四十章五モナーは、薙刀を左手だけで振り下ろしていたのだ。 恐らくは、振り下ろす途中で右腕を外したのだろう。 そしてその右腕は今、小太刀を握っていた。 全部、この為に―――! それを知覚した時にはもう、踏み込まれている。 避けられない。ナイフは振るってしまっていて、受ける事も、往なす事も出来ない。 どうにか、致命傷を避けるくらいしか―――! (#´∀`)「もなァ!!」 衝撃。彼女の腹部に、深く、何かが侵入する感覚が生まれた。 直後、熱感が生まれ、傷の範囲を広げながら引き抜かれる。 一瞬を置いて、どっと血液が噴き出した。 (*゚∀゚)「かッ……!!」 つーは表情を歪めると、跳び退り、そのまま一気に数歩を後退した。 腹部の傷に当てた手から、血が止め処なく溢れている。 距離を取ると、彼女は深く息を吐いた。 ゆらり、と身体を揺らし、モナー達を上目遣いに睨みつける。 だがその口は笑っていた。 (*゚∀゚)「はぁん。なるほど、なるほどね。そう言うことか」 ( ゚∀゚)「何がだよ」 (*゚∀゚)「完全に、チームとして動くようにしたわけ? 個々でバラバラに攻撃するんじゃなく、繋いで、確実に仕留めようって?」 軽く首を傾げ、ハインを見やる。 从 ゚∀从「まぁ、そうだな。悔しいが、一人でやってても、話にならないからよ。 三人で一つとして、お前をどうにかするって決めた」 (*゚∀゚)「各々が味方を護り、囮になり、出来た隙を狩る……とか? うっふっふー、悪くないんじゃない? ほら見て、これ。結構深くやられちゃったよ」 傷口から手を離し、血塗れの手と傷口とを見せ付ける。 手を濡らす血の量から分かるよう、出血は多い。傷口は深かった。 鼓動のリズムに合わせて溢れる赤の下に、脂肪だろうか、白が見える。 (*゚∀゚)「たださ、これ以降、それが通じると思う? 同じ作戦は、二度―――」 ( ´∀`)「通じるもな」 楽しげに告げられるつーの言葉を、モナーが短く遮った。 「何?」と、つーが片目で睨みつける。 ( ´∀`)「脳やら運動神経はともかく、君の身体は異能者のそれよりも、人間のそれに近いもな。 だから、君にはかなりの疲労が蓄積してる筈。身体が重くて、思うように動かない筈だもな。 例え、君がそう意識していなかったとしても」 ( ´∀`)「見えていても、君は追いつけなくなってくる。だから、通じるもな。 僕達は、三人で互いの隙を補える。 だけど君は一人。生まれた隙は埋められない。君は、僕達を止められないもな」 モナーが静かに告げると、途端に沈黙が訪れた。 誰も言葉を発しない。静寂だ。 小さい筈の音がやけに大きく響く。血の滴る音、筋肉の軋み。 荒い息がうるさい。間もなく、それが自分のものだと気付く。 数秒の無言の後、しかし返ってきたのは、乾いた笑い声だった。 (*゚∀゚)「……っはは。は、はははは! あっははははははははは!! ひゃはははは!! 良いねぇ、面白いよ! 作戦が通じる!? 私には止められない!? やってみろってんだ!! それに、それがどうしたのさ!? 素直に降伏しろって!? 無駄に血を流しちゃいけませんってか!?」 ( ゚∀゚)「……あぁ。お前が、従ってくれるなら」 (*゚∀゚)「従う筈がないじゃん! クソみたいな事言ってさ、脳味噌に蛆でも湧いてんじゃねぇの!! こんな楽しいことないんだよ! 踏み潰されそうな虫が必死に抗って、噛みついてきやがった!! あぁ、歓迎だ! 大歓迎だよ!! 私を止めて、いや、いっそ殺してみてよ! 出来るもんならな!!」 从 ゚∀从「…………………」 ハインはつーを見て、痛ましげに眼を細めた。 あのクソ野郎、狂いきってやがる。 つーの―――理性の制約がなくなって、あいつの狂気そのものまでもが増大してる。 時間と共に冷静さが消えつつあって、感情を抑えられなくなっている。 今だって、そうだ。 奴は、上手く余裕を見せつけられなかった。 