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LOYAL STRAIT FLASH ♪

第二話

10 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:19:51.72 ID:/HxwEU6v0
【第2話『跋渉』】


( ´∀`)『内藤?』
| ・∀・|『ご存知ですか?』
( ´∀`)『いや、ちょっと覚えがないな……というより、私の覚えがないようなルーキーを、まさか先発させるというのか?』
| ・∀・|『はい』

 喪名は嘆息を吐いて窓の外を見た。曇っているように感じた。

( ´∀`)『君の見る眼は確かだ、と思っているよ、羊羹君。しかし、曇ったな』
| ・∀・|『私は何も変わっていませんよ。少なくとも、見る眼に関しては』

 羊羹の声には、冷静さがこもっていた。

| ・∀・|『内藤は高校生ドラフト4位……監督が知らないのも無理はありません』
( ´∀`)『今年のルーキーは不発だと思っていたし、まして高校生だからな……』
| ・∀・|『内藤は今季の新人の中では随一の力を持っています。スカウトの目論見通りです』
( ´∀`)『目論見?』
| ・∀・|『技術がないだけで、器用さは持っている。そういった報告を受けていたので、とにかく技術を叩き込みました』
( ´∀`)『かなり伸びたのか?』
| ・∀・|『はい。球速は140キロ台中盤で、カーブとスライダーはどちらも一軍で投げても恥ずかしくないレベルです。変化球を低目に集められるコントロールがありますし、三振も取れます』
( ´∀`)『ふむ……それは、ベテランの井用より』
| ・∀・|『間違いなく、上です』

 喪名は思案し始めた。現時点でベストだと思えた井用より、上だと断言した羊羹。
 喪名は羊羹に絶対の信頼を置いていた。ここでルーキーの名前を出したことで一旦は疑ったものの、羊羹の選手を見る眼は確かだった。今季、何度も羊羹の的確な進言で試合を勝ってきた。二軍から昇格即先発の投手が結果を出してくれることもあった。


11 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:22:04.14 ID:/HxwEU6v0
| ・∀・|『内藤は明日の二軍戦で登板予定でした。明日に向かってしっかり調整できています』
( ´∀`)『ふむ……しかし、ルーキーだ』
| ・∀・|『確かに、危険な賭けではあります。ですが、私は最も勝てる可能性が高いと考えています』
( ´∀`)『経験のなさだけが不安だよ。何たって、プロ初登板が、優勝決定戦の先発だ』
| ・∀・|『内藤は繊細な性格ですが、それが却って奏功するかも知れません』
( ´∀`)『慎重に攻めるからか?』
| ・∀・|『えぇ。緊張はするでしょうが、それで良いのではないでしょうか。緊張しないけど打たれる、というよりは』
( ´∀`)『まぁ、誰に投げさせても緊張はするだろうしな……そこらへんは、キャッチャーが上手くやってくれるといいが……』

( ´∀`)『しかし、君がそれほど勧める投手なら、何故今まで言わなかったんだ? 少しでもいい投手が欲しい時期だぞ、今は』
| ・∀・|『プロ初登板が優勝決定戦のリリーフ、はあまりに酷でしょう。ランナーを背負っている場面が多いし、回の始めから投げても点差によってはかなり厳しくなります』
( ´∀`)『それもそうだな……それなら、経験のある投手を上げさせるのは当然か』
| ・∀・|『はい。しかし、まっさらなマウンドなら、あるいは上手くいくのではないでしょうか』
( ´∀`)『先発……ルーキーの内藤か……』

 喪名は椅子に腰掛けて、天井を見上げた。
 賭けの要素が多すぎる。あまりに、あまりに大事な一戦の、先発。誰だってまともなピッチングができなくなる。
 しかし、プロ初登板なら、それをプロの緊張と見て優勝決定の重圧は薄れるかも知れない。極度の緊張には陥るだろうが、それ以上はない。喪名は自分を納得させはじめていた。
 そして、再び椅子から立ち上がった。

