三十五章一三十五章 前夜 空間が切り裂かれたかと錯覚する、速く重い大剣の斬撃。 豪風を纏って右から横薙ぎにされたそれは、しかし狙った獲物を捉えられずに左へと抜ける。 二メートルにも及ぶ刀身を回避した影は、異形の右腕を硬く把持。 対して大剣を持った影は、抜けた斬撃の勢いに任せて旋回。 鋭く短い呼気が二つ。 続いて、散らされた風の咆哮が、これも二つ。 一瞬。 振るわれた拳と大剣が、衝突した。 飛び散る火花。耳の痛くなるような、高い金属音。 衝突の余りの勢いに、破裂するように散った風は、二人の髪を激しくはためかせた。 しかし、それだけ。 互いの攻撃はしっかりと互いを捉え、互いの攻撃を封じていた。 だがそれで、衝撃は殺されたわけではない。 衝撃は互いの全身と、互いの得物が受けていた。 大剣の刃には浅く細くヒビが入り、異形の拳には浅くはない一筋の線が刻まれている。 一方。大剣を握る両腕には、電撃が走ったような衝撃。感覚が麻痺する。 一方。異形の腕を支える上半身には、とてつもない重圧。骨という骨、筋肉という筋肉が軋みをあげた。 しかし、二人は退かない。 それぞれ、更なる攻めの姿勢に入った。 大剣の持ち主はその大剣に全体重をかけ、拳を打ち斬ろうと。 異形の拳の持ち主は更に半歩踏み込み、大剣を打ち飛ばそうと。 金属の擦れ合う、鋭くも重い厭な音。 互いの力は拮抗しているようで、互いに押す事も引く事もない。 凄まじい力を内に込めた、一瞬の停滞。 それは、次の一瞬で解けた。 異形が、紅き炎を纏う。 同時、大剣が真っ二つにへし折れる。 刹那の時すら置かず、半分になった大剣が翻った。 大剣は床に浅く突き刺さり、主はそれを支点に宙へと浮かび上がる。 跳んだ男の下で踊るは、炎だ。 まさに龍のごとき勢いで空気を焼き、直線状にある全てを飲み込んだ太い炎の線。 しかしその胴体に突然、ぽっかりと穴が開いた。一部の炎が消えたのだ。 炎の線に穴を開けたのは、宙からの大剣の一振り。それが生み出した風だ。 炎が消えたその点に着地して、影は走る。 それに応じるように、もう一つの影も。 片や半分の大剣で道を切り開き、片や異形の腕で炎を薙ぎ払って猛進。 散らされた炎は紅い花びらのように舞い、二人の顔を明るく照らした。 二人の距離は、瞬く間にゼロへ。 斬撃が、右下から左上へ跳ね上がる。首を刈るように。 龍を思わせる爪が、薙ぐように振るわれる。首を刈るように。 (,,゚Д゚)「終わりだ」 ( ´∀`)「終わりだもな」 一瞬。全ての音が、消える。 大剣はギコの首の寸前で止まり、ギコの爪もモナーの首の寸前で止まっていた。 そして――― ミ,,゚Д゚彡「ドローだ」 フサの低い声が響いた。 長く溜息を吐いて、二人は構えを解く。 どっと噴き出した汗を拭って、モナーは半分になった大剣を床に落とした。 半分になったというのに、床に落ちた大剣は重々しい音を経てる。 その音と同時。重なるように異音が鳴って、ギコの腕が元に戻った。 (,,゚Д゚)「チッ……まだ勝てないか」 ( ´∀`)「いや、君は相当に強くなってるもな」 ちらり、と床の剣に視線をやる。 相当に頑丈であったそれは、もはや見る影もないほどにボロボロになっていた。 あと一撃でも受ければ、残った半分の刃すら破砕されていただろう。 ( ´∀`)「この大剣―――ツヴァイハンダーが折られるとは、思ってもなかったもな。 それも、たった数度の攻撃で。これは予想外だもな。 対して君は、ほとんどダメージがない。戦闘が長引いていたら、間違いなく僕は敗けていたもな」 (,,゚Д゚)「ダメージがない? そうでもねぇぞ。 一撃で、解放した状態の拳に深い傷が入った。 ……ただの武器で、何でそんな事が出来るんだ?」 ( ´∀`)「異能者に相対するには、それなりの武器の扱い方ってのがあるんだもな。 それをマスターしてれば、ただの武器でも傷くらいは付けられる。 でも、やっぱりそれで与えられるダメージなんて高が知れてるもな」 (,,゚Д゚)「む……そうなのか」 額から流れてくる汗を、顔を振って払う。 (,,゚Д゚)「フサ、次は誰が戦うんだ?」 ミ,,゚Д゚彡「今日は終わりだ」 (,,゚Д゚)「お?」 時計に視線を飛ばした。 その針が示すのは、まだ夕方にもなっていないであろう時刻。 だから、ギコの頭の上にはハテナが浮かんだ。 いつもは深夜近くまで訓練しているのに、何故だ、と。 (,,゚Д゚)「まだこんな時間だが」 ミ,,゚Д゚彡「分かってるさ。時計を見間違えたわけではない。 これまでだ、と言ったのにはそれなりに理由がある」 (,,゚Д゚)「理由……?」 川 ゚ -゚)「みんな、集まってくれ」 不意に、凛と響き渡る透き通った声。 それにいくつかの返事が応え、足音が彼女の元に集う。 ( ^ω^)「お? どうしたお?」 川 ゚ -゚)「今日の訓練は、ここまでだ」 ('A`)「あ?」 ( ゚∀゚)「ん、んー? 短くね? 何かあんの?」 川 ゚ -゚)「あぁ。だが、ここで話すのは、適切ではない。 ミーティングルームに移動しよう。そこで、話す」 言い置いて、クーはさっさと歩み去ってしまった。 それを追うようにして、他のメンバーも続く。 残されたブーン達は、それぞれ混乱の表情を浮かべた。 (,,゚Д゚)「……何なんだ、こんな唐突に」 ( ゚∀゚)「表情からして、結構真面目な話だと見た」 ( ^ω^)「真面目な話……何なんだお?」 ('A`)「さぁな。行ってみなきゃ分からねぇ。 ここでウダウダ言ってても無駄だ。さっさと行くぞ」 冷たく言い残して、ドクオもふらっと部屋から歩み出る。 それに一つ遅れて、ジョルジュが動いた。 ブーンとギコの服の袖を掴んで、ぐいぐいと引っ張る。 ( ゚∀゚)「うん、確かにドックンの言う通りだ。 行けば話を聞けるんだから、ここで考える必要はないね。行こ?」 ( ^ω^)「……お! 行くお!」 納得した面持ちで頷き、半ば走るように部屋を出るブーン。 それに対してギコはやはり自分からは動かず、 (,,゚Д゚)「……何か、嫌な予感がすんなぁ」 そう呟き、ジョルジュに引っぱられながら部屋を出た。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 川 ゚ -゚)「明日、“管理人”の所へと攻め込む」 全員がミーティングルームに揃って、開口一番。 クーは、刀のような鋭さを持った声で言った。 息を呑む音。 疑問と混乱の、小さな呻き。 質問の声が返ってくる前に、クーは再度、口を開く。 川 ゚ -゚)「言った筈だ。モナーが戦線に立てるようになり次第、出向くと。 先ほどの戦闘で分かっていると思うが、モナーは既に十分戦える。 つまりこれ以上、決戦の時を先延ばしにする必要性はないわけだ」 川 ゚ -゚)「今日の戦闘訓練を早く終わらせたのは、明日の為だ。 疲れを取る為に。また、最後の覚悟を決める時間を取る為に。 ……さて、質問はあるか?」 明確な声は、返ってこない。 混乱の混じった不明瞭な呻きは漏れるが、質問や意見などは出なかった。 当然の事だ。 突然の発表とは言え、分かっていた事なのだから。 この時の為に―――決戦の時の為に、彼らは訓練をしていたのだから。 ('A`)「……とうとう、か」 川 ゚ -゚)「あぁ。明日で、全てが終わる。 勝っても、敗けても」 ( ^ω^)「敗けるわけにはいかないお。 敗けたら、また罪のない人がたくさん殺されるお」 (,,゚Д゚)「あぁ。奴らは、許しちゃいけねぇ。 