ブーンが初恋の夢を見たようです(^ω^ )



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/10(木) 23:17:54.03 ID:
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また初恋の人の夢を見た。 

夢が覚める前までにあったはずの全てのリアルが 

全てひっくるめて夢だったと言うのが酷く笑えた。 

――うんざりするほど繰り返されてきた夢。 

まだ頭の中に残る感覚。そう、あれは―― 



29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/10(木) 23:18:51.62 ID:
E6E9bWNC0
ξ--)ξ「…………」 

頭を抑えながら起き上がる。 
徐々に意識の解明度があがって行く。 
日常にひっぱり戻される感覚。 


毎回の事だが好きではない。 


ξ゚听)ξ「またあの夢……」 

そう言いつつ、言うも言われぬ心地良さを私は覚えている。 
もう聞く事の出来ないであろう浅いテナーの声。 
もう見る事の出来ないであろうあの締りのない顔。 

年々薄くなっていく夢の感覚は、開けていく距離にきっと比例している。 

ξ゚听)ξ「……馬鹿馬鹿しい」 
窓辺に寄ってブラインドをあげる。 
シャッ、と言う鋭い音と一緒に光が部屋に入ってきた。 



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/10(木) 23:19:23.78 ID:
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ξ゚听)ξ「今日も一日、頑張りますか……!」 


ニュー速県から上京してもう3年。 
国公立の大学三年生になった。 
――アイツのいない三度目の夏が訪れようとしている。 


       ツンが初恋の夢を見たようですξ゚听)ξ 





31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/10(木) 23:19:43.50 ID:
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《第一話 続いていますか? 続いていてもいいですか?》 

『……それ、何て曲?』 
訝しげな声。 
音の悪いスピーカーから出た音みたいに、所々掠れて聞き取れない。 

『……へえ」』 
感心したような声。 


ξ゚听)ξ「……平穏無事な日々」 


夢よりもいくらか不明瞭になっている声を思い出しながら、 
手にした音楽ノート。空白になっている題名部分を指でなぞりながら、笑ってみる。 
鏡がないから解らないけれど、きっと今私は酷い顔をしてるだろう。 

『ツンはよく知ってるお、そう言うこと』 
自分のことのように嬉しそうな声。 


ξ゚听)ξ「当たり前よ。……私が作った曲なんだから」 


あの時いえなかった本当の事。 
精一杯考えて作った私の曲。イメージはハルシオンデイズ、私達の日常。 


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/10(木) 23:20:42.17 ID:
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ξ--)ξ「けど……まだ未完成なのよね。この曲」 

書き上げられない最後の一小節。 
ペンを取ればこの曲を仕上げてもいいのだろうかと言う迷いが必ず生じる。 
書き上げて、終ってしまわないだろうか 
私の。私達のハルシオンデイズが。 


ξ゚听)ξ「ばかっ……馬鹿馬鹿しい」 


2度目に出た口癖は、いつもよりも長い余韻を私に残す。 
蝉の声が聞こえ始めていた。 
朝が始まりかけている。新しい朝がきた、希望の朝が。 

その点で言えば、私は止まっているのだろう。 
――――いや、違うか。 

止まれていない。続き続けているだけ。 

多分それは―― 

ξ゚听)ξ「これを終らせるまで、ずっと……」 

呟いてから、手の中の音楽ノートを一瞥する。 
それでも終らせる気なんて、さらさらなくて。 


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/10(木) 23:21:08.26 ID:
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歯磨きして、顔を洗って。 
朝食を取る暇がないと嘆くくせに、長い時間をかけて髪を整える。 

ξ゚ー゚)ξ「一人暮らしにも慣れたものね……」 

苦笑気味に笑った朝6時30分。 


ξ゚听)ξ「…………」 


って。 


ξ゚听)ξ「今日から大学夏休みだしっ!」 


昼まで寝たとして時間損した。 
時給710円として2840円分の損失。 


ξ#゚听)ξ「あー! 何このケチくさい考え方!」 


腹立つ! 調子狂う! 
一通り叫んでいたら隣人に壁をドンドン叩かれた。 
思わず萎縮する。ご、ごめんなさい。一体誰に謝ってんだか。 
そして切り出された最悪な一日のスタート。 