モナーの言葉に焦りを感じて、それを隠しきれなかったから、狂気で覆った。 このままでは、危険だ。 奴が狂気に呑み込まれてしまう。 奴自身は、どうなっても良かった。 狂気に呑まれようが、死のうが、どうだって良い。むしろその方が良い。 だが、奴の内側にはつーが居る。 奴がブチギレて、自身の命を顧みる事もなく、狂気に従って戦闘を行えば、彼女が危ない。 奴の死は、つーの死だ。それだけは何としても止めなければならない。 こうしてみると、何とも不利な状況だ。 いつ逆上するとも分からない凶悪犯に、人質を取られているようなものだ。 時間は少ない。 一刻も早く奴をぶちのめして拘束し、ショボンを殺さねばならない。 从 ゚∀从「あぁ―――やってやるよ。気狂いが」 焦りを言葉と共に吐き捨てて、床を蹴った。言葉もなしに、二人が続く。 応じるように、つーも駆けだした。乾いた笑い声が疾走する。 間もなく連続して鳴り響いた金属音に、笑い声は呑み込まれた。 モナーの言葉は、真実となった。 隙を埋め合いながら戦う三人に、つーは有効打のチャンスを見出せない。 そして彼女が作った僅かな隙を、三人は見逃さずに突いた。 初めは勝負は拮抗していたし、つーに与えられた傷も小さなものだった。 だがやがて戦闘がハイン達に傾くと、つーの隙も大きくなり、応じて彼女の身に刻まれる傷も大きくなった。 ゆっくりと、だが確実に、彼女の身には浅くない傷が増えていく。 危機が一歩一歩と迫り、だが彼女の身体能力は、それでも徐々に衰退していく。 脳の指示に身体は遅れ、脳が捉えた情報に瞬時に対応出来ない。 刃が届くまでの時間は短くなり、彼女の攻撃の手数も徐々に減っていった。 やがて、個々の攻撃ですら、通り始めるようになる。 (*゚∀゚)「チィィィィッ!!」 後退しつつ、ベルトからスローナイフを引き抜いた。両手に四本ずつ、計八本。 間髪置かず、放つ。 単純な腕の振りに反して、八本のナイフは意志を持ったように、それぞれ違う軌道を走った。 金属音が五つ。確認せずとも分かる。弾かれたのだ。 残りの三本は音がしなかったが、避けられたのだろう。血の音はしない。 (*゚∀゚)「クソ、クソ、クソッ……!!」 噛み締めた歯を軋ませながら、再度ベルトに手を伸ばした。 ちらりとナイフの場所と残数を確認し、愕然とする。 あれだけあったナイフが、もうここまで減っているだと。 私が押されているとでも言うのか。ふざけやがって。 己の内で膨れ上がる怒気を噛み殺し、つーは再度、八本のナイフを引き抜く。 ちょうどそこで、追ってくる三人の中から、モナーが前に走り出た。 (*゚∀゚)「おやおや、目立ちたくなっちゃった!? 手柄を立てたくなっちゃったか!? でも残念! くだらない虚栄心のおかげで、ここでお休みだよ! ゲームオーバーだ!!」 叫びつつ、放つ。八本の銀の流線が、様々な角度からモナーに襲いかかった。 つーの顔に、僅かの笑みが戻る。 如何にこちらが劣勢だと言えど、一人であの八本のナイフをどうにか出来る筈はない。 対するモナーは僅かに眼を細めると、薙刀を眼前に縦に構えた。 高速で回転させる。青の直線は、次の一瞬に壁となった。 間もなく、幾つかの金属音が響く。弾かれたナイフが床に転がった。 だが全てを弾けたわけではない。 回転する薙刀の隙間を縫ったり、薙刀の範囲の外から迫ったナイフは、依然モナーに迫っている。 つーは笑みを深め、だが直後に表情を硬直させた。 モナーは一歩を飛び退りつつ、薙刀を背に掛ける。 そして着地と同時、彼の身がゆらりと揺れた。 まるで自身の周りに円を描くようにして上半身が大きく振るわれ、両手が無造作に投げ出される。 不可解な動きはその一度で終わり、そして直後に、その動きの意味が思い知らされる。 掲げられた彼の両手には、二本ずつナイフが握られている。 それは正真正銘、つーのナイフだった。 (*゚∀゚)「な……」 ( ´∀`)「ナイフっていうのは、こう扱うんだもな!」 掲げた腕を、振り下ろす。