三十六章二(´<_` )「ハインに、こっぴどくやられたな。 大丈夫か、兄者?」 ( ´_ゝ`)「問題ない。全身の骨は、既に完全に修復されている。 それよりもお前だ、弟者。 お前は―――」 (´<_` )「こちらも問題ない。心配の必要はないぞ、兄者。 傷は深かったが、再生能力は十全に機能してくれた」 ( ´_ゝ`)「そうか。なら、良かった」 部屋で、彼らは向かい合って話をしていた。 兄者は椅子に腰掛け、弟者はベッドに腰掛けている。 彼らの病的なほど白い肌は、ともすれば部屋の色に溶け込んでしまいそうだった。 (´<_` )「して、兄者。 ここ数日のハインの荒れようは何だ?」 ( ´_ゝ`)「つーを失った事から、精神が不安定になっているようだ。 彼女を取り戻そうと、躍起になっているらしい」 (´<_` )「? 兄者、つーはいるじゃないか」 ( ´_ゝ`)「アレは『殺人鬼側』のつーだ。 どうも、『殺人鬼側』がつーを内側に押し込んでいるらしい」 (´<_` )「なるほど。しかし、何故ハインはああも荒れているのだ? つーは死んだわけでもないのだろう?」 ( ´_ゝ`)「つーに会えなくなるのが、つーと喋れなくなるのが辛いという事だろう。 だから必死で助け出そうとしているのだろうさ。 毎日血眼になって、自分にも他人にも容赦しないで」 (´<_` )「……理解出来ない。 会えなくなったところで、喋れなくなったところで、彼女自身には何の問題もないじゃないか。 何をそんなに必死になっているのか、理解に苦しむ」 ( ´_ゝ`)「人間の感情というのは、つまりそういうものなのだよ。脆いんだ。 何か一つを失っただけで崩れかねない。どんな強い人間でも。 その何かが、自分の生死にまるで関係のない、小さな一つでも」 (´<_` )「……感情、か。私には理解出来ない分野だ」 ( ´_ゝ`)「生物として強いのは、きっと弟者のような存在なのだろうな。 私にだって、脆弱なそれとはいえ感情というものはある。 だから私は、弟者を失った時、きっと脆く崩れ去ってしまうだろうよ」 (´<_` )「兄者が、か?」 ( ´_ゝ`)「あぁ。弟者を失ってしまえば、私はきっと生きていられない。 自分でも弱い生物だと思うよ。人間というのは、つくづく欠陥生命だ。 感情という、邪魔でしかないものを排除しきれない」 (´<_` )「そういうものなのか。 ……兄者を失った時に、果たして私は崩れるのだろうか。 感情というものがない私には、それは分からない」 ( ´_ゝ`)「そうだろうな。 まぁ兄としては、少し悲しむくらいの事はしてほしいものだが」 (´<_` )「私も、そう思う。 弟として、兄を失った時には自身にそれなりの変動があってほしい。 それこそ、崩れてしまいかねないくらいの変動は」 ( ´_ゝ`)「あぁ。……いや、そんなものは必要ない」 (´<_` )「む?」 ( ´_ゝ`)「すまない、さっきの言葉は取り消しだ。 私が死んでも、弟者は生き続けてくれ。 悲しむ必要もない。ただ、生きてくれ」 ( ´_ゝ`)「弟者を失った時、きっと私は崩れてしまうだろう。 きっと生きていられない。後を追うと思う。 しかし弟者は、私が死んでも、生き続けてくれ」 (´<_` )「……それは、何故だ?」 ( ´_ゝ`)「これも、人の感情だよ。 兄としては、弟には生き続けてほしいものさ」 (´<_` )「自分は死んでいるというのに?」 ( ´_ゝ`)「あぁ。私は死んでも、弟者には生きてほしい」 (´<_` )「何故だ? そんな事、意味がないじゃないか。 