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/10(木) 23:21:50.66 ID:
E6E9bWNC0

……どれもこれもきっとアイツのせいだ。 


ξ゚听)ξ「……内藤の馬鹿」 


この呟きは届くはずはない。 
解ってはいるけれど。 

くしゃみの一つくらい、やってくれててもいいとは思う。 


妄言を払拭させる為にもとテレビを付けると、 
天気予報のコーナーに入った所に丁度被っていた。 

新顔の天気予報士が今日から梅雨明け宣言をした後に 
連年より少し遅い本格的な夏の始まりが訪れたと言う。 


大学の夏休みを利用して、三年ぶりに実家に帰る計画はしているものの、 


アイツに。 

内藤に会う予定は、立っていない。 


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 08:21:59.78 ID:6/
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《第二話 偶然スクランブル》 

早起きしすぎた。 

時計を見れば6時55分。 
とは言え再び寝る気にもなれなかった。 

早起きは三文の得と言うけれど、 
私の一日のスタートといえば隣人に壁を叩かれ萎縮しただけだったような。 
逆に損してる。絶対してる。2840円……ハッ!? 


ξ゚听)ξ「貧乏くさい……!」 


一人暮らしに慣れすぎたのだろうか。 
そう言えば日用品にじわりじわりと100均物が増えていっているような気がする。 


ξ゚听)ξ「あー! もう嫌ぁっ!」 


ドン。うるさいと壁が叩かれる。 
断じて私がうるさいわけではない。薄いのよ、このアパート。 
す、すみません。あれ、なんだろうすっごいデジャビュ 


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 08:22:29.09 ID:6/
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ξ゚听)ξ「……この部屋にいるからダメなんだわ」 

結論は極論だった。 
そうだ。折角2840円分早起きしたのだ 
なにかのお導きだろう。汝外へ出ろ。 


ξ゚ー゚)ξ「馬鹿馬鹿しい」 


言うものの、私の顔には笑いがこみ上げてきていた。 
そう言えば、ブラインドをあげたときに見えた空は言葉を無くす程青かったような気がする。 

ξ゚听)ξ「……こう言う日もありよね」 

両腕をのばして、体一杯でのびをすると 
ポキリ。小気味いい音と共に骨がなった。 

/ 


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 08:22:57.60 ID:6/
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特に意識せずに道を選択していたせいか、 
気付けばいつも利用している最寄駅に到着していた。 
いつもと変わらない景色。だけれど学生の姿が見当たらない。 

ξ゚听)ξ「まあ、そりゃそうよね」 

夏休みだもんね。 

考えにいたって特大のため息が出た。 
それでも、新鮮な思いがつのるのは、いつもと空気が違うと感じるのは 
人口密度がいつもより少ないからだろうか。 

それとも 

久々にかいだ朝の匂いのせいだろうか。 
太陽の粒の匂いは人を詩人にするから。 
うん、きっと。そのせいだ。 

都会の朝は早いとよく言うけれど、 
それは単に町が眠っていないような気がする。 
夜の延長線上に朝と昼がある。そんな気がする。 

「詩人的だな」 
ξ゚听)ξ「そう? いや、多分それは朝のにおいのせいよ。あのにおいの所為でこんな考え方
が……」 
って。 

あれ? 



70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 08:23:39.71 ID:6/
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ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、 
ベッドの中で自分の姿が一匹の、 
とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。 

「大丈夫だよグレゴール・ザムザそれは悪い蟲じゃない」 

…………っていやいや、何これ。別の物語よ。 
勢いあまって別の物語に突入って何それ。 

川 ゚-゚)「久しぶりだな。ツン」 

いやいやいやいや、なんでクーがここにいるの? 
ちょってまって。ありえない。 
と言うか何クーも平然と挨拶してるの。 

川 ゚-゚)「驚くほどの事でもないと思うが……」 

いや、驚け。普通は驚く。私は驚いています。 

川 ゚-゚)「そうか。参考にしておく」 

あいっからわず……感動ないわね、クー。 

――――汝外へ出よ 
――――早起きは三文の得。 

昔の人もいやはやなかなか。 
あなどれないもので。 


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 12:17:58.11 ID:6/
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《第三話 それは数多に別れた三叉路のよう》 

