三十三章一三十三章 準備 “削除人”の所有するホテルには、かなり小規模だが、体育館がある。 規模は大体、バスケットボールのコートが一つ収まるか収まらないか、といったところだ。 午前六時二十分。 そこに“削除人”の四人と、ブーン達四人が集まった。 川 ゚ -゚)「集まったな」 呟いて、全員の顔を見渡すクー。 そんな彼女に対して、ブーンは尋ねた。 ( ^ω^)「クー、質問が二つあるお。良いかお?」 川 ゚ -゚)「む? 良いぞ。何だ」 ( ^ω^)「モナーさんはどうしたお?」 川 ゚ -゚)「『どうせこの状態じゃ訓練には参加出来ないから、武器を作成してくる』だそうだ」 ( ^ω^)「お、なるほど」 川 ゚ -゚)「して、二個目の質問とは?」 (;^ω^)「……ここは本当に体育館かお?」 川 ゚ -゚)「? そうだが?」 ブーンが尋ねるのも、無理はない。 そこは、ブーンが想像するような『体育館』のイメージからは、大きく逸脱していた。 まず、床。 本来それは木で作られるべきものだが、この床はコンクリートで出来ているのだ。 しかもコンクリートによって構成されているのは、床だけでない。 床と同じく、壁も。そして、天井までもがコンクリートだ。 川 ゚ -゚)「いや……確かに今となっては、ここはむしろ『訓練場』とだけ呼んだ方が良いかもしれんな」 ( ゚∀゚)「今となっては?」 (*゚ー゚)「ここは、前は普通の『体育館』だったんだよ。床も壁も木のね。 でも戦闘訓練をするとすぐに床も壁も壊れてしまうから、木からコンクリートに変えたんだよ」 ( ゚∀゚)「あ、なーる。中身はほとんど全部変えたけど、名前は変えなかったのね」 川 ゚ -゚)「そういう事だ」 頷いて、クーは言葉を続ける。 川 ゚ -゚)「さて、これから訓練を始めるわけだが……訓練に関しての総監督はフサに任せようと思う」 ミ,,゚Д゚彡「……俺か? 構わんが、何故だ?」 川 ゚ -゚)「簡単な事。この中で戦闘に関して最も秀でているのがお前だからだ」 ミ,,゚Д゚彡「……俺はそうは思わないが、良いだろう。 把握した。俺が指揮を取ろう」 川 ゚ -゚)「感謝する」 頷いて、彼女は下がる。 それと入れ違えるようにして、フサが前に出た。 ミ,,゚Д゚彡「話の通りだ。俺が訓練に関しての指揮を執る」 (,,゚Д゚)「訓練ってどうやるんだ?」 ミ,,゚Д゚彡「模擬戦闘だ。ただただ戦闘を積み重ねる」 (;゚∀゚)「そんなんで良いのー?」 ミ,,゚Д゚彡「戦闘は戦闘で鍛えるのが一番なんだよ。特に、相手が異能者ならな。 いくら身体を鍛えようと技を覚えようと、相手が異能者じゃ意味がない。 異能者同士の、下手をすれば死にかねない戦闘訓練こそが、最もそいつを強くする」 ( ゚∀゚)「……おー、なるほど。正論だ」 ( ^ω^)「考えてみれば、ショボンの訓練とやる事は変わらないお」 ( ゚∀゚)「あ、そういやそうだね」 ミ,,゚Д゚彡「さて、お喋りはこの辺にしておこう。 早速訓練を始める。最終決戦までの時間は多くない」 (,,゚Д゚)「? どういう事だ?」 川 ゚ -゚)「それは後で私が話そう。今は訓練に集中してくれ」 (,,゚Д゚)「……分かった」 ( ^ω^)「フサさん。最初は誰と誰が戦うんだお?」 ミ,,゚Д゚彡「ふむ、そうだな。俺と、ギコ……いや、違うな」 呟いて、フサは獰猛な笑みを浮かべた。 まさに獣を思わせる笑みだ。 ミ,,゚Д゚彡「俺と、お前達四人だ。まとめてかかってこい」 (;^ω^)「お!?」 ( ゚∀゚)「ん、んー?」 (,,゚Д゚)「……何だ? ふざけてるのか?」 ミ,,゚Д゚彡「俺一人でお前達を叩きのめしてやると言っているんだ。 お前達の弱さを、身体をもって教えてやろう」 (;^ω^)「で、でも、そんn」 ( ゚∀゚)「本当に良いの、フサさん? 遠慮なくやっちゃうよ?」 (;^ω^)「――――――ッ!?」 ミ,,゚Д゚彡「あぁ、手加減も何もいらん。全力でかかってこい」 ( ゚∀゚)「そいつぁ良いや」 呟いて、ジョルジュは笑う。 その笑みは、鋭い。 ( ゚∀゚)「どうも昨日からもんもんしててよ、ちょっとぶちまけたかったんだ」 言ったジョルジュに触発されたかのように、ギコも拳を打ち鳴らす。 笑ってこそいないが、戦闘に関してやる気だというのはすぐに分かった。 (,,゚Д゚)「考えてみりゃ、そちらがやる気だってーなら、それに応じないのは失礼ってもんか。 覚悟しろよ。前言撤回させてやる」 ミ,,゚Д゚彡「……面白い。やってみろ」 呟いて、フサはちらりとクーを見やる。 それだけで意思が伝わったのか、クーは頷いて言う。 川 ゚ -゚)「ブーン・ドクオ・ジョルジュ・ギコ以外の者は、出来るだけ隅に寄れ。 攻撃に当たらないように注意しろ」 その声に各々の返事が続き、それぞれが部屋の隅へと移動した。 ……移動する者達の影には、ドクオがいた。 ((( 'A`) コソコソ (,,゚Д゚)「……ドクオ」 ('A`;) (((;'A`) (,,゚Д゚)「ゴルァ。てめぇ」 ('A`)「……ナンデスカ」 (,,゚Д゚)「お前はこっちだ」 ('A`)「ヤデス。イヤデス。ボク、タタカエマセン」 (,,゚Д゚)「……あぁ?」 ('A`)「ボク、テイケツアツ。アサハ、ムリデス……」 ドクオは虚ろな眼で、死にそうな声で呟いた。 実際、彼自身は死にそうなのだろう。 (#゚Д゚)「ゴルァ!! ぐちぐち言ってねぇで、さっさと来いっつってんだ!!」 しかしギコは容赦しなかった。 叫んで、ドクオの胸倉を掴み上げる。 (#゚Д゚)「俺達は“管理人”と戦うんだぞ! そんなんでどうすんだ!!」 その言葉に、ドクオは溜め息を吐く。 それから頭を振ると、「よし」と呟いた。 ('A`)「……やんなきゃダメ、だわな。OK。ちょっと放せ」 呟くと、彼はどこからか缶コーヒーを取り出した。 そして凄まじい勢いで一気飲みすると、その缶を握り潰す。 スチール製だったその缶を握り潰した左手は―――既に解放されていた。 ('A`)「これでいくらかは気を紛らわす事が出来る。……行くぞ」 (,,゚Д゚)「お? お、おう」 ドクオの急変ぶりに驚くギコを置いて、ドクオはフサに相対する。 それにジョルジュが続き、ギコが続いた。 (;^ω^)「お? お? み、みんな、本気でやるつもりかお?」 (,,゚Д゚)「当たり前だろ」 ('A`)「お前はどうなんだよ」 (;^ω^)「で、でも、こんなん卑怯で―――」 ( ゚∀゚)「ブーン」 ブーンの声は、ジョルジュに遮られる。 彼の声は、その表情と同じくらいに鋭かった。 ( ゚∀゚)「甘ったれるなよ。お前も“管理人”と戦うんだろ? 昨日解散した後、お前は何を想ったんだ? ショボンの事は想わなかったのか?」 (;^ω^)「……想ったお」 ( ゚∀゚)「だったらここで、お前は『卑怯だ』なんてほざいてるべきじゃないと思うがな。 “管理人”に勝つ為には、強くならなきゃいけない。どんな手を使っても、な」 ( ^ω^)「…………………ッ!」 ( ゚∀゚)「……やるぞ、ブーン」 そう言い終えると、ジョルジュは何もなかったかのようにフサに向き直した。 ブーンは一人、自分の考えの甘さに唇を噛み締める。 そうだ。 昨日、ショボンの為に戦うって決めたじゃないか。 ブーンの足は、ゆっくりと前に出て――― そして彼は、フサに相対した。 ( ^ω^)「やるお。フサさん、お願いしますお」 ミ,,゚Д゚彡「おう。かかってこい。“力”をフルに使って、全力でな。 手加減はするなよ。訓練の意味がなくなる」 ('A`)「手加減しないってのはショボンとの訓練でもう習得済みだ。安心しろ」 ミ,,゚Д゚彡「なら問題ないな。来い」 ( ^ω^)「おっ!!」 声と共に響くは、三つの異音だ。 