自身が死んでいるというのに、他人が生き続けて何の得があるというのだ?」 ( ´_ゝ`)「得は、ないだろうな。強いて言うなら自己満足さ。 こんなくだらない事を考えるのも、感情のせいだ」 (´<_` )「……理解出来ないぞ、兄者」 ( ´_ゝ`)「あぁ、理解なんぞしなくて良い。 生物を弱くしてしまう『感情』なんてものは、まったく必要のないものさ。 まったく。お前が羨ましいよ、弟者。」 (´<_` )「……だが、兄者。感情がないというのは、どこか寂しい物があるものだ」 ( ´_ゝ`)「そうなのか。難しい物だな」 それから静かに訪れる沈黙。 呼吸の音だけが微かに響く。 二人の瞳は互いだけを捉えていた。 互いに逸らす事もなく、しかし何かを伝えようとしているわけでもない。 二人の空虚な視線は、ただ交差するだけ。 (´<_` )「明日だな」 突然の呟きに、しかし兄者は「あぁ」と頷く。 ( ´_ゝ`)「とうとう明日、邪魔な“削除人”どもを殺せる。 そうすれば、下賤な人間どもを蹂躙出来る。 楽しみだ。感情が昂ぶる」 (´<_` )「明日を終えれば、より良い世界を迎えられるわけだ」 ( ´_ゝ`)「あぁ。素晴らしい力を持つ異能者という存在が造る、素晴らしい世界が誕生する。 “管理人”の思想を理解出来ない凡愚共が消え、 更には異能者の素晴らしさを理解出来ない人間共が、我らに服従せざるを得なくなる」 ( ´,_ゝ`)「最高じゃないか。これ以上の事象が見付からんよ。 “削除人”共は、“管理人”に付き従っていれば良かったものを。 人間共も、異能者を排除しようとせずに、静かにしていれば良かったのだ」 (´<_` )「…………………」 ( ´_ゝ`)「……む? どうした、弟者。 浮かない表情をしているが、何か不安要素でもあるのか?」 (´<_` )「いや。“削除人”と人間達は、何を想っているのかと、な」 ( ´_ゝ`)「む?」 (´<_` )「“削除人”は、何故こうも他人の為に戦えるのか。 人間は、何故異能者を受け入れられないのか」 (´<_` )「何故彼らは、こうも感情に振り回されているのか。 そして彼らは今、何を想っているのか。 それが気になっただけさ」 ( ´_ゝ`)「彼らは、愚かなだけなのさ。 きっと考えている事も、愚かなことに決まっている」 (´<_` )「しかし彼らは時々、凄まじい力を発する。 おそらくは、その感情の力によって。 私は、その力の源を知りたい」 ( ´_ゝ`)「いや、そんな事はないぞ、弟者。 感情というのは邪魔なものでしかない。 感情のおかげで強くなっているというのは、間違った考えだ」 (´<_` )「しかし彼ら―――ブーン達は、ショボンが殺された瞬間に凄まじい力を見せた。 感情の爆発が、力を呼び起こしたのだとしか思えない。非科学的だが」 ( ´_ゝ`)「弟者、それは」 (´<_` )「そこまでの凄まじい力を見せる感情を持つ彼らは、今何を想っているのか。 それは、とても気になるところだ。 ……私が『感情』というものに興味があるから、というだけかもしれないが」 (´<_` )「私にはない感情というものを、色濃く心に持つ彼ら。 彼らは何を想って戦い、何の為に生きて死んでいくのか。 純粋に、知りたいんだ。感情という大きな欠陥を抱えた彼らを」 ( ´_ゝ`)「……弟者。感情については、考える必要などない。 さっきも言ったように、感情というのは生物にとって邪魔なものでしかないんだ。 彼らはそれに振り回される、弱い愚者だ」 (´<_` )「しかし」 ( ´_ゝ`)「弟者。もう考えるな。不毛な事だ。 