九章2 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:14:37.16 ID:fe9To+vD0九章 異質 ('A`)「あー……アレか。きっと昨日今日と、てんびん座の運勢は最悪だな」 帰り道。 生気のない眼をした彼は、だるそうにそう呟いた。その声にも生気はない。 左腕は解放しており―――その暗い眼の前には、二人の異能者。 彼は、二人の異能者と対峙していた。 一人は細いスーツを着た細身の男、ミンナ。 もう一人は、ドクオの知らない異能者、プギャー。 眼だけがにやにやと笑っていて、あまり良い感触は持てない。 ミンナは眼の焦点を真っ直ぐドクオに向けたまま逸らす事なく口を開く。 ( ゚д゚ )「そうかもな。運が良いとは言えない」 4 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:17:24.90 ID:fe9To+vD0 ( ^Д^)「いや、お前よかギコって奴の方が不運だと思うが」 ('A`)「ギコがどうかしたか?」 ( ^Д^)「“削除人”。……いや、“あの組織”の二人に狙われたら命ないと思うぜ」 ('A`)「あの組織……あぁ、異能者を殺そうとする組織だっけか」 ( ゚д゚ )「仲間が心配か」 その問いに、ドクオは間髪を入れずに答える。 いや、ブーンやジョルジュ、ギコでも間髪を入れずに答えるだろう。 「当たり前だ」「心配じゃないわけがない」と、彼らは言って、すぐにでも助けに行こうとするだろう。 少なくとも、彼等ならばそう言うだろう。 だが、ドクオの答えは―――間髪を入れずに吐き出された、その低い声は。 ('A`)「いや別に」 ドクオの異端性を、ミンナ達に教えるという結果になった。 5 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:20:40.16 ID:fe9To+vD0 ミンナは、眉を寄せる。 その表情が示す物は、不可解。 (;゚д゚ )「は……?」 ('A`)「俺には人の心配をするほど余裕はない。自分一人で精一杯だ。 しかもあいつらは死なないだろうし、どちらにせよ俺に直接的な関係はない」 それは聞きようによっては「仲間を信頼している」とも取れるだろう。 だがドクオのその言葉の真偽は不明だ。 仲間を信頼しての言葉なのか、あくまでも自分は関係ないと言う言葉なのか。 ―――それは本人にさえも分からない。 本人自身、口から勝手に出た言葉で、本心そのものなのだ。 (;^Д^)「あー、ミンナ」 (;゚д゚ )「ん?」 (;^Д^)「お前の話通りだわ。こいつ気持ち悪い」 ('A`)「うわ、ひでぇ」 6 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:23:51.49 ID:fe9To+vD0 ( ゚д゚ )「まぁ、その話は良い。それよりも、ドクオ」 「ついて来てもらう」と言おうとするミンナ。 だがその言葉が発せられる瞬間に、ドクオはそれを遮る様に口を開いた。 ('A`)「絶対に行かないからな。絶対に間違いなく確実に何の気まぐれもなく行かないからな」 (;゚д゚ )「……まだ何も言ってないが、言いたい事は分かってるらしいな」 ('A`)「どうせ「ついて来い」だろ?嫌だっつーの。馬鹿か。死ねストーカー」 (;^Д^)「そこまで行きたくないか……」 ('A`)「いや別にそうでもない」 (;^Д^)「あぁん!?」 ('A`)「人の命令には従いたくないだけ。反抗期真っ盛りな好少年ですから」 ひょうひょうと、馬鹿にするような口調で言葉を並べるドクオ。 7 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:27:25.65 ID:fe9To+vD0 そんな言葉を向けられて怒らない者は少ない。 それはミンナも例外ではなく、彼はあからさまな怒気をドクオにぶつけていた。 (#゚д゚ )「……人をおちょくるのもいいかげんに……」 ('A`)「あ、あんたミンナ、だっけ?