( ´∀`)『内藤を一軍に上げよう。明日の先発は、内藤だ』
| ・∀・|『分かりました。早速連絡します』
( ´∀`)『頼む。私はショボンに連絡する。明日はアイツのリードがかなり重要になる』
| ・∀・|『そうですね……他の選手にも極力連絡しましょう。それでは失礼します』

 喪名は携帯電話から手を離して、ようやく一息ついた。
 博打に出た。相手に全く情報のない投手の先発、というのがまずメリット。ロケッターズは擬古が先発だと信じきって研究しているはずで、その裏をかける。
 大きなメリットは、そんなところだろう、と喪名は思った。


12 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:24:29.09 ID:/HxwEU6v0
 デメリットは、不安。とにかくその一点だろう。喪名にとっても、ヴィッパーズの面々にとっても、そして内藤にとっても、だ。

 しかしもう、賭けてしまった。喪名は部屋にある鏡の前で口だけで笑ってみせて、自分を落ち着かせた。
 もう日付が変わった。運命の日を、迎え入れてしまっていた。



―2006年10月3日

 内藤は、眠れない夜を過ごしていた。
 今季内藤は、コーチからひたすら技術を叩き込まれて、内藤自身、自分の伸びが嬉しくなるほど成長した。その成果を試す意味で、10月3日の二軍戦にプロ初先発する予定だった。
 内藤は興奮していた。遂にプロのマウンドに立てる。親や友人にも連絡したし、願掛けまでしてきた。何度も頭の中でイメージトレーニングして、三振のパターンを思い浮かべたりもしていた。

 お守りを枕元に置いて、寝る前のストレッチをしていた、そのときだ。
 寮長が、部屋に来た。

(;^ω^)「……お?」

 二軍でのプロ初登板を、喜んでくれていた寮長。
 その寮長の表情が、なんとも複雑そうで、内藤は困惑した。

 そして、寮長から説明がなされる。内藤は、途中から理解できなくなり、何度か聞き返した。
 たちの悪い冗談か、と思うのは失礼なくらい、寮長の表情は真剣で、内藤は自分の足が震えていることに気付かなかった。

 全てを飲み込んだのち、寮長が慰めるように内藤に言葉をかける。お前なら大丈夫だ、野手が全力でバックアップしてくれる、緊張するな。
 内藤は、全てを聞き流してしまいたい気分だった。


13 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:27:11.75 ID:/HxwEU6v0
(;^ω^)(なんで……なんで……)

 寮長が帰ったあと、内藤は布団にもぐり、しかし眼は開いたままだった。
 何故、自分が。その疑問ばかりが脳を襲う。
 散々説明は受けた。論理的に理解すれば、それは充分納得できるものだった。
 それでも寝付けなかった。不安と、重圧。薄い布団が、のしかかってくるように重かった。

 いつしか朝を迎えていて、内藤はいつも通り6時に起きた。眠れたのが何時だったかは覚えていない。しかし、体の調子は良さそうだった。
 内藤は努めていつも通りの朝を送った。食べるものも変えてはいないし、験担ぎをすることもなかった。だが、ニュースの占いだけは見る気になれず、テレビは消したままだった。

 そして、部屋に球団広報がやってきた。その場で、いくつか守って欲しいことを内藤は言われた。
 まず、登板まで自分が先発だとは誰にも教えないこと。そして、マスコミに何を聞かれても『頑張ります』とだけ答えること。その二つだった。

 球団広報が帰ってすぐ、内藤は球場に向かった。ヴィッパーズのホーム球場、VIPスタジアムだ。

(´・ω・`)「おはよう、内藤」
(;^ω^)「お、おはようございますだお」
(´・ω・`)「時間がない。早速始めるぞ」

 ヴィッパーズの正捕手、ショボン。
 両親がアメリカ人だが、生まれも育ちも日本。冷静に状況分析をする力があるが、奇抜なリードも見せる。内藤がショボンについて知っているのは、それくらいで、今まで全く接点は無かった。

