876284 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【お気に入りブログ登録】 【ログイン】

LOYAL STRAIT FLASH ♪

三十七章一

<作者コメント>
177 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/04(火) 01:25:13.81 ID:syk5CFIh0

ちょっと事情がありまして……

今のVIPは長文規制がかかっておりまして、22行以上のレスが弾かれてしまいます。

これは最初の一行を詰める事で解決出来る(30行使って投下出来る)のですが、
しかしそうすると、まとめサイトさまがまとめてくださった際に、一行目がズレてしまうのです。
その理由は分かりません。

なので、文の最初に点を入れました。
すると、30行使って投下出来る上に、まとめてもらった際にもズレるのはその点だけなので、
この投下スタイルがベストなんじゃないかと、そう思いまして。
<終了>



4 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:20:48.30 ID:O0YNWcPZ0
                             .

三十七章 開戦


ようやく、始まった。
長い年月と、血の滲む様な苦労をかけて作り上げた、最高の喜劇が。

何人もの哀れなピエロが、舞台を跳ねまわってくれるだろう。
誰が死に、誰が泣いて、誰が嗤うのだろうか。
怒りと憎しみと悲しみ、そして死が編み出す舞台は、考えるだけでも笑いが込み上げてくる。

死にたくなるくらい長かったこの人生で、最大の楽しみだ。


幼い頃から、この世界は死ぬほどつまらなかった。
周りの人間は殺したくなるほど愚鈍で、汚穢していたように思う。
少なくとも、人の“内側”を視る事が出来る自分にとっては、それは紛れもない事実だった。

だから、この世界を面白くする為に『物語』を書いた。
人の感情が複雑に絡み合う、悲しくも滑稽な物語を。
人の血と死と涙をインクに、どこまでも際限なく巨大な物語を。


5 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:23:25.96 ID:O0YNWcPZ0
                                         .
犠牲は厭わなかった。
それがどんな物であっても、どんな者であろうとも。
心苦しさなんて感じなかったし、人生を面白くする為には、そんな小さな事には構ってられなかった。

だから無数の人を利用したし、必要であれば殺した。
一般人も、異能者も。 聖人も、罪人も。 敵も、味方も。

実の兄でさえも、僕にとっては駒の一つでしかなかった。


おかげで、この通り。
理想以上の、本当に面白い物語が出来上がってくれた。

人が死に、誰かがそれに涙し、そして怒りと憎しみに従って、また誰かを殺す―――。
反吐が出そうなほどにくだらない、転落の運命の螺旋。
そして、腹を抱えて笑い転げてしまいたくなるほどに面白い、人の感情が作り出す物語。


さぁ、始めよう。
その命を燃やして、全力で僕を楽しませておくれ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


6 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:26:20.03 ID:O0YNWcPZ0
                                       .

( ^ω^)「あれっ……?」

気付くと、僕は真っ白な部屋に立っていた。
上にも下にも前後左右にも、汚れ一つない。
というか、白以外の色というものが存在しなかった。

視界は明瞭だが、どこに明かりがあるのかは分からない。
それどころか壁や天井がどこにあるのかが分からない。
だから実際、そこは部屋というよりかは、空間という方が正しいのかもしれない。

ただただ不気味なほど真っ白な空間で、僕はただ立ち尽くしていた。

( ^ω^)「? ここ、どこだお?」

勿論のこと、僕はこんなところは知らない。
ここがどこであるかも、どうやってここに来たのかも分からない。

とりあえず、足を進めてみた。
しかしどこまで行けども、果ては見えてこない。
どこもかしこも真っ白であるから、景色も変わらない。

……何時間歩いたのだろうか。
それとも数分しか歩いてないのだろうか。
どちらにせよ、僕はいつしかこの風景に心底うんざりしていた。


7 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:28:52.98 ID:O0YNWcPZ0
                                .
しかし不思議と、疲れはない。
それどころか、どこか心地良いような感覚さえある。