感情というものは、考えても答えは出ない。 他の事を考えるんだ。良いか?」 (´<_` )「……あぁ」 ( ´_ゝ`)「分かってくれて良かった。 じゃあ、明日の件だが―――」 明日の戦闘について語り始めた兄者をよそに、弟者は思考していた。 己に足りないもの―――感情に関して。 兄に言われた通り、それに関しての答えは出ない。 しかし、考える事を辞める事は出来なかった。 戦う理由を作る感情とは何か。 戦う力を呼び起こす感情とは何か。 自身の死を省みずにでも誰かを護ろうとする、生物としてはあってはいけない行動を起こさせる感情とは、何か。 答えはやはり模糊としか浮かばず、気持ちの悪い感覚だけが残った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 冥々とした暗闇の中で、その少女は泣いていた。 己の無力さに泣いていた。 手を伸ばしても、何を掴む事は出来ない。 走っても走っても、辿り着くのは不可視の冷たい壁だけ。 叫んでも声は誰にも届かず―――声は虚しく反響するだけ。 『悔しいかい?』 笑いを含んだ声が、少女の耳に届いた。 少女は顔を上げると、涙眼で中空をきっと睨みつける。 (* ∀ )「当たり前でしょ、馬鹿ッ!!」 『ひゃはは、ざまぁだねぇ』 (* ∀ )「……出してよ!!」 『出すわけないでしょ、ばーか』 そして声は笑う。 何度も繰り返した、しかし結果は変わらないやりとりに、つーの瞳からはまた涙が零れ落ちる。 『また泣いてるの? 本ッ当に弱いねぇ、あんたは』 (* ∀ )「ッ……・うるさい!」 『ひゃはは。だっせぇな、あんた達はよ』 (* ∀ )「……達?」 『あんたの姉さんも、だよ。 救えないって分かってんのにさ、しつこく食い下がりやがんだ』 (* ∀ )「…………………」 『知ってんでしょ? 外の情報は視えるし、聴こえる筈だし』 (* ∀ )「……知ってるよ。ねぇ、出してよ。 ハインを悲しませたくないんだよ」 『嫌だっつってんじゃん。しつこいね、あんたも』 (# ∀ )「あんたねぇっ……!!」 『……おっと、お喋りは終わりみたいだ』 (* ∀ )「え?」 『またあいつが来たようだ。じゃあな。 あいつの無力さを見て、自分の無力さを噛み締めな』 その言葉が終わるのと同時、つーを包む壁の一部が明るくなる。 まるで巨大なスクリーンが現れたかのように。 (*゚∀゚)「あっ……!」 そこに写されたのは、白い部屋。 そしてその部屋のドアを開けて入ってきたのは―――ハインだった。 いつもと同じくつーに……殺人鬼に交渉しにきたのだろう。 その瞳には強い決意と、溢れんばかりの不安が満ちている。 つーを解放しろと、いつものように言う。 拒否されて、尚も食い下がるが―――しかし、今日もダメだった。 いつもと同じく、何も出来ずに帰されていく。 やはりダメだったか、と肩を落とした。 その次の瞬間。 『 从 ∀从「諦めねぇぞ。 すぐに、てめぇを打ち負かしてやる。 絶対に、だ。首洗って待ってやがれ」 从 ∀从「じゃあな。また来るぜ、つー。 ……待ってろよ。絶対に、救い出してやるから」 』 ハインの言葉に、つーは顔を上げた。 (* ∀ )「ハインは……諦めて、ない」 呟き、そして―――彼女は涙を拭いた。 歯を食い縛って溢れ出ようとする涙を堪え、そして甘い思考をしていた自分を殴りつける。 (*゚∀゚)「ハインが、頑張ってるんだ。私がこんなんでどうするのよ。 諦めるのはまだ早い。まだ希望は途切れていない!」 (*゚∀゚)「私が諦めてたら、何も始まらないんだ! 