これ以上命を奪わせちゃいけねぇし、これまでに奪った命の贖罪をしなきゃならねぇ。 ……それに、ショボンの想いを無駄にするわけにはいかねぇ」 ( ゚∀゚)「…………………」 ξ゚△゚)ξ「クー姉さん。明日の作戦は?」 川 ゚ -゚)「あぁ、今話そう」 立ち上がり、クーはホワイトボードの前に立った。 そして「注目」と、その表面をこつこつと叩く。 川 ゚ -゚)「本来ならば、フサやギコ、ブーンなどの攻撃力に優れた人員を正面から突入させる筈だった。 最初に蹴散らし、その勢いに乗って一気に攻め立てる事が出来るからだ。 しかし、今回はそうはいかない」 ( ゚∀゚)「何でさ? それが一番だと思うんだけど」 川 ゚ -゚)「事情が変わったんだ」 クーは黒のペンを手に握ると、それをホワイトボードに走らせた。 描かれたのは、多少歪な正方形。 川 ゚ -゚)「上空から見れば、“管理人”の基地は、およそこんな形をしている。正方形だ。 今までは―――少なくとも、この前の戦闘の時までは、出入り口の扉はここにしかなかった。 正方形の、底辺。方角で言えば、南側」 今度は赤いペンを持つ。 それで正方形の底辺、その中心辺りに小さな丸を描いた。 川 ゚ -゚)「しかし」 赤いペンが、更に三つの丸を描く。 正方形の四つの辺全てに、赤い丸が描き込まれたのだ。 ('A`)「……扉が、増えた?」 川 ゚ -゚)「正解だ」 頷き、クーは手に握ったペンでモナーを指した。 その動きだけで伝わったのか、モナーは立ち上がり、その口を開く。 ( ´∀`)「偵察に行った時に、発見したもな。 東西南北、すべての方角の壁に、扉が作られていたもな」 (,,゚Д゚)「……しかし、何故扉を? 罠なんかを仕掛けるなら分かるが、扉とは……」 ( ´∀`)「おそらくは、逃亡用の扉だもな。 モララーが『失った“力”が回復しない内に襲撃を受けたら』という事を考えて造ったんだと思うもな」 ('A`)「その扉自体がトラップである可能性は? 開けようとすれば爆発する、なんて事はないだろうな」 ( ´∀`)「ないと思うもな。扉は、見付けづらいように作られていたもな。 罠だったら、見付けやすい造りにする筈だもな」 ('A`)「なるほど、確かに」 ( ´∀`)「でもおそらく、トラップはあるもな」 ( ^ω^)「お? どんなのだお?」 ( ´∀`)「あの基地、それ自体」 (;^ω^)「お?」 ( ´∀`)「考えれば分かるもな。 まず、入口が一つしかないと思ってる僕達が正門から入る。 それをカメラか何かで把握した奴らは、東・西・北の扉から脱出」 ( ´∀`)「その直後―――例えば爆弾か何かを基地で爆破すればどうなるもな?」 ( ^ω^)「……一網、打尽だお」 ( ´∀`)「もな」 (*゚ー゚)「で、どうするのさ? 入口は四つある、トラップもあるかもしれない。 それを知った上で、どうするの?」 川 ゚ -゚)「東西南北、四つの方角に―――四チームに分かれる」 間を置かず返して、四つの赤い丸からそれぞれ線を伸ばした。 その先に書いていくのは、名前だ。 川 ゚ -゚)「南、つまり正門から私とドクオが突入する。 そして数分おいて、東の扉から、ブーンとツンが。 西の扉から、ジョルジュとモナーが。そして裏手、北側からフサ・ギコ・しぃに突入してもらう」 ξ゚△゚)ξ「そのチーム分け、どうやって決めたの? イマイチ分け方が分からないんだけど」 川 ゚ -゚)「メンバーの個々の能力と、起り得る可能性から弾き出したメンバー分けだ。 フサ、説明を」 ミ,,゚Д゚彡「俺か。まぁ、良いがな」 言いつつ、立ち上がる。 面倒臭そうな口ぶりの割に、声には張りがあった。 ミ,,゚Д゚彡「まずクーが正面から突入する事によって、相手に『来た』と思わせる。 