何でだろうか、と考えたところで、気付いた。

( ^ω^)「ここは……夢、かお?」

「ようやく気付いたかお」

背後からのその声は、余りにも突然だった。

驚愕に包まれながら振り返る。
しかしそこには、誰もいない。

( ^ω^)「今のは……?」

眉根を寄せる。
今の声、今の喋り方は―――

「そう、君が考えている通りだお」

驚愕に眼が見開き、息が詰まった。
眼の前に、男が『現われていた』。
まさに、瞬きの間を狙ったとしか思えないほど、唐突に。


11 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:31:20.81 ID:O0YNWcPZ0

しかし僕が驚いた本当の理由はそこではなく―――

( ^ω^)「……僕?」

眼の前に立っていた男が、僕と『同じ』だからだった。

背丈に、目付きに、口元……ほとんど、寸分違わない。
鏡を見ているような気分さえする。
違うところと言えば、男の頬に醜い傷痕があるところくらいだ。

(メ^ω^)「そう、君だお。……厳密に言えば、違うけれど」

優しい瞳で僕を見つめて、男は言う。
彼の言葉の意味が分からず、僕はただ眉根を寄せた。

(;^ω^)「……どういう事だお? 誰だお、君は」

(メ^ω^)「僕はブーンだお」

(;^ω^)「ブーンは僕だお」


16 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:34:02.08 ID:O0YNWcPZ0

(メ^ω^)「僕もブーンなんだお。
      ただし、君とは違う未来を歩いたブーンだけど」

( ^ω^)「おっ―――?」

(メ^ω^)「僕は、誰も救えなかったお。
      救おうと、出来得る限り頑張ったのだけど」

(メ^ω^)「……ドクオもギコもジョルジュも、クーもツンもしぃも、モララーも、誰も。
      本当に、誰も救えなかったんだお。
      みんなみんなこの手をすり抜けて、悲しい運命の中に呑み込まれてしまった」

優しい表情を浮かべつつ、彼は言う。
一瞬、その瞳にふっと走った感情は、一体何だったのであろうか。

(;^ω^)「君は……何を……」

(メ^ω^)「いくつもの未来があるって事だお。
      例えば、君がよく知っている、こんな未来も」


18 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:37:31.83 ID:O0YNWcPZ0

その声も、そしてそれから起こる出来事も、唐突だった。
周囲の空間がぐにゃりと歪曲し、この不思議な空間が変化していく。

空間の歪みがなくなると、僕は廊下に居た。
夢の中での研究所―――“管理人”が基地として利用するあの白い建物の、白い廊下に。

壁を這う色とりどりのコードを見て、ぞくり、と背筋が寒くなった。
最近はずっと見ていない『あの夢』と、まったく同じ情景だったからだ。

(;^ω^)「この世界は……この、夢は」

(メ^ω^)「そう。君の見るあの夢は、『僕の未来』。
      何も救えなかった僕の事を、君は夢で見ているんだお」

( ^ω^)「夢、で……?」

呟く僕の脳裏に浮かぶのは、あの光景。


21 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:40:54.84 ID:O0YNWcPZ0

視界に入るのは、惨殺という惨殺。
飛び散る血飛沫、跳ねる首、破裂する頭蓋。

耳に入ってくるのは、気が狂いそうになる叫喚。
逃げ惑う人々。追う狩人。築かれる死体の山。

そして起こる爆発。
視界を覆う煙。炎の中で笑う、人々を惨殺した狩人―――

そうだ。
人ならざる力を持ったあの狩人は、どこか見たことがあるような顔をしていた。

そう、とても近いところで。

(;^ω^)「……もしかして」

呟く声は、掠れていた。
それに応える男の声は明瞭で、その眼は、やはりどこまでも優しげなそれだった。

(メ^ω^)「そうだお。それが、僕だお」


25 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:44:47.34 ID:O0YNWcPZ0

(;^ω^)「何であんな事……ッ!」

(メ^ω^)「仕方なかったんだお。あの時の僕は、僕だけれど僕じゃない」

(;^ω^)「……さっきからあんたが言ってる事は意味が分からないお。
      何なんだお、あんたは。僕に何をしたいんだお?」

(;^ω^)「昔っから何度も夢に出て来て僕を苦しめて、今もこうして僕を困らせてる。
      何がしたいんだお? 何を伝えたいんだお? お前は誰なんだお?
      僕には、お前が言ってる事の意味がまったく分からないお」