(´・ω・`)「お前の心境は分かるつもりだ。しかし、決まってしまったものはしょうがない」
(;^ω^)「理由については納得しているつもりですお」
(´・ω・`)「あぁ……それにしても、監督は思い切ったものだ……ルーキーに……」

 ショボンは一瞬視線を地に落とした。


14 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:28:51.68 ID:/HxwEU6v0
(´・ω・`)「サインを教える。かなり複雑だが、無理やり覚えろ」
(;^ω^)「が、頑張りますお」
(´・ω・`)「それが終わったら、お前の球を受けてみる」

 内藤はミーティングルームに入ってひたすらサインを頭に入れた。サインを盗まれにくくするため、複雑化されている。優勝決定戦なら当然だった。
 それが終わったときには、もう正午が近くなっていた。

(´・ω・`)「軽く体を動かしてから投球練習に入ろう」
( ^ω^)「もしかして、極秘練習ですかお?」
(´・ω・`)「それじゃ却って怪しい。堂々と投げるさ。ロケッターズには"リリーフ登板するのかもな"くらいにしか思われないだろう」

 グランドに出ると、内藤は視界が白くなった。真上に昇った太陽が内藤を睨みつけている。
 10月に入ったとはいえ、まだ暑い。内藤の掌には汗が浮かんでいた。

(´・ω・`)「騒がしいな……」

 グランドは大勢のマスコミの取材で賑わっていた。ヴィッパーズの選手達がカメラの前で軽く笑いながら喋っている。
 内藤は、その笑いを少し白々しく感じた。無理に笑っている、と言ったほうが適切かも知れない。

 ショボンとは一旦別れ、内藤は一人でストレッチを始めた。ずっと一緒に居ると怪しまれるかも知れない、とショボンが言ったからだ。
 先発であることを、公表しない。敵を目を欺くことによって、内藤の負担を軽くするため。分かってはいても、独りになった内藤は再び重圧に苛まれ始めていた。

 いつもより体が伸びなく感じているとき、近くで擬古が取材を受けているのを内藤は見つけた。

(,,゚Д゚)「不安? ありません。いつもと同じ、ただの一戦ですよ」

 右肩を怪我しているはずだが、傍目から見ている分には全く分からなかった。


15 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:30:58.76 ID:/HxwEU6v0
(,,゚Д゚)「頼もしい野手ばかりですし、大丈夫だと思ってます」
(マ´∀`)「リリーフも磐石ですね」
(,,゚Д゚)「えぇ。いつも助けてもらっていますし、例えランナーを残して降板したとしても、安心して見ていられます」

 擬古の視線が、一瞬内藤に向いた。
 内藤は、擬古の発言が、自分に宛てられているのではないかと思い始めた。あえて、自分の近くで取材を受けて、安心させるために言葉を選んでいるように感じられたのだ。
 その擬古の視線に、取材していたマスコミが気付いた。

(マ´∀`)「内藤選手。高卒ながら一年目にして一軍昇格、しかもその日は優勝決定戦! 一軍の空気はどうですか?」
(;^ω^)「え? あ、えっと……とても良いんじゃないかなと……」
(マ´∀`)「今季11勝の比木選手に代わっての昇格ですが、監督は内藤選手のどういう部分を見込んで昇格させたとお思いですか?」
(;^ω^)「えっと……その……」
(,,゚Д゚)「あんまり緊張させないでやってくださいよ。初めての一軍で、ただでさえガチガチなんですから」

 擬古が内藤の隣に立った。細身で背が高く、整った顔立ちをしていることから、女性ファンの人気が高い選手だった。

(,,゚Д゚)「今日はよろしく頼むぜ、内藤。俺が降板した後を受けるのはお前かも知んねーんだからな!」
(;^ω^)「が、頑張りますお!」

 広報に言われていたことを、内藤は思い出した。いや、擬古が思い出させてくれていた。

(,,゚Д゚)「僕も球は見てないんですけどね、いいピッチングするって聞いてますから。大丈夫ですよ」
(マ´∀`)「擬古選手も安心、ですね」
(,,゚Д゚)「えぇ。今日は勝てるという絶対の自信があります」
(マ´∀`)「ありがとうございました。内藤選手も頑張ってくださいね!」
(;^ω^)「頑張りますお」