お前おでこにあざ出来てるぜ プークスクス」 ミンナの額を見ながら、ドクオは嫌らしく口を歪める。 それからまもなく、ミンナの肩が怒りからプルプルと震え出した。 そりゃそうだ。彼の額にあるあざを付けたのは、ドクオ本人なのだから。 昨日の、同じ場所。 ミンナに襲われた時、ドクオは彼を地面に投げつけてから去った。 その跡が、ミンナの額にあるあざだ。 (;^Д^)「ま、待てミンナ。落ち着け落ち着け、な?所詮あんなのはガキの戯言で……」 ( ゚д゚ )「殺してやろうか。殺してやろうか。調子に乗るな。ミンチにしてやろうかこのクソガキブツブツブツブツブツブツブツ……」 (;^Д^)「ミンナ!分かった!分かったから戻って来い!!」 そうプギャーがミンナをなだめる。ミンナを怒らせてはいけないと判断しての行動だった。 8 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:30:05.90 ID:fe9To+vD0 だが、その横ではドクオが最も言ってはならない言葉を発した。 男の努力を一気に無駄にする一言を。 ('A`)「うわぁ……何かブツブツ言ってるよ。きめぇ……」 ぶつり、と。ミンナの中で何かが弾け飛んだ。 少なくともミンナをなだめていたプギャーにはそれが聞こえ、彼は「やれやれ」と呟いてミンナから離れる。 まるで危険から遠ざかるような、そんな仕草で。 (#゚д゚ )「こんのクソガキぁぁあああぁ!!」 叫んで、ミンナは腰のホルスターからナイフを抜き出した。 それと同時、ミンナは地面を蹴る。無駄のない動作でナイフを振り上げた。 もちろんその標的はドクオ。しかも今度はドクオを殺さんという勢いで。 だが。 ('A`)「モーション遅ぇ」 彼は振り下ろされたナイフを、右半身を少し後ろに引く動作だけで避ける。慌てる様子なんて皆無だ。 彼には見えていたのだ。ミンナの動きが、最初から最後まで。まるでスローモーションの映像を見ているかのように。 9 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:32:51.45 ID:fe9To+vD0 どうするか一瞬だけ思考。彼はミンナのナイフを持っている手首を思いきり蹴り飛ばす。 (;゚д゚ )「くっ……」 蹴りによって力が抜け、ミンナの手からするりとナイフが落ちる。 すかさずナイフを拾おうとするミンナ。しかしドクオはその顔の中心に、膝蹴りを食らわせた。 (;゚д゚ )「ぁぶっ……!!」 ミンナは痛みから、その身体を大きくのけぞらせる。その鼻からは大量の血液。 危機を感じて、ミンナはそこからバックステップ。ドクオから距離を取った。 対するドクオは、ミンナを追う事はしない。 ただ何かを納得するように、うんうんと頷いた。 ('A`)「うん。やっぱりこの推測は正解か」 そんな事を呟きながら。 ('A`)「あの馬鹿から武術系統の本借りといて良かったな……」 そこでようやく彼はしっかりとミンナの方を見る。 戦闘に入ろうとも、やはり彼の眼に生気はない。どこまでも暗闇だった。 10 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:36:07.18 ID:fe9To+vD0 ミンナは鼻をおさえて、次々と溢れ出る血液を止めようとしていた。 鼻から下と両手を紅く濡らしながら、彼はドクオを睨む。 ('A`)「わお。怖い眼でこっち見んなよ」 (#゚д゚ )「きっ……貴様ぁぁあっ!!」 ('A`)「騒ぐなよ、うるせぇな」 (#゚д゚ )「殺してやる。殺してやる!」 叫んで、ミンナはまたも飛び出そうとする。手には何も持っていない。 彼は完全に怒り狂っていた。ドクオの思惑の通りに。 ドクオは口の端を吊り上げて、手招きをする。 ('A`)「来いよ。返り討ちにしてやる」 (#゚д゚ )「おおぉおおぉおぉおぉぉぉおぉ!!」 彼の怒りが頂点に達した、その瞬間。ドクオへの一歩を踏み出した瞬間。 彼の腕をプギャーが捕まえていた。 (#゚д゚ )「!?