(メ^ω^)「僕は、ブーン。
      君とは違う未来を歩き、多くの者をこの『物語』に巻き込んでしまった存在だお」

(;^ω^)「まずその意味が分からないっつってんだお! 
      いいかげんにしろお!」

(メ^ω^)「今は分からなくて良いお。きっと、後で分かるようになる」


28 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:47:43.22 ID:O0YNWcPZ0

(;^ω^)「……ああ、もう。じゃあ、それについてはもう良いお。
      それじゃ、お前は僕に何を伝えたいんだお? 何がしたいんだお?」

(メ^ω^)「お願いしに来たんだお」

( ^ω^)「おっ? 何を、だお?」

(メ^ω^)「今度こそ、救ってほしいんだお。ドクオを、ギコを、ジョルジュを。
      クーを、ツンを、しぃを。そして、モララーを。
      彼らを、悲しい物語の渦から救い出して欲しいんだお」

(;^ω^)「……やっぱり、あんたの言ってる意味はよく分からないお。
      つまりは、この戦いに勝てっていう事じゃないのかお?
      それに、何で僕がモララーを救わなきゃいけないんだお?」

(メ^ω^)「それも、いずれ分かるお。
      君にはただ、僕のお願いを覚えておいてほしいだけだお」

ふいに、男の両手が持ち上がった。
それは僕の肩を堅く掴み、軽い痛みを伝えてくる。


31 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:49:32.35 ID:O0YNWcPZ0

何なのか、と訊こうとして、息を呑んだ。
僕のと同じ高さにある男の瞳―――先程まではただ優しげだったその瞳が、炯々と輝いていた。

その輝きは、凄絶なものだった。
そこにあるのは、溢れんばかりの悲しみ。

(メ^ω^)「君は、僕と同じ道を歩まないでくれお。
      今度こそ、救って欲しい。これ以上の悲しみの連鎖は、ごめんだお」

(メ^ω^)「君に全てを託す形になって、ごめんお。
      何も出来なかった僕を許してほしいお。
      ……お願いだお。今度こそ、今度こそ―――みんなを救ってくれお」

言葉が終わるのと同時、肩から指が離れる。
そして彼は僕に背を向け、廊下の奥に向かって歩き出した。

( ^ω^)「……待ってくれお」

しかし彼は振り返らない。
それでも僕は、言葉を止めない。


33 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:51:31.41 ID:O0YNWcPZ0

( ^ω^)「やっぱりあんたの言う事は意味が分からないお。
      でもいずれ分かるって言うなら、それについてはまぁ良いお」

( ^ω^)「でも、これだけは教えてくれお。
      あんたは、誰だお?」

応える声は、ない。

( ^ω^)「あんた、もしかして―――」

「ブーン」

男は足を止め、しかし背中を向けたまま呟いた。
僕と同じ声だというのに、その声は押し潰されそうになるほど重い。

「君はきっと、苦しくて悲しい想いを味わう事になると思うお。
 でも、諦めないで頑張って欲しいお。きっと、希望はある筈だから」

変化は、またも唐突だった。
僕の周囲の空間が、眩いほどに光輝き始めたのだ。


36 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:54:21.21 ID:O0YNWcPZ0
                                 .
床や壁、天井が光に呑まれ、辺りは白銀色の光に染まる。
全身を浮遊感が包み、僕はただ混乱した。

前を歩いていた男も光に呑まれ、その姿は見えない。
しかし、彼の声だけが、どこからともなく聴こえてきた。

「……僕が誰であるか。
 その質問には、次に会った時に答えるとするお。
 もう、起きる時間だお。今日のところは、さよならだお」

「さようなら。
 また、会おうお」

その言葉が、最後だった。
眩かった光が急速に膨らみ、僕の全てを包み込む。

音すらも遠ざかる中、僕は彼の事を考えていた。
彼は誰なのだろう。

もしかして、“彼”だとしたら―――


そこまで考えたところで、突然、視界が暗転した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


40 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 21:56:57.63 ID:O0YNWcPZ0

耳を劈くベルの音が、部屋の空気を震わせた。
凄まじい音を発しているのは、大型の目覚まし時計だ。

それが頭のすぐ横に置いてあるとなると、睡眠中のブーンはさぞかしうるさいだろう。
実際、彼の眉根はぎゅっと寄せられ、表情は凄まじく迷惑そうに歪んだ。
  _, ,_
(;^ω^)「うーん……」

