来ない。フサは、絶望の中で再度、絶叫を上げた。 (´・ω・`)「そんなものなの?」 大勢のショボンが、フサを囲む。 (´・ω・`)「諦めちゃうの?」 フサはショボンを睨み上げるが、しかし自身の心の内に、翳りが生まれたのを自覚していた。 諦観。諦めてしまいたい。楽になってしまいたい。 こんな化け物を相手に、この身体では、勝てる筈がないだろう。 (´・ω・`)「諦めるのも、仕方ないよね。こんな状況だし、君は戦う理由も薄弱だ。 実弟、ギコ君の為と言っても、彼はほとんど他人のようなものだし。 他人の為に、痛い思いはしたくなんてないものね」 フサを見下ろすショボンの瞳は、憐れみに満ちたそれだった。 (´・ω・`)「そう、こんな苦痛を負ってでも彼を助ける意味なんて、本当はないんだ。 ―――戦う理由なんて、ないんだよ」 優しい声が、言葉が、決意を揺るがせていく。 (´・ω・`)「諦めちゃいなよ。 他人の為に苦痛を浴びて、血を流すなんて、余りにも馬鹿げているよ」 自分でもそう思う。馬鹿げている。もう、辞めてしまいたい。 (´・ω・`)「……今だったら、楽に殺してあげられる」 フサは、痛みで霞む頭で思考していた。 俺は何で戦っているのだったか? 何の為に……? む、何だ。何か、ぼやけて、霞んで……。 何かが、思い出せない。 フサは眼を細めて、胸を押さえる。 今にも途切れそうな呼吸で、声にならない言葉を呟いた。 何か、大切な物が、ここにあった筈なんだ。 消えている。霞に覆われて、見出せない。 戦う為の理由が、生きる為の理由が、思い出せない。 こうまでも苦しむ意味が、理解出来ない。 ミ; Д 彡「俺は―――」 ショボンはふっと笑うと、彼にトドメの言葉を囁いた。 (´・ω・`)「ギコ君のことだって、本当はどうでも良いんでしょ? 彼が異能者にされたって、君には関係がないものね」 ミ Д 彡「違う」 細い声。 その言葉は思考ではなく、反射で飛び出した。 ショボンが不快気に、眉根を寄せる。 俺は今、何故即答した? あいつの言葉に、間違いはなかった筈だ。 (´・ω・`)「何が違うってのさ? よく考えてから答えてよ。 弟なんて言っても、所詮は他人でしょ? 彼が苦しもうが何だろうが、君には関係がないじゃない」 ミ ゚Д゚彡「違う、そんな事はない」 今度は先ほどよりも、強い言葉が出た。 ギコ―――そうだ、弟だ。 俺は、あいつが普通の人間として歩んでいけるように、戦っていたのだった。 その為だったから、こんな苦痛を受けても、平気だったんだ。 でもあいつは異能者になってしまった。 だから今度は、せめてこの戦いを終わらせて、安息を送ってやろうと思ったんだ。 そうだ、ショボンの言葉は間違っている。 あいつが異能者だという事が、俺に関係がないわけがない。 あいつの苦しみは、俺にとって、あいつ自身の何倍もの苦しみになる。 そしてギコを異能者にしたのは、ショボンだ。 こんな戦いの舞台にあいつを投げ込んだのは、ショボンだ。 フサは自身の中で、萎えた闘争心が激しく燃え上がるのを感じた。 何故、こんな事が思い出せなかったのか、と思考する。 そして、気付いた。思い出した。 ショボンの“力”を。 思考、感情、意志、認識を操作する―――。 まさに、その通りだ。 それにハメられたのだ、俺は。 フサの瞳に力が宿るのを見て、ショボンが溜息を吐いた。 首を振り、肩を竦める。 (´・ω・`)「あーあ……上手くいかない時もあるもんだね。気付いちゃった? その通りだよ。僕の洗脳さ」 ミ#゚Д゚彡「貴、様ァ……!!」 憎しみが、怒りが湧き、自身の中にある器から溢れ出る。 ふざけるな。どうでも良い、だと。そんなわけがない。貴様を許すものか! 俺のこれまでを踏み躙り、ギコの人生に翳を落としたお前を、許すものか!! (´・ω・`)「許さないからって、どうするのさ? まともに立てもしない、そんな身体でさ」 ミ# Д 彡「黙れ……!!」 ドクン、とフサの中で、何かが蠢いた。 腕と脚に微弱な痺れが走り、それは鼓動のリズムに合わせて強くなっていく。 フサはこれを知っている。“力”の浸食だ。 殺してやる。 耳の奥で音がする。 ドクン、ドクン、と鼓動の音がうるさい。自身の物とは思えないほどだ。 身体の痺れは強くなっていく。痛いくらいだ。だが、もはやフサはこれを止めようとしない。 殺意の衝動に、血肉への欲求に、溢れ出す憎しみに、ただ身を委ねる。 この身体がどうなろうと、お前だけは――― ドクン、と一際強く鼓動が打ち。 身体の痺れが、最高潮になったのと同時。 ミ#゚Д゚彡「殺してやる!!」 異音が響いた。 連続で、フサの全身から奏でられる。 肩までだった腕の“力”は胸を超え、腿までだった脚の“力”も身体を昇っていく。 拡がった“力”は結合し、更に力を強め範囲を拡げていった。 鈍い音と共に骨が形状と太さを変え、筋肉がうねって硬くなっていく。 やがて全身を覆った茶色の体毛は太く、金属の如く硬くなり、鈍く光沢を放った。 瞳は真紅に染まり、そこに人間の感情はもはや見えない。 口は裂けて口吻へと変化し、犬歯は更に伸びて鋭く尖り、獣のそれよりも危険な凶器と成った。 それだけに留まらず、“力”はどんどんと彼を変えていく。 人から、魔獣へと。 (´・ω・`)「来た……これだ、これだよ、僕が望んでいたのは!!」 ショボンはその光景を、嬉しそうに眺めていた。 彼はこの時点で、三つの大きなミスを犯している。 一つ目は、これまでフサを殺さず、手加減していたこと。 二つ目は、トドメのつもりで、フサにギコの事を思い出させてしまったこと。 そして三つ目は、今この時、“力”を完全開放しようとしているフサを、殺そうとしなかったことだ。 (´・ω・`)「――――――!!」 ゾクリ、と背中を寒気が撫ぜた。 反射的に地を蹴って後退するが、どうやら遅かったようだ。 (´・ω・`)「痛ッ……!」 脇腹に、鋭く激痛が走る。 手で触れると、ぬるりという感触。漬けたように、手が紅に染まった。 何か足りない、と思った。視線をやって、眉を顰める。 そこの肉の幾分かが、爪の形に持ってかれていた。 視線を上げる。床で倒れていた筈のフサはいなかった。 厭な気配を感じて、後ろを振り向く。 数メートル先に、フサがいた。 紅く濡れた爪で床に跡を残し、口にショボンの肉片をぶら下げて。 血と同じ色に輝く瞳は、まるで獣と変わらない鋭さで、ショボンを睨み上げる。 身体の変化に伴って断裂された腱も再生したのか、両脚と左腕は力強く床を掴んでいた。 フサの眼を見て、再度、寒気が走った。 ショボンはその感覚に笑みを浮かべる。 (´・ω・`)「楽しめそうだ……!!」 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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