プロローグ1 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:01:52.51 ID:u8dYe1wA0プロローグ ―――いつも僕が見る、奇妙な夢。 夢といっても、その内容は現実と遜色ないほどに繊細で鮮明。 夢だというのに、その音や臭いを感じ取れそうな繊細さで。 夢だと分かっていても、一瞬でも現実かと疑ってしまう鮮明さ。 そんな奇妙な夢の舞台はいつも、大きな大きな建物。 僕の視点はその建物の近くから始まるので、建物の全体の大きさはよく分からない。 とても大きいという事だけが分かる。 建物の周りは樹木に覆われている。 まるでその建物が木に隠れているように思えた。 夢の中の時間帯は、かなり暗くなった頃。 樹木はその緑を風に静かにざわめかせている。 動物は眠ってしまったのか、葉の鳴る音しか聞こえない。 大きな建物の色は、雪色。 白のような銀の様な綺麗な建物で、その色は暗い空間の中で輝いていた。 見ると、かなり高い位置にくもりガラスが一列に並んでいて、そこからわずかに光が漏れている。 4 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:05:06.57 ID:u8dYe1wA0 この時、ふと僕は疑問に思う。 この建物は一体何だろう? 学校? 工場? 病院? 全て当てはまりそうで、何かズレている。 どうしても何かが違う。 違和感があって、たまらない。 パズルに無理矢理ピースを嵌め込んだような気分だ。 そんな事を考えている僕の頭に、ぱっと答えが浮かぶ。 それは本当に唐突だったけど、驚くほどにすんなりと浮かんだ答えだった。 ……あぁ。 そうか。 ……研究所だ。 そう考えると、その答えはしっくりと心に留まった。 6 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:08:01.43 ID:u8dYe1wA0 ……あれ? 僕は何で、この建物が研究所だ、なんて事が分かったんだろう? 分からない。 こんな建物は、僕の記憶にない。 あぁ……もしかして、デジャヴってやつかもしれない。 どこかで見た気がする、とかそんなんだ。きっと。 そう考えておこう。 そんな簡単な物ではないと心の隅では感じながらも、そう自分に思い込ませる。 そうでないと、何か怖すぎる。 自分の知らない記憶がある……なんて、そんな事、考えたくもない。 7 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:09:18.91 ID:u8dYe1wA0 それからまもなく、夢の舞台はその建物の中に移動する。 僕は建物の中の廊下を歩いていた。 道幅は広く、天井は高い。 壁も天井も床も、外の壁と同じ雪色。 何の模様もなく、シンプルですごい綺麗だ。 だけど、そんな綺麗な壁や天井を何かの機械のケーブルがびっしりと覆っていた。 赤いケーブルもあれば、青いケーブルもあって、緑や黄色、黒いケーブルまで色とりどりだ。 そんなケーブルが集合してる一角は、まるで気持ち悪い生き物みたいで気色悪い。 僕は廊下を歩きながら、何となくそのケーブルを眼で追っていった。 別に、これと言った理由はない。 夢の中の僕が、そのケーブルを追い始めたから僕も追う。 いや、正確には夢の中の僕がケーブルを追い始めたから、僕も追わなければならないのだ。 夢の中の僕の行動を、僕は決められないらしい。 その本数は増減したりしたが、どこまで行ってもケーブルはなくならなかった。 色とりどりなケーブルは時に数を減らし、時に向きを変えながら壁や天井を這っていく。 9 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:12:08.06 ID:u8dYe1wA0 ん? ふと、不自然な所を見付けて、僕は眼を止めた。 僕が目をやっている辺りのケーブルから、色が紅いケーブルばかりになっている……。 不自然だな。 そう思って、顔を上げた。 そこには、壁と同じ雪色の研究服を着た人が、身体を壁に預けていた。 僕の眼は、驚きによって大きく見開かれる。 何故なら、その人はお腹から大量の血を出していたから。 血と一緒に、肉のような物や内臓のような物まで腹から出している。 まるでそれは狼に食い荒らされたような傷口だった。 顔面は蒼白で、死人色。 