ξ゚听)ξ「……ねぇ、本当に何でクーがここにいるのよ」 

対峙したまま、私達は数秒見つめあった。 
信じられないことが今平然と私の目の前に転がっている。 


川 ゚ー゚)「まるでここにいちゃいけないみたいな口ぶりだな」 


いや、そう言うわけじゃない。 
ただあの夢を見た後だったから―――― 


ξ゚听)ξ「違うのよ。違う。えーっと……とりあえず訊くわ。どうしてここにいるの?」 
川 ゚-゚)「話せば長くなるが……」 
ξ゚听)ξ「400文字以内ならおk」 


川 ゚-゚)「まよった」 


ξ゚听)ξ「4文字!?」 

変わってないな。とクーが喉の奥で笑う。 
私の中で安心したような感情が広がる。クーこそ変わってないわよ。 


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 12:18:32.58 ID:6/
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川 ゚-゚)「ああ、編集部に行こうとしてな。そしたらここに着いた」 
じゃあ意図して私に会いにきた、と言うわけでもないのか。 
……少し残念だ。 
って。 

ξ゚听)ξ「編集部?」 

訊きなれない単語。そしてリピートする。 

川 ゚-゚)「「今作家紛いのことをやらせてもらっている」 
一応、本業で。クーの付言があって、 

ξ゚听)ξ「……訊いてないわよ!?」 
川 ゚ー゚)「そういえば、話してなかったな」 
緩やかにマイペース。 

ξ゚听)ξ「……本当に変わってないわね」 
川 ゚ー゚)「ツンこそ」 

そうやって小学校からの腐れ縁はまた愉快そうに笑った。 

訂正。変わっていないと言ったけれど。多分それは方便でしかない。 
クーは変わった。 

落ち着いた物腰はさらに輪をかけて雰囲気としてクーを包んでいるし、 
言動だって大人びたものになって。 


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 12:18:51.00 ID:6/
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じゃあ、私は? 


あの時をずっと引きずっている私はどうなの? 


川 ゚-゚)「ツン。一応訊くが、ここはシベリア町ではないのか?」 


思考が一気に吹っ飛んだのはクーの一言だった。 
……訂正。クーも私も変わってない。 


ξ゚听)ξ「シベリア町はここから真反対の方角よ……」 


私の呟き声は、クーに届いただろうか。 
また可笑しそうにクーが笑うのが、視界に入った。 


/ 


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 12:19:20.92 ID:6/
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急ぎの用ではないと言うことをクーがぽつぽつと話してくれたので、 
じゃあ久しぶりに何処かゆっくりと落ち着ける場所で話そうと言う事になった。 

しかし時間は午前7時。 
あいている所といえばコンビニや24時間営業のファミレス位だ。 


ξ゚听)ξ「私の家近いし、来る?」 
川 ゚-゚)「いいのか?」 
ξ゚听)ξ「いいわよ。少し散らかってるけど気にしないでくれる?」 


樹海のような有様にはなっていなかった。……と思う。 


川 ゚-゚)「ああ、ありがとう」 


家路に付くまでは約10分程度。 
その間の会話が切れることは、多分ない。 
積もる話。何せ3年ぶりの再会って奴だから。 

ξ゚听)ξ「さっきも言ったけど、作家って何ジャンルなの?」 
SF? ファンタジー? 一番可能性が濃いのはミステリか。 
予想を張り巡らせながら聞いてみる。 


88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 12:19:58.48 ID:6/
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川 ゚-゚)「ん? あ、ああ。丁度書いたの持ってたな……」 


肩がけのバックを開けて、クーが中身を漁り始めた。 
端はしに見せる本質的なものや仕草は変わらないものの、 
どことなく大人びたクーをぼんやりとみる。 

川 ゚-゚)「お。あった……ほら、これだ」 
ξ゚听)ξ「ん? どれどれ……?」 


禁断の男子校シリーズ 〜その菊門は俺のもの〜 


ξ゚听)ξ「……なんですかこれは」 
川 ゚-゚)「あ。ああ、間違えた。それは別ネームで書いてる方だな」 

別ネームて。クーが書いてたの。これ。 

今度サイン下さい。 


川 ゚ー゚)「ほお……?」 
ξ゚听)ξ「……ハッ、ふじまるった!? って、ほらほらっ! 本業の方って?」 


89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 12:20:13.87 ID:6/
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川 ゚-゚)「んー……なんだ、少し恥かしいな……ほら。これだ」 
クーが出した一冊の文庫本。 
表紙を見て、そして作者名を見て。 