 マスコミが立ち去った。すぐに擬古は内藤に顔を寄せて、小声で喋り始めた。


16 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:32:33.51 ID:/HxwEU6v0
(,,゚Д゚)「迷惑かけてるな、内藤……俺のせいだ……すまん……」
(;^ω^)「擬古選手のせいじゃありませんお。事故だから、仕方ないですお」
(,,゚Д゚)「階段から足を滑らせるなんて……バカか、俺は……くそっ……」

 擬古が顔を俯けた。固く握られた拳が、震えているようにも見えた。
 しかし、顔を上げた瞬間、擬古はさっきの調子に戻っていた。

(,,゚Д゚)「大丈夫だ、内藤。ウチの守備は12球団でもトップを争うほど堅い。打たせていけば、バックが何とかしてくれる」
(;^ω^)「は、はいですお」
(,,゚Д゚)「じゃあな……頑張ってくれ」

 内藤の肩を叩く擬古の手には、切なげな力が込められていた。


(´・ω・`)「カーブとスライダーが得意だったな?」

 午後になってから、内藤はショボンと共にブルペンに向かった。

(;^ω^)「一応……」
(´・ω・`)「どれほどのものか……それを見ておかないと、リードができないからな」

 ショボンが内藤から離れて、しゃがんだ。そして、ミットを前に出す。
 まずはストレート。そして、カーブとスライダー。チェンジアップやシンカーも投じた。
 全球種を3球ずつ投げたところで、再びショボンが寄ってきた。

(´・ω・`)「なるほどな」

 一度、二度とミットを叩いて、ショボンは一瞬考える素振りを見せた。

18 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:34:15.88 ID:/HxwEU6v0
(´・ω・`)「スライダーは空振りが取れるな。カーブもカウントを稼げそうだ、が……チェンジアップとシンカーは、高校生レベルだな」

 一年前まで、高校生だった。その言葉が、内藤の口を突いて出てきそうになった。意味のない、下らない一言だ。そう思って、無理やり言葉を喉の奥に押し込んだ。

(´・ω・`)「一応頭には入れておくが、基本はストレート・カーブ・スライダーだ」
(;^ω^)「分かりましたお……」
(´・ω・`)「心配は要らない。お前のカーブとスライダーなら、充分通用する。抑えられる」
( ^ω^)「……そうですかお?」
(´・ω・`)「あぁ。安心したよ。高卒ルーキーも侮れんな。ここまでの球を投げられるとは」
( ^ω^)「投手コーチのおかげですお。僕に目をかけてくれて、色んなことを教えていただきましたお」
(´・ω・`)「河西さんか。あの人は細かすぎるところがあるが、お前にはそれが良かったようだな。直球と変化球に、全くフォームの違いがない」
( ^ω^)「クセは散々言われたので、頑張って直した部分ですお」
(´・ω・`)「大したもんだ……一年目でこのレベルにまでたどり着けるとは……」
(*^ω^)「ありがとうございますだお!」

 その後、セットポジションで投球するなど、様々な部分をショボンに見せた内藤。終わったときは、少し疲労を感じていた。


 やがて、ロケッターズが練習を始め出した。
 グランドの端で、取材を受けている選手がいた。ロケッターズの青いユニフォームがよく似合う。内藤は、汗が体のいたるところから流れ落ちるのを感じていた。
 圧倒するような、出で立ち。内藤は、自分の体の小ささが異様に気になった。

('A`)「あれが、畑だ」
(;^ω^)「毒田さん!?」
('A`)「おう。とりあえず、一軍昇格おめでとう、内藤」

20 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:36:19.72 ID:/HxwEU6v0
 内藤にとって、あまりに遠い存在。そんな選手が、一軍には大勢居た。
 天才・毒田。チームの主軸打者で、選手会長も務めている。痩身から繰り出される華麗な打球は、投手の内藤すら感動させるほど美しいものだった。