呻きつつ、ブーンはその目覚まし時計を止める。
ベルの音はピタリと止み、残響は殷々と残って、徐々に消えた。

上半身を起こす。
時計が指しているのは、午前二時半。
尋常でなく早い起床だが、寝たのが早かった為、睡眠時間は十分だ。

( ^ω^)「……妙な夢だったお」

呟いて、頭を振った。
夢のせいか、眠気はほぼ完全に晴れていた。
目覚めは、間違っても良くはなかったが。


42 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:00:13.00 ID:O0YNWcPZ0

テーブルの上に置いておいた、水の注がれたグラスに手を伸ばす。
それを一気に飲み干すと、幾分か気分が良くなった。

( ^ω^)「ん、しょっ……」

立ち上がる。
それから一つ、溜息を吐くと、胸に触れた。

鼓動は少しだけ強く、早い。
緊張―――そして少しだけ、興奮していた。

言うなればその心持ちは、部活での試合前のようなそれだ。

( ^ω^)「とうとう、今日だお」

今日で、決着が付く。
勝っても敗けても、終わる。
勝てば望む結果が手に入るし、敗ければ全てが奪われる。命さえも。


45 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:02:43.81 ID:O0YNWcPZ0

―――敗けるわけにはいかない。
心中で呟くと、自然と心が引き締まった。

( ^ω^)「……頑張るお。
      あの日常に、戻るんだお」

呟き、時計を見やる。
そして頷くと、ブーンは戦いに向けての準備を始めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


47 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:04:46.57 ID:O0YNWcPZ0
                                         .
川 ゚ -゚)「よし、集まったな」

その呟きは、凛とホールに響き渡った。
応える声はない―――が、全員が静かに頷いた。

それぞれの眼に輝くのは決心と覚悟だ。

川 ゚ -゚)「一応聞いておこう。準備は良いだろうな?
     得物は持ったか? 出来得る限りの装備は?」

( ^ω^)「分かりきったことを聞くなお」

応えるブーンの手には、白いバッグだ。
中からは金属同士が擦れる音―――ガントレットが奏でる声が聞こえていた。

ギコやジョルジュにドクオ、クーとモナーも、それぞれの得物をしっかりと持っている。

川 ゚ -゚)「ふむ、忘れ物はないようだな。
     ……気合いは入ってるだろうな?」

ミ,,゚Д゚彡「ふん。今更、だな。
     気合いなんざ、とっくの昔っから入れっぱなしだ」

(,,゚Д゚)「あぁ。十分過ぎるぐらいに、気合い入ってんよ。
    今日は、絶対に敗けるわけにいかねぇからな」

川 ゚ -゚)「よろしい。じゃあ、行くぞ」

('A`)「どうやって?」


49 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:06:04.20 ID:O0YNWcPZ0
                                  .
川 ゚ -゚)「そりゃあ、車やらバイクやらでだろう」

('A`)「んなもん、どこにあるってんだ?」

川 ゚ -゚)「ここの地下には、駐車場がある。
     そこに、バイクも車もあるぞ」

('A`)「……ほぅ。準備がよろしいな」

川 ゚ -゚)「行くぞ」

言い残し、彼女はエレベータに乗り込んだ。
続いて他のメンバーも乗り込み、彼らは地下へ。

エレベータの扉が開いて最初に感じたのは、驚くほどの冷たい空気だった。
口からの吐息は白く、ふわりと空気に流れ、溶けて行く。

エレベータの前は、細い通路だった。
少し先に、曲がり角がある。

通路には最低限の灯りしかなく、かなり薄暗い。
足音を冷えた壁に反響させながら、彼らはその中を歩む。

(;゚∀゚)「寒ッ!」

川 ゚ -゚)「そうか?」

(;゚ー゚)「いやいや、姉さん。これは普通に寒いよ」


53 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:09:25.19 ID:O0YNWcPZ0
     .
ミ,,゚Д゚彡「どうでも良いな。それよりも、クー」

川 ゚ -゚)「分かってるさ」

その声と同時、通路の角を曲がった。

そこにあった光景に、ブーン達は思わず息を漏らした。

(;゚Д゚)「……多いな、おい」

川 ゚ -゚)「まぁな」

そこにあったのは、相当な数の車とバイク。
種類も豊富だ。

(;゚∀゚)「こんなに揃えて、どうする気さ。
    こんだけあっても使わないっしょー?」

( ´∀`)「一応置いてある、という事だもな。気にするなもな」

( ゚∀゚)「……ま、良いんだけどさー」

川 ゚ -゚)「さて、ここでブーン達に質問だ。
     “管理人”の基地までは、出来るだけ小回りの利くバイクで行きたいのだが……。
     君達はバイクに乗れるか?」

( ^ω^)「乗れないお」

('A`)「同じく。っつーか、乗れちゃいけないわけだが」


58 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:12:26.96 ID:O0YNWcPZ0
                                   .