しかしそこで戦闘になった場合に、クー一人では苦しい物がある。 よって、戦闘能力が高く、かつ状況判断能力に長けるドクオがパートナーとして共に戦う」 ミ,,゚Д゚彡「東チーム、及び西チームはバランスの良いチームにした。 ブーンもツンも、ジョルジュもモナーも、攻撃と防御の両方が出来る人間だ。 相性を考えて、ブーンとツンを組ませ、ジョルジュとモナーを組ませた」 ( ^ω^)「相性を考えて?」 ( ´∀`)「ツンちゃんの“力”は、近くの異能者の“力”を翼にトレース、そして放つ事。 君とツンちゃんが組めば、ツンちゃんの“力”が生きるんだもな」 ( ゚∀゚)「なーるほど。俺っちとツンさんが組んでも、あまり意味がないわけだね。 俺の“力”をコピーしても、翼が変幻自在になるだけだもんね。 変幻自在の翼……意味分からんね。どうなんの?」 ξ゚△゚)ξ「翼という本来のフォルムは変えられないから、発射した羽根の一本一本の形を変えられる事になるわ。 でもまぁ、意味はないわね。威力なんかが変わるわけじゃあないから」 ミ,,゚Д゚彡「まずクーが正面から突入する事によって、相手に『来た』と思わせる。 しかしそこで戦闘になった場合に、クー一人では苦しい物がある。 よって、戦闘能力が高く、かつ状況判断能力に長けるドクオがパートナーとして共に戦う」 ミ,,゚Д゚彡「東チーム、及び西チームはバランスの良いチームにした。 ブーンもツンも、ジョルジュもモナーも、攻撃と防御の両方が出来る人間だ。 相性を考えて、ブーンとツンを組ませ、ジョルジュとモナーを組ませた」 ( ^ω^)「相性を考えて?」 ( ´∀`)「ツンちゃんの“力”は、近くの異能者の“力”を翼にトレース、そして放つ事。 君とツンちゃんが組めば、ツンちゃんの“力”が生きるんだもな」 ( ゚∀゚)「なーるほど。俺っちとツンさんが組んでも、あまり意味がないわけだね。 俺の“力”をコピーしても、翼が変幻自在になるだけだもんね。 変幻自在の翼……意味分からんね。どうなんの?」 ξ゚△゚)ξ「翼という本来のフォルムは変えられないから、発射した羽根の一本一本の形を変えられる事になるわ。 でもまぁ、意味はないわね。威力なんかが変わるわけじゃあないから」 ( ゚∀゚)「あー、なるほど」 ξ゚△゚)ξ「それと、ツンさんって呼ばないで。何度言えば分かるの?」 (;゚∀゚)「だって『ツンちゃん』って馴れ馴れしいじゃんか」 ξ゚△゚)ξ「うっさいわね。逆に、『ツンさん』ってのがよそよそしいって思わないの? 私達、今は仲間なのよ? 少しはその辺考えなさいよ」 (;゚∀゚)「……へーいよ」 ミ,,゚Д゚彡「話を戻すぞ。裏手、つまり北側から突入するチームは、他チームよりもやや戦闘力を高めた。 何故ならば、モララーが脱出するのに使う可能性が一番高い扉が、ここだからだ。 逃げる奴を仕留められるだけの力が、ここには必要だった」 ミ,,゚Д゚彡「だから、俺とギコとしぃがここについた。 高い攻撃力を保持する三人だ。かつ、この三人であればバランスも良い。 俺は近距離を。しぃは遠距離を。ギコは近距離でも遠距離でも戦闘出来る」 (,,゚Д゚)「なるほど、な」 (*゚ー゚)「ふむふむ。良い人員配置だね」 川 ゚ -゚)「今回の作戦は、大体こんな感じだ。 細かい作戦などは、それぞれのチームで検討してくれ」 ('A`)「随分と大雑把だな。良いのか、そんなんで?」 ξ゚△゚)ξ「あら、私達はいつもこんな感じよ?」 ('A`)「いつもこんな感じって……。大丈夫なのかよ。 これだけの事しか決めないで、問題は起きないのか?」 (*゚ー゚)「縛り過ぎると、不測の事態が起きた時に対応が遅れちゃうんだよ。 必要最低限の事だけ決めて、後は個々の判断。 