 そして、その毒田の視線の先にいるのは、畑。ロケッターズのエース、畑。
 内藤の、プロ初対戦投手は、あまりに大きすぎた。

('A`)「さすがにエースをぶつけてきたな、ロケッターズ……畑は中4日なのに……」

 いつもと変わらず、表情を崩さず。ポーカーフェイスで、冷静沈着。畑が、淡々と取材に答えていた。

('A`)「ま、気楽にやってくれよ、内藤。畑の研究はバッチリだからな、打ち崩せると俺は見てる」
(;^ω^)「頑張りますお」
('A`)「おう。じゃあな」

 毒田がバット片手に立ち去った。そしてすぐ、内藤の側に寄ってきた人物が居た。

/ ,' 3「やぁ、内藤くん」
( ^ω^)「荒巻さん? お久しぶりですお!」
/ ,' 3「久しぶりだね、ハハハ」

 チーム最年長のベテラン、荒巻。怪我で二軍に落ちていたとき、内藤は荒巻と何度か話したことがあった。

/ ,' 3「大変なことになってしまったが……安心してくれ。僕達がついてるからね」
(;^ω^)「頑張りますお」
/ ,' 3「僕も老いの力を振り絞るよ」

 荒巻が去り、そして長岡が。そして椎名が、津村が、笑野が、という具合に、レギュラーが次々に内藤に話しかけていた。内藤は、敵に怪しまれないだろうか、と内心はらはらしていた。


21 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:38:27.45 ID:/HxwEU6v0
 全員と話し終えたあと、内藤は再び独りになった。そして、重圧との戦いがまた始まっていた。
 みんなが、安心させようと声をかける。そのときは安心するが、後で逆に怖くなる。それでも、みんなの成績などを考えると、心強くなる。しかし、それを崩すほどに打たれしまったら、と考え不安になる。
 内藤は、100球投げたあとよりも今のほうが苦しい、と感じていた。


 観客がスタンドを埋め始めた。テレビ中継も既に始まっているという。17時を過ぎていた。

(実・Д・)『今季のチャネラーリーグは、まさに神のいたずらかきまぐれか、なんと2チームが同率首位! 優勝は、最終戦の直接対決によって決まります!』
(実・Д・)『10・8の再来、優勝決定戦! 18時よりプレイボールです!』

(実・Д・)『本日の解説は、かつての大打者・名捕手、野布良さんです』
(解´Д`)『どうも』
(実・Д・)『野布良さん、勝敗の行方が全く分からない試合となりそうですね』
(解´Д`)『そうですねぇ。ピッチャーに関して言うと、ロケッターズの畑のほうが力は上でしょう。しかし、擬古は相性が良い。互角でしょうね』
(実・Д・)『しかし、打線ではロケッターズが有利とも言われています』
(解´Д`)『ロケッターズの打線は強力ですね。ほとんど抜け目がない。機動力には若干欠けますが、補って余りある破壊力で、どんな場面でも点を取りますからね』
(実・Д・)『ヴィッパーズは、やや長打力には欠けますね』
(解´Д`)『笑野の不振がとにかく痛いところでしょう。ですが、他は悪くない。毒田は今年も結果を出しましたし、ショボンも復調した。椎名も確実に成長していますからね』
(実・Д・)『そして、守備面ではヴィッパーズのほうがかなり上です。総合的に見ると、やはり互角ですか』
(解´Д`)『えぇ。鍵となるのは恐らく、投手のデキでしょうね。あとは、キャッチャー次第ですか』
(実・Д・)『やはり全く分かりません、この試合。果たしてどちらがチャネラーリーグを制して優勝するのか! プレイボールが刻一刻と近づいてまいります!』


22 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:40:32.91 ID:/HxwEU6v0
 内藤は、監督室に呼ばれた。
 熱気を感じさせない、寒々とした廊下。汗をかいたせいだ、と内藤は自分に言い聞かせた。
 ドアをノックし、部屋に入っていく。