ミ,,゚Д゚彡「お前達は?」

(,,゚Д゚)「……乗れるぞ」

( ゚∀゚)「同じく」

   _, ,_
( ^ω^)「……何でだお」

(,,゚Д゚)「……趣味というか、何と言うか」

( ゚∀゚)「ほら、ね? 乗れると便利だし」

('A`)「DQNめ」

(;゚Д゚)「違う! それは断じて違うぞ!!」

(;゚∀゚)「バイクに乗れるってだけでDQN扱いは酷いなー」

('A`)「うるせ。DQNが反論すんな」

ミ,,゚Д゚彡「やかましいぞ、お前達。
      とにかく、ギコとジョルジュは乗れるんだな?」

(,,゚Д゚)「あぁ」

( ゚∀゚)「いぇす」


61 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:14:59.05 ID:O0YNWcPZ0
                                         .
ミ,,゚Д゚彡「じゃあ、ギコの後ろにブーンが、ジョルジュの後ろにドクオが乗れ」

( ^ω^)「把握だお」

('A`)「おk」

( ゚∀゚)「そっちはどうするんだい?」

川 ゚ -゚)「私とモナーとフサが運転出来る。
     だから私の後ろにしぃが乗って、フサの後ろにツンが乗る」

(,,゚Д゚)「ほぅ」

ミ,,゚Д゚彡「よし。じゃあ各々、乗る機体を選べ。
      好きなものを選んで構わんぞ」

(,,゚Д゚)「あいよ」

各々、バイクの元に足を運ぶ。
結局、誰も特に選ぶ事もなく、眼に付いたバイクを運んできた。

ミ,,゚Д゚彡「乗れ。エンジンをかけろ」

短い指示に、全員がすぐさま従った。
まもなく五つのエンジン音が唸りを上げ、地下の冷えた空気を焦がす。

川 ゚ -゚)「ギコ達は、私達の後について来てくれ」

(,,゚Д゚)「OK。先導は頼んだ」


65 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:17:35.28 ID:O0YNWcPZ0
.
川 ゚ -゚)「あぁ。それじゃ―――行くぞ!」

その声に応じるかのように、クーの駆る銀のバイクが咆哮をあげた。
そして、出口らしき一角に向け、急発進。
それにフサとモナーのバイクが続き、どこか追いすがるようにしてギコとジョルジュのバイクが続く。

エンジン音の荒々しい響きだけが、地下に残された。
誰もいなくなり、その駐車場は再び沈黙に閉ざされる。


冷えきった空気の中、忍び笑いの響き。
誰が発しているのか―――それどころか、どこから発されているのかも分からない。
しかしその音は明確に、どこまでも邪悪に、無人の地下駐車場の空気を震わせていた。

笑い声は唐突に止み、そして空気よりも冷えきった言葉が紡がれる。

「始まりだ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


67 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:19:58.80 ID:O0YNWcPZ0
                                      .
東の空が薄らと白んできた時間。
舗装されたアスファルトの上を、銀のバイクが凄まじい速さで駆け抜けた。
ほとんど並ぶようにして続くのは、黒いバイクとメタリックブルーのバイク。

三つの機体にやや遅れて駆ける機体は二台。
赤いバイクと、白いバイク。
つまり、ギコとジョルジュの車体だった。

(;^ω^)「ちょっ、ギコ!! 飛ばし過ぎだお!!」

(;゚Д゚)「俺に言うな! あいつらが速過ぎるんだよ!!」

(;゚∀゚)「確かにあの速さは尋常じゃないねー!
    この時間だから良かったけど、車の通りが激しかったら絶対事故るよこれ!!」

('A`)「……喋る余裕があんなら、追いつけ。
   離されたら、もうどうしようもねぇぞ」

(;゚∀゚)「わーってらい!」

(,,゚Д゚)「…………っ!」

アクセルを更に強く捻り込み、加速する。
風が容赦なく身体を殴りつけ、運転手の二人は軽く呻いた。

(;゚ω゚)「ちょおおおおっ! 速いお! 速過ぎるおおおぉぉぉおぉっ!!」

(;゚Д゚)「るっせーな、口閉じてろ! 舌噛むぞ!!」


69 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:22:21.71 ID:O0YNWcPZ0
                                            .
('A`)「……事故るなよ? この速さなら、即死だからな?」