……数秒間、唖然とした。 

ξ゚听)ξ「伊藤ペニサス先生って……クーのことだったの!?」 
作者紹介のところに乗っている顔写真を交互に見ながら、 
ハア!? とか、あれっ? とか、あまり意味のない言葉連発する。 

川 ゚ー゚)「まあな」 
伊藤ペニサス。 
美味しいカルピスの入れ方が代表作の新人恋愛小説家、だったっけ。 

川 ゚-゚)「……む。そう言われると少し恥かしいな……」 
ξ゚听)ξ「……凄いわよ。やっぱりクーって凄い」 
川 ゚-゚)「いや、そうでもないような気もするが……」 
ξ゚听)ξ「私なんか偏差値まあまあの国立大学、しがない医学部生……」 

川 ゚-゚)「充分凄いぞ」 

ξ゚听)ξ「ごめん、ちょっと誇張した」 
笑い声が早朝の町に響く。 

――片や実力派の小説家。片やただの大学生、か。 
人生って解らないものだ。 

/ 


90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 12:23:30.20 ID:6/
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ξ゚听)ξ「ねえ。ここの作者紹介にある顔写真とクー、どう見ても別人なんだけど」 
川 ゚-゚)「いや、それは正真正銘私だ」 
ξ゚听)ξ「どう言う事?」 
川 ゚-゚)「……顔の筋肉を自在に動かしッッ! そして別人にッッ!」 



('、`*川「これでいいか」 



ξ゚听)ξ「……バキかよ……!」 

95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 13:00:13.05 ID:6/
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ξ゚听)ξ「そう言えば、地元残留組はどう?」 
川 ゚ -゚) 「地元残留組か……まあ変わらないよ」 

そう言い、クーはゆっくりと喋りだした。 
ドクオは一浪して公立大学、ショボンは親父さんの店を継いでバーテン。 

ξ゚听)ξ「あ、ドクオ一浪しちゃったんだ?」 
川 ゚ -゚) 「どうしても入りたかったらしい。バイオ科学を扱ってる所にな」 
へえ。常に意識薄弱としたあのドクオが。 

川 ゚ -゚) 「ああ、私もそう思う」 
いや、そこは否定する所でしょ。 

ξ゚听)ξ「……内藤は?」 
川 ゚ -゚) 「ああ、アイツは――――」 
クーが遠い目をした。 
私は怪訝そうに顔を覗き込む。 


川 ゚ -゚) 「ハルシオンデイズ。だそうだ」 


ξ゚听)ξ「……は?」 

それはどう解釈すればいいのだろう。 
一瞬迷った。 
それは私のいない毎日? それとも―――― 

疼きのような感覚が私を襲う 


96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 13:01:07.91 ID:6/
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ξ゚听)ξ「ハルシオンって……平穏な……」 

私の言葉を遮るように、クーが重い口を開いた。 
入道雲が高く上がる空を見上げる。 



川 ゚ -゚) 「『睡眠薬を飲みつづける毎日』」 



クーの言葉は、私の言葉と180度違っているもので。 
疼きは更に深まっていく。 

川 ゚ -゚) 「内藤、短大出たはいいが就職先がどうも悪条件だったらしくてな」 

川 ゚ -゚) 「それで睡眠薬に頼ったらしい」 

ξ゚听)ξ「…………」 

川 ゚ -゚) 「訳は解らないが、『夢は幸せだ』とか、言ってたっけな――」 


97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 13:01:43.58 ID:6/
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ξ゚听)ξ「…………」 