( ´∀`)「ショボンとしっかり話し合ったか?」
(;^ω^)「はいですお」
( ´∀`)「突然で、すまなかったな……しかし、お前以上の投手は見つからなかった」
(;^ω^)「プロとして、どんなときでも投げる覚悟はできてましたお」
( ´∀`)「そうか……なら、安心して見ていられそうだな」

( ´∀`)「体調はどうだ?」
(;^ω^)「問題ありませんお。球もいい感じで投げられてますお」
( ´∀`)「そうか。問題は、ないか?」
(;^ω^)「何も、ありませんお」
( ´∀`)「……よし、じゃあ一つだけお前に言っておこう」
(;^ω^)「なんですかお?」

( ´∀`)「今日の試合、3イニングを2失点に抑えてくれ。それだけでいい」

 内藤は、何故か時計を確認してしまった。スタメン発表の時間が近づいてきている。

(;^ω^)「3回を、2失点……」
( ´∀`)「残りの6イニングは、中継ぎで何とかしよう。3回を2失点で切り抜けてくれれば、試合としては充分やっていける」
(;^ω^)「……分かりましたお」
( ´∀`)「よし、行こう。スタメンを審判に伝えないとな」

 喪名が立ち上がり、歩き出した。追従する形で、内藤も歩いていく。
 内藤は、更なる不安に駆られていた。具体的な数字を示されたことによって、抑えなければいけないという意識が再び芽生え始めたのだ。
 喪名監督の真意は、内藤には分からなかった。それも、不安を増徴させる要因の一つだった。


23 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:42:09.25 ID:/HxwEU6v0
 グランドに出て、喪名はスタメン表をロケッターズの監督である榊と交換した。
 スタメン表を見た瞬間、榊の顔色が変わった。そして、睨みつけるような眼で喪名を見た。

彡;´ー`)「……どういうことですか、喪名監督」
( ´∀`)「見てのとおりですよ、榊君」
彡;´ー`)「擬古じゃなく……内藤? 内藤とは……誰ですか?」
( ´∀`)「楽しい一戦にしましょう」

 軽く笑いながら、喪名はベンチに引き上げた。榊は、暫くその場で呆然としていた。


(実;・Д・)『えっ……!? ヴィッパーズの先発は……内藤?』
(解´Д`)『内藤? 誰ですか?』
(実;・Д・)『すみません、私もちょっと存じておりませんが……な、内藤? 擬古の間違いでは?』
(解´Д`)『……一体、どういうことですかね』


 バックスクリーンにスタメンが表示された。瞬間、場内から大きなざわめきが起きた。

('A`)「さすがに大騒ぎだな……内藤って誰だよ! って感じか」
(;^ω^)「あわわわわ……」
('A`)「三塁側ベンチも慌ててるぜ。こんだけ浮き足立ってたら、最初っからこっちペースで試合を進められそうだな」

 内藤はスタンドを眺めていた。みんなの視線を浴びているような気分になった。ヴィッパーズのファン、ロケッターズのファン、二つの気持ちがぶつけられているように感じた。
 それは、内藤にとって、ただただ、恐怖だった。

25 :第2話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 00:44:04.84 ID:/HxwEU6v0
('A`)「いい感じだよな、ショボン?」
(´・ω・`)「…………」
('A`)「ショボン?」
(´・ω・`)「え? あ、あぁ、そうですね……」
('A`)「おいおい、しっかりしてくれよ。お前がガッチリリードしてやらねーと」
(´・ω・`)「大丈夫ですよ。内藤、ブルペンに行こう」
(;^ω^)「はいですお」

 内藤とショボンが、並んでブルペンへと向かう。
 ショボンの表情は、冴えない。

(´・ω・`)(ちっ……萩野かよ……ついてねーな……)

 去り際、ショボンは球審を一瞥した。
 ショボンは、内藤に伝えるべきかを、一瞬迷った。しかし、ただ不安を煽るだけだろうと、言葉を心の中にしまい込んだ。

 今日の球審である萩野は、ロケッターズびいきの判定が多い審判だ、とショボンは思っていた。





 第2話 終わり

     ~to be continued

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