放せプギャー!私はあいつを殺す!殺してやる!!」 11 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:38:51.58 ID:fe9To+vD0 (;^Д^)「落ちつけっつーのミンナ。お前は接近戦型の人間じゃねぇだろ。 お前が飛び出した所でそこら辺のチンピラより少し強いって程度の力しかないんだぞ」 (#゚д゚ )「だが奴は私に傷を―――!!」 ( ^Д^)「その傷はあいつの言葉に踊らされて飛び出したお前の自業自得だ」 彼はそう言って、ミンナをどんと突き飛ばす。 予想外の力だったようで、ミンナはバランスを崩す。だがその場で留まった。 ミンナは何かを彼に言おうとする。だが、彼はそれを遮る様に声を出した。 ( ^Д^)「落ち付け。そんで思い出せよ、ミンナ。 お前がどういう戦い方をしていたのか。どう戦うべきなのかを、よ?」 そう言って、彼はミンナから視線を外す。そしてその視線は、ドクオへ。 眼はにやにやと笑っているが、その視線は驚くほど冷たい。 ドクオはおどけるように肩をすくめる。 12 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:42:01.79 ID:fe9To+vD0 ( ^Д^)「……よぉ。てめぇ、なめてんのか?」 ('A`)「まぁ。……いや。っつーかまずアンタ誰」 ( ^Д^)「……プギャーってもんだが」 ('A`)「あー、あんたがプギャーか。とあるおひとよしのバカから話は聞いてるよ。以後よろしく」 ( ^Д^)「……あぁ。本来ならもう会う事はないんだがね。お前とは嫌でもよろしくしなきゃいけないみたいだ」 ('A`)「何それ。俺もしかして嫌われてんの?」 ( ^Д^)「俺の言葉が嫌いじゃない奴に言うセリフに聞こえたか?」 ('A`)「あー、要するに……」 ( ^Д^)「お前みたいな奴は、大っ嫌いだ」 ('A`)「そりゃ結構。俺もあんたみたいな奴は嫌いだ。まぁ、俺は嫌いじゃない奴の方が少ないがね」 そう言いながら、彼はトンッと後ろに一歩跳ぶ。 それから、一瞬。 彼のすぐ目の前―――さきほどまで彼の頭蓋があった場所を、相当な速度のナイフが通過した。 ナイフは彼のドクオの横の壁に当たり、良い音を立てて弾き返る。 13 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:45:06.40 ID:fe9To+vD0 彼はちらりとそのナイフを確認。 そのナイフは、さきほど地面に落ちたミンナの物だった。 ('A`)「おーおー、危ねぇ危ねぇ」 視線を、ナイフが飛んできた方向に。そこでは、ミンナがドクオの方向に右の掌を向けていた。 その眼はさきほどまでの怒り狂った眼ではない。いつもの、感情の読み取れない深く鋭い眼だ。 ( ^Д^)「はん。ようやく落ちついたか」 プギャーと名乗った男は少し笑いながらそう言う。 ミンナはそれが聞こえなかったかのように、ドクオを見つめ続ける。 ( ゚д゚ )「……よく避けられたな。お前の死角から撃ち放ったはずだが」 ('A`)「あー、それな、アレだ」 彼はそう言うと、自分の顔に変化した闇色の左腕を近付けた。 そして、人差し指で耳を、中指で眼を指す。 ('A`)「俺の“力”は、この左腕。そしておそらく、聴覚と視覚の強化だ」 14 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:48:18.62 ID:fe9To+vD0 ( ゚д゚ )「聴覚・視覚の……強化?」 ('A`)「そ。今のはアンタが飛ばすナイフの音が聞こえた。 まぁ、視覚と聴覚の強化ってのは、あくまでも俺の予想でしかないけどな」 ( ゚д゚ )「予想?」 ('A`)「聴覚も視覚も、俺が感知しただけだけ。もしかしたら五感全部強化されてるかもしれない」 ( ゚д゚ )「……まぁ、ありえない話ではない。それに、どちらにせよ私には関係のない話だ」 焦りも困惑もせず、彼はプギャーに視線を一度だけ向けた。 