それは、どう言う意味なのだろう。 
私は――どう解釈すればいいのだろう。 


川 ゚ -゚) 「一番変わったのは内藤だろうな」 

ξ゚听)ξ「それは、どう言う意味で?」 

川 ゚ -゚) 「雰囲気から疲れた感じが漂ってくる」 

ξ゚听)ξ「……へぇ」 

言っている合間に私の家に着いた。 
どことなくくたびれた印象を受ける4階建てのアパート。 

川 ゚ -゚) 「お邪魔します」 
ξ゚听)ξ「ごゆっくり」 

鍵を開けて招き入れる。 
『一番変わったのは内藤だろうな』 

クーのその言葉が何故かいつまでも頭の中に残っていた。 


104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 13:36:41.94 ID:6/
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玄関で靴を脱いで、部屋を見渡したクーが開口一番。 

川 ゚ -゚)「中々さっぱりとした感じだな」 
ξ*゚听)ξ「一応気ぐらいは使ってるわよ……」 

一人暮らしになると、とりあえず寝て食べるスペースが 
あればいいって考え方になりがちだけど。 


川 ゚ -゚)「ん? これ……」 
クーが机の上に置いてあった音楽ノートを手にした。 
……あ。直すの忘れてた。 

ξ゚听)ξ「あっ……それはっ」 
パラパラとクーがページをめくる。 
題名の書いていない一番最初の、例の曲。 

川 ゚ -゚)「ツンの作曲したものか?」 
ξ゚听)ξ「…………ええ」 
俯きながら頷く。 

川 ゚ -゚)「そうか」 

クーが軽く返事をする。 


105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 13:37:12.99 ID:6/
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川 ゚ -゚)「題名は?」 


答えていいのだろうか。何処となく喉に言葉が詰った。 
クーが先刻言った意味で解釈されないだろうか。 


ξ゚听)ξ「……ハルシオンデイズ」 

黙り続ける訳にも行かなかったから、 
聞き取れるか聞き取れないか位の声量で。 



川 ゚ -゚)「『平穏無事な日々』か」 



ξ゚听)ξ「……さすが作家さん。博学多識」 
川 ゚ -゚)「茶化さないでくれ。たまたまさ」 
クーが喉の奥で笑う。謙そんも上手くなっちゃって。 

川 ゚ -゚)「なあ、ツン。何でここの途中にあるファ、何でここだけ黒ペンなんだ?」 
ξ゚听)ξ「……っ。い、いや。それは……えーっと、いつも間違えちゃうのよ、そこ!」 
川 ゚ -゚)「……へぇ」 

あ、多分嘘だってこと見抜かれてる。 


106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 13:37:34.49 ID:6/
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ξ゚听)ξ「さっ! お茶かなにか……」 
川 ゚ -゚)「気を使わないでくれていい」 

ξ゚听)ξ「いやいや、大先生様が折角来てくださったんですものねー」 
川 ゚ -゚)「印税印税と言うがあまり入らないものだぞ」 

ξ゚听)ξ「え、そうなの?」 
川 ゚ -゚)「ああ」 

大佐、作戦は失敗だ。 

ため息を挟んで 
ξ゚听)ξ「それでも何もないって言うのも寂しいでしょ。 
 コンビニ行ってくる何か欲しいものとかは?」 
川 ゚ -゚)「庭付き一戸建て」 
ξ゚听)ξ「コンビニにあるかそんなもの」 
「冗談だ。超神水を頼む。料金は後で出す」 
ξ゚听)ξ「……よくあんなもん飲めるわね……妙な飲み物好きは変わらないか」 

川 ゚ -゚)「よろしく」 
ξ゚听)ξ「行ってきます」 
川 ゚ -゚)「いってらっしゃい」 


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 13:38:22.55 ID:6/
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/ 


川 ゚ -゚)「……変わっていないか……」 


部屋に一人残されたクーが手の中にある音楽ノートに視線を落した。 
黒ペンのファと、真っ白の最後の一小節を見た後に 


川 ゚ -゚)「変わっていないのはどちらだか……」 


懐かしむように笑った。 


《第三話 それは数多に別れた三叉路のよう》 終 


142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:09:08.69 ID:6/
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《最終話 そうしてまた回帰していく》 

ξ゚听)ξ「クー! 早くっ」 
川 ゚ -゚)「あー……待った待った」 

東京駅の人通りの多さは異常だ 
人波に紛れ込むように、私達は地方域のプラットホームへと急いでいた。 

川 ゚ -゚)「電車は逃げないぞ」 

ξ゚听)ξ「しかし発車する」 

  _, ,_ 
川 ゚ -゚) 「……ふむ。確かに」 

クーの編集部との作品の打ち合わせは午後で終わり、 
一日私の家に泊まってから、 
『大学は夏休みか。どうせなら一緒に帰らないか?』 
と言う発言で、今は懐かしいvip町一緒に帰ることとなった。 