彼の手から、二本のナイフが放たれた。 尋常じゃなく、速い。つーは反応しようとするが、身体が思うように動かない。 必死で身を捩る。直後、彼女の眼の下と首を、ナイフが掠めていった。血が噴く。 だがそれに構っている暇はない。即座にナイフを抜いた。 体勢を直す間もなく、振るう。固い衝撃、金属音。 ナイフは間一髪のところで、振るわれたナイフを捉えた。 (*゚∀゚)「くっ!」 弾き、後退した。だがモナーはぴたりと付いてくる。 そして連続で、縦横無尽にモナーの握るナイフが駆けた。 つーは必死に、振るわれるナイフに刃を叩き付ける。 (*゚∀゚)「しつこいんだよ!!」 一度、攻撃を大きく弾いて隙を作り、飛び退った。 体勢が崩れつつあるその中で、両手のナイフを投擲する。 まるで同時、応じるように、モナーもナイフを投擲した。 二と二、計四つのナイフは空中でぶつかる それらは互いに耐久性が限界に迫っていたのか、弾け飛んだ。 鋭い煌めきを放つ金属片が散り広がり、銀色の粉のような物がふわりと浮かぶ。 (#´∀`)「もなぁぁぁあぁああぁっ!!」 モナーは薙刀を抜くと、開けられた距離を一瞬で踏破。 速度と体重を乗せて、叩き付ける。 体勢を満足に立て直してすらいないつーは、それを避けられない。 しかし受けきれないことなど、とうに知っている。 だから、往なした。 とんでもない威力を内包する薙刀はそのまま流れ、衝撃を床に発散する。 彼女の脚から数センチの位置だ。床は弾け飛び、その破片が彼女の白い脚を叩いた。 そこでモナーに生まれた僅かな隙に、つーは膝を跳ね上げる。 前傾姿勢になっている彼の顔面に、膝は吸い込まれるように伸びて、 しかし突き出された掌底でいとも簡単に止められた。 (*゚∀゚)「くそが……!」 膝を引こうとする。が、それより先に掌底で膝を押された。 身体のバランスが崩れる。 ( ´∀`)「さっき、言ったもなね。それをそのまま返すもな」 呟くと、小さく半身を引き ( ´∀`)「蹴りってのは、こうやってやるもんだもな」 回し蹴りを、叩き込んだ。 脚はつーの胸辺りを捉え、吹き飛ばす。 (*゚∀゚)「……ふざけんじゃないよ!!」 だがつーは、その状況から反撃を試みた。 吹き飛び、倒れ込みながらも、中空で身を捩り、顔目掛けて踵をかち上げる。 モナーはそれを、顎を上げて咄嗟に回避。顎先をブーツが掠る。 だが、そこで終わらなかった。 落下する中、つーは床に片手を付くと、それを軸に脚を振るった。 床を払うようなその脚は、モナーの脚を捉え、バランスを崩させる。 (*゚∀゚)「かかった!」 彼女自身もひどい体勢だというのに、彼女はそこでナイフを抜き、放った。 刃の銀の光は、正確にモナーの喉へと尾を引いていく。 モナーは動作を取れない。避ける事も、受ける事も、自ら体勢を崩す事すら、もう遅い。 だが、朱が撒き散らされようというその瞬間。 放たれたナイフは、突如そこに現れた橙の網に絡め取られた。 何が起こったのか。悩む必要もない。 ( ゚∀゚)「残念! こっちは三人なんだよ、忘れちゃ困るねぇ!!」 (*゚∀゚)「チィィ……! ゴミが!」 そこで背後より殺気を感じて、つーは鉈ナイフを抜き、振り返りつつ跳ね上げた。 金属音。振り下ろされた大鋏が、目の前にあった。 そしてその向こう側にあった瞳と眼が合い、肌に粒が立つ。 从#゚∀从「チッ!」 大鋏が限界以上まで開かれ、小気味良い金属音と共に分離する。 黒と銀の二本の歪剣は、次の瞬間に明確な輪郭を失った。 高速の猛攻だ。 (*゚∀゚)「くっ! ぐぅ……!」 余りにも速い剣戟に、つーは受けながら、呻きを漏らす。 気を抜けば、すぐにでも全身を切り刻まれる。予感ではなく確信だった。 気を引き締めきっている今でさえ、少しずつ身を刻まれている。 (*゚∀゚)「どいつもこいつも……イラつかせてくれるね!!」 鉈ナイフを跳ね上げた。 