ブーンの足は白銀の異形へと変化し、 ギコの右腕は紅の蜥蜴のようなそれへと変化し、 ジョルジュの右腕は橙色へ変化し、その手首からブレードを生やす。 (,,゚Д゚)「あんたもさっさと解放しろよ」 ミ,,゚Д゚彡「必要になったら解放するさ」 (,,゚Д゚)「……必要でないと言いたいのか?」 ミ,,゚Д゚彡「まぁ、そうだな。解放なんざしなくとも、俺はお前達には負けない」 (#゚Д゚)「―――ふざけんのも大概にしろよゴルァッ!!」 叫んで、その右腕を前に突き出した。 そこから吐き出される物は、凄まじい熱を持つ炎の龍だ。 ミ,,゚Д゚彡「ふん」 対するフサは、横へ大きく跳ぶ。 炎は彼の身体があった空間を灼き尽くして、その役目を終えた。 しかし。 (#゚Д゚)「ずぁああぁあぁっ!!」 焔から逃れたフサに、ギコが迫った。 容赦なく振り下ろされる右腕は、しかしフサを捉えられない。 フサはわずかに上半身を引くだけで、その右腕をかわしたのだ。 ギコは舌打ちして、右足を跳ね上げる。 しかしそれはフサの左肘によって防御され――― ミ,,゚Д゚彡「隙あり」 突き出された彼の右拳は、ギコの右胸を殴打した。 (;゚Д゚)「がっ―――!」 一瞬呼吸が出来なくなり、身体の動きが制止する。 その次の瞬間には、彼はフサに蹴り飛ばされていた。 (;^ω^)「ギコ!」 ブーンは凄まじい速さで動き、吹き飛ばされたギコの身体をキャッチする。 彼の腕の中でむせかえるギコは、忌々しげに舌打ちした。 (;゚Д゚)「げ、げほっ……も、もう大丈夫だ、ブーン。降ろしてくれ」 (;^ω^)「お? でも……」 (;゚Д゚)「良いから!」 (;^ω^)「おっ……」 ブーンの腕から降りたギコは、一歩前に出ると、怒りを露にする。 眼は鋭く細められ、口元では獣のように八重歯が覗く。 その右腕からは、鱗と鱗の間から炎がちろちろと舌を出していた。 ミ,,゚Д゚彡「どうした? どうやら俺はまだ倒されていないようだが」 (#゚Д゚)「貴様ァ……!」 ミ,,゚Д゚彡「良いからさっさと来い。勝負をつけてやる」 手招きするフサ。 ギコは咆哮をあげると、走り出した。 怒りに押されるようにして、速度と勢いをどんどんと増していく。 右腕から溢れ出る炎もその勢いを増し、炎の残像を跡に残していった。 (#゚Д゚)「おぉおあぁあぁあぁっ!!」 右の拳を握り締める。それと同時に、右腕が炎を纏った。 右腕が、袈裟がけに凄まじい勢いで振るわれる。 しかしフサは、その攻撃もわずかな動作で回避。 勢いがあった為に、ギコの腕は横へと流れていった。 そこに生まれるのは、大きな隙。 ミ,,゚Д゚彡「後先を考えていない。隙がありすぎる」 呟いて、ギコに攻撃を加えようと踏み込んだ。 だが――― (#゚Д゚)「勝手にそう思ってなッ!!」 叫びと共に、彼の肉体は更に旋回した。 勢い良く振り抜いた腕の、その勢いを利用して。 彼は一回殴り飛ばされた際に、学習していたのだ。 単調な攻撃だと避けられる、という事を。 ミ,,゚Д゚彡「……隙が出来たと見せかけ、そこに踏み込んだ俺を攻撃する、か。 なるほど、悪くない」 呟く彼の左こめかみには、ギコのハイキックが伸びていた。 しかし彼の足は、結局フサを捉えられなかった。 何故ならば、その足は直撃直前に「殴り落とされた」からだ。 遠心力を味方に付けた高威力の足を、フサは避けるでも防御するでもなく、無理矢理にねじ伏せたのだ。 (;゚Д゚)「おっ!?」 ミ,,゚Д゚彡「途中までは良かったがな―――所詮、この程度だ」 バランスを崩したギコに、フサは拳を飛ばす。 狙う位置は、顎。意識を飛ばすつもりのようだ。 しかし。 ( ゚∀゚)「おぉっと危ない!」 その拳は、そんな声と共に現れた盾に止められた。 見れば、ジョルジュが右腕を盾に変え、ギコとフサの間の空間に伸ばしていた。 ミ,,゚Д゚彡「ちィッ!!」 