終わらせない為には、勝つ為には諦めて待ってるだけじゃいけない―――私が動かないと!! ……そうだよね、ハイン!!」 立ち上がる。 そして彼女は、目の前の壁を思い切り殴りつけた。 勿論のこと、その壁はびくともしない。 ものを殴り慣れていない拳はすぐに激しく痛み、腕を通じて硬い感触を伝えてくる。 壊れそうな気配はない。 しかし彼女は、そんな事など気にせずに拳を振るった。 『何してんのー?』 (*゚∀゚)「壁を壊してんのよっ!!」 『は?』 一瞬の沈黙が訪れ――― 『ひゃっははははははははははっ!! つーちゃん、とうとう壊れちゃったの!? 何も出来てないじゃない! 無駄だよ、無駄!! 馬鹿じゃないの!? 壁を壊そうだなんて、愚の骨頂だね! キチガイレベルだよ!! ひゃはははっ!!』 (*゚∀゚)「無駄かどうかなんて、分からないじゃないっ!! 私は諦めないよ! ハインも諦めてないんだ、私だって諦めない!! やれるだけの事はやってやるんだ!!」 『辞めた方が良いんじゃないのー? 無駄だし、拳を痛めるだけだよ? あんたは静かに、全てが終わって行くのを見ていれば良いんだよ』 (*゚∀゚)「ふふん、やめさせようと思ったって無駄だよ! 私は諦めない! すぐにこの壁を壊して、あんたを押し籠めてやる!! 首を洗って待ってなさい!!」 『ッ……上等だよ。良いよ、好き勝手に暴れて、身体をボロボロにすれば良い。 どうせ無駄さ! 意味なんてないんだよ!! ハインの行動にも、あんたの行動にもさ!!』 (*゚∀゚)「へんっ!」 鼻を鳴らして、壁を蹴りつけた。 返ってくる硬い感触に、しかし諦めずに攻撃を続ける。 可能性が高くない事は分かっている。 無駄かもしれないという事も。 しかし、諦めない。 ハインが諦めないのだから、自分も諦めているわけにはいかない。 ハインの想いが、自分の心を強くしてくれていた。 (*゚∀゚)「ハインに笑われないように、頑張るんだ! 護ってもらってるばかりじゃ……ダメなんだッ!」 壁を殴り続けた拳が、苦痛の叫びをあげはじめた。 痺れるような耐えがたい痛みが腕を這い、脳が『辞めろ』と囁く。 しかし、辞めなかった。 辞めるわけにはいかなかった。 (*゚∀゚)「っ……待っててね、ハインッ!!」 虚しく響いた声には、しかし、力強い響きがあった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ( ・∀・)「…………………」 微かに薬品の香りが漂う部屋で、モララーは自分の身体を見詰めていた。 彼の身体には未だに多くの包帯が絡み付き、ガーゼが貼り付けられている。 彼はその内、一つのガーゼに手を伸ばすと、おもむろに引き剥がした。 そして、頷く。 ( ・∀・)「……よし」 続けて、他のガーゼや包帯も剥がしていく。 最後の包帯が取られて、現れた彼の身体は―――傷一つないそれだった。 ( ・∀・)「完全に復活……とまではいかないが、再生能力までは回復してくれたようだ。 間に合って良かった。完璧ではないが、まぁ喜べる早さだろう」 言うが、しかし彼は笑わない。 それは、仲間を想ったが故にだ。 自分の身体の事よりも、今は仲間の事の方が頭を占めていた。 つーは大丈夫なのだろうか。 そして、ハインは大丈夫なのだろうか。 ミンナの瞳がどこか虚ろだったのにも気がかかる。 彼らを救ってやれないのが、心苦しい。 仲間だというのに。リーダーだというのに。 無力だ。 ( ・∀・)「あの兄やクーも、こんな気持ちだったのだろうか」 皮肉だな、と嗤う。 歪んだ笑みは、しかしどこか哀愁を漂わせていた。 