(;゚∀゚)「不吉なこと言わないでくれるかなーっ!?」

更に加速して、クー達に追いすがる。
見るとクーの後ろに乗っているしぃ、そしてフサの後ろに乗っているツンも、それぞれ恐怖の表情を浮かべていた。

(;゚∀゚)「クーさん! お願い! もうちょい遅く走って!!」

川 ゚ -゚)「む? 何故だ?」

(;゚Д゚)「速過ぎだっつの! 追いつけるか!!」

ミ,,゚Д゚彡「今こうして追いついてるじゃないか」

(;゚ω゚)「この速さは危険すぎるお!
     戦いに臨む前に死んじまうおっ!!」

川 ゚ -゚)「むー……?」

( ´∀`)「クー。確かに、この速度は一般人にはキツいもな。
      時間はある。ちょっと速度を落とすもな」

川 ゚ -゚)「……ふむ、分かった」

言葉と同時、速度がやや緩やかになる。
とは言っても、その速度は一般人からすれば十二分以上に速い。


72 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:24:25.57 ID:O0YNWcPZ0
                                         .
しかしブーン達の表情は緩み、口からは安堵の溜息が漏れた。
異能者となって身体能力が上がり、かつ訓練によって鍛えられた彼らの能力は、既に一般人のそれではなくなっていた。


覚醒してから、今まで。
この短期間の間に、彼らは立派な『異能者』に成長していた。
戦闘に特化した、超人間に。

しかしそれを聞いても、彼らは心の底から喜びはしないだろう。
彼らは“力”を―――戦闘を望んでいたわけではないのだから。

何かを護る為に、戦わざるを得なかったのだ。

ブーンは日常を護る為。そして、人々の悲しむ顔を見ない為。
ギコは己の正義を護る為。悪の存在に蹂躙される人を失くす為。

ドクオは大切な者を護る為。大切な友の元に戻る為。
ジョルジュは己の存在を護る為。そして、真実を知る為。

護る為に、彼らは奪う力を得た。
護る為の力が、奪う為の力となった。

人は護る物があれば、強くなる。
だから彼らは短期間の間に、これほどまでに強くなった。


(,,゚Д゚)「クー! あとどれくらいだ!」

( ゚∀゚)「もう結構走ったよねー!? そろそろ着いても良いと思うけどー!?」


74 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:27:11.56 ID:O0YNWcPZ0
                                               .
川 ゚ -゚)「案ずるな。もうすぐだ」

ミ,,゚Д゚彡「……あれだ。あちらに、黒い影があるだろう。
     あれが奴らの森だ」

眼を細めて先を見るフサ。
その方向に眼をやれば、確かに、少し先にぼんやりと黒い塊が見える。

( ^ω^)「あそこかお!」

('A`)「……もう、そう時間はかからないな」

川 ゚ -゚)「森の中、基地近くまで行って、そこで一度降りるぞ。
     そこからは四チームに分かれて、徒歩で進む」

(,,゚Д゚)「了解!」

( ゚∀゚)「りょーかーい!」

会話はそこまでだった。
声を置き去りにして、五台のバイクは走り行く。


十数分後。
欝蒼とした森の深くで、五つのエンジン音が響いていた。
先程までの走りに喘ぐように、エンジンの放熱機関は熱い空気を吐いている。


77 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:30:25.21 ID:O0YNWcPZ0
                                      .
川 ゚ -゚)「……よし、この辺りで降りておこうか」

その声に応じるように、五つあったエンジン音が一つずつ消えて行った。
代わりに、草を踏み締める音が増えて行く。

( ゚∀゚)「相変わらず、不気味な建物だねぇ」

言いつつ、肩にかけていたバッグを開いた。
そこから顔を出すのは、四本の爪を持つ橙色の奇妙な武器―――『尖鋭』。

(,,゚Д゚)「あぁ。見てて、どうも胸糞悪い。気に入らない」

( ^ω^)「……でもこの建物を見るのは、今日で最後だお。
      僕達は明日から、学校生活にいっぱいいっぱいでこんなところには来れない。
      ―――そうだお?」