後方へ跳ぶフサ。 しかし着地と同時、彼の首の後ろには鋭く冷たいものが当てられていた。 ('A`)「後ろガラ空きだぜ、おっさん」 冷たいそれは、ドクオの左腕だ。 フサはドクオの言葉に対して――― ミ,,゚Д゚彡「知ってるよ」 背を向けたままドクオの腕を掴み、そしてジョルジュ達に投げつけた。 (;'A`)「うおっ!?」 (;゚∀゚)「おわぁっ!?」 叫びも虚しく、ドクオはジョルジュとギコに衝突し、吹き飛んだ。 ミ,,゚Д゚彡「残るのは―――」 「僕だお」 声は、上方だ。 ( ゚ω゚)「おぉおおぉぉおぉっ!」 ブーンは天井を蹴りつけ、凄まじい速度で下降する。 そしてその状態から、器用に蹴りの体勢を作り出した。 ミ,,゚Д゚彡「甘い」 フサはそれを難なく避けてみせる。 間髪入れず、彼は着地したブーンに攻撃を加えようとして――― ミ,,゚Д゚彡「むっ?」 振るわれた拳は、空を切った。 一瞬の間に、ブーンの姿は消えていた。 フサの眼が、細められる。 ミ,,゚Д゚彡「……どこだ」 「ここだお」 声は、背後からだ。 同時に押し寄せてくる見えない圧力に、フサは上半身をかがめる。 その一瞬の後、彼の頭の上をブーンの足が通り過ぎた。 (;゚ω゚)「おっ!?」 ミ,,゚Д゚彡「速いな。だが、それだけだ」 跳ね上がったフサの足は、避けようとしたブーンの肩を捉える。 だがブーンは退かない。更に一歩踏み込み――― ミ,,゚Д゚彡「単純だと言っている」 横薙ぎに振るわれたブーンの足は、しかし跳んでかわされた。 得たものは、報復の拳のみ。 フサの拳はブーンの腹に深々と突き刺さり、彼を吹き飛ばす。 しかしブーンは倒れない。むせかえりながらも、その眼はしっかりとフサを睨みつけていた。 ( ゚ω゚)「おぉおぉおおおぉっ!!」 ミ,,゚Д゚彡「……何度繰り返せば―――」 距離を詰めてくるブーンに対し、今度はフサも前に出る。 そしてちょうどブーンの頭蓋を捉えるタイミングで、足を振り上げた。 ミ#゚Д゚彡「分かるッ!?」 しかし。 その足からは、何の手ごたえも伝わってこなかった。 ミ;゚Д゚彡「なッ―――!?」 見れば、ブーンの足が止まっている。 床を蹴るようにして無理矢理止まったのか、床は少し削れていた。 ( ゚ω゚)「フェイントだお。……僕達を舐めるなお」 静かな呟き。 それに反するかのように、爆発的な勢いで跳ね上がる白銀。 (#゚ω゚)「おぉおおぉおおおぉっ!!」 ミ#゚Д゚彡「あああぁぁああぁぁあぁっ!!」 二つの咆哮が重なり、鈍い音が響いた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 質素なベッドがいくつか並ぶ、床も壁も天井も真っ白な部屋。 病院を思わせるその部屋には、三人の人間。 つー。そして、流石兄弟だ。 いくつかあるベッドの内、二つは流石兄弟によって使用されている。 つーは二人のベッドの間で椅子に座り、二人の看護をしているのだ。 (*゚∀゚)「……本当にひどい傷だね。命があるのが不思議なくらい」 ( ´_ゝ`)「私達の回復力と耐久力は、ただの異能者のそれとは違う」 (*゚∀゚)「確かに、ものすごい勢いで治ってるね。でも」 (´<_` )「分かっている。言わないでくれ」 そこで弟者は、微かに表情に苦々しさを浮かべた。 彼の左腕は今、肘の上までしかない。 左腕を丸々、ジョルジュに切り落とされてしまったのだ。 凄まじい再生能力を持つ彼とは言え―――今に限っては、その再生能力は半減していた。 何故ならば、再生している箇所が左腕だけではないからだ。 よく見てみれば、彼の全身には至る所に銃創がある。 ドクオの銃による傷跡だ。 そして腹部には、一際大きく痛々しい傷。 穴とも呼べそうなくらい深いその傷口は、ギコの腕によるものだ。 極度まで熱された彼の腕は、弟者の腹から背中にかけてを貫通し、傷口を炭化させた。 