それはちょうど振り下ろされた黒の歪剣に正面からぶつかり、それを勢い良く弾き上げ、飛ばす。 これでハインの得物は一本だ。連撃の速度も落ちる―――彼女がそう考えた時。 弾き上げられた歪剣の柄を、高く跳び上がって掴む手があった。 モナーだ。 (*゚∀゚)「……!!」 ( ´∀`)「返すもなっ!」 モナーは上空から、歪剣をハインに向けて投擲する。 ハインはそれを、旋回しつつ受け取った。 そしてその中で二本の歪剣を結合させ、旋回の勢いを乗せて横薙ぎに叩き付ける。 同時。モナーが上空で背中より薙刀を抜き、振り上げた。 落下しつつ、それを振り下ろす。 ハインとモナーの、縦と横からの攻撃が、つーに迫った。 背筋を寒気が滑り下り、思わず息が止まる。 とんでもない。こんな威力の攻撃を同時に喰らったら、ばらばらになってしまう。 つーは弾かれたかのように、大きく後退する。 一瞬。凄まじい衝撃によって、目の前の空間が斬り散らされたのを感じた。 斬撃が起こした風すらも鋭く、彼女の髪を掻き乱していく。 その時。 二人の影から、ジョルジュが飛び出したのが見えた。 驚愕に一瞬、身が固まる。もう、遅かった。 ( ゚∀゚)「ゲッチュー!!」 巨大な手と化している右腕が伸ばされ、彼女の矮躯を無造作に掴む。 そして軽く持ち上げると、拘束したまま容赦なく床に叩き付けた。 鈍く重い音が、響く。 (* ∀ )「…………………」 ( ゚∀゚)「……飛んだ、かね?」 数秒。数十秒。静かになったつーを見て、そう首を傾げた。 右腕を元の形状に戻す。 床には彼の手の形が残り、その中心につーが横たわっていた。 やりすぎたか? と片目を歪める。 しかし容赦なんて出来なかった。肉体的にも、精神的にも。 そこでようやく、予想以上に息を切らしている自分を自覚した。 ( ´∀`)「ようやく、静かになったもな?」 从 ゚∀从「……手こずらせやがって。ったく」 ジョルジュの様子を見、ハインとモナーも歩み寄ってきて――― その時、右腕に弾けるように痺れが走った。 顔を歪めて、視線を落とす。痙攣にも似た震えが、右腕に広がっていた。 使い過ぎたのか? と首を傾げる。何か、妙な胸騒ぎがした。 どうも、厭な気分だ。不安さが募る。 試しに、右腕を軽く開閉してみた。振ってみる。違和感はない。 しかし腕の震えは止まらない。胸騒ぎは、高まる一方だ。 ……何だ、この胸騒ぎは? 腕は震えこそ止まらないものの、何の支障もなかったじゃないか。 ここまで心配がる必要はないじゃないか。 それとも俺のこの不安は、腕じゃなく、何か他の事に対してなのだろうか? 从 ゚∀从「? どうしたジョルジュ、怯えた顔してるが」 (;゚∀゚)「あ、あぁ。どうも、右腕の痺れが止まらなくて―――」 言いかけて、言葉を呑み込んだ。 俺は今、何と言った? 右腕の痺れが、止まらない? 思い出す。 以前もこんな事があった。つーと初めて出会った時だ。 そして俺は、この事象を何と教えられたんだったか? 共振だ。 認識していない異能者の敵意を察知するセンサーみたいなものだと、そう教えられたんだ。 ならば、この胸騒ぎは腕に対しての物じゃなく――― そう気付くと同時に、背筋に厭な寒気が走った。 これは、つまり。 目の前で床に横たわる矮躯に視線を飛ばす。 何かプレッシャーのような物を感じ、途端、右腕の痺れが治まった。 (;゚∀゚)「!? ダメだ、二人とも! 退け!!」 从;゚∀从「っ!?」(´∀`;) その声に、二人は近付いた分を後退する。 直後、ジョルジュも飛び退る。が (;`∀゚)「痛ッ!!」 鈍い音。ジョルジュの喉から呻きが漏れる。 痛みと熱感に眼をやれば、ジョルジュの左肩から、ナイフが生えていた。 歯を噛み縛り、それを引き抜く。血が噴き、シャツを濡らして滴り落ちた。 床に視線をやれば、そこに張り付いていたつーが消えていた。 ふと聞こえた音に、視線を横に向ける。 そこに、狂気を宿した目つきをしたつーが居た。 (;゚∀゚)「なっ……」 (* ∀ )「調子に乗るんじゃないよ、蟲が……!」 その姿が、帯を引いた。 ジョルジュは脳に響く何かを感じて、咄嗟に身を横に飛ばす。 その次の瞬間には、直前まで立っていた床が斬り砕かれていた。 鉈ナイフを振るった体勢でそこに居たつーの眼が、彼の姿をぬるりと追う。 (;゚∀゚)「おいおいおいおい……」 彼女の視線に顔を顰め、ジョルジュは床を蹴った。後退だ。 一瞬遅れて、彼女が動く。 重く一歩を踏み出し、二歩、三歩と加速していく。 不気味なほど姿勢を前傾にし、鉈ナイフを床に引き摺りながら、彼を追った。 がりがりという床を削る音が、不吉に響き渡る。 (;゚∀゚)「ふざけんなよ……!!」 後退のステップを、次の一歩で横へ。 直後、斜めに振り下ろされた鉈ナイフが肩を掠った。 血が飛沫き、鉈ナイフはそのまま床を捉え、それを叩き砕く。 (* ∀ )「もう良い―――もう、良いさ。遊びは終わりだ」 (;゚∀゚)「大人しく寝てやがれよ!!」 床にナイフを叩き付けた体勢のまま固まり、暗く呟くつーに、ジョルジュは踏み込んだ。 ブレードに変えた右腕で、首へと容赦なく斬りつける。 だが橙の刃は、寸前に軽々と持ち上げられた鉈ナイフで止められた。 (* ∀ )「手加減して遊んでやってれば、調子に乗りやがって。ムカつくねェ。 良いさ。あんた達が本気だってのは分かった。 私を殺れない訳じゃないっていうのも、よーく分かった」 虚ろな、しかし熱くどろどろとした感情を孕んだ瞳がジョルジュを向く。 息が詰まった。吐き気を催しそうな程の敵意と殺意、そして狂気が容赦なくぶつけられる。 (* ∀ )「なら私も本気を出してあげる。そう、遊びは終わり。 蹂躙して、絶望させて、惨殺してあげるよ。 残酷な子供が蟲にそうするように、ね。そう―――」 次の瞬間、ジョルジュの身がバランスを崩した。 おもむろに伸ばされたつーの手が、ジョルジュのブレードの先端を引っ張ったのだ。 刃を握った彼女の手からは血が噴き、しかしそれに関心を寄せる様子もない。 (* ∀ )「脚や触覚をもいで」 ブレードを受けていた鉈ナイフを引き、 (* ∀ )「無様に転がる姿を見て嗤って」 思いきり振り被って、 (* ∀ )「そして、殺してやる」 動けないジョルジュへ、躊躇なく振り下ろした。 重厚な刃は、彼の首を易々と跳ね飛ばせる威力を以ってして迫り――― (* ∀ )「!!」 その瞬間。鉈ナイフを握る彼女の腕に、三本のナイフが突き立った。 前腕、二の腕、肩。 それらは一瞬、鉈ナイフに伝えられる力を遮断する。 だが既に鉈ナイフは振り下ろされている。止まらない。 変化は、若干ナイフの速度が落ちただけだ。 数秒、ジョルジュの首にナイフが到達するまでが遅くなっただけ。 その数秒のラグの間に、事態は変わる。 从;゚∀从「殺らせるかよ!!」 横から跳び込んだハインが、ジョルジュの身体へとタックルした。 ジョルジュのブレードを握っていたつーの手が血を噴き、 鉈ナイフが掠ったハインの脇腹にも、同じく朱が広がる。 ハインとジョルジュは床に叩きつけられ、呻きをあげた。 掠ったナイフが内臓に重い衝撃を与えたのか、ハインは僅かに吐血する。 (;´∀`)「大丈夫もな!?」 モナーはナイフを投げた体勢のまま、倒れ込んだ二人に叫んだ。 そしてつーに視線を戻し、唖然とする。 彼女は痛がる素振りすら見せていなかったのだ。 腕と手から血を滴らせ、しかしまったく反応を示さない。 痛覚がない筈はない。ならば、何故だ。 何か、不振だ。何が起きている。 彼女の先程の動きも、あの虚ろな瞳も、先ほどまでの彼女と何かが違う。 疲れきっている筈なのに、先ほどのあの速度は何だ。 あの腕力は何だ。何故痛みに反応を示さない。何故、この状況で笑わない。 そこで彼は、一つの仮定を打ち立てる。 タガが外れてしまったのか? ―――その思考と同時。 虚ろに眼の前を見詰めていた彼女の瞳が、モナーへと向いた。 (;´∀`)「ッ…………!!」 彼はその視線に、全身を貫かれたような感覚を覚えて後退り、 (;´∀`)「も、もなぁあぁぁあぁあぁぁああぁッ!!」 次の瞬間、しかし、駆けた。 厭な予感はあった。近付いてはいけないと、本能が叫んでいた。 しかしもう戻れない。ここまで来て、退く訳にはいかなかったし、そもそも退けるわけがなかった。 ならば、せめて先手を取るべきだ。 背から薙刀を抜き、下から斜めに斬り上げる。 だがつーは姿勢を低くし、更に身を傾げてそれを回避。 不自然な体勢になるも、無理矢理踏みだした次の一歩で彼女は身が倒れるのを阻止。 そして間を置かず、跳躍した。ナイフを逆手に持ち、アッパー。 モナーの喉を狙ったそれは、しかし咄嗟に突き出された石突きで受けられた。 (;´∀`)「“仮定”―――どうやら当たりのようだもな……!」 舌打ちを漏らし、後退する。 体勢が崩れていたし、距離を詰められてしまっては不利だと判断したのだ。 しかし彼女は容赦なく、それに追従した。 モナーは眉を寄せ、「馬鹿な」と呟く。 この状況、つーの方こそ一旦退かねばならぬ筈だ。 彼女の方が体勢が崩れている上に、身体は限界の筈だ。 疲労で思うようにならない筋肉をあそこまで酷使するならば、細かく休みを入れねばならない筈だ。 何故ここで追う。不利になるだけではないのか。 精神のタガが外れたところで、筋肉は強化されない。 いくら怒り狂っていても、“戦闘の人格”だ。不利になるような事は――― (* ∀ )「不思議そうな顔してるねェェ?」 (;´∀`)「……もな」 (* ∀ )「私が何でこんな無茶するかって? 教えてあげようか?」 その口元が釣り上がる。 楽しそうな笑み、ではない。 狂いきっている笑みだ。 (* ∀ )「もう、どうでも良いんだよォォオッ!!」 大きく床を蹴って、飛びかかるようにしてモナーにナイフを振り下ろす。 彼はそれを薙刀で受け、顔を顰めた。 それは威力に対しても、だが、最大の理由は彼女だ。 彼女は首を限界まで伸ばしてモナーに顔を近付け、 そして不気味に首を傾け、揺らしながら、歪んだ笑みを見せつけたのだ。 まるで、これが狂気だとでも言わんばかりに。 (* ∀ )「もうあんたらを殺せればそれで良いのさ。他の事なんて知らないね。 どれだけ身体が軋もうと、血が流れようと、筋肉が千切れようと、どうでも良い。 もう、ここで殺せれば良いんだよ! あんた達を殺す事が第一だ!!」 从;゚∀从「マズい……!!」 モナーの戦闘を見ながら、彼女は歯を噛んだ。 心配していた出来事は本当に起こってしまった。 つーは完全に狂ってしまった―――自身の身の安全を考えない程に。 このままではマズい。最悪の事態になりかねない。 奴は今、私達を殲滅する事だけに執着している。 戦闘に勝つ事ではなく、私達を殺す事だけを。 もはや防御などはほとんど考えないだろう。殺す事が目的なのだから。 これは私達も危険だが、何よりつーが危険だ。 どうする。どう戦う。どう止める。拘束など出来るのだろうか。 しかしそこで、彼女は首を振る。 ―――今は、全力で戦うしかない。 そう、答えを出したのだ。 それしか選択肢はなく、そうしなければ彼女は救えない。 今更、戦い方などを考えたところでどうしようもない。 強いて挙げるなら『速攻』だ。戦闘を長引かせずに拘束出来れば、それが良い。 最高火力で一気に畳みかける。 結局は、両者にとってそれが一番安全だ。 从 ゚∀从「おい、行くぞジョルジュ。あの野郎、止めねぇt……」 言葉を、途中で呑み込む。 横に立っているジョルジュが、苦悶の表情を浮かべていたからだ。 彼は唇を噛み締め、心臓辺りを抑えて呻きを漏らしていた。 从 ゚∀从「おい、どうした」 (;゚∀゚)「……分から、ねぇ。何か、痛ぇ」 从;゚∀从「痛い? 打ったのか?」 問いかけに、ジョルジュは首を横に振る。 (;゚∀゚)「そういう痛みじゃねぇんだ。