('A`)「だな。日常生活の中で、ここに来る事はないだろうから」

喋りながら、彼らも武器を装備する。

ギコの左手には、幅広の紅い刀身を持つ長剣。
ブーンの両手には、白銀に輝くガントレット。
ドクオのベルトに差し込まれたのは、黒と銀の二挺拳銃。

川 ゚ -゚)「……よし。準備は整ったな。
     それじゃあ、私が合図したら四つに分かれて、それぞれの仕事場に付け。
     私とドクオは、三十分後に突入する。お前達はその五分後に突入しろ」

控え目な、しかし気合いが込められた返事が返ってくる。


82 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:32:42.96 ID:O0YNWcPZ0
                                   .
クーは眼を閉じ、大きく息を吸った。
軽く握った手は、胸に。
その姿は、何かに祈るかのようだ。

いや、実際に祈っているのだろう。
彼女の口は、音を発さずに『ファーザー』という言葉を紡いでいた。

まもなく、瞳が開かれる。

川 ゚ -゚)「……絶対に、勝とう。誰も死なないでくれ。
     また、みんなで言葉を交わそうじゃないか」

川 ゚ -゚)「―――良いか、これは命令だ。己の全てを出しきって、生き残れ。
     どのような手を使っても良い。これは戦いだ。勝って生きねば、意味がない。
     “削除人”リーダー、クーが命ずる。死ぬ事は許さない。生きろ」

拳が堅く握られ、そして突き出された。
憎き敵の、雪色の基地に向かって。

川 ゚ -゚)「行け! 各々その“力”で、奴らを思う存分に蹂躙しろ!
     容赦などはいらない! 己の理想と正義を、現実にするんだ!!」

返事は、なかった。
ある者は笑みを浮かべ、ある者は咆哮をあげて、ただ走る。

残ったのはクーとドクオのみ。
二人とも声は発さず、静寂が訪れた。


84 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:35:41.28 ID:O0YNWcPZ0
                  .
二人の視線は突き刺すような鋭さで、“管理人”の白い基地を捉えていた。
動きはない。

川 ゚ -゚)「……外には、いないようだな」

('A`)「あぁ。姿はないし、音もない。
   奴らは中にいる。だが……」

川 ゚ -゚)「そうだな。きっと、気付かれている。
     理由はないが、そんな感じがする」

('A`)「気付かれてるとすれば、舐められてんな。
   まぁ、構わないがな。
   俺達を舐めるっつーなら、その舌を引き千切ってやるだけだ」

川 ゚ -゚)「……あぁ。その通りだ」

('A`)「さて、俺達の突入は何分後だ?」

川 ゚ -゚)「む。……あと二十五分後だ」

('A`)「結構時間あるな。どうするか」

川 ゚ -゚)「今はただ、休むしかあるまい。
     変に動いてしまっては、疲れてしまう。
     ウォーミングアップは突入五分前からで十分だ」

('A`)「ん、そうか」


87 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:38:43.99 ID:O0YNWcPZ0
                                         .
短く答えると、ドクオは服の中に手を差し込んだ。
そこから現れたのは、彼が愛飲する缶コーヒーだ。

それを口に運び、ドクオは美味そうに眼を細める。
クーは、それを眉根を寄せて見詰めた。

川;゚ -゚)(……あんなもの、どこに入れていたんだ)

('A`)「ん? 何だ?」

川;゚ -゚)「ん。あぁ、いや。何でもないんだ」

('A`)「ん……あぁ、お前も飲みたいのか?」

川;゚ -゚)「いや、そういうわけじゃなくてだな」

('A`)「遠慮すんな。戦い前に、元気付けとけ」

言って、再度服の中に手を忍ばせた。
まもなく外に出た手には、またも缶コーヒーが握られている。

川;゚ -゚)(二本もどこに入れていた……っ?)

('A`)「ほれ」

クーは多少混乱しながらも、軽く投げられた缶コーヒーをキャッチする。
そしてまた、小さく驚愕した。


89 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:41:06.07 ID:O0YNWcPZ0
                                    .
川;゚ -゚)(しかもホットだと!?)