それによって出血は減ったものの、再生には余計に時間がかかっていた。 ( ´_ゝ`)「今回は、やられすぎた。再生に時間がかかって仕方がない」 呟く兄者の腕は、ギプスでがっちがちに固められている。 彼の両腕はブーンに砕かれた為に、動かす事が出来ないのだ。 彼は腕だけでなく、全身の至る所の骨が危ない状況にある。 ブーンに蹴り落とされた時の衝撃が、全身の至る所に深刻なダメージを与えたのだ。 (*゚∀゚)「……痛くない? 大丈夫?」 ( ´_ゝ`)「あぁ、大丈夫だ。私達にはほとんど痛覚はない」 (´<_` )「ただ、傷口が熱いな。どうにも、この感覚には慣れない」 (*゚∀゚)「大丈夫? 身体を冷やせそうなもの、持ってこようか?」 ( ´_ゝ`)「大丈夫だと言っているだろう。何度も言わせないでくれ」 (*゚∀゚)「あっ……ご、ごめんなさい」 (´<_` )「……あなたは他人の事を心配しすぎだ。自分自身の心配をした方が良い」 (*゚∀゚)「え?」 (´<_` )「とぼけるのは良くない。あなたも気付いている筈だ。 もう一人のあなたによる“侵食”が、危ない域まで進んでいる事に」 (*゚∀゚)「……何で分かるの?」 (´<_` )「ここ最近、あなたの言動がおかしい。不自然だ。 そして何かに耐えるような仕草が段々と増えている」 (*゚∀゚)「バレちゃってたんだ。隠してるつもりだったんだけどな」 彼女の中には、もう一人の彼女がいる。 血と殺意に飢えて狂う、まさに殺人狂の彼女が。 彼女は、つーの“力”だ。 戦えない彼女の代わりに戦う、戦闘の為の―――生きる為の人格。 人格が“彼女”に代われば、つーの戦闘能力は飛躍的に上がる。 しかし“彼女”は、段々とつーの肉体を侵食していた。 最初は、“彼女”と自分を自由に入れ替えられた。 それが段々と自由に戻れなくなり、最近に至っては“彼女”が全てを支配しようとしてきている。 こうして普通に生活している時も、気を抜けば“彼女”に取って代わられそうなほどに。 彼女は、恐怖していた。 ( ´_ゝ`)「そういえばつーさん。あなたは、何故“管理人”に?」 (*゚∀゚)「何故って?」 ( ´_ゝ`)「別に。あなたの戦う理由を聞きたくなっただけさ」 (*゚∀゚)「簡単な事だよ。この“力”を理由に私を迫害した人間達が憎くて―――」 ( ´_ゝ`)「嘘だな」 (;*゚∀゚)「えっ?」 (´<_` )「……あなたはこの前の大殺戮の時、ミンナを止めようとしたそうじゃないか。 それだけではない。いつもどこか遠回しに、人間を殺す事を止めようとしていた」 (;*゚∀゚)「…………………」 (´<_` )「“管理人”に所属する、本当の理由を教えてくれ」 (*゚∀゚)「……私の居場所はここしかないから。 それとハインに、もう一人の私の暴走を止めてもらう為」 ( ´_ゝ`)「居場所がない? 異能者だからか? しかしあなたは外見上、異能者だとは思われないだろう?」 (*゚∀゚)「違うの。私は、社会に戻れないの。もう、戻れないの。 ……戻っては、いけないの」 (´<_` )「? 何故だ?」 (*゚∀゚)「……私は、全てを殺しつくしてしまったから」 呟いて、彼女は拳を握り締めた。 (*゚∀゚)「父さんも母さんも姉さんも兄さんも、友達も、先生も、みんなみんな。 止めようとしてくれた警察の人も、みんな殺してしまったの」 ( ´_ゝ`)「“彼女”が、覚醒した時だな」 頷いて、彼女は続ける。 (*゚∀゚)「私の意識が戻った時、私はどこかの森の中にいた。 そこにハインが現われて―――私に手を差し伸べてくれた」 (´<_` )「そして辿り着いた先がここ、と?」 (*゚∀゚)「そう」 ( ´_ゝ`)「だが―――その気になれば、あなたは社会に戻れるのではないか?」 (*゚∀゚)「無理だよ。私はいつ、彼女に侵食されてしまうか分からない。