結局は、それが一番良いんだって」 ('A`)「……ふむ」 頷き、しかしその表情はやはり、どこか納得のいかないようなそれだ。 川 ゚ -゚)「何か意見がなければ、これで解散するが―――何か、あるか?」 返事は、返ってこない。 緊張を孕んだ沈黙の空気を一吸いして、クーは更に言葉を続けた。 川 ゚ -゚)「よし、解散だ。明日は早朝四時に、ホールに集合してくれ。 では―――それまで、それぞれ、思い思いの時を過ごせ」 その言葉に、一人、また一人とミーティングルームから消えていく。 最後まで残っていたのは、結局ブーン達四人だった。 ( ゚∀゚)「……明日だってさ。とうとう、来たね」 ( ^ω^)「……お」 ('A`)「何だ? どうやら、元気がないように見えるが」 ( ^ω^)「不安、なんだお」 ('A`)「何が」 ( ^ω^)「帰れなくなったらって……誰かが死んでしまったらって」 (,,゚Д゚)「死なねえよ。俺達は、な。 敗けない為に―――死なない為に、強くなってきたんだ」 ( ^ω^)「そうだけど……」 ('A`)「失うのが怖いなら、戦わなければ良い」 曖昧に呟くブーンの言葉を、ドクオの声が鋭く裂いた。 僅かに身体を震わせて、ブーンは彼を見る。 ('A`)「これ以上失いたくないなら、戦いなんて辞めてしまえ。 戦わなければ―――今までに失ったものを無視出来るなら、何も失う事なんかない。 傷付かないし、あの平穏な日常に戻れるかもしれない」 ('A`)「実際、俺達が戦わなきゃいけない理由なんざない。 多くの人が死んだところで俺達には関係のない事だし、ショボンの死への悲しみは時が癒してくれる。 冷静に、これまでの事を割り切って考えられるなら、これ以上失う事はないんだ」 (;^ω^)「…………………」 ('A`)「俺としては、そちらを選びたい。お前達を失いたくないからな。 お前達が『そちら』を選んでくれるというのなら、俺は喜んでこの戦いから身を引く。 ……だが、違うんだろ?」 淡々と、何も感情を込めずに吐き出される言葉。 しかしその一言一言はブーンの精神を揺らし、思考を揺らした。 ('A`)「ジョルジュは気に入らない奴らをぶちのめす為に。 ギコは奴らの狂った思考回路をぶっ潰す為に。 そんで、お前は言った筈だ。奴らのせいで悲しむ人をなくしたいってよ」 (;^ω^)「ッ……!」 ('A`)「そう思うのなら、失う覚悟をしろ。 護りたいのなら、何かを失う覚悟をしろ。奪う覚悟をしろ。戦いに赴く覚悟をしろ。 その覚悟が出来ないのならば、ここから消えるべきだ」 ('A`)「お前が望むのならば、今から日常に戻る事も出来る。 己が大切に思う者達を失わないでいられる世界に戻れる。 お前がそれをしない理由は何だ? 言ってみろ」 ( ^ω^)「……人が悲しむ姿を、見たくないからだお。 その悲しみを止める力を持っているのに動かないでいる、なんてのは嫌なんだお。 そうすれば、僕はきっと後悔する」 ( ^ω^)「このまま日常に戻れば、僕は後悔しながら一生を過ごす事になると思うお。 そんなんじゃ、この命の意味がないお。死んでるのと、何ら変わりないお。 ……僕は、この力で、出来るだけ多くの悲しみを止めたいんだお」 ('A`)「言えるじゃねぇか」 笑いもせずに言って、ドクオは眼を細めた。 その眼に浮かんだのは、どこか悲しそうで、懐かしそうな光。 その光は一瞬で眼の中の闇に呑まれ、輝きを失った。 ('A`)「お前がそう言うのなら、戦えば良い。護りたいものを、その力で護ってみせろ。 失う事を恐れるな。恐れれば、全てを失う。 失われる前に、奪え。奪う事で、全てを護ってみせろ」 刺さるような鋭い声。 その矛先はブーンを突き刺してから、ギコに向く。 ('A`)「それはお前にも言える事だぞ、ギコ」 (,,゚Д゚)「……俺か?」 ('A`)「容赦は、するなよ。例え、相手にどんな過去があろうとも」 痛いところを突かれたのか、ギコは眉根を寄せた。 苦々しい表情は、ドクオの言う事を理解しているという事だ。 ('A`)「俺達に戦う理由があるように、敵にも戦う理由があるんだ。 その理由が何であれ、その理由を生み出した過去がどんなものであれ――― お前は、容赦しちゃいけねぇ。お前は、お前の戦う理由だけを抱き締めていれば良い」 (,,゚Д゚)「……分かっている。分かって、いるんだ」 ('A`)「分かってねぇよ。その言葉の淀みが証拠だ」 (,,゚Д゚)「…………………」 ('A`)「言ったように、相手にも戦う理由はある。理由を生んだ、過去がある。 だが、それに意味はないんだ。必要なのは、結果だけ。 理由と過去を土台に、奴らは“管理人”を名乗っている」 ('A`)「お前は“管理人”の思想を憎んだ筈だ。 理由と過去から出した、奴らの結果を憎んだ筈だ。 なら、徹底的にやれ。お前にも戦う理由があって、戦うという結論を出したんだ」 (,,゚Д゚)「そうだが……!」 ('A`)「お前達が迷いを持っていれば、戦いは終わるぞ」 ギコの言葉を無視して、ドクオは言う。 そこに感情は、まったく含まれない。 まるで、わざと隠しているかのように。 ('A`)「敗けて、終わりだ。“管理人”は無数の人間を虐殺し、恐怖と憤怒と悲愴と混沌が世界を支配する。 ブーン。お前が迷っていれば、無数の人が死に、無数の人が悲しむぞ。 ギコ。お前が迷っていれば、奴らは暴虐の限りを尽し、世界が悪一色に染まるぞ」 ('A`)「それが嫌だと言うのなら、迷いを殺せ。奪う側に回る覚悟をしろ。 奪う事で護れ。自分の信念を強く抱いて、手放すな。 自分の正義を貫け。その正義という矛で、奴らの信念を貫け」 そこでドクオは、ブーン達に背を向けた。 そしてドアに歩きながら、顔を見せずに言い放つ。 ('A`)「綺麗な手のままで護れるものなんて、少ないんだ。 自分の手を汚して護るからこそ、護ったものが無事でいれる。 ……信念を貫くとは、つまりそういう事だ。覚悟しておけ」 ドアに手をかけた。 それは間を置かず開かれて、そこで声がかかる。 ( ゚∀゚)「ドックン、どこへ?」 ('A`)「ちょっと、な。俺も、覚悟を決めてくる。 行かなきゃいけねぇところがあるんだ」 ( ゚∀゚)「あまり遅くならないようにねー?」 ('A`)「あぁ」 頷いて、踏み出した。 部屋からドクオが消え―――しかし、その声だけが部屋に残された。 「お前も、覚悟を決めておけよ? ジョルジュ。 戦う事にじゃあなく、自分自身についての覚悟な。 ―――何に逃げているのか知らんが、いつまで逃げているつもりだ?」 「もう、後はないぞ。 逃げられる時間も道も、お前には残っていない」 ( ゚∀゚)「ッ……!」 その言葉に何を感じたのか、ジョルジュは身体をこわばらせた。 歯を食いしばり、拳を握り締める。 数瞬の沈黙。 それから、ジョルジュもドアに向かった。 ( ゚∀゚)「俺もちょっと、やらなきゃいけない事がある。 じゃあ、また後で」 (,,゚Д゚)「あぁ」 やや重苦しい空気を感じながら、ギコは頷く。 ジョルジュもいなくなって、二人きり。 その部屋の中は、無音だった。 (,,゚Д゚)「奪う覚悟……か」 呟き。 それから、何かを自分の中で納得させたのか、頷いた。 (,,゚Д゚)「よし。……ブーン。俺も覚悟を決める。 だからお前も、覚悟を決めろ。 ―――じゃあな。俺も、すべき事が出来た」 返事を待たずに、ギコも部屋から消える。 残されたブーンは――― ( ^ω^)「護る為に―――戦う、かお」 呟き、歩みを進めた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 街外れの公園。 