プギャーはそれに気付き、一度頷く。 ( ゚д゚ )「おい、プギャー。コイツを捕獲するぞ」 ( ^Д^)「OK。だが……捕獲してどうする? やる気がない奴を捕まえても、“アレ”が出来てないんじゃ意味がないはずだろ?」 ( ゚д゚ )「だったら出来上がるまで拘束すれば良い話だ」 ( ^Д^)「……まぁな。強引だが、その方法も出来なくはない」 そう言うと、プギャーは左腕を解放する。 その左腕はすぐに草色の大鎌へと姿を変え、その月のような形をした刃は月のような妖しい輝きを放つ。 15 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:51:09.58 ID:fe9To+vD0 ( ゚д゚ )「……行け」 ( ^Д^)「イエッサー!」 そして、間髪入れず、彼はドクオに向かって走り出した。 ドクオは、身構えない。ただだるそうに眼を細めるだけ。 ( ^Д^)「おらよっ!!」 叫んで、彼はドクオの腰の高さで鎌を横に振るった。 だが、ドクオはそれを半歩後ろに下がって回避。 ( ^Д^)「流石に一撃で終わるほどヘボくはないよな!」 そう叫びながら、プギャーは連続で鎌を振るう。横に、縦に、回転するように。 だが、ドクオはその全てを軽く避ける。それも、大きくて二歩程度という最小の動作で。 ドクオは受ける事も、弾く事も、いなす事もしない。それに“力”の宿る左腕は一度も行使していない。 避け続けるだけで反撃もしない。 それでもプギャーは彼に一撃も加えられず、ドクオは軽い身のこなしで攻撃を避け続けた。 16 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:54:36.22 ID:fe9To+vD0 (;^Д^)「っく……!!」 ('A`)「見え見えなんだよ。左腕に力を入れるのから、鎌の軌道までもさ」 (;^Д^)「うるせぇ!」 飛ぶ薄い紙きれを斬ろうとしているかのような無力感を感じながらも、プギャーは再度彼を斬りつけようとする。 その刃は腰高に大きく振られ、恐るべき速度でドクオを捕らえようとする。 ドクオは、避けられない。 否。彼は避けられないのではなく、避けなかった。 金属音。 プギャーの鎌は、ドクオの胴を捕らえていない。鎌は、ドクオの闇色の左腕に握られていた。 ドクオはその鎌を強く握り込み、溜め息を一つ。 ('A`)「見えてるっつってんだ。往生際が悪い。 ……どこぞの軽い野郎の言葉を借りるなら、引き際の悪い男はもてないらしいぜ?」 (;^Д^)「……知るかっ!放せ!」 ('A`)「そんな簡単に放すなら最初から掴みやしねぇよ」 そう吐き捨て、彼はプギャーの脇腹を蹴り飛ばした。 17 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 22:58:23.31 ID:fe9To+vD0 (;^Д^)「……っぐ!」 ('A`)「お前の“力”ってのは、便利なのか不便なのか分かんねぇよな。 力を伝えやすいが、こうやって“武器”を掴まれたら、逃げらんねぇもんな」 そう言って、もう一発脇腹を蹴り飛ばす。 呻き声。 溜まらずプギャーは叫んだ。 (;^Д^)「……っふ!!あー!ミンナッ!コイツどうにかしろ!」 その声にまったく相対するような、冷たい声。 ( ゚д゚ )「もう手は打ってあるさ。囮としての労働、ご苦労だ、プギャー」 そこで言葉を切り、彼は語勢を強めて叫ぶように言う。 ( ゚д゚ )「おい、ドクオ。プギャーを放せ」 その言葉に、ドクオはミンナを見る。そして、驚愕した。 それは感情を現す事の少ない、彼の乏しい表情筋が驚愕の形に動くほどに。 ドクオが驚愕したのは、ミンナにではない。 自分の周囲を囲んでいる、ミンナの“力”に驚愕したのだ。 ( ゚д゚ )「お前は拘束されている。もう一度言う。プギャーを放せ。そして、動くな」 18 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:01:23.72 ID:fe9To+vD0 拘束。