大変だ……誰かを呼ばなきゃ……! そう思って、僕は廊下の奥をひょいと見る。 そしてすぐに見た事を後悔した。 10 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:17:11.22 ID:u8dYe1wA0 僕の視線の先には、肌を死人色に変えた人達がたくさんいた。 みんな床に倒れていたり、壁に身体を預けたりしている。 首が変な方向を向いていたり、そもそも首から上がなかったり。 バラバラだったり、グチャグチャだったり。ダルマだったり。 呻き声すらも、聞こえてこない。 傷口から骨が見え、内臓が垂れ下がり、脳が落下する。 眼を背けようと下を見た僕の視界に入った物は、ころころと転がる眼球だった。 叫び声を上げそうになって、ふと我に返る。 いつも見てる夢じゃないか。 そう思うと、僕はその光景に感じていた感情が一気に失せるのを感じた。 むしろ何だか恥ずかしいくらいだ。 うわ、気持ち悪いなぁ。 そうは思ったけど、もはや驚きはない。 ―――いつも見ている夢だから、慣れたものだ。 慣れたくはなかったのだけれど。 それこそ、昔はこの悪夢のせいで寝る事が怖くもなったけど。 でも、これだけ見てれば慣れてしまうものだ。 12 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:20:33.36 ID:u8dYe1wA0 もう一度、ケーブルを眼で追い、足を進める。 もう追っていきたくはないのだけれど、夢の中の僕はそれを許さない。 やがて、僕は十字路に辿り着いた。 僕が来た道と、左右に伸びる道と、奥に伸びる道。 左右に伸びる道は綺麗だ。 しかし、奥に伸びる道には今までと同じように……いや、今まで以上に死体がいっぱいある。 うわぁ……行きたくねぇ……。 だけれど、夢の中の僕は奥に伸びる道を選んだ。 それはまるで何かに導かれる様に。 いくつもの死体を、眼もやらずに歩く。 僕の視線は、ずっと前に固定されたままだ。 ちょっとだけ嬉しかった。 死体を直視しないで済むから。 そしていつしか、その廊下が終わる。 そこには割れた大きな研究水槽があった。 その水槽の下には大小様々なガラスが落ちていて、それを覆うように水溜りが出来ていた。 水槽からはまだぽたぽたと水が垂れて、水溜りの面積を広める。 まだ水が垂れる、という事は……割れてから時間はさほど経っていないようだ 13 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:24:19.93 ID:u8dYe1wA0 それから数分。 何もないので、僕は十字路まで引き返す。 そして、その場で足を止めた。 まるで何かを待っているかのように。 しぃん……と、何も音が聞こえない空間。 聞こえるのは廊下の奥から響く水滴の音だけ。 視界の内を、何も動かない。 自分だけが存在するような世界。 これを「嵐の前の静けさ」っていうんだろうなって思った。 何せ、この後に起こる事は……。 ふいに、ぺたぺたぺたっ、と。 僕の後ろから、素足が廊下を走る音がした。 その方向に顔を向けようとした、その瞬間。 15 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:27:26.55 ID:u8dYe1wA0 ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!! 「緊急事態発生。緊急事態発生。 近隣ノ研究員・非戦闘員ハ退避セヨ。兵士ハ事態ノ収縮ヲ図レ。 繰リ返シ連絡スル。緊急事態発生……」 耳をつんざくようなサイレンがけたたましく鳴り、ハッキリとした電子ボイスが建物の中に響き渡った。 それを境目としたように、静寂の世界はかけらも見えなくなる。 16 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:28:41.54 ID:u8dYe1wA0 左右に伸びる十字路から足音が聞こえた。 多くの人が走っているようで、いくつもの大きな足音が聞こえる。 その足音が大きくなっていくのに比例して、その人達の声も聞こえた。 焦っているような、そんな声。 それを飾る様に、やけに寂しげに鳴き続けるサイレンの音。 「あれが逃げたぞ! 追え! 捕まえろ! 絶対に逃すな!!」 「スタンガンでも麻酔銃でも何でも良い! 捕獲器具を持って来い! 