眼を閉じれば、思い出してしまう。 兄の、のどかで暖かな、どこまでも柔和な笑みを。 耳を塞げば、思い出してしまう。 ファーザーが、最期に自分に投げかけたあの言葉を。 それらを想って彼が浮かべるのは、ただただ歪みきった笑みだけだった。 ( ・∀・)「……明日は、敗けるわけにはいかないな。 全てに決着を付けてやらねばならない。 クー達にも、ブーン達にも、モナーにも―――ファーザー、あなたにもね」 想えば、色々な事があったのだと思う。 異能者として目覚めた自分。 それによって両親は惨殺され、自分は人間への復讐を決意した。 それから間もなく、モナー―――兄と決別した。 無数の“反異能者組織”を潰し、無数の人間を殺した。 『ホーム』を襲撃し、ファーザーをも殺し、クー達―――今の“削除人”と敵対した。 プギャーやミンナ、ハインとつー、流石兄弟―――そしてショボンと出会った。 様々な出会いがあり、様々な物語が流れ、そして仲間となって“管理人”が成立した。 ショボンは“管理人”から離反し、そしてブーン達と敵対した。 ブーン達は“削除人”と手を組み、そして明日、彼らとの決着がつく。 これらの全ての物語が、明日の戦いで決まる。 自分の判断は正しかったのか、間違っていたのかも。 全ての人間に、兄に背を向けるのは正しかったのだろうか。 将来の障害を消すという目的で『ホーム』を襲撃し、ファーザーを殺したのは正しかったのだろうか。 “管理人”を作り上げたのは、そしてここまで走り抜いてきたのは正しかったのか。 ( ・∀・)「運命の女神が、判決を下してくれるだろう」 歪んだ彼の瞳は、しかし真っ直ぐに前だけを見詰めていた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ( ^Д^)「お」 ミンナの部屋へ行こうとしていた彼はふと、足を止めた。 探していた本人が、ホールに佇んでいたからだ。 しかし彼は声をかけるのをためらってしまう。 ミンナの瞳があまりにも空虚で、光を失っていたからだ。 ( ^Д^)「……ミンナ?」 その声に、ミンナの首が僅かに回転した。 その動きはぎこちなく、どこか人形を連想させる。 ( ゚д゚ )「プギャー……か。どうした?」 ( ^Д^)「どうしたって……それはこっちのセリフだ。 どうした? お前、すっげぇ顔してるぞ。 死体みたいだ」 ( ゚д゚ )「……そうか? そりゃあ、いかんな」 おもむろに、眼の間を揉み解すミンナ。 プギャーは彼を見て、舌打ちをして眉根を寄せた。 ( ^Д^)「おい、ミンナ。素直に言え。何があった」 ( ゚д゚ )「……何を言っているんだ? 何にも、ないさ。 そうだな。ただ、少し疲れているのかもしれない」 ( ^Д^)「嘘を吐け。疲れてるだけじゃそんな眼は出来ない。 その眼は、何かに絶望しきってる奴の眼だ」 ( ゚д゚ )「そんな事は」 ( ^Д^)「ミンナ、頼む。何があったのか、話してくれ。 俺はそんなお前を見たくない」 憐憫に満ちた視線を向けられ、ミンナは俯いた。 その口元は言葉を紡ごうとしては閉じられ、を繰り返している。 まるで、『何か』を言葉に出す事を恐れているかのように。 ( ゚д゚ )「私は……人間を、ビロードを、憎んでいるんだ」 自分に言い聞かせるような響きを持ったその言葉は、酷く脆いものだった。 少しの衝撃で、崩れかねないほどに。 プギャーは再度舌打ちすると、ミンナの肩を掴んで揺さぶる。 そして、少し驚いて眼を見開いたミンナに、『起きろ!!』と叫んだ。 ( ^Д^)「俺はだな、何でお前がそんなに不安定になってんだって聞いてんだよ! お前が言った言葉は、答えになっていない! こっちを見ろ、ミンナ! 心で俺と向き合え!!」 ( ゚д゚ )「プ、ギャー……」 ( ^Д^)「……話してくれよ。 お前が何に対してそんなに揺れてるのか分からねぇけどさ、力になれるかもしれねぇじゃん。 俺を、『友達も救えないような無力な男』にしないでくれよ」 ( ゚д゚ )「…………………」 訪れる沈黙。 ミンナの虚ろな瞳はぼんやりとプギャーを映し、不安定に揺れる。 やがて沈黙を裂いた言葉は、驚くほどに力がなかった。 ( ゚д゚ )「……私は、人間を、ビロードを、憎んでいるのだろうか」 はっとして、プギャーは息を呑む。 ミンナの言っている意味が、そして、彼がこうまでも虚ろいでいる理由が分かってしまったからだ。 ( ^Д^)「ミンナ、それは……」 ( ゚д゚ )「分からなくなってしまった。 私の在り方も、私の存在理由も、何もかもが」 ( ^Д^)「…………………」 今度はプギャーが口を閉ざした。 ミンナの不安定さは、予想以上に深刻なものだった。 ミンナは、根本の部分が揺らいでしまっていた。 ( ^Д^)「ミンナ」 ( ゚д゚ )「……あぁ」 ( ^Д^)「それはつまり、人間を憎んでいるかどうか、 ビロードを憎んでいるかどうか、分からなくなっちまったって事か?」 力無く、首肯。 ( ^Д^)「……ミンナ、お前は」 プギャーが言葉を紡ごうとした、その瞬間。 かつん、とホールの床を靴が叩く音が響いた。 続いて響く、滑らかな声。 「やはり、こうなっていたか」 声の方向に視線を飛ばし、そしてプギャーは声を漏らした。 靴音高く歩み寄ってくるのが、モララーであったからだ。 ( ^Д^)「モララー、さん? ……やはり、とはどういう事です?」 ( ・∀・)「何やらミンナの纏う雰囲気が妙だったからな。 これは何やら、良からぬ事を考えているなと思っていたんだ」 ( ^Д^)「……モララーさん。あの」 ( ・∀・)「良い。任せておけ」 プギャーの肩を軽く押すと、モララーはミンナの真正面に立った。 真っ直ぐに見詰めてくる瞳を、これも真っ直ぐ見詰め返す。 しばらくの間、その状態が続き―――眼を逸らしたのは、ミンナだった。 ( ・∀・)「どうした? 何故、眼を逸らす」 ( ゚д゚ )「……申し訳、ございません」 ( ・∀・)「何を謝っている? お前が一体、何をした?」 まるでふざけているかのような喋り方をするモララー。 それに対してプギャーが何も言わないのは、彼の瞳がどこまでも真面目だったからだ。 ( ゚д゚ )「戦闘前に考えるべきではない、愚かな事を考えてしまいました」 ( ・∀・)「ほぅ? それは一体、どういう事だ? 私に教えてくれないか?」 ( ゚д゚ )「……私は本当に、人間を―――ビロードを憎んでいるのか、と。 私は―――」 ( ・∀・)「忘れろ」 ミンナの言葉を斬り捨てるかのように、鋭く発せられた一言。 それは一瞬、二人の思考を完全に硬直させた。 (;^Д^)「……え?」 ( ゚д゚ )「……何を」 ( ・∀・)「言葉の通りだ。忘れろ。今の思考、全てをだ。 そしてその思考を、明日の戦いに向けろ。 それ以外の事を考えられないくらいに、明日の事を考えろ」 ( ゚д゚ )「そんな、事」 ( ・∀・)「出来るさ。やれないと思うからやれないだけで。 お前の集中力なら、そんな事は容易の筈だ」 ( ゚д゚ )「…………………」 ( ・∀・)「良いか、ミンナ。忘れるんだ。今だけで良い。 お前のその苦悩は、答えを出すまでにとても長い時間を要するだろう。 