時刻は夕焼け。空からは、薄くオレンジを帯びた柔らかな光が降り注ぐ。 公園の中心で水を吹き上げている巨大な噴水は、その光を受けて美しく輝いていた。 空からの橙を受けて橙に輝く噴水は、さながらスペサタイトの宝石のようだ。 もう冬が近いと言うのに、茂る草木は未だに色を失ってはいない。 紅や黄色になっている木の葉の中には、瑞々しい緑も見える。 枯れきってしまっている葉は僅かだ。 鳥達は木の頭の上で楽しげに鳴き、造った巣へと帰って行く。 噴水の奏でる水音に合わせて響く鳥達の歌声は、美しいハーモニーを生み出していた。 どこか儚くも美しいその空間に、人は存在していない。 噴水の横の木のベンチに腰掛ける、彼を除いて。 細い体。 男にしてはかなり長い、黒い髪。 光のない、しかし奥底には力を湛えた瞳。 ('A`)「…………………」 銀の修飾の付いた黒いコートに身を包んだ彼は、前を見ていた。 彼の眼に映るのは、光を受けて美しく輝く木々―――しかし彼は、それを“視て”はいない。 彼が視ているのは、『世界』だ。 突然失ってしまった、血も死も何もない平和な日常の世界。 大嫌いで、だからこそ失いたくなかった平和な日常の世界。 ふと、左腕に眼をやる。 念じればすぐにでも悪魔の腕になる左腕は、見た目だけは日常のものだった。 細く、白い腕。 何の変哲もない、強いて言えばやや爪の伸びた、ただの腕。 女友達に「綺麗な腕だね」と言われた時は、少なからず困惑したものだった。 だが。 この何の変哲もない腕が、彼を非日常の世界に引き込んだ。 余りにも日常過ぎたこの腕が、彼の日常生活にサヨナラを告げた。 悲しみなんかは、抱かなかった。 血と死と戦いの非日常の世界で、自分はただただ流れていた。 戦う必要があれば戦った。だが、自分から何かをどうするといった事は考えなかった。 だがその流れも、じきに止まる。 流れ着いた先は――― 「ドクッ!」 公園に響き渡った声に、立ち上がった。 見ずとも、それが誰かは分かる。 彼の事を『ドク』と呼ぶのは、つい先ほど呼び出した親友だけだ。 声の方に向き直れば、そこにはドクオの対になるような、前を開いた白いコート。 ダークブラウンの頭髪は、その白いコートと見事にマッチしていた。 歩み寄って来る彼に、ドクオは軽く手を挙げて応じた。 ('A`)「……よぅ」 (=゚ω゚)「ょぅ! 突然、何の用だょぅ?」 ('A`)「まぁ、待て。その用ってのは一言で終わるんだが……。 何だ。その、久しぶりに会ったんだ。ちょっと話そう」 (=゚ω゚)「? あぁ、良いょぅ?」 ('A`)「そうか。……学校は、どうだ?」 (=゚ω゚)「何ら変化はないけど……とても、静かだょぅ。 クラスでの笑い声は三分の一以下になってるょぅ。教室がやけに虚ろだょぅ。 特に男子と、ギコとジョルジュのファンが死んでるょぅ」 ('A`)「だろうな……w」 笑う。 ぃょぅはその笑みに違和を感じて、しかし言葉を続けた。 (=゚ω゚)「あとは、そうだょぅ。でぃさんが、ドクに会いたがってたょぅ。 『話したい事がある』って。彼女以外にも、渡辺さんやペニサスさんも。 やっぱり君達がいないと、ウチのクラスは成り立たないみたいだょぅ」 ('A`)「そうか、そうか。何て言ってた?」 (=゚ω゚)「でぃさんは『……ドクオ君達は? 話したい事があるのだけど』 渡辺さんは『最近ドクオ君いないねー、寂しいなぁー』 ペニサスさんは『ドックンいないねー。つまんないのー。遊びたかったなー』って」 ('A`)「なるほど、な。……はは。ペニサスの遊びとやらには付き合いたくないな。 どうやらそっちもそっちで、上手く行かないようだな」 (=゚ω゚)「ょぅ。