それに―――」 (´<_` )「ん?」 (* ∀ )「……怖いんだ」 ( ´_ゝ`)「怖い?」 (* ∀ )「人と親しくなる事がね。 親しくなればなるほど―――一緒にいる時間が増えれば増えるほど、私はその人を殺しかねない。 怖いんだ。もう、大切な人を失いたくない。もう、そんな思いは……もうしたくないの」 (´<_` )「なるほど、な」 ( ´_ゝ`)「一つ質問良いかな? あなたの人格が“彼女”の時、あなたはどうなっている? 意識はないのか?」 (*゚∀゚)「あるよ。ただ、どうする事も出来なくなってる。 感覚は伝わってくるんだけど、自分の身体を自分の意志で動かせないの。 身体が自分のものじゃなくなるというか―――行動する権利を奪われた状態かな」 と、その時。 その部屋に―――いや、“管理人”の研究所内に、サイレンが響いた。 三人同時に顔を上げる。 その視線の先にあるのは、小型のスピーカーだ。 まもなくそのスピーカーから、多少のノイズを含んだ声が溢れ出す。 『―――やぁ、みんな。モララーだ。 話さなきゃならない事が、有る。動くのは辛いかもしれないが、ホールに集まってくれ』 そこでぷつりと、スピーカーからの声は止んだ。 つーはゆっくりと椅子から立ち上がり、二人を見やる。 そして困ったような表情を浮かべた。 (*゚∀゚)「……二人とも、立てる?」 ( ´_ゝ`)「ん? あぁ、立てるが?」 (*゚∀゚)「弟者さんは?」 (´<_` )「同じく」 (*゚∀゚)「ん。じゃあ二人とも、私の肩に掴まって」 ( ´_ゝ`)「……何故だ?」 (*゚∀゚)「だって松葉杖なんかもないし……」 (´<_` )「いや、歩けるが」 言うと、弟者はすっと何事もないかのように立ち上がる。 そんな事が出来る身体ではないというのに。 (;*゚∀゚)「ちょっ……何してるの!? あなたはそんな事が出来る身体じゃ―――!!」 ( ´_ゝ`)「あなたは一つ忘れているな」 言って、兄者も立ち上がる。 ( ´_ゝ`)「私達に痛覚はないんだよ」 (*゚∀゚)「あっ……」 (´<_` )「……本当に、あなたは他人の事を心配し過ぎだ。 行こう、兄者」 吐き捨てるように言って、弟者は歩き出す。 だが三歩ほど進んだ辺りで一度足を止めると――― (´<_` )「……だが、あなたの心遣いには感謝する。ありがとう」 呟いて、また歩みを再開した。 置いて行かれたつーは、不思議そうな表情を浮かべる。 (*゚∀゚)「弟者さんが……あの流石兄弟が、ありがとうって……」 それから彼女の表情は、柔らかな笑みへと変わった。 (*゚∀゚)「……悪くないじゃん」 呟いて、彼女も歩み出す。 向かう場所はホールだ。 つーが着いた頃には、ホールには全員が揃っていた。 ( ・∀・)「うむ、揃ったな」 頷くモララーの身体は、やはりほぼ全身が包帯に包まれている。 未だに、治癒に当てるだけの“力”は回復していないようだ。 メンバーをざっと見てみれば、モララーと流石兄弟以外は問題ないようだ。 プギャーは少しだけ左肩を痛がっているようだが、その痛みもすぐに消える程度のものだろう。 ( ´_ゝ`)「遅くなって申し訳ありません」 ( ・∀・)「良いさ。では、早速話を―――」 ( ゚д゚ )「……その前に、ちょっとよろしいでしょうか?」 モララーの言葉を遮っての、ミンナの呟き。 それに対して、全ての視線がミンナに向いた。 ( ・∀・)「む? 良いぞ。話してみろ」 ( ゚д゚ )「ありがとうございます」 礼を言って、ミンナは深く息を吸い込んだ。 いつもは何の感情も浮かべないその表情が、少しだけ苦く歪んでいるように思えた。 ( ゚д゚ )「みんなに言いたい事がある。 ……申し訳ない」 吐き出された言葉は、謝罪だった。 从 ゚∀从「お? どうしたんだミンナちゃん? 何が申し訳ないってんだ?」 ( ゚д゚ )「“削除人”、及びブーン達を逃がしてしまった事に関してです。 手負いの彼らに―――ほとんど戦闘手段を持っていなかった彼らに、私は敗北しました」 ( ´_ゝ`)「…………………」 ( ゚д゚ )「それも、私はほとんど無傷の状態で、です。 ……私が彼らを止めていれば、“削除人”との長い戦いに終止符を打てたのに」 ミンナの表情は硬く、歪んでいる。 心に抱くは、己に対しての失望だろうか。 ( ゚д゚ )「申し訳ない、と心から思っております。 勿論、それだけで済む等とは思っておりません。 贖罪の為ならば、どんな罰でも受けま―――」 从 ゚∀从「さっきからお前、何言ってんだ?」 ミンナの言葉を遮ったハイン。 彼女の声は、どこか怒りを含んでいるように聞こえた。 ( ゚д゚ )「……ですから、私の失敗を購わせてほしいと」 从 ゚∀从「……ね」 ( ゚д゚ )「む? 今、何と?」 从#゚∀从「くだらねぇってんだよ!!」 (;゚д゚ )「なっ……!?」 叫ぶや否や、ハインはミンナにつかつかと歩み寄る。 それから彼の胸倉を掴み上げると、噛み付きそうなまでの勢いで言った。 从#゚∀从「止めていればだの勝っていればだのよ、過ぎた事をグチグチほざいてんじゃねぇぞ!! 暗ぇ顔して『あーしてれば、こーしてれば』ってよ!! 話してりゃ結果が変わるのかよ!? まったく気持ち悪ィ! それでもテメェは男か!! 股間にゃしっかりイチモツ付いてんだろうが!?」 そのまま彼女は、ミンナを軽く押し飛ばす。 ミンナはたたらを踏むと、訳が分からないといった顔で呟いた。 (;゚д゚ )「な、何を……」 ( ^Д^)「ミンナ」 混乱するミンナに、プギャーは静かに告げる。 ( ^Д^)「『もしかして……』なんて話をするほど無駄な事はないだろ。 あまつさえ、もしかして強ければだと? そんなのは俺が言いたいくらいだ。 ( ^Д^)「……俺には敵に打ち勝つどころか、大切な人を護りきる力すらなかったんだ。 でもそんなのは誰でも言える言葉だ。そんな言葉は、いくらでも出てくる」 从 ゚∀从「その通りだ。もっと強ければ勝てた、なんてのは誰にでも言える。 テメェは頭良いんだろ? 考えりゃ分かったはずだ。 つまりお前のその話は、単なる逃げだ。過去に逃げるなよ。未来を、今を見つめろ」 ( ゚д゚ )「…………………」 从#゚∀从「分かったのかよ?」 ( ゚д゚ )「……はい。分かりました。すいません。 もう二度と、そのような事は口にしません」 从 ゚∀从「よろしい」 ハインに頭を下げて、ミンナはモララーに向き直した。 それからモララーにも頭を下げる。 ( ゚д゚ )「くだらない事で話を止めてしまい、申し訳ありません。 本題をお願いします」 ( ・∀・)「あぁ。では、話そうか。 話す内容は単純だ。次の戦闘についてだ」 (´<_` )「次の戦闘について。それはつまり、準備及び作戦等の会議という事ですか?」 ( ・∀・)「まぁそうなのだけどね、少しだけ聞いてもらえるかな。 今回の戦闘―――“削除人”及び少年四人との戦闘は、いつになく苦しいものになったな。 現にこうして、流石兄弟と私は戦闘不能の状態になってしまっている」 ( ・∀・)「クックルを打ち取る事は出来たが、油断は出来ない。むしろ、警戒すべきだ。 大きな戦力を失った奴らは、玉砕覚悟で攻め込んでくるだろう。 それもおそらく、少年四人を味方として戦線に組み込んで、だ」 ( ^Д^)「ブーン達を? ……何故ですか?」 ( ・∀・)「彼らも戦力―――ショボンという仲間を失ったからだよ。 仲間の仇打ちをしなくてはならない。だがこのままでは勝てない。戦えない。 “削除人”も、少しでも戦力を得たいところだ。双方の要望が一致する」 ( ´_ゝ`)「しかし、あの“削除人”が彼らを仲間にしますか? 彼らも異能者です。