だから、明日の戦闘を終えてから、じっくりと考えるんだ」 ( ・∀・)「お前の問いに応えられるのは、お前だけだ。私でも、プギャーでもない。 お前が時間をかけて、練り上げて練り上げて出した答えだけが、お前の納得する答えだろう。 今ここでうじうじ考えていたって、答えなどは出ない」 ( ・∀・)「だから、忘れるんだ。そう、今だけで良いから。 お前が今、答えを求めても、時間の無駄にしかならない。 明日を終えたら、考えれば良い。独りでじゃなく、誰かに頼りながらでも、な」 ( ゚д゚ )「今は、忘れる……」 ( ・∀・)「そうだ。自分の為にも、私達の為にも、今だけは忘れてくれ。 分かったか?」 問いに、ミンナは俯く。 そしてしばしの沈黙の後、顔を上げると―――ほんの少しだけ力強く、頷いた。 ( ゚д゚ )「分かりました。努力させていただきます。 私の問いは、明日を終えるまでは忘れていようと」 ( ・∀・)「あぁ。それで良い。頼んだぞ」 プギャーにもしたように軽く肩を押すと、モララーは笑う。 それはやはりどこか歪んだ、しかしどこか暖かな笑みだった。 それから歩み去ろうとしたモララーに、プギャーは走り寄って行く。 ( ^Д^)「モララーさん」 ( ・∀・)「ん?」 ( ^Д^)「その、ありがとうございます。 俺じゃそんな事、言えませんでした」 ( ・∀・)「気にするな。私はリーダーだ。当然の事をしたまでだ」 ( ^Д^)「でも俺、一番ミンナの近くにいたのに」 ( ・∀・)「人には得手不得手がある。 私が言葉を扱うのが、少しだけ得意だっただけさ」 言い残して、歩み去ろうと振り返るモララー。 その視界に、橙色の頭髪が映った。 右手にはレモンティのペットボトル、左手には巨大な鋏。 そしてモララーと眼があった瞬間、顔に浮かべたのは笑みだ。 从 ゚∀从「よぅ、何だか、お揃いの様子で」 ( ・∀・)「……その様子じゃ、少しはポジティブな考え方をするようになったらしいな」 从 ゚∀从「こいつのおかげでな。 送り主サマサマには、是非感謝しないとな」 右手のペットボトルを軽く掲げて、軽く笑声をあげた。 从 ゚∀从「ありがとよ、モララー」 ( ・∀・)「ふん……・単純な奴だな」 从 ゚∀从「照れんなよ、可愛いぞ」 ( ・∀・)「うるさい。捻り潰すぞ」 从 ゚∀从「ひえー、怖い怖い」 ( ^Д^)「ハインさんは、何を?」 从 ゚∀从「ん? いや、ちょいと身体を動かしたくなってな。 ちょびーっとホールで暴れようかと思ってたんだよ」 (;^Д^)「決戦前日に、何やら凶悪にエネルギッシュですね」 从 ゚∀从「おうよ。エネルギッシュじゃなきゃ、やってらんねぇってんだよ」 ( ゚д゚ )「……ハイン様、何やら纏う雰囲気が変わりましたね」 从 ゚∀从「おー? 気のせいじゃねぇか? 私はいつも通りのつもりだが?」 ( ゚д゚ )「先程までとは大きく違う上に、『いつも』ともどこか違う……。 何やら、強くなったというか」 从 ゚∀从「私は元から強いっつーの! だが、なぁ……お前の言う事が正しいとすれば、だな。 もっともっと強くならなきゃならない理由が出来たから、だな」 ( ゚д゚ )「はぁ……」 从 ゚∀从「何だその薄い反応! つっまんねーの!」 と、その時だった。 更に二つの足音が、ホールの空気を震わせたのは。 モララーは薄く笑って、やれやれと溜め息を吐く。 ( ・∀・)「結局、全員が集合したな」 彼の眼が捉えているのは、病的なほど肌の白い、そして驚くほど顔の似ている二人。 流石兄弟だ。 ( ´_ゝ`)「騒がしいと思って来てみれば、やはりですか」 (´<_` )「ここで何を?」 ( ・∀・)「いや、偶然に集まってしまっただけさ。 まるで呼んでしまったみたいで悪いね」 (´<_` )「いえ」 从 ゚∀从「モララー。あんた、この後何するんだ?」 ( ・∀・)「何をするも何も、明日に備えて休養を取るだけだが」 从 ゚∀从「はーん。プギャー、ミンナ。あんた達は? 流石兄弟は?」 ( ^Д^)「は? いや、俺も休むだけですが」 ( ゚д゚ )「同じく」 ( ´_ゝ`)「同じく。せいぜい、弟者と話すくらいだ」 (´<_` )「兄者に同じ」 从 ゚∀从「おう、なら、丁度良い。 モララー。あんた、何か言ってくれよ。宣戦っつーか、そんな感じの」 ( ・∀・)「……は?」 眉根を寄せるモララー。 その肩をバンバンと叩いて、ハインは言う。 从 ゚∀从「士気を上げる為に、さー。 良いじゃん良いじゃん、そういうの!」 ( ・∀・)「良くない。そして肩を叩くのを辞めろ。痛いぞ」 从 ゚∀从「良いじゃんかよ! 明日は最終決戦だぜ!? 前日の終りが、こんなしょぼっちいので良いのかよ!?」 ( ・∀・)「……むぅ」 唸って、周りを見渡した。 まず最初に、プギャーと眼が合った。 半ば逸らすようにして視線をズラすと、ミンナの視線とぶつかる。 舌打ちをしたいような気分で逆を見れば、流石兄弟とそれぞれ視線が交差した。 そして正面を見れば―――明るい笑顔を浮かべたハインと、眼が合ってしまう。 从 ゚∀从「な? 頼むよ、リーダー」 首を傾げるようにして、言った。 モララーは何かを言い返そうとして―――しかし口を閉じる。 溜め息を吐いて、苦笑するだけだった。 ( ・∀・)「やれやれ」 短い呟き。 それから大きく息を吸って、澄んだ声で言葉を紡いでいく。 ( ・∀・)「……とうとう、ここまで来た。 “管理人”が誕生してから、随分と歩んできたな。 まだ歩み続けられるかは、明日、決まる」 ( ・∀・)「ならば、まだ歩もうじゃないか。 ここで足を止めてしまえば、勿体ない。 行けるところまで、行こう」 ( ・∀・)「歩む理由は、個人個人にあると思う。 ちょっと、順番に聞いてみようか。プギャーから、な」 ( ^Д^)「……俺は、モララーさんと共に歩む為に」 ( ゚д゚ )「私は、人間と友人への復讐の為に」 从 ゚∀从「私は復讐と、楽しむ為に。そして……護る為に、かな」 ( ´_ゝ`)「人間を蹂躙し、より良い世界を作る為に」 (´<_` )「兄者と共に在る為に」 ( ・∀・)「そして私は、人間への復讐の為に。 みんな。それぞれの理由の為に戦って、そして勝とうではないか。 己の理由を、現実にしたまえ」 そこで一つ置き、そして鋭く言い放つ。 ( ・∀・)「勝つぞ! 各々、生きて勝って見せろ!! 我々、死ぬにはまだ早い! 理想はまだ叶っていないのだから!! その手で、生を! 理想を! 未来を掴み取れ!!」 声は凛と響き―――そしてその響きを凌駕する応える声が、ホールに響き渡った。 モララーの顔に、笑みが浮かぶ。 歪みきった、しかし暖かい笑み。 ハインの顔にも、笑みが浮かぶ。 どこまでも楽しそうな、しかし強い決心を内包した笑み。 片や、兄を殺す為に強くなった男。 片や、妹を護る為に強くなった女。 相反するような存在は、しかしどこか良く似た笑みを浮かべていた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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