('A`)「熱いのはダメだったか?」

川;゚ -゚)「あ、いや。そんな事はない。ありがたくいただこう」

答えつつ缶の蓋を開けると、豊かな香りが鼻をくすぐる。
クーはその香りを少し楽しむと、大きく一口飲み込んだ。

川 ゚ -゚)「……ふむ。やや甘いが、美味いな」

('A`)「百二十円のものにしちゃ、良いものだろ?」

川 ゚ -゚)「あぁ。落ち着く味がする」


そして、沈黙。
二人が発する音は、コーヒーを啜る静かな音だけ。

緩やかに吹く風は森を揺らし、二人の頬を撫でていく。
時折響く鳥の声は美しく、気持ちを落ち着かせた。
頭上に視線をやれば、一本の太い枝の上で二匹のリスが追いかけっこをしていた。

それは戦闘前とは思えないほど、穏やかな空間だった。

二人は喋る事もなく、ただただゆっくりとコーヒーを飲み続ける。
それは、時の流れをまるで気にしないかのように。


91 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:44:47.31 ID:O0YNWcPZ0
                              .
('A`)「ん…………」

缶を大きく傾け、最後の一滴を口に落とす。
そして後味を楽しむかのように大きく息を吐いて―――

その手に握られた缶が、凄まじい音を経ててひしゃげた。
缶を握り潰したその左手は、やはり、黒の異形。

('A`)「さて、クー。突入まで、あと何分だ?」

川 ゚ -゚)「残り……五分だ」

('A`)「よし」

手の形に潰れた缶を投げ捨て、ドクオは首を鳴らす。
そして調子を確かめるかのように左手を開閉すると、前の白い施設を睨みつけた。

('A`)「依然、相手側に動きはなし。
   気付いてるのかどうか知らんが、少なくとも外には出ていない。
   他の三チームは、しっかりと配置に着いたようだ」

川 ゚ -゚)「分かった」

短く応えて、彼女も右腕を解放する。
そして、モナーから受け取った青き刀『氷華』を鞘から抜くと、左手に握った。

川 ゚ -゚)「残り四分。そろそろ、行こうか」

('A`)「あいよ」


93 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:47:29.89 ID:O0YNWcPZ0
                                    .
ゆっくりと、歩み出す。
その歩みに、躊躇や恐怖などはない。
どこまでも冷静で、しかし力強い足取りだった。

('A`)「クー。気付かれてるとすりゃ、扉を破った瞬間に襲撃が来る可能性がある。
    気を付けろよ? 流石にそこは、カバー出来ない」

言いつつ、ドクオはベルトからクロを抜き出し、右手に握る。

川 ゚ -゚)「分かってるさ」

('A`)「なら良いんだ。
   さて、どうやって突入する?
   二人一緒に? クーから? 俺から?」

川 ゚ -゚)「二人一緒に、だろうな。
     正面入り口だ。敵が固まっている可能性が高い」

('A`)「OK。作戦なんかは?」

川 ゚ -゚)「ない。相手の出方がまったく分からない状況だ。
     作戦を組まず、状況に応じて行動するのが一番だろう」

('A`)「OK」

話す間にも、二人と基地との間はどんどんと狭まって行く。


95 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:49:48.69 ID:O0YNWcPZ0
                            .
川 ゚ -゚)「残り二分」

小さな呟き。
速度は、変わらない。

川 ゚ -゚)「残り一分」

背の高い、鉄の柵に到達した。
足下に転がる鉄の残骸は、クックルに壊された巨大な鉄の門の名残だ。

眼の前に広がる巨大な前庭。
そこを割くようにして通る石畳の道を、足音高く歩む。

川 ゚ -゚)「……残り、三十秒」

そして、到達した。

門から数メートルの距離を置いて、二人は足を止める。
立ち位置はドクオを右に、クーを左に。
二人の瞳は鋭く細められ、四肢はすぐにでも動けるように力が込められていた。


98 : ◆tAdHw/rYVY :2008/03/03(月) 22:52:21.12 ID:O0YNWcPZ0
                                    .
クーは刀を握り直し、ドクオはクロを手の中でくるくると回す。
そして、その回転が停まると同時。

('A`)「さ……行こうか」

川 ゚ -゚)「あぁ」

二人の足が、動いた。
まるで、滑るように。

解放部位を、それぞれ引き絞る。
ドクオは左腕を、クーは右腕を。

そして、振り抜いた。
甲高い音が鳴り響き、扉は凄まじい勢いで開け放たれる。


その音はまるで、開戦の合図のようだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







戻る 目次 次へ


Copyright (c) 1997-2017 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.