それは対象を動けない状態にし、対象の全てを制限する事。 そして、ドクオはまさに―――拘束、されていた。 ドクオの周り。 そこには、宙に浮き、彼を中心として半球型に展開している、彼を囲む無数のダーツ。 ダーツの大きさは通常のダーツにしてはかなり大きめで、針の部分が長い。 そして、そのダーツのドームは少しずつドクオとの距離を狭めていく。 それは何も言わずとも、「言う事を聞かなければ串刺しだ」という意志が伝わる拘束法だった。 ('A`)「……あー、はいはい。把握」 彼はそう言うと、プギャーの鎌を放す。 そしてその場で直立不動の体勢を取った。 プギャーはダーツのドームの外に出る。 そこでドクオを戸惑いの混じる目で睨んだ。 (;^Д^)「……ミンナ」 ( ゚д゚ )「ん?」 (;^Д^)「こいつは気持ち悪いなんてもんじゃねぇよ。……こいつ、人間か?」 ( ゚д゚ )「それは保証しかねる」 (;^Д^)「素人の癖に鎌にびびらねぇわ、昨日覚醒したくせにもう“力”についていけてるわ……」 ( ゚д゚ )「……「何を考えているのか分からない」……こいつは後々、味方に付けるのも恐ろしいな」 19 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:04:25.18 ID:fe9To+vD0 (;^Д^)「だが、俺達の独断で殺すのも許されないだろうしな」 ( ゚д゚ )「敵とした場合のデメリット、そして味方にした場合のデメリットを考えれば、殺すのが最良だろうな」 (;^Д^)「だが命令は捕獲だ。あの人の命令は絶対だろ」 ( ゚д゚ )「プギャー、お前が大切にしているものは、あの人の命令か?違うだろう。 お前が大切にしているものは、あの人の幸福だろう?こいつはあの人に牙を向く可能性もある。 それならば、命令の一つに背いてでもここでこいつを殺すべきじゃないか?」 (;^Д^)「……そうかもしれんが、だが……」 そんな会話が、五分ほど続いた。 もちろん、ドクオへの拘束は解かれていない。 ……いつまで話してるつもりだこいつら。 俺は待たされるのが嫌いなんだよ。 自分の生死について話されているにも関わらず、彼は自分勝手な理由でイライラしだす。 マイペースの代名詞とも言える彼は、心底イライラして――― ('A`)「……何かするなら早くしろよ」 ―――気付けば、口からそんな言葉が出ていた。 20 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:07:16.44 ID:fe9To+vD0 ぎょろりと、ミンナとプギャーの視線がドクオを捕らえる。 ドクオはそれを光のない眼で見返した。そこに、恐怖はない。 ( ゚д゚ )「……貴様、今、自分がどんな状況下にあるのか分かっているのか?」 ('A`)「ここまでされて分からない奴なんていないと思うが」 ( ^Д^)「自分の状況を分かってんなら自粛しろよ」 ('A`)「だが断る」 ( ゚д゚ )「……多少、痛めつけた方が良いようだな」 ミンナはそう言うと、指を一本、上に上げる。 ドクオは何をしてるのかと思考し、プギャーは面倒臭そうに眼を細めた。 ( ^Д^)「……やっぱり殺っちゃうのか?怒られるぜ?」 ( ゚д゚ )「急所でなければ死にはせんさ。これはあくまで黙らす為の行動だ」 そして、彼はその指をドクオの方向を差して振り下ろした。 瞬間。ドクオは自分の後ろで、何かの動く気配を感知。それの方向は、彼自身に向けられている。 そして、彼は避ける事―――それどころか防御する事も放棄した。 今度は左手でそれを取ろうとしたわけではない。本当に、諦めたのだ。 早すぎる。避けられない。どうしようも出来ない。彼はそう判断した。 21 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:09:29.84 ID:fe9To+vD0 次の瞬間。 彼の右の二の腕には、ダーツが刺さっていた。 (;'A`)「つッ……!」 じわじわと、痛みが腕を中心に広がる。 