催涙スプレーなんて意味ないぞ!」 「いや、あれなら銃じゃないと意味がない! ライフルかサブマシンガン……せめてハンドガンを持て!」 「万が一にも殺すなよ! 逃がす事も許されないぞ! 何せ大事な“完成作”だ!」 見ると、左右の廊下の奥には黒い塊が見えた。 それはさきほどの声の主達のようで、ばたばたと足音を響かせる。 それは軍人だった。 人数は三十を軽く越える。 全員黒めの軍服に身を包み、物騒な事極まりない装備だった。 左肩の辺りに通信機のような物。 腰には大振りなナイフとハンドガン。 そして手には大きな銃器。 18 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:32:05.15 ID:u8dYe1wA0 これだけの人を慌てさせる「あれ」っていうのは、どんな動物なんだろう。 「完成作」っていうくらいだから、獰猛な機械犬とかかもしれないぞ。 ちょっとわくてかー。 そう思って、その人達の視線を追う。 そこには、何も着ていない人間が走っていた。 ぺたぺたぺたっと、足音が良く響く。 あぁ、この人だったのか、さっきの足音は。 どうやら、逃亡者は男性らしい。 残念ながら顔は見えない。 ん? さっきの人達、「あれ」って言ってたよな。 でも、あの逃走者を呼ぶのなら、間違いなく「奴」だよな。 人間なのに、何で「あれ」? ……それに何で、“完成作”なんて呼んだ? もしかしてあの人はロボットだってか? ありえない、ありえない。 19 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:34:45.38 ID:u8dYe1wA0 「撃て! 撃て撃て撃て撃て撃てぇっ!!」 僕のそんな考えは、その声によって遮断された。 ば、ば、ばっと、迷彩服の人達は鮮やかな動きで銃を構えて。 一瞬の後、耳が痛くなるほどの連続した発砲音が響いた。 重い、固い発砲音。 軽くて音の高い発砲音。 それらの音が入り混じって、僕の耳を破壊せんばかりの音を響かせる。 それからようやく理解する。 銃は、発砲されたのだ。 逃走者の背中に向けて、情け容赦なく。 映画や本でしか見た事のないような銃。 その口から発射された鉛弾が一直線に逃走者に降り注ぐ。 瞬間、僕の頭に浮かぶヴィジョン。 それは、逃走者が蜂の巣にされ、人の形を留めていないヴィジョンだった。 そして、おそらくそれは本当の事になる。 何せ、あの量の発砲だ。 どうすれば蜂の巣にならないでいられるかの方が難しい。 20 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:38:16.89 ID:u8dYe1wA0 だが。 そんな僕の予想は、裏切られた。 その弾は一発も逃走者に当たらなかった。 当たらなかったどころか、かすりもしていないようだ。 弾は逃走者の横の壁のケーブルや廊下に当たって、少しばかりの火を吹き上げただけだった。 ……弾が、横に「外れていった」気がするのは、気のせいなのだろう。 もちろん、軍服の人達は呆然としている。 誰も動かずに、ぱくぱくと口を開閉している。 金魚みたいだ。 多分僕もそんな顔をしているのだろう。 22 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:41:20.22 ID:u8dYe1wA0 と、その時。 ゆっくりと、逃亡者が振り返った。 そして、微笑んだ。 それは驚くほど冷徹な笑み。 いや、冷たい、というよりも、暖かさやそう言うものが一切ない、というのが正しいかもしれない。 優しさや喜び、怒りや憎しみ、悲しみや苦しみ。 そんな感情が一切取り払われた、何もない笑み。 僕は背筋に何か冷たい物が駆けるのを感じた。 その表情にも、その顔にも、何か恐ろしい物を感じる。 だって。 どこかで見た顔なんだ……その顔は。 23 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:44:52.11 ID:u8dYe1wA0 軍服の人達は、そこでようやく我を取り戻した。 「よ……よし、止まったぞ! 捕獲しろ! 奴を再度あの水槽にぶち込め!!」 そう言って、一人の男の人が走り出そうとする。 だけど、その人を横にいた男の人が腕で止めた。 「ちょっと待て……様子がおかしい」 そこで、逃亡者は飛び出そうとした人に向かって手を伸ばした。 