何をしてるのか分らないけど―――早く、戻ってきて欲しいょぅ。 みんな、寂しがってるょぅ? あのヒートさんにさえ、元気がないんだょぅ。 だから―――」 ('A`)「悪いな」 ぃょぅの言葉を、突然の言葉が遮った。 勿論の事ぃょぅは理解出来ず、首を傾げて眉根を寄せる。 (=゚ω゚)「……ょぅ? 何を謝ってるんだょぅ?」 ('A`)「俺はもう、そちらには戻れない。おそらく、もう帰れない。 今日呼び出したのは……そうだな、お前と日常にサヨナラを告げる為だ。 おそらくはこれが、お前との人生最後の会話になる」 ('A`)「本当はもっともっと、せめてもう少しだけでも話していたかったんだが……。 これ以上話してると、戻りたくなっちまうからさ。 覚悟が揺らぐ前に、サヨナラを言っておこうと思う」 (;=゚ω゚)「は? ちょ……ドク? お前、何を―――」 ('A`)「死ぬってんだよ」 冷たく、鋭く吐き出された短い声。 諦めと寂しさを含んだ、しかし強い意志。 ぃょぅは意味が分からず、唖然とした顔でドクオを見詰めた。 対する彼は無表情で、ぃょぅに言葉を浴びせる。 まるで、自分に言い聞かせるように。 ('A`)「俺は明日、死ぬんだ。おそらくは、確実に。 だからもう、この世界には―――日常には、帰れないんだ。 だから最後に、日常と完全に決別しておこうと、お前を呼んだ」 ('A`)「だから、言おう。さようならだ、ぃょぅ」 (;=゚ω゚)「……意味が分からないょぅ。説明しろょぅ」 ('A`)「あぁ……そうだな。お前には、話しておこう。 俺に、何があったか。俺がどうして、死ぬ事になったのか―――」 そして、ドクオは語り始めた。 今までの自分に、何があったのかを。 ある日突然、異能者になってしまったという事。 戦う事になってしまったという事。戦い続けてきた事。 そして明日、とうとうその戦いが終わるという事。 自分はおそらく、仲間を護って死ぬであろう事。 ぃょぅはその全てを、無言で聞いていた。 表情は読み取れない……強いて言うなら、複雑そうなそれだ。 ('A`)「―――というわけだ」 語り終えて、ドクオは笑った。 疲れたような、どこか自虐的な笑み。 ぃょぅはそれを見て、悲しそうに眉尻を垂らした。 (=゚ω゚)「ドクオ、君は―――」 ('A`)「そういえば、まだ見せていなかったな」 ぃょぅの言葉を無視して、ドクオは服の左袖を肘まで捲った。 白く細い、どちらかと言えば弱々しい腕。 ('A`)「これが、俺だよ」 言葉と同時。腕が、軋みをあげた。 湿った太い枝をへし折るかのような、痛々しい音。 腕が―――いや、彼自身が悲痛な叫びをあげているかのように、ぃょぅは感じた。 骨の形状・サイズが変異し、表に浮かび上がってくる。 全体的に太く長くなった骨は、まるで骸骨のような外見だ。 その骸骨を装飾するかのように筋肉が隆起し、力強くもどこか不気味な腕となる。 そして肘の辺りから、徐々に肌の色が闇色へと変化していく。 指先まで闇に染まったのと同時、手の甲に現れたのは、黄色に輝く眼のような何か。 そして指先から鋭く長い爪が伸びて、変化が終わる。 その腕は、悪魔の腕そのものだった。 ('A`)「これが、俺の腕だ。悪魔の腕だ。 ドクオという異能者の腕だ」 見せ付けるように掲げて、ぃょぅを見つめた。 ドクオの無感情のその瞳は―――しかしその奥底に、恐怖と寂寥を含んでいた。 それは何の恐怖だろうか。 親友に恐れられてしまうかもしれないという、恐怖だろうか。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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