いかに無表情を造りあげていた彼でも、その痛みには顔をしかめた。 ( ゚д゚ )「……これにこりたら、自粛するんだな」 (;'A`)「……ちっ……」 ( ^Д^)「で、こいつどうする?やっぱり連れてく?」 ( ゚д゚ )「……連れていくのだが、ただ引っ張っていってもこいつは逃げるだろうしな。 だとしたら、「動けない状況」にまで持っていく必要がある」 ( ^Д^)「あん?縛りでもするのか」 ( ゚д゚ )「縄なんぞない。となると?」 ( ^Д^)「何だ、痛めつけるのか」 ( ゚д゚ )「その通り」 ミンナはそう言うと、今度は指でなく手を上に上げた。 それと同時に、周りのダーツの彼へのプレッシャーが強まる。 22 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:12:22.51 ID:fe9To+vD0 無数の害意と殺意が、ドクオへと向いていた。 彼にとって、それは額に銃を押しつけられているのと変わらない。 ('A`)「あー……これはやばいかも分からんね」 ドクオは珍しく、その脳をフルに回転させる。 どう生き残ろうか。どうすれば生き残れるか。 対するミンナは、そんな事は知らないと言った顔で口を開く。 ( ゚д゚ )「よし、じゃあ始めようか」 ミンナはそう言うと、手を振り下ろした。 俺は、どうしようか。 このままここにいたら間違いなくアウト。 右手は使えない。 この左手はダーツ程度なら粉砕出来るが、左側しか護れない。 耳と眼は飛来するダーツを感知出来る。だが防御にはならない。 と、なると。 この動きしかないか。 フルに回転していたドクオの脳が、回答を弾き出す。 彼は体勢を限界まで低くすると、右腕と左腕を顔の前に構えて、地面スレスレに走り出した。 彼は自分のすぐ後ろ―――一瞬前まで自分がいた場所でダーツが弾ける音を聞いた。 23 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:14:29.84 ID:fe9To+vD0 右腕はもう使い物にならない。それならば、もう右腕は捨てよう。右腕は、盾だ。 一発刺さろうが、十発刺さろうが、使い物にならないのは変わりない。 痛みに耐えれば良いだけだろ? 視覚と聴覚でダーツの方向を感知。瞬時に両腕で致命傷になる場所を防御して、ただドームから出る事に全神経を集中させる。 その思考が、彼の答えだった。 (;゚д゚ )「なっ……!?逃げる気か!?」 その声と同時に、彼の足に向かって後ろからダーツが飛んで来る。 音で分かったので、それを左腕で粉砕。 続けて、ダーツが様々な方向から同時に飛んで来る。 強化された視覚と聴覚でそれを察知。粉砕・防御。 もう既に、彼の右腕は血塗れだ。中で針が折れた物もある。 彼自身、凄まじい痛覚に耐え続けていた。 だが、彼が想うのは―――だから何だ、という思い。 こんな痛み、あの時に比べれば、蚊に刺されたよりも軽い。 あの時の精神的な痛覚は無視できないが―――肉体的な痛覚は、無理矢理に無視出来る。 だから、走れる。 彼は、ダーツの半球を抜ける。 後ろからは二人の慌てる声と足音が聞こえた。 24 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:17:04.10 ID:fe9To+vD0 ('A`)「……っじゃ、おいとまさせてもらおうか」 彼はひょうひょうとそう言ってのける。 だが、その彼の横に、まもなくプギャーが並んだ。 ( ^Д^)「させるかっ!」 ドクオは内心、感心する。 お、こいつ、足早いじゃないか。と。 そして。 良かった、早くて。 そう思考し、彼は足を止める。その口元には笑みを浮かべて。 プギャーは慌てながらも、ドクオに合わせようとその足を止めようとする。 そして。 ('A`)「悪いな、これが狙いだ」 そう言って、プギャーのアゴを右腕で殴り上げた。 右腕にはいくつものダーツが刺さっていたが―――彼は「だから何だ」としか思わない。 