ξ゚听)ξ「――どうなってるかな」 
川 ゚ -゚)「変わってないぞ。相変わらず田舎の泥臭さがある」 
ξ゚听)ξ「それはきっとクーがずっと近くにいるからよ」 
秒単位の違いに人は気がつかないけれど、それが分刻み時刻みとなれば―― 
そう言う理屈。 

川 ゚ ー゚)「はは。そうかもしれないな」 


143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:10:02.92 ID:6/
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階段を上がって、プラットホームに出る。 
白塗りの塗装が所々剥がれた旧型の新幹線が一本。 

ξ゚听)ξ「さっすが地方線。……金かけられてないねー」 
皮肉を飛ばせば 

川 ゚ -゚)「住めば都の自由席。ほら、早く行こう!」 
立場が逆転していた。 

ξ゚听)ξ「はいはい」 
苦笑気味に笑ってから、スーツケースを引いて。 
もう一度だけ空と地元行きの新幹線を見た。 

『それはきっとクーが近くにいるからよ』 

私の見知ったアイツは、アイツのままでいてくれているだろうか。 
私が割かし知っているのは、3年前のアイツと言う事。 

そして―――― 


『一番変わったのは内藤だろうな』 


その言葉だけが不安要素。 


/ 


144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:10:39.58 ID:6/
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ξ゚听)ξ「――――……ついたぁっ!」 
川 ゚ -゚)「到着」 

ガラガラとコンクリートの上でスーツのコロコロが滑る音がする。 
一方クーと言えば私と会った時に持っていた片がけ鞄一つ。 

……無頓着すぎると思うわよ。 

と移動中の新幹線内で言えば 


クーは窓枠に頬杖着きながら 
私が抱えているスーツケースを一瞥し 

川 ゚ -゚)「3日の滞在予定なのにそんなパンパンに物を持っていくツンが異常なだけだ」 

と一蹴されてしまった。 

いや、ほ、ほら私枕替わると寝れないし! 

川 ゚ -゚)「…………」 
………… 

川 ゚ -゚)「…………」 
……ご、ごめんなさい。 

そんな感じで。 



145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:11:09.46 ID:6/
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プラットホームに降り立って、腕を高く伸ばして伸びをする。 
都会よりも幾分か涼しいと感じる風が前髪を撫でる。 

ξ゚听)ξ「さて、着いたんだけど、どうする?」 

背後に立っていたクーの方に首だけ向けて訊く。 

川 ゚ -゚)「どうするとは?」 

ξ゚听)ξ「クーは予定とかないの?」 

川 ゚ -゚)「ああ、そう言うことか」 

川 ゚ -゚)「私はとりあえず、打ち合わせした内容で 
書き直したいシーンがあるんでな。自宅に帰ってから執筆活動だ」 


おお、軽く感嘆符を漏らす 


ξ゚听)ξ「さっすが大先生! 新作?」 
川 ゚ -゚)「茶化さないでくれ。ああ、一応な」 
ξ゚听)ξ「そっか。ね、どんなの?」 



146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:11:28.78 ID:6/
xFCd6B0
私の言葉にクーがふいに笑った。そして顔を歪めて 


川 ゚ -゚)「秘密」 

さらに笑いを深めた。 

ξ゚听)ξ「あー、秘密主義ですか?」 
川 ゚ -゚)「秘密が多いほど女は魅力を増すそうだ」 
ξ゚听)ξ「今でも充分クーは魅力的よ?」 
川 ゚ -゚)「誉め言葉として受けとっておく」 

笑いあい、冗談の混じった会話をして。 
人の少ない改札口まで歩いて、 

川 ゚ -゚)「明後日会えるか?」 
ξ゚听)ξ「ん?」 

川 ゚ -゚)「皆でショボンの店で定期飲み会の予定なんだ。ツンもどうだ?」 
ξ゚听)ξ「いいの?」 
川 ゚ ー゚)「ああ。勿論。反論は受け付けない」 
ξ゚听)ξ「クー……」 
川 ゚ -゚)「大先生の権力だ!」 
職権乱用かい。 