別にそこには何もない。ただの虚空が広がるばかりで、その手の延長線上に男の人がいるだけだ。 男の人達は怪訝そうな顔をして言う。 「……うん? 何してんだ、あいつは」 そんな言葉を無視するかの様に、手を伸ばした逃亡者は虚空を ぎゅっ と握った。 何の変哲もなく、ただ宙に浮かぶ羽根なんかを取ろうとするかのように。 だが、起こる事は、おかしな事だった。 24 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:47:53.24 ID:u8dYe1wA0 逃亡者が握った手の延長線上にいる男。 その頭が、弾け飛んだのだ。 くしゃり。 そして、ぱんっと。 トマトを握り潰したような、水風船が弾けたような。 そんな単純な音だった。 だが、それとは裏腹に見た目はひどい。 紅い水が噴き出し、白と紅の入り混じったゼリー状の脳漿が四方八方にぶちまけられて。 そして、眼球のような物が宙を舞う。 それらの物体は壁や地面、そして軍人達へと降り注ぐ。 軍人達はそれを避けようともしない。ただ唖然とするばかりだ。 ……これも何度も見ているが、ひどくグロテスクな光景だった。 これだけは慣れそうもない。 慣れたくもない。 これに慣れてしまったら、何か自分が終わってしまいそうな気がする。 やがて、頭を失った死体は倒れ込んだ。 25 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:52:18.02 ID:u8dYe1wA0 男の人達はそれを見て、やっと数歩あとずさった。 何が起きたのか分からないといった表情を浮かべて、各々が。 「な……何ぃ?」 と、眉を寄せた。 見ると、頭を失った死体の横に居た人……その首なし死体が走り出すのを止めていた人は呆然としている。 体中を血だらけにして、足元の首なし死体を見ていた。 その表情は、驚き。 そして。 「貴様ぁぁあぁぁぁあぁあぁぁ!!」 表情を“怒り”一食にして、叫んで、飛び出した。 腰に構えた大振りのナイフを抜く。 そして、それを大きく振りかぶって――― 「よくもあいつを!よくもあいつを殺したな!?殺してやる!殺してやる!!」 そう叫んで、逃亡者の頭に向かって、勢い良く振り下ろした。 風を斬る音が響き、そして―――。 27 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 22:56:44.31 ID:u8dYe1wA0 びちゃり、と。 血溜まりの中に、ナイフが落ちる。 続けて、男の人の指が。掌が。腕が。頭が肩が胸が腰が足が。 次々と、血溜まりの中に落ちていった。 まるでそこには誰も居なかったような。 まるでそこにあったのは、最初から細切れの肉片だけだったとでも言いたいような。 そんな、空気だった。 男は原形を留めないほどばらばらとなり、そこに立つのは微笑む逃走者だけとなった。 28 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 23:02:03.66 ID:u8dYe1wA0 後ろの方から、嘔吐する声が聞こえた。 さすがの軍人でも、あそこまでの死に方は見た事がなかったらしい。 「た、隊長? アレが奴の”力”ですか…?」 軍服の人達の内の誰かがそう言った。 口を手で抑えてるのか、声はくぐもっている。 「いや、あんなものじゃないはずだ。……何せ”完成作”だそうだからな」 「あんなものじゃない!? ふざけてるのか!? だったら捕獲なんて無理に決まってるじゃないk」 最後の一文字を言おうとした所で。 その人の頭が弾け飛んだ。 また一つ頭がない死体が出来上がり、そして、倒れた。 30 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 23:05:38.81 ID:u8dYe1wA0 それから驚くほど静かな空間が訪れた。 その空間は、一瞬のものだったけれど。 「こ……こんなの、制御できるか。こんな化け物、捕獲なんて出来るかっ!!」 そう言って、軍人の一人が逃げ出した。 それに続いて、何人かが逃げ出す。 「死に向かうだけじゃないかっ!! 俺は死にたくないっ!!」 「俺達はただの人間だぞ!? 話にならない! 俺も降りるぞ!!」 「お、俺もだ!」 「俺も!」 そんな風にして、逃げ出す人はどんどんと増えていった。 一人が逃げればもう二人が。 