25 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:19:12.12 ID:fe9To+vD0 プギャーは彼の急停止について来れなかったらしく、足が地面から浮いていた。 だから、ドクオの右腕でも簡単に跳ね上げる事が出来た。 鈍い音が響き、宙にプギャーが浮き上がる。 そしてその体は重力に引っ張られて落下を始め―――まもなく、また鈍い音がした。 ドクオは確認をせずとも、確信する。間違いなく意識は飛んだと。 彼は両手を挙げて、嫌らしく微笑む。 ('A`)「うおー、わいなりのサプライズやー」 それはミンナへの挑発。 それからドクオは、ミンナに手招きをする。 (;゚д゚ )「きっ……貴様ぁあぁっ……!!」 ('A`)「やるかい?俺は右腕を使えないが、それでもあんたに勝てるくらいの“力”はあるぜ? 見た所、あんたには肉体的な変化は皆無らしいからな。接近戦に持ち込めば、あんたに勝機はない」 (;゚д゚ )「ぬ、ぅぅう……!」 ('A`)「帰っても良いんだぜ?帰りたきゃ帰れよ、帰らせてやるからさ」 彼はずっと挑発するような調子でそう続けた。 27 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:21:34.47 ID:fe9To+vD0 現に、彼の心中にはミンナに負けると言う気はなかった。 特に、今の状況なら。 もう一度確認しておくと、彼はマイペースだ。それも、極度の。 だから全てをその時の気分に任せ、行動する。 めんどくさいからいつもは俺から逃げるんだがな。 むかついたから、逃げてやんない。 彼の今回の答えは、そんな風だった。 ('A`)「どうすんだ?あぁ?」 相変わらず挑発する彼の口調にもミンナは応じない。 彼は少し考えた後、ドクオへの答えを出す。 ( ゚д゚ )「今回は……帰らせてもらおうか」 ('A`)「あー、やっぱ帰るのか。そりゃあおでこにあざをもう一つ作るのは嫌だもんな プークスクス」 ( ゚д゚ )「調子に乗るのもいいかげんにしろよ」 ミンナがそう言うのと、同時。 ドクオの頬を、何かがかすめていった。 一瞬、二人の間の時が止まり。 一瞬。ドクオの頬から、血が噴き出た。 29 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:24:28.54 ID:fe9To+vD0 (;'A`)「あっ……あぁん?」 ( ゚д゚ )「……落ちていたガラスの欠片を高速で撃った。 今、そのガラスをお前の眼や首に当てる事も出来たという事を忘れるな」 ミンナはそう言うと、ドクオの横を通り抜ける。 ドクオは、何もしない。何も出来ない。 ( ゚д゚ )「ほれ、プギャー。行くぞ」 そんな事を言いながら、ミンナはプギャーを引き摺っていった。 ドクオはミンナを振り返らなかった。 いや、振り返れなかったのかもしれない。 最後の一撃を放った瞬間のミンナのプレッシャーは、本物だった。 ドクオはミンナが去ってからも、しばらくぼんやりとそこに立っていた。 結構な時間が経過してから、ドクオはいきなり操り人形の糸が切れたかのようにそこに崩れた。 ('A`)「あー……くっそ。痛ぇ……」 彼はそう呟いて、壁によりかかった。 針だらけの右腕で頬を拭こうとして、ぎりぎりで留まる。 30 名前: ◆darIyNTbjA [] 投稿日:2007/02/06(火) 23:26:33.25 ID:fe9To+vD0 病院、行かねぇと……。 めんどくせぇなぁ……。 そう思考し、眼を細める。それから左腕を元の腕に戻した。 のろのろと携帯を操作。それから彼は救急車を呼んだ。 ('A`)「あー……だり」 彼は一通り自分の場所を教えると、その場に寝転んだ。 そのまま、眼を閉じる。 「今日は朝が早かったから、眠いんだ」 誰にともなく彼はそう呟く。 まもなく意識が薄れるのを感じて、彼は眠りについた。 戻る 目次 次へ ジャンル別一覧
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