“削除人”が異能者と組むという可能性は低いように思えますが」 ( ・∀・)「組むよ。何せクーにとっては、ブーン達は仲間を助けた恩人だ。 それに、ブーン達の戦闘能力が低くないという事も知っただろう。 戦力を得たい今、彼女にとってブーン達は格好の存在というわけだ」 ( ・∀・)「“削除人”の一人一人が更に力を付け、なおかつブーン達もあちら側に付く。 そうなれば、次の戦闘の結果は分からない。……いや、正直に言えば、負ける要素が大きい。 こちらは七人。あちらは五人と四人で九人だ。さて、今のままでは苦しい戦いになるね。どうすべきかな?」 ( ´_ゝ`)「単純に強くなるしかないのでは?」 ( ・∀・)「正解。それしかないわけだ」 从 ゚∀从「強くなる? どうやってだよ」 ( ・∀・)「戦うしかあるまい? 命を賭した戦いの中での強さは、戦いの中でしか育たない」 その言葉を聞いて、ハインの表情が歪む。 心底楽しそうな、危険な笑みの形に。 从 ゚∀从「最初ッから言えよ、つまらない前置きなんざ話さないでよ? よっしゃ、戦ろうぜ。相手はあんたか? それとも他の奴か? 誰でも良いぞ。さっさと戦ろうぜ」 ( ・∀・)「こうなると思ったよ」 苦笑して、モララーはメンバーを見渡した。 メンバーと言っても、流石兄弟は戦える状態にない為、視線はプギャーとミンナ、そしてつーを往来する。 ( ・∀・)「さて、誰がハインと戦る?」 (;^Д^)「…………………」 (*゚∀゚)「……あ、あの」 ( ・∀・)「む? どうした、つー? 戦りたいのか」 (*゚∀゚)「ちッ、違うんです。ちょっと具合が悪くって……ちょっと部屋に戻っても良いですか?」 ( ・∀・)「……む。良いぞ。治り次第、また来い」 (*゚∀゚)「すいません、ありがとうございます」 頭を下げて、つーは部屋へと向かった。 ( ・∀・)「さて、誰か戦う意思のある者は?」 応じる声は、ない。 モララーは溜息を吐くと、やれやれと言いたそうな表情で前に出た。 ( ・∀・)「ならば私が行こうじゃないか」 (;^Д^)「モララーさんッ!? 傷が……!」 ( ・∀・)「良いさ。構わない。それよりもお前達は、隅に移動していろ。危険だぞ」 手を振って、モララーは笑ってみせる。 対してハインは、歩み出てきた彼に眉根を寄せた。 从 ゚∀从「大丈夫なのかよ? 手加減はしねぇぞ?」 ( ・∀・)「良いからかかってこい。『つまらない前置きなんざ話さないでよ』?」 从 ゚∀从「……上等」 笑って、ハインは疾駆。 極度まで姿勢を前傾にし、滑るようにして迫る。 从 ゚∀从「ひゃぁぁっほぉぉおぉぉッ!!」 単純な、故に強力な拳が伸ばされた。 しかしそれはモララーの掌で音を経てて停止。 ハインもモララーも、引こうとはしない。 力比べをしているかのような押し合いだ。 从#゚∀从「あんたとこうして戦うのも……ッ」 (#・∀・)「あぁ……久しぶりだ……なッ!!」 叫ぶのと同時、モララーは彼女の拳を横に払う。 間を置かず踏み込み、回転するようにして、彼女の首筋に手刀を振るった。 从 ゚∀从「予想通りだってんだ!」 彼女はしゃがみこんで、手刀を回避。 それから床に手を付くと、逆立ちするようにして、モララーの顎目掛けて蹴りを放つ。 ( ・∀・)「ふっ!」 対して彼は、上半身を反らしてその蹴撃から逃れた。 それと同時に彼女の足を掴み、投げ飛ばす。 投げ飛ばされた彼女は、無理な体勢から華麗に着地。 そしてニヤリと笑うと、両腕を覚醒させた。 从 ゚∀从「怪我してる割にやるじゃねぇか! 全開でいイカしてもらうぜ!!」 ( ・∀・)「解放したところで何も変わらんさ。 だが、良いだろう。来い。叩きのめしてやる」 手招きして、ウィンクする。 彼女は咆哮をあげ、走り出した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 戻る 目次 次へ |