何か、こう、内側からというか……。 そういうのが、あいつを見てると、ズーンと来る」 その言葉で、ハインはすぐに精神から来るものだと気付いた。 彼女自身、その痛みには馴染みが深かったのだ。 しかし、何故ジョルジュがその痛みを患うのかは、イマイチぴんとこなかった。 从 ゚∀从「心から来る痛みだな、そりゃ」 (;゚∀゚)「心から……? 何だそら。どういうことだ」 一瞬考えて、しかし彼女は首を振る。 その痛みの理由を教えることが良いことだとは、思えなかったのだ。 怒りか、嫌悪感か……そういったストレスから来る痛みからだという可能性が高い。 それを教えればどうなる。我を見失いかねない。 気付かない方が良いことだってある。特に、この状況では。 例え万が一、憐れみや辛さを感じてくれていたとしても、それもまた、教えない方が良い。 それを自覚してしまえば、戦えなくなる恐れがあった。 辛さを自覚して、それから戦う決意を固めるまでには時間がかかる。 気付いてしまうと、人はそれから眼を背けられなくなる。 ならば初めからそれを見せぬ方が良い。 怒りだったとしても、憐れみだったとしても、教える必要はない。 从 ゚∀从「知らねぇよ。お前自身の問題だ。 何にせよ、この戦いが終わればそれも収まるだろうさ。 構えろ。準備しやがれ」 ジョルジュは納得の行っていない顔で頷くと、右腕を巨大な手に変形させる。 それを目の隅で捉えると、一つ頷き、ハインは叫んだ。 从#゚∀从「行くぞ!!」 二人はまったくの同時に、床を蹴った。 つーの猛攻の前に、モナーは防戦一方になっていた。 受けても往なしても躱しても、どこまでも攻めの手は追ってくる。 どころか、どうにか攻め返しても、構わず攻撃してくるのだから堪らない。 彼女は言葉通り、自身の身を案ぜず、間断ない攻撃を展開していた。 (* ∀ )「ァァァァァァァァアアアアアアッ!!」 (;´∀`)「くっ……!!」 叩き付けられる鉈ナイフを、薙刀を横にして受ける。 重い衝撃が全身に走り、直後に腹部に痛みが来た。 前蹴りが放たれていた。身体が折れ、力が一瞬、抜ける。 (;´∀`)「しまっ―――!」 無理矢理上げた視界の上端に、再度振り上げられたナイフが映った。 それは鈍く光を受け、そして尾を引いて振り下ろされる。 歯を噛み縛り、来る苦痛に備えた。 だが寸前で、ナイフの軌道に横から黒が割り込んだ。歪剣だ。 モナーの表情が明るくなる。 (;´∀`)「ようやく来てくれたもな……!」 从 ゚∀从「悪ぃな!!」 ハインは歪剣でナイフを弾き上げつつ、身を旋回。 横から振り抜いた銀の歪剣で、つーの脇腹を切り裂いた。 赤が散り、しかしつーは一切の反応を見せない。 ( ゚∀゚)「おら、もっかいおねむの時間だぜ!!」 彼女の背後で橙の巨大な手が振り上げられ、振り下ろされる。 しかしそれは彼女を捉えられない。彼女は前へと床を蹴って、それを回避していた。 ―――否、回避したのではない。攻撃の為に、前へ出たのだ。 標的は、後退しようとしているモナーだ。 (;´∀`)「またかもな……!!」 モナーは薙刀を前に構え、更に後退しようとして 从#゚∀从「退くな!!」 ハインの声に、脚を踏ん張らせた。 从 ゚∀从「このまま、さっきの戦いをやるぞ!! 囲め! 互いに補佐し合え! 自らを囮にチャンスを作り、隙を狩れ!! 相手がぶちギレたからって怯えんな! ここまで来たんだ、勝つぞ!!」 二人は声もなく、小さく頷く。 それからつーを囲む立ち位置を取り、得物を構えた。 つーは尚も抗う意志を見せる彼らに、憎悪を滾らせる。 (* ∀ )「上等だ……やってごらんよォ!!」 ナイフが振り上げられ、応じる三人が同時に動いた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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