川 ゚ -゚)「住所は……わかるか?」 
ξ゚听)ξ「バーボンハウス? ああ、お母さんに訊いてみれば解ると思うわ」 
バーボンハウスって言ってる所よく見てたから。 


147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:11:45.39 ID:6/
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川 ゚ -゚)「ああ、じゃあ。明後日に」 
ξ゚听)ξ「ええ。執筆頑張ってね、大先生!」 

川 ゚ -゚)「茶化さないでくれ。ああ、そうだ、ツン」 
ξ゚听)ξ「?」 

別れ際、ごりょごりょとクーに耳打ちされる。 


ξ///)ξ「……え、ああ。うん。……っ……いい、わよ」 

承諾。 

そんなこんなで別れた私達。 

/ 

149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:12:54.40 ID:6/
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この夏実家に戻っている人、 
もしくは戻る予定の人たちに言っておきたい。 
実家の滞在時間は最長でも3日ぐらいにすべき。 


「……へぇ、たった三日しか居られないの?」 


ビックリしたような、残念そうな母の声が聞こえているけれど、 
どうせそれ以上長く居座ったならば「早よ帰れ」とぶちぶち言うのだ。 
少し残念に思われるくらいが丁度いい。本当に。 

ξ゚听)ξ「うん、まあ……課題もあるし」 
「そう。残念!」 

うんうん。夕食が日を追ってグレードダウンしていく様子を 
まざまざと実感しながら見るのは辛いしね。 

「まあゆっくりして行きなさいな。お父さんは出張でいないけど」 
ξ゚听)ξ「あ、そうなの?」 


150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:13:32.75 ID:6/
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「ツンが帰ってくること知ってたら両腕もがれても帰ってきそうだけどねぇ!」 
いや両腕もがれてもて。 


ξ゚听)ξ「……あ、そうだ母さん。バーボンハウスって知ってる?」 


「ええ、勿論よ。……あの忌々しい連投規制っ!」 


待て。どこに行く母の意識よ。 


ξ゚听)ξ「バーよ。vip町にあるはずなんだけど……」 
「知らないわよ?」 
は……? 


「……あ、でもね、それだったらタウンページで調べれば――」 


/ 


151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:14:19.35 ID:6/
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ξ゚听)ξ「これだけ探しても見つからないって……どんなややこしい所に店構えてんのよ…
…」 
商売する気あるの? 

メモ帳を握りつぶしながら、私は現在進行形で迷っていた。 
肝心の綱だった母がまったく見当違いのピアノ線だった為に、 
明後日迷わないように一応下見して置こうとしてみればこれだ。 

現在地が繁華街なのは解る。 
しかしバーボンハウスが何処にあるのかが解らない。 

ξ゚听)ξ「……どこにあんのよバーボンハウス!」 

あー苛々する! 滅茶苦茶熱いし! 
こんな田舎にもヒートアイランド現象!? 
私の足は所在なくふらついている。 


152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:15:05.08 ID:6/
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「……どうかしましたかお?」 

後ろから掛けられた男の声。 
あー、またナンパかい。馬鹿馬鹿しい。 

眉を顰め、出きるだけ不機嫌そうな声をしながら 

ξ゚听)ξ「ええ、道に迷って――――」 

背後にいた男は呆然と私を見つめている。 
生気の抜けたような顔。間の抜けた。3年前から少しだけ成長した―― 
いやいや、大人びた印象を受けるのは相手がスーツ姿なだけだからだ。 
そうよ。絶対。うん、そうに決まってる。 

         ____ 
       /      \ 
      /  ─    ─\     
    /    (●)  (●) \   「…………」 
    |       (__人__)    
     \      ` ⌒´   ,/     
    ノ           \  



153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/11(金) 17:15:31.99 ID:6/
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ξ゚听)ξ「ブーン……?」  


そして。 


また出会った。 


色彩を取り戻すのは、掠れかけた夢の世界だろうか。 
それとも―――――――― 


                ツンが初恋の夢を見たようですξ゚听)ξ 


                 完   

                 第三部ブーン編に続くおっおっおっ! 





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