二人が逃げれば六人が。 六人が逃げれば一ダースが逃げ出して。 31 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 23:07:42.17 ID:u8dYe1wA0 「貴様等! ちょっと…待て! ええい、もう良い!! 全員、一時撤退しろ!」 隊長らしき人がそう叫んだ。 その時にはもう既に、一人残らず逃亡者に背を向けていた。 各々が無様に叫びながら、捕獲者から逃亡者になった。 逃亡者だった者はにやりと微笑む。 今度もまた、感情のない微笑だった。 そしてゆっくりと歩み出す。 両手を広げて、命を狩る悪魔のように。 今度は逃亡者が追跡者へと。 …………否。 狩人となった。 32 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 23:09:25.85 ID:u8dYe1wA0 狩人が、足を ぶんっ と横に振り抜く。 それと同時に、足の延長上にあった物が二つに両断される。 ある者は上半身と下半身が別れを告げ、ある者は新たな首なし死体へと変化を遂げる。 それはまるでオモチャの様に。 いくつものボールが ぼとんっ と跳ねて ごろんっ と転がった。 それは人の首だった。 恐怖の叫び声。 後悔の叫び声。 不安の叫び声。 それらが混じって混じって、一つのオーケストラが出来上がっていた。 醜い大合唱だった。 逃亡者だった狩人は、人を殺して。 際限なく、どこまでも殺して。 捕獲者だった軍人は逃亡して。 命をなくす事よりも、ただ化け物に恐怖して逃亡して。 33 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 23:10:11.34 ID:u8dYe1wA0 「うぁぁぁぁぁ!」 「やめろ! 頼む! 命だけは! がぁぁっ!」 「お、お前にした事は謝る! 何でもするからやめてくれ! やめ……やめろぉぉっ!!」 そんな声にも狩人は止まらない。 殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。 感情なく微笑んで。 どんな叫び声も、血の海に没していった。 37 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 23:13:52.87 ID:u8dYe1wA0 何分かかったのか。 それとも、刹那の時も過ぎていないのか。 いつしか、「狩り」は完了していた。 白く美しかった壁や床、天井までもが赤く染まっていた。 歩くたびに紅い水たまりが跳ねる。 そして、カラフルなケーブルに絡み付く、人だったもののパーツ。 首や手、足、臓物、髪の毛。 それらがケーブルを生き物のように見せた。 狩人は、死体から剥ぎ取った軍服を身にまとっていた。 よくそんなものが着れるなぁ、と思った。 40 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 23:16:06.02 ID:u8dYe1wA0 気付けば、狩人は血と火に囲まれていた。 さっきケーブルから出た火が死体の服に燃え移った様で、火の勢いが少しずつ強くなっている。 何か他の薬品にも引火したのかもしれない。 火の勢いは異常なほど早く強くなっていった。 ごごごごご、と、地面が揺れる。 自然な地震ではない。 何か巨大な機械に引火したのかもしれない。 それからまもなく。 何に引火したのか、爆発が起きた。 42 名前:1[] 投稿日:2007/01/14(日) 23:17:01.14 ID:u8dYe1wA0 気付けば、視界は黒い煙で覆われていた。 何も見えない。 夢だから、苦しくはない。 だけどその分、夢だから煙も払えないし何も出来ない。 時が経ち、目の前の煙が晴れる。 どうやら、火は森にも引火したらしい。 周りが炎によって明るく照らされていた。 いつのまにか、目の前に“あの”狩人がいた。 僕は驚きから息を一瞬止める。 どこに向かうのか、狩人はゆっくりと歩いて行った。 その時。 狩人は足を止めると、ゆっくりと振り返って。 また感情なく微笑んで。 「今度は、君の番だよ」 と言い放った。 そして、その男性の影は炎の中に消え去っていく。 影は燃える事もなく、炎によって見えなくなった。 そこで……夢が、覚める。 何故か体中汗まみれで、時には呼吸を乱しながら。 目次 次へ |